この親子に祝福を! (よしどら)
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この親子に祝福を!
…全巻読んでもやっぱり、幸せな結末は欲しいですよね。
俺、
「この山の向こうにね。あるんだよ“天国”が!」
ユリーから逃げる途中、俺のファンみたいな奴が来て何度も俺は殺そうとしてきやがった。
俺の願いも知らず、唯死にたいとしか知らない…苛ついた連中だ。
そんなファンを嘲り嗤っていたのも束の間、今度は前に出会った墓守と…
「私はアイ。
小さな墓守が、胸に手を当てて元気一杯に叫ぶ。
自分の大事な物と言っていた銀のシャベルをぎゅっと握って、太陽の光が反射して小屋に光を照らす。
緑の光が俺の方に向けられ、
「お母様は……綺麗で、子供っぽくて、大飯ぐらいで……ぎゃははと笑って」
「……それが、どうした」
過去に墓守に質問していた事だ。
そんな母親なんて幾らでもいるし、もしかしたら自分の記憶と照らし合わせて勝手に混ざってしまっただけかもしれない。
そんな事を考えながら視線を交差させれば、アイはその先を紡ぎだした。
「口笛が下手で……料理が下手で大飯ぐらいで!手先は器用なのに靴紐を結ぶのだけは苦手で!掃除が上手で、言葉遣いが可笑しくてくしゃみがおおきくて煙草と香水が大嫌いで甘いものが大好きで……大飯ぐらいで……あと、大飯ぐらいで……」
その先を聞くまでもなく、俺の記憶の情景が目の前の墓守の顔と重なっていく。
「そしてあなたを……愛していました」
その言葉の後に、色々話していたが俺は殆ど覚えていなかった。
…唯、俺が覚えているのは…
「お父様!」
目を赤く腫らしながら俺に向かって喋りかけていたアイが、滅茶苦茶強かった事だ。
でも泣いている姿は、俺の彼女が石にぶつかって転がった時の様な泣き方にそっくりで。
でも餓鬼みたいに泣いているこのアイは、やっぱり子供のままだ。
「……ちょっと死んで__眠ればすぐに治る……おたおたすんな……」
…ああ、そういえば忘れてたな。
「アイ…」
「はい!なんですか?」
アイが涙すら拭かずに、俺の姿を見て返事をする。
…これは死ぬ前に言わなければいけない事だ。死んでから言うのは、墓守としての道を閉ざしてしまうからな。
「……俺の名前を言ってなかったな……これはお前の母親にも、言ってないことだ」
最後の力で、息を吸う。
煙草の煙と血が噎せ返るのを感じながらも、俺は一音一音しっかりと喋り始めた。
「……俺の名前はキズナ……キズナ・アスティン。だからお前は、アイ・アスティンだ」
「アイ、アスティン」
俺の言葉がちゃんと聞こえたのか、一音一音確かめる様に呟いたアイを…俺は笑って手を伸ばそうとする。
ああ…
「いい名前じゃないか…」
……まさしくあいつがつけそうな……
其処まで考えて、俺の精神に限界が来た。
明かりが落ちていく様に視界が薄くなり。外で豪雨が降り注いだ様に言葉が遠くなって意志がバラバラになる。
……ちくしょう。まだ、言う事が沢山あるのに……
伝えたい事があった。聞きたい事があった。してやりたいことがあった。しかしそれでも、どうしても眠くて、
……ああ、本当に久しぶりの感覚だ。……
自分の狭まった視界は、それでも涙に濡れる
……最初に死んだ時みたいだ……
ユリーの、アイの、悲しみの声や嗚咽をずっと耳に残し。
……死にたく、ねえなぁ。
思考がぷつりと絶たえて消えた。
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人 未 友 娘 妻 こ
食 練 と を を う
い を 墓 泣 亡 し
玩 残 守 か く て
具 し に せ し 、
は 、 看 、 、
死 取
ん ら
だ れ
。 、
------------------------------------------
目が覚めた俺は、アイの全ての願いを叶えてやった。
いつまでも話を聞いてやり、おんぶどころか肩車をしてやったり、頭を撫でて見たり。
そんな
そんな様子を
一行はなるべくゆっくりと道を戻った。
俺も沢山の話をして、アイもまた沢山の話をした。沈む太陽を背に峰を渡り、満月の下を歩いた。
