魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して (にこにこみ)
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空白期
1話


※初投稿です。おかしな所もあると思いますが、
どうかよろしくお願いします。


 

某所 海鳴市

 

12月25日

 

海鳴孤児院前

 

その日 世界が動きだした。

 

 

 

「うーん今日も寒いのー」

 

雪が降り積もる中、一人の老人が孤児院の方向へ帰っていた。

 

「今日はクリスマスかーなにかもらえる・・・わけないか」

 

歩きながらそう呟くと……

 

「んっ・・・なんだあれは」

 

門の前になにか置いてあるのが見えた。

 

 

そしてーー

 

 

「これは、とんだクリスマスプレゼントじゃなサンタさんや」

 

長いリボンに包まれた赤ん坊と白と黒のぬいぐるみが置いてあった。

 

 

世界が動きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5年後 海鳴孤児院ーー

 

 

一人の少年が部屋の隅で白と黒のぬいぐるみで遊んでいた。

 

少年の名は神崎 蓮也(かんざき れんや)

 

長い黒髪におでこにリボンをあて螺旋を描きながら髪の毛の先端でしばっている。

 

「おい!男女、今日もぬいぐるみ遊びか⁉︎」

 

孤児院の最年長が黒いぬいぐるみを取り上げながら蓮也をいじめた。

 

「返せ、関係ないだろ!」

 

ぬいぐるみを奪い返して部屋から出てった。

 

「大丈夫、ラーグ?」

 

もちろん返事などしないが、それでも蓮也にはとても大切な友達だった。

 

ぬいぐるみの形は色が違うだけで二匹とも丸こっい身体に短い手足、うさぎのように長い耳をしていて、目は閉じられていている。

 

おでこに宝石がついており白いのには赤い宝石、黒いのには青い宝石が付いている。

 

耳にもイヤリングがついていて黒いのが左耳に、白いのが右耳にそれぞれついている。

 

名前は白いのがソエル、黒いのがラーグと言う。

 

「全く毎回しつこいな、男だからって髪が長くてもリボンしてもぬいぐるみで遊んでもいいじゃんか。」

 

やはり返事はないが、それでも誰かに愚痴を言いたかった。

 

歩きながら人がいない場所を探してたら、前から女の子が近づいてきて。

 

「いた!蓮也君ぬいぐるみかーしーてー」

 

と頼んできた。

 

見た目のせいかよく遊びにつきあわされているが……

 

「ごめん、今日はダメだから」

 

「えーーちょとくらいいいじゃないの」

 

さっきのこともあり気分がよくなかったから断った。

 

「じゃあまたこんどね」

 

手を振りながら他の女の子達と遊びに行った、手を振り返しながら眺めていたら。

 

「はーー」

 

この二匹とリボンは赤ん坊の時、一緒にあった物で両親の唯一の手がかりだった。

 

ため息をつきながら孤児院裏に行った。

 

「友達、少な・・・いないな」

 

ソエル達を抱きしめながら小さくつぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1年ーー

 

「どういうことですか‼︎」

 

蓮也は声を荒げていた。

 

「だから、白いぬいぐるみは今日養子になった子が持っていったのよ」

 

そう最近新しく入った孤児院の先生はそう言った。

 

「あのぬいぐるみは俺のだとわかっていたでしょう!なのになんでそのままにしたんですか!」

 

「だってあれは君のものじゃないでしょう?」

 

「え?」

 

蓮也はほうけた、新任だからって最初から持っていたのは蓮也であった他の子ども達もぬいぐるみを……

 

自分の物だと言わなかったはずなのに。

 

「男の子なんだから女の子のぬいぐるみをとっちゃダメなんだからね」

 

ただの勘違い、蓮也は周りを見渡した。

 

誰もが此方を見て笑っていた。

 

(ここに味方はいない!)

 

すぐに部屋に戻って必要最低限の荷物とラーグを持って孤児院をでた、呼び止める人は少なかった。

 

何の根拠もなくただ走りけた。

 

「ソエルー!ソエルー!」

 

呼んでも返事はない、ぬいぐるみだからかここにいないからか、そんな感覚が悲しみに変わろうとした時……

 

「蓮也♪」

 

そんな楽しいそうな声が聞こえた。

 

「私がどこかにいくわけないよ」

 

「そう言うことだ」

 

目の前の塀にソエルが立って喋っていて、抱えているラーグが喋っていた。

 

「……………………」

 

言葉が出なかった、ただわかったことは。

 

「「蓮也?」」

 

「1人じゃなかった…」

 

二匹を力いっぱい抱きしめた、いつもより暖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、この町を出よう」

 

「いいのか?」

 

「ああ、このまま両親を探しにいく、このリボンとおまえ達二匹ともいれば大丈夫だろう、あとおでこの痣」

 

「「二匹じゃないよ(ぞ)、モコナ数え方は1モコナ、2モコナだ(よ)」」

 

「ははっ」

 

「改めまして、神崎 蓮也だ」

 

「モコナはモコナ・ソエル・モドキだよ♪」

 

「俺はモコナ・ラーグ・モドキだ」

 

そう言い握手をする。

 

「さてと……」

 

モコナ達を顔が出るようにバッグに入れて。

 

「行くか!」

 

「「おお〜!」」

 

当てのない、気の向くままの旅が始まった。

 

 



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2話

 

 

「さて、どこに行こうかなー」

 

「なにも考えていなかったの?」

 

「まあね、とりあえずこの町からでるか」

 

そろそろ夜の時間、フードをかぶりながら蓮也とソエル達は海鳴市から出るため歩いていた。

 

「おっ公園だ、孤児院から出たことなかったから初めて見るな。」

 

蓮也は興味本位入っていった。

 

「へー結構広いなーー……ん?」

 

あたりを見渡すとブランコに女の子が顔を下にしながら座っていた。

 

「ぐすっ、ひっく」

 

近くとすすり泣く声が聞こえてた。

 

(たっく、お人好しだなぁ)

 

放ってはおけず、話しかけることにした。

 

「どうかしたか?」

 

「ふぇ?」

 

いきなり話かけられて驚き。

 

「なんでもないの。」

 

すぐに涙を拭った。

 

「1人なのか?父さんと母さんはどうした?」

 

「それは……」

 

女の子は口ごもった

 

「はぁ、ほら」

 

「わっ!」

 

俺はソエルを押し付けた、つい先ほどあんな目にあったのにもかかわらず。

 

自然と彼女は信用できると思ったから。

 

「かわいいの!」

 

先ほどとうって変わって笑顔になった。

 

それから少しして。

 

「聞かないの、どうしてここにいるのか」

 

「言いたくなったら聞くよ」

 

そう言うとぽつぽつとしゃべり出した。

 

父親のことを、家族のことを、いい子ならなくちゃならないことを。

 

「よくわからないけど、そんなにいい子にならなきゃいけないの?」

 

「いい子じゃなきゃ、みんなに迷惑がかかるの」

 

「ふーん、でもそれってお前自身じゃないだろう」

 

「私じゃない?」

 

「そ、いい子の仮面を被ったお前、いい子であるけど自分じゃない人形のよう……」

 

「それは……」

 

俺は女の子の前にきて。

 

「ならいい子じゃなきゃいいんだ、やりたいことや話したいことをぶちまけちまえ」

 

ソエルを返してもらいまだ迷っている女の子に……

 

「俺に言ったことを家族に言えばいいんだ、ただそれだけだ。」

 

「私の、言いたいこと」

 

俺はそのまま公園から出ようとしたら。

 

「まって!」

 

女の子が呼び止めた、少し考えて、女の子には見えないようにソエルの口に手をつっこみ一枚の羽根を出した。

 

「ほら」

 

「これは、羽根?」

 

「そ、心の羽根って言うんだ、持ち主の心を表すと言われている」

 

「私の心…」

 

「じゃ、頑張れよ」

 

そのまま去った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の、言いたいこと……」

 

私は羽根をジッと見つめながら、決心がついた顔で家に帰った。

 

それからお母さんに抱きつき勇気を出して話した。

 

途中から泣いちゃたりもしたけどちゃんと言えたよ。

 

「そういえば、なのは、その羽根はどうしたの?」

 

「えっと、さっき話した…あ!名前聞いていなかったの!」

 

「そうか、でもその子に感謝しないとな」

 

「何か特徴はなかったの?」

 

「フードをかぶってて顔は見えなかったけど男の子だったの、あとうさぎさんみたいなぬいぐるみをもっていたの」

 

「それだけじゃわからないけど、なのはその子のことどう思うの?」

 

「にゃ!なっなっなにもないよ!」

 

「バレバレだから、なのは嬉しそうに羽根をみているからね。」

 

「な!助けてもらったとはいえ俺の目が黒い内はなのはは渡さんぞ!」

 

「むっ、そんなこと言うお兄ちゃん嫌い!」

 

「ありゃ、恭ちゃん固まっちゃったよ。」

 

前まで当たり前の光景なのにとても楽しいの。きっとお父さんもすぐに良くなるの。

 

そう思って、私は羽根を見た……

 

色がピンク色だった。

 

(また、会えるよね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、気を取り直して行こう!」

 

女の子と別れた後、俺は病院の側を歩いていた。

 

「蓮也、少し止まってくれ。」

 

ラーグに言われるままにすると。

 

プーーッポン!

 

ラーグが口から光の玉を病院の一室に飛ばした。

 

「なにしたの」

 

「ちょっとしたおまじないさ」

 

ラーグははぐらかして言う

 

「ほら行くよ、蓮也♪」

 

「わっ、こら!ひっつくな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある病室1人の重傷患者のいる場所に、光る玉が飛んできた、それが人に当たると。

 

「うっ、ここは……病院?」

 

体が痛い、動かせない。なんとか起き上がると……

 

カシャーン!

 

「せ、先生ーーー士郎さんが!」

 

「あっ」

 

それから、光陰矢のごとく話がすすみ私は無事に家族のもとへと帰ることができた。

 

 

 



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3話

 

 

ある日ふと感じたこと。

 

「ん〜〜なんだろうこの感覚」

 

両親を探すために旅をレンヤたち

 

その途中、レンヤが体に違和感を感じていた。

 

「どんな感じなんだ?」

 

「こう、胸の中心から力がわき出でくる感じなんだ」

 

そういうとラーグがだまりこんだ

 

「…まさか、もう…」

 

「?、何?」

 

「なんでもない、そのまますると後々面倒だからな、これをやるよ」

 

ラーグは銀のペンダントを渡してきた。

 

「これは、力…魔力を感知されないためのものだ肌身離さず持っていろよ」

 

「別にいいけど、この魔力?のこと知っているのか?」

 

「今はまだ話せない、けどいつか絶対話すから今はなにもきかないでくれ。」

 

「……わかった」

 

まだ疑問が残るがとりあえず納得した。

 

「あと魔力のコントロールするためにこれを使って特訓しよう」

 

ソエルは1冊を取り出した

 

「なになに、魔力運用トレーニング基礎?」

 

「そ、これで心と体を鍛えよう〜」

 

「まあいいけど」

 

そんな感じで1人2モコナの旅は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……のだが。

 

「やっぱり無理だねこれじゃ」

 

旅出て早1年、今年でレンヤは7歳である。

 

当初の目的である両親の捜索は難航していた。

 

手がかりがリボンと白黒まんじゅうだけではやはり難しいかった。

 

今では日本巡りの旅と化していた。

 

「ゆ〜れる〜ゆ〜れる〜風船のようなわ〜た〜し〜風よふけふけ〜もっとふけ〜」

 

「遊ぶな、白まんじゅう」

 

危機感を感じたレンヤは

 

「よし、海鳴市に行こう」

 

戻ることにした。

 

「いいのか〜レンヤ」

 

「このままでは、いつか絶対餓死するな。だから戻ろう」

 

「了解!今すぐ戻ろう〜〜!」

 

「すぐ?どうやって?」

 

「まあ見てなって」

 

ソエルが前に立ち。

 

「モコナ・モドキのドッキドッキ〜ハーフ〜〜!」

 

バサッ!

 

ソエルから翼が生えてきて魔法陣のようなものが現れた。

 

「ちょ、ちょっとラーグ!」

 

「大丈夫だって」

 

陣がレンヤたちを包みこむと……

 

「ハーーパック!ポーン!」

 

ソエルがレンヤたちを食べて、陣の中に入っていった。

 

そこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは!」

 

目を開けと不思議な空間にいた、レンヤたちは輪っかゆっくりと落ちながらくぐっていた。

 

「ふっふーん、すごいだろソエルの転移魔法だ」

 

「ああすごい…って、なんでラーグいばるの」

 

「まあまあ、すぐに海鳴に出るぞ」

 

それからレンヤはいつも思っている疑問を言った。

 

「……ねえ、本当にモコナたちは何者?」

 

「……………」

 

「この転移魔法もそうだけど、いつも教えてもらっている魔力や魔法のことも」

 

そう、このうさぎモドキたち本当によくわからないのだ。

 

暖かいから生物であることは間違いないが、こんな生物地球上にはいない。

 

それ以前にも、口の中がとてもよくわからない。

 

ラーグの口に手をつっこめば、ソエルの口から手が出てきたり。

 

四◯元ポケットのように色んな物が入っていたり。

 

星の◯ービィみたいになんでも吸いこむ。

 

それに……

 

「なんで、俺が魔力を持ち魔法が使えるのかそれは俺の両親が関係してるのか?」

 

「………………」

 

「………………」

 

風の音も聞こえない空間で沈黙がつづく。

 

「はぁ、今は聞かないでおくよ」

 

「すまないな」

 

「すまないで済むならな……光が見えた。そろそろ出口だ」

 

光が目の前を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

目を開けると海と街が見えた、どうやら高台のようだ。

 

「ポーンっとシュッタ!」

 

「おおー」

 

ソエルが見事に着地した。

 

「さてと、まずは…」

 

グ〜〜〜〜

 

「「「……………」」」

 

 

「メシだな」

 

「「だな(ね)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高台から街に向かいながら今後について話していた。

 

「まずは図書館、そこから………孤児院?」

 

「行きたくないのか」

 

「まあね、もう俺のことなんか忘れていると思うけど」

 

「なら、あの子に会おうよ、ほら街を出るときにあった女の子!」

 

「あーいたな、どうするレンヤ?」

 

「図書館に行った後ならな、まずは……」

 

キキィ……キャァ!スズッムグッ、バタン!ブロロロロ……

 

「「「………………」」」

 

「どうするレンヤ?」

 

「はあ、お人好しだなぁ」

 

「それでこそレンヤだよ♪」

 

魔力で体を強化して屋根伝いに車を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、私たちは大変な事になっています。

 

いつもの学校からの帰り道で車が目の前に止まったらあっという間に捕まってしまい。

 

今は使われていない工場に連れてかれました。

 

「はっはー、やりましたねリーダー」

 

「ああ…まさかオマケまであるとはな」

 

「これも日頃の行いですよ」

 

「嘘をつくなバカ者」

 

(アリサちゃん大丈夫!)

 

(すずかこそ)

 

両手両足ともしばられていて動けません。

 

「はーいお嬢ちゃんたち元気かい?」

 

「あんた達何が目的!身代金目当てなの!」

 

「あっアリサちゃん…」

 

アリサちゃんが強気で怒鳴ります。

 

「確かにそのとおりだけど、月村の人間がいると話は別だな」

 

「!」

 

まさか!私のことを…

 

「すずかがどうしたっていうのよ」

 

「おや知らないのかい、月村は夜の一族という……」

 

「やめてーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 

ズバッ!

 

いきなり扉が切り裂かれた。

 

「なんだ!もう御神が来たのか!」

 

「いえまだ連絡していないはずです!」

 

えっ、だったら誰が、無くなった扉の向こうにいたのは…

 

「え〜とここだよね?」

 

私と歳の変わらない少年でした。

 

ただ格好がおかしく白のTシャツに黒のズボン、白と黒のシマシマのパーカーを着ていてフードをかぶっている。

 

問題はそこではなく白と黒の剣が背中にあり、同じく白と黒の銃が太ももホルスターにあった。

 

「なんだガキかよ、とっとと……」

 

「ふっ!」

 

一瞬で後ろに回りこみ、蹴りをいれ吹き飛ばした!

 

「ぐはっ!」

 

「はっ!」

 

「がっ」

 

そのままもう1人も落とし

 

「大丈夫?」

 

私たちの縄を切った。

 

「あんたは?」

 

「話は後……さて」

 

リーダーと向き合いって

 

「あとは、あなただけだ」

 

彼は一体、何者なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

車を追いかけてたどり着いたのは、もう使われていないであろう工場だった。

 

「お約束だね」

 

「なにが?」

 

「こっちの話だよ」

 

そんな会話しながら扉の前に行く。

 

「見張りは1人……いける」

 

「その前に、レンヤこれを使え」

 

ラーグが口から出したのは白と黒の剣と銃だった。

 

「銃は魔力を流せば撃てる」

 

「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」

 

白の剣を抜き気づかれないように回りこみ。

 

「うっ」

 

気絶させる、後はばれないように隠した後、工場にはいる。

 

「どこにいるんだろう」

 

「奥から探そうよ」

 

奥にすすむと……

 

「……たち……も…き!」

 

「ここから聞こえる」

 

いつでも入れるように構える。

 

「ラーグ、ソエル、注意を惹きつけるから人質を助けて」

 

「「了解!」」

 

剣と体に魔力流して強化して…

 

「やめてーー‼︎」

 

「!よっと」

 

扉を切り裂いた。

 

「え〜と、ここだよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチパチ

 

「いやーお見事、御神はこんな逸材を育てていたのか」

 

「御神なんて知らない」

 

「おやそうかい、なら」

 

リーダー格がもったいぶるように言う。

 

(わかっていたけど歩くの遅っ!)

 

ラーグとソエルの足は短く後ろにいくのも時間がかかる

 

「やめて……」

 

すずかが泣きながら止めるも

 

「彼女の家、月村は」

 

「やめてーー‼︎」

 

「吸血鬼っていう化け物なのさ!」

 

その一瞬、静かになりる。

 

「あっ、あぁ…」

 

「すずか?嘘よね、すずかが化け物なわけ…」

 

すずかはうつむき、なにも言わない

 

「怖いよなぁ、お友達が化け物だぜ。ずっと騙してきたんだ」

 

「アリサ…ちゃん……ごめん、ごめんね……」

 

すずかはただただ、謝りつづけた。

 

(えっと、うん?)

 

アリサがすずかの前に立ち。

 

「ーーーない」

 

「なんだい、おじょう……」

 

「そんなの、関係ない!」

 

アリサが叫んだ。

 

「私とすずかは親友なのよ!そんなことですずかを嫌うはずがない!」

 

「アリサちゃん……!」

 

すずかは涙で溢れている、とても嬉しそうだ。

 

「なっなら、君はどうだい?吸血鬼なんか気味が悪いだろ⁉︎」

 

男は最後の望みをレンヤにかけた。

 

「別に、いつもうさぎモドキと一緒にいるし、似たようなもんだろう」

 

「「うさぎモドキとはなんだー!」」

 

モコナたちが声をあげて批判する

 

「えっ」

 

「なんなのこれーー!」

 

すずかとアリサは驚く。

 

「なっ……ぐっふ!」

 

「………3秒ルール」

 

レンヤは男を速攻で潰し見せなかったことにした。

 

「ふう……大丈夫?」

 

「はっはい!大丈夫です」

 

「問題ないわ」

 

「そっか」

 

レンヤは安堵して、ラーグとソエルを抱えた。

 

「その白黒は一体なんなの?」

 

「うさぎ?にしては変かな、しゃべるし」

 

「「変っていうなー!」」

 

「はいはい黙って、誰か連絡つく人はいない?」

 

「私は持っていない」

 

「私がポケベルを……壊れてる」

 

「あはは、じゃあここから出て……」

 

「ふ…ざけ…るな…!」

 

「「「「「!」」」」」

 

「ふざけるな……!」

 

「落とし損ねた!……もう一度!」

 

「ふざけるなーーー‼︎」

 

ビキッ

 

「えっ!」

 

ビシッ

 

「赤いヒビ⁈」

 

ビキッ バキッ

 

男の背後に赤いヒビが入った。

 

「なんだ、これは⁈」

 

スーーー

 

「これは⁉︎」

 

「赤い門⁉︎」

 

「ゲート‼︎」

 

「うわあああああ!」

 

ヒビから門にかわり男をのみこんだ。

 

「くっ!」

 

「いったいなにが」

 

不可思議な現象に混乱する俺たち。

 

「ラーグ、これはなんだ⁉︎」

 

「説明は後、助ける?助けない?」

 

「〜〜〜!ああもうわかりきってることだろ!君たちはここで待っていて、白いの、ソエルは置いていくから」

 

「あ、ちょっと」

 

「まちなさい!」

 

アリサの剣幕にレンヤはたじろぐ。

 

「ちゃんと説明してくれるんでしょうね」

 

「あっ、ああもちろんこいつがね」

 

「よう、よろしくー」

 

それで納得したのか、アリサは落ち着いた。

 

「んっ?」

 

袖をひっぱられるのを感じ振り返るとすずかが精一杯、声を出しながら。

 

「えっと、無事に帰ってきて!」

 

「おう」

 

門と向き合い

 

「そんじゃ、行ってくか!」

 

赤い門に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったね」

 

「ええ」

 

アリサとすずかはレンヤが門に入るの見届けた。

 

「あいつが帰ってくるまで、待ってましょう」

 

「うん、ソエルちゃんだよね。あなたのこと教えてくれるかな?」

 

「いいよ、ソエルのこといっぱい教えちゃう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を少し離れた場所から見つめる姿があった。

 

「ふふ」

 

ーーリン

 

 

 



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4話

 

 

門をぬけるとそこは……

 

「うっ……、!これは!」

 

現実とは思えない光景があった、どこか古い遺跡のような場所だ。

 

「異界化《イクリプス》、それがこの現象の名前だ」

 

「……相変わらず、説明が少ないな」

 

「これは後でちゃんと説明する、今は……!くるぞ、かまえろ!」

 

「ちょっ、なにが……!」

 

その瞬間、正体不明の化け物が現れた。

 

「なんだ!、こいつらは!」

 

「異界に住む敵性存在、怪異《グリード》だ、剣に魔力を流せ!通常の攻撃は通用しないぞ!」

 

「くっ…速攻でかたをつける!」

 

レンヤは剣を構え、怪異に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

 

最後の1体を斬りふせ、一息つく。

 

「ふう…結構疲れるな」

 

「まだまだ序の口だぞ、この先は迷宮になっている、気をつけて進め」

 

「わかった」

 

レンヤとラーグは迷宮を進んで行く。

 

「あっ…あと罠とギミックがあるから注意しろよ」

 

「だからちゃんと説明しろって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

罠や怪異を退けながらすすむと開けた場所に出た。

 

「迷宮は……ここで終わりか?」

 

「そうらしいな、だとしたら来るぞ」

 

「来るってなにが」

 

グオオオオオオオ

 

「「!」」

 

獣、いやもっと別の!

 

「!…いたっ!さっきの男!」

 

消えた男が、横たわっていた。

 

次の瞬間、男の目の前から黒いもやが溢れ出し……

 

グオオオオオオオオオ

 

巨大な怪異が現れた!

 

「でかすぎだろう!」

 

「エルダーグリードーーこの迷宮のヌシだ!あれを倒すことができればこの異界化を収められる!」

 

「っ……だったらとっととぶっ飛ばすだけだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、ソエルたちは……

 

「へえ〜あなたたちは両親を探すために旅をしてるのね」

 

「そう!正確にはレンヤだけどね」

 

「でも、それってすごく大変じゃあなかったの?」

 

ソエルがアリサたちに目的を話していた。

 

「大変だったけど、すごく楽しかったよ♪」

 

すっかり意気投合していた。

 

「へえ〜って、違うわよ!あんたが何者だって聞いてるの!」

 

「ソエルはモコナ・ソエル・モドキだよ」

 

「えっとねソエルちゃん名前じゃなくて……」

 

メキョ!

 

ソエルの目がいきなり開いた。

 

「うわあ!ちょと、ビックリしたじゃない!」

 

「どうしたの?」

 

「大変!レンヤたちがピンチだよ!」

 

「それって、この門で⁉︎」

 

「だったら助けに……」

 

「ダメ!アリサとすずかが行っても足手まといになるだけ!」

 

「なら、どうすれば!」

 

何か案がないか考えるが。

 

「このまま、待っているしかないの!」

 

「アリサちゃん……」

 

「なにか!なにか私にできることはないの⁉︎」

 

「私だって、黙って見ていることしか……」

 

そんな考えが頭を巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー“力”が欲しいかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキーーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!」

 

「えっ?」

 

周りの時が一瞬で止まった。

 

「そっソエルちゃん⁉︎」

 

ソエルが石の様に固まり動かない。

 

アリサたちの前に青いモヤが現れ。

 

1人の、アリサたちと歳の変わらない少女が現れた。

 

銀髪の膝まである髪、目は閉じられ古ぼけた服を着ている。

 

「彼を助ける、“力”が欲しいかい?」

 

「あんたは、いったい…?」

 

「っ!」

 

不可思議めいた雰囲気にアリサたちはたじろぐ。

 

「“力”を手にすれば彼を助ける、でも覚悟して“力”を手に入れたら後には戻れない、今は家族との因果は交わっているけど、いつかきっと離れ離れになる それだけの覚悟、彼にする気はあるのかな?」

 

つきつけられた条件、アリサ達は迷う。

 

「彼の行く道はとても辛い荊の道、今日初めて会った彼にそこまでする理由もない」

 

少女は彼の運命を語り、さらに迷わせる。

 

「……わよ」

 

「……………………」

 

「覚悟くらい、あるわよ!」

 

「アリサちゃん⁉︎」

 

「見ず知らずの私たちを助けただけじゃない!あの男まで助けるお人好しよ!だったら私が面倒を見ないといけないの!」

 

「……………………」

 

「私も、私も彼を信じたい。助けたいだけじゃない、彼ならきっと私を認めてくれると信じているから!」

 

「ふふふ」

 

少女は見透かしたように笑う。

 

「試すようでごめんね、確かに家族との因果は離れることになるけど、また交わらないわけでもないんだ」

 

「あっ!」

 

「よかった……」

 

「それともう一つ、僕は君たちに“力”を与えることはできない」

 

「ちょっと!それどういうことよ!」

 

「そんな……!」

 

「ふふ」

 

少女が手をこちらに向けた瞬間、アリサとすずかの、胸の中心が光りだした。

 

アリサは炎のような真紅に。

 

すずかは鮮やかな紫色に。

 

「“力”は最初から君たちの中にある、後はきっかけだけ」

 

「暖かい光…」

 

「綺麗……」

 

「ふふ、君たちが彼とこれからどんな因果を生むのか」

 

「「っ!」」

 

少女が目を開いた、虹でも宝石でも表すことのできない異形の色。

 

「ーー見届けさせてもらおうーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキーーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー“力”の使い方はその守護獣に聞くといいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!、アリサとすずかのリンカーコアが!」

 

時が動きだし、アリサとすずかの変化にソエルが気づいた。

 

「なっなにこれ…」

 

「…………ソエルちゃん、この力の使い方 教えてくれる?」

 

「すずか⁉︎」

 

「そう……会ったんだね、異界の子に」

 

すずかの発言にアリサは驚く。

 

「この力があれば彼を助けられんだよね!」

 

「うん!絶対に助けるよ!」

 

「よくわからないけど、やってやろうじゃないの!」

 

「デバイスを渡すから、それに聞いて 準備が整い次第ゲートをくぐるよ!」

 

ソエルが口からデバイスをだし、アリサたちに渡した。

 

アリサは紅いひし形の宝石。

 

すずかは中心に紫色の宝石がはめられている十字架。

 

「アリサのはフレイムアイズ、すずかのはスノーホワイト、起動コードは私が省略させるから2人は大声で、セ〜トッ!・ア〜プッ!って言って!」

 

「わかったわ」

 

「うん!」

 

2人はデバイスをかかげ…。

 

「フレイムアイズ!」

 

「スノーホワイト!」

 

「「セ〜トッ!ア〜プッ!」」

 

デバイスを起動して、アリサとすずかが光りに包まれてバリアジャケットを身に纏う。

 

アリサは赤を基調としたバリアジャケットで、武器は刀身が魔力で出来ている銃剣。

 

すずかの紺を基調としたバリアジャケットで、髪はポニーテール、武器は十字の槍を持っている。

 

「これが…私?」

 

「すごい…力が溢れてくる!」

 

アリサたちは自分たちの変化に驚く、ソエルがすずかの肩に乗り。

 

「覚悟はいいね、それじゃあ行こう!」

 

「えぇ!」

 

「覚悟なら、もうできてる!」

 

私たちはゲートをくぐりぬけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、これ?」

 

「これが、異界」

 

私たちは目の前の光景に目を奪われた、日常では絶対に見ることのできない景色が広がっていた。

 

「他の怪異もいない、このまま最奥部に直行しよう!」

 

「えぇ!行くわよ!」

 

「まっ、まって!アリサちゃん!」

 

待っていなさいよ、必ず助けるんだから!

 

「アリサ、そっちじゃないよ」

 

「早く言いなさい!」

 

 




やっちまった感がハンパないですはい。

でもくじけない!


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5話

 

 

「はああああああ!」

 

レンヤはエルダーグリードと戦っていたが……

 

「くっ、タフなうえに無駄に速い!」

 

苦戦していた。

 

「レンヤ!このままだと、お前の魔力と体力が先に尽きるぞ!」

 

「わかっている!コイツ固いから大抵の攻撃は弾かれんだ!」

 

「だったら、1発どデカイのぶちかませ!」

 

「そんな魔法教えてもらっていない!」

 

エルダーグリードを倒すだけの決定打がなかった。

 

「っ!ふっ!」

 

銃を撃つも全然、効いていなかった。

 

「なら、これならどうだ!」

 

全力で剣に魔力を流して、頭に突き刺したが……

 

(刃が通っていない⁉︎)

 

「レンヤ!」

 

「っ!しまっ……!」

 

振り下ろされた腕に当たって、吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐはっ!」

 

「レンヤ、大丈夫か⁉︎」

 

(やばい、動けない⁉︎)

 

迫り来るエルダーグリード。

 

「はぁ、はぁ、どうしたら……倒せるんだ」

 

(こうなったら、俺が!)

 

ラーグなにかを考え。

 

「レンヤ、今から……」

 

「下がりなさい!」

 

銃声がなり、エルダーグリードに当たる。

 

「やぁ!」

 

横から誰かが通り過ぎ槍で切りつける。

 

「君たちは!」

 

「ふふ、助けに来たわよ」

 

「大丈夫?」

 

アリサとすずかだった。

 

「なんでここに、それにその格好は」

 

「いっ、今はそれどころじゃないでしょう!」

 

「ふふ」

 

「レンヤ、大丈夫?」

 

「ソエル⁉︎なんで連れてきたんだ!」

 

「アリサとすずかが決めたことだよ」

 

「だからって……」

 

「ああもう、ケガ人は黙っていなさい!」

 

「へぶっ」

 

「あっアリサちゃん…」

 

アリサたちはエルダーグリードと向き合い。

 

「これが、グリード」

 

「……………」

 

「連携すれば、勝機はあるアリサ、すずか準備はいい?」

 

「ええ!私たちの友情見せてやりましょう!」

 

「うん!」

 

2人はエルダーグリードに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!時間ができた、今から奴を倒す方法を教える!」

 

「今から⁉︎それにアイツ恐ろしく固いんだぞ!」

 

「だからこそ、教えるんだ。2人がいつまで持つかわからないんだ」

 

ラーグが真剣に言う。

 

「……わかった」

 

「よし、方法は簡単だ、動くなよ」

 

「えっ、なにす……」

 

目の前に大きく口を開いたラーグが映った。

 

「バクッ」

 

レンヤの頭が喰われた。

 

「むーーーーー!」

 

ラーグを離そうとするが体が伸びて取れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあぁ!」

 

「そこ!」

 

私達は巨大なグリードと戦っていた。

 

「崩した!すずか!」

 

「うん!スキあり!」

 

うまく連携をとって確実にダメージを与えていた。

 

「それにしてもすずか、あんた運動神経いいじゃない、今まで手を抜いていたのね!」

 

「あはは、吸血鬼としての力を抑えていたから」

 

「まったく」

 

「アリサ!すずか!来るよ」

 

エルダーグリードが突進してきて、私たちはそれを避けた。

 

「こんなの相手に苦戦してたの?」

 

「私1人じゃ無理だよこんなの、ここまで耐えるなんてすごいよ」

 

「また来るよ!」

 

エルダーグリードが力を溜め始めた。

 

「なにかする気ね、その前に!」

 

「待って、アリサちゃん!」

 

「ダメ!2人とも!」

 

攻撃をした瞬間、力が解放され地面から強い衝撃が走った!

 

「「きゃあああああ!」」

 

壁際まで吹き飛ばされ、動けなくなってしまった。

 

「くっ、やっぱり経験がないから!」

 

ゆっくりと近づいてくるエルダーグリード。

 

(うぅ、ここまでなの)

 

(動かない、でも諦めたくない!)

 

ゆっくりと振り下ろされる腕、私は目をつぶった。

 

しかし

 

(あれ?)

 

いつまでたっても来ない衝撃、私はゆっくり目を開けた。

 

「ごめん、待たせたね」

 

彼が、剣で腕を止め、黒いソエルを頭に乗せて(かぶりつかれて?)立ってた。

 

「ぐすっ、来るのが遅い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、毎回言っているよな説明しろって」

 

ラーグがやったことは頭にかぶりつくことによって、脳に直接情報を与えるという方法だった。

 

「ひはんははっははらな(時間がなかったからな)」

 

今も続いているが戦えるまで動けるようにはなった。

 

「後は俺に任せて、君たちは……」

 

「冗談じゃないわよ……!」

 

アリサがフラフラになりながらも立ち上がった。

 

「私が自分であなたを助けたいって決めたの、最後まで付き合いなさい!」

 

「そうだよ」

 

すずかがいつの間にか横から立ち……

 

「1人で全部背負い込まないで、今は私たちを頼って!」

 

槍でエルダーグリードを吹き飛ばした。

 

俺は唖然とした。

 

(こんなの感じ初めてだ、これが仲間ってことなのか?)

 

レンヤはラーグとソエルがいても、ある意味1人だった誰かと一緒にいることが初めてだった。

 

「はは、ならとことん付き合ってもらおうか!」

 

「まかせなさい!」

 

「よろしくね!」

 

3人でエルダーグリードに挑みかかった。

 

「自己紹介がまだだったな、俺は神崎 蓮也」

 

「改めまして、モコナ・ソエル・モドキだよ」

 

「俺はモコナ・ラーグ・モドキだ」

 

「アリサ・バニングス、アリサでいいわよ」

 

「私は月村 すずか、私もすずかでいいよ、よろしくねレンヤ君!」

 

「よろしくアリサ、すずか、少しの時間を作ってくれるか?」

 

「なにか策があるんでしょうね」

 

「ああ」

 

「なら頑張らなくちゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

「ふっ!」

 

アリサが剣と銃で牽制して、すずかが槍で攻撃をする。

 

常に距離を取り、攻撃が当たらないようにする。

 

「………………」

 

レンヤは目を閉じ魔力を双銃に集中させ、双剣を後ろで回転させ円を描き魔法陣を作った。

 

「あとどれくらいなの⁉︎」

 

アリサが、肩にいるラーグにしゃべりかけた。

 

「もうちょいだ」

 

「もっと、わかりやすくして!」

 

「それは、レンヤに聞け」

 

「聞けるわけないでしょう!」

 

「アリサちゃん……」

 

「緊張感ないね♪」

 

そんな会話をしながらも攻撃の手は緩めない。

 

アリサは素早い動きで的をしぼらせないようにし、すずかは足を重点的に狙い動きを制限させる。

 

グオオオオオオオオオ

 

「キャッ!」

 

「っ!」

 

エルダーグリードが吼え、2人はひるんだ瞬間動かないレンヤに目をつけ、突進してきた。

 

「しまった!」

 

「レンヤ君!」

 

レンヤは集中して動かけない、迫り来るエルダーグリードを避けることはできない。

 

「………………………!うわ!」

 

当たる瞬間、準備が完了しギリギリできることができた。

 

「危なかったー」

 

「レンヤ!」

 

「大丈夫⁉︎」

 

「大丈夫だ、よしこれで決める!」

 

後ろの剣が高速に回転し始め、銃を乱射しながら高速で近づく、移動しながら剣から出た魔法陣をエルダーグリードの周りに展開させる。

 

「いっけーー!」

 

最後に魔法陣に砲撃魔法を発射し、エルダーグリードの周りにある魔法陣に転送して全方位から攻撃した。

 

グオオオオオオオオオオ

 

エルダーグリードが断末魔をあげ、塵のように消えっていった。

 

「はあはあ……疲れた……」

 

「やったわね」

 

「すごいよ、レンヤ君!」

 

エルダーグリードが消滅したことにより、迷宮が消え始めた。

 

「なんなの⁉︎」

 

「落ち着け、エルダーグリードが消えたから、異界が消え元の場所に戻るだけだ」

 

「戻ったら、ちゃんと説明してくれるよね?」

 

「ああ、コイツらがな」

 

「「コイツいうな!」」

 

目の前が真っ白になり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けるとそこは、今までいた廃工場だった。

 

「戻ってこれたの?」

 

「そうみたいだね」

 

アリサとすずかは辺りを見回した。

 

「!、アリサちゃん、レンヤ君たちがいないよ!」

 

「嘘!夢だったの……」

 

先程の男しか居らず、レンヤたちは見当たらなかった。

 

そう思い始めたが、私たちの手にあるデバイスが現実だと教えてくれる。

 

「勝手に消えて、探し出して文句言ってやるんだから!」

 

「ふふ、そうだね」

 

その時、走ってくる音が聞こえた。

 

「すずか、アリサちゃん大丈夫⁉︎」

 

「「お姉ちゃん《忍さん》!恭也さん!」」

 

「よかった、無事だったのね!」

 

忍さんが私たちを抱きしめる。

 

その後、士郎さんが入ってきた。

 

「どうやら誰かが助けたようね」

 

「どこにもいないみたいだけど、2人とも知っているかい?」

 

「ええと、私たちもどこに行ったかは」

 

「そうか、ならどんなやつだった」

 

「えっと男の子で名前は神崎 蓮也、フードをかぶっていて顔は見えませんでした、あと………」

 

「あとなんだい?」

 

すずかはラーグとソエルのことをしゃべるべきか悩んだ。

 

「あと白と黒のうさぎみたいなぬいぐるみを持っていました」

 

「アリサちゃん……!」

 

「白と黒のうさぎみたいなぬいぐるみ?」

 

「知っているの恭也?」

 

「ああ、1年前俺たち家族を救ってくれた人物が持っていたらしいとなのはが言っていた」

 

「そう、とりあえず名前で探し見るわね」

 

「ありがとうお姉ちゃん」

 

「よろしくお願いします」

 

アリサとすずかは顔を赤らめ。

 

(私にこんなにした罪、重いわよ!)

 

(きっと、会えるよね)

 

手もとのデバイスを握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…戻ってこれ……!ってここは」

 

レンヤたちは戻ってこれたが、そこは廃工場ではなく河川敷だった。

 

「なんで廃工場から移動しているの?」

 

「どうやら地脈の揺らぎの影響を受けたんだね」

 

「出現座標の変化……そう珍しことじゃない」

 

「そうか」

 

グーーーーー

 

「うぅ…なにも食べていなかったんだ」

 

「色々あったからね」

 

「すっかり夜だ、早くメシにしようぜ」

 

レンヤたちは夜の町に向かった。

 

「レンヤ、お金持っているの?」

 

「…………………」

 

ごはんは、またいつか。

 

 



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6話

 

あれから2日ーー

 

公園の一角、桜の木の下でレンヤは……

 

「………ひもじい…です…」

 

飢えていた。

 

今の時代お金がないとほとんどなにもできないと言ってもいい。

 

この2日、公園の水でしのいでいた。

 

「大丈夫か?レンヤ」

 

「これが大丈夫に見えるの?」

 

「うるさい、白黒まんじゅう」

 

グーーーーーーー

 

「はうっ」

 

腹の虫がなり、空腹を主張する。

 

「今まで全力で頑張ってきたけど、もう…限界…です」

 

「「レンヤ!」」

 

レンヤはゆっくりと目を閉じた。

 

「お…!だ……ぶか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

目を開けた時、見えたにはここ最近見ていなかった天井だった。

 

「俺は一体……」

 

グーーーーーーーー

 

「はぅ……そうだったお腹、空いていたんだった」

 

どうやら気絶している間、どこかに運び込まれたようだ。

 

「おや、目が覚めたかい」

 

扉が開き入ってきたのは、20代後半くらいの男性だった。

 

「あなたが俺を……」

 

「倒れていたからね、家に運ばせてもらったよ」

 

「あっ…ありがとうございま……!」

 

辺りを見回し、ラーグとソエルがいないことに気がついた。

 

「ラーグ⁉︎ソエル⁉︎どこに……」

 

「あの白と黒のぬいぐるみかい?それなら……」

 

「ここにいるはよ」

 

女性がラーグとソエルを抱えて入ってきた。

 

「汚れていたから、洗わせてもらったわ、はいどうぞ」

 

「あっ…ありがとうございます」

 

返してもらったソエルたちはふかふかだった。

 

2モコナともぬいぐるみの真似をして動かない。

 

「さて、どうして倒れていたか聞きたいんだけど…」

 

そう言いレンヤを一瞥すると……

 

「まずは…お風呂に入りなさい」

 

「えっ?」

 

レンヤが思っていた以上に髪がボサボサだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわーー目にしみるーー!」

 

「こら!じっとしてろ」

 

あの後、お風呂に入れさせられた。

 

「しっかし長い髪だな、なんで伸ばしているんだ、男だろ」

 

「ほっといて、関係ないでしょう」

 

「たっく生意気ゆうな!」

 

「うわー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい目にあった……」

 

「大げさだな」

 

俺はリボンをまいて元の髪型にする。

 

「髪もそうだがなんでリボンをまく?」

 

「……おでこの痣を隠すためですよ」

 

そう言いながらおでこの痣を見せた。

 

「随分と綺麗な形の痣だな、これは太陽か?」

 

「さあ、目立つからリボンをまいてんです………それ以外にもありますけど………」

 

「何か言ったか?」

 

「なんでもありません、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻って来ると、いい匂いがしてきた。

 

「あら、随分とかわいらしくなったはね〜」

 

「かっからかはないでください!」

 

「はは、食事ができている食べていくといい」

 

「えっ!いいんですか⁉︎」

 

「遠慮しないでいいからね」

 

リビングに行くとテーブルにオムライスがあった

 

「ごくりっ」

 

オムライスを目の前に、無言でスプーンを持った。

 

「こらこら」

 

「むぐ」

 

メガネをかけた女性に止められた。

 

「食べる前に言うことがあるでしょう」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「違う、いただきますでしょう」

 

「えっ?あっ、いっいただきます」

 

久しく、口にしてなかったことを言う。

 

「よろしい」

 

許可をもらい、オムライスを食べた。

 

「おいしい!」

 

「ふふ、ありがとう」

 

あっという間に平らげてしまった。

 

「ふう…!コホン、ごちそうさまでした」

 

「ふふ、お粗末さまでした」

 

メガネの女性の視線に気づき、すぐに礼を言った。

 

「さて、落ち着いたところで君について話してもらえないかな」

 

「!はっはい!」

 

(しまったー!落ち着きすぎたー!)

 

後悔しても後の祭り。

 

「とりあえず、名前を教えてくれない」

 

(それぐらいなら)

 

「神崎 蓮也です」

 

「「神崎 蓮也⁉︎」」

 

「うわっ、どうしたの?お父さん、恭ちゃん」

 

「レンヤ君、君はアリサ・バニングスと月村 すずかを知っているかい?」

 

「っ!」

 

(やっべ!あいつらの関係者⁉︎どうにかしないと)

 

「すいません、手洗いに…」

 

「待ちなさい」

 

「……はい」

 

無駄な抵抗だった、見た感じ男性2名から逃げられる気がしない。

 

「それでは改めてまして、私は父親の高町 士郎だ、こっちが」

 

「母の桃子です。よろしく」

 

「えっ!若っ!」

 

「あら、ありがとう」

 

「コホン、俺は高町 恭也だ」

 

「私は高町 美由希、よろしくね」

 

「よろしくお願いします、みなさん」

 

「さて君は何者だい、親はどうしたんだい?」

 

「っ!…………はい、実は」

 

それから魔法関係以外のことを話した、両親のこと、孤児院のこと、出て行った理由、少女と出会ったこと、旅のこと、一昨日のこと、自分のことを全部話した。

 

「ぐすっ、大変だったんだね」

 

「いえ、ただあの孤児院にいたくなかっただけです」

 

「でも、そう簡単にできることじゃないよ」

 

「両親の目印があったからです、この子たちとこのリボンが、それが無かったら諦めていました」

 

「そうか、君はこれからどうするんだい?」

 

「当初の目的通り、海鳴に滞在します。両親の情報が無かったらまた旅に出ます」

 

「なら、レンヤ君家で暮らさないかい?」

 

「えっ?」

 

突然の提案に驚いた。

 

「私はこれでも顔が広い、もしかしたら君の両親の情報が入るかもしれない」

 

「でっでもご迷惑です!今会ったばかりの子どもにそこまでしなくても…」

 

「あら、迷惑だなんて思わないわ。それになのはのことを救ってくれた子よ、十分 信用できるわ」

 

「すずかたちから話は聞いている、自分のことを顧みない阿呆だが嫌いじゃない」

 

「私も大歓迎だよ、弟が欲しかったんだ!」

 

「えっと、でも、だけど、えーとっ、えーとっ」

 

なんとか断わるために言葉を探す。

 

桃子が無言でレンヤを抱きしめた。

 

「はっ離して、離してください!」

 

暴れるも、その力は弱々しい。

 

「いいのよ、強がらなくたってここにあなたを否定する人はここにはいない」

 

「はなして……ください」

 

抱きしめる力を強められる。

 

「お…かあ……さん」

 

レンヤは母親の温もりを感じながら眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝ちゃったね」

 

「なのはにはどう説明する」

 

「ありのままを伝えればいいの」

 

「ああ、そうだな」

 

士郎はレンヤを抱え、部屋に連れて行った。

 

「ここに住むことを、納得してくれたらいいんだけど」

 

「大丈夫だよ、きっとね」

 

ガチャ

 

「ただいまー!」

 

「帰ってきたみたいね」

 

「やれやれ、噂をすればなんとやらだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

学校から帰ってきた私は店がお休みになっていたので、家の方に帰ってきたました。

 

「なのは」

 

「お母さん!」

 

この時間、お母さんが家にいるのは珍しいの。

 

「何かあったの?」

 

「ふふ…なのは、このぬいぐるみに見覚えない?」

 

見せてきたのは、あの時の男の子が持っていた白と黒のぬいぐるみでした。

 

「そのぬいぐるみは!あの男の子が来ているの!」

 

「ええ、今は部屋で寝ているから自己紹介はまた明日ね」

 

それは残念なの。

 

「なのは、このぬいぐるみたちを彼の部屋に運んでくれる?開き部屋にいるから」

 

「わかったの!」

 

ぬいぐるみを抱えて部屋に向かいました。

 

開き部屋の前に立って、深呼吸する。

 

(やっと、会えるの)

 

私は意を決して扉を開けた。

 

開き部屋なので殺風景な部屋、彼は窓際で寝ていた。

 

「………うわあ、綺麗な髪………」

 

長い髪が陽の光に反射し夜のような色を出している。

 

(寝ているよね)

 

顔をよく見るために近づく。

 

(すごく、かっこいい///)

 

私は彼に見惚れていた。

 

「う……ん」

 

「にゃあぁ!」

 

起きたのだと思い声をあげてしまった、慌てて手で口を押さえる。

 

(起きていないよね)

 

一安心して、白と黒のぬいぐるみを彼のそばに置き。

 

(これくらいはいいよね)

 

チュッ

 

私は顔を真っ赤にしながら部屋を出た。

 

「初々しいですね〜ラーグさんや」

 

「そうですね〜ソエルさんや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ〜〜〜……///」

 

「あらどうしたのなのは、顔を真っ赤にして……まさか寝ている彼にキスでもしちゃったの♪」

 

「にゃっ、にゃんのこと!」

 

「相変わらず嘘が下手ね」

 

 

 



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7話

 

 

「ふわあああ……」

 

久しぶりによく寝た気がする、窓の外を見ると太陽が真上にあった。

 

「起きた?レンヤ」

 

「遅いお目覚めだな」

 

「ラーグ、ソエル、俺どれくらい寝ていたんだ?」

 

「もうお昼過ぎだよ〜」

 

「桃子たちは家にいないぞ」

 

子どもでも盗みを働くとは思わないのか?

 

(信用……されているのかなぁ)

 

「ほら起きて、店で桃子が待っているよ」

 

「顔を洗って、シャッキッとしろ」

 

「わかった」

 

部屋のから出て、洗面台で顔を洗い、身だしなみを確認して家を出た。

 

「店はどこなんだ?」

 

「すぐそこだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し歩くと、翠屋と言う店があった。

 

「ここが?」

 

「ああ、桃子と士郎が開いている店だ」

 

「一体いつそんなことを知ったんだよ」

 

「昨日の夜に私たちのことを話したんだよ」

 

「ちょっ、それって!」

 

「大丈夫だ魔法関係は話していない」

 

「そう言う問題じゃないと思う」

 

「でもちゃんと受け入れてくれたよ」

 

「ほら突っ立てないで入るぞ」

 

店に入ると、お昼なのでそれなりに混んでいた。

 

「あら、レンヤ君おはよう……はもう過ぎちゃったわね」

 

「今起きたようなものなので、あっていると思います」

 

「そう?空いている席に座って、すぐにごはんを作るから」

 

「えっ、でも」

 

「ほら、子どもが遠慮しないの座って座って」

 

強引に座らされた、それからすぐに料理がきた。

 

「今日は翠屋定食よ、どうぞ召し上がれ」

 

出された料理は、ハンバーグにレタス、スープにごはんといったもの

 

「昨日は簡単にしちゃったから、いつもより腕によりをかけて作ったから」

 

「ありがとうございます、すごくうれしいです」

 

「ふふ、ごめんねソエルちゃんたち人が少なくなったら、出してあげられるんだけど」

 

「大丈夫です、食べながらこっそりあげるんで」

 

「そう?ありがとう、それじゃあゆっくり召し上がってね」

 

桃子さんは仕事に戻り、俺はごはんを食べた。

 

「うん!おいしい!」

 

「………レンヤレンヤ、私も私も!………」

 

「………はいはい………」

 

ソエルとラーグを膝の上に置き、食べるふりをしながらソエルにあげた。

 

「………昨日は食べられなかったけど、おいしい!………」

 

「………俺にもくれよ………」

 

そんなことを繰り返し続けたら、あっという間に平らげてしまった。

 

「ふぅ、ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした」

 

ちょうど桃子さんがやってきた。

 

「おいしいかったです」

 

「3人で分け与えて食べていたけど、足りたの?」

 

「いつもこんな感じだったので……それと」

 

ソエルを顔の前まで持っていき、腹話術をする感じにして。

 

「3人じゃないよ!モコナの数え方は1モコナ、2モコナだよ!」

 

ただ口パクしてるだけなので、難しくもない。

 

「あら、ごめんなさいね」

 

桃子さんは面白がるように笑う。

 

「それと、はい翠屋の看板商品のシュークリームよ」

 

置かれたのは、初めて見るものだった。

 

「なんですか、これ?」

 

「あら、シュークリーム知らなかったのね、なら食べてみるといいわよ」

 

シュークリームを怪訝そうに見つめ、思いっきりかぶりついた。

 

「!、甘くておいしい!」

 

「ふふ、よかった」

 

俺は夢中で食べて、すぐに無くなってしまった。

 

「あっ、ソエルたちに分けるの忘れた」

 

「なら、後で人数分持ってくわね」

 

「別にそこまでしなくても!」

 

「遠慮しなくても良いの」

 

「でも……!、なら遠慮しません、お店の手伝いをさせて下さい!」

 

「えっ、別にそのためにしなくても……」

 

「いえ、ことわざにもあります。働かざるもの………死ね、って」

 

「………それ間違っているよ、レンヤ………」

 

「………プッフッ………」

 

「ラーグ君、後で“お話し”があります」

 

「ひぇ!」

 

「あはは」

 

お話しって、なにするんだろう。

 

「コホン、それじゃお願いしようかしら」

 

「はい!頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからお店の手伝いをしていた。

 

簡単な配膳や掃除、皿洗いなどをさせてもらった。

 

ラーグとソエルはレジカウンターに置かれ、ぬいぐるみのマネをしていた。

 

以外にも人気だった。

 

時間が経ち、学生たちが増え始めまた忙しくなった。

 

とくに……

 

「キャー!かわいいーー!」

 

「髪綺麗!肌もちもち!」

 

「あの……離して下さい…」

 

女子高校生にもみくちゃされていた。

 

「えっ、男の子なの⁉︎」

 

「色々と負けた……」

 

「たっ助けて〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい目にあった」

 

「大丈夫だったかい?」

 

あの後、士郎さんに助けられた。

 

「もっと早く助けてくれてもよかったんじゃないですか」

 

「あの中に入るのは、それなりに勇気がいるんだよ」

 

そう言うもんですかね〜?

 

「それで、昨日の提案の答えを聞きたいんだけど」

 

「それは……」

 

両親の情報を集めると同時にここに住む事。

 

「今までうまく生きていたかもしれないけど、昨日の事を見るといつか大変な事態になってしまう。それに君はまだ子どもだ、これから先なにが起こるか分からない」

 

「………………………」

 

俺はまだ迷っている、士郎さんと桃子さんはとても優しい。でも素直に「はい」とは言えない。

 

「なら……1番下の子に合わせて下さい。その子から許可をもらったら、その提案を受けます」

 

「わかったよ」

 

これでなんとか断れると思ったレンヤ。

 

しかし、士郎はそれを否定するかのように笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、私たちは翠屋に向かっています。

 

「で…今なのはの家に白と黒のうさぎみたいなぬいぐるみを持った男の子がいるのね」

 

「うん、昨日お父さんが連れてきたんだ」

 

「アリサちゃん……それって、もしかして」

 

「ええ絶対あいつよ、なんで逃げたのか。問い詰めてやるんだから!」

 

どうやら、アリサちゃんとすずかちゃんは彼の事を知っているみたいなの。

 

(どういう関係なんだろう……)

 

疑問に思いながらも歩みを進めた。

 

それからすぐに翠屋についた。

 

「少し待ってて、家にいると思うから呼んでくるの」

 

「シュークリームでも食べながら待ってるわ」

 

「早く戻ってきてね」

 

私は彼を呼ぶために家に帰りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはちゃんと別れた後すぐに翠屋に入った。

 

「こんにちは桃子さん」

 

「おじゃまします」

 

「いらっしゃい、アリサちゃん、すずかちゃん、なのははどうしたの?」

 

「それは………!」

 

「アリサちゃん?」

 

アリサちゃんは何かに気がついた、見ている先を見ると、レジカウンターにソエルちゃんとラーグ君がいた。

 

「ちょっとあんたたち、今までどこにいたのよ!」

 

「「……………………」」

 

「何か言いなさいよ」

 

「「……………………」」

 

「無視してんじゃ……」

 

「アリサちゃん静かに……!」

 

端から見れば、ぬいぐるみにしゃべりかけている人にしか見えない。

 

「2人とも、この子たちを知っているの?」

 

「はい……前に助けてもらった男の子が連れていたのです」

 

「桃子さん、そいつ今どこにいますか!」

 

「今は……」

 

そこで言い止め、少し考えてから。

 

「今は、外にお出かけしてるわ。さっき出て行ったから、いつ戻るかはわからないわ」

 

「そうですか」

 

「大丈夫すぐに会えるわよ、さてテーブルに案内するわ。注文はシュークリームでいいかしら?」

 

「はい、後紅茶を」

 

「私も同じので」

 

「すぐに持ってくるわ」

 

私たちはテーブルについた。

 

「てことは、今なのはの家にあいつはいないのよね」

 

「うん、すぐにこっちに来ると思うけど」

 

少し待つと綺麗な長い黒髪でリボンをした女の子が頼んだ物を持ってきました。

 

「お待たせしま……した。シュークリーム2つ、紅茶2杯お持ちしました〜」

 

私たちを見て一瞬顔がこわばったが、すぐに元にもどった。

 

「ごゆっくりどう……」

 

「待ちなさい」

 

アリサちゃんが呼び止め、女の子は気をつけをした。

 

「まだご注文が?」

 

「あなた見ない顔ね、歳は同じみたいだし。なんで翠屋の手伝いをしているの?」

 

「はっ母と桃子さんが知り合いでして、その関係でお手伝いをさせていただいているのです、はい」

 

無理に声を高くしてしゃべっている気がします。

 

「そうなの、呼び止めて悪かったわね」

 

「いえ、それでは失礼………」

 

カランカラン

 

ちょうど扉が開き、なのはちゃんが入ってきた。

 

「ああ!見つけたー!」

 

こちらに気づき、近づいてきて

 

「ここにいたんだね!探したんだから!」

 

「ごっごめん」

 

えっ、この声は……

 

「アリサちゃん、すずかちゃんこの人があのぬいぐるみの持ち主なの」

 

「あはははは、3日ぶりかな?」

 

この見た目で、男の子?

 

「「ええええええ!」」

 

叫び声が翠屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、私たちからまた逃げようとしたのね」

 

「いや1回目は俺のせいじゃ……」

 

「なに?」

 

「………なんでもありません」

 

アリサの鋭い眼光に負けた。

 

「コホン、改めまして俺は神崎 蓮也だ。レンヤでいい、それでこっちが……」

 

ソエルとラーグを見せて。

 

「白いのがモコナ・ソエル・モドキ、黒いのがモコナ・ラーグ・モドキ」

 

「よろしくね♪」

 

「よろしくな」

 

腹話術のようにして、声を出させた。

 

「わあああ、すごいの!」

 

「ふん、下手ね」

 

「ふふ…」

 

事情を知っている2人には受けなかった。

 

「次は私なの、私は高町 なのは、なのはって呼んでね。」

 

「わかった、よろしくなのは」

 

「うんよろしくね、レン君!」

 

「…レン君?」

 

「うん!レンヤ君だからレン君。ダメかな?」

 

「いや、ちょっと驚いただけ。大丈夫だよ」

 

「ありがとう!レン君!あと……」

 

「どうかしたか?」

 

「その…あの時は本当にありがとう!あの時励ましてくれたおかげで、勇気を出すことができたの!だからお礼を言いたいの!」

 

「俺は言いたいこと言っただけだ、勇気を出せたのはお前の力だ」

 

「でも、この羽根のおかげでもあるの」

 

なのはは胸元から、青い模様がある白い羽根を取り出した。

 

「それは…まだ持っていてくれてたんだな」

 

「うん…大切な、宝物なの」

 

持っていた羽根の色が黄色に変わった。

 

「ちょっとなのはその羽根!」

 

「色が、変わった?」

 

羽根の変化に2人は驚いた。

 

「これは心の羽根って言って、持ち主の心を表すと言われてるんだ」

 

「不思議ね〜」

 

「まだ持っているぞ」

 

「えっ!なら私に1枚ちょうだい!」

 

「わっ私もほしい…かな?」

 

「いきなりだなぁ、いいけど」

 

羽根を探すためラーグの口に手を突っ込んだ。

 

(((うわあ…)))

 

「これじゃない、これでもない」

 

ぬいぐるみの口の中に手を入れるのは、端から見ればシュールである。

 

「おっ、あったあった」

 

取り出したのは、赤と藍色の模様のある白い羽根。

 

「はいどうぞ」

 

「あっありがとう」

 

「ありがとう、レンヤ君」

 

アリサとすずかは顔を赤らめた、手に持つ羽根は黄色になっていた。

 

「コホン!レン君」

 

「んっ?ああ自己紹介の途中だったな、次は……」

 

「私よ、アリサ・バニングス。アリサでいいわよ」

 

「月村 すずかです、改めてよろしくレンヤ君」

 

「ああ、よろしくねアリサ、すずか」

 

「ふん!説明してくれるんでしょうね」

 

「ここでは難しいかな」

 

「だったら私の家に来て、お姉ちゃんもレンヤ君に話しがあるから」

 

「わかった」

 

「むう…私だけ仲間はずれなの」

 

話についてこれないなのはがむくれていた。

 

「ごめんごめん」

 

「なら、あんたのことを話しなさい」

 

「わかった」

 

それから、士郎さんたちに話した内容をそのまま話した。

 

「ぐすっ、かわいそうなの…」

 

「そんなことが…」

 

「どこよ!その孤児院はバニングスの名にかけて潰すわ!」

 

「いやいやそこまでしなくていいから」

 

俺は慌ててアリサを止めた。

 

「…でも、やっぱりあそこは」

 

取り出したのは、オレンジの模様がある心の羽根。青く染まっていた。

 

「やっぱり、悲しいの?」

 

「そうだね、見た目で決めつけることは人の持つ可能性を決めつけることだ。人はこの羽根のようにいろんな色を出せるのに…」

 

「レンヤ…」

 

「おっと、日が落ちてきたね。じゃあすずか案内してくれる?」

 

「うっうん、車を呼ぶね」

 

「俺は、士郎さんもついてくるか聞いてくる」

 

俺は席を立ち、士郎さんのもとに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すずかが連絡をして、すぐにこっちにくることを説明した。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、レン君とはいつあったの?」

 

「3日前よ」

 

「それって確か…」

 

「うん、私たちが誘拐された日だよ。その時レンヤ君に助けてもらったんだよ」

 

「…………………」

 

空気が重いわね、まああんなこと聞いたらこうなるか。

 

「ほらシャッキとしなさい!レンヤに心配されるわよ」

 

「でも…」

 

「アリサちゃんは平気なの?」

 

「そんなわけないでしょう、でもレンヤをもっと知ることができた、それだけで充分よ」

 

「!まさかアリサちゃん…レン君のこと…!」

 

「お察しの通りよ」

 

「負けないの…!」

 

「こっちの台詞よ」

 

「ふふ、私だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーグとソエルが念話で……

 

『誰がレンヤとくっつくかな〜』

 

『全員でもいいんじゃないか、ほらベルカであっただろ一夫多妻制』

 

『あったね〜そんなの、ならこれからも増えるかもね』

 

『面白くなりそうだぜ』

 

こんな会話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎さんたちがついてくることを聞き、なのはたちの所に戻ると……

 

「なにやっているの…」

 

3人でにらみ合っていた。

 

「喧嘩はよくないぞ」

 

「喧嘩じゃないの」

 

「意思の確認よ」

 

「だから安心してレンヤ君」

 

すごく安心できないんですけど、すると店の前に車が止まった。

 

「あっ」

 

「来たみたいだね」

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

(手を出さいでよね)

 

(出さないわよ)

 

(ふふ、レンヤ君から手を出さなければね)

 

ギン!

 

なんか3人でアイコンタクトしてたら、いきなりなのはとアリサがこっちに鋭い眼光を向けてきたんだけど⁉︎

 

本当に喧嘩してないの⁉︎

 

「してないよ♪」

 

「当然のように心を読まないでくれる⁉︎すずかさん⁉︎」

 

「羽根、持ったままだよ」

 

羽根を見ると紫色になっていた。

 

俺はすぐに羽根をラーグの口にぶち込んだ。

 

「士郎さーん、車が来ましたよー」

 

「ごまかしたの」

 

「ごまかしたわね」

 

何にも聞こえませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなと外に出ると…!

 

「えっと、すずか……さん?」

 

「なに?レンヤ君?」

 

「もしかしなくても…お金持ち?」

 

「もしかしなくてもそうよ、ついでに私もね」

 

「へーそうなんだー」

 

「何よその反応は!」

 

「いや雰囲気でお金持ちだってわかったから。お姫様って感じの」

 

「そっそうなの、ならいいわ///」

 

アリサが顔を赤らめた。

 

「レンヤ君?それは私がそんな風に見えないと?」

 

すずかが光を失った目で言う。

 

「すっすずかは落ち着いたお嬢様って感じなの!だからお金持ちには見えないだけだから!」

 

「あっありがとうね///」

 

今度はすずかが顔を赤らめる。

 

「レン君!レン君!私は!」

 

なのはが期待に満ちた目で見る。

 

「なのはは笑顔が似合って、素直だから誰とでも仲良くできる感じ」

 

「えへへ///」

 

今度はなのはが顔を赤らめる。

 

風邪でも流行っているのか?

 

「コホン、早く車に乗ろうか」

 

「はっはい!」

 

士郎に注意された、て言うか士郎さんも風邪?

 

「それじゃあなのはちゃんまた明日」

 

「また明日、なのは」

 

「またね、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

3人が別れの挨拶をして。

 

「すぐに戻ってくるよ」

 

「いってらっしゃい、士郎さん」

 

桃子さんが士郎さんを見送る。

 

「あっ…レン君!」

 

「んっ何?」

 

「いっいってらっしゃい!」

 

「えっ」

 

一度も聞いたことない言葉に戸惑い、士郎さんに目で助けを求めた。

 

「………いってきます、って言うんだよ………」

 

「いっいってきます!なのは!」

 

なのはは笑顔になった。

 

それから車に乗り込み、すずかの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜、これが車の乗り心地か〜」

 

「レンヤ君、車に乗ったことないの?」

 

「ああ、屋根に乗ったことはあるけど、中に乗ったことはないな」

 

「あんたなにしてるのよ!」

 

 

 



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8話

車を走らせること数十分、民家が少なくなるに連れて窓の外に大きな屋敷が見えてきた。

 

「これが……すずかの?」

 

「うん、私の家だよ」

 

「……大きいな」

 

「これぐらいで驚いていると、私の家を見ると持たないわよ」

 

「どんだけデカイんだよ」

 

驚きながらもメイドさんに案内されて屋敷の中に入り、客間に通された。 かなり広い上に床からソファーまで高級品だ、歩くだけで疲れる。

 

「全く、さっきまでの威勢はどうしたのよ」

 

「いや緊張するよ! 壊したと思うと……」

 

「ふふ、たとえ壊してもレンヤ君に弁償はさせないよ」

 

「でもお値段は聞いてもらいますよ」

 

すずかの後ろにいた、メイドさん ーーーファリン・K・エーアリヒカイトーーーがからかうように言う。

 

「お値段……」

 

「ちなみに今座っているソファーは…」

 

「ファリン、レンヤ君を困らせないの」

 

「はーい」

 

(座るのが怖くなってきた)

 

「ーー待たせたわね」

 

ドアを開けながら誰が入って来た。 声のする方向を見ると、すずかと同じ髪の色の女性2人と恭也さんがいた。

 

「あれ、お父さんは?」

 

「俊さんは仕事で遅れるみたいよ。 さて……あなたが神崎 蓮也君ですね。 私は月村 春菜と言います。 この度はご足労願いありがとうね」

 

「私は月村 忍、すずかの姉よ」

 

「どうも初めまして、神崎 蓮也です」

 

春菜さんと忍さん、恭也さんは向かいのソファーに座った。 メイドさんがお茶を淹れ、一口飲んでから話を切り出した。

 

「まずはお礼を言わなきゃね。 娘とアリサちゃんを助けてありがとう」

 

「いえ、たまたま居合わせただけですし」

 

「それでも助けてくれたことには変わりはないの。 だからお礼を言わせてちょうだい」

 

そう言い忍さんと春菜さんは頭を下げた。 そして顔を上げると……

 

「それで、月村についてどれだけ知っているのかしら?」

 

少し真剣な表情をして聞いて来た。 俺は軽くすずかを一瞥すると……笑顔で返してくれた、大丈夫ということだろうか。

 

「……月村が、吸血鬼……ということですか?」

 

「そう、なら説明しておくわね」

 

春菜さんは詳しく月村の家系について話してくれた。 月村とは夜の一族と言われる吸血鬼。 しかしいわゆる吸血鬼モドキであって、太陽やニンニクといったものは効かず、血が必要ではあるが輸血パックで事足りるらしい。

 

「それで、あなたに選択の余地があるわ。 夜の一族のことを忘れるか、それとも友好を誓うか…」

 

そこで言葉を止め、忍さんがイタズラをするような顔をして……

 

「すずかと結婚するかのどちらかよ♪」

 

「………え?」

 

「お、お姉ちゃん!!」

 

突然の事に唖然とした声が出てしまい。 次いですずかが声を上げながらテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「け、結婚って、あの結婚ですか?」

 

「その結婚よ、女の子だったら前の2択でいいんだけど…」

 

ええ、そんなのありー、って言うかアリサよ眼光が痛い。 目で攻撃できたら、俺何回死んでるんだろう。

 

「コホン、えっと……友好を誓うわせてもらいます」

 

「あら残念」

 

(なんでだよ)

 

「さてと、次の話よ。あなたたちは何者なの?」

 

「それはこの子たちが説明してくれます」

 

後の話を任せてソエルたちをテーブルに乗せた。

 

「初めましてモコナ・ソエル・モドキだよ。 ソエルって呼んでね♪」

 

「モコナ・ラーグ・モドキだ。 よろしくな」

 

「……何!? この不思議生物は……可愛い!」

 

「あ〜れ〜」

 

忍さんは顔色を変えてソエルを抱きしめ、頰ずりをした。

 

「あらあら、忍ちゃんたら」

 

「コホン、話を戻すぞ。 まず俺たちのことは話すことはできない」

 

「それはどうして?」

 

疑問を問いかけると忍さんは真剣な顔になるが、ソエルを抱きしめたままだった。

 

「レンヤのためだ、だから話すことはできない」

 

「レンヤ君のため?」

 

みんなの視線が刺さるが……

 

「ラーグ、やっぱり俺の正体知っていたんだな……」

 

「いやっこれにはちゃんと訳があってだな……」

 

俺はラーグの頭を鷲掴みし、バルコニーに出ると……

 

「今までの旅が無駄じゃねえか黒まんじゅう!」

 

「あーーーれーーー………」

 

思いっきり外に投げた。 放物線を描きながらラーグは月村の敷地内に落ちていった。 戻ってくると、すずかが困惑していた。

 

「あの、話の続きは……」

 

「ソエルがしてくれるさ」

 

「ほいきた!」

 

ソエルが忍さんから逃れた、ちょっと残念そうな顔をしている。

 

「ラーグも言った通り、私たちとレンヤのことは話すことができない……いいよね?」

 

「……納得はしていないけど、いいわ」

 

「それじゃあ次の話、3日前の廃工場で起こったことを話すよ」

 

ソエルは廃工場で起こったことや、異界のこと、魔法についても話した。

 

(ゲート)、異界化、迷宮、怪異(グリード)、そんなことがあるなんて」

 

「現実で起きている災害や神隠しの8割以上が関わっているよ」

 

「私達の存在よりメルヘンね〜」

 

「それじゃあ、レンヤ君が消えたことは?」

 

「あれは地脈の揺らぎの影響を受けて、出現座標が移動したらしいんです。 別に逃げるつもりはなかったんですよ」

 

「……それにしても、魔法も存在しているなんて」

 

「あはは……魔法と言っても理論が証明されていて科学の力で起こる現象のことを通称、魔法って言っているの」

 

「ふぅん……どんな魔法があるのよ」

 

「基本的に3つに分かれていて……変化、移動、幻惑に分かれているの。デバイスもいわゆる魔法の杖みたい物で、魔法のプログラムを入れておくハードディスクであらかじめ入れた魔法プログラムを打ち込むことで、魔法を使うことができるんだよ」

 

「そうだったんだ。 奥が深いね」

 

「ーーすずか? デバイスをちょっと貸してくれないかしら」

 

「!? だ、ダメだよ! 分解すると元に戻らないってスノーホワイトが言っていたの!」

 

「な!? デバイスは言葉を話すことができるのか!?」

 

「そういう種類があるの。

すずかのスノーホワイト、アリサのフレイムアイズはAIが入っている“インテリジェントデバイス”

簡単な魔法を記録できる“ストレージデバイス”

近接の戦闘が得意な“アームドデバイス”などがあるよ」

 

「へー、結構あるのね」

 

「いたた、ひどい目あったぜ」

 

と、そこでラーグがバルコニーをよじ登って戻ってきた。

 

「おかえり〜」

 

「ふん! ラーグが悪いんだからな!」

 

「はいはいわかっているさ。 ソエル、今どれ位話したんだ?」

 

「大体の事は話したよ」

 

「そうか。なら、忍に頼みたいことがある」

 

「ん? 何かな?」

 

「異界に関することだ。 ゲートが出現を予測する装置を作って欲しいんだ」

 

「別に構わないけど、情報も材料もないことには……」

 

「データと材料は持っている」

 

ラーグは口を開けて中から何かを取り出した。 かなりシュールだが、取り出したのはUSBメモリと異界の材料だった。

 

「ラーグ、それって……」

 

「この前の迷宮で手に入れたものと異界に関する資料が入っているメモリだ」

 

「ふーん? ま、これだけあれば、なんとかできるかもしれないわ」

 

「よろしくね〜」

 

「これで話は終わりかな」

 

「あ、待って、まだ聞きたいことがあるんですけど」

 

「何?アリサ」

 

「ーー異界の子って何?」

 

「………………」

 

その言葉にソエルが黙った。 他の皆は……いや、月村意外の、俺と恭也さんだけが何の事か分からず首を傾げている。

 

「すずかも知っているようだったけど……」

 

「それは……」

 

「……今更黙っていてもしょうがないでしょう、夜の一族は異界の子を知っています」

 

「え、それって……!?」

 

「異界の子については知っていますが異界化や迷宮のことは今まで知らなかった。 これは本当です」

 

「私たち、月村が知ってる情報は傍観者であることと、レムと言う名前だけ」

 

「レム……」

 

「すずかは見たのよね」

 

「うん、白い髪で歳が私たちくらいだよ。 覚えていないと思うけどアリサちゃんも見たんだよ」

 

「え、嘘!? 覚えていないわよ!」

 

「レムを知らずに会うと、記憶から消えることが多いんだ」

 

「そうなのか」

 

「うぅ、なんで覚えていないのよ」

 

「仕方ないさ、アリサ」

 

あ、そういえば……

 

「士郎さん、恭也さん」

 

「なんだい」

 

「俺からして聞けることなどないぞ」

 

「そうじゃなくて、ここにいるってことは、夜の一族のことを知っているんですよね。やっぱり友好を誓うにしたんですよね」

 

「私は友好だが、恭也は違う」

 

「えっ」

 

「……俺は忍と付き合っている」

 

「えっ、ええええええええええ!」

 

俺はつい叫んでしまう。 仲が良いとは思っていたけどまさか……

 

「えっと、お似合いですね」

 

「ふふ、ありがとう。さてと、これで本当に話も終わりね」

 

そこで忍さんは一度辺り見渡して……何も無い事を確認してから立ち上がった。

 

「車で送るわ、ノエル」

 

「かしこまりました」

 

「ふふ、今度はゆっくりとお茶をしましょうね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レンヤ君、アリサちゃん、また明日」

 

「またね、すずか」

 

「また明日、すずか」

 

その後、来た道を引き返して高町家まで車で送ってもらった。

 

「ありがとうございます、ノエルさん」

 

「いえこちらこそ、すずかお嬢様を助けてくださりありがとうございます。 レンヤ様」

 

「あはは、様は付けなくてもいいですよ」

 

「これは、癖みたいなものです。それとも旦那様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 

「い、いえ結構です……」

 

「ふふ、それでは失礼しますレンヤ様。良い夜を」

 

ノエルさん、生真面目だと思ったけど。 冗談も言うんだな。

 

「そうだレンヤ君」

 

「なんですか」

 

「この後、家に住むためになのはの許可をもらいに行こうか」

 

「えっ」

 

「なのはが帰る前に言っていたじゃないか、なのはの許可をもらえば家に住んでくれるって」

 

「あっそういえば、そうでした」

 

最後の望みをなのはに託したんだ。

 

「わかりました、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レン君ここに住むの!やったーー!」

 

「決まりだね」

 

現実は……非情だ。

 

「往生際が悪いぞ」

 

「そうそう、男の子がうじうじしない」

 

「〜〜〜〜〜っ!わかりました!わかりましたよ!士郎さん、ちゃんと両親を探してくださいよ!」

 

「もちろんだよ」

 

「ふふ、今日はレンヤ君のためにご馳走を作ったの。3人とも手を洗ってきてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うわあぁぁ!」」

 

俺となのはは目の前の料理に目を輝かせた。

 

「それじゃあ、みんな」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

お肉を1つ食べて。

 

「おいしい!すごくおいしいです、桃子さん!」

 

「まだまだおかわりがあるから、遠慮しないでゆっくり…」

 

「ムグッ!」

 

「言ったそばから、ほら」

 

「ゴクッゴクップハー、すいません恭也さん」

 

「まったくだ」

 

「はいレン君、あーんして」

 

「えっなのは⁉︎」

 

「ほらほら、あーん」

 

「あっあーん」

 

「おいしい⁉︎」

 

「おいしいよ」

 

そんな光景を4人は見ていた。

 

「あらあら、なのはったら」

 

「お似合いね〜」

 

「くっ俺は認めんぞ!」

 

「私はいいと思うぞ」

 

「「(お)父さん!」」

 

「あら意外ね、真っ先に否定すると思ったんだけど」

 

「あの子ほど、聡明で優しい子はそうそういない。この翠屋を継がせるのもやぶさかでもない」

 

「そっそれは…」

 

「士郎さん、流石にそれは行き過ぎですよ。先はまだまだ長いのですから」

 

「それもそうだな」

 

それから桃子さんは、料理を少し持って。ソエルたちの所に行った。

 

「ごめんね、一緒に食事ができなくて」

 

「大丈夫だよ桃子」

 

「あんな嬉しそうな顔をしたレンヤは初めてだ、ありがとうな桃子」

 

「どういたしまして、いつかあなたたちとも一緒のテーブルで食事したいわね」

 

「それは、案外早いかもしれないな」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、お腹いっぱい……」

 

「もう動けないの……」

 

俺となのはは食べ過ぎで、ソファーに座っていた。

 

パンパン

 

「ほらダラダラしない、2人ともお風呂に入ってきなさい」

 

「はーい」

 

「わかりましたって、着替えが……」

 

「子ども頃の恭也の服を出しておくから、入ってきなさい」

 

「レン君、はやくはやく」

 

「わかったから、引っ張らないで」

 

四苦八苦しながらも風呂を堪能した。 何故かなのはがやたら俺の背中を洗いたがっていたし、視線が分かるように背中に突き刺さっていた気がする。

 

「ふう、いいお湯でした」

 

「いつもより気持ちよかったの」

 

「レンヤ君、今日は早く寝ちゃいなさい。色々あったのだろうし」

 

「はい、それじゃあ……」

 

「レン君!一緒に寝よう!」

 

「え、でも……」

 

「そうしなさい、家具も何も無い部屋よりいいでしょう」

 

「やった〜!ありがとうお母さん!コッチだよレン君!」

 

「だから、引っ張らないでよ!」

 

レンヤたちはリビングから出て行き。

 

「士郎さん」

 

「ああ、明日レンヤ君がいた孤児院に行こうと思う。養子にしないと学校にも行かせられない」

 

「なら、私もついていきます」

 

「明日は土曜とはいえ店が……」

 

「息子よりお店を優先するなんて、母親のすることではありません」

 

「…そうだな、あの子の父親になるんだ、それくらいしなくてはな」

 

そこに恭也と美由希が入ってきた。

 

「お店のことなら俺たちに任せてくれ、簡単な事しかできないが」

 

「私も頑張るよ!かわいい弟のためだもん、料理くらい…」

 

「やらなくていい、お前が作るものは全部ダークマターだ」

 

「ひどい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桃子、士郎、これを……」

 

「これは?」

 

「明日、必ず必要になるもんだ」

 

「レンヤを本当の意味で助けて、レンヤはまだあの孤児院に捕らわれているの」

 

「必ず助けるわ、だから安心して」

 

「任せてくれ、ちょっとやそっとじゃ私は諦めない」

 

「期待しているぞ、士郎」

 

 



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9話

 

「ーーレンヤ君、私たちの養子にならないかい?」

 

翌日の朝、朝食の席でいきなり士郎さんがそんなことを言ってきた。

 

「えっと……養子って、血のつながりがない家族ですよね?」

 

「ちょっと違うけど大体そんな感じだね」

 

「いやいや、住むとは言いましたけど。 そこまでしなくても…」

 

「世間体の事もあるし、君の両親が見つかった時にスムーズに話を進めるためでもあるんだ」

 

「ぐっ」

 

正論に言い返せなくなった。 しぶしぶながらも納得するしかないか……

 

「……わかりました」

 

「ありがとう、ではこの後レンヤ君がいた孤児院に行こう」

 

「いってらっしゃ〜〜い」

 

「あなたも行くのよ」

 

「ーー冗談じゃないです。 好き好んであんな所、行きたくありません」

 

「これは君のためでもあるんだ」

 

「レン君、私も一緒に行くの」

 

「………わかり…ました」

 

なのはに手を繋がれながら迫られ、重苦しく頷いた。

 

「恭也、これを忍君に」

 

「………!これは、わかったすぐに頼んでくる」

 

「頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市の外れ、そこに孤児院はあった。

 

「レン君……」

 

フードを深くかぶりうつむく、さっきまでのレンヤはいなく、桃子の服を掴んで放さない。

 

「……すみません」

 

「はい!海鳴孤児院へようこそ!何かご用でしょうか」

 

「この子について、お話があります」

 

士郎がレンヤを指すと、レンヤは桃子の後ろに隠れてしまう。

 

「その子は……わかりました、こちらへどうぞ」

 

士郎たちは孤児院の応接室に通された。

 

「少々お待ちください、院長を呼んできます」

 

そう言い残し、出て行った。

 

「レン君…大丈夫?」

 

「だっ大丈夫だよ、なのは」

 

「無理しないでね」

 

レンヤはラーグとソエルに抱きしめて、震えていた。

 

「レン君……」

 

その時、扉が思いっきり開き。

 

「ようやく見つけましたよ!神崎 蓮也!」

 

太っている女性が入ってきた。

 

「こいつを見つけてくれてありがとうございます、私はこの孤児院の院長をしています美谷と言います。こいつはそのぬいぐるみを盗んで逃げた悪ガキでして。見つけていただき本当にありがとうございます」

 

美谷はレンヤに近づき……

 

「ほら、さっさとよこしなさい!」

 

「いやだ!」

 

ラーグとソエルを奪おうとした。

 

「待ってください!まずは落ち着いて説明をしてください!」

 

「美谷さんも落ち着いてください!」

 

「!失礼しました、ではご説明しましょう」

 

美谷がソファーに座る、軋む音が聞こえる。

 

「一年前、そいつがそのぬいぐるみを自分のものだと言い張り同日、養子に出された女の子から盗んだのです」

 

「その女の子がこのぬいぐるみの所有者だと言う証拠は」

 

「証拠など無くても、男のそいつがぬいぐるみを持つことなどありえません」

 

「この子が言うには、この孤児院に捨てられた時、一緒にあったと言っていますが」

 

「そんなのデマカセの嘘ですよ」

 

「孤児院に入れられる時、証拠となるような持ち物のや、状況が記録されているはずです」

 

「そうですか、なら」

 

美谷が職員に資料を持ってこさせた。

 

「どうぞ、その時の記録です」

 

資料を見る限りでは、レンヤがぬいぐるみを持っておらず、その女の子が持っていたと記録されている。

 

「どうです、動かぬ証拠です」

 

士郎は資料から目を外し。

 

「ええ、そうですね」

 

「ご理解いただき何よりです、では……」

 

「レンヤを渡すことはできません」

 

「はぁ?」

 

「ですからレンヤを渡すことはできませんと言ったのです」

 

「何を馬鹿な、証拠はちゃんとあるのですよ」

 

「それが本物でしたらね」

 

そう言い、ラーグからもらった資料を見せた。

 

レンヤがぬいぐるみを持っていた証拠と美谷の孤児院不正運用の数々。

 

「知り合いに頼んで調べさせてもらいました、随分と裕福な暮らしをしていたのですね」

 

美谷は孤児院に入るはずのお金を奪っていた、その他にも色々と。

 

「ぬいぐるみを狙うのも、値札がないからオーダーメイドの一品であり、宝石も使われているから、専門分野に高く売りつける気だったらしいな、その女の子と里親からぬいぐるみを盗むよう頼み、その後もう一体を盗む算段だろう。まったく記録まで捏造するとはな、呆れて言葉も出ない」

 

「くそ!」

 

ファンファンファン

 

外からサイレンの音が聞こえてきた。

 

「どうやらここまでのようだな」

 

「……くっそがーー!」

 

逆上してなのはとレンヤに襲いかかった、捕まえて人質にする気だ。

 

「うわあああ!」

 

「きゃあああ!」

 

「なのは!レンヤ!」

 

桃子が2人をかばう。

 

「ふっん!」

 

士郎が腹を1発殴り、気絶させた。

 

「弱くなっても、家族ぐらい守ってみせる…!」

 

「士郎さん……」

 

「お父さん……」

 

「しろ…う…さん…」

 

「もう大丈夫だ…」

 

「ありがとう……ございます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美谷が逮捕され、海鳴孤児院の問題が明るみになり、取り壊されることになった。

 

「でもよかったよ、養子の手続きができて」

 

「忍さんとあの人には感謝しなきゃね」

 

あの後、養子の手続きをしてくれたのは、忍さんが裏で何かをしてたり。

 

最初に会った職員の人がやってくれた、一年前レンヤがここを出て行くきっかけを作ってしまい後悔していたらしい。

 

「やっぱり、いい人もいるの」

 

「そう……だね」

 

レンヤはまだ暗かった。

 

その時、正門の前に女の子と、その親と思われる男女がいた。

 

「いた!そのぬいぐるみを返しなさい!それは私のものよ!」

 

一年前の女の子だったらしい、親も呆れたように女の子を見る。

 

「返しなさい!」

 

「あっ!」

 

レンヤはソエルを取られてしまう。

 

「返せ!」

 

「これは私のものです、私が決めたのですから」

 

「そんな自分勝手なことを……!」

 

そこになのはが割り込み、女の子の頬を叩いた。

 

「痛い?でも大事なものを盗られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ」

 

その言葉が胸に響いた。

 

(なにをうじうじしていたんだ、なのはに言ったじゃないか。俺の言いたいことを言うだけだって)

 

「なのは」

 

「レン君?」

 

「ありがとう、おかげで目が覚めたよ」

 

レンヤは女の子の前にきて……

 

「そのぬいぐるみ俺の両親の手がかりだ、返してくれ」

 

さっきまでとは雰囲気の変化に女の子は戸惑った。

 

「だからこれは私の……」

 

「わかっているはずだ、それは自分じゃないと。君はそれを認めたくないだけだ」

 

「ですから…」

 

「お前はいつまで、親を困らせる気だ」

 

女の子は里親の顔を見た、とても悲しい顔をしていた。

 

「私……は……」

 

女の子はうつむき無言でソエルを押し付け、孤児院から出て行った。里親も謝ってから追いかけた。

 

「レン君、大丈夫?」

 

「ありがとうなのは、助かったよ」

 

「それはレン君の力だよ、似たようなこともあったし、私も許せなかったから」

 

「似たようなこと?」

 

「えっと、初めてアリサちゃんとすずかちゃんに会った時、同じことがあって、それで……」

 

「……それで?」

 

「………アリサちゃんにビンタしちゃったの………」

 

「…ぷっ、あははははははは!」

 

「わっ笑わないでよ〜〜!」

 

「あっははは、はーごめんごめん、すごくなのはらしいなって」

 

「私…らしい?」

 

「そ、すぐに誰とでも仲良くなれる、そんななのはが羨ましいよ」

 

「私も…レン君のその優しさが羨ましいの」

 

「そうか、俺たち似た者同士だな」

 

「にゃ!そっそうだね///」

 

あれ?顔が赤くなった。

 

「2人とも、行きわよ」

 

「はい!今行きます、ほら行こうかなのは」

 

俺はなのはに手を伸ばす、なのはは笑顔で手を握った。

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったの」

 

あの後、家に帰って恭也さんと美由希さんに事情を説明してた。

 

「ふふ、あの時の士郎さんかっこよかったわよ」

 

「からかうのはよせ」

 

「あら、本当のことよ」

 

士郎さんは顔を赤らめ、そっぽを向いた。

 

「それで養子の件はどうなったんだ?」

 

「問題なくできたわ、これでレンヤはうちの子になったわけです」

 

「忍君には感謝しないとな」

 

孤児院でも言っていたが、士郎さんと桃子さんが俺を呼び捨てにしていた。

 

「そ・れ・で、レンヤ♪」

 

「なっなんですか?」

 

「私のことは、お母さんと呼びなさい」

 

「えええ!そこまで了承したつもりは……」

 

「いいわね」

 

「いいもなにも……」

 

「い・い・わ・ね♪」

 

「……………はいっ」

 

有無言わせぬ、迫力に屈した。

 

「それじゃ、私の事もお父さんと呼んでくれるかい?」

 

「はい、お父さん」

 

「なに?やけに素直じゃない」

 

「もう…諦めました……」

 

「なら私の事もお姉さんと呼びなさい!」

 

「いやです、美由希さん」

 

「即答⁉︎少しくらい悩んでもいいじゃない!」

 

「性格からして、姉とは呼べません」

 

「ガーーン‼︎」

 

「あはは」

 

「俺は今まで通りでいいぞ」

 

「はい、恭也さん!」

 

「あら、もったいない。素直に聞くと思うのに」

 

「いきなり変えても戸惑うだけだ」

 

「なのはとは今まで通りがいいな」

 

「私もレン君とは今が一番なの」

 

「ふふ、それじゃあ今日もお祝いといきましょうか」

 

「またですか⁉︎」

 

「今回は、アリサちゃんの家に招待されたの」

 

「それって……」

 

「レンヤがアリサを助けたお礼をしたいそうだ」

 

「別にそこまでしなくても……」

 

「もう決まったことだ、断れば余計な恥をかかせるだけだ」

 

「………わかりました」

 

「ふふ、ちゃんと正装しなきゃね」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから正装をして、やって来た車に乗った。

 

「鮫島さんよろしくお願いします」

 

「かしこまりました。失礼、あなたが神崎 蓮也様ですね、私はアリサお嬢様の執事をしています、鮫島と言います。この度はアリサお嬢様を救っていただき誠に感謝しています」

 

「いえ偶然居合わせただけですし、様もいりません」

 

「ほっほ、これは癖でしてね。それとも旦那様とお呼びした方がよろしいかと」

 

「結構です!」

 

ノエルさんと同じことを言ったよ。流行っているの、それ?

 

「それでは参ります」

 

車はアリサの家……邸宅に向かって行った。 そして……

 

「やっぱりデカイ」

 

大きな邸宅を見上げた呟く。 先日すずかの家と同サイズとアリサが言っていたが……敷地もかなり広いような……

 

「驚く事か?」

 

「驚きますよ……」

 

屋敷の中に案内されて、奥行きに長い部屋に入った。テーブルも奥に向かって長い。

 

そこにアリサがやって来た、綺麗な赤いドレスを着て少し化粧をしていた。

 

「ようこそ皆様、今日はご足労頂き誠にありがとうございます。こよいの食事会どうかお楽しみください」

 

ドレスの端をつかんでお辞儀をするアリサ、本当にお姫様みたいだ。

 

「アリサちゃん、綺麗なの!」

 

「なのはも可愛いわよ」

 

アリサは俺の前に来て。

 

「どう?何か感想はあるかしら」

 

「ああ、アリサが敬語でしゃべっていた」

 

「そっち⁉︎他にも言うことがあるでしょう!」

 

「ごめんごめん、そのドレス似合っているぞ。本当のお姫様みたいだ」

 

「そっそう……ありがと///」

 

「レン君!私は⁉︎」

 

なのはは白いドレスで肩が出ている

 

「綺麗っていうより可愛らしいが似合う、なのはらしいよ」

 

「えへへ///」

 

扉が開きアリサの両親と思われる男女が入ってきた。

 

「初めまして、私はデビット・バニングス。アリサの父親をさせてもらっている、こっちが妻の……」

 

「ジョディ・バニングスです、この度はアリサを助けて頂きありがとうございます」

 

「いえ、そんなかしこまらなくても……」

 

「はっはっは、命の恩人にそのような無下な扱いはできんよ」

 

そこに鮫島さんがやって来て……

 

「旦那様、お食事の用意が出来ました」

 

「わかった、積もる話もあるが、それはディナーの後にしよう」

 

俺たちは席に座って、出てくる料理を食べた。

 

テーブルマナーなんて、落ちたスプーンを拾ってはいけないくらいしか分からない。

 

「………ほら、こうやるのよ………」

 

隣でアリサが教えてくれなければ、完食できなかった。

 

当然、味なんてよくわからない。こんなに疲れるごはん初めて。

 

食事が終わって、デビットさんが話はじめた。

 

「改めて、アリサを助けてくれてありがとう。君がいなければ今頃どうなっていたか」

 

「すずかのお姉さんにも言いましたが、偶然居合わせただけです、アリサに嫌な思いをさせてしまいました」

 

「私は大丈夫よ、あんたが守ってくれたもの」

 

アリサは顔を赤らめて言う。

 

「ふむ……やはり」

 

「ええ、そのようですね」

 

「レンヤ君、君はアリサのことをどう思っているのかい」

 

「パ、パパ⁉︎」

 

「どう思っている…ですか。…会って間もないですが、勝気で負けず嫌い、友だち思いででも素直になれない、でもそれがアリサだって思える証明なんです……すみません、うまく言えなくて」

 

「いや結構だよ」

 

「アリサ、いい友人に恵まれたわね」

 

「う、うん///」

 

「あら?本当に友人でいいのかしら」

 

「ママ!」

 

「うふふ」

 

「さて、これから困ったことがあれば頼ってくるといい。力にならせてもらおう」

 

「はい!感想します」

 

「送らせましょう、鮫島」

 

「了解しました、奥様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごかったねー、レン君!」

 

「俺はむしろなんでなのはが平気なのか不思議なんだけど」

 

「前にアリサちゃんに教わったの」

 

「ああ、それで」

 

「ほら2人とも早く帰るぞ」

 

「う〜ん、緊張した〜」

 

「その割にはよく食べていたわね」

 

「うっおいしかったんだもん」

 

「はは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たち忘れられていないか」

 

「桃子が連れて行けないって言ってたからね」

 

 

 



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10話

 

 

高町家に住み始めて早半年、ようやくこの生活にも慣れてきた。

 

翠屋の手伝いをしながら父さんたちの指導のもと鍛錬をしていた。

 

学校はまだ行っていない、まだ入学できるまで頭が良くないからだ。

 

入るなら、公立でもよかったが、なのはたちの強い推薦でなのはたちが通う私立聖祥大学付属小学校に編入生として入ることになった。

 

しかし、今まで勉強なんてしたことはないし、漢字も外に置いてあるテレビを見て覚えたくらいだ。

 

ただ恭也さんが言うにはもう少しで基準値を超えるらしい、頭が良くなってくるのは素直に嬉しい。

 

聖祥のパンフレットを見た時、年間の学費が公立と桁が違うことに気がつき、やはり公立に変えようと思ったが桃子さん、お母さんに……

 

「子どもがお金のことを気にするんじゃないの」

 

断られてしまった、やはり申し訳なくいつか絶対に返そうと誓った。

 

鍛錬の方も最初の試験以外、順調だ。

 

でその試験ていうのが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーーーーーてーーーーー!」

 

「ほらこっちだよ」

 

お父さんに奪われたソエルを取り返すことだった、別にお父さんが悪いわけでもない、俺の了承もある。

 

ただ……

 

「なんで!街中を走っているのですかーーーーー!」

 

「試験だからだよ」

 

平日の昼間とはいえ、人がいて恥ずかしい。

 

「とうっ!やっ!」

 

手を伸ばすもかすりもしない。

 

「こうなったら!」

 

「えっ」

 

肩に乗ってるラーグを掴み……

 

「行けラーグ!」

 

思いっきり投げた。

 

「ふざけんなーーーーー!」

 

しかし、お父さんは苦もなく掴み、やさしく投げ返した。

 

「こんな小細工は通用しないよ」

 

自信満々に言う。

 

「くっ動物になんてことを……」

 

「おまえが言うな!」

 

何か手がないか辺りを探し、使われていないロープを見つけた。

 

「これだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?諦めたのかな?」

 

川に架かっている橋を渡る時にレンヤがいない事に気がついた。

 

「そう簡単に諦めるとは思わないんだけどね〜」

 

その時、レンヤが見えてきた。

 

「うおおおおおおお!」

 

ラーグをロープで縛り付け振り回しながら。

 

「小細工がダメなら大細工だーーー!」

 

「…………………」

 

私は思った……

 

(それ十分、小細工!)

 

「うっりゃーーーー!」

 

「あああああれええーーーー!」

 

投げられたラーグを避けた。

 

「これじゃあまだ…!」

 

避けたはずのラーグが後ろから来ていた。

 

(なるほど…柱に回して…!)

 

ロープを柱に回して方向を変えたのだ。

 

「…でもまだ!」

 

それを飛んで避けた。

 

「まだまだー!」

 

レンヤが飛びかかってきた、ラーグを踏み台にして。

 

「うおおおおお!」

 

しまった!空中では……

 

「取った!……あっ」

 

取ったのはいいけど橋から出てしまった。

 

「あああ!お父さんパス!」

 

ソエルを投げてレンヤは川に落ちてしまった。

 

「あ〜あ、落ちたな」

 

「落ちちゃったね」

 

ソエルと背中にくっきりと足跡があるラーグが言った。

 

「どうかしたのかい?」

 

「レンヤ、泳いだことないよ」

 

「川に入ったことはあるが、全身が入る深さまではないな」

 

「え……」

 

慌てて見ると……

 

「ガボッガボッガボッ!」

 

「れっレンヤーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと……思った……です……はい」

 

「ふう、大丈夫か」

 

「はい、すみませんお父さん、やっぱり不合格ですよね」

 

「どうしてそう思うんだい」

 

「自分の身を顧みない者は他人も救えない、恭也さんに言われました」

 

「そうか…なら合格だ」

 

「えっ」

 

「ちゃんとわかっているなら、直すことができる、完璧な人間はいないのだから」

 

「お父さん……はい!」

 

「それじゃあ、早く帰ろう。風邪を引いてしまう」

 

そうして帰路についた。

 

「レンヤ〜よくも踏み台にしたな〜」

 

「ごっごめんなさ〜〜〜い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんともあり、一緒に鍛錬をしている。

 

ソエルが持っていた武術の書もあり順調に進んでた、今日は街をよく見るため散歩をしていた。

 

「へーここが聖祥かー」

 

「大学が一緒にあるから、それなりにでかいな」

 

「下見はこれぐらいでいいだろう、次行こうぜ」

 

それから少し歩くと図書館が見えた。

 

「ここは…図書館か」

 

「風芽丘図書館…いつの間にか海鳴市の中にもこう言うのがあったんだな」

 

「ねえ!入ってみようよ!」

 

入ってみるとチラホラと人がいた。

 

「…………レンヤ、ちょうどいいからここら一帯の地図を見よう。異界に関わることもあるよ…………」

 

「わかった」

 

それから地図を探し歩いていると、車椅子の女の子が精一杯手を伸ばすして本を取ろうとしていた。

 

放っては置けず、代わりに本を取ってあげた。

 

「これか?」

 

「あっありがとうございます」

 

「次からは周りの人たちに頼むんだぞ」

 

そう言い俺は戻ろうとすると……

 

「まっ待って下さい!」

 

呼び止められる、振り返った。

 

「その、迷惑でなければ、一緒にお話でも…」

 

うーん、常連らしいしもしかしたら地図の場所もわかるかな。

 

「うん、いいよ、その代わりといっちゃなんだけど、この街の地図を探してるんだけど」

 

「はい、こっちです〜〜」

 

妙に訛りがあるしゃべり方だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地図を見つけてくれて、目的のページを見る。

 

『ほら、ここだよ、ここがここら一帯の地脈の中心だよ』

 

念話でソエルと会話していた。

 

『ここを中心として異界化が発生する確率が高い』

 

『わかった、忍さんに教えておこう』

 

見終わり本を閉じる。

 

「もういいんですか?」

 

「ああ、そうだ俺の名前は神崎 蓮也だ、よろしく」

 

右手を出して握手を求める、少し驚いたが、嬉しそうに握手に応じた。

 

「八神 はやてです。よろしゅうお願いします」

 

「日本語おかしいね、どこの方言?」

 

「関西弁や、やっぱりおかしいかな?」

 

それから色々と話した。

 

「ええええ!レンヤ君男の子やったんか!」

 

「まあね、よく間違えられる」

 

ソエルやラーグのことも。

 

「白いのがソエル、黒いのがラーグだよ」

 

「うさぎさんや!でも少し変やなぁ」

 

「「変っていうな」」

 

「うわぁ今しゃべらんかった⁉︎」

 

「腹話術だよ、上手でしょう?」

 

「えっでも同時に……」

 

「そう言えば!はやてはいくつなの?」

 

無理やり話題を変えた。

 

「見た感じで、同い年に見えるけど…」

 

「私は今7歳や」

 

「なら同い年だ、敬語で話さなくてもいいぞ」

 

「ほな、お言葉に甘えて」

 

しばらく話していたらすっかり夜になってしまった。

 

「すっかり夜だ、はやての両親はいつ迎えに来るんだ?」

 

「あっ私の…両親は……昔に……」

 

「………ごめん、聞いちゃいけないことだったな」

 

「いえ、気にせんといて下さい」

 

「俺も…両親はいないんだ」

 

「えっ」

 

「はやてとは違う……捨てられたんだ、だから両親がいない気持ちはわかる」

 

「レンヤ君……」

 

「ごめんね、暗い話しをして。でも今は温かい家族によくしてもらっている、とても感謝をしてる」

 

「…そうなんか」

 

「…コホン、家まで送ろうか、車椅子じゃ何かと不便だろう」

 

「大丈夫や、慣れとるし」

 

「そっか」

 

「なんやレンヤ君、心配性やなー……なら、お願いしようかな」

 

「ああ、そうだな任しとけ」

 

はやての頭を撫でて安心させた。

 

「あっ///」

 

「それじゃあ行こうか、道案内よろしく」

 

「あっうん、了解や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日はいつも通り図書館に来ていた。

 

そこで新しい友だちと出会った。

 

最初は綺麗な女の子に見えたけど、男の子だと聞いてすごく驚いたけど。

 

両親がいない事に親近感を覚えたけど、レンヤ君のあの寂しそうな顔が頭の中から離れない。

 

あれ?さっきからレンヤ君のことばかり考えている。

 

あかん、顔が熱うなってきた。

 

これが、一目惚れなんか?

 

レンヤ君の他の友だちを聞いた時、みんな女の子やった、聞くかぎりではみんなかわいい部類やったと思う。

 

そう思うと胸がムカムカしてくる私がいる。

 

そんな事を考えてたらいつの間にか私の家についた。

 

「はやて、はやて!」

 

「なっなんや⁉︎」

 

「ついたぞ、ここがはやての家でいいんだよな」

 

「うっうん、ここが私の家や、もう大丈夫や」

 

「そうかじゃあまたな」

 

「レンヤ君!また会えるん?」

 

「また会えるから、またなって言ったんだぞ」

 

そうするとレンヤ君はラーグの口に手を入れて、紫の模様がある羽根を取り出して、私にくれた。

 

「はい、自信のないはやてに」

 

「うわぁ、綺麗な羽根やな」

 

「心の羽根と言って、持ち主の心を表すことができるんだ」

 

「私の心……」

 

手に持った羽根は青く染まる。

 

「悲しい、いや寂しいんだね、大丈夫またきっと会えるから」

 

「ほんまに……」

 

「すぐには無理だけど、いつか絶対にはやてのもとに行く、約束だ」

 

「ぐす、うん!約束や!」

 

私の持つ羽根がピンク色に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はやてと別れて、急いで家に帰っている。

 

「すっかり夜だ、みんな心配してるよ」

 

「悠長にしゃべっていたからな」

 

「そう言えばレンヤ、帰ったら桃子が話があるって言ってたよ」

 

「なら、近道するか」

 

体に魔力を巡らせ、筋力を強化する。

 

思いっきり飛んで、屋根の上の上を走った。

 

「これぞまさしく飛行(非行)少年!」

 

「うまい!」

 

「魔法使いは全員、飛行しない訳ないだろ」

 

「飛べない人もいるよ」

 

そんなこんなで家についた。

 

「怒っているかなー」

 

意を決して扉を開けた。

 

「ただい…グッフッ」

 

帰って早々なのは頭突きを食らった、鳩尾に……!

 

「遅いの!いったいどこに……ッて、大丈夫⁉︎レン君!」

 

「あらあら、先にお話しされちゃって、残念」

 

良かったです、頭突き食らって。本当に……

 

しばらくして復活できた。

 

「いってててて」

 

「ごめんね、レン君……」

 

なのはが落ち込んでいる、心なしかツインテールがしおらしい。

 

「大丈夫だ、そう落ち込むな」

 

「あっ」

 

なのはの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「ごめんなさい、お母さん」

 

「いいのよ、レンヤが意味もなく遅れる子じゃないわ」

 

でもお話ししようとしたんですよね⁉︎

 

「レンヤ?」

 

「なんでもありません」

 

直立姿勢で返事をする。

 

「それでお母さん、話しってなんですか」

 

「えっ、お話ししたいの?」

 

「もっと別のお話しです!」

 

「冗談よ、レンヤもそろそろ聖祥の編入試験を受けてもいいんじゃないかしら」

 

「本当ですか!」

 

「ああ、このまま試験まで勉強を続ければ、十分合格点まで届く」

 

「それで、試験日はいつですか」

 

「一週間後よ、結果発表はさらに一週間後」

 

「そうですか、今から待ち遠しいです」

 

「レン君!私が勉強を教えるの!」

 

「なのは、勉強できたっけ?」

 

「………一緒に勉強するの」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私立聖祥大学付属小学校の編入試験日ーー

 

私立だからなのか試験を受けるのは俺しかいないせいで、緊張が加速する。

 

広い教室にど真ん中にある机、目の前の試験監督とのマンツーマン。正直きつい。

 

「それでは始めて下さい」

 

試験が始まった。

 

それから全科目を行い……

 

「そこまで!答案用紙を裏返し、ペンを置いてください」

 

ふう、疲れた。名前の書き忘れもなし、見直しも2回したしやる事はやった。

 

「レン君!」

 

「レンヤ!」

 

「レンヤ君!」

 

お母さんの所に戻ろうとしたら、なのはたちが来た。

 

「みんな、なんでここに……って当たり前か」

 

3人ともここに通っているんだから。

 

「レンヤ、当然上手く行ったんでしょうね」

 

「もちろん、自信はあるよ」

 

「レンヤ君、頑張ったもんね」

 

「それじゃあ翠屋で打ち上げなの!」

 

「それはまだ気が早いんじゃないか?」

 

「いいのよ、あんたが落ちるわけないでしょう」

 

「随分持ち上げるなあ」

 

「ふふ、レンヤ君だからだよ」

 

それからお母さんと合流して翠屋で打ち上げをした、次の日にも勉強を教えてもらったはやてにお礼をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後ーー

 

翠屋の手伝いから家に帰っていた。

 

「今日入試結果が届くんだよな」

 

「もう届いてるかもしれないよ」

 

家に着き、すぐにポストを見ると大きめの封筒が入っていた。

 

「なになに、私立聖祥大学付属小学校入試結果、神崎 蓮也様、来た!」

 

「早く開けようぜ!」

 

「だーめ、みんなと一緒に見るんだから」

 

「待ち遠しいね!」

 

夜になり、みんなで結果を見る。

 

「開けるよ」

 

みんなの視線が刺さる、とくになのは、キラキラしてる。

 

封を破り書類を出してみると、1番上の紙に大きな文字で合格と書いてあった。

 

「おめでとう!レンヤ!」

 

「よく頑張ったな」

 

「えへへ、ありがとう」

 

素直に照れくさい。

 

「やったの!これで一緒に学校に行けるの!」

 

なのはが抱きつき、喜ぶ。

 

「これもみんなのおかげだよ」

 

「それで、いつから学校に通えるんだい?」

 

「えっと、明後日から連絡すればいいみたい」

 

「てことは、来週からか」

 

「必要な道具や、制服を揃えないと」

 

「ふふ、それなら…」

 

お母さんがダンボールを持ってきた。

 

「お母さん、それって」

 

「制服と道具一式よ」

 

「お母さん気が早〜い」

 

「まあ、落ちるとも思えなかったがな」

 

ダンボールを開けてみると。

 

制服とランドセル、勉強道具が入っていたが……

 

「お母さん…これ何?」

 

制服を見せると、女子の制服だった。

 

「あらやだ、間違えちゃったわ♪」

 

「すっごいわざとらしい!」

 

「冗談よ、ちゃんとここにあるわよ」

 

ダンボールの奥底から男子の制服を渡てくれた。

 

「で、その制服はなのはのでいいんだよね?」

 

「うふふふふ」

 

怖いです、お母さん。

 

「とっとにかく、レンヤ、1回来てみたら。サイズの確認の為」

 

「女子の制服持って言わないでください」

 

気のせいか鼻息が荒い。

 

「レン君の制服姿を見みてみたい!」

 

「まあ、確認の為一応着るか」

 

「女子の?」

 

「男子のです!」

 

来てみるとサイズは合っていた、見た目は女子と同じで下がズボンでリボンではなくネクタイだ。

 

「どうかな」

 

「カッコイイの///」

 

「よく似合っているぞ」

 

「どちらかっていうと男装女子」

 

「うるさいです」

 

カシャ!

 

「ふふ、素敵よレンヤ」

 

「写真を撮らないで下さい」

 

「まあいいじゃないか、記念に撮っておこう」

 

それからなのはも参戦して、撮影会が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、疲れた…」

 

「楽しかったか?」

 

「私は楽しかったよ♪」

 

ようやく解放されたのは夜10時。

 

「寝よう、おやすみラーグ、ソエル」

 

「「おやすみ(なさい)」」

 

明かりを消してベットに入る。

 

掛けてある制服を見た。

 

(来週が楽しみだ)

 

 



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11話

 

 

初登校日、空は雲ひとつない快晴!

 

絶好の登校日よりです!

 

「それじゃあなのは、先に行ってくるな」

 

「うん!同じクラスになるといいね!」

 

ランドセルにラーグとソエルを括り付けて背負い。

 

「行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

「行ってこい」

 

「ふふ、行ってらっしゃい」

 

「頑張ってきなさい」

 

みんなに見送られて、聖祥に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが職員室……だな」

 

聖祥に着き、職員室の前に来ていた。

 

深呼吸をしてドアをノックした。

 

「失礼します、今日聖祥に編入してきました神崎 蓮也です」

 

一斉にこちらに向き、その後担任と思われる女性が来た。

 

「えっとあなたが…神崎 蓮也君?」

 

「はい、これでもれっきとした男です」

 

「あっ、あーごめんね少し混乱しちゃった。コホン、あなたが行くクラスの担任を務めさせてもらっています、穂高ですどうかよろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

それから簡単な説明を受けて、今は先生に続き教室に向かっている。

 

「後で呼ぶから廊下で待っていてね」

 

「はい」

 

少し暇になったな。

 

「みなさん、おはようございます!」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「今日はみなさんにお知らせがあります、このクラスに編入生がやって来ます!」

 

先生の言葉に周りがざわつく。

 

「先生!男ですか女ですか!」

 

「それは自分で確かめてください、それでは入ってきてください」

 

呼ばれたので扉を開けて教室に入る。視線が…刺さる…、教卓の前に立ち。

 

「この聖祥に編入してきました、神崎 蓮也です。どうかよろしくお願いします」

 

言い終え一礼、…………返事がないただの屍のようだ。

 

ただ小声で隣の人と会話している。

 

「えっ男子?女子?」

 

「かわいい〜〜」

 

「一応男子なんだろう」

 

「いや男装女子だ」

 

言いたい放題である。

 

「コホン、こう見えても男子です。できればみなさんと仲良く………」

 

「「「「「ええええええええええ!」」」」」

 

ぎゃああ、耳が耳が!

 

「全然見えない!」

 

「負けた……」

 

「そうなのか」

 

「ありじゃないか?」

 

最後の人?ないから。

 

教室を見渡すとなのは、すずか、アリサがいた。

 

「神崎君の席は高町さんの隣ね」

 

「はい、わかりました」

 

席まで行き、座る。

 

「今朝ぶりだな、なのは」

 

「うん、一緒のクラスになれて嬉しいの!」

 

「俺もだ」

 

「それじゃあ、この時間は質問タイムにしましょう」

 

それでいいのか名門。

 

それから質問攻めにあった、ほとんどが見た目についてだったが。

 

「高町さんとはどう言う関係なの?」

 

「俺はなのはの家に住んでいるからな」

 

「えっ」

 

あれ?これ言っちゃまずかった?

 

「えっと…神崎君の親は?」

 

「俺が赤ん坊の時に捨てられたよ」

 

場の空気が固まった。

 

「ん?どうかしたか」

 

「あんたはもっとよく考えてからしゃべりなさい!」

 

痛った、アリサに打たれた。

 

「あっそっか、大丈夫だよ今の両親にも良くしてもらっている、ここにも通わせてくれて感謝している」

 

それでみんなは納得してくれた、無言で肩を叩かれもした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在はお昼、3人がいつもいると言う屋上にいた。

 

「全く、なんであんなことを言うのかしら」

 

「いや〜面目ない」

 

「でもそんな素直なのが、レンヤ君なんだから」

 

4人で集まり昼食を食べていた。

 

「いい場所だなここは眺めもいいし、いつもここで食べているのか?」

 

「うん、だいたいいつもここだよ」

 

おしゃべりをしながら、ごはんを食べた。

 

予鈴が鳴り、教室に戻ろうとした。

 

「アリサ、すずか」

 

「なによ」

 

「これを、ラーグから渡すように」

 

渡したのは俺が持っているのと同じ、銀のペンダントだ。

 

「魔力を周りに気付かれないようにする為のものらしい」

 

「これが?」

 

「ああ、これから魔法の練習をする時に役に立つ」

 

「それは助かるよ!周りにばれない様にするの大変だったから」

 

「ありがたくもらっておくわ」

 

それから放課後……

 

「レンヤ君、お姉ちゃんが呼んでいるから私の家に来てくれる?」

 

「すずか、それは」

 

「うん、あの事についてだよ」

 

あの事とは異界関係のことだ。

 

「わかった、なのは先に帰ってくれるか?」

 

「むう、私だけ仲間はずれなの」

 

「ごめん、この埋め合わせはちゃんとするから」

 

「むうぅ、わかったの。絶対だよ!」

 

「ああ、約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すずかの家に着き、忍さんと会った。

 

「久しぶりねレンヤ君、制服よく似合っているわよ」

 

「ありがとうございます、それでラーグが頼んでいた物は?」

 

「ええ、出来たわよ」

 

テーブルに置かれたのは、探知機の様な物だった。

 

「異界サーチデヴァイス、半径100mの異界が発生している場所を数値として表す事が出来るわ」

 

「俺が注文した通りのできだ、サンキュー忍」

 

「それはちゃんと作動してから言ってよ、まだ起動テストしてないんだから」

 

「えっしてないの?」

 

「この家に異界があっても困るわよ」

 

逆に言えば、ここの敷地100m以上あるんだ。

 

「なら、地脈付近に行ってみようよ、異界があるかもしれないよ」

 

「それはいいけど……」

 

「もちろん、私たちもついて行くわ!」

 

「足手まといにはならないよ!」

 

「アリサ、すずか…」

 

《お嬢様の実力は前回より確実に上昇しています、私も全力でサポートします》

 

「フレイムアイズ」

 

《あなたはもう、1人では無いのですよ》

 

「スノーホワイト」

 

デバイス達にも説得された。

 

「……わかったよ、むしろこっちからお願いしたいくらいだ」

 

「決まりね」

 

「ふふ、行きましょうか」

 

「それじゃあ行こうぜ、地脈の場所は海鳴温泉!」

 

「いっくよー!モコナ・モドキのドッキドッキ〜ハーフ〜〜!」

 

バサッ!

 

「なっなによこれ!」

 

「ただの転移魔法だよ」

 

「これが…」

 

魔法陣がレンヤたちを包み込み。

 

「ハーーパック!ポーン」

 

レンヤたちを飲み込み、魔法陣の中に入っていった。

 

「……頑張りなさいよ、みんな」

 

忍にはそれしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…!」

 

「すごい…!」

 

アリサとすずかはこの空間に見惚れた。

 

「ほら手をつないで、バランスが取れないよ」

 

俺は2人に手を伸ばした。

 

「あっありがと///」

 

「ありがとうレンヤ君」

 

するとすぐに出口が見えた。

 

転移が終わると森の中に出た、近くに川も見える。

 

「よっと、お疲れソエル」

 

「ありがとう、レンヤ」

 

落ちてきたソエルを受け止めた。

 

「ここは…どうやらいつも私たちが使っている旅館の近くね」

 

「だったらそこに行ってみよう、異界は人が集まる場所にできやすい」

 

「わかった、こっちだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館に着くと早速サーチデヴァイスが反応を示した。

 

「この数値はなんなの?」

 

「ここが100%になる様にするみたい」

 

「よし、探そう」

 

数値が高い場所に行くと大きな石に囲まれた池があった。

 

「ここみたいね」

 

「なにも無いけど」

 

「待って、今からゲートを顕現させる為の電波を出すから」

 

すずかがデヴァイスを操作して電波出した。

 

ファン、ファン、ファン………スーー

 

すると黄色のゲートが現れた。

 

「本当に出たわね」

 

「なんで黄色なんだ」

 

「これはフェイズ1、迷宮のヌシも、エルダーグリードほどの脅威ではない。でもこのまま放っておいたら、エルダーグリードが現れて周りに被害が及ぶ赤いゲート、フェイズ2になっちまう」

 

「なら今のうちに潰しましょう」

 

「よし、行こうか」

 

俺たちはゲートに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートの中は前と同じような遺跡だが細部の形状が違っていた。

 

「改めて見るとやっぱり異世界よね」

 

「うん、現実とは思えない」

 

「だけど俺たちがやるしかない、行くぞ!」

 

ソエルとラーグから双剣、双銃をもらい身につける。

 

「フレイムアイズ!」

 

《かしこまりました》

 

「スノーホワイト!」

 

《はい、ロード》

 

「「セ〜トッ!ア〜プッ!」」

 

デバイスを起動させ、バリアジャケットを見に纏う。

 

「準備完了だよ」

 

「そういえば、レンヤは何でデバイスを持っていないのよ」

 

「俺にあうデバイスがないらしい」

 

「でも、大変じゃないの」

 

「最初はそうだったけど、今はそこまで苦でもないよ」

 

「そう……」

 

すずかは少し考え事をする。

 

「ほら、今はデバイスじゃなくて、目の前の迷宮だ」

 

「あっごめん!」

 

俺たちは迷宮に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徘徊する怪異やギミックを攻略しながら奥に進んでいった。

 

「ここが最奥かな」

 

「それにしては、狭いわね」

 

「油断するな、来るぞ!」

 

目の前にいきなり大型の怪異が現れた。

 

「きゃあ!」

 

「オークタイプの亜種だね、Sグリード化してるね。ここのヌシってところだよ」

 

「よし、倒すぞ」

 

「「ええ(うん)!」」

 

大型の怪異と戦いが始まった。

 

「やっ、はあ!」

 

すずかが斬りつけ……

 

「すずか!下がりなさい!」

 

アリサが援護する。

 

「はあああ!」

 

俺は縦横無尽に切りまくり、怪異の体制を崩した。

 

「今だ!アリサ!」

 

「任せてちょうだい!」

 

フレイムアイズのトリガーを引いて剣に炎を纏わせ。

 

「はああああああ!」

 

怪異を斬り裂いた、そのまま一瞬で消えるグリード。

 

「ふう」

 

「やったね、アリサ」

 

「すごいよ!アリサちゃん!」

 

「カッコ良かったよアリサ」

 

「まあまあ上出来だな」

 

「当然よ、私はバニングスよ!」

 

それ、関係ある?

 

「あっ奥にゲートがある」

 

「異界も消える気配がないし、そこから出よう」

 

すぐに異界から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界に戻ると元の池の側にいた。

 

「戻ってこれたわね」

 

ゲートを見ると黄色から青に変わり消えた、消えた空間には揺らぎが残った。

 

「これは、フェイズ0、ほっといても何の害もない。ただの接点だけが揺らぎとして残る」

 

「てことは、いつでもここに入れるってことだよね」

 

「そうなるな」

 

空を見ると赤く染まりかけていた。

 

「すっかり夕方だ、早く戻ろう」

 

「ソエルちゃん、お願いできる?」

 

「…………………」

 

「ちょっとどうしたのよ」

 

「…いや〜2人以上の転移は初めてで、まだ魔力が回復していないんだ」

 

「どうするんだよ」

 

「ふっふっふ〜忘れていないか、お前たちは魔導士なんだぜ」

 

「ああ、そっか空を飛んでいけばいいんだ」

 

「それならすぐに着くね」

 

「認識阻害は任せとけ」

 

レンヤとすずかは飛行魔法を使って飛んだが。

 

「アリサは飛ばないのか?デバイスに魔法が入っているでしょう」

 

「人が飛べるわけないでしょう!」

 

《お嬢様は常識的に物事を見ていますから》

 

「頭が固いんだね」

 

「うるさ〜〜い!」

 

「しょうがないなぁ」

 

アリサに近づきお姫様だっこした。

 

「キャッ!」

 

「これで我慢してくれよ」

 

「あっありがと///」

 

夕陽のせいか顔が赤い。

 

「………いいなあ、アリサちゃん………」

 

「何か言ったか?すずか」

 

「なっ何でもないよ!」

 

疑問に思いながらも、すずかの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、動作も問題なし、誤差も範囲内…うん!これで複製の目処が付いたわ!」

 

「これからもよろしくな、忍」

 

「こちらこそ、ラーグ君」

 

2人は握手をした、なんか凶悪な組み合わせだ。

 

「しっかし、飛行魔法は疲れるなぁ、バカみたいに魔力を使う」

 

「デバイスがないから通常より多くの魔力を消費するからね」

 

「そういえば、私たちの魔力を数値にすると、どれくらいなのよ」

 

「アリサはAA、すずかはAA+、レンヤS+だよ」

 

「それは高い方なの?」

 

「うんすごく高いよ、それにまだ伸びしろもある」

 

「それだけ高いから、バカみたいに魔力を使っても平気なのか」

 

「そうなんだ……ソエルちゃん」

 

「なに、すずか」

 

「私にデバイス関係の資料をくれないかな、レンヤ君にデバイスを作ってあげたいの!」

 

「「すずか⁉︎」」

 

「レンヤ君が少しでも楽にできるようにしたいの!」

 

「………いいよ、こっちからお願いしたいくらいだよ」

 

ソエルが口から出したのは、デバイス関係の本だった。

 

「デバイスの構造基礎から応用、開発関係覚えることは山程あるよ、覚えるまで最低でも5年はかかる」

 

「望むところだよ、レンヤ君待っててくれる?」

 

「ああ、いつまでも待っているよ」

 

「ありがとう!///」

 

「て言うか、これ何語よ。英語に近いけど」

 

「それはミッドチルダ語って言って異世界の…」

 

「ラーグ!」

 

「あっ……」

 

ソエルが大声を出してラーグを止めたが……

 

「異世界とはどういうことかな」

 

「この魔法も関係してるのよね」

 

「教えてくれるかな?」

 

「あっ私も知りたい!」

 

4人でソエルたちを見下ろしながら囲む。

 

「「ひええぇ…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね、魔法やデバイスの技術はその異世界の物か」

 

「次元世界があるなんて」

 

「でもそれなら、納得するよ」

 

「異界は関係ないみたいだけど…」

 

ソエルたちからミッドチルダのことを聞いた。

 

「魔法のことを知っているソエルたち、その元がミッドチルダってことは、俺の出身って…」

 

「うん第1管理世界、ミッドチルダだよ」

 

「はー、探しても見つからないわけだ」

 

あれから何1つ情報は入って来なかった、いつの間にかこの生活に馴染んでいた。

 

「レンヤ、ミッドチルダに行く?」

 

「ソエルの転移でか?」

 

「うん、魔力が溜まったらいつでも…」

 

「いかない、手掛かりは見つかった。今はこの生活が1番だ」

 

「レンヤ……」

 

「えーとコホン、ちなみにここはなんて呼ばれているのよ」

 

アリサが話題を変えて、場を明るくしようとした

 

「第97管理外世界、地球だ」

 

「そう………」

 

効果が薄かった……

 

「あっそうだ!ラーグ君!このペンダントは何なの?これをつけると周りの魔力を感じなくなるんだけど」

 

「そのペンダントには、つけると魔法非使用時、内外の魔力を感知されないようにするんだ。相手も気付かなければ自分も気付かない、その方が都合がいいからな、触ると気づかれるがな」

 

「だから、レンヤ君とアリサちゃんの魔力が感じられないんだ」

 

「とにかく!俺は大丈夫、むしろ目標ができて元気一杯だ!」

 

「それでこそレンヤね」

 

「うん、そうだね」

 

「子どもは元気が一番よ」

 

それから一言二言話し、家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レン君!アリサちゃんたちと何をしていたの!」

 

「いや忍さんに呼ばれたんだって」

 

「なら忍さんと何を話してたの!」

 

「えっと〜そう!すずかをこれからもよろしくって言われたんだよ」

 

「にゃっ!……まさか家族公認⁉︎……」

 

「なのは〜?」

 

 



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無印編
12話


 

 

あれから2年ーー

 

小学三年生となった俺、その間に色々なことがあった。

 

遊んだりもしたし、勉強も一緒にしたり、日常を当たり前に過ごした。

 

魔法の練習もしていて、なのはによく言い訳をしていたりもした。

 

後、変な猫も拾った。死にかけていたけどラーグが蘇生法があると言って、猫を食べた。はっきり言ってかわいいそうだ。

 

朝、俺は習慣となっているなのはを起こしに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な夢を見た。

 

内容はおぼろげだけど、男の子が何かと戦っている夢だった。

 

「ふわあああ、なんだったんだろう…」

 

疑問に思っていると、ドアがノックされた。

 

「なのは、起きてるか」

 

「大丈夫!今日は起きてるの!」

 

「確かに、今日は起きてるな」

 

「も〜〜レン君の意地悪」

 

すぐに制服に着替えて部屋を出た。

 

階段の下でレン君が待っていたので一緒に行った。

 

「おはようなの!」

 

「おはようです」

 

テーブルにはーー

 

「おはよう、なのは、レンヤ」

 

「おはよう2人とも」

 

お母さんとお父さんと……

 

「おっはよー2人とも」

 

「今日は珍しく早いな」

 

お姉ちゃんとお兄ちゃんがいました。

 

「むぅ、そんなことないもん」

 

「いや結構珍しいよ、なにか不思議な夢でもみたのか?」

 

「えっそれは…」

 

「はいはい、話しはそこまで。朝ごはんにしましょう」

 

テーブルについて、朝ごはんを食べ始めました

 

お父さんたちのラブラブにちょっと苦笑い。

 

でも私にはレン君がいて……!口元にごはん粒が付いているの!これはチャン……

 

「ん?どうかしたか、なのは?」

 

「………なんでもないの」

 

すぐに気づいて取ってしまった。

 

現実は無情なの……

 

それから聖祥に向かうバスに乗った。

 

「おはよう、なのは、レンヤ」

 

「おはよう、なのはちゃん、レンヤ君」

 

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「おはよう、アリサ、すずか」

 

私に挨拶してくれたのは、アリサ・バニングスちゃんと、月村 すずかちゃん。

 

2人は一年生の時からの大事な友達なの。

 

「ほら、早く座りなさい」

 

いつも私たちはレン君の隣を順番に座っています。

 

「俺端っこが…」

 

「「「ダメ!」」」

 

「………多数決はつらいよ」

 

そういえば、本当にあの夢なんだったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、聖祥の屋上でお昼を食べていた。

 

「将来か〜…アリサちゃんとすずかちゃんは大体決まっているんだよね?」

 

なのはが今日の授業の事を話してた。

 

「家は、パパとママが会社経営だからね、継ぎたいんだけど…」

 

「私は機械系が好きだから、工学関係の専門にしたいんだけど…」

 

アリサとすずかは昔、レムに言われたことを思い出していた。

 

【今は家族との因果は交わっているけど、いつかきっと離ればなれになる】

 

それは1つの夢を諦めることだった。

 

(でも、後悔はしてないわ)

 

(レンヤ君と、大切な人と一緒なら)

 

「2人ともどうしたの?」

 

「なんでもないわよ」

 

「大丈夫だよ」

 

俺は話しに聞いていたので、気持ちはわかる。

 

「なのは、なのはは喫茶翠屋の二代目だろ?」

 

「えっ、うん……一応それも考えているんだけど…まだ他に自分ができることがあるような気がするんだけど、まだわからないんだ。私、特技も取り柄もないし…」

 

「このバカチン!」

 

「ひゃあ!」

 

アリサはなのはの顔面にレモンを投げた。痛ったそう。

 

「自分から取り柄がないなんて言うんじゃないわよ!」

 

「そうだよ!なのはちゃんにしかできない事だってきっとあるよ!」

 

「そ・れ・に!あんた、理数系の成績は私よりいいじゃない!なのに自分には取り柄がないなんてどの口が言ってんのよ!」

 

「い、ひゃい!いひゃいよありひゃひゃん!でっでも、文系と運動は苦手だし〜」

 

アリサがなのはの頬を引っ張った。相変わらずよく伸びるほっぺだ。

 

ちなみに理数系はなのはの方が高いが、アリサはちょっと下くらいだ。

 

ミッドチルダの魔法は基本プログラムなので、関わるだけで理数系が上がる。

 

俺やすずかは勿論の事、頭が固いアリサでもできた。

 

「レンヤ、何か失礼な事考えたでしょう」

 

「はい…ごめんなさい……」

 

女の子はみんな鋭いのかな。

 

ラーグが後ろで羽根を見せてたのは、知る由もない。

 

「うー…あ!そういえばレン君の将来の仕事はどうするの?」

 

「あっそれ私も気になっていた!どうなのよ、レンヤ!」

 

「ん?俺か?今日まで考えたことなかったな〜、昔は両親を探すのに精一杯だったし」

 

「あっごめん」

 

「気にしてないよ、でも強いて言うなら…今を守りたい…かな?」

 

「今を…守る?」

 

「そ、なのはとアリサとすずかと一緒に笑って過ごせる今を守りたい。ちょっとおかしいな、まあとにかく俺がみんなを守る!って言うことだ!」

 

「「「っ///////!」」」

 

「どうかしたか?顔が赤いが」

 

「なっなんでもないの!」

 

(レン君に守るって言われた!嬉しいの…)

 

「なっなんでもないわよ!」

 

(そんな顔で言われたら…嬉しいに決まっているじゃない!)

 

「うん!なんでもないよレンヤ君!」

 

(かっこよくて…顔が見れないよ〜)

 

「そうか」

 

『タラシだね』

 

『タラシだな』

 

その後昼食を食べ終えて教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。現在俺たちが通っている塾に向かっている。

 

「今日のすずか、ドッチボールの時すごかったわよね〜!」

 

「うん!かっこよかったよね〜!」

 

「そっそんなことないよ」

 

「いやいや、本当にすごかったよ。かっこいいと思ったよ」

 

「あっありがとう、レンヤ君」

 

すずかは見た目によらず運動神経抜群だ、吸血鬼ということもあるかもしれないが。

 

優しい彼女がそんな事するはずもなく、素なんだろう。

 

「あっ、こっちこっち!ここを通ると塾の近道なのよ!」

 

「えっ?そうなの?」

 

「道、悪そうだな」

 

俺たちはアリサの言う塾の近道を通った。

 

「……………………」

 

「ん?なのは、どうかしたか」

 

「なのはちゃん?」

 

「えっあ、ううん!なんでもないの…」

 

「そうか、気分が悪いならすぐに言うんだぞ」

 

「うん、ありがとうレン君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『助けて…』

 

何かが聞こえた。

 

「っ!」

 

「どうしたのよ、なのは?」

 

「…今、なにか聞こえなかった?」

 

「え?…私はなんにも聞こえなかったけど」

 

「私もだよ、レンヤ君は?」

 

「俺も聞こえなかったが…」

 

『助けて!』

 

「っ!こっち!」

 

「あっちょっと!なのは!どこに行くのよ!」

 

「なのはちゃん?」

 

「追いかけよう」

 

声のする方向に行くと。

 

「ここは…!」

 

夢で見たのと同じ場所だった。

 

「………!あれは……」

 

辺りを見渡すとフェレットがいた。

 

「なのは〜!」

 

遅れてレン君たちが来た。

 

「もう〜、いきなり走ってどうしたのよ!」

 

「あ!この子……怪我してるみたい」

 

「うっうん、どうしよう」

 

「怪我しているなら、病院だ。近くに動物病院があったはずだ」

 

フェレットを抱えて、私たちは動物病院に走った。

 

動物病院に着き、フェレットを診てもらった。

 

「うーん、怪我もそこまで大したことはなかったけど……だいぶ衰弱してるみたい。もしかしたらずっと一人ぼっちだったんじゃないかな?」

 

「そうですか、院長先生、ありがとうございます!」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

「どういたしまして」

 

手当をされたフェレットを見た。

 

「先生…これってフェレットですよね?」

 

「フェレット……なのかな?少し珍しいけど、それに首についているのは宝石?」

 

先生がフェレットの首にある宝石を触ろうとしたらフェレットが目を覚ました。

 

「あっ起きた!」

 

フェレットは辺りを見渡すと私の事をじっと見てきた。

 

「この子……私を…見てるの?」

 

指を伸ばしたら、指を舐めてきた。くすぐったいの。

 

そしたらフェレットはまた倒れてしまった。

 

「まだ、衰弱しているみたいだから1日、この子はここで預かるわ」

 

「ありがとうございます」

 

「よかったら、また明日様子を見に来てあげてね?」

 

「「「「はい!」」」」

 

これで一安心なの。

 

「あっ塾……」

 

「そういえばすっかり忘れてた!」

 

「本当だ!先生、また明日!」

 

病院を出て、すぐに塾に向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、なのは以外の3人がフェレットに触ったら、魔力があるとバレると思うが。

 

あのペンダントはどちらかの実力が一定以上なければ気づくことはない。

 

ラーグはそのことをわざと隠していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリギリ塾が始まる前に着いた。

 

授業を受けているとルーズリーフの紙がなのはから渡された。

 

どうやら誰がフェレットを預かるか聞いているらしい。

 

アリサは犬、すずかは猫がいるので断り。

 

結果、なのはと俺がみんなに相談する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰りなのはとフェレットを飼っていいか相談した。

 

「フェレット?」

 

「うん、飼っちゃっダメかな?」

 

「うちは飲食店だからなぁ」

 

「いいんじゃないか、なのはが自分で面倒見るなら」

 

「私!ちゃんと面倒見るの!」

 

「俺も協力します」

 

「ならいいんじゃない」

 

「でも怪我をしているなら、ちゃんと治ってからにしましょう」

 

「ありがとう!お母さん!」

 

「ありがとうございます、お母さん」

 

「もう、いい加減親に敬語はやめなさい」

 

「できるだけ直そうと思っているんですけど……」

 

「ほらまた」

 

「できるだけ早く…なお…すよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻って明日の準備をしていた。

 

「にしても、すっかりここの生活にも慣れちまったな」

 

「両親の手がかりはミッドチルダ、そう急ぐことでもない」

 

部屋を見渡すと、2年前は開き部屋だったのに今は勉強机やベットなどがある。

 

娯楽関係の物は1つもなく9歳の少年の部屋にしては殺風景だ。

 

「もう少し、自分に甘くてもいいんじゃないの?」

 

「ここに住まわせてもらっている身、そんなわがままは言えない」

 

「桃子たちが気にするとは思わないが、小遣いも貰っているだろう」

 

俺はやはりまだ線引きをしているんだろう、これ以上踏み込んではいけないと。

 

「もう寝る、おやすみ」

 

明かりを消してベットに潜り込んだ。

 

「レンヤ……」

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、深夜ーー

 

「リリカル…マジカル…封印すべきは忌まわしき器!ジュエルシード!封印!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この魔力は……」

 

「なのはか…これも導き、偶然なんてこの世には存在しない。あるのは………必然だけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、どうやらなのははフェレットが心配で昨日の内に家に連れてきたそうだ。

 

昨日、みんなには夜の内になのはが説明したらしく、俺はさっさと寝たため、後日の説明となった。

 

現在は学校、教室に向かう途中……

 

「おはよう〜!」

 

「あっなのは!レンヤ君!」

 

「うん?どうしたのすずかちゃん?」

 

「昨夜のこと聞いた?」

 

「ふぇ?昨夜って?」

 

「あの動物病院が昨夜謎の爆発をしたらくて、フェレットが逃げちゃったの」

 

「それで、みんなで探そうと思ったのよ」

 

「えーと、それは…」

 

「それなら昨日、なのはが家に連れてきたぞ」

 

「えっ」

 

「どういうことよ!」

 

「えーっとね、私もフェレットの事が心配で昨日病院に行ったらすごい音がして、すぐに行ったらフェレットがいたからそのまま家に連れて帰ったの」

 

「そうだったの、今はなのはの家にいるんだよね?」

 

「うっうん!そうだよ!」

 

「よかったわね、すずか」

 

「それで、あの子の飼い主がいなかったから、しばらくうちで飼う事になったの!」

 

「なら、名前を付けてあげないとね!」

 

「もう決まってるの?」

 

「確か、ユーノ君だったけ」

 

「ユーノ君?」

 

「そう!ユーノ君!」

 

「へぇーユーノ君かぁ!」

 

その後、4人でユーノの事を話し合った。

 

そして、授業中……

 

いつもと同じように先生の話しを聞いているが、なのはの様子がいつもとおかしかった。

 

1人で百面相をしてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になり、俺たちは下校していた。

 

今日のお昼にアリサからすずかの家でお茶会の誘いが来たので行く事にした。

 

俺となのはは、アリサとすずかと別れて、商店街を歩いていると。

 

「っ!」

 

「?、なのは?どうかしたか?」

 

「なっなんでもないの!用事を思い出したから先に帰ってて!」

 

「?、わかった」

 

そう言い残し、なのはは走って行った

 

「どうしたんだろう」

 

「………さあな」

 

その後、すぐに家に帰った。

 

夕方になのはとユーノが帰って来たが、いつのまに外に行ったんだよユーノ。

 

 

 



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13話

 

 

ユーノがうちに来てからなのはがよく深夜に外に出ることが多くなった。

 

この前、心配で時間をおいてついて行ったら倒れていた。

 

呆れて何も言えなかったが、とりあえず連れて帰った。

 

次の日、俺は暇つぶしに海で釣りをしていた。

 

しかし、ただの釣りではない。

 

釣竿に魔力を流して魚を探して、吊りあげるのだ。

 

もう釣りじゃないが気にしたら負けだ。

 

もう一本の竿には……

 

「ゆ〜れ〜る〜ゆ〜れ〜る〜、風船のようなわーたーし〜、風よ〜ふけふけ〜もっと吹け〜」

 

ソエルを吊るしていた、特に意味はない。

 

しばらくして、クーラーボックス一杯に魚を入れた。

 

「うんうん、これだけあればお母さんも喜んでくれるだろ」

 

ソエルを吊るしている竿以外を片ずけて、家に帰ろうとしたら…!

 

「待ってください」

 

金髪で髪型がツインテールで赤い瞳をした同い年くらいの女の子が立っていた。

 

「ええっと、俺?」

 

辺りを見渡すして俺以外にも誰かいないかと確認したが、俺しかいなかった。

 

「はい」

 

「それで何の用?初対面のはずだけど」

 

「あなたの持っている、ジュエルシードを渡してください」

 

「ジュエル…シード?」

 

「とぼけないでください、その箱に入っているのはわかっています」

 

そう言ってクーラーボックスを指す。

 

クーラーボックスを開けると、もちろん魚しかいない。

 

「そんなもの入っていないけど」

 

女の子に中身が見えるようにする。

 

「そんな……絶対にあります!」

 

「そんな事、言われたって……そうだ!どんな物なの?」

 

「えっ?」

 

「だから、そのジュエルシードって言うのはどんな形をしているの?」

 

「あっえっとひし形で石ころぐらいの大きさです」

 

そう聞き、魚を1匹ずつ調べると一体、石を飲み込んでいるのを見つけた。

 

吐き出させると、言われた通りの石があった。

 

「ほらあったぞ、魚が飲み込んでいたみたいだ」

 

「あっありがとうございます……」

 

「いいってことよ!しかしよく気がついたな、その石なんなの?」

 

「ええっとこれは…」

 

ぐううううう

 

「はうっ」

 

「えっと、お腹空いてるの?」

 

「ちっ違いま……」

 

ぐうううううううう!

 

「はうううぅ」

 

さっきより大きい音。

 

「ぷっあははははは!」

 

「わっ笑わないでください!」

 

「いやーごめんごめん、お腹が空いているなら何か食べるか?」

 

「いやでも……」

 

ぐううううううううう!

 

「お腹は正直のようだね」

 

「ううっ」

 

近くでドーナツを買って渡した。

 

「これは?」

 

「ドーナツだ、食べてみなおいしいぞ」

 

そう言い、ドーナツを食べた。おいしい。

 

女の子も俺が食べるのを見てから、食べた。

 

「!、おいしい!」

 

「そうだろ、まだあるから食べていいぞ」

 

それから無我夢中でドーナツを食べてあっと言う間に無くなってしまった。

 

「ふう……」

 

「おいしいかった?」

 

「はい!すごく……」

 

自分がしてしまった事に気が付き

 

「ごっごめんなさい!私……」

 

「いいよ、俺が勝手にした事だし」

 

「でも……」

 

結構、根は優しいんだな。

 

「はは、君は可愛いんだからもっと自信を持て」

 

「ふぅえ⁉︎かっ可愛い///」

 

女の子は顔を赤くした、白い肌だからピンク色って感じだ。

 

「それじゃあ帰るよ、またな」

 

「あっあの!」

 

「ん?」

 

「えっと…その…」

 

もじもじしながら、しきりにこちらを見る。素直に可愛いと思った。

 

「たっ助けてくれてありがとう!えっと…」

 

そう言えば名前、教えてなかったな。

 

「どういたしまして、ちなみに俺の名前は神崎 蓮也だよろしく」

 

「あっ私!フェイト、フェイト・テスタロッサ!」

 

「よろしくなフェイト」

 

「うん!こちらこそレンヤ」

 

「あとそれと……」

 

フェイトの頭を撫でて……

 

「見るからに俺と同じで無茶しそうだからな、無茶するなよ」

 

「うっうん…ありがとう、レンヤ…」

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

 

「あ………」

 

頭から手を離すと寂しそうにこちらを見てきた。

 

「フェイト!」

 

「っ!」

 

「またな!」

 

「…うん!またね!」

 

またいつかフェイトとは会える気がする、それから家に帰ってみんなに魚をご馳走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後ーー

 

サッカーグランドで俺はサッカーをしていた。

 

今日はお父さんが趣味でコーチをしている翠屋JFCの試合があり俺となのはとユーノ、アリサとすずかで見にきていたのだが、どうやらお父さんのチームの1人が風邪を引いてしまったらしい。そこでお父さんに頼まれて、急遽俺が代役を務める事になった。

 

「レン君、頑張ってね!」

 

「負けたら承知しないわよ!レンヤ!」

 

「ファイトだよ!レンヤ君!」

 

「あははは………」

 

乾いた笑い声しか出ないです、はい。

 

「レンヤ、早速だが最初から出てくてるか?」

 

「うん、わかったよ」

 

しかし、見た目女の俺が入ると、かなり浮くな。

 

それからすぐに試合が始まった。

 

とにかく出しゃばらず、パスに専念した。

 

「レンヤ!」

 

「えっ!」

 

ゴール前で立っていたら、ボールがきた。

 

ノーマークで絶好のシュートチャンス、打たなきゃ怪しまれる!

 

適当に蹴ってみたら、ポストに当たってゴールしてしまった。

 

チームのみんなに喜ばれたり、褒められたりした。ちょっと照れくさい。

 

その後も試合が続き、3対0で勝った。

 

「かっこよかったよ!レン君!」

 

「まあ、上出来よ」

 

「お疲れ様、レンヤ君」

 

チームの勝利を祝って、翠屋で祝勝会をしています。

 

ユーノがいるので外でお茶を飲んでます。

 

「それにしても、改めて見るとなんかこの子、フェレットにしてはちょっと違わない?」

 

「そう言えばそうかな、動物病院の院長先生も変わった子だねって言ってたし」

 

「妙に賢いしな、フェレットっていうよりもっと別の動物って感じ」

 

「ああえーと、まあちょっと変わったフェレットって事で、ほらユーノ君お手」

 

いやするわけ……

 

「キュッ!」

 

できるんかい!

 

「わあああ!」

 

「うわぁ可愛い」

 

「賢すぎだろ」

 

ユーノは2人に撫でられ、困った顔をしている。感情もわかりやす。

 

アリサに捕まり暴れているユーノ。

 

「っ!」

 

なのはは何かに気がついた。

 

「どうかしたか?なのは」

 

「うっううん、なんでもないよ、気のせいだったから」

 

「そう」

 

チームの祝勝会が終わり、解散となった。

 

「さてじゃあ、私たちも解散?」

 

「うん、そうだね」

 

「そうか、今日は2人とも午後から用があるんだよな」

 

「うん、お姉ちゃんとお出かけ」

 

「パパとお買い物!」

 

「いいね、月曜日にお話し聞かせてね」

 

「忍さんによろしく言っといて」

 

「おっみんなも解散か?」

 

「あっお父さん」

 

「今日はお誘い頂きましてありがとございました」

 

「試合、カッコ良かったです」

 

「あはは、すずかちゃんもアリサちゃんもありがとな応援してくれて。帰るなら送って行こうか?」

 

「いいえ、迎えに来てもらいますので」

 

「同じくです〜」

 

「そっか、なのはとレンヤはどうするんだ?」

 

「ん〜おうちの帰ってノンビリする」

 

「このまま、翠屋を手伝うよ」

 

「そうか、父さんもうちに帰って一風呂浴びて、またお仕事再開だ。なのは、一緒に帰るか?」

 

「うん!」

 

それからアリサとすずかは出掛けに行って、父さんとなのはは家に帰った。

 

同日、近くで何かの事件があったらしい。

 

なのはの顔もいつもと違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は以前アリサたちに誘われたお茶会の日。

 

恭也兄さんと一緒にすずかの家に出発した、すずかの家まではバスで向かった。

 

いつもすずかの家には迎えの車で行くか、飛んでいくかのどちらかだったので。結構新鮮な体験である。

 

すずかの家に着いた、相変わらずの大きさで何よりだ。

 

インターホンを押して、少し待ってからノエルさんが出てきた。

 

「恭也様、なのは様、レンヤ様、いらっしゃいませ」

 

「ああ、お招き預かったよ」

 

「こんにちは!」

 

「こんにちは、ノエルさん」

 

「はい、こんにちは。それでは中へどうぞ」

 

ノエルさんに案内されて、お茶会の場所に着いた。

 

そこにはすでにアリサとすずか、忍さんとファリンさんがいた。

 

「あ!なのはちゃん、恭也さん、レンヤ君!」

 

「2人とも、いらっしゃい」

 

それからお茶会が始まった。

 

「お茶を出します……何にしますか?」

 

「俺はお任せで、なのはは?」

 

「私もお任せで」

 

「俺もそれで構わない」

 

「かしこまりました、ファリン!」

 

「了解です、お姉様!」

 

忍さんは恭也さんと腕を組み。

 

「私たちは別の部屋に行くわ」

 

「はい、後ほどお持ちします」

 

ノエルさんたちは部屋を出て行き、俺となのはは空いている席に座った。

 

「それにしても、恭也さんと忍さんは相変わらずラブラブだね!」

 

「結婚式はいつなんだろうな」

 

年齢的にはできるはずだが。

 

「そう言えば、今日は誘ってくれてありがとうな、すずか、アリサ」

 

「しゃべり相手が増えてこっちも嬉しいわ!」

 

「どういたしましたて、レンヤ君」

 

その後も会話が続き……

 

「キュウーーーーーー‼︎」

 

「ニャーーーー!」

 

「あ!ユーノ君!」

 

「ダメだよ、アイ!」

 

いつか襲われると思ったが……

 

「お待たせしました、お茶とケーキでーす!…ってきゃあ!」

 

ファリンさんの下をユーノと猫が動き回り、ファリンさんは目を回した。このままじゃあ倒れる!

 

「なのは!すずか!」

 

「「うん!」」

 

俺は何とかお茶が乗るお盆をキャッチし、なのはとすずかはファリンさんを支えてくれた。

 

「はっ、なのはちゃん!すずかちゃん!レンヤ君!ごめんなさーーーーい‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはその後、外でお茶をすることにした。

 

「相変わらず猫が多いな、一体どこから拾ってきてるんだよ?よくダンボールと猫がセットになっているところをエンカウントしてるよなぁ」

 

「あはは…でも里親が見つかっている子もいるからね。お別れをしなくちゃいけない子もいるんだ」

 

「それは……寂しいね」

 

「でも、この子たちがどんどん大きくなってくるのは嬉しいかな?」

 

すずかは本当に優しいな、この猫たちもすずかに育てられて嬉しいだろうな。

 

「っ!」

 

なのはが何かに気がついた、最近本当によく見る行動だ。

 

「ユーノ君⁉︎」

 

ユーノがどこかに走り出してしまった。

 

「私追いかけて来る!」

 

「手伝おうか?」

 

「ううん、大丈夫。行ってくるね!」

 

なのははユーノ追いかけた、その後俺は2人に向き合い。

 

「アリサ、すずか、ここ最近のなのは、どう思う?」

 

「いつもより疲れているわね」

 

「うん、ユーノ君が来てからみたいだけど……」

 

「お前たちは何か知らないのか?」

 

「私も知らないよ!」

 

「特に何も感じない、問題ないだろう」

 

「……そうか」

 

どことなく嘘を言っている。

 

「こっちも隠し事をしている身、なのはをあまり責められないけど…」

 

「でも心配だね」

 

「しかたないわ、それよりも異界の方はどうなっているのよ?」

 

「ここ1ヶ月、変化なし。異界化の予兆すらない」

 

「現存する異界も変化なし。このまま観察を続けるよ」

 

「最近異界化が少ないわね」

 

「いいことだと思うけど、何かの前触れみたい……」

 

「考えてもしかたない、各自気をつけてくれ」

 

「わかったわ」

 

「うん」

 

その後、ユーノだけが戻ってきた。

「ユーノ、なのははどうした?」

 

「キュー!キュー!」

 

袖を引っ張りどこかに連れていこうとしてた。

 

「なのはに何かあったんじゃ……」

 

「行ってみよう!」

 

ユーノについていくと、なのはが倒れていた。

 

「「「なのは!」」」

 

すぐに近寄り、外傷がないか確認する。

 

「すずか、忍さんたちを呼んできてくれ」

 

「わっわかったよ!」

 

その後、恭也兄さんに連れてってもらった。

 

夕方になのはは目を覚ました。

 

「「なのは!」」

 

「大丈夫か?」

 

「みんな…ここは?」

 

「私の家だよ、驚いたんだから!いきなり倒れていて」

 

「一体何があった」

 

「……転んだだけだよ」

 

「……そうか」

 

「とりあえず今は安静にしていて、後で車で送るわ」

 

「ありがとうございます、忍さん」

 

俺はなのはが嘘をついているのがわかった。

 

アリサもすずかも気づいたようだ。

 

友だちなのに家族なのに、見ていることしかできないのはつらい。

 

でも、そうする他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんどん物語は進んでいる」

 

「動き出した歯車は止まることはない、そしてもう1つの歯車も回り始める」

 

「2つ、3つと増えていく」

 

「道は一つ、でも…いや。せんなきことか…」

 

 

 

 



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14話

 

 

すずかの家のお茶会から数日後ーー

 

「温泉旅行?」

 

温泉旅行に行くことを提案された。

 

「そ!高町家と月村家で行くことになったの!あんたも行くでしょう」

 

「そりゃあ、高町家が行くならついていくけど。なのは」

 

口調を強めて呼ぶ、旅行のこと何も教えられてなかったから。

 

「なっ何かな〜」

 

視線が泳ぎまくり、わっかりやす。

 

「は〜、なのはのことだから、いつものうっかりだろう」

 

「えへへ」

 

「褒めていないと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車に乗ること数時間。

 

海鳴温泉旅館に着いた、改めて魔法の便利さに感謝した。

 

受付を済ませ、荷物を部屋に置いたが……

 

「何で、3人と部屋が同じなんですか⁉︎」

 

なのは、アリサ、すずかと同じ部屋にされた。

 

「いいじゃないの別に」

 

「レン君とはよく一緒に寝てたよね?」

 

「私も構わないよ」

 

くっ、外堀が埋められていく!

 

そもそも男女比がおかしい!11人と2モコナ中、男が3人と1モコナだけ!

 

恭也兄さんは忍さんと、お父さんとお母さんと一緒で入ることができない!

 

「何もそこまで嫌がることないじゃない」

 

「男女7歳にして同衾せず!ちゃんと教えてもらいました!」

 

「あらそう、レンヤ君?後でラーグ君を貸してね。」

 

なぜかラーグに教えてもらったことがばれてる。

 

「同衾ってなによ?」

 

「………知らない」

 

「そもそもお前は真面目だ、バカな真似はしない」

 

「そうよ、レンヤ君は十分に信用できる」

 

「うう、わかりました……」

 

しぶしぶ納得して、みんなで温泉に入ることなった。

 

「キュウー!キュウー!」

 

「コラ!暴れないの!」

 

女湯に行くのが嫌がるユーノ。

 

「ユーノ、お前…もしかしてオスか?」

 

そう聞くと、ものすごい速さで首を縦に振った。

 

「そうか、ならユーノはこっちで洗っとくよ」

 

「えー、動物何だからいいじゃないの」

 

「ユーノが嫌がっているなら無理に入れることもないだろ」

 

アリサからユーノを取って、ソエルを渡した。

 

ソエル達は水洗い可能で、速乾性があると言っている。

 

「それじゃあまた後でな」

 

温泉に入り、ユーノとラーグは桶にお湯を入れたのに入っている。

 

ラーグがもし綿の体だと思うと……恐ろしい。

 

「ふう〜いい湯だった」

 

思った以上に長風呂してたらしい。

 

部屋に戻る途中、なのはたちが女の人に絡まれているのを見つけた。

 

「みんな!」

 

「「「あ!レン(レンヤ)(君)!」」」

 

女性の前に来て……

 

「みんなが何か失礼なことを…」

 

「え?あっごめんね。ちょっと知り合いに似てたもんだからさ、間違えちゃったよ。悪いね、おチビちゃんたち」

 

ただの酔っ払いなのか?

 

「っ!」

 

なのはがまた変な行動をする。

 

「じゃあ、ごめんね!」

 

女の人は温泉に入っていった。

 

「なんなのあの人!酔っ払ってんじゃないの!」

 

「まあまあ、アリサちゃん」

 

「あまり人を貶すな」

 

その後部屋に戻り、自由行動となった。

 

「………ねえ、今から異界に行かない?………」

 

アリサが唐突に言いだした。

 

「………今から?………」

 

「………確かにあれ以降、確認していないけど………」

 

なのはの方を見る、つられて2人も見る。

 

「………あの女の人に会ってから、様子が変じゃないか?………」

 

「………確かに………」

 

「………なのはちゃん大丈夫かなぁ………」

 

「………とにかく今はそっとして置いて、異界を確認しましょう………」

 

「………どうやってなのはちゃんに言うの?………」

 

「………俺がやろう………」

 

俺はなのはに声をかけた。

 

「なのは」

 

「にゃあ!」

 

「おいおい、いきなりどうした?」

 

「なっなんでもないの!」

 

「そうか、今からアリサたちと卓球しにいくけどなのははどうする?」

 

「私は部屋で休んでいるよ」

 

「そうか、じゃあまた後でな」

 

アリサたちと一緒に部屋を出た。

 

「なのはが卓球するって言ったらどうしたのよ」

 

「今の状態のなのはがするわけないし、実際にやっても負けるのはわかっているだろう」

 

「なのはちゃん、運動神経ないからね」

 

「サラッと酷いこと言うわね」

 

それから前に来た池に着いた。

 

「ん?あれは……」

 

「士郎さんと桃子さんだね」

 

「2人ともいい雰囲気よね」

 

「ヒュー、ラブラブー!」

 

「………しっ!静かにしろソエル今いいとこなんだから………」

 

「お前はなにをやっている」

 

ラーグの顔面を鷲掴みにした。

 

「あら?みんなどうしてここに」

 

「あっばれた」

 

俺たちはお父さんたちの前に来た。

 

「えっと、別に邪魔をするつもりは……」

 

「ふふ、いいのよ。ここは誰のものでもないいんだし」

 

「それでレンヤたちはここには何をしに来たんだい?」

 

ここに来た経緯を話した。

 

「へぇ、ここに異界につながる門があるのね」

 

「はい、一般の人には見えませんけど」

 

「すずか、よろしく頼む」

 

「うん、それじゃあ顕現させるよ」

 

すずかはサーチデヴァイスから揺らぎに向かって電波をだした。

 

ファン、ファン、ファン……スーー

 

現れたのは青い門だった。

 

「フェイズ0、これなら俺1人でもいけるな」

 

「なら私がやるわ、これ以上の異界は何度も行ったんだし」

 

「私だって、負けないよ!」

 

誰が行くのか口論が始まった。

 

「私には何にも見えないわ」

 

「そこに何かあるのかな」

 

お父さんたちにはやはり見えなかった。

 

「埒があかない、ジャンケンで決めよう!」

 

「いいわよ、勝ってやるんだから!」

 

「これだけは譲れないよ!」

 

「「「最初はグー!ジャンケン…ぽん!」」」

 

俺はチョキ、アリサとすずかはグー。

 

「負けた…」

 

「やった!勝ったわ!」

 

「でも、まだあるよ」

 

「いいわよ、2人で行きましょう」

 

「アリサちゃん……うん!」

 

「それ、ジャンケンした意味ある?」

 

「男の子がうじうじしない」

 

「ふふ、それじゃあ行ってきます!」

 

「気をつけてね〜」

 

「油断するなよ」

 

すずかとアリサは門に入っていった。

 

「消えた!」

 

「本当に異界が……」

 

2人はアリサたちが消えたのに驚いた。

 

「危険がないとも限らないから、できればここから離れてくれる?」

 

「ええ、でも歯痒いわね。子どもたちに頼るしかないなんて」

 

「これはボランティアみたいな物だよ」

 

「そうだとしても、気をつけるんだぞ」

 

「ありがとう、お父さん」

 

2人は旅館に戻っていった。

 

「さて、暇になったな」

 

「そこら辺見てまわろうぜ」

 

「前は、ゆっくり見てなっかたからね」

 

辺りを散歩することにした。

 

「うーん、前回は気づかなったけど空気が澄んで気持ちがいいね〜」

 

「ここは都市より緑が多いな」

 

「自然と一緒もいいね〜」

 

奥に進むと川が見えた。

 

「川だ!」

 

手をつけてみると冷たかった。

 

「いいところだな……」

 

大きな石に座って、何気なく周りを見た。

 

ふと視界の端に黄色いのが見えた。

 

「ん?」

 

目を凝らしてみると……

 

「…あれは……フェイト?」

 

木の上にフェイトがいた。

 

「あんな所で何やってんだ」

 

フェイトがいる木の下まで来て。

 

「おーーい、フェイトーーー!」

 

「えっ!れっレンヤ⁉︎」

 

驚いたのかその場に立った。

 

「キャッ!」

 

「フェイト!」

 

落ちる場所まで行き、優しく受け止めた。

 

「全く、危なっかしいな」

 

「ん……ふぇ?」

 

「大丈夫か?」

 

ギュッと目をつぶっていたフェイト、ゆっくりと目を開けた。

 

「レンヤ?」

 

「おう、怪我はないか」

 

「うっうん、……っ!」

 

ようやく自分がお姫様だっこされているのに気がついた。

 

「れっれっレンヤ!」

 

「ん?おっとすまない」

 

ゆっくりと地面に降ろした。

 

「なんでまた木の上になんか」

 

「そっそれは……」

 

「しかもそれ何?」

 

フェイトの持っていた、機械的な杖を見た。

 

「これは…その…」

 

「おもちゃか?」

 

「えっ?」

 

「いや、こんなものおもちゃ以外にあるかなぁって」

 

「うっうん!そうだよ!」

 

「それで、ここで何してたんだ?」

 

「うう………」

 

「…………わかった、聞かないでおくよ」

 

「えっ、いいの?」

 

「言いたくないんだろ」

 

「うっうん……」

 

「ただその前に……」

 

フェイトの頭にチョップした。

 

「痛っ!」

 

「無茶するなって約束しただろ」

 

「……ごめん」

 

「わかっているならいいよ」

 

慰めるようにフェイトの頭を撫でた。

 

「あっ///」

 

「もう無茶するなよ」

 

頭から手を離し、旅館に戻ろうとした。

 

「レンヤ!」

 

「ん?」

 

「どうしてそこまでしてくれるの?」

 

「どうしてって当たり前だろ、友だちなんだから」

 

「っ!////」

 

顔が赤くなった、なんで?

 

「じゃあ行くなフェイト、気いつけて帰れよ」

 

手を振りながら振り返らずに旅館に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友だちなんだから、友だちなんだから。

 

頭で何度も繰り返される、レンヤの言葉。そしてこの胸のドキドキ。

 

そっか、そうだったんだ…やっとわかった、レンヤと話していると楽しくなってきたり、笑う顔をみるとドキッってしたり、次はいつ会えるかワクワクする事もたくさんあった。

 

ようやくわかった…私は、フェイトは……彼を、神崎 蓮也の事が……

 

「ありがとう…レンヤ///」

 

好きになっちゃったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、異界探索を終えたアリサたちが温泉から出てくるのを見て。

 

本当に卓球をして、盛り上がった。

 

寝る前にファリンさんから本のお話を聞いた後眠った。

 

けど俺を真ん中に入れるのはやめて欲しかった。

 

みんなが寝静まった深夜、ふと俺は目が覚めた。

 

「んんっ、まだ夜か。慣れない所で緊張したのかな」

 

隣をみると、布団が一つ空いていた。

 

「なのは?」

 

部屋を出てなのはを探しに行った。

 

旅館をにはいなかったので外に出ると、なのはがどこか暗い顔で歩いていた、とりあえず……

 

「なのは」

 

「ふぇ?」

 

旅館の前にいた俺に驚いていた。

 

「えっと、これはね」

 

どうやって誤魔化そうか、視線を泳がせた。

 

「戻るぞ」

 

「え?」

 

「だから、部屋に戻るぞ」

 

何も聞かない事に驚いたなのは。

 

「ほら、ぼけっとしないで行くぞ」

 

「あの、レン君!」

 

「なんだ?」

 

「いっ一緒に、お風呂に行かない⁉︎」

 

「え゛」

 

いきなり何言ってんの!

 

「その…迷惑じゃなかったら、ダメ?」

 

うっその上目遣いでお願いをするな、断れなくなる!

 

「まあいいか、昔も入ってたし」

 

「ありがとう!レン君!」

 

その後、2人で露天風呂に入った、途中ユーノが部屋に戻ったが……

 

「「ふうぅ」」

 

室内にある温泉とはまた違った楽しみだ。

 

「なにも…聞かないの?」

 

「なのはが言いたいんなら聞く」

 

そして黙り込むなのは。

 

「ここ最近、なのはが何かをやっている事にはみんな気づいていた」

 

「えっ!」

 

「でも聞かない、なんでだと思う?」

 

「………わかんないの」

 

「俺もわからん」

 

「えっ⁉︎」

 

「そう、わからないんだよ話さないからな」

 

「あっ」

 

「いつか、なのはが言ってくれるのを待っているよ」

 

「レン君……うん!ありがとう!」

 

これで少しは楽になるといいけど。

 

 



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15話

 

 

相変わらずなのはの様子がおかしい。

 

温泉から帰ってきてもまだ悩んでいるようだ。最近は特にひどく、授業中でも完全に上の空だ。

 

あれから、なのはなりにまだ迷っているようだが……

 

「いい加減にしなさいよ!この間から何話しても上の空でぼうっとして!」

 

「あっご、ごめんねアリサちゃん」

 

「ごめんじゃない!私たちと話しているのがそんなに退屈なら1人でいくらでもぼうっとしてなさいよ!行くわよ、すずか」

 

教室を出て行くアリサに困惑するすずか。

 

すずかに視線を向けてた、すずかは静かに頷きアリサを追いかけた。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、今のはなのはが悪かったから」

 

「わかっているならいい、アリサも少し言い過ぎだと思うがな」

 

なのはが全て悪いわけではないが、このままではまずいな。

 

「あまり根を詰めるな、顔色も悪いぞ」

 

「ありがとう、でも大丈夫だから」

 

「そっか、困ったらすぐに言うんだぞ。絶対に助けに行くから」

 

「うん、ありがとう」

 

さてと、アリサの様子も見ないとな、爆発したらシャレにならん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉から帰っても悩み続けた、最初はユーノ君の力になりたかった。こんな私でも役に立てればと思った、でも今はわからない。ジュエルシードが見つからないからフェイトちゃんとも会えない。レン君が励ましてくれたけど前に進めない事に焦りを感じる。

 

最近ずっと考えこんでしまって、あんまり眠れていないし食欲もない。そんな私を気遣ってくれたのか、レン君が心配してくれた。

 

大丈夫、私は……前に進んで見せる。

 

「レイジングハート、お願い……」

 

レイジングハートを握りしめて、静かに涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサとすずかの魔力を元に歩くと階段の側で話していた、アリサは確かに怒っていたが。

 

「一緒に…悩んであげられる…か」

 

物陰に隠れて話しを聞いてしまった、でもとても友だち思いのアリサだ。力になれないのがよほどつらいんだろう。

 

「フォロー、する必要なかったな」

 

教室に戻ろうとした時……

 

「レンヤ君、盗み聞きは良くないと思うよ」

 

「……気づいていたの?」

 

すずかにばれて物陰から出る。

 

「私って音にも匂いにも敏感だからね」

 

ああ、すっかり忘れてたけどすずかは吸血鬼だった。

 

にこやかに笑うすずかとは逆に、アリサは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。

 

「コホン、でレンヤ、あんたは何か知っているの?」

 

「残念ながら何も…」

 

「そう…よね…」

 

「俺たちも人のことは言えない、なのはのは明らさまなだけだ」

 

「うん、そうだね…」

 

「俺たちにできることは、待つしかない。なのはが自分で言える時まで」

 

「……言われるまでもないわよ」

 

「待ち続けるよ、ずっと」

 

その後、俺たちは教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰りなのはの様子が変わらぬまま、今日が終わろうとした。

 

「どうにかしたいんだけどな〜」

 

「しょうがないよ、話してくれないんだもん」

 

「どちらにせよ、俺たちにできることは、励ますくらいだ」

 

ソエルとラーグに相談しても答えは同じか。

 

できることもなく寝ようとした瞬間……

 

ドックン

 

「っ!」

 

体全体が揺れる感覚に陥った、その後直ぐに地震が起きた。

 

「……今のはいったい…なんだ」

 

「レンヤ、大丈夫?」

 

「あ、うっうん!大丈夫だよ、お母さん!」

 

少し落ち着いた後。

 

「ラーグ、ソエル、今のは…」

 

「それは明日、アリサたちと一緒に話す」

 

「私たちも何が起こったのか、よくわからないの」

 

「…わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後、すずかの家。

 

「ラーグ!昨日の地震は何!」

 

「地震が起きる前に気持ち悪い感覚がきたの」

 

「わかった!わかったから離せ!」

 

アリサはラーグをテーブルに置く。

 

「昨日起きた現象はミッドチルダで言えば次元震、異界関係で言えば虚空震《ホロウ・クエイク》って言うの」

 

「次元震?」

 

「虚空震……」

 

「普通の地震とは何が違うんだ?」

 

「地殻運動の結果である地震とは根本的に異なり、時空間そのものが震動する極めて特異な超常現象……その後に起こった地震は、あくまで余波だ」

 

「時空間そのものが……」

 

「でもそれなら納得する、体全体が揺さぶられる感じだったわ」

 

「ならなんでその虚空震が起きたのかわかるのか?」

 

「わからないよ、確かに極めて稀にしかでないけど、発生する理由もわからないんだよ」

 

「しかし、時空間が揺らいだおかげで異界が発生しにくくなっている」

 

「……とにかく、今は現状維持が限界だな」

 

「それと、ようやくペンダントと連携をして念話ができるようになったよ!今2人のデバイスにデータを送るね」

 

ソエルがフレイムアイズとスノーホワイトにデータを送った。

 

《ありがとうございます》

 

《感謝します、ソエル様》

 

「試してみようか」

 

俺は2人に念話した。

 

『聞こえるか?2人とも』

 

『ええ聞こえるわよ』

 

『問題ないよレンヤ君』

 

《お嬢様、マルチタスクお見事です》

 

《練習の成果が出ましたね》

 

「ありがとう!これもあなたのおかげよ!」

 

「これからもよろしくね、スノーホワイト」

 

《感謝します、お嬢様》

 

《もちろんです》

 

「はは、ちょっとうらやましいかな」

 

「レンヤには私たちがいるよ」

 

「浮気はいけねえな〜」

 

「ふふ、レンヤ君のデバイスは私が作るんだから」

 

「できるだけ早く頼むよ、早くしないと魔力が空になる」

 

「進捗状況はどう?」

 

「もうすぐ、組み立てに入るよ。すずかはすごい勢いで覚えていくんだ、将来いいデバイスマスターになるよ!」

 

「ほっ褒めすぎだよ〜」

 

「いやいや、実際すごいよ」

 

「いつかフレイムアイズのメンテナンスを頼むわよ」

 

《よろしくお願いします、すずか様》

 

「もう!みんなでハードルを上げないで!」

 

その日はそれで解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

「えっ!しばらく帰れない⁉︎」

 

「うん」

 

今家には私とレン君とお母さんしかいなく、他の3人は裏山に出かけていた。

 

「それは、なんでなの?」

 

「それはー…」

 

私は自分の思いを伝える為に話し始めた、ユーノから出会ってから今日までのことを……

 

「もしかしたら危ないかもしれないことなんだけど、大切な友だちと始めたことを最後までやり通したいの。心配かけちゃうかもしれないけど」

 

「それはもういつだって心配よ、お母さんはなのはのお母さんなんだから」

 

「そうそう、やっと話してくれたんだむしろ嬉しいよ」

 

お母さんの顔を見ればわかる、私の事を心配していること全部。けど……

 

「なのはがまだ迷っているなら止めるけど、もう決めちゃっているんでしょう?」

 

「うん…」

 

「なら……行ってらっしゃい、後悔しないように。お父さんとお兄ちゃんはちゃんと説得しておいてあげるから」

 

「俺も協力するから、行ってこいなのは!ちゃんと出来るって信じているぞ!」

 

レン君が頭を撫でて、励ましてくれた。私のことを信じてくれた、それが何よりも嬉しかった。

 

それから着替えを持って外に出たら、レン君がいた。

 

「なのは、これ」

 

取り出したのはオレンジの模様がある心の羽根だった。

 

「レン君…うん!」

 

私も青い模様のある心の羽根を出してレン君の羽根とくっつけた。

 

「絶対に無事に帰ってこいよ!」

 

「うん!必ず帰ってくるよ!」

 

私たちの羽根は黄色く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、聖祥小学校ーー

 

なのはが家庭の事情という名目でしばらく学校を休むことになった。

 

「では高町さんがいない時のプリントノートを………」

 

「それなら俺が……」

 

バッ!

 

アリサが勢いよく手を挙げて立候補した。

 

(やれやれ、口より先に手が出たか…)

 

昼休みなり屋上で、なのはの事を話していた。

 

「そう…もう吹っ切れたのね」

 

「大切な友だちの為か……なのはちゃんらしいね」

 

「ああ、俺たちも頑張らなきゃな、虚空震の調査、頑張るぞ!」

 

「「おーー!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚空震の調査を始めてはや1週間、異界の変化もなく滞っていた。

 

「レンヤ、私たちは別行動で調べるよ」

 

「このままじゃ埒があかないからな」

 

唐突に言い始めた。

 

「……何か策があるんだろうな」

 

「「もちろん!」」

 

「なら約束してくれ、絶対に俺の所に帰るって」

 

「うん!約束するよ!」

 

「ああ、絶対に戻ってくる」

 

俺はソエルとラーグを抱きしめた、なのはたちより1番付き合いが長く、本当の意味で家族だった。離ればなれになるのはもちろん初めてだ。

 

「行ってくるよ!」

 

「朗報を待っててくれよ」

 

ソエルとラーグは転移で行ってしまった。

 

「……あの変な呪文…言わなかったな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラの和室ーー

 

リンディは異常に砂糖の入ったお茶を飲んでいた。

 

「ふう、やる事が山積みですね」

 

現在、プレシア・テスタロッサの捜索にあたっている。ジュエルシードの次は次元犯罪、正直疲れる。

 

「さてと、頑張りますかな」

 

「ちょっといいか」

 

突然話しかけられて私は構える。

 

「誰?ここにどうやって侵入したの」

 

「簡単だよ、なのはにマーカーをつけていたからね」

 

しまった!忙しくてそこまで手が回らなかった!

 

敵は2人の男女、姿はまだ見えない。

 

「おいおい、そう身構えるな」

 

「私たちは交渉に来たんだよ、敵対するつもりはないよ」

 

「………いいでしょう姿を見せなさい」

 

「ほい来た〜」

 

現れたのは白と黒のうさぎみたいに長い耳をした生物だった。

 

「……………えっ?」

 

「私はモコナ・ソエル・モドキ」

 

「俺はモコナ・ラーグ・モドキだ、リンディ・ハラオウン、交渉と行こうぜ」

 

「……わかりました、まずあなたたちの条件は?」

 

「プレシア・テスタロッサのいる、時の庭園に連れて行って欲しい」

 

「なっ!プレシア・テスタロッサの居場所が分かるんですか⁉︎」

 

「いいや、わからないよ、ただ名前を知っているだけ」

 

「そうですか……それであなたたちの出す条件は?」

 

「まず約束して欲しい、この事は他言無用だと」

 

「ええ、約束します。信用は交渉の第一条件です」

 

「そうか。なら俺たちは…………」

 

彼らに聞かされた条件は……

 

「……それは本当ですか?」

 

「うん、嘘偽りなく本当のこと」

 

「俺たちの存在自体も証明になる」

 

「…………いいでしょう、その条件をのみましょう」

 

「ありがとう、こんな話しを信じてくれて」

 

「いいえ、実際に大きなニュースにもなりましたから、十分信用出来ます」

 

「そうか、時の庭園に突入する時、隠れて侵入するからサーチャーに引っかからないようにしてくれよ」

 

「わかりました」

 

「それじゃあね」

 

「またな」

 

そう言い残し、2匹は転移した。

 

「ふぅ」

 

まさかこんな事があるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはが家を出て10日後ーー

 

なのはが久しぶりに帰って来てた。

 

リンディ・ハラオウンさんという女性が事情を説明してくれた。

 

「これから学校だけどなのはも行くか?」

 

「うん!もちろん!」

 

前よりいい顔になった、友だちに伝えられたようだな。

 

その後学校が来て……

 

「おはよー」

 

「おはようなのー!」

 

「あ!なのはちゃん久しぶり!」

 

「久しぶりね!なのは!あんた、休みの間何してたのよ?」

 

「え!う〜〜ん………秘密かな?」

 

「なんかすごい気になるじゃない!なのは、教えなさーい!」

 

「ええ⁉︎たっ助けて〜レン君〜〜」

 

「ちょっと!俺を壁にするな!こらアリサ!叩く相手が違う!すずか〜助けてくれ〜」

 

「ふふふっ」

 

「いや笑ってないで助けてよ!」

 

俺たちが騒いでる様子をすずかは笑って見てた。

 

休み時間ーー

 

「今日は私の家で遊ぶわよ!」

 

いきなりそんな事を宣言してた。

 

「そういえばアリサの家って遊んだことなかったな」

 

「決まりね!みんなで遊ぶわよ〜!」

 

「「「おおー!」」」

 

アリサの家は2年前に行ったきりだ。

 

「あっ、そういえばね、昨夜ケガをしている犬を拾ったの」

 

「へぇ〜どんな犬?」

 

「すごい大型で毛並みがオレンジ色で…見たことのない種類」

 

「アリサちゃんが知らないとなると……その子、ミックスかな?」

 

「そうなるのかな〜〜…あっ後おでこに赤い宝石が付いているの!」

 

「っ!」

 

「赤い宝石?」

 

「知っているの?レンヤ君?」

 

「うーーーん、気のせいだろう、とにかく会ってみようか」

 

放課後になり、アリサの家に行った。庭の檻を見るとアリサが言った通りの特徴をした犬がいた。

 

「うーーん…元気が無いわね…大丈夫?」

 

「……アリサちゃん、すずかちゃん、レン君、先に遊んでてくれる?」

 

「え?なんでよ?」

 

「………アリサ、行こうか」

 

「レンヤ…わかったわ、なのは!すぐに来なさいよ!」

 

俺とアリサとすずかは先に家に入った。

 

「なのはちゃん、どうしたんだろう」

 

「………多分、この10日間に関係するだろ」

 

「なら聞けるわけ無いわね」

 

「レンヤ君、ラーグ君たちから連絡は?」

 

「未だに1つもよこさないよ、大丈夫だと思うけど」

 

「虚空震の調査もまるで進んでいないわ、いつまた起きるかわからないんだし」

 

「ラーグ君たち心配だね」

 

「そうだな……ほらしっかりしろ!辛気くさい顔しているとなのはにも心配されるぞ」

 

「…うん!そうだね!」

 

「とにかく私たちに今できる事をやりましょう」

 

その後なのはが戻ってきて、みんなでゲームをする事になった。

 

夕方になりアリサとすずかと別れ、なのはがあの犬は知り合いの物なので家に連れて帰る事になった。

 

「ふっきれた顔をしているな」

 

「えっ!」

 

「決心した顔だ、今日も行くんだろ?頑張ってこい」

 

俺はなのはの頭を撫でた。

 

「あ///、うん!ありがとうレン君!」

 

夜、家にある道場になのはがいた。

 

「眠れないのか?」

 

「あ、レン君」

 

「明日も早いんだろ」

 

「レンヤ、なのは」

 

「「あ、お父さん」」

 

入り口でお父さんがいた、なのはの事を見ていた。

 

「私が悩んでいた事、知ってたの?」

 

「お父さんは、お父さんだからな」

 

「ぷっ!お母さんと同じ台詞」

 

「わっ笑う事無いだろ」

 

「あはは」

 

「コホン、なのはは強い子だからな。お父さんはそれほど心配してないよ。しっかり頑張って来なさい」

 

「うん!ありがとうお父さん!」

 

「はは、もう遅い早く寝なさい」

 

「はーい」

 

「先行っててくれ、ちょっと犬を見てくる」

 

なのはと別れて庭にいる犬と会った。

 

「やっぱりどこかで見た事のあるんだよなぁ、おでこの赤い宝石」

 

「くぅーん」

 

「うーん、あっ!温泉の時、絡んできた女の人もおでこに赤い宝石が付いていた!」

 

「きゃん!」

 

「おまえ……まさか……」

 

「わっワン!」

 

「まっそんなわけないか魔法じゃあるまいし」

 

「ワン!」

 

「はは、お前を見ているとフェイトを思い出すよ」

 

「!」

 

「ん?ああフェイトっていうのは、金髪でツインテールのかわいい女の子だ。初めて会った時は驚いたなぁ、あなたの持っているジュエルシードを渡してください、だって言ってたんだから、でもちょっと心配なんだよね、ちゃんとごはん食べてるかな」

 

「くぅーん」

 

「ああ済まないな、お前に言ってもしょうがないよなぁ」

 

犬の頭を撫でた。

 

「おやすみ、いい夢を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつがフェイトの言ってた…あいつなら、もしかしたら…フェイトの心を救ってくれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、早朝に犬と一緒になのはは家を出た。

 

「頑張れ、なのは」

 

 



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16話

 

 

私はお母さんのお願いの為にジュエルシードを全部集める。

 

あの子と決戦の日……

 

「フェイト、もうやめようよ。あんな女の言う事なんかもう聞いちゃダメだよ、このままじゃ不幸になるだけだよ、だからフェイト」

 

アルフの懇願にも静かに首を横に振る。

 

「だけど、それでも私はあの人の娘だから」

 

あの子はバリアジャケットを纏い、デバイスを握る。

 

「私とフェイトちゃんのきっかけはきっとジュエルシード、だから賭けよう。お互いが持っている全てのジュエルシード」

 

《プットアウト》

 

ジュエルシードがあの子の周りに浮かぶ。

 

《プットアウト》

 

私の周りにもジュエルシード浮かばせた。

 

「それからだよ、全部それから」

 

バルディッシュを構える。

 

「私たちの全てはまだ始まってもいない。だから本当の自分を始めるために、始めよう。最初で最後の本気の勝負!」

 

魔力がぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション」

 

《スターライト・ブレイカー》

 

周囲の魔力が一ヶ所に集まり始めた。

 

「くっ、っ!ばっバインド!」

 

フェイトの手足を拘束した、もがくも外れない。

 

「これが私の全力全開ーーー」

 

振り下ろされるレイジングハート

 

「ーーースターライト・ブレイカー‼︎」

 

放たれた桜色の奔流。

 

光が収まるとフェイトは気を失って海に落ちた。

 

「フェイトちゃん!」

 

慌ててフェイトを追いかけて海に飛び込むなのは。

 

すぐに上がってきた。

 

「ごめんね、大丈夫?」

 

「うん」

 

「私の、勝ちだよね」

 

「そう…………みたいだね」

 

バルディッシュからジュエルシードが出された、次の瞬間。

 

『なのはちゃん!上空より魔力反応だよ!』

 

通信を聞いて上を見たら、紫の雷がなのはたちに降ってきた。

 

「きゃあ!」

 

「っ!バルディッシュ!」

 

ジュエルシードが奪われ、バルディッシュにヒビがはいった。

 

「大丈夫!なのは!」

 

「フェイト!」

 

『なのはちゃん!フェイトちゃんを連れてアースラに戻ってきて!』

 

なのはたちはアースラに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあの子に負けて、今は拘束されてアースラにいる。

 

ブリッジに向かい…そこで真実を聞いてしまった、

 

私がアリシア・テスタロッサのクローンだってこと、お母さんの本音を、私は人形だってこと、お母さんが私のことを大嫌いだってことを。

 

そこからはもう何も覚えていなかった、次に目を覚ましたのはベッドの上だった。

 

「アルフ……」

 

「フェイト!目が覚めたの!」

 

「ここは…」

 

「医務室だよ、まだゆっくり寝てて。私はあの子たちが心配だから、ちゃんと行ってくる」

 

アルフが手を握ってくれて。

 

「全部終わったら、ゆっくりで良いから、私の大好きな本当のフェイトに戻ってね。これからは、フェイトの時間は全部、フェイトが自由に使って良いんだから」

 

そう言い残しアルフは出て行った。

 

私はぼんやり天井を見つめ。

 

(母さんは、最後まで私に微笑んではくれなかった。私が生きたいと思ったのは、母さんに認めてほしかったからだ。どんなに足りないと言われても、どんなに酷いことされても。だけど、笑って欲しかった。あんなにはっきり捨てられた今でも、私はまだ母さんにすがりついている)

 

備えつけられたディスプレイを見た、アルフとあの子たちが映っていた、一緒に戦ってくれるアルフに笑っていた。

 

ふと、あの男の子の顔が浮かんだ。

 

(見ず知らずの私に優しくしてくれた、魔法なんか関係なく。冷たい心を溶かしてくれた、暖かい存在。私の…心の在りどころ、私の道を見せてくれた大切な人)

 

ベッドから起き上がり。

 

「生きていたいと思ったのは、母さんに認めてもらいたいからだ。それ以外に、生きる意味なんてないと思っていた。それができなきゃ、生きていけないんだと思っていた。捨てれば良いってわけじゃない。逃げれば良いってわけじゃ…………もっとない」

 

画面の向こうで戦う、白い服の女の子。

 

「私の、私たちの全てはまだ始まってもいない。そうなのかな、バルディッシュ。まだ始まっても無かったのかな」

 

バルディッシュは起動して。

 

《イエス、サー》

 

「そうだよね。バルディッシュも、ずっと私の傍にいてくれたもんね」

 

涙が溢れ出す。

 

「お前も、ここまま終わるのなんて、嫌だよね」

 

《イエス、サー》

 

立ち上がり、涙を拭う。

 

「上手くできるか分からないけど、一緒に頑張ろう」

 

バルディッシュに魔力を補給して傷を直した。

 

《リカバリー》

 

「私たちの全ては、まだ始まってもいない。だから、本当の自分を始める為に…」

 

バリアジャケットを纏い……

 

「今までの自分を、終わらせよう」

 

前に進む為に、母さんと、プレシア・テスタロッサに話しをつける!

 

「ようやくわかったみたいだね」

 

「全く、ひやひやさせやがって」

 

「誰!」

 

突然声をかけられ、構える。

 

「本当の真実を…伝えようと思ってね」

 

「話しを聞くだけでもいいんじゃないか?」

 

「っ!、あなたたちは……!」

 

レンヤが持っていたぬいぐるみ達だった。

 

「あの時はしゃべれなかってけど、私はモコナ・ソエル・モドキ」

 

「モコナ・ラーグ・モドキだ、改めて聞こう。本当の真実を知りたくないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは現れた傀儡兵に苦戦していた。

 

「くっ一体一体がAクラス相当に強い!」

 

「このままじゃ…」

 

ユーノ君がチェーンバインドで敵を捕らえていますが、これ以上手がありません。

 

その時、一体がユーノ君の魔法から脱出して、私に襲いかかります。

 

「なのは!」

 

斧を投げつけられた、凄まじい勢いで迫るそれに思わず目を瞑る。

 

が、次の瞬間……

 

ガキィィンッ!

 

金属音が響く、目を開けると。そこにはフェイトちゃんがバルディッシュで斧を弾いていた。

 

いつもよりマントが大きかったが……

 

「サンダーレイジ!」

 

真上から雷が直撃して吹き飛ばした。

 

「フェイトちゃん!」

 

フェイトちゃんに近づこうとした時、近くの壁が爆破する。

 

「「!」」

 

そこから、他の傀儡兵より巨大な傀儡兵が出てきた。

 

「だけど、2人でなら」

 

思いもよらない言葉に私は喜ぶ。

 

フェイトちゃんのサンダースマッシャーと、私のディバインバスターで敵を捕らえて……

 

「「せーーーの!」」

 

その後、時の庭園の奥に進みます。

 

「フェイト!」

 

アルフさんがフェイトちゃんに抱きつきます。

 

「心配かけてごめんね。ちゃんと自分を終わらせて、始めるよ。本当の私を」

 

その言葉は昔、レン君に言ってもらった言葉にそっくりでした。

 

いい子な自分を捨てて、本当の気持ちを…自分を伝えると。

 

「あっそうだ!フェイト!フェイトの言っていたレンヤって奴に会ったよ」

 

「「えっ?」」

 

レンヤ?レンヤってあの?

 

「とっても優しい奴だったぞ、フェイトが惚れるのも……」

 

「わあぁーー!わあぁーー!わああぁーーーーー!」

 

顔を真っ赤にして、手を大きく振りながら、叫ぶフェイトちゃん。

 

「あ、あっアルフ!レンヤといつ会ったの⁉︎」

 

「フェイトから離れた後に……」

 

「………あれから一度も会っていないのに………」

 

このフェイトちゃんの反応は。

 

「フェイトちゃん、レン……そのレンヤ君とはどう言う関係なのかな?」

 

「なっなのは?」

 

ユーノ君?少し黙ろうか。

 

「はっはい!」

 

「どう言う関係って!レンヤとは初めての友だちで、でもレンヤがいいなら………」

 

くっレン君!帰ったら“お話し”なの!

 

私より早くフェイトちゃんとお友だちになるなんて!

 

「君たち!ふざけてないで急ぐぞ!」

 

「「はっはい!」」

 

急いで奥に進み、駆動炉に続くエレベーターホールに着いた。

 

「ここからは別行動だな」

 

「私は母さんと話しをつけてくる」

 

「なのはと僕で駆動炉を止めに行くよ」

 

「みんな!無事でいてね!」

 

渡さんたは二手に分かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきから虚空震が連続で来てかなり気持ち悪い。

 

『レンヤ君!これは一体……』

 

『ちょっとどうにかしなさいよ!ワンちゃんたちが不安がっているわ!』

 

『そんなこと言われても……』

 

数分前から魔力が急激に減っている、あいつら一体何やってんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元震が止んだ、なのはたちがやったんだ。

 

クロノが説得しても母さんは諦めなかった。

 

「母さん!」

 

「ここへ一体何をしに来たのかしら?」

 

「あなたに言いたいことがあって来ました」

 

私はもう……怖がらない、怯えない!

 

「私は、アリシア・テスタロッサではありません。貴方が作った人形かもしれません。だけど私は、フェイト・テスタロッサは貴方に生み出して貰って育ててもらった貴方の娘です」

 

「だからなんだと言うの?今更あなたの事を娘だと思えと言うの?」

 

「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からもあなたを守る。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから」

 

「くだらないわ」

 

「…はい、そうですね。でも…私は……あなたを…母さんたちを救いたい」

 

私はマントを翻して……

 

「お願い!ラーグ!ソエル!」

 

「「任されたーー!」」

 

「なっ!」

 

フェイトはマントの中にラーグたちを隠していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さんが薬を盛られている⁉︎」

 

「そうだよ、昔ある奴らの陰謀でね」

 

「じっくり回るタイプの物だから、前まで優しかったのも頷ける」

 

「どうして……そんなことが…」

 

「私たちなら助けられる」

 

「協力してくれるか?」

 

「…わかった、お願い母さんを助けて!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーバクッ!」

 

ラーグがプレシアの頭に齧りついた。

 

プレシアが暴れるも外れない。

 

「ハーーーーパクッ!」

 

ソエルがアリシアの入ったカプセルごと飲み込んだ。

 

「なっなんだ、これは」

 

クロノが状況が飲み込めないでいる。

 

少しずつプレシアが暴れるのをやめる。

 

「んーーーーバッ!」

 

プレシアからラーグが離れた。

 

「母さん….」

 

「はぁ、はぁ…フェイト…ごめんね、私がもっとしっかりしていればこんな事には…」

 

「母…さん?」

 

「薬と病は取り除いたぜ、ちょっと若返っちまったが」

 

「本当にごめんなさい、こんな私を…許さなくても…」

 

「母さん!」

 

フェイトがプレシアを抱きしめた。

 

「悪いのは別の人!母さんは何も悪くないよ!」

 

「フェイ…ト…」

 

「だから、私の母さんでいて!」

 

「フェイト!」

 

2人は今までの時間を埋めるように抱きしめた。

 

「コホン、えーお楽しみのところすみません」

 

「プレシアが途中で魔法をやめたから、ジュエルシードが暴走して。この時の庭園は消滅します」

 

「「「えっ」」」

 

ジュエルシードが暴走を始めて、周りが崩れ始めている。

 

「脱出する!早くアースラに!」

 

「母さん!」

 

「待って!アリシアがいないの!」

 

「アリシアならここにいるよ」

 

ラーグがソエルのお腹を指す。

 

「食べたってことなの!」

 

「大丈夫だから、ほらほらいっくよー」

 

その後なのはたちと合流してアースラに戻った。

 

脱出後すぐに時の庭園は消滅、大きな次元震がおきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『気持ち悪いよ〜〜』

 

『ちょっと……レンヤーーーー!』

 

『待って!本当に待って……ギャア!』

 

虚空震と余波による地震の影響で被害にあってるレンヤたちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラに帰還した全員は事後処理に追われていた。

 

治療を受けた後、フェイトとアルフとプレシアは重要参考人として拘束、リンディとクロノによって取り調べを受けていた。

 

「今回の事件は、一歩間違えれば次元断層さえ引き起こしかねないものでした、もちろん、あなたが薬の影響でまともな判断ができなかったこともありますが。ラーグ君が提出した資料により無罪放免とまで行きませんが、できるだけ保護観察処分までは行けます」

 

「これだけの事をしでかして、その程度の処分。十分すぎます」

 

「はい、それと……」

 

全員の視線がラーグたちに向けられる。

 

「契約によりあなたたちの正体は聞きませんが、アリシアさんを飲み込んでどうするんですか?」

 

「う〜〜ん、うん!ちょうどいいね!」

 

ソエルはアリシアを光の玉に包まれた状態で吐き出した。

 

「クロノ!」

 

「ギャア!目が、目がーーー⁉︎」

 

裸のアリシアを見せまいと、リンディがクロノに目潰しをした。

 

「アリシア!」

 

プレシアの手に収まるアリシア。

 

「ん……お母……さん…?」

 

アリシアが目を覚ました。

 

「アリシア!」

 

プレシアはアリシアに抱きついた。

 

「うー、痛いよ〜お母さん〜」

 

「これは…一体…?」

 

「企業秘密だよ♪」

 

口に手を当てるソエル。

 

「うん?」

 

「っ!」

 

アリシアはフェイトを見た。

 

「私にそっくり〜、お名前は!」

 

「ふぇ、フェイト……」

 

「フェイトって言うの⁉︎あなたは私の妹⁉︎」

 

「えっ?」

 

「私はアリシア!お姉ちゃんって呼んでね!」

 

手を握って大きく振るアリシア。

 

「あ…うん!こちらこそよろしく!お姉ちゃん!」

 

フェイトは今までで1番の笑顔だった。

 

話しは戻ってラーグたちについて話した。

 

「うう、目が……」

 

目に涙を浮かべながら、目をこするクロノ。

 

アリシアはすでに服を着ていた。

 

「リンディにも行った通り、俺たちの正体は言うことはできない。それはいいよな」

 

「ええ、そうよ」

 

「ただ、私たちの出した条件は言える。その条件は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎 蓮也を管理局に入れる。それが時の庭園に入るための条件だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎…蓮也?」

 

「使い魔で言う、俺たちの主だ」

 

「でもこの海鳴にはなのは以外に魔力を持つものが……」

 

「いるんだよね、それがね」

 

「私たちが魔力隠蔽用のペンダントを上げているの、近づかない限りわからないよ」

 

「しかし、今までジュエルシードや僕たちの魔力を感知して近づいてもおかしくない!」

 

「あのペンダントは外からも内からも魔力を隠蔽する、同じペンダントをつけていない限り魔力を感知することはできない」

 

「あの……レンヤが魔導師だとして、魔力量はどれくらいなんですか?」

 

「ざっとS+、まだまだ伸びるぞ」

 

「「「!」」」

 

「それだけの魔力量……条件を飲むわけですね」

 

「ええ、耳が痛いですが」

 

「条件によりレンヤ自身が管理局の存在に気づかない限り、勧誘は禁止だ」

 

「わかっています」

 

「後、ミッドチルダに帰るときフェイトをレンヤに合わせてくれるかなぁ」

 

「なに!」

 

「そっソエル……」

 

「いいでしょう」

 

「母さん!」

 

「艦長と呼びなさい」

 

「はい!質問!」

 

アリシアが手を上げる。

 

「それってつまり、そのレンヤって人が私たちを救ってくれたんだよね」

 

「ああ、魔力を沢山もらったからな」

 

勝手にだが。

 

「ふーーん、興味が出ちゃったね〜」

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

「はは、じゃあまたな!」

 

「また会おうね〜」

 

ソエルたちは転移してしまう。

 

「ふう」

 

「リンディさん?」

 

「いえ、レンヤ君という子も数奇な運命を歩いていると思うと…」

 

「レンヤ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはたちが帰って来て、俺たちは喜んだ。

 

美由希姉さんがなのはを抱きしめたりした。

 

「なのは」

 

俺は羽根を取り出し。

 

「レン君!」

 

なのはも羽根を取り出した。

 

黄色く染まった羽根をくっつけ。

 

「おかえり」

 

「ただいま!」

 

俺たちの挨拶だ。

 

次の日、学校に行って。

 

なのははアリサとすずかに再会した。

 

すずかは目に涙を浮かべながら喜んで、アリサは平静そうなふりをして内心喜んでいる。

 

ラーグ達も帰って来て、虚空震の事情を説明してくれた。

 

『特異点による空間の断層?』

 

『そう、特異点を中心とした空間の捻れが今回のことの顛末だ』

 

『あんなに揺れた後で何か問題はなかったのよ』

 

『地震もすごかったしね』

 

『とにかく今は、虚空震による被害を見る。また忙しくなるぞー』

 

『やってやろうじゃないの!』

 

『最後まで手伝わせてもらうよ!』

 

『ああ、みんなで頑張ろうか!』

 

『『『『『『おおー!』』』』』』

 

「はいでは神崎君、この問題を解いてください」

 

「あっはい」

 

『締まらないわね』

 

『うるさいやい』

 

そんな感じでなのはが帰って来たら1日なんか早く過ぎるように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、なのはが遠くへ行く友だちに合わせたいとのこと、ついていくことになった。

 

「ほら、いたよ!フェイトちゃーん!」

 

「えっフェイト?」

 

視線の先にいたのはフェイトだった。

 

「れっレンヤ!ひっ久しぶり!」

 

「フェイト!久しぶり、なるほどねなのはの大切な友だちはフェイトの事だったのか」

 

「えへへ、うん!そうだよ!」

 

なのはは自分の事の様に喜ぶ。

 

フェイトと2人きりで話しがしたいので、後でフェイトと話すことにした。

 

「あなたは……」

 

「あの時はごめんね!」

 

手を合わせて謝る女性。

 

「いえ、反省しているなら大丈夫です」

 

「そうか、ありがとうな」

 

「あっそうだ!あなた似で、同じくおでこに赤い宝石をつけた犬って知っていますか!」

 

「さっさあ、知らないね〜」

 

なんでそっぽを向くんですか。

 

「君が神崎 蓮也か」

 

「えっと、あなたは?」

 

「僕はクロノ・ハラオウン、なのはにお世話になったものだ」

 

「そうですか!俺は神崎 蓮也です!なのはが迷惑かけませんでしたか?」

 

「ああ、勝手に行動したりしたな」

 

「………すみません」

 

「いいさ、言う事を聞く立場でもない」

 

「ありがとうございます!これからもなのはよろしくお願いします!」

 

俺は握手を求めた、潔く応じてくれた。

 

「ああ、もちろん……!」

 

「?、どうかしましたか?」

 

「っ!いや…なんでもない」

 

どうかしたんだろう

 

「あなたが神崎 蓮也君?」

 

「はい、あなたは?」

 

「私はプレシア・テスタロッサ、フェイトの母親よ」

 

「そうですか!俺は神崎 蓮也です、フェイトとはとても大切な友だちです!」

 

「ふふ、そう。あなたにはお礼を言わなくちゃね」

 

「お礼?」

 

「あなたがフェイトを励ましてくれたおかげで、私たち家族は救われたの。だから感謝しているわ」

 

「そんな、それにそれはフェイト自身の力です。俺はただ話していただけです」

 

「それでも感謝してるのよ」

 

プレシアさんは手を伸ばして握手を求めた。

 

俺は応じて……

 

「はい!これからも力にならさせてもらいます!」

 

「……………………」

 

「プレシアさん?」

 

「あっ…何?」

 

「どうかしましたか?」

 

「大丈夫よ」

 

「そうですか……プレシアさん、このフェイトそっくりな子は」

 

さっきっから、俺の周りを回ってジロジロ見てる。

 

「フェイトの姉のアリシアよ」

 

「姉⁉︎」

 

妹だろ⁉︎見た目からして!

 

「ふーーむ、ふむふむ」

 

「あのーー」

 

「うんうん、なるほどなるほどー」

 

「だからーー」

 

「ん、なかなかいいわねー。気に入っちゃった!」

 

ちょいちょいと耳打ちしたいのか手招きをする。

 

それで顔を近づけて……

 

「ありがとう……私のナイト様」

 

「えっ!」

 

チュ!

 

「にゃあ!」

 

「あっ!」

 

「あら」

 

「なっ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

気づいたときにはキスをされていた。

 

「にゃははは!怖いな、怖いなー」

 

悪ふざけをした様な感じなのか、笑っている。

 

フェイトたちも話しが終わったのか戻ってきてた。

 

「ん?なのはとフェイト、リボンを交換したのか」

 

「うん!友情の証として!」

 

「俺もあげられたらいいんだけど……大切なものだから」

 

頭のリボンを触り、感触を確かめる。

 

「別に大丈夫だよ!交換できるリボンもないし!」

 

「じゃあ私が……」

 

「やめなさい」

 

「うーん、あっそうだ!」

 

ソエルの口に手を突っ込んだ。

 

((((((うわぁ))))))

 

「あった、あった、はい!どうぞ!」

 

「これは…」

 

「羽根?」

 

フェイトとアリシアに渡したのは、黄色と緑の模様がある白い羽根。

 

「そう!心の羽根って言って。持ち主の心を現すんだ」

 

「こっ心を///」

 

「へぇ〜すごいねー!」

 

フェイトはピンク色に、アリシアは黄色く色が染まった。

 

「本当に心を表しているのか」

 

「すごいねぇ」

 

「興味が出るわね」

 

他の3人も興味深々だ。

 

そしてそろそろ別れの時間……

 

「レンヤ…なのは…本当にありがとう!」

 

「うん!また会おうね!」

 

「俺たちは待っているぞ」

 

「私も私も〜!」

 

「そうだ!レン君あれやろう!」

 

なのはは羽根を取り出した。

 

「ああ、そうだな!」

 

俺も取り出して、羽根をくっつけた。

 

「ほら、2人とも」

 

「うっうん!」

 

「いいよ!」

 

フェイトとアリシアの羽根もくっつけた。

 

「これは俺たちの絆の証だ!」

 

「そうだね!」

 

「うん!」

 

「やったー!」

 

俺たちの羽根は黄色く染まった。

 

そして、フェイトたちは外国へ帰って行った。また会える、確証はないけどそう思える。

 

まだやる事はいっぱいあるんだ!俺も負けていられない!

 

 

 



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A's前
17話


 

フェイトと別れてから半月ほど

 

「すっかり忘れてたな」

 

「にゃー」

 

2年前に死にかけていた変な猫。今ではすっかり元気だ

 

「さてと、このまま飼うにしても…名前はどうしよっか」

 

「はいは〜い、私はリニスがいいで〜す!」

 

「リニス?」

 

「いいんじゃないか?」

 

「リニス…リニスか、いいねそれ!」

 

猫をリニスを持ち上げ

 

「お前は今日からリニスだ!」

 

「にゃー」

 

ユーノの時と同じ様にみんなと相談して、俺が面倒を見るということで飼うことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日、すずかの家

 

俺は2人にリニスを紹介していた、なのはは用事があるらしく今はいない

 

「わあああ!可愛い!」

 

「にゃーー!にゃーー!」

 

ユーノの如く嫌がるリニス

 

「なのはのユーノがいなくなったと思ったら、今度はレンヤがリニスを連れてきたの?また何かしでかすんじゃないでしょうね?」

 

「俺はトラブルメーカーか」

 

「ある意味では……そうだね」

 

リニスを返しながら、すずかが言う

 

リニスよ…すまん

 

「それにしてもユーノもそうだけど、リニスも猫にしてはちょっと違わない?」

 

「リニスちゃんは山猫だよ」

 

「さすが猫好き…ん?リニス…ちゃん?」

 

「うん、リニスちゃんはメスだよ」

 

「へぇ〜そうなの」

 

その後も雑談が続いた

 

「それで?今日はリニスの紹介だけじゃないでしょう」

 

「ああ、レンヤのデバイス制作の目処がたったのと。2人のデバイスの強化だ」

 

「強化?」

 

「今のままじゃダメなの?」

 

「ダメってわけじゃないが、これからも怪異は強くなってくる。それに備えなきゃいけない」

 

「それで、具体的にはどうするんだ?」

 

「デバイスの外装の強化と新機能の搭載だよ」

 

「新機能の搭載?」

 

「そっ単純に強化しても強くはなれないからね」

 

「で、その新機能て言うのはどんな感じよ」

 

「企画は二つある、一つはカートリッジシステム。圧縮魔力を込めたカートリッジをロードする事で、瞬間的に爆発的な魔力を得られるんだ。でもその分制御は難しいんだ。

もう一つはギアーズシステム。デバイスに複数のギアを組み込みそれらが回転する事によって、魔力を上げる事ができる。カートリッジと違って爆発的な魔力は得られないが、長時間緩やかに魔力の上昇が得られるんだ。制御も比較的簡単だ。」

 

「うーん、コンセプトがまるっきり逆だね」

 

「強くなるならカートリッジで良いじゃない」

 

「そう単純な話しじゃないんだよ、カートリッジは爆発的な魔力を得られる分、体の負荷が凄まじいの。今の成長途中のみんなには危険なんだよ」

 

「消去法でギアーズシステムになるな」

 

「なら最初からそう言いなさいよ!」

 

「まあまあアリサちゃん、ソエルちゃんたちはカートリッジシステムが危険だって教えてくれたんだよ」

 

「それじゃあ、デバイスをソエルに預けて。いつも通りの練習メニューをこなそうか」

 

「あっレンヤの武器も強化するからね」

 

「なんでだ?あれはデバイスじゃないだろ」

 

「お前の使っている剣と銃は旧式のアームドデバイスだ、小さくする事ができないからな」

 

「あーー、どおりで魔力を通すわけだ。木刀でやってもうまく行かないわけだ」

 

「そこはせめて真剣でやりなさいよ」

 

「あるわけないだろ」

 

「士郎さんなら持っていそうだけど」

 

「それでもお父さんが貸すわけないだろ」

 

その後、練習メニューをこなした

 

俺は魔力の底上げと基本的な魔法の練習をして

 

アリサとすずかは実戦経験を積む事と魔力操作の練習をしていた

 

「ふうぅ、だいぶ形になったわね」

 

「うん、でもこれが限界だね。戦い方を教えてもらう先生がいないからね」

 

「そうだなぁ、独学だけじゃあ無理があるからな」

 

「ならこれを読むといいよ!」

 

ソエルが口から本を人数分出した

 

「何々、剣の基本的な心構え?」

 

「こっちは、槍を使った体捌き?」

 

「臨機応変に判断の仕方?」

 

「みんなが足りないと思う部分だよ!」

 

「まあ、読むだけ読んでみるか」

 

「読書は好きだから大丈夫!」

 

「ちゃん人ができる事が書いてあるんでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は久しぶりにはやてに会う為に風芽丘図書館に向かっていた

 

「ここ1ヶ月会っていなかったからな〜、怒っているんだろうなぁ」

 

「しょうがないよ」

 

「張り手の1つでも貰うんだな」

 

図書館に着き、はやてを探す

 

「この時間に入るはず……」

 

辺りを見渡すが見つからなかった

 

「今日は来てないのかな」

 

「レンヤ君……?」

 

声をかけられて振り返ってみると、はやてと金髪の女性がいた

 

「はやて!久しぶりだな!」

 

「レンヤ君こそ!私のこと忘れてると思ったよ」

 

「はやての事忘れるはずない、でもここ最近忙しくかったから会いに行く暇も無かったからな。寂しい思いさせちまったか?」

 

「そんな事あらへんよ、親戚が家にきてな。今はすっごく楽しいんよ」

 

「親戚?それって……」

 

俺は金髪の女性を見る

 

「ああ、紹介するな。さっき言っていた親戚の人や」

 

「初めまして、シャマルです」

 

「はやての友だちの神崎 蓮也です。よろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそ」

 

「親戚はシャマルさん以外にもいるのか?」

 

「うん、後2人と1匹がおるんや」

 

「そうか、よかったな」

 

「うん!」

 

本当に嬉しそうだ

 

「レンヤ君は、これからどないするんや?」

 

「はやてに会いに来たんだけど、大丈夫そうだからもう帰るな」

 

「ええ、もうちょっと話そうよ〜」

 

「う〜ん、なら!明日の朝に河川敷に来てくれないかな?親戚の人たちを連れて」

 

「河川敷でなにするんや?」

 

「それは見てのお楽しみ。それじゃあまた明日!」

 

「あっ待って……行ってしもうた」

 

「はやてちゃん、彼のこと気になるの?」

 

「なっなに言っとんねん!そんなんじゃあらへん!」

 

「ふふふ」

 

からかわれてしもうた、でもまた明日か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってみんなに明日のことを話した

 

「河川敷に…ですか」

 

ピンク色の髪をポニーテールにしている女性…シグナム

 

「一体なにするんだよ」

 

赤い髪をおさげにした少女…ヴィータ

 

「私は構いません」

 

青い毛並みの大きな狼…ザフィーラ

 

「ふふ、楽しみね」

 

金髪のショートヘアーの女性…シャマル

 

みんな私の誕生日に現れた家族や

 

「みんなを私の友だちに紹介したいんや」

 

「しかし主はやて、その者は信用できるのでしょうか」

 

「誰もが私を狙うと思っとるん?」

 

「そうだぜ、気にしすぎだぞ」

 

「主に危険が迫れば守るだけのこと」

 

「魔力も無かったし、優しい子よ」

 

「…わかりました」

 

「ほな、みんなで行こうか」

 

明日が楽しみや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝、河川敷上流付近

 

「そろそろ、見えるで」

 

「あれじゃないか」

 

「あっそうや」

 

動きやすそうな格好をしたレンヤ君がおった

 

「おーいレンヤ君ー!」

 

呼んでみるも返事があらへん

 

「どうかしたんかな」

 

「いえ、あの者すごい集中力です」

 

「えっ!」

 

その時、レンヤ君は持っている大きな扇子を開いて舞い始めた

 

「あれ、なにやってんだ?」

 

「しっ!静かにしろ」

 

「これは、すごいな」

 

レンヤ君が踊るごとに周りの人が止まり、レンヤ君を魅入る

 

見た目もあって、女の子が踊っているようにしか見えへん

 

「綺麗」

 

「すごいな」

 

誰もがレンヤ君を見てのいる

 

「あっ!おい、あれ!」

 

誰かが叫んだ、なんなんや

 

「飛んでる…」

 

「えっ」

 

すぐにレンヤ君を見ると、川に浮いていた

 

あそこは腰まで浸かる位の深さや、まさか本当に飛んでる⁉︎

 

「すごい!すごい!お姉ちゃんすごい!」

 

「ん?」

 

あっ止まってもうた

 

「あれ、なにしてたんだっけ…ん?」

 

えっ!まさか飛んでるのに自覚なかったんか!

 

「うわああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはー」

 

武術書にあった舞いを踊っていたらいつの間にか飛んでいた。魔力使った覚えないけどな

 

「ふう」

 

「レンヤ君!」

 

「あっはやて!来てくれたんだ!」

 

「もちろんや!それよりもどうやって飛んだんや?」

 

「さあ?」

 

「さあって…」

 

「ただ終わりのない舞いを舞っていただけだ、途中からなんで踊ってるのかなーって思ったり」

 

「なにやっとんや」

 

あきれるはやて

 

「はは、それで後ろの人たちが?」

 

「そうや!残りの親戚たちやで!」

 

「ヴィータだ、お前どうやって飛んだんだ?」

 

「私はシグナムだ」

 

「それで、こっちの犬がザフィーラや」

 

「………ワン」

 

「はは、よろしくお願いします。神崎 蓮也です」

 

「ふむ…ではレンヤ、今のは忘我の境地ではないか?」

 

「「忘我の境地?」」

 

「忘我とは、我を忘れ夢中になるという事だ」

 

「そうか!技を捨てろってそう言う事か!」

 

俺は武術書を取り出した

 

「技を捨てて舞い続けろ、差すれば自ずと答えが出る。なるほどね」

 

「すごいなあ、レンヤ君」

 

「俺はただ舞を見せたかっただけなんだけどな」

 

「それもすごかったぞ」

 

「ええ、とても綺麗だったわよ」

 

「してレンヤ、お前は剣をやってるのか」

 

「あっわかります?」

 

「手を見ればわかる、かなりの使い手のようだ」

 

「まだまだ未熟者ですよ」

 

「そうや!レンヤ君!家に来ぉへん?濡れたままもあれやし」

 

「タオルと着替えは持っているけど……」

 

「決まりやな、ほないこうか」

 

「ちょっと!まだ行くって……」

 

「すまないな」

 

結局、はやて家に行くことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ以来、来たこと無かったが結構大きいな。車椅子のはやてでも住みやすいバリアフリーだ

 

シャワーを貸してもらい、冷えた体を温めた

 

「はやて、シャワーありがとな」

 

「気にせんでええよ」

 

「おいレンヤ、一緒にゲームしようぜ」

 

「おっいいぞ、簡単には負けないぞ」

 

俺はヴィータとテレビゲームを始めて

 

はやてはソエルとラーグとザフィーラと遊んでいた

 

(このぬいぐるみ…どこかで)

 

ザフィーラはソエルとラーグに見覚えがあった

 

お昼もご馳走になってしまい、すっかり夕方になってしまった

 

「じゃあ、そろそろ帰るよ」

 

「ええ〜もっといてもいいじゃねえか」

 

「うちの家族に心配かけたくないんだ」

 

「玄関まで送っていこう」

 

「ありがとうございます、シグナムさん」

 

玄関まで来て

 

「レンヤ、これからもある…はやてのことをよろしく頼むぞ」

 

そう言い手を伸ばすシグナムさん

 

「はい!もちろんです!」

 

手を伸ばして握手をする

 

「っ!」

 

「シグナムさん?」

 

「…いや、なんでもない…」

 

「?そうですか?それではお邪魔しました」

 

急いで家に帰った、心配かけちゃったかな〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?どうかしたのシグナム?浮かない顔をして」

 

「…シャマル、レンヤから本当に魔力を感じ無かったのか?」

 

「?ええそうよ、これだけ近づいても気でかないなんてありえないわ」

 

「だが握手をした時に感じた、膨大な魔力を…」

 

「…嘘でしょ」

 

「もし奴が主を狙うのなら…」

 

「それはねえと思うぞ」

 

「ヴィータちゃん⁉︎」

 

「なんの確証があって言う?」

 

「あたしはシグナムより先に、あいつの魔力を感じた。だがあいつはあたしの魔力を感じ取れていなかった」

 

「それは…そうだが…」

 

「それに、本当にはやてのことを心配してくれたんだ、悪いやつじゃねえ」

 

「しかし…」

 

「私もそう思う」

 

「ザフィーラ⁉︎」

 

「あいつが家族の話しをすると、とても寂しいそうな顔をするのだ。そんなやつが主を狙うはずがない」

 

「私もレンヤ君のことを信じたいわ」

 

「…わかった、剣の道を志す者として信じてみよう」

 

「へへ、さすがシグナム」

 

「みんな、何やっとんのやー」

 

「今いきます、主はやて」

 

 

 



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18話

 

「不可思議事件の調査?」

 

「そうよ、そんな事件があるところに異界ありよ!」

 

学校の休み時間にアリサがいきなりそんなことを言い出した

 

「アリサちゃん…そんな大声で言っちゃダメだよ」

 

「ごっごめん」

 

「なになに?何の話しなの?」

 

「こっちの話しだ」

 

「ぶうー、最近みんな付き合い悪いの」

 

「お互い様よ」

 

「ごめんね、なのはちゃん」

 

「ううん、大丈夫なの。みんなも待ってくれたんだから、私も待つの!」

 

「ありがとう、なのは」

 

放課後、聖祥小学校の屋上

 

「それで、不可思議な事件とは何だ?」

 

「ここ最近、学校で笑い声が聞こえるらしいの」

 

「それただの七不思議じゃねえか」

 

「実際に聞こえているんだから」

 

「とりあえず行ってみようよ、サーチデヴァイスに反応があるかもしれないし」

 

その後、笑い声がすると言う音楽室に来た

 

「「お約束だね」」

 

「ふざけてないで行くぞ」

 

音楽室に入る、夕方なのでいつもより違う雰囲気を感じる

 

「すずか、反応はどうだ?」

 

「ううん、全く反応がないよ」

 

サーチデヴァイスの反応が0%のままだった

 

「ガセだったんじゃないか」

 

「そんなはずはない……とは限らないでしょう」

 

「迷うな」

 

「とは言えこのまま帰るのもなぁ」

 

「なら張り込む?」

 

「いいわよ、刑事じゃあるまいし」

 

「あんまり心配かけたくないんだけどな〜」

 

その時女性の笑い声が聞こえた

 

アハハハ!

 

「ここじゃないんだね」

 

「どうやら半分当たりってところかな」

 

「外れじゃないのかな」

 

「うっうるさい!行ってみるわよ!」

 

「まっ待て!アリサちゃん!」

 

「やれやれ」

 

声がする方向に行った

 

「ここは…」

 

「体育館?」

 

「入ってみよう」

 

体育館の中は薄暗く、よく見えない

 

「教壇のあたりだな」

 

「すずか」

 

「うん、やってみるよ」

 

すずかはサーチデヴァイスを起動させた

 

ファン、ファン、ファン……スーー

 

現れたのは赤い門だった

 

「あたりのようだね」

 

「いったい中はどうなっているんだろうね」

 

「とにかく今は入ってみましょう」

 

俺たちは門の中に入って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…外?」

 

「回廊のようだな」

 

「笑い声のヌシがこの奥にいるはずだよ」

 

「とにかく今は進むしかないな」

 

ラーグとソエルから剣と銃を貰って身につける

 

「フレイムアイズ!」

 

「スノーホワイト!」

 

「「セ〜トッ!ア〜プッ!」」

 

アリサとすずかはデバイスを起動させバリアジャケットを見に纏う

 

「さあて、攻略開始だ!」

 

「任せておきなさい」

 

「頑張ろうね、みんな」

 

「「おー!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲い来る怪異を退けながら最奥に向かった

 

「このギアーズシステムかなりいい感じね」

 

「うん、常に魔力を流さないといけないけど。魔力操作の練習の成果が出ているよ」

 

「俺は剣だけの様だけど、銃は外装だけか?」

 

「ううん、カートリッジシステムが入ってるよ」

 

「ただし、圧縮魔力を弱めた物で、弾数も少ない」

 

「私の特製カートリッジだからムラも無いし」

 

「ムラ?そんなものがあるのか?」

 

「管理局が質量兵器を禁止しているのは知っているよね」

 

「ええ、非殺傷設定ができないからでしょう」

 

「ああ、だから管理局がカートリッジを作ると不完全な物ができてしまう、そしてロードした時に約二、三割の魔力が体に襲う」

 

「そうなんだ」

 

そう話している間は最奥に着いた

 

「周りは毒の水だな、気をつけろよ!」

 

「ええ!」

 

目の前に赤い渦が現れ

 

アハハハハ!

 

エルダーグリードが現れた

 

「こいつが…!」

 

「笑い声の正体!」

 

「妖精型のエルダーグリード…ヘイズフェアリー!」

 

「エルダーはエルダーらしく寝てなさい!」

 

「安心して学校に行くため…大切な日常を守るため!倒させてもらいます!」

 

アハハハハ!

 

レンヤたちはヘイズフェアリーに挑みかかった

 

レンヤが銃で牽制をして、アリサが斬りかかる

 

「フレイムアイズ!」

 

《レディー》

 

「ファーストギア、ファイア!」

 

《ドライブ!》

 

ギアーズシステムは基本3つのギアを順番に動かして魔力を上げる

 

フレイムアイズに組み込んであるマガジン内のギアが回り始めた

 

「やあーーー!」

 

アリサはそのまま斬りつけ、ヘイズフェアリーを吹き飛ばした

 

「すずか!」

 

「任せ……!」

 

すずかが追撃をしようとした瞬間、辺りにこの迷宮にいた怪異が現れた

 

「こいつらは!」

 

「どきなさい!」

 

「っ!みんな!ヘイズフェアリーが!」

 

ヘイズフェアリーが詠唱を始めて、体力を回復させた

 

「そんな…」

 

「こいつら邪魔よ!フレイムアイズ!セカンドギア、ファイア!」

 

《ドライブ!》

 

「みんな!気をつけろ!」

 

「来るよ!」

 

ヘイズフェアリーが光り始めて、3方向の竜巻を起こした

 

「きゃあああ!」

 

「すずか!」

 

「くっ!」

 

すずかが竜巻に直撃してしまった

 

「すずか!大丈夫か!」

 

「うっ…ごめん、みんな…」

 

「これはピンチね…」

 

迫ってくる、グリードたち

 

「どうにかして突破しないと」

 

「くっ!アリサはすずかを連れて逃げろ!俺が殿は俺がつとめる!」

 

「そっそんなレンヤ君!」

 

「できるわけないでしょう!」

 

「やるしか……ないんだよ!」

 

レンヤの体から透き通る様な青い魔力光がほとばしる

 

「これは……!」

 

「レンヤ…もしかしたら!」

 

ラーグが何かに気づき、口から手甲を出した

 

「レンヤ!これを!」

 

「うわ!何これ?これをどうしろと」

 

「契約は済ませてある!後は真名を呼ぶだけだ!」

 

「真名を…呼ぶ?」

 

「その神器に魔力を流して声を聞くんだよ!」

 

とりあえずやってみるレンヤ

 

「……………ユーバ」

 

声を聞くレンヤ

 

「ハクディム……ユーバ」

 

力強く叫ぶ

 

「ハクディム=ユーバ!」

 

手甲が黄色く光り、レンヤに宿る。真上に魔法陣が現れ、手を伸ばしくぐり抜ける。服が白を基調とした物に変わり、所々に黄色の装飾が付いている。左右に固定されていない巨大なアームがあった

 

「……………………」

 

「れっレンヤ君?」

 

「ちょっと、どうしたのよ」

 

レンヤは無言で右腕をあげ、アームを巨大化させて怪異を薙ぎ払った、ヘイズフェアリー以外の怪異を消してしまった

 

「きゃあ!」

 

「何て力なの…!」

 

「やっぱりコントロールできていないね」

 

「ぶっつけ本番だからな、説明もしてねえしな」

 

レンヤはヘイズフェアリーに近づき、アームでヘイズフェアリーを掴んだ

 

「…………………」

 

そのまま握り潰した

 

ヘイズフェアリーは塵と消え、異界が消えた

 

場所は戻り体育館

 

「いってて、今のは…一体……」

 

「ちょっとレンヤ!今のは何なのよ!」

 

「いや、俺にもよくわからん」

 

「ソエルちゃん、ちゃんと教えてくれるよね」

 

「うん、ちゃんとこの力の事を教えるよ」

 

「説明はいつもと同じ、すずかの家でいいか?」

 

「もちろん、迎えの車を呼ぶね」

 

その後、ノエルさんが迎えに来てくれ。そのまますずかの家まで向かった

 

「それで説明してくれるんでしょうね」

 

「この手甲の事と、あの力の事を」

 

「あれはお前の血筋の力だ、その手甲…神器《しんき》を媒介にして。神器に宿っている力を見に纏う事を神衣化《かむいか》って言うんだ」

 

「神衣化…」

 

「血筋ってことは………言っても話してくれないよな」

 

「ごめんね、レンヤ」

 

「いいさ、自分で真実を見つけるんだから」

 

「すまないな、レンヤ」

 

「神器を媒介にってことは他にも種類があるの?」

 

「今回レンヤが使ったのは基本四属性の火、水、地、風のうちの地だ」

 

「基本って事は、まだあるの?」

 

「ああ、今は持っていないが上位四属性の氷、雷、光、闇の4つだ。基本が心だとすれば、上位は力、暴走何て当たり前だ」

 

「地以外にも神器は持っているのか?」

 

「持ってるよ、私が火と風の神器の管理を、ラーグが水と地の神器の管理をしてるの」

 

2モコナがテーブルに手甲以外の神器を出した

 

「弓にナイフに剣…ん?この剣、刃がないな、儀礼剣か」

 

「これ全部レンヤが使えるの?」

 

「そうだぜ、ある事をすればお前らも使えるぞ」

 

「本当⁉︎」

 

「うん、レンヤを主として2人を従者として契約すればできるよ」

 

空気が固まった

 

「いやいやいや、無いって普通逆だろう」

 

「別に本当の主従関係何てないよ、あくまでも形が主従なだけ」

 

「だからって……」

 

「いっいいわよ…別に」

 

「アリサ!」

 

「あんたを守るためよ、それぐらい妥協しなきゃバニングスの名に泥を塗るわ!」

 

「私もいいよ」

 

「すずかまで…」

 

「私はレンヤ君を守りたい、そのための証が欲しいの。ずっと一緒にいるために…!」

 

静かに話すが、迫力がある

 

「はあ〜、いいんだな」

 

「ええ」

 

「うん」

 

「わかったよ、でどうすればいいんだ」

 

「まずはアリサからやるよ、2人とも私の手を握って」

 

言われたとうりにする

 

「本来なら主であるレンヤがアリサに真名を与えなきゃいけないけど、そこは変更させて普通に名前を言えばいいよ。それじゃあ行くよ」

 

ソエルが詠唱を始めた

 

「我が宿りし聖なる枝に新たなる芽いずる花は実に 実は種に 巡りし宿縁をここに寿がん今、……の意になる命を与え、連理の証しとせん答えよ、従士たる汝の名はーー」

 

「ーーーアリサ・バニングス」

 

アリサの上に魔法陣が現れくぐり抜けた

 

「これでオッケーだよ」

 

「……何も変わっていないわね」

 

「神衣化が出来るようになっただけだからね」

 

「次はすずかださっきと同じようにするだけだ」

 

俺とすずかはラーグの手を握った

 

同じように詠唱をして、すずかの上に魔法陣が現れくぐり抜けた

 

「それじゃあこれを」

 

アリサには儀礼剣を、すずかには弓を渡した

 

「魔力を流して真名を聞くんだ」

 

「わかったわ」

 

「やってみるね」

 

2人は目を閉じて神器に魔力を流し始めた

 

「「………………」」

 

集中する2人

 

「…………メイマ」

 

「……………レレイ」

 

「フォエス…メイマ」

 

「ルズローシヴ…レレイ」

 

そして、解放する

 

「フォエス=メイマ!」

 

「ルズローシヴ=レレイ!」

 

神器が光り、2人に宿る。服は俺の時と同じで白を基調とした物で、装飾が赤と青に変わっている

 

「「…………………」」

 

「あれ?アリサ?すずか?」

 

「コントロール出来てないね」

 

「まあ比較的、安全な方か」

 

「これ、上位になったらどうなるんだよ」

 

「まず暴れるな、辺りが確実に更地になる」

 

「………おっそろしい」

 

ちょうどその時、2人の神衣化が解けた

 

「ぷはぁーーー!」

 

「はあ…はあ…」

 

「大丈夫か、2人とも」

 

「きっついはよ、まるで自分の体が乗っ取られているみたい」

 

「うん、神器に意思が宿っているみたいな…」

 

「あながち間違ってないよ」

 

「神器は初代所有者の意思が宿っているからな」

 

「それって危ないんじゃないの?」

 

「神器に組み込まれてる魔法術式が防いでいるから大丈夫だ」

 

「そうか」

 

「後みんなが神衣化を使うにあったての注意事項、コントロール出来るまで無闇に多様しない事。これから練習メニューにコントロールするための修行を入れるからね」

 

「後はこれだ」

 

ラーグが取り出したのは古い銃だ

 

「これはジークフリート、神衣化している時だけ使える」

 

「これがどうかしたの?」

 

「いつか使う時が来るかもしれない物だ、これは力そのものを打ち出しことができる」

 

「それだけなの?」

 

「打ち出す条件が、全魔力と自分の精神だ」

 

「危ねーじゃん」

 

「そう、使い道が限られているからね。主な目的は繋がりを断ち切ること」

 

「繋がりを……断ち切る?」

 

「そうだよ」

 

「本当に使い道ないわね」

 

「一応教えておいた方がいいからな」

 

「とにかく、俺たちが今できる事をやろう!」

 

「やってやるわ!」

 

「みんなで力を合わせれば出来ない事なんてないよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ…因果が交わるかもしれない」

 

「間に合わないかもしれない、雲が……動くぞ。」

 



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A's編
19話


 

 

フェイトたちと別れてから半年がたち今は冬。ビデオメールで連絡を取り合っていたりもした。フェイトにアリサとすずかとリニスを紹介する事にもしたり、ビデオ越しでも友だちが増えて欲しかった。アリシアもプレシアさんも元気そうだった、近々こちらに移り住むようだ。時々はやてたちとも会っていたが、ここ最近都合がつかなくなってあまり会えないでいた。この前久しぶりに会ったが、最近よくシグナムさんたちが出掛けているらしい。日に日に寒くなるこの海鳴、海も空もいつもと同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、帰り道ーー

 

すずかは用事で図書館に行っており、なのはとアリサは家に帰っていた。俺は先生に手伝いを頼まれてしまい、思ってた以上に時間がかかり外はすっかり夜だ。

 

「お母さんたちに連絡して置いてよかった、なのはの伝言だけじゃ心許なかったからな」

 

「伝言するよりも、電話すればよかったんじゃないの」

 

「携帯を持たせてもらったんだから、それを使えよ」

 

そう2カ月ほど前に持たせてもらったのだ、しかしまだ使い方がよくわからず、なのはによく教えてもらってたりする。

 

「もうお前が高町家に来て2年半、いい加減わがままの1つくらい言ってもばちは当たらないぞ」

 

「携帯の事だってそう言う事なんだよ、もっと甘えなさいって」

 

この携帯は持たされた……の方が正確だった。

 

「この学校に行かせてもらっている時点でもう充分だよ、俺は中学を卒業したらミッドチルダに行く、そうじゃなくても家からは出て行くつもりだ。今は出来るだけ親孝行をしなきゃ」

 

「レンヤ…」

 

「頑固者め」

 

ーーーーー♪

 

その時、携帯が鳴り始めた。開くとなのはだった。

 

「もしもしなのは、今帰っているところだ」

 

「あっそうなの!早く帰って来てね!」

 

「わかったよ」

 

「後お母さんがーーーー」

 

途中で声が途切れ、ノイズが発生した。

 

「なのは?もしもし、なのは!」

 

「どうかしたの?」

 

「いきなり電話が切れて………圏外?」

 

「圏外って事はないだろ」

 

「でも実際に……!何、この空……」

 

何気なく上を見ると明らかに空の色が違う。

 

「これは……結界!」

 

「レンヤ!構えて!」

 

言われるがまま剣と銃を身に付け、右手に剣、左手に銃を持つ。

 

「何が起きてんだ」

 

「来るぞ!」

 

上から何かが降ってきて攻撃してきた、咄嗟に防ぎ相手を確認する。

 

「えっ、シグナムさん?」

 

「すまないレンヤ……お前の魔力、貰うぞ」

 

謝罪を言った後、いきなり持っていた剣で斬り掛かってきた。

 

「シグナムさん!やめてください!」

 

「はああああ!」

 

「くっ!」

 

振り下ろされる剣を受け止める、やっぱり重い!

 

「っ!話しを聞いてください!一体何があったんです!」

 

「話す事はない!」

 

剣を弾かれ、吹き飛ばされる。

 

「レンヤ!攻撃しろ!」

 

「シグナムさんにできるわけないだろ!」

 

「でもレンヤ!このままだとやられるだけだよ!」

 

「くそっ!」

 

「ハアッ!」

 

シグナムさんの突進と同時に振り下ろされる剣を避ける。

 

「まだだ!」

 

迫ってくる連続の斬撃、強いのは知っていたけどここまでなんて。それ以前に……

 

「シグナムさん、魔導士だったんですね!て事は他の2人も…」

 

「ああそうだ!」

 

下から来る剣を避けて銃を撃つも空中に避けられる。

 

「はあ!」

 

体を強化し、地面を思いっきり蹴って近づき斬るも弾かれ。そのまま空中に立つ。

 

「やるようだな………レヴァンティン!」

 

《エクスプロージョン》

 

刀身の付け根の一部がスライドして、薬莢が舞い刀身が炎を纏う。あれは!

 

「紫電………一閃‼︎」

 

速い!避けられない!なら……

 

「ソエル!神器を!」

 

「了解!」

 

ソエルの口から儀礼剣の取っ手が飛び出し……

 

「フォエス=メイマ!」

 

神衣化をし、剣を巨大化させ防ぐ。

 

「何!」

 

「炎壁、推現!カラミティフレア!」

 

地面から迫る巨大な炎の壁が現れ、2人を分断する。神衣化を解きそのまま物陰に隠れた。

 

「くっ!どこに消えた!……やはり魔力を感じられないか」

 

シグナムさんの足元に三角形の魔法陣が現れ……転移した。

 

「はあ、行ったか」

 

危機を脱し、脱力する。

 

「シグナムさん……なんで」

 

「レンヤ!それよりも都市中心部にシグナムとヴィータがいるよ!」

 

「また襲っているみたいだな」

 

「……!止めないと!こんなことやめさせる!」

 

「アリサたちの連絡しないのか?」

 

「後で話す!」

 

空中を駆け抜け、急いで向かった。

 

「ギアーズシステム……起動!」

 

キッイイイィィィィンッ……

 

双剣に組み込まれていたギアが回り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギアーズシステムをサードギアまで作動させ、目的地にたどり着く、ビルの屋上そこに。

 

「フェイト……」

 

海外にいるはずのフェイトが倒れていた。

 

「うう、レン…ヤ…」

 

「大丈夫か?…それに魔導士だったんだな」

 

「……うん、ごめん」

 

「お互い様だ」

 

「……レンヤ、なのはを!」

 

「なのは?」

 

辺りを見渡すと……見つけた、白い服を着て、杖を構え魔力を集めているなのは。

 

「そうか……そう言う関係だったのか」

 

半年前のなのはの行動、ようやく納得した。

 

「全く、このペンダントのせいだぞ」

 

「ごめんね、レンヤ」

 

「そうするしかなかったんだ」

 

「………また説明されてなかった」

 

「……!レンヤ!なのはが!」

 

なのはを見ると、胸から手が飛び出していた。

 

「なのはーーーー!」

 

全力でなのはの元に向かい、手に向けて斬りかかるが手が消えて避けられる。

 

「なのは!なのは!」

 

「レン……君?」

 

「ああ俺だ!レンヤだ!」

 

「なんで……ここに?」

 

「それよりも大丈夫か!リンカーコアが……!」

 

異変を感じて飛び退くと、さっきまでいた場所にまた手が飛び出していた。

 

「今度は俺か!なのは、待っててくれ!」

 

なのはを横たえ、シグナムさんの元に向かう。

 

「見つけた!」

 

シグナムさんを視界にとらえ、ギアの回転数を上げて魔力を高める。

 

「シグナムーーーー!」

 

「何!」

 

剣を落下の勢いも入れて振り下ろす。突然の飛来に難なく対応するシグナム。

 

「やっぱり!ヴィータにシャマルさん、ザフィーラまで!なんでこんな酷いことを!」

 

「くっ!魔力が上がっている⁉︎」

 

「シグナム!」

 

後ろからヴィータがハンマーを振るう。

 

右手の剣を、硬化魔法で座標固定!左手の剣を攻撃が当たる瞬間に固定!

 

ガキィンッ!

 

「何!」

 

「嘘だろ!」

 

片手で2人の攻撃を防いだ事に驚き、すぐさま剣から手を離し銃でカートリッジロードして魔力弾をぶつける。

 

「チャージショット!」

 

2人を引き飛ばしシグナムの方を追撃する。

 

「なぜあなたの様な人が!こんな非道なことを!」

 

「……!主を助けるためだ!」

 

避け、防ぎ、斬りかかる、上空で幾度となく繰り返えされる。

 

「主の為?」

 

この事件の理由が主を助けるため?ならもっと……

 

「ふざけるな!」

 

魔力を足下に向かって放出し、一気に詰め寄る。

 

「なんだと!」

 

「あなたの剣は知っている!真っ直ぐで力強く、まさしく主を守る為の剣だ!でも……」

 

攻撃させる暇も与えず、怒涛の攻撃をする。

 

「今のあなたは何だ!主を助けるためと言っておきながら、どこか迷っていて剣を鈍らせる!」

 

双剣についているギアが壊れるくらいに回転する。

 

「主の救う為ならなんでもする!しかしあなたは迷っている、そんな剣で俺が倒せると思うか!」

 

剣を払い除け、蹴りを入れる。

 

「ぐあ!」

 

「お前に何が分かるんだ!」

 

狼が銀髪の褐色肌の男性になって、突っ込んでくる。

 

「ザフィーラ⁉︎犬じゃなかったの⁉︎」

 

「私は盾の守護獣だ!」

 

「ええ⁉︎」

 

突進を避けて、斬りかかるが障壁が邪魔した。

 

「盾の守護獣を名乗るだけはある」

 

「当然だ!」

 

スピードとパワーがこっちが有利、なら手はある!

 

「おおおおおお!りゃあああ!」

 

剣に渾身の魔力を込めて、障壁に突き刺さる。

 

「やるな、だが……!」

 

剣の柄に銃口を当て、撃つ!

 

「ぐっ!」

 

剣は障壁を貫きザフィーラに当たるも、防がれる。上空の飛んだ剣を回収してたら……

 

ーーズガアアアアアアアアアアアアン‼︎‼︎

 

後ろを見ると、桜色の光の柱が昇った……何あれ?

 

「なのはだね」

 

「嘘だろ!あれなのはがやったのかよ!て言うかあんな体で無茶しやがって!」

 

「でも結界は壊れたぞ、アリサたちに念話で連絡しろ」

 

「そうだな……!」

 

下からヴィータがハンマーを振るってきた!

 

「あっぶね!だからやめろってヴィータ!」

 

「うるせい!はやての為にお前の魔力をよこせ!」

 

「……!今なんて……!」

 

その時、防御と空中に立っていることで急速に魔力が減って行き……

 

「っ……うわああああああ!」

 

魔法が消滅して、支えがなくなり上空に吹き飛ばされてしまった。徐々に勢いがなくなり落下を始めた。

 

「このままじゃ地面に真っ赤な花が咲くな」

 

「冗談言うな!ソエル!ソエルーー!」

 

「了解!モコナ・モドキのドッキドキ〜!ハーーフ〜!」

 

落ちながら魔法陣が現れ俺たちを包み込む。

 

「ハーーパクッ!ポーン」

 

ソエルが俺たちを飲み込み、魔法陣に落ちた。

 

「逃したか」

 

「私たちも帰るわよ」

 

「……わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう…レン…君」

 

「レンヤ…」

 

《マスター》

 

《サー》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移が終わると噴水に落ちた。

 

「ガボガボガボ………プハァ!」

 

噴水から出て辺りを見渡す、どこかの施設の様だ。

 

「ここは……どこだ?」

 

「レンヤ、空を見上げてみろ」

 

「ん?……これは!」

 

水を払いながら空を見上げると複数の月の様なものがあり、まるで異世界に来た様だ。

 

「ミッドチルダだね、ここ」

 

「ミッドチルダ⁉︎」

 

俺の……出身地…ここに両親の手がかりが……

 

「ーーーお前は何者だ?」

 

声をかけられ、後ろを見ると銀髪の女性がいた。

 

「えっとあなたは?」

 

「ああそうか、私は教会騎士団団長のソフィー・ソーシェリーだ」

 

「私はモコナ・ソエル・モドキだよ」

 

「俺はモコナ・ラーグ・モドキだ」

 

「神崎 蓮也です。それで教会騎士団と言うのは?」

 

「それもわからないか、ふむ…ここはミッドチルダ北部に位置するベルカ自治領の中にある聖王教会だ」

 

「聖王?」

 

「何もわからないのか………!」

 

ソフィーさんが俺を見て驚いている。

 

「少年……君の額の痣はいつからある?」

 

水に濡れてリボンが乱れていて額の痣が見えていたようだ。

 

「……?物心ついた時からです」

 

ミフィーさんは考え込んだ。

 

「…………まさか、しかしそれなら守護獣の説明も………」

 

「あの、ソフィーさん!」

 

「ああすまない、ならここまで来た経緯を説明してくれないか」

 

ここまで来た経緯を説明した、ここはミッドチルダなので魔法の説明もできた。

 

「なるほど、それでここに来たわけか」

 

「はい」

 

「ならば、今日はここで休むがいい夜も遅い、部屋を用意しよう」

 

「ええ!そこまでしなくても……」

 

「路頭に迷う少年を見過ごせるわけない」

 

「ソフィーさん」

 

初対面で俺を男と見抜き、ここまでしてくれるなんて。男前ですソフィーさん。

 

「それじゃあお言葉に甘えて」

 

「話は通しておく……それと」

 

ソフィーさんはラーグとソエルを見て……

 

「聞きたいことがあるから、ついてきてもらえるか」

 

「いいよ」

 

「すぐに戻る」

 

「……わかった」

 

「そこの道を通れば正門に出られる、そして向かって左側にあるのが本館だ。中に入れば係りの者が案内してくれる」

 

「ありがとうございます、ラーグ、ソエルまた後で」

 

ソエルたちと別れて言われたとうりに行くと目的の場所に着いた。中に入ると受付に教会のシスターさんがいた。

 

「すみません、ソフィーさんの連絡が来てますか?」

 

「あっはい来てますよ、あなたが神崎 蓮也さんですね。お部屋に案内します」

 

案内された部屋はベットと机がある簡素な部屋だった。

 

「それでは、失礼します」

 

「ありがとうございます」

 

部屋に入りベットに倒れこむ、今日一日いろんなことがありすぎた。知り合いのほとんどが魔導士だったなんて。

 

(ペンダントがなかったら…変わっていたのかな)

 

魔力切れの疲れもあり、すぐに寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、あなたたちはあのモコナ・モドキでいいのですね」

 

「そうだ」

 

「お目に書かかれて光栄です、時空の守護獣よ」

 

「レンヤの事は内密にお願いできる?」

 

「……本来なら即刻報告しなければなりませんが、確証がないので報告はしません」

 

「ありがとう」

 

「できれば滞在中はレンヤを鍛えてやってくれ」

 

「あの方の末裔の指導ができるなど光栄の極みです」

 

「そう堅苦しくしなくてもいいから」

 

「怪しまれるからね」

 

「……はい」

 

 



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20話

 

 

次元空間航行艦船アースラ、会議室ーー

 

そこになのは、フェイト、アルフ、クロノ、プレシア、リンディ、エイミィ、ユーノ。アリシアは見ているだけ。そしてなのはがフェイトに言われて連れてきた猫のリニス。

 

「みんな揃った事だし会議を始めます。まず初めに今回の事件はうちで担当することになりました。今回の事件の襲撃者は闇の書の守護騎士たちと思われます」

 

フェイトたちの視線がリニスに突き刺さる中、会議は始まった。

 

「闇の書の守護騎士?」

 

「またロストロギア関係か?」

 

「アルフの言う通り、ロストロギア闇の書だ。彼女たちは人間じゃない、闇の書のプログラムだ。やつらの目的は闇の書の完成」

 

「どうやって完成するの?」

 

「闇の書には蒐集機能があって、魔力を蒐集すると本の項目が増えていって全部で666ページ埋められる」

 

「666ページ……埋まるとどうなるの?」

 

「不明だ……管理局は今で完成させなかったからな」

 

「とりあえずそう言う事よ。それで今回はなのはちゃんの世界で彼らは蒐集作業している事と、なのはちゃんの保護の為にアースラではなく地球を拠点にしたいと思いま〜す」

 

「えっ?」

 

「ちなみに場所はなのはちゃんの家の近くで〜〜す」

 

「本当⁉︎」

 

「うん!そうだよ、なのは!」

 

なのはとフェイトが嬉しそうに抱き合った。

 

「コホン、話しを戻そう。まず、彼女たちが使っていた魔法なんだが………」

 

「そういえば、見た事ない魔法陣だったね」

 

「あれはベルカ式の魔法だ」

 

「ベルカ式?」

 

アルフは首をかしげる。

 

「ミッド式とは異なる魔術体系だ。汎用性に優れたミッド式とは違って対人戦闘に特化しているんだ。この体系の最大の特徴はカートリッジシステムを搭載している事だ」

 

「カートリッジシステム?」

 

「予め溜め込んでおいた魔力を使って瞬間的に魔力を高める方法だよ。それによって一時的に魔法の威力を底上げするの」

 

「そうか……だから私の障壁もあっさり破られちゃったんだね」

 

「対抗策はあるのか?」

 

「目下のところ捜索中だ。エイミィ、2人のデバイスの状況は?」

 

「損傷が酷かったからね、修理中だね」

 

「よろしくお願いします、エイミィさん」

 

「バルディッシュを頼みます」

 

「任せて!」

 

「それじゃあ、次は……」

 

みんなの視線がリニスに向けられる。

 

「リニス…なんだよね」

 

「…………………」

 

リニスが光り、そこに現れたのは猫耳をつけた女性だった。

 

「えっ、ええええええええ⁉︎リニスが……女の人に……!」

 

「今まで黙ってすみません、なのは」

 

「リニス、やっぱリニスなんだね!」

 

「はい、あなたの知っている使い魔のリニスです」

 

「リニスーーー!」

 

「リニス!リニスだ!」

 

「本当に…リニスなのね…」

 

フェイト、アルフ、アリシア、プレシアがリニスに抱きつく。

 

「良かった…本当に良かった…」

 

「はい、これから説明しますので落ち着いて下さい」

 

そう言って全員席に着く。

 

「私はフェイトの教育を終え、プレシアに契約を切られてただ消滅するのを待つだけでした。適当な場所で消滅を待っていたのですが、その時レンヤに会い助けられました」

 

「君は半年前に現れたんだろ、その間どうしてたんだ?」

 

「助ける方法がその……ラーグの中でレンヤと契約をして魔力を補充することでした」

 

「ラーグ君の……中?」

 

「簡単に言うとラーグに食べられました」

 

「うわぁ……」

 

「コホン、レンヤに気付かれないよう契約をし回復するのに時間がかかりました」

 

「そうか」

 

「それでレン君は何者なの!」

 

「レンヤはあなたと同じ、魔導師です」

 

リニスはなのはに説明をしたペンダントのこと、ラーグとソエルのこと、レンヤのことを。

 

「そんな事って……」

 

「レンヤも今までなのはが魔導士という事も知りませんでした、そう簡単に話せることでもありませんでしたから……」

 

「なのは……」

 

「……みんなは知っていたの」

 

「ユーノ以外はな、ラーグとソエルがプレシアとアリシアを救う時に教えてくれた」

 

「ラーグに口止めをされていたから、どうしても話すことはできなかったんだ」

 

「なのはちゃんを除け者にしようとしたわけじゃないんだよ」

 

「……わかったの……でも一つだけ聞かせて」

 

「……なんでしょう」

 

「この事はお父さんたち、それとアリサちゃんとすずかちゃんは魔法の事を知っているの?」

 

「……ご家族は美由紀さん以外知っています。アリサさんとすずかさんは……魔導師です」

 

「っ……!」

 

「それってつまり…」

 

「はい、レンヤと同じペンダントを持っています。今回の事件も気がついていないでしょう」

 

「でも魔導士なら守護騎士の標的になる、事情を説明して……」

 

「やめて!」

 

これ以上言わせないように、なのはが声を荒げる。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんは私が守る!だから巻き込まないで!」

 

「………わかった、でも家族には説明するぞ」

 

「………わかったの……」

 

「なのは、レンヤたちも今のあなたと同じ気持ちで巻き込みたくなかったから、魔法の事を黙っていたのですよ」

 

「……うん、わかっているの」

 

「なのは……」

 

「そ、それじゃあ会議は終わり。なのはちゃん、ゆっくり休んでね」

 

「……ありがとうございます」

 

その後、リンディが事情を説明して。レンヤは家庭の事情という名目で学校を休むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあああ〜〜よく寝た」

 

「随分と遅いお目覚めだな」

 

「もうすぐお昼だよ」

 

「えっマジ」

 

カーテンを開けて外を見ると、陽が真上にあった。

 

「ええええ!ヤバイ!遅刻だ!早く着替えて……」

 

そこで気がついた、部屋が自分の物でないことが。

 

「………あっそっか、ここミッドチルダだ」

 

「寝坊助め」

 

「魔力の枯渇で長く寝ちゃっててんだね、早く顔を洗って!ソフィーが朝食……いや昼食を用意しているから」

 

「わかった」

 

顔を洗い、ソエルに案内されて食堂に着いた。

 

「へえ〜これが食堂か〜、いつも弁当だしこう言う施設にも来たことないからな〜」

 

「あっ!ソフィーがいたよ!早くご飯食べよう!」

 

「奢ってもらう癖に図々しいな」

 

「細かい事は気にするな」

 

昼食を食べてるソフィーさんの所に行った、端っこにいて周りに誰もいなかったが。

 

「ソフィーさん、おはようございます」

 

「レンヤか、もう朝はとっくに終わっているぞ」

 

「ははは、バカみたいに寝すぎました」

 

「いやいいさ、魔力枯渇による睡眠だ、気にする事はない。食事を奢ろう好きなものを頼むといい」

 

「私!オムライス!」

 

「酒はあるか?」

 

「少しは遠慮しろ!それと酒なんかあるわけないし飲ませるわけないだろ!」

 

「ふふふ」

 

「あっすみません、呆れちゃいましたか」

 

「ああ、そうだな。オムライスと…定食を2つでいいか?」

 

「お願いします」

 

ソフィーさんは注文をしに席を立った。

 

「少しは自重しろよラーグ」

 

「ちょっとしたジョークだ」

 

そういうが、コイツはよくお父さんと酒を飲む仲だ。

 

「おい、ちょっといいか」

 

「はい!なんでしょう?」

 

前に騎士みたいな格好をした男性がいた、教会騎士団って言うのがあるから当たり前か。

 

「………ソフィー隊長とどう言う関係なんだ………」

 

「…はい?」

 

小声でそんな事聞いてきた。

 

「そうよ!どう言う関係なの!」

 

「笑ったことのある隊長なんて初めて見たんだぞ!」

 

「そこを是非詳しく!」

 

他の騎士の人やシスターの人たちに質問責めにあう。

 

「えーと、あのそんなに珍しいんですか」

 

「もちろんよ!」

 

「笑う事はおろか、一緒に食事を取ることすら難しい……!」

 

ああ、だからソフィーさんの周りに誰もいなかったんだ。

 

「……何をしている」

 

「ソフィーさん」

 

「た、隊長……」

 

ソフィーさんが食事を持って戻ってきた。

 

「あまり騒がしくするな……散れ」

 

「「「「了解です!」」」」

 

統率の取れた敬礼で去っていく。

 

「ふう、騒がしくしてすまないな」

 

「いえ、ソフィーさんは皆さんに慕われているんですね」

 

「見ての通りの堅物で近寄りがたいがな」

 

「そんなことないですよ、ソフィーさんは優しい人です」

 

「っ……黙って飯を食え!」

 

「はっはい!」

 

すごい剣幕だ。

 

「照れてるね」

 

「黙らないと膳を下げるぞ」

 

黙って昼食を取った。

 

「それでレンヤよ、そのヴィータと言う人物に負けたのだな」

 

「いや負けたと言うより先に魔力が切れたんですよ」

 

「実質負けだな」

 

「………はいっ」

 

有無言わされず、否定された。

 

「それで提案があるのだが、レンヤよ私の教えを受けてみないか」

 

「それってつまりソフィーさんの指導を受ける…と言う事ですか?」

 

「そうだ、お前の欠点を治せるかもしれない」

 

「……デバイスを持つ事じゃないですよね」

 

「見ず知らずの人間に渡せるほど、聖王教会も心は広くない。あくまで指導するだけだ」

 

「………わかりました、数日間だけなら」

 

「結構、では早速始めよう」

 

「はい!お願いします!」

 

そう言って食堂を出て行った。その後食堂では……

 

「今の聞いたか?」

 

「ああ、あの子隊長の地獄の特訓を受けるみたいだぞ」

 

「大丈夫かしら、あの子」

 

「隊長はお優しい方だ、手加減してくれる……はず」

 

「数日後どうなるのかな」

 

団員とシスターたちは戦慄を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後ーー

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「ふむ……こんなものか」

 

ソフィーさんがこんなスパルタだとは思わなかった。この数日間、ひたすら体力の向上、筋力強化をやっていた。騎士団の訓練にも混ざったりして、皆さんと仲良くなったりもした。男だって言ったら驚いていたけど。

 

「ほら起きろ、今日戻るのだろう」

 

「……むしろ最終日まで……特訓とは……思って……いませんでしたけど」

 

「ふふそうか、これで指導は終わりだ休んだ後荷造りをして最終課題だ」

 

「普通最終課題をやってから荷造りですよね」

 

「……黙ってろ」

 

う、相変わらずにすごい剣幕。その後荷造りをして、お世話になった人たちに挨拶してまわり。最終課題のため訓練場に立っている。

 

………周りに荷物置いて最終課題ってどういう事?ラーグとソエルもいるし。騎士団やシスターさんたちも周りにいるし、かなり恥ずかしい。

 

「それでは最終課題を始めよう、レンヤよリンカーコアに魔力を集中しろ」

 

「はい」

 

言われた通りにする、目を閉じリンカーコアに魔力を集中させる。なんだろうこの感じ、魔力光が変わってくる感じ。

 

「そのまま魔力を解放しろ!」

 

魔力を解放!あれ?体が軽くなっている?目を開けると……虹色が見えた

 

「なっなにこれ!」

 

これ俺の魔力光!青のはずでしょう!見える景色もいつもより鮮烈だし。

 

「ソエル!」

 

「了解!モコナ・モドキのドッキドキ〜!ハーフ〜!」

 

「ちょっとソエル!いきなりなに!」

 

「レンヤ、今は静かにしていろ」

 

ラーグがいつもと違う。周りの皆さんも騒がしくなっているし、言われるがままにして、魔法陣に包まれていく。

 

「レンヤ!」

 

「っ!はい!」

 

「勝てよ!」

 

「……はい!」

 

ソフィーさんに激励をもらい。

 

「ハーーパクッ!ポーン!」

 

ミッドチルダから去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長!今のはまさか!」

 

「お察しのとうりだ」

 

「て事はレンヤちゃんは…」

 

「ああ、やつは8年…いや、そろそろ9年前か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「9年前、元聖王アルフィン・ゼーゲブレヒトとその夫と共に消えた2人の息子で、今の聖王家では誰も持っていない虹色の魔力光と聖王の証がある者さ」

 

 

 

 



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21話

 

 

「ふう、戻ってこれたのか?」

 

「ここは裏山だな、ほら家が見える」

 

降ってきたソエルをキャッチしながら言われた方向を見る。

 

「本当だ」

 

「レンヤ、日付はどうなっているの」

 

「待ってくれ、今サイトで見るから」

 

携帯の扱いに慣れてないため時間がかかった。

 

「えーと、出た。日付は……うんミッドチルダと同じくらい経っているみたい」

 

「なら帰ろうぜ」

 

「なのはを安心させなきゃ」

 

「わかっているよ、ただお母さんたちになに言われるかが怖いな」

 

愚痴りながら家に向かって下山した。家の前に立ちインターホンを押そうとするも、指が進まない。

 

「早く押しちまえよ」

 

「心の準備をさせてくれ」

 

深呼吸をして落ち着く。

 

「よし!」

 

「いっけー!レンヤ!」

 

もう一度インターホンを押そうとするも……指が進まない。

 

「押せよ!」

 

「この後起こる事件に心が追いつかない」

 

「えい!」

 

ソエルがインターホンを押した。

 

「ちょっとソエル!まだ準備が出来てない!」

 

「永久ループを止めただけだよ」

 

く、ヤバイお母さんが近づく音が聞こえる。どこかに隠れないと…

 

「はーい………あら?」

 

「ええと?ただいまお母さん」

 

「…………………」

 

お母さんはなにも言わず抱きしめた。

 

「お母さん?」

 

「どこに行っていたのよ、心配したんだからね」

 

「ごめん…ただいまお母さん」

 

「おかえりなさい、レンヤ」

 

「私もいるよー」

 

「忘れちゃあ困るぜ」

 

「ふふ、おかえりなさいラーグ君、ソエルちゃん」

 

嬉しそうに笑うお母さん、よかったこれで……

 

「それじゃあレンヤ、今からお話ししましょうか」

 

……逃げられなかった。

 

「ふふ、なのはが帰ったらどうなるでしょうね」

 

やめて!追い打ちかけないで!その後お話しされてしまった。夕方になり俺の意識が戻った。

 

「はっ!ここはどーこ、レンヤさんはだーれ?」

 

「なにバカな事を言っている」

 

「痛っ!」

 

振り向くと恭弥兄さんと美由希姉さんがいた。

 

「あ、ただいま〜」

 

「はー、説明は後で聞くとしてあまり心配させるな」

 

「ごめんなさい…」

 

その時美由希姉さんが抱きしめてきた。

 

「ね、姉さん?」

 

「全く、なのはの様に心配させないで」

 

「……ごめんなさい」

 

目尻に涙を浮かべながら抱きしめてくる姉さん。

 

「うん、許す!」

 

先程と打って変わり笑顔になる。

 

「それでソエルちゃんとラーグ君がしゃべるとはね〜」

 

「これからよろしくね美由希」

 

「よろしく頼むぜ美由希」

 

「うん、よろしくね、2人とも」

 

「「2人じゃないよ(ぞ)!モコナの数え方は1モコナ、2モコナだ(よ)!」」

 

「えっそうなの?」

 

「こいつらが勝手に決めているだけだよ」

 

その時、玄関が開く音が聞こえた。

 

「なのはが帰ってきたのか」

 

「レンヤー、覚悟しておきなさい」

 

「ぐっ」

 

扉が開かれ、なのはがいた。

 

「レン……君?」

 

「えっと……ただいま、なの……」

 

言い終わる前になのはが飛び込んできた。

 

「おっと、なのは?」

 

「ぐす、今まで……どこ行ってたの……」

 

「……半年前と同じだよ、俺もなのはの事が心配でしょうがなかった」

 

「本当?」

 

「もちろん、でもごめんな魔導士の事黙っていて」

 

「それこそ私も同じだよ」

 

「なのは……」

 

「レン君……」

 

「…………コホン」

 

「「!」」

 

パッと離れる2人。

 

「えーいい雰囲気の所悪いのですが」

 

「恭弥ちゃんがご立腹です」

 

「……………………」

 

無言で睨まないで下さい、怖いです。

 

「はあ、大丈夫かなのは」

 

(あのまま近づいてたら…き、きききっキスを!レン君と……えへへ)

 

「おーい、なのはー」

 

「完全に乙女の顔ね」

 

「ぷぷぷ、面白いね」

 

「見ていて飽きないな」

 

「…………俺は認めんぞ」

 

そんな事もあり、お父さんも帰って来た後事情を説明して。無茶だけは絶対にしないと約束した。自室に戻り、ベットに倒れこむ。

 

「はー久しぶりの我が家だ」

 

「そこはかとなく落ち着くよ」

 

「明日もある、早く寝ようぜ」

 

「そうだな」

 

学校の為の身支度を済ませて、寝ようとした時ドアがノックされた。

 

「レン君、起きてる?」

 

「なのは?入っていいぞ」

 

入ってきたなのははパジャマ姿で枕を持っていた。

 

「えっとレン君、今日は……一緒に寝てもいいかな?」

 

「え!ええとー……」

 

どうしようか考え込むレンヤ。

 

(心配かけたからな)

 

「いいぞ」

 

「……!ありがとう!レン君!」

 

明かりを消してベットに入る。

 

「こうして一緒に寝るのも久しぶりだな」

 

「うん、1年振りくらいかな」

 

そこから沈黙が続いた。

 

「あれから襲って来たやつらにはあったのか?」

 

「ううん、まだ一度もデバイスもまだ直っていないから」

 

「そうか無茶だけはしない様にな」

 

「うん、お母さんとの約束だもん」

 

また沈黙が続く。

 

「レン君」

 

「なんだ」

 

「レン君は…いつかこの家を出て行くの?」

 

「えっ」

 

突然の質問に驚く。

 

「ソエルちゃんから聞いたの、中学を卒業したらミッドチルダに行って両親を探すって、そうじゃなくても家から出るって。なんで今更親孝行なんて…どうして改まって言うの?」

 

「……………………」

 

「レン君」

 

「………ああ…俺はこの家を出て行くつもりだ」

 

「!」

 

「だってそうだろ、本来俺がこの家に居るのは両親を探すたの条件として住んでいるだ、でもこの2年間何の手がかりも無くただただ時間が過ぎていった。俺はミッドチルダ出身だった…当然手がかりなんて無かった、これ以上お父さん、お母さんにも、恭弥兄さんや美由希姉さん、もちろんなのはに迷惑はかけたくないんだ」

 

「…………………」

 

「だから、どうか分かって欲しい。…家を出たとしても海鳴にはたまに顔を出すつもりだ。お父さんとお母さんにだってここまで育ててもらった恩はずっと……」

 

「……分かってない」

 

「え」

 

「レン君、ぜんぜん分かってない……」

 

なのはが体に抱き着き強く抱きしめる。

 

「お父さんの気持ちも………お母さんの気持ちも………」

 

なのはの顔を覗き込む、目に涙を浮かべていた。

 

「私の気持ちも………」

 

「なのは……」

 

「レン君に……レン君にとってここは出て行く様な場所なの…!私たちは家族じゃないの…!」

 

「…………………」

 

「レン君は胸を張ってそれが逃げじゃないって、本当に言い切れるの…!」

 

「…………………!」

 

「私は………レン君に……ずっと……ここに……いて欲しいよぉ」

 

なのはは泣いてしまう。俺はなのはを抱きしめて。

 

「………ごめん………本当に………ごめん…」

 

自分の過ちに気づきただ謝った。

 

「俺は……ここにいるよ……ずっと…なのはの側にいるよ」

 

「……ふえええぇぇぇぇぇん‼︎」

 

大声を出して泣き始めたなのはを優しく抱きしめ泣き止むまでずっと…頭を撫で続けた………

 

そのまま俺たちは眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の向こうでは。

 

「ラーグ」

 

「ソエルちゃん」

 

「士郎に桃子か」

 

「起こしちゃったかな」

 

「ううん、大丈夫よ」

 

「2モコナとも盗み聞きは良くないぞ」

 

「お互い様だ」

 

「ふふ、そうね」

 

雰囲気が暗くなり。

 

「私は、本当の意味でレンヤの気持ちを分かってなかったのだな」

 

「それはレンヤも同じだよ」

 

「あの子は、今まで自分を押し殺して頑張ってくれた。私は…それに正しい答えをあの子にあげられなかった…」

 

「桃子たちは頑張っているよ」

 

「それでも…!あの子を…救ってあげられなかった…!」

 

桃子は涙を流す。

 

「私も同じさ…レンヤの両親を探す事を……諦めていた……最後まで味方になれなかった…!」

 

「士郎、仕方ないさ。レンヤはミッドチルダ出身、分かってくれる」

 

「私は……あの子を…裏切ってしまったのだ……!」

 

士郎は自分の不甲斐なさに怒りを覚える。

 

「士郎…」

 

「なら、やり直せばいいじゃない」

 

「俺たちには、まだ時間がある」

 

部屋から恭弥と美由希が出てきた。

 

「恭弥……美由希……」

 

「あなたたち……」

 

「私たちは今日、本当のレンヤとなのはを知った」

 

「そこからまだ、やり直せる」

 

「桃子、士郎、だから諦めないで」

 

「お前たちが挫ければあいつらはどうする気だ」

 

「「……………………」」

 

桃子は涙を拭い、士郎は頬を叩く。

 

「そうね、私たちがしっかりしないとね!」

 

「まだ諦めるのは早いな」

 

「その意気だよ!お父さん、お母さん!」

 

「俺も協力する」

 

「私も!私も!」

 

「言わずもがな、だぜ」

 

「みんな……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

「う、うん……」

 

元に戻ったベットの感触が自分の部屋だと認識させる。

 

「っ……うん?」

 

体が動かない、下を見てみると……

 

「すう……すう……」

 

なのはが俺に抱きついていた。

 

(ああ、そうか……あのまま寝ちゃったのか)

 

目尻を見ると赤く腫れていた。

 

「ごめん……なのは……」

 

そのまま頭を撫でる。

 

「………レン……君…?」

 

「おはよう、なのは」

 

「………にゃあ!」

 

抱きついた恥ずかしさに飛び退く。

 

「ありがとう、なのは」

 

「にゃ?」

 

「おかげで目が覚めた、本当にありがとう」

 

「え、あ、うん///」

 

顔を赤くするなのは、風邪か?

 

「それじゃあ!また後で!」

 

「分かった」

 

なのはは自分の部屋に戻って行った。その後、俺も久しぶりの制服を着て準備を済ませた後、下に向かった。テーブルにはなのは以外のみんながいた。

 

「おはよう、お父さん、お母さん、恭弥兄さん、美由希姉さん」

 

「おはようレンヤ」

 

「よく眠れたかい?」

 

「おっはよーレンヤ」

 

「……ネクタイが曲がっているぞ」

 

そう言い恭弥兄さんはネクタイを直してくれた。

 

「ありがとう、恭弥兄さん」

 

「みんな、おはようなの!」

 

「「「「「おはよう、なのは」」」」」

 

なのはが降りてきた、泣きはらした顔はなくなっていた。

 

「それじゃあみんな」

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

その後朝食を食べ終え、登校する。

 

「お父さん、お母さん、行ってきます!」

 

「行ってきまーす!」

 

「行ってらっしゃい」

 

「気をつけるんだぞ」

 

「「はーい」」

 

「…………………」

 

「これでいいんだよ、桃子」

 

「士郎さん…」

 

「少しずつ、家族になればいいんだ」

 

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖祥行きのバスのも久しぶりに乗るな、て言うかアリサたちに何て言おう。

 

「久しぶりね……レンヤ」

 

「本当に…久しぶり、レンヤ君」

 

アリサはともかく、すずかまで怒ってらっしゃる!

 

「怒っていないよ」

 

………手に持っている真っ赤な羽根は何ですか。

 

「えっと……」

 

なのはをチラリと見ると無言で頷いてくれた、魔法の事を話していないな。

 

「ごめん!後で絶対に説明するから!」

 

手を合わせて何とか謝る。

 

「はあ、いいわ」

 

「ふふ、ちゃんと帰ってから説明してね」

 

「ああ必ず」

 

『レン君大変だね』

 

『……ほっといてくれ』

 

そしてバスは聖祥に着き、みんなと別れ俺は復学のため職員室に向かう。

 

「………なるほど、それで休んでたのね」

 

「はい」

 

海外に行っていたと言い訳をしておいた、間違っていないはず。海外じゃないから異世界の外で界外?

 

「分かったわ、休学中のノートとプリントは高町さんがとっているから、後でもらってね」

 

聞いてないんでけど、まああんなにドタバタしたら忘れても仕方ないか。教室に向かい、入る。

 

「おはよ…」

 

「レ〜〜ン〜〜ヤ〜〜!」

 

「うわ!アリシア!」

 

いきなりアリシアが飛び込んで来た。

 

「えへへ、久しぶりのレンヤだ〜」

 

「アリシア、聖祥に入れたのか?」

 

「それどういう意味!」

 

「見た目からして」

 

「むー、こう見えても私は頭良いんだから!」

 

「おお、すごいな」

 

「………褒められている感じがしないんだけど………」

 

素直にすごいと思うが。

 

「レ、レンヤ!」

 

「フェイト!お前も入ったんだな!」

 

「うん、姉さんと一緒に」

 

「そうか、そのリボン似合っているぞ」

 

「あっありがとう///」

 

フェイトのリボンは、なのはと交換した物だ。

 

「レンヤ君」

 

「やっと来たわね」

 

「レン君!」

 

ちょうどなのはたちが来た。

 

「そうか、もう仲良くなったんだな」

 

「ビデオメール越しでも顔を知っていたからすぐに仲良くなれたよ」

 

「私も〜」

 

「アリシアの心配はしてない」

 

「ひどい!」

 

「はは、ん?そういえばフェイト、アリシアのことお姉ちゃんって呼ばないのか」

 

「うっうん、恥ずかしいから…」

 

「フェイトもひどい!」

 

「あはは…」

 

そう言えば……

 

「なのは、先生から聞いたんだが。休学中の俺のノートとプリントを持っているんだって」

 

「あ、忘れてたの…」

 

「ドタバタしてたから仕方ないよ」

 

「とにかく見せてくれ」

 

その時チャイムが鳴った。

 

「ノートはまた後ね」

 

「その様だな」

 

すぐに先生が来て久しぶりの授業だが付いて行くのがやっとだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、屋上ーー

 

「頭がパンクする〜」

 

「休み時間の間に予習しても間に合わなかったね」

 

「所詮付け焼き刃よ」

 

「でもレン君頑張ったと思うの!」

 

「レンヤ君、お疲れ様」

 

「まだ授業はあるけどね」

 

追い打ちかけるな、アリシア。

 

「そうだレン君、放課後空いている?フェイトちゃんたちの携帯電話を見に行くんだけど一緒に行こ」

 

「昨日今日で予定なんかないんだけど…」

 

アリサとすずかに顔を向ける。

 

「私たちも付いて行くわよ」

 

「それが終わった後で大丈夫だよ」

 

「ありがとう」

 

放課後にみんなでフェイトたちの携帯を見に行く事になった

 

 



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22話

 

 

放課後になり俺たちは携帯ショップに向かっていた

 

「そう言えば、何で今までフェイトたちは携帯を持っていなかったんだ。俺も人の事言えないけど」

 

「こっちに住むための家の手続きとかでバタバタしてたから」

 

携帯ショップに着くと先にリンディさんとプレシアさんがいた。

 

「リンディさん、プレシアさん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりねレンヤ君、家にお邪魔した以来かしら」

 

「そっちも元気そうでよかったわ、フェイトったらあなたがいないから落ち込んでいたのよ」

 

「心配かけちゃいましたね、それであなたたちも……」

 

「ご想像の通りよ」

 

「その話しは後でね」

 

それからフェイトとアリシアの携帯を見繕った。携帯には疎いので俺は座って待っていた。

 

「………………………」

 

「レンヤ君、どうしたの?」

 

「すずか、いや話しについてこれないだけだ」

 

「ふふ、レンヤ君らしいね」

 

そう言い、すずかは隣に座った。

 

「あれから異界に変化はあったか?」

 

「何もなかったよ、以前変化はゼロ」

 

「そうか…」

 

「お待たせ」

 

「買って貰ったよ〜!」

 

どうやら終わった様だ、後ろでリンディさんとプレシアさんが嬉しそうにしてた。

 

「お疲れ様」

 

「2人はどんな携帯を買ったの?」

 

「えっとね………これ」

 

「お母さんとお揃〜い!」

 

包みから取り出したのはフェイトが黒、アリシアは黄緑、プレシアも買ったらしく紺色だった。

 

「フェイトもアリシアもその色が好きなのか?」

 

「うん、好きかな」

 

「私は直感かな〜」

 

いいのかそれで。

 

「そうだ!折角だからみんなで写真を撮ろうよ!」

 

「いいわね」

 

「誰の携帯を使うの?」

 

「フェイトとアリシアはすぐに送れないとして、私の携帯で撮るわ」

 

「じゃあ、私が撮ってあげます、アリサちゃん貸してくれる?」

 

「はい、お願いしますリンディさん」

 

アリサはリンディさんに携帯を渡して、公園の一角で撮ることになった。

 

「は〜い、みんな寄ってね〜どうせならレンヤ君は真ん中ね、みんなレンヤ君に抱き着いたら〜?」

 

リンディさんがそう言った瞬間、みんなが抱きついて来た………ノリ…いいんだね。

 

「あらあら大胆ね〜♪」

 

楽しんでいるよ、リンディさん絶対に楽しんでいるよ!5人を見ると全員顔をが赤くなっている、恥ずかしいならやるなよ

 

「さ〜て取りますよ〜〜、1+1は〜?」

 

「「「「「「2ーー!」」」」」」

 

ーーカシャ!

 

撮れた写真は早速、交換したばかりのアドレスで送ってもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後アリサたちに説明するためなのはたちと別れた、なのはは少し顔が暗くなったがすぐに元に戻った。リンディさんたちとは休日に会う約束をした。そしてお馴染みのすずかの家の一室、何度も来ているので道順を覚えてしまった。

 

「それでこの数日間なにしてたのよ、なのはみたいに誤魔化すんじゃないでしょうね」

 

「ちゃんと説明するよ、まず……」

 

それから数日間の説明をした、何者かに襲われ魔力を狙われていること、ソエルの転移で逃げてミッドチルダに行ったこと、ミッドチルダにある聖王教会で鍛えられたことを話した。

 

「そんなことがあったんだね」

 

「その襲ってきた連中の事はわかったの?」

 

「さっぱりだよ、ただ目的が魔力を集める事だけがわかっているの」

 

「つまり私たちも連中の標的ってことね」

 

「うん、ペンダントのおかげでまだ気付かれていない様だけど」

 

「レンヤが気付かれたのは、相手の結界の中に入ったからだ」

 

「結界?」

 

「それって確か通常空間から特定の空間を切り取りることで一般の…魔力を持たない人は入れないんだっけ」

 

「大まかに言えばそうだ、その日アリサとすずかは範囲外だからよかったが。レンヤは入っちまったんだ」

 

「………ペンダントがこれだけ邪魔だったとは思わなかったわ」

 

「気付いていたら助けられたのに……」

 

「気にする事はない、身の安全の為にそれを渡したんだ。気付いて自分から突っ込んでいったら意味がない」

 

「でも!」

 

「だからこそ!これから対策を考えるんだ。負けないために」

 

「そのとうり!みんなが負けないための新しい力がある!受け取ってアリサ、すずか!」

 

ソエルが取り出したのはフレイムアイズとスノーホワイトだった

 

「強化が終わったんだね!」

 

「そうだよ!さあ、新しくなった相棒を呼んで!」

 

2人はデバイスを掴み。

 

「すずか!」

 

「うん!」

 

「フレイムアイズ!」

 

「スノーホワイト!」

 

「「セートッ!アープッ!」」

 

デバイスを起動させてバリアジャケットを身に纏う。

 

「うん?バリアジャケットは変わっていないの?」

 

「でも武器は変わっているね」

 

アリサの銃剣は刀身が実際にあり、そこから赤い魔力の刃が出ていた。

 

すずかは槍がトライデントになっており、左右の刃が斧の様な形をしている。

 

「フレイムアイズはマガジンを変える事でカートリッジとギアーズを使い分ける事が出来るよ、スノーホワイトもギアーズシステムを搭載している。外装も以前より硬く、軽くしているよ!2人とも感触はどう?」

 

「かなり使いやすいわ、前から魔力の剣って使いにくかったから」

 

「軽くて振り抜きやすいし、違和感もないよ」

 

評価はいい様だ。

 

「それですずか、例の物はもう出来てるよね」

 

「うん、もちろん!今持ってくるね」

 

そう言い残し部屋を出て行った。

 

「例の物ってなによ」

 

「それは見てのお楽しみってやつ」

 

それからしばらく待ち……

 

「………遅いわね」

 

「何かあったのか?」

 

「俺が見てくるよ」

 

部屋を出ようと取っ手を掴もうとしたら扉が開き、やや疲れた顔のすずかいた。

 

「すずか?どうかしたのか?」

 

「……遅くれてごめんね、大丈夫だよ」

 

そのままソファーに座った。

 

「何かあったの、すずか?」

 

「あはは…この格好のままで行っちゃったからお姉ちゃんに捕まっちゃって……」

 

「あードンマイ」

 

「言わないで……」

 

どうやら忍さんに弄ばれたみたいだ。

 

「それでそれで!完成したの⁉︎」

 

「コホン、うん!私が今出来る最高の出来だよ!」

 

取り出したのは、青い六角柱の結晶の形をしたペンダントだった。

 

「すずか、それってまさか……!」

 

「うん、レンヤ君のインテリジェントデバイスだよ」

 

「ついに完成したのか!」

 

「やったねすずか!私も嬉しいよ」

 

「ここまで来れたのはソエルちゃんのおかげだよ」

 

すずかとソエルがハイタッチをする。

 

「さあレンヤ君、この子に名前をあげて」

 

すずかからデバイスを受け取る。

 

「これが……俺のデバイス…」

 

「早く早く!」

 

「いい名前をつけなさいよ」

 

「わかっているよ、お前の名前は共鳴する光り。レゾナンスアーク」

 

青いミッド式の魔法陣が現れた。

 

「あっレンヤ君!ちゃんと伸ばしてセットアップって言うんだよ!」

 

「え、何で!」

 

「いいじゃないの、言っちゃいなさいよ」

 

「普通に言うならともかく、伸ばすのは……」

 

「男は度胸だよ」

 

「腹をくくるんだな」

 

この場に味方はいない。

 

「はあー、わかったよ…」

 

もう一度デバイスに集中する。

 

「レゾナンスアーク、せっせっせと……」

 

「恥ずかしがってんじゃないわよ!」

 

「頑張れー、レンヤ君ー!」

 

他人事だと思って……

 

「ああもう!レゾナンスアーク!セートッ!アープッ!」

 

《イエス、マスター》

 

デバイスが光り、バリアジャケットを身に纏う。

 

デザインは黒ズボンに白いTシャツ、白いロングコートで黒いラインがある。武器は黒い剣と白い銃が1つずつ手に持っている。

 

「へえ、結構センスがいいじゃない」

 

「かっこいいよ!レンヤ君!」

 

「そう?それとありがとうすずか、最高のプレゼントだ」

 

「どっどう致しまして///」

 

すずかは顔を赤くした、褒められて恥ずかしいのか

 

「それですずか、もう片方の剣と銃はないのか?」

 

「え!あっはい、もう片方の剣と銃はその子、レゾナンスアークに言ってくれれば出してくれるよ。トリガーは何でもいいよ」

 

「うーん、そう言われると迷うな」

 

「かっこいいのにしようよー!」

 

「すぐに言えて、簡単なものにしろよ」

 

「うーん、復元……うんこれにしよう!」

 

左手の銃を構えて……

 

「レストレーション01」

 

トリガーを言うと白い剣に変わった。

 

さらに右手の剣を構えて……

 

「レストレーション02」

 

次は黒い銃に変わった。

 

「うん、上手くいった。ありがとうレゾナンスアーク」

 

《私はあなたをサポートするためにあります、喜ばれたのなら光栄です》

 

「ありがとな、それじゃあ次は魔法」

 

空中に魔法陣を作り、飛び乗った。

 

「身体強化と空中歩行の魔法の魔力消費量も少なくなっている、かなり使いやすい」

 

「不具合がなさそうでよかったよ」

 

「上手くいったなら異界で腕試し……って言いたいんだけど」

 

「襲撃者がいる中、そう簡単に動けないね」

 

「もしもの事があればすぐに念話で連絡するしかないね」

 

「特にレンヤ」

 

「う、わかったよ」

 

前回、念話での連絡を後回しにしたからな。

 

「じゃあ、これで解散ね」

 

「みんな、気をつけて帰ってね」

 

「ありがとう、すずか」

 

「待ったね〜すずか〜」

 

すずかの家を出てまっすぐ家に帰る。

 

「レゾナンスアーク、これからすぐに活躍するぞ。ゆっくりしている暇はないぞ」

 

《了解》

 

胸元のレゾナンスアークが青く光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末ーー

 

リンディさんとの約束通り今日会う事になっている。なのはの案内でフェイトたちが住んでいるマンションに向かっている。

 

「……て事はなのはのデバイス、レイジングハートはあの襲撃以来修理中なのか」

 

「うん、まだかかるそうなの」

 

行く途中、俺がデバイスを持った事からそんな話しをしていた。

 

「それでこいつがすずかに作ってもらったデバイス、レゾナンスアークだ」

 

《よろしくお願いします、なのは》

 

「こちらこそ、よろしくね」

 

そう話しているうちにマンションに着き、エレベーターに乗りフェイトたちが住むと思われるフロアに着いた。

 

「ここか……」

 

表札にハラオウンと書かれていた。

 

「それじゃあ押すね」

 

なのはがインターホンを押した。

 

『はーい』

 

「エイミィさん、なのはです。レン君を連れてきました」

 

『了解、カギは掛かっていないからそのまま入っちゃって』

 

家に入りリビングまで行くと、結構人がいる。

 

「来たな」

 

「2人ともいらっしゃい」

 

俺たちは全員の正面に座った。

 

「それじゃあまずは自己紹介から、リンディ・ハラオウン。次元空間航行艦船アースラの艦長を務めさせてもらっているわ」

 

「クロノ・ハラオウン。時空管理局執務官をしている」

 

「エイミィ・リミエッタよ。アースラの通信主任兼執務官補佐をしているわ」

 

「プレシア・テスタロッサよ」

 

「アリシアだよ」

 

「フェ、フェイト・テスタロッサです。管理局の嘱託魔導士に務めてます!」

 

「フェイトの使い魔のアルフだ」

 

「ユーノ・スクライア。この姿で会うのは初めてだね」

 

「え、嘘、ユーノって人間?」

 

「あはは、そうだよ。ユーノ君は人間なの」

 

「それでこっちの女性が……」

 

「リニスです。今はあなたの使い魔です、レンヤ」

 

「え、リニスまで……」

 

「やっぱり驚くよね」

 

「家にいないと思っていたらこんな所で人になっていたなんて……」

 

「違います!」

 

「それも含めて説明しよう」

 

説明が始まった、簡単な身内の説明、管理局の事、この数日間聖王教会にいた事、今回の襲撃者の事などを。

 

「闇の書の完成のために魔力を……」

 

「そうだ、それを阻止するために君にも協力してもらいたい」

 

「俺でよければ喜んで」

 

「でもレンヤはデバイスを持っていないんだよね、このままじゃ……」

 

「大丈夫だよフェイト、昨日から持っている」

 

首かけてあるレゾナンスアークを見せた。

 

「いつの間に!」

 

「前からすずかに作ってもらっていたんだ」

 

「すずかってなのはちゃんのお友だちの……」

 

「しかしデバイス製作は最低でも5年はかかるぞ」

 

「すずかは2年で形にしたよ、いやー天才っているんだねー」

 

「そもそもデバイスについて教えてくれたのはソエルなんです。今までのデバイスの調整や強化も、カートリッジシステムやギアーズシステムも組み込んでくれたんですよ」

 

「すごっ!その子何者?」

 

「私はモコナ・ソエル・モドキだ」

 

「いや名前じゃないよ」

 

「それよりもギアーズシステムって何?」

 

「えっ!知らないんですか、カートリッジを知っていたからてっきりギアーズも知っているものだと……」

 

「当然だ、ギアーズシステムはソエル自身が考案した企画なんだ」

 

「えええええええ!」

 

「ソエルちゃんすごい!」

 

「これは何としても入れたい人材だな」

 

「ここでの勧誘はやめなさい、クロノ」

 

「そうだ!ソエルちゃん!なのはちゃんとフェイトちゃんのデバイスを見てくれないかな!」

 

「エイミィ!さすがにそれは……」

 

「許可しましょう」

 

「しかし艦長!」

 

「お母さんと呼びなさい、今彼女たちのデバイスはカートリッジシステムの搭載を希望しています。しかしデバイスに組み込むのも元より、管理局は完璧なカートリッジを作る事ができません。このまま組み込むだけではなのはさんたちに負荷がかかります、私からもお願いしますデバイスを見てくれますか?」

 

「いいよ。不完全な物を出すのも納得いかないし」

 

「ありがとう!ソエルちゃん!」

 

「バルディッシュをお願いするね」

 

「任された〜〜」

 

「大まかな説明も終わりました、このままアースラに来てもらえますか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

その後転移魔法でアースラに転送された

 

「うわ!……ふう、ソエル以外の転移は初めてだ、一瞬だったな」

 

「私の転移魔法は次元世界規模で転移をするためにあるの!時間がかかるの!」

 

「次元世界規模ってすごいわね……」

 

「あの子、すごすぎ」

 

周りを見ると近未来って感じだ、魔法がある分科学技術が地球より進んでいるようだ。

 

「ここがデバイス調整室、今本局から修理されたなのはちゃんとフェイトちゃんのデバイスがあるよ。担当者がまだいるはずだよ」

 

中に入ると台座の上に赤い丸い宝石と三角形の台座に金色の宝石が置いてあるのが浮いていた、どうやらあれが2人のデバイスの様だ。

 

「レイジングハート」

 

「バルディッシュ」

 

「ーーやあ、君たちがそのデバイスの所有者だね」

 

奥の部屋からメガネをかけたいかにも研究者の女性がいた。

 

「はじめまして。本局所属、精密技術官のマリエル・アテンザです」

 

「はじめまして、高町 なのはです」

 

「フェイト・テスタロッサです、よろしくお願いします」

 

「それで連絡が来た限りだとカートリッジシステムをちゃんとした物にしてくれるのですよね。私としても不完全な物を出すのは納得がいきませんでしたから」

 

「はーい、私がやるよ〜」

 

ソエルがキーボードを操作した、よくあんな短い手でできるな。

 

「おお、これは………すごい、すごいよ!こんな事を考えるなんて、君何者?」

 

「ふっふっふ、ただの白まんじゅうさ」

 

名乗るの面倒くさくなったな。

 

「それでマリエルにはレンヤのレゾナンスアークを見てもらいたいんだ、不備はないと思うけど一応別角度で見てもらった方がいいから」

 

「了解しました!それでレンヤ君は……」

 

「はい、俺です。レゾナンスアークをよろしくお願いします」

 

レゾナンスアークをマリエルさんに渡した。

 

「えっ……ああごめん!レンヤちゃんだったね」

 

「レンヤ君であってますよ、マリエル」

 

「嘘でしょう!」

 

随分と親しみ易い人だな。

 

「さて、なのはちゃんはこの後リンカーコアの検査だね」

 

「あっはい」

 

「とりあえず解散ね、ソエルちゃんどれ位かかるの?」

 

「いやーマリエルいい腕してるね〜〜カートリッジを変えてちょっと調整するだけだよ。なのはの検査が終わる頃に終わるよ」

 

「ありがとうソエルちゃん、レゾナンスアークも検査だけだからすぐに終わるよ」

 

「よろしくお願いします」

 

その後俺は艦内をフェイトに案内してもらった。

 

「ここが食堂だよ」

 

「変なテーブルの形してんな、聖王教会は普通だったぞ」

 

「えっレンヤ、聖王教会に行った事あるの?」

 

「ああ、そこの教会騎士団の団長に鍛えられたんだ、て言うか説明したはずだろ?」

 

「えっ」

 

思い出しているのか考え込むフェイト。

 

「あ」

 

「思い出したようだな」

 

「うっうん、ごめん」

 

「謝る事はないさ」

 

慰めるようにフェイトの頭を撫でる。

 

「あっ///」

 

「誰だって失敗はするさ」

 

「うん、ありがとうレンヤ」

 

『レン君』

 

「待ってくれ、なのはから念話だ」

 

俺は返事をして……

 

『なのは、検査はどうだった?』

 

『問題ないよ、無事完治したよ』

 

『よかった、これからソエルの所に行くのか?』

 

『うん、そうだよ』

 

『じゃあまた後で』

 

なのはとの念話を切る。

 

「なのは、無事に完治したみたいだ」

 

「本当!よかった」

 

「ソエルの所に行くらしい、俺たちも行こうか」

 

「うん」

 

その後デバイス調整室に向かい俺たち3人はデバイスを返してもらった。マリエルさんからも問題なしと言われた、すずかの腕は確かのようだ。

 

「それじゃあ戻るか、なのははフェイトの家に泊まるんだよな?準備してたし」

 

「うん、そうだよ」

 

「レンヤも泊まる?」

 

「自分から女の子の家に泊まるのはな〜」

 

「私は泊まりたい!」

 

「そうか、フェイト、ソエルをよろしくな」

 

「うん、わかったよ」

 

ソエルをフェイトに渡し、この後の予定を話しながら転移ポートに向かい海鳴臨海公園に転移してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ最近、俺はカステラにはまっていて買いに行っていた。

 

「まだ空いてるといいんだけど」

 

「夜前だ、余裕だろ」

 

「そうだな………!」

 

海鳴の広域に渡って結界が張られた。

 

「………間に合わないね」

 

「………それ以上にアリサたちに気づかれるぞ」

 

「頼むから来ない………」

 

『レンヤ!大丈夫!』

 

『レンヤ君!襲撃犯が来たの!』

 

「………儚い希望だ」

 

「さっさと構えろ」

 

レゾナンスアークを掴み……

 

「了解、初陣だぞレゾナンスアーク」

 

《私の力、存分にお使いください》

 

「レゾナンスアーク!セートッ!アープッ!」

 

バリアジャケットを身に纏い、武器を構える。

 

《高魔力反応、接近中》

 

「この感じ……シグナムさんだ」

 

「リベンジと行こうぜ」

 

「勝ったつもりも、負けたつもりもないんだけどね」

 

ギアーズシステムを起動させ……

 

「………参ります!」

 

空に向かって飛び出した。

 

 



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23話

 

 

レンヤとシグナムはお互いのデバイスをぶつけ合っていた。

 

「久しぶりですね……シグナムさん」

 

「そうだな、それにどうやらデバイスを手に入れた様だな」

 

「ええ、これで前回より……!」

 

シグナムを弾き飛ばし……

 

「長く戦えますよ」

 

レンヤは剣と銃を構える。

 

『アリサ!すずか!何が起きても俺の指示があるまで隠れていろ!』

 

『私たちを巻き込まない気?』

 

『……見過ごせない場合があれば出るからね』

 

『構わない、これはいつもの異界とは違う、集中を切らすなよ!』

 

『『ええ(うん)!』』

 

念話を切りシグナムを見る。

 

「そういえばこちらの姿で名乗っていなかったな。ヴォルケンリッター烈火の将、シグナムだ」

 

「改めて、神崎 蓮也だ。私立聖祥大付属小学校3年生……いや、むしろこっちがいいか。聖王教会の教会騎士団の騎士見習い、神崎 蓮也」

 

「ほう、聖王教会の騎士か。あれから何かあった様だな」

 

「所詮は見習い、将には勝てないが……勝負には勝たせてもらう!」

 

「いいだろう、私に勝ってみろ!」

 

シグナムが接近してくる、銃で牽制し攻撃は剣で受け流す。どうやら防御が甘い左側を狙っている様だが。

 

「甘いよ!」

 

剣を銃で止め、剣で攻撃する。

 

「そちらもな!」

 

それを左手に持った鞘で防がれた。

 

「それなら、セカンドギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

セカンドギアを駆動させシグナムを弾き飛ばす。

 

「まだまだ!」

 

銃と剣を巧みに使い攻撃する暇を与えない。

 

「はああああ!」

 

「くっ!」

 

横薙ぎを受け止められ鍔迫り合いになるが。

 

「おりゃああああ!」

 

横からヴィータがグラーフアイゼンを振りかぶりレンヤに突進してくる。

 

「やば!」

 

シグナムに銃を撃ち離れさせ、剣をハンマーを叩きつける様に振り下ろし反動で上に逃げた。

 

「とっと、危ないな」

 

空中を逆さまに立ち息を整える。

 

「さて、2対1か、やるしか………来たか」

 

結界の一部が破壊され、桜色と金色の光が向かってきた。

 

「レン君!」

 

「レンヤ!」

 

なのはとフェイトだ。

 

「大丈夫?」

 

「怪我はしてない?」

 

2人は心配そうな目で見る。

 

「大丈夫だ、あちらもまだ全力じゃないみたいだし…っとここからが本番かな」

 

逆さまから元に戻る。相手は後から来たザフィーラも入れて3人……でいいのかな?

 

対してこちらは実質5人で、戦っているのは3人。人数的に五分五分。

 

「俺は男の方と戦う、なのはハンマーの子、フェイトは剣士と戦いたいんだろ?」

 

「うん」

 

「絶対に負けないの、今度こそお話しを聞いてもらうの!」

 

………できれば穏便にお話ししてください。ほら、フェイトも怖がっています。

 

『アリサとすずかは2人についてくれ、俺は大丈夫だから』

 

『強がって、負けるんじゃないわよ!』

 

『後でなのはちゃんとフェイトちゃんのこと話してもらうからね』

 

毎回こんな事があったら心労で倒れそうだよ。

 

「それじゃあ、行くぞ!」

 

3人はそれぞれの相手に向かって飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「役不足だが…相手をしてもらいます」

 

「ふっ……謙遜を言うな」

 

レンヤは空気を固めて踏みしめ構え、ザフィーラは腰を落とし拳を握る。

 

「っ!」

 

「なっ!」

 

レンヤは身体強化と魔力放出の勢いで一気に近づき切りつける。ザフィーラも受け止める。

 

「ふっ!」

 

後ろに回りこみ蹴りを入れるが、障壁に阻まれる。

 

「さすが盾の守護獣!」

 

「光栄だな!」

 

「でも今度は……力技で壊す!サードギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

刀身にある3つ目のギアが回り始めた。

 

「はああああああ!」

 

障壁を全方向から切りつける、時間が経つにつれスピードもパワーも魔力も上がっていく。そして障壁にヒビが入っていく。

 

「なに⁉︎」

 

ザフィーラの顔に焦りが出る。

 

「レストレーション01!」

 

左手の銃を剣に変え……

 

「せいっ!」

 

回転する勢いも入れ障壁を破壊しその衝撃でザフィーラは後ろに下がる。レンヤは空中を蹴って距離を詰める、カウンターでパンチを出すがレンヤは空中を蹴って上に避け剣を振り下ろす。

 

(まずい!)

 

ザフィーラはとっさに狼の姿になる事で避けて、距離をとる。

 

「レストレーション02」

 

両手の剣を銃に変えてザフィーラに向けて乱射する。ザフィーラは後ろも見ずに避けた。

 

「なら……」

 

《チェイスバレット》

 

「ロックオン!」

 

大量の誘導弾を発射してザフィーラを狙う。

 

「はあっ!」

 

だが障壁に防がれてしまったがレンヤはすぐ次の手を打った。

 

《スピアバレット》

 

撃ったのは貫通性と命中率が高い弾丸、ザフィーラの障壁を削っていく。

 

「ぬう!」

 

ザフィーラは苦しげにうめく、レンヤは交互に銃を撃ち牽制をしながら近づく。

 

『ザフィーラ聞こえる?』

 

『シャマルか!』

 

『管理局が集まり始めている、撤退するわよ!』

 

『わかった』

 

「戦闘中に念話とは……」

 

「!」

 

「余裕ですね!」

 

ザフィーラの前にレンヤがいて剣を振りかぶっていた。

 

《ソニックソー》

 

「はあ!」

 

ザフィーラは障壁で防ぐがあっさり切れてしまった。

 

「ぐあ!」

 

「届かなかったか!」

 

とっさに後ろに下がった様だ。

 

「レンヤよ」

 

「……何」

 

「また戦おう」

 

「…よく!待て!」

 

近づこうとしたが、閃光で目をつぶってしまった。

 

「くっ、2つの意味でやられた」

 

「しばらくすれば元に戻るさ」

 

レンヤは閃光を直視してしまい目が開けられない。

 

《結界も解除された様です、敵の追跡は不能です》

 

「そう簡単にはいかないか」

 

レンヤはアリサたちに念話した。

 

『アリサ、すずか、大丈夫か?』

 

『私は大丈夫、なのはも無事よ』

 

『こっちもフェイトちゃんも無事だよ』

 

『そうか、明日集まれないと思うから念話で説明する。2人とも管理局に目視されないように帰ってくれ』

 

『わかったわ』

 

『それじゃあまた明日』

 

「……さてと、なのはたちはどこかな」

 

「レンヤ!」

 

「レン君!」

 

「あっそこにいたか、2人とも大丈夫か?」

 

「それはこっちの台詞だよ!目をやられたの!」

 

「早くアースラに行こう!治療して貰おう!」

 

その後転送してもらい、治療を受けた。明日には治るらしい。レゾナンスアークの道案内の元、ブリーフィングルームに向かう。

 

「失礼します」

 

「レンヤ!無事か!」

 

声でクロノだとわかる。

 

「おかげさまでね、なのはたちの救援は助かったよ」

 

「それでも君の援護までは…」

 

「気にするな」

 

その時扉が開いた。

 

「レンヤ!大丈夫!」

 

「レン君!治るよね、平気だよね!」

 

「大丈夫、大丈夫だから!明日には治るから!」

 

どうにかして2人を落ち着かせる

 

「落ち着いた所で2人にデバイスについて説明があります。今回レイジングハートとバルディッシュにはベルカ式のカートリッジシステムが組み込まれたの。本来その子たちみたいな繊細なインテリジェントデバイスに組み込む様な物じゃ無いんでけどね。本体破損の危険も大きいし危ないって言ったんだけど………その子たちがどうしてもって」

 

「レイジングハート………」

 

《大丈夫です》

 

「バルディッシュ………」

 

《問題ありません》

 

「私がシステムの調整とカートリッジの改良である程度、体とデバイスの負担は軽減できるから大丈夫だよ」

 

「話しを戻すよ、モードはそれぞれ3つ、レイジングハートは中距離射撃のアクセルモード、砲撃のバスターモード、フルドライブのエクセリオンモード。バルディッシュは白兵用のアサルトフォーム、鎌のハーケンフォーム、フルドライブはザンバーフォーム。フルドライブは破損の危険があるからどちらも余り使わないように。……特になのはちゃんのエクセリオンモードはフレーム強化が終わるまで使わないように」

 

「分かりました」

 

「なのはの場合エクセリオンモードはフレーム強化が終わっても余り使わないようにしてくれよ。体への負担が大きすぎるからな」

 

「そういえばレゾナンスアーク、お前の形態は他にあるのか?」

 

《いま現在使っているのは汎用型カルテットモード、防御のスプリットモード、フルドライブはバーストモードです》

 

「へえー結構あるんだね」

 

「とりあえずなのはは無茶しないようにな、お母さんとの約束もあるんだ」

 

「う、うん」

 

その後話しは闇の書に移った。

 

「彼らの目的は何でしょうか?」

 

「ええ、自分の意思で闇の書の完成を目指していると感じますし」

 

「え?それって何かおかしいのか?闇の書って言うのもジュエルシードみたくすっごい欲しい人が集める物なんでしょう?だったらその力が欲しい人のためにあの子たちが頑張ると言うのもおかしく無いと思うんだけど」

 

アルフが頭を悩ませていた。2人の言葉が理解できないように首を傾げる。

 

「第一にジュエルシードみたいに自由に制御が効くものじゃないんだ」

 

「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない、それ以外に使われたと言う記録もないわ」

 

「んーーそれおかしくないですか」

 

「どういう事だ」

 

「破壊にしか使えない力、完成してもしなくても主を含め破滅を迎えて次の主に渡る闇の書。ただの無限ループです」

 

「確かにそうね」

 

俺の言葉に全員が悩み始める。

 

「それに守護騎士達のやってる事もおかしいんだ」

 

「おかしい?」

 

「どういう事、レン君?」

 

「守護騎士たちが今まで人を襲っているけど命は奪っていない、完成すれば多くの人が死ぬかもしれない闇の書の完成を目指しているのに。666ページという蒐集する事が出来るのに完成すると暴走する。空きがないとかじゃなく、666ページ分の容量を持っていて、完成するのに暴走する。闇の書の主は得るものがないのに、一体闇の書って何をする為にあるの」

 

「確かにおかしな話しね」

 

「それに確か闇の書の守護騎士たちは擬似人格でしょう、プログラムだ」

 

「過去に意思疎通ができたっていう情報はあるんだけど感情は確認出来なかったとある」

 

「そうなんですか?ヴィータちゃんは怒ったりしてたけど」

 

「シグナムからも人格は感じ取れました」

 

「ザフィーラにも感情はあった」

 

その時、クロノの視線がなのはの肩に向けらる。そこにいるのはユーノ。

 

「明日から頼みたい事があるんだが」

 

「ん?いいけど」

 

「何する気?」

 

「まあ期待してくれ。もしかしたら情報不足が少しは解消するかもしれない」

 

首を傾げながらも今日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

間違っていなければもう目は治っているはずだが。

 

「………ぼやけている」

 

外の景色が見えない、完全には治ってなかったようだ。

 

「とりあえず着替えて…」

 

制服に手を伸ばすも距離感が掴めず取れない。

 

「どうしよう」

 

「頑張れレンヤ」

 

「応援しているぞ」

 

助けてくれよ、結局レゾナンスアークに助けてもらった。お父さんにはバレかけたけど見逃してもらった。そしてバスの中、なのははフェイトの家に泊まっているからここにはいない。

 

「おはようアリサ、すずか」

 

「おはようレンヤ」

 

「レンヤ君おはよ……」

 

「……?どうかしたかすずか?」

 

「……レンヤ君……目が見えてないの?」

 

「えっ!」

 

バレるの早くない!

 

「レンヤ君の目に光が映ってないよ」

 

「そうなのレンヤ!」

 

「えーと……はい…」

 

その後念話で説明した。

 

「全く私たちが入ればこんなことには……」

 

「レンヤ君、ちゃんと私たちも頼ってよね」

 

「いやあれは最後の最後だから……」

 

「「なに?」」

 

「何でもないです……」

 

聖祥に着いたがアリサとすずかが手を繋いで離さない、連れて行ってくれているのはわかるけど恥ずかしい。

 

「おはよう」

 

「おはよう、みんな」

 

教室に着いた様だが……

 

「おはよう!アリサちゃん、すずかちゃん、レン君!」

 

「おはよう3人とも」

 

「おっはよー」

 

どうにかして3人を誤魔化さないと。

 

「どうして2人はレン君と手を繋いでいるのかな」

 

「レンヤ、まさかまだ目が…」

 

「教えてくれるかな」

 

………1分も持たなかった。

 

それから説明をして、心配されたが何とか落ち着かせた。そして受けているのか分からない授業中にアリサとすずかに昨日の説明をした。

 

『まさかなのはたちも魔導士だったなんて』

 

『やっぱり半年前からなのかな』

 

『話しを聞く限りではそうらしい』

 

『ペンダントのせいで今まで分からなかったのね』

 

『いつか…話せるといいんだけど』

 

『難しい所だよな』

 

放課後、すぐになのはたちに連れてかれてアースラ武装追加が終了して今は試験走行でいなくリンディさんの家で治療してもらい。何とか見える様にはなった。

 

「んー、一応治ったのかな」

 

「よかったの!」

 

「もう無茶はしないで」

 

「心配だったんだからね」

 

「ごめんみんな、心配をかけた」

 

周りを見るとエイミィさんしかいなかった。

 

「エイミィさんだけですか?クロノとリンディさんは?」

 

「2人と本局に行っていて戻るまで私が指揮代行なんだよ」

 

「何も起きなければいいんだけど」

 

「フェイト、そう言う時に限って……」

 

アリシアの言葉通りに警報が鳴り響く。

 

「アリシア…」

 

「私のせいじゃない!」

 

マジですかって言う表情で固まりエイミィさんの手からカボチャが転がる。

 

「って落ち着いている場合じゃないよ!」

 

慌てるエイミィさんについて行き全員でオペレーター室に入る、マンションの一室が機械的。

 

「場所は文化レベル0、人間は住んでいない砂漠の世界だね」

 

エイミィさんが操作するとすぐにシグナムとザフィーラが表示される、文化レベル0なら遠慮なく戦う事は出来るはずだ。

 

「結界が張れる局員の集合まで最速45分。む〜まずいなぁ」

 

見つけたのはいいが対応までに時間がかかり、局員の集まるまで待ってたらシグナムたちを逃す。そうなると足止めが必要だ。

 

「エイミィ、私が行く」

 

「私もだ」

 

「フェイト、アルフ、大丈夫か?」

 

「うん、任せて」

 

「フェイトは私が守るよ!」

 

「うん、お願い。なのはちゃんはバックスをお願いね」

 

「はい」

 

目が完治してない俺じゃ足手まといだ、フェイトとアルフが転送ポートに向かうのを見送りながら画面のシグナムたちを見る。

 

闇の書は持っていない様だ、ヴィータかシャマルが持っているのだろう。

 

俺は待つしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強いーー

 

ミドルレンジもクロスレンジも圧倒されている。

 

シグナムと戦い始めてまだ時間は経っていない、それでも呼吸は大きく乱れている。

 

大きな一撃を貰っていないけどいくつかの攻撃は防御を抜いて、足に傷を負っている。

 

初めての砂漠での戦い、暑さで消耗も激しい。

 

長期戦は圧倒的に不利、それでも負けるわけにはいけない。

 

バルディッシュを握り直し、踏み込む。

 

私の踏み込みに合わせてシグナムも踏み込んでくるが……

 

「かはっ!」

 

胸に衝撃がはしる、私の胸から突き出る腕。

 

「テスタロッサ!」

 

シグナムが私を呼ぶ声が聞こえるけど、体が動かない。

 

そして、体の中から抜け落ちていく喪失感の中で、私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからヴィータと闇の書が見つかったのでなのはが向かった。

 

俺はただの見ているしかなかった。

 

そんな事を考えているとディスプレイが全部消えた。

 

いきなりの出来事に一瞬呆然とするエイミィさんだが。

 

「システムダウン⁉︎違う、これ………」

 

状況を把握しようと物凄い速さで操作していく。

 

「やっぱりクラッキング……」

 

「え、誰かが妨害してるんですか!」

 

「まずい、これじゃあフェイトちゃんたちの周りに設置したサーチャーが機能しない!」

 

「く、エイミィさん!無理も承知で出ます!」

 

「ちょっ、レンヤ君!」

 

すぐに転送ポートに乗ってフェイトの元に向かった。

 

砂漠に出てすぐにフェイトを見つけたが、男がぐったりしてフェイトを抱えていた。

 

「フェイトを………離せーーーー!」

 

すぐに近づき、剣を振るうも避けられフェイトを投げられた。

 

「わっ!フェイト!大丈夫か、フェイト!」

 

意識を失っているのか返事がない、周りにはシグナムも男もおらず逃げられてしまった。

 

「くっ」

 

「レンヤ」

 

その後、転送されてフェイトは本局で治療される事になった。

 

「なのは、怪我はない?」

 

「うん、私は全然。バインドされただけだし」

 

情報をまとめる為にアースラに移動した、フェイトには仕事を早退したプレシアとアリシアが付き添っている。

 

「フェイトさんはリンカーコアに酷いダメージを受けているけど命に別条はないそうよ」

 

「闇の書の蒐集、なのはの時と同じだね」

 

説明が続き管制システムを担当していたエイミィさんから改めて状況が説明される。

 

「2人が出動してしばらく管制システムがクラッキングであらかたダウンしちゃって、それで指揮や連絡が取れなくて。私の責任だ」

 

「そんなことないですよ、むしろエイミィさんがいてくれたから、システムの復旧が早く済んだんですから」

 

「そうよ、こうして仮面の男の映像もちゃんと残せたんだから」

 

管理局の人のリーゼアリアさんも頷いている。

 

「でもおかしいわね。あそこに使っているのは管理局で使っているのと同じシステムなのに」

 

「それだけすごい技術者がいるって事ですか?」

 

「もしかしたら組織だってやっているのかもね」

 

なのはとリーゼアリアさんがそんな会話していた。

 

「さて、まずはアースラが航行可能となったので、予定より早いですが、これより司令部をアースラに戻します」

 

闇の書事件の司令部がアースラに戻されることになった。

 

もっともフェイトたちの生活などは今まで通りに使うらしい。

 

俺となのはは一旦家に帰る事になった。

 

 



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24話

 

 

朝、制服に着替え終えた俺は何もせずベットの上に寝転んでいた。

 

「…………………」

 

「どうしたのレンヤ」

 

「………未だにシグナムたちの事を何で話さない………って思っているだろう」

 

「………ああ、シグナムがいる場所は分かる。主も……」

 

「でも話さないんだよね」

 

「ふう、これは俺自身の問題なのかもしれないな」

 

その時ドアがノックされた。

 

「レン君?起きてる?」

 

「起きてるよ、今行く」

 

そして、なのはと学校に行った。途中フェイトと合流する。

 

「おはよう、フェイト」

 

「フェイトちゃんおはよう」

 

「おはようなのは、レンヤ」

 

「体はもう大丈夫か?」

 

「うん、魔法が使えないのがちょっと不安だけど、体の方はもうすっかり」

 

「よかったの」

 

「レンヤこそ、目はもういいの?」

 

「ああ、ちゃんと見えている」

 

「そう、よかった」

 

学校に着くとフェイトの席に集まる、すずかの表情がいつもより暗かった。

 

「どうかしたか?すずか?」

 

「うん、昨日はやてちゃんが入院しちゃって」

 

「!」

 

すずかは頻繁にはやてに会っているから連絡をしたのだろう。

 

「そんな具合は悪くないそうなんだけど、検査とか色々あってしばらくかかるって」

 

「そっか……じゃあ放課後に皆でお見舞いとかに行く?」

 

「いいの?」

 

すずかは嬉しそうな表情になる、アリサの提案を飲みたいが、シグナムたちの主、闇の書の所有者ははやてだ。確実に面倒な事になる。

 

「すずかの友だちなんでしょう、紹介してくれるって言う話しだったしさ。というかレンヤの友だちでもあるんでしょう」

 

「えっ、ああ、そうだな」

 

「でも、いいと思うよ」

 

「ありがとう、みんな」

 

少し多いが6人でお見舞いに行くという事に決まり、お見舞いに行っても大丈夫かメールで連絡をとる事になった。

 

「もしお見舞いに行けなかったら、寂しいから写真も送りましょうよ」

 

アリサの提案で大きな紙に「早く良くなってね」というメッセージを書き、6人の集合写真を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、翠屋でケーキと花屋で花を買って海鳴大学病院に着きはやての病室に向かう。

 

「ここだね」

 

八神 はやてと書かれたネームを確認して、すずかがノックをする。

 

「はーい、どうぞ」

 

はやての返事にドアを開け、病室に入る。

 

やべえ、確実にやべえ……

 

全然似合ってないサングラスをかけたシャマルさんが廊下にいるよ。

 

逆に目立っているよ、警察に通報されるレベルだよ!

 

…………見なかった事にしよう。

 

「「「「「「こんにちは」」」」」」

 

「こんにちは、いらっしゃい」

 

「お邪魔します。はやてちゃん、大丈夫?」

 

「平気や、皆座って座って。レンヤ君も久しぶりやな」

 

「お互いに忙しかったからな」

 

「そうやね、にしてもこない別嬪さんお友だち5人も連れてきて。誰がレンヤ君の彼女さんや?」

 

「かっ彼女///」

 

「そっそんなんじゃないよ///」

 

「にゃ!レン君とは…その///」

 

「でもそうだったら///」

 

「はい!私が……」

 

アリシアが何か言おうとしたら全員が止めた。

 

「はは、みんな友だちだよ」

 

「そうなんや………なら、私にもチャンスはあるな………」

 

「はやて?」

 

「なんでもあらへん」

 

その割にはなのはたちとにらみ合っていないか。

 

思いのほか元気そうなはやてに安心しながら他愛のない話しをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経ち今日は12/23日、クリスマスイヴ前日だ。

 

そして明後日が俺の9歳の誕生日、正確な誕生日ではないが近い事には変わらない。

 

俺たち6人はクリスマスプレゼントを買いにきていた、すずかがはやてに渡したいらしい。

 

「レンヤ君、どうしたの?」

 

すずかが顔を覗きながら尋ねてくる。

 

「あっ、いやはやてが喜びそうな物が分からなくて」

 

「あんたが迷うなんて珍しいわね」

 

その隣ではアリサが驚いていた。

 

「はやてと言うか女の子にプレゼントってなのはたちしかして無かったからな、アリサとすずかなら俺から何を貰ったら嬉しいんだ?」

 

「私だったら本かな、面白いのがいいな」

 

「私ならアクセサリーね、ネックレスとかがいいわね」

 

「そう言う物か、ならあれかな」

 

はやてが喜びそうな物を買って、その後なのはたちのプレゼントを買った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日ーー

 

学校が終わってはやてへのクリスマスプレゼントを渡すため病室に向かう。

 

闇の書の情報は無限書庫に行ったユーノから教えて貰ったが、シグナムたちを見つけても補足までできていなかった。

 

「ふう」

 

「レン君、大丈夫?」

 

「少し休む?」

 

「大丈夫だ、だがこれから起こる事に………ね、前回は平気だったけど今回は」

 

「「?」」

 

「3人とも、置いて行くわよ!」

 

話しに集中し過ぎたのかアリサとすずかとアリシアと離れてしまっていた。

 

俺たちは追いつくために走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり会ってしまったか……

 

闇の書の守護騎士たち。

 

俺たちの姿を見るとシグナムさんは身構えて、ヴィータはなのはを睨む。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、レン君どないしたん?」

 

「ううん、なんでもない」

 

「ちょっとご挨拶を、ですよね」

 

「はい」

 

病室の空気が少し重くなってしまったけど、出来るだけ自然に振る舞う。

 

シグナムさんも元の姿勢に戻ったけど足はわずかに開いたまま、いつでも動けるようにしている。

 

フェイトが念話を試みるが繋がらないようだ。

 

「皆、コートを預かるわ」

 

シャマルさんにコートを渡し。

 

「念話が通じない、通信妨害を?」

 

コートをかけながら隣に来たシグナムさんにフェイトが小声で問いかけた。

 

「シャマルはバックアップのエキスパートだ、この距離なら造作もない」

 

シャマルさんの指に輝く指輪を確認する。

 

このままだと連絡が出来ないがここで事を起こす事もないだろ。

 

そのままシグナムさんたちを警戒しながら、はやてたちと過ごす。

 

そして、辺りが暗くなって来たのではやての病室を後にする。

 

シグナムさんとシャマルさんが見送るためにと言って病院の入り口までついてくる。

 

「「「さようなら」」」

 

「また来てね」

 

アリサたちの挨拶に手を振りながら見送るシャマルさん、その横でシグナムさんが俺たちを見た後に別方向に視線を向けた。

 

その先にはビルの屋上、つまりそう言うことなんだろう。

 

その意図に頷き、病院を後にする。

 

帰り道の途中で……

 

「アリサ、すずか、アリシア、ごめん。俺となのはとフェイトは少し用があるからここで」

 

「ん?そうなの?」

 

「そっか、それじゃあまた明日ね」

 

「また後でねフェイト」

 

「うん、また明日」

 

「バイバイ、アリサ、すずか、姉さん」

 

仕方ないが嘘を言い、別れてシグナムさんが指定したビルに向かう。

 

辿り着くと既に2人が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ、なのは、フェイト、シグナム、シャマルがビルの屋上で向かい合う。

 

互いに何もせず睨み合っている状態だ、その中でフェイトが静かに言葉を発した。

 

「シグナム、はやては……」

 

わかっているはずだが聞かずにはいられなかった。

 

「察しの通り、我らが主だ」

 

だがフェイトの言葉にシグナムは一切の迷いなく答える、誤魔化しもしない。誇るように主が八神 はやてだと認めた。

 

「はやてちゃんが……闇の書の主」

 

「………やっぱりそうなるか」

 

認めたくない事実になのはとフェイトとレンヤの心が揺れる。

 

「悲願はあと僅かで叶う」

 

「邪魔するなら、はやてちゃんのお友だちでも……」

 

「待って、ちょっと待って。話しを聞いて下さい。闇の書が完成したらはやてちゃんは……」

 

その時ヴィータが一直線になのはに迫る。

 

「はあっ!」

 

「っ!」

 

咄嗟にシールドを張るが、耐え切れずフェンスに叩きつけられる。

 

「なのは!」

 

「フェイト!」

 

「おおっ!」

 

レヴァンティンを抜刀し、フェイトに斬りかかるシグナム。

 

レンヤに注意されたおかげで、回避しバルディッシュを構えるフェイト。

 

「管理局に我らが主の事を伝えられては困るのだ」

 

「私の通信妨害範囲から出すわけにはいかない」

 

逃がさんとばかりに睨むシグナムとシャマル。

 

そして、なのはを見下ろすヴィータは騎士甲冑を纏う。

 

「ヴィータちゃん」

 

「邪魔すんなよ……後ちょっとで助けられるんだ。はやてが元気になって、あたしたちの所に帰ってくるんだ。だから………」

 

叩き込まれるグラーフアイゼン。

 

衝撃で屋上の一部が炎の包まれる、その炎の中からバリアジャケットを纏い、レイジングハートと共に歩いて来るなのは。

 

「悪魔め」

 

「悪魔でもいいよ。悪魔らしいやり方で話しを聞いてもらうから」

 

ヴィータの言葉に少しうつむくがレイジングハートを握りしめ、敵意の眼差しを受け止める。

 

「なのは、無茶するなよ」

 

「うん」

 

なのはとヴィータは屋上から飛び立つ、地上ではシグナムとフェイトが睨みあう。

 

「闇の書は、悪意のある改変を受けて壊れています。今の状態で完成させたら、はやては!」

 

「我々はある意味で、闇の書の一部だ」

 

「だったらどうして⁉︎」

 

「完成させなければ主はやては死んでしまう、完成しなくても死んでしまう。少しでも生きられる確率があるのは完成された後だ」

 

「だからあたしたちは!闇の書を完成させてはやてを助ける!」

 

「我ら守護騎士、主の笑顔の為ならば騎士の誇りも捨てると決めた……!」

 

シグナムが騎士甲冑を纏う。

 

「それがあの時の問いの答えですか」

 

「ああ、我々はもう、止まれんのだ!」

 

シグナムの目から一筋の雫を流しながらレヴァンティンを構える。

 

「止めます、私とバルディッシュが!」

 

《ソニックフォーム》

 

その身に新しいバリアジャケットーーソニックフォームを纏ったフェイトがシグナムに向けてバルディッシュを構える。

 

「薄い装甲をさらに薄くしたか。緩い攻撃でも当たれば死ぬぞ。正気か、テスタロッサ」

 

「あなたに勝つ為です」

 

「シャマル、お前は妨害に集中しろ」

 

「ザフィーラ……」

 

「盾の守護獣か」

 

「妨害を解除したければ俺を倒してからだ」

 

ザフィーラは獣から人型に姿を変え拳を握る。

 

レンヤもデバイスを起動しバリアジャケットを纏い、双剣を構える。

 

「あなたたちの覚悟は見せてもらった、でもこっちにも止めないと行けない理由がある。悪いけど倒させてもらう」

 

「やれる物ならやってみろ」

 

「我らが守護騎士」

 

「主のために止まるわけにはいかぬ!」

 

「止めてみせるよ」

 

「私たちがここで」

 

「どちらの信念が強いか証明しようか!」

 

覚悟を決めた6人がぶつかり合う。

 

同じ時に闇の書が不気味に脈打っていた、それを戦う彼らが知るよしもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルから離れ3組に分かれて戦っている。

 

「はああ!」

 

「ぐっ」

 

左右の剣を隙間なく斬ることでザフィーラの障壁にヒビを入れる。

 

「ふっ、せい!」

 

「がっ!」

 

ヒビに剣を差し込み取っ手を蹴り上げて障壁を砕き、ザフィーラを吹き飛ばし追撃する。

 

「はあ!」

 

「ぐっ!」

 

剣を止められたが、硬化魔法で剣を固定し手を離し後ろに回りこみ先程蹴って落てきた剣を掴み振り下ろした。

 

「ぐあ!」

 

浅く肩を斬っただけになった、固定した剣を掴み構える。

 

「くっ……」

 

ザフィーラはよろけながら立ち上がる。

 

「ザフィーラ!」

 

「来るなシャマル!」

 

治療しようとシャマルが近づこうとするがザフィーラは拒否した。

 

「これは一対一、助けは不要」

 

「さすがはベルカの騎士、尊敬します」

 

「貴様こそ先程から銃を使っていないな、使えば有利になると言うのに」

 

「あなたの障壁を砕くには火力が足りませんよ、むしろ先程の背後からの攻撃を非難しないのですね」

 

「ふっあれも戦略の内、敬意をするも、非難はせん」

 

「戦場にことの善悪なし、師の教えです。もし非難してたら軽蔑してました」

 

「光栄だな」

 

ザフィーラも構えた。

 

「行くぞ!」

 

ザフィーラは突進してきた、レンヤは小回りが利くように左の剣を逆手に持った

 

拳を苦もなく止め剣を薙ぐが避けられ背後に回られた。

 

「もらった!」

 

ザフィーラは当たると確信したが左の剣が防いだ。

 

「ぜい!」

 

捻りを入れて拳を弾き、右手の剣も逆手に持った。

 

空中を縦横無尽に駆け抜けザフィーラをその場にとどめる。

 

「はああああああ!」

 

「くっ早いな……だが!」

 

「うわっ!」

 

通り抜ける時に腕を掴まれ投げ飛ばされた、すぐに制動するがザフィーラが一気に接近して蹴りを繰り出す。

 

「くうう!」

 

剣で逸らしすかさず突きを入れるが障壁に阻まれる、前のより硬度が上がっていた。

 

「硬った!なら……」

 

剣に魔力を込めて構える。

 

「レゾナンスアーク、ファースト、セカンド、サードギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

一気にギアを回すと体に負荷がかかるがそうも言ってられない。駆け出し一気に最高速度になりザフィーラの障壁を斬る、一ヶ所に集中して攻撃を入れ障壁を崩しにかかる。ヒビが入った瞬間に後退し空中を蹴って近づき障壁を殴りつけて砕きもう片方の手でザフィーラを斬る。

 

「くっ!」

 

ザフィーラは狼になる事で避けるが……

 

「その手は……通じないよ!」

 

勢いをそのままにして踵落としを放つ。蹴りが当たりザフィーラは屋上に叩きつけられる。

 

「ふう、ふう、一気にギアを回しすぎたな」

 

《魔力の消費が激しいです、落ち着いて下さい》

 

「それが出来るような相手じゃないよ」

 

屋上に立ち、出方を見る。

 

「縛れ、鋼の軛!」

 

「うわあ!」

 

針のような物がレンヤの動きを封じた。

 

「その拘束は簡単には外せんぞ」

 

「しまったな、動けない」

 

「勝負あったな、魔力を……!」

 

ザフィーラはいきなり別の方向を向いた、そこには一冊の本と不気味な紫色の蛇がいた。

 

「何あれ」

 

「あれは闇の書、まさか暴走を!」

 

「えっ、あれが闇の書…」

 

《ページの不足を確認、守護騎士を徴集します》

 

「!…まずい、逃げろ!」

 

叫ぶが、すでに蛇に噛みつかれザフィーラとシャマルは吸収されてしまった。

 

そのまま闇の書は別の場所に転移した。

 

「残りの2人を狙っているのか!って言うかザフィーラがいなくなったのに外れない!」

 

今だに鋼の軛が外れず動けなかった。

 

「ふんぬ、ふんぬーーー!……だあ!取れない」

 

「まさしく手も足も出ないだね」

 

「やっと俺たちの出番か」

 

「ああラーグ、ソエル、すっかり忘れてた」

 

「「おい」」

 

「て言うかお前たちも捕まってんじゃん」

 

「口は動くんだぜ……ポン!」

 

ラーグが出したのはナイフ……神器だ。

 

「でかした!ほら早く貸して!」

 

手を伸ばすがギリギリ届かない。

 

「こーーのーー!ラーグ手が短い!」

 

「仕方ないだろ!」

 

こうしてる間もなのはたちが危険だ。

 

「んーーーーーー!……届いた!ルウィーユ=ユクム!」

 

神器を纏い鋼の軛を壊す、姿が変わり背中には剣の翼がある。

 

「飛ばして行くぞ!」

 

「いっけーーーー!」

 

「間に合うぞ!」

 

移動するとそこには女性がいた。顔に赤い模様があり銀髪の長髪、背中には黒い羽をはやしている。

 

「あれは一体……」

 

「レン君!」

 

「レンヤ!今までどこに……」

 

「すまん、さっきまでザフィーラのバインドに捕まっていた」

 

「そう、でもその姿は……」

 

「あー、これは俺の血筋の力らしい。とにかく説明は後だ」

 

レンヤは目の前の女性を見て。

 

「あの人は誰?」

 

「……闇の書に飲み込まれたはやてちゃん」

 

「て事はあれが管制人格ってやつか」

 

「とにかく今は……」

 

女性が闇の書を掲げ、展開される桜色の魔法陣、そして魔法陣に集まる魔力。

 

「咎人たちに、滅びの光を、星よ集え、全て撃ち抜く光となれ」

 

どんどん集まる魔力……

 

「あれは……」

 

「スターライトブレイカー……」

 

スターライトブレイカーって前に結界ブチ破った時の……あれ?

 

なんか前見たより魔力球が大きい。

 

「とにかく防ぐ……」

 

「レンヤ!」

 

「レン君こっち!」

 

なのはとフェイトに引っ張られた。

 

「ちょっと、どうしたの!」

 

「あれは至近距離では防げない」

 

………なんか説得力がある。

 

「なら掴まれ、俺の方が速い」

 

なのはとフェイトを抱えて飛ぶ

 

「すごい、私より速い」

 

「フェイトちゃん、こんなに離れなくても」

 

「至近距離で喰らったら防御の上からでも堕とされる。回避距離を取らなきゃ」

 

……もしかしてフェイト……アレ……喰らったの?

 

《左方向300ヤード、一般市民がいます》

 

一般市民?まさか……

 

「フェイト、なのは」

 

「うん。分かってる」

 

「勿論」

 

その一般市民がいる方向に向かう、その途中でバルディッシュがカウントを開始した。

 

スターライトブレイカーのカウントか、思ったより長いけど悠長に言ってられない。

 

「なのは、フェイト、この辺りだ」

 

「うん」

 

「分かった」

 

手を離しなのははアスファルトを滑りながら停止して、フェイトはゆっくり電灯の上に乗った。

 

煙で見えないが、この魔力……

 

「あの、すみません!危ないですからそこでじっとしておいて下さい!」

 

煙が晴れて見えたのは見覚えのある白い制服を着たアリサとすずかとアリシアの姿。

 

「なのは?」

 

「フェイトちゃん?レンヤ君まで」

 

「フェイト!」

 

やっぱりと思い頭を抱える、しかしその間もカウントは進んでいる。

 

もう回避は間に合わない……

 

「アリサ!すずか!デバイスを起動しろ!」

 

「レン君⁉︎」

 

「はあ、よくよくあんたは面倒ごとに巻き込まれるわね。フレイムアイズ」

 

「仕方ないよ、でもこれで隠さないで済む。スノーホワイト」

 

「「セーートッ!アーープッ!」」

 

2人はデバイスを起動させバリアジャケットを身に纏う。

 

「ええええ!アリサちゃんとすずかちゃんが!」

 

「前にリニスが説明したって聞いたぞ!ほらデカイのが来るぞ!」

 

「姉さんは後ろに」

 

「うん、分かった」

 

「いきなり人使い荒いわね!」

 

「アリサちゃん、来るよ!」

 

隊列を組み砲撃に備える、そして……

 

「スターライト・ブレイカー」

 

聞こえるはずのない声が聞こえて、それと同時に放たれる砲撃。

 

先頭にレンヤが立ち……

 

「でかいな、レゾナンスアーク」

 

《スプリットモード、スピニングシールド》

 

双剣の取っ手がくっ付き回転を始めた。

 

次にフェイト……

 

「バルディッシュ」

 

《ディフェンサープラス》

 

カートリッジがロードされ、バリアが張られる。

 

「レイジングハート」

 

《ワイドエリアプロテクション》

 

同じくカートリッジをロードして、なのはが全員を囲むようにバリアを展開。

 

「半減する扉よ…開け」

 

《ディバイドゲート》

 

すずかが正面に魔力遅延効果の壁を作った。

 

「みんな、頑張りなさい!」

 

《フォルトゥナ》

 

アリサが全員に対魔力の魔法をかける。

 

そしてすぐに、目の前が桜色で埋まった。

 

 



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25話

 

 

目の前が桜色で埋まり、強い衝撃が襲う。

 

「ぐっ!」

 

凄まじいまでの魔力の奔流、1人でもかけたらどうなっていたか。

 

レゾナンスアークの防御形態スプリットモード、見た目が防御ではなく機能が防御だと言う。なんでも魔力結合を断ち切って分裂させるらしい。

 

しかしこのスターライトブレイカーの前では役に立たない。

 

……フェイトが恐れる理由も分かる。

 

ゆっくりと桜色の閃光が薄れていく。

 

「ふう、2度と正面にいたくない」

 

「あれなのはの魔法よね、おっそろしいの覚えてるわね」

 

「全然半減した気がしないよ」

 

「みんなひどい!」

 

スターライトブレイカーは皆にかなり不評だ。

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「うん、フェイトたちが守ってくれたからね。それとごめんね一緒に戦って上げられなくて、魔力はあるんだけど…」

 

「大丈夫、その気持ちだけでも十分だよ」

 

「アリシア、こいつらを頼む」

 

俺はラーグとソエルを渡した。

 

「レンヤ……」

 

「大丈夫、絶対に帰ってくるさ」

 

「そこまで心配してないさ」

 

アリシアの足元に魔法陣が浮かび、姿を消した。

 

「いつの間に転移を」

 

「うん、守りながらエイミィにお願いしてたから」

 

「それにユーノ君とアルフさんが守ってくれる」

 

「そうか」

 

2人にアリシアを任せるとして。

 

「もうこのペンダントは要らないかな」

 

「この状況じゃあ邪魔よ」

 

「隠すこともないしね」

 

俺たちはペンダントを外した。

 

「うわ、みんな凄い魔力なの」

 

「今まで隠せたペンダントも凄いね」

 

「そうか?それにしても……」

 

「禍々しいほどの魔力ね」

 

「うん、知らない方が幸せなくらい」

 

『皆、聞こえる?』

 

モニターが現れエイミィさんが映る。

 

「はい、聞こえてます」

 

『よかった、それとそこの2人もいいんだね。今からでも遅くないよ』

 

「何寝ぼけた事言ってんのよ」

 

「これ位、大丈夫です」

 

『そう、ならよろしく頼むわ。それで本題、闇の書の主に、はやてちゃんに投降を呼びかけて』

 

いや無理でしょ、既にはやての意思は闇の書の中にある。そして、外に出ている闇の書の意思は……

 

「我はただ主の願いを叶えるのみ。主には穏やかな夢のうちに永久の眠りを。そして、愛する騎士たちを奪った者には永久の闇を」

 

さっきからその言葉を繰り返してる、て言うか騎士たちを奪ってない奪ったのそっち。

 

闇の書が動きを、大地が揺れる。

 

「下だ!飛べ!」

 

地面を突き破って出てくるのは触手と巨大な尾、これって確か砂漠にいた奴。魔法だけじゃなくてこんな事までできるのか。

 

触手を警戒して距離をとるが、なのはとフェイトは闇の書に意識がいっていたためか、触手に捕まった。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん!」

 

「邪魔よ!」

 

「くっ無勢な」

 

助けようとするも、尾が邪魔をする。尾を捌くが触手がさらに地面を突き破り、捕まってしまった。

 

「私はお前を傷つけたくない。そのまま動くな、私はただ……」

 

闇の書がなのはとフェイトを見る。

 

「主の願いを叶えるだけだ」

 

「願いを叶えるだけ?」

 

闇の書の言葉に苦しげな表情を浮かべながら、闇の書を見つめるなのは。

 

「そんな願いを叶えて、それではやてちゃんは本当に喜ぶの!心を閉ざして何も考えずに主の願いを叶える道具でいて、あなたはそれでいいの!」

 

「我は魔導書、ただの道具だ」

 

「だけど言葉を使えるでしょ。心があるでしょ。そうじゃなきゃおかしいよ、本当に心が無いなら泣いたりなんかしないよ!」

 

「この涙は主の涙、私は道具だ。悲しみなどない」

 

なのはの言葉をことごとく受け入れない闇の書。

 

それは心がある事を認めようとしないようだ。

 

その様子に……

 

「バリアジャケット、パージ!」

 

《ソニックフォーム》

 

フェイトがバリアジャケットをパージする事で触手から逃れる。

 

「悲しみなどない?そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって誰が信じるもんか」

 

「あなたにも心があるんだよ。悲しいって言っていいんだよ。あなたのマスターは、はやてちゃんはきっとそれに応えてくれる」

 

「だからはやてを解放して、武装を解いて。お願い!」

 

「あんたたち…」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん…」

 

「………………ん?」

 

闇の書が答える前に先程とは違う大地の揺れ、そして噴き上がる炎の柱。

 

「早いな、もう崩壊が始まったか。私も時期に意識をなくす」

 

闇の書の暴走、もう時間が残されていない。

 

「そうなればすぐの暴走が始まる。意識のあるうちの主の願いを叶えたい」

 

なのはとフェイトの周りに赤い刃が展開される。

 

「闇に沈め」

 

爆音が空気を揺らす。

 

「なのは!」

 

「フェイトちゃん!」

 

「……大丈夫、無事だ」

 

フェイトは持ち前の速度で避けた。

 

それにいつまでもこのままじゃマズイ、剣を浮かして触手を切った。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ」

 

「ありがとう、レンヤ君」

 

その時フェイトが闇の書に斬りかかっていた。

 

「お前も我が内で眠るといい」

 

「まずい、フェイト!」

 

魔力を放出させ近づくが間に合わない。

 

「はあっ!」

 

バルディッシュが展開された魔法陣に弾かれた。

 

それと同時に光に包まれるフェイト。

 

「フェイト!」

 

必死に手を伸ばす、だがその手は……

 

「あ……れ…ん……や」

 

フェイトは光の粒子になり闇の書に飲み込まれた。

 

伸ばした手が空を切る。

 

「フェイトを返せ!」

 

一瞬で近づき剣を振るう。

 

「バインド」

 

左手にバインドがかけられる、剣で斬ろうと魔力を込める。

 

だが斬ろうとする前に光の粒子が俺を覆う。

 

まずい!意識が……

 

「お前も安らかな眠りを」

 

「レン君!」

 

その言葉を最後に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アブソーブ』

 

閉じられる闇の書。

 

「レン君、フェイトちゃん」

 

「あの女……!」

 

「レンヤ君を…よくも!」

 

アリサちゃんとすずかちゃんが怒っている、私は必死に愛機を握りしめ。

 

「エイミィさん!」

 

2人の無事を願って確認します。

 

『状況確認、フェイトちゃんとレンヤ君のバイタルはまだ健在。闇の書の内部空間に閉じ込められたみたい。助ける方法は現在検討中!』

 

一応は無事という言葉に私たちは安堵する。

 

「我が主も、我らに力を貸してくれた騎士も、あの子も覚める事のない眠りの内に。終わりなき夢を見る、生と死の狭間の夢。それは永遠だ」

 

「永遠なんてないよ。皆変わっていく変わっていかなきゃいけないんだ。私もあなたも」

 

「人は歩かなきゃ前に進めない、迷っても歩き続けなきゃいけない」

 

「永遠でも曲がることもできる、道は決して1つじゃない。皆で歩ける道はある」

 

今日初めてアリサちゃんとすずかちゃんと一緒に戦う。でも安心して背中を任せられる。

 

「行くよ、レイジングハート!」

 

《了解、マイマスター》

 

「正念場よ、フレイムアイズ!」

 

《かしこまりました、お嬢様》

 

「お願い、スノーホワイト!」

 

《はい、すずか様》

 

私たちは想いに応えてくれる自身の愛機と共に空に舞い上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ん…ここは?」

 

目が覚めるとベットの上にいた、ただ天井が付いている。いわゆる天蓋付きのベットってやつか。

 

「確か…俺は……」

 

その時、扉が開き1人の男性が入ってきた。

 

だが格好がその…執事?バトラー?だった。あんな格好鮫島さんしか見たことない。

 

「レンヤ様、お目覚めになりましたらご支度を、旦那様がたがお待ちです」

 

「えっ!…あっはい」

 

そう言い残し執事は部屋を出た。

 

「…………これは………夢、だよな?」

 

とりあえず着替えて部屋を出たらあの執事が待っており案内された、通されたのは昔アリサの家の食事に招待された時の様な部屋だ。その部屋に男性と女性がいた。

 

「おはようレンヤ」

 

「おはよう」

 

「おっおはようございます」

 

「あらレンヤ、いつもより堅いじゃない」

 

「えっえーと…」

 

「親にそんな堅苦しくなくていいぞ」

 

「!」

 

親、この人たちが……両親?

 

「レンヤ、どうしたの?ぼうっとして」

 

「いっいえ、なんでもありません」

 

「だから堅いぞ、まさかお母さんに何かされたか?」

 

「お父さんたら、子どもは自由が1番なのよ。それを聖王になるための教育を受けさせろだなんて、教育という名の洗脳よまったく!」

 

「えーーとーー…」

 

「ああごめんなさい、ほら座って、朝食にしましょう」

 

「はっ…う、うん」

 

「うん、よろしい」

 

目が怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空に4色の閃光が走っている。

 

「はああっ!」

 

「うくっ……きゃああっ!」

 

「大丈夫⁉︎」

 

「なのはちゃん!」

 

闇の書が振り下ろした拳をシールドで防ぐも完全には防ぎきれずに吹き飛ばされるなのは。

 

「はあ、はあ、まずい…手がないの」

 

「攻め切れないわね」

 

「どうにかして突破口を開かないと」

 

《手段はあります、エクセリオンモードと言って下さい》

 

「駄目だよ!アレは本体を補強するまで使っちゃ駄目だって。私がコントロールに失敗したらレイジングハート壊れちゃうんだよ」

 

《言って下さい、言って下さい、マイマスター》

 

勝つためにレイジングハートは言葉を繰り返す、信じて欲しいと。

 

なのはは覚悟を決めた

 

「お前たちはもう眠れ」

 

「いつかは眠るよ、でもそれは今じゃない。今はフェイトちゃんとはやてちゃん、レン君を助ける。それにあなたも。レイジングハート、エクセリオンモードーーードライブ!」

 

《イグニッション》

 

カートリッジがロードされレイジングハートの形が槍の様に変化した。

 

「繰り返される悲しみも、悪い夢もきっと終わらせる」

 

「きっとじゃない、絶対よ」

 

「ここで止めよう、皆の力で」

 

再び構えるなのはたち、それを堕とすべく。

 

《フォトンランサー・ジェノサイドシフト》

 

膨大な魔力弾が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらこっちよ」

 

「待って、お母さん」

 

両親と一緒に平原で遊んでいるが素直に喜べない。

 

(これが……本当の……家族なのか)

 

本当の両親、養父母と違って本物の両親……でも何、この違和感は……

 

「行くぞ〜レンヤ」

 

お父さんが投げたボールを取る。

 

「どうかしたか、レンヤ?」

 

「なっなんでもない!」

 

「おっと」

 

誤魔化して、思いっきり投げ返した。

 

(夢、これが俺の望んでる夢⁉︎全然違う……こんなの全然違う!)

 

「レンヤ?」

 

「本当にどうした?」

 

「……ごめん、お父さん、お母さん、俺行く所があるんだ。だからごめん」

 

2人はお互いの顔を見て……笑った。

 

「ふふ、大丈夫よ。でも本当にいいの?」

 

「この先を行けばまた辛いことや悲しいことも繰り返されるかも知れないんだぞ?」

 

「これは夢……いつかは終わるもの、でも俺はあなたたちを本当の両親だと思ってる。これは本物の気持ち」

 

レンヤは両親の方を向き……

 

「でも…俺の居場所はここにはない、俺の居場所は今で育ててくれたお父さんとお母さん、いつも笑っていてくれるなのは、フェイト、アリサ、すずか、アリシア、もちろんはやてやシグナムさんたちも、そこが俺の居場所…俺が守りたい場所だ」

 

「………そう」

 

「なら迷うな、自分の行く道を歩き続けろ」

 

「貴方ならできるわ、私たちの子なんですも」

 

一陣の風が吹き、両親から目を離す。次に目を開けると両親はいなかった、風の音しか聞こえない。

 

「……例え夢でも…いや、いいか」

 

胸元のデバイスを取り。

 

「お待たせ、レゾナンスアーク」

 

《大丈夫です、マイマジェスティ》

 

「お母さんの言葉を間に受けない、俺が王なわけないだろ」

 

レンヤは草原を見つめ……

 

「レストレーション02」

 

双銃を握りしめる。

 

「夢は…終わりだ」

 

《ディメンションバレット》

 

「……さようなら」

 

放たれた弾丸は空間を粉々にした。

 

破片が完全が消えると、真っ暗な空間になった

 

「進むしかないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩くと何か人影が見えた。

 

「人だ、おーい大丈夫ですかー?」

 

「……!君は……どうしてここに?」

 

男性が驚いた様に俺を見る、どこかで見た事ある様な……

 

「闇の書に吸収されちゃって……今どう出ようか考えています」

 

「そうか……なら諦めた方がいい、ここからは出られない」

 

「そうですか?夢は覚めたんです、きっと出れますよ」

 

「……私も最初そうだと思った、しかし歩いても果てはなく何時しか諦めてしまった」

 

男性が絶望した顔で言う。

 

「そうですか、あんたはクロノに似てたと思うんですけど思い違いでしたね」

 

「クロノ…!あの子を知っているのか!」

 

「はい、俺と歳が変わらないのにすごい人です。確か執務官って言ってましたね」

 

「執務官…もうそこまで行ったのか」

 

「やっぱり貴方、クロノの父親?」

 

「ああ、クライド・ハラオウンだ。11年前に闇の書に吸収され。長い間夢を見せられた」

 

「でも夢は覚めた」

 

「幸福だと思ってもどこか違う、そう思い夢を壊した。しかし結果がこの様だ」

 

「……やっぱり貴方はクロノに似てない、クロノは絶対に諦めません。不可能と分かっていても諦めません、会って間もないですがそれだけは分かります」

 

「………………」

 

「俺は立ち止まらない、歩き続ける」

 

レンヤはクライドの横を通り過ぎ、歩く。

 

「君は強いんだな」

 

「諦めが悪いだけです」

 

「そうか。なら私も、もう少し足掻いて見せるか」

 

「その意気です、レゾナンスアーク」

 

《了解、目標…5時の方向、ディメンションバレット》

 

「ボス部屋に直行だ」

 

窓ガラスの様に空間を壊し進む。

 

「……結構無茶苦茶だね」

 

空間をどんどん破っていき、辿り着いた。

 

「見つけたよ、はやて」

 

「レンヤ君⁉︎」

 

「なっ!一体どうやって」

 

レンヤは2人に向かって歩く

 

「答えろ、どうやってここまで来た」

 

「ただ魔力をたどってきただけ、フェイトは外に出たみたいだし。その時の反応を見つけて、それで遠慮なく壊して進んだだけ」

 

「むっ無茶苦茶やな…」

 

失礼な。

 

「主はやてに害をなさなくとも私を止めるのだろう?」

 

「当然、でも俺じゃない。はやて自身がやらなくちゃいけない、俺はただのきっかけ」

 

俺とクライドさんの命ははやてに託されている。

 

「はやて、今の状況は分かっている?」

 

「大丈夫や、全部思い出したよ。なんでこんな事になってもうたのかもな」

 

はやての表情が少し暗くなる、辛い事を思い出しているのだろう。

 

「お願いします、我が主。どうか、どうかもう一度お休みを。もう何分もしないうちに私は呪いで貴方を殺してしまいます。せめて心だけでも幸せな夢の中で」

 

懇願する様に、彼女ははやてに言う。もう諦めている様に。

 

「諦めるな、こんな負の連鎖ここで終わらせる」

 

「だが!」

 

「俺は諦めない、はやてもお前が思ってる以上に弱くない」

 

その言葉に彼女ははやてを見る。

 

「優しい気持ちありがとう、でもレンヤ君の言う通りや」

 

はやては両手で包み込む様に彼女の頬に触れる。

 

「私ら良く似てる。寂しい思い、悲しい思いしてきて1人やったら出来へんことばっかりで」

 

はやての言葉にうつむき、涙を溢れさせ、嗚咽を零す彼女。

 

「せやけど忘れたらあかん、今のマスターは私で貴方は私の大事な子や」

 

「ですが自動防御プログラムが止まりません」

 

「レンヤ君、どうすれば止められる?」

 

「はやてが自動防御プログラムに命令すればいいと思うよ」

 

「ん、了解や」

 

はやてが静かに瞳を閉じて……

 

「止まって!」

 

はやてが思いを込めて叫ぶ、それと共に三角形の白い魔法陣が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとフェイトが闇の書と向き合う中で、闇の書が明らかに動きがおかしくなる。

 

「え?」

 

「これって」

 

急な動きの変化に困惑する、その時……

 

『外で戦っている方、すみません。協力してください!』

 

「はやてちゃん⁉︎」

 

「はやて⁉︎」

 

突然聞こえた声に顔を合わせて驚く。

 

『何とかこの子を止めてあげてくれる、魔導書本体からはコントロールを切り離したけど、その子が表にいると管理者権限が使えへん。今そっちに出とるのは自動行動のプログラムだけやから』

 

はやての言葉に更に困惑する2人。

 

「なのは、フェイト」

 

「フェイト、聞こえる」

 

「ユーノ君」

 

「アルフ」

 

モニターが現れてユーノとアルフが映る。

 

「防御プログラムとの融合状態で主が意識を保っている。今なら防御プログラムをはやてから切り離せるかもしれない」

 

「本当に!」

 

「具体的にどうすれば」

 

「2人の純粋魔力砲で目の前の子をぶっ飛ばして!全力全開、手加減なしで!」

 

ユーノの明確でわかり易い言葉に頷き合い、自身の相棒を掲げる。

 

「さすがユーノ君」

 

「わかりやすい」

 

なのは達が魔法を展開する中で、はやては夜天の書、最後の騎士に呼びかける。

 

「名前をあげる。闇の書とか呪われた魔導書なんてもう呼ばせへん。私が言わせへん」

 

はやてが彼女に触れる手に力がこもる。

 

「ずっと考えていた名前や、強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール………リインフォース」

 

名前を呼んだ瞬間、レンヤ達がいた空間が砕け散った。それと共ににゆっくり消えていくレンヤとクライド。

 

「レンヤ君⁉︎」

 

驚くはやてだが、不思議と不安が無かった。夜天の書に吸収された時の様な感じだ。

 

「大丈夫、外で会おう」

 

「うん、またな」

 

レンヤとクライドは静かに夜天の書の中を後にする。

 

そして、なのはとフェイトの魔力が高まる中で多数のスフィアが展開される。

 

「N&F、中距離殲滅コンビネーション…………」

 

「…………ブラストカラミティ」

 

「「ファイア!」」

 

桜色と金色の砲撃が絡み合いながら正面から撃ち抜く、それと同時に桜色と金色のスフィアから放たれた小砲撃が全方向から防御プログラムの全てを飲み込んだ。舞い上がった爆煙の中から人が出てきた。

 

「コホッ、コホッ、殺す気か!」

 

「君の周りの人は凄いね」

 

「レン君!」

 

「レンヤ!」

 

「無事なのね!」

 

「レンヤ君!」

 

なのはとフェイトとアリサとすずかはレンヤに近づき喜びをあらわにする。

 

「レン君、その人は?」

 

「クロノの父親のクライドさん、11年前に闇の…夜天の書に吸収されたんだ」

 

「初めまして、クロノとリンディがお世話になったね」

 

「いえ!むしろこっちが色々とお世話になりっぱなしで…!」

 

その時爆煙の中から白い光が溢れる。その光の中、夜天の書の空間内では温かな光の中をはやてが漂ってた。それを抱きとめる1人の女性。

 

「夜天の魔導書とその管制融合機、リインフォース。この身の全てで御身をお守りします、ですが防御プログラムの暴走は止まりません。切り離された膨大な力が直ぐに暴れ出します」

 

「うん、まあ、何とかしよう」

 

はやては夜天の書を抱きしめる。

 

「ほな、行こうか。リインフォース」

 

「はい、我が主」

 

リインフォースは光に変わり、はやての頭上に控える。はやては夜天の書に手を掲げ、それに答える様に開かれるページ。

 

「管理者権限発動、リンカーコア復帰。守護騎士システム破損回帰」

 

空白をなぞる様に指をはしらせると空白を埋める様に文字が書き込まれていく、それと共に夜天の書の周りに浮かぶ4つの光。その光に並ぶように光となったリインフォースも夜天の書のそばに降りる。

 

「おいで、私の騎士達」

 

光が大きな柱になり天と海に伸びる、光が収まった時、白銀の球体がありそれを守る様にレンヤ達がよく知る4人の騎士がいた。

 

「我ら夜天の主に集いし騎士」

 

「主ある限り、我らの魂尽きることなし」

 

「この身に命ある限り、我らは御身の下にあり」

 

「我らが主、夜天の王、八神 はやての名の下に」

 

白銀の球体が砕け、黒を基調とした服を纏い、金十字の杖を握りしめたはやてが現れる。

 

「はやてちゃん!」

 

皆の姿を見つめてわずかに微笑むとはやては杖を掲げる、その杖の周りを舞うように降りてくる紫の光。

 

「夜天の光に祝福を、リインフォース………ユニゾン、イン!」

 

紫の光がはやての中に入っていき、再びはやてを光が包み込む。

 

光の中から帽子と上下わかれた外装を纏い、漆黒の三対六枚の翼を持ったはやてが現れる。

 

瞳は鮮やかな青に変わり、髪は白銀に染まっている。

 

その姿が夜天の書の最後の騎士、融合機リインフォースと融合した主はやての姿。

 

夜天の書は完成され夜天の主とその騎士達は真の姿になった。

 

 



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26話

 

 

闇の書の呪いは解かれ、夜天の書へと変わった。だがせっかくの再会だと言うのに騎士達の表情は晴れない。

 

「はやて………」

 

「すみません…」

 

「あの…はやてちゃん、私達…」

 

再会を喜べず、主との約束を破ってしまった事に肩を落としている。

 

「ええよ、皆分かっている。リインフォースが教えてくれた。そやけど、細かい事は後や今は…」

 

はやてが柔らかく笑う。

 

「おかえり、皆」

 

「…っ、はやてーーーー!」

 

ヴィータが感極まった様ではやてに抱き着く。それをはやては優しく抱き返す、他の騎士は見守っている。

 

はやて達のそばに降りてくるレンヤ、なのは、フェイト、アリサ、すずかの5人。

 

5人の表情も穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「なのはちゃんにフェイトちゃん、アリサちゃんにすずかちゃんもごめんな、それにレンヤ君も。皆にはお世話のなりっぱなしで」

 

「はやてが無事なんだから構わないさ」

 

「うん」

 

「そうだね」

 

「当然よ」

 

「はやてちゃんが無事でなによりです」

 

再会を喜ぶ穏やかな時間、だが問題は残っている。

 

本番はこれからだ。

 

その時、後ろからクロノ、アルフ、ユーノ、プレシアさんがやって来た。

 

「……………………」

 

クロノはクライドさんを見て開いた口が塞がらない。

 

「クロノ・ハラオウン執務官、状況の報告を」

 

「……!はい!」

 

俺がクロノを注意する、再会はリンディさんと一緒に。

 

「コホン、時間がないので簡潔に説明させてもらう。あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムが後数分で暴走する。僕らはそれを何らかの方法で阻止しなければならない。停止のプランは今の所二つ」

 

クロノは懐ろから一枚のカードを取り出す、それは杖型のデバイス……デュランダルに変化する。

 

「一つは強力な凍結魔法で停止させる」

 

「残りの一つは軌道上に待機しているアースラのアルカンシェルで消滅させる。これ以外にいい方法はないかしら?」

 

「えっと………最初のは無理だと思います。主のいない防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから」

 

「凍結させてもコアがある限り再生は止まらん」

 

あっさり第一候補が却下された。

 

「アルカンシェルも絶対ダメ!こんな所でアルカンシェル撃ったら、はやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」

 

ヴィータが手で大きくバツを作る。

 

「そんなにすごいものなのですか?」

 

すずかが疑問に思う。

 

「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲って言えば大体わかる?」

 

「全然分かりません」

 

「凄い威力て言うのは分かるけど」

 

「とにかく、海鳴がぶっ飛ぶくらいの威力」

 

「私もそれ反対!」

 

「同じく絶対反対!」

 

「僕も艦長も使いたくないよ、でもアレが本格的に暴走したら被害はさらに大きくなる」

 

『皆!暴走開始まであと15分切ったよ!会議はお早めにお願いします!』

 

エイミィさんから通信が入り、一同は焦る。

 

「すみません、アルカンシェルってどこでも撃てますか?」

 

「何か思いついたのか」

 

「いえ、防衛プログラムを宇宙に転移して。そこでアルカンシェルを撃てないのかなあ〜って」

 

『ふっふっふ、管理局のテクノロジーを舐めてもらったら困りますな……撃てますよ、宇宙だろうが、どこだろうが!』

 

「でもあれだけの質量の転移は無理でしょう」

 

「せめてコアさえ露出していれば……」

 

「あっ、これいけるんじゃね」

 

「レン君?」

 

「おい、ちょっと待て君、まさか!」

 

「これしかないだろ」

 

レンヤは全員に作戦を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライドさんのデバイスは壊れていたのでアースラに転送してもらった。

 

「何ともまぁ、相変わらずもの凄いと言うか」

 

「計算上では実現可能って言うのがまた怖いですね…………クロノ君、こっちの準備はOK。暴走臨界点まであと10分!」

 

リンディとエイミィが呆れたように笑う。

 

「クライドさんと会わないんですか?」

 

「今は作戦途中、現場を離れるわけにはいきません。それに……」

 

リンディは笑みを浮かべ。

 

「これが終われば、いつでも会えます」

 

とても嬉しそうに笑った。

 

「個人の能力頼みで、実にギャンブル性の高いプランだが…まあやってみる価値はある」

 

「防衛プログラムのバリアは物理と魔力の複合三層、まずはそれを破る」

 

「バリアを抜いたら私達の一斉攻撃で、コアを露出」

 

「そしたらユーノ君達の強制転送魔法でアースラの前まで転送!」

 

「後はアルカンシェルで蒸発、っと」

 

「上手くいけばこれがベストです」

 

「最初から全力で挑むわよ」

 

「皆で力を合わせれば絶対に行けるよ!」

 

『暴走開始まで、後2分!』

 

「あ、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、レンヤ君」

 

「「「「「?」」」」」

 

「シャマル」

 

「はい、5人の治療ですね。クラールヴェント、本領発揮よ」

 

《ヤー》

 

「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」

 

シャマルの魔法で5人が回復する。

 

「うわぁ」

 

「すごい」

 

「傷が治ってくいくわ」

 

「暖かい」

 

レンヤは手を閉じたり開いたりを繰り返し。

 

「…………来る」

 

その言葉と共に幾つもの闇の柱が立ち上がる。

 

「夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム、ナハトヴァールの侵食暴走形態ーー闇の書の闇」

 

現れたのは額に女性の像を乗せた化け物、シグナム達が蒐集して来たあらゆる生物の要素を持っているようだ。

 

「ケイジングサークル!」

 

「チェーンバインド!」

 

ユーノのサークル状のバインドとアルフのチェーンバインドが組み合わさり、拘束する。

 

「囲え、鋼の軛!」

 

ザフィーラは光の杭をナハトヴァールの体に突き刺す事で動きを止める、しかしナハトヴァールは身をよじるだけでそれを破壊し、触手から光線を乱発するが3人は回避した。今度は砲台のようなものがレンヤ達がいる岩場に向かって砲撃を撃つがそこから離れて回避する。

 

「先陣突破、なのはちゃん、ヴィータちゃんお願い」

 

シャマルの指示に合わせ、なのはとヴィータが飛び出す

 

「ちゃんと合わせろよ……高町 なのは…」

 

「っ!うん!」

 

わずかに頬を染めながらなのはの名を呼ぶヴィータ。そして、ちゃんと名前を呼んでもらった事に喜び満面の笑みを浮かべるなのは。

 

「やるぞ、アイゼン!」

 

《ギガントフォルム》

 

カートリッジを2発使い、アイゼンの形態を変化させる。

 

「アクセルシューター・バニシングシフト!」

 

《ロックオン》

 

「シュート!」

 

レイジングハートは熱源反応を捕捉し、なのはは魔力弾を作り出す。ナハトヴァールは攻撃するもなのはは防御し発射、ヴィータの背後から拡散させて触手を撃墜していく。ヴィータはそのまま闇の書の背後を取る、ナハトヴァールはヴィータを撃つがなのはがそれを撃ち落とす。ヴィータが赤いベルカ式魔法陣を展開しその上に乗る。

 

「轟天、粉砕!」

 

カートリッジをロードし天高く掲げられたグラーフアイゼンが巨大化する。

 

「ギガントシュラーク!」

 

巨搥が1枚目のバリアを打ち砕く。

 

「シグナム、フェイトちゃん!」

 

乱射される魔力弾をかわしながらシグナムはフェイトの後ろに来る。

 

「行くぞ、テスタロッサ」

 

「はい、シグナム」

 

フェイトはザンバーフォームのバルディッシュから斬撃を放ち、ナハトヴァールの動きを止める。そのまま高く飛び上がりシグナムのいる反対方向に行き魔法陣を展開して着地する。

 

《ボーゲンフォルム》

 

シグナムはカートリッジを1発使いレヴァンティンを鞘と合体させ弓に変化させる、、弦を引くと矢が形成される。

 

フェイトはバルディッシュを掲げる。

 

「翔けよ、隼!」

 

《シュツルムファルケン》

 

「貫け、雷神!」

 

《ジェットザンバー》

 

矢は隼の形をした炎となりバリアを貫通、巨大化したバルディッシュの魔力刃は2枚目のバリアを破壊するも3枚目に阻まれる。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

アリサは右から、すずかは左から近づく。

 

「すずか!やるわよ!」

 

「分かったよ!アリサちゃん!」

 

《セイバーフォルム》

 

アリサはカートリッジを1発使いフレイムアイズを刀状に変化させる。

 

《スナイプフォーム》

 

刃を変化させスノーホワイトを長銃に変える。

 

「穿て、氷弾!」

 

《スパイラルライン》

 

「吼えろ、陽光!」

 

《サイファーバースト》

 

放った弾丸は一筋の光となりバリアを貫通しアリサの横を掠める、バリアに開いた穴を通りナハトヴァールの接近しアリサの姿が複数の閃光となり足を全部切り落とした。

 

「レンヤ君!」

 

レンヤはナハトヴァールを踏み台にして上空に上がる、両手に持つ双剣のギアが全て回転している。

 

「瞬け」

 

《クレッセントブレイク》

 

「極光!」

 

空中を蹴り急降下して、2つの弧を描いた軌跡が交差し3枚目のバリアとナハトヴァールを斬った。

 

「やったの……?」

 

「…まだだ!」

 

ナハトヴァールは魔力弾を乱射し、咆哮とともに障壁を張り直す。

 

「うおおおおぉぉぉ!」

 

「落ちなさい」

 

ザフィーラが拳に魔力を集め障壁を破壊し、プレシアが杖を掲げ極大の雷を落とす。

 

「はやてちゃん!」

 

「彼方より来たれ、やどりぎの枝」

 

『銀月の槍となりて、撃ち貫け』

 

「『石化の槍、ミストルティン!』」

 

上空に魔法陣が出現しその周囲に光が生まれる、そこから放たれた石化効果を持つ槍がナハトヴァールを石化させていく。しかしナハトヴァールから新たなパーツが生え、見てくれがひどくなっていく。

 

離れた所でクロノはデュランダルを構える。

 

『クロノ君!やっちゃえ!』

 

「はぁぁ……」

 

デュランダルを掲げるとナハトヴァールの周囲にデュランダルのビットが浮かぶ。

 

「凍てつけ!」

 

《エターナルコフィン》

 

デュランダルから凍結魔法がナハトヴァールに直撃、拡散したものもビットが増幅させ凍らせていく、ナハトヴァールは呻き声を上げる。

 

「なのは、フェイト、レンヤ、はやて!」

 

凍結魔法の余波が凄まじくクロノ自身、服や髪の一部が凍りついていたが、それでも4人の名前を呼ぶ。

 

上空の4人がそれぞれ最大級の魔法を放とうとしていた。

 

「全力全開、スターライト…………」

 

なのはの前に星が集まるように魔力が集まり巨大な球体を作っていく。

 

「雷光一閃、プラズマザンバー………」

 

バルディッシュに雷が落ち、魔力を飛躍的に高めていく。

 

「煌めけ蒼空よ、スカイレイ………」

 

前に双剣が円を描くように回転し輪となり、双銃に魔力を込めていく。

 

「ごめんな………お休みな」

 

切り捨てる事になってしまった夜天の書の闇、謝罪と別れの言葉を告げ、杖を掲げる。

 

「響け終焉の笛、ラグナロク………」

 

展開されるベルカの魔法陣の角に集める魔力。

 

「「「「ブレイカー!!!」」」」

 

星達の集いから放たれる桜色の砲撃。

 

振り下ろされる金色の斬撃。

 

輪を通りさらに巨大になる蒼空の砲撃。

 

絡み合い巨大な1つとなる白銀の砲撃。

 

4つの光がナハトヴァールを吞み込み、凍てついた海を砕いていく。

 

露出したナハトヴァールの核を、シャマルの旅の鏡で見つける。

 

「捕まえ………たっ!」

 

「長距離転送!」

 

「目標、軌道上!」

 

ユーノとアルフの魔法陣がコアを挟み転送準備を整えた。

 

「「「転送!」」」

 

3人の力を合わせて強制転送魔法が発動し、虹色に光る環状魔法陣が闇の書の闇の残骸を囲み、コアを軌道上に転送する。

 

「コアの転送、来ます!」

 

「転送しながら生体部品を修復中!もの凄い速さです!」

 

「アルカンシェル、バレル展開!」

 

「ファイアリングロックシステム、オープン」

 

リンディの前に透明な立方体が現れる。

 

「命中確認後、反応前に安全圏まで退避します、準備を!」

 

「了解!」

 

全員が見守る中アルカンシェルは発射される。

 

「アルカンシェル、発射!」

 

リンディが立方体に手をかざすとロックが解除され、アルカンシェルが発射され、闇の書の闇に命中した。時空を歪める砲撃に飲まれて、完全に消滅した。

 

「効果範囲内の物体、完全消滅。再生反応………ありません!」

 

『という訳で、現場の皆、お疲れ様でした。状況、無事に終了しました!』

 

エイミィの言葉にそれぞれが互いに笑い合ったり、終わったと大きく息を吐いたりそれぞれだが、何はともあれ一安心だ。レンヤとなのはとフェイト、アリサ、すずか、はやてと笑みを浮かべハイタッチをしたりと無事に終わった事に安堵した。

 

その時、はやてとリインフォースの融合が解かれる。

 

「主はやて、まだユニゾンを解除されては……」

 

リインフォースの言葉が終われないうちに意識を失い、力なく倒れるはやてをレンヤが支える。

 

「はやて!」

 

「はやてちゃん!」

 

その様子に守護騎士達も集まって来る。

 

「クロノ、救護班を頼む」

 

「ああ、分かった」

 

クロノは頷き、アースラに転送するため魔法陣に乗る。

 

「ああー緊張して肩が凝ったわね〜」

 

「皆、頑張ったからね」

 

「アリサちゃんとすずかちゃんも凄かったよ!」

 

「うん、私でも勝てるかどうか…」

 

「とりあえず、一休みしたいな」

 

レンヤ達が労いの言葉をかけあい、アースラに戻ろうとした時。

 

ビキン!