「ほらお父様!次はあっちですよ!」
俺の方の上で、アイはずっと笑っていた。
俺にとってこの時間は、夢の様な一時だった。
村には悲しい程早く着いて、俺達はその足で墓場に向かった。
月下の墓場は、俺が埋めた時よりも明るい気がして…別れの時は、あっという間に来てしまった。
ありとあらゆる我儘を言ったアイは、一番の望みである筈であろう願いだけは、決して口にしなかった。
…
「すまない」
「…何の事ですか?」
…目を瞑って、俺はアイを見ずに唯微笑む。
「…おやすみ」
最後に聞こえた泣き声と土の音を聞きながら、俺の意識は闇に沈み込んだ。
--------------
「貴方は死にました」
そんな事は知っている。
ハナは何処だ?そもそも此処は何処だ?
あいつと一緒にアイを待とうとしていたのに、此処に居るのは変な奴しかいない。
墓守の上位存在か?
「…ここは、どこだ?」
もしかして、ここが天国なんだろうか?
そんな事を考えながら俺は小さくため息を吐いてから目の前の女を睨み付ける。
「さて、キズ・・・ひぃ!?ハンプニーさん、貴方は幾つかの選択肢があります」
「俺の名前を教えた事は無かった筈だが…お前は誰だ?」
目の前の女はアクア。
俺達の世界をクソッタレにした神様が自信満々に喋るんだから、これ程可笑しい事はないだろう。
さて選択肢がいくつか言い渡されたのだが、まず初めに言われたのがこれだ
1.天国で暮らす
オススメはされなかった、どうやら毎日が暇らしい。
アイとかハナなら合いそうだな。
そんな天国を作ろうとしていたのがハナだし、アイは年中無休で眠ってそうだ。
そして二つ目は元の世界で生まれる事だったのだが、現在それは不可能らしい。
当たり前だろう。
そして最後の一つが異世界に転生する事だった。
「…その異世界に転生するメリットはあるのか?」
「?メリットなんてあるに決まってるじゃない。貴方達が生きていた世界よりも…」
「それならいい。その世界に俺の娘、アイ・アスティンを連れていきたい」
あの世界よりも楽なら、本人の願いがどうか知らないがまぁ良いだろう。
そんな事を考えつつ俺はゆっくりと願いを突き付ければ、目の前の神様はめんどくさそうにしながら受諾した様だ。
「はいはい…ならそこの魔法陣に…え!?むっ無理よそんn…」
「……っ?……!?お父…さ、ま…?」
最初は何処か見つめ、そして俺の姿を見たアイが…少しだけ成長した気がするアイが俺の姿を見て…そして涙を流した。
「…どうして、此処に…」
「それは俺の台詞だ。少し頭縮んだのか?」
「なっ!?お父様は相変わらずの様ですね!」
「そりゃそうだろう。俺は死んだ時のままだぞ?」
その言葉を聞いて、アイの顔がくしゃりと歪んでしまう。
…ああ、泣かせる気は無かったのに。父親として失格だな…
「…私も死んじゃったんです。好きな人の弾丸を心臓に受けて」
「……後悔したか?もし後悔したら撃ち殺してやるから言ってくれ」
「後悔する訳ないじゃないですか。…もう、何度も死を捻じ曲げた存在なんですよ?…という訳であの世界に帰して下さい」
アイのその一言を聞いて、俺は小さくため息を吐いた。
そのまま青い女を睨めば、女は震えた状態で下にある紋様を光らせる。
「無理だ」
「…はぁ!?」
「残念だけど戻るには死ぬしかないわよ」
その言葉を聞いて狂乱したアイが俺の身体を揺すって叫ぶ。
それに少しだけ懐かしさを覚えながらも、俺はアイを優しく抱きしめた。
「じゃあさっさと首かっ切って死んでやりますよ!ほらお父様!ナイフ下さい!」
「ちょ!?此処で血を撒き散らさないでよ!願わくば貴方達が魔王を倒す存在である事を祈ります」
「何を言ってるんですか!世界救おうとはしましたけど魔王倒すなんて…」
アイの叫びが途切れるのと同時に、俺の視界は白くなっていった。
…あれだけ否定していたアイも、光に包まれる最後の一瞬だけ…
「…まぁ、お父様となら…良いんですけどね」
そんな風に呟いていたんだから、俺は思わず笑ってしまった。
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この親子にお金を!