 

「「「!」」」

 

ビキ、ビキ、バキ………スー

 

背後の空間に赤いヒビが走り、ゲートが出現した。

 

「どうやら……」

 

「私達は……」

 

「一息つけないらしい」

 

「えっ」

 

「レンヤ?」

 

転送される瞬間、3人は魔法陣から出る。

 

「レン君⁉︎」

 

「どうしたの……」

 

フェイトが言い終わる前にアースラに転送された。

 

レンヤ達はゲートを見つめ……

 

「あれだけドンパチやったんだ、出現する確率もあるさ」

 

「全く、もっと時と場合を読んでほしいわ」

 

「でも放っては置けないよ」

 

その時アースラから通信が入ってきた。

 

『君達!一体なにをしているんだ!』

 

「ごめんなクロノ、どうやらまだそっちに戻れそうもない」

 

『そこに一体何があるって言うの!』

 

「これは私達がすべき事、あなた達はゆっくり待っていなさい」

 

『もう闇の書の闇は消えたんだよ!』

 

「でも影響は出ました、見過ごすわけにはいけません」

 

『レン君!アリサちゃん!すずかちゃん!』

 

「なのは、すぐに戻る」

 

ディスプレイから視線を外し、ゲートをみる。

 

「レンヤ、ここはいつもの号令をやってくれない?」

 

「そうだね、よろしく頼みます主様♪」

 

「からかわないでくれ……」

 

レンヤはアリサとすずかに向き合い、昔に皆で決めたチーム名を言う

 

「チーム・ザナドゥ、これよりナハトヴァールの影響により海鳴近海に出現した異界の探索を開始する。2人共、気を引き締めて行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「了解!」

 

レンヤ達はゲートの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えた!」

 

「転移したのか!」

 

「通信が遮断!復帰もできないし転移反応も魔力反応も検出できない!」

 

リンディ、クロノ、エイミィが3人を捜索。

 

「レン君……」

 

「レンヤ……」

 

「だっ大丈夫だよ、フェイト」

 

「レンヤ、一体どうして……」

 

なのは、フェイト、アルフ、ユーノが顔を暗くしている。

 

「ナハトヴァールの影響……」

 

「我らの不手際を、任せてしまった」

 

「待っている事しか出来ないのが歯痒いな」

 

「3人共、無事でいて」

 

「………異界」

 

守護騎士達も待つ事しか出来ず……

 

「お母さん…」

 

「大丈夫よ、きっと」

 

「レンヤ、どうか無事でいて下さい」

 

アリシア、プレシア、リニスも含め全員がレンヤ達の心配をしていた。

 

「行くのか?」

 

「うん、私達がいてチーム・ザナドゥなんだよ」

 

「忘れていやがるから、1発ガツンと言ってやるんだ」

 

「そうか、先程の座標に君達を送ろう。よろしく頼んだよ」

 

「任された〜!」

 

クライドがラーグとソエルを転移させた、転移後すぐにラーグとソエルはゲートに入った。

 

「転移反応!ここから転移…ラーグ君にソエルちゃん⁉︎」

 

「私がやったんだ」

 

「クライド⁉︎」

 

「父さん⁉︎」

 

「今は、彼らを信じよう」

 

 



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27話

 

 

ゲートを通り抜けるとそこは海底にある神殿の中だった。

 

水中とレンヤ達がいる空間を隔てる壁はなく、ただ水が入ってこなかった。

 

「毎度の事ながら凄い光景だな」

 

「綺麗だけど、奥から禍々しい気配を感じるわ」

 

「どうやら本当にナハトヴァールの影響を受けているみたいだね」

 

その時、ゲートからラーグとソエルが出てきた。

 

「レンヤー!」

 

「お前ら!」

 

「置いていくなんて水くさいぞ」

 

「そうそう、私達も入れてチーム・ザナドゥでしょう」

 

「ふふ、そうだね」

 

「ごめんなさいね」

 

レンヤの両肩にラーグとソエルを乗せた。

 

「この迷宮は今までとは比べ物にならないぞ」

 

「さっきまでの戦闘の疲労もある。皆、気をつけて」

 

「「「了解!」」」

 

異界の探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アースラでは……

 

「レン君……」

 

「アリサ、すずか……」

 

なのはとフェイトは3人が心配で休んでいなかった。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、休まないと体が持たない」

 

エイミィが2人に温かい飲み物を渡した。

 

「エイミィさん」

 

「あれから状況は…」

 

「以前変化なし、調査隊を同じ座標地点に向かわせたけど収穫なし」

 

「そう……ですか」

 

「一体…何が起こっているの」

 

「私が説明します」

 

「……!リニス」

 

「何か分かるんですか!」

 

「これから会議室に行き皆さんに説明します、もちろん来ますよね」

 

「「はい!」」

 

それからすぐにはやてとリインフォースを抜いた全員が会議室に集まった。

 

「私が知ってる事は断片的で不確かです、それでもいいですか?」

 

「構わない、教えてくれ」

 

リニスの問いに全員が頷く。

 

「はい、先程も申し上げた通り私が知ってる事は断片的です。約4ヶ月前、私はレンヤ達と共に街に行きました」

 

「リニスは猫の状態で?」

 

「はい、最初は皆さん楽しそうに遊んでいましたが。いきなりすずかが何らかの装置を取り出しレンヤ達に話していました、楽しそうだった顔はすぐに真剣なものに変わりました」

 

「先程の行動と似ているな」

 

シグナムが相槌をうつ。

 

「それからその装置を頼りに人気の少ない路地に来ました、すずかが装置を操作した後3人とも何もない壁を見続けていました」

 

「それでレンヤ達はどうしたの?」

 

「レンヤは私を籠に入れた後、3人が壁に向かって走り出したら…消えてしまいました」

 

「それって!」

 

「しばらく経った時、いきなり3人が現れました。その時3人共怪我をしてました、なんらかの戦闘があった様に」

 

「!」

 

「これが私の知る全てです、お役に立てずにすみません」

 

「いいえ、十分すぎるわ」

 

「今の証言に推測すると、レンヤ達は今も戦っている」

 

「そんな……」

 

「レンヤ達が戦っているのに…待つ事しかできないなんて……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「はあ、はあ、はあ…」」」

 

レンヤ、アリサ、すずかが背中を合わせて座りながら休んでいた。

 

「くっ、一体一体がSグリード並。本当に比べ物にならない」

 

「連戦による疲労もあってキツイわ」

 

「それに入り口で感じた魔力が強くなっている」

 

3人が奥の部屋を見る、扉越しでも感じる禍々しい気配を。

 

「やばいね、あれ」

 

「やばすぎるわよ」

 

「勝てるの…かなぁ」

 

「皆……」

 

「3人共、これを」

 

ラーグが取り出したのは……お弁当だった。

 

「この状況で⁉︎」

 

「だからこそだ、初戦から結構時間が経っている。今の状態で行くよりいいだろう」

 

「……喉に、通るかな?」

 

「お茶ならあるよー」

 

「そう言う問題じゃないわよ」

 

とりあえず食べる事にした。

 

「うん、美味しい」

 

「桃子の特性お弁当だよ」

 

「美味しいわけね」

 

「温かいね、どうやったの?」

 

「それは……」

 

「言わんでいい」

 

嫌な予感しかしない。それからすぐに食べ終えまた戦いに挑む。

 

「さて、お腹も膨れた事だし行くか」

 

「十分に休めた、行けるわ」

 

「奥のグリードに変化はないの?」

 

「ナハトヴァールの影響は受けて出現した普通のエルダーグリードだ」

 

「近づかない限り問題ないよ」

 

「でも放って置くわけにはいかない」

 

「海鳴を、私達の日常を守る為にも」

 

「ここで終わらせて見せる!」

 

デバイスを構え奥に進んだ。中は円を描いた石畳の道があり、円の中に海水があった。

 

「何もいないわね」

 

「でも禍々しい魔力が強くなっている」

 

「……来るぞ!」

 

中心の海水が盛り上がり、巨大なイカが現れた。

 

「イカーーーー⁉︎」

 

「えっイカなの⁉︎1、2、3……」

 

「ソエル、数えんでいい」

 

「エルダーグリード……デスクラーケン!」

 

「なんて大きさ…」

 

エルダーグリード、デスクラーケンは天井に向かって咆哮した。

 

「きゃああ!」

 

「耳が……」

 

「一体何を…」

 

全員とっさに耳を塞ぎ、耐える。その時、この空間が大きく揺れ始めた。同時にデスクラーケンが光り始めた。

 

「何が起こって……!」

 

「っ……!皆!周りを見なさい!」

 

「!、これって……」

 

だんだんと天井を覆う水が無くなり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3人が消えた地点で異常が発生!モニターに出します!」

 

モニターに映ったのは赤い門だったが、通常とは異なりゲートの周りに物質的なパーツが付いている。

 

「赤い……門?」

 

「なんだよ……あれは」

 

「もしかしたてレンヤ達はあそこから……」

 

「高魔力反応を確認!何かきます!」

 

海中から巨大な神殿が上がってきた。

 

「なあ⁉︎」

 

「あれは一体……」

 

「見て!天井が開くよ!」

 

神殿の屋上付近の壁が剥がれた、そこにいたのは。

 

グアアアアアアアア!

 

「きゃああ!」

 

「巨大な……イカ⁉︎」

 

「……!あれは…」

 

エイミィがボードを操作して一ヶ所に映像を拡大した。

 

「レン君!アリサちゃんにすずかちゃんも!」

 

「無事で本当によかった」

 

「そうと言ってもいられないぞ」

 

怪物が光りだし、中から現れたのは頭上に女性くっついた怪物が現れた。

 

「あれって!」

 

「ナハトヴァールに付いていた女性の……」

 

「クロノ君!今すぐに転送して!」

 

「あたし達も加勢するぜ!」

 

「すぐに出れます!」

 

「分かった、すぐに転送する!」

 

はやてとリインフォースを除いた全員がもう一度、同じ場所に戻ってきた。

 

「レン君!」

 

「待ってなのは!迂闊に近づいたら……」

 

なのはが神殿に近づいた瞬間、見えない壁に阻まれた。

 

「障壁か!」

 

「こんな物あたしが!」

 

ヴィータがアイゼンを叩きつけるがビクともしなかった。

 

「何⁉︎」

 

「なら全員で……!」

 

全員で攻撃するがヒビ1つ入らなかった。

 

「どうなってんだ!ナハトヴァールの時より堅いぞ!」

 

「突破は不可能か」

 

「赤い門からも入れない」

 

「そんな……」

 

その時、中にいるレンヤ達が戦い始めた。

 

「ああ……」

 

「こっちに気がついていないのか!」

 

「くっ、一体何がどうなっている!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れとデスクラーケンの光りが収まった、そして目の前にいたのは頭上に女性がくっついたデスクラーケンだった。

 

「嘘でしょう!」

 

「エルダーグリードじゃないの⁉︎」

 

「くっナハトヴァールの影響を受けすぎた、もうエルダーグリードじゃない」

 

「えって事は……」

 

「見た感じグリムグリード名前は………終夜ノ海魔(ナハト=ヒュドラ)って所だね」

 

「こ、これが………グリムグリード⁉︎」

 

「この様子だと、さっきの揺れでそとにこの神殿が顕現したね。皆にも見えているはずさ」

 

「どの道もう隠し通せない、構わんさ」

 

レンヤはグリムグリードとなったを見据える、デバイスを向けて。

 

「正念場だ………俺達の全力をもってグリムグリードを撃破する!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

それを合図にナハト=ヒュドラが触手を槍の様に放った。レンヤ達は避け、アリサが敵に向かって接近した。

 

「やるわよ、フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

「一閃!」

 

焔を纏った剣が側頭部を焼き切る。

 

「思った以上に硬くないわ!」

 

「そうか……なら!」

 

「皆!傷を見て!」

 

すずかの言葉を聞き、傷を見ると急速に再生していた。

 

「そんなのあり!」

 

「ナハトヴァール顔負けだね」

 

「だったら動きを止めて、一気に叩く!」

 

レンヤがナハト=ヒュドラの周りを高速で回る。

 

「レゾナンスアーク、バーストモードーーードライブ!」

 

《イグニッション》

 

剣と銃が消えて、一振りの刀が現れた。

 

「全魔力をこの一刀に……」

 

《シャインブレイド》

 

レンヤが一瞬で消えて、ナハト=ヒュドラの足を全て切り落とした。

 

「すずか!」

 

「了解!スノーホワイト!」

 

《サードギア、ドライブ》

 

ギアを全て回転させ頭上に突き刺した。

 

「芽生えよ、氷華!」

 

《アイスブランチ》

 

突き刺した地点から氷が這うようにナハト=ヒュドラを縛り、凍らせていく。

 

「ナハトヴァールまんまなら、これじゃ終わらない。今持てる最大の魔力を持って撃破する、これで失敗したら後がないぞ!」

 

「ええ、終わらせましょう!」

 

「うん!」

 

アリサが剣を地面に突き刺し魔力を流し込む。

 

「燃え上がれ!」

 

《バーニングウォール》

 

ナハト=ヒュドラの周囲を焔の壁で囲む。

 

「スノーホワイト、お願いできる?」

 

《貴方の御心のままに》

 

すずかは笑って返事をするとナハト=ヒュドラの上に飛び上がる。

 

「降り注げ、流星!」

 

《メテオレイン》

 

目の前に現れた魔法陣にスノーホワイトを投げ、ナハト=ヒュドラにスノーホワイトの形をしたいくつもの魔力弾が降り注ぐ。

 

「レゾナンスアーク」

 

《フォースエッジ》

 

魔力の長大な刀身を作り、すずかの魔法が降り注ぐ中、ナハト=ヒュドラに突っ込む。

 

スノーホワイトは転移ですずかの手にある。

 

「ふう……せいっ!」

 

ナハト=ヒュドラを下から上に切り上げ真っ二つにした。

 

「アリサ!」

 

「任せて!」

 

焔の壁がナハト=ヒュドラに迫り、覆い尽くした。

 

「フレイムアイズ……」

 

《エクスプロージョンインパクト》

 

「イグニッション!」

 

焔の中で爆発が起き発生したエネルギーは拡散することなく1点に集中され、神殿を揺るがしかねない程の爆発が起きた。

 

「うわーーすごいね〜」

 

「とんでもないな」

 

「スターライトブレイカーの次に受けたくないかな」

 

「あはは…」

 

「そこ、うるさい!」

 

全員がナハト=ヒュドラのいる地点を見る。

 

「警戒を怠るな」

 

「ええ、異界がまだ収束していないわ」

 

「でも、もう魔力が…」

 

その時、煙の中を何かが飛び出した。

 

「きゃあ!」

 

「うっ!」

 

ナハト=ヒュドラの触手がアリサとすずかを吹き飛ばした。

 

「2人共!」

 

「レンヤ!」

 

「前を見ろ!」

 

「っ!しま……」

 

触手が槍の様に迫り。

 

「ぐあ!」

 

「「レンヤ!」」

 

左腕、右脚に突き刺さり壁に激突した。

 

「うっ… ここまでの傷は……初めて…だな」

 

「レンヤ!大丈夫⁉︎」

 

「今すぐ撤退を」

 

「できるわけ……ないだろう」

 

右手に持っていた刀で触手を切り落とした。

 

「つっ〜〜〜〜!」

 

《治癒魔法をかけていますが効果は薄いです》

 

「だろうね」

 

痛みに耐えながら槍を引き抜き、そうつぶやく。

 

「アリサとすずかも限界か……」

 

2人共、さっきの一撃でもう動けない。

 

修復していくナハト=ヒュドラを見ながら、レンヤは考えを巡らせていた。

 

その時のなのは達は

 

「いやーーー!レン君!レン君!」

 

レンヤが槍に突き刺さった光景が映り、なのはが障壁を何度も叩いていた。

 

「なのは!落ち着いて!」

 

「離してユーノ君!レン君が、レン君が!」

 

暴れているなのはをユーノが落ち着かせていた。

 

「レンヤ!そんな……レンヤが!」

 

「落ち着いてフェイト!」

 

アルフもフェイトを落ち着かせる

 

「だがこのままだと……」

 

「あの再生力……3人だけでは分が悪い」

 

「戦闘による疲労も大きいわ」

 

「くっ見ているだけしか出来ないのか!」

 

ザフィーラが障壁に拳を打ちつける

 

『クロノ君……』

 

「今は……信じて待つしかない」

 

『クロノ……』

 

クロノの拳は血が出る程強く握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神殿内ーー

 

「ソエル、神器を」

 

「ダメだよ!今のレンヤじゃ体が耐えられない!」

 

「俺は皆を守る、それに俺の死に場所はここじゃない。やり残した事がまだまだあるんだから!」

 

「レンヤ……」

 

「本当に……いいんだな?」

 

「うん」

 

「……分かったよ、ポン!」

 

ソエルが出したのは火の神器だった。

 

「レンヤ、内なる力と秘力を解放して!」

 

「秘力?」

 

「要するに力を解放しろって事だ」

 

「よくわからないけど、フォエス=メイマ!」

 

火の神器を纏い、まずは内なる力を解放する。

 

(内なる力…最後にソフィーさんに見せたあの力……)

 

リンカーコアに集中して、光りが変化するのを感じたら……

 

「はああっ!」

 

一気に解放する!

 

レンヤの髪が金髪になり、目が異虹彩の右目が翠、左目が紅に変わっていた。本人変化に気づいていなく目がよく見えるようになったと思うくらいだが……

 

(やつの核は………あそこだ!)

 

鮮烈になった視界でナハト=ヒュドラの核を見据え、剣を構える。

 

「ふううっ、秘力……解放!」

 

しかしそれをさせまいと触手をレンヤに伸ばす。

 

「私達の主はやらせないわよ!」

 

「貴方の道は私達が切り開く!」

 

アリサとすずかが触手を切り落とした。

 

「ありがとう。アリサ、すずか」

 

レンヤは剣を巨大化させナハト=ヒュドラの核に狙いを付ける。

 

「我が剣は緋炎!紅き業火に悔悟せよ!フランブレイブ!」

 

剣を地面に引き摺りながらナハト=ヒュドラの核を横薙ぎにして斬り裂いた。

 

ナハト=ヒュドラは青い焔に包まれながら塵と消えた。

 

「はあ、はあ、これで…終わり?」

 

「もう…体力も…魔力も…ないわ…」

 

「もうこういう事は…こりごりだよ…」

 

「皆、お疲れ様」

 

「ゆっくり休めよ」

 

周りが光り出し異界が消えた。

 

「「「「「あっ」」」」」

 

ゲートは空と海の上、魔力がもうないレンヤ達は……

 

「きゃああああ!」

 

「落ちてるよおお!」

 

「まあそうだろうな」

 

「ソエル!ソエルーーー!」

 

「ごめーん、レンヤの傷を塞ぐのに結構魔力使っちゃた〜〜」

 

「ラーグ!ラーグは何か手はないの⁉︎」

 

「俺もソエルと同じ理由で魔力はない」

 

「そんな〜〜!」

 

そうしている間にも海面が近づく。

 

「「「もうダメだ!」」」

 

目を閉じて衝撃に備えた。

 

「………………あれ?」

 

「何も……こないわね?」

 

「んーーー!……うん?」

 

レンヤ達がゆっくり目を開けると魔法陣の上に浮いていた。

 

「3人共大丈夫か!」

 

「クロノ、どうやら助けてもらったらしいな」

 

「君達の苦労を考えれば安い物さ……ちゃんと説明してくれるな?」

 

「ああ、こいつらがな。俺達は休みたい…」

 

「ええ、不潔だけどこのままベットに行きたいわ」

 

「ふふ、せめてシャワー位は入ろうよ」

 

その時、他の全員がこっちに来た。

 

「レン君!大丈夫⁉︎痛くない⁉︎」

 

「レンヤが怪我を……早く治療を!」

 

「待って!本当に待って!死ぬ!絶対に死ぬ!」

 

なのはとフェイトに迫られて、傷に響く。

 

「落ちついて!」

 

「そうだよフェイト」

 

「にゃ!」

 

「わっ!」

 

2人はユーノとアルフに引き剥がされた。

 

「それにしても……レンヤが聖王だったなんて…」

 

「ん?聖王ってあの?」

 

すると突然、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが跪く仕草をする。

 

「聖王陛下!聖王陛下とは知らず、今までの御無礼、誠に申し訳ございません!」

 

シグナムが深く謝罪をする様に言った。

 

「ちょ、ちょっと皆!いきなりどうしたの!」

 

守護騎士達の突然の行動になのはが驚く。

 

「うーん聖王…か、見た目はそうだけどなぁ」

 

髪をいじくり、虹色の魔力光を見るレンヤ。

 

「なのは、簡単に言うとレンヤはシグナム達の国、古代ベルカの王族の末裔なんだよ」

 

「「ええええっ!」」

 

ソエルの言葉になのはとフェイトが驚く。

 

「俺達は代々聖王に仕える時空の守護獣、何年か前に半分になったがな」

 

「半分?」

 

「私とラーグは元々一体の守護獣だったのさ、わかれた理由はさっぱりだけどね」

 

「ザフィーラも薄々感付いていたでしょう」

 

「……はい」

 

ザフィーラはかしこまった様に言う。

 

「あーシグナム達、俺に対してそんなかしこまらなくてもいい。俺は確かに聖王の末裔かもしれないけど、シグナム達には友達でいてほしいんだ」

 

「し、しかし!」

 

やっぱりお堅いシグナム達は受け入れ辛いか……

 

「はあ、やりたくは無かったんだけど…」

 

「レンヤ、こう言え」

 

ラーグがレンヤに耳打ちをする、レンヤは立ち上がりまるっきり別人の様に変わり。

 

「ならば夜天の書の守護騎士に命令する!私、レンヤ・ゼーゲブレヒトは汝らに今までの通りに接する事を命ずる、これは絶対だ!」

 

「はっは!……あ、いや…分かった…」

 

「レン君…すごいの」

 

「うん、本当に王様って感じ」

 

「迫力があってもう別人だね」

 

「それでこそ私の主よ!」

 

「主様!かっこいいです!」

 

「…………やめて…地味に傷つくから」

 

レンヤが疲れたように言う。

 

「それよりもレン君…」

 

「アリサとすずかに主って呼ばれているけど…」

 

「「どういう事なの?」」

 

なのはとフェイトが目に光りがない。

 

「そのままの意味よ///」

 

「私達とレンヤ君は…主従関係なの///」

 

アリサとすずかがレンヤに腕を絡めながら言う。

 

「レンヤ…どう言う事か説明してもらえるかなぁ……!」

 

「主従関係だなんて、羨ま……不潔なの!」

 

「なのは、本音出てるよ」

 

4人がレンヤを取り合い争い始めた。

 

レンヤは空を見上げ……

 

「とにかく休ませてくれーーー!」

 

さけぶしかなかった。

 

 



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28話

 

 

あれからアースラに向かいレンヤ達3人は治療を受けていた。

 

「ふう、やっと休める」

 

「とんだハードスケジュールね」

 

「皆、よく頑張ったもんね」

 

レンヤ、アリサ、すずかがベットに寝ながらそう言う。

 

他の皆はラーグとソエルを連れて異界について説明している。

 

レンヤは隣で寝ているはやてとリインフォースを見た。

 

「リインフォース、はやては……」

 

「何も問題はない。浸食は止まっているし、リンカーコアも正常に作動している。不自由な足も時をおけば自然と回復するはずだ」

 

「そうか」

 

「はやてちゃん、良かった」

 

「リインフォースも無事で良かったわ」

 

そう聞くとリインフォースが顔を暗くした。

 

「夜天の書の破損は致命的な部分まで至っている。防御プログラムは停止したが、歪められた基礎構造はそのままだ。遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めるだろう」

 

「そんな!」

 

「修復は出来ないのか?」

 

「無理だ。管制プログラムである私の中からも夜天の書本来の姿は消されてしまっている」

 

リインフォースの言葉に項垂れるレンヤ達。

 

「じゃあ守護騎士達も…」

 

「いや…守護騎士達は残る」

 

「えっそれって…」

 

静かに迷いも恐れもなく、揺らぐ事もなく。

 

「逝くのは、私だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付が変わり12/25日、クリスマスであり、レンヤの誕生日。

 

だがアースラの病室いる3人の表情は暗い。

 

「リインフォース……本当にやるのかなぁ」

 

「決意は固い、自分を犠牲にしてもはやてを救うだろ」

 

「何か他の方法はないの?」

 

悩む3人、それを目覚めたはやてが聞いてしまった。

 

「皆!それどう言う事なんや!」

 

「はやて、起きたのか」

 

「……うん、説明するよ」

 

すずかはリインフォースの事を話した。

 

「すぐに皆の元に行かな!」

 

はやてが車椅子に乗ろうとする。

 

「私達も行くよ」

 

「急いで行きましょう!」

 

アリサとすずかがはやてを車椅子に乗せて病室をでた。

 

「レンヤ」

 

「うん、分かっている。リインフォースを救う方法を」

 

「ならいいさ、急ぐぞ」

 

はやて達を追いかけ、転移ポートで街が見える丘の麓まで転移した。

 

雪は降り積もっており、辺りはまだ暗い。

 

「ほら急ぐわよ!」

 

3人で車椅子を押して丘を登る。

 

途中、疲労の為3人共力尽きてしまったが、はやてはお礼を言い先に進む。

 

「リインフォース!皆!」

 

すぐに丘の頂上に着いたはやて、止めんばかりの声をあげる。

 

「リインフォース、やめて。破壊なんかせんでええ。私がちゃんと抑える。大丈夫や、せんでええ!」

 

必死に止めるはやて、だがリインフォースは静かに首を横に振る。

 

「主はやて、良いのですよ」

 

「良い事ない、良い事なんか何もあらへん!」

 

「随分と長い時を生きていきましたが、最後の最後で私は貴方に綺麗な名前と心を頂きました。騎士達も貴方の傍にいます、何も心配はいりません、だから私は笑って逝けます」

 

リインフォースは迷いのない穏やかな笑みを浮かべる。

 

「やけどそんなこと」

 

「させない、そんな悲しい事……絶対にさせない」

 

はやての言葉に重ねるように発せられる言葉。

 

「レン君」

 

「レンヤ」

 

後から来た3人は身体中汚れていて満身創痍だ。

 

「お前達、そんな体で何を」

 

「簡単に諦めている奴に言いたい事があってね」

 

「こうして死に体を引き摺って来たわけ」

 

レンヤ達は平然を装う様に肩を竦める。

 

「私などの為にそんな無茶をしたのか!お前達がいなくなれば主はやてが、主はやてだけではない、なのはやフェイト達が、将達が悲しむと…」

 

「それは貴方も同じよリインフォース!」

 

リインフォースの言葉を遮り、声を荒げるすずか。

 

「貴方がいなくなればはやてちゃんはもちろん、シグナム達も、私達も辛いの。それが分からない訳ないでしょう」

 

「それは……」

 

立っているのも辛いすずかは座りこんでしまいアリサが支える。

 

「リインフォース、お前は生きたいと思わないのか?主はやてとシグナム達、俺達と共に過ごしたいと」

 

「そんな事をすれば私は……」

 

「違う!周囲とか被害とか迷惑なんか気にするな!俺はお前がこのまま生きていたいか聞いているんだ!」

 

レンヤはリインフォースに率直に、真っ直ぐな問いを言う。

 

「簡単に諦めるな、足掻いて足掻いて、足掻き抜け」

 

「私は………」

 

リインフォースは俯きその表情は見えない。

 

「……………たい」

 

静かにリインフォースから滴が流れた。

 

「い……て…たい」

 

リインフォースは俯いたままで表情が見えないが肩がわずかに震えていた。

 

「私は……生きていたい。主はやてが成長する様子を傍で見ていたい。私はまだ………」

 

顔を上げたリインフォース、涙を流し思いを口にした。

 

「生きていたい」

 

その言葉に、レンヤ達は笑う。

 

「了解!ソエル!」

 

「本当に良いんだね?」

 

「ああ、必ず成功させる」

 

「あんただけで行かせないわよ」

 

「私達は….一蓮托生だよ」

 

3人は顔を合わせて、頷いた。

 

「分かった、必ず帰ってくるんだよ!」

 

「分かってる」

 

「ええ」

 

「もちろん」

 

ソエルとラーグは錠剤と神器を取り出してレンヤ達に渡した。

 

「精神結合し易くする薬だ、無事に戻ってこいよ」

 

「ああ」

 

ラーグは古びた銃……ジークフリートをレンヤに渡した。

 

「はやて、リインフォース。今からやる事だとリインフォースは生き残るかもしれないが、はやてとの契約を切る事になるから融合機としてこれからもいる事が出来ない。それでも良いか?」

 

「もちろんや、リインフォースが生きてくれとるんやったらそれでええ」

 

「ああ、主はやてがそう言って下さるなら、構わない」

 

はやてとリインフォースが了承する。

 

「よし、今から夜天の書からリインフォースを切り離す。その後リインフォースは別のデバイスに入ってもらうがな」

 

「構わない、やってくれ」

 

レンヤはなのはとフェイトの方を向き。

 

「なのは、フェイト」

 

「!、何、レン君?」

 

「レンヤ?」

 

2人に向かって手を振る。

 

「行ってくる」

 

レンヤは錠剤を飲んで地の神器を構える。

 

「ハクディム=ユーバ!」

 

神器を纏い、リインフォースの前に立つ。

 

「レンヤ君?一体何を……」

 

はやてが言い終わる前に始まる。

 

アームを地面に入れジークフリートを取り出し、魔法陣が現れ銃口をリインフォースに向ける。

 

「黄昏し巨魁の錠亭!避けるなよ、アーステッパー!」

 

黄色の砲撃がリインフォースに直撃する。

 

「ぐう!」

 

「リインフォース!」

 

「大丈夫です主はやて、痛くありません」

 

「レンヤ君!何してんの!」

 

はやてがレンヤに問い詰めるも返事がない。

 

「レン君?」

 

レンヤの神依化が解けて倒れた。

 

「レンヤ!」

 

フェイトが支えるて地面にぶつかるのを防ぐ。

 

「レンヤ、どうし……っ!」

 

フェイトはレンヤの目を見た、光がなくただ虚空を見つめている。

 

「これは一体……!」

 

「アリサちゃん!どう言う……」

 

「フォエス=メイマ!」

 

アリサはジークフリートを持ち火の神器を纏う。

 

「待って!」

 

なのはの静止も聞かずに始める。

 

剣を振り払いジークフリートが現れる、魔法陣が現れ銃口をリインフォースに向ける。

 

「業火たる白銀の聖錠!行くわよ、フランブレイブ!」

 

赤い砲撃がリインフォースに直撃する。

 

神依化が解け倒れるアリサ、すずかがアリサの手からジークフリートを取る。すでに神依化をしている。

 

「すずか……ちゃん」

 

「ごめんね、はやてちゃん。ソエルちゃん達が説明してくれるよ」

 

すずかがはやてに謝り、リインフォースと向き合う。

 

弓が掲げながら消滅しジークフリートが現れる、銃口をリインフォースに向ける。

 

「蒼華たる霊霧の執行!助けてみせます、アクアリムス!」

 

青い砲撃がリインフォースに直撃する、そのまま神依化が解け倒れるすずか。

 

「レン君!アリサちゃん!すずかちゃん!」

 

「起きている、でも心がない……!」

 

「どう言う事か説明してもらおうか」

 

シグナムがソエル達に聞く。

 

「この銃はジークフリート、神依化している時使えて、弾丸に全魔法と……精神を込めて撃つ」

 

「まさか!」

 

シャマルが驚くも話しを続ける。

 

「今レンヤ達の精神はリインフォースの中にある、防衛プログラムとリインフォースを切り離す為に」

 

「………これが失敗すれば、どうなるんだ」

 

ザフィーラが質問する。

 

「リインフォース共々………にね」

 

「そんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リインフォースの精神世界ーー

 

そこは何もなく、ただ眠っているリインフォースと夜天の書だけがある。

 

「初めての試み、うまくいったな」

 

「まだよ、まだうまくいってない」

 

「ここで夜天の書との、繋がりを断ち切らないと」

 

3人は夜天の書の所に行く。

 

「それでどうするのよ?」

 

「何にも聞いていないね」

 

「………そうだった」

 

項垂れる3人、その時レンヤ達の手にナイフが現れた。

 

「これは!」

 

「私達も!」

 

「物理的に切るの?」

 

「まあいいさ、アリサとすずかはリインフォースと繋がる線を切ってくれ。俺は……」

 

レンヤは夜天の書を見る。

 

「こっちをやる」

 

「分かったわ」

 

「同時にやろう」

 

3人はナイフを振りかぶり。

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

「「「0!」」」

 

アリサとすずかは線を切り、レンヤは夜天の書を突き刺した。

 

(ごめん、助けられなくて)

 

心の中で謝り、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界ーー

 

レンヤ達が倒れた後。

 

「大丈夫かなぁ」

 

「レンヤ達なら大丈夫だよ、きっと」

 

「レンヤ君……」

 

その時、リインフォースから赤、青、黄色の玉が出てきて3人に吸い込まれる。

 

「んっ」

 

「う〜ん」

 

「……ここは」

 

レンヤ達が目を覚ました。

 

「リインフォース、これを」

 

ラーグがリインフォースにデバイスを渡した。

 

「これに必要なプログラムを入れてくれ」

 

「あっああ」

 

まだ理解が追いつけずにいるが、デバイスに手をかざし、プログラムを書き込んでいく。

 

「皆!大丈夫!」

 

「なのは……っ!ダメ……動けない」

 

「回復したばかりのなけなしの魔力を使ったからね」

 

「ふう、疲労が激しいよ」

 

「さて、レンヤ達が目覚めた事だし」

 

「ああ、なのは、フェイト、夜天の書を送ってやれ」

 

「うん」

 

「分かった」

 

デバイスを構えて、魔法陣が展開される。その中心に……

 

「今まで一緒におってくれてありがとう。おやすみな」

 

はやてが夜天の書を置く。

 

そして魔法陣は輝きを増し、光となって天に昇り消えた。

 

その時、空から落ちてくる1つの光、夜天の魔導書の表紙を飾っていた金十字の装飾。

 

それは、はやての手に静かに収まる、はやては夜天の書が残した金十字を愛おしそうに抱きしめた。

 

「これにて一件落着かな?」

 

「まだだよ」

 

なのはが前に立ちレンヤ達を見下ろしていた。

 

「すごく心配したんだから」

 

反対側にはフェイトがいた。

 

「えっと、ごめん!こうしなきゃリインフォースは救えなかったから!」

 

「ジークフリートの事を聞くと絶対に使わせないと思ったし」

 

「そうそう!終わりよければ……」

 

すずかが言い終わる前に3人まとめてなのはとフェイトに抱きしめられた。

 

「もう、無茶しすぎだよ」

 

「無理はしないで」

 

「…ごめん」

 

「ごめんなさい」

 

「ごめんね」

 

「うん、許す!」

 

なのはとフェイトは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はその後すぐにアースラで再度治療を受けた。

 

全治1週間が倍の2週間となった。

 

守護騎士達は保護観察者として管理局への奉仕活動という処分となった、本来ならもっと重い処分でもおかしくなかったがクロノが機転を効かせたのだろう。

 

それからはやてが病院を抜け出した事を思い出し慌ててはやてを病院に戻した、やはりばれたらしく担当医の石田先生に怒られたそうだ。

 

色々あったがリンディさんとクライドさんが再会を喜び抱きしめ合っていた、クロノも嬉しそうだった。

 

今日はすずかの家でクリスマスパーティ…ついでだと思いたい俺の誕生日…をやる予定だ、今思えばリインフォースを助けるのに失敗してたら命日に変わっていたところですはい。

 

パーティは夜からだがこの短時間で歩くまで回復は難しかった、俺はギリギリ歩けて、アリサは松葉杖、すずかは車椅子で行く事になった。

 

ラーグとソエルはお父さん達と一緒にクリスマスを過ごすらしい。

 

「うーーーーん、はあ…」

 

病室を出て伸びをして軋む体にため息をつく、部屋の前にはフェイトとアリシアが待っていた。

 

「レンヤ、もう立って大丈夫なの?」

 

「本調子には程遠いけどね」

 

心配そうに駆け寄ってきたフェイトの頭を撫でる。

 

「むう〜、レンヤ!私も撫でて!」

 

「はいはい、アリサ達は先に行ったし、フェイトははやての所に行くんだろ?」

 

「うん、途中でなのはと合流してそれからはやての所に行った後すずかの家でクリスマスパーティだよ」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

転送ポートに乗って地上に降り、なのはと合流して病室に向かうが、なのはからも心配された。

 

病院ではやてと合流し、シグナム達とは一旦別れて、俺となのは、フェイトとはやての4人ですずかの家に向かった。

 

「皆さん、いらっしゃいませーー!」

 

ファリンさんに案内されてパーティ会場にきた、と言ってもいつも俺達が会議に使っている所だが十分だ。

 

「来たわね」

 

「皆、いらっしゃい!」

 

アリサとすずかがすでに中にいた、2人共見た目怪我人だが大丈夫そうだ。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、大丈夫?」

 

「平気よ」

 

「見た目ほどひどくないから」

 

「良かった」

 

それからクリスマスパーティが始まった、予想通りと言っていいのか俺の誕生日も行われた。やはりこの日はすごくよく分からない、誕生日でプレゼントを貰いクリスマスでプレゼントをあげる、本当によく分からん。

 

その後はいつも通りのちょっと豪華なクリスマスケーキとバースデーケーキのミックスケーキでお茶会となった。

 

「それで皆は管理局に入るの?」

 

アリシアが唐突に質問した。

 

「私は入ろうと思っているの」

 

「私も正式に」

 

「私はシグナム達も入るからなあ」

 

「俺はまず嘱託にして、それから考えるさ」

 

「私も同じかな」

 

「私も」

 

「ふーん」

 

「アリシアはどうするんだ?」

 

「私?私はまだ、デバイスを作ってもうちょっと強くなったら入ろうと思う」

 

「そうか」

 

「姉さん」

 

「アリシアちゃん!私もデバイスを作るの手伝うよ!」

 

「本当に⁉︎ありがとうすずか!」

 

「そういえば……」

 

「どうしたのレンヤ?」

 

「いや、ここにいる全員が心の羽根を持ってたような…」

 

そう呟くと全員、心の羽根を取り出した。

 

「皆も持っていたんだね」

 

「うん、レンヤからの大切な贈り物だから」

 

「私も貰ったんや」

 

「私達との絆だよ」

 

「確かにそうね」

 

「うん、レンヤ君だけじゃない。皆との絆」

 

「そうだな、見える絆もいいな」

 

それから夕方になって解散となり、今はなのはとフェイトとアリシアと帰っている。

 

「楽しかったね〜」

 

「うん」

 

「2人共、良かったね」

 

「楽しんでもらって何よりだ」

 

分かれ道についてフェイト達と別れる。

 

「じゃあなフェイト、アリシア」

 

「また明日」

 

「バイバーイ」

 

「……………」

 

「フェイト?」

 

「…レンヤ、話したい事があるんだけど」

 

先程と違って真剣な顔で言う。

 

「わかった」

 

「えっと…」

 

「私達は…」

 

「大丈夫だよ」

 

「そうか、それで話したい事って?」

 

「…………レンヤはさ、クローンについてどう思う?」

 

「「!」」

 

「クローン?」

 

いきなりの質問に戸惑う。

 

「クローンってあのクローンだよな?遺伝子から同じ動物を造り出すっていう…」

 

俺の言葉にフェイトは頷く。

 

「どう思うねぇ。ただの科学技術の進歩ぐらいかなぁ、猫や羊のクローンって言うのもあるし」

 

「その…猫や羊じゃなくて……造るのが人間だったとしたら?」

 

「人間のクローン?う〜ん……世間では問題視されてるな。特定の人物と全く同じコピー人間を造り出すものとして。クローンに嫌悪する人も多いし」

 

「「「……………………」」」

 

「でも俺は関係ない」

 

「「「え?」」」

 

「例え生まれがクローンでもその人はその人だ、クローンなんか関係ない1人の人間だ。確かにコピーかもしれない、偽物かもしれない、でもやっぱり俺には関係ない。俺はその人を人として見る、人としての可能性を信じている」

 

「「「………………………」」」

 

俺の言葉を静かに聞く3人、それから少ししてフェイトが口を開く。

 

「レンヤはその……クローン人間が気味悪い存在だとは思わないの?」

 

「さっきも言っただろ、どんな人でも俺は信じる、ただそれだけ」

 

「そう……なんだ」

 

「て言うか何でいきなりそんな話しをするんだ?」

 

「そっそれは……」

 

言いにくそうだな、目がなのは並に泳いでいる。

 

「あの…ね、実は私…」

 

俺はフェイトの唇に人差し指を当て黙らせる。

 

「!」

 

「無理に話さなくてもいいぞ」

 

「でっでも…」

 

「仮にフェイトがアリシアのクローンだとしても俺がフェイトへの接し方は変わらない。今まで話して、笑い、怒り、悲しみ、一緒に戦って来たのはアリシアじゃない。今ここにいるフェイト・テスタロッサだ、偽物じゃない。俺と出会って今日までの事はアリシアにはない、お前しか持っていない大切なものだ。周りが何と言おうがお前は他の誰でもないフェイト・テスタロッサなんだから」

 

「…レンヤ……ありがとう」

 

フェイトは目に涙を浮かべる。

 

「良かったね、フェイトちゃん」

 

「ぐす、フェイト本当に良かったよ」

 

「ありがとう、なのは、姉さん」

 

アリシアはなのはとフェイトと顔を近付け小声で喋る。

 

「…………それよりも何で今話すの…………」

 

「…………レンヤの事ばっかり聞いているから不義理だと思って……………」

 

「…………レン君はそんな事気にしないよ……………」

 

「おーいもういいか?」

 

「うん!大丈夫なの!」

 

「それじゃあまた明日!」

 

「バイバーーイ」

 

「また明日な」

 

今度こそフェイト達と別れ家に帰った。

 

それにしてもとんでもない1年だったな。

 

当分落ち着くと思うが、嘱託魔導師試験もある。

 

やっぱり大変な1年だな。

 

レンヤは空を見上げながらなのはと家に帰って行った。

 



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日常編
29話


後に闇の書事件と呼ばれる騒動から3カ月。

 

俺達は四年生になった。

 

なのは、フェイト、の2人はすでに管理局の正式に入局するため訓練校に行き、すでに卒業して正式に働いている。

 

はやても守護騎士達も頑張っている様だ。負傷者組のレンヤ、アリサ、すずかは2週間の治療の間、嘱託試験の過去問をやったり思ってた以上に時間がかかってしまった。

 

そして試験当日、ミッドチルダにある時空管理局本局にきた。

 

「でかいな」

 

「首が痛くなるわね」

 

「うん、すごいね」

 

「偉い人は高い所に居るものだよ」

 

「来たか」

 

建物の大きさに感想を言っているとクロノがやって来た、相変わらず黒い服装なんだが本当に肩の棘は何?

 

「久しぶりクロノ、忙しいのに悪いな」

 

「よっクロノ!真っ黒いから〜クロノ!」

 

「関係ないだろ!まあいい、こっちだ付いてきてくれ」

 

「レン君、アリサちゃん、すずかちゃん、頑張って!」

 

「皆ならきっと合格するよ」

 

「応援してるで」

 

「私もすぐにそこに行くからね!」

 

なのは達の一旦別れクロノに案内されて入った部屋には試験官らしき人と何人かの同じ嘱託魔導士になる受験生がいた。

 

今回受けるのはAAランクの試験、2人に合わせて受ける事になった。

 

「君達で最後だな。氏名と出身世界を教えてくれ」

 

「地球出身、神崎 蓮也です」

 

「同じく地球出身、アリサ・バニングス」

 

「同じく地球出身、月村 すずかです」

 

「確認した、それにしても地球出身か…あそこの者は能力が高いからな。君達の受ける試験もランクが高い、頑張りたまえ」

 

最近入ったばかりのなのはとはやては有名なのか、そんな事を言われた。

 

その後注意事項を聞いてから筆記試験が開始された、アリサやすずかはもちろんの事レンヤも苦もなく解いていき、30分程度で解き終わった。

 

書き間違えと名前の書き忘れもない事を確認すると、やる事がなくなり外を眺めて時間をつぶした。

 

「そこまで!筆記用具を置き順番に退場するように!」

 

退場する時、他の受験生の表情は色々だった明るいか、暗いか。

 

「皆!どうだった!」

 

レンヤ達に気づいたなのはが声を掛けたきた、他の4人も近寄って来る。

 

「余裕よ!」

 

「ちゃんと勉強したからね」

 

「全部書いたし、大丈夫だろ」

 

「よかった、次は儀式魔法四種だよ?」

 

「大丈夫なんか?アリサちゃんとすずかちゃんは魔力変換資質を持っているからええけど。レンヤ君は持ってへん」

 

「大丈夫、なんとかなるさ」

 

「それで、試験会場は何処よ?」

 

「あぁ…こっちだ。付いてきてくれ」

 

クロノに案内されてついたのは、自然の多い場所だった。

 

「ここでやるのか?」

 

「そうみたいだね」

 

『やっほー、お久しぶりだね3人共。今回の試験の監督をする、エイミィ・リミエッタです!』

 

空中にモニターが展開されエイミィが映った。

 

「そんなノリで監督していいの?」

 

「さすがに不謹慎だと思います」

 

『うぐっ、まっまあそれは置いといて。それじゃあ規則だし受験番号4番、氏名と出身世界をどうぞ』

 

「地球出身、神崎 蓮也」

 

『ほいっと、確認したよ。それじゃあ始めるよ、準備はオッケー?』

 

「いつでも!レゾナンスアーク!」

 

《イエス、マジェスティー》

 

「その呼び方やめろ、セートッ!アープッ!」

 

蒼い魔力光に包まれバリアジャケットを纏う。

 

「お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

儀式魔法を終えてその後実技試験も行い、今は結果発表待ちだ。

 

「それでは結果ですが…筆記は合格ラインを余裕で上回り、儀式魔法も優秀、戦闘能力もAAAランク相当の結果も出てます。合格は間違えなしです」

 

「「「「やった〜!」」」」

 

リンディさんの言葉に俺達より周りが喜んでいる。

 

「あらあら、それじゃあ…レンヤ君、アリサちゃん、すずかちゃん、これから嘱託魔導師としてよろしくね?」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「なのは達繋がりでアースラ勤務になる。飽くまでも非常時のみだ」

 

クライドさんが説明してくれた、クライドさんは管理局に戻っては来れたがやはり降格は免れなかった様だ、そのおかげかリンディさんと一緒にアースラに配属される事になったようだが。

 

「分かりました」

 

「詳しい手続きは後日ね?」

 

話しは終わり、なのは達が近づいてきた。

 

「レン君!これからどうするの?」

 

「とりあえずミッドチルダを回ろうと思う、何があるか見て起きたいし」

 

「なら私とフェイトが案内するよ!」

 

「なら早く行きましょう!」

 

それから俺達はミッドチルダを回った。

 

「あんまり地球と変わらないんだね」

 

「細かい部分だと近未来って感じはするけど」

 

「むしろ地球の文化があるのに疑問に思う」

 

俺は目の前にある寿司屋を指差す。

 

「日本の食文化はミッドチルダで人気なんだよ」

 

「たまに間違っていることもあるけど…」

 

「リンディさんやね…」

 

大型のデパートとかにも行き、今は大通りを歩いている。

 

「全6車線、すごいね」

 

「いかにも巨大都市って感じ」

 

「私も驚いたの」

 

「そうだな」

 

その時、俺達の前にリムジンが止まり、執事と思われる人が運転席から出てきた。

 

「!」

 

「レンヤ君?どうしたん?」

 

俺は執事の顔に見覚えがある、夜天の書に見せられた夢で見たあの時の執事。

 

「私は聖王教会からの使者です。聖王の末裔、神崎 蓮也様。夜天の主、八神 はやて様。ご一緒にご足労いただけますか?」

 

いつかは来ると思っていたけど、こんなに早いなんて。

 

「………従者も連れていきたい、よろしいか」

 

「はい、構いません」

 

「はやてはどうする?」

 

「せっかく招待されたんや、私はいくで」

 

俺はなのは達の方を向き。

 

「なのは、フェイト、アリシア、ごめん先に帰っていてくれないか。説明は帰ってからする」

 

「レンヤ…」

 

「……うん、待ってるよ」

 

「頑張ってね、皆」

 

4人はリムジンに乗り込み、ベルカ領に向かって走り出した。

 

たどり着いたのは見覚えのある聖王教会、そしてその裏手にある王族が住む屋敷に車が止まった。

 

「すずかの家よりでっかい家やな〜」

 

「住む人が少ないから、あれでちょうどいいの」

 

「確かにそうね」

 

「いや十分部屋が有り余っているよ」

 

客間に通され呼ばれるまで待つ事になった。

 

「ふむ」

 

「ラーグ、どうした?」

 

入ってそうそうラーグが辺りを見渡した。

 

「ここで間違いないな、レンヤ、そこのスタンドに魔力を流しながら電気をつけてくれ」

 

「一体何が起こるんだよ」

 

言う通りにしてスタンドに魔力を流し電気をつけると隣にある本棚が横に動き金庫が現れた。

 

「何これ!」

 

「隠し金庫?」

 

「えらいけったいなところにあるな」

 

「レンヤ、さっきと同じ感じで開けて」

 

「何が入っているんだ」

 

金庫のパネルに魔力を流すと、金庫が開いた。中に入っていたのは。

 

「俺が使っているのと同じリボン?」

 

「それにこれは……籠手?なのかな」

 

「それと手紙やな」

 

「ラーグ、これはなんなのよ?」

 

「レンヤの両親のものだ、それとこれは籠手じゃなくて足に付ける蹴甲だ」

 

「そして…氷の神器だよ」

 

「これがそうなんか⁉︎」

 

「辺り一面を焦土に変える程の力…」

 

「手紙にはなんて書いてあるのよ?」

 

「それは後で、俺の指示があるまで読まないでくれ」

 

「何か策があるんだな」

 

「もちろん」

 

その時、ドアがノックされ執事が入ってきた。

 

「お待たせしました、どうぞこちらへ」

 

執事に案内されて食堂に通された

 

相変わらず奥に長いテーブルで老人が多く、若い人は1番奥に座っている男性と、その右隣にいる女性だけだ。

 

「よく来てくれた、座ってくれ」

 

そう言われ男性の正面に俺とはやてが座った、アリサとすずかは一応従者なので俺の後ろに立っている。

 

「私はウイント・ゼーゲブレヒト。聖王代理といったところだ」

 

「……神崎 蓮也です」

 

「八神 はやてです、よろしゅうお願いします」

 

「それで………俺達をここに呼んだ理由はなんですか?」

 

「まあそう慌てるな、もう自分が何者なのか知っているんだね」

 

「……俺に…聖王になれとでも?」

 

「もちろん希望すればすぐにでもなれる、今聖王の証を持っているのは君だけなんだから」

 

「………考えさせてもらいます」

 

「結構、それで夜天の主八神 はやてさん。君にも話しがあるんだ」

 

「はっはい!」

 

声をかけられ背筋を伸ばすはやて。

 

「君とも一度話しておきたかった、夜天の書もベルカとは縁がある。できれば今後ともよろしくお願いする」

 

「はい!こちらこそ」

 

「話しは以上ですか、ならこれで…」

 

「いいや、まだだ」

 

席を立とうとしたら、老人の1人が止めた。

 

「お前には必ず聖王になってもらう」

 

「議員、その話しは……」

 

「黙っておれ!」

 

老人がウイントさんを黙らせる。

 

「随分と強制なんですね」

 

「元々そこの守護獣は聖王家のもの、それを貴様が勝手に持っているにすぎん」

 

「………母と、何があったんですか」

 

「あやつは聖王でありながらその地位を捨て、逃げ出した。正当後継者であるお前を連れて」

 

「お前と従者にはふさわしい教育を受けさせる、決定事項だ」

 

他の老人も上から目線で言う、どうやらウイントさんは反対しているみたいだ。

 

「………………」

 

夢で見た内容通りだ、教育という名の…洗脳。

 

(て事はあの人たちが、本当の両親の姿…)

 

夢であっても偽物ではなかったらしい。

 

「話になりません、俺達はこれで失礼します」

 

席を立ち部屋から出ようとすると……

 

リリリリリリン!

 

老人の1人が鈴を鳴らした。

 

次の瞬間、扉が乱暴に開けられ騎士達が入ってきた。

 

「議員!これはどう言う事ですか!」

 

「知れた事、言う事を聞かない子どもに教育してやるのだ」

 

「はやて!後ろに!」

 

「うっうん!」

 

戦う術を持たないはやての前に立ち、デバイスを起動させるが……

 

「!、これは!」

 

「起動しない!」

 

「スーノーホワイト!返事をして!」

 

「無駄だここら一帯にデバイスを強制停止させる結界を張った」

 

「動かないのはお前達だけだ」

 

「大人しくするのだな」

 

少しずつ近づく騎士達。

 

「思っている以上に真っ黒だね」

 

「一部の人だけだ、ソフィーさんは優しい」

 

「わかっているよ」

 

「この騒動だけで、聖王教会を嫌わないわよ」

 

「でもどないするねん」

 

「レンヤ、これを!」

 

ソエルが取り出したのは……神器。

 

「それだ!」

 

3人は自分の神器をとり、纏った。

 

「ハクディム=ユーバ!」

 

「フォエス=メイマ!」

 

「ルズローシヴ=レレイ!」

 

騎士達は俺達の変化に驚いた。

 

「何⁉︎」

 

「デバイスは使えないんじゃなかったのか!」

 

「いや、あれは…」

 

その隙に一掃する。

 

「土流の碑文!」

 

「映ゆる煉獄!」

 

「巻くは渦潮!」

 

レンヤはアームで地面を掴み、石版を引っ張りだし前方の騎士達を一掃した。

 

アリサは炎に包まれた巨大な剣を叩きつけ騎士達を炎の嵐に巻き込む。

 

すずかは巨大な弓を構え、撃った直後に水流が渦巻き騎士達のぶつける。

 

「よし、これで……!」

 

「嘘……」

 

「こんなに弱いはずは……」

 

レンヤ達は一撃で終わる騎士達に驚く。

 

「今までグリード相手に使っていたけど」

 

「今のお前達は力は強すぎるんだ、本来神衣化は魔に属する者に使っていた」

 

「とっとにかく!」

 

レンヤは老人の1人にアームを近づけ……

 

「こんな馬鹿な真似はやめてもらいます、できないのであれば……」

 

レンヤの髪が金髪になり瞳が翠と赤のオッドアイになる。

 

「俺自身で聖王教会を潰す!」

 

「ひいいい!」

 

「待ってレンヤ!手紙を読んで」

 

「………今からか?」

 

「レンヤ、こいつらは私達が見張るわ」

 

アリサに言われ神衣化を解き、懐から手紙をだし読んだ。

 

「うっわ、何これ。貴方達の不正の数々が山程載っているよ」

 

レンヤはウイントさんに手紙を渡した。

 

「これは……一体どう言う事ですかな議員方。これ程の事をしでかすとは、姉が逃げたのも頷けます」

 

「えっ、嘘」

 

「ああ言ってなかったね、一応叔父にあたるかな。コホン、あなた方を拘束させていただきます」

 

「くっ」

 

「これまでか……!」

 

その後議員達とそれに加担していた騎士達は逮捕され管理局に連行された。

 

「すまない、私の不手際で君達を危険な目に合わせてしまった」

 

ウイントさんがそう言い頭を下げる。

 

「いえ!大丈夫です、ウイントさんは何も悪くありません」

 

「そうよ、悪いのはあいつらよ」

 

「あまり気にせんといてください」

 

「ウイントさんは頑張っています、自信を持って下さい!」

 

「ありがとう」

 

「それで、これからどうなるんですか?」

 

「なんとかやってみるさ、自分の力で」

 

「それなら手伝います!両親がやろうとした事やり遂げてみせます!あっ聖王にはなりませんよ」

 

「ははっ、構わないさ。むしろお願いしたいくらいさ」

 

レンヤとウイントは握手をする

 

「もちろん、私達も手伝うわよ」

 

「できる限り頑張ります!」

 

「私もやるで!」

 

「感謝するよ」

 

それから話し合い、なんとか現状維持する事ができた。

 

「それじゃあこれで」

 

「車を出そうか?」

 

「いえ、これから聖王教会に行きます。ソフィーさんを会いに」

 

「そうか、教会騎士団団長にか」

 

「確か前にお世話になったんやな?」

 

「ああ、それじゃあウイント叔父さん、また」

 

「!、ああ、またなレンヤ」

 

レンヤ達は屋敷を出て、聖王教会に向かった。

 

「なんや色々と大変やったな」

 

「俺と言う宝石を独り占めしたかったんだろ」

 

「笑えない冗談ね」

 

「人それぞれだよ、私達も利用されかけたし」

 

「真っ平ごめんだがな」

 

すぐに聖王教会つき訓練場に向かった。

 

「ここも地球と変わりないね」

 

「教会なんだから聖堂くらいあるわよね?」

 

「なかったらなかったで問題やけど」

 

「……それにしても、なんか見られてないか?」

 

周りの人達の視線を感じる。

 

「はやてじゃない?」

 

「車椅子が珍しいわけあらへんやろ」

 

「なんでだろう?」

 

そうこうしてる間に訓練場についた。

 

「えーと、ソフィーさんは……」

 

「レンヤレンヤ!いたよ!」

 

「ちょうど休憩しているな」

 

「本当だ、おーい!ソフィーさーーん!」

 

レンヤはソフィーに近づきながら呼んだ。

 

「ん?この声はレンヤか………」

 

いきなり固まったソフィー。

 

「?、どうかしましたか?」

 

「レンヤよ、今自分の見た目がどうなっているかわかるか?」

 

「えっ」

 

レンヤは髪を掴んだ、金髪だった。

 

「あっしまった」

 

「ごく当たり前にしてたから、私達も気付かなかったわ」

 

その時建物から大量の人が出てきた。

 

「これは……」

 

「当たり前と言えば、当たり前ね」

 

「はあ、もう少し頭を鍛えればよかったか」

 

「それ、頭が悪いって言ってますか?言ってますよね!」

 

話している間に囲まれてしまった。

 

「聖王様!聖王様ですよね!」

 

「陛下!私達を導いて下さい!」

 

「レンヤちゃん!よく帰ってきた!」

 

「お前が居なくなってから大変だったんだからな!」

 

質問責めに合い、困るレンヤ達。

 

「どうしようか」

 

「王様モードになりゃいいじゃんか」

 

「あれ精神的に疲れるんでけど……仕方ないか」

 

レンヤは前に出て、雰囲気を変え言い放った。

 

「静まれ!」

 

さっきまでの騒ぎが一瞬で止んだ、決して大きな声とは言えないが。どこまでも響くような声だ。

 

「ふう…」

 

「お疲れ様」

 

「ソフィーさんでしたよね、すみませんが私達はこれで」

 

「またお会いしましょう」

 

「ああ、気を付けてな」

 

レンヤ達は駆け足で帰った。

 

「はあ。全く、騒がしい奴だ」

 

ソフィーは笑いながらため息をついた。

 

 



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30話

 

 

あの騒動から1カ月ほど経った。

 

やはり一度バレれば、忘れる事もなく。聖王教会に行くたびに聖王様とか陛下なんて呼ばれる。

 

はやても聖王教会で友だちができたらしいから、本当によかった。

 

それからまた一年、俺達は五年生になった。

 

その間に色々あったがそれはまたの機会に…

 

そして今、俺は無人世界にいた。

 

ここで試したい事があった。

 

「さーて、いよいよだな」

 

「確かに精神の修行をたくさんしたけど…」

 

「コントロールできるのか?」

 

「大丈夫…とは言えないけど頑張ってみるさ」

 

俺はこの前手に入れた氷の神器を纏おうとしていた。 聞くところによると力が強いため、人がいない無人世界で試そうとしている。

 

「他の神器と違って、上位の神器には真名がない。纏うって気持ちがあればいけるぞ」

 

「わかった」

 

氷の神器に魔力を流し、集中する。

 

「はああっ!」

 

氷の神器による神衣化、服装は一緒だが細部の装飾が水色で足に装甲が付いている。

 

「ぐっ!」

 

よろけそうになるが、踏み止まり。力をコントロールする。

 

「………………ふう」

 

「やったねレンヤ!」

 

「周りの被害はすごいがな」

 

「えっ」

 

辺りを見渡すと、一面氷漬けだった。 人がいなくてよかった……

 

「やっちまったな」

 

「これでもいい方だよ」

 

「ああ、もっと酷い時は雪が降るからな」

 

「…………コントロールできてよかったよ」

 

「とりあえず、力を試すか?」

 

「そうだな、よし」

 

近くの氷漬けの木を蹴ろうとした時…

 

《マイ、マジェスティー》

 

「とっと、どうしたレゾナンスアーク」

 

《この地点から東に魔力反応があります、同時に戦闘反応も検出しました》

 

「どう言う事だ?」

 

「ここは無人世界のはずだよ」

 

「行ってみるか」

 

進行方向に氷を走らせて、その上を滑るように進んだ。

 

しばらくして着いたのが…

 

「施設?」

 

何かの施設らしき建物だった。

 

「なんで無人世界にこんなものが」

 

「なんだかキナ臭いね」

 

「もしかしたら違法魔導師のいる研究施設じゃないか?魔力反応と戦闘反応があったのも、この施設で何かが起きているから」

 

「ならとりあえず入ってみようか」

 

「賛成ーー!」

 

施設に侵入して奥に進むと。

 

「これは……!」

 

「惨いな」

 

「酷いよこんなの」

 

施設の通路や部屋には研究者の遺体があった、初めて見る死体に吐きそうになるがなんとか堪える。

 

「うっ」

 

「!大丈夫ですか!」

 

「早く治療を!」

 

「心霊、蘇生!レイズデッド!」

 

局員の傷を治した。

 

「君は……」

 

「早くここから脱出して下さい」

 

レンヤは通路の奥を睨み……

 

「先に進もう」

 

「……うん」

 

一気にスピードを上げて反応がある地点に向かう。

 

そして施設の最奥に来ると、小柄な女の子が血まみれで壁際に倒れている男性に止めをさそうとナイフを振り上げていた。

 

(まずい!)

 

俺は一瞬で近づき、蹴り飛ばした。

 

「なっ⁉︎…ぐあっ!」

 

女の子を蹴り飛ばし、その隙に男性を治療する。

 

「心霊、蘇生!レイズデッド!」

 

男性の傷を塞ぎ、呼吸が安定する。

 

「よかった」

 

「何者だ………子どもだと⁉︎」

 

俺の姿を確認して驚く。

 

「子どもがどうしてこんな所に?」

 

「見た目に騙されるなクアットロ、チンク。こんな所にただの子どもが来るはずない。おそらく管理局の増援だろ」

 

ただの偶然ですはい。 それよりも誰だこの人達? 全員物騒な物を持っているし。

 

「管理局の魔導師か……だがここにいる以上、子どもであろうが見過ごせんな」

 

「………あなた達はここで何を?俺は偶然ここに来ただけです」

 

「それは不幸ね〜、でも見られたからには……」

 

言い終わる前に接近して蹴り飛ばした。

 

「きゃああっ!」

 

クアットロを壁際まで吹き飛ばし、凍らせる。

 

「クアットロ!」

 

「っ! ランドインパルス!」

 

トーレが高速で移動する、それなら…

 

「深雪隆起! スノーウェーブ!」

 

地面を強く踏みつけ、全体に雪崩を起こす。

 

「何⁉︎」

 

「そこだね」

 

雪に足を取られ、止まった瞬間両手足に蹴りを入れ、凍らせる。

 

「くそっ!」

 

チンクがナイフを投げてきたが、避けて…

 

「雹玉命中!アイスシュート!」

 

サッカーボールくらいの大きさ氷の塊生成、思いっきり蹴って銀髪の女の子にぶつけた。

 

「がっ!」

 

当たった瞬間、弾けて凍り。 動きを封じた。

 

「よし、ラーグ」

 

「任せておけ」

 

他にも反応があるのでラーグの中に入れてもらうが…

 

「…………………」

 

正直、見たくない。人が丸呑みされるの。

 

「ほら行くぞ」

 

「あ、ああ……」

 

気を取り直し、直ぐに他の反応がある地点に向かう。 面倒くさかったから、壁を芯まで凍らせ、砕いて一直線に進んだ。 そして反応がある地点に着いたら、同じ形をした何かが血まみれで倒れている2人の女性を囲み、止めをさそうとしていた。

 

「またギリギリ……かっ!」

 

一体を蹴り飛ばし、女性達の前に立ち氷の壁を作る。

 

「これは……機械?」

 

「ガジェットだ、こいつらにはAMFって言う魔力結合を阻害する能力がある」

 

「でも神衣には関係ないよ」

 

「なら手抜き不要、容赦無用、殲滅する!」

 

魔力を本気で込めて…

 

「太古、零点!アブソリュート!」

 

地面から巨大な氷山が現れガジェットを串刺しにした。

 

「よし!」

 

ここでは直ぐに治療できず、ラーグにも入れられないので、抱えて脱出する。

 

後ろを振り返るとまだ大量のガジェットが来た。

 

「くっ、氷柱乱舞!フリーズビット!」

 

周りに氷の刃現れ、ガジェットを斬る。

 

「レンヤ!全然減ってないんだよ!」

 

「なら一気に決める!」

 

女性を一旦起き、ガジェットに突っ込む。

 

「我が身は紺碧!白き氷華に擁護せよ!ノーザンケイジ!」

 

ガジェット1体を目にも留まらぬ速さで何度も蹴り、最後に回し蹴りで吹雪を起こした。

 

ガジェットは1体も残らず凍り漬けにした、

 

「ふう、ぶっつけ本番は疲れる」

 

「お疲れ、レンヤ」

 

施設を出て、女性2人を治療する。

 

「心霊、蘇生!レイズデッド!」

 

傷が塞がり顔色も良くなった。

 

「これで大丈夫だ、ラーグ」

 

「ああ」

 

ラーグは助けた男性を出した、やっぱりホラーだ。

 

「ううっ」

 

「目が覚めるみたいだね」

 

「よし、帰ろう」

 

「いいのか?」

 

「ああ、さっき助けた人も近づいている。大丈夫だろ」

 

「わかった、転移するよ」

 

ソエルに転移してもらい、地球に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからまた半年が経った。

 

前に助けた局員達は無事だった、顔は見られてなかったから安心した。

 

そして現在ははやての家にいる、なぜなら。

 

「ツヴァイ、待ちなさい」

 

「やーっ」

 

リインフォースがちっこいリインフォースを追いかけていた、ちっこい方は部屋中をふわふわ浮いて逃げ回っていた。からかっている感じはせず、遊んでいると思っているらしい。

 

ちっこいリインフォースの名前は、リインフォース・ツヴァイ。はやてのリンカーコアをコピーして作られたユニゾンデバイスだ。最初にいるリインフォースは名前をつけたし、リインフォース・アインスになった。

 

俺はそのツヴァイの方のお守りをはやてに任されていた。

 

「もふもふですぅ」

 

「わーいわーい」

 

ツヴァイはソエルの頭に乗って遊んでいた。

 

「大変そうだな、リイン……アインス」

 

「そうだな、しかし言いにくかったら別の呼び名で呼んでもいいぞ」

 

「それってあだ名か?うーん…」

 

俺は考える、リインフォース・アインス、リインス、リイス、リンス…

 

「うん、ならリンスって呼ぶな」

 

「ああ、構わん」

 

「ならこっちもツヴァイじゃなくて、うーん…リインでいいだろう」

 

「それはいい、あの子はツヴァイよりも、リインフォースと呼ばれる方がいいからな」

 

そこにちょうどはやて達が帰ってきた。

 

「はやてちゃん!」

 

ツヴァイ…リインは喜んで、その胸に文字通り飛び込んだ。

 

「ただいまリインフォース、いい子にしてたか?」

 

「いてたですぅ」

 

部屋の惨状を見るにとてもそうは見えないが、本人的にいい子にしてたつもりらしい、しかしシグナムは許さなかった。

 

「リインフォース、お前は最後の夜天の王、主はやての誇り高き子だ……あまり我がままを言ってはいけない」

 

「はい………です………」

 

シグナムのお叱りを受けて、リインはしょんぼりと頭を垂れた。

 

「将………そんなに厳しく言わなくとも……」

 

「お前のは甘やかしと言うのだ」

 

「うっ………」

 

「あはは」

 

容赦なく嗜められて、リンスは言葉もない。地味どころか確実にダメージを受けた。

 

そもそもこの2人は不器用だ、だから飴と鞭に役割分担しているのだ。しかしこの家には飴が多い。

 

「ほ〜ら、リインちゃん、お姉ちゃんと遊びましょう」

 

「あっ、シャマルずりい、あたしも遊ぶ!」

 

とても叱る比率が低そうである、ザフィーラも尻尾をもふもふされてるのも黙認しているからな。

 

「この年でお母さんか………大変だな」

 

「そうでもあらへんよ、楽しいし」

 

「て言うか父親って、誰?」

 

「考えてもなかったなぁ、ならレンヤ君がやってみる?」

 

「………それも悪くないかな」

 

「えっ」

 

はやてが驚き、顔みるみる赤くした。

 

(そっそれって、プロポーズ!私遠回りにプロポーズされたんか?)

 

「はやて?」

 

「はっはい!なんでしょう、あなた!」

 

「あなた?」

 

「ごっごめん!……」

 

「まだ気がはやいよ」

 

はやては顔から煙を出した。

 

「うわあああ!」

 

叫びながら部屋を出て行ってしまった。

 

「どうしたんだろ?」

 

「レンヤ……」

 

「いつもの事ながら、呆れるな」

 

「ん?リインとおままごとをする時の役だろ?」

 

「「はぁ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして1カ月後。

 

聖祥小学校、屋上。

 

フェイトが執務官試験を受けたが見事に落ちた。

 

「………………」

 

「えっと、フェイトちゃん?」

 

「べっ別にこれが最後じゃないんだから、また次を頑張れ。応援しているぞ!」

 

「お姉ちゃんも応援しているぞ!」

 

落ち込むフェイトを皆で励ます。

 

「そうだ、皆でお買い物に行こうよ」

 

「そうね、いい気晴らしになるわよ」

 

「それはええな」

 

「いいか?フェイト」

 

「……うん、ありがとう」

 

放課後

 

「気晴らしと言えば、ゲームセンターや!」

 

「まあ妥当ね」

 

「ほら行こう、フェイトちゃん」

 

「うっうん」

 

皆がゲームセンターに入り思い思いに遊び始めた。

 

「お前は遊ばないのか?」

 

俺はベンチに座っていた。

 

「そう……だな、今まで一度も来たことがなかったからな」

 

「もう、いい加減自分に優しくしなさい!」

 

「そうだな」

 

とりあえず中を回ってみることにした。

 

「あっレンヤ!あれいいんじゃない」

 

ソエルが差したのはシューティングゲームだ。

 

「確かに面白そうだ」

 

「わかった、やってみるよ」

 

100円を入れてゲームを開始した。

 

それからしばらく

 

「これで………終わり!」

 

最終ボスを倒し、クリアした。

 

「結構、反射神経使うな、動体視力も鍛えられる」

 

銃を元に戻し、なのは達を探す。

 

「あっレン君!」

 

「今までどこにいたのよ」

 

「始めてのゲームセンターだから、何をやるか迷っていた」

 

「えっレンヤ君、ゲームセンター初めてやったの?」

 

「自由に出来るほど、余裕がなかったからね」

 

「あっ」

 

なのはは理由を知っている為、声を漏らす。

 

「ほらほら、暗い顔しない。最後にあのプリクラってやつをやろうぜ」

 

「えっいいの!」

 

「写真を撮るだけだろ」

 

「なら早く行こう!」

 

「ちょっすずか!引っ張るな!」

 

それからプリクラをやり、解散となった。

 

「それじゃあ皆、また明日」

 

「皆、さようなら」

 

「また明日ね」

 

「バイバーイ」

 

「私はこれから買い物やけどな」

 

「またねー皆ー」

 

「じゃあな」

 

皆と別れてなのはと家に帰る。

 

「ねえレン君」

 

「なんだ、なのは」

 

「もう、自分に厳しくしない?」

 

「そうだな、厳しくしないとなのはが宿題を溜め込むからな」

 

「にゃ!それは関係ないでしょう!」

 

「あはは」

 

「まてーー!」

 

俺達は走って家に向かった。

 

 



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31話

のんびりと過ごしている俺達。

 

時期はもう12月、季節は冬に変わった。

 

今は翠屋でお茶を飲んでいる。

 

「もうあっという間に2年経っちゃったね」

 

「勉強と仕事の両立が難しいけどな」

 

「容量を考えれば余裕よ」

 

「それができんから困ってるんや」

 

「フェイトも執務官試験の合格する為に頑張っているし」

 

「うん、次こそは合格する」

 

「張り切っているね、フェイトちゃん」

 

「……………………」

 

さっきからなのはがボーっとしている。

 

「なのは?」

 

「……………………」

 

「なのは!」

 

「ふにゃっ⁉︎」

 

大声で呼ばれ、やっと反応するなのは。

 

「どうかしたか?なのは?」

 

「なんでもないよ、ごめんねレン君」

 

苦笑いしてながら謝るなのは。

 

「どうしたのよ?最近ボーっとしている事が多いわよ?」

 

「何か悩み事でもあるの?なのはちゃん」

 

「もし困っているなら相談して、私達でよければ力になるよ?」

 

「ありがとうすずかちゃん、フェイトちゃん」

 

そう言うが、悩みと言うより疲れているな。

 

「なのは、お前無理してないか?」

 

「ふえっ⁉︎」

 

「いつも以上に顔色が悪い、疲れているなら休め」

 

「だっ大丈夫だよ、少し休めばすぐに良くなるから」

 

「そうか……無理はするなよ」

 

「にゃはは、心配してありがとうなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

今日、なのはは体調が悪化したまま任務に行っていた。

 

「嫌な予感がする、すっごく嫌な予感が…」

 

「レンヤ、落ち着け」

 

「ソエル!なのはの魔力を探して転移できるか⁉︎」

 

「余裕だよ!すぐに行く?」

 

「ああ」

 

レンヤ達はなのはの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとヴィータは次元世界の探索を終えた帰り道。

 

「なのは!後ろ!」

 

「え?」

 

振り返ると、銀色の爪のような物がなのはに襲いかかろうとした。

 

「あ………れ………?」

 

突然、なのはの動きが鈍り目の前に爪が迫る。なのははとっさに目を瞑るが…痛みは来ない。

 

「ぐうっ……だから言ったろうが……無理はするなって」

 

「レン君!」

 

「レンヤ!」

 

目を開けるとそこには爪で胸を切り裂かれたレンヤがいた。

 

「ヴィータ……早くなのはを連れて離脱しろ、こいつらもよろしく」

 

レンヤはヴィータにラーグとソエルを投げ渡した。

 

「行け!」

 

「んな訳に行くか!あたしも残って……」

 

「さっさと行け‼︎」

 

レンヤは聖王の力を解放して、ヴィータを睨む。

 

「っ!〜〜〜〜〜〜っ、わかった!無事でいろよ!」

 

ヴィータはなのはを連れてその場を離れる。

 

「くっ、バリアジャケットを貫通した。AMFか!」

 

《そのようです、回復魔法も阻害されています》

 

「この数相手にどれだけ持つかな」

 

昆虫のような足があるガジェットが10機、周りを囲んでいた。

 

「一気に決める……はああ!」

 

氷の神器を纏う、ガジェットの周り一ヶ所に集め凍らせ、秘力を解放する。

 

「我が身は紺碧!白き氷華に擁護せよ!ノーザンケイジ!」

 

まとまったガジェットを何度も蹴り、吹雪を起こし吹き飛ばして粉々にした。

 

「くっ、はあ、はあ、体が…持たない……」

 

《マジェスティー!バイタルが危険域に入りました!意識を保ってください!》

 

「心霊……蘇生……レイズデット…!」

 

なんとか回復魔法を使い、そのまま倒れ意識を失ってしまう。

 

最後に紫色の雷が見えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の場所では薄紫色の長い髪をした女性がボロボロの白衣を着た男性に話しかけていた。

 

「ドクター、ガジェットIV型が全て破壊されました」

 

「ああ見ていたよ。さすが聖王の末裔、そしてAMFをものともしないあの力!体の丈夫さ、屈強な精神!素体に欲しいくらいだよ!」

 

白衣を着た男性は興奮していた、それを女性が無視して結果を報告する。

 

「奴には役に立ちませんでしたが、ガジェットに搭載したAMFは問題なく発動してました」

 

「これで私の研究も一歩進んだ。次に会う時を楽しみにしているよ、神崎 蓮也君」

 

男性はモニターを操作して…

 

「彼の血液を回収しろ、これで聖王の複製体が完璧になる、そして……」

 

後ろに振り返り、ポットに入っている獣の爪のような物を見る。

 

「鬼神の……目覚めは近い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レン君……」

 

なのはは病室の前でうな垂れていた。レンヤあの後クロノの部隊が回収、そのまま病院に運ばれた。胸の裂傷にどうやら爪の破片も入り、大量に血を流しすぎて危険な状態だ。神器の治療がなかったら危ないところだった。

 

レンヤは今、集中治療室でシャマルが治療を行っている。

 

「私が………クロノ君の注意を聞いていれば…」

 

「なのは……」

 

なのはは自分を責めていた。最近ハードな訓練に任務の連続だったので疲れがたまっていた。レンヤに見抜かれたのに強がり、否定した。だから一瞬反応が遅れた、レンヤが助けに入らなかったら自分が大怪我を負っていただろう。

 

そんな様子のなのはに誰も声を掛けることができなかった。フェイトは声を掛けようとしたがシグナムに止められ、ヴィータは壁に拳をぶつけ歯を食いしばっている。アリサとすずかも、守れなかった自分を責めていた。

 

誰もが自分の無力さを嘆いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ここは…?」

 

レンヤは目を覚ました、辺りはまだ暗く月明かりが窓から差し込んでいる。

 

「うっ!いてて…動けないな、当たり前か」

 

起き上がろうとするが痛みでまた横になる。体を見るとあちこちの包帯が巻かれている。

 

《マジェスティー、大丈夫ですか?》

 

横のテーブルにレゾナンスアークが置かれていた。

 

「ああ、大丈夫だ。なのはは無事か?」

 

《軽傷で済んでいます、マジェスティーの状態は…》

 

「いいよ、言わなくて。しっかしクリスマスまでに動けるようになるかな?全く俺の誕生日は厄介ごとばかりだ」

 

ベットに体を預け、1人ぼやく。そこにラーグとソエルが入ってきた。

 

「起きたのレンヤ」

 

「無事でなによりだ」

 

「どれ位眠っていた?」

 

「3日だね、死んでるみたいだったよ」

 

「そうか、ソエル、明日なのはを呼んできてくれないか?」

 

「うん、いいよ」

 

「今はゆっくり休め」

 

そして後日

 

レンヤは車椅子に乗り、屋上で待っていた。

 

「レン君……」

 

「来たか、なのは」

 

振り返って話しをする。

 

「なんで嘘をついた」

 

「えっ」

 

自分が責められるのを覚悟してたのに、全く違う言葉で驚いた。

 

「なんであの時疲れていないって嘘をついた」

 

「それは……あの時は本当に大丈夫だったの」

 

視線を逸らして答えるなのは、明らかに嘘をついている。

 

「ふう、本当は気づいていたよ、お前が嘘をついている事ぐらい」

 

「え……」

 

「何年一緒にいると思っている、お前の体調が悪い事はとっくにわかっていたさ」

 

「じゃあ…何で?何であの時に言わなかったの⁉︎」

 

近づいて俺の胸倉を掴み、なのはが叫び出すように声を張り上げる。正直痛い。

 

「なら俺も聞くが、何んであの時嘘をついた?体調が悪い事を誤魔化す必要は無いはずだ」

 

「だって…私には皆の役に立てる力が…困っている人達を助けられる力があるんだよ⁉︎だから私の頑張らなきゃいけないの!」

 

「でも結果はこれだ、自分の身も守れず人も守れていない。体を酷使した結果がこれだ」

 

「う……」

 

「それとも…お前にそこまで働けと言ったのはリンディさんか?それとも管理局の上司か?」

 

「ちっ違うよ!これは私が皆に嘘をついて無理をしただけなの!」

 

「ならば何故、そこまで頑張ろうとする?」

 

「それは………」

 

そしてレンヤと視線を合わさないまま俯いてしまう。

 

「怖いんだな、1人になる事が、自分の周りから皆が離れていくことを」

 

俯いたまま、レンヤの言葉にビクリと肩を震わせるなのは。

 

「全く、そんなはずないだろ。別に……」

 

「……………………で」

 

「ん?」

 

俯いたまま小声でつぶやく様にしゃべるなのは。

 

「………に………いで」

 

「なのは?」

 

「嫌いにならないで!」

 

顔を上げたなのはは懇願する様に声を張り上げる、胸倉を掴んでいる手にはますます力がこもり、目には涙が徐々に溜まり始める。

 

「嘘をついた事は謝るから……もう嘘はつかないから……ちゃんと良い子になるから……なのはの事嫌いにならないで……1人にしないで……」

 

涙声になりながらも言葉を発するなのは。

 

「まさか……お前まだ…」

 

「もう…もう1人ぼっちになりたくない……なりたくないよう………」

 

遂には泣き出してしまった。

 

「全く、あの時から変わってないのは良いことか悪いことか」

 

なのはの頭を撫でながら、泣き止むのを待った。

 

しばらくして…

 

「うっ…ぐすっ…」

 

「落ち着いたか?」

 

俺の問いに小さく頷く、胸倉を掴んだ手も話してくれた。

 

「あの時から変わってないな、1人でブランコに揺られていたあの時に」

 

「あっ…」

 

「なのはは、本当に自分に魔法しかないと思っているのか?」

 

「…うん、他に何もできないし」

 

「確かに魔法があったおかげでフェイトやはやて達と出会う事になったかもしれないが、それはあくまできっかけに過ぎない。フェイトと友達になった時や、リインフォースを説得したのは魔法じゃない、なのは自身の言葉だ。なのはの想いがフェイト達を救ったんだ」

 

「……………………」

 

「それにアリサとすずかにしてもどうだ?その時なのはは魔法を使えて、2人はなのはの事を魔導師と知っていたか?」

 

なのはは首を横に振って答える。

 

「なら答えは出ている、魔法があっても無くても皆はなのはの元を離れない。魔法が使えるかじゃない、なのはだから一緒に居たいんだ」

 

「レン君も?」

 

「ああ、そもそも俺に居場所をくれたのはなのは何だから」

 

「え」

 

「俺は最後の最後まで高町家に住む事を拒んでいた、最後の決定をなのはに決めてもらったんだ」

 

「そうなの?」

 

「なのはは反対してくれると思った、でも大喜びで受け入れてくれた。あの時は後悔していたけど、今は感謝している、俺に温かい居場所をくれたから本当に感謝している」

 

「レン君……」

 

「それとごめんな。なのはがそんな不安を抱えている事に気付いてやれなくて。もっと早く気付いていたらこんな事にならなかったのに」

 

「…そんな…事ないよ………なのはも…正直に言っていたら…」

 

再び涙声になっているなのは、レンヤは優しく頭を撫でる。

 

「大丈夫だ、皆ちゃんとお前の側にいるから」

 

「うん…」

 

「なのはができない事はフェイト達を頼れば絶対に力を貸してくれるし、俺達、チーム・ザナドゥも力を貸すさ。だからもう1人で頑張ろうとするな」

 

「…うん…レン君…ありが……とう……」

 

「我慢しなくていい、今は泣いていいんだ」

 

その言葉を聞いて、なのははもう限界だったのだろう。涙腺が決壊し、レンヤに抱きついて。

 

「みんな…わたしから…はなれるとおもって……こわかった…こわかったよう………ふええええぇぇぇんん‼︎」

 

大声で泣き始めた、そんななのはをレンヤは優しく受け止めて泣き止むまでずっと頭を撫で、背中をさすってやっていた。

 

あれからしばらく泣いていたなのはだが…

 

「もういいのか?」

 

「も、もう大丈夫なの////」

 

なのはの表情もとても良くなっている。

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

「うん、私みたいな人が出ないように。これから管理局で働こうと考えている人達に無茶をしない様にって教えられるお仕事に就こうと思うの」

 

「なるほど、教導官に」

 

「うん、少なくとも私と同じ目に遭う人も、フェイトちゃん達みたいに心配する人も増やしたくないから」

 

そう言うなのはの瞳からは力強い意思を感じる。

 

「そうか、もう無茶はしないな」

 

「うん!」

 

なのはは選べた、いい加減俺も前に進まないとな。

 

「レゾナンスアーク、剣を」

 

《イエス、マジェスティー》

 

レゾナンスアークは目の前に剣を出してくれた。

 

「レン君、何を……」

 

レンヤはリボンを解き、剣を髪に当てて。

 

「俺も……過去に縛られるのも終わりだ」

 

髪を切った、ツヤのある長い髪は手の中にある。

 

「これでいいんだ」

 

切った髪をリボンで縛りまとめる。

 

「なのは、病室まで連れて行ってくれ」

 

「!、うん!」

 

なのはに車椅子を引いてもらい、病室に戻った。

 

戻る途中に他の皆と会う。

 

「レンヤ、なのは!」

 

「どこに行ってたんや!」

 

「レンヤ!あまり動かないの!」

 

「レンヤ君……!その髪……」

 

「切っちゃったの⁉︎」

 

皆に心配された様だ。

 

「屋上に居ただけだ、なのはと話しがあってな」

 

「もう、いいの?」

 

「うん!私はもう大丈夫なの!」

 

「あまり心配をさせるな」

 

部屋からお父さんとお母さんが出てきた。

 

「もう、髪をこんなにして。後ろだけ切って、髪が滅茶苦茶じゃない」

 

「あはは、ごめんなさい」

 

「とにかく今は休め、散髪はその後だ」

 

「そうだ、クリスマスパーティーどうしようか」

 

「あっ私、病室で誕生日会をやっていいか聞いてくるね」

 

「それはいいアイディアよ!」

 

「早くレンヤ君が元気にならるようにお祝いしよう!」

 

「ちょっと待て!恥ずかしいから止めて!」

 

「堪忍せなあかんよ、レンヤ君」

 

「我慢する事だよ」

 

「わーいわーい、パーティーだー」

 

「士郎、一杯やろうぜ」

 

「はは、それは帰ってからね」

 

「ほどほどにして下さいね」

 

その後病室でクリスマスパーティーと俺の誕生日会を開いた。

 

なのはも、皆も、元気になってよかった。

 

 



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32話

あれから3カ月

 

もう怪我は完全に塞がった。

 

だがお見舞いに来る人が聖王教会の人ばかりで、励ましの言葉もだいたい同じだった。

 

髪もお母さんに整えてもらい、襟にかからない位の長さになった。

 

そして6年生、事故として学校に伝えられたらしく、怪我の事や髪の事で話題が持ち切った。

 

いつも通りにアリサが静めてくれたが、今問題はそこではない。

 

「……………………………」

 

ズーーーンという効果音が付きそうなくらい落ち込んでいるフェイト。

 

「えっと、フェイト?今回は流石に仕方ないと思うのよ」

 

「そっそうだよ!レンヤ君が事故にあっちゃたんだから。勉強に身が入らなかったんだよ!」

 

「それに次こそは大丈夫やと思うで!」

 

「そうそう!3度目の正直って言うし!」

 

「2度あることは3度あるとも言う」

 

「「「「「ラーグ(君)!」」」」」

 

そう、フェイトはまたしても執務官試験を落としてしまったのだ。

 

「ほら!失敗しても、失敗した部分が分かるんだから、それを生かして………」

 

「レンヤには分からないよ………この気持ちは……」

 

小学生に受験に落ちた気持ちが分かる方が難しいです。

 

「全く、ほらくよくよしない!今日はアリシアの記念すべき第一歩よ!」

 

「そっそうだよフェイト!出来ればお姉ちゃんを祝って欲しい……かな?」

 

すずかが管理局の指導の下、アリシアのインテリジェントデバイスが完成したのだ。

 

アリシアは結界魔法や転移魔法、幻影魔法が得意なサポートタイプの魔導師だ。デバイスもそれに合わせて作られた。

 

「……うん、そうだね。ここで立ち止まっていられない!」

 

「それでこそフェイトちゃんだよ!」

 

「俺達も中学位で管理局に入る予定だ、お互い頑張ろう」

 

「うん、よろしくね!」

 

放課後

 

毎度お馴染みのすずかの家、そこの会議室……ではなく地下に作られたデバイスルーム。

 

前にあった方がいいとソエルに言われ作ったらしい、有言実行できるってすごいね。

 

「ここだよ、さあ入って」

 

すずかはにデバイスを扉のパネルにかざしてロックを解除する。

 

「うわああ!」

 

「これだけの設備どないしたん?」

 

中は管理局顔負けの設備だった。

 

「全部、ソエルちゃんから出してもらったの」

 

「私の中で腐らせるより、いいからね」

 

「よく俺達のデバイスをここでメンテナンスしてもらっている」

 

「すずか本当にいい腕しているからね」

 

「そんなことないよ、メンテナンスくらい簡単だよ」

 

「十分すごいよ」

 

「それでこれがアリシアちゃんのデバイスだよ」

 

すずかはボードを操作して壁に付いているスライドドアを開ける、中には黄色の雫型のデバイスがあった。

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとう!すずか!」

 

アリシアはデバイスを手にして喜んでいる、デバイスの起動は外でやる事になった。

 

「いっくよー!あなたの名前は運命の雫、フォーチュンドロップ!」

 

黄緑色のミッド式の魔法陣が現れた。

 

「フォーチュンドロップ!セートッ!アープッ!」

 

《レディー、セットアップ》

 

デバイスが光り、バリアジャケットを纏う。

 

デザインは黄緑色のスカートで白いYシャツだが肩から先がなく、肩から露出している。リボンやネクタイの色は薄い緑色をしている。

 

手には小型の2丁拳銃を持っている。

 

「わあ、アリシアちゃん可愛い!」

 

「よく似合っているよ」

 

「えへへ、ありがとう///」

 

アリシアが顔を赤らめて言う。

 

「コホン、それじゃあアリシアちゃん。簡単に結界魔法と転移魔法をやってくれないかな?」

 

「あっうん、分かった」

 

アリシアはフォーチュンドロップに魔力を流し、すぐに結界を張った。

 

「おお!いつもより早いし簡単にできた!」

 

「すごいわねアリシア」

 

「普通ここまで早くできへんやろ」

 

「方向性は違えど、姉妹揃って優秀って事だよ」

 

転移魔法も連続で使っているアリシア、見えたと思ったらすぐに消える。

 

「アリシアちゃんー!どんな感じー!」

 

「うん!全く問題ないよ!」

 

「よかった」

 

「もうすずかはデバイスマスターって呼んでも差し支えないね」

 

「ソエルちゃん、言い過ぎだよ」

 

「いや、本当にすごいよすずか」

 

「そっそうかな、ありがとうレンヤ君///」

 

顔を赤らめてお礼を言うすずか。

 

「コホン!それじゃあ皆でこれから模擬戦でも……」

 

「あーちょっと待って、レンヤ」

 

アリシアがいきなり真剣な顔になった。

 

「ん?なんだアリシア?」

 

「私を……私をレンヤの従者にして欲しい」

 

「え?」

 

「ちょっと!」

 

「姉さん!」

 

アリシアの突然の発言に驚く皆。

 

「アリシア、それがどう言う意味か……本当に分かっているのか」

 

「うん、ちゃんと分かっているよ。私は今で力になれなかった、無力な私は誰も守れなかった、聞き方によれば私はただ力が欲しい様にしか聞こえない、でも違う私は皆を守りたい、そして世界を見てみたい、あなたと一緒に!」

 

アリシアの正直な気持ち、そこには確かな心があるアリシアらしい答えだ。

 

「……うん、いいよ」

 

「レン君⁉︎」

 

「俺はアリシアの意思を尊重する、それにアリシアはきっと正しい事に使ってくれる、そう信じている」

 

「レンヤ君……」

 

「姉さん、本当に……」

 

「心配してくれてありがとうフェイト、私もすぐにあなたの隣に行くからね」

 

アリシアはレンヤと向き合い。

 

「ラーグ」

 

「ほいきた、アリシア、俺の手を掴んでくれ」

 

言われた通りにアリシアはラーグの手を掴む。

 

「我が宿りし聖なる枝に新たなる芽いずる花は実に 実は種に 巡りし宿縁をここに寿がん今、聖王の意になる命を与え、連理の証しとせん答えよ、従士たる汝の名はーー」

 

「ーーアリシア・テスタロッサ」

 

アリシアの上に魔法陣が現れ、アリシアの体を通り抜けた。

 

「これでいいぞ」

 

「……あんまり変わってないね」

 

「神衣が使える様になっただけだからな」

 

「でもそれって、よく考えたらレアスキルの共有ちゃう?」

 

「まあ……そうとも言えるね」

 

「とりあえず、神器を渡してみなさい」

 

「そうだな」

 

ラーグが風の神器をアリシアに渡した。

 

「やり方は聞いているな?」

 

「うん、大丈夫」

 

アリシアは目を瞑り、神器に魔力を流しながら。

 

「……………ユクム」

 

静かに見守るなか。

 

「ルウィーユ…ユクム」

 

解放する。

 

「ルウィーユ=ユクム!」

 

神器が光り身に纏う、装飾の色が緑なだけで白い服は同じ。そして背中に剣の翼があった。

 

「きゃあ!」

 

「すごい風!」

 

「これって暴走⁉︎」

 

「いや、よく見てみろ」

 

風が収まり、アリシアがはしゃいでいた。

 

「すごいすごい、力が溢れ出る、どこまでも飛べそうだよ!」

 

「嘘……」

 

「もうコントロールしている」

 

「年齢的な問題だろ」

 

「年を重ねれば、当然精神も強くなる。レンヤ達は時間がなかったからね」

 

「アリシア、気分はどうだ」

 

「すーーふーー…うん、落ち着いたよ」

 

「これからもよろしくな、アリシア」

 

「こちらこそ、主レンヤ」

 

「あんまり巫山戯るな」

 

「イタッ!」

 

アリシアに頭を叩く。

 

「それじゃあさっきのアリサの提案で模擬戦をしようか」

 

「うん、いいよ!」

 

「手加減しないから」

 

「やるからには勝たせてもらうで!」

 

「腕が鳴るわね」

 

「ふふふっ」

 

「やってやるぞー!」

 

「お前まず神衣化を解け」

 

その後思い思いに模擬戦を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、俺とアリサ、すずかとアリシアは、アリシアの事をウイントさんに報告するため聖王教会に来ていた。

 

「そうか、君が新しい従者か」

 

「アリシア・テスタロッサです」

 

「うむ、それと現状、レンヤのおかげでなんとか教会はまとまってきているが……」

 

「やっぱり、俺が聖王にならないといけないんですよね」

 

「ああ、所詮私は代理。正当後継者である君が上に立つべきだがな」

 

「今やっている事を放り投げるほど、軽いものは持っていません」

 

「分かっているさ、だから君に言ってもらいたいんだ」

 

「レンヤ君に演説をしろと?」

 

ウイントさんは静かに頷く。

 

「演説かー、王様モードで行けるかな?」

 

「従者の3人にも付き添ってもらうけどね」

 

「予定はいつ頃行いますか」

 

「1週間後だ、準備はこちらで進めておく」

 

「ありがとうございます」

 

「いやそれはこっちの台詞だ、レンヤがいなければ始まらないのだから」

 

細かい説明を聞き、演説の内容を確認した。

 

そして1週間後。

 

演説の会場は聖王教会の講堂内で行われる、教会には溢れんばかりの人がおり、噂を嗅ぎつけたのかテレビ局の人までいる。

 

レンヤ達は教会の裏手で控えていた。

 

「うわーすごい人だねー」

 

「王様の演説ともなればこうなるわよ」

 

「きっとレンヤ君が聖王になるって思っているんだろうね」

 

「………勘弁してくれ」

 

「私達も応援するよ」

 

「一応、出席はするからな」

 

俺達は騎士風の正装をしている、デザインは一緒でそれぞれの神器に合わせた色の変化がされておる、マントを付けている。

 

ラーグとソエルにもローブが巻かれている。

 

「時間だ、覚悟はいいね」

 

レンヤ達は顔を見合わせて…

 

「「「「はい!」」」」

 

大きな声で返事をした。

 

ウイントさんの後に続き講堂に出ると、フラッシュの嵐に合う。俺はすでに聖王モードだ、しかし緊張はするものだ。

 

アリサ、すずか、アリシアは俺の後に続く様に歩いている。

 

演壇の前に着き、演説が始まる。

 

「私は聖王の代理を務めさせて頂いているウイント・ゼーゲブレヒトだ、此度の演説は聖王の末裔である彼からだ」

 

ウイントさんが壇から離れて俺が前に出る、プレッシャーが半端じゃない。

 

「ご紹介に預かりました、レンヤ・ゼーゲブレヒトです。私はこの場で発表する事があります、私は……聖王にはなりません」

 

その言葉に動揺の声が広がる。

 

「私が聖王にならずともこの教会はやって行けます、必ずしも聖王は必要ではありません」

 

「しかし、貴方が聖王になる事を大勢の方々が望んでいます!」

 

記者の一人がそう言ってきた。

 

「私が聖王になったところで現状なにも変わりません、私はまだ子どもです、政治などを行うには若すぎます。ウイント氏はよくやってくれています、それに聖王に襲名して何になりますか、独立でもする気ですか、私を旗印にして何になりますか。私は人を守りたい、ならばこそそれは聖王でもいいではないか、しかしそれでは私は人を守れない。手を伸ばし前に行き過ぎれば後ろの人が助からない、聖王では守りきれない。私は名ばかりの王にはなりたくない!私の望む王は、人々を信じ信じられるそんな王でありたい!だが、私はまだまだ未熟者だ、もし!私がふさわしい王になれれば、貴方達は私を受け入れてくれるだろうか?」

 

静まりかえった講堂内、一人が拍手をしそれに続き大勢の人が拍手をしてくれた。

 

俺は一礼をして戻ろうとするが、その時魔力を感じた。とっさに避けると魔力弾が通り過ぎた。

 

「ルウィーユ=ユクム!」

 

アリシアが神衣化をして犯人に接近する、アリサも神衣化せず剣を抜き……アリシアに振り下ろした。

 

周りが驚く中、アリシアは…

 

「瞬転流身!ゲイルファントム!」

 

真空波を飛ばし、犯人に当たった瞬間アリシアと犯人の位置が入れ替わる。

 

「なに、がっ!」

 

犯人が驚く中、アリサの剣が犯人に当たった。

 

犯人はそのまま管理局に連行された

 

人々は2人を…特にアリシアの神衣に見惚れていた。

 

「騒がしくして申し訳無かった、これにて演説を終了とさせていただきます」

 

視線が背中に刺さる中、講堂を出て行った。

 

場所は聖王家の屋敷、会議室

 

「あの後犯人はどうなりましたか?」

 

「管理局の者に連行されたよ」

 

「よかったー」

 

「それで、講堂内にいた人達は」

 

「全員無事だ、怪我人も0。演説も概ね成功かな」

 

「だといいんですけど」

 

「あの犯人、これが狙いじゃないかしら」

 

アリサがそう言ってきた。

 

「どう言う事だい?」

 

「暗殺をするならもっと早くできたはずよ、でも攻撃したのは演説終了間際、何か胡散臭いわね」

 

「確かに少なからず影響は出るだろうが、今考えても仕方がない」

 

「そうだね」

 

「なら俺達はこれで失礼させていただきます」

 

「気をつけてな、それとその服はそのままあげよう。こっちに置いといても埃をかぶるだけだからな」

 

「なら有難く頂戴します」

 

「それでは失礼します」

 

俺達は屋敷を出て、管理局に向かった。

 

「ふう、精神的にも魔力的にも疲れた」

 

「お疲れ様レンヤ君」

 

「これで少しはマシになるといいんだけど」

 

「無理みたいだよ」

 

「「「え?」」」

 

「ほら」

 

アリシアが指差したのは、大きなディスプレイにレンヤが演説をしている姿が映っていた。場面が切り替わり、犯人を拘束する瞬間まで撮られていた。

 

「プライバシーの欠片もないわね」

 

「て言うか今気づいたんだけど、俺ら格好変わってないよな」

 

「「「あっ」」」

 

レンヤ達は自分の体を見下ろすと、正装のままだった。

 

改めて周りを見ると、結構目立っており浮いている。

 

「………早く行こうか」

 

「そうね」

 

「うん」

 

「帰ろう」

 

「そう簡単に行くかな」

 

ラーグが指差した方向に、講堂にいた記者達がものすごいスピードでこっちに来ていた。

 

「「「「……………………」」」」

 

「走っれ〜」

 

ソエルに言われ、俺達は走って管理局に行き地球に送ってもらった。

 

 



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33話

7月中旬

 

ミッドチルダで嘱託魔導師の依頼を終わらせ、俺はクラナガンを見て回っている。

 

何でも2、3日前断続的に霧が発生したようだ。

 

こんな大都市で発生するのは、やはり珍しかったようだ。

 

「ふう………これで5件目、予想以上に異界が存在しているんだな」

 

サーチデヴァイスで異界を探し収束しまわっていた。

 

「人が多いならそうなるよ」

 

「アリサ達も呼べばいいだろ」

 

「あっちの事情もあるんだ、そう何度も呼べないよ」

 

路地から出て、次の座標に向かうためディスプレイを出す。

 

「中心部はこれ位だろ、後は東部辺りを見回るか」

 

「そうだね、あそこはテーマパークがあるからね。異界も多そうだよ」

 

「よし、それじゃあ………」

 

「うえええええん!」

 

いきなり女の子の泣き声がして振り返ってみると、すぐ後ろに青い髪をした女の子がいた。まだ小学生くらいだ。

 

「えっと、どうかしたかい?お父さんとお母さんは?」

 

「ぐすっ…お姉ちゃんと……はぐれちゃった」

 

「そうなんだ…」

 

「レンヤ、どうする?」

 

「急ぎの用事でもないし、探すよ」

 

「本当!」

 

「ああ、俺は神崎 蓮也。君の名前は?」

 

「スバル!スバル・ナカジマ!」

 

「スバルちゃんね、それじゃあ行こっか」

 

レンヤはスバルに手を出し、スバルは嬉しそうに手をつないだ。

 

とりあえず迷子には警察、ここでは管理局に頼ろう。

 

管理局のいる施設に入り聞いてみる。

 

「まだ来てないんですか」

 

「はい、スバル・ナカジマの迷子捜索は出ていません」

 

「そうですか」

 

「お兄ちゃん?」

 

「あっいや、大丈夫だよ」

 

「そういう事なら、人探しならこれだな」

 

ラーグが風水版を取り出した。

 

「なにそれ?」

 

「魔力と記憶を元に、ある特定の人物を探す物さ」

 

「へえ〜すごいすごい!」

 

「スバル、ここに手を置いて、お姉ちゃんを思い浮かべるんだ」

 

「うん!」

 

スバルは風水版に手を置き、目を閉じる。

 

すると風水版が光り出し、光りの線が西を指した。

 

「この先にお姉ちゃんがいるよ」

 

「よし、行ってみようか」

 

「うん!」

 

それからしばらく歩き、公園が見えてきた。

 

「あっさっきまで遊んでた所だ」

 

「ならいるかもしれないね」

 

少し進むと、スバルによく似た長い髪の女の子が辺りを見回していた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「!、スバル!」

 

スバルが駆け寄り、姉も駆け寄り抱きつく。

 

「もう、どこに行っていたのよ!心配したんだから」

 

「ごめんなさい」

 

姉はこちらに向き直り。

 

「スバルを見つけてありがとうございます、私はこの子の姉のギンガ・ナカジマです。何かお礼をしたいんですけど…」

 

「いや大丈夫だよ、気にしないで」

 

「いえそういう訳には……!」

 

ギンガがいきなり驚いた、あっばれた…

 

「聖王……」

 

「あーーそうだ!もうすぐ夜だ、家まで送っていこう!」

 

「えっ!あっでも」

 

「気にしないで、こんな時間に女の子2人じゃ危ないから」

 

「はっはい!ではよろしくお願いします」

 

「わーい、お兄ちゃんと一緒だー!」

 

喜ぶスバルに俺達は苦笑する。

 

「できれば俺の事は内緒にしてもらうと助かる」

 

「はい、わかりました」

 

ギンガと約束して、少し歩きスバル達の家についた。

 

「それじゃあ俺はこれで」

 

「待って下さい!せめて夕食をご馳走したいのですが」

 

「だから気にしなくてもいいのに」

 

「お兄ちゃん、ごはん食べていくの?」

 

「いやだから…」

 

「わーい、やったー!」

 

嬉しそうにはしゃぐスバル、その時家のドアが開き母親と思われる女性が出てきた。

 

「ギンガ、スバル、何玄関で騒いでいるのよ」

 

「お母さ〜ん」

 

スバルは母親に抱きつく。

 

「ちょっ!もうスバルったら」

 

「えへへ」

 

「それで、あなたは?」

 

「お母さん彼は…」

 

ギンガがここに来るまでの事情を説明してくれた。

 

「そう…スバルがお世話になったわね。私はこの子達の母親のクイント・ナカジマよ」

 

「神崎 蓮也です、当たり前の事をしただけです」

 

「それでもよ、夕食をご馳走するわ。入って頂戴」

 

「えっいやだから……」

 

「行こう!お兄ちゃん!」

 

スバルに引っ張られて、家に入った。

 

リビングには父親と思われる男性が座っていた。

 

「どうやら娘達がお世話になったらしいな、私はゲンヤ・ナカジマだ。以後よろしく頼む」

 

「神崎 蓮也です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「ほう、どこかで見たと思ったらかの聖王じゃないか」

 

「えっ嘘!でもよく見たら似ているような…」

 

「あはは、できれば御内密に」

 

テーブルにつき夕食を頂くが…

 

「なんですか、この量は」

 

「家じゃあこれが当たり前だ」

 

そう言うとクイントさん、ギンガ、スバルがものすごい勢いで食べ物を食べていく。

 

「嘘!」

 

「早くしないとなくなるぞ」

 

目の前の光景に驚き、遠慮を忘れてごはんを食べた。

 

ものの30分で全部無くなってしまった

 

「「「「「ご馳走さまでした」」」」」

 

食べ終え、食器の片付けを手伝う。

 

「ゲンヤさん」

 

「………言わなくていい」

 

「………はいっ」

 

心中お察しします。

 

「っとそうだ、お二人は数日前の霧についてどう思いますか?」

 

「いきなりだな、確かにここ数年霧なんて発生して無かったからな」

 

「海が近いとはいえ、そうそう起きなかったわよ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「そう、それと……」

 

クイントさんは顔を近づける。

 

「あなた、私と会った事ある?」

 

「えっ、前の演説とかじゃなく」

 

「そうよ、例えば…無人世界でとか」

 

その言葉にギクリとする、確かに一年位前にあの施設から助けた2人の女性、1人はクイントさんだったような。

 

「やっぱりあなたね」

 

「えーと、あの時は偶然で」

 

「それでもあなたが来ていなかったら隊長も私もメガーヌも死んでいたかもしれないの、だからお礼を言わせて頂戴」

 

「俺からも礼を言わせてくれ、妻を救ってくれて感謝する」

 

「いえ、当然の事をしただけです」

 

「そうか、困った事があれば相談してくるといい。何時でも力になるぞ」

 

「はい、感謝します」

 

それから会話をして、家から出ると外はすっかり夜だった。

 

「バイバイお兄ちゃん」

 

「また遊びに来て下さいね」

 

「気をつけてね」

 

「はい、それではさよう……」

 

その時、目の前に白い靄が現れた。靄がどんどん増えて霧が出てきた。

 

「これは!」

 

「霧?」

 

「なんでまた、一体何が……」

 

アハハハハ

 

「「「「⁉︎」」」」

 

霧に驚く中、女性の笑い声が聞こえてきた。

 

「ひい!」

 

「スバル!」

 

「笑い声⁉︎」

 

「これは…」

 

『異界絡みだね』

 

『しかも、厄介な奴のな』

 

俺達は覆い尽くす霧の前に、呆然と立っている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

放課後にレンヤ、アリサ、すずか、アリシアはすずかの家の会議室にいた。

 

「今回ミッドチルダに発生した霧は、十中八九異界絡みだ」

 

「しかもグリムグリード、脅威度Sランク以上の現実世界に直接干渉できるグリード」

 

ラーグとソエルが今回の事件の説明をする。

 

「それってナハトヴァールの時の⁉︎」

 

「いやあれはただのエルダーグリードがナハトヴァールによって突然変異したものだ、列記としたグリムグリードじゃないだろう」

 

「その通りだよ、ここでグリムグリードのちゃんとした説明をしておくよ。通常の迷宮の主………エルダーグリードに可能なのはあくまで特異点を介した干渉のみ。しかしグリムグリードは現実世界の環境すら変化させ、自らの眷属を異界の外に送り出せるほどの力を持っているよ。前回のグリムグリード擬きの比じゃないくらいにね」

 

「今回の霧がそれか」

 

「ああ、過去に町一つが全滅した例もある」

 

「そんな事がミッドチルダでも起こるって言うの!」

 

「ミッドチルダは魔法があるから、時間をかければいずれ解決するけど…」

 

「そんな悠長に待っていられないね」

 

「もうミッドチルダのニュースで行方不明の人が続出しているみたい」

 

「とにかく今は情報収集だ、2人1組で編成する。俺は異界に関わって間もないアリシアと行く、それでいいな」

 

「ええ」

 

「わかったよ」

 

「よろしくね、レンヤ」

 

クロノに許可をもらい、ミッドチルダに向かう。レンヤ達が西を、アリサ達が東を捜索する事になった、モコナ達にはもしものために留守番してもらっている。

 

「アリシア、行方不明者はどこから出ている」

 

「この先のデパートと中心部に近い住宅街だね」

 

(中心部に近い住宅街……ナカジマ家がある地点だな)

 

「レンヤ?」

 

「なんでもない」

 

デパートに行き、従業員に話しを聞きまわる。

 

「どうやら数日前から無断欠勤している人が多いらしいな」

 

「1人暮らしの人ばかりで連絡もつかないね」

 

アリシアがディスプレイを展開し、ニュースサイトを見る。

 

「頭に響くような女性の笑い声が聞こえる……霧の異常発生……行方不明者続出……広範囲で事件が起きすぎだよ」

 

「管理局も動いているようだがな……やっぱりクロノに公表すべきだったかな」

 

「魔力を持っていても認識できる人は少ないからね…1度ゲートに入るかしないと見えないし」

 

「とりあえずアリサ達と合流しよう、情報の共有を……」

 

その時、レゾナンスアークに着信があった。

 

《クイント氏からです》

 

「開いてくれ」

 

ディスプレイが展開され、クイントが映し出される。

 

『レンヤ君!スバルとギンガを知らない!いきなり消えちゃったのよ!』

 

「「!」」

 

レンヤとアリシアはその言葉で理解した。

 

「クイントさん、今どこにいますか?」

 

『私の家の近くよ』

 

「わかりました、すぐに向かいます。クイントさんは誰かと一緒に待っていて下さい」

 

通信を切り、アリシアの方を向く。アリシアも誰かと通信していた。

 

「フェイト!フェイト!」

 

「フェイトがどうかしたか?」

 

「フェイトが中心部の住宅街に調査に行くって言って、そしたら通信がいきなり切れて……」

 

「どうやら厄介な事になったらしいな、レゾナンスアーク、アリサにメールで住宅街に向かうようにしてくれ」

 

《イエス、マジェスティー》

 

レンヤとアリシアは急いで住宅街に向かう。

 

着いた時、住宅街周囲の霧は異常なほどの濃くなった。

 

「なにこれ!」

 

「ここに来た瞬間、一気に霧が濃くなった!」

 

「レンヤ君!」

 

正面からクイントさんと薄紫の髪色をした女性が来た。

 

「クイントさん、無事でよかったです」

 

「それよりもギンガとスバルを探さないと!」

 

「落ち着いて下さい、この霧では危険です」

 

「そうです、お二人は……」

 

「お二人?」

 

薄紫の髪色の女性が辺りを見渡す。

 

「ルーテシア?どこにいるの、ルーテシア!」

 

「…………………ママーーー!……………」

 

さっきクイントさん達が来た道から、女性似の少女が走って来た。

 

「よかった、ルーテシア!」

 

女性は少女に……ルーテシアに近づくが…

 

アハハハハ

 

「!、離れて!」

 

「えっ」

 

笑い声が響き、霧の中から巨大な手が現れたルーテシアを掴み、霧の中に消えていった。

 

「ルーテシア!」

 

「落ち着いて下さい!私達が行きます、お二人は管理局に連絡してここら一帯を封鎖して下さい!」

 

「でも君達は…!」

 

「俺達なら原因を解明し、解決できます!ですから任せて下さい!」

 

レンヤ達の説得に2人は顔を見合わせて頷く。

 

「わかった、ギンガとスバルをよろしく頼むわ」

 

「あの子を…ルーテシアを救って頂戴……!」

 

「はい!任せて下さい!」

 

「それでは行ってきます、クイントさんと……」

 

「メガーヌよ、メガーヌ・アルピーノ」

 

「メガーヌさんは安全な場所へ!」

 

「レンヤ君!ゲートを見つけたよ!」

 

アリシアの後を追い、ゲートの前に立つ。

 

「レンヤ!」

 

「アリシアちゃん!」

 

ちょうどアリサとすずかと合流する。

 

「今からこのゲートに突入する、ソエル達の話しが正しければこの先にいるのは眷属だ」

 

「気を引き締めていくわよ!」

 

「アリシアちゃん、頑張ろうね」

 

「うっうん!」

 

レンヤ達はゲートに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮に入り、デバイスを起動して構える。

 

「迷宮の中にも霧が出てる」

 

「攫われた人は奥みたいね」

 

「気を抜かず、慎重に奥に進もう」

 

迷宮を進み、最奥の手前の部屋で攫われたと思われる人達が倒れていた。

 

「どうやら、霧の中で行方不明になった人達ね」

 

「こっこんなにいるなんて」

 

「今まで、異界の被害に遭ったのは1人だったのに……」

 

「うっ…」

 

レンヤ達は倒れているギンガ、スバル、ルーテシアに近づく。

 

「ギンガ……!無事だったか!」

 

「ルーテシアちゃん!大丈夫!」

 

「しっかりしなさい!」

 

「…れっレンヤさん……」

 

「…あの…時の……」

 

「うっ奥に………」

 

3人とも気を失った。

 

「ギンガちゃん⁉︎」

 

「大丈夫、皆気を失っただけよ」

 

「ふう、びっくりした」

 

3人を優しく横たえる。

 

「奥か…」

 

「早く行こう!」

 

奥の扉を開けると中には。

 

「!、これは……!」

 

「フェイト!」

 

フェイトが影の手と対峙していた。

 

「皆!どうしてここにーーー」

 

「危ない!」

 

フェイトの気がこちらに向き、影の手が振り下ろされた。

 

「ふっ!…やあ!」

 

フェイトは攻撃をかわし、バルディッシュで切りつける。

 

「フェイト!」

 

「さすがだね」

 

「前より動きがよくなっている」

 

(けどなんだ、焦っているのか?)

 

「フェイト!今、加勢してーー」

 

「ーー皆は下がって!」

 

フェイトの発言にレンヤ達は驚く。

 

「ここは私に任せて、行方不明の人達を連れて脱出して!」

 

「何言ってんのよ!」

 

「フェイトちゃん⁉︎」

 

フェイトはすぐに影の手に向き直りバルディッシュを掲げる。

 

《ハーケンスラッシュ》

 

「はああああ!」

 

バルディッシュを影の手に振り下ろした。

 

影の手は後ろを向き、奥に進んでいった。

 

「逃がさない!」

 

フェイトはものすごいスピードで追いかけ、見えなくなった。

 

「待て、フェイト!」

 

「深追いはしないで!」

 

「!、皆!」

 

アリシアが異変に気付き、次の瞬間影の手が現れレンヤ達の前に立ち塞がる。

 

「これって……さっきのヤツと同じ⁉︎」

 

「影の手、マリスクロウ!」

 

「さっきのが右手なら、これは左手!」

 

「こんな時に邪魔を……」

 

「とにかくぶっ倒すわよ!」

 

マリスクロウが手の平を上に向き、光弾を撃ちだした。

 

レンヤ達は散開する事で避ける。

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《カーブショット》

 

2丁拳銃を左右に撃ち出し、弾丸が曲がり側面に当たる。

 

「はあっ!」

 

すずかが手の平に高速で3段突きを繰り出すがマリスクロウがそのまま手を広げ振り下ろす。

 

「させないわよ!」

 

《ゼロインパクト》

 

アリサがフレイムアイズを振り、当たる瞬間爆発させ吹き飛ばす。

 

マリスクロウはすぐに止まり拳を握り、人差し指と中指を立てて正面にレーザーを発射する。

 

《アバートレイ》

 

「せいっ!」

 

レンヤがレーザーを逸らし防ぐ。

 

「アリシア!」

 

「オーケー、決めるよ〜!」

 

《サウザンドブリッツ》

 

マリスクロウの周囲に魔法陣がいくつも展開される。

 

「いっけーー!」

 

アリシアの前にある魔法陣に無数の弾丸を発射し、マリスクロウの周囲にある魔法陣に転移させて蜂の巣にする。

 

マリスクロウは倒れ、消えていった。

 

「ふう、手強かったね」

 

「そうでもないわよ」

 

「比較的楽な方だね」

 

「これも経験の差だ、落ち込むな」

 

「うん…」

 

「それよりもさっきの魔法」

 

「うん、レンヤから教えてもらったんだ」

 

「転移が得意なアリシアだから使いこなせると思ったんだ」

 

「すごいね、アリシアちゃん」

 

「えへへ」

 

「でもこれ相手にフェイト1人はキツイわよ」

 

「急いで行こう」

 

レンヤ達は奥に進む、そこは行き止まりであった。

 

「!」

 

「そんな……!」

 

部屋の中心にバルディッシュだけがあった、レンヤ達はバルディッシュに近づき。

 

「バルディッシュ!フェイトはどこに行ったのよ!」

 

アリサが問いかけるも反応がない。

 

「……ダメ、フリーズしている」

 

「くっ、フェイト、どこにいる⁉︎返事をしろ!」

 

レンヤが大声で叫ぶが…

 

アハハハ

 

不気味な笑い声しか聞こえてこなかった。

 

 



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34話

 

 

その後異界化は勝手に収束し、レンヤ達はギンガ達を無事保護した。

 

クイント、メガーヌに報告して、救急車で中心部にある病院に行方不明者達を搬送してもらった。

 

ギンガ達は目立った怪我はなく、数日で退院できるらしい。

 

「行方不明者全員に怪我はなく、衰弱しているだけでよかったね」

 

「…………………」

 

「やっぱり、フェイトが心配か?」

 

「……うん」

 

「仕方ないわよ、確かにフェイトらしくなかったけど」

 

「考えても仕方がない。すずか、バルディッシュはどうだ?」

 

「ここじゃ無理だね、管理局か私のデバイスルームに行かないとなんとも言えないよ」

 

「管理局には、根掘り葉掘り聞かれたからな」

 

「何とか誤魔化せたよね、クイントさん達がいなかったら危なかったよ」

 

「理由も聞かずに庇ってくれたんだ、必ずこの事件を解決しよう!」

 

「「「ええ(うん)(了解)!」」」

 

「ーーその話し、詳しく聞かせてもらえないかな」

 

病院に入ってきたのは…

 

「ゲンヤさん⁉︎」

 

「はやてちゃん⁉︎」

 

ゲンヤとはやてだった。

 

「どうしてここに?」

 

「娘が入院したんだ、こない方がおかしいだろ。こいつは連れてけって言ってきたからな」

 

「皆!一体何が起こっとるんや⁉︎」

 

「えーと」

 

「場所を変えましょう、ここでは難しいです」

 

「ならば地上本部でいいかな?」

 

「構いません」

 

その後、車に乗り。地上本部に向かった。

 

地上本部の一室、会議室

 

すずかは一旦地球に戻り、バルディッシュを修復している。

 

「異界か……それがこの騒動の原因か」

 

「はい、異界でもさらに特殊な部類に入りますが概ねその通りです」

 

「何で私達も呼ばんかったんや?」

 

「一気にこんな事になるとは思わなかったし、全員予定があったでしょう」

 

「なのはは教導隊に入る為に研修を受けていて、守護騎士達も任務でいない、はやてもそうでしょう」

 

「それは、そうやけど」

 

「フェイトは………」

 

レンヤ達はフェイトの事で暗くなる。

 

「フェイトちゃんがどないしたんや?」

 

「……今回の元凶に連れ去られた」

 

「そんな……!」

 

「フェイトは何であの場にいたんだ?」

 

「この霧の原因解明の為、周囲を調査してたみたい」

 

「あの時の通信か?」

 

「うん」

 

その時、ドアが勢いよく開かれ、なのはが入ってきた。

 

「レン君!フェイトちゃんが……フェイトちゃんが行方不明だって聞いて…」

 

「落ち着けなのは、フェイトは無事だ」

 

「えっそうなの?」

 

「確証はない、でもそう思えるんだ」

 

「そうね、フェイトがそう簡単にやられる訳ないわね」

 

レンヤはなのは、はやて、ゲンヤに視線を向けて

 

「今回の事件は管理局では対処しきれない、ここは俺達に任せてもらいませんか?」

 

「……そうするしかない様だ、だが手伝う事くらいやらせてもらうぞ」

 

「私も手伝うの!」

 

「微力ながら力にならせてもらうで!」

 

「分かった」

 

それから話し合い、後日捜索を開始する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖祥小学校、昼休み、屋上

 

「バルディッシュ、具合はどう?」

 

《問題ありません、すずか様のおかげです》

 

「でも肝心な記録が残っていなかったの、フェイトちゃんの行方は分からないまま」

 

「そう……」

 

「なのは、元気出せ」

 

「………うん!」

 

「ニュースの方も昨日よりひどくなっているよ、あの不気味な声も結構な人が聞いているみたいだし……」

 

「霧の中で妙な化け物を見た、何て言う噂もいくつか出ているわね」

 

「昨日は、そこまで具体的な噂は出てなかったよね?」

 

「濃くなった霧に合わせて現実世界への干渉が強くなっているんだよ」

 

「急ぐ必要があるんやな」

 

なのはとはやてはレンヤ達に向き直り。

 

「昨日も言ったけど、私達も協力するの」

 

「あんまり、役に立たへんけどな」

 

「そんなことない、よろしく頼むよ」

 

「2人共、頑張ろうね!」

 

「とりあえず今日はこのまま早退しましょう、手まわしはコッチでするわ」

 

「あっアリサちゃん……」

 

「さすがお嬢様だね」

 

「あはは」

 

「いいのかな?」

 

「まっまあこの際だ。お言葉に甘えるとしよう」

 

学校を早退し、ミッドチルダの地上本部に向かい捜索許可をゲンヤさんからもらった。

 

「分かった、だが具体的にどうするんだ?」

 

「この霧の主の眷属を探します、フェイトを捕らえているのもそいつでしょう」

 

「そこから主を探すんだね」

 

「そうだ、行こう」

 

玄関前でレンヤが号令をかける。

 

「これより、眷属の捜索を開始する。編成は昨日のチームになのはとはやてを加える、アリサ達になのはを、俺達にはやてを加える。情報を元に北部と南部を調べる、俺達が南、アリサ達が北を調べてくれ。眷属を発見した場合、サーチャーをつけてすぐに連絡をするように、いいな!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「ほう……」

 

レンヤの統率力にゲンヤは感心して興味を持った。

 

レンヤ達は地上本部を出て、アリサ達にソエルを渡し、南部にある古風な通りで捜索を開始した。

 

周囲の人達から話しを聞き、情報をまとめた。

 

「唸り声……犬の様な息遣い……4本足の影……コイツが眷属で間違いないな」

 

「一体どんなヤツなんやろ」

 

「貴方達、ここで何をしているの」

 

「!、プレシアさん!」

 

「おっお母さん……」

 

通りからプレシアが出てきた。

 

「………ここでは落ち着けないわ、行きつけの店があるの、そこでいいわね」

 

「はっはい!」

 

プレシアに連れられ喫茶店に入る。

 

事情をプレシアに説明して。

 

「そう……でもこの霧が危険なのは分かっているでしょう、フェイトに続いて貴方も消えてしまったら……」

 

「そうならない為に私達が頑張るの、ナハトヴァールの時みたいに黙って見ていられないの……!」

 

「アリシア……」

 

「それよりもプレシアさん、フェイトが独断行動をしていたのですが…何か知っていますか」

 

「!、やっぱりね…」

 

「知っているんやな!」

 

「あの子はこの前ようやく執務官になれた、それが焦りを生んだの。独立した執務官は優秀である、1人でも戦えるってね」

 

「フェイト……」

 

「はあ、似ているとは思っていたけどここまでそっくりなんてな」

 

「なのはちゃんやね」

 

「ああ」

 

「ふふ、だったら答えは分かっているわね」

 

「はい、執務官とは言えど出来ることにも限度がある……協力者を求めてもそれは執務官の技量に含まれる、足りない部分をどう補うか…それも執務官として必要な資質と能力なんです」

 

「ええ、そうよ。でもフェイトは2回落とした事で焦っている、貴方達でフェイトの目を覚ましてもらえるかせら」

 

「プレシアさん…」

 

レンヤはフェイトの顔を思い出す笑っている顔、怒っている顔、泣いている顔、喜んでいる顔を。

 

「はい、任せて下さい!」

 

「私にもフェイトを任せてもらいます!」

 

「妹は、私が守るんだから!」

 

「ふふ、ようやくお願いするわ。レンヤ君にはもっと先までお願いしたいのだけど……」

 

「えっ」

 

「お母さん!」

 

「冗談よ」

 

「じょ、冗談に聞こえへん…」

 

「それと、夕べから今日にかけて化け物が濃霧の中で目撃されているわ。貴方が会った影の手ではなく黒い犬ね」

 

「それって……目撃情報と一致している」

 

「あら、いい情報取集能力じゃない。うちの部署に欲しいくらい」

 

「ええっと、その話しはまた別の機会に。コホン、ともかくそれが眷属である可能性が高い」

 

「手に続き黒い犬……相当強いグリムグリードがいる可能性が高くなったな」

 

「早くフェイトちゃんを助けなあかんな」

 

「それでは俺達はこれで、無事にフェイトを助け出します」

 

「行ってきます、お母さん!」

 

「ご馳走になりました」

 

「じゃあなプレシア」

 

「気をつけるのよ」

 

レンヤ達は喫茶店を出た。

 

「レンヤ君、フェイトちゃんを頼まれてしもうたな」

 

「そうだな」

 

「むう……」

 

「ぷぷっ、この辺りの聞き込みは一段落ついたし次はーーー」

 

グルオオオオオオ

 

「「「「!」」」」

 

辺りに獣の叫び声が響いた。

 

「これは……!」

 

「皆!あそこや!」

 

はやての指した方向を見ると、巨大な黒い犬がいた。

 

「あっあれは⁉︎」

 

黒犬(ブラックドック)!」

 

「きゃああああ!」

 

その時女の子が叫び、黒犬が女の子の方を向き近づく。

 

「まずい!」

 

レンヤが駆け出し、黒犬に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

黒犬はそのまま背を向けて走り出す。

 

「大丈夫⁉︎」

 

「はっはい!大丈夫です」

 

「放っては置けない、ラーグ!この子を連れてプレシアさんの元へ!」

 

「了解だ!」

 

「俺達は黒犬を追いかけるぞ!」

 

「「了解(や)!」」

 

レンヤ達は黒犬を追いかける、追いかけた先にはゲートがあった。

 

「異界に逃げ込んだよ!」

 

「アリサ達を呼んでいる暇はない………行くぞ!」

 

レンヤ達はゲートの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮の中は全体が緋色に染まっていた。

 

「ここは……この間の異界とは大分違うね」

 

「眷属はそれぞれエルダーグリードと同等の力を持っている。だからこそ正体が掴みづらく被害が拡大しやすい側面がある、グリムグリードが最大の脅威とされる由縁の一つだ」

 

「どこまでも厄介な奴やな」

 

レンヤとアリシアはデバイスを起動する。

 

「シュベルトクロイツ、セートッ!アープッ!」

 

はやてがデバイスを起動させ、バリアジャケット…騎士甲冑を纏う。

 

「それがはやての……」

 

「そうや、マリエルさんに手伝ってもらったんや」

 

「準備はいいな、行くぞ!」

 

レンヤ達は迷宮を進んでいく、途中瘴気があったがアリシアの結界で何とか進む事ができた。

 

そして最奥に着く。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「はやて、大丈夫か?」

 

「だっ大丈夫やあらへん…」

 

「いきなりこれはさすがにキツイよね」

 

「時間がない、気張れよはやて」

 

階段を越えると黒犬がいた、こちらに振り向き吠える。

 

「アビスハウンド……!」

 

「見つけたで!」

 

「フェイトは……いないみたい」

 

「予定通り無力化してサーチャーをつける」

 

「了解!いっくよーー!」

 

すぐにアビスハウンドが飛びかかり、散開して避ける

 

「やあ、せい、はっ!」

 

レンヤが連続で斬り付ける。

 

「刃を以って、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」

 

はやての周りに血の色をした短剣が現れ発射する、アビスハウンドは避けるが短剣が曲がり背中に直撃した瞬間爆発した。

 

「やるねはやて…ってうわ!」

 

アリシアに向かいアビスハウンドが何度も頭突きをしてきた。

 

「うわー、とっ、よっ」

 

アリシアは苦もなく避けながら魔力弾を連射する。

 

すぐにアビスハウンドは炎を集める

 

「それならこれや!仄白き雪のーー」

 

「やめろ!こんな狭いところで広域魔法を使うな!」

 

「あっ」

 

はやてが一瞬止まった隙にアビスハウンドが炎弾を吐き出し、はやてに迫る。

 

「はやて!」

 

「きゃっ!」

 

レンヤはとっさにはやてを抱きしめ横に飛んだ。

 

「レンヤ、はやて!」

 

アビスハウンドがもう一度炎弾を撃とうとする。

 

「させないよ!」

 

《リフレクションエリア》

 

アリシアが結界でアビスハウンドを囲う、そのまま炎弾が放たれたが結界内で跳ね返されアビスハウンドに当たる。

 

「レンヤ!」

 

「任せとけ!」

 

レンヤはアビスハウンドを倒さないよう魔力で体を強化して蹴りを入れて弱らせる。

 

「せいっ!」

 

頭に踵落としを入れて倒れるアビスハウンド、すぐに起き上がり突如開いたゲートに逃げ込もうとする。

 

「アリシア!」

 

「了解!」

 

アリシアが銃をアビスハウンドに向けて、サーチャーを撃ちつけた。

 

アビスハウンドがゲートに入った瞬間、異界が消えて元の場所に戻った。

 

「戻ったね」

 

「…………………」

 

「はやて、気にするな。説明してなかった俺のミスだ」

 

「せやけど……」

 

レンヤは慰めるようにはやての頭を撫でる。

 

「無事でよかった」

 

「あっ///」

 

「むう、フォーチュンドロップ!サーチャーの反応は!」

 

《表示します、現在西部にある記念公園に向かっています》

 

「そこに本命をがいるはずだな」

 

「可能性は高いね」

 

「アリサちゃん達に連絡して合流しようか」

 

はやてがアリサ達に連絡し、ラーグを回収してから俺達は記念公園に向かう。

 

女の子は兄と会えた様だった。

 

「ここも霧が濃いなぁ」

 

「サーチャーの反応はそこの森林にあるよ」

 

「行ってみよう」

 

記念公園を進み森林の入り口まで来た。

 

「この先だね」

 

「それじゃあ奥に行こう」

 

レンヤ達は森に入り奥に進むと、ゲートがあった。

 

「またゲートなんか!」

 

「さっきの黒犬もここに逃げ込んだ様だね」

 

「念のためゲンヤさんに連絡するよ」

 

レンヤはディスプレイを展開しゲンヤと連絡を取った。

 

「…………………」

 

アリシアはじっとゲートを見る。

 

(もしかしたらここに………)

 

「ーーレン君、はやてちゃん、アリシアちゃん!」

 

入り口からなのは達がやってきた。

 

「ごめん、遅れちゃった!」

 

「ゲートが開いているじゃない!」

 

「あはは、おかげさまでな」

 

ちょうどレンヤが通信を終了した。

 

「お待たせ、バックアップはこれで万全だ。早速突入するぞ……!」

 

レンヤ達はゲートに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮の中は回廊風でまるで鳥篭の中だ。

 

「これが異界……綺麗だけど……不気味なの」

 

グギャアアアア

 

その時、鳥の鳴き声が響いた。

 

「きゃあ!」

 

「なのは、大丈夫だ」

 

「黒犬じゃあらへんな……?」

 

《サー!》

 

バルディッシュがいきなり反応した。

 

「バルディッシュ⁉︎そうかこの先にいるのか!」

 

「フェイト……!」

 

「よかった…」

 

「でもここからが本番よ」

 

「うん、おそらく今回の元凶たるグリムグリードーー」

 

「クラナガンを霧で包み、フェイトを捕らえた難敵がいる可能性が高いな」

 

「ちょうどいい、ここまで来たからには何としてもフェイトを解放して……説教しないとな!」

 

「うん!ちゃんとお話しするよ!」

 

「……穏便にやりなさいよ」

 

「やる気は十分やな!」

 

「そうみたいだね」

 

「ふふ……それじゃあ行こうか」

 

レンヤ達がデバイスを起動する。

 

レンヤは待機状態のバルディッシュを握りしめ…

 

(待っていろよ、フェイト。絶対にコイツをお前に届けてやるからな!)

 

レンヤ達は迷宮に入っていった。

 

その間になのはとはやてに迷宮での戦い方をレクチャーした

 

最奥まで着くと目の前にアビスハウンドがおり。

 

「皆…………⁉︎」

 

フェイトの声が聞こえて上を見るとフェイトが鳥篭の中にいた。

 

「フェイト!」

 

「フェイトちゃん!」

 

「さっきのアビスハウンドもいるね」

 

「なのはにはやてまで……」

 

「フェイトちゃんが心配やからよ、まあできることはお手伝いやけどな」

 

「フェイトちゃん、今そこから出してあげるね!」

 

「もう少し辛抱してなさい!」

 

レンヤ達はアビスハウンドに向きなおり

 

「まずはワンチャンに躾をしないとね」

 

「待っていてね、フェイト」

 

「皆………‼︎、いけないーー下がって!」

 

その瞬間、上空から黒い靄が現れ……巨大な鳥が現れた。

 

そのままアビスハウンドを押し退けて着地する、アビスハウンドはそのまま消えてしまった。

 

「ッーーコイツは!」

 

魔鳥(レイヴン)のグリード!」

 

「カオスレイヴン!」

 

「ーー早く逃げて!、とても強いの、皆が敵う相手じゃない!私は自分で何とかするから……」

 

「「「「「「うるさい!」」」」」」

 

「っ……⁉︎」

 

フェイトの言葉に全員が怒鳴る。

 

「静かにしてそこで見てなさい!」

 

「私達がフェイトちゃんの……皆の仲間である事を」

 

「あの時の恩返し、まだ返せへんかったなぁ」

 

「お姉ちゃんも、ただ妹に護られるだけじゃないの!」

 

「フェイトちゃんが、皆がいてくれたから私がここにいるの」

 

「それを、コイツを倒して証明してやるよ!」

 

レンヤ達はカオスレイヴンに突っ込んだ。

 

 



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35話

カオスレイヴンに挑みかかるレンヤ達。

 

カオスレイヴンは口から追尾型の黒い魔力弾を何発も撃ち出して来た。

 

「やらせない!アクセルシューター」

 

《ロックオン》

 

「シュート!」

 

なのはが魔力弾を全て撃ち落とす。

 

「ブラッティダガー!」

 

短剣をいくつも現れ発射し、爆発によって動きを止める。

 

「せいっ!」

 

《サークルロンド》

 

円を描く様に回転して、カオスレイヴンの足を何度も斬る。

 

「ほらほらコッチだよー」

 

アリシアが2丁拳銃で魔力弾を乱射して挑発する、カオスレイヴンは飛び上がり、アリシアに向けて飛び込んできた。

 

「結界よ」

 

《ハーミットシェル》

 

攻撃を結界で防ぎ、怯ませる。

 

「もらった!」

 

《ヒートコード》

 

アリサが魔力で造った縄で地面に括り付ける。

 

「すずか!」

 

「スノーホワイト!」

 

《クリスタルスラッシュ》

 

すずかが槍を薙ぎ、槍の軌跡にあわせてクリスタルが出現して攻撃する。

 

攻撃の反動で拘束が解け、カオスレイヴンが起き上がり、すずかに嘴を振り下ろした。

 

「きゃあ!」

 

「すずか!」

 

攻撃を防ぐも吹き飛ばされ、レンヤが受け止める。

 

カオスレイヴンが羽ばたき、全体に紫色の竜巻を起こす。

 

「きゃああああ!」

 

「あああっ!」

 

「アリサ、はやて!」

 

「このっ!レストレーション02!」

 

双銃に切り替え、羽を撃ち後退させる。

 

「今だ!」

 

「わかったの!」

 

なのはがカートリッジをロードしてレイジングハートに魔力を溜める。

 

「おい、ちょっと待て…」

 

「ディバイン……」

 

《ディバインバスター》

 

「……バスター!」

 

放たれた砲撃はカオスレイヴンを飲み込み、レンヤ達は砲撃の余波で吹き飛ばされる。

 

「なのはーーーー!」

 

「何で撃ったーーー!」

 

「ごめん!つい……」

 

「「「「「ついじゃない!」」」」」

 

しかし、なのはの砲撃でもカオスレイヴンを倒すまでは行かず、カオスレイヴンは飛び上がる

 

「まだ倒れないの⁉︎」

 

「なっなんて生命力や……!」

 

「さすがに強いね」

 

「ーーレンヤ!」

 

フェイトがレンヤを呼ぶ、フェイトの視線はカオスレイヴンに向けられていた。

 

「ッ……そうか!バルディッシュ!」

 

《イエス》

 

バルディッシュを起動させ、振りかぶり……

 

「受け取れ、フェイト!」

 

バルディッシュをフェイト目掛け投げる、フェイトはバルディッシュを受け取りバリアジャケットを纏い。

 

「バルディッシュ、お願い!」

 

《イエスサー、ザンバーフォーム》

 

「はあああああっ‼︎」

 

バルディッシュを振り回し、鳥篭を壊す。

 

「行くよ、バルディッシュ」

 

《ジェットザンバー》

 

「貫け、雷神!」

 

巨大化した刃を振り下ろし、カオスレイヴンを斬る。

 

そのまま落下し、消えていった。

 

それと同時に異界も収束した。

 

元の場所に戻ったレンヤ達、霧は晴れていた。

 

「もっ戻ってこられたの……?」

 

「うん、そうみたいやな」

 

「……フェイトは?」

 

レンヤ達と少し離れた所にフェイトはいた。

 

「……………………」

 

「フェイト!」

 

「大丈夫?」

 

「それにしてもさすがね」

 

「うん、一撃で倒しちゃうなんて」

 

「すごいよ、フェイトちゃん!」

 

「……………………」

 

一言もしゃべらないフェイト。

 

「フェイト?どこか怪我でもしたんじゃ……」

 

「なんで来たの!」

 

「っ…」

 

「あ…」

 

「あれ位、私だけでも出来た!それなのに、こんな危ない場所まで来て……」

 

自分でも間違っていると分かっているが、フェイトは止まらなかった。

 

「何かあったらどうするの⁉︎」

 

「………………………」

 

「なのはもはやても!嘱託魔導師のレンヤ達まで巻き込むなんて……!」

 

「そっそれは…その……」

 

「えーと……」

 

「………そいつはこっちのセリフだ。お前、どれだけ周りに心配かけたか分かっているのか?」

 

「っ……」

 

やはり分かっていた様だ。

 

 

「私達だけじゃないよ、リンディさん、クロノ君、もちろんアルフやプレシアさんもフェイトちゃんの事を心配してたよ」

 

「皆に相談もしないで、独りで突っ走って。挙句の果てに、あんな鳥篭に閉じ込められる羽目になって……それが執務官のする事なの?」

 

「………っ…………」

 

図星なのか、フェイトは何も言い返さなかった。

 

「私が言うのもアレだけど……少しばかり無謀だった様だね」

 

「ソエル」

 

「ごめん」

 

「……本来なら私1人でも解決しなくてはいけない、この程度の危機すら乗り越えられないならば、私に執務官の資格はない……」

 

「フェイト……」

 

「私がいなくてもクロノ達がいる、この事件もすぐに解決できる。その方が皆にとってもーー」

 

「ーーいいわけないだろう‼︎」

 

レンヤがフェイトに怒鳴る。

 

「っ……」

 

「俺も…ここにいるなのはやはやて、アリサやすずか、アリシアも!皆がいたから事件に巻き込まれても無事にいられたんだ!」

 

「フェイトちゃんが一緒にいて……力を合わせて、立ち向かっていく事で!」

 

「でも……フェイトちゃんが居のうなってもうたら、もう日常に戻れへん」

 

「クロノでも、誰でもない。フェイトじゃなきゃダメなのよ」

 

「どっどうしてーー」

 

「決まっているだろうが!フェイトが仲間として……俺たちの日常の一部になっていつからだ……!」

 

「‼︎」

 

フェイトは気づいた顔をして俯く。

 

「そうや、フェイトがいなかったら。私もここに居らへんかった」

 

「フェイトはフェイトだよ。私の大事な妹の…」

 

「これも(えにし)、簡単に切れるものじゃないわ」

 

「これまでフェイトちゃんが結んできた絆……枷と捉えるか力と捉えるかはあくまでフェイトちゃん次第だよ」

 

フェイトは顔を上げて、優しそうな顔で

 

「……ごめん、本当は分かっていたんだ。でも執務官になって焦ってしまった、皆の力を借りる事を拒んでしまった。でもそれは勘違いだったんだね、私もレンヤや皆にも、私を認めてもらった事に恩返しできていないのに」

 

「ああ、その通りだ」

 

レンヤはフェイトに手を伸ばし。

 

「でもこっちにもその何倍の恩をフェイトに返していない、そう簡単に逃げられると思わない事だな」

 

「ふふっ…」

 

フェイトは手を掴み起き上がる。

 

「えへへ」

 

「よかったね、フェイト」

 

「ドラマの一場面みたいね」

 

「こういうのも、悪くあらへんな」

 

「ふふっ、そうだねーー」

 

その時、一気に周りが霧に包まれた。

 

「こっこれって……」

 

「霧が……また濃くなったんか?」

 

「え……元凶は倒したんじゃないの?」

 

なのは、はやて、アリシアが疑問に思う中。

 

「残念だけど、あの魔鳥は真の元凶ではない」

 

「確かに恐ろしい力を持ったエルダーグリードだけど」

 

その言葉にレンヤ、アリサ、すずか、フェイトを抜いた3人は驚く。

 

「ええっ……⁉︎」

 

「どういう事なの……⁉︎」

 

「あの魔鳥も、黒犬と同じ眷属なんだよ」

 

「うん、そうだよ。私を捕らえた相手は他にいる、不気味な声を響かせ、左右の影の手を操る存在……」

 

「それこそが真の元凶……グリムグリードだな」

 

「そっそんな……」

 

「じゃあ、その真の元凶はどこにいるの⁉︎」

 

ソエルとラーグが答える。

 

「……今まで現れた眷属にヒントがあるかもね」

 

「一見バラバラに見えるが、共通点の様なものがあるからな」

 

「影の手、黒犬、魔鳥……」

 

「まるでそういったものが登場する様な、御伽噺や絵品の物語のようだね」

 

「もしかしてそれが元凶を呼び寄せるキッカケになったんじゃないかしら」

 

レンヤ達が推測を立てるが、その他がまるでついてこれなかった。

 

「全然分からないの」

 

「うん、そうだね」

 

「私は何とか…」

 

「うーーーーーん」

 

はやてが何か思い出していた。

 

「!、まさか、ね」

 

「はやて?」

 

はやてはディスプレイを展開し通信をした。

 

「どうしたの?」

 

「いや、ただの勘違いかも」

 

通信が繋がり、金髪の同い年くらいの女性が映し出された。

 

『はやて、どうかしたの?』

 

「こんばんは、カリム。今どこにおるんや?」

 

『どこって……ザンクト・ヒルデ魔法学院よ。それがどうかしたの?』

 

「なあカリム。最近童話を読んでいたやろ、あれってどういうものなんや?」

 

『え……【THE WITCH OF MISTY CASTLE】のことかしら?』

 

「「「!」」」

 

「へ……何やて?」

 

『これは地球の英語っていう言語だそうよ、訳すと霧の城の魔女かしら?大まかな内容は……黒犬とか大鴉を操る影の手を持つ魔女が出てくるのよ』

 

「「「「‼︎」」」」

 

『中世が舞台で、不気味なんだけど綺麗で幻想的な情景が浮かんで……勉強の為に読んだんだけど童話としても完成度が高くて面白いのよ。あっでも……本を返しに行ったら司書の方に“こんな本あったかな?”なんて言われてね』

 

話しを聞くたびに、レンヤ達は確信していく。

 

『不思議よね……ーーーあれ?ーーーやて………聞こえーー………』

 

「カリム⁉︎どないしたん⁉︎」

 

ディスプレイが乱れ通信が切れかかる。

 

アハハハハ

 

不気味な笑い声を最後に通信が切れた。

 

「ぁーーーー」

 

「はやて……」

 

「ちょっと、今の声は……!」

 

「はやて、ザンクト・ヒルデ魔法学院はどこにある?」

 

「みっミッドチルダの郊外や!」

 

「急いで行くよ!」

 

レンヤ達は走り出した

 

「そういうことか……!」

 

走りながらゲンヤに連絡を取り、車をまわしてもらった。

 

「レンヤ!早く乗れ!」

 

「ゲンヤさん!」

 

すぐに車にかけ乗り、ザンクト・ヒルデ魔法学院に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたぞ!」

 

車で移動しながら窓から学院が見えた。

 

「これは……!」

 

「遅かったみたいね……!」

 

レンヤ達は本来の学院の姿は分からないが、これが違うというのもすぐにわかった。

 

外見は城の様なの影で全体に霧がかかっており、正面にいつもと形の違うゲートがあった。

 

城の周囲では学院の関係者や管理局員、聖王教会の者や住民の方がいた。

 

正面に到着して、レンヤ達は車から飛び出す。

 

「まさか、あれが学院なの……⁉︎」

 

「一体何が起きているの⁉︎」

 

「フェイト!」

 

横からプレシアとアルフが来て、プレシアはフェイトを抱きしめる。

 

「フェイト、よかった……よかったよ」

 

「無事でよかったわ、フェイト」

 

「母さん……心配をかけてごめんなさい」

 

「いいのよ、それに乗り越えたみたいね」

 

「うん、皆の…仲間達の力を貸してもらって」

 

ゲンヤが局員の話しを聞きまわる。

 

はやてがディスプレイを展開してカリムと連絡を取ろうとする。

 

「陛下!」

 

「皆!」

 

呼ばれて振り返るとクロノと赤髪のショートヘアーのシスターが近づく。

 

「お疲れみたいだな、フェイトも無事に戻ってこられた様だな」

 

「迷惑をかけちゃったね」

 

「シャッハ、状況の報告を」

 

「はい、つい先ほど学院がいきなりこの様な変貌を遂げました。理由は不明です、管理局の協力のもと周囲の封鎖をしています」

 

「だが近隣の住民の方のこの騒ぎによる詳細提示がうるさくてね」

 

「あはは…」

 

「それに、まだ下校していなかった一部の生徒や学院関係者が数人巻き込まれてしまいました」

 

その言葉に全員が驚く。

 

「その様やな、カリムに繋がらへん……!」

 

「ちなみにユーノもいる、出張でここに来ていたようだ」

 

「ユーノ君も………⁉︎」

 

「起きてしまった様だね」

 

「ああ、グリムグリードによる、現実世界にそのものへの侵食(イクリプス)が」

 

「カリムさんが借りた童話こそが特異点だった……過去の資料に旧い魔導書が異界化を引き起こした例もあるらしいけど……」

 

「なっ何でそんなものが学院にあるの⁉︎」

 

「何か裏がありそうね……でも考えるのは後回しよ」

 

「ああ、巻き込まれた人達を一刻も早く助けないと……」

 

「しかし、あのゲートには誰も入れなかったぞ!」

 

「魔法で攻撃しても、効果はありませんでした……」

 

「私達なら、通れる!」

 

「うん、そうだね」

 

「ーーなら、バックアップは任せとけ」

 

ゲンヤが戻ってきた

 

「話しは通しておいた…お前達の活躍、見せてもらうぞ」

 

「……はいっ!」

 

「まっかせとけ〜!」

 

レンヤ達は、駆けつけてくたリニスや守護騎士達に事情を話し。クロノ達にその場を任せて霧の古城へと突入するのだった。

 

レンヤはなのは達に向き直り…

 

「チーム・ザナドゥ及び管理局員協力者、これより霧の古城と化したザンクト・ヒルデ魔法学院に突入する。皆、全力で挑んでくれ!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

人々が見守る中、レンヤ達は異質なゲートに入っていった。

 

 



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36話

霧の古城に突入したレンヤ達。

 

異界の中は古い城の中の様だった。

 

「…………………」

 

「まさに古城ね」

 

「魔女の古城……雰囲気ありすぎなの」

 

「………カリム、ユーノ君………」

 

「他の人達も心配だね」

 

「ああ、行くぞ」

 

レンヤ達はデバイスを起動しバリアジャケットを纏う

 

「異界も怪異も学院の生徒達には関係ない……さっさと取り戻すぞ、ここの日常を!」

 

「ええ、行きましょう!」

 

レンヤ達は迷宮を進む

 

進むと一気に霧が発生した。

 

「きゃっ……視界が!」

 

「姉さん!何この濃い霧……他の場所と全然違う⁉︎」

 

「っ!危ない!」

 

「きゃああ!」

 

怪異がはやてに攻撃し、レンヤが防ぎそのまま倒した。

 

「集中しろ!敵を見失うな、味方を間違えるな!」

 

「うっうん…」

 

辺りを探し燭台に火を灯しと、霧が晴れた。

 

「なるほどね……こうすれば霧が晴れるわけね」

 

「ええ、カラクリが分かったら何とかなるね」

 

そのまま進み、怪異を退ける。

 

「くっホンマにここが学院なんか……⁉︎」

 

「現実世界の侵食がまさかこれ程のものなんて……」

 

「とにかく進もう……手遅れになる前に」

 

奥へ進み、開けた場所に着く。

 

「ここは……」

 

「茨に覆われた部屋……」

 

「……皆、あれ!」

 

巻き込まれた人達が苦しみながら倒れていた。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「しっかりして下さい!」

 

「……意識を失ったいるだけみたい」

 

「ダメ、全然目を覚まさないの」

 

「それにこない苦しんで……」

 

「……どうやら、何らかの呪いが働いているわ」

 

「のっ呪い⁉︎」

 

「魔女型のグリムグリードの力のようだね」

 

「捕らえた虜囚から徐々に生命力を奪い取っているな……」

 

「そっそんな……!」

 

「カリムもおらへん、これで全員という訳にはいかへんな」

 

「はっ早く奥へ……!」

 

「その前に……アリシア」

 

「うん、この部屋に結界をかけておくね。フォーチュンドロップ、お願い」

 

《イエス》

 

アリシアが結界を張った。

 

「……これでしばらくはグリードの侵入を防げるよ」

 

「この人達も、すぐに生命に関わるほどでもないはずだよ」

 

「慎重に、確実に進もう」

 

「わかった……行こう」

 

気絶している人達を気にしながらも、レンヤ達は迷宮を進む。

 

少し行くと角が生えた頭と両手だけのグリードが現れる。

 

「行くわよ!」

 

「はあっ!」

 

アリサとすずかが速攻で斬りつけるが…

 

「効いていない⁉︎」

 

「物理攻撃に耐性があるんだ、撹乱しつつ魔法で攻めるぞ!」

 

レンヤ、アリサ、すずかは挑発する為、弱めの攻撃をする。

 

「わかったよ!」

 

《プラズマバレット》

 

フェイトが魔力弾を発射し、着弾時に放電する。

 

「よーし、私も!」

 

《ディバインシューター》

 

「シュート!」

 

なのはの周りにスフィアが現われ、シューターを発射する。

 

しかしグリードも反撃し、爪を振り回す。

 

「おっと」

 

「当たらないわよ」

 

大振りな為、簡単に躱す。

 

「任せて!」

 

《ピアスロック》

 

グリードの周りに魔法陣が展開され、魔力の杭がグリードに刺さり動きを止める。

 

「はやて!」

 

「全力で、ブラッディダガー!」

 

はやてから幾つもの赤い閃光がはしり、グリードに直撃し爆発する。

 

そのままグリードは消えた

 

「ふう、今のグリード……圧倒的な力だったよ」

 

「眷属でもないのにこの強さ、元凶の力が窺い知れるわね」

 

「敵の強さなんて関係あらへん!とにかくぶっ倒すでえ!」

 

少し進み道が左右に別れていたが、左は茨で塞がれていた。

 

仕方なく右に進んだが行き止まりだった

 

「これ以上進めないね」

 

「どこかに仕掛けがあるはずだ」

 

「あっレン君、スイッチがあったよ」

 

なのはがスイッチを見つけ押そうとする。

 

「なのはストッ……」

 

「えい!」

 

静止も聞かず、押したら道を塞さいでいた茨が消えて……

 

ジャキン!

 

「「「「「「「へっ?」」」」」」」

 

行き止まりだった壁に棘が出てきてこちらに向けて迫って来た。

 

「走れ!」

 

レンヤの言葉に全員がハッとなり、走り出す。

 

「急いで!追いつかれたら終わりよ!」

 

すぐに横の通路に逃げ、壁は反対側にの壁にぶつかり止まった。

 

「はあ、はあ、トラップも…過去最高だね」

 

「ごめん、皆…」

 

「大丈夫だなのは、この位日常茶飯事だ」

 

レンヤはなのはの頭を撫でて慰める。

 

「あっ///」

 

「この先もトラップはある、気をつけて行こう」

 

「うん!」

 

あの後、同じトラップが何度もあったが切り抜けて奥へ進む。

 

そしてまた茨の部屋に着く。

 

「また茨の部屋……」

 

「……見て、皆!」

 

部屋には残りの巻き込まれた人達がいた、レンヤ達は別れて見て回る。

 

「……やっぱ呪いが働いているね」

 

「くっ……一体どれだけの人が巻き込まれたの」

 

「こんなに……」

 

「………ここにもカリムとユーノ君がおらへん」

 

「まだ奥にーー」

 

「レンヤ?」

 

柱の陰から声がして、ユーノと緑の髪をしたクロノ位の男が出てきた。

 

「ユーノ!無事だったんだな」

 

「それに貴方は……」

 

2人はレンヤ達に近づく。

 

「良かった、皆無事だったんだね」

 

「救助に来てもらい助かります」

 

「はい、すみませんがお名前を……」

 

「ああすまない、私はヴェロッサ・アコース。管理局の査察官をしている、お初にお目にかかれて光栄です、聖王」

 

「それは後にしてくれ、2人はどうして無事で……?」

 

「学院にヴェロッサと残っていたら変な声が響いてきてね……とっさに結界を張ったらいつの間にかこんな風になってたんだ」

 

「徘徊する化け物から逃げてここでじっとしていたんだ」

 

「そうなんや……」

 

「この事態は俺達が何としても解決してみせる。それまでの間、この場で何とかしのいでくれ」

 

「……分かった、やってみるよ」

 

「君達も、どうか無事でいてくれ」

 

「はい!」

 

「もちろんよ!」

 

「もう半分を超えた、残りは一気に駆け抜ければいいわ!」

 

「任せておいて!」

 

その後、アリシアとユーノが協力して結界を張り。

 

この場の安全を確認した上で改めて出発した。

 

迷宮を進むと鎌が振り子のように揺れて、行く先を塞いでいた。

 

「あれは……さすがに危険そうだな」

 

「うわー、下はマグマだよ」

 

「バリアジャケットを着ても危険だね」

 

「魔女の城の断罪の刃……何とか避けて進もう」

 

「ううっ、自信ないの……」

 

「私もちょっとあらへんな……」

 

「タイミングが重要なのよ、合わせるから行きましょう」

 

レンヤ達はトラップとグリードを退け進む。

 

そして最奥の手前の部屋に到着する。

 

「あの大きな扉は……」

 

「どうやら……終点に辿り着いたみたいね」

 

「あの向こうに真の元凶がいるって訳か……」

 

「……‼︎」

 

「はやて?」

 

はやての視線の先には、カリムと司書と思わしき女性がいた。

 

2人の体には茨が巻きついている。

 

「カリム!」

 

レンヤ達は2人に近づく。

 

「………ううう…………」

 

「この人は……図書館の司書の人だね」

 

「こんな奥深くにいたなんてビックリだよ」

 

「大丈夫カリム……⁉︎返事をしぃ!」

 

「……ぅ……うぅ………」

 

その瞬間、茨がカリムに強く巻きつく。

 

「……うあぁっ………!」

 

「カリム……⁉︎」

 

「どっどうしてこんなに苦しんでいるの…⁉︎」

 

「……どうやら他の人達よりも強力な呪いを受けているみたいだね」

 

「わっ私が何とかやってみるよ!」

 

「私も!私も手伝うよ!」

 

「俺もやるぞ」

 

「ありがとう、ソエルちゃん、ラーグ君」

 

アリシアとソエルとラーグが魔法を使い、何とか呪いを和らげる。

 

「…………うう…………」

 

「……ぁ……………はや……て………」

 

「ッ……!待っててえなカリム!必ず助けてあげるからな!」

 

「はやて……」

 

「どうやら……腹をくくる時が来たようね」

 

「皆、この先に待つのは。街一つすら滅ぼしかねない正真正銘の災厄……」

 

「覚悟は出来ているな?」

 

「うん!」

 

「もちろんだよ」

 

「このまま帰れないわよ!」

 

「言われるまでもないよ」

 

「……こっちもオーケーや」

 

「今こそ真なる災厄に立ち向かう時だよ」

 

レンヤが全員の意思を改めて確認する。

 

「…無関係の人々に、ここまでの真似をした魔女に……力を合わせてブチのめすとしようか!」

 

「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」

 

レンヤ達は奥へ進み、巨大な扉を開けて部屋に入る。

 

部屋の周りには茨で囲まれ、天井にはいくつもの照明があり、窓の外には満月が映っていた。

 

「ここが城の最奥……」

 

「あの巨大な扉といい……まるで謁見の間ね」

 

「うん、テーマパークも顔負けだね」

 

アハハハハハ

 

辺りをに響く不気味な声。

 

「この声は……!」

 

「ついにお出ましやな……!」

 

「来るよ、皆!構えて!」

 

部屋の中心に茨が渦巻くように赤いヒビがはしり、赤い半円を二つを浮かばせ、鳥の嘴の様な赤い帽子を被り笑いながら魔女が現れる。

 

「うっううう……!」

 

「うぐっ…!」

 

「なのは、姉さん、しっかりして!」

 

「こっこれが、本物のグリムグリード……!」

 

迷霧ノ魔女(ネブラ=マギア)、脅威度Sランク…まさかこれ程だなんて……!」

 

「正真正銘、間違えなしの化け物や!」

 

「ーー何者だろうが関係ない‼︎」

 

レンヤが全員に叱咤する。

 

すでにレゾナンスアークはバーストモードになり、刀をネブラ=マギア向ける。

 

「いつまでも笑っていられると思うなよ!とっととブチのめしてこの学院を取り戻してやる!」

 

その言葉に、なのは達の顔が引き締まる

 

「うん、行こう!」

 

「執務官として、務めを果します!」

 

「カリムを……皆をたすけなあかんのや!」

 

「もう、後ろにいるのはやめたの!」

 

アハハハハハ

 

笑い声を合図に、ネブラ=マギアとの戦いが始まる。

 

ネブラ=マギアはレンヤ達に黒い茨を撃ち出して来た。

 

「ふっ!」

 

「くっ…」

 

「うわわっ!」

 

「きゃっ!」

 

「スノーホワイト、サードギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

レンヤとフェイトは接近しながら避け横を通りながら斬りつける、アリシアとなのははギリギリで避け、すずかが3つ目のギアを回転させる。

 

ネブラ=マギアは二つ半円を足下におき、円にして回転させ迫ってきた。

 

「飛んで!」

 

「はあぁ!」

 

すずかの声で飛んで避けて、アリサは無防備な上半身を攻撃する。

 

「シュート!」

 

「えいっ!」

 

なのはの魔力弾とすずかの魔力刃がネブラ=マギアに当たる。

 

ネブラ=マギアの周囲に黒い剣が現れ放たれる

 

「させないよ!」

 

《スフィアプロテクション》

 

アリシアが球状の防御魔法を展開し、黒い剣を防ぐ。

 

「せいっ!」

 

レンヤが右から接近し、ネブラ=マギアの肩を斬る。

 

しかしネブラ=マギアは怯まず周りに大きな炎の球3つ現れ、ネブラ=マギア周囲を回転しながら広がっていく。

 

「やあっ!」

 

「効かないわよ!」

 

「はあっ!」

 

炎の球をすずか、アリサ、フェイトが切り裂く。

 

次の瞬間、ネブラ=マギアからオレンジの波動が放たれ、辺りを色を変える。

 

「なっ何……⁉︎」

 

「皆、気をつけて!」

 

ネブラ=マギアは回転しながら赤い玉をばら撒く。

 

「何これ?」

 

「アリシア!無用心に近づくな!」

 

レンヤがアリシアを抱え、玉から引き離す。その後すぐに赤い玉が爆ぜ、半球状の茨の檻を発生させる。連鎖する様に次々と玉は爆ぜる。

 

「きゃあっ!」

 

「危なっ……⁉︎」

 

フェイトが直撃し、はやてが辛うじて避ける。

 

「フェイト!」

 

「大丈夫、はやてちゃん⁉︎」

 

その隙をネブラ=マギアは逃さず、二つの半円を足下におき、一つだけ回転させ全方向に黒い短剣を発射する。

 

「くっ…!」

 

「プロテクション!」

 

レンヤはフェイトを抱えて飛び、なのははプロテクションで防ぐが……

 

「なのは!二撃目が来るぞ!」

 

「えっ……」

 

「なのは!」

 

ネブラ=マギアがもう一つの半円を回転させ、また短剣を発射する。

 

「きゃあぁ!」

 

「なのはちゃん!」

 

今度は防ぎきれず、飛ばされるなのはをすずかが受け止める。

 

「なのはちゃん……!このっ……!」

 

はやてがネブラ=マギアの足下にベルカ式の魔法陣を展開して、頂点から魔力が飛び出し正四面体を形成し拘束する。

 

「レンヤ君、アリサちゃん!」

 

「任せて!」

 

《ブラストエッジ》

 

「了解!」

 

《ソニックソー》

 

アリサは魔力の刃を大きくし、峰の部分から炎を噴射してネブラ=マギアに突っ込む。

 

レンヤは刃に魔力を流し、魔力を薄く尖がらせネブラ=マギアに目掛けて振るう。

 

だがネブラ=マギアは地面に手を当て、周囲に巨大な魔法を放つ。

 

「きゃああぁ!」

 

「うわあっ!」

 

はやての拘束をうち破り、魔法がレンヤとアリサに直撃する。

 

「アリサちゃん!」

 

「大丈夫、レンヤ!」

 

「ううっ……」

 

「油断した……」

 

怯むレンヤだが、ネブラ=マギアは攻撃の手を休めない。

 

ネブラ=マギアが舞い踊り、部屋に霧を発生させる。

 

「霧……⁉︎」

 

「しまった!」

 

「何も見えないよ……!」

 

全員が動けない中、ネブラ=マギアが回転しながら突っ込んできた。

 

「ぐっ…!」

 

「レンヤ⁉︎」

 

「「「「「きゃああぁぁっ!」」」」」

 

レンヤがアリシアを抱えて何とか防ぐことができるが、残りは弾き飛ばされてしまった。

 

「皆!大丈夫⁉︎」

 

「くうっ……」

 

「はあ、はあ……」

 

「これはあかん……」

 

「強い……!」

 

「どうにかしないと……」

 

追い打ちをかける様に、ネブラ=マギアが青い波動を放ち部屋を元に戻すが同時に一瞬消えて、分身を作り出す。

 

「そんな……!」

 

「騙されないで、片方は偽物よ!」

 

「うん、きっと攻撃は来ない!」

 

フェイトは2体を薙ぎ払おうとする。

 

「待って!フェイト!」

 

アリシアが異変を感じて止め様とするが間に合わない。

 

「えっ……」

 

攻撃は当たったが、2体とも感触があった事に驚く。その隙に2体のネブラ=マギアはフェイトを挟みこんで黒い茨を撃ち出した。

 

「フェイト!」

 

《ムーブポイント》

 

とっさにアリシアが転移魔法を発動させ、アリシアの隣にフェイトを転移させる。

 

「大丈夫、怪我はない⁉︎」

 

回復魔法を使いながら心配するアリシア。

 

「うっうん、ありがとう姉さん」

 

「それにしても実体のある分身か……」

 

「所詮分身よ、本物よりも弱いわ」

 

「偽物を区別している暇はない、2体同時に狙いぞ!」

 

「わかったよ、レン君!」

 

レンヤ、アリサ、すずか、フェイトが近接戦闘で2体を足止めし。なのは、アリシアが回復などの援護。はやては広域魔法の準備をする。

 

「仄白き雪の王、銀の翼を以って眼下の大地を白銀に染めよ。来よ……」

 

はやての周囲に4個の立方体が現れる。

 

「皆!準備できたで!」

 

「わかった、アリシア!」

 

「うん、絢爛たる光よ、惨禍を和らぐ壁となれ……」

 

レンヤ達は2体を中心に集め、バインドで拘束させ後退し……

 

「撃て、はやて!」

 

氷結の息吹(アーデム・デス・アイセス)!」

 

「煌めけ!」

 

《フォースフィールド》

 

はやてとアリシアの魔法が同時に発動した。

 

はやての周囲の立方体から魔力弾が放たれ、2体を氷漬けにして。アリシアの魔法攻撃を無力化するが結界が全員を包み込み魔法の被害から守った。

 

辺りは凍りつき分身は黒い靄を放ちながら消え、本物は氷漬けにされ動けないでいる。

 

「今や!」

 

「アリサ、なのは!」

 

「任せなさい!」

 

「了解なの!」

 

なのははカートリッジを一発使い、周囲の魔力を一点に集め始めた。

 

「ここでスターライトブレイカー⁉︎」

 

「なのはちゃん、さすがに……」

 

「うん、だから手伝って!アリシアちゃん!」

 

「!、そうか……!フォーチュンドロップ!」

 

《ミラーデバイス、セットオン》

 

フォーチュンドロップから鏡型のビットが飛び出し、ネブラ=マギアの周りを回る。

 

「行くよ、レイジングハート!」

 

《チャージ完了、撃てます》

 

「スターライト・ブレイカー‼︎」

 

放たれた桜色の閃光はネブラ=マギアを飲み込んだ、飛び散った魔力はミラーデバイスが反射して周りに被害を出さないが、衝撃で氷にヒビがはしる。

 

「力を貸しなさい、フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ、バーニングストライク》

 

アリサはカートリッジを三発使い、魔力の刃に炎を纏わせ一気にネブラ=マギアに接近しる。

 

「せいっ、やっ、たあっ!」

 

連続で切り込み、右手に炎を纏わせ……

 

「ぶっ飛べ!」

 

当たった瞬間、炎を正面に爆発させネブラ=マギアを吹き飛ばす。

 

「続くよ、スノーホワイト!」

 

《レイピアフォーム、サイレントレクイエム》

 

スノーホワイトを細長いレイピアに変形させ、連続で斬り付ける。

 

「ふっ……」

 

斬り付けた後、レイピアを構え直し目にも留まらぬ速さで連続で突き……

 

「はああっ!」

 

渾身の突きをネブラ=マギアの体に突き入れ、思いっきり引き抜く。

 

「終わりです」

 

攻撃しながらネブラ=マギアに溜めていた魔力を爆発させる。

 

「決めて、レンヤ!」

 

「了解、はああっ!」

 

聖王の力を解放して、刀を鞘に収め構える。

 

《シャイニングソード》

 

「せいやあぁっ‼︎」

 

一瞬で近づき、居合い斬りをネブラ=マギアに撃ち込み傷口が光り輝く。

 

ネブラ=マギアが天井を見上げて断末魔を上げながら、弾けて消えていった。

 

辺りが白い光りを出しながら揺らぎ、異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーくん……!」

 

「レンヤ、起きて!」

 

「ーーはっ……!」

 

レンヤが目を覚まし辺りを見回す。

 

空には幻想的な月が見え、近くにはなのは達が心配そうな顔で見ていた。

 

「なのは、フェイト……アリサ、すずか、ラーグ、ソエル……」

 

「レン君!」

 

「良かった……」

 

「大丈夫みたいね」

 

「レンヤ君……!本当に良かったよ……!」

 

「全く、心配させんな」

 

「痛いところは無い?」

 

「………ここは?」

 

状況が飲み込めず、聞いてみる。

 

「ザンクト・ヒルデ魔法学院の屋上だよ」

 

「異界化は、無事に収束したわよ」

 

「もうすっかり夜だけど、霧は全部晴れたよ」

 

「……本当だ……星までちゃんと見える……」

 

そこでレンヤは巻き込まれた人達の事を思い出した。

 

「そっそれよりも巻き込まれた人達わどうなった⁉︎」

 

「ーー心配ないんよ」

 

「うん」

 

後ろからはやてとアリシアの声が聞こえ振り向く、そこにはカリムと司書の方が眠っていた。

 

「大丈夫、なのか……?」

 

「うん、呪いの影響も完全に消えているよ。2、3日もしたら完全に体力も元に戻るよ」

 

「クロノから連絡が来たよ、校内における事後処理を開始したみたい」

 

「ここの生徒の皆さんや、先生……ユーノ君とヴェロッサさんも無事に保護されたの」

 

「そうか……皆無事なのか……」

 

レンヤは緊張が解けてその場に座り込む。

 

「…はああああ〜……」

 

「レンヤ君……」

 

「さすがに気が抜けたのね」

 

「皆、頑張ったもんね!」

 

「ふふ、そうだね。グリムグリードをこれだけの少人数で倒すことができたんだから」

 

「確かに、返り討ちに遭ってもおかしくあらへんな」

 

「もう二度と相手にしたく無いかな」

 

「フェイトにしては弱気だな、でも俺達だから勝てたんだろう」

 

「そうだね、皆の絆の力だよ!」

 

「うん!」

 

フェイトはレンヤに向き直り

 

「ーーありがとう、レンヤ。レンヤや皆に出会えて本当に良かったと思えるよ」

 

「……はは、どういたしまして」

 

フェイトが差し出した手を、レンヤはしっかりと掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、霧の災厄をめぐる一連の事件は幕を閉じ……

 

その夜のうちに事後処理を行われる事になった。

 

昏睡していた生徒や職員に今回の事件の短期間の隠蔽を契約させた。

 

ラーグが記憶を消し、無かった事にもできるが、すでにミッドチルダ全域に情報が流れ意味をなさなかった。

 

「はい、はい、わかりました。よろしくお願いします」

 

クロノが通信を切り、ため息をつく。

 

「はあ〜」

 

「クロノ」

 

名前を呼ばれ振り向くとヴェロッサがいた。

 

「お疲れ様、差し入れのコーヒーだ」

 

「ああ、ありがとう」

 

コーヒーを受け取り、早速飲む。

 

「大変そうだね」

 

「そうだな、今回管理局は完全に出遅れた。知ってはいたが異界の対処法は聞いてなかったし、聞いたとしてもこれだけの規模を1人でやるのは自殺行為だ」

 

コーヒーを飲み干し、そう言う。

 

「管理局は異界に対する力がない、レンヤ達に頼る他無かった…」

 

「それで、どうする気だい?」

 

「……異界に対する部署を作りたいが、彼らの協力なくしては実現できないか……」

 

「確か…前に君に聞いたんだが、君とリンディさんは時空の守護獣達との契約で彼を管理局に入れられるはずだと思うけど……」

 

「所詮口約束だ、僕も母さんも忘れているさ。でも出来るだけ説得してみせるさ」

 

その言葉にヴェロッサは驚いた。

 

「……何だその顔は?」

 

「いや、以前の君なら何が何でも入れようと思っていたから……意外だなぁって」

 

「ほっほとけ!」

 

落ち着き、クロノは保健室にいるレンヤ達を見た。

 

「この先、何があってもきっと大丈夫。彼らを見ているとそう思えるんだ。」

 

保健室では…

 

「ううっ、痛いの」

 

「ここまでハードだなんて…」

 

「レンヤ君達、すごいなぁ」

 

管理局組は疲労でダウンしていた。

 

「これも経験の違いよ」

 

「慣れ……かな?」

 

「体を鍛えればそこまではならないだろう」

 

「私はちょっとキツイかな」

 

異界組は1人を除き、平気そうだ。

 

「フェイト、アリシア、無事でよかったよ」

 

「たいした怪我もなくて安心したわ」

 

アルフとプレシアが保健室に入ってきた

 

「陛下!ご無事ですか!」

 

「ああ、大丈夫。シャッハは教会側の処理をお願いするよ」

 

「はっ!」

 

シャッハが保健室を飛び出たすぐ……

 

「レンヤ」

 

保健室にラーグとソエルが戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「ダメだったよ」

 

「図書館にあったという童話だが跡形も無くなっていた」

 

「やっぱりか」

 

「第三者の介入ね」

 

「しょうがないよ」

 

「うん、今はゆっくり休もう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ーー

 

ここは、カオスレイヴンがいた記念公園。

 

そこに一台の車が来た、出てきたのは薄い紫色の髪をした女性だ。

 

「ーー回収してきたのだろうな?」

 

女性が振り返ると、白装束で顔を隠した者がいた、声は変声しているようだが男だ。

 

「ええーーとても役にたったわ」

 

女性は白装束に一冊の本を渡す、題名は

霧の城の魔女(THE WITCH OF MISTY CASTLE)

 

「ーー確かに」

 

「おかげでいい実験結果を得られた、ドクターの野望にもまた一歩近づいたわ。お礼を言っておくわね、刻印の騎士どの」

 

「……そちらが裏で何を企てようが興味はない。せいぜい足元を掬われぬようにすることだ」

 

「ふふ、手厳しいわね、それでは失礼するわ。またよろしく頼むわね」

 

女性は車に乗り込み、行ってしまう。

 

白装束は見送った後、手に持つ本を燃やした。

 

「………………………」

 

「ーーたいした俗物ぶりだね」

 

白装束の後ろからマントで顔を隠した男性がやって来た。

 

「多少の騒動があったがーーそれに見合う収穫はあったのかな?」

 

「……はい、絞り込めてきましたが……手掛かりが足りませんね」

 

白装束は空を見上げ……

 

「彼らにはもう少し、動いてもらおうーー」

 

そう呟くのであった。

 

 



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37話

7月下旬ーー

 

あのミッドチルダの事件から数日、地球はすでに夏休みに入った。

 

俺達は毎年の恒例行事である海鳴温泉に向かっていた。

 

今年は高町家、月村家とアリサはもちろんのこと。テスタロッサ家やハラオウン家と八神家とユーノとエイミィさんが参加していてちょっとした大世帯だ。

 

去年は管理局のゴタゴタで、予定が空かなかったが今回は空いてよかった。ただ車を運転する関係もあり、俺のいる車に大人は父さんと母さんだけだ。

 

兄さんと忍さんはすでに免許を取っていて今は車の運転をしている。姉さんは歳の近いエイミィさんと一緒にいる、2人とも気が合うらしい。

 

送迎の車は全部で4つ、その1つに俺は乗っている。

 

「わあ、緑が深まってきたね……!」

 

「そう言えばアリシアは初めてだったな」

 

「私も、前は飛んできたから、車で来るのは初めてだよ」

 

「ふふっ……でも本当に晴れてよかったよ」

 

「またしばらく雨続きだったからね」

 

「うん、今年の梅雨も終わったの」

 

「予報だとこの周囲も週明けまで快晴になるらしいな」

 

「ふふ、絶好の行楽日和ね」

 

「私もちゃんと温泉に入りたかったんだ〜!」

 

「桶の温泉も悪くないがな」

 

皆、思い思いに会話を楽しんでいる。

 

それとこの旅行には他にも行く理由が今回はあった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日前ーー

 

クロノに呼び出され、俺達はアースラの会議室にいた。

 

「えっいいんですか?今年の旅費を出してくれるって」

 

会議室でリンディさんがいきなりそんなことを言った。

 

「先日の霧の事件での管理局のささやかながらのお礼よ、被害の規模を考えれば少ない方よ」

 

「今回、管理局は何もできなかったからな。そう言う意味でのお礼と受け取ってほしい」

 

リンディさんとクライドさんが理由を言う。

 

「それはありがたいんですけど……」

 

「他にもあるでしょう」

 

「ああ、君たちに話しておきたい事があるんだ」

 

「話しておきたいこと?」

 

「それって……」

 

俺達は顔を見合わせた、考えている事は一緒のようだ。

 

「分かった、その話し受けるよ」

 

「私も大丈夫だよ」

 

「フェイト達とはやて達も一緒に行く予定だったし、これ以上増えても問題ないわ」

 

「うん!皆と一緒の方が楽しいし!」

 

「ありがとう、今週末でいいのよね?」

 

「はい、後で詳細を連絡します」

 

その後、連絡をして。全員で旅行に行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサがこれから向かう海鳴温泉について、フェイトとアリシアに説明していた。

 

「これから向かう海鳴温泉は、ここじゃあ結構知られている古い名湯なのよ。霊験あらたかな山中にあって綺麗な場所よ」

 

「そうなんだ」

 

「へえ〜〜」

 

(霊験、あらたかな……嫌な予感がする)

 

アリシアがいきなり顔をしかめる。

 

「アリシアちゃん?」

 

「!、何でもないよ……!」

 

「酔ったなら、寝るか?」

 

「だから大丈夫ーーー⁉︎」

 

俺は膝を叩きながら聞くが、またいきなり表情が変わる。

 

「そっそうだね〜、昨日も楽しみで寝不足だし。お願いするよ〜」

 

そう言い、アリシアは俺の膝を枕にして寝始めた。

 

「「「「なっ!」」」」

 

「おっおい……!」

 

「すう、すう……」

 

早くも寝息を立て始めた。

 

「全く、仕方ないな」

 

困った顔をしながらも嫌がらず、アリシアの頭を撫でた。

 

「〜〜〜♪」

 

「むう……」

 

「姉さん…羨ましい」

 

「アリシアちゃん……」

 

「……出遅れたわね」

 

4人が何か言っているが、聞こえなかった。

 

「皆、おしゃべりしている所申し訳ないけど……」

 

「もうそろそろ着くからな」

 

窓の外を見ると、旅館がちらりと見えた。

 

それからすぐに旅館に到着した。

 

他の皆とも合流した。

 

「わあ……ここが海鳴温泉!」

 

「雰囲気のある旅館ね」

 

「こんな所にあるなんてね……」

 

「秋頃になると綺麗な紅葉も楽しめるよ」

 

「そうなんや」

 

「しかし、今の時期も深緑が映えていいものだ」

 

「来るのは久々だが、中々いい感じだ」

 

ちょうどその時、車を運転していたお父さん、兄さん、忍さん、ノエルさんが戻って来た。

 

「皆揃った事だし、さっそくチェックインをしましょうか」

 

「はい」

 

「そうですね」

 

俺達は旅館の中に入る。

 

「中は結構モダンな感じだな」

 

「そちらの中庭もとっても風情があるわね」

 

「影響されて部屋を作り変えるなよ」

 

ハラオウン家が旅館内の感想を言う。

 

「こっこんな立派な所に泊まっていいのかな」

 

「平気平気、お金はリンディ達が出してくれるんだし、楽しもうよ」

 

「お前は前に無銭で入っただろ……」

 

「アルフ……」

 

「あっそれはだね〜」

 

「後でお仕置きです、アルフ」

 

「許してよ〜リニス〜」

 

「ふふっ、私達は手続きをしてくるわ」

 

「ちょっとだけ待っていてね」

 

「よろしく頼むよ」

 

「待っててえな」

 

それぞれの家の代表が手続きに向かう。

 

「………………………」

 

「アリシア?」

 

「えっ!何?」

 

「どうかしたの?」

 

「ぼーっとして、まだ寝ぼけているのかしら?」

 

「あはは、そうみたい。あっそう言えばここにも異界があるんだよね?」

 

「ああ、俺達のレベルでは余裕の所だ」

 

「暇があれば顔を出してみようよ」

 

「あはは、あくまでもついでだからね」

 

「本来の目的を忘れるな」

 

「でも一度でいいから見てみたいよね〜」

 

「好奇心は猫をころすぞ、美由希」

 

「危ない事はしちゃダメだからね」

 

「はーい」

 

ちょうど手続きも終わり、お母さん達が戻ってきた。

 

「お待たせ、チェックインは終わったわよ」

 

「荷物のほうは部屋に運んでおいてくれるそうよ」

 

「早速、温泉に行きましょうか?」

 

「今の時間なら貸切で使えるみたいよ」

 

「わぁ、いいですね」

 

「明るいうちからお風呂も悪くないわね」

 

荷物を預け、全員で温泉に行く事になった。

 

「中庭もいい雰囲気だね」

 

「ししおどしが……周りに浮いていない……!」

 

「あの部屋が異常なだけだ」

 

「あはは……」

 

「レンヤ、あれは何?」

 

アリシアが指差したのは、奥にある小さな門だ。

 

「ああ、あれか。裏山の参道に繋がっていたな」

 

「確か、龍の骸が祀られている旧い祠があったよね」

 

「長い階段といくつもの鳥居の先にあったような気が……」

 

「そう……、ありがとう」

 

「姉さん……?」

 

ここに着いてからアリシアの様子がおかしかったが、女性陣と別れて温泉に入った。

 

「ユーノはフェレット状態だったとはいえ、入るのは二回目だろ」

 

「うん、前からちゃんと温泉に入りたかったんだ」

 

「僕としてはフェレット擬きでも構わないがな」

 

「なんだと!」

 

「あんまり巫山戯るのはやめるんだ、クロノ」

 

「はは、いいじゃないですか。生真面目だと思っていましたが、そう言う冗談も言えて安心しました」

 

「私に似て、融通が利きませんがね」

 

「とっ父さん……」

 

さすがのクロノもクライドさんの前では、1人の子どもか。

 

それから温泉に入った。

 

「ふう……」

 

「はああああ〜………」

 

「あああーーー」

 

少年組は温泉の気持ちよさに、思わず声をもらす。

 

ちなみにザフィーラは温泉が苦手らしく、洗ってあげたら早々に出て行ってしまった。

 

「……ここ数日の疲れが溶けて出てしまいそうだよ」

 

「気に入ってもらえてなによりだ」

 

「久々だが、変わらなくて良かった」

 

「こういうのも悪くねえな」

 

年長組はそれぞれの感想を言う、1モコナは桶に乗ってお湯に浮いている。

 

「ユーノはあれからどうだ、何か変わった事はあるか?」

 

「特に何も、強いて言えばあの事件の事をしつこく聞かれるくらいかな」

 

「あの事件については情報規制されている。無闇矢鱈にしゃべるんじゃないぞ」

 

「むしろ信じてもらえるかだな、外は知っていても中は知らんからな」

 

「それもそうだな」

 

その時、ラーグがお酒を取り出した。

 

「士郎、一杯やろうぜ?」

 

「おっいいね」

 

「てっこらあぁ!」

 

「おお、私もいいですか?」

 

「父さん⁉︎」

 

「俺もいいか、一度はやってみたかったんだ」

 

「恭弥さんまで……」

 

年長組はお酒が入ってしまい、少年組には肩身が狭くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、女湯では……

 

「はあ〜、極楽極楽」

 

「このまま溶けて無くなっちゃうかも〜……」

 

「やっぱり気持ちがいいの」

 

「うん、そうだね」

 

「日頃の疲れが取れるわ」

 

「ふふ、この機会にゆっくりして下さいね」

 

「お母さんはいつも忙しいんだから」

 

「せや、もっとゆっくりしぃ」

 

「ただでさえ、周りから期待されているからね」

 

「ありがとう、皆」

 

労いの言葉をかけ合い、温泉を満喫する。

 

「それにしてもここの温泉は最高ね〜」

 

「そうでしょう!」

 

「まったりとして、芯から温まるというか」

 

「ああ、評判以上だ」

 

「あああーー」

 

「ヴィータ、行儀が悪いぞ」

 

「気持ちいですぅ」

 

守護騎士達にも高評価らしい。

 

「そういえば、露天風呂もあったわよね」

 

「へえ、そうなんか」

 

そう言い、はやては皆を見渡す。

 

「はやて?」

 

「いや、フェイトちゃんとすずかちゃん、最近胸が大きくなってへんか?」

 

「えっ///」

 

「そっそれはその……」

 

「そうなの、フェイトちゃん!」

 

「忍さんがアレだから、もしやとは思っていたけどもう…」

 

「これは確認せなあかんなぁ〜」

 

はやてが手をわきわきしながら近づく。

 

「やめなさい」

 

「あたっ」

 

リニスがはやてにチョップして止める。

 

「ふふふ、そうだこの際だから聞いておくわ。皆、レンヤの事をどう思っているのかしら?」

 

「「「「「「!」」」」」」

 

「あの子は頭もいいし、髪を切ってから一気に男前になったからね〜」

 

「周りが放っておかないでしょう」

 

「あっ私も気になる」

 

「はい、じゃあなのはから」

 

「ふえっ!私は…その、レン君とも一緒にいたいし……」

 

「わっ私も、レンヤとは大切な最初の友達だから……」

 

「レンヤ君はとても優しいんし……」

 

「れっレンヤとは別になにも無いわよ……」

 

「えっと、えっと、レンヤ君とは……」

 

「レンヤの事は大好きだよ」

 

5人はアリシアが率直に言った事に驚く。

 

「あら直球ね」

 

「レンヤには色々とお世話になったし、この命もレンヤから貰った様なもの。そうじゃなくても私はレンヤだから好きになれたんだ」

 

「はっ恥ずかしくもなく言い切ったよこの子……」

 

「ふふ、頑張りなさいアリシア。応援しているわ」

 

「ありがとう、お母さん!」

 

「わっ私だってレン君の事……!」

 

「私だって……!」

 

「私やって……!」

 

「譲らないわよ……!」

 

「これだけは負けない……!」

 

6人が立ち上がり目から火花が出る。

 

「修羅場だね」

 

「あらあら、レンヤも大変ね〜」

 

「他人事みたいに言いますね……」

 

その時、桶に入ったソエルが流れてきた。

 

「ならいっそ、皆でレンヤと結婚しちゃえば〜〜」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

突然のソエルの提案に驚く。

 

「今もベルカに残っている一夫多妻制、聖王のレンヤなら周りを気にせずにできるよ〜〜」

 

6人は顔を見合わせ、頷き手を合わせる。

 

「皆で、レンヤを落としましょう!」

 

「「「「「おおおおっ!」」」」」

 

敵同士から心強い味方に変わる瞬間であった。

 

「あらあら」

 

「聖王様も大変だね〜」

 

「えーと、いいのかな?」

 

「あの子なら、安心してなのはを渡せるわ」

 

「泣かせたら承知しないけどね」

 

「同じく、主を泣かすようならレーヴァテインで斬る!」

 

「レンヤがはやてを泣かすようなことするかよ」

 

「心配して泣かしそうだけど」

 

「ありえるな」

 

「ですぅ」

 

「すずかも大変ね」

 

「すずかちゃん、ファイトです」

 

「ふう……」

 

レンヤの与り知らない所で、大変な事が女湯で起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、レンヤ達は昼間の温泉を堪能した後、改めて客室に通されて。

 

それぞれ夕食までの時間、自由に行動することになった。

 

レンヤはラーグを縛りつけた後、部屋を出る。

 

(皆は適当に自由にしているみたいだな)

 

しかし、レンヤは温泉を上がった後のなのは達の様子が変わった事に気がついていた。

 

(まあ、一緒に温泉に入って色々としゃべって改めて打ち解けたんだろ。結構長風呂だったし)

 

「さて、俺も行こうかな。せっかくだから裏山の祠を見に行ってみようかな」

 

レンヤは祠に行く途中、皆と話しをしながらも祠への参道に着く。

 

「ここか、鳥居も多いし階段も長いな。大層な龍が祀られているのかな?」

 

長い階段を登り、祠に着く。祠の前にはアリシアがいた。

 

「アリシア」

 

声に気がつきアリシアは振り返る。

 

「レンヤ」

 

「アリシアも来ていたんだな」

 

「うん、聞いてみた時から気になっていてね」

 

「へえ」

 

レンヤはアリシアの隣に来て、祠を見る。

 

洞窟が祠なのか、洞窟の中に祠があるのか分からないが。洞窟の上に太いしめ縄が掛かっており、洞窟に入らない為の仕切りがある。洞窟の左右に龍を模した石像が向かい合わせに置いてある。

 

「龍の骸がここに祀られているんだよな」

 

「うん、そうだよ。とてつもなく霊格の高いのがね……」

 

「えっ分かるのか?」

 

「あっ、感だけどね。あはは……」

 

アリシアが誤魔化す様に苦笑する。

 

「……アリシア、何か感じ取ったな」

 

「!………うん、あの事件以来、霊感が強く敏感になっているんだよ。元々死んで魂の時もあってか前からそんな感覚はあったんだけど、あれ以降さらに強くなっているのかな……」

 

「大丈夫なのか?」

 

「特に問題は無いよ、心配してくれてありがとう」

 

アリシアは笑顔を作り、レンヤを安心させる。

 

「分かった、無理はするなよ」

 

「うん、もう戻ろう?」

 

「ああ」

 

レンヤとアリシアは旅館に戻って行く。

 

シャン………

 

「ん?」

 

(今なにか……気のせいか)

 

旅館に戻り、アリシアと別れてから辺りを歩き回り、その後旅館に戻って夕食まで休む事にした。

 

 



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38話

 

 

その後、しばらくすると日が暮れて夕方となり……

 

皆は2階の広間に集まってきた。

 

そして、豪華な山の幸の数々に存分に舌鼓を打ったのだった。

 

「美味しかったね」

 

「ちょっと食べ過ぎちゃったくらいかな」

 

すでに夕食を食べ終え、雑談をしていた。

 

「子ども達が多いから旅館の人もサービスしてくれたみたいよ」

 

「良かったな、皆」

 

「はい……!」

 

「美味しかったよね。味わい深くて、彩りも豊かで」

 

「おかげで大満足です。誘っていただき感謝します」

 

「喜んでいただきなにより」

 

「さてと……この後、どうするかな」

 

「そういえば、何するか決めていなかったよね」

 

「せっかくだから、また温泉に入ってもいいけど……」

 

「私、お腹いっぱいで動けないの」

 

「皆で卓球でもせいへん?」

 

食事の感想を言い合う中、クロノとリンディとクライドが顔を見合わせ頷いた後。クライドが士郎に視線を向け、士郎は無言で頷く。

 

「皆、せっかくだからお土産でも見に行かないか?」

 

「そういえば、さっき覗いたけど色々置いてあったわ」

 

「お土産か、いいですね」

 

「管理局の同僚に買っておきたいかも……」

 

「じゃあ決まりだね、レンヤも行くでしょう?」

 

「ああ、それじゃあーー」

 

「ーーすみません、レンヤ君達はこの後時間をもらえませんか?」

 

「先日言っていた話しだよ」

 

リンディとクライドがレンヤを呼び止める。

 

「あっ……」

 

「皆、行きましょうか」

 

忍が関係ない者を連れて部屋を出る。

 

「お姉ちゃん、また後で」

 

「ふふ、いいのを見繕っておくわ」

 

「早く来るんだな」

 

「それじゃあ、ごゆっくり」

 

そう言い、士郎も含め部屋を出た。

 

残ったのは管理局の全員とチーム・ザナドゥとユーノ。

 

「ふふ、これで話しができますね」

 

「話せそうなのはこの時間くらいだからな」

 

「唐突すぎますね」

 

「まあまあ」

 

「それで例の話しておきたいことですか?」

 

「ええ、この旅行に参加した目的の一つ……」

 

「と、その前に……」

 

リンディの言葉をラーグが遮る。

 

「ラーグ?」

 

「お前達に異界について改めて話しておく。今後のためにもな」

 

「あ……」

 

「……なるほど」

 

「いい感じにお腹も膨れたし、改めて聞かせてもらうか」

 

「あの異界と怪異が何なのかをね」

 

ラーグが全員を見渡し、頷くのを確認すると話し始めた。

 

異界化(イクリプス)……それは地球で70年前の大戦以降、世界各地で起きている現象だ。迷宮という形をとりながら現実世界を侵食して異世界が顕れる。その現象は様々な都市伝説や常人には解決できない怪奇事件、時には大規模な自然災害といった形で人間社会に様々な影響を与えてきた。そもそも、何が原因かすら厳密に分かっていない。だけど確かにこの世界を裏から侵食し続けている。本来これは地球で限った話しだが、ミッドチルダにも侵食が始まったらしいな」

 

「あんなことが、世界中で……?」

 

「信じられないけど……」

 

「事実は小説よりも、ね」

 

「すごいですぅ」

 

異界の事実を知り、驚く。

 

「そして、異界の出現と同時に、その存在を知る者も現れた。異界専門の管理局ってやつだ」

 

「地球にそんな組織があるのか⁉︎」

 

「クロノ、落ち着け」

 

「奴らは一般人の秘匿を大前提としている、協力を呼びかけ様にもどこにいるのか分からん」

 

「それに、地球の異界は彼らが対処している。レンヤ達はミッドチルダの事を考えて」

 

「……分ったよ」

 

「続けるぞ、例をあげると異界によって引き起こされた大災害は東亰震災が有名だ」

 

「それって、5年前の……」

 

「確か、昼間なのに空が夕方みたいに赤くなったっていう異常気象があったんだよね」

 

「ああ、SSS級の脅威度を持つ、神話級グリムグリードが起こしたとされる」

 

「しっ神話級……?」

 

「魔女がお伽話だとして神話クラスって事は……」

 

「元凶はすでに討伐されている、そしてその現象になぞられて奴らはこう呼んでいる……東亰冥災と」

 

「冥災……黄昏時の暗い災害、か……」

 

「そんな事が……」

 

「超やべえーな」

 

「以上が異界についてと、それによる現実世界への影響だ。それで、この話しに対して管理局はどうするんだ?」

 

「もし、ミッドチルダに大災害が起きたら……」

 

「とんでもない事になるだろう」

 

リンディが思いにふける後、話しを切り出した。

 

「上層部や市民からの強い提案もあり、管理局に異界対策部隊を設立することになりました」

 

「異界対策部隊?」

 

「それって一体……?」

 

「その名の通り、異界に対抗する部隊だが……作った所で全員、異界に関しては素人。今の話しをしても焼け石に水だろう、必然的に高ランクの魔導師が投入されるわけだが……」

 

「ご存知の通り、管理局は万年人手不足。どこの部隊も出向を惜しんでいる状況でね」

 

「つまり、俺達にその部隊に入って欲しいと?」

 

「確かに適任だけど……」

 

「今まで通りに嘱託の依頼で出せばいいじゃない、断る理由もないわよ」

 

「これは形の問題なんだよ、管理局員に任せるのではなく嘱託魔導師に頼るとなるとね……」

 

「確実に評判が落ちますね」

 

「もちろんこれからも対策はしていくが、準備が整うまで事件が起こるとも限らない」

 

「すでに管理局員で異界に入ったなのは、フェイト、はやてでもそこまで異界を熟知しているわけでもない」

 

「私達に管理局に入れって事?」

 

「無論強制はしない、もし了承してくれるなら其方が提示する条件ものむつもりだ」

 

「なるほど、部隊は本局預かりでも、地上預かりでもできる……と言うことか」

 

「一応地上預かりで話しを進めています、希望するなら本局でも構わないわ」

 

「あっ仮に、入局するって事は当然なのは達みたいに試験や仮配属研修を受けなきゃダメなの?」

 

「試験は当然行います。ただし受けるのは筆記だけで実技やその他試験、仮配属や訓練校での研修は全て免除されます」

 

「さすがにそれは優遇しすぎていますよ」

 

「時間がない事もあるが、先日の事件解決で君達は本局に認められている。それにレンヤがレアスキル所持と3人への共有、それによる特例措置が適用される。後、君達には悪いが時々訓練室で模擬戦をしている映像を提出させてもらった。それを見て上層部は筆記以外を免除して、正式な局員として即採用するとのことだ」

 

レンヤ達は場所の関係でよく、アースラで模擬戦をしてたりする。大抵いつものメンバーだがたまにクロノやなのは、どこからか噂を嗅ぎつけてきたシグナムとよく模擬戦をしていた。

 

「……私達に強制する権利はないわ、異界が出現しない場合は基本地上または本局と同じ扱いになります。階級は事件の功績も入れ、皆さんは一等士から始まります」

 

「返事は旅行から帰った後でも構わない、ゆっくり考えてくれ」

 

その問いに、レンヤは、頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでいったん、話は区切られることとなり……

 

皆は広間で解散した後、それぞれ考え事をしながら、その日の夜を過ごすことになった。

 

大体は先に出て行ったお父さん達と合流して、今は各々自由にしている。

 

レンヤは最後に広間を出て、階段を降りてから思いにふける。

 

(五年前のニュースで見ていたけど、あれがミッドチルダでも起こる可能性が……)

 

俺は頭を振り、辺りを見渡す。なのは達がお土産屋で盛り上がっていた。

 

「まったりしているみたいだな、さて中庭でボーッとしているかな」

 

中庭に行き、空いているベンチに座り空を見上げる。

 

「………………………」

 

都市部よりもよく見える星空、ただそれをジッと見つめている。

 

(ここ海鳴はもう大丈夫、地脈も安定しているし闇の書事件以降、異界化も起きていないけど……)

 

目を閉じて、頭を空っぽにする。

 

「…………………ふう」

 

「ため息なんて珍しいなぁ」

 

いつの間にかはやてが目の前にいた。

 

「ああ、そうだな……」

 

はやては隣に座る。

 

「やっぱり悩んでいるん?」

 

「そうだな、答えは出てるんだけど、な……」

 

「なんや、恥ずかしがりやなんかレンヤ君は」

 

「そうじゃない、ミッドチルダで東亰冥災と同じ事が起こるなんて見過ごせない。でもな……」

 

「…………レンヤ君は、誰かに認められたい事はあるん?」

 

「えっ……」

 

「レンヤ君の事はよう知っとる、レンヤ君は誰かに認めてほしい事を無意識に拒んでいるとちゃう?」

 

「それは……」

 

「身内やない、レンヤ君の知らない誰かに」

 

思えばそうかもしれない、今まで自分から進んで友だちを作ってきたわけでもない。

 

「…………そうかもしれない、俺は今まで……いや、今も自分を抑え続けている。俺は人々を助けるために表に出ていいのか、てな」

 

「そうか……」

 

はやては立ち上がり、俺の前に立つ。

 

「レンヤ君、歯あ食いしばり」

 

「えっ……」

 

言い終わる前にはやてが思いっきりビンタしてきた。

 

「うっ…」

 

「そんなわけあらへんやろ、レンヤ君はいつも一生懸命に誰かのために頑張っている。そんなレンヤ君を否定するやつがおるか?」

 

「はやて……」

 

「恐れないで、信じて。自分を、信じ尽くせば道もきっと開けるんよ」

 

はやてが肩に両手を置きながら俯く。

 

「レンヤ君は、一体どうしたいの?自分の心は何をしたいの?」

 

「俺は………」

 

頬の痛みも分からぬまま、考えてこむ。

 

(俺は……助けたい。名誉とかなんか関係なく困っている人を助けたい、許可なんてない、でも助けるたい人々を……)

 

そこで気がついた、自分はなんで人を助けたいんだと。

 

(そうだ……護りたかったんだ、幸せを。血の繋がりもない俺を護ってきたお父さんとお母さんが、与えてくれた温かい幸せを……そんな幸せを誰かのために護ってあげたかったんだ、自分の手で救えるならとことん伸ばしていたんだ、それが俺だから……)

 

「そうだった、そうだったな」

 

「レンヤ君……?」

 

「ありがとう、はやて。答えは出たよ」

 

「ふふっ、よかったなぁ。それと引っ叩いてごめんなぁ」

 

「いいさ、喝を入れられた感じだよ、ありがとうな」

 

「そうか、どういたしまして」

 

はやては顔を上げて、優しく笑った。

 

俺も立ち上がった時……

 

シャン………

 

『ふふ……答えを決めたんだね』

 

ピキーーン

 

一瞬で周りの時が止まった。

 

「えっ……」

 

「なっ……」

 

辺りを見渡すと、水が流れておらず何も聞こえない。

 

「これは、一体……」

 

『君達以外の時間は止めさせてもらった。皆と一緒にボクの所まで来るといい』

 

女の子の声が頭に直接聞こえてくる。

 

『それじゃあ、待っているよ』

 

「待って!」

 

「何が起こっとるんや⁉︎」

 

その後、動ける者を探した。異界に入った事のある者だけが止まっていなかった。

 

「だめ、全員ピクリとも動かないわ」

 

「動けるのはこのメンバーだけだね」

 

「なんでこんなにことに……」

 

「どうやら時間そのものが停止しているみたいだね……」

 

「異界に入った事の無い人だけが」

 

「そうらしいね」

 

ちょうどアリシアが戻ってきた。

 

「どうだったの?」

 

「私達以外、例外なく停止しているよ。これだけの状況、間違えなく異界絡みだね。はあ〜嫌な予感が当たっちゃったよ」

 

「でも時間に干渉するなんて、あまりにも常軌を逸している」

 

「私達に語りかけた声とええ、いったい何が……」

 

シャン………

 

その時、鈴の音が聞こえた後。参道に続く鳥居が光った。

 

「あれは……」

 

「とっ鳥居が光ったの?」

 

「行ってみよう」

 

「うん!」

 

参道に登ると、祠に続く鳥居だけが光っていた。

 

「これって……」

 

「どうやら私達を誘っているみたいね」

 

「さっきの声が?」

 

「登ってみよう」

 

階段を登りきり、祠の前まで来る。

 

『よく来たね』

 

目の前に青い靄が現れ、そこから女の子が現れた。

 

「ーーーーー⁉︎」

 

「おっ女の子……?」

 

「にゃ、透けてるの……⁉︎」

 

「アンタは………!」

 

女の子は俺達を見てから、話し始めた。

 

「お姉さん達以外は初めまして。ボクはレム、狭間を歩く者さ。ふふ……ちゃんと全員揃って来てくれたんだね」

 

「レム⁉︎」

 

「それって……」

 

「やっと思い出したわ、けど……答えなさい、この状況はアンタの仕業⁉︎」

 

「だったらすぐにやめて、それに何が目的?」

 

「ふふっ………それじゃあさっそく始めようか」

 

そい言って手を出した瞬間、後ろにゲートのヒビがはしる。

 

「こっこれって……」

 

「白い……亀裂?」

 

白いゲートが開き、レムの目の色が変わる。

 

「さあ、見せてもらうよ。選択に見合う力が君達にあるかどうかをーー」

 

次の瞬間、俺達はゲートに吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けた時、そこはすでに異界の中だった。

 

地面に幾つもの線がはしり、奥に真ん中が割れた鳥居が幾つもある。

 

怪異はいるも、いつもの禍々しさが感じられなかったが。

 

「こ、ここって……」

 

「迷宮みたいだね」

 

「それにしても、何なんやあの謎の子は」

 

レンヤ達が振り返り説明する。

 

「異界の子、そんな風に呼ばれる存在だよ。異界化が起きた場所で度々目撃されている」

 

「正体は一切不明だけど異界についての謎を全て知っていると囁かれているんだよ」

 

「確か、アリサとすずかが前に出会っていたんだよね」

 

「今まですっかり顔を忘れてたけど」

 

「そうなんだ」

 

「でも誰であろうが関係ない……」

 

レンヤ達がデバイスを起動させ、バリアジャケットを纏う。

 

レンヤが全員の方に向き直り。

 

「これより迷宮の探索を開始する、目標……異界の子、レム。とっとと捕まえて、元に戻させてやるぞ!」

 

「うん、行こう!」

 

「……ううっ、幽霊じゃありませんように……」

 

「大丈夫だよ、フェイトちゃん」

 

「いくで〜、皆〜!」

 

「さっさと終わらせて、温泉に入るわよ!」

 

「ふふっ、頑張ろうね」

 

レンヤ達は迷宮に入っていった。

 

 

 

 

 



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39話

 

 

レンヤ達は時間の停止を元に戻すため、レムを探し迷宮を進んでいた。

 

「この異界、いつもとかなり雰囲気が違うな……」

 

「鳥居みたいな柱のせいか……厳かな印象を受けるね」

 

「何だか落ち着く感じせえへん?」

 

「そうだね、神々しさを奥から感じるよ」

 

「姉さん、分かるの?」

 

「えっ、あっ勘だけどね〜」

 

どこか厳かで神々しい、今までの異界にはない雰囲気がこの異界にはあった。 そのまま奥に進み最奥までたどり着く。

 

「ここが最奥だね」

 

「鳥居が多いし、随分と長い階段だな」

 

「現実世界の参道と似ているね」

 

「うん、感じるよ。この奥にいる、とてつもない力の主が」

 

「ラスボスちゅうことか」

 

「行くわよ!」

 

階段を駆け上がり、登りきるとかなり開けた場所に出た。洞窟の天井はなく、むしろ空が天井の代わりのようだった。

 

レンヤ達が中央に近づいた瞬間、無数の竜巻が巻き起こる。竜巻が一つになりそこから長大な竜が現れた。

 

名は、一首の神竜。

 

「現れたわね……!」

 

「龍型のエルダーグリード……⁉︎」

 

「ここの祠に祀られている竜かな……?」

 

「……霊格が低い?」

 

「でもどんな相手でもやることわ変わりあらへん!」

 

「幽霊じゃないなら、行けるの!」

 

「ああ、行くぞ皆!」

 

「「「「「「おおっ!」」」」」」

 

掛け声を合図に、一首の神竜は咆哮を上げ突進してきた。

 

「散開しろ!」

 

レンヤの指示で、散開し突進を避けるが衝撃が凄まじかった。

 

「うわっ、すごい衝撃……!」

 

「さすがは祀られていることはあるよ」

 

一首の神竜は体を捻り、噛みつきや尻尾で攻撃してきた。 レンヤ達はそれを避け……

 

「させないよう!」

 

《フープバインド》

 

なのはが口と尻尾をバインドして、動きを止めた。

 

その隙にレンヤ、アリサが接近する。

 

「レゾナンスアーク、ファースト、セカンドギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

「フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

レンヤとアリサは魔力を上げて、一首の神竜の胴を斬る。

 

「はああああっ!」

 

《ハーケンスラッシュ》

 

フェイトが尻尾を斬り落とそうとするが……

 

「ぐっ、固い……」

 

想像以上に固く、刃が通らない。

 

「フェイト、下がりなさい!」

 

アリシアの指示でフェイトは下がり、2丁拳銃を構え。アリシアの前方に魔法陣が8つ現れる。

 

《ガトリングブリッツ》

 

「乱れ打ち!」

 

2丁拳銃と魔法陣から魔力弾が高速で飛び出し、合計10個の砲門で攻撃する。

 

しかし一首の神竜はバインドを破り、その場で回転して魔力弾を弾き返した。

 

「うそっ?」

 

「なら、これでどうや!」

 

はやては一首の神竜の左右に障壁を作り、挟み込んで回転を遅くする。

 

「すずかちゃん!」

 

「分かったよ!スノーホワイト、サードギア、ファイア!」

 

《ドライブ》

 

魔力が上がった勢いで、回転が少ない頂点を狙い槍を振り下ろした。

 

すずかの一撃で一首の神竜は地面に叩きつけられる。

 

「このまま攻めるぞ!」

 

「!、待って!様子がおかしい……」

 

なにはが一首の神竜の変化に気づく、異界の空が曇りはじめ、雷が鳴っている。

 

「雷……⁉︎」

 

「どうやら、怒らせちまったな」

 

「ここからが本番ね」

 

一首の神竜が吼えると、こちらに向かった雷が降ってきた。

 

「来たああぁっ⁉︎」

 

「皆、下がって!」

 

《ディフェンサープラス》

 

フェイトが前に出て雷を受け止めるも徐々にヒビが入ってきている。

 

「ぐうっ……」

 

「フェイトちゃん!」

 

「止めるわよ!」

 

「了解や!」

 

雷を止めるべく、アリサとはやてが動く。

 

「穿て、ブラッディダガー!」

 

「はああぁぁっ!」

 

《エクステンドエッジ》

 

血色の短剣がはやての周りに現れに一首の神竜向けて発射され。アリサは大剣を横に振り、勢いで炎を広範囲に飛ばす。

 

短剣が直撃した瞬間爆発し、炎が一首の神竜を呑み込む。

 

「やった……⁉︎」

 

「煙で分からへんな……」

 

「大丈夫、フェイト」

 

「うん、大丈夫だよ姉さん」

 

アリシアがフェイトに治癒魔法をかける。

 

その時、煙の中で雷がはしる。

 

「来るぞ!構えろ!」

 

「うっうん!」

 

一首の神竜は上空に飛び上がり、雷と共にレンヤ達の中心に落ちて来た。

 

「速い……⁉︎」

 

「避けられへん……⁉︎」

 

「アリシア、合わせろ!」

 

「うん!フォーチュンドロップ!」

 

《ヘキサゴンプロテクション》

 

レンヤがアリシアの手を掴み魔力を流し込み、アリシアが六角形の障壁を正面に展開した。

 

障壁と一首の神竜がぶつかり、周囲に雷が落ちる。

 

「ぐうっ……」

 

「なんて力……」

 

プロテクションを壊されないように魔力を流し続ける。

 

その時、一首の神竜が消えた。

 

「えっ……」

 

「消えーー」

 

瞬間、後ろからもの凄い衝撃に襲われた。

 

「がっ……」

 

「きゃああぁぁっ!」

 

「ぐっ……」

 

どうやらレンヤ達の後ろに回り込み、尻尾で薙ぎ払ったようだ。追撃するようにレンヤ達に雷を落とした。

 

「あああぁぁっ!」

 

「しまった……!」

 

「うっ動けへん……!」

 

「体が、痺れて……」

 

レンヤ達は一首の神竜の雷で体が麻痺してしまった、かろうじてフェイトが動けるがふらふらだ。

 

「うっ……私が、皆を……守らないと……」

 

「フェイト……ちゃん……」

 

「動いて……」

 

「くっそ、どうしたら……」

 

一首の神竜がゆっくり近づき、フェイトに牙を下す。

 

「フェイト!」

 

「逃げて!」

 

「やめろおおおぉぉぉ!」

 

その時、牙がフェイトに当たる瞬間、レンヤから紫の雷を放ちながら何かが出てきて。一首の神竜に当たった。

 

「えっ……」

 

「何が……」

 

物体は弧を描きながら回転して、レンヤの前に突き刺さる。

 

「槍?」

 

「何でそんなものがレン君から……」

 

「……もしかして、あの時か!」

 

なのはを助けるために大怪我をしたあの日最後に見た紫色の雷の正体。

 

「雷の神器⁉︎」

 

「タイミングよすぎや……」

 

「でも、助かったよ」

 

レンヤは雷の神器を掴み、支えながら立ち上がる。

 

「ぶっつけ本番だ、行くぞ!」

 

雷の神器を纏う、白い服装は同じで装飾が紫色だった。槍の形は鋭い矢印の形をしている。

 

「ぐっ凄い力……だ!」

 

抑えきれない力を一首の神竜に向けて放つ、防がれたが効いている。

 

「フェイト!皆を下がらせて」

 

「うっうん、気をつけてレンヤ」

 

フェイトはなのは達を集め、プロテクションを張った。

 

「さあ、行くぞ!」

 

同時に飛び上がり、空中で何度もぶつかり合う。

 

「疾風迅雷!サイバーフィールド!」

 

体を雷そのもに変え、一首の神竜の周りを飛び回り動きを止める。

 

「落ちろ、轟くは剛電!」

 

槍を振り下ろして同時に雷を落として、一首の神竜を地面に落とす。

 

「神雷、降臨!インディグネイション!」

 

一首の神竜の足元と上に魔法陣を展開し、巨大な紫電を落とした。

 

「一気に終わらせるっ……!」

 

秘力を解放して一首の神竜に狙いを定める。

 

「我が槍は紫苑!連なるは懺悔の雷鳴!ヴォイドエクレール!」

 

一首の神竜を打ち上げ雷の結界に閉じ込める。槍に雷を纏わせ一首の神竜に思いっきり投げる。高速で槍が直撃し、一首の神竜は倒れた。

 

「やっやった……!」

 

「はあはあ……どんなもんや!」

 

「大丈夫か?今治すから……本能刺激、スパークメディカ」

 

「動ける、ありがとうレン君」

 

「これで後はあの女の子だけど……」

 

レンヤ達はデバイスをしまい、辺りを見渡す。

 

「見たところ……ここが終点みたいだね」

 

「レムのやつ……一体どこに行ったのよ?」

 

『ふふ、お見事』

 

シャン……

 

いきなり鈴の音とレムの声が聞こえ、一首の神竜が光り出した。そこから現れたのは竜のお面をかぶったレムだった。

 

レムはお面を取り外し、レンヤ達を見る。

 

「ふええっ⁉︎」

 

「まさかお前が化けていたとはな……」

 

「……そんなことまで可能だなんて……、やっぱり、あなた人間じゃないね」

 

「ふふ、この地に眠る力を少し借りさせてもらっただけさ。君達の力も一応、見させてもらったよ。どうやら選択に見合う資格は持っていそうだね」

 

「ああそうか、だからあんなに霊格が低くかったんだ」

 

「十分強いの……」

 

「ほっ本物はどれだけ強いんや……」

 

アリシアが疑問に思っていたことを納得した。

 

「ーーでも、良かったのかな?果たしてその選択が正しいかどうかは分からないよ?」

 

レムがこの先の結果が分かったように言う。

 

「なっなにを……」

 

「分かったようなことを……」

 

「ーーーああ、確かな」

 

「?」

 

「レン君?」

 

「最初から答えなんて分からない、道を進んで初めて分かるもんだ。迷ってばかりだし立ち止まったりもしている、でも……俺は自分がやりたいことをする。心に従いやりたいことをやる、そうすれば絶対に後悔はしないから」

 

「あっ……」

 

「レンヤ……」

 

「決まったんやな」

 

レンヤは決意を新たにして、前に進むことにした。

 

「ーーふふ、なるほど。なら、その選択がどんな未来を紡ぐのか……これから愉しみに見届けさせてもらうとしよう、健闘を祈るよ、君達」

 

シャン………

 

鈴の音をたて、次の瞬間レムは消え同時に異界は収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けたら、元の祠の前にいた。

 

風の音が聞こえてくる、時間も戻ったようだ。

 

「戻ってこれたの……」

 

「うん、時間も元通りに動いているね」

 

「これなら旅館の皆も無事でしょう」

 

「良かった……」

 

「どうなるかと思ったよ」

 

「でもあのレムって子、見届けるゆってはったな」

 

「……あの子の真意や目的は判らないけど……ひとまず今夜は、一件落着でいいだろう」

 

レンヤはなのは達に向き直り。

 

「なのは、フェイト、はやて、今回のことでようやく自分が見えてきた気がする。俺自身の心を……ミッドチルダも海鳴も、そこにある大切なものを守りたいって言う、嘘いつわりもない気持ちを」

 

「レンヤ君……」

 

「言うようになったじゃないの」

 

レンヤは自分の胸に手を当てる。

 

「間違えるかもしれない、立ち止まるかもしれない、でも自分のここに嘘はつきたくない。だから、受けるよ。これが俺の返事だ」

 

「レン君……」

 

「……分かったよ」

 

「ほんまおおきにな、レンヤ君」

 

レンヤに続くように、他の皆も名乗り出る。

 

「私も参加するわよ。ここで逃げたらバニングスの名折れよ」

 

「同じく参加するよ。私の微力な力でも皆のために使いたい」

 

「私も!異界の謎を解いていきたいもん!」

 

アリサ、すずか、アリシアは迷いなく参加を決意する。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃんまで……」

 

「……ありがとう。皆の力、貸してくれて感謝するよ」

 

「クロノ君達にも伝えないとあかんな」

 

その後、俺達は旅館の戻り。何事もなかったように皆と一夜を過ごした。

 

後日ーー

 

レンヤ達が話しを受けることをリンディ達に伝えた、もの凄く喜ばれた。

 

その後帰る準備をして、後は車に乗り込むだけだった。

 

「いや〜楽しかったね〜」

 

「また行きたいよ〜」

 

「それはまた来年だな」

 

「休みもまだあるし、別の場所に行くのもいいわね」

 

「はいはい!行きます行きまーーす!」

 

「ファリン、落ち着きなさい」

 

美由希とエイミィはすっかり意気投合し、恭弥と忍、ノエルとファリンも楽しかったようだ。

 

「皆も楽しめたんか?」

 

「はい、温泉がよかったです」

 

「また行きてえな」

 

「近いんだし、またの機会にね」

 

「まあ、悪くないな」

 

「ふふ、騎士達の喜ぶ顔が見られる日が来るとはな」

 

「皆と嬉しそうですぅ」

 

八神家も大変満足したようだ。

 

「フェイトも楽しめた?」

 

「うん、皆と一緒で楽しめたよ」

 

「よかったわ」

 

「はい」

 

テスタロッサ家も同じようだ。

 

「それじゃあ皆、そろそろ行こうか」

 

「行きと同じでいいわよね?」

 

「はーい、レン君と隣がいいの〜」

 

「お願いします」

 

次々と車に乗り込む中、レンヤ達異界組とリンディ達が残っていた。

 

「ーーそうそう、異界対策部隊の件だけど。週明けから大々的な発表をしてから立ち上げる段取りになっているから。詳細は追って連絡するわね」

 

「ちょっ、聞いていないんだけど!」

 

「恥ずかしいです……」

 

「大丈夫、堂々としてればいいんだよ!」

 

「あはは、そういえば隊長とかどうするんだ?」

 

子どもだけの部隊はさすがに問題がある。

 

「一応責任者としてゲンヤ・ナカジマ三佐が請け負うが、異界に関しての最終決定権は君達の中から隊長を選ぶことになり、その人が持つことになった」

 

「えっそれっていいの?」

 

「異界のことを何も知らないのに権限を持っていても君達の邪魔になるだけだ。上層部も了承している、君達はいつも通りに自由に動ける。簡単に言えば異界限定の独立部隊ってことだよ」

 

「それでもたまに異界とは別の要請が来るかもしれないから、そこは了承してね」

 

「まあ、当然よね」

 

「それで隊長は……」

 

「やっぱりレンヤだね」

 

「えっ俺⁉︎」

 

「そうそう、君がいつも仕切っているからね」

 

「よろしく頼むぞ」

 

「従者が上というのも、可笑しいからね」

 

「今更変えるのも面倒だし」

 

「それが本音かアリサ……!」

 

「レンヤ、頑張れ!」

 

「あなたならできるわよ」

 

「期待しているぞ」

 

全員に推薦され逃げ道をなくすレンヤ。

 

「ああもう分かったよ!やるよ、やりますよ!」

 

「それでこそレンヤよ」

 

「私もフォローするからね」

 

「やってやるぞ〜〜!」

 

こうして、レンヤ達は異界対策部隊。正式名称、異界対策課【Different Wold Measures Section】を立ち上げることになった。

 

 



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40話

 

 

休んだのか働いたのかよく判らない旅行から数日……

 

リンディさんの宣言通り大々的な発表を執り行われた、いわゆる記者会見みたいなものだ。

 

俺達は目にくるフラッシュに耐えながら、意気込みなどの言った。 だがやはり、聖王である俺が管理局に入るのもいささか問題があったようだ。そこはウイントさんが抑えてくれたようだが、さすがに申し訳なかったので教会側の執務官の資格を取ることにした。 それで教会側も納得してくれた。

 

他の皆も資格を取るみたいだ、アリサは教導官の資格を、すずかはデバイスマスターの資格を、アリシアは管理局側の執務官の資格を取るみたいだ。 俺も暇があったら捜査官の資格も取りたいと思っている。 だが、ここ最近学校にいる機会が少なく勉強の両立は大変だった。 アリサとすずかは余裕そうだが、残りの俺達5人は冗談抜きで死に物狂いで勉強を頑張った。

 

そして、数日後に本格的に活動を開始することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は離れ、ミッドチルダ内にある巨大スクリーンで異界対策課の設立の記者会見が映っていた。 歩く人々は足を止め、スクリーンを見つめる。 そこから離れたビルの屋上で白装束が映像を見下ろしていた。

 

「ーー始まったか。しかし真実を知れば、容易く簡単に崩れる」

 

その時、デバイスに着信がありディスプレイを展開する。

 

「クク、なるほど。まあいい……せいぜい足掻くといいだろう。全ては辿り着くため、利用させてもらうのみ……」

 

白装束はビルのを飛び降り、どこかに転移してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月上旬ーー

 

学校はすでに2学期に入った、色んな事を頭に詰め込みすぎてパンクしそうだ。 放課後、俺は机に顔を伏せて休んでいた。

 

「レンヤ君、大丈夫?」

 

「ほらシャッキとしなさい、今日大事な日でしょう」

 

「………俺はそこまで無事でいられるのが不思議なんだが」

 

「そうそう、頭がいいってレベルじゃないよ」

 

今日は異界対策課、最初の活動日だ。 だが活動する前に自分の活動を停止してしまいそうだ。

 

「行くわよ」

 

「ふわああ〜〜、はい」

 

何とか立ち上がりすずかの家に置いてある転移装置で、アースラ経由でミッドチルダに向かった。

 

異界対策課は置いてあるのは地上本部の中の一室にある。かなり優遇されているらしく、4人では使えきれないほど広いし更衣室、会議室、各自のデスクがあるスペースはもちろんのこと仮眠室、浴室、キッチンスペース、応接室、色々と完備されている。明らかに俺達には無用の長物だ。

 

「まあまあの広さね」

 

「うん、でもちょうどいいかな」

 

「お前らの物差しはどれだけデカイんだよ」

 

「十分すぎるよ」

 

各自の感想を言った時、ちょうどゲンヤさんが入ってきた。

 

「来たのかお前ら」

 

「はい、ちょうど今来たところです」

 

「そうか、ならすぐに会議室に来てくれ。そいつらが提案した異界対策課の活動内容を言ってやる」

 

そう言い、ラーグとソエルを指差す。

 

「えっと、制服には着替えないんですか?」

 

「それも含めて説明する、早く来い」

 

言われるがまま、会議室に入り椅子に座る。

 

「始めるぞ、異界対策課の主な活動内容はもちろん異界のことだが、その性質状いつ起きているかがわからない。よって最初の活動はすでにこのミッドチルダに開いているゲートの収束だが、いくらミッドチルダが広いと言ってもお前らだと3日ぐらいで終わっちまうだろ」

 

「まあ、その異界の危険度にもよりますけど……」

 

「俺が探してた時はそこまで脅威ではなかったな」

 

「つまり、3日で異界対策課はやる事が無くなるわけだ。あの霧の事件以来、異界関連の事件はない。しかし小さい事件が無いわけでもない、よってお前達にはそれに対処してもらう」

 

「それって、どういう事ですか?」

 

「私達が説明するよ、ミッドチルダにある異界はざっと50。その異界に迷い込む事もあるんだ」

 

「このミッドチルダに異界が認知された事もあり、可能性もある。思いのこもった物はグリードに好かれやすい、その影響で人も迷い込むわけだ」

 

「分かったけど……それがどう繋がるわけなの?」

 

「ミッドチルダの市民に摩訶不思議な現象があった場合、依頼として異界対策課に要請するわけだ。探し回るより効率的だし、市民の問題も解決する。一石二鳥だろう」

 

「何だか程のいい、なんでも屋ね」

 

「私はいいと思うけど」

 

「送られてくる依頼は大概デマか間違いが多いかもしれないから、そこは俺とソエルが選別して出してやるから安心しろ」

 

「だからお前達は普段は私服での調査が行われる、その方が楽でいいだろうし目立たなくて済む。一応制服は用意しているがな」

 

「………わかりました、市民の安全を第一に考えての管理局ですからね」

 

「そういうことだ」

 

レンヤ達は立ち上がる。

 

「今日から異界対策課、出動開始だ。全員、気合いを入れていくぞ!」

 

「「「「「おおーーーっ!」」」」」

 

こうしてレンヤ達はミッドチルダの異界を対処するために動き出した。

 

ゲンヤの予測通り、3日で現存する異界は収束させ。ゲート付近にサーチャーがつけられ、間違っても入れないようにした。

 

それから市民の依頼を受けている、大抵ハズレばかりだが異界絡みもあったので全部の依頼を無視するわけにはいかなかった。1人1区画を担当しており俺が西部、アリサが東部、すずかが北部、アリシアが南部を担当している。効率よく依頼を解消しないと体が持たないことなんて何度もあった、だがやはり俺達の行動は市民に好評でありほとんどの人と顔見知りになってしまった。西部にはゲンヤさんの家も近いのでよくクイントさんとギンガ、スバルと会う事もある。

 

異界と依頼を解決し、さらに学校の勉強、全員が資格を取得しなくてはいけないので休んでいる暇がなかった。なのは達と一緒に勉強していなかったら本当にやばかった、そんなことを市民の皆が察したのか依頼が減ってきたこともあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目まぐるしく月日は流れて早半年、4月上旬もう中学生になりこの仕事にもようやく慣れてきた所だ。

 

今、全員異界対策課にいる。ここにいる間は全員制服を着ていてアリサは教導官の白い制服、アリシアは執務官の黒い制服、すずかは紺色の制服に白衣、俺は地上の茶色い制服を着ている、見事にばらばらだ。

 

あれから全員無事に資格を取得できたが、皆まだまだ取る気みたいだ。そう言い俺も一応隊長をやっているから中隊指揮官、普通自動車免許も取るつもりでいる。

 

ただ俺とアリシアが執務官試験(俺は聖王教会側だが)を1発合格したのをフェイトが聞いたら、恨まれるような目で見られた。何とかなだめたが。

 

しかも依頼を受けている途中、高ランクの違法魔導師にエンカウントする事がたびたびあり。捕まえているうちに全員階級も上がってしまっている。俺の現在の階級は陸尉になっている、他も名称は違うが陸曹と同じくらいだ。

 

他にもゲンヤさんの紹介で、他の地上部隊とも交流もあり、それなりに仲がよかったりする。

 

「だあああっ!終わらないよ〜〜!」

 

「嘆いていないで手を動かしなさい」

 

「私も手伝ってあげるから、頑張ろうアリシアちゃん」

 

「だからってこれは多すぎだろ」

 

現在は依頼によって発生した、書類の整理や確認に追われていた。デバイス達もフル稼動で手伝ってくれている。

 

「追加入るよ〜〜」

 

「まだまだ増えるかもな」

 

ソエルとラーグがまた書類の山を持ってきた。

 

「うっそ〜〜〜……」

 

「さすがにこれは……」

 

「さっさと終わらせるわよ」

 

「お茶を入れてくるね」

 

それから2時間後ーーー

 

「おっ終ったーーー!」

 

何とか書類を片付けた。

 

「ふう……終わった」

 

「なのは達以上じゃね、これ」

 

「1つの部隊だからね」

 

沈んでいく太陽を見ながらそう言う。

 

「活動を開始して早半年、小さい事件はあったがエルダーグリードが出る事件はなかったな」

 

「もう本当に何でも屋になりかけているわね」

 

「それはそれで良いことだよ」

 

「そうそう、平和が一番だよ」

 

「そうだな、しかしもう4月か……」

 

「それがどうかしたのよ?」

 

「あんまり考えていると老けるよ」

 

「レンヤじっちゃん、ぷっ!」

 

「うるさい、白黒まんじゅう」

 

「ふふっ、でも確かに何か起きそうだよね」

 

「やめてよ〜演技でもない事をーーー」

 

その時、俺のデスクにある電話が鳴り始めた。

 

「……不吉だね」

 

「不吉ね」

 

「不吉な予感だね」

 

俺は無視して電話に出た。

 

「こちら異界対策課です」

 

『異界対策課に依頼を要請したいかたがいらっしゃっていますが、どうなさいますか?』

 

「問題ありません、通して下さい」

 

そして電話を切る。

 

その後すぐに応接室かに来たのは、小学1,2年生くらいで茶髪の髪の少年だった。

 

「俺は異界対策課、隊長の神崎 蓮也だ」

 

「ぼ、僕はソーマ・アルセイフです」

 

「それでソーマ君、何をお願いしたいの?」

 

「はっはい!最近怖いお兄さん達が管理局の人達とケンカをしているんだけど、怖いお兄さん達が何かを飲むとすごく強くなって管理局の人を倒しちゃったのを見たの……」

 

嫌なことを思い出したのか、顔を暗くする。

 

「すずか」

 

「うん、昨日東部の娯楽施設で管理局員が暴力集団に怪我を負わされたみたいだね」

 

「何かを飲むってことは、薬か何かね」

 

「異界との関連性はないから異界対策課に情報は来なかったみたいだね」

 

話しを聞き、俺はソーマ君を見る。

 

「ソーマ君も知っていると思うけど、俺達は異界に関しての依頼しか受けないんだ。ソーマ君は何でこれが異界に関係すると思ったんだい?」

 

「それは……何かを飲み込んだ後のお兄さん達の目が真っ赤だったんだ!だから……」

 

よほど怖かったのか、声を小さくなっていく。

 

「……可能性は否定できないわね」

 

「うん、放っては置けないよ」

 

「そうか、ソーマ君の依頼、異界対策課が受けるよ。だから安心してくれよ」

 

「うっうん!ありがとう、お兄ちゃん!」

 

私服に着替えてから、ゲンヤさんに一声かけてから出発した。

 

その後、ソーマ君を家まで送り届け。そのまま東部の娯楽施設に向かう。

 

「結構広いね」

 

「手分けして探そう」

 

「何かわかったらすぐに連絡するのよ」

 

それから調査を開始した。俺達はそれなりに有名人なので認識阻害の魔法を使う事にしている。

 

あちら有名人なようですぐに名前と居場所はあっさり分かった。

 

「集団の名前はハンティング、狩猟とはよく言ったものだわ」

 

「この辺りのダンスクラブにいる事が確認されているよ」

 

「ここからちょっと進んだタウロスって言う所だよ」

 

「でもダンスクラブよ、いくら認識阻害の魔法を使っても子どもだとばれるわよ」

 

「ふっふっふーー、シグナムを倒すためにユーノに教えてもらった魔法が役に立つ時が来たな」

 

俺の下に魔法陣を展開して光に包まれた後、出てきた俺の姿が変わる。

 

「うん、上手くいった」

 

体を見下ろし、視線が高くなった事を感じる。

 

今の俺の姿は二十代前半くらいだ。

 

「れっレンヤ、それは……何?」

 

「シグナムに勝てない理由の一つがリーチの無さでね。それであの人間からフェレットに変身していたユーノに変身魔法を教えてもらったんだ。今でも質量保存の法則無視しているのが不思議だけど」

 

手乗りサイズからどうやって人間になるのか今でも不思議だ。

 

「「「…………………//////」」」(ポー)

 

「皆?」

 

顔を赤くして固まっている。

 

「なっ何でもないわよ!///」

 

(凄くカッコイイじゃないの///)

 

「うっうん、そうだよ///」

 

(大人レンヤ君、恥ずかしくて顔が見られないよ〜〜///)

 

「そっそれで、1人で行くわけじゃないよね///」

 

(いつかあのレンヤと、一緒に///)

 

「?まあいいか、4人じゃ目立つから誰か1人に同じ魔法を教えて俺とーー」

 

「「「はいはいはい!私に教えてレンヤ(君)!」」」

 

おおう、すごい剣幕。

 

「えっと、とりあえずジャンケンで決めて」

 

3人の目から火花が飛び散る幻覚を見てしまった。

 

「恨みっこなしよ……!」

 

「絶対に負けない……!」

 

「レンヤと一緒に行くのは私……!」

 

「「「最初はグー、ジャンケンーーポンっ!」」」

 

それから何回もあいこがあり、そして決まったのが……

 

「いっやったーーー!」

 

すずかが勝った、他の2人は膝をついて項垂れている。

 

それから変身魔法を教えた、やはりすずかは飲み込みもよくすぐに覚えた。一応他の2人も聞いていたみたいだが。

 

すずかは同じように魔法を発動させ、光の包まれ姿が変わる。

 

「これが、私?」

 

大人すずかは子どもの時の面影を残しつつ、大人の雰囲気を纏っていた。そして1番分かりやすいのが……

 

「おっ大きい……」

 

「スイカ?メロン?」

 

胸が服越しでも分かりやすいほど大きいのだ、はやての話しだと今も順調に大きくなっているらしい。

 

「レンヤ君、どうかな変じゃないかな?」

 

「あっああ、いいと思うぞ綺麗だよすずか」

 

「あっありがとう……////」

 

「コホン!私達はバックアップに回るわ、頼むわよレンヤ」

 

「無理しないでね」

 

それからすずかとダンスクラブ、タウロスに向かった。

 

「あれだな」

 

タウロスと書かれた看板の隣に扉があり、何人かの人が入っていった。

 

「今入っていった人の服装……ハンティングに間違えないよ」

 

「よし、入ろうか」

 

「うん!」

 

そう言いすずかは俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

 

ムニュッ

 

(うっ……)

 

今で感じた事のない柔らかい感触、腕を絡められたことは何度もあるがこの感触は今でなかったわけで……

 

「あっあの、すずか?」

 

「こうした方が目立たなくていいんだよ♪」

 

「そっそうか……」

 

レンヤ達はハンティングが集まるダンスクラブ、タウロスに足を踏み入れた。

 

中はダンスクラブよろしく、騒がしかった。

 

「さすがは大人のお店だな」

 

「緊張するよ……」

 

すずか、そう言って腕に力を入れるな。

 

俺は辺りを見渡し、奥の席にハンティングが集結している場所を見つけた。

 

「……奥に近付かないように、従業員や客にそれとなく話しを聞いていこう。ハンティングが異界に関わっているかを確認する」

 

「……了解だよ」

 

ハンティングに極力目立たないように、ダンスクラブを回りつつ話しを聞いていく。

 

「……集められる情報はこんな感じでいいだろう、異界絡みかどうかは正直わからないが……リーダーのファクトってヤツが何か握っていそうだな」

 

「他にも気になる話しも聞けたね、例のアレって言うのがソーマ君の言っていた薬かもね。そろそろ切り上げよう、アリサちゃん達と合流しないと」

 

出口に向かおうと振り向いたら、人とぶつかってしまう。

 

「っと………すみません」

 

「チッ、気を付けろよ」

 

「全く何を………あん?」

 

もう片方の男がすずかを見る。しかもハンティングのメンバーだ。

 

「いい女連れているじゃんか、詫びとして置いてけや」

 

「おっいいねいいね〜〜」

 

(やっべ………)

 

「おい、何の騒ぎだ」

 

他のハンティングも集まって、囲まれてしまう。

 

「お姉さん、俺達とこないか?」

 

「お相手をしてもらおうかなぁ?」

 

「………………………」

 

(まずいな、ここで騒ぎを起こすわけには………)

 

そう考えていると、すずか一歩前に出た。

 

「ーーすみませんが、道を開けて頂けますか?」

 

「………あ?」

 

「オイオイお姉さん、誰に口を利いてーー」

 

「……あんまり私を怒らせないで。もう一度言うよ……道を、開けなさい」

 

うっ、すずか本気で怒っているよ。吸血鬼の力が出ているよ。

 

「なっ何だこいつ………?」

 

「ナメんじゃねえよ!」

 

「……すずか、落ち着け。ここは俺がーー」

 

その時、辺りが騒がしくなり始めた。

 

「あっあんたは………」

 

「ああっ?」

 

「何をいきなりザワついてーー」

 

2人は振り返ると、オレンジの髪をした男性が入ってきた。

 

「お邪魔するよ」

 

「あなたは……」

 

「あの時の……」

 

「……少々面倒な場面に出くわしたみたいだね」

 

男性が近付くと2人は一歩下がる、辺りを見渡すとため息をつく。

 

「やれやれ……ファクトはいないらしいな。まあいいか貴方達、着いてきて下さい」

 

「えっ……」

 

「まっ待ちやがれ!」

 

「勝手に出てきて抜かしてんじゃーー」

 

男性は雰囲気をまるで別人に変え……

 

「なんだ、文句あるのか?」

 

その鋭く大きな剣幕に2人はたじろぐ、男性は元に戻り。

 

「さあ、行きましょうか」

 

「はっはい……」

 

「……失礼しました」

 

男性についていき、俺達はダンスクラブから出て行く事が出来た。

 

出た後、すぐに立ち止まった。

 

「大丈夫かい?怪我は無いようだけど」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「あなたは一体……」

 

「ああそうだね、僕はティーダ・ランスター。首都航空隊所属、階級は一等空尉だよ」

 

「管理局員でしたか、ティーダさんもこの事件を追っているのですか?」

 

「……それを知っていると言うことは、随分と危険な真似をしてくれたようだね。彼女に何かあったらどうする気だい?」

 

怒っていないのに凄い迫力……

 

「ごめんなさい!私達はこう言う者です!」

 

すずかが局員証明のIDを見せて、つられるように俺も提示した。

 

「管理局員⁉︎それに異界対策課⁉︎でも確か子どもだけだった気が……」

 

「変身魔法で大人になっているのです、この件は異界が関わっている可能性があります。ティーダさんは手を引いてもらいますか?」

 

「それは……できない相談だ。これは僕のケジメでもあるんだ」

 

「ハンティングと何か因縁でも?」

 

「君達には関係ない、この件は僕に任せてくれないか。必ず何とかーー」

 

「できるのかな、ティーダさん」

 

ティーダさんの言葉を遮るように、嘲笑う声が聞こえてきた。

 

こちらに向かって、凄い髪色と髪型をした男性が来た

 

「久しぶりだねーティーダさん。最近、何やら色々と嗅ぎ回っているみてえだが……オレのハンティングに何か用でもあんのかよ?」

 

「……………ファクト」

 

(この人がハンティングのリーダー)

 

(何だか不気味な雰囲気を感じるよ)

 

「用ならあるさ」

 

ティーダさんはファクトに近付く。

 

「一体君達は……ハンティングは何をやっている?今更狩る物も無いのに、答えろファクト!どういうつもりだ⁉︎」

 

ティーダさんが本性剥き出し怒っている、そうとう因縁があるみたいだ。

 

「今更管理局の犬に成り下がったアンタには関係ねえよ!」

 

そう言い取り出したのは、白い箱に入ったオレンジ色のタブレットだ。

 

「……⁉︎」

 

「タブレット……?」

 

「まさかそれが……!」

 

「せっかくだからアンタに見せてやるよ、新生ハンティングの炎をなぁ!」

 

ファクトはタブレットを飲み込んだ瞬間、目が赤く変わり体から赤いオーラが出てきた。

 

「ヒャハハハハハ!」

 

「この力、確定だな」

 

「うん、確実に異界が関わっている」

 

ファクトがティーダさんに手を向けたら、いきなりティーダさんの後ろにゲートが開き始めた。

 

「‼︎なっ……⁉︎」

 

ティーダさんは完全に開かれたゲートに埋まり、動けなくなっていた。

 

「無事に帰ってきたら話しくらいは聞いてやるよ。そんじゃあ、お疲れ様です」

 

「ぐっ……⁉︎」

 

ティーダさんはそのままゲートに吸い込まれていった。

 

「ククククク……ヒャーハッハッハッ!じゃあな、ティーダさんよお!」

 

ファクトはオーラを収め、俺達を無視してダンスクラブに入っていった。

 

「くそ、ティーダさんを放ってはおけない!」

 

「あの人は後、急ごう!」

 

ゲートに突入しようとしたら……

 

「ーーレンヤ!」

 

アリサとアリシアが来た、大人モードで。

 

「アリサ、アリシア、いいところに……何で大人モード?」

 

「こんな時間に子どもがいるのは目立つのよ」

 

「ナンパされちゃったけど……」

 

「皆、話しは後で。とにかく突入するよ!」

 

レンヤ達はティーダさんを助けるため、ゲートに突入した。

 

 



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41話

 

 

ティーダを助けるためにゲートに突入したレンヤ達。

 

ゲートに入ると中は洞窟の様な異界だった。

 

「ここは……まるで洞窟みたいだな」

 

「ティーダさんは……いないみたいだね」

 

「ティーダ?それって霧の事件の時助けた女の子のお兄さんじゃなかった?」

 

「あのオレンジの髪……」

 

「そうだ、それであのハンティングのリーダーが妙なタブレットを噛み砕いて。自分の意思でゲートを出したんだ」

 

「タブレット……ね」

 

「決定的な証拠だね」

 

「うん、問題は誰がそのタブレットを作っているかだよ。材料を調達する異界が存在するはず」

 

「そっちも何か掴んだみたいだな?」

 

「ええ、ここを出たらお互いに情報交換しましょう」

 

レンヤ達はデバイスを起動して、バリアジャケットを纏う。

 

「ティーダさんが囚われているなら最奥にいる可能性が高いはず」

 

「時間が惜しいわ、すぐに探索を開始するわよ」

 

「「「おおっ(うん)(了解だよ)!」」」

 

レンヤ達は迷宮の探索を開始した。

 

途中に沼のように場所を通り抜けた。

 

「とっ……危な、異界のものに触るのは厳禁だからな」

 

「異様な雰囲気の沼だったわね」

 

「うーんと過重の呪詛がかけられているね、避けて通ろうか」

 

「凄いね、アリシアちゃん」

 

そして最奥に到着しき、レンヤ達は信じられない光景をみる。

 

「えっ……」

 

「あれは……!」

 

すでに恐竜型エルダーグリードは出現していた、名はブレードレックス。そしてそのグリードにティーダは戦っていた。

 

「はあああっ!」

 

銃を撃ちながら接近して蹴りを食らわせていおり、ブレードレックスの攻撃も簡単に避ける。

 

「喰らえっ!」

 

ティーダがブレードレックスの顔面を蹴り上げ、ブレードレックスは吠える。

 

「うっわーーー……」

 

「銃を持っているのに、肉弾戦してるわね」

 

「確かに凄いけど……」

 

「ああ、体に魔力を流してない!」

 

ティーダは体に魔力を流してないため、銃以外ではダメージを与えられていない。

 

「……効いていないか、銃なら効いているみたいけど。とことん付き合ってもらいますーー」

 

「ーーティーダさん!」

 

レンヤの声でブレードレックスがこちらを向く。

 

「君達……⁉︎」

 

「あれは魔力を流している攻撃をしないとダメージを与えられません!」

 

「ここは俺達、異界対策課に任せて!」

 

「この程度なら余裕よ!」

 

「速攻で終わらせるよ!」

 

レンヤ達はブレードレックスに挑みかかる。

 

ブレードレックスはこちらに向かって飛び上がってくる。レンヤ達は避けるが着地の衝撃が放たれる。

 

「やっぱりね」

 

「あれだけの巨体だ、当然だろう」

 

レンヤ達は予測して、衝撃も避ける。ブレードレックスは頭を振り上げ、頭についている刃を振り下ろす。

 

「はあっ!」

 

レンヤは頭を叩きつけられた瞬間、ブレードレックスの刃に乗り頭を上げ勢いで飛び上がり、剣を背中に突き刺しブレードレックスは倒れる。

 

「アリサ、すずか!」

 

「了解!行くわよすずか!」

 

「うん!合わせてアリサちゃん!」

 

アリサがフレイムアイズを振り炎の竜巻を作り、すずかがスノーホワイトを振り氷の竜巻を作る。

 

「「一斉の、蒼紅円舞曲(そうこうのワルツ)!」」

 

2つの竜巻がブレードレックスにぶつかり2つの竜巻が巻き起こる。

 

「アリシア、決めろ!」

 

「了解!ルウィーユ=ユクム!」

 

アリシアは風の神器を纏い、一気に秘力を解放する。

 

「我が翼は碧天!天を覆うは処断の翠刃!シルフィスティア!」

 

上空に上がり空を埋め尽くすほどの剣を出現させブレードレックスに降り注ぎ、最後に竜巻を起こし刺さった剣を吹き飛ばし斬り刻む。

 

ブレードレックスは咆哮を上げながら光り出し、倒れた瞬間消えていった。

 

「ふっふーん、余裕だね!」

 

「いい肩慣らしにはなったわね」

 

離れた所でティーダが驚いていた。

 

「……やった、のか」

 

「元に戻るよ」

 

アリシアがそう言った瞬間、白い光りを放ち迷宮は収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、戻ってこられてーーー!」

 

「ここは………」

 

気がついたらダンスクラブの前ではなく、どこかの港だった。

 

「どうやら中央区にある港ね」

 

「港湾地区、捜査部がある地区だ」

 

「これが地脈の揺らぎの影響による出現座標の変化、実際に起こると凄いね」

 

「君達」

 

「ティーダさん、無事でよかったです」

 

「……異界のことは知っていたが、実際に目の当たりにすると違うな。恥を忍んで申し訳ないが何が起きているのか教えてもらえないか、ファクトや他のメンバーにいったい何が起きているのか……ハンティングを束ねていた元リーダーの一人としてね」

 

「あ……」

 

「……やっぱりそうですか」

 

レンヤは少し考えてから。

 

「ーーいいでしょう。必要最低限になりますが」

 

「ああ、構わない」

 

それから目立たない場所に移動して、説明を始めた。

 

「今回の件は間違いなく異界が関わっています、そして問題はあのファクトって人が自分で異界化を起こした事だ」

 

「可能性はあるよ、ラーグから貰った資料に載っていたよ。ごく稀に、異界に迷い込んだ人間がある種の力を手に入れる事があるの。それらは大抵の場合、異界の力に魅入られて自らの破滅を招くケースが多いみたい」

 

「つまり現ハンティングのリーダー、ファクトも例外じゃないわね」

 

そう言いアリサが取り出したのは、ファクトが飲み込んだのと同じタブレットだ。

 

「それは……!」

 

「あの人が噛み砕いた、オレンジ色のタブレット……!」

 

「ハンティングが暴力事件を起こした現場で見つかったものよ」

 

「摂取した時の症状を見ると……恐らく、異界に関わる何らかの危険な素材を調合した薬物。異界ドラッグとでも言うべきものだよ」

 

「いっ異界ドラッグ……」

 

「どうやら関わっているどころか真っ黒だったわけだ……」

 

「…………………それだけ分かれば充分だ」

 

ティーダは思いつめた表情になり、立ち去ろうとした。

 

「待って下さい!この上、まだ関わるつもりですか……⁉︎」

 

「ーー昔の仲間が得体の知れないドラッグなんかに関わっている、そんな話しを聞いて逃げたら彼に顔向けできないからね」

 

「え……」

 

「それって……」

 

「教えてくれてありがとう。……恩はいつか返すよ。君達も無理はしないように」

 

ティーダはそう言い残し去って行った。4人は背中が見えなくなるまで見送った後……

 

「やれやれ、頑固っていうか熱血だね〜〜」

 

「気持ちはわかるよ、私達で力になれないかな……」

 

「……どうやら色々と拘っているものもあるみたいね。私達は異界対策課として動きましょう」

 

「ああ、かなり状況も整理できた。明日は、ハンティングの動向も含めて今後の方針を固めよう」

 

「その前に書類整理が残っているわよ」

 

「ええーー!いいじゃないこのまま帰ろうよ〜!」

 

「執務官として有るまじき発言だな」

 

「ふふっ、明日は地球も休日。仮眠室で寝泊まりするしかないね」

 

「そうだな……っとその前に」

 

レンヤはアリサとアリシアを見つめる。

 

「な、なによ……」

 

「レンヤ?」

 

「………うん、大人の2人も綺麗だな。将来結婚する人が羨ましいよ」

 

「なっ……////」

 

「けっ結婚……⁉︎////」

 

「ふふっ、そうかもね」

 

そんな事を話しながら地上本部に戻った。そして変身魔法を解くを忘れて一悶着あったが、家族に連絡した後日付が変わる前に書類整理を終わらせ仮眠室で眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

レンヤ達は疲れた体に鞭を撃ち起き上がる。

 

各自支度を済ませた後、食堂で朝食を取りながら今後の方針を決めた。

 

「モグモグ、ゴックン!まずネット上でハンティング関連の追加情報を確認するよ」

 

アリシアが食べながらディスプレイを展開して説明する。

 

「行儀悪いわよ、アリシア」

 

「まあまあ、細かいことは気にしな〜〜い」

 

「あはは、それでハンティングの追加情報は?」

 

「目ぼしいのはこれくらいかな?」

 

そう言って映し出されたのは、一枚の写真だ。男3人が映っており、左右にいる男性はティーダとファクトだ。

 

「写真の日付は1年半前……解散の噂があった少し前だな」

 

「ティーダさんはあまり風貌が変わっていないわね、それでこっちがファクト……ほぼ別人ね」

 

「当時は特攻隊長としてチームで活躍してたみたい、2人のリーダーにずいぶん心酔していたようだね」

 

「2人のリーダー……1人はティーダさんとして、もう1人の真ん中の人、確か名前は……ルシス」

 

「……そう、関係者として話しを聞いてみたいところだけど。彼についての追加情報は?」

 

「現時点ではナシ。居場所を突き止めるにしてもまだ時間がかかりそう」

 

「そうなんだ……仕方ないね」

 

朝食を食べ終え、食後の紅茶を飲みながら話しを続ける。

 

「さてと、今後の方針だけど。ハンティングがどこの異界からドラッグの材料を手に入れているか突き止める必要がある。そして最終的には、その異界を食い止める必要があるだろう」

 

「まあ当然ね、呑んだ人に化物じみた力を与える異界ドラッグ。今はハンティングだけが使用しているけどもし一般に出回ったら……」

 

「うん、尋常じゃない被害が出るだろうね」

 

「それにドラッグと言えば、別方面も心配だよ。そっちに波及する前に何とかしないと……」

 

「別方面?管理局の本部あたりか?」

 

「あー、そっちもあるけどもっとヤバくて生々しいヤツ」

 

「……なるほど、第三者……ヤクザね。昨日見かけたわ」

 

その時、アリシアのフォーチュンドロップが声をかける。

 

《ハンティング関連の続報が入りました》

 

「ありがとうフォーチュンドロップ、表示して」

 

アリシアは展開された情報を読む。

 

「なになに………なんか、遅かったかも。昨日の深夜、ハンティングがまた事件を起こしたみたい。ヤクザと揉めて病院送りにしたようだね」

 

「ええっ⁉︎」

 

「……確かなのか?」

 

「場所はミッドチルダ東部の娯楽施設の一角……相手は暴力団レイヴンクロウの構成員で全治1ヶ月の重体、これかなりヤバイよ」

 

「いえ……ヤバイどころじゃないわよ。普通に考えても、そこらへんの不良がヤクザに敵うはずないわ……」

 

「けど、異界ドラックがあれば互角以上に渡り合えるね」

 

「しかも、現リーダーが使った人を異界に落とす能力があれば。ただの抗争では済まないな、すぐに現場に向かおう。俺とアリサで向かう、アリシアとすずかはハンティングの情報を集めてくれ」

 

「わかったわ」

 

「うん、任せて。私は人伝で探してみるよ」

 

「了解だよ」

 

こうして、レンヤ達はそれぞれの役割分担のもと動くこととなり。レンヤとアリサは、休日の娯楽施設付近に早速向かった。

 

「……街の空気もどこか緊張しているな」

 

「ええ、休日の昼間だったらもっと賑やかなはずよ。一通り確認してからダンスクラブに向かいましょう」

 

「分かった、例の暴力団の動きも確かめないとな」

 

レンヤ達は調査を開始した、まずは暴力団の事務所に向かった。

 

「あのクソガキども……いったいどこに消えやがった⁉︎レイヴンクロウをナメやがって……見つけたら絶対ただじゃおかねぇ!」

 

「やれやれ、落ち着けや。気持ちは分かるがな」

 

「アニキもすでに動いている。俺らは俺らで火消しの準備を整えとくまでだろう」

 

「チッ……それもそうッスね。楽しみにしてやがれ、ガキども。落とし前は絶対つけてやっからよ……!」

 

そんな物騒な会話をレンヤ達は聞いていた。

 

(レイヴンクロウの事務所か……相当ピリピリしてるみたいだな)

 

(組員が一方的にやられたなんて、彼らにとっては面子に関わる問題よ。本格的に解決しようと動いたらおそらく手段は選ばないでしょうね)

 

(急いだ方がよさそうだな)

 

(他の場所を調べてみましょう、ただその前に……)

 

アリサは前に進みレイヴンクロウの構成員の前に立つ。

 

「ちょっアリーー」

 

「ーーあなた達」

 

「あん、おっ何だアリサ嬢じゃないか」

 

「へっ……?」

 

予想に反した結果にレンヤは呆然とした。

 

「まあね、元気そう……とは言えないみたいだけど」

 

「そうッスね、もしくてアリサ嬢もこの件に?」

 

「ええ、できればこっちも穏便に済ませたいの。あまり暴れない事をお勧めするわ」

 

「アリサ嬢に言われちゃしょうがないな」

 

「ふふっ、この後も調査があるからまた今度」

 

「へい、お嬢もお気をつけて」

 

アリサは呆然とするレンヤを引いて事務所から離れた。

 

「あっアリサ、あれどう言う事?」

 

「知っての通り私が担当しているのはこの東部よ、依頼の中に彼らの要請もあったのよ。それ以来の関係よ」

 

「いやいや、それだけでお嬢やアリサ嬢って呼ばれるか……⁉︎」

 

「彼らのボスとアニキに買われたらしくてね、もし管理局を辞めるならレイヴンクロウの幹部にしてやるってお誘いが来ているのよ。まあ、辞める気はさらさらないけどね」

 

「…………………………」

 

アリサのお姫様気質とは別の印象を受けた、レンヤであった。それから調査を続け、一通り済ませたところでダンスクラブに向かう事にした。

 

「この先ね、一応変身魔法も使っておきましょう」

 

「ああ」

 

レンヤ達はダンスクラブ、タウロスに向かった。

 

タウロスの前ではアルバイトの人が掃除をしている。

 

「くああ〜あ、暇だなあ。昨日はハンティングの連中が朝まで盛り上がってたらしいが……ったく、いつも我が物顔で威張り散らしやがって……」

 

愚痴を言っているアルバイトの人にアリサが声をかける。

 

「ふふ、こんにちは」

 

「こんにちは」

 

(おっ、えらい美人!)

 

アリサの顔を見るなり元気になっている。

 

「すいません、まだ開店前でして……」

 

「私達はこう言う者よ」

 

アリサは管理局員のIDを見せた、写真が違う気がするが。

 

「管理局⁉︎」

 

「ある事件を追っているの、中に入れてもらえないかしら」

 

「はっはい!どうぞ、中には誰もいませんけど」

 

「ありがとう」

 

レンヤ達はダンスクラブに入って行った。

 

「昨日の騒ぎが嘘みたいの静かだな」

 

「のんびりしてられないわ、ハンティングがいた場所を探しましょう」

 

「了解、奥のボックス席だ」

 

奥のボックス席まで行き、ソファーに何もない事を確認してから備え付けのキャビネットを開けた。開けると、ファクトが持っていたのと同じ白い箱とオレンジのタブレットそして……

 

「これは、植物?まさかこれが材料……」

 

「見てみるに、異界に生えている物じゃなくて、植物型グリードの組織の一部ね」

 

「問題はどこで採取したかだ、このダンスクラブに異界はないし、別の場所に俺達の知らないゲートがあるはずだ」

 

「ええ、行きまーー」

 

「ーーやれやれ、本当にあったとはな」

 

精悍な声が後ろから聞こえた。振り向くと、スーツを着た迫力のある男性がいた。

 

「クク、こんなところで会うとはな。一応自己紹介をしておこうか、俺はエイジ・ワシズカという。ミッドチルダ東部、広域指定暴力団レイヴンクロウ。そこで若い連中の取りまとめを任せてもらっているモンだ」

 

「レイヴンクロウの若頭……!」

 

(このオーラも納得だ……)

 

「………そのような方がどうしてこちらに?」

 

アリサが話すと、エイジは驚いた顔でアリサを見る。

 

「おいおいまさかとは思ったが、アリサ嬢じゃないか。えらい美人になって、地球の人間はこうも成長が早いのか?」

 

「はあ、魔法で大人になっているのよ。それでエイジさんもこの薬を調べていたわけね」

 

「……さすがアリサ嬢、お鋭い。最近、ハンティングのガキどもはウチのシマを好き勝手をしていた。挙句にクスリまで手を出したようだから若いモンが警告に向かったんだが……豹変したガキどもにありえない力で返り討ちに遭っちまたらしくてな。ソイツが使われたんだろ?」

 

「はい……これの存在には薄々感づいていたようですね?」

 

「由来についてはサッパリがだな、異界絡みならなおさらか。まったく、馬鹿なことをしてくれたもんだ。シックルやランスターの坊主どもがいた頃には考えられねぇぜ」

 

エイジが思い出すように語る。

 

(ティーダさんのことを知っているのか……じゃあシックルっていうのがーー)

 

「さてと、それでお前ら異界対策課はどうする気だ?」

 

「エイジさんには悪いけど手を引いてもらうわ。もちろん、はいそうですかって納得はしないでしょうけど……」

 

「クク、分かってんじゃねえか。とりあえず俺らはーー」

 

「ーー失礼する」

 

その時、男性の声が聞こえた。入って着たのは中年くらいの男性と二十歳くらいの女性で……

 

「あなたは、レジアス中将!」

 

「オーリス三佐も……!」

 

「こんにちは、神崎陸尉、バニングス陸曹。ワシズカも久しぶりだな」

 

「ハハハ、まさか中将がこんな所に来るとはな。一体どういったご用件で?」

 

オーリスさんが前に出て説明した。

 

「ある程度の事情はこちらでも把握しています。どうか、この場については引いて頂くわけにはいきませんか?」

 

「ふむ…………」

 

エイジは少し考えて。

 

「フッ……いいでしょう。、あなた達の言葉なら。店の外で待ち構えているヤツともやり合うつもりもありませんし」

 

「感謝する」

 

「だが、ウチにもメンツというものがある。ハンティングの連中については落とし前を付ける以外にない……そいつは、分かっていますね?」

 

「もちろん」

 

それで納得したのか、オーラが少し弱まる。

 

「それでは失礼。お嬢達もあんまり跳ね返るなよ?」

 

「ご忠告、感謝するわ」

 

エイジはダンスクラブから出ていった。

 

「はあ……レジアス中将、助かりました」

 

「助かりました、ありがとうございます」

 

「気にしなくていい、ヤツも本気ではなかっただろうからな。しかし、大変なことになったな。ハンティングの暴走に、レイヴンクロウの動き、そして謎のドラッグか……」

 

「もうそんなことまで……中将は、地上はこの件に介入を?」

 

「現時点では、まだです。ただ、ハンティングについては以前から気にはなっていました。前のリーダーの方々とは中将と私自身、個人的な知り合いだったので」

 

その事実にレンヤ達は驚く。

 

「ええっ……⁉︎じゃあティーダさんと⁉︎」

 

「ああ、ヤツは本部の者だが……以前、ちょっとした事件で世話になったんだ。ハンティングの元リーダー……ティーダ・ランスターと、ルシス・シックルの2人がな」

 

ルシスの名前を聞いたレンヤ達。

 

「その名前は……」

 

「さっきの人も言っていた名前だな……中将、そのルシスって人はどこにいるのですか?自分が元いたチームが大変なことになっているのに一体何をして……」

 

その言葉にオーリスは顔を暗くした。

 

「ーーシックルさんは亡くっています。一年半ほど前……とある出来事があって」

 

「え……」

 

「……そうでしたか。つまりそれが、ハンティングが一度解散した理由ですね?」

 

「ええ、そして恐らくそれこそが今回の事件の鍵だと思います」

 

「……私達の立場では今回、これ以上動けん。神崎陸尉、バニングス陸曹、後は頼んだぞ」

 

「「はっ!」」

 

レンヤ達は敬礼をして答える。

 

「私達はこれで、ゼストにもよろしく言っておこう。君は私の恩人なのだから」

 

「はい、お願いします」

 

「それとこれを……」

 

オーリスさんがデータをレゾナンスアークに送ってきた。

 

「こちらで集めたドラッグの情報です」

 

「ありがとうございます」

 

レジアス中将とオーリスさんは軽く礼をして、ダンスクラブから出ていった。

 

アリサはレンヤの方を向き。

 

「レンヤ、あんた何したの?」

 

「昔、どこかの管理外世界でゼストさん、クイントさん、メガーヌさんを助けたのは知っているよな。あの事件どうやらレジアス中将が一枚噛んでいたみたいでね、あの後ゼストさんとレジアス中将が拳で語り合って和解したらしくてね。クイントさん経由でゼストさんに会い、それでレジアス中将にもお礼を言われて、それ以来良くしてもらっているんだ。それと恐らく外にいたのもゼストさんだろう、まったくどちらもただ者じゃないな」

 

「そうだったの……まあいいわ、オーリスさんからもらった情報を見ましょう」

 

「分かった、レゾナンスアーク開いてくれ」

 

《了解》

 

ディスプレイが展開され、ドラッグの情報が映る。

 

「名称はHOUND、猟犬、言い得て妙だな」

 

「そろそろここを出ましょう。異界ドラッグHOUND、その原料が調達されている異界の在り処を突き止めないと」

 

「そうだな、消えてハンティングの連中を見つける必要がありそうだ。できればティーダさんとも連絡が付けばいいんだけど」

 

その後、ダンスクラブから出て。驚きで失神していたアルバイトの人を起こして、事情は聞かれたがごまかしダンスクラブから離れた。

 

 

 



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42話

レンヤ達はダンスクラブから少し離れたらレゾナンスアークに着信が入った。

 

《すずか様からです》

 

「確か、人伝で聞き回っていたはずよね?」

 

「開いてくれ」

 

ディスプレイが展開され、すずかが映る。

 

『レンヤ君、今大丈夫⁉︎』

 

「どうした?そんなに慌てて」

 

『実はついさっきティーダさんを見かけたの!あのファクトって人と一緒に中央区のガード下に向かっていて……!』

 

「なんだと……⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティーダがファクトを連れて、ミッドチルダの中央区にあるガード下に向かっていた。

 

「……へっ、懐かしいな。オレにとって、全てが始まった場所。そしてアンタにとっちゃ、全てが終わった場所、か?」

 

「………ファクト。いい加減話してもらおうか。異界から採ってきた材料で調合したHOUNDというドラッグ。そいつをハンティングに持ち込んで分部相応の力を手に入れて、とうとうヤクザにまで手を出して……ハンティングは、いやお前は何をするつもりだ?」

 

「クク、色々調べたじゃねえか。いいぜ、アンタが戻ったら話しをしてやる約束だったしな。答えは簡単、ケジメをつけるためさ」

 

「ケジメ、だと……?」

 

「俺達新生ハンティングは明日にでも戦を仕掛ける。ミッドチルダ最大のチーム、オーダーにな」

 

その言葉にティーダは驚き、口調が崩れる。

 

「お前……」

 

「ヒャハハ、当然だろ⁉︎あいつらを皆殺しにしない限り、新生ハンティングは始まらねぇ‼︎アンタだって憎んでいる筈だろうが⁉︎」

 

「……………………………」

 

言い返せないのか口を紡ぐティーダ。

 

「確かにオーダーはデカイ。オレらの数倍はいるだろう」

 

ファクトはHOUNDの入った箱を取り出し掲げる。

 

「だが、このHOUNDがありゃあザコ同然。あの武闘派レイヴンクロウの組員すら簡単に叩きのめしたからなぁ!」

 

「ファクト、てめぇ……」

 

「クク、どうだティーダさん?そろそろ戻っちゃこないか?アンタがオーダー狩りに参加すりゃ、士気も上がるだろう。何だったら、リーダーの座だってアンタに返してもいいんだぜ?」

 

「ーー断る」

 

ティーダは考えることもなく、はっきり言った。

 

「…………へぇ?」

 

「…ファクト、お前だって本当は判ってるんだろう?アイツが敵討ちなんか望むヤツじゃねえことを……ルシス・シックルって男の器のデカさを」

 

「アンタがそれを言うんじゃねえ‼︎」

 

ティーダの言葉にファクトは激情し、HOUNDを飲み込んだ。すぐに目は赤くなり禍々しい赤いオーラが出てくる。

 

「逃げたアンタにルシスさんを語る資格なんざねぇんだよッ!もういい、話しは終わりだ……弔い合戦の肩慣らしにこの手でブチのめしてやらあッ‼︎」

 

「上等だ……」

 

ティーダは拳を鳴らして……

 

「ルシスに代わっててめえの目を醒まさせてやる‼︎」

 

ティーダとファクトの殴り合いが始まりそうな中、離れた場所ですずかがレンヤ達に連絡しながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディスプレイ越しに殴り殴られるの鈍い音が聞こえてくる。

 

『ああっ!始まっちゃた……!何とか止めた方がいいのかな……⁉︎』

 

喧嘩をあまり見たことがないすずかは混乱している。

 

「迂闊に手を出すな!ファクトってもはヤバい!俺達もすぐに向かう……そのまま待機してくれ!」

 

『わっわかったよ!』

 

ディスプレイが消えて、通信が切れる。

 

「……状況は判ったわ。すぐに向かいましょう」

 

「ああ、行くぞ!」

 

レンヤ達はすぐにガード下に向かった、こう言う時に飛行魔法が使えないのが悔しいが着く頃には夕方になってしまった。

 

離れて見ていたすずかの顔は辛そうだ。

 

「ーーすずか!」

 

「レンヤ君、アリサちゃん!」

 

「状況は?」

 

「そっそれがーー」

 

すずかの言葉を遮るように、大きな殴る音が響く。

 

ファクトがティーダの胸倉を掴み、壁にぶつけ持ち上げていた。

 

「がはっ………」

 

「ヒャハハ……!さすがだぜ、ティーダさんよ!まさかこの状態のオレにデバイスも使わずここまで食い下がるとはなァ!」

 

「ぐっ……ゴホッ……」

 

ティーダの顔は傷だらけで体はもうボロボロだ。

 

「ーーぬりぃな……1年半前のお前の拳の方が気合いが入っていたぜ……?ハンティング特攻隊長、……ファクト・ルッケンスの方がよ……?」

 

「ハッ……そんな状態のでよくも減らず口を叩けるもんだ。いいだろう……!そろそろトドメを刺してーー」

 

「ーーやめろ!」

 

「管理局よ、大人しくしなさい!」

 

レンヤ達が止めに入った。

 

「ああん……?なんだテメエら………ああ、クラブの前で見かけたヤツらか」

 

そう言いファクトは胸倉を掴む力を強める。

 

「グッ……」

 

「おい……!やめろって言ってんだろ!」

 

「ティーダさんを離してください!」

 

「さっさとティーダ一尉を離しなさい!」

 

「一尉、だあ……?」

 

ファクトは少し考え。

 

「ーーそういや、もうそこまで昇格してたんだっけな。前から管理局にいるのは知っていたが……」

 

ファクトはレンヤ達の方を向き、真っ赤な目を向け殺気を放つ。

 

「ーーテメエら、コイツのなんなんだ……?」

 

「っ……」

 

(なんて殺気……!)

 

「ーー手を、出すんじゃねえ……!」

 

ティーダはファクトに掴まれている腕を掴む。

 

「ッ……⁉︎まだそんな力が……!」

 

「ゴホゴホッ……ヨソ見してるんじゃねえ……てめえの相手は、このオレだ……!」

 

「あ……」

 

「どっどうして……」

 

ティーダの行動にファクトは目を細めて……

 

「………萎えたわ」

 

赤いオーラを収めティーダを離し、腹に蹴りを入れた。

 

「ぐはっ……」

 

「ああっ!」

 

「お前!」

 

「なんてことを……!」

 

レンヤ達の言葉を無視し、ファクトはティーダに話しかける。

 

「……アンタにゃ失望したがこれで心残りも無くなったぜ。オーダーとの戦争は明日のつもりだったが……気が変わった、今日中にケリを付けてやる」

 

「ッ……!待て、ファクト……!」

 

「あばよ、ティーダさん。せいぜいアンタは指を咥えて眺めてるんだな」

 

「………ぅ…………」

 

ティーダは気絶してしまった。

 

「クククク……ヒャハハハハハ……‼︎」

 

ファクトは笑いながら去って行った。

 

「くっ……あいつは後だ!ティーダさんを地上本部に運ぶぞ!」

 

「うっうん!」

 

「慎重に運ぶわよ」

 

ティーダを異界対策課に運びアリシアに治療をしてもらい、今はベットに寝かせている。

 

夜になり、ティーダが目を覚ました。

 

「ハッ……!……ここは……?」

 

「ティーダさんーー起きましたか」

 

ティーダが横を見るとレンヤ達がいた。

 

「……大丈夫ですか、ティーダさん?」

 

「意識が戻ったのならひとまず安心でしょう」

 

「しっかしタフだねえ、あれだけボロボロだったのに。骨折はしてないから安心してね、妹さんもすぐに来るみたいだから無茶しちゃダメだからねっ?」

 

「……お前ら……」

 

ティーダは起き上がり、状況を確認する。

 

「そうか……俺は……助けられたんだな。……ハッ、カッコつけといてなんてザマだ」

 

「ティーダさん……」

 

「……ここは、どこなんだ?」

 

「地上本部にある異界対策課です、ガード下から程よく近かったんで」

 

「おっ起きたか」

 

「目立つ怪我がなくてよかったよ」

 

ラーグとソエルが入ってきた。

 

「レンヤ〜俺達最近書類整理ばっかしてるから、連れって行ってくれよ〜〜」

 

「そうそう、私達も役に立つんだよ!」

 

「ボールとして?」

 

「2つの意味でお荷物として?」

 

「身がわり?」

 

「「違う!」」

 

そんな子どもらしい風景にティーダは呆れる。

 

「ハッ……おかしな連中だ」

 

ティーダは怪我をしてないように立ち上がる。

 

「ーー世話になったな。後日改めて礼に伺わせてもらうよ」

 

「えっ……」

 

「まさか行くの、ファクト・ルッケンスの所に?」

 

「だっダメですよ!まだ怪我が治っていないのに!」

 

「次、アイツとやり合ったら本当にして死にますよ?」

 

「幸い、頑丈なのが取り柄でね。ハンティングを……今のファクトを止められるのは俺だけだ。もう時間がない。……今夜でケリを付けてやる」

 

ティーダは扉に向かって歩くと……

 

「お前も、そのファクトってヤツと同じだな」

 

「ーーーーー!」

 

「自分だけで全てを背負うなんてただの驕り、未熟者が陥りがちな思い込みだな、そのファクトってヤツも同じ心境じゃないのか?」

 

「ッ……⁉︎」

 

ラーグに見透かされ、驚くティーダ。

 

「見た所、身体の芯もフラついているよ。せめて後30分は休まないとダメだよ」

 

ソエルもそう言い、ラーグと一緒に部屋を出た。

 

「………くっ…………………」

 

やはり無理をしていたのか膝をつくティーダ。

 

「ったく……言わんこっちゃない」

 

「とっとにかくティーダさん、もう少し休みましょう?」

 

「まったく、頭より体が動いちゃうんだね」

 

「ほら、早く寝なさい」

 

ティーダをベットに座らせて、時間をおく。

 

「少しは落ち着きましたか?」

 

「……ああ。やっと調子も戻ってきた。ったく、お前達にはつくづく無様な所を見せるな」

 

「あはは、そうかもね〜」

 

「こら、アリシアちゃん!」

 

「……ハンティングですが、後は私達に任せて下さい。異界に関しては私達、異界対策課がよく知っています」

 

「人間相手ってのが面倒だけどね」

 

「そうだね、本当ならHOUNDの原料がある異界をどうにかしたいけど……」

 

「…………分かっているさ。俺より君達の方がハンティングを何とか出来るってことも。だが、それでも俺はその役目を他人に譲るわけにはいかないんだ」

 

「ティーダさん……」

 

「……ルシスっていう人のためにですか?」

 

「ああ……ハンティングは、俺とルシスが立ち上げた居場所だったからな」

 

それからティーダは語り始めた。

 

「ーー両親は妹が生まれて早々事故で亡くなった。妹と生きる為に管理局に入り必死で働いた。そしてある日、ルシスに出会った。ルシスも似たような境遇ですぐに打ち解けた、優しくて強くて、度胸も根性もあって……面倒見もよかったから、妹や子ども達に好かれて皆の兄のような人だった。だがーーある孤児院でえげつない虐待騒ぎがあって……ルシスと俺は、院長を叩きのめして事件を明るみにした。そのおかげで昇格もできたが、帰る家の無くなった子ども達を放っておく事は……俺にもルシスにもできなかった。それから死に物狂いで2人で働いて、何とか生活を軌道に乗せているうちに……似たような連中の面倒を見ることになっていった……それがハンティングの始まりだ。下らない虐めや一方的な暴力、金に汚い社会、ズル賢い大人達……そんな理不尽を狩るための居場所。……それが俺達のハンティングっだったんだ。よく自分でも管理局をクビになっていなっかたのが不思議なくらいだ、ハンティングを利用するようで昇格していたが、孤児院も豊かになるから罪悪感は無かった。チームが大きくなった頃、ミッドチルダ最大のチーム、オーダーが一方的な抗争を仕掛けてきた。孤児院を守るため、俺達は何度もそれを退けたが…………ある日、ファクトが隙を突かれて人質になってしまった。ルシスと俺は2人だけであのガード下におびき出され……数倍以上の挟み撃ちに遭ったが、何とか返り討ちにすることができた。そして無事、ファクトを取り戻したと思ったその時………血迷った相手のリーダーがナイフを構えて突っ込んできた、そしてそれは……ファクトを庇ったルシスの身体に深々と突き刺さった。………今でもファクトの叫びを忘れた事はない」

 

ティーダは思い出すように頭を伏せる。

 

「…………………………」

 

「……そんなことが……」

 

「ぐすっ……」

 

「その後……俺は抜け殻のようになってハンティングを解散させた。忘れるように仕事に没頭して、一人称も口調も変えて。それから1年半……過去を全て捨て去ったつもりだった。……だが、ファクトにとっては何も終わっていなかったんだろうな」

 

「それは……」

 

「ハンティングの復活とルシスさんの敵討ちね」

 

「ああ……ルシスを死なせたのが自分だと思い込んでやがる。いつ異界に取り憑かれたのは知らないが……分部相応な力を手に入れて……周りが見えなくなっているに違いない」

 

一呼吸おいて、レンヤ達を見る。

 

「これで分かっただろう。コイツは、あくまで俺の役目だ。ルシスの代わりに、あの馬鹿野郎の目を醒させるのも……元リーダーとして、ヤクザに手を出しっちまった落とし前をつけるのも。どんな力を持っていようが、お呼びじゃねえんだよ、お前達は」

 

「……………………」

 

「でっでも……!」

 

「放ってなんか、できないよ……!」

 

「ティーダさん、アンタ、ちょっと頭が固すぎるでしょう?」

 

「なに……?」

 

「ラーグも言っていただろう。自分だけで全てを背負うなんて驕りに過ぎないって、何かをやり遂げる必要があってそれでも手に余るなら……なんで助けを求めないんだよ?」

 

「!……それは………」

 

「こっちだって、このミッドチルダでこれ以上騒動は続いて欲しくない。得体の知れないドラッグなんて万が一でも出回って欲しくないんだよ。その鍵はハンティングとファクト……ティーダさんの昔なじみが握っている。だけど、今の俺達にはそれに辿り着く道が見えていない」

 

レンヤはしっかりとティーダを見て……

 

「だから……力を貸してれ、ティーダさん。代わりに俺達がティーダさんに力を貸す。それならどうですか?」

 

「…………………………」

 

「レンヤ君……」

 

「うんうん、そうだね!」

 

「細かい事は気にするんじゃない!」

 

ティーダは少し考えて……

 

「ったく……」

 

ベットから立ち上がった。

 

「ーーハンティングが本拠地にしていた場所がある。ミッドチルダ北部、廃棄都市区画にあるビル……大規模のケンカをするなら最後の準備をしているはずだ」

 

「あ……」

 

「……そんな場所が」

 

ティーダはレンヤの前に立ち。

 

「いいだろう。お前らの力、改めて貸してもらおう」

 

ティーダは拳を出して……

 

「俺とファクトの……最後の決着に付き合ってもらうぞ」

 

「へへ……」

 

レンヤはティーダと拳を合わせた。

 

「おう、任せてくれ……!」

 

それから準備をして、地上本部の前に来た。ラーグ、ソエル、ゲンヤが見送りに来ていた。

 

「皆、無茶しないでね」

 

「頑張れよ」

 

「事後処理はこっちに任せとけ」

 

「ありがとうラーグ君、ソエルちゃん」

 

「行ってくるよ〜」

 

「ーーー兄さん!」

 

その時、後ろから女の子が来てティーダに抱きついた。

 

「兄さん!大丈夫なの!早く寝ないとーー」

 

「ティアナ、大丈夫だ。必ず無事に帰ってくる」

 

「うん……?兄さん、口調が元に戻ったの?」

 

「はは、そうだな。自分に嘘をつくのに疲れただけさ」

 

「ーーー皆さん!」

 

今度はソーマが来た。

 

「ソーマ君、どうかしたのか?」

 

「いえ、僕はティアナちゃんの付き添いで」

 

「ソーマとティアナは幼馴染なのさ」

 

「ありゃ、世間って結構狭いね」

 

「ーーーそうらしいな」

 

今度はエイジが来た。ティアナとソーマはエイジの迫力に怯えティーダの後ろに隠れる。

 

「ここにランスターの坊主が運ばれたと聞いたものでね」

 

ティーダはエイジと向き合い。

 

「ーーファクト達のことはもう少し待っていてくれ。多少、みっともない形にはなっちまいそうだが……何とか落とし前を付けてみせる」

 

「ほお……?あれから仲間も作らず、一匹狼を気取っていた小僧がひと皮剥けたじゃねえか?」

 

「ぐっ……ほっとけ」

 

「クク、いいだろう。今日一杯は待ってやる。お前なりのケジメの付け方……せいぜい見せてもらおうか」

 

「おお……!」

 

「早速出発だ〜!」

 

「兄さん、気をつけて……!」

 

「無理はするなよ」

 

レンヤは前に出て、全員に向き合い。

 

「異界対策課、チーム・ザナドゥ及びティーダ・ランスター一等空尉。これより異界に関わっているであろうハンティングのいるミッドチルダ北部、廃棄都市区画のビルに向かう。全員、気合いを入れて行くぞ!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

「お兄ちゃん達、カッコいい……!」

 

レンヤ達はハンティングを止めるべく、廃棄都市区画に向かった。

 

 



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43話

 

 

レンヤ達は廃棄都市区画の廃ビルについた。廃ビルの周りにはハンティングのマークがついたバイクと車が数台置いてあった。

 

「どうやら当たりらしいな」

 

「ああ、俺が先に向かう、お前達は後に来てくれないか?」

 

ティーダが真剣な顔で言う。

 

「分かりました、お願いします」

 

作戦は決まり、ティーダが廃ビルに入っていく。

 

そして廃ビルの中、ハンティングのメンバーとファクトが作戦の説明をしていた。

 

「ーー話しは以上だ、てめえら。幸い、オーダーの連中は今夜揃って集会をやっている……リーダー、幹部、下っ端共々、一人残らずブチ殺してやれ‼︎」

 

ファクトが狂ったように、声をあげる。そんなファクトに他のメンバーはついて行けなかった。

 

「っ……」

 

「マッマジで今日これから仕掛けるんッスか?」

 

「その、予定じゃ明日だったんじゃ……」

 

「アア……文句あんのか?」

 

「いっいえ……」

 

「でも、ヤクザも本格的に動き出したって話しですし……」

 

「さすがにやりすぎたんじゃ……」

 

「クク、ヤクザごときに今更ビビってんじゃねぇよ。HOUNDを使えばヤッパだろがハジキだろうがオモチャみてえなもんだろうが。それとも、何だ……オレの命令に逆らってあの場所に堕とされてぇか?」

 

「ひっ……」

 

「そっそんな……」

 

ファクトの脅しに、メンバーは怯える。その時……

 

「ーーどうやら本当に見失っちまったみたいだな」

 

ハンティングのメンバーはその声に聞き覚えがあった。

 

振り向いて、そこにいたのは……

 

「まっまさか……」

 

「……ティ、ティーダさんだ……!」

 

ティーダはファクトの前に立つ。

 

「オイオイオイ……なあ、あんまりダセエ真似してくれるなよ。これでもオレはアンタを尊敬してたんだ。あれだけ完膚なきまでオレに叩きのめされたくせに……まさかこれ以上、無様な真似を晒そうってんじゃねえだろうなァッ⁉︎」

 

「ーーそのまさかだ」

 

ファクトの剣幕を軽く流して言う。そしてそれを合図にレンヤ達が突入してきた。

 

「………あ?」

 

「管理局だ、悪いが助太刀させてもらうぜ」

 

「多勢に無勢、ですけど」

 

「さあて、暴れますか」

 

「覚悟はいいわね」

 

「ーー情けねえがクスリと人数のハンデはこれで埋めさせてもらう。だがファクト、お前と闘るのはあくまでオレだ。来い、相手になってやる」

 

「…………………………」

 

「なっ何だコイツら……」

 

「……ダンスクラブにいた奴のガキか……?」

 

突然のことにメンバーは困惑するが、ファクトは笑い始めた。

 

「……クク、ククク………どうやら良いお仲間を手に入れたみてぇじゃねえか……アンタもようやくハンティングを完全に捨てられたってわけだな……?」

 

ファクトはHOUNDを大量に取り出した。

 

「まさか……!」

 

「その量は……!」

 

「やめろ、ファクト‼︎」

 

「うるせえ‼︎いいだろう、だったら最初にここで地獄に送ってやるよ‼︎‼︎」

 

ファクトは大量にHOUNDを飲み込み、禍々しい赤いオーラを出した。

 

「……クククカカ………ヒャハハハハハハ‼︎」

 

禍々しい赤いオーラを出すファクトは他のメンバーに恐れられた。

 

「ひいいいいいいっ……⁉︎」

 

「ファ、ファクトさん……⁉︎」

 

「さあ、始めるとしようぜえ……‼︎何もかも、オレが狩り尽くしてやらあ……‼︎」

 

「ファクト……‼︎」

 

「まずい、このままだと!」

 

その瞬間、ファクトの後ろに赤いヒビがはしる。

 

「な、んだ、こりゃ……ッガアアアアア⁉︎」

 

ゲートが開かれる前に飲み込まれ、その後ゲートが開いた。

 

「ファクト……⁉︎」

 

「こっこれは……!」

 

「ゲートが顕現してしまった!」

 

「人を起点とした異界化……!」

 

「異界ドラッグの過剰摂取で特異点と化したか!」

 

「りっリーダーが消えちまったあああ⁉︎」

 

「うわあああああああっ‼︎」

 

ファクトが消えたことにより混乱して、ビルから逃げ出すメンバー達。

 

「皆、行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

「了解だよ!」

 

「ッ……!」

 

レンヤ達はティーダを置いて異界に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異界の中は見たことのない植物に覆われていた。

 

「この異界は……」

 

「植物?」

 

「つまりここが……」

 

「異界ドラッグHOUND、恐らく、その材料を調達していた場所でしょう」

 

「ーーなるほどな」

 

ティーダがゲートをくぐって異界に入ってきた。

 

「ティーダさん……⁉︎」

 

「ティーダさん、これ以上は異界対策課の仕事です」

 

「ゲートは見えているかもしれないけど、見えるだけじゃ意味ないのよ」

 

「状況が変わったんだよ。現実世界でファクトとやり合うならともかく、この世界で、ティーダさんの力は何の役にも立たないんだよ」

 

「それでも、頼む。…アイツは一人で足掻いてどうしようもなく歪んじまった。オレが……オレの言葉で何としても届けてやりたいんだ。ルシスの思いを、ハンティングとしての真の魂を。だから、この通りだ……!」

 

ティーダは頭を下げる、決して腰を折らず自分の意思を貫くように。

 

「……分かった、迷宮を進みながら戦い方を教えるから」

 

「私達もフォローします!」

 

「一緒に頑張ろ〜う!」

 

「期待しているわよ」

 

「……感謝する」

 

レンヤ達は迷宮に向き合い、デバイスを起動してバリアジャケットを纏う。

 

「ティーダさんのデバイスと違いますね」

 

前は銃だったが、今は片刃の剣がついて銃剣になっている。

 

「1年半前はこれだったんだよ、ようやく吹っ切れたかな」

 

「鈍ってないわよね」

 

「もちろん」

 

「さて準備が整った所で、行くぞ!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

レンヤ達は迷宮に突入した。

 

迫いくるグリードをティーダがどんどん薙ぎはらっていく。

 

「次から次へと……しつこいやつらだぜ……!」

 

「ティーダさん……前とは戦い方が別人だな」

 

「もうすでに別人よ」

 

「あはは……」

 

「すごいねえ〜」

 

グリードを退け、レンヤ達は最奥に到着する。

 

最奥は開けているが移動できる場所が限られており、真ん中に大きな穴があり底が見えない。

 

その穴から蔓が上に伸びており、ファクトが苦痛を浮かべながら捕まっていた。

 

「ウ……ガ、アアア……!」

 

「ファクト!」

 

「……ティ、ティーダさーー」

 

その時ファクトを縛る蔓が力を入れる。

 

「ーーグギアアアア"ア"……!」

 

ファクトは苦しそうに叫ぶ。

 

「植物の蔓……⁉︎」

 

「気を付けて、元凶が現れるわよ!」

 

ファクトが別人のように弱々しい目でティーダを見つめ……

 

「たっ助けて……ティーダさーーうぁぁぁああああああッッッ!」

 

言い終わる前にファクトは穴に引きずり込まれた。

 

そして地面が揺れ、巨大な植物型エルダーグリードが叫びを上げながら出てきた。

 

「デッデカッ!」

 

「植物型、まさかコイツが⁉︎」

 

「HOUNDの原料を生み出した植物型エルダーグリード、ダークデルフィニウム!」

 

ティーダは目を閉じ、ファクトの言葉を思い出す。

 

「……助けて、だと……?ファクト、てめえ……」

 

レンヤ達はファクトの言葉にティーダが怒るかと思ったら……

 

「ーー何を当たり前のことを言ってやがる、馬鹿野郎ッ‼︎」

 

ティーダの言葉に少し呆気を取られたが、すぐに笑顔になるレンヤ達。

 

ダークデルフィニウムが叫びを上げ、蔓を振り下ろしてきた。

 

レンヤ達は左右に避けるがその先に小型のグリードがおり、攻撃をしかける。

 

「うわっ⁉︎」

 

「邪魔よ!」

 

「せいっ!」

 

速攻で潰し障害を排除した。

 

小型のグリードを狙った隙に、ダークデルフィニウムがアリサ達の方を蔓で薙ぎはらった。

 

「やばっーー」

 

「させるか!」

 

ティーダが斬りあげと同時に魔力弾を撃ち、軌道を変えた。

 

「アリサ、行くぞ!」

 

「了解よ!」

 

2人がダークデルフィニウムを切り裂きながら周りを縦横無尽に駆け回り、そしてダークデルフィニウムの左右にレンヤとアリサが立ち、剣に魔力を込め振り上げる。

 

「「緋王、一文字!」」

 

一瞬で2人の立ち位置が変わる、すでに剣は振り上げており。一瞬遅れてダークデルフィニウムに2つの大きな切り跡が体にはしりそこから魔力が吹き出る。

 

「新技いくよ〜〜!」

 

《デュアルマリオネット》

 

アリシアの左右に魔法陣が展開され、2人のアリシア……合計3人のアリシアが出てきた。

 

「ええっ⁉︎アリシアちゃん⁉︎」

 

「その魔法は……!」

 

「「「そう!ネブラ=マギアを元に作った実体のある分身、いっくよー!」」」

 

《サウザンドブリッツ》

 

いつもの三倍の魔法陣がダークデルフィニウムの周りに展開され、同じく三倍の魔力弾がダークデルフィニウムに撃ち込まれる。

 

「すごいな……」

 

「ーーって、まだ来るぞ!」

 

攻撃を物ともせず、頭突きを繰り出す。

 

「当たらないーーよっ!」

 

「おらぁ!」

 

頭突きが地面にぶつかり、その隙にティーダとすずかがダークデルフィニウムの側頭部に一撃を左右からいれる。

 

ダークデルフィニウムは飛び上がり、痛みで蔦を振り回す。

 

「「「うわわわっ……!」」」

 

「ちっ、いつもより行動範囲が限られているから……」

 

「やり難いわね……!」

 

「しかも小型グリードも復活するからねっ!」

 

復活した小型グリードを、すずかが潰す。

 

アリシアも魔法が維持できなくなって分身が消える。

 

「いい加減倒れろ!」

 

ティーダが斬撃と銃撃を同時に行い、ダークデルフィニウムを攻撃する。

 

ダークデルフィニウムに顔を乗り出してきた。

 

「何……?」

 

「何か来る、離れろ!」

 

次の瞬間、ダークデルフィニウムは毒を吐き出し。下に毒の溜まりを作った。

 

「汚ったなっ……!」

 

「不愉快よ!」

 

「一気に決めよう!」

 

「動きを止めるんだ!」

 

ティーダ以外の4人がバインドでダークデルフィニウムの動きを止める。

 

「ティーダさん!」

 

「決めちゃえ!」

 

「おおっ!」

 

ティーダは接近しながら魔力弾を連射して、剣を魔力で強化して振りかぶる。

 

「喰らえ、ヘルレイド!」

 

一瞬で何度もダークデルフィニウムに切り裂き、最後に刀身を刺しいれ……

 

「さよならだ……」

 

強力な魔力弾を体内に撃ち込んだ。

 

ダークデルフィニウムは断末魔を上げて、こちら側に倒れこむ。

 

「どわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

「けほっけほっ……」

 

「最後まで迷惑な奴」

 

ダークデルフィニウムが白く光りながら消え、そこにファクトが倒れていた。

 

「ファクト……!」

 

ティーダがファクトに近寄り、上体を起き上がらせる。

 

ファクトは元の色に戻った目でティーダを見る。

 

「うっうう……ティーダ、さん……?」

 

「この、大馬鹿野郎が……」

 

「よかった……」

 

ちょうどその時、白い光りを放ち異界が収束を始めた。

 

「……異界化が収束するな」

 

「はあ、やれやれだね〜」

 

異界化が収束し、レンヤ達は元の廃ビルに戻ってきた。

 

「誰もいない……」

 

「そういえば、皆逃げて行っちゃたね」

 

「薄情な連中ね」

 

「……ハハ……なんだそりゃ……」

 

その事実にファクトは膝をつく。

 

「ファクト……」

 

「体内のドラッグも異界と一緒に消滅したみたいだね。力も、すでに無くなっているはずだよ」

 

「……ぁ……」

 

ファクトが惚ける中、アリシアが説明を続ける。

 

「さっきの怪異は恐らく、あなたの力への渇望に呼応して引き寄せられたんだろうね。そしてHOUNDという強い想念を与えることで、少しずつ現実世界を侵食していた。ハンティングは、怪異への供物として利用されてたにすぎなかった」

 

「とんでもないわね……」

 

「でも……これで一安心だよね」

 

「一安心……だと……?……ふざけんな……‼︎」

 

すずかの言葉に反応してふらつきながらも立ち上がり、ティーダに掴みかかる。

 

「アンタのせいだ!アンタのせいでオレは道を見失っちまったんだ‼︎だから、あんな妙な世界のクスリなんかに手を……‼︎」

 

ファクトは今更言い訳を口にして、ティーダを非難する。

 

「おい、やめろ……!」

 

「さすがに無理があるよ……」

 

「……………………」

 

ティーダは何もせず、聞いている。

 

「……オレは、ハンティングを守りたかっただけなんだ……クソみてえな人生の中であの毎日だけは輝いていた……!ルシスさんとアンタがいなくなっていきなりそれが無くなっちまって……せめて、アンタさえ居てくれていれ……!」

 

その瞬間、ティーダから気迫が出て……

 

「ーー甘ったれるんじゃねえ‼︎」

 

「ぐはっ⁉︎」

 

容赦なくファクトの顔面を殴り飛ばした。

 

「ティーダさん……」

 

「うわ〜……」

 

ティーダは首を横に振りながら話し始める。

 

「……違うだろ、ファクト。ハンティングは、ただ仲間同士で仲良くつるんでたワケじゃねえ。世の中の不条理や理不尽な暴力、一人一人が、それらに屈しない心を宿して真っ向から向き合う。少なくとも、ルシスと俺はそんな魂を掲げてたつもりだ」

 

「……あ……」

 

「お前も、他の皆も、そんな魂を持っていたはずだ。だからこそ仲間として、一つのチームとして成立したんだ。お前は、そんな魂をあいつらと交わし合えていたのか?手に入れた力に振り回され、恐怖で繋ぎとめてただけじゃない。そう、ルシスに胸を張れんのか?」

 

「ッ…………………オレは…………………」

 

理解したようでファクトは顔をしかめる。

 

ティーダが腰を落とし、ファクトの肩に手を置く。

 

「お前は、まだやり直せる。俺はハンティングから逃げた……だがお前は逃げずに抗った。己の誤ちを認めた上で、それでもお前が立ち上がってくれるなら。それこそが、ルシスへの何よりの弔いになるはずだ。信じている、ファクト。お前がまた魂を見せてくれると」

 

「……ティーダ、さん……」

 

ファクトは涙を浮かべ、静かに泣いた

 

それを見ていた、レンヤ達。

 

「……やれやれ、ようやくだね」

 

「そうだね、でもこれで……」

 

「一件落着、ってやつだな」

 

「ええ……悪くない結末だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃ビルの外に、レンヤ達をエイジが見ていた。

 

「……フッ。なんとかケジメを付けられたか。さぁて、どうやって落とし所に持って行くとするか」

 

「こんばんは、エイジ・ワシヅカ」

 

振り返ると、オーリス、ゼストがいた。

 

「おや、オーリス嬢……いらしてたんですか」

 

「ええ、どうしても気になってしまいまして……落とし前は付けられそうですか?」

 

「……ま、何とかしてみましょう。地上や本部の意向もあるし最低限の格好さえ付いたらオヤジも納得してくれるはずだ。それじゃあ、私はこれで。これからも色々とありそうですし、オーリス嬢もせいぜい、無理はなさらないことだ」

 

「お気遣い感謝します」

 

エイジは廃ビルから去って行った。

 

「レイヴンクロウ若頭……やはり侮れないな」

 

「ええ、でも今回は助かりました」

 

ちょうどその時、サイレンの音が聞こえきた。管理局が動き出したのだ。

 

「逃げたハンティングメンバーへのフォローをしましょう。ルッケンスの処遇も重くならないようにしなくては……」

 

「そうですな」

 

その2人を、廃ビルの上から白装束が見ていた。

 

「む………」

 

ゼストが見上げるが、何もなかった。

 

「ゼスト一尉?」

 

「……いえ、何でもありません。行きましょうか、車を出します」

 

ゼストは車に向かいながら、違和感を感じていた。

 

(レンヤ達を見ていた……?どうやら、何かが動き始めているな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後ーー

 

あの後、ファクトと逃げだしたハンティングメンバーは逮捕された。

 

異界に関与していたが、それに対する法律がなかったので罪には問われないが。

 

その他暴力事件の罪には問われたがオーリスさんの弁護もあり、更生プログラムを受けることになったそうだ。

 

だがそれだけでは終わらなかった、今回の事件で使用された異界ドラッグ。

 

原料はは異界と共に消滅したが、騒ぎを聞きつけた違法魔導師がいくつかHOUND盗み出していった。

 

当面、異界対策課はこれを回収、処分することになった。

 

当然今回の事件を機に、異界に対する法律は作成された。

 

これに伴い、学校などに異界についての危険性や対処法などのカリキュラムも組まれるそうだ。いわゆる防災訓練ってやつだ。

 

異界対策課も今回の事件解決の功績を称えられて、また評価が上がってしまった。

 

そう、してしまった……

 

「だああーー!また仕事が山のように積み上がるーーー‼︎」

 

「終わらないよ〜〜」

 

「こっちの仕事もあるのに、何でも他の書類まで寄越してくるのよ!」

 

「市民への対策、だって」

 

「対策するもの違う!」

 

嬉しくない評価の上がりようだった。

 

「そもそも学校へのカリキュラムを組むのはいいけど、結局こっちのくるのよ!」

 

「HOUNDを全部回収していないのにね」

 

「ーーやれやれ大変そうだな」

 

ティーダさんが入って来た。違法魔導師がHOUNDを所持しているため、全て回収するまでティーダさんはここの所属になった。

 

「大変なんですよ、見ての通りに……!」

 

「すまんすまん」

 

「怪我もすっかり良くなりましたね、ティアナちゃんが心配していましたよ」

 

「悪かったと思っているが、これも仕方ないことだ」

 

「それよりもティーダさんも手伝って下さい!」

 

「やれやれーー!」

 

「わーい!」

 

「黙ってろ、まんじゅう共」

 

まだまだレンヤ達はゆっくりできそうもなかった。

 

「そういえばアリシアの新技使えば楽になるんじゃないの?」

 

「あ……そうだった」

 

「わすれるな」

 

 

 



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44話

 

 

夏休み間近、聖祥中学校の期末テストも終わり翠屋でお茶を飲んでいた。

 

「ふう、全問は何とか埋まったけどあっているかな?」

 

「私は自信があるわよ」

 

「私も大丈夫だと思うよ」

 

「私はギリギリだよ〜〜」

 

「にゃあ〜〜」

 

「ううっ……」

 

「あかんわ……」

 

テストの出来はそれぞれで、気持ちもそれぞれだった。

 

「そういえば、レンヤは高校に行くの?」

 

「ああ、管理局がおかしいだけで本来は高校を出てから就職したいからな」

 

「確かにそれもそうね」

 

「いつまでも魔導師でいられる訳じゃないからね」

 

「高校に出ておいて損はないね」

 

「凄いねレン君……でも私は……」

 

「勉強苦手だし……」

 

「正直やりたくないんよ……」

 

俺はどうにか3人を高校に行かせたかった、何か案を出さないと。

 

「あっなら将来子どもができたらどうする?子どもに勉強の事を聞かれて答えられないと恥ずかしくないか?」

 

「「「⁉︎」」」

 

なんか3人に衝撃がはしったよ、背後に雷が降ったみたいに。

 

(子ども!忘れてたの、希望としてはレン君との子どもなんだけど!女の子がいいなぁ///)

 

(子ども……考えてみたら今は保護した子どもばかりだけど、いずれ自分の子どもを産むんだよね?レンヤとの赤ちゃん///)

 

(子どもかぁ……前なら考えせんかったけど、産むなら当然レンヤ君の子しかありえへんし///)

 

(((よし!勉強しよう!)))

 

今度は目が燃え始めたよ、納得したのかな?

 

因みにこれを聞いた、残りの3人は……

 

(あたしは勉強できるし、仕事との両立もできている。それにレンヤとの子どもなら///)

 

(レンヤとの子ども……勉強だけじゃなくて一緒に遊んだり、ご飯食べたり、えへへへ///)

 

(子どもを産むならレンヤ君の!でも、子ども産む前に……アっアレをするんだよね///ううっ、今度お姉ちゃんに本を貸して貰おうかなぁ……)

 

3人も何やら考え混んでしまった。

 

(これで大丈夫、なのかな?)

 

不安を禁じ得なかった。

 

しばらくしてなのは達が再起動しそれから色んな話しで盛り上がった。

 

「そういえば、ラーグ君とソエルちゃんて時空の守護獣なんだよね?」

 

「そうだぞ」

 

「でもあんまり時間の力を見ないよね。空間はよく見ているけど」

 

「そういえばレムの時間停止の影響も受けていたわよね?」

 

「時空の守護獣やのうて空間の守護獣に名前変えへん?」

 

「バカにするなぁ!俺達は時間を操作するんじゃなくて時間を移動する力を持っているんだ!」

 

「レムとは違うの!」

 

ラーグとソエルは怒り、そっぽを向く。

 

「あはは、ごめんねラーグ君、ソエルちゃん」

 

「でも時間の移動でも充分凄いよ、タイムトラベルでしょう?」

 

「一度でもいいからやってみたいよね〜」

 

「いいぞ、別に」

 

「えっいいの⁉︎」

 

「一回だけなら、ここではできないぞ。ミッドチルダに行かないと」

 

「魔力密度の高い所に行かないと、時間の移動はできないんだ」

 

「そうか……次の機会に行ってみようか」

 

「ええ〜今から行ってみたいよ」

 

「うん、興味はあるかな」

 

「あっ4名までだからな」

 

「それを今言うか⁉︎」

 

ラーグの言葉を聞き、6人は火花を散らし合う。

 

(敵対するの早っ!)

 

「レンヤは必須だから実質3人だね」

 

「そう、ジャンケンよ」

 

「望む所なの……」

 

「皆にも譲れない……」

 

「負けへんで……」

 

「勝つよ……」

 

「行ってみたい……」

 

最近こんな重い空気でしかジャンケンはできないのかな。

 

そして結果は……

 

「やったのーーーー!」

 

「当然ね」

 

「ごめんね」

 

なのは、アリサ、フェイトが勝利した。

 

残りは凄い落ち込みようだ。

 

「えっと3人共?こんど何か埋め合わせをするから元気だせ」

 

3人が起き上がる。

 

「絶対だよ!」

 

「付き合ってもらうで!」

 

「約束だからね!」

 

「おっおう」

 

とりあえず大丈夫そうだ。

 

それからすぐに行く事になり、ミッドチルダ南部、アルトセイム地方に向かった。

 

「確かフェイトちゃんの出身地なんだよね?」

 

「うん、よく覚えていないけどそうだよ」

 

「そこが魔力密度の高い場所なのね」

 

「ああ、そこからなら行けるだろ」

 

少し森の中を進む。

 

「うん、ここでいいぞ」

 

「それじゃあ行くよ、モコナ・モドキのドッキドキー!ハーフ〜〜」

 

ソエルから翼が生えて、足元に魔法陣が展開される。

 

「ドキドキするの……」

 

「大丈夫よ」

 

俺達は魔法陣に包まれていき……

 

「ハーーパック!ポーン」

 

ソエルに食べられ、魔法陣に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な空間を抜けて、周りを見渡す。

 

「森だからよくわからんな」

 

「ソエルちゃん、ここって何年くらい前なの?」

 

「10年後だよ」

 

「えっそれって未来⁉︎」

 

「改めて凄いわね、あなた達」

 

「「えっへん!」」

 

「とりあえずミッドチルダに向かおうか」

 

「そうだね」

 

俺達はミッドチルダに向かった。

 

「へえ、さすが未来ね」

 

「色々と変わっているな」

 

「凄いの……」

 

「これが、未来」

 

それから歩き回っていたが。

 

「俺達ここに来て何するんだっけ?」

 

「……………さあ?」

 

ただ来てみたく来ただけなので、予定がなかった。

 

「なら管理局を見に行くのは?」

 

「私達が働き続けているから、行けないわよ」

 

「極力知り合いとは合わないようにしないとね」

 

「うーん、ならあそこの公園に行ってみようよ!」

 

「そうだね、行ってみようか」

 

公園に行ってみた、ここはあまり変わっていないようだ。

 

「とりあえず一休みね」

 

「私、飲み物買ってくるね」

 

「あっ私も行くの」

 

「よろしくな」

 

「私も行く〜〜」

 

「俺も行くぜ」

 

なのはとフェイト、ラーグとソエルは飲み物を買いに行った。

 

「10年で紙幣も通貨も変わるわけないし、大丈夫だろう」

 

「ええ、そうね」

 

そう言い、空を見上げる。

 

「いつの時代も、空は青いな」

 

「何万年経っても空は青いわよ」

 

「それもそうか……」

 

そんな話しをしていたら……

 

(ジーーーーーーー)

 

こちらを黒い短髪で黒いワンピースを着たの4歳くらいの少女が見ていた。

 

「えっと、何かな?」

 

そう言と少女は俺達を見つめ……

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃん、パパとママにそっくり」

 

「「えっ」」

 

「私の髪はパパに、お目々はママに似ているの」

 

「そっそうなんだ……」

 

「君は一体……」

 

「ロゼはロゼ、ロゼ・B・ーー」

 

「ーーお待たせ!」

 

ちょうどなのは達が戻って来た。

 

「ごめん、自販機の場所が変わっていて……」

 

「ーーお姉ちゃん達は……」

 

「えっ、どうしたのこの子!カワイイ!」

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう、フェイト。ラーグとソエルは?」

 

「それが……」

 

その時、服の中に何かが引っ付く感じがした。

 

「お前達、何をーー」

 

(しっ!しずかにして……!)

 

(俺達があんまり人に会うわけにはいかないんだよ)

 

とりあえず納得した。

 

「あなたの名前は?」

 

「………ロゼ」

 

「ロゼちゃんかあ、一人だけ?パパとママはどうしたの?」

 

「今日はお姉ちゃんと一緒に来ている」

 

「そうなんだ……」

 

ロゼは2人の顔をよく見る。

 

「ロゼちゃん?」

 

「なんでもない」

 

「…………ロゼーーーー!」

 

遠くからロゼを呼ぶ声が聞こえた。

 

「お姉ちゃんが来たみたいだね」

 

「私達はもう行くね」

 

「じゃあな、ロゼ」

 

「うん、バイバイ」

 

レンヤはロゼと別れて、早々と公園を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロゼ!もうどこに行っていたの」

 

(わたわた)

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん、クリス」

 

「誰かと一緒だったみたいだけど、力は使っていないよね?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「そっか、パパ達が待っているから帰ろうか」

 

「うん!」

 

(ビシッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はどこに行こうか?」

 

「俺は聖王教会に行ってみたいな」

 

「面倒事に巻き込まれるわよ」

 

「なら、変装しよっか」

 

ソエルが色んな変装道具を取り出した。

 

「とりあえず髪か顔を隠せればいいわね」

 

「レンヤはこれだ」

 

それはあの時切った髪で作ったカツラだった。

 

「なんであの時取って行ったのか、ようやく分かったぞ」

 

「リボンはまだ持っているよな」

 

「もちろん」

 

それからカツラを被り久しぶりにリボンを巻いて変装した、なのはとフェイトは帽子を被り、アリサはメガネをかけた。

 

「いいのか、それだけで?」

 

「案外バレないものよ」

 

「大丈夫だよ!きっと……」

 

「自信ないのじゃん」

 

それから聖王教会につき、中を見回る。

 

「へえ、ここもそこまで変わっていないな」

 

「そうだね、今と同じなの」

 

「こうも変わらないとつまらないわね、いっそこの時代の私達をこっそり見に行かない?」

 

「だっダメだよ、そんなことしちゃいけないよ」

 

「冗談よ」

 

しばらく歩いていると、少し年上くらいのシスターが花に水やりをしていた。そのシスターがこちらに気づく。

 

「ああ!姫様方!いらっしゃってたんですか?」

 

こちらに近づき、驚いた顔をする。

 

「ありゃ、髪色と髪型が違うしそれに変身魔法も使っている。さてはまたラナ様のイタズラに付き合っているんですか?ラナ様、イタズラはほどほどにと陛下にも仰せつかっているのですよ」

 

「えっ、ええと……」

 

フェイトは何故怒られているのか理解できなかった。

 

「それにみやび様もリーリン様もロゼ様も、あまりおふざけに付き合うのもほどほどにしてくださいね!」

 

なのは、俺、アリサの順で怒られた。そんなに似ているのかなぁ?

 

「えっと、私達はこれで……」

 

「ダメです!ちゃんと元に戻ってからーー」

 

「ーーシャンテ、どこにいますか!」

 

声のする方向を向くと、シャッハがいた。やはり成長して大人びている。

 

「師匠!」

 

視線を逸らした隙に、なのはの手を引き逃げ、その後をフェイトとアリサが付いてくる。

 

「あっ!姫様達、待ちなさ〜〜い!」

 

それから何とか逃げ切ることが出来た。

 

「やっぱり面倒事になったじゃないの」

 

「そうだな」

 

「そろそろ帰る?」

 

「そうだね、ちょうどいいし」

 

アルトセイムの森に向かい、ソエルによって元に時代に戻って来た。

 

「楽しかったね!」

 

「タイムトラベルを楽しんでいいのか疑問だけど……」

 

「いいのよ、細かいことは」

 

「それもそうか」

 

俺は未来の出来事を思い出す。

 

「そういえば、あのシャンテって子は俺達を誰と間違えたんだろ?」

 

「フェイト似の子がイタズラしてたと思っていたんでしょうね」

 

「私似で、イタズラ……」

 

「だっ大丈夫だよ、フェイトちゃんじゃないんだから!」

 

地球に戻りすずか達に未来の出来事を話したりして、その後色々と雑談をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後ーー

 

俺ははやてに呼ばれ、はやての家に来ている。

 

はやてに中に入れてもらうと、シグナム達はもちろんのことなのはとフェイトがいた。

 

「家にいないと思ったらここにいたのか」

 

「うん、私もレン君に用があって」

 

テーブルを挟み、向かい側に座る。

 

「それで話しって?」

 

「それはな、私達3人をレンヤ君の従者にして欲しいんよ」

 

「…………はい?」

 

はやての言葉に思考が停止する。

 

「そうか、それがどう言う意味なのか分かっているんだな」

 

「後戻りはできないよ」

 

ラーグとソエルが話しを進める。

 

「もちろんなの」

 

「うん」

 

「よう分かったる」

 

「なのは、フェイト、はやて………分ったよ。決意は固いようだからな」

 

「ありがとう、レン君!」

 

「シグナム達もいいのか?」

 

「主が決めたこと、口出しはせん」

 

「お前にならはやてを任せられるからな」

 

「レンヤ君はきっと守ってくれるもの」

 

「期待しているぞ」

 

「主をよろしく頼むぞ」

 

「レンヤさん、頑張ってですぅ」

 

「分かりました、それと神器はどうするんだ?まだ二つ見つかっていないぞ」

 

「一つは目星がついているぞ」

 

「だから何でいつも説明をしない………」

 

「時空管理局本部にある無限書庫、あそこにあるよ」

 

「あの、気が遠くなるほど本ばっかりの場所に⁉︎」

 

「そうだよ」

 

一度ユーノに会いに行った事があるが、冗談抜きで無限に続くほど広い。そこから一つの神器が探すなんて無理。

 

「レンヤの魔力に反応するから結構すぐに見つかると思うよ」

 

「もっと早く言え」

 

悩んで損したわ。

 

「あっそうや、他にも私となのはちゃんのお願いがあるんや」

 

「今度は何だ?」

 

「私達2人を鍛えて欲しいの」

 

はやてとなのはがそんなことを頼んできた。

 

「鍛えるも何も充分2人は強いだろ」

 

「魔法やのうて体力の方や」

 

「フェイトちゃん達に比べても、あまり近接戦闘が苦手だから」

 

確かに、はやてならまだしもなのはは運動音痴だからな。

 

「分った、なら昔ソフィーさんに受けた特訓を2人にしよう!」

 

「ありがとな、レンヤ君」

 

「その前に従者契約しないのか?」

 

「「「「あ」」」」

 

そんなこともあり3人と従者契約をした。はやてとなのはとも当分特訓をすることにもなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた数日後、神器を取りに行くためユーノに許可をもらい無限書庫を捜索していた。

 

しかし位置は分かっているが想像以上に広くて昼までかかってしまった。

 

「これが光の神器か……」

 

俺が持っているのは杖。これで残りは後一つになった。

 

「全く、いつも説明しないから無駄に疲れるぞ……」

 

そう愚痴りながら歩いていると、辺りが騒がしくなってきた。

 

「何だ?」

 

人垣に近づくと、道路が封鎖されていて通れなかった。

 

何かの事件か?その時肩を叩かれ振り返ると……

 

「シグナムにリンス、何でここに?」

 

「ちょうどいい、一緒に来てくれないか?」

 

「少々面倒な事になったんだ」

 

返事も聞かず引っ張られ、ビルの屋上まで連れてかれる。

 

そこには狙撃銃型のデバイスを持った男性がいた。

 

「シグナムさん、アインスさん、どうでしたか!」

 

男性はとても焦っているようだ。

 

「ああ、彼に頼んでもらう」

 

「えっ彼にですか?」

 

「レンヤ、彼は武装隊所属のヴァイス・グランセニックだ」

 

「はあ……」

 

「それでヴァイス二士、今のあなたが狙撃したら必ず人質……妹君に当たる。それは分かっているな」

 

「…………はい」

 

男性……ヴァイスさんはリンスの言葉に落ち込む。

 

「えっと、とにかく状況を説明してもらえますか?」

 

「すまぬな、あれを見ろ」

 

シグナムが指差したのは向かいのビルの窓際、そこには少女のこめかみに銃を押し当てている男の姿があった。

 

「見ての通り犯罪者が人質をとり立てこもっているのだ」

 

「それで俺がやるのですか、その人でも大丈夫だと思んですけど。見た感じ腕前は確かですし」

 

「……自分、実は妹が人質になっている事に結構動揺してまって。情けない事に照準が上手く定められないんだ。アインス一士にも止められているんだ」

 

「それで俺ですか、でもラーグとソエルはおろかレゾナンスアークもメンテナンスに出しているから……」

 

「何⁉︎なぜこんな時に!」

 

「俺だってこんな事件に出くわすとは思っていませんよ!」

 

「将よ、あまりレンヤを責めるのではない」

 

「そんな、ラグナは……」

 

「うーん、分かりました。ぶっつけ本番でやります」

 

俺は光の神器を構える。

 

「ただの杖じゃないですか」

 

「まさか、それは……!」

 

光の神器を纏い、力を把握する。光の神器は装飾部分も白いので全体が真っ白だ。杖の形ははやてが使っているデバイスに形が近い感じがする。十字ではなくただの円だが。

 

「ぐっなんて魔力だ……!」

 

「これが神衣……!」

 

「すげえぇ……」

 

杖を掲げ、魔力を込める。

 

「閃光曲折!ネオンライン!」

 

杖からレーザーが八つ発射され、少し外側に走ってから折れ曲がり男だけを撃ち抜く。

 

「ぐあっ!」

 

「きゃあ!」

 

体を光に変え、一瞬で向かいのビルに飛び少女を受け止める。

 

「大丈夫かい?」

 

「はっはい……」

 

少女を離して、犯罪者を拘束する。

 

「影像捕縛!エメルライト!」

 

影から光の線が出てきて捕縛する。

 

それからビルを出て、局員に犯罪者を引き渡した。

 

ヴァイスさんも妹さんが無事で喜んでいた。

 

シグナムもリンスもホッとしていた。

 

ただ神衣を見られて、取材に迫られたが何とか断った。

 

異界対策課に戻ったらでアリサ達に事件の事を聞かれるし、何だか平和から程遠くなっているのは気のせいだろうか。

 

 



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45話

「はああ〜〜〜〜………」

 

テストも終わり、なのは達は意気込みも違かったのでひどい点数にはならなかったが充分ギリギリだった。次の問題としてはあの3人が宿題をちゃんとやるかだが……

 

「ふわああ〜〜〜………」

 

今はぐうたらしていたし、本当に久々の休みだ。

 

ーー〜〜♪

 

その時携帯が鳴り始めた、フェイトからだ。

 

「もしもし、フェイト」

 

「レンヤ……えっと、今は暇?」

 

「ああ、家でゆっくりしているだけだ」

 

「よかった、ちょっと相談したいことがあるんだけど今からデパートの前に来てくれないかな?」

 

「分った」

 

電話を切って、着替えた後デパートに向かう。

 

つくと既に私服姿のフェイトがいた。

 

「あっレンヤ!」

 

「お待たせフェイト、髪型変えたんだな」

 

「うっうん……」

 

フェイトは髪を下ろして腰の下辺りで黒いリボンで結んでいる。

 

「よく似合っているよ」

 

「!、ありがとう///」

 

照れているのか顔が赤くなった。デパートを進みながら目的を聞くと。

 

「服を買いに行く?それなら俺じゃなくてなのは達にでも聞けばいいだろ」

 

「ううん、私のじゃなくて保護した子に。男の子だからレンヤに相談したんだよ」

 

「なるほど、でもあまり参考になるかなぁ。いつも適当に買っているからな」

 

「そんなことないよ、今着ている服も……その、似合っているよ///」

 

普通のジーンズで上は布地の半袖にパーカーだぞ。

 

「まあ、ありがとな。それよりお金の方は大丈夫なのか?俺もそれなりに貰っているから大丈夫だと思うけど」

 

「大丈夫。お金は結構下ろしてきたし、子ども服が豊富なお店もバッチリ調べてきたし!」

 

………何だか将来過保護になるな、親バカだ。もしかしたら未来のラナって子はそんな過保護な人に育てられたんだろう、甘やかしすぎて。

 

「そっそうか……っと、ここか?」

 

そうこうしているうちにお店についた。

 

「うん、ここだよ」

 

確かに普通のお店とは違って子ども服が多いな。

 

早速フェイトが取ってきた服を見たが……

 

「これはどうかな?」

 

「ないな」

 

「レンヤ⁉︎ちょっと酷いよ⁉︎」

 

「男の子なんだろ、そんなの喜ばないぞ」

 

持ってきた服には可愛いらしい猫やうさぎが描かれた服だ。

 

「え?可愛いのに……」

 

「男の子の服に可愛さを求めるな」

 

「それじゃあこのクマとライオンにーーー」

 

「却下」

 

「これも⁉︎カッコいいよ、このライオン⁉︎」

 

「そんな迫力のないライオンはいない」

 

だが迫力があっても困る気が……

 

「他にもあるだろう」

 

「ならこの黒いので……」

 

「ただの黒一色だけは流石にない」

 

まさかここまでセンスがないとは、バリアジャケットを見れば当然か。

 

「じゃあ何がいいの?」

 

「そうだな………あれなんかどうだ?」

 

少し離れた所にある服を手にとり、見せてみる。チェック柄のシャツだ。

 

「これなら喜んでくれるんじゃないか?」

 

「うん、いいかも」

 

それから他の服も選び購入しようとした時……

 

「お客様、現在カップルイベントを実施していまして。よかったらどうですか?」

 

「いえ、大丈夫ーー」

 

「はい!お願いします!」

 

おいフェイト、俺達はカップルではないぞ。

 

それからサイズを測るが……

 

「あぅ……ぅ〜」

 

(ペアルック……ペアルック……まだ付き合っていないのに、こっこれがチャンスなのかな⁉︎)

 

フェイトが後ろを向いて顔を手で隠している、よく見ると耳が赤い。

 

「お客様?」

 

「ああ、測っても大丈夫だと思いますよ」

 

「はぁ……」

 

流石の定員も苦笑い……

 

ちなみに代金はフェイトに気付かれず既に払った。

 

「ふふ、それではこちらを着て下さい」

 

定員が出したのは、同デザインのシャツを渡してきた。

 

正気に戻ったフェイトは慌てて受け取り、その場で着替えようとしたがすぐに更衣室に投げ入れた。

 

その後写真を撮り、そのまま着て行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当初の目的も達成し、そのままデパートを回ることになった。

 

「…………/////」

 

さっきからフェイトの顔が真っ赤だ、ペアルックが恥ずかしいのは分かるが、何故着たのだ?

 

「フェイト、恥ずかしいなら俺のパーカーを着るか?」

 

「えっ!あっありがとう……」

 

フェイトはパーカーを着た、何だか嬉しそうだ。

 

「恥ずかしいならやめとけばよかったらのに」

 

「うっううん!大丈夫だよ……!」

 

そう言い、パーカーに顔を埋める。

 

(レンヤの匂いがするよ////)

 

それから色んな所を回った、はしゃいでいるフェイトを見るのは初めてだったので少し驚いた。

 

そして帰りに……

 

「あ!このぬいぐるみ可愛い!」

 

立ち寄ったお店でフェイトは猫のぬいぐるみを気に入ったようだ。

 

(結構高いな)

 

「なら、俺がプレゼントしてやるよ」

 

「ええっ!そんな、悪いよ!今日は私のワガママに付き合ちゃったんだから……」

 

「気にするな、むしろ真面目なフェイトがワガママを言えた記念だ」

 

俺はぬいぐるみを持ってレジに向かう。

 

「もぅ……意外と強引なんだから。ありがとう、レンヤ」

 

帰り道、フェイトを家まで送っている所。

 

「えへへ///」

 

包んでもらったぬいぐるみを抱きしめ、ご機嫌なフェイト。

 

「ありがとう、レンヤ!今日はすごく楽しかったよ!」

 

「そうか、フェイトも誘ってくれてありがとな」

 

「うん!」

 

その時、フェイトが周りを見て顔を青くした。

 

「レレレレレンヤ⁉︎ここは一体……⁉︎」

 

「気付いて無かったのか?ここの公園を通り抜ければすぐに着くから通っていたんだ」

 

どうやら気分が良かったせいで気が付かったようだ。

 

カアァーー、カアァーー

 

「きゃああ!」

 

カラスの鳴き声に驚き、俺に抱きつくフェイト。

 

「フェイトって怖いのダメなのか?」

 

「うっうん……」

 

フェイトが抱きつくせいで大きな胸が当たっているが、何でこう成長が早いんだ!

 

「出ないよね?オバケとか出ないよね⁉︎」

 

「出ない!出ないから!て言うかナハトヴァールだって充分怖かったろ!」

 

「あれはちゃんと触れるからだよ……」

 

怖いものが苦手ではなく、ただ幽霊とかが怖い訳か。

 

「ほら一緒に居てやるから、早く行くぞ」

 

「うん……」

 

若干涙声になりながら俺の腕で顔を隠す。

 

もう少しで抜ける時。

 

ーーガサガサ!

 

茂みから音が聞こえた。

 

「きゃあああああぁぁぁぁ!」

 

「ちょっフェイト、落ち着け」

 

ーーガサガサ!

 

「あれ、なんか近づいてくる」

 

「えぇ⁉︎」

 

音が大きくなるにつれ、フェイトの抱きつく力が強くなって……

 

ーーガサッ‼︎

 

「きゃああああああああぁぁぁぁ‼︎」

 

茂みから出てきたのは。

 

「にゃあぁ」

 

猫だった。

 

「ねっ猫ぉ〜?」

 

緊張が緩んでか、その場に座り込むフェイト。

 

猫はそのまま去って行った。

 

「はは、俺もびっくりしたかな。フェイト、立てるか?」

 

俺はフェイトに手を伸ばすが……

 

「えっと……腰………抜けちゃった」

 

「しょうがないな」

 

フェイトに背を向けてしゃがむ。

 

「ほら、早く乗れ」

 

「えっでも……」

 

「早くしろ、置いて行くぞ」

 

「うっうん」

 

俺はフェイトをおんぶするが、そこで気がついてしまった。

 

(背中に、柔らかいのが……)

 

「レンヤ、重くない?」

 

「あっああ、重くないぞ。全然重くないぞ!」

 

そのままフェイトの家の前まで送っていった。

 

「それじゃあな、フェイト」

 

「うん、今日はありがとう」

 

フェイトと別れ、少ししたらパーカーを渡したままだということに気がついた。

 

まあ、そのうち返してもらえればいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト、お帰り!」

 

「お帰りなさい、フェイト」

 

「あら、お帰りなさい」

 

アルフとリニスが出迎えてくれた。リンディさんも用事なのか家にいた。

 

「フェイト?何でレンヤにおんぶされて帰ってきたのかなぁ?」

 

「姉さん⁉︎見ていたの⁉︎」

 

「それにそのパーカーレンヤのお気に入りだよ、それに中に何着ているのかなぁ〜〜?」

 

姉さんの迫力に後ずさり、チャックを下げられる。

 

「ペ、ペアルック⁉︎いつの間に⁉︎」

 

「ちゃんと説明するから落ち着いて姉さん!」

 

誤解を解くために何と説明する。

 

「最初に何でおんぶされたのかは……その……公園で色々あって、それで腰が抜けちゃって……」

 

そう言った所で恥ずかしくなって顔を赤くしてしまう……

 

「つまりフェイトちゃんは夜の公園でレンヤ君に足腰立たなくされて、その後ペアルックに着替えたのね?若いわね〜」

 

「リンディさん⁉︎」

 

リンディさんが爆弾発言を落としてしまった。

 

「フェ〜イ〜ト〜〜」

 

「待って姉さん!誤解、誤解だから!」

 

姉さんのバインドに捕まって引きずられていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー、って何の騒ぎ?」

 

「プップレシア……フェイトが……」

 

「リンディ、あまりフェイトを困らせないで下さい」

 

「ふふっごめんなさい、ね〜ユノ♪」

 

「あ〜〜」

 

リンディは抱きかかえた赤ん坊にそう言うのであった。

 



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46話

 

 

次の日、今度ははやてとミッドチルダで待ち合わせをしていた。何でもシグナム達にプレゼントをあげたいらしい。

 

「お待たせや、!レンヤ君!」

 

はやてが軽やかな足取りでやって来た。

 

「大丈夫だ、5分くらい前にちょうど来たとこだから」

 

「そか、ほな行こうか」

 

デパートに入りながら、目的を聞く。

 

「それでシグナム達にプレゼントだっけ、こんな時期にか?」

 

「日頃のお礼と言う意味や」

 

「なるほど、それで誰から決める?」

 

「まずはヴィータからや、新しいゲートボールクラブが欲しい言うてたからな」

 

「ゲートボールクラブって、結構値段が高いぞ」

 

「大丈夫や、この前昇格したし結構な給料を貰ってるんよ」

 

「確か、二尉だっけ。エリート道まっしぐらだな」

 

「そう言うレンヤ君こそ一個下の三尉やんか、私より早いよ」

 

そんな話をしているとゲートボールクラブが売っている店に着く。

 

「どれがええやろうか?」

 

「軽くて丈夫なのがいいじゃないか?」

 

俺は手頃なものをとる。

 

「これなんかどうだ、高いけど」

 

「かまへん、レンヤ君が言うならこれで決定や。次はシグナムや」

 

ゲートボールクラブを購入して、それからどんどん選んでいった。

 

「シグナムは最近おしゃれしていてな、だからアクセサリーをプレゼントしたいんよ」

 

「なら剣を握るのに邪魔にならないペンダントがいいな」

 

「シャマルは帽子がええな」

 

「ベレー帽なら似合うだろう」

 

「ザフィーラはちょっと分かれへんな」

 

「それならこのアンクレットがいいだろう、犬でも人でもつけられる」

 

「リインとリンスは料理を覚えたいから、包丁がええな」

 

「一緒にまな板も買おうか」

 

全員のプレゼントを買い結構な荷物になってしまった。

 

「レンヤ君、私も少し持つんよ」

 

「大丈夫だ、それよりもどこか休める所はないか?」

 

「やっぱり疲れとるやんか、あっちにフードコートがあるんよ行こか」

 

テーブルに座り、一息つく。

 

「私、ちょうどお昼やし何か買ってくるな。レンヤ君は何がええんや?」

 

「それじゃあ……カレーで」

 

「了解や」

 

少し待って、はやてがカレーとスパゲティ持ってきた。

 

「ありがとうはやて、あっそう言えばお金……」

 

「ええよ、一緒に付き合ってくれたお礼や。ありがたく受けっとときい」

 

「………分かったよ」

 

昼食を取りながら、話しをする。

 

「レンヤ君は最近どうや?やっぱり異界で忙しいんか?」

 

「まあな、異界ドラッグは全部処分したけど、ティーダさんがいなくなってからまた市民からの依頼で大忙しだ。アリサが訓練校で異界についての講義や指導をしていて、そのうち後輩もできるかもしれないな。とは言え、入隊希望者が未だに0だけど」

 

「やっぱり危険が伴うからなぁ」

 

「最近は大きな事件がないから他の地上部隊と一緒させてもらっているのが多いな。今は救助隊のお世話になっている」

 

「そうなんや、こっちはそんな変わってないんやけどなぁ」

 

「俺達が特殊なだけだ」

 

「確かになぁ、皆どんどん変わっていくんよ。特にクロノ君、一気に身長伸びてるしなぁ」

 

「遅れての成長期だろ、むしろ俺はリンディさんとクライドさんの赤ん坊が出来てた方が驚きだ」

 

今年、リンディさんが女の子を出産した。名前はルナ、リンディさん似の可愛らしい子だ。

 

「そうやな、あれは1番驚いたなぁ。あっそうだ!レンヤ君、未来に行った時の話ししてくれへん!」

 

「何だよいきなり」

 

「もう一回聞きたいんや、お願い!」

 

「分かったよ、食べ終わってからな」

 

「おおきに、レンヤ君!」

 

それからしばらく雑談をして、また少し周った後帰ることになった。

 

「あっはやて、少し待ってくれ」

 

「?、何か買い忘れたんか?」

 

「ちょっとな……」

 

俺はアクセサリーショップで買い物を済ませて、はやての所に戻る。

 

「お待た………せ?」

 

同じ場所に戻ってきたが、荷物は置いてあってはやてがいなかった。

 

「手洗いかな?」

 

そう思いベンチに座ると、隣の人の話し声が聞こえてきた。

 

「おいどうだった?」

 

「ああ、問題なく成功した。これで復讐ができるぞ」

 

「あの憎っくき闇の書の主め!」

 

それを聞いた瞬間、デバイスを起動させ飛び上がり、男2人の頭を思いっきり踏みつけた。

 

「「ぎゃああ!」」

 

俺は無言で銃を押し付ける。

 

「さっさとはやての居場所を吐け。頭ぶち抜くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くっ、しもうた。まさか今こんな事になるなんて!

 

レンヤ君が少し離れている間に後ろから拘束され、身動きが取れへん。

 

「何でこんな真似をするんや!」

 

「それはお前が1番よく知っていることだろう」

 

「ようやく復讐できるぞ、闇の書の主よ」

 

「犯罪者のお前がなぜエリートなんて呼ばれているんだ」

 

「死んで罪を償え」

 

管理局員の憎しみのこもった声が頭に響く。分かっていたが、こうも目の当たりにすれば罪の重さが改めて理解させられる。

 

(これが私への罰なんかな?何やっても許されへんのかな?)

 

管理局員達はデバイスを構えて魔力を収束させる。殺傷設定の砲撃魔法だ。

 

(でも!こんな所で死ぬ訳にはいかへん!まだやる事もある!シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン、リンス、それになのはちゃん達、それにレンヤ君にもまだ恩返しが返しておらのんや!だからまだ生きないと、生きてレンヤ君達と生きるために!)

 

バインドを抜けようと必死にもがくが、先に砲撃が発射される。

 

「死ねぇ!」

 

目の前に迫ってくる砲撃に思わず目を瞑る。

 

その瞬間、影が目の前に現れ……

 

《スピニングシールド》

 

砲撃を分散させて防いだのはもちろん……

 

「レンヤ君!」

 

「ごめんはやて、怖い思いをさせちゃって。もう大丈夫だから」

 

レンヤ君はバインドを壊して、頭を撫でながらそういう。

 

いつも優しく、辛いときには励まし一緒にいてくれる大切な人。

 

(ああ、そんなレンヤ君だから。私は好きになったんや///)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男2人からはやての居場所を聞き出し、駆けつけた管理局員に突き出してからすぐに向かった。

 

「俺が離れていなければ……」

 

《マジェスティー……》

 

悔いている暇があったらと、頭を振り足を動かす。

 

はやてがいる廃工場につき、見張りを潰すて入ると魔力の高鳴りを感じる。

 

「まずい!レゾナンスアーク!」

 

《スプリットモード》

 

形態を移行しながら走り抜け、はやてを見つけた時には砲撃が発射されていた。

 

「間に合えっ!」

 

《スピニングシールド》

 

砲撃とはやての間に立ち、砲撃を分散して防いだ。

 

「レンヤ君!」

 

「ごめんはやて、怖い思いをさせちゃって。もう大丈夫だから」

 

バインドを壊し、詫びと安心の意味ではやての頭を撫でる。

 

はやては顔を赤くして、俺は犯人を睨む。

 

「はやてを攫った理由は大体分かるがこれは立派な犯罪だ、管理局員としてあなた達を逮捕します」

 

「ふざけるな!犯罪者はそいつだ!」

 

「はやては償うために管理局にいるんだ、それは分かっているはずだが」

 

「ああ分かっているさ、だがそいつがエリートともてはやされているのが我慢ならんのだ!」

 

「話しにならないな」

 

俺は聖王モードになり、怒りを爆発させる。

 

「なっ何⁉︎」

 

「すこぶる機嫌が悪い。とりあえず、寝てろ」

 

一瞬で斬り伏せ、拘束する。

 

「たっく、面倒な真似を」

 

「レンヤ君、おおきにな」

 

「ごめんはやて!こんな事になるとは思わなくて……」

 

「大丈夫や気にせんでええよ」

 

「ありがとう、それとはやて」

 

「なんや?」

 

俺ははやてを抱きしめた。

 

「レッレンヤ君⁉︎」

 

「はやて、お前は幸せになってもいいんだ」

 

「あっ……」

 

「温泉の時にも言ったが、俺は幸せを守りたいんだ。だからはやても幸せになってくれ、俺が幸せごと守ってやるから」

 

感極まったのか、涙を浮かべ抱きつくはやて。

 

「うん……ありがとう………レンヤ君………」

 

抱きつくはやてを撫でてやり、落ち着いた所でちょうどシグナム達が到着した。

 

「主を守ってくれた事、礼を言う」

 

「いいよそんなの、むしろ俺が離れなければこんな事にはならなかった」

 

「おめえのせいじゃねえぞ」

 

「そうよ、あまり自分を責めないで」

 

「レンヤは主を守ってくれた、それで充分だ」

 

「感謝する、聖王よ」

 

「ありがとうです!レンヤさん!」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

それから連中を逮捕して地球に帰った後、シグナム達にプレゼントをあげた。皆、本当に嬉しそうで良かった。

 

「ほんまおおきになレンヤ君、今日は色々とお世話になりっぱなしで」

 

「いいさ、俺は大丈夫だから」

 

「それでもや、それじゃあまたねレンヤ君」

 

「ああ、その前に……」

 

俺はプレゼントの箱をはやてに渡した。

 

「これは……!」

 

「俺からはやてへのプレゼント」

 

「そんな!受け取れへんよ!」

 

「これは日頃の感謝の気持ちだ、それにはやてが幸せにって思って欲しいからね」

 

はやては顔を赤くして、プレゼントを受け取った。

 

「それじゃあまたな、はやて!」

 

俺は家に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は自分の部屋に行き、レンヤ君からもらったプレゼントを開けた。

 

「これは……綺麗なヘヤピンやな」

 

同じ形で色は黒、灰色、白に分かれた三本のヘヤピンがあった。

 

「日常で使うのは勿体無いし……せや!デバイスに組み込めばええんや!」

 

早速デバイスにヘヤピンのデータを組み込む。これでバリアジャケットと一緒にこのヘヤピンを展開できる。本物のヘヤピンは大切に保管して。

 

「これを付けるんは特別な日やな……今日みたいなデッデートとかに///」

 

レンヤ君はただのお買い物と思っているんやけど、私に……女の子にとって充分デートや。アカン、考えたら顔が熱うなって来た……

 

「そんな、レンヤ君とそんなことまで///」

 

レンヤ君の事を思い出し、思考の渦に飲み込まれる。

 

リンスが呼びに来くるまで妄想は止まる事はなかった……

 

 

 



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47話

 

夏休みの宿題をやっている時……

 

「レン君、今大丈夫?」

 

「ああ、いいぞ」

 

なのはが部屋に入って来た。

 

「宿題か?」

 

「うん、国語が分からなくて」

 

「なら俺も国語を終わらせるかな」

 

それからなのはと国語の宿題をやった。

 

「レン君、ここはどうやるの?」

 

「ここは、こうして……こうだ」

 

「あっ分かったの、こっちも同じで……」

 

しばらくして、国語の宿題を終わらせた。

 

「やった!終わったの!」

 

「やっぱりなのはも容量を考えれば頭はいいんだ、この調子で行こう」

 

「うん!そうだレン君この後暇がある?」

 

「問題ないが、何をするんだ」

 

「ケーキバイキングの割引券が今日までなの、だから……一緒に行ってくれないかな?」

 

「ケーキバイキング?俺よりフェイト達を誘えばいいじゃないか、その方がいいだろうし」

 

「その……これ男女ペアだけなの……」

 

それで俺を誘うのか、ここ最近シュークリームもカステラも食べてないしいいか。

 

「分かった、今から行くのか?」

 

「うん!すぐに支度するね!」

 

なのはは勢いよく部屋を飛び出し、自分の部屋に向かった。

 

手早く着替えを済ませて、家の前でなのはを待つ。

 

「お待たせなの〜〜」

 

なのははいつもの着ている服で来たが、あれは小学生の時から来ているのでやはり似合わない。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「ああ、その前に寄りたい所があるんだがいいか?」

 

「うん、いいよ」

 

なのはと街に向かい、ケーキバイキングのある店の途中にある服屋に入った。

 

「レン君、お洋服を買うの?」

 

「いや、なのはの服を買いに来たんだ」

 

「ええ!どうして⁉︎」

 

「その服は気に入っていると思うけど、サイズが小さいしなのは自身成長したから似合っていないぞ」

 

「ううっ………」

 

それから店員と相談しながら、なのはに似合う服を見繕った。

 

「どっどうかな?」

 

「うん、似合っているぞ」

 

「あっありがとう///」

 

確かに似合っているが、どこか違和感を感じる。

 

代金を払い違和感が分からないまま、ケーキバイキングのあるお店に向かう。

 

「わぁ〜どれも美味しそうなの〜」

 

ショーケースを埋め尽くす限りの豊富にあるケーキ、さすが女の子なのか早速はしゃいでいた。

 

「これだけのケーキを見るのは初めてだな」

 

「レン君〜〜!早くしないとなくなっちゃうよ〜〜!」

 

「そんな訳ないだろ」

 

ケーキを皿に乗せてテーブルに座る。なのはの皿の上には結構な量のケーキがある。

 

「そんなに食べて大丈夫なのか?」

 

「うん、甘い物は別腹って言うでしょう?」

 

「そう言う物か?」

 

よくわからん、そう思いながらショコラケーキを口にする。

 

「美味しいな」

 

「にゃ〜〜美味しいの〜♪」

 

なのはもケーキを食べて頬を緩ませている。

 

「あっ、レン君のもちょうだい」

 

「取りに行けばいいだろう」

 

「全部食べたいけどそれは無理だから、一口だけでも味わいたいの」

 

「まあいいけど、ほれあーん」

 

ショコラケーキを一口分フォークに刺して、なのはに差し出す。よくやっているので別段恥ずかしくない。

 

「あ〜ん……甘〜い♪ほらレン君も」

 

「俺は別に……ムグッ!」

 

言い終わる前にフォークを口に入れられた。

 

「ゴックン!こら、無理やり食べさせるな」

 

「でも美味しいでしょう?」

 

「そうだがちゃんと許可をもらえ」

 

「うん!だから、はいあ〜ん」

 

なのはがチーズケーキを刺したフォークを差し出す。

 

「しょうがないな、あーん」

 

「美味しい……?」

 

「美味しいよ」

 

それから何度か食べさせあいをしていた。

 

ふと視線を感じて周りを見ると、女性の人達がこちらをチラチラと見ていた。て言うか男俺だけじゃん、そりゃ目立つよな。

 

疑問に思いながらも、なのはの方を見ると差し出したフォークを咥えたまま顔を真っ赤にしている。

 

「なのは、どうかしたか?」

 

「なっなんでもないの!」

 

勢いよく首を横に振り否定するも顔が赤いままだ。

 

(そうだよ、普通男女があ〜ん何てし合わないの!何時ものようにしちゃっていたけど、これって周りから見れば………カッカップルってことだよね⁉︎)

 

何だか顔を手で押さえているんだけど、まあそのうち元に戻るだろう。

 

そう思いケーキを食べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのは、あんなに食べて大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

ケーキバイキングを出たあと運動がてら散歩をしている。

 

元に戻った後、なのははそれなりの量を食べた。

 

「将来が大変な事になるぞ?」

 

「うぅ……でも仕事で体をいっぱい動かすからね、それで落とすの!」

 

落とすんだったら最初から大量にとるな。

 

少しして、街が一望できる高台に来た。

 

「こうしてみると、昔より変わった感じがするの」

 

「街が変わるのもそうだが、俺達の視線が上がったからだろう」

 

「ふふ、そうだね」

 

初めて会った時からの月日を感じる。

 

「それじゃあ、帰ろっか」

 

「あっそうだ、なのは」

 

レンヤはなのはの後ろに立つ。

 

「レン君?」

 

「ちょっと動かないで」

 

なのはリボンを解き、髪を纏め、リボンで結んだ。

 

「うん………やっぱりコッチの方が似合うな」

 

「え……?」

 

なのはは手鏡を取り出し、自分を見る。今のなのはの髪型はサイドポニー、片側に髪を纏めて結んでいる。

 

「服は似合っていたけど、違和感があったからな。こうすれば雰囲気も変わるし違和感もない」

 

「……何だか、私じゃないみたい」

 

なのはは驚いた顔から一転して笑顔になる。

 

「レン君、ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

その時、なのははレンヤが持っているリボンを見た。さっきまで結んでいたリボンが2つある、リボンを顔まで持っていくと……レンヤのリボンだった。

 

「レッレン君!このリボンは……!」

 

「いいだ、なのはが貰ってくれ。もう1つあるし、なのはだから譲る事ができるんだ」

 

「レン君……なら私もそのリボンをあげるの!」

 

「あはは、あの時のなのはとフェイトみたいだな」

 

「あ、そうだね!」

 

それから家に帰り、桃子達がなのはの髪型を変わった事に驚き、似合っていると褒めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったな〜〜」

 

レン君を誘うために前から持っていたケーキバイキングの割引券、いざ使おうとしても迷って最終日の今日まで来てしまったが……何とか誘えたの。

 

私は鏡の前に立ち、自分の姿を見る。

 

「服も髪型もレン君が決めてもらって、本当に良かったの♪」

 

鏡の前でクルクル回り、何度も自分の姿を見る。

 

「〜〜〜♪………はっ!」

 

そこで気がついてしまった。

 

(レン君に決めてもらった……コーディネートされちゃった……と言う事は、この格好ってレン君の好みの格好⁉︎レン君色に染められているの⁉︎……にゃあぁ〜〜〜///)

 

事実そうかもしれない、レン君がそう言う事を考えていない事は分かっている。無自覚で選んでこそのレン君の好みなの。

 

「それに……」

 

優しく髪を結んであるリボンに触れる。

 

(レン君の匂いがするよ〜〜それにレン君に守られている感じもするよ///)

 

そう思ったら顔が熱くなる、思考が止まらなくなるよ〜。

 

《マスター》

 

「はっ!ご、ごめんねレイジングハート……!」

 

《いえ、それよりお母様が見ていらっしゃいます》

 

「へ……?」

 

ゆっくりドアの方を見ると、少し開いた隙間にお母さんがいた。

 

「お、おっお母さん!何時からそこに……⁉︎」

 

「うーん、なのはがクルクル回った所かしら?」

 

ほぼ最初から……!