「…お父様」
「…なんだ?」
「私わかってましたよ。異世界に行く前に準備しないとどうなるか。ちゃんと準備せずに他の街に言ったら、こうなるんですよ」
かなり怒っているアイがこっちを見て恨むような声を上げる。
それを聞きながら俺は冷や汗を隠しつつ、周囲をじっと見つめ…そして小さくため息を吐いた。
今、俺らは少し……いや、かなりやばかった。
それは何故かと言うと…
「お金…どうすっかなぁ」
「本当ですよ!どうするんですかこれから!」
…数時間前、折角生活をするんだから仕事をしようと考え、周りの人にいい仕事はないか?と聞いてみたのだが…
『冒険者になるといい、パーティーを組めば死ぬ事は殆どないだろう』
と言ってたので、なら取りあえず冒険者にでもなりに行くかと二人で納得し…気ままに道に迷いながら…アイに道に迷って怒られたが…ギルドに辿り着いて冒険者になるためにお金が必要だと知って今に至る。
「…はぁ。こんなお父様が役に立たない糞野郎だとは思いませんでした」
「実の父親に厳しすぎないか?」
「当たり前でしょう!どうするんです!?このままじゃ私達飢え死にしますよ!」
「別に死ねば元気一杯だろう」
「死んだからこの世界に居るんじゃないですか馬鹿馬鹿馬鹿!」
ギルド内でアイと話して居ると、遠くの方から一人の男が寄って来た。
大方この酒場で飲んだくれていた酔っ払いだろうし、アイを狙っているのかと思って俺はアイを庇う位置に気付かれない様に移動する。
それを見た男は小さくため息を吐いてから両手を上げ、ゆっくりと口を開いて喋り始めた。
「落ち着け、娘さんに手は出さないよ…それより、冒険者になろうとしているんだろう?金を貸そうか?」
「いいのか?俺が返さないかもしれないぞ?」
至極真っ当な一言にそれもそうだなと小さく相手が笑い始める。
それを見たアイがお父様!と小声で言ってから俺の背中を全力で叩いた。
…思わず口に血が上りそうになり、俺は振り向いてアイの方を見つめ…顔を逸らしたアイを見て俺は青筋を立てる。
「ハハハ。面白い家族じゃねぇか!別に返さなくてもいいぞ?娘さんと一緒に暮らすんだから、少しでも足しにしとけよ」
そう言って渡された袋には一万二千エリスが入っている。
流石に多いだろうと思ったアイが袋毎返そうとした時には、もう男の姿は見えなかった。
それを見たアイがどうしますか?と言った様な表情でこちらを見つめるが、俺は気にせず袋を持って受付と呼ばれる場所に向かう。
「こんにちは!どのようなご用件ですか?」
「冒険者になりに来た、こいつ…いや、アイと一緒にな」
「へ?娘さんも…ですか?流石に危ないんじゃあ…」
その言葉を聞いてやっぱりそうですよね!か弱いですよね!みたいな顔で受付を見つめているアイを見ながら、俺は笑いながらアイが何処まで強いかを喋り出す。
「大丈夫だ。こいつはスコップの一振りでゴロツキの二人を弾き飛ばし、銃弾を見てから回避できる。そして力はゴリラ並…み゛ぃ゛!?」
アイに全力で足を踏まれた。爪が割れてすごく痛む。
思わず睨むと、アイは明後日の方向を向きながら口笛を吹いている。
それを見た受付が笑い出し、俺は睨み付けるが気にせずに口を開き始めた。
「ははは…取りあえず御二人様登録ですね、二千エリスとなります!」
痛む爪をどうしようと考えながら二千エリスを支払い、俺とアイは機械の前に行って測定する。
「は?はぁぁぁ!?幸運がめっちゃ高いんですけど!?