 

「ふふ、レンヤと同じで髪型が変わったら一気に美人になったわね〜。でもまだダメよ、これから先化粧を覚えないとすぐに負けるわよ」

 

「!、お母さん、お化粧の仕方教えて!」

 

レン君に意識してもらうために、頑張るの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だか騒がしいな」

 

「まあまあ、女の子は何時も忙しいんだよ」

 

「そうなのか」

 

「ほら余所見するな、フォースだぜ!」

 

「あっズル!ならボルトだ!」

 

 

 



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48話

 

 

今日はすずかと待ち合わせしている、場所は海鳴臨海公園にある時計台だ。

 

「あれ、すずか。もう来てたのか?」

 

10分前に着いたはずだが、すでにすずかが先にいた。

 

「大丈夫だよレンヤ君、今来たところだから」

 

「………本当に?」

 

「ほっ本当だよ……」

 

俺がすずかを見つけた時やたら時計を気にしていたんだけど。

 

「すずか」

 

「うっ……30分前です」

 

「全く、早く来すぎだ」

 

「でも、待ちきれなかったんだもん」

 

すずかは子どもみたいに言う。

 

「はは、むしろそんなすずかが見られてラッキーだな」

 

「ううっ、言わないでよ〜!」

 

「あはは、それじゃあ行こうか」

 

どうやらリムジンで来たらしく、結構周りから注目されているし視線がうっとうしい。

 

「うん、そうだね!レンヤ君乗って?」

 

「分かった」

 

俺とすずかはリムジンに乗り込み出発する。

 

「そういえば今日はどこに行きんだ?」

 

「動物園だよ」

 

「動物園?そういえばすずか動物が好きだったな」

 

「うん!」

 

それから隣町にある動物園に着き、券を購入して園内入った。

 

「レンヤ君!まずはこっちだよ!」

 

「ちょっとすずか!引っ張るな!」

 

好きな事に夢中になると、何時ものすずかとは考えられないほど強引になるな。

 

「わぁ〜〜!見て見て、レンヤ君!ライオン、ライオンだよ!可愛い!」

 

「分かったから落ち着け」

 

すずかはライオンに釘付けだ、って言うかライオンが可愛いって……そりゃネコ科だけど。

 

「あっ!あっちにはトラが居るよ!行こう、レンヤ君!」

 

「うわぁ!」

 

すずかに引っ張られる。何気に力強いな。

 

「トラも可愛いなぁ〜〜…触れないかな?」

 

「さらっとビックリする事を言うな。流石に無理だろう」

 

「そうだよね……残念だなぁ。あ!」

 

すずかが何かに気がつく。つられて見ると……

 

「期間限定、赤ちゃんとの触れ合いコーナー?」

 

ポスターにそんな事が載っていた、園内にいる動物達に触れ合いるらしい、何ともグットタイミングな事だ。

 

「まあいいか、すずか……って居ない⁉︎」

 

忽然と姿を消したすずか、あの真面目なすずかが一言も言わずに先に行くとは……

 

「猫好き……おっそろしいな」

 

すずかが行った場所は見当がつく、ポスターの載っている場所を確認して向かう。

 

駆け足で向かう途中、人だかりを見つけて見てみるとすずかがいた。近くに見るからに野蛮そうな男2人も一緒に。

 

「ダンスクラブの時もそうだが、悪い男が寄り付きやすいな」

 

男の1人がすずかを掴もうとすると、人だかりを飛び越えすずかと男の間に着地して、男の腕を掴む。

 

「なっ⁉︎」

 

「彼女に手を出さないで下さい」

 

「レンヤ君!」

 

男の腕を離す。

 

「全くすずか、楽しみなのは分かるがもっと周りを見ろ」

 

「ごっごめん……」

 

その時男2人が近づく。

 

「ああん!何だテメエは!」

 

「そっちのお嬢ちゃんとは俺達が遊ぶんだぜぇ!とっととどっか行け!」

 

「彼女は俺の友達です、あなたみたいな野蛮な方に任せられません」

 

敬語で言うが罵倒もしておく。

 

「ガキィ!舐めてんじゃねえよ!」

 

男はキレて、殴りかかってきた。

 

「レンヤ君!」

 

すずかが心配するも、余裕で受け止め力を入れる。

 

「あいたたたたた!」

 

「さっさとお帰り下さい」

 

「クソガキがぁ!」

 

もう1人の男がナイフを取り出してきた。周りも騒がしくなっていく。

 

「やめた方がいいですよ」

 

「うるせい!」

 

男がナイフを振り上げてきた。

 

「はぁ……」

 

掴んでいた手を離し、振り下ろされた腕を掴み男を組み伏せる。

 

「ぐはっ!」

 

「現行犯です、大人しくにお縄についてもらいます」

 

「ヤロウ!」

 

さっきの男が殴りかかってきた。

 

「はっ!」

 

「ぎゃぁ!」

 

組み伏せたまま腕で逆さで立ち上がり、蹴りを入れた。

 

ちょうどその時警備員がきて、男2人を連れて行った。

 

少し事情徴収されて終わった。

 

「ふう、さてすずか。反省したか?」

 

「……うん、ごめんねレンヤ君……」

 

ちゃんと反省しているようだ。

 

「よろしい、ほら行こうか」

 

すずかの手を取る。

 

「っ‼︎」

 

「これならはぐれないだろう」

 

「レッレンヤ君⁉︎」

 

「ほら、行こうか」

 

「うっうん……!」

 

(こっこれって恋人握り⁉︎はっ恥ずかしいよ〜〜///)

 

頷くすずか。この時は大人しくなっていたが、触れ合いコーナーのライオンの赤ちゃんを見ると……

 

「わぁ〜〜可愛い〜〜♪」

 

元のテンションに戻ってしまった。他の動物に目もくれずライオンの赤ちゃんにまっしぐらだ。

 

「レンヤ君!レンヤ君!見て見て、可愛いよ!」

 

「はいはい、分かったから」

 

うさぎの赤ちゃんを抱きながら答える。

 

「可愛いな〜持って帰っちゃダメかな〜〜」

 

「やめなさい」

 

すずかの顔が今まで見た事ない程緩みきっている、至福の時って感じだな。

 

俺もうさぎを愛でる、耳が長いだけでもこうも違うのか。

 

それからすずかのライオンへのもふもふ行為はしばらく続いた。

 

その時、ライオンの赤ちゃんが暴れ出した。

 

「あっ!落ち着いて!」

 

「わわわっ!」

 

「すずか!」

 

ライオンの赤ちゃんがすずかの手から飛び出て俺に向かって飛んできた。

 

「へぶっ!」

 

「きゃあ!」

 

頭を踏み飛び越えるライオンの赤ちゃん、そこにすずかが倒れこんできた。

 

チュッーーー

 

「⁉︎」

 

「てって……すずか、大丈夫か?」

 

うさぎを真上に抱えたまますずかの無事を確認する。頬に何か当たったが、特何もなかった。

 

「だだだ大丈夫だよ!///」

 

にしては顔を真っ赤にして慌てているが。

 

うさぎを前に持ってきて確認すると、ヒクヒクと鼻を動かしていた。無事なようだ。

 

その後、他の動物ーー主にネコ科ーーを見て回った後にお土産屋に向かった。

 

「あ!この子可愛い!」

 

早速ライオンのぬいぐるみを手に取る。

 

「いいんじゃないか?」

 

「うん!じゃあ買ってくるね」

 

「ああ、俺が出すよ」

 

「ええっ!悪いよそんな」

 

「一緒に来た記念だ、ありがたく受け取っておけ」

 

「あっ、もう強引なんだから。……ありがとう、レンヤ君」

 

それから、動物園を出てリムジンに乗ろうとした時……

 

「ん?何だ……」

 

変な気配を感じて周りを見ると、動物園の看板の上に何かいた。

 

「ーーーみししっ♪」

 

影は動物園の中に消えていった。

 

「レンヤ君、どうかしたの?」

 

「いや……何でもない」

 

リムジンに乗り込み、家まで送って貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

レンヤ君を送ってから家に帰って部屋で今日の事を思い出す。

 

色々と迷惑をかけちゃったけど、特にレンヤ君に…………きききキスをしてしまった事で。

 

「ど、どうしよう」

 

無意識に口に手を伸ばし、唇をなぞる。

 

「あうううう…………」

 

恥ずかしいすぎて顔から火が出ちゃいそうだよ。

 

「でも…………」

 

恥ずかしさより頬でもキスができた事に嬉しく思う自分がいる。

 

「あううううう………」

 

また恥ずかしい気持ちが出てきた、それを延々と繰り返していた……

 

「ーーーーーふうぅ」

 

「ひゃああああああああ!」

 

耳に息を吹きかけられ、悲鳴をあげながら振り返ると。

 

「あはははは!今日はお楽しみだった感じかな〜?」

 

「おっお姉ちゃん!一体何時からそこに⁉︎」

 

お姉ちゃんはイタズラ成功した顔をしていて、悪い顔しながらニヤつく。

 

「ん〜〜どうしようって言った時かな」

 

「ほぼ最初っからだよね⁉︎」

 

「それにしてもキスね〜〜、乙女の顔をして唇をなぞって。このこの〜〜」

 

改めて聞かされると思い出してしまい顔が一気に赤くなっていく。

 

「ふっふっふ、そのまま口にいちゃえばよかったのに〜〜♪」

 

「お姉ちゃん!」

 

その後、ノエルが呼びに来るまで私はお姉ちゃんに弄られ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻って動物園ーー

 

「みっしぃ、どこに行っていたのですか」

 

「みししっ♪」

 

水色の髪をした少女が不思議生物に話しかけていた。

 

「ドクターの依頼も完了しました。行きましょう……クローネ」

 

ピィーーー

 

一匹の隼が少女の肩に止まり、少女は左腕に付いている装置にカードを挿し入れた。

 

《Ability Card、Set》

 

デバイスとは違う機会音声が聞こえ、魔法陣が足元に展開され転移して行った。

 

 

 



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49話

「さて、この辺りのはずだが……」

 

「もう少し奥じゃないの?」

 

俺とアリサは本部の要請により、この無人世界にある違法研究所に向かっている。 そこの潜入捜査をし、犯罪者やその関係者を逮捕するためだ。

 

なぜ本部の要請を地上で受けなければならない、とレジアス中将も怒っていたがオーリスさんとゼストさんが抑えてくれた。

 

実際なぜ俺達が受ける事になったのは、俺達より自由に動ける部隊がないからだ。異界対策課は異界限定の独立部隊だったが、これまでの実績によりさらに自由に動けるようになったのだ。いや、やっぱりなってしまったの方が正確だ。無駄にまた働かせているのだから。

 

それにこの前全員、魔導師ランクS取得をさせられた。何だか上がり過ぎなきがするし、俺にはSSランク取得の誘いも来ていた。面倒だからやらないけど、勝手に取られそうで怖い。

 

飛行魔法を使うと魔力と目視で気付かれるから、地上で向かっている途中……

 

「アリサは最近どうだ? 新しく異界対策課に入れられそうな人材は見つかったか?」

 

「全くよ。 でも講義に受けくる訓練生もいるから、そのうち出てくるかもね」

 

「だといいんだが……そうだ! そのうち異界探索ツアーをやるのはどうだ! 異界を実際に見たら何か変わるかも!」

 

「そうね……確かに脅威度の低い異界ならできそうだけど。 やっぱり人手が足りないと連れて行ける人数にも限界があるし……」

 

「それも……そうか」

 

話しながら足を止めずに進む、それだけの余裕と体力はあった。しばらくして……

 

「どうやらアレのようだな」

 

「ええ、そうね」

 

森の中に隠れるように例の研究所を見つけた。

 

「思ったより小さいのね」

 

「地下に伸びているんだろう、似たような物も見たし」

 

「そう、見張りもいないし監視カメラを設置しているわね。どうやって侵入する?」

 

「もちろん下から」

 

俺は地の神器を取り出し、纏う。

 

「ハクディム=ユーバ!」

 

出てきたアームを指を出し地面に刺し、魔法陣を展開して穴を開ける。

 

「行こうか」

 

「ええ」

 

穴を通り抜け、研究所の真下の手前に来て壁の向こうを確認する。

 

「空き部屋のようだな、行くぞ」

 

壁を静かに壊し、中に入る。穴は適当な物を立てて壁を作り塞ぐ。

 

「ここからどうするの?」

 

「そうだな………」

 

その時、扉の向こうから話し声が聞こえた。

 

「アリサ、上だ」

 

「分かったわ」

 

俺達は静かに天井の隅に張り付き隠れる、そしてすぐに入ってきた。男2人だ。

 

「おい、ここにあるのか?」

 

「ここに忘れてきたんだよ」

 

2人は奥に入り、本棚から何かを探している。

 

「……………………」

 

俺は静かに降りて、アームを伸ばし……

 

「ぐっ⁉︎」

 

「むぐっ⁉︎」

 

人差し指で口を塞ぎ、残りの指で掴みそのまま苦悶の声を隠しながら気絶させる。

 

「よし結果オーライだ」

 

「服を拝借しましょう、すぐにバレると思うけど無いよりましでしょう」

 

しかし、このままではサイズが合わなくてダボダボになってしまう。 それを解決する為に……以前使った変身魔法で大人になる事で解決した。 そして男達から服を脱がし、拘束して穴の中に入れる。脱がすと言っても白衣だけだが。

 

「…………? 何よ?」

 

「い、いや……なんでもない……」

 

「? それにしても……なんか臭うわね、この白衣……」

 

いつも白衣を着ているすずかで見慣れている筈だが、アリサが着ると新鮮に感じて少し見惚れてしまった。

 

「行きましょう」

 

「了解だ、とその前に……」

 

男がいた本棚をあさると……1つの記録端末が出てきた。

 

「何かの手がかりになるな」

 

その端末をしまい、怪しまれぬよう……あまり周りを見回さず部屋を出て廊下を歩いていく。 普通の女の子なら身体が強張って動けなくなる事が多いが、流石はアリサであって堂々としている。

 

誰にも会わず進んでいくと……突き当たりに端末室があり、俺達はそこに入った。 中にはそれなりに人がいるが全員端末を見ているのでバレることはなかった。

 

研究員が少ない場所を選び、端末を起動させパスワードはすずか特製のハッキングシステムによって解除した。 表示された情報を見ながら証拠としてデータを集める。

 

「これは……」

 

「なるほどね……」

 

ここは人体実験や合成魔獣の類の研究所ではなく、とある場所で発見されたデバイスをサンプルとして様々な実験を行い、その結果を元に新たなデバイスを非合法に生産すると言う内容だった。しかもそのデバイスが普通のデバイスではなくユニゾンデバイス……複製品ではなく純正のオリジナル、古代ベルカ式のものだと言う事だ。

 

「内容が変わってもやる事は一緒か……」

 

「イライラするわね」

 

「それよりもこの記録端末を見てよう」

 

入手した端末を差し込み、記録を見る。

 

「どうやらさっきのユニゾンデバイスの記録データだな、識別個体名は【烈火の剣精】か」

 

「場所もわかったわ、この研究所の地図も手に入れたし早速行きましょう」

 

端末室を出て、烈火の剣精がいると思われる研究室に向かう。

 

「ここね、部屋には絶対に人がいるとして、魔力を感じないから全員非魔導師ね」

 

「それなら余裕かな、それと入る為には認証が必要だけど。これなら……」

 

奪ったカードを使い、扉を開ける。

 

「何時でも動けるようにしとけ」

 

「ええ」

 

中に入ると薄暗く、大きなディスプレイに赤い髪をした少女が映っていた。彼女が古代ベルカ式のユニゾンデバイス、烈火の剣精。 その時、研究員の1人が近づいて来た。

 

「おおようやく持ってきたか、早く記録データをよこせ」

 

端末を見ながら手を出しているためこちらの顔を見てないが、どうやら先ほどの男性2人と勘違いしているようだ。 それを聞き、アリサと目を合わせて頷く。

 

「ん?……お前はーー」

 

言い終わる前に俺は白衣を脱ぎ捨てる。 遅れてアリサも脱ぎ捨てようとするが……ボタンが引っかかっていて脱げてなかった。

 

「お、おい……」

 

「フンッ!」

 

どことなく閉まらない感じはしたが……結局気合いで引っ張って脱ぎ、ボタンが引き千切られて宙に舞い、床に飛び散る。

 

「時空管理局だ‼︎ 全員無駄な抵抗はせず大人しく投降しろ‼︎」

 

誤魔化すようにデバイスを起動させ、バリアジャケットを纏う。

 

「馬鹿な⁉︎ 何故管理局がこの世界に⁉︎」

 

「情報が漏れる事などあり得なかったはずだ!」

 

「に、逃げろーー!」

 

研究員が逃げようとするも、アリサが出口を塞ぎ研究員を拘束する。

 

「ごめんなさいね、ここは通行止めよ」

 

「くっ!コイツら異界対策課か!」

 

警報を鳴らされる前に全員を拘束した。やはり非魔導師しかおらず簡単に終わった。

 

「よし、俺はこいつらを見張っている。アリサは烈火の剣精を」

 

「わかったわ、そこのアンタ。さっさとユニゾンデバイスの居場所を吐きなさい」

 

ゆっくり壁を焼き切りながら魔力刃を首に近づけ脅すアリサ。

 

「ひいいいい!廊下を出て右に行って奥の部屋だ!」

 

「本当に?」

 

さらに首筋に近づける。 首筋に浅く切り込みが入り、血が垂れる。

 

「ぎゃあああ!? ほ、本当だ‼︎本当に本当だ! 女神に誓ってもいい‼︎」

 

「フン!」

 

それを聞くと……鳩尾に蹴りを入れ、部屋を出て行った。

 

「えーと、ご愁傷様で」

 

俺はへたれ混んでいる研究員はそう言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は廊下を走り奥に進んで行く。

 

『……か……………て……』

 

「ん?」

 

進行方向から弱々しい念話が聞こえてきた。

 

『だ……か……た……………て……』

 

奥に進むにつれて、ハッキリ聞こえてくる。

 

『だれ……か……たす……け……て……』

 

ハッキリと理解すると走る速度を一気に上げた、やがて廊下の最奥にこれまでとは違う重厚な扉が目に入る。

 

念話もこの奥から発せられている、この扉の向こうに……

 

「フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

「スカーレット……ブレイク!」

 

炎を魔力刃に圧縮し纏わせ、扉を容易く斬り裂き室内に足を踏み入れる。

 

大きな部屋にはいくつもの細かいコードが散乱していて、その先端が全て1つの小さな人影らしきものまで伸びていて繋がれいた。

 

「見つけたわ」

 

近づいて見ると、リインサイズの女の子だ。顔は俯き気味で瞳は虚ろ、呼吸も弱々しかった。幾度な実験で肉体、精神的にも疲労しきっているのが一目で解る。

 

「イライラするわね」

 

そう呟き、コードを斬り裂き拘束している錠を外すと倒れてきたので受け止める。私は治癒魔法が使えない、早くレンヤの元に行かないと。

 

しっかり抱きかかえ、来た道を引き返す。

 

その時、烈火の剣精はアリサの持っている燃え盛るフレイムアイズを目にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく研究員を尋問しながらアリサが戻って来るのを待っている。

 

「ふわああ〜〜はーい次、正直に言わないと頭ぶち抜くよ〜」

 

「ひいいいい!」

 

尋問のやり方なんて分からないから、とりあえず脅してやっている。

 

「ーーーレンヤ!」

 

ちょうどその時、アリサがリインサイズの女の子を抱えて戻って来た。

 

「レンヤは治癒魔法を使えるね、早く治して!」

 

「分かったから落ち着け、すぐに治癒する」

 

女の子に治癒魔法を施し、外傷を治していく。終わる頃には呼吸も安定して来た。

 

「よし、それじゃあコイツらをーーー」

 

言い終わる前に警報が鳴り始めた。

 

「悠長に言っている暇わないな。アリサ、ハッキングの方はどうだ?」

 

「問題なく作動しているわ、これで外に出られないし、中に入ってこれない。転移魔法も使えないわ」

 

「了解、全員拘束するぞ!」

 

それから研究所を駆け回り、研究員を拘束していった。

 

「おかしいな、魔導師が1人もいないなんて」

 

「そうね、アンタ何か知っている?」

 

拘束した研究員に聞いてみた。

 

「いっ今は全員別の場所に出動している!」

 

「なぜ?」

 

「ひいっ!詳しくは知らないが無償で魔導師を強化をしてくれると言う事しか……」

 

「どうやらそいつが黒幕だな」

 

「そうらしいわね」

 

その時通信が入ってきた。

 

「研究所の者達よ応答せよ!今から我々100人の魔導師が救出に向かう!管理局ども覚悟していろ!」

 

そこで通信が切れた。

 

「あは、あははははは!残念だったなぁ」

 

「うるさい」

 

アリサが研究員を気絶させた。

 

「それでどうするの?神衣を使えば楽勝だと思うけど?」

 

「まっやれるだけやってやるさ、外に出よう」

 

地上に出ると、正面から大量の影が見えてきた。 かなりの数だが……よくここまで用意出来たと逆に感心してしまう。

 

「あれだけいると面倒だな」

 

「そうね、ごめんね。少し待っていてね」

 

アリサが女の子を降ろそうとすると……

 

「ーーユニゾン………イン………」

 

「えっ?」

 

女の子が何かを呟くと……女の子とアリサの体が光に包まれ、紅い炎が激しく燃え上がる。

 

「うあああっ!? か、体が……熱い!!」

 

「アリサ!!」

 

手を伸ばそうにもすごい熱で近づけない。 しばらくすると焔が落ち着いてきた。

 

「はあ、はあ、これは…………」

 

「アリサ?」

 

そこにいたのはアリサだが……髪が炎のように綺麗な紅に変わり、目は薄い紫だった。

 

『はは、やっぱりアンタが私のロードだ………』

 

「ロード?………まさか私が⁉︎」

 

『ああ!これからもよろしくな、マイスター‼︎』

 

どうやらリィンと同じらしく、半ば強制にアリサが彼女の主人になってしまった。

 

「……全く勝手に決めて……私はアリサ、アリサ・バニングスよ!マイスターじゃないわ!」

 

『分かったぜ!アリサ!』

 

「それじゃあ早速力を貸して貰うわよ、えっと……」

 

『アタシには名前がねえ、アリサがつけていいぞ』

 

「ええっと、それじゃあアギトで。ラテン語で覚醒と言う意味よ」

 

『アギト……気に入った!これからアタシはアギトだ!』

 

「アギト!最初から全力よ!私達の初陣、ド派手な祝砲を鳴らすわよ‼︎」

 

『おう!』

 

……………なんかどんどん話しが進んでいくんだけど。 そして、アリサの周りにさっきよりも激しい炎を纏う。

 

「『はあああああ!』」

 

剣を振り上げ、炎が迸る。

 

「焼き尽くせ、双炎!」

 

『全てを焦土と化せ!』

 

「『ブレイジング………フレア!』」

 

放たれた巨大な炎の斬撃、それは瞬く間に100人の魔導師を飲み込んだ。

 

「あらら、人が真っ黒焦げだ」

 

落ちていく人々を眺めながらそう言う。なんかこの光景なんかの映画で見たぞ、なんだっけ……見ろ!人がなんたらのようだ!……だったけ?

 

「「イエイッ!」」

 

アリサとアギトはハイタッチして喜んでいる。

 

それから管理局に連絡して研究員と魔導師は逮捕された、しかも裏で手引きしていたのはなんと本部上層部の人間だった。

 

アギトの処遇については医療施設での治療後、アリサに引き渡されることになった。

 

何はともあれ一件落着ってことかな。

 

 



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50話

 

 

研究所を潰して数日後ーー

 

アギトはアリサのユニゾンデバイスとして登録された、正式に管理局員にもなり異界対策課に所属している。

 

ユニゾンデバイスと言う事ではやて達ににも顔合わせをしたりして、シグナムともユニゾンも出来たが、その適合率を見たリインが頬を膨らませていた。悔しかったんだろう、それを見たアギトは勝ち誇る様に胸を張り、お互いケンカに発展する事に。どちらも根は優しいから時期に仲良くなると思うが。

 

そして今は……

 

「ねえレンヤ、いいでしょう連れて行ってよ〜」

 

「ダメなものはダメ」

 

場所は異界対策課、今は俺とアリシアとラーグとソエルしかいなく俺はアリシアに揺らされながら答える。

 

「私だって行きたいの〜〜未来〜!」

 

「ダメです」

 

アリシアが未来に行きたいとねだっていた、もちろんそんな簡単に行ける訳ではないし頻繁に行っても行けない。

 

「はあ、ラーグ。実際どうなんだ」

 

「うーん、まあいいか」

 

「本当!やった〜!」

 

「おいおい、いいのか?」

 

「あれから結構経っているし、大丈夫だよ」

 

「よ〜し、早く終わらせるぞ〜〜!」

 

アリシアがすごい勢いで書類を片付けていく。

 

「やれやれ」

 

「アリシア、本当に楽しみなんだね」

 

「俺達も頑張りますか」

 

それからしばらくして何時もの半分の時間で終わらせた。

 

「ほら、行こう!」

 

「あっコラ!ちゃんと連絡を残して行くぞ!」

 

「わーい」

 

アルトセイム地方から転移して未来に到着し、ミッドチルダに向かった。

 

一応変装もして、俺はカツラとリボンでアリシアはメガネと髪型を三つ編みにした。

 

「……………………」

 

「ん?レンヤ?………はっは〜ん、どう!今の私は!」

 

「あっああ、雰囲気も違がっていてとても大人っぽくて似合っているよ」

 

「そっそう、ありがとう///」

 

「コホン、それでどこに行くんだ?予定なしだとつまらないぞ」

 

「それはもちろん美味しい食べ物を食べに行くんだよ!未来の味はどんなのだろ〜〜」

 

アリシアは楽しそうにはしゃぐが……

 

「アリシア、お金は持ってきているよな?」

 

「ううん、電子マネーだけだよ」

 

「………それ使えないぞ」

 

「10年前のデータだからね〜」

 

「最悪、通報されるな」

 

「そっそんな〜〜〜……」

 

楽しそうから一転して落ち込むアリシア。

 

「あ〜〜大丈夫だ。俺が現金持ってきているし、奢ってやるから元気出せ」

 

「本当!ありがとうレンヤ!」

 

「わっ!こら抱きつくな……!」

 

それから色々な場所を食べ歩きし楽しんだ。

 

「おお!このアイス美味しいよ!」

 

「ジャンクフードもスイーツ、どれも前より美味しくなっている」

 

「レンヤレンヤ!私にもちょうだい!」

 

「やっぱり酒が欲しくなってくるな」

 

「やめなさい」

 

しばらくそうしていると……

 

「ん?あれは……」

 

「どうした、アリシア?」

 

「こっち」

 

アリシアの後を追って行く、そしたらベンチに4歳くらいの少女が眠そうに座っていた。

 

「これって……」

 

「ああ、俺が使っているリボンと同じ巻き方だ」

 

少女は長い金髪に、おでこではなく頭部にリボンを当てて螺旋を描きながら腰のあたりで結んでいる。

 

「この子は……」

 

「なんでレンヤのリボンを持っているんだろう?」

 

「ーーーう………ん……」

 

少女が目を覚ました、面倒ごとになる前にカツラとリボンをとりラーグに入れた。

 

「ふわあああ〜〜〜」

 

少女はボーッとした目でこちらを見る。

 

「…………父様?母様?」

 

「えっと、違うぞ」

 

「………そう」

 

「随分とマイペースな子だね」

 

「………私は……リーリン、リンでいいよ。」

 

「いや聞いていないから」

 

「ふわあああ〜〜〜」

 

また大きなあくびをして立ち上がり、どこかに行こうとする。

 

「あっ!待って!」

 

ぐううううう

 

「……………お腹すいた」

 

「あはは、これを食べるかい?」

 

俺は少女ーーリンにクレープを差し出す。

 

「……………………」

 

リンは無言でクレープを口にする。

 

「……………あま"………まず……ぶえ…」

 

「あれ、甘いの苦手?」

 

リンは嫌そうな顔をして頷く。

 

「ごめんごめん、これならいいかな?」

 

今度は肉まんを差し出す。今度は自分でとり、食べる。

 

「…………美味しい」

 

「よかった」

 

リンはゆっくり肉まんを食べていると……

 

「リンちゃん!」

 

紫色の長い髪を一纏めにして肩にかけているリンと同い年の少女がやって来た。

 

「また寝ぼけて、どこに行っていたの⁉︎そんな物までもらって……」

 

「えっと、君は……」

 

「すいませんリンちゃんがご迷惑をかけて、私はことねって言います。かんーーー」

 

「ひったくりよ!」

 

その時女性の声が聞こえ、こちらに向かって男性が走ってきた。

 

「どけえ!」

 

「全く、いつの時代も変わらないな」

 

「制圧したらすぐにここから離れよう」

 

俺とアリシアは男に向かって飛び出し……

 

「はあ!」

 

「邪魔だ!」

 

俺が足払いをかけるが避けられる。

 

「ほい!」

 

「ぐあっ!」

 

飛び上がった所をアリシアが攻撃して男を気絶させる。

 

「よし!」

 

「早くここから離れるぞ……!」

 

俺達がすぐに離れようとするも、もう管理局員が見えてきた。

 

「まず……」

 

「どうしよう……」

 

打つ手がないと思ったとき……

 

「………お兄さん達、逃げたいの?」

 

「えっ……」

 

「リンちゃん?」

 

リンは手を前に出して……

 

「ーーーいめみしがらみを、折りつぎて……折りのぶる、(おび)きの歌ぞ……紡ぐなる……」

 

リンが謳いはじめ、風が巻き起こりはじめる。

 

「幻の道に……」

 

球状の風が現れ、中心に光が見え……

 

「引きかなぐらん」

 

瞬間、リンが光り強い閃光と突風が発生する。

 

「うわあああ!」

 

「目くらまし⁉︎」

 

管理局員が閃光に目がやれれる。

 

「何これ⁉︎」

 

「分からないけど、とにかく逃げるぞ!」

 

「あっ……ありがとうね!リンちゃん!」

 

俺達は急いでこの場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふわああああ〜〜〜………眠い……」

 

「リンちゃん!また力を使ってダメでしょう!」

 

「ーーーリン!」

 

「………兄様……」

 

「お兄ちゃん!」

 

「リン、ことね、何があったんだ?」

 

「………何でもない……」

 

「そんな訳ーーってコラ!背中によじ登るな!」

 

「…………スゥ…スゥ………」

 

「寝るな!」

 

「落ち着いて下さい、イットさん」

 

「わん」

 

「にゃあ」

 

「ティオちゃ〜〜〜〜ん‼︎」

 

「あっ落ち着いて、ことねちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、ここまで来れば大丈夫だろう」

 

「そうだね」

 

「楽しかったね〜」

 

「俺達は寝ているから、帰るときは呼んでくれ」

 

「了解」

 

俺達は海の近くまで来て、今は砂浜を歩いている。

 

「ん〜〜海に映る夕暮れも綺麗だね〜〜」

 

「そういえばこの時間にここに来るのは初めてだな」

 

それからしばらく砂浜に沿って歩いていると、木を蹴る打撃音が聞こえてきた。

 

「何だろう?」

 

「あれじゃないか」

 

ヤシの木の下に丸太が置いており、同い年くらいの短髪の少女が蹴りを何度も入れていた。

 

「ーーースターセイバー……抜剣!」

 

《ソードオン》

 

少女の足についている装甲が展開して魔力が溢れ出し……

 

「やあああああっ!」

 

渾身の一撃が丸太にあたり、粉砕した。

 

「ふう……」

 

《ソードオフ》

 

目を閉じて呼吸を整え、装甲を閉じる。

 

「………ん?わあああ!またやっちゃたよ〜〜〜……」

 

壊していけなかったんだろうか、慌てている。

 

パチパチパチ

 

俺とアリシアは手を鳴らし拍手をする。

 

「えっ?」

 

「凄いねあなた、今のブレイカーでしょ?」

 

「その年でそこまで出来るとは驚きだ」

 

「そっそんな!グズでのろまな僕にはこれしかできなくて……」

 

「謙遜する事はない、充分凄い」

 

「そうそう、もっと誇りなよ」

 

「あっありがとうございます!」

 

少女は勢いよくお辞儀をした。

 

「あっ申し遅れました、僕はミウラ・リナルディです!」

 

「私はーー」

 

「彼女はシア、俺はレンって言うんだよろしくなミウラ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

『ちょっとレンヤ』

 

『本名教えるわけにはいかないだろ、一応俺達ミウラより10歳は上なんだから』

 

『うっ……それもそうか』

 

「お二人はどうしてここに?」

 

「散歩していてな、ちょうどここに寄ったんだ」

 

「そういえば、ミウラは誰に魔法……と言うか格闘技を教えてもらっているの?」

 

「はい!すぐそこに住んでいるザフィーラ師匠からです!」

 

それを聞いた瞬間、俺達はビシッと固まった。

 

「夜天の書の守護騎士と言えば分かりますよね?」

 

「アアウン、ソウダネ〜」

 

アリシアを小突き元に戻す。

 

「コホン、それじゃあ俺達はこれで。邪魔をしちゃ悪いし」

 

「いえそんなこと無いですよ!また来て下さいね!」

 

「それじゃあまたーーー」

 

「ーーーミウラ」

 

聞き覚えのある声にまた固まる。

 

「師匠!」

 

「また丸太を壊したか、まあいいシグナムが呼んでいるぞ」

 

「はっはい!それではお二人ともまた!」

 

ミウラは荷物を持って行ってしまった。

 

俺達も行こう……と言うより逃げようとしたら……

 

「待て」

 

ザフィーラに肩を掴まれた。

 

「あっあははは、何かご用でも?」

 

「バレバレだ、レンヤ、アリシア」

 

二人は諦めザフィーラと向き合う。

 

「えっと、この事はご内密に」

 

「無論そのつもりだが、ここのレンヤから伝言だ。あまり騒ぎを起こすな、だそうだ」

 

「まっそりゃそうか、キリもいいしそろそろ帰るか」

 

「うん、それじゃあねザフィーラ」

 

踵を返していくと……

 

「待て」

 

またザフィーラが止める。

 

「これは俺からの助言だ……この先、どんなことがあっても気をしっかり持て。それだけだ」

 

そう言い残し、ザフィーラは去って行った。

 

「何だろう?」

 

「先を進んだ人にしか解らない問いだろう、早く帰るぞ」

 

「あっ待ってよ、レンヤ!」

 

それから元の時代に戻り、異界対策課に戻って来た。

 

アリサ達も居たので未来の出来事を教えた。

 

アギトとすずかには羨ましがれてアリサは飽きれてしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は家に帰って今日の出来事を思い出していた。

 

「楽しかったな〜〜……それにしてもあのリーリンって子、結局何でもレンヤのリボンを持っていたんだろう」

 

最初に聞いた未来の話しでもリーリンの名前は出てきた、昔のレンヤにそっくりという事も。

 

「ん〜〜………!まさか、レンヤと誰かとの子どもを……!もしかしたらあの子は私とレンヤの……////」

 

そう思うと顔が真っ赤になってしまう。

 

「そう言えば、この髪型も褒めてくれたよね……」

 

鏡の前に立ち自分の姿を見る。

 

「改めて見ると私じゃないみたい……よし!これからはこの髪型しよう!」

 

レンヤが褒めてくれた事に嬉しくなって、その日なかなか眠れなくなってしまうが。

 

 



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51話

 

 

月日が流れるのは早く、もう中2の秋頃。ようやく資格も全部取り終え、勉強と仕事の両立もできて安定してきた。

 

だがこれだけ経っていても、アギト以降誰も異界対策課に入ってこなかった。

 

しかもここ最近完全に異界とは全く関係の無い依頼まで入ってくる始末。さらに魔導師ランクSSまで取らされ、階級も一等陸尉。はやてと同じ階級になってしまった。これだけ偉くなってもやっている事は便利屋もどき。

 

もう、怒っていいよね。

 

「あの野郎ども、いつか絶対に潰す!一体いつまで有給を溜め込まないといけないんだよ!」

 

「休もうにも大抵却下されるからね〜」

 

「まさしくブラック企業だな」

 

「思ったより黒いんだなぁ、管理局」

 

「よく本局上層部が犯罪に加担しているし」

 

「訴えたら余裕で勝てそうね」

 

「なのは達は休まないだけだけど」

 

「「「「「「「はあ……」」」」」」」

 

全員、かなりお疲れのようだ。

 

「邪魔するぞ」

 

そこにゲンヤさんが入って来た。

 

「なんだ、随分と暗いじゃねえか」

 

「………ゲンヤさん、レジアス中将にも言ってください。冗談抜きで過労死します………」

 

「まあそう言うな、その話しもちょうど先ほどの会議で可決された。今後とも依頼の件数は減るだろう、市民も異界の対処の仕方も分かってきた事もあるし、やはり子どもに頼りっぱなしも不味いからな」

 

「やった〜〜……これで休める〜〜」

 

「本当ね」

 

「それじゃあお前達、取材を受けてくれ」

 

「「「「はい?」」」」

 

「今まで秘匿とかで取材は全部断っていただろ、だがもう異界の情報はミッドチルダ全市民に知れ渡っている。秘匿するものも無くなった訳でこの話しが出てきた訳だ」

 

「楽かもしれないけど……」

 

「結局働くんだね」

 

「まあ、いいんじゃ無いか?」

 

「なのは達もよく雑誌に載っていたし、そろそろ私も雑誌に載りたかったんだ〜」

 

それから担当の記者が来て、長時間根掘り葉掘り聞かれ。結局精神的にかなり疲れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、高町家自室。

 

「ふわあああ〜〜……」

 

「おはよーレンヤ」

 

「おはようさ〜ん」

 

「ラーグ、ソエル、おはよう」

 

俺はいつもどおりに起きて制服に着替える。部屋を出て洗面所で顔を洗いリビングに行く。

 

「おはよう」

 

「おはようレンヤ」

 

「いつも早起きで何よりだ」

 

お父さんとお母さんがいた、兄さんと姉さんは道場にいるのだろう。

 

「おはよう!お母さん、お父さん、レン君!」

 

「おはよう、なのは」

 

「あら、何もない日に早起きは珍しいわね」

 

「レンヤとの特訓がない日以外はギリギリだからな」

 

「そうそう」

 

「寝ぼけてよくレンヤに連れて行ってもらっているよな」

 

「にゃ!そんなことないよ///」

 

「ーーいや、大体そうだよね」

 

ちょうど兄さんと姉さんがリビングに入って来た。

 

「お前がいつも早起きするのは魔法の練習か、前日に大切な用事がある時か、レンヤと特訓をする時だけだからな」

 

「もう!そんなことないよ!」

 

「ふふ、さあ皆で朝食を食べましょう」

 

それから朝食食べ始めた。

 

「なのはとレンヤは高校にも行くんだよね?聖祥は前まで中等部は男女別々だったけど何かの事情で共学になったけど。高等部はまだ男女別々でしょう、私と同じ風芽丘学園にするの?」

 

「ここから徒歩でも程よく近いしそのつもりだよ」

 

「皆で一緒に入る予定なんだよ」

 

「まあ、レンヤは高校は自分で昼食を買う為に金を貯めているがな」

 

「ちょっラーグ!」

 

「へえ、まだそんなことを考えていたのね〜」

 

お母さん、笑っているけど凄い迫力……

 

「いや〜〜これはせめての恩返しであって……」

 

「やれやれ、どうやらまだ直っていなかったようだな」

 

「ふふっレンヤ、帰ってきたらお話しよ」

 

「ひいいっ!」

 

「あははは……」

 

俺はごはんを速攻で食べる。

 

「ご馳走様!行ってきます!」

 

「あ、待ってよレン君!」

 

俺は駆け足で家を出た。

 

「全く」

 

「ふふ、いいのよ。昼食だけでも」

 

「それがレンヤなりの恩返しなんだろう」

 

「レンヤは変な所で頑固だからな」

 

「それがレンヤの良いところだがな」

 

「そうね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げる様に聖祥に向かうレンヤ達。

 

「はあ、帰ったらどうしよう」

 

「だから言ったのに、そんなことしたら怒られるって」

 

「だよなぁ、う〜ん弁当にして自分で作るという手もあるけど……」

 

「お弁当!そっそれなら私が作るよ!……………毎日………」

 

「なのは、最後なんて言った?」

 

「なっ何でもないよ!」

 

疑問に思いながらも歩くと、アリサとすずかいた。

 

「おはよう、アリサ、すずか」

 

「おはよう!アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

「おはよう、レンヤ、なのは」

 

「おはよう!レンヤ君になのはちゃんも」

 

二人は手を振りながら挨拶するが……

 

「アリサ、その髪」

 

「ええ、前から切ろうかと思っていたんだけど……どうかしら」

 

アリサは長い髪を切りショートカットにしている。

 

「ああ、似合っているぞ。雰囲気も大人っぽく見えてアリサらしいよ」

 

「そっそう、ありがとう///」

 

ただ左右の側頭部にある長い髪は何故切らなかった。

 

「ふふ、皆髪型もどんどん変わって行くね。変わっていないのは私とはやてちゃんくらいだよ」

 

それもそうだな、俺とアリサが髪を切り、なのはがサイドテールになっているから。

 

「すずかはバリアジャケットを纏っている時ポニーテールじゃない」

 

「普段って意味だよね、すずかちゃん」

 

「うん」

 

「すずかはそのままでも充分に美人になって来ているがな」

 

「レッレンヤ君、恥ずかしいよ///」

 

「コホン!ほら行くわよ!」

 

「遅刻しちゃうよ!」

 

再び歩き始めて、紅葉が多い道を通っている。

 

なのはは紅葉を見上げる。

 

「今年の紅葉も綺麗だね」

 

「ここまで色鮮やかになったのは久しぶりに見たよ」

 

「そうだな」

 

「うん、皆そろそろ急ごう?もうすぐ予鈴が鳴りそうだし」

 

「そうね、急ぎましょうか」

 

「ーーお〜いっ、皆〜!」

 

「おはようレンヤ、なのは、すずか」

 

「おっはようさ〜ん」

 

後ろからアリシア、フェイト、はやてがやって来た。

 

フェイトとアリシアも髪型は変わっており、フェイトはストレートでリボンを腰あたりで結んでいて、アリシアは三つ編みにしている。

 

「おはよう、フェイトちゃんにアリシアちゃんにはやてちゃん」

 

「おはよう3人とも」

 

「おはよう、皆」

 

「なんだ、一緒に来たのか?」

 

「うん、さっきそこではやてと一緒になったの」

 

「そう!これで全員集合だね!」

 

学校に通う魔導師が集まったって事か?

 

「そうや、雑誌見たで〜。私達より後に入ったのに一気に有名人になって、羨ましいな〜」

 

「そうだね、レンヤは彼氏にしたいランキングでも堂々1位だったし」

 

「レン君、人気者だね〜」

 

「………嬉しくないよ、一尉なってもやる事一緒だし。はやてと同じ階級なのにな」

 

「ひどく言えば一尉をパシッているわね」

 

「あはは………」

 

「もうちょっと人員を増やすか、仕事を減らして欲しいよ」

 

「そういえば………一尉の権限で減らせるんじゃね!」

 

「その手があったわね!」

 

「すっかり忘れていたよ!」

 

「皆、大変なんだね」

 

「はやてちゃんからも言えないの?今地上に研修に行っているんだよね?」

 

「そうやな、ゲンヤさんに聞いてみるや」

 

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

 

「えっ、予鈴⁉︎」

 

「余裕だったのに〜」

 

「さっさと教室に行くぞ!」

 

全員走りながら学校に入っていく。

 

「コラ!もっと余裕を持って来なさい!」

 

途中先生に怒られながらも。

 

それから午前の授業を受け終わり、今は昼休みの屋上。

 

「それにしても、どんどん月日が流れていく感じがするよね〜」

 

「確かに魔法に関わってからそんな感じはするわね」

 

「うん、大きな休みがある時以外は皆働いているからね」

 

「まあ俺達、異界対策課はともかくなのは達は早退が多いからな。」

 

「「「うっ」」」

 

図星なのか顔を暗くする。

 

「まあ仕方ないよ」

 

「せめて高校卒業まで、こんな時間が続いて欲しいよ」

 

「そうやな」

 

「そういえば、レンヤ達はどうなの?異界で何か変わった事はないの?」

 

「「「「…………………」」」」

 

フェイトの問いに静かになる俺達。

 

「皆?」

 

「何かあったんやな」

 

「……ええ、ここ最近単体のグリムグリードが出現して来ているのよ」

 

「えっ、それって……」

 

「霧の魔女事件の……!」

 

すずかは静かに首を横に振る。

 

「あくまで単体で異界も迷宮もない、グリード自身が現実世界に顕現しているの」

 

「強さも平均C〜AA級までだから、そこまで脅威ではないんだけどね……」

 

「そんな……」

 

「だからいつかなのは達の力が必要になってくる、その時は力を貸してくれないか?」

 

なのは、フェイト、はやては顔を見合わせて頷く。

 

「もちろんだよ!」

 

「私の力でよければ、力になるよ」

 

「もちろん、シグナム達もきっと力を貸してくれるで!」

 

「皆……ありがとうね!」

 

「うんうん、良かった良かった」

 

それから昼食を済ませて、教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、俺は変身魔法を使って街を歩いている。

 

そうする理由ははやても言っていた書店にある雑誌のせいだ、多少脚色があるが大半は事実が載っている。チラ見して見ると何も置かれていない棚があった。

 

周りを見ると同じ雑誌を持つ人がチラホラといる、自分が思っていた以上に有名人だった様だ。地球の有名人もこんな心境だったのだろうか、変装方法は違うが。

 

今俺は依頼でメガーヌさんの家に向かっている、管理局員の人が依頼して来るのは初めてだ。

 

「えっと………ここだな」

 

地図と標識を確認して、インターホンを押す。すぐにメガーヌさんが出てきた。

 

「いらっしゃ……どちら様ですか?」

 

「ああ済みません、俺です目立つんで変身魔法を使っているんです」

 

「ああ!確かにそうね。雑誌に載ってからなのはちゃん達以上に有名人になったからね」

 

(むしろもっと目立っている様な………)

 

「メガーヌさん?」

 

「何でもないわ、レンヤ君達も大変ね」

 

「自由に動け無くなるからあんまり嬉しくないんですけど、それで依頼の内容は?」

 

「ええ、ルーテシアちゃんに会ってくれる?」

 

家に入れてもらい、リビングに行くと。疲れきった顔をしたルーテシアと後ろに人型の……召喚獣でいいのか?が立っていた。

 

「ルーテシアちゃんの後ろにいるのがガリュー、ルーテシアちゃんの召喚獣よ」

 

ガリューは腕を前に持って行き、騎士みたいな礼をする。

 

「さて、ルーテシアは一体どうしたんですか?疲れ切っていますけど」

 

「………ここ最近、何かの視線を感じて周りを見ても誰もいないの。しかもその視線が日に日に強くなっていて………自分の後ろに何かいるような………そんな感じというか」

 

「そうか、どうやらグリードに好かれたね」

 

「グリードに……好かれる⁉︎」

 

「グリードにも多少なり感情と好みもある、そのグリードの目的はルーテシアを異界に誘い込むのが目的だ」

 

「そんな…………」

 

「外に出られるという事は、エルダーグリード辺りだろう。ただそいつの居場所が分からない以上対策の仕方は限られる」

 

「それって……どうするの?」

 

「簡単に言えば囮だな、これが1番手っ取り早く終わらせられる。もちろん身の安全をちゃんと確認してね、これを決めるのはルーテシアだ、どうする?」

 

ルーテシアは俯いたまま動かない。

 

「………断ってもいい、方法は他にももちろんある。とりあえずーー」

 

「ーーやります」

 

「ルーテシアちゃん、無理しなくてもいいのよ」

 

「私もこれ以上ストーカーされたくないの、お願いしますレンヤさん」

 

「了解、準備を始めようか」

 

すずかに連絡を入れ、準備を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーテシアに防御魔法とサーチャーを付けて何事も無いかのように散歩させる。

 

護衛としてラーグを持たせているが、あいつ役に立つのか?

 

「本当に来るのかな?」

 

「レンヤが立てた作戦だから大丈夫だと思うけど」

 

「お手並み拝見やな」

 

「……………お前ら、何でここにいる」

 

何故かなのは、フェイト、はやてがいる。

 

「早速力になりたいの!」

 

「そうそう、小さい所からお手伝いしたいの!」

 

「レンヤ君に鍛えられた結果を見せてやるんよ!」

 

「帰れ」

 

どちらからかと言うとグリムグリードの方を手伝って欲しかったので、にべもなく言い切る。

 

「大丈夫!迷惑はかけないよ!」

 

「今日は他の仕事も無いし!」

 

「せやせや!」

 

「………はあ、しょうがないなぁ。エルダーグリードもそこまで強い訳でもないし、いいかな」

 

「ありがとう、レン君!」

 

その時、ルーテシアが走り出した。

 

「来たみたいやな」

 

「追いかけよう!」

 

ルーテシアを追いかける。

 

「はあ、はあ…………きゃっ!」

 

「ルーテシア!」

 

ルーテシアは急いで走っていた為に転んでしまった。その時後ろに半透明なエルダーグリードが現れる。

 

「……こっこれが……グリード……」

 

ルーテシアに少しずつ近づくエルダーグリード。

 

「……いっいや……来ないで……!」

 

「落ち着つけ、レンヤがきっと……」

 

ビキーン!

 

「⁉︎、えーー」

 

ビキビキ、バキ、ビキ………スー

 

ルーテシアの背後にゲートが現れる。

 

「ルーテシア!」

 

「レンヤさん!」

 

ルーテシアはそのままゲートに飲み込まれて行ってしまった。

 

「レン君、追いかけよう!」

 

「すぐに救出します!」

 

「いくでー!」

 

俺達はルーテシアを追い、ゲートに入っていく。

 

 



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52話

 

 

俺達はルーテシアを追いゲートを潜り抜けた。

 

異界の中は遺跡風の迷宮だった。

 

「ここは……」

 

「レンヤ?」

 

「この異界……初めて異界に入ったのと類似している」

 

「そうなんか?」

 

「でも、そんなのは関係ないよ」

 

「ああ」

 

デバイスを起動させ、バリアジャケットを纏う。

 

「類似しているのなら敵は弱い、速攻で行くぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

迷宮に入り、攻略を開始した。

 

俺の予想通り敵は弱く、すぐに最奥まで行けた。

 

「いたよ……!」

 

ルーテシアはガリューを召喚して、エルダーグリードと戦っていた。

 

エルダーグリードはやはり最初に戦ったのと同じエルダーグリードだ。

 

「名前は確か……ネメスオーガ」

 

「でも一度倒せらなら……」

 

はやてが先に進もうとすると……

 

「ぶっ!」

 

何かに阻まれて前に進めなかった。

 

「なっ何やこれ⁉︎」

 

「障壁が張られている、これじゃあ助けられない!」

 

「何でこんなものが……!」

 

「ーートーデス・ドルヒ!」

 

ルーテシアが周りに黒いダガーを召喚して、射出した。誘導効果と爆裂効果もありネメスオーガにダメージを与えていた。

 

「皆さんはそこで見ていて!見えていて攻撃できるなら私にも倒せます!行くよガリュー!」

 

「待て!ルーテシア!」

 

静止も聞かず、戦い始めてしまう。

 

「くっ……」

 

「レンヤ、まずは障壁を破壊しよう!」

 

「迅速に、慎重にやるで!」

 

「ブレイカーを使ったらルーテシアちゃんにも被害がいっちゃう、一ヶ所に攻撃を集中して!」

 

何とか障壁を破壊するのを試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあっ!」

 

魔力弾を撃ち込むも大して効いていないね。

 

さっき大口叩いたのはいいけどタフな上に無駄に素早い。

 

さらに決定打がこちらには無い、どうする……

 

「ガリュー、衝撃弾!」

 

ガリューが弾丸状の魔力弾を作り放つが効果は薄い。

 

その時グリードが滑るように突進して来た。

 

「わあっ!……危ないなぁ」

 

何とか避けるも状況は思わしく無い。

 

「どうすれば…………」

 

「ルーテシア!」

 

ラーグの声に顔を上げたらグリードが腕を振り下ろし、攻撃がガリューに当たってしまった。

 

「ガリュー!」

 

「まずいぞ!」

 

グリードは体が光り始め、力を溜め始める。

 

「!、まずい……送還!」

 

ガリューの足元に魔法陣を展開してそばに送還させた。

 

「大丈夫、ガリュー!」

 

回復魔法を使いガリューを癒す。

 

その時グリードの力が解放され、全方向に衝撃が走る。

 

「きゃああああああ!」

 

ガリューに覆い被さり衝撃に耐える、衝撃が収まり顔を上げたらグリードを中心に地面に大きなヒビが走っていた。

 

「こっこれが………グリードの………力?」

 

倒せるはずない、こんなの相手にレンヤさんは何年も……

 

ガリューが立ち上がり、グリードに向かう。

 

「ダメよガリュー!私達じゃ倒せない!ここは耐えて、レンヤさん達を待ちましょう!」

 

ガリューはこちらに向き静かに首を横に振るい、全身の骨格を変化させて身体中に突起物が生えてくる。

 

「武装、解放………やめてガリュー!あなたが死んじゃうわ!」

 

ガリューはグリードに向かい走って行った。

 

「ガリューーーーー!」

 

手を伸ばしたが届かずそのまま手が落ちる。

 

「どうしたら………ラーグ君!何か手は無いの⁉︎」

 

せめてもの希望をラーグ君に聞いてみる。

 

「…………ある」

 

「本当!ならすぐにそれをーー」

 

「ーーだが危険も伴う、最悪ガリューは死ぬ事にもなる」

 

「そっそんな………」

 

リスクを聞き絶望する、ガリューを方を向くと……

 

「………………………」

 

何も語らないガリューが強い意志をこちらに向けてくる。

 

「いいの、ガリュー?あなたが死んじゃうんだよ……」

 

(コクン)

 

私の問いに迷わず頷くガリュー。

 

「…………うん、分かったわ。あなたの意志を信じるわ!ラーグ君!」

 

「本当にいいんだな?」

 

「ええ!」

 

「分かった、受け取れ!」

 

ラーグ君が口から出したのは、紫色の機械的な籠手とカードケースだった。

 

「それを左腕と二の腕につけるんだ!」

 

言われるがまま左手と籠手を取り付け、左の二の腕にカードケースを取り付けた。

 

「手の甲の部分にある大きなボタンを押したらケースからカードが出てくる、それをガントレットに入れろ!」

 

「わっ分かった」

 

えっと大きなボタン……これね!

 

《Gauntlet Activate》

 

大きな紫色のボタンを押すと機械の一部がスライドして出てきた。それと同時にケースから一枚のカードが出てきた。

 

「これは……」

 

確か出てきたカードをガントレットに入れるんだよね、スライドしてきた部分にカードがちょうど収まるようになっている。

 

カードをガントレットに乗せてら中に入り、画面にカードの表紙が映し出され、紫色の光り出す。

 

「その光りをガリューに向けるんだ!」

 

「えっこう?」

 

光りをガリューに浴びせると、ガリューが全身紫色に光り出して渦巻きながら小さくなりこっちに飛んできた。

 

「ガリューが……小っちゃい球になっちゃった⁉︎」

 

手の平の上には指でつまめるサイズの黒い球があった。

 

「ほらグリードもこっちに来ているぞ」

 

ラーグ君に言われて見ると、グリードがこちらに向かってきた。

 

「えええ⁉︎来て、インゼクト!キャプチュード・ネット!」

 

インゼクトを召喚して、太い糸状のバインドでグリードを縛り、インゼクトが鋲のようになりグリードを磔にする。

 

これで少しは時間が稼げる。

 

「ラーグ君、どう言う事!ガリューがこんな球になっちゃったよ⁉︎」

 

「まあ静かに見ていろ」

 

そう言われ、手の平に乗っている球をジッと見ると……

 

パシュッ!

 

「わあああ!」

 

いきなり球が変形して、驚いて投げてしまう。

 

「とっ……危ねえ危ねえ」

 

ラーグ君がキャッチしてくれた。

 

「………ガリュー?」

 

「…………………………」

 

(コクン)

 

ガリューを受け取り、ガリューは自分の体を見回した後頷く……体全体を傾かせてやったが。

 

「ラーグ君、これは一体………」

 

「説明は後、成功したようだし。……来るぞ」

 

ラーグ君に言われてグリードをみるとグリードがバインドを破ろうとしていた。

 

「うわわ、まずいよ!ラーグ君、これでどうするの!逆にピンチになったじゃない!」

 

「まあ落ち着け、ケースに手をかざせ」

 

疑問に思いながらもケースに手をかざしたらカードが出てきた、さっきのとは違う黒いカードだ。

 

「それを地面の中心に向かって投げろ!」

 

「よし、えい!」

 

カードを中心に投げて地面に乗せたら、紫色の波動を地面に流して消えていった。

 

その瞬間グリードがバインドを破った、私はラーグ君を掴み揺らす。

 

「きゃあああ!ラーグ君ラーグ君、次は!」

 

「揺らすな〜〜、ガリューを投げろ〜〜」

 

「えっ!」

 

ラーグ君を落とし、手の平に乗っているガリューを見る。

 

「そりゃあ、投げやすそうだけど……」

 

(ジタバタ)

 

ガリューが慌てている、後ろを見ると……グリードがいた。

 

「きゃあああああ⁉︎」

 

振り下ろされた腕をギリギリで躱す。

 

(ジタバタ)

 

「え!本当にいいのねガリュー?」

 

(コクン)

 

頷くとガリューは変形して球になる。

 

ガリューを握りしめ、グリードに向かって投げる。

 

「いっけーーーー!」

 

球を思いっきり投げ、グリードに当たるが効いていなかった。

 

「何んで⁉︎」

 

球は地面に転がるが、球が展開して地面に立ち上がり……

 

「……………………」

 

紫色の光りを出しながら大きくなったガリューが現れる。

 

「ええええええ⁉︎ガッガリュー⁉︎」

 

(コクン)

 

見上げるほど大きくなったガリューに驚く。

 

ガリューの体の細部が変化しており、機械的なマフラーを巻いている。

 

ガリューはそのままグリードと戦い始めた。

 

「………凄い、凄いわガリュー!力も強くなっているし、勝てるわよ!」

 

「どうかな、ガリューはあの姿になったばかりで動きにくそうだ。まだ勝てないな」

 

「ならどうすればいいの⁉︎」

 

「ケースからカードを取り出してガントレットに入れろ」

 

「まだ何かあるの?」

 

ケースに手をかざしたら、カードが出てきた。今度は青いカードだ。

 

「ええっとこれをガントレットにーー」

 

《Ability Card、Set》

 

「きゃあ!」

 

意思に反応して機械音がなり、またガントレットがスライドして驚く。

 

「ビックリした〜〜」

 

「いちいち驚くな」

 

「仕方ないじゃないの!もう、これを入れるのね」

 

カードの裏面も見てみると……

 

「あっ説明が書いてある。ダーイン……スレイヴ?」

 

よくわかりけど、やってみる!

 

カードを台座に乗せてガントレットに入れる、するとカードが光り出しガリューに呼応する。

 

「……………………」

 

手が紫色の光り出して両手剣を作り出し、グリードを攻撃する。

 

「やったー!凄いねこれ!」

 

「当然だ、使い魔及び召喚獣支援システム。バーストボールシステム(仮)だ」

 

「(仮)って何?」

 

「まだまだ試作段階なんだよ、ほら決めちまえ!」

 

「了解!」

 

流れる動作でカードを取り出しガントレットに入れる。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動!ナイトエクスプローラ!」

 

ガリューが紫色の竜巻を起こし、身に纏いグリードを吹き飛ばす。

 

「いっけーーー!ガリューーー!」

 

吹き飛ばしたグリードを追いかけ、両手剣で切り裂いた。

 

グリードが光り出しながら消えていった。

 

「やっ………たーーーーー!」

 

迷宮が光り出し、異界が消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何あれ……」

 

「ラーグの奴、また何かしたな」

 

障壁を攻撃し続けてもヒビ1つ入らない中、巨大になったガリューがグリードを倒すのを見る。

 

「凄いね」

 

「驚きで何も言えへん」

 

エルダーグリードが消えた事により、異界が収束していった。

 

元の場所に戻るとすっかり夜で、ルーテシアがへたり込んでいる。

 

「ルーテシアちゃん!」

 

「大丈夫⁉︎」

 

「すまない、助けに行けなくて」

 

「あっいえ、大丈夫ですけど………」

 

「けど?」

 

「ガリューが元に戻りません……!」

 

ルーテシアは手の平を出すと黒い球が乗っていた。

 

「これが……ガリュー?」

 

「障壁壊すんのにいっぱいでよう見てへんかったなぁ」

 

「ラーグ、どう言う事なの?」

 

「ここじゃなんだ、異界対策課に行こうぜ」

 

「分かった、ルーテシア立てるか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「一応検査もしておこうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異界対策課でルーテシアとガリューを検査した後、会議室に向かった。

 

「それでラーグ、ガリューはどういう状態なんだ?」

 

「システムの影響が残っているだけだ、1日したら元に戻るさ」

 

「そう、良かったねガリュー」

 

(コクン)

 

球が開き、ガリューが頷く。

 

「しっかし不思議やなぁ、どんな原理何や?」

 

「まだ試作段階だから名前は決まっていないが、使い魔及び召喚獣に仮のまたは別の戦える姿に変えて、主の支援を受け取れやすくするシステムだ」

 

「それで何で球になるのよ」

 

「いきなり戦闘形態になったらそれに身体がついてこれないんだ、それで一旦球にするんだ。投げられるから奇襲に便利だぞ」

 

「確かに、あんなのがいきなり出たら驚くよね」

 

「て事は、完成したらラーグとソエルも戦えるって事!」

 

「そうだよ、もう役立たずとは言わせないぞ〜〜!」

 

「別に思っていないぞ」

 

「そうだよ、ラーグ君とソエルちゃんは書類整理とか依頼の選別とかで頑張っているじゃない」

 

「そうそう、頑張っているよ」

 

褒められて2モコナは照れる。

 

「まあそれは置いといて、これで事件は解決だね」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

(コクン)

 

「どういたしまして」

 

「それとルーテシアとガリューにはテスターになって貰いたいんだが、いいか?」

 

「うん、いいよ」

 

(コクン)

 

その後ルーテシアを家に送り、メガーヌさんにも感謝されて、今回はルーテシアの手によって事件は解決した。

 

 



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53話

 

 

「ん……ふああぁぁ……」

 

「おはようレンヤ」

 

「今日はなのは達とジョギングだろ」

 

「分かっているよ」

 

ベットから出てジャージに着替え、洗面所に向かい洗顔と歯を磨きいた後家の前で準備運動する。

 

「レン君お待たせ!」

 

同じくジャージ姿のなのはが出てきた。

 

「おはようなのは、準備運動したら早速行くか」

 

「うん!」

 

準備運動を終わらして、俺となのはは走り出す。

 

「フッ…フッ…」

 

「ハッ…ハッ…ハッ…」

 

俺達は規則正しい息継ぎをしながら走る、なのははもちろんの事はやても特訓で体力がついてきている。

 

最初は美少女台無しだったが、今ではついてこれる様にまでなった。

 

「あっレンヤ!なのは〜!」

 

「2人共ここや〜!」

 

「遅いわよ」

 

「おはようレンヤ君、なのはちゃん」

 

「コッチだよ!」

 

少し走ると前にフェイトとはやて、アリサとすずか、アリシアが同じジャージ姿で走っていた。

 

「おはようフェイト、はやて、アリサ、すずか、アリシア」

 

「おはよう皆!」

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

4人と合流して一緒に走る、ゴールに着くまで無言でで走る。しばらくして目的地の高台に到着する。

 

「ゴール!」

 

「ふう……」

 

「皆、お疲れ様」

 

「これを飲むといい、お母さんが作ってくれたレモン水だ」

 

「わ〜ありがとう!」

 

なのは達はそれぞれ受け取った紙コップにレモン水を飲む。

 

「美味しいね」

 

「さすが桃子さんね」

 

「せやな」

 

レモン水を飲み干し、人心地をつく。

 

「それにしてもはやてちゃん以外もジョギングを始めるなんてね?」

 

「そもそもレンヤ君の特訓がただの体力作りだとは思わへんかったけど」

 

「俺もソフィーさんから受けた特訓は全部体力作りだったからな、ジョギングなんて生温いくらいの……」

 

俺は昔を思い出し、空を見上げる。

 

「ありゃ、黄昏ちゃったよレンヤ」

 

「思い出したくないんでしょう」

 

「あはは……」

 

「まあいいか……。さてと、そろそろ戻るかな。これから学校だしな」

 

「うん、そうだね!」

 

「行きましょう」

 

「分かったよ」

 

途中まで皆と一緒に行き、その後別れてなのはと一緒に家に向かった。

 

家に帰り、なのはの後にシャワーを浴びて制服に着替えて朝食を食べた後に学校に向かう。

 

「もうすっかり春だね」

 

「ああ、そうだな」

 

通学路の途中にある桜の木を見ながらそう言う。

 

俺達はこの前中学三年生になった、中学生も残り一年。悔いのない様にしないとな。

 

「レンヤ、なのは!」

 

「おはよう!レンヤ君、なのはちゃん!」

 

後ろから制服に着替えたアリサとすずかが手を振りながら駆け寄って来る。そのまま学校に向かい始める。

 

「確か……今日はなのはちゃん達お仕事入っていたよね?」

 

「うん。久しぶりに皆で集まるんだぁ」

 

「どういう訳か俺も呼ばれているがな、アリサ」

 

「はいはい。頑張ってコピーし易いノートを取るわよ」

 

「よろしくな」

 

「にゃはは、ありがとう!……あ!」

 

「おはよう!」

 

「おはようや皆!」

 

「おっはよ〜〜!」

 

今日の予定を話しながら歩くと制服姿のフェイトとはやてとアリシアが手を振って待っていた。

 

「おはよう」

 

「3人共おはよう〜!」

 

「おはよ!今日集まるんだって?」

 

「うん!」

 

「ほんま楽しみやわ〜」

 

「2人の分のノートも任せてね!」

 

「私達がバッチリ取っておくよ!」

 

「姉さん、ありがとう!」

 

「あんがとうな!」

 

全員で聖祥に向かって話しながら一緒に歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の授業も終わる前に俺達は早退する。

 

「じゃ、行ってらっしゃい。授業のノートは取っとくからね」

 

「ありがとう、アリサちゃん!」

 

「ぶう、本当は私も行きたかったのに、何でレンヤだけ……」

 

「レジアス中将もレンヤ君が行くのにもご立腹だったからね」

 

「クロノ達じゃなかったら断っていたかもな」

 

「そうだね、それじゃあ行ってくるよ!」

 

「ほなノートよろしくなぁ!」

 

俺達は時間が来たので、アリサ達に見送られ手て教室を出て屋上に向かう。

 

『じゃっ何時もの場所に転送ポートを開くからね〜!』

 

「は〜い」

 

エイミィさんから通信が入り、転送ポートが開かれる。

 

「レゾナンスアーク、ラーグ、ソエル!」

 

《イエス、マイ マジェスティー》

 

「ふう、狭いぜ」

 

「ほい来た〜!」

 

呼び掛けに応えレゾナンスアークが宙に浮き、ポケットからラーグとソエルが出てくる。

 

「レイジングハート!」

 

《イエス、マイ マスター》

 

なのはの呼び掛けに応え、レイジングハートが宙に浮く。

 

「バルディッシュ!」

 

《イエス、サー》

 

フェイトの呼び掛けに応え、バルディッシュが宙に浮く。

 

「リインフォース ツヴァイ!」

 

「はい!マイスターはやて!」

 

はやての呼び掛けに応え、剣十字が宙に浮き中からリインが出てくる。

 

そして……

 

「「「「セーットアーップ!」」」」

 

俺達はデバイスを空高く放り、光りに包まれてバリアジャケットや騎士服を纏い、それぞれのデバイスを手に取る。ラーグとソエルはポケットに入り、リインははやての肩に乗り……

 

「「「「ゴーー!」」」」

 

空に飛び上がり、転送ポートを潜り抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送ポートを潜り抜けてレンヤ達は第162観測指定世界に来た。

 

『じゃっ改めて今日の任務の説明ね〜』

 

飛行中にエイミィから通信が入り、任務の説明がされる。

 

『そこの世界にある遺跡発掘先を2つ回って発見されたロストロギアを確保。最寄りの基地で詳しい場所を聞いてモノを受け取ってアースラに戻って本局まで護送!』

 

「平和な任務ですねぇ」

 

「だがロストロギアである以上、油断は禁物だぞなのは」

 

「はぁい!」

 

少し気の抜けた感じのなのはに分かっていると思うが釘を刺しておく、

 

『まぁレンヤ君、なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんの4人が揃ってて、もう一ヶ所にはシグナムとザフィーラが居る訳だから……まぁ多少の事件くらいなら何とかなっちゃうよね。レンヤ君毎日それみたいなのと相手しているし』

 

「毎回事件が起きているように言わないで下さい……まぁなのは達は俺が絶対に守ってみせますよ」

 

「「「////」」」

 

「ひゅーひゅー、レンヤやるぅ」

 

「うるさい」

 

レンヤの言葉になのは達が顔を赤らめる。

 

『よろしく頼むぞ、4人共』

 

「了解!」

 

「「「りっ了解!」」」

 

クロノとの通信を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラブリッチーー

 

「ふう……」

 

「でもホント、なのはちゃん達が高校に行くって聞いた時驚いたよね〜?私としては凄く嬉しいけど、クロノ君は?」

 

「そうだな……友としての立場から言わせてもらえば嬉しいな」

 

「そうだよね〜〜高校に行く間はアースラが拠点になるし……アリサちゃん達も入れて、これからも賑やかだね!」

 

「ああ、そうだな……なのは達の研修期間の時も充分この艦も騒がしかったが、レンヤといるなのは達は本当に楽しそうだからな。僕も嬉しいよ」

 

「うん!……さてと、今日は楽しい同窓会的任務だし、終わったら賑やかにやりましょ!」

 

「全く、仕方ないな……」

 

まだまだ良い意味で騒がしい日々は続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから移動して北部定置観測基地に到着する。

 

「さてと、基地の方は……」

 

着地と同時にバリアジャケットを解除して基地内を見渡していると……

 

「遠路お疲れ様です!本局管理補佐官、グルフィス・ロウランです!」

 

「シャリオ・フィニーノ通信士です!」

 

眼鏡を掛けた男女が敬礼しながら出迎えてくれた。

 

「ありがとう」

 

「ご苦労様」

 

俺達は敬礼を返しながら言う。

 

「ご休憩の準備をしてあります、こちらへどうぞ」

 

「あっ平気だよ。直ぐに出るから」

 

「私達これくらいの飛行じゃ疲れたりせーへんよ。グリフィス君も知っているやろ?」

 

「はい……存じ上げてはいるのですが……」

 

「「?」」

 

「はやて、顔見知りか?」

 

「あ!3人は会ったことなかったな?こちらグリフィス君、レティ提督の息子さんや」

 

「はじめまして!」

 

「ああ、なるほど」

 

「「あー!似てる!」」

 

言われてみれば、確かにそっくりだ。

 

「フィニーノ通信士とは初めてだよね?」

 

フェイトがもう1人の女の子に話しかける。

 

「はい!でも皆さんの事は凄ーく知っています!」

 

するとフィニーノ通信士は興奮した面持ちで声を上げる。

 

「本局次元航行部隊のエリート魔導師、フェイト・テスタロッサ執務官!」

 

「あ、あはは……」

 

「幾つもの事件を解決に導いた本局地上部隊の切り札、八神 はやて特別捜査官!」

 

「何やこそばゆいな〜」

 

「武装隊のトップ航空戦技教導隊所属で不屈のエース、高町 なのは二等空尉!」

 

「にゃはは……」

 

「そして……怪異から市民を守る異界対策課隊長にして現代の聖王、神崎 蓮也三等陸佐!」

 

「…………あれ?いつの間に昇格したっけ?」

 

「「「おい」」」

 

「うーん、前仕事の疲れでゲンヤさんの言ったこと聞き逃した事があるんだが……その時か?IDもなんか更新されたし」

 

「それは……仕方ない、かな?」

 

「しかもいつの間にか私を抜かしているんや」

 

仕方ないだろ、無駄なくらい事件が起きるんだから。

 

そんなことを気にもせずフィニーノ通信士が興奮している。

 

「陸海空の若手トップエースの皆さんとお会いできるなんて光栄です〜〜‼︎」

 

「「「「あっあはは……」」」」

 

フィニーノ通信士は興奮がMAXにいったらしく、俺達は乾いた笑いを受けべる。

 

「それとリインフォースさんの事も聞いていますよ!とっても優秀なデバイスだって!」

 

「わー、ありがとうございますですぅ」

 

「ソエルさんとラーグさんもです!」

 

「ありがと〜」

 

「あんがとな」

 

テンション高いなー。

 

「シャーリー、失礼だろう」

 

「あっいけない、つい舞い上っちゃて……」

 

「シャーリーって呼んでいるんだ?2人は仲良しさん?」

 

「すっすみません、子どもの頃から家が近所なので……」

 

「幼馴染みなんだ!」

 

「いいね。私達4人も幼馴染みなんだよ。幼馴染みの友達は貴重なんだから大事にしてね?」

 

「「はいっ!」」

 

「特に男女だとそれ以上の関係を望んでまう事もあるからな〜」

 

唐突にはやてが変な事を言う。

 

「「はっはやて(ちゃん)///⁉︎」」

 

2人が慌ててはやてに詰め寄る。

 

「でも事実やんか〜?私もそうなんやし///」

 

「あれ〜?もしかして皆さん……」

 

なのは達の会話を見ていたフィニーノ通信士が何かに感づく。

 

「まあいいか、ほら行くぞ。後輩の前でみっともない事はするな。ロウラン補佐官、フィニーノ通信士、ナビゲートを頼むぞ」

 

「「はい!」」

 

バリアジャケットを纏い、出発する。

 

「わーい」

 

「おっ先〜」

 

「あっ待ってよレン君!」

 

「あわわ、置いて行かないで!」

 

「私達も行こか?」

 

「はいですぅ!」

 

なのは達もバリアジャケットを纏い後を追いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局本部・無限書庫ーー

 

僕は何時も通り無限書庫で仕事をしている。司書長になってからはより仕事が大変だよ……

 

(まぁ……やり甲斐はあるんだけどね)

 

『ユーノ、そっちのデータはどうだ?』

 

「もう解析を進めている。レンヤ達が戻る頃には出揃うよ」

 

『そうか』

 

僕に何時も仕事を持ち込むクロノと話していると……

 

「はいよ、ユーノ」

 

犬耳と尻尾を生やした小さな女の子が本を持ってきてくれた。

 

「ありがとう、アルフ」

 

そう……この小さな女の子はフェイトの使い魔のアルフだ。

 

「アルフもすっかりその姿が定着しちゃったね?」

 

「あー……まーね?フェイトの魔力を食わない状態を追求したらこーなちゃってな。あたしはフェイトを守るフェイトの使い魔だけど……フェイトはもう充分強いし1人じゃないし……ずっと側にいて守るばかりが守り方じゃないし。何よりレンヤもなのは達もいるしな、レンヤにならフェイトを任せても大丈夫だし!」

 

明るい笑顔でそう言うアルフ。

 

「アルフはしっかりしているね。でも今ラーグ達が作っている、使い魔支援システムを使えばアルフも今以上に戦えるんじゃないの?」

 

「いいんだよ、あたしはもう前線を退いたんだ。それに最近は家の中の事をするのも楽しいし……来年にはクロノとエイミィが結婚する予定だし、子どもが生まれてきたらお世話をさせてもらうんだ!」

 

『ア〜ル〜フ〜!その話しはまだ秘密だってー……///』

 

「ええと……おめでとうございます」

 

僕はアルフ達の会話になんか気まずいけど、取り敢えずお祝いの言葉を口にする。

 

『うう……ありがとう……////』

 

「クロノもようやく決心したんだね?」

 

『まあ……色々とな///』

 

『と言うか!そーゆーユーノ君は⁉︎』

 

「あはは……僕はそんな浮ついた話しはありませんよ?」

 

(う〜ん……ユーノ君はモテると思うんだけど、まあ……仕事好きみたいだし、まだ先になるのかな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さんの速度なら目標ポイントまで十五分程で到着します。ロストロギアの受け取りと艦船の移動までナビゲートします』

 

「はい……よろしくね、シャーリー」

 

「グリフィス君もねー」

 

『はいっ!』

 

飛行しながら通信に応対する、っていうかもう愛称で呼んでいるよ。女の子は仲良くなるのが早いね。

 

「しかし私達ももう6年目か〜」

 

「中学も来年には卒業だしね?」

 

「卒業後は高校だよね〜?楽しみだなぁ」

 

「そういえば、はやては高校卒業後、ミッドチルダに移り住むんだよな?」

 

「うん!クラナガンの南側で大きな家があるんや!えー感じのを探し中や!決まったら皆で遊ぼな〜」

 

「うん!」

 

「もちろん!」

 

「リインもお姉様とはやてちゃんと一緒にお待ちしているですぅ!」

 

「あはは、そうだな。そういえばなのはとフェイトのバリアジャケットのデザインを変えたんだな」

 

なのはのはセイクリッドモードと違い、スカートが前開きになり、内側にミニスカートを、足にはニーソックスを履いていて、髪型はツインテールになっている。

 

フェイトは執務官の制服を基調としており、膝まである白いマントを付けていて、髪型はツインテールだ。

 

「すずかちゃんに提案してもらったアグレッサーモードだよ、魔力消費を抑えることで長時間の活動ができるの」

 

「私もすずかに提案してもらったんだ、インパルスフォームって言って高速機動補助をベースに防御面にも優れているんだよ」

 

「へえ、そうなんや」

 

「でもまたその髪型にしたんだ、似合っているぞ」

 

「「あっありがとう////」」

 

「俺もそろそろ変えよっかな〜」

 

「私が考えるよ!」

 

そんな感じに飛行しながら、まったり会話をしていると……

 

「あっ見えてきた!」

 

発掘地点が見えてきたな。

 

「ん?」

 

異変を感じ、目に魔力を込めて視力をあげると……

 

「なのは、フェイト、はやて……警戒しろ。機械兵器らしき物体が多数いる」

 

その言葉に驚きながらも顔を合わせて頷く。

 

「救助はなのは、俺とフェイトが遊撃、はやてとリインは上から指揮を頼む!」

 

「「「了解!」」」

 

作戦の指示の終わりと同時に……

 

ギュンッ!

 

音を立て飛行しながら各自、位置につく。

 

「おし!やるで、リイン!」

 

「はいです!」

 

「「ユニゾン……イン!」」

 

はやてとリインがユニゾンし、外見が全体的に白くなる。

 

「これより、未確認機械兵器と交戦する!気を引き締めて行くぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

発掘地点に降り立ち、戦闘を開始する。

 

「中継!こちら現場!発掘地点を襲う不審な機械兵器を発見!強制停止を開始します!」

 

『中継了解!これより本部に映像を回します!』

 

「お願い!」

 

目の前にいる機械兵器は中心にレンズの付いたカプセル型が数十機ある。

 

カプセル型の機械兵器が無数のレーザーを撃ってきた。

 

「させない!」

 

《プロテクションEX》

 

そのレーザーの掃射からなのはがプロテクションを張り発掘員を守る。

 

「フェイト!」

 

「うん!プラズマランサー!」

 

フェイトは魔力スフィアを設置して、俺は双銃に魔力を込める。

 

《シューティングブレット》

 

「「ファイア!」」

 

ドドドドドッ‼︎ドカァァン‼︎

 

大量の金のランサーと蒼の銃弾がカプセル型の機械兵器を撃ち抜き、爆発する。

 

なのはが発掘員に近づく。

 

「大丈夫ですか!」

 

「は……はいっ…」

 

「あれは一体?」

 

「分かりません、コレを運び出していたら急に現れて……」

 

事情を聞くが発掘員もよく分かっていないらしい。

 

(狙いは……ロストロギアか)

 

『広域スキャン終了……人間はあの2名だけです!』

 

「ん!了解や」

 

リインが広域スキャンを終えてはやてに報告する。

 

「あれは機械兵器?」

 

《該当するデータがありません》

 

フェイトがバルディッシュに問うも、データベースに一致する記録はないみたいだ。

 

『中継です!目標はやはり未確認との事、危険認定により破壊停止許可が出ました!』

 

「了解!はやて」

 

「はいな!発掘員の救護は私が引き受ける!レンヤ君達は思いっきりやってええよ!」

 

「「「了解!」」」

 

改めて機械兵器と対峙すると……

 

ヴヴンッ……

 

機械兵器が光の膜を張る。

 

「あれはフィールドエフェクト?取り敢えず様子見でワンショット!レイジングハート!」

 

《アクセルシューター》

 

「シュートッ!」

 

レイジングハートの先端から3発の魔力弾が放たれるが……

 

パシュッ!

 

フィールドに触れた瞬間、消滅してた。

 

「今のは……」

 

「無効化フィールドか!」

 

《ジャマーフィールドを検知しました》

 

「AMF(アンチマギリンクフィールド)?……AAAランクの魔法防御を機械兵器が?」

 

フェイトは判明した事実に軽い驚きと疑問を抱く。

 

『はわわっ!AMFって言ったら魔法が通用しないって事ですよ⁉︎魔力結合が消されちゃったら攻撃が通らないです〜!』

 

「あはは……リインはやっぱりまだ小っちゃいな」

 

『ふええっ⁉︎』

 

リインの慌てた物言いをはやてが微笑ましそうにしながら否定する。

 

「覚えておこうね?戦いの場で……これさえやっとけば絶対無敵って定石はそうそう滅多にないんだよ」

 

俺となのはとフェイトが魔力を溜め始める。

 

「どんな強い相手にも、どんな強力な攻撃や防御の手段がにも、必ず穴はあり崩し方もあるんだ」

 

「レンヤ君の言う通りや。魔力が消されて通らないなら……発生した効果の方をぶつければええ」

 

「例えば小石……」

 

ゴッ!

 

なのはは魔力を地面にぶつけて、砕いた破片を宙に浮かせ……

 

「例えば雷……」

 

バチバチ!

 

フェイトは魔力で雷雲を呼び寄せ……

 

「例えば空気……」

 

キュオオオ!

 

俺は空気を剣に集め、圧縮させ……

 

「スターダスト……」

 

「サンダー……」

 

「テンペスト……」

 

「「「フォーーーールッ!」」」

 

ドゴオオオオオオオンッッッッッ‼︎

 

ズガアアアアアアアンッッッッッ‼︎

 

ビュオオオオオオオオッッッッッ‼︎

 

加速された小石が、雷雲から生じた雷が、高速で放たれた鎌鼬が機械兵器を粉々に打ち砕く。

 

機械兵器は瞬く間に破壊され、活動を停止する。

 

『ふえ〜、凄いですぅ〜』

 

「3人共一流のエースやからな」

 

『あ!何機か逃走しているです!』

 

リインが言う様に、先程の魔法の範囲外にいた機械兵器数機が逃走を開始する。

 

「追おうか?」

 

「へーきや、コッチで捕獲するよ。リイン頼んでもええか?」

 

『はいです!』

 

(レンヤさん達に良いとこ見せるんです!発生効果で足止め捕獲と言うと……)

 

『こんな感じです!凍てつく足枷(フリーレンフェッセルン)!』

 

機械兵器の進行方向にベルカ式の魔法陣が展開され、その上を通った瞬間……

 

ガキィィン!

 

機械兵器を氷の檻に閉じ込めて捕獲した。

 

「お見事!」

 

「やるじゃないか」

 

『ありがとうございますです!』

 

褒められて嬉しそうにするリイン。

 

「これがそのロストロギアですか?」

 

フェイトが木箱の中から黒いケースを取り出し発掘員に確認する。

 

「はい……」

 

「中身は宝石のような結晶体で……レリックと呼ばれています」

 

『…し……こちら…』

 

その時、ある人物から念話が入ってくる。

 

「こちらアースラ派遣隊!シグナムさんですか?」

 

『その声はなのはか?そちらは無事か?』

 

どうやらもう一ヶ所に向かったシグナムからの様だ。

 

「シグナム、何かあったのか?」

 

『レンヤか、そちらは無事だったか?』

 

「機械兵器の襲撃にあった、そっちにも出たのか?」

 

『こちらは襲撃ではなかったがな……』

 

「襲撃ではない?」

 

「「「「?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はレンヤ達と念話で話しながら眼前の光景を見る。

 

「危険回避の為、既に無人だったのが不幸中の幸いだったが……発掘現場は跡形もない。先程ヴィータとシャマルを緊急で呼び出した」

 

視線の先には……

 

ヒュオオオオオオ………

 

「今日の任務、気楽にこなせるモノではなさそうだ」

 

もうもうと煙を上げ、大きく穿たれた巨大なクレーターがあった。

 

 



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54話

 

 

第162観測指定世界・定置観測基地 ーー

 

「発掘員の方は観測隊が無事に確保しました。退避警報が出た後も発掘物が心配だったそうで……」

 

僕は通信機を使いアースラに連絡を入れます。

 

「レンヤさ……神崎三等陸佐達、護送隊は妨害を避けて運搬中です」

 

『はい、了解。現場とアースラは直接通信が通らなくなってるからシャーリーとグリフィス君で管理管制をしっかりね!』

 

「「 はい!」」

 

その時シャーリーの端末に情報が入って来た。

 

「あっ……現場の方にヴィータさん達が到着した様です」

 

リミエッタ通信司令の指示を聞き返事をするとほぼ同時にシャーリーがヴィータさん達の到着を報せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしとシャマルはシグナムの報せを受けて現地に急行した。

 

「ひでえなこりゃ……完全に焼け野原だ」

 

確かにこれならシグナムがあたしとシャマルを呼び出すのも分かるな。

 

「かなりの広範囲に渡っているが、汚染物質の残留はない。典型的な魔力爆発だな、今リンスが周りを調べてくれている」

 

シグナムが現場を見渡し冷静に分析する。

 

「ここまでの話を総合すると、聖王教会からの報告・依頼を受けたクロノ提督がロストロギアの確保と護送を四人に要請。平和な任務と思ってたらロストロギアを狙って行動しているらしい機械兵器が現れて……こちらのロストロギアは謎の爆発……って流れで合ってる?」

 

『はいっ!合っています!』

 

これまでの経緯をシャマルが通信でシャリオに確認している。昔っからこういった事は参謀のシャマルの役目だったからな。

 

「聖王教会といえば主はやてのご友人の……」

 

「うん、多分騎士カリムからの依頼ね。クロノ提督ともお友達だし……何よりレンヤ君や私達とも深い繋がりがあるし」

 

(確かにな……)

 

あたしは焼け野原を眺めながらこれまでの経緯を思い出す。

 

「?……ヴィータ、どうかしたか?」

 

「ザフィーラ……別になんでもねーよ。相変わらずこーゆー焼け跡とか好きになれねーだけさ……」

 

大昔なら当たり前過ぎて気にもならなかった光景…でもはやてやなのは達……それにレンヤと出会ってからはより一層嫌いになった。

 

「戦いの跡は何時もこんな風景だったし……あんまり思い出したくねえ事も思い出すしさ……」

 

あたしは、4年前の……雪の中でなのはを庇い自分が血塗れになりながらも、あたし達を守ったレンヤ。睨まれた時のあの目、あいつと同じ色だが全く違う目で睨むレンヤの目はあれ以来見た事がない。なのはを医療班に預けた後すぐに戻ったら、そこには……

 

ポンッ……

 

「!」

 

昔を思い出していたあたしを肩を軽く叩かれた衝撃が現実に呼び戻した。

 

「ヴィータ、何を怖い顔をしている?リインやリンスが見たら心配するぞ?」

 

あたし達の将、シグナムが頭を撫でながらそう言って来た。

 

「うるせーな考え事だよ。後撫でんな」

 

右目の端を手で拭いながら言うと……

 

「ふむ…やはりユーノの様にはいかんな」

 

「バッ///ユーノは関係ねーだろ///!」

 

何処かからかいを含んだシグナムの言葉にあたしの頭の中からはすっかり熱くなり、思い起こされた記憶も引っ込む。

 

あの事件以降、落ち込んでいるあたしをよくユーノが励まし頭を撫でてくれた。

 

それが安心できて……ッて違う!

 

「そうか?なら今後はユーノに撫でられるのはやめるか?」

 

「そ、それとこれとは関係ねーよ///!」

 

「ふっ、そうだな、悪かった」

 

軽く微笑んだシグナムが謝罪してくる。

 

(昔のシグナムだったらこんな顔もしねえし…ここまであたしを気遣ったりもしなかったな)

 

はやてやレンヤ、なのは達の影響だな。今のもあたしを励ます為にしてくれたんだし……

 

「ありがと……シグナム」

 

あたしの小さな感謝の言葉にシグナムは片手を挙げて気にするなと言ってくれた。

 

ちょうどその時リンスが戻ってきた。

 

「来たか、この付近に不審な物は無かったが……どうかしたか?」

 

「ふふ、なんでもないわ。よし……調査魔法陣展開!アースラと無限書庫に転送してね、シャーリーちゃん」

 

『はいっ!』

 

状況を飲み込めず疑問に思うリンスと、それを微笑ましそうに見詰めていたシャマルが自分の作業を終える。

 

(ったく…みっともねぇ///)

 

あたしは内心嬉しさや恥ずかしさで一杯になり、それを誤魔化す様に空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護送隊飛行ルートーー

 

俺達は順調に飛行しながら、幼いリインに軽く講義をする事になった。

 

「えーと……もう一度復習するです。AMFというのはフィールド防御の一種な訳ですよね?フィールド系というのは……」

 

羽根ペンと蒼天の書を片手にリインが習った事をお浚いする。っていうか蒼天の書ってメモにも使えるんだな、結構便利?

 

「基本魔法防御四種の内の一つだね。状況に応じて使い分けたり組み合わせたり…私達のバリアジャケットやリインの騎士服もバリアやフィールドを複合発生させてるんだよ?」

 

ツインテールを風に多靡かせたなのはが左手にリインを乗せて説明する。

 

「因みにその四種は素材強度で防ぐ物理装甲、攻撃を防御膜で相殺し柔らかく受け止めるバリア系、攻撃と相反する魔力で固く弾く・反らすシールド系、範囲内で発生する特定効果の発生を阻害するフィールド系の四種だ。AMFはフィールド系に当たって、フィールド系ではかなり上位に入る」

 

俺の説明をリインは熱心にメモしていく。

 

「魔力攻撃オンリーのミッド式魔導師は咄嗟には手も足も出ないだろうね」

 

「ベルカ式でも並の使い手なら威力増強は魔力に頼ってる部分が多いし……只の刃物やとアレを潰すんはキツいよー……まぁ、レンヤ君みたいな例外もおるけどな~」

 

「実力もそうだけど……」

 

「レンヤには神衣があるからな」

 

フェイトの言葉にはやてが補足するが、俺をチラ見してそう付け足した。確かにただの剣技だけで斬れなくもない。神衣もなぜかAMFの影響を受けない、レアスキルだからかな?

 

「はえ~凄いですぅ……でもなのはさんやフェイトさんも簡単に……こうどかーんって!」

 

説明を聞いてたリインが俺を尊敬の眼差しで見ていたが、なのはとフェイトも簡単に破壊してた事を思い出して両手を上に広げながら二人の凄さを現すが。

 

「それは距離があったし……向こうのフィールドが狭かったからね」

 

「最初になのはやフェイトがやった手は術者がフィールドの外に居る事が絶対条件だ。囲まれたりしてフィールド内に閉じ込められたら結構ピンチだ。AMF範囲内で魔法を発動するのは結構厳しいんだ」

 

「飛行や基礎防御もかなり妨害されちゃうし……やり方はあるけど高等技術。リインなんかは気をつけないと大変だよ?」

 

「?はうぁっ!そーです!リインは魔法がないと何にもできないです~」

 

フェイトの言葉に涙目になり狼狽えるリイン。

 

確かに普段のリインの移動法は浮遊魔法だからな。

 

「まぁ…いい機会だから、その辺の対処と対策も教えるか」

 

「そうだね?」

 

「はいです!」

 

リインは俺となのはの言葉に敬礼しつつ答える。

 

「すみません教官、うちの子をお願いします~」

 

「ああ、了解された………なのはが」

 

「私⁉︎」

 

「頑張〜」

 

「レンヤも教導官の資格を取れば?」

 

はやてがにこやかに頼んで、俺はなのはに丸投げする。

 

そんな会話をしながら飛行を続け、俺達は目的地を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、シグナム?一緒の任務……ってか、任務自体久しぶりだな?」

 

「そうだな、霧の魔女事件以来だからな。普段はみな担当部署が離れてしまったからな」

 

ふと思い出したあたしの言葉にシグナムは頷きつつ答える。

 

「あたしとシャマルは本局付きでシグナムとリンスはミッドの地上部隊。ザフィーラはもっぱらはやてかシャマルのボディーガード。ま、家に帰れば顔を合わせるしあんま関係ねーけどな」

 

「緊急任務がない限り、殆んど一緒だしな」

 

「しかしまだまだ三年以上地球に居んだよな……」

 

「そうだが…何か心配事か?」

 

「ああ、海鳴のじーちゃんとばーちゃんともゲートボール続けんかんな……変身魔法でも使わねーと会えねーなと思ってよ。育たねえから心配される、年齢だけならじーちゃん達より年上なんだけどな……」

 

まぁ、あたしとしては楽しみだし……嬉しい悩みだな。

 

「違いない」

 

「あらー、じゃあ私がちゃんと調整して可愛く育った外見に変身させてあげる♪」

 

「……いい、自分でやる」

 

あたし達の話を聞いていたシャマルが言ってきたがキッパリと断わる。こういう時のシャマルのノリは碌な事がねーかんな。

 

そう言えば、前にゲートボールをした時に後ろから頭に思いっきり何がぶつかって来たな。怒って振り向いたが誰もいなく、じーちゃん達に聞いたら影がぶつかって消えたって言っていし、ザフィーラが言うには猫がぶつかったとしか言っていなかったし、本当に何だったんだ?

 

「私達は当分は服装や髪型程度で誤魔化せるだろうな」

 

「ザフィーラはいいよな、犬だから」

 

「……狼だ……!」

 

あたし等が会話しているとザフィーラが突然空を見上げる。

 

「ザフィーラ?どーした?」

 

「森が動いた。座標を伝える、シャマル調べてくれ」

 

「分かったわ!」

 

ザフィーラの報告にシャマルが観測基地と協力して調べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら観測基地!先程と同系と思われる機械兵器を確認!地上付近で低空飛行しながら北西に移動中。高々度飛行能力があるかどうかは不明ですが』

 

『護送隊の進行方向に向かってる様です!狙いは……やはりロストロギアなのではないでしょうか』

 

シャリオとグリフィスからの報告を聞き私とシャマルで作戦を練る。

 

「そう考えるのが妥当だな。主はやてとテスタロッサになのは……更にはレンヤの四人が揃って機械兵器如きに不覚を取る事は万に……いや、億に一つもないだろうが……」

 

「運んでる物がアレだものね……こっちで叩きましょう」

 

「リインもいる、すぐに向かおう」

 

「ああ……ん?」

 

私とシャマルで作戦を決めるが……先程の様に鋭い目つきをしたヴィータに気がつく、やれやれ…

 

ぱんっ!

 

「観測基地!守護騎士から2名出撃する!シグナムとヴィータが迎え撃つ!」

 

私はヴィータの背中を叩きながら通信で告げる。

 

「あに勝手に決めてんだよ」

 

「なんだ……将の決定に不服があるのか?」

 

「……ねーけど」

 

「こっちは3人で大丈夫♪」

 

「危機あらば駆けつける」

 

「主はやてを頼むぞ、将よ」

 

「守るべき者を守るのが騎士だ。行くぞ、その務めを果たしに!」

 

「しゃーねぇーなっ!」

 

にこやかな表情のシャマルと無表情だが頼りになるザフィーラと真剣な表情のリンスと私の言葉を聞きヴィータも了承する。

 

「主はやて、シグナムです。邪魔者は地上付近で我々が撃墜します。テスタロッサ手出しは無用だぞ?」

 

『はい……分かってます、シグナム』

 

「なのは!おめーもだぞ!」

 

『はぁい!片手塞がってるしからねー』

 

主はやてへの報告を終えた後……私とヴィータはなのはとテスタロッサに釘を差す。

 

『2人共おーきにな……気ぃつけてー』

 

「はい」

 

「うん」

 

『シャマルとザフィーラとリンスも気を付けろよ』

 

『怪我しないでね!』

 

『サッサと決めてこいよ』

 

「ありがとう、レンヤ君」

 

「問題ない」

 

「気遣い感謝する」

 

『シグナム…AMFの話は聞いてると思うけど気をつけて下さいね!』

 

心配した調子のフェイトがそう言うが……

 

「テスタロッサ……貴様誰に物を言ってる?己が信ずる武器を手にあらゆる害悪を貫き敵を打ち砕くのがベルカの騎士だ」

 

「おめーらみてーにゴチャゴチャやんねーでもストレートにブッ叩くだけでブチ抜けんだよ!リインもあたしの活躍しっかり見てろよー」

 

『はいです、ヴィータちゃん!』

 

ヴィータの言葉にリインは可愛らしく敬礼して答える。

 

「出撃!」

 

「おうっ!」

 

ドドンッ!

 

私とヴィータは同時に飛翔し機械兵器の所に向かう。

 

『機械兵器移動ルート変わらず』

 

『あまり賢くはない様ですね。特定の反応を追尾して攻撃範囲に居るモノを攻撃するのみの様です』

 

『ですが対航空戦能力は未確認です。お気をつけて!』

 

「アンノウンなのは何時もの事だ。問題ない」

 

私とヴィータは空中に浮きながら機械兵器を待ち構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの日のアレも未確認だったな。あたしもアイツも何時も通りの筈だった……問題なんて何もない筈だった。誰もが認める新鋭のエースが何時も通りに笑ってたから。だから気づかなかった……一緒に出撃してた、あたしは誰より早く気づかなきゃいけなかったのに……)

 

あたしは考えながら左手で鉄球を取り出す。

 

あの光景が頭に浮かんでくる、辺り一面凍りつかせて、その中心に血すらも凍りつかせ倒れているレンヤを……

 

【ヴィータ……ちゃん………レン君は……?】

 

最初に目が覚めたなのはは涙を流して自分の想いや命より……真っ先に他人を心配する様なお人好し……

 

(あんなのは……あんな思いは、もう二度と……ましてや、それをレンヤやはやて、やなのは達に味合わせない為にも!)

 

「纏めてブッ潰すッ!」

 

ガァンッ!ガァンッ!

 

あたしはハンマーで鉄球を打ち出す!

 

ギュラァッ!

 

更にシグナムの連結刃が躍り機械兵器に襲い掛かる!

 

「「おおおおおお‼」」

 

ドオンッ‼

 

気合いの咆哮を上げながらあたし等は間合いを詰め、機械兵器を粉砕していく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラーー

 

「シグナムとヴィータはやっぱり凄いね。未確認でもモノともしない」

 

僕とエイミィはモニターに映し出された二人の戦闘映像を見ていた。

 

「合流地点までもう直ぐだし……そろそろアースラも回収の準備をしとこうか……どしたの、クロノ君?難しい顔して?」

 

「……ああ、この後の事を考えてた」

 

「後?」

 

疑問を投げ掛けてきたエイミィに僕は自分の考えを話す。

 

「って事だ……そういった事件に成ると管理局でも対応できる部隊はどれくらいあるか、人や機材が揃ったとして動き出せるまでどれぐらい掛かるのか、そんな状況を想像すると苦い顔にも成るさ……」

 

「なるほど……指揮官の頭の痛いとこだね」

 

「はやても指揮官研修の最中だし、レンヤは中隊の指揮官の資格を持っているからな……一緒に頭を悩ませる事になる」

 

その時フィニーノ通信士から通信が入って来た。

 

『シグナムさんとヴィータさん未確認撃破!護送隊と合流です!』

 

どうやら僕達が話してる間に殲滅し終えたみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前ーー

 

「シグナム達は大丈夫そやね」

 

「うん、そうだね」

 

俺達は2人の戦闘映像が映し出された小型モニターを見ながら飛行を続けている。

 

「シグナムもヴィータちゃんもかっこいーです!」

 

リインが2人の活躍ぶりを見ながら喝采を上げる。

 

「そうだね、ヴィータちゃん張り切っていたし」

 

なのははリインの言葉に同意する、そんな中……

 

「はやて、レンヤ……特別捜査官としてはどう見る?今回の事」

 

「んん?あのサイズのAMF発生兵器が多数存在してるゆーんが一番怖いなー。今回この世界に出現してるんが全部であって欲しいけど…そうでないなら規模の大きな事件に発展する可能性もある。特に量産が可能だったりするとなー……レンヤ君はどない思う?」

 

「そうだな……あの機械兵器がロストロギアを狙う様に設定されていたって事は背後に個人ないし組織的なのが居ると考えて然るべきだ。大方、ロストロギアを狙う犯罪者だろうかな。4年前の機械兵器にも搭載されていたのと同じだろう」

 

その言葉になのはは顔を暗くする。

 

「気にしてないよ、そう落ち込むな」

 

「うん、ありがとうレン君」

 

「そう……技術者型の広域犯罪者は一番危険だから……」

 

俺とはやての言葉にフェイトは真剣な表情で同意する。どうやらフェイトには思う所があるみたいだな。気持ちは分かるがな。

 

「ん?皆、転送ポートに着いたよ?」

 

「やっとか」

 

「シグナム達ももう直ぐ到着みたいです~」

 

「そうか、難しい話はこれぐらいにするか。着陸するぞ」

 

「「「了解!」」」

 

ソエルとリインに目的地に着いた事を知らされ、俺達は話を打ち切り地上へと降り立たったち、軌道転送ポートに到着する。

 

それから少しするとシグナム達もやって来て合流する。

 

「ヴィータちゃん~!」

 

「うわっ!だ、抱き付くなよ!」

 

「無事でしたかシグナム?」

 

「うむ、他愛ない相手だったからな」

 

「これで任務完了やな~」

 

「ふふ、お疲れ様です」

 

「ああ、皆もお疲れ様だ」

 

「お疲れ様ですぅ」

 

なのは達は互いに労いの言葉を掛け合う。

 

「さて、こちら護送隊全員無事に転送ポートに到着。転送処理を頼みます」

 

『こちらアースラ、転送了解!観測基地の2人もナビとサポートご苦労様、そちらの任務は無事完了!』

 

『『ありがとうございます』』

 

俺の報告を聞いたエイミィさんが転送処理をしながら、観測基地の2人に労いと任務終了の言葉を掛ける。

 

『さて、転送処理開始!食事の準備してあるからねー、最後まで気を抜かず戻ってきて!』

 

「了解です」

 

「はぁいっ!」

 

「お願いします」

 

転送ポートが開き、光に包まれた俺達はアースラに転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラ、ブリッジーー

 

「護送隊とレリック、先程本艦に収容しました。残念ながら爆発点からはレリックやその残骸は発見できませんでしたが……」

 

アースラブリッジで僕は騎士カリムに任務の概要を報告をしていた

 

『お気になさらず、クロノ提督。事後調査は聖王教会でも致しますので』

 

「確保したレリックは厳重封印の上で自分が本局の研究施設まで運びます」

 

『ああ、その件なんですが…こちらから一人警護員をお送りしました。ご迷惑でなければご一緒に運んで戴ければ』

 

「ああ……はい……」

 

僕は騎士カリムの言葉に疑問を感じながらもブリッジを出てその警護員の居る応接室に向かった。

 

「クロノ君!」

 

室内に入ると長髪にスーツを纏った美形の男が気軽に片手を挙げて僕の名を呼ぶ。

 

「ヴェロッサ!君だったのか」

 

「久しぶりだね、先の調査行以来だ」

 

「ああ、元気そうで何よりだ」

 

僕達は握手を交わしながら挨拶し改めて座る。

 

「今日はどうした?義姉君のお手伝いか?」

 

「うん、カリムが君達を心配してたからっていうのもあるんだけど…本音を言えば面倒で退屈な査察任務より、気の合う友人と一緒の仕事の方が良いなってね?」

 

「相変わらずだな君は。こうしていると局でも名の通ったやり手とは思えないから返って怖いな」

 

「こっちが素なんだけどねえ」

 

このヴェロッサと義姉君の騎士カリムそれにはやて、更にはレンヤを加え、例外を抜いた4人は局内でも貴重な古代ベルカ式の継承者で有用なレアスキル保持者。その上それぞれの職務でも優秀な存在だ。

 

「確かにカリムは優秀だしはやては色々凄い子で……レンヤ君に至っては規格外だけど僕は別にさ」

 

「謙遜を。ともあれ君が警護に着いてくれるなら心強い、出る前にはやてにも声を掛けるか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。お土産は届けてあるし」

 

「?」

 

疑問に思いながらも、ヴェロッサと研究施設に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラ・レクリエーションルームーー

 

「おお~、凄いですねえ!」

 

「肉がある!」

 

「こんなに用意されたんですか?」

 

テーブルの上に並べられていた数々の料理を見たエイミィさんとアルフが歓声を上げる。

 

「半分はアコース君からの差し入れよ。任務を終えたエースたちに……ですって」

 

ユーノの疑問に髪を首元で結んだリンディが答える。

 

「艦長……じゃない、リンディさんもすみません」

 

「ふふ、いいのよ。私も艦を降りてからは平穏な内勤職員だもん。ルナや子ども達お世話して上げたいしね?クライドも執務官の資格を改めて取ったし安心きるわ」

 

そうこうしていると……

 

「ただいま戻りました~♪」

 

扉が開き、制服に着替えたはやてを筆頭になのは達も続いて入っていく。

 

俺は先に着替え終わってここに来た。

 

「おかえり!」

 

「お疲れー!」

 

「フェイト♪」

 

そんな俺達を温かく迎えるリンディさん、エイミィさんとフェイトに駆け寄るアルフ。

 

「おお!なんだこの食事の量!」

 

「凄いわね~」

 

「この辺はアコース君からよ」

 

数々の料理を見て驚くヴィータとシャマルにリンディさんが説明する。

 

「ヴェロッサ来てるんですか?」

 

「クロノ君と一緒に本局まで護送だって」

 

その説明を聞いた俺の疑問にエイミィさんが答えてくれた。そうか、ヴェロッサが来ているのか。恐らくカリムが寄越した警護員って所だな。

 

「お疲れ様です、母さん」

 

「ええ、お疲れ様フェイト」

 

フェイトはアルフの頭を撫でながらプレシアさんと会話を交わしている。

 

「ユーノ君も久しぶり!」

 

「うん、なのは!」

 

「ロッサもクロノ君と一緒なら会いに行ってもお邪魔かなぁ?」

 

「あの二人仲良しさんですものね?」

 

「そうだね~……っとクロノ君とアコース査察官転送室から無事出立!という訳で……みんなは安心して食事を楽しんでねー!」

 

「「「はーーいっ!」 」」

 

エイミィさんの報告に各自コップや皿を取り飲み物をついだり料理を取り分ける。

 

「肉~~~!」

 

早速肉にかぶりつくアルフ。その表情は至福と言い表せるぐらい緩んでる。

 

「アルフ、もっとお行儀よくしなさい!小さくなって頭まで小さくなったのですか!」

 

「ごっごめーん、リニス〜〜!」

 

「あはは、3人共お疲れ」

 

「「「お疲れ~♪」」」

 

俺となのは達が乾杯し、そのまま4人で話していると。

 

「カズキさん、なのはさんお疲れ様です!」

 

「お疲れ様だよ」

 

「ああ、リイン、ソエルお疲れ」

 

「お疲れ様、リイン、ソエルちゃん」

 

リインとソエルが近寄って来た。

 

「えーと、それでですね…またちょっと教わりたい事があるです!」

 

「いいよー、なぁに?」

 

「なのはさんが所属されてる戦技教導隊って、よく考えたらリインは漠然としか知らないんですが…やっぱり教官さん達の部隊なんですよね?」

 

「ん~……一般のイメージでの教官は教育隊の方かな?」

 

リインの質問に丁寧に答えるなのは。まとめると……魔導師専用の新型装備や戦闘技術をテストしたり、最先端の戦闘技術を作り出し研究したり、訓練部隊の仮想敵としての演習相手、そして……

 

「預かった部隊相手に短期集中での技能訓練…これが一番教官っぽいかな?因みに私はこれが好き」

 

「要はアレだ……戦時のエースが戦争のない時に就く仕事だ。技術を腐らせず有用に使う為にな」

 

「うーん……まあそんな感じではあるんですが…」

 

「烈火の将……それでは身も蓋もないぞ」

 

質実剛健のシグナムらしい物言いに苦笑いを浮かべるなのはとリンス。まぁ俺もそんなイメージがあるな。

 

「でも、うちの航空教導隊にも色んな年齢や経歴の人が居るんですけど……みんな飛ぶのが好きなんですよね」

 

「それは……なのはらしいな」

 

「うん!空を飛ぶのが好きで一緒に飛ぶ人や帰り着く地上が好きで…だから自分の技術や力で自分の好きな空と地上を守りたいって……そういう思いはみんな一緒なの」

 

「なのはがずっと憧れてた夢の舞台だものね?」

 

嬉しそうに語るなのはを見てフェイトが微笑ましそうに言う。

 

「うん、2番目の夢だよ!」

 

「2番目?なら1番の夢はなんなんだ?」

 

「そっそれは……秘密///」

 

ラーグの疑問に顔を赤らめながら誤魔化す。

 

「まさか……なのは」

 

「それは言えへんな」

 

なのはの言葉にフェイトとはやてが何かを理解する。

 

「流石レンヤ、モテモテだね?」

 

「えっなんで?」

 

「よく考えれば自ずと答えは出る、焦るな」

 

「ええと……サンキュー、ザフィーラ」

 

俺達男性陣は少し離れて会話していた。

 

「そっそういえばフェイトちゃん!あの子達の写真持ってきてる?」

 

空気を変える為になのはがフェイトに話を振る。

 

「あの子達?」

 

「ほらアレよ、フェイトちゃんが仕事先で出会った子供達」

 

「執務官の仕事で地上とか別世界に行った時にね。事件に巻き込まれちゃった人とか保護が必要な子供とか……」

 

フェイトが待機状態のバルディッシュを取り出し空中にディスプレイを出現させる。そこには笑顔で写った数々の子ども達の写真が表示されている。

 

「保護や救助をした後お手紙くれたりする事があるの。特に子どもだと懐いてくれたりして……」

 

「フェイトちゃん子供に好かれるもんねー?」

 

なのはの言う通り確かにフェイトは子どもに好かれ易いよな。

 

「あー!エリオ暫らく見ない内に大きくなったなー♪」

 

「あーこいつもその手の子供か……エリオ・モンディアル6歳祝い?」

 

はやての言葉にヴィータも同じ写真を見ながら呟く様に読み上げる。

 

「うん、色々な事情があってちょっと前から私が保護者って事に成ってるの。法的後見人はうちの母さん。レンヤにも一度会いたがってたよ?」

 

「なら暇な時に会いに行ってみるか」

 

「私も行く〜〜」

 

フェイトとそのうちエリオと会いに行くことにした。

 

「フェイトちゃんが専門のロストロギアの私的利用とか違法研究の捜査とかだと子供が巻き込まれてる事多いからなー」

 

「うん、悲しい事なんだけどね。特に強い魔力や先天技能のある子供は……」

 

フェイトとはやてが寂しそうな表情で言う。

 

「だが、フェイトはそれを救って回っているんだろう?」

 

「そーだよ!」

 

「子供が自由に未来(ゆめ)を見られない世界は大人も寂しいからね」

 

「そういう意味ではお前は執務官になれて良かったのだろうな。試験に二度も落ちた時はもう駄目かと思ったが」

 

「あぅ///!シグナム!貴女はそうやってことあるごとに……写真見せてあげませんよ!」

 

「しっ試験の時期に私が色々心配掛けたりしました。」

 

「俺も、心配をかけたな」

 

シグナムにからかわれ頬を赤らめながら反論するフェイトとフォローするなのはと俺。

 

「その点はやてさんと異界対策課の皆さんは凄いわよね?」

 

「はやてちゃんは上級キャリア試験一発合格!レンヤ君も同じく上級キャリア試験一発合格に聖王教会の執務官試験も合格!他の皆も一発合格、本当に凄いよ!」

 

「ふぇ……私はそのタイミングとか色々運が良かっただけですからーレアスキル持ちの特例措置もありましたし///」

 

2人の言葉にはやては顔を赤らめながらフェイトを気遣い謙遜する。

 

執務官試験はともかく、上級キャリア試験は無理やり取らされたんだけど、それはあえて言わないでおく。

 

「あ~……凄い勉強してましたもんね?」

 

「あの時から試験と聞くともう心配で心配で」

 

なのはの言葉にシャマルは溜め息を吐きつつ言う。どうやらその時期は俺も含めて誰もが気が気じゃなかったみたいだな。

 

「いいもん…どうせ私なんて……」

 

フェイトに漫画で見る様な縦線が見える、取り敢えずフォローを入れておくか。

 

「レアスキル保有者とかスタンドアロンで優秀な魔導師は結局便利アイテム扱いやからなー。適材が適所に配置されるとは限らへん」

 

はやてが椅子に座りながら溜め息混じりに言う。

 

「はやてとヴォルケンズの悩み所だなー」

 

「でもはやてちゃん部隊指揮官に成りたいんだよね?」

 

「その為の研修も受けてるじゃない」

 

なのはとなんとか復活したフェイトがはやてに言う。

 

「準備と計画はしてるんやけどなー。まだ当分は学生兼特別捜査官や」

 

「最近は減ったけど、はやてちゃん……色んな場所に呼ばれてたからお友達とかできづらいのがねー」

 

かつてのはやての現状を思い心配そうにするシャマル。

 

「いや、友達は別に…もー充分恵まれてるし」

 

「でも経験や経歴を積んだり人脈作りができるのは良い事ですよね?」

 

「まあ確かに」

 

「コッチの人脈は半端なくデカイがな」

 

市民と1番近い管理局員だからな、異界対策課。

 

「確かにね、それにレンヤは確か中隊指揮官の資格があってよね」

 

「でもはやては大隊でしょ、レンヤより大変だよ」

 

「大丈夫だろ、はやてなら」

 

「そうだね、それに高校を卒業したら大変だろうね~」

 

「でも自分達で選んだ道だしね?」

 

「せやな……あ!そや、3人共ゴールデンウイークの連休!」

 

軽くそれぞれの将来を話しているとはやてが思い出した様に言う。ああ、そんな話があったっけ。

 

「はやてちゃんの研修先近くの温泉地だよね?」

 

「今回任務を受けたから……暫らくはお休みの申請取れたよ!」

 

「ホテルはも取ってあるからな~。アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃんも来れるみたいやし」

 

「レン君も行くんだよね!」

 

「行くも何も、はやての研修先って陸士104部隊だろ?」

 

「前に会ったよね?」

 

「あ、あはは〜そうやった……」

 

「まあ大丈夫だ、部隊を定休日にしておくさ」

 

「えっできるの?」

 

「レンヤは部隊長だしもうそれなりの権限を持っているから余裕だろ」

 

「いいのかな……」

 

「異界も最近大人しいし、大丈夫だろう」

 

となるとメンバーは俺、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか、アリシア、リイン、ソエル、ラーグの8人と2モコナか。結構多いな。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

「留守は任せて下さい♪」

 

今回は小旅行だからそんなに大所帯では行けないからな、他のメンバーは留守番だ。部屋も取れなかったみたいだし。

 

「よろしくな~」

 

「楽しみだね!」

 

「レン君も楽しもうね!」

 

「久しぶりの休みだからな」

 

「それじゃあ日程を纏めとくね〜〜」

 

「ああ、そうだな」

 

「はいですぅ♪」

 

俺達は来る日に向けての話し合いを始める。これからもこんな大変だが楽しい日々が続くんだろうな。

 

 



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55話

 

 

新暦71年、4月29日ーー

 

ミッドチルダ・首都クラナガン

 

あの護送任務から時も経ち、今日は4月29日……例の小旅行の日だ。

 

準備を整えた俺達は早速ミッドチルダにやって来た。この場に居るのは俺、なのは、フェイト、アリサ、すずか、アリシア、ラーグ、ソエルの6人と2モコナだ。この場にいないはやて、リインは研修中の為現地で合流となる。

 

「取り敢えずこれからどうしようか?」

 

「はやてとの合流まで時間あるし…何処か見て時間潰そうか?」

 

「あっそれなら服を見にいかない?」

 

「いいわね、ちょうど欲しいのもあったし」

 

「そうだね〜フェイトとすずかは下着を買うんだね〜」

 

「「なっ!」」

 

「何?あんた達また大きくなったの!」

 

そんな会話を俺の前でするな。

 

「そういえばすずか下着キツそうにしてたね~?」

 

「なんでソエルちゃんが知っているの⁉︎」

 

「バリアジャケットを新調する時に」

 

「結局のところ、皆買い換えるんだね」

 

(流石に居心地が悪いな)

 

俺は内心益々居心地の悪さを感じていた、少しは俺の目を気にしろよな。

 

「とっ取り敢えず!買い物しようか!」

 

「うっうん!レン君はどうする?」

 

「俺はその辺で時間潰してる。終わったら念話で連絡をくれ、ソエルは預けておく」

 

「うん、分かった!」

 

「レンヤ、また後でね?」

 

「待ったね〜」

 

「はいはい」

 

流石に下着売り場……もとい服屋に行く気にはならず、俺とラーグは少しの間別行動をする事にした。

 

なのは達と別れ俺は一人街中を歩いていた。その際に知り合いに会いまくってトラブルもあったが、その後認識阻害の効果があるメガネをかけて本をなどを見ながらそれなりに楽しく過ごしていた。

 

(ほんとミッドの人達は逞しいな。すぐ側に異界と言う存在があると言うのに知ってなお笑顔でいられるのだから)

 

まあ、それを守るのが異界対策課の仕事なんだけどな。

 

「まだ大分時間があるな。どうしようかな」

 

「そこらへん、ぶらぶらしているか?」

 

「それじゃあ、つまらないだろ」

 

それからゲームでもしようとゲームセンターに向かおうとしたら……

 

「…………やめて下さい………!」

 

離れた場所から女の子の怒った声が聞こえきた。

 

「……俺ってトラブルに巻き込まれるのかなぁ」

 

「どちらかと言うとトラブルに飛びこんでいくん方だな」

 

「だよな」

 

人垣を越えてみると、男性3人が女の4人と対峙していてその間に1人の女の子が挟まれていた。

 

「てめえらオレに喧嘩売ってんのか!」

 

「そうだそうだ!」

 

「リーダーに勝てると思ってるのか!」

 

「リーダーは強いッスよ!」

 

「喧嘩売ってんのはてめえらの方だろ!」

 

「女だからって容赦しねえぞ!」

 

「ガキが舐めてんじゃねえぞ!」

 

「やめなさい!公共の面前でそのような行いは許しません!」

 

どうやら男3人と女子4人が喧嘩しような雰囲気で、もう1人の女の子が仲介しているみたいだ。

 

しょうがないな、休みなのに。少し王様モードでいき……

 

「そこまでだ」

 

決して大きな声で言ってはいないが全体に響き渡り、全員がこちらに向く。

 

「暴力沙汰は黙認しかねるが、一体何があったんだ?」

 

「うるせい!テメエには関係ねえだろう!」

 

「これはオレ達の喧嘩だ、外野はすっこんでいろ!」

 

ずいぶん口の悪い女の子だなぁ。

 

「あなた達いい加減にしないと……」

 

もう1人の黒髪の長髪の女の子が細長い袋に手をかける。

 

「おっと」

 

「きゃあっ!」

 

1人の男がその女の子の後ろに回り、袋を奪ってしまう。

 

「おいおいこりゃ質量兵器じゃねえか?」

 

男が袋の中を取り出し、白鞘に入った刀を取り出す。

 

「ちっ違います!それはデバイスの待機状態です!」

 

「おおっ!確かに抜けねえな」

 

「オレ達を無視するな!」

 

「やっちまいましょう、リーダー!」

 

「来るか?ちょうどいい武器も手に入った事だし相手してやるよ」

 

「やめて下さい!晴嵐を返して!」

 

何だか面倒な事になったな、しょうがないな。

 

「おらぁ!」

 

「ちっ……」

 

「やめて!」

 

男が鞘をしたまま赤髪の女の子に刀を振り下ろすが……

 

「……………あ?」

 

「ん?」

 

「え……」

 

振り下ろされた手の中に刀はなかった。

 

「だから暴力沙汰は黙認できないって」

 

刀は俺の手に中にあった。

 

「てめえいつの間に!」

 

「君が正面しか向いていなかったから簡単に取れたよ、無刀取りってヤツだ」

 

「ああ⁉︎何訳の分からないこと言ってんだ!」

 

「先にしばかれてええか⁉︎」

 

「おい!お前達の相手はオレ達だぞ!」

 

「「「そうだそうだ!」」」

 

「うるせい!コイツの後で潰してやるよ!」

 

男3人は俺を取り囲む。

 

「しょうがないな〜」

 

俺は手に持つ刀……デバイスを顔に持っていく。

 

「すまない、少し力を貸してくれ」

 

《……………………………了》

 

「晴嵐⁉︎」

 

「ありがとう」

 

晴嵐を左腰に持って行き、居合いの構えを取る。

 

「やっちまえ!」

 

「「おおっ!」」

 

男3人が襲いかかって来るが……

 

「…………………ふうっ!」

 

「「「「「「「「!」」」」」」」」

 

近くにいる8人は何かを感じ取る、襲いかかって来た3人は一瞬動きが止まり……

 

「せいっ!」

 

「「「ぐはっ!」」」

 

その隙に首筋を鞘で打ち込み気絶させる。

 

「ふう、上手くいったな。ありがとうな」

 

《私は何もしていません》

 

「俺に握らせて、だよ」

 

《了》

 

礼を言った後、女の子に晴嵐を返した。

 

「はいこれ、大丈夫だった?」

 

「はっはい……ありがとうございます」

 

女の子は晴嵐を受け取り立ち上がる。

 

ちょうど管理局員も来て、男達を連れて行った。

 

「君達も来なさい」

 

「リッリーダー……」

 

「くっ………」

 

「待って!」

 

その時、小さい女の子が止めに入った。

 

「お姉ちゃん達は服を汚しちゃった事に怒った怖い人達から守ってくれたの!だから連れて行かないで!」

 

「バカ!出てくるんじゃねえ!」

 

「それは本当かい?」

 

「うん!」

 

そう言えば1人足が汚れていたのがいたな。

 

「分かった、彼女達4人は無実でお願いします」

 

「え? 済みませんがあなたは?」

 

そういえば認識阻害のメガネをかけっぱなしだったな。メガネを外し、IDを提示する。

 

「異界対策課所属、神崎 蓮也です」

 

「はっ………」

 

「え………」

 

「「「「「ええええええっ⁉︎」」」」」

 

ありゃ、そこまで驚くか?

 

「自分の知名度をもっと自覚しろ」

 

「そう言われてもね〜」

 

「もっモコナ・ラーグ・モドキ………」

 

「本物だ………」

 

「わっ分かりました!後はお願いします!」

 

管理局員は慌てて敬礼をし、去って行った。

 

「さてと、君達」

 

「「「「はっはい!」」」」

 

4人に声をかけたら気を付けをしたよ。

 

「これからは喧嘩腰にならないようにな、俺達管理局をもっと頼れ」

 

「はっはい……」

 

「ごめんなさい……」

 

「反省します……」

 

「すいませんでした……」

 

「うん、よろしい」

 

俺は黒髪の子に方を向き。

 

「君も止めようとしてありがとうな」

 

「いっいえ……」

 

「ただ、最後に実力行使しようとしてはいけないよ。状況が悪化するだけだからね」

 

「はい……ごめんなさい……」

 

「よろしい、それじゃあ俺は行くな」

 

「じゃあな〜」

 

メガネをかけて行こうとすると……

 

「待って下さい!」

 

黒髪の子に止められた。

 

「さっきの技は何ですか⁉︎刀を抜いてたと思ったら刀を抜いていなくて……どう言う技何ですか⁉︎」

 

さっきとは打って変わり、すごい勢いで聞いてくる。

 

「待って、説明するから落ち着いて……」

 

「オレも知りたいです!」

 

赤髪の子と他の3人も頷く。

 

「分かった、分かったから落ち着いて」

 

その言葉で落ち着いく。

 

「あれは抜刀術の一種で予備動作や仕草で相手を誘導して、刀を抜いていないのに抜いたように思わせる虚像の剣だ。俺の動きを見ていたから君達にも見えてしまったんだ、誤解させてごめんね」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

「そうです、そんなことないです!」

 

「はい!達人の技を見れて感激です!」

 

「流石はオーバーSランク魔導師です!」

 

4人組がはしゃぐ中、黒髪の子が俯き震えていた。

 

「えっと、どうかしたかい?」

 

心配になり声をかけたら……

 

「お願いします!」

 

顔を上げて……

 

「私を………弟子にして下さい‼︎」

 

思いっきり腰を折り、礼をした。

 

「ええっと、君は………」

 

「申し遅れました!私は抜刀術天瞳流第4道場門下生、ミカヤ・シェベルです!」

 

「そうか、ミカヤは大方さっきの技を見て教えを受けたいと思ったのか」

 

「はい!」

 

「うーん、でも流派から外れた技を教えていいものか……君もその天瞳流の者だろう、無闇に他の技術を習っていいと思っているのか?」

 

「そっそれは………」

 

「勢いはいいが、後先を考えないのが欠点だな」

 

「うっ……」

 

「………まあいいさ、答えはすぐに出せない。そのうち君の道場に顔を出させてもらうが、それでいいかな?」

 

「!、はい!よろしくお願いします!」

 

「それじゃあな」

 

今度こそ立ち去り、ゲームセンターに向かおうとしたら……

 

『レン君、お買い物終わったから合流しよう?』

 

結局の遊べずに終わってしまった。

 

『了解、直ぐ行く』

 

なのはに念話を返し、俺はなのは達との合流場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ北部・臨海第8空港ーー

 

空港の受け付けには困った顔をした一人の女の子がやって来ていた。

 

女の子の容姿は長い紫の髪に頭の後ろで結んだリボン、襟の辺りで結んだリボンがワンポイントの長袖シャツと膝辺りまでのスカート。手には旅行用のトランク。まだ幼なさがあるものの将来性を伺わせる美少女だ。

 

「はい、お待たせしました。ご用件はなんでしょう?」

 

「あの……迷子の呼び出しをお願いしたいんです」

 

「はい……ではまずお客様のお名前をお願いします。それから出発された場所も……」

 

少女の言葉に受付嬢は笑顔で応対しつつモニターに向き直る。

 

「はいっ。ミッド西部エルセアから来ました、ギンガ・ナカジマです。迷子になったのは私の妹で多分エントランスの辺りではぐれたと思うんですけど……名前はスバル・ナカジマ、年齢は11歳です」

 

記憶を辿りつつ発せられる少女、ギンガの言葉を受付嬢は軽快な動きでキーをタップし打ち込んでいき連絡を行なう。

 

そこから離れた場所に……

 

「んーおねーちゃんここにもいない、じゃあ今度はあっち!捜索開始ー♪」

 

件の迷子、青髪の少女、スバルははぐれた姉を捜しながら元気に言う。この少し後に輸送物資仕分け室にある危険物が原因で大規模な事件に巻き込まれるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガン北部ーー

 

なのは達と合流した俺はなのは達が持てない分の荷物を持ってはやて、リインとの合流場所であるホテルを目指していた。

 

「ふえ~…ミッドの地上も首都と北側は結構違うね?」

 

「こっちの方は自然が多いから観光スポット多いよ」

 

「こっちの方は普段すぐに通り過ぎてベルカに行くからゆっくり見た事はないな」

 

「そうだね~」

 

なのは、フェイトは物珍し気に辺りを見渡す。

 

「すずかの手伝いでちょくちょく来るけど良いところよ」

 

「うん、ここの皆にいっぱい良くしてもらっているんだよ!今から行くホテルにも一度依頼があって、オーナーとも知り合いなんだ」

 

「ほっ本当にレンヤ達って凄いね……」

 

改めて異界対策課の人脈に驚くフェイト。

 

「それで、はやてとの待ち合わせのホテルはどこなの?」

 

「向こうだよ」

 

「うん、はやてちゃんもそろそろ来るだろうし行こう!」

 

アリシアに言われすずかがホテルの方角を指差す。俺は荷物を担ぎ直し、なのは達と連れ立って待ち合わせ場所であるホテルへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局武装隊・陸士104部隊ーー

 

ここは、はやてとリインの居る研修先の陸士部隊。

 

「はやてちゃん、レンヤさん達は空港からホテルに向かってるそうです!」

 

「はぁい……じゃ、ちょっと外回ってそのまま休暇に入りまーすっ!」

 

「はいよ、八神一尉。非常回線は開けといて下さい。それとレンヤ達によろしく言っといて下さいよー」

 

部隊長に見送られはやてとリインはレンヤ達との待ち合わせ場所であるホテルに向かった。

 

「それにしてもレンヤ君本当に地上部隊の人達と知り会いなんやな」

 

「やっぱり異界対策課はすごいですぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル前ーー

 

俺達がホテルに着くと少しして……

 

「みんな~!お待たせや~!」

 

「遅くなりましたですぅ!」

 

荷物を持ったはやてとリインが駆けながらやって来た。息を切らせてない辺りはやての成長が伺える。

 

「気にするな、俺達も今来たばかりだ。それとお疲れ、はやて、リイン」

 

「うん、お疲れ様2人共!」

 

申し訳なさそうにする2人をレンヤ達は気にせず温かく迎える。

 

「ありがとう!それじゃあ早速チェックインをーー」

 

はやてが笑顔でそう言った次の瞬間……

 

ドオォンッ‼

 

「「「「「「きゃあぁ‼」」」」」」

 

爆音が轟き地面が揺れ、突然の事になのは達も驚き悲鳴を上げる。

 

「あそこだ!」

 

レンヤは辺りを見回し空港方面を見て原因を見つける。

 

「あ、あれは⁉」

 

「まさか……火事⁉」

 

なのは達も同じ方角を見てそれに気づき驚きの声を上げる。

 

「はやてちゃん大変です!臨海第8空港で原因不明の火災が発生した模様です!」

 

通信で事態の報せを受けたリインが報告する。

 

「仕方ないな、休暇を返上や!みんな行けるな?」

 

「もちろんだよ!」

 

「うん!」

 

「リインもです~!」

 

「ほんと、トラブルが後を絶たないわね」

 

「あはは……」

 

「いっくよ〜〜!」

 

「頑張ろ〜〜!」

 

「緊張感まるでないな」

 

「ビビるよりマシさ」

 

はやての指示になのは達はバリアジャケットを展開しつつ応える。

 

レンヤはバリアジャケットを纏いながら考える。

 

「あれ?皆バリアジャケットのデザイン変えた?」

 

「ああ、そこまで変わってないがな」

 

「機能と性能が変わっただけよ」

 

レンヤとアリサとすずかとアリシアのバリアジャケットは変わっており。

 

レンヤのバリアジャケットは黒いロングコートとズボンにシャツ、ところどころに白い線が入っており左二の腕にレンヤのリボンが8の字状に交差するように巻かれている、武器は双剣双銃ではなく左腰に刀がある。名前はホライゾンモード。

 

アリサのバリアジャケットは左右側頭部にある一部分長い髪に髪留めが付いて、腰の部分にはリボンではなくマントが付いており胸元には甲冑が付けられている。名前はグローリーフォルム。

 

すずかのバリアジャケットは髪型はポニーテールに白いカチューシャ、服の細部が変わって足に装甲が付いており、頭にヘッドフォンを付けておりヘッドフォンの繋がっている部分は後頭部にある。名前はエンペラーフォーム。

 

アリシアのバリアジャケットは髪型は長い三つ編みで緑のリボンで止めており、長袖のセーラー服のような上着を着て、ロングブーツを履いており左右の太ももに銃を入れるホルスターが付いてる。名前はイノセンススタイル。

 

(明らかな人為的な火災だろうな、一体誰が何の為に?)

 

レンヤは思考を巡らしながらはやてへと視線を向ける。

 

「はやては指揮を頼んだぞ」

 

「了解や!任せとき!」

 

内心レンヤはあらゆる可能性を想定しつつはやてに指示を出す。

 

(空港内に入る以上、指揮まではやってられないからな)

 

レンヤ達は飛翔し火災現場へと向かった。

 

火災現場・臨海第8空港ーー

 

「それじゃあ、また後で」

 

「うん、レン君も気をつけてね!」

 

「何かあったら連絡してね!」

 

「必ず駆けつけるわよ」

 

「レンヤ君、無茶しないでね」

 

「また後でね」

 

それだけ言い合いレンヤ達は散開し、なのは、フェイト、アリサ、すずか、アリシアとはそれぞれ違うポイントから空港内へと向かう。

 

「改めて見ると酷いもんだな、さてと行くか」

 

レンヤは消火活動をしながら空港内に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第8空港内部・エントランスホールーー

 

「うっ…ぐすっ……」

 

私は1人で今、空港内を歩いている。最初ははぐれたお姉ちゃんを探していただけだったのに、大きな音が聞こえたと思ったら周りが火に包まれていた。

 

「お父さん…お母さん…お姉ちゃん…」

 

周りには誰もおらず、ただ宛ても無くお姉ちゃんを探して歩き続ける。

 

ドオオオォォォォォンンンッッッッ!!!!

 

「きゃあああぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

 

突然横の壁が爆発し、私は爆風で吹き飛ばされる。

 

「う…痛いよ……暑いよ……こんなのヤだよ……帰りたいよ……」

 

どうしてこんな目に遭わないといけないの?

 

ミシミシ……

 

「助けて……」

 

ミシミシ……

 

「誰か……助けてよ……」

 

ミシミシ……バキッ!

 

起き上がろうとした際に音が聞こえたので振り返ると。

 

「っ!!」

 

広間に建っていた巨像が私に向かって倒れて来ていた。私は咄嗟に目を瞑り、ここで死んじゃうんだ…と思っていた。

 

「………………???」

 

 しかし一向に痛みも何も感じないので、ゆっくり目を開けると。

 

「間に合った…」

 

私の大好きなお兄ちゃんがそこにいた。お兄ちゃんは魔法で巨像が倒れてくるのを防いでくれていた。ゆっくりと私の傍に寄って来るお兄ちゃん。

 

「スバル、大丈夫か?」

 

「う…うう……お兄ちゃ~ん!」

 

私は起き上がってたまらずお兄ちゃんにしがみつく。

 

「1人で怖かったよな?けど、もう大丈夫だから」

 

お兄ちゃんはそんな私の頭を優しく撫でてくれる。温かくて優しさを感じるお兄ちゃんの手。

 

「あのねお兄ちゃん。私お姉ちゃんとはぐれたからお姉ちゃんを探してたの」

 

「そっか。ギンガもこの空港に来ているんだな?」

 

「うん」

 

「じゃあギンガも探さないと」

 

お兄ちゃんは私の頭を撫でるのを止めて言う。

 

「そこの人、無事ですか!?」

 

今度は別の人の声が聞こえてきた。

 

「助けに来ました……って、レン君⁉︎」

 

「なのはか、丁度良かった。悪いがこの子を頼む。俺がお世話になった人の娘さんなんだ」

 

「ふぁ?」

 

私は抱き上げられてお姉さんに預けられる。

 

「私も救助しに来たからその子を預かるのは良いんだけど、レン君はどうするの?」

 

「この子…スバルのお姉さんのギンガを探しに行こうと思ってな。スバルを連れて探しには行けないから」

 

お兄ちゃんと知らないお姉さんが話している様子を見る。あ、でもよく見たらあのお姉さん、テレビとかで見た事ある様な……

 

「スバル」

 

思い出そうとしていたらお兄ちゃんに声を掛けられる。

 

「これから俺はギンガを探しに行くから、このお姉さんに安全な場所まで運んで貰うんだよ」

 

「うん」

 

私は素直に頷く。お兄ちゃんならお姉ちゃんも見つけてきっと助けてくれる。そんな気がしたから。じゃあ、後任せた、と言って別の場所へ行きながら連絡しているお兄ちゃんの背中を見送る。

 

「じゃあ私達も行こうか。もう大丈夫だからね。安全な場所まで一直線だから」

 

お姉さんはデバイスの杖を上方に向け、足元に魔法陣を展開させる。

 

「一撃で地上まで抜くよ、レイジングハート」

 

《了解。上方の安全は確認済みです。カートリッジロード》

 

デバイスから何かが2つ吐き出されると、デバイスの先端に魔力が集まる。

 

「ディバイーーン…バスターーーー!!!」

 

ドゴオオオオォォォォッッッッ!!!!!

 

桃色の光線が真っ直ぐに伸び、天井を突き破る。

 

「ふわぁ…」

 

私はその桃色の光線に目を奪われる。光線が消えた後には穴が開いた天井の部分から夜空が見えていた。

 

「よし、しっかり掴まっていてね?」

 

「はっはい!」

 

こうして私はお姉さんに抱き抱えられ、救助隊の元にまで運ばれた。そして私もお兄ちゃんやこのお姉さんの様に、誰かを助けられるぐらい強くなる。もう泣いてるだけで何も出来ない自分を変えるんだ!、という想いを胸に秘めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空港外・指揮車両

 

「203、405東側に展開して下さい!魔導師陣で防壁張って燃料タンクの防御を!」

 

「はやてちゃん、ダメです!まるっきり人手が足りないではすよぉ!」

 

「そやけど首都からの航空支援が来るまで持ち堪えるしかないんよ!頑張ろ?」

 

「はいっ!」

 

レンヤ達が空港内で救助活動をする中、はやてとリインは救助の為少ない人員をやりくりしながら指揮を取っていた。

 

「そのまま南へ!」

 

「はやてちゃん、応援部隊の指揮官さん到着です!」

 

「すまんな、遅くなった」

 

リインの報告通りに中年くらいの男性と二十代の女性がやって来た。

 

「いえ!陸士部隊で研修中の本局特別捜査官・八神はやて一等陸尉です!臨時で応援部隊の指揮を任されてます!」

 

「陸上警備隊108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐だ」

 

「同じく、クイント・ナカジマ陸尉です」

 

互いに敬礼をしつつ簡略的に名乗り……

 

「はい、ナカジマ三佐。部隊指揮をお願いしてよろしいでしょうか?」

 

はやては自身も空に上がる事を決める。

 

「ああ、お前さんも魔導師か?」

 

「広域型なんです、空から消火の手伝いを!」

 

ゲンヤの疑問にはやては剣十字のペンダントを取り出しながら答える。

 

『はやて、指示のあった女の子一名無事に救出。名前はスバル・ナカジマ、さっきなのはに頼んで救護隊に引き渡したんだがお姉さんのギンガがまだ中に居るらしい。引き続き救出を続ける、ゲンヤ・ナカジマかクイント・ナカジマに直ぐに連絡してくれ』

 

レンヤ君から通信が入りはやての前にディスプレイが表示される。

 

「了解!私も直ぐに空に上がるよ!」

 

『了解、頼りにしているぞ』

 

「ナカジマ?」

 

報告を受け取りはやては通信を切る。レンヤの報告にあった名前を聞きリインが首を傾げる。

 

「うちの娘だ」

 

「「⁉」」

 

「2人で部隊に遊びに来る予定だったの……」

 

ゲンヤとクイントは悔いる様にリインの疑問に答え、それを聞いた2人は驚く。

 

「ではナカジマ三佐、後の指揮をお願いします!リインしっかりな、説明が終わったら上で私と合流や!」

 

「はいです!」

 

それだけ告げるとはやては駆け出し途中光に包まれ騎士服に換装し騎士杖を携え翼を広げ上空に上がる。

 

(みんなで頑張って空港内に取り残された人達を待ってる人の元へ帰してあげなアカンよね!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡易治療場ーー

 

「ううっ……痛いよ……」

 

「大丈夫、すぐに良くなるから!」

 

「アリシア!急患よ!」

 

「アリシアちゃん!コッチも!」

 

アリシアは治癒魔法で怪我人を治して行っているが、怪我人が多すぎて対応が追いつかない。

 

「アリシア!これを使って!」

 

ソエルが取り出したのは光の神器だった。

 

「了解!」

 

アリシアすぐに光の神器を纏う。

 

「光輝、広域!リザレクション!」

 

広範囲に魔法陣が展開されて怪我を治して行く。

 

「よし!これで……」

 

ドカアアアアアンッッッッ‼︎

 

一際大きな爆発が起きる。

 

「まずい!破片がコッチに来るよ!」

 

「フレイムアイズ!」

 

《バーニングウォール》

 

目の前に炎の壁が現れ、瓦礫や破片から身を守る。

 

「すずか!」

 

「分かったよ!」

 

《目標付近に生体反応なし。スナイプフォーム、アブソリュートコア》

 

長銃を構え、サッカーボールサイズの魔力弾を発射して。直撃したら弾けて凍らせ火を消した。

 

「ふう、こんな事ならアギトをシグナムに預けなきゃよかったわ」

 

「しょうがないよアリシアちゃん、まだ行ける?」

 

「大丈夫だよ!」

 

アリシアは治癒に専念して、アリサとすずかは警戒しつつ治癒の補助をしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第8空港内部ーー

 

「スバルー!!スバル、どこー!?」

 

ドオオオォォォォォンンンッッッッ!!!!

 

「きゃああっっっ!!!」

 

先程から色んな所で爆発する音が聞こえ、私の足元が振動で揺れる。立って歩くのが難しいので手すりをしっかり握りながらゆっくり前へと進む。

 

「スバル…スバル、返事をして。お姉ちゃんが、すぐ助けに行くから」

 

今頃、何処かで泣いているかもしれない妹の姿を私は探す。あの子は私の大切な妹だ!絶対に助けなきゃ!

 

「そこの子!ジッとしてて!今助けに行くから!!」

 

突如聞こえた誰かの声。振り向き、上の階の方を見るとバリアジャケットを纏った金髪の女性が私に呼び掛けていた。

 

バキバキ…バキイッ!!!

 

「ああっ!!?」

 

だけど、その瞬間に足元が崩れ、私の身体は宙に投げ出される。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

 

そのまま重力に引かれ、下の階に落ちていく。

 

ズズズズズズンンン!!!

 

崩れた足場は最下層に落ち、大きな粉塵を巻き起こす。私自身は……落ちていなかった。

 

「危なかった…」

 

私のすぐ側で聞こえる先程の人の声。いつの間にか私はその人に抱き抱えられていた。

 

「ゴメンね…遅くなって。もう大丈夫だよ」

 

「ぁ……」

 

助かった…。私、助かったんだ。

 

「この辺に反応が……いた、フェイト!ギンガ!」

 

「「え?」」

 

咄嗟に自分の名前を呼ばれたので反応する。私とフェイトって呼ばれたお姉さんの向いた先には……

 

「良かった……無事だったか」

 

「レンヤさん!」

 

「レンヤ!」

 

私達ナカジマ家と仲の良い知り合いの人の姿があった。

 

「レンヤ、そっちは大丈夫?」

 

「ああ、問題ない」

 

レンヤさんとこの人は知り合いなのかな?って…

 

「レンヤさん!!スバルが!スバルがまだ空港の何処かにいるんです!!早く見つけてあげないと!!」

 

私はレンヤさんに説明しようとする。今日はスバルと一緒にお父さんとお母さんの部隊先に遊びに来ていた事、そして空港にいた際、スバルとはぐれた時にこの火災に巻き込まれた事を。

 

「ギンガ、大丈夫だ。そのスバルだけどさっき助けた所だから」

 

「え?」

 

スバルはもう助かってるの?

 

 『こちら通信本部。スバル・ナカジマ、11歳の女の子。既に救出されています。救出者は神崎三等陸佐と高町教導官です。大きな怪我はありません』

 

「な?」

 

通信先の局員さんがスバルの無事を知らせてくれる。

 

「スバル…良かった……」

 

私は安堵する。

 

「レンヤさん、ありがとうございます」

 

「いやいや、気にするな。……フェイト」

 

「何?」

 

「ギンガの事頼む。俺はまだ要救助者がいないか探すから」

 

「分かったよ。レンヤも気を付けてね」

 

「了解、そっちも気を付けてな」

 

レンヤさんが別のエリアへと向かう。

 

「じゃあ、私達もここから出るよ。ギンガ…だったよね?」

 

「あっ…はい。ギンガ…ギンガ・ナカジマ。陸士候補生13歳です」

 

「候補生か。未来の同僚だ」

 

「きょ…恐縮です」

 

レンヤさんがさっき言ってたこの人の名前……フェイトと呼ばれていたのを聞いて思い出した。フェイト・テスタロッサ執務官。本局所属の高ランク魔導師……エースの1人だ。レンヤさん、そんな人と知り合いなんだ。

 

それからすぐに建物の中から脱出し、私はスバルと無事再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮車・車内ーー

 

「補給は?」

 

「後十八分で液剤補給車が七台到着します!首都航空部隊も1時間以内には主力出動の予定だそうです!」

 

リインとゲンヤは車内で情報を見ながら指揮を行っていた。クイントはその補佐だ。

 

「遅えなっ!要救助者は?」

 

「あと20名程……魔導師さん達が頑張ってまし先程アリサさんとすずかさんが救助に加わりましたから…なんとか」

 

「最悪の事態は回避できそう?」

 

「はいですっ!」

 

「よし、おチビの空曹さんももういいぞ。自分の上司の所に合流してやんな」

 

「よろしくお願いね」

 

報告を受けまだ気は抜けないが、一先ず最悪の事態を避けられた事にネクタイを緩めホッと一息を吐く。

 

「はい!よろしくお願いです!」

 

リインははやての元に向かった。

 

「八神一尉。指定ブロックの局員全員、避難完了です。お願いします」

 

 消火作業に当たっていた局員さんからの報告を聞く。

 

「了解。リイン、準備はええか?」

 

「はいです!」

 

「「ユニゾン……イン!」」

 

はやてはリインとユニゾンを終え、呪文を詠唱する。

 

灰白(ほのしろ)き雪の王、銀の翼()て、眼下の大地を白銀に染めよ!」

 

左手に持つ夜天の書のページを開くと古代ベルカ式の魔法陣が足元に現れ、わたしの周囲に圧縮した気化の立方体が4個浮かび上がる。

 

()よ、氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)‼︎」

 

シュベルトクロイツの先端を眼下に向けて振り下ろし、圧縮した立方体型氷結弾を全て空港に撃ち込む。

 

パキパキパキパキパキ!

 

着弾点から徐々に氷結し、火災を抑えていく。

 

「おっし♪」

 

指定ブロックの消火はこれで完了や。リインの制御のおかげで魔法の余波を局員の皆さんに浴びせる事も無かったし。

 

「すっげ……」

 

「これが、オーバーSランク魔導師の力……」

 

他の局員さん達が驚く中……

 

「悪いけど次のブロックに向かうからここら辺の事は任せてええかー?」

 

はやては声を掛ける。

 

「あ、はい」

 

返事を聞いて次のブロックへ向かおうとすると……

 

「では次の凍結可能ブロックを……っ⁉八神一尉!燃料タンクに引火!凍結をお願いしますっ!」

 

「な、なんやてっ!」

 

(アカン!私の魔法じゃ間に合わへん!)

 

あわや大爆発を引き起こすかと思われた瞬間!

 

「太古、零点!アブソリュート!」

 

ギャアァァァンッ‼

 

巨大な氷山が燃料タンクに直撃し一瞬で完全に凍結させる。

 

「レンヤ君!」

 

「大丈夫だったかはやて?」

 

「うん、お陰様でな~!」

 

(やっぱりレンヤ君はナイト様や♪)

 

レンヤがはやてに聞くと笑顔で上機嫌に答える。レンヤはこの様子なら問題ないなと判断する。それとレンヤはナイトではなくどちらかと言うと王様だ。

 

「凄え、あれが異界対策課隊長にして聖王、神崎 蓮也……」

 

「さて…首都航空部隊は遅すぎるな。はやて、全員を空港内から避難させる。はやての広域魔法で空港を完全凍結してくれ。要救助者は全員救出済みだ、遠慮はいらない。この空港ももう使えないだろうし」

 

「了解や!」

 

レンヤは氷の神器をはやてに渡し、はやては氷の神器を纏う。

 

『全魔導師に通達!これから八神一尉の広域魔法が放たれる。凍りつきたくなければ直ちにその場から退避しろ!』

 

レンヤの念話を聞いた魔導師達は慌てて空港を飛び出し避難する。

 

「……よし、全員の避難を確認、はやて頼んだぞ」

 

レゾナンスアークに空港内に生体反応がない事を確認したレンヤははやてに指示を出す。

 

「はいな!……氷の神器の力を合わせてーー」

 

魔力を溜めて、はやてが騎士杖を振り上げ……

 

銀世界(シルバー)‼」

 

一気に振り下ろす。はやての騎士杖から凄まじい冷気が放たれ瞬く間に空港は凍てつき、あれだけ燃え盛っていた炎でさえ完全に凍結する。

 

「流石だ、また一段と腕を上げたな、はやて」

 

「ありがとう♪」

 

その威力を見たレンヤははやてに賞賛を送る。レンヤに褒められたはやては嬉しさから笑顔を浮かべる。こうして空港火災は完全に鎮火された。

 

余談だが、あの後首都航空部隊が来たが事態は既に終わっていたのでレンヤ達からしてみれば今更何しに来たって感じだったが、といった感じだった。

 

だが折角来たんだしと、事後処理を任せレンヤ達はホテルに引き上げたが、そこで問題が発生する。

 

「えっ!俺が取っていた部屋が使えない⁉︎」

 

「はい、先程の火災で帰宅出来ない方に部屋を提供していましたが……誤認で先程のご家族があなたが予約していた部屋を提供してしまいまいた。誠に申し訳ございません」

 

「大変失礼しました!」

 

オーナーと間違えたであろう女性が頭を下げる。

 

「……どうしようかな?」

 

「仕方ない。異界対策課で寝るさ、ソエルをよろしくな」

 

「でもレンヤ……」

 

「そうだ!だったらレン君も私達の部屋で寝ればいいんだよ!」

 

なのはがとんでもないことを言ってきた。

 

「なのは?もう俺達中3だぞ、流石に無理あるって」

 

「わっ私は……いいよ///」

 

「フェイト⁉︎」

 

「私もかまへんよ///」

 

「私も大丈夫よ///」

 

「はやてにアリサまで……」

 

「6人部屋出し大丈夫だよ、それにレンヤ君だったら……///」

 

「は〜い!私もレンヤと寝た〜い!」

 

「いや、俺は異界対策課でーー」

 

「つべこべ言わずに来なさい!」

 

「うわっ!」

 

「まずはごはんだね」

 

「その後は温泉だ〜!」

 

アリサに引っ張られてそのまま食堂にに向かう。

 

「はあ、しょうがないな」

 

「それでいいのよ」

 

「アッアリサちゃん……いつまで腕を組んでいるの?」

 

「ちょおっとくっ付き過ぎやなあ?」

 

「あらいいじゃない」

 

アリサが腕に力を入れてくる。

 

「うっ……///」

 

前はそこまで意識していなかったが、今のアリサにやられると恥ずかしい感じがする。

 

「むう、レン君デレデレしている〜」

 

「しっしてないって!」

 

「本当かなぁ」

 

「私達、襲われへんかなぁ」

 

「俺を何だと思っている!」

 

「冗談冗談、も〜照れちゃって〜」

 

「本気でしばくぞ、アリシア」

 

それから食事を摂った後、温泉に入り。火災の事を話し合った後、部屋に向かった。

 

「じゃあ俺はソファーで寝るから」

 

「ええっ!ダメだよ、そんなことしたら疲れが取れないよ!」

 

「そうや!レンヤ君は私と……」

 

「ずるいよはやて!レンヤは私と一緒に///」

 

「フェイトも何抜け駆けしているのよ!」

 

「そうだよ!レンヤは私と夜を過ごすの!」

 

「「「「アリシア(ちゃん)(姉さん)⁉︎」」」」

 

騒ぐ5人をほおっておいて、ソファーに行こうとすると……

 

「レンヤ君、私のベットを使って。私はアリサちゃんのベットで寝るから」

 

「えっ!ああ、すまないな」

 

「ううん、おやすみレンヤ君」

 

「おやすみすずか」

 

レンヤはすずかが指差したベットに向かい、上着を脱いだら倒れこんでそのまま寝てしまった。

 

「ふふふ」

 

その時レンヤは気が付かなかった、すずかが忍に似た顔をしている事に。

 

 



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56話

 

 

重い瞼を開けて、意識が目覚める中身体に倦怠感と貧血がする。 倦怠感はともかくなんで貧血がするのかはわからないが……

 

「そうだ……昨日の火災で……」

 

とりあえずまだ寝たいので寝返りをうち枕に手を伸ばす。

 

むにゅっ……

 

(柔らかくて暖かい枕だなぁ、ミッドチルダにはこう言う枕があるのかぁ)

 

しばらく枕の感触を確かめていた。

 

むにゅ、むにゅう……

 

「んっ………」

 

「…………………ん?」

 

誰かの声が聞こえて、目を開けたらまずは白が見えてきて、顔を上げたら見覚えのある紫色の髪が見えて……

 

「うわああああっ!」

 

飛び上がりベットの上を確認すると、そこにはすずかがいた。

 

「うーーん、レンヤ君おはよう……」

 

「えっ…おはよう……じゃなくて!何で俺と一緒に寝ているの⁉︎アリサと寝たんじゃないの⁉︎」

 

「う〜〜ん……寝ぼけちゃった♪」

 

悪気がまるでなく言い切ったよ。

 

「て言うか隠せ!目のやり場が困る……」

 

下着にワイシャツ1枚で寝られるか?ていうか皆も似たような格好出し⁉︎

 

「レンヤ君も上脱いでいるよ」

 

「わっ!いつの間に⁉︎」

 

俺はよく寝苦しいのか寝ている時に上を脱ぐ事があり、起きた時に上が適当に脱ぎ捨てられているのがよくあるのだ。

 

「それよりも……レンヤ君、私の胸の感触はどうだったの?」

 

「そっそれを今聞くか⁉︎///」

 

恥ずかしくて顔が熱くなるを感じる。

 

「で、どうだったの?」

 

「………………柔らかかったです……///」

 

「ふふっありがとう♪」

 

すずかはそう言い抱きついてきた。

 

「むぐっ!」

 

「ふふっレンヤ君は可愛いな〜〜」

 

顔にすずかの大きな胸が……それに貧血のせんで抜け出せない!て言うか絶対吸血鬼の力を使っているな!

 

「ーーレン君、何をやっているのかな?」

 

「なっなのは!助け……」

 

「んんっ///レンヤ君くすぐったいよ」

 

やべえ、チラ見してなのは見たが、目に光がなかったよ。

 

「レンヤ?すずかと何をやっているの?」

 

「私が寝ている間に階段でも登ったんか?」

 

「す〜ず〜か〜………」

 

「抜け駆けはダメって言ったよね?」

 

他の4人も起きたが、同じく目に光がない。

 

「きゃああ〜〜レンヤ君、怖い〜〜」

 

「ん〜〜〜〜!」

 

全く怖がっている風には見えず、強く抱きついて来て息ができなくなる。

 

「すずかちゃんレン君から離れて!」

 

「レンヤ!まさかすずかと……////」

 

「レンヤ君!階段から降りてきて私を上に上げてえな!」

 

「あんたは何口走ってんのよ!」

 

「すずかずるい!私もレンヤと寝る〜〜!」

 

皆が迫ってきて俺は混乱する、皆目のやり場困る格好で来ているからさっきから身体のあちこちに柔らかいのが当たってくる。

 

「とにかく静かにしてくれーーー!」

 

俺を中心にした言い争いはしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから皆落ち着き、私服に着替える。

 

「全くすずか、あまり悪ふざけはやめろ」

 

「うん、ごめんねレンヤ君」

 

本当に反省しているのかなぁ。他の皆も自分の格好と行動を思い出し、顔を赤くして俯く。

 

「コホン、はやて。話しがあったんだな?」

 

「え!ああ、うん……実は前から思ってて……昨日の事で余計に思ったんや。局……特に地上部隊の対応の遅さ……もちろん理由も分かっとる。本局が高ランクの魔導師を引き抜いてしまうからや」

 

「よく見てるな、はやて」

 

ラーグははやての見識の高さに感心する。序でに言うとそれが原因で上手く連携も取れていない。

 

「それでな?私は自分の……ううん、違うな……自分達の部隊を持ちたいんよ!みんなでやれるんなら、別に私が部隊長でなくても構わへん!」

 

はやては途中で思い直し改めて全員の顔を見て力強く宣言する。

 

「そうなると…部隊長は誰がやるんだ?」

 

「順当に考えれば、私はレンヤ君がええと思うんやけど……」

 

「俺はすでに部隊長だ、俺以外だとはやてが1番適任だな」

 

「でっでもレンヤ君の方が階級高いし経験豊富やし……」

 

はやての推薦を断わり、逆にはやてがやる様に言うと戸惑った不安な表情になる。

 

「何も全部やれなんて言わない。実際、俺は1人じゃミッドチルダ全域は守れないからな。だから俺もはやてを助ける……俺だけじゃない。なのは達もな?」

 

俺ははやてを励ましながらなのは達の方を見る。

 

「もちろんだよ!それにそんな楽しそうな部隊に誘ってくれなかったら逆に怒るよ?ね、フェイトちゃん!」

 

「うん!そうだよ、はやて」

 

「レンヤ君、なのはちゃん、フェイトちゃん…おおきに!」

 

はやては俺達の言葉に目尻に浮かんだ涙を拭い微笑む。

 

「もちろん私達も協力を惜しまないわよ」

 

「言わずもがな、だね」

 

「皆と一緒にいられて楽しそうだし!」

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃんも……ほんまおおきに!」

 

こうして俺達の高校卒業後の目的も定まった。

 

はやてとの話も終わり、今日の予定を決める事になった。

 

「それで今日はどうするの?」

 

「なのはちゃん達は大丈夫?疲れてない?」

 

「それはコッチの台詞、と言いたいがな」

 

「ん~昨日は確かに忙しかったけど幸い徹夜はしてないし……遊ぶ元気はあるよ~!」

 

「レンヤが事後処理を首都航空部隊に丸投げしたからね?」

 

「当たり前だ、ろくに働いていないんだから事後処理ぐらいやらせても罰は当たらない」

 

「あはは♪流石レンヤ君や!取り敢えず朝食を食べながら決めよか?」

 

「賛成~」

 

「展望レストラン楽しみですぅ!」

 

取り敢えず俺達は朝食を摂る為にこのホテルの最上階にある展望レストランへ向かった。 どうやらここは朝食・昼食はバイキング形式らしい、それもどれも豪華な物ばかりだ。ヘルシーなのからこってりしたのまで、男女共に満足できる仕様となっている。

 

「ん~美味しいね~!」

 

「そうだね!」

 

「やっぱり朝は和食やな!」

 

「はいですぅ♪」

 

「俺はツマミに合えばどっちでもいいけどな」

 

「私和食〜〜」

 

「私としてはミッドに和食がある事が今でも驚きなんだけど」

 

「確か……ミッドに移住した日本人が広めたんだったな?」

 

「ナカジマ家がその子孫達の内の一人だよね」

 

「はいですぅ!」

 

「あとはレンヤを始めとした地球出身の魔導師の知名度の高さも和食が注目される要因ですかね~」

 

「なるほど~、レンヤ達は有名人だもんね」

 

ソエルの補足を聞き、フェイトは感心する。

 

「でも…そんなに有名なのになんで騒ぎにならないのかな?」

 

「確かに言われてみればそうやな?」

 

辺りを見渡したなのはは首を傾げ疑問を呈し、はやてもそれに同意する。

 

「それはなのは達に渡したメガネの力だな」

 

「メガネ?」

 

俺の言葉に首を傾げながらなのは達が掛けてる眼鏡を見る。これは部屋を出る前に俺がなのは達に渡した物だ。

 

「ラーグお手製のこの眼鏡には認識阻害の魔法が掛かっててな。掛けただけで周りの認識を阻害する」

 

「お手製マジックアイテムだぜ!」

 

「なるほど~……便利だね?」

 

「確かにそうだね!」

 

「これは助かるな~!」

 

「よくお世話になっているわ」

 

「怪しまれないしから色々な場所に気軽に行けるからね」

 

「便利だよね〜」

 

そんな会話をしながら朝食の時間は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ずは東部12区内・パークロードに向かい、それから俺達は買い物をしたいと言うなのは達と共にファッション系、アクセ系、カフェ、屋台などの店が立ち並ぶエリアへとやって来た。

 

「先ずは何から見ようか?」

 

「そうだね…服とか?」

 

「昨日、見たよね?」

 

「ここでは見てない、って事じゃなか?」

 

「あ、それやったらレンヤ君の服をみんなで選んであげようや!」

 

「え?」

 

何を見るか話し合っているといきなりはやてがそう切り出した。

 

「それは良いわね!」

 

「うん、何時も私達ばかり見てるし……良いんじゃないかな?」

 

「賛成賛成!」

 

「リインもレンヤさんのお洋服選ぶです!」

 

何故か全員乗り気らしい、

 

「うーん……分かった、それでいいか」

 

この空気で断れる筈もなく、俺は承諾する事にした。

 

「決まりだね!それじゃあ、出発ー!」

 

「「「「「「おぉ~♪」」」」」」

 

なのは達の先導の下、俺は服屋へと向かった。 ほんとん着せ替え人形になったような気分だったが、着てみるごとにに皆が顔を赤くしていたのはなんでだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もゲームセンターなどに行き盛り上がりって買い物を終え、ホテルへと戻ってきた、俺達は晩飯を食べる為に再びホテルの展望レストランへ。夜はちゃんとしたディナーであり、俺達の座った席は街を一望できる様になっている。

 

「う〜〜ん、美味しい!」

 

「朝とは違って作り凝まれているね」

 

「うん、レンヤ君に迷惑かけたからオーナーがシェフに頼んで凝った物にしてくれたみたいだね」

 

「なら遠慮せず食べる!」

 

「酒をくれ〜〜」

 

「アンタは自重しなさい」

 

「そう言いばレンヤ君、あの話しを受けるん?」

 

「そうだなぁ……」

 

街を回っている途中人とぶつかりメガネを落とし顔を見られてしまったのだ。その人はDSAA関係者で今年の大会の出場をお願いされた。

 

「DSAAって何?」

 

「DSAA、ディメンション・スポーツ・アクティビティ・アソシエイションの略称で。簡単に言えば次元世界のスポーツ競技の運営団体だ、レンヤの年齢が出場出来るのは全管理世界の10歳~19歳の魔導師が出場するインターミドル・チャンピオンシップだろうな。まだ締め切りの期限は過ぎていないから、出場出来るぞ」

 

アリシアの疑問にラーグが大まかに説明する。

 

「私は聞いた事あるよ、メガーヌさんとクイントさんも学生時代に出場したって聞いたし」

 

「主に格闘技術を競う大会だったわね、確か7月から開催されるはず」

 

「それでレンヤはどうするの?」

 

「とりあえず出場してみるさ、色々と試したい事もあるし」

 

「レン君、DSAAはレン君の実験場じゃないよ」

 

「あはは………」

 

「応援するんよ、レンヤ君!」

 

その後も色々な話をしながら食事を終え、ようやく俺の部屋が用意できたのでそっちに向かう。

 

その後俺はのんびり温泉に入り、コーヒー牛乳を飲み終え部屋へと戻って来た。

 

「ふう、やっとゆっくり出来る」

 

「今日もなのは達と寝ればいいじゃん」

 

「ラーグ、あまりふざけるな」

 

ラーグを注意して、ベットに寝転がり目を閉じて少し眠る。

 

時々こうするとまるで別の人の夢を見ることがある。

 

脳裏に浮かんでくるのは女性2人と男性1人が、1人の女性を呼び止める場面だ。顔はボヤけて見えない。

 

【ーーーーー。貴方は私達の大切なお友達です、その憎悪を私達にも背負わせてくれませんか?】

 

【これは私の問題だ、アンタ達には関係ない】

 

【たとえそうでも、私は諦める事は出来ない】

 

【物好きね、私はーー】

 

女性は左手を赤黒い獣の手に変えながら言う。

 

【ーーー鬼神よ】

 

「…………憎悪、か」

 

俺には分からない感情だが、それを否定することもできない。 もし……こんな記憶を今も彼女の子孫が持っていたら、一体どうなるんだろう?

 

コンコン

 

「ん? どうぞ」

 

ドアが開かれて入って着たのはフェイトだった。 風呂上がりで髪がまだ濡れていて、ただ濡れているだけなのに妙な色香が出ていてちょっと直視できなかった。

 

「レンヤ……その、もう温泉には入ったの?」

 

「ああ、ちょっと長湯した気したがな」

 

「ふふ、確かに、あそこの温泉すごく気持ちよかったからね」

 

「それでフェイトは何をしに? なのは達が呼んでいるのか?」

 

「えっと、レンヤは昨日から疲れたでしょう? 肩とかこってない?」

 

そう言われて肩を揉んでみると、かなりガチガチだった。 昨日に加えてここ最近仕事詰めだったからな。

 

「うーん、確かにこってるかなぁ?」

 

「なら私がマッサージしてあげるよ、お風呂上がりの方が効果があるんだよ。 よく母さんとリンディさんにもやってあげているし」

 

「ならお願いしようかな」

 

フェイトに背を向けてお願いする。 すぐに肩に細長い手が乗せられて肩を揉み始めた。

 

「あ、やっぱり固いね。 今日でも休んでおいて良かったかもね」

 

「それはお互い様だろ?」

 

なのはやフェイトも注意はしているがあんまり休んだことは少ない、もちろん無茶はしてないが。

 

「んしょ、んしょ……ふう、固いなぁ」

 

むにゅん……

 

「⁉︎」

 

手から肘を使って肩をほぐし始めたフェイト。 だがそうなると、肘を当てるために密着することになり……後頭部に、胸が……

 

(一難去ってまた一難⁉︎ これでなのは達でも着たりしたら……)

 

「ん!」

 

「うぐっ……」

 

……なんか、どんどん強く押し当てられているような……しかも気付いていないようだし。

 

「ひゅーひゅー! フェイトやるぅ!」

 

「まさに凶器だな、あれは」

 

「え……?」

 

ソエルとラーグが茶々を入れてきて、フェイトはマッサージを止めて下を向いた。 すると今の状況に気付いたのか、みるみる顔を赤くしていく。

 

「えっと、言うに言いづらかったというか……真面目にやっているフェイトに悪いとも思ったし……」

 

「ッ………‼︎///」

 

フェイトは慌てて離れると、躓いて倒れようとした。

 

「フェイト!」

 

すぐに手を伸ばして助けようとするが、逆に引っ張られてそのまま一緒に床に転んでしまった。

 

「痛たた……大丈夫か、フェイ……ト?」

 

うつ伏せから起き上がろうとして目を開けると……目の前にフェイトがいた。

 

「レ、レンヤ……///」

 

(この状態は……!)

 

故意ではないが、結果的に俺がフェイトを押し倒す構図になっていた。

 

「………よ」

 

「はい?」

 

「レンヤなら……いいよ///」

 

「何が⁉︎」

 

頰をさらに赤くしながら変なことを口走っている。 とにかくすぐに離れないと……

 

「レン君〜! そろそろ夕食の時間だ……よ?」

 

「早くこんとなくなってまう……よ?」

 

そこに、運悪くなのはとはやてが部屋を訪れてしまった。 俺とフェイトの構図を見て固まり、しばらく沈黙が続いた。

 

「えっと、そう! これは事故だ! 決して故意じゃなく、倒れようとしたフェイトを助けようとしてこうなったわけで……」

 

上体を起こし、手を振りながら言い訳をいう。 あれ、なんで言い訳なんだろう?

 

「……そうやな」

 

「はい?」

 

「レンヤ君もお年頃なんやし……美少女6人と同じ部屋で寝たら若い衝動が目覚めてもおかしくあらへんやろな……」

 

「激しく勘違いしてますよ、はやてさん⁉︎」

 

とにかくこの状況を脱するにはフェイトからも弁明してもらわないと……! そう思い視線を下げると……未だ顔を赤くしてうわ言のように何やらブツブツ言っていた。

 

「……レンヤに……私、レンヤに……女にされちゃう……」

 

「フェイト〜? おーい、フェイト〜〜⁉︎」

 

ダメだ、完全に心ここにあらずだ。

 

「………レンヤ君?」

 

「え、なのは?」

 

「ちょっと、お話……しようね?」

 

黒いオーラを見に纏いながら、なのははお話の発音がなんか違うように言いながら言った。

 

「だ、だからこれは事故だってーー」

 

「問答無用や!」

 

「ふふ、それじゃあ……逝こうか?」

 

「ちょっ⁉︎ フェイト! 起きてフェイト! 目を覚ましてくれぇ‼︎」

 

部屋にフェイトを置いて行って問答無用でなのは達に連行され、その後……どうなったのかは、覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

ミッドチルダから地球に帰ろうと本部にある転送ポート向かっていた。

 

「うーん、昨日の部屋での記憶が欠落しているような……」

 

「き、気のせいじゃないかな?」

 

「そ、そうやで。 きっと疲れて眠ったんやと思うで?」

 

妙に上擦った声で答えるフェイトとはやて、本当に何もなかったのか? そして何やら皆で集まってコソコソし始めた。

 

(……悪いことしちゃったけど、分かったこともあるよね)

 

(そやな、レンヤ君のあの可能性は消えたんやな)

 

(あれだけアプローチしているのに全く反応しないから、一時期レンヤってホーー)

 

(とにかく、そっちの方向は消えたわ。 今はそれだけで十分よ)

 

(そ、そうだね……てことは最終的には、レンヤに押し倒されて……)

 

(フェイトちゃん、落ち着こうね。 話がエレベーターで上がるくらい飛んでいるよ?)

 

……なにやら、変な誤解をされていた気がするような。

 

「ラーグ、ソエル、なにか知らないのか?」

 

「さぁてね?」

 

「くく、面白くなってきたなぁ」

 

「ですぅ?」

 

何が何だか分からないまま、ミッドチルダの小旅行は終わった。

 

 

 



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57話

 

早くも5月が終わり6月、はやては自分の目標に向かって準備を進めており俺達はその手伝いをしている。

 

そんなある日、はやてがヴィータの事を話してきた。

 

「最近ヴィータちゃんの様子がおかしい?」

 

「そや、ジッとしていられなくて動くものに過敏に反応したり日向ぼっこしたりとかで……」

 

「それ普通の子どものする事じゃない」

 

「でも確かにおかしいね、ヴィータちゃんはそんなことする人じゃないのに」

 

「体に精神が引っ張られたとか?」

 

「だったらもっと早く症状が出てもおかしくないぞ」

 

「私もシグナムから聞いているよ、まるで猫みたいだって」

 

「「「「「猫?」」」」」

 

フェイトの発言に首を傾げる。

 

「そう言いば前にザフィーラから聞いたことあるな、ゲートボールしている時に猫みたいな影にぶつかったって」

 

「何だか異界絡みの予感がするよ」

 

アリシアの感はよく当たるから、あながち否定できない。

 

「仕事にも支障が出ているみたいやし、皆でどうにか出来へんかな?」

 

「どうにかって言われても……」

 

「とりあえず会ってみよう、まずはそれからだね」

 

「今日は非番で家にいるんだよね?」

 

「そや、学校に行く前もゴロゴロしとってた」

 

「放課後に行ってみましょう」

 

「賛成〜〜」

 

それから放課後、はやての家に向かう。

 

「ただいま〜」

 

「おかえりなさい、はやて」

 

「皆さんもいらっしゃいですぅ!」

 

リンスとリインが出迎えてくれた。

 

「リンス、ヴィータはどこにおるん?」

 

「ヴィータですか?先程シャマルが検査をする為ミッドチルダに連れて行きました」

 

「あっちゃー、入れ違いになっちゃったよ」

 

「私達もすぐに向かおう」

 

「そうだな」

 

「それじゃあリンス、リイン、留守番は頼んだで」

 

「はい」

 

「はいですぅ!」

 

すぐにミッドチルダに向かい、本部にある検査室に入ると……

 

「にゃあああああ!」

 

「コラ、ヴィータちゃん!大人しくしなさい!」

 

ヴィータが嫌がるように暴れ、シャマルがバインドで抑えていた。

 

「シャマル!」

 

「あっはやてちゃんに皆も!お願い、手伝って!」

 

「うっうん!」

 

なのはがヴィータをバインドてしてようやく抑えてこむ事ができた。

 

「一体ヴィータはどないしたんや?」

 

「それが分からないの、どこも異常は無いし健康そのものよ」

 

「…………………………」

 

アリシアがジッとヴィータを見つめる。

 

「アリシア、何か分かったか?」

 

「…………うん、憑かれているね」

 

「姉さん、ヴィータは全然疲れていないよ」

 

「疲労じゃなくて憑依の方だよ、フェイトちゃん」

 

「憑依ってまさか……オバケ⁉︎」

 

「ひいっ!」

 

オバケが苦手なフェイトは俺の背中に隠れる。

 

「アリシアちゃん、どう言う事や?」

 

「そのまんまの意味だよ、ヴィータは猫型グリードに憑かれている。どうやらザフィーラから聞いた時期に憑かれてらしいね」

 

「これも怪異の仕業なの⁉︎」

 

アリシアの説明にシャマルが驚く。

 

「過去の異界の事件例として数件出ているものよ、代表例としては悪魔憑きが有名ね」

 

「あっ悪魔………」

 

「そしてヴィータちゃんの症状は猫憑き、だけどグリムグリードでもそこまで脅威でも無いし。すぐに直せるよ」

 

「えっ!これもグリムグリードなの?」

 

猫なら怖く無いのかフェイトが聞いてくる。

 

「単体でのグリムグリードの顕現、前に言ったよな。大抵下級だが全く事件を起こさない訳じゃない」

 

「よし!直ぐにでも除霊しよう、そのまま抑えていて」

 

アリシアが魔法陣を展開して、ヴィータに向かって手をかざす。

 

「!、にゃああ、にゃあああああ!」

 

危険を感じたのか暴れ始める。

 

「何て力なの……!」

 

「ヴィータちゃん!大人しくして!」

 

「なのは、手伝うよ!」

 

「ヴィータ!大人しくしい!」

 

フェイトとはやてがバインドしようとすると……

 

「にゃあああああああああ!」

 

「きゃあっ!」

 

「しまった!」

 

ヴィータが光り出し、頭から猫耳が生えて、二又の尻尾が出てきた。

 

「シャアアアアアア!」

 

ガシャアアンッ!

 

バインドを力づくで破り、窓から飛び出て行った。

 

「ヴィータ!」

 

「直ぐに追いかけるわよ!」

 

「ヴィータちゃん待って!」

 

窓から飛び出しヴィータを追いかける、ヴィータは路地裏に逃げ込み……見失ってしまう。

 

「ダメ、魔力を使っていないから何処にいるのか分からない!」

 

「これじゃあ無闇に探しても見つからないよ」

 

「ヴィータ!何処に行ったんや!」

 

はやてが呼び掛けるも何も返ってこない。

 

「ヴィータ………」

 

「はやて………」

 

「はやて、ここは私達に任せて」

 

「異界対策課、出動よ」

 

「必ずヴィータちゃんを見つけ出して元に戻すよ!」

 

「だから元気出せ、はやて」

 

どうにかはやてを励まそうとする。

 

「皆……うん、ヴィータを見つけ出して!」

 

「レン君!もちろん私も手伝うよ!」

 

「協力させて」

 

なのはとフェイトも名乗り出た。

 

「なら力を貸してもらうぞ、なのは、フェイト、もちろんはやてな」

 

「「「うん!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は異界対策課の会議室に向かい、今後の対策を話していた。

 

部屋にいるのは異界対策課のメンバーとなのは達、シグナム達もいる。

 

「まず何でヴィータが猫憑きになったのかの説明だ、アリシア」

 

「うん、グリードに憑かれる共通点としては人間側が何らかの願望を持っていてそれがグリードと呼応して憑かれるんだ」

 

「それに今回憑いたのは猫でも猫又、それなりに霊格はある相手よ」

 

「そうなんや……」

 

「ちょっと待って!ヴィータちゃんは厳密には人間じゃ無いわ!」

 

「異界の事件例として、パソコンのデータにハッキングし乗っ取ったグリードもいます。ヴィータちゃんが憑かれてもおかしくないんです」

 

シャマルの疑問にすずかが答える。

 

「もはや怪異は何でもありだな」

 

「お前達はこんなのを相手にしていたのか」

 

「まあね、臨機応変な対応力がないとこの仕事には向かないからね」

 

「人材が少ない理由の一つよ」

 

アリサがそう言うと、俺達は落ち込む。

 

「アギトしか入ってこないし、ルーテシアも入る予定だけどまだ先だし……」

 

「ちょっと憂鬱になるな……」

 

「「うん」」

 

「レッレンヤ⁉︎」

 

「アリシアちゃんまで……!」

 

「しっかりせんか!」

 

シグナムに喝を入れられ正気に戻る。

 

「コホン、まあ説明はこれ位にして。本題に入ろう」

 

「このミッドチルダでヴィータちゃん1人をどう探し出して捕まえるか、それが今回の議題だよ」

 

すずかの説明に全員頭を悩ませる。

 

「しらみ潰しに探しても時間はかかるし……」

 

「餌で釣るとか?」

 

「猫の好きそうな物とかで?」

 

「猫じゃらしとかマタタビかしら?」

 

「それが1番無難かな」

 

猫好きのすずかもそう言うので、それで決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

餌もとい罠の設置場所はミッドチルダ中心、東、西、南、北の5箇所。

 

なのは達は捜査協力許可を本局からもらい、正式に協力してもらっている。こう言う手続きは正直面倒だ、改めて異界対策課の自由さを実感する。

 

メンバーは、俺、ラーグ、ソエル、アリサ、すずか、アリシア、アギトの異界対策課となのは、フェイト、はやて、シグナム、シャマル、ザフィーラ、リンス、リインの本局組の合計12人と1匹と2モコナ。

 

1チーム平均5人に分けて捜索を開始した。

 

俺は西側でソエル、はやて、シグナム、リインといる。

 

「今思うけど結構間抜けな作戦だね」

 

「うるさい、これ以外にいい方法が無いだろう」

 

「だからってこれは恥ずかしいんよ///」

 

目に当たりやすい場所に猫が好きそうな物を置き、俺達は茂みの中で見ている。時折通行人が怪訝な目で見るが上に掲げているーー異界関係の調査です、と書かれたーー看板を見るとそそくさと去って行くの。

 

「しかし来ないな、もうかれこれ2時間だぞ」

 

「ヴィータちゃん、来ないですね」

 

「他も同じような状況だな、さてどうした物か……」

 

「もっと別の餌で釣れんかなぁ」

 

「もっと別の………………あ」

 

シグナムが何か思いついた。

 

「シグナム?」

 

「しばし待っていてくれ」

 

そう言ってい何処かに行ってしまった。

 

「シグナム、どないしたんやろ?」

 

「シグナムの事だ、何か策を思いついたんだろう」

 

「だと良いんだけどね〜」

 

「ソエルちゃん?」

 

それからしばらく待ち。

 

「お待たせしました」

 

シグナムが戻ってきたが……

 

「シグナム……それ、何?」

 

「む〜〜〜〜〜!」

 

シグナムは簀巻きにしたユーノを担いできた。

 

「これはヴィータを釣るための囮です」

 

「いやそれじゃあ餌だから、生き餌だから」

 

「とりあえず釣ってみよか」

 

「む〜〜〜〜〜⁉︎」

 

ユーノは訳の訳の分からぬまま木に吊るされた。

 

「さて、これで来ればいいのだが……」

 

「確証、無いんですね」

 

「確かにヴィータはユーノの事が気になっとったけど」

 

「本当に来るんでしょうか?」

 

「あっヴィータ」

 

「「「「え」」」」

 

ソエルの言葉に見てみると、猫ヴィータがユーノの事をいろんな方向で見ていた。

 

「早っ」

 

「リイン、皆に連絡を」

 

「はいです!」

 

「本当に上手く行くとは……」

 

「確証なかったんだね」

 

するとヴィータがユーノに抱きついて木から落とした。

 

とりあえず近づいてみると……

 

「にゃん♪にゃんにゃん♪」

 

「うぐっ、ヴィータ……」

 

ヴィータがユーノの腹の上で丸まっていた。

 

「…………えっと……ヴィータちゃん?」

 

「何かこれ見たことあるぞ、確か何かの意思表示の」

 

「まっまあとにかく皆が来るまで、ヴィータを見張っておこうな」

 

「はい」

 

「あ、来たみたい」

 

次々と他のメンバーが集まって来た。

 

「ヴィータちゃん!」

 

「静かに……!また逃げちゃうわよ」

 

「アリシアちゃん、お願い……」

 

「了解〜……皆、行くよ〜……」

 

「「「「「おお……」」」」」

 

小さな掛け声を上げて、ヴィータを取り囲みがゆっくりと近づいく。

 

「にゃあ〜〜……!、フシャアアアアッ!」

 

「ぐふっ!」

 

ヴィータが異変に気付き、勢いよく飛び上がりユーノの腹を踏む。

 

「皆!」

 

「うん!」

 

「了解よ!」

 

全員が一斉にヴィータをバインドで拘束するもまだ暴れる。

 

「ヴィータ!大人しくしい!」

 

「本当にすごい力……!」

 

「待ってて、直ぐに……」

 

その瞬間、ヴィータがまた光り出し現れたのは……

 

「「「「「「「え……」」」」」」」

 

「「「「「…………………」」」」」

 

一部は思わず声が出て、一部は開いた口が塞がらなかった。なぜなら……

 

「フシャアアアアアッ!」

 

ポヨン!

 

今のヴィータはスタイル抜群の大人の女性の姿に変わっていたからだ。

 

「ヴィ、ヴィータちゃん⁉︎」

 

「レンヤ君!見ちゃダメ!」

 

「むぐっ!」

 

すずかに頭を掴まれ、胸元に引き寄せられた。

 

「コラすずか!どさくさに紛れて何やっているの!」

 

「そんなことより見て!」

 

ヴィータの様子がおかしくなっている。

 

「何が起こっている⁉︎」

 

「これは……グリードの気配!」

 

「まずいよ、ここで本体が顕現しちゃうよ!」

 

「リンス、住民の避難を!リインは管理局に連絡を!」

 

「分かった」

 

「はいです!」

 

はやては直ぐに指示を出してヴィータを見る。

 

するとヴィータから光りの玉が飛びでてくる、猫耳と尻尾がなくなったヴィータはそのまま倒れる。

 

「ヴィータ!」

 

「ヴィータちゃん!」

 

なのは達が駆け寄り、ヴィータに上着をかける。

 

「猫モードは治ったのに元に戻らへん」

 

「ここじゃあ碌な検査が出来ないわ、すぐに運びましょう」

 

「あっユーノ」

 

フェイトがユーノに気づき、拘束を外す。

 

「ぷはあ!酷いよ皆、僕に何の説明もしないで連れてくるなんて……」

 

「シグナム?」

 

「きっ緊急時だったゆえに……」

 

シグナムが顔を逸らし誤魔化す。

 

「見て、ご歓談中失礼だけど……」

 

「本命が来るよ!」

 

ヴィータから出て来た光りの玉が大きくなり……

 

シャアアアアアアッッ‼︎

 

巨大な灰色の毛色の猫又が現れた。

 

「ヴィータの中で力を溜めていたね!それでもA級、まだ勝機はあるよ!」

 

「なのは達はヴィータを連れて下がりなさい!」

 

「ここは私達に任せて!」

 

「でも……」

 

「早く行け!猫は気まぐれなんだぞ!」

 

「うっうん!分かった」

 

「気いつけてな!」

 

なのは達はヴィータとユーノを連れて下がっていった。アリシアが結界を張り、俺達は猫又と向き合う。

 

「さて、やるわよ」

 

「名前は………ヴィータに因んで鉄血の猫又(グラーフ・カッツェ)何てどう?」

 

「あっそれいいね」

 

「すずか、猫好きも今は自重して」

 

「むしろ攻撃できんのか?」

 

「うっ………」

 

ソエルとラーグに言われて、図星何か顔を引きつらせる。

 

「全く、すずかは後方支援。残りはいつも通りで……異界対策課、チームザナドゥ!これより巨大猫又を撃破する!油断するなよ!」

 

「「「了解!」」」

 

「ソエル!念のため、準備はしておけよ」

 

「うん、分かった」

 

「ちぇ、ソエルが最初かよ」

 

「そのうちラーグも暴れさせてやるから今は我慢しろ」

 

「了〜〜解」

 

俺達はグラーフ・カッツェに挑みかかった。

 

 



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58話

 

レンヤ達はグラーフ・カッツェと戦いを挑んでいた。

 

「はあっ!」

 

「そこ!」

 

レンヤとアリサが左右から攻めるが、素早く避けられる。

 

「すずか!」

 

「うん!スノーホワイト!」

 

《アイスフロア》

 

すずかが槍を地面に突き刺し、地面を広範囲で凍らせる。グラーフ・カッツェは氷に足を取られて動きが止まる。

 

「もーらいー!」

 

アリシアがグラーフ・カッツェの関節部分に障壁を張り動きを止める。

 

シャアアアアアア!

 

グラーフ・カッツェが尻尾を鋭くし、斬りかかってきた。

 

「アリシア!」

 

「きゃっ!ありがとうレンヤ」

 

アリシアに襲いかかった尻尾をレンヤが払う。

 

そのまま障壁を破壊して前足を降り上げて……

 

ガシャアアアアアンンンッッ‼︎

 

氷を粉々に砕いた。

 

「くっ……面倒ね」

 

「うっ、流石……曲がりなりにもグリムグリードだね」

 

「あのスピードが厄介だな」

 

「どうにかしないと……」

 

「レンヤ、私にやらして」

 

「ソエル、準備はいいのか?」

 

「うん」

 

ソエルは迷わず頷く。

 

「……よし、ラーグ」

 

「おう!調整もバッチリだぜ!」

 

「足止めは任せて」

 

「早くしなさいよ!」

 

アリサ達が足止めに向かい、ラーグは赤いガントレットとカードケースを取り出した。

 

それを左腕と二の腕につける。

 

「さてソエル、初陣だ!」

 

「おー!」

 

レンヤは手の甲部分にある大き目の赤いボタンを押し、ケースから出て来たカードを入れる。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン!」

 

ガントレットを掲げ、赤い光りをソエルに向ける。

 

「ポーン」

 

ソエルは全身が赤く光り、渦巻きながら小さくなりレンヤに飛んできてキャッチする。

 

「どうだ、ソエル?」

 

「問題ないよ!力が溢れて来るみたいだよ!」

 

赤い球が開き、ドラゴンの様な姿に変わっている。

 

「レンヤ!」

 

「わかっている!ゲートカード、セット!」

 

黒いカードをグラーフ・カッツェの足元の地面に投げ、赤い波動を放ちながら消えていった。

 

「行くぞ、ソエル!」

 

「うん!」

 

レンヤがソエルを掴み、振りかぶろうとすると……

 

「あーレンヤー!ちゃんと掛け声も言えよー!」

 

「とっと……あれを言うのか……?」

 

「そうだよ!ルーテシアと一緒に決めたんだから!」

 

「はあ、今更恥ずかしがっても仕方ないか……」

 

レンヤはグラーフ・カッツェの方を向く。

 

「改めて、行くぞソエル!」

 

「うん!」

 

「爆丸、シュート!」

 

思いっきりソエルを投げてグラーフ・カッツェの前で止まり……

 

「ポップアウト!」

 

球が展開し立ち上がり、赤い光りを放ちながら人型に近い巨大な赤いドラゴンが現れた。

 

「ノヴァ・ヘリックス・ドラゴノイド!」

 

グガアアアアアア!

 

レンヤが名前を叫ぶと、呼応するようにソエルが叫ぶ。

 

「すごい、あれがソエルなの……⁉︎」

 

「完全に別物じゃない!」

 

「ガリュー君と違ってソエルちゃんは強化しても戦闘なんて出来ない、だから戦闘できる別の姿を与える事にしたんだよ」

 

すずかがソエルの姿についての説明をする。

 

ソエルはグラーフ・カッツェと向き合う。

 

「さあ、行くぞソエル!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動!ドラゴン・ハマー!」

 

ガントレットにカードを入れて発動する、ソエルの体が赤く光り、高速でグラーフ・カッツェに近づき攻撃する。

 

グラーフ・カッツェも高速で動き、攻撃に対応している。

 

「うわ、すごっ」

 

「何処の怪獣対戦よ」

 

アリシアとアリサが戦いの光景を見てそう言う。

 

「攻めるぞソエル、アビリティー発動!ドラゴン・ファランクス!」

 

ソエルの両手に赤い魔力弾が現れ発射する。

 

グラーフ・カッツェの左右に着弾し爆発する。グラーフ・カッツェは直撃してよろけるも直ぐに体勢を立て直し、爪を伸ばして斬り裂いてきた。

 

「させるか、アビリティー発動!ヘリックス・シールド!」

 

ソエルを赤いバリアーが張られて攻撃を防いだ。

 

「決めろソエル!アビリティー発動!ギャラクティック・ドラゴン!」

 

ソエルが全身に炎を纏った後、それを口に集束させ火球の状態にしてから一気に放つ。

 

しかしグラーフ・カッツェは尻尾で火球を薙ぎ払い、火球は後ろで爆発した。

 

「ちょっレンヤ!あまり周りに被害を出さないで!」

 

「あんまり暴れると結界が壊れちゃうよー!」

 

「くっそうか……ソエル!ぶっつけ本番で行くぞ!ダブルアビリティー発動!」

 

レンヤは2枚のカードをガントレットに入れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「ストライク・トルネード…プラス、ファイアム・トルネード!」

 

ソエルは自身をコマのように高速回転させた直後に炎を纏い、巨大な炎の竜巻を作り出しながらグラーフ・カッツェに突撃した。

 

グラーフ・カッツェは避けるも余波として発生した猛火に吹き飛ばされる。

 

「そこだ!アビリティー発動!バーニング・ドラゴン!」

 

そのままソエルは竜巻の中を飛び上がり、炎がドラゴンの形に変化してグラーフ・カッツェに突撃する。

 

グガアアアアアア!

 

雄叫びを上げてグラーフ・カッツェに激突して吹き飛ばす。

 

グラーフ・カッツェは断末魔を上げて消えていった。

 

「ふう……やったか………」

 

ソエルは全身が赤く光り、渦巻きながら球になり。レンヤに向かって飛んできたキャッチした。

 

「お疲れ様、ソエル」

 

「ふう……初めて戦いがグリムグリード何てキツイよ」

 

「そうだぞレンヤ、ダブルアビリティーをいきなり使うなんて無茶な真似を」

 

「ごめんごめん」

 

レンヤはガントレットを操作し、ソエルを元に戻す。ちょうど結界も解除された。

 

「レンヤ〜!」

 

アリサ達が近寄ってきた。

 

「レンヤ君、ソエルちゃん、大丈夫?」

 

「平気だよ」

 

「ちょっと魔力は使い過ぎたがな」

 

「レンヤの魔力量なら平気でしょう」

 

「だな」

 

「事後処理は私とラーグでするわ、あなた達はヴィータの所に行きなさい」

 

アリサがそう提案してきた。

 

「いいのか?」

 

「俺は構わないぞ、ヴィータによろしく言っといてくれ」

 

「ありがとうアリサちゃん、ラーグ君」

 

「また後でね」

 

レンヤはなのはと連絡を取り、都市部にある病院に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達は病院に着くなり直ぐにヴィータの病室に向かった。

 

「なのは!」

 

「皆!無事だったんだね!」

 

「うん、今回はソエルちゃんに助けられたの」

 

「ソエル、大活躍だったよ」

 

「へえ、ソエルって戦えたんだね」

 

「えっへん!」

 

ソエルは褒められて胸を張る。

 

「それよりヴィータは?」

 

「今シャマルの検査が終わった所や」

 

はやてが病室の扉を開けて中に入る、そこには大人になったヴィータとシャマルがいた。

 

「シャマル、ヴィータはどうなったんや?」

 

シャマルはカルテから目を離し、はやての方をを向く。

 

「今のヴィータちゃんの状態は、体を構成するデータが改竄された状態よ。無理に戻すことは出来ないわ」

 

「それ以上の異常はないんですか?」

 

「ええ、それだけよ。結果としてヴィータちゃんの体が大きくなった……と言う事になるわね」

 

「そうか……」

 

「ヴィータちゃん、良かったですぅ」

 

異常がない事がわかり安堵する。

 

「それでアリシアちゃんから見てヴィータちゃんはどうなの?」

 

「ちょっと待ってね」

 

アリシアがヴィータの側に行き、ヴィータをジッと見る。

 

「………………………」

 

「姉さん、どうなの?」

 

「……………うん、残留するグリードの気配もないよ。私から見ても異常なしだね」

 

「「「良かった〜〜」」」

 

緊張が解けたのかその場に座り込むなのは、フェイト、はやて。

 

「後は目が覚めるのを待つだけね」

 

「私はここで様子を見ているよ、皆は先に戻っていて」

 

アリシアがヴィータの様子を見るため残る事にした。

 

「分かった、先に異界対策課に戻っているな」

 

「それじゃあアリシアちゃん、シャマル、ヴィータの事を頼んだで」

 

「分かったわ、はやてちゃん」

 

レンヤ達は病室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ん…………ここは……」

 

目が覚めたら見覚えのない天井が見えた、何でこんな所で寝ているんだ?

 

そう言えば今日の昼からの記憶がない、今何時なんだ?

 

「よっ………ん?」

 

起き上がると体に違和感を覚えた、いつも使っているサイズのベットなのに妙に小さく感じるし、それに胸が重い。視線を下げてみると……

 

「何だ、これ?」

 

胸が膨らんでいてお腹が見えない、何付けられたんだ……と思い触ってみると……

 

ムニュ……

 

「え」

 

自分の胸を触った感触がする。

 

「まっまさかな〜〜」

 

隣に鏡があったのでベットから立ち上がる、いつもより視線が高いような……

 

「えっ……」

 

鏡の前に立ち、絶句する。写っていたのは、アタシ似の大人の人だったから。

 

「…………………」

 

手を上げてみると鏡の人も手を上げる、手を振ってみると鏡の人も手を振る。そこで理解する。

 

「アタシ……大きくなっているーーーー⁉︎」

 

自分の姿を見て思わず叫んでしまう、その時シャマルが入ってきた。

 

「ヴィータちゃん、どうかしたの⁉︎」

 

「ああシャマル、ちょうど良かった。アタシ何でこんな風に……」

 

「ああそう言う事ね、今から説明するから一旦落ち着いて」

 

シャマルに言われ落ち着き、ベットに座る。

 

それから説明された、あれから1日経っている事、自分がグリードに憑かれてた事、体が大きくなった理由も全部。

 

「だからこんな風に……もう元には戻れねえのか?」

 

「ええ、変身魔法で誤魔化せるくらいね。もうヴィータちゃんの体はその姿で固定されたわ」

 

それを聞き複雑な気分になる、小さい事にコンプレックスはあったがこんな結果で大きくなる気は無かった。

 

「この様なタイプのグリードは憑く人の願望に呼応するらしいわ、やっぱりヴィータちゃんの願望は大きくなりたかった事?」

 

「…………ああ、そうかもしれないな。こんな事でなりたくは無かったがな」

 

アタシはベットに倒れ、ぼんやりと天井を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の事件はヴィータの処分でかなり揉めた、ヴィータはグリードの乗っ取られただけであって決して自分から異界に関わったりはしてなく、しかし本局上層部はそれでも罪に問おうとした。途中でレジアス中将の介入があり、こちらもグリードによる憑依に関する資料提示をしてなんとか異界対策課がヴィータを保護観察処分と言う形になった。

 

「レジアス中将、弁護していただきありがとうございます」

 

俺は敬礼をしてお礼を言う。

 

「構わんさ、ただ言われぬ罪に問われるのが我慢ならなかっただけだ」

 

「それでもです、はやての件についても了承を貰いましたし……」

 

はやてが現在も進行中の計画についてはレジアス中将も知っていて、部隊完成時の異界対策課の出向も認められている。

 

「あの火災の出動の遅さについても我々も実感している、管理局は大きすぎる故に小回りが利かないからな。新しく作られる部隊にしても、君達異界対策課の様な小回りが利く少数精鋭の部隊が必要だからな」

 

「俺達は異界限定ですけどね」

 

「そう言うがここ最近は随分と手広くやっている様だな、お前にしても、部隊員にしても階級は高いからそれなりの権限を言えるようになったからな」

 

現在の異界対策課の部隊員は俺、アリサ、すずか、アリシア、ラーグ、ソエル、アギトで。あれからアギトも一等陸士、アリサ達4人は二尉扱いでラーグとソエルは陸曹長扱い、俺も三等陸佐なので下手な部隊より権限が高いからな。

 

「そのせいで色々と大変ですが……」

 

「そう言うな、市民からの評判も高い。異界対策課は市民に1番近くにいる部隊とも言われているからな」

 

「そのうちルーテシアが入ってくるとはいえもう少し人員を増やして欲しいですけど、主にデスクワーク方面で」

 

「考えておこう、しかしメガーヌの娘が入るとはな」

 

しばらくそんな雑談が続いていると、ゼストさんが止めに入った。

 

「レジアス、そろそろ時間だ」

 

「そうか、すまないな。それでは神崎三等陸佐、失礼する」

 

「はい!」

 

「レンヤ、クイントによろしく言っといてくれ」

 

「分かりました!」

 

ゼストさんがそう言い、レジアス中将と去って行った。

 

「さてと、俺も行くかな」

 

見送った後、俺は異界対策課に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後ーー

 

「おーいアリシア、早く行こうぜーー!」

 

「待ってヴィータ!もう、見た目大人なのに中身が変わってないんだから!」

 

ヴィータは先に出て行き、それをアリシアが急いで追っている。

 

現在ヴィータは本局航空部隊からの出向扱いとして異界対策課にいる。

 

ヴィータは姿が変わってもヴィータで保護観察処分お構い無しに俺達を振り回している。

 

ただヴィータが言うにははやてによるシグナムとシャマルの被害がヴィータにも及んでいるとの事だ、何んの被害とは言っていないが。

 

「ヴィータちゃんもすっかり慣れちゃったみたいだね」

 

「あの体で抱きつかれると体が持たないわよ」

 

アリサは溜息をつく。

 

「まあもう少し大人しくして欲しいがな」

 

「アタシはいいけど」

 

「アギトも似た様なものだからね〜」

 

「性格が似てんだな」

 

「一緒にすんな!」

 

アギトはラーグの頭に乗り揺さぶる。その時扉が開かれてルーテシアが入ってきた。

 

「たっだいまー!西地区のパトロール終わったよ〜〜」

 

「お疲れ様ルーテシアちゃん、何か飲む?」

 

「はい!いただきます!」

 

「ルーテシア、あれからガントレットに調子はどう?」

 

「絶好調だよ!ガリューといつも一緒に居られるし、強くもなれるんだから」

 

「あんまり過信するんじゃないわよ、実際に強くなっているのはあなた達なんだから」

 

「はーい分かっていまーす!ねっガリュー!」

 

(コクン)

 

ルーテシアは肩に乗っている球の状態のガリューに話しかけ、ガリューは頷く。

 

「すっかりその状態も慣れたんだな」

 

「あーアギト、ガリューから聞いたよ。あんまりガリューでボウリングしないでよ」

 

「いっいいじゃんか、ガリューも楽しんでるんだから」

 

「それでもだよ」

 

ルーテシアはアギトと1番仲が良くて、いつも楽しそうにしている。

 

「それにしてもルーテシア、あの掛け声はなんだ?ゲートカードやアビリティーカードはともかく、爆丸の名前もそうだが投げる時にあれ言う必要あるか?」

 

「ええーいいでしょう爆丸、カッコいいんだから。それに合図を出さないと他の人の迷惑にもなるんだから」

 

「まあそうね、いきなり出てきても困る訳だし」

 

「ふふ、レンヤ君恥ずかしいんだね」

 

「そりゃそうだろう」

 

「ええー私はカッコいいと思うけど、爆丸、シュート!っていうの」

 

「そうだそうだ!」

 

「おめえらは投げられる側だろう」

 

(コクン)

 

「あはは!これからも新機能をじゃんじゃん作るから期待してよね!」

 

「程々にしときなさいよ」

 

その時扉が勢いよく開けられた。

 

「すまん!着替えるの忘れた!」

 

ヴィータは更衣室に飛び込んでいった。その後汗だくになったアリシアがやって来た。

 

「ぜえ、ぜえ……元気よすぎだよ…」

 

「はいアリシアちゃん、お水だよ」

 

「あっありがとう……すずか」

 

アリシアは水を受け取り飲む。

 

「ゴクゴク……ふう、生き返ったよ」

 

「相当振り回された様だな」

 

「うん、制服のままいちゃったから呼び戻すのにも時間が掛かっちゃったよ」

 

「私服での調査……相変わらずここはフリーダムだね」

 

(コクン)

 

「むしろ楽でいいでしょう?」

 

「おう!アタシは好きだぜ!」

 

「ーー着替えたぜ!」

 

更衣室からヴィータが出てきたが……

 

「ヴィータ随分ラフな格好だね〜」

 

「まあな」

 

その時アリサが何かに気がついた。

 

「ちょっと待ちなさい、アンタブラジャーは⁉︎」

 

「あっあれか?はやてに買って貰ったけど邪魔なんだよなぁ、前から付けてなかったし」

 

「ダメよちゃんと付けないと!」

 

「あっ押すなよ!」

 

「いいから来なさい!」

 

ヴィータはアリサとすずかに押されて更衣室に入っていった。

 

「全く、ここはいつも騒がしいな」

 

「「「「「うん」」」」」

 

俺の言葉に全員が頷いた。

 

 



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59話

 

 

「えーそれでは中間テスト終了を祝い………乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!」」」」」」

 

1学期中間テストも終わり、俺達は翠屋で小さなパーティーを開いた。

 

「皆もいい点数取れたみたいだね」

 

「あれから成長したわね」

 

「あはは、皆のおかげだよ」

 

「うん、皆がいなかったらここまで来れなかった」

 

「ほんま皆に感謝せなあかんなぁ」

 

「うんうん、これで高校も一緒に行けるね!」

 

「さすがにそれは気が早いぞ」

 

雑談をしながらテストの結果や進路についての話しをした。

 

「高校は皆、風芽丘学園にするの?」

 

「私はそのつもりだよ」

 

「私も」

 

「私もや」

 

「私もそこにするわよ」

 

「皆と一緒がいいしからね」

 

「俺は………まだかな」

 

「「「「「「えっ⁉︎」」」」」」

 

俺の発言に全員が驚く。

 

「どっどうしてなの⁉︎」

 

「一緒の高校は嫌なんか?」

 

「違う、そうじゃ無いんだ。前は入るつもりだったけど、ただ勉強するだけで決めるのは、ね……」

 

「レンヤは何か別の事をしたいのかな?」

 

「そうだな、とりあえず見学に行ってみてから考えてみるか」

 

「迷っているなら、それもいいかもね」

 

「早く決めなさいよ」

 

「そうだよ、私達はレンヤと一緒の高校に行きたいんだから」

 

「そうか、出来るだけ早く決めるよ。て言うかついて来る気か?別にそこまでしなくても……」

 

なのは達はテーブルに身を乗り出して、顔を近づける。

 

「ダメ!私はレン君と一緒に高校生活したいの!」

 

「そうだよ!別々なんてあり得ないんだから!」

 

「そう言う事やから、早めに決めるんよ?」

 

「おっおう……」

 

剣幕に押されて、頷く。

 

「さてと、話しわ変わるけど……なのは、最近レリック関連の事件がよく起きているのよね?」

 

「うん、必ずと言っていい程未確認機械兵器……識別名、ガジェットドローンが出現しているの」

 

「本局でもかなり問題視しているよ」

 

「これは急がないとあかんな」

 

「出来れば高校卒業までに何も起きないで欲しいね」

 

「そうだね、部隊もそれ位で完成していればいいけど……」

 

「考えても仕方がない、今はとりあえず食べよう!」

 

場の空気を変えようと話しを変えた。

 

「そっそうだね!」

 

「うん、食べようか!」

 

「桃子さ〜〜ん、シュークリーム追加で〜〜」

 

それから皆で楽しみ、夕方頃に解散した。

 

「じゃあね〜皆〜!」

 

「またねなのは、レンヤ!」

 

「それじゃあね」

 

「またいつでも来いよ」

 

「うん!」

 

フェイト達は帰って行き、俺となのはは後片付けの為翠屋に戻る。

 

「………よし、掃除も終わりっと」

 

「レン君、コッチも終わったよ」

 

「あら、ありがとう2人共。もう大丈夫だから先に帰っておいて」

 

「「はーい」」

 

翠屋から出て、家に向かう途中……

 

「ねえ……レン君」

 

「ん?なんだなのは?」

 

「まだ……レン君のお父さんとお母さんは見つからないの?」

 

「………そう、だな」

 

あれから何の手がかりもない、一体何で魔法文化の無いここに捨てて行ったんだろうか……

 

「まっ、考えても仕方がない、か……」

 

「レン君……」

 

「そう落ち込むな」

 

俺はなのはの頭を撫でる。

 

「あっレン君///」

 

「まだ俺は諦めていない、管理局の皆や聖王教会も捜索に手伝ってくれている。もちろんなのはも手伝ってくれるよな?」

 

「うん!もちろん!」

 

「ああ、頼むぞ。エース・オブ・エース」

 

「にゃ!もうレン君!」

 

「あはは!」

 

「待〜〜て〜〜!」

 

俺達は駆け出し、家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み真っ只中……働く者は働き、休む者は休む。

 

「ここも以上なし………さて次は」

 

俺はミッドチルダに現存するゲートを調べ回っていた、はっきり1人でミッドチルダ全域を調査するのは物理的に無理だが、ちゃんと飛行許可を得て飛行魔法を使用しながら調査している。

 

「ここも問題なし、一体どこから湧いて出てくるんだ?」

 

各所のゲートを調べても全部フェーズ0、どこも異変は無かった。

 

「さてと、帰るとしますか」

 

記録をまとめて異界対策課に戻ろうとした時……

 

「ん?」

 

視界の隅に何かが見えて見てみると、学生達が雑談をしながら歩いていた。見たところ少し年上……高校生位だ。

 

「あれは……どこの高校だ?」

 

緑色の制服に、鋭い牙がある狼のエンブレム。あんまりここでは見ないな。

 

「…………帰ったら調べてみるか」

 

それから戻り、異界対策課には誰もおらず、報告書を制作してから調べてみた。

 

「狼のエンブレムっと………レルム………魔導学院」

 

パソコンで調べてみると幾つもの優秀な人材を輩出している名門、進路先は管理局はもちろん多種多様な職業も多くいる。

 

管理局の仕事の両立を認めている様だし。

 

「授業内容は……だいたい地球と同じみたいだし、当然魔導師としての授業もやるのか………ん?」

 

読み進めていくと、ある文面を見つける。

 

「異界に関する授業もやるのか、そう言えば異界の専門学者も出てきたし、何度かそれ関係の話しも来てたな」

 

クラスは一科生2クラス、二科生3クラスで構成されている。しかし一科生と二科生に分けるという事は、その2つのその間に大きな溝がありとう言う事だ。色々な問題が起きると思うぞ、一科生は二科生を見下し、二科生は一科生の態度に嫌悪する……

 

あらゆる面で優遇され、また実力も兼ね備えた白い制服の一科生。優秀ながらも下に見られ、理不尽さを抱き続ける緑の制服の二科生。

 

資料を読むだけでも分かってくる、学生寮もあるらしくそれも2つに分けている事もあって、両者は事あるごとに反発しあい、学業成績や魔法訓練、クラブ活動でも火花を散らし合っているのだろう………それでも俺はここに興味がある。

 

それに名門に恥じぬハードなカリキュラムを行っている、普通の高校に行くより自分を高められる所に行きたい。

 

この前、風芽丘学園の見学に行ってみたけどどこかピンと来なかった。ここなら……

 

「えっと見学日は……再来週か、事前に言っておかないといけないやつか……面倒だな」

 

愚痴りながらも必要事項を入力して送信した。

 

「よし、再来週が楽しみだ!」

 

その時俺は気付かなかった、出入り口の扉が少し開いていた事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レルム魔導学院はミッドチルダ東部方面の近郊でテーマパークの先、ルキュウにある。

 

ミッドチルダから列車で1時間、さらにルキュウから30分で遊べる場所まで行けるから結構便利な位置関係だ。

 

当然聖祥中の制服を着て来ているがやはり浮いているな。

 

「えっと……レルム魔導学院はこの坂の上かな」

 

駅から出てレルム魔導学院に向かい、正門に到着した。

 

「ここが……レルム魔導学院」

 

今のミッドチルダの建物に比べ古い感じはするが、辺りは綺麗で中々いい学院だ。聖王教会と似たような物だ。

 

「さて受付は………」

 

確か講堂で説明した後、学院を回るんだったな。講堂に足を進めようとすると………

 

「レン君!」

 

「へっ?」

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた、もしかして……

 

「レンヤ!」

 

「皆!どうしてここに⁉︎」

 

聖祥中の制服姿のなのは達が現れた。

 

「どうしてじゃないわよ」

 

「私達に黙っといて、水臭いんよ」

 

「私達はレンヤと一緒がいいの!」

 

「うん!その方が楽しいからね!」

 

口々にそう言うが、一体いつ知られたんだ?

 

「不思議な顔をしてるね」

 

「何でここがわかったちゅうな」

 

「あっああ……」

 

「先々週にラーグ君から聞いたの、それで私達も参加しようって」

 

だからここに居るのか。

 

「ほらボーっとしてないで!」

 

「行こう、レンヤ」

 

「了〜解」

 

俺達は受付を済ませて講堂に入った、バスケやバレーに使われていないらしく、ラインやシューズの跡が無かった。

 

それから説明を聞き、学院内を回る事になった。

 

敷地内にあるのは大まかに本校舎と魔導訓練用の施設とドーム、図書館、学生会館、武練館、技術棟がある。

 

面積も街の半分以上は学院の様な物だ、流石名門。見た目古いのに中身は大違いだ。

 

「へえ、結構設備が充実しているわね」

 

「クラブにも力を入れているみたいだし」

 

「これなら風芽丘学園よりいいかもね」

 

「寮もあるのもええんやけど、家からの通学は厳しいなぁ」

 

「確かに、シグナム達の事もあるからね」

 

「迷い所だね」

 

「自分の道だし、あんまり妥協したく無いんだけどな」

 

皆で相談、意見しながら授業風景やドームでの訓練を見て回った。

 

「魔導訓練はハードにやっているけど、武術訓練はそこまでハードでもないね」

 

「典型的な偏見だろう、体力つけるより魔法を優先しているんだろう」

 

「ちょっと、寂しいね」

 

「せやな、一科生と二科生の仲も悪うようやし」

 

「どうにかしたい所だけど、そんな暇はないかなぁ」

 

「いつも通りに自主的にトレーニングするしかないね」

 

それから昼頃になり、学生会館で昼食を食べる事にした。

 

ここは一階が食堂や生活用品がある購買、デバイスの部品が取り扱われている。そしてやはり広い、全校生徒スッポリと入りそうだ。

 

「皆見て!デバイスの部品が一杯あるよ!」

 

「あはは、すずかはごはんそっちのけにデバイスの方に行くんだね?」

 

「うん、それがすずかちゃんだからね」

 

「俺がすずかを見ているから、皆は席を取っておいてくれないか?適当に定食でいいから」

 

「うん、了解や」

 

それからすずかはしばらく夢中になり……

 

「ごめん///」

 

「いいさ、ほら行くぞ」

 

「うっうん!」

 

すぐになのは達は見つかった。

 

「レンヤ、コッチだよ!」

 

「買っておいたわよ」

 

「ありがとう、それで……」

 

「いいよ、これ位」

 

「えっ悪いよそんなの!」

 

「かまへんよ、ありがたく受け取ってきい」

 

「そうそう」

 

「……分かったよ」

 

しぶしぶ了承して昼食にありつく、ここでも地球の文化が来ており普通の定食だ。

 

「この後はどうする?」

 

「ドームで模擬戦をするみたいだから、行ってみようよ」

 

「そうね、ここのレベルを見ておきたかったし」

 

「教導の参考になるかも」

 

「それじゃあ決まりやな」

 

「ならその後は技術棟に行きたいな」

 

「ぶれないな、すずかは」

 

昼食を済ませて俺達はドームに向かった。

 

「おお!やってるやってる〜」

 

「1組、一科生の授業ね」

 

「さっきは二科生だったけど、ずいぶん内容が違うんだね」

 

「思っていたより、偏見は根強いな」

 

「うん、あんまり参考にならないかなぁ」

 

その時、学生の1人がこちらに気付いた。

 

「あーー!管理局のエース達!」

 

それに続き何人もこちらに気付いた。

 

「わあ!本当だ!」

 

「まさか来年ここに入学するの⁉︎」

 

彼らの方が年上のはずなのに、何で騒ぐのかなぁ。

 

「静かにせんか‼︎」

 

教官と思われる男性の一喝で静まる、だが声が大きいだけで気迫がまるで無い。教員の質も高が知れているな、勉強以外で得るものはあるのかなぁ。

 

「だがせっかく来て頂いたのだ、君達の誰か1人模擬戦に参加しないかね」

 

「えっ……」

 

「それは……」

 

「それいいですね!」

 

「エースの実力を見てみたいです!」

 

勝手な提案に俺達は驚く中、いつの間にか決定している。

 

「教導官として、場に流されるのはやってはいけない事なのに……」

 

「なのは、落ち着いて」

 

男性の行動になのはは怒りを覚えて魔力が漏れ出る、それをフェイトが抑える。

 

「でもどないすんねん、もう逃げられへんよ」

 

「思っていたより不真面目ね」

 

「しょうがない、俺が行くよ」

 

「レンヤ君、気をつけてね」

 

「ああ」

 

俺は客席から飛び降りてグランドに立つ。

 

「ルールは?」

 

「一対一、もちろん非殺傷設定だ。手早くワンヒット制にするがいいか?」

 

「構いません、それで相手は……」

 

「僕が行きます」

 

前に出てきたのは、以下にも人を見下していそうな目をした男だ。

 

「君を下せば、僕の評価も上がるだろう。どうだい?ここは僕に譲ってくれないかな?」

 

「…………はい?」

 

何言ってんのコイツ、そこまでここは…………いや、コイツだけか。

 

「もちろんタダでとは言わない、何ならーーー」

 

「すいませーん、始めていいですか〜?」

 

「なっ⁉︎……いいだろう、提案に乗らなかった事を後悔させてやろう!」

 

なーに勝手に話して勝手にキレてんだろう、まあいいや……実力を見たらサッサと終わらせるか。

 

「準備はいいか?」

 

《イエス、マイマジェスティー》

 

「レゾナンスアーク、セートッアープッ!」

 

バリアジャケットを纏い、刀を抜き構える。

 

相手もデバイスを起動してバリアジャケットを纏った。武器は一般的な杖型デバイスだ。

 

「レン君頑張れー!」

 

「負けたら承知しないわよー!」

 

なのは達の応援がする中……

 

「始め!」

 

教官の合図と同時に魔力弾を撃ってきた。

 

「ほらほらどうした!この程度かエース?」

 

やたら挑発してくるなアイツ、ジャブ入れてみるか。

 

「レストレーション02」

 

刀を中型の銃に変え、マシンガン並みに撃つ。俺の魔力弾は金属、火薬を魔力に置き換えて大雑把に地球の銃と同じ原理で撃っているから、魔力弾を操れない分威力は高い。

 

集中して魔力弾を地球の弾と似た様なのに生成すれば、簡単な防御なんて紙同然に破れるが……

 

「ぐわっ!」

 

………コイツの実力を見る分には必要ないな、弱そうだ。

 

「この!」

 

相手は魔力を集束し始めた、体勢も崩れていないのに砲撃って……

 

「舐めすぎだろ、レストレーション01」

 

《モーメントステップ》

 

銃から刀に変えて、足から地面に向かって螺旋状に魔力を放出して相手の背後に一瞬で行く。

 

「何っ⁉︎どこに行った⁉︎」

 

相手はキョロキョロと辺りを見渡すが、集束中だからなのか一向に後ろを見ない。本物の馬鹿だよ、俺が肩を叩いてようやく気付いた。

 

「な⁉︎いつの間に背後に⁉︎」

 

「ついさっき、気付くの遅いな」

 

「馬鹿にしやがって!喰らえ!」

 

相手はロクに集束もせずに撃ってきた、もちろん砲撃でも中身はスッカスカなので簡単に斬り払った。

 

「馬鹿な⁉︎僕の砲撃が⁉︎」

 

「あんなのタダのデカイ魔力の塊だ、もう充分だ………」

 

もう一度モーメントステップを使って背後に立つ、すでに刀を鞘に収めている途中だ。

 

「また証拠にもなく後ろにーー」

 

相手は直ぐに魔力弾を撃とうとしたが……

 

チン……

 

刀を鞘に収めると。

 

ザシュッ!

 

「なっ⁉︎」

 

相手は理解する間もなく倒れた。

 

「そこまで!勝者、神崎 蓮也!」

 

「ありがとうございました」

 

一応礼を言い、観客席に戻ってバリアジャケットを解除する。

 

「お疲れ様、レン君!」

 

「この程度問題ないさ」

 

「でしょうね、分かりやすく手を抜いていたわ」

 

「えっそうなんか?」

 

「何時ものレンヤ君はあんな物じゃないよ」

 

「相手も結構強かったよ」

 

「いつもグリードと相手していれば、そりゃあ強くなるよ」

 

俺の実力はあんまし理解していない、異界対策課ではトップだが周りと比べるとどれ位か分からないからな。

 

グランドを見るとまた騒ついてきた、速めにここを出ないとまた面倒な事にーー

 

「まてっ!僕はまだ負けていない!」

 

なったよ。一撃入れればいいから気絶まではしていなかったが……

 

「ルールは初撃決着なはずです」

 

「うるさい!僕が負けるはずがないんだ!」

 

典型的な小者の言い分だな。他の生徒が抑えているが魔力だけは有り余っている様で中々大人しくならない。

 

「しょうがないな〜」

 

「姉さん?」

 

アリシアがバリアジャケットを纏いグランドに降りて男の前に立つ。

 

「ねえ」

 

「邪魔だ!どーー」

 

《メテオショット》

 

ドガンッ!

 

言い終わる前に拳銃で腹を殴り、ゼロ距離で大型の魔力弾を撃ち込んで吹っ飛ばした。痛そうだな、あれ。

 

すっかり伸びているよアイツ。アリシアは気にせず戻ってきた。

 

「ほらほら行くよ皆!」

 

「コラ押すな!」

 

アリシアに押されてドームから出た、ハプニングはあったが一通り回ったかな。

 

「後はどこが残っているにかな?」

 

「なら技術棟に行こうよ!」

 

「すずか、落ち着きなさい」

 

「でもいいかもね」

 

「それならはよ行こか」

 

ドームから技術棟は正反対側にあって、到着に結構時間がかかった。

 

「ここだね」

 

「周りと違って建物が新しいわね」

 

「学生がデバイスを調整する所だ、それなりに重要なんだろう」

 

「なるほど」

 

「ほら皆!早く行こう!」

 

動物園に行った時の様なはしゃぎ様だな。

 

それから一通り見てすずかも満足してた頃には外は夕方になっていた。それでもう帰る事になった。

 

「楽しかったね!」

 

「でもレンヤ、ここに入るつもりなんだよね?」

 

「正直あまりお勧めしないわよ」

 

「ありがとう、でももう決めた事なんだ」

 

「まっそうやなぁ」

 

「この程度、レンヤ君の障害にならないもんね」

 

「なら、私達もここに入るよ」

 

すずかの言葉に全員が頷く。

 

「前にも言ったけど、そこまでする必要はないんだぞ」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すんよ」

 

「私達はレン君と一緒がいいの!」

 

皆の意思は固く、ちょっとやそっとでは変えられないな。

 

「まあ、俺が口出しできる訳でもないし、皆が決めたならそれでいいか」

 

「そう言う事よ」

 

「帰ったらお母さん達にちゃんと説明しないとね」

 

「そうや!家の事をちゃんと考えなぁあかん!」

 

「うん、悪いとは思うけど……」

 

「大丈夫だよすずか、絶対に分かってくれるって」

 

「きっと大丈夫、母さんも分かってくれるよ」

 

話しをしながら正門まで行くと、身長が大きい筋肉質の老人が立っていた。

 

「神崎 蓮也君だね」

 

「はい、そうですが……」

 

「あなたは?」

 

「これは失礼、ワシはこの学院の学院長をしているヴェントと言う者だ」

 

「!、なるほど……確かな実力者の様ですね」

 

「それでご用件は?」

 

「先程のドームの件についての謝罪をと」

 

「大丈夫です、気にしてはいません」

 

「それだけでもないでしょう?」

 

「ええ、貴方の父君と母君のお話を」

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

その言葉に全員が反応する。

 

「レン君のお父さんとお母さんの居場所が分かったんですか⁉︎」

 

「そうではない、ただお二方はここの出でしてね。君を見た時ピンときた様でつい」

 

「そう……ですか」

 

「えっと……レンヤのご両親はどんな人でしたか?」

 

「ふむ、聖王であられるアルフィンは自由奔放で明るく。シャオは正義感が強く、勇ましかった。元々この学院は代々聖王家の方が入学する習わしであったが、今回は駄目だと思われたが……来ていただきありがとうございます」

 

「そうか……だからここに惹かれたのか」

 

制服を見た時頭から離れなかった理由がようやくわかった。

 

「………ヴェント学院長、貴方は今の学院をどう思いますか?」

 

「………昔と変わってしまった、一科生と二科生の間に溝ができてしまった。お二方がいた時は手と手を取り合ってそれは学院全体が1つにクラスの様だった」

 

「そんな事が……」

 

「…………………」

 

「レンヤ君?」

 

黙ってしまった俺にすずかが声をかける。

 

「うん、ここでやる事は決まった。父さんと母さんがやった事を俺もやる!2人が出来たんだ、俺にも必ずできる!」

 

俺は力強く言った、ここでやりたい事が出来た。絶対に成し遂げてみせる!

 

「いいわねそれ!」

 

「私も協力するよ!」

 

「うん!皆でこの学院を良くしよう!」

 

「乗り掛かった船や、このまま激流でも渦潮でも越えてみせるで!」

 

「当然だね!」

 

「ふふ、これからもっと忙しくなるね」

 

俺達がここで成すべきことをここで決まった瞬間だった。

 

「はっはっは、まさしく激動の時代の前触れじゃな」

 

ヴェント学院長は髭を撫でながら空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 



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60話

 

あれから数ヶ月ーー

 

今は夏休みも終わり2学期に入った、レルム魔導学院に入る事を説明したら驚かれたが、お母さん達は喜んで認めてくれた。ただ姉さんが寂しくなるっと言って俺となのはに抱ついてきたが。

 

他の皆も認めて貰った様だが、八神家だけは未だに決定していない。そもそも料理を作れるのがはやてだけだ、前衛2人と1匹はもちろんのことシャマルまで料理が出来なかった。今はリインフォース姉妹がはやてに教えてもらっている途中で、覚えも良く卒業までには太鼓判を貰えると思う。

 

そして現在、聖祥中の3学年教室。

 

俺は……落ち込んでいた。

 

「はあああ……」

 

「レンヤ、元気出して」

 

「そうよ落ち込む事ないじゃない、DSAAで優勝したんだから」

 

そう、夏休み中に開催されたDSAAミドル男子部門に出場して……優勝したんだが……

 

「あそこまでレベルが低いとは思っていなかったぞ……」

 

「毎日のように異界と相手していれば、差も開くよ」

 

予選の試合はほぼ一撃で終わらせ、本戦も最後辺りから良かったが……

 

「何でまたあいつに合わないといけないんだよ……」

 

「あはは……」

 

レルム魔導学院で模擬戦をした、名も聞いてない小者と会ってしまったのだ。速攻で終わらせたが。

 

「よく魔力だけで勝ち上がれたね」

 

「確かにそうだね」

 

「まあ、年齢的にもインターミドルやからな」

 

「私は2度と会いたくなかったよ」

 

優勝したのに嬉しくない事ってあるんだな。

 

「これなら女子の方がまだレベルが高かったね」

 

「言っちゃっ悪いけど、そうね」

 

「事実だから気にするな」

 

「皆は来年出場するの?」

 

アリシアがそんな事を聞いてきた。

 

「私は全員が出るならいいわよ」

 

「それならいいよ、皆とは全力で戦った事はなかったからね」

 

「そうやな、模擬戦だけで一回も全力でやっておらんかったな」

 

「皆が出るなら私も出るよ!」

 

「自分の実力も図りたいしから、いいかな」

 

「いいよな〜皆は、競えられる同性がいて」

 

「ユーノ君とクロノ君はともかく、ザフィーラは違うの?」

 

「ザフィーラは犬やからなぁ」

 

「はやてちゃん、ザフィーラは狼だよ」

 

来年にはあいつはレルムを卒業するからいいけど、まだまだ大変な日々が続きそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺は今のミッドチルダのとある道場にいた。

 

「はあぁぁぁっっっ‼︎」

 

気合いの入った掛け声と共に、少女は納刀した刀を……アームドデバイスを抜き、水平に振るう。

 

「天瞳流抜刀居合ーーー水月‼︎」

 

刀は水月……鳩尾を狙ってきた。そう簡単に受けるつもりはないので……

 

「ふっ!」

 

納刀した状態に刀の柄頭で受け流し、体勢を崩す。

 

「っ!まだです、水月・二連‼︎」

 

直ぐに体勢を立て直してそのまま刀を振り下ろす。鍔を親指で少し押して刀を鞘から少し出して……

 

ガキィィィン!

 

「!」

 

ほんの僅かに出た刀身で受け止められた事に驚く少女、そのまま鯉口と鍔で刀身を挟んでずらし、手首を掴んで投げた。

 

「かはっ!」

 

地面に叩きつけられて肺から空気が出てくる。

 

道場には衝撃緩和と強度を上げる魔法が掛かっているからちょっとやそっとでは壊れない。

 

少女は刀を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がるが膝が揺れている。

 

「どうするミカヤ?俺としては終わりに見えるが……」

 

俺は目の前の少女ーーミカヤ・シュベルに問い掛ける。非殺傷設定の特性として肉体へのダメージは無いものの、魔力はかなり消耗しているはず。

 

「いえ……もう少し、お願いします」

 

諦めの無い目でこちらを見て、刀を納刀して息を整える。

 

「そうか、体力的にもこれが最後だぞ。だから……」

 

柄に手を添えて構える。

 

「居合の弱点を教えるよ」

 

「!、ありがとうございます!」

 

礼を言った後、しばらく膠着した様に動かない状況が続いて……

 

「………行きます!」

 

ミカヤの声と共に足元に展開された近代ベルカ式の魔法陣。

 

俺もミッド式の魔法陣を展開する。

 

やや前屈みの体勢で彼女は鞘に納められた刀を強く握り、視線は俺を射抜くと思えるほど鋭くなる。

 

「天瞳流抜刀居合ーー」

 

同時に飛び出し、ミカヤの魔力が極限まで高まり……

 

「天月・霞‼︎」

 

今持てる全力の一太刀が放たれた。

 

俺は交差する瞬間、柄を逆手で掴み抜刀する。

 

そして刀身でミカヤの居合を防ぎ受け流す、先程より鋭く重い一撃だ。

 

そのまま胴を擦る様に斬る。

 

一瞬の交差の後、俺とミカヤは刀を振り抜いた状態で背を向け合い……

 

バタン!

 

ミカヤはゆっくりと倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

私は目を覚まして飛び起きる。

 

「お、起きたか」

 

「レンヤさん、私は……」

 

「魔力枯渇による気絶だ、まだ動こない方がいい」

 

少し怠さが残るが、動けないこともなかった。

 

「大丈夫です」

 

「そうか、なら弱点も分かったね」

 

「はい、突撃と防がれた場合の次の手が無いことです」

 

「確かに、だが全くない訳でもない。回避とかは考えなかったか?」

 

そうだ!攻撃と防御ばかりに気を取られて回避を忘れてた!

 

「それに逆手で持った事にも反応したね、相手がどんな手で来ようがまずは自分の攻撃に専念して行動した方がいい」

 

「はい……」

 

「まあそう落ち込むな、順手の居合は逆手の居合と相性が悪いからな」

 

「相性、ですか?」

 

そんな物があったかなぁ?

 

「順手の場合、斬る部分は切先から始まるから柄部分から斬り始める逆手とは雲耀の差で負けている。それに逆手には踏み込みがない、移動しながら斬る事を重視している。踏み込みがある順手とはまた雲耀の差が出る」

 

「確かに……私から仕掛けたのにほぼ同時に鍔迫り合いをした気がします」

 

「それに移動しながらだから的は絞れない、突撃は苦手だろ?」

 

うっ……確かに、刀を振り抜いた時にはレンヤさんは後ろにいましたし……

 

「それと居合を続けて行くなら上段の構え……上からに攻撃に気をつけろよ」

 

「え、何でですか?」

 

「居合の構えは通常脇構、逆手とは別方面の弱点だ。単純に相性が悪いからな、このまま座学と行こうか。剣術の構えは基本5つ、それぞれに得意不得意がある。この関係性を五行相剋と言う」

 

「五行……相剋」

 

「日本の五行を剣術に当てはめた物だ、火は上段、土は下段、金は脇構、水は正眼、木は八相の順番が相生の関係でこれを五角形として中に星型を入れたのが相剋の関係だ」

 

レンヤさんはディスプレイを展開して五行の図を表示して説明する。

 

「水は火に強い関係を剣術に当てはめると相手上段には正眼が有利、そして……」

 

レンヤさんは1番上の火を指した後右下の金を指す。

 

「金には火を、脇構には上段となる。そして脇構が強いのは八相、木には金となる。もちろんこれが全てではないし絶対でもない、それに八相はぶっちゃけ野球のバッティングフォームに似ているからな、そんな構えをとるのは結構稀なんだよな」

 

「ええ⁉︎そうなんですか⁉︎」

 

「さっきも言った通りこの関係は絶対じゃない、けど覚えておいて損はないぞ」

 

「はい!ご指導ありがとうございます!」

 

「いいさこのくらい、それじゃあ案内してくれるか?」

 

レンヤさんは稽古が始まる前にどこかで試し斬りをしたいとの事で、いつもお世話になっている廃車場に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稽古を終えて試し斬りをしたいのでミカヤに案内されて廃車場に来た。

 

「へえ、ミッドチルダにこんな場所があったなんてなぁ」

 

「レンヤさん!許可をもらいましたよ!」

 

許可をもらいに行っていたミカヤが男性と一緒に戻って来た。

 

「あんたが廃車斬りをしたって人か、何がいい?」

 

「う〜ん、じゃああれで」

 

俺が指したのは大型のバスだ。

 

「了解、このままでやるか?」

 

「えっ」

 

俺は男性の言葉を一瞬理解出来なかった。

 

「廃車をクレーンで吊って勢いよく落とし事が出来るんですよ!」

 

「あーそう言う事、大丈夫ですこのままで」

 

「あいよ」

 

俺は車の前に立ち、刀を構える。

 

「スーーー……フーーーー……」

 

息を整えて柄を握り、一気にーー

 

キィィィィィ………

 

振り抜いた。

 

「見えなかった、けど……」

 

「何も……起きねえな」

 

不思議がる2人を他所に俺は刀を納めると……

 

ズシャン!

 

「鳴雲雀」

 

バスは大きな裂け目を残して崩れた。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

 

「えっ!あっ…はい」

 

「……………………」

 

呆然としている2人に挨拶して、廃車場から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レンヤ君〜〜!」

 

異界対策課に戻る途中、名前を呼ばれて振り返るとすずかとはやて、ラーグとソエルがいた。

 

「どうしたんだ2人共、お前達も家に居たんじゃないのか?」

 

「ラーグ君達がお願いしてなぁ、一緒に来たんや」

 

「へえ、それでお願いって?」

 

「それはもちろん、み・ら・い♪」

 

「へっ……」

 

俺が驚く中すずかが目の前に立ちーー

 

「えい!」

 

「ぐふっ!…ぐっふ!」(エコー)

 

油断したところを手刀で鳩尾に入れられた、しかもスタン効果のある魔法も使って。

 

「そんじゃ行こうか?」

 

「レッツゴー!」

 

「「おー!」」

 

俺はすずかとはやてに腕を掴まれて、連れてかれてしまった。

 

されるがまま連れてかれて、動ける様になったのは未来に到着してミッドチルダに入った頃だ。

 

「一体何の真似だ!こんな事をして!」

 

「怒らないでレンヤ、私達がすずか達に頼んだの」

 

「何?」

 

ソエルの言い分を聞いてみる事にした。

 

「ちょっとした歪みがあってね、それでちょうど一緒にいたすずか達にお願いしたの」

 

「それならそうと言え」

 

「手早く済ませたかったんだよ」

 

「ごめんねレンヤ君、痛くはなかった?」

 

「痛いよ、普通に痛いよ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「いいさ、それで歪みの場所はどこだ?」

 

すずかの頭を撫でながらソエルに聞いてみる。

 

「8年後だからね、中央地区の湾岸地区にあるよ」

 

「それじゃあ行ってみよか」

 

「レッツゴー!」

 

俺達は湾岸地区に向かったが……

 

「うーん地図を見る限り交通手段が限られているな」

 

「徒歩では行けないし、レールウェイか車で行くしかないね」

 

「アリシアちゃんのおかげで現金はちゃんと持ってきておるし大丈夫やろ」

 

「そうだな、無難なレールウェイで行こう」

 

レールウェイ発着場について目的地に向かう。

 

「到着地点はどこだ?」

 

「えっと、元機動六課隊舎……って書いてあるね」

 

「元?もうないんか?」

 

「そうみたいだねー」

 

「あっ見えてきたぞ」

 

ラーグに言われ窓の外を見ると、ちょっと古いが大きい建物が見えてきた。

 

到着してレールウェイから降りて、建物の前に来る。

 

「この辺りだね」

 

「それにしても人がいないな、降りたの俺達だけだし」

 

「もう使われていないんや、当然やろ」

 

「あっあったぞ」

 

ラーグが指したのは、玄関の前。そこに何かの揺らぎがあった。

 

「これをどうするんだ?」

 

「私達がやるからレンヤ達は周りを見張っていて」

 

「身を隠してやるからな」

 

「了解」

 

ラーグとソエルはダンボールに入った、ダンボールの穴から光が見えている。

 

「さて、見張るにしてもどうすか」

 

「ブレードでもやる?」

 

「あれ苦手なんよ〜」

 

それから見張るのほっといて2人はブレードを始めてしまった。

 

「ブラスト!………これや!」

 

「ああ!私の7が!」

 

「平和だなぁ」

 

すずかとはやての対戦を見ながら見張りもする。

 

「ん?」

 

隊舎の隅に何かあったので近づいて見てみると……

 

「これは……」

 

掲示板みたいなものに写真が貼ってあった、対舎を背景にしてそこに写っていたのは……

 

「俺になのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか、アリシア、ラーグとソエルにシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リンス、リイン、アギト。って、何故か美由希姉さんまでいるし……それに成長した……スバル、ティアナ、ソーマ、エリオ、ルーテシアと……誰だこの子」

 

エリオの隣にいるピンク色の髪の少女とちっこい竜は見た事なかった、他にもヴァイスさん、ティーダさん、グリフィス、シャリオとまだ会ったことの無い人もいる。

 

「皆いい顔しているなぁ……ん?」

 

未来の俺となのはの間にエリオより年下の男の子と女の子がいた。

 

「この目は……!」

 

「ーーーお兄さん、何してるの?」

 

「!」

 

声を掛けられて慌てて振り返ると、肩にくすぐるくらいの茶髪の髪を色違いの3本のヘアピンで留めた少女がいた。

 

「えっ⁉︎あっ君は……」

 

写真に集中していたから結構驚くも何とか応対する。

 

「私はめいって言います」

 

何だろう、今そこでブレードやっている奴に似ている様な……

 

「それでここで何してるの?」

 

「あっああ、ここに興味があってね。今日きてみたんだよ」

 

「ふーん、そうなの。私も皆と一緒に来ているの、紹介してあげる!」

 

めいやに引っ張られて元の場所に向かうと、はやてとすずかの周りにめいやと同い年くらいの子どもたちがいた。

 

「ほらほらコッチだよ〜!」

 

「またんか!」

 

長い金髪の髪を後頭部にまとめて簪で留めた女の子がはやてに追っ掛けられていて……

 

「ここをこうすればいいんだよ」

 

「こっこうなの?」

 

「うん、上手だね」

 

すずかは栗色の髪を腕付近までそのまま流している女の子にあや取りをしていた。

 

「あっ……やば」

 

ダンボールをジッと見つめている黒髪で頭の頂点にアホ毛がある男の子がいたので、止めようする。

 

「ごめん、それには触らないでくれるかな?」

 

「はい?」

 

男の子は振り返ると……

 

「「え」」

 

俺と顔がよく似ていた、全く同じではないがそっくりだ。

 

「やっぱり!お兄さんユウと似ていると思った!」

 

「そっそうか、偶然ってあるんだな」

 

「そうですね、こんな事もあるんだ?」

 

………そのアホ毛どうなっている、意思に反応する様にハテナマークになったな。昔のなのはのツインテールみたいだ。

 

「2人は兄妹なのか?」

 

「似た様なものだよ」

 

「俺はあそこにいるみやびと双子の兄妹です」

 

「そうなんだ、それであっちのあの子とめいは友達?」

 

「違うよ、ラナちゃんと私達は家族だよ」

 

「そっそうか」

 

何だか複雑な事情でもあるのかな、その時ソエルから念話が入った。

 

『レンヤ、終わったよ』

 

『とっととずらかるぞ』

 

ラーグ、それじゃあ俺達が泥棒してるみたいじゃん、俺はダンボールを持ち上げてはやてとすずかを呼ぶ。

 

「2人共!もう行くぞ!」

 

「えっもう⁉︎」

 

「……しゃあないなぁ」

 

すずかはともかく、はやては何があったんだ?

 

「あのラナって子にブレードの邪魔されたんや!もう少しで勝てたのに〜!」

 

「くすくす、ちょっとした遊びだよ〜」

 

「2人共楽しそうなの!」

 

「ふふ、そうだね」

 

「皆はどうしてここにいるんだ?」

 

「お父さんとお母さんに連れて来てくれたんだよ!」

 

「そうか、それじゃあ俺達は行くな」

 

「じゃあね、皆」

 

「また会えるとええなぁ」

 

「バイバ〜イ!」

 

「「さようなら!」」

 

「遊んでくれてありがとう!」

 

俺達はコウ達に見送られて、そそくさとレールウェイの発着場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったね」

 

「楽しかったね〜〜」

 

「ラナちゃんはもうちょっと優しくしようよ」

 

「そうだよ、お母さんに怒られるよ」

 

「ーー皆」

 

「「お母さん!」」

 

「もう帰るの?」

 

「そうや、お父さんが待っておるで」

 

「「「「は〜〜い!」」」」

 

「あっラナちゃんは帰ったらお話しやで」

 

「何で⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レールウェイで中央地区に戻り、この後のことを相談した。

 

「それでこの後どうするんだ?」

 

「もちろん遊ぶんや!」

 

「私も新しい本を読んでみたいな」

 

「買うのは厳禁だぞ」

 

それから俺とはやてはゲームセンターで遊び、すずかは図書館や書店で思い思いに過ごした。

 

しばらくしてフードコートで休んでいた。

 

「いや〜流石未来や、おもろくてはまってしもうたよ」

 

「久しぶりに思いっきりに遊んだな」

 

「本が買えないのが残念だよ」

 

ここ最近働き詰めだったからなぁ、休みだと大体家でボーッとしてるか勉強だけだからな。

 

「この後どうするん?」

 

「そうだね、他にする事もないし」

 

「なら適当に中央地区辺りでも回ってから帰るか?」

 

「ええよ」

 

「うん」

 

「賛成〜」

 

「レッツゴー!」

 

それから中央地区を見て回ってみた。

 

「ハムハム、やっぱり食べ歩きは鉄則やな〜〜」

 

「未来の味も変わらず美味しいってな」

 

「うん、そうだね」

 

食べ歩きをしながら管理局やその他施設を見て回った。

 

「目星いのはもう見終わっちまったな」

 

「そうやなぁ」

 

「あっレンヤ君、あれは何だろう?」

 

すずかが指差したのは大きめな公民館だった、小さい子ども達が入って行くのが見える。

 

「何やろう?」

 

「行ってみようか」

 

公民館の向かい、施設案内の掲示板を見てみる。

 

「えーと、小さい子どもが行く場所は……どれだろう?」

 

「これじゃないか?ストライクアーツ練習場」

 

「ストライクアーツ?」

 

「ミッドチルダで最も競技人口が高い格闘技だ、DSAAで何人か使い手がいたから覚えている。主に打撃による徒手格闘術を教えているな」

 

「へえ、面白そうやな。ちょっと見に行かへん?」

 

「俺達はパスだぞ」

 

「ならロッカーに入れとくか」

 

「ふふ、そうだね」

 

公民館に入りロッカールームでラーグとソエルをしまい、練習場に向かった。

 

「結構小さい子ども達が多いんやな」

 

「それなりに人気があるんだろう」

 

「それに皆楽しそうにしているね、コッチまで楽しくなっちゃいそうだよ」

 

しばらく見学して、キリの良い所で帰ろうとしたら……

 

「お前達見ない顔だが、ストライクアーツに興味があるのか?」

 

「えっ……」

 

後ろから赤い短髪の女性が話しかけてきた、その後ろにも少女が2人いる。何だがスバルに似ているな。

 

「えっと、その……」

 

「私達見るのが好きでして、ちょっと見学しに来たんです!」

 

「そっそうなんです!」

 

すずかとはやてが誤魔化してくれた、て言うかはやての標準語喋るの初めて聞いたな。

 

「そうなんだ」

 

「残念」

 

2人が残念がる中、赤髪の女性は何かに気がつく。

 

「見るの専門にしては茶髪はともかく、お前ら2人はそれなりに鍛えてるみたいだが?」

 

「「!」」

 

「……って私入っておらん⁉︎」

 

驚くはやてを他所に話しを進める。

 

「確かに鍛えていますけど、ここには本当に見学しに来ただけです」

 

「まあそう言わずに、一本付き合えよ」

 

「ちょっ……」

 

「レ……レンヤ君!」

 

女性に肩を組まれて、中心に連れてかれて行く。

 

「ちょっと!だから……」

 

「………神崎 蓮也………」

 

「!」

 

女性が耳元で俺の名前を呼んだ、この人未来での俺の知人か!

 

「コッチのレンヤさんがいつか昔の自分が会いに来ると言っていてね、その時一本相手してもらう約束をしたのさ」

 

「今の俺がした覚えてがないんですけど」

 

「細かい事は気にすんな、刀は目立つから徒手空拳にしろよ。心得はあるんだろう?」

 

逃げ場がない事が分かり、無手の構えをとる。

 

「アタシはノーヴェ・ナカジマだ。お前は名乗んなくていいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「コロナ、合図を」

 

「はい!」

 

亜麻色の髪を下向きのツインテールにした少女……コロナが間に入り、手を挙げ……

 

「始め!」

 

「はあ!」

 

振り下ろした瞬間ノーヴェが飛び出し、ストレートのパンチを打つ。

 

「ふっ!」

 

右腕で受け流し、左で裏拳を打ち込むが受け止められる。

 

「やるなぁ」

 

「それほどでも!」

 

蹴りを放ち離れさせ右腕を弓の様に引き、跳躍と同時に掌底を放つ。

 

「くっ……」

 

ノーヴェは避けて素早く拳を放ち、俺は受けながら攻撃する。

 

数分の攻防で相手の出方を読み合いながら決定打を入れようとする。

 

「そろそろ決めるぞ!」

 

ノーヴェが的を絞らせない様にジグザグして接近してくる、それなら……

 

「!」

 

俺は強い気あたりを放った瞬間すぐの気配を消して移動する、それにより相手の知覚に残像現象を起こさせる。

 

「ちっ!どこだ!」

 

「ここだ!」

 

姿勢を低くして懐に入り……

 

「外力系衝剄・化錬変化ーー」

 

「ストップ!」

 

掌底がノーヴェのお腹に触れた瞬間、もう1人の少女が止めに入った。

 

「流石に剄を使うのはダメだよ!って言うかなんで使えるの⁉︎それに疾影も!」

 

少女は俺が出そうとした技に驚き慌てている。

 

「あーーまああれだ、私の負けだな」

 

「いえ、俺も夢中になり過ぎたから引き分けで」

 

お互いそれで納得したら、さっきの少女がこちらに来た。

 

「今のはルーフェンの技だよ、なんで使えるの?」

 

「昔、剄を使った武術書が家にあってね。それで練習したんだよ」

 

実際はラーグから出てきた物だが。

 

「嘘⁉︎それで習得できるなんて凄いよ!」

 

「リオちゃん、落ち着いて」

 

コロナが少女を……リオを落ち着かせる。

 

「あそこまで綺麗な剄を見るのはソーマにいちゃん以来だよ」

 

「えっソーマ?」

 

「ほらほら、話しは後だ。お前達もいっぺん練習してこい、じゃないとアタシはおろかコイツも抜かせないぞ」

 

ソーマの事を聞こうとしたら、ノーヴェに邪魔された。

 

「はーい」

 

「了解です!行こう、ゴライアス!」

 

コロナとリオは練習しに向かった。

 

て言うかコロナって子の肩に乗ってた小さい茶色のヤツって……

 

「レンヤ君凄かったなぁ」

 

「カッコ良かったよ!」

 

「ありがとう、じゃあ俺達もこれで」

 

「おう、出来れば早く行けよ。そろそろ姉貴がーー」

 

「ーー何を話している」

 

ノーヴェの言葉を被せる様に、現れたのは右目に眼帯をした銀髪の小柄な女性だ。

 

「お前はあの時の!」

 

昔ゼストさんを襲っていた3人組の1人、こんな場所にいるなんて。

 

「レゾナンスアーク、セーットーー」

 

「わーわー!落ち着け!」

 

俺がレゾナンスアークを取り出し、展開しようとしたらノーヴェに止められた。

 

「ちょっ何で止めるんですか⁉︎」

 

「えーと……とにかく大丈夫なんだよ」

 

「ふう、最初の出会いが最悪だとはいえ少々傷付くな」

 

「えっと、どう言うご関係で?」

 

「さあな、複雑すぎてよく分からん」

 

すずかの質問に本人も肩をすくめる。

 

「それじゃあ姉貴、後はよろしくな」

 

「ああ、心友によろしく言っておいてくれ」

 

「え……」

 

何の事か理解出来ないままノーヴェに押されて練習場を出て行く、はやてとすずかもそれについて行った。

 

ラーグとソエルを回収して公民館を出る。

 

「それじゃあ元気でな」

 

どうやらノーヴェは彼女のことを話すつもりはない様だ。

 

「はい、コッチの私達によろしくお願いします」

 

「何かおかしな感じがするなぁ」

 

「しょうがないさ、迷惑をかけてすいません」

 

「いいってことよ、昔のレンヤさんの実力を見れて楽しかったし」

 

「コッチのレンヤは強いのか?」

 

「ああ、アタシなんか瞬殺される」

 

「あはは……」

 

ノーヴェと別れて俺達はアルトセイムに向かい、元の時代に戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球で2人と別れて、俺は家に帰り自室にいる。

 

「なんか今日は知ってはいけないのを聞いた気がする」

 

「それがタイムトラベルってもんさ」

 

「楽しめる要素全然ないけど」

 

「もう2度いかないぞ」

 

そう誓ったが、これは未来に行かないことで。過去には行くと言う事には今の俺には気がつかなかった。

 

 



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学院編
61話


 

 

俺は夢を見ていた、遠い遠い場所、遥か昔の誰かの記憶を……

 

【ーーーーー!コッチですよ!】

 

【待ちなさいーーーーー、何処にも逃げないわよ】

 

【そう言うが君はいつもーーーと何処かに行ってしまうからな】

 

【僕は流浪何だからいいんだよ、いつもーーーーーと何処でも行けるんだ】

 

名前も顔も分からないが何処か楽しそうで、4人共深い悩みを胸に秘めている感じがする。

 

【羨ましいです、私とーーーーは守るべき国を捨てては行けませから】

 

【王をやるのも難儀なものね】

 

【いいえ、そうではありません。私は守るべき民を重んじる王という役職が好きなのです】

 

【よく分からないわ、私はただアイツを殺せればそれでいい】

 

【………止めはしない、ただ自分が進むべき道を見誤らないでくれ】

 

【心配ご無用!僕も付いて行くんだから!】

 

【同行を許した覚えはないわよ】

 

【ええーー】

 

【全く、君達は本当にーーーー】

 

そこで視界が真っ白になっていき…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ん」

 

夢の内容を思い出しながら起き上がり周りを確認する。

 

「ん〜〜〜………そうか、仮眠室で寝たのか」

 

体を伸ばして昨日の事を思い出す。

 

「はあ、徹夜なんてするもんじゃないな」

 

溜まっていた書類をさばいていたらいつの間にか深夜を過ぎていて、そのまま仮眠室で寝たのだ。

 

ベットから出て、横に置いてある時計を見る。

 

「もう3月、あとちょっとで卒業……そして高校か」

 

あれから異界の事件は落ち着いてきて、勉強に集中できて無事にレルム魔導学院に合格した。他の皆も合格した、まあ魔法がある分地球よりも楽に入れた気もするが。

 

ただそれよりも驚いたことがあった、フェイトが本局の保護施設で女の子を保護したらしく。その女の子が未来に行った時のピンク髮の女の子だったのだ。名前はキャロ・ル・ルシエ、一緒にいた竜はフリードリヒ、通称フリード。

 

未来改変とかが怖いから自分では会いに行かない様にしないとな。

 

俺はディスプレイを展開して写真を見て行く。

 

幼少の頃から今までの写真が撮られている、海や山、運動会や遠足その他。

 

あとちょっとで海鳴を離れるとなると寂しくなる、もちろん休暇の際には皆と遊びに行くが。

 

すでに兄さんと忍さん………いや忍義姉さんか。

 

数日前、空港で海外ドイツで仕事をしながら暮らす兄さんと忍義姉さんを見送りをした。2人は親族と親しい友人だけを招いた小さな結婚式を挙げ、晴れて夫婦となった。兄さんが月村に婿入りする形だったので今の兄さんは月村の姓に変わっている。別れを惜しみながらも2人を見送った、その前忍義姉さんがすずかと静かに話してたらすずかが顔を真っ赤にしていたが……

 

「次は俺達か………」

 

本来俺がレルム魔導学院に入らずに風芽丘学園に入ってたら、お母さんとお父さん、姉さんと別れずに済んだんだが……

 

「いやいや!自分が決めたんだから、納得…………はあ」

 

やっぱり罪悪感があり、納得できなかった。

 

「…………帰るか、皆が心配しているし」

 

身仕度を整えて、メールを確認した後地球に向かい家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして3月31日、桜の花びらが散る中……笑うか泣いて見送るかの卒業式を終えて次の日、俺達がミッドチルダに移り住む日。

 

「なのは、レンヤ、体には気をつけるのよ?」

 

「うん、ありがとうお母さん」

 

「いつでも帰って来るんだぞ」

 

「分かっているよ、休暇の時に遊びに来るから」

 

「ソエルちゃ〜ん、ラーグく〜ん、寂しいよ〜」

 

「美由希〜、苦しいよ〜」

 

「やれやれ」

 

別れの挨拶を済ませて、荷物を持った。

 

「それじゃあ行くね」

 

「うん、頑張ってきてね2人共」

 

「それと、レンヤ」

 

お母さんに呼ばれて前に来ると……

 

バチーーン!

 

「ぶっ!」

 

思いっきり両頬を叩かれてそのまま挟まれた。

 

「お母さゃん、にゃにお……」

 

「全く貴方は何も変わっていないのね、自分のせいでなのは達まで出て行く事に罪悪感を持っているでしょう?」

 

やっぱり、お母さんには隠し事は出来ないな。

 

「昔と変わらないレンヤの良い所でもあり悪い所、でも嬉しいのよ?貴方がわがままを言える様になった事に」

 

頬から手を離してそのまま抱きしめられる。

 

「貴方は貴方が行きたい道を歩いて行きなさい、寂しくなったら道を変えて私達の家に帰って来れば良いのよ、ただそれだけ。いつでも会えるわ」

 

「母さん………うん、ありがとう」

 

「よろしい」

 

お母さんは離れてお父さんの隣に立ち……

 

「行ってらっしゃい」

 

笑顔で俺達を見送ってくれた。

 

「「行ってきます!」」

 

俺となのはは元気よく返事して、フェイト達が待つ高台に向かった。

 

「あの子達はきっと大丈夫」

 

「ああ、何せ俺達の子だからな」

 

「うん、私の弟と妹だもの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衣服やその他必需品は先に学院の寮に送っており、現在の手荷物は必要最低限な物になっている。

 

「皆〜!」

 

「お待たせ」

 

高台に着くとフェイト、はやて、アリサ、すずか、アリシアが先にいた。

 

「なのは、レンヤ、おはよう」

 

「来よったなぁ」

 

「遅いわよ」

 

「おはよう2人共」

 

「ヤッホー」

 

5人はこちらに気づいて声をかける。

 

「皆はもう良いのか?」

 

「うん、母さん達とリンディさん達に見送ってもらったよ」

 

「家はこのままで、ミッドチルダに家を構えよう思っとるから大丈夫や」

 

「パパとママも喜んでいたわ」

 

「ノエルとファリンが皆によろしくって言っていたよ」

 

「うん!ありがとう、すずかちゃん!」

 

そろそろ時間だな。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「「「「「「うん!(ええ)(わかったよ)」」」」」」

 

俺はディスプレイを展開して、アースラと通信する。

 

「エイミィさん、お願いします」

 

『了解!転送開始!』

 

俺達の足元に魔法陣が展開されて、アースラに転移した。

 

「やっほー皆、久しぶり」

 

「元気してたか?」

 

アースラに転移した後、クロノ達のいるブリッジに向かった。

 

「はい、今日はありがとうございます」

 

「これ以降、アースラに乗る機会が無いのは残念ですけど」

 

「そうだよ〜〜せっかくもうちょっと一緒に仕事出来ると思っていたのに〜〜」

 

「すみません、俺の都合で」

 

「会う機会はいつでもある、構わないさ。それにレルムは名門だ、頑張ってこいよ」

 

「了解!」

 

「問題あらへんよ!」

 

「その前にクロノ、この制服について何か知っているの?」

 

アリサが着ている制服を見せて言う。

 

「あれ?何で皆赤い制服を着ているの?レルムは白と緑だったような……」

 

「レルムから送られた物を着てきたんですけど、確認しても何も分からなくて」

 

「どうやら一旦デバイスも預かるみたいで」

 

「私達全員が同じ制服だから、もしかしたら同じクラスなのかもね」

 

「まあ、今日確認しに行くんですけど」

 

俺達が着ている制服は赤い制服だ、見学の時に見なかったクラスでもあったのか?

 

「そうだ!エイミィさんとクロノ君、今更ですけどご結婚おめでとうございます!」

 

「え⁉︎あ、ありがとう……」

 

「もうお腹に子どももいるんだよね」

 

「恭也達の次はクロノ達かー、羨ましいなぁ」

 

「……なあなあ、子どもがいるちゅうこのとは……したん?」

 

「できればそこを詳しく?」

 

「はやて、すずか、やめろ」

 

「そ、そうよ。自分で体験した方がわかりやすいよ///」

 

「お前も何口走っていんるだ」

 

エイミィさんは顔を真っ赤にして言い、クロノがたしなめた。

 

それから雑談をしてる途中にミッドチルダに到着して、中央ターミナルから東にある近郊都市ルキュウに向かった。

 

俺達は6人掛けのボックス席に座ったが、人数オーバーと荷物でギュウギュウ詰めだった。

 

「なあ、誰かの……て言うか俺隣に行って良いか?」

 

「ダメよ、場所は有効活用しないと」

 

今有効活用できる席がそこにあるのに……!

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん、レンヤ君とくっ付き過ぎないかなぁ?」

 

「狭いのだから詰めないと♪」

 

「うっうん///」

 

列車に乗る前にじゃんけんしたと思ったら、席の位置決めをしてたのか。やっぱり平穏なじゃんけんは出来ないのかなぁ。

 

て言うかフェイトは分かっていたけどアリシアも結構あるんだな、着痩せするタイプなのか。しばらく両腕の柔らかさと鋭い眼光に耐えながらルキュウに着いた。

 

ホームを出ると桜と似たような花びらが咲き誇っていた。

 

「へえ、綺麗じゃない」

 

「桜とはまた違った感じがするね」

 

「ピンクじゃなく白だよ」

 

「そうだね〜」

 

桜似の木を観賞する皆を他所に、俺は周りを見る。

 

「……………………」

 

「気づいたんか?」

 

「ああ、白の制服が数人いてそれ以上に緑の制服が何人もいる」

 

「やっぱり何かの間違いかな?」

 

はやてとすずかの疑問は最もな事だ、周りの人達の視線を感じる。

 

「考えても仕方がない、皆行くぞ」

 

「はーい」

 

俺達は視線を感じながらも学院に向かった、ラーグとソエルはバックの中に入れてすぐに正門に着くと……

 

「ご入学、おめでとうございます!」

 

正門前に立っていた先輩であろう薄緑色の髪の女性がいた、後ろには白衣を着た茶髪の男性もいる。

 

「うん、君達が最後みたいだね」

 

女性は手に持つ名簿を読む。

 

「神崎 蓮也君、高町 なのはさん、月村 すずかさん、八神 はやてさん、アリシア・テスタロッサさん、フェイト・テスタロッサさん、アリサ・バニングスさん……でいいかしら?」

 

「はい、そうです」

 

「どうも初めまして」

 

「でもどうして私達の名前を知っとるんですか?」

 

はやてが名前を呼ばれた事に疑問を持つ。

 

「ちょとした事情があってね、今は聞かないでくれると助かる」

 

「えーと、それなら聞きませんけど……」

 

はぐらかされて結局何も聞けなかった。

 

「それじゃあデバイスをこちらに、一旦預からせてもらうよ」

 

男性がデバイスを載せる台を待ってきた。

 

「わかりました」

 

「案内書にあった通りだね」

 

俺達はデバイスを台の上に置いた。

 

「確かに、ちゃんと返すから心配しないでくれ」

 

「入学式はあちらの講堂であるからこのまま真っ直ぐどうぞ」

 

女性は講堂を指す。

 

「あっそうそう、レルム魔導学院へようこそ!」

 

「入学おめでとう、充実した3年間になるといいな」

 

思い出したように2人は祝いの言葉を言う。

 

俺達は講堂に向かう。

 

「あの2人は先輩で……いいんだよね?」

 

「見るからに3年生あたりでしょう」

 

「でも私達が最後って言っていたけど、どう言う意味なのかな?」

 

「他にも私達と似たような人がーーー」

 

キーンコーンカーンコーーン、キーンコーンカーンコーーン……

 

その時学院のチャイムがなった。

 

「そろそろ入学式の時間や、検索はまた後でやな」

 

「3年間の学院生活の始まりだ、気を引き締めて行こうか」

 

「うん、皆で頑張ろう」

 

講堂に入ると数名、赤い制服を着ていたがほとんどが緑で次に白。俺達が入ってきた途端視線が刺さる。

 

「早く座りましょう、居心地悪いわ」

 

「私達は見世物じゃないよ〜だ」

 

「ねっ姉さん……」

 

そそくさと席に座り、すぐに入学式は始まった。教卓の上で入れ替わる様に説明していくが、できる限り聞き漏らさずにしていたがやはり眠くなる。しばらくボーっとしていたら朗々とした声が響いてきた。ヴェント学院長だ、眠気を払いシャンとする。それからしばらく聞き……

 

「ーー最後に君達に1つの言葉を贈らせてもらおう、本学院が設立されたのはおよそ200年前の旧暦時代のことである。創立者はかのシュトゥラの覇王ーークラウス・G・S・イングヴァルド。聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと同じ過ち繰り返さぬよう、晩年の覇王は、先住していた都市に程近いこの地に魔法と兵学を教える学院を開いた」

 

チラリと横を見ると服装がバラバラの教員らしき人達が立っていた、魔力が無い人もいれば実力者もいる。

 

「近年、次元世界の風習や魔法体系の変化と共に本学院の役割も大きく変わっており、魔導師以外の道を進む者も多くなったが……それでも、覇王が遺したある言葉は今でも学院の理念として息づいておる」

 

ヴェント学院長は教卓に手を置き……

 

「若者よーー世の礎たれ」

 

静かに響かせる様に言い放つ。

 

「世という言葉をどう捉えるか、何をもって礎たる資格を持つのか。これからの3年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにして欲しいーーワシの方からは以上である」

 

パチパチパチ!

 

盛大な拍手が贈られ、ヴェント学院長の話しは終わった。

 

(世の礎たれ、か……)

 

「うーん、いきなりハードルを上げられちゃった感じだね?」

 

右から俺の考えを言う様に呼びかけてきた、見てみると菫色の髪と黄土色の目をした同じ赤い制服の少年がいた。

 

「ああ、さすがは覇王と言ったところか。単なるスパルタよりも遥かに難しい目標だ」

 

「あはは、そうだよね。僕はツァリ・リループだよ」

 

小声で話しながら少年ーーツァリと会話する。

 

「神崎 蓮也だ。そういえば……同じ制服だな?」

 

「うん、どういう事なんだろうね?ほとんどの新入生は緑色の制服みたいだけど……あ、向こうにいる白い制服は一科生の新入生なのかな?」

 

ツァリにつられて見てみると、前の列は白い制服の新入生はで埋まっていた。

 

「そうみたいだな、だが……」

 

少し疑問に思い、言葉を途切れる。

 

「?、どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

「そう…………あれ?神崎……蓮也?」

 

「ーー以上でレルム魔導学院、第207回・入学式を終了します」

 

その時、男性が入学式終了を伝えた。

 

「以降は入学案内書に従い、指定されたクラスに移動すること学院におけるカリキュラムや規則の説明はその場で行います。以上ーー解散!」

 

それから、周りの新入生ーー1科生と2科生の新入生ーーは立ち上がり……講堂から出て行った。

 

後に残ったのは数名の職員と俺達紅い制服を着た人達だけだった。

 

「指定されたクラスって……送られて着た入学案内書にそんなの書いてなかったよ」

 

「確かに、この場で発表されると思っていたんだが……」

 

そう疑問に思っていると……

 

「はーーい、赤い制服のやつらは注目〜」

 

明るいというか、軽い感じの男性の声が聞こえてきた。

 

「どうやらクラスが分からなくて戸惑っているようだな。実は、ちょとした事情があるんだ」

 

俺達の疑問に答える様に男性教官は説明する。

 

「お前達には今から特別オリエンテーリングに参加してもらう」

 

「は……⁉︎」

 

「特別オリエンテーリング……」

 

「何それ?」

 

「そんなの、どこにも書いてなかったわ」

 

なのは達や他の男子生徒も分からない様につぶやく。

 

「すぐに判る。全員、俺について来い」

 

教官はそのまま講堂を出て行った。

 

「えっと……」

 

「とりあえず、行ってみますか」

 

「仕方ない……」

 

男子達は教官について行き講堂を出た。

 

「どういう事なのかな?」

 

「分からない、とにかく行ってみよう」

 

「レン君」

 

ツァリが不思議がっていると、なのはが話しかけてきた。

 

「なのは、皆」

 

「行くしかない様ね」

 

「何がどうなってるんや」

 

「皆、見失っちゃうよ」

 

「早く行くよ」

 

「うっうん」

 

(全員で11人か……)

 

俺達は見失わない様に早足で講堂を出た。

 

それを白い制服を着た新入生が怪訝そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教官が向かったのは正門の反対側のさらに奥、旧い旧校舎だった。

 

「ここって……」

 

「前に来た時は立ち入り禁止の場所だった所ね」

 

「学院の裏手……随分と旧い施設だな」

 

「〜〜〜〜〜〜〜♪」

 

教官は鼻歌を歌いながら鍵を開けて、旧校舎に入って行った。

 

「こんな場所で何を……」

 

「一体何をするつもりだ……?」

 

「考えても仕方ないね」

 

教官について行き、旧校舎に入って行く。

 

「いかにも出そうな建物だね?」

 

「ひう!な、なのは〜〜」

 

「フェイトは相変わらず怖がりだなぁ」

 

「ここで何をするのかな?」

 

「分からないけど、行ってみたら分かるよ」

 

「ああ、そうだな」

 

(全員同じ赤い制服……やっぱり同じクラスなのかな?)

 

施設に入って行く時、視線を感じたが………

 

「レンヤ、どうしたの?」

 

「いや……何でもない」

 

フェイトに呼ばれてそのまま入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎の入り口が見える場所に、2人の男女がいた。

 

「ーーあれが俺達の後輩か」

 

「名目こそ違いますが、似たようなものです」

 

男性は灰色の髪をしたレルムの緑色の制服を着ていて、女性は長い赤髪に白い制服を着ていた。

 

「わたくし達の努力が報われましたね。一年間、地道に頑張った甲斐があるというものです」

 

「だよな〜……って。お前は後ろから見てただけじゃん、たまーに前に来てはくれたがな」

 

「貴方も似たようなものです。バカスカと砲撃を撃って……わたくしを傷物にする気ですか?」

 

「誤解を招く様な事は言うな!そのせいで俺がどれだけ男子と女子共に大変な目にあわされか……!」

 

「……………………」(フッ)

 

「はっ鼻で笑いやがったなぁ?」

 

「ーーー2人共、喧嘩はほどほどにしなさい」

 

2人の後ろから、先ほど正門にいた2人が来た。

 

「お2人共、お疲れ様です」

 

「他の子犬どもは一通り仕分け終わったようだな?」

 

「うん、皆とってもいい顔していたよ。よーし!充実した学院生活を送れるように管理局と連携してしっかりサポートしなくちゃ!」

 

女性が張り切っているようで、嬉しそうに言う。

 

「ふふ、さすがは会長ですね」

 

「張り切りすぎてぶっ飛ぶなよ〜」

 

「まあ、多少の助けがないと厳しいからねーーーそれで、そちらの準備も一通り終わったみたいだね?」

 

「ええ、教官の指示通りに」

 

赤髪の女性は旧校舎の方を向き……

 

「しかし何と申しましょうか……彼らには同情を禁じえませんね」

 

「まっそれは同感だ、本年度から発足する訳ありの特別クラス……せいぜいお手並みを拝見するとしようかね」

 

2人が彼らを同情するようにつぶやく。

 

「でも子犬にしては……少々いい牙を持っている小狼がいるみたいだがな」

 

「ふふ、彼らならこの先の時代に残るくらいの偉業を成し遂げるに違いないですね」

 

「そうだね!」

 

「できれば、穏便が1番何だけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎に入ると思ったより広くて普通で、教官は段差の上にいて俺達はその前に来た。

 

「ーーテオ・ネストリウス・オーヴァ。今日からお前達VII組の担任を務めさせてもらう、よろしくな」

 

男性教官ーーテオ教官は何かとんでもない事を言った。

 

「なっVII組⁉︎」

 

「それに君達って……」

 

「聞いていた話しと違うわ」

 

「あの……テオ教官?この学院の1学年のクラス数は5クラスなはずです」

 

「そうや、入試の成績や魔力量、実力に合わせたクラス別けのはず」

 

「おっ良い所に気付いたな」

 

すずかとはやての疑問に関心してテオ教官は質問に答える。

 

「以前まで1科生と2科生に区別されたいた。そしてクラスは5つまでしかない……だがそれは去年までの話し」

 

「え……?」

 

思いもよらない回答になのはは思わず声を出す。

 

「今年から新しく立ち上げられたんだよ。すなわちお前達……成績や魔力量に関係なく選ばれた第3科生、VII組がな」

 

「第3科生、VII組……」

 

「つまりそれって……」

 

つまり俺を含めてここにいる11人の制服の色が違っていたのは、テオ教官が言うように1科生や2科生という縛りに囚われないVII組というクラスだからか。

 

「それは問題ではないのですか?」

 

すると、銀髪で琥珀色の瞳をした少年が最もな意見を述べた。

 

「えーと、お前は……」

 

「リヴァン・サーヴォレイド。いくら成績などに関係なくとも偏見がある限り俺は納得できません」

 

どうやら少年ーーリヴァンは1科生みたいな人に対して良くない感情があるらしい、 リヴァンの言葉を受けて何人かのメンバーが反応を示した。

 

「フン……騒がしいな」

 

リヴァンの隣にいた青髪に鳶色の瞳の少年が不意に挑発的な事を言った。レヴァンは眉間に皺を寄せてその少年を睨みつける。

 

「……何か文句でも?」

 

「別に。そんな事で騒ぐ事でもないと言ったんだ」

 

「随分と上から言うんだな、さぞかし有名人なんだろうな」

 

金髪の少年がリヴァンに向き直る。

 

「シェルティス・フィルス。覚えなくても構わない」

 

「っ⁉︎」

 

フィルス……随分なビックネームだ、あの伝説の三提督の1人レオーネ・フィルスの血縁者か。

 

ミゼット・クローベルならはやて経由で知り合った事もあるが。

 

「それがどうした!その程度で俺がーー」

 

パンパン!

 

「はいはい、そこまでだ」

 

シェルティスの家を知ってもなお食って掛かるリヴァンをテオ教官が手を叩いて制した。納得してないがリヴァンは大人しくなる。

 

「コホン、それじゃあそろそろオリエンテーリングを始めるぞ」

 

「オリエンテーリング……それって一体、何なんですか?」

 

「そういう野外競技があるのは聞いたことがあるけど……」

 

フェイトとアリシアがオリエンテーリングについて疑問に思っている。

 

(………………あっ)

 

俺達がVII組なら……もしかしたら正門で預けた……

 

「正門で預けたデバイスに何か関係が?」

 

「おっ中々鋭いな。それじゃあ、さっそく始めよう」

 

テオ教官は懐からリモコンを取り出して、躊躇なく押した。すると……

 

ズシンッ!

 

「えっ……」

 

「っ⁉︎」

 

「しまったーー」

 

足元が揺れ始め、次の瞬間には床が大きく傾き始めた。全員がどんどん滑り落ちて行く。

 

「うわぁっ⁉︎」

 

「っ!」

 

「何これー!」

 

「くっ……」

 

何とかその場に留まるが、魔法が使えない。これは……

 

「AMF⁉︎」

 

「おっ気が付いたか、飛ばれちゃあ意味ないからな」

 

そんなのあり⁉︎

 

「きゃあっ……!」

 

「!、はやて!」

 

俺ははやての元まで移動して、体を引き寄せた。

 

「れっレンヤ君……⁉︎」

 

「しっかり捕まっていろ!」

 

落ちていく中で体勢を整えてはやての背中に手を回し、胴体を支えながら膝裏に手を入れて立ち上がる。俺は下を見て、地面が見えてくると足に力を入れて跳躍してゆっくりと着地した。

 

「ふう……大丈夫かはやて?」

 

「うっうん……大丈夫や///」

 

「どうした、はやて?顔が赤いぞ」

 

「えっと……その///」

 

俺は今の体勢を理解した、慌ててゆっくりはやてを降ろした。

 

「その……すまんなはやて」

 

「大丈夫や、おおきなレンヤ君」

 

「2人共、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。なのはも大丈夫か?」

 

「うん、皆怪我もないよ」

 

怪我がない事を確認して、改めて周りを確認する。大きな広間で奥には石造りの重厚な扉があり広間の壁際に円になるような形で計11個の台座が設置されていた。

 

その時天井にあったスピーカーから音が鳴り出してテオ教官の声が聞こえてきた。

 

『全員いるか〜?』

 

照明がついて広間が明るくなる。

 

『お前達から預かってたデバイスを返却する、ちょっとした設定を追加しただけでその他はいじくっていないから安心しろ』

 

しばしの沈黙の後……

 

「はあ……やってみるしかないわね」

 

「うん、そうだね」

 

「一体何のつもりだ……」

 

「あれか……」

 

次々と自分のデバイスの元に向かう。

 

「レン君、また後で」

 

「ああ、俺のは……あれか」

 

「僕のはあっちだ……行ってくるね」

 

なのはとツァリが自分のデバイスの元に向かい、俺もレゾナンスアークの元に向かう。

 

台の上の箱を開けて、青い六角水晶……レゾナンスアークを取り出した。

 

「レゾナンスアーク、追加機能はなんだ?」

 

《擬似的なAMFをデバイスに発生させる機能です》

 

「つまり、AMFと近い現象が簡単に起きるということか」

 

《はい》

 

『全員確認したな?デバイスに細工をする事で簡単にAMFと同じ現象が起きるようにしておいた、それじゃあさっそく始めるか』

 

そう言い、奥の石造りの扉が重々しい音を立てながら開いた。この広間より薄暗い直線50メートルほど渡って続いており、一定の区間にランプの灯りのみが道を照らしている。

 

『そこから先のエリアはダンジョン区画になっている。割と広めで入り組んでいて迷うかもしれないが……無事、終点までたどり着ければ旧校舎1階に戻ることが出来る。まっちょっとした妨害工作なんかも配置しているんだけどな』

 

スピーカー越しから聞こえてくるテオ教官の声音は、少し楽しげだった。

 

『ーーーそれではこれより、レルム魔導学院・第3科生VII組の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があるならその後に受け付けてやるよ』

 

そう告げてからスピーカーから音声が聞こえなくなった。

 

(入学式から30分も経っていないのに、何か無茶苦茶だな)

 

呆れを通り越して感心するよ。

 

 



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62話

 

 

俺達11人は現在、混乱のただ中にあった。

 

 何の説明もなく連れてこられた旧校舎らしい建物の中で自分たちは今年から新たに設立され第三科生・Ⅶ組だと告げられ、かと思えば今度はいきなり落とし穴に落とされて特別オリエンテーリングをやれと言われた。ちなみに、入学式が終わってから旧校舎の地下に落とされる今に至るまでまだ30分も経っていない。

 

(一体何が目的なんだろうな……)

 

30分の間にここまでのことをやってくれたテオ教官に、俺は呆れを通り越して感心すらして、ひとまずは旧校舎の一階に出られるというダンジョンの入り口の前に集まることにした。

 

「え、えっと……」

 

「……どうやら冗談でもなさそうやなぁ」

 

「………………」

 

誰もが警戒心を露わにしてダンジョンに入ろうとしない中、シェルティスが黙ってダンジョンに入ろうとした。

 

「待て、1人で行くつもりか?」

 

「俺は勝手にやらせてもらう。それとも1人で行くのが怖いのか?」

 

「言ってろ、たかだか魔力量に頼っている奴に負けるつもりはない」

 

リヴァンは対抗するようにダンジョンに入って行き、シェルティスも少し見送った後続いて行った。

 

残された俺達は何とも気まずい沈黙が流れる。

 

「…………………」

 

「あらら」

 

「えっと……」

 

「ど、どうしようかな……?」

 

状況が飲み込めない中、俺はなのは達に念話を送る。

 

『皆、聞こえるか?』

 

『レンヤ?』

 

『どうかしたの?』

 

『レン君の考えている事は分かるよ、私達は3人1組に分けて行くから他の男の人を頼める?』

 

『さすがなのは、了解した』

 

念話を切り、アリサが話しをする。

 

「念のため数名で行動しましょう。はやて、アリシア、いいわね?」

 

「かまへんよ」

 

「了解〜」

 

「なのは、すずか、よろしくね」

 

「うん!」

 

「頑張ろうね」

 

さすが幼馴染達であっさりグループが決まった。

 

「私達は先に行くね」

 

「男の子何やから心配あらへんけど、気いつけてな」

 

「わかった」

 

「じゃあね〜」

 

なのは達はダンジョンに入っていった。残されたのは俺とツァリと俺と色合いの違う黒髪の長身の男子だけだ。

 

「レンヤは彼女達と知り合いなの?」

 

「ああ、同じ町で暮らしていた幼馴染だーーそれで、どうする?せっかくだからか俺達も一緒に行動するか?」

 

長身の男子の方を向きながら提案する。

 

「うんっ、もちろん!……と言うよりさすがに1人じゃ心細いよ」

 

「私もそれで構いわない、同行させてもらいます」

 

それから戦法や武器の確認のためにデバイスを起動させ、武器取り出す。2人はデバイスだけなようでバリアジャケットは無かった。

 

「ユエ・タンドラ。ミッドチルダに来て日が浅いですからよろしくしてくれると助かります」

 

「なるほど、留学生なのか。こちらこそよろしく、神崎 蓮也だ。寝ているがこいつらは俺の守護獣、ラーグとソエルだ」

 

ポケットからラーグとソエルを見せる。

 

「ツァリ・リループだよ。それにしても……それが武器なの?」

 

「ああ、これですか」

 

ユエは両手両足に手甲と脚甲を付けている、非人格のアームドデバイスのようだ。

 

「ストライクアーツをやるのか?」

 

「いえ、故郷の流派を使います、武具の名はフォルマシオン。そちらもまた……不思議なものを持っているようですね」

 

「あ、うん、これね」

 

ツァリは杖型のデバイスのようだが……細部の形状が異なり片側に花弁のような装飾が付いていた。

 

「杖にしては形状が異なっているな」

 

「これは僕専用に作られたストレージデバイスで名前はウルレガリア。僕は戦闘はからっきしなんだけど……」

 

ツァリはウルレガリアを構えて花弁を散らして、薄紫色の花弁を周囲に浮かせる。

 

「これは……」

 

「僕の意思で動く端子だよ、半分物質と魔力でできているんだ。この端子を介して念話や索敵を行うんだ、利点としては念話の妨害を受け付けない事かな。それに幾つものマルチタスクと空間把握能力が無いと使いこなせないんだ」

 

「充分凄いじゃないか」

 

「あはは、ありがとう。でも攻撃は端子を鋭くしたりとか爆撃なんだけど……威力がなくて。それで……レンヤの武器はその?」

 

「ああ」

 

俺は刀を抜いてみせる。

 

「それって……剣?」

 

「いや、これは刀です」

 

「正解、そして相棒のレゾナンスアークだ」

 

《よろしくお願いします》

 

柄頭に付いている青いクリスタルが光って返事をする。

 

「よろしくお願いする。さて……私達もそろそろ行くとしましょう」

 

「ああ、警戒しつつ慎重に進んでいこう。まずはお互いの戦い方を把握しないとな」

 

「うん!」

 

行こうとしたらユエが近寄ってきた。

 

「それとレンヤ、あなたのことはソーマから聞いています」

 

「ソーマを知っているのか?」

 

「3年前に地元に修業の名目で来ました。流派は違うものの幾度か交流があり、あなたことを聞いた……とても優しいと」

 

「そうか、ティーダさんからどこかに修業の為に、と聞いていたが……ソーマは元気してるか?」

 

「元気です、そしてソーマはとても才ある者、確か今年ミッドチルダの訓練校に入ると言っていました。暇があったら会いに行きませんか?」

 

「もちろん!」

 

そして俺達は周囲を警戒しつつ、ダンジョンに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テオ教官が言っていた妨害はAMFによる魔法の使用不可とドローンによるものだった。

 

「単純な試験用のドローンだな、俺が先行するから戦い方を見ていてくれ」

 

「分かった」

 

「気をつけてね」

 

俺は刀を抜刀して、2体のドローンに接近する。

 

戦い方をみせるためにすぐに倒さず、ドローンの攻撃をさばいていく。

 

「せいやっ!」

 

5分ぐらい経ったので刀身に魔力を流してドローンを切り裂いた。

 

ドローンは一瞬光って消えてしまった、随分と処理が楽なドローンだな。

 

刀を納めたら2人が近づいてきた。

 

「凄いねレンヤ」

 

「見事な体捌きに技量だ、私も迂闊いていてはいられないな」

 

「そんなことはないさ、さて次にーー」

 

「待って、進行方向に3体くるよ」

 

ツァリが目を閉じて、意識を集中している。仄かに髪が薄紫の魔力光で光っている。

 

「次は私が行こう」

 

「よろしく」

 

するとすぐに3体のドローンが現れた。

 

「ふう……」

 

ユエは呼吸を整え、ドローンの攻撃を避ける。動きが早く普通の人が見たらただの線にしか見えない速さだ。

 

「はあああああっ!」

 

ドローンを一ヶ所に集め、拳を地面に叩きつけたら地面が槍のように迫り出しドローンを貫いた。

 

「凄いよユエ!あんな事が出来るなんて!」

 

「まだまだ修業中の身、この先を目指さなければ」

 

「そうだな、だがまずはここを出よう」

 

周囲の探索をツァリに任せて、俺達はツァリの道案内の元先に進む。

 

「ツァリってやっぱり凄いじゃないか、安心して前に進めるんだからか」

 

「ありがとう、でも僕にはこれぐらいしか出来ないから。魔力量も平均だし……あっ、来るよ!」

 

「やはり凄いではないか!」

 

正面から数体のドローンが現れた。

 

「行くぞ!」

 

「承知!」

 

「うんっ!」

 

ユエが撹乱、俺が攻撃、ツァリが敵情報の割り出しとそれの伝達。

 

ユエとは息を合わせられて楽に対処でき、ツァリの空間把握能力は舌を巻く程だ。

 

「はあぁ~……つ、疲れた……」

 

しばらく進んだ所で襲い掛かってきたドローンの群れを倒した直後、ツァリが膝をついて大きく息を溢した。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ちょっと緊張が途切れただけだから。此処まで気疲れしたのは久しぶりだよ……でも2人は凄いなぁ。全然平気そうだもん」

 

「まあ、慣れの違いだろう」

 

ユエが答え、それに俺も頷く。

 

「大丈夫か?手、貸そうか?」

 

「ううん、大丈夫。一人で立てるよ」

 

 と、ツァリが腰を上げた時だった。

 

「ーーっ⁉︎ツァリ、危ない!」

 

「大丈夫、気付いているよ」

 

何か気配がして視線を上に向けたらドローンがいて俺が叫んだが、ツァリは冷静に振り返らず端子を飛ばすと、1体のドローンがツァリを目掛けて飛びかかって来たのを端子を爆撃してドローンを破壊した。

 

「ふう……」

 

「ツァリ、一体どうやって……」

 

「え、こんな近くにいて気付かないわけがないよ」

 

しれっと当たり前のようにツァリは言う。

 

「その、ツァリの索敵範囲はどれ位なんだ?」

 

「え、僕の索敵範囲は直線30キロ、全方向だと半径10キロの円の中で……複数の人と同時に念話をするなら50人が最大かな?」

 

思ってた以上にとんでもなかった。

 

「やっぱり凄いじゃん」

 

「これだけだよ、それに今はAMFの影響で1キロ未満しか索敵できないし、戦闘になると足を引っ張っちゃうし、間違いなく二科生に入るレベルだよ」

 

「確かに、評価対象に入らない項目だ……が、それでもツァリは私達が出来ない事が出来る。充分誇ってもいいぞ」

 

「えへへ、ありがとう」

 

「ーーーほう、かなりの実力者ぞろいだな」

 

「「「!」」」

 

前の通路から制服姿のリヴァンが左手に片刃のブレイカー付きの剣を持って出てきた。

 

「あなたは……」

 

「リヴァン・サーヴォレイド……だったな?」

 

「ああ、さっきは済まなかったな」

 

リヴァンは頭を下げて謝罪する。

 

「構わないさ、俺は神崎 蓮也だ」

 

「ツァリ・リループだよ」

 

「ユエ・タンドラ。どうか宜しく頼みます」

 

「改めて、リヴァン・サーヴォレイドだ………神崎……蓮也?」

 

リヴァンは俺の名前に覚えがあるのか少し考え込む、それなりに有名人だと思ったんだがな。まあ興味がなかったら知らなくて当然かな?

 

「あああ!思い出した!時空管理局、異界対策課隊長にして聖王、神崎 蓮也!」

 

ツァリが思い出したようで叫ぶ。

 

「そうか……!確かあそこはエリート揃いの……」

 

リヴァンはそう言い俺のことを見てきた。

 

「…………リヴァン。俺は恥になる行いをしてきたつもりはない、だからシェルティスのような態度を取っても普通に接するつもりだ。恥ずべき行いをしてないから」

 

「!、いや済まない。君の事は噂でよく知っている、一科生のような態度を取らない事も」

 

「ならいいさ、よろしくな」

 

俺は手を差し出し、リヴァンと握手する。

 

「こちらこそ……出来れば俺も同行しても構わないか?それなりに剣とコイツの自信はあるんだ」

 

リヴァンは右手の手袋から琥珀色の線を出した。

 

「それは……鋼糸か?」

 

「ああ、扱いは難しいが慣れればなんてことない。それでいいか?」

 

「もちろん」

 

「よろしくお願いする」

 

「見たところ女子もいないし、先を急いだ方が良さそうだ」

 

こうして、リヴァンを加えて俺達はダンジョンをさらに奥へと進み始めた。迷宮のようなダンジョンを右へ左へと進んで行くと、やがて分かれ道に差し掛かった。どちらに行こうか決めあぐねていると、片方の通路からなのは達がが現れた。

 

「なのは」

 

「あ、レン君!」

 

バリアジャケット姿のなのは達は俺達を見つけると近くまで歩み寄った。

 

「あなたも少しは頭が冷えたようだね?」

 

「……おかげさまでね」

 

決まりが悪い表情になるリヴァンに、フェイトは柔らかく笑った。

 

「自己紹介がまだだったね、私は高町 なのは。そしてコッチがレイジングハート」

 

《よろしくお願いします》

 

「フェイト・テスタロッサです、コッチは相棒のバルディッシュ。どうかよろしく」

 

《よろしく》

 

「月村 すずかです、コッチが私のデバイス、スノーホワイト」

 

《よろしくお願いします》

 

「ユエ・タンドラ。よろしくお願いする」

 

「改めてリヴァン・サーヴォレイドだ。先程は済まなかった」

 

「ツァリ・リループです………ん?高町、テスタロッサ、月村?」

 

その流れのまま、なのは達は自己紹介を済ませる。ツァリはなのは達の名前を思い出しーー

 

「あ、レンヤと同じ管理局のエース達!」

 

「っ!」

 

やっぱりなのは達の事でリヴァンが反応したか。

 

「リヴァン」

 

「あ、ああ済まない。他意があるわけじゃない、気を悪くしたなら謝る」

 

「分かっているならこれ以上何も言わないけど、あまり自分の価値観で人を決めつけないで」

 

すずかの言葉を受けて、リヴァン強く出ることはなかった。

 

「えっと……それでこれからどうしようか?せっかく合流したんだし、このまま一緒に行く?」

 

「それはやめておこう、こんな狭い場所で大勢いたらむしろ危険だよ」

 

「なのはに賛成だ、なのは達の実力は噂でも知っているはずだ。このまま別々に行った方が効率がいい」

 

「………わかった、お互い出口を目指して行こう」

 

「それじゃあ皆、気をつけてね」

 

「そっちもな」

 

なのはは達は来た道の反対側の通路向かった。その背を見送ってから、ユエがつぶやく。

 

「やはり女子だけでは心配だな。誰か1人くらいついて行った方が良いのではないか?」

 

「気持ちはわかる、でも大丈夫だ。この程度のドローンしかいないのなら問題ない」

 

「レンヤは彼女達のことをよく知っているのだな?」

 

「レンヤと彼女達は地球出身なんだよ」

 

「そういうこと、俺達も行こう」

 

俺達も出口に向かって歩みを進める。

 

しばらく歩いていると……

 

「…………どこやーー…………」

 

「…………アリシーーア…………」

 

遠くから声が聞こえてきた。

 

「何だ?」

 

「前方に女子2名、残りの女子達かも」

 

「1人足りないぞ」

 

「あーごめん、だいたい予想できる」

 

俺は顔に手を当てて嘆息する。すぐに開けた場所に着くと……

 

「アリシアちゃーーん!どこーー!」

 

「さっさと出てきなさい!」

 

案の定、はやてとアリサしかいなかった。

 

「はやて、アリサ」

 

「あ!レンヤ君!」

 

2人を呼び掛けるとこちらに気が付いて近寄ってきた。

 

「レンヤ、ダメ元で聞いてみるけど……アリシアは見た?」

 

「アリサの予想通り、見ていない。ツァリの方はどうだ?」

 

「この近くにはいないよ、もっと奥に行ったのかも」

 

ツァリは端子を飛ばしながら答える。

 

「はあ、仕方ないわ」

 

アリサは気持ちを切り替え、こちらを見る。

 

「自己紹介がまだだったわね、アリサ・バニングスよ。そして相棒のフレイム・アイズ」

 

《よろしくお願いします》

 

「私は八神 はやてや、以後よろしゅう」

 

「ツァリ・リループだよ、よろしくね」

 

「ユエ・タンドラだ、よろしくお願いする」

 

「リヴァン・サーヴォレイド、先程は済まなかった」

 

「かまへんよ、ただあんまり独断専行は控えてほしいなぁ」

 

はやては気にしてないようだ。

 

「はやてさんは変わった喋り方をしているんだね」

 

「あはは、はやてでええよ。これは地球の方言の1つでなぁ、聞き取り難いとは思うけどかんにんなぁ」

 

「それで、だいたいアリシアがはしゃいで突っ走った、てところか」

 

「その通りよ」

 

予想通りとはいえ、もうちょっと自重してほしい。

 

「私達はアリシアを探しながら出口に向かうんよ、もし見つけたら引っ張って来てえなぁ」

 

「また後でね」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

アリサとはやては先に進んだ。

 

「あれが夜天の主、特別捜査官八神 はやて三佐なんだ。思ったより普通なんだね?」

 

「一応俺も三佐だし特別捜査官なんだけどな。それなりに有名人だと思っていたんだが……ユエはともかく、ツァリはなんで今まで気付かないんだ?」

 

「あはは、ここに来るまでの印象が大き過ぎてすっかり忘れてたよ」

 

「ふむ、レンヤと先程の女性達は管理局員なのか?」

 

ユエが確認するように質問する。

 

「かれこれ入局5年目、三佐になってもやる事は同じで人助け。本物の軍隊ならありえない光景だ」

 

「確かに、ありえないな」

 

リヴァンが同意するように頷く。

 

「まあ偉くても俺はまだまだ子どもだ、これぐらいがちょうどいいのかもしれない」

 

「ふふ、レンヤらしい答えですね」

 

「そうだね、それじゃあそろそろ行こうか?」

 

それから慣れてきた連携でドローンを退け、奥に進んでいった。

 

しばらくして、ツァリが……

 

「皆、階段を上った先に2名がドローンと戦闘中だよ」

 

奥の状況を感知したらしく、それからすぐに戦闘音が聞こえてきた。

 

「これは……」

 

「急ごう!」

 

「ああ!」

 

俺達は走って音源に向かい、少し開けた場所に着くと……

 

「やあああああっ!」

 

「せいっ!」

 

アリシアが右手の剣でドローンを斬り、左の銃で撃ち抜く。シェルティスが右順手、左逆手の双剣でドローンを斬り裂く。

 

「へえ、シェルティス中々やるな」

 

「見たところ助けはいらないようだ。それに独学ではないようだ、良い師に教えられたのだな」

 

「うん、それにフェイトさん似の女の子も凄いね。妹さんかな?」

 

残念、姉だ。まあ身長は同じ位になったけど言動が今だに子どもっぽいし。

 

「はあああっ!」

 

シェルティスが最後のドローンを二閃し破壊した。2人はデバイスをしまい息を整える。

 

「ーーそれで、何の用だ?」

 

「あ、レンヤーー!」

 

シェルティスのおかげで気付いたのか、アリシアがこちらに向き飛びついてきた。

 

「よっと、アリシアはともかくいい腕しているな」

 

飛び込んで来たアリシアの頭を鷲掴みにして、シェルティスに近寄り賞賛する。

 

「あだだだだだ!」

 

「神崎 蓮也。さっきは名乗る暇が無かったから自己紹介をしておくよ」

 

痛がるアリシアを放っておいて名乗る。

 

「どうも……ツァリ・リループです」

 

「ユエ・タンドラです。よろしく頼みます」

 

「シェルティス・フィルス。改めて名乗っておこう………それにしても」

 

シェルティスがリヴァンの方を向き、何か理解するように言う。

 

「何だ?」

 

「意外だな、あれだけ啖呵をきっておきながら連れて戻ってくるとは……大方、すぐに頭を冷やして詫びを入れたんだろう」

 

「……そんな挑発に乗るとでも?」

 

出会ってそうそう険悪な雰囲気になったな。その時アリシアが手から抜けた。

 

「こら!喧嘩はダメだよ!」

 

「フン……」

 

アリシアに止められ、シェルティスはそっぽを向く。

 

「コホン、私はアリシア・テスタロッサだよ。デバイスの名前はフォーチュン・ドロップ。よろしくね」

 

《よろしく》

 

「よろしく頼む」

 

「うん、それでアリシアさんはフェイトさんの妹さんなの?」

 

「ちっがう!私がフェイトのお姉ちゃんなの!」

 

「え……」

 

意外だったのか、リヴァンも含め全員が唖然とする。

 

「付き合いきれん」

 

シェルティスが先に行こうとする。

 

「あ、待ちなさい!レンヤ、また後でね!」

 

アリシアはシェルティスが心配なのか、ついて行った。

 

「少し位妥協してもいいんじゃないか?俺が知っている人はシェルティスより酷いのを見たことあるぞ」

 

「わかっているさ、だが割り切ることは出来ない」

 

「リヴァン……」

 

「すまないが、今はここを出ることを優先しよう」

 

「あ、ああ……すまない、行こうか」

 

一旦この話しは終わりにし、それから入り組んだダンジョンをツァリの道案内で迷わず進むと一段と開けた場所にでて奥に地上に続く階段と扉だあった。

 

「……どうやらここが地上に通じる終点らしい」

 

「ああ、陽も差し込んでいるし、間違いないだろう」

 

「やれやれだ、突然落とされたと思ったら拍子抜けするほど楽だったしな」

 

「そっそうかな〜。結構大変だったと思うけど………でもVII組か。一体どんなクラス何だろうね?」

 

ツァリが最もな質問をする。

 

「そうだな……」

 

(クラスの半分以上、俺の知り合いで管理局員だし………何か意図があるのか……?)

 

クラス設立の理由を考えてみる、はっきり言って裏で何か動いているに違いないが……

 

ピシッ……ビシビシッ……

 

「「「「?」」」」

 

不意に何かがうごめくような音が聞こえてきた。

 

「なんだ……?」

 

「メキョ!」

 

ポケットの中で寝ていたソエルが起きて、飛び出てきた。

 

「レンヤ!グリードの気配だよ!」

 

「何⁉︎」

 

「!、あれだ……!」

 

ユエの見る方向を見ると、獣の石像があり。徐々に色付き始め動き出した。

 

「あれは……!」

 

「な、なにあれっ⁉︎」

 

「これがグリードか……!」

 

グアアアアアア!

 

獣は飛び降りて来て行く道を塞いだ。

 

「うわわわっ……⁉︎」

 

「エルダーグリード……イグルートガルム!」

 

「……ミッドチルダにはこんな化物が普通にいるのか?」

 

「世界の裏側に、ね……」

 

俺達は武器を抜き、構える。

 

「ーーいずれにせよ、こいつを排除しないと地上に戻れない……皆、何とか撃破するぞ!」

 

「承知!」

 

「相手に不足はない……!」

 

「が、頑張らなくちゃ!」

 

グアアアアアア!

 

イグルートガルムの咆哮を合図に戦闘が始まった、ツァリの薄紫色の端子がイグルートガルムの周りに浮かび、イグルートガルムはそのまま尻尾を薙いでくる。

 

「はあっ!」

 

俺が抜刀と跳躍を同時に行い、尻尾を上から受け流し地面にぶつける。

 

「本来ならこの程度俺1人で充分なんだけど、AMFの影響で厳しい。皆も気をつけろよ!」

 

「言われなくとも!」

 

ユエが茜色の魔力を腕に纏い、イグルートガルムを顔面を殴る。

 

「効かないか……」

 

「皆!側面を狙って、そこが1番柔らかい!」

 

「分かった!」

 

ツァリの言葉を聞き、リヴァンが左から剣で斬り裂いた。

 

だがイグルートガルムは首を曲げてリヴァンに噛みつこうとする。

 

「おっと……」

 

当たる瞬間に鋼糸で飛び退き、口を鋼糸で縛り付ける。

 

「リヴァン!鋼糸を借りるぞ!」

 

「何⁉︎」

 

ユエだ了承を聞かないまま、一本の鋼糸の前に立ち……

 

「外力系衝剄・化錬変化……蛇流!」

 

拳を鋼糸にぶつけて、鋼糸を伝わり魔力……茜色の剄と衝撃がイグルートガルムに直接ぶつかり角を砕く。

 

「さすがだな、ルーフェンの剄。魔力の密度が半端じゃない」

 

「それは後でいい、それに様子が変だぞ」

 

するとイグルートガルムが更に色付き、翼を羽ばたかせ浮き上がる。

 

「うわあああっ⁉︎」

 

「ツァリ!」

 

イグルートは素早く接近してツァリに向かって前脚の爪で斬りかかってきた。

 

「させるかってえの!」

 

それをリヴァンが腕を鋼糸で巻きつけてとめる。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

鞘に備えつけられたギアが回転し始め、魔力が上がった勢いで吹き飛ばしツァリから離れさせる。

 

「大丈夫か?」

 

「うっうん……あっ見て!」

 

ツァリ言われてみると、イグルートガルムは翼を大きく羽ばたかせこちらに向かって突風を起こす。

 

「しまった……!」

 

「させないよ!」

 

正面に端子が現れ、端子を起点に障壁が展開された。

 

「ううっいつもより保たない……」

 

「充分だ!」

 

鋼糸がツァリを掴みリヴァンの元に引っ張り、俺は突風の直撃コースから外れ……一瞬遅れて障壁が破壊された。

 

「ユエ!」

 

峰をユエに向けてからイグルートガルムを見て、ユエは意図に気づき頷く。

 

「いっけええっ!」

 

峰にユエが乗った瞬間、振り上げイグルートガルムの上に飛ばす。

 

「ふうっ!」

 

拳に魔力を纏わせ、直撃の瞬間衝剄として放つ。上からの強烈な一撃にイグルートガルムは地面に落ちる。

 

「よし、これで……!」

 

リヴァンそう言うが、俺はまだグリードの気配が残っていたのに気づく。

 

「いや、まだだ……!」

 

イグルートガルムは傷を物ともせずに起き上がる。

 

「うわあああっ⁉︎」

 

「回復したのか……⁉︎」

 

「面倒なことを……」

 

「仕方ない……ここは神衣でーー」

 

状況を打破する為に、ソエルから神器を取り出そうとすると……

 

「ーー下がって!」

 

桜色の魔力弾が後ろから発射されて、イグルートガルムを足止めする。

 

「えいっ!」

 

「やあっ!」

 

イグルートガルムの左右からすずかとフェイトが接近して両腕を斬り裂く。

 

グアアアアアア!

 

攻撃に耐え兼ね暴れ始めるが……

 

「やらせへんで!」

 

「静かにしなさい!」

 

血色のダガーが顔面に直撃して、怯んだ所をアリサが上から剣で叩きつける。

 

「きっ君達は……!」

 

「追いついたか……!」

 

「皆!無事だね!」

 

「遅れてごめんね……!」

 

シェルティスとアリシアを抜いた全員がここに到着したようだ。

 

「いや、助かった……!」

 

「しっかし、えらいタイミングに来てもうたなぁ」

 

「しかもグリードがいるなんてね、しかも硬いときた」

 

「ああ、しかもダメージを与えても再生される」

 

「俺達がAMFで弱体化しているとはいえ、この人数なら勝機さえ掴めればーー」

 

イグルートガルムを倒す為に策を考えていると……

 

「うわっ!何これ⁉︎」

 

後ろからアリシアとシェルティスが現れた。

 

「間に合ったのかな?」

 

「お前は……」

 

シェルティスが両方の双剣を逆手に持ち、振りかぶり……

 

「でやっ!」

 

イグルートガルムに向かって思いっきり投げた。両翼に当たり剣は宙に浮きシェルティスの元に戻る。

 

「ほっ……」

 

その隙にアリシアが双剣を抜き、イグルートガルムを飛び越えて両後脚を斬り裂く。

 

その攻撃に耐えられずイグルートガルムは体勢を崩した。

 

「勝機だ……!」

 

「ああ!」

 

「順番は僕に任せて!」

 

一斉に武器を構えて全員の横にツァリの端子が浮き、同士討ちや攻撃が重ならないようにする。

 

「今だ!」

 

俺が合図を出し一斉に攻撃を開始する。ツァリの指示で綺麗に連携が繋がり、再生する隙を与えないようにイグルートガルムにダメージを与えていく。

 

「アリサ!」

 

「任せて!」

 

《ロードカートリッジ》

 

トリガーを引きカートリッジをロードして、大剣を構えて、大剣と身体に魔力を込める。

 

「はあああああっ!」

 

渾身の一撃が硬い皮膚を貫通して、その頭を首から断ち切った。

 

頭を失ったイグルートガルムの胴体は力無く崩れ落ち、光を放ちながら塵へと消えた。

 

「あ……」

 

「やっやった……!」

 

「よかった……」

 

脅威が去った事により安心する、デバイスとバリアジャケットを解除して一旦集まる。

 

「AMFがある状況でよくここまでやれたな」

 

「もう、へとへとだよ……」

 

「それにしても、何でグリードがこんな場所に……」

 

「ーーあれは、以前から存在してたものだ」

 

すずかの言葉に続けるように、頭上から声が聞こえてきた。旧校舎一階に続く階段、その途中の踊り場に満足そうな笑顔を浮かべたテオがいた。

 

「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利。うんうん、感動した」

 

そう言って階段を降り、呆気に取られている俺達の前に立つ。

 

さて、とテオは口火を切って……

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは終了なんだけど……なんだ君達。もっと喜んでもいいんじゃないか?」

 

「よ、喜べるわけないでしょう!」

 

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが……」

 

「……あら?」

 

予想外の反応だったのかそれとも予想していた上での反応か、テオは目を点にして首を傾げた。

 

「……単刀直入に問おう。第三科生、Ⅶ組……一体何を目的としているんだ?」

 

シェルティスの問いに全員がテオに目を向ける。成績や魔力量に関係なく集められたというのは分かったが、結局のところ、なぜ自分たちが選ばれたのかを教えてもらっていない。

 

「そうだな〜」

 

テオは呟いて、俺達が集められた理由を語った。

 

「お前達がⅦ組に選ばれた理由は色々あるんだけど、一番判りやすい理由は戦い方……デバイスにある」

 

「デバイス……?」

 

「もしかして……種類や形や戦法がバラバラだから集められたんですか⁉︎」

 

「もちろんその他もろもろの理由もあるが……大まかに言えば異界に対しての配慮だ」

 

異界のことを聞き驚く。

 

「今だ人員が増えない異界対策課、その理由はグリードに対して臨機応変な対応ができない事にある。そして異界の性質上大部隊での対処は難しく、必然的に少数精鋭になる。そして異界に必要なのは魔力ではなく実力だ、その人員の育成の為にお前達が集められた」

 

それが、魔力量関係なく俺達がⅦ組に選ばれた理由だとテオは語った。

 

「レルム魔導学院は、その適任者としてお前達11名を見出した。だが、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃない。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるだろう。それを覚悟してもらった上でⅦ組に参加するかどうか……改めて聞かせてもらおうか?」

 

長い説明が終了し、真面目な表情に変わったテオの問い掛けに俺達はお互いの顔を見合わせた。

 

「あっそうそう、辞退するなら本来所属するクラスに入ってもらうぞ。その時にクラスわけも提示するからな、今なら初日だしそのままクラスに溶け込めると思うぞ?」

 

時間にして1分ほど。冷たい風音が地下に響き渡り、ダンジョンを抜けて頬を撫でる。

 

て言うか、人員の育成の為って言うけどすでに異界と戦っている俺達がいる意味あるのか?まあ、ハードなカリキュラムなら望む所だし……

 

「神崎 蓮也。参加させてもらいます」

 

VII組参加を名乗り出た。

 

「一番乗りは聖王か……まあ当然ちゃあ当然か、それに何か事情があるみたいだな?」

 

「いえ……我侭を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであれば、どんなクラスでも構いません」

 

「なら私も参加します!」

 

「私も、1から異界のことを勉強したいし」

 

「当然、私も参加するんよ」

 

「私も参加します、教わる立場からしか見えない事もありますから」

 

「異界より私はカリキュラムの方に興味があるわ。アリサ・バニングス、参加するわ」

 

「はいはーい!皆が参加するなら私も参加しまーす」

 

俺が参加表明したらなのは達も次々と名乗り出た。

 

「管理局組は全員参加っと、残りはどうする?」

 

「ふむ、ならばユエ・タンドラ、参加する。異郷の地に訪れた以上、やり甲斐のある道を選びたい」

 

「それなら僕も、役に立てるかわからないけど……」

 

「レーフェンからの留学生と天才念威操者も参加っと、これで9名だが……」

 

テオ教官はリヴァンとシェルティスを見る。

 

「お前達はどうする?」

 

2人は質問に答えず黙っている。

 

「まあ、色々あるんだろうけど深く考えなくてもいいんじゃないか?」

 

「………………………」

 

リヴァンは黙ったままで、その時シェルティスが一歩前に出た。

 

「シェルティス・フィルス。VII組に参加する」

 

意外な発言に全員が驚いた。

 

「何故だ?お前のようなヤツが、こんな事に乗るとは」

 

「勝手に決め付けるな、それに……このクラスなら媚び諂う連中もいないしな。だがここでお前と別れるのもいいな、ここはお互いの為に参加しないのも手だぞ」

 

「フン、誰がそんな指図を受けるか。リヴァン・サーヴォレイド、VII組に参加する。魔力量が全てではない事を証明してみせる!」

 

「ほう……」

 

挑発的なシェルティスの態度に、半ば喧嘩腰で参加の意思を示し、2人は対抗するように睨み合う。

 

「これで11名。全員参加ってことだ!……それでは、この場をもって第三科生・Ⅶ組の発足を宣言する。この1年ビシバシしごいてやるから、楽しみにしてろよ!」

 

こうして、桜似の花が咲き誇る3月31日。レルム魔導学院にて第三科生・Ⅶ組が発足した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段上、旧校舎の出口手前に、同じ赤い制服を着た異色の顔ぶれを眺める2つの影があった。

 

「これも巡り合わせというものでしょう」

 

「ほう・・・?」

 

「ひょっとしたら、彼らこそが光となるかもしれません。動乱の足音が聞こえるミッドチルダにおいて障害を乗り越えられる唯一の光にーー」

 

ヴェント学院長と共に生徒たちを見下ろし、レジアス中将はそう告げる。まだ何色にも染まっていない彼らがこれからどう成長していくのか。

 



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63話

 

 

レルム魔導学院に入学してから、早くも2週間近くが経過した。

 

ルキュウの町は今やすっかり春爛漫。燦々と太陽が輝き、暖かな春風が爽やかに頬を撫でる。

 

「えーっと、今日の授業の教科書は……よし、大丈夫だな」

 

「もう行くの?」

 

「ああ」

 

その町並みから外れた場所にある年季の入った建物ーー第3学生寮の自室にて、俺は登校の準備を整えていた。今日は一応土曜だが、レルム魔導学院は月1回、日曜しか休みがない。

 

「それにしても、さすがはミッドチルダ屈指の名門魔導学校。望んだとはいえ魔法教練だけじゃなく勉学のレベルまで高いと来た」

 

「でもようやく慣れたんでしょう?」

 

「俺らも最近書類整理ばっかりだぜ」

 

歴史と国語に違いがあるが、ほとんど同じようなもので最悪な事にはなっていないが。どちらかと言えば身体を動かす方が得意なのでレルムの授業はなかなかレベルが高くて苦労する。

 

「ま、最悪落第にならない程度にできれば良いし、そんな悩むほどでもないか………」

 

「ダメ人間発言だ」

 

「ま、ほどほどにな。俺達は先に行くな」

 

ラーグとソエルとアギトはいつもここから異界対策課に行っている。2モコナが出て行ってから荷物を確認して、室内に備え付けてあった写し鏡の前に立って身嗜みをもう1度確認する。入学してからしばらく経ったが、文化の違いというものはなかなか慣れない。ここに来ることと住むことはまるで別物だ。

 

「よし……」

 

身嗜みも確認した。鞄を持って部屋を出ようと扉に向かう。その際、鏡の隣に据え付けてある棚の前で俺は立ち止まった。

 

「………………」

 

視線の先には、その棚に置いてある3つの写真立てーーその中の1枚の写真を見る。

 

1つは俺が翠屋に暮らし始めた時に撮った家族写真、もう1つはこの前の卒業式に撮った皆の集合写真、そして最後の1つは優しい顔をした金髪の女性と黒髪の男性、その女性の腕には身体をリボンで巻かれた赤ん坊。

 

この写真はウイントさんから貰った物で、俺と俺の両親の写真だ。その写真を見つめ、静かに棚に置く。

 

「ーー行ってきます」

 

俺は静かに部屋を出た。

 

「あ、レンヤ!」

 

部屋を出てすぐにツァリが近寄ってきた。

 

「おはよう、ツァリ」

 

「おはよう〜」

 

「えへへ、おはよう。学院に行くんでしょう?せっかくだから一緒に行かない?」

 

「もちろん。もう時間もないし早く行こうか」

 

「うん、皆はもう行っちゃったようだし……僕達も行こう」

 

さすがはツァリ、端子も使わずともそれ位わかるようだ。

 

階段を下りると入り口になのはとすずかがいた。

 

「おはようなのは、すずか」

 

「あっレン君おはよう!ツァリ君もおはよう!」

 

「おはようレンヤ君、ツァリ君」

 

「おはよう。なのは、委員長。2人共これから登校?」

 

「うん、私達は先に行くね」

 

「ああ、分かった」

 

「それじゃあ、教室で」

 

なのはとすずかは寮を出て行った。

 

「はは、相変わらず仲がいいんだね?ちょっと羨ましいかも」

 

「いつもの光景だから、あんまりよくわからないけどな、俺達も行こう」

 

第3学生寮の扉を開けて外に出る。その瞬間、燦々と輝く陽光が視界を覆い、2人は反射的に目を細めた。寮を出て真っ直ぐ駅の方向に向かっていくと商店街に出る。そこでは登校中の学生や町の人達で既に賑わっており、開店準備の為に品出しをしたり、店先の掃除をする人たちもいた。

 

「でもこの2週間……ホント、あっという間だったね。覚悟してたのは魔法訓練くらいだったけど………まさか普通に授業のレベルがあんなに高いとは思わなかったよ。それに加えて武術訓練まであるなんて……」

 

「まあ、文武両道がこの学院の基本だからな。武術では訓練も異界ならではだし、予復習をちゃんとしないと付いて行けなくなるかもしれない」

 

「その割にはレンヤは余裕がある気がするし……管理局の事もあって大変だよね」

 

「これも慣れかな、前までは魔法を隠す分さらに大変だったからな」

 

授業内容や訓練の話しをしながら学院に向かう。

 

「すごいなぁ、他の女子達も……特に委員長とアリサが羨ましいよ。どっちも凄く頭がいいみたいだし。入学試験じゃ、委員長がトップでその次がアリサでその次がレンヤだったんでしょ?」

 

「昔からスパルタでマンツーマンで教えて貰ってたからな、それぐらい行かなきゃ失礼と言うものだ」

 

「それにユエにシェルティスにリヴァンまで成績いいし……なんだか疎外感を感じるよ」

 

「別に俺達と比べる必要はない、ツァリはツァリのペースで歩いていけばいい。俺も手伝うから」

 

「うん、ありがとうレンヤ…………」

 

礼を言うとツァリの顔色が少し暗くなる。

 

「ツァリ?」

 

「え、あっ大丈夫だよ。ちょっと2人の事で考えていて……」

 

「2人?……ああ、そうか」

 

リヴァンとシェルティスの事だ。

 

「あれからますます仲が悪くなっているし……あの2人が一緒にいるだけで空気が緊張するんだよね」

 

「ああ、シェルティスは無用な挑発するし。リヴァンも軽く流している割には食いかかっているからな。そう簡単には打ち解けられないだろう」

 

「うーん。何とかできればいいんだけど……」

 

話しながら歩いていると十字路に差し掛かり、正面に学院、右側に第2学生寮、左側に第1学生寮がある。

 

「2科生の生徒が住んでいる第2学生寮か……レンヤはともかく、僕は本来だったらあそこに入ってたんだよね?」

 

「ああ、そうかもな。しかし、まさかVII組が寮まで別とは思わなかった。俺達が入るに合わせて古い空家を改装したみたいだしな」

 

「まあ、意外に綺麗だし、雰囲気も悪くないけど……学院までちょっと歩くのは善し悪しってところだね」

 

寮と学院の位置関係を話していると……

 

「ーー邪魔だ、どくがいい」

 

横から高慢そうな声が聞こえてきた。

 

振り返ってみると第1学生寮から白い制服をきた男子3名がいた。

 

「フン……VII組の連中か」

 

………何だか名もなき小物と似たようなヤツだな、幾分マシだと思うけど。

 

後ろに2人より前に出ている男子は俺達を見定めるように見る。

 

「えっと……?」

 

「フッ……しょせんは寄せ集めの連中か。行くぞ、皆」

 

「はい、ランディさん!」

 

「まあ、せいぜい分を弁えるんだな」

 

言いたい事を言って、3人は学院に向かった。

 

「はあ……1科生の人達か。やっぱり緊張するなぁ」

 

「大抵、魔力量に胡座をかいている奴ばかりだからな。あんなのが何人かはいるさ、俺もつくづく1科生じゃなくて良かったと思っているし……」

 

そこで一旦言葉を区切るって、3人を見る。

 

「レンヤ?」

 

「いや、知っているかはわからないけど……俺が聖王と知っているなら、あんな事は言えないと思ってな」

 

「あ、確かに」

 

そう言ってツァリの視線は第1学生寮に向く。

 

「そっちの建物は1科生生徒の第1学生寮か……噂だと凄く豪華らしいよ」

 

「へえ、そうなのか」

 

キーンコーンカーンコーーン、キーンコーンカーンコーーン……

 

ちょうど予鈴が鳴ってしまった。

 

「予鈴か、急ぐか」

 

「うん、そうだね」

 

足を進めて学院に向かって歩く。

 

「あ、そうそう。クラブってもう決めた?別に所属しなくてもいいみたいだけど」

 

「正直、決めかねているんだよな……管理局の仕事もあるし。まあ、ゆっくり決めるさ」

 

少し歩く速度を速めて学院に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーーン、キーンコーンカーンコーーン……

 

今日の終わりを告げる鐘が鳴り響く。

 

すぐにテオ教官がHRを始めて……

 

「ーーお疲れ様。今日の授業も一通り終わりだな。前にも伝えたと思うけど明日は自由行動日になる。厳密に言うと休日じゃないが授業はないし、何をするにしても生徒達の自由だ。すぐそこのテーマパークや中心部に行って遊んでいいぞ」

 

何で遊びが先に出てくるんだ。他に教師らしい事を言えよ。

 

「えっと、学院の各施設などは開放されるのでしょうか?」

 

「図書館が使えればありがたいんやけど……」

 

「その辺りは一通り使えるから安心しろ。それとクラブ活動も自由行動日にやっている事が多いから、そっちの方で聞いてみるといい」

 

その言葉にすずかとはやては嬉しそうな顔をする。

 

「なるほど……」

 

「確認しておきましょうか」

 

ユエとアリサはクラブに興味があるのか。

 

「それと来週なんだけど。水曜に実技テストがあるから」

 

「実技テスト……」

 

「それは一体どういう……?」

 

フェイトが疑問に思っているようだ。

 

「ま、ちょっとした戦闘訓練の一環だ。一応、評価対象のテストだから体調には気をつけろよ。なまらない程度に身体を鍛えておくのもいいぞ」

 

「面白い」

 

「ううっ……嫌な予感がするよ」

 

「望むところだ」

 

実技テストは各自色々な印象のようだ。

 

「そしてーーその実技テストの後なんだけど。改めてVII組ならではの重要なカリキュラムを説明する」

 

「それって……」

 

「異界関連の……」

 

遂に来たか、アリシアの言う通り異界絡みなのは分かっているが……何だかいつもやっている事をやらされそうな気がする。

 

「ま、そういう意味でも明日の自由行動日は有意義に過ごすことをお勧めする。HRは以上。副委員長、挨拶を」

 

「はい。起立ーー礼」

 

リヴァンが号令を言い、HRは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レンヤは明日どうするの?」

 

テオ教官が教室を出て行った後、いつものメンバーとツァリにユエで集まって明日の予定を聞く。

 

「異界対策課に行って依頼を解消する予定だ、ここ最近ラーグとソエルとルーテシアとアギトとかに任せっぱなしだからな」

 

「書類作成や依頼の報告書も作らないといけないからね」

 

「なのは達もだいたい似たようなものでしょう?」

 

「うん、私は教導のお仕事が入っているよ」

 

「私はクロノに呼ばれているから、次元艦に行くよ」

 

「私はクイントさんとメガーヌさんと協力して捜査任務や」

 

「ツァリとユエはどうするの?クラブに入いるつもり?」

 

アリシアが2人の予定を聞いた。

 

「僕は吹奏楽部に入るつもりだよ、前からバイオリンは趣味で弾いてたから」

 

「私は美術部に入る、武術以外にも打ち込んでみたいからな」

 

「皆は管理局で忙しいのは分かっているけど、クラブに入るつもりなの?」

 

クラブは基本的に自由だから気軽に入れたな。

 

「ああ、俺は釣り部だ」

 

「私は料理部に入ったんだよ」

 

「私は園芸部に入る予定だよ」

 

「私は文芸部や」

 

「あたしはラクロス部に入るわ」

 

「私は技術部に」

 

「私は水泳部〜」

 

クラブに入るつもりだが、いくら忙しくとも幽霊部員になるつもりはない。

 

その時教室の扉が開いて、テオ教官が入って来た。

 

「おーお前らいたか」

 

「テオ教官」

 

「何か忘れ物ですか?」

 

「いやお前達に頼みごとがあってな、誰でもいいから学生会館にある生徒会室に行ってくれないか?そこで必要なものを取ってきて欲しいんだ」

 

「それはいいんですけど……」

 

「教官自身で行かれないんですか?」

 

「俺はほら、面……忙しいからな」

 

今普通に本音が出たな、教官として大丈夫なのか?

 

「教官……」

 

「あーーそうだ!名簿忘れてたんだ〜」

 

わざとらしく誤魔化し、教卓から名簿を取って教室から逃げた。

 

「大丈夫なのかな?」

 

「いい人なんだけど、教師としては……どうかなぁ?」

 

「それで誰が行くんや?」

 

ツァリとフェイトがテオ教官の評価を改めて、はやてが本題を話す。

 

「俺が行くよ、この後暇だし」

 

「えっいいの?」

 

「ああ、皆はこの後クラブだろ?」

 

「なら私も一緒に行くよ、今日はクラブもないし」

 

「ありがとう、フェイト」

 

その後解散となり、俺とフェイトは学生会館前に来た。

 

「生徒会室はどこだっけ?」

 

「そう言えばまだ1回も来てなかったな、とりあえず入ってから探すか」

 

「うん」

 

「よっ後輩達」

 

学生会館に入ろうとした時、後ろから声をかけられて振り返ると灰色の髪と緑の制服を着た2年生らしい男性がいた。

 

「えっと……?」

 

「お勤めごくろ〜さん、入学して半月になるが調子の方はどうよ?」

 

やっぱり先輩らしい。

 

「あっ正直、大変ですが何とかやっている状況です」

 

「授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうな気もしますが」

 

俺とフェイトは学院生活の状況を素直に答えた。

 

「はは、分かってんじゃん。特にお前さん達は色々山盛りだからなー。ま、せいぜい肩の力を抜くんだな」

 

アドバイスなのか同情なのか分からんな。

 

「はあ……えっと、先輩ですよね。名前を聞いてもいいですか?」

 

「まあまあ、そう焦るなって」

 

フェイトが遠慮がちに言うが、軽く流された。

 

「まずはお近づきの印に面白い手品を見せてやるよ」

 

「手品?」

 

「んー、そうだな。ちょいと50コインを貸してくれなえか?」

 

「はっはい」

 

俺は財布から50コインを取り出して渡した。

 

「おっサンキュー」

 

先輩は荷物を置いて、コインを親指の上に置く。

 

「そんじゃーーよーく見とけよ」

 

「えっ……」

 

コインを上に弾いて……

 

「ーーさて問題」

 

素早く手を交差して、両手を前に出した。

 

「右手と左手、どっちにコインがある?」

 

「みっ見えなかった……」

 

フェイトも分からないくらい早く、俺も見えなかった。

 

「それじゃあ……右手で」

 

「あ!私は左手で」

 

これでどちらかが成功するんだが。

 

「残念、両方ともハズレだ」

 

両手を開いたが、コインは無かった。

 

「え」

 

「一体どこに……」

 

「フフン、まあその調子で精進しろってことだ。せいぜいテオのしごきにも踏ん張って耐えるんだな。まあ、お前らなら平気か。生徒会室なら2階の奥だぜ、そんじゃあな〜」

 

先輩は荷物を持ち、生徒会室の場所を教えてから正門に向かった。

 

「…………………」

 

「……あっレンヤ、50コイン」

 

「あ」

 

手品に呆気にとられ、50コインをパクられた。

 

「完全に一本取られたな、それに俺達が生徒会室に行くのも知ってたみたいだし」

 

「どうやら2年生も結構ただ者じゃないね、場所も教えてもらったし行こう」

 

「ああ、2階の奥だったな」

 

学生会館の入り2階奥の生徒会室前まで来る。

 

「ここだね」

 

「入るぞ」

 

扉をノックして……

 

『はーい。開いていますからそのままどうぞー』

 

(あれ?この声は……)

 

「はい、失礼します」

 

「失礼します」

 

扉を開けて中に入ると、入学式の時に会った薄緑髪の女性がいた。

 

「あなたは……入学式の」

 

「2週間ぶりだね。生徒会室にようこそ、神崎 蓮也君、フェイト・テスタロッサさん。テオ教官の用事で来たんでしょう?」

 

「はい、ここで取ってきて欲しい物があるとのことで」

 

「それに生徒会の方だったんですね」

 

入学式の時につけていた青い腕章を左腕に付けていたから、予想はしていたが。

 

「えっと、3年の方ですよね?」

 

「あはは、そんなにかしこまらなくてもいいよ。この学院の生徒会長の2年、フィアット・デイライトです。改めてよろしくね、レンヤ君、フェイトさん」

 

女性……フィアット会長が自己紹介をするが。今気になることは……

 

「せっ生徒会長っ⁉︎」

 

「嘘っ⁉︎」

 

見た目ほんわかな人だから全然見えない。

 

「うん、そうだけど?ああ、2年生だから驚いたのか」

 

((違います))

 

心の中で否定しておく。

 

「これから、君達新入生に関わることも多いと思うんだ。困っていることや相談したいことがあったらぜひ生徒会まで来てね?全力でサポートさせてもらうから」

 

生徒会長としてなのだろうか、それともフィアット会長の人柄なのだろうか気軽に言ってくる。

 

「はい、ありがとうございます」

 

「機会があったら、ぜひ相談させてもらいます。それでテオ教官の用事ですが」

 

お礼を言い、フェイトが生徒会室に来た本題に言う。

 

「あ、これのことね……はい、どうぞ」

 

フィアット先輩は机に置いてあった、何冊かの手帳を渡した。

 

「こっちが男子ので、こっちが女子の。1番上のが2人のだよ」

 

「これは……学生手帳。そういえばまだ貰っていませんでしたね」

 

「ごめんね、君達VII組はちょっとカリキュラムが他のクラスと違っていて……デバイスも一般的に杖型じゃないし別の発注になったの」

 

「それは………ごめんなさい」

 

罪悪感が出たのか、フェイトが謝る。

 

「ううん、気にしないで。時間はかかったけど、ただ少し記述を変えただけだから」

 

「そうだったんですか……って、もしかしてそういった編集まで会長が?」

 

「うん、テオ教官に頼まれて。ごめんねー?こんなに遅れちゃって」

 

「いえ、大丈夫です!むしろ申し訳ないと言うか……そもそもそれって生徒会の仕事なんですか?」

 

「明らかに教官が手配するべき仕事ですよね?」

 

管理局の仕事をしていると、そういうこともよく分かる。

 

「うーん、テオ教官はいっつも忙しそうだし……他の教官の仕事を手伝うことも多いから、今さらって感じかな?」

 

((いい人だ……途方もなく))

 

あまりの優しさに感服する。

 

「えっと、それで他の手帳をVII組の皆に渡しておけばいいんですよね?」

 

「うん、よろしくお願いね。それと私からもお願いしてもいいかな?」

 

「?、はい。私達にできることなら」

 

フィアット会長がいきなり頼みごとを言ってきた。なんだろう?

 

「私達生徒会は学院の依頼はもちろんのこと、ルキュウの人達の依頼を受けているの。でもいくらルキュウが小さいとはいえ生徒会だけでは処理しきれない仕事があるの。それをできればVII組に助けてもらいたいの、テオ教官にも生徒会の仕事を回してあげってて頼まれたし」

 

「「………………………」」

 

何にも聞いてもいないし、むしろ逃げたし。

 

「えっと……ダメかな?」

 

うっ、なのは達と違った上目遣いのお願い……大抵これをされると断れ難くなる。

 

「いえ、大丈夫です。こちらの都合もありますから、時間が空いた時だけで」

 

「私も手伝います!」

 

「ありがとう!でも安心して、大変な仕事は回さないから。都合のいい時に気軽に連絡してね、たまーにこっちからも連絡する時もあるから」

 

「はは、大丈夫ですよ大変な仕事を回しても。異界対策課でもっと大変な仕事をやっていますから」

 

「はい、執務官の仕事と比べると楽な気もします」

 

「あはは、そう言ってもらえると助かるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからフィアット会長が学食で夕食を奢ってもらうことになり、断ったが強引な優しい圧力に負けてしまった。

 

はやてにも連絡を入れてから夕食を奢ってもらい、食べ終わる頃には日も暮れてしまい、フィアット会長はまだ生徒会の仕事が残っているため生徒会室に戻ってしまった。

 

「ふう、はやてには悪いことしちゃったかな?」

 

「そうだな、けどあれを断るのも酷なもんだ」

 

本当に優しい人だよ、フィアット・デイライト生徒会長は。

 

その時、レゾナンスアークに通信が入る。

 

《テオ・ネストリウス・オーヴァからです》

 

「……………開いてくれ」

 

ディスプレイが展開されると、音声のみの通信が入る。

 

『よう聖王さん、どうやら会長に夕食を奢ってもらったようだな?』

 

まるで悪いと思っていない口調だ。

 

「……その聖王をよく騙しましたね。マジもんの王様だったら即打ち首ですよ?」

 

「打ち首……」

 

『おお怖い怖い。真面目な話し、実習内容はお前のご想像通りだと思うぞ』

 

やっぱり、そうか……

 

「つまり俺達異界対策課が………」

 

『おっと、そこまでだ。もちろんそうだがそれ以上の案がないしな、管理局の協力の元決定した。そしてその行動は広範囲に影響する』

 

「広範囲……ですか?」

 

『そっ対立する1科生と2科生、お前達留学生までいるこの状況を変えるために、な。お前もその為にここに来たんだろ?』

 

「それは……」

 

その時、勢いよく飲み物を飲み音が聞こえ、テオ教官が大きく息を履く。

 

「って、何を飲んでいるのですか⁉︎」

 

『何って、酒だよ酒。大人の唯一の楽しみだ』

 

本当に何でこの人教官なの⁉︎

 

『お前もそのうち飲むようになるさ、その前に女の1人や2人くらいとっとけよ。選び放題のよりどりみどりなんだからさ』

 

「2人ってなんですか2人って、それってベルカの重婚ですか?」

 

前にソフィーさんから聞いたことがある、もしかしたら俺がそうなるかもしれないとも。

 

「何を馬鹿なことを」

 

『そうか、前にリヴァンから聞いたが内のクラスの女子には希望が無いって言っていたぞ』

 

「本当に何の話しですか?」

 

『まあいいさ、俺も協力するから頑張れよ。それと寮の門限までにはちゃんと戻れ』

 

そう言い残して通信が切れた。

 

「はあ、全く何だったんだ?」

 

「さっさあ〜?」

 

心なしかフェイトの顔が赤いな。

 

それから寮に帰り、フェイトと別れてから俺は男子の学生手帳を配った後部屋に戻って休んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、自由行動日ーー

 

もう寮にはダメ教官しかいなく。

 

俺達、異界対策課は地上本部に課室に向かおうとした時……

 

「レンヤ、あんたは後で来ていいわよ」

 

「え……?」

 

いきなりアリサからそう言われた。

 

「あ、もしかしてフェイトからフィアット会長の依頼を聞いたのか?」

 

「うん、会長さんも大変そうみたいだから。レンヤ君はここの依頼を終わらせてから来てくれる?」

 

「最近楽だし、私達だけでも大丈夫だから。どうせ内容もいつもと同じようなものでしょう?」

 

まあ、町からの依頼と言われればそうなんだろうけど。

 

「わかった、こっちが終わったらすぐにそっちに行くよ」

 

「その頃には全部終わらせておくわよ」

 

「それじゃあ、また後でね」

 

アリサ達は駅に向かった。

 

「さて……」

 

俺は昨日交換したデバイスの番号を入力した、コール2ですぐに繋がった。

 

『レンヤ君?今日は大丈夫なの?』

 

「はい、他の皆に任されてしまって」

 

『あ、悪いことしちゃったかな?』

 

「大丈夫です、皆の了承もありますから。それで依頼を受け取りたいのですが」

 

『分かったよ、今まとめて送るから』

 

ディスプレイの右上にメールマークが出現して、開いてみると幾つかの依頼があった。

 

『今回はそれをお願いしたいの、無理に全部をやらなくていいから』

 

「いえ大丈夫です、これぐらいに少ない方です」

 

『あはは、さすが隊長さんだね。終わったら報告だけでいいから』

 

「隊長にやらせることは問題じゃないんですね、分かりました」

 

『それじゃあよろしくね〜』

 

通信を切り、依頼を確認する。

 

「んー、1時間あれば余裕かな。昼前に異界対策課に行けばいいかな?」

 

それから依頼を開始した、確実にこれは異界対策課のやっていること何で楽にできたが。異界完全に関係ないから本当に人助けの何でも屋だ。

 

そのうち異界対策課じゃなくて特務支援課になりそうだ。

 

そして依頼がある学院の技術棟に向かった。

 

「えっと……第1研究室は……ここか」

 

技術棟は広くて、地図を見ながら到着して、中に入ると入学式の時にいた茶髪の白衣の男性がいた。

 

「やあ、待っていたよ。入学式以来だね。僕は2年III組のグロリア・シェル。技術部の部長を務めている。君はVII組のレンヤ君だね、改めてよろしく頼むよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「さっきフィアットから聞いたけど、生徒会の仕事を手伝うことにしたんだってね。君達なら心配ないとは思うけど、どうか頑張ってくれ」

 

「はい、それで依頼を受けたいのですがーーー」

 

手早く依頼を解消して、1時間経つ前に全部の依頼を終わらせフィアット会長に報告のメールを送った。

 

「さてと、俺も異界対策課にーー」

 

「やあレンヤ君、元気かい?」

 

声を掛けられ後ろに振り返ると、白い制服を夏服みたいな着方をしている1科生の先輩がいた。

 

「デドラ部長、今日も釣りですか?」

 

「ああ、今日は絶好の釣り日和だからね」

 

彼は2年、釣り部の部長のデドラ・グローブライト部長、1科生だけど親しみやすい人だ。

 

「レンヤ君は今日は釣りをしないのかな?」

 

「今日はさすがに忙しいですからね、やっぱり放課後にちょっと釣る方が気が合っていますから」

 

「それは残念、それじゃあまたの機会に一緒に釣ろう」

 

デドラ部長は町内に流れている川に向かった。デドラ部長は今のご時世珍しく魔力を使わずに釣りをする人だ、まあ一種の不正だから分からなくもないし俺も訓練の時はともかく、見習って魔力を使わずに釣りをする。そのおかげか部員は少ないが。

 

「さてと、俺も行くか」

 

駅からクラナガンに向かい、地上本部に向かった。

 

異界対策課で俺でしか処理できない物を終わらせて、ただ気になることがあったって異界対策課の正面の部屋が改装されていた。

 

あんまり関係なかったので放っておき、今日は定時通りに皆と帰れた。

 

そのうち車でも買おうかな?その方が何かと便利だし。地球じゃあ考えられなかったがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー

 

はやての作った夕食を食べ終わった後、部屋に戻って簡単な鍛錬をしていた。

 

「……………………」

 

左右斜め前に2つずつある樽の上にろうそくを置き、抜刀状態で居合の構えを取り……

 

ヒュヒュン……

 

刀を振り抜き右2つのろうそくの火を消した後、斬り返し左2つのろうそくの火を消した。

 

「ふう、こんな感じかな」

 

《お見事です》

 

「ひゅう〜レンヤやる〜」

 

「ありがとう……さて、授業の予習でもするかな。実技テストもあるし、今週は結構忙しくなりそうだ」

 

「レンヤも大変だな」

 

片付けをレゾナンスアークに任せて、机の上に教科書とノートを開き、明日やるであろう授業を予習しておいた後明日に備えて寝た。

 

 



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64話

 

 

3日後の水曜日、4月21日ーー

 

まだ桜似の花が散る間際の季節、俺達VII組のメンバーはドームにいた。

 

「それじゃあ予告通り、実技テストを始めるぞ」

 

かねてよりテオ教官から告げられていた実技テストを実施する為である。

 

「前もって言っておくけど、このテストは単純な戦闘力を測るものじゃない。状況に応じた適切な行動を取れるかを見る為のものだ。その意味で、何の工夫もしなかったら短時間で相手を倒せたとしても、評点は辛くなるだろう」

 

真面目な口調でテオ教官が実技テストの目的を語った。

 

「面白い」

 

「単純な力押しじゃ評価に結びつかないわけね」

 

出された条件に、シェルティスは面白がり、アリサは納得する。

 

「それではこれより、4月の実技テストを開始する。レンヤ、ツァリ、ユエ。まずは前に出ろ」

 

「はい……!」

 

「いきなりかぁ」

 

「承知した」

 

俺達はデバイスを起動して、準備を整える。

 

「よし、お前らの相手はこいつだ」

 

指を鳴らし、青紫色のベルカ式の魔法陣が展開され機械の人形を召喚した。

 

見たことない物で、俺達は驚く。

 

「これは……」

 

「機械兵器⁉︎」

 

「何と……」

 

「そいつは作り物の動くカカシみたいなもんだ。そこそこ強めに設定してあるけど、決して勝てない相手じゃない」

 

武器を構えて、機械兵器を見据え……

 

「ーー始め!」

 

実技テストが開始された。

 

機械兵器は突撃して来て、ユエが側面を蹴り後ろに流した。

 

「やあ!」

 

ツァリが端子を鋭く尖らせて、機械兵器に勢いよくぶつける。

 

「はあああっ!」

 

飛び上がり上段に構えて機械兵器に振り下ろし縦に斬り込みを入れて、斬り返し薙ぎ払い吹き飛ばす。

 

『ユエ!』

 

「承知!」

 

一瞬の隙を狙い、ツァリがユエに指示を出す。

 

機械兵器に周りに端子が飛び回り、端子間でバインドが発生して機械兵器を縛り付ける。

 

「剛力徹破・突!」

 

拳を強く握り、機械兵器の鋼の体に深く突き抜けさせ、剄を爆発させたた。

 

機械兵器はその攻撃で一瞬で消えた。相変わらずエコな兵器。

 

「……よし」

 

「きっ緊張したぁ……」

 

「ふう」

 

武器をしまい、息を整える。

 

「中々悪くないな、思ったよりコンビネーションもいいらしいし……ちょっとにし楽すぎたな」

 

「あはは、そうかもしれません」

 

テオ教官が拍手で褒め称え、俺達の評価を改めたようだ。

 

「さて、時間は有限だ。なのは、アリシア、シェルティス、前に出ろ!」

 

それから全員、あの機械兵器と戦い……それぞれ連携も取れておりいい評価を得られたと思う。

 

「上手くいったね!」

 

「うん、武術訓練の成果が出たね」

 

「やれやれだ」

 

皆も結構いい感じだったようだ。

 

「それにしてもテオ教官、さっきの機械兵器は何だったんですか?」

 

「そういえば……」

 

「ガジェットとはまるで別物だったね」

 

オリエンテーリングのドローンもそうだが、あの機械兵器も跡形も無く消える現象を起こした。まるでグリードのように。

 

「あれはとある筋から押し付けられたもんでな。色々と設定ができて便利だから有効活用してるんだ。ま、ちゃんと稼働したし結果オーライってことで」

 

できればとある筋について聞きたいが、喋るつもりはないだろう。

 

「実技テストはここまでだ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項がある。お前達VII組ならではの特別なカリキュラムに関するな」

 

と、その言葉を聞いた瞬間、場の空気が一気に引き締まった。全員が黙ってテオ教官の言葉に耳を傾ける。

 

「さすがに皆気になっていたようだな。それじゃあ説明する」

 

「お前達に課せられた特別なカリキュラム……それはズバリ、特別実習!」

 

随分もったいぶって告げられた割にはいまいちピンと来ず、俺達は頭上に疑問符を浮かび上がらせた。しかし、予想済みの反応だったらしく、テオ教官は構わず説明を続けた。

 

「と、特別実習……ですか?」

 

「何ですか、それ?」

 

「お前達にはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらう事になる。まさに、特別(スペシャル)な実習ってわけだ」

 

「学院に入ったばっかりなのにいきなり他の場所に……?」

 

俺は少し、テオ教官の言った事に疑問に思い……

 

「その口ぶりだと、教官が付いて来るわけでもないそうですね?」

 

「もちろん、本職に任せるさ」

 

「VII組の目的は異界に対する部隊の育成の為が目的だから……」

 

「私達に丸投げ⁉︎」

 

「ま、もちろんフォローは入れる。さ、1部ずつ受け取れ」

 

そう言ってテオ教官は、全員に一枚の紙を配った。それには班分けされたⅦ組メンバーの名前と、VII組メンバーが赴く手筈となっている実習先が記されていた。

 

 

【4月特別実習】

 

A班:レンヤ、すずか、はやて、ツァリ、フェイト、ユエ

(実習地:ミッドチルダ北部・セニア地方)

 

B班:アリサ、アリシア、リヴァン、シェルティス、なのは

(実習地:ミッドチルダ南部・アルトセイム地方)

 

 

確か、どちらからも異界対策課に依頼が来ていたな。管理局と協力しているらしいが、何故俺に話を通さない………100パーセントあの黒まんじゅうだな、あとゲンヤさん。

 

「面白い組み合わせだね」

 

「異界対策課は半分に分けられたみたい」

 

「セニアとアルトセイム……どちらもミッドチルダの地方なのか?」

 

「うん、記述通りの場所にあるよ」

 

「アルトセイムはフェイトちゃんとアリシアちゃんの出身地だよね」

 

「私はよく覚えていないけど……」

 

「緑豊かでいい場所だよ」

 

「セニアは結構廃棄区画が多いが、それを抜けばいい場所だ」

 

しかし問題は班分けにあった。

 

「ば、場所はともかくB班の組み合わせは……⁉︎」

 

「……………………」

 

言うまでもなく、リヴァンとシェルティスの二人である。ただでさえ仲の悪い彼らを同じ班にするとは、テオ教官もだいぶ性質が悪い。

 

「日時は今週末。実習期間は二日間くらいになる。A班、B班共にレールウェイを使っての移動になる。各自、それまでに準備を整えて英気を養っておけよ」

 

その言葉を最後に実技テストは終了、同時に昼休みの終わりを告げる鐘楼が鳴った。午後の授業の準備の為に他の者達が教室に戻っていく中、俺は独り空を仰ぐ。

 

(なんか、ただで終わりそうにない気がしてきた)

 

単にB班の顔ぶれを見てそう思ったのか、それとも異界対策課としての勘がこの特別実習自体を警戒しているのか……

 

どちらにせよ何かが起こるだろうと、胸中の不安を拭う事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月24日、特別実習当日の早朝ーー

 

「レンヤ、ヘルプ」

 

レンヤ、すずか、はやて、ツァリ、フェイト、ユエの組み合わせとなったA班は、第三学生寮の玄関前で集合してから各々の体調などを確認し、そのままルキュウ駅のホームへと向かった。その際に、先に到着していたB班に振り分けられていたアリシアがそんなことを言ってきた。

 

その視線の先にいるのは、本日も仲の悪さをこれでもかと見せつけている二人組。わざわざ互いが確認できる距離に立って不機嫌な顔で背中を見せているところを見ていると、毎回俺の中で、ホントは気が合う、という疑問が浮かんで来てしまう。

 

しかし、これからこの二人という名の一触即発の時限爆弾を抱えて実習地に向かわなくてはならない面々にとっては死活問題らしく、アリシアは元より、アリサとなのはもどことなく元気がないように思えた。これでは、アリシアの懇願も、ある意味仕方のない事だと思えてしまいそうになった。

 

だが、これは学院長も公認してしまった正式な課外授業である。今更その内容を変更する事などできないだろうし、よしんば班の振り分けが決まったあの場で抗議をしたところで、テオ教官に上手い事躱されていたのは目に見えている。確かに不幸だとは思い、同情の念も湧いてくるが、だからといって目の前の嫌な事から目を背け続けたままではきっと成長など望めないだろう。

 

俺はアリシアの肩に手を置き……

 

「ファイト」

 

「この薄情者め〜〜!」

 

怒るアリシアを抑えて、アリサの方を向く。

 

「そっちはもう出発か?」

 

「ええ、そんなに離れていないとはいえ早めに着きたいから」

 

「僕達もそれぐらいに着きたいからね。それはともかく……」

 

ツァリの視線が3人の後ろに向かれる。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

もはやそこに突っ立っているだけのただの彫像なのではないかと思ってしまうほどに微動だにしないリヴァンとシェルティスの両名。

 

『ずっとあの調子なのか?』

 

『まあ、そうね』

 

『思った以上に溝が深くて……』

 

『どうにかして、本当に』

 

『結構難しい問題やなぁ』

 

『うっうーん……』

 

念話で会話していると始発列車到着予定のアナウンスが流れると共に2人はようやく動き始める。

 

「…………………」

 

「時間だ、行くぞ」

 

それでも頑なに、顔を合わせようとはしなかったが。

 

「……大変そうだけどそちらも頑張ってくれ」

 

「あの2人の間を取り持つのは大変そうだけど……」

 

「うん、やれるだけやってみるよ」

 

「武運を祈る、気をつけるといい」

 

「初めての特別実習……お互いに頑張ろうね」

 

「フェイトも気をつけてね」

 

「また元気に姿で会いましょう」

 

「そうやな」

 

その後、いくらか気分が晴れた様子のアリサ、アリシア、なのはも二人の後を追ってホームへと向かっていった。本当なら一緒に行った方がいいが、もうレールウェイは行ってしまった。

 

「よし、それじゃあ俺達も行くか」

 

「うん、心配だけどね……」

 

「アリサちゃんがいるから、滅多な事にはならないと思うよ」

 

「そうだね、私達は自分達の事をちゃんとやろう」

 

「そうや、はよう行こか」

 

「そうだな」

 

ゲートに端末を当ててホームに入り、次に到着したレールウェイでミッドチルダ・中央区画に向かった。

 

「それでセニア地方には何があるのだ?」

 

「セニア地方は中央区画とベルカ自治領の間にあるから、その間の交通が多い場所だ」

 

「もちろん少し外れると廃棄区画が多いけど……」

 

「主にあそこは海にほど近いから漁業が盛んな地方なんだよ」

 

「それに廃棄区画も魔導師試験や訓練なんかによく使われとるなぁ」

 

「うん、それにセニアの皆はどんな事があっても一致団結して完結する、強い団結力があるんだよ」

 

この中で1番セニアに詳しいのはやっぱりすずかか。

 

「それにしても、皆ももう分かってるんだろうが、この特別実習……随分と用意が良いと思わないか?」

 

「うむ、確かにそうだな。ルキュウ駅でも受付が既に私達の分の乗車券を用意していたようだな」

 

「それに実習先のセニアでも、着いたら宿に向かってそこで実習課題を貰う手筈になっているみたい」

 

特別と付いているからある程度予測はしていたが、それにしても随分と手が込んでいる。

 

とそこへ……

 

「ーーそれだけお前達に期待してるってことだ」

 

考え込んでいる俺達の耳に、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。声のした方に目を向けると、そこにはテオ教官の姿があった。

 

「……教官?」

 

「今朝から見かけないと思っていたが、まさか列車に乗り込んでいるとは……」

 

「Ⅶ組A班、全員揃ってるみたいだな」

 

「その、どうして教官がここに? 俺達だけで実習地に向かうという話だったんじゃ?」

 

「んー、レンヤとすずかがいるから大丈夫だとは思うが、最初くらいは補足説明が必要かと思ってな。宿にチェックインするまでは付き合ってやるよ」

 

「そ、それは助かりますけど……」

 

そこまで言ってフェイトは口籠もった。確かに初めての特別実習で、ほぼ分かりきっているとはいえその説明をしてくれると言うのならそれほどありがたい話はない。

 

がしかし、俺達にはそれを素直に喜べない理由があった。

 

「……俺達よりB班の方に行っといた方が良いんじゃないですか?」

 

俺はテオ教官にそう言った。そう、一同が気にかけているのはB班……主にリヴァンとシェルティスの犬猿コンビのことである。そんな気まずい組み合わせに仕立て上げた張本人であるテオ教官はB班に同行し、彼らの仲裁に入って然るべきだと思うのだが……

 

「どう考えてもメンドクサさいじゃん。あの二人が険悪になり過ぎてどうしようもなくなったらフォローに行くつもりだ」

 

テオ教官はあっけらかんと、とても教官とは思えない発言をするのだった。

 

(ダメだこの人……)

 

(険悪になるって分かっててあの班分けにしたみたいやな……)

 

(完全に確信犯だ……)

 

俺、はやて、フェイトの三人は、大きく溜息を吐きながら愉快そうに笑う自分達の担任を冷やかな目で見るのだった。

 

「ま、俺のことは気にしないで話を続けてろ」

 

しかし、そんな彼らの視線をどこ吹く風と受け流し、テオ教官は「よっこいしょっと」とどこか年寄り臭い声をあげて隣のボックス席に腰を下ろす。

 

「テオ教官?」

 

「昨日から寝てなくてな、着いたら起こしてくれ」

 

それですぐに寝てしまった。

 

「はやっ!」

 

「なんだか本当に教官なのか疑っちゃうよ」

 

「同感だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央ターミナルで乗り換えでセニアに向かい、快速レールウェイで1時間……ザンクト・ヒルデ魔法学院前の駅に着く。

 

「ここも久しぶりだね」

 

「あの霧の魔女事件以来やな」

 

「そっか、4人はあの事件を解決した貢献者だったね」

 

「うん、あの時は皆に迷惑をかけちゃってね……」

 

「大丈夫フェイトちゃん、気にしないで」

 

「誰でも過ちを犯す、気にすることはない」

 

落ち込んだフェイトをすずかとユエが励ます。

 

「お前ら、こっちだぞ」

 

テオ教官に呼ばれ、俺達はついて行った。

 

しばらく歩くと航空火災の時に泊まったホテルに着く。

 

「いらっしゃいませ、当ホテルのご利用誠にありがとうございます」

 

「オーナーさん、お久しぶりです!」

 

「これはすずか様、レルム魔導学院のご入学、遅れながらおめでとうございます」

 

「いえ、それに今回の実習でホテルの一室を貸していただきありがとうございます」

 

「いえいえ、すずか様はもちろんのこと異界対策課にはお世話になっておりますから」

 

「……………なんか、やっぱり凄いんだね。異界対策課」

 

異界対策課の一端を見て、ツァリが驚く。

 

「役職の性質上、こうなるさ。すずかはご覧の通りだし、アリサはヤクザと知り合いだし、アリシアは有力資産家と知り合いだし、俺はせいぜい局の救助隊と警備隊ぐらいと知り合いなだけだ。後レジアス中将」

 

「充分凄いんよ」

 

「あはは……」

 

それから部屋に案内されて、荷物を置いてからロビーに集合した。

 

「レンヤ様、これをどうぞ」

 

オーナーから渡されたのは、レルムのエンブレムが入った封筒だった。

 

「今回の実習内容が入っています、それでは実習の成功を祈っています」

 

「ありがとう、オーナーさん」

 

「感謝する」

 

封筒を開けて、内容を確認すると……

 

「えっと……ザンクト・ヒルデ魔法学院で異界の授業を行って欲しい、現存する異界の探索が必須で。後は第四陸士訓練校で教導だね」

 

フェイトが読み終えると、俺とすずかはため息を吐く。

 

「まんま異界対策課と同じことをやっているな」

 

「でも確かに異界と向き合うには必要不可欠なものだよ」

 

「授業でも習ったけど、異界は日常生活のすぐそこにあるんだね」

 

「だから、このような依頼が1番効率的なんやな」

 

「とりあえずザンクト・ヒルデに行こう、初めだし手分けしないで一ヶ所ずつ確実に終わらせていこう」

 

「了解した」

 

「あれ?そういえばテオ教官は?」

 

ツァリがテオ教官を探す、俺は視線をホテル内のバーに向ける。

 

そこには見たことある後ろ姿の男性がジョッキを持っていた。

 

「サッサと行こうか」

 

「…………うん」

 

「そうやな」

 

見なかった事にして、ホテルから出てザンクト・ヒルデ魔法学院に向かった。

 

「ここがザンクト・ヒルデ魔法学院かぁ」

 

「確か聖王教会系列のミッションスクール、だったな」

 

「ここが聖王なら、レルムは覇王だね」

 

「あんまりここには来たくないんだけどなぁ……」

 

「前は夜だったし、ちゃんと見るのは初めてだね」

 

「もしかしたらカリムやシャッハやロッサと会えるかもしれへんなぁ?」

 

受付で依頼の受諾を申請して、次に講義に出席することになった。

 

「それで誰が教師をやってくれるの?」

 

「ここはレンヤ君かすずかちゃんの出番やな」

 

「それならやっぱりすずかで……」

 

「ううん、ここはレンヤ君にお願いするよ。私は1人ならともかく大勢の前じゃ緊張しちゃうよ」

 

「意外だな、委員長はなんでもそつなくこなすと思ったが」

 

「あはは、アリサちゃんなら物怖じしないんだけどね。それでお願いできる?」

 

「まあ、そういうことなら」

 

そして次の講義の時間。扇型で奥に行く程高くなる大学風の教室で、どうやら学年はばらばららしいな。好奇心の視線が注ぐ中、俺は教卓の前に立つ。

 

「今回は実習の一環でこの時間の講義を行うことになった、レルム魔導学院、三科生VII組の神崎 蓮也だ。どうかよろしくお願いする」

 

無難な挨拶をして、様子を見てみる。

 

なんだか内緒話……特に女子が隣と話し会っている。男子は好奇心旺盛なキラキラした目で見て来る。

 

「コホン、講義の内容は異界に関するものだ。異界は日常生活のすぐ側にある、それを知った上で受けてもらいたい。それでは始める」

 

それから講義を始めた、どれも知っている内容だからスムーズに行えた。

 

「異界は5年前にここ、ザンクト・ヒルデ魔法学院で起こった霧の魔女事件以来ミッドチルダでその存在を認識された。しかしグリードやゲートを認識できるのには個人差があり魔力を持っていても見えない人や、魔力を持っていなくても見える人もいる」

 

その時、1人の女子が手を挙げた。

 

「何か質問か?」

 

「はい、霧の魔女事件以降大きな事件はないのですが……でも、異界に関する事件は起こっているのですよね?魔女事件は特別な事件だったんですか?」

 

「んーー、そこはまだ情報規制されているから教えられないけど。通常のグリードとは違う……と言っておこうか」

 

「あっありがとうございます」

 

「そうか、もっと気軽に質問をしてもいいぞ。それでは再開する」

 

全員真面目に受けていてとても嬉しいな、教師も悪くないかな。

 

それからどんどん来る質問に答え、あっという間に時間になってしまった。

 

「それでは講義を終わりにする。受けてもらってありがとうな」

 

拍手をもらいながら教室を出て、皆の元に行く。

 

「レンヤ、お疲れ様」

 

「ありがとうフェイト」

 

フェイトから水をもらい、喉を潤す。

 

「凄いねレンヤは、僕は緊張してガチガチになっちゃうよ」

 

「さすがレンヤ君や!」

 

「そうだね。さて、次は第四陸士訓練校だね。時間はまだあるけどどうする?」

 

「少し休んでからでも構わないぞ」

 

「大丈夫、すぐに行こうか」

 

校舎から出ると、もう下校時間なのか初等部、中等部の生徒がチラホラといた。年上なのと制服の違いで結構浮くな。

 

「あーー!神崎 蓮也さんだ!」

 

「噂は本当だったんだ!」

 

「見て見て!月村 すずかさんにフェイト・テスタロッサさん、八神 はやてさんもいる!」

 

「もしかしたら、ここに転校を……!」

 

声を抑えることもせず、特に女子達は騒いでいる。

 

「あはは、有名人だね」

 

「笑えないよ」

 

「とにかく学院を出よう」

 

遠目で見るだけで、誰も近づいては来なかったのが不幸中の幸いだ。

 

「陛下!」

 

「シャッハか」

 

その時、横からシャッハが近づいてきた。

 

「はやても、どうしてここに?」

 

「実習の一環でここに訪れたんや。もう次の実習場所に行くで」

 

「そうですか、お気をつけて陛下」

 

「陛下いうな」

 

そそくさと学院を出て、訓練校に向かう。

 

「あの人は?」

 

「聖王教会修道女のシャッハ・ヌエラ。あの性格をどうにかしたんだけどなぁ」

 

「あれがシャッハのいいところなんよ」

 

「かなりの手練れでもあったな」

 

「シャッハは騎士でもあるんだよ」

 

話しながらバスで第四陸士訓練校に向かった。

 

「ここは確かなのはとフェイトが短期プログラムで卒業した学校だよな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「その話しは後、まずは受付に行こう」

 

すずかに諌められて、受付で依頼人がグラウンドに入ることを聞きグラウンドに向かった。

 

そこでは訓練生と教官が一緒に走り込みをしていた。

 

「珍しいね、一緒に走り込みをするなんて」

 

「僕、呼んでくるね」

 

ツァリが教官を呼ぶために走って行った。

 

そこに……

 

「レンヤさん?」

 

呼ばれたので振り返ってみると、オレンジの髪をツインテールっぽくした少女がいた。

 

「もしかて、ティアナか?」

 

「はい、お久しぶりです!ここには何をしに来たんですか?」

 

「ここには教導の依頼があって来たんだ。それにしてもすっかり大きくなったな、ティアナは見学か?」

 

「はい!6月に入校する予定です」

 

「レンヤ、彼女は?」

 

ユエがティアナにことを聞いてきた。

 

「ああそうだな、俺は今レルム魔導学院にいて、彼はクラスメイトのユエ・タンドラ。ソーマの知り合いだ」

 

「ソーマ⁉︎ソーマを知っているのですか⁉︎今どこに……」

 

「落ち着いてティアナちゃん、ソーマ君も今年訓練校に入るみたいだからもしかしたら会えるかもしれないよ」

 

「そう、ですか」

 

落ち込みながらも少し嬉しそうな表情をするティアナ。

 

『ティアナとソーマは幼馴染なんだ』

 

『なるほど、心配するわけだ』

 

「お待たせ!」

 

その時、ツァリが教官を連れて戻ってきた。

 

「君達がレルム魔導学院VII組の者か?」

 

「はい、教導の依頼があって来ました。訓練内容はこちらで決めて構いませんか?」

 

「構わない、ただ最後に軽い模擬戦を入れてくれてもいいかな?」

 

「了解しました」

 

それから全員と教官で訓練生の教導を行い、後は模擬戦をやることになった。

 

「異界で必要なのは砲撃や魔力弾ではなく身体能力だ。これから近接戦闘の模擬戦を行う、相手は俺達だ。遠慮なく挑んできてくれ」

 

訓練生の全員もやる気になり、VII組A班全員で相手をした。

 

「これで教導を終わりにする、各自疲れを残さないよう水分補給をすること」

 

そう言うが全員肩で息をしていて返事をする気力がなかった。

 

「はあはあ、疲れたよ」

 

「お疲れや、ツァリ君」

 

「教導も楽しいね、なのはの気持ちが良くわかるよ」

 

「でも、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」

 

「これぐらいが丁度いい………む」

 

ユエが何かに気づき、観客席方面をみると。誰かが近づいてきた。

 

「あれは……」

 

「おーい、ユエさーん!」

 

「ソーマか」

 

よく見てみると、ソーマの面影を残した少年がいた。

 

「お久しぶりです!ユエさん!レンヤさんとすずかさんもお久しぶりです!」

 

「ソーマ君!すっかり大きくなったね、見違えちゃったよ!」

 

「なるほど、ルーフェンで鍛えられたようだな」

 

「はい!レンヤさん、僕と今から模擬戦を……」

 

ソーマが俺と模擬戦を申し込もうとした時、後ろからティアナが来て……

 

「ソーマ‼︎」

 

「あ、ティア。久しぶり」

 

「久しぶりじゃないわよ!今まで連絡しないで、心配したんだからね!」

 

「それは、その……ごめん」

 

「フン!……………おかえりなさい」

 

そっぽを向きながらも、おかえりを言うティアナ。どうやらソーマを許してくれたようだ。

 

「さて、模擬戦だけど……いいですか?」

 

「構わんよ、もう教導は終わっている。好きにするといい私達は見学している、お前達もいいか?」

 

『はい!』

 

教官の問いに訓練生達は元気よく返事をする。

 

「ソーマ、入校前の贈り物だ。覚悟はいいか?」

 

「はい!その胸、お借りします!」

 

グラウンドでソーマと向き合い、デバイスを起動しバリアジャケットを纏い刀を構える。

 

ソーマも剣の柄だけのデバイスを取り出し……

 

「レストレーション!」

 

起動して、刀身に少し装飾がある白い剣を構える。

 

「双方、構え……」

 

ユエが手を挙げて……

 

「始め!」

 

振り下ろした。

 

「内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマは剄で身体能力を強化して高速で接近して剣を振るう。

 

「ふっ!」

 

「はあ!」

 

俺はその強烈な一撃を受け止める。

 

「やるようになったな、ソーマ」

 

「当然、です!」

 

弾き返され、すぐにソーマは突きの構えをとり……

 

「外力系衝剄……背狼衝!」

 

背後に放った衝剄の反動を推進力に利用して、高速の突きを放つ。

 

「ふっ……!」

 

「っ!」

 

突きを受け流し、体勢を崩させる。

 

「双月」

 

「うわっ!」

 

一瞬で刀を交差させてソーマ斬る。

 

「あの一瞬で剄で防御するとはな」

 

「イテテ、魔力を剄に変化して体に纏い硬化する。それぐらいしか防御法はないんです!」

 

ソーマは視力を強化させて、太刀筋を見極めるつもりか。

 

斬り、防ぎ、弾き、避け、この工程が高速で行われている。一瞬でも気を抜けられない状況が続いている。

 

俺とソーマは身体能力強化しかしておらず、魔力弾や砲撃を使わず剣技のみで攻防している。

 

「どうした、息が上がっているぞ?」

 

「はあはあ、やっぱり剣技じゃ敵わないですね……でも、負けるつもりはありません!」

 

ソーマの体から剄に変換された紺色の魔力が溢れ出す。

 

「最後に一太刀か、来い」

 

「はあああっ!」

 

ソーマは剣を振りかぶり、突撃して来た。

 

俺は上段に構え振り下ろし、鍔迫り合いになった瞬間……

 

「鉄槌斬り!」

 

斬ると押すを同時に行い、鍔迫り合いに押し勝ち……

 

ズガンッ!