攻撃力と魔力も少し高いですし知力が凄く高いです!と言うか耐久力と体力が人間やめてるんですが?」
俺は元々アルビノだったから体力は無かった気がするんだが…異能の影響だろうか?
まぁあるに越した事はないし、アイを守る為なら良いだろう。
「…へぇ、それで、どんな職に就けるんだ?」
「職なら…『はぁぁ!?』ん?娘さんのステータスも凄そうですね」
「…そうか、じゃあアイが職を決めてから俺も決めるか…」
そう言ってアイの方に行くと…先程の声に驚いたアイと、ステータスに驚いた受付の声が聞こえた。
アイが思わず耳を塞ぎながら頬を膨らませているが、受付は気にせずに喋り続ける。
「ううぅ…耳が…」
「凄いです!筋力と魔力が普通に人間やめてて、知能が年相応なのを除けば他も十分凄いです!これなら殆どの職に…あれ?これは」
「どうかしたのですか?」
アイの耳が治ったのか、ゆっくりと背伸びをして上の方を見ようとする。
…それを見た俺はアイを抱きかかえ、上の説明文を一緒に覗き込んだ。
「珍しい職業があったもので…墓守と言うのですが…」
『!』
「一人しかなった事がなく、情報がなくて…」
そのセリフを聞いて俺はアイを見てから小声で言った。
「嫌なら、ならなくていいと」
アイは俺を見て、俺と同じように小声で言った。
「私は、この世界でも墓守で居たいです。あの丘で、墓守になると決めましたから」
…それにと、アイは何かを小さく呟いてから…自分の心臓に手を当てて目を逸らした。
それを見て俺は何かを言おうと思ったが…アイの最期を見た訳でもないのだから。
……本当に、使えない父親だ。
「私は…墓守になりたいです!」
アイは…正直で嘘つきだ。そして、すると決めた事は絶対に曲げないのだろう。
…それなら、危ない時は助けてやろう。
「…前衛の職業はないか?なるべくアイを守れるのを」
「お父様!」
輝くような笑顔でこちらを見ているアイ。
小声で自分の意志を伝えたが、少し不安だったのだろう。
そんな事を考えながら、俺は小さく微笑みながら受付の方を見つめた。
「…そうですね。それならルーンナイトはどうですか?防御力はそれこそルーンナイトに劣りますが、ルーンを使った妨害力は他のクラスを凌ぎます」
「……成程な。因みにそのルーンの使い方は?」
「スキルポイントを使って覚えて貰う形になります。詳しくはそちらのパンフレットをご覧ください」
その言葉を聞いて俺達は頷いた。
そしてこのカードを受け取った瞬間…俺はルーンナイトに、アイは墓守になった。
…貰った冒険者カードを貰い、ルーンと書かれたスキルを適当に全部手に入れながらアイの方を見つめた。
「……墓守。私が…もう一度……」
何かに押しつぶされそうな表情でカードを見つめるアイを見て、俺は髪の毛を掻きながら…アイの額にデコピンを行う。