 

そのまま押し潰してしまい、ちょっとしたクレーターを作ってしまった。

 

「やり過ぎたな」

 

「そうだな」

 

ユエがソーマを担ぎ、観客席まで運んだ。

 

「お疲れ様、レンヤ君」

 

「大丈夫だすずか、ソーマを診てくれ」

 

それからすぐにソーマは目を覚ました。

 

「うーーん……」

 

「ソーマ、起きたか?」

 

「え、レンヤさん⁉︎………そっか、負けたんですね」

 

「そうかもしれないが今回は剣技だけの模擬戦だ、制限無しならもっと戦えただろ?」

 

「そうですけど……やっぱり悔しいです」

 

「でも凄いよソーマ、私とは比べ物にならないくらい」

 

「ティアナはこれからだよ、焦ることはないと思うよ」

 

「あ、ありがとうございます。フェイトさん」

 

教官と訓練生達に挨拶して、ソーマとティアナと正門まで来た。

 

「頑張れよ2人共」

 

「技能試験、応援しているよ」

 

「これからも鍛錬を怠るなよ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「ご期待に添えられるよう、頑張ります!」

 

「あはは、頑張ってね」

 

「怪我せんようになぁ」

 

ソーマとティアナと別れて、最後の依頼を終わらせる為にこの付近にある異界に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、疲れたよ」

 

「お疲れ様だ、ツァリ」

 

「レンヤ君達はいつもこんなのをやっとるんか?」

 

「前は異界だけだったけど、ここ最近はこんなのものだ」

 

「アリサちゃんは納得してないけどね」

 

フェーズ1の異界を探索した後、ホテルに戻っていた。

 

「初めての異界とグリードはどうだった?」

 

「武術訓練通りにやったから、そこまで苦労はしなかったけど……」

 

「やはり勝手が違うな、グリードも生きていることを感じた」

 

「それは……確かに」

 

「どこぞのRPGゲームのようにはいかんへんな」

 

「事実は小説よりも、ね」

 

グリードも生きている、その事実は前から知っていた。でもそれで放っておく訳にはいかない。

 

夕食を済ませ、一息つく。

 

「ふう、美味しかったね」

 

「実に美味だった」

 

「うんうん、またシェフさんは腕を上げたみたいや」

 

「後でお礼を言わないと」

 

「その前にレポートを終わらせるぞ」

 

「このままベットには、って行けないよね」

 

ちなみにテオ教官はホテルに戻った時に出会わせ、そのままB班のいるアルトセイムに向かった。

 

「それにしても本当、僕たちⅦ組ってどうして集められたんだろうね?」

 

単純ながらも、核心をついた言葉。その一言を何気なく口にしたのは、食休みを取っている時のツァリだった。

 

何故、自分が三科生と言う場所に選ばれたのか。テオ教官はデバイスと異界の適応力と言っていたものの、それだけが理由ではないという事は各々が薄々感づいていた。

 

もし本当にそれだけが理由ならば、わざわざ手間をかけてまで特別実習などに生徒を向かわせたりはしないだろう。

 

ならば、どういう基準で自分たちを選んだのか。一同が思考を巡らせる中、フェイトがポツリと呟いた。

 

「魔導学院を志望した理由が基準と言う訳じゃないだろうし……」

 

ミッドチルダには数多くの学校が存在する。中には、レルムと歴史的にも学力的にも肩を並べる教育機関、今日行ったザンクト・ヒルデとか幾つかあるものの、何故敢えて魔導学院を選択したのか。

 

その理由を、各々が一人ずつ話していった。

 

「僕はこの力が誰かの為に役に立てるならって思って」

 

「私は修業の名目でこの学院に志望した、いつか私の師を越える為に」

 

ツァリとユエらしい志望理由だった。

 

「んー、そうなると私達は結構何も考えておらんからなぁ。なんか皆に申し訳あらへんなぁ」

 

「私達、レンヤについて来ただけだからね……」

 

「わっ私はちゃんとデバイスの勉強をしたいと思ってーー」

 

「ついでやろ、それ」

 

「…………はい」

 

すずかが誤魔化そうとするも、はやてにあっさり見破られた。

 

「あはは、そうなるとB班の女子達も同じかな?それでレンヤは?」

 

「俺は自分を高める為にここに入ったんだ。地球じゃあ出来ないからな」

 

「レンヤの故郷は確か魔法文化がなかったらしいからな、それにレンヤらしい理由だ」

 

結局のところ、どれも悪いと言う訳ではない。形も見えない曖昧とした目標を追いかけるのも、ただ流されて辿り着いたと言うのも、人間らしい在り方だ。大事なのはそうして入った場所で何を見出し、何を為すのか、その一点に限られる。つまるところ、切っ掛けなどどうでもいいのである。故に、志望理由がない、と言うのもまた立派な理由になれる。

 

「まあなんにせよ、俺達の心労が軽減されるのならそれでいいけど」

 

「レンヤ君達はいつも大変やからなぁ」

 

「本来なら1人一区じゃなくて、1部隊一区が丁度いいんだよね。それに中央地区は今まで共通だったし」

 

「本当に大変なんだね、異界対策課って」

 

「同情する」

 

「あはは……」

 

それからレポートの書き方をツァリとユエに教えながら終わらせ、明日に備えて早めに寝ることにした。

 

 



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65話

 

 

翌日ーー

 

朝食を済ませた後、受付でオーナーから依頼の入った封筒を貰った。

 

「それではお気をつけて、実習の成功を祈っています」

 

「ありがとうございます、オーナーさん」

 

「感謝します」

 

オーナーが去った後、封筒を開けて依頼を見た。

 

「どれも必須ではないようだな」

 

「午前くらいで終わるようになっているね」

 

「それじゃあ、行こう」

 

「うん、張り切って行こか!」

 

さすがに2日目で4人とも慣れたようでスムーズに依頼をこなした。

 

そして依頼の1つがある、漁港に向かった。ここがミッドチルダ最大の漁港のようでかなり大きい魚市場だ。

 

「へえ、ここの河岸は賑わっているね」

 

「早朝の水揚げも終わっているから、ほとんどの業者の多くが店じまいしちゃったから少ない方だよ。もっと早く来ればこれの倍以上は人がいるよ」

 

「それは凄い」

 

「おお!これはええアジや!こっちのサンマも安い!帰りに買っていかへん?」

 

「はやては相変わらずだね」

 

「依頼を終わらせてからにしろよ」

 

俺達は依頼提出者の市場長の元に向かった。

 

「すみません、レルム魔導学院の者です。市場長にお会いしたいのですが?」

 

「おお来たか、私がここの市場長だ。見て欲しい物がある、ついてきてくれ」

 

市場長について行き、水揚げ場に来ると人が集まっている場所があった。

 

「あれは一体……」

 

「あそこに見て欲しいのがあるのだ」

 

人垣を分けて進むと……

 

「うわぁ!」

 

「これは!」

 

「ひどい……」

 

そこには巨大な鮫がいたが、腹を噛み抉られていた。

 

「過去にここの近海に危険生物の報告例は?」

 

「数十年間1件もない、それにこの巨大な鮫も見たのは初めてだ」

 

「てことはやっぱり……」

 

「見た感じ水棲生物型グリード、独立単体のグリムグリードだよ」

 

「これは少し厄介だな」

 

「えっ、どうして?」

 

フェイトが俺の言葉を疑問に思う。

 

「この広い海で巨大とはいえ、グリード1体を探すのにどれだけ時間がかかると思う?」

 

「確かにそうやなぁ」

 

「さすがにツァリ君でも難しいと思うし……」

 

「出来るよ」

 

「やっぱり出来ないのかぁ…………ん?」

 

一瞬聞き間違いた気がするな。

 

「えっと、ツァリ君出来るの?」

 

「グリードの気配は昨日分かったし、不可能じゃないね」

 

「こんな広範囲の索敵はシャマルでもできへんで」

 

「さすがツァリだな、それでお願いできるか?」

 

「うん、すぐにやるよ」

 

ツァリはウルレガリアを起動して、端子を海に放った。

 

目を閉じて集中しているようで、髪も薄紫色の魔力光で光っている。

 

「さて、俺達は邪魔にならないよう離れているか」

 

「いつでも出撃出来るように準備しておかないと」

 

「すみません、すぐに船が出せるように出来ませんか?」

 

「分かった、1番速い船を用意しておこう」

 

すずかの頼みに市場長は潔く了承してくれた。

 

それから数十分程度経った後……

 

「レンヤはいつもこんな事件を受けていたの?」

 

準備を進めている時、フェイトがそんなことを言って来た。

 

「そうだなぁ、大概は依頼主の所持品を異界から探しだすことが多いな。単体での現実世界の顕現は本当にたまにしかなかったし」

 

「そうなんだ」

 

「はやてはどうだ?目標に近づいているか?」

 

「順調や!このまま行けば卒業と同時に開始できそうや」

 

「そうか、俺達もどうにかしてそっちに合流したいんだが。もう少し人員が増えてくれれば出向扱いになるんだけど……」

 

「試験的の設立だから1部隊の出向は難しいし、一時的に異界対策課の活動も停止することにもなっちゃうからね」

 

「ふむ、大変な事をなんだな。できれば私にも手伝わせてもらえないか?」

 

「ありがとうユエ、でもまだ3年後の話しだ。3年経ったらお願いしてもいいか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

『もちろん僕も協力するよ』

 

話しに入るように、ツァリの端子が横に飛んで来た。

 

「居場所は特定出来たのか?」

 

『ここから東南東20キロ先の海中に反応があるよ、姿はまだ見えないよ』

 

「すぐに出撃や!」

 

「市場長、今すぐ出航中の船を近海から船を戻して下さい!」

 

「分かった!船のエンジンも温まっている、直ぐにでも出せるぞ!」

 

俺達は市場長が用意した船に乗った。

 

「危険なので乗組員は全員降りて下さい」

 

「船の操縦はどうするんだ?」

 

「俺は原付から小型飛行機までの運転免許は一通り持っていますから大丈夫です!」

 

全員乗り込んだ後、フルスロットルで船を飛ばした。

 

「うわぁ!」

 

「飛ばし過ぎだよ!」

 

振り落とされないように、船にしがみつくツァリとフェイト。

 

「レンヤ君!一体いつの間に船の免許を取ったの⁉︎」

 

「ゲンヤさんの勧めで色々とな!持っておいて色々と便利だしな!」

 

「ほんま何気に凄いんやな、レンヤ君は!」

 

最高速度で向かい、目標地点付近に到着する。

 

「ツァリ、目標はこの下か?」

 

『さらに東に向かっているよ。でもレンヤ、どうやって海上に出すの?』

 

「それは、こいつだ」

 

俺が取り出したのは……釣竿だ。

 

「いやいや、無理やろ。巨大鮫が喰われるほど大きいやっちゃで、餌もどうするんや?」

 

「ルアーでいく、竿と糸は魔法で強化するから問題ない」

 

「その必要はないみたいだぞ」

 

「ユエ?なんで……」

 

フェイトがユエの見ている方向を見ると……

 

「レ、レレレンヤ!」

 

「なんだ、いきなり慌てて」

 

「後ろ後ろ!」

 

フェイトに言われて後ろを見ると、鮫のような巨大な背びれがあった。

 

「すずか、あれか?」

 

「どうやら狙われているみたいだね」

 

「釣る手間が省けた。ツァリ、結界は張れるか?」

 

「あ、うん。出来るよ」

 

「直ぐにやってくれ、すずかもいいか?」

 

「了解だよ」

 

ツァリが結界を張り、すずかがデバイスを起動してスノーホワイトをスナイプモードにする。

 

「レンヤ君、お願いできる?」

 

「了解」

 

「はやてちゃん、船の進行方向に壁を作ってくれる?」

 

「えっ!りっ了解や」

 

はやてはデバイスを起動して、正面に障壁を作った。

 

「レンヤ!どうする気なの⁉︎」

 

「まあ見てなって」

 

アクセルを全開にして、障壁に突っ込む。

 

「いーーーやーーー!」

 

フェイトが叫ぶ中、俺はギリギリで障壁を避けて。グリードはそのまま障壁に激突した。

 

「そこ!」

 

《フリージングバレット》

 

グリードを停止した瞬間を狙って、海面に向かって凍結弾を撃ち込みグリード周囲を凍らせて動けなくさせる。

 

「ツァリ、結界を上に上げてくれ」

 

「うん」

 

結界を上に上げて、海中に逃げられないようにする。ツァリを残し俺達は凍りついた海に飛び乗る。

 

「うぷっ……」

 

「大丈夫?はやて」

 

「酔ったか?」

 

「あんなに急に曲がればさすがに酔うよ」

 

「その割にはツァリは平気そうだが」

 

『あはは、これでも結構キツイんだよ』

 

障壁の手前に到着し、デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「さて、どんな鮫がお出ましかな?」

 

「規格外なのは分かるけど……」

 

「相手にとって不足なし」

 

氷の地面が揺れ始め、氷が割れて出てきたのは……

 

キイイイィィィィィン!

 

「鮫?」

 

「なんやあれ?」

 

「ノコギリザメじゃない?」

 

「あれじゃあ、チェーンソーシャークだよ。もっと捻れば……ソーイーター?」

 

「識別名はもうそれでいいよ」

 

甲高い音を出しながら現れたのは巨体に機械的にチェーンソーが付いているグリードだ。

 

「どうやって浮いているのだ?」

 

「そこは異界において突っ込んではいけないことだ」

 

「考えるだけ解らないことだらけで意味がないんだよね」

 

「なんやいい加減やなぁ」

 

『皆、来るよ!』

 

ソーイーターは口を開けて鋭い牙を発射してきた。

 

「っ!」

 

「レンヤ!」

 

「分かっている!」

 

俺とユエは牙を弾きながら接近する。

 

《プラズマランサー》

 

「ファイア!」

 

フェイトが複数の魔力弾を生成して、ソーイーターにぶつける。

 

「舞踏刃!」

 

ひるんだ所を回転して移動しながらソーイーターに何度も斬る。

 

「外力系衝剄……剛昇弾!」

 

ユエは拳から巨大な剄弾を放ち、ソーイーターを吹き飛ばす。

 

「スノーホワイト!」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ。クリスタルエッジ》

 

すずかはギアを回し、魔力が上がった勢いで飛ばされてきたソーイーターを薙ぐが……

 

ガキイイィィィィンッ……!

 

「っ⁉︎」

 

ソーイーターは体を捻り、すずかの一撃をチェーンソーで防いだ。

 

このまま鍔迫り合いをしているとスノーホワイトがボロボロになってしまう。

 

「やらせへんで!パンツァーシルト!」

 

はやてがソーイーターの上に古代ベルカの魔法陣が展開され、ソーイーターを押し潰す。

 

「大丈夫、スノーホワイト⁉︎」

 

スノーホワイトは少しヒビが入っていたが、すぐに魔力を流し修復した。

 

《リカバリー。ありがとうございます、マスター》

 

「うわっ!なんて奴や!」

 

ソーイーターは魔法陣を真っ二つにして、浮かび上がった。

 

「ツァリ、あいつの弱点は?」

 

『あのチェーンソー以外は通常のグリードより硬くはないよ。どうにかして動きを止めて……』

 

その時、ソーイーターが震え始めて……

 

ガキンッ!

 

全身に鋭い鮫肌のような氷の鎧を纏った。

 

「なるほど、それで補う訳か」

 

「だが所詮気休めだ、この程度容易に崩せる」

 

するとソーイーターは後ろを向き、海に飛び込んだ。

 

「待て!」

 

「落ち着けフェイト、海中深くには逃げられない」

 

『皆、ソーイーターがもの凄いスピードで来るよ!』

 

ツァリの言葉でソーイーターを見ると、すでに俺達の反対側にいて先程とは比べ物にならないスピードで海中を飛び出し……

 

「嘘っ⁉︎」

 

「飛んだ!」

 

ソーイーターは飛ぶより滑空して、口を開けて突撃してきた。

 

速いが、直線的なので避けたが……

 

「どうするんーー」

 

『気を抜かないで!もうUターンしている!2撃目が来るよ!』

 

「えっ⁉︎」

 

「速ーー」

 

相談する前にソーイーターが飛び出して来た。

 

「すずか!」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「うん!」

 

《サードギア……ドライブ》

 

ギアを回して刀を構え、すずかも槍を構えソーイーターに向かって飛び出す。

 

「一点突破!」

 

「猪突猛進!」

 

「「ストライクチャージ!」」

 

同時に突きを繰り出し、大きな槍となる。

 

真正面にはぶつからず、少しずれることでソーイーターを弾いた。

 

「くう〜〜〜〜っ!」

 

「腕が、痺れる……!」

 

「大丈夫2人共⁉︎」

 

思ってた以上に強烈で、腕が痺れてしまう。

 

「それよりもツァリ、あれはどういうことだ?」

 

『あれはエラから海水をジェット噴射して移動しているみたいだね。ヒレが翼の役割を持っていてバランスも崩れることもないようだし』

 

「これは厄介なことになったなぁ」

 

今は襲ってこないが、いつまた来るかも分からない状況だ。

 

「正面から突っ込んで来た所を砲撃で仕留めるしかないな」

 

「はやてちゃん、お願いできる?」

 

「了解や!その間の防御を任せたで、フェイトちゃん!」

 

「うん、任せて」

 

「ユエとツァリはソーイーターをはやての場所まで誘ってくれ」

 

「承知した」

 

『任せておいて』

 

はやては魔力を溜め始めた。

 

「コッチだ!」

 

『えいっ!』

 

ユエがソーイーターを追い立て、ツァリが端子を爆撃させて進路を変えさせる。

 

そしてソーイーターははやての魔力を感じ取り、速度を上げて滑空して来た。大口を開けて鋭い牙から魔力弾を放つ。

 

「させないよ!」

 

《ディフェンサープラス》

 

フェイトが半円球型のバリアを展開して、はやてを守る。

 

「いけっ!はやて!」

 

「来よ、白銀の風……天よりそそぐ矢羽となれ」

 

はやての背後に大きな古代ベルカ式の魔法陣が展開され、その周りに小さい魔法陣が4つある。

 

「フレースヴェルグ!」

 

杖を振り下ろした瞬間、大量の魔力弾が発射された。着弾時に炸裂してソーイーターを攻撃するが……

 

「ノーコンすぎでしょう……」

 

「しょうがないんや!私は細かい魔力操作が苦手なんや〜〜!」

 

直線しか来ないソーイーターに余り当たらず、海を荒らすばかりだ。

 

「ああもう!」

 

「レッレンヤ君⁉︎」

 

俺ははやての後ろか手を回し、両手を掴みシュベルトクロイツを握る。

 

「俺が合わせてやる、集中しろ」

 

「うっうん///」

 

はやてから流れてくる魔力を安定させる。

 

「狙いはつける、後は放つだけだ」

 

「うん!」

 

大口を開けて迫って来るソーイーター。はやては落ち着いて魔力を溜めて……

 

「フレースヴェルグ!」

 

大量に放たれた魔力弾は寸分違わずソーイーターに命中して、炸裂光と共にソーイーターは消えた行った。

 

「ふう……」

 

「やっやった……」

 

『グリードの反応消失を確認。皆、お疲れ様』

 

「初めてにしては上出来だ」

 

「久しぶりで緊張しちゃったよ〜」

 

「ふふ、お疲れ様。フェイトちゃん」

 

グリードの消失を確認して、一息をつく。

 

「その……ごめんな。ちゃんと出来なくて」

 

「誰でも苦手なものはあるし失敗もある。気にすることはない」

 

「ううん、今回のことでハッキリ分かった。魔力コントロールをこのままにするのはあかんってことを。レンヤ君、帰ったら付き合ってくれへん?」

 

「ああ、もちろん」

 

断る理由もないので、二つ返事で返す。

 

「ほんま、ありがとうなぁ!……………もう少し狼狽えてもええやん」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもあらへん!」

 

いきなり不機嫌になったなぁ、何で?

 

「はやてちゃん!私も手伝うよ!」

 

「私も姉さんに相談してみるよ、姉さんが1番魔力コントロールが上手いから」

 

「おお!ありがとうなぁ、すずかちゃん、フェイトちゃん!」

 

すずかとフェイトにも手伝ってもらう事になり、はやては嬉しそうだ。

 

それからツァリのいる船まで戻り、港に向かった。

 

「うーーん!最初の実習がここまで大変だなんて思ってもいなかったよ〜」

 

「これでもまだいい方だよ、酷い時には今のが何体もいたり、あれ以上のが出ることもあるからね」

 

「ちょっと手こずったけどな。まあ、俺はあいつが出なければいいけど」

 

「あいつ?何なのそれ?」

 

フェイトはあいつについて気になるようだ。

 

「識別名、二尾の神(ニビノカミ)。狼型の全身に目玉の模様がある二尾のグリムグリード、こいつには2度と会いたくないな」

 

「全身に目玉の模様……」

 

「何で会いたくないんや?」

 

「あれはねーー」

 

すずかが説明しようとしたら、船が大きく揺れて停止した。

 

「きゃっ!」

 

「な、なに⁉︎」

 

「あー、すまん。燃料切れた」

 

「なんやて!」

 

まあ、あれだけブッ飛ばせばそうなるか。

 

「ツァリ、お願いできるか?」

 

「了解」

 

すぐに救援を呼び、1時間くらいで着くようだ。

 

「ボルトだよ!」

 

「ならば1を出そう」

 

「ここでフォースや!」

 

「ごめんねはやて、ミラーを出すよ」

 

「な、なんやてーー!」

 

その間、ブレード大会をやっていた。

 

「レンヤ君、今回の事件はどう思う?……5」

 

「いつも通り……と思いたんだけど……6」

 

「ここ数ヶ月の間に異界の出現頻度が上がって来ている。何か別の力が働いていると思うの………ミラー」

 

「あの報告例が出ない限り、何とも言えないのが現状だ………ミラー返し」

 

「冥災前に起きた事件、そうだね………6。クリア、仕切り直しだよ」

 

カード動かしながら、今後について話し合っている。

 

山札から引いたのは俺が3で、すずかが7。

 

「もし起きるとしても対策はしたいし、一度事件現場に向かうのもいいかもな……5」

 

「事件現場、東亰の杜宮市だったね……2」

 

「ああ、しかし、休みに行くとなると夏季休暇だが、レルムの夏季休暇は1週間だからな。早く終わらせないと遊ぶ時間が無くなっちまう……4」

 

「調査はアリシアちゃんの霊感頼りだから、案外すぐに終わるかもよ……5」

 

「だといいが。神話級、か………フォース」

 

「ま、負けました……」

 

それから他の皆とブレードで盛り上がり、その後救援が来てから港に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、アルトセイムから戻ってきたテオ教官と合流してルキュウに向かうレールウェイに乗った。

 

テオ教官はさすがに疲れたのか、早々眠りについた。

 

「ま、また寝ている……」

 

「今日1日レールウェイでの移動ばっかりだったらしいからね」

 

「大変だっだのな」

 

「どうやらB班方が散々だったらしいからな」

 

「あちらをフォローしつつ、1日でこっちに戻ってきたら疲れるのもしゃあないなぁ」

 

「お疲れ様だったみたいだね」

 

「いつも飄々としているからそんな風には見えないけど……」

 

「一応は、私達のことを気にかけているようだな」

 

テオ教官のことを心配しつつ、俺は話しを切り出す。

 

「初めての特別実習……何を目的としているかは、もうある程度分かっているよな?」

 

「うん。やっぱり異界に関することはあくまで目的の1つ。私達に色々な経験を積ませるのが目的なんだと思う」

 

「知識でしか知らなかったミッドチルダ各地や住んでいる人達………それに今回みたいな問題について体験させるつもりじゃないかな?」

 

「そうやな、その上で主体的に突発的な状況に対処する……そういった心構えが必要な気もするなぁ」

 

「うむ、そして状況を解決できる判断力や決断力。そういったものを養わせようとしているのかもしれない」

 

「ふふ、そうだよ。情報や言葉だけでは分からないこともある、現地でしか分からない情報はとても貴重。そして、いざ問題が起こった時に、命令がなくても動ける判断力と決断力、問題解決能力……どれも異界に対処するためには必要なことだよ」

 

皆の答えに、すずかが正解を答える。

 

「異界に対処する時は少数精鋭、どうしても必要になる要素だ。だからこの特別実習は非常に効率の良いカリキュラムなんだ」

 

「はやてちゃんもしっかり受けてよね、絶対に部隊を作る時に必要になるから」

 

「うん!ありがとうなぁ、レンヤ君、すずかちゃん!」

 

(あれま、全部言われちまったよ)

 

テオは自分の出番がなくなり、どうしようか考えた。

 

(それにしても……今回の情報だとグリムグリード級は確認されなかった。どこかで情報が操作されたか……今日、放たれたか……)

 

テオは現れたグリードについて疑問をかんじていた

 

(……どうやら何かが動き出しているな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達が乗っているレールウェイを通り過ぎるのを、線路から少し離れた丘から見ている水色の髪をした少女がいた。

 

少女はレンヤの顔を一瞬だけ瞳に映り、ポツリと語り出す。

 

「………蓮の花は

太陽に壮麗さを怖じおそれ、

うなだれて 夢みながら

夜を待つ。

 

花の恋人の月は

その光をもて花をめざます、

すると花はやさしく 月のために

そのつつましい顔からヴェールをあげる。

 

花は咲き 燃え かがやき

黙って空を見つめる、

そして匂い 泣き 震える、

愛と愛の悲しみのために……」

 

少女は悟るように、言葉を紡ぎ出す。

 

「あなたは蓮でありながら月を見ず、太陽を身に宿している。空に憧れ、愛を知らぬ蓮よ、あなたはどこに流れるの?」

 

「ーーまたお嬢の語り部っスか?」

 

その時少女の後ろから、濃いピンク色の髪を後ろで纏めている少女が話しかけてきた。

 

「今回の観察任務は終了っス。あと1年ちょいすれば活動を開始する見込みみたいっス」

 

「そう……」

 

少女は短く返事をして、右腕を上げて……

 

ピイイィィィ……

 

隼を止まらせる。

 

「流れゆく先は激流。果たして耐えられるでしょうか?」

 

少女の問いに、隼が短く鳴いた。

 

 



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66話

5月下旬ーー

 

桜が完全に散り、新緑薫る風がルキュウの街を吹き抜ける季節……特別実習を終えた俺達は再び、忙しい学院生活に追われていた。 魔法訓練、武術訓練に加え、一般授業や専門学も本格化する中……今年から始まった科目、異界学も始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーここ数年で明らかにされてきた異界。霧の魔女事件以降、私達は初めて認知することができました」

 

教卓の前で喋っているのはモコ・オースター。異界について研究している女性だ、何度か面識もある。

 

「異界は現実世界と接触するために(ゲート)を発生させます。この現象のことを異界化(イクリプス)といい異界のほとんどは迷宮の形をとり、何らかのきっかけで特異点と呼ばれる因子となった人や物を起点として発生されます。異界に入るためのゲートを目視できるのには個人差があり、大抵の人は見えませんけど異界に入ることができれば目視できるかもしれません。そして異界には住む住人、怪異(グリード)。グリードは未だなぜ存在し、人を襲うのかは明らかにされていません。ただ、最近の調査によってミッドチルダの過去に起きた災害の半数はグリードが関わっているとのことです。そして主な事件を起こす異界のリーダー的グリードが存在します」

 

どれも知っているが、改めて知る事も大事であり聞き逃さずノートにペンを走らせる。しかしいかに魔法文化が優れていてもペンとノートは必要なんだな。

 

モコ先生は誰かを指名しようと教室を見渡している。

 

「それでは高町 なのはさん。分かりますか?」

 

「は、はいっ!エルダーグリードです」

 

なのはは立ち上がり、迷う事なく答えた。

 

「正解です。エルダーグリードが事件を起こす主な原因です、しかし何の目的で事件を起こし人々を襲うのかは分かりません。犯行方法も様々で対処が苦労する原因の1つです、さらにここ数ヶ月で単体の……」

 

(正解してよかった)

 

授業が続く中、なのはは正解か不安だったのか一安心する。

 

(大丈夫か、なのは?)

 

(うん、レン君達に教えてもらってなかったら危なかったよ。ありがとうレン君)

 

(どういたしまして、お互いに頑張ろうな)

 

(うん!)

 

それから真面目に授業を受けて、午後から男女別のI組と合同で授業をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子、栄養学・調理技術ーー

 

「あれが管理局のエース達、なぜあんなクラスに……せっかくご一緒できるのを楽しみにしてたのに」

 

「あのカチューシャの子と金の短髪の子、入学主席と次席だったっけ?」

 

「地球出身の方は全員優秀なのでしょうか?」

 

「それにしても茶髪の子の手さばきは何なの? 鮮やかすぎです」

 

声を下げずに言いたい放題である。

 

「ーー皆。そのくらいにしておきなさい。私達は誇り高きI組。料理ごときとはいえ、あのような寄せ集めのクラスに負けるわけにはいかないよ」

 

「す、すみません。エステートさん」

 

「けど、あまり料理はやった事なくて……」

 

なのは達は聞こえてくる声に、気分があまりよくなかった。

 

「……まったく。ヒソヒソ感じが悪いわね」

 

「私達のことが気になって仕方ないんだと思うよ」

 

「ちょっと気恥ずかしいね」

 

「うわっ!手が滑った!」

 

「姉さん、落ち着いて!」

 

「やりづらいったらありゃせんなぁ。ほい、三枚おろしや」

 

『おお!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男子、CP端末入門ーー

 

教員は教える事だけ教えて、一服していた。

 

「このやろ〜このやろ〜、俺に恨みがあるのか〜」

 

レンヤは操作なんてとうの昔にマスターしており、教員が見ていないのでメモリを指して資料を作成、そして日頃の鬱憤を効率よくぶつけていた。

 

「うわぁ、レンヤうつの早いね」

 

「どうやるか皆目見当もつかなかったが、何とかなるものだ」

 

「そうだね、2人もすぐに操作を覚えたみたいだし」

 

「ああ、リヴァンとシェルティスは優秀だからな。シェルティスはともかくリヴァンは前から興味があったらしいからな。まあ、今のご時世触らないほうが珍しいがな」

 

レンヤは喋りながらも手を休めずキーボードを打つ。

 

「なのはから聞いたが、先月のB班の実習は相当酷かったらしいな」

 

「危うく殴り合いになる所だったようだ、テオ教官が来なかったらどうなっていた事か」

 

「アリサでも止められないなんて。どうしたもんだろうね」

 

「いい加減、俺達にも何か出来ればいいだけど……」

 

「ーー神崎 蓮也」

 

その時、横から高慢そうな声が聞こえてきた。

 

「……?」

 

「え……」

 

横を向いてみると、金髪でI組の生徒が立っていた。

 

「確かI組のランディ……だったか?」

 

レンヤは手を止めて、

 

「ああ、その通りだが1つ補足しておきたいな。僕のフルネームはランディ・ジムニーシエラ。そう言えば判るかな?」

 

「ジムニーシエラって……」

 

「有名な家柄なのか?」

 

「ベルカに残る古い家系の1つだ、それで俺に何か用か?」

 

レンヤは下らない事だと思い、またキーボードを打ちはじめる。

 

「神崎……いやゼーゲブレヒト様。ご一緒に学生会館の3階に来て頂けますか?」

 

「それはーー」

 

キーボードを打つ手を止める、学生会館3階は1年から3年生のI組、II組の限られた生徒だけが使える交流の場。いわゆるサロンだ。

 

「あなたが来てくれればみなも喜ぶ。聖王であるあなたなら許可など取る必要もないでしょう、従者の女性達もご一緒しても構いません」

 

(困ったな……またこの手の話しか)

 

以前から何度も呼ばれているが、管理局で忙しいという名目で断っていた。

 

(明らかに媚を売ろうとしているな、俺にそんな権限ないし。よくて管理局の三佐として……いや執務官の権限があったか)

 

「やれやれ……こんな場所で勧誘とはな」

 

後ろからシェルティスが話しかけてきた。

 

「シェルティス……」

 

「シェルティス・フィルス……!」

 

「あんまり感心しないな、このような学業を行う場での勧誘は。家柄の底が知れるぞ」

 

「貴様……!舐めた口を……!貴様ごときすぐにでも……」

 

「そこまでだ、この学院では権力を振りかざし他人を害する事は優秀な魔導師の芽を刈り取る行為でありーーこれを破った者は厳罰に処する……分かっているはずだ」

 

レンヤはこの学院の校則を言い、ランディを抑える。

 

「くっ………仕方がない。それではこれで失礼します、いい返事を期待しています」

 

ランディはそれだけを言い残すと、自分に割り振られた端末に戻って行った。

 

「随分、賑やかな男だったな」

 

「ああ……どう断ろうか迷ったよ。ありがとうシェルティス、助かった」

 

「あいつの言い分が気に食わないだけだ」

 

シェルティスはそれだけを言い残し、戻って行った。

 

「シェルティスも結構優しいんだね」

 

「あそこまでハッキリ言える者はそうはいないだろう」

 

「どちらにせよ、助かった」

 

レンヤはホッと一息つく。

 

「………………………」

 

それを耳を立ててリヴァンが静かに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

H・Rーー

 

今日1日の授業も終わり、明日は自由行動日だ。

 

「今日のお勤めごくろーさん。明日は自由行動日だ、各自自由にするといいが、来週の水曜日には実技テストがあるからな」

 

「はあ……そろそろかとは思っていましたけど」

 

「次の特別実習についての発表もあるんですか?」

 

アリサが溜息をつき、なのはが特別実習について質問する。

 

「ああ、来週末にはまた実習先に行ってもらう、楽しみにしてろよ」

 

「ふう………」

 

「…………………」

 

リヴァンとシェルティスは前回の特別実習を思い出したのか、表情が悪い。

 

「楽しみだね〜」

 

「ふふ、アリシアちゃん。落ち着いて」

 

「それと来月の半ばから……各種、高等教育授業の中間試験って言うものがあるから」

 

中間試験……学生である以上避けては通れない門の一つ。

 

「そ、それもあったっけ……」

 

「中間試験……嫌な響きや」

 

「日々の学習の成果が試されるというわけか」

 

どこの世界も試験の思い入れは様々らしい。

 

「ま、大変だとは思うけどせいぜい学業も頑張れ。俺がフィエスタ教頭に嫌味言われない程度にな」

 

「そっちですか……」

 

「その、分からない所を教えたりは……?」

 

「あー、無理無理。そっちは専門外だから。HRは以上。リヴァン、挨拶」

 

「はい。起立……礼」

 

テオ教官は逃げるようにHRを終わらせて、サッサと教室から出て行った。

 

本当に何で教官をやっているか疑問に思う。

 

なのは、フェイト、アリシア、すずかは部活があるそうで挨拶したらすぐに部活に向かった。

 

「あはは、それじゃあ先に行くね、レンヤ」

 

「先に行くぞ」

 

「2人共、部活か?」

 

「うん、でもよかったら晩ご飯は一緒に食べない?」

 

「はやての料理も美味だが、たまには街のカフェはどうかと思う」

 

「そうだな……帰ったら寮の玄関で待ち合わせるか。はやてには俺が伝えとくよ」

 

「うんっ!」

 

「また後でな」

 

2人は部活に向かうため、教室を出て行った。

 

「レンヤ」

 

「ああ、アリサ。 そっちも今から部活か?」

 

「違うわ、今日は活動日じゃないのよ。 で、レンヤは明日もフィアット会長の手伝いをするの?」

 

「そうだなぁ、早朝から異界対策課に行かないといけないからな。今月は断るよ」

 

「そう、なら私が受けるわ。レンヤは気にせずに行きなさい」

 

「いいのか?」

 

「会長には毎回よくしてもらっているから無下にはできないわ。 こっちは私に任せなさい」

 

「了解、ありがとうアリサ」

 

アリサは手を振りながら、教室を出て行った。

 

「さてと、俺も……」

 

教室を出ようと席を立つと……

 

「レ〜ン〜ヤ〜く〜ん〜?」

 

「ぎゃあ! はやて⁉︎」

 

後ろからはやてが抱きついてきた。

 

「さっきの話し聞いたで〜〜私、いらん子なんやな……」

 

わざとらしく涙ぐむはやて。

 

「いや話し聞いていたんなら分かるだろう……!」

 

「ああー、これが家で1人冷めた料理と共に愛する夫を待つ家内の気持ち……」

 

「ちゃんと連絡するし、家じゃなくて寮だろう!」

 

「あはは!分かっとるって、それじゃあまたなぁ!」

 

はやては俺から離れると、駆け足で出て行った。

 

「全く……」

 

気づけば教室には俺1人だったので、荷物をまとめて教室を出て、寮に向かった。

 

「ーーよう、後輩君」

 

正門を出たあたりで、後ろから声を掛けられて振り返ってみると、灰色の髪の二年生……先月50コインを掻っ攫っていった先輩がいた。

 

「……もう賭けには付き合いませんよ?」

 

「ハハ、別に騙し取るつもりじゃなかったんだがな。そうそう。あれ、どうやったか判ったか?」

 

どうやった……コインが消えた手品の種か。

 

「別に50コインくらい、すぐに返してもいいんだが。それを答えてからの方が納得できるんじゃねーか?」

 

「そうですね……」

 

俺は先月のコイントスを思い出した。

 

(あのトリックには何かのコツがあるはずだ。おそらく決め手になるのはーーバックは下に置かれてなかったし、あの時確か両腕を上げてから前に出したし、多分……)

 

「ーー投げたコインをどちらかの手で掴み、両腕を上げて掴んだコインを袖の中に入れたんじゃないですか?」

 

考えを言ったら、先輩は驚いた顔をする。

 

「フフ……やるねぇ。答えるのも早かったし、ちょっと驚いたぜ」

 

「それじゃあ……」

 

「ああ、正解だ。約束通り50コインはきっちり返してやるよーー」

 

先輩はポケットを探ると、バツの悪そうな顔した。

 

「……悪ぃ。10コインしかねーわ」

 

「はあ……まあいいですよ。50コインぐらい大した額じゃありませんし」

 

「お、そうか?だったらありがたくーー」

 

「ーーいけませんよ。か弱い後輩に厚かましくたかるものではありません」

 

その時後ろから女性の声が聞こえてきた。

 

「おっと。現れやがったな」

 

「え……」

 

こちらに近づいてくるのは、長い赤髪の一科生の先輩だった。

 

「レンヤ君ですね。フィアットとグロリアから君のことは色々聞いています。先月の特別実習でも見事、事件を解決したそうで」

 

「そうですか……神崎 蓮也です。よろしくお願いします、先輩」

 

「はい。私はエテルナ。エテルナ・レグナムです。よろしくお願いします、レンヤ君」

 

「!、レグナム……今も残る古代ベルカからの古い騎士の一族の……」

 

「ふふ、さすがに知っていましたか。いつか、あなた様に仕えることがある時は、どうぞよしなに」

 

「いえ!もう従者は間に合っていますので……!」

 

「相変わらずかったいなーお前は。少しは肩の力を抜けよ、これから中心地区に行くのか?」

 

「ええ、これから稽古です、クー。あなたはもっと後輩に模倣になるような行動を心がけてください」

 

「なら俺がしっかりすれば、お前少しは羽を外すか?」

 

「それとこれとは別です。それではこれで失礼します、いずれわたくしから依頼を出しますから、ぜひに応じてもらえると嬉しいです」

 

エテルナ先輩は一礼をして、街に向かった。おそらく駅に行くのだろう。

 

「全く、少しは自分に甘くなれってんだ」

 

「あはは、俺はよく判りますよ。ああいうの、自分に甘くできないことが」

 

「それは難儀だな」

 

「そういえば、フィアット会長やグロリア部長と親しいんですか?エテルナ先輩も2人から話しを聞いたと言っていましたけど……」

 

「ま、全員クラスは違うが1年の時からの縁でな。っと……そういや言い忘れてたか。2年V組所属、クー・ハイゼットだ。よろしくな、レンヤ後輩。そんじゃお先に〜」

 

先輩……クー先輩は名乗るとサッサと行ってしまった。

 

「エテルナ先輩にクー先輩か……フィアット会長やグロリア部長も大した人だったし……ここの2年はやっぱり大物揃いみたいだ」

 

その後俺は川まで行き、何匹か釣った後。寮の前でツァリとユエと合流して、駅前のカフェで夕食を食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

5月23日、日曜日。

 

俺は早朝からミッドチルダ中心地区に向かい、本局と地上に異界の被害報告を行い、それから会議に出席して。終わったのは昼過ぎだった。

 

「はあ、子どもが……学生がやる事じゃないぞこれ……」

 

「お疲れ様、レンヤ君」

 

異界対策課に戻り、ソファーに寝転んでた所をすずかがお茶を用意してくれた。

 

今、異界対策課には俺とすずかしかいない。

 

「サンキューすずか」

 

お茶で喉を潤し、一息つく。

 

「次の特別実習はどこに行くんだろうね?」

 

「ミッドチルダのどこかなのは確かだけど、もしかしたらここかもな」

 

俺は机を指で叩いて、場所を示す。

 

「ミッドチルダ中心地区って事?ありえなくは無いけど、1班だけだど広すぎるし……東西半分に分けるのかな?」

 

「ま、あくまで可能性だ。それに依頼の多い場所が選ばれる可能性が高いな」

 

ディスプレイを開き、依頼が多い場所を調べる。

 

「ふむふむ、東と西か……まあ、ありえなくはないな」

 

「レンヤ君、後これを」

 

すずかが渡してきたのは、確認されているグリードの種類と特徴が書かれた資料だ。

 

「ここ最近、ニビノカミに似た様なグリードが増えてきているね。実力はグリムグリードには劣るけど、どれも厄介な能力を有している」

 

「どいつもこいつも対応のし難い能力だな、大抵のグリードは力でごり押ししているから楽だったけど……どうもおかしいな」

 

「ーーおかしいって何が?」

 

「たっだいまー!」

 

「おかえり、アリシアちゃん、ルーテシアちゃん、ガリュー」

 

依頼を終わらせたアリシアとルーテシア、ガリューが戻ってきた。

 

「お疲れ、依頼は終わったのか?」

 

「問題なく終わったよ、ああー疲れた〜」

 

「あれから1年異界対策課にいますけど、未だに慣れませんね」

 

「ふふ、ルーテシアちゃんは早い方だよ。私達も結構時間がかかったし」

 

「え、そうなんですか!なんか嬉しいです」

 

「それでレンヤ、さっきの話しなんだけど……」

 

「ああ、そうだな」

 

さっき言いかけた事を話す。

 

「最近確認されているグリードには共通点があってな。さっき言った通り単体で顕現して実力はエルダーグリード並みで特殊な能力を持っている」

 

「それのどこがおかしいの?」

 

「最後に突発的に出現するんだ、なんの前触れもなく、目的もなく」

 

「それは……おかしいですね。どんなグリードでもちゃんと目的があって行動しています、何もないなんておかしいです!」

 

「確かに、前回のソーイーターもただ目に捉えた物を襲っている様にしか見えなかったし……」

 

「………………………」

 

アリシアが黙って顎に手を当てて、俯きながら考えている。

 

「アリシアちゃん、どうしたの?」

 

「え…………なんでもないよ!」

 

そう言うが、アリシアの顔は暗いままだ。

 

「アリシアさん……」

 

「………アリシア、原因が判ったんだな?」

 

アリシアは身体を一瞬、大きく震わせる。

 

「共通点があるグリード、突発的に出現して目的がない、エルダーグリード級で特殊能力を持つ………これらが合わさり導き出される答えはーー」

 

そこで一旦止めて、息を整えから言う。

 

「ーー第三者……何者がグリードに手を加えて、実験の名目で野に放つ」

 

アリシアは顔を俯き、すずかは目を閉じ、ルーテシアは驚きで言葉が出ない。

 

「な、なんでそんな事を!」

 

「いずれそんな事が起こると思っていた。ハンティングの事件がいい例、異界の利用と……兵器化」

 

すずかが辛そうに言う。

 

「次元犯罪者が異界に手を出すことは予想していた、HOUNDの様に実用化も難しいことじゃない。そして、グリードの改造ができそうな次元犯罪者はーー」

 

ディスプレイを展開して、ある1人の男性を映し出す。

 

「ーー広域指名手配犯、ジェイル・スカリエッティ。こいつだ」

 

「ッ……!」

 

アリシアは顔を背けて、ジェイル・スカリエッティを見ない様にする。

 

「アリシアさん?どうかしたんですか?」

 

「ルーテシア、そっとしておいてやれ」

 

(ポンポン)

 

ルーテシアの肩に乗っていたガリューが抑える。

 

「……とは言え判った所でどうしようもないし、各部隊に注意を呼びかけるしかできない状況だ」

 

「そう……だね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日が落ちる手前まで働き、ルーテシアを帰してからレールウェイに乗っていた。

 

「………………………」

 

「アリシア、ジェイル・スカリエッティがそんなに憎いか?」

 

すずかは俺の肩に寄り添って寝てしまい。ボックス席の正面にいる暗い顔のアリシアに話しかけた。

 

「そう、じゃないよ。フェイトは私の大切な妹……それは絶対に誰にも否定させない。でもやっぱり、複雑かな?」

 

アリシアは自分でも判らないように苦笑いをする。

 

「ジェイル・スカリエッティがプロジェクトFの基礎を作って、それをお母さんが引き継いで完成させた。ジェイル・スカリエッティがいなかったらフェイトとエリオもいない、でもいたらいたらでただの犯罪者。だからいつか私の手でジェイル・スカリエッティを捕まえる、それが私の使命なんだと思うから」

 

自分の妹を守る姉、アリシアの瞳は決意で揺らがない目をしている。

 

「あんまり1人で背負い込むなよ、俺達を頼れ。じゃないとなのはみたいになるぞ」

 

「もちろん!きっちり手伝ってもらうからね!」

 

「ああ、でも俺はジェイル・スカリエッティに少し感謝しなくちゃいけないかな?」

 

「え、なんで?」

 

「フェイトとエリオに出会えることができたからさ」

 

アリシアは一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔になる。

 

「そうだね、私もレンヤ達と出会えたことに感謝しなくちゃ!」

 

俺達は笑い合い、それからルキュウに到着して。すずかを起こし寮に向かった。

 

 



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67話

 

 

3日後ーー

 

鐘楼が鳴り響く中、VII組のメンバーは実技テストを受けるためテオ教官と共にドームにいた。

 

「さて、お楽しみの実技テストの時間だ。説明は不要と思うからサッサと行うぞ」

 

指を鳴らし、テオ教官の隣に青紫色のベルカ式の魔法陣が展開され機械兵器を召喚した。

 

「出たわね」

 

「相変わらず普通のガジェットとは違う感じがするよ」

 

すずかが機械兵器をジッと観察するような目で見る。

 

「………先月と形が異なっていますね」

 

「あ、確かに」

 

前回と違って腕が付いていた。

 

「色々といじるとこんな風に変えられるみたいなんだよな〜。仕組みの方はさっぱりだが」

 

「そんな大雑把な……」

 

「あ、あはは……」

 

呆れたのかなのはが苦笑いする。

 

テオ教官は少し真面目な雰囲気になる。

 

「始めるぞ。レンヤ、アリサ、なのは、ユエ、前へ!」

 

「先鋒か」

 

「ふふ、頑張らなくちゃ」

 

「皆、気をつけてね!」

 

「油断せず行こうか」

 

4人は前に出て、デバイスを起動しバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「頑張れ〜、レンヤ達!」

 

「「…………………」」

 

リヴァンとシェルティスが無言の視線が嫌に気になるが、まずは目の前のことからだ。

 

「準備はいいなーーーー始め!」

 

テオ教官の合図ですずかが機械兵器に向かって飛び出した。

 

「ファーストギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

キイイィィィッ!

 

「やあっ!」

 

甲高い音を立ててギアを回し魔力を上げる勢いを利用して、一瞬で頭、胴、足に突きを入れた。

 

「はああああっ!」

 

ユエが止まった瞬間を狙って、高密度の茜色の剄を右手をに集め、胴に叩き込む。

 

「何っ⁉︎」

 

「おお……」

 

機械兵器は左手で受け止めて、そのまま右手を広げて、魔力刃を出して薙ぎ払ってきた。

 

「させるか!」

 

《アバートレイ》

 

刀で魔力刃を上に逸らし、攻撃を外させた。

 

「せい!……ユエの一撃を止めるなんて、難易度上げ過ぎだろ」

 

「でも、その方が燃えるよ!」

 

胴に回し蹴りを入れて離れさせると、なのはが周りに桜色のスフィアを浮かべていた。

 

「ディバインーー」

 

ガシャン!

 

「ーーシューター!」

 

カートリッジをロードし、スフィアから魔力弾を軌道を変えながら撃つ。

 

バシュッ!バシュッ!

 

AMFを展開しているのか、当たる瞬間かき消されてしまう。

 

そのままなのはに狙いを付けて、両腕を構えて接近する。

 

「なのは!」

 

「大丈夫!」

 

なのははレイジングハートを棍の様に振り回し、攻撃を受け流し隙をぬって避けたりする。

 

俺は間に割り込み、機械兵器からなのはを離させる。

 

「近接戦闘の対処の仕方、前より上手くなったな!」

 

「はやてちゃんも頑張っているんだもん、私も苦手をそのままにしておかないの!」

 

なのはは懐に入られたらどうしても対処が遅れることがあった。どうやらはやて同様に克服してきているみたいだ。

 

「俺も負けていられないな!」

 

蒼いミッドチルダ式の魔法陣を展開して、幾つもの魔力刃を出して機械兵器に放つ。

 

「レン君!AMFが……!」

 

「なのはちゃん、静かに」

 

驚くなのはをすずかがなだめて、魔力刃が当たる瞬間……

 

蒼刃斬雨(そうじんざんう)!」

 

魔力刃と全く同じ太刀筋を通り、機械兵器を一瞬で何度も突く。

 

「ユエ!」

 

「任せろ!」

 

ユエが剄を膨れ上がらせて、ユエが何人も現れた。

 

活剄衝剄混合変化・千人衝

 

実際には千人なんていないが、残像から実体のある幻影を生み出す技。

 

アリシアのデュアルマリオネットより細かい操作はできないが、殴る蹴るぐらいはできる。

 

ガガガガガガガガガッ!

 

分身達がマシンガンのような音を立てながら一撃離脱で攻撃し、着実にダメージを与える。

 

「すずか!」

 

《セカンドギア……ドライブ》

 

「はあああっ!」

 

ギャッリイイイィィィィッ‼︎

 

歯車が噛み合わさり、すずかはスノーホワイトを下段で構え刃に氷を纏わせる。

 

氷槍穿(ひょうそうせん)!」

 

渾身の一撃が機械兵器を貫き、貫いた部分から電気がスパークする。

 

「えい」

 

突き刺さったまま機械兵器を持ち上げて、地面に叩きつけたら機械兵器は消えたしまった。

 

「なかなかいい感じだ。ちゃんと連携もできているし状況にも対応している。文句なしだ」

 

「はは……ありがとうございます」

 

「とてもやり易かった」

 

「うん、後もう一戦くらいは行けそうです……!」

 

「にゃははは……さすがに勘弁して欲しいかな〜……」

 

各自の感想ももちろんの事、いい感じだったと思う。

 

「さあ次だ。リヴァン、シェルティス、ツァリ!それとフェイトにアリシアにアリサにはやて、前へ!」

 

テオ教官の言葉にフェイト達は驚く。

 

「残りはまとめて⁉︎」

 

「そ、それもそうだけど……」

 

フェイトの視線がリヴァンとシェルティスに向けられる。

 

「くっ………とっとと終わらせるぞ!」

 

「………言われるまでもない」

 

「ううっ……嫌な予感がする……」

 

「やめなさい!2人共!」

 

「これは大変やなぁ……」

 

7人は前に出て、テオ教官に出された新しい機械兵器の対する。

 

デバイスを起動して、バリアジャケットを纏い武器を構える。

 

「準備はいいな?ーーー始め!」

 

テオ教官の合図で7人の実技テストが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んーー、まあ予想通りかな?

 

前回の実習を経て、関係の修復どころかさらに溝を深めてしまったリヴァンとシェルティス。

 

その二人が同じチームになって行われた実技テストが、散々なものになるであろうことは。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「……レンヤより多いのに……」

 

「仕方ない、かな?」

 

「はあ……」

 

「つ、疲れた〜」

 

リヴァンとシェルティス、それにツァリとフェイトとアリシアとアリサとはやて。

 

前回と同じく機械兵器を用いて行われた実技テストは、結果だけ見れば何とか倒すことはできた。

 

ただしそれは、アリシアの撹乱とツァリの指示、フェイトとアリサの前衛攻撃、はやての後方砲撃によるもので両名は有体に言って役立たずだった。お世辞にも、試験として合格であったとは言い難い。

 

「うーん、分かっていたけど、これは酷過ぎるなぁ。自覚あるなら反省しろよ」

 

「………くっ………」

 

「……………………」

 

確信犯だがテオ教官の言う通りだ。

 

納得がいかない様子の二人であったが、流石に教官に盾突くほどに頭に血は登っていない。最後に互いに鋭い眼光を交し合いながら、デバイスをしまった。

 

『何時になく厳しいな……』

 

『……今回ばかりは仕方ないよ』

 

『でも、どうにかしないと』

 

「ーー今回の実技テストは以上。続けて今週末に行う特別実習の発表をする」

 

テオ教官に配られた、特別実習の班分けが書かれた用紙を見る。

 

 

【5月特別実習】

 

A班:レンヤ、アリサ、アリシア、リヴァン、シェルティス、なのは

(実習地:ミッドチルダ西部・エルセア地方)

 

B班:すずか、はやて、ツァリ、フェイト、ユエ

(実習地:ミッドチルダ東部・カントル地方)

 

 

何でやねん、っとはやてみたいにツッコみたいのはやまやまであった。

 

「これは……」

 

「エルセアとカントル……どちらもよく聞く名前だな」

 

「またレールウェイの移動かいな」

 

「またミッドチルダを中心とした反対側だね」

 

「そう言う意味では釣り合いが取れるはずだけど……」

 

「うん……けど……」

 

「絶対にそれ以前の問題!」

 

すずか、フェイト、アリシアは班分けのことを言っている。それに……

 

「ーー冗談じゃない!」

 

この2人が黙っていない。

 

「テオ教官!いい加減にしてください!何か気に喰わないことでもあるんですか⁉︎」

 

「茶番ですね。班分けの再検討をしてもらいます」

 

あまり感情を露わにしないシェルティスも不満を言う。

 

「うーん、俺としてはこれがベストなんだけど……俺は堅苦しい軍人でもないし命令が絶対なんて言わない。ただ、VII組の担任としてお前達を適切に導く義務がある。それに異議があるなら構わない」

 

テオ教官はいい顔をして言い放つ。

 

「「「「「っ……」」」」」

 

「「「!」」」

 

俺、アリサ、すずか、アリシア、ユエはデバイスに手を伸ばし。なのは、フェイト、はやては体を強張らせる。

 

武人としての鍛錬と、戦いで培われた危機察知能力………直感とも呼べるべきそれが、その笑顔の裏の脅威を察したのだ。

 

「ーー2人がかりでもいいから力づくで言い聞かせるか?」

 

表情は変わらずに笑顔。しかし最後の言葉に圧し掛かったのは、紛れもない強者の重圧感。

 

今度はツァリにも充分理解できた。威圧という方法で以て心臓を鷲掴みにされそうになる感覚。だが、俺達異界対策課なら分かる。これはまだ、テオ教官にとって序の口の闘気であるという事を。

 

『って言うかこれってあれだよね。武力行使♡………ってやつ』

 

『そんな可愛らしいもんじゃねえし、どちらかと言うと教育的指導だ』

 

『どっちもダメだよ!』

 

『でもあれ絶対自分も楽しもうとしてるわよ』

 

『テオ教官、威圧してるようみせかけてちゃっかり挑発してんなぁ』

 

『あざといね』

 

『フェイトちゃん!あざとい言っちゃダメだよ!』

 

しかし2人はまんまと引っかかり、テオ教官の前に立つ。

 

「2人共、ダメだよ……!」

 

ツァリが止めようとするも、引き下がれないようだ。

 

「クク、さすがに男なら引き下がれないか。そう言うのは結構好きだぜーー」

 

テオ教官はデバイスを起動させ、武器だけを出した。

 

「⁉︎」

 

「な……!」

 

全員、初めて見るテオ教官の獲物に驚く。

 

テオ教官の身長を優に超える大剣を片手で持っている。刃は実体があり、刀身に薄く青紫色の魔力光が見える。

 

「大剣⁉︎」

 

「凄いね、あんなに軽々と」

 

「チッ……」

 

「面白い」

 

大剣に驚く中、リヴァンとシェルティスはデバイスを起動して、武器を構える。

 

「乗ってきたなーーレンヤ。ついでにお前も入れ!まとめて相手してやる!」

 

「え⁉︎……は、はいっ!」

 

訳の分からぬまま、前に出てデバイス起動する。

 

「あらら」

 

「ご愁傷様や」

 

アリシとはやては同情するようにつぶやく。

 

テオ教官から鋭い青紫色の魔力光が発せられる。

 

「ごくっ……」

 

「なんて鋭い魔力」

 

テオ教官の実力は今まで分からなかったが、相当な実力者だ。

 

「それじゃあ実技テストの補習と行こうか……」

 

テオ教官は大剣を構えーー

 

「レルム魔導学院・戦術教官、テオ・ネストリウス・オーヴァーー参る!」

 

名乗り出て、気迫と魔力が放出された。

 

「ぐうっ……」

 

「っ……!ぜあ!」

 

「待て!1人で行くな!」

 

怯む中、シェルティスが飛び出し、テオ教官に斬りかかる。

 

「おお、やるねぇ」

 

「くっ……」

 

テオ教官はシェルティスの攻撃を大剣で難なく受け止める。

 

シェルティスは一撃の重さでは確実に負けると分かっており、素早く動いて一撃離脱でテオ教官を攻め続ける。

 

「パワーで負けると分かっていてスピード勝負か、悪くないが……」

 

大剣を大きく薙ぎ払い、シェルティスを吹き飛ばす。

 

「小手先だけじゃ、俺は倒せないぞ」

 

「くっ……」

 

「どけっ!」

 

リヴァンが鋼糸を針のように飛ばす。

 

「甘い甘い」

 

鋼糸を剣圧で吹き飛ばし、リヴァンに接近してくる。

 

「ほらどうする?」

 

「繰弦曲・薙蜘蛛!」

 

リヴァンは攻撃を鋼糸で絡め捕って軌道を変更させる。

 

「繰弦曲・崩落!」

 

吹き飛ばされた鋼糸を編んで網にしてテオ教官を閉じ込め、その鋼糸すべてから内向きに魔力を放つ。

 

「まだまだぁ!」

 

テオ教官の全身に青紫色の魔力を纏って攻撃を防いでいる。フィールドタイプの防御魔法か、なんて魔力密度だ。

 

「行くぜぇ!エルスラッシュ!」

 

リヴァンに向かって魔力斬撃を放ち、鋼糸を切り裂きながら迫ってくる。

 

「リヴァン!」

 

「レンヤ⁉︎」

 

《スプリットモード》

 

「はあっ!」

 

間に入り、斬撃を断ち切る。

 

「リヴァン、シェルティス、自分の思いを主張したいなら連携くらい妥協しろ!」

 

「っ……」

 

「…………はあ」

 

理解はしているが、感情が否定しているみたいだ。

 

「戦場で相談はお早めにな!」

 

「にゃろ!」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

刀身を強化して、テオ教官と鍔迫り合いをする。

 

「ぐう……!」

 

「うむ、やはりお前が今年の一年で1番強いな。基礎もとことんやっているようだ」

 

「そりゃどうも!」

 

魔力を炸裂させて距離を取り、レゾナンスアークに魔力を込める。

 

「桜花……気刃!」

 

魔力斬撃と実体の剣の二段攻撃で斬りかかる。テオ教官は受け止めるが……このまま押しきる!

 

「強烈だなぁ。だがそう簡単には負けねえっての!」

 

テオ教官は押しきろうとすると、後ろからリヴァンとシェルティスが攻撃をしてきた。

 

「水晶波!」

 

「繰弦曲・鎌糸!」

 

同士討ちを想定してか、遠距離の攻撃をする。

 

すると、テオ教官の魔力の感じが変わる。

 

「まずっ!」

 

飛び退こうとするが、刀がくっ付いたように離れなかった。

 

「フルカウンター」

 

「うわああっ!」

 

「ぐうっ⁉︎」

 

「っ……!」

 

次の瞬間、3人とも吹き飛ばされて。バインドで拘束された。

 

「くっ……倍返しで返された?」

 

「はあはあ……」

 

「……そんな……」

 

肩で息をして、負けたことを実感する。

 

「だ、大丈夫⁉︎」

 

「とんでもないわね」

 

「……あれでも一応、手加減したみたいだな」

 

「でもこれだけの実力者なのに、なんで名前を聞かないんだろう?」

 

「それにあの大剣、どこかで見た感じがあるやけど……」

 

「ベルカの騎士かな?近代ベルカ式だし」

 

「でも、これで……」

 

「決まりだね」

 

テオ教官はデバイスをしまい、バインドを解く。

 

「俺の勝ちだな。レンヤが本気出してたら俺も危なかったなぁ。それじゃあA班・B班共に週末は頑張ってこい。お土産、期待してるぞ」

 

また足掻ける気力は2人にはなく、しぶしぶ了承する。

 

そして最後の最後で余計なことを言い、今月の実技テストは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月29日、2度目の特別実習当日、早朝ーー

 

身支度を整えて、寮の1階に降りると既にリヴァンとシェルティスがいたがお互いに背を向けあって顔も合わせようとしてなかった。1月前と同じ状況だが、前と2人の間が広がっているのがとてもわかりやすい。

 

「おはよう2人共、早いんだな」

 

「ああ、おはようレンヤ」

 

「…………………」

 

なんだが幸先不安だ。

 

「ふわぁ〜……」

 

「ほらアリシアちゃん、しっかり」

 

「おはよう」

 

ちょうどアリシア、なのは、アリサが降りてきた。

 

「おはよう、3人共」

 

「おはようレン君、皆揃ったみたいだね。早速出発しようか?」

 

「そうだな……まだ時間じゃないけど」

 

「……僕は構わない」

 

「……俺も問題ない」

 

「……むにゃむにゃ……それじゃあ、れっつごー……」

 

現実逃避してるが如く眠そうなアリシアに激しく不安を覚える。

 

駅に向かうと、先に出て行ったB班がいた。

 

「ーー来たか」

 

「あ、皆」

 

「おはよう。そっちももう出発なんだ?」

 

「ああ、結構離れているから昼前には着きたいからな」

 

「そっちはもう行くの?」

 

「そろそろカントル行きのレールウェイが来る頃みたいやしな」

 

「すぐに着いちゃうけど、早い方がいいからね」

 

「こっちは特急使っても5時間はかかるわ。まあ、それだけ長い時間使ったことないから楽しむではあるけど」

 

「駅弁も楽しめるね!」

 

そしてB班の視線はさっきから会話に入ってこない後ろの2人に向けられる。

 

『……やっぱり今朝もそんな調子みたいだね……』

 

『よくもまあ飽きもせずいがみ合えるなぁ』

 

『ぶっちゃけ、イラつきます♪』

 

『ね、姉さん落ち着いて……』

 

皆も2人がどうやったら仲良く……までも行かなくてもいがみ合わない位までにしたいらしい。

 

『レンヤ君、レンヤ君ならできるよ』

 

『え……』

 

『2人に仲立ち………レンヤ君ならきっとできるよ。私も応援しているから』

 

『それは……まあ、ありがとうすずか』

 

ちょうどその時、放送でカントル行きのレールウェイが到着するとにことだ。

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

「お互い頑張ろうや」

 

「ああ、そうだな」

 

「気をつけて行きなさい」

 

「また寮でね」

 

フェイト達はホームに向かい、ちょうどやって来たレールウェイに乗って行った。

 

「俺達もエルセアに行くか」

 

「うん、そうだね」

 

「………ああ」

 

「………わかった」

 

「ええ、行きましょう」

 

「レッツゴー!」

 

ゲートに端末を当ててゲートに入り、中央地区経由でエルセアに向かった。

 

ボックス席に座るが、2人は対面に座り顔を逸らして合わせようとしてない。アリシアは俺に寄りかかってサッサと寝てしまい、俺となのはとアリサは居た堪れない空気になってしまった。

 

「えっと……と、とりあえず実習先のおさらいをしようか?」

 

「そうね、確かシェルティスはエルセア出身だったわよね?せっかくだからエルセアについての概要を説明してもらえるかしら?」

 

どうにか場の空気を変えようとする。

 

「別に構わない。ただそこのヤツが素直に聞くかどうかは知らないがな」

 

「っ……エルセアのことはある程度知っている。別に説明しなくてもいいぞ」

 

「そうか、なら聞かなくていいぞ」

 

「ッ………!」

 

怒ったのかリヴァンは立ち上がる。

 

「ちょ、ちょっと2人共……!」

 

「やめなさい!」

 

なにはとアリサが止めに入る中、俺は……

 

「ーーなるほどな。道理で散々な成績だったわけだ」

 

「な、なんだと……?」

 

「……………………」

 

「レン君?」

 

「…………ふう」

 

視線を集める中、俺は自分が思ったことを話す。

 

「先月のB班の特別実習に付けられた評価はE……はっきり言って、普通の試験なら赤点レベルの落第点だ。2人はまた同じことを繰り返す気か?」

 

「………それは……」

 

「………だからと言って仲良くしろと言いたいのか?」

 

「そこまで言ってないさ。そもそも、あんな経緯で選ばれた俺達VII組だ。立場も違うなら考え方も違う。お互いに譲れない事だってあるだろう。だけど……数日間、俺達は紛れもない仲間だ」

 

「レンヤ……」

 

「何を言い出すかと思えば………」

 

「ふざけるな、誰がこんなヤツとーー」

 

「友人じゃない、同じ時間と目的を共有する仲間だ」

 

リヴァンの言葉を遮って話しを続ける。

 

「さらに露骨に言えば…………今回、フェイトやユエ達B班に負けないための仲間じゃないか?」

 

「ん……?」

 

「レ、レン君?」

 

「………君が勝ち負けにこだわるタイプだと思わなかったが」

 

「生憎、勝敗が気にならない程俺は無神経じゃない。正直、自由行動日に自由な時間があるリヴァンとシェルティスは羨ましいし……この間の教官との勝負だって負けて悔しい」

 

「あ……」

 

「そうね……」

 

「それは……」

 

「…………」

 

「テオ教官の実力はとても高い。どんな経緯か知らないけど相当、実戦経験があるんだろう。だけど、もし俺達3人がもう少し連携していれば一矢くらい報いることは出来たはずだ」

 

2人はもし連携出来た事を考えてみている。

 

「そうね、確かに魔力量は高いけど3人とがかりで相手となると話は別よ」

 

「戦い方も上手かったけど、レン君達が連携していたら勝つのは無理でも負けることは無かったと思う」

 

「……そっか」

 

「「………………」」

 

正論を言われて、2人は黙って聞いている。

 

「……実際、フェイトちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、ツァリ君、ユエ君は問題ないと思うし……」

 

「チームワークには問題ないわね」

 

「万全の態勢で特別実習に挑めるだろう。下手したらもっと差が開く事になる」

 

「判ったーーもういい」

 

リヴァンは俺達に会話を止めて座る。

 

「そこまで言われたら協力しないわけにはいかない」

 

「このまま悪い成績というのも嫌だしね」

 

「それじゃあ……」

 

「今回の実習が終わるまでは少なくとも休戦する。構わないな?」

 

「わかったよ。それぐらい耐えられなければ器が知れたもんだからな」

 

なんとか最悪の実習にならずに済みそうだ。

 

『……やれやれ』

 

『これで一緒に行動できそうだね!』

 

『先月よりまともな実習ができそうね』

 

『これで一安心』

 

「起きているなら逃げてんじゃねえ」

 

「いだだだだだっ!」

 

アリシアのこめかみをグリグリする。

 

それから落ち着いた所でシェルティスがエルセア地方についての説明が始まった。

 

「エルセアは田舎と都会の中間みたいな場所だ、住宅街や団地、マンションが多い」

 

「ある意味地球と近い感じがするわね」

 

「海鳴みたいな感じかな?」

 

「だいたいそんな感じだ。だが、さらに西に行くとそこは何もない荒野が続いていてな。あるのは岩と所々にある風力発電機だけだ」

 

「緑も所々にあってな、車の往来も少なく静かで落ち着ける場所が結構ある。」

 

「へえ〜〜、そういえばレンヤは西部担当だったっけ?」

 

「ああ、皆優しいしいい場所だ。そういえばシェルティスとは一度も会わなかったな」

 

「遠目からレンヤのことは見た事がある、子ども達にとても慕われていた所をな」

 

それから中央地区経由でエルセア地方まで約5時間、レールウェイに揺られ続けた。

 



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68話

テストで遅れました。

継続って大変ですね。


 

 

しばらく雑談をして時間を潰してりしていた、すると昨日の疲れがあってか少し寝てしまう。

 

うつらうつらしていると、脳裏にある光景が浮かんでくる。

 

焼け野原で倒れている男性とどこかに行こうとする女性。

 

喋っている内容は聞こえず、女性は去ろうとして男性が止めようと手を伸ばそうとしている。

 

「……ンヤ……」

 

場面は変わり、2人の女性が戦うのを先ほどの2人が離れて見ている。片方の黒髪の女性は徒手空拳で、もう片方のボサボサした黒髪の女性は右手の仕込んでいる刺突刃と足技を駆使して戦っている。どちらも真剣になりながらもどこかに楽しそうで、見ている2人も楽しそうに見ている。

 

【ちょ、もっと手加減してよ!】

 

【うっさい、それならとっとと喰われなさい】

 

【ひどっ!】

 

【これぐらいでついてこれないならそれまでよ】

 

本気の刺突を放ち、それを受け流して止める。

 

【そうはいかないよっ!】

 

剣を弾き、拳を構える。

 

【僕の心にもあるんだ、消したくても消えない炎が!】

 

【なら示して見せなさい!】

 

「レンヤ!」

 

「はっ!」

 

肩を揺さぶられ、目を覚ますとアリサが顔を覗き込んでいた。

 

「そろそろエルセアに着くわよ、降りる準備をしなさい」

 

「あ、ああ……ありがとうアリサ」

 

「夢でも見てたの?」

 

「もしかして、いつもの?」

 

なのはが心配そうな目で見てくる。

 

「ああ、古代ベルカ。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの記憶だ」

 

「そんなものが君は見れるのか⁉︎」

 

シェルティスが興味津々に聞いてくる。

 

「えっと、シェルティス?」

 

「ああごめん、僕は古代ベルカの歴史に興味があってね。知っているかい?聖王がシュトゥラに留学している時に覇王と交流があった黒のエレミアと鬼神について……」

 

「ハイハイ、話しは後で。降りるよ」

 

「あ、ごめん」

 

「……………………」

 

シェルティスの意外な一面を見た後、エルセアに到着して。そして指定された宿泊施設に向かった。

 

「ちなみに宿泊施設はどこだ?」

 

「んーと、これだよ」

 

アリシアが場所が示された紙を渡してきた。

 

「このご時世紙かよ……なになに……」

 

紙を受け取り読む、駅から宿泊施設の場所まで書いてあって名前などは書いていなかった。

 

「ここって確か……」

 

「分かるの?」

 

「いや、多分勘違いだろ」

 

「?」

 

方向は一緒だけどな。

 

10分ほど歩くと、管理局の施設が見えてきた。

 

「ここかな?」

 

「周りにもそれらしいのもないし、そうだろう」

 

「えっと、陸士108部隊……確か前にはやてちゃんが研修に行った場所だよ」

 

「って事は……」

 

「ええ、間違いないわ」

 

「どうかしたのか?」

 

リヴァンが不思議がる中、玄関から茶色い制服を着た少女が出てきた。

 

「お待ちしてました!レルム魔導学院・A班の皆様ですね。私はギンガ・ナカジマ三等陸士です。どうぞこちらへ、隊長がお持ちです」

 

ギンガがまだ真新しい制服を着て敬礼する。

 

「ご苦労様です。私達、今は学生だから敬礼しなくてはいいんだよ?」

 

「いえ……そう言うわけには」

 

「まあまあ、ギンガ。ゲンヤさんのいる所まで案内してくれるか?」

 

「は、はい!」

 

部隊舎に入り、ゲンヤさんのいる隊長室に案内された。

 

部屋の前まで来て、ギンガはドアをノックする。

 

コンコン

 

「失礼します。レルム魔導学院・A班の皆様をお連れしました」

 

『おお来たか、入っていいぞ』

 

部屋に入るとゲンヤが正面のデスクにはいなく、横のソファーで座っていた。

 

「三佐、応対の時はちゃんとデスクに居てくれないと困ります」

 

「硬いことはなしでいいだろう、知らない仲でもあるまいし」

 

「……………お母さんに言いつけますよ」

 

ギンガがボソッと何かを言うと、ゲンヤさんは素早くデスクに向かい座った。

 

「よく来てくれた。レルム魔導学院・A班の諸君」

 

いきなりの変化にリヴァンとシェルティスとなのはは驚き、俺とアリサとアリシアは呆れる。

 

「コホン、それでナカジマ三佐。宿泊施設と課題の提供をしてくれるんですか?」

 

「ああ、課題は一通り揃えておいた。ギンガ」

 

ゲンヤさんは近づいたギンガに封筒を渡し、ギンガが俺に渡した。

 

「よろしく頼むぞ」

 

「はい」

 

「了解〜!」

 

部屋をギンガと一緒に出て、ロービーで封筒を開けた。

 

「住宅街付近の異界のエルダーグリードの討伐と荒野の地質調査が必須で。後は陸士の同行研修……」

 

「結構楽そうだね」

 

「ええ、異界に全く関係のない依頼があるのが当たり前になってきているけど……」

 

「レンヤ達も苦労しているんだな」

 

「だけど最後の依頼は……」

 

それを読んだ後、陸士の同行研修を詳しく読んだ。

 

「ギンガ………」

 

「えっと、ダメですか?」

 

内容は陸士108部隊から陸士階級の管理局員を1人同行させる、とのことだった。

 

「明らかにギンガの為の依頼だな、ゲンヤさんも職権濫用してるな」

 

「それでレン君、どうするの?」

 

「………分かった。アリサ、ギンガの面倒を見てくれるか?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ギンガは勢いよくお辞儀をする。

 

「それじゃあ討伐は後回しにして、荒野の方に行くのでいいか?」

 

「それでいいぞ」

 

「異論はない、それでいこう」

 

「それじゃあ、A班、実習活動を開始する。B班に負けないためにも………各自、全力を尽くそう」

 

「了解!」

 

「うん!」

 

「倒れない程度には、ね」

 

「ああ」

 

「分かっている」

 

「よろしくお願いします!」

 

まず俺達はバスを使い、荒野一歩手前まで行き。依頼がある研究施設に向かった。

 

受付の人によると依頼者は調査の為にすでに荒野に行っているとのことで……

 

「と言う訳で車を借りてきた」

 

「誰が運転するの?」

 

「車持ってきたレンヤじゃないか?」

 

「免許はちゃんと持っているからな。ほら行くぞ」

 

車に乗り込み、エンジンをかけて走り出した。

 

「レンヤうまいね〜」

 

「まあな、それなり運転しているし」

 

「地球じゃあ見られない光景ね。ま、9歳から働ける世界だから当たり前か」

 

「あはは、まあ、便利だし」

 

「地球の平均就職年齢はどれ位なんだ?」

 

リヴァンが気になるらしく聞いてくる。

 

「んー、1番早くて16で。大学とか入れると22、23が1番遅いかな?」

 

「でもだいたい高校卒業が多いから18からかなぁ」

 

「へー、そうなんだ。コッチだと嘱託とかは早い年齢で受けられるからよくわからないな」

 

「ギンガちゃんみたいな子がいれば、私達みたいなのもいる。考えてみたら結構自由だよね」

 

「私みたいのは稀ですよ。魔力量が一定量ないといけませんし」

 

しばらく車を走らせていると、道路脇に車とテントが張ってある場所があり、そこに車を止めた。

 

「ここかな?」

 

「話しによればここで間違いないはずよ」

 

「テントに入ってみようよ」

 

テントに入ってみると、数人の研究員がいた。俺達に気が付いて責任者らしき男性が近寄って来た

 

「君達はレルム魔導学院の者かな?」

 

「はい、依頼の件で来ました。地質調査ですね」

 

「ああ、ここら一帯の土を改めて回収したくてね。私達は今手が離せなくて、それで君達に君達にお願いしたいんだ」

 

「わかりました、それでどうすればいいんですか?」

 

なのはが聞くと、デバイスに地図データが送られて来た。

 

「そこに記されている地点の土を取ってきてくれ。土はこの容器に入れてくれ、くれぐれも場所と容器を確認してくれるかな?」

 

「了解しました」

 

容器を入れるキャリーバッグをもらい、テントを出て車の前で地図を確認する。

 

「かなり広範囲で取ってこなきゃいけないな」

 

「手分けするにも広過ぎるな、こんな何もない所でも飛行魔法は使えないし」

 

「地道に車まで回って行こうよ」

 

「そうだな、飛ばしていけば案外すぐに終わるかもな」

 

「レン君、安全運転でお願いね」

 

車で移動して採取地点を周り、土を取って回った。

 

「ここで最後かな?」

 

「私がやります!」

 

「それじゃあお願いね」

 

ギンガに採取を任せて俺は辺りを見渡す。360度地平線まで見えて何もない。

 

「ん?」

 

遥か向こうに何か変な物が見えて、視力を魔力で強化して見てみると……

 

「サボテン?」

 

別に荒野でサボテンなんて珍しくもないし来る途中に何度か見たが、今見ているのは形がかなり変なサボテンだ。

 

「レンヤ、どうかしたか?」

 

「リヴァンか、20キロ先に変なサボテンがあるんだ。ほら」

 

「見えるか!お前の視力はどうなってんだよ」

 

リヴァンは車から双眼鏡を持ってきて覗く。

 

「あんなの見た事ないぞ」

 

「確認してみるか」

 

その間に採取を終えたようで、事情を説明してサボテンの場所まで向かう。

 

「変なサボテン、ね」

 

「もしくて、グリード?」

 

「可能性はある、アリシア」

 

「今探っているよ」

 

アリシアは目を閉じて集中している。

 

「………確かに進行方向にグリードの気配がするよ。でもなんだろう、物凄い小さい反応が大きい奴の周りにいくつもある」

 

「それは小型グリードか?」

 

「眷属でしょうか?」

 

「行ってみればわかるさ」

 

車を走らせ、5キロ手前で止まる。

 

「なんじゃありゃ」

 

「でかっ!」

 

「あれがグリードですか?」

 

「また面倒なタイプのね」

 

目の前に見えるサボテンは全長10メートルぐらいで、カクカク曲がった茎に扇型のサボテンって感じだ。白桃扇って種類に似ている。

 

そして極めつけが扇部分に目玉が付いていて、周りを見ているように動いている。

 

「動かないね」

 

「サボテンだからな、これなら楽勝だ」

 

シェルティスはデバイスを起動して突っ込もうとする。

 

「おい待て!」

 

リヴァンも行こうとするが、肩を掴み止める。

 

「なんで止める!」

 

「暑いのはここだけで充分だ、よく見てろ」

 

リヴァンは落ち着き、シェルティスを見ると……

 

ギョロッ!

 

「気づかれたか!」

 

サボテンとの距離3キロ地点でサボテンの目が一斉にシェルティスを見る。

 

サボテンは棘を一斉に発射してシェルティスを襲う。

 

「こんな物当たらない!」

 

持ち前のスピードでミサイルを避けて、接近するが……

 

『シェルティス、ミサイルが戻って来てるぞ』

 

「何!」

 

念話で伝えて振り向くと、さっきよりスピードが上がったミサイルが追いかけてきた。

 

「くっ……はあ!」

 

迫るミサイルを避けるが、どんどん増えており、斬り落とそうとするも的が小さくて当たらない。

 

「あーあ、アリシア」

 

「はーい」

 

アリシアはデバイスを起動して、シェルティスをここに転移させる。

 

ターゲットが無くなり、ミサイルはサボテンに戻って行った。

 

「あんまり独断専行するな、死に急ぐだけだぞ」

 

「ぐっ………すまん」

 

さすがのシェルティスも反省したようだ。

 

「あのグリードはある一定距離に近付く者を襲っているようね、それとあのミサイルは種ね」

 

「種?なんでなの?」

 

「あれを見ろ」

 

指差す方向を見ると、小さいサボテングリードがいた。

 

「これは、グリードなのか?」

 

「それよりも根元を見なさい」

 

アリサに言われて見てみると、痩せ細った鳥の死体があった。

 

「きゃあっ!」

 

「酷い……」

 

「あのサボテンに………識別名付けた方がいいわね。サバクケンザンでいいでしょう。その種ミサイル撃ち込まれた生物から養分を吸い取ってサバクケンザンと同種のグリードを生み出す。それの繰り返しで数を増やしていくみたいね、さしずめ生きたミサイル基地ね」

 

「早めに発見できてよかったよ、成長し過ぎたらミッドチルダまで被害が及んだかもしれないからね」

 

「もし、これが人にでも当たったら……」

 

「ミイラになるな」

 

「ひぃ!」

 

「ギンガちゃん、落ち着いて。大丈夫だよ、そうならないために私達がいるんだから」

 

「そうだな。それにこれはどうやら光像追尾式のようだ」

 

リヴァンが小さいサバクケンザンに向かって手を振ると、小さいサバクケンザンはそれを目で追いかける。

 

「動く物に反応するんだね」

 

「どうやって倒すんだ?」

 

「気づかれないで接近して一撃必殺か、遠距離からの砲撃」

 

全員が一斉になのはを見る。

 

「え、私?」

 

「私はアギトがいないとあそこまで届かないわ」

 

「私は届くけでそこまで威力ないし」

 

「俺も届くには届くが、斬撃だから残っちまうんだ。大規模な奴もあるが遅いし魔力無駄に使うからな、頼めるかなのは?」

 

「うん!任せてよ!レン君達は周りに魔力を拡散してくれる?」

 

「わかりました!」

 

なのははレイジングハートを起動して、バリアジャケットを纏いレイジングハートを構える。

 

残りは魔力を周囲に拡散する。

 

「レイジングハート!」

 

《ロードカートリッジ》

 

ガシャン!ガシャン!

 

カートリッジを2発ロードして目の前に桜色のスフィアを作り出し周りの魔力を集めていく。

 

《ロックオン》

 

「行くよ。スターライト………ブレイカーーーー‼︎」

 

ドオオオンッッ‼︎

 

放たれた桜色の砲撃は地面を抉りながら真っ直ぐサバクケンザンに向かい、直撃した瞬間大きく空に打ち上がった。

 

プシュウーーーー!

 

「ふう……」

 

レイジングハートの柄から排気熱が勢いよく噴出して、なのはが一息つく。

 

「久しぶりに撃ててスッキリしたの」

 

「あれをストレス解消に使うんじゃない」

 

妙な達成感があるなのはを放っておいて、サバクケンザンがいた場所をみると。

 

そこが綺麗に何もなかった。

 

「「あわわわわわわ」」

 

横を見るとギンガとアリシアが抱き合って震えていた。

 

「あれが正面に来たらトラウマ物だな」

 

「ああ」

 

仲の悪いはずの2人も揃って同意する。

 

「コホン!とにかく元凶は去った事だけどまだ小型が残っているわ。ここら一帯を狩り尽くすわよ」

 

「お、おお〜」

 

「ほらしっかりしろ、お前がいないと全滅したか分からないんだから」

 

アリシアを元に戻して、サバクケンザンがいた地点から半径3キロ周囲にいたグリードを狩り、アリシアの確認した後最初のテントまで戻って土を渡し報告して依頼を完了した。

 

「最初からハードだよ〜〜」

 

「これでも楽な方よ」

 

「お疲れ様です、なのはさん!飲み物をどうぞ!」

 

「ありがとう、ギンガちゃん」

 

「皆さんもどうぞ!」

 

「お、ありがとな。置いておいてくれ」

 

「はい。レンヤさん達はいつもあんなグリードと戦っているんですか?私、聞いただけだとピンとこなくて、目の当たりしたら自分がまるで役に立たないって思い知られて……」

 

「そう自分を責めないで。あのグリードが特殊なのもあるけど、誰だって化物がいれば怖いよ」

 

「次は異界に入る、気を引き締めろよ」

 

「はい!」

 

「「…………………」」

 

ギンガが元気よく返事をする中、リヴァンとシェルティスは黙ったままだった。

 

街に戻り、車を隊舎前に止めて次の依頼場所の住宅街まで歩いて行った。

 

「どの辺りの住宅街だ?」

 

「結構近いぞ」

 

「あ、あれじゃない?」

 

なのはが指す方向に住宅街があった。

 

「行ってみましょう」

 

「ああ」

 

「そういえば、詳しい異界の場所が書いてないね」

 

「まずは聞き込みだ、公園に人がいそうだな」

 

「公園ならコッチです!」

 

ギンガの案内で大きめな公園に来た。子連れの親子やそろそろ学校が終わるころなのか学生が数人いた。

 

「平穏だね」

 

「この平穏を壊さない為に俺達がやるんだ」

 

「ああ、分かっている」

 

「まずは聞き込みね、周囲に住んでいる人達を重点的に話しかけましょう」

 

「はい!」

 

「了解だ」

 

聞き込みを開始して、公園外付近にも足を運び。30分位で合流した。

 

「どうやらこの公園から夜な夜な唸り声が聞こえるらしいな」

 

「場所は特定できたの?」

 

「あそこらしい」

 

シェルティスが公園の中心にある大きな木を指した。

 

木の前まで来て、アリシアがサーチデヴァイスを操作した。

 

ファン、ファン、ファン………スーー……

 

デヴァイスから出た波長に反応して赤いゲートが顕現した。

 

「これが、ゲートですか……」

 

「見るのは初めてか?」

 

「はい、異界には入った事はあるのですがよく覚えていなくて」

 

「あの事件の時ね、覚えていなくて仕方ないわ」

 

「さて、行くにしても7人は多いな。誰か残るべきなんだが……」

 

「なら私が残るよ、ブレイカーを撃ってからまだ魔力が回復してない状態では行けないからね」

 

「それなら私も残るわ、それでちょうどいいでしょう」

 

「分かった、じゃあ行って来るよ」

 

「行ってきます!」

 

俺達5人はゲートを潜り抜けて異界に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異界の中は巨大な木がアーチ状になっている異界だった。見た目は穏やかだが、奥から感じる気配は禍々しい。

 

「うわぁ!綺麗ですね!」

 

「異界は別の通り名は理想郷、桃源郷なんて呼ばれているんだよ。異界の唯一の楽しみだよ」

 

「確かに、普通じゃあ絶対に見られない光景だな」

 

「遊びに来たんじゃないぞ、早くグリードを倒しに行くぞ」

 

「ああ、油断せずに行くこうか」

 

デバイスを起動して、バリアジャケットを纏う。

 

「それがギンガのデバイスか?」

 

ギンガのデバイスは非人格型のアームドデバイスのようだ。

 

「はい!私のデバイスはスバルと似たようなデバイスで、お母さんのデバイスをモデルにしているんです」

 

「そうなんだ。ギンガは今年訓練校に入る予定?」

 

「はい、第四陸士訓練校に入る予定ですね」

 

偶然にもティアナとソーマが入る訓練校だった、もしかしたら知り合いとかになりそうだな。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「了解」

 

「はい!」

 

ギンガをフォローしながら異界の奥に進んでいく。

 

特に苦もなくグリードを退けながら最奥まで到着する。

 

「レンヤ」

 

奥に向かおうとした時、リヴァンが話しかけてきた。

 

「この先にいるエルダーグリードは俺とシェルティスが前衛をやってもいいか?」

 

「……2人はそれでいいんだな?」

 

「もちろん、いつまでもこんな状況が続くのはさすがに好ましくないからな」

 

シェルティスが同意するようの頷く。ようやく2人の仲が進展しそうだな、自分から進んでいるのもいい傾向だ。

 

「分かった。グリードにもよるが前衛は任せる」

 

「了解だ」

 

「任せておいてくれ」

 

まだ不安が残るがとりあえず任せてみた。

 

最奥に入ると、目の前の空間が歪んで小型車サイズの二足歩行の蟹のSグリードが現れた。

 

「相変わらず不思議生物が出てくるねぇ」

 

「はい、ビックリです」

 

リヴァンとシェルティスが武器を構えて前に出る。

 

「2人共、油断するなよ」

 

「分かっている」

 

「行くぞ!」

 

シェルティスが飛び出し、グリードの横を通り抜けながら斬る。

 

「しっ!」

 

気がシェルティスに向いたグリードに鋼糸を腕に巻きつけてバランスを崩させる。

 

「剣晶・彗星剣!」

 

黄緑色の結晶を突きと同時に放つがグリードの固い甲殻がそれを防ぐ。

 

グリードは鋼糸を切ろうとするが、リヴァンが巧みに鋼糸を操ることで防ぐ。

 

「まずはあの固い甲殻をどうにかしないとな」

 

「レンヤが行かないの?」

 

アリシアが銃でグリードの動きを止めながら聞いてくる。

 

「あの2人に任せるさ。危なくなったら出るけど、ギンガはもうちょっと下がってろ」

 

「は、はいっ!」

 

さて、どうするかな?

 

シェルティスがグリードの上に跳び、結晶を集めて1本の氷柱を作る。

 

「結晶四十七・螺洸穿(らこうせん)!」

 

グリードの頭上に振り下ろし、結晶は砕け散るも甲殻に傷を付けた。

 

「リヴァン!」

 

「繰弦曲・跳ね虫!」

 

鋼糸で編んだ円錐をグリードに突き刺し、解きほぐすことで体内から切り裂く技だが………

 

「貫通してない⁉︎」

 

どうやらグリードは一点に魔力を集めて防いだようだ。

 

「なら……!」

 

「!…待て、シェルティス!」

 

リヴァンが次の手をやろうと鋼糸をバラけた所にシェルティスが突っ込んできた。

 

「シェルティス!」

 

「鋼糸の道筋は見えている!」

 

まるでリヴァンの考えを理解している様だが、グリードまでは理解できてない。

 

グリードは鋼糸を掴み振り回した。

 

「うわあああっ!」

 

「ぐっ………引っ張ら……れっ!」

 

舞う鋼糸に足を取られてシェルティスが吹っ飛び、鋼糸を引っ張られたことでリヴァンも吹っ飛んだ。

 

「ぐっ……」

 

「ごはっ!」

 

壁にぶつけられて、シェルティスの上にリヴァンが叩きつけられた。

 

「リヴァンさん!シェルティスさん!」

 

「ここでやっちまうか!」

 

抜刀して正眼に構え、一気にグリードに接近する。

 

グリードはこちらに気付き、硫酸かヘドロかよくわからない物を吐く。

 

「ふうう………しっ!」

 

地面を魔力を放出しながら蹴りヘドロを避けて、一瞬でグリードの前まで来て上段の構えを取り……

 

烈火十文字(れっかじゅうもんじ)!」

 

額の傷を狙い刀を振り下ろし、着地したら体をひねり横に斬り裂く。

 

鋼糸も巻き込んで斬り、グリードは倒れ伏した。

 

「2人共、大丈夫⁉︎」

 

振り返るとアリシアとギンガが2人の元に向かった。鋼糸は消したようで絡まっていなかった。

 

しかし2人はさっきの行動で怒ったようだ。

 

「いきなり飛び出して何のつもりだ!」

 

「あれはグリードが鋼糸を振り回したせいだ!それぐらい分かるだろ!」

 

「無闇やたらに前に出るお前が悪い!」

 

お互いに胸倉を掴み合い、怒りを露わにする。

 

「一度協力すると言っておきながら腹の底では馬鹿にする………結句それがお前達、持っている者の考え方だろう!」

 

「ふざけるな……!その決め付けと視野の狭さが全ての原因だとなぜ分からない!」

 

このままだと殴り合いになると思い、止めに入る。

 

「よせ、2人共……!」

 

「お、落ち着いて下さい!」

 

「喧嘩はダメだよ!」

 

「うるさい、お前達には関係ない!」

 

「この際、どちらが上か知らしめてやろう!」

 

聞く耳持たず、完全に頭に血が上っているようだ。

 

「くっ……」

 

その時に気付いた。グリードが完全に姿を消さなかった事に。

 

「……!」

 

「っ……」

 

俺とアリシアは気付きすぐに振り返るとグリードはいなく、気配を探すと頭上にいた。

 

ハサミを振りかざし、リヴァンとシェルティスに狙いを付けていた。

 

「危ない!」

 

2人を突き飛ばし、振り下ろされたハサミが肩を斬り裂く。

 

「……⁉︎」

 

「な……!」

 

「……ぐっ……」

 

「レ、レンヤさん⁉︎」

 

皆が心配する中、アリシアは銃を構えて銃口から魔力刃を展開する。

 

「やあっ……!」

 

グリードの背中に飛び乗り、甲殻の隙間に刃を突き刺し魔力弾を撃ち込む。

 

グリードは倒れ、消えていった。

 

「レンヤ、大丈夫⁉︎」

 

「っ……ああ、大丈夫だ」

 

「レンヤさん、傷が……!」

 

左肩を見ると少し出血しているが骨や肉まで届いていないようだ。

 

「お、おい……」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「大した傷じゃない。俺も甘かったよ、消えていない事に気付かなかった」

 

「ごめん、私も迂闊だった」

 

「「……………………」」

 

「とにかく治療をします。レンヤさん、傷を見せて下さい」

 

バリアジャケットを解除して上着を脱ぎ、アリシアが治癒魔法をかけた後ギンガが包帯を巻いてくれた。

 

「うん、大丈夫そうだな。ありがとう、アリシア、ギンガ」

 

「どういたしまして」

 

「応急処置を訓練校で習っておいて良かったです」

 

顔を上げてリヴァンとシェルティスの方を見る。

 

「すまない、その……」

 

「完全に僕達のせいだね」

 

「いや、気にしないでくれ。気付かなかったのは俺のミスでもあるし………とにかく2人に怪我がなくて良かった」

 

「……すまない……」

 

「……………………」

 

「レンヤさん、肩はあまり動かさないで下さいね」

 

「依頼はもう全部終わったから、このまま安静にしてよね」

 

「そうさせてもらおうか」

 

立ち上がり、上着を着る。

 

「そろそろ出発しよう。なのは達と合流しないとな」

 

「あ、ああ……」

 

「行きましょうか」

 

奥にあるゲートを潜り、現実世界に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外はすっかり夕方で、公園が日に染まったいた。

 

「皆、お疲れ様!」

 

「遅かったわね」

 

ゲート前にいたなのはとアリサが近寄って来た。

 

「ただいま戻りました」

 

「お疲れ様、ギンガ…………あら?」

 

「アリサちゃん、どうかしたの?」

 

アリサは俺を見て、肩を触ってきた。

 

「っ……!」

 

「やっぱり怪我してるわね、何があったの?」

 

「えっと……」

 

「レン君!」

 

なのはに迫られて、怪我の経緯を話した。

 

「へえ、そうなんだ。そっかそっか」

 

「な、なのはさん……?」

 

なのはは俯きリヴァンとシェルティスの方を見る。

 

「その、すまないと思っている……!」

 

「非は……認めます」

 

「………喧嘩してさらにレン君に怪我させるなんて……」

 

なのはは無言でレイジングハートを取り出し、魔力を放出する。

 

「ちょっなのは⁉︎」

 

「2人共、ちょっと頭冷やそうか?」

 

珍しくなのはが怒っているよ。しかもお母さん並みだよ、ちょっと黒いオーラが滲み出てるよ。

 

「お、落ち着いて下さい!なのはさん!」

 

「大したことないから、そう怒らないでくれ。2人共、悪気があった訳じゃない」

 

「…………分かったの」

 

魔力を抑えてくれた、少なからず納得してくれたかな?

 

リヴァンとシェルティスは気を当てられたのか少し顔が青いが。

 

「コホン、依頼も終わったことだしゲンヤさんに報告しに行きましょう」

 

「それもそうだな」

 

「それじゃあ行ってみよう〜〜」

 

公園を出て108部隊隊舎に向かおうとすると……

 

「あれ、お姉ちゃん?」

 

「あら、スバル」

 

公園を出た所でスバルと出くわした、手にはこれでもかと積み上がったアイスがあった。

 

「スバル、久しぶりだな」

 

「こんにちは、スバルちゃん」

 

「すっかり大きくなったわね」

 

「え、ええ!なんでレンヤさんとなのはさんとアリシアさんとアリサさんがここにいぃ⁉︎」

 

スバルはいきなりのことで驚いているようだ。

 

慌ててアイスを食べようとしてアイスを一玉丸かじりして口をハフハフさせる。たこ焼きじゃないんだぞ。

 

「ふふ、大丈夫だよ。今の私達は学生だから余りかしこまらないで」

 

「ハフハフ……ゴックン、はい」

 

「スバル、勉強はちゃんとしたの?」

 

「大丈夫!復習もちゃんとしたし、今は息抜きが必要なの!」

 

「レンヤ、彼女は?」

 

「ああ、すまない。この子はスバル・ナカジマ。ギンガの妹でゲンヤさんの娘さんだ。スバル、この2人はレルムでの同級生で……」

 

「リヴァン・サーヴォレイドだ」

 

「初めまして、シェルティス・フィルスです」

 

「私はスバル・ナカジマです。よろしくお願いします!」

 

スバルは勢いよくお辞儀をする。

 

「そういえば勉強って言ってたけど、どこかに入る予定なの?」

 

「はい!6月に第四陸士訓練校で技能試験がありまして、上位を目指すために頑張っています!」

 

「へえ、凄いじゃないか」

 

「でも第四か……」

 

「確か、ソーマとティアナも第四だったわね。もしかしたら知り合いになるかもね」

 

「誰ですか、そのソーマとティアナって人は?」

 

ギンガが聞いてきたので、必要最低限の説明をした。よく知るためには直接会うのが一番いいからな。

 

「なるほど、スバルの同期になるかも知れないんですね」

 

「まあそうだな。確かスバルとは1つ歳上だった気もするが………」

 

「もし良かったら、会って見て。とても優しい2人だから」

 

「はい!」

 

スバルは元気よく返事をする。

 

「あの、なのはさん」

 

「うん?何かな?」

 

スバルはなのはに何か言いたそうだ。

 

「ほらスバル、ちゃんとお礼を言うんでしょう?」

 

「う、うん」

 

スバルは深呼吸して、なのはと向き合う。

 

「なのはさん!一年前の火災で助けていただきありがとうございます!なのはさんのおかげで私は魔導師として……人を助ける道を進めたんです!だから、ありがとうございます!」

 

スバルは勢いよくお辞儀をする。なのはは一瞬驚いた顔になり、優しく笑う。

 

「確かに私はスバルの事を助けた、けどそれからの事はスバル自身が決めた事だよ。私はただのきっかけ、でもありがとうね、そう思ってくれて」

 

「!、はい!」

 

スバルは元気よく返事をした。

 

その後別れて、陸士108部隊隊舎に向かった。

 

「やっと着いた〜」

 

「ふう、ふう、疲れましたぁ」

 

「だらしないわよ、2人共」

 

「あはは、色んなことがあったからね、仕方ないよ」

 

「ギンガがはともかく、なのははしっかりしろ。この後レポートを書くんだから」

 

「はぁい」

 

隊舎に入ろうとすると、中から2人の男女が出てきた。男性は三十あたりでシェルティスに似ていて、女性は二十歳前後の金髪の長いストレートだ。2人共本局の制服を着ている。

 

「………!」

 

「シェルティス?」

 

シェルティスは男性の顔を見て驚いている。

 

「シェルティスか、確か特別実習でここにいるのだったな」

 

「はい、父さんもお元気そうで。ここには、何をしに?」

 

「えっ……」

 

「何っ⁉︎」

 

シェルティスの父だということに驚く。

 

「ここには視察に来たのだ、それで……」

 

男性はシェルティスから視線を外し、俺達の方を向く。

 

「レルム魔導学院・VII組の諸君だね。私はシェルティスの父、グランダム・フィルスだ。一応少将に就かせてもらっているが、息子共々よろしく頼む」

 

「は、はい!こちらこそ、私は高町 なのはです!」

 

「初めまして、アリサ・バニングスです」

 

「アリシア・テスタロッサです。よろしくお願いします」

 

「リヴァン・サーヴォレイドです」

 

「神崎 蓮也です。もうお帰りになるのですか?」

 

「ああ、もう用事は済んだからな。それではお暇させてもらうよ、実習の成果を期待している」

 

グランダム少将が車の元に向かうが、女性が未だに動かず喋らずだった。

 

「えっと……」

 

「あの〜〜、グランダム少将、行ってしまいましたよ?」

 

なのはが声をかけるも無反応だ。

 

「大丈夫、寝ているだけだから」

 

「ええっ⁉︎」

 

「立ったまま寝れるか⁉︎」

 

驚く中。シェルティスは女性に近づく。

 

「あ、あそこにイーシャが……」

 

「えっ⁉︎どこにいるの、イーシャちゃん!どこにいるのーー!」

 

いきなり周りを見渡す女性。

 

「イシュタルさん、父さんが行ってしまいましたよ」

 

「あ、本当だ。もうせっかちなんだから」

 

「なんなのこの人?」

 

「イシュタル・フェリーヌ一等空尉。父さんの護衛なんだけどこんな性格でね、本来ならもっと上の階級クラスなんだけど、この人階級にも興味がないから」

 

「あ、少年。いたの?」

 

「最初からいましたよ、それよりも自己紹介くらいして下さい。皆引いてます」

 

「ありゃこりゃ失敬。私はイシュタル・フェリーヌだよ、よろしくね〜〜」

 

「は、はあ……」

 

困惑しながらも俺達は自己紹介する。

 

「それで少年は学院に入ったんだって?どれ位腕は上がったのかなぁ?」

 

「あなたに一太刀入れられる位には」

 

「あはは!言う様になったね〜」

 

イシュタルさんはグランダム少将の元に向おうとする。

 

「じゃあね〜皆、怪我には気をつけようね〜〜」

 

「イシュタルさん、今度模擬戦をして下さい!」

 

「いいよいいよ〜」

 

「できれば本気で」

 

シェルティスがそう言うと、イシュタルさんは雰囲気を別人に変えて、鋭い眼光がシェルティスを射抜く。

 

「なら出させるといい、少年」

 

「っ……………!」

 

「なんて威圧感……!」

 

「はあ、だからあなたは苦手なんだ。猫かぶっていると思ったらいきなり本性」

 

「何のことかな〜?じゃあね〜!」

 

イシュタルさんは雰囲気を元に戻して、グランダム少将の元に向かった。

 

「………変な所を見せたね」

 

「そんなことないよ」

 

「2人共、とても優しい人だったよ」

 

「……………………」

 

「まあ、それは置いといて。報告したら食事を取ろう、ここの食堂でもいいけど……ギンガ、いい場所を知っているか?」

 

「はい!私のオススメのお店があります!」

 

「それじゃあそこにしましょう」

 

「もうお腹ペコペコだよ」

 

その後、ゲンヤさんに報告した後一旦シャワーを浴び………一息ついてからギンガに案内されたレストランに繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を食べ終わった頃には日も暮れていた。

 

「………ふう、いい風だな」

 

「ここの料理も美味しかったよ、ありがとうねギンガちゃん」

 

「いえ、喜んでもらえて何よりです!」

 

「満腹、満腹」

 

外にあるテーブルで空と風を感じながら一息つく。

 

「シェルティスはここを知っていた様だな。行き付けだったのか?」

 

「ここは昔から家族と良く来ていたレストランだ。両親ともに忙しい時には1人で来ていてね、良くしてもらっている。母さんに次いで第2の味みたいなものなんだ」

 

「さすがに贅沢だな。……まあ、ここの料理が美味かったのは認めるが」

 

「結構穴場なんだね」

 

「うちのシェフにも劣らない味ね」

 

「ありがとう、店長も喜ぶよ」

 

「ア、アリサさんってもしかしてお嬢様、ですか?」

 

「ああ、地球じゃあすずかの家と同じ位有名な家柄だ」

 

「す、すごいです……」

 

「…………………」

 

そこで会話が途切れてしまう。

 

「し、しかしB班の方は今頃どうしているんだろうな?」

 

「はは、ちょうど先月も同じようなことを話してたっけ。東部のカントル地方か……同じように頑張っていると思うけど」

 

「そういえば………レン君は先月、セニア地方に行ってたんだよね」

 

「ああ、ちょうど食事時にB班の話しをしてたんだ。そっちの方はどうだったんだ?」

 

聞いてみると、5人共顔を暗くする。

 

「そ、それは……」

 

「とてもこんな雰囲気じゃなかったよ〜」

 

「まあ、あの時に比べれば今回はかなりマシね」

 

「そ、そうなんですか。とてもそうには見えませんけど……」

 

「……まあ、そうだな」

 

「今回のレポートはちょっと気が楽になりそうだね」

 

「ーーだけど、良くもなかった」

 

今日のことを思い出すようにシェルティスは否定する。

 

「シェルティス……」

 

「おそらくB班はベストを尽くせる状況だろう。だけど、僕達A班は今日一日ベストを尽くせたかな?グリードの時もそうだし、それ以外の依頼についても」

 

「……むう」

 

「にゃははは……」

 

「…………………」

 

他の皆も自覚しているようだ。

 

「実習は残り1日………何とか立て直すしかないだろう」

 

「私も!明日は参加できないと思いますが協力します!」

 

「どちらにせよ実習期間も残り1日。私達も頑張りましょう」

 

「うん!」

 

「了解だよ」

 

「そうだね」

 

「まずはレポートをまとめておかないとな……」

 

その後隊舎に戻りギンガと別れてから部屋でレポートを書いて、その後明日に備えて早めに寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も遅い時間、ふと目を覚まして横を見るとシェルティスが起きていた。

 

「……眠れないのか?」

 

「……君の方こそ。聖王様ではこのベットは固くて眠れないなんて言うんじゃないでしょう」

 

「はは、そんなことないさ。聖王と言っておきながら今まで庶民の生活をしてたからこれがちょうどいいくらいだ」

 

「確か……養子だったよな。いいご両親に育てられたみたいだな」

 

「ああ、切実に俺の事を考えくれている大切な両親だ、とても感謝している。シェルティスの方こそ両親もそうじゃないのか?」

 

「僕の所は、な」

 

シェルティスは天井を見つめる。

 

「何かあったのか?」

 

「そうじゃない、父さんにも母さんにもちゃんと育てられていて……管理局を抜けばごく普通の両親だ。だけど、無用に心配性なんだ」

 

「それは良いことじゃないのか?」

 

「それは……僕が通常の子どもとは違うからだよ」

 

「え」

 

俺は起き上がり、シェルティスの方を見る。

 

「僕はいわゆる強化人間……母さんのお腹にいる時の過程で遺伝子操作されたんだ」

 

「それって……」

 

「父さんは1つの人間の可能性を僕に託したんだ、母さんもそれに賛同した。でもやっぱり批判や妨害が多くてね、母さんと僕にもそれが及んだ。父さんは希望と後悔の両方を僕に向けているから………心配性にもなるんだ」

 

「そうだったのか……」

 

シェルティスの素性を聞いてしまい、少し後悔する。

 

「批判した人々は才能を金で買う、カンニング行為などと言って批判してきたが……父さんは諦めなかった。今は落ち着いているけどね。昔はそれでよくイジメにもあっていたから……同年代で話せるのは君達くらいだ」

 

「そうか……」

 

この状況をどうにかしようとかける言葉を考える。

 

「その………色々あるとは思うけど。イシュタルさんとか、他にも仲が良い人はいるだろう?」

 

「父さんの周りの人達にね。イシュタルからは戦い方と楽しみ方を教えてくれた、剣を教わったのはイシュタルの上司にあたる人に教わった。皆、強化人間のことなんて関係なく良くしてもらっている」

 

「そうか、やっぱり」

 

「!………どういうこと?」

 

「イシュタルさん、あんな楽しそうにしながらシェルティスのことを心配そうな目で見てたからな。親しい人にしか分からないことなんだなぁって思ったんだ」

 

「……………………」

 

「あれ、どうした?」

 

「何でもない、本当に普通だと思っただけだよ」

 

「はは……自覚している」

 

そこから少しの沈黙の後……

 

「………昼間の傷は大丈夫?」

 

「ん?ああ、もう痛みも感じないし傷も塞がっている。アリシアとギンガにお礼を言わないとな」

 

「そう………レンヤ、君はどうにも危なっかしい所があるみたいだね」

 

「え」

 

シェルティスは起き上がり、顔をこちらに向ける。

 

「入学式の時、はやてを庇った時もそうだけど………あの時、君は何の戸惑いもなくはやてを庇うために行動したよね?」

 

「あ……」

 

「あういう時、普通なら自分の身を守ろうとするはず。けど君はそうせずに他人を守ることを優先した。今日僕達を庇ったように、本来なら誉めらた行動だと思うけど………僕にはどうもおかしく見えてしまう」

 

「……………………」

 

内心焦りながらベットに倒れこむ。

 

「はは……参ったな。まさか見抜かれているとは思わなかった」

 

「君が僕のことを見透かしたようなことを言うからだよ。けどその在り方、自分でも傲慢だと、自分でも分かっているでしょう?」

 

「ああ、父さんと兄さんにも言われたし子どもの頃から理解している。それでも変えられないんだけどね」

 

「そうなんだ……」

 

「ははっ……」

 

「ふふ……」

 

そう言ってからなんだかおかしくなってきて、お互いに思わず笑ってしまう。

 

「未熟者同士なのはお互いさまというわけか」

 

「ああ……今日はもう寝よう。慣れているけど、寝不足で力を出せなかったら他の皆に悪いからな」

 

「そうだな、そうなったら本末転倒だ、早く寝ようか」

 

シェルティスはベットに倒れこむ。

 

「おやすみ、シェルティス」

 

「良い夢を、レンヤ」

 

目を閉じた瞬間、すぐに寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その会話をリヴァンが黙って聞いていた。

 

2人が寝たのを確認するとリヴァンも寝てしまった。

 

 



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69話

 

 

ピピピピピピピピ………

 

セットしていたアラームで目を覚ました。窓の外はまだ暗く、時間をみると4時だった。

 

「ふああああ……そうか、素振りするために早く起きるんだったな」

 

他の2人も起きないように指向性のあるアラームにしておいてよかった。

 

静かに寝間着から制服に着替えて、ここの裏手にある林に向かった。

 

「ふっ!やあ!せいっ!」

 

素振りを終えた後、型の研鑽に入る。

 

(こがらし)の舞!」

 

回転しながら地面のある枯葉を巻き上げて、一枚一枚縦切りにする。

 

「ふう……」

 

一息つき、集めた枯葉の山をみる。

 

「うーん……あ、一枚ズレている」

 

枯葉の山から少し横にズレた枯葉を見つける。

 

ため息をついて枯葉を放り、刀を納刀して木に向かって構える。

 

深呼吸して集中し……

 

「一瞬三斬…………瞬光!」

 

抜刀して瞬時に移動、右上に振り抜いた状態になる。

 

「ふう………」

 

刀を納めて木の元に戻ると、木の表面にアスタリスクのマークができていた。

 

「うん、前より上手くいった。前はズレて三角形ができていたからな。今回はちゃんと一点にできた」

 

剣先で削るように振り抜いたからそこまで木にダメージはないっと。

 

ピピピピピピピピピ………

 

ちょうどその時、5時を過げるアラームが鳴った。

 

《時間です》

 

「了解、ちょうどよかったな」

 

クールダウンしながら隊舎に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽くシャワーを浴びた後、皆と合流して。朝食を取った後ゲンヤさんから依頼の入った封筒をもらい正面玄関で開こうとする。

 

「ゲンヤさんはどんな依頼を出したんだろうね?」

 

「さっさく確認してみようか」

 

封筒を開けて依頼を確認する。

 

「指定グリードの討伐と模擬戦の依頼か」

 

「昨日と同じでバランスよくまとめてられているわね」

 

「これなら大丈夫そうだね」

 

「期間は残り1日ーー明日の朝にはルキュウに戻らないといけない。すぐに動いた方がーー」

 

「ーーシェルティス・フィルス」

 

リヴァンが遮るようにいきなりシェルティスを呼んだ。昨日までリヴァンから話しかけることはなかったのに。

 

「……何だい、リヴァン・サーヴォレイド」

 

シェルティスもおうむ返しのようにフルネームで呼ぶ。

 

「ちょうどいい相手もいることだ、連携を取れるようにするぞ。いい加減戦いで連携が取れないのも不本意だからな」

 

「……………………」

 

「リヴァン君……」

 

どういう風の吹き回しと言いたいけど、だいたい昨日の……

 

「やれやれ。君も案外単純なんだね。大方、昨日の話しを盗み聞きした……てことでしょう」

 

「なっ………違うぞ!お前の事やレンヤの話なんて聞いてーーーあ」

 

感情に任せて素直に言ってしまったリヴァン。

 

「リヴァン……」

 

「あはは……」

 

「語るに落ちたわね」

 

「……〜〜っ〜〜……」

 

「まあまあ……………プッ」

 

「フフ……」

 

顔を真っ赤にして自分の失態を自覚する。シェルティスは呆れたように笑う。

 

「ーーいいよ。その話乗った。僕の方が上手く合わせてあげるから大船に乗った気でいるといいよ」

 

「くっ………それはこちらの台詞だ。俺がお前に合わせてやろう」

 

「フン……」

 

「はは……」

 

「今日の実習は上手く行きそうね」

 

「でもまたレン君を傷付けたら………分かっているね?」

 

なのはの言葉に2人は無言で頷く。

 

その時、フロントに電話が掛かった。しばらくして受付の人が近寄って来た。

 

「シェルティスさん、グランダム少将からお電話です」

 

「父さんから?」

 

シェルティスは電話を受け取り、少し俺達と離れて通話する。

 

「………………うん………分かった、今すぐ行きます。それじゃあまた」

 

1分くらいで通話を終了し、こちらに戻って来た。

 

「………ごめん皆、そのーー」

 

「ーー行ってこい」

 

リヴァンの思いがけない言葉にシェルティスは驚く。

 

「急いだところで良い結果は出ない」

 

「午前中は俺達でやるからシェルティスは行ってくるといい」

 

「せっかくの機会だから親孝行でもしてきなさい」

 

「そうそう」

 

「遠慮しないで大丈夫だから」

 

「皆………」

 

シェルティスは少し考える。

 

「ーー分かった。午後には合流できるようにする。僕抜きでも大丈夫だと思うけど、気をつけて」

 

「言われなくても」

 

「それじゃあ昼くらいに隊舎のロビーで落ち合おう」

 

「何かあったら連絡してね」

 

「分かった、それじゃあまた午後に」

 

「またね〜」

 

シェルティスは隊舎を出て、ちょうど通って来たタクシーに乗って行った。

 

「ーーよし、それじゃあ頑張って依頼をこなそうか」

 

「シェルティスを楽させるためにもね」

 

「うん、そうだね!」

 

「それにしてもーー」

 

アリシアの言葉で全員がリヴァンを見る。

 

「な、なんだ……?その何か言いたそうな顔は」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「リヴァンのおかげで色々と良い方向に行きそうだと思ってさ」

 

「えらい、えらい」

 

「もっと大人しく出来ればいいんだけどね」

 

「俺は子どもじゃねえ!何だその生暖かい目は!レンヤ、アリサ、お前達とはわだかまりが無いとはいえ負けるつもりはないぞ!」

 

「え、そうなのか?」

 

「負けず嫌いね」

 

「それとなのは!もっと砲撃は控えろ、トラウマになる!」

 

「ええええええ⁉︎」

 

「ついでにアリシア!この際言っておくが授業中に寝るな!」

 

「お日様には勝てないんだよ」

 

リヴァンはタガが外れた様に皆に遠慮なく言ってしまう。

 

「はは……とにかく出かけるか」

 

「うん!」

 

「まずは模擬戦ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直して、ここの訓練場に向かった。

 

「待っていたぞ!」

 

そこに、訓練場のど真ん中にレヴァンティンを地面に刺し柄に手を添えて立っているシグナムがいた。横にはシャマルがいた。

 

「「「「…………………」」」」

 

「知り合いか?」

 

リヴァンが質問する中、俺達は回れ右をする。

 

「………行こっか?」

 

「ええ……」

 

「必須じゃ無いし……」

 

「だな………」

 

「お、おい……!」

 

そのまま去ろうとすると……

 

「ふふふ………逃がさないわよ」

 

シャマルにバインドされ、逃げられなかった。

 

「嫌だ!絶対に嫌だ!」

 

「模擬戦なのに絶対に本気になるんだから!」

 

「私達にはまだ依頼が残っているのよ!」

 

「ヘルプ、ヘルプ!」

 

無駄に硬いバインドにもがく。

 

「大丈夫だ、リミッターも掛けている。単純な手合わせだけだ」

 

その言葉を聞き、ホッと一息つく。

 

「まあ、それなら」

 

「なら私が相手をするよ」

 

「なのは⁉︎」

 

なのはが名乗り出た事に驚く。

 

「いつもは模擬戦だけだからイマイチ本気になれないの。でもシグナムさんとなら今の実力が分かるはず……!」

 

「ふ、お前と一騎打ちはしたことは無いな。良いだろう、来い!」

 

なのはのバインドが解除され、なのははレイジングハートを起動してバリアジャケットを纏いシグナムの元に行き……

 

「「はあああああっ!」」

 

お互いの武器をぶつけ合った。

 

「なんか始まっちゃったね」

 

「今のなのはで勝てるのかしら?」

 

「なのはの教導官としての観察力があれば………あるいは」

 

バインドを解除してもらい、立ち上がりながら模擬戦を見る。

 

「この中でシグナムに勝てる人はいるのかしら?」

 

「うーん、俺とアリサでも五分五分ですし……リヴァンなら勝てそうかもな」

 

「俺が?あの人に?」

 

「リヴァンは正攻法のシグナムと違って絡み手が主な攻撃方法だからね。相性としてだよ」

 

「なのはは士郎さんに棍術を教わったらしいけど……勝てる見込みはあるのかしら?」

 

「俺も訓練には付き合っている。それに、戦うのは棍を使うなのはじゃなくて魔導師のなのはだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

「うっ……」

 

「どうしたなのは、もう疲れたか!」

 

シグナムさんの剣戟にだんだんついてこれなくなってきている。やっぱり重ねてきた年月が違い過ぎる。

 

(でも、防御に徹して観察すれば……突破口は出来る!)

 

「はあっ!」

 

「っ………やるな!」

 

真正面ではすぐにやられる。レイジングハートに硬化魔法は施しつつ移動しながら的を絞らせない様に……

 

「それで勝てるほど、私は甘く無いぞ!」

 

ガシャン!

 

《シュランゲフォルム》

 

カートリッジをロードしてレヴァンティンを連結刃に変えてシグナムさんの周囲を薙ぎ払った。

 

距離をとって回避するけど、刃は迫って来る。

 

「でもっ……!」

 

レイジングハートで刃を叩き落として、一気にシグナムさんに接近する。

 

「やああああっ!」

 

この状態のシグナムさんは素早く動けず防御力も低い、今なら……

 

「ふ、なのは。お前はこれのことを失念してたな」

 

ガキンッ!

 

「っ!」

 

私の一撃は鞘で受け止められた。その隙にレヴァンティンを元に戻して胴に剣を入れられて……

 

ガキンッ!

 

「何⁉︎」

 

その一撃を防御魔法で防ぐ、そして腕にバインド!

 

「バインディングシールド、拘束確認!」

 

「させん!」

 

シグナムさんは剣を左手に放るが、こっちの方が早い!

 

「行くよ、レイジングハート!」

 

《了解です、マスター》

 

「はあああああっ!」

 

強烈な突きを何度も打ち込み……

 

「烈波無双撃!」

 

最後に一回転して薙ぎ払う!

 

「ぐはっ!」

 

「そこまで!勝者、なのはちゃん!」

 

シャマルさんが模擬戦の終了を告げた。

 

「はあ、はあ、勝った〜……」

 

《お疲れ様です、マスター》

 

「お疲れ様、レイジングハート」

 

「やるな、なのは。まさか棍術としてのお前ではなく、魔導師としてのお前で来るとはな」

 

「あはは、棍だけだとまだまだ未熟者ですから」

 

「それにしてもお前らしく無い事もするのだな、誘いなど……1歩間違えると負けるぞ、もし私が防御を超える技で来たらどうするつもりだった?」

 

「あの時のシグナムさんならあそこで強力な魔法は使わないと思ったんです。距離も近過ぎますし」

 

「なるほど、してやられたな。だが次は負けないぞ」

 

「………できれば、もっと腕が上がったらにして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはが勝ったよ!あのシグナムに勝ったよ!」

 

「すごいな、シグナムって人もかなりの腕なのに。未熟な棍術を魔法で補ったのか」

 

「なのはの棍術の腕も以前より上がっているわ。でも、今度は別方面の問題もありそうね?」

 

「ああ、今のレイジングハートでは棍には適さない。すずかに新しい機能を追加する様にしないとな」

 

その時、なのはとシグナムが戻って来た。

 

「お疲れ様2人共」

 

「なのは凄かったよ!」

 

「ありがとう、アリシアちゃん」

 

「シグナムもお疲れ様」

 

「久しぶりに血沸く戦いだった」

 

「俺もいつか貴方と手合わせ願いたいですね」

 

シグナムがリヴァンを見る。何やら怪訝そうに見ているが。

 

「………自己紹介がまだだったな。私は八神 シグナムだ」

 

「私は八神 シャマルよ」

 

「はい。俺はリヴァン・サーヴォレイドです。よろしくお願いします」

 

リヴァンとシグナムが握手する。

 

「……………………」

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「……いや、何でもない。少々嗅ぎ覚えのある匂いがしたものでな」

 

「っ……!」

 

リヴァンはシグナムから離れる。

 

「そう身構えるな。私とてここで荒事を起こす気は無い」

 

「…………感謝します」

 

「どうかしたの?」

 

「さあ?」

 

「コホン、とにかく依頼は終わりですね。俺達は別の依頼が残っているのでもう行きますね」

 

「ああ、呼び止めて済まなかったな」

 

「皆、怪我しないでね」

 

俺達はもう一つの依頼を終わらせるために訓練場を出た。

 

少し横目でリヴァンを見る。シグナムさんが言っていたこと………匂い。俺も少し嗅いだたことはある。それはあれに似ていた。強烈に、人身に染み付いて、あの激痛に耐えたあの日に……

 

「レン君?どうしたの?」

 

「!、いや、何でもない」

 

早足で前に進んだ。

 

リヴァンから感じたあれは………血の匂いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから都市内の異界に入り、今はハーピィ型のSグリードと戦っている。

 

流滴(るてき)!」

 

空中でグリードと戦いながら、斬撃を飛ばしながら誘い込む。

 

「はあっ!」

 

《フレイムタワー》

 

アリサが上空にいるグリードに火柱を放つ。

 

《チャージ完了》

 

「アクセルシューター………シューーート!」

 

なのはが魔力弾を発射してグリードの周りを囲み、動きを止める。

 

「アリシアちゃん!」

 

「準備OK!」

 

《チャリオットキャノン》

 

アリシアが巨大な大砲を構えて……

 

ドオオンッ!

 

大きな音を響かせながら巨大な魔力弾がグリードに直撃する。

 

「リヴァン!」

 

「任せろ!」

 

グリードを鋼糸で拘束して、そのまま落下させる。

 

「ほいほい、いらっしゃ〜〜い」

 

《マインフィールド》

 

「イグニッション」(パチン!)

 

ドオオオオオンッッッ!

 

アリシアが指を鳴らし、設置型の魔法でグリードを爆撃した。

 

煙が晴れた頃にはクレーターを残してグリードはどこにもいなかった。

 

「やったーー!」

 

「コンビネーションも全く問題無かったね」

 

「ええ。でもアリシアの魔法、だんだんとミリタリー化してない?」

 

「フッフッフッ〜〜。これが私の魔法さ」

 

魔力弾をお手玉しながら誇る。

 

「おーいアリシア。それ爆弾だろ」

 

「よくぞ気づいてくれた!超圧縮魔力爆弾!中の高密度の魔力を炸裂することによって強力な攻撃ができるのだ〜〜!」

 

「そんな物でお手玉するな!」

 

「大丈夫、大丈夫………あ」

 

あ、魔力弾………一個落とした。

 

「「「「「…………………」」」」」

 

アリシアは他の魔力弾を消して足元の魔力弾を見る。

 

「どうするの、これ?」

 

「えっと、消せないの?」

 

「いや〜手から離れと信号ですぐに爆発かタイマー性なんだよね〜〜」

 

「ちなみに何秒だ?」

 

「10秒」

 

《5……4……》

 

レゾナンスアークのカウントが始まった瞬間、全員ゲートに走り出した。

 

「もっと良く考えろーー‼︎」

 

「ごめんなさ〜〜い!」

 

「とにかく走れ」

 

《3……2……》

 

「きゃああああっ⁉︎」

 

「飛び込みなさい!」

 

《1……》

 

俺達がゲートに入った瞬間……

 

《0》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ!」

 

「きゃあ!」

 

「ぶっ!」

 

「痛っ!」

 

「あいたたた……」

 

ゲートから飛び出して、重なるように着地する。

 

「こんのおバカ!もっと時と場所を考えなさい!」

 

「痛い痛い痛い!ごめんなさ〜〜い!」

 

アリサがアリシアにアイアンクローをしている。アリシアが浮いているよ。

 

「よっと……」

 

ふにょん

 

「やん……!」

 

「あれ?」

 

右手に柔らかい物が……身を起こして右手を見ると丸い物があって上を見ると……

 

「えっと………レン君?」

 

「なのは?」

 

「その……退いてくれると嬉しいな///」

 

「え、あ!ごめん!」

 

バッとなのはから離れる。

 

「ごめんなのは!」

 

「ううん、レン君もわざとじゃ無いことも分かっているよ…………それに、レン君になら///」

 

なのはが顔を俯かせて何か言っているが、頬が赤くなっているのは分かる。

 

「コホン!いいだろうか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

「えっと、ごめんね……!」

 

「それよりあれをどうにかしないか?」

 

リヴァンが指差す方を見ると、未だにアリサがアリシアにアイアンクローをしていた。時折アリシアがビクンビクンと跳ねているが……

 

「アリサストップ!それ以上やったら死ぬから!」

 

「アリサちゃん!ステイだよ!」

 

「私は犬じゃないわよ!」

 

それからアリシアを蘇生して、経過報告の為に一旦隊舎に向かう。

 

「イタタタ、死ぬかと思ったよ〜」

 

「自業自得よ」

 

「これからはちゃんとした時と場所で使うことだ」

 

「同士討ちでやられるなんて真っ平ごめんだからな」

 

「魔法で遊ぶのもダメだよ」

 

「はぁい……」

 

アリシアを説教しながら歩くと、目の前の信号で止まる。

 

「実習は今日の午後でお終いよね?」

 

「ああ、シェルティスもそろそろ戻って来ていい頃だけど」

 

「そろそろ戻って来ないと終わっちゃうね」

 

「ま、俺としては来なくても何も問題無いがな」

 

「またまた〜。照れちゃって〜」

 

「照れてない!」

 

ちょうどその時、信号が青に変わり。横断歩道を渡る。

 

「お昼はどこで食べようか?」

 

「ここは隊舎の食堂でいいだろう」

 

「ええ、その方がシェルティスが来た時にも見つけやすいわ」

 

「早く行こう!お腹空いた!」

 

「少しは落ち着け、それだからフェイトの妹に見えるんだ」

 

雑談しながら横断歩道を半分渡った時に、何か異変を感じた。

 

「「!」」

 

「レン君、アリシアちゃん?」

 

「何止まっているのよ」

 

「早くしないと信号が変わるぞ」

 

「アリシア」

 

「うん。この感じ、グリードだ」

 

アリシアの言葉に3人は驚く。

 

「これは………移動している。コッチに近づいている!」

 

「物凄いスピードだ」

 

「あ、見えてきたよ!」

 

なのはが指す方向に、中型の四つ脚獣型のグリードが走って来た。

 

「直ぐに道路から出ろ!」

 

一喝し、道路にいる人を走らせる。

 

「早くこちらへ!」

 

「慌てないでください!」

 

「!、レンヤ!子どもが取り残されているわ!」

 

道路を見ると、黒髪のメガネの女の子が尻もちをついて動けなかった。

 

もうグリードは目の前まで来ていた。

 

「間に合え!」

 

《モーメントステップ》

 

「きゃっ⁉︎」

 

一瞬で少女の元まで行き、抱えてからまたモーメントステップで反対側に行く。

 

ブオオオオンッ!

 

グリードはそのまま大きな音を響かせながら通り過ぎて行った。

 

「ふう、大丈夫……か?」

 

「きゅうう………」

 

少女を見てみると目を回していた。

 

「しまったな。あの加速について来れる訳ないか」

 

「レンヤ!大丈夫⁉︎」

 

俺は少女を木に寄りかかせて、皆の方を向く。

 

「特別実習の延長だ、気合いを入れて行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「了解!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

俺達はすぐに隊舎に向かい、ゲンヤさんのいる部屋まで向かう。

 

バンッ!

 

「失礼します!」

 

ノックもせず勢い良くドアを開ける。

 

「なんだ騒がしいな………と言いたいが大体理解している。現在グリードはここエルセア一帯を疾走している。今部隊を対処に向かわせたが、どうやらAMFを纏っているらしくてな。結界やバインドといったものが効かない。今は追い込みをして疾走範囲を狭めているが、いつ突破されるかわからない状況だ」

 

「なら俺達が行きます!特別実習の範囲内です!」

 

「もちろんそのつもりだが、対策はあるのか?」

 

「それは………」

 

AMFがあると対処に時間がかかる、どうしたら。

 

「なら、私の結界で止めるよ」

 

「アリシアちゃん、できるの⁉︎」

 

「さっきも言ったけど、結界を突破されるのよ」

 

「大丈夫、私の新しい結界は私だけの私しかできない結界だから!」

 

「………任せていいか?」

 

「もちろん!任せておいて!」

 

「よし、やるか!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本局に連絡を取り飛行制限を解除してもらい、作戦行動に移る。

 

「現在、識別名オンソクは主要大道路を回っている。オンソクをアリシアがいる西の地点まで誘導し、張られた結界内でオンソクを撃破する」

 

「まず、誘導に高機動で動けるのが必要だな」

 

「それなら私となのはが行くわ」

 

「え、アリサちゃん飛べたの?」

 

「私がいつまでも飛べないと思っていた?」

 

「いひゃい、いひゃい!」

 

アリサがなのはのホッペを引っ張る。

「それにしても、結局シェルティスは来なかったね」

 

「いない者をねだっても仕方がない、俺達だけで行くぞ」

 

「分かったよ」

 

「よし!レルム魔導学院、三科生VII組・A班。これよりエルセア一帯を疾走中のグリードを討伐する。全員、心して挑んでくれ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

すぐに行動に移り、アリシアは結界の準備。なのはとアリサで誘導。俺とリヴァンは緊急時の為にアリシアと一緒に待機する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのは、準備はいいわね?」

 

「もちろん!」

 

私達は今、オンソクの進行方向の先にいる。

 

「正面を封じるバリケードを解放、このまま荒野に誘い込むわよ」

 

アリサちゃんは両足に羽を出して飛び上がる。

 

「本当に飛べたんだぁ……でも飛行魔法じゃないね」

 

「私は重力魔法で飛んでいるのよ」

 

「それなら、もっとふわふわ浮くんじゃないの?」

 

「私の重力魔法は重力をプラス、反重力をマイナスに置き換えてリニアモーターの原理で飛ぶのよ。それなりに練習も必要だけど、なのはには負けるつもりはないわよ?」

 

「むう、言ってくれるの。私の方がずっと空を飛び続けているんだから」

 

私とアリサちゃんは火花を散らせる。

 

『2人共、意地を張り合うのは後にしろ、そろそろ来るぞ。オンソクはその名の通り現在速度はマッハ1。それと強力な電磁場を体の周囲に形成し、電離した水や空気分子で作ったエアロシェルで体を包みこんでいるから空気抵抗を受けずにいる。離されて逃げられたら後は無いぞ』

 

「了解よ」

 

「任せておいて!」

 

アリサちゃんはフレイムアイズのカートリッジのマガジンを外し、別のマガジンを入れた。

 

《ギアーズシステム、コンプリート》

 

「ファーストギア………ファイア!」

 

《ドライブ》

 

キイイイィィィィ!

 

フレイムアイズのギアが回り出して、アリサちゃんの魔力が上がる。

 

私達はスタートの構えを取り、魔力を飛行魔法に集中して……

 

《カウント。5……4……3……2……》

 

「レディーー」

 

《ロードカートリッジ》

 

ガチャンッ!

 

《1……0》

 

「「ゴーー!」」

 

ドオオオンッ!

 

1キロの地点でカートリッジをロード、スタートダッシュすることでオンソクと並走する。

 

「常に並走するのよ!」

 

「分かっているよ!アリサちゃんこそ遅れないでね!」

 

「ハン、誰に言っているのよ。私はバニングスよ!」

 

意地を張り合いながらも飛び続ける。オンソクをよく見るとチーターに似ていて、顔、足、脇腹、尻尾の一部分に黒地に黄色い線が走っている。

 

《目標地点まで残り5キロ》

 

《速度維持を行います。セカンドギア………ドライブ》

 

ギャッリイイイィィィ!

 

『こちらアリサ!レンヤ、聞こえる⁉︎』

 

『聞こえている。そのままその状態を維持してくれ、アリシアの準備も整っている』

 

『あと数分でコンタクトするよ、気をつけて!』

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人からの念話を切り、アリシアとリヴァンの方を向く。

 

「そろそろ来るぞ、リヴァン、準備はいいな?」

 

「もちろん!」

 

「……………………」

 

アリシアは集中しているのか、返事は無い。

 

ディスプレイに表示されているオンソクはどんどん近づいている。

 

「コンタクトまで1分を切ったぞ!」

 

「アリシア!」

 

「ーー私はいつも夢見ていた

一緒にいることを、ずっと夢見ていた。

けれど私はすでに浮世の幻想

1人孤独を彷徨っていた」

 

アリシアが詠唱を開始した。普通の結界ではないと言っていたが……

 

「憧れていた光景は2つ

せせらぎ響く暖かい世界、虚空に座する静寂の世界。

今は崩れた儚き庭園……」

 

とても辛そうに、けれど嬉しい気持ちあるように言葉を紡ぐ。

 

「結界展開内に入るぞ!」

 

『アリシアちゃん!』

 

「現れよ、表れよ、顕れよ!

今宵は静寂ーー」

 

アリシアの魔力が膨れ上がり、結界が発動する。

 

「クロノス・エデン!」

 

アリシアを起点に結界が発動した。すぐさま広がり、視界が遮られて目を閉じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ………」

 

「何だ?普通の結界じゃないと聞いたけど………何が」

 

状況を確認する為、目を開けると………

 

「!、これは!」

 

「何じゃこりゃ……」

 

そこはまるで別の場所だった。どこかの次元空間に浮いている島の様な場所に、その建物の中俺はいた。

 

「レンヤ!リヴァン!」

 

「大丈夫⁉︎」

 

「なのは、アリサ!」

 

「無事だったのか。オンソクは?」

 

「あそこだよ」

 

なのはが指差す方向にオンソクはいた。バインドで動きを封じられていて、巨大な2体の鎧の騎士が押さえ込んでいた。

 

「あれは…一帯……」

 

「傀儡兵⁉︎それにここは……!」

 

「なのは?知っているのか?」

 

「うん……」

 

「それよりもアリシアはどこよ?」

 

辺りを見回すと、奥の玉座に誰かいた。

 

「アリシア!」

 

「よかった、無事みたいだね」

 

「心配させやがって」

 

俺達はアリシアの元に向かう。

 

「アリシア、この結界は……」

 

「ーーここは私が魂の時に彷徨い、心に刻まれた私の心象。私が始まった場所、私が終わった場所………そして、ここにあるのは私の罪、私の罰。ここはその表れだよ」

 

アリシアは玉座に座ったまま語る。

 

「アリシアちゃん!ここってまさか……!」

 

「ご想像通りだよ、なのは。個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え………現実世界を心の在り方で塗りつぶす」

 

玉座から立ち上がり、オンソクを見つめる。

 

「結界魔法の最奥………固有結界。私だけの魔法、君は最初の入園者だ。そして、ここの名前は……」

 

アリシアとは思えない真剣な顔で、高らかに言い放つ。

 

「ーー時の庭園だ!」

 

手を振り払うと、傀儡兵はオンソクを外に投げた。

 

「アリシア!」

 

「皆!戦うよ!」

 

「ああ!」

 

「う、うん!」

 

「後でたっぷり説明してもらうわよ!」

 

アリシアの表情が元の明るい顔に戻った。その時……

 

『ーー僕のことを忘れていないかい?』

 

シェルティスから念話が入った。

 

「!、シェルティス⁉︎」

 

「今どこにいるの!」

 

『そっちに向かっている途中だ、転送してもらえないか?』

 

「了解!」

 

アリシアは転移魔法を発動して、シェルティスが乗っていたと思われる車ごと転移させた。

 

「アリシア、結界維持するのに魔力が足りるの⁉︎」

 

「ああ、大丈夫だよ。結界は地脈の魔力で維持しているから全然問題無いよ。まあ、地脈探すのに時間がかかっちゃったけど。私だけの魔力だけだったらもっと早く発動出来たんだよ?」

 

「そっか。でもビックリだよ、またここを見ることが出来るなんて……」

 

「それで、何で遅れたんだ?」

 

車から出て来たシェルティスにリヴァンが理由を聞く。

 

それと運転して来たのはどうやらギンガだった様だ。この景色に呆然としている。

 

「ちょっと家庭的な事情でね、あんまり喋る事は出来ない」

 

「なら、仕方ないかなぁ?」

 

「後、これも受け取っていたんだ」

 

シェルティスは首から下げた、青い水晶を見せた。

 

「お、インテリジェントデバイスか?」

 

「うん、名前はイリス」

 

《よろしくお願いしま〜す!》

 

AIとは思えないほど、明るい声だ。中に人が入っていると思う程だ。

 

「………随分と人間くさいな」

 

「………僕もそう思う」

 

《酷い!イリスちゃんの心はブロークンハートです!》

 

「はいはい。イリス、セットアップ」

 

《ぶーぶー》

 

ブーたれながらも、イリスはバリアジャケットを展開する。

 

シェルティスのバリアジャケットは白いワイシャツに黒のジャケット、紺のジーンズ、肘の手前まで隠す手袋と赤いネクタイをしている。

 

武器は今まで通りの持ち手が順手、逆手の双剣だ。

 

「これでVII組・A班全員集合だ」

 

「ギンガちゃんは下がっていてね?」

 

「は、はい!」

 

ギンガは車を降りて、建物の陰に隠れる。

 

俺達は建物から飛び出て、庭園の端にいたオンソクの前に立つ。

 

「ぶっつけ本番だ、遅れるなよ?」

 

「誰に言っている!」

 

「ふふ、皆!頑張ろうね!」

 

「ネコ科は専門外だけど、躾けてあげるわ!」

 

「私の世界に抗って見せてよ!」

 

「特別実習の総仕上げだ………魔導学院VII組A班、全力で目標を撃破する!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

オオオオンンンンッ!

 

オンソクの雄叫びと同時に、リヴァンとシェルティスは飛び出した。

 

「剣晶三十一・星清剣!」

 

「繰弦曲・針化粧!」

 

シェルティスが集めた結晶を放ち、リヴァンが幾つもの鋼糸を飛ばす。

 

それをオンソクは避けて、そのまま走り出した。

 

「待て!」

 

「問題ないよ!」

 

アリシアがオンソクに手をかざすと途端に速度が落ちた。

 

「ここは私の世界だよ、普通の結界じゃないの。時の庭園・夜……私が敵と認識した者は呪縛を受け、魔力を吸い取る!」

 

オンソクに黒いオーラが纏わりつき、動きが鈍くなる。

 

「行くわよ!」

 

《サードギア………ドライブ》

 

「はああああっ!」

 

アリサがオンソクを後ろから接近して、横を通る間に何度も斬り付ける。

 

「ふっ!」

 

止まった隙に、リヴァンが鋼糸で足を縛り付ける。

 

「月輪!」

 

「水晶刃!」

 

俺が右から無納刀で居合いで斬り付け、シェルティスが左から魔力を込めた剣で斬る。

 

すると、AMFを発動したのか。呪縛と鋼糸を振り払い、走り出した。

 

「追うわよ!」

 

「待ちなさい!アクセルシューター!」

 

なのはが魔力弾を撃ち、速度を落とそうとするもAMFに阻まれる。

 

《スターダストフォール》

 

「ファイア!」

 

レイジングハートが浮かせていた石を発射するも、今度はエアロシェルに阻まれる。

 

「おおう⁉︎」

 

「このまま追いかけっこはまずいぞ!」

 

「ならこうすれば!」

 

アリシアがオンソクの前に壁を作り、進行方向を変えさせる。

 

「このまま時の庭園を疾走させる気⁉︎」

 

「結界の境界から分断されているとは言え、AMF張られた状態で暴れられたらたまったもんじゃない!」

 

「先回りするぞ!現実オンソクは12時方面にいる。俺とアリサとなのはで3時方面に、アリシア、リヴァン、シェルティスは6時方面まで先回り!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

すぐさま移動して、オンソクを待ち構える。

 

目標地点に到着したらすぐにオンソクが迫って来た。

 

「止めるわよ!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

《キャノンフィルム》

 

《エクセリオンモード》

 

《スプリットモード》

 

それぞれ最適な機能に切り替え。フレイムアイズは刀身が割れ、銃身が出てくる。

 

「うおおおおおっ!」

 

アリサは銃身に魔力を集め始めた。

 

《フルチャージ》

 

「アトミックブレイザー!」

 

放たれたのは極太の灼熱の砲撃。射程距離は短いもののかなりの威力だ。

 

それでもオンソクは砲撃を物ともせず、走り続る。

 

「止めるなら壁を!」

 

《プロテクションEX》

 

なのはが障壁を展開した瞬間、オンソクと衝突した。

 

「くっ!うううっ……」

 

衝撃とAMFによる結合不良でだんだんと押されていく。

 

「もう十分よ!」

 

「きゃっ!」

 

障壁が破られた瞬間、アリサがなのはを抱えて飛んだ。

 

そして速度が落ちた瞬間を狙い、刀を構えて一気に接近する。

 

瞬迅雷(しゅんじんらい)!」

 

ズバンッ!

 

一瞬の交差で移動と同時に刀を振るい、頭上に切り込みを入れた。

 

オンソクはそのまま走り去って行く。

 

「行くぞ!」

 

「なのは、早く行くわよ!」

 

「はあ、はあ、待ってよ〜」

 

息つく暇も無く、オンソクを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、リヴァン、シェルティスの3人は目標地点で待機をしているとレンヤから念話が入って来た。

 

「うん………了解。後はコッチで任せて」

 

『頼んだぞ』

 

「突破されたのか?」

 

「そうみたい」

 

念話を切り、2人に内容を伝える。

 

「ココでキッチリ止めるよ!」

 

「言われなくても!」

 

リヴァンは張り巡らせた鋼糸に魔力を込める。

 

「狙うはレンヤが付けた切れ込み、行くよ!」

 

《デュアルマリオネット》

 

私が3人になり、それぞれ別々の魔法を発動する。

 

「サウザンドブリッツ!」

 

「チャリオットキャノン!」

 

「ボムフィーバー!」

 

オンソクに向かって大量の魔力弾、巨大な魔力弾、炸裂する魔力弾を放つ。AMFで効かないけど、衝撃で怯ませて速度を落とさせる。

 

「そこっ!」

 

フラついたオンソクが鋼糸に突っ込んだ。不安定になったAMFでは鋼糸を消せず、足を絡められ勢いよく倒れた。

 

「シェルティス!」

 

「任せろ!」

 

シェルティスが鋼糸を凄い速さで綱渡りして、オンソクの頭上に飛び上がり……

 

「おおおおおおっ!」

 

レンヤが付けた切れ込みに双剣を突き刺した。

 

「やったか⁉︎」

 

「………まだよ!」

 

オンソクはまだ倒れず、それどころか頭に来たようで黄色い線が赤くなる。オンソクは暴れてシェルティスを振り落とそうとする。

 

「うおおっ、うわあああっ!」

 

「シェルティス!」

 

その時残りの3人が到着した。

 

「遅いよ皆!」

 

「悪い悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェルティス!そのまま耐えてろよ!」

 

「そんなにっ!持たないっ!」

 

頑張っていると思うが、長くは続かないだろう。

 

「アリシア、俺が合図したらシェルティスを転移してくれないか?」

 

「無茶だよ!あんなに動いていたら座標が定まらないし、AMFだってあるんだよ!」

 

「なのは、あんまりアリシアを舐めない方がいいわよ」

 

「そう言うことだ!」

 

接近して、AMFが発生している部位を探す。

 

「発生している場所は………」

 

《特定完了、尻尾です》

 

レゾナンスアークが場所を特定して、尻尾に狙いを付ける。

 

螺穿(らせん)!」

 

一呼吸でオンソクに接近し、尻尾に円回転を加えた突きを放つ。

 

オオオオンッ!

 

「うわっ!」

 

AMFは消えたが、その衝撃でオンソクに刺さっていた剣が抜けシェルティスが宙に舞う。

 

「今だ!」

 

「そこ!」

 

アリシアがシェルティスを転移させた…………上空に。

 

「何でええええ⁉︎」

 

「リヴァン!」

 

「おうよ!」

 

リヴァンは地面を叩き、鋼糸をオンソクの周りから出して取り囲む。

 

「シェルティス!」

 

「事前に言って欲しかったよ!」

 

シェルティスまで届いた鋼糸を蹴り、体勢を整えながら結晶を集める。

 

「やあっ!」

 

《チェーンバインド》

 

なのはが動きを止める為にバインドをかける。

 

「行くよ、アリサ!」

 

「ええ!」

 

「「ワールドプレス!」」

 

アリシアとアリサが左右から接近して、上下からの重力魔法でオンソクを抑えつける。

 

「決めろ、シェルティス!」

 

「ああ!」

 

集めた結晶を剣に纏わせて、落下の勢いと合わせて振り下ろす。

 

「剣晶七十八・輝石双牙(きせきそうが)!」

 

結晶と双剣を突き立て、結晶がオンソクを貫通する。

 

オオオン………

 

オンソクは断末魔を上げて消えていった。かなり走らされて、全員肩で息をしていた。

 

「はあっ、はあっ……」

 

「……何とか倒せたか……」

 

「ふー……かなり手強かったわね」

 

「さ、さすがに疲れた……」

 

「こんなことで………立ち止まってたまるか……」

 

「ふう、ふう………疲れた〜〜」

 

しかし、疲れてはいるが初めての連携による勝利に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「……はは……」

 

「あははっ……」

 

「全く……笑い事じゃないだろ」

 

「そう言う君こそ何をニヤついているのかな……?」

 

「お、お前だって……!」

 

「やれやれだわ」

 

「あはは!そうだね♪」

 

息を整えて、一旦集まる。

 

「実習の仕上げとしては上々だな……」

 

「うん!皆の息も合っていたし!」

 

「やれば出来るものね」

 

「皆さん!」

 

互いに賞賛し合っていると、ギンガが近寄ってきた。

 

「ギンガ、無事だったか」

 

「済まないな、こんな場所に連れて来てもらって」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

「ありがとうね、ギンガちゃん」

 

「それじゃあ、結界を解除するね」

 

アリシアが結界を解除し、元の荒野に戻った。

 

「う、眩しい……」

 

「暗い場所からいきなりここは少しキツイわね」

 

周りは遮る物も無く、太陽の光で目をすぼめる。

 

「夕焼けか………もう日が落ちそうだ」

 

「皆さん車に乗ってください、送って行きます!」

 

「なら、お言葉に甘えるとしようか」

 

「日が沈む前に着けばいいんだけどね」

 

「飛ばして行きましょうか?」

 

「安全運転でお願いする」

 

車に乗りこみ、都市に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊舎に着いた頃には日も沈んでしまった、俺達は疲れた体に鞭を打ちながらゲンヤさんの元に向かった。

 

「失礼します」

 

「おお、帰って来たか」

 

「どうやらお疲れのようだな」

 

部屋にはゲンヤさんとグランダム少将とイシュタルさんがいた。

 

「父さん、何でここに?」

 

「町の被害もそれなりにあったのでな、近くにいた私が赴いたのだ」

 

「そうそう。グランダムさんはお父さんとしても理事としても心配だったのだよ」

 

「あはは……」

 

「ご配慮、感謝します」

 

「いいお父さんじゃない、シェルティス君」

 

「ふう、出来れば隠して欲しかったよーー」

 

そこでイシュタルさんが言った言葉に気がつき、グランダム少将を見る。

 

「え」

 

「今、理事って言ったよね?」

 

「ああ、そう言えば言ってなかったな」

 

ゲンヤさんがそう呟くと、グランダム少将は一歩前に出る。

 

「改めてーー魔導学院の常任理事を務めるグランダム・フィルスだ。今後ともよろしくお願いしする」

 

「じょ、常任理事……」

 

「そ、そんな話、初耳だよ⁉︎」

 

「フフ、お前の驚く顔が見たくて黙っていたのだ。ああ、ちなみに常任理事は私一人ではない。あくまで3人いるうちの一人というだけだ」

 

「…………………」

 

あまりの驚きで呆然とするシェルティス。グランダム少将の目論みは成功したわけだ。

 

「フフ、もう夜も遅い。魔導学院に戻るのは明日にして今日はもう休むといい。学院には私が話しておく」

 

「ありがとうございます」

 

「正直もうクタクタです」

 

《シェルティス、ちゃんと水分補給して体を洗ってから休んで下さいね。それとこれが一番重要です!先の戦闘で私の表面(お肌)がザラザラです、清潔な布で優しく拭いて下さい!》

 

「ふわあ〜〜、最後のはともかく早く行こう」

 

イリスの要求を流してシェルティスは部屋から出て行った。廊下からイリスの嘆きが聞こえたが……

 

「随分と人間くさいAIにしたのですね?」

 

「その方がいいと思ったからだ。シェルティスにしても、私にしても」

 

「あはは………」

 

それからココで一晩、疲れ切った身体を休めてから。翌日、俺達はエルセアを後にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

車で駅前まで送ってもらい、挨拶を済ませてからレールウェイに乗り込んだ。

 

「ふわああっ……」

 

「……あふ……」

 

なのはとリヴァンがあくびをする。昨日の疲れがまだ残っているようだ。

 

「二人共、だらしないわよ」

 

「一晩ちゃんと寝たんだからもっとシャキっとしろ」

 

「無茶言うな……」

 

「まあまあ、さすがに今回は色々あったからね」

 

「まあ、そうだな。ちょっと見えた物もあるし………」

 

俺の言葉に皆が反応する。

 

「見えた物?」

 

「何それ」

 

「気付かなかった?オンソクを捕らえる為のバリケードを張った時、本局と地上が揉めあっていた」

 

皆納得するように頷く。

 

「あー、また手柄の取り合いね」

 

「そう言えば、確かに」

 

「これは、今後の課題になりそうだな」

 

「問題はまだ山積みだね」

 

怪異だけでも手一杯なのに、そこにまた別の物が入るのはキツイ。人間の悪意は時にグリードよりも恐ろしい物だ。

 

《そんなに暗くならないで下さい!》

 

「イリス」

 

《皆さんはまだ学ぶ立場です。まだ面倒な目に合うと思いますが、皆さんと言う仲間がいればきっと乗り越えられると思います!》

 

「イリスちゃん……」

 

イリスは良いことを言った……そんな風に見えるが………

 

「「「「「「はははっ……」」」」」」

 

全員が笑ったことに驚き、イリスは赤く点滅する。

 

「……くっ……ちょっと面白い……」

 

「やれやれ。何を言い出すかと思ったら」

 

《ちょ、ちょっと……何でそこで爆笑するんですか⁉︎》

 

「ご、ごめん……言っていることはすごく良かったんだけど……」

 

「昨日からのギャップが違い過ぎてね……」

 

「……ちょっとクサイね」

 

「少ししか会っていないけど、似合っていないのは分かるわよ」

 

だけど、今まで暗い雰囲気が明るく変わった。

 

「皆さんと言う仲間がいれば………きっと乗り越えられると思いますならか」

 

「ちょっ……やめろ!悶え苦しませる気か⁉︎」

 

《ああもう!せっかく良いこと言ったのに!皆さんって結構酷いんですね!》

 

皆が笑顔になる中、レールウェイはルキュウに向かい。今回の波乱の特別実習は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達が乗っているレールウェイを、線路脇の丘で見ている者がいた。

 

「帰ったか。まあ面白かったし、ちょっとしたショーだったかさ〜」

 

「ーー不謹慎ですよ、団長」

 

男性の後ろから女性が現れ、注意する。

 

「細かいことは言いっこなしさ〜。それで、ヤツらの足取りは掴めたのか?」

 

「白衣の装束によると………早くて来年には現れるとのことだよ」

 

「やれやれ早いさ〜。まあ報酬分はキッチリ働かせてもらうとしますか」

 

男性は去って行ったレールウェイの方向を見つめる。

 

「良い加減、戻って来て欲しいさ〜。弦殺師(あやとりし)………リヴァン・サーヴォレイド」

 

 



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70話

 

 

6月中旬ーー

 

若葉の季節を過ぎたルキュウでは珍しく長雨が続いていた。各地で実習を終えた俺達VII組のメンバーは通常授業に戻っていた。目の回るほどの忙しい日々と、付いて行くのがやっとの授業にようやく慣れてきた頃………かねてより告知されていたイベントが俺達全員を待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてーー前から予告した通り、明日から中間試験になる」

 

テオ教官が教卓の前に立ち、明日の報告する。

 

「ま、基本は座学のテストだから俺には何の力にもなれないけど。一応、試験官として温かく見守るからせいぜい頑張れ。あ、デバイスの電源はちゃんと切れよ。念話も禁止だからなぁ」

 

相変わらず教師らしくない発言だな。

 

「完全に他人事ですね……」

 

「私達の成績が悪かったら教頭に嫌味を言われるんじゃ?」

 

脅しのようにアリサが言う。

 

「このクラスにはけっこう成績優秀者が多いからな。せいぜい結果を楽しみにしておこう。そうそう、試験結果の発表は来週の水曜日だ。個人別の総合順位も掲示板に貼り出されるから」

 

「はあ……憂鬱だなぁ」

 

「……超面倒やなぁ」

 

「今度こそ勝たせてもらうわよ、すずか」

 

「あはは……お互い頑張ろうね」

 

先月と同様にさまざまな思い入れがあるようだ。

 

「ーーそれともう一つ。クラスごとの平均点なんかも発表されるからな」

 

「クラスごとの平均点……」

 

「なるほど、クラス同士の対抗心を煽るわけか」

 

「うーん、それはそれでやり甲斐がありそうだね」

 

「さて、まだ昼過ぎだが今日のHRは以上だ。残って試験勉強するか寮に帰るかはお前達に任せる。委員長、挨拶しろ」

 

「はい。起立ーー礼」

 

HRは終わり、テオ教官が教室を出て行って、俺達はその後集まった。

 

「は〜、どうしようかな。どの教科も心配だけど特に数学が厳しそうなんだよね」

 

「だったら俺が見てもいいぞ?復習するつもりだったし。まあ、片手間でよければだが」

 

「え、ホント?やったぁ、助かるよ!」

 

「私は次元史がやや不安ですね。一応、授業で習ったところは把握していると思いますが……」

 

「よかったら付き合うよ。代わりに軍事学の設問を手伝ってくれないか?」

 

「ああ、喜んで」

 

「すずか〜、勉強教えて〜」

 

「うん、いいよアリシアちゃん」

 

「なら私も一緒に、古典がちょっと不安なの」

 

「私は全科目不安なんや〜……」

 

「全く、見てあげるからしっかりしなさい」

 

「はぁい」

 

「よかったらフェイトも一緒にどう?」

 

「え……」

 

アリサの誘いにフェイトは戸惑い、チラッとアリシアを見てから……

 

「ーーせっかくだけど遠慮しておくよ。ちょっと、個人的に復習したい教科があるから。先に行くね」

 

フェイトは荷物を持って、教室を出て行った。

 

「……?フェイトちゃん、どうしたんだろ?」

 

「そうだね………」

 

「フェイト………」

 

皆、フェイトのことを心配する。

 

(今、一瞬アリシアのことを見ていたな)

 

「ねえねえ、レンヤ」

 

「ん、どうした?」

 

「レンヤはこのまま寮に帰っちゃうの?」

 

「よかったら一緒に試験対策でもしますか?」

 

「そうだな………とりあえず、すぐには帰らないつもりだ。もしかしたら、どちらかにお邪魔するかもしれない」

 

「ああ、分かった」

 

「気軽に来るといいよ」

 

それで解散となり、皆は教室を出て学院の何処かに行ってしまった。

 

「さて、俺も一通り復習するか」

 

俺は教室に残り、あらかた復習した後に学院を周る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

「……もう下校時間か。雨のせいで気付かなかったな。ちょうどいいし、帰るか」

 

あれから皆と勉強した後、校舎から出ようとした時にチャイムが鳴った。

 

校舎から出たら外はまだ雨が降っていた。本当なら魔力フィールドを張って手ぶらで帰りたいけど、学院はもちろんのこと外での魔法の使用はあまりしない方がいい。持っていた傘を差して行こうとした時……

 

「あんさん、ちょっとええか?」

 

「ん?」

 

関西弁で呼ばれて周りを見るが………誰もいなかった。

 

「こっちやこっち」

 

下を見ると、兜をかぶった小さ過ぎる熊?がいた。

 

「え、えーと……」

 

「雨の中、呼び止めて悪いな〜。ここの学院の学院長室はここで間違えあらへんか〜?」

 

「え、ここの1階右翼にあるけど……受付の人はいるかな?よかったら案内するけど?」

 

「あんがとな〜。でも、大丈夫や〜!そんじゃあな〜〜お兄さん」

 

よくわからない動物は横を通り、校舎に入って行った。

 

「…………………………」

 

あれに変に思わない自分がいて、しばらく呆然としていた。

 

「あれ、レンヤ君?」

 

すると図書館方面からすずかが歩いて来た。

 

「すずかか。そっちも今帰りか?」

 

「うん、フェイトちゃん達はまだ残って勉強していくみたいだけど。私は寮に戻って明日に備えるつもりだよ」

 

「そうか………せっかくだから一緒に帰るか?」

 

「!、………うん!」

 

一緒に帰ることになり、傘を差しながら並んで寮に向かった。

 

「あ、そういえば久しぶりだね、2人だけで帰るのって」

 

「そういえば………ひょっとしたら雨のおかげかもな?」

 

「ふふ、そうだね」

 

確かにすずかと2人だけなのは久しぶりだな。

 

「それで、レンヤ君は中間試験の自信はどうなの?」

 

「アリサとすずかに恥じない結果は出したいと思っている。ベストは尽くすつもりだ」

 

「そっか。お互い頑張ろうね」

 

すずかはそこで何かを考え始めた。

 

「………やっぱりレンヤ君はすごいね、こんな私を受け入れてくれたし」

 

「こんな?吸血鬼のことを言っているのか。別にそんなことないさ、なのは達も受け入れてくれたし、フェイトと同じだ」

 

一年位前にすずかが吸血鬼のことを他の皆にも伝えた事があったのだ。結果はもちろん笑顔で受け入れてくれた。その後ノエルさんとファリンさんが機械人形だったことを聞いたのは驚いたが。道理であんまり変わらないわけだ。

 

「皆は辞書の意味をそのまま受け入れるような人じゃない。むしろ黙っていたことに怒っただろ」

 

「ふふ、そうだね。皆、変だとは思ってくれなかったね」

 

「ああ、そうだな。あ、変といえば………さっき変な動物に会ったんだ」

 

「変な動物?」

 

「すずかと少し会う前に兜をかぶった小さ過ぎる熊みたいなのが、学院長室の場所を聞いてきたんだ」

 

「そんな動物がいるんだね。誰かの使い魔かな?」

 

「あ、そうか。そうかもしれないな」

 

「ちなみにどんな毛色だったの?」

 

「えっと、黒地に白だったな」

 

「黒地に白……」

 

また何かを考え込むすずか。

 

「どうかしたか?」

 

「う、ううん、何でもないよ…………そうだよね。あの子達な訳ないよね。ちゃんと一緒に居るはずだし、こっちに来ることは……」

 

「???」

 

「コホン、やっぱり誰かの使い魔じゃないかな?使い魔って本来連絡を取り合うのが代表的だし」

 

寮に到着して、荷物を置いた後玄関前のスペースですずかと勉強を教え会った。それから帰ってきた皆と夜まで勉強し、キリのいい所で明日に備えて解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から4日間に渡って行われる、魔導学院の中間試験が始まった。雨が降り続ける中、自分が持てる最大限の実力でテストに挑んだ。そしてあっという間に4日は過ぎてしまい、今はHRだ。

 

「いや〜っ、4日間、ホントご苦労様だったなぁ。ちょうど雨も止んだみたいだし、タイミング良かったんじゃないか。これも神さまの粋な計らいじゃなねえか?」

 

「また適当なことを……」

 

「つ、疲れた……」

 

「……もう無理や……」

 

「体力が空っぽだよ〜」

 

「ふふ、はやてちゃん、アリシアちゃん、お疲れ様」

 

「まあ、悪くない結果ね」

 

数名疲れているが、出来の心配は少ないようだ。心労はない方がいい。

 

「ま、明日は自由行動日だし、せいぜい鬱憤でも晴らしてこい。試験結果は来週の水曜に返却するからな。その日の午後には今月の実技テストもあるからな」

 

「それもあったか」

 

「少しは空気を読んでほしいかな」

 

「次の特別実習についての発表もあるのですよね?」

 

「ああ、来週末にはそれぞれ、実習先に向かってもらうから。ま、その意味でも明日は羽根を伸ばすといい」

 

「…………ふむ……………」

 

「うーん、久々に部活に出ておこうかしら……」

 

「ああそれとな、俺はこの後、ちょっとした野暮用があるから。明日の夜まで戻らないからくれぐれも寮のことは頼んだぜ」

 

HRを終わりにして、テオ教官はその野暮用の為なのか早めに教室を出て行った。

 

皆で寮に帰る話しになったが、俺とアリシアは学院長に呼ばれていたので後で帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ、フェイト、アリシアを抜いたVII組のメンバーで一緒に寮に帰る事になった。

 

「は〜、何ていうか解放感に満ちているよねぇ。結果発表を考えるとちょっと憂鬱だけどさ」

 

「ふふん。悪いけど私は自信があるわよ。すずかの方はどうだったの?」

 

「そ、そうだね。悪くないと思うよ」

 

「これが上位成績者の会話か………」

 

「立ち入るにはもっと勉強しないとな」

 

「余り張り合わない方がいいと思うが……」

 

「そういう意味も含めて結果発表待ちってことやな。そういえば………テオ教官のアレってどう思うん?」

 

「確か、誰かに会う約束があるらしいね。明日の夜まで戻らないみたいだけど……」

 

全員、テオ教官の行動に興味があるらしい。

 

「うーん、普通に考えれば恋人に会うとかじゃないかな?」

 

「……信じられないね。アレにできるのかな?」

 

「イケメンなのは認めるんやけど、あの性格と生活態度を見るとどうもなぁ〜」

 

「好き放題言っているわね。まあ、私も同感なんだけど」

 

「はは、アリサ達が一番苦労させられていそうだもんね」

 

「そういえば………アリサちゃん達は明日も生徒会の手伝いをするの?」

 

「うん、今月は私が受けるんだよ。いい気分転換になりそうだし」

 

「なるほどね」

 

雑談しながら向かっていたのであっという間に寮の前に着いた。

 

「そういえば……レンヤとアリシア、どうしたんだろ?」

 

「学院長に呼ばれ言っておったな」

 

「あ、そうだったね」

 

「学院長……何の用事なんだ?」

 

「もしかしたら、特別実習についてではないだろうか?」

 

「分からないけど………フェイトも先に教室を出て行っちゃったわね。せっかくだから皆で帰ろうと思ったんだけど……」

 

「心配だね……………」

 

「?」

 

すずかが心配そうな顔をして、ツァリが分からない顔をする。

 

「……気のせいかもしれないけど。最近、フェイトとアリシア、どこかぎこちないんじゃないかしら?」

 

「そ、そうなの?」

 

「うん……確かに」

 

「今月から入った位だよね……どちらかと言うとフェイトちゃんの方が避けている気がするよ」

 

リヴァンが思い当たることがあるのか考え込む。

 

「言われてみれば。でも、2人共そんな風になるほど仲悪くないよね?」

 

「2人はとても仲の良い姉妹だ」

 

「うーん、そうなんだけど……」

 

「思い当たる節があらへんなぁ」

 

「………ひょっとしたらあの事が原因かもしれないかな?」

 

「あの事……?」

 

「どういうこと?」

 

「特別実習での出来事をA班・B班で報告し合っただろう?アリシアが固有結界を使ったのも含めて」

 

「そういえば………」

 

「確かに結界内の風景を変えるのにはビックリしたんやけど………それがどないしたん?」

 

「結界内の風景を言った時、フェイトが一瞬だけ険しい顔になった気がしてな………すぐに元に戻ったから気のせいだと思ったんだが」

 

「そうだったの……」

 

「でも、それがどうして?」

 

「いや、そこまでは分からない……」

 

「ま、事情は人それぞれでしょう」

 

「どうにか出来ればいいんだけど………」

 

その時、寮の入り口が開く音がした。

 

「ーーすずかお嬢様。お帰りなさいませ」

 

「え……」

 

出てきた人を見てみると、そこには二十歳位のメイド服を着た薄紫色の髪をした女性がいた。

 

「ファ、ファ……ファリン⁉︎」

 

「はい。お久しぶりです」

 

すずかはファリンに近寄り、他もそれに続く。

 

「ファリンさんがどうして……」

 

「知っているの?」

 

「すずかの家のメイドよ」

 

「ふむ、確かアリサとすずかはいい家柄の出だと聞いましたね」

 

すずかは何も聞いていなかったそうで、ファリンに質問する。

 

「どうして貴方がここに……家はどうしたの⁉︎」

 

「主人のいない屋敷を掃除しても意味がないとお姉ちゃんが言いまして、それで今日から第三学生寮の管理人を務めさせていただきます」

 

「えぇ⁉︎」

 

驚愕するすずかをよそに、ファリンはなのは達の前に来る。

 

「初めましての方も多いので自己紹介を、ファリン・K・エーアリヒカイトと申します。すずかお嬢様のご実家、月村家の使用人として仕えさせていただいています。皆様のお世話をさせて頂きますので、よろしくご指導、ご鞭撻ください」

 

ファリンはスカートを掴み、お辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

予告通りテオ教官は居なかった。今日はファリンさんが朝食を作ったようで、全員でそれを頂いている。

 

「うわ〜……!」

 

目の前に出された朝食に、ツァリは感嘆の声が出る。ミッドチルダの人は基本洋食なので、ベーコンエッグとトースト、コーンスープで飲み物は紅茶かコーヒーかお茶が用意されていた。

 

「これは見事です」

 

「すごい数の料理だな」

 

「どれも美味しそうだね♪」

 

「へえ、イタリア風の朝食スタイルね」

 

「はい、皆様のスタイルに近い朝食にしてみました。厨房に慣れていないため間に合わせになってしまいって申し訳ありませんが……」

 

昔からにドジな感じはなく、落ち着いた感じに応対するファリン。どこか違和感がするが……

 

「謙遜しないで下さい、充分過ぎるくらいです」

 

「そうですよ、はやてと同じ位かもしれません」

 

「確かにそうやな。でも、負けるつもりはあらへんで?」

 

「そこで張り合うな」

 

「ふふっ、ありがとうございます。コーヒー、紅茶、緑茶共に揃えていますので遠慮なくおっしゃって下さい」

 

「…………………」

 

ファリンさんは笑顔で言うが、斜め前で座っているすずかは年単位でまず見ることの少ない不機嫌な顔をしている。

 

(さすがにご機嫌斜めだな……)

 

(うーん、昨日は随分と揉めていたみたいだし……)

 

(あんな委員長は初めて見ました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日ーー

 

すずかはファリンを連れて、3階にいた。

 

「ファリン、どうしてここにいるの⁉︎」

 

「先程も仰いましたが、主人のいない屋敷を守るメイドなど虚しいものです。ですから、リンディさんの協力の元こうしてここにいるわけです」

 

「それなら一言私に相談してもいいじゃない!」

 

「それが、忍様に相談したところ“黙っていた方が面白いじゃない♪”だそうでして」

 

「ああもう、お姉ちゃんったらいつまでも私のことをからかって………!」

 

ちょうどその時、レンヤとアリシアが寮に戻ってきた。全員一階に集まっていたので2人は何だと疑問に思ったが、上からすずかの大声が聞こえて首を上げる。

 

「ーーって言うか!まさかあの子達を連れて来たの⁉︎この前、レンヤ君がアタックを見たって言っていたんだけど⁉︎」

 

「はい、屋敷はお姉ちゃんだけでも大丈夫そうなので連れて来ちゃいました」

 

「来ちゃいましたじゃな〜〜い!」

 

今度はフェイトが戻ってきて、全員ここにいることに疑問に思ったがまた聞こえてきた大声で上を向く。

 

「と、とにかく!あの子達を全員集めてーーー‼︎」

 

今で聞いたことないすずかの叫びが第三学生寮に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてすずかが言っていたあの子達は……

 

「ウチはアタックゆうねん〜。よろしゅうな〜♪」

 

「変な名前だな」

 

「失礼やな〜!アタックはノルミンファミリーが作られた時に付けられた名前やねんで〜?はんなりしてるやろ〜?」

 

昨日会った不思議動物だった。

 

この動物……通称ノルミンはすずかが作ったお手伝いロボットだ。すずかのことだからこういうのを作るのだったらてっきりモチーフは猫だと思ったんだが、結構意外だった。

 

今まで恥ずかしくて隠してきたらしい。連れて来たノルミンは五体で今いるアタック、紅茶の入ったポットを持っている見た目が緑でベレー帽をかぶったディフェンス、コーヒーの入ったポットを持っている見た目が青くてベレー帽をかぶったスピード、厨房で洗い物をやっている見た目が赤くてベレー帽をかぶったテクニック、この寮の何処かにいると思われるオレンジのサポート。

 

…………見た目は勿論のこと、ネーミングセンスがよくわらない。名付けた理由は魔法的にもサポートできるかららしい。アタック以外ベレー帽をかぶっているし、サポート以外方言で喋っている。そのサポートに至ってはミウミウしか言わない。サポート(名前)がサポート(そのままの意味)する……よくわからん。

 

「美味しい!凄く美味しいよファリン!」

 

「おーい、コーヒーのお代わりくれ〜」

 

「すずかん家はこんなうめえもん食ってんのか?」

 

「ミウミウ」

 

ソエル、ラーグ、アギトは小さい者同士あっさり仲良くなったようだ。それとそこに居たんだ、サポート、働けよ。

 

「……とにかく、私は怒っているからね。ノエルと他のノルミン達も忙しいと思うし、ファリンが居た方がーー」

 

「ふふっ、さすがすずかお嬢様。離れていてもお姉ちゃんのことを気にかけてくれるんですね?それでこそ、私が心よりお仕えする大切な方々です!」

 

「そうやて〜」

 

ファリンさんはすずかの言葉を逆手に取り褒める、ディフェンスも煽てている。

 

「べ、別に気にかけていないよ!」

 

「あ、お嬢様。大好物のブルーベリージャムを沢山作ってきました。せっかくですからファリンがトーストにお塗りしましょうか?」

 

「え、ホント⁉︎」

 

食べ物につられているよ。

 

「だ、だからいつまでも子ども扱いしないで!その、ジャムはもらうけど……」

 

「はいお嬢、ジャムやで〜」

 

アタックがジャムの入った瓶を持ってきた。

 

(……微笑ましいな)

 

(色々と頭が上がらないみたいだね)

 

こうして、俺たちはファリンさんが用意した朝食を舌鼓した後。それぞれ寮から出て行き、生徒会の依頼をすずかに任せ。俺は何時も通りに異界対策課に向かった。

 

「レ、レンヤさ〜ん……」

 

「ほんっとごめんな、ルーテシア」

 

ミッドチルダ全域の依頼をルーテシア一人で受けているから、疲労はかなりある。俺達がいた時よりも遙かに少ないが、それでも子ども一人に受けさせる量ではない。

 

「い、いえ……」

 

「うーん、幾ら書類整理をコッチに任せても依頼はルーテシアちゃん一人で受けているからねぇ」

 

「さすがにダメだったら遠慮なく言ってちょうだい。倒れたら元もこもないんだから」

 

「だ、大丈夫ですよ。ソエルちゃんとラーグ君とアギトとガリューも居ますし、たまにティーダさんとヴィータさんも来てくれますし……」

 

「そのうち2人にお礼を言わないとね」

 

「そうだね」

 

話している間も手を動かして、執務作業を終わらせた。

 

「さて、俺はエルセアに行くから何かあったら連絡をくれ。ラーグ、行くぞ」

 

「待ってました!」

 

「気をつけてね〜」

 

「レンヤさん、行ってらっしゃい」

 

俺は駅に向かわず、ここの駐車場に向かった。

 

「ふっふっふ、ついに買ってしまったよ。マイカー」

 

数年で貯まりに貯まった給料を使い車を買った。貯金と比較すれば微々たる額だが、初めてなので高級車では無く一般的なワゴン車だ。

 

「いいから早く行こうぜ」

 

「ああうん、まあそうだけど……」

 

やっぱり地球での感性が反発して素直に喜べない。運転するのと車を持つのは結構違うんだな。しかし、ギンガもしれっと普通に運転してたからなぁ。

 

車に乗り込み、エルセアに向かって走り出した。

 

車を止めて、いつも通りに依頼を終わらせ、後は周辺の巡回をする。

 

「実習で来たばかりなんだけど、まあいいかな」

 

「行動範囲が広がっていいじゃないか」

 

「まあそうだけど……」

 

巡回を続けていると、繁華街に差し掛かった時……

 

「やるのかアホデコメガネ!」

 

「おおとも鎧デカ!後、私はアホでもデコでもありません!」

 

典型的な不良と生徒会の人の小競り合いを体現している場面に出くわした。見た感じ、小学生くらいだな。やっぱりミッドチルダの人って成長が早いのかな?

 

頭をぶつけ合って啀み合っているな。それに、周りにいる知り合い達もいつも通りの光景という風に見ている。学校の制服違うから、同じ学校ではないんだな。

 

「何だろう、あれ?」

 

「ひと昔前のケンカじゃね?」

 

確かに見えなくもない。

 

やっぱりグリードより、人の方が対処に難しいな。

 

「いいぜー、決着をつけてやらああっ!」

 

「正義の名の下、成敗してやりますわ!」

 

両者魔力を発生させてケンカしようとする。天下の往来で何しようとしてるの、不良の方はともかく黒髪眼鏡の子は結構うっかりしているな。

 

「たっく……」

 

「行くのか?」

 

「ああ、どっちも見たことある顔だし」

 

歩いて彼女達の方に向かう。

 

「おりゃああっ!」

 

「はああああっ!」

 

殴り合おうとした瞬間、間に割り込み……

 

「はい、そこまで」

 

「うおおおおっ⁉︎」

 

「きゃあああっ⁉︎」

 

2人の拳を掴み、勢いを利用して投げた。

 

「いっつ……テメェ、何しやがる!」

 

「正義の邪魔をしないで下さる!」

 

「はあ……」

 

まるで理解していないな、取り敢えず拳を握りしめて。

 

「ふんっ!」

 

「「ぎゃあっ⁉︎」」

 

脳天に振り下ろした。

 

「ケンカ両成敗だ、これに懲りたら控えろよ」

 

「え、あ!あなたは……!」

 

「ん?ああああっ!」

 

あ、気づいていなかったんだ。

 

「す、すみません!先月助けてもらった恩を仇で返してしまいました!」

 

ああ、オンソクから助けた時の女の子、この子だったな。

 

「スンマセンでした!ちょっと、頭に血が上ってました」

 

「まあいいけどね、他の人は止める気はあったのか?」

 

「えーっとー……」

 

「いつも通りの感じだったので……」

 

「本気じゃないのは分かっていましたし……」

 

「………ごめんなさい」

 

「反省してます……」

 

いつも通りはいつも通りで問題だと思うけど。

 

「それじゃあケンカはやめて、次からは模擬戦でやれよ〜」

 

問題ないと判断して、そのまま去ろうとすると……

 

「「あ、あの!」」

 

「ん?」

 

2人に呼び止められた。

 

「私が先だ、オメエは後でいいだろう……!」

 

「いいえ、私が先でする。貴方は私に譲りなさい……!」

 

………また顔を押し付けあってるよ。

 

「それで?赤髪の子が先でいいよ」

 

自分が先だと分かり、ガッツポーズする赤髪の子と。うなだれる黒髪眼鏡の子。

 

「それで何だ?」

 

「あの、その……」

 

いきなりしおらしくなったな。女の子らしい一面があってよかったよ。オレオレ言ってたし。

 

「その、サイン下さい!」

 

「………はい?」

 

色紙とペンを差し出された。

 

「出来れば一撃必倒って異世界語で書いて下さい、端っこでいいんで」

 

「まあ、いいけど。それで君の名前は?」

 

「ハリー・トライベッカです!」

 

取り敢えず名前を書けばいいだろ?ソレっぽく名前を書き、端っこにハリーの名前と漢字で一撃必倒と書いた。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます!それじゃあ!」

 

「良かったですね、リーダー」

 

「羨ましいッス!」

 

満足したのか、お礼を言って去って行った。

 

「それで君は?」

 

「え、あ、はい!私はエルス・タスミンと言います!どうか、アリシア・テスタロッサさんにご教授をお願いしたいのです!」

 

「アリシアに?もしかして君は結界魔導師か?」

 

「はい!」

 

「うーん、こればっかりは聞いてみないと分からないなぁ」

 

「そこをどうか!」

 

意気揚々に迫るな。あ、それなら……

 

「ならテストしようか」

 

「テスト、ですか?」

 

「そ、ついておいで」

 

俺はこの近くの公共魔法練習場に向かった。ただ……

 

「狡いぞ!お前だけ魔法を教えてもらうなんて!」

 

「貴方はサインが欲しかったんでしょう!それなら貴方も指導を願い出ればよかったでしょう!」

 

あの後、ハリーは興奮冷めないまま練習しようとしたらしい。

 

「まあ、手間が省けていいか。2人共、得意な魔法をデバイスを起動しないで1発俺にぶつけてみろ」

 

「「えっ……」」

 

一瞬驚いた顔をして、その後チャンスみたいな顔をする。

 

「なら最初はオレからだ!」

 

ハリーは拳に炎を纏わせる。

 

「おらあああっ!ガンフレイム!」

 

炎を纏った巨大な砲撃が放たれた。

 

へえ、この年でそれほどの砲撃を……

 

「将来が楽しみだな!」

 

《プロテクション》

 

障壁を張り、砲撃を防ぐ。

 

「何っ⁉︎オレの全力をプロテクションだけで⁉︎」

 

「うん、いいね。アリサに頼んでみるが、どうする?」

 

「アリサさんに⁉︎は、はい!よろしくお願いします!」

 

「次はエルスだ」

 

「行きます!アレスティングネット……展開!捕獲します!」

 

チェーンバインドに似た、手錠型のバインドで拘束された。

 

「どうですか、外れないでしょう?」

 

なるほど、拘束効果は鎖じゃなくてリングの方にあるのか。でもこれじゃあまだ分からないな。

 

「ふんっ!」

 

バキッ!

 

瞬間的に最大魔力を放出して、バインドを砕く

 

「嘘っ⁉︎」

 

「あれを破るのかよ……」

 

「次はコッチの番だ」

 

同じ魔法をエルスに放ち、拘束する。

 

「私と同じ魔法を⁉︎ですが、練度が違いますわ!こんな物、幾ら掛けても……」

 

「俺もそう思うよ」

 

チェーンに魔力を込めて……

 

「10や、20ならね」

 

バインドが接触している部分からリングが発生して、エルスの全身をリングで拘束した。

 

「なっ⁉︎」

 

「スゲェ……」

 

「………うん、いいかな」

 

バインドを解除するとエルスは座り込む。

 

「これ以上はアリシアに判断を任せるしかないな」

 

「はい……」

 

「そう落ち込むな、アリシアなら案外気軽に受けてくれるさ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

連絡先を交換して2人と別れ、異界対策課に戻りアリサとアリシアに聞いてみた所、簡単に引き受けてくれた。それを伝えたら大喜びしていた。

 

ちょうど夕方になる前だったので、仕事は寮でやる事にして。ルーテシアを帰した後、全員俺の車でルキュウに帰る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車を街の外にある駐車場に止めて、皆用事があるらしく。俺は先に寮に向かった。

 

ついた時には日も暮れて、寮に入ろうとした時……

 

「お前も今帰りか?」

 

振り返ると駅方面からテオ教官が歩いて来ていた。

 

「テオ教官、お疲れ様です」

 

「お前もな。お互い仕事は大変だな」

 

「そう思うならもう少し真面目に……とは言いませんけど、教師らしくして下さい。それよりも何だか疲れた顔をしてますね?」

 

「ああ、うん……ちょっと色々あってな…………全くあいつらは、腕はいいが面倒事押し付けやがって………」

 

途中から小言で愚痴っているな。

 

「?、その、上手く行かなかったんですか?」

「へ」

 

テオ教官はビックリしたような顔になり、その後何か思いついたような顔になった。

 

「あーうん、そうそう!すげえ刺激的だったぞ、お前達には早い位」

 

「は、はあ……」

 

何だろう。かなり胡散臭いような………

 

「そういや、昨晩はどうだった?留守中何かあったか?」

 

「ええ、特にはーー」

 

……と思ったらファリンさんのことがあったな。

 

「そういえば、この寮に新しく管理人の女性が来ました。教官はご存知でしたか?」

 

「ああ、もう来たのか。すずかの家のメイドが来るって聞いてたぞ」

 

それ、絶対テスト前に聞いてましたよね?

 

「……スン。そういや良い匂いがするな」

 

「多分そうですね、はやてもまだ帰っていませんし。ホント、昔の彼女とは思えない程料理が上手で……今朝はご馳走になったんです」

 

「ああ、お前達と知り合いだったな。ま、楽しみにしておこう。せっかくだし、ツマミでも作ってもらうか」

 

「はは……」

 

相変わらず、でいいのかな?

 

寮に入ると、ファリンさんが出迎えてくれた。

 

「ーーお帰りなさいませ。レンヤ君、それにテオ様」

 

「お帰んなは〜い」

 

「ん?」

 

「ファリンさん、アタック、ただいま。ファリンさんは相変わらずフレンドリーですね」

 

まあ、その方が楽だけど。

 

「むしろ変える方が難しいですね、臨機応変な対応もメイドのスキルです。ふふ、それとも“旦那様”と呼んだ方がいいでしょうか?」

 

「遠慮しておきます」

 

「ええやないか〜。将来お嬢とおおおおおおお⁉︎」

 

アタックが言い終わる前にファリンさんが外に蹴飛ばした。

 

「ふふふふっ………」

 

………蹴った理由は聞かないでおこう。

 

「…………………」

 

「ーー初めまして。月村家より参りました、メイドのファリンです。皆様の身の回りお世話などをさせていただきますのでどうかよろしくお願いいたします」

 

「……………失礼。VII組の担任を務めさせていただ居ているテオ・ネストリウス・オーヴァだ。男では出来ることも多い、気軽に頼ってくれ」

 

「はい、感謝します。テオ様」

 

何か考えていた様だが、問題はなさそうだ。

 

それから何事も無く、今月の自由行動日は終わった。

 

 



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71話

翌週の水曜日、6月23日。実技テストの当日となるこの日の昼休み、生徒たちは一科生、二科生問わずに一ヶ所に集まっていた。

 

「………………」

 

「あ、あはは……」

 

膨れっ面のアリサをすずかが苦笑いする。

 

取り敢えずVII組メンバーの成績を言うと……

 

1位、月村 すずか。986点

2位、アリサ・バニングス。980点

3位、神崎 蓮也。975点

7位、シェルティス・フィルス。932点

8位、フェイト・テスタロッサ。927点

10位、リヴァン・サーヴォレイド。916点

13位、高町 なのは。908点

15位、八神 はやて。896点

18位、アリシア・テスタロッサ。885点

20位、ユエ・タンドラ。870点

27位、ツァリ・リループ。836点

 

まさかのVII組半数が10位以内に入っていた。はやてやアリシアも悪くない成績だ。ていうかよくいるんだよね、頭悪いと言っておきながら成績高い人。まあ、2人はここに入る時も猛勉強してたから違うけど。

 

「よ、よかった〜……そんなに悪い順位じゃなくって」

 

「それにしても、すずかちゃんとアリサちゃんはすごいね!」

 

「相変わらずの1位、2位争いやな。レンヤ君はもう定位置やで」

 

「さすがですね、アリサ」

 

「ま、まあ今度勝てばいいじゃないか」

 

「………まあいいわ」

 

アリサはすずかにビシッと指を指す。

 

「今度は負けないわよ!」

 

「お、お手柔らかにお願いね……」

 

「それにしても………皆、いい線行っているね」

 

「うん、私も入学試験より上がって嬉しいよ!」

 

「まあ、こんなところでしょう」

 

「シェルティスもシェルティスもさらっと余裕そうだし。皆成績上がってよかったね」

 

「はは、皆と試験勉強をばっちりやった結果だよ」

 

「くっ……勝てないと分かっていても悔しい……!」

 

「張り合うな」

 

「そういえば、そっちにも何か貼ってあるけど」

 

アリシアに言われて横を見ると、平均点の書かれた表があった。

 

1st 1ーVII 919点

2nd 1ーI 896点

 

「わあっ……!」

 

「やった!VII組が1位だよ!」

 

「1位から3位までいるのよ、むしろ当然よ」

 

「やるからには負けはやだからね」

 

「ま、同感だな」

 

「ふふふっ……」

 

「実際皆も頑張りましたからね」

 

「ああ、誇ってもいいと思う」

 

「うん、そうだね」

 

「イッエーイ!」

 

「これも苦労の賜物や」

 

まあ全員がベスト30位以内に入っているのだから、平均点が高くない訳がない。努力の結果であり、誇るべき内容ではある。その様子を離れた所から苛立たしげに見ている人影があった。

 

「クッ、何という屈辱だ……!」

 

「一科生の誇りをあんな寄せ集め共に……!」

 

「バニングス……」

 

白い制服に身を包んだ一科生、生徒達。彼らの内に怒りが湧き上がっている様子は見れば一目瞭然であったが、俺達は彼らを視界に入れることが無かったので誰も気付くことは無かった。

 

程なくして予鈴がなり、午後の実技テストの為にドームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

本鈴が鳴り、Ⅶ組の11人は既にドームで待っているテオ教官の下へと向かう。そこでは、満面の笑みでテオ教官が嬉しそう拍手している様子が目に入った。

 

「いや〜、中間試験、皆頑張ったじゃないか。あのイヤミ教頭も苦虫を噛み潰したような顔してたし、ザマー見ろってな」

 

「別に教官の鬱憤を晴らす為に頑張ったわけでは……」

 

「というか、教頭がうるさいのは半分以上が自業自得ですよね?」

 

「常日頃から真面目に業務こなしとけば、嫌味言われることも無かっただろうに……」

 

「ひ、否定できないのが何とも……」

 

別に嫌味を言ってくる奴に一泡吹かせたい気持ちは分からなくもないが、それは少なくとも業務を一通り真面目にこなした上でやってもらいたいものだ。

 

「全く、あのチョビ髭オヤジ、ネチネチうるさいっての……やれ服装だの居酒屋で騒ぐなだのプライベートにまで口出しして……」

 

「反省の色無しか……」

 

「おまけにモテないなど、余計な御世話だっつうの!」

 

「教官の愚痴何て聞きとおないわ!」

 

「あはは……」

 

あの良い気分から一瞬で蹴落とすかのような愚痴に付き合わされる方はたまったものではない。自身の負を全て吐き出してすっきりしたのか、テオ教官は改めて咳払いを入れる。

 

「ーーコホン、まあそれはいいとして。早速、今月の実技テストを始めるか」

 

「了解〜〜」

 

「望むところです」

 

「中間試験よりはちょっと気が楽かなぁ」

 

「腕試しにはちょうどいいの」

 

テオ教官は以前と同様に青紫色の魔法陣から機械兵器を転移させた。もう見慣れたので誰も驚かない。

 

「……現れましたね」

 

「また微妙に形状が変わっているな」

 

「…………………」

 

それをフェイトが怪訝そうな目で見る。

 

「……?フェイト、どうかしたの?」

 

「え⁉︎な、何でもないよ、姉さん……」

 

やはり何かフェイトに合ったのか?そう思った時……

 

「フン……面白そうな事をしているじゃないか」

 

いかにもな傲慢な声が聞こえた。その主を確かめようと入り口の方に視線を移すと、そこには白い制服に身を包んだ生徒たちが立っていた。先程の声の主は、金色の髪を持つ男子、ランディ・ジムニーシエラだった。

 

「あいつらは……」

 

「確か……I組の……」

 

「一体何事かしら?」

 

4人の一科生生徒は足並みをそろえて俺達の前まで移動してくる、入り口に女子も2人いた。何故彼等がここにいるのかはテオ教官にも分からないようで質問をする。

 

「どうした?I組の武術訓練は明日の筈だったはずだが」

 

「いえ、ラウム教官の授業がちょうど自習となりましてね」

 

「え、そんなはずは……」

 

すずかがそんなはずはない、と思っている。 何やったんだコイツら。

 

「折角だからクラス間の交流をしに参上しました。最近目覚ましい活躍をしているⅦ組の諸君相手にね」

 

レイピアを取り出しながらランディが宣戦布告をする。口調は穏やかだが、その声音からは何となく怒り妬みが感じ取れる。

 

「そ、それって……」

 

「得物を持っているということは練習試合でええんか……?」

 

「フ、察しがいいじゃないか。 そのドローンもいいが、たまには人間相手もいいだろう? 僕達I組代表が君達の相手をしてあげよう。 フフ、真の騎士の気風を君達に示してあげるためにもな」

 

ランディにつられた他の一科生も笑う。かなり上から目線だな、上げすぎて倒れないかなぁ。 しかも代表って、こいつらの独断だろ絶対。 それに何故彼等がここにいるのか、その理由を察した俺、アリサ、なのはは右手を顔に当てて苦笑を隠しながらため息混じりに声を漏らした。

 

「学業で負けて悔しいから魔法で自分達の方が上だと証明しに来たか……」

 

「……一気に小物臭くなったわね」

 

「呆れて何も言えないよ……」

 

「この中に騎士っているの?」

 

「アリシアちゃん、言わない方がいいよ……!」

 

「丸聞こえだぞ、委員長」

 

「一応、私とレンヤ君とアリサちゃんがそうや」

 

「ふむ?」

 

全員が己の得物であるレイピアを抜く。全員、ベルカの騎士でいいみたいだな。それを見たテオ教官は面白そうに笑みを口元に浮かべると……

 

「良いぜ、なかなか面白そうだ」

 

そう言うと機械を転移させ、本日の実技テストの内容を告げた。

 

「ーー実技テストの内容を変更! I組とⅦ組の模擬戦とする! 勝負形式は4対4の試合形式、非殺傷設定を必ずし、物理、魔法の使用は自由! レンヤーー3名を選べ!」

 

「要するに決闘かいな……」

 

「全く……また気分で内容を変えて……!」

 

「お、落ち着いてなのは!」

 

「今回は仕方ないと思うわ」

 

「だったら徹底的にあいつらの鼻へし折ってやるか……」

 

「リヴァン、ほどほどにお願い」

 

「やっぱりグリードよりも人、か……」

 

「言っちゃったら終わりだよ……」

 

取り敢えず、頭にきていそうなアリサ。同じく……と言っていいのか、とにかくいつものテオ教官の適当な教導に怒っているなのは。現在、血の気の多そうなリヴァンを選び宣言すると……

 

「フ、これは男同士の戦いだ。力で劣る女子を傷付けるのは本意ではない………いいから男子から選びたまえ」

 

………イラってくる。こいつ俺が聖王関係なく言ってくるのはいいけど、それはそれで腹たつ。

 

「こんの……!」

 

「………ブレイカー」(ボソッ)

 

「落ち着いてアリサちゃん!」

 

「なのはストップ!」

 

「仕方あらへんよ、コッチも腹の中が煮え滾っとるわ」

 

「腕っ節の力何て、魔法でどうとでもなるのに……!」

 

後で皆に喫茶店のスイーツでも奢ってやるか。 気を取り直して、リヴァン、ユエ、ツァリを指名する。 今度は何も言われなかった。 もしかしたらシェルティスを選んだらダメだったと思ったが、まあいいか。

 

「ーー決まりだな。双方、位置に付け」

 

I組代表が位置に付き、俺は簡単に戦術を教えた。

 

(ベルカ剣術のレイピアは杖の振りをレイピアに見立て魔法を使う。剣と魔法のタイムラグが少ないのに注意しろ。仮にも一科生だ、くれぐれも油断するなよ)

 

(わ、分かったよ)

 

(真っ当な剣術か………絡み手にはかなり弱そうだな)

 

(助言、感謝します)

 

「それではこれより、I組対Ⅶ組の代表による模擬戦を開始する。双方、構え」

 

I組はデバイスを起動し、ベルカ騎士風のバリアジャケットを纏いレイピアを構える。

 

俺もせめてもの敬意で武器だけを構える。本心は1人だけバリアジャケットってのも恥ずかしいし。

 

「ーー始め!」

 

開始の合図と同時にツァリ以外が飛び出し、ランディの後ろで構えていた3人を押し除け、分離させる。

 

「何っ⁉︎」

 

「君の相手は僕だよ」

 

ランディが助けに行こうとしたら、眼前に端子を舞わせ意識を自分にに向けさせた。

 

「はあああっ!」

 

「ぐわっ!」

 

ユエは剄を纏った拳でプロテクションごと吹き飛ばした。そもそも剄は高圧縮した魔力だ、剄を使うだけで普通の魔導師では相手にならない。

 

「繰弦曲・無明傀儡(むみょうくぐつ)

 

「ぐっ……動けないっ……!」

 

リヴァンは相手の体に鋼糸を巻きつけ、動きを操る。

 

「はあっ!」

 

「………交叉(こうさ)

 

俺は突きを出されたレイピアを避けて、その突きの力を抜刀で全て利用して弾き、相手の手から弾き飛ばし首筋に刃を添える。

 

「くそっ!無様にやられる訳にわいかない!」

 

「コッチだって、怒ってないわけじゃないよ」

 

ランディは魔力弾と剣の連携で攻撃するも、ツァリの念威探査子による正確な防御は崩せない。

 

「ブロッサムスラッシュ」

 

舞い散る端子を鋭くし、ランディの全方向から切り刻んだ。

 

「ーーそこまで!」

 

I組が全員戦闘不能になったことを確認するとテオ教官が宣言する。

 

「勝者、VII組代表!」

 

いざ蓋を開けてみれば戦闘経験の差が露骨に表れる結果となってしまった。無論、I組の男達が弱いわけでは無く、寧ろそんじょそこらの魔導師程度なら余裕で蹴散らせるぐらいの実力はある。

 

だが、Ⅶ組のメンバーは特別実習で様々な危機を乗り越えてきた。そのため、不測の事態にも対応できる力が鍛え上げられていたが、彼らにはそれが無かった。その為、仲間が分断されたことに対して最善の対応を見せることができず、陣形を崩されてしまったのだ。

 

「やった……!」

 

「まあ、悪くないわね」

 

「圧勝だね」

 

「当然やな」

 

「ちょっと差があり過ぎかな?」

 

「レンヤ君達、すごく強くなっているからね」

 

「及第点、てところかな」

 

戦果を見て、喜びの雰囲気を見せる残りのⅦ組メンバー。対して、遠くから観戦していたI組の女子達は完全に言葉を失っていた。

 

「……ふう、やりましたね」

 

「準備運動にもならない」

 

「あはは、僕は緊張したよ」

 

「うむ…………」

 

「ば、馬鹿な……」

 

「こんな寄せ集めどもに……」

 

「………………………」(ギリッ)

 

武器を納め、感謝の言葉を言う。

 

「………いい勝負だった。機会があればまたーー」

 

地に膝を付けているランディの下へと歩いていき、右手を差し出す。そして差し出した手を見たランディは、歯ぎしりの音を鳴らしながら勢いよく手を横へ振り抜き、手を弾く。

 

「触るな、下郎が!」

 

ランディは怒りが燃え上がる如く立ち上がり、侮蔑の言葉を言い放つ。

 

「いい気になるなよ……神崎 蓮也……!未だ席に座らない聖王家の恥さらしが!」

 

「…………………」

 

「おい……!」

 

「貴方……!」

 

「ひ、酷いよ……!」

 

ランディはまるで溜まりに溜まっていた思いが爆発するみたいに言いまくる。

 

「ハッ、他の者も同じだ!何が首位争いだ!貴様ら従者ごときがいい気になるんじゃない!」

 

それは、間違いなくランディの本音だろう。一科生という価値観に呑まれ、他の価値観を知らず、知ろうともしない憐れな存在。

 

「フィルス⁉︎そんな伝説など等の昔の栄光だ!おまけに蛮族や犯罪者風情、挙げ句の果てに人造生命体まで混ざっているとは……!」

 

「…………………」

 

「何てことを……!」

 

「……酷い過ぎるよ」

 

「ケンカ売っとるん?売っとるんやな?」

 

「落ち着きなさい、はやて」

 

「ッ〜〜〜〜!」

 

「姉さんやめて!私は……大丈夫だから!」

 

はやては内の怒りを何とか押さえ込み。アリシアは堪忍袋の緒が切れ、デバイスを起動しようとするがフェイトに止められる。

 

「ラ、ランディさん……」

 

「さすがに言い過ぎでは……」

 

他はさすがにまずいと思い、止めようとするも。今のランディにとっては火に油だった。

 

「うるさい!僕に意見するつもりか⁉︎」

 

「……聞くに堪えないな」

 

「ちょっと、いい加減にーー」

 

「ーーよくわかりませんけど」

 

すずかが止めようとした時、間にユエが割り込んできた。

 

「騎士というものはそんなにも立派なものなんですか?」

 

「ッ……⁉︎」

 

「ユ、ユエ……?」

 

「貴方の指摘通り、私は外から来た蛮族です。故郷にはそのような位は無かったため未だ実感出来ませんが……」

 

ランディの言った蛮族は、もしかしたらなのはも入っていたかもしれないが。ユエは敢えて自分を主張する。

 

「騎士は何をもって立派なのか説明してもらえませんか?」

 

「な、な……」

 

ランディは驚くが、騎士として自分の考えを言った。

 

「き、決まっているだろう!騎士とは伝統であり家柄だ!貴様らごときには決して真似できない気品と誇り高さに裏打ちされている!それが僕達騎士の価値だ!」

 

「なるほど……つまりアリサやすずかのような振る舞いが騎士の気風に近いというわけですか、納得できる答えではあります。しかし、それでもやはり疑問には答えてもらっていません。伝統と家柄、気品と誇り高さ……それさえあれば、先ほどの発言も許されるという事なのだろうか?」

 

「ぐ、ぐうっ……」

 

図星なのか、己が非を認めたのかランディは怯む。

 

「ユエ君……」

 

「ユエ……」

 

「………………」

 

「……………ありがとう、ユエ」

 

ユエに礼を言い、ランディの前に行く。

 

「くっ……」

 

「ーー結構お前の事は尊敬していたんたぞ」

 

「は……?」

 

まるで意味が分からないような顔をする。

 

「たとえ俺が聖王と知りながら態度を変えず、自分の考えを主張する。とても簡単に真似できる事じゃない、騎士に厳たる誇りを持っている事が伝わってきたよ」

 

そこで、話を区切り……

 

「でも、俺はともかくVII組の皆の侮辱は許すわけにはいかない。ちなみ今言うのは聖王教会の老害に行った事だーー」

 

聖王の魔力を解放し、二色の双眸で怒りを込めて睨みつける。

 

「滅ぼされたいか……」

 

「ひいぃ……!」

 

異色の眼と虹色の魔力光(カイゼル・ファルべ)に当てられて。ランディは情けない声を漏らす。

 

「ラ、ランディさん……」

 

「こ、このあたりで……」

 

他の男たちも、ランディに気圧されていて言葉を発せられなかったのだろう。しかし、雰囲気が少しだけ静かになった事で漸くランディに制止の声をかけることができた。あいつら自身も、ランディが言い過ぎだという事実は認識しているらしい。

 

「ーーくくっ、中々面白い事になっているじゃないか」

 

ここで、今まで無言を貫いていたテオ教官この問題は終了だと言わんばかりに口を開き、全員の注目を集める。

 

「模擬戦は以上。I組の協力に感謝する。後、自習中だからといって勝手に教室から出ないように。そちらの子達も、教室で課題をしてこい」

 

「は、はいっ……!」

 

「し、失礼しました……」

 

テオ教官に言われ、I組の女子達が一足早く教室に戻っていく。そしてランディ達に向き直ったテオ教官は、少し厳しめの声音で告げる。

 

「後、明日の武術教練は今日の模擬戦の反省にする。どこがマズかったのかネッチョリ教えてやるから自分達なりに考えてこい」

 

「……了解した……失礼する」

 

「ラ、ランディさん……!」

 

「ま、待ってください!」

 

背中を向け、教官の言葉に無理矢理己を納得させて逃げるようにその場を去っていく。

 

「は〜……どうなるかと思ったけど」

 

「全く、これだから魔力の高い奴は……」

 

「あれと同じにしないでくれる?」

 

俺はユエの方を向く。

 

「ありがとう、ユエ。何というか……色々と助けられたよ」

 

「……?礼を言われる事でしょうか?でも、レンヤの役に立ったのなら何よりです」

 

パンパンッ!

 

テオ教官が手を叩きいて静かにさせる。

 

「今回の実技テストは以上。それじゃ、さっそく今月の実習地を発表するが……」

 

テオ教官は俺を見てくる。

 

「それ、元に戻らないのか?」

 

「ちょっとイライラで精神不安定で直ぐには無理です……」

 

「そうか、ゆっくり落ち着けよ。そんじゃ発表する」

 

「そ、そうだったの……」

 

「はあ、今月どこかなぁ」

 

女性陣が一番精神的に疲れている。

 

「コホン、受け取れ」

 

配られた実習地の場所と班分けが書かれた紙を受け取り、11人がその内容を読み込んでいく。

 

 

【6月特別実習】

 

A班:レンヤ、はやて、すずか、アリサ、ユエ、シェルティス

(実習地:ベルカ自治領)

 

B班:フェイト、アリシア、なのは、ツァリ、リヴァン

(実習地:アーレン島)

 

 

「これって……」

 

「アーレン島は確か……ミッドチルダ南部の外れにある島だったな」

 

「確か、アルトセイム地方の沖合いにある遺跡で有名な島やったはずや」

 

「「…………………」」

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん……」

 

フェイトとアリシアはお互いを見ようとはしなかった。

 

「ベルカ自治領はミッドチルダ北部の先にあったよね?」

 

「ええ、セニア地方の先……国境を越えるわね」

 

「聖王教会で有名な場所だよ」

 

「それは確か……」

 

ユエの視線が俺を見る。それにつられて他の皆も見てくる。

 

「もしかしてテスト後の学院長との話しなんか?」

 

「まあ、そうだな。A班には予想通り聖王教会を拠点にしてもらうわけだ」

 

「B班のアーレン島もいわゆる絶島、そこに住んでいる私の知り合いの家に泊まる事になるよ。よろしくねーーフェイト、なのは、ツァリ、リヴァン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月26日ーー

 

早朝、A班は寮の1階に集まっていた。

 

「ーーしかし驚きました。まさかベルカ自治領が実習地に選ばれるなんて」

 

「でも、魔導学院を設立した覇王ともゆかりある地でもあるんだよね」

 

「うん、数百年間ミッドチルダと交流がある場所だからね」

 

「景色もいいし、綺麗な場所よ」

 

「まあ、ベルカについては行きのレールウェイで説明するよ。転移魔法が使えないからここからだと普通で6時間以上はレールウェイに揺られる事になる。まあ短い方だ」

 

「まあ、そうだね……」

 

「体験済みなんか⁉︎」

 

「得難い経験にはなりそうだね」

 

ここまで長い時間列車の旅をするのは初めてなのだろう。はやてとシェルティスの表情には少しだけ緊張感が見て取れた。

 

「ベルカの別名は極北部、名に間違えない距離よ」

 

「そうなると……到着は夕刻になりますね」

 

「お店で駅弁でも買った方がいいわね」

 

「ーーふふっ……それには及びませんよ」

 

途中、セニアで乗り換える為に駅に降りるのでその際に購入するのがいいだろう。そう考え始めた時、それを予想していたかのようにファリンさんの声が聞こえてくる。食堂に扉が開いて、ファリンさんとスピードが出てきた。スピードがバケットを持ち上げている。

 

「ファリン」

 

「ファリンさん、どうもおはようや」

 

「そろそろ私達も出発するつもりです」

 

「はい、お気をつけて行ってらっしゃい。それと、よろしければこちらもお持ち下さい」

 

「受け取り〜」

 

トコトコとスピードが持っていたバケットを渡してきた。

 

「これは……」

 

「サンドイッチと、レモンティーです。 朝食をご用意出来ませんでしたのでレールウェイでお召し上がり下さい」

 

「ありがとう、ファリン」

 

「すみません、助かります」

 

「気が利きますね、ファリンさん」

 

「ありがたく頂戴します」

 

「いえいえ、皆様のお世話が私の役目ですから」

 

「よう噛んで食べ〜」

 

申し訳ないと思いながらスピードからバケットを貰った。隙間からいい匂いが漂ってくる。それをすずかは苦い顔でファリンさんを見る。

 

「はあ、すっかり管理人として馴染んじゃったみたいだね……確実に認めさせる為に外堀を埋めたね?」

 

「ふふっ、そんな事ありませんよ。お嬢様、どうか道中、くれぐれもお気をつけて下さい。ファリンとノルミン達が、一日千秋の思いでお持ちしています」

 

「「「行ってらっしゃいませ〜!」」」

 

「ミウ!」

 

「うお!いつの間に⁉︎」

 

「……まあいいか。それじゃあ行ってくるね」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

「失礼するわ」

 

「留守中、よろしく頼むなぁ」

 

ファリンさんの留守を託して俺達は寮の外へと出て行き、駅に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅に入ると先に出発したB班と出くわした。

 

「あ、レンヤ達!」

 

「そっちも出発か」

 

「ああ、そうだけど……」

 

「…………」

 

俺とアリサは後ろにいたフェイトとアリシアを見る。

 

「……?どうかしたの?」

 

「電子マネーをチャージしないの?」

 

「いや……うん、そうだな」

 

「今回はクラナガンまで一緒のレールウェイだし……」

 

「早く済ませよう」

 

手早く済ませて、B班の後に続いてホームに入った。連絡階段を渡り、クラナガン行きのホームに入るとちょうどアナウンスで間も無くレールウェイが来るらしい。

 

「タイミングが良かったわね」

 

「ふふっ、そうだね」

 

「30分に一本来るだけの事はあるなぁ」

 

「いつもお世話になっているしね」

 

「ちょうどいいのが一番だよ!」

 

「………そうだね」

 

フェイトの愛想のない返事に対応が困るなのは達。

 

(相変わらずみたいだね)

 

(まあ、こちらの事は心配しないでくれ。あの2人の事も何とかフォローしてみる)

 

(ちょ、ちょっと難しそうな気もするけど……)

 

(ありがとう、リヴァン、ツァリ)

 

(よろしく頼みます)

 

そうしている間にレールウェイが到着し、そのまま乗り込んだ。

 

班ごとにボックス席に座り、B班にもファリンさんに貰っていた弁当を渡して食べることにしたの。

 

「へえ……このサンドイッチ、美味しいな」

 

「彩り豊かで見栄えもいいですね」

 

「シンプルな素材を上手く調理しているわ」

 

「モグモグ、隠し味は塗ってあるバターやな。そのバターにも……」(ブツブツ)

 

「レモンティーの風味も甘さもちょうどいいね。すずかはすごいメイドさんを雇っているんだね?」

 

「うーん、そうだね。でも昔は結構ドジだったんだよ、よく転ぶし」

 

「その度に俺達がフォローしてたしな」

 

「あんなのでも成長するものね」

 

ファリンの意外な過去にファリンの事をあまり知らない2人は驚く。

 

「想像もつかないな」

 

「完璧な人だと思いました」

 

「でもお姉ちゃんと一緒でいたずら好きなのは変わってないし……またよからぬ事を企んでいるんじゃないかと思うと………」

 

「まあ、ご好意は素直に受け取るべきです」

 

「そうね、朝早くに用意するのも大変だったろうし」

 

「う、うん。……それより……あっちの方何だけど」

 

すずかの視線が反対のボックス席にいるB班に向けられた。

 

「しかしアーレン島か……古代遺跡があるらしいがどういった場所なんだ?」

 

「そう言えば僕、海を見るのは初めてなんだ。なのはとフェイトとアリシアはどうなの?」

 

「私はミッドチルダではまだだけど」

 

「……私は何度か見たよ」

 

「私も異界対策課で何度も行ったよ。基本、岩と山しかない島だけど。海の中は綺麗な世界が広がってて凄いよ!」

 

「……………………」

 

フェイトが黙り込み、変な空気が流れる。

 

「そ、そう言えば、なのは。お前の故郷にも海はあったと聞いたんだが?」

 

「確か……海鳴だったよね?」

 

「う、うん!私達7人の故郷で子どもの頃から海を見ていたんだよ!ね、フェイトちゃん!」

 

「うん、そうだよ」

 

「へえ……」

 

「なるほど、一度行ってみたいな」

 

「………………………」

 

今度はアリシアが黙ってしまい、3人は苦い顔をする。

 

「苦戦しているな……」

 

「予想通り、だね」

 

「原因はフェイトちゃん何だけど……」

 

「アリシアも勘づき始めたわね」

 

「彼女達らしくないな」

 

「どうにかせなあかんなぁ」

 

どうにかしようと考えながらもレールウェイは走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キッチリ1時間レールウェイに揺られ、クラナガン中央駅に到着した。

 

「首都クラナガンの玄関口……相変わらずの巨大さだな」

 

「次元世界にも繋がるからね、次元世界最大とも言われるよ」

 

「レールウェイ、バス、飛行機、次元航行船まで集まるのはここ以外あらへんよ」

 

「初めて訪れた時は人の多さに唖然としましたけど……さすがに早朝は人が少ないですね」

 

駅の大きさの感想を言い合っていると、なのは、リヴァン、ツァリが近寄ってきた。

 

「……すまん。何だか自信がなくなってきた」

 

「ちょ、ちょっと。諦めるの早すぎない?」

 

「にゃあ………」

 

「不甲斐ないね」

 

「ま、まあ無理はするな」

 

「A班、B班共に全員無事に戻ってくること……それが何よりも重要です」

 

落ち込む3人をユエが励ましの言葉を送る。

 

「そ、そうだな」

 

「危険な状況に陥らないように気をつけるよ」

 

「ありがとう、ユエ君」

 

激励をもらい何とか持ち直したようだ。

 

連絡階段を上り、ここで別々の実習地に行くことになる。

 

「ここでお別れだな」

 

「B班が向かうのは南……アルトセイム方面の路線か」

 

「私達A班は北……セニア方面の路線になります」

 

「レンヤの故郷になるんだよね……お土産話、楽しみにしているから!」

 

「え………あ、ああ、そっちも気をつけて」

 

「なのは、フェイト、アリシア。貴方達なら心配いらないでしょうけど、気をつけ行ってきなさい」

 

「全員、元気な顔で再開しようね」

 

「あんまり無理はせえへんでな」

 

「ありがとう、はやてちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「そっちも気をつけね」

 

「お互いの実習の成功を」

 

俺達は別れて、お互いの反対方向のホームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

レンヤ達を駅入口で見ていた男の子がいた。

 

「あれって……」

 

「どうかしたの、エリオ」

 

男の子……エリオの後ろから茶色の管理局制服を着た女性が近寄ってきた。

 

「知り合いでもいたの?フェイトさんかレンヤさんが」

 

「シャリオさん。そうだと思うんですけど……朝早くから首都にいるはずがないから見間違えだと思います」

 

「ま、そりゃそうか。それじゃあ訓練校の見学に行こうか」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セニア行きのレールウェイに乗り、少し進んでからベルカ自治領についての説明を始めた。

 

「ーーそれじゃあ、実習地であるベルカ自治領について説明するぞ。ベルカ自治領は、ミッドチルダの北方面にある山岳地帯だ。ベルカは聖王教会の元運営されている」

 

「聖王教会は次元世界で最大規模の宗教組織よ。まあ、普通の宗教と比べれば禁忌や制約が少なくて、結構緩いとこもあるのよね」

 

「緑豊かで、森の中をレールウェイが通るのはとても気分がいいんだよ」

 

「農業も盛んでな、ミッドチルダの野菜と卵とかはベルカからの輸入品だ。それでも、ミッドチルダと比べれば田舎と言っても差し支えない」

 

「なるほど……ルーフェンに少し似ていますね」

 

「カリムは元気にしとるかなぁ?」

 

「入学以降、会っていなかったからね」

 

「後は、優秀な魔導師を排出している家系が多いな。もう廃止しているけど階級社会の名残はまだ残っているんだ」

 

そう言うと、皆表情を暗くする。もしかしなくてもランディの事を思い出させてしまったな。

 

「コホン、それと駅から聖王教会まではそれなりの距離があるから歩いて行くことになる」

 

「そうなんか……結局、今日の到着予定時間は午後2時過ぎくらいやったなぁ」

 

「ええ、今は9時過ぎ………セニア駅に到着するのは普通だから12時過ぎでそこからベルカ線のレールウェイに乗り換えて2時間くらいになるわね」

 

「思ったより長旅だね」

 

「ですが滅多にない機会ですしのんびりと行きましょう」

 

その後も他愛ない雑談をする一行は列車に揺られながらセニアへと向かう。そして3時間が経過した後にアナウンスが列車内に響く。

 

「もう着くみたいね」

 

「セニアか……来るのは初めてだ」

 

「私もです」

 

「俺も実習の時が初めてだ、いつも通り過ぎていた」

 

列車が駅に到着し、6人が乗り換えの為に列車を降りる。今の時点でもそこそこの旅だったが、ここから更に時間がかかるのかと思うと長旅が初の面々は少々気が滅入ってくるようだ。

 

「ふぅ……やっとついたか」

 

「ここから別のレールウェイ乗り換える……でええんか?」

 

「ああ、この後3番線から出るレールウェイに乗る手筈だ」

 

「3番線は階段を登って左端のホームに下りる必要があるわね」

 

「では遅れない内に行った方が良いですね」

 

「時間はあるけど余裕は持っておいた方がいいからね」

 

そろそろお昼の時間でもあり、駅内の売店で駅弁を購入して。次に着たレールウェイでベルカに向かった。

 

 



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72話

 

 

レールウェイで揺られること2時間、最初は雑談や景色などで楽しんでいたがさすがに慣れていなかったはやてとシェルティスは今は寝てしまっている。

 

「寝ちゃったね」

 

「しょうがないさ、短くない時間だしな」

 

「ホント、転移の利便性を改めて感謝しないといけないわね」

 

「いつの世も人は文明の利器に感謝する、と言うことか」

 

他愛ない事を話しながら時間を過ごして、最後のトンネルを潜り抜けた時に2人が起きた。

 

「う、ん……」

 

「ふわああ〜〜……」

 

「起きたか」

 

「ちょうどよかったわね、そろそろベルカ自治領に入るわよ」

 

2人は旅路の終わりを感じることができたのか、少しだけ名残惜しそうな雰囲気も見える。そして、トンネルを抜けた先に目に映った景色は、厳たる自然だった。

 

「…………………………」

 

「これは凄い……」

 

「こんな迫力のある景色は初めてやなぁ」

 

「ふふ、レールウェイでしか見られない景色だよ」

 

「転移や空、車道では分からない場所にあるのよね」

 

「こんなので驚いていたら後が持たないぞ。はやての知らない、もっと雄大な景観があるんだからな」

 

それから少しして駅に到着し、すぐに街に出た。

 

「ここは色んな店が連なる商店街、観光客はもちろんのこと地元の人も使っている」

 

「賑わっていますね」

 

「中途半端な時間で来たから少ない方よ」

 

「そう言えば、どれくらい歩くんだ?」

 

「うーん、1時間くらいかな」

 

「まだかかるん?いつもは車やったからなぁ」

 

聖王教会に向かって歩き続け、住宅街を抜けて農業地区に差し掛かった。そこには広い畑があり、色とりどりの野菜が育てられていた。

 

「うわああぁ、色んな野菜がいっぱいやぁ!」

 

「ここの土は栄養満点で、それに雪解けの水や豊富な湧き水をを使用して野菜を育ているの」

 

「細かい所は省くけどここには春夏秋冬、色々な野菜を育てているわ。多分魔法か品種改良あたりでしょうけど」

 

「自然と共に生きているんだね」

 

「こう言う所はルーフェンと似ています」

 

少し眺めていると、農作業している男性がレンヤの事に気がついた。

 

「陛下!今から聖王教会に?」

 

「ああ、今回は学業の一環で来ているだけだ。肩の力を抜いて構わないぞ」

 

「そう言われても簡単には出来ませんよ」

 

それをきっかけに周りの人が集まって来てしまった。

 

「お久しゅうございます、陛下」

 

「久しぶりおばあちゃん、おじいちゃんは元気にしてる?」

 

「ええ、それはもう」

 

「陛下だ陛下!」

 

「遊びに来たの〜?」

 

「今日は学校の授業の為の来たんだよ。それと皆はいい子にしてたかい?」

 

「「うん!」」

 

レンヤの慕われように、2人は驚く。

 

「さすがレンヤ君や、ちゃんと王様しとる」

 

「うん、レンヤは優しいからね」

 

「コホン、早く行くぞ」

 

手を振り別れを告げて、5人を追いかけようとした時……

 

………………ォォォォォ…………………

 

「ん?」

 

遠くで何か聞こえてきた。聞き取ろうと聴力を強化してみようとする。

 

「レンヤ!何やっているのよ!」

 

「どないしたんや〜!」

 

「……!いや、何でもない!すぐに行く!」

 

気のせいだと頭を振り、アリサ達の元まで走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖王教会の前まで来る頃には午後3時になっていた。今から実習を始めると微妙な時間に終わるので明日から開始することになっているはずだ。

 

「ふう、やっと着いたか」

 

「済まないな、時間を取られて」

 

「気にしないでください。いい光景が見られましたし」

 

「そうやそうや」

 

正面入り口に着くと、そこにはシャッハがいた。

 

「お待ちしていました。レルム魔導学院VII組、A班の皆様」

 

「やあシャッハ、4月の実習以来だな」

 

「はい、陛下もお元気そうで何よりです。それでは実習中に宿泊する部屋に案内します」

 

「それは後でいいわよ。まずはカリムかソフィーさんの所に案内して、どっちかが今回の課題の提出者でしょう?」

 

「ソフィー隊長がそうです。今は騎士団の訓練中ですが、どうしますか?」

 

「いいんじゃないかな?時間もあるし訓練場の隅で少し体を動かすくらいなら」

 

「中途半端に来たし、ずっとレールウェイだったからね。挨拶も兼ねて行ってみよう」

 

「荷物は部屋にお運びします。」

 

と言うわけでソフィーさんに会いに訓練場に向かった。訓練場に着くと教会騎士団の皆がいつも通りのハードな訓練をしていた。

 

「相変わらずハードな訓練をしているわね」

 

「まあ、テオ教官よりはちょっとマシかな?」

 

「確かに、前準備運動の名目で山道をテオ教官をおんぶしながら走り回ったから」

 

「それは準備運動と言いますか?」

 

「温ったまる通り越して暑いやろ」

 

すると訓練を終了したのか騎士達が散って行く。それを確認してからソフィーさんの元に近寄った。

 

「む、来たかお前達」

 

「ソフィーさん、お久しぶりです」

 

「実習は明日からのはずだが……。大方、レールウェイに乗りっぱなしで体を動かしたいということか」

 

「す、凄い。当たっている」

 

「ふふ、前にも同じようにことがあったからね」

 

「そういうことだ。ここは好きに使って行くといい、夕食までには戻ってくるがよい」

 

ソフィーさんはそう言い建物に向かって行った。

 

「許可をもらったことだし」

 

「早速始めましょうか」

 

「いつで構わないよ」

 

すずかとアリサとシェルティスがデバイスを取り出し、早く始めたいとウズウズしている。

 

「私はカリムと会ってくるからパスや」

 

「私も少々気が乗りませんので」

 

はやてとユエが断って、4人で軽い模擬戦をする事になった。

 

「さて、始めるか!」

 

「ええ!」

 

「あんまり暑くならないでね」

 

「ま、お腹を空かせるのにはちょうどいいかな」

 

デバイスを起動して早速始めた。思ったより白熱してしまい、先ほどの騎士達もこちらに気付いて。大勢を巻き込んだものになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、時間になっても来ないと思ったら……」

 

「いや〜思ったより白熱してしまって」

 

「止めるのを忘れて模擬戦を見てしまいました……」

 

「騎士団のみなさんも一戦お相手したいって。なかなか断れなくて……」

 

「ええ、全員練度が上がっていて苦戦したわ」

 

時間も忘れて目の前の相手と模擬戦をずっとやっていたらいつの間にか日が沈む位になっていた。

 

「まあいい、はやてとカリムが待っている」

 

ソフィーさんについて行き、客来用の食堂に通された。すでにはやてとカリムが座っていた。

 

「皆、遅いで」

 

「ふふ、どうやらシャッハも混ざっていたらしいわね」

 

「う、はい……」

 

「ーー来たか」

 

その時、ウイントさんが入って来た。

 

「久しぶりだな、レンヤ。元気そうで何よりだ」

 

「あはは、そうですか?」

 

「ああ、すぐに夕食にしよう。もっとも、少し温め直す必要があるがな」

 

「「「あはは………」」」

 

迷惑を掛けたと自覚して、3人は苦笑いをする。その後振る舞われた豪華な食事に満足した一行は食後にウイントからこの地に関する話を聞いていた。

 

「このベルカの地はある意味、とても自由な場所だ。君達には新鮮であり、不便でもあるだろう。だが、そんな場所であっても君達と関係がないわけではない」

 

「魔導学院を創設したクラウス・G・S・イングヴァルド……ですね」

 

「だが数十年前に覇王家は姿を消してしまった。今学院の運営は聖王教会が任せれている状況だ」

 

確かに、入学以来覇王の関係者とは一度も会ったことがない。

 

「もう捜索は3年前に打ち切られてしまったがね。でも今でも生きていると信じている」

 

「そうですね。今は居ませんけど……ちゃんと残してくれたものもありますし」

 

「え、そんなのあったかなぁ?」

 

そんなものあったかと頭をひねる皆。俺は答えを言う。

 

「若者よーー世の礎たれ」

 

「あ……」

 

「ふふ、そうだね。確かに覇王が残した物だ。さて、長話をしてしまったが、あまり気にせずに特別実習に集中するといい。私はこれで失礼する、実習の成功を祈っているよ」

 

「ありがとうございます」

 

ウイントさんが部屋から出て行き、俺はソフィーさんに課題について話し掛けた。

 

「そう言いばソフィーさんが課題を用意してくれたんですよね?」

 

「ああ、一通り用意してある。今日はもう遅いから明日の朝、改めて渡すつもりだ」

 

そこで一旦言葉を切り、忠告するような声音で告げる。

 

「それと実習の範囲だが……少なくとも午前の間は南部に限るのがいいだろう」

 

「南部……僕達が通ってきた所ですか?」

 

「ああ、北は山脈で広がっている。まずは南のを回る事にしよう」

 

それからカリムとシャッハとも雑談をして。その後シャッハに案内された部屋に向かい、明日に備えて寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

聖職者の朝は早く、日が少し出た時間帯。まだ空気が澄んでいる時間にシャッハに起こされ。身支度を整えてから一般食堂で朝食を済ませてからソフィーさんに課題の入った封筒を渡された。

 

「何々?弁当の配達、希少鉱石の採取、グリムグリードの討伐……」

 

「それが午前の物だ。午後の分は昼食を取った後に渡す」

 

「どれも南部のものですね」

 

「最初が南部で、次が北部の山脈の依頼なんですか?」

 

「ああ、ベルカはそれなりに広いからな」

 

「お気遣い、ありがとうございます」

 

「それじゃあVII組A班、早速実習開始よ!」

 

「おお〜!」

 

依頼をよく読むと、グリード討伐の依頼はソフィーさんからだった。そのまま詳細をうかがった。

 

「このグリードはどこにいるのですか?」

 

「ここから南東に小さが深い渓谷がある。そこに魚のグリードがこの前発見された」

 

「ここで、魚ですか……」

 

「渓谷の下に川でも流れとるんですか?」

 

「いや、そのグリードは地中を泳ぐのだ」

 

「ええっ⁉︎」

 

「そんなことが可能なんですか?」

 

「実際に起きていることだ、グリードは地中を掘り進んで泳いでいる。このまま放置すれば穴だらけになりこちらにも被害が及ぶ。早急にお願いする」

 

「了解です」

 

他の依頼を受けてから渓谷に行くことになった。まずは教会を出て、他の2つの依頼を終わらせることにした。まずは鉱石の依頼を出した金物屋に向かった。

 

「すみません、レルム魔導学院の者ですが」

 

店に入ると、年配の男性が鉄を打っていた。こちらに気付くと作業を止めてこちらに近付いて来た。

 

「おお来たか。早速で悪いが話しを聞いてくれるかい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「そうか、依頼したいのは渓谷で見つかった金属のことだ」

 

「え、今渓谷って……」

 

「ああ、まずはこれを見てくれ」

 

男性が奥から箱を持ってきて、開けてみると陽色の金属が入っていた。ほのかに光、表面が揺らめいて見える。

 

「なんなんや、これ?」

 

「皮肉にもグリードが出てきた所から見つけた物でな。どの金属とも違っていて、通常の金属よりはるかに硬いんだ」

 

「つまりこれの採取でいいですね?」

 

「ああ、量は求めないから採取地点を重視して欲しい。基本古い地層から取れる、よろしくお願いするよ」

 

「任せてもらうわ」

 

依頼を受諾し、次の依頼がある飲食店に向かった。そこで弁当を貰い、手分けして街の人達に配って行った。街中の人達に1人1人に手渡していった。それを終わらせた後に南東にある渓谷……クレイ渓谷に向かった。

 

「ここがクレイ渓谷か」

 

「渓谷があったのは知っていたけど、来るのは初めてね」

 

「うわ〜、かなり深いんよ」

 

「渓谷そのものは広くないようですね」

 

「戦闘になったらかなり狭い場所での戦いになる、しかも相手の方が地の利がある」

 

「それに先にグリードを倒さないと鉱石も探せないし」

 

「とにかく降りてみよう」

 

「うん」

 

「了解や」

 

渓谷を降りて行き、中間地点を通りかかった時……

 

ズズズッ………

 

「何?」

 

「何か、地中の中を動いているような……」

 

「それってまさか……」

 

次の瞬間、頭上のの壁から中型の魚型グリードが飛び出してきた。

 

「来たあああっ⁉︎」

 

「見た目アレやけど、マグロやな」

 

「て事は止まったら死ぬのかしら?」

 

「エラ呼吸でいいのか?口から土を……」

 

「皆、結構冷静なんだね」

 

「この程度で驚いては身が持ちませんしね」

 

気を引き締め、デバイスを起動し武器を構える。

 

「敵グリードは上以外どこからでも攻撃してくる。全員、近接魔法で威力の低いのにしろ。大技で渓谷が崩落したりなんかして生き埋めなんて洒落にならないからな」

 

「うん」

 

「気を付けるわ。特にはやて」

 

「う、私大技しかあらへん……」

 

「ならはやては後方支援だね」

 

「来ますよ!」

 

ユエが叫んだ瞬間、俺達の立っている地面から飛び出してきた。全員、散開することで回避した。

 

「剣晶十九・飛雹晶!」

 

「アイスショット!」

 

シェルティスとすずかが地面に潜られる前に攻撃する。グリードはよろけながらも地中に飛び込む。

 

「特殊能力は地中での活動ができるだけか」

 

「問題は泳ぐスピードとあのツノやな」

 

「なら、速攻で決めるわよ!」

 

すごいスピードで壁から壁へ飛び移りながら鋭いツノで攻撃する。

 

「させへんで!」

 

はやてが障壁を張り、角度を付けることではやての元に飛ばした。はやては杖の先端に魔力を込めて、振りかぶり……

 

「いくでえぇ、アガートラム!」

 

グリードの顔面に強烈な一撃を決めて壁に叩き付けた。グリードはすぐに泳ぎ始めた、一瞬止まったことにより酸素が足りないのだろう。

 

「はあああっ!」

 

アリサは追撃し、フレイムアイズを背中に突き立てた。振り回されるもアリサはカートリッジをロードする。

 

「爆炎陣!」

 

体内に直接爆炎を炸裂させて、グリードを飛びあがらせた。

 

「やるぞユエ!」

 

「承知!」

 

壁を蹴り上げグリードに頭上を取る。グリードも抵抗してツノを俺に向かって振るう。

 

「流纏い!」

 

回転でツノを受け流し、受けた衝撃を利用して胴を切り上げる。切り上げた先にはユエが拳に剄を纏わせて構えていた。

 

「外力系衝剄……渦剄!」

 

剄で大気の渦を発生させの内部にグリードを掴み、無数の衝剄で撃ちこんだ。だが、その衝撃で背ビレに刺さっていたフレイムアイズが抜けてしまった。

 

「きゃあああっ⁉︎」

 

「アリサ!」

 

放り出されたアリサに手を伸ばそうとしたら、バランス崩してお互いに逆さの状態で抱き合ってしまった。

 

「へ?」

 

「え?」

 

目の前がアリサのお腹で埋め尽くされて、離そうにもアリサに胴を掴まれて離れられず……

 

「せいやっ!」

 

シェルティスがトドメの一撃をグリードに入れ、グリードの消滅の爆風とシェルティスの剣風で渓谷底まで落とされてしまった。

 

「しまった!」

 

「レンヤ君、アリサちゃん!」

 

「うわああああっ⁉︎」

 

「きゃああああっ⁉︎」

 

《瞬時に姿勢制御の修正を不能と断定》

 

《衝撃緩和と魔力障壁に全魔力を回します》

 

フレイムアイズとレゾナンスアークがそう判断し、俺達は渓谷に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ………」

 

どうやら気絶していたらしい。体が動かない、どこかの岩の間に挟まったのか?

 

「ん………」

 

ふと上を見るとアリサがいた、気絶しているらしく俺のお腹に跨っていて腕が肩に乗っている。

 

ーー何がどうもつれ合ってこうなったのかは知らないけど俺はアリサを抱っこして、ここにハマっているらしい。しかし、俺は目を閉じているアリサを見てこう思った………アリサって結構可愛い所もあるんだな。いつもは凛々しいか、綺麗が似合うのだがな。しかしそれはいいのだが……

 

「……くっ……」

 

どう言う訳か腹部を締め付けてきた。息が苦しい。なので、なんとか姿勢を変えられないものかともがいているとアリサの部分的に長い髪が邪魔をして、払い退けようと下を見たら……

 

「ーーっ!」

 

アリサの上が思いっきり捲れ上がっていたからだ。さすがアリサと言っていいのだろうか、イメージ通りの情熱的な赤い下着でした、後Eらしい。危なかった、もしもっとくっ付いていたら大惨事になっていた所だ。

 

「う……ん……」

 

「〜〜〜〜っ‼︎」

 

アリサが目覚めようとしたのか身を捩ろうとして………胸が顔に押し付けられてしまった。すずかのように沈むような柔らかさはないが、適度な大きさとハリが顔面に………って何冷静に感想を言っているんだ!この危機的状況を打破するにはどうすればいい。どうすれば……

 

「ん………?」

 

翠色の瞳が開き始めてしまった。ここは最終手段………死んだフリならぬ気絶したフリ。

 

「ここは……谷底?確か、私達は……」

 

状況を判断するために辺りを見回すアリサ。そして下を見たら……

 

「え、レ、ンヤ⁉︎それに私なんて格好を!///」

 

俺から飛び退き、服を元に戻し。誰も見ていないかと周りを気にする。そして俺は今起きたように装う。

 

「うっく………いてててて」

 

「レ、レンヤ………お、起きたの?///」

 

「ア、アリサ。ここは……谷底か?吹き飛ばさたみたいだな」

 

「そ、そうみたいね///」

 

アリサが挙動不審だ、理由はわかっているし心苦しいが指摘させてもらう。

 

「アリサ、どうかしたか?」

 

「な、なんでもないわよ」

 

「でも顔が赤いぞ」

 

「なんでもないってば!///」

 

くっ……心が締め付けられる。嘘って辛いんだね。その時、上に影がかかり……

 

「レンヤ君!」

 

「レンヤ君、アリサちゃん!」

 

「大丈夫か⁉︎」

 

「どうやら目立った怪我は無いようですね」

 

はやて、すずか、シェルティス、ユエが降りてきた。

 

「大丈夫、痛い所はない?」

 

「ああ、大丈夫だ。グリードの方はどうなった?」

 

「問題なく終わったよ、やり難かったけど」

 

「………?アリサちゃんどないしたん、顔赤いけど?」

 

「な、なんでもないわよ。ほら、早く鉱石を探すわよ!」

 

「あ、待って下さいアリサ」

 

照れを隠すためにアリサは奥に進んで行った。

 

「なんだったんだ?レンヤ、何かアリサとあったのか?」

 

「えーっと、その……」

 

「レンヤ君?」

 

「そ、それより、アリサを追いかけよう!」

 

「あ、待たんか!」

 

「ふむ、何があったのだ?」

 

アリサに追いつき、そのまま鉱石の探索を開始した。グリードが作った穴を重点的に探したが、純度も低く大した量は見つからなかった。

 

「なかなか見つからないわね」

 

「元々、量が少ないんじゃないかな」

 

「これは骨が折れるな」

 

「お昼には戻らなあかんのに」

 

「む、あれは……」

 

「何か見つけたのか?」

 

ユエが指す方向に洞窟があった。グリードが作った穴ではなく、瓦礫で塞がっていたにがグリードによって開けられたようだ。

 

「洞窟があるなんて聞いてないね」

 

「でも、もしかしたらここにあるかもしれんな」

 

「入ってみよう」

 

洞窟に入ると壁の一部分がほのかに光っており、真っ暗というわけではなかった。奥に進んで行くみ、最奥に着くとそこは壁が陽の色で埋め尽くされており幻想的な風景が広がっていた。

 

「なんて幻想的な光景なんでしょうか」

 

「あの鉱石と同じ光や」

 

「ああ、どうやら壁全体に含まれているようだ」

 

「なら早速採掘をしましょう、出来れば純度が高い物を取りましょう」

 

鉱石を採掘し場所を記録した後、渓谷から飛んで出て行き。街に戻り金物屋の男性に採掘した鉱石を渡して午前の依頼を終了した。その後、昼食とソフィーさんから午後の依頼を受け取るために聖王教会に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡単に昼食を済ませ、ソフィーさんから午後の依頼を受け取る。必須なのは北部の山に向かった調査員の探索だけだった。どうもここ最近、山岳周辺の森で巨大な影が見えることがたびたびあったらしい。その調査に行っているのだが、調査員は戦闘が出来ないことはおろか護衛も付けていないそうで。理由は直ぐにでも調べたかったそうだ。

 

俺達は他の依頼を終わらせた後に、調査員が向かったと思われる山に向かった。山道は急で整理されていない道を進んでいた。

 

「うーーん、ハイキング気分で気持ちいいわ」

 

「なんだかホッとするよ」

 

「頂上からベルカを一望できるんだけど、そこまで行く人はそんなにいないんだよな」

 

「はあ、はあ。そりゃそうやろ……」

 

「大丈夫ですか、はやて?」

 

「いつもの武術訓練より楽だと思うんだけど」

 

登り始めてから1時間、早くもはやてがバテてしまった。いくら鍛えていても慣れていないなら仕方ないかもしれない。

 

「あっ⁉︎」

 

「はやて!」

 

はやてが石に足をとられ、転んでしまった。

 

「大丈夫、はやてちゃん?」

 

「だ、大丈夫や大丈夫。ちょっとつまずいただけや」

 

そうは言うが痛みに耐えるような顔をしている。

 

「見せてみなさい」

 

「大丈夫や、この位平気や」

 

「ダメですよ、赤く腫れていますし。一旦下山しましょう」

 

「あかんて!早くせんと日も暮れてしまうし……」

 

こうなってしまうとはやては結構頑固だ、しょうがないと思いはやてに近付き背を向けて腰を下ろす。

 

「レンヤ君?」

 

「おぶってやる、それでいいだろう」

 

「そんな⁉︎悪いんよ、そこまで迷惑は掛けられへん」

 

「こうしているだけでも充分迷惑だ、ここは素直に言うことを聞け」

 

「そうよ、時間がないのはわかっているんでしょ?」

 

「そうだよはやて、急ぐんでしょう?」

 

「うう、皆ずるいんよ……」

 

はやてはしぶしぶ、俺の背に乗った。

 

「レンヤ君、重くないん?」

 

「ああ、修業だと思えばどうってこと無いさ」

 

「つまり重いって言っとるようなものや!」

 

ぱかぽこぱかぽこ。

 

背中に弱く女の子殴りをしてくる。

 

「痛い痛い、ごめんってば」

 

「ふん、そやったら下山するまでおぶらせてもらおか」

 

「了〜解っ」

 

「ほら2人共、置いていくよ」

 

「何時までもじゃれ合っているんじゃないわよ」

 

「はいよっ!」

 

「きゃっ⁉︎」

 

脚力を強化して、アリサ達を飛び越えて山を登って行く。その時、はやてに強く抱きつかれたせいで……その、胸が背中に……。はやても結構着痩せするんだな。

 

「こら、待ちなさい!」

 

「ま、待ってよぉ〜」

 

「ははは、競争ですか」

 

「それだとフライングだし、インチキもしているだろう」

 

4人もすぐ脚力を強化して追いかけてきた。そのまま山頂まで走り抜けた。

 

「到着っと」

 

「ふう、いきなり走らないでよ」

 

「まあいいんじゃないか、楽しめたし」

 

「それもそうね。はやて、大丈夫だった?」

 

「え、うん。大丈夫や///」

 

「顔が赤いですよ、揺さぶられて酔いましたか?」

 

「だ、大丈夫やって。足は大丈夫やあらへんけどな」

 

「あ、もしかしてはやてちゃん。胸を……」

 

「あぁーーーーっ!すずかちゃん!///」

 

すずかの言葉を遮るようにはやてが叫ぶ。すぐ後ろにいるから耳が痛い。とりあえず、付近に調査員がいないか探して見ると。森林が見下ろせる場所にディスプレイを展開しながらキーボードで作業している人がいた。調査員は視線に気付いたのか、写真撮影を止めて俺達に向き直る。

 

「おや、君達は……」

 

「あなたが調査員の方ですか?」

 

「ふふ、ご無事で何よりでした」

 

どうやら調査員自身は特に何もなく無事なようだ。はやてを近くの岩に下ろして調査員に近寄る。

 

「はは、もしかして君達もこの絶景を見に来たのかな?」

 

「……ふう、呑気なものよね」

 

心配して損したと言わんばかりにアリサがため息を漏らす。そんな彼女に苦笑しながらも俺は事情を確認させてもらおうとする。

 

「はは……取り敢えず。事情を確認させてもらってもいいですか?」

 

教会で受けた依頼で本来は北に行く際の護衛を行なう予定であった事。しかしその前に調査員が一人で出ていってしまったため、急遽捜索依頼に変更されることとなった事。それを聞いた調査員は申し訳なさそうな表情を見せながら頭を掻く。

 

「ふむ……教会の人達には心配をかけてしまったな……分かった、早速戻ろう!……と言いたい所ではあるんだが……まだ写真を撮っていなくてね。ちょっと待ってくれないかな?」

 

「……まあ、気持ちは分かる気はしますが……でも凄いですね。ここって」

 

シェルティスが辺りを見回しながら呟く。見渡す限りの山々と空、見下ろせば森と街が小さく見える位の高さだ。ミッドチルダにも緑はあるが、人の手が加わっていない自然を改めて感じさせる光景だ。

 

「そう言えば、何の調査でこちらに?」

 

「ああ、つい3日前に木々が折り倒された場所があってね。根元から圧し折られていたから巨大生物の仕業の可能性があるんだよ」

 

「巨大生物……グリードの可能性と言うのはないのですか?」

 

「それを確認するための調査だ。しかし、データベースを見てもそれほど巨大なグリードは確認されていないんだ。最低でも全長10メートルはあると思うし、あれを見てごらん」

 

調査員が指したのは、森なのだが一部分に緑がなく地面が見えており。木々が倒れていた。

 

「手付かずの自然だからここの森の平均全長は16、17くらいで巨大も隠せる。それと折られた場所に手形があったから人型の可能性もあるんだ。昨日、その生物らしき遠吠えも確認されている」

 

「それって、オオオ………って感じですか?」

 

「そうそうそれそれ、街まで聞こえていたんだ?」

 

「微かに、ですけど」

 

「これはもしかしたら討伐依頼がくるかもしれんなぁ?」

 

「否定はできないね。放っておいたらベルカにまで被害が及ぶかもしれないし」

 

その後、写真撮影を終えた調査員と下山し俺達は教会へと戻る。はやてをまたおんぶしながら中腹に差し掛かろうとした時……

 

ドオオオオンッッ!

 

「「「「「「!」」」」」」

 

街の方向に大きな衝撃音が聞こえてきた。すぐさま音源に向かい、森の入り口付近の畑にたどり着く。

 

「これは……!」

 

「一体何があったんや……」

 

「酷い荒らされようね」

 

「もしかして例の巨大生物が?」

 

どうやら休ませている畑だったみたいだが、地面は抉れていて大きな丸い足跡が森に続いていた。誰か巨大生物を確認した人がいないか探したが、作業している人もいなく姿を見た者はいなかった。森の入り口を見てみると木々が薙ぎ倒されていた、また理由のない犯行か。

 

その後、事後処理を手伝い。周辺住民に注意を促した後に森の入り口にサーチャーを設置して後のことは調査員に任せて教会に戻ることにした。

 

 



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73話

 

 

教会に戻った俺達はまずはやてを治療室に連れて行った後、ソフィーさんに今回の実習と先程の事件についての報告をした。

 

「ふむ………。分かった、この後私も現地に向かう。 その結果次第で明日、お前達に任せるかもしれない。万全の状態で備えておけ」

 

「了解です」

 

「分かったわ」

 

「それではまたな、今日は大人しくしてろよ」

 

「は、は〜い……」

 

昨日の事を根に持っているのか、鋭い眼光で注意を促しきた。頼れる人だけどやっぱり怖いな。ソフィーさんを見送った後、はやてと合流して夕食を食べようと食堂に向かったのだが……

 

「何の騒ぎなんや?」

 

「うーん、何かの行事はなかったと思うけど……」

 

食堂の方向がかなり騒がしいのだ。一応、教会の食堂なので騎士や修道士がいて、彼らが騒ぐことなんて思えない。とりあえず食堂に入ってみる。すると全員かが一斉にこちらを向いて、笑顔で近付いて来た。

 

「来ましたね。さあさあこちらへどうぞ!」

 

「ちょ、ちょっと!何の騒ぎなんだ⁉︎」

 

「それはもちろん宴会ですよ。陛下をおもてなししないなんてベルカの騎士の恥ですよ」

 

「今回は実習の名目で来てると連絡したはずだ!今の俺はただの一学生であってだなーー」

 

「まあまあ、細かいことは気にしないで下さい。もう開いてしまいましたし、ただのパーティーだと思って下さい」

 

「いやだからーー」

 

「いいじゃない、ここは乗っておきましょう」

 

「せっかくやから楽しまなきゃ損やで」

 

「ただ飯食べられると思えばいいと思うよ」

 

「さ、さすがにそれは失礼じゃないかな……」

 

アリサ、はやて、シェルティス、すずかが連れられて行ってしまった。

 

「ふふ、慕われているのですね、レンヤは」

 

「ふう、全く。そうかもしれないな」

 

「お二人共!突っ立っていないで来てください!」

 

カリムに引っ張られてテーブルに座らされて飲み物を持たされる。そこで何故か静かになっているのに疑問に思うと、全員が俺を見ていて。何かを待っている感じの目で見られていた。つまりはあれか?最初の乾杯をやれと?

 

「コホン。えっと、乾杯?」

 

『乾杯‼︎』

 

遠慮がちにコップを上げて言うと、全員待ってましたが如く大声で叫んで騒ぎ出した。さすがに酒はないがそれでも全員かなり食べたり飲んだりした。無礼講よろしく……というよりいつものノリで騎士団の皆と騒ぎあった。しばらく経った後に熱気を冷ますためにこっそり出て行き、噴水前で一息つく。

 

「ふう………」

 

久しぶりのパーティーみたいなものだから思いのほか気疲れしてしまった。ふと、空を見上げると……7年前に見た空だった。あれから月日は流れていったが今見ているのは何も変わっていない。こんな平穏が大切で、何時までも続くのなら……

 

「ッ…………」

 

考ええていた事を頭を振って払い、噴水に顔を突っ込み頭を冷やす。顔を上げて水面に映った自分の顔は………金髪で紅と翠の瞳をしていた。

 

「はあ………」

 

「また悩みごと?」

 

後ろに振り向くとすずかがいた。俺がいないことに気付いて探しに来たのかもしれない。

 

「悩み……って程でもないかな。ただ、迷っているだけだから」

 

「もう、いつもそうやって1人で背負い込もうとして。矛盾している上に心配するんだからね」

 

「ごめんごめん」

 

謝りながら空を見上げ、乱れた心を落ち着かせて元に姿に戻った。

 

「今出来ることを精一杯やるしかないな」

 

「うん!皆が心配していると思うから、戻ろう」

 

すずかに手を引かれて立たされて、食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで奴の足足取りは掴めたのか?」

 

深夜過ぎ、ソフィーは森の入り口で調査員と巨大生物の捜索を今もなお続けていた。

 

「どうもいま現在の森の状態が不安定でして、サーチャーを飛ばしても送られる映像がノイズだらけです」

 

「ふむ………明日の実習に組み入れるのは控えた方がいいかもしれない。現状維持を優先しつつ騎士団で一旦調査に向かうべきだな」

 

巨大生物の情報が得られない以上、レンヤ達に任せることは出来ないと判断した。ソフィーは森を睨みつけて、何かを感じ取ろうとする。

 

(この感じ、グリードか。最悪私が出張る羽目になるそうだ)

 

「ソフィーさん、どうかしましたか?」

 

「ん?いや、何でもない。ただ感じがグリードの気がしただけだ」

 

「なら、異界対策課に任せましょう。私は奥にも警報用サーチャーを設置して行きますので」

 

「同行します」

 

調査員はそう言い残し、騎士と一緒に森に入って行った。ソフィーは端末を取り出し資料に目を通した。

 

「後一年か………。夕闇め、面倒な事をしたものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今日は自分で起床して朝食を食べた後。カリムがソフィーさんから預かっていた封筒を貰い、封筒を開けて内容を見た。

 

「………巨大生物関連の依頼はないようだけど、まだ調査中なのか?」

 

「はい………森の中の状況があまり芳しくなく、騎士団長は詳しくお調べになられてから依頼として皆さんに協力させていただきますが。間に合わない、またはグリード以外の可能性も捨て切れません」

 

「まあ、妥当な判断だな」

 

「ソフィーさんは今も森に?」

 

「今しがた数名の騎士と共に、結果待ちという訳です」

 

「なら私達はコッチからやね」

 

はやてが封筒を軽く叩きながら意識を切り替えさせる。

 

「私達は、私達にしか出来ない事を優先しよう」

 

「ええ、気持ちを切り替えて行きましょう」

 

「それでは失礼します」

 

「はい、実習の成功を心から願っています」

 

カリムと別れて、少し気にもなるが予定通り実習を開始した。グリードの討伐系はなく、比較的採取やお手伝いの依頼をこなしていく。そして最後の依頼がある孤児院に向かった。孤児院に入ると子ども達が一斉にこちらを向き、笑顔で駆け寄って来た。

 

「レンヤさんだ!」

 

「久しぶり!」

 

「皆ダメだよ!ちゃんと陛下って言わなきゃ!」

 

数名飛び込んできて、優しく受け止める。

 

「久しぶりだな皆。元気にしてたか?」

 

「元気にしてたよ!」

 

「アリサ姉ちゃん!剣を教えてくれよ!」

 

「もっと大きくなったら考えてあげるわ」

 

「すずかさん、これどうかな?」

 

「ふふ、とても素敵よ」

 

「すずかさん、一緒に遊ぼう!」

 

「ごめんね、今日はお仕事で来ているからまた今度ね」

 

俺達4人が子ども達に囲まれている光景を、3人は静かに見ていた。

 

「話しに聞いとったけど、レンヤ君達って子どもに好かれるんやなぁ」

 

「皆さんは元々お優しいですから、当然かもしれません」

 

「偶然なのか仕組まれたのかは知らないけど、ソフィーさんにはお礼を言わないとね」

 

その時、施設から1人の二十代のシスターが出てきた。

 

「シスターオーパ。お久しぶりです」

 

「はい、陛下もお元気そうでなによりです。今日は実習でいらっしゃったんですね、どうぞ中に」

 

子ども達を離して、孤児院の応接室に向かった。

 

「ここは聖王教会の系列の施設なのか?」

 

「ああ、元々あったのを俺が資金援助し、管理を任されている」

 

「と言っても、1人でやろうとしようとしたのを止めたんだけどね。資金援助も私、すずか、アリシア、そしてレンヤで4分割しているし」

 

結局アリサに説得されたんだけど。俺はただ、昔の自分のような子を作りたくないだけ。ま、皆とてもいい子だから杞憂だったけどな。

 

「それでも素晴らしい、やはりレンヤは王の器があるようですね」

 

「そんなんじゃないさ。ただ貯まっていく使い道のないお金を出して、子ども達の幸せを願っているだけだ」

 

「ふふ、本当に自分に優しく、素直になればいいのに」

 

「相も変わらずやなぁ、レンヤ君は。もはや病気の領域やな」

 

「ああ、言えてる!」

 

「皆さん、着きましたよ。どうぞ中へ」

 

「すみません、お騒がせしてしまって」

 

「いいえ、陛下が変わってくれて一安心しました」

 

シスターオーパの言葉に疑問に思う。

 

「以前の陛下なら無理にでも1人でやろうとしていましたので。子ども達もそれに気が付いて遠慮がちでしたし」

 

そう言えばアリサ達に頼る前は結構、根を詰めていたからな。子どもはそう言うのには機敏だからな。

 

それから、シスターオーパからの依頼は………昼までの孤児院のお手伝い。他の依頼を優先した理由である。それぞれ役割分担をして実習に当たった。元から慣れている異界対策課の3人は慣れているもんだが、残りの3人……特にはやてはからかわれやすく、よく子ども達を追いかけていた。ユエは小さな子どもの指導もしており問題はなく、シェルティスも最初はたどたどしかったが今は慣れて自然体でいる。

 

正午まで孤児院で実習を行い、お昼に誘われたがさすがに遠慮して。午後の依頼を受け取るために教会に戻ることにした。

 

「はあ、疲れた〜」

 

「はやてちゃんは子どもから遊ばれやすいからね」

 

「どこはかとなく親近感を覚えるのでしょう」

 

「たぬきなのが子ども達には丸分かりなのかもな」

 

「たぬき言うな!」

 

それから聖王教会に着くと、どこか騎士とシスター達が慌ただしくしていた。

 

「騒がしいわね」

 

「何かあったのかな?」

 

「ちょっと聞いてみるよ」

 

シェルティスが状況を聞くために近くの騎士に話しを聞きに行った。シェルティスは騎士に話しかけ、すぐに戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「昨日の巨大生物が発見されたんだけど、どうやら2体いたらしいんだ」

 

「2体⁉︎それ以外に情報は?」

 

「2体とも同種でグリードらしい」

 

「なら俺達の出番だ、場所は森でいいんだな?」

 

「多分、詳しい情報はないけど」

 

「ソフィーさん達が心配です。早く行きましょう」

 

グリードの有無を確認と騎士団の確認のために森に向かった。森の入り口に着いたが騎士団はいなく、地面に無数の足跡が森に入って行っていた。

 

「どうやら奥のようね」

 

「危険な状況かもしれない。すぐに行こう」

 

「了解した」

 

俺達は薄暗い森に入って行った。足跡を辿り進んで行くと、開けた場所に出たが……

 

「木が……枯れている?」

 

「いや違う。燃やされたように焦げている」

 

「でも火が使われた痕跡はないわよ」

 

「大きさも不自然やな。砲撃のように直線やのうて楕円形……」

 

「騎士団も見当たらない、一体どこへ」

 

「ここで戦闘があった事は間違いなさそうだけど」

 

木の焦げ以外の痕跡が見当たらない。ここで何が起こったんだ?騎士団に中にこんな事を出来る人はいないしする人もいない。それならグリードの仕業になるのだが、証言通りなら2体同種……つまり10メートルの巨体のグリードが付近にいるはずなのだが、姿形もないし足跡もない。

 

「通信状態も安定しなくて連絡もつかないよ」

 

「付近を捜索しよう、何かあったら魔力弾を上空に撃って炸裂させること」

 

「うん、分かったよ」

 

「グリードがいたら手を出すんじゃないわよ」

 

「そこまで命知らずやあらへん」

 

「それでは後ほど」

 

皆と別れて焼けた場所付近の捜索を開始した。しかし近くには何もなく、奥に進んで行くと川に出た。

 

「少し進み過ぎたな、引き返して……」

 

「陛……下……」

 

引き返えそうとしたら、誰かの声が聞こえ。気配を探ってみると上流の方向に男性騎士が倒れていた。すぐに近寄り安否を確認する、見たところ筋肉が硬直しているから強力な電気を受けた見たいだ。

 

「しっかりしろ、何があった?」

 

「うっ………くあ………」

 

全身を麻痺しており、呼んだだけでも精一杯だったみたいだ。魔力弾を上空に撃ち炸裂させ、しばらくすると全員が集まって来た。すずかが騎士のデバイスに記録が残っていないか確認するも、強力な電流でデバイスが破損しており見ることができなかった。

 

「一旦この人を教会に運ぼう。それにソフィーさんと入れ違いになったのかもしれないし」

 

「そうやな、森の入り口も他にあるやろうし。確認の為に戻ってみよか」

 

「警戒を怠らずに行こう」

 

俺とユエで騎士を抱えて、警戒を他の4人に任せて出口に向かった。途中、何もなく。森を出たらすぐに聖王教会に走った。正面に着くと、数名の人達が負傷しており治療を受けていた。俺は騎士をそばの壁に寄りかからせて近くのシスターに手当をお願いし、ちょうど通りかかった部隊長に話しを聞くことにした。

 

「すみません、状況を教えてくれませんか?」

 

「へ、陛下⁉︎了解しました!」

 

部隊長の話しによると、ソフィーさん率いる第一部隊と第二によるグリードの探索及び討伐が決行された。そしてあの木が焼けた地点でいきなり巨大グリード2体に挟み討ちにされ、両手から放たれた電流で再起不能に。大半が感電による麻痺で動けず、数名が逃れるも結局麻痺。ソフィーさん達隊長達は全身麻痺までは防いだものの硬直まで防げず、2人係で命からがら教会に転移したようだ。

 

「それで2体のグリードの行方は?」

 

「分かりません、現在ソフィー団長が捜索をしておりますが。ソフィー団長も怪我をしていますので……」

 

「………分かったわ、ここから先は私達でなんとかします。あなたは負傷者の手当と捜索の打ち切り通達して下さい」

 

「し、しかし……!」

 

「今動けるのは私達だけです。2体のグリードは必ず別れてが討伐してみせます」

 

全員で顔を見合わせ頷き、教会を飛び出した。入り口前で止まり、情報を整理する。

 

「まず、問題はグリードの攻撃方法、次の襲撃地点、グリードの目的だ」

 

「攻撃方法はあの電撃やな、どうやっているかはサッパリやけど」

 

「おそらく目的もないと思うよ、今まで通り………」

 

「となると問題は次の襲撃地点ね」

 

アリサはディスプレイを展開して、ベルカ周辺の地図とグリードの襲撃地点を表示した。

 

「あの森は東側に山脈が連なっていて東に行けない場所よ。最初の襲撃は南の地点で、次が森の中」

 

「森の中はおそらく違うでしょう。やって来たから襲った風に見えます」

 

「となると、グリードが次に向かうのは南以外だが……」

 

範囲が広すぎてこれ以上絞り込みが難しい。

 

「あ、これは……」

 

「どうかしたか?」

 

シェルティスが何かに気付いた。

 

「最初の襲撃地点は住宅が結構森と近いよね。多分だけど、人を襲うのが目的なら次は……」

 

「ッ……!」

 

シェルティスの仮説が正しいなら。次に向かうのは森に近く、人が多い場所、それは1つだけ………北西にある、あの孤児院だ。

 

「でも、まさか……」

 

「可能性がないわけじゃないよ、行ってみる価値はあると思うよ」

 

「そうやな、問題はいきなり現れたっちゅうことや」

 

「巨体を隠せるということは………光学迷彩や認識阻害をしているかもしれない」

 

「もたもたしている暇はないわ。仮設が正しいなら孤児院が危ないわよ」

 

「悩むより移動が先だ!」

 

俺達は孤児院に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤児院に着くと、何も変わり映えなく。子ども達が元気に遊んでいた。

 

「杞憂………だったのかな?」

 

「例えハズレでも、来た意味はあったわよ」

 

「うん、孤児院の無事が確認出来たんだから」

 

シスターオーパに子ども達の避難をお願いして、森に入り口に来てみた。

 

「捜索を開始しようにも、広過ぎるし時間もない」

 

「そもそも見えないことには……」

 

「とりあえず私達はここから調査してみるわ。レンヤ達は孤児院の避難誘導をお願い」

 

「了解だ、気をつけろよ」

 

レンヤ達、男3人は孤児院に向かって行った。それから数分森を調べたが、何も分からなかった。

 

「ふう、一旦戻ろうか」

 

「ええ、そうね」

 

「これは難敵やなぁ」

 

森に背を向けて、孤児院に向かおうとした時……

 

ズン、ズン……

 

「「「!」」」

 

いきなり右から巨大なグリードが現れた。

 

「なあああっ⁉︎」

 

「そんな⁉︎反応がまるでなかったのに!」

 

「とにかく、手間が省けたわ!」

 

3人はデバイスを起動し、バリアジャケットを纏った。

 

「フレイムアイズ、レンヤ達を!」

 

《了解しました》

 

「……!アリサちゃん、はやてちゃん、後ろにも!」

 

「挟まれてもうた!」

 

アリサ達を挟み、グリードは両手を前に出し。指先が電気を帯び始めた。

 

「これ、ちょいマジヤバかいな?」

 

「いいから走るわよ!」

 

「早く間から逃げないと!」

 

間から逃げようと走るアリサ達。

 

「きゃっ!」

 

「はやてちゃん⁉︎」

 

はやてが足を取られ、転んでしまった。そうしている間にもグリードの電撃が激しくなっている。

 

「はよう行き!私は大丈夫やから」

 

「でも……」

 

「いいからーー」

 

アリサがはやての首根っこを掴み……

 

「行きなさい!」

 

「きゃああああっ⁉︎」

 

投げ飛ばした。

 

「えっと………ナイス馬鹿力!」

 

「魔法で筋力上げているのよ!いいから早く……」

 

バリッ……

 

アリサが言い終わる前に2体のグリードの間に電撃が流れ、アリサの髪が逆立つ。

 

「アリサちゃーー」

 

ガアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

雷が落ちるが如く、轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサから連絡を貰ったレンヤ達は、すぐに現場に向かう途中……

 

ガアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

「ッ………!」

 

「うわっ⁉︎」

 

突然鳴り響いた轟音に身をすくめた。

 

「これは………!」

 

「急ごう、アリサ達が心配だ」

 

デバイスを起動し、バリアジャケットを纏いながら走ると。2体の巨大グリードがおり、2体の間の地面が焦げていた。

 

「あれが今回の騒動の原因!」

 

「……!アリサーー‼︎」

 

グリードから少し離れた所にアリサが倒れていた。

 

「アリサ!アリサ!」

 

「うっ……レ……ン………ヤ?」

 

症状は他の騎士達と同じ麻痺だが。バリアジャケットが焦げており、所々肌が見えていた。かなりの高圧の電撃を受けたようだ。二撃目はとてもじゃないが防ぎきれない。

 

「レンヤ君!」

 

「助けてえな!」

 

すずかとはやての声がする方向を見ると、2体のグリードの間にいて岩で体を拘束されていた。

 

「一旦何がどうなったんだよ!」

 

「それはーー」

 

すずかが言おうとしたら、1体のグリードが電撃を飛ばしてきた。アリサを抱え、安全な距離まで下がった。

 

「やっぱり電撃が攻撃方法みたいだね」

 

「しかし、まさかグリードが人質を取るなんて。かなり不自然ですね」

 

「ああ、だがどうすれば……」

 

《レ……ン…ヤ……様…》

 

「フレイムアイズか、かなり損傷を受けているな。大丈夫か?」

 

《問題……は……あり…ま……せん》

 

ノイズや所々途切れながらも、情報をレゾナンスアークに送られた。

 

「ありがとう、フレイムアイズ」

 

感謝の言葉を言い、送られてきた情報を見る。アリサが電撃を受けた後、グリードが巨大に見合わぬ速さで動き2人を捕まえて拘束し、今の状況になったようだ。

 

《2体のグリードの体からAMFを検出。共鳴で2体の間にも発生しています》

 

《手の打ちようがありませんね。背後からは狙えず、人質もいる。お手上げ一歩手前ですよ》

 

「無闇に近づいたり攻撃したらすずか達が危険です」

 

「どうすれば……」

 

初めての危機に、動揺で頭の中が混乱する。

 

《あの電撃も厄介ですよ。お互いに放電と充電を行っていますから電気のロスが少なく、短い時間でも強力な電撃を打てますし》

 

《ただ、その関係上。あの指先だけがAMFを纏っていません、突破口があるとすればそこです》

 

「簡単に言ってくれる、電撃を放つ以外は拳を握っていて指先が狙いにくいと言うのに……」

 

「作戦としては電撃をどうするか、2体のグリードにどう攻撃し2人を救出するかと言うことだね」

 

「どれも難易度が高い危険な作戦です、慎重にいきませんと……」

 

「…………よし。シェルティスが結晶を数本作ってそれを避雷針として、電撃を放った瞬間俺が2体のグリードの指先を斬る。斬ったのを確認した後ユエが2人の救出、その後戦闘開始だ。一応、2体のグリードの識別名称はツチオニにしておく」

 

今出来る最大限の作戦を2人に伝え、頷いた。

 

「うん、それで行こう」

 

「意義はありません」

 

すぐに持ち場につき、シェルティスは2体の間にゆっくりと近づいて、レンヤは反対側でギアを回し構えていて、ユエはシェルティスの後ろで待機している。

 

2体のツチオニがシェルティスに気がつくと、両手を前に出して指先に電撃が発生する。

 

「うっ………」

 

「信じてるで、レンヤ君」

 

間にいるすずかとはやての恐怖は計り知れないが、それでも2人はレンヤ達を信じた。

 

「剣晶九十三・迫竜爪!」

 

ツチオニの間から合計3つの巨大な結晶が爪のように飛びだし、避雷針の役割をする。次の瞬間……

 

ガアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

「「きゃああああっ!」」

 

電撃が迸り、電撃のほとんどが結晶に流れていく。しかし電撃があまりにも強力で結晶がだんだんと崩れていく。

 

「うっく………もう、保たない……」

 

「充分だ!」

 

レンヤが抜刀の構えを取りながら接近し……

 

「鏡面………送人!」

 

一瞬でレンヤが2人になり、全く同じ動きをして。まるで鏡から出てきたように刀を左手で握る。

 

「「雷噛(らいか)!」」

 

稲妻が疾るが如く剣筋を直角に曲げながら指を1本ずつ斬り落とした。電撃が止んだことを確認して、ユエがすずかとはやてに接近する。

 

「ふううう………はあっ!」

 

ユエの拳が岩を捉え粉々にした。2人には衝撃は伝わっておらず、ユエは2人を抱えて離脱する。

 

「ふう、ギリギリだったな」

 

「皆、助けてくれてほんまおおきに!」

 

「礼は後でいいです。まだやる事は残っています」

 

「うん、早く終わらせよう。アリサちゃんも心配だし」

 

「レンヤの攻撃でAMFは消えた。思う存分戦える!」

 

2体のツチオニと向き直り、レンヤが激励を言う。

 

「魔導学院VII組A班、これより2体の巨大グリード……ツチオニを撃破する!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

グアアアアアアアッ‼︎

 

2体のツチオニが咆哮を合図に飛び出した。すずか、ユエが1体を相手にして、足止めと混戦を防ぐようにし。レンヤ、はやて、シェルティスがもう1体を倒す。

 

「はあああっ!」

 

「行くよ、スノーホワイト!」

 

《はい、すずか様。ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

ユエが千人衝を行い、攻撃と撹乱をして。すずかが足を重点的に狙い動きを制限した。

 

もう1体のツチオニがレンヤに向かって、拳を振り下ろして来た。

 

「速攻で決めるぞ、レゾナンスアーク!」

 

《イエス、マイマジェスティー。サードギア………ドライブ》

 

ギャッリイィィィィッ‼︎

 

ギアを最大出力で回し、刀を抜刀してツチオニに一気に接近して拳を避け。突きの構えを取り……

 

槍雨(そうう)!」

 

ツチオニの足を狙い、雨如く無数の突きを放ち。体勢を崩させる。

 

「デカイけど、何とかしてみようか」

 

《巨大生物相手なんて、どこのゲームですか?》

 

レンヤに続くように走り出して……

 

「剣晶十二・翠晶剣」

 

デバイスの双剣ではなく、翠の結晶で作った双剣でツチオニを斬り。手を離し翠晶剣をツチオニにくっ付ける。

 

「まだまだ!」

 

作っては斬る、作っては斬るを繰り返してツチオニの体中を結晶の剣で埋め尽くした。ツチオニも抵抗しようと暴れるが、結晶が邪魔をして思うように動けなかった。

 

《拘束を確認、いつでも行けます》

 

「翠緑の結晶よ!」

 

シェルティスがツチオニに刺さっている結晶に向かって魔力を放出すると、結晶が大きくなり始めさらにツチオニを拘束する。

 

「ここいらで特訓の成果をみせるで!」

 

はやてが杖を掲げ、ツチオニの上に白銀の魔力光を漂わせる。

 

「集え、審判の一撃、蔓延る罪過に終焉を……」

 

魔力が集まり始め………巨大な槍が形成された。

 

「果てよ語れ………ロンゴミニアド!」

 

一斉に槍が降り注ぎ、槍がツチオニに直撃した瞬間、槍の先端から砲撃が放たれて地面を裂き、大地を揺らす。

 

ツチオニは吼えながら倒れるも、まだ消滅には至らなかった。

 

「よし、ここで一気に……」

 

「……!待て!」

 

止めをさそうとした時、もう1体のツチオニが妨害してきた。

 

「くっ……」

 

「ごめん、皆!」

 

「済まない、抜けられてしまった」

 

すずかとユエが申し訳なさそうな顔で謝る。

 

「大丈夫だ。むしろ手間が省けた」

 

「そうやな、ここは一気に私とレンヤ君の広域魔法でーー」

 

「待って、何かおかしい!」

 

倒れるているツチオニにもう1体のツチオニが近づき、倒れるているツチオニが光出した。

 

「な、何⁉︎」

 

「まさか、取り込もうとしているのですか⁉︎」

 

そのまま光の玉となり、もう1体のツチオニが喰らった。ツチオニが一瞬振動すると、外装が光沢を出していき、指が生えてきた。

 

「パワーアップって所やな」

 

「今度は簡単に刃が通らなそうだ」

 

「でも、倒さなければなりません」

 

「ああ、アリサの分をキッチリ返さないとな!」

 

「うん!」

 

『勝手な事を言うんじゃないわよ』

 

アリサに念話でツッコミを入れられたが、気を取り直してツチオニと向き合う。

 

「はあああっ!」

 

ユエが剄を纏ってフェイトにも劣らないスピードで突撃してツチオニに攻撃する。

 

活剄衝剄混合変化・雷迅

 

デバイスと身体に剄を循環させ、空気との摩擦で剄が周囲に電光を放つ速度で突撃と攻撃を行う技。

 

ツチオニもそのままやられる訳もなく、指先から電撃を周囲に放電する。ユエは難なく避ける。電撃の連射は2体いて成立するので次に放つまで時間がかかるはず。

 

「やはり硬いか」

 

「なら私達が。行くよ、スノーホワイト!」

 

《メテオレイン》

 

すずかがスノーホワイトを足で器用に操り柄を蹴り上げて上空に飛ばし、それを追いかけて回転しながら滞空しているスノーホワイトの柄にオーバーヘッド気味に思いっきりツチオニに向かって蹴り飛ばした。1つの巨大な流星になった紫の槍は真っ直ぐツチオニに向かい、煌めくと無数の槍の星々に変わりツチオニに降り注いだ。

 

しかしこれでもツチオニに装甲は貫けず、がむしゃらに両腕を振り回し始めた。あの巨大が暴れるだけで地面は割れ、大地が揺れる。

 

「これは骨が折れるね」

 

《どうするんですか、シェルティス?》

 

「普通にやってもあの装甲は貫けないし……」

 

シェルティスが剣を振り上げて、空中に空を覆うほどの結晶を生成する。

 

「質量で勝負だ!剣晶一七〇〇・大天漣尖鑓刃(だいてんれんせんけんじん)!」

 

結晶が集まり大きな鏃のような翠の結晶の塊をツチオニにぶつけた。倒れるまでは行かなかったが体の所々にヒビが入っていた。

 

「これでもまだ倒れないのか!」

 

《相当にタフですね、ツチオニ2体分ですから当然と言えば当然です》

 

「こりゃ本腰入れないと………な!」

 

聖王の魔力を解放して、ツチオニに頭上に飛び上がり刀を振り下ろした。

 

ガキンッ!

 

「なっ……⁉︎」

 

ツチオニは顔を上げて噛み付いて刀を受け止められた。

 

「この……!」

 

左手に銃を展開して顔面に魔力弾を撃ち込むが離そうとしなかった。そのまま両腕で俺を掴もうとした瞬間……

 

ドオオオンッ!

「おわっ⁉︎」

 

ツチオニの腹に燃える赤い魔力弾が撃ち込まれた。撃たれた方向を見ると、アリサがキャノンフォルムのフレイムアイズを構えていた。

 

『全く、何やっているのよ』

 

『アリサ⁉︎動けるのか⁉︎』

 

『まだ痺れるけどね、援護射撃くらいは出来るわよ』

 

「でも、あんまり動かんといてな!」

 

はやてがツチオニの後頭部をアガートラムで殴り、ようやく離れられた。

 

「このまま行くでー!アガートラムは2つの顔持つ魔法や!」

 

はやては杖に纏っていた槌状の魔力を鋭い剣状に変えた。

 

「銀の隕石から銀の流星へ………アガートラム!」

 

ツチオニの胴にゆっくり、確実に振り抜き、斬った部分から光がほとばしる。

 

「今だ!バーストモード………イグニッション!」

 

《フルドライブ》

 

レンヤは聖王状態でのフルドライブは初めてだが、時間は掛けられないので出し惜しみはしなかった。

 

想剣(そうけん)水蓮(すいれん)!」

 

斬撃をツチオニに撃ち込むたびに身体中に波紋が流れ広がり破裂し、上空に上げようと斬り上げ……

 

「はあああああっ‼︎」

 

バシュンッ!

 

響かない小さな音だが、魔力運用を利用してツチオニ打ち上げ、レンヤは納刀して飛び上がる。

 

想剣(そうけん)月虹(げっこう)!」

 

交差する瞬間抜刀し、三日月の軌跡を描きツチオニを斬り裂いた。空中で止まり、静かに刀を鞘に納める。

 

「鍔鳴る音は、鎮めの歌声……」

 

(チン)ッ!

 

大きく鍔鳴りを響かせ、ツチオニは光を放ちながら消えていった。

 

「ふう……」

 

《お疲れ様でした。マイマジェスティー》

 

「今日ほど気疲れしたのは久しぶりだな」

 

呼吸を整えて、ようやく一息つく。地上ではアリサが全員に囲まれていた、無茶したからだろう。

 

『レンヤ君、怪我はしてない?』

 

『問題ない。ただ聖王の魔力とフルドライブを併用したからな、ちょっとした気疲れだけだ』

 

『そう、気を付けて降りてきてね』

 

『大丈夫だ。もう終わったーーー』

 

ドスッ!

 

「かはっ⁉︎」

 

『え……』

 

いきなり何かがレンヤの胸を貫いていた。ゆっくり下を見ると何かの爪のようなものがあり、爪の先端に虹色に光る球……リンカーコアがあった。

 

(これって………俺の………)

 

「……ドクターのオーダーです。悪く思わないで下さい」

 

後ろから声がして振り返ると、水色の髪をしたエリオと同じ位の少女が緑色の巨大な鳥の背に乗っていた。

 

「……アビリティー発動」

 

《Ability Card、Set》

 

「……マインドイーター」

 

ピイイイィィ……

 

「ぐ、あああ、あああっ……」

 

レンヤのリンカーコアから光が奪われ、緑鳥が魔力を羽根に吸収している。

 

「う、あ………」

 

《マジェスティー!》

 

魔力を吸い尽くされて、レンヤは気を失い力無く落ちていく。緑鳥の翼はレンヤの魔力光のように虹色に光っている。

 

「レンヤ君!」

 

落ちていくレンヤを飛んできたすずかとはやてが受け止める。

 

「レンヤ君、レンヤ君!」

 

「あんた……レンヤ君に何するんや!」

 

「………………」

 

はやての問いかけに何も答えず、左腕に付いている装置……ガントレットを操作した。

 

《Ready、Sonic Gear》

 

ガントレットの画面から緑色の光が放射され、緑色の小さなパーツが出現し、パーツが組み合わさり円柱型のパーツが作られた。

 

「……バトルギア、セットアップ」

 

少女がそれを掴み緑鳥に向かって投げ、バトルギアが巨大化して緑鳥の背にばつ印型の装置の先端に円がある機械が取り付けられた。

 

「な、なんや⁉︎」

 

「それにあれは……!」

 

驚く2人を他所に少女は淡々とカードをガントレットに入れた。

 

「……バトルギアアビリティー発動、ソニックギア・サイクロトン」

 

緑鳥に取り付けられた4つの円が展開され無数の魔力レーザーが雨の如く降り注いぎ、すずか達の視界を塞いだ。

 

「きゃああああっ!」

 

「く………」

 

レーザーが止んだ頃には、少女も緑鳥の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「う、逃げられちゃった……」

 

「ッ〜〜〜!逃げられたらしかたあらへん、今はレンヤ君の方が優先や!」

 

『すずか、はやて、何があったんだ!』

 

『説明は後、すぐに聖王教会に戻るよ!』

 

2人はレンヤを担ぎ、ユエがアリサを担ぐとすぐさま聖王教会に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖王医療院に運ばれたレンヤとアリサはすぐに治療を受けて、今は2人共眠っている状態だ。アリサは事後経過を見ないとわからず、レンヤはリンカーコアの損傷しており、しばらく入院となった。

 

「レンヤ君の症状は昔のなのはちゃんとフェイトちゃんと同じや、すぐに助けられなかった自分が悔しいいんよ……」

 

「それははやてだけだじゃないよ。もし僕にも飛行魔法の適性があったらと思うと……」

 

「……いえ、例え飛べずともできる事があったはずです。それをただ眺めているなんて……」

 

「皆……」

 

3人共、自責の念で心が苦しんでいた。

 

「済まない、私達騎士団が不甲斐ないばかりにレンヤに傷を負わせてしまった」

 

「はやての気持ちはよくわかります。私も……」

 

ソフィーとカリムも同じ気持ちだった。ソフィーは騎士団がツチオニに襲われて教会に戻った後、すぐにまた森に入っていたようだ。

 

「それで、あの女の子は何者か分かったんか?」

 

「いえ、あれから進展がないわ。情報が少なすぎることもそうですし」

 

「ま、十中八九スカリエッティだと思うがな」

 

「確かに、あのツチオニもスカリエッティの改造グリードだったし」

 

「だけど狙いはレンヤの聖王の魔力でしょう。そう都合よくレンヤが使う訳ない」

 

「アリサの戦闘不能、委員長とはやての捕獲、グリードの強化でレンヤにも余裕がなかったのでしょう」

 

犯人のスカリエッティに怒りなどの様々な感情が行き交う中、ソフィーが手を叩いて場を静めた。

 

「考えてもしょうがない、お前達はもう休め。カリム、教会まで案内しろ」

 

「……はい」

 

「お前達は明日ルキュウに戻ってもらう、事情はこちらで説明しておくからレンヤとアリサを気にするな、私が責任を持って護衛する」

 

「はい……よろしくお願いします」

 

「ご配慮、感謝します……」

 

はやて達は教会に戻り一夜を過ごし、後日。テオ教官がベルカに訪れソフィーから事情を聞き。レンヤはまだ目を覚まさず、アリサは目覚めたがまだ動けなかった。テオ教官に連れられはやて達はレールウェイに乗るが表情は暗く。VII組が開始されて初めての特別実習の失敗となってしまった。

 

 



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74話

 

 

ベルカの特別実習を終えて帰って来たはやて達だが、そこにレンヤとアリサは居らず。なのは達B班も事情を聞いて衝撃を隠せず悲しんだが、学生であるがゆえに簡単には会えに行けなかった。3日後にアリサが帰って来て、なのは達は抱き合いながら無事を喜んだ。アリサによるとレンヤは後最低でも4日間の入院と退院後の魔法の使用禁止となるそうだ。

 

それから4日後、レンヤが退院してルキュウの寮に向かうと。全員が玄関にいて、なのはとはやてとアリシアが飛びかかり倒れてしまった事もあったが。VII組全員がレンヤが無事だったことに安堵していた。レンヤは学院に復帰したが魔法訓練は受けられず、当分は安静との事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月中旬ーー

 

ルキュウの街は夏に入り、魔導学院では学生服が夏服に切り替わっていた。こういう所は地球と同じで少し安心したりもした。しかし俺は約一週間以上の勉強の遅れがあってしまい。俺だけ学院のハードなスケジュールに慣れ遅れてしまった。アリサは余裕そうだったが。まだひどく暑くならない日々が続き、この時季ならではの授業も始まっていた。

 

「さて、ウォーミングアップはこれで充分だろ」

 

場所は武練館にある屋内プール。VII組全員が学院指定用の水着を着てテオ教官が行う授業を受けていた。テオ教官の授業は全部訓練だから、知識的な授業はこれが初めてだと思う。

 

「魔導学院におけるこの授業はあくまで軍事水練……。溺れないこと、溺れた人間の救助、蘇生法を学んでもらう。人口呼吸もそうだが……まずはなのはが溺れてそれをーー」

 

「ーーって私が溺れる前提ですか……⁉︎」

 

「そりゃそうだろう、お前泳げないんだし」

 

「うっ……」

 

「ま、せめて静かに浮くくらいは出来るようになっとけ。それと、誰に人口呼吸をしてもらいたいんだ?」

 

「テ、テオ教官っ……!」

 

「あはは……」

 

「くくくく、冗談だ。やり方はキッチリ教える、いざという時は躊躇するなよ。異性だろうが同性だろうがな」

 

さすがに命に関わることなので、真剣な表情で言う。

 

「む……」

 

「当然です」

 

「何と言っても人命に関わることですし」

 

「そのあたり講義が終わったら一度タイムを計るぞ。誰かに手伝ってもらいたいんだが……。ここは水泳部のアリシアにお願いするか」

 

「わかりました」

 

それから飛び込みする前提でタイムが図られた。地球の高校でも飛び込みってあんましないよね、初めてやると不格好になるし。軽く泳いでから横で他の人の泳ぎを見る。

 

「へえ、ユエも結構速いんだね?」

 

「確か、地元の湖で泳いでたらしいからな」

 

「すずかも運動神経いいからさすがに速いわね………それ以上に羨ましいって言うか……」

 

「羨ましい……?」

 

「な、何でもないわよ!ていうか、女の子の水着姿をジロジロ見るんじゃないわよっ!」

 

腕で体を隠しながら、赤面するアリサ。その行動で逆に胸が強調される。

 

「今更恥ずかしがることか?」

 

学校の授業からプールの時に水着の感想言わせるくせに。

 

「あはは、皆スタイルよくて目のやり場に困っちゃうよね。僕以外の男子も……レンヤとか引き締まっているしなぁ」

 

「まあ、昔から父さん直伝の無駄の無い鍛え方をしているからかな?」

 

「赤筋と白筋を平等に鍛えているんだっけ?まあ、結構好みよ///」

 

「え、何て……」

 

「何でもないわよ!ツァリは………うーん。変に鍛えない方がいいわよ?」

 

「えーっ?」

 

確かに筋肉ムッキムキのツァリは………バランスが悪すぎるな。

 

「そういえば、レンヤとアリサは傷の具合はどう?」

 

「大丈夫よ、私はとっくに完治しているわ」

 

「実技テストまでには完治して、魔法の使用も許されるはずだ。体の傷は問題ないし」

 

「リンカーコアに攻撃を受けたんでしょう?本当に大丈夫なの?」

 

「だから大丈夫だって。でも、とっても変な感じだったんだよな。胸を貫いたのに傷が無いなんて」

 

「ーーそういうものだよ、レン君」

 

「うわっ⁉︎」

 

すぐ側をなのはが仰向けで泳いで………流れて来た。なのはは泳げないのでせめて溺れた時に浮かれるように練習している。

 

「リンカーコアから魔力を抜かれる感覚は実際に受けた人じゃないと分からないよ」

 

「あー、確かに」

 

「うーん、分かりたくないような……」

 

ちょうどその時、リヴァン、シェルティス、すずか、はやて、ユエ、フェイトがタイムを計り終えて来たようだ。

 

「まさか同じタイムとは……お前とは何かの縁があるのか?」

 

「僕は別に張り合っているつもりはないし、今のも軽く流しただけだ」

 

「当然だ、俺も全力を出したわけじゃないからな」

 

「あはは……」

 

「やれやれやな」

 

「ふむ、少しばかり泳ぎ足りないですかね」

 

「次は全力で行こうかな?」

 

アリシア以外のタイムを計り終えて、テオ教官がアリシアのタイムを計ろうとした。

 

「アリシアが泳ぐみたいよ」

 

「飛び込む台に立つアリシアちゃん、絵になるわ〜」

 

「さすが水泳部だね」

 

「うん、すごくサマになっているよ」

 

「位置に付いてーー」

 

テオ教官が合図し、アリシアが構えて……

 

「始め!」

 

綺麗なフォームで飛び込み、淀みないクロールでとても速かった。

 

「うわあっ……!」

 

「速い……!」

 

「すごいスピードだ」

 

「やるね」

 

あっという間に反対側に辿り着いた。

 

「ふう……」

 

「お見事です」

 

「……………………」

 

「私もあれだけ……は無理やな」

 

「20秒02ーーさすがにやるな。さて、俺も鈍らない程度に泳ぐとするか。それぞれ任意の相手と組んで勝負するぞ!」

 

テオ教官はまたノリでそんなことを言った。

 

「また、いきなりですね」

 

「はあ……まあ、意図はわからなくもありませんけど……」

 

「まあまあなのはちゃん、こういうのも悪うないで」

 

「うーん、勝負かぁ……」

 

「どうやら勝敗を付けられそうだね?」

 

「いいぜ、かかって来い!」

 

「ならすずか、決着を付けるわよ!」

 

「ええええっ⁉︎」

 

早くも皆が対戦相手を見つける。

 

「俺はそうだな……せっかくだからアリシアに付き合ってもらおうか?」

 

「教官………セクハラです」

 

「何でだよ⁉︎」

 

「冗談です、せっかくですがお断りします」

 

アリシアはフェイトに近付く。俺はアリシアの意図に気付く。

 

「フェイト、お願い出来る?」

 

「姉さん?」

 

「あ……」

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん……」

 

「面白そうだな。そんじゃあ、一組決定だ。俺はそうだな………レンヤ、付き合え」

 

「ええっ……⁉︎」

 

どういう原理でコッチに来たのかは不明だが、相手に不足はなかった。

 

さっそく競争が始まり、次々とプールに飛び込み泳いで行く。

 

「はあはあ……」

 

「さっきより本気なのにまた同着とは……!」

 

「あはは、さすがアリサちゃん」

 

「くっ……すずかの胸がなかったら負けてた。2度悔しい……!」

 

「さ、さすがに疲れたの……」

 

「でもダイエットに効果ありそうやな」

 

その次に俺、テオ教官、ツァリ、ユエで同時に勝負することにした。

 

「ユエ、お手柔らかにね」

 

「ええ、こちらこそ」

 

「さあて、行くとしますか」

 

「よろしくお願いします」

 

「位置についてーー始め!」

 

アリシアの合図で一斉にプールに飛び込んだ。人間いくらやめているテオ教官に勝つ為に、今持てる全力で泳いだ。反対側に手を付き、すぐに横を見ると僅差で何とかテオ教官に勝つことが出来た。

 

「……はあはあ……や、やった……!」

 

「はあはあ………まさか負けるとはな」

 

「フフ……さすがレンヤですね」

 

「……はあはあ……前衛3人と競うのは無理だよ……!」

 

プールから上がる、反対側にいるフェイトとアリシアを見る。どちらも無言で話そうとしない。

 

「え、えっと……2人共、準備ええか?」

 

「うん、問題ないよ」

 

「すぐに始めて」

 

2人が飛び込み台に立つ。お互い対抗心や勝敗のこだわりはないが、どこか噛み合っていないように見える。

 

「位置についてーー始め!」

 

アリサの合図でプールに飛び込みんだ。体格はほぼ同じで、水泳部のアリシアが有利だと思われたが。フェイトもアリシアに劣らぬ速さで並んでいる。

 

「2人共、速い……!」

 

「す、凄い」

 

「おお……」

 

そしてフェイトとアリシアは、ほぼ同時に壁に手を付いた。

 

「うわああ〜っ……!」

 

「今の……どっちが勝ったの⁉︎」

 

「ほとんど同着に見えたけど……」

 

「僅かにアリシアが先でした」

 

「ああ、経験の差だろう」

 

「白熱した勝負やったなぁ……」

 

「なかなかの名勝負だった。出来れば俺も混ざりたかったぜ」

 

「「「「セクハラです」」」」

 

「いや、だから何でだよ⁉︎」

 

声を揃えてテオ教官を貶すなのは達、ノリがいいのか悪いのかよくわからない。

 

「はあはあ………やっぱり姉さんは凄いや」

 

「ふう……フェイトこそ」

 

アリシアはそこで目を閉じて、フェイトに質問した。

 

「フェイト、最近ーー」

 

「先に行っているね」

 

「あ」

 

アリシアが質問する前にフェイトが逃げるように行ってしまった。

 

「…………………」

 

2人の溝は、望まなくして大きく裂けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ本格的に暑くなりそうだな」

 

今日の授業を終えて、今はテオ教官がHRをしている。

 

「夏といえば酒!明日は自由行動日だし、首都で朝から夜まで飲みに行くとしようか」

 

「まあ、別に構いませんけど……」

 

相変わらずと言っていいのか、もはやツッコむ気もなかった。

 

「1人寂しく飲むんですか?」

 

「……まあ、それは置いといて。来週の水曜は実技テストだ、慣れてきたと思うが授業は怠るなよ」

 

「はい、判りました」

 

「ということは来週末に特別実習があるわけね」

 

「そんなに日は経っていないと気がするがな」

 

「「………………」」

 

やはり自覚があるのか、フェイトとアリシアは先月と変わらずだった。

 

「そうなると今年は夏至祭に行けないなぁ」

 

「夏至祭というと……」

 

「6月にミッドチルダ各地で開かれるお祭りだな」

 

「毎年恒例の行事だね」

 

「私達も毎年参加しとってたなぁ。そういえば何で7月やのうて6月なんや?」

 

「あー、俺も前から疑問に持っていたんだ。実際、何でなんだ?」

 

「あなたは一応、教官ですよね?」

 

シェルティス呆れながらため息を付いた。

 

「たしかベルカがミッドチルダに来たのが由来だったと思います……」

 

「ミッドチルダが歓迎の意を表して、それで1カ月遅れで夏至祭が開かれると言われていますね」

 

「へ〜、なるほど」

 

アリシアとすずかの解説にテオ教官がようやく納得する。

 

「そういやラウム教官がそんなこと言ってたっけ……。長くなりそうだから途中で失礼したからな」

 

「気持ちは判らなくもないですが……」

 

「あの先生、歴史講義になるとものすごく話し長くなるからね」

 

「ちょっと、参るくらいに……」

 

「それはともかく、夏バテには気をつけろよ。ま、優秀な管理人が美味い料理を作ってくれるから心配いらないと思うがな。そんじゃあ、HRは以上。リヴァン、挨拶を」

 

「はい。起立ーー礼」

 

テオ教官が教室を出て、しばらく男女別れて雑談をしていたが。フェイトだけ会話に参加してなかった。しばらくしてフェイトは席を立ち、静かに教室を出て行った。

 

「あ、フェイトちゃん……」

 

「…………………」

 

「私、追いかけてみるね」

 

「なら、私も行こか?」

 

「ええ、お願いね」

 

すずかとはやてはフェイトを追いかけて行った。

 

「アリシア、まだ原因はわからないの?」

 

「うん……お母さんとアルフに相談してもわからなくて……」

 

「本当にどうしちゃったんだろう、フェイトちゃん……」

 

その雰囲気に、俺達も意識がそちらに向いてしまった

 

「……相変らずか」

 

「水泳勝負の後でもわかりませんでしたね」

 

「先月の実習も今ひとつだったらしいね」

 

「ああ……結局最後まであんな感じだった。……なあレンヤ。お前で何とかできないか?」

 

「そうだなぁ、喧嘩している訳でもないし……。てか何で俺なんだ?」

 

「レンヤが一番適任ですから」

 

「かなりのお人好しだからね。それに知らない仲でもないでしょう?」

 

「それは、そうだけど……」

 

思い悩んでいると、俯いているツァリが目に入る。

 

「……?ツァリ、どうかしたか?」

 

「……‼︎えっ⁉︎あ、あー……うん。僕もレンヤが適任だと思うよ。リヴァンとシェルティスの仲直りにも一役買ったみたいだし」

 

「な、冗談じゃないわ!」

 

「仲直りなど断じてしてない、訂正をしろ」

 

「あはは、息ピッタリだし」

 

それからツァリが吹奏楽部に行くと言い、他の皆もそれにつられるように部活に行くことになり、教室を出て行った。俺も部活をする為に部室……ではなく学内の池で釣りをした。あ、ザリガニ擬き。

 

適当に釣った後、部長に一言入れて下校した。正門を出ると今まで気にしてなかった蝉の声に気付いた。

 

(蝉か……こっちにもいるんだな。もうミッドチルダの夏が来たか)

 

「ーー帰りですか。レンヤ君」

 

ふと後ろから俺を呼ぶ声が聞こえて、振り返ってみると。同じく帰りなのかモコ教官がいた。

 

「モコ教官……。はい、教官も今お帰りで?」

 

「ええ、明日は異界の調査でして。今日は早めに学校の仕事を切り上げさせてもらいました」

 

「そういえば、明日はすずかが護衛に着いての調査でしたね。比較的安全な異界を選んだと思いますが、身の安全を第一に考えて下さい」

 

「ふふ、ありがとうございます。でも大丈夫です、こう見えて私って結構強いんですよ」

 

腕を上げてガッツポーズをするがまるで迫力がない。だが仮にも魔導学院の教官だし、事実強いのだろう。

 

「……そういえば、先月の実習は大変でしたね」

 

「ベルカでのことですね?」

 

「ええ、レポートは見させてもらいましたが……傷の方はもう大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫です。前例もありますし、何より腕の良い医者もいましたし」

 

「シャマルさんね。管理局でも屈指の治癒魔導師だからね」

 

「はい。それであの少女について何か情報は?」

 

「まだなにも。しかし、巨大な大鳥に乗った少女……。大鳥は少女の使い魔だとしても、少女が使用したアタッチメントは……」

 

「ガントレット。使い魔強化支援システム……爆丸」

 

「少女の背後を考えると不可能ではないです。それにルーテシアちゃんは隠さずバンバン使っていますし、模倣もできる」

 

「………………」

 

「そう落ち込まないで下さい。誰もあなたを責めている訳ではありません。あなたの行動でベルカの人々が救われたのも事実、むしろ誇ってもいいのですよ?」

 

「いえ、一時とはいえ油断してたのは自分ですから」

 

「そうですか。ふう……こういった生徒のフォローは担任がするべきなのですが、彼に任せるのもまた酷というものですか」

 

「彼……テオ教官のことですか?」

 

「ええ、優秀なのは認めますがもう少し自重して欲しいものです。管理局とは無縁とはいえ、魔導学院の教官に着任したからには弁えてもらいたいです……」

 

モコ教官はやや疲れ顏で愚痴を言う。テオ教官の学院の教官を務める前の話しらしいが……

 

「あの、テオ教官って前は何をしていたんですか?」

 

「え、知らなかったの?テオ教官は以前ーー」

 

「おおっと、そこまで」

 

「「!」」

 

いつの間にかモコ教官の横に立っており、人指し指をモコ教官の唇に当ててそれ以上言わせなかった。こんなに近くにいて気付かなかったなんて……やっぱ幾分人間やめているよ、この人。

 

「テオ教官⁉︎」

 

「ッ……!」

 

モコ教官は飛び退きテオ教官から離れる。顔は羞恥で赤くなっていた。

 

「いきなり現れるなんて失礼ですよ」

 

「そりゃあ済まなかった。あんま無用に暴露されたくないんでね」

 

「………分からなくもありません。ですが他に止める方法はあったはずですが?」

 

「女性のお喋りな口を止める方法は知らないものでしてね」

 

「む……」

 

この2人はどういう訳か仲が悪い……というかソリが合わないのだ。基本テオ教官が煽ってモコ教官が突っ掛かる具合だが。

 

「おや〜?テオ教官に、モコ教官?」

 

そこへどこか飄々とした声が聞こえてきた。すると校舎からラウム教官がやって来た。

 

「やべ」

 

「あ」

 

「ラウム教官……」

 

「おお、レンヤ君も一緒でしたか〜。何だか楽しそうですね〜?私もご一緒してもいいでしょうか?」

 

「い、いえ……」

 

「あはは、ちょっと挨拶しただけでして……。ほらレンヤ。ボケっとしてないでさっさと寮に帰るぞっ」

 

「え、ええっと……?」

 

いきなりの2人の変化についていけず困惑する。2人はどこかラウム教官を恐れているような感じだ。

 

「そうだ、ここであったのも何かの縁でしょう〜。これから街の居酒屋で親睦を深めるとしましょうか〜?お2人共結構イケますよね〜?」

 

「い、いえ私は……!」

 

「きょ、今日は他に用事がありまして!」

 

「まあまあ、遠慮しないで〜。そうだ〜、せっかくだからレンヤ君もご一緒しませんか〜?アルコールはダメですけど、それ以外なら奢ってあげますよ〜?」

 

「い、いえ……教官達の親睦を深めるのを邪魔したくありませんし……。俺はこれで失礼します。ファリンさんに教官の分はいらないと言っておきますから」

 

「あ、ちょ……!」

 

背を向けて出来るだけ早足でこの場から逃………去って行った。

 

「こんの薄情者め〜‼︎」

 

「あら残念、それじゃあ私達も行きましょうか〜……」

 

「いえ、私は本当に明日は大事な日でして……」

 

ラウム教官は実は結構押しに来ることを、俺は知ったのであった。これがもし歴史関係だったなら………教官達が恐れる理由がわかった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月の生徒会からの依頼はアリシアに任せて、俺は最終検査の為に本局にいるシャマルの元にいる。

 

「うーん……。うん、経過良好ね。これなら来週の実技テストに参加を許可できるわ」

 

「ありがとうございます、シャマル」

 

検査を終えて上を着ながら、シャマルにお礼を言う。

 

「いいわよお礼なんて。それよりもはやてちゃんの事を聞いてもいい?毎日画面越しでも会っているけど、レンヤ君の意見も聞いておきたいの」

 

「俺やなのは達はもちろんのこと、クラスの男子達共仲はいいですよ。まあ、はやての性格で仲がこじれることはないですけどね」

 

「そう、それはよかったわ」

 

「はい。後は部活の……」

 

言いかけて思い出した。はやての入っている部活……文芸部の部長は……その、腐っているとかで愚痴を言っていたな。部員もその部長とはやてだけらしいし。

 

「部活がどうかしたの?」

 

「えっと……。部活での活動をそろそろ無限書庫に移したいと愚痴ってましたよ。学院の図書館の本を読む終えそうだと言って」

 

「まあ、はやてちゃんらしいわ」

 

「全くですね。あはは〜………はあ」

 

なんとか誤魔化せた。

 

「レンヤ君はこれから異界対策課に行くの?」

 

「はい、その後襲撃者の詳細な情報をお偉いさん方に提出しないと行けませんし。相変らず忙しい毎日ですよ」

 

「本当に大変そうね……そうだ!もしよかったら仕事終わった後に私達の家に来ない?ちょっとした息抜きに」

 

「家?そういえばコッチに新居を構えていましたっけ?確かクラナガンから郊外の南側、静かで海が見える高台にでしたっけ?」

 

「ええ、1カ月前に地球から引っ越して来たんだけど今月まで結構慌ただしかったからね。それにはやてちゃんも含めて他の皆も早めに帰って来る予定だから。久しぶりに一家揃っての休日になるの」

 

「それなら俺が来ていいんですか?せっかくの家族水入らずの休日に」

 

「知らない仲でもないし、皆も喜ぶわよ」

 

「ううん……。なら、お言葉に甘えて」

 

「ええ、お茶を用意して待っているわ」

 

……できればリンスに淹れて欲しいです。

 

それから異界対策課に向かい、入るとルーテシアが妙に燃えているのが目に入った。

 

「うおおおおっ!待っていなさいよ、レンヤさんの仇は私とガリューがーー」

 

「勝手に殺すな」

 

「ふきゃんっ⁉︎」

 

暴走している馬鹿者にチョップを入れて黙らせた。

 

「それで何だ?まさか仇を取ると言っておきながらそいつに対抗心を燃やしていたとか?」

 

「まさしくその通りだよ」

 

すずかが配膳室からお茶を持ってきながら出てきた。

 

「初めて同じ物を手にした相手がいて戦ってみたいんだよ」

 

「随分と不謹慎だなぁ。相手は犯罪者だぞ」

 

「うっ……、それだけじゃないんだからね!バトルギアの実用も先を越されたし……!」

 

「バトルギアって鳥に付いたあれか?」

 

「うん、その使い魔の生態組織で作った鎧を身に纏うような物だよ。使い魔を強化するだけじゃなくてゲートカード上以外でも行動可能にするの」

 

「そうか。まあ、情報漏洩でもなんでもコッチは抜かされたということか」

 

「ううう〜!悔しいよ〜!こうなったら昨日完成したガリューのバトルギアで……!」

 

「やめろ馬鹿者」

 

「あう⁉︎」

 

再び脳天にチョップして黙らせた。

 

「とりあえず仕事するか。あらかた書類をさばいたらちょっくら地上に行くから、後のことはよろしくな」

 

「病み上がりなんだから無理しないでね」

 

「わかっている。ルーテシアも早く巡回に行ってこいよ」

 

「は〜い」

 

それから仕事に没頭して、なんとか昼前までに終わらせることができ。すずかに一言入れてから異界対策課を出て、地上本部で報告兼会議もスムーズに進んだ、それでも夕方前だが。少しやすんでからシャマルに連絡を入れた後、ミッドチルダでのはやての家に向かった。

 

「あれ?ここって……」

 

向かう途中の浜辺の道に見覚えがあった。ここは確か未来でアリシアと来た浜辺だ。ザフィーラが家の近くで教えているとは思わなかったけど、そういえばミウラは今何歳だろうか?えーと………5歳位かな?会うのは7年後か。

 

そんな風に頭を使っていると、いつの間にか到着した。地球の方も大きかったが、こっちもかなり大きめの家だな。ただバリアフリーが少ないだけだ。インターホンを押したらすぐに扉が開いて、子供サイズのリィンが出てきた。

 

「レンヤさん、お久しぶりですぅ!」

 

「久しぶり、リィン。元気してたか?」

 

「リィンは風邪とは無縁何です!」

 

リィンが胸を張って誇らしげに言う。その後家に案内されて、皆がいるリビングに入った。

 

「レンヤ君、いらっしゃい」

 

「誘ってくれてありがとう、シャマル」

 

「ようレンヤ、久しぶりだなぁ」

 

ヴィータがラフな格好でアイスを食べていた。

 

「久しぶり、ヴィータ。相変らず見た目と言動が合っていないな」

 

「ほっとけ」

 

「よく来た、お前達の活躍は聞き及んでいるぞ」

 

「リンス。あんま持ち上げられると困るんだが」

 

「それだけ有名になったということだ。我ら夜天の騎士も今は昔なのだ」

 

「あんまり自分達を卑下にするなザフィーラ」

 

「ふ、そうだな」

 

「はやてとシグナムはまだなのか?」

 

「一緒に帰って来るそうだ。それまで待っていよう、茶は用意した。好きにくつろいでくれ」

 

リンスがお茶を入れたことに一安心して、リィンからお茶が入ったコップを受け取った。しばらくして、はやてとシグナムが帰って来た。

 

「ただいま〜。皆、元気しとったか?」

 

「おかえり、はやて!」

 

「遅かったけど、何かあったの?」

 

「少し道が混んでいたのだ」

 

「はやてちゃん!」

 

「おお⁉︎リィン、あんま飛び込んでーー」

 

そこではやては言い止めてしまった。視線は俺を見ている。

 

「あ、はやて。お邪魔してる」

 

「レ、レレ、レンヤ君⁉︎何でここに⁉︎」

 

「私が呼んだのよ。せっかくだからレンヤ君も一緒にどう?って」

 

「やっぱりお邪魔だったか?家族水入らずだし……」

 

「え!いや、そんなことあらへん!ゆっくりしてきい!」

 

「お、おう」

 

「……ああでも、私変じゃなあらへんよな?臭くないんよな、今からでもシャワーに……」

 

「はいはい、はやてちゃん。変じゃない無いから大丈夫よ」

 

「え、そうなん?」

 

シャマルがどこかに行っていたはやてを呼び戻して。それから夕食を食べることになり、久しぶりにはやての手料理を食べた。食後はゆったり雑談してたりして、はやて達と思い思いに過ごした。でも明日も学院があるので日が落ちた後、家を出ることにした。

 

「リンス、リィン、皆の食事をよろしく頼んだで」

 

「お任せください」

 

「頑張るですぅ!」

 

「アタシらもシャマルが手ぇ出さないように見張っているから安心しろ」

 

「そこは手伝わせてわもらえないの⁉︎」

 

「それが一番安全だからな」

 

「あはは……」

 

「ううっ、皆酷い……」

 

「主はやて、道中お気を付けて」

 

「それじゃあな、皆」

 

シグナム達と別れ家を出て、浜辺沿いに歩いていた時……

 

「ん?」

 

「レンヤ君、どないしたん?」

 

「いや、すぐそばの浅瀬にうっすらとだけど結界が貼ってあるんだ」

 

「結界?シャマルでも気付かへん結界を一体誰が……」

 

浜辺に入って近寄ってみるてようやくハッキリと存在が検知できた。

 

「かなり強硬にできとるなぁ、壊すのは無理やで」

 

「なら通り抜けるか」

 

「え?」

 

はやての手を掴み、もう片方の手で結界に手を当てて結界と同調する。するとゆっくり手が結界の中に入って行く。

 

「レ、レンヤ君⁉︎」

 

「大丈夫だ、行くぞ」

 

「ッ………!」

 

結界の中に入いり、光が収まってきて目を開いたら……

 

「え、ええええええっ⁉︎」

 

結界の中はまるで別の世界だった。もう陽が沈んだはずなのに真上には陽があり、目の前には山中にあると思われる遺跡のような建物があった。緑溢れる場所で、どこか懐かしいような温かな感じがする。

 

「結界内の風景を変えておる、これってまさか……」

 

「ああ……。時の庭園、アリシアの固有結界だ」

 

「なら、早くアリシアちゃんを探さへんとな」

 

アリシアを探しに付近を捜索すると、あっさり見つかった。大きい建物の横にある丘の上の大きな木の下。その下に体育座りで顔を伏せて座っていた。

 

「アリシア」

 

「ッ……⁉︎レンヤ、はやて……驚かせないでよ」

 

アリシアは驚いて顔を上げて俺達だと認識するとまた伏せてしまった。

 

「いくら手練れが近付かないと気付かないからって、緊急時以外の結界の使用は褒められたもんじゃ無いぞ」

 

「……知ってる」

 

「アリシアちゃん、ほんまどないしたんや?」

 

はやても心配して問いかけてみるがアリシアは無反応だった。お手上げだとはやては肩を落とし、辺りを見渡してみるとどこか前に来た時の庭園と類似していたのに気付く。

 

「ここは時の庭園か?前のと全く違うけど」

 

「もしかして飛び立つ前の時の庭園かもしれへんなぁ。周りもそこはかとなくアルトセイムに似とるし」

 

「………………」

 

話題を振ってみてもアリシアは変わらずだった。頭を掻いて悩み、直球で聞いてみた。

 

「時の庭園がフェイトとの確執の原因と思ったのか?」

 

「ッ……!」

 

「ちょっ、レンヤ君⁉︎」

 

「いや、時の庭園はきっかけに過ぎない。フェイトはアリシアの心象が時の庭園であることに………。アリシアにも罪の意識があることに気付いたんだと思う」

 

「え⁉︎もしかして、それが?」

 

「ああ、お互いが罪の罪悪感に苦しみ続けているんだろう。推測だがな」

 

「…………うん、そうかな」

 

アリシアがようやく口を開き、顔を上げて木を見上げた。

 

「フェイトのために頑張って来たけど……。こんな結界作る時点で自分でも自覚しない内に引き摺っていたんだね。はあ〜、お姉ちゃん失格だなぁ……」

 

目を閉じて、後悔するようにつぶやく。そんなアリシアの心境を現すように空に雲がかかりだした。

 

「アリシアちゃん……」

 

「はあ〜……すーーー……」

 

落ち込んでいると思いきやいきなり息を吸い始め……

 

「あーーーーーーーっ!やめやめ!」

 

吹っ切れるよう………とういうよりやけっぱちになって叫んだ。

 

「こんな所で落ち込んでも仕方ないし何より、私じゃない!帰るよ、レンヤ、はやて!」

 

「「………………ぷ、あはははははは!」」

 

アリシアは飛び上がるように立ち上がり、ズカズカと進んで行く。俺とはやては顔を見合わせて……気にしていたことがバカらしくなり笑いあった。

 

「はは……やっぱりアリシアちゃんやな」

 

「あはは、そうだな」

 

「2人共何やっているの!早くしないと結界消して海に落とすよ!」

 

怒るアリシアに駆け寄るのであった。

 

 



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75話

 

3日後ーー

 

予告通りに実技テストを受けるためにVII組一同はドームに集まっていた。

 

「さて、楽しい実技テストの時間だ。今回はVII組のメンバーで2対2での模擬戦だ。先鋒は、そうだな………レンヤ、お前だ」

 

「はい」

 

「それじゃあメンバーを1名選べ」

 

「了解です」

 

この中で連携を取れない相手はいない。なので最近接近戦が上手くなってきているなのはを指名した。

 

「よろしくね、レン君」

 

「ああ、お互い頑張ろうな」

 

「よろしい。対戦相手はフェイトとアリシア、お前が務めろ」

 

「はい……!」

 

「わかりました」

 

指名されたことに驚いたのか、それとも相方に驚いたのか、2人共一瞬視線が乱れた。

 

『うーん……ちょっと露骨すぎるような』

 

『だけど、戦術的に2人は相性がいい』

 

『戦闘力では五分五分だな』

 

『お互いの癖や戦法を知り尽くしていますが……』

 

『これは勝敗がわからなくなってきたなぁ』

 

2人はお互いを意識しながら前に出た。

 

「それでは双方、構え」

 

テオ教官の指示で4人がデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「ーー始め!」

 

「レイジングハート!」

 

《イエスマスター、ロッドモード》

 

開始と同時にレイジングハートの形態を変えて、棍の形にし両端が丸くなっており振り抜き易くなっている。

 

「いやああっ!」

 

「ッ……!」

 

横薙ぎに降られた棍を受け止めるフェイト、思った以上に重い一撃に顔を歪める。

 

「フェイト!」

 

アリシアがなのはの足元に魔力弾を撃ちフェイトから離れさせた。なのはが離れて入れ替わるように飛び出し、抜刀してフェイトを弾き飛ばす。

 

「くっ……バルディッシュ!」

 

《プラズマスマッシャー》

 

追撃させまいと魔力弾を撃ち、炸裂させて雷を発生させて追撃を防いだ。

 

「捻糸棍!そこ!」

 

棍に魔力を込めて。薙ぐと同時に発射して巨大な魔力弾をアリシアに放った。

 

《フロウアウェイ》

 

「うわぁ、強烈〜!」

 

丸い障壁を展開して、魔力弾が直撃したら魔力弾に回転がかかり上にそれて別の方向に飛ばされ消えていった。その間になのははアリシアに接近する。

 

「まだまだ!」

 

《ダガーブレード》

 

「やあっ!」

 

アリシアはなのはの攻撃をまともに受けようとはせず、銃口に魔力刃を展開して受け流すか避けている。

 

「せいっ!」

 

「ッ!やあっ!」

 

フェイトは刀による斬撃をザンバーフォームの大剣で防ぐ。本来なら刀に大剣は速度的に相性が悪いが、フェイトは刀身をできるだけ小さくしたり、持ち前のスピードで対処している。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《カルテットモード》

 

両手に直剣を持ち、手数でフェイトの速度に対応する。

 

「やっぱり、そう簡単にはレンヤは倒させてもらえないね!」

 

「当然だ!」

 

幾度も斬り結びながらなのはとアリシアの位置を把握する。

 

「そこ!」

 

「……甘いぞ!」

 

意識がそれた事に気付いたのか、攻めて来た。

 

「ーー満月!」

 

1回転して刀を走らせて剣筋に蒼い魔力光を残して、円が全体に広がる。フェイトは難なく避けるが、いつもなら気付くはずのトラップに気付いていない。

 

「今だ!」

 

《ディスタンションスペース》

 

「ッ……⁉︎」

 

あらかじめ設置していた空間歪曲魔法。空間を捻じ曲げる事で方向感覚を狂わることができる。フェイトは飛んで体勢を整えることもできず地面に落ちる。

 

「ぐっ……!」

 

「フェイト!」

 

「スキあり!」

 

アリシアの気がフェイトにそれた瞬間、なのはに間合いを詰められ……

 

「せいせいせい!百烈撃、とりゃあっ!」

 

「きゃあっ!」

 

「姉さ……、きゃあ⁉︎」

 

一瞬で何度も突きを入れて、最後に大振りの一撃を入れて大きく吹き飛ばした。飛ばした方向にフェイトがいて、アリシアは勢いよくフェイトにぶつかった。

 

《ハープンスピア》

 

「………ふう、危なかった」

 

「やったね、レン君!」

 

蒼い魔力光の杭で2人を拘束して、完全に沈黙したのを確認すると一息吐く。

 

「そこまで!勝者ーーレンヤチーム!」

 

そこでテオ教官の宣言によって勝敗が決した。

 

「お前達もなかなかやるようになったな」

 

「ありがとうございます」

 

「ええと、はい」

 

「フェイトとアリシアは……言わなくても判っているか」

 

「……………………はい」

 

「……………(コクン)」

 

お互いを責めることはないが2人共連携ができていない事に落ち込んでいる。次の対戦をするため、武器をしまいすぐに場所を空けた。

 

「それじゃあ、次に行くぞ。同じく2対2の模擬戦で組み合わせはーー」

 

「レンヤ、お疲れ様。あの2人もそろそろ、何とかしてあげたいよね」

 

テオ教官が次の対戦カードを言う中、ツァリが労いの言葉を言われ、そしてツァリも2人のことを心配してたようだ。

 

「ああ、お互いに嫌っているわけじゃないし。あとはきっかけだけなんだが……」

 

「うーん……そうだね」

 

どうにかしようと話している間にも実技テストは進み、全員が終わった所でテオ教官が手を叩き話しをする。

 

「ーー実技テストは以上!次に今週末に行ってもらう実習地を発表する」

 

「来たね」

 

「ふう、今月は……」

 

実習地の場所と班分けが書かれた紙を受け取り、内容に目を通した。

 

 

【7月特別実習】

 

A班:レンヤ、フェイト、アリシア、なのは、ツァリ、リヴァン

(実習地:首都クラナガン)

 

B班:はやて、すずか、アリサ、ユエ、シェルティス

(実習地:首都クラナガン)

 

 

「これって……」

 

「どっちの班もクラナガンが実習先なんですね」

 

「ふむ、2つの班で手分けするという事でしょうか?」

 

「まあ、ものすごく大きな街だから当然ね」

 

「4月と5月の実習先も厳密にはクラナガンの中やしなぁ」

 

「でも……」

 

「「………………………」」

 

なのはがチラリとフェイトとアリシアを見るが、2人共嫌がっている素振りもないからフォローに困る。

 

「コホン、班構成は………まあ、ええんやけど。まさかクラナガンが実習先になるとはなぁ……」

 

「僕のホームグラウンドでもあるんだ。確かリヴァンもそうだったよね?」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

「でもそっか……夏至祭の時にクラナガンにいられるんだ」

 

ツァリはどこか嬉しそうに顔を緩ませる。だが、俺は班分けにちょっとした疑問があった。

 

「ーーテオ教官」

 

「何だい、レンヤ君?」

 

「君付けはやめてください。実習先と班分けには別に不満はないんですが……。先々月の班分けといい、なんかダシに使われてませんか?」

 

「そういえば……」

 

「先月の班分けからレンヤだけ移るパターンだね」

 

「……〜〜〜♪〜〜〜……」

 

テオ教官は誤魔化すように頭に手を組んで、明後日の方向見ながら口笛を吹いた。全員が呆れ顔になるが、俺は問答無用に問い詰める。

 

「ーー口笛吹いて誤魔化さないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月24日ーー

 

俺、ツァリ、リヴァンは先に寮の一階に待ち合わせ時間前に集まっていた。フェイトとアリシアの関係修復についての相談をするためだ。

 

「さてと、一足先に集まったのはいいけど……。正直、何かしてあげられるアイディアが思い浮かばないよね……」

 

「ああ、俺達と違って彼女達はお互い弁えている。先月の実習にしたって良い結果とは言えなかったが、トラブルは無かったからな」

 

「なんとかしてやりたいけど……。これは自分から切り出さないと難しいな。フェイトとアリシアはお互いが大切な家族であるから……大切だからこそ戸惑っているんだ」

 

「うん、そんな感じはするね。嫌っているわけじゃないけどお互い譲り合わないというか……」

 

「……複雑な家庭だとは聞いていたが。そこが関係しているのか?」

 

「それは俺から答えるわけにはいかない。とてもじゃないけど軽々しく言える内容じゃない」

 

「す、済まない……」

 

「ーーお待たせ」

 

ちょうどそこにフェイトが降りてきた。

 

「おはよう、フェイト」

 

「コホン、待ち合わせ時間よりずいぶんと早いじゃないか?」

 

「ーー心配しないで。荒事を起こしつもりはないし、実習にも迷惑をかけない。姉さんとは喧嘩しているわけじゃない」

 

俺達が先に集まってた理由を気付いて聞かないのがある意味フェイトらしいかな。

 

「そう言う事」

 

「おはよう、皆」

 

アリシアとなのはが降りてきた。話しが聞こえていたようで、続けるように同意する。

 

「実習の邪魔はしないから安心して」

 

「そうか……」

 

「うーん、その辺りについては全然心配してないけど……」

 

「……ともかく駅に向かおう。B班も先に出たはずだ」

 

「うん、行こうか」

 

寮を出て駅に向かった。駅に入ると既にB班がいた。

 

「あ、来たわね」

 

「おはよう、皆」

 

「もう出発できますか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「それじゃあ、さっそく端末に入金しておくか」

 

「すぐ近くだしお金はあんまりかからなそうだね」

 

慣れた手付きで入金を済ませて、B班と一緒にホームに入った。先月と同じように連絡橋を渡った時にレールウェイが来るアナウンスが流れた。

 

「さっそく来たね」

 

「タイミングが良かったね」

 

「うーん、何度もクラナガンには行っているけど実習となると結構新鮮に思うわね」

 

「そうだね、形が違うだけでこうも変わるんだね」

 

「やることはいつもと一緒だ。そう気を張ることもないぞ」

 

「レンヤ達にはあんまりクラナガンの説明は必要ないかな?」

 

「できればお願いします。知識だけでは判らない部分もありますし」

 

「そうやなぁ、改めて知りたいから説明は必要や」

 

その後来たレールウェイに乗り込み。レールウェイはクラナガンに向かって走り出した。ボックス席に座って、さっそく地元民のツァリがクラナガンについての説明を始めた。

 

「それじゃあ簡単に説明するよ。基本区画は中央区画とその周囲の東西南北の5地域に大別されていて、されらに区画内で幾つもの街区に分けられているんだ。今回は中央区画が実習地になるね。人口はクラナガンだけだと80万人を軽く超えるくらいだよ」

 

「80万……想像も付きませんね」

 

「このミッドチルダでの最大規模の都市だしね」

 

「近隣諸国のベルカでも30万人……」

 

「それに中央区画に限った話しや。他の4つ合わせたら飛んでもない人数になるで」

 

「ま、それでもミッドは大きいから人口密度は低いし少し郊外に行ったら辺境も多いんだ」

 

「でも、人が多い場所での実習は始めてだから緊張しちゃうな……」

 

「…………………………」

 

………なぜここで空気がおかしくなるんだ。本当にいがみ合っていないか疑問に思うぞ。

 

「そ、そういえば課題をまとめてくれる人や宿泊先も聞いていないね。もしかして、ツァリ君かリヴァン君の実家に泊まるのかな?」

 

「あはは……僕の家はそんなに大きくないし。リヴァンもそんな感じなの?」

 

「いや………それはないな。俺の両親は今別の次元世界で働いていてな、実家には誰もいないはずだ」

 

「テオ教官曰く、駅に着いたら案内人が待っているらしいがな。その案内人が教えてくれるだろう」

 

「そうなんだ……」

 

「全く、毎度のことながら説明不足にも程があるわね」

 

「いつも通りと言っていいのかようわからへんな」

 

今回のレールウェイは快速に乗ったので、30分程でクラナガンの中央ターミナルに到着した。案内人を探すために辺りを見渡すが、テオ教官の言う案内人がい無かった。

 

「ーー時間通りだな」

 

「え……」

 

聞き覚えの声がして前を見ると、オレンジ色の髪をした男性……ティーダさんがいた。

 

「ええっ⁉︎」

 

「あなたは……」

 

「ティーダさん、お久しぶりですね!」

 

「ああ、久しぶりだな。お前達が学院に入って以降めっきり会っていなかったからな。4ヶ月ぶりだろうか」

 

「レンヤ、この方はいったい……」

 

「確か、航空隊の……」

 

「異界対策課と3エース達以外は初めてだな。首都航空隊所属、ティーダ・ランスター1等空尉だ」

 

「ど、どうも」

 

ティーダさんは異界対策課を抜けて以来数々の事件を解決していったが1等空尉以降上がっていない。ティーダさん曰く、今の席が丁度いいんだそうだ。

 

「あれ、もしかして。ティーダさんが今回の特別実習の課題などを……?」

 

「いや、あくまで今日は場所を提供するだけだ。正式な方は………ちょうどいい、来たようだな」

 

その正体を知っているのか、ティーダは振り向くことなくその人物の到着を待つ。そして現れたのは、一人の男性。

 

「ーーやあ、丁度よかったね」

 

「え⁉︎この声は……」

 

ツァリはこの声の人に知っているような反応をする。そこにはメガネをかけた、長い菫色の髪をした男性がこちらに向かって歩いてきていた。男性の後方には秘書らしき女性がいる。

 

「に、兄さん⁉︎」

 

「え……」

 

「この人が⁉︎」

 

「ツァリの兄君ですか」

 

「時空管理局本局所属の一等査察官、ラース・リループ……」

 

「おや、私の事を知っていたのかい?あんまりニュースや記事に乗った覚えがないのだがね」

 

「以前父に聞いた覚えがありましたので。とても優秀な査察官だが……奥が見えない程の腹黒だと」

 

「おやおや、それは失敬。どうも性分なものでね。さて、初対面の方もいるし自己紹介をしておこうか。と言っても、先に彼に言われてしまったんだがね」

 

「す、すみません……」

 

「はは、構わないさ。ラース・リループ査察官だ。よろしくお願いするよ。魔導学院VII組の諸君」

 

その後、ティーダさんの案内を受けて航空部隊が所有しているのブリーフィングルームに案内された。そこで席に座った俺達は改めて今回の実習の内容をラース査察官から聞く事となる。

 

「ーーすまないね、本当なら本局に来てもらう所だったけど。この後別次元世界にある部隊の査察がいきなり入ってしまってね。急遽、ランスター君にこの場を貸してもらったんだ。時間もないし、早速A班とB班の本日の依頼と宿泊場所をーー」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

慌てて声を上げるツァリ。ツァリとしては何の経緯があって自分の兄がこのような事をしているのかがどうにも判らないらしい。席から立ち上がり、ラース査察官に問いただす。

 

「おや、ツァリ。久しぶりに愛しい兄と会ったとはいえ、時と場所は考えてほしいね」

 

「兄さん……、今すぐ本題を言って下さい……!」

 

ツァリは羞恥……というより怒りで震えている。ラース査察官が腹黒なのは確からしい。

 

「コホン、どういった経緯でラース査察官が……?」

 

「はは、すまない。説明してなかったね。実は私もレルム魔導学院の常任理事の一人なのだよ」

 

突然の告白に、俺達は驚愕する。

 

「ええっ⁉︎」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「父さんと同じ……」

 

「シェルティス君のお父さんに続いて……」

 

「……流石に偶然というには苦しすぎる気がするな」

 

「そうやなぁ」

 

「はは、別に我々にしても示し合わせたわけではないが。寧ろ学院からの打診に最初は戸惑わされた方でね」

 

「学院からの打診……?」

 

「やはりⅦ組設立に何かの思惑があるという事ですか?」

 

「いや、それについては私から言うべきではないだろう」

 

思惑がある。いや、あって当然だろう。最も、ラース査察官本人がそれを語るような事では無いのだろうが。

 

「いずれにせよ、3名いる常任理事の1人が私というわけだ。その立場から、実習課題の掲示と宿泊場所の提供をするだけの話さ。そういえば、先月レンヤ君のA班はベルカに行ったはずだが、聞いていないのかな?」

 

「……?もしかして、最後の常任理事ですか?」

 

「聖王教会教会騎士団、第一部隊隊長のソフィー・ソーシェリー。彼女もレルム魔導学院の常任理事の1人だ」

 

「え、えええっ⁉︎」

 

「ま、彼女の性格からして自ら話す事はないと思っていたがね」

 

「そ、そうだね……」

 

「あはは……」

 

心当たりがあるのかアリシアとすずかが納得する。

 

「ともかく、そういうことか」

 

「ーー了解しました。早速お聞かせください」

 

「ああ、時間も無いので手短に説明させてもらおう。特別実習の期間は今日を含めた3日間、最終日が夏至祭の初日に掛かるという日程となっている。その間、A班とB班にはそれぞれ東と西に分かれて実習活動を行なってもらうつもりだ」

 

「東と西……」

 

「ミッドチルダの巨大さを配慮してのことですね」

 

確かに二手の分かれるには妥当な配分だろう。それぞれ担当する街区が異なるということは、逆にこのミッドチルダの首都クラナガンの広さを象徴しているようにすら思える。

 

「知っての通りこのミッドチルダは途方もなく広い。ある程度絞り込まないと動きようがないが、ね」

 

そこで俺を見ないで下さい。確かに異界対策課の活動当初はメチャクチャ走りまわりましたよ。

 

「そこでA班には中央ストリートから東側のエリアに。B班には西側のエリアを中心に活動してもらうことになる」

 

「中央ストリート……」

 

「ミッドを貫く目抜き通りだね」

 

「うん、ここから北に真っ直ぐ続いているんだよ」

 

「かなり大雑把だがそこで分けさせてもらった。それでは各班、受け取りたまえ」

 

確かに大雑把な面は否めないが、分けるには妥当なラインだろう。実習活動場所を指定し、ラース査察官は後ろの女性に目配りし、女性が俺とアリサにそれぞれ封筒を手渡す。

 

「どうぞ」

 

「どうも」

 

「ありがとうございます」

 

女性に依頼が入った封筒と一緒にカードキーとミッドチルダの住所が書かれた紙も手渡された。

 

「こちらの封筒はいつもと同じ実習課題をまとめた物として……」

 

「こちらの住所とカードキーは……?」

 

住所を見てみるとシェルニ通り4-22-41と書かれた紙を見る。B班は同じくミッドチルダの住所が書かれておりマイア通り3-17-16と書かれている。

 

「シェルニ通り……僕の実家がある地区だね。」

 

「え、そうなの?」

 

「この住所にはちょっと見覚えがないけど……」

 

「マイア通りは西の大通りね」

 

「ああ、それなりに賑やかな通りだ」

 

俺は場所は知っているが住所までは判らないので。住所が判らないとはいえツァリに案内させた方が意外と早そうだな。

 

(ん?確か、この住所は………気のせいか)

 

「……兄さん、もしかして?」

 

「それは滞在中の君達の宿泊場所とそのカードキーだ。A班B班、それぞれ用意しているからまずはその住所を探し当ててみたまえ。私からのささやかな課題ということだ」

 

既に特別実習は始まっているという事だろう。と、そこで女性がラース査察官に耳打ちをする。

 

「おっと、そうこうするうちに時間が来てしまったな……」

 

既に時間が残っていない事に気付き、立ち上がる。

 

「に、兄さん?」

 

「先の通り時間がなくてね。悪いけど、今日の所は失礼するよ。それでは実習、頑張ってくれたまえ」

 

「ちょ……!」

 

そう言い残し、ラース査察官はブリーフィングルームから出て行った。

 

「はあ……」

 

「えっと、何というか……」

 

「思ってた以上に黒いわね」

 

「底がかなり深そうだね。泥が溜まっていたりして?」

 

「……本当のことだけど言わないで……」

 

「その……すまん」

 

「えっと、ユニークなお兄さんだね」

 

「フェイト、それフォローになってない」

 

「飄々としとる割には隙を見せへんし……かなりの食わせ者やなぁ」

 

「査察官って言っていたけど、それなりの権力もあるらしいね」

 

「うん。こんな場所を借りられるくらいだし」

 

すずかとなのはがそこを指摘すると、扉の前に立っていたティーダさんが笑顔で答える。

 

「それは……」

 

「ーーラース査察官は中身アレだが腕は確かだ。ウチにも日頃から世話になってもらっているのさ。今回はちょっとした恩返しで協力させてもらったんだ」

 

それは真実かもしれないが、一体何のお世話になったのかは言わなかった。

 

「むむ……」

 

「落ち着けはやて。ティーダさん、場所を提供してありがとうございます。実習を始めたいので、俺達はこれでーー」

 

「ああ、お疲れ様。駅前まで送ろう」

 

ブリーフィングルームから出て駅の出口まで向かい。外に出るとユエがかなり驚いた顔になる。

 

「これは……」

 

街の広さに驚いたのか、それとも人の多さに驚いたのか、はたまた両方か。ユエは初めてここを見た様だ。

 

「ここは相変わらずだな」

 

「ここにいる人達全員だけでも全体の人口の1割もいかないから結構驚きだよね」

 

「でも、これを見るとクラナガンに来たって気になるわ」

 

「そういえば、なにで移動するの?」

 

「ミッドでの主な交通手段はバスだよ。運賃も安いし気軽に使えるんだよね」

 

「それと正面に見えるのが時空管理局地上本部だよ。異界対策課もあそこにあるんだよ」

 

「レンヤ達はあそこで働いているんだね。大変じゃないのか?」

 

「うーん、考えたことないかなぁ。執務官の仕事も大変だけどやり甲斐があるから」

 

「慣れやな、それは。まあ、最近はレンヤ君に車で送り迎えしてもらっておるんやけど……」

 

「レールウェイで帰るより安上がりだからな」

 

「ーーま、そうだな。俺はこれで失礼する。3日間の特別実習、頑張ってこいよ」

 

「ええ!」

 

「まっかせて!」

 

「お見送り、ありがとうございます、ティーダさん」

 

ティーダさんは頷くと、駅に戻って行った。

 

「レンヤ達はティーダ一尉と知り合いだったのか?」

 

「一時期異界対策課にいたのよ。それ以来の縁よ」

 

「初めて会った時は優男だったけどね」

 

「そうなんですか?確かに優しい方ですが、どこか荒々しい感じがしました」

 

「うん、かなりしっかりしていると思ったし」

 

「テオ教官と正反対だね」

 

「ああ!確かに」

 

妙に納得してしまった。

 

「よし……それじゃあ移動するか」

 

「まずはバスに乗って宿泊場所の確認だね」

 

「3日間、お互い頑張ろうな」

 

「そちらこそ、怪我のないように」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん。気を付けてね」

 

「うん、そっちもね」

 

「アリサ達も気を付けて、お互いの実習の成功を」

 

「またね!」

 

「ーーレンヤ君」

 

「ん?」

 

はやてが耳元に近付いて来た。

 

「ホンマ、無理せんといてな。あんな思いは2度とごめんや」

 

「……!わかった、絶対に無事に帰って来る」

 

「ん、よろしい!」

 

チュッ!

 

「え?」

 

「あ」

 

「「「「「ああああああああっ⁉︎」」」」」

 

「ふふ〜、乙女のおまじないや。よう効くで!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってはやてちゃん!」

 

「は〜や〜て〜!」

 

「あ、先に行かないで!」

 

「ふふ、愛されていますねレンヤは。それではまた」

 

はやてを追いかけてアリサ達は行ってしまった。

 

「「「…………………」」」

 

なのは達の無言の視線が痛いです。

 

「全く、羨ましけしからんぞ」

 

「あはは、レンヤはモテモテだね」

 

「俺には遊ばれたように見えるんだが……」

 

「本当に?」

 

「レンヤ、デレデレしている」

 

「してないって」

 

「本当は嬉しかったんでしょう⁉︎」

 

「アリシア、落ち着けって」

 

「「「フンッ!」」」

 

なのは達は怒って先にバス停に向かった。

 

「コホン、俺達も行くとしよう」

 

「……幸先不安だ」

 

おまじないじゃなくて呪いを掛けられた気分だ。なのは達を追いつき、ツァリの案内の元。バスに乗った。

 

「うーん、首都と地方都市の差の技術力の差が凄くないか?」

 

「相変わらずのとんでもない規模だからね」

 

「はは。確かに外から来た人は戸惑うかな?まぁ、ミッドチルダ市民にとったら当たり前の光景なんだけど……リヴァンがそれを不思議がるの?」

 

「え、あ、そうだな。あはは……」

 

時々リヴァンがまるでここに住んでいなかったような事を言うのだが………気のせいか?

 

「そういえばツァリ、宿泊所があるシェルニ通りっていうのはどういった街区なんだ?」

 

「えっと……まぁ割と落ち着いた通りだね。強いて言うなら……うーん、僕の実家があるってぐらい?」

 

「そういやそんな事も言ってたな……っと、そうだ。折角だし、ツァリも家族に顔を出してきた方がいいんじゃないか?」

 

「え?」

 

「そうだね。きっとその方がツァリの家族も喜ぶだろし」

 

「家族、か………」

 

何か思う所があるのかアリシアが考え込む。ともかく会える機会があるなら、会っておくべきだろう。それに家族との再会はツァリも望んでいる筈だろうし。

 

「でも、これは実習中だよ?そんな勝手な……」

 

「私はそれが自然だとは思うよ。会える時に会わないと」

 

「ツァリの家、ちょっと見てみたいかも」

 

「……まぁ、確かに到着場所から近くだとは思うんだけど……父さんと兄さんはともかく、母さんは帰ってるかなぁ?」

 

「ツァリ君のお父さんも管理局員なの?」

 

「ううん、父さんは非魔導師でデバイスの部品製造に携わるっているよ。兄さんもいつも忙しいし家には大体母さんだけかな?」

 

「そうなんだ、大変そうだね」

 

「それなら、ならなおさら顔見せた方がいいだろ?」

 

「……うん、そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

その後シェルニ通りに到着して、ツァリの案内で宿泊所を探す前にツァリの実家へ向かう事となる。家の前に来ると、久しぶりの再開故に少し後ろめたさを感じているのか少し緊張しているようだ。

 

「……はあ、久しぶりだからちょっと緊張しちゃうなあ」

 

「はは、その気持ちわかるぞ」

 

「レン君が無断で家を出た時だね」

 

「なら、早く覚悟を決めてね」

 

「わ、わかっているってば。それじゃあ入ろうか」

 

ツァリは扉を恐る恐る開き家の中へと入っていく。

 

「うわ〜、久しぶり……」

 

久しぶりの我が家。実家の雰囲気を感じ取り、思わず顔が綻ぶツァリ。

 

「ここがツァリの家か……」

 

「思ったより……普通?」

 

「アリシアちゃん、失礼だよ」

 

家具などが並び、落ち着いた雰囲気を見せるその空間に全員が魅入っていると、上の階からのんびりとした声が聞こえてくる。

 

「あら、お客さんかしら?はいはい、ただいま~……」

 

ゆっくりと降りて来たのは鳶色の髪に緑を基調とした衣服を着用した女性。人当たりのいい優しい笑顔を見せながら、女性は客人を出迎える様に口を開く。

 

「ふふ、お待たせしまし……えっーー」

 

(この女性は……)

 

(ツァリによく似ている)

 

その女性は目の前にいる人物を見て、固まる。その視線の先にいたのはツァリ。まさか彼がここにいるとは思わなかった。そう言わんばかりに驚いた表情を見せ思考が固まっていた。

 

「え、えっと……ただいま、母さん」

 

「…………ツァリ?」

 

少し恥ずかしそうに女性を母と呼ぶツァリ。そしてツァリに向かって母は勢いよく跳び付き、愛おしそうに抱き付く。

 

「ツァリ!」

 

「わわっ……!?」

 

「わあ……!」

 

「まあまあ、本当にツァリだわ!まさかこんなに早く会える日が来るなんて……!ああっ、女神様!心から感謝します……!」

 

「ちょ、ちょっと母さん!皆が見てるってば〜!」

 

どうも他の人が見えていないようだ。それほどまでに大事な息子に意識を集中させているということだろう。これ以上の溺愛ぶりを見せる母の様子は流石のツァリも恥ずかしいのだろう、慌ててこの抱擁を止める様に進言する。

 

(はは……随分仲がいいんだな)

 

(……確かに。見ているこっちが羨ましいくらいにだ……本当に、な)

 

(……?リヴァン?)

 

その後、漸く俺達の姿に気付いた彼女はソファに座るように進言し、紅茶を出す。そして自分達の事を自己紹介する。ツァリは恥ずかしい姿を見られたと思っているのか、顔を赤くしている。

 

「ーーツァリの母の、アスフィ・リループです。皆さんには、この子がとてもよくしてもらっているそうで……お会いできてとっても嬉しいわ」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「よく気の回るツァリには何かと助けられています」

 

「ああ、そうだな……」

 

「……リヴァン、もしかして照れている?」

 

「う、うるさいぞアリシア!そんなんじゃ……!」

 

「まあまあ、アスフィさんは美人だし」

 

その後俺達も自己紹介をしていく。その名前を聞き、優しい声でアスフィさんは名前を確認していく。

 

「ふふ、レンヤ君にフェイトさん、リヴァン君にアリシアちゃんになのはさんね。手紙に書いていた通り、いいお友達に恵まれたみたい」

 

「あはは、うん。そういえば母さん、今日はピアノ教室の方はいいの?」

 

「ええ、今日は丁度お休みよ。子ども達も来ていないからタイミングがよかったわね」

 

「へえ、ご自宅でピアノを教えているんですね」

 

「そういえばツァリも吹奏楽部に入っていたな」

 

「もしかして、ご家族揃って音楽を?」

 

母がピアノ、そして息子は吹奏楽部であることを見るに、音楽一家だったりするのだろうか。

 

「えっと……あはは、それほどでもないんだけどね。父さんはともかく、兄さんは見るからに縁のなさそうな人だし」

 

「ふふ、そうね。たまには家族でのんびり演奏会に行きたいけど……。ラースは滅多に帰ってこられないから」

 

「ああ、確かに」

 

ラース査察官の顔を思い出しても第一印象がアレだったんで笑っている顔しか出てこない人だしな。

 

「ま、まあ兄さんの事はいいよ……!あんまり干渉されたくないし……」

 

(…………………)

 

(……やっぱり、何かラース査察官とあるみたいだな)

 

「え、ええっと……変な空気にしちゃったかな?ごめん、あんまり気にしないで」

 

「……ツァリ君がそう言うなら無理には聞かないよ」

 

「ありがとう。あ、そうだ……母さん、この辺りにホテルとかはなかったっけ?手配してもらった場所を探しているんだけど」

 

ふと、ここである事を思い出す。アスフィさんならもしかしたら自分達の宿泊所となっている場所を知っているかもしれない。

 

「ええっ……⁉︎家に泊まっていかないの⁉︎」

 

驚愕の声を上げるアスフィさん。だが、それも当然の事だろう。俺達は休暇等でここに戻ってきているわけではないのだから。あくまでここにいるのは、学院の実習の一環によるものでしかない。

 

「う、うん……一応学院の実習だから。それに、ウチじゃ流石にベッドが足りないでしょ」

 

無論、宿泊場所を提供してくれるのはありがたい。ありがたいがアスフィさんの場合は私情が入り過ぎているのではないか。

 

「で、でも……久しぶりに帰ったのに……くすん、きっとツァリもお母さん離れの年頃なのね。複雑だけど、見守るのがお母さんの役目よね……」

 

(な、なんてオーバーな……)

 

「か、母さんってば……」

 

(どちらかというとお母さんの方がべったりのような……)

 

「でも変ね?この辺りにホテルなんてなかったと思うけど」

 

「え……」

 

「ないんですか?」

 

「もしかして、ラース査察官が住所を間違えたとか?」

 

「秘書の方もいたし、それはないと思うよ」

 

「来る途中もホテル等は見かけなっかったけど……」

 

「ううん、よく分からないけど……その、よかったら住所を教えてもらえるかしら?」

 

「わかりました。これなんですが……」

 

宿泊先の住所の書かれたメモをアスフィさんに渡す。それを見たアスフィさんはある事に気付く。

 

「あっ、この住所は……。最近、改装工事があったところよ」

 

「てことは、今はもう……」

 

「ええ、もう工事は終わっているわ。3階建てのマンション風の家なんだけど、工事が終わって以降誰も使っていないしたまに点検のための従業員が出入りしているのよ」

 

「それで場所は?」

 

「すぐそこよ、家を出て左に通りを沿って歩いたらすぐ着くはずよ。でも、本当ならもっとゆっくりして欲しかったけど……今回は仕方ないわね。でも、もしよかったら滞在中の食事くらいは家で用意させてもらえない?」

 

「あ、いいかもしれないね!皆は、どうかな?」

 

「俺は構わない」

 

「そうだな、折角だし……」

 

「はい、お邪魔させてもらいます」

 

「私も賛成だよ」

 

「私も大丈夫です」

 

「ふふ、よかった。それじゃあ今日の夕食は腕によりをかけて作らせてもらうわね。皆、しっかり頑張ってうんとお腹を減らしてきてね」

 

「ふふ、夏至祭以外にも楽しみが増えたね」

 

「はは……確かに。それじゃあ早速行ってみよう」

 

「うん、分かったよ」

 

席を立ち上がり、アスフィさんに最後に挨拶をしてツァリの案内の下で宿泊場所に向かった。

 

 



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76話

Vivid Strike!のPVを見てみました。偶然にも幼少期のレンヤとフーカが似たような境遇で結構驚きました。あそこまで荒んでなかたっけど。

て言うか一人称が儂って……


 

 

ツァリの実家を後にした俺達は、アスフィさんが教えてくれた場所に向かって移動していた。そこには真新しい建物があり、メモの住所と照らし合わせ、この建物が自分達の宿泊所であることを確かめる。

 

「え〜っと……うん、やっぱりメモの住所はここで間違いないみたいだよ」

 

「……………………」

 

「レン君?どうかしたの?」

 

「……!いや、予感が的中したと思って、な」

 

「……?」

 

「あ、そっか。それならB班も同じだね」

 

「ここが何の施設かわかったのか?」

 

「ここは異界対策課の支部だ。確かにそんな話が前に来ていたな。この支部は今後増えてくるであろう人員の配置場所として建てられたんだが、増えるのはまだ先だから依頼を受けている途中に寄ってここで書類作業をする予定だ。本部に戻るより効率もいいし」

 

「へえ、でもそれってもっと大変になるんじゃ……」

 

「……ホント、人員が増えるのはいつになるんだろうな」

 

「そ、そう……」

 

「と、とにかく中に入ろうよ!」

 

「そうだな、早く実習も開始したいし」

 

ラース査察官から渡されたカードキーを使い、異界対策課、東方支部の扉を開いて中に入る。中は定期的に掃除などを行なっていて綺麗に片付けられていた。そして相変わらず、身の丈の合わない設備が揃っている。

 

「意外と綺麗に片付いているな」

 

「作られたのは最近だしな」

 

「それにしてもすごい設備だね。すご過ぎて使うのためらっちゃうよ」

 

「いつもこう言うの断っているのに、お偉いさんは揃って用意するんだもん。媚びを売っているのが見え見えなんだから」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「宿泊場所は2階に仮眠室があったはずだ。一旦荷物を置いてから、依頼を確認しよう」

 

「うん、分かったよ」

 

2階に荷物を置いた後、依頼を確認し。フェイトとアリシアが未だにギクシャクしながら依頼を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼の内容は基本的に落し物を届けることや夏至祭に向けての手伝いなどをした。一通り終わらせた後、グリード討伐の詳細な情報を聞くため中央ストリートの先にある地上本部に向かっていた。

 

「ここが時空管理局地上本部かあ。実際に中に入るのは初めてだよ」

 

「ラースさんと一緒に来たことはないの?」

 

「兄さんとは本局に行ったよ。兄さんは本局勤めだったから」

 

「へえ〜」

 

本局勤め………3人の常任理事は聖王教会、地上、本局に分かれていてバラバラだ。誰もが何らかの思惑があって、多忙の中理事をしているのだろう。

 

「ーーあれ。レンヤ君?」

 

正面からすずか達、B班がやって来た。

 

「皆さん、実習の方は順調ですか?」

 

「それよりもどうしてここに⁉︎」

 

「それはコッチに台詞だよ!」

 

「ふふ、アリシアちゃん、シェルティス君、ここは中央ストリートのある地点。2つの班の実習地が重なる地点だからだよ」

 

「………あ、そうか」

 

すずかの説明にリヴァンが納得する。

 

「そっちもグリード関連か?」

 

「ええ、それとレンヤ達も異界対策課に顔を出しときなさい。ルーテシアが喜ぶわ」

 

「了解、そうするよ」

 

「そうだ!この後一緒にお昼ご飯はどう?」

 

「いいんじゃないかな、実習中に会う事もなかったし」

 

「お互いに情報交換もしたい所だしな」

 

「そ、そうやなぁ〜……」

 

「はやて⁉︎一体何があった⁉︎」

 

他に比べてなぜかやつれているはやてがいた。

 

「あはは……ちょいとお話されただけやって……」

 

「それははやての自業自得だよ………私だって……」

 

「フェイト、何か言ったか?」

 

「な、何でもないよ!それじゃあまた後でね!」

 

「お、おい……」

 

フェイトに手を引かれてエレベーターに向かった。それから依頼人から詳細な情報を聞いた後に異界対策課に顔を出した。そこにはルーテシアと球の状態のガリュー、ラーグとソエル、アギトがいた。

 

「皆、元気にしているか?」

 

「あ、レンヤ!」

 

「よおレンヤ。なのは達とは会ったのか?」

 

「うん、下で今さっき会ったよ」

 

「あはは、皆元気そうでよかったよ」

 

「おうよ!あたしは元気が取り柄だかんな!」

 

(コクン)

 

アギトがガリューを持ち上げながら元気さを体で現す。

 

「レンヤさん、この人達がVII組の?」

 

「ああ、紹介するよ。菫色の髪のが念威操者のツァリ・リループ」

 

「よろしくね」

 

「んでコッチの銀髪がーー」

 

「リヴァン・サーヴォレイドだ」

 

「はい!ツァリさんにリヴァンさんですね。私はルーテシア・アルピーノです!こっちが私の使い魔のガリューです!」

 

(コクン)

 

「改めて、あたしはアギト・バニングスだ。古代ベルカの融合機だ」

 

「さて、自己紹介が済んだ所で………どうしよっか?」

 

「適当に見て回っていいぞ。機密は奥の方にあるし」

 

「さらりと怖い事言わないでよ」

 

ツァリとリヴァンが物珍しそうに見て回るなか、俺とアリシアはルーテシア達の手伝いをし。なのはとフェイトは少し見て回った後に手伝ってくれた。アリサ達を待たせているのできりのいい所で終わらせ、アリサ達と合流して中央ストリートにあるレストランで食事をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは達と合流して中央ストリートにあるレストランで昼食を食べた。お互い情報や実習の出来事を話しながら楽しんでいたが、終始フェイトとアリシアは必要最低限しか話さなかった。

 

「それじゃあ、私達は行くわ」

 

「皆も気を付けてね」

 

「うん、アリサちゃん達も」

 

「そちらは後どれくらいですか?」

 

「後はグリードだけだよ。そっちも頑張ってね」

 

「あんがとうな。せやけど……」

 

はやての視線が俺の後ろにいるフェイトとアリシアに向けられた。どちらも顔を合わせようとはせず、背を向けていた。

 

「……状況は変わっていないね」

 

「ま、まあこっちでなんとかするよ!」

 

「大変だと思うけど、無理はしないでね」

 

「それではまた、お互いの実習の成功を」

 

「……うん、そっちも気を付けて」

 

「……またね」

 

アリサ達はバスに乗って行った。

 

「さて、俺達も行くか」

 

「うん!」

 

「場所はどこだっけ?」

 

「すぐそこのクラナガン中央ターミナルだ。B班は別の依頼があったらしいから俺らに回ってきたようだな」

 

「とりあえず、まずは行ってみよう」

 

「アリサ達に負けないように、僕達も頑張ろうね!」

 

意気込みを新たにし、クラナガン中央ターミナルに向かった。昼過ぎな事もあって早朝より人がごった返していた。まずはここの責任者に話を通してから地下鉄に発生したと思われるゲートに向かった。

 

「ここだな」

 

「都合よく隅にあってよかったな」

 

「ゲートは基本、人通りの多い場所に発生した事はないからね」

 

「確かに目立つ場所ではないね」

 

「うん、そうだね………」

 

アリシアが心ここあらずのように、何か考え込むようにしており、下を見ていた。

 

(この地脈の流れは……)

 

「アリシア、どうかしたか?」

 

「え⁉︎う、ううん……なんでもないよ!」

 

「気分が悪いならここで待っている?」

 

「大丈夫、大丈夫!ほら行こう!」

 

誤魔化すようにアリシアは先にゲートに飛び込んでいった。

 

「あ、待て!」

 

「アリシアちゃん⁉︎」

 

「姉さん……!」

 

「僕達も!」

 

「ああ!」

 

追いかけるように俺達はゲートを潜り抜けた。久方振りの異界は廃棄した鉱山のような異界だった。ある程度動き回れる広さがあり所々に天井を支える木のアーチがあった。

 

「ふむふむ。人の手が加わらないと物があるとは。まっこと異界は不思議ぜよ」

 

「変な喋り方して誤魔化されると思ったか」

 

「痛っ!」

 

アリシアにチョップをかまして先に行った事を反省させ。全員デバイスを起動し、ツァリとリヴァン以外バリアジャケットを纏い準備を整える。

 

「皆、気を引き締めて行こう」

 

「なのはもね」

 

「この異界はそこまで危険じゃないがな」

 

「んーー……徘徊するグリードの気配からして脅威度C+って所だね。油断しなければ大丈夫だよ」

 

「なら余裕だろう」

 

「リヴァン、油断は禁物だよ」

 

(ただ、地脈の影響は受けそうだけどね)

 

「行くぞ、目標は最深部のエルダーグリード!」

 

「了解、レンヤ!」

 

異界を駆け出し、迫るグリードを倒していく。最近あのグリムグリードを相手にしているから少し物足りなさを感じながら迷宮を進んで行く。

 

カチッ

 

中間地点にさしかかるとリヴァンが何かを踏んだ音がした。それと同時に来た道から何かが近付いてくる。

 

「ん?」

 

「リヴァン、何か踏んだ?」

 

「確かに踏んだが……」

 

「それ絶対トラップ」

 

「ええっ⁉︎」

 

すると道の隙間を塞ぐ程の大きな丸い岩が転がってきた。

 

「お約束⁉︎」

 

「逃げよう!」

 

全力で走り出し、岩から逃げる。途中グリードがいたがスルーして、岩に潰されて塵になった。あれを受けたらシャレにならならない。

 

「壊したり押し返したりできないのかよ⁉︎」

 

「異界の壁や罠は異界そのもの……壊すには異界を壊す程の威力がないと」

 

「そんなことしたら俺達までお陀仏ってわけだ」

 

「それだけはイヤ!」

 

その後脇道に逸れて岩を避けて、ホッとしながらも気を引き締めて進んだ。

 

最奥部に到着すると、赤い渦が発生し。そこから角や所々にドリルがあるサイが現れた。

 

「出たぁ⁉︎」

 

「エルダーグリード、ドリルライノ!」

 

「装甲がかなり硬そうだな」

 

「俺の刃も通るか難しいな………ここはフェイトの電撃を主体として戦うぞ、アリシアは撹乱してフェイトのサポートを!」

 

「う、うん!」

 

「りょ、了解!」

 

今できる最善の指示を出す。決して2人の仲を戻すためではない。戦いで私情はあんまり持ち込まない方がいいし、2人もそれくらいは弁えている。

 

「バルディッシュ!」

 

《プラズマランサー》

 

フェイトの周りにスフィアが展開して、そこから槍の形をした魔力弾が撃ち出された。着弾と同時に電撃が炸裂してダメージを与えるが、ドリルライノは怯まずドリルを回転させて突進してきた。

 

「皆避けて!」

 

《フォトンバレット、バーストマイン》

 

アリシアが二丁拳銃でドリルライノの目を狙い、その隙に突進を避ける。そして設置していた炸裂魔力弾に突っ込み、魔力弾が爆発する。

 

「ツァリ!何でもいいから情報を!」

 

『そんなこと言ったって関節に継ぎ目もないし、まさしく走る鉄の塊だよ!』

 

ツァリが後方で目を閉じて必死の顔をしながら薄紫色の花びらを散らしている。よくよく考えたらこの班に物理的で攻撃力が高い魔法を使う人が少なかった。

 

「ふっ!」

 

リヴァンが鋼糸で切り裂こうとしても弾かれ、巻き付けて止めようとしても力づくで千切られる。

 

「こうも相性が悪いのか⁉︎」

 

「なら私が!」

 

《ロッドモード》

 

「やああああっ!」

 

移動しながら足を重点的に狙い棍を振るう。フェイトや俺も援護するが、次第になのはに目を付け始めた。ドリルライノの全身にあるドリルが回転を始め、一斉になのはめがけて発生した。俺はなのはの前に出て刀を構える。

 

「笠要らず!」

 

円を描くように振り抜き、ドリルに触れずに剣圧で後ろに逸らした。

 

「あ、ありがとうレン君」

 

「礼はいい、まだ来るぞ」

 

ドリルライノは新たにドリルを出すと、今度は無茶苦茶に全方向に撃ってきた。

 

「くっ、レストレーション02!」

 

「き、キリがないよ〜」

 

「とにかく耐えろ!」

 

俺とアリシアとリヴァンでドリルを撃ち落とすが、際限なく撃ち続けられていた。

 

「………!」

 

「……⁉︎待ってフェイト!」

 

フェイトが弾幕の合間をぬってドリルライノに接近する。

 

《ザンバーフォーム》

 

「はああああっ!」

 

狭い空間内でなのか、ザンバーフォームの刀身の伸展が幾分控えめだったが、それでもドリルライノ目掛け振り下ろされた。

 

ガッキィンッ!

 

「まだまだ!」

 

斬るというより叩き潰す感じだ。地面に押し込ませているがドリルライノはまだ余力を残していた。さっきと同じようにドリルを発射したが、今度はワイヤーが取り付けられておりフェイトを拘束した。

 

「フェイトちゃん!」

 

「こんな物……!」

 

フェイトが拘束を外そうとしたら思いっきり振り回され、地面に叩き付けようとした。

 

「きゃああああっ!」

 

「フェイト!」

 

《ダガーブレード》

 

アリシアが片方の拳銃に魔力刃を展開して、ワイヤーに向かって投げた。ワイヤーを切り裂き、アリシアは落ちてくるフェイトを受け止めた。

 

「くうっ……」

 

「姉さん。……!姉さん危ない!」

 

「え……」

 

ドンッ!

 

「かはっ!」

 

アリシアの背中にドリルライノの横振りを受けて2人は壁際まで飛ばされた。

 

「アリシア!」

 

『アリシアの意識消失を確認、大きな外傷はなし。フェイトも脳震盪により戦闘の続行不可能!』

 

「ちっ!」

 

リヴァンが鋼糸で2人を回収する。持ち上げられた2人をドリルライノが目で追う隙にツァリの花びらが大量にドリルライノに向かい、それに隠れて俺となのはが接近する。

 

『ブルームウィンド!』

 

花びらがドリルライノに張り付き始め、もがくも瞬く間に花びらに埋もれた。銃から刀に展開し、なのはと並び立つ。

 

「なのは、行くぞ!」

 

「うん、任せて!」

 

「そこだ!」

 

「はああああっ!」

 

俺が一閃した後なのはが連続で突きを放ち、後方に下がりなのはの周りに二鏡面送人(にきょうめんおくりびと)で4人になった自身が囲み刀を構え……

 

「「奥義、太極無双撃!」」

 

4分身の斬撃が縦横無尽に放たれ、棍が地面を叩き割り衝撃が噴き上がり攻撃する。

 

俺となのはの連携技がドリルライノに炸裂する。この技はなのはの棍の特訓に付き合った時に考え付いたのだが、ここ最近ようやく形になっただけでまだまだ穴だらけの欠陥技だが。威力はそれなりあるしグリード1体相手になら問題はない。だがやっぱり実力者相手に2度は使えないし、むしろ初見で崩される事もありえる。要改善が必要だな。

 

無防備に食らったドリルライノは光を放ちながら消えていった。

 

「やったね、レン君!」

 

「お疲れ、なのは」

 

パンッ!

 

手を上げてハイタッチをする。それからすぐに異界の収束が始まり、目の前が光に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、出た……か?」

 

「そうみたいだ……ね?」

 

現実世界に戻るとそこは地下鉄ではなく、どこかの公園の一角だった。

 

「え⁉︎何でこんな場所に!」

 

「ツァリ、ちゃんと授業で習っただろう。地脈の影響を受けたんだ」

 

「あ、そっか。でも実際に起きるとびっくりしちゃったよ。ここはどうやらリスト公園みたいだね」

 

「そんなことより………リヴァン。2人の容体は?」

 

「フェイトは時期に目を覚ますだろう。アリシアは診てもらわないとどうとも言えん」

 

「う……」

 

ちょうどその時、フェイトが目を覚ました。

 

「フェイトちゃん!」

 

「ここは……」

 

「異界からは出た。しばらく安静にしているといい」

 

「あ、僕は依頼の報告をしておくよ」

 

「ああ、よろしくな」

 

「………!レンヤ、姉さんは……!」

 

「アリシアはフェイトを庇って気絶しているだけだ。目立った外傷はない、心配するな」

 

「そう、よかった……」

 

アリシアの無事を確認してホッと一安心するが、すぐに自分の行動を思い出したのか俯いてしまう。

 

「………………」

 

「……フェイト、自覚しているなら何も言わないが………このままじゃダメだという事は、わかっているな?」

 

「うん、わかっているよ。私と姉さんの考えている事は同じだって事も……」

 

「ならいいさ」

 

「う……ん」

 

そこでアリシアが目を覚ました。

 

「アリシアちゃん!」

 

「ここは……。なるほど、地脈の影響を……」

 

「理解が早くて助かる。痛い所はないか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「でも、念のために治療を受けてね」

 

「ありがとうなのは、でも本当に大丈夫だから」

 

「あ、フェイト、アリシア、目が覚めたんだね!」

 

そこに報告を終えたツァリが戻ってきた。

 

「そろそろ日も暮れるし、ちょうど依頼も全部終わったから。アリシアの治療が終わったらウチに行かない?」

 

「そろだね、それがいいよ」

 

「俺は構わんぞ」

 

「フェイトとアリシアもいいな?」

 

「うん」

 

「私の事は別にいいのに……」

 

アリシアに地上本部の医療施設で受けさせ、後遺症もなく問題なく治療を終えて。それからツァリの家に向かった。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

テーブルの上にはご馳走がこれでもかと置いてあった。

 

「お帰りなさい、今晩の夕食は腕によりを掛けて作ったから遠慮せずにどうぞ」

 

「ありがとうございます、アスフィさん」

 

「うわ〜!美味しそう!」

 

「じゃあ早速ーー」

 

「まずは手を洗うのが先だろう」

 

それからアスフィさんに学園生活の事を聞かれながら食事をした。俺達の事も度々聞かれたが大半はツァリの事を質問され、その度にツァリが止めに入ったりして夕食を楽しんだ。食べ終わった後ツァリに自身の部屋に招待されて、ツァリの部屋を訪れた。

 

「へえ〜」

 

「綺麗に片付いているじゃないか」

 

ツァリの部屋はどこも整理整頓されており床も埃が落ちてなかった。特出目立った物はないが、壁に掛けられたバイオリンがこん部屋で1番目立っていた。

 

「母さんが定期的に掃除しくれているんだよ。と言っても、僕の部屋は結構侘びしいから掃除も楽なんだろうけど」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「ちょ、ちょっと大人の男性って感じがするよ……!」

 

「フェイト、それフォローしてないぞ」

 

「え?」

 

「ふ〜ん……あ!」

 

部屋を物色していたアリシアが机に置いてあった写真立てを覗き込んだ。

 

「ツァリ、この写真は?」

 

「それは中等部の時に集合写真だよ。皆、管理局に入るか進学しちゃったんだけどね……」

 

「ツァリも進学希望だったんでしょう?レルムで見た顔はいないし……何でレルムにしたの?」

 

「…………………」

 

アリシアの質問にツァリは少し俯き、少し自嘲したように笑う。

 

「あはは、皆には気付かれたと思うけど。僕、魔導学院を受ける前は友達と同じ高等科を希望していたんだよね」

 

「あ………ごめん……」

 

「いいよ、別に気にしてないし。僕は本来、魔導師はおろか管理局に入るつもりはなかったんだよね。ただ友達や家族と気ままな生活をしたかった……自分にできることを探したりもした。でも……」

 

ツァリはウルレガリアを起動させると部屋の中に花びらを散らす。

 

「兄さんがそれを許してはくれなかった。幼い頃から魔導師としての……念威操者としての訓練を受けてきたけど、いつからかまるで自分の将来が決められていることに気付いて、嫌気が差したんだ」

 

「…………………」

 

「贅沢だとは思っているよ。それに兄さんの言い分も理解できる、僕の力を自分のためじゃなくてこのミッドチルダに使おうとしている事も。魔導師以外の道を探してバイオリンに手を出したのも、ある意味意趣返しだしね。それでも結局、僕は兄さんの決めた通りになっちゃったんだけどね」

 

自分の将来を決められ、望んでもいない学校へ進学させられそうになる。それは当時のツァリからすればあまりにも酷なことだったのだろう。少しだけ哀しそうな表情を見せながら続きを口にしていく。

 

「………こんな才能がある事も恨んだりもしたし、兄さんも恨んだ。でもレルム魔導学院は魔法以外にも力を入れていることもあって、卒業生の半数は魔導師以外の道を選択しているって知って……悪足掻きのようにレルムに入ったんだ」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

ツァリもツァリで苦労してきたようだ。おそらくここに至るまでに大きな葛藤などもあったのだろう、その果てに選んだ選択肢で今があるなら、それを受け入れるしかないのが人というものではあるが。

 

「えへへ……皆と比べたら、ちょっと情けない理由でしょ?結局、僕は何も成せていない……本来念威操者は膨大な情報を収集を処理するために脳が強靭にできていて、一般人や通常の魔導師と比べ記憶力が優れているらしいんだけど、それも生かせずテストの結果がアレで……でも実際のところ、友達と一緒の高等科に通えなかった事については未練たらたらで……はあ、贅沢過ぎる悩みで情けないよ」

 

「ツァリ……」

 

話を聞き、少しだけ考える素振りを見せるフェイト。どのような思惑であれ、ラース査察官がツァリの事を考えていた事には違いない。それも、ただ自分の為に利用するなどという邪な考えでは無いことはツァリが言っていた通りだし、兄なりに弟の事を考えての行動なのだろう。

 

「なあ、ツァリ。もしかして後悔してたりするのか?魔導学院に来たことを」

 

「え?……それに関しては後悔するわけないじゃない」

 

「えっ」

 

「へ?」

 

思いがけない答えにアリシアとリヴァンが唖然とする。

 

「毎日、忙しいけど充実してるし、放課後には部活でバイオリンの演奏も出来る。特別実習なんていう変わったカリキュラムもあるから色々、視野も広げられそうだしね。寧ろ、漠然と高等科に進学するよりも今は良かったと思ってるくらいさ。卒業後、魔導師の道を目指すにしても別の道を目指すにしても……今度こそ、僕は僕自身の意思で進むべき道を決められると思うから」

 

強い瞳で応えるツァリ。嘘偽りないその言葉には、今まで魔導学院で培ってきた経験の全てが導き出した確固となった自分の意思を示していた。

 

「そこまで考えていたんだね……」

 

「……強いね、ツァリは」

 

「あはは……買いかぶりすぎだよ。今でも高等科で頑張ってる友達の事を見ると羨ましく感じちゃうし……でも、それでも魔導学院に入った事を後悔する事だけは絶対に有り得ないと思うんだ。何よりも君達と……Ⅶ組の皆と会えたからね」

 

「お、おう……」

 

感動的なセリフの筈だろう。確かに、素晴らしい言葉であることには間違いないし、ツァリの本心から出てきた言葉なのだろう。しかし、小説等に出てくるかのようなくさいセリフをこうも躊躇い無く口にするとは流石に予想の右斜め上過ぎた。

 

「ツァリって……ひょっとして大物?」

 

「は、恥ずかしい台詞だよ……さすがに」

 

「え、え?そんなに恥ずかしいかな?」

 

「本人は無自覚……」

 

「やれやれ、そう言うのはレンヤだけで充分だ」

 

「俺はこんな事言わん」

 

髪の毛を軽く掻きながら疑問を浮かべるツァリ。どうやら、自覚せずにやっていたようであり、もしかしたら天然な所もあったりするのかもしれない。

 

「ふふ……さすがに恥ずかしいね」

 

「……でも、それでこそツァリなんだろうな」

 

「あはは、レンヤにそう言ってもらえると嬉しいかな?」

 

「どっちもどっちなの……」

 

「ふふ」

 

その後、ツァリはそのまま実家に泊まる事となった為、俺達4人は宿泊所となっている異界対策課・東方支部に戻る事となる。アスフィさんにも一礼をした後、東方支部へ続く道を歩いていく。

 

「ふう……もう9時過ぎだったか」

 

「すっかりお邪魔しちゃったね」

 

「そうだな。夕食ばかりか、明日の朝食にも誘ってもらったし。感謝しなきゃな」

 

「うん、後からでもお礼をした方がいいよね」

 

明日の課題はこの建物の郵便受けに朝一番に届けてくれる事になっていたので、今は気にしなくても良いだろう。あのラース査察官が担当しているのだから流石に不備などが起こっているという事もないと思う。

 

「早めにレポート書き上げて休むとするか……2人もそれでいいよな……?」

 

ふと、後ろにいるフェイトとアリシアに視線を向けたら、2人が神妙な顔持ちでじっと立ち尽くしている姿が目に入る。

 

「どうかしたの、2人共?」

 

「何か気になる事でもあったのか?」

 

「え、ううん……」

 

「……そうじゃないけど」

 

2人の静かな声には、決意が込められていた。それは、今まで出来なかった事が今なら出来るかもしれないという確信の元に生まれた覚悟。このままの状況を打開する為に踏み込む一歩。それをアリシアが切り出した。

 

「……ツァリの話を聞いて、やっと決心したよ」

 

そう言うとアリシアはフェイト向き直り、ある言葉を口にする。そして、その言葉は或いは今まさにフェイトもまた提案しようとしていた事だったのかもしれない。

 

「ーーフェイト。私と勝負して」

 

「へ?」

 

「……!」

 

「ア、アリシアちゃん⁉︎」

 

「……うん、分かったよ。今日中がいいよね?」

 

「フェイトちゃんまで……」

 

「そうしない限り今夜は眠れないだろうからね」

 

「ちょ、ちょっと待て!いきなり勝負ってなんだ⁉︎」

 

「そのままの意味だよ」

 

「私とフェイトが魔法を使って一騎打ちするだけ」

 

「ああ、そうか…………って、ダメだろそれ」

 

リヴァンが2人の行動を止めに入る。当然の反応だが、俺は……

 

「さすがに夜でも街中での勝負は迷惑だ。夕方に行ったリスト公園でどうだ?」

 

「うん、いいよ」

 

「異界から出た辺りなら人気がなくていいと思うよ」

 

「レン君まで……」

 

「はあ、しょうがない。乗ってやるか」

 

決まったら即行動する2人、居ても立っても居られないのだろう。リスト公園に着くとさすがに静かまっていて昼とは別の雰囲気がある。異界から出た場所はリスト公園の端にある東屋、そこに向かった。

 

「うん……周囲に人気はないね」

 

「地脈点もあるし、いい条件だね」

 

2人は距離を取って立つ。これから始まる戦い、その前にアリシアは己の胸の内に秘めていた言葉を打ち明ける。

 

「フェイト、単刀直入に言うよ。この勝負、私が勝ったらフェイトの本心を答えて欲しい」

 

「…………………」

 

「最初は、フェイトが避けてる事に疑問を感じてた。そんなことする理由も分からなかった。でも、フェイトも私と同じ気持ちなら……納得しているよ」

 

「……うん、私も……同じだよ」

 

「同じ気持ちなのに譲り合わない、分かち合わない………なんで、どうして、そう思うけど逆の立場なら私もそうする」

 

「ッ…………」

 

「けど……それは勘違いだった」

 

「え」

 

アリシアは自分の胸に手を当て、目を閉じる。今までの出来事それらを心の中で思い出し、自分の結論を導き出した。

 

「ツァリの話を聞いて、前にレンヤに言われた事を思い出してね。改めて、私は自分の心に問いかけてみた。どうしたいか、どうありたいか。そうすると……1つ、気付いた事があったんだ。私もフェイトも、案外頑固だってね」

 

「あ…………」

 

「私がフェイトを大切だと思うと同時に、フェイトも私のことを大切だと思っている。だからこそ巻き込みたくなかった、心配されたくなかったんでしょう?」

 

「…………………」

 

(なるほど……とっくに答えは出ていたんだな)

 

(そうみたいだね……)

 

(お互いを思うこそだから、か……)

 

アリシアの言葉を聞き、フェイトもまた自分がアリシアに対して抱いていた感情を口にしていく。お互いに相手に対して思っていた事を口にすることもまた、この勝負には必要な事だろうから。

 

「私も同じ……姉さんはいつも明るいから、私とは違うから、こんな暗い事は私がやろうって意地を張っていた」

 

「……そう……」

 

「でも、どうして?」

 

だとしても、最後の一つ。フェイトには疑問があった。いや、その疑問に対する答えは、何となく彼女自身も分かっている筈だ。それでも、その答えを確かめない訳にはいかなかった。

 

「私と姉さんの考えている事は同じ。それを知ることがなのに姉さんにとって何の意味があるの?」

 

「ふふ……決まっているでしょう。私があなたを………フェイトのことが大好きだからだよ」

 

「……!ね、姉さん……⁉︎」

 

「当たり前でしょう。家族を……妹を好きじゃない姉なんていないよ。でも、だからこそ知りたいの。手を取り合いたいの、妹を守る為に」

 

「…………………」

 

素直で、真っ直ぐで、アリシアらしい答えだ。

 

(な、何というか……)

 

(ふふ、アリシアちゃんらしいね)

 

(アリシアが本当の意味でフェイトの前に立つ、か)

 

「……やっぱり姉さんは凄いな……うん、分かったよ。でも、私もそう簡単には渡せない」

 

フェイトは懐からバルディッシュの待機状態を取り出す。

 

「それでいい?」

 

「うん、いいよ……」

 

アリシアもまたフォーチュンドロップの待機状態を取り出す。

 

「これがテスタロッサ家の………最初で最後の姉妹喧嘩だよ」

 

「ふふ、そうだね。でも………先ずは相応しい舞台を用意しなくちゃね」

 

次の瞬間、アリシアから膨大な魔力が放出され……一気に結界が張られた。そして………俺達は昼の時の庭園に降り立った。

 

「私達の始まりの地、これ以上相応しい舞台はないよ」

 

「そうだね。夢より、心地よくて……暖たたかい。始めようか」

 

「お前ら!色々ツッコミたいが、お前ら充分気が合っているだろうが⁉︎」

 

「アリシアちゃんも結界張るなら先に言ってよ!」

 

「はは……」

 

なのはの言い分はどこかズレているが、俺は2人の間に立つ。

 

「立会いは任せてくれ。危険だと判断したら止めるから全力でやり合うといい」

 

「ありがとう、レンヤ」

 

「うん!」

 

2人はデバイスを掲げ……

 

「バルディッシュ!」

 

《イエス、サー》

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《ロジャー》

 

「「セーット!アーップ!」」

 

デバイスを起動させ、バリアジャケットを纏いお互い武器を構える。

 

「はああああっ……!」

 

「ふぅぅっ……」

 

フェイトからは金色の、アリシアからは黄緑色の魔力光が溢れ出す。

 

「ーー始め!」

 

合図と同時にフェイトはバルディッシュをハーケンフォームに変えて横薙ぎに振るう。アリシアもそれを予見していたのか冷静に対処する。ハーケンフォームの魔力刃に左の拳銃で刃に滑らせるように魔力弾を撃ち込んで速度を落とさせ、右の拳銃に展開した魔力刃で受け止める。そして空いた左の拳銃をフェイト向ける。

 

「ッ!」

 

「ショットバレット!」

 

フェイトはすぐに後退したが、アリシアの放った散弾型の魔力弾は数発フェイトを捉えた。

 

「うっ……まだまだ!」

 

《プラズマランサー》

 

「させない!」

 

スフィアを展開し魔力弾を撃つ。それをアリシアは魔力弾を目にも止まらぬ速さで撃ち抜く。アリシアの撃った魔力弾は以前俺がやった質量兵器の銃弾の真似の上位版で、通常の魔力弾を圧縮して開放することで実弾と遜色ない速度で撃てるものだ。もっとも1発作るだけでもかなりの魔力制御能力が必要だが、狙いが付けばまさに一撃必殺の魔力弾となる。寸分たがわずフェイトの魔力弾を撃つ落としているアリシアの努力が窺い知れる。

 

「なら……」

 

《ソニックムーブ》

 

瞬間、フェイトはアリシアの背後を取り魔力弾を撃つが……アリシアは慌てる素振りも見せず一瞬で展開した魔力刃で斬り裂いた。やはりアリシアはフェイトの戦法や魔法を知り尽くしている分、アリシアが優勢だ。アリシアそのまま追撃を仕掛けた時、フェイトの魔力が迸る。

 

《ゲットセット》

 

「ソニック!」

 

《ソニックドライブ》

 

「うわっ⁉︎」

 

急激な魔力の放出で、アリシアは飛ばされるがすぐに立て直す。

 

《ライオットザンバー》

 

バルディッシュの一部がスライドし、リボルバーのカートリッジがロードされる。

 

「ーーやっぱり姉さんはすごいや。いつの間にか前にいたんだね、姉さんは姉だから努力したんじゃない……アリシア・テスタロッサだから。でも、だからこそ……私はーー」

 

そこに立っていたのはバリアジャケットの装甲を極限まで薄くしたフェイトだった。両手には双剣があり柄がワイヤーで繋がれていた。

 

「私は……負けたくない!」

 

フェイトのオーバードライブ……真・ソニックフォーム。小さい頃にもあったからもしやとは思っていたが………やっぱり露出度が高くてあんまり直視できない。この状況で不謹慎だとは思うが……フェイト、もっと恥じらいを持て。

 

「うんうん、いいねいいね〜!私も乗って来たよ〜!フォーチュンドロップ!」

 

《レディー》

 

「チューニング!!」

 

《スタートアップ》

 

対抗するようにアリシアも魔力を解放する。一見すればどこも変わっていないが、両手に指抜きのグローブ、足にはブーツだが表面にうっすらと金属光沢がある。武器は背中と腰に小太刀が合計2本あり両手の小型小銃は大型に変わっている。

 

アリシアのオーバードライブ……ハーモニースタイル。アリシアの戦い方を最大限に生かす形態。

 

「勝つのは私だよ!」

 

「行くよ……姉さん!」

 

《ブリッツアクション》

 

「いいよ……フェイト!」

 

《オーバーロード》

 

「「はああああああっ!」」

 

消えては現れ、消えて現れを繰り返し、その度に双剣でかなりの剣速で攻撃するフェイト。その怒涛の攻撃を流れる風が如く防ぎ、受け流すアリシア。徐々に攻防が激しくなっていきとうとうフェイトは線に変わり、その中でアリシアは2丁拳銃と2刀小太刀を巧みに操り金色の嵐の中を舞い踊る。

 

「はあっ!」

 

「ぐうっ……」

 

フェイトの一閃がアリシアを捉え、弾き飛ばされる。

 

「いつつ、やるねフェイト」

 

「姉さんこそ」

 

「なら私も、全力で……行くよ、フォーチュンドロップ!」

 

《ロジャー》

 

「うん。やるよ……バルディッシュ!」

 

《イエス、サー》

 

フェイトは双剣の魔力を込め、アリシアは2丁拳銃の銃口に魔力刃を展開させて浮かせて両手の小太刀と合わせて合計4刀に魔力を込める。そして2人は駆け出し、交差する瞬間……

 

「ーーそこまで!」

 

「うわっ⁉︎」

 

俺の張り上げたに集中していたなのはが驚いた。

 

内力系活剄・戦声(いくさごえ)

 

空気を震動させる剄のこもった大声を放つ威嚇術だ。

 

それによって2人は我を取り戻し、お互いに纏っていた魔力が霧散するように消えていく。そして、この攻防の間に今日の依頼やグリードとの戦闘などで溜まっていた疲労がこの戦闘の終了と同時にお互いに降りかかってきたのだろうか、フェイトとアリシアも疲れを顔に見せながらデバイスを地面に置き、共に地面に倒れ込む。

 

「はあっ……はあっ……」

 

「……はぁ、はあっ……」

 

主に精神的な疲労が大きいようだ。お互いの手の内は分かりきっていた勝負だ、出し抜くには新しい手札を出すかさらに上に行くかで………この勝負の勝敗は分からなかっただろう。

 

「レ、レン君……これって、どっちが……?」

 

「立会いを引き受けたのに申し訳ないんだが……引き分け、としか言えないな」

 

「ああ、フェイトの方が速く届いたがアリシアも見えて対処していたようだし……」

 

(……!あの一瞬の攻防を目視したのか、通常の肉眼で……?)

 

「あはは……しょうがないか……本音は悔しいけど、取っておいておくかな……レンヤとも白黒つけたいし」

 

「って、なんで俺まで⁉︎」

 

「あはは、アリシアちゃんたら」

 

「………私の、負け」

 

「え……?」

 

突然、フェイトが自分の敗北を宣言した。その声色はどこか悔しいそうにも聞こえた。

 

「姉さんの片方の魔力刃が私の双剣に入りそうじゃなかった。あのまま行ったら胴に入ってた、だから……私の負け……」

 

「そう………分かった、勝利を受け取るよ」

 

「…………あ、レン君、リヴァン君、行こう」

 

「ん?ああ、そうだな。俺達は席を外す」

 

「私は別にいいよ、皆にも知って欲しい………姉さん、いいよね?」

 

「フェイトがいいならそれで構わないよ」

 

「うん……」

 

ゆっくりと起き上がり、自分の相棒のバルディッシュに目を向ける。そして、次第に言葉を漏らし始める

 

「皆はもう知っていると思うけど、私はプロジェクトF.A.T.Eによって生み出されたアリシア・テスタロッサのクローン……それを否定するつもりはないし受け入れているよ。だけど、その過程の罪は……許されることじゃない。管理局に入ってから私は贖罪の為に働いてきた、陰で何を言われようが耐えてきた。でもちゃんと楽しい事もあったよ、レンヤやなのは、はやて、すずか、アリサ、ラーグにソエル、守護騎士達に教えてもらった、もちろん姉さんにも。だから、だからこそ私……自分自身で決着をつけたかった!」

 

俯きながら声を荒げるフェイト。フェイトの事は分かっていたつもりだが……実際何にも分かっていなかった自分が恥ずかしい。

 

「けど、姉さんも私と同じ罪を背負っているって分かって………結局ただの自己満足だと思っちゃったんだ。前にラーグから固有結界の原理は聞いたんだ、自分の心象を具現化するんだって。姉さんの心象が時の庭園………それってつまり姉さんも私と同じだと分かったんだ。苦しんでいると思ってただ逃げるように前だけ見続けていたんだ、そう思っちゃったら……自分がバカバカしくなっちゃって、あんな接し方になっちゃったんだ。やつあたりしちやってごめんね」

 

「アリシアちゃん……」

 

「…………………」

 

今まで胸の内に溜めてきた物を吐き出すように喋るフェイト。

 

「なら、これからは一緒だね」

 

「え……?」

 

「私もフェイトも同じ業を背負ってきた。なら今から一緒だね、もちろんレンヤも」

 

「ああ、そういう約束だからな」

 

「私も!私も協力するからね!」

 

「レンヤ、なのは……ありがとう……!」

 

目に涙を浮かべながら感謝の言葉を言う。今のフェイトの顔はどこかスッキリした感じがする。

 

「さて、これにて一件落着だと思うけど……どうかな、フェイト?」

 

「あ…………うん、いいよ」

 

フェイトはアリシアの手を掴み立ち上がると、こちらを向き武器を構えた。

 

「ちょ、まさか……」

 

なのはと視線を合わせ……頷き。デバイスを起動してバリアジャケットを纏う。

 

「……なるほど。この前の実技テストのリベンジってところか」

 

「うん、尋常にいざ勝負!」

 

「かなり消耗しているから物足りないかもしれないけどね」

 

「ふふ、それでも2人の刃が届きそうだけど……手加減しないよ!」

 

「今の雰囲気からなんでそうなるんだ⁉︎」

 

騒ぐリヴァンを余所にフェイトとアリシアが飛び出してきた。

 

「フェイト、速攻!」

 

「うん!」

 

先の勝負でフェイトは真・ソニックフォームのままで目にも止まらぬ速さで俺達を囲む。

 

「これは、簡単に抜けられないな」

 

「そうだね、でも攻撃してこないよ。一体何を……」

 

パンッ!

 

「きゃっ!」

 

「なのは!」

 

炸裂音が響くとなのはがいきなりよろけた。視線だけ見てみると、肩に銃痕があった。アリシアに撃たれた?フェイトが疾走する中に?事前に作戦を言ってたわけないし念話でも時間が足りない。仲直りするだけでここまでの連携ができるなんて、お互いを信頼してなければできない事だ。

 

「っと……防戦一方か」

 

飛んでくる高速の魔力弾を斬りながら愚痴る。開始早々に苦戦を強いられるとは、一気に化けて出たな。

 

「でも、そう簡単には行かせない!」

 

《デュオストーム》

 

アリシア目掛け魔力斬撃と魔力弾を放つ。だが斬撃はフェイトによってかき消され、魔力弾はアリシアに落とされる。

 

「なら私がーー」

 

なのはが砲撃で突破しようとした瞬間、金色の嵐は止み。すぐにアリシアの方を見ると2人が背中合わせで魔力を練っていた。

 

「来れ、雷鳴ーー」

 

「素は形なき刹那の牙ーー」

 

「「フラッシュケージ!」」

 

2人の上下に魔法陣が展開され、その両方に雷と魔力弾が放たれた。瞬間、俺達の上下に同じ魔法陣が現れ、雷と魔力弾が襲ってきた。

 

「ぐううっ……」

 

「きゃああっ!」

 

雷と魔力弾の猛攻に防御魔法を破られ、バリアジャケットはボロボロになってしまった。

 

「……やったね……」

 

「……うん……」

 

フェイトとアリシアは拳を軽く合わせて勝利を喜びあう。

 

「あははっ……」

 

「ふふっ……」

 

「おーい、手も足も出なかったお2人さん。生きてるかー」

 

「ハアハア……生きているし……ふ、2人共……もう少し……」

 

「はは……何と申しましょうか……極端過ぎるだろ」

 

「大丈夫?」

 

アリシアが回復魔法を掛けながら、ニヤニヤした顔で聞いてくる。

 

「こんの……!はあ、速く帰ろう。レポートもまだだし休みたい」

 

「同感〜……」

 

「ごめんね、レンヤ、なのは、私のワガママに付き合ってもらって」

 

「いいってことよ」

 

「それじゃあ、結界を解除するよ〜」

 

アリシアが上空に手をかざし、ゆっくりと時の庭園は消えて行き……

 

「よお、お前らだったか」

 

「「「「へ?」」」」

 

「あらら」

 

目の前にティーダさんがいて、複数の魔導師に周りを囲まれていた。

 

「結界が張ってあると通報を受けて来てみれば突破できない結界があって、しばらくしたらお前達が……いったい何事だ?」

 

「い、いえその……これにはマントルぶち抜くほどの勢いと深い訳があってですね……」

 

「その……お騒がせするつもりはなかったんです!」

 

「よくある一時の高校生の迷いですよ」

 

「うーん、魔力補給を地脈に任せてたから隠蔽が疎かになっちゃった」

 

「郊外でやるべきだったね」

 

フェイトアリシアはまるで他人事みたいに別の問題を指摘していた。

 

「お前らの所為だろう!もっと責任感を持て!」

 

「今の2人は止められないの……」

 

「……何だろう、この状況」

 

「まあともかく……署までご同行願おうか」

 

そして今日、俺達は人生初めて管理局に連行されたのであった………

 

 



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77話

 

 

翌日ーー

 

朝食の為ツァリがレンヤ達を呼びに東方支部に訪れていた。

 

「あれ……皆まだ寝ているのかな?珍しい」

 

インターホンを鳴らしても応答がない事を不思議がった。しばらくして、レンヤ達が出てきた。

 

「ああ、ツァリ……遅れた」

 

「遅れてごめん……」

 

「ど、どうしたの?そんな疲れきった顔をして……」

 

「昨夜色々あってな……」

 

「皆だらしがないなぁ。私達なんか気合い充分なのに、ねえフェイト」

 

「ふふ、そうだね」

 

「お前らと一緒にするな」

 

「まあ、これも慣れの問題だ。あんまり気にするなリヴァン」

 

「え、えっと……」

 

ツァリはフェイトとアリシアの仲が戻った事に気がつくも状況が飲み込めていなかった。

 

「まあ、ともかく後で説明するよ」

 

「?」

 

郵便受から本日の依頼が入った封筒を取り出し、ツァリの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼を確認しようとしたら、アスフィさんに朝食が冷めるとの事で。先に朝食をとってから内容を確認する事にした。

 

「僕がいない所でそんな事をしてたんだ……何だが仲間外れな気分だよ」

 

「あはは、ごめんね。ツァリの話しがきっかけで居ても立っても居られなかったし」

 

「今度お詫びに何か奢るから、それで許してね?」

 

「その後説教されなかっただけましだろう……」

 

「それでそんなに疲れていたんだ」

 

「ティーダさんが弁護してくれなかったらどうなっていた事やら」

 

重労働は慣れているとはいえど説教までは慣れていないからな。慣れたくもないけど。

 

「それで、ラースから追加の課題は来ているの?」

 

「はい、それは食後に確認をします」

 

「うん、そうだね」

 

「ふふ、ならいっぱい食べて活力をつけてもらわないとね。遠慮なくおかわりを言ってね」

 

それから美味しい朝食を頂いた後、依頼を確認して。先日と一新して気を改めて実習を開始した。

 

市民からの依頼をテキパキと解決していき、エルダーグリードの討伐に至ってはフェイトとアリシアの独壇場だった。異界を出ようとしたらまた地脈の影響を受けて、今度はどこかの路地裏に出た。

 

「また地脈の影響を受けたの?」

 

「そのようだな」

 

「ここは……クラナガン南東付近みたいだよ」

 

「アリシア、クラナガンの中心に地脈点があるのか?」

 

「あるよ、しかもとびきり珍しいのが」

 

路地裏を歩きながら地脈についてアリシアが説明する。

 

「基本的に地脈は水平に広がって大地に根付いているんだ。だけどごく稀に垂直に流れる地脈があるの、力が地脈の底に潜って行く場所を地脈浸点………逆に奥底から力が湧き上がってくる場所を地脈湧点って言うんだよ」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「それでどこにあって、その地脈なんたらはどっちなの?」

 

「クラナガン中央ターミナルのど真ん中に地脈浸点があるよ。昨日気付いたんだ。そのせいでここら一帯の地脈は随分活発だし異界もその影響を受けやすいんだね。それに……」

 

「………それに、何?」

 

「ううん、何でもない!」

 

(浸点の奥底に一瞬感じた禍々しい感じ……無闇には話せないね)

 

路地裏を出て大通りを進んでいたらちょうど昼になり、すぐそこにあったバーガーショップに立ちよりテイクアウトで近くの公園で食べることになった。

 

「う〜ん、美味しい!」

 

「たまにはこういうのも悪くないね」

 

「うんうん、また違った楽しみ方だね!」

 

「基本、外では食事はとらないからな」

 

「そうだね。はむ……」

 

「………………」

 

皆がバーガーを食べる中、手を止めてリヴァンが空を見上げていた。

 

「リヴァン、どうかしたのか?」

 

「……!あ、いや……昔にも似たような事があったってな…………思いにふけっていた」

 

「ふーーん?」

 

「もしかして、リヴァン君のお友達と一緒にこんな風にごはんを?」

 

「ああ、そうだな……」

 

生返事で答え、バーガーを口にしてはぐらかしてしまう。

 

(そういえば、リヴァンの事はあんまり知らないし。リヴァン自身も話した事なかったっけ)

 

秘密や知られたくない事なんか幾らでもあると思うから、無理には聞かないけど。

 

〜〜〜〜♪

 

バーガーを食べ終え小休止している時にレゾナンスアークに通信が入ってきた。

 

《通知者不明、如何致しましょう?》

 

「誰からだろう?」

 

「俺の連絡先を知っているのは限られているし……多分ラース査察官辺りだろう、繋いでくれ」

 

《イエス》

 

ディスプレイが展開されると、予想通りラース査察官だった。

 

『やあレンヤ君、いきなりの通信を許してくれ』

 

「に、兄さん⁉︎」

 

「いえ、驚いただけです。それでご用件は?」

 

『うむ、それは君達A班に実習課題を追加したいんだ』

 

「え?」

 

「追加、ですか。それは一体どういう……?」

 

『クラナガン南東にある中型道路に事件が発生した。可及的速やかに解決したいために連絡したわけだ』

 

「それは学生の領分を出ています。なぜ私達に?」

 

『うーん、ちょっとした事情があってね。無理にとは言わないが……どうするかな?』

 

うわー、返答絶対分かっているのに聞いてくるよこの人は。

 

「……分かりました、お引き受けします」

 

『そうか、話しは通しておくよ。君達の活躍を期待しているよ』

 

ラース査察官は笑みを浮かべながら通信を切った。

 

「はあ……」

 

「ごめん皆、兄さんが迷惑をかけて……」

 

「ううん、大丈夫だよ!」

 

「それに、事件も放ってはおけないしね」

 

「ま、やるだけやってやるか」

 

「それじゃあ行ってみよ〜!」

 

公園を出て、すぐそこにあった中型道路に向かった。騒ぎと人が集まっていたのですぐに見つかり、人混みを分けて進むと目の前の建物をシールドを構えた管理局が包囲していた。建物はシャッターがかかっていて尋常ならざる雰囲気が漂っていた。俺は責任者を探し出して事情を聞いてみた。

 

「失礼します!レルム魔導学院、VII組の者です!」

 

「来たか、話はラース査察官から聞いている。協力を感謝する」

 

「それで一体何があったんですか?私達が呼ばれる理由となると……」

 

「もちろん異界絡みだ。オーバーロードって知っているか?」

 

そう質問されると全員アリシアを見る。ちょうど昨日そんな魔法を使っていたな。

 

「私のオーバーロードは思考速度、反射神経、動体視力を飛躍的に上げる魔法だよ。今言っている物とは別物!」

 

「ごめんごめん」

 

「コホン、リンカーコア強化剤……ですね?」

 

気を取り直してフェイトが説明する。

 

「ああ、以前流行ったHOUNDの発展改良型だ。使用すれば爆発的に魔力量の増大する。さらに瞬間最大出力、制御能力、変換効率も上がる。こんな重宝な物はない……副作用がなければな」

 

オーバーロードはHOUNDと違い副作用もあり後遺症も残りやすいのが欠点だ。

 

「でも、法律で使用は禁止されています」

 

「それにこんな場所で売り付けるなんて……儲けなんか出るんですか?」

 

「どんな場所でも、そこに魔法文化があれば少なからず売れるからな。数は10、報告によれば魔導師はいない」

 

「………いるな」

 

「え⁉︎」

 

リヴァンが鋭い目でシャッターの奥を睨み付けながら言った。

 

「確かに……いるね」

 

「やはり隠れていたか」

 

「いや、むしろ挑発している」

 

「何で、そんなことを?」

 

「よほどの自信家か、あるいは……」

 

それからしばらく膠着が続いた。相手が出るのを待っているのだろう。

 

「……来る!」

 

「……!」

 

ドカアアアアアアンンッ‼︎

 

リヴァンが叫ぶと同時に建物が爆発した。

 

「ふっ!」

 

「リヴァン!」

 

リヴァンがデバイスを起動して、吹き荒れる爆煙に突っ込み、左の剣で煙を斬り裂いた。

 

「ッ!」

 

「ヒャハハハ!いい目をしてるさ!」

 

そこには深緑のコートでフードをかぶり、刀を肩に担いでいる男がいた。男は飛び上がると刀をリヴァンに振り下ろした。

 

「お前は……!」

 

「アハハハハハ!」

 

弾き返すと男はその勢いで飛び上がり、街灯を蹴り建物の屋根に乗った。

 

「逃がすか!」

 

「リヴァン、待っーー」

 

「総員突入!」

 

アリシアが呼び止めようとした時、隊長が建物の突入を命じた。残りを拘束するためだろう。

 

「ここは分かれるぞ!なのはは俺と一緒にリヴァンと男を追う。残りはここを任せた!」

 

「「「「了解!」」」」

 

デバイスを起動して身体能力を強化し、なのはをお姫様抱っこしてリヴァンを追うため飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああっ!」

 

リヴァンは男を追い、屋根を駆けていた。リヴァンは足を強化して一瞬で男の背後をとり、剣を振り下ろした。だが男は消えるように飛び上がった。

 

「危ないとこだったさぁ」

 

男はまた消えると、今度はリヴァンの目の前に現れ刀を振った。

 

「くっ!」

 

「さすが、読まれる」

 

男の攻撃を弾きながら後退していき、上空へ大きく後に飛ぶと男は追いかけて来て鍔迫り合いになる。

 

弦殺師(あやとりし)、この程度かさぁ」

 

「ッ!」

 

弾いて着地し、距離を置く。

 

「本気、でやってる訳ないよなぁ。元が付くとはいえお前 がこんなもんで済むはずがないさぁ」

 

「………お前はーー」

 

「ーーリヴァン!」

 

その時、レンヤとなのはが追い付いてきた。そして男はフードに手を掛け、おもむろに顔をさらけ出した。同年齢くらいで焦げ茶色の髪、そして左目付近に刺青が入っていた。

 

「ッ……!」

 

「俺っちの名前は、カリブラ・ヘインダール・アストラさぁ」

 

「その刺青………ルーフェンの魔導師一団、ヘインダール教導傭兵団!」

 

「3代目さぁ。同業者のエースオブエースさん」

 

「なのは、知っているのか?」

 

「教導官なら1度は耳にする名前だよ。ルーフェンの名を背負う誇り高い傭兵集団、まさかオーバーロードを売り歩いているなんて思わなかったけど……」

 

「はっ!あんなヤツらはどうでもいいのさぁ。ここに来る為に利用させてもらっただけで、手伝う気もないし」

 

「利用?なら何が目的だ、カリブラ」

 

「どうもこうも傭兵の依頼さぁ、リヴァン」

 

お互いの名を苦もなく呼ぶ2人。どうやら知り合いのようだ。

 

「いい加減戻って来てくれないさぁ?ウチの副団長はお前以外務まらないさぁ」

 

「断る。さっさとその役職を消すことを薦める」

 

「ま、確かにな。だが………何だこれは。こんな剄も使ってない糸で何を斬るつもりさぁ」

 

カリブラは刀を振るうと目の前に張られた鋼糸が落ちる。

 

「こんなたわんだ糸で何をするつもり、だ!」

 

「お前ら、手を出すなよ!」

 

カリブラがリヴァンに斬り掛かり、それを飛んで避け立ち位置が入れ替わった。

 

「本気でこないなら、こっちもそのつもりでやるだけさ!」

 

カリブラは刀を振るごとに斬撃を飛ばし、屋根に傷跡を付け、破片が飛び散る。

 

「どうした!もっとやる気を見せてもらわないと、つまんないさ!それともデバイスを仕舞って腕まで鈍っちまったか?」

 

「何だと……!」

 

鍔迫り合いをしながら煽ってくるカリブラ。リヴァンも怒りを露わにする。

 

それから何度も斬り合い、実力は拮抗していた。そしてカリブラの一撃が流しきれず、リヴァンの剣が大きく逸れた時。カリブラその機を逃さず目を見開かせると、次の一閃で剣を根元から折った。

 

「ああ……!」

 

「はっはあーー‼︎」

 

「くうっ!」

 

リヴァンは怒りを見せるが、すぐに徒手格闘に変えた。キレのある拳を振るうも受け止められるが、すぐさま蹴りを入れて屋根から落とした。リヴァンはカリブラに向かって魔力弾を放った。カリブラは落下地点にあったガラスハウスをつき破り、追うように魔力弾も入っていき、ガラスハウスが爆発した。

 

「ちょ、リヴァン君!やり過ぎだよ!」

 

「………………」

 

「聞く耳持たずか」

 

リヴァンはレンヤ達を無視して地面に降り、続くようにレンヤ達も降りた。炎と煙が充満する中、カリブラがゆっくりと立ち上がる。ふらふらしておりかなりのダメージが入ったようだ。リヴァンが前に出ようとしたら突然カリブラの前に弓矢を持った女が現れた。

 

「仲間か!」

 

女は矢を放ち、リヴァンが障壁で受け止め爆発した。煙が晴れたらカリブラも女もいなくなっいた。

 

「リヴァン、お前は……」

 

「それよりも戻るぞ、カリブラに置いてかれた連中をどうにかする」

 

リヴァンはまた屋根に乗って事件現場に向かった。

 

「リヴァン君……」

 

その時、薄紫色の花びらが飛んできた。ツァリの端子だ。

 

『レンヤ、そっちはどうなったの?』

 

「犯人には逃げられた。俺達もすぐそっちに向かう」

 

レンヤはなのはを抱えて屋根に飛び上がり、リヴァンを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件現場に戻って来た頃には事態は収束しおり、立てこもっていた密売人は残らず逮捕した。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 

「いえそんな、1人逃してしまいましたし」

 

「それをチャラにできる程の成果だ、あんまり気負うな。俺達はもう行く、ラース査察官に礼を言っておいてくれ」

 

男性はパトカーに乗り、護送車と一緒に去って行った。

 

「お疲れ様、アリシアちゃん、フェイトちゃん、ツァリ君」

 

「なのはもお疲れ様、怪我とかはしてなかった」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「フェイト達は密売者の確保に?」

 

「魔導師もいなかったから楽にできたよ」

 

情報を整理する中、俺はリヴァンに近寄る。

 

「リヴァーー」

 

「分かっている………ここじゃ何だ、支部に行くぞ」

 

踵を返してリヴァンは支部の方向に進んだ。

 

「何かあったの?」

 

「それを今から説明する、今はついて行こう」

 

「……?」

 

リヴァンの後を追い、俺達も支部に向かった。

 

軽くフェイト達に事情を説明しながら支部に着いき、2階のテーブルに座り、用意したお茶を飲み一息つく。

 

「それでリヴァン、あのカリブラとは……へインダールと面識があったのか?」

 

「ヘインダール?ヘインダールって確か……」

 

「ユエの出身世界、ルーフェンの傭兵一団だったかな?」

 

「もしかして……」

 

全員の視線がリヴァンに向けられる。

 

「お前らには嘘を言っていた、俺はここの出身じゃない。ルーフェンの辺境……今は滅んだ村の出身だ」

 

「……!」

 

「え」

 

「俺は子どもの頃、村が盗賊に襲われた所を前ヘインダール団長に助けられた。その事件での生存者は俺だけ……盗賊は1人残らず逮捕されたがな」

 

「そんな、そんなことって……」

 

「俺はその後才を買われ、流されるままヘインダール教導傭兵団に入った。カリブラとはそれ以来の関係だ」

 

「…………………」

 

皆、いきなりの告白に心が着いていけてないようだ。

 

「鋼糸や剣もその時に教わった。いつからか前線に立つようになって、いつの間にか弦殺師(あやとりし)なんて異名も付くようになった」

 

「…………それで」

 

「ん?」

 

「それで、どうして彼らと袂を分かつ事になったの?」

 

なのはの質問にリヴァンは頭をかき、ため息をつきながら話し出した。

 

「俺は一時期、ある次元世界で日曜学校に行っていた時だ」

 

「日曜学校?」

 

「日曜日に教会で勉強を教わる事だ」

 

「ヘインダールには俺より下の子どもも何人もいた。行った先の次元世界の日曜学校で勉強を教わるのが常だったんだ。俺はいつも通りに勉強をしていた、そして帰り道……俺は近くにあった森に入ったんだ。鋼糸の練習をしようと思ってな。森の奥で木に鋼糸を張り、駆け回った……が、一瞬の余所見で鋼糸が腕を掠めちまってな、落ちて木にぶつかっちまって動けないでいた」

 

リヴァンは左の二の腕をさすりながら苦笑いした。

 

「傷口から血を流れる痛みに耐える中、そこにあいつがやって来たんだ」

 

「あいつ?」

 

「あいつは同じ日曜学校の生徒でな、森に山菜を摘んでいた所を通りかかったらしい。そんで助けてもらったわけだ。それ以来、あいつとはよく遊んでいた。あいつは魔導師だったが俺と同じでそこまで魔力量は無かったが、あいつは少ない魔力で飛ぶ練習をしていたんだ」

 

「それは……ちょっと危険だね」

 

なのはの言い分もわかる。ただ飛ぶだけの飛行魔法事態はそんなに難しい魔法じゃない、比較的初歩の魔法だ。だが飛行魔法は基本、高々度高速飛行が重視される。これには空間把握能力、各種安全装置、必要な魔力の安定維持など、様々な能力が必要となる。魔力が少ないのに飛ぶ事はあまり勧められない行為だ。

 

「そうだろ。俺も何度も止めようとしたんだが聞いちゃくれなくてな。あいつはただ……飛ぶのが好きだったみたいでな。いつか雲の上に行きたいなんて事も言っていた。俺は夢を追いかけられるあいつを応援した……だが、そんなあいつをよく思わない連中が現れたんだ」

 

リヴァンの手に持つコップに力が加わり、コップがきしむ。

 

「そうか……それがリヴァンが魔力量で比べられるのを嫌う理由か」

 

「……!」

 

「あ……」

 

「そ、それって……」

 

「……事の発端は突然だった。あいつは同じ日曜学校に通う奴らに誘われて飛行魔法の練習をしていた。あいつは奴らの1人を掴んでいつも以上の高度を飛んでいたんだ。もちろん俺は止めようと叫んだが、あいつは高く飛べる高揚感でまるで聞いちゃくれなかった。俺が心配したのは高く飛ぶ事じゃなくて奴らの思惑だったんだ。奴らは俺達以上の魔力量を持っていて常日頃、魔力量の少ない奴を見下していたんだ。そして……事件が起こった。あいつを掴んでいた奴が手を離したんだ。あいつは突然の出来事に驚いて飛行魔法も使わず落ちていった。俺はとっさに鋼糸で網を張って受け止めた、あいつはショックで気絶しただけで怪我はなかった」

 

「なんで……そんなことに?」

 

「気に入らなかったんだよ、魔力が少ない癖に空を飛ぶ事が……奴らはニヤニヤしながら降りてきた、俺は何故こんなことをしたのか問い詰めた。だが奴らはあいつが自分から手を離したと笑いながらしらばくれた。俺は怒り、奴らに飛びかかった。結果は俺の圧勝……だったが、一見すれば俺が最初に襲い掛かった風に周りが見えてな。俺は罰を受けて、あいつの事はうやむやになっちまった……」

 

激しく後悔するように大きなため息を付くリヴァン。

 

「それであいつはどうなったの?」

 

「外傷はなかったが、精神的に参ってな。2度と飛ぶ事はなかった。そして逃げるように別の次元世界に渡って……それ以降会っていない」

 

「酷い……」

 

「俺が14の時のことだ。こんな理不尽があっていいのか、そんな怒りを胸に秘めながらヘインダールにい続け……何時しか弦殺師(あやとりし)とか副団長なんて呼ばれるようになった。何時しかヘインダールを出る事を考えながら傭兵稼業を続け、次元世界を渡ったある日……俺はテオに出会ったんだ」

 

「え?」

 

「はい?」

 

いきなりのテオ教官が出てきて一同、唖然とする。

 

「テオはいきなり俺達の前に現れたんだ。そして……俺に手を差し伸べてくれた。真意はわからないがどうやらその時は次元世界を旅してたそうでな。ヘインダールの中で浮いていた俺を見つけ出して強引に俺を連れ出し………いや、攫っていったんだ」

 

「何してんのあの人⁉︎」

 

「今では感謝している、俺を攫ってくれて。そして今で使っていたデバイスを仕舞い、剄を封じ、テオに勧めるままレルムに入った………後は知っての通りだ」

 

リヴァンは自分の過去を話し、どこか楽になった気もするが。過去が……ヘインダールが今も自分を欲している事に責任感を感じているようだ。

 

「俺は今でも魔力が高くて傲慢な奴は嫌いだが……レンヤ達は認めている。シェルティスは違うが……」

 

「え、そうなの?」

 

「結局人なんだ。魔力量が少なかろうが悪い奴もいるし……例え高くてもレンヤ達のような奴もいる。俺はただ嫌悪したい敵が欲しかっただけで、八つ当たりしたかっただけなんだ……ふう、しまったな。最初の方、話す必要なかったのに」

 

「そんなことないよ」

 

「ありがとう、話してくれて」

 

「はは、分かっているならシェルティスとも仲良くすればいいのに」

 

「ふ、ふざけんな!誰があんな奴と……!」

 

「ふふ」

 

「よかったね」

 

「ああ、そうだな」

 

ヘインダールの動向や目的は分からないままだったが、リヴァンの一端を知れて良かったと思う。

 

どうにか暗い雰囲気を脱した所で、本日の依頼が全部終わったこともありそのままレポートを書く事にした時……

 

〜〜〜〜♪

 

今度は携帯端末に着信が入ってきた。

 

「おっと……」

 

「もしかしてまた兄さんが?」

 

「いや、噂をすればだ」

 

端末の画面にはテオ教官の名前が映っていた。

 

「はい、魔導学院VII組、神崎 蓮也です」

 

『よお、頑張っているか?』

 

「珍しいですね。実習中に連絡してくるなんて、何かありましたか?」

 

『ああ、お前達全員に行ってもらいたい場所がある。実習課題が片付いたらでいいから地上本部正面に向かって欲しい』

 

「地上本部に?一体何故?」

 

『事情は後で説明する。夕方5時過ぎに行ってくれ、B班にも同様に伝えてある。査察官殿にも許可はもらっているから遠慮なく行ってこい』

 

「ちょ、ちょっと教官ーー」

 

ブツン……

 

「くっ……」

 

「な、何だったの?」

 

「またテオが無茶振りをしてたみたいだが……」

 

「それで、テオ教官はなんて?」

 

「ああ……よく分かないけど」

 

通話の内容を皆に伝えた。

 

「地上本部に?」

 

「なんでまた……」

 

「相変わらず何考えているか分からない人だね〜」

 

「でもキリもいいし、今から行ってみよう」

 

それから街を散策し、到着予定前に地上本部に向かった。

 

「さて、来てみたものの……」

 

「一体何をするんだろう?」

 

「定刻までまだある。気長に待とうぜ」

 

「そういえばリヴァン君、デバイスの修理をしないの?」

 

「ああ、そのことか。そろそろ仕舞っていた物を引っ張り出そうと思ってな」

 

リヴァンは懐ろから何かを取り出し見せてくれた。琥珀色の勾玉の形をしたデバイスだった。

 

「もしかして、それが?」

 

「以前使っていたデバイスだ。名前はフェイルノート」

 

「へえ、矢入らず弓、不流(ながれず)魔弓(まきゅう)の異名を持つデバイス、ね」

 

「リヴァンってもしかして……」

 

「ああ、本来は弓を使う。レンヤとなのはが見た女に弓を教えたのも俺だし」

 

「なるほどね」

 

「でもリヴァンはすごいね。剣に鋼糸、弓まで使えるなんて」

 

「器用貧乏と思ってもいいぞ」

 

「謙遜しないで。カリブラって人にも渡り合えたんだよ、充分誇ってもいいと思う」

 

「そうか……」

 

「ーーあら、もういたのね」

 

ちょうどそこへB班がやってきた。

 

「やっほー、レンヤ君」

 

「はやてちゃん!」

 

「そっちも来たか」

 

「皆、お疲れ様」

 

「こちらも早く来たのですが……」

 

「こっちはちょうどいい所で課題を終わらせたからね」

 

「そっちも終わったのか?」

 

「当然だ。クラナガンに馴染みはないけど、充分なハンデだろうね」

 

「ん?………あ、ああ、そうだな」

 

シェルティスの言った事に理解が遅くなったリヴァン。実際はイーブンなのだ。

 

「んー、仲良くするのは難しいそうだね」

 

「でも、喧嘩するほど仲のいいんだと思うよ」

 

そんな何気ないフェイトとアリシアの会話に、アリサ達は機敏に反応した。

 

「あなた達……」

 

「……もしかして?」

 

「仲直りしたん?」

 

「はは……さすが女子は鋭いな」

 

「あはは……うん。皆には迷惑をかけちゃったね」

 

「でも、もう大丈夫」

 

「そう……良かったわね」

 

「ふふ……やっと肩の荷が下りた気分だよ」

 

「実習が終わったら誰かの部屋で話とう気分やな」

 

「いいね!」

 

「うん。ちょっと、恥ずかしいけど」

 

一瞬でここまで発展するのはさすが女の子としか言いようがない。

 

カーーン…カーーン…カーーン………

 

ちょうどその時、5時を告げる鐘が鳴った。

 

「ーーお待たせしました」

 

地上本部から出て来たのはオーリス三佐だった。

 

「オーリス三佐?」

 

「何故あなたが?」

 

「此度お呼びした方へお連れします。どうぞこちらへ」

 

地上本部に入って行くオーリス三佐に慌てて付いて行き、エレベーターで最上階の展望台フロアに到着した。どうやら貸し切られているようで人が全然いなかった。展望台の真ん中に長方形のテーブルがあり、その正面に……

 

「来ましたね」

 

温和な気風を放っている老女……ミゼット・クローベルが座っていた。

 

「ミ、ミゼット・クローベル……」

 

「うわぁ、実際に会うと全く違うよ」

 

「ふむ、あの方が……」

 

異界対策課のメンバーとはやて以外は画面越しにしか見た事なかったそうで、初めて会うミゼットさんに緊張していた。

 

「もしかしてミゼットさんがこの場の席を?」

 

「ええ、レジー坊やには話しを通してあるわ。初めまして私はミゼット・クローベル。レルム魔導学院の理事長よ。よろしくお願いする……VII組の諸君」

 

「レ、レジー坊や……」

 

ミゼットさんの発言に驚きながらも席に座り、軽い夕食を出された後改めて先の発言を聞いてみた。

 

「ミゼットさん、先程の魔導学院の理事長とは?」

 

「知っての通り、レルム魔導学院は覇王家が管理されるものでしたが……現在は廃れてしまい、理事は定期周期で管理局の上層部で回される事になりました。私は来年の春に理事の座を降りる予定ですが、その前に幾つかの悪足あがきをさせてもらいました。その1つが……魔道学院に新たな風を起こす事です」

 

新たな風……それこそがⅦ組。魔力量というこのミッドチルダに根付く者たちの価値観を超え、未来に新たな風を吹かせる為に。特別実習という名目で各地に向かわせているのも、今のミッドチルダの姿をⅦ組の面々に見せつけ、対立を知らしめ、未来の事を考えさせるためでもある。しかしそれよりも前に、現実には様々な壁が存在するという事もまた、俺達に知ってもらいたかったという意図もあったのだ。

 

「VII組の発起人は私ですが既にその運用から外れています。それでも一度、あなた達に会って今の話しだけは伝えようと思っていました」

 

「そうですか……話していただきありがとうございます。俺達の事も、配慮しくれたみたいですし」

 

「異界対策課の活動は目を見張る成果ですが、いささか酷使している点も多かったのです。せめてもの手助けで、来年に来るVII組の後輩を含め、ここにいる数名が異界対策課に入るとは思いません……が、このVII組で得たものは必ずあなた達に、このミッドチルダに平和を与えると信じています」

 

「そ、そんな、期待されても……」

 

「感謝します、ミゼットさん」

 

「身に余る光栄です」

 

「ですが……お話を聞く限り、私達が期待されているのはそれだけでは無さそうですね?」

 

「え……」

 

アリシアが惚ける中、フェイトが最もな質問をする。

 

「魔道学院の常任理事の3名……ですね」

 

「僕の父、グランダム・フィルスにラース・リループ査察官。そして聖王教会の教会騎士団団長、ソフィー・ソーシェリーですか」

 

「あ……」

 

「確かに、その3名は……」

 

「どう考えてもミゼットさんとは別の狙いがありそうやな」

 

「ふふ、その通りです。先ほども言いましたが既にVII組の運用は私から離れ、彼ら3名に委ねられている。このうち、知っての通り、グランダム君とラース君はお互い対立する場にある。ソフィーさんも中立の立場にいますが、その思惑は私にも分かりません。そして……あなた達の特別実習の行き先を決めているのは彼らなの」

 

思い返してみれば一体誰が特別実習の行き先を決めていたのか考えた事もなかった。

 

「そうだったんですか……」

 

「……何か思惑や駆け引きがありそうだね」

 

「ええ、VII組設立にあたって譲れない条件として彼らから定時されたものでね。正直、ためらいはしまいましたがそれでも私達はあなた達に賭けてみました。この世界が抱える様々な壁を超えられる光となると思って」

 

自分達に期待を迫られているに対して、ミゼットさん本人の感情を聞いて気持ちを改められる気分になる。

 

「フフ……だがそれも私達の勝手の思惑です。あなた達はあなた達であくまで学生としていてもらいたいです」

 

「そうですか……」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「あ、先ほど私達とミゼットさんは言いましたが……」

 

「他にもミゼットさんに賛同される関係者がおるんですか?」

 

「ええ、ヴェント学院長です。彼とは同級生でしてね。VII組を設立するアイデアにも賛同してくれたのよ」

 

「確かに学院長には色々とご配慮していただいてますね」

 

「3人の理事達は異なり、学院運営に口を出せる立場にありませんが理事会での舵取りもしてくれます。何より責任者として最高のスタッフを揃えてもらいましたからね」

 

「最高のスタッフ、ですか?」

 

最高かどうかは分からないが恐らく……

 

「もしかして……テオ教官の事ですか?」

 

「ふふ、彼だけではないのですがね。ただ学院長が彼を引き抜いたのは非常に大きかったですね。ミッドチルダでも指折りの実力者ですし、何より特別実習の指導に打って付けの人材ですからね」

 

「え」

 

「ミッドチルダでも指折りの実力者?」

 

「特別実習の指導に打って付けの人材?」

 

「ふふ、エース達なら一度は耳にしたんじゃない?テオ……本名、テリオス・ネストリウス・オーヴァ。青嵐(オラージュ)なんて呼ばれているわよ」

 

そこで俺達、管理局組がハッとする。青嵐(オラージュ)……聞いた事がある。

 

「まさか、テオ教官が……?」

 

「一昔前までフリーの魔導師として次元世界を渡り歩き、人々を気まぐれに救い嵐のように去って行った人……そんな高い実力と実績の持ち主……青嵐(せいらん)のオーヴァ。それが、あなた達の担任教官よ」

 

自分達の担任の素姓。それを明らかとなった上で、俺達はさらにミゼットさんの話に耳を傾けるのだった。

 

 



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78話

 

 

「お見送りありがとうございます、オーリス三佐もお忙しい所を」

 

「いえ、皆様も大変でしたでしょう」

 

陽は落ち、既に夜の時間帯になっている中、ミゼットさんから話を聞き終えた俺達はオーリス三佐に見送られながら、地上本部前に並んでいた。

 

オーリス三佐は俺達の方に改めて向き直り、丁寧に一礼をする。

 

「御足労いただき、誠にありがとうございました。それでは皆さん、お気を付けてお帰りくださいませ」

 

「ありがとうございました」

 

「案内、感謝します」

 

「おやすみなさい、オーリスさん」

 

「おやすみなさい、それでは……」

 

再び一礼をすると、オーリス三佐は地上本部に戻って行った。

 

「……ふう、緊張したなぁ」

 

「そうなんか?」

 

「はやてはフレンドリー過ぎだから、実感ないんだろう」

 

「確かにね、ちょっと心配になるレベル」

 

「ふふ、そうだね」

 

「皆酷いんよ〜!」

 

「まあそれはいいとして………ミゼット・クローベル、噂以上の方だったな」

 

「確かに、老いてなお厳たる風格って感じがしたし」

 

「それでいて年相応の柔らかな感じもしたの」

 

「面白い人だったね」

 

確かに、良く言えば個性的………悪く言えばのほほんとしていると見れなくはないが強烈な印象を与える人物である事は間違いないだろう。だが、それ以上にあの人物は恩義を感じなければならない存在にいるということもまた、間違いない。

 

「あの方が私達Ⅶ組の産みの親ですか」

 

「まぁ、あの軽妙さはともかく。改めて気が引き締まったな、それ以外にも気になる情報を色々と教えてくれたし」

 

「うん……僕達の親兄弟、関係者たちの思惑……」

 

シェルティスの父、ツァリの兄……そして俺の師。Ⅶ組メンバーの身内であり、本局と地上で重要な位置にいる2人と、聖王教会の騎士団団長。そしてミゼット・クローベルの思惑。ミゼットさんは本局統幕議長だが中立の立場にいるらしいが。このⅦ組という存在がミッドチルダ、延いてはこの次元世界の未来に影響を与えると踏んでいるのだろう、それだけに複雑に思惑が絡み合っていると言っていいだろう。それだけ期待されている、という面も感じ取れるのだが。

 

「それにしても、テオ教官の経歴もちょっと驚きだったよね。まさかフリーの魔導師だったとは思もっていなかったけど」

 

「噂で度々耳にした事はあるよ。報酬を払えば何でもやってくれる便利屋って」

 

「それを目の敵にする連中もいるらしくてね。数年前にその連中をまとめて管理局に連れて来たって噂もあるわ」

 

「うーん、聞いてみると特別実習の内容と似ているね」

 

「だから、選ばれたんじゃない?」

 

「せやな、でもあの剣はどう説明をすれば……」

 

「テオ教官の使う大剣は確かに騎士団の剣だったね」

 

「そういえば当然、リヴァンは知っていたのだな?」

 

「ああ、何度か手合わせをしている時に教えてくれた。テオは昔教会騎士団に居たらしいんだが合わなかったらしく、剣も色々とアレンジが入っている」

 

「そ、そうなのか……」

 

「あはは、昔から自由だったんだね……」

 

「ーー確かに、俺は気ままだからなぁ」

 

突如として聞こえてきたテオ教官の声。全員が振り抜くと、何時の間にそこにいたのか、既に現れたテオ教官に視線を向ける。

 

「テオ教官……!」

 

「い、何時の間に……」

 

「やれやれ、俺の過去もとうとうバレちまったか。過去の自分のやんちゃがバレると結構恥ずかしいな」

 

少し気恥ずかしそうにしながら苦笑いするテオ教官。

 

「す、すいません……」

 

「分かるんよ、そういうの……」

 

「お、おう……」

 

すずかとはやてがいきなりぺこぺこ謝り出して戸惑うテオ教官。2人、昔になんかあったのか?とそこにテオ教官の後ろからティーダさんが歩いてきた。

 

「やあ、こんばんわ」

 

「ティーダさん……」

 

「何だが、珍しい組み合わせだね」

 

「不本意だがな。査察官殿の伝言だ、明日の実習課題は一時保留。代わりに、この兄さん達の悪巧みに協力するはめになりそうだな」

 

「え」

 

「悪巧み……ですか?」

 

「ティーダさんが?」

 

「ふう……テリオス、先入観を与えるな」

 

ティーダさんが呆れ顔で溜息をつきながら訂正して本題に入る。

 

「実はⅦ組のお前達に協力してもらいたい事があってな。ラース査察官に相談したところ、こういった段取りとなった。だがこの場で話すのはまずいからな、クラナガン中央ターミナルの司令所にて事情を説明する」

 

用意されていた2台の管理局正式採用車に乗り込み、再びクラナガンで宿泊所のカードキーや依頼などを受け取った航空部隊司令所のブリーフィングルームへと連れられ、そこである事項を告げられるのだった。

 

「テ、テロリスト⁉︎」

 

「ああ、そういった名前で呼称せざる得ないだろう。だが目的も、所属メンバーも、規模と背景すらも不明……名称すら確定していない組織だ」

 

「ま、まるで雲を掴むような話ですね……」

 

「確証はあるんやろうか?」

 

「1時間前に極秘に犯行声明が送られてきた。無視できる問題じゃなくなってな」

 

「そのテロリストが、明日クラナガンで何かをやらかすと?」

 

「明日の夏至祭初日。そこで何かを引き起こすと判断している。夏至祭は三日間あるが……他の地方のものとは異なり、盛り上がるには初日だけだ。奴らがこれを機に何かをするならば、明日である可能性が高いだろう」

 

「ま、俺も同感だ。テロリストってのは基本的に自己顕示欲が強い連中だからな。何しでかすか分かったもんじゃない」

 

「最初は戦力が整っていないからそれを揃えてたって事ね。今は事を起こしきれるだけの戦力が揃ってると見えるわ」

 

恐らく、テロリストの目的は旗揚げだろう。自分たちの名を知らしめるために。

 

「そこから派手に決起して一気に動く……まぁ、テロの基本だね」

 

「……成程」

 

「そ、それで私達にテロ対策への協力を……?」

 

「ああ、航空武装隊も陸上警備隊と協力しながら警備体制を敷いている。だが、とにかくクラナガンは広い、警備体制の穴が存在する可能性も否定できない。そこで遊軍としてお前達に協力してほしいと思ってな」

 

「どうだ、お前達。特別実習での活動内容として受けるも断るもお前達の自由だ。断った場合は、当初の予定通り、査察官殿から課題を回してもらう。夏至祭絡みの細々とした依頼は色々とありそうだからな」

 

受けるかどうか……俺とアリサは一度顔を見合わせ、その後Ⅶ組全員と視線を向ける。全員が首を縦に振ったのを確認し、自分達の決意を告げる。

 

「VII組A班、テロリスト対策に協力させていただきます」

 

「同じくB班、協力したいと思います」

 

「……そうか」

 

少し嬉しそうにしみじみとした様子で11人の意思を感じ取るテオ教官。ティーダさんも嬉しそうに笑う。

 

「感謝する。早速、担当してもらう巡回ルートの説明をする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティーダさんの説明が終わる頃には夜も更けており、早めに寝ないと明日がきつい時間帯だ。バスもギリギリ運行していて、最終便で何とかシェルニ地区の東方支部に到着した。どういう訳かテオ教官もこちらに着いて来たが。

 

「へえ、ここが異界対策課の支部か。いい家だし機材から家具にいたってまで金かけてんなぁ」

 

「否定はしません、不相応なのは分かっていますから」

 

「おいおい良い子ぶりか?俺より給料良いくせに」

 

「それとこれとは話しが違います!」

 

「それに教官だってお酒に使わなければもっとマシでしょう」

 

「ふ、だからって逃れられないのが人間さ」

 

「やっぱっ駄目だコイツ」

 

「そ、そういえば教官は以前、騎士団に居たんですよね。それからどうしてフリーの魔導師になってから教官に?」

 

なのはが場の空気を変えようとすると同時に疑問を聞いた。

 

「ん?そうだなぁ……騎士団にいたのは腐った世界を是正する為だったんだ」

 

「え」

 

「俺がいた場所は差別が酷くてな、それを変える為に入ったんだが……想像以上に腐敗した実情を目の当たりにして失望して技とデバイスを盗んで退団。今はまだマシだがな。それから各地を転々としながら所々で人助けしてたらいつの間にか青嵐(オラージュ)なんて呼ばれるようになって、それから名を上げようとした馬鹿どもが集まりだしたんだ」

 

「そ、その人達は……?」

 

「まあ、ご想像通りだ」

 

「「「「「………………」」」」」

 

「そんで偶然にヘインダール教導傭兵団を見つけて、そこに明らかに周りと雰囲気が違うリヴァンを攫って。俺の噂を聞き付けたヴェント学院長がスカウトして今に至るわけだ」

 

……思ってた以上に壮絶だった。こんな事がありながらいつもヘラヘラしていると逆に凄い。

 

「まあ俺の事はいい。お前らも色々あってチームワークもよくなったみたいだし、俺は先に休ませてもらうぞ」

 

「あ、それなら2階を上がって奥の部屋が空いています」

 

「お、サンキュー」

 

テオ教官は欠伸をしながら階段を上がって行った。

 

「さて、俺達は早くレポートを終わらせるか」

 

「ちょっと、テオ教官が羨ましいかな」

 

「ふふ、そうだね」

 

「慣れているとはいえ、深夜までには終わらせよう」

 

「夜だしお茶は出せないな。作り置きしたクッキーを食うか?」

 

「ありがとう!レン君の作るお菓子は絶品だからね!」

 

クッキーをつまみながらテキパキとレポートを仕上げ、明日の警備に備えてベットに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

そろそろ始まる夏至祭に外がだんだんと騒がしくなる頃、テオ教官はB班の様子を見に先に支部を出て、俺達も巡回ルートを確認した後行動を開始した。

 

基本、実習期間に訪れた地区を回りながら聞き込みをしていく。そして一昨日訪れたレストランに立ち寄ってみると……

 

「フッフッフ……やっぱ近頃の俺は冴えてるぜ」

 

レルムの緑の制服を来た灰色の髪の男性……クー先輩がずいぶんとご機嫌そうに食事をしていた。

 

「こりゃ特賞はいただきだな」

 

「何してんですか……クー先輩」

 

「お、よー、お前らか。実習の方は捗ってんのか?」

 

「は、はい……」

 

「それよりも、なぜここに?」

 

「夏至祭中は学院の方も休みなんだよ。そんで、今後の学院生活の為に一勝負しにきたってわけだ」

 

「勝負?」

 

「ああ、夏至賞でな」

 

「って、思いっきり競馬じゃん」

 

「学生が賭博に走らないでください……」

 

「くくくっ、別に馬券は買ってねえし、いわゆる雑誌の付録のやつだ。さ〜てと、後は神に頼むとしますかね。あ、お前に拝んだら効果あるのか?」

 

「やめてください」

 

そんなくだらない事言いながら、クー先輩は会計を済ませて立ち上がる。

 

「ちょっくら大聖堂に行くわ。お前らも頑張りな〜」

 

「は、はあ」

 

「夢に豪華賞品、頼むぜ神様〜♪」

 

いい悪い顔をしながら、クー先輩はレストランを出て行った。

 

「なんて罰当たりな人なの……」

 

「あ、あはは……」

 

「チャランポランすぎだね」

 

「何だか、テオ教官と気が合いそうだね」

 

「あれとあれが組み合わさるとロクな事が起きなさそうだがな」

 

「は、はは……」

 

相変わらずだと思いながら飽きれて乾いた声しかでない。気をとり直して巡回を再開してレストランを出た時……

 

「あれ?レンヤさん?」

 

「え⁉︎」

 

ばったり夏至祭を楽しんでいるソーマ、スバル、ティアナと出くわした。

 

「久しぶりだな、3人共」

 

「はい、訓練校で会ったきりですね」

 

「お久しぶりです、なのはさん」

 

「ティアナも元気そうでよかったよ」

 

「皆さんも夏至祭に参加するんですか?」

 

「いや、俺達は……」

 

テロリストが暗躍していることを除き、学院での実習の内容を伝えた。

 

「へえ、第3科生VII組ですかぁ」

 

「警備を任せられるなんて凄いです」

 

「そんなことないよ」

 

「私達もそれなりに楽しんでいるし」

 

「そういえば訓練校はどうだ?うまく入っているか?」

 

「はい!レンヤさんの言う通り、ソーマとティアは優しいです!」

 

「ちょ、スバル……!」

 

「はは、まあ、訓練校でもデバイスの違いで浮いた為か3人でチームを組まされましたし……これもまた縁ですね」

 

「ふふ、うまく入っていてよかった」

 

「えっと、レンヤ。彼らは……」

 

「あ、ごめんね。この子達は第4陸士訓練校に在籍していて私達の知り合いなの」

 

「ソーマ・アルセイフです」

 

「スバル・ナカジマです!」

 

「ティアナ・ランスターです、よろしくお願いします」

 

「うん、よろしく。僕はツァリ・リループだよ」

 

「俺はリヴァン・サーヴォレイドだ」

 

「ちなみにティアナはティーダさんの妹さんだよ」

 

「ああ!確かに似ているよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「こらツァリ君、女の子にお兄ちゃんが似ているなんて言われると結構傷つくんだからね」

 

「ご、ごめん」

 

うん、すっかり打ち解けて来たようだな。

 

(……レンヤさん、聞いてくださいよ。あのティアがこの短い期間で初めて会った人と仲良くなるなんて凄いんですよ)

 

(へえ、あのティアナが)

 

(でもしょっちゅう怒るんですよねー。そのせいで他の訓練生に微笑ましい目で見られるのが精神的に辛くて……!)

 

(へ、へえ……)

 

「聞こえているわよソーマ……!」

 

「げっ……」

 

「あんただって座学がダメじゃないの!あの能天気なスバルだって頭いいのに、あんたがしっかりしないと首席で卒業できないんだから!」

 

「痛い痛い痛い!頭をグリグリしないで〜!」

 

「ていうかさり気なく酷っ!」

 

ホント、仲がよろしい事で。これは良いトリオになりそうだ。

 

「ふふ、それじゃあ私達はこれで」

 

「夏至祭、楽しんでいってね」

 

「え、あ、はい……」

 

ティアナ達と別れて、巡回を再開した。

 

次は伝説の三提督の1人、ミゼット・クローベルが訪問するリスト公園に向かった。航空武装隊と陸上警備隊が合同で警備していた。軽く警備の人と話してから出口に向かうと……

 

「ーーフン、君達か」

 

レルムの白い制服を着たランディがいた。

 

「あ……!」

 

「ランディ……来てたのか」

 

「フッ、僕も園遊会に招待されたのでね。そういう君達はこんな日まで実習とやらか?まったくご苦労なことだな」

 

「はあ……(アホすぎて怒る気もしない)」

 

(まあ、慣れな気するけどね)

 

「そういえば、いつも一緒にいるエランっていう執事はどうしたの?」

 

ランディを含む1科生のベルカの名門には執事またはメイドがつけられるようになっている。ファリンさんもすずかのメイドとして学院に登録されている。

 

「常に一緒いるわけではない。執事がいないと何も出来ない騎士と思わないでもらいたい」

 

(どちらかというとお目付け役って感じだけど……)

 

(実際そうじゃない?)

 

「……何か言ったか?」

 

「「何でもないです」」

 

「フッ、まあいい。僕はかの三提督に拝見を賜るつもりだが……あまり妬まないでくれよ。ハハハハ、それでは失礼する」

 

意気揚々にガラス庭園に向かうランディ。だがすでに昨日、その1人に会っていたので特に何も思わない。

 

「昨日存分に話したんだけどな」

 

「はやてに至ってはミゼットさんに気に入られているし」

 

「むしろ哀れに見えてくる……」

 

「私達の態度も変わっていなかったし、それはそれでよかったのかな?」

 

「うーん、賛否が難しい所だね」

 

「まあ、ここは大丈夫そうだし次に行こうよ」

 

リスト公園を出ようとしたと時、端末に通信が入った。テオ教官からだ。

 

「はい、魔導学院A班、神崎 蓮也です」

 

『ーーテオだ。状況の報告を頼む』

 

「了解しました」

 

声色からいつもの飄々とした感じはしなく、かなりシリアスな感じだった。

 

俺は午前中に巡回した各街区の状況について報告した。

 

『そうか、聞く所目立った動きはなしか。少数精鋭か、それとも監視の目を潜っているのか……警戒は怠るなよ』

 

「はい」

 

『そろそろ三提督を乗せた車がクラナガン各地の行事に参加する為地上本部を出発する。ラルゴ・キールが聖王教会の大聖堂。ミゼット・クローベルがリスト公園。レオーネ・フィルスが競馬場だ。レオーネには凄腕の護衛がいるから問題ないとして……お前達はミゼットの方を頼むぞ』

 

「了解です。リスト公園に向かいます」

 

通信を切り、通話の内容を伝えた。

 

「そう、もうすぐなんだね」

 

「ちょうどよかった、すぐに巡回をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車道に通行規制がかけられ。それからしばらくたった時に、ミゼットさんを乗せた車が到着し。問題なく庭園に向かわれた。

 

「うん、後はここの警備に任せても大丈夫そうだね」

 

「中には一応魔導師もいるしね」

 

「姉さん、あんまり陰口はよくないよ」

 

「僕達も巡回を再開しようか」

 

「だがもう昼だ。どこかでメシを食べたいな」

 

「夏至祭だ、屋台は幾らでもあるだろう。それでいいな?」

 

「うん」

 

「このまま何事もないといいんだけどね……」

 

その後、屋台で簡単に昼食を済ませて。今一度担当している街区の巡回を行った。

 

そして時刻は5時前、最後の巡回に地上本部前の広場を訪れた。

 

「そろそろ行事も終わる頃か」

 

「確か、三提督が戻るのは夕方頃だっけ?」

 

「ああ、行事が終わったら懇親会があるらしいからな」

 

「となると、今の時間帯が1番気が緩みそうだね」

 

「だね。テロが本当ならそろそろ来るかも」

 

「私達は最後まで気を引き締めて行こう」

 

巡回を始めた所で、広場の一角に見覚えのある人がいた。

 

「フィアット会長……!エテルナ先輩も」

 

「あ、レンヤ君達」

 

「これは奇遇ですね」

 

「デイライト生徒会長……」

 

「エテルナ先輩も珍しいですね。コッチにいるなんて」

 

「ふふ、確かに招待状が届きましたが……わたくしも偶には友人との付き合いの方が優先したい時だってあります」

 

「なるほど、むしろ安心しました」

 

「う〜ん、やっぱりお祭りはいいね。これでテロの心配がなければよりよかったんだけど……」

 

「え……」

 

さらりとテロのことを知っているフィアット会長に驚く。

 

「どうしてそれを?」

 

「ひょっとしてテオ教官からですか?」

 

「ええ、君達の実習の関しては私も少なからず関与してるの。昨日もラース査察官からの要請を教官に取り次いだ所だよ。ここに来た本来の目的は、どちらかといえばそれかな」

 

「そうですか……」

 

「すみません、お世話になりっぱなしで」

 

「ありがとうございます」

 

「いいよいいよ、別に大したことないし」

 

「おや、細かい手続きや書類作成も手伝っていましたよね?テオ教官に変わって各方面の連絡もしているようでしたし」

 

「え、そうなんですか⁉︎」

 

「テオ教官……ちょっとは見直したと思ったんだけど……」

 

「あいつのサボリ癖がそう簡単に治るわけない」

 

そもそもあの一件だけで過去の事がなくなる訳でもないが。

 

「ま、私も好きでやっているから別段苦でもないんだよね。そういえば、レンヤ君達はミゼット・クローベルと会ったんだよね?」

 

「はい、驚きましたけど……」

 

「普通のおばあちゃんって感じでしたよ」

 

「へえ、結構意外だね」

 

「いかに高い階級を持っていも、それは人でしかありません。階級で人柄は決められないということです、レンヤ君達のように」

 

「にゃはは、ありがとうございます、エテルナ先輩」

 

「ふふ、とそうでした。レンヤ君、あなたに聞きたい事がありました」

 

「俺に?」

 

「先日、レグナス家の書庫で古い文献を見つけました。その文献に興味深い一節がありました」

 

「それはどんなのですか?」

 

「確か……“なぜ、鳥は空を飛ぶのだと思う?”だったと思うわ」

 

「!」

 

その言葉は………彼女の………

 

「うーん、何かの禅問答なのかな?」

 

「確かに、これじゃあ答えがバラバラだよ」

 

「普通に考えたら……餌を捕るためかな?」

 

「レン君、判る?」

 

「…………………」

 

「レンヤ?」

 

「ーーそれが現実の理だから。感情ではどうにもならない……」

 

「ッ!」

 

「レンヤ?」

 

「って、拳を握りしめながら、怨みながらそう言っていた」

 

「それって、もしかして……」

 

「でも、俺は違うと思う」

 

彼女は確かにそう言ったが、他人の言葉をそのまま言っていただけで自分の言葉で言ってはいなかったしな。空を見上げながら自分の言葉で答える。

 

「俺は……自由だからだと思う。あの空を、あの蒼穹を自由に飛べる翼があるから」

 

「あ……」

 

「……ふふ、ありがとうございます。あなたに聞いてよかった、おかげで胸の違和感が消えました」

 

「よかったね、ルナちゃん」

 

「なんだなんだ、揃い踏みか?」

 

と、そこへクー先輩がやってきた。その表情はそこはかとなく暗い感じがする。

 

「あ、クー先輩」

 

「あれ、クー君?」

 

「あなたもいらっしゃっていたのですね」

 

「まーな」

 

「そういえば夏至賞に行ったんじゃないんですか?」

 

「もう結果は出ましたよね?」

 

リヴァンが夏至賞の結果を聞いてみると、クー先輩は暗い顔をさらに暗くした。

 

「聞いてくれるな……」

 

「なるほど」

 

「これを機に、賭け事は控えて下さいね」

 

「そこははっきり止めようよ、フェイト」

 

「全く、毎度の事ながら学習能力がないのですか?」

 

「これで何回目だろうね〜?」

 

「あ、あはは……」

 

カーーン……カーーン……カーーン……

 

クー先輩に呆れる中、3時を告げる鐘が鳴り響いた。

 

「もう3時だね」

 

「各地の行事も終わるくらいの時間かな?」

 

「私達も、もう一回り巡回しておくべきだね」

 

「そうだね、そろそろ気も緩み始めているし」

 

「ああ、同感だ」

 

「すみません、先輩達。俺達はこれで……」

 

「ええ、どうかお気をつけて」

 

「なんだもう行っちまうのか?」

 

「何かあったら気軽に連絡して、協力するから」

 

「ありがとうございます、それではーー」

 

いざ巡回に行こうとした時、周辺の異変とざわめきが聞こえてきた。騒ぎの方向を見てみると、広場にあった噴水が勢いよく水を出していて、水が囲いからはみ出していた。

 

「あれは……」

 

「噴水が……」

 

「あれ、どうしたの?」

 

「……これって……」

 

「故障?それにしては……」

 

「これは、何かの圧力が高まっているような……」

 

「ああ、こいつは……」

 

どんどん水が溢れ始め、住民不安が比例するように大きくなっていく。

 

「これって……」

 

「余興にしてはずいぶんと……」

 

「いやーー」

 

そして次ぎは地揺れが始まり、次々とマンホールの蓋が吹き飛び水が飛び出してきた。それによって住民達がパニック状態になる。

 

「きゃっ……!」

 

「始まったね!」

 

「ああ!」

 

「ッ……やばっ!」

 

飛び上がったマンホールが子どもに向かって落ちてきた。すぐに飛び出し子どもを抱きかかえてその場を離れた瞬間、コンクールを砕いてマンホールが地面にぶつかった。

 

「大丈夫か?」

 

「ふえ、ふえええ……」

 

「ーーミウラ!」

 

よほど怖い思いをしたのだろう、今にも泣きそうだった。すぐに親御さんが駆け寄り、子どもを渡した。っていうかミウラか……実際にあれだけ歳が離れていることを実感する。

 

「レン君!」

 

「フェイト、会長達は?」

 

「会長達は避難誘導をしてくれているよ!」

 

「おそらくこれは陽動だ、本命は……!」

 

「うん、私達はリスト公園に!」

 

「急ごう!」

 

急ぎリスト公園に向かうと、公園内には魚獣型のグリードが放たれていた。航空武装隊と地上警備隊はグリードの対応に当たっていた。

 

「これは……!」

 

「君達は……!」

 

「協力している魔導学院の……⁉︎」

 

ゴゴゴゴゴ………!

 

「今のは……!」

 

「クリスタルガーデン……園遊会の会場からだよ!」

 

「爆発音じゃない……おそらく地面が崩れた音!」

 

「まずいぞ、敵はすでに中だ!」

 

「レンヤ!」

 

「ああ!俺達が見てきます、この場を確保しつつ応援要請を!」

 

「分かった……!」

 

「頼むぞ!」

 

すぐさまデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「フェイルノート、セットアップ!」

 

《ヤー》

 

リヴァンがフェイルノートを起動してバリアジャケットを纏う。リヴァンのバリアジャケットは一見狩人風で装甲などは両手の籠手ぐらいしかない。左手に黒い洋弓、片刃の剣が腰に佩刀されていた。

 

「へえ、リヴァンのバリアジャケットかっこいいなぁ」

 

「あんまジロジロ見んな」

 

「それよりも急ぐよ!」

 

「うん、早く行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在テロリストがミゼットとその付き人の女性を拘束しており、リーダー格と思われるメガネの男が左右に外にいる同種のグリードを控えさせていた。男の後ろには大きな穴が開いており、どうやら地下道に繋がっていたようだ。

 

「御機嫌よう、査察官殿。招待されぬ身での訪問、どうか許していただきたい」

 

男の正面には肩を撃ち抜かれて膝を着いているラース査察官がいた。

 

「……君達は……」

 

「貴方には恨みはありませんが……スポンサーから派手にやれとのことで、許していただきたい」

 

「くっ、提督は関係ないだろう!2人を解放したまえ!」

 

「ラース君……」

 

「ふふ、安心して下さい。殺すつもりも傷付ける気もありません。ただ、彼女らには人質になってもらいますがね」

 

「ッ……!」

 

「そこまでだ!」

 

その時、扉が勢いよく開き、レンヤ達が駆け込んで来た。

 

「あなた達……!」

 

「き、君達は……!」

 

「来てくれましたね……」

 

「兄さん、大丈夫⁉︎」

 

「すぐに応急手当を……」

 

アリシアが回復魔法でラース査察官の肩の傷を癒していく。

 

「レルム魔導学院……噂はかねがね聞いている。管理局のエース達が在籍しているクラス………VII組」

 

「目的は聞かない、早急にお二方を解放してもらう!」

 

「ふ、やれるものならな」

 

男は笛を取り出し、吹き始めると左右にいたグリードが迫って来た。

 

「……!」

 

「グリードを……操っている⁉︎」

 

「そ、それで外のグリードも」

 

「ジェイル・スカリエッティ……一体どこまで……!」

 

グリードに動きを止められている間にテロリスト兵に銃を突き付けられ、2人は穴に歩かされる。

 

「待てっ!」

 

「ーー見つけた!」

 

穴から人影が飛び出してくるとテロリスト兵を飛ばして、男に斬りかかってきた。

 

ガキンッ!

 

「ッ⁉︎」

 

「甘いです、よっ!」

 

男は杖型デバイスで防ぎ、弾き返した。

 

「ソ、ソーマ君⁉︎」

 

「どうしてここに……」

 

「この人達がいきなり襲って来て、スバルとティアを攫って行ったんです!」

 

「なっ……」

 

「ああ、君は彼女達の連れか。彼女達なら……」

 

すると穴の中から霊型のグリードに吊り上げられた気絶しているスバルとティアナが現れた。

 

「スバル!ティア!」

 

「退けっ!」

 

「ぐあっ……!」

 

「ソーマ君!」

 

「まあちょうどいい、いかに彼らが屈強でも大人2人を抱えて行くなど無謀だからな。人質なら見せ知らしめれば誰でもいいのさ」

 

ソーマをレンヤ達の後方に飛ばし、テロリスト兵に視線で合図してミゼットさんと女性を解放してスバルとティアナを抱えた。

 

「くく、それでは失礼する。後はこいつらが相手をしてくれる、せいぜい頑張るのだな」

 

テロリストはスバルとティアナを連れて穴に入っていった。

 

目の前には魚獣型のグリードが2体、霊型が2体で道を塞いでいる。

 

「くっ……退いて!」

 

「グレートワッシャー2体、スペクター2体、行けるよ!」

 

「VII組A班、全力で撃破する!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

それを合図に2体のグレートワッシャーは叫びを上げながら大口を開け、スペクターは背後にいる一般人を狙ってきた。

 

「させるかよ!」

 

リヴァンが矢なしの弓を構え、弦を弾いた。次の瞬間、幾つもの鋼糸がかなりのスピードで放たれスペクターを斬り刻んだ。

 

「ずいぶんと凶悪になったものだな!」

 

「じゃなきゃ生きてられなかったんでな!」

 

レンヤが落ちてきたスペクターを蹴り飛ばし一般人から遠ざけ……

 

「はあっ!」

 

フェイトがハーケンフォームのバルディッシュで2体まとめて斬り裂いた。

 

2体のグレートワッシャーは大口でなのはとアリシアに噛みつこうとした。

 

「そんな大振り、効かないよ!」

 

「幾らいようとただのグリードだもんね!」

 

2人は飛び上がってグレートワッシャーの背に乗り、ゼロ距離で魔力弾を撃ち込む。そして2体の周りに薄紫色の花びらが飛び交い……

 

「いっけええっ!」

 

一斉に爆破させた。煙が晴れたら2体の姿はなかった。

 

ミゼットさんと女性の無事を確認し、アリシアとツァリがソーマ査察官を診ており、周囲を警戒しつつ穴を調べた。

 

「レゾナンスアーク、ここはどこに繋がっている?」

 

《どうやらそこは廃棄になった地下道のようです。地下道はクラナガン中に広がっているため、敵の最終脱出地点は予測できません》

 

「そうか……」

 

「あの、レンヤさん!」

 

「ソーマか、怪我はなかったようだな」

 

「はい、これでも頑丈が取り柄ですから」

 

「で、まさか着いて行くなんて言わないだろうな?」

 

「はい」

 

ソーマは迷いなく頷いた。

 

「しょうがないなぁ」

 

「ちょっとレンヤ」

 

「今はうだうだ言っている時間はない。レンヤがいいならそれでいいだろう」

 

「でも……」

 

「ソーマの実力は分かっているし自分の身は自分で守れるだろう。最終的の責任は俺が取る、だから安心しろ」

 

「……ソーマはいいの?」

 

「はい!」

 

「そう、ならこれ以上は何も言わないよ」

 

そこへ治療を終えたアリシア達が戻ってきた。

 

「よし、追いかけるぞ」

 

「ま、待ってくれ!僕も助太刀する!」

 

妙にビクつきながらランディがそう言ってきた。

 

「いや、お前にはこの場を任せてもらいたい」

 

「しかし……!」

 

「ここにはまだ一般人はおろか怪我をしているラース査察官とミゼットさんもいるんだよ?」

 

「それに外にはまだグリードも残っているの。ここを手薄にするわけには行かないの」

 

「僕からもお願いするよ。兄さんを守って……!」

 

「……分かった、ここは任せてくれ」

 

「お願いするよ」

 

「決まりだな、行くぞ!」

 

「はい!」

 

そしてレンヤ達は巨大な大穴の中へと飛び下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り立った地下道は思いのほか古く、通路の所々にカンテラが設置されておりそれで通路を明るくしていた。

 

「クラナガンの地下にこんな場所があるなんて」

 

「ミッドチルダも最初っから近未来的じゃない時代もあったんだな」

 

「こんな近くにあるのに誰も知らない場所かぁ」

 

「感想言ってないで行くぞ」

 

〜〜〜〜〜♪

 

そこに端末に通信が入ってきた。

 

「魔導学院VII組、神崎 蓮也です」

 

『こちらテオだ。査察官殿から連絡をもらった。詳しい状況を説明してくれ』

 

テオ教官はいつにも増して真剣な雰囲気だ。俺は敵勢力と人質がいる事を説明してた。

 

『了解、こっちは航空武装隊とそっちに急行している。可能な限り先行を足止めしろ。ただし人質の安全を最優先にしろよ』

 

「分かりました」

 

『後、そこにいる奴にもな』

 

そこで通信が切れる。

 

「やっぱりソーマの事はダメだった?」

 

「ああ、怪我をさせなければ大丈夫だ」

 

「大丈夫です!怪我はしません!」

 

「なら、先を急ごう!」

 

それからしばらく通路を疾走していると開けた場所に出た。真ん中に大きな石橋が架かっていた。

 

「ここは……」

 

「何だか不気味な感じがするよ……」

 

「首都の地下にこんな場所が……?」

 

「どうやら旧暦時代に作られた地下墓所のようだね」

 

「ここを通って行ったのは間違いないみたいだね」

 

「急いで行こう」

 

「はい!」

 

石橋を走って渡り、反対側に渡ろうとしたら、目の前に2体悪魔型グリードが現れ、道を塞いだ。

 

「ちっ、邪魔を……」

 

「私に任せて!」

 

「もう1体は僕が……!」

 

なのはとソーマが飛び出した。

 

「やっ、たあああ!」

 

なのははステップを踏みすごい勢いで回転しながら飛び上がった。

 

「まだまだ!奥義……太極輪!」

 

片方のグリードに激突して、すぐにグリードの周囲を駆けながら攻撃して撃破する。

 

「外力系衝剄・閃断」

 

衝剄を線状に凝縮して放ち、もう一体のグリードを真っ二つにし……

 

「はあっ!」

 

一瞬で近付き、一閃した、グリードは塵となって消えた。

 

「ビ、ビックリしたぁ〜……」

 

「連中は後どれだけグリードを備えているんだ?」

 

「それに、明らかに待ち伏せされてたね」

 

「あの笛を持っていた男性だね」

 

「あの時、あの笛の音色が響いたらグリードがまるであの人の望んだとおりに動いた」

 

「そうだな……あの笛にそういう力があるのか、あるいはそういう音があるのか……」

 

「とにかく先を急ぎましょう!」

 

「ああ、そうだな」

 

「考えても仕方ないね」

 

奥へ進み、しばらく通路を駆け抜けていると大きな場所に出た。その先にテロリストがいた。

 

「……!」

 

『追いついた……!』

 

『先行するよ!』

 

『私も……!』

 

『僕も行きます!』

 

『威嚇は俺がやる』

 

『僕も足止めくらい……!』

 

『任せて!』

 

『頼む……!』

 

念話で瞬時に役割を決め、行動に移った。そして魔力を込めて息を吸い……

 

「そこまでだっ‼︎」

 

内力系活剄・戦声

 

空気を震動させる剄のこもった大声を放った。

 

「何っ……⁉︎」

 

まさかの事態に3人のテロリストは虚を突かれ、2人を抱えたテロリストは足を止めて後ろを振り向く。

 

「あ……」

 

「皆さん……」

 

「シュート!」

 

「そらっ!」

 

「えいっ!」

 

なのはが足下に魔力弾を撃ち込み、さらに逃げようとした所をツァリの花びらとリヴァンの鋼糸が逃げ道を塞いだ。その隙にアリシアとフェイトが左右を抑え……

 

「はあああっ!」

 

「なっ……!」

 

「ぐっ」

 

ソーマが懐に飛び込みスバルとティアナを抱えているテロリストの腕を薙いだ。2人はそのまま空に投げ出され……ソーマとなのはに抱きとめられた。

 

「大丈夫、ティア?」

 

「お、お……」

 

「お?」

 

「遅い!いつまで待たせるの!」

 

「ちょっ、暴れないでよ……!」

 

「スバル、怪我はない?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「ふふ、こうして抱えるのも久しぶりだね。ちょっと腕が辛いかな?」

 

「な、なのはさん……!」

 

軽口を叩けるみたいなので、ひどい事はされてなさそうだ。

 

「ーーここまでだ。大人しく投降しろ」

 

「あなた達のスポンサーについて詳しい説明してもらいます」

 

「こいつら……」

 

「……………」

 

「いくらグリードがいても、私達相手じゃあ勝ち目はないよ」

 

「その、できれば穏便にしたいんです」

 

テロリストに現在の状況を説明して、投降を促す。

 

「フフ……恐れ入った。レルム魔導学院……まさかここまでの逸材を育てていたとは……」

 

「世辞はいらない。大人しく投降するか、抵抗して1度殴られてから拘束されるか。どっちにする?」

 

「こいつら……!」

 

「……分かった、降参だ。少なくとも我々に勝ち目が無い事だけは認めよう」

 

「それじゃあ……」

 

「大人しく降参するんだな?」

 

自嘲するかのように笑いながら、構えを解いて腰に手を当てる。その姿を見て、なのはは取り敢えず落ち着いてもらえたかと安堵する。

 

「……ふぅ、何とかなったねレン君」

 

「…………」

 

「どうかしたの、レンヤ?」

 

奴の表情から何か含みがある事に気付き、次に何をするのかわかりった。

 

「っ、動くな!」

 

「今気付いた所で遅い!」

 

奴は腰に当てた手をさらに下に滑らせながら笛を取り出す。同時に素早くそれを口に当てて音色を奏でた。

 

それに呼応して、最初からこの場所にあったと思われる大剣が反応した。大剣は縄と札で厳重に地に封印されていたようだ。大剣の刀身の紋様が赤く光り、一瞬で封印を燃やし、ゆっくりと地面から抜け。ひとりでに空中に浮いて立ち塞がった。

 

「な、なに⁉︎」

 

「これは……!」

 

「クックックッ……ハハハハハハハハッ‼︎これぞ業魔の笛の力……!旧暦時代に封印されたのグリードすらも従わせる笛だ……!さぁ、それでは今度こそ死出の旅路へと向かいたまえ……レルム魔導学院VII組の諸君!」

 

「……これは……」

 

「な、なにこれ……⁉︎」

 

「なんて瘴気……!」

 

「旧暦時代に封印?まさかベルカの文献にあったゴベラの剣⁉︎」

 

「ま、まだ大丈夫。オバケじゃない……」

 

「う……」

 

「な、なに?この感じ……」

 

「震えが止まらない……」

 

発生した瘴気がグリードと出会って間もないソーマ達には厳しく。他の皆も気圧されている。

 

「はああああっ‼︎」

 

俺は刀を上段に構え、魔力を込めて一気に振り……瘴気を吹き飛ばした。

 

「あ……」

 

「……!」

 

「皆!気合いを入れろ!今回の実習で俺達が得たものを考えてたらーー勝てない相手じゃない!」

 

「ああ、そうだな!」

 

「私も、いい加減に前に進まないと……!」

 

気合いを入れなおし、それぞれデバイスを構える。

 

「クッ……悪あがきを!行くがいい、封印されしグリードよ!この愚かで哀れな若者共に無情の裁きをくだしたまえ‼︎」

 

男の叫びを合図に、大剣は俺達目掛けて振り下ろされた。

 

「フェイト、2人を安全圏へ!」

 

「了解した!」

 

フェイトに指示を出し、なのはと飛び出す。

 

「ふっ!」

 

「やあ!」

 

大剣に斬撃と打撃を入れるが、まるで効いてはいなく、横に薙ぎ払われたのを受け流す。

 

「全然効いていないな……」

 

「なら、直接……!」

 

ソーマが飛び出し、剣に剄を込める。

 

「外力系衝剄・蝕壊」

 

相手の武器に剄を流し込み硬度を失わせ破壊する技。その状態でつばぜり合いが続いた時……

 

「ぐあっ⁉︎」

 

突然、見えない何かに掴まれたように浮き上がった。首を絞めけられているようで、首が凹んでいた。

 

「ソーマ!」

 

「なるほど、剣がグリードで動いているんじゃなくて。見えないグリードが振っていたわけか」

 

「この……!」

 

「え、それって……」

 

ツァリの花びらで剣の周囲を囲み、フェイトも驚愕しながらも剣の周囲に魔力弾を撃ち、当たる前に炸裂させた。その衝撃でソーマの拘束が解かれ、落ちてきた所を受け止めて後退する。

 

「どうする、手がつけられないぞ」

 

「念威でも感知できないよ……」

 

「幽霊型のグリード……フェイトちゃん」

 

「だ、大丈夫。いい加減乗り切らなきゃ」

 

「レンヤ、見えるよね。あの骸骨ヤギを」

 

「まあな」

 

聖王の力を一部解放して、両目の色が変わる中、鮮烈になった視界に大剣を持った黒い外套を着たヤギの骸骨のグリードが見えてきた。

 

「攻撃する瞬間に実体化するよ。合わせてレンヤ」

 

「ああ」

 

同時に走りだし、振り降ろされた大剣を2人で受け流し、胴体を斬った。

 

ギャアアアアッ!

 

「可視化したか!」

 

「ッ……!」

 

うっすらだった姿に色がつき、完全に見えるようになった。

 

「フェイト、大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫……」

 

「行っくよ〜!」

 

追撃をかけようと接近するアリシア、それをグリードは黒い波動で弾き飛ばした。

 

「とっ……」

 

「上がらせてもらえないな」

 

「僕が動きを止めるよ。リヴァンが落として」

 

「任せろ!」

 

花びらがグリードの周りを飛び交い動きを止める。その瞬間に矢が放たれグリードは落下した。

 

「今だよ!」

 

「ああ!」

 

「う、うん!」

 

すぐさま3人で連続で一撃を入れて、グリードは剣を突き刺し膝をついた。

 

「ソーマ!」

 

「はい!」

 

ソーマが空中で前転と同時に兜割りの両用でグリードの頭に衝剄を撃ち込んだ。

 

グリードはその強烈な一撃に耐えきれず、あたま断末魔をあげ、体を無数のコウモリに変えて天井に空いていた穴に逃げて行った。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

「なのは、アリシア!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

なのははグリードを残した大剣を浮かせて、加速魔法で撃ち、テロリストの背後にある壁に勢いよく刺した。

 

「⁉︎」

 

テロリストの視線がそれた隙にアリシアが接近して取り巻きのテロリストの足を撃ち抜いた。

 

「ぐあっ!」

 

「なっ……」

 

「貴様らっ……!はっ⁉︎」

 

アリシアに目がいった隙に懐に飛び込み……

 

「せいっ!」

 

刀を下から上へと振り上げた刃が業魔の笛を両断する。

 

「ぐぅ……業魔の笛が……⁉︎」

 

地面に落ちた笛の断面から紫色の粒子が空中に霧散して消えていく。

 

「これで終わりだ」

 

「ふう〜……かなり厳しかったけど……」

 

「今度こそ、大人しくしてください」

 

「はあはあ……」

 

「だ、大丈夫、フェイトちゃん?」

 

「ぐっ……」

 

「どうすれば……」

 

「……………………」

 

手を押さえながら無言を貫く男。そんな彼を、万策が尽きた2人は救いを求めるような視線を向ける。

 

「既に死は覚悟の身。いつ果てても文句はない……だが!」

 

「!」

 

無言のまま閉じていた目。開かれたその目には、執念に似た炎が燃えているように感じ取れた。

 

「今回の作戦だけは屍すら残すわけにはいかん……!」

 

「まだ抵抗するつもりですか?」

 

「例え刺し違えても、貴様らをーー」

 

「ーーその必要はないと思われます」

 

突然、上から少女……にしては幼い声が聞こえてきた。

 

そして巨大な緑の鳥がアリシアに向かって降りてきた。

 

「……っ⁉︎」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティ発動、フェザーバレット」

 

緑鳥が翼を羽ばたかせ、羽を弾丸のように撃って来た。アリシアは後退して羽を避けた。

 

「な……」

 

「鳥⁉︎」

 

「あなたは……!」

 

緑鳥の背に水色の髪をしたルーテシアくらいの女の子がいた。

 

「た、助かったぞ……」

 

「早急に撤退を、そして……お久しぶりです、およそ1か月ぶりですね」

 

あの時、ベルカで俺を襲って来た子だった。

 

「ーー君は何者だ、そいつらの仲間なのか!」

 

「そいつら……彼らの事と推定。ナイン、彼らの組織に属していません」

 

「彼女はスポンサーの方の者だ。協力関係にはあるがな」

 

「……お前達は一体何者だ、何が目的なんだ!」

 

「ふむ、それもそうだな。教えておこう……私ペルソナ、そして我らはD∵G教団!偉大な神の使者たるグリードを崇め、世界を救う組織だ!」

 

「なっ……!」

 

あまりにも突飛した内容に、一同が驚愕する。

 

「グリードは敵性存在です!あれに善意も悪意もありません!」

 

「それは貴様らが勝手に決め付けたことだ。グリードは世界の危機に現れた救世の神の使いだ!」

 

「グリードは未だ不明な点が多い……だから色んな解釈が行き交う。狂信者が出てくるのは予見していたが……」

 

「……!とにかく、一緒に来てもらいます!」

 

フェイトが前に出て、バルディッシュを構える。

 

「ーーこれ以上の会話は無意味と判断します。あなた方は速やかにこの場から離れてください」

 

「感謝する。それでは諸君、また会える日まで」

 

「待て!」

 

ペルソナを追おうと駆け出すと……

 

「ゲートカード、オープン」

 

突如地面が光り、見えない壁に塞がれた。

 

「コマンドカード、エンドレスマッチ。これで私を倒さない限り出れません」

 

「あなたは一体……」

 

フェイトの言葉に少女は何を思ったのか、鳥から降りてきた。

 

「私はクレフ。クレフ・クロニクル。コードネームは(シルフ)。そしてこの子は……ゼフィロス・ジーククローネ」

 

ピイイィィィ……!

 

「これより任務を遂行します」

 

「くっ……」

 

「ーーそこまでだ!」

 

そこに、テオ教官とティーダさん率いる航空警備隊が追いついてきた。

 

「テオ教官、ティーダさん……!」

 

「間に合たっね!」

 

「ーー水が差しましたね」

 

クレフはガントレットに手を添えた。

 

「え……」

 

「まさか……」

 

「それでは皆さん、またの機会に」

 

ガントレットを操作した瞬間……

 

ドガアアアアンッッ‼︎

 

大地が大きく揺れ動き、次々と爆発音が響き渡る。

 

「ちっ……!」

 

「ば、爆弾……⁉︎」

 

「なんてことを……!」

 

「システム強制終了。それではこれで失礼します」

 

ガントレットから光が消え、緑鳥の全身が緑色に光り小さくなると……一羽の隼になってクレフの肩に止まり、奥へ逃げて行った。

 

「崩れるぞ、早くこっちへ!」

 

「はい!」

 

「3人共、走れるな!」

 

「は、はい!」

 

「問題ありません!」

 

「平気です!」

 

テオ教官の指示に従い、崩れる部屋を急いで脱出する。それとほぼ同時に天井が崩れ、大量の落石が部屋へと降り注ぎ、完全に埋まってしまう。

 

「ティアナ!怪我はないか!」

 

「ちょっ、兄さん……!」

 

「あはは、優しいお兄さんだね」

 

「う〜ん、何方かと言えば過保護だけど……」

 

ティーダさんに抱きしめられ、鬱陶しくするティアナをソーマとスバルは苦笑いしながら眺めていた。

 

「全く、ヒヤヒヤさせやがって。だが全員無事よかった」

 

「おかげさまで……」

 

「さすがに危なかったけど……」

 

「ていうか、来るのが遅い」

 

「すまんすまん……って、こりゃ追跡は無理だな」

 

テオ教官は完全に瓦礫で塞がった通路を見てため息をつく。

 

「はい……」

 

「ま、とりあえず実習は成功したのかな?」

 

「うん、そうだね」

 

「レンヤさん、なのはさん!」

 

ソーマ達が近寄ってきて、お互いの無事を喜びあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを頬に真っ赤な紅葉を作ったティーダが眺めていた。

 

「情報通りでしたね。幾つかのルートは押さえていますが網にかかるでしょうか?」

 

「難しいだろう。首都地下はジオフロントもあるし未知の区画が多いからな。ある程度で捜索を切り上げて市内の治安回復に専念しろ」

 

「り、了解」

 

「か、各方面に通達します」

 

的確な指示だか、顔の紅葉のせいで若干戸惑いながらも端末で各方面に連絡した。

 

「やれやれ、当分は退屈しなくてもよさそうだな」

 

 



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79話

 

 

騒ぎというものはそう簡単には収まるものではなく。負傷しながらも陣頭指揮を取ったラース査察官と航空武装隊と地上警備隊の働きによって3日に渡る夏至祭も無事に終了した。そしてその後日、俺達VII組のメンバーは揃って首都クラナガンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在ーー

 

8月の初めにレルム魔導学院は短い夏季休暇に入っていた。そもそもレルム魔導学院は本質的には士官学校と同じで年末年始以外の長期休暇は存在しない。だが、一部の一科生に限っては学院からの推薦で仮配属の名目で管理局の部隊に配属されおり……夏季休暇が終わっても8月の間はI組とII組の生徒のほとんどは会うことはないだろう。

 

と、そんな先のことを考えても仕方なく。俺達、地球出身組は休暇初日に地球に三日間だけ帰還していた。

 

「うーーん!やっぱり見慣れた空は気持ちがいいな〜♪」

 

「ご機嫌だな、なのはは」

 

「うん、家に帰るのは久しぶりだもん!」

 

「あれ、なのはは前の自由行動日に帰ってなかったか?士郎に棒術を教わるために」

 

「ラーグ、なのはにとっては一週間でも久しぶりになるんだよ」

 

「そうそう」

 

俺となのは、ラーグとソエルはすずかの家の転送ポートから地球に帰ってきて。フェイト達と別れて今は昼前なので翠屋に向かっている。しばらくして翠屋に到着した。

 

「ただいま!」

 

「ただいま」

 

「なのは、レンヤ!お帰りなさい」

 

母さんは俺の顔を見るなり抱きしめてきた。

 

「ちょ、母さん……恥ずかしいよ」

 

「ふふ、これぐらいいいじゃない」

 

「お母さん、私は⁉︎」

 

「なのはは前に帰ってきたじゃない。もう、よしよし」

 

「えへへ」

 

頭を撫でられ途端笑顔になるなのは。

 

「レンヤ!」

 

「帰ってきたか」

 

そこに厨房から美由希姉さんと父さんが出てきた。

 

「お帰り、少し見ないうちに男前になっちゃって」

 

「つもる話しもあるだろうが、それは家でゆっくりな」

 

「あ、なら手伝うよ。久しぶりに腕を振るいたいし」

 

「2人共、せっかくのお休みなのに手伝わなくてもいいのよ?」

 

「いいのいいの、私も手伝うよ!」

 

「全く……」

 

それからピークが過ぎるまで手伝いをした。それから一体家に帰って、久しぶりに海鳴を歩きまわることにした。

 

「へえ、あんまり変わっていないね〜」

 

「4カ月余りでそう簡単に変わったら困るよ〜」

 

「変わったと言えば、昔と見える景色が変わったことかな」

 

「そりゃあお前らの身長が伸びたからな」

 

基本散歩気分で歩きまわると、どこか見覚えのある道に差し掛かった。

 

「ここは……」

 

「どうしたの、レン君?」

 

「いや、ちょっと見覚えがあってな。行ってみてもいいか?」

 

「うん!」

 

坂を上って、少し進むと住宅地から離れた場所にあったあの孤児院があった。正門には立ち入り禁止の看板があった、未だに壊されていないことに結構驚いた。

 

「通りで見覚えがあったわけだ」

 

「レン君……」

 

「大丈夫だ、もう吹っ切れている。さ、行こうーー」

 

踵を返して来た道を引き返そうとした時、身体を引っ張られるような妙な感覚に陥った。あの孤児院の隣にある森からだ。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、ああ。ちょっと待ってくれ」

 

森の中入り、少し進んだ場所の木にたどり着く。妙な感覚はこの下からするので、手を魔力で硬化させて地面を掘り始めた。それからすぐに何かを掘り当てた。

 

「何だこれ?泥だらけで何が何だか……」

 

木にぶつけて泥を落としていくと、小さな鎌が出てきた。

 

「……おいラーグ」

 

「何だ?」

 

「これって、神器か?」

 

「そうだぞ、最後の神器。闇の神器だ」

 

「つまり、俺の本当のお父さんとお母さんがここにこれを埋めたわけだな……!」

 

「うん、アルフィンとシャオがね」

 

「………どこに行ったとかは教えてくれないんだな」

 

「うん……誓約でね、ごめん」

 

「いいさ、自分で真実にたどり着くって決めたから。なのはが心配していると思うし、早く戻ろう」

 

「ああ……」

 

早足で孤児院前に着くと、なのはがガラの悪い男3人に絡まれていた。すずかの時と同じで強く断れずにいる。

 

「なのは」

 

「あ、レン君!」

 

なのはは俺の姿を確認すると笑顔になって、俺の後ろに隠れた。

 

「ああぁ、何だテメェは……!」

 

「その子は俺達と遊ぶ予定なんだぞ……!」

 

相手的にそれなりに気迫を出しているようだが、テオ教官とティーダさんと比べると雀の涙分も怖くない。いやあの2人と比べるのも酷な話か。

 

「あーはいはい、彼女は俺の連れなので諦めてください」

 

「舐めてんのか!」

 

「女の前で恥ずかしい思いしたくなければさっさと失せろ」

 

「それともボコボコに……」

 

そう言いかけ、男は俺の方をジッと見る。正確には上着の両ポケットから顔を出しているラーグとソエルに。

 

「おいおいその趣味の悪いぬいぐるみは……お前神崎 蓮也だなぁ!」

 

うん?俺のことを知っている……こんな顔、見覚えないな。

 

「えっと、どこのどちら様ですか?」

 

「なんだ忘れちまったのかよ、この孤児院で散々可愛がってやったじゃねえか」

 

「うーん………あ、男女の!」

 

「それはおめえだよ!」

 

「と言っていた奴」

 

「どんな思い出し方だ!まあいい、また酷い目にあいたくなければ女を譲るんだな」

 

よく覚えていない男はそう言う。取り巻きはつられるように下品に笑う。

 

「はあ……」

 

ため息をつきながらそのまま持っていた闇の神器が目に入ってきた。

 

……人生初めてワルに目覚めた時だった。

 

「あ、なんだ、その鎌でやり合うってのか?」

 

「つうか何で鎌なんぞ持ち歩いているんだよ、頭おかしんじゃね!」

 

「はいちゅうもーく」

 

幻影魔法で身体を今と同じ状態のままにして神衣を発動した。実際には黒い装飾のある白い服になっているが、男3人には何も変わってないように見え、ただ鎌が消えたことだけが理解できた。

 

「何だ手品かよ、そんなのは他所でやれ」

 

「はいはい………幻影想起、ナイトメアフィアー……」

 

すぐに掌握した力を小さな声で魔法を発動すると……

 

「うわ!何だこれ⁉︎」

 

「か、影から手が!」

 

「うわああああっ⁉︎」

 

影から手が飛び出し、男3人を驚かせながら縛りつけた。

 

「行くぞ」

 

「え、ええええ⁉︎」

 

なのはの手を引き、一気に坂を下り、しばらく走り続けた。

 

「ふう、ここまでくれば一安心だな」

 

「はあはあ、そうだけど………レン君、魔法で脅かすなんてらしくないよ」

 

そういえば、そうだ。なぜあんな行動に出たのか、自分でも分からない。

 

「そう……だなぁ。自分でも知らずに……恨んでいたのかもな、あの孤児院に……イジメて来た奴らに」

 

「レン君……」

 

「ああもう!吹っ切れたとか言っておきながらまだ引きずっているのかよ!はあ……」

 

「それもまた、人だよ。レンヤ」

 

「誰だってそう簡単に変われない。あがいて、失敗して、理解しながら少しずつ変わって行けばいいんだ」

 

「そうだな……ありがとう、ソエル、ラーグ」

 

「うん!」

 

「いいってことよ」

 

「よし!なら帰ろうか!」

 

なのはに手を引かれながら、家に帰って行った。もちろん魔法も神衣も解除して。

 

帰ってから部屋でゆっくりしていた時、なのはがやって来て棒術の練習相手をお願いして来た。断る理由もなく、離れの道場でなのはが納得するまで相手になった。

 

「やああああっ!」

 

「はあっ!」

 

棒と木刀が何度も打ち合い、木をぶつける音が道場内で響かせる。

 

颪風(おろしかぜ)!」

 

「昇り龍!」

 

上から下へなのはの棒が、下から上へ俺の木刀の柄頭がぶつかり、すぐに離れて距離を置く。

 

「やっぱりレン君は強いや」

 

「そういうなのはこそ、武術歴が短いのによく俺について来られる」

 

お互いを褒め合いながらも視線は逸らさず相手の動きを見逃さない。

 

「「ッ!」」

 

「ーーそこまで」

 

踏み出そうとした時、横から声をかけられてきた。

 

「熱中するのもいいが、もう夕方だぞ」

 

「え、もうそんな時間⁉︎」

 

「ふう、まあキリもいいかな」

 

「なのは、先に汗を流してきなさい」

 

「はーい!」

 

なのはが道場を出た後、ふと壁に掛けられた2本の小太刀が目に入った。

 

「父さん、ちょっと聞いてもいい?」

 

「何だいきなり」

 

「父さんは何で二刀小太刀にしたの?父さんが収めている御神流、小太刀二刀術ってことは裏なんだよね。普通、流派が2つに分けられていたら表と裏が存在する。鍛錬において裏は表の練習相手、演舞の時は表の後ろに………父さん、表はーー」

 

「すまんなレンヤ、さすがにそれを教えることは出来ない」

 

「……ごめんなさい、無理に聞いちゃって……」

 

「お前は聡明だ、疑問に思うのも仕方がない。そろそろなのはも上がった頃だろう、私は先に行っている」

 

父さんに頭を撫でられた後、お母さんの元に行ってしまった。

 

俺もシャワーを浴びようと部屋から着替えを取ってお風呂に向かう。なのははすでに出ていると思い扉を開けたら……

 

「え⁉︎」

 

「え……」

 

一糸纏わぬ姿のなのはがいた。しばらくジッと見つめあっていたが、すぐ正気に戻って後ろを向く。

 

「えっと、あの、もう上がっていると思っていて……その……」

 

「う、うん、わざとじゃないのはわかっているよ///」

 

服を着る音が妙に大きく聞こえてくる。しばらくして肩を叩かれた。振り返ってみるとちゃんと服を着たなのはがいた。

 

「ごめんねレン君」

 

「大丈夫だって。その……綺麗だった」

 

「ふえ⁉︎///」

 

って何言ってんだ俺は!

 

「ほ、ホントに?///」

 

「え、ええっ……⁉︎ほ、本当だ……///」

 

「えへへ///」

 

なぜ喜ぶ。

 

「じゃあ許してあげる、また後でね!」

 

本当に許してくれたように笑いながら行ってしまった。呆然としながらもシャワーを浴びて、その後何事もなかったかのようになのはと一緒に久しぶりの母さんの料理を食べた。学院生活の事を話したりで盛り上がった。久しぶりの家族の食卓はとても楽しい時間になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

俺達は地球でやる事があり、今日そこに行ってから次の日にそのままミッドチルダに帰るので今日中に出発する事になっている。母さん達とお別れを言った後、海鳴にいる知人に挨拶周りをした。ある程度周った後にリンディさんとプレシアさんの住むマンションに向かった。

 

「リンディさん、お久しぶりです」

 

「あらぁ、レンヤ君になのはちゃん、久しぶりね」

 

「にゃのは、にゃのは!」

 

「はーい、なのはですよ〜ユノちゃん」

 

「ユノはもう3歳でしたよね」

 

「ええ、もうすっかりやんちゃでアルフも手を焼いているわ」

 

「これぐらい平気だっての。それにカレルとリエラもいんだからな」

 

「うん、アルフには感謝しているよ」

 

奥から赤ん坊を抱きかかえたエイミィさんとフェイトが出てきた。

 

「フェイトちゃん、その子が?」

 

「うん、お兄ちゃんのカレルだよ」

 

「それでこっちが妹のリエラ」

 

「へえ、双子なんだね〜」

 

「いないいない……メキョ!」

 

「それ、地味に怖いわよ」

 

だがカレルとリエラは物珍しいそうにソエルとラーグをジッと見つめている。

 

「髪はエイミィさんに、瞳はクロノ似なんですね」

 

「そうだぞ、どっちもスクスク成長して嬉しいんだ!」

 

「そう言えばプレシアさんとアリシアは?」

 

「姉さんは昨日から海鳴の異界の調査に、お母さんはリニスと一緒に今朝ミッドチルダに仕事で。後で合流するってちゃんと言っていたから大丈夫だと思うよ」

 

「全く、こんな日ぐらいゆっくりすればいいのに」

 

「私達もそろそろ行こう、時間がなくなっちゃう」

 

「そうだね」

 

フェイトはカレルをアルフに渡して荷物を持った。

 

「それじゃあ、リンディさん、エイミィ、アルフ、ユノちゃん行ってきます」

 

「気をつけてねー」

 

「クロノにもよろしくお願いね」

 

「頑張ってこいよフェイト!」

 

「ばいば〜い」

 

次にすずかの家に向かった。正門に着くとノルミンがいて普通に案内された。屋敷に入ってからチラチラとノルミンが目に付く。あ、猫に襲われている……

 

「いらっしゃい、レンヤ君、なのはちゃん、フェイトちゃん!」

 

「来たわね」

 

「よお」

 

それなりに待っていたのかアリサ、すずか、アギトは紅茶を飲んでいた。

 

「それじゃあ、そろそろ出発する?」

 

「途中でアリシアを拾う必要があるけどね」

 

「さっき連絡が来たんだけど、今はやてちゃんと一緒にいるみたいだね」

 

「ならすぐに行こうか」

 

「うん、ノエル、家をお願いね。ファリンはミッドチルダで」

 

「かしこまりました」

 

「はい、すずか様」

 

それから次は駅に向かった。

 

「そういえばすずか、ノルミンが結構いたけど……全部で何体いるんだ?」

 

「ノルミンちゃんは全部で49体いるよ」

 

「随分と中途半端ね」

 

「私はいいと思うよ」

 

「でも名前がアレだけど……」

 

「大丈夫、最近芸名をつけ始めた子もいるから」

 

「芸名って……」

 

「それにファリンとも協力して面白い事を始め出したみたいだし」

 

「面白い事?」

 

「すずか、それは……?」

 

「それは……秘密♪」

 

「勿体振るわね」

 

「ま、お楽しみは取っておいた方がいいからな」

 

しばらくして駅に到着すると、正面にアリシアとはやてとリインがいた。

 

「皆〜!」

 

「おはよう、アリシア、はやて」

 

「おはようですぅ!」

 

「1日振りやなぁ。ほな行こうか」

 

「ええ、異界については電車の中で聞くわ」

 

電車に乗って、都心部に向かった。それでアリシアによると海鳴一帯の異界は縮小傾向にあったという。被害が出なくなるならそれに越した事はないが、以前原因は不明だ。

 

「それで行ってみるんだよね?東亰の杜宮市に」

 

「ああ、東亰冥災が起こった場所。行ってみたら何か判るかもしれないからな」

 

「基本旅行気分で問題ないんやろ?」

 

「ええ、あんまり深く調べると別の組織に感づかれる危険があるからね」

 

「でも楽しみだねぇ!上亰なんて初めてだよ!」

 

「確かに、地球では初めてだから結構新鮮だよ」

 

「ただ遠いからね〜、到着は夕方でしょう?そして次の日の夕方に出発……ちょっとハードスケジュールだよ〜」

 

「調査なら私達に任せて」

 

「地球じゃあ動けねえからな、これぐらいは当然だ」

 

「あたし達は人形の真似しなきゃ面倒だかんな」

 

「ですぅ」

 

都心部に到着してからすぐに新幹線で北に向かった。最初は雑談やゲームをしたりで盛り上がったが、時間が経つごとに少しずつ眠って行ってしまった。

俺は窓の外の景色を見ながらつい先日行われたクロノとエイミィさんの結婚式の事を思い出した。結婚式とはまだ縁のない事だったが、友達を祝福ことは自分も嬉しくなるとは思ってもいなかった。ただ、最後のブーケトスの時のなのは達の目がヤバかった。まさしく獲物を狩る野獣の如くブーケを狙っていた。しかし、投げられたブーケは……どう言う訳か俺の手に落ちて来てしまった。巻き込まれないよう離れた筈なんだがな。なのは達は悔しそうにしてたが、なぜか内心嬉しそうだった。

 

それから適当に時間を潰して行っていたら、車内放送でそろそろ到着するとの事だった。

 

皆を起こし、それからすぐに到着して。次はモノレールに乗り換えて杜宮市に向かった。そして予定通りに夕方に杜宮市に到着した。

 

「うーん、ようやく着いたんか〜」

 

「さすがに疲れたね」

 

「まずはホテルを探しましょう」

 

「確か、駅前広場の近くにあったはずだよ」

 

「俺は一旦この辺りを散策してくるから先に行っててくれ」

 

「それなら私もーー」

 

「ダメよフェイト、いつ感づかれるかわからない状況よ。1人の方がいいわ」

 

「そうだよフェイト、大丈夫。レンヤは平気だって」

 

そう言いアリシアは手を出してきた。意図を理解して、その手に荷物とラーグを持たせた。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「行ってきまーす」

 

「気をつけてね、レン君!」

 

手を振って返事をして、まずは西から調べる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し進むとレトロな感じの通り、レンガ小路という場所に着いた。

 

「うーん、見た感じ変わった所はないな。まあ、9年前の事だし当然か」

 

「どうするの、レンヤ」

 

「この先に記念公園があったはずだ、人気の少ない場所に行けば何か判るかもしれない」

 

レンガ小路を抜けた先に杜宮記念公園があった。さっきより人気は少ないものの、スケートボードのコースがあり。それなりに子ども達が賑わっていたり。オープンカフェで大人達が賑わっていたりしていた。とりあえずカフェでカフェオレを購入して近くのベンチで休んでいた。

 

「ふう、平和そのものだね〜」

 

「こりゃ、無闇に年長者の人に震災の事は聞けないかなぁ。ギリギリ高校生なら何とか……」

 

「それでも小学生くらいでしょう?覚えているのかなぁ?」

 

「ま、気楽にやるさ」

 

そう思いカフェオレを飲んでいたら……

 

ピロン、ピロン♪

 

端末に搭載された異界サーチが反応を示した。

 

「いきなりだね」

 

「空気よんでもらっても困るけどな……85パーセント、近っ」

 

「あ、あそこだよ」

 

ソエルが指した方向にゲートがあった。先ほどのカフェの裏手だ。

 

「よし、行ってみるか」

 

「いいの?」

 

「ああ、それに試したい事もあるしな。後、感を戻しておきたいし」

 

歩きながらゲートに入って行った。

 

異界の中は木々で覆われていて、まるで天然の迷宮のようだった。

 

「思っていたよりグリードは強くないな」

 

「それで何を試すの?」

 

「こいつだ」

 

腰から古風の銃……ジークフリートを取り出した。

 

「これの本来の使い方は意思の弾丸で間違っていないけど、単純に力を増幅する事も出来るんだろう?」

 

「そうだけど……体がついては来られるの?」

 

「それもまた修業のうちだ。ごめんなレゾナンスアーク、今回は出番はなしだ」

 

《問題ありません、マイマジェスティー》

 

ジークフリートを側頭部に押し当て……引き金を引いた。

 

瞬間、魔力が跳ね上がり、身体能力も上昇するのを感じ取る。

 

「ふう!死なないとはいえ心臓に悪いな」

 

「腕でも効果は変わらないよ」

 

「やってみたいだろ、そういうの」

 

「そうかな〜?」

 

そう言いながらソエルは地の神器を出してくれ、神衣で纏った。

 

「さあ怪異共、今の俺を止められるなら止めてみろ!」

 

「レンヤ、行っけーー!」

 

地面を揺らすほど踏みしめ、迷宮に飛び出していった。

 

「晶石点睛!クリスタルタワー!」

 

足元から水晶を隆起させてグリードを貫く。比較的弱いグリードなので、ほぼ一撃で倒していき無双状態だ。

 

「絶好調だね!」

 

「当然!乱れる弧投!」

 

地面からアームで巨大な岩石を引っ張り出してグリードの群れに続けて食らわせた。そのまま中心に突っ込み、反対側に来て力をためる。グリードが襲い掛かってきたのを待ち……

 

「豪腕一閃!」

 

一瞬で何度も腕とアームは振り、グリードを殴りまくった。

 

その調子のまま最奥に到着し、それと同時にエルダーグリードが顕れた。女性の悪魔のようなグリードで三つ叉の槍を持っていた。

 

「主か……速攻で終わらせる!流転防岩!ロックサテライト!」

 

岩を自身の周囲に3つ生み出し、周りに浮かせる。グリードが放ってきた魔力弾をそれで防ぎ、一気に接近する。

 

「舞うは黄砂!鳴るは残響!握るは塵芥!」

 

流れるようにグリードをアームで殴り、握り潰し。そして浮かび上がった所を……

 

「一撃必沈!デットキャプチャー!」

 

アームで掴みんで上空に飛び上がり、思いっきり地面に叩きつけた。あまりの威力に地面が広範囲にひび割れた。しかし、これが技ではなく魔法の分類に入っているのがよくわからない。明らかに違うと思う。

 

「行けーー!レンヤーー!地神招来!」

 

「我が腕は雌黄!輝くは瓦解の黄昏!アーステッパー!」

 

そのまま上空から巨大化したアームをグリードに向かって振り下ろし、今度は大地が裂かれた。

 

グリードはアームの下敷きになったまま消え去った。

 

異界は収束していき、現実世界に戻るとすっかり夜になっていた。

 

「もう夜か……少し時間がかかったな」

 

皆の所に戻ろうとして一歩を踏み出したら、全身に鈍い痛みが走り膝をついた。

 

「……ッ………」

 

「やっぱり反動がきたんだね。ジークフリートの魔力増幅と併用して神衣も使うからだよ」

 

「でもやっておかないといざという時に力を十分に発揮できない。もう大丈夫だ、行こう」

 

右二の腕にできた傷を抑えながら、なのは達の待つホテルに向かった。

 

「…っ……ふう」

 

行く道の途中で普通に歩いていたが、ホテル前に着くと一瞬だけ痛み出したがすぐに治まった。

 

「一回休んでからでもいいんじゃないの?」

 

「これ以上時間をかけたら心配されるだろう。大丈夫だって」

ホテルに入るとカウンターの前にすずかが心配してそうな顔でそわそわしていた。こちらに気がつくと、駆け足で近寄ってきた。

 

「レンヤ君!どこに行っていたの、心配したんだからね……!連絡もつかないし……」

 

「ごめんすずか。異界が出現したからそれに対応していたから……」

 

「異界に1人で⁉︎大丈夫、怪我してない⁉︎」

 

「ッ!大丈夫だって………!」

 

すずかに体のあちこちを触られて、また少し痛んだがすぐに誤魔化した。

 

「嘘、いま一瞬痛そうにしていた」

 

「えっと、大して強くなかったし……」

 

「レンヤ君」

 

「……ごめんなさい」

 

「もう、しょうがないんだから。後でレンヤ君の部屋に行くからね、ちゃんと手当しないと」

 

「ああ……って部屋を別々にしたのか?」

 

「ううん、なのはちゃんと一瞬だよ」

 

「……そういえば……俺の部屋は?」

 

「ちゃんと取ってあるよ、はいこれ。部屋のカードキー、私達の部屋の隣だから」

 

カードキーを受け取り、少しホッとする。前回の二の舞にはなりたくないからな。

 

それからレストランでなのは達と合流して、簡単な報告をしながら夕食を食べてた。その後部屋に行き、応急手当をしてベットに倒れこんだ。

 

「ふう、あいたた……」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ……」

 

「すずかを呼んでくるよ」

 

「おう……」

 

……ピン、ポーーン……

 

この慎ましいチャイムの押し方、すずかだ。ソエルが扉を開けて入ってきた。

 

「レンヤ君、大丈夫?」

 

「動きたくないだけだ、心配するな」

 

うつ伏せになって枕に顔を埋めながら手を振って返事をする。すずかはベットに座ると回復魔法をかけてくれた。少しずつ痛みが和らいでいく。

 

「まったくもう、バレていないと思っているのはレンヤ君だけだよ」

 

「え、マジですか?」

 

「当たり前だよ、どれくらい一緒にいると思っているの?」

 

「……そうだな」

 

治療が終わり、体を起こす。これなら明日に響かないだろう。

 

「あのレンヤ君……お願いがあるんだけどね」

 

「ん?なんだ?」

 

「えっと、ね///」

 

なぜか顔を赤めながら上目遣いでコッチをチラチラ見てくる。それに、すずかの目が少し赤く。これはもしかして……

 

「まさか、血が欲しい……とか?」

 

「う、うん。少しだけでいいから」

 

「まあ、それくらいなら」

 

お礼も兼ねて、特に断る事もなく了承した。その吸血衝動が別方面に行ったら困るし。

 

「ありがとう!」

 

すずかは笑顔になってお礼を言うと俺に向かって身を乗り出し、襟元を少し引っ張って俺の首筋を露わにした。そして、ゆっくりと口を首筋に近づけていき、俺の首筋に噛みついた。

 

「んっ………」

 

すずかの牙が俺の皮膚を突き破り、流れ出した血をすずかは飲んでいく。瞼を閉じながらコクコクと喉を鳴らしながら飲むすずかは、どこか可愛い感じがして抱きしめたくなってしまうが、ここは自重する。しばらくするとすずかは口を離し、傷口を舐める。それだけで噛みついた傷は治った。

 

「ありがとう、レンヤ君」

 

すずかは満足したのか、微笑んでそう言った。

 

「ひゅうひゅう、すずか大胆♪」

 

「確か吸血って、キスと同義だよな」

 

「えっ……」

 

「…………///」

 

すずかは顔を真っ赤にしながら俯いている。まるで分かっててやったように。

 

「レ、レンヤ君!」

 

「は、はい!」

 

「お、おやすみ!」

 

逃げるように部屋を出て行った。しばらく呆然とするが、人工呼吸みたいなものと同じなんだなと解釈した。

 

「よし、おやすみ。ラーグ、ソエル」

 

「おやすみなさ〜い」

 

「……絶対変な解釈してるだろう……」

 

 



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80話

 

 

【“なぜ鳥は空を飛ぶのか”答えがわかったわ】

 

またあの夢だ。黒髪の女性が目の前に男性と男の子と向かいあっていた。俺と同じ視線の女性は仲間と一緒に後ろで心配そうに見守っていた。

 

【鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても。他人(ひと)のためなんかじゃない。誰かに命令されたからでもない】

 

たとえ間違っていても、理解されなくても、女性はただ自分の意思に……想いに従って答えを出した。

 

【鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

「……そうか、それがあなたの答えか」

 

胸のつかえが取れてスッキリした気分だ。

 

その後なのは達と合流して、東亰震災について調べるために杜宮にある資料館に向かった。

 

しかし、冥災についてはもちろんのこと、空が赤く染まった理由すらも分からなかった。こうなってしまうと実際に異界について知っている人に聞かなくては分からない部分になってくる。

 

というわけで街を歩いて捜索する事にした。まずは商店街に来てみた。

 

「思ったより普通やな」

 

「むしろ普通じゃない商店街なんてあるのかしら?」

 

「それはそれで面白いと思うよ」

 

「いやいや、ないよ」

 

そこで青果店にさし掛かった時、ふと目についたのは赤く熟れたリンゴだった。

 

(リンゴ、か……)

 

確か、あの子がよく食べていたな。そう思ったら食べたくなってしまい、リンゴを1個買った。

 

シャク!

 

「うん、美味しい」

 

すっぱくてほのかに甘く、みずみずしかった。

 

「どうしたのいきなり?」

 

「いや、ただ美味しそうに見えたからさ」

 

「確かに美味しそうだね」

 

「食べてみるか?」

 

俺はフェイトにリンゴを差し出した。

 

「え、いいの?」

 

「ああ、1人で食べるよりは皆で食べたほうがいいだろう」

 

「ありがとう、レンヤ」

 

フェイトはリンゴを受け取ると、少しだけかじって食べた。

 

「ん!本当に美味しい!」

 

「だろ?」

 

「レンヤ〜、私にもちょうだい?」

 

「私も!」

 

「もらうわよ」

 

「もらうで」

 

「私も食べたい!」

 

「ちょっ……!」

 

フェイトの手からリンゴを取られてあっという間に芯になって戻ってきた。

 

「全く、欲しいなら買ってやったのに」

 

「まあまあ、ちょっとくらいええやんか〜」

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

「男があんまり気にしないの。ほら、次行くわよ」

 

次は商店街の先にある階段を登った所にある神社、九重神社に向かった。

 

「一見変わった所はないわね」

 

「あ、おみくじがあるよ!」

 

「レンヤ、引いてみてみよう!」

 

「お、おい!」

 

どんどん普通に観光しているぞ。

 

「まあええやんか。私はちゃんとやるで」

 

「ならポケットからはみ出しているガイドブックはなんだ?」

 

そうはやてに聞くと慌ててガイドブックをポケットに押し込んだ。

 

「な、なんやろうな?あはは……」

 

「はあ、まあいいけどな」

 

「うん、この分だと得られる情報もないし。本当に観光になっちゃうね」

 

「ま、無いものをねだっても仕方がないわ。ここはキッパリと切り替えましょう」

 

「アリサがそう言うなら……」

 

結局、ただの観光に変わってしまった。なので次はアクロスタワーに向かった。

 

ここ数年でできたらしく、かなり新しい感じがした。そこで買い物やゲームセンターで遊んだりしたが、途中から荷物持ちをさせられたりした。どっかのドラマで見た事を実体験できて、役者の大変さが身にしみた。

 

その後スカイラウンジで休んでいた。皆はまだ買い物があるらしく、先に来ていた。

 

「ふう、疲れた」

 

『大丈夫ですかぁ?』

 

『ご愁傷様だな』

 

両側の胸ポケットから顔を出してきたリインとアギトが心配してくれた。

 

『こら、顔を出すな。見られたらどうする?』

 

周りを注意しながら2人をポケットの中に押し込んだ。

 

『むぎゅう……』

 

『ふぎゅう……』

 

「全く……」

 

『まあいいじゃねえか』

 

『私達は外に出れないから暇になっちゃうんだよ』

 

『分かっているよ』

 

申し訳なく思いながら、ガラスの外の景色を眺める。杜宮市を一望できる事のだけはあって爽快な景色だ。

 

「………………………」

 

目を閉じて……ゆっくり開く。さっきとは違って景色が鮮烈に見える。聖王の力を少しだけ解放して目の色だけ変化させた。

 

「瞳の色は違っても、見える景色は変わらない、か」

 

右目を閉じて左目で見て、その逆を交互に行う。そんなことしても見える色は変化しない。でも、分かっていてもやらずにはいられない。自覚してから何度もやっている行動だ。

 

「はあ………」

 

「ーーどうかなさいましたか?」

 

声をかけられて、振り返ってみると長い銀髪でどこかの学校の制服を着た女性がいた。

 

「その、ちょっとした自己嫌悪で……」

 

「あらいけませんよ、自分を蔑ろにしては…………あら?」

 

女性はいきなり顔を覗き込んできた。正確には瞳を見ていた。しまった、戻していなかった。

 

「綺麗な目ですね」

 

「は、はい……母型の遺伝でして。変ですよね?」

 

「いえ、とてもお似合いですよ」

 

女性は見惚れるような笑顔でそう言った。

 

「自己紹介が遅れましたね、私は北都 美月です。杜宮学園高等部2年で生徒会長を務めさせてもらっています」

 

「2年生⁉︎2年生で生徒会長はすごいですね……」

 

「いえ、私が好きでやらせていただいているだけですのでご心配はいりませんよ」

 

うーん、生徒会長ってこんな優秀な人しかいないのかなぁ?

 

「あ、俺は神崎 蓮也です。今日は観光で杜宮に来ていたんです、歳は俺が1個下ですね」

 

「まあ、そうですか。ちなみにどこのご出身ですか?」

 

「玖州にある海鳴市です」

 

「なるほど、海鳴ですか……」

 

いきなり美月さんは考え込んでしまった。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「……!いえ、なんでもありません。それでは私はこれで、神崎君と会えて楽しかったです」

 

「そ、そんなことないですよ」

 

美月さんは笑顔で返してくるとエレベーターに乗って行った。

 

「北都、美月さんか……」

 

『レンヤさん、あのお姉さんに見惚れましたかぁ?』

 

『スッゲェ美人だったからな』

 

「……いや、フィアット先輩に似ていると思っていたけど……やっぱり違うんだなって思ってさ」

 

『どこが?』

 

「フィアット先輩は裏表なくありのままの自分でいる、でも美月さんはどこか本心を隠していて底が見えないんだ」

 

『確かにな、自分を偽るのに慣れている感じだった』

 

「あんな人でも、過去に何かあったんだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐになのは達が戻って来て、一旦荷物をロッカーに預けてからまた街に繰り出した。

 

色々な場所を周り、最後に七星モールによった。

 

「あ!レンヤ君!」

 

「なんだはやて」

 

「ほらあれ、モリマル君や!」

 

はやてが指差す方向に、杜宮市のご当地マスコットのモリマルがいた。パッと見武士をモチーフにしたマスコットキャラだ。

 

「抜刀見せてもろうて、記念写真を一緒に撮るんや!」

 

「あ、おい……!」

 

「私が見てくるよ」

 

「お願いね、フェイト」

 

「レンヤ、私は2階の占い屋に行っているわ」

 

「あ、可愛いティーカップ……」

 

「おい、すずか………はあ、しょうがないなぁ。俺達も後で合流するか?」

 

「私は、特に買うものはないかな?」

 

「それじゃあ私はミリタリーショップに行ってくるね!」

 

皆はアクロスタワーと同じように欲しい物を見に行ってしまった。また、荷物持ちかなぁ?さすがに疲れたと額を襲えて上を見上げる。すると視界に玩具屋が目に入った。

 

「………あ………」

 

「レン君、どうしたの?」

 

「なのは、少し付き合ってくれないか?」

 

「いいけど、どうして?」

 

「男だけだと居心地が悪いからな」

 

「?」

 

その後、なのはと相談しながらある物を買った。

 

「ふう、おもろかったなぁ」

 

「あはは、そうだね。アリサは占い屋に行っていたんだよね?結果はどうだったの?」

 

「え⁉︎まあ、良かったわ///」

 

「アリサちゃん、顔が真っ赤だよ」

 

「これは聞くのは野暮だね〜〜」

 

「にゃはは、そうだね」

 

「さて、もうミッドチルダに戻るか?」

 

「そうだね、クロノ君に連絡してアースラを回してもらおうかな?」

 

七星モールを出て荷物を取りにアクロスタワーに向かおうとしたら……

 

チリリリーーン……

 

突然、鈴の音が聞こえてきた。

 

「鈴の音?」

 

「どこから……」

 

「あ……あそこ!」

 

進行方向の先に、黒い狐面を付けた男の子がいた。異様な雰囲気を出す男の子に周りの人は目もくれず横を通り過ぎている。

 

「ッ……⁉︎」

 

「な、なに……あの子?」

 

不気味がるなのは達、すると男の子は背を向けて走り出した。

 

「あ!」

 

「待って!」

 

「おい、アリシア!」

 

「私達も追いかけよう!」

 

アリシアを追いかけ、人気のないガード下に来た。

 

「アリシア、あの子は?」

 

「あそこだよ」

 

男の子はガード下の中央に、こちらを向いて立っていた。

 

「君は、一旦……」

 

「ふフフ、あはハ……」

 

「き、気味の悪う子やなぁ……」

 

「ですぅ……」

 

「なんだ、あのお面は?」

 

不気味に笑う男の子、すると……

 

ビキンッ!

 

「「「「「「「⁉︎」」」」」」」

 

ビキビキ、バキ、ビキッ………スー……

 

「はハハ、サア、オイで………オ兄ちゃン達……」

 

突如ゲートが開き、男の子は完全に開いていないゲートに入っていき、その後ゲートが顕現した。しかし現れたゲートの形状が通常の物と異なっていた。紫と黒が混ざったような色でひし形のゲートだった。ゲートの周りにもひし形の物体がいくつも浮いていた。

 

「なんなのよ、このゲートは?」

 

「いつもより物質的じゃないね」

 

「変な感じがするな」

 

「あんまり穏やかじゃないね」

 

「異質なゲート……」

 

「どうする、レンヤ?」

 

「どうもこうもない、行くぞ!」

 

「うん!」

 

「了解や!」

 

念のため、認識阻害の結界を張り。ゲートに入って行った。

 

異界の中は遺跡風の迷宮で。所々に天井はなく、黄昏の空が不気味に周囲を照らしていた。

 

「黄昏の……空?」

 

「見た事のない迷宮だね」

 

「グリードの脅威度は大したことはないけど……初めて見る種類しかいないね」

 

「それにあの子もおらへん」

 

「やれやれ、せっかく帰る雰囲気だったのにな」

 

俺達はデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「あの子を探し出すぞ!」

 

「ええ!」

 

「が、頑張ります!」

 

「久しぶりに暴れられるぜ!」

 

迷宮に飛び入り、迫り来る怪異を薙ぎ払う。グリードは少し厄介と思うくらいで脅威たりえなかった。それでも周囲の警戒を怠らず、罠をかいくぐり最奥にたどり着く。辺りに隠れる場所もなければ子どもの姿はなかった。

 

「どこにもいないね」

 

「まあ、あの子どもはどう見たって普通じゃないわけだし」

 

「でも、まずは……」

 

目の前の空間がひび割れ、赤い渦を巻きながらエルダーグリードが顕れた。巨大で重鈍な鋼の鎧に剣と盾を構えたエルダーグリードだった。名はソウルミーレス。

 

「出たね……!」

 

「男の子は後回し、まずはこのエルダーグリードを撃破します!」

 

「相手にとって不足なし!」

 

ソウルミーレスは盾を構え、突進してきた。散開して回避するとこんどは回転斬りで俺達に距離を取らせた。

 

「アクセルシューター……シュート!」

 

「ガトリングブリッツ!」

 

なのはとアリシアが魔力弾で攻撃するが、鎧に弾かれる。そこに、すずかとフェイトがソウルミーレスの背後に接近した。

 

「スノーホワイト、オールギア……ファイア!」

 

《ドライブ》

 

「バルディッシュ!」

 

《ハーケンスラッシュ》

 

2人の渾身の一撃がソウルミーレスに直撃したが、少し動いただけで大したダメージにはならなかった。

 

ソウルミーレスは上半身だけを後ろに回転させると剣を2人に振り下ろした。

 

「させるか!」

 

《ソニックソー》

 

火花を散らしながら剣を受け止め、弾き返した。

 

「行くわよ、アギト!」

 

「ああ!」

 

「行くで、リイン!」

 

「はいです!」

 

「「「「ユニゾン、イン!」」」」

 

アリサがアギトと、はやてがリインとユニゾンする。

 

『行くぜー、燃えろ焔の槍!』

 

「フレイムジャベリン!」

 

『凍てつけ極寒の短剣!』

 

「フリジットダガー!」

 

焔の槍の後に氷の短剣が交互にソウルミーレスに襲いかかる。ソウルミーレスも全く効かないとばかりに激しい剣戟を放ってきた。

 

「ふっ!」

 

「せいっ!」

 

「はっ!」

 

それを俺、すずか、フェイトが交代しながら受ける。そうする事で余分な疲労を抑えることができる。その間にもアリサとはやての炎と氷の攻撃が続いて行き……

 

ビキンッ!

 

大きな音を立ててソウルミーレスの鎧に大きな亀裂が入った。

 

「やったわ!」

 

「結構いけるもんやなぁ」

 

『このまま決めちゃいましょう!』

 

『本気で行くぜー!』

 

はやては魔法陣を展開させて、アリサはフレイムアイズのキャノンフォルムに変化させ魔法陣の前に立ち、はやての魔力と同調させる。

 

「閃めくは光芒」

 

「灼熱穿て、猛き獅子!」

 

『『「「白夜砲哮(びゃくやほうこう)!」」』』

 

放たれたのは細長い3つの白銀の砲撃と大型の赤い魔力弾。3つの白銀の砲撃はソウルミーレスを貫き、赤い魔力弾は炸裂した。ソウルミーレスはそのまま消えていった。

 

異界は収束していき、元のガード下に戻ってきた。現実世界はすっかり

 

「ふう、戻ってこれたな」

 

「んーー、久しぶりに全力が出せてスッキリしたぜ」

 

「私もですぅ!」

 

「なんだったんだろう、あの異界は?」

 

「特異点もないのにあの深度、一旦どうやって……」

 

「結果あの黒い狐面の男の子もどこにもいなかったし」

 

「……因果を歪める力……過去を歪めて、未来を導く……」

 

「……そして(くら)き夜になっていく……」

 

「ソエル、ラーグ、何か言った?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

「早く帰ろうぜ」

 

「そやな、荷物は無事みたいやし。はようアクロスタワーの荷物も持ってこんとな」

 

ガード下から出て改めてアクロスタワーに向かった。杜宮での出来事を思い出しながら雑談する。

 

「それでーー、!」

 

「? 姉さん?」

 

アリシアが何かに驚いて固まっていた。視線の方を見てみると、同い年位男子3人と女子1人がいた。

 

「それでね、コウちゃんたら……」

 

「ああもう、いいだろその事は」

 

「何だよコウ、勿体ぶらずに白状しろ!」

 

「リョウタ、あんまりそういうのはーー」

 

活発そうな男子を中性的な男子が止めようとしたら、アリシアのようにこちらを見て驚いていた。

 

「アリシア、どうかしたか?」

 

「……!な、なんでもないよ!気のせいだったみたい」

 

「もし疲れた遠慮しないでね」

 

「ありがとう、本当に大丈夫だから」

 

そして、あの4人の横を通り過ぎた。

 

「………………………」

 

「ジュン君?」

 

「おいジュン、どうかしたのか?」

 

「え!あ、何でもないよ」

 

「はっはーん、さてはお前……さっきの美少女達に見惚れたなぁ?」

 

「ああ、確かに」

 

「そ、そんなんじゃないよ!」

 

「おやおや〜?ムキになる所が余計怪しいなぁ?」

 

「もうリョウタ君、あんまりそう言うのはよくないと思うよ」

 

「そうだぞ、おめえの薔薇色の学校生活が上手くいかないからって」

 

「べ、別にまだ焦る段階じゃねえし!2年までまだ時間があるしーー」

 

どんどん遠くに離れていき、話し声が聞こえなくなった。

 

ドクンッ!

 

突如胸が疼き始め、胸に手を当てた。

 

「ッ……!(何だ、この嫌な感覚は……?)」

 

「レンヤ君、どないしたん?」

 

「あ、ああ、何でもない。ほら、早く行くぞ」

 

「う、うん」

 

荷物を回収してから人気のない場所に行き、アースラ経由でミッドチルダに戻り、夜を回った時間帯にルキュウに到着した。

 

「ふう、ハードな1日だったよ〜」

 

「おかえんなさ〜い」

 

「こんばんはアタック、ファリンはまだ?」

 

「戻ってきてへんで〜」

 

「なら先に休ませてもらいましょう」

 

「ああ、だがその前に……なのは」

 

「うん!リインちゃん、アギトちゃん、ラーグ君、ソエルちゃん」

 

荷物からプレゼントを取り出し、リイン達に渡した。

 

「これって……」

 

「プレゼントか⁉︎」

 

「開けていい⁉︎」

 

「いいぞ」

 

「何が入ってんだ?」

 

開けてみると、リインとアギトは小人サイズで日常に使用する私服一式。ラーグとソエルは肩に掛かるぐらいの小さなマントだ。

 

「うわぁ!」

 

「服だ!あたし達に合う服だ!」

 

「ひゅう、カッコいい!」

 

「まあ、悪くねえな」

 

「レンヤ君、いつの間に買ったんや?」

 

「七星モールでな、なのは達にはこういうプレゼントをした事はあったけど、リイン達にはあんまりないと思ってな。なのはと相談して見繕ったわけだ」

 

「レン君だけだとお人形コーナーに行くのも気まずかったからね」

 

「あ、確かに」

 

「目に思い浮かぶわね」

 

「あはは、あんがとうな。リインを喜ばせてくれて」

 

「いいってことよ」

 

「レンヤさん、なのはさん、可愛いお洋服をありがとうですぅ!」

 

「あんがとな、大事にするぜ」

 

「ありがとう、レンヤ!」

 

「大事にするぜ」

 

「よかったね、4人共」

 

「違うよフェイト、2人と2モコナだよ」

 

「ややこしいから4人でいいわよ」

 

「「よくない!」」

 

「ふふ」

 

こうしてドタバタした帰郷は終わったが、まだ夏季休暇は終わっていない。明日は一体どこにも行くんだろうな?

 

 

 



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81話

 

 

ミッドチルダからほど近くにあるテーマパーク。そのアトラクションの一つの屋内プール。

 

屋内の天井に張られたガラスを通して時期相応の日光が降り注いでくる。周りには水着をきた来場者が楽しそうに遊んでいた。

 

だが……

 

「ッ〜〜〜〜〜!」

 

プールサイドで水着を着た中学生位の女の子は怒りに震えていた。

 

「なんで……なんで……」

 

こんな状況を作った張本人を睨みつける。

 

「な、ん、で!私はこんな所にいるんですか⁉︎」

 

女の子……ティアナは同じく水着を着た兄、ティーダを問いただした。

 

「いや〜、上司からいい加減休めって言われてな。それで久々にぐうたらしてるわけだ」

 

「そ、れ、で!な、ん、で!私まで一緒に来ないといけないの⁉︎」

 

「ティアナも夏季休暇の間は訓練もないだろう。折角の機会だしたまには兄妹水入らずにーー」

 

「ふん!」

 

「いったーー!」

 

そんなティーダの足を本気で踏んだ。ティアナはそっぽを向いて少し離れたビーチチェアに座った。

 

「はあ、こんな暇があったら自主練をした方が有意義よ」

 

だが来てしまったので、とりあえず休もうとする。目を閉じてしばらくしたら影が掛かった、目を開けると飛込み台に人がいた。

 

「とうっ!」

 

どこか見覚えのある人影は綺麗なフォームでプールに飛び込んだ。

 

「今のは……」

 

確認しようと身を起こすが……いつまで経っても上がって来なかった。

 

「ま、まあ、気のせいーー」

 

「ぷはー!」

 

縁から手が出て来て、勢いよくプールから上がってきた。

 

「あー死ぬかと思ったー」

 

「ス、スバル⁉︎」

 

「あ、ティア!偶然だね〜」

 

「な、何であんたがここに……」

 

「え、ティアもなのはさん達に誘われたんじゃないの?」

 

「ええぇぇ⁉︎」

 

驚愕する中、入り口からなのは達が出てきた。

 

「あ、ティアナ。偶然だね」

 

「あなた達も来ていたのね」

 

「久しぶり、元気にしていた?」

 

「夏至祭では会えんかったかたなぁ」

 

(う、なのはさん達女性陣の水着が可愛いしどこか派手で大胆。それでいて完璧に着こなしている大人の女性の雰囲気がするわ。それに……全員、大きい……)

 

「お待たせ皆」

 

「ティア、どうかしたの?」

 

「ソ、ソーマ⁉︎」

 

なのは達の後ろからレンヤとソーマが出て来た。その時、ソーマの名を呼んだティアナにティーダが反応した。

 

「皆さんはどうしてここに?」

 

「どこに遊びに行こうって話になって、それでここのプールに来たの」

 

「ルキュウからほど近いからね」

 

「そんで私達以外も誘ったんよ、ティアナちゃんにも連絡したんけど……偶然にもティーダさんと一緒に来てたんやな」

 

「ええ、まあ……」

 

「後、他にも来るんだよ!」

 

「守護騎士の皆さんとユーノさんとヴァイスさんも来るみたいだよ」

 

「よお、奇遇だな」

 

ティーダがレンヤ達に気づいて立ち上がってきた。

 

「ええ、本当に」

 

「それじゃあ遊ぼうか!」

 

「うん!」

 

「ほら、ティアも行こう」

 

「ちょっ、引っ張らないで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ!」

 

「ほいっと!」

 

「はやてちゃん!」

 

「いっくでー!」

 

今、私はなのはさんとボールで遊んでいる。こうして見てみるとやっぱり年相応の女の子なんだと思う。でも、それでも優秀だという事は変わらない。

 

「それにしても意外だったよ、スバルが泳げないなんて」

 

「それはその……浮けないっていうか……」

 

「じゃあなんでさっきプールに飛込んだの?」

 

「い、いやーー一度はやってみたいなぁって」

 

「相変わらずだね」

 

スバルはソーマに泳ぎを教えている。以外にもなのはさんも泳げず、レンヤさんに教わっている。それにしても……

 

「よおユーノ、久しぶりだな!」

 

「ヴィ、ヴィータ!水着、過激過ぎじゃないの⁉︎」

 

ヴィータさんはユーノさんと。

 

「ヴァイス、私と遠泳をするぞ」

 

「ヴァイスさん、ウォータースライダーなるものに行ってみたいです」

 

「お、お二方、落ち着いてください……くっ、男のロマンはこんなに険しい道なのか……」

 

シグナムさんとリンスさんはヴァイスさんと。

 

「はい、ティーダ君。どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます……(よかった、ちゃんと市販のものだ……)」

 

シャマルさんは兄さんと一緒にいた。

 

他の人は知っていたけど、兄さんにもいたなんて……妹として、家族として安心したような。寂しいような複雑な気持ちになる。

 

ちなみに、レンヤさんの守護獣とザフィーラと融合機2人は来てないそうだ。ユニゾンデバイスとは一度会って見たかったのに。

 

「うわっ!」

 

「大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

ムカッ!

 

「ふんっ!」

 

「あいた!」

 

「ちょっ、手を離さなーーもがっ!」

 

ボールがソーマに頭を直撃して、2人はプールに沈んでいった。

 

「あらあら」

 

「ティアナちゃんも女の子だね」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

そんな私の行動を、鋭い目で見る兄さんの事には気付かないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達の都合があったこともあり、屋内プールに隣接する温泉旅館に二泊三日泊まることになった。こんな時じゃないとお金の使い道などあまりないレンヤ達あった。

 

「う〜〜ん!美味しい〜!」

 

「ホント、地球の料理ってこんなに美味しいんですね」

 

「そうだよ。まだまだあるからじゃんじゃん食べよう!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「そういえばソーマ、スバルはどれくらい泳げるようになったの?」

 

「ああ、うん。浮く位には」

 

「ふーん」

 

面白くなさそうな顔をしながら向かい側にいるソーマの足を踏みつけた。

 

「い゛ったーー!」

 

「ふんっ!」

 

「ちょっ、ティア⁉︎」

 

「あらら」

 

「大丈夫かソーマ」

 

「だ、大丈夫、です……」

 

「激しい感情表現やな」

 

それをティーダは横目で見ており、手に持つコップが震えていた。

 

食事を済ませた後は温泉に入る事になった、それぞれデバイスや貴重品を預けてから温泉に入った。

 

男性陣は後で入る事になった。レンヤとユーノは端末でこの前ソエルが作ったゲーム……ポムっと!で対戦しながらヴァイスさんと雑談していた。

 

「それにしてもユーノ、よく休みを取ったな」

 

「え、休ませてもらったんじゃなくて休みを取ったって……」

 

「ユーノは誰かが止めない限り働き続けるからな」

 

「いや〜、途中でやめるのは嫌で……」

 

「途中どころか終わりがないよ。前に神器取りに行った時見たが一種の迷宮だぞあれ、いつか異界認定されるぞ」

 

「あはは、そうだね」

 

「そこは否定しないのかよ……」

 

そんなことを言いながらも2人の手はせわしなく動く。

 

「そういえばユーノ、最近ヴィータさんとはどうよ?」

 

「え、ヴィータと?前から無限書庫に足を運んでくれてよく僕を止めてくるよ。でも、抱きつかれると、ね……」

 

「ああそうか、いきなりスタイル抜群の大人の女性になったからなぁ〜」

 

「そういうヴァイスさんはどうなんですか?」

 

「俺は……シグナム姐さんとリンス姐さんに引っ張り回されているさ……」

 

「……御愁傷様です」

 

「言うな……お前はどうなんだよ?」

 

「俺ですか?俺はそんな浮ついた話は全く」

 

「そうなの?」

 

「ああ、皆いつも通りに接してくれるし。むしろ進展なしかな」

 

それはただ、なのは達のアプローチが日常と化しているからである。

 

「ならお前はどうなんだ、好きな相手はいるのか?」

 

「んーー、皆を好きって言われれば好きだけど……まだよくわからいなぁ。ま、今は学院生活と異界対策課を頑張りますよ」

 

「そ、そうか……」

 

「あ、そうでした」

 

さっきまで読書をしていたソーマが顔を上げた。

 

「レンヤさん、僕が訓練校を卒業したら異界対策課に入れてもらいませんか?」

 

「いきなりだなぁ。まあいいぞ、だが覚悟してろよ。ただ剣を振るうだけじゃあ異界対策課はやっていけないぞ」

 

「望むところです!」

 

「いい返事だ、推薦は出しておく。頑張れよ」

 

「はい!」

 

レンヤが画面に視線を戻すと、LOSEと写っていた。

 

「ってユーノせこっ!」

 

「レンヤが自爆したんだよ!」

 

それから再戦となり、ティーダが戻ってくるまで白熱した落ちゲーは続いた。

 

その頃温泉ではーー

 

「あああ〜気持ちいい〜♪」

 

「姉さん、だらしないよ」

 

「う……く……あ……」

 

「痺れてきます〜……」

 

「ここは薬草低周波風呂って言ってね、筋肉をほぐすのにいいみたいだよ」

 

「初めはそうなるわ」

 

「でも慣れると気持ちいいよ」

 

「はあ〜、極楽や〜〜……」

 

「ああ〜痺れる〜〜……」

 

「ふむ、悪くないです」

 

「変わった趣向ですね」

 

「ええ、治療にも有効そうね」

 

女性陣は温泉を堪能していた。

 

「そういえば、なのはさん」

 

「何、ティアナ?」

 

「本当に偶然なんですか?」

 

そう聞いた瞬間、なのはさん達6人は頭からお湯に入った。

 

「な、何の事かなぁ?」

 

「いくら偶然でもソーマ達以外にも呼べる人はいましたよね?」

 

「レンヤ以外の男子は用事があってね、それで呼べなかったんだよ!」

 

「そやそや、各部活の友人も予定があったんよ」

 

「管理局の友人も似たような感じよ」

 

「そうだよ!決してーーガボガボガボ!」

 

「あ、あははは……」

 

「……わかりました」

 

「ティア、そんなはずないよ。今はゆっくりしよう」

 

それからアリシアがのぼせたので温泉から上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

「さあ、今日も楽しく行こう!」

 

『おおっ!』

 

今日もプールで遊ぶことになった、今度はスライダーなどの遊具で遊んでいた。

 

「それじゃあスバル、泳ぎの練習をしようか」

 

「うん、よろしくね!」

 

「あ、ちょっと!」

 

「え、どうかしたのティア?」

 

「わ、私も教えるわ!説明下手のソーマだけじゃ心配だわ!」

 

「ええ?ソーマの説明はわかりーー」

 

「い、い、わ、ね!」

 

「「は、はい!」」

 

ソーマとスバルはティアナの迫力に直立不動で返事をした。それをレンヤ達が見ており、念話で会話をした。

 

『ふふ、上手くいきそうだね』

 

『ああ、そうだな』

 

『この調子で問題ないでしょう』

 

『そやな、でも……』

 

はやての視線の方向にティーダさんが飲み物片手にビーチチェアに座っていた。すごい目つきでソーマ達を睨みつけながら。

 

『『『『………………』』』』

 

『……行こう、皆』

 

『触らぬ神に祟りなし、と』

 

レンヤ達はそそくさと離れていき、ソーマとティアナでスバルの手を握って泳ぎを教えていた。

 

「ほら、もっと力を抜いて」

 

「う、うん」

 

「よし、その調子だよ」

 

スバルの手を引きながらティアナは横目でソーマを見た。思わずティアナの頬を赤く染めて口元は緩んでしまう。それを睨むように見ていたティーダは……

 

ピシ……バキンッ!

 

手に持っていたグラスを砕き、手に溢れた赤いジュースが血のように手から滴り落ちる。

 

「ティ、ティーダ君?」

 

「すいませんシャマルさん、ちょっと用事を思い出しました」

 

「え、でも……」

 

ティーダは何か言おうとしたシャマルの口に人差し指を当てた。

 

「それではまた後で」

 

「は、はい……///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ソーマは一旦旅館に戻るとの事でティアナ達と別れた。

 

ピリリリリ♪

 

ソーマの端末がメールを受信した、相手はティーダだ。

 

「えーと?“話があるからプール地下まで来てくれ”……なんだろう?」

 

ソーマは疑問に思いながらもプール地下に向かった。ここは震災時や緊急時のためのシェルターがある。

 

地下に到着し辺りを散策すると、シェルターの1つの扉が開いていた。

 

「ここかなぁ……いないか」

 

そう思った瞬間、突然シェルターの扉が閉まった。

 

「ええ⁉︎ちょ、何で⁉︎」

 

「ーーそこは開かないぞ、ソーマ」

 

するとスポットライトに明かりが付き、後ろに航空武装隊の制服を着たティーダが立っていた。

 

「ティ、ティーダさん?」

 

「お前に聞きたいことがあってな」

 

「僕に?一体何の用ですか?」

 

尋常じゃない雰囲気にソーマは息を呑む。

 

「お前は……」

 

「はい」

 

「お前はティアナと一体……どういう関係なんだ」

 

「………はぁ⁉︎」

 

「昔から散々見てきたが、お前の周りには女性の影が多く見てきたが……」

 

顔には変化がないが、ソーマからは見えない位置の右手がすごい動きをしていた。

 

「もし!もし、ティアナを傷付けるような事をしたら……俺はお前を……潰す」

 

「あのぉ……い、一体何の話ですか⁉︎」

 

ティーダはソーマに向かってまさに狂気の顔で近づける。

 

「ティアナが、ティアナが悲しませるような事があれば……ソーマ、俺は……お前を、お前をおおぉ!」

 

手を伸ばしながらゆっくりソーマに近付くティーダ。

 

「だから、何の話かサッパリーーぎゃああああぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が進んで夜、私とティアは温泉から上がって今日の夕飯の事を考えていた。

 

「今日の夕ご飯は何かなぁ?」

 

「相変わらず食い意地が張っているわね」

 

今なのはさん達はいない。何でも近くでゲートが開いたそうでその対応にあたっているらしい、気持ちをパッと切り替えられる所がやっぱりすごい。私だと「えぇー……」って愚痴を言うに違いない。そう思い更衣室を出ようとしたら……

 

ガシャアアンッ!

 

「キャアアアッ!」

 

「おらあぁ!静かにしろおぉ!」

 

突如、女性の悲鳴がしたと思ったら黒い覆面をかぶった男が入ってきた。その手には質量兵器。男は天井に発砲して乾いた音が響き、女性達は悲鳴を上げる。

 

私はティアと目線を合わせ、頷くと……静かに手を上げた。非魔導師の一般市民もいるし手元にはデバイスのない今、抵抗するのは無謀だ。

 

そのままカウンター前に集められた、男性は逃したようで女性しかいない。覆面をした男達が持っているのは全て質量兵器だった。とその時、外から拡声器でこちらに呼びかけようとしていた。

 

「君達は完全に包囲されている!君達の仲間も盗んだ盗品も全て我々の手にある!無駄な抵抗はやめ、速やかに降伏せよ!」

 

「こちらには人質がいる!我々が次元船で去るまでの安全の保障を要求する!」

 

バババババンッ!

 

男はそう言い切ると、威嚇のため銃を乱射し。また女性の悲鳴が上がる。

 

『まずいよ、デバイスを預けちゃったから何も出来ないよ』

 

『せめて位置さえ分かれば……そうだ!私がサーチャーで位置を特定する!』

 

『で、でもバレたら……』

 

『この距離なら魔力光を最低限まで抑えられるわ、大丈夫よ』

 

ティアはサーチャーを小さく、ゆっくり飛ばし。カウンター奥にある私達のデバイスを探し始めた。

 

『ティ、ティア〜……』

 

『うっさい!集中できないわよ!』

 

「ん?お前!何をしている!」

 

『う………あった!右、40度!』

 

『了解!』

 

瞬間、飛び上がり。ティアの指定した場所に魔力弾を放ち、デバイスが散らばる。

 

「あった!」

 

「よし!」

 

すぐに自分のデバイスをキャッチして起動する。だがその間に覆面の1人がこっちに銃を向けたが……

 

バンッ!

 

「おわっ⁉︎」

 

横から魔力弾が放たれて、覆面の手から銃を落とした。横を見るとヴァイスさんが銃型のデバイスを構えていた。

 

「バインド!」

 

その後ろからユーノさんが出て来て、覆面の1人を拘束する。

 

「やあああっ!」

 

「はあああっ!」

 

私とティアで残りの覆面を鎮圧した。女性達にも怪我はないし、上手くいってよかったよ。

 

「……………………」

 

「? ティア、どうかしたの?」

 

「え、あ、何でもないわ」

 

「そお?まあとにかく助かりました、ヴァイスさん」

 

「いいってことよ、これぐらい」

 

その後、覆面達は管理局に連行されて。私は簡単な説明を聞かされた後、解放された。ちょうどそこにレンヤさん達が戻ってきた。

 

「スバル、大丈夫だった?」

 

「はい!全然平気です!」

 

「それなりの活動だったらしいな、ヴァイス」

 

「いやいやそんな、俺には狙撃しか脳がないですから」

 

「ユーノ、怪我はねえか?」

 

「大丈夫だよ、後ろにいただけだし」

 

事情を説明する中、ティアだけが黙って手を見つめていた。

 

「ティア?」

 

「もしかして怪我をーー」

 

「知っていたんですね?」

 

「え⁉︎あ……な、何のことかなぁ〜?」

 

「う、うん……」

 

「そ、そうやで〜……」

 

いきなりなのはさん達が同様し始めた。

 

「ティーダさんからお願いされたんだ」

 

「ちょ、レンヤ⁉︎」

 

「もう隠せないだろう」

 

「ふふ、そうだね。ティアナは暇があればずっと自主練をしているでしょう?だから休ませるためにこうしてティーダさんに呼ばれたの」

 

「さっき、魔法を使ってどうだった?」

 

「……いつもよりスムーズに魔力コントロールができました。使った後の疲労も小さいです」

 

「つまりそう言う事よ」

 

「何もただ動いて練習するだけがトレーニングじゃないの、休むこともまたトレーニングの1つだよ」

 

「ただガムシャラに今のまま続けていれば……いつか必ずティアナは壊れる。それをティーダさんが止めてくれたんだ」

 

「そうでしたか……」

 

「これは教導官としての助言だよ。焦らずゆっくりと前に進んで行けば必ずゴールに届く!」

 

「そうでしたか……このことは全員が?」

 

「ううん、多分私とソーマだけだと思うよ。実際、私もビックリ」

 

「まあ単純に、2人は嘘がつけへんからなぁ」

 

「確かに」

 

「ま、これからも精進しろよ」

 

「ところで、そのソーマはどこだ?」

 

「そういやティーダもいねえな」

 

「こんな騒ぎがあったのに、一体どうしたんだろう?」

 

「心配ねぇ」

 

そういえばそうだ、あの2人はどこに行ったんだろう?ティアに聞いてみようと横を向いたら……

 

「…………………」

 

真っ黒いオーラ出しながら怒っているティアがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、白状しろ!もう俺の事をお兄さんと呼びたいのか⁉︎そうなのか、そうなんだな……!」

 

ティーダがソーマの肩に手を置いたまま、延々とその質問を繰り返していた。

 

「だから!さっきから話が全然見えーー」

 

ドカアアアアアアッ!

 

「どはあああっ⁉︎」

 

突如、シェルターの外壁が爆発した。

 

「な、何だ⁉︎一体、何が……」

 

ゆっくり爆煙が晴れてきて、そこには……

 

「………………」

 

オレンジの魔力光を全身から放ち、幾つもの魔力弾を浮かせながらティアナが立っていた。

 

「ティ、ティアナ⁉︎」

 

驚愕するティーダ。それはシェルターを壊したからなのか、ここにティアナがいるのかは定かではないが。崩れた外壁の外にはレンヤ達がティーダに向かって合掌していた。

 

ゆっくり、ティアナは兄に向かって歩みを進める。

 

「ままま待ってくれティアナ!おおお俺はお前のためを思って!」

 

必死の弁解も聞く耳持たず、歩き続けるティアナ。

 

「ティアナ……! ティ、ティアちゃん?」

 

ティーダの目の前に立ち、ゆっくりと手を振りかぶるティアナ。その拳には過去最高の魔力密度の魔力を纏っていた。

 

「あ、ああああぁぁ⁉︎」

 

ドガンッ!

 

「ぐふっ!」

 

ティアナの一撃がティーダの鳩尾に放たれ、ティーダは無言で崩れ落ちる。

 

「ほら行くわよ」

 

「え、え⁉︎」

 

ソーマの手を取り、ティーダを放置してティアナはシェルターを出て行った。

 

「…………………」

 

「何やろう、これ?」

 

「私に質問しないで」

 

「とりあえずティーダを緊急搬送しますかね」

 

何とも釈然としないが、これでレンヤ達の夏季休暇は終了したのであった。

 

 



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82話

 

 

8月中旬ーー

 

ミッドチルダは地球の日本と同じように四季があり、今の時期は夏真っ盛りの暑さが襲ってくる。夏季休暇を終えたからは授業や訓練を再開していた。そして、I・II組の生徒のほとんどは管理局のどこかの部隊に仮配属されていて今はこの学院にはいない。そんな中、III組からV組までの生徒は一科生に差を広げられないように努力しながら、どこかで羨みながらも勉強と修練に励み……俺達VII組のメンバーもそちらに気をとられずに努力していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すでにホームルームの時間はとうに過ぎており、雑談がてら集まっていた。

 

「はぁ……毎日暑いねぇ」

 

「……だるいよぉ〜」

 

「だらしないわね。もっとシャキっとしなさい」

 

「私達はアリサちゃんのように始めから熱うないんやで。シグナムやって平気やし」

 

「炎熱の副次的な効果だね、私も寒いのは平気だし」

 

「まあでも、エアコンくらいあれば少しは快適になるわね」

 

「無茶を言うな……レルムは元々古い建物を改装してできているし。仮にも魔導学院だ、学生にそんなに甘くないだろ」

 

「そうだ!ならすずかが氷を出してーー」

 

「魔法の不正使用だから却下だよ」

 

「でも、確かにここは海鳴より暑さが厳しいね」

 

「ベルカは同じくらいだけど、それなりに風は吹くから過ごしやすいな」

 

「そういえば……レンヤ達は結局仮配属を申請しなかったんだよね」

 

「すでに入っているのに配属も何もないでしょう」

 

「そもそも、管理局員でレルムに入っていたのはどうやら私達7人だけだからね」

 

「ただ、仮配属という名目で異界対策課に戻ることもできたんだけど……」

 

「それって……」

 

アリシアの言葉に全員が理解する。

 

「D∵G教団か……」

 

「グリードを信仰の対象とした集団だったね」

 

「一体どうやったらそんな解釈ができるのか聞いてみたいぞ」

 

「それにまだ明確な構成員や規模、現在の目的も定かではない状態よ」

 

「あれからの足取りは?」

 

「全然だよ、本局の方にも情報は入ってないし」

 

「相当バックが強いんだね」

 

「そっちの方は簡単に目星はつくんだがなぁ……」

 

全員があの名前を頭に思い浮かび、黙ってしまう。

 

「まあ、それも視野に入れた会議が地上本部で行われるらしいけど」

 

「管理局次元会議……この前のテロはもちろんの事次元世界の管理体制やミッドチルダの現状、異界やそういった問題を各部隊の隊長が話し合う為の会議ね」

 

「元々2、3年の周期で行われるらしいけど……急遽今月末に行うことを発表したからね」

 

「うん、かなり大騒ぎみたいで今朝の記事もそれ一面だったよ」

 

「そういえば、レンヤ君も出席するん?」

 

「レンヤも隊長ですからね」

 

「いや、俺は出席しない。異界の事は全部俺達に任せてもらっているが……政治関連にまで手は回っていないんだ。異界に関する被害報告の資料作成まではするが、その他はゲンヤさんに任せることになっている」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「ま、歳を重ねている人達に放り込まれるのはいい気分ではないわね」

 

「もう慣れたよ。でも確かベルカからウィントさんが出るらしいな」

 

「へえ」

 

俺達はことの重要性を改めて感じ取らせれた気分だ。

 

「そういえば……テオ教官、遅いね?もうHRの時間だけど」

 

「もう10分も過ぎていますね」

 

「全くあの人は……寮で寝坊してるんじゃないわよね?」

 

「テオならありえるな」

 

「昨日も遅くに帰ったみたいやし」

 

「否定できないのが厳しいね」

 

「こらこら、今日は違うぞ」

 

と、そこで教室の扉が開いた。入ってきたのは噂のテオ教官だった。

 

「テオ教官」

 

「おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

皆はすぐに自分の席に着いた。

 

「で、遅れたのにはちゃんとわけがあるんだが……ちょっとややこしい事情があってな。まあ真っ当な理由だから気にすんな」

 

「はあぁ……?」

 

「ちゃんと理由があるなら、まあ」

 

「そんじゃあ遅れたが、HRを始めるぞ」

 

それから滞りなく今日の授業が始まった。正直まだ心残りの部分もあるが、すぐに気持ちを切り替えた。

 

そして今日ラウム教官の次元史を最後に今日の授業が終了し、今はHRだ。

 

「ーー明日は自由行動日だ。来週の水曜も予定通りに実技テストを行うからな。もう慣れたと思うし、とやかく言うつもりはないが一応体調には気を付けろよ。HRは以上だ、リヴァン、挨拶を」

 

「起立ーー礼」

 

テオ教官が教室を出ると、各自次々と教室を出て行った。俺もそろそろ帰ろうとした時……

 

「レンヤ、ちょっといい?」

 

アリサに呼び止められた。

 

「どうしたんだアリサ、部活に行ったんじゃないのか?」

 

「今日はラクロス部はないわ。それでレンヤ、少し付き合ってくれない?」

 

「こっちも部活はないしいいけど、何するんだ?」

 

「武練館までね。少し体を動かしたい気分なのよ」

 

「それくらいなら喜んで」

 

アリサと一緒に武練館に向かい、練習場の一角で剣の稽古をする。

 

「そういえば、ハリーの、指導は、どうなっている……!」

 

「問題ないわ、基本あの子の、戦闘スタイルは、我流だから、魔力の扱いや、トレーニング法を教えている、くらいだわ……!」

 

素振りをしながらの会話なので所々途切れて会話する。

 

「そういう、レンヤこそ、ミカヤは、どうなのよ……!」

 

「似たような、感じだ、アリシアも、エルスに、色々教えて、いるみたいだし……!」

 

「そういえば、すずかも最近、依頼で知り合った、どこかのお嬢様を、指導して、いるそうよ……!」

 

「へえ、意外だな……!」

 

「ふう、いつか……私達が育てた弟子同士で戦わせてみたいわね」

 

「それもまた、一興かな」

 

それから気の済むまで基礎練習を続け、切りのいい所で寮に戻った。駅前に差し掛かると、寮の方角から子どもたちの笑い声が聞こえてきた。

 

「なんだ?」

 

「子どもの声が……」

 

気になり、駆けて行くと……

 

「ほ〜ら、インタラスティングのワンダーランドだよ〜♪」

 

「すごいすごい!」

 

「どうやってんの⁉︎」

 

ファリンが子ども達に芸みたいなのを見せていた。長方形の白い紙に正方形の黒線が描かれた紙をお手玉していた。その隣ではサポートが球乗りしていた。

 

「何やってんのよ」

 

「あ、おかえりなさい」

 

「ミウミウ」

 

「ファリンもすっかりいつもの調子に戻ったみたいだね」

 

「はい!お姉ちゃんに言われて堅苦しくしていましたが……ようやく解放されましたよ!」

 

「それで遊んでいるわけね」

 

「ちゃんと仕事は終わりましたよ、料理当番も今日ははやてちゃんですし」

 

「一気にメイドらしくなくなったわね」

 

「あはは、そういえばその紙は?普通の紙じゃなさそうだけど」

 

「これはノルミンちゃん達の力と連動して動く式神です。最近できるようになって、色んな事ができるんですよ」

 

そう言うと式神を大きくしてその上に乗ったり、縦に伸ばしたりした。

 

「まだまだ行きますよ〜。飛び出せ三分身!」

 

「「「「わああああっ!」」」」

 

子ども達が驚く中、俺達は呆れながらも寮に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

今月の生徒会の依頼はようやく一周回ってきて俺の番になった。規模は小さくなっているとはいえ、いつもと同じように依頼を受けた。

 

あらかた片付けてからグロリア先輩からの依頼で技術棟を訪れた。

 

「失礼します」

 

「お、来たね」

 

研究室に入ると、グロリア先輩がこちらに気付いて手を振っていた。その隣にフィアット会長とエテルナ先輩も一緒にいた。

 

「レンヤ君、お疲れ様ー」

 

「ご苦労様です」

 

「会長、今日はこっちにいるんですね」

 

「息抜きがてら、グロリア君のお手伝いをね」

 

「こちらですよ」

 

視線を逸らしてみると、研究室の真ん中に白の塗装がされた車があった。

 

「それじゃあ、早速説明してもいいかな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「ありがとう、僕からの依頼はこの車のテスト走行をお願いしたいんだ」

 

「この車の?」

 

改めてよく見てみると、車高が高くいわゆるSUVタイプで。開けれていたドアは前後共にスライド式だった、これなら狭いスペースでも楽に乗り降りができる。

 

「あ、レンヤ君!」

 

「おお⁉︎」

 

いきなり車下からすずかの顔が出てきて驚いた。作業をしていたようで髪をポニーテールにしていた。

 

「驚かせちゃってごめんね」

 

「それはいいけど……すずかはどうしてここに?」

 

「うん、グロリア先輩とこの車を開発していたの」

 

「そうなんだ……って、1研究室でそんな予算は出るのか?」

 

「これは君達、異界対策課の要請で開発しているんだよ」

 

「え……あ、そういえば学院に入ったばかりに……」

 

確か異界対策課の足が必要と言われて、それでせっかくならより良いものを作りたいとすずかに任せたような。

 

「もう、レンヤ君たら……」

 

「はは、ごめんごめん。つまり俺達が予算を出しているのか。確かにうちの予算は無駄に有り余っているからなぁ」

 

「コホン、説明するよ。この車には私が開発した新型エンジンを搭載していて最高速度は450は堅いよ」

 

「お〜、すごいね!」

 

「ん〜、俺としては後泥除けのフェンダーと乗り降りの楽にしたいからステップも欲しいな」

 

「確かに、そうすれば見栄えも良くなります」

 

「あ、なるほど……取り入れてみるよ。本題に入るけど、レンヤ君にはこの型式XDー78の試運転をしてもらいたいの」

 

「その試運転を踏まえてから、君達の専用車として渡す算段ということだよ」

 

「そうですか……それじゃあ早速」

 

「うん、はいこれがキーだよ」

 

すずかから車のキーをもらい、車内に入ってみた。シートを触ってみるといい素材が使われているのがわかる。すずかは結構凝り性なので内装のデザインから運転席のハンドルまでこだわったみたいだ。

 

その後、すずかとフィアット会長とエテルナ先輩も乗り込み、ガレージが開いたのを確認してからエンジンをかけて発進した。すぐに公道に出て、ミッドチルダ方面に向かって走った。

 

「これはすごいな。スピードが出ているのに安定していてエンジン音も静かだ」

 

「レンヤ君の運転も上手ですよ」

 

「うんうん、今の所は異常なし。でももうちょっと安定性は欲しいかな?でもレンヤ君の要望にと一緒にバンパーを入れちゃうと重々しい感じになっちゃうし……」

 

「確かにな、緊急時に爆走することだってありそうだが……そこはすずかに任せる」

 

「今は安全運転でお願いね?」

 

「うん……とりあえず問題はなさそうだね。レンヤ君、学院に戻ろう」

 

「了解」

 

来た道を引き返して、学院に向かった。それからアンケートを書き、グロリア先輩に渡した。

 

「ふむ、なるほどね。すずか君の報告書を見ても目立った問題はなし。後は最終メンテナンスと各部のチェック、追加のアタッチメントを装着し終えたら……いつでも君達に支給できるよ」

 

「ありがとうございます、グロリア先輩」

 

「いいないいなぁ、私もこういう車に乗ってみたいなぁ」

 

「足がアクセルにつくのか心配ですけど」

 

「ルナちゃん酷い!」

 

「あ、あはは……」

 

「それじゃあ先輩、私は次の作業を進めます」

 

「まだ何か作るのか?」

 

「うん、緊急出動用にバイクをね」

 

すずかについて行き隣の部屋に入ると、そこにはまだ開発途中のバイクが2台置いてあった。

 

「これが?」

 

「型式ZFー28、グリードとの戦闘を考慮してバリア機能や自動操縦、後高い場所から落下してもタイヤから落ちる用にもしているよ。これなら空中で降りてもバイクは無事だよ」

 

「それはすごいですね」

 

「タイヤから落ちるって事はもしかして猫ひねりを参考にしたのか?」

 

「なるほど、確かに参考になりますね」

 

「猫好きのすずかちゃんならではのアイディアだね」

 

「はい!」

 

その後、意見を出しながらすずかの手伝いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後ーー

 

水曜日、俺達はいつも通りにドームに集まっていた。

 

「さて、今月も実技テストの時間がやって参りました。準備はいいな?」

 

「はい」

 

「問題ありません」

 

「いつでも行けるよ」

 

「よしよし、本来ならいつも通りに人形が相手になるんだが……今日は趣向を変えてみた」

 

「……また思いつきですか?」

 

「いやいや、これはちゃんと事前に考えたものだから。あんま怖い顔すんな」

 

「そうやでなのはちゃん、この人もたま〜に教官らしい事もするんやで」

 

「たまには、は余計だ。ま、思いつきも上等なんだがな!」

 

やっぱ一度なのはに粛清された方がいいと思います。

 

「ということで、レンヤ!それとなのはとはやて!」

 

「はい」

 

「いきなり指名かいな……」

 

「まあまあ」

 

「お前ら、チームな」

 

え、つまりチームということは……

 

「残りは男女に別れてチームを組め。リヴァン達副委員長チームとすずか達委員長チーム、そんでレンヤ達変則チーム……その3組で模擬戦を行う!」

 

「なんだよその名前は……」

 

「それもそうだけどその前に……」

 

「なかなか興味深いチーム分けですね」

 

一同が驚く中、俺は疑問を言う。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!何で俺達だけ変則チームに……⁉︎ていうか人数少ないし!」

 

「俺の見立てだとこの3組が実力的に拮抗しているんだよなぁ。2チームの戦力バランスもいいし。レンヤのチームは人数こそ少ないけど、VII組1位2位を争うほどの魔力量と実力を持った2人とここしばらくで近接戦が伸びてきているなのはがいる。人数のハンディキャップくらいどうってことないだろう」

 

意外にも正当な理由で驚いた。

 

「確かに、納得はするね」

 

「少なくとも毎度の実習の班分けよりはマシかな」

 

「ま、そうね」

 

「トラブルの中心は、いつも通りやけど」

 

「あ、あはは……」

 

「他人事だと思って……ああもう!やりますよ、本気出して神衣化しますよ!」

 

「本気でやめて!」

 

自棄っぱちになるが、アリシアに止められた。

 

「そんなことしたら不合格だぞ〜。実技テストはあくまでそいつ個人の技量や能力を測るものではないからな。ま、早速始めるぞ。まずは変則チームと副委員長チームからだ。各自、準備してから配置につけ」

 

はやてとなのはと簡単な作戦会議やデバイスのチェックをした後、デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、配置についてリヴァン達と向き合う。

 

「あのメンバーならどの間合いからも対処するだろう……何とか崩していかないと」

 

「久々の対人戦……緊張するんよ」

 

「あはは、でも気を抜かずに行こう」

 

「双方、準備はいいな」

 

一呼吸おいてーー

 

「それではーー始めっ!」

 

合図と同時にユエとシェルティスが飛び出し、刀を抜刀して斬撃をシェルティスに飛ばし、斬り返しでユエの籠手と鍔迫り合いになった。そのまま一騎打ちとなり、攻防のたびに魔力が火花のように飛び散る。

 

「やあっ!」

 

「そこだ!」

 

そこに、ツァリが端子を鋭くして飛ばし、リヴァンが弓の弦を弾いて幾つもの鋼糸を飛ばしてきた。

 

「なのはちゃん!」

 

「任せて!」

 

《ディバインシューター》

 

それをなのはが撃ち落とした。端子はレイジングハートで落とし、鋼糸はシューターで落としながらユエ達を抜いて敵後方に切り込んだ。

 

「しまった!」

 

「くっ……」

 

「行かせへんで!」

 

シェルティスがなのはを追いかけようとした所をはやてが上からの小型砲撃で道を塞いだ。その隙になのはがリヴァンにロッドモードに変形したレイジングハートを振るう。

 

「えいっ!」

 

「ちっ……」

 

リヴァンは左の剣で受け止めるも威力に負けて防戦一方だ。そんな攻防をしながらなのははツァリに向かって牽制の為のシューターを撃ち続ける。

 

「なら……剣晶三十三・星清剣!」

 

「効かへんよ!」

 

シェルティスは直ぐに相手をはやてに移し、地面から翠の結晶をはやてに向かって鋭く伸ばした。それをはやては落ち着いてアガートラムで砕く。

 

「……よし、今や!」

 

「「了解!」」

 

はやての合図で転移魔法でなのはと立ち位置を入れ替える。相手の思考が停まった隙に、ユエとリヴァンを一ヶ所に飛ばした。

 

「何っ⁉︎」

 

「気を取られすぎやで!」

 

シェルティスの視線が移った瞬間に、はやてがアガートラムで後方へ飛ばしてユエ達にぶつけた。

 

「今だ、なのは、はやて!」

 

《ハープンスピア》

 

3人を拘束し、なのはとはやては魔力を手のひらに集める。

 

「善なる白と……」

 

「悪なる黒!」

 

「「混ざりて消えろ!ケイオス・ブルーム!」」

 

2つの相反する性質を持つ魔力が混ざり合い、生まれた波動がユエ達に向かって放たれた。2人の本来の魔力光とは違うが、問題は質なので元の魔力光でも問題ないはずだが……見た目がおかしいからと言う理由で変えていた。意味はない。

 

「ぐっ……!」

 

「何て魔力だ!」

 

「障壁が削られる……」

 

「皆!」

 

「動くな」

 

なのは達に気を取られている隙にツァリの背後に回って、後頭部に銃を向けた。

 

「ーーそこまで!変則チームの勝ちだ!」

 

と、そこでテオ教官が止めに入り。勝敗が決した。

 

「連携の差で打ち勝ったな、まあ及第点ってところか」

 

「ふう……やったか」

 

「く……してやられたな」

 

「あ、危ないとこやったわ」

 

「はあ、さすがに悔しいね……」

 

「あ、あはは……そうだね」

 

「しかし、見事な采配でしたよ……はやて」

 

「うん、確かに。上手くいっていたね」

 

パンパン!

 

武器をしまい、一息つこうとした所をテオ教官が手を叩いて止めた。

 

「まだ次があるんだ、和むのはまだ早いぞ。次は変則チームと委員長チームだ。5分の休憩後に始める!」

 

「れ、連続ですか⁉︎」

 

「ス、スパルタやなぁ……」

 

「まあ、このくらいなら」

 

デバイスのチェックと休憩を行い、5分後……バリアジャケットを纏ったアリサ達と向かい合った。

 

「とりあえず体力、魔力は回復できたけど……」

 

「やっぱり、フェイトちゃんとアリシアちゃんのコンビネーションが厄介だね。アリサちゃんとすずかちゃんも侮れないよ」

 

「お互いにコンビを組んでいるわけやからなぁ」

 

「ああ……だがそこに、突破できる糸口があるはずだ」

 

「さあ、2戦目行くぞ!お互いに全力を尽くせよーー始めっ!」

 

「ッ!」

 

《モーメントステップ》

 

長期戦は圧倒的に不利なので、開始に一瞬でフェイトの懐に入り……

 

封刃衝(ふうじんしょう)!」

 

納刀したまま攻撃を与えた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「フェイトちゃん!」

 

追撃しようとした所をすずかに止められ、なのは達の反対側に飛んだ。

 

「せいっ!」

 

「やあっ!」

 

「く……」

 

そこにアリサとフェイトが仕掛けて来た。一対一では勝てるが、2人相手ではさすがに防戦一方だ。

 

「レン君!」

 

《アクセルシューター》

 

「ブラッティダガー!」

 

後方から援護射撃が飛んできたが……

 

「狙い撃つよ、フォーチュンドロップ!」

 

《ドライブバレット》

 

アリシアの高速の魔力弾で全て撃ち落とされる。さらにすずかに接近されて逃げ場を失う。怒涛の波状攻撃に少しずつ追い込まれていく。

 

(深く切り込むか離れるかするか、隙を見せると他が攻めてくる……逃げ場がない)

 

「ハーケンスラッシュ!」

 

「ヒートコメット!」

 

「アイスブランチ!」

 

3方向から同時に仕掛けてきた。だが、同時なら……先ずはフェイトの鎌を受け流し、飛んでくる幾つもの火球と地を這う氷に向かって……

 

《サークルロンド》

 

「はああああああっ!」

 

全方向に魔力斬撃を飛ばし、攻撃を防ぐ。

 

「嘘っ⁉︎」

 

「斬撃を広げて3方向の攻撃を防いだの⁉︎」

 

「人数はこっちが上なのに……圧される!」

 

「! 今だ!」

 

《アイアンスクラップス》

 

怯んだ隙に、小型の魔力弾を全方向に放った。

 

「きゃあっ!」

 

「まだまだ……」

 

「シクザールクーブス!」

 

3人は一瞬で立方体の箱の中に囲われた。

 

「やられた!」

 

「皆!」

 

「させないよ!」

 

アリシアが助けに行こうとするのをなのはが止める。はやては箱を狭めて3人を動けなくした。

 

「ちょ、はやて……!」

 

「ごめんなぁ、もう少し我慢しとってなぁ」

 

「できないよ……!」

 

《フリーズクラッシュ》

 

すずかが箱を凍らせて砕き、はやてに向かって行く。

 

「はやての予想通り!」

 

「え?」

 

《ラバーバインド》

 

すずかの足首にバインドがかかり、アリシアに向かって引っ張られた。

 

「きゃあああああ⁉︎」

 

「うえ⁉︎」

 

「はやて!」

 

「了解や!」

 

はやてが魔力弾と白銀の魔力剣を飛ばし、それを掴んで……

 

「「クロイツカリバー!」」

 

魔力弾をかい潜り、十字に斬り裂いた。

 

「ーーそこまで!勝者、変則チーム!」

 

勝利を確認して、魔法を解除してようやく一息つけた。

 

「なかなかやるようになったなぁ。俺もうかうかしてられねぇな」

 

「はあ、負けちゃったわね」

 

「結構いい線までいったのに……さすがはレンヤ達だね」

 

「ホント、残念だよ」

 

「はは、ギリギリの勝利だったけどな……」

 

「はあはあ、疲れたよ〜……」

 

「ふふ、皆お疲れ様」

 

「うん、皆よう頑張ったと思うで」

 

武器をしまうと途端に疲労が出てきた。短い時間とはいえ、激しい戦いだったからな。

 

「変則チームは大体こんなもんか。総括は後回しにして……最後は委員長チームと副委員長チーム、前へ出ろ!」

 

その後、2チームの模擬戦が行われて……わずかな差で委員長チームが勝利した。

 

「ま、ざっとこんなとこか。最後の模擬戦もなかなか白熱したなぁ」

 

「く、もうちょいで勝てると思ったが……」

 

「あはは……ほんの少しの隙で一気に押し切られるなんてね」

 

「さすがはフェイトとアリシアね」

 

「戦闘だけでも、管理局の精鋭達にも対抗できそうだね」

 

「ううん、今回はアリサとすずかのサポートがあったからだよ」

 

「そうだね、私達だけじゃああも上手くいかなかったよ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

「とにかく皆さん、よく頑張ったということですね」

 

皆はお互いを労い、賞賛し合った。

 

「それにしても、レンヤ達はよくやったと思うぜ。2戦とも勝利を収めるなんてな」

 

「はは、俺1人では到底無理でした」

 

「ううん、レン君もよく頑張ったと思うよ」

 

「そうやで、これは3人の勝利や」

 

今回の実技テストはこれで全て終了し、全員が一息吐いていると、そこに女性の声が聞こえてくる。

 

「ーー全く、相変わらずですね……」

 

その声の主を確かめるためると……そこにはドームの入り口から歩いてきているモコ教官の姿が見えた。

 

「えっと、どうしてモコ教官が?」

 

「ま、まさかこのまま教官と模擬戦なんて言うんじゃ……」

 

「そうかなぁ?」

 

「最初に言っておくが違うぞ」

 

そう否定するが内心それも面白そう……という顔をしている。

 

「次の特別実習は、前回のクラナガン同様にちょっと変則的でな。彼女も段取りに関わっているから、こうして来てもらった」

 

「変則的、ですか……?」

 

「何やら思わせぶりだな」

 

「ま、ちょうどいいからこのまま実習地の発表と行きますか」

 

いつものように配られていく実習の行き先が記された紙。それを受け取り、内容を確認する。

 

 

【8月特別実習】

 

A班:レンヤ、すずか、はやて、フェイト、ユエ、リヴァン

(実習地:マインツ)

 

B班:アリサ、なのは、アリシア、シェルティス、ツァリ

(実習地:ミシュラム)

 

※2日の実習期間の後、指定の場所で合流すること

 

 

メンバーの班分けや実習先はいつも通りだが、下の方にいつもとは違う記述が書かれたあった。

 

「これって……」

 

「A班のマインツってどのあたりなんや?」

 

「ミッドチルダの北西、荒野を越えた先にある鉱山町だ。あの辺りの鉱山は良質な鉄鉱石や貴金属採れる場所でな、そしてその採掘量は未だ減少の兆しを見せていない」

 

「一見、かなり潤っていると思われがちだけど……町はいたって普通だよ。慣れた暮らしを捨てる程、器用でもないし」

 

「なるほど……」

 

「そして、私達が向かうミシュラムは……」

 

「ミッドチルダの南東、ウーク湖に位置する湖畔の町だよ。対岸には高級保養地エミューがあってね、あそこのテーマパークは楽しいよ♪」

 

「へえ、興味があるね」

 

「それで、この最後の一文は……?」

 

ユエの疑問の声に対する答えをモコ教官に任せるテオ教官。モコ教官もまた、このことについては自分自身の口から説明するべきだろうと一度咳払いを入れてから最後の一文についての説明を行う。

 

「コホン、皆さんには各々の場所での実習の後、そのまま合流してもらいます。合流地点はミッドチルダにある時空管理局地上本部です」

 

「え、地上本部ですか⁉︎」

 

「この時期に地上本部ということは……」

 

「まあ、ご想像通りだと思うぜ」

 

「あなた達には次元管制会議に警備の名目で行ってもらいます」

 

「ええ……⁉︎」

 

「それは一体なぜ?」

 

「基本、実習の範囲と思っていい。無理な事は任せないし、適度な緊張を持って取り組めばいい」

 

「それでも、重大な立ち回りですね」

 

「会議が行われている近くでの警備だからね」

 

「それと、俺も合流するつもりだから。あんまりこき使われないかの監視と同じく警備するためだ。ま、管理局のガチガチな論理が悪影響を及ばさないか心配だからなぁ」

 

妙に棘を含ませてモコ教官を横目で見ながらそう言う。モコもまたその言葉を買ったのか火に油を注いでいく。

 

「お生憎、私はカリキュラムを勝手に改変した理不尽なしごきをする予定はありません。どこかの気分屋な教官と一緒にしないでもらいたいものです」

 

「む……」

 

無言のままモコ教官を睨みつけるテオ教官に対し、モコ教官もまたテオ教官を睨みつける。そんな、一触即発の雰囲気に陥った2人を見て、Ⅶ組メンバーは内心で溜め息を吐くのだった。

 

 



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83話

 

 

3日後ーー

 

いつも通りに目を覚ますし時間を見たらまだ余裕があった。しかし二度寝する気は無かったのでベットから出て身支度を済ませた。

 

1階に降りるとすずか、はやて、フェイト、ユエ、リヴァンが既にいた。同じくB班も一緒だった。

 

「皆おはよう。今日は早いんだな」

 

「おはようレン君」

 

「まあそうね。あなた達の移動方法が気になってね」

 

実はエルセアから先にはレールウェイが通っておらず、マインツに行くにはバスで行きのだが、その始発が昼頃なのだ。それをテオ教官に言った所……当日、寮前で待つように言われたのだ。

 

「結局まだ分からないんだけど」

 

「テオ教官は既に寮から出たしね」

 

「まだ待ちそうだよ」

 

「なら皆さん、軽い朝食はいかがでしょう?」

 

「それはええな」

 

「ありがとうございます、ファリンさん」

 

「いえいえ、それでは直ぐに持ってきますね」

 

ファリンさんは食堂に入ると、直ぐに戻ってきた。お盆の上にはおにぎりが幾つもあった。

 

「おにぎりだぁ!」

 

「ていうか最初から作っていたのかよ」

 

「ええ、テオさんに言われて」

 

「全くあの人は……」

 

「まあまあ、せっかくだしいただこう」

 

「よう噛んでお食べ〜」

 

「何もないのが塩、海苔が昆布、白胡麻が鮭、最後にわかめごはんやよ〜」

 

それからしばらくおにぎりを食べていると……

 

パパーーン!

 

外から車のクラクションが聞こえてきた。

 

「なんやろう?」

 

「行ってみようよ」

 

外に出てみると、そこには前に運転した白い車があった。

 

「これって……」

 

「うわぁ、かっこいいねぇ」

 

「この車は一体……」

 

「よお、お前ら」

 

車からテオ教官とグロリア先輩が降りてきた。

 

「教官、これは……」

 

「ああ、この車がA班がマインツに行くための足だ」

 

「ええぇ⁉︎」

 

「あのグロリア先輩……」

 

「すまないねすずか君、昨日のうちに整備は済ませておいたんだ。それでテオ教官の提案でこうして別の形で渡すことになったんだ」

 

「そうだったんですか」

 

「レンヤとすずかはこの車の事を知っているの?」

 

「ああ」

 

皆にこの車について説明した。

 

「異界対策課の専用車、ですか」

 

「へえ、聞いてはいたけどついに完成したのね」

 

「いいないいなぁ。私も乗りたかったのに〜」

 

「今度乗せてやるよ」

 

「すずかちゃんもすごいよ!こんな物を作るなんて!」

 

「あはは、ちょっと凝っちゃって時間がかかったんだけどね」

 

「は〜、こういう車は個人的にも欲しいなぁ。すずかちゃん、おいくらなんや?」

 

「ええっと……これくらいかな?」

 

空間ディスプレイの電卓を使って、出た数字をはやてに見せた。

 

「ほあああっ⁉︎す、数字が眩しくて直視でけへん!」

 

「うわ〜……」

 

「レンヤ達異界対策課っていくらぐらい持っているの?」

 

「聞いてみる?」

 

「いや、いい」

 

「ま、それはさて置き。コイツなら昼前に到着するだろうよ。俺は先にミッドチルダにいるから実習を頑張れよ、そんじゃあ2日後またな」

 

「はい」

 

テオ教官はキーを渡すと駅の方に向かって行った。

 

「さて、俺達はこれで行くとして」

 

「私達はいつも通りレールウェイで行くわ」

 

「うん、それじゃあ2日後。クラナガンで」

 

「じゃあね」

 

「気をつけてね」

 

「皆、またなぁ」

 

「うん、頑張ってね」

 

「怪我をするなよ」

 

「誰に言っているんだ?」

 

「お互い無事に再会しましょう」

 

B班も駅に向かい、実習地行きのレールウェイに乗って行った。その後俺達も車に乗り込んだ。

 

「う〜ん、新車のええ香りがするんよ」

 

「座り心地もいいな」

 

「本当いい車だね、あの値段でも欲しくなっちゃうよ」

 

「確かフェイトちゃんも免許持ってたんだっけ。もしよかったら格安のオーダーメードにするけど」

 

「か、考えておくよ」

 

さすがの給料のいいフェイトでもあの値段は躊躇するみたいだ。

 

「それじゃあ行くぞ」

 

「目的地はマインツや!」

 

車を走りはじめ、エルセアを経由して荒野に出た。

 

「乗り心地もなかなか」

 

「これなら酔いも少ないでしょうね」

 

「結局バンパーは取り付けたんだな」

 

「うん、やっぱりその方が安定するしね」

 

「へえ、確かに揺れが全くないなぁ」

 

荒野をこの車だけが道路を走る中、今から行くマインツについて説明した。

 

「さて、ここいらで今回の実習地の話をしておくぞ。ミッドチルダ西部に位置する鉱山町マインツ、主に採掘で生計を立てている小さな町だ」

 

「鉄鉱石が主な資源だけど、3回に1回は宝石が紛れ込みこともあって宝石を研磨する店もあるよ」

 

「それはさぞかし潤っているんだろうな」

 

「そうでもない、その元手からできた資金は町の開拓や採掘機器にあてがわれている。町を大きくすると同時に採掘以外での収入方法を探しているらしい」

 

「なるほど、いつかは廃れるのを見越しての考えだね」

 

「何だかおもろくなってきたなぁ」

 

「ええ、楽しみです」

 

それから少しスピードを上げて走り、頑丈な作りをしたトンネルを抜けて、昼前にマインツに到着した。マインツは切り立った険しい山中にある町だ、そこらかしこに崖の間に鉄製の橋が架かっており、崖の周りには落下防止用の柵と網で張り巡らせれていた。車は入り口付近の駐車場に駐めて、町の中に入った。

 

「うーん、居心地よくてあんま疲れなかったなぁ」

 

「確かにそうですね」

 

「本当に買うか迷っちゃうよ」

 

「フェイトちゃんなら分割払いでもいいよ?」

 

「基本一括でしかも結局金取るのかよ」

 

「あ、あはは……」

 

指定された宿に向かい、荷物を置いて宿主から依頼の入った封筒を受け取り、実習を開始した。まずは町外にある街灯の交換作業を始めた。

 

「まえまえから思ってたんだが……これ、異界に関係あるのか?」

 

リヴァンが鋼糸で街灯そばに足場を作り、電灯を交換している時にそう言ってきた。

 

「異界に関わるには単純な力任せじゃダメなんだよ。こういった市民との流行をよくしていけば、異界の対処も断然良くなるんだよ」

 

「今の管理局にはない考え方ですね」

 

「警察にせよ管理局にせよ、そこまで親身に接するのは俺達ぐらいだからな」

 

「そうやなぁ、そのおかげで評判もええやもんな」

 

「ふふ、そうだね………あれ?」

 

街灯を交換し終えて降りてきたフェイトが何かを見つけた。

 

「レンヤ、あれは何かな?」

 

フェイトが指さす方を見ると、道にそれた場所に頑丈な扉に塞がれた坑道があった。

 

「ああ、そこは旧鉱山だ。以前はそこで鉱石を採掘してたみたいだが、崩落があったらしくてな。それ以降封鎖されている」

 

「そうなんだ」

 

「今は関係あらへんやろ。交換はさっき通ったトンネルもあるんやからはよう行こうか」

 

「そうですね、現鉱山の方にも依頼がありましたし」

 

「こんな時くらい飛行魔法を使ってもいいだろう」

 

「いくら交通量が少なくても、管理局員が規則を破ることなんてできないよ」

 

「そういうことだ、皆でやれば早く終わるんだ。無駄な気を使うよりはいいだろう」

 

それからトンネル内の電灯も交換した。その時、一台の黒い運搬車がトンネルに入ってきて、俺達の横を通りすぎてマインツ方面に向かった。

 

「鉱石の運搬車かな?」

 

「……多分違うやろ、あんな小さいわけあらへん」

 

「となると、生活品などの物資かもしれませんね」

 

「そうだな……と、これで最後っと」

 

「それじゃあ、マインツに戻ろう。古い電灯を工房に渡さないと」

 

来た道を引き返して戻ると、先ほどの車が駐めてあった。気にせず工房に向かい、古い電灯を渡した。

 

「さて、次は鉱山に発生した異界の対処だな。町長から許可をもらわないと」

 

「ん?町長のとこに行くのか?だったらし後にした方がいい」

 

工房長が何か知っているようだ。

 

「どうしてですか?」

 

「さっき来た人達と真面目な話しをしているそうだ。まだ他が残っているだろう?後で訪ねた方がいいとおもうぞ」

 

「はい、教えいただきありがとうございます」

 

「なら、研磨店にいかへん?」

 

「そうだな、それがいい」

 

それで研磨店に向かい、落下防止用の柵と網の点検と整備をするという依頼を受けた。とても重要なことなので慎重に、すみずみまで破損や腐食がないか確認した。その後、報告した後に時間を見計らって町長宅に向かた。町長宅前に来ると、ドアが開いて……

 

「それじゃあ町長、よろしくご検討くださいよ」

 

「また明日、お伺いに参りますからねぇ」

 

なにやら野蛮そうな声が聞こえてきた。年に為に視線で皆に宿に方向を向いて、頷いたのを確認して宿に急いで入った。

 

「クク……後は仕込みだけだな」

 

「用意はできている、今からでも楽しみで仕方がねえぜ」

 

出てきたのはいかにもマフィアな格好をした2人組、不穏な会話をした後町の出口に向かい、あの黒い運搬車で去って行った。

 

「あれは何の団体でしょう?」

 

「あれはミッドチルダ西部を縄張りとしているマフィア、グリズリーファング……」

 

「彼らは管理局でも問題視している組織だよ、質量兵器の密輸や非合法の商品なんかをとりあ使っているんだ」

 

「それだけわかっているのに起訴や告発ができないんだよ、管理局の上層部が適当な言い訳を作って釈放したり押収品を持ち出すたりするし」

 

「前にアリサちゃんから聞いたんやけど、レイブンクローとも仲悪うようやしな」

 

「東のヤクザ、西のマフィア、か」

 

「しかし、そのマフィアがここに一体何の用事が?」

 

「どうもキナ臭くなってきたな」

 

「……とりあえず町長から話を聞かせてもらおう。マフィアが何をしに来たのかついでに判るかもしれない」

 

町長宅に向かい、ドアをノックしたら直ぐに人が出た。

 

「また来たのかね。直ぐには決められないとーー」

 

「すみません、レルム魔導学院、VII組の者です」

 

「お、おお……これは失礼」

 

「マインツの町長、ビクセンさんですね?お取込みの所にお邪魔して申し訳ありません」

 

「構わんよ、時間を取らせたのはこちらだ。どうぞ中に」

 

「失礼します」

 

席に案内されて、実習を含めた先ほどの事について話し始めた。

 

「すまないね、時間を取らせて。お詫びに鉱山内の異界の対処は明日に回そう」

 

「いえ、大丈夫です。今からでもーー」

 

「ここは素直に受け取っておくべきだぞ。今から行くとどうしても鉱山の閉鎖時間を越えてしまう」

 

「それで、不躾いながらお聞きしたいのですが……」

 

「先ほどの連中の事か、実はここ数日にグリードの被害に遭っていてね」

 

俺達はそれを聞いて驚いた。

 

「それは本当ですか?」

 

「ええ、今までに2回ほど被害にあっているの。どれも怪我人が出ませんでしたが……」

 

「それは心配ですね」

 

「異界対策課には?」

 

「もちろんお願いした。ただ、基本的に彼らはとても忙しいみたいでね。人的被害がでない以上、後回しにされたんだ」

 

「……誠に申し訳ございません。何分今は学生の身ですし……」

 

「いやいや、君達の事情はよくわかっている。こうしてこのマインツを実習地に選んでくれてむしろありがたいくらいだよ」

 

「そう言ってもらえれば」

 

「それで管理局にせめて警備をお願いしたのだが……断られてしまってね」

 

「それは、一体どうして?」

 

「さあ、それでどうしようかと迷っていたところに、あの連中が訪ねてきたんだ」

 

「グリズリーファングの者ですね」

 

「彼らは一体、どんな話をしにこちらへ?」

 

「それがね……自分達が用心棒になると申し出てきたんだ。いつグリードが来ていいようにとね」

 

それはあまりにもマフィアとかけ離れた事だった。

 

「用心棒だって……?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。それは勿論グリードに対してですよね?法律で異界対策課と例外のVII組以外は緊急時以外のグリードの接触は禁止されています」

 

「それは勿論言ったんだが……どうやら議長の許可を得たらしくてね。証明書もちゃんと見せてもらった」

 

「なっ⁉︎」

 

それはおかしい。異界やグリードに関しての全権は異界対策課が持っているはずだ。こちらに話も通さないでそんな事……いったい誰が?

 

「ま、まあそれはともかく……勿論、タダじゃないんやろ?」

 

「いや……お金を取るつもりはないらしい。代わりに、鉄鉱石の取引をその期間だけ独占させて欲しいそうだ」

 

「鉄鉱石の取引権を……確か鉱山そのものの採掘権はミッドチルダが持っているはずですよね?」

 

「ああ、あまり採掘しすぎないよう、政府の決めた量を守る必要がある。鉄鉱石や宝石には決められた相場もあるから無茶な取引はそもそも出来ないしね」

 

「だけど、採掘した鉱石をどこに買い取ってもらうかはこの町の裁量に任せられているの。私も何度か取引をお願いしたし」

 

「すると、彼らにとっては用心棒の手間に見合うだけのビジネスになりという訳ですね」

 

「そうは言っても、付き合いのある商人さん達もいることですしねぇ……どうしたものかと困り果てていた所なんですよ」

 

「なるほど……」

 

どうにも他に裏がないか考え込んでしまうが、被害が出ていない以上、無闇に探ればマインツにも迷惑がかかってしまう。

 

「まあ、こんな話はいいだろう。もう休みなさい、明日の依頼は朝に宿主に渡しておくよ」

 

「お話ししていただき、ありがとうございます」

 

「それでは失礼します」

 

「気をつけてね」

 

町長の家を出て、宿に向かい。先にレポートを纏めておいてから夕食を食べた。

 

「ねえ皆、あの事についてどう思う?」

 

食後、ゆっくりしている時、唐突にフェイトがそう質問してきた。

 

「あの事っていうと……」

 

「例のグリズリーファングですね」

 

「確かに何か企んでいる会話をしていたが、奴らに手を出すにしても慎重に事をなさないといけない」

 

「今までの事件後の処理を考えると、上層部の議員の誰かが裏にいるのは間違いない」

 

「仮に事件を起こして逮捕しても大した罪にはならへんし直ぐに釈放もされるやろ」

 

「……わかっているよ。確かに根本的な解決にはならないけど、でもーー」

 

「わかっている、放ってはおけないな」

 

「まあでも、今考えてもどうにもならへん。今日ははよう寝よか」

 

「そうだな。まだ次元会議の件も残っているし」

 

俺は次元会議の資料作成があるので直ぐに寝ず、皆は先に部屋に入って行った。

 

それから休まずに空間ディスプレイのキーボードを打ち込む。一通りまとめて体をほぐすて時間を見ると、すでに深夜を回っていた。

 

「もうこんな時間か。レゾナンスアーク、チェックをしてくれ」

 

《はい》

 

誤字脱字などの確認を任せて、気分転換に外の空気を吸いに出た。

 

「ん〜〜………はあ。さすがに肩が凝る」

 

《大丈夫ですか?》

 

「ああ、いつもの事だしな。さてと、明日もあるし早くーー」

 

グルルルルッ……

 

「う、うわあああっ⁉︎」

 

「なっ!」

 

いきなり獣の唸り声と男性の悲鳴が聞こえてきた。すぐに聞こえてきた方向に向かうと、足を怪我した男性が倒れていた。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「あ、ああ……大丈夫だ。足を少しひっかかれただけだ」

 

「そうですか……一体誰にやられたのですか?」

 

応急処置を施し、事情を聴いてみた。

 

「ついさっき首都から帰ってきたんだ。それで家に向かおうとした時に犬みたいなのに襲われて……少しひっかかれたら逃げて行ったんだ」

 

「ちなみに1匹だけでしたか?」

 

「ああ、いた。襲って来たのは1匹だけだったが、町の出口あたりに何匹かいた」

 

「レゾナンスアーク」

 

《周囲500メートル円内にグリード、及び生命反応なし》

 

「もう逃げられたか……だが」

 

どうにも腑に落ちない部分がある、だが現状の最優先事項は男性の身の安全の確保だ。男性を自宅まで運び、皆を起こすのもしのびないので後日説明することにした。

 

 



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84話

 

 

翌日ーー

 

皆が集まったの確認して昨日のグリード襲撃について話した。

 

「ーーつまり、昨日の深夜に犬型のグリードが襲ってきたってこと?」

 

「大雑把に言えばそうだ」

 

「色々とおかしな点がありますね」

 

「うん、グリードがただ人を襲うならまだしも……複数いたのに1体だけで襲うなんて」

 

「しかも少し怪我をさせて直ぐに撤退……妙だな」

 

「ん?ちょう待ち。それってつまりは……」

 

「誰かがグリードを操っている可能性があるってわけだ。前例がないわけじゃないし」

 

「問題は誰が何のために、ですね」

 

「まずは情報収集、町長の家に行ってみよう」

 

フェイトの提案で町長宅に向かった。すると町長宅から昨日いた黒服の2人が出てきた、

 

「おお、レンヤ君。昨日は助かったよ」

 

「いえ、偶然居合わせただけです」

 

「それで町長、この事件にどう対処していく所存で?」

 

「ついに負傷者を出してしまったわけだ……乗らざるを得ないかもしれん」

 

「グリズリーファングの要求をのむのですか?」

 

「長い目で見れば、それもやむなしじゃが……」

 

町長もまだ迷っているらしい。

 

「先ほどグリズリーファングからはなんと?」

 

「お早めの決断を、被害が拡大する前に、とだけ」

 

「そうですか……」

 

「気にする事はない、君達は実習に専念しなさい」

 

関わらせるまいと依頼の入った封筒を渡す。

 

「ですが……」

 

「……町長、できればこの件、俺達に任せてもらえませんか?」

 

「レンヤ?」

 

「これは異界対策課……いえ、俺個人としても見過ごせません。それに、俺の予想が正しければ今夜に事件が解決できます」

 

「え⁉︎」

 

「……今夜中に解決できるのかね?」

 

「はい」

 

「ま、これも特別実習のうちか」

 

「……わかった。だが無茶はしないように」

 

「ありがとうございます」

 

俺は立ち上がって礼をして、玄関に向かった。

 

「え⁉︎あ、レンヤ君!」

 

「失礼します」

 

「えっと、任せてください!」

 

町長宅から出て、すぐに呼び止められた。

 

「レンヤ君、ほんま大丈夫なん?」

 

「根拠はある、まずは事件現場に行こう」

 

「わかった。お前に賭けてみよう」

 

事件現場である町の出口に向かった。

 

「特に何もないね」

 

「あんまり場所は関係あらへんかもしれんなぁ」

 

「いや、そうとも限らないぞ」

 

リヴァンが近くの岩壁に飛び乗った。

 

「あった、グリードの足跡だ。数は……3、大型犬にしては少し大きいな」

 

「確か、1匹が襲って後は何もしていないんだよね?」

 

「そうすると最低4匹はいますね」

 

「それでレンヤ君、どうなんや?」

 

「ああ、十分な情報は得られた。一旦宿に戻ろう、情報を整理したい」

 

「そうだね、ミーティングはした方がいいね」

 

宿に向かい、俺達男子が使用している部屋に集まった。

 

「さて、状況の整理を始めよう。この事件で1番不明なのはグリードの目的だ」

 

「グリードの目的?」

 

「確かに、どんなグリードでも必ずしも目的があるね」

 

「でも不可解なのは、グリードの行動……まるで誰かに操られているような」

 

「それはあの笛か、それに通ずるものだろう」

 

「やけど、グリードの背後にいる犯人は誰なんや?目星はつくんやけど、確証までにはならないで。それにそうなると、グリードを連れて行動する手段がが……」

 

そこではやては何かに気がついた。

 

「……もしかして」

 

「ああ、はやての想像通りだ。それを裏付けることもできるかもしれない。すずか、マインツのサーバーにアクセスして、昨日の出口付近の監視カメラの映像を入手できるか?」

 

「え、うん。出来るよ」

 

早速空間ディスプレイを展開して、必要な映像を入手した。すずかは早送りで映像を見流していくと……すぐに驚愕した顔になった。

 

「レンヤ君の読み通りだよ、昨日の夜、グリズリーファングの運搬車が出口付近の駐車場に止まっている」

 

「これではっきりしましたね。犯人はグリズリーファング……そして目的は鉄鉱石の取引の独占……」

 

「ちゃうな、それはあくまでオマケや」

 

「おそらくな。グリズリーファングはレイヴンクロウといった勢力に対抗するための戦力としてグリードを使うつもりなら……」

 

「いくら笛の力でコントロールできようが、試運転は必要……それが今回の事件の真相か」

 

「ああ。そして警備を断った管理局の方も怪しいと思っている。おそらく、警備隊司令は有力議員と繋がっている……その議員を通じて根回しをされたんじゃないか?」

 

「多分……そうだね。何度かそういうのはあったから」

 

「それで……彼らはこれ以上、続けると思いますか?」

 

「グリードの実戦テストという意味ではもう十分だろうな。ただ……連中はさらに欲をだしている」

 

「鉄鉱石の独占取引だね……すると、最後の脅しでもう1度だけ動きそうだね」

 

「襲撃があるとすれば、おそらく今夜や。それ以上は町長がどこかに相談する可能性がある」

 

「よし、いっちょやるか」

 

「グリードの撃退とマフィアの拘束ですね?」

 

「うん、それまでに準備を整えよう」

 

「奴らが来るとしたら深夜だ。それまで休んでくれ」

 

「いいけど……レンヤはどうするの?」

 

「俺は依頼を片付けておくよ。必須の依頼はないしな、町長に気を使わせたかもしれないな」

 

「でも、鉱山内の異界もあるんでしょう?」

 

「それにレンヤ君、昨日から寝てへんやろ。とてもやないけど行かせられへんなぁ」

 

「そういうことだ、お前が寝とけ。俺らが片付けてくる」

 

「レンヤが倒れては元の子もないですからね」

 

「え、ちょっと……!」

 

「ほらほら、好意は素直に受け取ってね」

 

すずかに押されてベットに座らせられた。その間に他の皆はそそくさと部屋を出て行った。

 

「帰った時に寝てなかったら簀巻きにしても寝かせるからね」

 

最後にそう言い残してすずかも部屋を出て、俺は1人呆然としていた。

 

「……気を使わせたかな」

 

ベットに倒れこむと疲労と眠気が襲ってきた。

 

「…………………」

 

しばらく思考の海に漂い。起き上がってある人物に連絡を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ん」

 

どれくらい眠っていたのだろうか。少しずつ意識が目覚めていく。

 

「ん?」

 

「……………///」

 

ふと正面を見ると、顔を真っ赤にして目をギュッと閉じて近付いてくるフェイトがいた。

 

「何やってんだフェイト?」

 

「え……きゃあっ⁉︎」

 

フェイトの目が開いて俺の顔を見た後飛び退いた。はっきり言って近かかった、息もかかる距離だ。

 

「何かあったのか?」

 

「え、えーっと……そ、そう!夕食の準備ができたから呼びにきたの!」

 

時間を見るともう午後の7時だ。結構寝てたみたいだ。

 

「わかった、先に行っててくれ」

 

「う、うん///」

 

顔を洗ってから食堂に行くと、何やらフェイトとはやてとすずかが何やらコソコソしていた。

 

「起きたか」

 

「体調はどうですか?」

 

「すこぶる問題ないが……フェイト達は何をやっているんだ?」

 

「さあな、フェイトが戻ってきたらすぐにああなった」

 

「はぁ……?」

 

と、そこで3人はこっちに気付いたのか。中心にあったディスプレイを消して顔を上げた。

 

「あ、レンヤ君、来てたんか?」

 

「よく眠れた?」

 

「あはは……」

 

何事もなかったかのように振る舞う3人。

 

「………?」

 

「まあ、ともかく飯にしようぜ」

 

「決行は近いです、食べなくては力が出ませんよ」

 

「そ、そうやな」

 

「真夜中まで待機だけど、グリードが現れた時の段取りと配置を決めないとね」

 

「ただグリードを撃退するだけでは駄目ということですね……?」

 

「うん、グリードを操っているマフィア達の方も押さえないと」

 

「よし、気合い入れていくで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜ーー

 

宿の酒場から2人の鉱員が出てきた。

 

「ヒック……ちょっと飲み過ぎちまったか」

 

「しかし遅くなったな。町長に早めに帰るよう言われたばかりなのに……」

 

「あ?例のグリードの話かよ?こちとら毎日穴掘りしてんだぜ?せめて酒くらい好きに呑ませろってんだ!」

 

相当酔っているようで、呂律があんまり回っていない。

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「うるせい、いつかデカイ物を掘り当ててやるぜ!」

 

グルルルルル……

 

「んー……」

 

「あれ、今の……」

 

2人は聞きなれない音に気付くと……行きなり現れた犬型のグリードに囲まれた。

 

「な、なんだぁ⁉︎」

 

「ま、まさか……例のグリード⁉︎」

 

少しずつ迫って来て、隅に追いやられる。

 

「よ、よ、寄るなぁ!」

 

「た、助けて……!」

 

「ーーアンタら。さっさと目を塞いでおけよ」

 

ドスッ!

 

頭上から声がした後、2人の足元に魔力の矢が刺さった。声に従い目を固く塞いだ瞬間……

 

バンッ!

 

矢が破裂して強烈な閃光と爆音が発生した。グリードは光を直視して怯んだ。

 

「うおっ……なんだ⁉︎」

 

「い、今のは……」

 

グリードが怯んだのを確認して、家や壁の陰からレンヤ達がバリアジャケット姿で出てきた。

 

「閃光魔法……思ったより効いて助かったぜ」

 

「お、おまえたちは……」

 

「確か、実習に来た魔導学院の?」

 

「話は後で!宿に避難してください!」

 

「あ、ああ!」

 

「うう、何だってんだ⁉︎」

 

2人の鉱員は戸惑いながらも宿に駆け込んで行った。それからすぐに回復したグリードが唸り声をあげながら起き上がった。

 

「意表はつけたが……」

 

「思ってたより手強いそうだね」

 

「よし……このまま撃退するぞ!」

 

「犬型グリード5体、識別名をアーミーハウンドと暫定します!」

 

一体のアーミーハウンドがレンヤに飛びかかってきた。レンヤは体を捻って避け、鞘で顔面にぶつけた。

 

「奏でろ、フェイルノート!」

 

《ヤー》

 

弦を引いて、無数の鋼糸を飛ばして3体と2体に分断した。

 

「はやてちゃん!」

 

「了解や!シクザールクーブス!」

 

2体のアーミーハウンドの足元から半透明の箱が出現して閉じ込めた。

 

「バルディッシュ!」

 

《サンダーフォール》

 

上空から落雷が落ちてきて、2体のアーミーハウンドに直撃する。

 

「外力系衝剄・点破!」

 

反対側にいた1体に収束した衝剄を高速で打ち出した、壁まで勢いよく吹き飛ばされてそのまま倒れた。

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

レンヤが抜刀と同時に斬り飛ばし、リヴァンが鋼糸を飛ばして四肢を撃ち抜く。

 

「今や!」

 

そしてはやてが2体のアーミーハウンドを勢いよく他のアーミーハウンドにぶつけた。

 

「ふう……こんなもんか」

 

「でも、本気で戦ってたのになんで消えへんのや?」

 

「おそらく物質化(マテリアライズ)しているんだろう。魔力の放出に流れにムラがない」

 

「どこに生息しているグリードだろ?」

 

「今まで見たことない種類だね」

 

倒れ伏したアーミーハウンド達はは傷ついた体で起き上がり、ふらふらしながらも街道方面に逃げて行った。

 

「しまった……!」

 

「まだ余力があんのかよ!」

 

「問題ない、このまま追いかけるぞ!おそらく、逃げた先にマフィア達がいるはずだ!」

 

「了解!」

 

レンヤ達は アーミーハウンドを追いかけ、町の外に出た。その時レンヤは誰かに連絡を取っていた。

 

外に運搬車の前で待機していた2名のマフィアのは、アーミーハウンドが予定より早く戻って来たことに驚いた。アーミーハウンドはマフィア達の前に走ってくると、限界とばかりに倒れ伏した。

 

「な、なんだ……?おい、なんでこんな早く戻ってくるんだ?」

 

「町の人間を襲うように指示を出していたんだが……どうしたお前ら、早すぎるんじゃないのか?」

 

「ーーそこまでだ!」

 

マフィア達は行きなり現れたレンヤ達に驚愕する。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「お前達は……⁉︎」

 

「レルム魔導学院、3科生VII組の者だ」

 

「グリズリーファングの方々ですね。器物損壊、及び怪異の不正使用と傷害の容疑であなた方を拘束させてもらいます」

 

「フェイトちゃん、今は学生であって執務官やあらへんよ」

 

「レルム魔導学院VII組……何故ここに⁉︎」

 

「異界対策課のメンバーがいるってクラスか!」

 

「やれやれ、有名人なのも困りもんだぜ」

 

「ここは光栄に思っておけばいいのでしょうか?」

 

「チッ……まあいい。ガキ共なんざ躾ければどうとでもなる」

 

2名のマフィアはデバイスを取り出した。

 

「ウチの犬共を可愛がってくれたようだなぁ?」

 

「ここで礼をさせてもらうぜ」

 

「……抵抗するのか?」

 

「クッハハ!それはこっちの台詞だ!」

 

「ーー攻撃準備(ゲット・レディー)!」

 

マフィアの1人が5体のアーミーハウンド達に向かって何かの液体を浴びせると……先程のダメージが消えて、レンヤ達の方を向いて威嚇する。

 

「なっ……」

 

「回復しやがった⁉︎」

 

「あれは異界の材料で作られた回復薬……⁉︎」

 

「なんて即効性や!」

 

「ククク……これでもプロなんでねぇ」

 

「ーー行け、仕留めろ(ゴー・アンド・アタック)!こいつらの喉を喰い千切るつもりで行け!」

 

グルルルルル……

 

「来るよ!」

 

「こっちも手加減無用だ!」

 

「行きます!」

 

瞬間、レンヤが飛び出し。デバイスを斬ろうとする。

 

「させるかよ!」

 

マフィアの1人が短く口笛を吹くと、アーミーハウンドが背後から襲ってきた。

 

「くっ!」

 

攻撃を切り替えて、開かれた顎に刀で抑える。

 

「死ねぇ!」

 

「やらせません!」

 

レンヤに銃を向けられ、魔力弾が撃てれた所をユエが拳で弾く。

 

「多勢に無勢かよ!」

 

《バルトガルン》

 

地面に向かって矢を放ち、アーミーハウンドの足元から鋼糸は飛び出した。しかし、それを読んでいたように避け、4体のアーミーハウンドがすずかに迫る。

 

「すずか!」

 

「任せて!」

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

キイイィィンッ!

 

「はあっ!」

 

前面は大きく薙ぎ払って吹雪を起こし、アーミーハウンドの足を止める。

 

《プラズマバレット》

 

「やあっ!」

 

「ちっ!」

 

動きが止まった所をフェイトが魔力で攻撃しようとした時、マフィアの魔力弾が1体のアーミーハウンドに直撃してフェイトの攻撃から逃れた。

 

「レンヤ君!」

 

「とっ……助かった、はやて」

 

レンヤを抑えていたアーミーハウンドをはやてが他のアーミーハウンドの方向に飛ばした。

 

「おらよっ!」

 

「……!」

 

はやてがナイフ型のデバイスで斬りかかられ、杖で防御する。レンヤも援護に向かうが、2体のアーミーハウンドに塞がれる。変わりにフェイトがフォローに回った。

 

「ッ……」

 

「面倒なだな」

 

「レンヤ、私に考えがーー」

 

「すぐに頼む」

 

「了解!」

 

すぐにユエが中心に飛び込み、レンヤとすずかに念話で指示を出した。2人は指示に従い、アーミーハウンドをユエに誘導する。

 

「……今です!」

 

ユエの合図で飛び上がり、敵を失ったアーミーハウンドはすぐさま標的を視界に入ったユエに切り替えた。

 

「……ふっ、せいっ!」

 

アーミーハウンドの爪がユエに触れた瞬間、爪がユエを通り抜け、次に現れたユエが5体のアーミーハウンドの顔面に強烈な一撃を食らわせて、後方の壁にぶつけた。

 

内力系活剄・疾影

 

強力な気配を発散後、即座に気配を消して移動することで相手の知覚に残像現象を起こさせたのだ。

 

「よし!あとは彼等だけだよ!」

 

「ガキが!調子にのんな!」

 

マフィアの1人が懐からリモコンを取り出して、スイッチを入れると……車からAMFが発生した。

 

「なっ⁉︎」

 

「これは、AMF!」

 

「こんな物まで……!」

 

「しかし、それならーー」

 

ユエがそう言いかけた時、マフィア達はニヤリと笑うと……先ほどと同じ大きさの魔力弾を撃ってきた。

 

「なっ……ぐあ!」

 

「きゃああ!」

 

「アホか、そんな間抜け失敗をするかよ」

 

「ちょっとした細工がしてるんだ、ほらお前らとっとと起きろ!」

 

また回復薬をアーミーハウンドに与えられ、挟み討ちにされた。

 

「こうなったら……フェイト、合わせろ!」

 

「え、まさか……ぶっつけ本番で⁉︎まだ完成してないのに!」

 

「俺とフェイトならいけるさ」

 

「やっちまえ!」

 

それを合図にマフィアの魔力弾とアーミーハウンドが襲いかかってきた。

 

「行くぜ」

 

《オールギア……ドライブ》

 

ガッキイイィィンッ!

 

「うん……」

 

《ロードカートリッジ》

 

ガシャン!ガシャン!

 

「L&F、近距離殲滅コンビネーション……」

 

「……エクストリーム」

 

「「ブレード!」」

 

2人の姿が一瞬で消え、次の瞬間……蒼と金色の軌跡が縦横無尽に走り、敵を空中に一瞬だけ止めて……

 

「「はああああっ!」」

 

同じ場所に現れ、手に持つ刀と剣で全体を薙ぎ払った。

 

「ぐはっ!」

 

「かっ……」

 

2人のマフィアは大きなダメージで膝をつき、同じくアーミーハウンドも倒れ伏した。

 

「ふう……疲れた」

 

「さすがに危なかったね……」

 

「まさかあんな風にグリードを操れるなんて……」

 

「なかなかの練度じゃねえか」

 

「ただの管理局員じゃ相手にならへんレベルやで」

 

「はあはあ、上手く連携ができたね……」

 

「ああ」

 

レンヤとフェイトは拳を合わせる。

 

だが、マフィア達は膝をついてもなお足掻こうとしていた。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「くっ……こんなガキ共に……!」

 

「ーーこれ以上の抵抗は無駄です。あなた達の身柄は明日の朝、警備隊に引き渡す」

 

「今夜は倉庫が空いている、そこで休んでもらうぞ」

 

「私達が責任を持って見張ります」

 

「ククク……」

 

「ハハハ……!」

 

いきなりマフィア達が笑い出すと、一瞬で立ち上がり運搬車まで飛び退いた。

 

「待て……!」

 

「逃がさへんで!」

 

「クク、勘違いするな……」

 

「こうなったら手段は選ばねぇだけだ!」

 

運搬車の扉を開けると……次々と運搬車からアーミーハウンドが出てきて、すぐに囲まれてしまった。

 

「これは……⁉︎」

 

「ま、まだいたの⁉︎」

 

「チッ……!」

 

「皆、一旦……」

 

すずかが下がろうと後ろを向くと、制圧したアーミーハウンドが立ち上がって道を塞いだ。

 

「あぁ……!」

 

「しまった……!」

 

「ひい、ふう、みい……20匹かよ。さすがに多いな」

 

「形勢逆転だなぁ……?」

 

「俺達をコケにしてくれた礼だ……飛んで逃げるならさっさと逃げな」

 

「くっ……」

 

運搬車から発生しているAMFで飛ぶことはできないかった。この包囲網を突破するのはさすがに厳しい。

 

「……このままじゃ……」

 

「厳しい、ですね……」

 

「捌き切れるか……」

 

「……ピンチやな」

 

「クク、懺悔は終わったか?」

 

「それじゃあ楽しい処刑タイムと行こうじゃーー」

 

ウオオオオオン!

 

突如、獣の雄叫びが轟いてきた。

 

「な、何⁉︎」

 

「来たか……!」

 

レンヤが丁度いいタイミングとばかりに喜ぶ。

 

レンヤ達がいる場所から少し離れた岩の上に、巨大な青い狼がいた。狼の背には後付と思われる同色の2機のブースターが付いており、静かに白い光を放っていた。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「狼だと⁉︎」

 

「ーールーテシア!」

 

「うぷっ……レ、レンヤさん!受け取ってください!」

 

狼の背中から顔色の悪いルーテシアがひょっこりと出てきて、レンヤに青いガントレットを投げ渡した。流れるように装着してカードを入れる。

 

「行くぞ!アクア・スピネル・クンツァイト!アビリティー発動、アイアンハウリング!」

 

ワオオオオオオオンッ‼︎

 

狼から発せられた大地を揺るがす雄叫びが全体に轟く。するとアーミーハウンドは怯えたかのように倒れ伏した。

 

「あ、あれって……」

 

「レンヤ君、まさか呼んでたの?」

 

「ああ、保険として一応ね」

 

「それくらい教えてくれてもええんかったちゃうん?」

 

「いや〜、急いでたからさ」

 

「お、お前ら……!何を怯えてやがる⁉︎」

 

「数はこっちの方が上だ!」

 

マフィア達がアーミーハウンドを叱咤するが、意味をなさなかった。

 

「ま、グリードにも一応は本能はあるからな」

 

「本能では勝てないと判断したのですね」

 

「確かに、格が全然違うよ」

 

「て言うか、あれもしかしてラーグなん?」

 

「はわわ〜〜、頭がぐわんぐわんするよ〜……」

 

ラーグから降りてきたルーテシアは、耳を塞いでたとはいえ至近距離で咆哮を聞いたのでダウンしていた。ラーグの全身が青く光ってから一瞬で小さくなり、俺に向かって飛んできた。手で受け止め、開いてみると青い球とバトルギアがあった。

 

そして、レンヤ達は呆然としているマフィア達を追い詰める。

 

「くっ……」

 

「今度こそ終わりだ。敢えて管理局風に言えば……器物損壊と傷害容疑、怪異の不正使用、及び公務執行妨害であなた達を逮捕します」

 

2名のマフィアを拘束、20体のアーミーハウンドを運搬車に入れて、レンヤ達はマインツに戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

マフィア達を護送に来た警備隊に引き渡し、俺達は今朝到着したゲンヤさんとギンガに事情を説明していた。

 

「ーー皆さん、すごいです!まさか事件の真相を見抜いてそのまま解決するなんて!」

 

「まあ、そうだが……お前ら、一応学生というのを忘れてねえか?」

 

「それは……その、すみません」

 

「警備隊の司令からマフィアに情報が流れる可能性を懸念してまして……」

 

「まあ、そう言われると辛いな。今回はそれも入れて俺達が来たわけだ、まあともかくよくやってくれた」

 

「そういえば、ルーテシアちゃんはどうしたの?」

 

「最初は車を見て興奮していたけど、今は車の中でグッスリ寝ているよ。ラーグが見ているはずだよ」

 

「初めての徹夜だったからね、さすがに無理をさせすぎました」

 

「そうか、それにしてもまさかグリードの実用テストをするためにこんな騒ぎを起こすとはな……いくら後ろ盾があるからって舐めた真似をしてくれたもんだ」

 

「……はい」

 

「でも、これだけの騒ぎを起こしたわけですし……さすがに言い逃れはできないですよね?」

 

そう質問してみると、2人は黙ってしまった。つまりそれが答えだった。

 

「え……」

 

「やっぱり……保釈されてしまう可能性が?」

 

「ああ、高いだろうな」

 

「今までにも、マフィアの密輸を摘発したことがあったのですが……その都度、圧力がかけられて保釈されてしまっているんです。それどころか適当な名目で密輸品も返還する事になって……」

 

「マジかよ」

 

「グダグダすぎですね」

 

「予想通りすぎて頭が痛くなってくるよ」

 

「ま、わかった上でやったんやけどな」

 

「わかっているならいい……これからもVII組の働きに期待しているぞ。さて、俺達はこいつらを連れて行くが、お前達は……」

 

「私達はまだ実習が残っていますので」

 

「地上本部に向かわれるのですよね?次元会議の警備を任されるなんてすごいです!」

 

「どちらかと言うと、遅れながらの仮配属だと思うがな」

 

「むしろ会議中に高ランク魔導師を側に置かせたいんだろう」

 

「否定できんな、上層部の何人かはお前達の学院入りに反対してた連中もいるからな。そいつらの圧力がかけられたんだろう」

 

「テオ教官はそれを知ってなお、利用するのでしょうけど」

 

「ありえるな、あいつなら」

 

「そうか、俺達はもう行く。またクラナガンでな。ギンガ、出発の準備を」

 

「了解しました!」

 

ゲンヤさんとギンガは車に乗り込み、マインツを去って行った。

 

「さて、俺達も行くか」

 

「うん!」

 

車に乗り込み、俺達は次の目的地……クラナガンにある地上本部に向かって出発した。

 

「しっかし、アレがラーグなんて今でも信じられへんなぁ」

 

後部座席でルーテシアを膝枕して頭を撫でながらはやてがそう言う。

 

「ソエルちゃんと一緒で仮の姿を与えたんだよ」

 

「カッコよかっただろう?」

 

「ええ、夜の雰囲気と相まって勇ましい姿でしたよ」

 

「いい所を持って行かれたけどね」

 

「そうだな」

 

「そういえば、何でレンヤ君に呼ばれたんや?」

 

「今回の事件は不確定要素が多かったからな。念のため付近に待機してもらってたんだ」

 

「あ、だから町を出る時に連絡してたんだ」

 

「それにしてはすぐに来なかったな……どこで待機してたんだ?」

 

「20キロ先だ」

 

「遠いし、そこから数分で来たのかよ!」

 

「最終便で向かってたんだよ。連絡をもらってすぐさま俺が爆丸になってバトルギア・ウェーブブースターで飛ばして来たんだ。ルーテシアが叫んでたがな」

 

「あー、確かにあれは速いからね」

 

「ジェットコースターなんて目じゃないね」

 

「う、う〜〜ん……た、助けて〜……」

 

ルーテシアが寝言で助けを求めてた事に、全員が苦笑した。

 

 



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85話

 

 

とあるジオフロントの一角にある端末制御室に茶髪でメガネをかけた少女がいた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜♪」

 

少女は部屋の奥に備え付けてあったパソコンのキーボードをものすごい速さでキーを打ち込んでいた。

 

「ふふふ、空間キーボードもいいですが、たまにはこう言うのも悪くないわね。指を押し返してくる感覚がなんとも言えません」

 

タンッ!

 

エンターを押して、作業を終えた。画面に映し出されたのは何かの図面だった。

 

「こんなものですね。あの白まんじゅうの防壁が厄介でしたけど、本人が操作しなければどうと言う事は……あーあ、どこかにいませんかねぇ、一瞬の油断で全てを失うような戦いができる人がーー」

 

ブーブーブー!

 

突然画面にWARNINGの文字が映し出され、警告音が鳴り始めた。

 

「……!やりますわね。でも、これくらいなら数時間は持たせられますわ」

 

それから数分間操作した後、立ち上がった。

 

「餌は蒔きました。一体どんな獣が網にかかるのやら……ふふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マインツでの実習を終えて、次の目的地であるクラナガンにある地上本部に、俺達は向かっていた。

 

「ふわああ〜……」

 

昨夜の事件もあり、ほぼ完徹の状態で運転していた。そんなこともあり、この車の絶妙な揺れで皆は早々に寝てしまった。

 

「すぐ側で寝られると色んな意味で辛いな……」

 

「これぐらい平気だろ。お前は3日は休まず働いけるからな」

 

「その後まる1日は寝るがな」

 

ラーグと雑談して眠気に耐えながら、4時間後にクラナガンに到着した。

 

「ん〜、あっという間に着いたなぁ」

 

「座席も最高に寝心地よかったぜ、疲れがなくなっちまった」

 

「久しぶりによく寝れた気がするよ」

 

「……それを俺の前で言うなよ」

 

「大丈夫、レンヤ?」

 

コーヒーを飲みながらフェイトが気にかけてくる。

 

「ゴクゴク………ぷはぁ!早くカフェインが効いて欲しい……」

 

「無理だろうな。レンヤは昔から薬が効きにくいし」

 

「へえ、そうなんですか?」

 

地下駐車場から1階のロビーに向かうと、すでにB班がいた。

 

「来たか」

 

「皆!」

 

「レンヤ、こっちこっち」

 

「来たわね」

 

「よかった、怪我とかはないみたいだね」

 

ロビーの一角になのは達が座っていた。テオ教官も一緒だった。

 

「あれ?何だかレン君だけ疲れてない?」

 

「確かにそうね?」

 

「それも含めて実習での出来事をお互い話合おう」

 

お互いに実習の内容を教えあった。

 

「ーーなるほど。A班も色々あったみたいだな」

 

「まさかマフィアまであんなのに手を出しているなんて……」

 

「思った以上に裏で出回っているみたいだね」

 

「おそらく入手ルートも探れないだろうな」

 

「それにしてもラーグ君の爆丸の姿、見てみたかったなぁ」

 

「それでルーテシアを連れてた訳ね」

 

「ま、それよりも段々と裏の方が活発になって来てるな。議員までそれに加担しているわじけだし」

 

「B班の行ったミシュラムではそう行った話は無かったわね……まあ、エミューはそんな感じだったけど」

 

「エミューが?あそこは保養地ですよね?」

 

「その保養地にある別荘の1つが問題だったんだよ。他の別荘とは比べ物にならないくらい大きかったやつが」

 

「もしかして、そこって議員の?」

 

「ご想像通りだと思うよ」

 

議員が所有している別荘……確かに何かありそうだな。

 

「まあ、それはともかく。このタイミングというのは気になるな。例のD∵G教団があれ以来、静かなのも気になるし」

 

「そういえば……」

 

「確かに不自然だね……」

 

「私達がここにいるのにも、何か関係が……?」

 

「直接的な関係はないが、全く無関係でもないな。その辺はおいおいな」

 

それからしばらく待っていると……

 

「お待たせしました、皆さん」

 

モコ教官がエレベーターから降りて来た。

 

「モコ教官、今までどこに……」

 

「警備の打ち合わせとその場所の確保に」

 

「今回の実習期間中、俺達は特別講義の担当をする。それじゃあ行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内されたのは実習期間中に宿泊する部屋なのだが……

 

「何で異界対策課があるフロアなんですか⁉︎一体いつ改装したんだよ⁉︎」

 

「レンヤさん達が夏季休暇に行っている間ですよ。来客用だって」

 

「だから話を通せって……」

 

愚痴りながらも荷物を置いて。今度は異界対策課の部屋の前にある大型会議室に案内された。そこでモコ教官からここでの実習内容を伝えられる。

 

「ーー今回の特別実習は今日を入れて残り2日……その間、あなた達は実習課題に取り組むことはありません。代わりに特別講義と明日の警備の段取りと配置を検討します」

 

「仮配属みたいなものか……」

 

「それは……どういったものでしょうか?」

 

「その名の通りですので、特に気負う必要はありません。私からは以上です。今はもうお昼前なので食事を取った午後に備えてください。午後2時にまた開始しますので最低10前にここに戻って来てください」

 

そして食堂に向かい、食事を済ませてた後にテオ教官に特別講義の時間とその間の自由行動を伝えられ、各自おもむろに行動し始めた。

 

「ふわあああ………ようやく寝れそうだな」

 

ちょっと目が覚めてしまったが充分まだ寝れそうだ。

 

「あ、レンヤ。ちょっといい?」

 

「ソエル、何かあったのか?」

 

「うん、説明するから入って」

 

異界対策課に入り、デスクに置いてあったパソコンを見る。

 

「誰かがジオフロント区画のコンピュータを使って地上本部のサーバーにハッキングされてる形跡があるよ」

 

「ハッキング?この時期に……取られた情報は?」

 

「この地上本部の詳しい見取り図だね」

 

「このタイミングでそんな情報……場所は?」

 

「ジオフロントB区画だけど……まさか行くつもり?」

 

「今寝ても中途半端にまた眠くなりそうだからな。完全に覚ましてきた方がまだ楽だ」

 

「そう……許可は貰っておくよ。後で解除コードをレゾナンスアークに送るね」

 

「わかった」

 

ソエルの頭を人撫でして異界対策課を出て、地上本部から少し離れた場所にある地下開発予定地区、その一角に向かった。

 

入り口の前に到着して、先程送られた解除コードでジオフロントに入った。どうやら開発が進んでいるらしく、そのうちデパ地下にでもなりそうだ。しばらく通路を歩いていき、その途中に制御室があった。

 

「あそこか」

 

《生体反応は感知出来ません》

 

だが一応警戒してバリアジャケットを纏い、銃を構える。ドアのロックを解除し少しだけ開け、中の状況を確認して……

 

「ッ……!」

 

一気に開け放ち突入する。レゾナンスアークの言った通り誰もいなかった。部屋の奥には巨大な画面のコンピュータがあった、そこにはソエルが調べたんと同じ物……地上本部の図面が映っていた。

 

「確かに誰かが使用してた形跡はあるな」

 

他に物色してみたが大した物は見つからなかった。とりあえずここから出ようとした時……

 

バタンッ!ガチャッ……

 

いきなりドアが閉まってロックがかかってしまった。

 

「なっ……⁉︎」

 

ドアを開けようとするがまるで開かず。タックルを喰らわせてもビクともしなかった。

 

「閉じ込められた!」

 

《電波、魔力共に遮断されています。通信は不可能です》

 

「なら、壊すだけだ!」

 

刀を展開させ、ドアを打ち破る為に魔力を込めようとしたら……

 

「ぐうっ⁉︎」

 

強烈な重圧とAMFが発生して、バリアジャケットが解除されて膝をついた。そして、部屋の火がかけられた。

 

「くっそ……万事休すか……」

 

《マジェスティー!神器です!》

 

「……!そうか……!」

 

手を合わせて開くと、槍が出てきた。雷の神器はソエルに預けずいつも体内に保管していたんだった。思った以上に火の周りが早く、瞬時に神衣化する。

 

「奔るは飛電!」

 

雷を纏った槍でドアを壊してそのまま制御室を脱出した。

 

ドガアアアァンッ!

 

遅れて爆発が起こり、衝撃で飛ばされてしまった。

 

「うう……いてて……」

 

《大丈夫ですか?》

 

「ああ、大した事はない」

 

頭を振って気を直し、制御室を見る。爆煙が立ち上っており、もう調べられない状態になっていた。

 

「証拠は消えたが、目的はわかった。明日の会議、気を引き締めないとな」

 

神衣を解き、来た道を引き返そうとした時、通路の先から誰かが走って来た。

 

「ーーレン君!」

 

「なのは⁉︎」

 

なのはが近寄って来て、肩で息をしながら呼吸を整えていた。

 

「レン君!さっきの爆発はなに⁉︎ていうか大丈夫、少し煤汚れているけど怪我はない⁉︎」

 

「だ、大丈夫だって。ちゃんとバリアジャケットを着てたし、爆発する瞬間脱出したから」

 

「そう言う問題じゃないよ!」

 

むりやり座らされて、軽い治療を受けた。

 

「なのははどうしてここに?」

 

「レン君が外に出て行くのを見てね。見失っちゃったけど何かあると思って異界対策課に行ったの。そこでソエルちゃんに聞いてここに来たの」

 

「そうか……迷惑をかけちゃったな」

 

「本当だよ。一言くらい言ってよね」

 

「……ごめん」

 

さすがに自分にも非があり、素直に謝った。それから本部に戻り、エレベーターに乗ろうとしたら集合30分前の放送が流れ、すぐに会議室に向かった。フェイト達になのはと一緒に来た事を疑問に思われたが………気にせず軽い説明を受けた後、正規隊の行う基礎体力トレーニングに参加した。その後休む間も無く特別講義を受けた。最後に明日の警備の段取りを聞き終えた後に、会議で使用されるフロアの案内を受けた。会議中に使用されるのは34F、35F、36Fの3フロアで他のフロアは封鎖される予定だ。そして、A班が会議会場周辺を、B班が地上本部1Fからその周辺の警備にあたることとなった。

 

そして夜になり、今は食堂で食事を取っていた。

 

「ああー、疲れた〜」

 

「思ったよりハードだったね」

 

「でも、学院で重視されていない身体能力の向上訓練があるなんて……」

 

「実戦に出れば嫌と言うほど理解したんだろう、魔法だけじゃどうにもならない。必ず道は途切れると」

 

「しかし、その考えは根強いです。そう簡単には変えられないでしょう」

 

「I・II組の学生も何人か居たけど……終わった頃には全員バテバテだったね」

 

「僕でもついてこられたのにね」

 

「どうやら地上本部の警備を横取りされたと思われたみたいだね。何人か敵意のある目で見てたよ」

 

「なんか、悪い事しちゃったな」

 

「手柄求めている奴らや、かまへんやろ」

 

「ーーなかなか盛り上がっているな」

 

その時、食堂の入り口からテオ教官が入って来た。

 

「テオ教官……」

 

「話は終わったのですか?」

 

「ああ、後は明日に備えるだけだ………明日の予定を伝える。朝にまた警備の段取りのミーティングをする。後は会議中の警備を続けるだけだ」

 

「そうですか……」

 

「明日なんだね、管理局次元会議は」

 

「ま、どこかのアホがやらかしたせいで明日に何かが起きる確率は高くなったんだがな。それは置いておいて、俺も飯を食うか」

 

最後に微妙に誰かを指している風に言った後、食事を買いに行ってしまった。そして、全員の視線が俺に向けられる。

 

「…………………」

 

「あ、あはは……」

 

「やっぱり休憩中に何かやったんだね?」

 

「キリキリ吐いてもらうで〜」

 

トレーニングが始まる前にテオ教官にジオフロントでの出来事を話していた。呆れられたが……

 

皆にも同じことを説明した。やっぱり事前に言っておかなかった事に怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー翌日

 

特別実習の最終日。改めて警備の打ち合わせをして各自、適度な緊張を持って警備に当たった。

 

そして、会議が始まった。俺達は会議の様子を会議を行われているフロアの上の階にある回廊室から見下ろしていた。

 

「始まったね……」

 

「……ああ。各部隊の隊長陣と3提督に総司令、それと議長にベルカの代表が集まるこの会議が」

 

「次元航行部隊……通称海から代理としてクロノ君が、オブサーバーに無限書庫からユーノ君、中立の立場と護衛としてヴェント学院長がおるなぁ」

 

「グランダム少将にラース査察官もいますね。グランダム少将はあまり乗り気ではなさそうですが……」

 

「しかし始まったのはいいが……さすがに小難しい話をしてんなぁ」

 

「まあ、会議の内容は俺らが関与する事じゃない。お前達はこの会議が無事に終わるだけを考えとけ」

 

「はい」

 

「俺は下の奴らを見に行く。後は頼んだぞ」

 

テオ教官は後ろ向きで歩きながら手を振り、エレベーターに方向に向かった。

 

「さて、俺達も行こうか」

 

「うん、頑張ろう」

 

「何もなければいいですけど……」

 

俺達は使用されている3フロアを隅々まで巡回して。やがて、会議の前半が終了し、休憩時間になる前に、報道陣による合同取材が行われた。

 

そして、B班と合流して。休憩室で会議の内容を先に休憩に入ったユーノから聞く事となった。

 

「なるほど、それで皆が警備してたんだ。ヴィータやシグナムさんも隣の部屋で待機していたけど……レンヤ達が警備をしているならすごく安心できるよ」

 

「上はそのつもりで集めたらしいがな」

 

「それで会議の方はどうなったんや?荒れた雰囲気はあらへんかったみたいやけど」

 

「今のところは順調に進んではいるよ。各部隊も友好的な感じだったし」

 

「そうだったの……」

 

「ちょっと、ホッとするね」

 

「でも、今のところって事は何か懸念でもあるのかな?」

 

シェルティスが的を射たような事を言った。

 

「そうなのか?」

 

「オブサーバーの僕から言うのもなんだけど……前半は、警備体制についてや次元世界の管理状況が主だったよ。でも、後半はおそらく人員導入基準の検討と異界に関する話しが出るみたいだね」

 

「人員導入って……確か優秀な魔導師は本局に流れて行ってしまうって言う」

 

「確かに、荒れる要素はあるね」

 

「地上本部総司令レジアス・ケイジに本局総司令ソイレント・チェイサー、ですね」

 

「レジアス中将はともかく……ソイレント中将が問題だね。あの人は現状維持を優先しているから事あるごとに地上と衝突しているよね」

 

「まあ、それはいいとして。異界に関すると言うのは?」

 

「現在、異界に確実に対抗できる力があるのは地上にある異界対策課だけ。ソイレント中将はそこをついて異界対策課の規模を縮小、またはレンヤ達を本局に入れる算段みたいだ」

 

「そんな……」

 

「兄さんは、多分味方だと思うけど……」

 

「ま、そこは任せよう。父さんも味方だし」

 

「ふう……休憩が終わったら、荒れるな」

 

それから会議について話し合い、休憩が終了してまた会議が再開した。そして、会議の後半はユーノの予想通り、最初から荒れ気味の会議となった。

 

さっそくソイレント中将が異界対策課の事を指摘し、レジアス中将が冷静に対応するが、だんだんと熱が出てきた。その過程で議長にこの前のマフィアに独断で異界の対処と使用を指摘されたが、最高評議員の許可と言いのらりくらりと躱して行った。クロノ他の隊長陣が止めに入らなければ危なかっただろう。

 

俺達は回廊室からその様子を見ていた。

 

「……これって……」

 

「ユーノ君が心配した通りやな」

 

「しかも、ソイレント中将が議長を指摘したのも多分グルだろ」

 

「熱が上がっている中、別方面の事例が上がるが正当な理由があって否定されず。その後は熱をぶり返して話題を消してしまうってことか?」

 

「遣る瀬ないですね……」

 

「…………………」

 

「どちらにせよ、今俺達がやる事は決まっている」

 

テオ教官の言葉で、気持ちを切り替えた。

 

「……はい、もちろんです」

 

「それではまた、一通り巡回をーー」

 

〜〜〜〜〜〜♪

 

そこでテオ教官の端末が通信を受けた。

 

「こちらテオ……ヴァイスか。いったいどうしたーーーなんだと?」

 

ヴァイスさんからの通信らしいが、何かあったようだ。それから通信を切ってこちらを向く。

 

「ーー地下にグリードが大量に出現した。それと……ミッドに滞在していたヘインダールも動いたらしい」

 

「えっ……」

 

「まさか!」

 

「おいテオ!いったいどう言う事だ!」

 

「あいつらがここにいる事は以前から知っての通り、念のため監視していたんだが……監視を振り切ったらしいな」

 

「くっ……」

 

「落ち着け、想定の範囲だ。今グリードの方はB班が対応に当たっている。何かあったら知らせるから引き続き警戒しておけ」

 

テオ教官はどこかに通信をしながら下へ向かって行った。

 

「一体何をするつもりだ……⁉︎」

 

「リヴァン……」

 

「リヴァン、落ち着け。いくらヘインダールでもここを仕掛けるとは思えない」

 

「それにどうやら本来の目的とは別件らしいなぁ。会議が決まったのはつい最近やし、目的の達成はまだ先やから途中に別の依頼を受けったちゅうのが妥当や」

 

「確かに……」

 

「でも、それなら誰が……」

 

『ーー何だと⁉︎』

 

いきなり会議室から怒声が聞こえてきた。

 

「何や……?」

 

「レジアス中将?」

 

こちらが立て込んでいる間に何かあったらしい。

 

『すまないが、もう一度言ってもらえるか?』

 

『いいですよ。私はあそこにいる彼を、神崎蓮也三等陸佐を本局に移籍してもらいたい』

 

「なっ……!」

 

ソイレント中将に手を向けられ、会議室内にいる人の視線が集まるが……驚きで気にもならなかった。

 

『異界対策課は少数精鋭ですがそれでミッドチルダ全域を守るには酷と言うものです。それに何でも以前から彼らを酷使して、まともに休暇を許可しなかったらしいですね?』

 

『ぐっ……』

 

「ッ……!」

 

“違う!”と叫びたかったが、何とかこらえた。確かに以前、休暇をもらえなかった事に腹を立てていたが、あれはレジアス中将ではなく最高評議員かそれに准ずる者が拒否していたものだ。レジアス中将はそれに対して何とか抵抗して、仕事量を減らしてもらったり。ティーダさんとヴィータに頻繁に補助をしてもらうように申告していたのだ。

 

『それに彼の同意があれば、すぐにでも可能……そうですよね?』

 

『……はい。相互の同意があれば可能です』

 

確認をユーノにさせてご満悦のソイレント中将。話を振られたユーノはいやいやそうだったが、私情ははさめず苦しそうに言った。

 

『待ちたまえ。そもそも本局のどこに所属させる気だ。どこに行くにしても、順序を踏まえてもらいたい。どこかの優秀な部隊に入れて、彼に能力制限をかける気か?』

 

『それにこの手の話は、彼を会議に入れて話すべきだ。彼の意見を聞かなくては始まらない』

 

『そもそも、今は学生の領分を真っ当してもらっている。そのような事は受けいられない!第一、カンザキ二等陸佐が本局に入ったところで状況は差ほど変わらない!』

 

ラース査察官とグランダム少将が待ったをかけ、レジアス中将がそれに便乗する。

 

『そうとも言えませんよ。より良い方法を模索すれば可能ですよ』

 

『……具体的には?』

 

『そうですねぇ。あまり口では言えない事……と言っておきましょう』

 

バンッ!

 

それを聞いて、ウイントさんが机を思いっきり叩いて立ち上がった。

 

『それは、いったいどう言う意味か……説明していただけませんか?』

 

『気に障ったようなら謝ります。ただ、いったい何を考えたのですか?』

 

『貴様……!』

 

『ーーおやめください、ウイント代理人。ソイレント中将もあまり問題発言や挑発はやめてもらいたい』

 

そこにクロノの静止が入った。もう少し止めるのを遅れたら、危なかっただろう。

 

『それは失礼。ですが、ナカジマ三佐もご検討を願いたい』

 

『ぐっ……』

 

ゲンヤさんも強く否定できず、渋い顔で悩む。

 

「何考えてんだ、あいつは」

 

「レジアス中将とウイントさんが怒るのもわかるよ」

 

「うん。私も同じ気持ちだよ」

 

「ホンマ、堪忍袋の緒が切れそうや」

 

「落ち着いてください。相手の思う壺です」

 

「俺は大丈夫だから安心しろ。誰があんな奴のところに行くか」

 

「ーーそれもそうだな」

 

そこにラーグがやって来た。

 

「ラーグ、どうしたんだ?」

 

「緊急連絡用に俺が来たんだ。B班にもソエルが行っている」

 

「そう、ありがとうね」

 

すずかはお礼を言ってラーグを抱きかかえる。

 

「だが、流れは悪いみたいだな」

 

「クロノが抑えているけど、いつまで持つか……」

 

ーーーーーー♪

 

緊迫した空気に水を差すように端末に着信が入った。

 

「こんな時に……」

 

「テオ教官から?」

 

「はい、神崎でーー」

 

『ティーダだ』

 

あのティーダさんが名乗るのを遮るなんて、よほどの事態なのだろう。

 

「ティーダさん?どうしたんですかーー」

 

『時間がない、手短に話す。空港にあるレーダー施設がグリードに襲撃された。ミッドチルダに侵入する飛行艇や次元艦を捕捉するためのな』

 

「それってつまり……!」

 

『どうやら出て来たようだな。テオテスにも伝えたからお前達も備えておけ』

 

「了解しました」

 

そこで通信が切れた。尋常じゃない雰囲気に、フェイト達も焦っていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「まさか、ヘインダールの奴らがやらかしたのか⁉︎」

 

「そっちじゃない。実はーー」

 

『皆さん。少々、よろしいか?』

 

そこに、やや強面の男性……ギャラン議長が席を立ち、声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、この場で語られている神崎 蓮也氏の移籍について。延いては異界の対応、対策について……1つ私から提案してもらいたい事があります」

 

「…………………」

 

「ははは、先程から大人しいと思っていましたが……いったい何を?」

 

「ええ、それはーー」

 

「! ーー方々、お下がりを!」

 

ヴェント学院長が異変を感じ取り、議長の言葉を遮った。

 

次の瞬間……会議室にある外に面するガラス張りの壁の下から、1隻の飛行艇が上がって来た。

 

「なっ……!」

 

「飛行艇だと⁉︎」

 

「まさか……!」

 

全員が驚愕する中……

 

ダダダダダダダダダダッ‼︎

 

飛行艇から何の警告もなく、質量兵器の銃弾が撃たれ。ガラスに無数の蜘蛛の巣状にヒビが入っていく。

 

「くっ……!」

 

「まさか……テロリスト共か⁉︎」

 

「…………………」

 

「ここで来ましたか……」

 

「問題ない!質量兵器、魔法にも耐えられる特別製のガラスだ!だが、念のため全員下がれ!」

 

レジアス中将の指示で、後方に下がって行った。それにしても、ギャラン議長とソイレント中将は妙に落ち着いているな……

 

それからしばらく撃ち続けた後、飛行艇は上昇して行った。会議室の両脇にあった扉が乱暴に開けられ、待機していた護衛が会議室に入って来た。

 

「お父さん、大丈夫⁉︎」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

ギンガがゲンヤに駆け寄り、安否を確認する。ゲンヤや手を振って答える。

 

「奴らはどこに?」

 

「さあな、だが……逃げたわけはないだろう」

 

レジアスとゼストはまだ終わらないと踏んでいた。

 

「今のは……トライセンの高速艇か」

 

「そのようですね」

 

「お二方、念のためお下がりを」

 

上昇した飛行艇の製造元を言うラース、助手の女性も同じ考えで頷く。そして護衛についていたシグナムが注意を促した。

 

「こら起きんか」

 

「ふわあああ〜……ねむ……」

 

グランダムがイシュタルを叩いて起こす。

 

「クロノ!」

 

「大丈夫だ、それよりも奴らを……」

 

クロノはヒビ割れたガラスの奥を睨みつけ、ヴェロッサは杞憂だと思い肩で嘆息する。

 

「ユーノは下がってろ!」

 

「ありがとう、ヴィータ。でも安心して、僕も自分の身は自分で守れるから」

 

ヴィータがユーノの前に立ち、ユーノは懐から数枚の符を取り出した。

 

「やれやれ、物騒ですね」

 

「……いかが致しましょう?」

 

護衛がソイレントに近寄り、何やら密談をしていた。議長もそれをチラリと見ていた。そこで正面の扉が開いて、テオが駆け込んで来た。

 

「皆さん、ご無事ですか⁉︎」

 

「ああ、無事だ」

 

「しかし、連中はどこに?」

 

『……聞こえているな』

 

音響機器にノイズが発生した直後、男性の声が聞こえてきた。

 

『ーー会議に出席している方々、我らはD∵G教団だ』

 

「何だと⁉︎」

 

「報告にあった……」

 

「レンヤが言っていた、怪異主義者集団か!」

 

『此度は我らの大義がため、ここにいる全ての人間を惨殺する!覚悟するがいい!』

 

「何を戯言を……!」

 

「こいつは話になるねぇな」

 

「だが……これはマズイな」

 

「ええ、確かに」

 

「ちっ……!」

 

シグナム達、護衛がデバイスを起動し戦闘態勢に移る中……

 

飛行艇は地上本部屋上に着陸し、艇内から武装した集団が出て来た。武装集団は迷わず、会議室に向かう道を走っていた。

 

「なに⁉︎ コッチにまっすぐ向かっているだと⁉︎あの図面はこのためか……!」

 

テオは監視室の連絡を受け、図面が奪われた意味を理解する。

 

「おい!待機させていた警備隊をこちらにーー」

 

「だ、駄目です!外部からのハッキングで外壁が降ろされ、急行できません!」

 

「何だとっ⁉︎」

 

警備責任者は驚愕して思考を停止してしまう。

 

「どこか非常時に開けられる場所はないのか!」

 

『ダメ、どこも閉鎖されている!』

 

シェルティスの問いに、ツァリが端子を地上本部の周囲全体に飛ばしながら答える。

 

「こうなったら、力づくで……!」

 

「開けるのみ……!」

 

「やめなさい!確かにあなた達の実力ならこじ開けられるけど……そうなった場合、防衛レベルがさらに上がって手がつけられなくなる!」

 

魔力を高めるアリサとアリシアをモコが止め……

 

「レン君、フェイトちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、リヴァン君、ユエ君……」

 

なのはがA班の名前を心配そうにつぶやき、地上本部を見上げた。

 

その時、なのは達の正面にある空間に赤いヒビが入り……ゲートが出現した。そこから次々と怪異が出始めた。

 

「なっ……!」

 

「ええええっ⁉︎」

 

「こんなことまで出来るなんて……」

 

「仕方ありません。今は目の前のグリードの撃破を優先します!各自、市民の安全を確保しつつ、グリードを倒しなさい!」

 

「了解しました!」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い……気持ちを切り替え、なのは達は目の前グリードに向かって行った。

 

次々と地上本部の外壁は降ろされ、とうとう入る事も出る事も出来なくなった。テロリストの進行方向を除いて……

 

「あ……」

 

「これは、とんでもない事になりましたね」

 

「地上本部の制御を奪われたようだね。昨日、図面を盗み出したハッカーの仕業かもしれない」

 

「ソエルの防壁を突破した奴だ、その可能性は高えな」

 

「とにかく俺達も行くぞ!下に降りて、全員の安全を確保するぞ!」

 

「了解や!」

 

「エレベーターは駄目だ、非常階段から行くぞ!」

 

デバイスを起動して戦闘態勢を整え、非常階段がある場所に向かうと……上下ともに階段のシャッターが降ろされていた。

 

「さ、さっきまで通れたのに……!」

 

「それなり私がーー」

 

「あかんでユエ君。管理局の防衛システムは突破されるごとにレベルが上がって行くんや。最悪、AMFが出てきてお陀仏や。相手は質量兵器を持っておるんやで?」

 

「だから別の方法で突破する。すずか、行けるか?」

 

「なんとかやってみるよ。スノーホワイト」

 

《かしこまりました》

 

すずかは端末の上にスノーホワイトを乗せ、シャッター脇のコネクタに端末に繋がっているケーブルを接続した。空間ディスプレイとキーボードが展開され、打ち込み始めた。

 

「……………ちょっと厄介だね。でも、これならなんとか……!」

 

タンッ!

 

最後にエンターを押すと、下に降りる方のシャッターが上がった。

 

「開いた……!」

 

「さすがすずか!」

 

「ううん、セキリュティが低めに設定からだよ。それにここを開けたせいで他の扉のセキリュティが強化されちゃったの。とても全部を開けられる時間はないよ」

 

「そりゃまた用意周到な……そのハッカーの性格、かなり捻くれてるんじゃねぇのか?」

 

「検索は後だ……とにかく下に降りるぞ!」

 

レンヤ達は解放されたシャッターを通り、下に降りて行った。

 

 



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86話

 

 

レンヤ達はテロリストの襲撃に会議出席者を守るため、階段を降りて会議室前の廊下を走っていた。

 

テロリストはエレベーターを使い、会議室のある35階にまっすぐ向かっており、このフロアに待機していた警備隊は横長のテーブルをバリケードにしてテロリストの持つ質量兵器の銃に対抗していた。

 

ドガアアアンッ!

 

「「「ぐああああっ!」」」

 

しかし、爆弾でバリケードごと警備隊は倒されてしまった。

 

「今だ!」

 

「奴らの首を取れ!」

 

バリケードを乗り越え、テロリストが会議室に向かおうとした時……

 

「はあっ!」

 

テオが大剣を振り下ろし、向かって来たテロリストを後退させた。

 

「すまんな、ここは通行止めだ」

 

「ぐっ、青嵐(オラージュ)か!」

 

「怯むな!波状攻撃を仕掛けるぞ!」

 

テロリストが武器をテオに向けると、後方からシグナム達が来た。

 

「ーー助太刀する!」

 

「あなた達は下がってにゃ〜」

 

「す、すまない……」

 

「大丈夫ですか?」

 

シグナムが剣を、イシュタルが槍を構え前に出て。ギンガが負傷者に肩を貸し、後ろに下がる。

 

「イシュタル・フェリーヌ!地上部隊筆頭か!」

 

「あれは夜天の守護騎士、烈火の将……⁉︎」

 

「構わん、やってしまえ!」

 

それを皮切りに銃を撃ち始めた。それと共にグリードも出して来た。テオが高速で迫る銃弾を斬り、シグナムとイシュタルが左右の敵と戦い始めた。

 

「! この人達……」

 

「なんだ、この力は?」

 

「おそらく、オーバーロードかそれに似たようなものだろう!」

 

たとえ力が上がったテロリストでも、テオ達は全く引けを取らず。むしろ優勢になっていた。

 

そこに会議室前に到着したレンヤ達が、その光景を見ていた。

 

「凄いな……!」

 

「テオもそうだが……シグナムも前より腕が上がってるし。あのイシュタルって人も飄々としいる割にはかなり強え」

 

「でも、あれなら何とか……」

 

フェイトが安堵した時、会議室の扉が開き、ヴィロッサが出て来た。

 

「あ、来たね」

 

「ヴェロッサさん……!」

 

「出席者の皆さんは無事ですか⁉︎」

 

「うん、今のところはね」

 

そこで次はヴィータが出て来た。バリアジャケットは以前のいわゆるゴスロリではなく……赤い髪を背中に流し、必要最低限の装飾と動きやすさを重視した赤いドレスだった。のろウサのぬいぐるみは左胸に1体付いていた。おそらくはやてが作ったんだろう。

 

「どうやらノンビリ話は出来ねぇみたいだな。後ろからも来たぞ」

 

「え……」

 

はやてが驚く中、はやてとフェイト以外が異変に気付き、後ろに振り返った。

 

「この感じは……!」

 

「何か来たようだな」

 

さきほど来た通路から、土偶型のグリードが数体出て来た。

 

「こ、これって……!」

 

「初めて見るタイプだな」

 

「撃退するぞ!」

 

「あたしはあっちに行く、後は頼んだぞ!」

 

「任せておいてや!」

 

ヴィータがテオ達に加勢し、レンヤ達は目の前の敵に向かって行った。

 

「はっ!」

 

ユエが剄を纏った拳で殴るが、吹っ飛ばしただけでヒビもつかなかった。

 

「こいつは硬いな」

 

「こういうのが1番面倒だな!」

 

リヴァンが弦を引いて、鋼糸を飛ばすも。グリードの硬い装甲に弾かれてしまう。

 

グリードの閉じらていた目が開かれると、熱線が放たれた。

 

「パンツァーシルト!」

 

それをはやてが魔法陣を展開して防いだ。

 

「スノーホワイト!」

 

《スナイパーフォーム、フリージングバレット》

 

スノーホワイトを長銃に変え、凍結魔力弾を撃つ。次々と命中して動きを止めがグリードは構わず熱線を放ち続ける。そこにはやての防御の左右を通り、レンヤとフェイトが飛び出した。

 

《ファーストギア、ドライブ》

 

「無心、想斬!」

 

《ロードカートリッジ、ライオットザンバー》

 

「はあっ!」

 

レンヤは素早く流れるようにグリードの間を通り抜け、凍っていない部分に切れ込みをいれ。フェイトはバルディッシュを双剣に変え、同じように切れ込みを入れる。

 

「リヴァン、ユエ!」

 

「ああ」

 

「了解!」

 

レンヤの呼び声に答え、全部のグリードに鋼糸を巻きつけ、ユエが鋼糸の束を掴み……

 

「おおおおおおっ‼︎」

 

全力で引っ張った。グリードは引っ張られ、その先にすずかが構えていた。

 

《オールギア、ドライブ》

 

「ッ……!」

 

グリードが目の前に届いた瞬間……目にも止まらぬ速さで連続の突きを繰り出した。突きが当たるたびにグリードに刺さり、破片となって足元に落ちる。

 

「吹雪征伐!」

 

最後の全力の一突きで、土偶型のグリードはバラバラになった。

 

「やったな、すずか」

 

「うん、お疲れ様。レンヤ君」

 

「他はいないみたいだね」

 

周囲にグリードが残っていないか確認した後、テオ達に方を見た。梃子摺ってはいないようだが、まだかかりそうだ。

 

(あれ? あのグリード、確か消滅しないで破片に……!)

 

急いで振り返ると、全土偶型グリードが集まって。1体の巨大なグリードとなっていた。

 

「しまった! はやて!」

 

「え……」

 

はやてにグリードの腕が振り下ろされる。

 

「くっ、間に合わーー」

 

「ーー仇なす者に、秩序をもたらせ! バインド・オーダー!」

 

次の瞬間、グリードの周りに符が囲み、バインドがかけられ……そこに小規模の砲撃が放たれ、グリードを吹き飛ばし、土偶型のグリードを撃破した。

 

「はやてちゃん、大丈夫?」

 

「へ、平気や……」

 

「危ないところだったね」

 

そこに、符を持ったユーノが歩いてきた。

 

「ユーノ、助かったけど……オブサーバーなのに、ここに出てきていいのか?」

 

「うん、このくらいなら大丈夫だよ」

 

「ちなみにユーノ、それって……」

 

「ああ、これ? 前にリーゼ姉妹が使っていたカードの改良型だよ。簡易型のカートリッジシステムで、使い捨てだけど僕にあっていてね」

 

「なるほど、興味深いですね」

 

「ユーノ君、助けてくれてあんがとなぁ」

 

「ううん、はやてが無事でよかったよ」

 

「しかし、こんな物まで出して来るなんて……」

 

「おそらく、屋上から放ったんだと思うよ」

 

「こんなのが、うじゃうじゃいるのかよ」

 

「ええ、相当数いるでしょうね」

 

「お取り込み中失礼。あちらも終わりそうだよ」

 

ヴェロッサに言われ背後を見ると……テロリスト達は膝をつき、テオ達はほぼ無傷で立っていた。

 

「くっ……化物共め……!」

 

「仕方ない。プランを切り替えるぞ!」

 

そう言うと、何かを投げてきた。

 

「む……?」

 

「何これ?」

 

「スタングレネードだ、下がれ!」

 

テオが叫んだらすぐに下がりった。続いてスタングレネードが炸裂し、すぐに収まるとテロリストはいなく、エレベーターホールに続くシャッターが降ろされた。

 

「逃げられちゃった」

 

「不覚……」

 

「力づくでも面倒だな」

 

「皆さん!」

 

レンヤ達はテオ達に近寄った。

 

「そっちも終わったみてえだな」

 

「ああ、そっちも撃退したようだな?」

 

「だが、このままだと逃げられるだろう」

 

「すずか、やれるか?」

 

「やれるだけやってみるよ……!」

 

さきほどと同じように端末をコネクタに接続して、キーボードを打ち始めた。

 

「! やっぱり、セキリュティレベルが最大まで上げられているよ。突破できなくもないけど……その間に逃げられちゃう!」

 

「そうか……」

 

ーーーーーー♪

 

テオの端末が鳴り出した。おそらくテロリストの動向についてだろう。

 

「俺だ。こっちは今しがた凌いだところだ」

 

しばらくテオは黙って報告を聞いていると……

 

「……なに?連中がエレベーターで地下に降下しているだと……?」

 

その行動に、全員が疑問に思った。普通、撤退するのなら飛行艇がある屋上に向かうはずなのだから。

 

「ど、どうして……?」

 

「屋上にある飛行艇で逃げないんか……?」

 

「考えられるとしたら、飛行艇に搭載した爆弾で自爆するつもりなのかもしれない」

 

ヴェロッサがそう推理した。あながち否定できない推理だ。

 

「なっ……⁉︎」

 

「なるほど、ありえるな」

 

「つもり、地上本部ごと私達を消すつもりかな〜?」

 

「確かに、テロリストならやりかねないよ」

 

「くっ、愚かな……」

 

「さすがにマズイですよ」

 

「こうなったら、力づくでシャッターを!」

 

ヴィータがグラーフアイゼンを掲げ、振り下ろそうとした時……

 

「…………………え」

 

「すずか?」

 

すずかの惚けた声で止められた。

 

「な、なにこれ……別の誰かがハッキングで地上本部の制御を解放しようとしている……!」

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部、サーバー内。

 

『あらあら、これは』

 

現在、地上本部のシステムを掌握している犯人に……誰かが強固になったファイアーウォールをくぐり抜け、近づいていた。

 

『………………』

 

『ふふ、いい腕をお持ちのようで。あなたとなら楽しめそうですわ……!』

 

『ーーそこまでだよ』

 

未確認のハッカーの反対側にすずかが攻め込んできて、挟み撃ちにした。

 

『大人しく地上本部の制御を解放してもらうよ』

 

『あらあら、仕方ありませんね。そこのあなたと遊びたかったのですが……またの機会にしましょう。それでは、せいぜい死なないように頑張って下さいね』

 

本部を掌握していたハッカーは痕跡も残さず消えて行った。そして、すずかは未確認のハッカーと向かい合った。

 

『えっと、助けてくれてありがとう』

 

『…………………』

 

未確認のハッカーは無言でメールを送ると、消えて行った。

 

『あ……って、違う違う。早く制御を……って終わってるし⁉︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、とにかく、地上本部の制御を解放……!」

 

すずかが慌てながらキーボードを打ち込むと、シャッターが上がって行った。

 

「開いたか……!」

 

「エレベーターは使えるか⁉︎」

 

「はい。ロックは解除しました。テロリストの使用中の1基は使えませんけど」

 

「なら僕が屋上に行くよ。飛行艇に搭載された爆弾を解除する」

 

「ユーノ、出来るのか?」

 

「遺跡調査をするには、罠を知る必要があるからね」

 

「なら僕も行こう。フェレットもどきが失敗したらまとめて凍結処理をする」

 

「……クロノ。ヴィータが怒りそうだからやめておいて」

 

ヴィータが怒髪天を衝いたが如き形相をクロノに向ける。

 

「……すまん。冗談が過ぎた」

 

「あはは!いいよいいよ、場を和ませるジョークでしょう?」

 

「それはともかく、私も行こう。グリードを爆弾の防衛に使っているかもしれん」

 

「君達はテロリストの追撃を。今ならまだ間に合います」

 

「了解した」

 

「あたしも追撃に出るぞ」

 

「ん? 意外だな、てっきりユーノの護衛に回ると思ったが」

 

「ばーか、おめえらがいるから平気だろ。それに、中途半端は好きじゃねえ」

 

「時間が惜しい、行くぞ」

 

「ああ!」

 

二手に分かれ、レンヤ達はエレベーターで地下に降りて行った。

 

降りている間、レンヤはソエルからきた通信で連絡を取っていた。

 

「ああ……ああ。分かった、それだけ判れば十分だ。ありがとう、ソエル。気を付けてな」

 

通信を切り、フェイト達の方を向く。

 

「ソエルはなんて?」

 

「テロリストの逃走ルートを割り出したそうだ。地上本部基部……そこからジオフロント方面に逃げるようだ」

 

「基部という事は……本部の地下部分になるなぁ。確かに、ジオフロントの各区画と接続されているはずやけど……」

 

「おっし!ぜってえ捕まえんぞ!」

 

「ああ、ここで逃しちまったら……後々面倒だしな」

 

「はい、絶対に捕まえましょう!屋上の爆弾もちょっと心配だけど……」

 

「ユーノなら大丈夫だろ、ああ見えてそれなりに修羅場は潜っているしシグナムとイシュタルさんも付いて行っているし」

 

「あのメンツで遅れを取るような事態にはならないだろう……しっかし、随分と長いこと降り続けているな?」

 

「せやな、地上35階から地下8階に降りてるんやし」

 

「ミッドチルダの最深部という訳ですね」

 

「そういやすずか。助けてくれたハッカーにメールが送られただろう」

 

「あ、うん」

 

端末に送られたメールの内容を見る。

 

「えーっと……“私は月蝕(エクリプス)。テロリストが許せないから助けただけです”……だって」

 

「エクリプス?何かの通り名か?」

 

「聞いたことがあるよ。ミッドチルダで噂されている正体不明の天才ハッカー……基本的にホワイトハッカーなんだけど、要求する金額がもの凄く高いんだって。でも、必ず要求の情報を精確に手に入れる情報屋だよ」

 

「その彼がいったいどうして協力を?」

 

「文中通りなら、それに越した事はないんだが……」

 

「今、考えても仕方がねえな。その話は後だ、そろそろ着くぞ」

 

ヴィータの言う通りその後すぐに地下8階に到着した。

 

「お前ら、急ぐぞ」

 

「おう!」

 

テオとヴィータが先行して、レンヤ達も後に続いた。そして、地上本部のメインシャフトがある場所に着いた。

 

「ここが……地上本部のメインシャフトか」

 

「話しには聞いとったけど、こないな場所にあったんやな」

 

「ここは、電力を作るのに並行して本部の重量を分散する為の場所だよ」

 

「ま、とにかく行こうぜ」

 

「どうやら南のようですね」

 

奥に進むと、先の十字路の真ん中ににテオとヴィータがいた。

 

「これは……間違いないな」

 

「ああ、そのようだな」

 

「テオ教官、ヴィータ」

 

「どないしたんや?」

 

「……面倒なことになった。テロリスト共はここで2手に分かれたらしい」

 

「それって……」

 

「何かの作戦か?」

 

「さあな……片方はジオフロントC区画、もう片方はD区画に逃げたようだな」

 

「確かに、そのようですね」

 

フェイトが地面に残された足跡を見て納得した。偽装している時間はないので間違いない。

 

「ここは2手に分かれましょう。急がないと逃げられてしまいます」

 

「ああ、それが最善だろう。C区画は俺とヴィータ三等空尉の2人で追う。お前らはD区画に逃げた連中を追え」

 

テオの人数わけに、フェイト達は驚く。

 

「人数を分けないのですか?」

 

「さすがに2人だけというのは危険では?」

 

「いや、それが正しい。C区画は熱処理プラント等があって追いつくためには大人数での移動は困難だ」

 

「逆にD区画は広くて探索に時間がかかる可能性があるの。この分け方が妥当だよ」

 

「確かに、納得する判断だ」

 

「それではこれで、テオ教官、ヴィータ三等空尉、どうかお気をつけて」

 

「そっちもな」

 

「ヴィータ、気い付けてな」

 

「ああ、はやても気を付けてな」

 

お互い、激励の言葉を言った後。テオとヴィータはC区画に入って行った。

 

「よし、俺達も行くぞ。ジオフロントを脱出される前にテロリストを捕まえる!」

 

「うん!」

 

「きっちり、落とし前を付けさせねえとな!」

 

ジオフロントD区画に入り、しばらくして地下駐車場のある場所に出た。

 

「ここは……地下駐車場のようですね」

 

「にしてはかなりデカイんちゃうん?」

 

「ミッドチルダの人口1割の数が止められるがフレーズだからな。今日はさすがに少なくようだな」

 

「テロリストの襲撃もあって、封鎖されているようだね」

 

「でも、これだけ広いと追跡するのも大変だよ」

 

「そこは俺に任せろ」

 

ラーグが風水盤を取り出した。

 

「レンヤ」

 

「ああ」

 

それをレンヤが受け取り。目を閉じて手をかざし……足下に蒼いミッドチルダの魔法陣が展開された。

 

「…………見つけた。数名の人間とグリードが移動している。近いぞ」

 

「本当……⁉︎」

 

「以外と早く追いつけそうだな」

 

「急ごう!」

 

急いで正面の金網の鉄橋を渡ろうとした時……

 

「! 『皆、あそこ!』」

 

フェイトの念話で下を向くと、真下の鉄橋の先からテロリストが見えた。

 

『あ……』

 

『まずい……!』

 

「……! なに……なんだ、あいつらは⁉︎」

 

鉄橋の上で隠れる場所もなく、気付かれてしまった。

 

「追っ手か⁉︎」

 

「どうして嗅ぎつけた⁉︎」

 

ダダダダダダダッ!

 

容赦無く質量兵器の銃を撃ってきた。姿勢を低くし、プロテクションを展開する。

 

「きゃっ!」

 

「ッ……!」

 

魔力弾はともかく、本物の銃で撃たれた事がないはやては防御で精一杯だった。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《カルテットモード》

 

冷静に刀から双剣、双銃に変え、魔力弾を撃って対抗する。

 

「うおっ……!」

 

「気を付けろ!おそらく、全員魔導師だ!」

 

「レンヤ、横に逸れろ!」

 

レンヤの横にリヴァンが立ち。弓を構え、精確にテロリストに矢を射る。しかし、小規模ながらAMFを展開しており、大したダメージは与えられなかった。

 

「ちいっ!」

 

「動け!その場に留まるな!」

 

威嚇射撃をしながら、テロリストは奥の通路に走って行く。

 

「ふうっ………それ!」

 

フェイトが逃亡するテロリストに雷を落とすも外してしまう。

 

「なんだ、あのガキ共は⁉︎」

 

「構うな!このまま離脱するぞ!」

 

テロリストは奥の通路に入ってしまった。

 

「ごめん……外しちゃった」

 

「気にしないでください」

 

「はやてちゃん、大丈夫?」

 

「う、うん……ホンマモンの銃に撃たれるのがあない怖いなんて思わんかったんよ」

 

「気にしないで、私も初めはそうだったから」

 

「レンヤ、全員無事だぞ」

 

「ありがとう、ラーグ。よし、追いかけるぞ!あそこに降りるルートを探すんだ!」

 

「え、このまま飛行魔法で降りないのですか?」

 

「奴らが仮に非魔導師だとしても、ここからロープで降りられたらはずだ。それをしないって事は、おそらくここの警備レベルが最大になっているはずだ」

 

「その状態で指定空間に入ったり飛行魔法を使用するとシステムが作動して、AMFの起動と拘束用のゴム弾発射される仕組みになっているの。ここはレンヤの言う通り、徒歩で向かおう」

 

「わかりました、行きましょう!」

 

巨大な駐車場を走り抜け。途中、道が壊されていたが迂回路を探し出し、しばらく進むとひときわ開けた場所に出た。その中心にテロリストがいた。

 

(あれは……!)

 

(どうやら追いついたようだね)

 

テロリスト達は中心に集まり、どこかに通信していた。

 

「……くっ、そうか。結局、本部の爆破は阻止されてしまったか……」

 

「ちっ、後もう少しで……」

 

「仕方ない、ここは一時撤退して態勢を整えるぞ……!」

 

「ああ、まだ機会はある。彼らも協力してくれている、今はここをーー」

 

「そこまでだ……!」

 

そこでレンヤ達が突入し、テロリストの前に出る。

 

「な……⁉︎」

 

「先ほどのガキ共⁉︎」

 

「馬鹿な……!追跡ルートは潰した筈だぞ⁉︎」

 

「残念ながら、別のルートを通ってきたんだ」

 

「どうやら入手した図面も完璧やあらへんかったようやな?」

 

「くっ……」

 

「大体、何なんだ⁉︎このガキ共は……」

 

「レルム魔導学院、VII組の者だ。ペルソナあたりから聞いているんじゃないか?」

 

レンヤが名乗ると、テロリストは思い出したようにハッとする。

 

「VII組……貴様らが……!」

 

「たかが学生ごときが我らの大義を邪魔するか!」

 

「なにが大義ですか!そんなことのために、人を殺めるなんて間違っています!」

 

「グリードに心を自ら差し出して者とはいえ、せめてその心の酔いを覚ましてあげましょう」

 

「だ、黙れ!」

 

「己が傲慢で神の使徒を殺す異端者共め!」

 

「はあ……」

 

「反省する気、ゼロやな」

 

武器を構え、臨戦態勢になるレンヤ達。

 

「ーーーちょうど、殺し損ねた諸悪の根源を潰せる。貴様らの屍をこの地の底に埋めてやる!」

 

「聞き耳持たずか……」

 

「そのようだ、とにかくブチのめすぞ!」

 

テロリスト達は犬型のグリード……アーミーハウンドと同時に襲いかかってきた。

 

「せいっ!」

 

《シャープウィンド》

 

銃弾を斬りながら斬撃を放ち、攻撃と防御を同時に行う。

 

「いい加減、しつこいぞ!」

 

鋼糸を無数に飛ばし、アーミーハウンドの足を射抜いた。

 

「内力系活剄・旋剄!」

 

ユエは脚力を大幅に強化し、動きが止まったアーミーハウンドを打ち上げ……

 

《ハーケンスラッシュ》

 

「はあっ!」

 

フェイトが鎌で全方向に一閃し、アーミーハウンドを斬り裂いた。

 

「なっ……⁉︎」

 

「怯むな! 攻撃を続けろ!」

 

「させないよ!」

 

ギアを回転させながらすずかがテロリストの中心に突っ込み。剣型のデバイスを持っている相手を狙って攻撃を仕掛けた。

 

「この……!」

 

「待て、同士討ちになる!」

 

「ーー遅いよ!」

 

銃の援護がこない間に、すずかがが近接戦で敵を減らしていく。

 

「そいつから離れろ!」

 

「させないぜ!」

 

《サークルロンド》

 

コマのように回転と移動をしながら、後方で銃を構えていたテロリストの銃を斬り裂いた。

 

「なに⁉︎」

 

「銃が……!」

 

「ユエ!」

 

「うおおおおおっ!」

 

怯んだ隙にレンヤとすずかはすぐさまテロリストから離れ、ユエが拳を振り抜き衝剄を放ち、テロリストを吹き飛ばした。

 

「くっ……馬鹿な⁉︎」

 

「4人のエースランクがいるとはいえ、学生風情がここまでやるとは……!」

 

「ーー確かに俺達はグリードを完全悪と決めつけているかもしれない」

 

テロリストが膝をつく中、いきなりレンヤがそう言った。

 

「だが、それでも異界が、怪異が人々を襲うのなら……たとえ理解されなくても、小さな幸せを守るために……俺は、剣を取る!」

 

「レンヤ……」

 

「……どうやら、我々は相容れない関係のようだな」

 

まだ気力があるのか、テロリスト達は立ち上がる。

 

「そうらしいな」

 

「! 何か来ます!」

 

「新手か……⁉︎」

 

横にあった通路からレーザーが飛んで来た。レンヤ達はテロリストから離れ、後退して避けた。

 

「レーザーか……!」

 

「ううん、あれはただのレーザーじゃない。着弾地点の床が変化していない」

 

フェイトがそう答えた瞬間……

 

グルルルルルルル……

 

唸り声をあげて、ゆっくりと暗がりから出て来たのは……

 

「げっ! ニビノカミ⁉︎」

 

大きなたてがみと2本のシッポ、そして身体中にある目玉模様が特徴の狼型のグリムグリード……ニビノカミだった。

 

「嘘でしょう⁉︎」

 

「何でこんなグリードを出してくるんだよ!」

 

「ははは、以前お前達がこいつに梃子摺っていたのは確認済みだ!」

 

「せいぜい原型を留められればいいな!」

 

「こいつは我々でも手を焼く奴だ……行くぞ!」

 

テロリストは反対方向に逃げて行った。

 

「くっ……弱音を吐いてはいられないか。皆、行くぞ!」

 

「うん、わかったよ!」

 

「こっちも行けるで!」

 

「問題ありません!」

 

「ニビノカミのメーザーには注意して!」

 

「やるしかねえか……!」

 

グアアアッ‼︎

 

咆哮をあげてニビノカミの口が開き、赤い光が漏れている。

 

「全員、あれには当たるな!」

 

レンヤの叫びで全員がニビノカミの前から逃げ、その後レーザーが照射された。着弾した床は変化しなかったが。

 

「おい、レンヤ。 あれのどこが危険なんだ?」

 

「ニビノカミの出すマイクロ波は水分子を振動させる事で一瞬で高温にして爆発させるんだ! 水分の無い鉄には効かないけど、俺達に当たれば一瞬でお陀仏だぞ!」

 

「えっと、つまりどうなるの?」

 

「メーザーのコヒーレントなマイクロ波はーー」

 

「つまり電子レンジの数百倍の力でチンされるんだよ!」

 

「お、恐ろしい奴や……」

 

「そのようだ、な!」

 

「それにねーー」

 

すずかが言おうとした時、ニビノカミはリヴァンが放った矢を避けて、すずかの前にいきなり現れ爪を振り下ろしたが、すずかは何とか避ける。

 

「ッ……体内にある膨大な熱エネルギーを運動エネルギーに変化して、最大200キロで走るんだよ」

 

「オンソクより遅いんだが、瞬間の速さならーー」

 

ニビノカミが踏ん張ったと思ったら、一瞬で背後に回り込まれた。レンヤはそれを読んでおり、振り返り際に顔面に蹴りを入れた。

 

「ニビノカミが上だ」

 

「……確かに、嫌いにもなりますね……」

 

「問題はこの場所だよ。ニビノカミの力を最大限に生かす広さと、メーザーの影響を受けない地面だから転ぶこともない」

 

「そもそも速いから攻撃も当たらない……!」

 

フェイトがスフィアから魔力弾を加速させて撃つが、まるで当たらなかった。

 

「広域魔法使うにも、あれじゃ当たらへん……!」

 

「前はどう倒したんだよ⁉︎」

 

「メーザーの届かない超遠距離から4方向からの砲撃を撃って、ようやく倒せたんだ!」

 

「今は離れる時間も距離もないんだけどね……!」

 

「どうしたら……」

 

「ーーすずか! 俺にやらせてくれ!」

 

ラーグがレンヤのポケットから出てきて自分が戦うと名乗り出た。

 

「確かに、ラーグ君の爆丸なら行けるんちゃうんか?」

 

「策があるなら頼んだぜ!」

 

「うん、ラーグ君!」

 

「おう!」

 

レンヤ達がニビノカミを抑えている間に、ラーグが口からガントレットとカードケースを取り出しすずかに渡し、左腕に装着し。手の甲部分にあったボタンを押した。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン!」

 

「ポーン」

 

カードを入れ、ガントレットから放射された青い光がラーグに当てられ、全身が青く光って凝縮され球となり、すずかに飛んできてキャッチする。

 

「やるよ、ラーグ!」

 

「おう!」

 

青い球が開くと、狼のような姿になっていた。すずかはゲートカードを投げ、地面に乗ると青い波動を流し込んだ。

 

「行くよ、ラーグ!爆丸、シュート!」

 

思いっきりラーグを投げ、ニビノカミの前で止まり……

 

「ポップアウト!」

 

展開して立ち上がり、青い光を放ちながら巨大な青い狼が現れた。

 

「アクア・スピネル・クンツァイト!」

 

アオオオオオンッ!

 

すずかが名前を叫ぶと、呼応するようにラーグが雄叫びを上げる。

 

ニビノカミと対峙し、二頭の狼が睨み合う。

 

「レンヤ君!ラーグに乗って!」

 

「ええ⁉︎あの組み合わせに入れと⁉︎」

 

「いいから!」

 

有無言わされず、レンヤはラーグに飛び乗った。

 

「行くよ、しっかり掴まってて!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動!シャドウ・クロー!」

 

「うわっ!」

 

走り出したラーグにしがみ付くレンヤ。ラーグの両前脚の爪が青く光り、ニビノカミに向かって飛び上がり爪を振り下ろした。

 

ニビノカミはギリギリで避け、爪が地面に振り下ろされ、地面が先まで斬り裂かれた。ニビノカミはそのまま走り出すとラーグもそれを追った。

 

「逃さない、アビリティー発動!ハイドロ・タイフーン!」

 

口から渦巻く水弾を放ち、ニビノカミを牽制する。そして、追いついて横に来ると……

 

「ぐっ……うわっ⁉︎」

 

タックルを仕掛けてきた。レンヤはなんとかしがみ付き振り落とされないようにするが、ラーグからもタックルをして何度も落ちそうになる。

 

ふと、ぶつかり合いが止み。ふと顔を上げてみると……ニビノカミがレンヤに向けて口を開けていた。

 

「ちょっーー」

 

「させないよ、アビリティー発動!ループ・シールド!」

 

ラーグの周りに水の球体が形成されて、次の瞬間……

 

バアアアアアアンッ!

 

メーザーが発射され、炸裂音がしたと同時に水蒸気が大量に発生する。

 

「な、なに……今の?」

 

「おそらく水蒸気爆発やな。球体の水が一瞬で熱せられて水蒸気爆発が起きたんや」

 

「こっちが不利じゃねえか!ダメ元で援護くらい……!」

 

「ーーニビノカミの皮膚はとても硬いの。生半可な攻撃をするとメーザーがこっちを向く、だから……一瞬の隙も見逃さない……!」

 

「すずか……」

 

「ここは信じましょう、レンヤとすずか、ラーグを」

 

ラーグは背後から放たれるメーザーを避け続け、ニビノカミから逃げていた。

 

「ッ……ゲートカードの範囲から出ちゃう……!」

 

すずかはすぐさまガントレットの側面にあるボタンを操作した。

 

《Ready、Wave Booster》

 

ガントレットの画面から青い光が放射され、青色の小さなパーツが出現し、パーツが組み合わさると立方体のパーツがが作られた。

 

「バトルギア、セットアップ!」

 

すずかがパーツを掴み、ラーグに向かって投げた。するとバトルギアが巨大化してラーグの背に二門のウイングブースターが取り付けられた。

 

「ラーグ、駆け抜けて!バトルギア・アビリティー発動!ウェーブブースター・ミラージュファング!」

 

ブースターとウイングが開き、白い光が放たれ。ラーグはニビノカミを引き離す。そして爪を地面に立てて一瞬で方向転換して、ニビノカミと正面を走る。

 

次の瞬間、ラーグの全身からブレード伸びてきた。ウェーブブースターから放射される光が勢いを増し……

 

ガキイイィンッ!

 

一瞬の交差の後、地面を削りながらラーグは止まった。それからラーグの右脚に傷がついた。

 

「ラーグ!」

 

ニビノカミはラーグの方を向くとメーザーを放とうとした。

 

「レンヤ君!」

 

「任せろ!」

 

レンヤはラーグの背を駆け……

 

《モーメントステップ》

 

一瞬でニビノカミの頭上を取った。

 

《オールギア、ドライブ。ソニックソー》

 

「うおおおおおっ!」

 

刀をニビノカミの額に突き立て、激しい火花が迸る。

 

「くっ……おおおおおお!」

 

刃が通らないが、それでも諦めず魔力を流し込み……

 

ピシッ!

 

ニビノカミの額にヒビが走った。それに連動してラーグの受けたダメージが全身に出始めた。

 

「レンヤ君、上手く避けて!」

 

「へ……?」

 

《Ability Card、Set》

 

「バトルギア・アビリティー発動!ウェーブブースター・オメガ!」

 

ブースターが回転して排出口がレンヤの方に向かれ、6つの青色の魔力レーザーが放たれた。

 

「ちょっ……!」

 

反論も言う暇もなく、すぐさまニビノカミから飛び退き……

 

ドガアアアアアアンッ!

 

6つのレーザーがニビノカミに直撃し、大きな爆発が起きた。

 

「うわああああっ⁉︎」

 

レンヤは爆風で吹き飛ばされるが、ラーグの頭に受け止められた。爆発地点を確認すると……ニビノカミはいなかった。

 

「はあ、何とか勝てたぁ〜……」

 

「はあはあ、危険なドライブだった……」

 

レンヤが降りた後、ラーグの全身が青く光り、小さくなってすずかの手元に飛んできた。

 

「お疲れ様、ラーグ」

 

「いいってことよ。久しぶりに暴れられてスッキリしたぜ」

 

「ふふ、そうだね」

 

「しっかし……任せたとはいえ、かなり厄介な相手だったな」

 

「レンヤ達が嫌うのも分かります」

 

「ふう、時間が惜しいからすずかに文句を言うには後にする。とにかく今は逃げた連中をーー」

 

バババババババッ!

 

そう言いかけた時、遮るように奥の通路から銃声が聞こえてきた。質量兵器ではなく魔力弾が発射される音だったが。そして……大きな爆発の後に銃声と共に悲鳴が聞こえてきた。

 

「な……⁉︎」

 

「ッ……」

 

「戦闘の音⁉︎」

 

「いや、かなり一方的だな」

 

「いったい何が……」

 

「とにかく行ってみよう!」

 

すぐさまテロリストが進んだ通路を進み。奥を確認すると……

 

「……!」

 

「……ぁ………」

 

「これは!」

 

そこには先ほどのテロリストが……血塗れで倒れていた。その前にはデバイスを構えた、どこかの制服を着た管理局員がいた。

 

「……ガハッ……ゴホゴホ………貴様らは……いったい……」

 

「彼の方を危険に晒した報いです。 レーダーを破壊した連中は先に逝きましたよ。 早くお会いになられては?」

 

「……ぐっ……く、くそ……」

 

テロリストのリーダーは無念を残したまま倒れてしまった。

 

「さて、残りも片付けますか」

 

隊長らしき人物が手を上げると、隊員がすぐ側にある柱の影に向かい……隠れていたテロリストにデバイスを向けた。

 

「ひいっ!」

 

「………………」

 

怯えるテロリストに表情1つ動かさず、トリガーに指をかけられ……

 

「やめろっ‼︎」

 

レンヤの怒号が響き、引かれ掛けた指が止まった。レンヤ達はすぐさま正体不明の管理局員の前に出て、フェイトとユエが血塗れのテロリストに近く。

 

「おや、あなた方は……」

 

「ーー随分と遅い到着さ〜」

 

特徴的な口調が聞こえて、隊長の後ろから……カリブラ・ヘインダール・アストラが出てきた。

 

「カリブラ……お前……!」

 

「おおっと、勘違いしちゃあ困るさ〜。 俺っちはただの見物に来ただけで、手を出していないさ〜。 まあ、ヘインダールが動いていないと言ったら嘘だけど……」

 

「ッ……!」

 

「だ……駄目……」

 

「どう見ても殺傷設定だな」

 

「…………………」

 

フェイトが青い顔でそう言い、すずかの肩乗っていたラーグもそう判断し、ユエもテロリストから手を離し静かに首を横に振るう。

 

「………っ………………」

 

「はやてちゃん……」

 

フェイトよりさらに顔色が悪いはやては口に手を当て目を背け、すずかがはやての背をさする。

 

「……何なんだあなた達は……なぜこんな非道な事を!」

 

「………………」

 

隊長が手を上げると隊員がすぐ様後ろに整列し、隊長が空間ディスプレイを展開した。

 

「我々は管理局本部所属、ソイレント中将の直轄部隊……怪異殲滅部隊、イレイザーズです。此度は三提督、および議長と中将を狙った不届きなテロリストを始末する。 それが今回、議長が下した任務です」

 

「……⁉︎」

 

ディスプレイに映っていたのは、正式な管理局IDだった。

 

「何を勝手な……異界および怪異に関わる案件は俺達の管轄だ!」

 

「異界に関する問題に対し、最上級の権限を異界対策課が持ち合わせる……忘れたとは言わせませんよ」

 

「それは誤解です。 我々は異界または怪異に関わった人間の対処するのが仕事です。 その過程でグリードが出て来たので倒しただけ……何の問題はありません」

 

「屁理屈を……!」

 

「ちゃんと議長と上層部、最高評議会の隊成立と今回の行動に対する書状と委任状もあります」

 

次に映し出されたのは2枚の書状と委任状だった。どちらも本物で、どこもおかしい部分はなかった。

 

「な、なんやて……」

 

「こんなことって……」

 

「つまり隊として成立しており、あなた達に変わって処理したまでの事です」

 

「くっ……!」

 

「用意周到な……!」

 

「カリブラ!お前達は……ヘインダールは何をする気だ!」

 

「どうもこうも仕事って前にも言ったさ〜。ただ、もう片方のテロリストはこっちが処理する、てね」

 

「ッ……!」

 

「そうそう、当分ミッド(ここ)を拠点にして活動する事になったんだよ。 暇なら遊びに来てさ〜」

 

カリブラは懐から名刺を出すとリヴァンの足元の地面に投げた。

 

「この後も仕事があります。生き残りは見逃しましょう」

 

隊員が生き残りのテロリストをレンヤ達の方向に突き飛ばした。

 

「ひ、ひいいっ!」

 

「くっ……」

 

テロリストは倒れた状態で頭を抱え、すずかがその前に立つ。

 

「それではこれで失礼します」

 

「じゃあな〜」

 

イレイザーズとカリブラは悠々と去って行った。レンヤは背が見えなくなるまで彼らを睨み続け、消えたらため息をついてはやてに近寄った。

 

「はやて、大丈夫か?」

 

「う、うん。 これぐらい平気や」

 

「はやてちゃん、慣れなくていいからね」

 

「あんがとな、レンヤ君、すずかちゃん」

 

向かい合ってはやてがお礼を言うと、何かに気がついた。

 

「あ、アレって……」

 

はやてが指差す方向には……サーチャーがあった。

 

「何でサーチャーが⁉︎」

 

「……まさか、議長が提案しようとした事って……!」

 

レンヤは襲撃が起こる前、議長が提案しようとしていた物を理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジオフロントC区画ーー

 

もう片方のテロリストを追いかけていたテオとヴィータは、ようやく追いついたと思ったら……すでにヘインダール教導傭兵団に制圧、拘束されていた。テオが問いただそうとしたら、最高評議会の委任状を出され手をこまねいていた。

 

「くっ……ヘインダールがなぜ……」

 

「なぜコイツらが……!」

 

「ーー待ちやがれ!そいつらには容疑がかけられている。委任状があっても連れて行けねえはずだ!」

 

「す、すみません。団長の……上からの命令なんです……!でも、納得が出来ないのなら……」

 

副団長らしきメガネをかけた女性が弓を構えると、団員が続いてデバイスを構えた。

 

「くっ……」

 

「手練れの武芸者が30人前後……練度も管理局とは比べ物にならないほど高い。部が悪いな」

 

「申し訳ありません。ですが、彼らの身の安全は保障します……それでは、失礼します」

 

女性が礼をして、その後堂々と団員がテロリストを連れて行った。テオとヴィータは手を出せず……

 

「くそっ!」

 

ガアアアンッ……

 

ヴィータがアイゼンを地面に振り下ろし、凹みを作られた音が無情にも響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日ーー

 

すでに日は沈み始め、夕焼けが辺りを照らしていた頃。厳重な警備がされている会議室内で、レジアス中将が通信で報告を受けていた。

 

「……そうか……分かった。こちらはもう安全だ、ご苦労だったな」

 

通信を切ると、軽くため息をついた。ミゼットが話を切り出した。

 

「テロリスト達の方は?」

 

「テロリストは2手に分かれたそうです。片方はヘインダール教導傭兵団に囚われたそうで、何でも最高評議会の逮捕委任状を持っている事でした」

 

「なに……⁉︎」

 

「最高評議会……いったい何を考えている……!」

 

「そしてもう片方は……同じく最高評議会の委任状と、ギャラン議長とソイレント中将の部隊にほぼ全員が処刑されました」

 

会議室にいる者は、レジアス中将の言った事を理解するのに時間がかかってしまった。

 

「何て愚かな……」

 

「議長! ソイレント中将!これはいったいどういうつもりだ!」

 

グランダム少将がギャラン議長に向かって抗議した。

 

「いかにテロリストとはいえど、人を殺めるなど……あまりにも信義にもとるやり方ではありませんか⁉︎」

 

「それは誤解です。その答えを襲撃前に提案しようとした案件と関係があります」

 

ギャラン議長がソイレント中将に目線を向けると、ソイレント中将は端末を操作し、背後に空間ディスプレイを展開した。

 

そこに映し出されたのは……テロリストがソイレント中将の部隊と思われる集団に処刑されている場面だった。テロリストはグリードで対抗しようとしたが、すぐに倒され……その後、悲鳴が会議室に響き渡った。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「ッ……!」

 

「これは……⁉︎」

 

ギャラン議長が手を上げるとディスプレイは消えた。

 

「彼らは怪異殲滅部隊、イレイザーズです。ご覧の通りグリードを寄せ付けず、安全かつ確実に倒す事が可能です」

 

「くっ……だが、なぜテロリストを殺害した⁉︎ 魔法も殺傷設定だろ!」

 

「イレイザーズは殲滅とは他にグリードまたは異界の運用を行った者の対処も任されています。これはその結果です」

 

「そんな言い逃れがーー」

 

「最高評議会の隊成立の書状あります。これは正当な処刑です」

 

「た、確かに書状、委任状にもおかしな点はありません。認めざる得ませんが……」

 

ユーノは何度も読み返し、苦しい顔で認めた。ギャラン議長は会議室を見渡した後……

 

「ーーそれでは……これより管理局本部所属、怪異殲滅部隊、イレイザーズの設立を決定します。もっとも、すでに活動して成果を上げていますがね」

 

その発言はまるで……管理局の闇そのものだった。

 



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87話

 

 

9月中旬ーー

 

あれから半月、ミッドチルダの空気の不穏さを増す一方だった。ギャラン議長とソイレント中将率いるいわゆる過激派はテロリスト対策の名目でイレイザーズの哨戒を大幅に強化しており……対抗する様にレジアス中将率いる地上部隊はテロリストに備え、捜索に専念していた。ここで強化を行ったら市民の不安が大きくなるだけ、と言う正しい判断によって行動していた。

 

そして、イレイザーズが正式に発表されてすぐに、イレイザーズは何の為に発足された……と言う噂が流れ始めていた。実際、イレイザーズが活動している場面はあれ以来一度もない……異界の事件が起きたのにもかかわらず。俺達はなのは達とも協力してもらい、何とか混乱を避ける事が出来た。

 

そして秋晴れの午後ーー

 

本年度初めてとなるレルム魔導学院・理事会が開かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今現在、6限目……特別HRを行なっている時間帯に、階下で会議室で今年初めての理事会議が開かれていた。つまり、ミゼットさん、ソフィーさん、グランダムさん、ラースさんがこの学院に訪れていた。

 

だが、今気にすべきは来月に行われる学院祭の出し物について、話し合われていた。

 

「ーー開催日は来月の10月23日と24日の2日間。出し物の準備は21日の午後からになるよ」

 

ブラックボードの前に委員長のすずかと副委員長のリヴァンが立ち、進行役にすずかが教卓の前にいた。テオ教官は自習の名目でいなかった、おそらく会議の護衛に回っているのだろう。

 

レルム魔導学院は基本出し物は1学年と2学年だけ、3学年は進路もあり有志希望となっている。他にもクラブごとに出し物をして、学園祭が行われる。

 

「当然、その前の日にも準備が必要だよ」

 

「……まあ、その意味でも何をするのかも大事だろう。展示、イベント、ステージ……それともちろん飲食店なども許可されている」

 

「そう言う事で、皆でアイディアを出してから決めよう。何でもいいから、思いついた物から言ってね?」

 

そう提案してくるが、誰1人として手を上げる者はいなかった。

 

「あ、あはは……」

 

「はあ、こっちもサッサと終わらせたいんだぞ……」

 

「ああ、判ってはいるんだが……」

 

「その、集中できないっていうか……」

 

「そう言う君も、落ち着きがないんじゃない?」

 

「ぐ……」

 

「あはは、無理もないよね」

 

「ちょうど今、理事会で私達の処遇も話されているからね……」

 

「その理事が師、家族ともなればなおさらです」

 

全員、気になっているが。さらに俺とツァリ、シェルティスはさらに気にしていた。

 

「そうだな。今月の実習もどうなるか分からないし……」

 

「先月の実習のことを考えたら中止もありえるな」

 

「その決定に身内が関わっているんだ、気にもなるんだ……」

 

「……うん、そうだね」

 

「判らなくもあらへんなぁ……」

 

「実際、実習に行くかどうかで準備期間も変わるし、出し物にも影響が出るし……困ったね」

 

「そもそも、ここ最近管理局に引っ張り凧だし……」

 

「正直、疲れるよ〜……でも、やるからには1番にならないとね!」

 

アリシアが立ち上がり、机に片足を立てて大きな声で宣言した。同意したい所だが……良い子も悪い子も机に足を乗せないでね。

 

「はあ、そうだったわ。早速I組の子から宣戦布告されたんだったけ……」

 

「なんやそれ?」

 

「エステートさんだね、確かに前からアリサちゃんをライバル視してたから」

 

「実際、中間であいつらにかなり対抗意識を燃やしてるからな」

 

「でも勝つとなると……こっちの人数が少ないことも考えないとね」

 

「確かに……出し物も限定されてしまいますね」

 

「うーん、せめて他のクラスの出し物が分かるといいんだけど」

 

脱線した話し合いは元に戻ってきているが、まだ完全に集中仕切れていなかった。

 

「ほらお前ら、もっとシャキッとしろ」

 

そこへ、テオ教官が教室に入ってきた。

 

「テオ教官……」

 

「えっと……自習だったのでは?」

 

「ああ、そうだが理事会が今しがた終わってな。それでこっちに来たんだ」

 

「そ、それで……⁉︎」

 

なのはが主語もなくテオ教官に質問した。主語はもちろん特別実習についてだと判っていたので、やんわりと返した。

 

「お前らの師匠と親はスパルタらしくてな……全会一致で実習の継続が決定した」

 

テオ教官のその一言で、全員の肩の荷が降りた感じの顔になった。

 

「ふう……」

 

「……そうですか……」

 

「あはは、ちょっと安心したかな」

 

「先月のこともあるし、慎重に動こかないといけないけど……」

 

「それでも、特別実習があるから私達という感じがあるからね」

 

「……そうですね」

 

「うん、そう思うよ」

 

「ソフィーさんやミゼットさんに感謝しないとね」

 

「あはは、よかったね」

 

「ええ感じになったなぁ」

 

前とは打って変わって、教室の空気が良くなった。

 

「ああ、そうだ。 提督と理事達はそろそろ帰る頃だ。まだ授業中だが、許可するから挨拶でもしてこいよ。どうせ出し物も決まんないだろ?」

 

「あ……」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

許可も立たことで、俺達は教室を出て……校舎を出た所にいた方々を見つけた。

 

「兄さん!」

 

「お父さん……!」

 

ツァリとシェルティスはそれぞれの家族の元に向かい、俺とアリサ達ははソフィーさんの元に向かった。残りはミゼットさんの元に。

 

「ソフィーさん、会議以来ですね」

 

「ああ、お前達もあれから相当苦労したようだな」

 

「いえ、私達として当然の事をしただけです」

 

「ええ……でも、あんな事仕出かしておきながら未だに動かないあいつらには腹が立ちますけど」

 

「奴らに目的は隊を発足することにある。それ以上の事は今はしてこないだろう、今はお前達が出来ることをして行けばいい」

 

「うん、そうするよ」

 

「……この先、幾度となく苦難がお前達に迫ったくるが……」

 

肩に手を置かれ、まっすぐ真剣な眼差しを向けられ……

 

「お前達なら……きっと乗り越えられる」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後ーー

 

特別実習の続行が決定して、ようやく意識が来月の学院祭に向き始めた。が、実習で大切な準備期間が減ることもありったが……

 

明日が自由行動日を控えたHRの終わりに、なのはが喫茶店を提案した。理由を聞いたが、喫茶店の経験者が2人にフェイト達5人もそれを長い間見ているのと、はやてはもちろんのことVII組のほとんどが料理経験者だったから。ツァリとシェルティスはできないと思っていたが、ユエは伝統的な料理だができて、以外にもリヴァンもできるそうだ。聞いて見たら、テオを放っておいたら野垂れ死ぬらしい。とてもわかりやすかった。

 

そんなことでVII組の出し物が決定し、それぞれの分担と準備を始めた。ちなみに人数が足りない分は魔法でどうにかしてもいいらしい。そしてアリサからの提案で個性を出すために一品、来週までに出す事となった。

 

何を作るか頭を悩ませながら正門を出ると、ふと鈴虫の静かな音が聞こえてきた。

 

「虫の音……そうか、もう秋なんだな」

 

入学してもう半年、この学院に入ってさらに目まぐるしい日々を過ごしきた。いろんなこともあってあっという間だった気もする。

 

「あれ、レンヤ君?」

 

呼ばれて振り向くと、フィアット会長が歩いて来た。

 

「あれ……珍しいですね、こんな所で会うなんて」

 

「うん、さっきまで会議だったんだけどすぐに終わってね。今日は早上がりをさせてもらったの」

 

「そうだったんですか。会議というと……やっぱり学院祭の?」

 

「うん、来月に向けてやらなきゃいけない事は山ほどあるから。明日、また話し合うことになったんだ」

 

「お疲れ様です。そういえば、明日の依頼はもう用意できていますか?よければ、すずかに渡しておきますけど」

 

「あ、レンヤ君達の依頼は寮で寝る前にまとめているんだ。でも、これから買い出しもあるし、やっぱり明日の朝に届けるよ」

 

「そうですか……よろしくお願いします」

 

心苦しいが、用事もあるわけだし仕方がない。

 

「でも、やっぱり今回はやめてもいいんだよ?レンヤ君達もあんな事があって大変だろうし」

 

「いえ、特別実習もそうですが。この依頼があっての自由行動日みたいなものですから。と、そうだ、これから買い出しに行くんでしたよね?ひょっとして結構、荷物になるんじゃあ?」

 

「うーん、それなりには、かな?あ、書店に頼んでいた資料もあったっけ。それに、うーーん……」

 

「良かったら荷物持ちを引き受けますよ。いつもお世話になっているお礼ってわけじゃないですけど」

 

「そ、そんな……悪いよ……!むしろこっちがいつもお世話になっているし」

 

「あ、それなり相談に乗ってもらいませんか?実はーー」

 

フィアット会長に喫茶店に出す料理について、相談してもうもらえないか頼み。それで了承をもらい、一緒に買い出しに向かった。

 

最初に雑貨店に向かい、次に書店、そこで他にも必要な物が見つかり荷物を追加し。最後に向かった質屋で望みの物は買ったが、2人の会話が弾んで当分は店を出られなかった。

 

そしてその後、店を出ると外はすっかり夜になっており、少し肌寒かった。

 

「ふう、これで終わりって……って、もうこんな時間⁉︎」

 

「もう日が暮れるにも早くなって来ましたね。それにしても、会長がこの店の常連だとは思わなかったです」

 

「あはは、リヒトさん、色々な物を仕入れてくれるから。学院の購買で買えないものはいつもお願いしてもらっているよ。学園祭に使う道具や着ぐるみとか」

 

「なるはど、確かに普通の店じゃ手に入りませんね」

 

「うん……って、いつの間にレンヤ君にそんな荷物を⁉︎」

 

どうやら会話や買い物に必要な物しか頭に夢中だったようで、すごく慌てている。

 

「ゴメンね!私も持つからっ!」

 

「このくらい平気ですよ」

 

「う、ゴメンね。ならコーヒーでも買ってそこで休憩しよ、学院祭について相談に乗るよ」

 

駅前の喫茶店でコーヒーをテイクアウトし、公園のベンチで相談に乗ってもらった。

 

「なるほど、ちなみにレンヤ君はどれくらい料理が出来るの?」

 

「えーっと、パックに入った味付け肉を焼いてご飯に乗せるレベルです……」

 

お菓子作りならお母さんも認める腕だが、料理は必要最低限で、いわゆるイギリスレベルだ。最近は改善されているらしいが……

 

「でも、お菓子作りなら自信がありますよ。たまに作っていますし、担喫茶店に出すお菓子の担当も俺になりましたし」

 

「え、じゃあなんで私に相談を?」

 

「ちゃんとした料理を作ってみたいんです、それでフィアット会長に相談を」

 

「そっか……でもゴメンね、あんまり力になれそうもないや。私もはやてちゃんのように上手じゃないし……」

 

「そうですか……すみません、無理を言ってしまって」

 

「ううん!大丈夫だよ、でも……それなら自分が好きな物や、思い出に残った物を作ればいいんじゃないかな?」

 

「確かに、そうですね……、!」

 

ふと頭をよぎったのは彼女の記憶にある食べ物だった。彼女は友人が作ったそれをとても嬉しそうに食べていた。

 

「……ありがとうございます、やっぱり相談して良かったです」

 

「私は何にもしてないよ、でも良かった」

 

フィアット会長は立ち上がると荷物の前に来て……

 

「それじゃあ、お手数だけど第二学生寮まで付き合ってね?あんまり遅くなるとお互い、夕食に間に合わなくなりそうだし」

 

「はい、そうですね……って、だから会長はこれ以上持たなくてもいいですよ。力仕事は後輩に任せてください」

 

荷物を持とうとしたフィアット会長を止める。

 

「でも、うーーん……よし!」

 

何を納得したのか、次々と荷物を持たされた。

 

「ちょっ……⁉︎」

 

「ふふふ、頑張れ後輩君♪」

 

「は、はい……!」

 

それからフィアット会長を第二学生寮に送った後、俺も寮に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

今日は異界対策課の活動もないので……事前に調べたのと記憶にあった材料を買い、早速試作を作り始めた。なのはとフェイトとアリシアは学院の調理室で俺と同じことをやっている、どういう訳か寮でやらなかったのかはわからないが……すずかは生徒会からの依頼を、アリサは異界対策課に、後の皆はクラブでファリンさんはノルミン達と一緒に地球に行っていて、寮にいるのは俺だけだ。

 

「ええっと、確か先ずはパイ生地を作って……それからーー」

 

今作ろうとしているのはキッシュだ。もちろん好きな食べ物はちゃんとあるが……フィアット会長に言われてすぐに思いついたのはキッシュだった。

 

パイ自体作った事はあったので上手くいき。卵を溶いてそこに牛乳、生クリームを入れて混ぜる。刻んだほうれん草はじっくり炒めてから、切ったミニトマトとジャガイモと一緒にパイ生地を敷き詰めた型に入れ、さらにそこに溶き卵を流し込み、予熱しておいたオーブンで焼き、しばらくして……

 

「よし、上手くいった」

 

タイマーが鳴り、オーブンを開けると、美味しそうに焼き上がったキッシュが完成した。早速切り分けて食べてみた。

 

「…………美味しいけど、なんか違うなぁ……?」

 

元々、1発で完成させようと考えていないので小さめに作って良かった。

 

「味付けを変えて、もう一回作ってみるか」

 

今度は手のひらサイズの型で作り、同時に複数個作った。そんなのが昼まで続いた。

 

「……違う……これも違う……」

 

すでにテーブルの上にはいくつものキッシュが置かれていた。どれも一口しか食べていないが、いい加減全部食べないと行き詰まる。

 

「はあ……頭を切り替えるか」

 

息抜きと一緒に、ちょうど昼なので作ったキッシュを近所と他の学生寮にお裾分けすることにする。さっきので材料も切れたし。

 

キッシュをバケットに入れ、近隣の家といつもお世話になっているお店、第一、第二学生寮にお裾分けをした。教会で実際に子ども達に食べてもらったら、美味しいと言ってくれた。お菓子を作った時にも言われたが、どこか違う感じがして……でも嬉しかった。失敗作ということは申し訳無かったが。

 

「あれ?レンヤ君、なんでこんなとこおるんや?」

 

また雑貨店に向かおうとしたした時、学院の方向からはやてが歩いて来た。

 

「ちょっと試作をお裾分けにな。はやてこそ、もうクラブはいいのか?」

 

「元々、準備する物は少ないからなぁ。後は注文した書籍を待つだけや。そういや、レンヤ君のクラブはなにするん?」

 

「錬武舘の隣にある池で釣り体験をやるんだけど、準備する物がないから……準備期間だけでもどうにかなるんだ」

 

「それは羨ましいなぁ。それで、レンヤ君はこの後また試作作りなんか?」

 

「ああ、ちょうど材料を使いきったから、また買わないといけないが」

 

「……て言うか別に作んなくてもええんやで。レンヤ君にはお菓子の方を任せてとるんやし」

 

「いいんだよ、好きでやっていることだし。それに中途半端は嫌なんだ」

 

「そうか……なら私も手伝うで! この後暇やし」

 

「うーん……なら頼む」

 

「うん、任しときぃ」

 

雑貨店で材料を買い、寮に戻り試作作りを再開した。

 

「それで、材料は合っとるんやな? なら調理手順が違うんやないか?」

 

「やっぱそうだよな。もしくは調味料の違いか……」

 

目を閉じてゆっくり思い出してみる。そういえばあの時、プディングが甘過ぎたと言っていたな。そして……その後起こった悲劇を思い出し、頭を横に振る。

 

「レンヤ君?どないしたん?」

 

「いや……なんでもない。まずは先走らず、気分転換に甘いお菓子を作ろう。さっき一応蜂蜜を買ったし……いつもはビスケット生地だけど、今日はパイ生地でタルトを作ろう」

 

「おお〜!レンヤ君の手作りお菓子は絶品やもんな!」

 

俺は忘れるように作り始める。だが……

 

【人は苦痛には耐えられるが、幸福には逆らえんーー】

 

どうしても、あの道化の言葉が頭から離れなかった。

 

(大丈夫。闇の書が見せた夢にも耐えた……だから、大丈夫)

 

今度こそ頭から振り払い、調理に集中した。その後、新たに作ったキッシュをはやてに食べてもらった。

 

「ハム………うん、美味いんよ。でも、レンヤ君は納得せいへんやろ?」

 

「ああ……そうだな」

 

一口食べてからそう答えた。だが段々と近づいている感じはする。

 

「そういえばレンヤ君、なんでキッシュなん?」

 

「と……言うと?」

 

「レンヤ君、キッシュが好物やあらへんし、そもそも聞いたことあらへん。それに、なのはちゃんから一度も桃子さんがキッシュを作ったの言うてへんかったしなぁ。なのになんでここまでこだわるや?」

 

「それは……」

 

「もしかして、例の記憶なんか?」

 

「まあ、そうだな。1番印象に残った事だし」

 

「そうかぁ……」

 

「今はそんなことより目の前の事に集中しよう。次はどうする?」

 

「そうやなぁ、アクセントなら胡椒、とろみならチーズあたりやけど……」

 

その後も試作が続き。途中、生徒会の依頼を終わらせたすずかも一緒に手伝ってもらい……

 

「うん、これだ!この味だ!」

 

「どれどれ……おお〜!メチャ美味いやんけ!」

 

「ほんと、すごく美味しいよ!」

 

「でも、ここまで来るのにぎょうさん作ったなぁ……」

 

はやては台所に積み上がった、洗い物を見て遠い目をする。

 

「だけど、これならいけると思うよ。なんとなく優しい味がするし」

 

「ああ、そうだな。俺もそう思う」

 

その後、夕食で昼から作ったキッシュとデザートのタルトを帰って来た皆に振る舞った。最初に試作を食べさせてから完成品を食べさせて、味の違いを感じさせることに成功した。

 

やっぱり、自分が作った物を喜んで食べてもらえるのは嬉しかった。これを機にもう少し料理の腕を上げた方がいいと思った。

 

 




野菜料理(レギュム)の魔導師……とは言われない。


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88話

 

 

自由行動日の夜、その日のうちに準備に必要な手順と手続き、役割分担、運営、機材の調達、メニューに出す料理の材料の調達やその衛生、ついでに衣装などもその日の間に決めた。はっきり言って、この人数で喫茶店は無謀な気もするが……そこは何とか管理局で培われた腕の見せ所と言うものだ。

 

初めての学院祭……必ず成功と上位入賞を狙って行くため、夜遅くまで意見を出し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後、9月22日ーー

 

予定通り実技テストが始まり、VII組のメンバーはドームに集まっていた。

 

「ーー学院祭の準備、順調みたいだな。この人数で喫茶店は大変だと思うが、具体的にどんな喫茶店にするのか決まったのか?」

 

「基本的にお菓子をメインにした喫茶店の予定です。昼にランチも出せる方向性ですかね」

 

テオ教官の質問になのはが決定した内容を話した。

 

「なるほど、悪くはないな。限られた人数をやり繰りするのは大変そうだが……俺も遠目から応援しているぞ」

 

「真面目に手伝ってください。教官が許可しないと進まない案件が多いんですよ」

 

「わーってるって、そういや衣装の方はどうなってんだ?確か、はやてとレンヤが担当してるんだよな、何とかなりそうか?」

 

「バッチリやで♪」

 

「まだデザインを検討しています」

 

2人の意見がまるで違う事に、他が……特に女子が心配になる。

 

「……大丈夫なんでしょうね?」

 

「ま、まあ、レンヤもいる事だし……」

 

「暴走は止められると思うよ」

 

「うーん、若いなぁ。俺も後5年……いや、10年若ければ参加出来たんだがなぁ」

 

一瞬、サバを読もうとしたが……すぐに訂正した。テオ教官の年齢は20代半ば、5年前でも無理であった。

 

「あはは、そうですね」

 

「今でもギリギリ行けそうと思うけど……」

 

「若く見られるのも、どうかと……」

 

「やかましい!男は歳を重ねる事にハードボイルドになる。その魅力に女が引き寄せられるんだよ!」

 

自棄っぱちと言うか、負け惜しみな気もするが……これ以上は先に進まないと思いテオ教官は咳払いをする。

 

「ーーコホン。まあ学院祭は楽しみだと思うが、気持ちを切り替えろ。来月は知っての通り特別実習も実技テストもない。だから今回は“区切り”として、ちょっと気合を出してもらおうか?」

 

そう言い、テオ教官は小さい剣のキーホルダー……待機状態のデバイスを取り出し、起動して大剣が地面に突き刺さった。

 

「まさか……」

 

「……試合のお相手は教官自らですか」

 

「ああ、5月の実技テストの再現になるのか?今回ばっかしは俺も本気で行くぞ……まずはレンヤーー2人選べ!」

 

「はい……!」

 

俺は小細工は通用しないと考え、同じ前衛としてアリサを、後衛にツァリを……と言う選択にした。

 

メンバーが決まり、テオ教官の前に立ちデバイスを起動しバリアジャケットを纏う。テオ教官は地面から大剣を抜き、青紫色の魔力光を出しながら構える。

 

「さすがに本気みたいね……」

 

「でも、僕達だって確実に強くなっている……!」

 

「とにかく、俺達の全力をぶつけるしかないな」

 

「ええ、やるわよ……フレイムアイズ!」

 

《イエス、マイロード》

 

テオ教官は俺達の会話を確認した後、大剣を両手で持った。

 

「ーー準備はいいな。入学して半年、お前らなら届く筈だ……このテリオス・ネストリウス・オーヴァを退けてみろ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

返事と同時にアリサと飛び出し、テオ教官に斬りかかる。

 

「ふっ……!」

 

テオ教官は、それを苦もなく受け止める。無論、俺達も想定済みである。

 

「フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

「レゾナンスアーク!」

 

《オールギア、ドライブ》

 

鍔迫り合いをしている中、魔力を上げてテオ教官を力で押し始めた。

 

「うおっ……と!」

 

少し押されたと思い、踏ん張ろうとした瞬間……薄紫の花びらが鋭くテオ教官の背後から飛んできた。それを見向きもせず、避けられたが。

 

「そらっ!」

 

後ろに跳びながら大剣を目にも止まらぬ速さで振り抜き、魔力斬撃を高速で飛ばしてきた。

 

「ッ!」

 

《ソニックソー》

 

それを斬り裂いて防ぎ、アリサが地面を滑るように前に出る。

 

「せい!」

 

「とっ……!」

 

剣を振り抜き、すぐに引くアリサ。テオ教官は追撃をかけようとしたが……

 

《リバースブレード》

 

「行きな、さい!」

 

体を大きく捻り、フレイムアイズをブーメランのように回転させながら投げた。

 

「随分と大胆だな……!」

 

迫る剣を危なげなく避けようとする。

 

「させません……ウィープスロー!」

 

そこに、ツァリが上から端子の壁を下ろし逃げ道を塞いだ。テオ教官は足を止め、剣を受け止める。

 

「蒼刃斬雨!」

 

その隙に空いた懐に潜り込み、刀と魔力刃を重ねて幾つもの突きを放った。

 

ガガガガガガガキンッ‼︎

 

「なっ……⁉︎」

 

剣を弾いた後、大剣を最小限動かすて全ての剣を防がれた。

 

「どんな動体視力しているんですか……!」

 

「半分は感だぞ」

 

「どちらにせよ人間やめてるわよ!」

 

《キャノンフォルム、ブレイズキャノン》

 

フレイムアイズの刀身を一部スライドし、砲身が出てきて、炎を纏った魔力弾を撃った。テオ教官は刀を弾くと同時に後退して避ける。

 

「まだまだ!」

 

「えいっ!」

 

次々とアリサは魔力弾を撃ち、先回りしてツァリの花びらが左右を攻める。その間にレゾナンスアークをカルテットモードに切り替え、両手に剣を持つ。

 

「アリサ!」

 

「任せなさい!」

 

《ジェノサイドブレイザー》

 

空気中の魔力を砲身に集中させ、炎の砲撃を放ちながらテオ教官に向かって薙ぎ払った。

 

「なんちゅう砲撃だっつうの……!」

 

《シザークラッチ》

 

4つの魔力斬撃を砲撃の外側に飛ばし、もう一度大剣を振るうと。4つの魔力斬撃が直角に曲がり、3つが砲撃を斬り裂き、もう1つがアリサに向かって行った。

 

「きゃっ……!」

 

すぐさま障壁を張って防御するも、あまりの威力に飛ばされてしまう。

 

「行くぞ、ツァリ!」

 

「ッ……!」

 

テオ教官は近接戦が苦手なツァリに向かって行く。ツァリは振られて来る大剣を花びらで逸らしながら避ける。いつもなら、花びらで受け止める筈だが、1秒も受け止められない為逸らすのが手一杯のようだ。

 

「はあっ!」

 

「いいぞ、どんどん来い!」

 

背後から斬りかかってもあっさり受け止められる。何度も斬り合うが、こっちは小回りが効く片手剣……だが、あっちは大剣なのだが同じ剣速で剣の重さは教官の方が上の為、こっちが不利な状況だ。

 

「そらよ!」

 

「ぐあっ!」

 

上に弾かれた直後、胸に回し蹴りを入れられ吹き飛ばされる。そのまま追撃され、大剣が振り下ろされようとした。

 

「くうッ……!」

 

両手の剣を前に軽く放り、体を捻り地面に手を付け、バリアジャケットの靴を消して……

 

「ふっ!」

 

「…………⁉︎」

 

足で剣を掴み、蹴り上げと同時に大剣を受け止めた。

 

「飛燕連脚!」

 

大剣を逸らし、回転しながら足の剣でテオ教官を斬った。

 

「驚かせてくれる」

 

「それほどでも!」

 

ホルスターから双銃を抜き、剣と交えながら隙をみて魔力弾を撃った。足の剣と手の銃でようやく拮抗するまで行けた。

 

「せいっ!」

 

「ちっ……!」

 

剣を掴んだ回し蹴りを大剣にぶつけ、地面を引きずりながら後ろに下がらせた。

 

「ーーツァリ、やりなさい!」

 

「ソーンバインド!」

 

「なに⁉︎」

 

地面から生えた荊がテオ教官に巻きつき、動きを制限した。アリサはその隙に教官の背後に回り込んだ。

 

「行くわよ、レンヤ!」

 

「ああ!」

 

「はぁ!せい!やぁ!」「はっ!ふっ!とぉ!」

 

双剣を逆手で両手に持ち替え高速で何度も叩き込み。アリサも同様に剣で何度も叩き込み……

 

「「バーニングレイジ!」」

 

防御が崩れた瞬間を狙い、双剣と剣が交差する。

 

その攻撃に、ようやくテオ教官の膝を地につかせる事が出来た。

 

「はあっ……はあっ……」

 

「か、勝てた……?」

 

「3人がかりでもギリギリだなんて……」

 

俺達はテオ教官の激戦で息絶えだえになっていた。

 

「やれやれ……半年でここまで来たか。まさか、あれほど息の合った連携が出来るようになるとはね……まったく、いい意味で驚かせてくれる」

 

そう言うと、教官は何事も無かったかのように立ち上がる。

 

「残り3組、続けて行くぞ!同じく3人ずつ呼ぶから、準備しておけ!」

 

それからテオ教官は休まず残りのメンバーの相手を務める事になり……

 

「はあはあ……さすがに疲れた……」

 

全員の実技テストが終わり、テオ教官は地面に突き刺した大剣の面に寄りかかりながら座り、珍しく息を上げていた。

 

「な、なんて人だ……」

 

「まったく、サシで勝てる気がしないぜ……」

 

「……同感、もっと腕を磨かないとね」

 

「そうだな……」

 

「ふう……ここまで疲れたのは久しぶりだな。時々、鈍らない程度には鍛えていたんだがな……」

 

「そ、そうなんですか……⁉︎」

 

「しかも、サラッと私達、全員で戦ったのを疲れた程度で済ませないでください」

 

「まだ余力を残しているようですしね」

 

「うん、軽口を言えるくらいだし」

 

「いやいや……正直、ちょっと感心したぞ。これで心置きなく実習地を発表出来る……っと」

 

テオ教官は、まるで疲れを感じさせずに立ち上がるり、封筒を取り出した。

 

「じゃ、受けとりな」

 

テオ教官に今月の実習地が記された紙を渡される。

 

 

【9月特別実習】

 

A班:レンヤ、アリサ、アリシア、なのは、シェルティス、ツァリ

(実習地:工業都市イラ)

 

B班:すずか、はやて、フェイト、ユエ、リヴァン

(実習地:貿易都市アーネンベルク)

 

 

「これは……」

 

「イラに、アーネンベルク……耳にしたことはあります」

 

「まあ、それなりに有名なんだけど……」

 

「それに、アーネンベルクといえば……」

 

「人口30万を誇るミッドチルダ第2の巨大次元間貿易都市。過激派の中心にいるソイレント中将の本拠地だね」

 

あの、イレイザーズを率いている、ソイレント中将のいる都市に。まだ、波の治っていない状況にも関わらず、実習地に選ぶなんて……

 

「おいテオ!このタイミングで野獣の檻の中に飛び込めと⁉︎」

 

「いくら何でも危ないと思うんやけど……」

 

「まあまあ、そのあたりの事は色々考えているから安心しろ。ただ、テロリストの事といい、のんびりとは行かねえがな。もちろんイラもな」

 

「そうだねー。ミッド南西に位置する工業都市……そこの組織団体の頂点に立つディアドラグループ。イーグレットSSと並べる企業だけど……内部でかなり割れているからね〜」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「父さん達もこの時期にどうしてそんな実習先を……」

 

パンパンッ!

 

実習地に困惑する中、テオ教官が手を叩いた。

 

「さっきも言ったが、そのあたりはちゃんと考えている。来月は学院祭で、特別実習も無い。そんな意味で……今回の実習もこれまでの“総括”と言えるなら」

 

テオ教官の言葉を聞き、気が引き締まる。これまでの経験が目に見えて くるかもしれないという実感が出てくる。

 

「やりたいようにやってこい。お前達のVII組のためにもな」

 

「「「「「「「「「「「はいっ……!」」」」」」」」」」」

 

俺達はテオ教官の期待に応えるべく、大きく返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月25日ーー

 

A班とB班は1階に集まっていた。

 

「ーーもう8時20分。来てないのはすずかとはやてか」

 

通常ならもうレールウェイに乗っている筈なのだが、ある事情でまだ寮内にいる。

 

「昨日は遅くまで喫茶店の企画を練っていたようですしね」

 

「ああ、内装とか、メニューはだいたい固まったんだが……衣装とイラストとかは2人とも拘っているみたいでさ」

 

「うんうん、面白くなりそうだねー」

 

「ふう、すずかはともかく、はやての方は気になるわね……」

 

「まあ、それについては2人に任せておこうよ」

 

「それにしても、昨日の事は結構驚いたね。テオ教官がいきなりあんな事を言うなんて……」

 

「ああ、そうだな……」

 

昨日、夕食を食べている時に……

 

【ーーそうそう、明日は出発前に魔導学院に寄ってもらうからな。朝9時にドーム内に集合。両班遅れるなよ】

 

前触れもなくそう言っており、レールウェイでの移動を開始していなかったのだ。

 

「あいつが唐突なのは毎度の事だけど」

 

「一体、何をするんだろうね……?東部にあるアーネンベルクはレールウェイで8時間はかかるのに」

 

「到着する事には日も暮れているね」

 

「そうね、イラだって5時間以上はかかるんだし。どっちも始発に乗ってもいいくらいだわ」

 

「そうだな……」

 

そこで後ろに振り向くと、ファリンさんが静かに立っていた。

 

「あの、ファリンさん?もしかして何か知っています?」

 

「い、いえ、何でもありませんよ。あくまで皆さんのお見送りをさせてもらっているだけです」

 

露骨に怪しんだけど……忍義姉さんと何か企んでいる顔に近いんだけど。

 

『怪しいね』

 

『教えてはくれなさそうみたいようだけどね』

 

『すずかも大変だな……』

 

「ごめん……!寝坊しちゃって……!」

 

「おはよう、皆」

 

ちょうどそこへ、すずかとはやてが降りてきた。

 

「おはよう、2人共」

 

「これで全員揃いましたね」

 

「本当にごめんね……それで9時にドームに行くんだよね?」

 

「何のつもりかわからへんけど、まだ余裕はあるなぁ」

 

「それじゃあ、行こっか。お互い、準備もあるしまた後で」

 

「そうだね」

 

「皆さん、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

「頑張り〜」

 

見送るファリンさんを、すずかが怪しみながらも。寮を出て学院に向かった。

 

その途中、練武館の前にランディがいた。おそらく朝練に来ていたのだろう。

 

「む、どうして君達がこんな時間にいる?今日は特別実習の日たっだろう?」

 

ちなみに夏至祭以降、気軽に話しかけられるくらいの関係になっていた。

 

「ああ、なんだかドームに呼ばれてさ。そういうランディこそ、珍しく朝練に来てたのか?」

 

「いつもより早く起きたから来ただけだ。部長に完敗したのが悔しくてここにいるわけじゃないぞ」

 

聞いてないのに自分から理由を言った。

 

『あはは……思ったより素直なんだね』

 

『自分で墓穴を掘っているね』

 

「そういえば、君達はイラとアーネンベルクに向かうみたいだな。さすがに無謀だな」

 

「まあ……確かに難しい場所だけど……」

 

「ソイレント中将の本拠地であるアーネンベルクはもちろん……イラもあんまりいい噂は聞かないわね」

 

「もしかして……心配してくれてるのか?」

 

「フ、フン、そんなんじゃない。ただ、君達とは学院祭で決着をつもりだ。帰って来なくて勝ち越しなんか許さないぞ」

 

「……ああ、わかった。お互い来月の学院祭も頑張るとしよう」

 

やはり素直に言えないが、以前よりどこか柔らかくなっている感じがする。その後、予定通りドームに入った。そこにはテオ教官がすでにいた。

 

「テオ教官。もう来てたんですかーー」

 

そこで、テオ教官の後ろにファリンさんがいる事に気付く。

 

「ファ、ファリン⁉︎」

 

「さっきまで寮にいたよね……⁉︎」

 

「実はテオさんに呼ばれてまして。皆さんを見送った後、こっちに来たわけです」

 

結局、予感していた通りになってしまったわけだ。

 

「やっぱり何か企んでいたね」

 

「ファリンさんらしいというか……」

 

「さすがはファリンさんだね。後ですずかちゃんが驚くよ」

 

「相変わらず気苦労が絶えないみたいだな。彼女にはA班の案内役でここに来てもらっているんだ」

 

「そういう事です」

 

「……B班の案内役?」

 

「もしかして……」

 

「あ、もう来てたんだ」

 

そこへ、フェイト達B班が到着した。

 

「あれ?なんでファリンさんがおるんや?」

 

「や、やっぱり……」

 

「ふふ、相変わらずですね」

 

すずかが落ち込む中、定刻通りVII組全員、ドームに集まった。

 

「A班、B班揃ったな。お、9時ジャスト……予定通りだな」

 

「え……」

 

テオ教官は空間ディスプレイの時計を見てそんなことを言う。なんの予定通りと聞こうとしたら……

 

キイイィィィィ………

 

遠くから何かの音が聞こえてきた。

 

「この音は……」

 

「風を切る音……いえ」

 

「これは………飛行船……ううん、船艦の音だね」

 

「この付近に船艦だと?」

 

音の正体を確かめようと空を見上げる。

 

「あ!」

 

「あれって……?」

 

「な、なんなんや、あれは……⁉︎」

 

「ーー来たか」

 

空からゆっくりこちらに向かって、黒い大型船艦が降下していた。

 

さすがに驚愕して空いた口が塞がらなかった。

 

「あれは……!」

 

「次元艦か!」

 

「び、びっくりしたよ……」

 

「黒い艦船……いったいどこの……」

 

「普通に考えたら次元船行部隊だと思うけど……」

 

「でも……このシルエットはどこかで……」

 

フェイトが見覚えのあるように、頭を捻る。もう一度船艦をすみずみまで見て……

 

「あ、そうか、アースラだ。アースラに似てるんだ」

 

「そういえば……!」

 

「言われてみれば……確かに」

 

「アースラよりは大きく気もするけど」

 

そう話している間にも船艦は降下を続けていた。

 

「えっと、まさか……⁉︎」

 

「このまま着地する気か……?」

 

「ああ、もちろん」

 

「ドームも幸いにあの船艦より大きいですから、余裕で着陸できますよ」

 

そう言い、場所を空けるためかテオ教官とファリンさんは横に移動する。

 

「しっかし、いったい誰が乗っとるんやろな」

 

「そうだね……って、やっぱり知ってたの⁉︎」

 

すずかが突っ込む中、静かに船艦はドーム内に着陸した。よく見てみると、次元船行部隊のエンブレムがあった。

 

「改めて見ると凄いね」

 

「なかなか綺麗じゃない」

 

「本当にアースラに似ているね」

 

「次元船行部隊のエンブレム……管理局の船であることは間違いないね」

 

「ーー皆さん。10日ぶりですね」

 

聞き覚えの声がすると、甲板にミゼットさんとヴィータが現れた。

 

「ミゼットさん……!」

 

「それに、ヴィータもなんでそこにおるんや……」

 

「ばあちゃんに呼ばれてさ、護衛としているんだ」

 

「なんで2人がそこに?」

 

「ふふふ、反応はいいみたいね。これならお披露目でもいい効果は得られそうね」

 

「お披露目だと……?」

 

「あはは……もう何がなんだか……」

 

突然の出来事に、さすがに着いて行けない人もいるようだ。

 

「今回、あたし達はあんま関係ねえ。主役はあくまでこの艦とあいつになるな」

 

「え?」

 

「あいつ……?」

 

「ーー久しぶりだね。VIIの諸君。初めての人も多そうだけど」

 

また、聞き覚えのある声が甲板の反対側から聞こえてきた。

 

「あ……」

 

「その声は……」

 

現れたのは、前の会議で顔を見たけど会話はしてないが……間接的に助けてくれたクロノ・ハラオウンがいた。隣にはヴィロッサもいた。

 

「あなたは……」

 

「クロノ君⁉︎」

 

「確か、フェイトの上司に当たる人だよね?」

 

「う〜ん、一応……そうなのかな?」

 

「ヴィロッサも一緒なんやな」

 

「お互い、凄い状況で再開したね」

 

「それよりも……もしかして?」

 

フェイトは半信半疑ながらも聞いてみた。それにヴィロッサが答えた。

 

「紹介するよ。この艦を任せれたクロノ・ハラオウン艦長だよ」

 

「……!」

 

「なるほどね。アースラも若くないと聞いていたけど……」

 

「まあ、詳しい事は後で説明するよ」

 

「な、なんだこれは⁉︎」

 

そこへ、ランディとクー先輩、エテルナ先輩、グロリア先輩、フィアット会長がドームに入って来た。先輩達は事前に知っていたような感じで……

 

「………………(パクパク)」

 

ランディは驚きのあまり空いた口が塞がらなかった。

 

「わあっ、綺麗な船艦だね!」

 

「ひゅ〜、すげえなぁ」

 

「ええ、大したものです」

 

「凄いな……聞いていたスペック以上にとんでもない性能みたいだ」

 

さらにそこに続いて、ヴェント学院長も入って来た。

 

「学院長……」

 

「あの、これって……」

 

「ふふ、驚くのも無理ない。理事長の提案で今回は特別な計らいとなっての。その艦で、それぞれの実習地まで送ってくれるそうだ」

 

「ええっ⁉︎」

 

「ほんまですか⁉︎」

 

「あくまでお披露目の試験飛行のついでだがな。いったんクラナガンに向かってからイラに直行するってさ」

 

「はは……なんと申しましょうか」

 

「驚きすぎて、寝不足もあって頭がクラクラしてきたよ……」

 

今日だけで、すずかの疲労はこの中で一番だと思われる。

 

「ーーそれでは統幕議長。そろそろ参りましょう」

 

「ええ、よろしくお願いするわ」

 

そう言い、クロノは前に出て……

 

「ようこそ、VII組の諸君!」

 

両手を広げて、高々と声を上げた。

 

「XV級大型次元船行艦ーーークラウディアへ!」

 

 



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89話

閃の軌跡と並行しているのですが……

カレイジャスのブリッチにいるクルーの1人がクロノって名前でした。

偶然って恐ろしい……


 

 

俺達がクラウディアに乗り込むとすぐに上昇し、クラナガンに向けて飛翔した。目的通り、お披露目のためクラウディアはクラナガンを中心とした地区を時計回りに飛びんだ。

 

現在はイラに向かっており、クルーから送られてくる情報を得てクロノが指示を出してアルトセイム上空を飛んでいた。

 

「ここがクラウディアのブリッジか。アースラより広いな」

 

「クルーが少ないのも相変わらずだけどね」

 

「開発部が作った最新型の情報処理システムが使われているね。ディアドラグループと、イーグレットSS、トライセン工房の共同開発のようだね」

 

すずかがクルーの1人が使用しているディスプレイを覗き込み、製造元を推測する。

 

「ふふ、さすがすずかちゃんは詳しいわね。この艦の開発にあたっては様々な人々の力を借りましてね。資金面でクロノ君に、技術面でプレシアさんに、色々とご迷惑をかけてしまってね」

 

「どうやら結構資金繰りに苦労したようだな」

 

「ええ、ウイント氏も含めて各方面から融通してもらいました。その甲斐もあって理想通りの素晴らしい翼が完成したと思っています」

 

「全長は90メートル。アースラよりは一回り大きいサイズだな」

 

「ディアドラ製の高性能エンジンを30基搭載したことによって、大気圏内での最高速度は700を超え……大型の次元艦で上位に入るほどの速度と迎撃能力を誇っているよ」

 

ミゼットさんに続き、ヴィータとヴィロッサが全長と大まかな性能を話してくれた。

 

「それにしても、聞けば聞くほどすごい艦ですね」

 

「でも……ちょっとやり過ぎな気も……」

 

「お母さんならやりかねないと思うよ」

 

「それにしても……まさかクロノが艦長なんてね」

 

「もしかして、アースラを降りたんか?」

 

「一応、今もアースラの艦長を兼任しているが、元々アースラは経年劣化なので長期間の任務には耐えられないと診断されていてね。まだ廃艦処分は決定してないが、なんとか後一回だけでも出動できるようにはするさ」

 

「そうなんだ……」

 

「ジュエルシード事件、闇の書事件や任務で………今思えば、私達ととても縁が深い艦だったね」

 

「そうだな。それでクロノ、“牽制”……でいいんだよな?」

 

クロノにクラウディアが現れた意味を聞いてみた。

 

「ああ、空と陸……主に空を牽制するために海から僕が、ミゼット統括議長に大任を任されたんだ」

 

「なるほど、確かに適任だ」

 

「ふふ、クロノ君だから任せられるのよ」

 

「基本的にクルーはアースラと同じメンバーだけど、他の部隊の出向や、教会騎士団からも出て来ているんだ」

 

「効果は確実にありそうだな」

 

リヴァンが納得する横で、ユエが質問した。

 

「ついでという話ですが……このままミッドチルダ全体を回るおつもりで?」

 

「ああ、各地の緊張を少しでも和らげるようにね。そして……D∵G教団にも睨みを利かせたいと思っている」

 

「確かに……トライセンの飛行艇も使っていたし」

 

「ゲンヤさんやティーダさんも動いているが……この艦なら、違う形で奴らの動きを牽制できるな」

 

「効果的でしょう?それに、こうして気軽に飛べるのもいいものですよ」

 

「ま、そのせいでティーダ辺りの航空警備隊が苦労するんだがな」

 

「このご時世、空を飛ぶのも簡単じゃないからね」

 

確かに、基本的に飛行魔法の使用は禁止だからな。

 

「さて、この艦ならイラまで1時間はかからないよ」

 

「しばらくくつろぐといい。機関部や機密エリア以外は自由に見学しても構わない」

 

「ありがとう、クロノ。そうさせてもらう」

 

クロノに許可ももらったことで、各自自由に艦内を見学して回った。ヴィロッサの言っていた通り、クルーは知り合いばかりだったが、騎士団の団員に会うと跪かれたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐにイラに到着して、俺達A班はB班とテオ教官達に別れを告げてイラの地に足をつけた。クラウディアはすぐに離陸し、ミッドチルダ東部に向かうクラウディアを見送った後……都市中心部に続く回廊を歩いていた。

 

「な、なんだが屋内をずっと歩いている気が……」

 

「確かに、イラなら当たり前そうだけど」

 

「中心部はもう少し先だ。はっきり言って地球出身の俺達でも魔法の国と思うくらいだ」

 

「そうそう、非常識な街だからね〜」

 

「そういえば、レン君とアリシアちゃんは来たことがあったんだっけ?」

 

「そうね、ここは2人の管轄が重なる場所だから。私も一度来たわ、驚いて何も言えなかったけど……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「あ、結局滞在中の宿泊場所ってどこなんだろう?確かに案内人がいるそうだけど」

 

「さあね、まあ、予想はつきそうだけど」

 

「………?」

 

そうこうしていると奥から外の明かりが見え、回廊を抜けると……

 

「な、なにこれ……!」

 

「街が上の方にも?」

 

どこかミッドチルダと似たような雰囲気を微かに感じるも、それでも皆にこの街は初めて見るような光景なのだろう。上層と下層をつなぐ道は基本的にエレベーターなのだし、それくらい上層と下層は離れているんだ。

 

「これが技術と工業で栄えてきた巨大魔導都市……イラだよ」

 

「……確かに非常識だね」

 

「昼なのに電灯が点いているよ……」

 

「人口は20万人……ちょっとした小国並みよ」

 

「なんだが前来たよりも大きくなっているな……」

 

「さて、それじゃあ案内人はどこに……」

 

「ーー失礼します」

 

シェルティスが辺りを見回そうとすると、ワインレッドの髪をひとまとめにした、スーツを来たメガネの女性が声をかけてきた。

 

(やっぱり……)

 

「えっと、あなたが……?」

 

「はい、レルム魔導学院、VII組A班の皆様ですね。初めまして、キルマリア・デュエットです、以後見知りおきを。ようこそ、工業都市イラへ、滞在中の宿泊場所までご案内します」

 

「あ、はい」

 

『レン君、知り合いなの?』

 

『ついて行けばわかるさ』

 

キルマリアさんについて行き、上層にエレベーター向かうに乗った。

 

「ふ、普通に街に中にエレベーターがあるよ」

 

「さすがに驚きだよ」

 

「これぐらいここじゃ普通だよ」

 

「へえ……あ、あれは?」

 

なのはの指差した方向に塔のような建造物が立っていた。

 

「ずいぶん変わった形の建物だね」

 

「あれは魔導ジェネレーターだろう。小型のを見たことがある」

 

「魔導ジェネレーターは集束魔法と同じ原理で空気中の魔力を集めて発電する物だ」

 

「イラには大規模工場が多いため大量の電力が必要とされています。その場合、各工場で電力を生み出すより、巨大なジェネレーターから分配した方が効率よく電力を生み出せるんです」

 

詳しい説明をキルマリアさんが説明してくれた。

 

「そ、そうなんですか……」

 

「ここではそんな事情があるんですね」

 

エレベーターを降りると、目の前に見上げるほどの高いビル……ディアドラグループの本社ビルが建っていた。

 

「すごい……」

 

「資料で建物自体見たことはあるけど……」

 

「にゃはは、さすがはディアドラグループの本社だね」

 

「はは……俺も最初にイラに来た時はちょっと目を疑ったな」

 

「まあ、大きいけど地上本部よりは小さいからね」

 

「規模の問題でしょう、特に気にすることもないわ」

 

「それでは中に入りましょうか」

 

ディアドラグループの本社に入った。内部もかなりの造りだと思われる。

 

「内部も豪華だね」

 

「あれって、ディアドラグループの製品ディスプレイなのかな?」

 

「空間シュミレーターによる投影だな、実際に触れると思うぞ」

 

「まあ、それは後でいいでしょう」

 

「それでは23階……会長室まで案内します」

 

またエレベーターに乗り、23階に到着し。奥にある会長室の前まで来て、キルマリアさんがドアをノックした。

 

コンコンコン

 

「失礼します。VII組の方々をお連れしました」

 

『通して頂戴』

 

「はい」

 

キルマリアさんがドアを開けてくれ、俺達は会長室に足を踏み入れた。

 

(うわ〜……!)