「いっ!?何するんですか?!」
「アイ」
俺の真剣な表情を見て、アイが小さく震え始める。
…それを見て俺はとある結論が浮かび上がったが、それを口にする事はしない。
「辛かったら言えよ。幸いこの世界は職業を変える事も出来るんだ。そうだろう?」
「はい!アイさんの能力なら他の職業も沢山ありますよ!アーク系の職業とか沢山ありますからね!」
「……ぁ」
受付の言葉を聞いて、何かを思い出した様な表情を浮かべるアイを見ながら…俺も口を開く。
「もしお前がこの世界でも夢を追うならそれでも良い。だが一つだけ言っておくぞ。アイ」
「……何ですか」
アイが辛そうな表情を浮かべたまま俺の方を見つめるのを見て、少しだけ笑いながらアイの頭を優しく撫でる。
…前なら子ども扱いしないで下さいなんて言いながら鬱陶しそうに手を跳ねのけたアイを思い出しつつ…
「俺は家族旅行をする為にアイを連れてきたんだ。世界を救いたいとか、彼氏と性行為したいとかの願いは戻ってからやれ」
「…なぁ!?折角私が悩んでるのにそんな言い草ないでしょう!?お父様の馬鹿!アホ!ゾウリムシ!」
俺の一言を聞いて、アイは怒って俺の背中に蹴りを入れる。
…そんな怒り顔を見ながら、父親らしいことを出来た気がして…俺は思わず笑みを浮かべた。
「ほら。そんな元気があるならカエルを殺しに行くぞ!もし着いてこないなら死体を放置するからな!」
「なっ!?何を言うんですか!ちゃんと埋めに行くんですから待ってくださいね!」
「…へ?カエルはギルドに持ってきてくれれば大丈夫ですよ?」
「作戦変更だアイ!カエルをどっちが多く倒せるか勝負だ!」
困った様な、けれど少しだけ楽しそうに頷いたアイを見ながら…俺達は外を駆け出した。
アイ以外に為ったという墓守の事を、今だけは必死に考えない様に。
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この親子に依頼を!
「お父様そっちに逃げましたよ!今まで上手かった射撃の腕を見せる時では!?」
「うるせぇ!ルーンで攻撃とかした事ねぇから反動も何もわかんねぇんだよ!というかお前は元々持ってた武器あるだろ!それでぶん殴れば終わりだろうが!」
「いやちょっとあのネチョネチョ具合は…」
「死体殴ったら同じだわ!もしかしてお前あれから死体殴ってないのか?!墓守なのに!?」
俺の言葉にアイが叫びながら目の前の蛙をスコップで斬り付ける。
…スコップで斬るなんて普通ならあり得ないのだが、この蛙はどうやら打撃が効かないらしい。
もし神様に願うなら大量の銃が欲しかった所なんだが…
「もうお父様!ちゃんと狙って当てて下さい!」
「分かってるっての!