 

(すごい眺めだね)

 

だが、幾分大き過ぎる気もする。使用しているのは奥にあるデスク辺りをだけだと思う。そのデスクに夜色の髪をした女性が座っていた。

 

「よく来てくれました、レンヤ君とアリシアちゃん以外は初めまして。私はディアドラグループの会長を務めさせてもらっていますソアラ・ディアドラです」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「ふふ、そう固くならないで、もっと気を楽にしていいわよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「さて、このまま話していたいのですが……この後外せない案件がありましてね」

 

ソアラさんは引き出しから封筒を取ると、前に来て渡してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「夕食までには戻れると思います、積もる話はそこで。後のことはキルマリアに任せています」

 

「分かりました、お気をつけて」

 

ソアラさんはそのまま会長室を出ようとすると、何か思い出したのか振り返った。

 

「そうそう、知っての通り今陸と空は荒れているから可能な限り近寄らないでね。それと……できれば南にある霊山にも深入りしないでね。今あそこは原因不明の瘴気が発生しているの。ま、君達はしっかりしているから大丈夫だと思うけど、気をつけね」

 

「お気遣い、ありがとうございます」

 

なのはのお礼に笑顔で返し、ソアラさんは会長室を出て行った。

 

「大企業の会長だから厳しい人かと思ったけど、結構優しい人だね」

 

「そうなんだが、ソアラさんはああ見えていつも忙しいんだ……理由は一緒なんだけど……」

 

「え、今なんて?」

 

「なんでもない」

 

「それにソアラさん、綺麗な髪をしていてお嬢様って感じだったよ」

 

「私達の身の安全も考えてくれるしね」

 

「そうね、彼女の苦労が共感できそうだわ。さて、私達も実習を始めましょう」

 

「荷物は寝室に運びます。皆様もどうかお気をつけて」

 

キルマリアさんに見送られ、またエレベーターに乗って1階に向かった。

 

「あ、しまったな。全員の荷物をキルマリアさんに預けちゃったけど……大丈夫かな?」

 

「多分、大丈夫でしょう。しっかりしていたし、どうやらソアラさんも信頼しているようだから」

 

「私もそう思うよ。あ、そうだレン君、さっき受け取った実習の依頼を見てみない?」

 

「ああ、判った」

 

封筒を取り出し、中に入っていた依頼書に目を通した。

 

「大体は工業に関する物だが……これが厄介そうだ」

 

俺は必須と書かれている一枚の依頼書を皆に見せた。

 

「なになに……霊山の周辺調査をせよ、ね。ソアラさんにも注意されたけど、霊山っていうのは?」

 

「ここより南にある山脈よ。普通の山と違って洞窟を通って頂上に行くルートがあったりする珍しい山よ」

 

「でも、瘴気が発生したって言っていたよね。その原因を探るのかな?」

 

「それも含めて調べて解決するのが特別実習だ。他の依頼もあるし、それを解消してから行くとしよう」

 

「了解だよ!」

 

俺達は実習を開始した。本社を出る前に、なのはが空間シュミレーターの投影に興味津々だったが……まずは携帯端末専門店に向かった。そこで、依頼者の男性に依頼内容を聞いた。

 

「君達にやって欲しいことは最新型の携帯端末のテストをしてもらいたいんだ」

 

「最新型の携帯端末、ですか?」

 

「ああ、これなんだが」

 

男性が見せてくれたのは、全体が板のようなで、画面に埋め尽くされた携帯端末だった。

 

「ここ最近でようやく完成した個人用情報端末、MIPHONE(メイフォン)だ」

 

「ボタンらしき物がかなり少ないですけど……どうやって取り扱うのですか?」

 

なのはの質問で、MIPHONEの説明が始まった。

 

簡単に言えば通話以外にも高度な情報サービスを利用することができ。SNSやゲームなど多種多様のアプリが使用できる全く新しい端末のようだ。さらに所有者の生体情報を認証し、同期する機能もあり、それを利用したサービスやセキュリティシステムなどもあるらしい。

 

「ーーとまあこんな感じでね。それで君達には色んな場所を回ってもらってMIPHONEの受信効率の悪い場所の検出と耐久性のテスト、使い心地や使い易さを検証して欲しい」

 

「なるほど、実際に使ってみて不備がないか確認するのですね」

 

「ああ、よろしく頼んだよ」

 

試験用の2台をもらい、所々で確認しながらそのまま実習を再開した。

 

そして街内での依頼を終わらせ、イラ郊外南部にあるシメオン霊山に向かった。その道中、アリシアはMIPHONEのゲームアプリで遊んでいた。

 

「ふっふふ〜ん♪ このゲーム面白いね〜」

 

「アリシア、歩きながらゲームするな。つまずいて転ぶぞ」

 

「大丈夫、大丈夫♪」

 

「全く、しょうがないわね」

 

「あはは……あ、そういえばレンヤとアリシアは前からソアラさんと知り合いだったんだっけ。どういう経緯で知り合ったの?」

 

「1年位前に、異界対策課の依頼でアリシアと一緒にイラに来たんだ。その時発生した異界にソアラさんとキルマリアさんが巻き込まれた所を助けたんだ。それ以来、異界対策課を援助してくれてな。よく雑談や相談に乗ったりしている」

 

「すずかが作っている物も少しだけだどその資金援助と技術提供がされているのよ。まあ、そのせいで勧誘もあるのだけど」

 

アリサは肩を竦めてため息をつく。

 

「管理局に入っているのを知っているのに……なんで勧誘されるの?」

 

「いわゆる引き抜きよ。私達、異界対策課は会社を経営するのに必要な分野が優れているのよ。私は取引などの社交術や交渉術、すずかは開発などの技術力、レンヤは情報処理、アリシアはああ見えて会計や投資に優れているの」

 

「うわぁ……なんだかレンヤ達だけでも大丈夫な気がしてきた……」

 

「う、なんだが私だけなんにもないような……」

 

「そうでもないぞ。フェイトは治安や規則関連がしっかりしている。はやては人をまとめられる統率力や事態に対してすぐに行動できる力があるの訳だし……なのはの教導も、経営に必要なスキルだ」

 

「あ、ありがとう、レン君」

 

「そうそう、もっと自信を持ってーー」

 

と、そこでゲームしていたアリシアが段差に足を取られた。アリシアが倒れる瞬間、回り込んで抱き止めた。

 

「……………え?」

 

「全く、だから歩きながらゲームするなって言ったんだ」

 

アリシアをちゃんと立たせて、MIPHONEを取り上げた。

 

「ご、ごめん………」

 

「ふう……話を戻すと、そんな能力を持っているから色んな所から勧誘されるってわけよ」

 

「なるほど、レンヤ達も大変なんだね」

 

「もう慣れたけどな」

 

「ーーそれでアリシアちゃんはいつまでレン君とくっ付いているのかな?」

 

なのはがすごい笑顔でそう言った。アリシアも今の体勢に気がついたのかバッと離れた。

 

「ご、ごめんレンヤ///」

 

「気にするな、それより早く行こう」

 

それからすぐにシメオン霊山の麓に辿り着いた。霊山の周りには草木が生えておらず、霊山に続く道は立ち入り禁止のゲートとバリアジャケットを着た監視員がいた。

 

「なんだか、かなりただ事じゃないみたいだね」

 

「うん。とりあえず警備員の人に事情を説明して通らせてもらおう」

 

ゲートまで近付き、警備員に事情を説明すると。事前にソアラさんが手回しをしており、簡単に許可が下りた。ただし、常にバリアジャケットを身につけるか、防御魔法で覆うことを説明される。

 

俺達はバリアジャケットを着て、ツァリはバリアジャケットを展開できる魔力はないので端子で自身を囲み障壁を張った。ゲートをくぐり抜け、洞窟の入り口の前に来た。他に頂上に向かうための山道はなかった、見るからに険しい山だから当然だが。それに洞窟から紫色の瘴気が出て来ていた。

 

「なるほど、封鎖するわけだ」

 

「有害なのは間違いないようだね」

 

「……………………」

 

「アリシアちゃん、どうかしたの?」

 

「え、いや、なんでも……」

 

手を振って平気そうに振る舞うが、明らかに嫌そうな顔をしている。

 

「気分が悪いなら辞めとくか?」

 

「ううん、大丈夫。行こう」

 

アリシアは障壁を張りながら洞窟に入って行った。

 

「バリアジャケットを着ているのに障壁なんて……」

 

「行くわよ。先に行けばわかるわ」

 

「そうだね。どうやら……何かあるみたいだし」

 

シメオン霊山に入ると、一層瘴気が濃くなった。

 

「さとて、原因はどこだろう……」

 

「うっ……なんてひどい穢れ……」

 

「確かに、気分が悪くなるな」

 

口を押さえながら、アリシアの背をさする。

 

「穢れって……なに?」

 

「簡単に言えば陰の気、悪意や負のエネルギーという物だ。アリシアは霊感が強いからもろに受けるんだ」

 

「やっぱり引き返した方が……」

 

「大丈夫。アリサ、火を出してくれてない?」

 

「え、ええ」

 

アリシアに言われるままアリサは火の玉を出した。そうすると、瘴気が火から離れていった。

 

「これは……」

 

「ふう……従来、穢れは火によって浄化されるんだよ。気休めだけど、幾分平気なはずだよ。それと瘴気の発生場所はここより下のようだね」

 

「洞窟に火ってのもどうかと思うが、結構広いし大丈夫か」

 

アリシアの先導で奥に進み、地下に向かった。発生地点と思われる場所に大き目な岩があった。どうやらその岩から瘴気が発生している。

 

「この岩からみたいだけど……なんでこれから発生しているのかな?」

 

「アリシアちゃん、わかる?」

 

「ちょっと待ってね……」

 

アリシアが岩に手をかざすと黄緑色のミッドチルダ式の魔法陣が展開された。

 

「う〜ん……これが原因なのは間違いないね」

 

「それで、どうやって止めるの?」

 

「私が浄化術式を構成する陣で囲うから、それをアリサが炎で一瞬で燃やせばいいよ」

 

「わかったわ」

 

アリサが前に出て、岩に向かて手をかざし。岩が一瞬炎で包まれた。次に現れた岩は、瘴気を発していなかった。

 

「ふう、これで大丈夫だと思うよ」

 

「そうだね、少しずつ瘴気も晴れているみたいだし」

 

「でも、なんでもこんな事になったんだろう?」

 

「おそらくこの要石が穢れたせいだよ。元々ここは霊山の穢れを集めて浄化する場所だったみたいだけど、容量を超えて要石自体が穢れて瘴気を発しちゃったんだと思う」

 

「ともかくこれで依頼完了よ。イラに戻りましょう」

 

「そうだね。ここはちょっと息苦しいし」

 

着た道を引き返し、シメオン霊山を出た。その後、さっきの警備員に報告をして、イラに向かった。

 

「さてと、依頼も終わった事だし帰ろうか」

 

「そういえば結局どこで寝泊まりするんだろう?」

 

「多分、来客用の部屋があるんじゃないかな」

 

街に到着する頃には夕方になっていた。

 

「すっかり夕方だね」

 

「そうだね。でも依頼は一通り終わったし、ちょうどよかったと思うよ」

 

「レポートもあるし、戻った方がいいかもね」

 

「ああ〜、いい空気。気分爽快だよ〜」

 

「不快感がなくなった感じだな」

 

その時、上層を歩いていると。下層の駅前広場の方から騒めきが聞こえてきた。

 

「何かしら?」

 

「行ってみよう!」

 

下層が見える場所に来ると、柵から広場を覗き込んだ。

 

「あれは……」

 

「まさかーー」

 

そこには、下層の広場で本局と地上の部隊が睨み合っていた。

 

「地上部隊に航空隊……」

 

「航空隊はソイレント派……いや、イレイザーズみたいだね」

 

確かにイレイザーズだが、あの時の部隊じゃなかった。

 

「嫌な予感はしていたけど、ちょっとマズイね」

 

「うん、かなり殺気立っているよ」

 

「下に降りて様子を見るわよ」

 

「ああ、行こう」

 

すぐにディアドラグループ本社前のエレベーターから下層に向かおうとするが、エレベーターは航空隊が封鎖しており、使用できなかった。

 

「エ、エレベーターが……」

 

「封鎖……⁉︎いったい何を考えているのよ⁉︎」

 

「仕方ない、別ルートから降りるぞ……!」

 

空いているエレベーターを探し出し、下層に降りて広場に近づく。改めて見てみるとかなりマズイ状況だった。

 

「ーーイラ市の治安維持は地上部隊の役割だ!そちらの管轄外のはずのここになんの権利があってここにいるっ!」

 

地上部隊の隊長が怒気混じりで言い立てる。それを航空隊の隊長はどこ吹く風の如く受け流す。

 

「……お言葉ですが、我々は正規の手続きを踏んでいます。そちらこそ邪魔をしないでもらいたい」

 

「こいつら……」

 

「あいつらののモノマネしやがって……!」

 

「まあ、こちらにも任務がありますのでーー」

 

隊長が手を上げると、街道方面から戦車が街に入って着た。戦車の登場で、市民にも騒めきが上がる。

 

「しょ、正気か⁉︎」

 

「街中にそんなものを持ち出とは!」

 

「武は示すものです。先日現れたテロリストにも我々が拘束、逮捕しました。我々こそが、テロリストに対抗できる確かな力があるのです!」

 

イレイザーズの隊長は両手を広げ、市民に訴えるかのように声をあげた。

 

「もっともらしい事を……!」

 

「でも……いくらなんでも街中に戦車なんてムチャだよ!」

 

「どうしたら……」

 

「どっちも正式な組織。いまの俺達は学生、介入できる相手じゃない。だが、万が一衝突が起きたら周りの人を避難させるぞ」

 

「ええ……それが最善ね」

 

「了解、怪我人を出さないためにも」

 

「ーーその通りだ」

 

そこに、空港方面の通路から女性の声が聞こえてきた。

 

「確かに我々にはテロリストに対抗できる力はない。だが、それでも力を示せればそれでいいわけでもない」

 

「あ……」

 

「この声……!」

 

出てきたのは……イシュタル・フェリーヌだった。

 

「イシュタル空尉……!」

 

「き、来て下さったんですね……」

 

「ご苦労だった。後は任せろ」

 

今のイシュタルさんは鋭い眼光をしており、いつもの飄々とした感じは全くなかった。

 

「あれが噂の……」

 

「地上警備隊筆頭……」

 

「お役目ご苦労。確かにそちらの実施は上から通達されている。そのような車両を出して不都合でもあったか?」

 

「それは……」

 

「それと先ほどの言葉を訂正してもらおう。確かに我々は怪異に対抗できない……が、それを操るテロリストに遅れをとるつもりは毛頭ない。何より、いつまでも後手に回っているわけではない。奴らが事を起こす前に止めてみせる!」

 

イシュタルさんのその言葉に市民が反応を示す。

 

「イシュタルさん……すごいタイミングだな」

 

「しかもすごい迫力、こっちまで気が届くわ」

 

「えっと、聞いていたイメージと違うんだけど……」

 

「あの人、普段猫かぶっているからね」

 

その迫力に、イレイザーズの隊長も怯んでいた。

 

「くっ……」

 

「我々とて怪異の脅威の前にそちらと争う気はない。そちらはそちらで、我々は我々で役割分担すればいい事……そうではないか?」

 

「だが……」

 

「ーーならば複数の場所で何かあったらどうするつもりかな?」

 

そこに割って入って来たのは、エレベーターから降りてきて後ろに護衛を連れたウイントさんだった。

 

(ウイントさん……⁉︎)

 

(なんでここに……)

 

(またすごいタイミングで来たね)

 

「こ、これはウイント氏!もうお帰りでしたか!」

 

イレイザーズの隊長は敬うかのようにウイントさんに敬礼した。

 

「ああ、ここの司祭との会談が済んだからね。そろそろ戻ろなければいけない」

 

ウイントさんはイシュタルさんに近づき礼をする。

 

「会議以来ですね、イシュタル・フェリーヌ空尉。お元気そうで何よりです」

 

「……恐縮だな。ウイント・ゼーゲブレヒト」

 

「ウイントで構わない。どうやらなぜイラにいるのか……いや、どうやってイラに来たのかが不思議のようだね?」

 

「…………………」

 

「あらゆる路線網は、君達の監視下にある……かといってイラ空港に私が訪れた気配もない。答えは……王家の専用高速飛行艇で来ただけさ。もっとも停泊させたのはイラ郊外の街道外れだけどね」

 

「なるほど、確かにそれなら我々の目をかい潜れる」

 

「そういうことだ、両者共にあまり過信をし過ぎないように。取り返しのつかない失敗にならないよう、ね」

 

「……忠告、感謝する」

 

ウイントさんは納得すると、両者の解散を言った。それを受けて、イレイザーズと地上警備隊は撤収して行った。

 

「…………………」

 

「やあ、奇遇だね」

 

撤収を見届けていたら、ウイントさんがこちらに気が付いたようだ。

 

「は、はいっ!」

 

「お久しぶりです」

 

「固くなることはないよ。私はここの教会の司祭に話をしてきただけでね」

 

「そうですか……」

 

「それで、なんでイレイザーズは叔父さんに友好的だんですか?」

 

「大方、恩を売りたいのだろう。もしくは、聖王教会を敵に回したくないのか……思惑は預かり知らないが、どうもあれ以来好きに動けなくてね。今回はクラウディアの盛り上がりに乗じてこっそり来たわけだ」

 

やや疲れ気味にそう言う。

 

「東のアーネンベルクもそうだけど、何が起きてもおかしくない状況だ。君達も特別実習は気をつけておくといい。私も……学院祭を楽しみにしているのでね」

 

「……ありがとうございます」

 

アリサが礼を言うと、ウイントさんは笑顔で頷き、街道方面に向かって行った。

 

「はああああっ……」

 

「き、緊張したの……」

 

「さすがは聖王の代理をしているだけはあるわね」

 

「でも、やっぱり疲れているみたいだったね」

 

「色々と錯交している時期だからね、仕方ないのかもしれない」

 

「無理しなければいいんだが……」

 

頭を振り、気持ちを切り替える。

 

「そろそろ日も暮れる、ソアラさんなら何か知っているかもしれないし……いったん本社に戻ろう」

 

「ええ、それがいいわ」

 

「イレイザーズの……本部の動きが分かるかもしれない」

 

「水面下で何か起こっているかもね」

 

「予定通りなら、夕食の時に聞き出せると思うよ」

 

「それで、本社のフロントでキルマリアさんを呼べばいいのかな?」

 

「ううん、ソアラさんの実家に行けばいいと思うよ」

 

「え、実家?」

 

「そうだよ。ディアドラグループ本社ビルの24Fと25F。最上階のペントハウスがソアラさんの実家だよ」

 

あまりの事実に、なのは達は驚愕して固まってしまっていた。

 

 

 



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90話

遅れて申し訳ございません!


 

 

その後、MIPHONの使用アンケートを書いた後、実習を切り上げ。俺達はディアドラグループ本社に戻りエレベーターで上に上がっていた。

 

「それにしてもすごいね。最上階の2フロアが実家だなんて」

 

「下手な金持ちより金持ちだね」

 

「? それくらい普通じゃないかしら?」

 

「それはアリサだからだろ」

 

「これを普通とは言わないよ」

 

「あ、あはは……何気にアリサってすごいんだね……」

 

それから最上階に到着し、エレベーターを降りるとキルマリアさんが出迎えてくれた。

 

「皆様、どうもお帰りなさいませ」

 

「お邪魔します、キルマリアさん」

 

「相変わらずタイミングいいですね」

 

「恐縮です。それでは皆様、どうぞお入りください」

 

キルマリアさんがドアのロックを解除し、俺達はペントハウスに入った。見るからに豪華な家だと思えるほど広く、窓の外の景色も会長室より絶景だった。

 

「うわあああっ……」

 

「す、凄いの……」

 

「これは想像以上だよ」

 

「へえ、市街が一望できるわね。結構いいじゃない」

 

「久しぶりに見たけど、案外慣れるものだな」

 

「そうだね。ここにすずかの家にアリサの家、後レンヤの実家も見たし……もう慣れちゃったね」

 

「レンヤの実家って……聖王教会の?」

 

「まあ、そうだな。見た目重視でここより生活し難いが、それなりに思い入れもあるからな」

 

「ふふ……うん、そうだね」

 

なのはが同意するように笑顔で顔を覗き込む。

 

「すでに夕食の準備は出来ています。いつでも始められるので、気軽に声をかけてください」

 

「ありがとうございます」

 

「もうお腹ぺこぺこだよ」

 

「我慢しなさい。夕食はソアラさんと一緒に取るんでしょう?」

 

「あ、そうだね。それまで待たないと。聞きたい事もあるわけだし」

 

「それでしたら大丈夫です。先ほどの連絡で、会長は時期に戻ると申していましたので……先に夕食を食べておいても構わないとも言っていました」

 

「う〜ん……どうしよう?待った方がいいよね?」

 

「その方がいいよ。先にレポートを大雑把にでもーー」

 

「ただいま! 今戻ったよ!」

 

その時、ちょうどいいタイミングで玄関が開いてソアラさんが入って来た。

 

「ソアラさん、お帰りなさい」

 

「お帰りなさいませ、会長」

 

「ただいまレンヤ君、キルマリア。皆もただいま」

 

「は、はいっ!」

 

「お仕事ご苦労様です……!」

 

「ふふ、君達も今来たようね。ちょうどいいタイミングね……キルマリア、夕食の準備は?」

 

「いつでも……」

 

「うん、それじゃあお願いね。私は部屋で休んでいるから出来たら呼んでね」

 

「かしこまりました」

 

ソアラさんは自分の自室に入って行った。それから夕食ができるまで、俺はデバイスの調整をしていた。

 

しばらくして夕食が完成し、ソアラさんと一緒に夕食を食べていた。

 

「ん!これは……」

 

「すごく美味しいです!」

 

「ありがとうございます」

 

「て言うか、キルマリアさんってソアラさんの秘書だよね?何故メイドのような事を?」

 

「キルマリアさんはメイドのようなじゃなくてメイドなんだよ。副業だけどね」

 

「ええそうよ。昔、パパに秘書として引き抜かれて以来、家族同然の関係ね。キルマリアほど信頼できる人はいないわ」

 

「ありがとうございます、ソアラ様」

 

「そうなんですか……」

 

「そういえば……そのご両親は?」

 

「2人共、次元世界の分社を回っているわ。当分は帰ってこないわね、2年前に会長の座を貰っているけどパパとママがいなきゃ半人前……今の私は言ってしまえば会長見習いなのよ」

 

「そんな謙遜しないでください。俺はすごいと思いますよ」

 

「そうですよ。本社を任せて貰っているんですから」

 

「ふふ、ありがとう。さて……」

 

ソアラさんはフォークを置いて、話を切り出した。

 

「あなた達の聞きたい事は空と陸の事、でいいわよね?」

 

「……はい」

 

「教えてください。このイラで起きていることを」

 

「そして……ディアドラグループがそれとどう関わっているのかをです」

 

ソアラさんは目を瞑ると、重々しく開いた。

 

「……現在、陸上警備隊からディアドラ第一製作所への強制査察の検討をお願いされているの」

 

「強制査察……ですか?」

 

「第一製作所……ディアドラグループの1部門ですね」

 

「ええ、マインツから送られてくる鉄鉱石を加工した鉄鋼などを中心に手がける部門よ。そういえば、その節でもお世話になったわね。改めてお礼を言うわ。危うくお得意様を掠め取られる所だった」

 

「い、いえ……大したことはしてません」

 

「話を戻すわ。ちなみにディアドラグループが様々な派閥があるのは知っている?」

 

「はい、もちろん。ソアラさんが把握しているのは1部だけで……後は取締役の人達が……」

 

「元々、ディアドラグループは鉄鋼、デバイス、乗用機、工作機械などの各部門の構成で成り立っているわ。問題はそれぞれが大きくなり過ぎた事にあって……そして部門ごとに航空派、陸上派に分かれている事ね」

 

予想外の事実に全員が驚く。

 

「そ、そうなんですか⁉︎」

 

「そんな所まで浸透しているなんて……」

 

「もちろん、私もある程度把握しているわ。でも各部門が社の意向もあって独立していてね。完全に掌握しきれないのよ」

 

「すると、陸上警備隊が査察を検討している第一製作所……そこが航空派が占めているわけね」

 

「なんだか管理局と似たような問題だね。大きすぎるって所が」

 

「そしてその査察を露骨に牽制されている……それが夕方に起きた小競り合いの背景ですか……」

 

「もちろん、改善の為動いているけど……どうしても時間はかかるし、向こうも協力的でもないから……解決は難しいでしょう」

 

思っていた以上に管理局のいざこざに完全に連動していたようだった。

 

「思っていた以上に危ない状態ね……」

 

「そうだね、私達も無関係じゃないし」

 

「ーーそれじゃあ、話はこれで終わり」

 

ソアラさんは手を叩き、この話の終わりを告げる。

 

「各地でも緊張は高まっているけど、君達はあくまで学生の領分で実習を行ってね」

 

「あ……」

 

「助言、感謝します」

 

「ふふ、それじゃあ少し冷めちゃったけど……食べましょうか」

 

確かに少し冷めたが、それでも味は落ちず美味しかった。そして夕食後、俺達は早々に本日分のレポートをまとめた。

 

「それじゃあ皆、私はまだ仕事が残っているからこれで失礼するわ。無駄に広い家だから私室以外は勝手に見回ってもいいからね」

 

「分かりました」

 

「お忙しいのに、お時間を頂きありがとうございます」

 

「私は明日に早朝でイラを発つわ。実習の成功を応援しているよ」

 

そしてソアラさんはディアドラ家を出て行った。恐らく会長室でまた仕事に追われるのだろう。同じ経験があるので同情する。

 

「さて、私達は学院祭の喫茶店の最終的な詰めをしておきましょう」

 

「そうだね、ちょっと詰めきれない部分があるし」

 

「俺も手伝おうか?」

 

「そうね……レンヤは後で意見を聞かせてもらうわ」

 

「レン君にはやっぱりお菓子の意見が聞きたしね」

 

「分かった、なら後で行く」

 

「頑張ってね、皆」

 

「手が借りたいなら遠慮なく言ってよ」

 

レポートを書き終えてから自由行動となり、俺はまたデバイスの……レゾナンスアークのモードの調整をしていた。

 

「う〜ん、リミットブレイクモードは機動と防御主体にして……攻撃は物理と魔力の刃でどうにかするとしても……」

 

頭を悩ませながら、基盤を作っていく。ふと顔を上げると、2階のテラスにアリサが入って行くのが見えた。

 

「アリサ?」

 

もう終わったのかと思ったら、まだなのはとアリシアが意見を出し合っていた。どうやら息抜きのようだ。ちょうどこっちもひと段落ついたのでテラスに向かった。

 

「ふう……」

 

「ーーアリサ」

 

「あ、レンヤ。そっちはもういいの?」

 

「企画だけだからな。まだ基盤が固まっていない状態だ」

 

「そう……」

 

アリサは柵に手を置き、窓の外に見える夜景を眺めた。

 

「この夜景……案外、地上本部といい勝負しているんじゃないか?」

 

「いえ、車の騒音がない分こっちがいいわ」

 

「確かに……」

 

しばらく静寂が続いた。それからアリサがこっちを向いた。

 

「ずいぶんと……歩いてきたわね」

 

「……ああ、そうだな。遠くまで来た」

 

少し理解するのに時間がかかったが……恐らくアリサの言っていることは初めて会った時から今までの道のりのことだろう。

 

「後悔は……してないんだよな?」

 

「当たり前じゃない。当然の事を聞かないで」

 

「はは、そうだな、ごめん」

 

「ふふ、いいわよ。むしろここに連れて来て貰って感謝しているくらいだわ」

 

幻想的な空を見上げ、楽しそうに笑う。

 

「普通に暮らしていたら絶対に巡り合わなかったと思うわ。だから……ある意、あの時私達を攫ってくれて感謝したいくらい」

 

「いくらなんでも不謹慎だぞ」

 

「そうね……でも、手を伸ばして掴んでよかった。辛いことや大変なこともあったけど……」

 

右手を両手で掴まれ、胸の前まで引っ張られる。

 

「ありがとうレンヤ、ここまで手を繋いでくれて」

 

とても可愛らしい笑顔で感謝の言葉を言った。

 

「あ、ああ、むしろお礼を言うのは俺の方だ。ついて来てくれて」

 

「ふふ、ええ……!」

 

アリサが片手を離し、そのまま握手する形になった。

 

「いつも通り、私達のできる範囲で頑張りましょう」

 

「あ、気づいていた?」

 

「当然、何年一緒にいると思っているの」

 

俺はイラで起こっている件をどうにかしたいと考え、明日にでも調査しようと思っていた。

 

「私だけじゃない。なのはも、アリシアも、ツァリも、シェルティスも同じだと考えだと思うわ」

 

「……そうだな。ごめんな、また先走って」

 

「まったくよ」

 

「それじゃあ明日、依頼を受け取ったら皆で話し合おう」

 

「ええ、わかったわ」

 

手を離し、アリサは扉の前に行く。

 

「なのはの所に行くわ。これ以上放っておくとアリシアが知恵熱を出しかねないし」

 

「はは、そうだな。俺もデバイスの調整を済ませておくとするか」

 

アリサは笑顔で頷くと、テラスを後にした。

 

扉が閉まると、また窓の外の夜景を眺めた。正確には街の郊外にそびえているシメオン霊山を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

キルマリアさんの朝食を食べた後、ディアドラ本社前にいた。

 

「ふわあああ〜……」

 

「眠い……」

 

なのはが大きな欠伸をし、アリシアも眠そうに目をこする。

 

「空気が澄んでいて気持ちいいね。山間部にあるから空気も美味しいし」

 

「ベルカと似たような感じかな?都心部では味わえないから結構新鮮」

 

「うーーんっ……!よく地上本部で寝泊まりして、早朝の屋上の空気を吸っていたもんだなぁ……」

 

「そうね、4人で徹夜した後に吸った空気と似ているわね」

 

「あ、あはは……大変だね……」

 

「ま、それは置いといて。僕達で動くとなるとして……昨日のソアラさんの情報が一番有力だね」

 

「うん、その情報を元に私達でできる所まで行こうよ」

 

全員が顔を見合わせて、頷き。アリシアが空間ディスプレイを開く。

 

「第一に限らず、ソアラさんの管轄以外の製作所の取締役は結構好き勝手しているみたいだけど。前任は、各部門を競争させて全体の利益を上げるためにあえて放置してきたようだね。結果がこれだけど……」

 

「放置主義も大概にして欲しいかな……」

 

空間ディスプレイに映されたのは、ディスプレイグループの構成図だ。

 

第一製作所が鉄鋼、大型機械全般の航空派。

 

第ニ製作所が鎮圧用の兵器開発などの地上派。

 

第三製作所が走行車、飛行船などの中立派。

 

第四製作所がデバイス、通信技術などの会長直轄。

 

「勿論、こんな風に単純に分かれていないけど。それでも、各部門を統括する取締役達の立ち位置は明確だね」

 

「見るからに第一と第二が対立していそうだよ……」

 

「そうだとしても、俺達の特別実習は変わらない」

 

「私達でこの状況を少しでも打開できるように頑張ろう!」

 

「ええ!」

 

「おお〜っ!」

 

俺達はイラでの2日目の実習を開始した。依頼を片付けつつ、第一製作所や他の部門の情報を集めた。

 

そして今は、首都方面に続く街道に出現した異界の中にいた。

 

「やっ!」

 

「せいっ!」

 

地下洞窟を模した異界の最奥で、ダンゴムシのようなエルダーグリード……ダンガンチュウにアリサとシェルティスの魔力弾が当たり、壁にぶつけた。

 

「ふう、硬いわね」

 

「丸まって威力が分散されるから、大してダメージが与えられない」

 

「あ、皆見て!」

 

なのはがダンガンチュウを指差すと、勢いよく回転して突撃してきた。それを余裕を持って避けると……

 

「え……」

 

「ちょっ……!」

 

ダンガンチュウは地面を削りながら方向転換して、再度突撃してきた。

 

『レンヤ!』

 

「了解っ!」

 

ウルレガリアの花びら……端子がダンガンチュウを取り囲み。そのまま突撃するダンガンチュウの進行方向に斜め上に傾いたシールドを張り、ダンガンチュウはシールドを登り、空中に飛んだ。

 

「狙いを定めて……」

 

《エネルギーニードル》

 

アリシアの背後にいくつもの魔法陣が展開され、そこから細長いビームを放つ。その時、ダンガンチュウの目が青く光り始め……アリシアのビームを当たる直前に曲げた。外されたビームはさらに曲がるとダンガンチュウに向かうがまた曲げられ、数秒したら消えてしまった。

 

「な、なんで……?」

 

『アリシア、あの魔法は自動で磁場を形成してそこにいる敵を追尾するんだよね?』

 

「う、うん」

 

『今、あのグリードから強力な磁場が形成されている。おそらくあのグリード自身が強力な磁石なんだ』

 

「なるほど、それで磁場で追尾するアリシアの魔法が曲がったわけね」

 

『ただ……問題があるとすればーー』

 

ツァリが言いかけた時、ダンガンチュウが浮かびながら回転を始め、こっちに向かって引っ張られるように突撃してきた。

 

『僕らのデバイスに誘導されて追ってくるんだ』

 

「追尾はお互い様ですか!」

 

シェルティスが結晶を飛ばすも回転と勢いは止まらない。

 

「なら……!」

 

『モーメントステップ』

 

迫るダンガンチュウに突っ込み、一瞬の踏み込みの後……ダンガンチュウの背後に刀を振り抜きながら立つが……いい結果は得られなかった。

 

「くっ……当たる瞬間、刀が反発して大してダメージはない」

 

「それなら!」

 

なのはがバリアを張り、ダンガンチュウの突撃を受け止め……

 

「行っけええぇっ!」

 

《バリアバースト》

 

バリアの表面を集束して爆発させ、ダンガンチュウを吹き飛ばした。

 

「アリサちゃん!」

 

「ええ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

ガシャンッ!

 

「伸びろおおぉ!」

 

フレイムアイズを上段に構え、紅い魔力刃が天井ギリギリまで伸びる。

 

「ボルケーノ……インパクト!」

 

巨大な剣はダンガンチュウに振り下ろされ、斬撃の線上から炎が噴き上がった。炎が治ると、ダンガンチュウが叫びを上げながら消えていった。

 

そして、白い光りを放ちながら異界が集束して行き。元の街道から逸れた広場に戻ってきた。

 

「ふう……」

 

「お疲れ様、アリサ」

 

「上手くいってよかったよ」

 

賞賛し合う中、アリシアが辺りを見回す。

 

「……やっぱり。ここに飛空艇が着陸していたみたいだね」

 

「え、そうなんだ?」

 

「確かに、不自然な凹みがあるわね。ちょうど聖王家の専用飛空艇のサイズだわ」

 

「アリサちゃん、よく解るね……」

 

「何度か乗ったことがあるからな。さて、報告しに行こうか」

 

「そうだね、早く戻ろう」

 

来た道を引き返し、イラに到着した。このまま依頼者に報告しに行こうとした時……

 

ウウウゥゥーー!

 

唐突にサイレンが鳴り響いて来た。

 

「え……⁉︎」

 

「こ、この音は⁉︎」

 

周りを確認すると、建物の1つが火事になっていた。

 

「火事⁉︎」

 

「あそこはディアドラの工場のはずよ」

 

「なんでいきなり……」

 

「とにかくいってみよう!」

 

すぐさま工場前に向かうと、工員達が次々と避難していた。

 

「ゲホゲホ……し、死ぬかと思った……」

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「一体何が起きているんですか?」

 

「わ、分からん。いきなり工場にグリードが現れて……」

 

「グ、グリード……⁉︎」

 

「こんな場所で⁉︎」

 

「とにかく避難をーー」

 

ドカアアアアンッ!

 

工場内に爆発が起き、上の階にあった窓ガラスが割れて破片が飛び散る。

 

「うわああっ!」

 

「くっ、ガスタンクに引火でもしたのかも……⁉︎」

 

「まずいね……」

 

「ま、まだ中に仲間がっ⁉︎」

 

工員が工場を見上げながら叫ぶ。

 

「まだ逃げ遅れた人が⁉︎」

 

「ああ、まだ奥に……」

 

「地上部隊や航空部隊はまだ来ないのかっ⁉︎」

 

「そういえば、サイレンもいつの間にか止まっているけど……」

 

「さっきの爆発で壊れたのかもね」

 

「……こうなったら、俺達で突入しよう」

 

その提案に、なのは達は驚く。

 

「それって……!」

 

「今動けるのは俺達だけだ。グリードもいるとなると地上も航空も待っていられない」

 

「そうね、行きましょう」

 

「ま、待ってくれ!せめて地上警備隊を待ってからでも……」

 

「今は一刻も争います」

 

「あなた達はこの場の人達の避難誘導をお願いします!」

 

「くっ、それもあるが……」

 

「こうなったら頼む!仲間を助けてくれ!」

 

「はい、任せてください」

 

「レルム魔導学院VII組……これより、工場に突入する!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリアジャケットを纏い、突入し。逃げ遅れた人がいる奥に向かうと……

 

「! いた……!」

 

「でも、あれって……」

 

奥に逃げ遅れた人もいたが、一緒に千手のような銅像のグリードがいた。

 

「化け物め……!」

 

「応援はまだ来ないのか⁉︎」

 

「く、くそっ……!」

 

ゆっくりとグリードが近寄って行き。工員達は足をすくめる。

 

「ーー待て!」

 

レンヤが大声を出すと、グリードはこちらを向いた。

 

「あ、あんた達は……!」

 

「ここは僕達に任せてください!」

 

「あなた達は避難を!」

 

「わ、わかった!」

 

警備員が工員達と戦闘に巻き込まれない距離に避難するのを確認し、グリードと向き合う。

 

「とは言ったけど……」

 

「やっぱり教団のグリードみたいだね。地上本部に出て来た種類よりも厄介そうだね」

 

「千とはいかないとはいえ、あの二本の三叉の矛が面倒だね」

 

「撹乱しつつ、一気に畳み掛けるぞ!」

 

「ええ……!」

 

グリード……ゴウセンジュは手を合わせ、背にある手で二本の矛を交差させて振り抜いた。

 

「ぐう、なんて重い一撃……!」

 

レンヤが振り抜き前に交差する槍を刀で止めるが、予想以上に重い一撃に冷や汗を流す。

 

「レン君!」

 

《ロッドモード》

 

「イリス!」

 

結晶(クォーツ)を生成します》

 

左右からなのはとシェルティスが飛び出し、同時に攻撃を仕掛けるが、両方の攻撃を6本の手で受け止められる。

 

そして残った腕で3人を殴り飛ばした。

 

「ぐうっ……」

 

「うっ……!」

 

「レンヤ!」

 

《ミラーデバイス、セットオン》

 

庇うようにアリシアが前に出て、ゴウセンジュの周囲に幾つものミラーデバイスを浮かせる。

 

「行くよ!」

 

《パーティクルレイ》

 

2丁拳銃の銃口から小さい魔力ビームを連続して放ち、ビームはミラーデバイスに反射しながらゴウセンジュを全方向から狙った。鬱陶しいのかゴウセンジュはミラーデバイスに狙いを付け、矛を振り上げる。

 

「させないよ!」

 

ツァリの花びらがミラーデバイスを逸らして矛を躱し。さらにゴウセンジュの周りを花びらで埋め尽くしミラーデバイスを隠した。

 

それでもゴウセンジュはがむしゃらに矛と腕を振るう。レンヤ達はそれを避けつつ、全員でバインドを掛け動きを封じる。

 

「今だよ!」

 

「試作段階の装備だけど……ド派手に行かせてもらうわ!」

 

《リボルバービット》

 

背後に1門の非固定型の赤いリボルバー式の砲台が出現した。アリサは腰のマガジンを上に放るとマガジンが消えて6発のカートリッジがばら撒かれ、そのままリボルバーに装填される。

 

「砲撃、用意!」

 

アリサの合図で回転式のマガジンが勢いよく回転を始め、マガジンが赤熱の炎を放つ。

 

撃て(ファイア)!」

 

砲台から赤い砲撃が放たれた。ゴウセンジュは全ての腕で防ぐが、砲撃に耐えられず腕が砕かれる。その隙にレンヤがゴウセンジュの背後に接近する。

 

地疾(ちばしり)!」

 

抜刀と同時に地面すれすれで振り抜き、ゴウセンジュの足を斬り膝をつかせる。

 

「剣晶五十四・双連輝衝!」

 

斬撃を2つ、縦に放ち。上半身に直撃し倒れる。

 

「よし……!」

 

《クリスタルケージ》

 

ゴウセンジュが正三角錐に囲まれ、なのははレイジングハートをバスターモードに変えて構える。

 

「ディバイン……バスター!」

 

正面の面を消し、そこにディバインバスターを撃ち込んだ。衝撃は正三角錐の中に閉じ込められるが、数秒でヒビが入り始め、砲撃が止むと同時に砕けた。

 

そして、ゴウセンジュは光を出しながら消えていった。

 

「はあっ、はあっ……」

 

「倒せたか……」

 

「や、やったの……」

 

「砲身が全然冷めないわ。まだまだ改良が必要ね」

 

息を整えつつ、武器をしまう。

 

「す、すげえ……」

 

「あんなデカブツを倒しちまうなんて……」

 

「そうか、その制服……あの魔導学院の……」

 

警備員と工員達が関心しながら、納得する。

 

「どうやら無事みたいね」

 

「ふう、やっと終わったよ」

 

「さすがにもうダメと思ったよ」

 

「ーー全員、無事ですか!」

 

そこに、数人の隊員を連れたイシュタルが救助のために現れた。

 

「イシュタル一尉……!」

 

「地上警備隊か……」

 

「……誰も大事内容だね。後は私達が対処するから建物の外に避難して」

 

突然の言い分に、レンヤ達は驚愕する。

 

「え……⁉︎」

 

「どういう事ですか?」

 

「ここは軍事機密に属する軍需工場。たとえ君達でも今は学生、関係者以外の立ち入りは本来、許可できない」

 

「それは……」

 

「納得出来ないけど……」

 

「仕方ないね」

 

「……イシュタルさん、後はお願いします」

 

「ふふ、任せておいて」

 

今は猫を被っているが、どこか任せても安心できるような雰囲気だ。

 

「各員、彼らを外まで案内してね。要救助者共々、丁重に送って」

 

「「「イエス、マム!」」」

 

こうして、地上警備隊によって軍需工場はあっという間に制圧された。グリードの駆逐や鎮火活動も迅速に進められ、事件は収束されていった。

 

「……とりあえずは一件落着みたいだな」

 

「残された人達も無事に保護できたって。ああ見えても、やっぱりさすがだよね」

 

「いつも良ければいいんだけど……真面目で面倒くさがりが変なバランスをとっているから……」

 

「……とにかく、これでよしとしましょう。でも……これはテロリストの仕業なのかしら」

 

「可能性はあるね」

 

「だけど……本人がここにいないのが不自然なんだよねぇ」

 

「確かに……目的がわからないな」

 

「ーーそれに関しては調査中だよ」

 

後ろから飄々とした声が聞こえてくると、イシュタルが近寄って来た。

 

「イシュタル一尉……」

 

「その、お疲れ様です!」

 

「君達もね。おかげて、最低限の被害に抑えられたよ」

 

「大したことはしてないです……」

 

「残された人も、無事でよかったわ」

 

「ええ……そうね。あくまで結果論だけど」

 

柔らかそうな雰囲気から一転して、真面目な感じに変わった。

 

「え……」

 

「確かに君達ならグリードを倒せるけど……私達の到着を待たないで突入したのはいただけない。機密の問題もあるし、二次被害の可能性も理解しているはず」

 

「それは……」

 

正論を言われ、アリサは言い返せなかった。

 

「……………………」

 

「それは、そうですけど……」

 

「確かに、無計画過ぎたと思うよ。それでも……」

 

「シェルティス、状況に対して輪郭を見極め適切に対処する……そう教えたはずだ」

 

猫被りが少し解け、鋭い眼光が体を貫く。

 

「それでも……危険から目を逸らすことは出来ません」

 

「………………」

 

レンヤの脳裏に運命に翻弄されながらも自分の意思で異形の左手を振るう女性が浮かぶ。

 

「そこに“力”ある以上、どう付き合う必要がある。そうじゃないですか?」

 

「あ……」

 

「レンヤ……」

 

「…………………」

 

レンヤの言葉に、イシュタルは少し驚いた顔をする。そして雰囲気をまた柔らかくした。

 

「ふふ、仕方ないね」

 

「え……」

 

「結果的に被害も大きくなかったし、今回は大目に見てあげる。ただし、今後はもう少し気を付けるように」

 

「……はい……!」

 

「ありがとうございます、イシュタルさん」

 

「そういえば、あのグリードは一体どこから?テロリストもゲートもいませんでしたけど……」

 

「そういえば……」

 

「うん、私達も気になって調べたけど……どうやら、いくつかのコンテナに収納されて搬入されたみたい……3ヶ月以上前に」

 

「3ヶ月前……?」

 

「……俺達がベルカに行った6月末くらいだな」

 

「そしてD∵G教団がミッドチルダで名乗りあげる1か月前でもある。正直、私達でもチェックし損ねたくらい」

 

「そんな以前からこの事件を計画していたのか……」

 

「予想以上に頭が切れる相手みたいだね」

 

「テロリストのリーダー格……ペルソナと呼ばれる男性。おそらく、彼だろうね」

 

「ペルソナ……!」

 

「それって……」

 

「あなた達がクラナガンで会った男ね」

 

「ああ……」

 

「確かに、そんな印象もあったかな……?」

 

「た、確かに指揮をしていたけど……どこかおかしい気がするんだ」

 

ツァリが手を顎にあて、考え込んだ。

 

「それは俺も思った。リーダーとして引っ張っているんじゃなくて、決定権があるだけ……対等な関係と言う感じだった」

 

「うん、そんな感じ」

 

「そう……まあ、それでも侮れない組織。そて、ここは私達に任せて。皆は実習の続きをーー」

 

そこで言葉を切り、唐突に考え込み、何か気付いたように顔をしかめる。

 

「……イシュタルさん?」

 

「ッ……!そうだ、なんでまだ航空隊は動いてないんだ……!」

 

「すでにあちらにも通達したはず………しまった、航空隊の方を……!」

 

「まさか、陽動⁉︎」

 

「ーーイシュタル一尉!」

 

そこに、やって来た陸上隊の隊員が慌てて報告する。

 

「シメオン霊山で動きが!」

 

「どうやら、テロリストが強襲した模様!」

 

「まさか……!」

 

「はめられたっ!」

 

「ーー総員撤収、霊山に向かう!」

 

猫被りを辞めたイシュタルがすぐさま指示を出し、隊員を引き連れ霊山の方角に向かって行った。

 

「い、一体何が起きているの……?」

 

「でも、なんで霊山を……?」

 

「わからない……けど」

 

「あそこには瘴気が晴れたから、調査員が複数いる……!」

 

「行こう、自体を見極めないと!」

 

「ああ……急いで追いかけよう!」

 

レンヤ達はシメオン霊山の様子を確かめる為、山道を駆け抜け、急いで霊山に向かった。

 

「これは……」

 

霊山に到着すると……おそらく調査員の物であろう車が炎上しているのが目についた。

 

「……荒らされているね」

 

「消化活動はされているから大丈夫だと思いけど……」

 

「それで、イレイザーズは軍需工場じゃなくてここに来ているわけか」

 

「見て、入り口の方……!」

 

霊山の入り口を見てみると、イレイザーズとイシュタル率いる地上部隊がお互いに向かい合っていた。

 

「あれは……イレイザーズと地上部隊じゃないかな?」

 

「あんな場所で何を……?入り口も完全に封鎖しているし」

 

「……とにかく、近くに行ってみよう」

 

両者に気付かれない場所まで近寄る。

 

「ーーテロリストは霊山を完全に占拠した!調査員達を人質に取られた以上、手出しは出来ない!」

 

イレイザーズの分隊隊長がそう言い、霊山の入り口を封鎖していた。それに対し、イシュタルは首を横に振るう。

 

「だからといって、交渉もせずに様子を見るつもりか⁉︎奴らの目的を持って行動している……時間を稼がせてはいけない!」

 

お互いに言い分を認めずに言い争っていた。

 

「激しく言い争っているね……」

 

「……どうやら霊山はテロリスト完全に占拠されたようだな」

 

「そして、先に駆けつけたイレイザーズが霊山を封鎖している……状況としてはそんな感じね」

 

「ど、どうしてそんなことを……」

 

「あからさまに怪しいよ」

 

「うん、イレイザーズの準備も整いすぎているね……ぶっちゃけなくてもグルだね」

 

「ああ……まるで、予期してたかのような感じだ」

 

「それに被害も見た目以上に小さい……十分にあり得るわね」

 

「……だとしたら、イレイザーズがここを封鎖したのは別の理由があるのかな……?」

 

別の可能性を模索すると、アリサが何かに気付いた。

 

「……もしかしたら、ディアドラの第一製作所が関係しているのかもしれないわ」

 

「それって、第一製作所って航空派に属している……」

 

「そういえば、霊山の調査員の出は……確か第二製作所から……」

 

「てことは、第ニに発見されたくない何かを揉み消す為にテロリストと結託して封鎖しているの……⁉︎」

 

「そう考えれば辻褄は合う……でも、それが何なのかはわからない。だがどちらにせよ、調査員が危険に晒される可能性は高い。放ってはおけない」

 

「……一旦、街に引き返しましょう。これからのことを考える必要があるわ」

 

「そうだね……」

 

「心配だけど……今出来ることはない、よね。」

 

その提案に乗り、レンヤ達はイラに引き返した。

 

 



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91話

 

 

シメオン霊山から戻って来た、俺達は広場の一角にいた。

 

「とにかく、何が起きているのか状況を見極める必要があるな」

 

「テロリストとイレイザーズが完全に通じているとしたら……ディアドラ第一製作所が隠蔽している“何か”の証拠隠滅を図っているのが狙いなんだろう……」

 

「でも、そんな事のためにこんな大掛かりな事をするのかな?それともあの霊山に何かあるのかな?」

 

「私も詳しくは知らないけど、山頂に何かしらの霊がいるに違いないと思う」

 

「もしかしたらそれが狙いで、第一製作所の方はフェイクなのかもしれないね」

 

「テロリストの目的がはっきりしないわね……」

 

情報をまとめても、求める情報は得られず。頭を悩ませていた時……

 

「ーー少しばかり到着が遅れましたか」

 

凛とした声が聞こえて来た。そこにはクー先輩とエテルナ先輩、グロリア先輩がいた。

 

「エテルナさん……⁉︎」

 

「グロリア先輩も……」

 

「クーさんいる」

 

「よお、元気してるか?」

 

「どうしてここに?」

 

クー先輩をスルーしつつ、エテルナ先輩からここに来た理由を聞く。

 

「私達は別の案件でイラに来ているのです」

 

「あ、もしかして前にすずか言っていた“気がかり”ですか?」

 

「そう言う事だよ。事件が起きたのは驚いたけど」

 

「会長とは一緒ではないのですか?」

 

「ええ、代わりに各方面の情報収集に当たってくれています。何かあったらすぐに連絡がきます」

 

「えっと、話が見えないんですが……」

 

「あ!そうだ、確か霊山の管理はレグナムが……!」

 

「そう言う事です。どうやらお互いに情報交換をした方が良さそうですね」

 

「いったん場所を変えようか」

 

グロリア先輩に案内で、下層にあるレストランに向かった。

 

「じ、実験ですって⁉︎」

 

エテルナ先輩の説明を聞いて、アリサが驚きで声を上げた。

 

「ええ、どうやら霊山で何やら不気味な実験を我がレグナム家に隠れて行っていたそうなのです」

 

「あの霊山は数年前から調査されているのだけど。調査記録を見る限り不明な点がいくつか見つかっているんだ」

 

「………………」

 

「調査の名目に実験か……」

 

「元々人気の少ない場所だし、気付かれにくいかも……」

 

「その辺りは全部フィアットが調べたんだぜ。ディアドラと管理局、エルの家に提出された資料を集めてな」

 

「その苦労の甲斐あって突き止められたんだ」

 

「凄いな……あの人は」

 

知ってはいたが、改めてフィアット会長の能力に驚かされる。

 

「それで、一体いつからその実験が行われたのですか?それに、その実験の内容は?」

 

「内容の方はまだ何も……期間は憶測だけど、調査が開始されて間も無くだと思う」

 

「そ、そんな早くから⁉︎」

 

「なんで今まで気付かれづに……⁉︎」

 

「家の文献によれば、あそこには遺跡があるそうなのです。おそらくそこで身を隠していたのでしょう」

 

「そうなると真っ先に調査員全員が疑われるんだが……どうやら調査に便乗していたようでな。アシガ付かねえんだ」

 

「ーー実験や遺跡などはともかく。それが事実だとして、先輩方はこの事態にどう動くつもりですか?」

 

「決まっています。代々霊山の番を任された我がレグナム……無関係な調査員の方々も巻き込まれている、これ以上神聖な地を土足で野放しにはいきません」

 

エテルナ先輩は立ち上がり、自分の意志を見せる。

 

「ルナ……」

 

「行くのか?」

 

「フフ、両者共に私ごときの言葉で動きほど純情ではないでしょう……ですから、己が手で災厄を祓うのみ。霊山には何度も足を運んでいます、侵入経路さえ見つかればテロリストも何とか出来るでしょう」

 

「はあ……やっぱりそうなるか」

 

「くく……真面目の割にやる事が大胆だよな、お前は」

 

エテルナ先輩は自分の手でこの事態を収拾する気だ。俺達は顔を見合わせて、頷く。

 

「ーーだったら、俺達も協力します」

 

「突発的な事態に対してどう主体的に振る舞えるか……これも特別実習の活動の一環でしょう」

 

「さすがに放ってはおけません!」

 

「同感、それに武力行使の方が分かりやすくて楽だし」

 

「管理局も関わっている以上、私も放ってはおけない。止めてもついて行くわよ」

 

「私も全力全開で頑張ります!」

 

エテルナ先輩は少し驚くと、くすりと笑う。

 

「ありがとうございます。実は少し期待していました。協力してくれますと助かります」

 

「やれやれ、しゃあねぇか」

 

「となると、航空派の裏をかいて霊山内に侵入する必要があるね。ルナなら、航空武装隊の責任者と話をするくらいならここは出来そうだけど」

 

「その隙に私達が霊山に忍び込むとか?」

 

「うーん、さすがにちょっと難しい気がするけど……」

 

「侵入経路は私達に任せてください。何とか見つけ出してみせます」

 

「わかりました、そちらはよろしくお願いします。私は第一製作所と航空隊に改めて探ろうと思います。グロリアさんはフィアと連絡して政府の動きを探ってください」

 

「了解……それと使えそうな機器とかも調達しておくよ」

 

「俺はエルについて行くぜ、おめえ一人だと心許ねぇからな」

 

「余計なお世話です……けど、ありがとう」

 

初めてエテルナ先輩の敬語以外の口調を聞いた。クー先輩はエテルナ先輩にとって気楽に……心を許せるような存在なのだろう。こうして、俺達VII組A班はエテルナ先輩達と共同戦線を張ることとなり……霊山侵入の手がかりを探し始めた。

 

先にエテルナ先輩達が行動を開始した。それを見送った後、俺達も動き始めた。

 

「俺達も行こう。ああ言っておきながら、手がかりはあるのか?」

 

「エテルナさんも言っていたでしょう、霊山には遺跡もあるって。昔、ベルカの文献でシメオン霊山の事が書かれた記述があったのよ」

 

「私も見た事があるよ。霊山の周辺、もしくはこの街から地下に繋がっている脱出用の通路がある見たい」

 

「ならイラに詳しい人……ソアラさんなら何かに知っているかも」

 

「よし、ディアドラグループ本社ビルに向かおう」

 

「ふう、何で行く先々こう大変なんだ……」

 

「あはは……毎回こんな感じだよね」

 

すぐに本社ビルに向かい、受付にソアラさんがいるか確認した。

 

「あ……皆さん、よかった、ご無事でしたか。市外にも出られると聞いたので心配していたのですが」

 

「霊山の件ね。その事でソアラさんと話をしたいの……戻って来ているかしら?」

 

「ソアラ会長ですか?ええ、つい先ほど……お取次ぎしましょうか?」

 

「お願いするわ」

 

こういう時アリサは頼りになる。受付は備え付けの電話でソアラさんと連絡を取った。

 

「……はい……ええ……VII組の皆さんが……はい、承知しました」

 

ピ………

 

「大丈夫だそうです。あまり時間は取れないそうですが……」

 

「ありがとう。時間はとらせないわ」

 

「それじゃあ23階の会長室に行こう」

 

「何となくキルマリアさんが出迎えて来そうな気が……」

 

「ありえそう」

 

エレベーターに乗り込み、23階に到着すると……

 

「お待ちしていました」

 

キルマリアさんが待ち構えていた。

 

「やっぱり……」

 

「お約束だね」

 

「まあいいわ、案内してくれる?」

 

「はい、でわこちらへ」

 

昨日と同じように案内され、キルマリアさんは会長室のドアをノックした。

 

コンコンコン

 

『通して』

 

「はい」

 

「失礼します」

 

「ごめんなさい。こんな事に巻き込んじゃって、今日の夕食は一緒に出来なそうだわ」

 

「いえ……当然でしょう」

 

「あれだけの出来事が起こっている最中ですから」

 

「どうにかしようにも、手の打ち用がないのが現状で……とても歯痒い状況ね。グループが航空隊に抗議しているのだけど……そう簡単には行かないのよ」

 

「それはどうして……?」

 

「管理局と同じだ。ディアドラは巨大すぎて動けないんだ、動かせば都市規模で影響が出る……管理局より厄介な事態になるんだ」

 

「確かに、その影響は管理局より凄まじくなりそう……」

 

「あなた達がここに来た理由はわかっている……けど、やめなさい。今のあなた達では対処出来ないわ」

 

「それは……」

 

今の、つまり学生の俺達では色々と触りがあるためだ。いかに実力があろうとも、先の事を考えたら足が止まってしまう。

 

「判っているならいいわ。依頼を追加するから今日はそれをこなして。そして、こんな状況でもあるし、明日の朝にはイラを発ちなさい。私が許可します」

 

ソアラさんが初めて命令口調で言って来た。それだけ切羽詰まっているのだろう、しばらく無言が続く。

 

「………………」

 

「ーーそれは出来ません」

 

沈黙を破ったのはアリサの一声だった。

 

「確かに身のあり方で人の行動は抑制されます。でも、だからといって事実から目を背けることは絶対に出来ません。だから変える、この手で!」

 

「…………ふふふ……あっははははは!」

 

ソアラさんは驚いた顔をすると、口に手を当て笑い出した。

 

「いやー、予想通りもいいとこだね。キルマリア、例の物を」

 

「はい……アリサさん、こちらを」

 

目尻の涙を拭うソアラさんは、キルマリアさんに指示を出してアリサに鍵を渡した。

 

「これは……何かの鍵……?」

 

「それは太古に作られた霊山に通じている通路を開くためのものよ」

 

「あ……」

 

「やっぱり、あったのですね」

 

「私の祖先がイラを開拓している時に発見された物よ。掟として世に出してはいけないから調査隊にも黙っていたの。都市上層にある聖王教会系列の教会にある祭壇裏に鍵穴があるはずよ」

 

「そんな大切な事を……いいのですか?」

 

「いいよいいよ。すでに遺跡の事がテロリストにバレているし」

 

「でも、そこを通れば……」

 

「イレイザーズの封鎖を超えて霊山内に侵入できる……!」

 

「ーー感謝するわ。私の言葉を信用してくれて」

 

「失礼します、ソアラさん。必ず無事に戻って来ます」

 

「どうか安心してください!」

 

全員で一礼して、会長室を後にした。

 

「ふふ、役者が揃ったってところね。さて、あなたにお願いしたい事があるのだけど」

 

「何なりと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達はエテルナ先輩達と連絡を取り……都市上層にある教会前に集まった。司祭に断りを入れて、教会奥にある祭壇の裏にあった鍵穴に鍵を差し込み回すと……祭壇前の階段が凹み、地下に繋がる入り口が現れた。司祭に誰も通さないように頼み、エテルナ先輩達と一緒に入り、階段を降りていった。しばらく降りると一直線に通路が奥に伸びている場所に出た。

 

「まさかイラ市から霊山まで直通できる連絡道があったとは。さすがに驚きました」

 

「それにしても何で秘匿していたんだろうね」

 

「ただバレたくなかったのか、それとも見せてはいけないものがあったのか……真意は進めばわかるさ」

 

「ただ、その前に……」

 

グロリア先輩はアンテナがついた機械を置き、ノートパソコンを開くと打ち込み始めた。

 

「これで……よし」

 

すると機械が作動し始めた。

 

「これは……」

 

「魔力波アンテナだね」

 

「工科大学で研究中のものを何とか借りてきたんだ。指向性の魔力波を飛ばす事で通信範囲を広げるもので……霊山付近は通信環境がまだ整っていないから、これで通信機能が霊山でも使えるようになる」

 

「これでリアルタイムで情報をえられるようになったってわけだ」

 

「僕はここで司令・中継役として様々な情報を送らせてもらうよ……危険な状況になったら撤退も指示するから従うように」

 

「……了解しました」

 

「でも、バックアップは助かります」

 

「ま、コイツに任せておけば背後は問題ねぇだろ」

 

「よし、そろそろ行きましょう……VII組の皆さん、改めて宜しくお願い致します。これでも魔導学院の生徒、足は引っ張りません」

 

「おうよ、いい加減先輩らしいとこ見せねぇとな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ルナ先輩とクー先輩が入れば、とても心強いです!」

 

「すずかから聞いていた実力、見せてもらいます」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い。俺達は霊山に向かうため、通路を走り出した。

 

「どうやらここは基本、一本道のようですね」

 

「迷う心配はねぇ、一気突っ切るとするか!」

 

それからしばらく長い通路を走り続け……終点に到着すると地上に上がるための梯子が見えてた。

 

「着きましたね」

 

「どうやらここが脱出道の終点みたいだね」

 

「ああ、相当走ったし、方角も間違っていなさそうだ」

 

「それじゃ、この上が……」

 

「テロリストが占拠している霊山ってわけだね」

 

「それじゃあ、すぐに登ろう」

 

なのはがさっそく梯子に手をかけると……俺はその手を上からその手を抑えた。

 

「え⁉︎レ、レレ、レン君……⁉︎」

 

瞬時に顔を真っ赤にしたなのはの梯子から離した。

 

「梯子や階段を上る時だけは絶対レディー・ファーストの例外……って前にティーダさんが言ってたからな。俺から先に行かせてもらうぞ」

 

「……チッ……」

 

何故そうするのか未だによくわからないが……クー先輩、何故舌打をするんですか?ともかく上に感じ気配が正しいとするなら、外に出る1人目は危険だ。

 

俺は梯子に足をかけ上を見上げる。そして全身に魔力を流して強化して……

 

「しっ……!」

 

手を使わず一気に梯子を駆け上った。そして天井に到達すると……

 

「せいっ!」

 

ドゴンッ‼︎

 

入り口の扉を蹴り破り、遺跡内に侵入した。扉は天井にぶつかり、その上逆さの状態で立ち、内部を確認すると……数体のグリードがいた。

 

「レストレーション02!」

 

《ハンドレットバスター》

 

両手に大型の片手銃を持ち、全方向にいるグリードに向かって魔力弾を連射した。魔力弾は寸分違わずグリードの急所を撃ち抜き、地に降り立てば辺りにグリードはいなかった。

 

「よし、上がっていいぞー!」

 

皆が上がって来るまで辺りを見回した。ほとんど壁の岩がむき出しだが、床だけが整備されており、脱出用なのがうかがえる。

 

「レン君、こういう事は先に言っておいてよ」

 

「済まん済まん、今度からは一言入れるよ」

 

「お願いね(でも……レン君が手を包んでくれた。えへへ///)」

 

どういう訳か、怒っている割には手を合わせて嬉しそうにしている。

 

「ほら、さっさと行くわよ」

 

「あ、ちょっ……!」

 

「レッツゴー!」

 

アリサに手を掴まれ、アリシアに背を押されて奥に歩かされる。

 

「あ! 待って〜!」

 

「ふふふ……」

 

「全く、緊張感がねぇな」

 

少し進み、隠し扉を見つけ。横にあったスイッチを押して壁が下に沈むと、見覚えのある場所に出た。

 

「ここは……どうやら昨日要石があった階だね」

 

「こんな所に繋がっていたのか……」

 

「ここを抜ければ、うまく封鎖された入り口の内側に出られるはずです。まずは状況を確認にしなくては」

 

「そうですね。さっそく行きましょう」

 

ピリリリ、ピリリリ!

 

いざ出発しようとした時、端末に通信が入ってきた。どうやらグロリア先輩のようだ。

 

「っと……こちらレンヤです」

 

『ああ、どうやら到着したみたいだね。通信状態も良好……これなら問題なく君達のサポートができそうだ』

 

「よろしくお願いします。そちらは何かありましたか?」

 

『さっき首都にいるフィアットから連絡が入ってきた。地上警備隊の部隊多くがイラとアーネンベルク方面に集結しているらしい』

 

「それは……」

 

『おそらく、この状況を打開するために何とか動いているんだろう。けど、どれだけ時間がかかるのか分からない……なるべく急いでくれ』

 

「……分かました」

 

ピッ……

 

「グロリア先輩は何て?」

 

「ああ……」

 

通信を切り、全員に地上警備隊の状況を説明した。

 

「アーネンベルク方面にも……!」

 

「くす、なかなかやるようですね」

 

「確かアーネンベルクにはB班が行っていたっけか……」

 

「あっちも混乱していそうだね」

 

「フェイトちゃん達だし……心配はないと思うけど……」

 

「とにかく、一刻の猶予もない……皆、気を引き締めて進もう!」

 

「了解……!」

 

迫り来るグリードを退けながら地上を目指した。どうやら地上本部と同じように同種のグリードが放たれたようだ。それから昨日通った道を通り、地上に出た。

 

「あ……」

 

「地上に出たようだね」

 

「人気がない……それに昨日と地形も変わっている」

 

「霊山にあった瓦礫や岩でバリケードを組んだようですね。おそらくテロリストの仕業でしょう」

 

「イレイザーズの奴らは内部には配備されてねえようだな」

 

「そっちは入り口の封鎖に集中しているみたいです。テロリスト達や人質の調査員達はどこに……?」

 

「ちょっと待って……」

 

アリシアが目を閉じて、何かを感じ始めた。

 

「! いた、頂上付近の人の気配がする!」

 

「それならあちらへ、頂上への道です」

 

「どうやらテロリストどももあの先にお待ちかねみてえだな」

 

「軍需工場みたいに、グリードが放たれてそうね」

 

「なんとか人質を助け出さないとね……!」

 

「ああ……さっそく進もう!」

 

山頂に向かって走り出した。シメオン霊山はそこまで大きくはないが、麓、1合目から9合目と山頂という構成をしている。2合目にさし掛かると突然目の前に2体の銅鐸型のグリード……シュウドータが現れ、立ちふさがる。

 

「大型のグリード……!」

 

「どうやらここを守っているみたい」

 

「ということは……」

 

「はっ、ぶっ倒して進むしかなさそうだな!」

 

「ええ……行きますよ、セイバータクト!」

 

エテルナ先輩デバイスを取り出し起動し、手に歴史を感じさせるレイピアを持つ。

 

「はあっ!」

 

《ミリオンスラスト》

 

1体のシュウドータに連続で魔力刃を纏った突きを入れた。だがもう1体が目を光らせ、視線をエテルナ先輩に向けていた。

 

「させるかよ!」

 

バアアンッ!

 

もう1体のシュウドータの顔面を撃ち抜いた。横を向くと、クー先輩の手には両手では持ちきれないほどの大砲を構えていた。

 

「クー!次です!」

 

「おうよ!」

 

連続の突きを止め、レイピアに魔力を込めて強烈な突きを繰り出しシュウドータを吹き飛ばし。飛ばした方向に大砲を向けて……

 

《リミットバースト》

 

「砲音轟かせろ、スチュート!」

 

砲口から燃え盛る火炎弾が発射され、シュウドータと周囲を吹き飛ばした。

 

「すごい……」

 

「何て息のあった戦い方……」

 

「ボーっとしてんじゃねぇぞ!」

 

「皆さんはもう1体を!」

 

「は、はいっ!」

 

気を取り直し、もう1体のシュウドータに向かって行く。

 

《ソニックソー》

 

「せいっ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

「業火一文字!」

 

《ミラースラッシュ》

 

「やあ!」

 

一気に畳み掛け、後方でなのは達がデバイスを構える。

 

《アクセルシューター》

 

「シュート!」

 

《目標を補足しました》

 

「結晶百七四・光臨翠瀑布(こうりんすいばくふ)!」

 

「花びらよ、切り刻め!」

 

遠距離からの攻撃が直撃し、シュウドータを倒した。もう1体の方を見ると、高速に回転しながら先輩達に突撃していた。

 

「クー、行きなさい!」

 

「おめえが命令すんな!」

 

《チャージブラスター》

 

文句を言いながらも砲口に魔力を溜め込み、巨大な魔力弾を撃った。シュウドータに直撃し、回転が止まった。

 

「止めです」

 

《シュトラグリッツェ》

 

シュウドータの前方に飛び上がり、突きで魔力弾を連続で放ち、最後に魔力刃で貫いた。シュウドータは消えていき、エテルナ先輩は静かににレイピアを収める。

 

「ふう……片付いたか」

 

「い、いきなり現れたから驚いたけど……」

 

「エテルナ先輩、さすがですね」

 

「へっ、全然鈍っていないどころかさらに磨きがかかってんじゃねえか」

 

「フフ、数日前にすずかさんと手合わせのおかげです」

 

「なるほど、納得です」

 

「とにかく、これで先に進めそうだね」

 

「グリードが守っていた場所……もしかして」

 

「ええ、確認してみましょう」

 

少し先に進むと、魔力フィールドで作られた檻に入っていた複数の調査員を発見した。

 

「あっ……君達は⁉︎」

 

「確か、昨日見かけた……」

 

「怪我はなさそうね」

 

「無事で良かった」

 

「あ、エテルナさん……⁉︎」

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

「すぐに檻を壊します、離れてください」

 

シェルティスが魔力フィールドの動力部に剣を突き立てると檻が消え、調査員達が出てきた。

 

「ふう……助かった」

 

「ありがとう、君達」

 

「爆弾やセンサーが付けられていなくてよかったよ」

 

「さすがに山中じゃ崩落の危険もあったんだろう」

 

「済みません、俺達が不甲斐ないばかりに……」

 

「あなた達の落ち度ではありません。むしろ事前に処理できなかった私の責任です」

 

「そ、そんなことないです!」

 

(あはは、随分慕われているんですね)

 

(ま、それなりに付き合いは長いからな)

 

「ところで……人質はこれで全員ではないですよね?」

 

「確かに、昨日あった隊長がいないわ」

 

「……隊長と他の調査員達は、頂上の方に連れていかれたんです。多分、頂上の簡易施設に閉じ込められているんでしょう」

 

「そうですか……」

 

「急がないとな……」

 

「……くっ、いてて……」

 

1人の調査員が腕が痛むのか、腕を抑えた。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

「すぐに手当をします!」

 

アリシアが回復魔法を怪我をした調査員の腕にかけ始めた。

 

「……はは、ちっとばかし抵抗しちまってな。なに、こんなのかすり傷だ」

 

「あまり無理をしないでください」

 

「怪我人もそうだけど……このまま全員を放置するわけにはいかない」

 

「ああ、一旦彼らを連れて街に戻るのが得策だ」

 

「ここは役割分担して行こう」

 

「ええ、それが一番でしょう」

 

「なら、その役目は俺が引き受ける」

 

いきなり名乗り出たクー先輩。

 

「クー先輩……?」

 

「調査員のオッサン達は俺が引き受ける。責任持って送り届けるから、お前達はこのまま先に進みな」

 

「よろしくお願いするわ。あなたの実力なら徘徊しているグリードも退けられる」

 

「そういうこった。エルもいることだし、1人抜けてもどうってこたぁねえだろ」

 

「そうですね……理にかなっています」

 

「そういえば、この人一応先輩だったけ」

 

「ア、アリシアちゃん……」

 

「はは……よろしくお願いします。クー先輩」

 

「おう、任せときな」

 

クー先輩は怪我人の調査員に肩を貸し、来た道の方を向く。

 

「悪いね、街までお願いするよ」

 

「クク、任せとけ。たまにゃあ先輩らしい一面も見せなきゃいけないしな。エル、そっちは頼んだぜ」

 

「…………………」

 

クー先輩はエテルナ先輩に向かってそう言うが、エテルナ先輩は心配そうな目で見つめる。

 

「たっく、お前もこいつらの先輩だろうが。もっとシャキッとしろ」

 

「い、言われるまでもありません!」

 

「そうそうその意気だ。ま、このまま一緒にいて砲撃が誤射ったら、内の男子供が黙っていねえのが怖ぇんだがな」

 

「う、うるさいです!さっさと行きなさい!」

 

「おとっと……オッサン達を送ったらすぐに戻るからな。そんじゃまた後でな」

 

シャーっと牙を向くエテルナ先輩をスルーして、クー先輩は調査員達を連れて街に戻って行った。

 

「……行ってしまったね」

 

「クー先輩だったら大丈夫だと思うけど……」

 

「ふん……心配はいりません。あれでも頼りのはなります」

 

「にゃはは……そうですね」

 

「コホン、先に進みましょう」

 

「ああ、俺達は頂上に向かおう。必ず人質を救出しよう」

 

エテルナ先輩の意外な一面を見つつも先に進み。中間地点にさし掛かろうとした時……

 

ドオオオン……

 

遠くで何かが崩れる音が聞こえてきた。

 

「今のは……」

 

「どこかが崩落した……?」

 

「な、何も起こらないよね?」

 

「かなり距離がある、問題ないだろう」

 

「よかった……」

 

なのはがそれを聞いて一安心していると……

 

ピリリリ、ピリリリ!

 

端末に着信が入ってきた。画面を見るとクー先輩だった、何かあったのだろうか?

 

「はい、こちらレンヤです……」

 

『ーーチッ、やられたぜ』

 

「クー先輩、何かあったのですか?」

 

『一応、調査員のオッサン達は送り届けたんだが……そっちに戻る最中崩落があってな。脱出道からのルートが完全に塞がれちまった』

 

「さっきの音……やっぱり崩落だったか。先輩は無事ですか?」

 

『ああ、問題ない。だが、退路が完全に絶たれちまったようだ。何とか他のルートを探して見るが、お前らの方も気をつけろよ!』

 

「はい、了解です」

 

ピ………

 

「今のはクーですか?」

 

「崩落がどうとか聞こえたけど……」

 

「ああ、どうやら脱出道のルートが塞がれたらしい。クー先輩無事だけど、合流は難しいかもしれない」

 

「そうか……」

 

「これで街に引き返すこともできなくなったわね……」

 

「こうなったら、覚悟を決めるしかないね」

 

「とにかく先に進まなくちゃ」

 

「ああ……気を引き締めて行こう」

 

クー先輩の事を気にかけながらも先を急ぎ、グリードを退けながら9合目にさし掛かった。

 

「そろそろ頂上に到着します。そこに人質が捕らわれている簡易施設があります」

 

「うまくテロリストの目を掻い潜れればいいんだけど」

 

「今の所は直接的な妨害はないし、気づかれてはいなさそうだね」

 

「ともかく、人質の安全を最優先にしないと」

 

「ここから先はさらに慎重に行かないとな」

 

ピリリリ、ピリリリ!

 

と、また端末に着信が入ってきた。今度はグロリア先輩からだ、何らかの情報を得たのかもしれない。

 

「こちら、レンヤです」

 

『ーーグロリアだ。今大丈夫かい?』

 

「はい、問題ありません」

 

『たった今、フィアットからまた連絡があってね。今回は直接話したいそうだからこれから通信を中継するよ。音質は悪いと思うから、スピーカーモードにして待っててくれ』

 

「はい、分かりました」

 

耳から端末を話し、スピーカーモードをオンにしてしばらく待つと……

 

『ーーレンヤ君達、大丈夫⁉︎』

 

「デイライト会長……!」

 

「ええ、皆無事です」

 

『ルナちゃん……よかった、声が聞けて。さっきもクー君が崩落に巻き込まれたって聞いて本当に心配したんだから!こんな事なら私もそっちに行けばよかったよ』

 

「いえ……こうして声が聞けただけでも心強いです」

 

「はい!サポートも頼りにさせてもらっていますし!」

 

「クーも無事です、ひとまず安心してください」

 

『そっか……よかった。コホン、さっき情報が入ってね……地上警備隊に対して、ラルゴ・キール元帥からの調査許可証が発行されたみたい』

 

「元帥の許可証……!」

 

つまり、地上警備隊はイレイザーズの封鎖を超えられる権限を得たわけで、後数分もすれば霊山に突入するという事だ。

 

『うん、イレイザーズもきっと無視できない。もうすぐ地上警備隊も突入できるはず』

 

「……いい報せですね。会長、俺達はこのまま山頂に進みます」

 

「もしその情報がテロリストにも伝わっていたら、それに乗じて裏をかけそう」

 

「うん、それに地上警備隊が突入できてもイレイザーズの妨害がないとは限らないし」

 

「そうね、調査員の安全を考えたら悠長にしてられない」

 

『そっか……分かったよ、くれぐれも気をつけてね!本当に危険になったらちゃんと逃げるんだよっ?特にレンヤ君とルナちゃんは絶対に無茶しない事!』

 

相当無茶しているのが分かっているのか、釘を刺されてしまった。

 

「え、ええ……分かりました」

 

「ふふ、名指しで釘を刺されてしまいましたね。必ず無事に戻ると聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに誓います」

 

『うん……待っているから!それじゃあグロリア君に代わるね』

 

少しノイズが走った後、グロリア先輩の声が聞こえてきた。

 

『ーー話は聞いていた通りだ。皆、どうか気をつけてくれ』

 

「了解です」

 

「後は任せてください」

 

ピ………

 

「あはは……突入前に元気をもらった気がするね」

 

「ああ……クー先輩達の助けでようやくここまで来れた。ここが正念場だ……気を引き締めて行くぞ!」

 

「ええ……!」

 

「これ以上所業、断じで許すわけには参りません……!」

 

先輩達から激励をもらい、一気に奥に向かって駆け抜けた。奥に日の光が見えてきて……そして頂上にたどり着いた。辺りを見回すと雲のちょうど真上の高度にあり、白い絨毯が地平線まで続いていた。

 

「ーー来ましたか」

 

とても澄んだ女性の声が聞こえ、前方にある坂の上を見ると……白い礼服を着て、目元だけを隠す仮面をつけた、腰までの長い金髪……にしてはさらに黄色い髪をした長身の女性が立っていた。だが女性の出すオーラがただの女性とは判断せず、自然身構える。後方には次元会議を襲撃したテロリストと同じ武装をしているのが数名いた。

 

「あなたは………」

 

「仮面……?」

 

デバイスを構え、警戒を続ける。

 

「あなた方が噂のテロリストですか。どうやらわたくし達の侵入はとうに気付いていたようですね」

 

「もとよりイレイザーズの封鎖は当てにしていません。あなた達が来ようと、地上警備隊が来ようと常に迎撃体制は敷いています。過剰戦力だと思いましたが……どうやら十分だったようです」

 

「それは光栄です……」

 

「気をつけて……!彼女、凄まじく強い!」

 

「うう、気迫で肌がビリビリする……」

 

「……どうしてあなたのような気品に満ちた人が、テロリストの真似事をしているんですか?」

 

アリシアの疑問は最もだ、周りのテロリストと比較すれば明らかに浮いていて、この場にいる心情が違うようだ。

 

「そうですね……ただ目的が同じなので行動を共にしている、とだけ」

 

「ッ……!」

 

「それって!」

 

その答えは、ある人物を連想させる。つまりはD∵G教団の背後にいる……

 

「貴方達……どうしてこの霊山を?イレイザーズと協力しても、一枚岩ではなさそうね。ここを襲撃した所で、ミッドチルダに何ら影響はないわよ」

 

「確かに経済的な攻撃にたり得ないでしょう。ですが彼らにとって必要な作戦なので、致し方なく」

 

「ならD∵G教団に聞く、なぜグリードを崇める。悪魔を信仰しているのと同義だぞ」

 

「……貴様らには判るまい」

 

「我らは欲望の先に神を見た、秩序を正せと……!」

 

「たとえ悪魔でも、我らの心は救われたのだ!」

 

「仲間の無念は……我らと共にある!」

 

「くっ……」

 

テロリストの迷いない答えにシェルティスは怯む、心が救われたのは確かだろう。

 

「先月のことか……」

 

「確かに……非情だと思うけど……」

 

「テロには断固たる対応を………それが当たり前でもある」

 

「その通り。これは、どちらが“正義”の話ではありません。彼らは欲望に喰らわれた亡者……世界を救うため、世界を壊すことも厭いません」

 

「そんな……」

 

ゴウッ!

 

女性はこれで話は終わりと言わんばかりに魔力を放出する。手のひらに乗せた非人格がたデバイスを前に出すと、デバイスが起動し……巨大な騎兵槍(ランス)を片手で掴み、構えを取ると静かに雷光が発せられる。

 

「これ以上の問答は無用……彼らの信念に負けては我が一槍、耐えられると夢々思わないこと」

 

「来る……!」

 

「VII組A班、迎撃準備!」

 

「エテルナさん、頼むわよ!」

 

「ええ、任されましたっ!」

 

お互いに魔力を放出し、相手を見据えて集中する。

 

「我が名はフェロー、神槍グングニル。いざ……!」

 

『バチバチ行かせてもらいます』

 

その瞬間、シェルティスが飛び出したが、金髪の女性……フェローが一瞬で目の前に移動した。

 

「な……」

 

「………⁉︎」

 

「ッ……!」

 

ツァリに向けられたランスをアリサと2人がかりでギリギリで受け止めた。

 

「なんて速度……!」

 

「しかも重い……!」

 

ツァリは目の前で起こった事が理解するのが遅れたが、ハッとなってすぐさま飛び退いた。テオ教官と事前に戦っていなければ危なかった。シェルティスとエテルナ先輩はそのままテロリストとの戦闘を始めた。

 

「レンヤ!」

 

「アリサちゃん!」

 

「く、来るな!」

 

「遅い」

 

「っ……!」

 

《オーバーロード》

 

なのはとアリシアが俺とアリサの前に出ると。フェローはランスは戻し、一瞬で構えると……超高速の突きを一瞬で何十も放った。俺達はすぐさま防御と回避体制を取り……吹き飛ばされたがなんとか致命傷は避けた。

 

「……………………」

 

「………くっ………」

 

「私でも……ギリギリだなんて……」

 

「……この人も……人間をやめているの……?」

 

「テオ教官と試合をしてなければ……今のでやられてた……」

 

『へえ、全員があの槍を凌ぐなんてね。エースと呼ばれるだけはあるみたいだ』

 

「なかなかの反応です。三つ編みの少女も全ての槍を見切り他の者も守るとは……見事」

 

「あなたこそ……非殺傷設定にしているなんてね……?」

 

「なっ……」

 

「まさか、手を抜かれた……?」

 

「無用な殺生は好みません。若き芽を摘むことは真意に反します」

 

「テロリストに加担する割に、随分と綺麗な考えのようね……」

 

「否定はしません」

 

「やあっ!」

 

そこに、エテルナ先輩が背後から刺突を繰り出し。フェローは振り返らず、柄でレイピアを受け流し、お互い睨み合う。

 

「まだまだ!」

 

エテルナ先輩も連続で刺突を繰り出すが、フェローと比較するとやや遅く。全て捌かれていた。

 

「その歳でこの速度……かなり苛烈な修練を積んでいますね」

 

「くっ……!」

 

『レンヤ、すぐにシェルティスの援護を!あっちは人数が多くてサポートしきれない!』

 

「レンヤ、私となのはが行くわ!」

 

「私達じゃ、次に来たら、あの槍は見切れきれない……お願い!」

 

「ああ、そっちは任せた!」

 

なのはとアリサはテロリスト達の方に向かい、俺とアリシアはフェローに向かって飛び出した。

 

《オールギア、ドライブ……モーメントステップ》

 

「せいっ!」

 

《ムーブポイント》

 

「ッ……!」

 

機動を上げて、正面に立たないように戦い。お互いに決定打がない状態が続く。

 

「そらっ!」

 

テロリスト達がなのは達に向けて質量兵器の銃弾を放ちながら接近していた。

 

《ロッドモード》

 

「このっ!」

 

銃弾を避けながら、確実にテロリストを棍で倒していく。

 

「くそっ!」

 

《うわ、マジですか⁉︎》

 

「剣晶十九・飛雹晶!」

 

1人が手榴弾を構えたので、幾つも結晶を飛ばし手から落とさせた。

 

「行くよ、ブルームボミング」

 

そこにツァリが端子をテロリスト達に張り付け、次々と爆発させた。

 

「あっちもかなり不利ね……」

 

《お嬢様、ここは分断して完全に孤立した方がよろしいかと》

 

「そうね……レンヤ、避けなさい!」

 

《バーニングウォール》

 

突如、アリサが地面から炎の壁を作り。二手に分断した。

 

「ちょ、アリサ⁉︎」

 

「この程度で気を取られるとは……」

 

「いけない……アリシアさん!」

 

フェローが隙を見せたアリシアに高速の突きを放ったが……

 

「ほう?」

 

「ぐ……」

 

それを、聖王の力を解放しギリギリでアリシアの前に出て刀で受け止めた。フェローの仮面に隠れた翡翠の双眸が俺の瞳を見る。

 

「その瞳……聖王の神眼ですか」

 

「なにっ……⁉︎」

 

『理解していないようだね』

 

《アグレッションドメイン》

 

魔力波が横からフェローに放たれ、フェローは飛び退いた。

 

「レンヤ君!」

 

「エテルナ先輩、助かりました」

 

「完全に分断しましたか。ですがこの程度の奇策で彼らは止まりませんよ」

 

「百も承知!」

 

アリシアとエテルナ先輩が加勢に加わりながら高速の戦闘を続けていく………しかし、ついには炎の壁を背にして追い詰められてしまう。

 

「ぐっ……!」

 

「策に溺れましたか」

 

「ま、まだまだ……」

 

「うっく……お、終わっていません!」

 

ふらふらになりながらも諦めの意志を見せず、デバイスを握る力を込める。

 

「その傷でなおも立ち上がりますか……いいでしょう」

 

フェローをランスを構え、爆発的に魔力を放出する。

 

「ならば全力で答えましょう!」

 

「来るよ!」

 

《ミラーデバイス、セットオン》

 

「はあああああっ!」

 

「ふううっ!」

 

こちらも全力で答えるべく、魔力を一撃に込める。そして炎の壁の反対側からも魔力が上がって行くのを感じる、あっちも大技を出すようだ。

 

「行きます……!」

 

フェローが魔力を膨れ上げ、アリシアが一歩踏み出した瞬間……

 

「ッ……⁉︎」

 

「え……」

 

アリシアが逆方向に走り出し、炎の壁に向かって行った。次の瞬間、炎の壁が開かれ……アリサが燃え盛る剣を持ちながらこちらに向かっていた。2人が交わり側に視線を合わせると、変わったターゲットに向かって行く。

 

《ロードカートリッジ》

 

「紅蓮の刃……イグナイトキャリバー!」

 

「これは……!」

 

《ロックオン》

 

「プリズムデステロア!」

 

「「「ぐあああああっ⁉︎」」」

 

燃え盛る剣をフェローに振り下ろし、ランスで防ぐも炎で体を焼かれ。ミラーデバイスに込められたレーザーを全方向からテロリスト達に発射した。

 

「アリシア!」

 

「了解!」

 

《ムーブポイント》

 

アリサをすぐさま転移させた。

 

「ソーンバインド!」

 

「む……!」

 

「レンヤ、なのは、今だよ!」

 

《バスターモード》

 

「ディバイン……バスター!」

 

《チャージ完了》

 

「スカイレイ……ブレイカー!」

 

防御をしていないフェローに向けてなのはの砲撃と斬撃型のブレイカーが放たれ……フェローに直撃し、爆煙に包まれる。その余波で山は揺れ、小さな石は簡単に吹き飛ばされた。

 

「はあはあ……」

 

「や、やったの?」

 

やがて煙が晴れていき、そこにいたのは……

 

「やりますね、我が礼装を傷付けるとは」

 

礼服が汚れ傷付いているが、ほぼ無傷のフェローが立っていた。

 

「嘘でしょう……」

 

「けど、テロリストは制圧できた」

 

「……くっ……」

 

「エース相手に付け焼刃だったか……」

 

「なるほど……どうやら選択に見合う資格は持っているそうですね」

 

テロリストに膝をつかせ、無力化に成功したが。女性は別格の力を持っており、なんとか傷付けられた程度にしかできなかったが……魔力を余分に消費させ手の内をある程度見た、このまま続ければ地上警備隊が到着し、結果的に勝てる。

 

「ーーここまでだ、これ以上の戦闘の続行は不可能」

 

「大人しく人質を解放しなさい!」

 

「もとよりそのつもり……ですが、その程度で彼らを止められるとでも?」

 

テロリスト達が次々と立ち上がり、目に執念を燃やしている。

 

「そ、そんな……」

 

「まだ立てるのか……⁉︎」

 

「やばいよ。あの人に全然勝てる気がしないんですけど……」

 

「でも、やるしか……!」

 

「ーーそこまでです」

 

そこに、横槍を入れてきた。声のする方向を見ると……肩に白い隼を乗せた水色の髪の少女、クレフがいた。

 

「あなたは⁉︎」

 

「クレフ・クロニクル……!」

 

「……この子が……」

 

「初めて見るけど、こんな幼い子が……」

 

「フェローさん……既にペルソナさんは作業を終えて転移されました。撤退の準備を」

 

「……致し方ありませんね。VII組の方々、次に会いまみえる時はこの身に一太刀……届かせるよう」

 

「すまない……!」

 

「君も急いでくれ……!」

 

フェローは渋々納得したようで、テロリスト達はクレフに礼を言うと山頂奥へ走って行った。目の前にはクレフとフェローが行く手を阻んでいる。

 

「これは……」

 

「さっきよりも厄介だね」

 

「……私は手を出しません。彼女に任せます」

 

そう言い、フェローはランスを待機状態にし、後方に控えた。どうやら今は傍観にするらしい。

 

「レグナム家息女……エテルナ・レグナムとお見受けします」

 

「え、ええ……そうですが……」

 

「そしてVII組……以前と人員は違いますが、今度は水は入らなさそうです」

 

「……まさか、1人で相手をするつもりなの?」

 

「はい……ですが、少々部が悪いので……これくらいは許してください」

 

その時、クレフの左右の空間が赤い渦を巻きながら……2体にゴウセンジュが現れた。

 

「………!」

 

「まだこんなのが……!」

 

「隠し玉まで持っていたのか……!」

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン」

 

緑色のガントレットから光が発せられ、隼が緑色に光り球となってクレフの手に収まる。

 

「レルム魔導学院、第3科生VII組の面々……夏至祭から2ヶ月……この巡り合わせを楽しみにしていました」

 

クレフはカードを落としながら手を前に向けると2体のグリードが攻撃して来た。

 

「もう戦闘パターンは読めているのよ!」

 

《チェーンフォルム》

 

アリサは銃身を出してから剣を小さくし、柄から鎖を伸ばし先端に刃がある形態に変化させた。

 

「行くわよ!」

 

《ブラッディカーニバル》

 

銃身の方……チェインガンと、鎖先端の刃……チェインブレードを交互に振り回し2体のゴウセンジュを滅多斬りにする。

 

「ツァリ、投げさせないで!」

 

「う、うん!」

 

ツァリがウルレガリアをクレフに向かって振るい、刃がある花びらを勢いよく飛ばした。しかし、2体のゴウセンジュが身を持ってそれを防いだ。

 

「爆丸、シュート……」

 

その隙に、平坦な掛け声で球を投げ。緑色の球が展開して地面に立つと……

 

ピイイイイイィィッ!

 

「ゼフィロス・ジーククローネ。アビリティー発動」

 

《Ability Card、Set》

 

「ゴースト・ストーム」

 

巨大な緑鳥が出現して、すぐにアビリティーを発動し、クローネは緑色の魔力を纏って突撃して来た。

 

「きゃあああっ!」

 

「なのは!」

 

突撃がなのはに直撃し、弾き飛ばされた所を受け止めた。

 

「先ずはグリードから……!」

 

《剣晶三十三・星清剣》

 

「そうね!」

 

《ソードブラスト》

 

シェルティスが二本の氷柱のように結晶を伸ばして2体のゴウセンジュを串刺しにして動きを止め、エテルナ先輩が前方にいるグリードを薙ぎ払う斬撃を放ち、まとめて一閃した。

 

「次はーー」

 

「ーーゲートカード、オープン。ゼフィロスリアクター」

 

次の行動に移そうとした時、地面から緑色の光が発せられ。突如、強風が吹き荒れる。

 

「これは……」

 

「天候が、操作された?」

 

「皆、見て!」

 

アリシアがクローネを指差すと、クローネは風の影響を受けて魔力が上がった。クレフは空を飛び、クローネの背に乗る。

 

「マズイわね……」

 

「こっちには、あれに対抗できるあいつらがいない」

 

「でも、やるしかない!」

 

《ガトリングブリッツ》

 

背の魔法陣の8門と両手の銃から黄緑色の魔力弾を連射したが……ゲートカードの効果を受けて素早く避けられる。

 

「これで終わり……アビリティー発動、ドレイク・ツイスター」

 

目の前に巨大な竜巻を作り出し、その風圧を伴う斬撃を放った。一ヶ所に集まり、障壁を張りなんとか防ぐ。

 

「うう、これじゃあいつまで持つか……」

 

「八方ふさがりだね……」

 

「私が風の斬撃の合間を縫って緑鳥を落とします。その隙にとどめを」

 

「ダメですよエテルナ先輩!この風じゃあまともに飛べません!私なら……!」

 

「なら、僕の結晶で道を……」

 

「どれも確実性がない、危険だ……許可できない」

 

「でも!」

 

「風……そうよ……風なら!」

 

アリサが何かひらめくと障壁を飛び出した。

 

「アリサちゃん⁉︎」

 

《フレアトーネード》

 

「はあああああ!」

 

アリサは竜巻の前に立つと、チェーンフォルムのフレイムアイズを炎を上げながら振り回し……炎の竜巻を作り出した。

 

「何を……」

 

「! そうか……!」

 

アリサの意図に気付くと……少しずつ相手の竜巻の勢いが落ちていく。周りの風がアリサに集められ……ついには炎の竜巻だけが残った。

 

「そんな……⁉︎」

 

「食らいなさい!」

 

チェーンをクレフに向かって振るうと、竜巻がクレフに向かって行った。

 

「ぐうううっ……!」

 

「なのは!」

 

「うん、任せて!」

 

怯んだ瞬間を狙い、一気に接近する。刀を振ろうとするとクローネは範囲外に逃げるが、なのはのアクセルシューターで押し込まれ、そのまま斬撃を入れ……

 

「「スターブラスト!」」

 

後方からなのはの砲撃が放たれ、それをギリギリで避け。砲撃の魔力をもらい、強烈な一撃を放った。

 

「かはっ……!」

 

衝撃がクレフまで到達し、クローネは球に戻り落下して行った。助けようと空を踏み出そうとすると……落下地点にフェローがいて、優しく受け止めた。

 

「良き決闘でした」

 

「いえ、彼女が幼いゆえの経験不足で勝てました。それがなくては危なかったでしょう」

 

「それよりも、調査員達を解放しなさい!」

 

アリサがそう聞くと、フェローは後方にある建物に顔を向けた。

 

「彼らはあの上です。拘束はしていますが命に別状はありません」

 

「本当に……?」

 

「信じてもいいと思うよ。彼女の信念がそうだから」

 

ツァリが、たとえテロに加担している……それでも信じたいと言う眼差しが、フェローを射抜く。

 

「ふふ、あなたのような青年は初めてです。ありがとう」

 

「い、いえ……」

 

「って、何和んでいるの……!」

 

「このまま失礼、なんて致しませんよね?」

 

勝てる見込みがないと分かっていても、エテルナ先輩は彼女達を逃がそうとはしなかった。

 

「その信念、見事です」

 

フェローの足元にベルカ式の魔法陣が展開されると、一瞬で転移し……クレフ達を連れて消えて行った。

 

「ふう、終わった……」

 

「い、生きた心地がしないよ……」

 

「……見逃されたわね」

 

フェローとの実力差は歴然だった。まさかあんな人がテロに加担しているとは思いもよらなかった。

 

「さて、調査員達を助け出しましょう」

 

「はい、そうですーー」

 

「貴様ら、何をしている⁉︎」

 

背後から男性の怒号が響くと、地上部隊率いるイシュタルさんとイレイザーズ率いる分隊長が現れた。

 

「これは……」

 

「貴様達、ここで何をしている⁉︎魔導学院だったか……どうしてこんな場所にいる⁉︎テロリストはどうした⁉︎場合によってはタダではすまないぞ!」

 

「え、えっと……」

 

「うわぁ、怒りの矛先が変わったぁ……」

 

「……あなた達は……」

 

隊長はテロリストがいない事と、地上部隊が持っているラルゴ・キール元帥の調査許可証で突破された怒りをこっちに向けてきた。そこに、エテルナ先輩が隊長の前に出た。

 

「何か誤解があるようですね。彼らはあくまでわたくしに付き合ってくれただけです」

 

「先輩……⁉︎」

 

「貴様は……レグナスの娘か……」

 

「お、おい……マズイんじゃないか……」

 

エテルナ先輩のことはイレイザーズも承知だったようで、レグナスが管理している霊山を踏み荒らしたとは思われたくないらしい。

 

「狼狽えるな!レグナス嬢、この地を任された我らが管轄された地の範囲に入っておりまして……!」

 

「ーーいつからシメオン霊山が君達の管轄になったのかな?」

 

そこに、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。

 

「な……」

 

「え……?」

 

「この声は……」

 

「まさか……!」

 

そこにいたのは、クー先輩とグロリア先輩、護衛であるゼストさんを引き連れた……クライド・ハラオウンだった。

 

「クライドさん……!」

 

「ナイスタイミング!」

 

「クー先輩にグロリア先輩も……」

 

「よかって……無事でしたか」

 

クー先輩に怪我がない事にエテルナ先輩が安堵する。

 

「おお、そっちこそな。しっかし……とんでもねー事になったな」

 

「ああ……さすがに予想外の結末だね」

 

クライドさんの階級はクロノと同じ提督だが、権限としてはかなり上であり。イレイザーズでもおいそれと牙は向けられない。クライドさんは2つの部隊を引き連れ、奥に向かった。そこには壊された遺跡があった。

 

「……これが霊山に眠っていた遺跡か」

 

「眠っていたは少し語弊があるがな。詳しく調査が必要だろう」

 

「そうだな……」

 

「て、提督はどのような件でこちらに?」

 

分隊長がクライドさんの表情を見て、控えめに質問した。

 

「それは後だ。それよりも状況を整理しよう。そちらの魔導学院生達の行動の正当性は私が保証する。依存はないか?」

 

「も、もちろんです!」

 

「クライドさん……」

 

「はあああっ〜……よ、良かったぁ〜……」

 

身の安全が保証され、ようやく一息がつけた。

 

「そして、私はレグナスからの要請によりこの場の全ては私に一任された。航空部隊は速やかに撤退を。地上部隊は私の指揮下に入ってもらう」

 

「イエス、サー」

 

「りょ、了解です……!」

 

航空部隊が速やかに撤退し、イシュタルさんは何かを疑問に思いながらもクライドさんに敬礼をした。

 

そして……その後の事態収拾は驚くほどスムーズだった。クライド提督の指揮下、地上警備隊は忠実に職務を果たし……残されたグリードの駆逐は俺達がちゃんと行われ、調査員達をも無事、全員が解放された。しかし……事件がもたらした余波はタダではすまなさそうだった。航空部隊は明らかに、テロリスト達の行動を黙認するかのように動き……航空派牛耳る第一製作所による不正実験の証拠もテロリストによって全て破棄されていた。しかし……証拠は限りなく黒に近く。クライド提督はソアラ会長の全面協力を受けるかたちで、厳正な調査を行うことを宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ーー

 

夜の静まりかえった霊山は……いかにも何か出そうな雰囲気を醸し出していた。そこに1人の女性……キルマリアが、崩れた遺跡に近寄っていた。

 

「……やはり何らかの儀式を行うための祭壇ですね……」

 

「どうやらそちらも気付いたようだな」

 

キルマリアの後ろから威圧感溢れる声がした。そこには目を鋭くしたイシュタルがいた。

 

「ええ……おそらく各地にあるものの1つかと。こうも歴史的大発見を無にする神経がわかりません」

 

「確かにな……キルマリア・デュエット。お前とは一度、話して見たかった。雇い主はどこまで関与している?」

 

「……それはいったいどちらの雇い主でしょう?」

 

「はあ、もちろん……両方だ」

 

そこで、イシュタルは何かに気が付いた。

 

「……すまない、どうやら見逃したようだ」

 

次の瞬間、虚空から2体のシュウドータが現れた。

 

「ふっ!」

 

「はあ……!」

 

キルマリアがニ丁拳銃を取り出し、正確に急所を打ち抜き。イシュタルが槍を構え、一瞬で薙ぎ払った。それだけで2体のグリードは崩れながら落ちていった。

 

「お見事です、イシュタルさん。さすがは筆頭を名乗るだけはありますね」

 

「そちらこそ……魔断の射手。腕は落ちていないようだな」

 

「恐縮です」

 

お互いに賞賛し合うが、どこか一線を引いており。その先に踏み入れようとはしなかった。

 

「先ほどの質問ですが、ソアラ会長の方は何も。今回の事態の収拾で手一杯でしょう」

 

「……だろうな」

 

「そしてもう一方は……傍観でしょう。今はまだ、ですが」

 

 



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92話

 

 

ーーあれから数日。ミッドチルダと、俺達をめぐる状況は少しずつ確実に動いていた。シメオン霊山、それと地上本部での功績を遅くなりながらも認められ、俺達VII組のメンバー全員が次元の狭間にある時空管理局本局に招かれた。

 

レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベル。彼ら伝説の三提督に謁見し、労って頂いた一方で、俺達は改めてミッドチルダを二分する勢力の領袖達に対面することとなった。ミッドチルダの自治管理をしている、イレイザーズ率いる航空武装隊、通称“空”。各世界に駐留して治安維持を務める地上警備隊、通称“陸”。そして次元世界を行き来する次元航行達、通称“海”。俺達を労いながらも、海と陸は空を牽制しながら睨み合いが続いていたが……最後に呆れ果てた顔になったレオーネ・フィルスに釘を刺されるのであった。あれ以降、航空武装隊は表立った行動はせず。海と陸は警戒を怠らず……図らずもしばらくは静かになる事だろう。

 

そして、ミゼットさんの提案により……俺達はとある地への小旅行に赴く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達、VII組はミゼットさんの提案によって小旅行に招待された。騒動の解決に協力してくれたフィアット会長とエテルナ先輩達上級生とテオ教官も一緒だ。行き先は、ユエの故郷であり、俺とユエとリヴァンが使用している剄の発祥地……ルーフェン。初めて名前を聞いてから気になっていた場所、おそらく父シャオとゆかりのある地……そんな思いを胸に抱きながらも、間近に控えた学院祭に備えて、皆と骨休みをすることになった。

 

ルーフェンに向かう当日ーー

 

ミッドチルダ中央次元港からルーフェンに向かい、そこから中央リニアラインでユエの実家の最寄り駅に到着した。ルーフェンは長い歴史と独特な文化を持った土地。剄からわかる通り武術も魔導もミッドやベルカの物とは根本的に違う。

 

「へえ、ここがユエの故郷かぁ」

 

「良い場所だね」

 

「はい、それとここが私の実家の最寄り駅です。迎えが来ますので少々お待ちください」

 

「は〜いっ!」

 

「すごいね!まさに大自然!」

 

「ミッドチルダはそこまで空気は汚れていないけど、空気の違いがはっきりわかるね」

 

辺りを見回すと、剥き出しの岩山が結構目立ち。駅の前にある建物の様式を見るからに地球の中国を連想させる。

 

「…………………」

 

「? レンヤ君、どないしたん?」

 

「え、いや、何でもない……」

 

この風景を見て、どこか懐かしい感じがする。

 

「わあ、綺麗な花……!」

 

「記念に写真を撮っておきましょう」

 

アリサはついこの前発売されたMIPHONを構え、写真を撮ろうとすると……2人の背後に虎が静かに現れた。

 

「えっ……」

 

「ん?」

 

ゴアアアアアッ!

 

「キャアアアア⁉︎」

 

「ひ、悲鳴⁉︎」

 

「この声は……」

 

「アリサ⁉︎」

 

「あっちだよ!」

 

急いでなのはが指差した方向に向かうと……

 

「ほれほれ〜〜ここがいいの〜?」

 

すずかが虎に抱きついてお腹を撫で回していた。

 

「ガクッ……」

 

「な、何やってんの……?」

 

「すずかちゃん離れて!猫は猫でも虎だよ⁉︎」

 

「大丈夫だよ、こ〜んなに人懐っこいよ〜」

 

「あ、あかん、猫好きスイッチが入ってもうた……」

 

「す、すみませーん!」

 

そこに中学生くらいの……どう見たってチャイナ服を来た少女が走って来た。後ろに同じ体躯の虎もいる。

 

「こら、フー。やめなさい」

 

「ニャア」

 

「え、ニャア?」

 

ユエに頭を撫でられ、虎……フーはすずかから離れた。

 

「あぁ……ニャンコ……」

 

「後にしなさい」

 

「はあはあ……すみません、ウチの猫でして」

 

「猫?虎でしょう?」

 

「そう思いますが、猫です」

 

その体躯とタイガーパターンの模様、時折見える牙を見てもどう見たって虎だと言いたい。

 

「た、確かに前に大きい猫を飼っていたとは聞いていたけど……」

 

「ニャアって鳴くから猫だとは思うけど……」

 

「予想外だね」

 

この中でフーが平気なのは飼い主のユエと猫好きのすずか、それにリヴァンとテオ教官。俺は彼女が豹を戯れていたので平気である。あの魔女猫は知らんが……

 

「ニャア」

 

「ニャアニャア」

 

少女の後ろから同じ毛色の2匹の子猫……にしてはやっぱり大きい……がフーに向かっていき、じゃれついた。

 

「わああぁ!この子達は⁉︎」

 

「えっと、リボンが付いているのがメイメイで、付いていないのがシャオです」

 

「へえ〜……」

 

偶然か父と同じ名の猫。頭を撫でると気持ちよさそうにニャアっと鳴く。

 

「紹介します。私の妹のリンナ・タンドラです」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくね、リンナちゃん」

 

「はい!それでは皆さん、荷物をお持ちします」

 

「え、大丈夫だよ。自分で運べるから」

 

「女の子に持たせるわけにもいかない」

 

「あ、いえ。私じゃなくてこの子達が運んでくれるんです」

 

リンナを手に持っていた鞍をフーの背に取り付けた。

 

「でも……」

 

「女は遠慮せず乗せちまえよ。ここでどうこう言うつもりはないぞ」

 

「それじゃあ、よろしくね」

 

「ニャア!」

 

女性陣が優先的に虎……ではなく猫達の背に荷物を載せ、ユエの実家に向かって舗装されていない山道を登った。

 

メイメイはすずかが愛でながら抱えて、シャオはなぜか俺の側から離れない。

 

「すごいね……!」

 

「本当ね」

 

「重くない?大丈夫?」

 

「ニャア」

 

なのはが心配して声をかけると、フーは大丈夫だと鳴いた。

 

「大丈夫ですよ」

 

「ルーフェンの猫は人ひとり乗せて山を越えるくらい楽勝なんです!」

 

「へえ〜〜」

 

「す、すごいですね」

 

「つうか、それってもう虎じゃねぇ?」

 

「あはは、だよね」

 

「それにしても、来れなかったクー先輩達は本当に残念だね」

 

この場にいないクー先輩とグロリア先輩は外せない用事があるそうなので、今回の小旅行に参加しなかった。

 

「お土産を買って参りましょう」

 

「うんうん、それがいいよ」

 

「あ、見えてきましたよ〜」

 

山を抜けると、そこには大きな道場があった。広場では数人が同じ動きをして稽古していた。

 

「あれは?」

 

「あそこはいとこに当たる春光拳の道場です。今回宿泊してもらうのはもう少し先です」

 

「後少しです、頑張ってください!」

 

「ええ、ありがとう」

 

「うん!」

 

それからすぐにユエの実家に到着した。

 

「うわぁ……!」

 

「ツァリ、上を見ながら歩くと転ぶぞ」

 

「ご、ごめん。雰囲気のある建物だね」

 

「ここが皆さんが宿泊する私達の実家です。この奥でおじいちゃんが待っています」

 

「ユエの……叔父か……」

 

「き、緊張するね」

 

「え、そうなの?」

 

ユエの叔父と聞いて、リヴァンとすずかが緊張をあらわにする。

 

「知らないの?春光拳道場の総師範レイ・タンドラ老師といえば……」

 

「ルーフェン武術界で5人もいない“拳仙”の1人なんだよ」

 

「確か、若い時から無双無敗……だったかしら?」

 

「そうなんだ……」

 

「なんだか凄そう……」

 

その凄そうというイメージとは絶対にかけ離れていると思うぞ、なのは。

 

「あ、いたいた。おじいちゃーん!」

 

先に老人の背中が見えるとリンナが声をかけた。

 

「おお、ユエ」

 

老人が振り返ると……老人の背後に不思議な景色が見えた。老人……レイ・タンドラは薄目のあご髭があるご高齢の老人だったか。

 

「叔父上、ただいま戻りました」

 

「うむ、よく帰ってきた」

 

ユエが老人の前に立ち、右拳を左手で包んで礼をした。

 

「ふみ、文で聞いてはいたが……また一回り成長したな」

 

「これも、VII組の仲間と培った力の賜物です」

 

「今、なんだか……」

 

「うん、今のはいったい……」

 

「気のせい……なのかな?」

 

どうやら今の風景を他の皆も見たらしい。

 

「お友達と先輩、先生もよく来たの〜」

 

『はじめましてっ!』

 

「今回の宿泊場所の提供、ありがとうございます」

 

「ほっほっ、構わんよ。ま、そんなにかしこまらんでええよ。長旅でお疲れじゃろ、部屋で一休みするとよかろう」

 

「はい、それでは」

 

「おっと、そうじゃった。ワシとしたことが自己紹介を忘れとった、もうボケてきたかの。ユエとリンナの祖父のレイ・タンドラじゃよ。春光拳の師範をやっとる。気軽に“じーちゃん”ととでも呼んでおくれ」

 

『いえいえいえいえ‼︎』

 

レイさんはのんびりそうにそう言うが、恐れ多いと感じほぼ全員が手荷物を落として手を横に振った。

 

「よろしく、じーちゃん!」

 

「ちょっとは遠慮しなさい!」

 

「アイタッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、リンナちゃんに部屋まで案内された。

 

「左側が男性の皆さんのお部屋、右側が女性の皆さんのお部屋になります。上級生の皆さんと先生にもそれぞれ別室を用意しています。何かありましたら家事用人を呼んでください。ミゼット提督からの言伝で誠心誠意もて成します」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

「さっそく荷物を置かせてもらいおう」

 

それから男性陣はユエに、女性陣はリンナに案内されてされていた。

 

「レイ総師範って思ったより優しい人だね」

 

「かなりのんびりしていたな」

 

「そういえば、さっき総師範の後ろに不思議な景色が見えたんだ」

 

「おお俺もだ」

 

「どんな景色でしたか?」

 

「とても綺麗な空に風に平原と……」

 

「あと海もあったね」

 

「そうですか……」

 

「ユエ、それっていったい……」

 

「さあ、どうでしょう?」

 

珍しくユエにしては妙はぐらかされた。その後、VII組のメンバーはロビーに集まった。今月に行われる学院祭についての打ち合わせをするために集まった。

 

「皆集まったみたいだな」

 

「ええ」

 

「打ち合わせが出来るということは、学院祭の喫茶店内容が詰め終わったんだね」

 

「基本的にレンヤ以外の男子が接客、完全に厨房がレンヤ、はやて。残りが両方を交代で行うのだったな」

 

「問題はメニューと内装、それに合わせた衣装の方向性だったんだけど……はやてとなのはのおかげでなんとかまとまったんだ」

 

「実は実習明けに伝える予定だったんだけど、小旅行をすることになるなんて思わなかったから」

 

「確かに……それならしょうがないね」

 

「それじゃあレン君に任されたから、さっそく発表するよ」

 

なのはが空間ディスプレイを操作して、全員の前にディスプレイが展開される。内容は学院祭期間中に出すメニュー表と交代、休憩などの時間割表。そして店名。

 

「翠屋、ミッドチルダ出張店……いいんじゃないかな!」

 

「個人的な物も見えるけど、下手な名前よりはいいかな」

 

「ランチは5種類、スイーツは3種類かぁ……少なくない?」

 

「確かに、上位を習うならもっと増やしてもいいんじゃないか?」

 

ツァリとリヴァンの疑問はもっともだ、上を狙うのならもっと増やした方がいいのが当たり前だが……

 

「そうなんだけど……メニュー数は増やしすぎない。これは屋台や個人店においての鉄則なんだよ」

 

「確かにメニューが多ければ選ぶ楽しみがおうたり再来店のきっかけにもなるん。せやけど、メニューが少なく方が仕込みの手間や食材のロスが少なくなるんし、1つ1つ手間をかけることができるんよ。更に、印象にも残りやすい」

 

いわゆる少数精鋭、どこの業界にも通用する言葉だ。

 

「それに来店人数が増え、注文がバラバラで殺到すれば中も外も混乱する。慣れていないのにそんな事は出来ないし、時間をかけ過ぎるとお客が帰って、それから噂が広まれば来店数はガクッと減る」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「それとこれが内装と当日の衣装案だよ」

 

次にディスプレイに映し出されたのは教室の内装案とそれぞれのメンバーの衣装案だった。

 

「へえ、結構洒落ているね」

 

「教室の隣の空き教室で調理して運ぶんだね」

 

「調理機材の取り寄せは……ディアドラグループ……」

 

「この前の実習の後に提案してみたんだけど、喜んで貸してくれるそうなんだ!」

 

「いや、こうも簡単に大企業の会長本人頼めて了承できるか普通……」

 

「あはは……なのは達も微妙にレンヤ達に感化されているね……」

 

それは君達もだよ、普通にそんなに事を話している時点で。

 

「衣装もなかなかいいわね。翠屋と似たようなデザインだけど、受けはいいんじゃないかしら」

 

「全員が厨房とフロアを行き来して働いても変に思われんデザインやで」

 

「これなら受けは狙えそうだね」

 

「受けってなに……」

 

「それにしても……少し、その……胸が強調し過ぎじゃないかなぁ?」

 

「あはは……はやてが初期案からこれだけは譲れないって言って引かなくてね。そこまで心配する事はないと思う」

 

「まあ確かに、指摘されなければ気にすることでもないね。て言うか初期案はいったい何やったの……」

 

「にゃ、にゃはは……」

 

「休憩時間や交代とかは要相談だ、友達や家族が来るのならそっちを優先してもいいから」

 

「はい、それでいいと思います」

 

「同じく、同意するよ」

 

「よし、ひとまず大体の方針はこれで決定にしよう。学院に帰ったらまた忙しくなるけど、その分今日と明日の2日はしっかり休んでくれ」

 

ディスプレイを消して、立ち上がった。

 

「それじゃあ解散。この後は夕食まで自由行動だ」

 

「了解〜」

 

それから皆は思いのまま各自、自分が行きたい場所に向かった。

 

「レンヤ、この後どうするの?」

 

「そうだなぁ。その辺りをフラフラしようかな」

 

「そう、それじゃあまた後でね」

 

皆と別れ、俺は屋敷の中にあった道場を見て回った。

 

(そういえば実習や任務以外で遠くに行ったことってあまりなかったな……)

 

こんなのんびりできる時間は久しぶりだ。学院に入ってから事件の連続で休んでいられなかった事が多かった。適当な小さな道場に着くと、子ども達が真剣に武術を習っていた。どうやらここは入門したばかりの門下生が鍛練する場所らしい。

 

「見学ですか?」

 

「あ、はい。そんなとこです」

 

「でしたら軽く袋を殴ってみませんか、気晴らしにいいですよ」

 

袋?ああ、サンドバッグか。師範代が連れてきた場所に、木に吊るされた大きいサンドバッグがあった。木に繋いでいる部分が鉄製だし、軽く叩くとビクともしない、ゆうに300kgはある。俺はどちらかと言えば、それを支える木と枝がすごいと思う。

 

「すみません」

 

「ああ、ごめん」

 

中学生くらいの子が打ちたそうにしていたのですぐに退いた。

 

「せいっ!」

 

その子がサンドバッグを殴ると大きな音を立て、サンドバッグが少し軋んだ。俺は素直に凄いと思い、拍手する。

 

「おおお……凄い」

 

「えへへ」

 

「凄いでしょう、この子はこの中でかなりの実力者なんですよ」

 

「お兄さんもやってみてよ!」

 

「それじゃあ……」

 

サンドバッグの前に立ち、少しだけ腰を落とし下から上に手を振って、サンドバッグに手を添え……

 

「ふっ……!」

 

震脚の勢いを乗せてノーモーションで衝撃を放ち、サンドバッグを大きく飛ばした。

 

「凄い……」

 

「! 危ない、避けて!」

 

サンドバッグは勢いが止まると振り子のように戻ってきた。自然と手をそのままにして固定し、一歩引いた脚と一直線にして固定し……

 

ズドムッ‼︎

 

300の質量が勢いよく迫ったのをくの字に凹ませ、止めた。

 

「ふう……」

 

「え、今の……どうやったの?」

 

「わ、私にも何がなんだか……」

 

「お騒がせしてすみません。俺はこれで失礼します」

 

さすがにやり過ぎたと思い、頭を下げると門に向かって駆け出し……地を震脚で蹴って屋根に登ってそのまま外に走って行った。

 

しばらく走ると湖に出た。腰を下ろして水面に映る自分を見つめる。

 

「はあ……さすがにやり過ぎたかな」

 

水を掬い取り、顔にかけて目を覚まさせる。さっきの掌底……感覚がそうやれと感じた。ルーフェンに来て、何か感じたのか?

 

「そういえばここどこだろう?」

 

「ーーここは青空湖、この先に三岩窟がある」

 

斬り裂かれるような殺気を感じ、すぐさまその場から跳び退き、無手の構えを取る。こんな時にレゾナンスアークをおいてきたのは失敗だった。視線の先にいたのはレイさんと同じくらいの老人だったが……レイさんと違って鋭い気迫を纏っている。

 

「そう身構えんでも何もせんよ」

 

「あなたは……一体誰ですか?」

 

「ワシはユン。しがないジジイじゃよ」

 

「……ご冗談を」

 

この気あたり……テオ教官と先日戦ったフェローに匹敵する実力の持ち主だ。だがとりあえず敵意がないので構えを解く。

 

「それでなんのご用ですか?」

 

「ふむ?ちょっとした戯れじゃが?」

 

「戯れであんな殺気出さないでください!」

 

「ほっほっほっ」

 

とりあえず付き合っていられず、来た道を歩こうとする。

 

「なぜ、あんなことが出来たか……不思議に思っているんじゃろ」

 

その一言で、歩みを止め。ユンおじいさんを見た。

 

「おじいさんは何か知っているんですか?」

 

「知っておるぞ、その剄……おぬしシャオの子じゃろ」

 

「父を知っているんですか⁉︎」

 

「ほっほ、奴は感覚的にルーフェンの武術の理を体現出来た。ぬしにもその血が流れているようじゃな」

 

確かにあの時、どうすればいいのか感覚的に分かっていた。震脚と言う言葉もいつの間にか勝手に理解して使用していたし。

 

「それにおぬしのその靴、常に重心がバラバラになるように細工しておるじゃろ。そんな靴を履けば常に綱渡りしている状態じゃろ」

 

「う……」

 

実は中学生の時から、その時に履いている靴に重心がバラバラになる機能を付けていた。最初は歩くだけでバテバテになっていたが、一ヶ月で意識せず歩けるようになり。さらに一ヶ月で走れるようにと月日が経つごとに重心が安定して行き……物足りないなったらさらに重心ズレをを大きくして今に至っている。もちろん戦う時はその機能は切っている。

 

「ほっほ、そこまで行けば片足でも生活できるじゃろうて。なぜその鍛練を選んだんじゃ?」

 

「……なんでだろ、それが1番いいって思ったからで……特に理由は……」

 

「やはり血は争えんのー」

 

ユンおじいさんは踵を返すと反対方向に歩いて行った。

 

「明日の夜、三岩窟の西側……待っておるぞ」

 

「え、ちょっと!」

 

意味がわからず、聞き返そうとすると……音もなく消え去ってしまった。

 

「だああもう!あの人も人間辞めてるのかよ!」

 

怒っても仕方がないと思い、ユエの実家に戻って行った。

 

「…………………」

 

ユンじいさんの言葉を思い出し、重心のずらす機能を切り……その場で飛び上がり木の枝の上に乗り、木から木へ飛び移った。

 

(これは……)

 

速度を上げて全力で走ったり、ジグザグ移ったりしてはっきり分かった。

 

「重心が安定しているから細い枝を踏んでも折れずに飛べた……確実に重心をとらえられたから……」

 

少し工夫はしたが、暮らしの中に修業ありとはよく言ったものだ。

 

(そういえば……俺も大概、人を辞めている?)

 

いや、さすがにないな。木の頂点にブレずに立ったくらいで人間辞められたら色々と問題だ。そして今度こそ俺はユエの実家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方ーー

 

日が沈むと、俺達は食堂で夕食を食べていた。

 

「皆さん、美味しいですか?」

 

「ええ、とても美味しいわよ」

 

「モグモグ……うん、そうだね、美味しいねぇ」

 

「どれも自然豊かな料理って感じだねぇ」

 

「ありがとうね、こんなご馳走を用意してもらって」

 

「い、いえ、喜んでもらえて何よりです!」

 

「リンナちゃん、後でレシピを教えてもろうてもかまへんやろか?」

 

「構いませんよ。後で家事用人に用意させます」

 

皆、思い思いに食事と会話をを楽しんでいた。

 

「この魚も美味しいよ。どこから獲って来たんだろう?」

 

「おそらくここから北にある青空湖だろう。あそこの淡水魚はなかなか美味いと評判らしい」

 

「その魚はワシが釣って来たのだ。今日は大量に釣れて良かった」

 

「ありがとうございます、レイさん」

 

「いっつもお前達は、実習でご当地巡りができて羨ましかったんだよなぁ。今回は俺も楽しめて嬉しいぞ」

 

「……グルメ旅行をしていた訳じゃないですよ」

 

「そう言うテオも、何だかんだで行く先々にいたよな。どうせ裏でちゃっかり楽しんでたんだろ?」

 

「ギクッ……」

 

「テオ教官……」

 

「ふふ、あなた達も今の内に骨を休んでおきなさい。戻ったらすぐに学院祭の準備があるのでしょう?」

 

「はい、出し物の内容が決まったので。後は帰ってから進めるだけですね」

 

「にゃはは……皆で頑張って行こうね」

 

「そうだね、せめて学院祭は楽しいものにしたいね。せっかくミッドチルダ各地も落ち着いてきたことだし」

 

「あ……」

 

フィアット会長の何気ない一言で周りの空気が変わってしまった。

 

「そうですね……」

 

「D∵G教団……イラの事件以来音沙汰なしのようですが……」

 

「彼らの次の目的がわからない状況ですね」

 

「お前らの情報が正しければ奴らに幹部と言う位は存在しないだろう。あったとしてもそれは低い……実質、継続性はかなり高い組織だ」

 

「厄介極まりないね……」

 

「それに、彼らの背後にいる組織も警戒しないといけない」

 

「フェローと言う仮面の女性の化け物じみた実力、クレフと言う少女の付けていた機械の技術力……かなり大きい組織と見て間違いないね」

 

「そしてミッドを巡る空と陸の対立……叔父が釘を刺したこともあって収まっているようだけど」

 

「それも飽くまで表面的なものや。未だ各地で火種は残っておるんからな」

 

「ミッドチルダが抱えている問題は、完全に解決された訳じゃないのか……」

 

「あ……だからこそ今は、学院祭を盛り上げればいいんじゃないのかな?」

 

「確かに、レルム学院祭は様々な関係者が訪れ、同じ空間で同じ楽しみを共感できる得難い行事です」

 

「と言うことは、私達の頑張りで少しは変わるかもしれないんだよね?」

 

「俄然、上位を狙わないといけないね!」

 

「そういえば、他のクラスって何を出すんだっけ?」

 

アリシアが忘れたような発言に、全員が肩を落とした。

 

「あのねぇ……」

 

「ね、姉さん……」

 

「コホン、ええっととりあえず1年の出し物を言うと……I組が貴族の茶会をモチーフにしたカフェテリアをやるみたいだよ」

 

「むむ、これは商売敵やな」

 

「II組は屋内庭園みたいなパビリオンをやるみたいだね。星空をモチーフにしたって言っていたよ」

 

「それはまた凝っているね」

 

「III組はブレードIIを使ったゲームコーナーをやるらしいです。内装も古城風にアレンジして初心者への指南を始め、試合なども開催するとか」

 

「へえ、面白そうだ」

 

「IV組は第二ドームを使用した異界風の迷路をやるみたい。よく私の所に来て現存する異界迷宮の特徴を記録した資料を見ていたよ」

 

「なるほど……そう来たか」

 

「V組はかなり変わっているわよ。練武館の一部を使うアトラクションで、名前は確かティポパニックだったよ」

 

「それって……あの緩いような……キモいようなあれ?」

 

「また微妙なチョイスだな」

 

「後は2年生が第一ドームでカートのレースをやるよ。グロリア君も協力しているから盛り上がると思うよ」

 

「カートという物には、あまり触れたことはないのですが……楽しそうですね」

 

「他にも2年生の出し物があるけど……とりあえず学年1位を狙うのならこの4つがライバルになるね」

 

「しかも、来場客からアンケートを取るみたいで……後夜祭で発表するらしいよ」

 

「いかにも煽っている感じだね」

 

「まあ、ともかく。ライバルがいるには越したことはないが……俺達ができる最大限のことはやっていこう」

 

「うん、そうだね!」

 

「了解!」

 

「本当に分かっているのかしら?」

 

「ふふふ……」

 

「むう……さっきから皆さんで盛り上がらないでください!置いていかれているようでイヤです!」

 

リンナが、私怒っていますという顔をして頰を膨らませている。

 

「あはは……ごめんねリンナちゃん」

 

「すまないリンナ。ちゃんと学院祭には呼ぶから、機嫌を直してくれ」

 

「レイさんもすみませんでした」

 

「構わんよ。若者達の語り合いはいつも真剣でいい」

 

俺達は気をとりなおして賑やかな食事をするのであった。

 

 

 



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93話

 

 

夕食の後ーー

 

俺達は男女に別れて大浴場に行き、ここ数日溜まった疲れを存分に癒すことができた。風呂上がりには、卓球や童心に帰って枕投げをやりつつ、普段しないような世間話にあちこちでされ、ルーフェンの夜は静かに更けていく。

 

皆が寝静まった頃、俺は先ほどレイさんに書庫の場所を聞いてそこに向かっていた。あることが気がかりで寝付けなかったのだ。

 

(明日の夜……三岩窟の西側、か。書庫に行けば何か分かるかもしれない)

 

書庫に辿り着くと、本が山ほど積んであった。古い本が多いが最新の本もチラホラとあった。魔力球を浮かせて明かりをつける。軽く見てみると春光拳の武術書や剣術書の入門書と教練書や色々とあった。

 

「て、いかんいかん。本題は地図だ、地図地図っと……」

 

操作魔法で本を出し入れして探しながら目的の物を探す。それからしばらくして……古い地図を見つけた。

 

「ふう……やっぱり操作魔法は苦手だな」

 

よくユーノとかが使っているけど、どうも合わない。

 

地図をみると青空湖が乗ってあり、その上に3つが穴がある岩山があり。そこに丸がついていた。

 

「思ったより近いな」

 

《マジェスティー、その地図の裏にすかし文字が書かれているようです》

 

「すかし文字?」

 

ひっくり返すとただの白紙だが、魔力球の光ですかしてみると文字が浮かび上がってきた。

 

「どうやら三岩窟の説明や進み方が書いてあるな」

 

えっと、西側は……知性と心を試す道、ね。他にも暗星行路という場所もあるそうだが……とりあえず心の道の記述だけを読んで。その後元あった場所に置いて書庫を出て行こうとすると……ふと、ある書物が目に入った。

 

「これは……」

 

どうやら武術書のようだ。技とその優位性と劣等性、使われる場面などがこと細かに書いてあった。

 

「へえ、面白いな。著者はーー」

 

裏返して著者を見ると……シャオ・ハーディンと書かれていた。

 

「ッ……!」

 

シャオ……父の名前。やっぱりここが故郷だったのか。それに書を見るかぎり相当な実力者なのがわかる。だが……それを考えるのは後だ。書を置いて書庫から去った。

 

(ユンおじいさんの言葉……心、心の在り方か……)

 

一度気分を変える為に露天風呂に入ろう。そう思い、歩みを進めると……

 

「ふう……」

 

ロビーでエテルナ先輩が座っていた。

 

「エテルナ先輩?」

 

「ん?レンヤ君ですか。こんな時間まで夜ふかしですか?」

 

「はは、エテルナ先輩こそ。ロビーで何を?」

 

「いえ、湯浴みを終えたら、夜景を見たくなったのです。せっかくですし、あなたも一緒にどうですか?飲み物くらいは奢らせてもらいますよ」

 

「……そうですね。お言葉に甘えて」

 

俺はエテルナ先輩の対面に座った。

 

「ふふ、あなたとこうして話すのは久しぶりな気もします。学院生活は楽しんでいますか?」

 

「半年も過ぎたのに、まだまだ忙しいままで。でも、学院祭も近づいてすごく充実しています」

 

「それはなによりです。色々ありましたが、実習結果も学業も頑張っていますし、順風満帆と言った所ですか」

 

「まだまだですよ。ここにきて気がかりな事が出来てしまいましたし……」

 

「……あなたの父君の事ですね?」

 

「え……」

 

まさか自分の父親の事をエテルナ先輩が知っているとは思いもよらなかった。

 

「ベルカであなたの両親が失踪した事件はそれなりに有名ですよ。わたくしも独自で調べたのですが……シャオ・ハーディン。華凰拳歴代最強とうたわれた武人です。そして……それを目の当たりにして混乱と迷いが出ている、そんな顔をしていますよ」

 

「……先輩の言う通りです。自分が何なのか……むしろ誰なのか。ここに来て、分からなくなってしまいました」

 

「ふふ、焦ることはありません。あなたはまだ1年生、時間はまだまだ残されていますし、仲間もいます。親しい仲間となら、どんな壁でも乗り越えられる……VII組で過ごしてきて、そんな気持ちになりませんでしたか?」

 

「それは……いつだって、思っています」

 

「なら大丈夫です。その気持ちを大事にしてください、答えなんて仲間と学院生活を過ごしているうちに自ずと見つかります」

 

「そうですね……」

 

しばらく沈黙が続くが、俺は先ほどから気になっていた事を聞いてみた。

 

「あの……先輩こそ、何か抱えているんじゃないですか?」

 

「……ふふ、少々先日の一件で航空部隊に目を付けられてしまいましてね。実家にその影響が及んでしまったのです」

 

「なっ……!」

 

「もちろん、手を出されたわけじゃありません。しかし、お父様が用心の為学院に休学届けを提出するように言われました」

 

「何とかならないのですか?学院長達の力を借りればーー」

 

「腐っても管理局です。逆らえば魔導学院の運営にも支障が出ます。単位はこと足りていたので、学院長の配慮で3学年への進級は問題ないのですが……いつ休学が明けるのかわかりません」

 

「…………………」

 

「ふふ、心配しないでください。学院祭は何とか見に行くつもりです。あなたも仲間と共に頑張ってください」

 

「はい……」

 

エテルナ先輩を笑顔で笑うと立ち上がった。

 

「話に付き合わせてしまって申し訳ありません、これで失礼します」

 

「いえ、こちらこそ。相談に乗ってくれて気が楽になりました」

 

「それはなによりです。それでは、良い夢を」

 

「おやすみなさい」

 

エテルナ先輩は部屋に戻って行った。それから少し夜景を眺めた後、本来の目的である露天風呂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱衣所に到着すると、深夜だから当たり前に人はいなかった。

 

「風呂でも入って、頭を切り替えるか。貼紙だとこの時間は混浴らしいけど、さすがに誰も入っていないだろうし。考え事にはもってこいだ」

 

服を脱いで腰に湯浴み用のタオルを巻き、露天風呂に入った。湯煙で温泉はよく見えないが、景色はとてもいい。

 

「……ん?誰か来たのかな?……」

 

「……もしかして、すずか達も眠れないのかしら?……」

 

「ん?」

 

湯煙の中から声が聞こえてきた。俺と同じように眠れないの人が先に入っていたようだ。温泉の手前まで来ると……

 

「あ……」

 

「え⁉︎」

 

「え……?」

 

そこには一糸纏っていないフェイトとアリサがいた。

 

「うわああっ⁉︎ アリサ、フェイト⁉︎」

 

「きゃあああっ‼︎」

 

フェイトは悲鳴をあげて座り込んで温泉に入った。

 

「レ、レレ、レンヤ⁉︎」

 

「ち、違う⁉︎ 誤解だ!」

 

「レーンーヤー……‼︎」

 

「はい?」

 

「焼き加減はミディアムがいい? それともウェルダン?」

 

アリサが手に炎の球を出しながらそう質問してきた。

 

「ええっと……できればレアで……」

 

「あらそう、でも残念だけど私の調理法はロースト(消し炭)しかないわ……!」

 

「さっきの質問の意味は⁉︎」

 

「レンヤ……」

 

今度はフェイトがちゃんとタオルを巻いてゆらりと立ち上がる……なぜか手の上の魔力球があって放電しているけど。

 

「レンヤが……そんな人だったなんて……!」

 

「違う! 断じでそんな人じゃない! と言うか2人共、まず俺の話を聞いてくれ!」

 

「このー!」

 

「ちょっと待って! それ絶対に死ぬ!」

 

「レンヤの……エッチ!」

 

「変態、唐変木!」

 

「ぎゃああああぁっ‼︎」

 

2つの放たれた魔力球が俺を直撃し。俺は温泉に沈んで行った。

 

その後、目が覚めた俺は事情をちゃんと説明して。2人はようやく納得した。

 

「ご、ごめん……まさか今の時間が混浴だったなんて……!」

 

「確認するのを忘れちゃった。それに全力の魔力球をぶつけちゃったし……」

 

「……死ぬかと思った……」

 

2人に背を向けながらしみじみとそう思う。

 

「いや、俺もよく確認してなかったし……悪かったよ」

 

「ううん、私達のせいだよ。お詫びと言ったらおかしいけど……こ、このまま入ってもいいよ///」

 

「え?」

 

今なんて言ったの。もし聞き間違えたらそれはそれで問題だが……

 

「ちょ、ちょっとフェイト!何言ってんのよ!」

 

「誤解したのに、このままだと湯冷めさせちゃうから……それに、申し訳ないし……」

 

「それは確かに、そうだけど……」

 

「えっと〜……この場合、どうしたらいいんだろう……?」

 

正直、この場に誰か来たらさらに面倒な事になるんだが。

 

「はあ、まあいいわ。そのまま入っちゃいなさい。ただし……振り向いたら、分かっているわね?」

 

「いや、分かるも何も俺が出て行けばーー」

 

「いいからそのまま浸かっておきなさい!」

 

出ようとしたら肩を掴まれて湯船に押し戻された。その後アリサは俺の背に寄っ掛かり、次にフェイトも近づいて。それからしばらくその状態と沈黙が続いた。

 

「えっと……レンヤ?」

 

「な、なんだ?」

 

「明日って……予定ある?」

 

「いや、特にないが」

 

ユンおじいさんの所に行くのは夜だし、大丈夫だとは思う。

 

「だったら明日練習に付き合ってくれないかな? 興味深い武術書を見つけたの」

 

「それくらいならお安い御用さ」

 

「ならレンヤ、私にも付き合いなさい」

 

後ろから俺の顔を覗き込むように俺に寄っ掛かるアリサ。という背の柔らかい感触って……

 

「アリサ、私が先だよ」

 

「私も一緒に頼んだのよ」

 

2人は俺を間に入れてにらみ合った。

 

「あの〜、2人共? どっちが先とかは別に後にしても……」

 

「「だめ(よ)!」」

 

ふにゅん!

 

「ぐっ……⁉︎」

 

両腕に言葉にできない感触が発生し、温泉から熱を急激にもらい……熱が頭に到達した。

 

「……あ、レンヤ⁉︎」

 

「ちょっと、しっかりしなーー」

 

天国と地獄の狭間で俺の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜ん、昨日温泉に入った以降の記憶がない……」

 

朝に目が覚めた時、記憶の欠落がある事が気になった。

 

「レゾナンスアーク、俺が温泉に入った後部屋で寝たのか?」

 

《……はい、温泉に30分ほど入った後。部屋で睡眠を取られました》

 

「うーん、やっぱり気のせいか」

 

レゾナンスアークにしては微妙にはっきりと言わなかったが、気のせいならそれでいいか。

 

朝食を食べた後、俺は空いている外道場で刀を無心で降っていた。ただ、食事を食べている時にフェイトとアリサがチラチラとこっちを見ては顔を赤くしていたのが気になったが……

 

他の皆は各自自由に行動しているが、俺は今晩の事もあり体を準備していた。

 

「疾っ……!」

 

地面に点々と置いてある大めの木をを蹴り上げ、力と技で6当分にして薪にする。斬った薪を一ヶ所に積み集めながら速度を上げる。

 

「ラスト!」

 

最後の木を薪に変え、同じ積み上げた。息をはき、静かに残心をする。

 

「見事じゃの」

 

「レイさん」

 

そこに、レイさんが道場に入って来た。

 

「すまんの、客人に力仕事を任せて」

 

「いえ、自分が勝手にやっているだけです。気にしないでください」

 

「そうかの?しかし……」

 

レイさんは屋根より高く積み上がった薪を見上げる。

 

「ほっほ、こりゃ冬に薪割りせんでもいいかもしれんの」

 

「あ、あはは……」

 

「じゃが」

 

レイさんは薪を1つ取るとこっちに投げた。その薪はギリギリの所で斬られていなくて繋がっていた。

 

「……あ」

 

「どうやら、雑念があるようじゃな」

 

「…………はい。情けないですけど、ここにきて……自分に迷っていまして……」

 

「ふむ……」

 

レイさんはヒゲをひと撫ですると、空を見上げた。

 

「そういう時は、あんまり考えずに受け入れればいい」

 

「え……?」

 

「あるがままに、己を、自然も、受け入れ……収めてしまえばいい」

 

「ですが……」

 

知らない自分が今まで自分を操り、鍛えて、体を作っていた……そんな事実を自覚しては簡単には受け入れられなかった。聖王の血でもお腹いっぱいなのに、そこにルーフェンの血まで自分を苦しめている。

 

「ほっほ、悩めばよい。それもまた武術じゃ」

 

レイさんはほっほっほっと笑いながら道場を去って行った。

 

「ユンおじいさんにレイさん……宿題多過ぎでしょう……」

 

薪を片付けた時にはちょうどお昼過ぎになっており、汗を拭いてから食堂に向かうとすでに皆が食事を食べていた。

 

「あ、レンヤ!」

 

「どこ行ってたんや?」

 

「ちょっと道場で気晴らしに刀を振ってただけだ。皆こそ、午前は何してたんだ?」

 

「ルーフェンを歩きながら観光してたよ」

 

「リンナちゃんと一緒にね」

 

「まだまだルーフェンのいい所は残っていますよ!」

 

「それは楽しみにしているね」

 

「ユエ達はどうだったの?」

 

「私達は春光拳の道場にお邪魔していました。皆さんがルーフェンの武術に興味がおありでしたので門下生と混ざって一緒に練習を」

 

「そうそう、小さい子でも凄かったんだから!」

 

「改めてルーフェンの武芸には驚かされたよ」

 

「そういえば……前々から思っていたけど、剄って……魔力とはどう違うの?」

 

フェイトが剄について知らなかったのか、そう質問してきた。他の皆も知らなかったようで興味津々だ。

 

「簡単に言えば、剄は高密度の魔力だな。同じ大きさの魔力量でも爆発的な威力を持っている」

 

「ふーん、私達でも使えるの?」

 

「剄の習得には体質の問題もありますから、誰にでも習得できるわけではありません」

 

「それにシステムと素材の都合上、本来デバイスとの相性も悪い。それを出来るだけ使えるようにしているんだが、基本的に魔法や技は自分の技術で発動するんだ」

 

「確かにユエ君のはアームドデバイスだし、リヴァン君のはストレージデバイスだったね」

 

「デバイスに魔法を登録できないなんて……大変じゃないの?」

 

「さあな、それが当たり前だったし」

 

「それにいささか魔法と呼べる代物でもありませんし……魔力を使った武術の技、とでも認識してください」

 

「それと全力で剄をデバイスに流し込むと、オーバーフローして壊れるから……ユエとリヴァンは攻撃においては全力を出していない事になる」

 

「そうなんだ……」

 

「あれ?そういえばソーマ君のデバイスは? 前にレン君と模擬戦した時、普通に全力だったと思うけど」

 

「え、ええ、まあ……」

 

ユエにしては妙に歯切れが悪い。

 

「ソーマさんのデバイスはルーフェンで作られた特別な金属で作られたデバイスで。ルーフェンに12個しかない特別なデバイスなんです!」

 

「その金属は特殊な形状記憶合金でな。簡単に言えばアームドデバイスなのじゃが……耐久性や魔力伝導率は通常のデバイスとは比べ物にならん。本来はユエにも……」

 

レイさんがそう言いかけると、ユエは大きな音を立てて立ち上がった。

 

「叔父上、私にはその資格はありません。ソーマはなるべくして手にしましたが、私にそんな資格は……」

 

「誰もお前の事は責めてはおらん。奴も納得しておる」

 

「ーー失礼します」

 

ユエは手を合わせて礼をすると、食堂を出て行った。

 

「やれやれ、あの頑固さは筋金入りじゃな」

 

「あの、失礼ですが……昔に何かあったんですか?」

 

「……ふむ、そうじゃな。 VII組の方々には知ってもらった方がいいじゃろう」

 

レイさんは立ち上がると窓の前に立ち、語り出した。

 

「ユエが11の時じゃ、ユエは才覚に溢れ、誰にでも隔てなく優しく、武術を健全に真剣に打ち込む子じゃった。剄の量にも恵まれておったから必然的にルーフェンの12のデバイス……天剣が授けられる予定じゃった」

 

「天剣……」

 

「す、凄そうだね……」

 

「じゃがその時、天剣は全席埋まっていた。そしてある者がユエに後任として天剣を譲り渡したのじゃ。その者はヤン・タンドラ……ユエの父親じゃ」

 

「親子二代で天剣を」

 

「無論、反対する者もおった。天剣を持つ者は最強でなくてはならない……そんなしきたりが当時ユエを苦しめてた」

 

「今は改善されているんですよ? 外から来たソーマさんが天剣を持ち出せたのもそのおかげです」

 

「そんなある日、山奥に現れた危険生物を討伐するためにヤンが出向いた。そして、同伴としてユエが」

 

「まさか……!」

 

「ヤンとの戦いの末、傷ついた危険生物はユエに襲いかかった。ユエも1人の武人、戸惑いながらも危険生物と向かい合った……が、ヤンはそう思わなかった。ヤンはユエを庇って傷を負った、さらに不幸にも反撃したユエの剄を纏った拳がヤンに……」

 

「そんな……」

 

「その後、危険生物は他の天剣授受者に討伐されたが……ヤンはその時の怪我でもう武人としては生きていけなかった。必然的に天剣はユエに授けられたのじゃが……あの子は父の誇りを汚した、自分が父から天剣を奪ったと言い、天剣を受け取らなかった……あの子に責がない事はルーフェンの皆が知っている。じゃが、あの子は未だに自分の責任だと思っておるのじゃ。そして現在、2人の両親は保養地にいてここにはおらん」

 

顔を下に伏せ、レイさんはそう言う。リンナちゃんも泣きそうな顔をしているが堪えている。

 

「すまんの、休みに来たのに湿っぽい話をして」

 

「いえ、お話しして頂きありがとうございます」

 

「あ、あの!兄を嫌わないでください!」

 

「大丈夫だよリンナちゃん、絶対にユエ君を嫌ったりしないから」

 

「今思えば、ユエはあまり自分を語らない人だったね。いつも他人を思いやって……」

 

「誰かを守りたい気持ちはあっても、どこか戸惑い躊躇している……そんな感じだね」

 

「ほっほ、ユエはいい仲間に巡り会えたようじゃ。これからもあの子の友でいてくれると助かる」

 

「もちろんです!」

 

「いつだって、俺達はユエと友達ですよ!」

 

たとえレイさんの頼みがなくたって、ユエとは友達で居続ける。

 

その後、俺達はリンナちゃんの提案でルーフェンの伝統服を着て、ユエにルーフェンの武術の師事をお願いした。最初驚いた顔をしたが、すぐに笑って引き受けてくれた。ただ……教わる事にあっさり習得して応用、新しく技を考える自分にも葛藤した。

 

ユエの事も気がかりだが……自分自身の事をまずはどうにかしなければ始まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー

 

俺は日が沈んだら皆に断りも入れず、夕食も食べずにすぐ三岩窟に向かって行った。自身の問題に皆を巻き込みたくはない。

 

「ここか……」

 

《どうやらそのようです》

 

しばらくして目的地に到着した。目の前には3つの入り口がある洞窟があった。

 

「三岩窟の西側……左の方か」

 

《マジェスティー、洞窟の入り口を》

 

レゾナンスアークが入り口にある台を見つけた。近寄ってみると台の上にアームバンドと角の取れた四角形のデバイスのような物があり、デバイスにはベルカ式の魔法陣が刻まれてあった。

 

バンドを付けると魔力結合ができなくなった。どうやらAMFと同じ効果が出るらしい。気を引き締め、俺は三岩窟の西側のルート……心の道に足を踏み入れた。

 

《ブレイドモード》

 

「……………………」

 

武器だけを展開……刀を腰にさし、前に進んだ。洞窟の中は照明で照らされており、地元の人が使用しているのがうかがえる。

 

「さてと、そろそろ何か出てきてもおかしくないけど……」

 

その時、奥の通路から何か巨大な物が出てきた。

 

「うっわぁ〜……」

 

いわゆるスライムみたいな感じだが、魔導的に見れば液状型の人形だ。

 

「こういう時は核を探して……」

 

抜刀の構えを取り、神経を研ぎ澄ませる。

 

「せいっ!」

 

地を踏みつけ一気に接近し、スライムを細切れに斬り裂く。そして宙に浮いた核を斬撃を飛ばして真っ二つにした。

 

「よし、行くか」

 

その後にもスライムの襲撃はあったが、大した脅威ではなく。あっさり退けて奥に進んだ。

 

「照明が点いていない? ここからが暗星行路か」

 

《どうやら暗闇の魔法がかけられているようです》

 

お先真っ暗とはこの事であり、小さいながらも魔力球で明かりを点けたが奥まで照らせなかった。とりあえずまっすぐに進んでみると……すぐに行く手を大岩が塞いでいた。

 

「うーん、これ砕くと崩落の危険もあるし……迂回するか」

 

横道を通り、地図を作りながら出口を目指した。しばらくして少し大きめな場所に出ると……横から何かが飛んできて明かりの魔力球を破壊された。

 

「ッ……⁉︎ 気配は無かったぞ!」

 

《レーダーが使用不能、目標を感知できません》

 

次の瞬間、全方向から飛来音がすると……全身が斬り裂かれた。

 

「ぐあっ!」

 

なんとか受身をとるが、敵が見えないのでは手の出しようがない。いつもの魔力による探知は使えない、気配も感じ取れない………絶体絶命だ。

 

(何か、何か手は!)

 

またも飛来してくる攻撃にギリギリ対処しながら打開策を模索する。

 

「つっ……!」

 

《マジェスティー!》

 

とうとう膝をつき、刀を支えにして立つ事しかできなくなった。

 

(ここで……終わってしまうのか?)

 

【あるがままに、己を、自然も、受け入れ……収めてしまえばいい】

 

走馬灯のようにレイさんの言葉が頭をよぎる。

 

(それができないから……)

 

【認めろ、自分も周りも。目を背けるな、否定するな……お前はお前なんだからーーー】

 

「!」

 

今まで聞いた事のない男性の声、だけど……なんでだろう、安心できるような、信じてもいいような、そんな感じがする。その時、また飛来音が聞こえ、次の瞬間……

 

キンキンキンキンキンキンッ!

 

飛来してきた物体を全て斬り落とした。

 

(なんでだろう……この感覚。暗闇なのに、全てが見える……感じ取れる)

 

《マジェスティー?》

 

また飛来音がすると同じように斬り、そして飛来してきた先ににあった物体を斬り裂いた。

 

「なるほど、この装置で圧縮した空気を音も無く発射したのか……」

 

本来なら見えないはずなのだが、把握できる……世界が見えている。

 

(聖王でもルーフェンでも、結局は俺なんだ。まずはありのままの自分を認める事が先……そうだよね? 父さん)

 

手の平を見て、拳を握った後、迷わず道を歩いて行く。進んで行くとまた同じ装置が出現し、攻撃して来た。

 

「シールドビット」

 

《イエス、マジェスティー。シールドビット、イグニッション》

 

左右に菱形のコアを核に魔力で作られた盾が2つ展開する。全方向から襲ってきた攻撃をシールドビットで防ぎ、全部の装置に斬撃を放って沈黙させた。ビットの操作が思うように動く、直感が先読みして体が動いているようだ。それからしばらくして暗星行路の出口に出た。

 

「ふう、やっと出られた……」

 

「よう来たの」

 

そして……正面の地面に禅を組んで座っていたユンおじいさんがいた。

 

「暗星行路から抜けられたという事は、理解したようじゃな」

 

「はい、ようやく……自分の意志で前に進むことができました」

 

「結構、じゃが……」

 

ユンおじいさんはそばに置いていた刀を手に取って立ち上がると、強烈な気を俺に向けてきた。

 

「ッ……!」

 

「ワシを退けなければ心の試練、突破できると思わんことじゃな」

 

「……はい、その胸お借りします!」

 

「ーー行くぞ。八葉一刀流総師範……剣仙ユン・カーファイ、参る!」

 

ユンおじいさん……ユン老師が一瞬で接近し、高速で刀が振られるが……先ほどから続いている感覚で受け流し、流れるように斬るが、後退して避けられた。

 

「ふむ、すでに六徳(りっとく)を習得しているの」

 

「六徳……?」

 

なんの事か分からないが、また同じように消え……後ろからの攻撃を確認しないで直感で防いだ。

 

「六徳とは五感を極限化したものが第六感の感覚、すなわち勘じゃ……六徳は数の単位、刹那の10分の1」

 

ユン老師は刀を振りながら説明する。手と刀が見えない速度で何度も斬りかかってくるが、その度にまさしく直感が先に反応し……それに対応して体が先読みして動く。

 

「どうやら虚空にも半歩踏み入っているようじゃ、どれ……」

 

ユン老師は刀を弾くと一歩下がり……先ほどと比べ物にならない速度で突きを繰り出した。

 

「ぐうっ!」

 

ギリギリ受け流したが、首すれすれに刀がある。本気の殺す気の突きだった。

 

「虚空は六徳のさらに10分の1……すなわち刹那の100分の1、大抵の達人の攻撃に対応できよう」

 

「というか……殺す気……ですか……!」

 

「何、心配いらん。おぬしに渡した防護装備があるじゃろう。あれがあれば滅多なことでは怪我はせん」

 

「すでに滅多なことが起きているんです!」

 

触っていないから確証できないけど、さっきから突きに掠った首筋から何やら生暖かいのが流れている感触がある……絶対に血だ、到底信用できない。

 

「ほれ、見切れなければ死ぬぞ……紅葉切り」

 

正面からユン老師が消え、気配は背後にあったが……すれ違いざまに凄まじい剣を何度も斬りかかってきた。

 

「ぐう……はあああっ!」

 

前と右からの攻撃を刀で防ぎ、左と後ろの攻撃はシールドビットで防ぎきった。そしてビットを操作し、ユン老師の左右を塞ぎ……

 

「飛円環!」

 

鋭い弧を描きながらユン老師に飛びかかり、一回転しながら縦360度に魔力斬撃を放った。

 

「ほっ」

 

予想通りユン老師は攻撃を防いだ。

 

《モーメントステップ》

 

空を蹴って地面にスレスレまで身を伏せて抜刀の構えを取る。

 

「雷噛!」

 

ユン老師の刀と腕を狙い、剣筋を稲妻状に放った。

 

「甘いは!」

 

老師それをギリギリで避けると、一瞬で刀を納刀し……

 

「伍の型、残月!」

 

「かっ……!」

 

神速の抜刀が胴を斬り、衝撃で吹き飛ばされた。

 

「かはっ、ごほごほ……」

 

息を吐いて衝撃を体内から逃す。だが傷がないのに腹部の痛みが消えないし意識が朦朧とする。昔、似たような経験がある……DSAAのクラッシュエミュレートだ。今まで軽傷で反映されなかったが、さすがに今の一撃はクラッシュエミュレートに入ったようだ。

 

「限りなく実戦かよ……」

 

《腹部の裂傷から出血及び移動制限が発生しています》

 

「くっ……」

 

「何をしておる、まだ終わってはおらんぞ。早う立て」

 

左手で腹部を抑えながら立ち上がる中、ユン老師は御構い無しにそう言った。

 

「ここで達しなければそれまで……だが抗うのならーー」

 

老師は無納刀状態で抜刀の構えを取り、体から剄が静かに奔る。

 

楓葉切り(ふうようぎり)……さあ、見せてみよ……!」

 

ユン老師が地を静かに踏み込んだ。次の瞬間、俺は無数の斬撃に襲われ……倒れる、いや……防護装備を超えて命が斬られるだろう。だけど……諦めない、最後まで抗い、喰らい付いてみせる……!

 

(受け入れろ、自分を、世界を、あるがままに……否定するな、森羅万象、全てを認めろ!)

 

「う、うおおおおおぉぉっ‼︎」

 

直感をユン老師だけではなく、全方向に……世界に向けた。その瞬間……神速の見えなかった刀が感じ取れた。放たれたユン老師の楓葉切りは全方向から俺に迫っていた。

 

今なら……届く!

 

全方向から来た斬撃を右肩から腕まで剄で強化しながら爆発的に動かし、全て叩き落とす。側から見れば滅茶苦茶に振っているように見えるが、ちゃんと理のある剣筋である。

 

最後の剣筋を弾いた後、ユン老師に接近する。老師がどう反撃、防御するのがわかる。そして防御が及ばない場所に……

 

虚空千切(こくうちぎり)っ‼︎」

 

防御できない部分全てに繋げるように刀で軌跡を描いた。そしてすれ違い、お互いに背を向ける。

 

「うっ……」

 

老師の剣は全て防ぎ切ったが、体がついてこれなかった。不幸中の幸いは剣筋を落とすために複雑な動きをしたが、重心が安定していたから負荷が少なかった……今更ながらに感謝する。

 

「ほっほ、至ったの……虚空に」

 

「はあはあ、はい……」

 

「それにしても容赦なく斬ってきたの。もう少しご老体を労っても……」

 

「冗談言わないでください!」

 

手を抜いたら一瞬でやられるわ!

 

「ほっほっほ……」

 

ごまかすように笑うと奥に進んで行く、まるで疲れていないよあの人。

 

「ほれ、早よ来い」

 

「……その前にクラッシュエミュレートを切ってください……」

 

「おお、そうじゃったな」

 

ようやくクラッシュエミュレートがなくなり、腹部の痛みが消えるが……首筋の傷は本物、今思うとゾッとする。

 

死に体を引きずりながらユン老師について行くと、洞窟の出口が見えて来た。外から月明かりが射し込んで、綺麗な光をみて心がようやく安らぐ。

 

「ここは天声の間、他の道とも繋がっている場所じゃ」

 

「そう……ですか」

 

はっきり言って喋るのも辛いのだ。無理に動かした体が悲鳴をあげている。虚空に体がついて行けなかった……もっと修行しないと。

 

「あの……老師?」

 

「ん、なんじゃ?」

 

「八葉一刀流と言いましたよね。失礼ながら、その流派もユン老師の名前も聞いたことがないのですけど……」

 

「そりゃそうじゃ、八葉は作られてから40年は経っているが……まだ一度も後世に伝えてはおらん」

 

「それは、なぜ?」

 

「さあの? 完成に納得せんかったのか……ま、そろそろ教えても良かろう。おぬしが最初の弟子になるか?」

 

「いえ、俺はまだまだ未熟ですが……もう師はもういます」

 

それは士郎父さんであり、ソフィーさんでもある。あの2人は俺の最高の師匠だ。

 

「そうか……お、誰か来よったな」

 

「え……」

 

老師がそう言うと、確かに段々と数名の人が近付いて来ていた。

 

「どうやら迎えのようじゃの」

 

「あ、あはは……」

 

心当たりがあり、乾いた声しか出ない。時間を見るともう夜の9時だった。激しい足音が近付いて来て……

 

「ようやく出れた!」

 

「なんだったのよ、あのゴーレムは」

 

「ぷはー! 息が詰まるよー」

 

3つの道からバラバラでVII組の皆がここに集まってしまった。

 

「あー! レンヤ君、いた!」

 

すずかが叫ぶと皆が俺を見た。しかし、傷とユン老師を見て身構える。

 

「あなたがレン君を攫ったの⁉︎」

 

「落ち着いてなのは、決め付けはダメだよ」

 

「それでも、レンヤ君が傷だらけや……!」

 

「皆気を付けて、凄まじく強いよ」

 

「ゴーレムで道を塞いだのもこの人?」

 

「おそらくね」

 

なんだか、かなり誤解しているような。と、そこでユエが……

 

「待ってください。この人は敵ではありません」

 

「え?」

 

「そうなんか?」

 

「ユン老師、お久しぶりです。旅からお戻りになられたのなら一言言ってくれれば……」

 

「ほっほ、流浪に無茶を言うな」

 

「えっと、ユエ?この人は……?」

 

「このご老人は八葉一刀流の総師範、剣仙ユン・カーファイです」

 

「よろしくの」

 

「よろしくって……レンヤに何したのよ!」

 

軽く挨拶するが、アリサは俺の傷についてユン老師に追求した。

 

「誤解だアリサ、ユン老師は俺に稽古をつけてもらったんだ」

 

「だからって……!」

 

「ユン老師は迷ってしまった俺に歩き方を教えてくれたんだ、ちょっと過激だったけど……」

 

「……いいは、確かに温泉の時から変だったし」

 

「うん、でも今のレンヤはいい顔をしているよ」

 

とりあえず納得はしてくれたようだ。

 

「それで、皆はどうやってここに?」

 

「レンヤが夕食になっても来ないから皆で家を探してたんだけど見つからなくてね、それで外を探そうとした時にレゾナンスアークから救難信号が届いたんだ」

 

「それでここまで来たってわけ」

 

「そうか……迷惑をかけたな」

 

《いえ、マジェスティーの戦いに水を入れてしまいました》

 

「はは、いいさ。お前は最高の相棒だ」

 

《感謝します》

 

「全くレンヤったら……」

 

アリシアが困り顔で治癒魔法をかけてもらった。

 

「さて、ここにいる全員が望む望まずしても試練を突破したわけじゃ。己の長所や足りない部分も多く見つかったはずじゃ……」

 

ユン老師がそう言うと、心当たりがあるのか皆ハッとなる。

 

「各々が理解したはずじゃ、これからも研鑽せよ……己が道を歩むために」

 

『……はいっ!』

 

仕組まれていたみたいだが、それでも俺達に何か伝えようとしてこうなったのかよ。

 

その後、洞窟を出てユン老師と皆と一緒にタンドラ家に帰って行った。そういえば結局、父の事を聞いていなかった。帰ったら聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三岩窟から帰って来た俺達は、治療をーー特に俺がーー受けて。軽い食事を取って体を休めた。

 

「はあ……つ、疲れた……」

 

「とんだ旅行だな。どうやらテオが仕組んだようだが……」

 

「いや〜、レイ師範に提案されちまってなぁ。レンヤはかの剣仙直々に見てくれるっつうから受けちまったんだよ」

 

「せめて私達に一言くらい入れてもいいのでは……」

 

「やめなさいフェイト、この人に言っても聞きやしないわ」

 

「じゃが、いい修行になったろ?」

 

「それは……まあ」

 

「納得はしていないけど……」

 

「すみません皆さん、おじいちゃんとユン老師がご迷惑を……」

 

「別に気にせんでええよ」

 

俺達の為とはいえ、微妙に納得しないようだ。だが皆はあの三岩窟で何か掴んだみたいだ。

 

「…………………」

 

「お兄ちゃん? どこか怪我でもしたの?」

 

「……大丈夫、心配してありがとう、リンナ」

 

思い詰めるユエはリンナの頭を撫でる。おそらく……昼にレイさんから聞いた話に関係があるのだろう。

 

「あ、そうでした。レンヤさん、裏庭でおじいちゃんが呼んでいます、お一人で行ってくれませんか?」

 

「レイさんが?」

 

「まさか……また……」

 

「大丈夫です! ちゃんと私が釘を刺しておきましたから!」

 

「それなら、いいかな?」

 

「俺も大丈夫だと思うし、行ってくるよ」

 

「うん……」

 

皆に手を振って部屋を出てしばらくしたらいきなりなのは達が騒ぎ出した。

 

「……アリサちゃん、さっき洞窟で温泉の時からってどう言う事かな?……」

 

「……そ、それは……」

 

「……そういえば昨日の夜にフェイトと一緒に温泉に入っていたよね?……」

 

「……確か夜の露天風呂は混浴……まさか、レン君と?……」

 

「……ち、違うよ。レンヤと一緒に温泉に入っていないよ!……」

 

「……アウトや! 何があったかキリキリ喋って……」

 

遠すぎてあんまり聞こえなかったが、気にせず裏庭に向かった。到着するとそこにテーブルとイスが置いてあり、そこにレイ老師が茶を飲んでいた。

 

「呼び立ててすまんの、レンヤ君」

 

「いえ」

 

俺は特に気にせず対面に座った。

 

「レンヤ君、君は私に聞きたい事があるんじゃないかい?」

 

「……はい、俺の父……シャオ・ハーディンについて教えてください」

 

「よかろう」

 

茶を一口飲むと、静かに話し始めた。

 

「シャオは華凰拳始まっての天才じゃった。一度教わり、覚えた技は一瞬で習得し、応用する並外れた力を持っていた。普通なら強さゆえに傲慢な性格になると懸念されていたが……シャオは努力を惜しまず、周りを巻き込んで師事をしていた。月日が経っても優しいシャオのままで、そして……ミッドチルダに留学、レルム魔導学院に入学した。そこでーー」

 

「お母さん……アルフィン・ゼーゲブレヒトと出会った」

 

「さよう、それからどういう経緯で婚約、レンヤ君を産んだのかはワシにもわからん。いきなりアルフィン君と一緒に失踪したと連絡が来ただけじゃ」

 

「そうですか……」

 

思っていたのと違うけど……お父さんの事が知れて良かった。

 

「してレンヤ君、ユンから聞いたのじゃが虚空に至ったのじゃな?」

 

「え、ええ、まあ……あんまり自覚ないですけど」

 

「そうかそうか、神撃の領域に入ったか」

 

「神撃?」

 

「少し見せてもらえんかの?」

 

妙にごまかされたが、一応了承し。席を立って向かい合う。

 

「……………………」

 

静かにあの感覚を呼び起こすと……老師が拳を放ってくるのがわかった。

 

「うむ……まあよかろう」

 

「ふう、いきなりですね」

 

ユン老師とも引けを取らない速度で一気に距離を詰めてられるも、冷静に拳を受け止め、嘆息する。

 

「六徳は攻撃が放たれて刹那に反応するに対し、虚空は放とうとする以前から刹那に反応する境地……いわば予知の類いじゃ」

 

「確かに、そうですね」

 

「レンヤ君が異界に、怪異に関わっていくのならこの先の道は煉獄……後戻りは出来んぞ?」

 

「そうかもしれません、でも……自分が選んだのなら、自分の本当の意思が選んだのなら……俺は、後悔しません」

 

「ほっほ、その目。シャオにそっくりじゃ。お主の道の果て、遠き異郷の地で見守っておるぞ」

 

「はい!」

 

「それとユエとリンナには今のことは内緒にな、怒られるから」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

帰り支度を済ませた後、俺達は一昨日来た駅の前にいた。

 

「もう出発するのですか?」

 

「はい、予定よりも少し遅れてしまいましたが」

 

「叔父上、元気で」

 

「本当にお世話になりました」

 

「気を付けての」

 

「すみません、もっと皆さんにごゆっくりして欲しかったのですが……」

 

昨日のことを気にしているのかシュンと身を縮めるリンナ。

 

「平気だって昨日も言ったろ、むしろいい経験になったんだから」

 

「テオ教官は調子に乗らないでください」

 

「まあ、得難い経験だったのは確かだったよね」

 

「そういえば、ユン老師はどこに?」

 

「えーっと、ユン老師は……」

 

「ヤツなら半刻前にルーフェンを出たぞ」

 

レイ老師が言い忘れていたような口ぶりで言う。

 

「そうですか……」

 

「放浪癖があるとは聞いとったけど……自由過ぎるやろ」

 

「ある意味らしいといえばらしいけど」

 

少々、ユン老師に呆れるも、実りのある小旅行になった。

 

「…………………」

 

「ユエよ」

 

「はい」

 

「昨日の話……聞いておったろ?」

 

「はい……」

 

おそらく、昨日の昼食の時の話しだろう。かなり気まずい空気になる。

 

「えっと……」

 

「その、ごめん! 本人がいない場所で聞く話しじゃなかったよ……」

 

「いえ、私が未熟なせいでもありますので」

 

「ユエ……」

 

「して、お主の答えは出せたかの?」

 

「1つの答えも見出せてはいません……ですが、彼らと、VII組の皆さんと一緒なら。いつかは超えられると信じています。今の自分と、昔の自分に」

 

ユエは迷っていながらもはっきりとそう言った。

 

「はは、なら……ちゃんと言ってくれよ。手伝って……てな」

 

「遠慮なくどしどし頼ってよね!」

 

「僕もユエにお世話になっているし、恩返ししたいから」

 

「皆さん……ありがとうございます」

 

「ほっほ、いい仲間を持ったの。道は共に歩めば延々と伸びて行くものか……」

 

レイ老師は懐から白い長方形の箱のような物を取り出した。

 

「それは……!」

 

「天剣クォルラフィン……ユエと同じ武具の籠手と甲掛にしておる。手にするかはお主次第じゃ」

 

「……いつか、必ずファルマシオンに限界が来ることは重々承知です。そうなっては皆さんの足手まといになるだけ……ですが、掴めば解決する方法が目の前にあっても、私は……」

 

「ユエ」

 

俺はクォルラフィンを取るとユエの前に出る。

 

「俺はユエのことを絶対に足手まといなんて言わない。むしろ俺を足手まといにしてほしい、完全な差をつけられてな」

 

「その天剣はユエのお父さんから奪ったんじゃないよ。受け継がれたんだと思うんだ」

 

「ユエが天剣を選ぶんじゃない、天剣がユエを選んだと思うよ」

 

「……全く、そうまでして天剣を掴ませたいのですか」

 

呆れ顔になりながらも俺の手から天剣を受け取った。

 

「後悔しないでくださいよ」

 

「ああ!」

 

「ライバルが強くなるのなら大歓迎だよ!」

 

その光景を、離れた場所でテオ教官とフィアット会長とエテルナ先輩が見ていた。

 

「こりゃ大変なことになりそうだな」

 

「はい、そうですね!」

 

「ふふ、別れの前にいい思い出をありがとうございます……皆さん」

 

「お兄ちゃん、良かった……」

 

「ほっほ……それにしてもサーヴォレイドか。いやはや、偶然か……もしくは……」

 

色々な事があったがルーフェンに別れを告げ、俺達はミッドチルダに帰って行った。

 

 



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94話

 

 

10月21日

 

学院祭準備期間ーー

 

小旅行に戻ってきた俺達は数日分の遅れを取り戻すために寝る間も惜しんで準備を進めた。

 

ちなみに魔法訓練の授業で、天剣を使ったユエはまさしく無敵だった。これでリヴァンにもせめて剄に耐えられるデバイスがあればいいんだが……

 

話を戻して……現在、本来ならすでに1限目が始まっている時刻にVII組のメンバーも含め、1、2年の学生達が正門前に集まっていた。それと向き合っているのは学院祭実行委員と生徒会だった。

 

「コホン、皆さん、本日は天気も良く、絶好の設営日和となりました先月から準備を進めて待ちに待っていた人も多いんじゃないと思います」

 

フィアット会長は腕を空に振り上げ、高々と宣言した。

 

「それでは、これより学院祭の各種準備・設営を始めます!期限は今日と明日の2日……明日の深夜は“なるべく”作業を持ち越さないようにしてくださいね。皆、ケガをしないように元気に張り切って頑張ってください!」

 

『おおっ!』

 

フィアット会長の言葉に、一同大きな声で返事をした。

 

さっそく各クラスが催しの準備を開始した。この期間中は生徒の学院と街の往来が激しいためか、各場所に教官がいて生徒達に目を光らせていた。

 

俺達VII組もさっそく準備を開始した。

 

「さあ皆、さっそく準備を開始しよう!」

 

「「「おおっ!」」」

 

すずかの掛け声になのはとアリシアとはやてが返事をした。

 

「おう、やっているな」

 

そこに、テオ教官が教室に入ってきた。

 

「ほら、言われた通り必要事項の記入をしておいたぞ。後はサッサと搬入することだな」

 

「ありがとうございます。ただ、もうちょっと早くして欲しかったですけど」

 

すずかがジト目でテオ教官を睨みつける。

 

「い、いや〜俺も結構暇じゃなくて……」

 

「……………………」

 

「……すいませんでした……」

 

「コホン、まあそれはいいとして、後は……」

 

「衣装が届くのが今日の夕方……それまで各自、教室の飾り付けや準備を進めよう」

 

「各個人の部活もあるし、できるだけ早く終わらせましょう」

 

「うん、学院祭なんだから協力しないとね」

 

「レンヤはフィアット会長から課外活動を受け取っているのでしたね?」

 

「ああ、本来なら今月はアリシアなんだが忙しいみたいでな。それに相当忙しそうだし力になれればいいと思ってさ」

 

「俺も見回りをしているから、何かあったら呼べよ」

 

「それと衣装が届いたら連絡するんよ。今日中に衣装合わせだけはしておきたいからなぁ」

 

そして一旦解散となり、俺は正門付近にいたフィアット会長を見つけ、依頼を受け取ろうとした。

 

「それじゃあ、お願いするね」

 

「はい、任せてください」

 

フィアット会長から今月の依頼の入った封筒をもらった。依頼を見ると、全部学院祭関連のものだった。

 

「学院祭関連ばかりですね。それに、ルキュウの商店街も随分協力してくれていますね?」

 

「うん、毎年恒例なんだ。ラジオ局ともちょっとしたタイアップなんかもしてくれるし」

 

「判りました、ルキュウ方面もなるべくフォローしておきます」

 

「うん、お願いね。あ、でも喫茶店の方も疎かにしちゃダメだよ?クー君から聴いているけど、かなり大変なんでしょう?」

 

「物資や機材が到着するまでの少しの間、こうして手伝うだけですよ。まだそこまで忙しくはないです。その……エテルナ先輩も来てくれるんですよね?」

 

「あ……」

 

そう質問すると、困った顔をして考え込んでしまった。

 

「……すみません、やっぱり無理そうですか?」

 

「ううん、何度か連絡は取っているんだけどまだなんとも言えなくて……ルナちゃんの事だから心配はいらないと思うけど」

 

「そうですか……」

 

「大丈夫だよ、ルナちゃんは絶対に約束は破ったりしないから。グロリア君だって、クー君だってレンヤ君だっているし……だから、ルナちゃんが来た時に思いっきり楽しめるようにお互い頑張ろう? レンヤ君のお菓子を食べさせたり、学院祭を成功させることで」

 

「……判りました。腕によりをかけて、全力でやり切ってみせます。会長にも格好悪い所は見せられませんし」

 

「あはは……うん、頑張ってね!」

 

「フィアット会長〜!」

 

その時、慌てて生徒会の役員がフィアット会長の前に駆け寄った。

 

「すみません、発注した資材の到着が遅れるらしくて……!」

 

「このままだと設営進行に支障が……!」

 

「わかった、スケジュールの組み換えを検討するよ!ごめん、レンヤ君。喫茶店、頑張ってね!」

 

「はい……!」

 

フィアット会長は役員と一緒に走って行った。

 

(俺も負けていられないな……よし!)

 

気持ちをしっかりと切り替え、依頼以外の手伝いを積極的に手伝った。

 

途中、ルキュウに流れる川の主を釣ったり。各部活の手伝いなどをした。

 

ピロン、ピロン!

 

ある程度依頼を片付けて、ソアラさんから資材と機械の到着の連絡をもらい。一旦教室に戻ろうとした時、買い替えたばかりのMIPHONに着信が入った。

 

「(はやてか、何かあったのか?)もしもし、どうかしたのか?」

 

『レンヤ君、実はトラブルがあったんや。衣装の到着が遅れるそうなんや。急いでも明日の午前中になりそうってさっき連絡をもろうてな』

 

「そうか、ちょっと痛いな。今日中に衣装合わせをしないと集中できなさそうだ」

 

『そうやな、そこでや。レンヤ君、ちょっと行ってきて直接取ってくれへんか?』

 

「え……確か、クラナガンにあるブティックに全員分を頼んでおいたよな?」

 

『そや、本店にいる職人に手がけてもろうてる。夕方に完成するらしいんやから直接受け取ればええ。本当は私が行きたかったんやけど、ちょうど資材と調理機器が到着してなぁ、手が離せないんよ』

 

「なるほど……判った。となると、すぐに駅に向った方がよさそうだな。下手したら夜になりそうだし」

 

車は1月前のスクランブルでグリードに安物とはいえお釈迦にしてしまったし……一応、異界対策課の車が技術棟にあるにはあるが、今は運悪くメンテナンスしていて。学院祭もあって進んでいないと思われる。

 

『ならちょうどええ。すずかちゃんに頼んでおいたから、後で技術棟に向こうてな。どうやら一昨日バイクが完成したらしいんや』

 

「それで向かえと?まあ……すずかが作った物だし、首都に向かうのならバイクの方が早いが……」

 

『ならお願いな、すずかちゃんに頼んでサイドカーをつけてもろうたから、できれば1人、手伝いを連れて行くとええ。11人分の衣装や、かなりの荷物になるしな』

 

「それもそうか……判った、任せておいてくれ」

 

『あんがとな、レンヤ君。喫茶店の方は私達がなんとかするから頼んだで』

 

ピ………

 

(よし、一通り用事が済んだら技術棟に行こう。すずかに声をかけてバイクを借りないとな)

 

そこでふと気がついた……

 

(資材が到着したのならVII組のメンバー誘えないよな……)

 

そう思ったが、すずかをそのまま誘えばいいと思い技術棟に向かった。

 

技術棟、第一研究室に着くとグロリア先輩がV組の生徒に機器の使い方の指導をしていた。

 

「やあ、レンヤ。はやてから話は聞いているよ。最終チェックも済ませてあるから自由に乗って行くといい」

 

「すみません。ありがたく使わせてもらいます」

 

「はは、僕は手助けしただけですずか君が作った物だし。遠慮せずに使ってくれ、今すずか君もいるから会って行くといいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ーーそれで、ここの表示でエラーになる場面だけど……」

 

「は、はい。一体どうしたら……」

 

お礼を言うとまた説明を再開した。隣の部屋に行くと、サイドカーが取り付けられたバイクにすずかがいた。制服の上を脱ぎ髪をポニーテールにしており、ジッとバイクと睨み合ってい作業をしている、相当集中しているようだ。

 

「すずか」

 

「わひゃぁ⁉︎」

 

後ろから声をかけると悲鳴を上げながらポニーテールを逆だたせ、その場で飛び上がった。

 

「レ、レンヤ君⁉︎」

 

「驚かせてごめんな、はやてから連絡はもらっているよな?」

 

「あ、うん。メンテナンスは終わったからいつでも出られるよ」

 

「ありがとうな。それと一緒にお願いしてほしい事があるんだ」

 

「え、何?」

 

「このまま付き合ってくれないか?」

 

「え⁉︎」

 

衣装を一緒に取ってくるのをお願いすると……すずかはみるみる顔を赤くする。

 

「ええっと……それってつまり///」

 

「クラナガンに向かって衣装を取りに行くんだ」

 

「……ああ、うん。わかってたよ……わかってたけど……」

 

今度は顔を暗くして何やら小言を言っている。

 

「えっと……都合が悪いなら断ってもいいんだぞ?」

 

「ううん、大丈夫だよ。すぐに行こう」

 

「そうか」

 

すずかはポニーテイルはほどき、制服を着て身支度を済ませた。俺はバイクに乗り、すずかはサイドカーに乗り込み、エンジンをかけてガレージを出て、クラナガンに向かった。

 

「うーん……風が気持ちいいね。サイドカーのシート乗り心地もこだわって良かったよ」

 

「確かにな。それにこうやって飛ぶ以外で風を受けるのもいいもんだな」

 

「そういえば、衣装って結局どうなったの?」

 

「特に旅行の案以降手は加えていないし、心配するような事はないと思うぞ。はやてに任せたけど、発注時のデザインはチェックしたし」

 

「ま、まあ喫茶店の衣装だし。露出が高かったら返っておかしいからね。さすがにはやてちゃんはそこまでしないよね」

 

「……………………」

 

「レ。レンヤ君⁉︎ 何でそこで黙るの〜?」

 

「はは……(まあ、高くないだけで。全くないわけじゃないからな)」

 

それから数時間して、クラナガンにある発注を頼んだブディック店に到着した。その時にはすでに日は沈みかけており、夕方の日が街を照らしていた。

 

「悪かったなぁ。わざわざ取りに来てもらって。だが、その分満足のいく仕上がりになっていると思うぜ」

 

相手も悪いと思っていたのかオーナーが直々に出て来た。

 

「そうですか……楽しみです」

 

「こちらこそ、こんな短期間での製作をありがとうございます」

 

「なに、前に異界対策課のルーテシアちゃんにはお世話になったからな。これぐらいの恩返しは当然だ」

 

と、そこでオーナーがすずかを見た。

 

「そういや、あんたがフロントのお嬢ちゃんかい? スリーサイズは聞いていたが……こりゃあ、デザインと相まって凄い破壊力になるかもしれんなぁ」

 

「そ、それって……レンヤ君、本当にどんなデザインなのぉ?」

 

「ま、まあ……帰ってからのお楽しみって事で」

 

ジト目で見られてあせるも、なんとか先送りにしてごまかす。

 

先に男子の衣装を受け取り、店の前ですずかを待っていると……

 

「お兄さん」

 

「ん?」

 

声をかけられ、横を向くと。中学生くらいの黄色い髪と翡翠の瞳をした少年がいた。

 

「お兄さん、もしくて神崎 蓮也さん?」

 

「ああ、そうだが」

 

「やっぱり! どこかで見た顔だと思ったんだぁ」

 

少年は俺と偶然に出会えて嬉しかったのか、はしゃいでいる。

 

「君はここに何をしに?」

 

「ちょっと待ち合わせをね、姉さんが後でくるんだ」

 

「なるほど」

 

その時、店のドアが開けられてすずかがトランクを引いて出て来た。

 

「お待たせレンヤ君。あれ、この子は?」

 

「今会ったばかりの子でな、えっと……君の名前は?」

 

「僕はコルディ。よろしくね」

 

「よろしくね、コルディ君。私のことはすずかって呼んでね」

 

「俺もレンヤでいいぞ」

 

「うん、ありがとう。すずかさん、レンヤさん。 お2人の方は、そんなトランクを2つも抱えてどうしたんですか? あ、もしかしてデートですか?」

 

面白そうにコルディが言うと、すずかが慌てふためく。

 

「そ、そんなんじゃないよ!///」

 

「実はな……」

 

俺は喫茶店の衣装を受け取りまし来た経緯をコルディに説明した。

 

「へえ、学院祭で喫茶店ですか。 面白そうですね! 魔導学院ですか……予定が入らなければ遊びに行けるんですが……」

 

「ああ、よかったら来てくれ。 お菓子には自信があるから」

 

「ええ、時間ができたら是非。それじゃあ僕はこれで失礼します。また……会えるといいですね」

 

コルディは店に入って行った。

 

「レンヤ君、私達も行こう」

 

「…………………」

 

「レンヤ君?」

 

「あ、いや……そうだな、そろそろ日も沈むし早く戻ろう」

 

2つのトランクをサイドカーに入れ、バイクの方に2人乗りで座り、ルキュウに向けて走り出した。

 

「……………///」

 

「すずか、大丈夫か?」

 

「う、うん! 大丈夫だよ///(レンヤ君がこんなに近くに……暖かい……)」

 

お腹に回された腕に力が入るのを感じながら、俺達は学院に向かってバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達が出てすぐにブディック店のドアが開けられ、コルディが出て来た。コルディは去って行くレンヤ達の背を眺めていた。

 

「……直接対面するのは初めてだったけど、僕だけじゃ全然歯が立たないや。改めて姉さんって凄いんだなぁ」

 

ピロン、ピロン!

 

その時、コルディのMIPHONに通信が入った。

 

「はいもしもし……ああ、クク? どうしたの………え、予定が変更してもう出発しちゃうの⁉︎ 全くドクターは人使い荒いなぁ。それじゃあ姉さんと合流したらすぐ戻るよ」

 

コルディは通信を切ると、レンヤ達の向かった方向を見る。

 

「学院祭に行けないくなったのは残念だなぁ………さぁて、バチバチ行くとしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行きと同じ時間をかけた走り続け、学院に到着する頃にはすっかり夜になっていた。

 

そして皆を呼び、ドームの更衣室で衣装合わせをした。

 

「ふうん……悪くはないわね」

 

ウエイトレス服とメイド服の中間のような紺色の衣装を着て、アリサはそう言う。全員、基本的なデザインは同じだが、微妙に細部が違っていた。

 

「うん、ちょっと露出は多いと思うけど良いと思うよ」

 

「うんうん、悪くないね」

 

「皆とお揃いなのもいい感じがするよ」

 

「ううっ……何だが落ち着かないよ……」

 

ファリンとはやてに連れられてやって来たのは、薄化粧をして髪を少しウェーブ気味にしたすずかだった。

 

「すずかちゃん、可愛いよ!」

 

「確かに、いつもとは別人みたいだよ」

 

「ぶっちゃっけエロいね!」

 

「うううっ……信じた私が馬鹿だったよ……」

 

「いや〜、ええ仕事としたんよ♪ さすがファリンさん。ここまで完璧とは驚きや」

 

「すずかちゃんのメイドとして当然です! 皆さんも可愛いですよ」

 

「へえ……皆予想以上に似合っているな」

 

そこに、着替え終わったレンヤ達が更衣室から出て来た。これも女子と同じくウエイター服と執事服の中間のような深緑色の衣装だった。

 

「あら、そっちもいいじゃない」

 

「皆、とても似合っているよ」

 

「なんかエセっぽいけど、悪くはないかな」

 

「皆も所々デザインが違うんだね?」

 

「まあ、期間ギリギリだったんだけどはやてがこだわってさ」

 

「このクラスの男子はイケメン揃いやからなぁ。癒し系のツァリ君、紳士なユエ君、ワイルドなリヴァン君、クールなシェルティス君、王様のレンヤ君、ステージならともかく接客となると男子も華があった方がええんや」

 

「なるほど」

 

「て言うか僕だけなんかおかしいような……」

 

「だが、お前が接客なんかできるのか? 経営というものは常にイレギュラーが付き物だぞ」

 

「それぐらい、レストランの手伝いをよくやっていたから問題ない」

 

2人はいがみ合いながらもいつも以上のやり取りはなかった。おそらく衣装の効果だろう。

 

「さて、レンヤ君がいない間に準備は進めとったんやけど……まだまだやることがたくさんあるでー」

 

「にゃはは、調理機器を設置する前に教室を隅々まで綺麗にするのに時間がかかっちゃったから、まだ座席や内装に手を付けていないんだよねぇ……」

 

なのはがバツが悪そうな顔をして笑う。

 

「はあ……今夜は帰れるかな?」

 

「あはは、後で全員分の夜食を持ってきますね」

 

「ファリンさん、そういう問題じゃあ……」

 

「まあ、とことんやりましょう」

 

「……はぁ……こうなったらあえて開き直って頑張るしか……(ブツブツ)」

 

「す、すずか……?」

 

「すずかちゃんが壊れた⁉︎」

 

「あはは……そっとしておこう」

 

衣装合わせも終わった所で動きやすい服装に着替え直してから、日付が変わるギリギリまで作業を進めた……明日に引き継いだ。

 

翌日ーー

 

準備期間、2日目。レンヤ達は朝早くから教室で飾り付けや準備を進めていた。一方、学院祭の各種準備もフィアット会長の指揮下で着々と進み……VII組のライバルでなるであろう各クラスの出し物についても万全な状態が整えられるのであった。

 

「……フフ、去年以上に今年は盛り上がりそうだの」

 

学院祭で着々と準備が進められる中、ヴェント学院長とイリード教官が生徒達を屋上から見ていた。

 

「ミッドを取り巻く霧は晴れぬまま東に暗雲が立ち込めているが……」

 

「それでも若者は若者らしく、熱き血潮を燃やすもの………いつの時代も同じでしょう」

 

「ハハ、そうじゃな。ワシにしてもう、貴方にしても、ミゼットにしても……レジアス君にしても、ソイレントの馬鹿者にしてもな」

 

「……ええ……」

 

その時、屋上のドアが開けられ、報告に来たテオが屋上に出てきた。

 

「見回り、行って来ました」

 

「ご苦労、テオ君」

 

「この調子だと、何とか夜までのに一通り完了しそうですね。あ、イリード教官。お疲れ様です」

 

「お疲れ様です、テオ教官」

 

「教官も飲食店関連で大変なのに、ここにいて大丈夫なのですか?」

 

「ええ、あらかた終わったので少し休憩を」

 

「ハハ、ここまで優秀だと、ドマーニ教頭には悪いが次の学院長は貴方を推薦させてもらおう」

 

「おお、確かにいいですね!」

 

「ふう……ご冗談を」

 

イリード教官はため息をつき、テオは苦笑した後、顔をシャキッとする。

 

「それで学院長、モコから何か報告は?」

 

「今のところは。 明日の学院祭には顔を出すと言っておったが」

 

「そうですか……管理局の方には特に何も情報は入っていませんし」

 

「いずれにせよ、あらゆる事が大きく動き始めているようです。そんな中でも、我々の使命は何も変わることはないでしょう」

 

「ですね」

 

「うむ、その通りじゃ」

 

ヴェント学院長は空を見上げると……

 

「覇王よ……それに聖王よ。若者達に勇気と加護を。そして無事、今回の学院祭をやり遂げられるように導きたまえ」

 

祈りを空に向かって呟いた。

 

レンヤ達の預かり知らない所で、多くの大人達が手助けしてくれていた事を……この時のレンヤ達は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

「や、やっと終わったぁ〜……」

 

「ほんと、疲れたよ……」

 

朝から教室内の内装の装飾を終えてlようやく一息がつけた。窓の外を見ると、もう10月に入ったので日が沈むのも早く、少し日も暮れていた。

 

「やり切った実感がありますね」

 

「ふう……久しぶりの労働だったよ」

 

「確かにそうね、最後に肉体労働をしたのは中学3年以来だったかしら?」

 

ああ、あれか。 異界に依頼人の叔母の形見が盗られたので探しに行ったのだが……形見が小さかったのとグリードがいたから夜までのかかったやつか。

 

「あはは……後は明日使う食材のチェックくらいかな?」

 

「そういえば、いつ頃に学院に来るんだっけ?」

 

「そうだな、そろそろ業者が届けに来てもおかしくないはずだが」

 

「一旦確認をした方がいいかもね」

 

「ほな、私が行って来るな」

 

はやてが確認の為、フィアット会長の元に向かった。

 

「さて、私達は内装の再確認をしておこう」

 

「そうだね、手伝うよ」

 

「なら俺達がやっておく。なのは達は休んでおけ」

 

「え、でも……」

 

「こういう事は男子の役目だからね」

 

「そういうこった」

 

「皆さんは休んでいてください」

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

アリサが喜んで了承すると、すずかを連れて教室の一角に置いたテーブル席に座った。

 

(それで……どうだったのよ?)

 

(ど、どうって……何が?)

 

(それはもちろん昨日レンヤと一緒にバイクに乗った事だよ)

 

(昨日聞きそびれちゃったけど、すずかちゃん。実際の所どうだったの?)

 

(それは……その、暖かかったというか……幸せな気分っていうか……)

 

(……いいなぁ、私もレンヤと一緒に行きたかったのに)

 

何やらコソコソと喋っているようだが、俺作業を進めた。それからしばらくして……

 

「た、大変や!」

 

はやてが息を切らせて教室に入って来た。

 

「はやてちゃん?」

 

「も、もしかして……何かあったの……」

 

「それが、私達の食材を搬入していたトラックが事故にあったらしくてな。 そのせいで荷台の冷凍機能もダメになったらしくて、はよう行かんと食材がダメになってしまうんや!」

 

「嘘でしょう⁉︎」

 

「ああもう、何でこう……毎度トラブルが起きるのよ!」

 

「とにかく、急いで行こう!」

 

「私が氷結魔法で冷凍するよ!」

 

「というか場所は?」

 

「クラナガン方面に一駅先のテーマパークの手前や」

 

「よりによって遠い……」

 

「車は人数的にも荷物的にもダメだから……」

 

「氷結魔法使う以上、バイクか最悪……徒歩だな」

 

「そんな〜……」

 

「嘆いてないで行くわよ」

 

念のため、フィアット会長に一言入れると。同伴としてクー先輩とテオ教官が付いて行くことになり、急いで数キロ先の駅まで急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈みすでに夜になってしばらく、準備を終えた学生が次々と寮に帰って行くが、まだ魔導学院に数名が準備を進めていた。

 

「フィアット、お疲れ様」

 

「あ、グロリア君。そっちもお疲れ様。難しそうな設営も何とかなったようだね?」

 

「ああ、大変だったけどね。その分、去年以上に楽しいものになりそうだ」

 

「そっか………………」

 

フィアットは嬉しそうに笑うと、少し残念そうな顔をして黙ってしまった。

 

「ルナのこと、心配かい?」

 

「……うん……絶対に見に来てくれるとは思うけど……テロや管理局の事もあって……ミッドチルダが大変な状況じゃやっぱり難しいかもって……」

 

「……そうだね。でも、どうしてかな? 僕は余り心配してないんだよね。ルナが学院の行事を取り仕切らないなんて……そんなこと想像もつかないから」

 

「グロリア君……うん、そうだよね……!」

 

と、そこでフィアットは何か思い出した。

 

「そういえば……VII組、レンヤ君達まだ帰ってこないね……何もないといいんだけど」

 

「資材搬入トラックのトラブルはこっちでも聞いていたけど……昼間機器の確認しに行った時は、内装はほぼ終わりかけていたから、喫茶店の方は大丈夫だと思うな」

 

「うーん、クー君が同伴で付いて行ったけど……ちょっと心配じゃない?」

 

「うん、言われてみれば」

 

「はは、ちょっと遅かったようだな」

 

テオの声が正門から聞こえてくると、大荷物を持ったレンヤ達と手ぶらのテオとクー、ファリンがいた。 荷物はバイクのサイドカーにも乗っていたが、大半の荷物は全部手で持って来ていたので、VII組のメンバーはずいぶんと消耗していた。

 

「レ、レンヤ君達⁉︎」

 

「見ているだけで重そうだね」

 

レンヤ達は一旦、教室に戻って荷物を調理スペースに置き。 用意したテーブル席に座って一息つく。 ファリンがお茶を淹れてくれ、喉を潤した。

 

「あ、ありえねえ……」

 

「……疲れた……」

 

「にゃはは……まさかバイクがガス欠になるなんてね……」

 

「急ぎすぎてむしろ酷い目にあったよ……」

 

「はあはあ……こんな長時間魔法を維持したのは久しぶりだよ……」

 

「ごめんなさい、すずか。あなたに任せっきりにして……」

 

「飛行魔法を何度も使いたくなったよ……」

 

「その度に止めるのが大変だったよ……」

 

全員が見るからに疲労しており、動くのも億劫そうだった。

 

「皆、大丈夫?」

 

「相当大変だったようだね」

 

「ええ……正直かなり」

 

「いや〜、ぶっちゃっけ付いて行かない方が良かったと思ったぜ」

 

「ですが、それでも手伝った割には……元気そうですね」

 

「やれやれ。 あんましだらしない顔をすんな」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

「でも、良かった。これなら明日が楽しみだよ」

 

「皆、外を見てごらん」

 

グロリアに言われて、レンヤ達は窓の外を見てみると……

 

「あ……」

 

「これは」

 

すでに飾り付けが済んでおり、明日の学院祭がいつでも開催できるようになっていた。

 

「……わぁ……」

 

「飾り付けが終わったのか」

 

「ふふっ……いよいよって感じね」

 

「クク、去年よりも更に盛り上がりそうじゃねーか」

 

「会長、グロリア先輩も、本当にお疲れ様でした」

 

「ああ、君達もお疲れ」

 

「ふふ、それじゃあ明日は大変だと思うけど、目一杯楽しんでね!」

 

フィアット会長に激励をもらい、レンヤ達は明日の学院祭に備えて寮に帰って休むのであった

 

 



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95話

 

 

翌日、10月23日ーー

 

『ーー学院生の皆さん、そして来訪者の皆様方。大変長らくお待たせしました』

 

学院祭当日、空には雲ひとつない快晴のこの日。 生徒達は校内で、来訪者は閉じられた正門の前で学院祭が始まるのを今か今かと待っていた。

 

『これより第113回、レルム魔導学院・学院祭を開催します! どうぞ心行くまで楽しんで、盛り上がってください!』

 

フィアット会長が開催を宣言し、生徒会のメンバーが正門を開ける。 すると、来訪者の人達が拍手と共に次々と学院に入って行った。

 

早速俺達は自分達の教室で営業を始めた訳なんだが……

 

「はい!特製パフェ二つできたで!」

 

「私もオムライス出来上がったの!」

 

「ツァリはパフェを、アリシアはオムライスを頼む!」

 

「り、了解!」

 

「は~い!」

 

「シュークリーム2つお願いします!」

 

「キッシュもお願いするわ!」

 

「待ってて、すぐに用意するから!」

 

見ての通り……滅茶苦茶忙しい。思った以上に皆の衣装の効果があったのか……それともエースというネームバリューで来ているのかは定かではないが。

 

「食器をお願いします」

 

「くっ……シェルティス! そっちは頼んだぞ!」

 

「言われなくても!」

 

事前になのはに基本的な接客の仕方を教わり、実際に何度か練習していたが……さすがに本番になると勝手が違うのか、最初はぎこちなかった。今は中と外の連携も取れておりスムーズに事が運んでいる。

 

それから昼のピークが過ぎて行き、ようやく客足が落ち着いてきていた。

 

「ふい〜……」

 

「大丈夫、姉さん?」

 

「つ、疲れたぜ……」

 

「ふう、予想以上に接客というは疲れるのですね」

 

「にゃはは、これも慣れていけば面白いよ」

 

「売れたのは嬉しいんやけど……ちょう食材がギリギリになってもうたよ」

 

「少し、街で買い出しに行かないといけないわね」

 

「なら、冷蔵庫の中を確認してくるんよ」

 

「レンヤ君は、次1時間休憩だよ」

 

「了解」

 

ようやく学院祭に参加できる。だか一応作り置きをしておいた。時間もないことだし手早く外にある屋台で昼食を食べておかないと……

 

「レンヤ君、待ってえな!」

 

「ん? はやても休憩か?」

 

「そや、ここで休んでおかんと気がもたへんわ。 今のうちに目一杯遊ばんとな!」

 

「そうか」

 

はやてと一緒に学院祭を回ることになった。正門前に出て見ると個人で学生達が開いている屋台が結構並んでいた。

 

「へぇ、本格的やなぁ」

 

「あそこのケバブがいいんじゃないか? 歩きながら食べられるし、早く食べ終わる」

 

「それがええな、食べ歩きは祭の鉄則や」

 

2人でケバブを買い、はやてが早速かぶりつくと美味しそうに顔を綻ばせる。食べ歩きながら俺達は前に来た。

 

「ここにV組の出し物があるんやったな?」

 

「ああ、体を動かすアトラクションだから教室じゃあ狭くてここの練武場を借りたらしい」

 

「よし、行こうか!」

 

最後の一切れを口に放り込み、俺は手を引かれて練武館に入って行った。

 

練武場に入ると中に大掛かりな装置が置いてあり、子どもが飛んできた紫の物体をピコハンで撃ち落としていた。

 

「いらっしゃい。ここは1年V組のティポパニックですよ〜。空間シュミレーターで投影されたティポぬいぐるみたくさん叩いて高得点を狙うアトラクションです! ハイスコアをとれば豪華な景品を差し上げます!」

 

「へぇ、レンヤ君。 やってみよう!」

 

「そうだな、俺から行かせてもらうよ」

 

チケットを渡し、かなり大きいピコハンが手渡された。装置で投影されたフィールドの中に幾つもの穴が浮いてあり、そこからティポぬいぐるみが出てくるようだ。

 

「縦横無尽から出てくるティポぬいぐるみを叩いて落としたら得点。体に当たったら減点です! それでは……スタート!」

 

カンッ!

 

ゴングの鐘が鳴ってゲームが開始された。穴から軽いキャッチボールの速度でティポぬいぐるみが飛んできた。

 

「ほいっと」

 

それをピコハンで落として、次のターゲットを見つけて狙う。

 

「ふっ……!」

 

ピ………………コ!

 

ちょっと反則気味に虚空を使い。残りのティポぬいぐるみを移動しながら一気に叩いた。早く降りすぎてピコハンが凹んだままになってしまい、降りきった所で元に戻って音が鳴った。

 

「おめでとうございます! 基準以上の得点でしたのてティポぬいぐるみを差し上げます!」

 

アトラクションから出た所で学生からティポぬいぐるみをもらった。その後、はやても基準点に届かなかったが存分に楽しみ、アトラクションを終えるのだった。

 

「はやて、これを」

 

俺は手に入れたティポぬいぐるみをはやてに手渡した。

 

「ありがとうレンヤ君。大事にするんよ」

 

「はは、どういたしまして。 それにしても、これって角なのか? 微妙な可愛らしさがなくもないけど……」

 

「かまへんよ、ヴィータののろウサと似たようなもんやし。 これはこれで愛くるしさも感じるんやで」

 

「まあ、はやてがそう言うのならいいか」

 

「そやで。さ、早う次に行こか!」

 

それから休憩時間が終わるまでの間、はやてと一緒に学院祭を楽しんだ。

 

休憩時間が終わるとまた慌ただしくなり、夕方になるまで料理とお菓子を作り続けた。

 

『ーー学院祭・1日目はまもなく終了時間となります。来場者の皆様かた、どうぞ明日もふるってご参加ください。準備がある学院生の皆さんは、あんまり無理しすぎないようにしてくださいね』

 

フィアット会長が校内放送で学院祭の終了を告げ、学院祭の1日目が終了する。

 

「1日目はこれで終わりか……なんだかあっという間だったな」

 

「そうだな……喫茶店で働くにしても、学院祭を楽しむにしてもな」

 

「ほんま、2日と言わず毎日やって欲しいかもええのになぁ」

 

「騒がしそうだけど授業よりいいかもね」

 

「ま、確かに悪くないかもね。 他のクラスの出し物も凄く良かったし……私達も負けてはいられないわね」

 

「うん、2日目も頑張って行こう」

 

「だね、先ずは明日の準備をしようか」

 

「そうですね」

 

学院を楽しそうに去って行く来場者を見送り、俺達は店内の清掃と食材の補充と売り上げを生徒会に渡した後、寮に帰ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー

 

夕食の後そのまま食堂で明日の為にミーティングをしていた。

 

「そうね、いいんじゃないかしら」

 

「最後に最高の出来の料理とお菓子を一品だけにする……確かにそれなら印象に残りそうだね」

 

「追い込みとしてはなかなかのもんだな」

 

「後はどれに絞るかだか……」

 

「今日使ったメニューじゃいかんし、今ある食材で別の料理を作らなあかんな」

 

「もしくは工夫するか、ですね」

 

「悩みどころだね……」

 

新しい案を出しても、急造の為になかなかまとまらない。

 

「そういえば、皆の家族って明日来るんだよね?」

 

「そうだったな。 理事の人達は予定は空いていると思いたいが」

 

「うーん、ウチの母さんならともかく兄さんはちょっとわからないな……」

 

「ソフィーさんはもしかしたら来ると言っていたぞ。 カリムとシャッハは来てくれるらしい」

 

「私の所は、知っての通りリンナが遊びに来ます」

 

「私の所の家族も来る言うてたんよ。フェイトちゃんとシェルティス君の所も来るんやろ?」

 

「うん、母さんもリニスもちゃんと来るよ。 リンディさんも一緒に誘うみたい」

 

「後、メガーヌさんとルーテシアちゃんも来るよ。 異界対策課も休みだし、ラーグとソエルとアギトも来るかもね」

 

「僕の父さんはちょっとわからないかな。イシュタルさんを代わりに寄越しそうだけど…… 」

 

「さっき連絡があったが全員、来るらしいぞ」

 

そこに、テオ教官がそう伝えながら食堂に入って来た。

 

「テオ教官……」

 

「それって、本当ですか?」

 

「ああ、今日のうちに改めて学院に連絡があった。 ミッドチルダはかなり動いているが、今はそこまで深刻じゃないし。 それより、各種行事に参加して関係者を安心させたいらしい」

 

「そうですか……」

 

「なるほど……少し安心しました」

 

「それよりも明日の喫茶店もせいぜい気合いを入れろよ。 I組のカフェ、負けず劣らずの盛況ぶりだったぞ」

 

そういえば喫茶店に集中していて、I組の方に気が回っていなかったな。

 

「ホンマですか⁉︎」

 

「ああ、ちょっと覗いたがなかなかの接客ぶりだったぞ。 甘ったれた1科生と思いきや、大した根性してるぜ。 よっぽどお前達に負けたくないらしいな」

 

思っていた以上にあちらも頑張っていたらしい。 このままだと負ける可能性もある。

 

「ど、どうしよう……」

 

「やっぱり何か料理か菓子の案でも……」

 

「ーーううん、私達の今のベストはこのメニューだよ。 あんまりこんを詰めると返って混乱しちゃうよ」

 

「それもそうだな」

 

「今日は明日に備えて早目に休もう」

 

それで解散となり、俺は部屋に入ってベットに寝転がり休んでいた。

 

「はあ〜……疲れたな……」

 

さすがにここまで大量にお菓子ーーとたまにキッシューーを作ったのは初めてだった。

 

「そういえばラーグとソエル、帰ってくるの遅いな」

 

時刻はすでに21時を過ぎようとしている。 いつもならもっと早く帰ってくる筈なのだが……

 

「たっだいまー!」

 

「帰ったぞ」

 

噂をすれば2モコナが帰ってきた。

 

「遅かったな、何かあったのか?」

 

「ちょっとトラブルがあってな。 なんとか解決してようやく帰れた所だ」

 

「アギトも一緒にヘトヘトだよ〜。 私達はもう休むね、明日の学院祭は行きたいし」

 

「そんじゃ、おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

ラーグとソエルを抱えて専用ベットに寝かせる。 あっという間に2モコナは眠ってしまった。

 

「トラブルって何だろう?」

 

少々気になってしまい、アギトに詳細を教えもらいにアリサの部屋に向かった。

 

コンコン

 

「アリサ、今大丈夫か?」

 

『レンヤ? ええ、入っていいわよ』

 

了承をもらいドアを開けて部屋に入った。 以前にも入ったことがあるが、部屋は赤で統一されていていかにもアリサらしい部屋だった。 それと一緒にすずかもいた。

 

「何かあったの?」

 

「いや、アギトに聞きたい事があったんだが……」

 

アギトを探して部屋を見渡すと、台の上に大き目のドールハウスが置いてあり。そこのベットでアギトは寝ていた。

 

「どうやら手強いグリードを相手したらしいのよ。 それで帰って早々寝ちゃたわ」

 

「なるほど、そういう事か」

 

「要件ってそれだけ?」

 

「ああ、ラーグとソエルも寝ちゃてな。 あんまり聞き出せなくて気になったんだ」

 

それにしても……グリードが月日が経つごとに強くなっているのを感じる。 性質が違い、色々な問題が蔓延っているミッドチルダだが、学院祭の期間中だけは何もなければいいんだが……

 

「レンヤ君。 この後暇でしょう? ちょっとお話しようよ」

 

「……そうだな。 お邪魔させてもらおう」

 

「そうね。 ここ最近忙しくてゆっくりお喋りする機会もなかったし、なのは達も呼びましょう」

 

それからなのは達も集まり、アギトを起こさない為にはやての部屋で楽しく会話を弾ませた。

 

「はやて、これ何?」

 

「姉さんダメだよ、勝手に見ちゃ」

 

「あああぁっ⁉︎ それは部長に無理やり渡されたもんで……とにかく見んいてえぇ⁉︎」

 

アリシアが面白半分ではやての部屋をガサ入れをして、皆で止めながらも夜は更けて行った。

 

 

 

 



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96話

 

 

学院祭2日目ーー

 

雲一つない快晴となっており、今日も絶好の学院祭日和だ。 開門と同時に来場者が学院に雪崩れ込み、早速お祭り騒ぎとなっていた。

 

VII組の家族と理事達、友人も次々と学院を訪れており。 今VII組はちょっと……いやかなり忙しい。

 

「フェイト〜〜!」

 

「きゃっ! もうアルフったら……母さん、リニス、リンディさん、クライドさん、ユノちゃん、いらっしゃい。 今日はゆっくりして行ってね」

 

「ええ、そうさせてもらわ」

 

「今日はよろしくお願いしますね」

 

「わぁーい!」

 

「なのはちゃん、桃子さん達のことはごめんね。 いくら身内とはいえ、緊急時以外だと管理外世界の人がミッドに来るにはかなり面倒な手続きもあって……」

 

「大丈夫です! ちゃんとお土産を持っていきますし!」

 

「ふふっ、ありがと。それじゃあ早速、お茶をもらえるかしら?」

 

「はい。ただ、当店は過剰の砂糖の投入は禁止していますので、ご了承を」

 

「そんな⁉︎」

 

「少しは自重しろ」

 

テスタロッサ家とハラオウン家が訪れてた。 どうやらエイミィさんは今回は来れなかったようだ。 残念がる光景が目に浮かぶ。

 

「はやてぇ! 来たぞぉ!」

 

「ヴィータ、もう少し声を抑えろ」

 

「ここがはやてちゃんの教室かぁ」

 

「結構広いですぅ」

 

「皆よう来たなぁ。 ささ、早う座ってぇな」

 

「それでは、お言葉に甘えて」

 

「その衣装、よくお似合いですよ。 我が主」

 

「えへへ、ありがとうなぁ!」

 

夜天の騎士達もとい、八神家も到着。 ただザフィーラ……仮にも飲食店なんだから狼形態で来るなよ。

 

「「………………」」

 

「ふおお! 美味しいよこれ!」

 

「なかなかそちらの息子さんは優秀ですね。 弟を見習わせたいくらいです」

 

「いえいえ、弟さんもここに入ってからかなり成長しているもよう。 息子もうかうかしていると抜かされますよ」

 

グランダムさんの護衛のはずのイシュタルさんは料理食べるのに集中している中。肩身の狭い思いをしているツァリとシェルティスの隣には2人の兄と父の理事が身内をネタに会話を弾ませていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ユエさん、お久しぶりです」

 

「ソーマ、リンナに同行してもらってすみませんね」

 

「いえ、ティアとスバルもいますし。 僕1人じゃ心許なかったですし」

 

「確かにそうね」

 

「ティア! このシュークリーム頼んでいい⁉︎」

 

リンナちゃんはソーマ達に連れて来てもらったようで、初めて来るミッドに目を輝かせながら見回っていた。

 

「おーい、来たぜ〜!」

 

「皆、元気にしてた?」

 

「はい! 私とガリューもアギトも元気です!」

 

「そうね、元気じゃない姿なんてあんまり想像できないわね」

 

(コクン)

 

「うーん! いつと同じ味だけど、こんな風に皆で楽しめるとまた格別だぁ!」

 

「祭りもいいもんだな」

 

ルーテシアとガリューとアギトも入ってきて、ソエルとラーグはいつの間にか料理を食べていた。

 

「レンヤ、また強くなったようだな」

 

「はい、VII組の皆のおかげで」

 

「カリムさん、シャッハさんもいらっしゃい!」

 

「お、お邪魔させてもらいます……」

 

「シャッハ、もっと肩の力を抜きなさい」

 

ソフィーさん達、聖王教会組も忙しい中来てくれた。

 

「ファリンも別に手伝わなくてもいいんだよ」

 

「主人を差し置いてメイドが遊び呆けられますか。 私は大丈夫です」

 

「そうやで〜、気にせんといてや〜」

 

すすかはファリンさんが手伝ってくれるのが気後れしているようだ。

 

「……なんだ、これ?」

 

「すぐに戦争できるメンバーが集まったな……」

 

リヴァンとテオ教官は教室にいる人達を見て呆然としていた。 他の来場者も有名人を前にして食べる手を止めていた。

 

「皆さん、学院祭はVII組だけではないですよ。 他の出し物も見に行ってはどうですか?」

 

「うーん、そうだねぇ。 ここに長居をすると君達にも他の来場者にも迷惑もかかるし」

 

「い、いえ、そういう意味で言ったのでは……」

 

なのは言った言葉が迷惑だがら帰ってくれと言う解釈になってしまい、なのはは困惑する。

 

「構わんよ。だがその前にはこのキッシュをもうひとつ頂けるかな? これはすごく美味しかったんだ」

 

「私も頂こう。 ちなみにこのキッシュは誰が作ったのだ?」

 

「そのキッシュはレンヤ君が作りました。 翠屋ミッドチルダ出張店メインメニューです」

 

「確かにメガうまだぞ!」

 

「どこか、優しい味がするわね」

 

「そ、そんなことないよ。 上手く作れるのそれだけだし」

 

皆に褒められて悪い気はしないけど、どこか照れ臭くなる。

 

それから全員が他の出し物を見るためにVII組を後にして。 それからすぐに昨日の噂を聞いたのか、昨日とは比べ物にならないくらいの来場者がVII組に殺到した。

 

「お、追いつかないよ〜!」

 

「弱音を言わないの!」

 

「キッシュ2つ、特性パフェ2つ、オーダーです!」

 

「追加入ります!」

 

「レンヤ君、今手ぇ空いておるか?」

 

「どっちも手一杯だ!」

 

すでに俺は分身を1つ使っており、アリシアも合計4分身で頑張っている。

 

それから昼のピークが過ぎるまで昨日以上の来場者を捌ききった。

 

「の、乗りきったあぁ〜……」

 

「もうヘトヘトだよ……」

 

「ほら、みっともないからシャキッとしなさい」

 

「まあまあ、こんくらいは大目に見ておいてや」

 

「ちょっと待っていろ。 水か賄いでシュークリームを持ってくるから」

 

「ありがとう、レン君」

 

「私も手伝うよ」

 

おれは水を喉に流し、ようやく一息つけた。

 

「ふう……」

 

「ああ、そうだ。 はやて達や皆の家族がいるんだしもう休んでいいぞ。 せっかく来てくれているんだ、久しぶりに家族と一緒に楽しんでこい」

 

「え、でもまだやり残しが……」

 

「私達が全部やっておくから、気にしないで」

 

「でもレンヤ、ラーグやソエルは……」

 

「大丈夫だぞ、いつも一緒にいるし。 拗ねたらブレードでもやっていれば機嫌は取れる」

 

「うーん、ならお言葉に甘えて。 厳しくなったら遠慮なく連絡してよね」

 

「うん、もちろんだよ」

 

どこか気にしながらもはやて達は自分達の家族、友人の所に向かった。 この場に残ったのは俺となのは、すずか、アリサ、リヴァンが残った。

 

「アリサちゃんは行っても良かったんだよ? アギトちゃんやルーテシアちゃんもいるんだし」

 

「レンヤと同じ理由よ。 それにしても、人が少ないとこうも大変ね。 I組が羨ましいわ」

 

「今回は上手く行っているからいいが……来年はもっとよく考えないとな。 遊べる時間もそれなりに欲しいし」

 

「ならおばけ屋敷なんてどうかな? 大分を立体映像にして、たまに呪うぞ! て出て行ったり」

 

「それじゃああんま意味ないだろ。少ない人数で遊べる時間……1回だけやる出し物……劇やバンドあたりがいいかもしれないな」

 

「確かにいいわね、今度は余裕を持って行けば大丈夫でしょうし」

 

「あ、劇なら私のおすすめがあるよ。 題名は銀の意志、金の翼……この作品がとても大好きなんだぁ」

 

「え、すずかちゃん。 確かその作品にはーー」

 

「レンヤ君達、失礼するね?」

 

なのはが何か言いかけた時、フィアット会長とグロリア先輩がVII組に入ってきた。

 

「フィアット会長……グロリア先輩も」

 

「いらっしゃいませ、今の時間はお菓子だけなら用意できますよ」

 

「もしかして、食べに来たのか?」

 

「はは、似たようなもんかな」

 

「まあ、それもあるんだけど」

 

「ーー失礼します」

 

凛とした声が廊下から聞こえてくると、大きめの麦わら帽子をかぶり、群青色のワンピースを着たエテルナがいた。いつもの雰囲気と相まってものすごい美人だ。 後ろにはクー先輩もいた。

 

「もしかして……」

 

「エ、エテルナさん⁉︎」

 

「ふふ、約束通りなんとか来ましたよ。 後ほどランディさん達とも顔を見せます」

 

「先輩……来てくれたんですね」

 

「しかしなんつーか……改めてお前って美人だったんだなぁ」

 

「あなたが無関心なだけなのでは……コホン、学院に行くために少しばかり無理を言ってしまいまして、父の言いつけでクーが護衛とすることでなんとか。 この服装も、目立つことで返って安心できるわけです」

 

「俺としてはいささか役不足だと思んだがな」

 

「そんなことないですよ。 今、他の皆も呼びますね」

 

「いえ、皆さんの折角の時間に水を差すわけにはいきません。 それよりも……レンヤさん、あなたの腕を振るってくれますか?」

 

「あ……」

 

俺はエテルナ先輩の要望を理解し、右手を胸に当てて礼をする。

 

「かしこまりました。 少々お待ちください」

 

「期待していますよ」

 

「あ、なら私も〜」

 

「僕も頂こうかな。 甘い物には目がないんだ」

 

「くく、せいぜい俺の舌を唸らせろよ」

 

クー先輩がまるで美食家を自称しているようにプレッシャーをかけてくるが、特に気にせずキッシュとシュークリームを作り、先輩達に配膳した。

 

「あーん……ん! すごく美味しいよ!」

 

「へえ、なかなか美味えじゃねえか」

 

「確かにそうですが……なぜあなたは上から目線なのですか?」

 

「う〜ん、心地いい甘さだねぇ。 結構好みだ」

 

「あはは、喜んでもらえて何よりです」

 

「本当に美味しいよ。 レンヤ君は趣味でお菓子作りをしているの?」

 

「レン君は子どもの頃からウチの喫茶店の手伝いをしていたんです。お菓子作りの腕は私のお母さん仕込みです」

 

「なるほど……長年積み重ねてきた味というわけか」

 

それからしばらく雑談をしていたのだが……来場客のほとんどがここで早めの夕食を済ませようとしたのか、また一気に押し寄せてきた。 俺はすぐさま他のメンバーを呼び戻し。 学院祭が終わるまで客足が途絶えことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方ーー

 

学院祭最終日には後夜祭が行うため、第1ドームではキャンプファイアの準備がされつつあった。 来場客のほとんどはアンケートを書いた後、楽しそうにしながら学院を後にするのだった。

 

VII組のメンバーはつい先ほど最後の来場者を見送ると喫茶店をしまうと、全員イスに深く座りこんだ。

 

「……はあ……」

 

「……疲れたよ……」

 

「……おなかすいた……」

 

「……にゃああ〜、さすがにガス欠だよ……」

 

疲労困憊を正しく表しており、春とは比べ物にならないくらい項垂れていた。

 

「一応……成功したのよね?」

 

「客足を見るからにそうですが……」

 

「来場客を気にしている余裕なんてないよ……」

 

「あはは……それがプロの人との違いなんだろうね……」

 

「まあ、ちゃんとやり切れたと思うよ?」

 

「そやな、最後まで頑張った甲斐があったんよ」

 

「そうだなぁ……」

 

「なんだ、だらしないぞ」

 

学院祭が終わった感想を口にしながら話ていると……そこに、ランディが教室に入ってきた。

 

「ランディ……」

 

「……なんだ、お前か……」

 

「まったく、これだからVII組の連中は……いくら疲れたとはいえ、あまりダラけすぎるな」

 

「人数少ないんだがら大目に見てよ……」

 

「ごめんなさい、もう少し待ってもらえるかな?」

 

「それよりも……I組も凄かったぞ。 昨日ちょっとしか見ていないけど、かなり様になっていたし」

 

「そうだね。 正しく、貴族の茶会って感じの雰囲気だったよ」

 

「ふふっ、エステートも案外形から入るタイプみたいだったし」

 

「ええ、とても楽しませてもらいました」

 

「そ、そうか……まあ僕達の実力をもってすれば当然といえば当然なんだが……」

 

褒められて悪い気はしないのか、得意げな表情になるが。 すぐにハッとする。

 

「ーーって、嫌味か! と、とにかく! 君達がそんな調子でいたらこちらの立場もないだろう! とにかくシャキッとしたまえ!」

 

「……?」

 

「何のことだ……?」

 

「あ、ひょっとして貰ったんか?」

 

アリシアとリヴァンがなんの話か理解しかねているが、はやてがランディの言っていることを理解したようだ。

 

「グッ……そ、それはともかく。 売り上げは僅差だったんだ、今回は勝ちを認めてやる。 それじゃあな!」

 

ランディは言いたいことを言って、早足で教室を出て行った。

 

「なんだったんだろ……?」

 

「嫌味というより……負け惜しみって感じだったな」

 

「お前ら、やったな!」

 

今度はテオ教官の声とともに教室のドアが開かれ、教官とフィアット会長達4人が入って来た。

 

「教官、先輩達も……」

 

「どうしたのですか……?」

 

「お前達なぁ……すっかり忘れてんじゃねえか?」

 

「来場者のアンケートによる学院祭の各出し物への投票……事前に聞いてるはずだろう?」

 

テオ教官が呆れるなか、グロリア先輩の説明でようやく思い出せた。

 

「あ……」

 

「……それがあったね」

 

「すっかり忘れてたよ……」

 

「でも、ひょっとして……?」

 

「在学生、一般来場者からの投票を集計し終わりました。 どこも健闘していましたが祭最的にI組とVII組に絞れまして」

 

「投票数2548票! VII組の喫茶店・翠屋出張店が見事学年一位に輝いたよ!」

 

「ま、なかなかの結果じゃねえか」

 

フィアット会長の発表で、皆の顔に笑みが浮かぶ。

 

「あ……」

 

「……そうか……」

 

「ははっ……」

 

「なんやなんや、なんか反応薄いなぁ。もっと喜んでもバチが当たらへんで」

 

「終わってみればどのクラスも凄くレベルが高かったしな」

 

「リンナ達も随分と楽しんで回ったようですし」

 

「ティポパニックも結構楽しかったよ」

 

「その意味で、あんまし誇れねぇかな」

 

「あえて言うなら学院生全員の勝利ってことかな」

 

「ふふっ……まさしくそんな感じね」

 

確かに、フェイトの言う通りかもしれない。 目標の学年一位はとれたが、他のクラスがなかったら得られなかった一位だ。

 

「さて、ちょっとは復活しろよ。これから後夜祭があるのまで忘れてんじゃないだろうな?」

 

「そ、そうだった」

 

「素で忘れてました〜」

 

「魔導学院祭を締めくくる学院生と関係者の打ち上げ……」

 

「たしか篝火をたいて……ダンスもあるんでしたっけ?」

 

「皆の家族や知り合いも待っているよ」

 

「キャンプファイアの準備も終わっているからボチボチ向かうといい」

 

「よし……これで今日は終わりだ、 なんとか気力を振り絞って第一ドームに向かおう……!」

 

「ええ」

 

「楽しみだなぁ……!」

 

鈍くなっている体を動かし、後夜祭が行われる第一ドームに向かった。ドームに到着する頃には日は沈んだ。 ドーム内に入ると、ちょうど火がつけられ……木で組まれた台から勢いよく火が燃え上がり、学院生達が歓声を上げる。

 

炎が燃え上がるの見ていると、反対側にシグナム達がいた。

 

「あ、ソファーさん達……」

 

「兄さんも残ってたんだ……」

 

「父さんも……忙しいのに」

 

俺達は家族や知り合いの元に向かった。

 

「ああそうだ、レンヤ」

 

「はい?」

 

クー先輩に呼び止められ、皆に先に行ってくれと言ってからクー先輩と向き合う。

 

「それで、何か俺に用でも?」

 

「ああ、いい機会だからこいつを返しておくぜ」

 

クー先輩はポケットからコインを出すと俺に向かって上に弾いた。

 

「これは……」

 

キャッチして手を開くと、50コインが……学院が始まったばかりに盗られた金額と同じだった。

 

「……すっかり忘れてましたよ。 あれから色々手伝ったり助けてもらいましたけど。 むしろこれじゃあ足りないくらいの物を貰ったと思うんですが……」

 

「そりゃ、お互い様ってやつだ。 こう言っちゃなんだが、俺が借りた金を返すのは相当珍しいんだからな? ま、素直に受け取っておきな」

 

「あ……」

 

クー先輩はそう言うと皆の所に歩き出した。 と、そこで俺はあることを思い出した。

 

「ーーそういえば。 貸して半年は経ちますけど、利子の方はどうなったんですか?」

 

クー先輩は足を止め、頭をかいた。

 

「……やれやれ。 守銭奴になったじゃねーか」

 

「悪い先輩がいましたから。 すっきり清算されてもなんか寂しいですし……どうですか?」

 

「ったく、甘ったれめ。 わーった、そのうちにな。 時間はまだたらふく残っているんだし」

 

それで話がまとまり、改めて俺はソフィーさんの元に向かった。

 

「すみませんソフィーさん、誘ったのに一緒に回れなくて」

 

「お前は自分の仕事をしただけだ、それに……私もそれなりに楽しめたしな」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「ーーレンヤ様」

 

声をかけられ、振り返るとカリムとシャッハがいた。

 

「久しぶりカリム。いい加減様付けはやめてくれると嬉しいんだけど」

 

「教会騎士団の騎士として、陛下を敬うのは当然です。これでも抑えている方なのですよ?」

 

「妥協しろってことね。はやてとはもう会ったのか?」

 

「はい、はやてが進めている部隊設立のことを少々」

 

「そうか……確かカリムのレアスキルも関わっていたっけ」

 

預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)……レンヤ様の神衣と違って実用性のない占い程度の能力ですが……ただ、前の結果ではーー」

 

そこで言い過ぎたのか、ハッとなって口に手を当てた。

 

「コホン……一応、はやての上司として彼女とレンヤ様達の魔力制限の権限をクロノと一緒に任されました。 レジアス中将の計らいで保有できる魔導師ランクの総計規模が通常より大きくなりましたが、それでもレンヤ様は-4ランクは確実に下がってしまうでしょう」

 

「オーバーSランクが何人もいるんだ、もちろん了承している」

 

「感謝します、レンヤ様」

 

「騎士カリム、そろそろ」

 

「そうでした! あまりソフィー隊長の邪魔をするわけにはいけません」

 

「私は別に構わないぞ。 それに、お前達がやりたいようにすればいい。私もそれなりに協力はしよう」

 

「ありがとうございます、ソフィーさん」

 

しばらく雑談していると、後夜祭の定番であるダンスが始まった。 初めは遠慮がちで踊る人数は少なかったが……

 

「ここは理事らしく率先していこうか」

 

「はい」

 

ラースさんと秘書の女性が踊り始まると……

 

「少将、踊りましょうよ〜」

 

「私としては、お前が踊れるのかが知りたいのだが」

 

「ふむ、これは教官としても出なくてはな。 モコ、お前もいいか?」

 

「も、問題ありません。 教師として、生徒の模倣となるダンスを披露しましょう」

 

「ふふ、学校に行ったことないから羨ましいわね」

 

「ならリンディ、せっかくの機会。私達も行こう」

 

「ユノは私が責任持って見ているから、安心して行ってこい」

 

「パパ、ママ、頑張って〜!」

 

「お兄ちゃん、行こうよ!」

 

「そう急がなくても、逃げたりしませんよ」

 

「ソ、ソーマ。 せっかくだから踊ってあげても……」

 

「ソーマ! 一緒に踊ろうよ!」

 

「わっ⁉︎ 引っ張らないでよスバル!」

 

「ふむ、それではシェルティス。 お前に私の相手をしてもらおうか」

 

「シ、シグナムさん……剣舞なりそうだ……」

 

「なら私はツァリ君にお願いしようかしら♪」

 

「ええっ⁉︎」

 

「ママ、一緒に踊ろうよ!」

 

「ふふ、いいわよルーテシアちゃん」

 

「お姉ちゃん、行くですぅ!」

 

「リ、リイン……引っ張らないでくれ」

 

「アギト、相手してくれるか?」

 

「そうだな、たまにはいいだろう」

 

「ザフィーラさん、よろしいですか?」

 

「リニスか……私でよければ」

 

「「らーららら〜♪」」

 

「ふふ、ラーグ達、楽しそうね」

 

「ほら、行きますよ!」

 

「ビエ〜〜ン⁉︎」

 

「たーまや〜」

 

「グロリア君、行こうよ!」

 

「そうだね、行ってみようかな」

 

「ふふ、それではあなたにお相手をお願いしましょうか」

 

「おいおい、足踏んでも怒んなよ」

 

次々と相手を決めて、踊り始めた。

 

「す、素早い……」

 

「シグナム達も参加するとはなぁ」

 

「ふふ、皆楽しそうだね」

 

「はは……盛り上がっているな」

 

「レン君、一緒に踊ろうよ!」

 

「私もレンヤと踊りたいなぁ」

 

「折角やし、踊らんか?」

 

「そうね、見てるだけじゃつまんないわ」

 

「いや、そんな一辺に踊れるのか?」

 

ダンスというのは基本二人一組だよな? そりゃ、身分が身分だからウイントさんに進めで、アリサから一通りのステップは踏めるが……

 

「大丈夫!上手く代わりながら踊るから!」

 

「私もレンヤと踊りたい!」

 

「折角だから行って来たらどうだ? 私はそうだな……ちょうどいい、リヴァンに相手をしてもらおうか」

 

「ならシャッハ、私達も行きましょうか」

 

「わ、私はあまりダンスの経験はなくって……」

 

「うーん……まあ、皆がいいんならいいか」

 

『やったぁ!』

 

俺の言葉に喜ぶなのは達……そんなにダンスしたかったのか?俺達は連れ立ってキャンプファイアに向かい、まずは俺となのはが輪の中に入る。

 

「よ、よろしくお願いします///」

 

「ああ」

 

俺となのはは手を取り合いダンスを踊る。

 

「あのね、レン君?」

 

「ん? なんだ?」

 

少しして、なのはが話しかけて来た。

 

「その……いつも色々ありがとうなの!///」

 

そう言うと、なのはが離れ間髪入れずフェイトが俺の元に。

 

「よ、よろしくね///」

 

「あ、ああ、よろしく」

 

どうやら不慣れなようで、俺はフェイトをリードしながら踊る。

 

「その……レンヤ?」

 

「なんだフェイト?」

 

「私……レンヤに会えて本当に良かったよ///」

 

そう言うとフェイトが離れ、代わりにはやてが俺の手を取る。

 

「よろしゅうな~?」

 

「任せておけ」

 

俺とはやては楽しく踊る。

 

「あんな、レンヤ君」

 

「どうかしたか?」

 

「私……レンヤ君のお陰で生きて、皆と歩いて行けるんや。 ほんまありがとう///」

 

はやてが離れ今度はアリサと踊る。

 

「……前より上手くなったわね?」

 

「そうか? まあ、アリサのおかげだろう?」

 

「そうよね……レンヤには色々感謝してるわ……あ、ありがとう///」

 

アリサが離れ、代わりにすずかがパートナーになる。

 

「よろしくお願いします、レンヤ君?」

 

「ああ、よろしくな」

 

「レンヤ君……あの時私を受け入れてくれてありがとう」

 

「どうしたんだ、いきなり?」

 

「改めて伝えたかったの! 本当にありがとうね///」

 

すずかが離れ、今度はアリシアが滑り込んで来た。

 

「〜〜〜〜〜〜♪」

 

「楽しそうだな」

 

「うん! 楽しいよ! 学院祭もダンスも……それにいつもの学院生活も」

 

「そうか……俺も皆との学院生活はいつも楽しいからな」

 

「うん、だから私はレンヤに感謝したいの……こんな当たり前の毎日をくれたレンヤに……///」

 

このあともダンスは続き、皆は満足した……そして音楽が止まると、後夜祭が終わりを迎えた。

 

「来場者の皆様、それに学院生諸君。 本日はご来場いただき、誠にありがとうございました。 この後夜祭をもって、第113回レルム魔導学院祭を終了します」

 

ヴァント学院長が後夜祭と学院祭の終了を告げて、来場者と学生達が拍手でそれに答えた。

 

「これで学院祭も終わりか……」

 

「ちょっと寂しいね」

 

「また来年もあるわよ」

 

「それまでのお楽しみやな」

 

「レンヤさん」

 

「エテルナ先輩?」

 

そこに、エテルナ先輩が近づいて来て。 1つの封筒を渡された。

 

「これは?」

 

「開けてみてください」

 

封を切って中身を確認すると……VII組のメンバーとテオ教官、フィアット会長達が写った写真が数枚あった。

 

「これって……」

 

「エテルナさんが休学になる前に撮った私達の集合写真ね」

 

「人数分現像しておきました。 もちろん皆さん写真データは持っていますが……私は手元に残る方が好きなのです。 失礼ながら、ご勝手に皆さんの分を作ってしまいましたが……ご迷惑でしたか?」

 

「いえ! すごく嬉しいです!」

 

「悪くはないな」

 

「ありがとうございます、大切にしますね!」

 

「へえ、皆いい顔しているね」

 

「いい贈り物ありがとうございます」

 

こうして、俺達のレルム魔導学院祭は幕を下ろしたのだった。

 

 

 



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97話

 

 

大変で楽しいかった学院祭も終わり、学生達はまた勉学に励む日々が再開された。俺達、VII組はいつも以上に教官に鍛えられ、そして仲間と競い合い、お互いを磨き合いながら毎日を過ごしていた。特別実習で新たな発見や出会いもあったりしたが……この2か月の間に行った実習地、そこで管理局内の対立や日に日に強くなっていく怪異を改めて目の当たりにした。いつも事件に居合わせたのがなぜ異界対策課の自分ではないのかと歯痒くなったことが何度もあったが、その度にVII組の皆と話し合い、考え、答えを見つけ、様々な敵と戦って、事件を解決に導いた。

 

そして、現在ーー

 

12月下旬、期末試験を約1ヶ月後に控えながらも……暦が似ているのだからか、地球とミッドチルダ共通の恒例行事が行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわああぁぁ……」

 

大きなあくびを手で押さえもしないで、忙しなく目の前のパソコンで資料を作成していた。

 

今俺は地球にある高町家の自分の部屋にいる。 レルム魔導学院……もといミッドチルダは年末年始の大晦日を迎え、学院は冬季休暇に入っていた。と言っても夏季休暇同様に1週間程度だし、1ヶ月後に期末試験も控えているため全力で羽を休めることはできない。 異界対策課に所属している全員の休みを作るために日付が変わる前でもこうして働いているわけだ。さらに第三学生寮は来年新しくはいる新VII組のために改装工事が行われているから、現VII組のメンバーは強制的に帰郷させられた訳である。

 

「ふう〜……終わったぁ〜……」

 

『お疲れ様です、マジェスティー』

 

資料作成が終わり、背を伸ばしながらレゾナンスアークに労いの言葉をもらう。

 

「やれやれ、自分で選んだ道とはいえここまで大変だと辛いな」

 

「もっと容量よくやればいいんじゃないの?」

 

「なら変わってよ」

 

「今レンヤがやってんのって、隊長本人じゃないと無理なやつだろう」

 

「知ってる」

 

コンコン

 

「レン君、もう終わった?」

 

その時ドアがノックされてなのはが部屋に入って来た。

 

「ああ、ちょうど今終わったぞ」

 

「お疲れ様、それでこれから皆で初詣に行こうと思うんだけど……レン君もいくよね?」

 

「……はい?」

 

時計を見ると長針と短針が真上にあった。 いつの間にか新年を迎えていたようだ。

 

「コホン……もちろん行くぞ」

 

「よかった、それじゃあまた後でね」

 

なのはは嬉しそうに笑うと部屋を出て行った。

 

翌朝ーー

 

早朝、手早く着替えてラーグとソエルをポケットに入れてから玄関前でなのはを待った。

 

「お、お待たせ……レン君」

 

しばらくして、鮮やかな桜色の着物を着たなのはがやって来た。いわゆる晴れ着と言う物で、髪も結ってあり、普段と雰囲気も違うので見惚れてしまった。

 

「ど、どうかな?」

 

「あ、ああ……いいと思うぞ。 すごく綺麗だ」

 

「えへへ、ありがとう///」

 

それから父さんと母さんと姉さんと一緒に1番近い神社……海鳴神社に向かった。

 

「あ、皆〜!」

 

「なのは、レンヤ!」

 

「来たわね」

 

到着すると神社はさすがに混んでいたが、すぐにフェイト達が見つかった。 フェイト達も着物を着ていて、すごく綺麗だった。 皆の家族も一緒に来ていたようだ。

 

「レンヤ君、なのはちゃん、あけましておめでとうございます」

 

「あけましておめでとうや! レンヤ君、なのはちゃん!」

 

「それでどうかな? 私達の着物姿は、似合ってる?」

 

「ああ、似合っているぞ。 普段と違ってかなり大人っぽいくて……正直見惚れていた」

 

「えへへ///」

 

「あ、ありがとう///」

 

「ま、まあ……悪くはないわね///」

 

「そ、それじゃあ参拝に行こうよ///」

 

すずかの提案で皆で参拝に行く事になり、逸れないようにしながら賽銭箱の前にたどり着いた。

 

そういえば前に兄さんが言っていたな。“ご縁”とかけて5円玉を投げ入れるというのは有名だか、これが65円となると“ろくなご縁がない”となり、10円玉になると“遠縁”となり。500円玉は、それ以上の硬貸がないことから“これ以上効果がない”となるらしい。 神様に祈ることに金額は関係ないと思えるのだか、これが1万円札となると“円満”となり縁起が良いというから始末が悪い。

 

まあ、ここはセオリー通りあんまり悩まずラーグとソエルの分も入れて合計15円の5円玉3枚を賽銭箱に入れ、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼をした。

 

「………………」

 

目を閉じ、頭の中で願い事を思い浮かべる。

 

この先、ミッドチルダが戦渦に呑まれることは否定できない。 もちろん平穏を守るために俺達が頑張るのだが……俺は神様に、皆無事に当たり前の明日を迎えられるよう、願った。 皆が笑って、当たり前の明日を得られる日常を描いて行きたいから。

 

「……ふう」

 

小さく息を吐いて、目を開けて顔を上げた。 左右を見るとまだ皆は祈っているようだ、どこか顔が赤くなっている気もするが。 するとなのはが祈り終わったのか目を開けた。

 

「何を祈ったんだ?」

 

「ふえ⁉︎ そ、それは……秘密なの///」

 

「はは、そうか」

 

聞けたらよかっただけで特に追求しなかった。 他の皆も祈願を終えたのか目を開けていた。

 

「フェイトは何をお願いしたの?」

 

「え⁉︎ ええっと……その……」

 

「そう言うアリサは何をお願いしたんだ?」

 

「そんなの、秘密に決まっているじゃない///」

 

「と、とにかく。 次の人が待っているから、行こう」

 

顔を赤くして胸をはるアリサたが。フェイトの言葉に俺達は頷き、後ろに並んでいる参拝客に頭を下げると、賽銭箱の前から移動した。

 

「あ、おみくじはあるよ。 皆で引いてみようよ!」

 

「そうね、面白そうだわ」

 

「あっちには絵馬があるんよ」

 

「はやてちゃん、行ってみようよ」

 

はやてとすずかは絵馬を書きに行き、俺達はおみくじを引きに行った。 他の皆はすでに引き終えており、表情から見るに誰も悪い結果ではなかったようだ。 俺も御神籤箱からみくじ棒を出し、出た番号の書かれた整理箱を引いてみると……

 

“大吉”

 

新年の開始はなかなか好調のようだ。 他の運も見てみると、特に気にする事もなかった。 個人的には吉とか凶ぐらいしかあんまり見ないから問題ない。

 

「レンヤ、どうだったの?」

 

「大吉だった、フェイトは?」

 

「私は中吉、なのはは?」

 

「末吉、微妙なの……」

 

「あんまり結果を鵜呑みにしなくてもいいじゃないの?」

 

「そうだよ。 毎日が楽しいと思えば全部大吉だよ!」

 

「そうだね……ありがとう、アリシアちゃん」

 

その後おみくじを境内の木に結び付け、絵馬を書いているはやて達の元に向かった。 すぐに見つかったが、すずかとはやては結構一心不乱に絵馬を書いており、後ろに控えていたノエルさんとリンスが苦笑い気味で見守っていた。

 

「おーい、2人共」

 

声をかけると、すずかとはやてはそこで俺達の存在に気付いて顔を上げた。

 

「レ、レンヤ君……」

 

「お、レンヤ君達。 遅かったなぁ」

 

すずかは俺達に気付くと慌てて、はやては気楽そうに笑って手を振っていた。

 

「2人共、絵が上手いね」

 

「う、うん。 開発のデザイン作りで結構書くからね」

 

「私も部長のせいでそれなりやな」

 

毎度思うけど文芸部ってなにやっているの? 本を読み書きしているのは聞いているけど、その内容は聞いたことがない。 学院祭の時も妙に女性来場者がいた気もするんだが……

 

その時、ふと社務所が視界に入った。 俺は皆に一言入れてから社務所に向かった。 そこで魔除けの御守りを買った、グリードも一応魔に通ずるのでご利益は多分あると思われる。

 

「そや、こんなん書いたんやけど。 なのはちゃん、いるんか?」

 

「え⁉︎ こ、こんなの書いたの⁉︎」

 

「気付いたらいつの間か書いていたんだよね、この絵馬」

 

「あんた何してるのよ」

 

「いや〜、具体的に書いた方が神さんも分かりやい思うてな」

 

「他の人の迷惑を考えようよ……」

 

「はやて……グッジョブ」

 

それから騒いでいる皆と合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから食べ物や飲み物を買ってはやての家で雑煮を食べることになった。 母さん達は翠屋に行くということで八神家を除いた大人達はここには居ない。

 

「コホン。 それじゃあ改めまして、あけまして……おめでとうございます!」

 

『おめでとうございます!』

 

リビングに集まり、改めて新年の挨拶を交わした。

 

「レン君、今年もよろしくなの!」

 

「よろしくね、レンヤ!」

 

「よろしくや!」

 

「ま……まぁ、よろしくしてあげるわ!」

 

「あはは……よろしくね、レンヤ君?」

 

「よろしくね〜」

 

挨拶も終わった所で、さっそく用意したおせちや雑煮を食べた。

 

「さあ、正月といえば羽子板! フェイト、一緒にやろうよ!」

 

「ね、姉さん、行くから引っ張らないで……!」

 

「あ、墨いるかぁ?」

 

「お〜、いるいる!」

 

「えええっ⁉︎」

 

アリシアは食べ終えるとフェイトと庭で羽子板を始めた。

 

「はやてちゃん、また腕で上げたかな?」

 

「確かにそうね。 何というか前より一味違うのよね」

 

「そうか? いつだってはやての料理はギガ美味だぞ!」

 

「あはは、あんがとうなあ、ヴィータ」

 

「そうだ! レン君、確か今日ケーキを作っていたよね?」

 

「ああ、皆で食べようかと作ったんだ。 ラーグ」

 

「おう」

 

ラーグの口からケーキの入った箱を出してもらった。

 

「いつ見ても慣れないわねえ」

 

「それどういう意味だよ?」

 

「ほんの少し憤慨です」

 

「あんまり細かいことは気にしなくてもいいだろ」

 

「そうですぅ、さっそく食べましょう!」

 

一悶着ありながらもケーキを切り分け、並べるとすぐに皆の手に渡ってあっという間にケーキは無くなってしまった。

 

「うーん♪」

 

「ふむ、なかなか美味いな」

 

「レンヤ君も腕でを上げたなぁ」

 

「学院祭でお互い鍛えられたんだろうな」

 

「そうだね、あの時の2人は本当に楽しそうだったからね」

 

「ああああっ! 皆、ケーキ食べている⁉︎」

 

アリシアの叫びを聞いて庭を見ると、アリシアとフェイトは肩で息をしながらこっちを見ていた。

 

「……ぷっ」

 

「あはは! なんやその顔⁉︎」

 

かなり連戦していたのか、顔中が墨で描かれていた。 フェイトは猫髭などが、アリシアには丸ばつといった記号が描かれていた。

 

「あらあら、お湯とタオルを持ってくるわね」

 

「お願いします……」

 

「それよりも私達の分はあるの⁉︎」

 

「結構大き目に作ったんだが、もうないな」

 

「そんなぁ〜……」

 

「俺のをやるから元気だせ」

 

「ホント⁉︎ ありがとう!」

 

「ってこら! その顔で抱きつくな!」

 

「持ってきたわよ」

 

「ありがとうございます、シャマル」

 

2人はシャマルから受け取ったお湯とタオルで顔の墨を落とし、アリシアは俺からケーキを受け取るとさっそく口に入れた。

 

「美味しい〜♪ 運動した後だとまた格別だよ〜」

 

「フェイトちゃんはいいの?」

 

「うん、レンヤがまたいつでも作ってくれるからね」

 

「それもそうだな」

 

それからも楽しい時間が続いていたのだが……

 

「ふう、ちょっと喉が渇いたわね」

 

「飲み物ならテーブルにあるんよ」

 

「ありがと」

 

アリサが確認もしないでテーブルにあったコップを取り、中身に口につけた。 あれ? あの妙に赤くて綺麗な飲み物なんだろう?

 

……ごく

 

「あら? ここに置いてあった私のコップは?」

 

こっ、こっ

 

「ふむ、誰かが持っていったのか?」

 

ごっ、ごっ

 

「誰が持っていったのかしら……私の()()

 

ごきゅっ、ごきゅっ!

 

シャマルとシグナムの会話を聞いて、俺は静かに振り返り、コップを片手に反り返っているアリサを見る。

 

「ア、アリサ?」

 

「ぷはぁ……」

 

コップから口を離したアリサ、その顔はどこか赤く高揚している。

 

「ふ……」

 

「ふ?」

 

「ふわああぁぁ……!」

 

『⁉︎』

 

アリサの口から出た甘い声を聞いて全員が驚愕した。

 

「このジュース、美味しい〜♪」

 

「ああぁ! それ私のコップ!」

 

「アリサちゃん、お酒飲んじゃったの⁉︎」

 

「しかもかなり酔いやすい」

 

「これはレアな姿やで」

 

確かにそうかもしれないが、色々とマズイ気もするんだが……

 

「レ〜ン〜ヤ〜♪」

 

アリサが上機嫌な顔で俺の背に寄りかかってきた。

 

「ア、アリサ……ちょっと落ち着こうか?」

 

「……ごめんね」

 

「え……」

 

「レンヤが私達のために深夜まで仕事していたんでしょ? ホントは手伝いたかったんだけど、あの内容だとレンヤしかできないしむしろ迷惑だと思うと……」

 

そこまで言い切ると罪悪感か、涙ぐむ。

 

「だ、大丈夫だって! 俺のためでもあったし、別にアリサが気にすることはないぞ」

 

「本当⁉︎ ありがとう、レンヤ〜!」

 

途端、笑顔になって抱きついてきた。

 

(か、可愛い……!)

 

いつものアリサはビシッとしていて、可愛いいよりも綺麗が似合う少女だが。 このアリサは顔を綻ばせて屈託のない笑顔が眩しく、不覚にも可愛いらしいと思ってしまった。

 

「アリサちゃん、とにかくお水を……」

 

「それにしてもギャップが激しいね」

 

「そ、そうだね……」

 

「アリシア〜、これはジュースよ〜」

 

「え、嘘でしょう?」

 

半信半疑のアリシアは、アリサからコップを受け取るとそのまま飲んだ。

 

「ちょっ⁉︎」

 

「アリシアちゃん⁉︎」

 

アリシアはぷはぁっと飲み切ると、首から段々上に赤くなって行き……

 

「きゅう……」

 

そのまま倒れてしまった。

 

「姉さーーん!」

 

「なんで飲んだんや⁉︎」

 

楽しい時間は唐突に騒がしくなり、新年そうそう慌ただしい開始になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

アリシアは苦しみながら頭を抱えて二日酔いに耐えており。

 

アリサは酔いを全く感じさせなかったが、レンヤの顔を見るたびに顔を赤くさせながら挙動不審になったことから、酔っていた時の内容を覚えていたようだ。

 

 

 




これから結構時間を飛ばして話を進めて行きます。

Stsまでまだかかりますが、気長にやって行きます。


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98話

 

 

冬季休業が終わり、新しくなった第三学生寮に驚くのもつかの間、それから1カ月もしないですぐに期末試験が行われた。 結果は前回と似た感じだったが、ツァリがまさかの10位以内までランクインしたのだ。 しっかり自分と力に向き合い、認めたおかげで念威操者としての実力が出たようだ。 それから空もテロリストも目立った活動はせず、3年生が学院を卒業し去っていく中。学院に入って2度目の春を迎え、俺達は2年生になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダにあるマンションの一室。必要最低限の物しか置いていない簡素なその部屋には、3画面のパソコンとカスタムキーボードを使用している白いセミロングの髪をした少女がいた。

 

カタカタカタカタ

 

「………………………」

 

食い入るような目つきで画面に流れる情報を見ながら忙しなく手を動かし続けていた。

 

「ふう……ごめんなさい、あなたに恨みはないのだけど、これも家族のためです」

 

少女は手に入れた情報をしぶしぶ誰かに送り、それからすぐにその相手から返信が来た。 送られてきたのは報酬金額だった。

 

「よし、これで借金返済もあとちょっと……」

 

金額に納得し、少女はまたキーボードを操作する。

 

「はう……そういえば入学式以降学院に行ってないや……うう、せっかく奨学金頼りで入学したのに……」

 

自業自得と自責の念に悩みながら、正面の画面に杖を持ち、頭上に輪っか、白い髭はを生やし、胸にハートマークがある黄色い卵型のマスコットが現れると……

 

『よくぞ来た、迷える子羊よ。今日はどんなご用かな?』

 

機械音声でそう質問してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月上旬ーー

 

新VII組の1年生をフォローしつつも自分のことは問題なく所を見ると、皆はそれなりに先輩としての威厳というものが出てきたらしい。

 

新しい学年に慣れたそんな時、学院では去年から急激に普及し始めたMIPHONのあるアプリの話題で持ち切りだった。

 

「神様アプリ?」

 

昼休みの時、教室でアリシアがそんなことを言った。

 

「そ、“神様のいうとおり”ーー通称神様アプリっていう対話型占いアプリ。 かなり高い精度で当たるらしくて女の子に人気みたいだよ」

 

「へえ……? そんなアプリがあったんやな」

 

「そんな人気みたいなのに、このクラスの女子から最近そんな話を聞かないね……」

 

「アプリをしている暇があったら他のことを優先しているわよ」

 

「確かに、そんな余裕もないしね」

 

「あはは、私はちょうどこの前ダウンロードしたんだけどね」

 

なのはがMIPHONを取り出し、アプリを起動すると画面を見せてくれた。

 

『よくぞ来た、迷える子羊よ。 今日はどんなご用かな?』

 

画面にはコミカルなキャラクターが映っていた。

 

「あっ、かわええなぁ」

 

「……これが?」

 

「そうだよ。 使い方は悩み事を入力するだけで……」

 

なのはは“どうすれば教官に勝てますか?”と入力すると……

 

『ーー日々の積み重ねを大事にするのだ。 教官と相対して危機的状況に陥ろうとも、積み重ねてきた鍛錬はそなたを裏切らない。 友と切磋琢磨すれば遠くない未来、届くかもしれんゾイ』

 

と、機械音声で助言をくれた。

 

「こんな感じで、神様がお告げをくれるんだ」

 

「へえ、なかなか的を射ているわね」

 

「というか無謀な質問だね」

 

「あ、あはは……」

 

「でも特に友達の事や、結局勝てる見込みが低い事とかちゃんと分かっていてアドバイスしてくれているよ」

 

「届くかもしれない……だからね」

 

「あいつ相手に卒業するまで一本取れればマシな方だ」

 

「でも、女子に流行るのも分かる気もするよ。 皆占いとか大好きだからね」

 

「確かに、女子ってそういうの好きそうだもんな」

 

「そういえば、このアプリが話題なのは他にも理由があって。 どうやらこのアプリの開発者はこのレルム魔導学院の生徒の誰からしいですよ?」

 

ユエが今思い出したのか、興味深いことを言った。

 

「そうなの? でも生徒って」

 

「まあ、ありえなくはないかもね。 グロリア先輩やすずかのような人もいるんだし」

 

「もしかしたら1年の可能性もありますね」

 

「でも、本当だったら確かにすごいね」

 

そうこう話ていると昼休みはあっという間に過ぎ、残りの授業を受け放課後になった。

 

「さてと、異界対策課に行くとするかな」

 

「珍しいね、平日に行くなんて」

 

「今月から本当に久しぶりに新しい隊員が入ったからな」

 

新しい隊員とはソーマの事だ。 ソーマ、ティアナ、スバルは今月陸士訓練校を主席卒業し、ソーマは推薦を受けて異界対策課へ。 ティアナとスバルは首都から南にある陸士386部隊災害担当へ配属された。

 

「私達は部活とかの予定があるから行けないけど」

 

「私もや」

 

「そうだ! ならレン君、途中まで一緒に行こうよ」

 

「なのはも何か予定が?」

 

「2月くらいに行われた戦技披露会にレン君達に出てもらったよね? どうやら模擬戦のレベルが高過ぎて、未だに映像の調整や説明とかがまとまってないの」

 

「ああ、あれね。 あれでも結構手を抜いたんだけど」

 

「これは訓練生に見せる予定だったの……」

 

「あはは、途中から熱くなっちゃったからね〜」

 

「参考にならない魔力変換資質も使ちゃったし……」

 

「反省しています……」

 

さすがにやり過ぎたこともあったな。 そもそも俺の戦闘スタイルは近接両用型のベルカ寄りの魔導騎士だ、最初から参考になるかどうかすらわからない。

 

「コホン……皆が反省しているならそれでいいから。 それじゃあレン君、さっそくーー」

 

ピロンピロン、ピロンピロン!

 

なのはの言葉を遮るように誰かのメイフォンが音を立てた。

 

「あれ、この音……」

 

「なのはのメイフォンじゃないかな?」

 

「うん、どうやら神様アプリの通知が入ったみたい。 今日の運勢を自動で知らせる設定にしたんだ。えーっと、どれどれ……」

 

メイフォンを取り出し、通知を見ると……

 

「……なんだろう、これ?」

 

なのはは顔を歪ませながら画面を見る。 見せてもらうと、昼休みに見せた神様アプリの画面と全く別だった。 今は背景もキャラクターもまるで悪魔のような雰囲気だ。

 

『ーー今日のあナたは最悪でショう。 交通事故にあっちゃウかも♪ 楽シい1日はあっといウ間におしマい♪ 心ノ準備ハ、しておキマしょうネ』

 

画面の文字は所々文字化けしており、まるで嘲笑うかのようになのはの運勢を告げた。

 

「……これは」

 

「それにこの内容って……」

 

「……交通事故……?」

 

「こんな表示が出たのは初めてだよ……」

 

なのはは嫌そうな顔をしてメイフォンをしまった。

 

「はあ、縁起でもないの……せっかく2人っきりなのに……」

 

「大丈夫だよなのは、所詮占いなんだから」

 

「そうだね。 あんまり気にしない方がいいよ」

 

「そうだよ、単なるアプリのバグかもしれないし」

 

「そっか……そうだよね? よし、気を取直して行こう!」

 

フェイト達に励まされ、あっさり元気になった。

 

「全く、単純だな」

 

「あはは、でもそれでこそ、なのはだもんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガンまでなのはと一緒に同行し、駅で別れてから異界対策課に向かった。

 

「現時刻より異界対策課に配属されました、ソーマ・アルセイフです! 最良の力を持って励まさせて頂くので、どうかご指導をお願いします!」

 

体をガチガチにしながら敬礼をするソーマ。

 

「そう堅くならなくていい。 異界対策課はご覧の通り若者しかいないから、そこまで上司、部下の関係にこだわっていない」

 

「し、しかし……憧れの異界対策課に入れたのはレンヤさ……隊長のおかげですし……」

 

「それを言って実行したのはソーマだけだぞ」

 

身内びいきでソーマを推薦したわけではなく、ただ推薦を希望したのがソーマしかいなかったからである。 異界対策課のハードさは知られているし、怪異を相手にするのはかなり度胸もいる。 隊員が全然増えない原因の1つだ。

 

「まあ、だんだんと慣れて行けばいい。 異界対策課の大まかな活動の流れはラーグから聞いたな?」

 

「は、はい」

 

「それじゃあソエル、説明よろしく」

 

「了解♪ まずはソーマ、メイフォンを出して」

 

「は、はい」

 

ソエルがソーマのメイフォンにサーチアプリを送信した。

 

「これは……」

 

「XーSearchーSystem……アプリの正式名称は“エコー”。ディアドラグループの協力の元に作られたアプリで通称サーチアプリ。 それを使えば異界の反応を確かめ、ゲートの位置を特定することができる」

 

「なるほど……それでどうやって使えばいいんですか?」

 

「反応があれば自動で起動するから、街を歩き回ればいい。 アプリが起動したら連絡をくれ」

 

「わかりました」

 

「依頼も簡単のを少し用意したから後で確認しろ。 必須以外は別にやらなくてもいいから、そこはお前の技量次第だ。 ルーテシアも同伴させるから、わからない所はルーテシアに聞いとけ。 異界が見つかった場合はすぐに連絡して状況を報告すること、俺が現場に向かうから」

 

「了解しました!」

 

「それじゃあ行ってきま〜す」

 

「気をつけろよー」

 

ルーテシアとアギトが手を振りあい、ソーマが敬礼をして異界対策課を後にした。

 

「ふう、これで優秀なオペレーターも増えれば言うことないんだが……」

 

「はいはい、それよりも書類を片付けてね」

 

ソエルに言われて書類を片付けて行く。 途中、ソーマ達がゲートを発見して異界の収束にあたったりもして、区切りの良い所に一旦終わるには夜になっていた。

 

「ふう………」

 

「お勤めご苦労さん」

 

「ああ……ようやく書類を片付けるのも慣れてきたなあ……」

 

「確かに板についてきてんな」

 

アギトに言われて苦笑しながら、ここ最近の異界の発生率が書かれた書類を読む。

 

「4月に入ってから、異界の発生率が上がってきているな」

 

「確かにそうだね」

 

「先月だけでも3件の事件が起きたらな。 一応、緊急時にティーダとヴィータを呼べるようにはしている」

 

「呼ばない方がいいんだがな……」

 

なにやら不吉な予感がする。 今日入った異界もフェイズ2だったが、いつもより危険度がかなり高かった。

 

「……考えても仕方ないか」

 

気を取直し、作業を再開した。 次々とソエル達が帰るのを見送る中、全ての仕事が終わり、時間を見るともう9時過ぎだった。

 

「さてと……」

 

帰り仕度をして、カバンを持って異界対策課を出ようとすると、先に扉が開き……

 

「レン君、いる?」

 

「なのは?」

 

教導官の制服を着たなのはが入ってきた。

 

「どうしたんだ、こんな時間に?」

 

「それはこっちの台詞……った言いたいけど、私もついさっき戦技披露会の映像の編集が終わったの。 それから帰ろうとしからソエルちゃん達にあってね。 それでここに来たの」

 

「なるほど、それで帰りも一緒に?」

 

「うん!」

 

「了解」

 

なのはと一緒に帰り、本部を出て中央駅に向かって歩いた。

 

「レン君、ここ最近異界の事件が増えてきているって聞いたんだけど……大丈夫? 怪我とかはしてない?」

 

「大丈夫だ。 確かに増えてきているが、そこまで大きくはないし十分対処できている」

 

「そっか……」

 

「なのはも教導、頑張っているか? お前のことだからドジ踏まないか心配なんだよな」

 

「そ、そんなことないよ! ちゃんと教導できているし、ドジも……たまにしかしてないし……」

 

なのはは途中から目を泳がせながら口ごもる。

 

「ふふっ、まあ、お互い気をつけるとしますか」

 

「う、うん」

 

雑談しながら道路に出ると、信号が赤になったのでその場で止まった。

 

「レン君は1年の子達と仲良くしている? レン君は変な所で遠慮するし」

 

「顔を合わせる機会は多いし、特別実習でのアドバイスもよくしている。 まあ、ちょっと1年が堅すぎるんだが……」

 

「あはは、私も。 もっとフレンドリーにしてもーー」

 

その時、なのはの方から車がスピードを落とさず走ってきた。 まるで前が見えていないような、それほどにフラフラしながらこちらに向かってきている。

 

「なのは!」

 

「え?」

 

すぐさまなのはの手を引いて抱き寄せ、その場で車より高く飛び……

 

キイイィィーーガシャンッ‼︎‼︎

 

車はブレーキ音を立てながら電柱にぶつかり停止した。

 

「これって……」

 

着地して、なのはこの惨状を見て呆然とする。 そして俺は、今日の放課後のことを思い出した。

 

【ーー今日のあナたは最悪でショう。 交通事故にあっちゃウかも♪ 楽シい1日はあっといウ間におしマい♪ 心ノ準備ハ、しておキマしょうネ】

 

「……交通……事故……」

 

神様アプリが告げた不吉な占い……今起きたことを見ると占いではなく、まるで予知のように思えてくる。 どうやらこの神様アプリ、何かあるようだ。

 

「ふう……よし!」

 

気合いを入れ、運転手の救助と事情聴取をするために車に近寄った。

 

 




色んな意味で飛ばして行きます。


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99話

 

 

翌日ーー

 

幸いにも運転手に怪我はなく、今回の騒動は事故として治められることになった。あくまで……今は。

 

「なのは大丈夫⁉︎ 怪我はない⁉︎」

 

事情聴取や事態の収拾のため、学院に登校したのは昼からだったので、予想以上に心配されたようだ。

 

「うん、大丈夫だよフェイトちゃん。 レン君が助けてくれたから」

 

「そう、よかったわ」

 

「ご無事でなによりです」

 

「はああ……連絡をもらった時は本当にビックリしたんだから」

 

「すまんな、こっちも事態を治めるのを優先したから、その後の連絡を後回しにしちまってた」

 

「でも、2人共大したこともなくて本当に安心したよ」

 

皆は俺となのはの無事を確認できてホッとしている。

 

「でも……さすがに驚いたよ。 まさか、あの“占い”が現実になるなんて……」

 

「さすがに的中しすぎていて不気味やなぁ……」

 

「にゃはは……さすがに偶然だよ。 皆も占いは占いって言ってたよね」

 

「確かに、どう考えてもあり得ないな」

 

「……ああ、あり得るわけがない」

 

普通に考えれば、まずそんなことはあり得ない。だが………俺はアリサ、すずか、アリシアと顔を合わせると、目が合い頷く。 どうやら3人共同じ考えのようだ。

 

それから通常通りに授業を受け。放課後になり、なのは達に断りを入れて。俺達、異界対策課の4人は屋上に集まった。

 

「神様のいうとおり……レビューを見る限りでもよく当たるって書いてある。 けど、今回の事故はさすがにおかしいね」

 

「ああ……どう考えてもな」

 

「一般的に広まっている占いには、“広く解釈の利く言葉”が意図的に使われていることが多いわ」

 

「でも、今回の場合は“事故”じゃなくて、“交通事故”と明言されている……これはどちらかといえば“予言”に近いね」

 

「予言……か」

 

「問題は、昨晩の事故に……異界が関わっているかどうかだ」

 

昨日のうちに車や辺りを調べたが、異界や怪異の痕跡は見つからなかったが……可能性は否定できない。 それが非常識が当たり前の異界の世界なのだから。

 

「正直、まだ情報が少な過ぎて断定は出来ないけど。 ただ……少なくとも何かあるのは間違いないね」

 

「確かにそうね。 経験上、こういうのは何かあるわ」

 

「証拠は見つからなかったが……俺もそう思う」

 

「私もそう思うよ。 けど……情報もほとんどないし、まずは取っ掛かりが欲しいけど……」

 

今ある情報は神様のいうとおりが関わっていること、それだけでは前に進めない。

 

(そういえば、昨日神様アプリが話題になって雑談していた時確か……)

 

「そういえば昨日、リヴァンが言っていたよな。 神様アプリは、この学院の生徒の誰かが作ったとか」

 

「あ、確かに言っていたね」

 

「不確かな情報かもしれないけど……異界絡みだと取っ掛かりとしては悪くないわね」

 

「そうだね、調べていく内にまた何か分かるかもしれないし」

 

「よし、それじゃあ捜査開始だ」

 

「おおぉっ!」 「ええ!」 「うん!」

 

まずは学院の神様アプリを使用している生徒から情報を集めた。 どうやらなのは以外にもあの不気味な通知があった生徒が何人もいて、全員がその通知通りに不幸な出来事にあっていた。 共通点としては機械の誤作動などがあり怪我をしたというのがあった、昨日の車の事故も運転手にやればカーナビの誤作動と言っていたため捨て置けない情報だが……どれも開発者を特定するにはまだ足りず、異界の関連性もまだ確証を得ない。

 

「なかなか見つからないね?」

 

「ふう、どうやら一筋縄では行かないようだ」

 

「何か決定的な確証が欲しい所だけど……」

 

学生会館前で全員で頭を悩ませている時、会館の扉が開いてフィアット会長が出てきた。

 

「あれ? レンヤ君達どうかしたの?」

 

「会長……少し捜査が行き詰まっていまして」

 

「フィアット会長は、神様アプリの開発者が誰なのかご存知ですか?」

 

すずかが一応とフィアット会長に神様アプリの事を聞いてみた。

 

「それって最近噂のよく当たるっていう占いアプリのこと? 確かに開発者はこの学院の生徒って噂だけど、それが誰なのかまではちょっと分からないかな」

 

「そうですか……」

 

「そういえばフィアット会長はもう帰りですか?」

 

「ううん、これから首都に行くんだ。 不登校になっている生徒の家に行かないといけないの」

 

「不登校って……そんな人がいるんですか?」

 

「なんでも入学当初からほとんど出席していないそうなんだよ。 これからその子の家まで行って確認しに行くんだ」

 

また、大変な仕事を1人でやっているなこの人。 そういえば、新VII組のメンバーが1人が入学式以降来ていないと担任から聞いていたような……

 

「フィアット会長、会長も忙しいのですからそこは生徒会役員や代理人を派遣すればいいことじゃないですか。 何も会長ご自身行く必要は無いんですよ」

 

「あはは、そうなんだけどね」

 

「それにしても……苦労して入学したのに、そんな人がいるのね」

 

「それも含め確認しに行くの。 それじゃあ皆も頑張ってーー」

 

フィアット会長が一歩前に進むといきなりつまずき、転んだ。

 

「あいたた……」

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、あはは……ごめんね、アリシアちゃん」

 

フィアット会長はアリシアに手を貸してもらい立ち上がると、フィアット会長のカバンから封筒が落ちた。

 

「これは……?」

 

「それを、今からその子に渡しに行くんだ」

 

「なるほど……、‼︎」

 

すずかが封筒の宛名が書かれた部分を読むと、驚いた顔になった。

 

「すずか、どうかしたの?」

 

「アリサちゃん、この名前……」

 

「なになに、サーシャ・エクリプス……エクリプス?」

 

「もしかして、月蝕(エクリプス)の事かな?」

 

「ミッドチルダで有名な天才ハッカーだな」

 

偶然かもしれないが、もしかしたらエクリプスが開発者かもしれない。

 

「……会長、お願いが「いいよ」あって……っていいんですか⁉︎」

 

「か、会長……さすがに理由も聞かないで了承するのは……」

 

「レンヤ君達だからだよ。 何の理由もなしに頼むわけがないし、なにより信用しているから!」

 

フィアット会長は笑顔でそう答えた。

 

「フィアット会長……」

 

「ありがとうございます」

 

「困った時は遠慮しないでどんどん頼んでね、皆にはお世話になりっぱなしだから。 正式に生徒会からの依頼をします、その封筒をサーシャさんに渡してください。 場所は西部にある記念公園の一角にあるタワーマンション……よろしくお願いするね」

 

「はい、分かりました」

 

フィアット会長は笑顔で頷くと、学生会館に入って行った。

 

「さすがに無理を言わせちゃったかな?」

 

「そのうちお礼をしておかないとな」

 

「ともかく、これで有力な手掛かりが得られたわね。 記念公園の外れにあるタワーマンション……さっそく行ってみましょう」

 

「うん!」

 

心の中で改めてフィアット会長にお礼を言いながら、異界対策課の専用車で西部にある記念公園に向かった。

 

「ここに全員で来るのも久しぶりね」

 

「あの時は霧で視界が悪かったし、それどころじゃなかったけど……」

 

「そうだな。 さて……タワーマンションは」

 

「あそこじゃないかな? この辺りで1番高い建物だし」

 

アリシアの指した建物は周りの建物と比べられないくらいの高さを誇っていた。 門の前に来ると改めてその高さを感じる。

 

「近くで見ると本当に高いねぇ」

 

「依頼で何回か入ったことがあるが、中は広くて綺麗だから家賃も結構するらしい。 エクリプス一家はそれなりに裕福みたいだな」

 

「封筒の住所だと中層の部屋みたいだね。 そろそろ日も暮れそうだし、さっそく訪ねてみよう」

 

「ええ、そうね」

 

アリサは備え付けのインターホンに部屋番号を入力し、ホーンが鳴るが……

 

「……出ないな。 今は留守にしているのか?」

 

「もう一度やってみるわ」

 

もう一度ホーンを鳴らしたら、すぐに誰かが出た。

 

『ご、ごご、ごめんなさい! 浄水器はいりません!』

 

スピーカーから少女の慌てた声で変な事を口走った。

 

(部屋のモニターからちゃんと見ていないのかな)

 

「エクリプスさんの自宅で間違いないわね?」

 

『は、はい! あれ? セールスの人じゃなさそうですけど』

 

「俺達はレルム魔導学院・生徒会からの通知を頼まれて持って来た」

 

「それと……神様アプリについてちょっと話を聞きたいんだ」

 

『……!』

 

息を飲むのが聞こえ、それから沈黙が続いた。

 

『……分かりました。 少しなら時間を取れますので、部屋でお待ちしています』

 

そう言うと通信が切れて、マンションの扉が開いた。

 

「行きましょうか」

 

「それにしても、どんな子か全然想像がつかないね」

 

「確かに、こんな子が月蝕だなんてあり得なかな?」

 

マンションに入り、中層にあるエクリプス宅の前に来た。

 

「ここだね」

 

「それじゃあ、押すね」

 

すずかがインターホンを鳴らすとすぐに扉が開いた。

 

「い、い、い、いらっしゃいませ! 本日はお日柄もよきゅっ……」

 

出て来たのは小柄で白いセミロングの髪とワインレッドの瞳をした少女だった。 出会い頭またズレた事を口走り、噛んだ。

 

「あはは、とにかく中に入ってもいいかな?」

 

「は、はい! どうぞ……」

 

「お邪魔します」

 

少女に案内され、自室と思われる部屋に入った。 部屋には画面が3つあるパソコンとベットだけという簡素な物だった。 目立つ物と言えば本棚に敷き詰められたデバイスやソフトウェア工学関連の本の数々だ。

 

「すみません、座れる物がなくて……」

 

「構わないわ。 それであなたがエクリプスね」

 

「……はい。 サーシャ・エクリプスです。 皆さんと同じレルム魔導学院・VII組に在籍している1年です……」

 

少女……サーシャの視線の先には、壁に掛けられた魔導学院の真紅の真新しい制服があった。

 

「あの制服は……!」

 

「なるほど、君が最後のVII組のメンバーだったわけだ」

 

「はい……」

 

「なら、これを渡しておくわ」

 

アリサはサーシャに封筒を渡し、サーシャは封を切って中の紙に目を通した。

 

「あうあう……不登校生徒への通知……うう、とうとうこんなレベルまでに……」

 

やらかしてしまったような感じで落ち込むサーシャ。

 

「……皆さん、わざわざ届けてもらってありがとうございますです」

 

「どういたしまして、私達の事は存知しているみたいだね?」

 

「は、はい。 異界対策課でも、VII組としても有名ですから」

 

「それで……あなたがあの月蝕、でいいのかしら?」

 

「あ……」

 

サーシャはしばらく黙ると、静かに頷いた。

 

「はい……私が月蝕(エクリプス)です。 去年、すずかさんとは地上本部でお会いしました」

 

「あの時のハッキングだね。 その節はありがとう、本当に助かったよ」

 

「い、いえ」

 

「ーー本題に入るぞ。 君がエクリプスだとしても、今回は神様アプリについて聞くためにここに来た」

 

「ただの偶然だけどね」

 

「あはは……コードネーム捻らなかった私の落ち度ですよ」

 

「それはともかく、教えてもらいましょうか。 あのアプリがどういう代物なのかを」

 

「え、あ、はいです」

 

話は逸れたが、本来の目的である神様アプリについて、サーシャが説明しくれた。

 

「神様のいうとおり……実はあのアプリにはハッキング機能が付いているんです。 “悩め事”を入力すると、アプリのAIがバックグラウンドでメイフォン内にサーチします。 得られた個人情報を元に、使用者に合わせた適格なアドバイスをしてくれるわけです」

 

「それって……アプリが全部やってくれているの?」

 

「はい、多少結果のバラつきはありますけど、誤差の範囲内です。 コミュニケーションアプリやSNSからも情報を集めていますし。 心理学のデータや占いや悩み相談の類似ケースからも照合していますからかなりの精度だと自負しています」

 

えっへんと胸を張って誇らしげな顔をする。

 

「簡単に言うなぁ、それが実現するのがとんでもなく難しいというのが普通に分かるぞ」

 

「でも、決して不可能ではないよ。 理論上可能だよ、エコーもそれに似たようなアプリだし」

 

「えへへ」

 

「褒めてないから。 いずれにしても、かなり優秀なシステムエンジニアのようだね?」

 

「ごめんなさいです……」

 

「怒ってもいないから!」

 

バカと天才は紙一重とはよく言ったものだな。

 

「コホン、それじゃあ予言の話とはどう結びつくのかな?」

 

「えとえと……あの例の話ですか? 事故や怪我がお告げ通りになったていう? 調べてみましたが……今の所1度も再現性もないですし、偶然としか言えません」

 

「実際に何人も怪我人も出ているんだぞ?」

 

「こればかりは私からはどうとも……アプリの影響で事故というのも信憑性もないですし……」

 

「そうか……」

 

サーシャは現実的な回答で予言を否定する。 だか、これに普通じゃないことが起きていたら……

 

俺達は顔を見合わせ、頷く。

 

「……ありがとう、これだけ聞ければ充分だわ」

 

「それじゃあ、私達はこれで失礼するね」

 

「それと話は戻るが、ちゃんと学院にーー」

 

ピーーンポーーン……

 

その時、インターホンが鳴り、優しげな男性の声が聞こえて来た。

 

『サーシャ、いるか? 入るぞ?』

 

「あ⁉︎ もうこんな時間!」

 

サーシャが驚く中。 玄関が開く音が聞こえ、真っ直ぐこちらに向かい部屋に入って来たのは、声の通りサーシャと同じ髪色をした優しげな男性だった。

 

「返事ぐらいしてくれ。 すまないとは思っているが、しっかり休んでーー」

 

男性はようやく俺達の存在を認識すると黙ってしまう。

 

「えっと……(ペコリ)」

 

「こんにちは」

 

「ども」

 

「お邪魔しているわ」

 

とりあえず挨拶してみた。

 

「………あ………サーシャ。 もしかして……」

 

男性は驚いた顔から……途端、笑顔になると……

 

「友人が来たのか⁉︎」

 

……勘違いもいいところだ。

 

「ええっ⁉︎ えとえと、この人達は学院のーー」

 

「ああそうか! その制服、レルム魔導学院・VII組の! 聞いてはいたが、あのクラスに入るとはお兄ちゃんも鼻が高いぞ……!」

 

……なんか、恭也兄さんと同じ感じがする。

 

「君達はサーシャと同じVII組の友達なのかな?」

 

「いえ、その……」

 

「それに友達ならここじゃなくて、実家に呼んだほうがいいじゃないか。 だがちょうどお茶菓子も用意したから少し待っていてくれ、今ーー」

 

「わあああっ⁉︎ お、お兄ちゃん! 返済も終わっていないのに……危ないから来ちゃダメって言ったでしょう!」

 

サーシャは部屋の扉を開けると男性を引っ張った。

 

「お、おい……サーシャ?」

 

「ご、ごめんなさい皆さん! 何も聞かずに帰ってください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋から出た俺達はマンション前まで来た。

 

「あはは……追い出されちゃったね」

 

「やれやれだな」

 

「それにしても……学院に来ないにしても、何か事情があるようだね」

 

その時、先ほどのサーシャの兄と思われる男性が近寄って来た。

 

「すまない、君達。せっかく来てもらったのに、ゆっくりしてもらえなくて」

 

「大丈夫よ。 話も終わっていたところだったし」

 

「もしかして、貴方は……?」

 

「あ、そうだね。 自己紹介がまだだったね。 サーシャの兄のアルトマイルと言う。 お詫びと言ってはなんだけど、飲み物でもご馳走させてもらえないかな?」

 

事情も知りたかったので、その誘いを受けて。 すぐそこのカフェで話を聞くことにした。 まずは自分達がここに来た事情を説明した。

 

「ーーなるほど、見覚えがあると思ったら異界対策課の皆さんでしたか。 そんな通知を届けに……ご足労をかけたようだね」

 

「いえ、俺達も別件がありましたから」

 

「別件?」

 

「彼女が作ったアプリについて、確認したいことがあったのよ」

 

「まだ今日のところは確証はないですけど……」

 

「……サーシャが作ったアプリ?」

 

「もしかして、知らなかったんですか?」

 

神様アプリについて、かいつまんで説明した。

 

「……そうだったのか。 そんな人気のアプリをサーシャが……そういえば職場の人も触っているのを見た気もする」

 

「失礼ですが、アルトマイルさんはお仕事は何を?」

 

「アルトでいいよ。 こう見えても、博物館の学芸員をしています。 中央区画にある博物館なんですけど」

 

「学芸員ですか。 すごいですね」

 

「お近くの職場なのですね。 そうすると……どうして彼女は1人暮らしを?」

 

「学院の方にも通知していないようですし、そもそも何故寮に住まないのですか?」

 

その質問にアルトさんは答えられさずにいた。

 

「……あまり土足で他人の事情に関与するのは気が進みませんが。 同じ学院、そしてVII組の仲間です。 失礼を承知で言います、借金を抱えているのですか?」

 

「……はい」

 

アルトさん静かに頷くと、事情を話してくれた。

 

「私達の父は2年前に失業してしまって、以前から仕事がなかったんです。 それまではデバイスやパソコンのソフトを作る仕事だったんですが、無理して体を動かすアルバイトを続けていたら、体を壊してしまって……」

 

「アルトさん……」

 

「結構、凄腕だったんだよ? 作ったソフトが賞を取ってたんだから」

 

どこか誇らしげに告げてから、肩を落とし、ゆっくりと首を左右に振った。

 

「しかし、会社が潰れてしまって、本人もそれなりの歳ですから再就職も大変で。 借金もありますので、手術費用も払えなくて……なんとか頑張っているが、所詮学芸員の収入では何十年かかるのやらで……」

 

「そんなことは……」

 

「それで、ある日突然サーシャがどうにかすると言い出して。 借金取りと交渉して情報屋をして借金を返済する事になったんだ。 あの部屋は相手から用意した檻なんだよ」

 

顔を上げてタワーマンションを憎らしげに見つめる。

 

「サーシャは子どもの頃から父の薫陶を受けていたし、サーシャ自身にも才能があったからなんとか返済の目処が立った。 しかし、相手も無理やりサーシャを酷使する時もあるの。 その度にサーシャは疲れ果てた体になって……それでも頑張ろうとするんだ」

 

「そんな……」

 

「……失礼ですが、全額は幾らで後どれくらいの返納を?」

 

「2千万です……そして後2百万と言っていた」

 

「2千っ⁉︎」

 

「何やったの⁉︎」

 

「会社の失業の責任を肩がされてしまったようで……社員全員分がこっちに……」

 

「明らかに不正です。 抗議をしなかったんですか?」

 

「どうやら事前に相手と交渉していたようで……証拠を探しようにも見つからなくて、結局ここまで来てしまったわけだ……」

 

さすがに不幸すぎて同情する。

 

「こんな不正、どう考えてもおかしいよ。 相手というのは誰ですか?」

 

「確か、フェノール商会だったな」

 

「それ、グリズリーファングの表向きの名前じゃない。 通りで奴らがやりそうな手口だと思ったわ」

 

「この件は執務官としても見過ごせないね」

 

「ありがとう、感謝するよ。 サーシャの友人じゃなかったのは残念だけどね」

 

アルトさんはどこか残念そうな顔をする。

 

「その……すみません」

 

「でも、もう顔見知りだから友達みたいなものですよ!」

 

「後輩を守るのが先輩の役目ですし、同じVII組の一員としても気に掛けておきます」

 

「そうか……おっちょこちょいな子だが、よろしくお願いするよ」

 

やることが増えたが……兄公認で任されたからには、この件は絶対に解決しないとな。と、アルトさん公園に備え付けてあった時計を見た。 ちょうど18時を回った所だ。

 

「おっと、もうこんな時間か。 首都で博物館の仕事を抜け出して来たからな。 悪いけど僕はこれで失礼させてもらうよ」

 

「そうですか……お疲れ様です」

 

「ご馳走になったわね」

 

「気にしないでくれ。 それじゃあ、またね」

 

アルトさんは席を立つと、公園の出口に向かって歩いて行った。

 

「……行っちゃったね」

 

「兄妹揃って優しいんだな。 雰囲気も似てたし」

 

「さて、神様アプリに加えてやることが増えてしまったわね」

 

「フェノール商会の方は私が何とかするとして……アプリの方はまだ異界との関わりが確定したわけじゃないよ」

 

「それを見極めるのが今後の課題になるね」

 

「ああ……明日は放課後から改めて街を回って情報収集するとしよう」

 

「うん、皆で頑張ろうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、さっき言っていたら、サーシャが作ったっていうアプリ……」

 

アルトが博物館に向かう途中、ふとレンヤ達の言っていた話を思い出した。

 

「せっかくだしダウンロードしておくか」

 

メイフォンを取り出し、さっそく神様のいうとおりをダウンロードし始める。

 

「すごいダウンロード数だな……ランキングもかなり上位だし」

 

だが、これも借金返済のために作ったと思うと居た堪れない気持ちになってしまう。

 

「ーーインストール完了っと。 こんなの作っているなら一言くらい家族に入れてもいいだろうに」

 

ピロンピロン!

 

さっそく神様アプリから通知が届き、その内容を読む。

 

「何だ、これ……?」

 

 



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100話

‭‭‭

 

アルトさんと別れてすぐに異界対策課に向かい、サーシャ達の父親が勤めていた会社を調べた。 どうやら外部からの圧力で倒産に追い込まれ、その責任を負わされたようだ。 しかし、約2年前の事件なので情報は少なく、なかなか進まない。 しかもどうやら管理局の方も黙認していたが節があり、改めて管理局の問題に頭を悩まされた。

 

翌日ーー

 

本来なら休日である土曜日だが、レルム魔導学院は月一回の自由行動日以外に休みはなく。 今日もいつも通りに勉強と訓練をしていた。

 

「それでサーシャちゃんの件はどうかな? 何か進展があった?」

 

「レイヴンクロウの方にも話を聞いてみたけど、まだ確かな情報は来てないわ」

 

「そもそもそんなに簡単に見つかっているなら、とっくにアルトさんがどうにかしているよ。 あっちも馬鹿じゃないんだし」

 

「神様アプリの方も今の所は何にも……だが、もし予想通りに神様のいうとおりが異界が関わっていたらちょっと面倒だな」

 

昼休みの時間に屋上で今後について相談していた。

 

「ま、深く考えるのは放課後からだ。 役割分担としてはーー」

 

ピリリリリ、ピリリリリ!

 

そこでいきなり俺のメイフォンに着信が入った。

 

「誰からなの?」

 

「……? 知らない番号だ」

 

とりあえず出てみた。

 

「はい、どちらーー」

 

『レ、レンヤ先輩!』

 

「っ……その声、サーシャか?」

 

あまりの大声にメイフォンを耳から遠ざけながら声の主を確認する。

 

「なんで俺のメイフォンの番号を知っているんだよ」

 

『す、すみません! ハッキングしました! それよりもそんなことは今はいいんです!』

 

「よくないよ……それでどうした? 妙に慌てているけど?」

 

『それが……いないんですーー今朝から連絡がつかないんです、お兄ちゃんと!』

 

「……どういうことだ……?」

 

頭を切り替え、サーシャから詳しい内容を確認する。

 

『昨日、皆さんな話が気になってしまって……サーバーの記録を調べてみたら、昨日の18時過ぎ頃にダウンロードされていたんです……お兄ちゃんのメイフォンに神様のいうとおりが』

 

「18時過ぎ……昨日、別れてすぐか」

 

神様アプリをインストールしてアルトさんが行方不明……

 

「……巻き込まれたか……」

 

『ま、巻き込まれた? まさか、昨日のことがフェノール商会に……!』

 

「いや、別件だが……今からそっちに行く。 記念公園のカフェ前で待っててくれ」

 

『は、はい!』

 

ピ……

 

「何かあったの?」

 

「サーシャちゃんの声が聞こえたけど……」

 

「ああ……」

 

アリサ達に先ほどの通話の内容を伝えた。

 

「そんな、アルトさんが……」

 

「神様アプリをインストールした直後……異界が関わっている可能性が上がったわね」

 

「車をすぐに用意するよ、早く行こう!」

 

「ああ! 異界対策課、出動する!」

 

『了解!』

 

手に防護魔法を纏い、屋上からすぐ側にあるポールでラペリングして一瞬で降りて、技術棟に向かった。 いきなりの事に1年生は驚き、教頭は怒り声を上げるが……一言だけ謝り、専用車に乗り記念公園に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動しながらテオ教官に早退すると連絡し、なのは達にも急な仕事と連絡した。 記念公園に到着すると、もうカフェテリアの前にはサーシャがいた。 落ち着きがなく、メイフォンを耳に当ててそわそわしている。

 

「おーい、サーシャ!」

 

「あ、皆さん!」

 

サーシャは近寄ると少しだけホッとする。

 

「彼に連絡していたようね。 あれから返事は?」

 

「駄目です……全然繋がりません。 いつもならちゃんと出てくれるのに……」

 

「状況は大体把握しているよ。 どうやらなのはちゃんの時と同じ……神様アプリに“予言”があった可能性が高いね」

 

「それによってアルトさんの身に“何か”が起こった……そう考えるべきだね」

 

「そ、そんな……」

 

あり得ない事実を前にサーシャは困惑するしかなかった。

 

「とにかく、彼を探し出しましょう」

 

「ああ……先ずは手掛かりが欲しいな。 サーシャ、アルトさんが勤めている博物館には連絡したよな?」

 

「は、はい! もちろんしました。 そしたら無断欠勤だとかで……お兄ちゃん、すごく真面目だからどうしたのか心配されました……一応、体調不良という事で誤魔化しましたけど……」

 

「……そうか」

 

「昨日、別れ際にアルトさんは『首都で博物館の仕事を抜け出して来た』と言っていた……サーシャ、何か心当たりはある?」

 

アリシアの質問に、サーシャはすぐに何かを思い出した。

 

「そうだ……最近、仕事について何か話していたような。 確か、南部のどこかで“イベント”をやっていまして、そっちの準備があるとか何とか。 ああでも、場所は聞いてなかったんです⁉︎ ああもう、何でもっとちゃんと聞いとかなかったの、私……!」

 

「落ち着いて、サーシャちゃん」

 

慌てたサーシャをすずかが落ち着かせる。 しかし、イベントがやっていたとしても調るにしても、探すにしても時間がかかる。 南部だけだと……

 

(そういえば南部の担当って確かアリシアだったな)

 

「アリシア、思い当たる場所はないか?」

 

「う〜ん…………あ、もしかすると古風通りじゃないかな? あの通りには貸しスペースはあるはずだよ」

 

「前にアリシアちゃんに連れられた場所だね、可能性はあるよ」

 

「そうです、確かにお兄ちゃんもそんなこと言っていたような気もします……!」

 

「よし、そうと分かれば早く行ってみよう」

 

「ええ、“何か”が起きている可能性は高いかもしれない」

 

「じゃあ、サーシャはマンションで待っていてーー」

 

「わ、私も行きます! 何が起きているのかさっぱりわからないですけど……皆さんの迷惑にはなりません!」

 

……どう見ても行くのが怖いようだが、それでも震える足を隠して自分を奮い立たせる。

 

「……わかった。 だが、もしもの時は下がってもらう」

 

「は、はい!」

 

「それじゃあ、古風通りに行きましょう」

 

サーシャを引き連れ、車で南部にある古風通りに向かった。

 

「貸しスペースは……確かこの先だよね」

 

「うん、左側のアンティーク屋の先にある建物だよ」

 

「行ってみましょう」

 

通りの奥側に歩き、〈gallery cradle 〉という建物の前まで来た。

 

「ここがお兄ちゃんがイベントを準備している貸しスペースですか……」

 

「……ん? ちょっと待て」

 

ドアノブに手をかけ、捻ると抵抗なく回り扉が開いた。

 

「……開いているみたいだ」

 

「でも……中に人の気配を感じないよ……」

 

「うん……その代わりに“何か”を感じるよ」

 

……確かに、この建物の中で何かを感じとれる。

 

「? えっと、とにかく中に入りましょう」

 

「……よし、入るぞ」

 

「サーシャは後からついて来なさい」

 

「え、あ、はい」

 

警戒しつつ、建物の中に入る。 すぐに開けた場所に出ると、辺りの壁にいくつもの絵が掛けられてあったが、まだ準備途中だった。

 

「やっぱり誰もいないわね……」

 

「あれっ……? 床に何か落ちているよ」

 

すずかにつられて床を見ると、メイフォンが落ちていた。

 

「! お兄ちゃんのメイフォンです!」

 

どうやらここにアルトさんがいたのは間違いない。

 

「これはーー」

 

メイフォンを拾い上げ、画面に映された映像を見ると……

 

『今日ノ運勢haウルとラ絶不調♪ あンラッキーすぽットは仕事先ーー醒めない眠りニついチゃカモ☆』

 

神様アプリの不吉なお告げがあった。

 

「な、なんなの、この画面⁉︎ こんなプログラム、私は組んでいない……!」

 

「なのはの時と同じか……」

 

「アリシア」

 

「うん……アルトさんはおそらく……」

 

アリシアはメイフォンを取り出すとサーチアプリを起動し……

 

ファン、ファン、ファン………スーー

 

メイフォンから発せられた波長に反応して、赤いゲートが現れた。

 

「異界のゲート……!」

 

「やっぱり異界化に巻き込まれたか……!」

 

「こ、これが……ゲート。 まさかお兄ちゃんは……!」

 

「恐らく“予言”が表示されて間もないくらいでしょう」

 

「時間が経ちすぎている……早く助けないと命が危ない」

 

「え……い、命って……! こ、これが……ゲートだとすると……お兄ちゃんはまさかグリードに……!」

 

「アリシアは念のためここに残ってサーシャを護衛してくれ」

 

「了解だよ。 皆、気を付けてね」

 

「乗り込むぞ、アリサ、すずか!」

 

「ええ!」

 

「うんっ!」

 

アルトさんを助け出すため、俺達はゲートの中に入って行った。

 

「そんな……おにぃちゃん……」

 

「大丈夫だよ。 レンヤ達なら、きっと……」

 

泣き崩れるサーシャの背を撫でながら、アリシアはゲートを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜け、異界に入ると……目の前には回廊を模した迷宮が広がっていた。

 

「ここは……昔に海鳴小学校で現れた異界と酷似しているね」

 

「だが、脅威度はあっちより高いようだ」

 

「彼は恐らく最奥にいるわ。 急ぎましょう」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、迷宮を走りだす。 顕れるグリードはそこまで強く無いが、出て来る数が多かった。 それでも怪異を退け、最奥に辿り着くと……

 

「見つけた……!」

 

そこにアルトさんが倒れていた。 気絶しているようだが、怪我は無いようだ。

 

「……ぅ……サー、シャ……」

 

「よかった、まだ無事でーー、!」

 

次の瞬間、アルトさんの前の空間に赤い渦が巻くと……

 

アハハ……!

 

嘲笑うかのように口に手を当てて笑いながら、妖精のようなエルダーグリードが現れた。

 

妖精(フェアリー)のグリード……ヘイズフェアリー!」

 

「目標を確認……迎撃を開始する!」

 

「了解!」

 

ヘイズフェアリーは他のグリードを呼ぶと、呼んだグリードの合間を通って後退した。

 

「逃すか!」

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

一つ目のギアを回転させ、立ち塞がるグリードを一振りで斬り伏せてヘイズフェアリーに接近する。

 

「スノーホワイト!」

 

《レイピアフォーム》

 

スノーホワイトを鋭い剣先の剣に変化させ、アリサと一緒にグリードを斬り伏せて接近する。

 

「はあっ!」

 

「せいっ!」

 

「はっ!」

 

グリードを退かしてヘイズフェアリーに刀を振ろうとした時、ヘイズフェアリーは力を溜め、4方向に竜巻を放った。

 

「甘い!」

 

《ツインウィング》

 

2つの斬撃を放ち、2つの竜巻を打ち消した。

 

「そこっ!」

 

《シザーカット》

 

「しっ……!」

 

《フレイムソード》

 

消えた竜巻の方向からすずかとアリサが接近して、ヘイズフェアリーを斬った。 だが負けじと、こっちに向かって錐揉み回転しながら突進して来た。

 

「今更ーー」

 

虚空を使い、迫るヘイズフェアリーの顔面をピンポイントに……

 

《ディフェンドストライク》

 

「せいやぁ!」

 

防御魔法で纏った蹴りを入れ、上に蹴り上げた。

 

「すずか、決めなさい!」

 

「うん!」

 

すずかはヘイズフェアリーがいる高さまで飛び上がり、レイピアを構え……

 

《ブラストスライス》

 

「はあああっ!」

 

旋風を上げながら縦横無尽に切り裂いた。

 

「えい!」

 

最後の一振りを胴に入れ、ヘイズフェアリーは光を放ちながら消えていった。

 

「よし……!」

 

「やったね、レンヤ君!」

 

「ええ、これで彼もーー」

 

その時、アルトさんの真上に丸いゲートが開くと糸の様な物が放たれ……アルトさんに巻き付き、何かを取り出しゲートに取り込んだ。 一瞬だけ異界が見えるとそのまま消えていった。

 

「え……?」

 

「今のは……!」

 

「……まさかーー」

 

今の現象を考える暇もなく、異界は白い光を放ちながら収束していった現実世界に戻ると、そこは先ほどと同様の建物の中だった。

 

「ーーお兄ちゃん‼︎」

 

サーシャはアルトさんを確認すると慌てて駆け寄る。

 

「…………ぅ…………」

 

「あ……!」

 

「よかった、目が覚めたようだね。 大した怪我もなさそうだけど……」

 

アリシアは簡単に診察を終えると俺達を見る。 俺は黙って頷く。

 

「……あの、ありがとうございますです! まさか異界に巻き込まれたていたなんて………ほらお兄ちゃん、いつまでもボーッとしていないでーー」

 

目が覚めたのに、いつまでもたっても何も喋らないアルトさんを疑問に思うサーシャ。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「……………………」

 

開かれたその目には光が写っていなく、何も無い虚空を見つめていた。

 

「ねえ……何か喋ってよ。 一体どうしたの?」

 

寝惚けていると思ったのか、何度も揺すって起こそうとするもアルトさんは変わらなかった。

 

「な……なんで………返事してよ、お兄ちゃん‼︎」

 

何度も揺さぶり、涙を流して懇願するサーシャ。

 

「元凶は別にいる。 恐らく、さっきの異界化は副次的に発生したもののようね」

 

「あのグリードを倒した直後、一瞬だけ顕れた別の異界……あの奥に住まう“何か”がアルトさんの“精神”だけを奪い去ってしまった」

 

「それこそが……今回の異変の“元凶”となった、エルダーグリードだろう」

 

「今のアルトさんは“抜け殻”同然。 そして“精神”とはあまりにも脆いもの……このまま失ってしまったら恐らく、2度と元には……」

 

「あ、あはは……何がなんだか……」

 

サーシャは目の前の事実を聞いて、さらに困惑する。

 

「それが……そんなことが神様アプリが……私の作ったアプリがお兄ちゃんをこんなにしたって……私が、お兄ちゃんを……‼︎」

 

「アプリのせいじゃないわ。 あくまで元凶は異界の化物……その“きっかけ”になったのは、残念ながら確かみたいね」

 

「っ……‼︎」

 

アリサにさらに指摘を受けて、サーシャは唇を強く噛み締める。

 

「一刻も早く“元凶”を探し出して、倒すしかないか」

 

「うん、だけど……エルダーグリードの行方は完全に無くちゃったよ。 姿さえ確認できたら追えたんだけど……」

 

「電脳世界にいるグリードを探し出すのは、私でも困難だよ」

 

「ーー私が、なんとかします」

 

サーシャが涙を拭い、そう言った。

 

「サーシャちゃん……」

 

「どうする気?」

 

「グリードが神様アプリを乗っ取ったんですよね? だったらアプリ本体を調べれば、行方も分かるはずです」

 

顔を上げ、涙で腫らした目でしっかりと前を見た。

 

「私の責任です! お兄ちゃんは私自身の手で救ってみせます!」

 

その目には怯えもなく、強い意志があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、いったん記念公園のタワーマンションに向かうことになり……サーシャは昏睡したアルトさんを寝かせるや否や、端末の操作を始めた。

 

「すごい……すずかより速いかも」

 

「確かに、そうだね」

 

「これは……配信用システムを探っているのか?」

 

「はい、イーグレットSSの管理している大型サーバー内にアプリがアップされているんです。 問題が起きたなら、そのシステムである可能性が高いです。 配信中のシステムを変更する場合、本来なら手続きがあるのですが……」

 

「それを手早くハッキングするわけね」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「大丈夫だよ、今は緊急事態だし、いちいち気にしないから」

 

話している間でもサーシャの手は見えないくらい動き、キーボードに打ち続けている。

 

「よし、着きました!」

 

画面に映し出されたのは、バグだらけの文字の羅列だった。

 

「滅茶苦茶になっているね」

 

「ア、アプリ内のデータがバグだらけです……」

 

「それにコードも……別の言語で改竄されているよ」

 

「……前に起きたヴィータの事件とある意味同じね」

 

「これも異界による侵蝕(イクリプス)……異界と神様アプリがようやく繋がったな」

 

「ですが、これで大丈夫です! こんな物、問答無用で消去(デリート)します!」

 

「! 待って、慎重にーー」

 

すずかの制止を待たずに消去を開始すると……

 

ブーブーブー!

 

「えっ⁉︎」

 

アラームが鳴り響き、正面の画面に黒い神様アプリのマスコットが現れ、嘲笑うと全ての画面の電源が落ちた。

 

「な、何が起きたの?」

 

「ウ、ウィルスを流し込まれた……逆ハッキングされた……!」

 

「まさか、アプリに組み込んだハッキング機能を応用して……」

 

「高性能のAIもろともかなり侵蝕されたようだな」

 

「復旧は出来そう?」

 

アリサに聞かれ、サーシャはすぐさまキーボードを叩く。

 

「ダメです……完全にクラッシュしてまして復旧に時間がかかりすぎます!」

 

「なら、異界対策課の端末を使って。 うちの端末はこの前変えたばかりの最新式だから、十分ハッキングは出来るよ」

 

「そうだな、ソエルに準備させておこう」

 

「…………………」

 

「ほらボサッとしない! まだ終わってないわよ! 兄を助けたいなら、とことん足掻きなさい!」

 

「あ……」

 

アリサに叱咤され、強く頷く。

 

「はい……行きましょう!」

 

すぐさま地上本部に向かい。サーシャは異界対策課に入るなり起動していた端末に飛びつき、キーボードを打ち始めた。

 

「サーシャ、いけそう?」

 

「はい、これなら十分にハッキングできます! 今度はもっと慎重に、別のルートから入ってーー」

 

そんな中、いきなりの事でソーマ達が驚いていた。

 

「うわ〜、すごいや〜」

 

(コクン)

 

「ていうか誰だよ?」

 

「あの、レンヤさん? 彼女は、というかこれは一体……」

 

「異界に関わる事件だ。 お前達は念のため準備しておいてくれ」

 

「まったく、グリードが出たなら俺達に一言くらい言えっての」

 

「ごめんなさいね。 確証を得たのはついさっきなのよ」

 

「ーーあれっ⁉︎」

 

その時、サーシャが驚きの声を出す。

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「ぎゃ、逆です……無いんです。 イーグレットSSの管理サーバーから神様アプリが完全に消えています!」

 

「……もしかすると、逃げたかもしれないね。 さっきのアクセスを警戒して防衛本能のようなものが働いて」

 

「うっ、異界は何でもありですか……」

 

「追いかけられる?」

 

「痕跡は辿っています。 ですが、ミッドチルダ中のサーバーを経由して複雑なルートで移動しているみたいで……とてもじゃ無いですけど追いきれません!」

 

「ーー落ち着いて、サーシャちゃん。 どれだけ複雑に移動しても、それはただの目眩し。 特異点の発生源がこの街にある以上、本体は確実にクラナガンにいるはず」

 

「そうなると……アプリの本体は、クラナガンのサーバーのどこかに移った可能性が高いな」

 

「そ、そういうものですか……」

 

「これが……異界による事件……」

 

ルーテシア達は経験不足で異界の事件と分かっていても、どうにも理解が追いついていなかった。

 

「で、ですが、クラナガンのサーバーは一区だけでも相当数あります! 一つ一つ調べていたらどれだけの時間がーー」

 

「落ち着いて」

 

混乱しかけたサーシャに、ソエルが声を掛けて止めた。

 

「サーバー毎には調べてられないから、まずはクラナガンの情報総合サイト経由で痕跡を探してみて、私も手伝うから」

 

「もちろん、私も手伝うよ」

 

「ソエルさん、すずかさん……はい!」

 

ソエルとすずかが端末の前に来ると、サーシャ同様にキーボードを打ち始めた。

 

カタカタカタカタカタカタ!

 

異界対策課内はタイピングの音しか聞こえず、ある意味静寂が続いていた。

 

「よし、これでどう?」

 

「昨日から今日にかけてアクセス数が急増したサーバーを検出、そっち送るよ」

 

「………! 出ました! クラナガンにあるトライセンのレンタルサーバー端末……場所はデコロンモールです!」

 

「デコロンモール……北にある様々な店舗が入った巨大な施設だね。 ふふっ、お見事だよ」

 

「居場所は分かった。 準備を整えたらデコロンモールに向かおう」

 

「ええっ!」

 

「レンヤさん達、頑張ってください!」

 

「気をつけてね〜〜」

 

「後、ソーマ君も付いてきてね」

 

「は、はい! 準備はできています!」

 

車でデコロンモールに向かい、到着する頃には夕方になろうとしていた。 モールの中は様々な店舗があり、4階まである巨大モールはこの時間でも盛況だった。

 

「へえ、相変わらずの盛況っぷりだね」

 

「トライセンが管理している部屋を探しましょう」

 

「確か、3階にあったはずだよ」

 

「ああ……そろそろ夕方だし、急いだ方がいいな」

 

「…………………」

 

「………?」

 

ソーマが静かなサーシャを不審に思うが、あまり触れずに3階にあるサーバー管理室の前に着く。

 

「ここが、例のサーバーが管理されている部屋か」

 

「何とか神様アプリまで辿り着いたね」

 

「でも、鍵がかかっているわよ。 一旦、ここの責任者かトライセンと話を通して開けてもらわないと……」

 

「どっちも許可なんて取る暇はないよ。 ここは私にお任せで」

 

アリシアはフォーチュンドロップを持ち、ドアに手をかざすと黄緑の魔法陣が展開され……

 

《アンロック》

 

ガチャン!

 

小気味いい音が鳴り、ドアのロックが解除され、そのまま部屋の中に入った。 中にはいくつもの巨大な端末が並んでいた。

 

「すごい……これ全部、サーバー端末ですか」

 

「これのどれかに神様アプリが入っているようだ」

 

「うん、ここまで来ればーー」

 

すずかがメイフォンのサーチアプリを起動し、波長を飛ばすと……

 

ファン、ファン、ファン……スーー……

 

波長に反応して赤いゲートが顕れた。

 

「ーー見つけたわ。 このゲートの向こうに元凶が待っている……!」

 

「アルトさんの精神もそこに囚われている……!」

 

「よし、さっそくーー」

 

「ーーあの、私も連れて行って下さい!」

 

いざ突入しようとした時、サーシャもついて行くと行った。

 

「私の人生……ゼロどころかマイナスから始まりました。 それをゼロに戻すために頑張って来ました。全部、1人で背負い込んで……でも、今回はどうしようもありませんでした。 皆さんを頼る他ありませんでした……でも、諦めたくない……!」

 

決意をした表情で、拳を握りしめながら、サーシャは意志を表した。

 

「……ですから、どうか連れて行ってください! こう見えてもベルカの護身術を習っていまして、借金取りとかフェノール商会のせいでそれなりの腕と自負しています。 皆さんの足は引っ張りません、どうかお願いします!」

 

無理を言っているのが分かっているのか……勢いよく、深く頭を下げた。

 

「……ふふ、いいわよ。 むしろここで止まるようなら叱っていた所だわ」

 

「なら、サーシャは先月行けなかった特別実習の補講と行こうかな?」

 

「僕も力を貸します! 一緒にお兄さんを助けましょう!」

 

「はい!」

 

「行こう……皆、準備はいいね?」

 

『おおっ!』 『はいっ!』

 

サーシャも連れて、俺達はゲートに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通過し、異界に入ると……そこはまるで電脳世界を目視できるようにした迷宮だった。

 

「こ、ここが異界ですか……なんだかインターネットのイメージという感じです」

 

「確かに、昨日と全く違う……」

 

「やっぱり昼間に一瞬、見えたのと同じ場所のようだな。 霊子結界タイプの迷宮のようだ」

 

「この先にアルトさんの精神も囚われているはずだね」

 

「さっそく探索を開始しましょう!」

 

デバイスを起動しバリアジャケットを纏い、それぞれ武器を構える。 サーシャは腕につけた青い六角形のコアがついたブレスレットをかざし……

 

「お願い、ラクリモサ……セーット! アーップ!」

 

ベルカ式の魔法陣と青白い魔力光を放ちながらデバイスを起動し、手のひらと指も守っている手甲と刃があるフラフープのような武器……輪刀(りんとう)を腕の中で回しながら体に通した。

 

「珍しい武器だね」

 

「えへへ、ちょっとフラフープには自信がありまして。 それをベルカ流護身術で応用したんです」

 

「ベルカ流護身術……相手の力を利用する技が多い武術ですね」

 

「私達がフォローするから、ソーマ君とサーシャちゃんは遠慮なく戦ってね」

 

「「はい!」」

 

ソーマとサーシャは大きく返事をして、俺達は迷宮の探索を開始した。

 

「外力系衝剄……九乃(くない)!」

 

凪の歌曲(カンツォーネ・カルマ)!」

 

ソーマは左手の指の間に針のような細い剄弾を4つ形成し、機械型のグリードに放つと突き刺さるどころか貫通した。

 

サーシャは回転しながら輪刀を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、グリードを薙ぎ払っていた。 どうやらあの手甲のおかげで傷付かずに刃面を掴めているようだ。

 

「やったあ!」

 

「1ヶ月も休んでいたのに、割といい動きするじゃない!」

 

「嫌な人達が何度も来るのですから、自然と鍛えられました!」

 

「あ、あはは……それはちょっと……」

 

「ふふ、少しは余裕が出てきたみたいだね」

 

さらに迷宮を進むと、行く手を電撃が塞ぐ罠があったが。 その上を飛んだり、電撃が止んでいる間に通り過ぎたりした避けた。

 

「あわわわ、なんてトラップですか……危うく感電死しちゃう所でしたよ!」

 

「断続的だから真っ黒にはならないかもね」

 

「ア、アリシアちゃん……!」

 

「どうやらトラップも一筋縄では行かなさそうね」

 

「まだあるかもしれない……皆、慎重に行くぞ!」

 

「はい!」

 

グリードを退け、トラップを潜り抜け、ギミック攻略して……最奥に辿り着くと、アリシアが何かに気づいた。

 

「! 強大な気配……来るよ!」

 

次の瞬間、前方の空間に赤いヒビが走り、赤い渦が発生すると……巨大な蜘蛛が顕れた。

 

「蜘蛛のエルダーグリード……アストラルウィドウ……!」

 

「くっ、さっきのグリードやSグリードとは全然違う……!」

 

「こいつが神様アプリを侵蝕していた元凶か!」

 

「文字通りの(バグ)ですか……」

 

『ぐう……うっ……』

 

その時、アストラルウィドウから苦しげな声が聞こえてきた。

 

「ッ……!」

 

「この声は……?」

 

『……サー、シャ……』

 

どうやら背中の大きな球体から声が出ているようだ。

 

「あの中にアルトさんの精神が囚われているみたい……!」

 

「あ⁉︎」

 

アルトさんの精神が囚われていた球体は背中に沈んでいき、アストラルウィドウの体内に入ってしまった。

 

「大分弱っているな……早く助けないとマズイ!」

 

「ーー待っていて、お兄ちゃん! 私が必ず助けるから!」

 

ギアアアアアアア‼︎

 

アストラルウィドウが咆哮を上げ、サーシャは輪刀を腕で回しながら接近し、アストラルウィドウの鎌を避けながら切り続けた。

 

「やるねサーシャ!」

 

「はい! でもまだまだです!」

 

「僕も負けて入られません!」

 

ソーマは内力系活剄で体を強化し、正面から突っ込んだ。

 

「ッ……せい!」

 

外力系衝剄・轟剣

 

鎌を受け流し、剄を練り上げ刀身を覆うように収束させた剣で斬り、アストラルウィドウを大きく吹き飛した。

 

「すごい……」

 

「また腕を上げたわね」

 

感心する中、アストラルウィドウは周りにあったオブジェクトの1つに近づき、自らとオブジェクトを魔力で繋いだ。

 

「あれは……」

 

「スノーホワイト!」

 

《イエスマイスター、オールギア……ドライブ。 フリーズランサー》

 

「行って!」

 

すずかが無数の氷の槍を高速で飛ばし、アストラルウィドウの全身を氷の槍で突き刺した。

 

あのオブジェクトが何なのか模索しようとするが、槍を砕いてさらにもう1つ繋いぎ、突進してきた。

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「ふっ……やあ!」

 

突進を避け、ギアを起動させて胴体を斬った。 だが、その反動でまた1つ、オブジェクトと接続した。

 

「さっきから何を……」

 

「! この魔力の上昇の仕方……まさか!」

 

アリサが何かに気がつくが、アストラルウィドウは背中から魔力弾を上空に打ち出し、全体に降り注がせた。

 

「きゃあああ⁉︎」

 

「うわあっ⁉︎」

 

「サーシャ、ソーマ!」

 

《スフィアプロテクション》

 

俺やアリサやすずか、アリシアは避けられたが。 サーシャとソーマは避けきれない所をアリシアが円形の防御結界を張って2人を守った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いいから、早く体勢を整えて」

 

「は、はい!」

 

その間にも5つ目がアストラルウィドウと接続される。

 

「いますぐ止めさせて! あいつはこのオブジェクトから魔力を貰って強くなっているわ!」

 

「なら、すぐにでも……!」

 

「サーシャちゃん! 無闇に接近しちゃーー」

 

サーシャが接近した瞬間、アストラルウィドウは飛び上がり、着地時に全体に衝撃波を放った。

 

「サーシャ!」

 

「……!」

 

衝撃波が当たる瞬間……サーシャは足を抱えて輪刀の中に入り、もの凄い速度で横に回した。 見た目が球体になった輪刀で衝撃波を弾いて防いだ。

 

「おお、すごいね!」

 

「感心している場合じゃないよ!」

 

最後の1つが接続されると……アストラルウィドウから高い魔力が発せられ、傷がだんだんと回復され始めた。

 

「傷が⁉︎」

 

「いますぐオブジェクトの破壊をーー」

 

ソーマがオブジェクトを破壊しに背を向けた時、アストラルウィドウの口が開き、魔力がため始めた。

 

「マズイ……!」

 

「任せて!」

 

《ミラーデバイス、セットアップ》

 

ソーマとアストラルウィドウの間にアリシアが立ち、ミラーデバイスを展開して両手の銃に魔力を込め……

 

《サイキックアーティラリー》

 

アストラルウィドウがレーザービームを放つのと同時にアリシアもミラーデバイスで五角形に展開して魔力障壁を通して、威力がを増幅した砲撃魔法を放った。

 

ドオオオオオンッッ……!

 

「くっ……」

 

「なんて威力……」

 

砲撃同士がぶつかり合い、衝突による余波がかなりの衝撃で辺りに広がっていた。 そして砲撃が収まろうとした時……

 

「エネルギー……バスター‼︎」

 

アリシアは砲撃を一瞬だけ止めて飛び上がり、さらに五角形の障壁を大きく広げ、ミラーデバイスの力を一気に増幅させ、さらに強力な収束砲を発射した。

 

その砲撃を喰らい、アストラルウィドウは回復したのにも関わらずさらに大きなダメージを受けた。

 

「やるなアリシア!」

 

「今だよ!」

 

「行くわよ……!」

 

《ロードカートリッジ。 シーンドライブ》

 

カートリッジをロードし、魔力を上げるとアストラルウィドウの周りを飛び回り何度も斬りながら、徐々に速度を上げていく。 その飛ぶ姿は飛行魔法で飛ぶというより、まるで無重力空間の中を高速で飛ぶような感じだ。

 

「これで……終わり!」

 

最後に切り上げからアストラルウィドウの上を取り、上段から落下と同時に剣を振り下ろし爆発を起こした。

 

「行きます!」

 

ソーマが胴体を切り上げ、上空に上がると……

 

「はあっ!」

 

外力系衝剄・蛇落とし

 

上空で身をよじらせ竜巻と化した衝剄をアストラルウィドウの頭上から撃ち、その巨体を地面に伏せさせた。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《モーメントステップ》

 

「せい!」

 

踏み込みと同時に足から地面に魔力を放出して急速に接近し、通り越しぎわに額に十字の傷を入れた。

 

「決めろ、サーシャ!」

 

「はい!」

 

サーシャは輪刀を振り回してその場で何度も回転して……

 

巨人の投擲(ティターノ・ランチャーレ)!」

 

輪刀を投擲した。 高速で回転している輪刀はアストラルウィドウの額に直撃すると、額を削りながらどんどん進んで行き……腹を突き破った。

 

「ほっ……」

 

地面にぶつかった輪刀は回転でサーシャの元に飛んで行き、輪刀の内側を抑えて、ブレーキ音と似たような音と煙を立てながらサーシャの手に収まった。

 

そしてアストラルウィドウは断末魔も上げずにそのまま消え去っていった。 後に残ったのは最初に取り込んだ球体、それにヒビが入り……砕けると、白い光を放ちながら異界が収束して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タワーマンションのサーシャの室で寝ているアルト。 その体が光に包まれると……

 

「……ん……………」

 

精神が体に戻り、意識を取り戻した。

 

「……ふわああぁぁ………しまったな……久しぶりに寝すぎたかな。 今は何時だ?」

 

辺りを見回すと、そこは自分の部屋ではない事に気がつく。

 

「ここは、サーシャの部屋か……? 一体どうして……」

 

ピリリリリ、ピリリリリ!

 

「はい、アルトです……」

 

『お兄ちゃん……! よかった、目が覚めたんだね⁉︎』

 

「ッ……耳が……ってサーシャか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーシャは現実世界に戻るなり、すぐにアルトさんに連絡を取った。

 

『何かあったのか?』

 

「お兄ちゃん、身体は大丈夫……⁉︎ 痛い所はない⁉︎」

 

『なんだ……? まあ、むしろ調子いいくらいだが……もしかしてサーシャが疲れて寝た俺をベットで寝かせてくれたのか? すまないな、迷惑をかけて』

 

「う、ううん……そんなこと、ないよ」

 

兄の無事を確認できて、サーシャは泣きそうな顔になるも泣かないでいた。

 

「はは……もう大丈夫みたいだな」

 

「これなら、異常も確認する必要はないかもね」

 

「うんうん……良かった良かった」

 

「異界の反応も消失……これにて任務完了ね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後ーー

 

あの事件から2日が経ち……事件は公表されずに管理局の記録にだけ残した。 そして俺達は今、朝早くに学院の屋上に集まっていた。

 

「ーーやれやれ、一時はどうなることかと思ったけど……神様アプリについても何とかなりそうだな」

 

「サーシャのアフターケアが良かったというべきでしょうね」

 

「サーバーにあった神様のいうとおりのシステムはあの場で完全に消去されーーその上、ユーザーの端末全てからアプリを消しちゃっただもんね」

 

そう、サーシャはサーバーの神様のいうとおりだけではなく。 ダウンロードした1人1人のメイフォンから音も無く消してしまったのだ。 寮に帰った時になのはも消えた事に気がつき、説明するまで慌てていた。 こうなると神様アプリはいつか都市伝説にでもなりそうな感じだ。

 

「ダウンロード履歴を利用した自動ハッキングツールを使用したみたいだね。 さすがに強引だったけど」

 

「ま、そこは結果オーライでいいでしょう。 今後の被害の可能性も消えて事件は完全に解決されたんだもの」

 

「それにしても……異界の事件は今までに何度もあったけど……今回はさすがに面倒だったよね」

 

「ああ、先月に入ってから異界化が急激に増大……怪異も活発化している」

 

「まるで……巨大な何かに反応しているみたいで……」

 

「…………………」

 

「アリシアちゃん、どうかしたの?」

 

「え! ううん、何度もないよ」

 

アリシアが何か懸念しているような感じだが、確証がないのか何も言わなかった。 と、その時屋上の扉が開いて……

 

「皆さん!」

 

真新しい真紅のレルム魔導学院の制服を着たサーシャが現れた。

 

「サーシャちゃん! よかった、登校できたんだね!」

 

「はい! これも皆さんのおかげです!」

 

事件解決後、サーシャは俺達にフェノール商会の不正な証拠の数々をもらっていた。 どうやら半年も前に掴んでいたらしいが、管理局も手を貸しているし、知り合いもいなかったので使うに使えなかったそうだ。 それを渡してもらい、早速アリシアがフェノール商会を告発し、サーシャの手に入れた情報は月蝕(エクリプス)の噂通り正確で、相手は言いわけもできずにこちらの圧勝となった。

 

そしてサーシャは少しだけ賠償金を早く受け取り父親の手術に踏み込んだ。今は経過良好で順調に体力を回復しているそうだ。 そして神様アプリの件やあの檻からの即時引越しやらで慌ただしくなってしまい……今日、ようやく登校できたようだ。

 

「私達は特に何もしていないよ。 全部、サーシャちゃんの努力の成果だよ」

 

「そういえば、寮にはいつ入るつもりなの?」

 

「はい、そのつもりなんですが……お父さんやお母さんがまだ一緒にいたいって言っていますし、いくら借金を返しても、まだ歳も14ですから心配なようで」

 

「いい家族じゃないか」

 

「……ん?」

 

なんか、今聞き捨てならないようなの聞いたような……

 

「えっと……サーシャちゃん。 今年齢は……」

 

「え? ああ、レルム魔導学院の入学基準年齢は12歳からなんですよ。 14歳ですが改めてよろしくお願いします、先輩達!」

 

「え、ええ……」

 

「それと私も異界対策課に入りました! ソエルさんから聞いたんですけどオペレーターが必要なんですよね? そちらの方もよろしくお願いします!」

 

「あのまんじゅう共……毎回俺に話を通せって言っているだろう!」

 

「ま、まあまあ」

 

後輩の問題の解決と新たな仲間を迎え、俺達は教室に向かい今日を始めるのだった

 

 



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101話

 

 

【ーーーー、あんた王になる気は無いの?】

 

【私は……真の王になる資格はありません。 王位もありませんし】

 

【そんなことを聞いているんじゃない、私はあんたがどうしたいか聞いている】

 

【私は……】

 

【ま、別にどうでもいいのよ。 自分の舵の自分で取りなさい】

 

【それができれば、どれだけ楽か……!】

 

【そう……なら乗せればいいじゃない】

 

【え……】

 

【あんたが舵を取る船に誰でもいいから乗せなさい……そうすれば荒波も嵐も乗り越えられて、航路が見えるでしょ】

 

【…………………】

 

【あ、いた……おーい! ーーーーー、ーーーー!】

 

【はあ……そろそろ行くわよ、ーーーーとーーーが待っているわ】

 

【……はい!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ……‼︎」

 

目が覚め、飛び起きると心臓がバクバクしており、呼吸を整える。

 

「はあっ、はあっ………夢か……? なんで……いきなり……」

 

ここ最近、彼女の夢は見ていなかったのに……今になってどうして……? 部屋を見渡すとラーグとソエルはいなかった。

 

「……ソエル達は、もう出かけたか……」

 

コンコン

 

『レン君、起きている? レンくーん?』

 

ドアがノックされると、なのはが心配そうな声で呼び掛けてきた。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。 すぐに行く」

 

時計を見るといつも起床する時刻をとうに過ぎていた、さすがになのはも心配するか。 手早く制服に着替えて部屋を出る。

 

「おはよう、レン君。 珍しいね、寝坊なんて」

 

「ごめん、寝過ごしちまった」

 

「もう、最近異界対策課が忙しいのはわかるけど、ちゃんと寝ないとーー」

 

と、その時なのはは俺の表情が悪いのに気付く。

 

「……どうしたの? 顔色が悪いよ?」

 

「いや……ちょっと夢見が悪くてな」

 

「あ……その、ごめん」

 

「謝らなくていい、時々夢で出でくるだけだし……それよりも早く学院に行こう、このままだと遅刻するぞ」

 

「う、うん!」

 

頭を切り替えて、なのはと一緒に学院に向かって走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月2日ーー

 

梅雨も明け、今年も本格的に夏が到来しつつあった。 俺達はいつも通りに学院生活をしつつも、日に日に活発化する異界の対処に追われていた。 とくに空にいるイレイザーズ……確かに俺達がすぐさま対処できない案件を解決しているが……その数は少なく、その活動は一般市民からも問題視されていた。

 

しかし、それとは別にいいニュースもあった。 エテルナ先輩の休学が明けたのだ。 これにはサーシャも一役かっており、手に入れた情報を盾にしてようやくレグナム家は圧力から解放されたのだ。

 

そして現在、4限目ーー

 

今の時間は軍事訓練の授業だ。 今日の内容はデバイスがない場合の対処法や部分的な防御魔法の使い方で、なのはとフェイトいわく……訓練校と同じ内容だが、ハードルはかなり上っているらしい。

 

「ほらほら、遅えぞ。 さっさと降りろ」

 

「い、一歩間違えれば手が裂けますよ⁉︎」

 

訓練場でワイヤーでラペリングをする訓練をしており、今はツァリが怖がっているのをテオ教官が急かしていた。

 

「そのための訓練だろ、ちゃんと手だけに魔力を集めればどうにかなる」

 

「さすがに大雑把過ぎですよ……」

 

「しょうがないなぁ……」

 

テオ教官が手を魔力でコーティングすると、ワイヤーに向かって軽く飛んで掴み、火花を散らしながら地に立った。 おそらく手本を見せたのだろう。

 

「こんな感じで大丈夫だって、ワイヤーに触れるのは手だけだぞ、体が切れちまうからな」

 

「やっぱりダメじゃないですか⁉︎」

 

「まあまあツァリ君、まずはゆっくり降りていこう」

 

すずかに指導されつつ、ツァリはゆっくりと降りていく。

 

「さて、俺達も続けるとするか」

 

「そうだね、次もぼくが勝つけど」

 

「何だと〜?」

 

リヴァンとシェルティスがまたいがみ合っている。

 

「おめえらもさっさと次行け! あっちでウォールアクトだ! 早く行かないと魔力負荷バンド強くするぞ!」

 

「は、はい!」

 

「それだけはいやや!」

 

アリシアやはやてはすぐさま動いてウォールアクトを行う。 だが、余裕があるようで息があまり上がっていなかった。

 

「にゃはは、軽口言えるだけ成長したんだね」

 

「はやてはそうだが……フェイト、ちょっと体力落ちたか?」

 

「え⁉︎ ええっと……それは……」

 

「執務官は基本デスクワークだからね。 自主的に鍛えないとそりゃ落ちるよ」

 

「ふむ、でしたら朝に一緒にランニングでもどうでしょう。 よく週3でレンヤと走っていますし」

 

「そういえば……最近忙しいから疎かになっていたけど……なのはちゃんも確か続かけているんだよね?」

 

「もちろん! 継続は大事だし、それに……」

 

なのはがそこで顔を赤らめて俺のほうをちらちらと見てきた。

 

「? どうかしたか?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

「ううっ……私も参加したいけど……」

 

「忙しいからね」

 

フェイトが何やら落ち込んでいたが、それからも授業が進み……それから放課後になった。

 

「前々から思っていたんだけど……レンヤ達が前にチーム・ザナドゥで活動していたよね? その、ザナドゥってなんなのかな?」

 

授業も終わり、教室でVII組のメンバーと雑談していた時、フェイトが唐突にそんな質問をしてきた。

 

「ああ、それね。 ラーグが教えてくれたのをそのまま使っていたのよ」

 

XANADU(ザナドゥ)……ある組織の創始者が命名した迷宮の呼び名だ」

 

「理想郷や桃源郷の意味で使われているけど……裏では、異界の迷宮の通称として使われているんだよ」

 

「う、裏……」

 

「確か、地球に異界に対抗する組織がいくつかあったんだよね? もしかして、そこから?」

 

「さあね、ラーグとソエルも多くは語らないし。 前に杜宮市に行っても何にも見つからなかったし」

 

「去年の夏季休暇の時やな」

 

ピリリリリ、ピリリリリ……

 

その時、メイフォンが鳴り始めた。 取り出して見て見ると……“ホロス”が反応を示していた。

 

「そのアプリは?」

 

「サーシャが作った異界化予測AIホロス……ネット上の無数のデータを統合して算出しているの。 これが作られたおかげで大分楽になったのも事実だし、完璧じゃないけど信頼できる情報源になったんだ」

 

「ほ、ほんまかいな。 それが本当にだったら神様アプリ以上や」

 

「ま、あの子自身も驚いていたわ」

 

「それはそれでおかしいような……」

 

「サーシャならあり得るかもな」

 

『ーーサーチ完了。 ミッドチルダ内・計6箇所ニ異界化ノ発生を予測』

 

サーチが終わりホロスが異界化予測地点を表示したが……

 

「ろ、6ヶ所も……⁉︎」

 

「えっと、これ全部が異界化の発生する場所なのかな?」

 

「いいえ、あくまで予測よ。 でも……確かにこの数は多いわね」

 

「もしかして、アプリの誤認でしょうか?」

 

「ううん……これがミッドチルダの現状なんだよ。 範囲を考えると、手分けした方がいいかもね」

 

「ソーマ達も呼んでおくよ」

 

「ああ、頼む」

 

地図に映された異界化の発生予測された場所を改めて確認する。

 

「気になるのは南部の繁華街周辺と……それに東部の娯楽街の……」

 

「ーーおそらくレイヴンクロウの事務所周辺ね」

 

「……その近辺で何か起きたら、ちょっと面倒なことになりそうだね」

 

確かにあり得そうだ、丁度それなりに近いし……

 

「だったら、その2つは俺が調べに行く。 繁華街にはたまに依頼で行くし、あの人達も一応面識はあるからな」

 

「それなら、私も同行するわ。 私もアリシアに呼ばれたこともある場所だし……レイヴンクロウの方も私がいればもし何か起きた時にも素直に話を聞いてくれるわ」

 

「ごめんね皆、また後でね」

 

「ううん、すずかちゃんも頑張ってね」

 

「手を貸して欲しかったら遠慮なく連絡しろよ」

 

「私達ならともかく、ツァリ君達は難しいと思やけど……」

 

「ま、そこは気にするな」

 

こうして今日の活動方針と、調査箇所の分担が決まり……残りのメンバーは北と西を調査することになった。

 

サーシャと合流して、まずは繁華街の状況を確かめることにした。

 

「繁華街か……来るのは久しぶりだな」

 

「ここ最近、来る暇もなかったわね」

 

「私は初めてです……それじゃあ、さっそく調査開始です!」

 

サーシャはここ数ヶ月の異界対策課の活動で、ようやく慣れて来たのか張り切っている。

 

「張り切るのはいいけど、ちゃんと見落としがないのかも確認するのよ。 自分がした行動もある程度覚えておいて記録もするのよ」

 

「は、はい!」

 

「異界化の予測はこの通り付近だ。 さっそく調べに行くぞ」

 

通りを歩いて調査を開始する。 すると、平日にもかかわらず雑貨店が閉まっていたのを見つける。

 

「ん……開いていないのか?」

 

「おかしいわね、今日は定休日ではないはずよ」

 

『ふう、ようやく半分か。 一体どうしてこんな事に……』

 

その時、店内から人の声が聞こえてきた。

 

「この声……出かけているわけじゃないな」

 

「ええ、入ってみましょう」

 

「し、失礼します!」

 

断りを入れて、店内に入ると……

 

「ッ……!」

 

「これは……」

 

店内は荒らされており、壁や商品が斬り裂かれて散乱していた。

 

「あ、レンヤ君にアリサ君か。 今日は店を閉めてたんだけど……」

 

「すみません、定休日でもないのにどうしたのかと思いまして。 それより……一体何があったのですか?」

 

「いや……今朝降りてみたら既にごらんの通りの有様でね。 どうやら昨夜のうちに誰が侵入したみたいなんだ。 夜は2階で寝ていたんだけど、物音にも全然気付かなくて……」

 

「……泥棒だったら、何も盗まれたような物はあるかしら?」

 

「いや、それが盗まれたものがあるわけでもなさそうでね。 午前中、警邏隊にも軽く調べてもらったんだけど手がかりとかもなくて……魔導師の仕業ではないのは確かだから、悪質なイタズラだろうってさ」

 

おそらく魔力を測定したんだろう。 魔法を使えばその場に少なからず魔力が残るので、魔法不正使用などの有無を調べる時に使われる方法だ。

 

「イタズラですか……さすがに度が過ぎていますが……」

 

(手がかりなし、不自然な状況……)

 

俺は2人に顔を合わせる、どうやら同じ考えのようだ。

 

「? どうかしたのかい?」

 

「いえ、何でもないです」

 

「ちなみに店長。 随分、色んな商品が斬られているようだけど……どんな刃物が使われたか判るかしら?」

 

「それが……警邏隊の人も不思議がっていたけど。 やたら堅い刃物が使われてたみたいなんだよね。 商品から壁まで、刃こぼれした様子もなく、全部スパッと切られていたし。 そもそも、店の玄関もちゃんと鍵がかかっていたし……一体誰が、どうやったんだろう?」

 

「なるほど……」

 

「一応、不可思議なことだから、警邏隊に勧められて異界対策課にも依頼を出したんだけど……どうやら別件みたいだね」

 

「あはは、すみません……グリードの仕業と確定できたら被害手当も出ますので、どうかめげないでください」

 

「ありがとう、盗難保険に入っているし、そこまで悲観することでもないけど……異界の仕業だったらガツンと解決してくれ」

 

店長に激励をもらい、店を後にした。

 

「どうやら……間違いなさそうだな」

 

「ええ、十中八九異界絡みで間違いなさそうね。 ホロスによる予測も一歩遅かったようだし」

 

「うう、すみません……もっと精度が上がっていれば……」

 

「サーシャのせいじゃないさ」

 

メイフォンを取り出しサーチアプリを見るが……

 

「異界の反応はなしか……どうやら怪異単体が起こしたらしいな」

 

「また同じことが再発するとも限らないわ。 まずはあの場で“何”が起きたか、考えるべきね」

 

「あの場で何が起きて……どうやって商品や壁を切り裂いたのか……ですか?」

 

「いや、あの切り口には見覚えがある……あれは斬撃を飛ばしてできた傷と酷似している。 グリードが技量で斬撃を飛ばすのはどうかと思うし……大方、カマイタチあたりかもしれない」

 

「カマイタチ! 私も似たような技がありますし……あり得ますね」

 

「……なるほど。 いい線行っているかもしれないわ。 刃物が見つかっていないと考えると、仮設としては妥当ね。 となると、それを起こした怪異がどうなったかな」

 

「ここらから移動したか自然消滅したか、あるいは別の理由で消えたか……現時点ではハッキリとは言えないな」

 

それからしばらく考えるが、誰もこれ以上の仮設はできないようだ。

 

「……歯切れが悪いが、ここの調査はこれぐらいだろう。 正直、食い止められなかったのが心残りだか……」

 

「でも……こうなってくると、レイヴンクロウの事務所の方も気になるわね。 区切りが付きしだい、娯楽街に向かいましょう」

 

「ああ」

 

「はい!」

 

その後も念のため辺りを調べたが……異界の反応もなく、異常もなかったので、俺達は娯楽街に向かった。

 

到着すると、何やら騒ついていていた。

 

「なんでしょう?」

 

「人だかりができてるな」

 

「あの先はレイヴンクロウの事務所のある通りだけど……まさか!」

 

慌てて通りの前に来ると………通りの先にあった事務所から煙が上がっていた。

 

「あれは……火が上がっているのか⁉︎」

 

「行ってみるわよ!」

 

「はい!」

 

人だかりをかき分けて事務所の前に来ると、割れた窓ガラスから所々火が出ていた。

 

「……やっぱりか」

 

「ボヤくらいだけど……」

 

「あ……!」

 

事務所のドアが乱暴に開かれ、煤汚れたレイヴンクロウの組員が出てきた。 その後、まるで慌てていないレイヴンクロウ若頭……レイジ・ワシズカが出てきた。

 

「これで全部だな。 とっとと離れろ! いいか、誰も近づけさせるな!」

 

「ーーレイジさん!」

 

アリサはレイジさんに近づき、俺達もそれに続いた。

 

「お嬢……坊主達も一緒か」

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「いったい何があったの⁉︎」

 

「……突然、火元のない場所から小火が上がり始めた。 消化器ですら消せないボヤがな」

 

「なんですって……⁉︎」

 

「……まさか」

 

メイフォンを取り出しサーチアプリを起動して波長を発する。

 

ファン、ファン、ファン……スー……

 

波長に反応して、事務所前にゲートが顕れた。

 

「出ましたね⁉︎」

 

「ああ、やっぱりか」

 

「ーーフン、なるほどな。 これがゲートか、初めて見るが……なかなかどうしてこんなモンが」

 

「話は後よ。 ここは私達に任せなさい。 この不審火……必ず止めてみせるわ」

 

「分かった、よろしく頼む。 坊主、お前らも気をつけろ」

 

「誰に言っているんですか」

 

「ま、任せてください!」

 

俺達はレイジさんの横を通り、ゲートを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜けると、洞窟を模した異界だった。 かなり温度も高く、火に属する怪異が多そうだ。

 

「洞窟を模した異界……この先にボヤの原因がいるわけだ」

 

「火の手が大きくなる前に終わせるしかないわ……行くわよ!」

 

「了解です!」

 

デバイスを起動しバリアジャケットを纏い、武器を構えて迷宮の探索を開始した。

 

異界通り、焔のグリードがいたが……アリサがそれよりも高い温度の焔で倒していた。

 

「しかしこの異界……やたら蒸し暑いな」

 

「ええ、汗が吹き出てくるわ」

 

汗をかいたアリサが髪を払う。 それが妙に艶めかしく、すぐに目を逸らしたが、アリサ達に怪訝な目で見られた。

 

気を取り直して迷宮を進むと……目の前を大岩が勢いよく通り過ぎた。

 

「転がる大岩⁉︎ 迷宮のトラップの王道! でも現実であんなのまともに受けたら……!」

 

「さすがに喰らうわけにはいかないわね!」

 

その後も吹き上がる溶岩やグリードも退けながら進み、最奥に到着すると……正面の空間に赤いヒビが走り、渦を巻きながら……焔を具現化したようなエルダーグリードが顕れた。

 

「ええっ……焔そのまんまじゃないですか⁉︎」

 

「焔の精霊(エレメンタル)……あれが火元ってわけか」

 

「ふうん、面白いじゃない……」

 

アリサはフレイムアイズをE=クリムゾンに向けた。

 

「私の焔とどちらが上か、燃え比べと行きましょう……!」

 

E=クリムゾンは素早くスライドしながら移動し、火炎弾を放ってきた。 追ってくることから追尾型のようだ。

 

「任せてください! 重鈍の刃鋼(メタロ・ペテンザ)!」

 

輪刀の中に入り、球状になるように回転して火炎弾を弾いた。

 

「まだまだ!」

 

そのまま独楽のように移動し、E=クリムゾンに突撃した。

 

「目が回らないのかしら?」

 

《ロードカートリッジ》

 

「三排気管が丈夫なんだろ」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

お互い魔力を上げながら準備をしていると、E=クリムゾンは4つの小さな焔を前に出し、狙いを定め……焔のレーザーを放射した。

 

「斬り裂く……蒼刃烈翔(そうはれっしょう)!」

 

刀を地面に刺し、引き摺りながら魔力を上げ……振り抜く瞬間に解放して巨大な魔力斬撃を放った。 焔のレーザーと衝突すると、斬撃がレーザーを裂き、E=クリムゾンを斬り裂いた。

 

「さあ、行くわよ!」

 

《クイックスラスト》

 

「ふう……せいっ!」

 

紅い魔力刃で何度も突きを繰り出してから横に斬った。 だが怯まず、4つの焔を落とし、3方向に火炎を飛ばした。

 

「フレイムアイズ!」

 

《チェーンフォルム、ブラッディカット》

 

フレイムアイズをチェーンフォルムに変換し、チェーンを火炎に巻くようにぶつけて相殺した。

 

「サーシャ!」

 

大回転(ロタツィオーネ・グロッソ)!」

 

輪刀を縦に高速に回転させ、その状態で片手で内側を掴み、片足で乗ると摩擦で煙が立つ。 そのまま輪刀が地面に着くとものすごい速度で突撃した。 E=クリムゾンも4つの焔で防ぐが、回転で勢いが増している輪刀を止められず吹き飛ばされた。

 

「今だ!」

 

《ラバーバインド》

 

E=クリムゾンをバインドし、動きを封じる。 逃れようと足掻くが伸縮するバインドは簡単には外れない。

 

「やった! これでーー」

 

「待ちなさい!」

 

好機とばかりサーシャが飛びかかろうとするが、アリサが静止させた。

E=クリムゾンは赤く光り始め、少しずつ魔力が上がっていた。

 

「嫌な予感しかしないな……」

 

「ええ、でも動けないなら……!」

 

チェーンをE=クリムゾンに巻きつけ、チェーンから魔力刃が展開されると……

 

《ブラッディシェイヴ》

 

「いっーーやあっ‼︎」

 

全力で巻き戻し、巻きついたチェーンがE=クリムゾンを走りながら切り刻んだ。

 

溜め込んでいた魔力は霧散され、E=クリムゾンは光りを放ちながら消えた。 そして、異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実に戻ると、どうやら事務所内に出たようで。 外に出ると組員が驚いた顔で見ていた。

 

「けほけほっ……」

 

「ふう……何とか止まったわね」

 

「ああ、本物の火になって燃え広がらなくて助かった」

 

事務所を見上げと、ボヤがなかった。 どうやらエルダーグリードを倒したおかげで消えたのだろう。

 

「おお……! さすがお嬢、異界対策課は伊達ではありませんね……!」

 

「フッ……上手くいったようだな。 警邏隊と救助隊が来る前に後片付けを済ませる! ボケっとすんな、動きやがれ!」

 

管理局沙汰になるのが面倒らしく、レイジさんは組員を指示した。 俺達も少しだけ協力し、事態が治る頃には夕方になっていた。

 

「ーー世話になったな。 おかげで事務所も大して焼けずに済んだ」

 

「大したことはしてないけど……1つ、借りにしておくわ」

 

「くくっ、がめついな。 お前達にも礼を言おう。 お嬢の言っていた通り、この借りはいずれ返させてもらうつもりだ」

 

「はは……それはどうも」

 

「は、はは、はいぃ!(ひえぇ〜! ヤクザ、マフィア、借金取り、怖いよお〜!)」

 

サーシャが妙に挙動不審だったが、これでこの件は一応解決し……

 

「…………………」

 

(………?)

 

いま、そこの人だかりに見覚えがある人が……

 

「どうしたのよ、レンヤ?」

 

「いや……何でもない」

 

(知り合いがいた気がしたが……気のせいか)

 

その後、俺達は別行動していたすずか達と連絡を取って……改めて異界対策課に集まった上で、今日の活動の報告をすることになった。

 

「そんなことがあったんだ。 とにかくレイヴンクロウの件は解決できてよかったよ」

 

「まあ、雑貨店の方は未解決のままだけどな」

 

その次にすずか達の報告も聞き、状況を整理した。

 

「……なるほど。 ホロスが予測した6ヶ所全てで何が起きたことになるわけか」

 

「……うん。 さっき説明した通り……こっちが調べた2ヶ所でも水道管の凍結という現象が起きたよ」

 

「……冬ならまだしも、この時期じぁあり得ねえな。 そっちも異界が関わっている可能性があるな」

 

「私とルーテシアとアギトが調べた場所だと、北側の方に地面の隆起……もう片方に風の精霊(エレメンタル)のエルダーグリードと遭遇したよ。 おそらく、その雑貨店を襲ったのも、このエルダーグリードだと思う」

 

「それと……合わせて気になる情報もありまして。 その周囲で、事件前夜に怪しい人影が目撃されたそうです」

 

「怪しい人影……?」

 

このミッドチルダで怪しい人影なんていくらでもありそうだが……

 

「どんな奴だったんだ?」

 

「聞いた話だと、背の高い女性だったそうですよ」

 

「背の高い女性……シグナムだったりして」

 

「シグナムもそれなりに有名だし、目撃者も分かると思うぞ」

 

「あはは……だよね」

 

「だけど、シグナムと同じくらいの背なのは確からしいよ」

 

ソエルがそう言うと、全員が同意する。

 

「……色々と気になることは残っているが。 いつも通りに協力すれば何とか上手く行くやれるだろう。 ルーテシア、アギトに続いてソーマとサーシャが仲間になったことだしな」

 

「修行の身ですが、お役に立ててよかったです」

 

「まだ慣れませんけど、ちょっとは力になれましたでしょうか?」

 

「ええ、上出来よ。 異界の探索もかなり良かったわ」

 

「えへへ……」

 

サーシャはアリサに褒められ、照れるように笑う。

 

「ふふ……とりあえず、今日はこれで終わりだね」

 

「各自、何かあったらお互い、すぐに連絡を取ってね」

 

「了解だ」

 

「はい!」

 

皆が解散する中、俺は今日中にやっておきたい仕事と、今回の事件の始末書があったので。 見送った後、さっそく仕事を始めた。

 

そしてようやく終わる頃には夜になっていた。 固まった体をほぐし、ルキュウに帰るため本局を出た。

 

グ〜〜〜……

 

「うっ……しょうがない、はやてには悪いけど外食にするか」

 

本局を出てすぐに腹の虫が鳴てしまい。 空腹には耐えられず、目に付いたレストランに入った。

 

「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」

 

「はい」

 

「ーーむ? この声は……」

 

個人席から聞き覚えのある厳かな声がすると……そこにはソフィーさんがいた。

 

「ソフィーさん⁉︎ どうしてこんな所に」

 

「少々、クラナガンで用事があってな。 ここで遅めの夕食というわけだ。 どうやら……お前も同じのようだな」

 

「あはは、ええまあ。 ご一緒してもいいですか?」

 

「ああ」

 

隣の席に座り、軽い物を頼み、雑談などを交えていた。

 

「しかし、相変わらずこんな遅くまで仕事か……そんなので体が持つのか?」

 

「これでもそれなりに鍛えていますし、あとは慣れですかね。 それに俺達が頑張らないと、ミッドチルダが怪異の危機にさらされます。 力ある者の義務……みたいなものですかね」

 

「そうか……無理だけはするなよ、お前が倒れたら騎士団の奴らが黙っていない。 ほどほどにしておけ」

 

「あ、あはは……はい」

 

確かにそんなことになったら管理局が糾弾されて、かなり面倒なことになりかねない。 と、ソフィーさんは飲み物を飲み干し、席を立った。

 

「それではな。 決して、1人で抱え込むな……お前には仲間がいるのだから」

 

そう助言をいい、ソフィーさんはレストランを後にした。

 

「…………………」

 

意味深な事を言い残したけど、身を気遣ってくれたのかな? 時間を見ると結構経っており、俺も残りを食べようとしたら……横にあった伝票が無くなっていた。

 

「あ!」

 

そういえばさりげなく盗られたような……奢らされたな。 やっぱりソフィーさんには敵わない。

 

 

 



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102話

 

 

7月3日ーー

 

学院に通学する途中、ふと聞こえた学生達の会話に昨日起きた事件のことが聞こえた。 どうやら昨日の事件の数々が噂になっていたようだ。 なのは達にもかなりそのことについて聞かれた。そんなこともあったが、授業はつつがなく進んでいき、あっという間に放課後になった。

 

「それじゃあ、部活があるから」

 

「また後でね」

 

「ああ、寮でな」

 

皆が部活や用事で教室を出て行く。 その時、後ろからアリサとアリシアが近寄ってきた。

 

「……活動はないけど、私の方は気をつけておくわ。 何かあったら連絡するから」

 

「私も気になることがあったから、もしもの時は呼ぶからね」

 

「わかった、無理はするな。 それとあんまり気を張りすぎるなよ」

 

「ええ……分かったわ」

 

「それじゃあね」

 

俺も荷物をまとめて教室を後にした。 確かに昨日のことで気になる点もいくつかあったが、確証もないし今日は捜索はせずに経過待ちなので……今日は依頼を受けようと思う。

 

「えっと……良さそうなのは……」

 

メイフォンで依頼リストを見て、簡単な物を複数探す。 ふと、記念公園にある湖の貸しボート場の手伝いがあった。 あそこは以前に手伝ったこともあるし、昨日のホロスの予測から外れている場所だから念のための確認がてら行ってみることにした。

 

(なんか、こんな依頼を受けるのが当然のようになっている気が……)

 

ピロン、ピロン♪

 

「ん……? ホロスからの予測か?」

 

駅に向かう途中、カフェの前でホロスから異界化予測が届いた。 メイフォンを取り出してホロスの予測を見てみるが……どこか様子がおかしかった。

 

「この反応は一体……?」

 

「どうかしたの、レン君?」

 

「何かあったの?」

 

その時、なのはとフェイトがちょうど歩いてきた。

 

「さっき、ホロスが異界化らしき予測を出してな。 だが、何故か今までにな特異な反応をしているようで……」

 

「特異な反応?」

 

「反応が異常増大したと思ったらほとんどゼロになったり……何というか、明らかに奇妙だ」

 

「んん〜……? 確かに気になるね」

 

「場所はミッドチルダ北部、廃棄都市区画……一度、確かめたほうが良さそうだな。 危険予測値はそれほど高くないし、俺1人で大丈夫だろ」

 

「そう……」

 

心配そうな感じのなのはとフェイトだが……2人は顔を合わせて頷いた。

 

「なら、私達も付いていくね」

 

「いくら危険が無くっても、1人で行かせられないよ」

 

「なのは、フェイト……」

 

「行こう、レンヤ。 廃棄都市の反応を確かめに」

 

なのはとフェイトの言葉に、少し先走ったと思い返される。 昨日、ソフィーさんに言われたばかりなのに……

 

「……はは、そうだな。 この程度なら3人いれば余裕だろう……さっそく向かおう」

 

技術棟から車を取り出し、2人を連れて北部の廃棄都市区画に向かった。 反応を辿って真っ直ぐ向かい、廃ビルの中に入った。

 

「予測があったというのはこの場所だね。 特に変わった所はなさそうだけど……」

 

「レン君、どう?」

 

確認すると、メイフォンのサーチアプリには強い反応が正面から出ていた。

 

「……奇妙な反応はますます強まっているな。 やっぱりここに何かあるのは間違いない……サーチアプリを起動するぞ!」

 

メイフォンから波長を飛ばし……

 

ファン、ファン、ファン……スーー……

 

青いゲートが顕現した。

 

「ゲート……! 現れたね……!」

 

「……危険な気配がしないのに、やっぱり今までに感じたことのない反応だ……」

 

「一体この奥に、何があるんだろう……?」

 

「心の準備はできているよ……行こう、レンヤ、なのは!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

俺達はゲートに向かって走り出し、異界に突入した。 潜り抜けると、そこには……

 

「え…………」

 

「………………」

 

「こ、これは………」

 

目の前にらは浮世絵離れした幻想的な景色が広がっていた。 場所は雲の上のようで明るい光りが漏れている。 辺りには大岩が浮いており、その上やこの場所にも桜似の木が花を咲かせていた。

 

「……ぁっ……………」

 

「………凄い……………」

 

「……綺麗……………」

 

まさしく言葉にできない光景だ。

 

「……何というか、言葉ないっ感じだよ。 私達、確かゲートを潜って来たはずだよね……?」

 

「……ああ、間違いない。 もしかすると、ここはーー」

 

『ーーフフ、君達だったか』

 

女の子の声が聞こえると、いきなり半透明な少女……異界の子、レムが現れた。

 

「久しぶりだね、君達。 いや、もう僕も抜かしちゃったようだし……こんにちは、お兄さん、お姉さん達」

 

「あなたは……!」

 

「レム……!」

 

「あれから5年も経っているのに、全然変わっていないよ……」

 

「まさかとは思うが……この異界はお前の仕業か?」

 

現れたにはそれなりの理由もあると思うし、傍観者をしているようだか、一応聞いてみた。

 

「いいや、今回僕は何も干渉していないよ。 ここは言うなれば、迷宮ではない異界……ザナドゥが持つ、もう一つの側面があるとも言える場所さ」

 

「迷宮ではない異界……?」

 

「異界のもう一つの側面……話に聞いたことがあるが。 そうか、本当にあったんだな」

 

「フフ、この地に……世界に呼び起こされたのはまったくの偶然だろうけどね。 念の為、様子を見に来たんだけど、これなら問題ないかな」

 

そのセリフはまるで、もうここから去るつもりということだ。

 

「あ……」

 

「レムちゃん⁉︎」

 

「待て、お前には色々聞きたいことが……!」

 

「フフ、それじゃあ。 ここには怪異(グリード)も徘徊はしていない。 しばらくすれば消えるだろうから、3人でゆっくりしていくといいーー」

 

それだけを言い残し、レムはあっという間に消えていった。

 

「ゆっくりして行ってて言われても……」

 

「ふう、まったく。 一体何をしに来たんだか」

 

「……でも、とりあえず、危険はないみたいだし一安心だね」

 

取り越し苦労な気もするが、だが……

 

「それにしても……ふふ。 こんな綺麗で、穏やかな異界もあったんだね……」

 

「うん……美しくて、現実離れしていて」

 

桃源郷(ザナドゥ)ーーそう名付けられた理由の一端が、なんとなく分かった気がするな」

 

「ふふ……確かに。 ありがとうね、レンヤ」

 

「え……」

 

「他の皆には悪いけど……おかげで綺麗なものが見られた気がする。 異界に関わっていなかったから……ううん、なのはやレンヤ、はやて達と出会ってなかったら、こんな場所に来ることなんて多分、なかったはずだし……」

 

「私も同じだよ、レン君と出会って、すずかちゃんとアリサちゃんと出会って、フェイトちゃんと出会って……色んな事があって、レン君と皆のおかげでここにいるんだと思うよ」

 

そう言われると、どうも照れ臭くなるが……

 

「……はは、そんなことないさ。 あの異界の子といい……謎めいた側面はいまだに多いが……俺も、なのは達と出会わなければ、今、ここに立っていなかったと思う。 だから……こちらこそ、礼を言わせてほしい」

 

「あはは……お互い様だね」

 

2人と向き合い、

 

「ーーこの先もきっと、色々あるんだろうが……なのはやフェイト達と一緒なら、もっと色々な光景を見られそうな気がするな」

 

「うん……これからも頑張ろうね、レンヤ」

 

「そうだね、VII組の皆と……異界対策課の皆と一緒に……!」

 

……しばらく経った後、異界は緩やかに消失した。 俺達は不思議な余韻に包まれながらもその場を後にし……駅前のカフェに戻ってから、静かに束の間の休息を楽しんだ。

 

その後、2人と別れ。 レールウェイで首都に向かい受諾した依頼を受けた。 ある程度終わらせたところで、記念公園に向かった。

 

「平日なのに結構賑わっているな。 さてーー」

 

「あれ、レンヤ君?」

 

後ろから声がかけられると、そこにははやてがいた。

 

「どないしたんや、こんな所で?」

 

「ちょっとな。 そこにある貸しボート場の手伝いをしにきたんだ」

 

「相変わらず異界関係あらへんのに手広くやってんなぁ。 もう異界対策課やのうて特務支援課に改名した方がええんとちゃう?」

 

「ほっとけ。 そういうはやてこそ、ここに何しに来たんだ?」

 

「私は休憩や。 ここ最近、異界やなくても忙しいからなぁ。 ふぅ……」

 

そういえばあそこのカフェの売っているコーヒーを持っている。 それにどことなく疲れている。

 

「大丈夫か……?」

 

「ううん、レンヤ君達ほど大したことあらへん。 今はできるだけのんびりするんよ。 レンヤ君もしっかり身体を休めなぁあかんで?」

 

疲れているのはお互い様だが、できれば息抜きでもできればいいんだが……ふと、湖のボートが目に入った。

 

(そうだな、だったら……)

 

「ーーはやて、よかったらあっちのボートに乗ってみないか?」

 

「え……」

 

「俺も手伝いを始める前にちょっと利用して様子を確かめたいっていうか……もちろん、はやてがよければだが」

 

「レンヤ君……あはは、願ってもないくらいや。 それじゃあ一緒に行ってみようか」

 

ボートを貸してもらい、一緒にボートに乗って湖に出た。 実際に漕いでみるとこれがなかなか難しい。

 

「うーん、やってみると結構漕ぐのも難しいんだな。 力加減を間違えると変な方向に進むし」

 

「そんなことあらへんよ、上手やで。 初めて乗ったけどなかなか楽しいなぁ。 このゆっくりとした揺れと水のせせらぎ、オールの軋む音……この陽気やし、気を抜いたら眠ってしまうかもせいへんなぁ」

 

「確かに……適当に漕いでいるから眠っていてもいいぞ?」

 

「え⁉︎ まさか私が寝とる間に何かやましいことを……」

 

「しません」

 

「そうやろうな……ちょっとは動揺してもええやろ……」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもあらへん。 でも……おかげでいい息抜きになるなぁ」

 

今まで気が抜けていなかった風に言い、今は本当に肩の力が抜けている。 やっぱりまだ……

 

「……その、もしかして……まだ管理局であんなことが?」

 

「ん〜まあ、そうやなぁ……以前よりはマシになったんやけど、いかにも露骨にちょっかい出してくるのがたまに。 クイントさんやメガーヌさんに助けてもろうたのも度々……」

 

「それはなんと言うか……懲りないな」

 

「あはは、さすがに私もちょっとうんざりするんよ……」

 

はやてはため息をはいて、湖を見る。

 

「……でも、ある意味これも宿命なんやろうな。 私が夜天の主である限り切っても切り離せない……オーリスさんに以前言われたんやけど、結局逃れようのないことなんやろうな」

 

「はやて……」

 

「あ……ごめんな、愚痴を言ってもうて。 レンヤ君の前だとどうも弱気になってしまうんよ。 でも心配あらへんで、この罪はシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リンスと一緒に背負って償うんしーー」

 

「ーーはやて」

 

はやての言葉を否定の意を込めて遮り、俺の偽りない考えを口にする。

 

「前にも言っただろ、幸せになっていいって。 はやてが罪を背負おうが何も変わらないし変えやしない。 辛くなったら手を伸ばせばいい、絶対に掴んでやるから……それが、仲間ってもんだろ?」

 

「ぁ……」

 

「管理局の仕事だろうが、相手の恨みや私怨だろうが……遠慮せずに相談……いや、こき使ってくれ、全力で手伝ってやる。 俺はもちろん、なのはも、フェイトも、アリサも……すずかやアリシアも、それにVII組の皆やテオ教官に異界対策課の皆だっている。 はやてだって夢に向かって頑張っているんだ、俺も頑張らないでどうするってもんだろ」

 

「…………あはは……そやな、シグナム達はもちろん、レンヤ君達もあるんや……ありがとな、レンヤ君。 なんだか頑張れる気ぃしてきたんよ。この程度の障害で遮られるようなヤワな夢やあらへん……負けてられんなぁ」

 

「はは、その意気だ。 頑張ろうな、はやて。 俺達が前に進むために」

 

「うん!」

 

その後……そろそろ時間が来たのに気づいた。

 

「おっと、そろそろボート小屋に戻ろう」

 

そう聞いてみるが、はやてから返事がなかった。

 

「? はやて……?」

 

「すう、すう……」

 

はやてはいつの間にか目を閉じて舟を漕いで寝ていた。

 

(はは、結局眠ったか。 はやても疲れているようだし、もう一周してから戻るか)

 

しばらくボートでゆっくりした後、はやてを起こした。 はやては眠ってしまったことを謝罪したがとくに咎めず、見送った後またボート小屋に向かった。

 

「あれ、君はさっきの……もしかして君が今日手伝ってくれる人だったわけ?」

 

「はいそうです……すみません、手伝う前に利用させてもらって」

 

「はは、まあ時間前だし、気にすることはないよ。 あんな美人と乗れるなんて羨ましいね、このこの」

 

「はは……」

 

「いや、でも助かるよ、外せない用事があってさ。 夕方の終了時間まで受付をお願いしたいんだ。 さっそく頼めるかな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「本当かい? ありがとう! それじゃあよろしく頼んだよ」

 

用事で帰った係員と変わり、さっそく手伝いを始めた。

 

ボートや用具を点検しつつ、ボートを借りに来る人に対応していた。 とはいえ……

 

「………やっぱり暇だなぁ。 まあ平日だし、当たり前か……」

 

手伝いを始めてからボートを借りたのはラブラブなカップル1組だけだし。

 

(ま、最近忙しかったし、たまにこんなのんびりするのも悪くないかな。 はやても捜査に戻ったそうだし、頑張っているんだろうな)

 

チラリとボートを漕いでいるカップルを見る、呆れるほどラブラブだ。

 

(も、もしかしてさっきの俺達もあんな風に見られたのか……? ……いやいや、さすがにそれはないだろう。 まあいいか、あれが戻ったら備品のチェックでもーー)

 

ヒュウ……

 

その時、突然何かが来るの感じ、辺りを見回した。

 

「⁉︎ (なんだ、今の寒気は……)」

 

それからすぐに、異変がおきた。 湖の北側から魔力を感じると、水面が走るように氷結しだし……一瞬で湖が凍りついてしまった。

 

「な、何だ⁉︎」

 

「た、助けて〜!」

 

「待っていてください! 今、助けます!」

 

緊急時なので飛行魔法でボートで湖に出ていた人を救助した。 周りを見ると、もう騒ぎになっており人が集まっていた。

 

「異界対策課です、怪我はありませんか?」

 

「え、ええ……大丈夫よ」

 

「これってもしかして、異界が発生して……」

 

「それにはお答えできませんが……必ずこの異変を解決してみせます」

 

それから異界対策課全員に連絡を送り、凍った湖を見た。

 

(氷……やっぱり、あの法則が……)

 

「レンヤさん(君)!」

 

思考を巡らせている所に、ソーマとすずかが走ってきた。

 

「ほ、本当に湖が凍りついている……」

 

「……あり得ない光景だね」

 

「ソーマ、すずか……! 早く来てくれて良かった」

 

「ちょうど近くだったから。 アリサちゃんや他の皆もこっちに向かっているよ」

 

「でも、どんな被害に繋がるかも分かりませんし……僕達だけでも、先に調査を始めませんか⁉︎」

 

「ああ……まずは氷が最初に発生した湖の北側に行ってみよう。」

 

先ほど、魔力を感じた湖の北側に行き……チェーンで仕切られた場所にきた。

 

「湖の北側、ここから湖が凍り始めたようだが……」

 

「もしかして、その先に……?」

 

「……確かに他の場所よりも異界の反応が強いね。 ゲートを探るね」

 

「ああ、頼む」

 

すずかはメイフォンを取り出し、サーチアプリを起動する。

 

ファン、ファン、ファン……スー……

 

メイフォンから発せらた波長に反応して、赤いゲートが顕われた。

 

「あんなところに……!」

 

「アリサちゃんが到着するのはもう少しかかりそうだよ。 メールを送信した上で、私達だけでも先行しよう」

 

「了解だ……行くぞ!」

 

俺達は念の為、簡易的な結界を張り……ゲートを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通過し、異界に入ると……そこは凍りついた水路を模した迷宮だった。

 

「さ、寒い……」

 

「この先に元凶がいるのは、間違いなさそうだね……」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構えた。

 

「ーー時間が惜しい、俺達だけでやるぞ。 ソーマ、すずか! 気合いを入れて行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

「行こう……!」

 

迷宮に突入して、探索が開始された。

 

「何もかも凍って……幻想的にすら思えますね」

 

「そうだね……空気も恐ろしく澄んでいるし」

 

バリアジャケットを着ていないソーマは直にこの温度を感じていた。

 

「(ぶるぶる……)くしゅんっ……!」

 

「大丈夫か、ソーマ?」

 

「す、すみません。 気合いを入れ直します!」

 

「でもこの冷気……長居はしていられないね」

 

すずかは氷結の魔力変換資質を持っているため寒いのは平気だが、やはりソーマをここに長時間居させるのは危険だな。 夏の蒸し暑さから冬の極寒にいきなり変わったようなものだ、体がついていけないはず。

 

急いで迷宮を駆け抜け、最奥に到着すると……目の前の空間に赤いヒビが走り、渦が巻き始めると……エルダーグリードが顕われた。 昨日と同種のようだが、属性が違う。

 

「出た……! エルダーグリードです!」

 

「やっぱり……霊属性の精霊(エレメンタル)……!」

 

「……E=セルシウス……こいつが湖を凍らせた元凶か……行くぞ、2人共!」

 

「了解だよ! ソーマ君もお願いするよ!」

 

「はい、受け継がれた天剣で……道を切り開きます……!」

 

E=セルシウスは素早く移動し、周りに浮いている小さな4つの氷を正面に向け、レーザーを発射した。

 

「レンヤ君、お願い!」

 

「ああ!」

 

《アバートレイ》

 

発射されたレーザーをすずかに向けて反射させ、すずかは向かって来たレーザーをスノーホワイトで受け止めるとその魔力を吸い取り3つのギアが急速に回転を始めた。

 

《魔導出力急上昇、オールギア強制駆動します》

 

「っ……さすが、ものすごい魔力量だよ」

 

「ーー行きます!」

 

レーザーを放射している間にソーマが接近し、剄を纏った剣で斬りかかった。

 

「負けていられないな……!」

 

《ソニックソー》

 

「疾突!」

 

刀に魔力を走らせ、突きを繰り出しながら一瞬で接近してE=セルシウスの体を貫く。

 

「ちっ、地面が凍ってかなり滑るな。 だが……」

 

完全に地面を踏み込んで、E=セルシウスを斬る。

 

「問題ないかな」

 

重心がほぼ完璧に安定していれば、どんな体勢からでも力の乗った斬撃が出せる。さらに追撃をかけようとしたら、E=セルシウスは周囲に青白い冷気を発生させてた。

 

「ぐうっ……!」

 

「ソーマ君!」

 

「だ、大丈夫です! まだ行けます!」

 

冷気がソーマの右手に直撃している、すずかが応急処置をしているが、あれではまともに剣を握れないだろう。

 

それを狙いE=セルシウスは青く光った後にソーマに向けて氷塊を上から落としてきた。

 

「せい!」

 

「やあ!」

 

落ちてきた氷塊を刀で斬り裂き、すずかが槍で粉々にして防いだ。

 

「行くよ……スノーホワイト!」

 

《ビルドアップ・エンデュランス》

 

「はああぁ……!」

 

すずかは体に身体防御魔法を付与し、一瞬でE=セルシウスの前に接近すると……地面が割れるほど踏み込み、槍を手の内で高速に回転させ……

 

破邪刃刺(はじゃじんし)!」

 

回転させた槍の威力を一点に凝縮した刺突はE=セルシウスをいとも簡単に貫いた。

 

「! 抜けない……!」

 

「すずか!」

 

あれを喰らってもまだE=セルシウスは健在だった。 E=セルシウスは青く光ると魔力を貯め始めた。

 

「させるーー」

 

「ーーはっ!」

 

助けようと一歩踏み出そうとした時、横から白い剣が飛来し、E=セルシウスに直撃すると剣は弾かれ上に舞い……

 

「うおおおおっ!」

 

そこにソーマが突然現れると剣を掴み、E=セルシウスの頭上に突き刺した。

 

「外力系衝剄……爆剄……!」

 

剣に剄を走らせE=セルシウスに流し込むと、体内で爆発した。 その勢いで槍が抜け、すずかはすぐさま後退する。

 

「うわっ!」

 

「おっと」

 

爆発で吹き飛ばされたソーマを受け止めた。

 

「まったく、無茶をするな」

 

「あ、あはは……上手く行ってよかったです」

 

「さっきのって転移魔法だよね。 あんなタイムラグもなくて一瞬で転移できるなんてすごいね」

 

「それにはーー」

 

その時、E=セルシウスは消滅と同時に爆発し、白い煙が辺りに充満する。

 

「うわっ⁉︎」

 

「っ……視界が……!」

 

「くっ……!」

 

その時、煙の中に誰かがいた。

 

(あれは……⁉︎)

 

誰なのか確認するため走り出したが、それと同時に異界が収束して行った。

 

現実世界に戻ると湖の氷は跡形もなく溶けており、寒さも感じなかった。

 

「やりましたね……!」

 

「うん、一件落着だね。 だけど……」

 

辺りを見回すが、先ほどの人影がどこにも見当たらなかった。

 

(今の人影は……)

 

「そういえばソーマ君。 さっき言いかけたことは?」

 

「ああ、はい。 この剣には刻印型の魔法式が刻んでありまして、任意で手を離したら込められた魔力で発動して一瞬で転移できるんです」

 

「刻印型って……それって魔力をかなり消費するやつだろ?」

 

「はい、でも使うのは一瞬だけでにすれば消費も少ないですし。 使う場面はさっきみたいに剣の位置に転移することと、剣を自分の手に転移するの2つだけですから」

 

「へえ、面白い発想だね」

 

「ーーレンヤ!」

 

その時、人混みの奥からアリサ達が走ってきた。

 

「アリサ、皆も……」

 

人混みをかき分けて来て、アリサは俺達がここにいることを理解し、力を抜いて息をはいた。

 

「えっと……一足遅かったかな?」

 

「うわぁ、本当にマンションの目の前です」

 

「結構騒がしいですけど……湖が凍ったのってホントですか?」

 

ルーテシアが氷一つ張っていない湖みて、疑問に思った。

 

「そうだよ、異界化が収束したらあっという間に溶けてね……」

 

「ーーあくまで異界の霊属性による氷結……特異点が消えたら、現実世界における影響を維持できなくなったんだわ」

 

「ま、そうなるよな……」

 

「ちなみに、エルダーグリードは霊属性を精霊(エレメンタル)だったよ」

 

「そう……やっぱり」

 

アリサ、俺、すずか、アリシアだけが事情を知っているが、残りの3人はまったくついていけてない。

 

「えっと、どういうことですか?」

 

「それって、以前教えてもらった異界で働いているあの法則のことですよね?」

 

「ええ……昨日から起きていた事件。 それらは異界の属性が現実世界で暴走したのが原因と考えて間違いないわ」

 

「焔、風、鋼、霊、そして影で構成される5属性……」

 

「エルダーグリードの特徴から見ても、この凍結現象は霊属性で間違いない」

 

「雑貨店で起きたのは風……レイヴンクロウのは焔になるね」

 

「な、なるほど、確かに昨日の小火もすぐに消えましたし……完全に一致していますね。 そうなると水道の凍結もそれが原因でしたか」

 

「う〜ん、なんとなく分かりますけど……どうしてそんなことが連続して起こっているのですか?」

 

「確かに……」

 

「……属性の暴走。 考えたくはないがーー」

 

「ひょっとするとーー」

 

この事件が連続して起こっているその理由を説明しようといた時……

 

ドックン……‼︎

 

全身が強い力で揺さぶられる感覚に陥った。

 

「これはっ……⁉︎」

 

「な、なんですか今の⁉︎」

 

「き、気持ち悪いです……」

 

「くっ、やっぱり……!」

 

「ーー気をつけなさい!」

 

それからすぐに、小規模ながらも地震が起きた。 この地震は数分続き……静かに収まってきた。 一般の人には最初の振動を感じておらず、収まると何事もなかったように歩き始めたり、雑談を交わし始めた。

 

「レ、レンヤさん……今のって……」

 

「……ここじゃ説明できないし、ソエル達に聞いた方が詳しい」

 

「そうだね、いったん異界対策課に戻ろう」

 

「は、はい」

 

「了解です」

 

後の処理を到着した管理局員に任せて、異界対策課に向かい……ラーグとソエルとアギトを交えて先ほどの現象について説明した。

 

虚空震(ホロウクエイク)……?」

 

「それが、さっき起きた揺れの名前か」

 

「それって……普通の地震とは違うんですか?」

 

「ああーー」

 

ラーグは虚空震についての詳細を説明した。

 

「時空間が振動する現象……」

 

「なるほど……確かに次元震と似ていますね」

 

「でも……そう言われると納得です。 まるで、周りの空間と一緒に、自分自身が揺らされたような……」

 

「ああ……あたしもここで同じ揺れを感じたが……一般人は感じられないんだよな?」

 

「そうだよ、認識できるのは異界と関わったことのある人と、魔力量がAランク相当の人だけ……管理局ではいきなり起きた原因不明の次元震として、発生の理由を解明しているようだけど……」

 

「そして……異界の世界においては最も恐れられる災厄の一つだよ」

 

ソエルが一言おいて、続きを言った。

 

「ーー神話級グリムグリードに引き起こされるという点についてね」

 

神話級……その言葉にソーマ達は驚愕する。

 

「それって……!」

 

「地球の異界事件記録にあったって言う……!」

 

「うん……10年前に、地球で引き起こされた、ね」

 

「10年前に観測された、直近かつ、史上最大の虚空震。 それが東亰冥災と言われるものだ」

 

続いてラーグがソエルと説明を引き継いだ。

 

「ーー夕闇ノ使徒。 元凶となった神話級グリムグリードは事件の後にそう命名された。 東亰全土の空を緋色に染めるほどの異界化を引き起こした存在。 その顕現と同時に、最大規模の虚空震が連続して発生し……そいつに誘発されて地震、竜巻、落雷、さらには寒波や瘴気までもが発生した……文字通り、東亰は混沌に包まれた」

 

「その後、異界に関わっている地球の勢力がこれを討伐したんだけど……それでも、3万人にも及ぶ犠牲は避けられなかった」

 

「そんな……」

 

「……本題はここからだよ」

 

暗い表情をしているソーマ達の心情は、理解できなくもないが……今は目の前の現状が危惧されている。

 

「今回起きている異界属性の暴走……東亰冥災の前兆として起きたものに酷似しているんだ」

 

アリシアの説明にまた驚愕するソーマ達。

 

「さっき起きた虚空震の規模は冥災の時のと数千分の一くらいだけど……」

 

「ロストロギア使用の確認がされてない以上、あれを引き起こした存在は……確実にこのミッドチルダに潜んでいるわ」

 

「! まさか……!」

 

「えっと……もしかして?」

 

サーシャとルーテシアは何かに気がついた。

 

「うん……恐らくその存在が、ミッドチルダに異界事件を発生させた元凶だと思う。 あまりにも強すぎる怪異は、存在するだけで災厄を引き寄せてしまうから……」

 

「あの……夕闇ノ使徒はもう討伐されたんですよね? なら、誰が事件を起こしていて……どこに居るのですか?」

 

「お、ソーマ。 いい質問だ」

 

「……居場所については、私が目星を付けているよ。 正体は……ある一つの仮説が成り立つかな」

 

「仮説……?」

 

「10年前に討伐されたグリムグリード、夕闇ノ使徒。 その眷属が生き残っている可能性があるのよ」

 

「け、眷属……」

 

「確か、グリムグリード級が配下に操っているエルダーグリードですよね?」

 

「ああそうだ。 だが、都市一つを壊滅しかけたグリムグリードの眷属となれば……事態は一刻を争うだろう」

 

「各方面にも非常通達を出すよ、もしもの時のためにいつでも市民を避難できるようにしないと」

 

「ああ、そっちの方は頼んだぞ」

 

「杜宮から来た飛び火、ちゃんと消さないとね」

 

「ううっ、入って間もないのにこんな重大な任務が来るなんて……」

 

「あはは、お互い頑張ろうね」

 

「よっしゃああ! 燃えて来たぜ!」

 

「アギト、あんまり突っ走らないでよね?」

 

「ふふっ……一緒に頑張ろうね、ガリュー?」

 

(コクン)

 

「なら、早く居場所を確認しないとね」

 

立ち上がり、異界対策課初めての重大ミッションを発令する。

 

「これより夕闇の使徒、その眷属の捜索及び討伐任務を開始する。 各自、入念に準備を整えておけ。 居場所が特定しだいすぐに出動する!」

 

『了解!』

 

 

 



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103話

 

 

7月4日ーー

 

本来なら学院を休んで調査をしたかったのだが、ここ最近働き詰めなのを指摘されてしまい、体休めのために今は学院にいるて普通に授業を受けていた。 アリサは各方面の連絡で、すずかはデバイスの調整で、アリシアは眷属の特定のためにここにはいなかった。

 

「レンヤ! 昨日のあの変な揺れってなんなの⁉︎」

 

「ツァリ、落ち着いてください」

 

遅れて気味に教室に入ると、ツァリがいきなり昨日の虚空震について質問してきた。

 

「授業で習ったことあるだろう、虚空震だ」

 

「虚空震やて? それって次元震の上位にあたるやつやんけ」

 

「もしかして、グリードが?」

 

「ああ、ちょっと異界に関わることでな。 昼頃には俺も学院を早退する予定だ」

 

「俺達も手伝えないのか?」

 

「案件がかなりデカくてな、学生では首を出せないレベルだ。 なのは達の方にも通達は来たな?」

 

「う、うん……でも、本当にレンヤ君達だけで大丈夫なの?」

 

「敗北の可能性は否定できないな。 その場合はなのは、フェイト、はやてにも出てもらうがーー」

 

「じょ、冗談でもそんなこと言わないで!」

 

フェイトが珍しく声を上げた。 皆もかなりビックリしている。

 

「……ごめん、だが……予断を許されない状況なのは確かだ。 このミッドチルダを東亰と同じ目に合わせたくない」

 

「レンヤ君……」

 

「開始は午後からだ、それまでは学生でいるさ」

 

「………………」

 

やっぱりシェルティスが納得していない顔をしているな。

 

「心配するな、これでもそれなりの修羅場はくぐってきたんだ、そう簡単にやられはしない」

 

「……そやな、アリサちゃん達もおるんやし」

 

「先ずは、自分達のできる事をちゃんとやろう」

 

「うん、そうだね」

 

「ーーおはようさん、今日は何人かいないし早退するが……まあ、気にしなくていい」

 

テオ教官が教室に入って来て、それからいつも通りの授業が行われた。 つつがなく授業も進み、昼休みになるとなのは達と早退し。 サーシャとも合流して車で本部に向かった。

 

到着すると3人と別れ、異界対策課に向かうと……中はかなりごたついていた。

 

「ああ、レンヤ君にサーシャちゃん……! きて早々悪いけどアリサちゃん手伝ってくれる? 地上と本局の連携が取れていないみたいで……」

 

「相変わらずこんな時でも仲が悪いな、地上の方の部隊は大丈夫か?」

 

「ゲンヤとグランダムがまとめてくれているから大丈夫だ」

 

「あ、皆集まっているね」

 

ドアが開けられてアリシアが室内に入って来た。

 

「アリシア、居場所を特定できたのか?」

 

「うん。 クラナガン中央ターミナル……そこに夕闇の眷属がいるはずだよ」

 

「確かに、そこを中心にして各地の属性の暴走が起きていたと考えれば筋は通るね」

 

「はい、間違いなさそうです!」

 

「うんうん……! ビンゴって感じだよ!」

 

「でも、あそこのどこに元凶が潜んでいるのかしら?」

 

「確かにそうですね、毎日人がいっぱいですごく開発されていますし……」

 

「それはね……地下鉄よりさらに下にある地下道、元凶はそこにいるよ」

 

「根拠はあるの、アリシアちゃん?」

 

「1年の時の特別実習で地下鉄に行ったでしょ? その時、地脈浸点の奥底から嫌な気配は感じたんだ。 だけど……その後調べに行ったんだけど何の気配も手がかりも見つからなくてね。 隠れたのか、それとも隠されたのかどうかは知らないけど……今朝調べに行った時は、確実に何かいるって分かったよ」

 

「……そうか」

 

隠された、か……もしかして、あの時の人影が……いや、そんなはずはない。 あの人がそんな事するはずがない。

 

「まだ確認できていない属性は鋼と影……そのうちの鋼は地を意味する属性でもある。 属性の暴走という意味でも、かなり有力な情報だ」

 

「決まりだね。 さっそく皆で中央ターミナルに行こう」

 

「はい!」

 

目的地が決定し、すぐさま車に乗り込み、急いで中央ターミナルに向かった。

 

「……着きましたね」

 

「人通りはいつも通り……おかしな気配もしないわね」

 

「見回したら限り……怪しい人影も見当たらないね」

 

「皆こっちだよ、ここからーー」

 

ドックン‼︎

 

アリシアが誘導しようとした時、虚空震が発生した。

 

「い、今のって……!」

 

「くっ……また虚空震か!」

 

「うん……かなり微弱だけど間違いなく虚空震だよ!」

 

「! 皆さん、あれ……‼︎」

 

ルーテシアが叫ぶと、この広場に建っている4つのオブジェクトが不気味に光り始めた。

 

「オブジェクトが……ゲートみたいに光っている⁉︎」

 

「……私達以外は気付いていなさそうですけど……」

 

「ッ……とにかく地下鉄に行きましょう!」

 

中央ターミナルに入り、改札を急いで抜けて地下に向かうと、そこには下から上へ

 

「これって……」

 

「どうやら地下から漏れ出た力がオブジェクトに伝わっていたようだな」

 

「(ゴクッ……)それにしても凄いエネルギーですね」

 

「元凶の力がうかがい知れるよ」

 

そしてさらに地下に向かい入り口の前に到着し、アリシアがメイフォンで反応を調べた。

 

「かなり強い反応……間違いない、ここだよ。 フォーチュンドロップ」

 

《アンロック》

 

確認を終えると扉に手をかざし、ロックを解除した。

 

「この先に……」

 

「うん、元凶が潜んでいるばすだよ」

 

「行きましょう……皆、気を引き締めて」

 

「は、はい!」

 

中に入り、さらに下に向かうと……急に空気が変わり、夏にもかかわらず嫌な寒気がする。

 

「うう……なんかゾクゾクします……」

 

(コクン)

 

「ええ……正直ゾッとしないわね」

 

「そろそろオブジェクトの真下ですかね?」

 

「そうだね……かなり近いよ」

 

最奥に辿り着き、そこにあったのは……

 

「きゃっ……⁉︎」

 

「こ、この禍々しい気配は……」

 

「……どうやらあの奥から漏れ出ているようだな」

 

異様な気配を出す、以前見たグリムグリードが顕れた時と同じ形をした黒いゲートだった。 漏れ出た禍々しい力が肌で直に感じられる。

 

「な、何ですか、あれ……あれもゲートなの⁉︎」

 

「うん……そのようだね。 まるで魔そのものが口を開けているような……」

 

「まさしく胃袋の中に飛び込むわけか」

 

「笑えないな」

 

「…………微かに感じるね……禍々しい波導を。 間違いないよ……夕闇の使徒の眷属はこの先にいる……!」

 

「ふう、正念場ね」

 

「皆、準備はいいな?」

 

全員を見回して頷くのを確認し、俺達は異界迷宮に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通過すると天井から血のような液体が流れ落ちて、下に貯まり泡を吹いている様はまさに煉獄のような異界迷宮だ。 壁は生きているように動いており、先ほどのラーグの言うとおりまさしく胃袋の中だ。

 

「な、なんですかこれ……生きているのですか……⁉︎」

 

「い、生き物の体内に飲み込まれたような……」

 

「血と肉……それに鋼の匂いね」

 

「さ、さすがにグロすぎます……!」

 

「まさか、ここまでの迷宮が現世に顕現するなんて……」

 

「うん……予想以上だね。 いったいどれほどのものが待ち受けているのか……」

 

「……今までと何も変わらない」

 

前を向き、それぞれデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「この地で災厄を引き起こさせるわけにはいかない……行くぞ、皆!」

 

『おおっ……!』

 

元凶を止めるために、俺達は迷宮の探索を開始した。

 

「これは……まさに血の池地獄だな」

 

「落ちた者は、溺れてもがき苦しむていう……」

 

「そんな名前の温泉聞いたことあるわね」

 

「うう……見た目以上に匂いに耐えられないよ……」

 

「血の匂いか……慣れたくもねぇ」

 

「こんな所は一刻も早く抜けよう!」

 

迷宮を駆け抜け、中間地点に差し掛かり階段を降りている途中……

 

ドックン‼︎

 

また、先ほどより強い虚空震が発生した。

 

「くっ、今のは……!」

 

「また虚空震だね……」

 

「な、なんか揺れも段々大きくなっていませんか……⁉︎」

 

(コクン)

 

「どうやら……近付いているようだね」

 

「はい、奥から圧倒的な気配が感じられます!」

 

「……いよいよ時間も無くなってきましたようです」

 

「ええ……覚悟を決めましょう」

 

グリードを倒しながら走り続け……最奥に到着すると、目の前にある祭壇の上に禍々しい気配を放つ元凶がいた。

 

「ッ………‼︎」

 

それは丸い卵で、半透明な殻の中に入っていたのは人面の芋虫だった。 はっきり言ってかなり気色悪い外見をしている。

 

「な、なんですか……あれ……⁉︎」

 

「巨大な……卵……?」

 

「も、もしかしてアレが……」

 

「……そこにあるだけで全てに影響を及ぼすような、禍々しいほどの霊圧……間違いないよ!」

 

「あの中にいるのが……!」

 

「夕闇の使徒……その眷属……!」

 

「ーーその通りだ」

 

落ち着いた……それでいて厳か声が聞こえてきた。 この声は……!

 

「もっとも我々は落し子と呼んでいるが」

 

横にあった火が灯された台座の影から……騎士甲冑を身に纏った銀髪を結い上げた女性……ソフィーさんと反対側の台座から白装束を着た人物が現れた。

 

「ッ……ソフィーさん……! やっぱり見間違いじゃなかった!」

 

「え、何で⁉︎」

 

「それにあの白装束は……」

 

「刻印騎士、どうしてこんな所に⁉︎」

 

「ソエルちゃん、あの人を知っているの?」

 

「地球にある異界に関する組織の1つに聖霊教会と言うのがある。 そこの武装騎士団・刻印騎士団(クロノス=オルデン)の刻印騎士の1人だと思われるが……」

 

「……その通りだ、知っていながら随分と隠しているようだな、時空の守護獣よ」

 

「「………………」」

 

白装束から発せられた声は雑音が混ざっているように響いて聞こえる。 おそらく変声しているのだろう。 ラーグもソエルも事情は知っているが、そのまま黙っている。

 

「それで、どうして所属の違う2人がいるのですか?」

 

「ただ仲良くしている……わけじゃ無いわよね」

 

「あくまで仮初の盟約……一時的な協力者に過ぎない」

 

ルーテシアとアリサの質問に白装束が答え、踵を返し落し子の方に向く。

 

「ーー刻が惜しい。 さっそく始めるとしよう」

 

手をかざし、見た事ない形の魔法式が展開されると……落し子の真下に魔法陣が展開され、そこから禍々しい魔力が溢れ出し落し子に吸い込まれる。

 

「な、なに……⁉︎」

 

「ソフィーさん! 何をするつもりですか⁉︎」

 

白装束を止めようとするが……ソフィーさんが祭壇を降りて道を塞いだ。

 

「ーー悪いが邪魔をさせるわけにはいかない。 大人しくしてもらおうか?」

 

「くっ……」

 

「ぜ、全然隙がない……⁉︎」

 

「さすが、騎士団長を名乗っているだけはあるわね」

 

「…………やっぱり、そうだったんだね」

 

「アリシアちゃん?」

 

アリシアがソフィーさんを見て、何かを納得した。

 

「前々からおかしいと思っていたんだ、たとえ少なくてもどうして異界に関する資料が聖王教会にあったのかを。 さらに疑問に思ったのは首都地下にあった地下墓所に封印されていたグリード……そう、なんで異界の関わりが短いこの世界でグリードが()()されていたのか、それが以前から疑問だった。 今のソフィーさんを見てようやく合点がついたけど」

 

「あ……」

 

「確かに……」

 

「おそらく1年前にここを隠蔽したのもソフィーさん達でしょう? 1日で消えるなんてあり得ないよ」

 

「……ふふ、そうだ。 なかなかいい観察と推理だ」

 

「ならソフィーさん、改めて名乗ってくれませんか?」

 

「ああ、それはーー」

 

と、そこで何かに気がつき……ソフィーさんは少し後ろに下がった。

 

「……話は後のようだな。 折角だ、そいつの相手はお前達に任せるとしよう」

 

「なにを……」

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

突然、地震……いや、地中を何かが動き回っている……!

 

「しまった……⁉︎」

 

「下です!」

 

地面を砕いて現れたのは、口が4つに割れた一本角の龍だった。 首だけが地上に出ており、全長が計り知れない大きさだ。

 

「りゅ、龍……⁉︎」

 

地龍の怪異(ヨルムンガンド)……!」

 

「鋼属性の暴走の産物のようだね……!」

 

「存分に見せてもらおう。 このミッドチルダの異界に関わり5年……それがどれほどのものかをな……!」

 

「くっ……速攻で倒してあの儀式を食い止める! 全力で行くぞ……皆!」

 

『おおっ‼︎』

 

グアアアアアッ‼︎

 

ヨルムンガンドが咆哮を上げ、襲いかかってきた。

 

「えい!」

 

サーシャが輪刀を前に出し、弾いて防いだ。

 

「ソーマ君!」

 

「了解!」

 

弾かれ怯んだヨルムンガンドの顔面にソーマが剣を振り下ろしさらに揺さぶった。

 

「今だよ、ガリュー!」

 

(バッ……!)

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「しっ!」

 

ルーテシアがガリューに指示を出し、ガリューと共に飛び出したが……

 

(⁉︎)

 

「ちっ……!」

 

ヨルムンガンドは地中に潜り、振られた刀は空をきった。

 

「うわっ⁉︎」

 

「きゃあ⁉︎」

 

ソーマとサーシャの足元まで潜り、真下から飛び出してきた。 2人は驚きながらも何とか回避した。

 

《オールギア……ドライブ》

 

落月爪(らくげつそう)!」

 

すずかが遠心力を利用して槍を振り下ろすが、すぐさま地中に潜り、槍は地面にぶつかり空振りになった。

 

「ちょこまかと……!」

 

「モグラ叩きみたいだね」

 

「そんなのに付き合う暇はない!」

 

次に出てきたヨルムンガンドは首を振り返り、顔面で叩きつけてきた。

 

「この……フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

灼光拳(しゃっこうけん)!」

 

膨れ上がった魔力で身体能力を強化し、振り下ろされた首を鷲掴みにして受け止め、そのまま叩きつけると同時に炎を炸裂させヨルムンガンドを爆砕した。

 

「まだまだ! 爆握撃(ばくあくげき)……!」

 

「! だめアリサ! 早く離れて!」

 

アリシアが叫ぶが、ヨルムンガンドはその場で回転しアリサを引き剥がし、そのまま首を振り回して周囲を薙ぎ払った。

 

「きゃああっ!」

 

「アリサ!」

 

「この!」

 

《ミスティアーク》

 

アリシアが牽制のため双銃で扇状に魔力弾を連射するが、続けて振り回されている首で弾かれてしまう。 ヨルムンガンドはそのまま上から岩石を降らせてきた。

 

「きゃあ!」

 

「この……!」

 

「なら……!」

 

《シャープエッジ》

 

アリサ達が岩石を避ける中。 虚空を使い、振り回されている首と落ちてくる岩石を避けてギリギリまで近付き。 斬れ味を魔法で上げ、さらに斬りたい場所に刀を固定すると、ヨルムンガンド自身から当たりに来て額を斬り裂いた。 その攻撃によりヨルムンガンドは体勢を崩し、首から下が飛び出しながら倒れる。

 

「うわ、まだ体が埋まっているの⁉︎」

 

「そんなの関係ないよ! スターバインド!」

 

ルーテシアがヨルムンガンドの首の各所に星型の障壁を展開し、動きを封じた。

 

「よし! 外力系衝剄……針剄!」

 

動きが止まった隙に、ソーマが衝剄を針のように凝縮して放ち、ヨルムンガンドに針が突き刺さると体が硬直し始めた。

 

「今だよ、レンヤ!」

 

「斬り裂きなさい!」

 

「ああっ!」

 

《サードギア……ドライブ》

 

風塵三颯(ふうじんさんせつ)!」

 

刀身に埋め込まれた3つ目のギアが回転し、ヨルムンガンドに刀身による斬撃、技によって放たれた鋭い鎌風、魔力斬撃の3つが合わさり一陣の風となって放った。 額から3方向に斬撃が走り、拘束を壊しながら風が走り抜ける。

 

ヨルムンガンドは解放されたと同時にのたうち回り、断末魔を上げながら塵と消えていった。

 

「くっ、手こずった……!」

 

「はあ、はあ……!」

 

「な、何とか倒せましたけど……!」

 

「ッ……時間がかかり過ぎたわ……」

 

「ふふ、予想以上にやるな。 だが……時間切れのようだ」

 

「……‼︎」

 

「……ぁ……」

 

その時、祭壇にいた白装束が儀式をやめ手を下ろした。

 

「ーー完了だ」

 

その言葉と共に魔法陣からさらに禍々しい魔力が溢れ出す。

 

「しまった……!」

 

「ッ……やめろおおっ!」

 

魔力が溢れ、殻にヒビが走り卵が音を立てて割れた。 出てきた落し子は開眼と同時に君悪く叫んだ。

 

「……ひっ……」

 

「ああああっ……⁉︎」

 

「あ、あれが落し子……!」

 

「な、何てことを……!」

 

「あんた達……!」

 

「よくも!」

 

2人の所業にアリサ達は怒りを露わにする。 だが、俺は今もソフィーさんがこんな事をする人ではないと思っている、何か裏が……その時、背後から人の気配を感じた。

 

「! 待て、これは……!」

 

「この気配は……!」

 

その前に、ソフィーさんが大きな声を上げた。

 

「ーー第一段階完了……これより、第ニ段階に移行する!」

 

『はっ!』

 

背後から騎士甲冑をきた騎士と……深緑のコートを着て武装した集団が俺達の横を通りすぎて、落し子に向かって走って行った。

 

「この人達……」

 

「あれは……!」

 

「騎士団の皆⁉︎」

 

「それにあれは……ヘインダール教導傭兵団⁉︎」

 

「どうしてここに……」

 

2つの集団は落し子の前に来るとデバイスを向けた。 ソフィーさんが合図を出すと一斉に攻撃を開始した。 落し子が苦しむ中、白装束が同じように壁に魔法陣を展開した。

 

「来い……落し子よ!」

 

落し子は猛攻に耐えられず、展開された魔法陣に逃げ込み、転移された。

 

「転移された……!」

 

「い、一体なにがどうなっているの〜っ⁉︎」

 

(ポンポン)

 

パニック状態のルーテシアをガリューがなだめる。

 

「ここまでは計画通り……では、先に行くぞ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

白装束はソフィーさんに一言入れると魔法陣に飛び込み転移して行った。

 

「第ニ段階に変更なし……これより最終作戦地点に向かう!」

 

『はっ!』

 

「え、えっと……」

 

「まさか、そんなことが……」

 

ソーマ達は未だに状況が飲み込めず、俺達4人はようやく理解できた。

 

「ーーそういう事だね。 ビックリしたけど、それならヘインダールがこのミッドチルダに来た理由も納得できる」

 

「そうさー、俺っち達はそのためにここに滞在してるさぁ」

 

いつの間にか横にヘインダール教導傭兵団の団長……カリブラ・ヘインダール・アストラがいた。

 

「久しぶりだな、カリブラ・ヘインダール・アストラ。 どうりで全然活動を見せなかったわけだ」

 

「け、結局どう言う意味なんですか⁉︎」

 

「ーー私達より遥か以前に異界に関わっている聖王教会の部隊だとして。 それに聖霊教会の依頼を受けて、ヘインダール教導傭兵団の協力を求めた……と言った所かな?」

 

「ふふ……そうだな」

 

アリシアの言葉に肯定し、マントを翻して俺達の方を向いた。

 

「ーー聖王教会・第零部隊ヴォルフ。 その指揮を第一部隊と兼任しているソフィー・ソーシェリー騎士団長だ。 改めて、よろしくお願いしようか? 異界対策課の諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ不審に思いながらも異界を脱出し、用意されていた飛行艇に乗り込もうとした時……

 

「カリブラ!」

 

リヴァンが現われ、カリブラに近付いた。

 

「ようやく見つけたぞ」

 

「よお、リヴァン。 久しぶりさぁ、一体何しに来たのさ?」

 

「しらばっくれるな、お前達が来て1年ほぼ活動続けていなかったのが今日いきなり動いたんだ。 ていうかベルカの教会騎士団長とレンヤ達ってどういう組み合わせだ」

 

「それは……」

 

「時間が惜しい、お前も来るなら早く乗れ」

 

ソフィーさんが乗り込むと、飛空挺の駆動音が上がった。 慌てて飛行艇に乗り込むと、すぐに離陸し北に向かって飛翔した。

 

「………………」

 

ソフィーさんは念話で部隊の指示を出していた。 念話を終えると腕を組みこちらに向いた。

 

「あの、ソーシェリーさん……」

 

「ソフィーで構わんよ。 サーシャと言ったな、君の疑問に答えよう……それはお前達も知りたいだろうからな」

 

「……はい」

 

「ーー30年ほど前、聖王教会はこの地に起きた異変に誰よりもいち早く気付いた。 かつての騎士達はこれに対抗し、何度も傷付いた。 そしてそれからすぐにある組織が教会とコンタクトを取った」

 

「もしかして、それが……」

 

「ああ、聖霊教会だ。 あちらから怪異に対抗する術を教授してもらい……第零部隊を結成、5年前まで平穏を保っていた」

 

5年前と言うと異界対策課が結成された年……

 

「もしかして、俺達が……」

 

「いや、遅かれ早かれいつかは暴かれると思っていた事だ。 むしろお前達に仕事を押し付けているようでもあるし、隠れ蓑をしているようで心を痛めた。 せめてお前達が居ない時や気づかれないで怪異を討伐していたが」

 

「なるほど……通りで以前から不自然に開いたゲートがいくつもあったわけです」

 

「……そして、今回はで夕闇の使徒の落し子の討伐を1年前に聖霊教会に依頼されたのだ」

 

「なるほど、そういうことだったんだ」

 

「な、なんだかまだ頭が付いていけないないですけど……」

 

(コクン)

 

「結局、ソフィーさん達も元凶を退治しようと動いていたわけね」

 

「ああ、ミッドチルダでの予兆は我々が最初に掴んでいたからな。 お前達の活動を盾にしつつオルデンの協力で災厄の可能性を突き止め……さらにヘインダールの協力を要請し討伐のために動いていたわけだ。 もっとも、ヘインダールは随分と勝手してくれたようだがな」

 

「〜〜〜〜♪」

 

ソフィーさんが反対側にいるカリブラを睨みつけると、カリブラはどこ吹く風のようにそっぽを向いて口笛を吹いた。 恐らく次元会議の時の話だろう。

 

「くっ、こいつだけは……!」

 

「ま、まあまあ」

 

「とにかくそう言うことだ、先ほど管理局本局及び地上の両本部への極秘の通達をしたところ……最終的な決定権はお前達に預けられた」

 

「なら、俺から言えることはありません。 ここはソフィーさん達にお任せします、無策の俺達が落し子を確実に討伐できる保証はありませんし」

 

「そうか、感謝するぞ」

 

「ですが、もしもの事態が起きたら介入させてもらいますよ?」

 

「構わん、お前達の実力は我が隊と比べても上位に入る。 むしろ願ってもいない」

 

『第二演習場の上空に到着しました!』

 

そこで、飛行艇の操縦士から到着が通達された。 それと同時にソフィーさんの端末に通信が入った。

 

『魔力反応の増大を確認!』

 

『仕上げに入る……備えるがいい』

 

「了解だ……」

 

端末から隊員の声と白装束の声が聞こえてきた。 かなり緊迫しているようだ。

 

「最終段階に移行する! 第一小隊、出撃せよ!」

 

その指示の後、ベルカ領にある山を挟んだ場所に位置する第ニ演習場に到着した。 ここは山々に囲まれており、簡単には入れず隠れて事を行うのにうってつけの場所だ。

 

演習場を見下ろすと、中央に人型のロボットが膝をついて鎮座していた。 その周りには教会騎士団の団員達とヘインダールの団員が忙しなく動いていた。

 

「なんですか、あれ?」

 

「質量兵器のようですが……」

 

「ある場所から一機だけ買わせてもらったものだ。 そしてあれが、落し子を実体化させる器になるわけだ」

 

「なるほど、それなら確実に仕留められるね」

 

着陸している中、事が始まろうとした。 白装束が手を出して魔法陣を人型のロボットの足元に展開した、そこから落し子が上がってきた。 落し子は目の前にあったロボットを依り代して取り憑いた。 ロボットにすぐに変化が現れたの、ロボットから紫の魔力が溢れ出し、命を宿したかのように脈動する。 そして爆発するように禍々しい魔力が噴出した。

 

「! あれは……!」

 

「闇色の巨獣……」

 

「顕現した……!」

 

グオオオオッ‼︎

 

禍々しい魔力から四足の大型グリード現われ、咆哮を上げた。

 

「ーー実体化したか。 これでようやく片割れか……」

 

どこか疲れたように愚痴りながらも空に六芒星を描き……落し子の足元に魔法陣が展開されると落し子の圧力がかかり、落し子をその場に拘束した。

 

ようやく飛行艇が着陸し、演習場に飛び出すとソフィーさんが口に端末を近付けた。

 

「攻撃開始……全力を尽くし、落し子を撃破せよ!」

 

『了解っ‼︎』

 

「こっちも気合いを入れるさぁ!」

 

『おおっ‼︎』

 

2人の合図で攻撃が始まり、魔力弾や剄弾が全力で……非殺傷設定を切って落し子を蜂の巣にした。 落し子が反撃して腕を振るうが当たらず、集中砲火が続いた。

 

「……これは……」

 

「す、凄い……」

 

「い、一方的ですよ……」

 

「………質量兵器も混ざっているわね。 本来なら効かないはずだけど……なるほど、そのための器ね」

 

「それに恐らく……弾丸も聖別されているね」

 

「かなり以前より準備されていたようだな」

 

「どう言うこと、ソエルちゃん、ラーグ君?」

 

「普通の物に霊的な力を付与することだ。 グリードには一応魔力攻撃以外にも聖樹から切り出された木刀なんかが効くからな」

 

「簡単に言えば銀弾みたいなものだね」

 

「……あうあう、出る幕がなさそうです」

 

「ああ、そのようだな」

 

「………………」

 

確かにこのまま続ければ落し子は力尽きるだろう。 その時、落し子が踏ん張って力を溜めていた。 そして、一瞬だけ目が輝く。

 

「マズイ……離れろ!」

 

「……⁉︎」

 

「ムッ……⁉︎」

 

落し子は後ろ足で立ち上がると、全体に紫の波動を放った。 その衝撃で周りにいた白装束、騎士団員、ヘインダールの団員が吹き飛ばされた。

 

「影属性の衝撃波……!」

 

「なんて強烈な……」

 

「! あれは……⁉︎」

 

落し子の足元に巨大ヒビが走り……今までに見た事がない巨大な黒いゲートが顕れた。

 

「ッ!」

 

「地面にゲートが⁉︎」

 

「逃げる気か!」

 

そして、落し子は沈むようにゲートに入って行った。

 

「くっ……異界に逃げ込まれたか。だが、逃がしはしない」

 

ソフィーさん慌てず、後ろに控えていた小隊に指示を出す。

 

「ヴォルフ第二小隊、これより追撃を開始する! 相手は手負いだ、油断せず一気に仕留める!」

 

『はっ‼︎』

 

「ーーソフィーさん、俺達も同行しますよ!」

 

俺達は急いでソフィーさん達に近付いた。

 

「約束通り、私達も行くわよ!」

 

「構いませんよね?」

 

「ああ、第二小隊は2波として私の次にーー」

 

「どうやら、そうは行かないようだ」

 

白装束が大きな白い大剣を転移して片手で掴むと、ゲート周囲からグリードが次々と出現して来た。

 

「えええっ⁉︎」

 

「どうしてグリードが!」

 

「元々この世界はあちらより怪異が現世に顕現し易いのだ、ここは我々に任せて早く行け」

 

「俺ももしもの時のために残るぜ」

 

「わかった、頼んだぞ」

 

この場を白装束と騎士団、ヘインダールとラーグに任せ。 俺達はデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、ゲートに向かって走った。

 

「先ずは道を切り開いてーー」

 

「! レンヤ、離れろ!」

 

魔力斬撃を放とうとした時、リヴァンに制せられると……上空から無数の鋼糸が高速で降り注いで来た。

 

「っ⁉︎」

 

「これは……剄による鋼糸!」

 

「ってことはリヴァンが?」

 

「いや違う。 俺はここまでこの数の高密度で形成された鋼糸を一度に作れない」

 

「じゃあ、一体誰が……」

 

リヴァンは息を吸うと、大きな声で叫んだ。

 

「そこにいるんだろ! バカ師匠!」

 

「ーー相変わらず減らず口をたたくな」

 

ゲートを挟んだ反対側から人影が飛び出して来て、ゲートの一部の突起に乗った。 そこには、使い込まれた黒いロングコートを着た、ボサボサの黒髪の30代の男性がいた。 両手には白い鉄製の手袋のようなアームドデバイスを使っている。

 

「誰?」

 

「あのデバイスは……、」

 

「フォーレス・トゥインゴ。 ヘインダール教導傭兵団に所属している天剣授受者だ」

 

「そんで、俺の鋼糸の師であり前の保護責任者だ」

 

「ええっ⁉︎」

 

「この人が!」

 

失礼ながら、師はともかく保護責任者だと言うのは……あんまりそんなことをするような人には見えない。

 

「……あんたに会ったら聞きたいことがあったんだ」

 

「なんだ」

 

「なんで俺にその天剣の名、サーヴォレイドを俺に付けたんだ? そんなご大層な名前を付けられる覚えがないんだが」

 

「…………………」

 

「………ソーマさん、そうなんですか?」

 

「うん、天剣サーヴォレイド……前に紹介してもらった時はただの偶然だと思ったんだけど……」

 

「リヴァン、今はそんなことより落し子に……」

 

「なら行け、俺はここでグリードと相手しながらあいつと話す」

 

「ふん……」

 

リヴァンは弓を射て、フォーレスの背後にいたグリードを射抜くと跳躍し、フォーレスとぶつかり鍔迫り合いになってゲートから離れた。

 

「ああもう、勝手に来ておいて……!」

 

「それは後にしろ、早く行くぞ」

 

「は、はい!」

 

フォーレスによって切り開かれた道を通り、俺達はゲートに飛び込んで行った。

 

 



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104話

閃の軌跡IIIの最新情報来たぁ‼︎

思わず興奮してしいまして、来年の秋頃発売の予定らしいですが、今からでも待ちきれない心情です。

さらにスクリーンショットを見たら興奮倍増です‼︎


 

 

落し子に災厄を起こさせないために巨大なゲートを潜り抜けると、そこは機械的な要塞の中のような異界だった。

 

「こ、これって……」

 

「……まるで要塞ね」

 

「どうやら……影属性が強く働いているみたい」

 

「属性の暴走に残された最後の1つですね」

 

「ですが、あれは……」

 

正面を見ると、扉が2つあった。 どうやら二手に分かれているようだ。

 

「二手に分かれているな」

 

「かなりの深度(レベル)の迷宮が引き寄せられたようだね」

 

異界迷宮(ザナドゥ)の性質上、同時に攻略しないと突破は無理だね」

 

「眷属でこのレベル……夕闇ノ使徒の力が計り知れないぜ」

 

「ーーならば二手に分かれるぞ。 A班4名、B4名……上手く戦力を分けろよ」

 

「了解です」

 

A班に、俺、ソフィーさん、ルーテシア、アリシアとソエルとなり。B班にアリサ、すずか、ソーマ、サーシャとアギトという編成になった。

 

決定した所で、ソフィーさんが作戦開始の合図を出そうとする。

 

「ーーこれより、異界迷宮の攻略を開始する。 目標、夕闇の落し子。 ミッドチルダの異変の元凶を何としても討伐する!」

 

『おおおっ‼︎』

 

叫ぶように返答し、俺達は二手に分かれ、片方の扉を開け迷宮に入った。 通路の壁の至る箇所の色が違っている、おそらく影以外の4つ属性が影響しているのだろう。

 

迷宮に入ると武器を取り出し構える。

 

「クラレント、セットアップ」

 

ソフィーさんは赤い宝玉の形をしたデバイスを取り出すと起動し、赤い装飾が施された銀のロングソードを掴み、振り払うとかなりの振動が伝わってくる。

 

「す、凄いです……」

 

「以前にも増して気迫が凄いよ」

 

「さらに腕を上げたみたいですね?」

 

「ふ、私もまだまだ現役ということだ。 さて……時間がない。 B班に遅れないよう、速やかに出発するぞ」

 

「了解です!」

 

「レッツ・ゴー!」

 

「オー!」

 

落し子を討伐するため、異界迷宮の攻略が開始した。 グリードもかなりの実力で、トラップも電撃の檻とかなり凶悪だ。

 

「要塞めいた異界だけあってトラップも多いな……」

 

「ーーあまり不用意には近づくな。 スイッチを探して、無効化しながら進むぞ」

 

卓越した剣技でグリードを倒しながらスイッチを探しだし、トラップを無効化し道を作りながら奥へ進んだ。 中間地点に到着すると、俺とアリシアは少し披露を感じ、ルーテシアは息絶え絶えでガリューにおんぶされていおり、ソフィーさんは全く息を切らさず余裕そうだ。

 

「ふう、ここのグリードは手強いな」

 

「そうだね、全く倒せないわけじゃないけど……」

 

「はあはあ、トラップが……邪魔過ぎです……」

 

(コクン)

 

「大丈夫、ルーテシア?」

 

「ふふ、君は幼いながらも良くやっている。 その調子で、何とか付いて来るといい」

 

「は、はい……!」

 

先ほどのと変化したギミックを攻略しながらグリードとトラップを退け迷宮を駆け抜けた。

 

「そろそろ終点が近そうだ……最後まで気を抜くな!」

 

「ソフィーの方こそね!」

 

それから動く床を作動させ、狭い空間でグリードが何体も現れたが何とか退け、それからすぐに迷宮を抜け、最奥の手前に到着した。 しばらく傷を癒しながら待っていると、もう1つの通路の扉が開き、アリサ達が出てきた。

 

「ーーアリサ!」

 

「あ……!」

 

「皆さん!」

 

アリサ達は俺達に気付くと近寄ってきた。

 

「お互い、無事で良かった」

 

「何とか最奥に辿り着いたみたいだね」

 

「ああ、この先にーー」

 

ドックン‼︎

 

その時、唐突に強い虚空震が起こった。

 

「い、今のは……」

 

「うん、間違いないね」

 

「どうやら……最後のようだね」

 

(コクン)

 

「ふう……ようやく終わりそうです」

 

「気を抜くなよ」

 

「おうよ!」

 

気を引きしめ、ソフィーさんが最初と同じように号令する。

 

「異界対策……いや、チーム・ザナドゥ。 ここまでよく付いてきてくれた。 もう、時間も残されていない。 覚悟を決めたら、さっそく突入する!」

 

「ええ……!」

 

「はい……!」

 

最後の準備を整え……そして最奥の扉の前に立つ。

 

「行くぞ……気を引き締めて行くぞ!」

 

『了解っ‼︎』

 

扉が開き中に入ると……

 

ドックン‼︎

 

また虚空震を感じ、目の前に……紫の波動を放つグリムグリード、夕闇ノ落し子(ブリード・オブ・ダスク)が強い存在を放っていた。 ブリード・オブ・ダスクは咆哮を上げながらさらに強い虚空震を起こした。 その起きる様は、まるで震源が目の前にあると言う感覚に陥ってしまう。

 

「うくっ……⁉︎」

 

「きゃあああっ⁉︎」

 

「こ、虚空震……!」

 

「まさか……攻撃に使うつもりか⁉︎」

 

「とんだ化け物だ……!」

 

「で、でも……引くわけにはいきません!」

 

「ええ、放置すればあれは災厄を起こす……!」

 

「うん……ここで、確実に止めないといけない!」

 

「そんなこと、絶対にさせない……! ミッドチルダを、街を……大切な皆を守るためにも!」

 

刀をブリード・オブ・ダスクに向け、俺は想いを口にする。

 

「ここで、倒させてもらう……当たり前の明日を迎えるために!」

 

「これで終わりにする……ゆくぞ! チーム・ザナドゥ!」

 

『おおっ‼︎』

 

ブリード・オブ・ダスクは咆哮を上げながら腕に刃を展開させて前を薙ぎ払った。 それを散開して避ける中……

 

「とりゃ!」

 

ソーマが剣をブリード・オブ・ダスクに投げ、剣が激突すると同時に転移し、そのまま剣を斬りつけた。

 

「私も、行きます……!」

 

「ガリュー、行くよ!」

 

(コクン)

 

サーシャが輪刀の中心から魔力弾を発射し、ルーテシアはガントレットを操作し始める。

 

《ソニックソー》

 

烈風陣(れっぷうじん)!」

 

《ガトリングブリッツ》

 

「乱れ撃つよ!」

 

《アイススピア》

 

氷槍穿(ひょうそうせん)!」

 

腕や足の踏み潰しや、それにより起きた衝撃を避けながら接近し攻撃を当てるが、その度に硬い外殻に阻まれる。

 

「ッ……固いな」

 

「さっきからダメージが……あんましないようだね」

 

「あの外殻が厄介です……」

 

「でも、壊すことができれば……!」

 

「ーーなら、どデカイの一発かますわよ!」

 

「おう、ド派手に行くぜ!」

 

「「ユニゾン・イン!」」

 

アリサがアギトとユニゾンし、アリサにアギトの髪と目の特徴が現れ、炎と魔力が膨れ上がる。

 

「さあ、行くわよ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

『コントロールは任せろよ!』

 

俺達がブリード・オブ・ダスクを引き付ける中、アリサの魔力が上がって行き、フレイムアイズの刀身の炎がさらに勢いを増す。

 

『行くぜえぇ、避けろよ!』

 

《クリムゾンストライク》

 

「はあああっ!」

 

飛び上がり、フレイムアイズを全力で振るうと……剣がいきなり途中で止まった。まるで目の前の空間を殴りつけたかのように。 さらに、そこから強烈な爆炎と爆風が発生した。 すぐさま離れると爆炎がブリード・オブ・ダスクを襲い、着弾による強い衝撃が飛んできた。

 

「うわっ……⁉︎」

 

「ひゅう、強烈ぅ!」

 

「これなら……」

 

「! いや、まだだ!」

 

その時、巻き上がった煙の中から首が飛び出してきた。 外殻にヒビは入っていたが、ブリード・オブ・ダスクは大口を開けると闇色のブレスを吐いてきた。

 

「させないよ、トライシールド!」

 

「隙間があるって!」

《ディソルダープロテクション》

 

ルーテシアが正面に近代ベルカ式の魔法陣を盾のように展開し、アリシアが左右に開いた隙間を複数のミッド式の魔法陣で防いだ。 その隙にソフィーさんが背後から接近する。

 

「せいっ! クロススラッシュ!」

 

武器に魔力を纏わせ巨大な剣を作り出し、脚を狙って広範囲に左右から斬撃を繰り出した。 だが、全くダメージを感じさせず後ろ足で直立し左右の腕の刃を展開して振るってくる。

 

「どりゃっ!」

 

「ふっ……」

 

サーシャとソーマは刃を受け流して避け……

 

「今が狙い時、行くよガリュー!」

 

(コクン)

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン!」

 

ルーテシアはガントレットを起動させ、ガリューを球に変えると。 既にゲートカードをセットしていたのか、ガリューを掴んで振りかぶる。

 

「爆丸、シュート!」

 

球を投げると、どう言う訳か地面に着かずに球が展開して……

 

「ガリュー……アタック!」

 

ガリューがそのまま出現すると投げられた勢いのまま、ブリード・オブ・ダスクの腹部にボディーブローをいれ、それにより腹部の外殻が砕けた。

 

「ポップアウト、ダークオン・ガリュー!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ダークサーベル!」

 

手に紫色の魔力の剣を出現させ、ブリード・オブ・ダスクに斬りかかり、ぶつかるたびにその巨体の攻防に衝撃が響き渡る。

 

「な、何度みても慣れませんね……」

 

「だろうな、私も慣れん」

 

「あ、あはは……」

 

「ふう……緊張感ないわね」

 

その時、いきなりブリード・オブ・ダスクはその巨体で高く飛び上がった。

 

「あの巨体で飛んだ⁉︎」

 

「あれで落ちたらかなりの衝撃が来るよ!」

 

「させません!」

 

《Ability Card、Set》

 

「フュージョン・アビリティー発動! バオルボウ!」

 

ガリューは魔力剣を振りかぶると上にいるブリード・オブ・ダスクに投げつけた。 だが、体勢は崩せたがあの巨体で落ちることは変わらなかった。

 

「やばっ!」

 

「ルーテシアちゃん、ガリューを!」

 

「は、はい! アビリティー発動、インディブルダッシュ!」

 

衝撃から逃れるために空中に浮び、ガリューは魔力を纏い、ブリード・オブ・ダスクに当たる瞬間に高速で移動して避け……ブリード・オブ・ダスクはそのまま地面に叩きつけられ、衝撃が辺りを襲う。

 

「きゃああ!」

 

「くっ!」

 

「怯むな! 今が好機だ!」

 

「はい!」

 

「行くわよ!」

 

サーシャ達が怯む中、ソフィーさんと俺、アリサ、すずか、アリシアは衝撃をかいくぐり残りの外殻を狙う。

 

「はあっ、ソニックブレード!」

 

風迅蒼破(ふうじんそうは)!」

 

炎砕牙(えんさいが)!」

 

氷楼月(ひょうろうげつ)!」

 

「アサルトサークル!」

 

それぞれが頭部、両手、両脚を狙い攻撃し、全ての外殻を破壊した。

 

「今よ、ルーテシア! デカイの入れなさい!」

 

「はい!」

 

《Ready、Mega Blaster》

 

ガントレットから紫色の光が放射され小さなパーツが出現すると、合わさって1つのバトルギアができた。

 

「バトルギア……セットアップ!」

 

それをガリューに向かって投げると、バトルギアが巨大化し……巨大なブラスター砲が装備された。

 

「レッツ・ゴー! バトルギア・アビリティー発動! メガブラスター・ロック!」

 

砲身に魔力がチャージされ……ブラスター砲から二本の魔力レーザーを発射された。 その威力は絶大で、ブリード・オブ・ダスクは壁まで押しのけられてかなりのダメージを受けた。

 

「よし、このまま一気に……!」

 

「行きます!」

 

ソーマとサーシャがたたみ掛けようとすると、

 

「! 待ちなさい!」

 

「あれは!」

 

ブリード・オブ・ダスクは咆哮を上げながら体表の色を紫色に変化させた。

 

「な、何が起きたんですか⁉︎」

 

「強力な影属性の力……無属性から変化させたの⁉︎」

 

「え、今影属性になったんですか? なら影には影、ダークオン!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ダークオン・ドライバー!」

 

アビリティーが発動し。 ガリューはマフラーに自らの身を包み、きりもみ回転しながらのブリード・オブ・ダスクに突撃した。

 

その時、ブリード・オブ・ダスクは大口を開けると辺りを震わせるような咆哮をした。 するとガリューはあらぬ方向へ進み、壁に激突した。

 

「ガリュー⁉︎」

 

「うわあっ⁉︎ 何も見えない!」

 

「ううっ、今の咆哮のせい……?」

 

「ッ……やられたわ……!」

 

どうやら今の咆哮には視界を奪う効果があるようで、ガリューに加えソーマとサーシャとアリサが視界を奪われていた。

 

さらにブリード・オブ・ダスクは体表の色を黄色に変化させた。

 

「今度は鋼属性⁉︎」

 

「まさに、属性暴走の体現だね」

 

「でも、それは弱点もできたってこと! ソエル!」

 

「了解!」

 

ソエルは口から何かをアリシアに飛ばし、それを受け取る。 アリシアが手に持っているのは……風の神器だ。

 

「両翼一閃!」

 

アリシアは風の神器を纏い、風属性の魔力剣をいくつも飛ばすとブリード・オブ・ダスクは苦しそうに後退する。

 

「まだまだ! 嵐界、霊陣! ラストフレンジー!」

 

背中の霊力を収束させたブレードを開いて僅かに跳び上がり、風属性のレーザー薙ぎ払った。 だが、ブリード・オブ・ダスクはまた属性を変化させ……今度は焔属性に変わり、アリシアの攻撃を軽減させた。

 

「くっ、厄介なことを……!」

 

「なら、次は私の番だよ!」

 

すずかはソエルから神器を受け取り、水の神器を纏う。

 

「蒼穹一閃!」

 

弓から水渦巻く矢を放ち、続けて矢を引き弓を構える。

 

「三星結集! トリニティアロー!」

 

霊属性の矢を3発重ねて放ち、威力を倍々に高める魔法。 そして三本目の矢は、ブリード・オブ・ダスクを貫通すると同時にその場で炸裂した。 そして怯んでいるその隙にアリサ達を回復させる。

 

「五元快方! ディスペルキュア!」

 

「ん……あ、見えます!」

 

「傷も治っている……」

 

(ペコ)

 

「ありがとうね、すずか」

 

「どういたしまして」

 

「ほら、治ったならすぐに動いて!」

 

「は、はい!」

 

その間にブリード・オブ・ダスクはさらに属性を変化させ、今度は風属性に変わった。

 

「さあて、よくもやったわね……」

 

『倍返しだ!』

 

アリサはソエルから火の神器を受け取ると纏った。

 

「焔剣一閃!」

 

燃え盛る大剣で薙ぎ払い、追撃して懐に入り……

 

「建つは血塔!」

 

業炎をまとった巨大剣を振り上げ、ブリード・オブ・ダスクを斬り上げ、続けて魔力を高める。

 

「炎舞繚乱! ブレイズスウォーム!」

 

周りに紙葉を舞わせ、時間差で熱風を巻き起こした。 最初のダメージに加え、かなりの深手を負っているはずだ。

 

だが、その時ブリード・オブ・ダスクは両手を上げると……

 

ドックン‼︎

 

「うっ!」

 

「ぐうっ、虚空震か!」

 

「全員、防御または回避しろ!」

 

「はい!」

 

次の瞬間、ブリード・オブ・ダスクを中心にして巨大な衝撃が襲う。 冗談抜きで震源が目の前にあるような衝撃だ。

 

「皆、大丈夫か⁉︎」

 

「は、はいぃ!」

 

「何とかね」

 

「はあはあ、こんなに強いなんて……」

 

「気張れ、まだ終わっていないぞ……!」

 

コロコロと属性が変化し、また影属性になり、さらに激情したのか魔力の奔流が激しくなる。

 

「うっ、効くか分からないけど……ゲートカード、オープン! コマンドカード、フリーズエネミー!」

 

地面からゲートカードが現れると、ブリード・オブ・ダスクが石になったかのよう動かなくなった。

 

「や、やった!」

 

「いいよ、ルーテシア!」

 

「一気に決めるぞ!」

 

ソフィーさんが一気たたみ掛け、俺はソエルからある神器を取り出す。

 

「はああっ! ジャッチメントドライブ!」

 

急速にロングソードに魔力を込め、高密度の魔力を纏った剣を撃ち下ろした。

 

「はああっ!」

 

俺はソエルから受け取った……闇の神器を纏い、全力で魔法を放つ。

 

「幻影想起! ナイトメアフィアー!」

 

ブリード・オブ・ダスクの影から槍が飛び出し、抵抗なく身体を貫く。 そして飛び上がって頭上を取り、大鎌が闇を纏いさらに巨大で黒く、大刃と小刃が左右にある鎌となり……

 

「我が鎌は漆黒、黒き常闇に判決せよ! ルナシェイド!」

 

小刃で軌跡を残しながら何度も斬り裂き、大刃をブリード・オブ・ダスクに当て……一気に魔力を解放し、螺旋を描きながら刈り取った。

 

その攻撃に耐えられず。 ブリード・オブ・ダスクは咆哮を上げると、胸を抑えて苦しみ出し。 胸から光が漏れ出すと断末魔を上げながら消えていった。 それと同時に……迷宮も光出し、異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界に戻ると、周りは騎士団とヘインダールの団員が息を上げながら休んでいた。 辺りにはグリードの気配もなく、何とか退けられたようだ。

 

「ふう、どうやら異界化は無事に収まったみたいだな」

 

「そのようだな」

 

「団長!」

 

「落し子を仕留めたようだな」

 

騎士団の1人とオルデンの白装束が近寄って来て、ソフィーさんに状況を報告する。 ゲートが開いていた場所を見ると……焦げた何かの破片が散らばっていた。

 

「あの破片は……」

 

「落し子を封じ込めていた依り代みたいね」

 

「ん〜……異界反応もなし、完全に消滅しているね」

 

「ほっ……そうですか」

 

(コクン)

 

「良かった……本当に」

 

「やっと肩の力が抜けるね」

 

「ーーよお、お疲れさん」

 

「ご苦労だったさぁ」

 

そこへラーグとカリブラが近寄って来た。 カリブラは肩に刀担いでいて、深緑のコートは泥で汚れていた。

 

「そっちもお疲れ、無事みたいだね」

 

「ああ、それなりに大変だったが……お前達ほどじゃあ、なかったからな」

 

「こっちはいい訓練になった、こんな大量のグリードを相手にする機会なんて滅多にないからな」

 

「む……」

 

「いいさ、それがヘインダールなのだから」

 

すずかがさすがに不謹慎だと思ったのか注意しようとした時、ソフィーさんが来てそれを制した。

 

「感謝する、お前達」

 

「ソフィーさん……?」

 

「お前達のおかげで何とかこれだけの被害で済んだ。 そして……改めて謝罪させてくれ、お前達を盾にし隠れ蓑にしたことを」

 

「いえ、ソフィーさん達にも事情はありますし」

 

「むしろ私達が異常なだけで、これが本来の形なんだよ」

 

「そうね、異界は表に出るべき物じゃないわ」

 

「そうか……だがせめて何人か出向扱いで異界対策課に送ろう。 お前達のためなら皆も喜んで力を貸してくれるだろう」

 

「あ、ありがとうございますです! デスクワークも私1人じゃ苦しくて苦しくて……!」

 

「あ、あはは……」

 

サーシャを酷使しすぎた記憶があり、さすがに申し訳なくなる。

 

「これで、ミッドチルダに潜んでいた元凶は消え去った……」

 

「今後は異界化も落ち着きはずだね」

 

「ふう、仕事が少なくなるね。 その代わりに依頼が増えそうだけど」

 

「はは、あり得ますね」

 

「でも、ようやくひと段落ですね!」

 

(コクン)

 

「あたしとしては、物足りない気もするけどな」

 

「あんたはこれを機にもっと落ち着きなさい」

 

「せっかくだして、どっかで打ち上げでもしようぜ」

 

「賛成〜! なのは達も一緒に呼んじゃおうよ♪」

 

「そうだな、それもいいかもしれないな」

 

あの緊張した空気からようやく解放され、賑やかになってしまった。

 

「そういえば、リヴァンは?」

 

「リヴァンならあそこさぁ」

 

カリブラの指差す方向にリヴァンとフォーレスと言う男性がいた。 リヴァンは肩で息をあげて膝をついており、フォーレスは余裕でタバコを吸っていた。

 

「あいつらはグリードを相手にしながら戦っていたさぁ。 まあ、邪魔にはならなかったし、グリードも倒してくれてたから止めはなかったさぁ」

 

「そう……」

 

「リヴァン君、大丈夫かな?」

 

「完敗でしたのでしょうか?」

 

「いや、それなり喰らい付いていたさぁ。 リヴァンは弓で鋼糸を飛ばす分、フォーレスの旦那より速いからな。 だが、旦那が一度に操れる鋼糸の数は約億単位、万単位のリヴァンじゃあ少し部が悪い。 まさしく桁が違うのさぁ」

 

フォーレスは煙をはくと、膝をついているリヴァンを見る。

 

「……反射速度、空間把握能力、戦術の組み方、鋼糸のキレ、瞬発力や耐久力を含めた身体能力、剄量……どれも以前よりも増して上がっているな。 俺の推測だともう少し下と読んでいたが」

 

「くっ…何が言いたい……!」

 

「天剣相手にただのデバイスでここまで戦えたことを褒めてるんだよ」

 

タバコを捨てて足で火を消すと、天剣を待機状態に戻し……リヴァンに放り投げた。

 

「なっ⁉︎」

 

「そいつはやる、後は勝手にしろ」

 

「一体何のつもりだ!」

 

「さてな」

 

フォーレスはリヴァンに背を向け歩き出し……忽然と姿を消した。

 

「…………………」

 

リヴァンは呆然と手にある天剣を見つめていた。

 

「おいおい、旦那は何考えてんのさぁ。 完全に戦力ダウンさぁ……」

 

「ふ、奴の考えていることなど分からんさ」

 

「……しょうがないさぁ。 さあて、これで依頼は完了だ。 俺っち達はこれで退散させてもらうさぁ」

 

「ああ」

 

カリブラは他の団員を連れて、自分達の次元船に乗り込みこの場を後にした。 次元船が去るのを見送ると、白装束がソフィーさんの方を向いた。

 

「さて、私もこれで失礼する」

 

「そちらもご苦労だった、ミッドチルダの危機を伝えてくれて感謝する」

 

「構わない、こちらも災厄の1つを消せればそれでいい」

 

白装束は特に気にもせず首を横に振るう。 だが、今聞き捨てならない事があった。

 

「待ってくれ、災厄の1つとはどう言う事だ」

 

「まさか、まだ元凶がいるの!」

 

「……確かに元凶はまだ存在すしてしる、夕闇ノ使徒の眷属は2体、ここにはいないがな」

 

「それは一体どこで……」

 

「それを教えることはできない、仮に知ったとしてもお前達ではどうしようもできない」

 

白装束は手をかざして魔法陣を展開し、転移しようとした。

 

「ちょ、ちょっと! まだ話は終わってーー」

 

「今回の連続して起きた虚空震の影響で時空間が歪み、次元間航路が不可能になっている。 道しるべを付けていなければ次元転送は無理だろう」

 

「ぐっ……」

 

「では……機会があれば、また会おう」

 

そう言うと、白装束はどこかの次元世界に転移していった。

 

「………………」

 

「……なんか釈然としない」

 

「でも実際、他の次元世界に落し子がいるなら……私達にはどうする事もできない」

 

「そう言う事だ、お前達は自分の役目を果たした。 今はそれだけでいい」

 

「はい……」

 

「で、では! 予定通りこのまま打ち上げに行きましょうよ!」

 

「そ、そうだよ! あんなグリードを倒したんですからここはパーっと行きましょうよ!」

 

サーシャとルーテシアが場の空気を変えようと、明るくはしゃぎ気味でそう言う。

 

「…………はは、そうだな。 出来ないことを悔いても仕方ないか」

 

「今は、危機を退けたことを……素直に喜びましょう」

 

「うん、そうだね」

 

「それじゃあ、行ってみようか!」

 

俺達はソフィーさん達のご厚意に甘えさせていただき、後始末を任せて他の団員に飛行艇で送ってもらい第二演習場を後にした。

 

それからなのは達を呼び、ルキュウの喫茶店で打ち上げをした。 なのは達は力になれなかったことを悔いていたが、俺達はぜんぜん気にせずに楽しくやった。 そんな打ち上げはドマーニ教頭が注意するまで夜遅くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月上旬ーー

 

ようやく次元空間が安定し、念の為にクロノ達次元船行部隊の協力の元、もう一体の落し子の存在を確認するため管理世界、管理外世界関わらず人が暮らしている次元世界を調査した。 だがどこも特に変化はなく、特にグリードの存在や聖霊教会が確認されている地球は念入りに調べたが……海鳴に滞在していたエイミーさんや隠居しているギル・グレアムさんに聞いてみても有力な情報は得られず、捜査は打ち切られた。ただの杞憂だったのか、それともこちらと同じく極秘裏で処理されたのかは定かではないが……なにやら不吉な予感がする。

 

まだ、何も終わってないという感じが……胸の中で渦巻いていた。

 

 

 



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105話

今年最初の投稿です。 どうか今後ともによろしくお願いします。


 

10月29日ーー

 

あれから瞬く間に時は過ぎて行き、異界化は全く起きていないとはいえないが以前よりは落ち着いており、ここ3ヶ月は充実した学院生活を送れていた。 ソフィーさんの言う通り、何人か異界対策課に派遣されたため、俺達の仕事の量は軽減されたのは1番有り難かった。 そしてまた訪れたこの時期、レルム魔導学院は第114回学院祭が始まろうとしており……俺達は1年のVII組をフォローしつつ自分達の出し物もやるため去年よりましてハードになっている。 それでも俺達は先輩や教官の力も借りて、今年も最高の学院祭にしようと準備を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、皆お疲れ様!」

 

「クク、まあ何とか形になって何よりだぜ」

 

「ふう……とんでもない1ヶ月だったけど」

 

教室のブラックボードの前には俺とツァリそして……クー先輩がいて、今年の出し物の完成の労いを込めた感想を述べていた。

 

「ええ……まさかここまで大変とは思わなかったわ」

 

「ツァリって意外とスパルタだったのが驚いたけど」

 

「あはは、はんま別人やったんよ」

 

「ご、ごめん。 良いものにしなきゃって思ったらつい……」

 

「はは、気にするなって」

 

今年のVII組の出し物は1年と合同の劇となっており、劇の題名は“銀の意志、金の翼”……作品の舞台は西ゼムリア大陸南西部に位置する小国、リベール王国。 色々と簡略化されているし、最初は主人公の少女が兄弟同然に育った少年と別れる場面から始まるが……問題があるとすれば、この作中にはキスシーンがあるわけで……まあ、そこはどうにか捏造しているが、それでも中々の出来だと思っている。

 

それと……なぜクー先輩がここに居るのかと言うと、それは8月までに遡る。 どうやら2年時の単位をサボって幾つか落としたらしく。 卒業できないとテオ教官に泣きついた所、特例で3ヶ月ほどVII組に参加する事になった。 はっきり言ってどうしようもない理由だが、1年時に特別実習の試験導入に参加した実績もあるため手本として許可されたらしい。 今更そんなの必要ないとも思うが、クー先輩の実力は知っても居るわけで、あのマイペースなムードメーカーであっという間にクラスに馴染んでしまったわけだ。 劇に関してもとてもお世話になっている。

 

「それじぁあ、今日は予定通りに動こうとしよう」

 

「夕方に衣装や各自の分担の点検、舞台投影の空間シュミレーターの検査や軽いリハーサルがあるからな」

 

「それまでは学院祭の出し物や飾り付けなんかの手伝いをしようね」

 

「そうだね、明日は1日、リハーサルになりそうだし」

 

「それではまた後ほど」

 

皆が教室を出て行く中、俺とクー先輩とアリシアが残っていた。

 

「さてと、俺も生徒会の手伝いに行くか」

 

「おめえも物好きだよなぁ、もっと楽〜に生きられないのかねぇ?」

 

「クーさんは軽過ぎなんだよ、最初の出し物の提案だって無理あるよ」

 

「その方が面白いじゃんか、異界の材料を使った喫茶店なんか!」

 

異界にある素材にはたまに食べられる物もある。 ミードという甘くて複雑な香りを放つ蜂蜜や、サンエッグという太陽の恵みが凝縮された卵などがあり……これで菓子を作ってみたらそれはもう絶品になってしまったが、いかに美味かろうが異界の物を食べることには抵抗が出る。

 

「無茶言わないでくれよ、確かに美味いには美味いが無理あるって」

 

「ゲテ物じゃないけど、やっぱり無理だね」

 

「ちぇ、まあいいけどよ」

 

それから俺はフィアット会長から依頼をもらい、ほとんどいつもと同じ感じで依頼をこなした。

 

(あれから3ヶ月か……)

 

休憩がてらベンチに座って空を見上げて思いふける。 今でも十分忙しいが、それでもあの慌ただしさがずっと昔に感じてしまう。 もしくはこれが本来の形なのかもしれない。 市民の依頼を受けたり管理局の仕事をしたりするのが……

 

「ふう……」

 

「ーーなに溜息ついてんのよ」

 

「うわっ⁉︎」

 

横からアリサの顔がニュッと出てきて、驚きで思わず声を上げてしまう。

 

「そ、そこまで驚くことないんじゃないの?」

 

「ご、ごめん。 急に出てくるもんだから」

 

「アンタが気配が読めるのに油断してたのが悪いのよ」

 

ぐっ……そう言われるとなにも言い返せない。

 

「それで、会長の手伝いは終わったのかしら?」

 

「あ、ああ……後1つだけだ」

 

「なら私も手伝うわよ。 そろそろ集まる時間だし、遅刻されても困るわ」

 

「ありがとう、正直助かる」

 

手伝いをアリサと一緒に終わらせ、それから第2ドームに向かった。 第1ドームはI組が使用しているため、俺達VII組は去年と同じように第2ドームを使用している。 そして軽いリハーサルをしたのだが……ツァリのスパルタが発動してしまい、結局夜遅くまでやることになってしまった。

 

翌日、10月30日ーー

 

準備期間2日目の今日は、予定通り劇のリハーサルで潰れた。 通しの劇を何度も行い、ツァリが納得のいく出来になったのは日が落ちた頃だった。

 

「……結局今年もこうなったね」

 

「全く、ツァリがここまで伸ばすからだぞ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「でも、納得のいく出来になったね」

 

「ええ、これならまた一位を取れそうね?」

 

「どうかな? I組や他のクラスも本気みたいだったし」

 

「私としては、学院祭自体が成功すれば別にええんやけどなぁ」

 

「……皆さん、元気ですね……」

 

1年は喋る体力がないのか、先ほどから静かだ。 正門でフィアット会長とグロリア先輩、そしてエテルナ先輩と鉢合わせし。 少し雑談した後、クー先輩と別れた。 気力が少し戻った1年と皆がわいわいと雑談しながら寮へと帰って行く。 そんな光景を見て、俺はふと思ってしまう。

 

(こうして皆と過ごすのも久しぶりだな。 考えたら、学院生活ももう半分過ぎているんだっけか。 こんな機会が、あと何回あるんだろうな……)

 

「……ま、一生の別れになるわけでもないし。 いつでも会えるか」

 

「どないしたんなや、レンヤ君?」

 

呟きが聞こえたのか、足を止めてなのはとフェイトとはやてが近寄って来た。

 

「ん? ああ、こんな楽しい行事が後2回だけだと思うとな……」

 

「にゃはは、そうだね。 ちょっと勿体無いかもしれないね」

 

「うん……でも、大丈夫だよ。 卒業したら、今度は私達がレルムに来ればいいんだから」

 

「そうだな、そんな簡単なこと……考えるまでもなかったな。 さて、明日も早いしはやめにーー」

 

チリィーーン……

 

唐突に、鈴の音が響いてきた。

 

「え……」

 

「今のは?」

 

「鈴の音……?」

 

どこか、レムが現れる時に鳴る音に似ているが……あれは鈴の音に近く、今のはどちらかと言うと風鈴に近い音だ。

 

その時、背後から異質な気配を感じた。 急いで振り返ると……そこには黒い狐面をつけた男の子がいた。

 

「お前は⁉︎」

 

「あの子は杜宮であった……!」

 

「なんでこないな場所に⁉︎」

 

「ーーお兄さん達、僕の世界ニ招待するよ。 おいで……オイデ」

 

ビキン‼︎

 

子どもの背後の空間がヒビ割れ広がっていき、ひし形の異質なゲートが顕現した。 子どもはそのままゲートに飛び込んで行った。

 

「くっ、こんな場所で……!」

 

「とにかく、今は安全を確保しないと。 アリサちゃん達を呼んでくる!」

 

「そうやな、すぐに収束させなあかん。 もしかしたら明日の学院祭にまで影響がおきかねんよ!」

 

「うん! 急いでーー」

 

なのはとフェイトがアリサ達を呼びに行こうとした時……ゲートの表面が揺らいだと思うと……突然手の形をした物体が飛び出してきた。

 

「なっ⁉︎」

 

「何……⁉︎」

 

「え……きゃあ!」

 

「な、なんなんや⁉︎」

 

「ーーレンヤァ……!」

 

突然の出来事に対処できず手に捕まり、俺達はそのままゲートに引き摺り込まれてしまった。 最後に見えたのはこちらに走って来るアリシア達の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ……………」

 

混濁した意識の中、硬く冷たい地面の感触で目が覚める。

 

「………ここは……? 俺は、一体……」

 

意識が覚醒し、思考が働き始め……自分がどうなったのか思い出し飛び上がった。

 

「ッ……皆!」

 

辺りを見渡すと、どこかの施設……と言うより軍が所有しているような場所だった。 ふと足元を見ると、なのは達が眠っていた。 寝息も安定しており怪我もない、どうやら無事のようだ。

 

「レゾナンスアーク、現在位置の特定はできるか」

 

《この空間は異界と酷使している為、特定不能です》

 

「そうか……」

 

ここが異界だとしても、随分と現実味のある異界だ。 まるで本来ある世界や街を模したような……

 

「うっ……ん……」

 

「……ここは?」

 

「私は……一体……」

 

その時、なのは達が目を覚ました。 状況が飲み込めず、辺りを見渡している。

 

「皆、大丈夫か?」

 

「レン君? ……そうだ、私達は……!」

 

「あの子はどこ⁉︎」

 

「落ち着け、今は冷静になれ」

 

「それに、ここは一体どこなんやろ?」

 

「場所は特定できないが、人がいるのは確かだ」

 

なのは達に手を貸して立ち上がらせ、それぞれ場所の特定や連絡が取れるか確認してみる。

 

「……ダメ、どこにも繋がらないよ」

 

「こっちもや、連絡がつかへん」

 

「それにしても……この異常自体、もしかして」

 

「ーー異界化(イクリプス)……しかも高ランクのグリムグリードが起こしている可能性が高いな」

 

「そんな……どうしていきなり」

 

「前兆はあった、俺達が初めて杜宮に来た時から……」

 

「ちゅうことはそんな前から異変が起きていたわけやな」

 

「だとしても、鍵を握っているのはあの狐面の男の子だね」

 

「先ずはサーチャーで辺りを確認しよう、街があれば誰かと会えるはず」

 

フェイトがサーチャーを飛ばすと、すぐに何かを見つけた。

 

「あ、すぐ近くに同い年くらいの少女がいるよ!」

 

「行ってみよう、何か分かるかもしれない」

 

「うん!」

 

「了解や」

 

その2人がいる場所まで歩いていくと……突然大きな音が聞こえてきた。

 

「なになに、何なの⁉︎」

 

「大変……さっきの2人が大きな人型の機械に襲われている!」

 

「なんやて!」

 

「急ぐぞ!」

 

急いで彼女達のいる場所まで走り、開けた場所に出ると……レイピアを持った少女が人型の機械と戦っていた。 もう1人の少女は後方に障壁に守られていた。

 

「あれは、落し子を依り代にした時に使っていた機械人形!」

 

「それって、3ヶ月前に顕れたっていうグリムグリードの……!」

 

「まさかそいつの仕業なんか⁉︎」

 

レイピアを持っている少女をよく見ると、身体中に金色の刺青のようなものが浮かび上がいて、かなりの魔力が発せられている。 おそらくあの刺青は何らかの術式かなにかで、魔力を貯蔵のために使用しているのだろう。 それと機械人形からも薄いモヤが発生しており、人の気配はせず妙な気配を感じる。

 

「氷迅の剣ーーアイシクル・ノヴァ‼︎」

 

お互いが突撃し、通過し合うと機械人形に氷の花が咲き、砕け散ると膝をついた。 だが少女にもダメージがあり膝をついた、そこへ障壁が維持できずに消え、もう1人の少女が近寄った。

 

「ふう、よかったの……」

 

「それにしても、なんや今のは……」

 

「あのレイピア……デバイスじゃないね」

 

「もしかすると、ここの異界関連の組織のーー」

 

その時、機械人形の4つの目が光ると……立ち上がり、2人の方を向いた。

 

「まずい!」

 

「ーーアスカ、シオリ‼︎」

 

今度は少年の声が聞こえてきた、その方向を見ると数人の男女が今ここに来たようだ。 短髪の少女がレイピアを持った少女に肩を貸して逃げようとするが……機械人形が前に来て剣を振り上げようとしていた。

 

「レンヤ君!」

 

「ああ、助かるぞ!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

バリアジャケットを纏う時間も惜しく。 デバイスだけを起動し、武器を構えると急いで機械人形に接近した。 フェイトとはやてが魔力弾を発射して剣を振り下ろさせず、その隙になのはと前に出る。

 

「やあああっ‼︎」

 

「はあああっ‼︎」

 

なのははレイジングハートをロッドモードにし、同時に機械人形の足に強烈な一撃を入れ。 さらにフェイトがバルディッシュをザンバーフォームに変え、はやてはシュベルトクロイツの先端に魔力を込める。

 

《ジェットザンバー》

 

「奔れ、銀の流星!」

 

フェイトは飛び上がって大剣は振りかぶり、はやては杖の先端から白い魔力刃を伸ばし……

 

「貫け、雷神!」

 

「アガートラム!」

 

吹き飛ばすように斬り裂き、その衝撃で機械人形は倒れ、完全に沈黙した。

 

「ふう……」

 

「なんとかなったね」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「えっと……?」

 

「あなた達は……」

 

2人が困惑する中、俺は怪我をしているも少女に軽く治癒魔法をかけて負担を軽くした。

 

「あ……痛みが……」

 

「こちらもあんまり状況が飲み込めていないんだ。 できれば情報交換お願いできるか?」

 

「……ごめんなさい、私もまだ何も……」

 

「そうですか……」

 

「ーーアスカ、シオリ!」

 

先ほどの人達がこちらに向かって走ってきた。 よく見るとほとんどがどこかの学生服を着ている。

 

(いや、あの制服は確か……)

 

「あの人達、誰でしょうか?」

 

「紅い制服……どこかの学生みてえだな」

 

「10式を倒している時点で一般人じゃなさそうだけど」

 

「彼は……」

 

「あれ? あの子達ってまえにどこかで会ったようなーー」

 

チリィ……ン……

 

その時、あの風鈴の音が聞こえてきた。 機械人形の隣に紫色のモヤが発生すると……あの狐面の男の子が現れた。

 

「ぼクのオモチャ、壊さレちゃッタ………クスクス、カナシイ……」

 

まるで悲しそうには見えないが、男の子は2人の方を向いた。

 

「かワリに、もっと遊んデヨ。 お姉ちゃんーーシオリ」

 

「……ぇ……」

 

「ーーいけない!」

 

ビシ! バキ、ビキバキ……スー……

 

突如、空間にヒビが走り。 広がって行くと……更に異質なゲートが顕れた。 まるで今までのがエルダーグリード級だとすれば、これはグリムグリード級のような……

 

「くっ、コイツは……‼︎ アスカ、シオリィッ‼︎」

 

「コウちゃん‼︎」

 

「時坂君っ……‼︎」

 

パーカーを着た少年が叫び、慌てて近寄るが……異界は俺達も巻き込んみこみ、取り込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まり、目を開けるとそこは異界迷宮の中だった。 壁には紫色の模様があり、人体の骨のような柱が立っている。 通路を進むタイプの迷宮のようで、周りには異様な沼が広がっていた。 奥は複雑に絡み合っていて霧がかっており、まるで迷夢の境界のようだ。

 

「ッ……異界に取り込まれたか」

 

「あれ? 他の人達は?」

 

「……どうやら逸れてしもうたみたいやな」

 

「もしかしたら、奥にいるのかもしれないよ」

 

「なら、前に進むだけだ」

 

改めてバリアジャケットを纏い、刀を握り締める。

 

「皆、改めて力を貸してくれるか?」

 

「もちろん!」

 

「3ヶ月前の休みの分、きっちり働かせてもらうで!」

 

「うん……行こう、皆!」

 

最速で走り出し、迷宮の探索が開始された。

 

「……この異界、杜宮で見た異界と酷似しているな」

 

「うん、確かに似ているね」

 

「こんなトラップだらけやあらへんかったで!」

 

「脅威度は以前にも増している、気を付けて進もう」

 

なのは達と力を合わせ、想像以上に複雑で長大な迷宮を攻略し……最奥に辿り着いた。 その時、正面の空間にヒビが走り、赤い渦が巻き始めると……バッタの足のような形をしたハーピィ型のグリードが顕れた。

 

「顕れたね!」

 

「さしずめ、迷夢の番人やな」

 

「他の人は居ないみたいだけど……」

 

「カフカス=ケライノー……とにかく、今はこいつを倒すだけだ!」

 

カフカス=ケライノーは紫色に光ると飛び上がり、突進して来た。

 

《アクセルスマッシュ》

 

「はあっ!」

 

なのはは突進を避けると頭に向かって強烈な打撃を入れた。 その間にフェイトがスフィアを展開し、狙いを定める。

 

《プラズマランサー》

 

「ファイア!」

 

スフィアから槍の形状をした魔力弾が放たれ、カフカス=ケライノーの翼を射抜いた。 今度はその場で何度か羽ばき始め、竜巻が放たれた。 軽く避けようとするが、竜巻は曲がり追尾してきた。

 

「追尾型や!」

 

「くっ、流纏(ながれまと)い!」

 

刀を逆手に持ち、回転して竜巻を受け流した。

 

「今や、クラウソラス!」

 

白銀の剣状の魔力弾を発射したはやては、そのまま杖を構えて接近する。

 

「銀の隕石……アガートラム!」

 

魔力弾で弾幕を作って懐に入り、杖に魔力を纏ってカフカス=ケライノーの腹に打撃を入れて吹き飛ばした。

 

「これで……終わりだ!」

 

背後に先回りし、刀の先端から螺旋状に魔力を放射し……

 

《ゲイルスパイラル》

 

「せい!」

 

そのまま刀を突き出し、カフカス=ケライノーを貫いた。 カフカス=ケライノーは咆哮を上げると光り出し、そのままきえていった

 

「ふう、倒せたか」

 

「やったね」

 

武器をしまい、呼吸を整える。 だが、いつになっても異界は収束しなかった。

 

「おかしい……いつもならとっくに現実世界に戻れているはずだけど……」

 

「通常では考えられへん事態になっとんのは、確かのようやな」

 

「……仕方ない、来た道を引き返すしかーー」

 

ビキ‼︎

 

踵を返そうとした瞬間、聞き慣れた音が響くと奥の空間にヒビが走り……ひし形のゲートが顕れた。

 

「ま、またゲート⁉︎」

 

「……誘っているね」

 

「ああ、だが乗るしかないようだ」

 

「腹ぁくくるしかあらへんようやな」

 

俺達は顔を見合わせ、頷くと……目の前のゲートに飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし、出たなぁーーって、うわわっ⁉︎」

 

「はやて!」

 

足を踏み外して落ちそうになったはやての手を掴み引き戻した。

 

「はあはあ……い、いきなりなんなんや?」

 

「これは……」

 

「すごい……!」

 

異界の中は歪んだ空の上のような迷宮……周りにはこのゲートの他に同種のゲートがいくつもあった。

 

「こんなにあのゲートが……」

 

「なるほど、そう言うことか」

 

「レンヤ、何か分かったの?」

 

「さっきの迷宮とこの迷宮の雰囲気は似ている、そして他のゲートの先に同種迷宮が存在しているとすれば……これら全てを合わせて一つ巨大な迷宮だった……そう考えれば納得がいく」

 

「そんなこと、ありえるんか?」

 

「分からない……だが、現に起きてしまっている」

 

「私達の想像を超えた事態になっているわけだね……」

 

その時、下の通路にあるまた異質なゲートからあの時の集団が出て来た。

 

「あ、無事だったんだね」

 

「私達も行こう」

 

「そやな、いい加減状況も聞きたいんよ」

 

ちょうど彼らも俺達に気付いたようだし……飛行魔法で飛び、彼らの前に降り立つ。

 

「な、なああああっ⁉︎」

 

「い、今飛びましたか⁉︎」

 

「それは後にして、そちらも無事のようですね」

 

「ああ、なんとかな」

 

「えっと……あなた達は一体……?」

 

「うーん、それなら……そこの白装束の彼が知っているはずなんだが」

 

俺はフードが外された白装束の人物を見る。

 

「初めて会った時、なのはみたいに仕事一筋みたいな感じだったんだけど……随分と顔に似合わないことをしていたんだな」

 

「……自覚はしているさ」

 

「おいジュン、知り合いなのか?」

 

「て言うかレン君! 私が仕事一筋ってどう言うこと⁉︎」

 

「フェイト同様に休みをあんまり取らないから、結構管理局で噂されたんぞ」

 

「う、嘘……」

 

驚愕する2人を置いといて、俺は長い銀髪の少女を見る。

 

「お久しぶりですね、ミツキさん。 こんな形で再開したくありませんでしたけど」

 

「ええ……本当に、そう思います」

 

「なんだ、知っていたのか?」

 

「以前、一度アクロスタワーでお会いしたのです。 その瞳に映る色は全く違いますけど」

 

「え、どう言うこと?」

 

「あはは……」

 

愛想笑いをして、目を閉じて聖王の力を少し解放してゆっくりと開ける。

 

「騙すつもりはなかったんですけどね」

 

「! 瞳に色が……!」

 

「紅玉と翡翠のオッドアイ……⁉︎」

 

「コホン、話が脱線したな。 俺は神崎 蓮也だ」

 

「私は八神 はやてや、以後よろしゅうな」

 

「うう……私は高町 なのはです、よろしくお願いします」

 

「フェイト・テスタロッサ、どうかよろしく」

 

「あ、ああ……俺は時坂 洸だ」

 

「柊 明日香よ」

 

「わ、私は郁島 空です!」

 

「四宮 祐樹、まあよろしく」

 

「高幡 志雄だ、よろしく頼む」

 

「改めてまして、北都 美月です。 どうかよろしくお願いします」

 

「皆のアイドル、SPiKAの久我山 璃音よ!」

 

「あはは……私は倉敷 栞です」

 

「俺は伊吹 遼太だ!」

 

「僕は小日向 純、あの時は済まなかったね」

 

「九重 永遠です。 講師をしています、よろしくね」

 

「佐伯 吾郎だ。 なるほど、あの機動殻(ヴァリアント・ギア)の送り先か」

 

自己紹介をして、改めてこの事態の詳細を聞いた。

 

「……なるほど、そっちも完全には把握してなのか」

 

「ああ、元凶があの子供だっての分かんだが……それ以外はなんも」

 

「結局、先に進まないと真実は見えないわけか」

 

「あなた達は、どうやってこの杜宮へ?」

 

「え、ここ杜宮だったの⁉︎」

 

「おいおい、そんなことも知らなかったのかよ」

 

「私達は帰る途中にあの狐面の男の子に無理やりゲートに引きずり込まれて、それで気付いたらアスカとシオリのいた場所に出たの」

 

「そうですか……」

 

「ま、結局この迷宮の奥に行かなぁあんのやな」

 

「……異界や怪異の事を知っているようだか、お前達は柊や北都とと似たような組織に属しているのか?」

 

「まあ、似たような感じかな。 彼らは時空管理局……細かい説明は省くけど、次元世界を行き来する力を持った組織だ」

 

「簡単に言えば公務員だな。 て言うか次元世界の行き来ってオルデンの騎士殿もできるだろう」

 

「僕のは道しるべを起点とした転送だから、そこまで自由に他の次元世界にはいけないからね」

 

「な、なんだかスケールがさらにデカくなったような……」

 

「これ以上は時間が取れない、後の話はこの事態を収束してからでも遅くはないだろう」

 

「そうですね」

 

俺達は迷宮の方を向き、コウ達は虚空からそれぞれ不思議な武器を取り出し。 俺達はデバイスを機動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「ジュンと似たようなもんか」

 

「全然違うけど、俺達のことは魔導師とでも思ってくれ」

 

「魔導師ですって……⁉︎ 私の知る魔導師と似てはいるけど……」

 

「そこの詮索も後だ、行くぞ!」

 

「さあーー始めるとしようぜ!」

 

『おおおおっ‼︎』

 

コウ達と協力し、俺達4人は迷宮の探索を開始した。



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106話

 

 

杜宮最大の異変を収束するため、俺達4人は現地で出会った協力者と共に迷宮を探索していた。

 

《ソニックソー》

 

「せいやっ!」

 

《ハーケンスラッシュ》

 

「やあっ!」

 

《アクセルシューター》

 

「弾幕……放射!」

 

「行くでぇ……ブラッディダガー!」

 

機動力のある俺達が先導し、背後はコウ達が対処する布陣で進んでいた。

 

「……なんて奴らだ、こんだけ強えグリードを全く寄せつけねぇなんて……」

 

「ここはパンドラ以上の迷宮よ……それに、一人一人のこの魔力量は……」

 

「やれやれ、大人の立場がないな」

 

「彼、3ヶ月前とは比べ物にならないくらい強くなっている。 レルム魔導学院か……一体どんな授業を受けているんだ?」

 

うーん、確かに1年よりましてテオ教官やモコ教官の訓練は厳しく、激しさを増しているが……どうもグリードと比べてしまうとグリードが見劣りするのは、気のせいだろうか? ともかく迷宮を進み、一旦転移して中間地点に差し掛かる。

 

「はあはあ……大分進んで来たみてえだな……!」

 

「さ、さすがに、かなり手強いですね……!」

 

「チッ……どいつもこいつも手応えがありやがる」

 

「ああ、おそらくほとんどの怪異が脅威度Aランクに相当するだろう」

 

「今まででも最高レベルの難易度みたいだね……」

 

「疲れたんなら、私達に任せてもええんよ?」

 

「へっ、冗談キツイぜはやてちゃん。 こんなんでへばるかっての……!」

 

「ていうか君達疲れなさ過ぎじゃないの……⁉︎」

 

(やはり、私の知る魔導師とは……それに一人一人のこの魔力は……)

 

「ぅうぅ……!」

 

突然シオリが苦しみ出し、胸を抑えて座り込んだ。

 

「シ、シオリちゃんっ⁉︎」

 

「シオリ、大丈夫か⁉︎」

 

コウがシオリの元に駆け寄った。 シオリの顔色はさっきよりも悪くなっているようだ。

 

「……うん、平気……だよ。 それより……大分近付いているみたい……」

 

「……そうか」

 

「やっぱり何かしらの影響を受けているみたいですね……」

 

「ええ、それも奥に進むにつれて強く……」

 

「さっきよりも顔色が悪い……あんまり無理をしないで休んだ方がいいよ」

 

「……ありがとう、テスタロッサさん。 でも気にしないで。 皆は、先に進むことだけを……」

 

シオリは健気にもそういい、痛みに耐える。

 

「………無理だけはしないでね」

 

「シオリちゃんが頑張っている……私達も弱音は言ってられないね」

 

「ああ……」

 

「行くぞ……先は長いが、このまま一気に突破するぞ!」

 

「ええ……! 油断せず進みましょう!」

 

探索を再開し、迫り来るグリードを協力して退けながら、俺達は奥へ進んだ。 その途中で消える足場を登っていた。

 

「どわっ⁉︎」

 

「リョウタ!」

 

「危ない!」

 

リョウタが足を踏み外し、落下しかけたところをなのはが飛行魔法を使用して助けた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ……てか、やっぱ飛べるんだ……」

 

「? うん、飛べるよ?」

 

「ひ、非科学過ぎる……」

 

「これも一応、れっきとした科学なんやけどなぁ」

 

「それは後でいいから、早く上がり切るぞ」

 

飛べないコウ達に手を貸しながら登り切り、最後の道程を気を抜かずに進んだ。 そして最奥の手前まで差し掛かると……

 

チリィ……ン……

 

『ハヤクオイデヨ……オニイチャンタチ』

 

「あ……」

 

「……ああ、お望み通りすぐに辿り着いてやるさ……!」

 

だが、その前に行く手を何体ものグリードが塞いだ。

 

「邪魔だ……」

 

《サードギア……ドライブ》

 

虚空千切(こくうちぎり)!」

 

一瞬でグリードを通過しながら神速の速さで斬り裂き、刀を振り払うと何体ものグリードからいくつもの斬撃が走り……消えていった。

 

「す、すごい……」

 

「見えませんでした……」

 

「……まさか、ここまでとは……」

 

「このくらい、レン君なら当然だよ」

 

「それに、もっとすごいのがミッドチルダには何人もおるんよ?」

 

「……あんたらの世界は人外魔境かよ」

 

「それはこっちの台詞なんだけどなぁ」

 

「それにさっきから思っていたんだけど、その刀ってなに? ソウルデヴァイスじゃなさそうだけど」

 

「これはデバイスと言って、簡単にいてば魔法を使うための補助具……杖みたいなものだよ」

 

「いや、だったからレンヤだけ杖じゃねえじゃんか」

 

「あくまで中身の問題だ。 ほら、早く行くぞ」

 

気を取り直して階段を登り切ると、奥に最奥に続くための巨大な扉があった。

 

「こ、ここは……」

 

「ようやく終点に着いたみてぇだーー」

 

そこでコウは奥にあった見て扉を何かに気が付いた。 扉は独りでに開き、俺達を招こうとしていた。

 

「あの門は……!」

 

「な、なんだか見覚えがあるような……」

 

「まさか……パンドラの奥にあった⁉︎」

 

「パンドラ?」

 

「……確に、似ています。 匣のの中枢にあったものと……」

 

「待ってよ、なんでそんなものが……⁉︎」

 

「も、もしかして……関係がある、とか……?」

 

「な、なんのことや?」

 

「どうやら、3ヶ月前と関係するみたいだな」

 

どちらにせよ、この中に入れば分かることだ。 またシオリが胸を抑えると、何かを感じとった。

 

「………いる、みたい………この中に……あの子が……」

 

「シオリ……」

 

「……そうか」

 

「……なんにせよ、ようやく終点に辿り着いたってワケだ」

 

「色々と、気がかりはあるけど……」

 

「ええ……きっとこの先で明らかになるはずです。 杜宮の異変の陰で蠢いていた何かの全貌が……」

 

……3ヶ月前に起きた2つの事件、目の前の扉、シオリとの関係……思考を巡らせても導ける答えはあり得ないと出るが……

 

「いずれにせよ……覚悟を決めるしかないな。心の準備が出来たらさっそく入るしよう」

 

「了解だよ」

 

「うん!」

 

俺達は準備を入念に整え……そして覚悟を決めて巨大な扉に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なゲートを抜けるとそこは何もない、暗闇の空間だった。 まるで命すらない、空虚な場所だ。

 

「な、何も見えない……?」

 

「い、いからなんでも暗すぎねぇか……?」

 

「完全なる闇……か」

 

「な、なんだか、寒い……」

 

「どこまで広がってやがる……?」

 

辺りを見渡しても闇しかない、だが……気配と見られている視線を感じる。

 

「……どこにいる?」

 

「あの子は……」

 

チリィ……ン……

 

「ーーこっちこっち」

 

風鈴の音が鳴り、紫色のモヤが発生するとそこからあの子どもが現れた。

 

「あ……!」

 

「面を取ったのか」

 

面を取った男の子は年相応の顔立ちをしているが、その赤い目はその雰囲気を壊しており、異様な感じがする。

 

「遅かったじゃないか。 待ちくたびれちゃったよ。 まったく、何してたんだよ。 シオリ、トワお姉ちゃんも」

 

「っ……!」

 

「……くっ…………」

 

男の子は今までの不気味な喋り方はせず、普通に会話しているが……まるで親しい者と会話しているような口調で、シオリとコウが過敏に反応する。

 

『あの子……コウ君と似ているね』

 

『確かに、どこはかとなく似とるな』

 

『いったい、何の関係が……?』

 

『……………………』

 

念話で会話して状況を把握しようとすると、コウが一歩前に出た。

 

「やあ、おれ。 ふーん、大きくなったらそうなるんだ。 あんまりフンイキは変わんないかな?」

 

「……いい加減にしやがれ。 記憶が読めるんだが何だか知らねぇが、胸糞悪い真似ばかりしやがって……ここまで来たからにはもう逃しはしねぇ……! ガキの頃の自分(テメエ)だろうが遠慮なくブッ飛ばしてやる……!」

 

「コウちゃん……」

 

やはり、あの子どもはコウの幼い頃の自分のようだ。 確かに昔の自分の姿でこんな事態を起こしているなんて思いたくもない。

 

「ふふっ、ごめんごめんーー時坂 洸。 少し遊んでみたかっただけなんだ……やっぱり面白いね、人って。 心の中は不安や焦りでいっぱいなのに、そんなにも強がれるなんて」

 

口調が一転し、大人びた感じになる。 まるで子どもの姿をした何かだ。

 

「懐かしいなーー10年前の九重ソウスケとシャオ・ハーディン達を思い出すよ」

 

子どもは胸に手を当て、そんなことを言った。

 

「なっ……⁉︎」

 

「な、何でそこでお祖父ちゃんの名前が……?」

 

「……10年、前……?」

 

「てか、シャオ・ハーディンって誰……⁉︎」

 

「……俺の父親の名前だ……何でその名前が今出て来る?」

 

子どもの言葉に微かな怒りを感じるが……その時、シオリが胸を押さえて座り込んだ。

 

「……ううっ………」

 

「シオリ⁉︎」

 

「ど、どうしたの……⁉︎」

 

「…………………やっぱり………あなた、何だね……?」

 

何かに気付いたかのように、シオリは子どもを見る。

 

「……私には、分かる。 その声も、格好も、雰囲気もーーあの日、あの時ーーあの瞬間に、私の目に焼き付いたのと全く同じ……それを知っているのは、私とあなただけだから……そう、何でしょう……? ーーー夕闇ノ使徒」

 

「なっ……⁉︎」

 

「その名は……!」

 

「ふふっ……」

 

シオリから告げられた名前に、全員が驚愕する。 そして子どもは笑うと、両手を広げ……

 

「その名前で呼ばれるのも久しぶりだなぁ」

 

子どもから魔力が溢れ出し、身体中に赤い線が走り、黒い波動が放たれると……世界に色が付いた。 だが、それでも浮世絵離れした景色で。 狭い大地はひび割れ、外には天と地に荒れた空が2つの黒い球体を浮かべて渦巻いていた。

 

「ぁ………………‼︎」

 

「……そ、その紋様……‼︎」

 

「……間違い、ないわ。 いいえ、忘れるわけがない……! かつて東京に冥き災厄を齎した神話級グリムグリード……ーー夕闇ノ使徒‼︎」

 

「夕闇ノ使徒、だと……?」

 

「ウ、ウソ……でしょ……⁉︎」

 

「10年前の……いや、全ての元凶か……!」

 

「ま、待ってよ……完全におかしいでしょ⁉︎」

 

「確か、聞いた限りとっくの昔に討伐されたはずや」

 

「ああ……こんな所に存在するわけがない……! していいわけがないんだ……‼︎」

 

ジュンが完全に夕闇ノ使徒の存在を否定するが、現にこの規模の異変を起こしているのが証明となっている。

 

「ーーふふっ……驚くのもムリないか。 だけど、ボクはずっと待っていた。 キミ達が来てくれるのを。 君達自身が紡いだ因果の先でね」

 

「……因果……?」

 

子ども……夕闇ノ使徒は俺達に指を差してそう言った。 それから夕闇ノ使徒は語った、俺達の知らない事実を……3ヶ月前に起きた事件の事を。そして……九尾によって因果が正された瞬間、夕闇ノ使徒は不完全ながらも生きながらえた事を……

 

「そしてボクは、現実と異界の狭間を虚ろに彷徨いながら、僅かに残った力で過去に干渉し始めた。 存在しないはずの異界迷宮を無理矢理後付けすることで、少しずつ因果を歪めていったんだ。 そして千秋祭の夜、キミ達ををこの杜宮の影に招待することで、かつてないほどの歪んだ場が出来上がりーーようやく完全な形で復活するための準備が整ったってわけさ」

 

「……それじゃあ、あなたは本当に……」

 

「そうーーボクはかつて、君達が夕闇ノ使徒と呼んだ怪異そのものなんだ。 ふふっ……何だか嬉しいよ。 ボクの復活のきっかけをくれた君達と、ようやくお喋りできるんだからね」

 

夕闇ノ使徒は本当に嬉しそうに笑う。 まるで感情が……意志があるかのように。

 

「因果を歪める力……それが本当なら、今までのことにも説明がつく」

 

「過去を歪めて、都合のいい現在(いま)を導いたわけですか……」

 

「あの異界迷宮こそが歪んだ因果を導く楔だった……」

 

「なら、今私達がここにいるのもあなたの意志なの?」

 

「ふふっ、もちろん。 余計な因果も巻き込んじゃったみたいだけどね。 さっきまで力が完全に戻ってなかったからなぁ。 まあ別にいいんだけど」

 

「余計な因果って……ま、まさか俺の事を言ってんのか?」

 

夕闇ノ使徒は視線をリョウタに向けたが、どうでも良さそうにする。

 

「そういえば商店街の猫まで巻き込まれていましたけど……」

 

「俺達の周りの奴らごと見境ないし巻き込んでたワケか……」

 

「め、滅茶苦茶じゃない……!」

 

「全てはこの状況を作り上げるための布石……意志を持って、ここまでのことを為す怪異がいるなんて……」

 

今までのグリードは本能に従い、事件を起こすだけだったが。 この夕闇ノ使徒の存在は……巨大な異界の力を持った人間そのものだ。

 

「ああ、別に全てをボク自身が望んだわけじゃないんだ。 この姿にしたって、気付いた時にはこうだったワケだし。 たぶん、死んだシオリが最後に見た光景を無意識に写しちゃたんだろうね」

 

「あ……」

 

「シオリちゃん……」

 

「…………一体、何が目的だったんだ? そんな大それた真似をしてまで、何でここまでのことを……!」

 

「ふふ、そこのキミなら分かるんじゃない?」

 

「レンヤ?」

 

夕闇ノ使徒の回答を無理矢理任され、少しイラつきながらも仮説を言った。

 

「あいつは夕闇ノ使徒と呼んだ存在だ。 なら、引き起こされるのはただ一つ……」

 

「‼︎ 東京震災……いえ、東京冥災……」

 

「も、もう一度あんなのを引き起こそうっていうの……⁉︎」

 

「チッ、懲りねえ野郎だ……」

 

「……(ギリッ)」

 

「…………ううん、違う。 きっと、それだけじゃない……そうなんでしょう?」

 

「それだけじゃ、ない……?」

 

「ど、どういう意味だよ、シオリちゃん……⁉︎」

 

「ふふっ……今度こそ本当の冥き夜が来るのさ。 二度と明けることのない、無という夜がね」

 

「無……⁉︎」

 

「一体何のこと……⁉︎」

 

「さっきも言ったけど、今の因果はかつてないほど歪んじゃっているんだ。 本来なら存在しないはずの迷宮が現れたり、起きるはずのない出来事がたくさん起きちゃったからねーーだったらこの先、何が起きると思う?」

 

「ど、どういう事や……⁉︎」

 

決め手の少ない状況で質問されても、なにも導き出せない。 その時シオリが懺悔のように鍵となる言葉を言ってくれた。

 

「………なるほど、そう言うことか。 その事件とは比べ物にならない矛盾(パラドックス)……このままだと時空間の秩序が保てなくなる」

 

「そいつは……!」

 

「……行き着く先は時間と空間そのものの崩壊……何もかも消えて、最後に残るのは無だけ……というわけですか」

 

「それは次元断層……! このままだと、他の次元世界も巻き込まれて消失してしまう! この規模なら……最悪ミッドチルダまで……」

 

「まさに、生きたロストロギアだね……」

 

歩くロストロギアなら隣にいるが……正直、冗談でもなさそうだ。

 

「無? な、何もかも、無くなる……?」

 

「学園も、杜宮市も……私達も……?」

 

「まさしく冥き夜……か」

 

ますます事態は悪化している、正直かなりまずい状況だ。

 

「ふふっ……もしかしたら、ハッピーエンドで終わる結末もあったかもしれないね。 シオリの嘘を受け入れていれば、ボクが復活することもなかったかもしれない。 結局、お兄ちゃん達がやったことは全部ムダになっちゃったワケだ。 つくづく因果なお話だよねーーシオリ」

 

「……ぁ………」

 

「……………………」

 

「て、てめぇ、よくもそんな……!」

 

「ーーもういいわ、夕闇ノ使徒」

 

先ほどからシオリを責め続ける夕闇ノ使徒に見かね、アスカは虚空からレイピアを取り出す。

 

「シオリさんの今の因果は、私達が苦難を乗り越えた先にようやく掴み取ったもの……あなたごときに無駄だなんて、断じられる覚えはない……!」

 

レイピアを夕闇ノ使徒に突き出し、夕闇ノ使徒の言葉を否定する。 ジュンも大剣を取り出し、その言葉に乗る。

 

「ああ、そうとも。 それによって新たな矛盾が生まれてしまったというならーー僕達自身の手で正せばいいだけの話だ……!」

 

「……私達は、シオリさんとは会って間もないけど……それでも、友達を助けるために理由なんていらない!」

 

そして、俺達はそれぞれ武器を構えて夕闇ノ使徒と対面する。

 

「柊さん、ジュン君……」

 

「皆も……」

 

「……ふふっ……子どもの姿だからって見くびらないでほしいなぁ」

 

夕闇ノ使徒は禍々しい魔力を放ちながら浮かび上がる。 それだけで、かなりの波動が辺りのに轟く。

 

「きゃああっ……⁉︎」

 

「こ、この気当たりは……!」

 

「ッ! このくらい……!」

 

「テオ教官や、今までの経験に比べたら……!」

 

「全然大したことあらへん!」

 

「ああ、皆気張れよ!」

 

「ふうん……君達4人は他と比べてかなりの実力みたいだね……」

 

この威圧に怯んでいない俺達を見て……夕闇ノ使徒は俺達に向かって手をかざすと……突然俺達4人をまとめて球体状に結界が張られ、強力な過重がのしかかってきた。

 

「ぐううぅ……!」

 

「レンヤ!」

 

「くっ、なんて強力な結界……!」

 

「な、なんで……いきなり……」

 

「君達の魔法は厄介だからね、早めに手を打たせてもらったよ」

 

「よ、用意周到なんやなぁ……」

 

「ふふっ……そのお詫びと言ってはなんだけど、君の両親のことを教えておくよ」

 

「レ、レンヤさんの、両親……?」

 

「お祖父ちゃんのことでも驚いたけど……」

 

「それは知りたいねぇ、ついでに次元を超えてまでここに連れてきた理由も聞きたいんだか?」

 

なんとか脱出できないか模索するが、聞き耳を立てるのに気を取られて重圧に負けそうになるが、なんとか踏ん張る。

 

「ふふっ、それはもちろん因果を歪めるための布石の一つ……なんだけど、シャオ・ハーディンとアルフィン・ゼーゲブレヒトの息子の君は個人的に招待したかったのさ」

 

「な、なんでレンヤ君を……?」

 

「あの2人は本当に面白かったよ、心が踊るような……いや、2人と戦ったから心が得られたと思うくらいだ。 最終的には負けちゃったけど」

 

「それで、レンヤの両親は一体どこへ⁉︎」

 

「さあ? 大した傷も負っていなかったし、どこかで生きてるんじゃないの?」

 

「……そうか」

 

こんな状況だが、どこかホッとしている。 行方不明なのは変わらないが、安否不明よりはましだ。

 

「それじゃあ、せめて見物でもして行ってよ」

 

俺達はそのまま浮かされ、上空で拘束された。

 

「くっ……!」

 

「こんなことしている場合じゃないのに……」

 

「皆……!」

 

「さて、始めようか……フフ、分かってる? 4人を抜いた君達が全員合わさっても10年前の人間達にすら届かないってことは。 それでもいいっていうなら、おいで? 君達の因果と一緒にグチャグチャにしてあげるから……!」

 

「ぐっ……!」

 

「喋っているだけこの霊圧ですか……!」

 

「くっ……まさか、あの時のシオリさん以上の……⁉︎」

 

「あ、あり得ないでしょう……!」

 

「この……!」

 

なんとか脱出しようともがくが、一向に出れない。 下ではコウが激励で全員を奮い立たせ、夕闇ノ使徒と向き合う。 夕闇ノ使徒は面白く思ったのか笑い出すと……その姿を巨大な怪異に変化させた。 ひょろっとした人の骨だけ体格をしており頭、肩、腕から突起物が飛び出していて、更に身体中に黒い瘴気を纏っていた。

 

「神話級XXXグリード……夕闇ノ残影(ウェスペル=ウムブラ)……!」

 

「ああっ……!」

 

傍観するだけで何もできない自分の手を強く握りしめる中、コウ達はウェスペル=ウムブラに挑みかかった。

 

「レ、レン君……」

 

「何とか脱出せなぁあかんのに……!」

 

「くうっ……う、ごげ……!」

 

「ッ……! レゾナンスアーク、セーフティー……パージ!」

 

《イエス、マイマジェスティー。 拘束フレーム、パージ……ゲットセット、スペリオルモード》

 

重い体を無理に動かしてレゾナンスアークのフルドライブを起動し、左腰にもう一本短刀が現れ、長刀の外装が変化する。 刀身に埋め込まれている3つのギアがある峰の部分に同じ数のインジェクターが取り付けられ、短刀を抜いて柄の部分を引っ張ってスライドし、そこにカートリッジを装填した。

 

「ふんっ!」

 

短刀のカートリッジに込められた魔力を炸裂させて結界に突き立て、すぐさま長刀を同じ箇所を突き立て結界を破壊しようとする。

 

「こっの……! かったいなぁ……!」

 

「レンヤ……」

 

「負けてられないね!」

 

「うん、とことんやってやるでぇ!」

 

なのは達も何とか脱出しようと試みる。 だが負荷がかかっている上に狭い、どうしても最小限の範囲しかできず大技が放たない。

 

「ッ! ちょっ……!」

 

その時、横から白い魔力弾が飛んできた。 何とか反応して当たる前に切り裂いた。

 

「ご、ごめんなレンヤ君! こないな小さい事をやるための魔力コントロールはまだでけへんのや……」

 

「分かっている、大丈夫だ。 だが、さすがに狭いな」

 

「フレンドリーファイアは確実、厳しいね……」

 

「おりゃ、おりゃ、おりゃぁ‼︎」

 

なのはが物凄い気迫でロッドモードのレイジングハートを何度も結界に叩きつけている。

 

「物理攻撃で暴れるしかないようだね!」

 

「私、あんま小さい物理系の魔法持ってへんで……」

 

「アガートラムをジャブレベルにすれば多分行けるさ」

 

とにかくそれぞれ結界の中で暴れた。 いったいどれくらいの時間がたったのか、ようやく亀裂が入った。

 

「そこだ!」

 

《ジェットスロー》

 

短刀のカートリッジを交換し炸裂させて高速で放ち、亀裂に突き立てる。

 

「なのは!」

 

「うん、地裂衝(ちれつしょう)!」

 

棍で短刀の柄を殴りつけ……とうとう結界は破壊された。 下を見るとウェスペル=ウムブラは下半身から下が埋まっており、かなりダメージが蓄積されていた。

 

「ああ……⁉︎」

 

「脱出できたか……」

 

コウ達が俺達を見てホッとする。

 

「フェイト、はやて!」

 

「落ちよ、(いかづち)!」

 

《ライトニングスピア》

 

スフィアから発生した雷がウェスペル=ウムブラの腕を貫き……

 

「千山切り拓け! イガリマ!」

 

巨大な魔力剣を精製し、勢いよく振り下ろして胴に突き立てた。

 

「コウ君!」

 

「ああ!」

 

コウが一気に接近し、右腕のギアが赤く光り……

 

「エクステンド……ギア‼︎」

 

一瞬で巨大化したギアが顔面にぶち当てた。 その一撃にウェスペル=ウムブラは光りだすと、もがき苦しみだした。

 

ガアアアアア………アアア…………消エル…? ……ボクノ、存在ガ……

 

「ふう、ギリギリ間に合ったか」

 

「大丈夫、怪我はない?」

 

「あ、ああ……助かったぜ」

 

「皆、お待たせしたなぁ!」

 

「ふふ……かなり美味しい所を持っていかれたわね」

 

「ご、ごめん。 狙ったつもりはないんだけど……」

 

「皆、あ、あれ……!」

 

ウェスペル=ウムブラの姿が変わり、最初と同じ子どもの……幼い頃のコウの姿になったが、消滅は続いている。 しかし、その顔には戦意は無くなっていた。

 

「野郎……!

 

「チッ、まだやる気か……!」

 

「待って、殺気は感じない」

 

「……アハ、ハ……オ兄チャンノ……………言ウトオリ……ダッタネ……………ダッテ……ボク、ニハ………………分カラナインダカラ…」

 

夕闇ノ使徒は戦う前にコウの言った言葉を思い返しながら、両手を見ている。

 

「ーー10年前………ボクガ………………()()()()……()()()()()()スラ………」

 

「ッ!」

 

「……え……?」

 

「10年前、って……」

 

「……何を言ってんだ……?」

 

「………夕闇………」

 

「……ネエ、教エテヨ、オ兄チャン…………ウフフ………」

 

夕闇ノ使徒の言葉で気付いてしまった。 当たり前だからこそ見落としてしまう答えに……なぜグリードは生まれるのか、そもそも()()()()()()()()

 

答えを知りたい子どものように、夕闇ノ使徒はコウに呼びかけるが……

 

「ーーーアハハハ、ハハ、ハ………」

 

その存在を薄くなりながらも、夕闇ノ使徒は笑い出し……空間が歪んで異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光りが収まり、目を開けると……そこはどこかの遊歩道だった。 ハロウィンのような催し物が行われており、通りはかなり賑やかだ。

 

「さんさんロード……」

 

「どうやら……今度は偽物じゃなさそうだな」

 

「ふう、何とか戻ってこられたようだ」

 

「ああ……正真正銘……俺達の杜宮に」

 

「そ、それじゃあ……!」

 

「ああ……夕闇は今度こそ完全に消滅したようだ」

 

「次元空間の崩壊や、次元断層も起きていない……何とか食い止められたみたいだね」

 

「そうですね。 乱された因果も、緩やかに正されて行くはずです」

 

「……はあ、やれやれ。 色々あったけど……」

 

「ひとまず……一件落着と言ってもいいみたいだね」

 

「お疲れ様、皆……!」

 

あの緊張感から開放され、皆の肩の荷が下りたのかホッとしている。

 

「……ありがとう、コウちゃん。 柊さんや、皆も。 私……やっぱり、皆について行けて良かった気がする」

 

「……はは、そうか」

 

「ふふっ、良かったねシオリ……‼︎」

 

「ーーあっ、いたいた!」

 

「なんだ君達、遅かったじゃないか」

 

その時、通りの先から少女の呼び声が聞こえてきた。 振り返ると同じ衣装を来た4人の少女と、スーツを着た2人の男性が近寄って来た。

 

「あ……」

 

「御厨さん……SPiKAの皆さんも」

 

『SPiKAっちゅうことは、リオンちゃんも? あんまピンとせいへんなぁ』

 

『は、はやて。 失礼だよ……!』

 

『にゃはは、分からなくもないけど……』

 

……念話だからって言いたい放題しているな。 まあ、確かに分からなくもないが。 それと、どうやら異界と現実世界の時間の流れが違っていたらしく、現実世界では1時間しか経っていないそうだ。

 

「? 何の話?」

 

「ふう、なんだか仮装している子達までいるみたいだし。 友達とお喋りするのはいいけど、ステージには遅れずに来なさいよね」

 

「う、うん、了解」

 

そういえばバリアジャケットを解除していなかったな。 不幸中の幸いだが、ジュンとまとめられて仮装扱いになってよかった。その後いったん解散することになり、木陰でバリアジャケットを解除した後クロノに連絡を取って事情を説明した。 なのは達もアリサ達に連絡しているが、かなり心配していたらしく、なのはは耳からメイフォンを遠ざけている。

 

「レンヤ、そっちも?」

 

「ああ、結構心配していたらしくてな。 一応、すぐにでも帰れるように月村邸の転送ポートを準備してくれている」

 

「私は……もう少し休んでいたいな」

 

「そやな、いきなり過ぎて頭も身体もついて行けてへんよ……」

 

「確かに、せっかくだし……この千秋祭を楽しんでいくか」

 

「そうだね、私もちょっとキツイかな」

 

「ーーレンヤ君」

 

「よお、楽しんでいるか?」

 

その時、ミツキさんとシオさんが歩いて来た。

 

「いえ、それは今からですね。 本当はすぐにでも帰ろうと思ったんですけど、せっかくですし」

 

「そうしておけ、この祭りを楽しまなきゃ損てもんだ」

 

「あなた達にもお世話になりましたし、どうか心ゆくまで杜宮にいてくださいね」

 

「あはは、ほんまおおきになぁ」

 

「ただ、お一つお聞きしたいことがあるのですが……構いませんか?」

 

「はい、分かることなら」

 

「では……7年前に海鳴市で起きた異界の事件はご存知ですか?」

 

7年前と言うと……闇の書事件の時に出たグリムグリードもどきのあれか。 確かにどこかの組織が情報を入手してもおかしくはないな。

 

「はい、確かに知っていますし俺達の手で解決しました」

 

「そうですか、何の前触れなく顕れたと思いきやすぐに収束した不審な事件だったんです。 ようやく納得しました」

 

「だとしても、その頃は10も満たないくらいのまだ子どもだろ。 よくグリムグリードに勝てたな」

 

「はは、相棒と仲間達のおかげですよ」

 

《ありがとうございます、マイマジェスティー》

 

「あら? それはAIでしたか。 ただの音声だと思っていました」

 

「これはユウキのやつが興味を示しようだな」

 

「あのメガネの子か……なんや言わへんほうが安全きもするなぁ」

 

「あはは、そうかもね」

 

軽い雑談をした後、2人は異界関係者に会いに行くと別れた。 その後も久しぶりに訪れた休暇みたいな感じで祭りを楽しんだ。 辺りを見渡しながら歩いていると、ライブが行われると思われるステージを見つけた。 その側にはリオンを含めたSPiKAのメンバーがいた。

 

「あ、ヤッホー、楽しんでいる?」

 

「うん、楽しんでいるよ!」

 

「そっちももうライブの準備は終わったの?」

 

「はい、もう準備万端ですよ」

 

「そういえば初めて会うけど……リオンの知り合いなの?」

 

「う、うん、実は私も今日知り合ったんだ」

 

「へえー……改めてよく見るとかなりの美人さん達だね」

 

「アキラちゃん、黒髪の人は男の人ですよ」

 

「そうなの? 私みたいにボーイッシュだと思ってた」

 

「あ、あはは……」

 

未だに女顔に見られるんだ……ちょっとショックだ。

 

「それにしても、その制服可愛いですね。 紅い色なんてのも珍しいですし」

 

「確かにそうね、あんまりこの辺りでは見たことのない制服だし……一体どこの高校なんですか?」

 

「え、えーっと……」

 

「ーー英国の士官学院だ。 一昨日帰国したんだけど、今日はこの催しもあって来てみたんだ」

 

口ごもるなのはより先に言い、なんとか誤魔化す。

 

「士官学院……今じゃあんまり聞かないわね」

 

「そ、それよりもステージ頑張ってくださいね! 私も応援してますから!」

 

「そやな! 私達も明日頑張なぁあかんし、応援しとるで」

 

「あら? あなた達もライブでもやるのかしら?」

 

「ライブと言うより演劇だな。 ステージという舞台は同じだけど、SPiKAには確実に劣るだろう」

 

「ふふっ、ステージの上では何をやるにしてもハートが大事ですよ。 激励の意を込めてこの後のステージもぜひ最後まで観て行ってくださいね」

 

「はい、楽しみにしてます」

 

その後、コウの祖父に会い両親について聞いてみたが。 どうやら夕闇ノ使徒を討伐する時が初めて会ったらしく、ほとんど何も知らないらしい。 それからSPiKAによるステージが始まり、歓喜の声を上げる。 さすがはプロと言ったところで、明日に劇をやる身としてはいい勉強になる。 ふと、視線を感じ上を向いてみると……そこにはレムがいた。 レムは俺に気付き、微笑むと消えていった。

 

その後ライブは熱狂に包まれながらも終わり、俺達はコウ達に別れを告げた後、転移魔法でまずは海鳴市に向かい。 そこから転送ポートでミッドチルダ本局、さらに本部に転移した後終電ギリギリのレールウェイでルキュウに向かった。

 

「何や大変な1日やったなぁ」

 

「劇の練習の帰りにいきなりの異界化だったからね、帰ったらまずは休みたいよ」

 

「でも、コウ達と友達になれたのは……本当に良かったと思うよ」

 

「ああ、そうだな。 まさか両親が夕闇ノ使徒に関わっていたとは思わなかったが、ようやく終わったわけか……」

 

まだまだ疑問もあるし、ミッドチルダの異界化は続いている。 それに裏から手を引くものや、空も……問題は山積みだな。

 



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107話

 

 

11月1日ーー

 

一昨日、アリサ達詳細を知ろうとが迫ってきたが……劇のこともあったので学院祭後、改めて教えるということでその場は収まった。 そしていつも通り1日で身体を全快にさせて。 学院祭2日目の今日、どうにか劇に出演できるパフォーマンスにできた。

 

「ふう、まだ節々が痛むが……なんとかなるだろう」

 

「にゃあ……台詞がうろ覚えだよぉ……」

 

「そこは気合で覚えなぁあかんなぁ」

 

「えーっと、あそこでこうして……ここでこうなって……(ぶつぶつ)」

 

「大丈夫、皆?」

 

だが、さすがに神話級XXXグリードーーほとんど超硬い結界と格闘していたがーーを相手にして1日そこらで全快できるわけもなく、すずかに疲労回復魔法をかけてもらっている。 いや、やっぱりどちらかと言うとツァリのスパルタが再臨したせいなのかもしれない……

 

「たっく、だらしねぇな。 それでも音に聞こえし管理局のエースかよ」

 

「クーさん、それを引っ張ってくるのはさすがに卑怯だよ」

 

そんな俺達にクー先輩が何か言ってきたが、アリシアがフォローしてくれた。

 

「とにかく劇が始まる前までに動けるようにはなりなさい、これで負けたらI組の連中に何言われるか分かったもんじゃないわ」

 

「確かに、こんな勝ち方では納得しませんね」

 

「随分と変ないちゃもんだな」

 

アリサの言葉にユエが肯定し、リヴァンは肩をすくめて呆れる。

 

「あわあわ……ど、どうしましょう……」

 

「大丈夫だから、落ち着いて」

 

慌てふためくサーシャをシェルティスがなだめる、一応皆の準備はいいようだな。 と、そこで控え室の扉が開き……ツァリと先輩達が入ってきた。

 

「皆、そろそろ時間だよ。 準備はいい?」

 

「レンヤ君やな以外は問題ない」

 

「うーん、やっぱり今からでも代役を立てた方がいいじゃないのかなぁ?」

 

「わたくしも原作は読んでみましたが、今から用意しても演劇がさらに酷くなるのは確実でしょう」

 

「そうだね、4人の代役を用意するのも時間がかかるし……それとこっちの準備も万端だ。 いつでも空間シュミレーターは使用できるよ」

 

「サンキューグロリア、実際に舞台を用意すんのはそれでやった方が楽だし確実だかんな。 いやー、お前さん達がコネを持ってて助かったぜ」

 

「……それはどうも」

 

はやてがため息気味に返答する。 この空間シュミレーターははやてが発足しようとしている部隊に使おうと用意していたらしいが、クー先輩はどこから聞きつけたのかシュミレーターの貸し出しをお願い(?)してきた。 それには他の皆も賛成したし、理由も分かるが……無理言って発足しようとしているのにさらに無茶を言ってしまうのはどうしても心苦しくなってしまい、はやての心労は計り知れないことになっている。 確かなのはも監修に、すずかが設計に参加しているようだが……

 

「とにかくこのまま行くしかないよ。 大丈夫、皆なら絶対に上手く行くはずだよ!」

 

「……一体どこからそんな根拠が出てくるんだよ」

 

「ふふ、指導していたツァリ君なら当然かもしれないね」

 

「よし、なんとかやってみるか!」

 

「うん!」

 

「頑張ってね、皆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇が始まり、俺達は気持ちと思考を切り替えて演じる本人のように振る舞い、物語を進めた。 ステージは第1ドーム全体で行なっており、世界観、舞台、景色、家やイスなどの細かい部分も空間シュミレーターによって投影され、かなり再現度の高い演劇となっている。

 

世界観や舞台などの簡単な前置きが終わり、その後なのは気絶させたり、ユエと途中からガチな戦いをしたり一瞬の失敗が許されない緊張が続いた。

 

そして今、ドームに投影されたのは湖……ヴァレリア湖が映し出された。 その湖畔にある巨大な施設が……突然、襲撃を受けた。 開けられた穴に小型の飛空艇が入り、ハッチが開くと盗賊らしき集団が降りた。 兵隊が出てくると、盗賊の頭を演じているクーが先輩が容赦なく砲弾を撃った。

 

「はっはぁ‼︎ 野郎ども、派手にやれ!」

 

『おおっ‼︎』

 

戦闘が始まり、盗賊達はむやみに辺りを攻撃し始めた。

 

「敵の注意を全部こっちに引き付けるんだ!」

 

「ドルン兄、楽しんでいるでしょう⁉︎」

 

女盗賊のはやて(ジョゼット役)は無鉄砲なクー先輩を注意した。

 

「あっははははぁ‼︎」

 

そんなこと関係なくクー先輩は滅茶苦茶に砲弾を撃った。 さて、俺も行くとしますか……

 

柱にワイヤー投げて巻き付け、隠れて施設に潜入した。 そのまま一気に中心まで走り抜けた。

 

「はっ……!」

 

すぐに開けた場所に出ると……そこには巨大な紅い船艦があった。 近付いて見上げると……いきなりライトが照らされた。

 

「ーーやあ、ずいぶん久しぶりだね。 漆黒の牙、ヨシュア……アストレイ」

 

「執行者ナンバー……0」

 

「いやだなぁ、知らない仲じゃないだろう? カンパネルラって呼んでよ」

 

顔の右側に刺青の入った少年……ツァリ(カンパネルラ役)は本人と思うくらいその人物になりきっている。 スパルタをするだけのことはあるな。

 

「その顔は……戻って来てくれたわけじゃないみたいだねぇ」

 

「戻るわけがない、僕は結社を潰しにきた……!」

 

「やっぱり君、記憶が戻らない方が幸せだったんじゃないかなぁ? ああ、そうか! 彼女、エステル・ブライトだっけ? 彼女をここに連れてくれば、君も戻って来てくれるのかなぁ?」

 

「ッ! カンパネルラ……!」

 

わざとらしく煽ってくるツァリに、俺は怒りをあらわにし睨みつける。 だが突如爆風が巻き起こり……船艦が浮かび始めた。

 

「さすがは隠密に長ける漆黒の牙、この場所を探り当てたのは賞賛に値するけど……ちょっとだけ遅かったみたいだねぇ?」

 

天井が開き、船艦は空へと飛び始めた。

 

「グロリアスの制御は完了、もうここは破棄することにするよ」

 

「待て‼︎」

 

「もちろん待ってるよ、君が同胞として戻って来てくれることをね……」

 

船艦は飛翔し、クー先輩達の頭上を飛んだ。

 

「あれがヨシュアが言っていた船艦⁉︎」

 

「くっ、間に合わなかったか!」

 

「あんなのと1人で戦おうとしてたの⁉︎」

 

小型飛空艇を巻き込みながら空に逃げて行く紅い船艦を……俺は睨み続けた。

 

それから問題なく物語は進んでいき、観客が見ていることで再現度が高くなっている。 練習の時より上手くなっている感じがしてくる。

 

「はっ……‼︎」

 

さらに物語は順調に進んみ、今は連れ去られられたなのは(エステル役)が悪夢から飛び起きた場面だ。

 

「……どこ、ここ?」

 

「ーーうふふ、怖い夢でもみたのかしら?」

 

ベットの横に置いてあるテーブルで優雅にお茶をしていたのはアリサ(レン役)。 大人魔法ならぬ子ども魔法で今は中学生くらいの体型になっていた。 ちなみに偶然にも同じ菫色の髪で中性的な顔立ちのツァリにこの役をやらせようとしたが、他にも重要な役(カンパネルラとか)があって却下となったら、地味に残念。

 

「レン……! あ! そのハーモニカ!」

 

なのはの視線はアリサの手にあるハーモニカに向けられた。

 

「あなたの荷物調べさせてもらったわ。 これ素敵ね、レン気に入っちゃった!」

 

「っ! 返しなさい!」

 

なのはが慌ててハーモニカを取ろうとするが、アリサが腕を上げてその手は空を切った。

 

「ふうん、大事な物なんだ? じゃあ返さない」

 

良いものを手に入れた風な顔になり、席から立ち上がりなのはの方を向く。

 

「あなたのさっきの質問、答えてあげるわ。 外を見てごらんなさい」

 

「?……えぇ⁉︎」

 

窓の外を見ると、目の前には白い雲、遥か先には青い空が映っていた。 なのははガラスに顔をぶつけながら外を食い見る。

 

「わあ……」

 

「……地上8000アージュ(メートル)、誰にも見つけられないしあなたもどこにも逃げ場はないわ。 ようこそ、あたし達の新しい拠点……紅の方舟(グロリアス)へ」

 

「こんな所にあたしを攫って、どうするつもりなの⁉︎」

 

「別に、カンパネルラがあなたを仲間にすればヨシュアも戻ってくるかもって言うから」

 

「仲間……? あたしが? 執行者の?」

 

「もちろんレンは反対よ。 なーんの力もないあなたに、その資格なんてないもの」

 

「悪かったわね……元より仲間にやる気なんか無いわよ」

 

「……そう、だったら……殺さなくちゃいけないわ……」

 

アリサのその言葉になのはは慌てて辺りを見渡し、ベットの側に立て掛けてあった棍(レイジングハート、見た目ただの棍版)を手に取り、構える。

 

「そうはいかないわよ! 逆にこの船をぶっ壊して、あたしを連れてきたことを後悔させてあげるわ!」

 

「………くすっ………やっぱりあなたって面白いわね!」

 

「?」

 

「万が一にもあなたに勝ち目はないわ。なのに……どうしてそうやって気丈に振る舞っていられるの? なんの力もないのに」

 

アリサは次になのはを連れて船内を歩き始めた。

 

「ちょっと、どこに連れて行くき?」

 

「面白い物を見せてあげる」

 

さらに奥へ進んでいき、重厚な扉が開かれその中に入った。

 

「……あぁ……!」

 

そこにはどこもかしこも兵器らしき物体がいくつも鎮座していた。

 

「これは……」

 

「どう? 驚いた? グロリアス1隻だけで一国の軍隊を圧倒することが可能よ」

 

「あなた達、戦争始める気?」

 

「ーー場合によってはな」

 

「あぁ! レーヴェ!」

 

なのはの背後から銀髪の女性が現れた。 アリサは嬉しそうに彼女に近寄る。

 

「レーヴェ? あなたがここの親玉?」

 

「いや、私はただの留守番にすぎん。 レン、そのハーモニカは返してやれ」

 

「え……」

 

アリサは一瞬驚いた顔をすると、次に不機嫌な顔をしてなのはの前に来てハーモニカを返した。

 

「あ、ありがとう……」

 

「……ふん」

 

「……あなたは?」

 

「私は執行者ナンバーII、剣帝レオンハルト。 お前が追うヨシュアの古い連れだ」

 

「っ……!」

 

フェイト(レオンハルト役)は髪を魔法で銀髪に変え、ストレートから1つ結びの髪型でなのはと相対している。 いわゆる男装だが、いつもの雰囲気が相まってかなりのイケメンに見える。

 

「結社に属する者は皆、深い闇を背負っている。 私、他の執行者、そしてヨシュア。 結社と関わるには、お前の闇はあまりにも小さ過ぎる」

 

「ちょっと! 人のこと攫っておいて、今度は関わるなって言うの⁉︎ 随分勝手な言いぐさじゃない……⁉︎」

 

「……それはレンの独断だ」

 

「うん?」

 

なのはは怪訝そうにアリサを見つめる。 アリサは反省の色無しでそっぽを向く。

 

「大方カンパネルラに吹き込まれたのだろうが……元より私は、お前もヨシュアもこれ以上関わらずに済むのなら、その方が良いと思っている」

 

「どうして……?」

 

「私とヨシュアが進まんとしていたのは、修羅の道だ。 しかし、あいつが感情を取り戻したと言うのなら……人間として生きればいい」

 

「……あなたとヨシュアって、一体どういう関係だったの?」

 

その質問に、微かにアリサが反応をしめした。

 

「それを知ったら、お前は真っ白のままではいられなくなる。 その覚悟はあるのか?」

 

「うん、私は……ヨシュアの辿って来た軌跡をどうしても知っておきたい!」

 

「…………いいだろう」

 

フェイトが話す気になったのを、アリサは驚いた。

 

「10年前、私達がいたハーメル村が……まだ地図にあった頃の話だーー」

 

語られたのは1つの村の悲劇、その裏側で起こった陰謀、数年前に起こった戦争の真相……そしてその出来事で1人の子どもの心が壊れたことも。

 

「無力を恨んだ私達は身食らう蛇に身を投じ、世界を粛清する執行者となったのだ………エステル・ブライト、お前にこの闇の深さがわかるか? ハーメル村の悲劇は、未だリベールとエレボニアの両政府によって隠蔽されたままだ。 今の平和など仮初、世界は欺瞞に満ちている」

 

「…………そうかも、しれないけど……でも、だからといってあなた達が人を傷付けてもいい理由にはならないわ!」

 

「そう言って手をこまねいていては、世界は変えられない……! 優しさだけでは手遅れになる……!」

 

「っ! そんなことない! 皆で力を合わせれば、なんだって変えていけるわ!」

 

なのはのその問いに……ファイトは微かに嘲笑う。 なんか……何時もの仲良しの2人にはあり得ない光景だな。

 

「なによ!」

 

「…………なにを根拠にそんなことが言いきれる?」

 

「っ! あたしは何も諦めていないからよ!」

 

「ふっ……ヨシュアが心を開くわけだ……」

 

「とにかく、こんなの見せられた以上、黙って見過ごすわけにはいかないわ!」

 

棍を構え、フェイトに戦くう意思を向ける。

 

「正遊撃士、エステル・ブライト! 協会規定に基づき、あなた達の身柄を拘束するわ! 今すぐこの船艦を着陸させなさい!」」

 

「……お前は自分が囚われの身であるということが、わかっていないようだな」

 

「宣告はしたわよ、従わないのなら力尽くよ!」

 

なのはは駆け出し、棍をフェイトに振り下ろそうとすると……一瞬で弾かれてしまった。

 

「なに、今の……?」

 

フェイトの左手には、金色に輝く剣(バルディッシュ、ライオットザンバー片手のみ)が握られていた。

 

「……部屋に戻れ」

 

それだけを言うと、踵を返して去っていった。 その後、なのははまたアリサに連れられ、返してもらったハーモニカを見つめながら艦内を歩いていた。

 

『これ、お姉さんの形見だったんだ。 そんな大切な物を……』

 

「…………わからないわ」

 

「っ……?」

 

不意にアリサが足を止め、疑問に思っていたことを口にした。

 

「どうしてヨシュアは、あなたなんかにそれを渡したの?」

 

その問いに、なのははハーモニカを一度見つめてから答えた。

 

「きっと……これはヨシュアの心なのよ」

 

「心……」

 

「うん、ヨシュアはここに心を置いていったの。 私はそれを預かっているだけ……だから、今は私が持っているけど、これはちゃんとヨシュアに返明日あげなきゃ」

 

「…………わからないわ。 どうしてそんなに強がっていられるの? 囚われのあなたに、希望なんてないのよ?」

 

「希望ならあるわ……私は、まだ生きてる」

 

その答えにアリサは怒りに震え、右手に鎌(フレイムアイズ、鎌版)を出現させ、なのはは壁際にぶつけて首に鎌先を寄せる。

 

「これでどう? これでもまだ、さっきみたいなことが言えるのかしら?」

 

「……ねえ、あなたもレーヴェの言う、心の闇を背負っているの?」

 

「ッ! あなたには関係ないわ! レンは、執行者ナンバーXV、殲滅天使ーー」

 

そんな辛そうな表情を見て、なのははアリサに抱きしめた。 アリサは訳のわからない顔をして鎌を落とした。

 

「こんなに小さいのに執行者なんてやっちゃダメ、レンも幸せにならないと」

 

「どうして……抱きしめるの?」

 

「私も、小さい頃はよくお母さんによく抱きしめてもらったから。 そうするとね、なんでもできる気がしてくるの。 だからレンも」

 

「レン……も……レンの幸せは……ヨシュア……」

 

「ねえレン、私と一緒にヨシュアを探しに行こう?」

 

「……ダメ」

 

「え……」

 

「きっとレンは、あなたと一緒にいたら……壊れてしまう……」

 

「レン?」

 

ドオオオオオンッ‼︎

 

その時、船艦が揺れると赤いランプが点灯し、警告音が響いた。

 

「なに……?」

 

「ヨシュア……」

 

「え」

 

「ヨシュアが来たわ」

 

なにを根拠にそう答えるのかはわからないが、なぜかそう感じていた。

 

「エステル、あなたを逃がしてあげる」

 

「え⁉︎ いいの……?」

 

「この欺瞞に満ちた世界に希望があると言うのなら、証明して見せて。 でも、あなたの言葉が嘘だったら……その時はすぐに殺しにいくわ」

 

「……うん……ねえ、一緒にーー」

 

「さっきも言ったでしょう、レンは行けないの」

 

なのはは残念そうな顔になるが、すぐに明るい表情になる。

 

「次に会うときは、もっと仲良しになろう、ね?」

 

「っ………あなた次第じゃないかしら! 行って! レンの気が変わっちゃう前に」

 

その言葉にアリサは顔を赤くするが、素直になれず突き返した。 なんだか何時ものアリサを見ているようだな。

 

「ありがとう、レン!」

 

お礼を言うと、落とした棍を拾って艦内を走り出した。 さてと、見物は終わりにして気持ちを切り替えますか。

 

ダクトから抜け出して通路に降り立ち、周りを警戒しながらロープでさらに下に降りた。 工作をしようと荷物に手を出しかけるが……かかっていた影がさらに濃くなった。 慌てて背後を向くとレーヴェの格好をしたアリシアが剣を振り下ろして来た。 それを避けてロープを掴んで距離を取った。

 

「下の騒ぎはやはり陽動だったか……どうやって潜入した!」

 

「……航路確保の偵察機を狙った、執行者もいなかったから簡単に潜入できたよ」

 

「執行者としての勘は完全に取り戻せたようだな……だが、隠形というものは1度認識されたら終わりだ、この剣帝相手にどう戦う?」

 

次の瞬間、アリシアは消え……横からフェイトが現れ斬りかかって来た。 魔法を使用してないでの劇をするのが俺達の強み、それを行うための仕掛けはする。 双子みたいな2人だからこそできたことだ。 魔法を使用していないので、観客席からどよめきの声が上がる。

 

「どうしたヨシュア!」

 

「レーヴェ! 結社に従っていて、本当に世界を変えられると思っているのか⁉︎」

 

片方の剣を抜き、その会話とともに斬り合う。 フェイトは剣と足技を巧みに使い、圧倒的に攻めていく。 剣を投げて攻撃したり、その弾いた剣を一瞬で掴んで振り下ろし鉄骨を斬る。 実力は相手が上、剣で防ぐもどんどん後退していく。

 

「従っているわけではない! この世に問いかけるために、私は自分の意志でこうしている!」

 

剣を切れ払われ、腹に蹴りが入れられる。 歯を食いしばり、振り下ろされた剣を受け止め鍔迫り合いになる。

 

「時代の流れ、国家の論理、価値観と倫理観の変化! 兎角人という存在は、大きな事に翻弄されがちだ! そして時に、その狭間で身動きが取れぬまま消えていく! 私達のハーメル村のように!」

 

それはまるで呪いのように語る……鍔迫り合いをやめ剣を弾いて距離を取る。

 

「真実はと言うもの容易く隠蔽され、人は信じたい現実のみを受け入れる……それが人の弱さであり限界だ!」

 

「ッ……それを知らしめるためだとしても、結社はあまりにも多くの物を奪ってしまった! この僕も……許されないことだ!」

 

もう片方さん剣も抜いて、フェイトに斬りかかった。 高速の斬り合いが繰り広げられ、一瞬の隙に懐に入いられるがギリギリで防ぐも勢いで吹き飛ばされてしまった。 ワイヤーを取り出し、パイプに巻きつけ追撃して来たフェイトの剣を防ぐ。 ワイヤーでパイプを半回転し、パイプを破壊しながらの上に乗り、走る。 だがフェイトは1度の跳躍で距離を詰めて……外壁を突き破り、パイプにぶつかりながら落下していく。

 

息を整え、双剣を納めて腰からグレネードを取り出し、ピンを抜いて放り投げ……煙幕が発生するもその場から離脱した。 なんとかその場から離れ、リフトで甲板に向かおうとする。

 

「はあ、はあ……」

 

そろそろ到着しようとした時、突然リフトが揺れた。 剣を掴んで対応しようとし……リフトと甲板の一部を切り裂いてフェイトが斬りかかって来た。 甲板に飛び出し、弾いて距離を取りお互いリフトを挟んで甲板に降り立つ。

 

「どうした? 小細工をろうしてなおこの程度か?」

 

「……………」

 

その返答に、スイッチを取り出し……ボタンを押すと船艦に仕込んでいた爆弾が爆破した。 だが、そうなってもフェイトは顔色1つも変えない。

 

「……船を道連れに自爆でもするつもりか? グロリアスを破壊したところで、福音計画を止められることはできんぞ」

 

「たとえ……そうだとしてもーー」

 

「はあああああっ!」

 

その時、フェイトの方にある通路からなのはが棍を構えて走って来た。

 

「こんっのおおぉ‼︎」

 

飛び出して振り下ろした棍をフェイトを軽く弾いて、その勢いのままこっちに飛ばされて来て、お尻から着地した。

 

「エステル⁉︎」

 

「アイタタ……あ、ヨシュア! もう探したんだからね! 今度こそ一緒にうちに帰るわよ!」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってエステル……」

 

「ふっはは……大した娘だな。 船を沈めればその娘も死ぬ事になるぞ、お前にそれができるのか? 記憶を取り戻したのと引き換えに、牙を失ったようだな」

 

「くっ………」

 

「今の弱いお前では、結社を滅ぼすことも私を殺すこともできまい」

 

「ーー好き勝手言ってんじゃないわよ!」

 

なのはが立ち上がり、棍をフェイトに向ける。

 

「ヨシュアは弱くなんかないわ! 私を守るために、目の前から逃げ出した、怖がりで勇敢なヨシュア……たった独りで傷ついて、苦しんで、それでも必死に戦い続けてる……そんな人間が、よわいはずない! 罪のないリベールの人達を利用しようとする、あんた達こそ弱い人間よ! そんなこと、帝国のやったこととなんら変わらないじゃない! これ以上あんたみたいな連中に、ヨシュアを傷つけさせはしないんだから!」

 

「……エステル」

 

と、そこで前後から兵隊がワラワラと出て来た。

 

「ヨシュア! 2人でなんとか突破するわよ!」

 

「いや、その必要はないよ……ありがとう、エステル。 もう大丈夫」

 

「え? どういうことーー」

 

言い終わる前になのはを抱えて、甲板の縁に足をかけ……そのまま空へ飛び出した。 なのはが叫びが風の音で消される中、雲の中から小型飛空艇が現れ、甲板にははやてとクー先輩がいた。

 

「ヨシュアーー‼︎」

 

「よぉ〜し、いいぞぉ〜そのまま、そのままぁ!」

 

飛空艇も同じ落下スピードで、そのまま手を引かれて甲板に雪崩れ込んだ。 見上げると、グロリアスが黒煙を上げながら去っていていた。

 

「……取り逃がしちゃった」

 

『え……』

 

俺達は驚いた表情でなのはを見た。

 

「え、なに?」

 

「ぷっ、ははは! 君って子は……! 前向き過ぎて本当に呆れるよ」

 

「ふはは! 違えねえ! 命からがら逃げて来たのに大したもんだ」

 

「ふん、こいつはただの能天気なだけや」

 

あ、今素で言ったな。 終盤に近付いたせいで気が抜けたな。

 

「なんですって⁉︎」

 

それから一旦フェイトの場面が映り、その後また小型飛空艇に戻り、俺となのはは甲板で夕陽を眺めていた。

 

「ねえ、ヨシュア? 約束しよう、お互いがお互いを守りながら、一緒に歩いていこって。 ヨシュアが側にいてくれたら、私の力も何倍にも大きくなる」

 

「エステル……」

 

そこでなのはは手を出した。 その手にはハーモニカが握られていた。

 

「はい、返すね。 後……これもーー」

 

ハーモニカを受け取り、なのはは一歩前に出る。 確かこの後、最初の時に首を打って気絶させたから、今回はビンタされる手はずになっている。 このシーンで今更ビンタってどうかと思うけど、いくら劇でもなのはにビンタされるのはなぁ……って、あれ? 手じゃなくて顔を赤くしながら近付いているような……

 

「ん……///」

 

「……へ⁉︎」

 

『あああああっ‼︎』

 

そのまま頰に……キスされた。 空間シュミレーターの投影で隠れているフェイト達の叫び声が聞こえたが、なのはがえへへと笑い、俺はキスされた頰を抑えて惚ける中、俺達の劇は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇が終わり、なのははフェイト達に連行され。 俺はクー先輩に肩を組まされたいた。

 

「おうおう、レンヤ君よぉ。 かわい子ちゃんにキスされた気分はどうよ?」

 

「えーっと、どうと言われても……」

 

「ま、俺もあんな締めはどうかと思ったし……結果オーライじゃねぇの?」

 

「そうだな、本番よりとてもいい作品になってたと思う」

 

「で、でもでも、ツァリさんはそれでいいんですか?」

 

「うん? 確かにアドリブもあったけど、これとない結果になったしね。 特になにも言わないよ」

 

「以外ですね、ツァリのことですから妥協や即興は許せないと思いましたが……」

 

「あはは……そうだね。 でもーー」

 

ツァリは控室の外に面している窓に近付き、ドームを後にする観客を見た。 どの人も楽しそうに会話しているのが見える。

 

「あ……」

 

「あれを見たら、どうでもよくなっちゃったんだ」

 

「確かに、ここで憤慨するのは無粋というものでしょう」

 

「終わりよければ全て良し……そいうこった」

 

「ああ、そうだな」

 

色々とハプニングは起こったが、結果的にVII組の出し物は成功したと言うことだな。

 

「ではでは、そろそろ後夜祭に行きますか?」

 

「なのは達は……まあ、後で来るだろう」

 

「フィアット達とテオの野郎も先に行っているはずだぜ、早いとこ行こうぜ」

 

「はい」

 

控室を出て、すぐにドーム内に着くと、すでに後夜祭のキャンプファイアとダンスも始まっていた。 炎の前にはテオ教官がおり、俺達に気がつくと歩いて来た。

 

「よお、来たか。 なかなかいい出来だったぜ」

 

「そう言って貰えば、やり甲斐があったと言うものかな?」

 

「かなりハードだったがな」

 

「そういえば、アンケートの結果はもう出たのですか?」

 

「ああ、それなら……っと、噂をすれば会長殿が来たな」

 

入り口を見ると、フィアット会長とエテルナ先輩達が慌ててやって来た。

 

「皆〜!」

 

「会長、先輩達も」

 

「皆さん、とてもよい劇でした。 再現度もなかなか、プロとも劣らない出来でしたよ」

 

「あはは、それは言い過ぎだと思いますけど……ありがとうございます」

 

「そういえばすずか君達が見えないけど、何かあったのかい?」

 

「えとえと、ちょっとなのはさん達は、その……」

 

「ま、最後らへんのやつだ」

 

「…………ああ、なるほど」

 

なんか、クー先輩のその言葉だけでフィアット会長は事情は分かったようだ。

 

「ーー皆〜! お待たせ〜!」

 

と、ちょうどそこでなのは達がドーム内に入ってきた。 見た感じ特に何かしたようではないし、話し合いで解決したなのなら幸いだな。

 

「あのあの、皆さんどちらに行かれていたのですか?」

 

「ちょおっとお話してただけや、もう終わったで」

 

「そうね、結構有意義な時間だったわ」

 

「いや、ほんと何やってたの?」

 

「ふふっ、女の子だけの秘密だよ♪」

 

「それで会長、アンケートの結果はどうなったのですか?」

 

「ああうん、そうだね」

 

フェイトに言われ、会長は息を大きく吸ってから答えた。

 

「おめでとう皆! 今年も堂々の一位だよ!」

 

「去年よりも投票数も増しています、よく頑張ったと思いますよ」

 

「そうですか……なんか、あまり実感がありませんけど」

 

「まあ、やり切った感はあるかな?」

 

「最後の学院祭、とても楽しませてもらったよ」

 

「そう言ってもらえれば、なによりです」

 

「そうだな……」

 

劇が始まる前から夕闇が出たりで色々と大変だったが……こうやり切ったらそれはもう過去の話になって、実感と経験が体に残る。 来年の学院祭の参加は有志だが、参加することには変わらないし、3年になったらはやての手伝いを優先しておくか。

 

「レンヤー! ボーッとしてないで早く来なさーい!」

 

「学院の皆で魔力球のドッチボール大会をやるみたいだよ〜!」

 

「ああ! 今行く!」

 

アリサとすずかの呼び声で考えをやめて、駆け足で皆の所に行った。

 

 




大半の人が劇に出てませんが、省略した部分にちゃんと出演してたりします。


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108話

 

 

2月中旬ーー

 

学院祭からあっという間に月日が経ち、さらに厳しくなって行く授業を受け、特別実習を行いながら俺達VII組はさらに実力が付いていくのを実感していた。 いつしか、テオ教官に1人で倒せるようになれる……かもしれない。 ただ、あの劇以降、フェイトは下級生の女子からお姉様、なんて呼ばれるようになったり。 少なからずあの劇は俺達にも影響が受ける結果になってしまった。

 

2学年の期末テストも終わり、結果も概ね満足して、俺達の学院生活も後1年に迫っていた。 そしてクー先輩達やフィアット会長ももうそろそろで卒業してしまう、会長が卒業するとなると新しい生徒会長を選挙で選ぶわけだが……その選挙にアリサが立候補、つまり生徒会長になろうとした。 あんまり深く理由は聞かないし、だいたい予想はついたが、これ以上忙しくなることを指摘した所……

 

【そんなの、余裕に決まってるじゃない。 私を誰だと思ってるの?】

 

だそうで、それ以上は無駄だと思い皆で応援した。 まだ投票は行なっていないが、かなり人気らしくもしかしたら本当になるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は異界対策課におり、いつも通り書類をさばいていた。

 

「いや〜、ここ最近仕事が手早く片付いてきて楽でいいねぇ」

 

「そうだな〜、忙しいのは変わんねえがちゃんとキッチリ時間通りに終わるからなぁ」

 

「ホント、ソフィーさんには感謝しないとな」

 

今は異界対策課本部には俺の他にラーグとソエルしかいなく、他の皆は依頼や別件の用事があったりしていない。

 

「あれ? この書類は……」

 

ふと、目に入った書類に記載されていたのは嘱託魔導師に依頼を要請する提案が書かれた物だった。 これは結構前からあるものだ、知っての通り異界対策課の仕事は正式の管理局員すらやらないのに嘱託魔導師ではさらに意味がないのだが……これに書かれているのは市民の依頼だけを一定期間受けてからこちらの判断でグリード関連の仕事を受けさせるということだった。 確かにこれなら仕事が楽になるし適正も測りやすい。 だが、俺が注目したのは次のページに掲載されている嘱託魔導師の名簿だ。 どういうわけか……リヴァンとユエとツァリの名前が記載されていた。 そういえば最近嘱託魔導師の資格を取ろうと思うと言っていたな、何を希望するとは聞いてなかったが。

 

「まあ、実力は知っているし、正直助かるな。 にしても……」

 

あいつらが嘱託魔導師か……そろそろ進路を決める時期でもあるんだよなぁ。 俺達はすでに就職しているようなもんだからあんまし実感とかないんだけど。

 

「やっほーレンヤー、依頼終わらせて来たよ〜」

 

「ただいま、ソエルちゃん、ラーグ君」

 

「おっかえり〜〜」

 

「騎士団の奴らはどこ行ったんだ? 一緒に行ったんじゃなかったのか?」

 

「ソフィーに報告することがあるからってベルカに向かったよ、報告書はもらっておいたから」

 

アリシアから報告書を受け取り目を通す。 やっぱりよくやっているみたいで、依頼主も好評のようだ。

 

「それとレンヤ君、この前の調査依頼についてはどうするの?」

 

「ああ、それか。 管理外世界だし、決めかねているな……」

 

数日前に本局からある次元世界の調査依頼が入ったのだ。 どうもその世界では次々と人が蒸発しているようで、次元犯罪者の可能性もあるが、怪異の線も考えられるため、異界対策課にも要請が来たのだ。

 

「そうなると少しの期間とはいえここを空けることになるからなぁ、ソーマ達が頼りないわけじゃないが……頼れる人がいれば安心できるんだが」

 

「ちょうどティーダさんやヴィータちゃんも出払っているようだし、誰か1人でも残れればいいんだけど、調査範囲が広いから分散すると余計に危険になっちゃうから……」

 

「誰かいないのかなぁ……あ! ちょうどいるじゃない!」

 

アリシアは俺の手元にあった先ほど嘱託魔導師関連の書類を掻っさらった。

 

「いや、確かにユエ達なら信用出来るし実力も確かだが……嘱託だぞ? いくら何でも無理がある」

 

「そこは俺達にお任せだ。 要は責任者が俺達になってかつ対処がそいつらに任せればいい」

 

「これで万事オッケー♪」

 

「……色々と心配なんだが……」

 

「ま、まあ……なのはちゃん達にももしもの時に助けてくれるように連絡しておくから、それでどうかな?」

 

「うーん、私としてはいつもラーグ達を置いてきているから、なんか申し訳ない気もするけど……」

 

「問題ないぞ、暇な時は麻雀でもやるから」

 

「ポ〜ン! ポポポ〜ン!」

 

「果てしなく心配だ……」

 

「あ、あはは……」

 

結局そういうことになり、ツァリ達にもラーグ達の行動には特に念を入れて置くように言っておき。 そして3日後、いつもの4人のメンバーでミッドチルダを経つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに3日後ーー

 

ミッドチルダ中央区より南にある路上……私達は南寄り中央区に発生した火災の鎮火に向かい、今はそれを終えて消防車で隊舎に帰還する途中だった。

 

「はあ〜、今日も大変だったね〜」

 

「そうね……」

 

ティアは肯定して頷いているけど、窓の外を眺めているし何だか生返事っぽい。

 

「ティア〜、ホントにそう思ってるの〜?」

 

「うるさいわね、だからそう言ってるじゃない」

 

「ぶうぅ、なんか今日のティアは冷たいねえ」

 

「あんたがいつにも増して張り切っているからでしょう、もう少し落ち着きを持ちなさい」

 

「ふぅーん? あ、わかった! 最近ソーマとーー」

 

「いいから黙ってなさい」

 

「はい……」

 

その容赦のない眼光に、蛇に睨まれたカエルの如く固まる。

 

「はは、お前達は相変わらず仲がいいな」

 

「そ、そんなんじゃありません!」

 

同乗していた隊長にからかわれ、ティアは慌てて否定した。

 

「そ、そういえばまだ着きませんね。 出動時はあっという間でしたのに」

 

「今は渋滞にハマってるからな、もう少しかかるだろうよ」

 

「そうですか……」

 

しばらくその状態が続き、さすがにこれ以上ティアを怒らせてもあれなので窓の外を見た。 ちょうど隣に大型のバスがあり、車内には家族の団体が何組もいた。

 

(そういえば、最近お母さん達とギン姉と出かけていないなぁ。 お互い忙しくなったのは分かるけど、なんか寂しいなぁ)

 

「はあ……」

 

「珍しいわね、あんたがため息なんて。 明日は雨かしら?」

 

「え⁉︎ あ、あはは……そうかもね」

 

手を振りながら苦笑いでなんとかごまかす。 その後段々と流れていき、都心部から離れたからか今は先ほどのバスが前にあるだけで他の車は見当たらないくなった。 その時、もう一度外を見ると……背筋に嫌な悪寒が走った。

 

「ひっ……⁉︎」

 

「……スバル?」

 

「? どうかしたのか?」

 

「い、いえ……なんか、すっごく嫌な予感がして」

 

「……………………」

 

あまりの悪寒で自分の身を抱きしめ、気温が一気に下がった気分になる。 いつもなら冗談か悪ふざけと言って来るティアも何も言わない。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……‼︎

 

突如地鳴りが起こり、辺りは車のクラクションばかり聞こえるようになる。

 

「全隊、緊急時に備えろ! すぐに動けるようにしとけ!」

 

『了解っ!』

 

車は急停止し、数人が同じく停止したバスに向かった。

 

「い、一体何が……」

 

そしてさらに揺れが大きくなっていき……少し浮遊感を感じた次の瞬間、地面がせり上がって行っていた。

 

「な、なにいぃ……⁉︎」

 

「これは……地面が割れてない⁉︎ 何かが突然と現れて私達を押し上げているの⁉︎」

 

しばらくして揺れが収まり、辺りを見渡すと……そこは円の形をしたかなり広い場所で、荒野みたいに何もなかった。

 

「なんなのよ……」

 

「サーチャーを飛ばします!」

 

隊員の1人がサーチャーを飛ばし、状況を確認する。

 

「! た、大変です! 私達は巨大な台座のような場所の上にいます!」

 

「台座、だと?」

 

映像が出されると、私達がいる円形の場所をいくつもの足が支えて鎮座していて、かなりの高さだ。

 

「何でいきなりこんな物が?」

 

「とにかくバス内の人の安全を確認するぞ。 これは俺達の許容範囲外だ、異界対策課に連絡を取れ」

 

「はっ!」

 

隊長の指示ですぐさま動く、このまま何も起きないといいんだけど……

 

ゾクッ……

 

また嫌な予感がして、背後に振り向きこの場所の中央を見ると……大きな赤い亀裂が走っていた。 その亀裂がすぐに大きくなり、赤い靄を出して渦くと……

 

ギャァアアアアア‼︎

 

前足で亀裂を広げ、咆哮を上げながら見上げるほど巨大なグリードが出現した!

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「グリードだ! 全員、戦闘態勢を取れ! 何としても市民を守るぞ!」

 

『おおっ‼︎』

 

隊員の皆さんがデバイスを構え、グリードと向き合うが……グリードは見向きもせず尻尾のような物を地面に突き立てた。 そのまま尻尾が脈動するように動き、地面から離れると……同じく巨大な卵があった。

 

「まさか……!」

 

「破壊しないとマズイぞ!」

 

隊員の1人が魔力砲を撃つが、その撃った方向にまた赤い亀裂が走り……何体もの芋虫のようなグリードが大量に顕れた。 砲撃はその一体に直撃し、硬い外殻に弾かれて霧散した。

 

「くそ! 硬すぎる!」

 

「後退する! とにかく耐えるんだ!」

 

「っ⁉︎ まさか、これがグリムグリード⁉︎」

 

とにかくバスの上に乗って、そのまま発進しグリードから距離を取る。 グリードはまた尻尾を地面に刺すと何かを吸い上げた。 そして今度は口から卵を撃ってきた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

バスが大きく曲がり卵を避け、なんとかしがみ付いて落ちないようにする。 卵が地面にぶつかり破裂すると中から2、3匹の芋虫のグリードが飛び散った。

 

「うっ……」

 

「この……!」

 

ティアが高圧縮魔力弾で芋虫を倒していくが、数が多すぎて対処仕切れない。 私はバスから飛び降りて接近してきた1体に駆け出す。市民の人達は目の前のグリードに慌て叫ぶ。

 

「落ち着いて下さい! すぐに異界対策課が急行します、それまで私達が絶対に守ります!」

 

「ていっ、こぉんっ、のぉ‼︎」

 

芋虫みたいな眷属のグリードの目に肘打ちを入れた後に飛び上がって頭に膝蹴り入れ、ヒビが音を立てて走るとすぐに消滅した。

 

「ふう、ふう……いつもより魔力の消費が激しいよ……」

 

「レンヤさん達が来るまで、なんとか耐えるわよ」

 

グリードの大群がヂリヂリと近寄る中……北から何かが接近しているのに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前ーー

 

今僕は異界対策課本部にいて、ここ最近はいつも通りの平穏普通日々が続いていた。 いつもと違うのはレンヤさん達が3日前にミッドチルダを離れていることと、嘱託魔導師としてユエさん達がここにいることだ。

 

「大丈夫ですか、皆さん? 何か分からない所があったら遠慮なく言って下さいね。 なんといっても私、先輩ですから!」

 

ルーテシアが意気揚々に胸を張りながら言う。 僕が初めてここに来た時にも言っていたな。

 

「うん、ありがとう。 でもだいたい分かるから大丈夫だよ」

 

「仕事の内容が特別実習とほぼ同じですからね、そこまで分からない訳ではありません」

 

「ま、さっきから逆にお前さんを教えられていたがな」

 

「うえええん、ソエル〜〜」

 

「おおよしよし、いい子だね〜」

 

「もう、ルーテシアちゃんたら」

 

「なーにしてんだ、お前達は」

 

「あ、あはは……」

 

そんなレンヤさん達がいるような、いつも通りに僕達は皆さんと接している。 実際ユエさん達は特別実習も優秀らしく、やっぱり僕達にとってもいいお手本にようだ。

 

「さて、俺は依頼を受けに行くが。 後は頼んだぜ」

 

「了解だよ、頑張ってね」

 

『メキョ‼︎』

 

「うわ⁉︎ びっくりした!」

 

突然、ソエルとラーグの目が開いた。

 

「ミッドチルダ中央区と南部の真ん中……そこにグリードの反応だよ!」

 

「いきなり顕れやがった、しかもかなりデカい! グリムグリードの可能性もあるぞ!」

 

「なっ……!」

 

「何でいきなり……」

 

「とにかく散策は後だ。 このレベルだとルーテシアとサーシャには荷が重い、リヴァン、ユエ、ソーマで向かってくれ。 ツァリは念威でバックアップだ」

 

「了解だよ」

 

「むう、私とガリューだってグリムグリードの1体や2体……」

 

(コクン)

 

「まあまあ、私もいきなりグリムグリードとは相手をしたくないなぁー、なんて思ってたり……」

 

「とにかく行って! 足は用意しているから!」

 

「ああ、アレですね。 すずかが作ったという」

 

「了解です! それでは行ってきます!」

 

ユエさんとリヴァンさんと共に本部を飛び出し、すぐに地上本部の地下駐車場に到着した。 そこにある異界対策課専用ガレージを開くと、中にはいつもの白い車と……黒塗りの大型バイクが2台置いてあった。

 

「お前はユエの方のサイドカーに乗れ」

 

「は、はい!」

 

サイドカーに座り、横を向くと車体にランドローラーと書かれていた。 エンジンがかけられ、振動が空気も揺らして身体が震える。

 

「行くぞ!」

 

「うわっ⁉︎」

 

アクセルを全開に回し、いきなりトップスピードで走り出して地上に出る時に一瞬浮いた。 爆音と爆風に耐えるために私服に付いていたフードを深くかぶると、目の前に薄紫色の花びらが通り過ぎた。

 

『交通規制をしておいたから、ノンストップで現場に行けるよ』

 

「わかりました……ツァリ、ありがとうございます」

 

『それと急いで、どうやら迷宮上層部に人が取り残されている。 一緒に地上部隊の管理局員もいるけど、眷属もいて長くは持たない』

 

「そんな……!」

 

「ちっ、面倒な」

 

愚痴るもさらにギアを上げて現場に急ぎ、現実世界に顕現した迷宮が見えてきた。 見上げるほど巨大な台座のような迷宮……と言っていいのかな? とにかくそれが鎮座していた。 地上に接している足から眷属らしきグリードが何体もいた。

 

『あうあう、大丈夫かな? 緊張とかしてないかな? リラックス、リラックス……』

 

『なーに緩いこと言ってんだよサーシャ、グリードなんてバシッと行ってガシッと決めてくればいいだけだろ』

 

『微温いって! ダンで決めてダンで! 天剣なら、グリード戦においては手抜き不要、容赦無用! 力と技の限りを尽くし完全無欠な勝利をしなさい! それくらい楽〜に行けるでしょ!』

 

『……言いたい放題言ってハードル上げるなぁ』

 

サーシャがいつも通りに慌てる中、アギトとルーテシアが好き放題に言っているし……まさにその通りです、ツァリさん。

 

現在ミッドチルダ南西部に顕れたグリムグリードの討伐するため、2ヶ月程前に嘱託魔道師の資格を得た同じ天剣授受者のユエさんとリヴァンさんと共に、すずかさんが開発したバイク……ランドローラーで現場に急行していた。 不幸にもレンヤさん達は別の次元世界で起きた事件の調査で今はいない、僕達がなんとかしないと……

 

「おら、行くぞ!」

 

迷宮を支える柱の一本に近付くが、未だにスピードは落としてないどころか上がっている。

 

「あの、一旦止めないと……」

 

「問題ありませんよ、ランドローラーは垂直走行も可能です」

 

「へ?」

 

フードを抑えながらユエさんを見るたら……次の瞬間、体にかかる重力の方向が変わり……視線の先には青い空があった。

 

(本当に垂直に走っているよ……)

 

かなり大きい芋虫のようなグリードを無視して通り過ぎるのに罪悪感を感じながらも……意識を戦闘できるように切り替える。

 

上層に出ると、ランドローラーを飛び降りる。 リヴァンさんはすぐさま着地し、琥珀色の鋼糸を飛ばしてグリムグリードの頭にに巻き付け……

 

「っ……ふん!」

 

全力で引っ張り、襲われかけたバスから引き離し、バスの周りにいたグリードもバラバラに斬り裂いた。そのバスの前にユエさんと着地する。

 

「やれやれ、まさか嘱託魔道師としての初陣がA級グリムグリードとは……責任重大ですね」

 

「それだけレンヤさんに買われているのですよ……レストレーション」

 

懐から剣の柄だけの待機状態のデバイスを取り出し……音声信号で剣へと復元した。 ユエさんはグリムグリードに飛びかかり、すでに籠手と甲掛型の天剣を復元していた。

 

「剛力徹破……咬牙!」

 

足の1つに足からの徹し剄を流し、掌底による衝剄で外殻にヒビが入ると足が根元から破壊された。

 

「……ふうっ!」

 

負けじと剣に剄を走らせ、もう一本の足を切断し、背を向けてゆっくり着地する。

 

「馬鹿やろう! 避けろ!」

 

リヴァンさんの怒鳴り声で後ろを向くと、切り落とした残骸が膨れ上がっていた。 すぐさま離れると……残骸が爆発し、さらに破片が飛び散る。

 

「ふっ……仕掛けが派手なことで」

 

「だから外に出すなと言ったのか、まったくあの野郎説明しろっての」

 

『聞こえているよ、リヴァン……識別名、インヴィークーが再生を始めたよ』

 

ツァリさんの念話の通り、飛び散った破片がグリムグリード……インヴィークーの破壊された足の根元に集まると……あっという間に傷ひとつなく足が完全に再生された。

 

「これは素晴らしい……」

 

ユエさんが皮肉気味に言った。 僕は背後から接近すると、インヴィークーの卵を産み落とす器官が振り落とされるのを避け、その上を駆け上がり背に飛び乗る。

 

「えい!」

 

背中に剣を突き立てると……

 

「うおおおおおっ!」

 

そのまま背中に剣を引きずりながら駆け登った。 インヴィークーは痛みで暴れ出す。

 

「外力系衝剄・化錬変化……蛇流! 」

 

インヴィークーの顔に化錬剄の糸を張りつけ、その糸を伝って拳打の衝撃を伝えた。 だが、その時飛び散った破片が爆発し、こっちに飛んできた。

 

「うっ……!」

 

それを当たる瞬間に斬り裂いき、破片は左右に避けた。

 

「殺す気ですか、ユエさん⁉︎」

 

「済まない! だが、この程度で死ねるようなら天剣は持てないですよ!」

 

ユエさんを失敗を責めるが、確かにその通りなのでこれ以上は言わない。

 

次にリヴァンさんが鋼糸を螺旋状に纏めた矢を放ち、左胸……心臓を貫くと鋼糸を解けさせ内側からバラバラに斬り裂いた。 さらに飛び散った破片を爆発する前に射抜いたが……結局は同じことで、破片は顔と背に集まると同じように傷ひとつ無く再生された。

 

「まさか……」

 

「しつこい奴だな」

 

「攻撃すればするほど自分の首を絞めてる。 これじゃキリがない!」

 

グリードだから左胸に心臓ないかもしれないし、そもそも心臓で生きているとも限らないが……さすがに胸を貫かれても生きているなんて……その時、ツァリさんの花びらの端子が目の前を舞った。

 

『インヴィークーは細胞かそれ以下の物質によって構成された、群生生命体のようだね』

 

「なるほど、あれは自爆ではなく、本体に再合流するための自衛行動ですか」

 

リヴァンさんがツァリさんから情報を得て、作戦を言った。

 

「短時間の超重圧攻撃でインヴィークー全体を圧死させる。 全体を同時に、それぞれの最大量の剄を持って技を撃て。 1度で仕留めないと後がないぞ」

 

作戦を聞き、剣を握り直して剄を走らせる。

 

「行くぞ!」

 

その合図と同時にリヴァンさんは地面に矢を放ち、その左右の地面から鋼糸が天高くまで飛び出し……インヴィークーを鋼糸の円の中に囲った。 インヴィークーはすぐさま脱出しようと4枚の昆虫特有の羽を羽ばたかせ、鋼糸が及んでいない上へと飛んだ。

 

「上に逃げようとしても……無駄ですよ」

 

それを阻止しようとユエさんが鋼糸を足場にしてインヴィークーの頭上に飛び、右手に茜色の剄を纏い……

 

「はああぁああっ!」

 

さらに全身に茜色の剄を纏うと、インヴィークーの右頬にぶつかり、そこから右側にある2枚の羽を巻き込んで破壊し……その勢いのまま地面に激突した。 かなりの衝撃でかなり砂煙が舞っている。

 

剄を体に走らせ、鋼糸の囲いの中に入り、横を先ほどの攻撃の勢いのままユエさんが通り過ぎ、鋼糸の外に出てからようやく止まっていた。 落下するインヴィークーに接近する中、またユエさんのせいで破片が爆撃のように降り注ぎ、その中を臆さずに走り抜ける。 剣に剄を全力で流し込んで剣幅を伸ばし、地面を抵抗なく切り裂きながら飛び上がり……

 

「えええいっ‼︎」

 

インヴィークーの体を縦に一直線に真っ二つにし、その間を通過して空高く飛び上がった。 インヴィークーは体を膨れ上がらせ、自爆しようとするが……

 

「させるかよ……おおおっ!」

 

囲んでいた鋼糸をインヴィークーの全体に巻き付かせ、そのまま縛り上げる。 そのまま限界まで絞り上げると……琥珀色の閃光が先に飛び散り、その後大爆発が起きた。

 

「これで……!」

 

「! いや、まだだ!」

 

まだ生きているようで、破片が1箇所を集まり始め、先に集まった部位が心臓のように鼓動している。 僕は剣を強く握りしめ、そのまま剣を心臓に向かって投擲し……すぐさま転移して剣をまた掴み、投擲した勢いのまま降下する。

 

「くっ、間に合いますか……⁉︎」

 

「いいだろう、別に」

 

風でフードが脱げるも剣先で風を斬り、紺色の剄を弾けさせながら心臓に向かって落下し……

 

「うおおおおおおおっ‼︎」

 

心臓を貫いた。 次の瞬間、周りに浮遊していた破片は力なく落ちていき、次々と塵となって消えていった。

 

「! しまっ……!」

 

インヴィークが消えたことに一安心して自分が落下しているのを忘れていた。 すぐに剣を地面に向かって投擲し、転移して慣性を消してから地面に足をつけた。

 

「ふう〜〜……」

 

緊張が解けて、大きな息をはいて力が抜ける。

 

「ソーマーー‼︎」

 

「トイトイトイー‼︎」

 

それもつかの間、聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると……ティアが銃を撃って、スバルが何度もパンチを繰り出していたのだが、一緒に眷属のグリードもいた。 そういえばグリムグリードが消えても眷属のエルダーグリードは消えることはないって言っていたような……

 

「って、そうじゃない!」

 

突き刺さっていた剣を抜くと同時に回転をかけながら投げ、奥側にいたグリードの1体を真っ二つにし、接近しながら両手の指の間に合計8個の針状の剄弾を形成した。

 

「外力系衝剄……九乃(くない)!」

 

グリードの視線が向けられる前に九乃を放ち、目や外殻の隙間に突き刺さした。 そしてすぐに剣の元に転移して……

 

「ぜああああっ‼︎」

 

無防備な背後を斬り裂さき、転移する前と同じ場所に立った。 剣を振り払うと、遅れて斬り裂いたグリードが消えていき、最後には車とティア達が残った。

 

「大丈夫ですか⁉︎ 怪我とかはしてませんか⁉︎」

 

「あ、ああ……助けてくれて感謝する」

 

「ソ〜〜マ〜〜!」

 

「うわっ⁉︎ ス、スバル⁉︎」

 

「怖かったよ〜〜!」

 

「ちょっ、スバル⁉︎ 何抱きついてんのよ!」

 

「全く、何やってんだよ」

 

「ふふ、仲がよろしくていいではありませんか」

 

その光景をリヴァンさんとユエさんに呆れ気味に見られながら、まずはバスの乗客をこの場所からバスごと降ろし、その後すぐに迷宮が消滅していった。

 

「皆さん! 大丈夫でしたか⁉︎」

 

「やっほー、ルーテシアちゃんが来ましたよ〜」

 

(ペコリ)

 

「遅かったな」

 

地上に降りると、そこにはサーシャ、ルーテシアと爆丸状態のガリュー、そしてアギトがいた。

 

「皆、どうしてここに?」

 

「眷属のエルダーグリードがあり得ないほど多かったからね、地上に降りたのを片っ端から倒していたんだぁ」

 

「この程度なら余裕だったわね!」

 

「ちぇ、あたしも戦いたかったぜ」

 

「何はともあれ、レンヤ達抜きでよくやったと思うんじゃねえか?」

 

「はい、僕もそう思います!」

 

異界対策課に入って初めてのグリムグリードの討伐……レンヤさん達が不在でもなんとか解決できたことを嬉しく思い、小さくガッツポーズをする。 だだそう思う中、改めてグリードの脅威というのが恐ろしいものか理解する。

 

「……………(ジー)」

 

「ん?」

 

視線を感じて辺りを見渡すと、バスの中に勝気そうな目をした女の子がいて、その子がジーとこちらを見ていた。 歳は……ちょうどルーテシアと同じくらいかな? こっちの視線に気がつくとソッポを向いて、そしてちょうどバスが発進して行った。

 

「……なんだったんだろう?」

 

「ソーマさん、帰りますよ?」

 

「あ、はい! それじゃあティア、スバル、またね」

 

「ええ」

 

「またね〜!」

 

2人と別れ、結構高い場所から乗り捨てたのに無事なランドローラーに乗り、僕達は今度はゆっくりと異界対策課に帰って行った。

 

 



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109話

 

 

3月中旬ーー

 

2学年も残り1ヶ月に迫るこの頃、この時期は去年と同じように勉強はあんまり進ませず訓練が多めに行われている。 日に日に難易度が上がっていく訓練をこなしながら卒業生を見送る準備もキチンとやらなければならないのがハード差を上げている。 それに加えて来月にはミッドチルダの創立記念日で、それに乗じて祭が開催される。 それによる異界対策課にくる支援要請は1ヶ月前にも限らずかなりの量になっている。 そのため在校生VII組のメンバーは4月下旬に行われる特別実習を急遽変更して記念祭と同じ日に行われることになったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異界対策課ーー

 

今日は学院の授業……というより訓練は午後から開始される予定のため、俺は午前に依頼をソーマと一緒に受けており、それがひと段落して対策課に戻っていた。

 

「ただいま」

 

「ただいま帰りました」

 

「あ、お帰りなさ〜い」

 

(パタパタ)

 

中にはルーテシアとガリュー、サーシャとアリシア、すずかがいた。

 

「皆さん、お疲れ様です」

 

「ああ。 4人はもう帰って来てたのか?」

 

「私達は近場で書類整理の手伝いをしてただけだから。 サーシャもいたし、早く終わったんだ」

 

「私は開発部の様子を見ていただけだったから」

 

「えとえと、それでもう昼ごろなのでランチの用意をしてたのです」

 

「僕達の分はあるのですか?」

 

「うん、簡単なパスタとサラダだけど」

 

「それで構わないさ。 ありがたくご馳走になるよ」

 

(パタパタ)

 

ガリューのハンドジェスチャーで俺とソーマは手を洗いに行き、それからさっそく昼食をいただいた。

 

「そういえば……レンヤさん達の方は交通整理の手伝い、どうでしたか?」

 

「ああ、結構面倒だったな。 何台か違法駐車している車に違反キップを貼り付けたな」

 

「北部が1番多かったですね、以外にも多くて警邏隊も困ってましたよ。 記念祭が近付いているのはわかりますけど、今北部になにかありましたっけ?」

 

「ーーザンクト・ヒルデ魔法学院に新規魔法の発表会……通称、魔法新立会が行われるようだよ。 様々さ学者が集まって披露される色んな魔法……数年に1度くらいに開催されるけど、今年は時期が近かったようだね」

 

「攻撃、防御、機動といった戦闘用や補助、結界、捕獲、回復などの支援もありますし、もしもの時に使える生活魔法なんてものも過去にありまして、管理局も注目している行事です」

 

「6年前に開催されたのが最後だな。 その時に俺達が使っている魔法……特にアリシアの作った魔法が多く発表されて、あの時はまだ管理局に入ってなかったからスカウトが来たのなんので」

 

「ああー……それはいいから、あれはちょっと思い出したく無い。 それに今回もその話は来ているし」

 

アリシアは懐から1枚の封筒を取り出して机の上に置いた。 新立会の招待状だ。

 

「わぁ……! アリシアさん、もう呼ばていたんですか⁉︎」

 

「あれからバンバン新しい魔法を作っているからな、当然と言えば当然か」

 

「私としてはどうでもいいんだけどね。 まあ、行くには行くんだけど、適当な魔法使ってから速攻帰るつもり」

 

「そ、そうですか……」

 

「もう、アリシアちゃんたら」

 

「でも、最近回ってくる仕事が妙に多いとは思ってたけど……それも原因の1つでいいんですよね?」

 

「まあ、ミッドチルダの創立記念祭と新立会が丁度重なってしまったし……例年よりも警邏隊は忙しくなりそうだよ」

 

「それでこっちに回って来るのが雑用ばかりなんですね……て言うか、僕達って本当に異界対策課でいいんですよね?」

 

「ま、まあまあ。 依頼の中にはちゃんと異界関連の物もあるし、これはこれで評判もいいからな」

 

最近市民の人達もグリードを見かけることが多発しているが、迷惑しているだけで脅威にはなっていないのだ。 だからって慣れ過ぎだろ、ミッドチルダ人……

 

「ではでは、午後からは僕達が依頼を受けますので、レンヤさん達は学院に戻ってください」

 

「後は私とガリューにお任せです!」

 

(コクン)

 

「それじゃあ、後はお願いね」

 

「は、はいぃ! お任せ下さい!」

 

「はは、サーシャは相変わらずだな」

 

後のことをソーマ達に任せ、俺達は一旦車でルキュウに向かった。 訓練場で皆と合流した後すぐにテオ教官の訓練が始まり、終わったの時には全員バテバテになっていた。

 

「ふう! 疲れた……」

 

「はあはあ……慣れるたびにキツくなって来てないかな?」

 

「それが普通でしょ、キツイには変わりないけど」

 

「なのはの教導はもうちょっと優しかった気もするけど……」

 

「そうかな? 私も教える相手に合わせて教導するから、これで丁度いいと思うな」

 

「本職がそう言うのですから、そうなんでしょうね」

 

息を整えながら会話していると、テオ教官が音を立てながら手を叩いた。

 

「今日の訓練は以上、各自クールダウンして解散だ」

 

「は、はい!」

 

それから着替えて管理局組は一緒にまた首都方面に向かおうとした時、メイフォンに通信が入って来た。

 

「はい、レンヤです」

 

『あ、レンヤさん、サーシャです』

 

「サーシャか、何か問題が起きたのか?」

 

『実は対策課に相談があるという方がいらっしゃっているんですけど……軽く聞いた話だと怪異とはあんまり関係が無くて。 でも放ってはおけなくて、私とソーマ君が責任を持って請け負いますから許可を得たくてれんらくしました』

 

「ああ……構わないけど。 いつものように掲示できる話じゃないのか?」

 

『はい、ハッキリ言うと私達では荷が重い気もします……』

 

「わかった、相談者にはそのまま待たせてくれ。 すぐにそっちに向かう』

 

『お願いします』

 

ピ……

 

「何かあったの?」

 

「ああ……怪異とは関係ないけど、厄介ごとなのは確かだ」

 

「ふう、その手の依頼ね……やるのは構わないけど、手広くやり過ぎて疲れるわね」

 

「あはは、大変そうやなぁ」

 

「とにかく対策課に行こう、話はそれからだよ」

 

「うん、さっそく行ってみよう」

 

車で地上本部に向かい、途中でなのは達と別れてから対策課に向かった。 対策課に入ろうとした所で丁度戻って来たルーテシアと会い、そのまま一緒に応接室に入ると、そこにはサーシャとソーマがいて、向かいに長い金髪でザンクト・ヒルデ魔法学院の制服を着た同い年くらいの女子が座っていた。 女子はサーシャと楽しく雑談をしていた。

 

「あ、レンヤさん!」

 

「! あ、すいません! 呑気に話していて……」

 

「ああ、楽にしていいですよ。 相談者の方ですね? ようこそ、異界対策課へ」

 

責任者として当然の敬語の対応すると、彼女は安心したようでホッと息をはく。

 

「あ、初めまして。 ユミィ・エル・クローベルといいます。 本日は相談に乗ってもらいありがとうございます……!」

 

彼女……ユミィは深々とお辞儀をする。 その瞬間に気付いた、この人……すずか並みだ……

 

(うわ……)

 

(圧倒的だよ……)

 

(ぐらまーと、とらんじすたぐらまー……)

 

(ル、ルーテシアちゃん? 私と見比べないで……)

 

(あんまり露骨に見ないの。 ちょっとレンヤ?)

 

「あの……?」

 

「(はっ……)と、とりあえず座って下さい。 まずは一通りお話を伺います」

 

アリサにジト目で注意され、訝しんでいるユミィに取り繕い気を取り直して話を伺った。 ユミィの相談、それはいわゆる脅迫状だった。 午前に話題になっていた新立会、そして今回運営兼司会を勤めることになったカリム・グラシアに向けての手紙、内容は新立会の中止の要求だった。

 

「ーー聞くところによると差出人はカリム自体に恨みはなく、新立会を中止にしたい、ただ今回運営を任されたカリムだった……と言うわけね」

 

「はい、だからカリムさんも任された責任もあってイタズラと思い無視してたんですが、不気味な文面で……私にはどうもそうは思わなくて。 それでとにかく管理局に相談してみようって」

 

「……脅迫状の現物はどこにあるの?」

 

「今はカリムさん本人が念のために持っています」

 

「なら、まずはその脅迫状を見る必要があるりますね」

 

そこで気が付いた。カリムと彼女の関係はどういうものなのか一応聞いておかないと。

 

「そういえば……ユミィさんと言いましたか。 ザンクト・ヒルデ魔法学院の生徒なのは分かりますが、やはりあなたも運営に協力を?」

 

「あ、ユミィでいいですよ、敬語もいいです。カリムさんは私の先輩でして。 カリムさんがか学生の時にお世話になってたんです。 その感 関係でお手伝いをと」

 

「! て、ああ!」

 

突然、アリシアが思い出したかのように大声を上げる。

 

「な、なによ突然」

 

「なんで気付かなかったんだろう、クローベル……あなた、もしかしてミゼット・クローベルのお孫さん⁉︎」

 

「ええっ⁉︎」

 

(コテン)

 

ルーテシアが驚いてイスを倒しながら立ち上がり、その勢いで肩に乗っていたガリューが転がり落ちる。

 

「あはは……おばあちゃんが有名なだけで私自身は大したことないですよ」

 

「ふふっ、そんなことないよ。 カリムに任されて手伝いるなんて、優秀な証拠だよ」

 

「ううっ……」

 

「はは……大体分かった。 ただ話を聞いてみるとカリム自身は、この件について乗り気ではないようだな?」

 

「ええ……今は発表者、観覧者の応対が激しくて。 無闇にこのことを公表すると新立会どころではなくなっていまうからって……特にその……航空武装隊は……」

 

「あー、なるほど」

 

「それで、カリムさんの知り合いでもあって皆さんに。 それならカリムさんも納得してくれると思いまして。 身勝手なのは重々承知していますが……」

 

俺達は基本的に異界関連の対応を目的としていて、その他の依頼は副次的な対応になっている。 そのためか進んで深刻な依頼は基本的に来ない、深刻でければ大量にくるが……

 

「あのレンヤさん、この依頼は当初の予定通り僕達だけでも受けさせて下さい」

 

「はい、私は引き受けたいです……!」

 

「まあ待て、もちろん引き受けるが先ずはカリムに会いに行く。 話を聞きてから任せるにしても遅くはない」

 

「そうね、それがいいわ」

 

「賛成〜!」

 

「私も引き受けるよ」

 

「というわけで、ユミィ。 脅迫状の件、異界対策課が引き受けるよ」

 

「あ、ありがとう! それでは私……一足先に学院に戻ります。 カリムさんには私の方で報告しておきますからいつ来ても大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます」

 

「またね、ユミィさん」

 

ユミィは一言礼を言い、異界対策課を後にした。

 

「さてと……とりあえずザンクト・ヒルデ魔法学院に行ってみよう。 脅迫状を見せてもらわない事には始まらないしな」

 

「そうだね。 ただのイタズラの可能性もありそうだけど……」

 

「全員で行っても返って目立つわね……私とすずかは残るから、レンヤとアリシアで行ってきなさい」

 

「ソーマ君とサーシャちゃんをよろしくね」

 

「ええぇ⁉︎ わたしは⁉︎」

 

「あんたはお留守番よ、まだまだここでやる事は多いんだから」

 

「そんなぁ〜」

 

(ポンポン)

 

そんなルーテシアに苦笑いしながら、俺達は北部にあるザンクト・ヒルデ魔法学院に向かった。 こちらも授業は早めに終わったのか、生徒が何人か帰宅していた。 俺とアリシアは認識阻害の魔法のかかったメガネで騒ぎにならずに学院に入った。 どうやら新立会が行われる会場は変わってないらしく、うる覚えだったが会場に到着した。 中ではすでに準備が始まっているらしく、かなりの人が出入りしていた。

 

「すごい人ですね」

 

「前回は参加していた側だったから、こんな準備風景を見るのは初めてだよ」

 

「さて、カリムは……」

 

「ーーあ、レンヤさん! こっちです!」

 

ステージ前にユミィが手を振っていて、その隣にはカリムとシャッハが作業をしていた。

 

「2人とも久し振りだな、こっちの学院祭以来か」

 

「はい……此度はこのような事に巻き込んでしまい申し訳ございません」

 

「いいって、それが仕事なんだし」

 

(……レンヤさんって、本当に聖王様だったんだね)

 

(あんまりそんな雰囲気なくて親しみやすいし、実感ないけど)

 

ソーマとサーシャが何か言っているが、ここだと目立つので控え室に移動した。

 

「お2人とは初対面ですね。 初めまして、聖王教会・教会騎士団所属のカリム・グラシアです。 時空管理局理事官も兼任しているわ、以後よろしくね」

 

「私は修道女のシャッハ・ヌエラです」

 

「は、はい。 ソーマ・アルセイフです」

 

「サーシャ・エクリプスです。よ、よろしくお願いします」

 

「それで、その脅迫状というのは?」

 

「はい、こちらです」

 

渡されたのは一般的な手紙だ。 すでに封が切られており、中から文章の書かれた便箋を取り出し、3人も横から読んだ。

 

〈新立会ヲ中止セヨ。 サモナケレバ預言者二悲劇ガ振リ返ルダロウーーー空白〉

 

「これは……」

 

「新立会を中止せよ……さもなくば預言者に悲劇が振り返るだろうーーー空白」

 

「確かに脅迫文みたいですね」

 

「脅迫文というより嫌がらせと思いまして、文中通り私のレアスキルのせいでそう言った脅しなどは珍しくありませんし」

 

「騎士カリムの預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)は良くも悪くも管理局と言った組織に影響が出ますから、そう言った脅しめいた手紙はたびたび届きます。 ただ、今回は少しばかり気になることがありまして……」

 

「気になること……?」

 

「うんと……差出人ですか?」

 

「ええ、そうです。 今まで送られてきたのは無記名が殆どでしたが……」

 

「それが今回は“空白”という思わせぶりな名前が書かれていて……ただのイタズラとは違う感じがするんです……」

 

「………………」

 

今までとは毛色が違う脅迫状……同一犯が趣向を変えたか、または別の犯人かだな。 だが、この感じは……

 

「レンヤ?」

 

「いや……カリム達は、空白という名前に心当たりはないのか?」

 

「いえ、それが全く。 そもそも人の名前かすら」

 

「何かの暗号とか、そんな感じはするけど……」

 

「これと言って関連するものは何も」

 

「そのままの意味かもしれませんし、別の読み方もあるかもしれませんね」

 

なるほどね、サーシャが以前に使っていた月蝕(エクリプス)みたいな感じてことか。

 

「なら、それ以外の心当たりはある? 最近、誰かの恨みを買うような事があったりとか」

 

「そ、それは……」

 

「……まさかとは思いますが」

 

ユミィとシャッハが心当たりがあるように考え込む。

 

「えっと、まさかアレですか?」

 

「はい、つい先日にお会いした例の会長さんのことです」

 

「……あんまり思い出したくありませんけど……」

 

カリムにしては珍しく嫌そうな顔をする。

 

「その方というのは?」

 

「カクラフという……ちょっとユニークな老人のことです。 フェノール商会の会長らしいです」

 

「な……⁉︎」

 

「フェノール商会……!」

 

そこでその名前が出たことに俺達……とくにサーシャは驚いた。

 

「それって確か……」

 

「? 商会とは面識があったのですか?」

 

「いや、ちょっとな。 それでフェノール商会の会長とはどういった経緯で?」

 

「私のレアスキル……延いては騎士団の有用な運営を補助する提案など恩着せがましいことを言って来たんです」

 

「それは……」

 

「あり得なくないね、フェノール商会は各次元世界にコネクションを持っている。 有用な運営というのはあながち否定できないよ」

 

「そ、それで……その会長をどうしたのですか?」

 

「その……少し感に触ること言ってきたので……」

 

「……平手打ちをしてしまったのです」

 

口ごもったカリムの代わりにシャッハが内容を言った。

 

「ええっ⁉︎」

 

「マフィアのボス相手に怖いもの知らずだねぇ」

 

「そうなんです……私も気が気じゃなくて」

 

「私も驚きで固まりました……」

 

「カリムが平手打ちするほどだ、相手は相当無礼を働いたんだろう」

 

「はい……教会騎士団は時代遅れだの有用に使ってやるだのと言うのでつい……」

 

「ともかく、その時は周りの取り成しもあり何とか収まりましたが……」

 

「相手がその時の屈辱を忘れてない可能性はある……そういう事ですね」

 

「確かに脅迫状を出す動機にはなりそうですね」

 

「…………事情は大体理解した。 まずは幾つかの手掛かりを当たってみようと思う。 カリム、脅迫状はこのまま預かってもいいか?」

 

「ええ、構いません。 本当は皆さんに頼むのは心苦しですが、ユミィにこれ以上心配もかけたくありません。 どうかよろしくお願いします」

 

「カリムさん……」

 

「ああ、引き受けた」

 

この件を正式に受け、その後カリム達は会議があるとのことで別れた。 ユミィに見送られた後に一旦駐車場の自分達の車の前に集まった。

 

「あの……それでどうしますか?」

 

「内容によっては2人に任せるにつもりだったが……フェノールが出た以上そうもいかないな。 もちろん2人には引き続き協力してもらうが、どうする?」

 

「はい! 頑張ります」

 

「ご期待に応えられるよう、全力で行きます」

 

それで話はまとまり、次の行動に移すために全員で話し合った。

 

「手掛かりはフェノール商会、それと空白も手掛かりになりそうですね」

 

「ここは手っ取り早くフェノール商会に行ってみるのがいいんだけどねぇ……」

 

「わ、私は大丈夫です! むしろ顔見知りで何とかなりそうです!」

 

「サーシャ、あんまり無理はしないで」

 

サーシャは気丈に振る舞うが、動揺しているのは明白だ。

 

「行ってみるしかないか、フェノール商会に。 面倒を避けては何も進まないからな」

 

「別に何かするわけでもないし、ただ事情聴取するだけだからそれほど危険はないかな。 それに知っておきたいからね、レイヴンクロウと違ってあれだけの事をしでかしているのに捕まらずに釈放、堂々歩ける連中……どんな実態なのか掴めるかもしれない」

 

「はい、それでは行きましょう。 フェノール商会のビルは西部の開発区、そこの路地裏にあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決まったらさっそく車で西部、開発区に向かい。 路地の手前で降りて徒歩でフェノール商会の前まで来た。 まさしく路地裏のようで、陽の光は薄く、蛍光灯の光で明るくされているのが余計に暗闇を強く感じる。 商会前には見張りらしき黒スーツの男2人が会話していた。

 

(ここがフェノール商会……)

 

(ずいぶん怪しい路地だね……)

 

気付かれないように小声で話すが、男達がこっちに気づいた。

 

「なんだ、お前ら?」

 

「ここはガキ共が近寄るようなら場所じゃねえ。 さっさと失せやがれ」

 

「俺達は時空管理局、異界対策課の者です。 今日は捜査の一環でこちらに伺わせてもらいました」

 

「なっ⁉︎」

 

「管理局だと⁉︎」

 

男達は怒りの形相を浮かべ、いつ攻撃してもおかしくない状態になった。

 

「ちょっと聞きたい事があるの、会長さんに取り次いでくれないかな?」

 

「なにぃ……?」

 

「はっ、強いと思って調子に乗っているなぁ……ここは異界じゃねぇぜ、とっとと帰んな」

 

「いや、先ずは礼儀ってもんを教えねえとな」

 

(……なんか駄目みたいですよ?)

 

(……仕方ない。 退散するか……)

 

男達は全く聞く耳持たず、このままここにいるとさらに悪化することになる。 踵を返そうとした時、商会のビルの扉が開いた。

 

「ーー通してやれ」

 

中から豪胆な男性の声が聞こえ、出て来たのは2人とは違うスーツを着た巨漢が出てきた。

 

「わ、若頭……!」

 

「お、お疲れ様です!」

 

「おう、ご苦労」

 

(で、でかい……)

 

(軽く2メートルは超えるね)

 

(それに、この雰囲気……かなり強いです)

 

(………………)

 

男は目の前に来るとその大きさがはっきりと分かる。 そしてスーツの下に隠された筋肉が強さの証として浮き出ている。

 

「クク……お前らが管理局のガキ共か。 話には聞いていたが、やはり若いな」

 

「……異界対策課の神崎 蓮也です。あなたは……?」

 

「ゼアドール・スクラム。 フェノール商会の営業本部長を勤めている。 ククク……まあ若頭と呼ばれることの方が多いがなぁ」

 

「……………………」

 

まさかいきなり幹部クラスの大物が出てくるとは、たがこの人の心情はなんだ?

 

「ーー入れ。 話は俺が聞いてやる」

 

踵を返して後ろ向きでそう言うと、返答も聞かずにビルに入って行った。 ここで断ると返って危険だ、意を決して入ろうとする。

 

「……お通りしても?」

 

「……ああ、若頭がそう言うなら仕方ねぇ。 とっとと入りやがれ」

 

「くれぐれもあの人に無礼を働くなよ? 長生きしたいならな」

 

2人の物騒な助言をもらってビルの中に入れてもらい、正面にあった応接室に入った。 中は高級感のある部屋で、ゼアドールがソフィーにズッシリと座っていた。 ゼアドールは顎で横にあったソフィーを指し、俺達は両側に分かれて座った。

 

「それで、お忙しい異界対策課がウチになんのごようだ?」

 

「俺達はある案件を追っています、その過程でこちらに。 単刀直入に言います、あなた方フェノール商会はカリム・グラシアに脅迫状を送りましたか?」

 

「あん?」

 

「実はーー」

 

アリシアはゼアドールに詳細を説明した。

 

「クク、何かと思えばそんなことか」

 

「カリムがそちらの会長と先日揉め事があったと聞きましてね」

 

「会長が引っ叩かれたヤツか。 その時会長は酒が入っていた、提案もその場任せで覚えてもなかった、ほとんど記憶にもないらしい。 ともかくコッチは何の関わりもない話だ。 分かったか、坊主ども?」

 

「そうですか……念のために脅迫状の現物を確認してもらっても構いませんか?」

 

「いいだろう」

 

俺はゼアドールに脅迫状を渡した。ゼアドールは便箋を取り出して文書に目を通した。

 

「陳腐な文面だな。 確かに新立会を妨害したいようだが………ん?」

 

ゼアドールは突然目を吊り上げ、怪訝そうに便箋を見る。 何かに気付いたようだが、鼻を鳴らすとこちらに脅迫状を投げ返した。

 

「身に覚えがないな、それに脅迫状というよりはイタズラじゃないのか?」

 

「え……でも今ーー」

 

「ありがとうございます、捜査のご協力感謝します」

 

何か言い出しそうになったアリシアを手で制し、お礼を言いソフィーから立ち上がる。

 

「行こう、皆。 書き込みはこれで十分だ」

 

「は、はい……」

 

「………………」

 

「ふっ、なかなか肝が据わっているな」

 

「それはどうも」

 

鋭い視線を背に受けながら部屋を出て、そのまま何事もなくビルから離れた。

 

「ふーう、生きた心地がしませんでした」

 

「ありがとうレンヤ、危うく面倒なことになっていたよ」

 

「気にするな、アリシアの疑問も最もだったし」

 

「…………………」

 

そんな中、サーシャはまだ顔色が悪く、身を丸めている。

 

「サーシャ、大丈夫?」

 

「……はい、あの人とは以前面識があったのですが、どうやら覚えていなかったようで逆に気付かれないかドキドキしました……」

 

「あんな人を前にするなら仕方ないと思う。 僕でも勝てるかどうか……」

 

「真っ正面からぶつかりたくはないけど……どうやらフェノールには何か心当たりがありそうだね」

 

「脅迫状の件か。 どうやらこの件とは関係はなさそうだな」

 

「え、どうしてですか? 脅迫状を見て明らかに反応してましたよね?」

 

「ああ、間違いなく何かに気付いたんだ」

 

脅迫状を取り出し、便箋を開いた。

 

「恐らく、気付いたのは差出人の名前……これに反応したんだと思う」

 

「空白……もしかしてフェノールの関係者に?」

 

「いや、そんな態度じゃなかった。 知ってはいるが全く関係がないことを確信していた」

 

「あ……」

 

「確かにそんな素振りでしたね」

 

「フェノールと無関係でありながら強く意識している存在……そういう人物ということですか」

 

「空白ね………………あ」

 

考え込んでいたアリシアが何か思い出したように声を上げた。

 

「これ空白(イグニド)って読むんじゃない?」

 

「イグニド、ですか?」

 

「それなら聞いたことあります、どこからともなく現れた仕事人。 たびたび現れては奇怪な実験をするなんて噂されています」

 

「私もそんな感じ、まあ空白がイグニドって読める人が少ないからあんまり広がりにくいようだけど」

 

「だが、イグニドどそういう人物だとしても……いったいどこにいるのか……」

 

こういうことに詳しい人物なんて………いた。 だがあんまり気乗りしないなぁ。

 

「確証はないが、イグニドについて何か知っているかも知れない人物がいる。 行って見る価値はあるが、どうする?」

 

「私はいいよ」

 

「僕も大丈夫です」

 

「それで、その人物とは?」

 

「ちょうど知りたい事もできたしな。フェノールを強く意識している……つまり敵対もしくは対立している集団。ルーフェンの魔導師一団、ヘインダール教導傭兵団だ」

 

 

 



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110話

 

西部開発区から中央区に位置する港湾地区に移動し、その一角にヘインダールの拠点がある。 建物はルーフェン風で、周りと比べるとかなり浮いている。

 

「ここだな……前にリヴァンから場所を聞いてよかった」

 

「どうする、中に入る?」

 

「ああ」

 

扉に近付き、ノックする。 しばらく待つとメガネをかけた女性が出てきた。

 

「あ……」

 

「時空管理局、異界対策課の神崎 蓮也です。 とある事件に関してカリブラさんに話を聞きければと思いまして」

 

「……はい、リヴァンさんのご友人なら気軽に通せとの団長が。 最もそれを言ってから1年近くご友人は来てませんけど」

 

「あ、あはは……失礼します」

 

微妙に通っていいのか不安だったが、建物の中に入って一階の突き当たりにあった部屋に入れられた。

 

「よお、待ってたさぁ」

 

開け放たれた窓の縁に腰掛けていたのは、ヘインダール教導傭兵団、団長のカリブラ・ヘインダール・アストラだ。

 

「その口ぶりだと来るのが分かっていたみたいだな」

 

「分かったのはついさっきさぁ。 あんたの魔力はよく覚えているさ」

 

(……剄を扱う武芸者は魔力で相手が誰だか判断出来ます。 今回の件とは無関係でしょう)

 

(な、なるほど)

 

ソーマがカリブラの発言の意味を説明し、改めて要件を言う。

 

「それで、何のごようさ? ウチは基本真っ当な商売しかしないさぁ」

 

「どの口が言う……俺達今とある事件を追っている。 その過程で空白(イグニド)という人物を知りたいんだ。 何かに心当たりでもいい、教えてくれないか?」

 

空白(イグニド)? んー、知ってるには知っているが……ほんとちょっとだけだぜ? それでもいいんなら教えてやるよ」

 

「うん、頼むよ」

 

「オーケー、あんたらには借りがあるからな。 俺も一度会ったことがあんだよ、イグニドに」

 

「え⁉︎」

 

驚きでサーシャが思わず声を上げた。

 

「外見は黒のスーツに同色の帽子を目深にかぶっていて素顔を隠しているから、一見すると男性と思うが実際の性別は不明だな。 俺っち達が初めて会った時はフェノール商会とやり合っていたさぁ。 ずいぶんと見透かしたような口振りで、実力も大したもんだったさぁ」

 

「あなた達もフェノール商会と敵対しているの?」

 

「おうさぁ、あいつらとは馬が合わないからなぁ。 そんで、ここからが重要なんだが……イグニドはとある次元犯罪者と手を組んでいるそうさぁ」

 

「それは一体誰なんですか?」

 

「俺っちの口からは何とも言えないさぁ。 ただ……イグニドが誰と組んで何をしているのかは分からないが、ロクでもないことは確かさぁ」

 

「なるほど……情報感謝する。 そのうち対策課に依頼でもしてくれ、リヴァンを寄越すから」

 

お礼を言い、出口の方を向く。

 

「それはありがたいさぁ、ユラギ」

 

「はい」

 

メガネの女性……ユラギにドアを開けられ、そのまま外まで見送られた。 ほれから建物から離れ、車の前で情報を整理した。

 

「それでは皆様。 団長はまたいつでもいらっしゃっても構わないとのこと……またのお越しをお待ちしています」

 

「ありがとうございます」

 

ユラギはお辞儀をして、建物の中に戻って行った。

 

「あのあの、面白い人でしたね?」

 

「ああ見えてかなりの実力の持ち主だよ。 責任感もあるし、相手にならない方がいいね」

 

「はい、正直剣の腕では負けている気がします。 フェノールよりは断然友好的でしたけど」

 

「まあ、あんなヤツだから付いて行けるんだろうな」

 

だが、本題に戻るとあの情報では結局今回の件と結びつけるのは難しい。 しかし、得られた人物像と脅迫状を比較すると、なにかが……

 

「それよりも、空白(イグニド)は確実にいるみたいだね。 正体が分からない以上、結局手詰まりだけど……」

 

「イグニドが属している組織が大なり小なりだとしても、どうやら個人で動いていそうですね」

 

「フェノール商会と戦っていたとすると、あのゼアドールさんとも会っているはずです。 そうなるとかなりの手練れだと思います」

 

「……しかし、そうなると……これはもう、俺達の仕事では無いかもしれないな……」

 

「え……」

 

俺の言葉に、サーシャとソーマは惚け、アリシアは同意するように頷く。

 

「あくまで私達は異界対策課、その副次的の仕事で市民からの依頼を受けているけど……これはその範疇を超えてしまっている。 そのイグニドに遅れは取るつもりはないけど、どうしても後手に回ってしまうのが落ちだね」

 

「もちろん一応特別捜査官である俺は捜査は続行できるが、どちらにせよソーマ達は外れる事になる」

 

「そんな……」

 

「一旦対策課に戻ろう、信頼できる人を……ゼストさんあたりに相談してーー」

 

「ーーいいだろう」

 

突然、誰が会話に入り込んできた。 声のする方を見ると、ちょうど話に出てきたゼストさんがいた。

 

「ゼストさん⁉︎」

 

「どうしてここに?」

 

「ヘインダールはフェノールほどやんちゃしていないが、それでも監視対象でな。 定期的に巡回しているところをお前達が入って行くのを見かけたのだ」

 

「なるほど……それでお願いできますか?」

 

「あの! それはやっぱり私達が引き受けた依頼ですし、私達が最後まで……」

 

「イグニドを探しつつカリムを守りきる……そうなるとどうしても人手が足りなくなるんだ」

 

「もちろんお前達の腕ならその程度どうということはないが、逆に警戒されて尻尾を出さんかもしれん。 後のことは首都防衛隊に任せておけ」

 

「了解しました、連絡はこちらで引き受けます」

 

でわなと言い、ゼストさんは近くに駐車していた車で去って行った。

 

「…………………」

 

「ごめんな、結局こんなことになっちゃって」

 

「い、いえ。 レンヤさん達の言い分も理解できますし、カリムさんとユミィさんには事情を説明して謝らないといけませんね……」

 

「まあ、話を通せば2人も新立会の警備に参加できそうだし、私も出演者としてなんとかしてみるよ」

 

「ありがとうございます、でも大丈夫です」

 

「そうか……そろそろザンクト・ヒルデ魔法学院に戻ろう。 カリムに報告したら一度休もう」

 

「そうですね、それがいいと思います」

 

「それじゃあ、魔法学院に行こうか」

 

少し気が重いが、報告しないわけにもいかず。 また車で魔法学院に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆さん!」

 

「あれ、ユミィさん?」

 

正門をくぐろうとした所で、背後からユミィが駆け寄ってきた。

 

「ユミィ、学院の外に行っていたのか?」

 

「はい、少し用事がありまして。 それで進展はどうなりましたか?」

 

「それは……」

 

そう聞かれるとやはり口ごもってしまう。 その時、本校舎の方から1人の老婦人と女性が歩いてきた。 老婦人はユミィの顔を見ると驚いたように声を上げる。

 

「あら……!」

 

「ユミィ様……?」

 

「お婆様、エリンさん」

 

(え……)

 

(ユミィさんのお祖母ちゃん……?)

 

どうやらユミィはこの2人は家族とその友人みたいだ。 というかこの老婦人って顔は隠しているがどう見ても……

 

「ふふ、なかなか会えませんが、元気にやっているようですね? どうやら今回の新立会も頑張っているそうじゃない」

 

「いえ………まだまだ未熟者なのでカリムさんにご迷惑ばかりですが……クローベルの名に恥じぬよう精一杯、頑張っています」

 

「ふふ……前にも言いましたがそのようなことを気にする必要はありませんよ」

 

老婦人は口に手を当てて微笑むと、こちらの方を向いた。

 

「お久しぶりですね、レンヤさん、アリシアさん。 次元会議以来でしょうか?」

 

「そうですね。 ご無沙汰してます、ミゼットさん」

 

「はやてとはよく会っているって聞いているけどねぇ。 あ、それとこっちは私達の後輩の……」

 

「は、初めまして、ソーマ・アルセイフです」

 

「サ、サーシャ・エクリプス、です」

 

「ええ、初めまして。 私はミゼット・クローベルといいます。 どうやら孫娘がお世話になっているようですね」

 

「ちなみにユミィ様、シェルティス様とは最近お会いになられていなさそうですね? ご友人もいることですし、一度お会いになられてはーー」

 

「も、もう! そういうのはいいから!」

 

ユミィがエリンという女性に否定するような両手を勢いよく横に振る。

 

「ふふ、元気そうでなによりだわ。 焦ることはありません、ゆっくりと自分が納得のいく道を歩いていきなさい。 公私混同はできませんが、出来る限り協力させてもらいますよ」

 

「……はい。 ありがとうございます」

 

ミゼットさんの優しさに、ユミィは本当に感謝している。

 

「それではエリン、行きましょう。 次は視察でしたね?」

 

「はい、5時から湾岸地区に建設中の施設となります」

 

2人は歩きながら次の行き先を確認して、路上に止めてあった車に乗って行った。

 

「ご家族と仲がいいんだね?」

 

「あはは、皆さんのお話は祖母からよく聞いています。 それで例の件についてはどうなったのですか?」

 

「え、ええっと……」

 

「それはカリム達を交えて話すよ」

 

「ところで、そのユミィさんのお婆さんがどうして魔法学院に来てたんですか?」

 

「ああ、そうだね……」

 

ソーマの質問に、ユミィは少し考えてから答えた。

 

「今回の新立会は、ミッドチルダの創立記念祭と合わせて開催されるそうだから……その関係で打ち合わせに来たんだと思うよ」

 

疑問が解消された後、ユミィと一緒に新立会の会場に向かった。 会場は先ほどより整っていて、ちょうどステージにはカリムとシャッハがいた。

 

「カリムさん、シャッハさん! ただいま戻りました!」

 

「あら、お帰りなさい」

 

「陛下達もご一緒でしたか。 何か進展でもあったのですか?」

 

「は、はい……」

 

「ちょっと、残念な報告もしないといけないが……」

 

「え……」

 

「……構いません。 お話をお聞かせください」

 

俺はイグニドのこと、イグニドを雇っている勢力、そして首都防衛隊に護衛を引き継ぐことも事細かに報告した。

 

空白(イグニド)……そのような危険な人物が……」

 

「そ、そんな……本当にそんな人がこの街に?」

 

「ふう、どうやら……冗談ではなくなりましたね」

 

「ある勢力がイグニドの名を使っているか、もしくはイグニド個人で脅迫状を出したのかは不明だけど、イタズラである可能性は低くなったきたみたいだね。 ま、そうなったとしても、新立会は中止できないけど」

 

「え、なんでですか⁉︎」

 

「この新立会には各方面の援助もあり、かなり注目度が高いものになっています。 私個人のために中止に追い込むことは、あってはならないのです」

 

「開催も残りわずかです、今更中止にしてしますと教会としても尊厳に関わってしまいます」

 

「となると、他の部署の警備などを引き継ぐ形になっても構わないと……?」

 

「まあ、もちろん教会騎士団が警備を担当するのですが……どうしても内外同時に担当してしまっているので人手不足でして。 正直言ってしまうと助かります。 首都防衛隊、かのゼスト氏が引き連れる部隊。 安心して身を任せられます」

 

「………あ、あの、それじゃあ……レンヤさん達はこれで捜査の方は……?」

 

「ああ……申し訳ないけど。 まあ、後は防衛隊が引き継ぐし、心配することはないと思う」

 

少々心苦しいが……カリム自身信用しているし、ゼストさんの実力は知っている。 安心して任せられる。

 

「そ、そうですか……」

 

「申し訳ありません、この埋め合わせはいつか必ず」

 

「気にしないでください、さすがに僕にも身に余りましたし」

 

カリムとシャッハの謝罪に困りながらも、2人は忙しなく新立会の準備のために分かれ。 ユミィに正門まで見送られた。

 

「すみません……その……何だかご迷惑ばかりかけちゃったみたいで……」

 

「いや、気にしないでくれ。 元々捜査なんて地道な無駄骨の繰り返しだからな」

 

「防犯とか、そんな感じですよ」

 

「そうですよ、ユミィさん。 僕達のことは気にしないで新立会、頑張ってください!」

 

「はい、ありがとうございます。 それでは私はこれで、皆さん、ありがとうございました」

 

ユミィがお礼を言って、本校舎に入るのをしばらく見送った。

 

「……はあ……今日はもう帰るか」

 

「ですね……」

 

「何だか気が抜けてしまいました」

 

「そうだねぇ」

 

色の濃い一日だったので、終わったと分かったら疲れが出てきた。 異界対策課に戻り、課内にいたアリサ達に今回の件を報告した。

 

「なるほどね、大体事情は判ったわ。 それで? あなた達はこのままでいいのかしら?」

 

「いいもなにも、僕達が出た所でいい迷惑だと思いますし」

 

「確かに、ゼストさんは許可すると思うけど、他の管理局員にはまだ確執があるからね。 どうしても揉め事になっちゃうんだよ」

 

「へえ、そういうのがあるんですね?」

 

「突然できた異界対策課、それを良く思わない人は多かれ少なかれいるもんだ。 特にこう言う怪異と関係ものになると途端に否定ばかりする」

 

「依頼を受けると確率的に何んらかの事件とか関わるからね、その度にいざこざがあるんだけど……ただし、黙ってやる分には話は別だよ」

 

「え……」

 

アリシアの言葉に、ソーマは驚いた。

 

「この異界対策課はある意味規格外の部署だ。 その性質上、ある程度の裁量が任せれている。 それこそ黙ってやる分には他の部署の警備を踏み越えられるくらいな」

 

「あの……そんな事を言っても大丈夫ですか?」

 

「基本、俺達は管理局に放し飼いされているようなもんだ。 さっきはああ言ったが、2人はどうやっても構わない。 後処理は俺に任せろ、これでも二等陸佐の位は飾りじゃないんでね」

 

「決めるのは、あなた達だよ。 そのための協力は惜しまないから」

 

『………………』

 

すずかの助言に、2人は考え込む。

 

「明日はレルムも自由行動日だ。 焦ることはない、ゆっくりと答えを出してくれ」

 

ソーマとサーシャは無言で頷き、一旦解散となった。 その後ラーグとソエルが帰ってきて、溜まっていた書類がまた追加された。 文句言いながらも書類を片付けていき、今日は帰らないと分かるとファリンさんに対策課で寝泊まりすると連絡した。 他にもルーテシア以外もここで寝泊まりするようだ。

 

こうなる事も多いからもう仮眠室ではなくて個人の部屋を作ってしまっている。 そうなると色々と問題があるのだが、ラーグとソエルの提案で地上本部の3フロアが異界対策課が所有していることになってしまっている。 やり過ぎたと否定しようにも正論ばかりで結局却下できなかったし、その上下2フロアは無人だからよかったものの、はっきり色々と言って荷が重い。

 

「ふう〜、ようやく終わった……」

 

時間を見るとまだ9時くらいだった。 以外にも早く終わったことに驚いた、いつもの倍は書類があったのに。 少し気を休ませるため、いつの間にか作られたガラス張りの展望テラスのある場所に向かう。

 

「ん?」

 

テラスに近付くにつれて話し声が聞こえてきた。 耳を澄ましてみると……どうやらソーマとサーシャが会話しているようだ。 おそらく例の件についての相談だろう、2人ともかなり悩んでいるようだ。

 

心の中で応援しながら静かにその場を離れ、もう寝ようと思い自室に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

朝に朝食を食べた後、ソーマとサーシャは捜査の続行を希望した。 早速今後の行動を起こすための会議室でミーティングを始めた。 今回はラーグとソエル、ルーテシア達も一緒に参加している。

 

「ーーとなると、イグニドの動向を知る必要があるな」

 

「あの、そもそもイグニドの存在を認知しているのはどれくらいいるんですか?」

 

「そうね、あなた達に情報提供したヘインダールは当然として。 敵対しているフェノール商会、それに首都防衛隊もありえる……後は、フェノールと関係のあるギャラン議長も知っていそうね」

 

「ギャラン議長? それって確か、次元会議で出席してい大物政治家だよね? フェノール最大の後ろ盾でもあるらしいね」

 

「そうなるとイグニドとは敵対関係にありますね、関係は薄そうです」

 

「捜査方針としてはまず、イグニドに迫る必要があるね。 といっても切り口が多々あるし、逆に迷っちゃうよ」

 

「そいつの背景を調べるのも可能性としてはあるが、思い当たる次元犯罪者はいるがどれも決め手に欠けているし……」

 

「……………………」

 

先ほどから提案を出しては悩むの繰り返しを続けていたが、未だにまとまらない。 そして黙って考え込んでいたサーシャが唐突に空間ディスプレイを開いた。

 

「サーシャ……?」

 

「どうしたの?」

 

「管理局のデータベースをもう少し漁ろうかと。 防衛隊の動向なども掴めるかもしれませんし……ただ、昨夜調べたばかりなので追加情報はないかもされませんけど」

 

「そうか……」

 

「やらないよりはマシかな」

 

サーシャはまず異界対策課のデータベースにアクセスしてから検索を開始しようとすると、ちょうど今メールが届いた。

 

「珍しいね、こっちにメールなんて」

 

「いつもは大体個人の端末に送られてくるのにな」

 

「それで、誰からなんですか?」

 

「今、開いてみるよ」

 

送られてきたメールを開いて、内容を読むとサーシャは突然惚けた声を出した。

 

「? どうかしたの?」

 

「なんだなんだ?」

 

アリサとアギトは横からディスプレイを覗き込むと、顔を強張らせた。

 

「どうしたんですか? 何かおかしなものでも……」

 

「い、今そちらにも表示します」

 

目の前に空間ディスプレイが開き、メールの内容が映し出された。

 

〈空白より依頼。 試練を乗り越えて、私の元に辿り着いてください。 そうすればあなた達に真実を〉

 

まるでタイミングを見計らったかのようなメールだ。 サーシャは出所を調べるためにキーボードを打ち込む。

 

「これは……」

 

「まさか、本当に……?」

 

「サーシャちゃん、このメールはどこから?」

 

「どこの管理局施設でもありません……」

 

それから数秒で出所を特定した。

 

「分かりました。 ミッドチルダ次元銀行(Dimensional Bank of Midchilda)……通称、DBMです」

 

そんな場所から空白の名が使われたメールが? あそこは管理世界、管理外世界のお金を取り扱っている場所だ。 俺達が地球のお金をミッドチルダのお金に換金しているのにも使用している。

 

「どういうことだろう……?」

 

「なんであんな所から……イタズラにしてはタイミングが良過ぎます」

 

「私に聞かれても……でも、間違いなくこのメールはDBMの端末から送られています」

 

「…………もしかして空白がDBMに潜入しているのかな?」

 

「正直、あり得なくないわね。 DBMのビルには他にも外部の会社も幾つか入っているわ」

 

「でも……どうやらこのメールはDBMのメイン端末から送信されているね。 外部の会社が関わっている可能性は低いよ」

 

メイン端末に触れられるのはその関係者と責任者は含めてもかなり少ない。 空白が関係者に成りすましてメイン端末を操作して送ったのか、それとも……

 

「……直接聞いてみるしかないね。 なるべく防衛隊には内密に捜査を進めないといけないかな……」

 

「さすがに身分を明かさないで聞くのは難しいと思いますけど。 横槍が入る前になんとかしたいですね」

 

「それなら大丈夫だ。 友人にDBMの関係者がいるんだ。 その人に事情を話せば力になってくれると思う」

 

「アトラスさんだね、確かに力を貸してくれそうだよ」

 

すずかが何気なく言った名前に、サーシャは反応した。

 

「え、アトラスさんって……もしかして、アトラス・オルム?」

 

「そうよ、有数の資産家にして次元経済の中心人物の1人……現DBM総裁よ」

 

「ええっ⁉︎ 銀行のトップですか⁉︎」

 

(コロン)

 

「そ、以前レンヤが総裁から依頼があったね。 それ以来私達にも良くしてもらっているんだ。 事情を説明したら快く引き受けてくれるよ」

 

「忙しいから、会えるかどうかは分からないが……訪ねるだけ訪ねてみよう」

 

「それにしても、なんのつもりだ? こんなメールを送って来やがって。 脅迫状もそうだが、どうゆうつもりなんだ」

 

「ここは相手から接触したきた、あえて乗ってみましょう」

 

捜査の目処がつき、昨日のメンバーで車で向かい、DBMビル前まで着いてから徒歩で坂を登ってビル前に来た。 DBMビルは小高い丘の上に建っており、防犯の為にかなり強固なゲートが設置されていた。

 

「DBMビル……何度見てもすごいですね」

 

「改めてこうして見ると……20階くらいはあるね」

 

「確か24階建てのはずだ。 そのうち5階から10階までが外部が入っているみたいだな」

 

「そうなんだ……」

 

「ほうほう……ミッドチルダの税収に相当、貢献していそうですね」

 

DBMビルを見てそれぞれが感想を言う。 ここではそれほど目立つわけでもないし、珍しくもないが……どこか最先端の技術を感じさせる。

 

「それでどうするの? アポイントなしで来ちゃったけど」

 

「そうだな……とりあえず中に入って受付で聞いてみよう」

 

「とりあえずって言いましたよ……ノープランですか⁉︎」

 

「行き当たりばったりと言え」

 

「同じ意味ですよ……」

 

「ーーあら?」

 

DBMの方から女性の声が聞こえてくると、ミゼットさんの秘書のエリンさんが歩いて来た。

 

「奇遇ですね、こんな所で会うなんて。 ここには管理局の用事で?」

 

「はい……少し調べ物がありまして。 エリンさんはミゼットさんのご用事ですか?」

 

「ええ、運営資金の管理についての相談に。 来月から特に忙しいくなるので、色々とやりくりが大変なのです」

 

「……そうですか」

 

「ふふ、そう心配なさらなくていいですよ。 あなた達にはミゼット議長も含めて本当にお世話になっています。 はやてさんの件も快く引き受けます。ユミィ様とシェルティス様にもよろしく伝えおいてください。 古代遺物管理部機動六課……楽しみにしてますよ」

 

エリンさんは軽く礼をすると、坂を下りていった。

 

「エリンさんはシェルティスさんともお知り合いでしたっけ?」

 

「あの人達の孫同士、交流があるんだろう」

 

「それに、秘書にしては鍛えられていましたね。 彼女も魔導師なのですか?」

 

「そうだよ。 確かミゼットさんの護衛も兼任していたはずだよ。 結構な腕前だってミゼットから聞いたことがあるよ」

 

「なるほど、納得です」

 

「おやおや〜?」

 

またDBMの方から声がすると、こんどはクイントさんが現れた。

 

「いや〜、久しぶりだね。 活躍は耳によく入ってくるよ。 異界対策課、頑張っているそうじゃない」

 

「クイントさん……」

 

「久しぶり〜、メガーヌとは一緒じゃないの?」

 

「あ〜、メガーヌとは別行動しててね。 それはそうと……DBMに何か用事でも? 何かの捜査にでも来たのかしら?」

 

「い、いや別に……大したことじゃないですよ」

 

「は、はい。 ちょっとした問い合わせに来ただけです」

 

「ふーん……まあいいか。 あたしも忙しいからこれで、それじゃあ、まったね〜!」

 

クイントさんは駆け足に坂を下りていった。

 

「忙しい人でしたね……」

 

「でも、クイントにしては突っかかりが弱かったね。 そんなに忙しいのかな?」

 

「…………………」

 

「レンヤさん?」

 

「あ、ああ……まあそれはともかく、そろそろビルに入ろう。 面会できないか受付で聞いてみないと」

 

クイントさんがここに来た理由に疑問に思いながらもDBMに入り、受付で依頼のお礼など言われながらもアトラスさんがDBMにいることがわかり、アトラスさんは快く面会を引き受けてくれた。 認証カードをもらい、そのままエレベーターに乗り込んだ。

 

「えとえと……総裁さんの部屋は最上階でしたよね? カードを貰ってましたけど、あれはなんですか?」

 

「これか? これは認証用のカードだ。 他の会社も入っているから、関係のあるフロアでしか降りられないようにしているんだ」

 

「なるほど、セキュリティ対策ですか」

 

「そういうこと……カードを使うぞ」

 

エレベーターの奥にあったパネルにカードを置き、最上階のランプが点灯しそれを押すとエレベーターが上昇し、数秒して最上階に到着した。 エレベーターを降りて少し歩いて総裁室の前に来て、ドアにノックをした。

 

「ーーアトラスさん、レンヤです」

 

『入ってくれ』

 

「失礼します」

 

許可をもらい総裁室に入った。 部屋は奥の壁が一面ガラス張りになっていて、丘の上に建ってあることもあって見晴らしはとても良い。 その手前にある席に座っていたのはスーツを着た茶髪の男性だった。

 

「やあレンヤ君、久しぶりだね。 かれこれ半年ぶりくらいになるのかな?」

 

「そうですね、アトラスさんも元気そうで良かったです。 アポイントないでどうもすいません」

 

「はは、水臭いことは言いっこなしだよ。 君達には何度もお世話になっている、この程度何の問題もない」

 

「うん、ありがとうね、アトラス」

 

「それと……そちらが君達の後輩かな?」

 

「は、初めまして。 ソーマ・アルセイフです」

 

「サ、サーシャ・エクリプス、です……」

 

「ふふ、そう硬くならなくてもいい。 DBMの総裁を務めているアトラス・オルムだ。 ソーマ君、サーシャ君、どうか私のことは遠慮なく、アトラスと呼んでくれ」

 

アトラスさんはフレンドリーな性格で、社員にも親しまれているが……初対面だとどう反応していいのか戸惑うことが多い。 現にソーマとサーシャはそうなっている。

 

「それで、管理局の仕事で相談したい事があるそうだが……一体どうしたのかな?」

 

「はい、実は……ある事件を追って捜査を進めているのですがーー」

 

今朝届いたメールについてと、脅迫状の件も含めてアトラスさんに事情を説明した。

 

「ーーなるほど。 その空白(イグニド)という人物がDBMから君達のオフィスにメールが送られたのか」

 

「はい、恐らくこのビルのメイン端末からだと考えられます。 それを操作、あるいはハッキングして送った可能性が高いかと」

 

「ふむ……このビルのセキュリティには正直、自信があってね。 特に端末室があるフロアには許可された人間しか入らないようにしている。 端末の操作も、権限がある者しか出来ないようになっている。 言いたくはないが、恐らくハッキングの可能性が高いだろ」

 

「そうだね……わざわざ自分の居場所を教える行為をしている訳だし」

 

「たとえそうだとしても、ここに誰にも気付かれずにハッキングするのはかなりの腕が必要です。 空白本人の実力かもしれませんが、仲間がいると考えてもいいです」

 

「そうなると、やはりハッキングの線が高いですね」

 

「ふむ、信頼するスタッフが疑わずに済むのはいいのだが……メイン端末がハッキングされたというのもそれはそれで由々しき問題だ」

 

確かに、次元世界を抱える大企業がハッキングされたというのは、色々と問題が発生するな。 アトラスさんはしばらく沈黙を続け、数秒たったころに口を開いた。

 

「よし、こうしよう。 君達が端末室に入れるように手配する」

 

「え……」

 

「えっと、いいんですか?」

 

「ああ、メイン端末を調べればハッキングの痕跡などが残っているかもしれないし……スタッフも詰めているから話を聞くこともできるだろう」

 

「……助かるよ」

 

「アトラスさん……どうもありがとうございます」

 

「いや、こちらにとっても見過ごせない問題だからね。 さて、本当なら私が案内したいところだが……あいにくこの後、色々と予定があってね」

 

「すみません。 忙しい時に……」

 

「気にしないでくれ。 しかしそうだな……スタッフの誰かをここに呼ぶとしようか」

 

「ーーその必要はありません」

 

女性の声が聞こえ来たと同時に総裁室の扉が開かれ、アトラスさんと同じ髪色でスーツを着た、メガネをかけた女性が入って来た。

 

「え……?」

 

「メルファ……!」

 

「おお、帰ってきたか」

 

「ただ今戻りました。 レンヤさん、アリシアさん、お久しぶりですね」

 

「メルファこそ、久しぶりだな。 紹介する、彼女はメルファ……アトラスさんの娘さんで俺達の友人だ。 メルファ、この子達は対策課の後輩で、ソーマとサーシャだ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「えとえと、どうもです」

 

「はい、私はDBMの総務に勤めている、メルファ・オルムと言います。 レンヤさん達の後輩……なかなか見所がありそうですね」

 

メルファはメガネを押し上げ、2人を値踏みするような目で見つめる。

 

「あうあう……」

 

「あんまりそう見つめては相手も困るぞ、メルファ」

 

「はい、失礼しました。 ソーマさん、サーシャさん、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」

 

「い、いえ……お気になさらず」

 

「はは、若い者同士、我が娘と仲良くしてくれ。 そろそろ時間なので、私は失礼するよ。 メルファ、後で彼らを端末室に案内してくれ」

 

「はい、了解しました」

 

アトラスさんは後のことをメルファに任せると、総裁室を後にした。

 

「それでは参りましょう、端末室にご案内します」

 

「え〜っと、事情を聞かないのですか?」

 

「総裁も許可してますし、レンヤさん達も信頼できる人物です。 詳しく話はエレベーターに乗りながらにでも」

 

「話が早くて助かるよ」

 

移動しながら事情を説明し、エレベーターに乗り込み下に下りていった。

 

「しかし……空白と言いましたか。 その人物の目的は判明したのですか?」

 

「それはまだ判らないが……脅迫状とメールだけど、あれは同じ人間が書いたものじゃないな」

 

「え……?」

 

「どういう事ですか?」

 

「ああ、単純な話だ。 カリムが受け取った脅迫状は不気味だけど単純な言い回し……俺達が受け取ったメールは書いた人物の口調が入った挑発的な言い回し……ずいぶん感じが違うと思わないか?」

 

「……確かに」

 

「言われてみればそうですね……」

 

「メールが来たこ事に驚いて、そこまで考えられなかったよ」

 

今朝、メールを読んだ時に違和感を感じていたことだ。

 

「なるほど……それで、それが何を意味していますか?」

 

「そうだな……色々と憶測が出てくるが、空白に仲間がいてそいつに書かせたのか。 それとも空白本人が意図的にそう書いたのか。 他にもあるが……確証がない以上、これ以上の推理は逆に危険だな」

 

「なるほど……あ、そろそろ着きますよ」

 

途中から地下に入り、しばらくして最下層に到着した。

 

「ここが地下5階……メイン端末があるフロアです。 端末室はこの先にあります」

 

「随分、厳重な場所に設置されているんだな」

 

「設立当初からセキュリティ対策としてここに設置されているのをそのまましているだけです」

 

階段を降りて突き当たりにあるゲートを開けて入ると……中は最先端の技術の塊だった。 円形を象って置かれた無数のディスプレイ、そしてその背後に控えるその数倍の大きさの巨大ディスプレイに表示されている緑色の文字の羅列が高速に文字を変化させながら流れている。

 

「これは……」

 

「す、凄そうですね……」

 

「メルファお嬢様……?」

 

研究員が俺達の存在に気付いた。どうやら端末室に常駐する専門のスタッフのようだ。 メルファは彼らに事情を説明してメール送信の痕跡を辿らせてみたが、送信システムがクラッキングされたことが判明したこと以外はわからなかった。

 

「………あのあの、端末を一つ、貸してもらってもいいですか?」

 

「ええ、いいですよ。 よろしくお願いしますね、サーシャさん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

サーシャは空いていた席に座り、デバイスの一部を起動して頭にヘッドフォンを取り付けた。

 

「アクセス………エイオンシステム、起動」

 

ヘッドフォンが赤く明滅し、サーシャのワインレッドの瞳が薄い光を放つ。 正面にある大型ディスプレイと座席に設置されている三つのディスプレイに表示されている赤い文字が今までとは比べ物にならないほどの速さで移動する。

 

「不審と思われるログを抽出しますので調べてください」

 

2人の研究員は驚きに身を包まれながらも先ほどとは別人サーシャの指示で動いた。

 

「……レンヤ、分かる?」

 

「うーん、すずかがサーシャと協力して何か作っていたのがあれとしか……」

 

「なんというか、全く別次元な感じです」

 

「なるほど、魔法をノーウェイトで発動するための高速展開技術を端末のコントロールに利用してますね。 彼女自身、近接戦闘タイプなので使う機会がなさそうですけど」

 

「え、分かるんですか⁉︎」

 

「メルファは分析とかが得意だからな。 ま、詳しい話はすずかに聞こうっと」

 

しばらくして、低い機械音が響いた。 どうやらハッカーはジオフロントB区画、第8制御端末からアクセスしたらしい。 ミッドチルダ中央区、北西部の地下エリアだ。

 

「北西部ね……レンヤ、どうするの?」

 

「早速、行ってみよう。 ジオフロントのゲート管理は、たしか役所の管轄だったはずだ。 ソエルに連絡して、解除コードを送ってもらおう」

 

「はい、それではさっそく行ってみましょう」

 

「……どうやら、核心に近付いたようですね」

 

「ああ……色々とお世話になったよ。 サーシャもお疲れ様」

 

「い、いえ、エイオンシステムが完成していたおかげですよ。 それに私も、異界対策課の一員ですし……」

 

「あはは、そうだね。 僕も負けていられないね」

 

「ふふ……事件が解決しましたらできれば事の顛末を教えてください。 それと、お渡ししたセキュリティカードはそのままお持ちください。 最上階とこのフロアならいつでも来られるようにしておきますから、何かあったら遠慮なく訪ねてください」

 

「ありがとう、メルファ」

 

「それじゃあ、失礼するよ」

 

俺達はお礼を言ってこの場を離れた。 目指す場所はジオフロントB区画の入り口がある北西部だ。

 

 



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111話

 

 

車で移動中にソエルからジオフロントB区画に入るための解除コードを送ってもらい、入り口前に到着したらそのまま解除コードを使用してジオフロント内に入った。

 

「ここがジオフロントB区画か。 構造自体は他のジオフロントと同じようだな」

 

「データベースによると、ミッドチルダの水道施設を管理している一角のようですね。問題の第8制御端末室は上層のどこかにあると思います」

 

「メールの内容を見る限り……私達を待ち受けている可能性が高いかもね」

 

「本当に話があるのか、それとも罠なのか……用心して慎重に進みましょう」

 

「ああ、行こう」

 

ゲートの先を潜り、ジオフロントの探索を開始した。 中は他のジオフロント同様に入り組んでおり、現実の迷宮のような印象を受けたが、グリードがあるわけでもなく。 たまに暴走した掃除ロボットを相手にしながら第8制御端末室に辿り着いた。

 

「あそこのようですね」

 

「人の気配は……しませんね」

 

「とにかく入ってみよう、なにか残しているはずだ」

 

「うん、了解」

 

中を警戒しながら突入し、罠などの類はないことがわかると警戒を解く。 中は以前爆破された第6制御端末室と大差ない。

 

「誰もいませんね……」

 

「誘っておいて……どういうつもりなのかな?」

 

「さぁて、な?」

 

制御端末室の奥にある座席の上に、一枚のカードが置いてあった。 手に取ってみると……また空白からだ。

 

〈今門は開かれました。 いざ星の塔に挑み私の望みを受け取ってもらえますか?〉

 

「置き手紙とは、また洒落ているな」

 

「ふうん? ………ずいぶんと回りくどいことするんだね」

 

「そうですね。 この星の塔というのはどこにあるんでしょうか?」

 

「恐らく、ミッドチルダ南部にある星見の塔だろう」

 

「星見の塔……古代ベルカ時代に造られた古い塔ですね。 天体観測場として機能していたそうですが、今は封鎖されているはずです」

 

南部に行こうとすれば絶対に目にする石造りの塔。 だが知っていても誰も訪れる事はない場所だ。

 

「とにかく手掛かりはこれしかないから、早く行こうよ」

 

「はい」

 

「………………」

 

「サーシャ?」

 

「え、あ、はい⁉︎ なんですか?」

 

「どうかしたの? ボッーとして」

 

「い、いえ、ちょっと次元会議のことを思い出しまして」

 

「ああそうか、その時にこことは違う第6制御端末室が爆破されたことを前に言ったな」

 

「まあ、確かに思い出すかな。 とにかく行こうか、アリサ達にも一言連絡しておかないとね」

 

「あ、僕がやります」

 

第8制御端末室を出ながら連絡をする中、サーシャは目を閉じて考え込んでした。

 

(あのハッキングの癖……次元会議の時に会った人と似ていた。 まさか、空白の背後にいるのって……)

 

サーシャはすぐに頭を左右に振ると、駆け足で後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央区から南部に繋がる郊外にある本道、その途中に森へと続く脇道がある。 その先には森をゆうに超える高さを誇る古風な塔が建っている。 そこが星見の塔、空白が指定した場所だ。 ちなみにこの他にも古代ベルカ時代に作られた建物はある。 月の僧院と太陽の砦、俺が産まれる前に三つとも調査されたらしいが、ただの古い建物としか判明せず、それ以降放置されているらしい。

 

「ここが、星見の塔ですか……」

 

森を抜けた所でソーマが車の窓から顔を出し、塔を見上げる。 だが、塔の入り口に車と管理局の地上の制服を来た人物がいる。

 

「……あれは、陸上警備隊の車両か」

 

「はい、警備隊で使用している軽装甲機動車ですな。 何でこんな所に来てるんでしょう?」

 

「直接聞いた方が良さそうですね」

 

ここで車を降りて、徒歩で塔の入り口にまで行く。 塔の前にはフェンスと思われる破片が散乱していた。

 

「一体、誰の仕業なのかな……? こんな場所に入る物好きなんていないと思うけど……」

 

「おーい!」

 

アリシアが呼びかけ、振り返ると……その人物はギンガだった。

 

「皆さん⁉︎ どうしてここに?」

 

「やっぱりギンガだったね」

 

「お久しぶりです、ギンガさん」

 

「そうだね、ソーマ君も元気そうで良かったよ。 サーシャちゃんも久しぶりたね」

 

「ど、どうもです」

 

「ところで……どうしてこんな場所に? あまり人が立ち寄る場所じゃないと思いますけど……」

 

「ああ、少し事情があってな。 それより、そこのフェンスはどうしたんだ?」

 

「その、どうやら何者かによって破壊されたみたいなんです。 元々この塔は危ないから警備隊が封鎖してたんですけど……私も定期巡回をしていて、ちょうど発見したばかりで」

 

「そうか……」

 

このタイミングで破壊されたフェンスか……となると、犯人はあいつだけか。

 

「アリシアさん……」

 

「そうだね、間違いないだろうね」

 

「???」

 

「ああ、実は……」

 

話が見えないギンガに、これまでの経緯をかいつまんで説明した。

 

「次元犯罪者に加担する正体不明の人物……⁉︎」

 

「うん……そうなんだよ。 その人から、この塔で待っているって伝言をもらってね」

 

「それでダメ元で調べに来てみたんだが……どうやら本当に待ち受けているみたいだな」

 

「は〜、街ではそんなことが……それで、どうするんですか? まさか本当に誘いに乗るわけじゃないですよね?」

 

「いや……あえて乗ってみるつもりだ」

 

俺の提案に、ギンガは驚いた。

 

「え、で、でも……相手は危険な犯罪者ですよ⁉︎ いくらレンヤさん達が強いからってどんな罠があるかもしれませんし……何だったらお父さん、隊長に連絡して応援を……」

 

「いえ、相手は相当なプロだと思います。 下手に大部隊を動かしたら感づかれて逃げられてしまいます。 ここは少人数で行った方が安全です」

 

「それは……そうかもしれないけど……」

 

「別に私達は、今の所空白を捕まえる気はないよ。 あくまで会って話を聞いて……それから空白をどうするかを決めればいいだけ」

 

ソーマとアリシアの言葉に納得しているが、しばらく考え込んでから口を開いた。

 

「……分かりました、だったら止めません。 その代わり……私にも協力させて下さい!」

 

「ええっ……⁉︎」

 

「あ、あのあの……いいのですか?」

 

「一応、この塔の管理は陸上警備隊の仕事ですし。 皆さんだけに危険な目に遭わせるわけには行きません。 それに、この前スバルがお世話になりましたし……ギンガ・ナカジマ陸曹、全力でサポートします!」

 

許可云々言う前について行くことが決定しているな。 相手の返答を聞く前に質問や決定するの、スバルに似ているな。 姉妹だから当然か。

 

「うーん、どちらかとかと言えばお世話になったのはソーマ達の方で俺ではないんだが……」

 

「ま、いいんじゃないの? 腕も確からしいし、ここは手を借りておこうよ」

 

「そうですね。 バックアップがいれば、私達も助かりますから」

 

「問題は空白が警備隊員を警戒しないかくらいですけど……1人なら大丈夫じゃないですかね?」

 

「……そうだな」

 

クイントさん直伝のシューティングアーツも、身体を見れば身に付いているのもわかるし。 このまま残しておくのも忍びない。

 

「ギンガ陸曹……よろしくお願いするよ」

 

「はい、お任せ下さい!」

 

そうと決まれば、早速塔の中に入った。 塔内に入いると……そこには幻想的な風景が広がっていた。

 

「これは……」

 

「……すごいね……あの光っているのは蛍か何かかな?」

 

「うーん、そうみたいですね。 どうもこの塔、封鎖されてから十年近く放置されているみたいで。 本当は、ちゃんと調査した方がいいとは思うのですが……」

 

「あはは……警備隊も大変で、そんな余裕もないですよね」

 

「はあ、そうなんだよね……」

 

「ま、こうなると、俺達に任されそうだがな」

 

「……ですよね」

 

仕事が増えたのが嫌なのか、サーシャが落ち込む。

 

「それにしても、この空間……変わっているね」

 

「変わっている……?」

 

「どう言うことですか?」

 

「どこからか異界に似た気配を感じる……異界の影響がこの塔に出ているね」

 

「え……なんでそんなことが……」

 

ギンガが訳のわからない顔をする。 改めて塔内部とはかけ離れた揺らいでいる空間を見つめると、現実に引き戻すように奥から重い足音が聞こえてきた。

 

「この音は……」

 

「まさか……!」

 

先に続く通路から現れるたのは、甲冑を纏った巨大な騎士のような2体のグリードだった。 とっさに俺達はデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「ええっ⁉︎」

 

「こ、これは……⁉︎」

 

「っ、まさか本当に出るとはな……!」

 

「来るよ!」

 

1体のグリードが突進して来た。 迎撃しようとギアを1つ駆動させた時、後ろからギンガが突然飛び出した。

 

「せいやっ‼︎」

 

そのままグリードに飛びかかると、頭を両手で抑えて顔面に膝蹴りを入れた。

 

「ええっ⁉︎」

 

「ギ、ギンガさん……⁉︎」

 

「し、しまった! つい条件反射で!」

 

そう言いながらも両手を肩に移動させてそのまま直立し、手の力だけで頭上に飛び上がった。

 

「ふっ、せい!」

 

その状態から体を捻り、脳天に踵落としを落とした。 その攻撃で甲冑型にグリードは顔と頭が凹んでしまった。

 

「す、すみません皆さん!」

 

「ふう、クイントさんの影響だな……」

 

「あ、あはは……あの人時々過激な事を教えますからね」

 

苦笑いしながらも、ソーマは剣を投擲して転移し、もう1体のグリードを薙ぎ払う。

 

「行きます!」

 

サーシャが倒れたグリードの上に飛び上がり、輪刀ごと落下してグリードの胴に刃がめり込んだ。

 

「レンヤさん、アリシアさん!」

 

「了解! フォーチュンドロップ!」

 

《イエス、マイスター。 ダガーブレード、リミットスクウェア》

 

「とう!」

 

2丁拳銃に魔力刃を展開し、小太刀と合わせて4方向からグリードを切り裂いた。

 

《セカンドギア、ドライブ。 ソニックソー》

 

虚空刹(こくうせつ)!」

 

2つ目のギアを駆動させて刀に魔力を走らせる。 そしてもう1体のグリードの頭上に飛び上がり……

 

「はあっ!」

 

一回転しながら縦に真っ二つにし、グリードは消滅した。 ここ(現実)にいることは問題だが、大したて強くはなかったな。

 

「なんで現実世界にグリードが?」

 

「空白によるものなのか、それともここに異界があるのか……はっきりした事は分からないな」

 

「ただでは通らせてはくれないわけですね……」

 

「とはいえ、この場所の空間はかなり乱れているていることには変わらないよ……本人に聞けば、分かると思うけど」

 

そう言ってまとめたアリシアにギンガは咳払いを一つ、真剣な顔で全員を見回した。

 

「……どうやら警備隊がここを放っておいたのは完全に間違いだったようですね……行きましょう、皆さん。 私としても、この塔の中を調べたくなりました」

 

「ああ……慎重に探索を開始しよう」

 

「やれやれ、まさか現実世界でグリードを相手にするなんてね」

 

アリシアはそう愚痴りながらも顔はワクワクしている。 現実世界の迷宮の探索……まさか本当にやるとは思わなかったな。 グリード自体は大したこともなく、ソーマ達をフォローしながら塔を登った。

 

そして最上階の手前の広間に到着した。 そこには無限書庫には劣るがそれでも巨大な書棚と赤と青の天球儀があった。 古代ベルカ時代に天体観測をしていたのは間違いなさそうだ。

 

「ここは……」

 

「すごいです……」

 

「明らかに放置するものじゃないと思うけど……」

 

「ふふ……ここは古の魔導師……いえ、錬金術師が造った夢の産物といったところです」

 

突如、男の声が聞こえてくると……書棚の上に、黒のスーツを着て同色の目帽子を深くかぶった人物がいた。

 

「お前は……!」

 

「黒スーツに帽子……!」

 

「現れましたね!」

 

「初めまして、異界対策課の皆さん。 どうやらお客さんが1人、増えたようですが?」

 

「……私はただのサポートです。 どうかお気になさらず」

 

「ふふ……いいでしょう」

 

ギンガの存在に、大した気にもせず書棚を蹴って飛び。 俺達の前に降り立つ。 帽子を常に抑えていて、どうも顔を見せたがらないようだ。

 

「お会いできて光栄です……私は空白(イグニド)、どうか見知り起きを。 ここまでのご足労、誠にありがとうございます」

 

「……ああ、随分と引きずり回してくれたからな。 ちなみに、塔にいるグリードはお前とは無関係か?」

 

「その通り……あれは元々この塔の中にいました。 腕を鈍らせないように、狩場を探してこの塔を見つけたのですが……中々面白い場所ですよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ま、個人がどうこうできるものでもなかったしね。 そうなるとそれはそれで別の問題だけど……」

 

「さて、色々と疑問がお有りだと思いますが……」

 

空白は少し両手を後ろに隠すと、どこからともなく二本のレイピアを取り出して構えた。

 

「まずはその前に、その実力を拝見させてもらいましょう」

 

「え……⁉︎」

 

「どういうつもりですか⁉︎」

 

突然の空白の行動に、ソーマとサーシャは武器を構えながら質問する。

 

「ーー虚像(ユメ)実像(ユメ)にできる程度の力がなければ、所詮はそれまで。 私の望みを叶えられるだけの意志があるかどうか……その身で証明してください」

 

「うっ……」

 

「やっぱりお約束だね……」

 

「皆さん、気を付けてください! かなりの手練れです!」

 

「なら、手加減抜きで行かせてもらいます!」

 

「ふふ、よき闘志です。 それでは……行きますよ!」

 

空白はノーモーションでほぼ直立の状態で接近してきた。 突き出されたレイピアを受け止め、もう片方のレイピアを避けてその状態から斬り合った。

 

「さすがですね、一瞬でも気を抜いたらやられてしまいそうです」

 

「どの口が言う……!」

 

「それは失礼ーーおっと」

 

横から空白に向けてアリシアの魔力弾が撃たれ、一旦距離を取った。

 

「ふふ……さすがに部が悪いですね」

 

「今更何を言っているんですか? もう手遅れですよ?」

 

ギンガが脅しめいた感じで拳を構える。

 

「いえいえ、今ごろ一対一のお願いなどできませんよ。 ですから……」

 

レイピアを眼前に持っていくと、空白の身体がブレ始めていき……合計5人の空白が出現した。

 

『こうすれば、フェアになりますよね?』

 

5人が同時に同じ声で喋られるとどうも変な感じになる。

 

「分身⁉︎」

 

「アリシアさんと同じ魔法でしょうか……?」

 

「さぁてね……ただ、実体はあるみたいだけど」

 

「とにかく面倒には変わりない!」

 

分身の1体に斬りかかり、鍔迫り合いをしながらその場を離れた。 アリシアも1体を引き連れて離れ、3人はそのまま残りを相手にした。

 

「………………」

 

「皆さんが心配ですか?」

 

「いや、全然!」

 

皆が空白に引けを取るとは思わない。 だから今は目の前のことに集中する。

 

「はっ……!」

 

《サードギア……ドライブ》

 

「おっと……」

 

急激にレイピアの剣速が速く、鋭くなり。 3つ目のギアを駆動させながら捌いていく。

 

「はあっ!」

 

横一閃をひらりとかわし、挑発するようにまた帽子を抑えた。 動きも心情もひらひらしていて捉えにくいな……だったら。

 

「レゾナンスアーク……ファイナルドライブ!」

 

《リミットブレイク》

 

ギアの回転がさらに加速、激しさを増していき。 急激に上がった魔力で一気に踏み込んだ。

 

「っ⁉︎」

 

想剣(そうけん)……剣山(けんざん)!」

 

2本のレイピアを一瞬で上に斬り払い、一転して正面を斬り上げた。 空白は強い払いを受けきれず、吹き上がるとダメージに耐えきれず消えていった。

 

「時間をかけ過ぎたか……」

 

息つく暇もなく他の皆の援護に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ……!」

 

「ふふふ……」

 

皆と離れてからこの空白……多分偽物と相手をしているかけど、銃も小太刀もひらひらかわされて。 しかも笑っているから余計腹立つ。

 

「いい加減当たりなさいよ!」

 

「ふふ、こう見えても痛いのは嫌いでしてね」

 

「子どもか⁉︎」

 

って、いけないいけない。 ここは冷静にならないと……と、そこで心を鎮めた瞬間……眼前にレイピアが迫っていた。

 

「うわああっ⁉︎」

 

「おや惜しい、あと少しでしたのに」

 

「ほんっっと、人を煽るのがお得意のようですねぇ⁉︎」

 

「お褒めいただき光栄です」

 

「褒めてなーいっ!」

 

《落ち着いてください、マスター》

 

「ふふふ……」

 

ブチ……

 

「…………うん、落ち着いた。 頭はホットで心はクールに……ブッ飛ばす! フォーチュンドロップ、スタイルチェンジ!」

 

《イ、イエスマスター。 トランス、ポリゴンスタイル》

 

バリアジャケットが変化していき、上は肩出しのコートを羽織り、スカートが動きやすようにホットパンツに変わった。 小太刀と2丁拳銃は消えて、背後に6個のビット……タクティカルビットと共に空中に浮遊する。

 

「試作段階の装備だけど、見せてあげる!」

 

ビットが変形し、赤いソードビットに変形し空白に向かって急速に発射させる。

 

「っ……これはマズイですね」

 

高速のソードビットをギリギリで避ける空白。 その表情は見えないが、余裕ではないことはわかる。

 

「逃がさないよ!」

 

2つのソードビットを黄緑色のビットレーザーに変形させ、左右から強力な魔力レーザーを放った。 2つのレーザーが直撃した瞬間、爆煙が舞い上がる。 ビットを戻し、フォーチュンドロップに確認を取る。

 

「やった?」

 

《反応、未だ存命です》

 

煙が晴れると、空白が煙からスーツを叩いていてたが、ダメージは受けたようだ。

 

「次は……こちらの番ですよ!」

 

ほぼその体勢から一瞬で目の前に接近し、レイピアには朱色の魔力が纏われていて、捻りを加えた鋭い突きが放たれた。

 

「遅いよ!」

 

《リフレクトビット》

 

レイピアが届く前に、3つのビットが変形して青いくなり。 三角形の魔力障壁が展開された。

 

ガキィンッ‼︎

 

「っ⁉︎」

 

それには空白も驚愕したようで、口元しか見えない顔が驚く。

 

「隙あり……ブレイドダンス!」

 

すれ違い様に、ビットを全てソードビットに変形させて空白を連続で切り裂いた。 空白はそのまま倒れると、一瞬で消えてしまった。

 

「ふう……やっちゃったな……」

 

ちょっと後悔しながらも、皆の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、い⁉︎」

 

「きゃっ……!」

 

「くっ……」

 

レンヤさんとアリシアさんと分断されて、今は顔が……は見えないけど、同じ空白3人と戦っていた。 だが、空白は隙のない連携や絡み手で私達を圧倒する。

 

「さすがは噂されることはありますね、こうも相手にならないなんて」

 

「ふふ、あなた方も中々の実力ですよ」

 

「ここまで食い下がるとは想定外です」

 

「そこのあなたも、良い師に教授されたのですね?」

 

空白が私達を囲いながら1人ずつ話掛けてくるので、かなり変な感じになる。

 

「ソーマ君、サーシャちゃん、まだやれる?」

 

「はい!」

 

「もちろんです!」

 

2人は私と同じでまだ諦めていなく、自分の武器を握り締める。 私も左拳を右手に力強く当てて気合いを入れ直す。

 

「はっ!」

 

ソーマ君が1体の空白に向かって剣を投擲し、転移してそのまま斬り合った。 ソーマ君は常に上から斬りかかっていて、空白より優位な位置を取った。

 

「えええいっ! 嵐の突撃(アサルト・テンペスタ)!」

 

サーシャちゃんは物凄い速度で回転を始め、その猛攻に空白は受け切れず後退して避ける。

 

「たたたっ!」

 

「おっと……」

 

残った1人に接近し、何度もパンチの連打を繰り出す。 だが、やっぱりひらひらとかわされて全く当たらない。 けど……

 

「逃がさない!」

 

「ふふ……」

 

とにかくインファイトで攻めて攻めまくる。 少しでも掠れば流れは変わる!

 

「せい! やっ、とっ!」

 

「っ………」

 

右ストレートだ掠って体勢を崩した!

 

「喰らえ! お母さん直伝、殺人キック!」

 

軸足である左足のローラーを踏み込みと同時に逆回転させ、右足で空白に向かって蹴りを入れた。

 

「とっ……!」

 

空白は身を引いてギリギリで飛んで避けるが、蹴りの風圧で体勢を崩し、高めに飛んでいる。

 

「まだまだ!」

 

「くっ!」

 

飛び上がって追撃し、空白はレイピアを突き出すが……見切り、左手でレイピアの突きを抑え……

 

「ルーシー・ハーン!」

 

それを支えとして利用して右手で胴に拳を突きを入れた。

 

「せいっ!」

 

「グハッ!」

 

そのまま蹴りつけ、空白をソーマ君の方の空白にぶつけた。 そして着地してすぐさまサーシャちゃんの方にローラーを向けた。

 

「! ギンガさん⁉︎」

 

サーシャちゃんは突然の事で驚いたが、空白は冷静で。 先ほどよりも鋭く速い突き放った。

 

「ヤン・エラワン!」

 

体を横に倒すことでレイピアをギリギリで回避すると、同時に強力な回転をかけて空白の胸に膝蹴りを放った。 攻撃をモロに受けた空白はそのまま消滅した。

 

「サーシャちゃん! アレをまとめて狙って!」

 

「は、はい!」

 

私の指示にすぐさま輪刀を浮かせて、残りの空白に向けた。

 

「ショートバスター!」

 

輪刀を加速器として青白い魔力砲を一瞬にして放った。 砲撃は空白の1人に直撃し、消えていった。 しかもこの魔法、チャージ時間が短い変わりに射程と威力が小さいのに、今のは凄い威力だ。

 

「せいやっ!」

 

「ぐうっ……」

 

そして残った1人をソーマが倒し、空白は膝をついた。

 

 

 

 



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112話

 

 

空白の分身を倒した後すぐに移動し、途中でアリシアと合流してソーマ達の元に向かうと……3人は肩で息をしていて、空白(イグニド)は膝をついていた。

 

「はあはあ、どうですか!」

 

「や、やったんですか……?」

 

「皆! 大丈夫?」

 

「はい。 でも、これで何とか……」

 

「……………いや……駄目だな」

 

「え……」

 

空白を見て判断した俺の否定の言葉に、ギンガはなぜという視線を向けるが……その前に小さい笑い声が響いた。

 

『さすがは聖王、なかなかできますね』

 

それと同時に目の前で膝をついている空白が消え、後に残されたのは小さい立方体の石だった。

 

「え……⁉︎」

 

「石……⁉︎」

 

ソーマ達が驚く中、どこからともなくまた空白が現れ、またレイピアを構えた。

 

「いつの間にそっちに……」

 

「き、気付きませんでした……」

 

「戦闘中に分身だけ残して高みの見物か。 かなり腕が立つようだが……いい趣味とは言えないな」

 

「ふふ……気に障ったのなら謝罪します。 瞬時に私が分身だと気付くあなたも中々の実力、それも直感ですか?」

 

「さぁてな? ま、これでもそれなりに修羅場は潜ってるからと言っておこう。 それで……まだ続けるか?」

 

「いえ……これ以上続ければ苦戦は免れないでしょう」

 

空白はレイピアを消し、あっさりと身を引いた。 それを確認すると俺達も武装をしまった。

 

「本題に入ろうか。 俺達に何のようでここに呼んだんだ?」

 

「ふふ、神崎 蓮也。 もう既に見当はついているはずです」

 

「……………………」

 

戦闘中に気付いたことだが、見透かされたように空白も気付いたようだ。

 

「え……」

 

「どういう事ですか……?」

 

「あなたの事は調べています。 特別捜査官として、強い勘が働いているようです。 でしたら、私の用件もすでに」

 

「ああ、そうだな。 お前の用件はカリムに届いた脅迫状……それについての話だな?」

 

「ふふ、その通り……では、その脅迫状の何について話があるというのかな?」

 

いちいち質問する上に挑発してきて腹立つな。 そんな感情を抑えて、答えを出した。

 

「あの脅迫状を送った人物……それは、お前じゃないな?」

 

「え……⁉︎」

 

「ど、どういう事ですか……⁉︎」

 

「! まさか……」

 

「ええ、その通り……あれをカリム・グラシアに送ったのは、私ではありません。 空白の名を騙った誰かというわけです」

 

俺の推理と、空白が言った事実に皆は驚愕する。

 

「やっぱりか……捜査をしている最中、どうも違和感があったんだ。 奇怪な行動……巨大な拝見……調べるほどその存在は強くなっていった。 だが、それに比べて、最初の脅迫状は……あまりにもこけ脅しな感じがしたんだ」

 

「あ……」

 

「ふふ……その通り。 どうやら最初に見た時に、すでに違和感を感じたみたいですね。 あなたはあの脅迫状が本来の目的を達成するつもりがないと感じ取った。 さすがは虚空に至った者……」

 

「世辞はいい」

 

「ふふ、それは失敬。 ですが……ならば何故、脅迫状がカリム・グラシアに送られたという話になります」

 

空白は帽子を抑えてながら、相変わらず挑発するように歩く。

 

「そ、その……よく判りませんけど。 それこそただのイタズラじゃないのですか?」

 

「ううん、空白がミッドチルダにいる事を知っている人は限られたいるの。 ヘインダール、フェノール商会、首都防衛隊……あとはその関係者くらいだね」

 

「なるほど……そうなると確かにイタズラの線は無さそうですね」

 

「ええ……ですが脅迫状1つで新立会が中止することはありません。 さらに名指しでカリムさんを狙うと宣告したのも不可解です。 その結果、首都防衛隊を招きカリム周囲の安全に関しては万全の体制で敷かれる事になりました。 それこそ司会中に狙われても未然に防げるくらいです」

 

「という事は……脅迫状を送ってこの状況を作り上げる事で何か別の狙いを達成した……あるいはこれから達成しようとしている……?」

 

「その可能性は高いです」

 

空白は歩みを止めて、帽子を抑えながらこちらの方に向いた。

 

「ーー改めてあなた達に依頼しましょう。 私の名を騙ったそのその何者の企みを阻止してください」

 

「えぇっ……⁉︎」

 

「そう来たか……」

 

「そんな依頼、受けるとでも?」

 

「ふふ、そんな事を言っていいのですか? その誰かが、何を狙っているのなんて私にも見当もつきませんが……ロクでもないことは目に見えていますよ?」

 

「っ……」

 

「確かにその可能性は高いそうだね。 でも……どうしてわざわざ私達にそんな依頼を頼むの? 自分でやればいいじゃない」

 

「……………………」

 

アリシアの質問に、空白は直ぐには応えなかった。

 

「ふふ、こう見えても私はそれなりに忙しい身でしてね。 例えば、フェノールの相手とか」

 

「やっぱり、マフィアと暗闘しているんですね……手を出さない事をいいことに……!」

 

「ふふ、そう怖い顔をしないでください。 大ごとになると面倒ですし、民間人にも一応気を配っています。 もっともフェノールの方がそこまで殊勝かどうかは知りませんけど」

 

「くっ……」

 

「いずれにしても、私の名を騙って勝手な事をされては困ります。 依頼を受けるか否か……返答をお願いします」

 

ほぼ強制に近いが、推理も理にかなっているし断る要素もない。

 

「分かった……お前の口車に乗る気はないが、真犯人の企ての阻止には協力する」

 

「ふふ……賢明な判断です」

 

「でもでも、どうするんですか? いつ、誰が何をしようとしているのか全く分からないのに……」

 

「いつ、というのは心当たりがあります。 もしその真犯人が新立会に関する事で何か仕掛けてくるとすれば……新立会開催の前日の行われるパーティーか、新立会当日でしょう」

 

「パーティー?」

 

「各地のお偉いさんを前日で呼んだ方が何かと都合がいいし、交流の場ができるから前日にパーティーが開かれるし……」

 

「新立会も関係者一同がいますし、当日も格好のターゲットですね」

 

「ふふ、その通りです。 あなた達に頼みたいのはその両日における警戒活動……防衛隊が裏をかかれた時のために、会場内を密かに巡回。 そして、いざ何かあった時には迅速な対処をお願いします」

 

「……勝手を言う……だが、筋は通っているようだな」

 

「カリムに頼めば、会場内の巡回は問題なさそうだね。 問題は防衛隊の目を誤魔化せるかくらいだけど……」

 

「あうあう、見つかったら追い出されます……」

 

「はは、でもやるしかないですね」

 

「ふふ、引き受けてくれて何より」

 

空白は依頼を承諾した事を確認すると、踵を返して背を向けた。

 

「ーーそれでは私は、これで失礼します。 朗報を期待しますよ」

 

「あ、良かったら伝言よろしく! あの馬鹿の実験なんかお断りだってね!」

 

「…………ふふ、確かに、それには同感です」

 

顔だけ振り返り、隠されていない口元が笑うと……どこかに転移していった。

 

「アリシアさん、誰に伝言をしたのですか?」

 

「ん〜? 私達テスタロッサ家に、因縁がある奴に。 あいつの最後の言葉で確証したよ」

 

「そうか……」

 

「?」

 

「…………その、何て言うか。 皆さん、とんでもない人を相手にしているみたいですね……」

 

ギンガに同情をもらいながら、星見の塔を降りて。 一旦、地上本部前に来た。

 

「皆さん、お疲れ様です。 本当だったら私も協力したい所ですけど……」

 

「ううん、塔の探索を手伝ってくれただけでも十分だよ」

 

「はい、すごく助かりました!」

 

「ギンガさんのおかげで助けられた場面もありましたし」

 

「ギンガ、本当にありがとうな」

 

「ふふっ、どういたしまして。 でも、何かあったら遠慮なく108部隊に連絡して下さいね? 今日のことは隊長に一通り報告しておきますから」

 

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

 

「それでは、スバルによろしく言っておいてください」

 

「うん、分かった……皆さん、お疲れ様でした!」

 

ギンガは敬礼をしてから車に乗り込んで、そのまま去って行った。

 

「さてと……まずは今週末にある前日のパーティーでの警戒活動か」

 

「とりあえず対策課に戻って、段取りについて検討しよう。 カリムにも連絡しないと」

 

「防衛隊の動向も掴んでおく必要がありますね。 その辺りは私の方で探っておきます」

 

「いずれにしても、これから忙しくなりそうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ーー

 

俺達はカリムに連絡して事情を説明し、パーティーから新立会の2日間の段取りを詰めていき。 その結果、パーティーの日にソーマとサーシャが、俺とアリシアが会場外で待機。 新立会当日は内外交代しての警戒活動することになったが、アリシアは出演する側だったので、代わりにアリサと組むことになり、すずか達は念のためにバックアップに回ってもらい、万全の状態で警備に当たれる。

 

新立会前日でパーティー……俺とアリシアは外の張り込みをしていたが、怪しい人物はいなく。 その日の警戒活動は終了した。 そして残された新立会当日……すでに会場は満席で、あちらこちらに警備に当たっている防衛隊員が見つかる。 先に座っている人はミゼットさんも含めてかなり有名人物が多い。

 

「さて、2日目だけど……真犯人が行動を起こすとしたら今日かもしれない」

 

「あの、その空白という人が言ったように本当に何か起こるんでしょうか?」

 

先ほど控え室で待機している時にユミィが訪れて、不安そうにそう聞いてきた。

 

「……分らない。 だけど、その可能性は高いよ。 防衛隊が警戒しているからカリムは大丈夫だと思うけど」

 

「そうですか……」

 

「それよりも……カリムに今回のことを本当に伝えなくてよかったの? シャッハも同じ考えのようだけど……」

 

「はい……いいんです。 あの人には……カリムさんには余計な心配をして欲しくありませんので。 それが私が……私達全員の願いですから」

 

本心からそう思っているようで、安心したような表情を浮かべる。

 

「ユミィは本当にカリムを尊敬しているんだな……いったい、どうしてそこまで?」

 

「ふふ……カリムさんには何度も助けられたんです。 周りからおばあちゃんと比較されて、自分を守るために自分じゃなくなってしまって」

 

「え……」

 

「その時、カリムさんが私の前に現れてくれて。 教えてくれたんです、私は私だって。 あはは、手伝っているのも、ただの恩返ししたいだけなんですけど」

 

「ユミィ……」

 

その時、控え室の扉が開いて……シェルティスが中に入って来た。

 

「あ、いた。 ユミィ、カリムさんが呼んでいたよ」

 

「え、シェルティス⁉︎」

 

《久しぶりですねユミィ。 相変わらずのビックバンで何よりです》

 

「次それを言ったらヤスリで削るからね……!」

 

「……ふふ」

 

そんな光景を見てアリサが笑った。

 

「ユミィも、心を許せる人がいるじゃない。 あんまり1人でこんを詰めないで、仲間と手を取り合ってお互いを助けながら前に進んで行きなさい」

 

「ああ、そうだな」

 

「アリサさん、レンヤさん……」

 

「? 何の話をしているの?」

 

《シェルティス、ここは大人の対応ですよ〜》

 

「いや、そうゆうのはいいから。 ユミィ」

 

「あ! そうでした、アリシアさん。 そろそろ会場に行きますよ」

 

「あ、うん、わかったよ。 じゃあ、後はよろしくね」

 

「ええ」

 

「了解だ」

 

ユミィはアリシアを引き連れて控え室を出て行き、シェルティスもそれについて行った。

 

「俺達も行こう、何としてもこと事件を解決しないと」

 

「ええ……もちろんよ」

 

それからすぐに新立会が開催され、防衛隊が会場内に入ったのを見計らって控え室から出た。

 

「始まったか……しかし案外盛り上っているんだな?」

 

「砲撃魔法といった派手なものも多いみたいね。 私も正直、生で見たかったわ。 ちょっと、防衛隊の人達が羨ましいしいわね」

 

「しかし、そんな物を前にして警戒し続けないとならないんだろ? 逆に辛そうだな」

 

「ふふ、そうかもね。 それじゃあ、私達も会場内の巡回を始めましょう。 ただし、防衛隊がいるから観客席は覗くぐらいにしないと」

 

「ああ、そうだな」

 

メイフォンを取り出し、会場外にいるソーマ達に連絡を取った。

 

「こちらレンヤ……2人共、聞こえているか?」

 

『はい、聞こえています』

 

『どうやら、始まったようですね』

 

「ああ、これから会場内の巡回を開始する。 そっちは引き続き、会場周辺の警戒を続けてくれ」

 

『了解しました。 ルーテシアちゃんとガリューも来てくれたので、こちらの方は万全です』

 

『は〜い! 頑張りますよ〜!』

 

「そ、そうか……」

 

ルーテシアの緊張感の無い声に、つい苦笑いしてしまう。

 

『不審な人物がいましたら連絡します。 防衛隊の人達に見つからないでくださいよ』

 

「分かってるって」

 

通信を切り、巡回を開始した。 各場面が始まるたびに会場の様子をコッソリ確認しつつ、巡回を続ける。 新立会が半分過ぎたところも何事もなく、そろそろ終盤を迎えようとした時、同じく巡回していたシャッハが駆け寄ってきた。

 

「シャッハ……?」

 

「何かあったのかしら?」

 

「はい……それが、少し不審な動きをしている方がおりまして。 確認した所、招待客リストの中にはいない人物でした」

 

そろそろ終わりそうだったが、ここで問題がおきた。

 

「なに?」

 

「何処にいたの?」

 

「右奥にある通路の奥です。 どうやら会場内を伺っているみたいでした」

 

「分かった。 すぐに確認してくる」

 

「よろしくお願いします……!」

 

すぐさま右奥の通路に向かい、通路内に入いると……

 

「な、なんでゼスト隊長がここにぃ⁉︎ どうしましょう……なぜか防衛隊もまとめているし。 警備に出張るなんて聞いてないわよ……!」

 

「クイントさん……」

 

そこには、僅かに開いたドアの隙間を覗き込んでいるスーツ姿のクイントさんがいた。

 

「あら……レンヤ君⁉︎ アリサちゃんも……こんな所で何しているの?」

 

「それはこっちの台詞です」

 

「クイントさん、どうしてここに? あなたは警備に参加していませんでしたよね?」

 

「あはは……実はちょっとした事情があってね……裏技使って入ったのよ」

 

「う、裏技……?」

 

「あ、ギンガ達には内緒にしてよね? 清掃業者の人達に紛れてコッソリと……って感じで」

 

仮にも管理局員が犯罪紛いな事をしないで下さいよ。

 

「ゼストさんに頼めばいいものを……何か事情でもあったのですか?」

 

「いやねぇ、私とメガーヌは結構前からゼスト隊長の指揮下から離れていてね……ゼスト隊長がここの警備を担当するなんて初耳だったんだもの! 知っていたらすぐにでも頼み込んでいたよ!」

 

「……人騒がせな……それでどんな理由でここにいるんですか? もしかして脅迫状の件ですか?」

 

「脅迫状? 何それ? もしかしてそれ絡みがゼスト隊長達がいる理由?」

 

『……違うようね』

 

『そうらしいな……』

 

普通に考えてあり得ないだろう。 ギンガのあの戦いぶりを見れば一目瞭然だ。

 

「ま、いくらクイントさんでもそこまではしないか」

 

「いくらあたしでもって……ちょっと失礼なんじゃないの?」

 

「いや現に、忍び込んでいますし……と、そういえば……何をしにここにいるのですか?」

 

「ん? それは言えないかな。 あ……もしかして防衛隊がいるのは彼を監視しているからとか……? んん〜、さすがはゼスト隊長、気付いたはあたしだけかと思ってたんだけど……」

 

「彼? それって空白(イグニド)の事かしら?」

 

「空白……何それ? さっき言っていた脅迫状と何か関係があること?」

 

違うのか。 つまり空白とは完全に別件でここにいるのか。 ここは聞いてみないとな……

 

「……クイントさん。 知っている事を話してください。 じゃないと突き出しますよ?」

 

「ちょ、ちょっとレンヤ君、そんな殺生な。 あたしと君の仲じゃない」

 

「今は少しでも手掛かりが欲しいんです。 だから教えてください」

 

「ふう……本気なのね」

 

俺の言葉が通じたのか、ため息をはいた。

 

「いいわ、教えてあげる。 あたしが追っていたのはクローベル議長の秘書に関する黒い噂よ」

 

「………………え」

 

その声は俺とアリサからではなく、後ろから現れたユミィからだった。 一緒にシェルティスもいる。

 

「ユミィとシェルティス、どうしてここに?」

 

「僕達もシャッハさんから話を聞いてね。 それで様子を見に来たんだけど……」

 

「ど、どういう事ですか⁉︎ エリンさんが……」

 

「ユミィ……」

 

「……このまま話すわよ。 彼女、相当ヤバイわよ。 議長に内緒で事務所の資金を勝手に流用しているらしいし……最近じゃ、空と密談して何か企んでいるみたいなのよねぇ。 まさか議長を亡き者に……って流石にそこまではないか」

 

DBMでエリンさんの後にクイントさんが出て来たのはそういうことか。 だが、空白が言っていたロクでもない事とクイントさんの冗談で言った事は……どうしても合致してしまう。

 

「ねえ、レンヤ……もしこの状況だ、ミゼットさんが何者かに亡き者にされたら……」

 

「……目撃者さえ作らなければ犯人は後からでも別の誰かに偽装できる……それが狙いか!」

 

新立会は終盤、先ほど覗いた時は無事だったが。 もし計画を実行するのなら……もう時間はない。 半開きだったドアを勢いよく開け、会場内に入った。

 

「ちょ、ちょっと……⁉︎」

 

突然の事でクイントさんは驚愕し、シェルティス達も俺達の後に続いた。 会場で行われている魔法は攻撃魔法といった派手なものになっていたが、それを無視して反対側に急いだ。 貴賓席前までくると、その前で警備を担当していた管理局員が倒れていた。

 

「あ……!」

 

「これは……」

 

「貴賓席にいた管理局員……⁉︎」

 

「……気絶しているだけだね」

 

「ーーお前達、一体ここで何をしている!」

 

そこに、会場を通り抜けた時に気付かれたのか、防衛隊の副隊長らしき人物とゼストさんが追いついて来た。 2人は倒れている管理局員を見ると驚いた顔になる。

 

「なっ……⁉︎」

 

「なにが……」

 

「話は後です……! アリサ、飛び込むぞ!」

 

「ええ!」

 

貴賓席に飛び込み、照明が落とされた暗がりの中で……床に倒れたミゼットさんに、エリンさんがナイフを振り上げていた。

 

「っ……!」

 

「むっ……⁉︎」

 

「させるか!」

 

刀を抜刀し、エリンさんが持っていたナイフを手から弾き飛ばした。 エリンさんは一瞬怯むが、すぐさまミゼットさんを抱えて後ろに下がり。 腰から質量兵器である拳銃をミゼットさんの頭に押し当てた。

 

「おばあちゃん……!」

 

「そんなものまで……!」

 

「ミゼットさん!」

 

「こ、これは……一体どういうことだ⁉︎」

 

「あなたは……ミゼット議長の秘書……」

 

「フフ、まさか君達が……こんな場所に現れるなんてね……少々、過小評価し過ぎたかしら?」

 

「エリンさん……いったいどうして……! あんなにおばあちゃんを尊敬して支えてくれた貴方がなんで!」

 

ユミィが目の前の真実を否定するかのように叫ぶが、エリンさんはそれを嘲笑うかのように笑う。

 

「……フフ、私もいい加減、この状況にはウンザリしていたのよ……結局、何かを変えるのにはより強い者に従うしかない……だからこそ私は行動したのよ!」

 

「そのために空白の名を騙り、カリムに脅迫状を送って……空白が現れると思い込ませてミゼットさんの抹殺を図ったのか……!」

 

「……そういう事か。 ずいぶんと舐められたものだな……!」

 

「フフ、防衛隊といっても所詮は無能な管理局にしかすぎない。 フェノールも、ヘインダールも、本物の空白とやらも……全員、私の掌の上で踊っていたにすぎないのよ!」

 

「くっ……」

 

副隊長は苦い顔をするが、銃型のデバイスをエリンさんに向けて動くな、と叫んだ。

 

「大人しく、銃を捨ててもらおう。 今ならまだ、未遂で済む」

 

「フフ、それはこちらの台詞です。 三提督の1人でもあるこの人の命……あなた達の前で、散らしてもいいのよ……?」

 

「やめてっ……!」

 

「エリンさん……本当に……」

 

「チッ……」

 

「実の祖母が果てる瞬間を、その孫娘に見せたくないでしょう? そちらの壁際まで移動して、道を空けてもらいましょうか……?」

 

「……どうするつもりだ? この場を逃れたところで、あなたに逃げ場はないぞ」

 

「うるさいっ! いいから言う通りにしなさい!」

 

「くっ……」

 

全く聞く耳を持たず怒鳴るエリンさん。 俺達は言う通りにして出入り口を空けて壁際まで下がった。

 

「……いいでしょう」

 

俺達を警戒しながらゆっくりと出口に近付く。 そして俺達の目の前まで来ると……

 

「それでは返しましょう!」

 

ミゼットさんを乱暴に押し、笑い声を上げながら貴賓席を出て行った。 俺はミゼットさんを受け止め、優しく横たえた。

 

「おばあちゃん……!」

 

「行って!」

 

「ここは僕達が引き受ける!」

 

「ああ、任せた……!」

 

「逃がすか……!」

 

この場をアリサとシェルティスに任せ、俺はエリンさんを追った。 どうやら正面から堂々と逃げるらしいが……エリンさんはあり得ない速度で走っている。 いくら鍛えていてもあの速度は出ないぞ。

 

「くっ……なんだあの異常な速度は⁉︎」

 

「魔力を使用した形跡はないが……」

 

『ソーマ、サーシャ! そっちにミゼットさんの秘書が行く! 真犯人だ、足止めしてくれ!』

 

ゼストさん達がエリンさんに驚愕する中、俺は念話で外のソーマ達に連絡した。

 

『りょ、了解です……!』

 

『は、はい……!』

 

念話を切り、急いで会場の外に出ると……ソーマとサーシャが少し困惑した顔でエリンさんを制圧していた。

 

「よかった……捕まえてくれたか」

 

「はい、拳銃を持っていましたので思わす気絶させてしまいましたが」

 

「ああ、問題ない」

 

「それで、どうしてレンヤさんが防衛隊の人達と?」

 

「お前達……これは一体どういう事だ? バックアップまで用意して一体、何をしていた……⁉︎」

 

「……なるほど、してやられたな」

 

副隊長が怒り気味で聞いてきて、ゼストさんが理解したかのように苦笑する。 俺が説明しようとすると……突然エリンさんが大声を上げながら立ち上がり、逃走していった。

 

「なっ……⁉︎」

 

「まだ動けたのか……!」

 

「追うぞ!」

 

急いで追いかけ、正門前まで行くと、ガリューがエリンさんを抑え付けて拘束していた。

 

「ガリュー……!」

 

「ルーテシアの召喚獣か」

 

「わわっ、皆さん⁉︎ この人誰ですか⁉︎ 物凄い形相で走って来たもんですからつい抑えましたけど……」

 

「お手柄ですよ、ルーテシアちゃん!」

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「あっちゃ〜、美味しい所を取られちゃったか」

 

クイントさんも追いついて、拘束されているエリンさんを見て頭を抑えた。

 

「クイント……お前もいたのか……」

 

「お、お前達。 いい加減にしてもらおうか……」

 

勝手な行動をしまくったせいか、副隊長がそろそろキレそうだ。

 

「グゥ……離せ……わ、私は……私は絶対に………絶対に議長になるんだあああ!」

 

そんなエリンさんの歪んだ願望が、夜のミッドチルダの空に儚く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

昨日の事件は新立会の記事と一緒に新聞に掲載されていた。 この文面は多かれ少なかれ管理局に影響が出るかもしれないな。 一応、俺達異界対策課が事件を解決した貢献者として載せられており、ミゼットさんは歳も歳なのでこのまま療養するらしい。

 

新聞をあらかた読み上げ、ため息をついてテーブルに放って乗せた。

 

「いやぁ……すごい事件になりましたね。 今頃、市民の皆さんのほとんどが混乱しているんじゃないですか?」

 

「まあ、新立会が行われている最中に議長の暗殺未遂ですから……スキャンダル、ここに極まれりって感じですね」

 

「議長に同情的な意見が多いのは不幸中の幸いだったが……結局エリンさんと関係していた航空武装隊の名前は上がってこなかったな」

 

「ええ、確実に規制されているわね」

 

「それに流石に、あの暗殺未遂は秘書嬢の暴走だろうな」

 

「あー、確かにそんな感じでしたね」

 

(コクン)

 

ラーグが的を射た事を言った。

 

「ああ……多分な。 空にとってもミゼットさんを暗殺するメリットなんて、それほど無いはずだし……」

 

「ただ、暗殺者を空白に仕立てて対次元犯罪者の為の戦力増加を狙った可能性もあるかもね」

 

「なるほど……」

 

そもそも、どうやってエリンさんが空白の名を知った経緯も定かでは無いし。 ただ……仮説を立ててれば、エリンさんに空白の名を呟いたのはもう1人の議長、ライアルという次元派の議長……恐らくフェノールのカクラフ会長から聞いたのだろう。

 

「でもエリンさん……何だか様子がおかしかったです。 正気を失っているというか……歯止めが利かなくなっているというか」

 

「ええ……それは思ったわ。 防衛隊が取調べをしているらしいけど結局、どうなったのかしら?」

 

「ーーどうやら錯乱しちまって話せる状態じゃないみたいでな」

 

そこに、ヴィータとアギトが対策課に入ってきた。

 

「ヴィータ、アギト……」

 

「それってつまり、取調べができる精神状態じゃないってこと?」

 

「ああ、ラチが明かねぇから、一旦隔離施設送りにするそうだ」

 

「今んところ教会方面で助けを借りることにはなっているぞ」

 

「そう……」

 

確かに聖王教会の方が精神面のケアはミッドチルダよりは進んでいる、任せるしかないな。

 

「しかし、お前達もとんだ大金星じゃねえのか? さっき嫌味言ってくる上層部の奴がお前達の事を褒めてたぜ」

 

「ええ〜……」

 

「想像し難い光景だね……」

 

「嬉しくもなんともないわ……」

 

「そいつだけじゃなくて、管理局全体の話でもあるがな。 これでお前達の評判もうなぎ登りってもんだ。 素直に喜べよ」

 

「わーいわーい!」

 

「宴だ宴だー!」

 

「やらないからな」

 

そこから皆が楽しそうに雑談が始まり、あの雰囲気から一気に騒がしくなった。

 

今ミゼットさんは自宅で療養している、ユミィとシェルティスもお見舞いに行っているはずだ。 ミゼットさんの事だから、ユミィを困らせてでも記念祭には出そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ南部にある草原地帯ーー

 

草原地帯にある丘の上で、黒スーツと同色の帽子を目深く被った人物……空白(イグニド)が座っていた。 彼と草原はまるで合わず、空白は遠くからでも分かるほど浮いていたが、それを見る人はいない。

 

その時、空白の背後の空間が揺らぐと……茶髪でメガネをかけた少女が現れた。

 

「ーーお伝えしてある通り、こちらの攻勢は記念祭以降……最終日の仕掛けは、よろしく頼みますよ、空白殿」

 

「ふふ……いいでしょう」

 

彼女の提案に空白は了承し、頷くと立ち上がった。

 

「さて、予定があります。 私はそろそろ失礼させてもらいます」

 

そう言い残し、空白は転移していった。

 

「うふふ……相変わらず神出鬼没な人。 しかし予定ですか……」

 

残された女少女は現れた時のように霞がかかると……

 

「ふふ……一体何の予定なのやら」

 

蜃気楼のように消えていき、草原の吹く風が草を擦る音しか聞こえなくなった。

 

空白が再び現れたのは草原から差ほど離れていない高級住宅地が数多く点在している南部9区、アルテナ。 その豪勢な家の1つの屋根に空白は降り立った。 膝を抱えて跳躍すると、屋根から屋根へかなりの速度で飛び移った。 この昼まで黒い格好で移動するのはとても目立つが、空白の住民に影をかけさせない静かな動きは誰も気付かれなかった。 しばらくして目的の場所にたどり着き、屋根から先にある邸宅を見つめた。

 

「……………………」

 

空白がスーツを脱ぎ捨て、そのままスーツが消えていくと……

 

「……………………」

 

ザンクト・ヒルデ魔法学院の高等部の女子制服を着た少女……ユミィ・エル・クローベルがいた。 ユミィは最後に帽子を消すと隠されていた長い金髪が外に出され、改めて邸宅を見つめた。 その両目は蒼い色をしていた。 表情にも色はなく、深海の底のような冷たい目だった。 ユミィは邸宅から目を離すと、屋根から家影に飛び降り、公共歩道に出た。 ユミィはすぐ側にあったベンチに座り、目を閉じた。

 

「……………ん………あれ?」

 

再び目を開いたユミィ、その目の色は翠だ。

 

「私ったら、またこんな所で……」

 

「ユミィ!」

 

そこに、ユミィが見つめた邸宅からシェルティスが出てきた。

 

「どこ行ってたのさ、急にいなくなるから心配したんだよ?」

 

「あ、あはは……ごめん、やっぱりショックであんまり寝付けなかったんだ」

 

《あんまり無防備で寝ない方がいいですよぉ? どこぞの狼が襲ってくるかもしれません》

 

イリスが笑いながらおちょくってくる。

 

「おばあちゃんは?」

 

「今は寝ている。 記念祭には復帰するってきかないし、半端逃げるように寝たね」

 

「もお、おばあちゃんったら〜……」

 

「はは、僕はこの後学院に帰るけど……ユミィもSt.ヒルデに?」

 

「うん、授業が止まっているわけじゃないからね。 そっちと違ってコッチは学力主義だから」

 

「お互い、大変なんだね」

 

2人は楽しそうに会話しながら、クローベル邸に向かって行った。

 

 



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113話

 

 

創立記念祭、初日ーー

 

 今は4月上旬……新学期が始まって早々のお祭り事だ。 おそらく今地上本部で回復したミゼットさんが開会式を行なっている真っ最中だろうが、街はそんな事お構いないしで、すでにお祭り騒ぎだ。 各自が思い思いに楽しん時間を過ごしているだろう。

 

「……………………」

 

かく言う俺も港湾地区の海で釣りをしていた。 異界対策課は先月の議長暗殺を未然に防いだ功績を挙げた為、記念祭初日は完全にオフになっている。 対策課自体が休みになるのは久しぶりだ、いつもは個人の休みしかなかったからな。 ちなみに午後からなのは達と合流する予定だが、午前は暇なのでこの通り暇を潰していた。 とはいえ、2、3匹釣り上げた所から当たりが来ないので……

 

「……帰るか」

 

そろそろ昼だし、先に待っているか。 荷物を片付けて、港湾地区を出た時……

 

「レンヤ君!」

 

「ん? はやて?」

 

 私服姿のはやてが走って来た。

 

「もしかして迎えに来てくれたのか? 悪い事したな」

 

「ううん、ちょうど捜査部に用があっただけや。 それでレンヤ君を見かけたんや」

 

「なるほど、俺も一旦帰る所だし。 一緒に行くか?」

 

「うん!」

 

釣り道具を転移でルキューの寮の自室に送り。 俺とはやては集合場所に向かいながら、他愛のない雑談をした。 最初に話したのはやっぱり会長達のことだ。 先月、会長達はレルム魔導学院を卒業して、それぞれの道を進んで行った。 会長……いや、もうフィアット先輩かな? フィアット先輩は管理局の情報部に。 グロリア先輩は同様に開発部に。 エテルナ先輩は実家の後継。 そしてクー先輩はと言うと……次元世界巡りの旅に出た。 どうやら推薦もあったらしいのだが、それを蹴ってまでして旅に出たらしい。 まあ、クー先輩らしいと言えばらしいかな。

 

その後、途中ですずかとも合流して。 何故か腕を組みながら合流場所に向かわされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創立記念祭、2日目ーー

 

早朝に異界対策課では、所属者全員が集まっていた。

 

「ーーさて、皆。 休暇はちゃんと楽しめたか? これから最終日までの4日間……タップリと働いてもらうから覚悟しとけよ」

 

俺の言葉に、何人かが嫌そうな顔をする。

 

「え〜……」

 

「こら、ルーテシアちゃん。 嘆かない」

 

「はい……分かりました」

 

「ふう、5日あるうちの初日だけが休みなんてね……」

 

「正直、ケチ過ぎるぞ」

 

「まあまあ、それだけ管理局……特に警邏隊が1番忙しいんだよ」

 

「そう言うこった。 一応、議長暗殺を未然に防いだご褒美ってわけだな」

 

「記念祭中は雑用を回すつもりはないから、そこは安心して」

 

 ラーグとソエルが依頼と睨み合いながらそう言う。

 

「その分、依頼の数はかなり増えていそうですね……」

 

「ミッドチルダ周辺からも来る人は多そうね」

 

「そうだね、もしかしたらエミューにも足を運ぶ人も多いと思うよ」

 

「エミューって……確か、南東にある高級保養地でしたよね?」

 

「そうですよ。 今は保養地よりもテーマパークの方が有名ですけど」

 

(コクン)

 

「まあ、とにかく最終日までの4日間は依頼にだけ専念する。 幸いレルム魔導学院から特別実習扱いでVII組が来てくれるからな、酷い事にはならないだろう」

 

むしろ、いなくてはかなり困る。

 

「そういえば、レンヤさん達今回は学生じゃないんですね?」

 

「夏至祭より規模が大きいからな、問題が起きた時に対応しやすいように今回は異界対策課として出るわけだ」

 

「その他にも、VII組が増えたからなんだよね。 単位も特別に出るし♪」

 

「あうあう、単位ギリギリの私としてはかなりありがたいです……」

 

「ーーそれじゃあ、グループ分けをしたら行動開始よ。 場合によっては中央区から外に出るかもしれないから注意しなさいよ」

 

「了解です!」

 

俺達は行動を開始し、それぞれのグループが別々にミッドチルダを右往左往する。 依頼内容はほとんどが記念祭関係で、残りの少数が人助けだったりする。

 

そして今は、ベルカにある聖王医療院に来ていた。 どうやら医師の1人……ホアキン・ムルシエラゴさんがどうやら行方不明……と言うサボりらしく。 医院も困っているから至急、呼び戻して欲しいそうだ。 話を聞く所によると、北部から中央区までの間道にある中洲で開かれている釣り大会に行っているらしく、俺達はホアキン先生を探しにそこに向かった。

 

「しっかし、サボる奴っているもんだな?」

 

「そうだとしても、責任感が足りないわ。 仮にも医者なんだがら、自覚を持ちなさいってのよ!」

 

「ま、まあまあ……とにかく早く見つけよう」

 

「お、着いたぞ」

 

今回はアリサとすずかとアギトのメンバーで行動している。 車で中洲がある地点まで来ると、他にも人がいて。 全員が手に釣竿を持って釣りをしていた。

 

「ほぉ〜、やってんなぁ〜」

 

「ここのどこかにホアキン先生がいるはず。 確か、青髪に白衣を着ている男性だよね?」

 

「急いでいたらしいから、着替えていないらしいから……そのはずよ」

 

「サボる為に急いでもな……」

 

中洲に降りて、しばらく捜索すると……見つけた。 ホアキン先生はご機嫌良さそうに釣りをしていた。

 

「フンフフーン……いやぁ、やっぱり釣りはいいね。 糸を垂らしているだけで心が洗われるというか……医院勤めで疲れた体もリフレッシュするというものだよ」

 

……思いっきりサボる為の口実にしか聞こえない。 とにかく声をかけてみた。

 

「すみません、ホアキン先生ですよね?」

 

「ん〜……いかにも僕はホアキンという者だが……悪いけど、今ちょっと手が離せないんだ。 用件はなにか……なっと!」

 

その時、ウキが沈んで竿が曲がった。 どうやら魚が食い付いたようだ。 なんてタイミングだよ……

 

「おお、来た……‼︎」

 

「まるで聞いてないな」

 

「聞いてる、聞いているよ。 そして、引いているよっ……!」

 

(寒ぃ……)

 

「あ、あの! 聖王医療院の人から依頼を受けて、先生を探していたのです! ホアキン先生がいなくなって、助手の方や医院の皆さんが困っているのですよ!」

 

「! 来たぁ‼︎」

 

すずかの説得も虚しく、ホアキン先生は魚を釣り上げた。 しかも、無駄に大物。

 

「おお〜……アイユ……まずまずのサイズじゃないか。 うんうん、日々医院を抜けて練習に励んでいる甲斐があったなぁ」

 

(何やっているのよ……)

 

「なんつう、マイペースな。 ていうかもう、話なんか完全に聞いてねぇだろうこれ」

 

「すまないすずか。 もう一度説明しないとダメだな」

 

「う、うん……」

 

「……いや、それには及ばないよ。 聖王医療院で皆が帰りを待っている。 そういう話だろう?」

 

一応、話は聞いていたようで、ようやくこちらに振り返る。

 

「どうも初めまして。 僕の名前はホアキン・ムルシエラゴ。 聖王医療院で准教授なんかやっている者さ。 ってあれ? 君達どこかで見たことが……うーん、これはデジャブ? だとすれば僕の知る所ではないね、うんうん」

 

本当に聞いていたのかが怪しくなって来たな……これは自己紹介した方が早いな。

 

「コホン……自分は時空管理局・異界対策課の神崎 蓮也です。 とにかくホアキン先生には……!」

 

「まぁまぁ、良いじゃないか。 とりあえず事情は理解したからさ」

 

「それじゃあ……医院に戻って来てくれるのよね?」

 

「ん〜……どうしたらいいと思うね?」

 

「知らん」

 

「僕としてはこの大会は、先々月あたりから楽しみにしていた一大イベントでね。 記念祭中に休みもなさそうだし、今のうちに楽しみたいんだがねぇ」

 

「医者としての責任感は無いのかしら……!」

 

アギトの言葉をスルーして、アリサがこの無責任さに怒り始める。

 

「無いといえば嘘になるな。 先月末も抜け出した回数分の始末書を書かされて大変だったんだ。 半分は助手が持ってくれたからなんとか終わったんだけどね」

 

「ひでぇなあんた……」

 

「話がズレてきているし……では、どうしたら医院に戻ってくれますか?」

 

「そうだなぁ……せっかくの大会だ。 よければコイツで勝負してみないか?」

 

「魚釣り……?」

 

「その通り。 もし君達が、さっき僕が釣り上げたアイユよりも大物を釣り上げたなら、僕は医院へ戻ろう。 シンプルでいいだろう?」

 

「釣り勝負だね……どうするの、レンヤ君?」

 

……上手く乗せられている気がするが、ホアキン先生も提案していることだし、ここは乗っておくか。

 

「分かりました、受けて立ちます。 詳しいルールを教えてください」

 

「そうこなくっちゃ」

 

ルールは当然のような感じで、早速釣り勝負を開始した。

 

「どうするのレンヤ? あのアイユ、24、5cmあるかなりの大物よ。 勝てる見込みはあるのかしら?」

 

「そうだなぁ……まずは小物を釣ら上げて、それを生き餌にしてやってみるかな」

 

「生き餌、ねえ……」

 

アリサはチラリと肩に乗っているアギトを見た。

 

「頑張ってね」

 

「おい、なんであたしを見た」

 

「頑張ってね!」

 

騒ぐ2人を尻目に釣りを開始し、数分で数匹の小魚をゲットした。 それを生き餌にしてしばらく待つと……

 

「あ! レンヤ君、引いてるよ!」

 

「お、来た来た!」

 

竿を握りしめ、リールを巻き上げ。 地面を強く踏みしめて竿とともに両腕を振り上げると……30cmはゆうにある大物の魚を釣り上げた。

 

「おおぉ! 大物じゃねぇのか⁉︎」

 

「これは、なんて言う魚かしら?」

 

「これはシャークェだな。 これなら勝てるし、焼くとかなり美味いんだ」

 

「とにかく、大会委員に見せに行こう」

 

俺は釣った魚を大会委員に見せ、ホアキン先生を呼んで早速判定をしてもらった。

 

「フッフッフッ……満足のいく魚が釣れたかい?」

 

「まだ分かりませんが……負けるつもりは無いです」

 

「ほほう、それは楽しみだ。 それでは、判定をお願いします」

 

「うむ。 ホアキン君が釣り上げたのは……アイユで。 そして、レンヤ君が釣り上げたのは……シャークェ。 判定の結果は……」

 

固唾を呑む中、大会委員は口を開いた。

 

「……勝者、レンヤ君!」

 

「な、なんだって? 何かの間違いでしょう?」

 

「いや……彼が釣った魚の方が、はるかに大物だ。 間違いない」

 

「そ、そんな〜」

 

相当勝つ自身があったのか、落ち込みようが半端ではない。

 

「やったわね、レンヤ!」

 

「ああ、大したもんだぜ!」

 

「すごいよ、レンヤ君!」

 

「ふう……何とかなったか……」

 

「……完敗か」

 

以外にもあっさり負けを認めた先生、問題はこの後なんだが……

 

「さて……それじゃあ僕は約束通り医院に戻るとするよ」

 

「な、なんだか意外ね。 もっと駄々をこねそうと思ってたのに」

 

「おいおい……子どもじゃないんだからさ。 ま、勝負を持ちかけたおかげで充分に釣りを楽しめたし……今回は満足と言えるよ」

 

「えっ……」

 

「こいつ……単に楽しく釣りをする時間を稼いでただけじゃねえか?」

 

「あはは……確かに」

 

「フフ……何の事やら分かりかねるよ。 それでは僕はこれで失礼します」

 

大会委員に挨拶をしてから、ホアキン先生は先に行っているといい中洲を出て行った。

 

「なんつーか……散々振り回された感じだな」

 

「そうね……」

 

「……私達も急いだ方がいいね。 目を離すとまた投げられそうだし」

 

「そうだな。 追いついて車で送ろう」

 

俺達も中洲を出て行き、ホアキン先生を車に乗せて聖王医療院に連れて行った。 そこから受付と一悶着あったが、どうにかホアキン先生を仕事に戻らせ、俺達は一旦ミッドチルダに戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリリリリ♪

 

丁度ミッドチルダに戻った時、メイフォンに通信が入ってきた。

 

「あ……」

 

「おいおい、また厄介ごとか?」

 

アギトが嫌な予感を感じながら、俺は電話に出た。

 

「はい、レンヤです」

 

『もっしも〜し、お疲れ様〜♪』

 

「なんだソエルか。 それでどうした? もしかして緊急要請か?」

 

『うん、そうだよ。 今、港湾地区に近い公園で学生達が喧嘩しているみたいなんだよ』

 

「学生? どこのだ?」

 

『ノース魔法科高校、さっき警邏隊から連絡が入ってきてね。 他の管理局員は巡回で忙しくて手が割けそうもなくてね……それで、歳の近いレンヤ達にお願いしてきたんだ』

 

ノース魔法科高校……純粋に魔法だけを教える、東西南北に分かれた4つの高校のうちの1つか。 確かあそこも生徒達の上下関係があり、溝も深かったはずだ。 うち(レルム)はVII組が設立されてからその傾向は無くなってきているが、そのことは与り知らないわけか。

 

「分かった、港湾地区だな? 丁度、街に戻った所だからすぐに急行する」

 

『了解、お願いするね』

 

 ピ………

 

「港湾地区で何があったの?」

 

通信を切ると、話を聞いていたアリサが質問してきた。

 

「ああ、どうやらーー」

 

通信内容をかいつまんで説明した。

 

「魔法科高校の学生が喧嘩ね……魔法を使われたら怪我だけじゃ済まなそうね」

 

「観光客も大勢いる、急いだ方がよさそうだな」

 

「でも、なんで喧嘩なんて……」

 

「とにかく、このまま港湾地区に向かおう」

 

車を走らせ、すぐに現場である公園に向かうと……

 

「同じ新入生じゃないですか !あなた達ブが、 今の時点で いったいどれだけ優れていると言うんですか!」

 

同じ学生服を着た学生達が2グループに分かれて言い争っていた。 かなり言い争っていたらしく、熱がかなり上がっている。 周りの観光客や市民は巻き込まれないようにそそくさと離れる人や、面白半分で立ち止まっている人がいた。

 

「いいかい、この魔法科高校は実力主義なんだ。その実力において君たちはブルームの僕たちに劣っている。つまり存在自体が劣っているってこどだよ。身の程をわきまえたらどうだ?」

 

「それがあなた達の総意ですか?」

 

「当たり前だろ! そうだろ?」

 

「そうよ、あなた達如きが調子に乗らないで!」

 

「才能差を見せつけてやる‼︎」

 

怒鳴り声を上げているグループが、拳銃型のデバイスを取り出し、反対側の彼らに銃口を向けた。 それを見ていた野次馬達は悲鳴を上げながら逃げていく。

 

「まずっ!」

 

すぐに駆け出し、手に魔力で即席のテニスラケットを作った。 次の瞬間、デバイスから魔力弾が撃たれた。

 

「はあっ!」

 

俺は彼らの間に入ると、ラケットでほぼ同時に魔力弾を全て打ち返した。 打ち返した魔力弾は撃った本人達の足元の地面にぶつかり、霧散した。

 

「なっ⁉︎」

 

「ふう、忍義姉さんからテニスを習っておいて良かった……」

 

「いや、もうテニスのレベルじゃないからね」

 

……確かにそうだな、ルール的に。

 

「ーーそこまでだ。 自衛以外の魔法による対人攻撃は犯罪行為だ、それが分からないわけではないだろう?」

 

「な、なんだお前は⁉︎」

 

「管理局よ、全員その場を動かないで」

 

アリサが管理局IDを提示しながら前に出ると、魔力弾を撃った集団は顔を青くする。 俺やすずかも一応IDを提示しておく。

 

「ノース魔法科高校の学生だよね? 事情を説明してもらえるかな?」

 

「は、はい……」

 

女子の1人が説明しようとした時……男子その子の前に出て、頭を下げた。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

「悪ふざけだと?」

 

「はい。 彼らには後学の為に高速魔法展開を披露してもらっていたのですが……あまりに真に迫っていたのでついこちらも過剰に反応してしまいました」

 

「ふうん……それであいつらもつい魔力弾を撃ってしまったと?」

 

アギトがキッと、後ろを睨むと……彼らは萎縮する。 すると彼らのうちの1人ーーポケットに手を入れながら歩いて来て、かなりガラの悪そうな学生ーーが前に出てきた。

 

「おいおい、何ビビってんだよ? こいつらは管理局かもしれねぇが異界対策課だぜ! いつもパシられている奴らに頭なんか下げる必要なんかねぇよ!」

 

彼がそう言うと、同じグループはそれに賛同して反論の声を上げた。

 

「そ、そうだ! 大して歳の変わらない癖に偉そうなことを言うな!」

 

「怪異なんて、私達でも余裕で倒せるわよ!」

 

反論をするのはいいが……この言い争い、かなりスケールが小さくなったな。 ただ……

 

「………………」

 

アリサがかなりイイ顔で彼らを見ているのが心配だ。 気持ちは分からない事もない、俺達の努力を踏みにじっているようなものだからな。 しっかし、完全に話が逸れたな。 しょうがないな……ため息をはいて、少しだけ殺気を出す。

 

『……⁈』

 

「いい加減にしろ……さっきからお前達の行動は目に余る。 魔法の不正使用に加えて公務執行妨害……全員拘束されたいか?」

 

「ーーレンヤ君。 ダメだよ……抑えて」

 

すぐにすずかが制しにきて、気迫を消した。

 

「ふう……とにかくこの場は不問とする。 残りの記念祭を楽しく過ごしたいなら身に余る行為は控えるように」

 

彼らは睨まんばかりに後ろの学生だとを見ると、そそくさと去って行った。 その後、もう1グループとも別れて、近くにあった屋台で飲み物を購入して一休みした。

 

「………………」

 

「分かっているわ。 ただ……私もまだまだって事が改めて思い知らされたわ」

 

「それは俺もだ。 以前から異界対策課だってちやほやされてだが……いざ批判されるとどうも、な」

 

「……彼らの高校なんて関係ない、結局はその人それぞれなんだよ。 今までこんなことが無かったのが不思議なくらい」

 

「あたしは嫌という程見てきたがな……人の醜さってのをよ」

 

アギトは自分の体を抱き締めるようにして語る。

 

「こんなのなんて事はないぞ、この失敗を糧にして頑張ればいいだけだ」

 

「アギトちゃん……」

 

「……ふふ、そうね。 こんなんで立ち止まっていたら、私達の今までの頑張りが無駄になるわ」

 

「失敗は恥じゃない、か……知っている言葉だが、ようやく分かった気がするな」

 

父さんも前に言っていたな。 降り掛かる火の粉を巧みに払えるようになれば……武としても、人としても一人前って……

 

「さて、そろそろ帰ろう。 他の皆のフォローをしないとな」

 

「書類はいつもの倍はありそうね」

 

「おっし! 気合い入れて行くか!」

 

意気込みを改めてして、俺達は異界対策課に戻った。 すでに他のメンバーもいて、かなり慌ただしくなっていた。

 

「あ! レンヤさん!」

 

「おっかえり〜」

 

「トラブルは解決したぁ?」

 

「少しごたつたが、なんとか解決した」

 

「すずか、お願いされてたシステム……作っておいたよ」

 

「ありがとうアリシアちゃん!」

 

すずかは受け取った資料を見て、頷いた。

 

「うん、これなら行けるよ」

 

「またすずかさん、何かしでかすんですか?」

 

「アリサとアギトが関わっているあれか? ロードとユニゾンデバイス……そこにもう1つデバイスを加えた、三位一体の新しいシステムってやつ」

 

「すずかが何か始めたら止まる事ないからなぁ。 ま、それまでのお楽しみにしとけ」

 

そう言ってラーグが書類を渡したので、俺は早速書類の片付けを始めた。大方終わる頃には夕方になっていた。

 

「ふう……」

 

「お疲れ様、レンヤ君」

 

報告書をまとめた所で、横からすずかが紅茶が入ったカップを置いた。

 

「サンキューすずか。 そっちはもういいのか?」

 

「うん、フレイムアイズの調整及びシステムプログラムはインストール済み。 後は実践運用の結果次第だね。 はやてちゃんとリインちゃんが必要、不必要かどちらかとしてもね」

 

「そうか……名前は決まったのか?」

 

「ううん……アギトちゃんとリインちゃんが元だから、妖精から取ろうとーー」

 

「ーーあのあの、レンヤさん。 少しお話……よろしいですか?」

 

そこにサーシャが近付いて来て、遠慮がちに聞いてきた。

 

「どうかしたのか?」

 

「はい、少しお聞きしたい事がありまして」

 

「聞きたい事?」

 

「あのあの……黒の競売会(シュバルツオークション)って知ってますか?」

 

サーシャが言ったことは、聞いたことはなかった。

 

「黒の……」

 

「競売会?」

 

「ーーサーシャ、どこでそれを?」

 

声が聞こえてたのか、アリサとアリシアが近寄って来た。

 

「まだ私が借金まみれだった頃に、マフィアの人達が噂しているのを聞いて……その時は忙しかったので今まで忘れていましたが……今日それを小耳に挟んで思い出したので、調べてみた所……」

 

「このミッドチルダのどこがで開かれる競売会らしいわ」

 

「知っているのか、アリサ?」

 

「ええ、以前エイジさんから聞いた事があるわ。 何でも毎年、この時期に開かれているみたいで……で、どうやらその出品物が盗品ばかりらしいのよ」

 

「と、盗品……⁉︎」

 

アリサの言葉に、すずかぎ思わず声を上げる。

 

「本当か……?」

 

「そこはあくまで噂よ。 途方もない値がついた表に出さない由来の品ばかりが出品されるという話だけど……裏にしか流れない情報だからレンヤ達は知らなくて当然ね」

 

いや、なら何でアリサが知っているって話なんだが……まてよ、まさかーー

 

「なあアリサ。 エイジさん……レイヴンクロウから聞いたって事は……」

 

「ええ、あなたの予想通りよ。 サーシャが黒の競売会を聞いた出どころ……マフィアが関係している可能性が高いわ」

 

「一気に噂で済むような話じゃなくなったね……」

 

「……黒の競売会、か」

 

盗品ばかり扱う……毎年……かなり入り組んだ事情がありそうだな。 その時……

 

【ーーーー】

 

「っ……⁉︎」

 

突然、訳のわからない感覚に陥る。 言葉で表せるなら……血が、呼んでいる?

 

「……レンヤ?」

 

「どうかしたの?」

 

「い、いや……何でもない」

 

息を深く吸って、呼吸を落ち着ける。

 

「サーシャ、黒の競売会について調べてくれないか? ちょっと気になってな」

 

「は、はい! 明日1日いただければ……大まかな内容は手に入れられます」

 

「分かった、お願いするよ」

 

「はい!」

 

「レンヤ君……?」

 

冷や汗をかきながもすずか達を誤魔化し、話題を変えるためにVII組の皆を呼んで夕食を食べようと提案した。 3人は怪訝そうに思っていたが、楽しそうにはしゃぐルーテシアを見て追求するのをやめた。

 

それにしても、今回の記念祭。 どうやらいろんな意味の祭りになりそうだな……1日休みじゃ足りなかったな。

 

 



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114話

ちょっと短めです。


 

 

創立記念祭、3日目ーー

 

黒の競売会(シュバルツオークション)の事を頭の隅に置いておき、対策課をサーシャとラーグとソエルに任せて依頼を受けにミッドチルダを周った。

 

現在は中央区から西に伸びている遊歩道を歩いていた。 歩道の左右端には様々な屋台が軒を連ねている。

 

「どうぞ、お願いされていた香辛料一式です」

 

「助かったよ! 危うく店を離れる所だった! これで………よし! ほれ、持って行きな」

 

店主が早速香辛料を使って焼きたての焼き鳥を作り、それを入れた袋を渡した。

 

「いや、悪いですよ」

 

「いいってことよ、お前さん達にはお世話になっているからな。 これからいさせてくれ」

 

強く断る事も出来ず、押し付けられるように袋が手のひらに乗せられてしまう。

 

「またよろしく頼むぜ!」

 

「は、はい」

 

焼き鳥を1つ取り出して食べる。 出来立てで美味しく、店主は俺の表情を見て嬉しそうに笑った。 こうして依頼や手助けなどをしているからパシられるって言われるのかなぁ……

 

(今更変える気はないけど……)

 

「レンヤー!」

 

そこにアリサ達が人混みから出てきた。 あっちも依頼を終えてきたようで、手には俺と同じように食べ物が入っている袋を持っている。

 

「あ、焼き鳥だ。 1本もらうよ♪」

 

「あたしももらうぞ」

 

アリシアとアギトが了承をもらう前に勝手に焼き鳥を取った。

 

「何気に楽しんでいるわね?」

 

「相手の好意に甘えただけだ。 それでそっちもか?」

 

「あはは……沢山貰っちゃったね」

 

皆の手には袋が必ず1つ持っていて、どれも食べ物の匂いが出ている。 その時、隣をヴィータとシャマルが隣を横切った。

 

「ヴィータ、シャマル!」

 

「ーーん? お前らか……こんな所にいたのか」

 

「あら、奇遇ね」

 

ふぃーは(ヴィータ)、ほんなほころへーー」

 

「飲み込んでから喋ろ」

 

「ゴックン! こんな所で何しているの?」

 

「あたしは警邏隊に呼ばれて巡回中だ」

 

「ザフィーラとは一緒じゃないのか?」

 

いつもはシャマルのボディーガードだったから、いないのは珍しい。

 

「ザフィーラはシグナムと一緒よ。 あなた達は……依頼かしら?」

 

「今終わったばかりですけど」

 

ちょうど良かったので、そのまま情報を交換しながら巡回を手伝った。

 

「ふうん、黒の競売会、ねぇ……聞いた事ねぇなぁ」

 

「そう……そうなるとシグナム達も知らなそうね」

 

「こっちの方でも探りは入れてみるが……期待すんなよ?」

 

「分かってるよ、こっちはサーシャ頼みだし」

 

「んーー……ん? おい、あれなんだ?」

 

俺の頭の上でノンビリしていたアギトが、遊歩道の先を指した。 そこには道の真ん中に堂々と小さなゲートがあった。 近付いてみると、人が空間ディスプレイに1回押すとゲート通っているだけで、特にイベントという類ではなかった。

 

「なになに……“大人だけが通れるゲート”……みたいだな」

 

「確かに大人しか通っていないわね」

 

「何の意味があるんだ?」

 

「さぁ?」

 

「なあなあ、通ってみようぜ!」

 

「通ってみようって、この中で通れるのはヴィータくらいだろ」

 

「あらあら、もうそんなに時間が経ってたのねぇ。 子どもが成長するのは本当にあっという間ねぇ」

 

シャマルは俺達を見て嬉しそうに笑う。 と、アギトに視線を向けると……

 

「あらまぁ……」

 

「ーーおい! 今胸見て言っただろ!」

 

「えぇ? そ、そんな事は……ただ、大人として認めてもらえるか心配かなって、ぼんやり思っただけよ」

 

「はっきり言ってんじゃねえか‼︎」

 

そういや、あんまり聞いた事なかったが……一応、アギトって20歳は超えていた……はず。

 

「今年で18だし……私達も、一応通れるんじゃない?」

 

「どうかしら、まあ試しにやってみるけど……」

 

興味本位でアリサがゲートの前に行くと、目の前に空間ディスプレイが出てきた。

 

『問おう、あなたは大人か?』

 

……妙に偉そうな質問だな、というかやっぱりこのイベントの趣旨が分からん。 アリサは特に気にせずYESを押すと……正解音みたいなのが鳴って、問題なく通れた。

 

「……なんで?」

 

「ゲートに取り付けられているカメラで判断しているんじゃないか?」

 

「ふふ、私はもう子どもに見られないのよ」

 

それはそうだが……そこまで自信満々で言ってもなぁ。

 

俺も試しにやってみると……普通に通れた。 それからアリシアとヴィータとシャマルも通れて、最後に普通子どもサイズになったアギトが質問にYESと答えると……

 

『本当に18歳以上ですか?』

 

あれ? アギト、疑われている?

 

「……はい」

 

『ホントに?』

 

「むっ! ホントだって!」

 

アギトはイラつきながらYESを連打する。 とことん見た目で疑われているな。

 

『ホントは幼女でしょ?』

 

「幼女じゃねえよ‼︎」

 

握り拳でNOを勢いよく押した。強く押したせいでディスプレイにラグが発生して、それが治ると……

 

『その胸で?』

 

「くぅっ〜〜〜‼︎」

 

かなり気にしているのか、ものすごく歯ぎしりをして。 手に火球を出す。

 

「ちょっとやめなさい!」

 

「だ、大丈夫だよアギト! アギトに年齢なんてあってないようものだし」

 

「そうだぞ、あんまり気にすんな」

 

「うっせぇ! 悪魔(グリード)に身体を売った偽乳に言われたくねぇ!」

 

「んだとぉ‼︎ こっちだって好きでこうなったんじゃねぇよ!」

 

「でも喜んでんじゃん!」

 

アギトとヴィータはおでこをぶつけ合いながら睨み合う。 もしヴィータがあの子どもサイズのままだったら……アギトと賛同してただろうな、絶対。

 

「こんのぉ……! こうなったらすずかにアウトフレームをボンキュッボンに作り変えてもらってーー」

 

「やめろ、周りに迷惑だ」

 

暴れるアギトとヴィータの首根っこを持ち上げて、その場を離れた。 ヴィータとシャマルと別れたが、アギトはまだ怒っていて、なだめるのに時間がかかった。 気を取り直して仕事に戻って、残りの依頼も受けにミッドチルダ南部付近を周った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日目の記念祭の活動を終えて、異界対策課に戻ってデスクワークに勤しんだ。 その中にはVII組のメンバーが書いた昨日文のレポートもある。 書類を提出する側だったかが、今回は見る側だから結構新鮮だ。

 

「ふうん……なのは達も頑張っているじゃないの」

 

「他の2学年の子達も助け合いながら特別実習をやっているね」

 

あらかた片付けて、一旦サーシャの元に向かった。

 

「サーシャ、情報は集まったか?

 

「あ、はい。 大まかな内容は掴みました」

 

「じゃあ、後で見せてくれ」

 

「私もこれ以上見積もっても何も出ないので、お手伝いします」

 

それからすぐに仕事を終わらせて、全員がサーシャのデスク前に集まった。

 

「それじゃあサーシャ、お願いね」

 

「はい、ではでは……」

 

「ゴクリ……」

 

サーシャは端末を操作し、黒の競売会の……延いてはフェノール商会絡みの情報を表示した。

 

「私の方で集めた情報はこれで全部です。 調べた所によると、この情報は管理局の上層部もすでに掴んでいるそうです」

 

「いや、助かる。 そういう情報は基本的に回ってこないからな」

 

「ではでは、早速閲覧しますよーー」

 

画面に映し出された項目を見ると……結構揃っていた。 よくここまで集めたものだ。

 

「ふふ、敵対しているレイヴンクロウなら喉から手が出るほど欲しそうな情報ね」

 

「こうして、まとまった形で見るのは初めてだけど……」

 

「それじゃあ、一通り目を通してみよう」

 

項目を1つずつ目を通していく。 よくまとめられていて、今まで聞いてきた話が的確に乗っている。 そして……改めてとんでもない事が分かった。

 

「まさしくマフィアそのものね。 そして、管理局の闇の1つ……」

 

「ふむふむ、全員が戦闘経験者か……下っ端でもあれだけ手強い訳だよ」

 

「でも、あの時のグリード……そのまま使っているらしいよ。 上層部がすでに掴んでいるなら、イレイザーズがとっくに動いていそうだけど……」

 

「確実にグルだよなぁ」

 

「捕まえたのが無駄になったね♪」

 

「やめて、空しくなるから……」

 

会長であるカクラフの項目もあり、俺達は初めてその姿を確認した。 まさしくカクカクしたような顔をしている。 見た目以上にやっている事がエゲツないけど……そして、問題はその次の項目のフェノールの営業本部長である……

 

「ゼアドール・スクラム……統政庁……第一何て異名があったんですね? 人並みのサイズのメイスを片手で……どうやら嘘じゃなさそうですね……」

 

ソーマは思い出すように頷いて納得する。 あの時向かい合った時に肌で感じた戦闘能力の裏づけが取れたわけだ。

 

「それよりも、統政庁ってなんですか?」

 

「一般的な行政を司る組織だよ。 国民の支持が管理局ばかりに集中することを快く思っていなくてかねてから折り合いが悪いの。 確か物事の全てを記録する宝石……瞳石を所有しているらしいよ」

 

(瞳石……大地の記憶、か……)

 

無限書庫にも記録されていないはるか過去の歴史……管理局と真っ正面から立ち向かえる抑止力であり、切り札ってわけか。

 

「……まさか、あの時の議長も関わっていたなんてね」

 

「アザール議長……そう言えば次元会議の時、俺をはめようとしたな」

 

「結局、その後の襲撃でうやむやになったがな」

 

「それにしても……道理で簡単に釈放された訳だね。 これじゃあ根本的な解決にならないよ」

 

「そんなことよりも、黒の競売会についてはどうなんだ?」

 

「今表示します」

 

アギトはそれが1番知りたいようで、先ほどから落ち着きがない。 そして映し出された文章を閲覧した。

 

「アザール議長の邸宅で行われているパーティー、か……」

 

ミッドチルダ南東にある湖の対岸にある高級保養地エミュー。 そこにあるアザール議長邸を会場として毎回多くの有力者達が集まっているらしい。 そこで競りに出される品物はほぼ全て黒い物で、フェノール商会の重要な資金源となっている。 商品が黒いということ以外は後ろめたいものはなく、一般人の安全も保証されている。

 

そして会場に入るには黒の便箋に金の薔薇の刺繍が入っている招待状を持っていない限り、中に入ることができないようだ。

 

「信じられない……こんな事が毎年行われていたなんて……!」

 

「でもでも、おかしいんですよ? 秘密にしている割にはかなり大規模なんです」

 

「管理局とマスコミには厳重に規制されているんでしょうね。 でなければ、これほどの物がニュースにならないわけがないです」

 

「それだけ有力者を招待して、しかも実質的な主催者の1人があのアザール議長……そんなの動けるわけがないよ」

 

「潜入しようにも警備は厳重、ネズミの1匹も出入りができねぇな」

 

「しかも下手に手を出せば……最悪異界対策課ごと潰されそうだね」

 

「完全に手詰まり、ですね……」

 

得られた物はあるが、それ以上に現実を突き付けられてしまう。 まさに黒の競売会とはミッドチルダの歪みが体現したようなものだ。 そんな心中の中……記念祭3日目が過ぎて行った。

 

 



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115話

 

 

記念祭4日目ーー

 

「…………ん…………」

 

眠りから覚め、目を開けると目の前が真っ暗のままだった。 起き上がるとそこはベッドの上で、上着を脱いだだけで着替えてなかった。 確か……昨晩、黒の競売会(シュバルツオークション)の内容を聞いた後すぐに仕事に戻って。 それから書類の整理と報告書を書き終えると、すぐに事務室がある階の上にある自室のベッドに着替えずに倒れ込んだ倒れこんで……

 

「んっ……! いてて……」

 

無理な体勢で寝ていたせいか、体のあちこちが痛い。 3日目の業務でかなり疲労が溜まってきているようだ。

 

コンコン

 

『レンヤ君、もう起きてる?』

 

「ああ、起きてるよ」

 

『入るね』

 

ドアが開かれて、すずかとソエルが部屋に入って来た。

 

「おっはよ〜レンヤ〜〜!」

 

「おはよう、ソエル、すずか」

 

「おはよう。 あ、レンヤ君また着替えないで寝たでしょう?」

 

「いや、それは……その〜……」

 

「疲れているのは分かるけど、ちゃんとしないと他の子達に示しがつかないんだからね」

 

「わ、分かったよ。 次からは気をつける」

 

「この質問何度目だろうねぇ?」

 

ソエルが口を押さえて笑いを堪えている。

 

「そろそろミーティングの時間だよ。 朝食も出来ているから早く来てね」

 

「了解だよ」

 

すずかが出て行った後、制服のシワを魔法で伸ばし身支度を整えてソエルを抱えて2階に降りた。 用意された朝食を食べながら軽いミーティングを済また。

 

「ーーさてと、4日目の業務を始めよう。 各自、担当区の依頼を確認しとけよ」

 

「了解だよ。 今日は中央区にパレードもあるし、逆に郊外に足を運んでいる人も少なからずいるみたいだし……」

 

「落し物とか迷子とか、色々と続発するかもね」

 

「さすがに全部は見切れませんけど。 僕達ができる範囲でフォローをしていきます」

 

「うん、そうだね!」

 

対策課を出る前にVII組メンバーにグループごとに連絡と依頼の要請をし、俺達も行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではもうゲートには近付かないでください、万が一のこともありますし」

 

「はい……ご迷惑をおかけしました」

 

ミッドチルダでパレードか始まる前に、誰かが突如出現したゲートに入ってしまったと通報を受け。 ゲートに入った人物を救出し、安全な場所で今後こんな事がないように厳重に注意している。

 

「それでは、後は我々が」

 

「ええ、お願いするわ」

 

後の事を警邏隊に任せ、俺達はゲートの周りにサーチャーと簡易結界を張るなどの作業を進めた。

 

「ヘックシ!」

 

「大丈夫か、アリシア?」

 

「うー……何で異界で雨なんか降ってるのかなぁ……」

 

「……バリアジャケット、付けてたわよね?」

 

今回入った異界では珍しく雨が降っていたが、バリアジャケットを着てたなら雨など防げるはずだが……

 

「気分の問題だよ!」

 

「なんじゃそりゃ?」

 

「放っておきなさい、今に始まったわけじゃないわ」

 

「は、はは……」

 

作業を終えて、その場から離れると……メイフォンに通信が入って来た。 ソエルからだ。

 

「もしもし、ソエルか?」

 

『やっほーレンヤ、依頼完了お疲れ様〜。 今、大丈夫だよね?』

 

「ああ……一区切りついた所だから大丈夫だ。 それで、緊急の依頼が入ったのか?」

 

『そうなんだけど……レンヤ達に直接頼みたいそうでね。 ちょっとややこしい身分だから、レンヤが直接確認していってね』

 

何だか不安になってきたな……

 

「? 一体何があったんだ?」

 

『それがね、パレードを見ている最中にその人達の子どもが迷子になったらしいの』

 

「いや、それなら警邏隊に任せればいいじゃ……」

 

『言ったでしょう、ややこしい身分だって。 中央区から北寄りにある噴水広場の前……その辺りではぐれたそうだから、そこの前で待っているよ』

 

「……はあ、分かったよ。 すぐに行ってみる」

 

『それじゃ、よろしくねぇ』

 

ほぼ一方的なお願いだが、見過ごせるわけもなく了承して通信を切った。 それから通信の内容をアリサ達に伝えた。

 

「そう……腑に落ちないけど、行くしかないわね」

 

「お祭りの定番の迷子探しの始まりだね」

 

「とにかく行ってみようぜ」

 

「ああ、噴水広場に行って事情を聞きに行こう」

 

事情を聞くためにも、噴水広場に向かった。 広場の真ん中にある噴水に近付くと、高級そうな服を着てベンチに座っている夫婦らしい男女がいた。

 

「すみません、異界対策課の者ですが……あなた方が要請を申し出た依頼人でよろしいですか?」

 

「は、はい……!」

 

「あ……!」

 

「! あなたは……」

 

男性は立ち上がり俺達を確認すると少しだけホッとして、女性は悲痛な顔をしてこちらを見る。 アリサが何かに気付いたようだが、頭を振り彼らに近付いた。

 

「それで、パレードを見ていたらお子さんとはぐれてしまったそうですね?」

 

「そ、そうです! 私がしっかりしていれば……あの子は……!」

 

「落ち着きなさい……すみません、皆さん。 私はイプサムと言います。 彼女は妻のセラ」

 

……姓を言わないのか……ソエルの言った通り、ややこしい身分のようだな。

 

「それで、お子さんとはいつ頃はぐれたのかしら?」

 

「はい……娘とはぐれたのは3時間ほど前……この広場でパレードが通過するのをちょうど見物している最中でした。 すぐに妻が気付いて、2人であたりを一通り捜したのですが見つからなくて……それで、藁にもすがる思いで異界対策課に頼らせていただきました。 身勝手なのは、重々承知ですが……」

 

「い、いえ、こちらももうこれも仕事のようなものですし謝らないでください」

 

ほとんど市民からの依頼が主流になってきているが、やはり本来は異界なのでこういった手合いも少なくない。

 

「どうやら私達で手分けして捜した方がよさそうね」

 

「だな」

 

「ああ、他のメンバーやVII組のメンバーにも連絡しよう。 それで俺達は連絡を取り合いながら別々に探すのが1番だ」

 

「分かった、連絡はソエルに任せておくよ。 あなた達はこの辺りに住んでいるんですか?」

 

「いえ、私達は北東部のリガーテからで」

 

「それなら、異界対策課で待っていてください。 後の事は俺達が、必ずお子さんを探し出します」

 

「お願いします……」

 

「と、その前に……何か手がかりになるもんはないのか? 服装とか、写真とか」

 

「! ああ、ちょうど記念祭で撮った写真があります!」

 

イプサムさんはメイフォンを取り出し、空間ディスプレイを展開して。 映し出されたのはドレス風の洋服を着た女の子で、見た目の歳は8、9くらいの小学生くらいだ。 その後画像をこちらに送ってもらった。

 

「この子はアイシスといいます」

 

「わあ、可愛いなぁ」

 

「それじゃあ、私が2人を対策課に送るわ。 先に捜索を開始してちょうだい」

 

「うう……アイシス……」

 

「しっかりしなさい、彼らに任せればきっとみつかるさ」

 

「ま、焦ったって仕方ねぇ。 女の子が1人でうろついていればそれなりに目立つだろうし、あたし達にドンと任せとけよ」

 

「はい、ありがとうございます。 それでは皆さん……娘をよろしくお願いします」

 

アリサは2人を連れて、噴水広場を後にした。

 

「こっちも捜索を開始しよう。 迷子でもおそらく中央区を出てないと思われるから、その周辺を重点的に探そう」

 

「それが妥当だね。 皆には連絡はしておいたし、探せる範囲は広いけど……とりあえず私達は目撃者を探そうよ」

 

「それじゃ、別々に分担して探すとしますか」

 

アリシアとアギトと捜索地域を決め、女の子を探すために行動を開始した。 目撃者を探し出しながら聞き込みを続けると……

 

《彼女、迷子の自覚がないもようですね》

 

「しかもアリサ、アリシア、アギトからも目撃報告があるからな。 この3時間でかなり歩き回っているみたいだし、かなりややこしくなってきたなぁ」

 

事件などに巻き込まれる前に保護したいんだけど……

 

「ーーレン君!」

 

その時、人混みの中からなのはとフェイトが出てきた。

 

「なのは、フェイト、どうしてここに?」

 

「私達も姉さんから連絡をもらって、それでこの付近を捜索していたの」

 

「そうか……すまないな、巻き込んじゃって」

 

「ううん、気にしないで。 今ツァリ君が念威で探しているから、すぐに見つかると思うよ」

 

確かに、ツァリの念威による捜索や索敵は正確無比だし、あまりにも遠くにいない限りは見つかるだろう。 と、ちょうどそこにツァリの端子が飛んできた。

 

『なのは、フェイト、見つけたよ! あ、レンヤも一緒だったんだ』

 

「まあな、それでどこにいたんだ?」

 

『うん、そこから北西にいった場所にある自然公園にいたよ。 どうやらパレードについて行った後に面白半分で探検していたみたい』

 

「ふふ、怖いもの知らずな子だね」

 

「そうだね……それじゃあ、すぐに自然公園に向かおう。 ツァリ君はそのままアイシスちゃんを見ていて」

 

『分かった、何かあったらすぐに連絡するよ』

 

念話を切り、なのは達と共にすぐさま自然公園まで向かった。

 

「着いた!」

 

「ツァリ、アイシスはどこにいるの?」

 

『車道沿いを歩いているよ。 このまま行けばすぐに追いつく』

 

「ふう、何とかなりそうだな」

 

車道沿いに駆け足で歩きながら進んで行くと、写真と同じ格好の女の子が周りを興味深そうにキョロキョロしながら楽しそうにはしゃいでいた。

 

「わあ、可愛い!」

 

「親の気も知らないで、楽しそうだなぁ」

 

「まあまあ、怪我もないようだし」

 

とりあえずアイシスを保護するため、なのはがあの子に近付いて声をかける。

 

「ちょっといいかな?」

 

「はい?」

 

「アイシスちゃんだよね? お父さんとお母さんが心配してたよ、一緒に来てもらえるかな?」

 

「ええー! もうちょっとだけでもいいでしょう⁉︎ 初めて中央区に来たんだもん、もっと見て回りたいなぁ!」

 

……なるほど、そのややこしい身分のせいで自由に遊び回れないのか。 無理に連れて行くと駄々をこねそうだ。

 

「ダメだよ、お母さん達も心配しているの。 見て回りたいのならお母さん達と一緒にーー」

 

「いや! 私は私が行きたい場所に行くの!」

 

ずいぶんと束縛された生活を送っているようだな、軽く同情するよ。

 

「で、でもね……」

 

「なのは、ここは私に任せて」

 

慌てるなのはの代わりにフェイトがしゃがんでアイシスと目線を合わせる。

 

「私はお母さんの所に行かないよ!」

 

「なら、どこに行く?」

 

「え……」

 

「行きたい場所、あるんでしょう? 一緒に行かない?」

 

なるほど、そういう名目で保護すれば何とかなるか。 イプサムさん達には事情を説明すれば納得すると思うし、この子が満足した後に親御の元に連れて行っても遅くはない。

 

「いいの?」

 

「うん、いいよ」

 

「それじゃあねぇ……あっち!」

 

「あっちね」

 

フェイトはアイシスと手を繋ぎながら指指した方向に歩いて行った。

 

「子どもの扱いはフェイトの方が上だったな」

 

「そ、それは……エリオ君やキャロちゃんとよく遊んでいるからだよ」

 

「はは、フェイトは子どもができたら親バカになるかもな。 なのはは……厳しく育てそうだな」

 

「むう……そんなことないよ」

 

「そうかもな」

 

「もう、レン君!」

 

怒るなのはから逃げるようにフェイト達を追いかけた。 その後、協力してくれた皆に見つかったと連絡をした後に、アイシスに目的のない案内を受けながら中央区を中心に色んな場所を回る事になった。 イプサムさん達夫妻は事情を説明すると安心して。 彼らが落ち着くのにも時間がかかることなのでこのまま連れて行く事になった。

 

アイシスの手を引いて歩くフェイトは、見た目は似てはいないが仲のいい姉妹にも見える。

 

「……ホント、フェイトは子どもの扱いが上手いなぁ」

 

「そうだね。 ちょっと……羨ましいかな」

 

「レンヤさ〜ん、こっちこっち!」

 

「ああ、今行く!」

 

行く前に自分が請け負った残りの依頼をアリシア達に申し訳なく送り、アイシスの元に向かった。 それからアイシスの気の向くままに歩き回り、日が暮れる一歩手前でようやくイプサムさん達の元に向かうことができた。

 

「ふんふふふ〜ん♪」

 

アイシスは満足したのか楽しそうに前を歩いている。

 

「これで一安心だね」

 

「うん、アイシスも楽しんでもらえて良かったよ」

 

「そう言えば、2人は班に戻らないのか?」

 

「あ、そうだった! 依頼を任せっきりだ!」

 

「帰ったら、謝らないとね」

 

先頭を歩くアイシスにも気を配りながらなのは達と雑談を交わす。 と、その時……隣にある車道から車が近付いてきた。 それは当たり前なのだが、その車は不自然にスピードを落として歩道よりに走り、ガラスが必要以上に黒塗りにされていた。

 

「やばっ……!」

 

「っ……!」

 

すぐにアイシスの元に向かおうとした時、フェイトがそこらに落ちていたシワだらけのチラシを拾うと、一瞬チラシに電気が走り……シワのない張っている紙になった。 それを車に向かって投げ、後部ドアの開閉する部分の隙間に張り付いた。

 

車がアイシスの隣に来ると……車の中がガタゴトと揺れ、男達の騒ぎ声を出しながら車はそのまま通り過ぎて行った。

 

「ナイスだよ、フェイトちゃん!」

 

「上手く行って良かったよ」

 

「いや、素直にすごかった。 俺のやろうとしたやり方だと目立ってたからな」

 

「私も……タイヤをパンクさせようとしたけど。 そうするともしもそれが勘違いなんとこともあるからね……」

 

「ま、結果オーライでいいか」

 

アイシスの元に小走りで向かいながら、後ろに去って行く騒いでいる車を放置するのであった。

 

そしてようやくアイシスをイプサム夫妻の元に連れて行くことができた。 セラさんはアイシスを見るなら抱きつき、イプサムさんは何度も頭を下げた。

 

「ありがとうございます、このお礼は後日必ず……!」

 

「い、いえ……自分達も当然のことをしただけです」

 

「いいえ……! 元々は私達がこの子を束縛し過ぎたのが原因です。 これからはアイシスとの時間も大切にします……!」

 

「うう……ママ、くすぐったいよぉ〜」

 

そんな微笑ましい光景を見た後、イプサムさん達は異界対策課を後にした。 それからなのはとフェイトは自分達の活動班に戻り、俺も任せてしまった仕事を進めた。

 

「そういえば……アリサはイプサムさん達のことを知っていたの?」

 

「ええ、前にすずかと一緒に依頼でリガーテに行ってたことがあるのよ。 彼はその時に知り合ったの」

 

「ちなみに、私達も何度もお世話になっている人だよ」

 

「へぇ、それで誰なんだ?」

 

「イプサムさんのフルネームはイプサム・イーグレット。 イーグレット・セキュリティ・サービス……通称イーグレットSSの代表取締役だよ」

 

「え……」

 

お世話になっている上にかなりの大物だった。 ってことはアイシスって取締役令嬢? 下手な権力者より大物だ。

 

「というか知っているなら教えてもよかったんじゃない?」

 

「ごめんね、お忍びで来てたみたいだから……」

 

「それなら仕方ないですね」

 

確かに、誘拐されかけたからな。 無闇に名乗れない訳だ。

 

「しっかし、これで4日目が終了か。 最終日は一体何が起こるのやら」

 

「そうだね……サーシャちゃん。 あれから進展は?」

 

「全然です。 ただ、フェノール商会は黒の競売会の会場であるエミューに集結している情報を得ましたから。 やっぱり今年も開催されるみたいです」

 

競売会をどうにかしたいのだが、どうにも出来ないもどかしさが胸の中を渦巻いた。 何も案が出ないまま、4日目は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

今は朝食を食べながら今日の活動について相談している所だ。 ソーマとサーシャとルーテシア達はここにはいなく、3人には最終日くらい休ませたいので、今日は休みをあげた。

 

「さて、最終日は祭り終盤だからか依頼も少ないし。 VII組メンバーも今日は自由行動だが……俺達はいつも通りだな」

 

「ち、使い魔使いの荒ぇ奴らだ」

 

「でも、正直を言えば……私も休みたかったかな」

 

「仕方ないわよ。 依頼が少ないだけでもありがたいと思わないと」

 

「ま、最後まで気合いを入れるとするか」

 

「今日も張り切って行こ〜〜!」

 

コンコンコン!