ルーンの二重掛けの結果、俺は漸く蛙に氷の弾丸を当てる事が出来た。
本当に直線上に飛んでくれた方がまだ楽なんだが…どうやらこいつは少しだけ周囲の敵にホーミングする様な軌道をするらしい。
その所為で他の敵の方に移動して外しまくった訳なんだが…
「後何体ですか!?」
「だぁぁぁもう分かんねぇって言ってるだろ!お前何体倒した!?」
「自慢じゃないですが10より先は数えられませんね!」
「本当に自慢じゃねぇなお前!っと、
周囲の敵を停止させながら、俺はルーンを更に幾つも召喚する。
「
四つのルーンを自分の左手に移動させ、氷の剣を召喚してつかみ取る。
…本当ならマグナムやサブマシンガンの一つでも欲しいが、どうやらルーンで作れるのは剣だけらしい。
一匹、二匹、三匹…繰り返す度に心が冷えていく。
それは死者を殺している様な感覚、自分が
…何度も何度も急所を狙う為に斬り、刺し…突き殺す。
最後の敵を倒し、俺は次の敵に向かって剣を振り下ろそうとして……
「お父様。もう敵は居ませんよ」
「…そう、か」
アイの言葉と同時に、ルーンで作った武器が水となって消えていった。
…それを見て俺は武器を持っていた手と目の前の敵…ではなくアイを見て…思わず目をぱちくりとさせた。
「アイ。お前…強くなったな」
「逆にお父様は弱くなりました?銃持ってないと周りすら見えないんですか?」
「…すまない」
アイの姿を見ながら、俺は少しだけ諦めた様に頭を掻いた。
…ああ、本当に俺は弱いな。
今まで一人で戦っていたのもあるが、もしこれで俺の仲間が別の奴だった場合……俺は人を殺していた事になる。
生者を殺しかける元死者ってのは、中々に皮肉が効いている。
「…ま、良いんですけどね」
「俺に殺される訳ないってか?」
「はい!お父様は優しいですからね!」
そう言いながらアイは小さく微笑みながら、俺の方に背伸びして…そのまま背が届かないのか少しだけ頬を膨らませた。
…それを見て俺が苦笑しながらしゃがみ込むと…アイは嬉しそうに微笑んでから俺の頭を優しく撫で始める。
「…お父様、帰りましょう?」
「……そうだな。所でお前は俺よりも強いんだよな?」
「勿論です!下手な人間…というよりお父様よりは絶対強いと思いますよ!」
自らの墓穴を着々と掘り進める墓守を見ながら、俺はそうかそうかと小さく嗤う。
それを見たアイが小さく首を傾げるが、俺は気にせずに後ろに積まれまくった蛙に指を差して微笑んだ。
「そうか!じゃあ俺の代わりに大量にある蛙を持ってきてくれよ!後ギルドまで競走な!」
そう言いながら蛙を三匹程度持って走り出す俺を見て、アイの顔がポカーンとし始める。
そのまま俺が戻ってくる気が無いと分かった瞬間、大量の蛙の足を掴んで俺の方に走ってくるアイを見ながら…冷や汗を掻きつつ門を走り抜ける。
「ちょ、なんだ!?」
「うわっ蛙が走って…えっ!?女の子が掴んで走ってるんだけど!?」
「おーとーうーさーまー!負けませんよー!」
「じゃあもし勝ったら何でもしてやるよ!ま、俺に勝てる訳ないだろうけどな!」
そう言いながら三匹の蛙の内一匹を地面に置くが、アイは器用に指の間に足を挟んでそのまま追いかけ続ける。
思わず器用になったアイに感動して目頭が熱くなりそうになるが、取り敢えずギルドの前まで辿り着いて俺はアイを待つ。
「まーてー!」
「ほい」
「むぎゃ!?」
「うぐぉ!?」
このままだとアイがギルドの扉にぶつかる気がして足払いを掛けると、蛙を手から離したアイが俺のお腹にぶつかった。
思わぬ反撃を喰らってお腹を抑えるのと同時に、アイはニコニコとしながら俺の蛙の隣に今まで持っていた蛙を置いて俺の手を握る。
「…う…ぐぉ」
「ほら蛙を沢山倒したんですから報告しますよ!お仕事終わったらホウレン草が義務です!」
ユーキが言ってて色んな人が育ててましたよ!という一言を聞きながら、俺はアイの手を掴み返しながらゆっくりと歩き始める。
…それを見た受付の方が少しだけ微笑ましそうに見ながら、俺達が持ってきた蛙の処理をさせつつ一枚の紙を持ってくる。
「お疲れ様です。ですが次からは依頼を受けてから討伐をお願いいたしますね!」
「「依頼?」」
俺達が首を傾げるのと同時に、パンフレットを見せながら説明をしてくる受付嬢と…アイが眠そうに首をカクンとさせるのを見て…俺は小さくアイにチョップをした。
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