 

「失礼します! 特急郵便士のベレット・エヌマールです!」

 

その時……素早くドアをノックされ、返事を待たずに入って来たのは羽根つきのベレー帽を被った女の子だった。 ビシッと敬礼をした後、テーブルの前に来た。

 

「神崎 蓮也氏に急ぎのお届け物を持ってまいりました!」

 

渡されたのは小さな小包、受け取ってみるとかなり軽かった。 受取認証用のディスプレイが前に出て来たのでサインをした。

 

「それでは失礼します!」

 

ベレットはまたビシッと敬礼をすると、素早く対策課を出て行った。 嵐が去ったみたいに沈黙がしばらく続いた後に小包に目を落とし、差出人の名前を見た。

 

「………………」

 

「嵐みたいな子だったね」

 

「それで結局、誰からなの?」

 

「いいって言ったのになぁ…………イプサムさんからだ」

 

「そう……」

 

「とりあえず、メシ食おうぜー」

 

お腹を抑えているアギトもいることだし。 小包の件は後にし、朝食を済ませてから開ける事にした。

 

「何が入っているんだろう?」

 

「軽いから、よく分からないな」

 

小包を開いて、入っていたものを取り出した。 入っていたのはメッセージカードと漆黒のカードが入っていた。

 

〈最終日は娘と遊ぶ事になりまして、昨日のお礼にそのカードを差し上げます。 どうか、有効にご活用ください〉

 

と、メッセージカードにそう記入されていた。 そして、漆黒のカードをよく見ると、金の刺繍で薔薇が象られている。情報通りなら、黒の競売会の招待状だ。

 

「黒の競売会の……」

 

「ど、どうしてこんな物を……!」

 

「ありえなくはないわね。 イーグレットSSなら充分ありえるわ」

 

「私達がこれに関心を持っているのを知っていたのかはわからないけど……」

 

「どう考えても予定が出来たから代わりに行ってくれっていう感じだな」

 

「軽いね……」

 

「こんなものすぐにポンと渡せるのが、流石としか言いようがないですね」

 

「まあ、イプサムさんに関しては深く考えないでおこう。 それより……このカード、本物だと思うか?」

 

アリサにカードを渡し、アリサは注意深くカードを観察する。

 

「そうね……高級感のあるあつらえといい、本物である可能性は高いと思うわ」

 

「金色の薔薇の刻印……本物の金箔が使われているよ」

 

「本日夜7時、保養地エミューのアザール議長邸にて開催、か」

 

ソエルとラーグがカードを覗き込みながら言った。

 

「なあ、皆。 これ一旦俺がーー」

 

「いいわけないでしょう」

 

俺が提案を言う前に、アリサに先に言われて遮られる。

 

「私はここに来る政治関連の人物に、興味があるのよ」

 

「私は単純にオークションが気になるね。 面白いものが見つかりそうだし」

 

「こうゆう催しは遠慮したいけど……やっぱり無視はしたくないよ」

 

「ゴージャスなパーティといえば、美味いもんが食えるんだろ? 行かない手はないぜ!」

 

「私も! 私も行きたい! 最近運動不足で饅頭からボールになりそうだよ〜」

 

「俺はパスだ。 もしもの時の言い訳を考えないといけないからな」

 

「皆……」

 

俺には勿体無いくらい、いい仲間を持ったものだな。

 

「ーー今日は最終日だ。 昼までに一通り仕事を片付けたら南東にあるエミューに向かおう。 本当に潜入するかは……エミューに行って考えたい」

 

「ええ、分かったわ」

 

「それじゃ、残った仕事をさっさと済ませるとしようかな」

 

「新しい依頼はサイトに出しておいたよ。 念のため、エミューに行くのを不審に思われないためにエミューのテーマパークの依頼もあるから」

 

「ふふ、ありがとう、ソエルちゃん」

 

こうして俺達は、黒の競売会に堂々と参加できる手段を手にした。 真実の1つを今日、俺は知る事になるかもしれないが……それ以上に、今回は変な胸騒ぎがする。 これの原因が分かるといいんだがな。

 

 



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116話

 

最終日に届いた依頼をあらかた片付けた後、依頼を受けるという名目で、俺達はミッドチルダ南東にあるエミューに車で向かっていた。 乗り場にまで到着すると、エミューに行こうとする観光客が数名いた。

 

「水上バス乗り場……ここからエミューに行けるんだよな」

 

「ええ、30分に1本は運航しているはずよ」

 

すずかは近くにあったバス停の時間表を見る。

 

「記念祭の間は、20分に1本出ているみたいだよ。 最終は夜の12時半みたい」

 

「そんな遅くまで出ているんだね、働き者〜♪」

 

「まあ、テーマパークで遊んだからレストランでディナーになることが多いからどうしても遅くなっちゃんだよねぇ。 ホテルに泊まろうとしても高くてとてもじゃないけど泊まれないし」

 

「それでも今の時期は満室の可能性が高いでしょうね。 どうする、レンヤ? もう水上バスに乗ってエミューに向かう?」

 

「そうだな……」

 

この辺りは基本エミューに向かう港だけで、少しだけの建物が点々としているだけで何もないし……

 

「よし……それじゃあ水上バスを待とう」

 

と、ふと自分の格好を思い出し、見下ろしてみた……とてもじゃないけどパーティに行くような服装ではない。

 

「今更だけど……この格好のままで大丈夫かな?」

 

「それもそうね。 ドレスでも持って来れば良かったわ」

 

「パーティに乗り込めると決まったわけじゃねえし。 テーマパーク目当ての観光客に紛れていいんじゃねえか?」

 

「ドレスとか正装は、もしかしたらあっちで用意できるかもしれないから……そこまで心配しなくても大丈夫かな?」

 

結局正装の事も含めて、エミューに着いてから考えることになり。 先にバス乗り場で並んでいた人の最後尾で、水上バスが来るのを待った。 それから数分で水上バスが到着し、それに乗り込んでエミューに向かった。

 

しばらく揺られながら到着したエミューは、見るからに豪勢な場所であった。 少し覗いたホテルは一流の高級ホテル。 テーマパークはルキュウのすぐ近くにあるテーマパークと引けを取らない賑わい。 しかもまだ建設途中の場所もあるわけで、大きくなっていくことが止まることを知らないようだ。

 

「まずは会場であるアザール議長邸を見に行くわよ」

 

「アリサとアリシアは一度見に行った事があるんだっけ?」

 

「1年生の時の特別実習でね。 前と変わっていないとは思うけど、あの大きさは今でもなれないよ」

 

「そうかしら? あの位の大きさなら……別荘にちょうどいいくらいよ」

 

「いや、アリサの感覚で比べるなよ」

 

正面ゲートからホテルを経由して別荘が立ち並んでいる区域に出た。 そこの奥に見えたのは他の別荘とは全く別次元の豪邸があった。

 

「アレが……アザール議長邸……屋敷というより城みたいだ」

 

「あと人はそれなりの名士だし。 あの屋敷もかなり以前に建てられたものだって聞いているよ」

 

「聖王家の屋敷よりは小さいけどね〜」

 

「あんな場所で競売会が開かれるんだ……相当、大規模みたいだね」

 

「ああーー」

 

その時、屋敷の玄関が開かれ、数名の黒服を着た男達と……ゼアドールが出てきた。 すぐさま物陰に隠れて、彼らの会話を聞いた。 警備について話しあっており、どうやら競売会で出品する物もすでに屋敷に運びこまれたらしい。 しばらく話した後、ゼアドールは屋敷の中に戻って行った。

 

「ーー出やがったな」

 

「あのゼアドールって人達も早速、中に詰めているらいしいね」

 

「パーティの開場は夜7時から……もう警備を始めているのね」

 

「それだけ、他の勢力を警戒しているみたい」

 

「……しかし参ったな。 いくら招待カードがあっても簡単には入れなさそうだ」

 

「レンヤ達、結構あの人達に知られているからね〜」

 

確かに俺達異界対策課はフェノール商会にかなり苦渋を舐めさせているからなぁ……恨まれていてもおかしくない。

 

「何か手立てを考える必要があるね……」

 

「…………とりあえず、ここから離れよう。 ここで見つかったら元の子もない」

 

「そうね……」

 

気付かれないように、静かにその場を離れようとした時……

 

【ーーーー】

 

「え……」

 

誰が呼んでいる……そんな感じがした。 俺は踵を返して屋敷を見上げた。

 

(………今のは………空耳か……それとも……)

 

「……レンヤ君?」

 

「どうしたの?」

 

「いや……」

 

突然の行動に、アリサ達は心配する。

 

「ーーゴメン。 気のせいだったみたいだ」

 

「?」

 

「よく分からないけど、早く行こう」

 

「………………………」

 

頭を振り、皆の元に戻ってアーケードに向かった。 その後、一通りエミューをみて回り、一旦アーケードの広場で情報を整理した。

 

「一通り回ってみたけど……やっぱりオークション会場に入る手立てを考える必要がありそうだ」

 

「確かに、チェックしているのがあのマフィアみたいだからね」

 

「そもそも、その招待カードはそのまま使えるのか? 身元を調べられる可能性があるだろう」

 

「……確かにそうね。 その辺りをイプサムさんから聞いておけばよかったわ」

 

「まあ、招待カードを譲ってもらっただけでもありがたいと思っておこうよ」

 

「いずれにしても……どこか落ち着ける場所が欲しいな。 レストランは……ちょっと人目がありすぎるか」

 

「なら、上のホテルに空室はないのかな?」

 

「この時期だからさすがに満室だと思うわ」

 

「でも、ひょっとしたらキャンセル空きがあるかもしれないよ。 行くだけ行ってみよーよー」

 

「そうだな、行ってみよう」

 

アーケード内にある階段を登り、ホテルに入った。 こいゆう地味に便利な所が人気の1つなのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ。 ホテル・エルレインへようこそ。 ひょっとして……当ホテルのご利用でしょうか?」

 

フロント前に行くと、受付の支配人がそう聞いてきた。

 

「ええ、そうよ。 やはり満室かしら?」

 

「大変申し訳ありません。 実は先程、一件キャンセルがあったのですが、すぐに予約が入ってしまいまして」

 

「そうですか……」

 

「……惜しかったね」

 

「仕方ないよ、レストランあたり行こうよ。 話をするくらいは出来ると思うよ」

 

「そうだな……」

 

「ーーお前らは……」

 

聞き覚えのある声が聞こえ、出てきたのは……

 

「へ……?」

 

「ク、クー先輩……?」

 

なんと、旅に出たはずのクーだった。 どういうわけか髪をバッチリ決めていて、いつもだと想像できない正装を着ていた。

 

「何だか部屋が取れなくて困っているみてぇだが……ゆっくり話せる場所が欲しいってことでいいのか?」

 

「あ、ああ。 そうだけど……」

 

「なんでここにいるのですか……」

 

「細かい事は言いっこなしだ。 まあ、ともかく、俺の部屋を使えよ」

 

「ええっ⁉︎」

 

突然の申し出に、俺達は驚く。

 

「おいおい、いきなりだな」

 

「こっちだぜ」

 

クーは返事を聞く前に奥の扉を開けて入って行った。

 

「……どうするの?」

 

「いつも怪しいのに、さらに怪しい格好してたけど……」

 

「というか、旅に出たんじゃなかったの?」

 

「こんな場所にいるのも怪しいねぇ〜」

 

「ま、まあ、知らない相手じゃないし……とにかく行ってみよう」

 

扉を開けて中に入り、客室に続く廊下に入るとクーが客室の1つに入るのが見え、続いてその客室に入った。 中は建物と同様に豪勢で、内装や装飾も一級品だ。 その中の高価そうなソファーに、クーが座っていた。

 

「しっかし、お前らもなかなか優雅じゃねぇか。 記念祭の最終日に休みをもらってエミューで豪遊とはな」

 

「えー……骨休みって所です。 それよりもクー。 どうしてこんな場所に、それにその格好は……」

 

「記念祭って楽しそうな行事を前にして、遊ばない手はないだろ」

 

「予想通り過ぎて何も出ないね……」

 

「それとこの格好はな……ちょっとした旅資金集めの一環だ。 夢を見たい婦人、そんな彼女達に一時の幻を見せてやる、な」

 

「なっ……⁉︎」

 

「それってもしかして……」

 

「いわゆるホストってやつだね。 ヒューヒュー♪ ホステス野郎〜♪」

 

「ふ、これも大人の階段の1つってわけさ。 俺みたいな一流ともなれば引く手はいくらでもあるのさ」

 

「賭博しては負けている奴が何言ってやがる」

 

やっぱり、クーはどこ行ってもクーだった。 むしろ学院を出たせいで酷くなっている。

 

「ええっと……それでクー先輩はその、お仕事でここに?」

 

「ああ、いわゆるエスコート役ってやつだ。 とあるご婦人と同伴してちょっとしたワケありのパーティに出るつもりだ」

 

「え……」

 

「それって……」

 

ワケありのパーティ……それがここで開催するものと言ったら、アレしかない。 そんな俺達の反応を見て、クーは俺達がここにいる理由を理解したようだ。

 

「くく……成程な」

 

「成程って……その、なんの話だ?」

 

黒の競売会(シュバルツオークション)……大方、その名前を知って調べに来た口だろ?」

 

慌て誤魔化そうとするが、黒の競売会の内情を知っているのかすぐにバレる。

 

「はあ……」

 

「バレバレみたいだな」

 

「という事は、あなたが出る訳ありパーティというのも……」

 

「ああ、その競売会だ。 一昨年も別の婦人の付き添いで行ったから、2回目になるな」

 

「学生でもホストやってたんですか……」

 

ここにエテルナ先輩がいたら、クーは速攻で裁かれたと思いたい。 やっぱり1回エテルナ先輩に躾けてもらった方が世のためかもしれない。

 

「だがお前ら、その競売会を摘発するつもりか? さすがにお前らでも無茶だと思うぞ」

 

「いや……悔しいけど元より摘発するつもりはないさ。 ただ、知っておきたかったんだ。 ミッドチルダの歪みを体現したような豪華絢爛な裏の社交パーティ……俺達が対面するであろう敵の大きさを」

 

「レンヤ……」

 

「くく……なるほどな。 その意気込みは買うが、あいにく競売会には招待カードがないと入れないぜ。 毎年、違った薔薇のデザインで通しナンバーも入っているから偽造も難しい……どうしようもないと思うがな」

 

「それなんだけど……実は、カードは持っているんだ」

 

懐から漆黒のカードを取り出し、クーに見せる。

 

「ほう……どうやって手に入れたかを聞くのは野暮ってもんか」

 

「ああ、事情があってな」

 

「一応聞くけど……この招待カードたけど、身元を特定されることはないのかしら?」

 

「会員限定で、登録されている人しか入ることができないとか……」

 

アリサとすずかが競売会を知っているクーに詳細を聞いてみた。

 

「いや、それはないと思うぞ。 裏の社交界的な側面があるから新規の客を歓迎しているようだ。 盗品を扱っている以上、あえて身元を特定されたくない有力者も数多くいるようだし」

 

「ふうん、だったら何とかなりそうだね」

 

「ボディーチェックや持ち物検査などはありましたか?」

 

「いいや、無かったぞ。 開いているのがマフィアだし、デバイスを持っていても相手にやらないと思ってるんだろ」

 

「そうですか……」

 

「レゾナンスアークを置いていかななくて済んだだけましか」

 

「そういや、1枚の招待カードで何人まで入れるんだ?」

 

「特に決まりはねえが……ただまあ、大抵は2人連れだな。 4人連れで入るのは目立つからお勧めはしないぞ」

 

「なるほど……」

 

「確かにそれは言えているわね」

 

「それと、一応パーティたがらフォーマルな格好をした方がいいぞ。 俺みたいに悪目立ちするってのもアリだがな」

 

「それは遠慮しておく」

 

逆にクーみたいなのがいれば隠れ蓑にも出来そうだけどな。

 

「服の調達なら下のブティックが丁度いいと思うわ」

 

「チョイスは私とアリサちゃんに任せて、うんとカッコよくしてあげるから……!」

 

「目立つからやめておけ」

 

すずかがキラキラした目で俺を見つめるのをアギトが止める。

 

「さて、後は誰が潜入するかだけど……」

 

「レンヤは確定だよ、私達のリーダーなんだから」

 

「今回の件も結構拘っていたからね、いいんじゃないの〜?」

 

「い、いいのか?」

 

「いいも何も、私がいいって言ったんだからそれでいいのよ。 それで同伴者だけど……」

 

「1人で行くのも帰って目立つからな。 それで……誰を選ぶんだ?」

 

クーが口元を抑えて笑いを堪えながら聞いて来た。

 

「マフィアがいるのも考慮して考えないとね。 残りの2人は、会場の外でいざという時に備えて待機する。 そんな役割分担かな?」

 

「どんな分担にしても、下のブティックに行こう。 ドレスアップするまでには決めておいてね」

 

「……ああ。 そうさせてもらうよ」

 

とりあえず誰にしようか……よく考えないとな。

 

そう考え込んでいる時、アリサ達3人が睨み合って火花を散らしていたのは……預かり知らない所だった。 クーにお礼を言って客室を出ると……何故かクーも付いて来た。

 

「ーーちょっと待て。 どうしてクーまで一緒に付いて来るんだ?」

 

「せっかくだしコーディネイトの指南でもしようと思ってさ。 マフィアのチェックを誤魔化すコツを教えてやるよ」

 

「うーん……まあ、そういう事なら」

 

「何かあからさまに興味本位っぽいけど」

 

「ま、聞くだけ聞いてみようぜ」

 

「その前に依頼を終わらしておきましょう」

 

ブティックに行く前に先にテーマパークに行って周囲に聞き込みをしながら依頼を片付けた。 依頼が終わったその後、ブティックに入った。中は高そうな服がズラリと並んでいて、買えるとは思うが手に取ることに躊躇してしまう。

 

「高そうなお店だね」

 

「いわゆる高級ブランド店だな。 フォーマルな服からキレイめなカジュアルまで何でも揃ってるみたいだぜ」

 

「アギト、よく知っているね」

 

「ア、アリサの実家に帰った時にたまたま教えてもらっただけだ」

 

「ふうん……まあまあな値段ね。 それでレンヤ……誰を連れて行くか決まったかしら?」

 

アリサが近くにあった服の名札を見た後に、同伴者が決まったか聞いてきた。

 

「ーーああ。 すずか……一緒に来てくれるか?」

 

「………うん、分かったよ。 でも、どうして? こういうパーティならアリサちゃんの方が慣れていると思うけど……」

 

「確かにそうだが……アリサの場慣れした対応だとむしろ人を寄せそうなんだ。 だけどすずかなら軽くあしらえそうだし、近寄りがたい雰囲気もあるからな」

 

「そ、そうなんだ……///」

 

「……くっ、返って裏目に出たわね」

 

「……仕方ないとはいえ、そもそも話にすら入れていない〜……」

 

「よしよ〜し」

 

落ち込むアリシアに、ソエルが頭を撫でている。

 

「くく、まあ誰と組んでもカップルとして装うことになりそうだがな。 この組み合わせなら……社交場に慣れていない静かなお嬢様が同じく慣れていない有力者のボーイフレンドを連れて興味本位で話題のパーティに参加してみた。 そんな感じでどうだ?」

 

「なるほど……説得力がありそうだ」

 

「まあいいわ、2人をパーティに相応しいコーディネイトしてみせるわよ!」

 

「お、お〜……」

 

「お〜〜♪」

 

それから俺とすずかはアリサとクーに着せ替え人形にされた結果……終わった頃には試着室からげんなりとして出てきた。 服装は白のシャツに紫の縁取りをした紺のスーツ、首元には若葉色のタイを緩く花結びしている。

 

すずかは胸と肩が大胆にも出ている紫色のドレスで、肘まで覆う白い手袋、頭にはいつものカチューシャではなくドレスに合わせた白い花の造花がついた同色の髪留め、首には宝石が付いたネックレスも掛けていて、思わず見惚れてしまった。

 

「お、お待たせ……///」

 

「一応、着てみたけど……」

 

「へえ……いいじゃん。 すずかはかなりセクシーになったな」

 

「これなら、男どもの視線を釘付けにしつつもおいそれとは近づかねえな」

 

「レンヤも中々似合っているよ!」

 

「そ、そうか? さすがにすずかの横に立つと釣り合っていない感じだけど……」

 

「そ、そんな事ないよ! レンヤ君もスーツ姿、とても似合っているよ///」

 

すずかが顔を上げで、顔を覗き込んだ。 ヒールを履いているせいで胸元まであった身長が上がり、今の服装にせいでつい下を向いてしまうが……すぐに視線を逸らす。

 

「う……あ、ありがとう。 何とかすずかの彼氏に見えればいいんだけど」

 

「う、うん……ちゃんと見えると思うよ///」

 

「くく、どうやら余計な心配は無かったな。 ついでにこれも持って行くといい」

 

クーに渡されたのは、黒の縁取りの楕円形の伊達メガネだ。

 

「これは……」

 

「女はドレスアップするとかなり雰囲気が変わるが……お前の方は、フォーマルな格好でもそんな印象は変んないからな。 会場にいる時は付けてた方がいいぞ」

 

「なるほど……助かるよ」

 

さっそく渡されたメガネを掛けてみた。

 

「……どうかな?」

 

「ほお……」

 

「驚いた……結構、印象が変わるもんだね」

 

「しかも意外と似合ってる〜」

 

「これを期にメガネでも掛けてみたらどう?」

 

「いや、目が悪いわけじゃないし」

 

否定の意味を込めてメガネを外し、畳んで胸ポケットに入れた。

 

「はい、すずか。 あなた達の服や持ち物を入れておいたわ。 もしもの時はバリアジャケットで着替えなさい」

 

「うん、ありがとう、アリサちゃん」

 

すずかは2人の荷物が入ったドレスと同色のバックを受け取る。

 

「ーーよし、これで準備は整ったな。 後は競売会が開場するのを待つだけだ」

 

それから一旦クーの部屋に戻り、時間が来るまで打ち合わせをした。 正直この後何が起きるのか皆目見当もつかないが、真実を否定せずに受け入れられるか心配になる。 ついこの前おみくじで大吉を引いた、その後でコレなんだから大凶引いたら一体どうなっていたか……想像したくない。

 

 



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117話

 

 

「日が沈んできたな……」

 

クーの客室に戻り、開場されるまで打ち合わせをしていた。 時間が経った時に何となく窓の外を見ると、空は暗くなっていた。 そろそろ7時を回ろうとした時……何がが打ち上げられる音がすると……空に花火が上がった。

 

「わあ……!」

 

「綺麗……」

 

「どうやらこの花火、記念祭中は毎日あるみたいだ」

 

「大盤振る舞いなことで」

 

「テーマパークは眠らない、だね」

 

夜空に咲く花火はいつ見ても綺麗だな。 競売会に迫るせいの緊張がほぐれていくようだ。

 

「ーーさて。 俺は一足先に行かせてもらうぜ」

 

「そうか……どこかの婦人と待ち合わせしているんだったか」

 

「まあな。 それじゃあ、無事に朝日を拝めることを祈ってるぜ。 お前達がヘマしなければオークション会場でな」

 

最後に不吉な助言をして、クーは客室を後にした。

 

「人の喰った野郎だぜ」

 

「色んな意味で人脈を広いよね、色んな意味で」

 

「でも正直、競売会の情報を教えてくれたのは助かったね。 色々とお世話になっちゃったよ」

 

「そうだな……」

 

頼りになる時は頼りになるんだが、その方向性がいつものおかしいのが否めないのだが……

 

「ーー俺達もそろそろオークション会場に向かおう。 何とか入口のチェックを抜けて会場の中に入り込まないとな」

 

「うん……そうだね!」

 

慣れない服装にちぐはぐしながらオークション会場に向かった。

 

「私はいつでも大丈夫だよ。 オークション会場に入る?」

 

「ああ……」

 

肯定の意味を込めて伊達メガネを掛けて頷く。

 

「問題なし。 オークション会場に入ろう」

 

「うん、分かったよ」

 

「レンヤ、すずか……気をつけてね」

 

「打ち合わせ通り、私達はこの付近に待機しているわ。 何かあったらすぐに連絡をちょうだい」

 

「ああ。 そっちの方も気をつけてな」

 

「それじゃあ行って来るね」

 

「頑張れよ」

 

皆に激励を貰い、すずかと共に屋敷に続く橋を渡る。 緊張しながらもそれを表に出さぬよう、平常を保ち胸を張りながらすずかの少し前を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入口前に来ると、サングラスを掛けている黒服の男2人がいた。 マフィアのチェックだろうが……いくら顔を隠すとはいえ夜にサングラスはどうかと思う。

 

「ようこそ、黒の競売会へ。 招待カードを見せていただけますか?」

 

「ああ、これでいいかな」

 

懐から招待カードを取り出し、男の1人に渡した。 男はしばらくカードと睨みあった後……静かに頷いた。

 

「……確かに。 念のためお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「えっと……」

 

この振りは聞いて無かったので少し口籠もってしまう。 本名は無いとして……

 

「ーーシャオ・ハーディンだ。 身分を明かす必要はないだろう?」

 

とっさに父さんの名前を言った。 少し安易過ぎたかと後悔したが、男達は特に反応しなかった。

 

「ええ、それはもちろん。 そちらの方は……?」

 

「ふふ、お疲れ様です。 私の方は事情があって、身分を明かせませんけど……こういう催しでもありますし、別に構いませんよね?」

 

「え、ええ、まあ……ですが一応、そちらのシャオ様とのご関係を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

すずかの対応に男は少し困惑したが、すぐに気を取り直して関係を聞いてきた。 すずかはニコッと笑うと……俺の隣に来て腕を組んできた。

 

「ふふ、恋人には見えませんでしたか? と言っても、まだ父にも母にも内密にしている関係なんですけど」

 

「済まない、私がもっと優秀であれば良かったのだが……だが必ず、君を堂々と迎えに行くから」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

これは事前に決めたいたことで。 打ち合わせ通りに話を進め、チェックを通過しようと試みる。

 

「コホン……失礼しました」

 

どうやら信じ込めた様で、男は俺達の雰囲気を変えるため軽く咳払いをした。

 

「それではシャオ様、お連れ様。 どうか存分に、今宵の競売会をお楽しみください」

 

男2人は道を開け、すずかと腕を組んだまま屋敷の中に入った。 屋敷の中は外の装飾で分かる通り豪華絢爛だった。 すでに他の招待客もいるようで、外の2人と同じ格好をしたマフィアが数名いた。

 

「すごいな……」

 

「アザール議長邸……噂に聞いていたけど、こんな壮麗な建物だったなんて」

 

「ああ、想像以上だった……」

 

アリサ、すずか、一応実家になる聖王邸……それを見ていなかったら内心かなり慌てていたと思う。 そして……改めてアザール議長、フェノール商会の大きさを目の当たりにする。

 

「ーーようこそ、お客様」

 

その時、正面にいた老人が声をかけて近付いてきた。 おそらく競売会の案内人だろう。

 

「黒の競売会へようこそ。 お客様は……初めてのご来場でございますか?」

 

「ああ、そうですけど」

 

「オークションは午後9時から、正面ホールにて開催を予定しております。 それまでの間、左手にあるサロンで饗応の用意をさせて頂いておりますので、お酒やお食事などをお楽しみください。 ちなみに今宵は、当館にお泊りになるつもりはございますか?」

 

「いや結構。 ホテルに部屋を取っているし、友人も待たせているからね。 今回は遠慮させてもらうよ」

 

「かしこまりました。 もし気が変わられた場合、すぐにでも部屋を用意いたしますので、遠慮なくお申し付けください」

 

その後も立ち入りの禁止場所などの注意を受け、案内人は元の場所に戻って行った。

 

『オークション開催まで2時間はある……それまで一通り屋敷の中を回ってみよう』

 

『うん、怪しまれないようにしないとね』

 

念話で会話した後、オークション会場を少し覗いた後に案内人に言われた通り左手あるサロンに向かった。 中は食べ物やお酒の匂いが溢れていて、先に来ていた招待客が楽しそうに食事をしていた。

 

「立食形式のパーティか……ほとんどの招待客が集まっているみたいだけど」

 

「料理やお酒もさすがに豪華だね……一流のシェフを雇っているんだと思う」

 

「昔にアリサとすずかに連れられてこういうパーティに出た事はあったけど……さすがにそんな余裕はないな」

 

「ふふ、食べたいのなら食べさせてあげる♪」

 

「食欲もないよ」

 

さすが慣れているだけはあって立ち振る舞いに余裕がある。 しかも周りの男達の視線を釘付けにしながらも、身元がバレない上に軽く流している。 しばらくサロンを周っていると……

 

「あら……」

 

「あ……」

 

「キルマリアさん……⁉︎」

 

ソファーに座って休んでいたのは……ディアドラグループ、会長秘書のキルマリア・デュエットさんだった。

 

「……奇遇ですね。 こんな場所であなた方と会うとはさすがに予想外です」

 

「こ、これはその……」

 

「その、色々と事情が……」

 

「ふふ、いいわよ」

 

誤魔化そうとするが、キルマリアさん特に気にしなかった。

 

「ーーそれで、ここでは何とお呼びすればいいのでしょうか?」

 

「え……」

 

「ど、どうしてそこまで……」

 

「あなた方の立場を考えれば何をしているかは想像が付きます。 そして招待カードを渡す時には代表者が名乗る必要がある……それで、何とお呼びすればいいのでしょうか?」

 

「……シャオ、でお願いします」

 

もう一度聞かれたので素直に偽名を言った。 なんかこの人には色々と勝てない気がする。

 

「ええ、よろしくお願いします、シャオさん。 私はそのままキルマリアで結構です」

 

「わ、分かりました。 それで……どうしてキルマリアさんはこの場所に? やっぱり出品物目当てですか?」

 

「ええ、ソアラ会長からどんな出物があるかどうか確かめて欲しいと頼まれたのです。 いわゆる、市場調査ですね」

 

「なるほど……」

 

「しかしアザール議長という方はなかなか抜け目のない人物のようですね。 この競売会……仕組みとしてよく出来ています」

 

「と、言うと?」

 

疑問を聞くと、キルマリアさんはこの競売会の仕組みを教えてくれた。 摘発されることのない上流階級御用達の裏の催し、それは各次元世界が扱いの困る曰くつきの品物を自分でなく相手に処理できるという利点にこそ意味があった。 違法になりうる行為、その証拠品……それらがこの場ではなかったことにされてしまう。 だからこそ管理局や聖王教会かま黙認し、上層部も手を出すことはできない。 フェノールも安定して多額の資金が得られる。参加者はお金さえあれば望みの品が手に入る。 誰もが特になる為、止めることはできない。

 

「なんかそれ知ってます、爆弾ゲームってやつです……」

 

「爆弾は受け渡しが成立した時点で不発弾になりますけど、あながち間違ってませんね。 歯痒い現実ですが、逆らうのは難しいでしょう」

 

「………………」

 

「レンヤ君……」

 

改めて真実という壁にぶつかり、自分の無力さを実感してしまう。 カードを手に入れて、この場所に来れたからどうにかなるかもしれない……そんな気持ちは現実では役に立たなかった。

 

「でも、不自然さは否めない」

 

『え?』

 

キルマリアさんのその言葉に俺達は同時に声を漏らし、キルマリアさんはそんな俺達を見て面白そうに微笑んだ。

 

「ここは完璧な仕組みで回っていますけど、異質なものは異質なことは避けられません。 異質で異様、そして異常だということは、あってはならない構造です。 何かのきっかけさえあれば……たやすく崩れ去るでしょう。 そういう意味では、あなた方の行動は無駄にはならないかもしれません」

 

つまりは、俺達の石ころ程度の行動でもこの競売会が崩れる可能性があるということなのだろうか……

 

「キルマリアさん……」

 

「助言、ありがとうございます」

 

「ふふ、少しお喋りが過ぎましたね。 せっかくの機会です、色々な物を見ていくとよろしいかと。 それはきっとあなた方の血と肉になっていくでしょう」

 

キルマリアさんにお礼を言い、サロンを出ようとした時……入り口に先ほどの案内人がいた。

 

「ご来場の皆様……当競売会の主催者が参りましたので、皆様にご挨拶をさせていただきます」

 

案内人が横に逸れた後に、2人の男性がサロンに入ってきた。

 

『あれが……』

 

『フェノール商会の会長とアザール議長だね……』

 

挨拶をするために、豪華そうなスーツを着た男……カクラフ会長が前に出た。

 

「ーー皆様、ご機嫌よう! 当オークションを主催しておるフェノール商会のカクラフです。 早いもので、この競売会も今年で8回目を迎えました。 年々、来場される方々も増え、それに比例して出品物もますます充実したものになっております。これもひとえに、皆様のご理解とご愛顧の賜物であると言えましょう!」

 

一旦そこで切ると、来場者から拍手が送られた。

 

「そしてもう一方……毎年、わたくしどもの催しにこの素晴らしい邸宅を会場として提供して下さって方がおります。 ご紹介しましょうーーミッドチルダ代表にして次元議会をまとめる大政治家……アザール議長閣下です!」

 

カクラフ会長が議長を紹介し、アザール議長はカクラフ会長の隣に出た。

 

「ーーたった今、紹介にあずかったミッドチルダ議長を務めるアザールです。 今宵、この素晴らしい催しの場を提供させて頂くのは光栄の極み。 単なる競売会というだけではなく、各界の名士の方々が集い、交歓する出会いの場であるとも言えましょう。 まだまだ宵の口……オークションが終了した後にはささやかな夜会も用意しております。 皆様におかれましては、どうか当館をご自分の家と思い、心より寛いでいただきたい」

 

アザール議長が礼をし、またもや拍手が送られた。

 

『会長は写真でしか見たことなかったけど、議長はやっぱり喰えない人物だな』

 

『……自分の権威が揺るがないものであることを確信しているからだろうね。 フェノールの会長は初めて見たけど……思っていた以上に狡猾でやり手といった感じだね』

 

『どちらも一筋縄ではいかないか。 できれば話してみたいけど……議長に顔が割れているし、自重した方がいいな』

 

『そうだね、他の来場者と話している隙にサロンから出よう』

 

不審に思われないようにサロンから離れ。 次に休憩室に入ると……そこにはクーがいて、椅子に座ってカクテルを楽しんでいた。 離れた場所で夫婦らしき男女と、かなり大胆なドレスを着ている1人の女性が言い争っていたが……

 

「よお、無事に入れたようで何よりだ」

 

「おかげさまで、それよりも何を飲んでいるんですか?」

 

「んー? ただの綺麗なジュースだ」

 

「嘘付かないでください、先輩はまだ未成年でしょう」

 

すずかにグラスを取られ、クーは少し不満そうに肩をすくめる。

 

「それよりも、これは何の騒ぎですか? 予想はつきますけど……」

 

「ご覧の通り修羅場ってヤツだ。 お前も何度か経験したことあるだろう?」

 

「そんなのありません」

 

「見るからに泥沼ですけど……」

 

そんな会話を余所に口喧嘩は勢いを増し、そこにクーがほんの少しスイッチと言う横槍を入れ……一気に爆発した。

 

「な、何だかお邪魔しちゃうと悪そうだね……」

 

こんな三角関係を体験したことないし、対処方がよくわからないしな。 触らぬ神に祟りなし、だ。

 

「……じゃあ、俺達はこれで失礼するから」

 

「くく、その方がいいだろう。 また後でな、宴を楽しんでこい」

 

いつのまにかすずかから取り返していたカクテルを口に含み、とても良い悪い顔で言った。

 

屋敷の捜索を続け、廻廊と思わしき通路を歩いていると……観賞植物や観賞魚がいる庭園に出た。 未だに屋内だが……

 

先ほどオークション会場の奥に流れてた水の正体を、俺達はしばらく呆然とながら見下ろした。

 

「……なあ、すずか。 こういう設備を屋内に造るのにどのくらいのお金が必要だ?」

 

「……ざっと、レンヤ君の年収の10倍は優に超えるかな?」

 

ため息すら出ないな。 綺麗な光景を見ているはずなのに、まるで心が癒される気がしないなんてな……

 

「ーーふむ、題して……異形庭園の2人、ね」

 

後方から突如聞こえてきた言葉にすぐに振り返る。 そこには真紅のチャイナドレスを着た赤髪の女性が両手の人差し指と親指で長方形を作り、その輪を通してこちらを見ていた。

 

「あなた達も招待客? こんな場所にいるなんて迷ったか、それとも良い年して探検しているのかしら?」

 

「い、いえ、迷っただけです……!」

 

「ふふ、そうかもね。 まあ、常人には分からない場所かもしれないわね、ここは」

 

「は、はあ……」

 

俺達をからかって楽しんでいるのか、口元に手を当てて微笑む。

 

「えっと、あなたは?」

 

「ーーナタラーシャ・エメロード。 今後ともによろしくしてくれると嬉しいわ」

 

「は、はい……」

 

「そんなに緊張しなくてもいいわよ。 議長が言った通り自宅だと思って寛いでおきなさい。 タダ飯を食べておかないと損よ」

 

「そこまで飢えてません」

 

やっぱりからかっているよ、この人。

 

「ふふ、それじゃあね、友達を待たせているの」

 

「え……」

 

言うや否やさっさとこの場から出て行ってしまった。

 

「す、すごい人だったね……」

 

「……………」

 

「レンヤ君?」

 

「な、なんだ?」

 

「ああいう人が好みなの?」

 

「なんだよいきなり」

 

「年上のお姉さんみたいだし胸も大きかったし、足も見てたよね?」

 

「そ、そんなことないぞ……」

 

「ふ〜ん……レンヤ君の足フェチ」

 

「ちょっ、すずか⁉︎」

 

早足で歩き出したすずかを追いかけ、何とか誤解を解いた。 その後アザール議長の居室を見つけ……探索を続けると一本道の通路の奥にマフィアの1人がドアの前に立っていた。 男がこちらに気付いて近付いてきた。

 

「ーーお客様。 申し訳ありません。 こちらはスタッフ専用の部屋になっておりまして」

 

「ああ、それは失礼した。 広すぎて迷ってしまったみたいだ」

 

迷った事を装い、その場を誤魔化す。 しかしスタッフ専用か……他のフェノールの構成員が待機している場所か? そう考えていると、ドア越しから怒鳴り声が聞こえてきた。

 

『おい、ちゃんとリスト通りに揃っているだろうな⁉︎』

 

『ああ、前半の出品物はそろそろ会場に運び出すぞ!』

 

「ちっ、アイツら……」

 

男は苦い顔をして、中のマフィア達に舌打ちをした。

 

「ひょっとして……出品物はそちらの方に?」

 

「え、ええ。 万が一のことが無いよう、我々で保管しております。 オークションで出品されるのを楽しみにして頂けると」

 

「……ああ。 もちろん期待しているよ」

 

この奥に、出品物が……

 

「ーーそれじゃあ戻ろうか」

 

「うん、わかったよ」

 

この場で考えのは危険なので、すずかに声を掛けてその場を離れようとする。 その時……

 

【ーーーー】

 

「……!」

 

またあの感覚がおこる。 昼に感じた時と強くなっている気がする。

 

『? レンヤ君?』

 

「…………いや、何でも無い。 早くここから離れよう」

 

それにちょうど そろそろ競売会の開始時刻だ。 俺達は再び正面ホールへと向かうと……

 

「……っ」

 

『しまった……!』

 

不運なことにロビーには警備を指揮しているゼアドールがいた。 ゼアドールはこちらに気づいていないようだが、辺りを見渡しながら顔をしかめ、部下に指示を出していた。 この場から逃げるようにゆっくりと背を向けようとした時、不審に思われたのか気付かれてしまった。

 

「おっと、これは失礼した。 当会場の警備を担当していますゼアドール・スクラムといいます。 防犯のため見回っている最中でして、お見苦しいでしょうかどうかご容赦を」

 

どうやらこちらに気付いていないようだが……どうにかやり過ごさないと。

 

「……いや。 見回り、ご苦労さまだね」

 

ありきたりな返しをして、凌ごうとするが……ゼアドールは何か引っかかったのか、目の前まで歩いてきた。

 

「お客さん、どこかで見かけた事があるような………ふむ……?」

 

「……気のせいじゃないかな? あなたみたいな大柄な人、一度拝見したら忘れる事はないでしょう」

 

軽く笑いながら会話を続けるが、内心では冷や汗が滝のように流れていて気が気ではない。

 

「はは、そうかもしれません。 念のため、お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「構わないよ。 初めまして、シャオ・ハーディンという」

 

「シャオ……? はて、その名前もどこかで聞いたような……」

 

『くっ……やっぱり安易すぎたか……⁉︎』

 

『ど、どうしよう……』

 

「ーーふう、少々遅れてしまいましたか」

 

助け舟のように玄関から声がすると……

 

「あ……」

 

「メ、メルファさん……⁉︎」

 

スーツを着て、茶髪を結い上げている女性……メルファ・オルムが屋敷の中に入ってきた。

 

「あら……こんばんは、シャオさん。 こんな場所で会うとは、本当に奇遇ですね」

 

メルファは先ほどの話が聞こえて合わせてくれている。 正直助かった……

 

「え、ええ……」

 

「本当に……そうですね」

 

「ふむ……お嬢さんはどちらさまで?」

 

「私はメルファ・オルムていいます。 どうかお見知りおきを」

 

メルファが名前を教えると、ゼアドールとマフィアの男が驚いた顔をしてメルファを見た。

 

「DBMの……」

 

「これはこれは……上からお話は聞いていましたよ。 今年はついに招待に応じてくださったのですね?」

 

「何度も断るのはさすがに失礼かと思いまして。 それで、こちらの方々は私の友人ですけど……何か問題でも?」

 

「いえいえ、とんでもない。 改めましてーーようこそ黒の競売会へ。 まずはアザール議長の元にご案内しましょうか?」

 

意識が完全にこちらから離れ、心の中でようやくため息ができた。

 

「いえ、議長閣下には後ほど改めてご挨拶させてもらいます。 それより出来れば部屋をご用意できますか? 先ほど商談を終えたばかりでして、少しばかり休みたいのです」

 

「かしこまりました。 案内人、彼女が部屋を希望している。 くれぐれも粗相の無いように」

 

「は、はい。 それではご案内させていただきます」

 

恭しく頭を下げると、案内人に脅し気味に指示をし。 案内人は慌てながら了承する。

 

案内された部屋に入り、数秒たったところで俺とすずかは今までの緊張から解放されるように長い息をはいた。 それからメルファにここにいる事情をかいつまんで説明した。

 

「なるほど。 そういう事情ですか。 なかなか大胆な事をしますね」

 

「……そうだな。 実際は見ているだけだし、ただの自己満足かもしれないけど……」

 

「ふふ、それでこそレンヤさん達です。 それくらいの思い切りがあればば怪異も余裕というものです」

 

「い、いえ、そんな事は……それよりも、メルファ、どうしてこんな場所に? 話を聞く限り、来るのは初めてらしいけど……」

 

「アザール議長からは毎年熱心に誘われているのです。 ただ、怪しい方々との交流がある方ですし。 父様は色々と理由をつけて断っているのですが……私の方は中々そうもいかなくて」

 

「あ、そうか……確かにそうかもしれないね」

 

「確か、DBMはこのエミューの開発も担当しているんだったな。 そしてそれはメルファが……」

 

「はい。 その関係でどうしても以前から住んでいる議長のお誘いは中々無下にできなくて。 今年はこうして出席することにしたのです」

 

色々と複雑な事情があったんだな……

 

「それに、今回は少々気になることもありましたので」

 

「気になること?」

 

「はい、どうやら出品物に面白いものがあるということで。 それの確認にも兼ねて」

 

「その品ってどんなものなんだ?」

 

「アーネンベルクにある人形工房で作られた初期型アンティークドールで……今出回っている人形より一回り大きいものらしいです」

 

目を少し輝かせながら少し興奮気味で語るメルファ。 そういえば可愛いものには目がない性格だったな……

 

その時、不意にドアがノックされた。

 

『失礼します、メルファ様。 オークションの開催時刻がそろそろ近付いて参りましたが……』

 

「ありがとうございます。 直ぐに参りますから、後ろの方に3人分の席を用意してください」

 

『ーーかしこまりました。 それでは手配しておきます』

 

案内人が去ったのを確認し、すずかは心配そうにメルファに話しかけた。

 

「えっと、メルファ……」

 

「心配はいりません。 私が議長と挨拶するのはオークションが終わった後です」

 

「ありがとう……レンヤ君もいいよね?」

 

「ああ、せっかくだし同席させてもらうよ。 メルファ、よろしくな」

 

「はい、こちらこそ」

 

3人で会場に向かい、ゼアドールも居なかったので怪しまれずに会場に入った。 会場にはすでに他の来場者が何人か席に座っている。 前の席には先ほど会ったキルマリアさんとナタラーシャさんがいた。

 

「かなりの盛況ぶりだな……」

 

「うん……かなりの紙幣が動きそうだね」

 

と、そこで案内人がこちらに気付いた。

 

「メルファ様、お待ちしておりました。 こちらの席で宜しいですか?」

 

「ええ、ありがとうございます。 さあ、座りましょう」

 

「ああ……」

 

「緊張してきたなぁ……」

 

席に座り、開催するまで息を整えながら待っていたが、そこにクーがやってきた。

 

「お、ここにいたのか」

 

「あれ、クー先輩」

 

「1人みたいだけど……さっきの喧嘩は収まったのか?」

 

「くく、何だかんだで元鞘に収まってな。 それで俺も晴れてお役御免になったのさ」

 

悪化させた張本人が何言っているといいたいが……ここは夫婦仲が良くなったことに安心する。

 

「ふふ、面白い方とお知り合いのようですね?」

 

「ああ……こちらの彼はーー」

 

「俺の名前はクー。 クー・ハイゼットだ。 DBM総裁の令嬢、メルファ・オルムだな? お初にお目にかかれて光栄だ」

 

クーを紹介しようとした時、俺の言葉を遮ってクー自身が名乗った。

 

「あら、機先を越されましたか。 クーさんと言いましたか。 よかったご一緒しませんか?」

 

「いや、それには及ばねえよ。 実は少しばかり、こいつらに伝えたい事があってな」

 

「え……」

 

クーは俺達の後ろに来て、耳元に顔を近付けて小声で言ってきた。

 

(……窓から裏庭を見下ろしたら犬っぽいヤツが何匹も眠ってた。 何か心当たりはあるか?)

 

(……本当か?)

 

(犬というと……以前商会が使用していたグリードのようだね。 でも、眠ってたいたって……)

 

……ここでは話しにくいな。 周りにも不審に思われそうだ。

 

「ーーメルファ。 申し訳ないけど、少し席を外すよ」

 

「ふふ、色々と大変な事になっているようですね。 私の方はお気になさらず。 皆さんの代わりにオークションの出品物を見届けておきます」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「ありがとう、メルファ」

 

メルファの礼を言い、席を外してクーと共に正面ホールに向かった。 念話で会話して不審に思われないように小声で会話する。

 

(庭に放たれいた番犬が何匹も眠っていた……くく、何を意味しているだろうな?)

 

(ああ、考えられるとすればーー何らかの侵入者が現れた……その可能性が高いかもしれない)

 

(成る程……そうかもしれないね)

 

クーの挑発的な質問に答え、すずかが頷く。

 

(いずれにしても、何かが起きようとしている……それだけは確かにみてえだな)

 

(ああ、念のため屋敷の中を一通り回ってみよう。 何が起きているのかわかるかもしれない)

 

(うん……!)

 

(乗りかかった船だ、俺も付き合うぜ)

 

最初に向かう場所。 侵入者に何か狙う物があるとしたら……右側3階、通路奥にある出品物が保管されている部屋だ。 すぐにそこに向かうと……先ほどの見張りの男が倒れ伏していた。

 

「駄目だ、気絶している……」

 

「ほお、どうやら一撃で昏倒されたみてえだな」

 

「相手は相当の手練れのようですね」

 

「……とにかく中に入ろう!」

 

すぐさま部屋の中に突入すると……数人のマフィアが武器を構えていた。 対立している人物は、両手のレイピアを構え、黒の帽子を目深く被っている黒スーツの男、空白(イグニド)だった。

 

「て、てめえ……!」

 

「いつの間に現れやがった……!」

 

「ふふ……私は空白。 色無き色、忘れ去られた過去の色。 存在しないはずの空位。 どこにあるものでないもの……最初からここにいたのかもしれませんね」

 

「ふ、ふざけろ……」

 

「く、くたばりやがれ……!」

 

マフィア達が逆上し、一斉に空白に襲いかかった。

 

「あまいーー」

 

しかし空白は、レイピアを構えるとどこ吹く風のようにマフィア達の攻撃を躱し、立ち位置が入れ替わると……マフィア達は膝をついた。

 

「ぐふっ……!」

 

「ば、馬鹿な……」

 

マフィア達は激痛に耐えられず、気絶して倒れ伏した。

 

「おや」

 

「来ていたのか、空白」

 

「あなたが……」

 

空白がこちらに気付くと、帽子を抑えた。

 

「……見覚えのある気配がすると思えば、あなた達も入り込んでいましたか」

 

「へえ……随分とヤバそうなヤツだな。 察するに、巷で話題の空白さんかな?」

 

「ふふ、そうですね……クー・ハイゼット。 妙な気配の1つはあなたのものでしたか。 それ以外にもいるようですし……ふふ、ここは預かり知らないところでパンデモニウムとなっていましたか」

 

「ふぅん、面白い例えだな」

 

……なんか、初対面なのに妙に気が合っているような。

 

「それで……俺達もこいつらのように排除する気か?」

 

クーがそう質問すると、空白は少し考えた後レイピアを収め。 こちらに背を向けた。

 

「ふふ、あなた達を相手にすれば騒ぎは免れませんし……なにより、この場を任せても面白そうです」

 

「なに……」

 

「そちらの奥の部屋には競売会後半の出品物があります……雇い主に流れた情報によれば、面白い爆弾があるらしいですよ? その目で確かめてはどうです?」

 

それだけを言い残し、返事を聞く前に消えてしまった。

 

「ふう、勝手なヤツ」

 

「やれやれ……噂に違わぬ化物だな。 正直やり合う羽目にならなくてラッキーだったが……どうするんだ、レンヤ?」

 

「…………時間がない、空奥の部屋を調べよう。 空白が言っていた爆弾……本当にあるなら確かめて起きたい」

 

「くく…時間そう来なくちゃ」

 

「もう、2人して。 騒ぎになる前に、出来るだけ急いで調べよう」

 

「ああ……!」

 

警戒しつつ出品物が置かれている部屋のドアを開けると……

 

「これは……」

 

そこは様々な品物が無造作に置かれていた。 競売の品の数々で種類は多種多様で豊富、中には美術に疎い俺でも知っている有名な作品すらある。

 

【ーーーー。 ーーーーーー】

 

「……………………」

 

「……どうやら競売会後半に出品される物みたいだね。 まだ結構あるみたいだけど……爆弾、そのままの意味じゃないよね?」

 

「言葉の意味通りか、またはフェノールを名前を木っ端にするものか……時間もねえ、さっさと手分けして調べるぞ」

 

「……ああ。 どうやら……本当に何かありそうだ」

 

手分けして出品物を調べた。 少し見渡すと……正面に大きいトランクが無造作に置かれていた。

 

(このトランクは……ずいぶん大きいが、何が入っているんだ……?)

 

中身が気になり、伊達メガネを外して腰を下ろして開けようとするが……案の定鍵がかかっていた。 だが鍵は安易なもので、ピッキングでもあけられそうだ。 俺は携帯しているツールボックスからピッキング用のツールを取り出した。

 

(特別捜査官の研修の一環で習ったピッキング対策用の技術……まさかこんな所で使うなんてな)

 

そもそもピッキングなんて使い道が限られている以上、苦笑いしかできないが。 ツールを鍵穴に入れ、感覚通りにツールをカチャカチャと動かすこと数秒……

 

カチン

 

小気味いい音が鳴り、鍵が開いた。

 

(よし)

 

トランクに手をかけ、ギィ……とドアを開ける時に鳴る音を出しながら開けて中を確認すると……

 

「…………………え」

 

そこには……

 

「…………………」

 

1人の女の子が眠っていた。

 




誰なんでしょうねぇ、女の子(棒読み)。


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118話

 

 

トランクを開け、中に入っていたのは金髪で5、6歳くらいの女の子で、病院服のような薄着だけ着ていた。 しばらく呆けてしまったが、すぐに我に返った。

 

(もしかして……メルファが言っていたアーネンベルクにある人形工房の? まるで、本当に生きてるようだけど……)

 

《生体反応あり、生きています。 トランクが反応を遮っていたもよう》

 

「え……」

 

レゾナンスアークが目の前の女の子が人形ではないことを告げると……

 

「………ん………」

 

女の子が目を覚まし、目元を擦りながら起き上がった。

 

「っ!」

 

女の子の開かれた双眸は……鮮やかな紅玉と翡翠の色をしていた。

 

「………ぁ………」

 

「この子は……!」

 

未来に行った時に見た写真に写っていた女の子……

 

「! ど、どうかしたの……?」

 

俺の声に2人が何事かと慌てて近寄り、トランクに入っている女の子を見ると驚きの声を上げる。

 

「え……」

 

「……子ども……?」

 

「き、君は……どうしてこんな所に……」

 

「………ぁ……ぅ………」

 

女の子は怯えた感じで俺達を見つめる。

 

「ご、ごめん……怖がらなくてもいいよ。 えっと、お父さんとお母さんはどこにいるか分かるかな?」

 

「…………パパ……ママ………」

 

少し呟いた後、女の子は首をふるふると左右に振った。

 

「それじゃあ、名前を教えてくれるかな? 俺は神崎 蓮也。 君の名前は?」

 

「…………ヴィヴィオ………」

 

「ヴィヴィオ……君の名前はヴィヴィオっていうのか。 でも、どうして……アーネンベルクで間違えてトランクに紛れ込んだのか?」

 

「ね、ねえ、レンヤ君……この子の格好、どう考えても招待客の子でも、女の子が着るような服には見えないんだけど……」

 

「ああ……分かっているけど……」

 

目の前の事実と、服装から連想する嫌な推理に頭が混乱してしまう。 その時、クーが不適に笑った。

 

「くく……なるほどな。 どうやらそいつが……爆弾なわけだ。 アーネンベルク工房の人形が仕舞われているトランク……もしこのまま会場に運ばれてその蓋が開かれていたら……?」

 

「そうなりますよね……」

 

「な、なるほど……」

 

ニトログリセリンより、よく燃え広がりそうだなそうだな。 しかも完全鎮火はほぼ不可能の。

 

「…………レン、ヤ……?」

 

「あ……ああ、ごめん。 ヴィヴィオ、他に覚えていることはないかな? 知っている人や住んでいた場所、何でもいいよ」

 

「ぅ……ん……」

 

固唾を飲みながら答えを待つが、同様に首を左右に振った。

 

「ふう……とにかく君をこのままにしてはおけないな。 いったんここから出てーー」

 

ウゥーーーーーー!

 

突如、屋敷全体にサイレンが鳴り響いた。 それと同時にAMFが展開された。 訓練でバリアジャケットの展開や魔法は少し使えるが、念話や転移が出来なくなってしまった。

 

「っ!」

 

「気付かれたか……!」

 

「いけない……!」

 

「ま、空白が着た後でよく持った方だな」

 

『なっ……!』

 

『馬鹿な、侵入者だと⁉︎』

 

『しゅ、出品物を確かめろ!』

 

前の部屋から男達の声が届き、すぐにドアが乱暴に開かれマフィア2人が入ってきた。 すぐに対処しようとした時……誰かに腰を掴まれ反応が遅れてしまった。

 

「ふっ……!」

 

代わりにクーが即座にマフィアに接近し、蹴りを一撃喰らわせてあっという間にのしてしまった。

 

「す、すごい……」

 

「すまない、クー」

 

体を見下ろすと……サイレンに怯えたのか、ヴィヴィオが震えながら抱きついていた。 落ち着かせるように頭を撫でると震えが少し収まった。

 

「どうやら覚悟を決めた方がいいぞ。 このままだと確実に連中に捕まることになる」

 

「分かってる。 レゾナンスアーク、セットアップ」

 

《イエス、マイマジェスティー》

 

いつの間にかサイレンは止んでいたが。 ヴィヴィオを一旦離れさせ、バリアジャケットを纏い、腰を下ろしてヴィヴィオの目線に合わせる。

 

「ヴィヴィオ。 俺達と一緒に来てくれるか? 君のことは絶対に守るから」

 

「あ……」

 

ヴィヴィオは少し俯いた後、顔を上げてコクンと頷いた。

 

「ありがとう」

 

ヴィヴィオを抱き寄せ、横抱きで抱えてた。

 

「わぁ……!」

 

「ーー2人とも、バリアジャケットを展開してくれ。 それと、メイフォンで外に待機しているアリサ達に連絡を……これより、この子を連れて議長邸から脱出する……!」

 

「……了解!」

 

「くく……面白くなってきたじゃねえか」

 

2人も同様にバリアジャケットを展開し、急いで出口に向かって走った。

 

すぐに通路で数名のマフィアと戦闘になったが……ヴィヴィオが離れてくれず、かといって過激に動き回る戦闘も出来ない。 申し訳なく思いながらすずかとクーに任せ、後衛に立ち銃で援護した。

 

「ふう、なかなかやるじゃねえか。しっかし、こう室内だとおいそれとスチュートが使えねえぞ」

 

「大丈夫、レンヤ君?」

 

「ああ……」

 

すずかは抱えられているヴィヴィオを見て、安心したように息をはいた。

 

「ヴィヴィオ、もしもまた戦う事になったら……少し安全な場所まで離れててくれないか?」

 

「ううっ……!」

 

否定の意味があるのか、胸にさらに強くしがみついた。

 

「ヴィヴィオ、君を守るために戦いたいんだ。 ヴィヴィオも、俺の事を信じてくれるか?」

 

頭を撫でながら優しく問いかけ、ヴィヴィオは掴んでいた手を緩め、頷いた。

 

「ありがとう……」

 

「やれやれ、逃げ切れるといいんだがな」

 

「とにかく急ごう……!」

 

1階に降り、正面玄関から逃げようとするが……そこにはゼアドールが指揮をするマフィア達が大勢いた。 さすがにあれを相手にするのはまずい。

 

(おおきい……)

 

(どうやら正面玄関から逃げるのは無理みたいだね……)

 

(迂回路を探そう)

 

今度は屋内庭園がある廻廊を通り、庭園に差し掛かると……反対側の通路から数匹のアーミーハウンドが出てきた。

 

「くっ、屋内でグリードを放つなんて!」

 

今度はヴィヴィオは離れてくれて、近ず遠からずの位置でこちらを見守っている。

 

「何とか撃退するよ……!」

 

「……来るぞ!」

 

襲いかかってきたグリードにあしらいつつ、ヴィヴィオの安全に気を配った。

 

「せいっ!」

 

「はっ!」

 

最後のグリードを倒し、安全が確保された事を確認すると……ヴィヴィオが小走りで近寄って来て、抱きついた。

 

「くく、懐かれたな」

 

「……そのようで。 まあ、子どもならではの感覚のせいだかな?」

 

この子目と雰囲気……推理が間違えていなければ、そうなんだろう。

 

「私は違うと思うよ」

 

「え……」

 

「レンヤ君だからだと、私は思うな。 エリオ君にも結構懐かれているし」

 

「……そうか、そうだな。 ありがとうすずか」

 

「どういたしまして」

 

すずかにお礼を言いながらヴィヴィオを抱き上げ、気を取り直して脱出するために走り出した。 屋敷右翼から反対側の左翼に来たが、念のためもう一度正面ホールを確認すると……カクラフがゼアドールを非難していた。

 

『ーーええい! まだ侵入者は見つからないのかのか! そろそろ招待客が騒ぎ始めているぞ!』

 

『……どうかしばちお待ちを。 屋敷は完全に封鎖しました。 これでもう袋のネズミです』

 

『クッ……このままだと議長の機嫌が……さっさと捕まえろ! 場合によっては殺しても構わん!』

 

やはり正面玄関からは無理だが……カクラフはかなり物騒な発言をしているな。 アザール議長との繋がりがよほど大切らしい。

 

(あ、あの人……)

 

(! 何か思い出したのか……!)

 

(カクカクしていて面白い……)

 

(ガクッ……)

 

カクラフ会長の見た目を言っただけか……しかし、思っていた以上に言語が発達しているな。

 

(ははは……おまえ最高じゃねえか!)

 

(ふふ……将来大物になりそうだね)

 

そうしている間に数名のマフィアが近づいて来たので慌て階段を登り、先ほど訪れた議長の居室に入った。

 

「………………」

 

「ここは、確かアザール議長の部屋だったような……」

 

「ふうん、見るからに豪華そうな部屋だな。 だがーー」

 

「ああ、先客がいるみたいだ」

 

「え……っ!」

 

「ーーふふ、よく気付いたわね」

 

部屋の奥の陰から女性の声がすると……紅いチャイナドレスを着た、ナタラーシャ・エメロードさんが出て来た。

 

「ナタラーシャさん……」

 

「ど、どうしてここに……」

 

何故ここにいる質問をするが、ナタラーシャさんはこちらに近付き、抱えているヴィヴィオを見た。

 

「へえ、なるほど……あなた達、随分と面白いものを掘り当てたじゃない」

 

「はあ……」

 

「?」

 

ヴィヴィオ自身、何も分かってないのか小首を傾げる。

 

「おいおい、おまえらいつの間にこんな美人の姉ちゃんと知り合ったんだ⁉︎ 紹介しろよ」

 

「今はそんな事している暇はありません」

 

「というか、エテルナ先輩に怒られますよ」

 

「あなた達、和み過ぎじゃないかしら? もう少し脱出者としての緊張感を持ってくれないと」

 

「いや、いきなりそんな正論を言われても……」

 

こんな時でもからかうんだな、この人。

 

『おい、いたか……⁉︎』

 

『右翼は調べた! 後はこの部屋だけだ!』

 

『議長の部屋も確認しろ!』

 

ドア越しからマフィア達の声が聞こえ、またすぐにピンチになる。

 

「撃退するしかないか……」

 

「……なにをしているの? 私がいた場所があるじゃない」

 

「え……」

 

「迷っている暇は無いよ……!」

 

どうして助けたくれるのか疑問に思ったが、考える暇もなくすずかに引っ張られてナタラーシャさんがいた物陰に隠れた。

 

ナタラーシャさんはそのままドア前に立つと……ドアが乱暴に開けられてマフィア達が入って来た。

 

「これはナタラーシャ様……」

 

「見回りご苦労様。 侵入者が出たらしいですけど、そろそろ捕まえましたか?」

 

「いえ……ですが時間の問題です」

 

「ところでナタラーシャ様はどうしてここに……?」

 

「実は、この辺りで変な物音が聞こえましてね……」

 

「変な物音……?」

 

「まさか侵入者……⁉︎」

 

「ほら、出て来ていいわよ。 恐がることはないわよ?」

 

ナタラーシャはこちらを向いて、出てくるよう催促してきた。

 

(……心臓悪いな)

 

(うん、分かっているとはいえ、ね)

 

(なんだ気付いていたのか)

 

「ニャア〜」

 

猫の鳴き声がすると、ベットの下から黒猫が出てきた。

 

「ね、猫……?」

 

「ほら、ノワール。 そんなに恐がらないで。 ほらほら」

 

ナタラーシャさんはどこからともなく猫じゃらしを取り出すと、そのまま猫と遊び始めた。

 

「くっ、人騒がせな……」

 

「失礼する……!」

 

「あ、そうそう。 今思い出したけど、さっきそこの窓から妙な人達を見かけたのだけれど……あれが、例の侵入者だったのかしら?」

 

マフィアが部屋を出ようとした時、ナタラーシャさんはワザとらしくマフィアに嘘を教えた。

 

「妙な人達⁉︎」

 

「どういう連中ですか⁉︎」

 

「暗くてよく見えませんでしたけど、小さい女の子を連れていたわ。 裏庭の方に逃げましたわよ」

 

「間違いない……目撃情報と一致する!」

 

「くっ……いつのまに屋敷の外に! 若頭に報告するぞ!」

 

マフィアが走って部屋を出て行き。 それを確認すると俺達は物陰から出た。

 

「はは、見事なお手並みですね」

 

「その猫ちゃん、最初から用意してたのですか……?」

 

「何のことかしら? あら、裏庭に逃げたはずの人がどうしてここに……? 不思議ねぇ〜」

 

「くすくす……」

 

「はは……本当に助かりました」

 

そんなナタラーシャさんを見て、ヴィヴィオは顔を綻ばせて笑った。

 

「ーー2人とも、一か八か、玄関の方に行ってみよう。 さっきの誘導で手薄になっているかもしれない!」

 

「うん……!」

 

あくまで助けたつもりはないナタラーシャさんにお礼を言い、来た道を戻って正面ホールに向かった。 そこにはゼアドールはいなく、マフィアは数えるほどしかいなかった。

 

(よし、あの数なら……!)

 

(強行突破できる……!)

 

(行くぜ……!)

 

ヴィヴィオを下ろし、刀を構えて正面ホールに飛び出た。

 

「なっ……⁉︎」

 

「外に出たんじゃ⁉︎」

 

「遅いよ……!」

 

マフィア達が驚いている間に、速攻で攻撃し。 騒ぎになる前に制圧した。

 

「ええい、騒がしいぞ! まだ見つからんのかーー」

 

戦闘音が聞こえたのか、会場からカクラフが出てきた。

 

「な……お、お前達は⁉︎」

 

「あ……」

 

「カクラフ会長……!」

 

「関係ない! このまま脱出するぞ!」

 

アディオス(さようなら)!」

 

すぐにヴィヴィオを抱え、カクラフを無視して正面玄関から出て行った。 その後すぐにカクラフの慌てた怒鳴り声が聞こえてきたが……どう足掻いてもこれでも黒の競売会(シュバルツオークション)は完全閉場だな。

 

正面に架かっている橋を渡ると、バリアジャケットを展開したアリサ達が走ってきた。

 

「レンヤ!」

 

「よかった、無事に合流できたか!」

 

「ふう……ヒヤヒヤさせるわね。 それで、その子が通信で言っていた保護した子ね」

 

「わあ、可愛い子……!」

 

「うん、ヴィヴィオちゃんって言うんだよ」

 

「ふうん?」

 

「…………………」

 

「ぅ………」

 

「大丈夫だヴィヴィオ、彼女達は信頼できる味方だ」

 

アリサ達を……特に興味津々で凝視するアギトとソエルを見て怖がったヴィヴィオの頭を撫でて安心させる。

 

「時間がない、早くここからーー」

 

「ハッ、そうは行くかよ!」

 

待ち伏せていたのか、道を塞ぐように先ほどより多い人数のマフィア達が現れた。

 

「くっ……読まれていたか」

 

「やれやれ、そう簡単にはいかねえか」

 

「クク、若頭の指示通り、張っておいて正解だったぜ」

 

「なるほど……管理局の小僧どもだったか。 ハッ、さすがにオイタが過ぎたみてぇだなァ……?」

 

マフィア達はデバイスを起動すると……大型の重機関銃を構えた。

 

「そんなものまで!」

 

「重機関銃型のデバイスーーなんて物を持ち出しているのよ!」

 

「逃げ込める遮蔽物もないし、火力も違い過ぎる……!」

 

「クク……抵抗してもいいんだぜ?」

 

「最も、この間合いだったらあっという間にミンチだろうがな」

 

「くっ……」

 

少しでも動いたらあの銃口が火を噴くだろう。 対処はできなくもないが、ヴィヴィオを下ろす隙すら与えてくれない連中だ。 仮に下ろせたとしても、AMFがある状態であのデバイスの猛攻に耐えられる防御魔法がない……

 

「うう……」

 

「……大丈夫。 絶対に守ってみせるから……!」

 

ヴィヴィオを抱える力を少しだけ込め、この状況を打開する策を張り巡らせる。 その時、魔力の唸りを感じると……

 

『ぐあっ……⁉︎』

 

突然、マフィア達が吹き飛ばされた。 その後も次々と吹き飛ばされ、あっという間に全員が倒れた。

 

「……やられちゃった」

 

「今のは……⁉︎」

 

「屋敷の方から狙撃されたみたいだね。 不可視の魔力弾……相当な手練れだよ」

 

「くく、どうやら他にも助っ人がいたようだな」

「詮索は後だ、さっさとずらかるぞ!」

 

「でも、転移魔法はおろか、飛行魔法も使えないんだよ⁉︎」

 

「それなら丁度、水上バスが来ているよ!」

 

「とにかく波止場に向かうわよ!」

 

脱出方が決まり、急いで波止場に向かって走った。 途中、戦闘に参加することもあるのでヴィヴィオを後衛のアリシアに預けようとするが……嫌がって離れようとしなかったので、結局このままで行くことになった。

 

「メキョ! グリードが来るよ!」

 

「何ですって⁉︎」

 

それと同時に唸り声が聞こえ、数匹のアーミーハウンドが走って来て行く道を塞いだ。

 

「まさか……街区にグリードを⁉︎」

 

「いい加減、あいつら起訴したいんだけど⁉︎」

 

「いっぱい……」

 

グリードを撃退するため、ヴィヴィオを一旦アリシアに預けた。

 

「来るわよ……!」

 

「ようやくスチュートが解禁だ、派手に行くぜぇ!」

 

「黒焦げに燃やしてやるよ!」

 

グリード……アーミーハウンドは吠えながら襲いかかって来た。 アリシアとヴィヴィオが背後にいるため避けず、刀を噛み付かれながら受け止めた。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《ファーストギア……ドライブ、ソニックソー》

 

ギアを駆動させ、刀身に魔力を走らせてアーミーハウンドの牙と接触している部分から火花が飛び散る。

 

「っ………アギト!」

 

「そらよ!」

 

アリサも同様に剣で受け止め、その隙にアギトが火球をぶつけ、消滅させた。

 

《ロックオン》

 

「ニードルバインド!」

 

3体のアーミーハウンドの上下から針型のバインドが飛び出し、アーミーハウンドを拘束した。

 

「すずか!」

 

「まかせて!」

 

《スナイプフォーム、フリージングレーザー》

 

止まったアーミーハウンドに、氷結魔法の魔力レーザーを放ち、氷漬けにした。

 

「っ! せい!」

 

火花を出しながら斬りはらい、アーミーハウンドを口から2つに裂いた。

 

「おらよっと!」

 

続けてクーが大砲で氷漬けのグリードを砕き、安全を確保した。

 

「し、信じられない……他の観光客だっているのに、グリードを放つなんて……!」

 

「なりふり構わなくなってきたね……」

 

「……とにかくアーケードを突破して波止場に向かおう。 一般市民が巻き込まれたら、そっちも何とかカバーするぞ!」

 

「まったく、無茶を言うわね!」

 

「くく、お前達も苦労してるな」

 

「お前も一応、入っているぞ……」

 

周囲を警戒しつつアーケードに入ると、中はかなり騒がしかった。 中央ホールに出ると、一般市民が慌てて走ってホテルなどに逃げ込んでいた。 その最後尾に現れたのはマフィアとグリードだ。

 

「やめろ! 一般市民を巻き込むな!」

 

俺達が道を塞ぐ形で観光客らしい男女のカップルが中央に取り残されてしまったが。 何とかこちらに戦意が向くように声を上げた。

 

「ハッ、知ったことかよ!」

 

「てめえらを逃したら、俺達の方がヤバイんだよ!」

 

「くっ……」

 

攻撃される前に一般市民の前に出て、男の1人に斬りかかった。

 

「最低限の矜持すらないのか!」

 

「知るか!」

 

そんな事を気にする余裕もないのか、必死の形相で攻撃してくる。

 

「こっちに来ないで! ヴィヴィオが怯えるわ!」

 

「さっさとくたばりやがれ!」

 

男がヴィヴィオの方に銃を撃ち、アリサがヴィヴィオを背にして防御魔法で銃弾を防いだ。

 

「アギト、交代!」

 

「おう!」

 

《チェーンフォルム、フレイムチェイン》

 

アリサは防御をアギトに任せ。 チェーンフォルムに変形させたフレイムアイズを振るい、男をからめ取って拘束し……

 

「はあっ!」

 

「ぎゃあっ⁉︎」

 

鎖を引き、空に浮かし。 勢いをつけてから地面に叩きつけた。 叩きつけられた部分はひび割れ、男は気絶した。

 

「このやろ!」

 

「ひっ……!」

 

「くっ……」

 

逆上した男がカップルに銃口を向け、同時にグリードが接近して行った。 先ずは銃を斬り裂いた後男を蹴り飛ばし、魔力弾を撃ち気絶させたらすぐに反転してアーミーハウンドを追いかけ……

 

柳疾駆(やぎしっく)!」

 

追い抜いたと同時に縦に何度も刀を振り、グリードを細切れにする。

 

「フリージング!」

 

すずかがフリージングレーザーをアーミーハウンドに放つが、避けられてしまったが……

 

《エンハンス》

 

「氷結の刃!」

 

アリシアの二刀小太刀が外れたレーザーを吸収し、氷結の魔力エネルギーを纏った小太刀でアーミーハウンドを斬り裂いた。

 

グリードを倒し、マフィア達を制圧してから2人が無傷なのを確かめた。

 

「2人共、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……!」

 

「何なの、この人達……⁉︎」

 

「急いでホテルに避難してください……! そこまでは彼らも踏み込んで来ないはずです!」

 

パニックになっている2人を、すずかが声を少し上げて説得した。

 

「わ、わかった!」

 

「も、もうやだ……! エミューなんて、来なければよかった……!」

 

2人はすぐにホテルに繋がる階段を上っていった。 2人には気の毒だが、同情している暇もない。 すぐに波止場に出ると……水上バスの出航の汽笛が聞こえてきた。

 

「しまった……!」

 

慌てて水上バスに向かって走るが……届く前に水上バスは行ってしまった。

 

「行っちゃった……」

 

「そんな……まだ出航時刻じゃ……」

 

「騒ぎを聞きつけて、出航を早めたのかもしれない。 正しい判断だとは思うけど……」

 

「俺達にとっては最悪の判断だったわけだ」

 

「いたぞ……!」

 

「追い詰めろ……!」

 

悔いている暇もなく、背後のアーケードからマフィアが出てきた。 この波止場は一本道……もう逃げ場は残されていない。

 

「くっ……」

 

「逃げるだけ逃げるわよ! ボートでも波止場に泊まっているかもしれないわ!」

 

「ああ……!」

 

諦めずマフィアから逃げるように波止場の奥に向かうが……

 

「ちっ……何にもないじゃん!」

 

「すずか! 湖を凍らせて行けないの⁉︎」

 

「こ、この状況下じゃこの人数を耐えられるだけの氷をすぐには張れないよ!」

 

「! 来たよ!」

 

マフィア達に追いつかれ、銃を乱射して来た。 こちらも魔法や銃で牽制しながら後退する。 追い詰まれる事にマフィアが増えていき、グリードも出た来て……とうとう逃げ場を無くし、追い詰められてしまった。

 

「囲まれちゃった……」

 

(すずか、今すぐやってくれ。 時間は稼ぐ)

 

(りょ、了解……!)

 

「ーーふふ、やれやれ……まさか貴様らだったとはな」

 

その時、前方からマフィア達の間を通り歩いて来たのは……フェノール商会若頭のゼアドール・スクラムだった。

 

「ゼアドール……」

 

「あの人が……」

 

「対策課の小僧ども……ずいぶんと久しぶりじゃねえか。 道理で見たことのある小僧どもだと思ったわけだ。 まさか招待カードを手に入れて競売会に潜入するとはな」

 

「……別に管理局の人間が参加してはいけない決まりは無かったですけどね」

 

「ああ、別に構わない。 来る者は拒まず……お得意様だったら大歓迎だ。 しかしまあ、正直侮っていた。 まさか空白(イグニド)と結託してここまでの騒ぎを起こすはな」

 

ゼアドールの言った事に俺達は驚愕する。 まるでそんな覚えがないのだが……

 

「いぐにど……?」

 

「ど、とうしてそうなる⁉︎」

 

「……空白と私達は何の関わりもありません。 気絶した部下の人達に聞いてみたらどうですか?」

 

「むしろ侵入していたヤツを追っ払ったようなもんだしな」

 

「ふむ、そうか。 だがそんなもは今更どうでもいい。 問題は貴様らが私達の顔を潰したこと……その落とし前は付けてもらわないとな……?」

 

マフィアとヤクザ……中身は違うが本質は同じわけか。 嬉しくないけど……

 

「……投降すると言っても聞いてはくれなそうですね」

 

「ふふ……せっかくの戦を前にして、血が騒ぐのだ。 安心しろ……命までは取るつもりはない」

 

ゼアドールがデバイスを起動しコート風のバリアジャケットを纏い、巨大なメイスが地面を砕きながら現れた。 ゼアドールそれを重鈍な音を立てながら苦もなく片手で持ち上げる。

 

「骨の1本か2本で勘弁してやる……!」

 

「うっ……」

 

「マジみたいだね」

 

「ったく……トシを考えろよ、オッサン」

 

「せいぜい楽しませてくれ。 この天の車、第1のゼアドールをな!」

 

「それ役者だよね⁉︎」

 

「もう彼だけの異名になっているんでしょ!」

 

「天の車……?」

 

「来るぞ……!」

 

「はあっ!」

 

ヴィヴィオにソエルを抱えさせてから向き合い、ゼアドールが一喝の気合いを入れてメイスを振り上げ、地面に振り下ろすと波止場の一部が崩壊し、その衝撃が向かってきた。

 

「くっ……」

 

「なんてバカ力⁉︎」

 

衝撃が届く前にヴィヴィオを抱えて跳躍し、浮き上がった瓦礫を足場にして反対側に降り立った。 他の皆も……あれ? クーはどこに……

 

「灼熱の……業火球!」

 

アギトが振り返りと同時に大玉サイズの火球をゼアドール達に向けて放ち、陣形を崩した。

 

「おらっ!」

 

「喰らいやがれ!」

 

2人のマフィアが重機関銃を構え、乱射してきた。

 

「防ぐよ!」

 

《アイスウォール》

 

「もらった!」

 

《ガトリングブリッツ》

 

すずかが槍を地面に突き刺し、そこからの横に広がって氷壁が迫り上がり、魔力弾を防ぎ。 アリシアが迫り上がる氷壁に飛び乗り、さらに跳躍して奴らの頭上から魔力弾を降り注いだ。

 

「……効かぬわ!」

 

だが、ゼアドールだけはその雨をまるで効かず、メイスを一振りして氷壁を砕いた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「ぅ……」

 

「ヴィヴィオ!」

 

氷の破片がヴィヴィオまで及ばないよう前に出て、防御魔法で余波を防いだ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……」

 

「そうーーかっ!」

 

安全を確認すると振り返りぎわに刀を振り、振り下ろされたゼアドールのメイスと鍔迫り合いになる。

 

「よそ見とは余裕だな」

 

「ぐっ……」

 

もう片方の手で刀身を抑えて耐えるが、少しずつ押されていき、膝をついてしまう。 見た目通りの剛腕からくる力は凄まじい。

 

「むんっ!」

 

「ぐあっ!」

 

肩を蹴られ、そのまま追撃でメイスで攻撃してくる。 しかもデタラメには振り回していなく、速度も速いため避けるだけでも困難だ。

 

「レンヤ!」

 

「アリシア! 先ずは取り巻きからよ、あいつはレンヤに任せなさい!」

 

「う、うん!」

 

「なるべく早くな!」

 

《セカンド、サードギア……ドライブ》

 

全てのギアを駆動させて魔力を上げるが、ゼアドールを相手にはそれでもかなり遅い。 だが……

 

「っ……はあああっ‼︎」

 

《ファイナルドライブ》

 

「ほう?」

 

全ギアを最大出力で駆動させ、裂帛の気合いでメイスを受け流し続け、一瞬の隙も見逃さず攻撃に転ずる。

 

「何がお前をそこまで駆り立てる?」

 

「あなたには言いたくないね……!」

 

一瞬の鍔迫り合いの間に会話を交わせ、再びゼアドールと斬り結んだ。

 

「この……いい加減倒れなさい!」

 

「ふざけろこのアマ!」

 

「若頭の前で先に倒れるわけには行かねえんだよ!」

 

「執念すごっ……」

 

「っ……はっ!」

 

《サークルエッジ》

 

すずかが槍を円を描いてアーミーハウンドを2体を同時に倒したが……

 

「すずか!」

 

「…………⁉︎」

 

その隙を見逃さず、男が重機関銃をすずかに向けて構えていた。

 

「くたばーー」

 

《ストライクバースト》

 

「ぐあああああっ⁉︎」

 

しかし引鉄を引かれる前に突然男に魔力砲弾が直撃し、爆風で吹き飛ばされて行った。

 

「セーフ……ぶえっくしょん!」

 

マフィアを挟んだすずか達の反対側に、何故か濡れているクーがスチュートの砲口から煙を出しながら立っていた。

 

「クー先輩、助かりました!」

 

「っていうか、今までどこにいたんだよ?」

 

「ズズ……あの崩落で湖に落ちたんだよ! 俺はお前らみたいに飛行魔法も使えねえし、身軽じゃねえんだよ!」

 

「そ、そうですか……」

 

「ま、まあ……結果オーライ?」

 

アリサ達はゼアドール以外を倒したもようだ。 こっちも決着をつけないと……!

 

「はあっ!」

 

「…っ………」

 

段々と太刀筋がゼアドールに決まるが、ゼアドールの着ているバリアジャケットが硬く、ダメージが通らない。

 

「…………なるほど、原因はーーあの少女か」

 

「………⁉︎」

 

「どこの者かは知らないが、余程大事らしいな?」

 

「当たり前、だ!」

 

渾身の一振りがメイスに当たり、ゼアドールその勢いで後退する。

 

「親がいない子から目を背ける事なんて、俺には出来ない!」

 

両親がいない気持ちは……よく知っている。

 

「……そうか」

 

「ーーレンヤ!」

 

ゼアドールに向けられ紅い魔力弾が撃たれ、ゼアドールはメイスを回転させて防ぎ。 アリサ達が俺の前に出た。

 

「遅れたわね」

 

「大丈夫、レンヤ君?」

 

「ああ、何とかな」

 

「ラスボスにしては手強そうだ」

 

「意味分からないよ、クーさん」

 

「緊張感ねえなぁ、お前ら」

 

だが、それがあるから異界対策課なんだと思うかな。

 

「ぬあああっ!」

 

「はあっ!」

 

振り下ろされたメイスをアリサが受け止め、左右からすずかとアリシアが飛ばした。

 

「行って!」

 

《シレットスピアー》

 

「狙い撃ち!」

 

《マルチショット》

 

左からすずかが魔法陣から魔力の槍を発射し、右からアリシアが2丁拳銃でゼアドールの関節部分に狙いを定めて狙撃する。

 

「むんっ!」

 

だがゼアドールは、攻撃が当たる直前で一喝し、2人の攻撃を弾いてしまった。 バリアジャケットを硬化したのだと思うが、何て硬さだ。

 

「こちらを忘れないでね!」

 

「ぐっ……」

 

意識が変わった隙を狙い、アリサはフレイムアイズの峰の部分にある噴出口から炎を噴き出し、その勢いでゼアドールを弾き飛ばした。

 

「カッ飛びな!」

 

《ディストーションカノン》

 

「もういっちょ! 灼熱の……業火球!」

 

間髪を容れずクーが歪曲した魔力弾を、アギトが灼熱の火球を放った。

 

「効かぬわああっ!」

 

ゼアドールはメイスで防ごうともせず、体を張り2つ魔力弾をその身で受けた。 直撃し、爆煙が舞うが……出てきたゼアドールは少し汚れただけだった。

 

「嘘でしょう⁉︎」

 

「硬すぎだろ……」

 

「私の防御術式は並の攻撃では傷一つ付かない防御力も要している! この程度、取るに足らんわ!」

 

最強の(メイス)(防御魔法)を持っているわけか、かなり厄介だな。 なら……

 

「疾っ……!」

 

一瞬で背後に回り、防御が薄い首元を狙い意識を断とうする。

 

「ふっ!」

 

「なっ……⁉︎」

 

ゼアドールは刀を手の甲で受け止めた。 しかも籠手もしてない素の手でだ。 いくら硬いと言ってもそこまで……

 

「ぐはっ……!」

 

考える暇もなく腹部を殴られ、吹き飛ばされてしまう。 だだのパンチでもこの威力……腹部の痛みが治らない。

 

「レンヤ君!」

 

「ふんっ!」

 

「…………!」

 

《レイピアフォーム、アイシクルブレイド》

 

心配してくれたすずかに、ゼアドールはメイスを振り。 すずかは槍では受け切れないと思ったのかスノーホワイトをレイピアに変形させ、メイスを受け流した。 さらに反撃し、少しずつゼアドールの体に氷が付着していく。

 

「アギト、炎パス!」

 

「分かった、受け取れ!」

 

《エンハンス》

 

「火炎の刃!」

 

アギトがアリシアに向かって火球を撃ち、小太刀で受け止めると小太刀に炎が纏い、ゼアドールに斬りかかった。

 

「っ……!」

 

「このっ!」

 

「ふはははっ! 効かぬと言っている!」

 

2人の攻撃を受け切ったらすかさずメイスで攻撃してくる。 その戦い方に2人は攻めきれない、ノーガードで突撃する人なんてそうはいないからな。

 

「なら、もっとどデカイのをお見舞いしてやるぜ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

クーが大型のカートリッジをロードし、砲口の前に巨大な魔力弾が形成される。

 

「上手く避けろよ!」

 

『え……』

 

《エーテルバースター》

 

引鉄を引かれた瞬間……凄まじい魔力の奔流が俺達含めゼアドールに向けられて放たれた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「クーさんのバカー!」

 

すずかとアリシアはすぐさま離れたが、俺は避けよとするが腹部の痛みでまた膝をついてしまう。

 

「はあああああっ‼︎」

 

ゼアドールは迫る砲撃に向かってメイスを振るい……ぶつかり合うと砲撃がその場で止まり、爆風が巻き起こる。

 

「マジかよ……だが負けるわけにはいかねえ!」

 

「ぬううっ‼︎」

 

力が拮抗し、さらに激しさを増していく。

 

「大丈夫、レンヤ?」

 

「アリサ……ちょっとヤバかった」

 

いつの間にかアリサが近寄ってきて、肩を貸してもらい砲撃の射線上から離れた。

 

「アレは囮よ、後数秒は持たないから。 最後はレンヤが決めなさい、策はあるわよね?」

 

「りょ、了解……」

 

次の瞬間、ゼアドールが砲撃に打ち勝ち。 振り下ろされたメイスが衝撃となってクーに直撃した。

 

「ほら、行きなさい!」

 

《エターナルブラッド》

 

「ああ!」

 

アリサに擬似的な疲労回復魔法をかけてもらい、腹部の痛みと体の倦怠感が消えるのを感じ。 一気に駆け出し、低めの跳躍でゼアドール前に飛び上がり、突き構えを取り……

 

「むっ!」

 

無明風声(むみょうかぜごえ)!」

 

同じ箇所に何度も突きを繰り出し、ゼアドールの防御を貫き刀が貫通した。

 

「ぐあああああっ‼︎」

 

ゼアドールの背後に滑りながら着陸し、息をはいた。 ゼアドールは腹部に連撃を受け、膝をついた。

 

「ふう、ふう……」

 

「イタた……たっく、手こずらせやがって」

 

ゼアドール達をようやく制圧した。 マフィアやグリードはそこまで手こずらなかったが、やはりゼアドールは別格だった。

 

「……わ、若頭……!」

 

「……だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

「ふふふ………はははは……」

 

心配して声をかける男達の声が聞こえていないのか、不敵に笑うゼアドール。

 

「……中々楽しませてくれる」

 

ゼアドールはダメージがあるにも関わらずスッと立ち上がり、それに続いて男達とグリードがヨロヨロと立ち上がってきた。

 

「ぅ……」

 

「なんて奴らだ……!」

 

「タフすぎんだろ……」

 

「チッ……化物かよ」

 

「ふ、ベルカの融合機が何を言っている。 融合機……特に純正である貴様はーー」

 

「ッ! うっせぇ! テメェには関係ねえだろ‼︎」

 

アギトは怒りを露わにし、ゼアドールの言葉を遮った。

 

「落ち着きない、アギト」

 

「で、でもよぉ……」

 

「あなたの存在意義は私が知っているし、私が証明してみせる。 それに、あなたはあなたよ。 それを誇りにしなさい」

 

「アリサ……」

 

事情を知っているのか、アリサがアギトを落ち着かせた。

 

「ふふ、さすがに無粋だったか。 お詫びと言ってはなんだが……今度はタイマンと行こうか……!」

 

「あら、デートのお誘いかしら? 乗らない手はないわね」

 

アリサはアギトを肩に乗せ、俺達の前に出た。

 

「おい、アリサ……!」

 

「……ここは任せなさい。 彼を倒せたら何とか突破口が開けるはず。 私の事はいいわ……とにかくこの場を切り抜けなさい!」

 

「アリサを置いてなんて……できるわけないだろ!」

 

「だ、駄目だよアリサちゃん……!」

 

「らしくないよ!」

 

「ーー行くわよ……アギト、フレイムアイズ!」

 

「おう!」

 

《イエスマム》

 

まるで俺達の声が届いてはいなく、アリサはゼアドールだけを見ていた。 アリサとアギトは何かしようとしており、アギトがフレイムアイズの紅い菱型の宝玉の上に立つと……紅くて丸い光に包まれて宝玉に吸い込まれていった。

 

「アギト⁉︎」

 

「まさか……ダメだよアリサちゃん! まだ最終試験が済んでいないのに、いきなり高出力で使うのは危険だよ!」

 

「ごめんなさいすずか……生半可で勝てる相手じゃないわ」

 

『それにさ、すずかが失敗するものを渡すはずが無いからな。 だから安心してぶっつけ本番でも使えるのさ! 行くぞアリサ、フレイムアイズ!』

 

「ええ!」

 

《オーケー、アギト》

 

『「フェアライズ‼︎」』

 

合わせて言った掛け声と共にアリサはフレイムアイズを上に放り投げ、回転しながら上空に停滞していたら、突然回転が止まり。 剣先を下に向けてアリサに向かって落下し……そのままアリサの腹部に刺さった。

 

「なっ……⁉︎」

 

「ちょっ、何やってるの⁉︎」

 

その奇行が理解できず、ゼアドールも含めて驚愕するが……次の瞬間、フレイムアイズから魔法陣を展開しながら輝き出し、魔力が膨れ上げながらアリサを包んだ。 光が晴れると、そこには胸、両腕、両足に機械的な紅い鎧を装着し、右目には半透明のオレンジ色のHUDを装着している紅髪のアリサがいた。 背中には少し気の小さい機械的なオレンジ色の翼を広げていた。 ただ鎧を付けただけだが、虚仮威しではないのはビリビリと放たれる魔力でわかる。

 

『フェアライズシーケンス、コンプリート』

 

「さあ、飛ばすわよ!」

 

アギトの機械的な言葉を言った後に、アリサは剣を構えてポーズを決めた。 何故やった……?

 

「すごいわ……ユニゾンするより身体が軽いし、力が何倍にもなった気分……!」

 

「な、何あれ……」

 

「凄げえ魔力の奔流だ、冗談じゃなさそうだ」

 

「そう来なくては……こちらも全力で応えよう!」

 

瞬間、ゼアドールからアリサと同レベルの魔力が発っせられ。 後ろに控えていた男達はそれに耐えられず後退する。

 

「はああああっ‼︎」

 

「ぜああああっ‼︎」

 

2人が気合いと共に同時に飛び出し、剣とメイスが衝突すると今以上の衝撃と魔力の奔流が辺り全体に轟いた。 すぐお互いの武器を弾いて距離を取るが、すぐさま2撃目を構えた。

 

「なんて衝撃……!」

 

「うぅ……」

 

「くっ、このままじゃ……」

 

「さあ、これからが本番よ!」

 

『飛ばして行くぜぇ!』

 

「我が全霊、応じてもらおうか!」

 

戦闘が激化しては止められなくなってしまう。 どうにかしないと……

 

「この一撃で!」

 

『リミットアタック、バーニングーー』

 

『そこまでです‼︎』

 

その時、拡声機で聞き覚えのある少女の声が響いてきた。

 

「この声って……」

 

「まさか……!」

 

ゼアドール達の背後から現れたのは……ルーテシアとガリューだった。

 

(………………)

 

ガリューが無言の圧力を発すると、それを感じ取ったグリード達がひれ伏した。

 

「なっ……」

 

「お、お前ら……! 怯えたんじゃねえ……!」

 

「今だよガリュー!」

 

ルーテシアがガリューで指示を出し、隙を見せた男達に接近して湖に落としたり一撃で昏倒させた。

 

「くっ、虫だと……⁉︎」

 

ゼアドールの標的がガリューに向けられたその時……モーターボートの駆動音が聞こえてきた。

 

「この音は……」

 

「あれは……!」

 

見えてきたボートが俺達の前で停止すると……

 

「皆! 早う乗り!」

 

運転席に座っているはやてが大声で呼んできた。

 

「はやて……⁉︎」

 

「ぼーと?」

 

「ナイスタイミングだよ!」

 

「行かせるかああッ‼︎」

 

ゼアドールが止めようとメイスを振ったが……それをアリサが受け止めた。 その時の衝突による衝撃が大きく響き渡る。

 

「くっ、貴様……」

 

「悪いわね……今回はお預けよ。 それより……あなた達は知っていたのかしら……? 人間の子どもを競売会に出品しようとしてたのを……」

 

「なに……⁉︎」

 

ヴィヴィオの事を言い、ゼアドールは驚きの声を上げる。

 

「……この子は、出品物の部屋にあった革張りのトランクに閉じ込めらていた。 それが何を意味するのか、あなたは判っているか……?」

 

「?」

 

「な、何をデタラメを言っている! あのトランクにはアーネンベルクの人形が……!」

 

「まあ、でも事実だからなぁ。 事と次第によっては、タダでは済まねえぞ?」

 

事実、ヴィヴィオが入るわけだし。

 

「やれやれ……妙ことになっとるなぁ。 フェノールの。 改めて話を付けさせもらうで。 そっちはそっちで状況を整理しておいてな」

 

「グッ……」

 

「異界対策課、撤収や! さっさと全員乗らんか!」

 

「は、はいっ!」

 

はやての声に少し気圧されつつボートに飛び乗り、ボートが出発する時にガリューがルーテシアを抱えて飛び乗り、ようやくエミューからの脱出に成功した。 そしてその途中……ゼアドールの叫び声が遠く離れたここまで届いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ってしまったわね」

 

レンヤ達が乗るボートを離れていた場所から黒猫のノワールと一緒にナタラーシャが見ていた。

 

「ふふ、もう少し遊んでおけばよかったかしら、ちょっと勿体無かったわね」

 

「……彼らをからかうのは程々にして下さい」

 

ナタラーシャの背後から、何処からともなくキルマリアが現れた。

 

「とはいえ、確かにそこまで遊んでいない所を見ると……あなた個人としてここにいるようですね?」

 

「そうかもしれないわね。 あなたほど楽しいんではいないかもね。 いいのかしら、アレ? 完璧に干渉してるじゃない?」

 

「ああ、あの狙撃は見事でしたね。 空白という、噂の方が現れたのでしょうか?」

 

「私の前でそれを言い訳にするとはね……まいいわ、魔弾の射手の妙技、面白いものを拝見したし」

 

「こちらは残念です、“真紅”の異名をひと目拝見したかったです」

 

「ふふ、ごめんなさいね」

 

笑いながら謝罪すると……ナタラーシャはノワールを抱えてから指を鳴らした。 するとナタラーシャは炎の渦に包まれてしまう。

 

「当分は傍観しているだけよ。 面白い種を持って行ってくれたし、後少しもしない内に……楽しい楽しいパーティが始まるわ。 その時には、あなたとワルツのお相手をしてもらおうかしら……?」

 

「ええ、その時には、是非」

 

「ふふ……」

 

次の瞬間……ナタラーシャは陽炎のように変えて行った。 後に残った微かな残火が、風に吹かれてキルマリアの頰を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサの回復魔法の効果が切れ、今は座り込んでいる。 すずかに回復魔法をかけてもらいながらある程度進んだ所でボートに速度を落とし、はやてと事情を説明した。

 

「……なるほどなぁ。 何やら記念祭の間にコソコソしとるんのは知っとたけど……」

 

「ご、ごめん……」

 

「ま、それはともかく問題はその子やな。 事と次第によってはとんでもない事になるかもしれへん」

 

一応、許してくれたのか話をヴィヴィオの方に変え、俺達は段々小さくなっていくエミューを見つめるヴィヴィオを見た。

 

「そうね……オークションで人形の代わりに出品される所だった子ども……」

 

「ま、よくない想像ばかり働くな」

 

「……まさかマフィアもそこまで愚かな事をしないと思うけど……」

 

「先ずは健康面のチェックをしないとね」

 

「ならシャマルに頼むとええ」

 

「カリムに頼んで聖王医療院を使わせてもらおうよ」

 

「あ……」

 

視線に気付いたのか、ヴィヴィオは振り返り。 俺達の顔を見渡し、俺を見つけると駆け寄って来て腰に抱きついてきた。

 

「うぅ……」

 

「大丈夫……心配しなくてもいいから」

 

「……うん」

 

「なんやレンヤ君、えらい懐かれとるなぁ」

 

頭を撫でて落ち着かせるが、それをはやてにからかわれる。

 

「コホン、それよりもヴィヴィオ。 名前以外で何か思い出せた事はあるか?」

 

「………ううん……」

 

「そうか……」

 

「困ったね……」

 

「……………………」

 

そんな中、いつの間にか変身を解除したアリサ達。 そしてアリサの肩に乗っているアギトは暗い顔をしているのに気が付いた。

 

「そういえば、アギト……」

 

「ーーま、あたしの話はおいおいな。 調べればすぐに分かることだしさ」

 

「ううん、私はアギトちゃん自身から聞きたいな」

 

「それに、何を言われても私達の関係が変わるわけでもないし!」

 

「ああ、今更そんなことでアギトを否定したりしないさ」

 

「……すまねえ」

 

「ふふ、やっぱり私の思った通りになったわね」

 

アリサは分かっていたのか、クスクスと笑った。

 

「ただ、それとこれとは話は別だよ。 最終試験を終えてないのに勝ってにフェアライズして」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「済まねえ……」

 

空気が一転してすずかがガミガミとアリサとアギトを叱った。

 

「………虫さん……」

 

(コクン)

 

「うん……」

 

「いや、なんでそれで会話が成立しているの……」

 

「くく、これも一種の青春ってやつだな」

 

「せいしゅん……?」

 

「ふふ、緊張感の欠片もないわね」

 

「そういや俺達、さっきまでマフィアに追われて結構ピンチだったんだよな……」

 

「なんだか実感がわかないね……」

 

「夢でないのは確かだけど」

 

「ふふ……ま、とにかく後の事は対策課で相談させてもらうで。 これだけの事を仕出かしたんや……明日からしばらく臨海態勢になると思うから覚悟しとき」

 

「ああ……!」

 

こうして、黒の競売会(シュバルツオークション)の潜入は終わり、そして新たにヴィヴィオと言う問題が飛び込んできた。 当分穏やかな学院生活はお預けかもしれないな。 そう思いながら、ボートはミッドチルダ方面へ進むのだった。

 

 




長文になった上にやはり混ぜ過ぎな気もしますが……そこは置いておいて。

もうヴィヴィオが登場しました、はい。

StrikerSの方の代役もちゃんといます。


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119話

 

1週間後、4月中旬ーー

 

ヴィヴィオを保護した俺達はヴィヴィオを地上本部にある異界対策課に匿いながらマフィアの報復を警戒することとなった。 学院には断りを入れて欠席扱いになっているが、最近休み気味でなのは達に後に続いて出席日数が厳しくなっているが。 クロノやゲンヤさんの協力を得ながらマフィアとアザール議長の動向を注意深く伺う日々が続いき……一方、記憶が戻らないヴィヴィオは年相応に不安を見せていたが、少しずつ対策課に馴染んでいった。

 

そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー手打ち、ですか?」

 

早朝、対策課にマフィアの件について訪れたはやてとゲンヤさんが、開口一番でそう言った。

 

「ああ、非公式だが管理局本部宛てにフェノールから打診があったそうだ。 出品物にあの子が紛れ込んでいたのは完全な手違いーーというか、全く身に覚えがないということだ」

 

空白(イグニド)の工作とも主張しておるけどなぁ……ま、状況的には厳しいやろ」

 

ヴィヴィオはまだ寝ていて、アリシアとソエルが面倒をみ見ており。俺、アリサ、すずか、ラーグが隊長室で2人の報告を聞いていた。 だがアリシアとソエルも気になっているのか、サーチャーを飛ばしていてここの様子を見ていた。

 

「……そうですか。 俺達が駆けつけた時、空白は丁度、部屋にいた手下を倒したばかりのタイミングでした。 外からヴィヴィオを運んで中の人形と入れ替える暇は無かったと思います」

 

「考えられるとしたら、例のトランクが屋敷に運びこまれた時には既に入れ替わっていたか……」

 

「空白よりも前にトランクの人形をヴィヴィオちゃんと入れ替えか。 そもそも、出品される筈だった人形の出所は分かったのですか?」

 

「はっきりした事は判らんが、カルナログ方面の裏ルートから手に入れたものだったらしい」

 

「えっと、記念祭最終日ーーつまりオークション当日、屋敷に運びこまれたようやけど……その運び込んだ運送会社も架空のものだったと主張しとる」

 

はやてが懐からメモ帳を取り出し、記載されている内容を言った。

 

「つまり……連中はあくまで自分達は嵌められた側だと主張しているんですか?」

 

「まあ、そういう事だな。 真偽のほどは分からんが……連中が必死に弁明するのも判る」

 

「下手したら人身売買の容疑が掛けられる訳やからな」

 

「……………………」

 

はやての言葉に、すずかが暗い顔をする。

 

「武器の密輸、マネーロンダリング、盗品すら扱う闇のオークション……そんな犯罪を平気でやる連中でも人身売買の疑いが掛かるのだけは何としても避けたいわけね」

 

「当然といえば当然だ。 犯罪としては最悪の部類……絶対に許されない類の重罪だ。 管理局もさすがに黙っちゃいないし、何より聖王教会が聞きつけたら総力を挙げて叩き潰しに来るだろうな」

 

「証拠さえ、あればだけどな」

 

「まあそんなリスク、議長はもちろん、フェノールも負うハズがない……理屈は判るが。 正直、とてもじゃないけど納得は出来ないな」

 

「だからこその手打ちや。 レンヤ君達の潜入捜査ーー向こうは不法侵入と言うてるんやがーーについても一切不問にするそうや。 “偶然”保護した女の子の扱いも、こちらに全てを任せるそうや」

 

「その代わり、この件については自分達の主張を認める……間違っても聖王教会あたりに告げ口はするな、ですか……確かに必死ですね」

 

結局の所、ヴィヴィオの事はこちらに丸投げしたようなものか。

 

「……ヴィヴィオのことを考えると、曖昧にはしたくないですけど……あの子がこれ以上、マフィアに狙われない事が確約されただけでも納得すべきかもしれませんね」

 

「ああ、俺もそう思う。 ……まあ、問題なのは、肝心のその子の素性なんだが」

 

「はい……」

 

「名前以外には本当に覚えていないようみたいだからねぇ」

 

「……はやてちゃん、シャマルさんから検査結果をもらってきたんだよね?」

 

「ああ、うん……これや」

 

はやてはバックから封筒を取り出し渡してくれた。 表情が少し暗い所を見ると……予想通りの結果だろう。 封を切り、中の資料を確認していく。

 

記載されている内容は……身体はいたって健康で持病もなし。 魔力は平均以上ではあっても普通の子どもの域は出ていないが……人造生命体である可能性あり、未知の潜在能力を危険視される、と書かれている。

 

「…………!」

 

「やっぱり……」

 

驚く中、さらに読み進めていくと……

 

〈10年前、聖王教会で強奪された聖王の聖遺物が使用された可能性高。 神崎 蓮也氏とのDNA合致率50%……聖王の複製として次元犯罪者組織がプロジェクトFによる複製が予想される〉

 

「………………」

 

「レンヤ君………誰との子や?」

 

「何でそうなる⁉︎」

 

「証拠はあるんや。 さあキリキリとーー」

 

「やめなさい、バカはやて」

 

「ああああああっ!?」

 

「ヒュー、怪力♪」

 

アリサがはやてに顔面アイアンクローをし、はやては痛みで叫んだ。

 

「いずれにせよ、ヴィヴィオがレンヤの血縁者なのは事実か……」

 

「それが関係しているのか、最初からレンヤ君に懐いていたよね?」

 

「ああ、親を求めているようで俺から離れるのを嫌がっていた」

 

そして、何としてもヴィヴィオを守りたい気持ちで戦っていた自分の事も、どこかおかしいと思っていた。

 

「イタタタ……アリサちゃん、やり過ぎやんね」

 

「こんな真面目な時に冗談を言うからよ」

 

「重い空気を和まそうとしたウィットに満ちたジョークやないか……」

 

「ま、とりあえずこれからどうするつもりだ?」

 

はやてをスルーして、今後についてゲンヤさんが聞いてきた。

 

「そうですね……安全が確保できた訳ですし一度学院に戻りたいですけど……」

 

「ヴィヴィオをどうするかよね。 ここに残すとしてもソーマ達じゃ心もとないし……」

 

「とりあえず一度学院に第三学生寮で一時的に保護出来ないか相談してみるよ。 あそこならファリンやノルミンちゃん達もいるから安心できるよ」

 

「色んな場所に連れ出すのもいいきっかけになるからな。 しかし、完全に保護するとなると本格的に服といった必需品が必要になるな」

 

今までは一時的な保護だったからまとめやすいように必要最低限なものしか用意してないからな。

 

「服はルキュウで用意しましょう。 その方が荷物が少なくていいわ」

 

「車を用意してくるよ、皆はヴィヴィオちゃんと一緒に正面玄関から来てね」

 

「了解、よろしくな」

 

今後の事が決まり、先ずはヴィヴィオの様子を見に行った。 3階にあるヴィヴィオがいる部屋に入ると、アリシアとソエルが荷造りをしていた。

 

「あ、レンヤ」

 

「おっはよ〜」

 

「おはよう。 アリシア、ヴィヴィオは?」

 

「まだ寝ているよ。 ほら」

 

ベットの前まで行くと、ヴィヴィオはスヤスヤと眠っていた。 側にはうさぎのぬいぐるみがあった。

 

「よく眠っているな……」

 

「うん、自分がどうなっているのかまるで分からないのに、ね……」

 

「この子について、聞いてたのか?」

 

「うん……」

 

プロジェクトF……そう聞いて動揺しない訳ないか。 一体何の目的でこの子が生まれたのか……そう考えると手に力が入ってしまう。

 

「レンヤ」

 

「あ、済まん……」

 

「ううん、それよりも用意は出来ているよ。 後はヴィヴィオを起こして着替えるだけ」

 

「う……ん……」

 

その時、丁度ヴィヴィオが目を覚ました。

 

「おはよう、ヴィヴィオ」

 

「あ……」

 

開かれた双眸は変わる事なく紅玉と翡翠の色をしている。 その瞳に俺が映るとヴィヴィオは袖をその小さな両手で掴んだ。

 

「おは、よ……う」

 

「ああ、おはよう」

 

頭をポンポンと撫で、朝の挨拶を交わす。 この1週間、確かに懐いているとは思うが未だに名前を呼ばれた事はない。 まだ不安に思うのは分かるがちょっとだけショックだ。 名前は教えたはずだが……

 

「ヴィヴィオ、今日から別の場所で暮らす事になったんだけど、そこにはヴィヴィオの知らない人がいっぱいいるけど、皆とても優しくて大切な仲間だ。 だから、ヴィヴィオもきっとすぐに慣れると思う。 一緒に来てくれるか?」

 

「…………うん」

 

本当に理解しているかは定かではないが、俺の目を見て頷いてくれた。

 

「ありがとう……アリシア」

 

「うん、了解」

 

「やれやれ」

 

後の事をアリシアとソエルに任せ、部屋を後にした。 どういう訳か俺に次いでアリシアがヴィヴィオに懐かれている。 母性ならすずかの方があると思うが……まあ、気にしても仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学院長にヴィヴィオの件について、寮で預かる事に許可をもらい。 ゲンヤさんと別れ、はやても一緒に専用車でルキュウに向かった。 ラーグとソエルは残りそうで、そしてヴィヴィオは乗る前から車に興味津々で、出発してからは流れる景色に見入って終始窓から離れなかってが、道のりの半分を過ぎた所でまた眠ってしまい。 今はアリシアの膝枕でスヤスヤと寝ている。 早朝だったし、さすがにヴィヴィオには早かったか。 ルキュウに到着し、寮に戻るとなのは達に心配され、横抱きで抱えているヴィヴィオに視線を向けられたが、部屋も用意出来ていなかったので一旦ソファーで寝かした。

 

「よく寝ているね」

 

「うわあ、可愛いなぁ……!」

 

「しっかし、お前らも面倒なことに巻き込まれてるな」

 

「いつもの事よ」

 

「この子が……」

 

皆にはヴィヴィオの出生は伝えてあるが、特に気にしてないようだ。 ただアリシア同様、フェイトは複雑な心境になっている。

 

「大丈夫か、フェイト?」

 

「う、うん。 大丈夫だよ。 この子のことも、守らなくちゃね」

 

「そうだな」

 

一度自室に戻り。 制服に着替えて、もう一度戻るとヴィヴィオは起きていて。 なのはが優しく喋りかけていた。

 

「ーーそっか……」

 

「なのは、ヴィヴィオの相手をしてくれたのか?」

 

「あ、レン君」

 

「あ……」

 

ヴィヴィオはソファーから立ち上がると駆け寄り、足に抱きついた。

 

「よく眠れたか?」

 

「………うん」

 

そういいながら俺はヴィヴィオの頭を軽く撫でる。 そうするとヴィヴィオも気持ちよさそうに目を細める。 そんな俺とヴィヴィオを見て、なのはが笑みを浮かべたが、ふと何かを思い出したように手を叩いた。

 

「そうだ……! レン君、そろそろ学院だよ。 急いで行かないと」

 

「そうだな、ノートを後で見せてもらえるか?」

 

「もちろん!」

 

朝食は移動中に軽く済ませたし、ファリンさんにヴィヴィオの分を頼まないとな。

 

「……どこかいっちゃうの……?」

 

袖を引っ張りながらヴィヴィオがそう聞いて来た。 下を見るとヴィヴィオが目にウルウルと涙を溜め、今にも泣きそうになっていた。 おそらく会話の内容の細かいところまではわからないまでも、出かけてしまうということはわかったのだろう。 目に溜まった涙は今にも零れ落ちてしまいそうだ。

 

「えっと、その……ヴィヴィオ、落ち着いて……」

 

「そ、そうだよヴィヴィオ! レン君が行くって言ってもすぐに帰ってこれるから……!」

 

「ちょっ……⁉︎」

 

なのはが言ってしまったことをすぐに訂正しようとしたが、時すでに遅し。 ついにヴィヴィオの瞳から涙がポロポロと零れ落ち、足に抱きつく力が上がったり声を上げて泣き出してしまった。

 

「いっちゃやーだーー‼︎」

 

大きな声を上げ泣きながら懇願するヴィヴィオに、俺達はそろって慌て始める。 さらにヴィヴィオの泣き声を聞いたアリサ達も駆けつけたが、それでもヴィヴィオ泣き止まずに足に抱きついた。 その時、丁度降りて来たフェイトとはやてがこの光景を見て驚いた。

 

「えっと……なのは? なんの騒ぎ?」

 

「あ、フェイトちゃん。それがーー」

 

なのはが説明を始める中、俺達は泣きじゃくるヴィヴィオに四苦八苦していた。

 

「いやー、それにしてもかの“蒼の羅刹”も小さい子には弱かったかー」

 

クスクスと笑いながらはやてが言うが、ヴィヴィオをどう泣き止めようか考え、念話ではやてに助けてを求めたが……

 

『笑ってないで助けてくれよ! いや、それ以前に何だよ蒼の羅刹って⁉︎』

 

『何や知らんかったのか? 結構前からレンヤ君の事、二つ名でそう呼ばれとるで』

 

超不本意だ……その時、フェイトがソファーに置かれていたヴィヴィオのうさぎのぬいぐるみを手に取り、ヴィヴィオの前にしゃがみこんでぬいぐるみを使ってヴィヴィオをあやしてくれた。

 

「こんにちは」

 

「ふぇ……?」

 

「この子は、あなたのお友達?」

 

「ヴィヴィオ、彼女はフェイト。 俺達の大切な友達で、信頼できる仲間だ」

 

「ヴィヴィオ、どうしたの?」

 

ぬいぐるみを左右に動かして、ヴィヴィオの気をひくフェイト。 さすがに手馴れているな……ユノやカレルとリエラ、それにエリオとキャロとよく接しているからかな。

 

『確かにこの1週間、寝ている時以外は離れた事は無かったが……まさかこうなるとは……』

 

『ふふ……懐かれたのかな?』

 

『これじゃあ、ファリンさんにも預けられないな』

 

『想定外の事態ね……』

 

『フェイト、頼める?』

 

『うん、大丈夫、任せて』

 

「ねえ、ヴィヴィオはレンヤ……さんと一緒に居たいの?」

 

「………違う」

 

「え……」

 

「………パパ」

 

『え』

 

「………パパ」

 

一瞬誰の事を指したのか分からなかったが、2度目で服を引っ張って来たので、自分の事を指していることに気付いた。

 

『レン君……』

 

『いや、呼ばせた覚えはないし。 むしろこの1週間名前すら呼ばれてないから!』

 

『まあ、間違ってはいないわね。 血の繋がりは証明されてるし』

 

「ええっと……そう、パパね! コホン、パパは大事な御用でお出かけしなきゃいけないのに……ヴィヴィオが我が儘を言うから困っているよ。 この子も、ほら……」

 

多少慌てたが、その後もフェイトがぬいぐるみを使って事情を説明すると……ヴィヴィオもなんとか事情が飲み込めたのか、最後にうさぎのぬいぐるみをフェイトから受け取り、多少ぐずりながらも頷いた。

 

「ありがとうヴィヴィオ、お昼には一旦戻って来るから」

 

「グスッ………うん」

 

足から引き離し、視線の高さを合わせて肩に手を置き、そう言い聞かせるとゆっくりと頷いてくれた。

 

ファリンさんにヴィヴィオの事を任せ、遅刻ギリギリなので俺達は急いで学院に向かった。 授業が始まると、なのは達が警戒態勢期間中フォローしてくれたとはいえ、数日分の遅れを取り戻さなければならず。 ヴィヴィオの事を気にしながらも一旦頭の隅に追いやり、ペンを持ちながらブラックボードとノートと向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4限目、デバイスエンジニアリングーー

 

本校舎から少し離れた場所にある技術棟、そこでデバイスの仕組みや開発、修理に必要最低限の知識を教わっていた。

 

「…………………」

 

「やっぱりヴィヴィオちゃんが気になる?」

 

「すずか……まあ、気にならないと言えば嘘になるんだが……」

 

すずかに話かけられ、止まっていた指を再び動かしてキーボードを打つ。

 

「月末の自由行動日、一度連れ回した方がいいかもな。 明るくなる、いいきっかけになるといいんだけど……」

 

「ふふ、なんだがかんだでレンヤ君、いいお父さんしてるね」

 

「ぐっ……仕方ないだろ、歳を考えても親にすがりたい気持ちはあるし。 これも何かの縁だ、保護責任者としてヴィヴィオを支えていく」

 

本当に、何かの(えにし)なんだろうな……

 

「なら後見人も必要だね。 レ、レンヤ君さえよければ……///」

 

「ああ、そうだな、すずかにーー」

 

『ちょっと待った』

 

すずかに後見人を頼もうとした時、聞き耳を立てていたのかなのは達が大声を出して近付いてきた。

 

「すずかちゃん、抜け駆けはずるいでぇ〜? ここは家事万能である私がーー」

 

「ううん、私の方が適任だよ。 可愛いヴィヴィオと一緒にいたいからね♪」

 

「な、なのは⁉︎ で、でも後見人なら経験もある私が……」

 

「それならレンヤに次いでヴィヴィオに懐かれている私がやるよ!」

 

「だめよ、ここは私が後見人を引き受けるわ。 異論は認めないわよ」

 

「ア、アリサちゃん、横暴だよ……!」

 

いつの間にか俺の周りで後見人争いになっていた。 と言うか今授業中で……

 

「あなた達……」

 

『あ……』

 

顔を上げると、そこにはモコ教官がいたが……雰囲気がかなりピリピリしている。

 

「いくら管理局の方が忙しいとはいえ、場所を弁えなさい……」

 

『は、はい!』

 

「ふう……神崎、いい加減決めておきなさい。 こちらも迷惑です」

 

「え⁉︎ あ、はい」

 

決める? 後見人を、だよな? その後、結局6人全員が後見人になる事でその場は収まった。

 

お昼になり、一度ファリンさんに連絡を入れヴィヴィオの様子を聞いた。 ファリンさんが言うにはヴィヴィオはノルミン達が気に入ったそうで、どうやら放課後まで持ちそうみたいらしい。

 

そして放課後ーー

 

「レンヤは、この後すぐにヴィヴィオちゃんの所に行くの?」

 

「いや、連絡が来るまでギリギリ粘ってみる。 ツァリ達も出来れば寮に帰るのを遅らせてくれないか?」

 

「部活もあるし、それは構わないけど……」

 

「何をするつもりだ?」

 

「なーに、ちょっとしたお祝いだよ」

 

「……あ、なるほど……それはいいですね」

 

「何々〜?」

 

「ヴィヴィオの事で何話してるんや?」

 

なのは達も俺のこれからやろうとする提案を説明した。

 

「それはいい考えだよ! ヴィヴィオもきっと喜ぶ!」

 

「これは久しぶりに腕が鳴るでえ……!」

 

「許可の方はこっちでもらっておくわ。 準備の方は任せたわよ」

 

「うん、任せて。 絶対に思い出に残るようにしようね!」

 

「それじゃあ……第3学年VII組、行くぞ!」

 

『おおっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ん……」

 

「おはようヴィヴィオ」

 

「! あ、パパ……!」

 

目が覚めたヴィヴィオは、俺の声を聞くと顔をこちらに向け、両手を伸ばしてきた。

 

「よしよし、いい子にしてたか?」

 

「うん……」

 

「ふふ……」

 

ヴィヴィオを抱き上げ、なのはがあやすように頭を撫でる。 なんか、すっかり板についてしまったな……

 

「ヴィヴィオ、お腹空いていないか? もう夕食の時間だし、食堂に行こうか」

 

「うん……」

 

そのままヴィヴィオを抱えて食堂に向かった。

 

「それじゃあ、入るね」

 

「? うん」

 

ヴィヴィオは断りをいれて入る事に少し疑問に思いながらも頷き、ゆっくりドアを開けて中に入いると……

 

パンパンパンッ!

 

『ようこそヴィヴィオ! 第3学生寮へ!』

 

クラッカーの音が鳴り、皆の声が揃って聞こえた。 ヴィヴィオは何がなんだが分からず、怯えるどころかポカンとしている。

 

「驚いたか?」

 

「これはパーティだよ、ヴィヴィオ」

 

「パーティ……?」

 

「そうだよ、ヴィヴィオがここに来てくれた、ね」

 

すずかがこのパーティの主役であるヴィヴィオを正面の椅子に座らせた。 目の前にテーブルには美味しそうな料理の数々。 そして目の前にあるのはいちごで飾られたホールケーキ。 上に乗っているチョコプレートにはミッドチルダ語で“ようこそヴィヴィオ”と書かれていた。

 

「ヴィヴィオの為に作ったんだぞ」

 

「このケーキ、パパが作ったの⁉︎」

 

「ああ、こう見えても菓子作りが得意だからな」

 

「他の料理や飾り付けも皆でやったんだよ」

 

このパーティの準備をVII組総出で行い、ちょっとした騒ぎになりつつもあったが……準備が終わり、寮に帰る前にファリンさんにヴィヴィオが寝ている事を確認してから寮に戻ってきて。 ヴィヴィオに内緒でこうしてお祝いの準備をしていたのだ。

 

「あはは、僕も居ていいのかな?」

 

「いいよいいよ♪ ソーマも手伝ったんだしさ♪」

 

「レンヤー、さっさと始めようぜー」

 

「そうだな」

 

「ではでは! 皆さんお飲み物を片手に……かんぱ〜い!」

 

『乾杯!』

 

サーシャの合図でパーティが始まり、それぞれが思い思いに料理に手を付けた。 最初はヴィヴィオも戸惑っていたが、なのは達がフォローしてくれたおかげで、すぐにパーティを楽しみ出した。

 

「楽しんでいるか?」

 

「うん! お料理、すごく美味しい!」

 

「ありがとうなぁ、腕によりをかけた甲斐があったちゅうもんや」

 

夢中で料理を頬張るヴィヴィオ、口元はすぐに汚れてしまい、その度になのはがかいがいしく世話を焼いていた。

 

「すずか様ー、お待たせでフー」

 

「ありがとうビエンフー」

 

シルクハットをかなり深く被った小悪魔風の黒いノルミンが、飲み物を運んで来た。 このノルミンの中でもかなり変なノルミンの名はビエンフー。 ファリンの相棒的位置にいて、よくファリンにこき使われているらしい。

 

「もぐもぐ……このリボン解いてもいい?」

 

「バァット! バット! それだけはダメでフー!」

 

……今後、ヴィヴィオにもからかわれそうだな。

 

そしてパーティが終わりを迎え、お腹も満たされた所で俺は後見人についてヴィヴィオに教えることにした。

 

「ヴィヴィオ、突然でごめんなんだけど。 私達がママの変わりでもいいかな?」

 

「ヴィヴィオはどう? いやかな?」

 

なのはとフェイトが首をかしげながら聞くと、ヴィヴィオはすぐには飲み込めていなかったが……小さく頷いて答えた。

 

「ううん……いやじゃ、ないよ」

 

「ありがとうヴィヴィオ」

 

なのはは嬉しかったのか、そっとヴィヴィオを抱きしめた。

 

「よかったなヴィヴィオ、ママが6人もできて」

 

「うん……!」

 

ヴィヴィオは頷くと、泣き出してしまった。 だが今回のものは悲しいからではなく、嬉しいから泣いているのだと思う。

 

その時気付いた、俺がパパだとしてもママが6人で……あれ? なんかやってはいけない事のような、いやでも後見人だし……

 

それからアリシアに呼ばれるまでのしばらくの間、葛藤するのであった。

 

 

 

 



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120話

 

 

4月下旬ーー

 

ヴィヴィオが第3学生寮に来て早1週間……すっかりヴィヴィオは明るくなり、誰隔てなく笑顔で接するようになった。 すでにこの寮のアイドル的な立ち位置を得たのだった。

 

「ふあ〜……」

 

いつも通りに目が覚め、ベットから出ようとしたが……妙な重さを体に感じた。

 

「まさか……」

 

原因は分かっているが、布団をめくってみると……

 

「すう、すう……」

 

ヴィヴィオが抱きついて寝ていた。

 

「またか……」

 

多少呆れながらも、寝息を立てるヴィヴィオの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからヴィヴィオが目を覚ますと、すぐに昨日一緒に寝たはずのアリサを呼んでヴィヴィオを連れて行ってもらい、その後食堂で朝食を食べていた。

 

「もぐもぐ……」

 

「よく噛んで食べろよ」

 

「うん!」

 

隣で拙いスプーン使いで朝食を頬張るヴィヴィオ。 その表情は1週間前とは段違いで明るくなり、髪もなのはのリボンを使って左右にピョコンと少し跳ねるように結っていた。

 

「なんかあっという間だったね、ヴィヴィオちゃんが明るくなるの」

 

「環境が変わったのがいい影響でしょう。 対策課はそこまで悪くないとはいえ、お世辞にも良くはなかったから」

 

「そうだねぇ、時々堅苦しい管理局員も来ていたし」

 

対策課にはたまに他の管理局員が依頼を申請する事がある。 その時ヴィヴィオと鉢合わせして事もあり、よく俺の背に逃げていた。

 

「あはは、そうだね。 今のヴィヴィオを見るとあんまり考えられないけど」

 

「子どもは急に泣いたり笑ったりするからね」

 

「確かに、そうだね」

 

経験があるのか、フェイトが笑って同意する。 とはいえ、そろそろ聖王教会に……特にウイントさん、ソフィーさん、カリム辺りに紹介はしておきたい。

 

「ーー皆。 次の自由行動日なんだけど……ヴィヴィオを連れて外に出てもいいか?」

 

「連れて行って……それで何するの?」

 

「いや、ヴィヴィオを知り合いに紹介しようと思ってな」

 

それに、もしかしたら同世代の友達ができるかもしれない。 いくら仲が良くても年上ではいたらない所も出てくるからな。

 

「でもレン君……ヴィヴィオを連れて行くって、レン君1人で連れて行くつもり?」

 

「そのつもりだけど……全員で行くほどの事じゃないし、俺1人で十分だと思うけど」

 

「……納得行かないわね。 ただでさえ1番懐かれているのに、更に独り占めしようだなんて」

 

「え……」

 

親代わりを務めただけで独占した覚えはないんだが……

 

「レンヤ君はズルいよ。 ヴィヴィオと接する機会は平等であるべきじゃないかな」

 

「そうそう、ヴィヴィオは共通財産なんだよ!」

 

「ふえ〜?」

 

「えっと、何の話なんだ?」

 

「はは、おまえ恨まれてんだよ。 何しろここ数日、寝る時はいつもヴィヴィオと一緒みたいだし」

 

「いや、それはヴィヴィオが勝手にベットに入ってくるからで……」

 

一応ヴィヴィオの部屋は用意しているが、さすがにこの子1人でそのまま寝かせるのはしのびなく、女子達がローテーションで一緒に寝る事になっていて、部屋は着替える時や昼寝に使うぐらいしか使っていないのが現状だったりする。

 

「ーーなあ、ヴィヴィオ。 1人だと寂しいのは分かるが、いつもママ達と一緒だし、ママ達も心配するから勝手にこっちに来ちゃダメだろう?」

 

「だってパパと一緒だと落ち着くから。 イヤだった……?」

 

「い、いや……別にイヤって訳じゃないけどさ」

 

「ちょっとレンヤ……あんまりヴィヴィオに冷たくしないでよ」

 

「そうだよ、あんな事があったばかりなんだから。 まだヴィヴィオが不安がっているんだよ」

 

「一緒に寝てあげるくらいの甲斐性は欲しい所やなぁ」

 

「俺にどうしろと⁉︎」

 

羨まれていたと思ったらなんでいきなり叱られるんだよ。

 

「それはともかく、確かに連れ出すのいいと思うぜ。 何かしらの気分転換にはなるだろう」

 

「その前に今日の実技テストを頑張らないとね♪」

 

「う、そうだった……」

 

「今回はどんなレギュレーションになるのかな?」

 

「ん〜?」

 

俺達がそう考える中、ヴィヴィオは首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実技テストを受けるため、俺達はいつも通りにドームにいた。

 

「おーし、そんじゃあ実技テストを始めるぞー」

 

相変わらずテオ教官は軽くて教官らしくないな。

 

「今回の実技テストは一対一による模擬戦だ」

 

「一対一って……」

 

「もしかしてテオ教官がご自身が?」

 

「おいおい勘弁してくれよ、もう俺だと手が余る」

 

テオ教官は両手を上げて否定する。

 

「では、一体誰が?」

 

「いるだろ、目の前に」

 

「目の前?」

 

「そうだ、VII組のメンバーで戦い合うんだ」

 

「なっ……!」

 

テオ教官の言葉に、俺達は驚く。

 

「組み合わせは完全にランダムだ、一戦だけ行い成績が決める。 各自全力でやれよ。 じゃなきゃ成績がつけられねえ」

 

「勝敗の有無は関係ないんですか?」

 

「戦闘内容によるな。 一瞬で終われば勝者が良くなるのは当然だし、敗者は悪くなる。 拮抗状態なら両者共に高い評価になるだろう」

 

「なるほど……」

 

テオ教官にしてはよく考えているが、それ以前に問題が……

 

「ちなみに戦意向上の為に敗者にはコレを飲んでもらう」

 

質問する前にテオ教官が取り出したのは……炭酸飲料が入ったアルミ缶だった。

 

「これは地球にある飲み物らしい」

 

テオ教官はリヴァンに向かってそれを放り投げた。

 

「ふーん? なんでこれが戦意向上に繋がるんだ?」

 

リヴァンは疑問に思いながらもファ○タを飲んだ。 その瞬間ーー

 

「ぐっはああっ⁉︎」

 

「リヴァン⁉︎」

 

リヴァンは突然奇声を上げてのたうち回り、最後には力無く倒れ伏した。

 

「ちょっ、テオ教官何飲ませたんや⁉︎」

 

「何って、地球飲みもんだぞ?」

 

「あんな危険な物あるわけないでしょう!」

 

と、リヴァンの手から離れた缶が足元に転がってきた。 拾い上げて名を見ると……

 

「ファ、ファンタジー?」

 

「違うな、これはファ○タGだ」

 

「何をグレードアップしたらああなるんですか?」

 

「見て! 名前の隣に丸シャの印が!」

 

「シャマルか!」

 

シャマルは料理が壊滅的なのは知っていたが、まさかこんな意味のない物を作るなんて……

 

「気を取り直して実技テストを始める。 さっきも言ったが敗者にはこのファ○タGを飲んでもらう。 効果はそこで伸びているリヴァンが実証済みだ」

 

テオ教官が指差した方向に、リヴァンが無残にも倒れていた。

 

「リヴァン君……」

 

《惜しい人を失いましたね》

 

「イリス、勝手に殺さないでよ……」

 

「リヴァンの実技テストはどうなるんですか?」

 

「あいつには半分くらいの点やっておくから、心配すんな」

 

「って言うか教官、もしかしてVII組が奇数人だからそんなん手を使ったんか?」

 

「それなら教官ご自身が参加すればよかったんじゃ……」

 

フェイトがそこを指摘すると、教官は少しの間静止した。

 

「……それじゃ、実技テストを始めんぞ」

 

「ちょっと!」

 

アリサが声を上げたが、目の前に対戦表が表示されて止められた。 対戦表に記されていた組み合わせはーー

 

ユエVSなのは

シェルティスVSフェイト

はやてVSツァリ

アリシアVSすずか

アリサVSレンヤ

 

「ほお、面白い組み合わせになったな」

 

「よろしくお願いします、なのは」

 

「うん、お互い頑張ろうね」

 

「……負けないよ」

 

「それは僕のセリフだよ」

 

「うう、はやてとかぁ……」

 

「ふふ、ツァリ君、お手柔らかになぁ」

 

対戦相手が決まり、それぞれが色んな表情を見せた。

 

「レンヤと本気で戦うなんていつ以来かしら?」

 

「模擬戦は時々やっていただろ」

 

「そうね。 でも、そこに本気はなかった……さすがに今回ばかりは勝ちは譲れないわよ?」

 

「だろうな……」

 

俺もアレだけは飲みたくない。 そしてそれぞれの対戦相手と向かい合い、デバイスを起動した。

 

「ーーそれでは実技テストを開始する。 各自、全力でやれよ」

 

『はいっ!』

 

それは意気込みなのか、それともアレを飲みたくない一心なのかは定かではないが……テオ教官の言葉に強く返事をした。

 

「……始め!」

 

テオ教官が開始を宣言し、全員が模擬戦を始めだし……目の前のアリサが飛び出して来て剣を振り下ろしてきた。

 

ガキンッ!

 

「くっ、いきなりだな……!」

 

「負けたくないのよ……それにーー」

 

《ロードカートリッジ》

 

「あなたとの本気のぶつかり合いで……気が高ぶっているのよ!」

 

カートリッジで剣に炎を纏わせ、刀を弾かれてそのまま吹き飛ばされた。

 

「ぐうっ! 真っ正面からの力比べじゃ部が悪いか……!」

 

《オールギア……ドライブ》

 

「レゾナンスアーク、短刀を……!」

 

一気に3つのギアを駆動させ、魔力を高めながらアリサの周りを走りながら短刀を腰に展開し、カートリッジを装填する。

 

「フレイムアイズ!」

 

《カノンフォルム》

 

フレイムアイズの形態を変化させ、刀身をスライドさせて砲身が出て来た。 砲身をこっちに向けて構えると炎弾を撃ってきた。

 

「っ……ふっ、せい!」

 

炎弾を避け、時折斬り裂き……隙を見て接近して斬りかかる。 アリサはすぐに砲身を納めて対応する。 剣がぶつかり合うごとに火花を散らし、時間が経つごとに魔力が高まっていき、だんだんと剣戟による余波がドーム内の地面を剥がしていく。

 

「はあああっ!」

 

「やあっ!」

 

お互い一歩も引かず、いつしか剣技による模擬戦となっていた。

 

《ロードカートリッジ、ジェットスロー》

 

「行け!」

 

「はああっ!」

 

短刀のカートリッジを炸裂させ、弾丸の如く短刀を投擲した。 アリサは剣で受け止めるが、威力が高くて簡単には弾けなかった。 その間に突きの構えを取り、接近した。

 

「くっ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

「いやあっ!」

 

裂帛の声と同時にカートリッジを2つ使用し、短刀を弾いたらすぐに迫ってきた突きを転ぶことで回避した。 しかし剣の技量においてはこちらが上……徐々にこちらが押していった。

 

「せいっ!」

 

「うっ……!」

 

刹那の閃きの間に三閃刀を振り、アリサはギリギリ防ぎながらも弾かれた勢いで地面を引き摺りながら後退していき。 息を荒げ、肩を上下して息をしていた。

 

「はあ、はあ……」

 

「どうしたアリサ、もう限界か?」

 

「……言ってなさい、すぐに倒してやるわ……!」

 

残る力を奮い立たせ、剣先を後方に向けて構えるアリサ。 何か仕掛けるつもりだな……俺は少しずつ後退して行くと、アリサはジリジリと摺り足で前に進んで行く。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………ーーっ!」

 

大きく一歩下がった時……剥がれた地面に足を取られてしまい、体勢が崩れてしまう。

 

「っ!」

 

その隙を逃さず、アリサはフレイムアイズの刀身から魔力を噴射し。 静止状態から一瞬で突っ込んできた。 だが、それは失策だぞ、アリサ? 俺はすぐにでも背後に刺さっていた短刀を蹴り上げた。

 

「っ⁉︎」

 

その行動にアリサの顔は驚愕するが、勢いを止める事はできずそのまま剣を振った。 左に長刀を逆手に持ち替え、右で短刀を掴み……長刀でアリサの剣を受け流し、短刀で剣を上に弾き上げた。

 

「あっ!」

 

短刀を逆手に持ち替え、両手の刀でアリサの首筋に刀を添えた。

 

「………参りました」

 

剣を手から離し、アリサは両手を上げた。

 

「ふう、こっちもギリギリだった」

 

「よく言うわよ。 最後の足を取られてた所、ワザとでしょう?」

 

「さて、どうかな?」

 

「ああもう悔しい!」

 

アリサは憤慨し、ものすごい地団駄をする。 地団駄するたびに地面がヒビ割れていく……

 

「お前らで最後だぞ、中々の接戦だったじゃねえか」

 

「……お世辞ですか?」

 

やや膨れっ面のアリサが拗ね気味で返答した。

 

「いやいや、本当にそう思ってるさ。 ただまあ、避けられないもんはあるからな」

 

「?」

 

アリサはテオ教官に何かを渡された。 よく見てみると……ファ○タGだった。 忘れてた……

 

「さあ、どうぞグイッと」

 

「そうやでぇ、アリサちゃん……」

 

「ここは潔く飲むんだね……」

 

そこに、髪で顔が隠れているはやてとアリシアが早く飲むように催促してきた。 ああ、2人共負けたのか……

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。 別にすぐに飲まなくてもーー」

 

「さあ……」

 

「さあ……」

 

『さあ……!』

 

「い、いやああああああっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ……これ程とは……!」

 

《シェルティース、生きてますかー?》

 

「…………………」

 

《返事がない、ただの屍のようだ。 だが屍に喋りかけるという異常性が私にはーー》

 

「シャマルめ……今度帰ったら家族会議や……」

 

「ゴホッ! ゴホッ! コレ飲み物じゃないよ〜……」

 

「うぐぐ……! バニングスとして……醜態を晒すわけには、行かないわ……!」

 

ドーム内では敗者達が死屍累々さながら横たわっていた。 はやては地面にシャと書いた後にそれを丸で囲った、ダイニングメッセージ的なものを書いて力尽きた。 シャ丸……上手くないぞ。

 

「にゃはは、ごめんユエ君……」

 

「本当にごめん、負けるわけには行かなかったから……」

 

「よくはやてに勝てたな」

 

「あはは……正直ギリギリだったけど……何とか隙を付いてね」

 

「ごめんアリシアちゃん……本当にごめん……」

 

「おーおー、まさかここまでの威力があるはなぁー」

 

その光景を眺めながら手の中でファ○タGを転がし遊ぶテオ教官。 あなたの所為でしょう……

 

「ん?」

 

「おはようございます」

 

その時、トコトコとテオ教官の隣にヴィヴィオが歩いて朝ーーもう昼前だがーーの挨拶をした。 離れた場所にファリンとアタックがいた。 どうやら2人が連れて来たようだ。

 

「おう、おはようさん、ヴィヴィオ」

 

「うん、失礼します」

 

またお辞儀をすると、俺達に向かって駆け出した。

 

「あ、転んじゃだめですよぉー」

 

「気い付けてなぁ〜」

 

2人の声を聞いてないのか、それともすぐに向かいたいのかヴィヴィオなりに急いで走っている。

 

「パパ〜、ママ〜」

 

「ああ!」

 

「あ、ヴィヴィオー!」

 

「危ないよー、転ばないでね」

 

「うん!」

 

フェイトとの注意に元気よく返事をしたが……その1秒も待たない内にヴィヴィオは転んでしまった。 ドームには芝生が敷いてあるが、顔面から倒れたが、不幸中の幸いか怪我はしてなさそうだが……痛いには変わりない。

 

『あ……』

 

「あ! 大変ーー」

 

「大丈夫、地面柔らかいし綺麗に転んだ。 怪我はしてないよ」

 

「それは、そうだけど……」

 

フェイトが倒れたヴィヴィオを助けようしたのをなのはが手で制した。 この2人が1番、ヴィヴィオを溺愛しているからな……

 

『ゴホッ……どうする?』

 

『……ここはなのはに任せましょ』

 

『うん、そうだね。 ここはなのはちゃんとフェイトちゃんに任せよう』

 

『やれやれ……』

 

すずかはともかく……アリサとアリシアは本当は行きたいが、動けないからだろ。

 

「ヴィヴィオ、大丈夫?」

 

「ふえぇ……ヒック……」

 

顔を上げたヴィヴィオは、鼻を真っ赤にして目に涙を浮かべていた。

 

「怪我してないよね? 頑張って自分で立ってみようか?」

 

なのはは腰を下げて両手を広げた。 ヴィヴィオを自分から来させる気だ。 厳し……

 

「ママァ……」

 

「うん。 なのはママはここにいるから、おいで」

 

「ふえ……ふえぇ……」

 

厳し過ぎるなのはの前に、ヴィヴィオはとうとう泣き出してしまった。 それでもなのはは助けようとはせず、同じ体勢のままだ。

 

「なのはダメだよ、ヴィヴィオはまだ小ちゃいんだから……!」

 

「まあ、フェイト、ここは任せてくれ」

 

「あっ!」

 

俺とフェイトはヴィヴィオの前まで来て、フェイトはすぐに抱きかかえようとするが、今度は俺がそれを制した。

 

「レンヤ?」

 

「なのはの言い分も汲み取らないとな」

 

ヴィヴィオの前で膝をつき、目を合わせた。

 

「パパァ……」

 

「ヴィヴィオ、なのはママの言う通り、自分で歩かないと行けない時はきっとある。 フェイトママみたいに助けてくれることもある。 でも今はーー」

 

俺はヴィヴィオの前に手を差し出した。

 

「頑張るのはまた今度にして、とりあえず立ち上がろうか?」

 

「グスッ………うん……」

 

ヴィヴィオは俺の手を取り、ゆっくりと自分の足で立ち上がった。 その後フェイトが服に付いた汚れを払うとそのままヴィヴィオを抱きかかえた。

 

「ヴィヴィオ、もし怪我をしたらパパもママ達も悲しむかもしれないから、気を付けてね」

 

「ごめんなさい……」

 

「もう、フェイトママちょっと甘いよぉ」

 

「なのはママは厳し過ぎです」

 

「はは、期せずして前に言った事が証明されたな」

 

この前の記念祭中にした雑談の内容が、ヴィヴィオが来た事で証明されたわけだ。

 

「う、そうだね……」

 

「あ、あはは……」

 

「ほえ?」

 

会話について行けないヴィヴィオの頭を撫で、皆の元に戻った。

 

 





初めてギャグをやってみましたが、上手く行かない上に女子を絡ませるとロクな事がない事が分かりました。


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121話

 

 

4月20日ーー

 

今日は3学年始まってる初めての自由行動日……そしてヴィヴィオを外に連れ出す日だ。

 

『これでーーよしっ!』

 

『わあっ……』

 

今はアリシアがヴィヴィオに外に出るための動きやすい服に着替えさせていた。 その間俺は階段で待たされていた。

 

「あれ? レンヤ、どうしたのこんな所で?」

 

「……着替終わるまで待っているんだ」

 

「ああ、なるほど」

 

ツァリが納得したようにポンと手を打つ。

 

「大変そうだね」

 

「他人事だと思って……」

 

「あはは、これもはやての言っていた甲斐性じゃないのかな?」

 

「うぐ……」

 

そう言われると何も言い返せない。

 

「それじゃあ、僕はこれで」

 

「ちょっ⁉︎ だからって置いて行けなんてーー」

 

呼びかけに応じず、ツァリは無情にも行ってしまった。

 

「は、薄情者め……」

 

「ーーあ、パパ!」

 

気分がだだ下がりの中、背後からヴィヴィオが首に抱きついてきた。

 

「うわっ……ヴィヴィオ⁉︎」

 

「アリシアママに服を着せてもらったの! ねえねえ、にあう⁉︎」

 

「いや、後ろからだとどんな服か判らないんだけど……」

 

「あ、そーか」

 

ヴィヴィオがゆっくり離れ、振り返ると……活発的な服を着たヴィヴィオがいた。

 

「ねえねえ、にあうー⁉︎」

 

その場で一回転し、服を見せるヴィヴィオ。

 

「ああ、可愛い……とても良く似合っているよ」

 

「えへへ♪」

 

「早速お披露目してるんだね」

 

アリシアも部屋から出てきて、後ろからヴィヴィオの両肩に手を置いた。

 

「アリシアママ、パパが可愛いって!」

 

「まあ、レンヤならどんな服を着ても可愛いって言いそうだね」

 

「そんな事、あるかもな」

 

最近、親バカと皆にも言われ気味だし……少しばかりなのはみたいに厳しくした方がいいのか?

 

「それにしても、なのは達が来れなかったのは以外だったな」

 

「そうだね、なのはとフェイトは管理局の仕事に、アリサは生徒会に、すずかは技術棟に、はやては休みらしいけど……家に帰って家族会議してくるんだって」

 

「そ、そうか……」

 

議題は、ファ○タGについてだろうな。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか。 ヴィヴィオ、行きたい所があったら遠慮なく言ってくれよ」

 

「はーい! パパとアリシアママと一緒ならどこでもいいよー!」

 

「うっ……」

 

キラキラした無垢な笑顔を見せられ、感情が可愛いよりも圧倒されて少したじろいでしまう。

 

「……ああ……! 可愛い、可愛いよヴィヴィオ!」

 

「アリシアママ、くすぐったいよ〜」

 

アリシアは愛が爆発し、ヴィヴィオに抱きついて頬擦りをした。 そんな光景を頬をかきながら眺めた後、寮から出て車の前まで来た。

 

「うわぁ! ちゃんと見るとすごいお車だね! パパのなの? お金持ちなの⁉︎」

 

「ははは、残念これは仕事用なんだ。 作ったのはすずかだけど、資金は管理局が出してもらったから正式にはこの車は管理局の物なんだ」

 

「すずかママが作ったの⁉︎ すごいすごい!」

 

興奮しているのか、すずかが作った事に驚いてその後の説明をあまり聞いていない。

 

「まあ、お金持ちなのは事実だけどね。 さあヴィヴィオ、乗ろうか?」

 

「うん!」

 

「よし、なら先ずはゲンヤさんの所だな」

 

車を走らせ、西部にある陸士108部隊隊舎に向かった。 はっきり言ってルキューからそれなりに離れているが、ヴィヴィオにちょっとしたドライブ気分も味合わせたかったからな。 しばらくはしゃぎ気味のヴィヴィオを見つつ、運転をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着すると、ヴィヴィオは物珍しそうに辺りを見回した。

 

「ヴィヴィオー! 行くよー!」

 

「はーい!」

 

ヴィヴィオは元気よく返事をしてこちらに駆け寄ると、俺とアリシアに向かって両手を出した。 俺達はその意図を理解し、俺が右手を、アリシアが左手を握り、ヴィヴィオは笑顔になるとそのまま手を繋いでゲンヤさんの元に向かった。

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

特に事前に連絡も入れなかったので、ゲンヤさんは少し驚いた顔をした。

 

「何だお前らか、どうしたんだ急に?」

 

「ちょっと、この子を知り合いの所に連れて回ろうかと思いまして、それで一度ゲンヤさんの元に」

 

「この子?」

 

ゲンヤさんは手を繋いでいるヴィヴィオを見つめ、その後アリシアを見た。

 

「お前ら……いつの間に子どもなんか……」

 

「違います」

 

「つうかその子の年齢だと……」

 

「だから違ってば」

 

「愛を育むのに年齢は関係ないが、もうちょっとなぁ……」

 

『違うって言っているだろ!』

 

つい敬語も使わないで思わずタメ口で否定を言ってしまう。

 

「冗談だよ冗談。 その子の件は管理局内で結構噂になってるぞ。 色んな意味でな」

 

「それって、どういう……?」

 

「フェノールをつついた子とか、レンヤの隠し子で聖王の末裔とか、その他もろもろな」

 

「あー、そうですか……」

 

予想通り過ぎる噂だな……

 

「コホン、まあそれはともかく……紹介します、その噂になっているヴィヴィオです」

 

「おはようございます!」

 

「ああ、おはよう。 俺はゲンヤ・ナカジマという。 レンヤ達には色々と世話になっていてな、よろしくな」

 

「はーい!」

 

以前なら怯えて隠れていただろうが、今は誰にでも元気よく受け答えができるから、どこはかとなく安心する。

 

「あはは、この前までは泣きべそかいていたのになぁ」

 

「子どもってのはそんなもんさ。 スバルだって子どもん時はよく泣いていたもんだ」

 

「ああ、確かに」

 

今のスバルと火災の時のスバルを比べると、本当にあっという間だと感じてしまう。

 

「ーー失礼します」

 

その時、ドアがノックされ、ギンガが書類を持って部屋に入ってきた。

 

「あれ? レンヤさんにアリシアさん、今日は何のご様子ですか?」

 

「ああ、ちょっとした巡りかな?」

 

「はあ……」

 

困惑するギンガだが、少し下を向いてヴィヴィオを見つけると、何となく理解した。

 

「もしかして、その子がレンヤさん達が保護した?」

 

「ああ、ヴィヴィオって言うんだ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「か、可愛いっ……!」

 

「さっそくヴィヴィオの魅力が広まったね」

 

ギンガは思わず書類を数枚落とす。 その反応を見て、自分の事のように笑うアリシア。

 

「それで……本当にそれだけか?」

 

「……さすがゲンヤさん、鋭いですね」

 

アリシアと視線を合わせ、アリシアは意図を理解しヴィヴィオを連れて部屋を出た。 出て行ったのを確認して、話を切り出した。

 

「今回ゲンヤさんにお願いがあって、最初に会いに来たんです」

 

「お願い、ですか?」

 

「その内容は?」

 

「フェノール商会の動向、そして……統政庁に関する情報を」

 

「統政庁……ですか?」

 

聞いたことが無いのか、ギンガは首を傾げる。

 

「フェノールは判るが、どうして統政庁もなんだ?」

 

「正確には、ゼアドールについてなんです」

 

あの時に戦ったゼアドールは正々堂々と戦っていた。 いや、正々堂々と戦い過ぎていた。 統政庁を抜け、マフィアと関わるのなら少なからず汚れた仕事をするはず……真っ正面の志は素晴らしいが、マフィアの活動においてそれは邪魔でしかない。

 

「できればいつ統政庁を抜け、それからどのようにフェノールに入ったかを知れればいいです」

 

「……つまりは、統政庁とゼアドールはまだ繋がりを持っていると考えているのか?」

 

「断定は出来ません。 ですのでこうして調べてもらいたいのです」

 

無論、無理を承知で頼んでいるから断られても文句は言えない。

 

「ーー分かった。 やれるだけやってみよう」

 

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」

 

「元々フェノールの方はお偉いさんの方からも警戒しとけと言われている。 それを誰に報告しても問題ないだろう?」

 

「隊長……はあ、仕方ないですね」

 

「済まないな、ギンガ」

 

「いえ……私もできるだけお手伝いさせていただきます」

 

「統政庁の方は何とかやってみよう、あんまし期待するなよ?」

 

「はい、それだけでも十分です」

 

「あ、後この件もはやてにも話しておけ。 力になってくれんだろ」

 

改めてお礼を言ってから部屋を出た。 少し離れた場所ではアリシアがうさぎのぬいぐるみを使ってヴィヴィオと遊んでいた。

 

「パパ!」

 

「あ、話は終わった?」

 

「待たせて悪かったな。 次ははやての家に行こうと思うんだが……構わないか?」

 

「はやてママの家⁉︎ 行きたい行きたい!」

 

「シグナム達と合わせるの?」

 

「それもあるけど……どうなったか、な」

 

「ああ〜……」

 

アリシアは俺の反応を見て納得してしまう。 今日寮を出て行く時のはやてを見れば……だいだいは予想はつく。

 

「私的にはあんまり気乗りしないけど……ヴィヴィオが行きたいって言っているしね、腹をくくりますか」

 

「ありがとう、アリシアママ!」

 

なんだかんだでアリシアも結構親バカになって来ているな。

 

車を走らせ、ミッドチルダ南部にある海岸に面している住宅街に向かい。 その中の家の1つ、その前に到着した。

 

「わあ……おっきいいお家……!」

 

「久しぶりに来るけど、あんまり変わり映えしないね」

 

「したらしたらで困るがな」

 

インターホンを鳴らし、しばらく待つとリンスが出て来た。 少し顔がやつれている気もするが。

 

「あなた達、よく来ましたね」

 

「久しぶりリンス。 どうかしたのか? 何だか疲れているみたいだけど」

 

「もしかして……はやてが?」

 

「……ええ」

 

どうやらシャマルに向けられた矛先は拡散したようだな。 合掌……

 

「コホン、とにかく中に入れてくれないか? ヴィヴィオを紹介したいんだ」

 

「ああ、その子が例の……」

 

リンスはヴィヴィオの前に行き、膝をついて目を合わせた。

 

「……………」

 

「ふえ?」

 

リンスはヴィヴィオの頰に手を当て、ヴィヴィオの顔を覗き込んだ。

 

「……全くというほど似てはいないが、どこはかとなく彼女の面影はある」

 

「? ヴィヴィオはヴィヴィオだよ?」

 

「ふふ、そうだな。 すまない」

 

「ああ、確かに。 ここにいるのはヴィヴィオだ」

 

「えへへ」

 

俺にも彼女本人の記憶が部分的にはあるが……ヴィヴィオの頭を撫で、ここにいるのは彼女ではないことを確認する。

 

「さあ入ってくれ。 むしろ入ってくれると助かる」

 

「そうだね……」

 

家に入り、リビングに通されると……はやてがすごい形相で仁王立ちしており。 その前にはシャマルが正座していた。

 

「ん? ああ、レンヤ君か。 いらっしゃい、よう来たなぁ」

 

「あ、ああ……取り込み中だったか?」

 

「ううん、ちょうど終わった所や」

 

「レ、レンヤ君〜……」

 

「自業自得です。 そもそも、アレは何のために作ったんですか?」

 

「えっと……本当は疲労回復や魔力回復用に作ったんだけど……味が最悪で……」

 

「だろうね、まさに混沌を飲んだようだったよ……」

 

実際に飲んだアリシアが喉をさすり、はやては無言で頷く。

 

「コホン、まああれやな……ここに来たんはヴィヴィオちゃんのことやろ? さっそく私の家族を紹介していこか。 まずはそこでアイスを食べとんのが……」

 

「ヴィータだ。 よろしくな」

 

「んでそこのポニーテールがシグナムや」

 

「よろしく頼む」

 

「改めて、私はリインフォース・アインスだ。 どうかリンスと呼んでくれ」

 

「リインは、リインフォース・ツヴァイですぅ。 よろしくね、ヴィヴィオちゃん!」

 

「うん!」

 

リインはヴィヴィオの両手を握手して上下に振った。 妹ができたようで嬉しいようだ。

 

「そんで、あそこで日向ぼっこしとんのがーー」

 

「わあ! ワンちゃんだぁ!」

 

はやてが言い終わる前にヴィヴィオがザフィーラに抱きついた。

 

「………狼だ」

 

「もふもふ〜」

 

「もふもふですぅ」

 

ザフィーラは抱きつかれるも抵抗せず、されるがままだ。

 

「んで、ここにおるんのがバカシャマルや」

 

「ふええん……! はやてちゃん、もう許して〜……」

 

そっぽを向きながらシャマルに指差すはやてに、シャマルは涙目ですがり寄った。

 

「そうだ、はやて、ちょっといいか?」

 

「? なんや?」

 

はやてを廊下に呼び、先ほどゲンヤさんと話した内容を話し、はやてにも協力を呼びかけた。

 

「ーーなるほどなぁ。 うん、ええよ。 私も気になっとるし、協力させてもらうで」

 

「ありがとう、はやて」

 

「ええってことや。 あ、そうや。 だったら後で一緒に来て欲しい場所があるんやけど、ええか?」

 

「別にいいけど……ヴィヴィオは置いて行くのか?」

 

「大丈夫や、少し歩いた場所にある大通りや。 用事もすぐ済むんよ」

 

俺もさすがに気になり、ヴィヴィオとアリシアに一言入れてから家を出て、少し離れた場所にある大通りに向かった。 通りは意外にも人が少なく、店舗は本屋ばかりだ。

 

「あ、ここやここ」

 

「ここって……」

 

はやてが指差したのは……そこそこの大きさのデパートだった。 ここでフェノールと統政庁に関する情報を得られるのか? 疑問に思いながらもはやてに腕を掴まれてデパート内に入り、はやては中に誰もいない事を確認するとエレベーターに乗った。

 

「何階に行くんだ?」

 

「それはなあ……下や」

 

「下? 今1階だぞ」

 

地下を示すB1の表示も無いが……また疑問に思うが、はやてはニヤリと笑うとボタンの前に行き、1階ボタンを3回、2階ボタンを2回慣れた手つきで素早く押した。 するとボタン下にあったパネルがせり出てきた。 パネルにはカードを読み込むための横向きのリーダーがあり、その下にココブックスと書かれていた。はやてはカードを取り出すと、そこにスライドさせて読み込ませた。 するとエレベーターが動き出し……下に向かった。 驚く暇もなく地下1階に到着し、扉が開くと……そこはかなりレトロな書店だった。 木の看板にはパネル同様にココブックスと書かれていて、一応開店中らしい。

 

「ここは……」

 

「ふっふっふー、知る人ぞ知る古本店や。 噂では無限書庫にも無い本がぎょうさんあるらしいでえ」

 

「それはすごいが……それが情報集めと何の関係が?」

 

「ここのおじいちゃんはかなりの情報通でなぁ。 よく私も頼っとるんや」

 

はやてと店の中を進むと、すぐにそのおじいちゃんがカウンターにいた。 ただしこちらに背を向けて膝の上にいる猫を撫でながらこれまたレトロなアナログテレビでニュースを見ていた。 店番する気あるのか? さっそく話を聞こうとするが……はやてはおじいちゃんをスルーして店の奥に入った。

 

「ちょっ、はやて?」

 

「ふふふーん♪ あ、コレがええなあ♪」

 

「……そっちが本命かよ」

 

はやてはご機嫌良さげで棚から古い本を一冊抜き取った。

 

「い、いややなぁ、そんな訳あらへんやろ。 おじいちゃん、これくださぁい!」

 

「20万」

 

「高っ⁉︎」

 

「えっと……………月末払いで」

 

財布と睨み合った後で、はやては渋るようにそう言った。 給料いいはずだが、おそらく何度も足を運んでいる度にこの値段並を払っているんだろう。 財布の紐がゆるゆるだな。

 

「そんでなあ、おじいちゃんに頼みたい事があるんやけど……」

 

「フェノールと統政庁のことじゃろ? お前さんはお得意さんだから集めて置いてやる」

 

「さっすがおじいちゃん! 話がわかるぅ!」

 

「なるほど、本を買うのが情報を得る手順だったのか」

 

「全然関係あらへんよ?」

 

「お前はお巫山戯を挟まないと前に進まないのか⁉︎」

 

「痛い痛い痛い‼︎」

 

はやての頭をグリグリし、おじいちゃんにお礼を言って店を出ようとした時……

 

「お若いの」

 

「はい?」

 

呼ばれて振り返ると、カードが飛んできた。 カードを掴んで見てみると……はやてが使ったのと同じカードだった。

 

「気が向いたら来るといい」

 

「ありがとうございます、本を買うのは考えておきます」

 

「またなぁ」

 

ゴタゴタしたが、とりあえず目的は達成された。 はやての家に戻り、ちょうど昼頃だったので少し雑談しながら昼食をいただいた。 その後、今度はベルカ領の聖王教会に向かった。

 

「ここがせいおーきょうかい?」

 

「そうだよ。 パパの生まれ故郷……になるのかな?」

 

「そうだな、ここで生まれたって聞いている」

 

ていうかどういう出生になるんだ? 地球、海鳴育ちのミッドチルダ人……いやベルカ人? ややこしいな。 その時、前方からシャッハが走って来た。

 

「陛下!」

 

「シャッハ、毎度毎度出迎えなくてもいいんだぞ?」

 

「そうはいきません。 陛下を出迎えなくては修道女として名折れです」

 

「あはは、相変わらずだね」

 

「まあいい、ウイントさん達と合わせてくれ。 教会から見たこの子の処遇を聞いてみたい」

 

ここに来た理由はそれが大きい。

 

「はい、お話は伺っています。 代理は屋敷でお待ちになっています」

 

「わかった。 それじゃあ行こうか」

 

「うん」

 

「はーい!」

 

少し離れた場所にある屋敷に入り、ウイントさん達がいる部屋の前に来ると、シャッハがノックをした。

 

「代理、陛下御一行がご到着しました」

 

『通してくれ』

 

「失礼します」

 

シャッハに扉を開けてもらい、部屋に入った。 正面にあるデスクにはウイントさんが、その手前にあるソファーにはカリムが座っていた。

 

「久しぶり、ウイントさん、カリム」

 

「はい、陛下も息災で何よりです」

 

「確か1年の時の学院祭以来かな? 前回の学院祭は行かなくて済まなかったね」

 

「いえ、お互いに忙しい身でしたし。 それで今回会いに来たのはこの子について何ですけど……」

 

ヴィヴィオの背を軽く押して、2人の前に出した。

 

「おはよーございます! ヴィヴィオです!」

 

「ヴィヴィオ、今はこんにちはだよ」

 

「そうなの? こんにちはー!」

 

「ふふ、明るい子ですね?」

 

ヴィヴィオの行動に、カリムもつい笑ってしまった。

 

「さて、こちらも自己紹介しなくてはね。 私はウイント・ゼーゲブレヒト。 レンヤとは叔父にあたる、どうぞよろしく」

 

「おじ?」

 

「あはは、さすがに難しかったかな?」

 

「それでは今度は私が、私はカリム・グラシア。 聖王教会の騎士を務めています」

 

「私はシャッハ・ヌエラ。 修道女を務めています。 以後お見知りおきを」

 

「はーい!」

 

3人が名乗った後、ヴィヴィオは元気よく手を挙げて返事をした。

 

「それでここに来た理由は聖王教会(こちら)がヴィヴィオに対する処遇だったね?」

 

「はい、この子には事実上俺の……聖王の血が流れています。 俺の時みたいにあらぬ騒動に巻き込まれないか心配なんです」

 

「フェノールの件もあるし、不確定要素は出来るだけ少ない方がいいからね。 変に噂されても面倒だし」

 

もしそうなったりしてヴィヴィオが傷付くなんて事になったら……本気でそいつを潰してしまいそうだ。

 

「……率直に言えば根も葉もない噂が絶えないと思う。 レンヤと一緒にいることやヴィヴィオの容姿……ゴシップとしては絶好のネタだしね」

 

「もちろんその時を考えて教会側も対応しますが……どうしても“姫”には辛い思いをさせてしまいます……」

 

「そうか……ん? ちょっと待て、姫って何だ?」

 

「陛下の娘であれば姫と呼んだ方がよろしいかと」

 

「今さっきの言葉否定してないか……!?」

 

守るどころか逆に攻めてんじゃん!

 

「いや、これはいいんだ。 レンヤの娘としておくことでヴィヴィオは聖王教会の庇護があると思わせる事が出来る。 それに……守ってやるんだろ?」

 

「はあ……あなたはいつもズルいですね?」

 

「はは、よく言われる。 さてと、次はどこに行くつもりだい? 時間が時間だし次で最後にしておいた方がいいよ」

 

「そうだねぇ……ユーノにも会わせたいし、本局に行こうよ」

 

「そうだな、クロノもいるかもしれないし。 それでは俺達はこれで失礼します」

 

「またねー」

 

「ヴィヴィオ、またいつでもおいでね」

 

「はーい!」

 

「お見送りします」

 

ヴィヴィオとウイントさんは手を振り、シャッハに見送られて聖王教会を後にした。 そのまま地上本部に向かい、少し異界対策課に顔を出した後本局に向かった。 転移する時の感覚てヴィヴィオがかなりはしゃいでいたが……そのまま無限書庫に向かった。

 

「わあ……! すごいすごい! パパ、アリシアママ、お本がいっぱいあるよ!」

 

「その名の通り無限にあるからね。 まだまだ増えているみたいだよ?」

 

「ほえ〜!」

 

ヴィヴィオは辺りをキョロキョロ見回しながら先に進み、無重力の区画に入り。 ヴィヴィオは重力がなくなる突然の変化に慌てふためいた。

 

「はわわ!? パパ!浮いてるよぉ……!?」

 

「ヴィヴィオー、落ち着いて。 何も怖くないよー」

 

「あはは、無限書庫はシャレにならないくらい大きいから、無重力の方が何かと都合がいいんだよ」

 

俺達も続いて無重力空間に入り、ヴィヴィオの手を掴み。 そのままユーノが調査している区画に向かった。

 

目的の区画に着くと、そこなは宙に浮いているユーノがいた。 ユーノの周りにはいくつもの本が浮いており。 本が独りでに開いてページがめくれ上り、閉じると書棚に入って行き、また別の本が出きていた。

 

「あ、ユーノ!」

 

「あれ? アリシアにレンヤ? どうしたの今日は?」

 

「ああ、この子を紹介しに来たんだ」

 

「こんにちはー、ヴィヴィオでーす!」

 

ヴィヴィオは元気よく挨拶をする。 だが手を勢いよくあげたせいでバランスを崩し、その場で回転してしまう。 それをアリシアは慌てて助けようとする。

 

「その子が例の……相変わらずトラブルに巻き込まれているみたいだね?」

 

「まあな、そっちはいつも通りか?」

 

「うん、特に変わった事はないよ。 終わる事のない調査とクロノの要求とか」

 

「……クロノの無茶振りも変わってないんだな」

 

「まあね」

 

諦めたのか、それとも慣れたのかは定かではないが、ユーノはそっぽを向きながら愛想笑いをする。

 

「あ、そうだ。 今ついでに思い出したんだが……ここにエレミア書記はあるか?」

 

「エレミア? それって黒のエレミア? おそらく未整理区画にあるとは思うけど……あそこは迷宮になっていて、本を守るために霊体やゴーレムが出たりするから。 そう簡単に進めないんだよね」

 

「…………やっぱりここ、異界認定していいか?」

 

「……言わないで」

 

ユーノは振り絞るように否定の言葉を言った。

 

「まあいいか、別に今すぐ必要なわけでもないし。 頭の隅にでもいいから覚えておいてくれ」

 

「うん、見つかったら連絡するよ。 そうだ、今ちょうどクロノが本局にいるから会って行けば?」

 

「そうなの? 久しぶりだなぁ、直接会うのって」

 

「おわったの?」

 

「ああ、そろそろ行こうか。 またなユーノ、こんど何か持ってくるよ」

 

「ありがとう、またねレンヤ、アリシア」

 

「まったね〜」

 

ユーノと別れ、今度はクロノに会いに本局の受付に向かった。

 

「済みませーん、クロノ・ハラオウンにお取り次ぎできますか?」

 

「はい、少々お待ちください」

 

「パパ、クロノさんって?」

 

「クロノはパパ達の上司みたいな人でな。 子どもの頃からお世話になっていて、今もかなりお世話になっている人だな」

 

「へえー」

 

「ーーお待たせしました。 ハラオウン提督がお会いになられるそうです。 それとお二人には必要ありませんが、そちらのお子様には身分を証明するパスを発行させていただきます」

 

ヴィヴィオの前に撮影用の空間ディスプレイが現れ、撮影音がするとディスプレイにヴィヴィオの顔が映った。 それからすぐにパスが発行され、それをヴィヴィオの首に下げた。

 

「提督は現在次元港におられます」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「ありがとうございまーす!」

 

お礼を言い、俺達は次元艦が停められてある次元港に向かった。 途中、通路にガラス張りの壁があり、ヴィヴィオは興味を持ったのかそこに近寄った。

 

「わあ……!」

 

ヴィヴィオは感激の声を上げておでこをガラスに張り付けた。 ガラスの先には次元空間が広がっており、巨大な次元艦が数隻あった。

 

「アリシアママ、あれなぁに?」

 

「あれは次元艦って言ってね。 次元空間を自由に行き来できる船なんだよ」

 

「ほえ〜……」

 

しばらくヴィヴィオはその光景を見た後、近くで次元艦を見たいと思ったのかいきなり駆け出した。

 

「こらヴィヴィオ! 先に行かないの!」

 

「パパ、アリシアママ! 早く早く! お船が行っちゃうよ!」

 

「急がなくても船は逃げないぞ」

 

ヴィヴィオを見失わないように追いかけ、次元港に到着すると、ちょうどクロノとマリエルがクラウディアの前にいた。

 

「クロノ! マリー!」

 

「あ! レンヤ君、アリシアちゃん!」

 

「ん? ああ、来たのか。 久しぶりだな、2人とも」

 

「ああ、今日はアポもなしに済まなかったな」

 

「気にするな、ここ最近は平和そのもので暇も同然だ」

 

「こっちは全然暇じゃないんだけどね……」

 

アリシアがあははと笑った後、ため息をした。 と、そこでマリエルがヴィヴィオに気付いた。

 

「あれ? この子は?」

 

「ああ、紹介するよ。 この子はヴィヴィオ、ほら」

 

「うん、ヴィヴィオです! よろしくお願いします!」

 

「あ、うん。 ご丁寧に、こちらこそよろしくお願いするね。 そっかー、2人の子どもかー…………え」

 

マリエルは不審な顔をして俺、アリシア、ヴィヴィオとその順番で何度も視線を動かし、ポンと肩を叩いた。

 

「……苦労したんだね」

 

「違います」

 

「あ、そうだね。 ごめん……フェイトちゃんだったんだね。 ごめんね、叔母さん」

 

「誰が叔母さんだぁ!!」

 

アリシアとマリエルの冗談をスルーした時、クロノの背後から短髪でリンディさんのような黄緑色の髪をしたヴィヴィオと同い年くらいの女の子がひょっこりと出て来た。

 

「なんだ、ユノじゃないか」

 

「やっほー、ユノちゃんですよー」

 

「こらユノ、待っていろと言っただろ」

 

「ぶう、お兄ちゃんのいけず」

 

クロノがユノの頭を乱暴に撫で、ユノは膨れっ面で頭に乗った手を押し返した。

 

「そうだ。 ユノ、ヴィヴィオの相手をしてくれない?」

 

「ヴィヴィオ?」

 

ユノは隣にいたヴィヴィオに視線を向け、目の前まで歩いた。

 

「あなたがヴィヴィオちゃん?」

 

「うん! ヴィヴィオだよ!」

 

「初めまして、私はユノ・ハラオウンなのです! ユノちゃんと呼んでください!」

 

「うん、ユノちゃん!」

 

2人は早くも意気投合し、他の船を見に行くと言って走って行き、それにアリシアが続いて行った。

 

「……よかった、同年代の友達がいないかったからちょっと心配してたんだ」

 

「それはこちらも同じだ。 地球に住む以上、友人を作って深く関わってしまわれる危険もあるから、おいそれと外にも出せなかったし。 エイミィは子ども達に付きっ切り……父さんも努力はしているが基本母さんだけだったからな。 ヴィヴィオが友達になってくれるならこちらも安心だ」

 

「お互い、心配してたわけか」

 

妹でも娘でも、小さければ思う事は同じってわけか。 あれ? 俺、ヴィヴィオのことを娘って思ってたのか? 血縁としては間違ってはいないが……いやそれならむしろクロノ同様に兄妹は……

 

「無理か」

 

「何がだ?」

 

「こっちの話だ」

 

「ーーパパ! こっちにすごいお船があったよ!」

 

「お兄ちゃんも行くのです!」

 

ヴィヴィオとユノは何かを見つけたのか、俺とクロノは手を引っ張られた。 俺達はそんな2人に苦笑いしか出来なかった。

 

 



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122話

 

5月24日ーー

 

自由行動引きから早3週間……このところ比較的落ち着いた日々が続いて、俺達はすっかりヴィヴィオとの生活に馴染み。 ヴィヴィオも第3学生寮に、延いてはルキュウの人々に馴染んでしまっていており、日常的な学生生活と管理局の業務の兼任した日々も復帰していた。 それとヴィヴィオも、俺達が基本学院や仕事がある事を理解しなようで、我儘も言わず留守番をしてくれるようになった。 ファリンさん達もいるので安心できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は朝から異界、怪異の事件が起きた為……学院を休んで異界対策課として今日1日活動していた。

 

「ふう、疲れたな……」

 

「ここ最近事件なんてほとんど無かったのにねえ」

 

「ボヤいても仕方ないわ。 さっさと報告書を書いて帰るわよ」

 

「ふふ、アリサちゃん、今すぐヴィヴィオに会いたいんでしょう?」

 

「そ、そんなこと無いわよ」

 

「はは……」

 

否定できない事に苦笑いし、そのまま対策課に入った。 確かラーグとソエルは休みのはずだったな。

 

「ただいまー」

 

「お帰りー!」

 

対策課には何故かヴィヴィオがいて、俺達に気付くと駆け出し。 走った勢いのまま飛び込んで来た。 後ろにファリンがいたから、彼女が、ヴィヴィオを連れて来たのだろう。

 

「おっと……ヴィヴィオ、こっちに来てたのか?」

 

「うん! ファリンさんに連れて来てもらったの!」

 

「ファリン」

 

「ヴィヴィオちゃんにお願いされて、連れて来ちゃいました」

 

「ファリン、グッジョブ」

 

アリシアはファリンに向けてサムズアップすると、ファリンも同様にそれに答えた。

 

「ソーマ達は?」

 

「まだ戻って来てはいませんよ」

 

「そう……」

 

グ〜〜……

 

その時、不意に誰かの腹の虫が鳴った。 するとヴィヴィオが両手でお腹をおさえた。

 

「パパ、おなかすいたー」

 

「と、そうだったな。 何か残ってたか?」

 

「そうだね……何にしようかな?」

 

「私、パスタがいい! レンヤがたまに作ってるし!」

 

「1人飯を作る時に、レゾナンスアークにどんな料理を作った方がいいって聞くと毎回パスタなだけだ」

 

そのせいでパスタ料理の腕だけは上がった行くのだ。

 

「最近はやてに教わっているけど、まだそれぐらいしか作れないんでしょ」

 

「うぐ……まあ、そうだけど……」

 

「でも、レンヤ君の手料理なんて初めてだね」

 

「私のは大盛りにしてよね」

 

「はいはい、分かってるよ」

 

「パパがゴハンを作るの? それじゃあヴィヴィオも手伝うー!」

 

話を聞いていたのか、ヴィヴィオが手を上げながらその場で跳ねながら手伝いを申し出た。

 

「え、ヴィヴィオちゃん、お手伝いしてくれるの?」

 

「うん! ヴィヴィオ、お手伝いしたい!」

 

「それじゃあせっかくだし、ヴィヴィオ、手伝ってくれるか?」

 

「やったー!」

 

「怪我させるんじゃないわよ」

 

「分かってるよ」

 

アリサに注意を受けつつも、ヴィヴィオと一緒に調理場に入った。 棚をあさり、パスタの入った袋を取りながら何のパスタにするか考えた。

 

「さてと……何のパスタにするかな。 卵とベーコンがあるし、カルボナーラでいいかな。 じゃあまずはーー」

 

「ねーねー、パパ。 ヴィヴィオは何を手伝えばいーの?」

 

「うーん、それじゃあ今から言う材料を持って来てくれるか? 俺はパスタを茹でる準備をしてるから」

 

「はーい」

 

材料を用意したら早速調理を開始し。 パスタを茹でている間、先にカルボナーラソースを用意し。 その後はパスタが茹で上がるのを待った。

 

「ねーねー、パパ。 まだできないのー?」

 

「もうちょっとだけ待ってな。 パスタは茹で加減が大事なんだ。 ちょうどいい茹で加減で引き上げて、フライパンでカルボナーラソースをたっぷり絡めてから胡椒を散らして出来上がり……大雑把に言えばそんな料理だ」

 

「へー……」

 

ちなみにソースには生クリームを加えることでとろみを出し、とろみ過ぎたなら茹で汁を使ってとろみを調整するのがポイントだ。

 

「じゃあそこからはヴィヴィオ、やってみたい!」

 

「え……」

 

ヴィヴィオは手を上げて料理をしてみたいと言った。 興味があるのはいいが……まあ、俺が見ていることだし。 上手く行かないとは思うから、その時はフォローすればいいか。

 

「ならお願いしようかな? 火には気をつけろよ」

 

「うん!」

 

火を止めて場所を譲り、ヴィヴィオはやる気満々で脚立でフライパンの前に立った。

 

「えっと……ちょうどいい茹で加減で引き上げて、フライパンで……………」

 

手順を思い出す様に口にした後、それ以降は忘れたのかフライパンを見つめながら沈黙してしまった。 やっぱり無理か……まあ、ヴィヴィオが作った物なら少しぐらい失敗しても皆喜んで……

 

「ーーあ」

 

と、その時。 何か閃いたと声を上げ、すぐヴィヴィオの手が動き出し、パスタを引き上げてフライパンで調理していった。

 

「…………!」

 

「うんっ、できたー!」

 

皿に盛り付け、胡椒をかけてカルボナーラが完成した。 初めてとは思えない手際の良さだ。

 

「凄いじゃないかヴィヴィオ。 手際が良かったけど、どうやって分かったんだ?」

 

「うーんと、なんかピカーンってきたの! 間違ってたー?」

 

「いや、間違ってないよ。 むしろ俺より良かったくらいだ。 料理本なんかでも読んだのか?」

 

「うん、この前ファリンさんに読んでもらったー」

 

「そうか……まあいい、お腹も空いたし早く食べようか?」

 

「はーい!」

 

人数分用意し、皆の元に運んで。 ヴィヴィオが作った事を説明すると、皆は驚いたが、味が気になるのか早速カルボナーラを口にした。

 

「おー、これかなり美味しいよ! これ、ホントにヴィヴィオが作ったの⁉︎」

 

「下ごしらえはまでは俺がやったけど……茹でてからの調理は全部、ヴィヴィオがやってくれたんだ」

 

「凄いよ、ヴィヴィオちゃん!」

 

「ええ……お店に出せるほどの味よ。 ヴィヴィオ、流石だわ」

 

「えへへ、ありがとうアリサママ」

 

だが、逆に腑に落ちない点もある。 幼いヴィヴィオがただ本を見たくらいで慣れた様に調理した……人造生命体特有の記憶保持によるものか……?

 

ピリリリリリリ♪

 

突然対策課の通信機に着信音が鳴り、深い思考から弾き出された。

 

「通信だ……誰からだろう?」

 

「メイフォンにじゃないって事は、他の部隊からか?」

 

対策課に来る通信の大半は他の管理局部隊からが多い。 席を立ち、受話器を取った。

 

「はい、こちら時空管理局、異界対策課です」

 

『あ、レンヤさんですか? えっと……ギンガです。 陸士108部隊のギンガ・ナカジマです」

 

通信の相手はギンガがだった。

 

「ああ、久しぶり。 1月ぶりくらいか? どうしたんだ? 対策課の方に用件でも?」

 

『ええ、実はその……個人的に対策課の皆さんに相談したい事がありまして……』

 

「個人的な相談……?」

 

そんなことなら他にいい相談相手がいると思うが……

 

『あ、個人的といっても仕事の範疇ではあるんやですけど……その、すみません。 いきなりこんな連絡をして……』

 

「なるほど……いや、ちょうど昼時で休憩していたから構わないさ。 通信じゃ分かりにくいし、よかったら直接話そうか?」

 

『ほ、本当ですか? 今ちょうど、中央区にいるんです。 これから伺ってもいいですか?』

 

「ああ、待っている。 そうだ、よかったらついでに昼食も食べていくか? パスタでよければ簡単に用意しておくが」

 

『い、いえ、そこまでは……』

 

グ〜〜……

 

ギンガは断ろうとしたが、腹の虫が代わりに肯定を言った。

 

『あはは……すみません……よかったらお願いします……』

 

恥ずかしかったのか、か細い声でお願いする。

 

「はは、了解。 それじゃあ待ってるよ」

 

『はい!』

 

通話を切り、また席に着いた。

 

「誰からの連絡だったのかしら?」

 

「ああ、ギンガだったよ。 どうやら俺達に相談があるらしいけど……」

 

「へえ。 珍しい事もあるんだね」

 

「なになに、だれか来るのー?」

 

「うん、前に会っていると思うけど……ギンガって言うお姉さんだよ」

 

「あ、うん! りくしぶたいのお姉さん!」

 

思い出したのか、ヴィヴィオは元気よく手を上げた。

 

「昼食がまだみたいだったから追加でパスタを茹でておきたいんだ。 ヴィヴィオ、また手伝ってくれるか?」

 

「うんっ!」

 

おそらくすぐにギンガは到着すると思うので、すぐに準備を始めた。 アリサ達は最初の文は冷めてしまう前に食してしまい。 追加して作ったのをお代わりとして希望した。 そして追加のパスタができる頃にギンガが到着し、少し相談事を聞きながらそのまま一緒に昼食を食べた。

 

「ふう、ご馳走様でした」

 

ギンガは満腹になり、汚れた口元を拭いた。 だが……その横に積み重なれた皿の数は多い。

 

「すごく美味しかったです! これ、本当にヴィヴィオちゃんが?」

 

「うん! したごしらえ……だっけ。 それはパパがやってくれたけど」

 

「ううん、それでも十分すごいよ! これはスバルにも食べさせて上げないと損するかも」

 

「そうだね、ここ最近忙しそうで会えなかったけどね」

 

「スバル? ねえねえ、ギンガお姉ちゃんってスバルお姉ちゃんのお姉さんなのー? お顔もそっくりだし、カミの色もおんなじだー」

 

「そ、そうかな? 私はあの子みたいに活発なタイプじゃないけど……」

 

そこでギンガはハッとなり、咳払いをして話を変えた。

 

「あっと……危うく本題を忘れる所でした。 その、さっそくお話をさせてもらってもいいですか?」

 

「ああ、構わない」

 

「確か、マインツ方面の山道の外れにある遺跡についてだったっけ?」

 

「はい、それが……その遺跡、どうやら幽霊が出るらしいんです」

 

「幽霊?」

 

古い遺跡だと、幽霊や怪談の話は常にセットで噂になるから、あんまりすぐ悲観するような事でもないような……

 

「……そうなんです。 正確に言えば、幽霊というか化け物というか……とにかく、グリードみたいなのが徘徊していたんです」

 

「前に陸士108部隊が調査に行ったけど、グリードがいたから撤退して。 イレギュラーの内容だったからすぐに対策課に報告しなかったわけね。 まったく、手に負えないのならさっさと頼りなさいよ」

 

アリサは若干イラつきながら深く背もたれに寄りかかる。

 

「ま、まあまあ。 それで、私達にそのグリードを討伐するために依頼しに来たのかな?」

 

「いえ、あくまで遺跡内部の調査が目的なんですけど……やっぱり駄目でしょうか?」

 

「駄目というわけじゃないが……その遺跡、もしかして星見の塔のような感じだったのか?」

 

「……さすがはレンヤさん。 はい、サーチアプリで探してもゲートの気配はなく。 星見の塔みたいに建物自体が異界のような雰囲気でした」

 

「なるほど……」

 

遺跡の調査は忙し過ぎて後回しにしがちだったからな。

 

「だが受けるにしても、今日も依頼は山ほど残っているし……」

 

「あ、でしたら今日一日、私も皆さんのお手伝いしますよ」

 

「え、いいの?」

 

「はい、もちろんそのくらい。 皆さんの依頼が済んだら山道外れにある遺跡に向かうって事でどうですか?」

 

「なら、お願いしようかしら?」

 

「ーー決まりだな。 ヴィヴィオ、午後からまた出かけるけど……ファリンさん達と一緒にちゃんとお留守番できるか?」

 

「うん、だいじょーぶだよ! パパ達もおしごとがんばってね!」

 

「すずかちゃんも、お仕事頑張ってくださいね」

 

「うん、ヴィヴィオの事をよろしくね」

 

俺達はヴィヴィオに見送られながら対策課を後にし。 駐車場に向かい、対策課の専用車の前で一旦行先を確認した。

 

「例の遺跡は山道にあるトンネル途中から分岐した先にあったな?」

 

「うん、そうだよ。 それじゃあ、ちゃっちゃと依頼を片付けて行こうー!」

 

俺達はギンガと共に車に乗り込み、依頼者の下まで車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の依頼を完了し、ギンガの依頼である遺跡の件でマインツ方面にあるトンネルの中、その遺跡に通じる分岐点で車を停めた。

 

「確かこっちが遺跡に通じている道だったな?」

 

「はい。 この先からは道が悪いので、徒歩で向かうとしましょう」

 

「それじゃあ、行くとしますかな」

 

分岐を通りトンネルを抜け、整理されてない山道と崩落気味の石橋を通り、遺跡……月の僧院の前に到着した。 正面扉の前の床には三日月のマークがあり、目の前の遺跡の名を表すようだった。

 

「やっと着いたか。 しっかし、やたらこの辺りかなり薄暗い感じがするな」

 

「何やら建物周囲にモヤがかかっているわね……」

 

「それで、ここにグリードがいるのかな?」

 

「はい、確証はありませんが、グリードみたいな化け物でした。 アリシアさん……何か感じますか?」

 

アリシアはすでに両目を閉じ、感じ取るのに集中していた。

 

「…………何か不思議な波動を感じるよ。 でも、何か変なんだよねぇー……。 星見の塔では感じなかったし」

 

「不思議な波動、ですか?」

 

「どうやら屋上に見える鐘楼からだね」

 

僧院を見上げ、建物奥にある高い場所に大きな鐘……おそらく星見の塔最上階にあった鐘と同種の物があった。

 

「あれね……」

 

「星見の塔と同じ鐘みたいだけど……何か関係があるのかな?」

 

「とりあえず、あの鐘楼を目的地として、月の僧院の探索をしましょう。 アリシアの言っている事を確認したいし」

 

「はい、その行動方針で行きましょう」

 

「それじゃあ、月の僧院の探索を開始しよう。 全員、気を抜かないように」

 

「了解」

 

探索を開始し、重い扉を開けて月の僧院に入った。 中はなぜか篝火があり。 古ぼけているが、古代ベルカ時代の造形だ。 そして礼拝堂に入った。 礼拝堂は聖王教会と基本配置は同じだが、石造りのイスがどうにもあっていない。

 

「礼拝堂か。 ずいぶんと趣味の悪い事で」

 

「聖王教会系列のものではないのは確かのようだね」

 

「えっと、鐘楼に続く道はーー」

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

その時、おそらく鐘楼にある鐘の音が聞こえてきた。

 

「こ、これは……」

 

「鐘の音……!」

 

「………! 来るよ!」

 

次の瞬間、目の前の空間が揺らぎ……炎で頭蓋を模したグリードが現れた。

 

「嘘……そんな気配なかったのに⁉︎」

 

「来るわよ!」

 

グリードは不気味に口を開閉しながら突進してきた。

 

「っ……せい!」

 

グリードの1体に刀を横薙ぎに振り。 口で受け止められたがそのまま斬った。

 

「やっ!」

 

最後にアリサがトドメをさした。 だが次の瞬間、グリードは爆発した。

 

「きゃあ⁉︎」

 

「くっ、自爆なんて……芸のないことを」

 

とっさに防御したが、少なからず厄介な相手だ。

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《ラバーバインド》

 

2丁拳銃から線で繋がられた2の弾が撃たれ。 残りのグリードに絡みついて拘束した。

 

「ギンガ!」

 

「はい!」

 

アリシアの声でギンガが拘束されたグリードの前に駆け寄り、その勢いのままグリード共を蹴り上げた。

 

「すずかさん!」

 

《ブリザードファン》

 

「てやぁ!」

 

蹴り上げられたグリードに向かってスノーホワイトを両手の中で高速で回転させ、吹雪を起こした。 吹雪はグリードに直撃すると……グリードは氷漬けになった。 だがそれでも自爆し、発生した爆風を防御魔法で防いだ。 爆風が止むと防御魔法を消して武器をしまい、爆風で着いた汚れを払った。 辺りの気配を探ると、どうやら他の場所にも同様にグリードが現れたようだ。 原因は、あの鐘楼か。

 

「アリシアちゃん、これって……」

 

「鐘が鳴り始めたらいきなりこの僧院が異界と同じ状態になったよ。 原因は間違いなく鐘楼だね」

 

「でも、なんで前触れもなく鐘が鳴ったんでしょう?」

 

「意図的に誰かが鳴らしたか、それともグリードの仕業か……行ってみるしかなさそうね」

 

「そうだな。 たが、これは骨が折れそうだな」

 

鐘楼に向かうための道を探すため、探索を再開した。 が、ここは現実世界であり、この建物は本来人が使用して意味を成す僧院である。 つまりは異界にはない部屋という概念がここにはある。 ハッキリ言えば……複雑で、同じ場所何度も行き来したりした。

 

「だあー! めんどくさい! 迷宮は基本一本道だけど、ここはめんどくさい!」

 

「それは同感だ。 どうやら鐘楼への道も隠してあるようだしな」

 

「それにグリードは大した実力じゃないけど、自爆や呪いが厄介ね。 接近戦は禁物よ」

 

「うう、私……さっきから役立たずです……」

 

この中で遠距離攻撃がないギンガは、先ほど戦闘に参加できていなく落ち込んでいた。

 

「まあまあ、ギンガちゃんの戦闘スタイルはシューティングアーツによる接近戦だし。 仕方ないことだよ」

 

最終的に僧院を隅々まで探索し、ギミックによって礼拝堂二階にあった隠しているようで隠してない隠し扉を発見した。 そこを通り、奥に進むとひときわ不気味な部屋にたどり着いた。 床には目玉のような紋様があり、部屋のあちこちに赤黒い染みがある。

 

「こ、これは……」

 

「なんというか……かなり怪しげな場所だね。 なんでこんな場所が礼拝堂の裏側にあるのかな?」

 

「そうだな……やっぱり聖王教会の遺跡にしては不気味すぎるし……」

 

「その床に描かれた紋様は一体なんなのかしら? 目……みたいな形をしているけど……」

 

こうして見ると、典型的な魔女や黒魔法なんてイメージが出て来る。 それに、微かに臭うこれは……

 

「………………」

 

「ん? どうしたんだ、すずか?」

 

「な、何か気付いた事でも?」

 

「………どうやらこの場所は何らかの儀式の場だったと思うよ。 それも生贄などを捧げるような禍々しいたぐいの……」

 

「い、生贄……⁉︎」

 

すずかは口に手を当てながら鼻を押さえた。 すずかは体質で血を好んでしまうからな。 この場所に留まるのは危険かもしれない。

 

「そういうことか……床の赤黒い染みの跡は血か」

 

「ゾッとしない話だね……」

 

「となると、聖王教会とは関係がない可能性があるわね。

 

この類の魔法なら、あの猫辺りが詳しいと思うが……無いものを強請っても仕方ないか。

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

その時、また前触れもなくこの先にあると思われる鐘楼の鐘が鳴った。

 

「ま、また……⁉︎」

 

「! 来るぞ!」

 

鐘の音に床の紋様が反応したのか、紋様が不気味な紫色に光だし……床から大型のグリードが出てきた。

 

「こいつは……!」

 

「悪魔型のグリムグリード、アークデーモン!」

 

「しかも、完全に物質化(マテリアライズ)している!」

 

「なんて霊圧なの……!」

 

「くっ……来るよ!」

 

アークデーモンは左右に手を広げて魔法陣を展開すると、2体のグリード……スードルードを召喚した。

 

「てやぁ!」

 

先制とばかりギンガが飛び出し、アークデーモンの腹に膝蹴りを入れた。 だが想像以上にタフなのか、怯みさえもせず。 腕を振り上げ、爪を立てながら振り下ろした。

 

「退きなさい!」

 

「あっ⁉︎」

 

アリサがギンガを押し、そのまま振り下ろした爪を受け止めた。

 

「くっ、なんて膂力……!」

 

「アリサ、そのまま堪えて!」

 

《ラバーバインド》

 

アークデーモンの身体中をバインドで拘束し、アリシアはバインドを後方に伸ばし……

 

「レンヤ!」

 

「とっ……はあ!」

 

回り込んでいた俺がバインドを掴み、全力で引っ張ってアリサ達から引き離した。

 

「す、すみませんアリサさん……!」

 

「いいから、早く態勢を立て直すわよ」

 

その時、2体質のスードルードが左右から接近し。 口から炎を放射してきた。

 

「っ!」

 

《アイスウォール》

 

すかさずすずかが槍を地面に突き刺し、アリサ達の足元から氷壁がせり出て炎を防いだ。

 

「この……!」

 

《モーメントステップ》

 

矢檜(やひのき)!」

 

魔力を螺旋回転させながら足から地面に向けて放出し、一瞬でスードルードに接近し。 捻りを加えた突きで口を貫いた。 続けてもう1体のスードルードも同様にして倒す。

 

「てい!」

 

残ったがんじがらめのアークデーモンに向かってアリシアが小太刀を振り下ろしたが……

 

ガキンッ!

 

「え⁉︎」

 

アークデーモンは爪でバインドを切り裂き、振り下ろされた小太刀をに爪で防いだ。 ラバーバインドは衝撃には強いが、斬撃には弱いからな。 それに……あの爪に紫色の水が滴っている。

 

「毒か……」

 

「っと……厄介だね。 手持ちの解毒薬でどうにかなるかな?」

 

「物質化している分、脅威度も高そうだね……」

 

「なら、遠距離で……!」

 

アリシアが接近しながら2丁拳銃でアークデーモンの身体中を撃ち抜き、アークデーモンの周りを駆けまわる。 俺達も続いて遠距離からアークデーモンを攻撃した。 しかし、痺れを切らしたアークデーモンが周りに氷の粒を出現させ、全方向に飛ばした。

 

「きゃあ⁉︎」

 

「慌てないで、落ち着いて対処すればいいから」

 

突然のことにギンガは慌てて回避し、残りはそれぞれの武器で弾きながら距離を取った。

 

「この……!」

 

「すずか⁉︎」

 

だがすずかだけは槍を振り回して氷を弾き落としながらアークデーモンに突っ込んだ。 その表情には余裕がなく、どこか焦っていた。

 

堅氷刃(けんひょうじん)‼︎」

 

アークデーモンの目の前で急停止し、その勢いを利用し。 さらに回転で加速した槍の刃でアークデーモンの胴に振り、アークデーモンの胴に大きなヒビをいれた。

 

「まだーー」

 

「すずか、避けろ!」

 

「え……」

 

追撃をかけようと槍を構えなおしたすずかだが……今入れたヒビが急速に回復していき、爪を立てて腕を振り上げていた。

 

「危ない!」

 

「きゃっ!」

 

爪が当たる直前にすずかに向かって飛び込み、抱き寄せながらアークデーモンの爪から庇った。 だが完全に避けきれず、腕を浅く切られた。

 

「うぐ……しっかりしろ! 慌て過ぎだぞ!」

 

「……………………」

 

「? すずか?」

 

返事がないすずかを見ると……すずかの顔に少量のーーおそらく自分の血が付着していた。

 

「しまった! すずか、しっかりしろ!」

 

肩を揺さぶり、正気に戻そうとするが……目の色が段々と赤に変わって行ってきた。

 

「すずーーぶっ‼︎」

 

「ーーあは」

 

やばい……頰をビンタされた痛みよりすずかの方に神経がいった。 昔、1度だけ似たような事があった。 その時は治るまで放置するしかなかったが……

 

「あははははは!」

 

すずかは奇声とも取れる笑い声を上げながらアークデーモンに一瞬で接近した。 振るわれる槍の技に冴えがあるが、その中は狂気も混ざっている。 休む間も無く振るわれる攻撃に、アークデーモンは反撃も出来ず、回復もできずに堪えるしかなかった。

 

「で、出たよ。 すずかの覚醒モードが……」

 

「あ、あの! すずかさんは大丈夫なんですか⁉︎」

 

「え、ええ……まあ、大丈夫と言えば大丈夫かしら?」

 

「とにかく止めないと……」

 

だがその間に、すずかがアークデーモンの左胸に槍を突き刺し……

 

「はあああああ‼︎」

 

刃先から氷の刃を飛び出たせ、アークデーモンを内側から貫いた。 物質化しているので飛び出でる時の音がかなり生々しい。 そしてアークデーモンは消滅したが……すずかは依然として覚醒モードで、しかもなぜか恍惚とした表情で余韻に浸っていた。

 

「……エロ……」

 

「レンヤ、どうにかして来なさいよ」

 

「え、俺⁉︎」

 

「あんた以外誰がいるのよ!」

 

「あうち……」

 

アリサに思っきり叩かれながら押され、すずかの目の前に来たわけだが……どうしよう? とにかく落ち着かせればいいのか? とりあえずヴィヴィオを宥める時のように頭を撫でてみた。

 

「ふあ……」

 

多少反応があったが、まだ収まらない。 こうなったら……

 

「ふにゃあああ……!」

 

すずかを抱きしめ、その状態で頭を撫でた。 ヴィヴィオを泣き止ませる時に使った最終手段、これで。

 

「レ、レレ、レンヤ君‼︎ もう大丈夫だから///」

 

「お、良かった。 正気に戻ったか」

 

軽く突き飛ばされるようにすずかから離れ、目を見るといつもの青い瞳に戻っていた。

 

「大丈夫、すずか?」

 

「う、うん。 ごめんね、迷惑かけちゃって……」

 

「気にするな、こうして無事だったんだし」

 

「というか、一体どうなっているんだろう、この遺跡は……?」

 

改めて辺りを見渡し……正面を見ると、上に続く階段があった。

 

「……位置的にあの上が鐘楼になるはずだ。 とにかく調べてみよう」

 

「はい……!」

 

階段を登り、月の僧院屋上にある鐘楼にたどり着いた。 辺りにはモヤらしきものがかかっていて、鐘は大きく揺れて鳴るというより、小刻みに振動して低い音を出していた。

 

「この音は……」

 

「鐘が共鳴している……?」

 

「……ひょっとしたら……この共鳴音が異界の場を作っていた原因なのかもしれないよ」

 

アリシアが辺りを見渡しながらそう答えた。

 

「この鐘を中心に異界化を起こしているみたい。 だからこの共鳴を止める事が出来れば……」

 

「この自体を収束できるってわけね」

 

「どうする、ギンガ? 鐘の共鳴を止めるか?」

 

調査を依頼したのはギンガなので、共鳴を止める判断はギンガに任せた。

 

「……はい、お願いします。 レンヤさんも手伝ってくれませんか?」

 

「ああ、もちろん」

 

「私もやる、同時に鐘を押さえてみよう」

 

俺、アリシア、ギンガは鐘の前に立ち。 物理的に鐘を押さえて共鳴を止めようとした。 これで止まるかどうかは不明だが、とにかく踏ん張りながら鐘を押さえ続けていくと……

 

「モヤが消えた……」

 

「おお……! 青空が眩しいねえ」

 

「どうやら異界化も治ったみたいだね。 僧院内のグリードも消えているはずだよ」

 

「ああ、中に戻って確認してみよう」

 

「はい!」

 

僧院内に戻り、礼拝堂の一階に降りた。 礼拝堂は先ほどのような異界の気配はなく、薄暗く静かな礼拝堂だった。

 

「異界化の気配はなし。 どうやら完全に収束してみたいだね」

 

「そうか……しかし、一体どういうことだ? 鐘の共鳴が原因だとは思うが……」

 

「そこまては私にもさっぱり。 だけど、あの鐘は今後ともに調査は必要だね」

 

「ロストロギアの線もありえるわね。 放置されていたのは単に使い方が分からなかっただけでしょう」

 

「まあ、ソフィーさんに聞けばなにか分かるかもしれないね」

 

この場では話し合っても、意見はまとまらないか。

 

「ーーいずれにしても、この遺跡についての手がかりは十分過ぎるほど掴めましたと思います。 これ以上は報告書をまとめて聖王教会に調査を依頼した方がいいかもしれません」

 

「そうだな……その辺りは聖王教会の方が詳しい」

 

「その時は私も呼んでね、詳しく知りたいから」

 

「それじゃあ、遺跡の調査はこれで切り上げるのかしら?」

 

「はい……」

 

ギンガは管理局員として、終了を宣言するのかビシッと敬礼をした。

 

「ーー皆さん。 ご協力、ありがとうございました! これにて遺跡調査の任務を完了したいと思います!」

 

こうして月の僧院の調査が完了し、俺達は早足で月の僧院から出て行った。

 

 

 



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123話

 

 

僧院から出て、解放された空気を感じながら来た道を戻り、トンネル内の車を止めた場所まで戻ってきた。

 

「これからどうしますか? まだ時間に余裕もありますし、皆さんのお手伝いもしますよ?」

 

「うーん、それはありがとうけど。 どうしようかな……」

 

「まあ、いいんじゃないかしら」

 

ピリリリリ♪

 

また唐突にメイフォンに通信が入った。

 

「おっと……通信か」

 

「あはは、変なタイミングで掛かってくるもんだね」

 

確かにそうだな。 たまに空気読まないで来る時もあるが……とにかくそれは置いといて通信に出た。

 

「はい、こちら異界対策課の神崎です」

 

『あ、レンヤさん、サーシャです。 えっと、今どちらにいらっしゃいますか?』

 

「ああ、マインツ山道の途中にあるトンネルだ。 実はギンガと一緒に遺跡の調査をしていた所だ」

 

『はい、それはメールで聞いていました。 調査の方は無事に終わりましたか?』

 

「ああ、一応はな。 それでどうした? 何か問題が起きたのか?」

 

『いえ、実はレンヤさん達に問い合わせの連絡がありまして』

 

依頼の要請ならともかく、問い合わせは珍しいな。

 

「問い合わせ……市民からか?」

 

『はい、マインツの町長からです。 何でもレンヤさん達に相談したいことがあるそうです』

 

「へえ……珍しいこともあるんだな。 どういう内容か聞いているか?」

 

『えっと、何でも鉱山町の人で、クラナガンに行ったまま何日も帰っていない人がいるらしいです。 その相談ということみたいです』

 

「なるほど……ちょっと気になるな」

 

失踪、あるいは何らかの事件に巻き込まれている可能性があるな。

 

「分かった。 ちょうどマインツにすぐそばにいるし、このまま訪ねてみる」

 

『了解しました。 それでは先方にはそのように連絡をしておきます』

 

話は決まり、通信を切った。

 

「誰からでしたか?」

 

「ああ、サーシャからだ。 対策課の仕事についての連絡だった」

 

「それで、どんな話だったの?」

 

俺はサーシャからの連絡内容をかいつまんで説明した。

 

「なるほど……マインツのビクセン町長の依頼ね」

 

「街を出たまま何日も帰って来ない人か……」

 

「すぐ近くだし、こちらから出向いて話を聞いた方が早いね」

 

「ああ、そのつもりだ。 それじゃあ早速マインツに向かうか。 ギンガ、手伝ってくれるか?」

 

「はい! もちろんです!」

 

そうと決まれば車に乗り込み、マインツに向けて走り出した。 近くということもあり、あっという間にマインツに到着し、停留所に車を停めた。

 

「んー、いつ来ても空気の美味しさの良し悪しが分かりにくい場所だね〜」

 

「ア、アリシアちゃん……」

 

「早速、町長に詳しい話を聞きに行こう」

 

「はい」

 

「町長宅は真っ直ぐ進んで突き当たりにある家だったわね」

 

日も暮れかけている事だし、早速町長宅に向かった。 町長宅前まで来て、ノックしてから町長宅に入った。

 

「ーー失礼します。 異界対策課の者ですが」

 

「おお、待っていたよ」

 

家の中にはビクセンさんとアンナさんがいた。

 

「わざわざ来てくれてすまない。 本当ならこちらから出向こうと思ったんたが……」

 

「いえ、近くで他の仕事があったついでですから。 それで……早速お話を伺ってもいいですか?」

 

「ああ、座ってくれたまえ」

 

「すぐにお茶を淹れますね」

 

テーブルに座り、ビクセンさんから詳しい話を聞いた。

 

「ーーなるほど。 では、そのクイラさんという鉱員が2週間前にクラナガン行ったっきり帰って来ないと……?」

 

「ああ、そうなんだ……とにかく大のギャンブル好きでね。 それまでにも週末のたびにクラナガンの歓楽街にあるカジノに遊びに行っていたようだが……」

 

「それが何の連絡もなく、2週間も帰って来てなくて……何かあったんじゃないかと、皆で心配しているんですよ」

 

「確かに……それは心配ですね」

 

「何かの事件に巻き込まれたのか、それとも帰れない事情があるのか……」

 

「うーん、帰り道で野獣に襲われたとかじゃなければいいんですけど」

 

「あ、もしかしてその鉱員がギャンブルで大勝ちした可能性はあるんじゃないかな? それで今頃はどっかでフィーバーしてたりとか」

 

アリシアがまるで自分におきたら楽しそうな雰囲気で言った。 さすがにビクセンさんも含めて苦笑いした。

 

「……あんまり軽率な事を言うな」

 

「でも、可能性としてはあり得るかもしれないよ」

 

「う、うーん……残念ながらその可能性は無いと思うんだがねぇ……」

 

アリシアの予想を否定するように、ビクセンさんが苦笑いをした。

 

「と、言うと?」

 

「ギャンブル好きだけど、根は真面目な人なのかしら?」

 

「ハハ、お世辞にも真面目とは言いがたいが……ギャンブルについてはとにかく下手の横好きでね。 おまけにツキもカンも無いから、毎回有り金のほとんどをスって帰ってくるくらいなんだ」

 

「な、なるほど……」

 

負け続けているのにカジノに通う精神はほんの少しだけ……いや、やっぱりないな。

 

「確かに宝クジなら大穴もあるけど、ギャンブルだと実力もないと大儲け難しいかもね」

 

「じゃ、じゃあ、もしかして借金をして、それが原因で失踪とか……」

 

「そうね……可能性としてはあり得るわ」

 

「……実は私達の方もそのあたりを疑っていてね。 もしそうだった場合、どう連絡を取ればいいのか……」

 

なんだか一気に犯罪関連の線は消えたような気もするが……町長はもちろんの事、鉱員の人達も心配しているそうだし。 少し考えた後、答えを出した。

 

「ーー分かりました。 この件はお任せください。 とりあえず、カジノを始め、クイラさんの寄りそうな場所を聞き込みをしてみます」

 

「ありがたい……どうか宜しくお願いする。 何か分かったら私の家に通信で連絡してもらえるかね?」

 

「はい、それでは番号を控えさせてもらえば……」

 

こうして話はまとまり、番号を教えてもらい、町長家から出た。 外はすでに日が沈んでいて、もう夕方だった。

 

「もうこんな時間か……そろそろ首都に戻った方がよさそうだな」

 

「今日中に聞き込みくらいはしておきたいところだし。 ギンガもそろそろ送った方がいいわね」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。 バスも来るころですし、皆さんも町長さんに頼まれた依頼もあるでしょうし……」

 

「陸士108部隊の隊舎は帰り道の途中だよ、遠慮せず乗って行きなって」

 

「ここまで来たのなら、最後まで乗って行ってね」

 

「……はい。 では、お言葉に甘えて」

 

ここで遠慮しても意味はないし、さっさと車に乗り込み。 30分くらいで陸士108隊舎前に到着した。

 

「今日は本当に、ありがとうございました! このお礼は近いうちに必ず返させていただきます!」

 

「はは、大げさだなぁ」

 

「ま、なかなか興味深い体験だったよ」

 

「あの遺跡ーー僧院についてだけど……一応、聖王教会に相談してみた方がいいかもしれないわね」

 

「……そうだね。 私達より詳しくのは確かだし」

 

「なるほど……分かりました、お父……コホン、隊長と相談して、そのあたりの対応は考えてみます。 皆さんの方は……これから街で聞き込みですか?」

 

「ああ、少なくともカジノには訪ねてみるつもりだ。 もし、そっちでそれらしい情報があったら連絡してくれないか?」

 

「分かりました。 鉱山町のクイラさんですね。 それでは失礼します。 皆さん、お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様、ゲンヤさんによろしくね」

 

ギンガは敬礼してお礼を言い、隊舎の中に入って行った。

 

「さてと……それじゃあ時間もない事だし、このまま歓楽街のカジノに行ってみるか」

 

「了解〜、それじゃあレッツゴー!」

 

車に乗って、クラナガン東側にある歓楽街に向かった。 歓楽街はいたるところがネオンの光で照らされていて、日の光が小さくなって来ているからより光が強く見える。 カジノの前に到着し、怪しまれたのか警備員に止められたが、管理局員として身分を証明してカジノに入った。

 

「ほうほーう、盛り上ってるねー。 それじゃあ、楽しみながら鉱員の情報を集めよー!」

 

「いや、駄目だから」

 

「潜入捜査でもないのに、遊ぶ必要は無いような……」

 

「とにかく従業員の人や客に聞いてみましょう。 クイラさんの消息について何か掴めるかもしれないわ」

 

「はーい」

 

やや不服そうにアリシアが返事をし、ゲームセンターとは違う騒音を聞きながら……まずはここのオーナーに話を聞くことにした。 オーナーを探すと、バーカウンターにそれらしき老人がいた。

 

「おや、ここは未成年が来るような場所ではないですよ」

 

「いえ、俺達は管理局員で、ある事件の捜査をしている最中です。 それで、少しお話を聞きたいのですが……」

 

行方不明になっているクイラさんについて訊ねてみた。

 

「行方不明? ハハ、そんな馬鹿な。 今日だってウチに遊びに来て、荒稼ぎして行かれましたが……」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「しかも荒稼ぎって……」

 

「あの、人違いじゃないよね? 私達が捜しているのはマインツの鉱員をやっているツキもカンもない人だよ?」

 

ビクセンさんの話と食い違いもあり、アリシアは念のため確認してみた。

 

「ああ、勿論その方のことさ。 2週間前になるか……久々に顔を見せたかと思ったら別人のように強くなっててな。 おかげでウチのディーラーは負け続き。 50万くらいは持っていかれてるよ」

 

「ご、50万⁉︎」

 

「それはかなりの大金ですね……」

 

「えっと、なんかイカサマをやっているとかそんなんじゃないよね?」

 

「私達もプロだ。 イカサマがあれば気付くさ。 とにかく異常にカンが冴えてる上にあり得ないほどのツキの良さでな。 一体、彼に何があったのかこちらも知りたいくらいなんだ」

 

「町長から聞いた話と随分違っているみたいだけど……」

 

もちろんビクセンさんが嘘を言っているわけではないはずだ。 だけどもオーナーが嘘を言っているわけでもない、2週間前というのも合致はする。 となると本当にクイラさん本人が……

 

「あの、オーナー。 クイラさんは鉱山町にはずっと帰っていないそうですが……どこに滞在しているかご存知ですか?」

 

「ああ、それなら……すぐ近くにあるホテルに毎日泊まっておられますよ。 それも確か、最上階にあるスイートルームだった筈です」

 

この近くのホテルはどれも高級だ。 これはかなり豪遊していそうだな。

 

「あの高級ホテルのスイートルームですか……」

 

「うわー、太っ腹ー」

 

「でも、意外とすぐに消息が判明したね」

 

「ええ……早速、訪ねてみましょう」

 

オーナーにお礼を言い、カジノを出ると外はすっかり日も沈んでしまって夜になっていた。

 

「もう日も暮れたか……とにかくクイラさんと1度話をしてみないとな」

 

「ええ、向こうにあるホテルに行ってみましょう。 スイートルームは確か一部屋だけだった筈、すぐにわかるわ」

 

「カジノで大勝ちして優雅にホテル暮らしね……羨ましい」

 

「アリシアちゃん。 そういう問題じゃないと思うよ……」

 

とにかくこのカジノから1番近くにあるホテルに向かい、カウンターで話を聞いてみると……オーナーが言っていた通り。 2週間前からここに滞在しているようだ。 よくルームサービスをしているらしく、覚えられていたようだ。 そして最上階にあるスイートルームまで上り、1つだけあった部屋の扉をノックしてから入った。 部屋に入いると、正面にあった高級そうなソファーにズッシリと座っている酔っ払った男がいた。 その男の左右にはホステスらしき女性が2人いる。

 

「あら、あなた達は?」

 

「ここは子どもがくるところじゃないわよ」

 

「え、ええと、少々事情がありまして……」

 

すずかは少し慌てているのか、返答が曖昧になる。

 

「ああん、なんだオメーらは……?」

 

「ーー失礼します。 時空管理局、異界対策課の者です。 マインツのクイラさんですよね?」

 

「ヒック、そうだが……オメーら、どこかで見たことがあるような……?」

 

「あ、この人。 フェノールのグリード騒ぎの時に襲われそうになっていた鉱員の1人じゃない……?」

 

あ、そういえばいたな。 あれから結構経っていたから忘れていた。

 

「ああ、レンヤとすずかが1年の時に行った特別実習の時ね」

 

「ハ、そんな事もありやがったな。 思い出したぜ……確かに管理局のガキどもだったな。 このオレ様に何の用だよ、ヒック?」

 

あの時しか面識はないが、ここまで偉そうな人ではなかったと思う。 性格が変わっている……? 勝ち続けているのに関係があるのか?

 

「実はマインツの町長に頼まれて、あなたの行方を捜していたんです」

 

「町長がオレのことを……? ヒック……いったい何の用だってんだ?」

 

「あなた、ここに来たまま2週間も連絡を取っていないんでしょ? 失踪したんじゃないかって心配されていたよ?」

 

「それで私達が捜索を引き受けたのよ」

 

「ヒック、なるほどなぁ。 よかったじゃねーか。 ちゃんと見つかってよう。 クク、と言っても、もうオレはマインツなんざ帰るつもりはねぇんだが……」

 

まるで他人事のような感じでクイラさんは話す。 しかも帰らないとは……理由はわかりやすいけど。

 

「それは、一体どうして?」

 

「ガハハ、決まってんだろ⁉︎ オレは手に入れたんだ! 天才的なギャンブルの腕をな! 腕やカンだけじゃねえ! 女神の幸運もオレ様のもんだ! 誰があんな田舎町に戻って、セコイ穴掘りなんぞやるかっての!」

 

「あなた……!」

 

「これは……」

 

「その、いいんですか? 皆心配しているのですから、せめて町長にくらい連絡を……」

 

「るせえ! オレに指図すんじゃねえ!」

 

まるで聞く耳を持たず、クイラさんは大声で怒鳴った。 本当に人が変わっかのような変貌っぷりだな。 結局これ以上は無駄だと思い、部屋を出た。

 

「……駄目だね、あれは。 完璧に舞い上がっているよ」

 

「ああ……」

 

「残念だけど、町長にはありのままの状況を伝えるしかなさそうね。 私達が説得するのも筋違いでしょうし……」

 

「そうだね……本人の意思もあるし」

 

とはいえ、やはりどうにも腑に落ちない事がある。

 

「……レンヤ? 何か気になることでもあるの?」

 

「いや……ちょっとな。 元々ツキもカンもない、下手の横好きでしかなかった週末ギャンブラー……どうしていきなり勝ち続けるこたが出来るようになったのかと思ってさ」

 

「それは……」

 

「うーん、そうだねー。 ていうか、是非ともコツを教えてもらいたいくらいだよ」

 

「あれ? アリシアちゃんも賭け事はそこそこ強くなかったっけ?」

 

アリシアは暇があればトランプで賭け事をしていた。 とくに同類のクーとは気も合い、よくモコ教官に叱られていたりする。

 

「調子がいい時はね。 だけど、2週間連続で勝ち続けて、50万稼ぐなんてのは無理だよ。 ま、クーさんみたいな凄腕ならあり得ると思うけど」

 

「否定できないのが悔しいわね……」

 

と、そこで先ほどの部屋の扉が開き。 中にいたホステスの2人が出て来た。 ちょうどよかったのでクイラさんについて事情を聞いてみた。 どうやらあの態度は酒が入っている訳ではなく。 最初の頃は比較的穏やかだったが、だんだんと横暴になっていったそうだ。 それとギャンブルの腕もクイラさんの言う通り本当に天才的なもので、超能力者を使っているのではないかと思うくらいだそうだ。 それで話は終わり、お礼を言い、ホステスは階下に降りて行った。

 

「……とりあえず、町長に連絡を入れた方がいいんじゃないかしら?」

 

「ああ、そうだな……」

 

この事を素直に話すと思うと、あんまり気乗りしないが。 俺は教えてもらっていたビクセンさん宅の番号をコールした。 それから少し待ってから通話に出た。

 

『もしもし、こちらビクセンだが……』

 

「夜分にすみません。 異界対策課の神崎 蓮也です」

 

『おお、君か。 ひょっとして何か情報でもあったのかね?』

 

「いえ、それが……」

 

ビクセンさんに、一通りの事情を説明した。

 

『なんと……そんな事になっていたのか。 まさかあのクイラがギャンブルで大勝ちをして高級ホテルに泊まっているとは……』

 

いつものクイラさんを知っている分、驚きはすごかったようだ。

 

「さすがに連れ戻す説得までは出来ませんでしたが……一応、報告だけでもと思いまして」

 

『いやいや、それだけでも十分だ。 そういう事であれば、明日にでも私が街に出て彼と直接話してみるつもりだ。 ありがとう、本当に助かったよ』

 

「いえ、気にしないでください。 また何かありましたら遠慮なく連絡してきてください。 出来る限りのお手伝いをさせてもらいますから」

 

『ありがとう……その時はよろしく頼むよ』

 

話はまとまり、通信を切った。

 

「……町長はなんて?」

 

「さすがに驚いたみたいだ。 明日、クラナガンに来て直接話してみるそうだ」

 

「身内で話すのが一番いいかもしれないね」

 

「ふう、今日だけでも色々あって疲れたよ……」

 

「まあ、すずかはあんな事になったしね」

 

「ア、アリシアちゃん! それは言わないで!///」

 

記憶はあったのか、両手をワタワタと振って否定した。

 

「ふふ、そろそろ対策課に行きましょう。 ヴィヴィオも待っている事だし」

 

「コホン、そうだね。 ヴィヴィオの笑顔を見れば疲れも吹き飛びそうな気もするよ」

 

「はは、大げさだなあ。 ま、気持ちは分かるけど」

 

「あはは、皆親バカだねえ。 それじゃあ、ヴィヴィオの笑顔を見に早く帰ろー!」

 

対策課の戻るのは報告書をまとめる事であってヴィヴィオに会いに行く事ではないのだが……あんまり強く否定できない。

 

「ふう、ただいま」

 

「あ、かえってきた!」

 

入り口のすぐそばにあるソファーで本を読んでいたヴィヴィオは俺達が帰ってきたのに気付くと、俺に向かって元気よくお帰りと言いながら体当たりしてきた。

 

「はは、ヴィヴィオはいつでも元気だな」

 

「うんっ! ヴィヴィオげんきだよー!」

 

「お帰りなさい、皆さん今日は遅かったですね」

 

ファリンが箒を壁に掛け、俺達の荷物を持ってくれた。

 

「ま、そこそこ忙しかったわね」

 

「いつも通り、と言えばそうなんだけど」

 

この程度で疲れていては、身はとうの昔に朽ちているからな。 と、そこでヴィヴィオは俺とすずかの交互に見た。

 

「ヴィヴィオ?」

 

「パパとすずかママ、疲れたお顔しているけどだいじょーぶ?」

 

子どもだからなのか、それともヴィヴィオだからなのか、どちらにせよ疲労はごまかせなかったか。

 

「……うん、大丈夫だよ。 ヴィヴィオの顔を見たら元気になっちゃったよ」

 

「んー……」

 

すずかは気丈に振る舞おうとするが……何を思ったのか、ヴィヴィオは俺とすずかとまとめて抱きついてきた。

 

「お、おい……」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……⁉︎」

 

「ヴィヴィオはげんきだから、パパとすずかママにおすそ分けする! ん〜、すりすり」

 

「あ……」

 

ヴィヴィオなりの慰め方なんだろう。 効果はかなり高い気もする。

 

「はは、そうか」

 

「確かによく効きそうだね」

 

「ふふっ、何よりの特効薬かもしれないわね」

 

「ありがとう、ヴィヴィオ……元気が湧いてきたよ」

 

「心配かけたな、ヴィヴィオ」

 

「うん!」

 

子どもに心配されるなんて……まだまだ親として未熟だな。

 

「そういえば……ソーマ達はまだ帰ってないのか?」

 

「ソーマ達ならあっちの部屋でおしごとしているよー」

 

「なら私達も早く終わらせましょう。 早く帰らないとなのは達がヴィヴィオを独占したって言ってうるさいわ」

 

「りょうかーい。 レンヤはレジアス中将に報告?」

 

「ああ、ちょっと行ってくるから。 先にまとめておいてくれ」

 

「うん、わかったよ。 レジアス中将によらしく言っておいてね」

 

「ああ……」

 

対策課を出て、エレベーターで上に登った。 しかし、ヴィヴィオに心配……気付かれるほど疲れが出ていたのか? とはいえ……

 

「くっ……!」

 

右腕を押さえ、壁に寄りかかる。 やはりすずかを庇った時にアークデーモンの爪を掠めたのがいけなかったらしい、少量でも毒が入ったってしまった。 解毒薬を飲み、少しだけ苦痛が和らぐ。 ヴィヴィオに見透かされてしまったな……

 

「上手く……行かないもんだな……」

 

《マジェスティー、大丈夫ですか?》

 

「何とかな。 さてと……」

 

目的の階に到着し、扉が開くと……

 

「なーにが大丈夫なの。 汗だくじゃん」

 

目の前にアリシアが腕を組んで立っていた。

 

「ア、アリシア……⁉︎」

 

「レンヤが爪で怪我した時点で、私達が気付かないと思った?」

 

「……アリサとすずかも気付いていたか」

 

「すずかは自分のせいだって罪悪感があるけどね。 ほら傷口見せて」

 

腕の治療を受け、そのままレジアス中将に報告し。 なのは達も……特にヴィヴィオを待っていることで、なるべく急いでルキュウに帰った。 車を運転したのはアリサだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ中央区、港湾地区の一角にあるヘインダール教導傭兵団の拠点ーー

 

「ーーフェノールの裏ルートが復活している?」

 

その一室に団長であるカリブラと、副団長のユラギがいた。 ユラギからに報告に、カリブラは疑問の声を出す。

 

「はい。 ここ1週間で、私達が抑えた3つのルートが立て直されました。 こちらも妨害しよとしたところ、思っていた以上にに抵抗が激しく……」

 

「ふうん……妙だな。 この状況で、失ったルートをわざわざ取り戻すだての余力が奴らにあるとは思えないさあ。 あっちにいる第一が重い腰を上げて動いたのかさ?」

 

「いえ……それが。 第一のゼアドールの姿はどこにもなく、配下の構成員だけだったそうです。 それとグリードは連れていなく、数名程度の少人数だったようです」

 

その報告に、カリブラはさらに顔をしかめた。

 

「ますます奇妙さあ。 奴らの雑兵なんて、俺っち達の構成員の方がダントツで上さ。 例の重機関銃でも出てきたのかさ?」

 

「確かにその武装も確認されています。 ですが……それ以外に、戦闘能力そのものが大幅に向上しているとの報告があります」

 

「なるほどねぇ……」

 

カリブラはここ最近のフェノールの動向を思い出した。

 

「今、カクラフは議長閣下のお怒りを静めようと躍起になっているそうさあ。 どこぞの組織を新しく雇った形跡もないし、大規模な戦闘訓練も報告されていない……くく、なかなか面白くなってきたさあ」

 

「……私達の知らない手札を持っていたのでしょうか?」

 

「ああ、間違いないだろう。 しかも俺っちの見立てでは……かなりの切り札ではなさそうさあ。 それこそフォーレスの旦那のような、状況をひっくり返すほどのジョーカーかもしれないさあ」

 

「彼らは、一体どんな手を……」

 

カリブラの予想に、ユラギは困惑する。 その時……突如銃声音が鳴り響いてきた。

 

「これは……!」

 

「噂をすればなんとやら、さあ」

 

「ーーた、大変です! フェノールと思われる黒ずくめの一団による襲撃です! その数、およそ10! 第一の姿は見えません!」

 

構成員がノックもせず慌てて部屋に入り、銃声の原因を報告した。

 

「落ち着きなさい! その程度の少人数、ヘインダールなら返り討ちできます! 管理局は放っておきなさい! 正当防衛で何とかなります!」

 

「そ、それが……襲撃者の戦闘力は尋常ではなく、重機関銃型のデバイスを片手で軽々と振り回して……」

 

「ーー1階が突破されました! こちらに迫ってくるのは時間の問題かと思われます!」

 

次に慌てて入って来た構成員が、先ほどの報告を裏付けた。

 

「くっ……こんな時に、フォーレスさんはどこをほっつき歩いているのですか!」

 

「……くく、やれやれ。 久々に暴れるとしますか」

 

「! 団長、まさかーー」

 

カリブラはユラギに送る返答は、懐から取り出されたデバイスを復元して答えた。

 

「ーー出るぞ、ユラギ。 この程度で旦那に頼ってちゃあヘインダールの……延いては団長としての俺っちの名折れさ……ヘインダール教導傭兵団の力、骨身に知らしめてやるさ」

 

体から発せられる勁は、鋭い唸りを生み。 カリブラは歩いて部屋から出た。

 



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124話

 

 

翌日、5月25日ーー

 

「驚いたな……この目玉焼き、本当にヴィヴィオが焼いたのか?」

 

朝食の席で、目の前に置かれた皿にある丁度いい焼き加減の目玉焼きを見ながら思わず聞いてみた。

 

「はい、あまりにも手際がよかったから思わず見惚れてしまいました」

 

「ファリンは手伝おうよ……」

 

「でも、本当によくできていると思うよ」

 

「ええ、いい半熟具合です」

 

「ベーコンもカリカリで言うことナシだな」

 

「えへへ……」

 

皆も高評価で、ヴィヴィオも照れながら賞賛を受け取る。

 

「昨日のシチューを手伝ってくれた時も、大した腕前やったし……もしかしてヴィヴィオ、才能あるんとちゃうか?」

 

「うーん、そうかなー? なんかかってに手が動いただけなんだけどー」

 

「へー、やっぱり才能なのかもしれないね」

 

フェイトは親バカでヴィヴィオを褒める。 それにしても贔屓しなくてもやっぱりすごいとは思う。 だが、人造生命体であるから言語の発達が早いと理解しているが……元が彼女なら料理は出来ないはずだ。 彼女は料理をやった……と言うより出来なかった筈だし。

 

(あ、俺の方か……)

 

「ねーねー、すずかママー。 今日はもうだいじょーぶなのー?」

 

「あ……うん、もう大丈夫だよ。 昨日も早めに休んだし、心配してありがとうね、ヴィヴィオちゃん」

 

「うん! パパもだいじょーぶ?」

 

「あ、ああ、もう平気だ。 それよりも早く食べよう」

 

やや皆に怪しい目で見られるが、何とか誤魔化した。

 

ピリリリリリリ♪

 

さっそく食べようとした時、俺のメイフォンに通信が入って来た。

 

「っと、済まない」

 

「朝から珍しいね」

 

「サーシャあたりかしら?」

 

「ああ、どうやらそのようだ」

 

アリサの予想通り、相手はサーシャからだった。 確かサーシャはルキュウに帰らず、対策課に残っていた筈だが。

 

「はい、こちらレンヤだがーー」

 

『あ、朝からすみません! 緊急でお伝えしたい事がありまして……!』

 

サーシャ自身も驚いているのか、かなり慌てているようだ。

 

「落ち着け、一体何があった?」

 

『は、はい! 昨日の深夜ーーいえ日付は今日になりますが。 ヘインダールの事務所が何者かに襲撃されたそうです!』

 

「何だって……⁉︎」

 

『どうやらヘインダールは防戦一方だったそうで。 かなりの被害も損失したそうです⁉︎ 詳しい情報は出ていませんが、襲ったのは間違いなくフェノールだと思われます!』

 

「そうか……ありがとう、サーシャ。 情報提供感謝するよ」

 

『お、お役に立ててなによりです!』

 

「だが、それとこれとは話は別だ。 早く学院に来い。 点数足りてないからサーシャは落第ギリギリだろ」

 

『そ、そんなぁ〜……』

 

「そっちは俺達が何とかする。 サーシャはとりあえず進級できるように頑張れ」

 

『はーい……』

 

通話を切り、皆の方を向いた。

 

「サーシャはなんて?」

 

「ああ、どうやらとんでもない事が起きたらしい」

 

皆に、サーシャから聞いた情報を伝えた。

 

「ほ、本当なの……⁉︎」

 

「ちょっとちょっと、マジですか⁉︎」

 

「真夜中とはいえ、市街地でそんな事が……」

 

「あいつらが、防戦一方だと……?」

 

「これは、穏やかではないですね」

 

「ほえ〜?」

 

ヴィヴィオはもちろん何のことか分かるわけもなく、とりあえず頭を撫でた。

 

「ふむ……それが本当なら捜査課がとっくに動いていそうやな……」

 

「気になるなら行って来い。 ただしメシを食ってからな」

 

「はい、そうします」

 

「あーあ、今日も学院を休むのかー」

 

「まあ、サーシャと違って勉強と両立できているから問題ないわよ」

 

「リヴァンはどうする?」

 

「……いや、俺は行かない。 あいつらがそう簡単にやられるとは思わないしな」

 

「そうか……」

 

たとえ別れても、リヴァンはヘインダールの事を信頼しているようだ。 それから朝食を早めに済ませ、すぐに港湾地区に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車を道路の脇に停め、ヘインダールの事務所前に来ると……建物はボロボロで、そこはすでに襲撃の後だった。 数人の構成員が後片付けもしていた。

 

「これは……」

 

「襲撃の後、みたいだね……」

 

「例の重機関銃が使われた跡みたいだね……爆発物を使わなかっただけマシみたいだけど……」

 

と、そこで見張りをしていた管理局員……ティーダさんがこちらに気付いた。

 

「なんだ、お前達か」

 

「ティーダさん……状況はどうなっていますか? つい先ほど話を聞いて、慌ててやって来たんですが」

 

「さあな。 ただまあ、真夜中にドンパチやらかしながったようだな。 今、ゼストさん達が事情聴取している」

 

やはり、この件はすでに他の課も動いているようだな。 って、当然か。

 

「さすがゼストさんね、仕事が早いわ」

 

「俺達もヘインダールから話を聞いておきたいんだけど……中に入っても大丈夫ですか?」

 

「いいぞ、一般人は通すなとしか言われてないからな。 ゼストさんには適当に誤魔化してくれよ」

 

「助かります」

 

ティーダさんに通してもらい、事務所に入ると……中は外以上に酷い有様だった壁や床のいたるところが銃弾の跡だらけだ。 とにかく前に訪れた応接室に向かい、ノックして中に入った。

 

「失礼します」

 

中に入いると、カリブラとユラギがゼストさんとメガーネと話していた途中だった。 室内を軽く見渡すと、外と比べて傷1つ無かった。

 

「お前達……⁉︎」

 

「あらあら……」

 

「お、レンヤ達じゃねえか」

 

「失礼する、カリブラ。 忙しいとは思うが、少し話を聞いてもいいか?」

 

「おう、もちろん構わないさあ。 それじゃあゼストの旦那。 事情聴取、お疲れさん」

 

「………失礼する」

 

ゼストさんは少し考えた後、踵を返した。 俺達は道を開け、横を通りかかった時……

 

(後のことは任せよう。 よい情報を引き出せるといいな)

 

(あ……はい)

 

(頑張ってね)

 

小声で助言をもらい、2人は部屋を後にした。

 

「久しぶりさあ、レンヤ、それにお前達も。 記念祭の最終日はなかなか派手にやったそうじゃねえか?」

 

「まあな……さて、俺達異界対策課は通常の捜査体制から外れている。 それを踏まえて、率直な意見を言わせてもらおう」

 

「ほう……?」

 

「レ、レンヤ……?」

 

「いまさら腹を探り合う必要もないだろう、単刀直入に質問した方がお互い楽だろ?」

 

全くの良好な関係というわけではないが、敵対する理由もないからな。

 

「………くく、ああ、そうだな。 それで何が聞きたいさあ?」

 

「聞きたいことは2つだ。 昨晩の襲撃者はフェノールで間違いないな? 別の組織が襲って来た可能性は?」

 

「ま、当然の質問さあ。 ユラギ、答えてやれ」

 

「はい」

 

ユラギが一歩前に出て、メガネを直してから答えた。

 

「……襲撃者達は覆面で正体を隠してきましたが、間違いなくフェノールの配下でしょう。 武装も同じでしたし、何より戦闘のクセが似ていました。 そういうものは簡単に偽装できるものではありません」

 

「なるほど……」

 

「でも、そうなるとますます分からないね。 あなた達はもちろんのこと、ヘインダールの構成員は相当な腕前にはずだよ。 それが遅れを取るなんて……あのゼアドールが出てきたの?」

 

「いや、かの第一は出てこなかったさあ。 おそらく、フェノールでも平均的な戦闘能力の奴らだけださあ」

 

「だったらどうして……」

 

戦闘能力なんて、武器1つ持っただけでは簡単には埋まらないはずだ。 それがどうして……

 

「ーー戦闘技術は並み程度でしたが、力とスピードが段違いでした。 重機関銃型のデバイスを片手で軽々と振り回して力任せに突入してきたのです。 結果、こちらの守りを崩され、2階まで制圧されてしまいました」

 

「それは……」

 

「それに加えてタフさも大したもんだったさあ。 おかげで少しばかり本気が出ちまった」

 

「リヴァンと同等とは聞いていたけど……あなたも相当な手練れのようね?」

 

「リヴァンはお前達と……VII組と関わってから段違いに強くなってるさあ。 それにフォーレスの旦那から天剣をもらったとなると、もう俺っちじゃあ歯が立たないさあ」

 

「そうは見えないけど……」

 

まあ、それは置いておいて。 襲撃者はフェノールで間違いなさそうだな。 襲撃した理由は定かではないが、構成員の変貌を聞く限り穏やかではない事がわかる。

 

「それじゃあ、次の質問だ。 今回の事件を受けて、この後どう対処するつもりだ?」

 

「くく……何を聞かれるかと思えば。 俺っち達がどういう存在であるかを考えれば、聞くまでもないだろ?」

 

「……………………」

 

「報復……というわけね」

 

「人聞きが悪いさあ。 とはいえ……こっちもなるべく穏便に済ませたいし。 まあ、そういうこった」

 

カリブラはチラリと視線をこちらに向けた。

 

「結局、奴らが何をするつもりか分かんねい限り、こちらとしても手の出しようがないさあ」

 

「そうか……」

 

「さてと……これで2つだが、質問は以上かさあ?」

 

「ああ、質問に答えてくれて感謝する。 概要については、捜査課に報告してもいいか?」

 

「自由にすればいいさあ。 さて、出来れば早く奴らの動向が分かるといいな? そうすれば、ウチらが本格的に動き始める前に……ま、せいぜい頑張るといいさあ」

 

最後に妙に脅しめいた事を言い、俺達は礼を言って部屋を出て、そのまま事務所を出た。 外に出ると、見張りがティーダさんではなく別の管理局員に変わっていた。 彼に少し挨拶を交えた話をし、停めていた車の前まで来た。

 

「……参ったね」

 

「ええ、色々と教えてくれたのはありがたいけど……まさかあそこまで露骨に本格的な抗争を仄めかすなんて……」

 

「このままだと確実にドンパチが始まっちゃうよ。 下手すれば今回みたいな市街地で」

 

「……カリブラが言った通り、まだ猶予は残されていると考えてもいいだろう。 いずれにせよ、フェノールの今回の襲撃には不審な点が多すぎる。 ヘインダールが本格的に動き始める前に、色々と調べた方が良さそうだな」

 

「ええ、そうね」

 

「となると、今日も各方面で聞き込みを?」

 

「いや……やっぱりここは直接、フェノールを当たってみないか?」

 

俺の提案に、3人は当然驚いた。

 

「本気で言っているの……⁉︎」

 

「確かに以前にも訪ねたことはあったけど……」

 

「競売会の事もあったし、さすがに無理があるんじゃないかな?」

 

「……ああ。 いくら手打ちの話があっても、ヴィヴィオの件についてだけだしな。 ただ、どうしても気になることがあってさ……」

 

「気になること……?」

 

「あのゼアドールの動向さ。 何度かやり合って思ったんだが、彼は決して愚かでも無謀でもない。 そして部下もちゃんと押さえて統率している印象だった」

 

そんな人が、部下に無策の猪突猛進なんて無謀な事をさせるはずがない。

 

「確かに、元はといえ統政庁の一員だったし。 普通だったら意味もない襲撃をさせるとは思えないけど……」

 

「昨晩の襲撃をゼアドールが指示したものなのか、それとも部下の独断による暴走なのか……確かに知りたい情報ではあるわね」

 

「だろ? フェノール商会の周囲を聞き込んでみるくらいでもいいだろ。 今から行ってみるか?」

 

「はあ……仕方ないわね」

 

「でも、周囲に聞き込むくらいなら危険は少ないと思うよ」

 

「しょうがない、行ってみようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ西部にある開発区に向かい。 路地の手前で降りて徒歩でフェノール商会の一歩手前まで来た。 路地からフェノール商会の正面をこっそり見ると……そこには、見張りにしてはかなりの人数の構成員がいた。

 

「やっぱり、普段より見張りは多いみたいね」

 

「しかも、想像以上に殺気立っている感じだね……」

 

「……構成員の人達にも賛成してない人はいるみたいだね。 不安や焦りを感じるよ」

 

「間違いなくヘインダールの報復を警戒してるんだろう……しかし参ったな。 これじゃあゼアドールの動向を知ることはとてもーー」

 

その時、背後から気配を……隠されている気配を感じた。

 

「ーー私がなんと?」

 

その後すぐにに聞き覚えのある声が背後からかけられ、振り返ると……大通り方面からゼアドールが歩いて来た。

 

「ゼアドール・スクラム……!」

 

「大きい体のくせに気配を消して……」

 

「お前達か。 あんな事があったというのに、よくもまあここに来れたものだ」

 

ゼアドールは正面に立ち、威圧を出しているが……なんだ? どこかおかしい……

 

「……言い訳はしません。 あなた達との手打ちについてはヴィヴィオに関する事だけですから」

 

「分かっているならいい。 その件を盾に、乗り込んでいたら叩き潰している所だ」

 

「……………………」

 

お互い、蒸し返す気は無いという事でいいだろう。

 

「まったく、物騒なおじさんだね」

 

「……お前達がコソコソと嗅ぎ回っている理由は判っている。 だが、その件について私から話すことは一切ない。 早く去るのだな」

 

「…………………」

 

こちらの返答も待たず、ゼアドールは事務所に向かおうと路地に入った。

だが、俺はゼアドールを呼び止めた。

 

「ーー1つだけ、教えてください。 もし、あなたが武装した敵本拠地を攻略するとしたら……真っ正面から力任せに行きますか?」

 

フェノールがとったあり得ない行動、それはゼアドールの指示ではないにしても聞かずにはいられなかった。 ゼアドールは足を止め、少し考えた後……

 

「ふっ、まともな軍隊ならそんな作戦は決して立てないだろう。 私なら個人ならそうするが……部隊としてなら可能な限り有利な状況に持ち込み、最低限の損傷で最大の戦果を狙う。 それがセオリーというものだ」

 

「……確かにそうね。 それと比べると今回のはあまりにも杜撰だったわ」

 

「そうか……答えてくれて、ありがとうございます」

 

「ふん、おかしな奴だ。 ただ、ここから先は不用意には立ち入らないことだ。 命が惜しく無かったらな」

 

最後にゼアドールらしい、物騒な忠告を言い。 ゼアドールは事務所に向かって行った。

 

「何だか、少し様子が変だったな。 張り詰めているようで、どこか力が抜けているような……」

 

「……そうね。 言っている事は物騒だったけど、殺気は感じなかった」

 

「少し疲れているような、そんな感じもしたね。 一体、何があったんだろう?」

 

「調子狂うなぁ〜……」

 

「ふふん。 その理由、知りたい?」

 

と、また背後から声をかけられ。 現れたのは……クイントさんだった。

 

「ク、クイントさん……⁉︎」

 

「ゼストさんと一緒にいないと思ったら……ホンット神出鬼没だね」

 

「フッ、それが捜査官魂ってモンよ」

 

あなただけだよ、それは……この人管理局辞めたら、次の仕事は記者だな、絶対。

 

「それじゃあ、ここじゃなんだし、情報が欲しいならそこのバーで待っているから」

 

こっちも返答も待たずにそのまま近くにあったバーに入って行った。

 

「……どうするの?」

 

「まあ、聞くだけ聞いてみよう。 喋り過ぎないように、注意する必要はありそうだけど」

 

「だね……」

 

「親子って案外似てないもんだね、性格は……」

 

実体験があるのか、アリシアはしみじみと頷く。 兎にも角にもここで立ち止まっても仕方ない、腹をくくってバーに入った。

 

「おっ、来たわね。 さっそくだけど、ヘインダールの事務所で会話した内容を教えてくれれるかしら?」

 

「いきなりですね……」

 

「大方、ゼストさん辺りから聞いたんですか?」

 

「ええ、メガーヌからちょっとだけ。 こっちも手に入れた情報を教えるから、情報交換と行きましょうか」

 

「はあ、分かりました。 答えられる範囲で教えます」

 

テーブル席に座り、まずはこちらからクイントさんに今まで得た情報を注意しながら教えた。

 

「……なるほどね。 うーん、思っていた以上にヤバイ状況になってるわねぇ」

 

「はい……そうなんですよ。 今の所はどちらも一般市民を巻き込まない配慮はしているみたいですが……」

 

「いやあ、それにしたって今回の事件は唐突すぎるわよ。 いくら真夜中とはいえ、捜査部(ウチ)の近くでの襲撃よ? しかも近隣には天下のDBM……さすがに思い切りが良すぎだわ」

 

「ええ、そうですね……下手すればミッドチルダの金融・貿易センターとしての信頼も揺るがしかない出来事だと思うわ」

 

「そこなのよね、ポイントは。 こりゃ、あたしが掴んだ情報もあながち嘘じゃないかもしれないいわ」

 

「クイントさんが掴んだ情報……」

 

「……話してもらえますか?」

 

「オーケー。 今度はこっちのターンね」

 

クイントさんは一度咳払いをし、得た情報を話し始めた。

 

「実はね……マフィア内部事情なんだけど。 最近、若頭のゼアドール氏の統制が行き届かなくなっている噂があるみたいなのよ」

 

「それは、本当ですか……⁉︎」

 

「ちょっと信じられないね……あの化け物じみたおじさんに逆らえるとは到底思えないけど」

 

「まあ、そうなんだけどね。 ただここ最近起きたフェノールが関わっている事件はゼアドール氏の指示じゃないらしいの。 手柄を立てようとした下っ端が独断でした結果らしいんだけど……そうした若手ならではの暴走が目立ってきているのよ」

 

「ふうん……?」

 

「ちょ、ちょっと待って! それじゃあ昨夜の襲撃も若手の勝手な暴走だと……⁉︎」

 

「まあ、さすがに事が大き過ぎるし、それは無いとは思うんだけどね……ただ、そういう事情を踏まえると、ゼアドール氏のさっきの態度はなんとなく理解できるんじゃない?」

 

確かあの時、覇気すらも薄くなっていたし。 あながち間違ってはいなさそうだ。

 

「確かに……取り巻きもいなかったし」

 

「フェノール内を統制するのに苦労しているというこ事か……」

 

「でも、例のカクラフ会長はいったい何をしているんですか?」

 

「聞いた話によれば、競売会での失態を取り戻そうと必死になっているそうよ。 機嫌を損ねたアザール議長へのご機嫌取りはもちろんだけど……新たに首都内の有力者を取り込もうとしているらしいわ」

 

懲りない人だな、カクラフ会長は……

 

「新たな有力者……どのあたりなんのかしら?」

 

「極端に言えばアザール議長と対立している議員ね。 それと航空武装隊司令あたりとも何度か会合しているって噂よ」

 

「航空武装隊の司令を取り込んだのは、武器の密輸を強化するためか……?」

 

「ま、そんな所じゃない。 いやー、ティーダが早めに武装隊を抜けてよかったよ」

 

「しかも航空武装隊の総司令はソイレント中将、彼はアザール議長の腰巾着って話もあるよ。 そちらに働きかけることで、間接的に議長のご機嫌取りもしようとしているかもしれないね」

 

「ええ、あたしもそう睨んでいるわ。 いや〜、やっぱり君達と話していると考えがまとまるわねぇ! うんうん! 情報交換した甲斐があったわ!」

 

「はは……正直こちらも助かりました。 でも、こうして整理してみるとやっぱり違和感を感じますね……」

 

「違和感?」

 

「……どういうこと?」

 

これまでフェノールが起こして来た事件に幾度となく関わってきたからか、何となくわかる。

 

「一つ一つの行動については、納得いく理由があるようですが……どれも場当たり的だし、組織として全く連携が取れていない気がします。 おれがフェノールに感じていたのは悪い意味で、大都市ならではの“スマートさ”だったんですが。 それが殆んど感じられないんです」

 

「なるほど……」

 

「ふむ……いわれてみれば」

 

「ミッドチルダという金の成る木から甘い汁を吸うためのシステム……それを確立した組織にしては、確かに場当たり的かもしれないね」

 

「何か、そのあたりを狂わせるような、私達の知らない“要素”がある……そういう事?」

 

「ああ……あくまで直感なんだけどね。 ヘインダールを襲った襲撃者の戦闘能力も不自然に高かったみたいだし……ゼアドールの奇妙な態度にしてもそれが原因だと思ってさ」

 

「うーん、さすがレンヤ君。 鋭い読みをしてくれるじゃない。 ね、対策課クビになったら捜査部に来ない?」

 

「いえ、こんなんでもすでに捜査官ですし……ていうか、縁起でもないことを言わないでくださいよ」

 

ピリリリリリリ♪

 

と、そこで俺のメイフォンに通信が入ってきた。

 

「ーーすみません。 ちょっと失礼します」

 

一言謝り、通信に出た。

 

「はい、異界対策課の神崎 蓮也です」

 

『すまない、私だ! マインツのビクセンだ!』

 

通信相手はビクセンさんだった。 かなり慌てているようだが……

 

「ああ、町長さんでしたか。 どうかしましたか? 随分慌てているようですが……」

 

『そ、それが……今ミッドチルダのカジノハウスに来ているんだが……ど、どうもクイラの様子がおかしくなってそれで連絡を……』

 

「様子がおかしい……? 一体、どうおかしいんですか?」

 

『さっきからクイラが他の客とポーカーをしているんだが……妙に暴力的というか物騒な雰囲気になってきて……すまない、とにかく様子を見にきてもらえないだろうか⁉︎』

 

「りょ、了解しました。 カジノハウスですね? 近くにいるのですぐに行きます」

 

『ああ、よろしく頼むよ!』

 

通信を切り、皆の方を向いた。 どうやら先ほどの応対で尋常ではない事態という事は理解しているようだ。

 

「マインツの町長から?」

 

「カジノがどうとか言っていたみたいだけど?」

 

「ああ、例のクイラさんが客同士の勝負で暴力的な事に巻き込まれそうな感じらしい」

 

「なんですって……?」

 

「相手の逆恨みでも買ったのかな?」

 

「昨日と同じ調子ならあり得そう……」

 

「ふむ、それは急いで様子を見に行かないとね。 それじゃあ、カジノにレッツゴー!」

 

クイントさんは張り切って上に拳を上げるが……

 

「あれ、どうしたの?」

 

「いえ、その……」

 

「……言っても無駄だろうから気にせず行こう」

 

首突っ込む気満々なクイントさんはとりあえず放置しても勝手に着いてかる……とにかく、急いで昨日訪れたカジノハウスに向かった。

 

 

 



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125話

 

 

急いでカジノハウスに向かい、中に入ると……目の前にビクセンさんがいた。 ビクセンさんは入って来た俺達に気付き、少しだけ安堵した。

 

「おお、来てくれたか! ありがたい! いつ喧嘩が始まるものかと……!」

 

「それで、クイラさんと相手はどこに?」

 

「ああ……あちらの奥にある特別室で一対一の勝負をしているんだ……早くしないとクイラが相手に暴力を振るうかもしれない……」

 

「なんですって?」

 

「クイラさんが相手の逆恨みを買ったのでは……」

 

少し困惑するが、ここで議論する暇もない。 急いで一階奥の特別室に入った。 すると、中ではクイラさんがオーナーを壁に投げ、今にも相手に暴力を振るおうとしている雰囲気だった。

 

「クイラ……⁉︎」

 

「いけない……!」

 

急いでクイラさんに駆け寄り、ビクセンさんと共にクイラさんを押さえた。

 

「おおおおっ! 離せ、離しやがれえええっ!」

 

「お、落ち着いてくださいっ!」

 

っ! 何だこの力は……! 鉱員だとしても異常だぞ……!

 

「クイラ! どうか落ち着きなさい!」

 

「あら、あなた達。 久しぶりね、元気にしてたかしら?」

 

対戦相手だったのは……ナタラーシャ・エメロードだった。 自分が襲われそうなのに、立ち上がりもせずまだソファーに座っている。

 

「ふう……呑気に挨拶されても……」

 

「ナタラーシャさん……こんな所でなにを」

 

「へえ、面白い方ね。 あなた達の知り合いなの?」

 

「いえ、知り合いというほと知っているわけじゃ……」

 

その時、ふとアリシアはテーブルの上を見た。

 

「って、ストレートフラッシュにファイブカード! なんてレベルの高い勝負しているの⁉︎」

 

「ふふ、なかなか危なかったわよ? 負けたらこの体まで払う所だったわ」

 

「か、体って……///」

 

「は、破廉恥な……!」

 

ナタラーシャさんは胸元をチラリと見せながら心境を語り、すずかとアリサは顔を赤くした。 そしてその間にもクイラさんは負けを認めず、最後まで暴れていた。

 

その後、クイラさんはあらん限りの力で暴れ喚いてから、不意にぐったりと気絶してしまった。 俺達はホテルの部屋まで気絶した彼を運ぶことにした。

 

「一体、どうしてこんなことに……だらしないが気のいい、誰からも好かれる男だったのに……」

 

「ビクセンさん……」

 

ビクセンさんはクイラさんの変貌ぶりを目の当たりにし、驚きを隠せなかった。

 

「でもまあ、とんでもない暴れようだったね。 まさか私とレンヤの2人がかりやっと取り押さえられたんだから」

 

「ああ……正直、物凄い力だった」

 

「鉱員だから筋肉質なのは間違いないと思うけど、でも……」

 

以前とはまるで別人のような変貌ぶり、異常のほどの力、天才的なツキやカン、これを症例として当てはめると……

 

「ねえ、率直に言うけど。 もしかして彼、危ない薬に手を出しるんじゃない?」

 

と、その時クイントさんがそのような事を言った。 さすがにビクセンさんもその発言には驚いていた。

 

「な……⁉︎」

 

「やはり、そうなりますか……」

 

「考えたくなかったけど……」

 

「あら、4人とも私と同意見かしら?」

 

「…………………」

 

「……あまり推測で無闇に言いたくはないですけど……可能性は否定できません」

 

「ば、馬鹿な……薬物なんてあり得るものか! ただの鉱員だぞ⁉︎ そんな物に手を出すはずがーー」

 

「でも、こちらに来てからもう半月近く経っているんでしょう? 相当儲けていたはずだし、そこに付け込まれた可能性は無いとは言い切れないのでは?」

 

ブローカーは言葉巧みに人を騙し、薬物を売りさばく。 クイラさんの以前の性格を考えれば、付け入られる隙はあったのかもしれない。

 

「い、いい加減にしたまえ! 君は管理局の捜査官だったね……あまり憶測で無闇に語らないでくれ!」

 

「いえ、過去の症例にも似たようなものがありまして……」

 

クイントさんが言っているのはHOUNDやオーバーロードの事だろう。 特に後者は魔力増強などの効果がある。 反面、精神に異常をきたす。 クイラさんは非魔導師でリンカーコアは無いため魔力増強等の症状は認められないが、やはり薬物の可能性は否定できない。

 

「ーービクセン町長。 念のため、クイラさんの持ち物を拝見させてもらってもよろしいですか?」

 

「! レンヤ君、君まで⁉︎」

 

「決め付けているわけではありませんが、色々とつじつまが合う事も多いんです。 あの暴れ方に尋常じゃない力、そして豹変してしまった性格……過去の薬物事件に似たような症状なんです。 それに、比べ物にならないくらいギャンブルの腕が上がったのも……」

 

「……薬の影響で知覚が過剰に鋭敏になったのかもしれないね。 それで相手の手の内を読んだり、カンが働いたのかもしれない。 私も、似たような事出来るし」

 

「……アリシアちゃん、もしかして……」

 

すずかがジト目でアリシアを見ると、アリシアはソッポを向いて口笛を吹いた。 アリシアの奴、賭け事する時はイカサマしてたな……まあ相手はクーあたりだろうから、まいいか。

 

「コホン、町長さん。 クイラさんの名誉を守ることは分かります。 でも、本当に何らかの薬物だった場合……このまま放置したらどのような危険があるのか分かりません」

 

「そ、それは……」

 

「中毒症状に後遺症……まあ、色々と考えられそうね」

 

「ええ、薬物による被害で1番怖いのはそこです」

 

彼がどんな薬物を投与したかは定かではないが、症状から見るにそう安いものではないだろう。

 

「…………判った……配慮が足りなかったようだ。 レンヤ君、お願いする」

 

「……はい。 アリサ、バックの方を」

 

「ええ」

 

アリサはここにあったクイラさんのバックを物色し始め、俺は横になっているクイラさんを起こさないよう注意しながらボディーチェックを行った。 すると……

 

(………これは………)

 

懐から出て来たのは、緑色のタブレットが無造作に入っているポリ袋だった。 それとアリサの方は出なかったようだ。

 

「おお……」

 

ビクセンさんはこれを見て、思わず上を見上げて顔に手を当てた。

 

「まさか本当にあったなんて……」

 

「HOUNDやオーバーロードと違って緑色だね、いったい何の薬なんだろう?」

 

「………まだこの薬が原因と決まったわけじゃない。 ビクセンさん、クイラさんに持病で薬の服用などは?」

 

「……知る限り無かったはずだ。 もちろん断言は出来ないが……」

 

「判りました……この薬はいったん、こちらで預からせて頂いても?」

 

「ああ……わーよろしくお願いする。 だが、どうか……! どうか事を大きくすることは……!」

 

ビクセンさんはクイラさんのためを思い深く礼を、強く懇願した。

 

「はい、クイラさんの名誉には配慮させていただきます。 クイラさんの自身については、ビクセンさんにお任せしても……?」

 

「ああ……任せてくれたまえ。 もし目を覚ましたら改めて話を聞いてみるつもりだ」

 

「では、よろしくお願いします」

 

俺達は部屋を後にし、いったん廊下に出た。

 

「ふう、それにしても薬物とはねぇ。 こりゃまためん……厄介な物を持ち込んでくれたわ」

 

「今、めんどくさいって言おうとしたよね?」

 

「ま、まあとにかく、問題はそのタブレットね」

 

クイントさんは手の中にあるポリ袋を指差し、話を露骨に逸らした。

 

「……はあ、ここでは何も分かりません。 俺達で決めるのも少し大事ですし。 いったん戻ってゼストさん辺りに相談しよう」

 

「ええ、それがいいと思うわ。 ヘインダールの件についても報告した方がいいでしょうし」

 

「抗争に加えて薬絡みの事件の可能性かぁ……はあ、またとんでもなく忙しくなりそうだね」

 

いつもの事だが、アリシアは思わずため息をついた。

 

「っと、もうこんな時間、私はこれで失礼するわ。 中々有意義な時間だったわよ、それじゃあねー」

 

クイントさんは手をヒラヒラと振りながら階段を下りて行った。 本当に、嵐のような人だ……

 

「ふう……私達も行こうか」

 

「そうだね、ゼストさんに会えるかは分からないけど……まずは対策課に戻ろう」

 

「ええ、一通り報告できたら、どするかを検討してみましょう」

 

「うん」

 

それにどこか引っかかる事はあるが……とにかく対策課に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あ、お帰りなさーい」

 

対策課に入ると、ソエル達が出て来た。

 

「あれ? ラーグは?」

 

「ラーグ君はちょっと野暮用と言ってついさっき出て行きました」

 

「随分と遅かったけど何かあったの?」

 

「ああ……実はそれについて別に気になる事件がに出くわしてな」

 

「ヘインダール襲撃事件とまとめて報告するわ」

 

報告書を作成しながらソエル達に詳細を説明した。 と、文字としてまとめてみて、改めて読み返してみると……

 

「そんな事があったのですか……」

 

「うう、またマフィア……いやぁ……でも勉強もいやぁ……」

 

「サ、サーシャさん……」

 

(ポンポン)

 

勝手に落ち込んでいるサーシャの肩に球状態のガリューが乗りながら軽く叩き、やれやれと首を横に振った。

 

「それにしても、随分と取り留めのない事件ばかり起きているね」

 

「そうだね、一度にこれだけの事件が起きるなんて予想外だよ」

 

「……………………」

 

「? レンヤ、どうかしたの?」

 

取り留めのない……共通点がない事件ということ。 だが、逆にこの3つ事件に共通点があるとすれば……

 

「……そうか、繋がった!」

 

「何か分かったんですか?」

 

「ああ、共通していそうな例を上げられる事件は2つ。 ヘインダール襲撃事件とクイラさんの事件だ。 ヘインダールを襲撃したマフィア達が見せた身体能力……そしてクイラさんの手に入れたギャンブルの腕……どちらも人の潜在能力を引き出す物だとして。 もし、それを繋ぐものがこの緑色のタブレットだとするなら……」

 

「……マフィア達が違法薬物に手を出し始めた……そして一般市民に流し始めているだけではなく戦闘力の強化にも使っている……そういうことだね」

 

「ああ……まだ憶測の域を出ないけどな」

 

「でも、それなら色々と説明できるわ。 あのゼアドールがフェノール内での統率力が下がったのは……」

 

「下っ端が薬を使ったせいで態度がデカくなって、そんな連中が増え続けている……それがフェノールの方の事件に繋がるってわけだね」

 

「ーー帰ったぞ〜」

 

と、ちょうどその時ラーグが帰って来た。 ゼストさんを連れて……

 

「ゼストさん⁉︎ どうしてここに⁉︎」

 

「少しばかり事情があってな。 ここでは話難い、奥の会議実に行くぞ」

 

「は、はい!」

 

「あ、私も聞きたーい!」

 

「……冷蔵庫に作っておいたお菓子があるから、好きに食べていてくれ」

 

お菓子でルーテシアを釣り、会議室に入ったのは俺、アリサ、すずか、アリシアに加えゼストさんとラーグ。 席に座り、早速話を始めた。 先ずはゼストさんから話し始めた。

 

「ゼストさんがここに来たのはラーグに呼ばれたからで?」

 

「ああ、個人的にも用はあったが、ラーグに呼ばれてな」

 

「なんであなたが先回りできたのよ……」

 

「ふっふーん、ひーみつー♪」

 

「まあ、それはともかく。 単刀直入に言って、私がここにいるのは捜査に圧力がかかったからだ」

 

ゼストさんのいきなりの発言に、俺達は驚いた。

 

「捜査部に圧力……⁉︎」

 

「いや、そこまで露骨なものではないが……ヘインダールの襲撃事件を受けて奴らの抗争の対処に力を入れろと指示が入った……少し前から進めていた謎の薬物の捜査を打ち切ってな」

 

露骨にではないにせよ、ずいぶんと分かりやすい圧力だな。

 

「そうですか……」

 

「そちらの方でも薬物に関する捜査を……?」

 

「ああ、数日前からだがな。 私としてはお前達が知っていた事の方に驚いたが」

 

「で、そっちの方はどこでその薬物を掴んだんだよ?」

 

「昔から使っている情報屋からだ。 一応信用できる情報屋だが……今の所はスカばかりでな……ただ、どうも気になって噂の元になっていた市民リストを揃えている最中だったが……」

 

そこで上層部から待ったがかかったわけか……だがこれで、ゼストさんの情報とこちらが今まで集めた情報、そしてこの緑色のタブレットの関係が噛み合った。

 

「? なんだ、思いのほか驚いていないな」

 

「い、いえ、驚いていないわけじゃありませんけど……」

 

「くく、どうやらビンゴだったようだぜ。 レンヤ、見せてやれよ」

 

「ああ……これを」

 

俺はゼストさんに手に入れた緑色のタブレットを渡した。 さすがのゼストさんでもこれは驚いたのか、思わず声が出てしまっていた。

 

「うむ……もしやこれは……?」

 

「今日、とある筋から入手した証拠物件です。 その人の名誉を守るという条件で預からせてもらっていますが……」

 

そこで今度はこちらから、これまでの経緯を一通り説明した。

 

「やはり、存在していたか……しかもフェノールが流した可能性があるだと……⁉︎」

 

「その薬物捜査を打ち切れという指示……どこから降りてきたかは見当はつくか?」

 

「……上層部の誰かだと思う。 私はもちろんの事、他の部下も納得出来ないまま、我々に命令を下した」

 

「ふん、最悪だな……」

 

ラーグは腕を組みながら怒るように鼻を鳴らした。 それはつまり肯定を表していた。

 

「まさか、管理局の上層部がマフィアの要請を受けているのかしら?」

 

「……………………」

 

「そうですか……」

 

「ちょっとちょっと、そりゃないよ……」

 

「……知ってはいたけど、ここまで酷いなんて」

 

「ーーゼスト。 俺が呼ばなくてもここに来ていたとは思うが……上層部(やつら)に不審を抱いたのは確かだろ? それでどうする気だ?」

 

ラーグの質問に……しばらく沈黙した後、ゼストさんは口を開いた。

 

「…………正直、薬物捜査に関してはこちらでは動きようがない。 下手に動けば、今度は上層部も露骨に横槍を入れてくるだろう。 だが、それではあまりにも法を預かる身としては不甲斐なさ過ぎる……!」

 

「ゼストさん……」

 

「だったら薬物捜査の件は私達に任せてください。 いいわよね、皆?」

 

「うん、もちろん」

 

「ここまで来たら見過ごせないしね」

 

「よし……これより異界対策課は非公式に捜査部と協力体制に入いる」

 

「ゼスト達に変わって動きまくれよ」

 

「ああ……ゼストさん、もしマフィアの情報を手に入れたらできるだけこちらに回してもらえますか?」

 

「ああ、もちろんだ。 だが、今後の捜査方針は決まっているのか?」

 

「そうですね……何はともあれ、薬の現物が手元にありますし。 どういった成分かを突き止める必要があるでしょう」

 

「情報と見た感じ、現存するタイプとは全く別のタイプの薬物だね。 調べるにしても目を付けられない場所で鑑定しないと」

 

「……そうれなら聖王医療院がいいんじゃないかな? ほら、ちょうどホアキン先生が薬物を専門にしてたって」

 

「そうね、性格やサボりぐせはともかく……相当優秀とは聞きているわ」

 

「念のため、こっちで異界方面から調べてみるよ」

 

そう言い、アリシアはポリ袋から緑色のタブレットを2つ取り出し。 別の容器に入れた。

 

「ゼスト、そっちは捜査部でまとめた捜査報告書を今日中にこっちに回してくれ。 それを元に、こいつらに今後の捜査方針を決めさせたい」

 

「分かった、すぐに届けよう。 それでは私はこれで失礼する、後のことは頼んだぞ」

 

「はい、任されました」

 

ゼストさんはそう言い残し、対策課を後にした。

 

「それで、レンヤ達はこの後すぐにでも聖王医療院に行くのか?」

 

「そうだな……急な事でもないし、依頼もあるだろうから先にそっちをやってからでも遅くはないだろう」

 

「私もそれでいいよ」

 

「ふふ、まずはお昼ご飯にしようね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べた後、聖王医療院に移動しながら依頼をこなした。 その途中にクイラさんと似たような症状の人を何人か見つけたりもしたが……その場ではどうする事も出来ず。 その人物の居場所を記録するだけに留めた。 今は受付で医療院にいる事を確認し。 先生がいるであろう研究室に向かっている。

 

「ホアキン先生、いてよかったね」

 

「どうかなー? あの人の事だから釣りに出かける準備でもしてるんじゃない?」

 

「ありえそうね……」

 

「はは……」

 

否定出来ないのがなんとも……それから研究室前に到着した。

 

「ーー失礼します」

 

ノックしてホアキン先生の研究室に入いると……釣りに行く準備をしていた。 予想通りすぎて何も言えない……

 

「あ! ちょっ……」

 

ホアキン先生は急いで釣り道具を片付けた。

 

「えっと……お邪魔してすみません」

 

「また趣味に没頭しているのかしら?」

 

「いや大丈夫だよ。 この後川釣りをしようと思ったけど……うん、来客なら仕方ないね。 うん、仕方ない」

 

2回仕方ないって言ったよ。 しかも嫌なタイミングで来やがって、という感じの目で見ているんですけど。

 

『普通に恨まれているよね?』

 

『ど、どうだろう……?』

 

「さて、軽いイヤミはこれくらいにして。 今日は一体どうしたんだい?」

 

やっぱり恨んでいたか……話の腰を折るわけにもいかないので本題に入った。

 

「はい……まずはこちらの薬を見てもらえますか?」

 

「ほう……?」

 

例の緑色のタブレットをホアキン先生に見せた。 すると先生は目の色を変えて注意深くタブレットを観察した。 性格に難ありとはいえ、やはり優秀なんだろう。

 

「……これは……なんだこの色は……着色料にしては様子が……」

 

「この錠剤はとある人物が所有していた物なんですが……俺達は、違法性のある薬物ではないかと睨んでいます」

 

「……なるほど。 詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」

 

先生の顔付きはさっきまでののほほんとした感じはなく、別人のように真剣な表情になった。 俺達は隣のソファーに座り、これまでの経緯を含めて緑色のタブレットについての説明を話した。

 

「なるほど……そんな事になっているのか」

 

事情を理解し、深く考え込む

 

「それで、ホアキン先生。 この緑色のタブレットについて何かご存知ですか? どこかで開発された新薬とか……」

 

「……残念ながら、見たことのないタイプの薬だ。 僕は専門柄、各次元世界にある製薬会社と付き合いがあってね。 開発された新薬のサンプルは大抵回してもらっているんだが……こんな色の錠剤は見たことがない」

 

「そうですか……」

 

確かに、普通に青い錠剤ならあるかもしれないが……こんなに透き通った緑色の錠剤はあまり拝見することはないだろう。

 

「しかも聞く限りにおいて効能についても尋常ではない。 筋力、集中力、反射神経、そして判断力と直感力……それら全てを高めるというのは……」

 

「一応、マフィア達が服用したと言う根拠はないわよ」

 

「実際、確認できているのはクイラさんただ1人だけだからねぇ」

 

「……使用時の効能もまだ不確かですし」

 

「ふむ、いずれにせよ、得体の知れない薬物であるのは確かのようだな」

 

しかし、こんな物を作る組織なんて……あれ? なにかまた引っかかっる気がするような。 そんなふうに考え込んでいたら……ホアキン先生が自分の膝を叩いた。

 

「分かった。 3錠ほど預からせてもらうよ。 早速、成分調査してみよう」

 

「ありがとうございます。 ちなみに、成分を突き止めるのにどれくらい時間がかかりますか?」

 

「現物もあるし、症状などの手がかりもある。 今日中には、主成分くらいは突き止められるとは思うが……逆にそれで突き止められなければ。 結構、長引くかもしれないな」

 

「私の方もそれくらいかな。 異界方面だけだからそこまで手間ではないけど」

 

「そうか……」

 

「まあ、明日の午後くらいに通信で連絡させてもらうよ。 それで構わないかな?」

 

「はい、それで構いません。 どうかよろしくお願いします」

 

成分調査を了承してくれた。 と、その時不意にアリサが手を上げて質問した。

 

「1つ聞きたいのだけど。 副作用や中毒症状の可能性はあるのかしら?」

 

「ふむ、それも調べてみないと何とも言えないんだが……念のため、その鉱員の関係者には何かあったらこちらに相談するよう伝えておいてもらえるかな? 他の服用者が見つかったら同じ手配にしておいてもらいたい」

 

「ええ、了解したわ」

 

「ふう……どれだけ出回ってる事やら。 街でもそれっぽいのチラホラあったし」

 

「さすがにフェノールに連絡するのは無理そうだけど……本当に構成員が服用していたら副作用が心配だね」

 

「うーん、確かに……」

 

「聞く限り、副作用といえるのは逆上などの精神の不安定化と言った所だね。 依存症や身体の影響などは調べてみないと何とも言えないな」

 

当然と言えば当然か……それだけ知れば十分。 俺達はお礼を言い、研究室を出て、1度対策課に戻ることにした。

 

「あ、おかえりなさーい」

 

対策課にはルーテシア達がいた。 どうやら依頼を完了して報告書を書いていたようだ。

 

「そちらの方はもう終わったのですか?」

 

「まあ、一応わね」

 

「それじゃあ私は下のラボにいるから、何かあったら呼んでね」

 

「あ、アリシアちゃん、私も手伝うよ」

 

「サンキュー、急いでも徹夜確実だからねー。 報告書の方は頼んだよー」

 

「ああ、よろしく頼むな」

 

部屋からアリシアとすずかが出て行き、残りはいつも通りの業務に戻った。 それから報告書を書き終わった頃……

 

「ヤッホー、お邪魔するでー」

 

はやてがノックもせずに対策課に入って来た。

 

「ヤッホー、はやてさーん」

 

(ペコリ)

 

「はやてさんお久しぶりです」

 

「あらはやて、あなたがここに来るなんて珍しいわね」

 

「ちょおーっとレンヤ君に野暮用があってなぁ……ココブックスのおじいちゃんからの情報や」

 

「! そうか……それでなんて?」

 

「十中八九黒やで、あのゼアドールちゅう男……統政庁と縁は切ってあらへんかった。 ゼアドールからは掴めへんやったけど、どうやら統政庁の方の構成員から掴んだみたいんよ」

 

……あのおじいちゃんホント何者だよ。 どっからどう見ても昭和風のおじいちゃんなのに。

 

「それと、レンヤ君達、今緑色の薬とその組織について調べとるんやったな?」

 

「それもおじいちゃんからか……もしかして何か分かったのか?」

 

「そや、とゆーても組織の名前と薬の名前だけやけどなぁ」

 

「それだけでも十分よ。 まずこの薬の名前から教えなさい」

 

「まーそー焦らんといて。 まずその薬の名前はネクター言うようやで」

 

「ネクター……そのままの意味なら果物をすり潰して作られる飲み物の事だが……」

 

「私としては生命の霊薬(ネクター)の方だと思うけど……」

 

「あの……ちなみにそのネクターを作った組織は一体……」

 

おずおずとサーシャが手を上げて質問した。

 

「……レンヤ君達なら、いや私達ならよーく知っとる名前やで。 ーーD∵G教団や」

 

「なっ⁉︎」

 

「まさか……!」

 

「D∵G教団……確か怪異を信仰している狂信集団でしたよね? でも、イラにある霊山以降の活動は確認出来ていませんが……」

 

ソーマが思い出すように答えた。 確かにあれ以降奴らの活動は確認出来てないが、密かに息を潜めて活動している事はどこはかとなく感じてはいた。 D∵G教団の目的は分かるが、それに至る為の手段が未だに謎のままでもある。

 

「たとえそれが事実だとして、奴らはこのネクターで何をする気だ?」

 

「そこまでは分からへん……」

 

「あの、そのD∵G教団の∵って何ですか?」

 

「∵は“何故ならば”を意味する数学的な記号だよ。 それではやて、他の略称も分かっているの?」

 

「そこも分かってへんけど、怪異を信仰するんならGはもしかしたらグリードかもしれへんなあ」

 

「憶測だがいい線はいってるんじゃねえか?」

 

だとしてもDが何の略称かはわからないままだ。 奴らの所業を考えれば……Demon、悪魔かもしれないが……

 

「……とにかく、明日はネクターの服用の疑いがある市民を改めて確認しに行こう」

 

「やれやれ、また忙しくなりそうだなあー」

 

「働くのはレンヤ達だけどねえー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

午前中は昨日の時点で割り出せた薬物の使用した疑いのある市民の聞き込みをすることになっている。

 

「はいこれ、捜査部から送られた資料だよ。 参考にしてね」

 

「ありがとうね、ソエルちゃん」

 

「でも、よかったんですか? 今日くらい依頼を受けなくても大丈夫ですよ?」

 

「いいのよ、忙しくなる前に片付ければなんとかなるわ」

 

依頼を受けつつ他の仕事をこなすのが異界対策課のやり方だしな。

 

「後は……午後あたりにホアキン先生が成分調査の結果を連絡してくれるはずだが……」

 

「そういえば、アリシアさんの方はどうでしたか?」

 

「下のラボにあるグリードの素材や異界の食材などの成分は、あの薬から出なかったよ。 まあ、まだ私が見つけていない異界の材料が使われているかもしれないけど。 ーーふあ〜……」

 

詳細の説明を言い終わった後、アリシアは眠そうに大きなあくびをした。

 

「大丈夫ですか、アリシアさん?」

 

「大丈夫、大丈夫……ちょっと明け方まで野暮用があっただけだから」

 

「そんな時間まで寝ないで何やっていたのよ?」

 

「それが私にも見せてもらえなくてね。 ちょっとだけ見えたけど、どうやらデバイスに組み込むシステムを組んでいたみたい」

 

「すずかー、そう言うのは言わない約束だよー」

 

「痛ひゃい痛ひゃい!」

 

知られたくないのか、アリシアはすずかの頰を左右に引っ張った。 しかしシステムか……すずかも何かを作る時、フェアリンクシステムも含めて大抵とんでもないものを作るが。 アリシアも大概予想外の物を作るからなあ……

 

ピリリリリリリ♪

 

と、その時不意に自分のメイフォンに着信がきた。 どうやらビクセン町長のようだ。

 

「はい、異界対策課、神崎 蓮也です」

 

『……レンヤ君? ビクセンだが……』

 

「どうかしましたか? もしかしてクイラさんになにか?」

 

『そ、それが……その……クイラのやつがまた居なくなってしまったんだ』

 

「……詳しい話を聞かせてもらえますか?」

 

また厄介ごとが舞い込んできたが、とにかく今はビクセン町長の話を聞いた。

 

『あの後、夜遅くにクイラが目を覚ましたんだが……意識が朦朧としているようで、そのまま寝かせてしまったんだ。 念の為私も部屋に泊まって明日の朝、君達にも話を聞いてもらうつもりだったが……朝、目を覚ましたら……』

 

「……なるほど。 ホテルやカジノに問い合わせは?」

 

『い、一応してみたが誰も見た者はいないみたいで……レンヤ君……どうしたらいいと思う?』

 

考えられるとしたら……クイラさん自身が出て行ったか、もしくはこの薬をクイラさんに売りつけたブローカーが連れ出したか……まだまだ予想はできるが、まだ推測の域を出ないな。

 

「……町長はそのままホテルで待機していてください。 ひょっとしたらクイラさんが戻ってくるかもしれません。 こちらは聞き込みに出るので彼の事も気に留めておきます。 何かあったらまた連絡してください」

 

『わ、分かった……よろしく頼む!』

 

了承します確認し、通信を切った。 皆は俺の会話で大体の事象は理解しているようだ。

 

「……例の彼が居なくなってしまったの?」

 

「ああ……今朝ホテルから抜け出してしまったらしい。 自分から消えてしまったのか、それとも……」

 

「……やっぱり他の人達も確認する必要がありそうだね」

 

「うん、嫌な予感がするよ」

 

経験上、こういう予感は的中するから嫌になる。

 

「……どうやら思っていた以上に事態の進行が早いかもしれないな」

 

「こっちの事は心配しないで、早く確かめに行って」

 

「留守は任せてください!」

 

(コクン)

 

「頑張ってください、皆さん」

 

「依頼の大半はこっちで引き受けます。 だめならユエさん達にも応援を呼びますから大丈夫ですよ」

 

「ああ、よろしくお願いするぞ」

 

渡された資料を確認し、まず1番近い服用者の居場所に向かった。

 

 

 



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126話

 

 

捜査を開始し、ネクターの使用の疑いのある市民の元を辿れていたが……いく先々、その人物がクイラさん同様に行方不明という事だった。 このタイミングで例外なく失踪している事実……自体は急速に進んでいるようだ。

 

「一体どこに行っちゃったんだろうね?」

 

「自発的だとしても、拉致されたとしても、何らかの事件に巻き込まれたのは事実のようね」

 

「現状では情報が少なすぎて、その両方の可能性も考えられるね」

 

「…………俺達が把握している失踪した人達は氷山の一角かもしれない。 クラナンガン全体ではかなりの人数が失踪している可能性が高そうだな」

 

おそらく俺達が把握しきれない程の人数はいるだろう。

 

「ええ……一体どれだけの人達が消えたのか……」

 

「どうする、レンヤ。 1人1人探すのは流石に難しいよ?」

 

「ああ……捜査部に圧力がかかっている以上、他の部署にも同様に圧力がかかっているだろう。 増援は望めそうにないな……」

 

「まあ、同時に失踪したから、同じ場所にいるかもしれないけど……」

 

ピリリリリリリ♪

 

と、そこで前触れもなく、俺のメイフォンに通信が入ってきた。 どうやらゼストさんからのようだ。

 

「はい、異界対策課、神崎 蓮也です」

 

『ゼストだ、急で悪いが何か変わった事はないか?』

 

「? いえ、特に以上はありません。 現在は薬物捜査に専念していますが……」

 

『そうか……事情を話したいが通信ではさし障る内容だ。 フェノールの事務所に来てくれ』

 

それだけを言い残し、通信を切られた。

 

「……………………………」

 

「ゼスト捜査官から? 何かあったの?」

 

「いや……」

 

俺は皆にゼストさんとの通話内容を伝えた。

 

「なにそれ」

 

「フェノール商会で何かあったのかなぁ?」

 

ネクターをフェノール商会が所持している可能性はある。 それに服用の疑いのある市民の失踪が関係しているなら……フェノール商会にも何かあったのかもしれない。

 

「よし、行ってみようか」

 

「そうね……失踪者にマフィアが絡んでいるなら大義名分は立つと思うわ」

 

「このタイミングでフェノールが……無関係ではなさそうだね」

 

「ああ……フェノール商会に急ごう!」

 

俺達は頷くと、すぐさま車に乗り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車を飛ばしてミッドチルダ西部に向かい、そのままフェノール商会前に行くと……そこには誰もいなかった。

 

「見張りが1人もいないわ……」

 

「うん、昨日見た時は普段より多いくらいだったけど……戦闘の後も見当たらないし」

 

「ああ、もしかしてヘインダールの報復があったかと思ったが……」

 

虚空を使い、中を探ってみると……建物の中から人の気配が感じられなかった。 正確には見覚えのある気配が1つあるが、それ以外は誰もいなかった。

 

「どういう事だ……?」

 

「静か過ぎるね……どうなっているんだろう?」

 

「中に入って確認してみましょう。 なにが起きているのか分かるかもしれないわ」

 

「おそらくゼストさんも先にいるだろうし、事情を聞いてみよう」

 

ドアを開け、数ヶ月ぶりにフェノール商会の事務所に入った。 すると玄関先にゼストさんがいた。

 

「ーー来たか」

 

「ゼストさん、これはどういう事ですか?」

 

「どうもこうもない……事実だけを言えば、フェノールが失踪した」

 

市民に続いてフェノールまで……室内を見渡すが、争った形跡はなく。 改めてヘインダールではない事もわかる。

 

「あれ? 確か捜査部は、フェノールの動向を監視していたよね? マフィア達がいつ消えたから把握してないの?」

 

アリシアのその質問に、ゼストさんは口籠るが……ここで時間を取られたくないのかすぐに口を開いた。

 

「……昨晩、地上本部に犯行予告が届けられた。 ミッドチルダ空港に爆発物を仕掛けるという予告だ」

 

「爆発物……⁉︎」

 

「そんな事が……」

 

「急遽、捜査部が集められ、空港での警戒にあたる事となった……上からの指示でフェノールを監視していた人員をそちらに回すという形でな」

 

「あ……」

 

また上からの圧力か……ここまで来ると嫌気を超えてため息しか出てこない。

 

「それで監視が引き上げた後に消えちゃったわけか……」

 

「……怪しいね。 それと、その爆発物の予告はどこまで本当なのですか?」

 

「さあな……まったく、上層部は何を考えている……!」

 

「ゼスト捜査官……」

 

ゼストさんは行き場のない怒りを抑え、拳を固く握り締めた。 ゼストさんの気持ちは分からなくもないが……

 

「ーーいずれにしても、このままでは何が起きているのか把握することすら困難です。 ここは建物内部を一通り調べてみませんか?」

 

「なに……?」

 

「管理局とフェノールの微妙な関係はもちろん理解しています。 捜査令状がない状態で家宅捜査を行なったらどんな反撃材料を与えるか……そのリスクも重々承知しています」

 

「レンヤ……」

 

「……ならば何故、そんな無謀なことを言い出す?」

 

「“それ所ではない状況”になっている可能性が高いからです。 昨日から今朝にかけて明らかになった事をお伝えします」

 

緑色のタブレットが、あのD∵G教団が作り出した薬物である可能性が出てきたこと……そして薬を使用していた人達が一斉に姿を消した事を説明した。

 

「なるほど……奴等は息を潜めていたわけか。 だがしかし……」

 

「事は人命に関わる話です。 もしかしたら失踪者達の情報がここに残されているかもしれません。 ゼストさんが納得できないのなら、せめて俺達の……いえーー俺の独断専行をこのまま見逃してくれませんか?」

 

俺の責任問題だけなら、俺が隊長を辞めるだけで済み。 対策課が取り潰さることはないだろう。

 

「ちょっとちょっと、自分ひとりで責任を被ろうとしないでよ。 水くさいなあ」

 

「もちろん、私達も付き合うわ。 対策課が取り潰しされたとしても、見過ごせる状況じゃないもの」

 

「そうだよ、レンヤ君。 それに、私達はいつでも一蓮托生なんだから」

 

「皆……」

 

3人の言葉に、思わずジーンと来てしまった。

 

「ふ、強引だな……違法捜査による証拠物件は法的な証拠能力を認められない。 連中がどんな証拠を残していても見て見ぬフリをする必要があるぞ?」

 

「それは構いません。 今、必要なのはこのミッドチルダにおいて何が起こりつつあるのか……それを見極めることですから」

 

「……ふ、一丁前に言う。 だが、それが分かっているのならとやかく言うつもりはない。 ならば私の後に付いて来るといい」

 

「え……」

 

突然の申し出に、少し呆けてしまった。

 

「別に付いてこなくても構わないのよ?」

 

「ゼストさんの立場もありますし……」

 

「お前達に腹をくくらせておいて、私が背を向けるわけにはいかん。 今からお前達は私の指揮下に入ってもらう。 全責任は私が持つ……異論は認めんぞ?」

 

「はい……!」

 

「やれやれ、素直じゃないなぁ」

 

もちろんバレた時にはちゃんと名乗り出るが、今はこれでいいだろう。 そしてゼストさんの先導でフェノール商会事務所内の捜索が開始された。先ずは正面にある以前に通された応接間に入った。

 

「あんまり……証拠になりそうなものはないね」

 

「こんな場所に置いておく程、間抜けになっているわけもないからな」

 

あるとしたら会長室のはずだが……と、その時すずかが辺りを見回した。

 

「すずか、何か気付いたの?」

 

「うん……なんだかこの部屋、機械の駆動音が聞こえるの。 この部屋に仕掛けがありそうだね」

 

「そうか。 俺も似たような感じがする。 以前にも気付いたけど、この部屋のどこからから風を感じる……下からだ」

 

あの時はふと気付いただけだし、目の前にゼアドールもいたから頭の隅に置いていたけど……

 

「下? よし、ここをーー」

 

「打ち抜くのはやめろ」

 

アリシアを止めた後に応接間の中を探し回り、大きめの草原ーーおそらくアルトセイム辺りーーの絵が飾られていた。

 

「この絵……」

 

「絵は一級品だけど、額縁が合ってないわね。 もしかしてーー」

 

アリサが額縁の出っ張りを押すと……絵が横にスライドして2つの鍵穴が出て来た。

 

「これは……」

 

「すずかの予感が的中だね。 なんか鍵穴みたいなのが2つ付いているけど……」

 

「仕掛けのスイッチみたいなものだね。 両方解除したら何かおこるかも」

 

「……ここにそれらしき鍵はないな、他の場所を捜索するぞ」

 

「はい」

 

ここの捜索を後にして、部屋を出た。 と、部屋を出る前にアリシアが金の台座を持って来た。 アリサいわくメッキらしいが、念のため持って行った。

 

次に他の部屋や、上の階を調べ。 3階の倉庫に入いり、ふと本棚に不自然な隙間が空いているのを見つけた。

 

「なんだ? 誰かがここの本を持って行ったのか?」

 

「ここの人が読書家とは思えないけどねぇ……」

 

「ーーううん、違うみたい」

 

すずかは隙間に手を起き、しばらくして手を離した。

 

「どうやら感圧装置が下に取り付けられているみたい」

 

「まったく、セキュリティのつもりか。 アリシア、あの台座を置いてみろ」

 

「あ、そうか」

 

アリシアはあの金の台座をその隙間に置くと、台座は隙間にぴったり収まり……そして駆動音が聞こえると横の壁が下がって道が開いた。

 

「しかしまあ、随分と趣味的な仕掛けだね。 何で普通の鍵とかにしないのさ」

 

「し、しかもかなりの費用がかかりそうだね……」

 

「カクラフの趣味だろう。 目新しくケレン味のあるものがとにかく好きだと聞いている」

 

「付き合わされる部下は大変ね」

 

軽く同情するが、先に進めるのならと割り切る。 先に進み、今度は倉庫らしき場所にたどり着いた。 外で見たことのある古めかしい建物の内部のようだ。

 

「ここは……古い建物を改修した倉庫みたいですね」

 

「捜査部の推測によれば、連中の武器庫になっていると目されているエリアだ。 実際に入るのはもちろん初めてだがな……」

 

「ーーん? この気配は……」

 

その時、アリシアが何かを感じ取った。 辺りを警戒すると、奥の方から何か……いや、覚えのある気配。 これはーー

 

「グリードが来るよ! 気を付けて!」

 

「なに……⁉︎」

 

陰から現れたのは機械型のグリードだった。 デバイスを起動し、卵型で目玉のついたグリード……RD006ーF数台と向かい合った。 現存する異界迷宮で見たことのあるタイプだが、現実世界にいるとは思わなかった。

 

「これは……!」

 

「操るマフィアもいないのになんで⁉︎」

 

「詮索は後、来るわよ!」

 

RD006ーFはミサイルポッドをせり出させると、ミサイルを何発も撃ってきた。

 

「室内でミサイルを撃つなっての!」

 

《モーメントステップ》

 

地面を踏み込み……一瞬で刀を振り上げながらミサイルを通過すると、ミサイルは全て斬り裂かれ、爆発した。

 

「だったらミサイルを斬るんじゃないわよ!」

 

「アリサちゃん、文句は後だよ」

 

《スナイプフォーム》

 

後方に向かった爆風はアリサが剣を振り、剣圧で爆風を相殺し。 すずかが全てのRD006ーFの目玉らしき部分を狙撃した。

 

「よし、纏めてーー」

 

《エナジーボム》

 

「吹っ飛ばす!」

 

間髪入れずアリシアが手の平サイズの魔力弾を投げ、小規模だが連続して魔力エネルギーの爆発が起き……全てのRD006ーFを一気に吹っ飛ばした。

 

「出る幕もなかったか……いいチームになったな、レンヤ」

 

「いえ、そう褒めることのでもないですよ」

 

「でも、何でグリードが……」

 

「あの犬型グリード以外にも取ってきたのがいたんだろう。 まったく、悪趣味なセキュリティな事だ」

 

「どこかの次元犯罪者が闇から流したという噂はあるが……一体どれだけのグリードを所持しているのだ?」

 

「ふう、いかにもあの会長らしい趣味ね」

 

「簡単には進めなさそうだね……」

 

それから武器庫内を捜索し、フェノールが失踪した手がかりを見つけられなかったが、応接間に使える鍵を見つけた。 その後も密貿易用の倉庫にも入り、グリードに阻まれながらも同様に鍵を見つけた。 フェノール商会の事務所内を捜索し、手に入ったのは2つの鍵……これを持って応接間に向かい、先ほどの鍵穴に差し込んで回した。 すると応接間にあったテーブルが床に沈んで行き、地下に向かう階段が現れた。

 

「まさかこの部屋にこんな仕掛けがあったなんて……」

 

「しかも足跡を見る限り頻繁に使っているみたいだ……」

 

「カクラフあたりが嬉々として使っていそうだな。 となると……この先が奴の私室か?」

 

「そういえば、会長室とかそれっぽいのは無かったな」

 

「この先に、何か手がかりがをあるかもしれないね」

 

「よし……降りてみよう」

 

隠し階段を降りると、少し長い通路が奥に続いていた。 警戒しながら進むと、突き当たりに今までとは雰囲気の違う扉があった。

 

「あそこがカクラフ会長の私室か?」

 

「いかにも豪華そうで、それっぽいね」

 

「……とにかく中に入ってみるぞ。 そろそろ連中が消えた原因を見つけなければーー」

 

その時、目の前の空間が歪み……赤い渦が現れると一体の機人型のグリードが現れ、その左右に支援機らしきグリードも出現した。 それぞれ武器を構え、グリード……レジェンネンコフと向かい合う。

 

「これは……!」

 

「さしずめ、ここの主かもね⁉︎」

 

「でもどうやって現実世界に……⁉︎」

 

「お前達、気合いを入れろ! 今からこのグリードを撃破する!」

 

「了解です!」

 

レジェンネンコフは手に持った刀を振りかぶると、力任せに横に振ってきた。 回避しようにもこの通路は狭く、受け止めようとした時……ゼストさんが槍を構えて前に出た。

 

「ふんっ!」

 

ゼストさんが渾身の槍を振るい、レジェンネンコフの刀と衝突した。 その衝撃は凄まじく、衝突による余波が辺りに響いた。

 

「ゼストさん!」

 

「行け!」

 

「! ……了解!」

 

ゼストさんがレジェンネンコフと鍔迫り合いをしている隙に、もう片方のグリードに向かって行く。 そこにアリシアが並んで走って来た。

 

「レンヤ! 繋げるよ!」

 

「え、繋げる?」

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《スタイルチェンジ、リンクスタイル》

 

フォーチュンドロップがアリシアのバリアジャケットの細部を変化させ、アリシアが俺の肩に手を置くと……何かの繋がりを感じた。

 

「これは……」

 

上手く説明出来ないが、アリシアの動きや次の行動が手に取るように分かった。

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

その掛け声だけでお互いの行動を理解し、俺とアリシアは取り巻きのグリードを踏み付けるに蹴り。 その勢いでレジェンネンコフの背後から接近して交差するようにお互いの刀で斬りつけた。

 

《リンケージオールグリーンです》

 

「当然! 私とレンヤは相性抜群なんだから!」

 

「……よく分からないが、これはお互いの動きが分かるシステムなのか?」

 

「そうだよ、互いに魔力を共鳴させることで繋がり、高度な連携攻撃へと発展させる新しいスタイル……その初歩の運用がこの陸上戦戦闘システム……戦術リンク!」

 

初歩でこれとは、発展したらとんでもない物になりそうだな。 戦術リンク……チームにおいては画期的な発明だな。 それにやっぱりとんでもない物を作ってたな……

 

「っていうか、これ絶対適正とか必要だろ! 何の断りもなく勝手に俺に使うな!」

 

「ま、まあ……結果オーライ?」

 

「ふざけるな!」

 

リンクスタイルの説明と無駄話をしている間にも俺とアリシアは攻撃の手を緩めてはいなく。 隙間ない連携でゼストさんのフォローをしている。

 

「すずか、こっちも負けていられないわよ!」

 

「うん!」

 

レジェンネンコフが刀を頭上から振り下ろした瞬間にアリサが飛び上がり、刀を横に弾き。 すぐさますずかが槍で三段突きを繰り出した。 続けてゼストさんが追撃をかけようとするが……レジェンネンコフは回転斬りで俺達に距離を取らせ、その隙に取り巻きのグリードがレジェンネンコフを修復した。

 

「させないわよ!」

 

《カノンフォルム、ブレイズキャノン》

 

アリサが修復を止めようとフレイムアイズを射撃形態の変化させ、炎を纏った魔力弾でグリードを撃ち抜き、光となって消えて行った。

 

「おおおおっ!!」

 

裂帛の声と共にゼストさんがレジェンネンコフの頭に捻りで勢いのついた槍を振り下ろし、膝をつかせた。

 

「スノーホワイト!」

 

《アイスブランチ》

 

槍を地面に突き刺し、氷の枝がレジェンネンコフに伸び。 氷の枝がレジェンネンコフを拘束した。

 

「飛ぶぞ!」

 

「了解!」

 

そして俺とアリシアは戦術リンクの恩恵で同時にレジェンネンコフの左右に飛び上がり……

 

四剣(しけん)交牙刃(こうがじん)!』

 

二刀による4つの斬撃がレジェンネンコフの胴体に重なった2つのX字に斬り傷を作り……光を放ちながら消えて行った。

 

「ふう、手こずったな……」

 

「なんでアレをヘインダールにぶつけなかったのか不自然なくらいだよ」

 

「おそらく制御が難しかったんじゃないかな? 一歩間違えれば暴走する危険もあるし……」

 

「もし市街地に放たれていたら大変なことになっていたわね……」

 

「ああ、まったくだ……」

 

今のフェノールにある少しの理性に感謝し、本来の目的である会長室に入った。 中はいたるところに高級そうな調度品があり、とても豪華そうな部屋だった。 今までこういった物を何度も見たが、やっぱり違和感を感じて慣れない。

 

「豪奢な部屋だね……さすがにアザール議長の部屋ほどでは無いけど……」

 

「まあ、あれと比べたらなぁ………あ」

 

すぐ側にゼストさんがいるのについうっかり口を滑らせてしまった。

 

『ちょっと2人共……!』

 

『迂闊過ぎるわよ!』

 

「えっと、これにはその……」

 

「ふ……何を今更焦っている? 黒の競売会(シュバルツオークション)についての経緯はとっくに聞いている。 捜査部としては長年狙っていた獲物を横取りされた気分だがな」

 

知りたいが故に出しゃ張り過ぎた感もあったが、あの時は招待状が手に入ったチャンスをものにしたかったので隅に置いていたが……

 

「は、はは……そ、それはともかく、やはりここが会長室のようですね。 それで、フェノール内を一通り探し回りましたが……」

 

「ああ……結局マフィアは1人も残っていなかったし、失踪者もここに居いようだ。 何か手がかりがあるとしたらこの部屋以外にあり得ないだろう……時間が惜しい、手分けして調べるぞ」

 

「はい!」

 

「さぞ色々なものが見つかりそうね……」

 

手分けして物色を開始し、しばらく続けると奥の方に頑丈そうな金庫があった。 鍵穴を見ると前みたいにピッキングツールで解除するのは難しそうだ。

 

(んー、他に目ぼしい場所はないし、ここが1番怪しいか。 そうなると……鍵がないか探してみるか)

 

あの会長が鍵を携帯してない事を前提にすればこの部屋にある可能性が高い。 となると人目に触れない、もしくは会長以外が触ってはいけない場所にあるかもしれない。 戸棚にはビンテージ物の高級酒が並んでいた。

 

(流石に高級そうなものばかりだな……ひょっとしたら……)

 

俺はボトルを1つずつ持ち上げて下を確かめると……金庫の鍵を見つけた。

 

大正解(ビンゴ)……!)

 

部下達が間違っても触れそうにない場所……ありきたりな隠し場所だが、ここは素直に貰っておく。 すぐにこの鍵を使って金庫を開けると、中に幾つかファイルがあった。 とりあえず手に取ると、それはネクターの入荷リストと出荷リストだった。 これは決定的な証拠だ。

 

(あった……! やっぱりマフィアが薬物を……そしてネクター……教団が造った薬物……一体どんな関係が)

 

ここで1人で考えても仕方ない。 皆を呼び、他の資料も持ってテーブルに広げ、ゼストさんはリストに目を通した。

 

「ーー失踪した市民は全てリストに記載されていた。 これでマフィアが薬物を広めた裏付けは取れたわけだ。 そして例の教団が造ったというネクターとやらか……」

 

「一体どうしてマフィアがそんなものを……入荷リストによれば何者かの提供を受けているのは間違いなさそうね。 やはりその人物が教団関係者なのかしら……?」

 

「間違いないだろう。 書類によると、数年前から付き合いのある人物みたいだな。 グリードに薬物を投与して簡単にコントロールする技術なんかも提供していたらしい」

 

「なるほどー、機械だけでどうやってあんな大量に操っていたか不思議に思っていたけど……」

 

「全てはその教団関係者が協力していたわけか。 しかし、何者だ? やり取りの頻度から見てミッドチルダの人間であるのは間違いないようだが……」

 

「……分かりません。 ですが、失踪者達の行方もマフィア達の不在の理由も……全てはその人物が握っているのではないかと思います」

 

それにしても犬型のグリードはともかく機械型のグリードにまで通用する薬物か……それほどの腕の持ち主なのか、それとも……

 

「まずは奴らの拠点を見つけないとね。 それからそれ相応の報いを受けさせないと……」

 

「うん、どう考えてもブチのめす事、確定の外道だしね。 でもそうなると……どうやって炙り出すかだけど……」

 

「そうね……人手が必要になるわ。 消えたマフィアの対処と失踪者の捜索に加えて、空港の爆破予告もある……上層部の圧力が無ければ何とかなったでしょうけど……」

 

「クッ……まさか警邏隊局長までもが完全に取り込まれていたとはな。 そうでなければ全管理局を挙げた対策本部を設立できたものを……!」

 

ゼストさんは怒りのあまりリストをテーブルに叩きつけた。

 

「ゼストさん……」

 

「……とにかく一体ここから出ましょう。 ゼストさんは引き続き上層部の動向を見つつ空港の警備を続けてください。 後は俺達が引き受けます」

 

「だが、どうする気だ? 人手も時間も足りない筈だ」

 

「俺達なら大丈夫です。 そう……俺達、VII組なら」

 

「え、まさかなのは達に協力を⁉︎」

 

「今は四の五の言っていられない。 VII組は優秀だ、こっちも管理局とかの体制を気にしていられない。 それにVIIなら上層部の虚をつけるかもしれない」

 

たが急がないといけないかもしれない。 俺達は異界対策課、今やっている事ははっきり言えば捜査部の真似事……この事が露見したら対策課まで動かなくなってしまう。

 

「……分かった。 そちらはお前達に任せよう。 だが気をつけろ、今回の相手は一筋縄ではいかないぞ」

 

「分かっているよそんなの。 それにそろそろ教団とは決着を着けたいし」

 

「これも私達の選んだ道です。 最後まで進まないと、気が済みません」

 

「それにいつもの事よ、気にしなくてもいいわよ」

 

 



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127話

 

 

同日、15時ーー

 

俺達はVII組に協力の要請をするため、他の下級生に話が聞かれない第3学年VII組の教室で事情を説明していた。

 

「ーーなるほど。 そんなことになっていたとはな」

 

「うーん、最近失踪者が続出しているって言う噂があるのは知っていたけど……」

 

「こっちも情報は掴んでいたけど、完全に出遅れちゃったな」

 

「しかもよりによってあの教団が出てくるなんて……」

 

説明を終えると、各自はことの重大さを実感していた。

 

「それにしても、まさか教団がフェノールを隠れ蓑にしとったとはなぁ……計算高いカクラフ会長にしては少し違和感を感じる気もするんやけど」

 

「確かに、あの教団を匿ったりしていると分かったら放っておかない所は多いハズだよ。 管理局はもちろんだけど……聖王教会とか他の組織とかも」

 

「となると……まだ見えていない事情が存在しているのか?」

 

「その可能性はあるけど……でもそれを確認する時間はなさそうだね。 今は手分けして、マフィアと失踪者を追わないと」

 

「おそらくそれが、教団の正体を炙り出すことにも繋がりますね」

 

「え、てことは……」

 

「協力してくれるの……?」

 

すずかがおずおずと聞いてみると、全員強く頷いてくれた。

 

「うん、もちろんだよ!」

 

「市民から失踪者が出ている時点でもう無関係ではいられないからね」

 

「それに薬物被害もなぁ」

 

「……助かる。 どうかよろしくお願いするよ」

 

「うん、こちらこそ。 そうと決まれば、役割分担を決めないといけないね」

 

「今日中に目ぼしい場所は回れるようにしておきたいな」

 

「そうだね……とりあえずあたりを念威で探ってみるよ」

 

そうと決まれば皆はさっそく行動を開始し、あっという間に教室から消えて行った。 そして残った俺達4人だが……これ以上目立つ訳にもいかないので一旦寮に戻ることにした。

 

「ただいまー」

 

「あ、帰ってきた! おかえりー!」

 

帰宅と同時にまたヴィヴィオがタックルしてきて、それを甘んじて受け止めた。 ふと、ヴィヴィオから視線を上げると……そこにはクロノがいた。

 

「やあ、お邪魔してるよ」

 

「珍しいね、ここにいるなんて」

 

「ちょっと事情ができてね。しばらくの間ユノを預かってくれないか?」

 

「ユノちゃんを?」

 

視線をクロノの足元に移すと、ユノが床に座ってアタックと遊んでいた。 クロノはソファーから立つと俺達を部屋の隅に寄らせ、事情を説明してくれた。

 

「……今、管理局はフェノールや薬物の一件で不安定になっているんだ。 父さんと母さんはこの件で家にいられないし、ユノの安全を考えると本局の住宅区に1人で居させるのは少々危険だと思ってここに来たんだ。 ここなら安心してユノを任せられる」

 

「えっと、私達は常にここにいることは出来ないんだけど……」

 

「ファリンもそこそこ強いし、なのはちゃん達もいるから下手な護衛より安心できるよ」

 

「……上層部も信用出来ない以上、どこに内通者がいるか分からないからな。 クラウディアのクルーは大丈夫か?」

 

「ああ、全員信用出来る部下だ、問題ない。 ーーそれじゃあ、僕はこれで……ユノをよろしく頼む」

 

「ええ、請け負ったわ」

 

クロノはそれだけを言い残して寮を後にした。 ユノはヴィヴィオと一緒にヴィヴィオの部屋に遊ぶ事になり、それにアタックが付いて行った。 そして残った俺達は……

 

『………………………』

 

静かに食堂の席に座っていた。 自分のメイフォンを目の前に起き、今日来る予定のはずの連絡を待っていた。

 

「ああもう! 遅い、遅すぎるよ! あの先生、午後には連絡をくれるんじゃなかったの⁉︎」

 

痺れを切らしたアリシアが怒鳴るように叫んだ。 そう、昨日ホアキン先生に依頼したネクターの成分調査、その結果が今日の午後に来るはずなのだが……3時のおやつ時を過ぎても先生からの連絡はなかったのだ。 ちなみにその3時なので、自分で作った菓子を皆で食べて待っていたりする。

 

「医療院の受付に連絡したら、どうやら研究室に閉じこもって熱心に調べているらしいけど……」

 

「薬の成分の解析に手こずっているのかもしれないよ……もしくはサボって釣りをしている、とか?」

 

「さ、さすがにそれは無いと思うけど……」

 

「それでしたら、もう自分から行った方が早いのでは?」

 

紅茶のお代わりを受け取りながら、ファリンがそう提案してきた。 アリサは紅茶を一口飲みながら、それはいいと頷いた。

 

「ふう……そうね、被害者が出ている以上、薬の成分は確かめておきたいわ」

 

「私の方でもそれなりに調べたけど……ついでだったし、1割も分からなかったなからぁ」

 

「とりあえず、行くだけ行ってみよう」

 

ホアキン先生に進展を聞くために聖王医療院に向かった。 その途中、ミッドチルダ北部から郊外へ向かうバスの停留所に人が多めに立っていた。

 

「あれ……結構並んでいるな?」

 

「この時間にしては珍しいわね」

 

「……おかしいよ。 確か5分前に前の便が出たはずだけど……」

 

「そうなのか?」

 

「ふーん……」

 

アリシアは車を降りて、近くの男性に話しかけた。

 

「すみません、もしかしてバスが遅れているんですか?」

 

「ん? ああ、そうみたいだ。 俺も20分くらい前から待っているんだが、中々来なくってさ。 参ったな……面会時間を過ぎちまうよ」

 

「そっか……ありがとね」

 

アリシアは男性にお礼を言って戻って来た。

 

「やっぱり遅れているみたい」

 

「何かトラブルでもあったのかしら?」

 

「なら、とりあえず私達が行って確かめればーー」

 

ピリリリリリリリ♪

 

その時、また唐突にメイフォンが着信した。 どうやらゼストさんからのようだ。

 

「はい、異界対策課、神崎 蓮也です」

 

『ゼストだ。 そちらの状況はどうだ』

 

「はい。 VII組の協力は無事、取り付ける事ができました」

 

俺はゼストさんにVII組の全員がマフィアと行方不明者達の捜索を引き受けてくれた事を説明した。

 

『そうか……レンヤのクラスメイトだ。 何らかの成果は期待できるだろう。 こちらはようやく、マフィアの姿が消えた事実に上が騒ぎ始めたところだ。 だが、まともに動けるにはもう少し時間がかかるかもしれん』

 

「了解しました。 そういえば……空港の件はどうなりましたか?」

 

『そちらは完全にガセだった可能性が高いな。 サーチャーで空港内をくまなく調べたが、何も出てこなかった』

 

「やはりマフィアの動向と何らかの関係が……?」

 

『今、その線も探っている。 お前達も今は捜索を続けているのか?』

 

「いえ、実はこれから聖王医療院に向かうところです。 成分調査の連絡が遅れているので直接訪ねてみようかと」

 

『ふう……そういう時はもっと正確に時間を決めておけ』

 

「す、すみません」

 

確かに大雑把過ぎたか……

 

『薬の成分が判明すればこちらも上を動かしやすくなる。 その担当した医師には期待したいところだが………そういえば、何という名前の医師なんだ?』

 

「はい、ホアキン・ムルシエラゴと言って神経科と薬学担当の准教授です。 30台半ばくらいですけど、かなり有能という評価ですね」

 

『ふむ、それなら期待はできそうだな………む?』

 

突然、何か引っかかる事があるのか、ゼストさんが怪訝そうな声を出した。

 

「? どうかしましたか?」

 

『今、ホアキン・ムルシエラゴと言ったか? それは眼鏡をかけた飄々とした感じの男か?』

 

「ええ、そうですが……面識があったのですか?」

 

そう聞いてみるが、考え込んでいるのかゼストさんは黙ってしまった。

 

「あの、ゼストさん……?」

 

『……会ったのは2ヶ月ほど前のことだ。 新立会の時ミゼット議長を観察しようとした犯人ーーエリン元秘書の取調べをしている最中にな』

 

「え」

 

『すでに聞いているとは思うが、エリンは完全に錯乱していた。 そこで仕方なく、彼女が以前から相談していたというカウンセラーを聖王医療院から呼び寄せたんだ。 それでようやく、まともに事情聴取が出来るようになったのだが……』

 

「まさか、ホアキン先生がエリンの……主治医だったのですか?」

 

『ああ、その時はさすが聖王医療院の医師だと感心していたが……」

 

お互い黙ってしまう。

 

「……分かりました。 本人にそれとなく当たってみます」

 

『ああ、頼んだぞ。 また連絡する』

 

そこで通信が切れたが……俺はしばらくメイフォンを耳に当てたもまま放心気味になり。 その後ゆっくり耳から離した。

 

「どうかしたの? 妙な話をしていたみたいだったけど……」

 

「ミゼット議長の元秘書の方とホアキン先生が何か関係してたの?」

 

「ああ……」

 

俺はゼストさんからの情報をアリサ達に伝えた。

 

「それは……」

 

「……考えてみれば、あの時のエリンの態度と異常な馬鹿力はどう考えても……」

 

「鉱員のクイラさんのケースと似ているね。 しかもその主治医だった人がホアキン先生というのは……」

 

あらぬ疑いかもしれないが……前例があるのなら何故昨日の時点で言わなかったのか。 2ヶ月とはいえ、そうやすやすと忘れられる事件でもなかったし、主治医ならなおさら……

 

「ちょっと待ってなさい。 医療院の受付に確認をとってみる。 ホアキン先生が今医療院にいるか確認してみるわ」

 

「ああ、頼む……」

 

アリサが確認するようにメイフォンを操作してから耳を当て、しばらく待ったが……

 

「…………………駄目、出ないわ。 話し中というわけでも無さそだけど……」

 

この状況を証明するように医療院から応答はなかった。

 

「ーー遅れているバスに連絡の付かない医療院……そして新たに判った関係かあ……」

 

「……さすがにちょっと出来過ぎているかも」

 

「そうだな……じきに日も暮れる。 急いで聖王医療院に向かおう。 急いで自体を把握しないと」

 

「ええ……!」

 

「ちょっ⁉︎ まだ私が乗ってないよ!」

 

アリシアが乗り込むと同時に車を発進させ、医療院に向かった走った。

 

「あれは……!」

 

その道中、道路脇にバスが停めてあった。 おそらくクラナガンと医療院を往復して運行するバス……先ほどの停留所に来るはずだったバスだろう。 俺達は車から降りて、バスに近寄った。

 

「どうしてこんな場所を停車を……しかも誰も乗っていない?」

 

「そうみたいだね……それに、この辺りにそれらしき人影もないし」

 

アリシアがサーチャーで付近を調べるが、結果は出なかった。

 

「……マフラーが少し温かい……もうかなり時間が経っているよ」

 

「それに乗客や運転手はどこに……? 襲われた雰囲気でもなさそうだし……」

 

「ああ……ちゃんと路肩に停車している。 運転手が自分の意志でこちら側に寄せて停車したんだろう。 もしくは停車せざるを得ない何らかの事態が起きたのか……このまま中も調べててみよう」

 

「ええ……」

 

バスの中に入り、車内を見渡した。 やはり人はいなく、座席には花や果物といった見舞いの品がそのまま放置されていた。

 

「……どうやら医療院に向かう途中だったみたいだな」

 

「ぬいぐるみ……子どもの患者へのお見舞いかな……?」

 

「うん……そうだろうね」

 

異常事態が発生したのは間違いない。 一度この事を伝えるために異界対策課にいたソエルに連絡した。

 

「ああ、ああ………分かった。 連絡はそっちに任せる。 こっちはこのまま医療院に向かう。 ーーわかってる。 十分気を付ける」

 

通信を切り、皆の方を向いた。

 

「ソエルちゃんは何て?」

 

「とりあえず陸士108部隊に連絡してくれるようだ。 ゲンヤさんに協力を要請してみるらしい」

 

「そう……助かったわ」

 

「ゲンヤさんなら絶対に力になってくれるからね」

 

「とりあえず私達はこのまま医療院に向かう……?」

 

「ああ、医療院はもうすぐだし、ひょっとしたら乗客が歩いて医療院に向かった可能性もある」

 

「ま、お見舞いの品を置いている時点でただ事じゃなさそうだけど……」

 

「とにかく急ぐわよ。 このままだと日が落ちるわ」

 

「了解だよ」

 

急いで聖王医療院に向かったが、到着する頃には日が落ちて夜になってしまった。 正面の門はすでに閉じており、医療院の中は屋外にある照明はついているが……建物の明かりは点灯してなかった。

 

「日が落ちてしまったわね……でも、これは……」

 

「外の照明はともかく建物の明かりは が点いてない。 どう考えも様子がおかしいよ」

 

「それに、まだ夜も早いのに正門が閉じられている。 警備員の人はどこに……」

 

「とにかく、中の様子を確認してーー」

 

グルルルル……

 

その時、背後から唸り声が聞こえてきた。 そして後ろから数体のアーミーハウンドが現れた。

 

「こいつらは……⁉︎」

 

「マフィアのグリード……!」

 

「っ……気配はなかったのに⁉︎」

 

「! 後ろからもくるよ!」

 

すずかの声と同時に正門が開けられ、失踪していたフェノールの構成員2人が出てきた。 アーミーハウンドと合わせて前後に挟み撃ちされた。

 

「あんた達は……!」

 

「姿が見えないと思ったらこんな場所に……⁉︎」

 

「あなた達……一体何をしているの!」

 

質問するが、マフィア2人は無反応で……問答無用で武器を構えた。

 

「くっ……」

 

「何なの、この人達……?」

 

「来るわよ!」

 

マフィア2人はあり得ない身体能力で、だが何の考えもないかのように真っ直ぐに突っ込んできた。

 

「ぐっ、何て力だ……!」

 

「まさか……この人達もうネクターを……⁉︎」

 

攻撃を受け止め、異常な力に驚く。 だが驚いている暇もなく後ろからアーミーハウンドが牙を向いて飛びかかって来た。 すぐに男から離れ、アーミーハウンドから避けると同時に顔に蹴りを入れて蹴り飛ばした。

 

「うわ! グリードも強くなっているよ⁉︎」

 

「こんなの……一組織で出来る事じゃ……」

 

「確かに厄介だな。だがーー」

 

いくら攻撃力が上がろうと、素早くなろうも。 動きが以前と似ていて単調ならーー

 

「はあっ!」

 

またあり得ない速度で直進して来たマフィアの男2人だが……攻撃を避け、納刀した刀の鞘で両腕と両足、そして鳩尾を一瞬で突いた。 すると2人はデバイスを手放し、膝をつかせて無力化した。 いくら頑丈になって、痛みに強くなっても……隙だらけなら意味はない。

 

「行くよ……」

 

《ネイルフォーム》

 

「やあっ!」

 

すずかはスノーホワイトを槍から両手に爪のあるグローブに変形させ、爪を振り下ろしてきたアーミーハウンドに胴を斬り裂いた。

 

「捕らえる!」

 

アリサが残りのアーミーハウンドを纏めてチェーンバインドで拘束し、一か所に集め……

 

《アステロイドインパクト》

 

「行っけぇ!」

 

アリシアがその周りにいくつもの魔力球を浮かばせ、アリシアが指を鳴らした瞬間、爆発した。 アーミーハウンドは大きなダメージを負ったが、まだ健在していた。

 

「すずか!」

 

「うん!」

 

《アイシクルクロウ》

 

すずかがネイルフォームの爪に氷を纏わせ、爪の長さを延長させ。 両手を内側に向けて交差するように爪を振り下ろし、アーミーハウンドをまとめて斬り裂いた。

 

「全く……以前とは比べ物にならないわね」

 

「やっぱり例の薬で身体能力を強化してみるみたいだな……グリードの方も同じだろ」

 

「それにしても……この人達一体どうしたんだろう? 一言も喋らないで黙々と襲ってきて……」

 

「薬の副作用かもしれないよ。 感情が希薄になっているのかも……」

 

「……ゥルルル……」

 

その時、蹲っていたマフィア達が突然獣のような唸り声を上げたと思ったら……紫色のオーラのようなものを放ちながら立ち上がった。

 

「こいつら……!」

 

「嘘でしょ……完全に無力化したはずなのに⁉︎」

 

「これが、ネクターの力……!」

 

「くっ、すぐに気絶させるわよ!」

 

また制圧しようとアリサが剣を構え直した時……

 

「! この気配はーー」

 

「ーー失礼しますよ」

 

横から気配を感じた瞬間、飄々とした声が同じ方向から聞こえてくると……2個の紋様が刻まれた石が飛んできて、マフィア達に直撃した。 マフィア達は鈍い声を上げるとオーラが消え、そのまま倒れ伏した。

 

「今のは……!」

 

空白(イグニド)ーー殺したのか⁉︎」

 

今の攻撃には見覚えがあり、その人物の名を呼ぶと……またどこからともなく黒い帽子を目深く被った黒いスーツの男ーー空白が現れた。

 

「ふふ、脈絡を叩いて気絶させただけです。 いくら身体を強化したとしてもしばらく寝ているでしょう」

 

「そうか……」

 

「しっかし、相変わらず神出鬼没だね……フェノールの動向を探ってここに来たって所?」

 

「ある方の依頼でしてね。 しかし思っていた以上に厄介な事になっているようですね。 ネクター……噂としか思っていませんでしたが」

 

すでにそこまでの情報は入手しているようだな。

 

「どうしてその名前を……」

 

「貴方……一体どこまで知っているのかしら?」

 

「ふふ……あなた達が掴んでいる程度です。 フェノールの失踪と、D∵G教団の存在……それ以上のことは何も」

 

「そうか……」

 

それを聞いてからようやく警戒しつつも武器を納めた。 だがこのままだとお互い、無駄に睨み合うだけだ……

 

「ーーそっちの目的はどうあれ、今は緊急事態だ。 おそらく医療院内はマフィアで占拠されている可能性も高い。 一刻も早く医療院関係者の安全を確認しないといけない。 だから空白ーーこの場は協力してくれないか?」

 

俺の発言にアリサ達はおろか空白自身も驚きを表した。

 

「ええっ……⁉︎」

 

「ちょっと、レンヤ……」

 

「ふふ……何を言い出すかと思えば。 あなた達は本来、取り締まるべき犯罪者の力を必要とするということですか?」

 

「言っただろ、緊急事態だって。 それに、お前はお前で真実を知りたいようだし。 だったら医療院関係者を助けて話を聞くメリットはあるだろう?」

 

「ふふ……あくまで対等な協力関係ということですか。 ーー分かりました。 その誘いに乗らせてもらいましょう。 あなた達と一緒なら安全かつ、楽に事が運びそうです」

 

「ああ、存分にこき使ってやるよ」

 

軽く空白と売り言葉に買い言葉の応酬をし、提案の了承を確認した。

 

「まったくもう……思い切りがいいというか」

 

「こういう時のレンヤ君って大胆過ぎるよね……」

 

「まあ、グダグダ言っている場合でもないのは確かだし。 それじゃあ、さっそく、医療院内の探索を始める?」

 

「ああ、とにかく医療院関係者の安全を確認していこう。 その時話を聞ければ何が起きたか分かるはずだ」

 

「ええ……!」

 

「了解だよ」

 

「ふふ……それでは行きましょうか」

 

空白が加わったメンバーで、この自体を確認すべく医療院内に入って行った。

 



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128話

 

 

聖王医療院に何が起きたのか解明するため、俺達は空白と手を組んで医療院内を捜索していた。

 

「邪魔!」

 

「はあっ!」

 

警備として放たれたアーミーハウンドを倒しながら前に進み、まずは病棟に入ろうとするが、ロックがかかっていて中に入いれなかった。

 

「こんな時に……!」

 

「仕方ない……まずは別館の方を確認しようよ」

 

「ええ、もしかしたら誰がカードキーを持っているはずよ」

 

別館の宿泊施設の中に入ると……さっそくマフィア2人と遭遇した。 2人はこちらに気付くと無言でデバイスを構えた。

 

「問答無用ですか……」

 

「来るわよ……!」

 

襲いかかってきたマフィア達……だがやはりその行動は単調で、慣れてしまえば脅威になり得なかった。 大振りな攻撃を避け、鳩尾に強打を入れて気絶させ、制圧した。

 

「ふう……手こずったー」

 

「やっぱり彼らから感情が感じられない……もしかしたら自分の意志で動いていないのかも」

 

「それってつまり……操られているのかしら?」

 

「そうだね……」

 

アリシアはマフィアの1人の前に膝をつき、状態を調べ始めた。

 

「……やっぱりおかしい。 この人から怪異の気配がしない」

 

「グリードの? ネクターを使用しているんだろ? だったら検査でネクターにはグリードの体組織は使われていないと出たじゃないか?」

 

「そうなんだけど……さっきの紫色のオーラ、()()の気配がしたの」

 

怪異の気配はしないのに異界の気配はする? どういうことだ?

 

「ゲートから発せられる気配に似ているのかな?」

 

「そんな感じ、かなり意識しないと分からないけど」

 

「……気にはなるけど、まずは関係者の安全を確認しましょう。 この宿泊施設に閉じ込められているかもしれないわ」

 

「ああ……」

 

マフィア達が背を向けて見張っていた扉を通ると廊下に出た。 手前と奥に部屋があり、人の気配がした。 まずは手前の部屋に入ると、

 

「ひっ……⁉︎」

 

「なんだあんたらは……⁉︎」

 

「あなた方は……」

 

と、乗客の1人がこちらに気付くと思わず口に手を当てた。

 

「あなた達……管理局の、しかも異界対策課じゃ⁉︎」

 

「はい、時空管理局に者です。 こちらの異変に気付いて皆さんの安全を確認しに来ました」

 

それを聞くと、乗客達は安堵の息を吐き、喜んだ。

 

「た、助かったわ!」

 

「バスから引きずり出された時はどうなることかと……」

 

「あなた達、途中で止まっていたバスに乗っていたの?」

 

「ああ……道の途中で、いきなりあの黒服達が立ち塞がったんだ」

 

「む、無言で銃を突きつけられてここまで歩かされて……抵抗しようとしたら運転手さんがい、いきなり撃たれて……!」

 

「そうだったの……」

 

「……もうしばらくの間、ここで待っていてください。 皆さんの安全は自分達が必ず確保します」

 

「わ、分かった!」

 

「よろしく頼んだわよ!」

 

次の部屋に行くと、そこには医療院の師長とここの寮長や、先ほどバスの乗客が言っていた運転手と……おそらくここの警備員がベットで横たわっていた。

 

「あんた達……⁉︎」

 

「たしか管理局の……!」

 

「師長さん……ご無事でしたか」

 

「……良かった……」

 

顔見知りだったので、無事でこっちも安心する。

 

「どうしてここに……ひょっとしてもう安全なのかい⁉︎」

 

「いえ、私達もつい先ほど到着したばかりよ。 現在、安全を確認しているわ」

 

「そうかい……」

 

「どうやら怪我をしている人がいるみたいだね?」

 

ベットで寝ている2人は怪我をしているが、応急処置が施されており、今すぐに治療が必要な怪我ではなかった。

 

「ああ……ウチの警備員とバスの運転手さ。 あの黒服達に撃たれて……一応、応急手当ては済ませたよ」

 

「そうですか……他の看護師や医学生達、入院患者達はやはり病棟の方でしょうか?」

 

「ああ、ちょうど仕事中だったし、かなりの人間が病棟にいるはずだ。 あたしはちょうど休憩中でこっちに来ていたんだが……くっ、こんな事になるなら病棟から離れるんじゃなかった!」

 

「師長さん……」

 

「……安心してください。 全員、俺達が絶対に助け出します!」

 

「師長は怪我をしている人を診ていてください」

 

「ああ、よろしく頼んだよ……!」

 

それで部屋を後にしようとした時、先ほど病棟の正面ゲートにロックがかかってあることを思い出し、師長に聞いてみた。

 

「あ、そうだ。 病棟の正面ゲートが封鎖されていたのですが……師長はカードキーを持っていますか?」

 

「なんだって⁉︎ あの黒服ども内側から閉めたね……! ……カードキーならあたしが持っていたんだけど……黒服に奪われちまったんだ」

 

「分かりました。 こちらで取り返します」

 

今度こそ部屋を後にし、3階ある宿泊施設を探索する。 その過程でマフィア達と交戦し、カードキーを奪い返した。 そして屋上から連絡橋で病棟に向かおうとするが、連絡橋は資材を乱雑に置かれて塞がれていた。

 

「面倒な事を……」

 

「ボヤいても仕方ない、上から入らないかちょっと見てくる」

 

障害を飛び越え、病棟内に入る扉に手をかけるが……ロックされていて中に入れなかった。 解除する端末も側にないことから内側からしか開けられないようだ。 研究棟はこれとは別のカードキーが必要のようで、ガラス越しに中を確認すると……かなり瘴気が充満していた。 1人で行くにはかなり危険と判断して引き返した。

 

「どうだった?」

 

「研究棟と病棟、どっちも入れなかった。 まずは病棟内の安全を確認したいし、1階の正面から行こう」

 

「壊そうにもここの壁やガラスは対魔力素材で出来ているからね……それがいいと思うよ」

 

「ふふ……これでは飛べない空戦魔導師と同意ですね」

 

「だったらここから飛び降りなさい」

 

アリサは言うや否や屋上から飛び降り、重量魔法で制動して地面に降り立った。 俺達も後に続き、そのままカードキーを使って病棟内に入った。 中は静まり返っているが、あちこちから気配がする。

 

「ふむ……どうやら医療院関係者は各所に避難しているようですね」

 

「後、マフィアもいるよ。 ここからが本番のようだね」

 

「うん。 慎重に進もう」

 

病棟内の探索を開始し、マフィアと交戦しながら医療院関係者と患者の安全を確認していく。 マフィア達は基本的に巡回はせず、待ち伏せばかりだったのですぐに制圧できた。 ちらりとここから中央広場を覗くと……かなりのグリードが蔓延っていた。 だが先ずは目の前の敵を倒し、マフィアを倒すたびに研究棟のカードキーがないか調べた。

 

「あー、辻斬りみたいでいやだなあー」

 

「そ、そんなこと言わないでよ……」

 

「あ、あったわよ。 研究棟に入るためのカードキーが」

 

「よし……病棟内の安全を確保できたし。 後はホアキン先生を探して出そう」

 

すぐに病棟屋上に向かうと……そこには双剣を構えているシャッハと、ここの患者らしき少年がいて、別種のグリードに囲まれていた。

 

「あれは……!」

 

「マズイよ!」

 

すぐさま武器を構え、グリードに向かって走り出した。 アリシアが2丁拳銃でグリードどもの前に魔力弾を撃ち込んで怯ませ、前方にいたグリードの背中を斬り裂いた。

 

「へ、陛下……⁉︎」

 

「陛下だ!」

 

「話は後だ! こいつらを撃破する!」

 

「巻き込まれないように注意してくださいね」

 

シャッハと少年を背にしてグリード……デスムーンと向かい合った。

 

《カノンフォルム》

 

「っ!」

 

すぐさまアリサが魔力弾を三体デスムーンに撃ち込み、怯ませた。

 

「疾っ……!」

 

空白が端にいたデスムーンに向かい飛び出し、一瞬で切傷を刻んだ後に横に蹴り飛ばし、他のデスムーンにぶつけた。

 

「ふっ、昇双蹴(しょうそうしゅう)!」

 

素早くもう一体のデスムーンに近付き、左脚で浮かせ、右脚で蹴り上げた。 そして飛び上がったデスムーンを追いかけるようにアリシアが飛び上がり……

 

《エアキック》

 

「せいっ! やっ!」

 

魔力を足に集中させて、二刀小太刀で斬り上げ頭上を取った後……追撃して斬り降ろし、屋上にぶつけた。

 

《オールザウェイ》

 

「えいっ!」

 

すずかが槍を横に一振りし、三体デスムーンの足元から扇状に氷柱を形成させ、デスムーンを貫き、氷柱が砕けると同時にデスムーンを消滅させた。 安全が確保されたのを確認し、シャッハの方を向いた。

 

「陛下に騎士アリサ……それに皆さんも。 ありがとうございます……助かりました」

 

「ううん、気にしないでいいよ」

 

「無事でよかったわ」

 

「………………………」

 

「コホッ、コホコホッ……」

 

その時、少年が胸を押さえて咳をした。 おそらく喘息なんだろう。

 

「大丈夫か……⁉︎」

 

「いけない、発作が出て来ました。 部屋に戻りましょう」

 

「コホッ、コホ……ごめんなさい。 僕がわがままを言っちゃったから……」

 

「子どもが気にしないで。 医師の判断を押し切って連れて来たのは私よ」

 

「なら、俺が運ぼう」

 

「いえ、ここは私が……」

 

「いいからいいから、早く行こうよ」

 

シャッハの遠慮を押し切って少年を横抱きに抱え、病室で薬を飲ませてから少年を寝かせた。 それからシャッハにここに来た事情を説明した。

 

「そうですか……でもまさかホアキン先生が……」

 

「……まだ怪しいと確定したわけじゃないけどな。 先生はまだ研究棟に?」

 

「それは分かりませんけど……他の教授の方々は研究棟に取り残されているはずです。 黒服のマフィアが連れ出したのは研修医の方ばかりでしたから」

 

「そうか……」

 

少なくともホアキン先生の疑いは今も続くな。

 

「それであのグリードはどこから出たかわかる?」

 

「いえ、いきなり研究棟から現れました。 それでそのまま囲まれてしまって……」

 

「どうやらその研究棟に何が隠されているようですね。 時間がありませんーー早速、向かいましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

「……あの、陛下……その方は……?」

 

シャッハが空白が何者なのか質問した。

 

「ふふ……私の名は空白。 訳あって本名を名乗れないのをどうかお許しください。 私は偶然ここに居合わせたフリーの魔導師でして、マフィアと交戦している時に彼らに助けられ、そのまま行動を共にしているのです」

 

「そうでしたか。 ご協力、ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

このやり取りだけを見ると、空白はいい人に思えるが。 実際はただの次元犯罪者だ。 だがそれをシャッハに教えるわけにもいかず。 屋上に戻り、手に入れたカードキーで中に入ると……先ほど見た通り空気が淀んでいた。

 

「空気が淀んでいるわね……」

 

「スノーホワイト」

 

《毒性は検出できません。 ですが無害とも限りません》

 

「そう……」

 

「……これは異界の気配……ここ、擬似的にだけど異界化している」

 

「では、ここにグリード……グリムグリード級が?」

 

「そうじゃないよ、なんかこう……異界そのものが力を出しているような……そんな感じ」

 

感覚的に伝えられてもよく分からないが、これが異常なのは理解できた。

 

「怪異ではなく異界そのものが……人為的な可能性があるわね」

 

「ああ、おそらくここに放たれているグリードもネクターを投与されているだろう」

 

「ふふ……もう麻薬ではなくて、魔薬ですね」

 

「冗談を言うな。 ……とにかく、研究棟を探索しよう。 まだ教授達が取り残されているはずだ」

 

研究棟の探索を始め、先ほど戦った今までフェノールが連れてきたのとは違うグリードを……だが明らかにネクターを投与されているグリードを倒しながら進み。 2階に差し掛かると……近くにあった部屋から人の気配を感じた。 警戒しながら中に入ってみると……

 

「き、来ました〜!」

 

「これでも喰らえ!」

 

「くたばれ、化物があっ!」

 

「え……」

 

突然意味もわからず男性2人に罵倒され、2人は物置の裏側から何か薬品みたいなのが入った容器を投げてきた。 俺達はそれを避けるが……地面にぶつかり中身が飛び散ると、不快な臭いが出てきた。

 

「うわっ……⁉︎」

 

「危ないわね!」

 

「あの、俺達はーー」

 

「馬鹿者、何を外しておるか! まったくこれだから無能な外科医師はっ……!」

 

「そういうアンタこそ思いっきり外しただろうが! これだから内科医師は口先ばかりで使えんのだ!」

 

誤解を解く前に、老人と男性が喧嘩を始めてしまった。 と、そこで女性が誤解を解き、女性を含む3人が物置から出て来てくれた。

 

「おお、君達は……!」

 

「確か管理局の……」

 

「……異界対策課の者です。 皆さん、ご無事みたいですね」

 

「やれやれ……まさか薬品を投げられるとは思わなかったよ」

 

「これはその、酸か何かですか?」

 

「す、すまん……実験用の酸化液なんだが」

 

「た、多少刺激が強いが毒性がないから安心してくれ」

 

安心できるか。

 

「まったくお2人共。 軽はずみはいけませんよ〜」

 

そうおっとりと話す女教授に、2人は怒りの矛先を向けた。

 

「来ましたと言ったのはあなたじゃないですか⁉︎」

 

「酸化液のビンを見つけたのも君だったと思うが……?」

 

「あれれ、そうでしたっけ?」

 

「と、とにかく内部はまだグリードが徘徊しています」

 

「護衛しますので、一旦ここから出ましょう」

 

俺達は3人を連れて研究棟を出て、病棟の屋上まで連れて行った。 そこで他の教授が……特にホアキン先生が見ていないか聞いてみた。

 

「ーーでは、ホアキン先生は全く見かけていないんですね?」

 

「うむ、例の黒服達が研究棟に乗り込んできた時にはすでに見かけなかったな……」

 

「てっきり夜釣りにでも行ったのかと思ったが……」

 

「……そうですか」

 

この自体が起きている時に姿が見えない……どうしても疑いの念が湧いてしまうな。

 

「……現時点ではかなり疑わしいね」

 

「そうね……」

 

「そういえば、研究棟にいるグリードはどこから出てきたの? マフィアが連れ込んだの?」

 

「いや、どこからともなく現れた感じだったが……」

 

「私も見かけていないな……」

 

「あれれ、あのグリードなら変な人が連れてきたような……黒い服じゃなかったからマフィアの人には見えませんでしたけど」

 

おそらくその人物がこの研究棟にあのグリードを放ったのは間違いないが、フェノールでないとすればD∵G教団の構成員か幹部か……?

 

「それって……」

 

「その人は大柄の男性とか、髪の薄い男性でしたか?」

 

「いえいえ。 何だか普通の女性でしたよ。 エレベーターで4階の方に上がって行っちゃいました」

 

「4階……教授達の研究室のあるフロアですか」

 

「何者かしら……」

 

「ふむ……中を調べるのならくれぐれも気をつけるがいい」

 

「私達は、病棟の空き部屋にひとまず避難していよう」

 

「私の見た人を追いかけるならこれを持って行っていいわよ」

 

女教授から認証カードを貰い受け、3人は病棟の中に避難して行った。

 

「グリードを率いた謎の女性ですか……何か心当たりはありますか?」

 

「いや……現時点ではさっぱりだ。 だが無関係というわけでもなさそうだな」

 

「何者かは知らないけど……捕まえる必要はありそうだね。 さっそく4階に上がってみよう」

 

真実はこの上にいるその女性が知っているはず……エレベーターの中に入り、先ほど貰い受けた認証カードでロックを解除、4階へ向かった。 そしてホアキン先生の研究室に入ると……

 

「おや? ずいぶんと早かったですね」

 

「あなたは……!」

 

「エリン……プルリエル……」

 

正面の開けられた窓際にいたのは……ミゼットさんの元秘書のエリンだった。 笑いながらこちらを向いたエリン、その瞳は赤く光っていた。

 

「ふふ。 2ヶ月ぶりですね? まだ宵の口ですが、月がきれいですね」

 

「あなた……その瞳の色は……⁉︎」

 

「……どうやら、堕ちるまで堕ちましたか」

 

「ほう、これは……噂の空白(イグニド)殿もご一緒でしたか。 あなたが余計な事を吹き込まなければ私の立場も安泰でしたのに……どうやらお礼をする機会が巡って来たようですね」

 

「私は空白。 色無き色、忘れ去られた過去の色……あなたごときでは知る事もできませんよ。 たとえどこまで堕ちたとしても」

 

「フフ……言ってくれますね」

 

お互い犯罪者だが、両者共に相容れないこともあるようだ。

 

「……どうやらあなたが、グリードを率いていたようですね」

 

「それ以前に、どうしてあなたがここにいる? 軌道拘置所にいるはずのあなたが?」

 

「フフ、軌道拘置所ですか……あそこなら、この医療院と同じく既に“我ら”の手に落ちています」

 

「なに……⁉︎」

 

「軌道拘置所の警備は空の航空武装隊が担当しているはずだよ……そんな場所をマフィアが襲ったって言うの⁉︎」

 

「フフ……そういう訳ではないのですが。 ちなみにフェノールごときを我らと同じにしないでくれますか。 彼らは単なる傀儡です。 我らの計画を成就するためのね」

 

その発言に、ようやくこの状況と今までの情報が噛み合った。

 

「やはりそうか……ネクターを服用した者を何らかの方法で操っているんだな?」

 

それはつまり……管理局員内にもネクターの服用者がーー何十、何百人いるかはわからないがーーおり、その者が脱走の手助けをしたのだろう。

 

「フフ、その通り………全ては偉大なる我らが“同志”の計画によるもの。 大いなる儀式を遂行するための“駒”に過ぎないというわけなのよ!」

 

「偉大なる“同志”……」

 

それは、ある人を指していた。

 

「D∵G教団の残党にしてマフィアの背後に潜伏していた人物……。 つまりーーこの部屋の主というわけか」

 

それを言うと、エリンはくつくつと徐々に笑い始め……

 

「アハハハハハハハハッ……‼︎」

 

盛大に狂うように笑うと、同時に異様なオーラを放ちながら片刃の剣を取り出して構えた。

 

「なっ……」

 

「これは……!」

 

「マフィアとは比べ物にならないくらいの異界の気配……⁉︎」

 

「ーーそれを確かめたければ私を退けてみるがいい……“同志”の導きによって真なる生命(ネクター)に至った私をねェ……!」

 

「……っ……‼︎」

 

「来るよ……!」

 

「フフ……来なさい!」

 

エリンは紫のオーラを斬り払い、そのまま大雑把に横に斬撃を振った。

 

「くっ……!」

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《メタルプロテクト》

 

確かに大雑把だが、この狭い空間で戦うのなら問題はなく。 逆に回避も難しいこちらは防御を取るしかないが……

 

「⁉︎」

 

「嘘おっ⁉︎」

 

「きゃっ⁉︎」

 

だが、斬撃が防御魔法に触れた瞬間……何の抵抗もなく防御魔法が斬り裂かれ、斬撃が目の前まで迫ってきた。 とっさにすずかの頭を抑えて倒れこむように回避する。 斬撃は背後の壁に直撃して跡を残すが、跡を見る限りそこまで威力はなかった。

 

(だが、どうして? それにあの力、魔法じゃない……)

 

「ボヤッとしている暇がありますか⁉︎」

 

「クソッ!」

 

《ファースト、セカンドギア……ファイア》

 

考える暇もなく今度はエリン自身が接近して剣を振り下ろした。 とっさにギアを2つ駆動させ、剣を受け止めた。

 

「あらあら?」

 

「ぜやっ!」

 

エリンは受け止められたのが不思議に思ったのか目を丸くした。 まるで今使っている力に慣れてない素ぶりだ。 剣にも力が乗っていなく、すぐさま押し返した。

 

「面妖な力を使いますね!」

 

「あなたほどではないわ」

 

空白も2本のレイピアで斬りかかるが、エリンは先ほどとは打って変わって鋭い剣筋を見せ、レイピアを弾いた。

 

《ロードカートリッジ》

 

焔狼衝(えんろうしょう)!」

 

エリンと空白が斬り合っている隙に、アリサがカートリッジをロードし、左手に焔を纏わせ、床を殴りつけた。 すると焔は床を走り、勢いよくエリンに向かった。

 

「あら……」

 

エリンの視線が焔に向いた瞬間、空白はエリンの剣を蹴って距離を取り。 次の瞬間焔がエリンに直撃し、爆発を浴びた。

 

「っ……痛いわね……」

 

エリンはダメージを負ったが、ネクターの影響か痛がる素振りも見せず。

剣にオーラを纏わせると、そのまま振り下ろして斬撃を飛ばした。 今度は最初から回避するが……

 

「ほらほら、遅いわよ!」

 

「うわっ⁉︎」

 

続けて放たれた斬撃が、アリシアのバリアジャケットの袖を浅く切った。 防御魔法はおろかバリアジャケットまでこうも簡単に……

 

「くっ、魔導師だとしても、この力は一体……⁉︎」

 

「いくら鍛えたとしても、ネクターだけじゃ説明ができない!」

 

「アハハ! 身体中を駆け巡っているようだわ! これが……これが異界の力!」

 

「まさか……本当に、()()()()()()から力を引き出しているとでも言うの⁉︎」

 

「ええ、その通りよ! “同志”は異界の力を引き出して使う技術を見つけ出したのよ! ああ……なんて甘美な力、魔導師すらも凌駕する! その名も……魔乖咒(まかいじゅ)‼︎」

 

「魔乖咒……だと?」

 

1度も聞いたことのない単語だ。

 

「それじゃあ、あれかしら? あなたはさしずめ魔乖術師(まかいじゅつし)とでも言いたいのかしら?」

 

「おや、偶然とはいえ鋭い。 ええその通り、私は“同志”によって魔乖術師になりました。 そしてこの力!」

 

剣を振るうとこっちに向かって魔乖咒による斬撃が放たれ、防御しようにも防御魔法が掻き消されるように消えてしまう。

 

「冥土の土産に教えておきましょう。 魔乖咒にはその効果によって8つの系統に分類されます。 私の系統は“滅”……その破壊力は8つの系統の中でも随一です。 そして滅の魔乖咒には相手の防御を無効化する特殊効果もあるんですよ」

 

「通りでこっちの防御魔法が紙みたいに通り抜けられるわけだよ……」

 

だが、弱点もあるようだ。 先ほどから大技でしかあの滅とやらの攻撃が放たれていない。 どうやら強力な反面、力押ししかできないらしい。 このことを念話で皆に伝え、勝機があるとわかり表情が変わった。

 

「あら? まだやるのかしら? あなた達は私の力の前では丸裸も同然なのよ?」

 

「当然、負ける訳にはいかないからね」

 

アリシアは立ち上がると、俺と戦術リンクを繋いだ。 そしてアリシアの行動を読み、静かに刀を納刀して好機を探った。

 

「フレイムアイズ!」

 

《チェーンフォルム》

 

「はっ!」

 

鎖をエリンとはズレた方向に投げ、鎖が壁を反射してエリンの周りを囲った。 次いでその囲いをすり抜けるようにすずかがエリンの側面から接近した。

 

「えいっ!」

 

「おっと……」

 

すずかは槍のリーチを活かして鎖の合間に槍を通して攻撃し、魔乖咒の発動と反撃を許さなかった。

 

「面倒、ね!」

 

「きゃああ⁉︎」

 

「くっ……⁉︎」

 

突如、魔乖咒のオーラが気迫と共に放たれ。 すずかは吹き飛ばされ、アリサは鎖を消し飛ばされた。

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

間髪入れずアリシアが飛び出し、俺は鞘に溜め込んでいた魔力を解放しながら抜刀した。 刀身が蒼く光、蒼い粒子を舞い散らせる。

 

「抜刀……!」

 

「ほう……それは集束系魔法(ブレイカー)ですか。 器用な事を」

 

「密接している近接戦闘だと、隙の多い大技は命取り……っと言っても、まだまだ発動までに時間がかかるがな。 効率もまだ悪いから持続時間も短い」

 

改良する問題点は多いが……今はそんなことは後。 剣戟を繰り広げているアリシアの元に向かって行く。

 

「アリシア!」

 

「了解!」

 

《フラッシュフロント》

 

「ぐっ……小賢しい真似を!」

 

アリシアが魔力弾を魔力膨張により破裂させ、前方に向けて強烈な光線を放ちエリンの視界を塞いだ。

 

「行って!」

 

「ああ!」

 

光でエリンの姿は霞んで見えるが、リンクによってアリシアが位置を把握し教えてくれ……その位置に向かって刀を降った。

 

「一瞬三斬……瞬光!」

 

本来は納刀状態から放つ抜刀技だが、あえて無納刀の状態から放ち……エリンの横を通過する刹那に3度斬りつけた。 その攻撃にエリンは耐えられず、膝をついた。

 

「フフ……まさかこんな展開になるなんて。 正直、予想外だったわ」

 

「……分からないわね。 いったい何があなたをそこまで堕としたのかしら?」

 

「堕ちた……? いや、真実に目覚めただけさ。 そう……今なら判る。 このミッドチルダという地がどんな意味を持つのか……理屈抜きで“判る”のよ!」

 

まるで本当に麻薬患者のような狂ったように発言するエリン。

 

「……意味がわからない……」

 

「完全に飛んでいるね……」

 

「ーー戯言はそのくらいにしてもらおう。 元統幕議長秘書、エリン・プルリエル。 時空法に基づき、傷害、騒乱、不法占拠、薬物使用、拘置所脱出などの容疑で現行犯逮捕する。 大人しく捕まってもらうぞ!」

 

「フフ……そう焦ることはないわ。 まだ夜は始まったばかり……“同志”の趣向はこれからよ。 そちらに招待状があるから目を通しておくことね」

 

「何……」

 

エリンが目で指した方向にはホアキン先生のデスクがあり、その上に2つのファイルが置いてあった。

 

「あれは……」

 

「あはは……それではまた会いましょう……! あなた達がこの先の死地を超えられたらね……!」

 

「しまった……!」

 

全員の視線がデスク上のファイルに向けられた隙に、エリンは立ち上がって開けられていた窓から飛び降りた。

 

「待て!」

 

「逃がしません……!」

 

すぐさま追いかけようとするが……どこからともなく翼竜のようなグリードが現れ。 エリンはその背中に乗り、飛び去って行った。

 

「あれは……!」

 

「星見の塔にもいた翼竜型のグリード……」

 

「……無茶苦茶過ぎるでしょう」

 

「ふう……あの速度では追いつけませんね。 まあいいでしょう、早く目を通しましょう。 その“同志”とやらが用意した招待状をね」

 

「あ……ああ、そうだな」

 

空白の頭の切り替えの早さに驚きつつも同意する。 デスクに近づくと、黒と白のファイルが置かれていた。 そして白のファイルには特徴的な紋章があった。

 

「この紋章は……」

 

「……もしかして、これがD∵G教団の……」

 

「あの僧院にあったのと類似しているわね……」

 

「月の僧院の裏側にあったやつだね」

 

「ほお……そんな場所があるのですか」

 

「……お前が待ち受けていた塔と似たような場所でな。 それはもとかくーー」

 

こんなあからさまに証拠が置かれているのは腑に落ちないが、ここで見なくては真実に辿り着けない。 意を決して黒のファイルを開いた。 黒のファイルには議員の……特にアザール議長の不正の数々、さらにはネクターに関する情報や出荷場所も事細かに乗っていた。

 

「まさか……こんな事まで……」

 

「……ふふ、世も末ですね。 まさかアザール議長さえも取り込まれていたとは……」

 

「どうやら何かの弱味を握られて協力させられているようだけど……この楽園っていうのは何かなぁ?」

 

「……分からないよ。 ひょっとしたら教団の拠点の一つかもしれないけど……」

 

「いずれにしても、アザール議長は彼に弱味を握られていた。 そして彼がミッドチルダに潜伏するのをフェノールに手伝わせたのか……」

 

資料によれば、かなり以前からこの医療院に潜伏を開始していたようだが……

 

「……許せない……代表の1人でありながら何て愚劣な行為を……! こんな奴がいるから空が自由に好き放題に動いて……人員不足だって全く解決しないのよ……!」

 

「アリサ……」

 

悲痛のような面持ちでアリサは固く拳を握った。

 

「……感概に浸るのはまだ早いですよ。 この黒いファイルによればネクターの製造している場所はここではなく別の場所のようです。 そして出荷リストによれば……マフィア以外にもかなりの量がどこかに流れているらしいですね」

 

「……ああ。 どうやら彼はここ以外にも拠点を持っていることになる……ひょっとしたら行方不明の人達はそこに……?」

 

「あり得そうだけど、一体どこに?」

 

「その、マフィア以外の卸し先も気になるね。 まさか、そっちって言うオチじゃないよね?」

 

「ふふ、私とてそこまで無謀で無知ではありません。 他も、ネクター(これ)には興味はないでしょう。 可能性があるとすれば、どこかの野心的な製薬会社……もしくはテロリストや次元犯罪者、別次元世界の組織もあり得るでしょう」

 

「ふう、確かにね……」

 

「つくづくミッドチルダという地の特異性が恨めしくなるわね……」

 

「……ああ……」

 

否定することもできず、同意するしかなかった。 そして黒いファイルを一通り読み終え、白いファイルの方に視線を向けた。

 

「ーーこっちの白いファイルも確認してみよう」

 

今度は白いファイルを開いてみると……そこには非人道的な実験の数々と拠点が乗ってある地図、そしてーー実験を施された被験者の顔写真の数々……

 

「酷い……」

 

「こ、これは……」

 

「ふむ……これは6年前に行われたらしい“儀式”の被験者達ですか。 それ以降は管理局が勘付いた危険もあり被験者もろとも拠点を処分、ですか」

 

「……外道め……こんなものを……」

 

「………………………」

 

無言で読み進めて行き、被験者の数が増えていく中……ある1つの写真に目が止まる。 水色の髪をした、生気のない目で写真に映る少女……

 

「あ……」

 

「この子は……」

 

「クレフ……クロニクル……」

 

「そう……そう繋がるのね……」

 

「おや、その娘はお知り合いでしたか」

 

気になったのか、空白は写真の隣に記載されていた詳細な情報を見た。

 

「ーーほお、第6管理世界出身ですか。 あそこは優秀な召喚士が多数いますからね。 しかし、よくもまあ、これだけの事をしでかしましたね」

 

「………………………」

 

返す言葉も見つからず、そのまま被験者の数が増えて行くのを黙って見続け……途中でファイルの間に1枚の写真が挟まっているのを見つけた。 そこに映っていたのは……何処かの遺跡のような場所、そこにあった球体の中に目を閉じて蹲っていたのは……ヴィヴィオだった。 これにはさすがに動揺を隠せなかった。

 

「……ッ……⁉︎」

 

「ヴィヴィオ……!」

 

「……そんな……」

 

「くっ……まさかとは思っていたけど……!」

 

「例の競売会であなた達が保護した少女ですか。 この写真だけ新しいようですが、最近撮られたものということですか……?」

 

「ああ、多分そうだろう。 ……クソッ……! 最初から何もかも知っていたのか……!」

 

「ええ……おそらくそうでしょう」

 

突然、聞き覚えのある少女の声が背後から聞こえてきた。

 

「なに……⁉︎」

 

「この声は……!」

 

振り返ると……開けられた窓の縁に、クレフ・クロニクルが座っていた。

 

「異なる乱、今宵の満月は、緋色の夜、その再現……こんばんわ、異界対策課の皆さん」

 

詩人のように意味深な事を言うが、その表情に変化は見られない。

 

「……気配は感じられなかったのに、君はいつからそこに……?」

 

「どうやら只者ではなさそうですね?」

 

「ええ……あなたと同じくらいには。 ーー改めて自己紹介します。 私はクレフ……クレフ・クロニクル。 コードネームは(シルフ)。 そしてこの子は、ジーククローネ」

 

「ピュイ」

 

クレフが呼んだかのようにどこからともなく白い隼が飛んできて、クレフの隣に留まって一鳴きした。

 

「……もしかして、君の組織も関与しているのか? この研究室の主が起こそうとしている企みに?」

 

「ナイン……それはあり得ません。 私はあくまで1個人としてここにいます」

 

つまり彼女の組織は関与してないのか。 となると……クレフがここにいるのは……

 

「ーーホアキン・ムルシエラゴ。 聖王医療大学院准教授にしてD∵G教団幹部司祭……全ての儀式の成果を集め、闇に消えたネクターの開発者……これで、やっと知りたい事が分かりました」

 

「……そうか、君は……」

 

「あの白いファイル……」

 

「ヤー、目星はついていましたが決定的な証拠は不十分でしたので……ドクターの手を煩わせる前に決着を付けましょう」

 

「え、今なんて……」

 

アリシアが言い終わる前に、クレフは窓の縁の上に立ち上がった。

 

「君は……一体何をするつもりだ?」

 

「復讐……と言えばそうなりますが、ナイン。 強いて言えば……私が私であるうちに……人でありたいから」

 

「何を……」

 

「ーーお礼として助言はしておきます。 あの子はおそらく、全ての鍵。 くれぐれも奪われないでください。 無用な助言だとは思いますが」

 

「……全ての鍵……」

 

「もしかして、ヴィヴィオの事……⁉︎」

 

「それでは、私はこれで失礼します」

 

《Gauntlet Activate》

 

左腕にいつの間にか緑色のガントレットを装着し、起動させるとそのまま後ろに倒れこみ……ここから落ちていった。 そしてすぐさまジーククローネが飛び出し……一瞬で緑色の巨鳥になるとそのままクレフを背に乗せ、飛び去って行った。

 

「……性格の割に大胆な事をする子ね」

 

「あ、あはは……」

 

「ふふ……役者は揃いつつ、ですか」

 

「はあ、あの秘書といい、常識外れすぎるでしょう……」

 

「……ああ……だが、どうやらクレフはこの件に関っていないようだ……黒幕の正体も判明して、その狙いも朧げだが見えてきた。 こうなったら急いでクラナガンに戻ってーー」

 

ピリリリリリリリ♪

 

「あ……」

 

「すごいタイミングね……」

 

本当に着信が来る時って空気読めないよなぁ。

 

「はい、異界対策課、神崎 蓮也です」

 

『ふう、無事だったか。 ーー俺だ。 陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマだ』

 

「ゲンヤさん……! 今、どこにいますか⁉︎」

 

『ちょうど医療院に到着した所だ。 これから部隊を突入させるが問題ないな?』

 

「そうですか……マフィアは一通り制圧している状態です。 医療院内の人達に声をかけて保護してもらえますか?」

 

『分かった。 また後で合流しよう』

 

通信を切り、皆に詳細を説明し。 その後黒と白のファイルを持ち、研究棟から出て病棟屋上から陸士108部隊の様子を見下ろした。 迅速な対応で医療院関係者は保護され、マフィアは拘束されていった。

 

「やれやれ……これで一安心だね」

 

「ええ……でも、まだ気は抜けないわ」

 

「……そうだね……エリンさんが言う限りではまだ何かするつもりみたいだし……」

 

「ああ、ゲンヤさんと話したら急いでクラナガンに戻ろう」

 

「ーーふふ……どうやらここまでの様ですね」

 

背後にいた空白が警備隊を見下ろしながらそう言った。

 

「空白……行くのか?」

 

「これ以上付き合う義理もありません。 報告はこれで十分ですし、私は私でやる事も多いです」

 

「そう……」

 

「ありがとね、協力してくれて」

 

「……今日はもう会うことはないでしょう。 ですが、まだ夜は続きます……くれぐれも気を抜かない事です」

 

「ああ……ありがとうな」

 

「お疲れ様、気を付けてね」

 

「ふ……それではさらば、です」

 

無駄にカッコつけたセリフを言い、空白は病棟屋上を駆けてそのまま屋上から飛び降りた。 その後、ゲンヤさんとギンガと合流し、俺達は手早く事情を説明した。

 

「……そうですか。 もうお戻りになるのですね」

 

「ごめん、シャッハ……本当なら復旧の手伝いをするべきなんだろうけど……」

 

「いえ、気にしないでください。 警備隊の方々もいますし、陛下には陛下にしか出来ないことをすべきです。 ……姫の身に危険が迫っているのでしょう?」

 

「ああ………正直、ホアキン先生の思惑はまだはっきりしていない。 この混乱の中で俺達がどう動くかべきなのも……だがヴィヴィオは……あの子だけは必ず守ってみせる!」

 

俺の言葉に同意するように、アリサ、すずか、アリシアは大きく頷いた。

 

「……私も同じよ」

 

「うん、絶対に守らないとね」

 

「そうそう、危ない人には意地でも返してやるもんか」

 

「はい、陛下達ならきっと答えを見出せます」

 

「はは、言おうとしていた事をほとんど言われちまったな」

 

ゲンヤさんはそう言いながら苦笑いすると、咳払いを1つして真剣な表情になった。

 

「ーー軌道拘置所も襲撃され警備隊も相当混乱しているが……他の警備隊と連携して事態の収拾に当たらせてもらう。 長い夜になりそうだが……お互い、乗り切ろう」

 

「はい……!」

 

「もちろんだよ!」

 

心苦しく思いながらも医療院を後にした。 走行中にファリンと連絡を取り、ヴィヴィオの無事を確認し。 念のため、ヴィヴィオとユノと共に異界対策課に向かうように指示した。

 

 



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129話

 

 

同日、20:45ーー

 

対策課に到着する頃にはもうすっかり夜になっており、俺達が到着すると……またヴィヴィオがタックルしてきた。 こんな状況でもヴィヴィオはヴィヴィオだった。 とりあえずヴィヴィオとユノはファリンとルーテシアとガリューとアギトに任せ、会議室で待ってもらっていたゼストさんとクイントさんの元に向かった。 そして、ラーグとソエル、ソーマとサーシャと共にホアキン先生の研究室で押収したファイルを見てもらい、今までの情報を詳細に説明した。

 

「クッ……何を考えている⁉︎」

 

ゼストさんはファイルを軽く目を通しただけだが、決定的な証拠なのは明白。 そしてホアキン先生のそんな行動が理解できなかった。

 

「ホアキン・ムルシエラゴ……一体何を考えている……⁉︎ 何故自分が不利になる情報をわざわざ残したりする⁉︎」

 

「フン、確かにな……ーーレンヤ、偽造の可能性はあるか?」

 

「……低いかもしれない、今更偽造した所で意味は無いだろう。 全ての状況が先生を指していて、フェノールや議長との関係も明らかになっている……」

 

「空白の行動やクレフの発言から見る限り、他勢力の工作の可能性も低いでしょうね」

 

「まあ、これ見よがしに誇示しているだけじゃないの? あの秘書の態度だって相当飛んでいる感じだったし」

 

「……同感だよ。 その2つのファイルからは自己顕示欲と一緒に、何らかの狂信的なメッセージかもしれないよ。 それも恐らく、ヴィヴィオについての……」

 

「なるほどな……」

 

ここでヴィヴィオに繋がるとは思ってもいなかったが……

 

「……そこまで拘らせる何かをヴィヴィオが持っているのかなぁ?」

 

「あの子はレンヤの……聖王のクローンだからな。 狙われる要素は幾らでもある」

 

「それに、この白いファイルにヴィヴィオの写真が挟まっていた事の意味はなんだろう?」

 

「明らかに意図的なのは分かりますけど……」

 

「そうね……レンヤ君、何かわかる?」

 

クイントさんに説明を振られ、D∵G教団の今までの行動と黒と白のファイルの情報をまとめ、自分の考えを言った。

 

「……はい。 6年前まで続いていた非道な“儀式”の数々……その締めくくりとしてヴィヴィオを利用するというメッセージなのかもしれません」

 

「っ……」

 

「趣味の悪いことを……!」

 

「……そんなこと、絶対にさせない……」

 

「ああ……もちろんだ」

 

アリサ達も同じ気持ちで強く頷いた。 続いて俺は上層部の動向について聞いてみた。

 

「ーーゼストさん。 上層部の方はどうですか?」

 

「……間の悪いことに例の軌道拘置所襲撃の報せがあってな。 しかもそれに次いで本局も襲われたらしい。 そちらの対応で管理局全体は蜂の巣を突いた状態だ」

 

「分かりました……これ以上増援は求められませんね。 ……ーーどうにかしてヴィヴィオを管理外世界に逃がしましょう」

 

悩んだ末に出した提案を言った。

 

「レンヤ、それは……」

 

「できれば地球がいいです。 あそこなら身内もいますし、エイミィさんもいますから安全だろうし、教団の手も届きにくいはず」

 

「まあ……確かにそれが一番安全だとは思うな。 ーーだが、いいのか? おめえ自身の手でヴィヴィオを守れなくなっても」

 

「……俺の拘りでヴィヴィオを危険に合わせたら本末転倒だ。 皆は反対するかもしれないけど……あの子が少しでも安全なら俺はそうしたい」

 

「レンヤ君……」

 

「やれやれ……仕方ないね」

 

「……とはいえ、今はどこもかしこも混乱している……ここは私の部隊が所有している次元艦を使うといい。 こんな事態だ、手続きは後にどうとでもなる」

 

「ありがとうございます……!」

 

話はスムーズに進み、これでヴィヴィオを安全な場所に送れる。 次はこの事を一度なのは達に連絡するため、メイフォンで通信した。

 

『はい、なのはです。 どうかしたのレン君? まだ他の皆は帰っていないけど……』

 

「いや、それとは別件でな。 今どこにいるんだ?」

 

『? 今さっき寮に戻って来たばかりだよ』

 

「そうか……ちょっとヴィヴィオに関することで伝えておきたい事があるんだ」

 

『ヴィヴィオに? ……分かった、詳しい話をーー」

 

ガシャァンッ‼︎

 

『えっ……』

 

その時、メイフォンごしからガラスが割れる音が聞こえ。 続いて数人の走る足音が聞こえた。

 

『あなた達は⁉︎ 一体これは何の真似ーー』

 

何が構えられる音が聞こえ、なのはの言葉を中断させられた。

 

『……っ……』

 

次の瞬間、銃撃音がメイフォンから響いてきた。 そして通信が切れた。

 

「‼︎ なのは⁉︎ おい、なのは!」

 

……くっ、なのはの奴メイフォンを手放したのか……⁉︎

 

「おい、何があった……⁉︎」

 

「……どうやら寮が何者かに襲撃されたようです。 通信が切れる直前に機関銃の音が聞こえました」

 

「な、なんですって……」

 

「そんな、学生寮が……⁉︎」

 

「まさか操られたマフィアが……⁉︎」

 

「チッ……可能性は高そうだな」

 

「ヴィヴィオを連れて来たのが、不幸中の幸いでしたけど……」

 

確かに、今の状況ならマフィアの襲撃の線があるが……

 

「……マフィアの襲撃にしては、何か……」

 

「レンヤ、何か気になるの?」

 

「ああ……」

 

散々銃口を向けられてブッ放されてきた重機関銃の銃声音……あきらかにそれとは別の銃声だった。 武装を変えてきた……? いや、今の奴らにそんな理性があるかどうか。 どういうことか、頭を悩ませていたら……

 

プルルルルルルルル!

 

今度は執務室にある通信機が鳴り始めた。 こうも連続して通信が来るなんて……

 

「っ……どんなタイミングだ……!」

 

「とにかく早く出るわよ!」

 

急いで会議室を出て、通信機の方に向かった。

 

「あ、パパー。 おでんわが来ているよ〜?」

 

「ああ、すぐに出る!」

 

「ごめんね、ユノちゃん。 うるさくしちゃって……」

 

「だいじょうぶですよ〜」

 

「あのー、何事ですか?」

 

「また、事件でフか?」

 

「こっちが知りたいよ……」

 

「ママ……?」

 

「大丈夫よ、ルーテシア……」

 

(…………………)

 

ヴィヴィオ達に一言謝りつつ、通信に出た。

 

「はい、異界対策課です!」

 

『あっ、レンヤさん⁉︎ よ、よかった! 無事に繋がって……!』

 

「その声は……ギンガか?」

 

『はい、先ほどはどうも! ーー実はレンヤさん達にお伝えしたい事があるんです! 他の警備隊との連絡が完全に途絶えました……!』

 

「何だって……⁉︎ 一体、何があったんだ⁉︎」

 

『わ、分かりません。 こちらも現在確認中で……念のため、そちらにもお伝えするよう隊長に指示されました!』

 

「分かった、情報感謝する! っと、そうだ……こちらも伝えたい事があるんだ」

 

俺は先ほどなのはとの通信で起きた事……ルキュウにある第3学生寮が襲撃された事を手短にギンガに伝えた。

 

『郊外とはいえ、そんな事が……! 分かりました! 隊長に伝えておきます! そ、それで……あの……』

 

何か言いたそうに口籠るギンガ。 ギンガの部隊以外が連絡が取れないとなると……おそらくスバルを心配しているのだろう。

 

「ギンガ、心配するな。 スバルの事だ、ティアナと一緒で無事だろう。 お前は今自分が出来る事をやればいい」

 

『っ! ……あ、ありがとうございます! グスッ……何が起きているのか分かりません! くれぐれも気をつけてください……!』

 

「ああ、そっちもな……!」

 

通信を切り、皆の方を向いた。 尋常ではない状況ということは分かっているようだ。

 

「警備隊方面で何があった?」

 

「陸士108部隊以外の部隊との連絡が完全に途絶したそうだ……今、現状を確認中との事だ」

 

「なんだと……⁉︎」

 

「一体、何が起きているの……」

 

(ピク……ワタワタ)

 

ガリューが何かを感じとり、ルーテシアに伝えようとした。

 

「えっ、何ガリュー? ……囲まれて、いる⁉︎」

 

ガリューの警告を聞き、急いで虚空で意識を広げると……次々と人の気配が対策課付近に集まって来ていた。

 

「! いつの間に……!」

 

「人の気配が集まって来ている……まさか……!」

 

「学生寮を襲撃した……⁉︎」

 

「……間違いなさそうだな」

 

寮に続いてここが狙われる理由は……おそらく、ヴィヴィオの身柄を確保するため……

 

「ーー総員、脱出の準備を。 レンヤとアリサはヴィヴィオとユノを連れていけ」

 

「はい……!」

 

「分かったわ!」

 

「アリシアは周囲の警戒を。 すずかとアギトはフォローに回れ」

 

「了解だよ!」

 

「分かりました……!」

 

「やってやるぜ!」

 

「ソーマとサーシャ、ルーテシアは先頭と左右をカバーしろ」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

「やるよ、ガリュー!」

 

(コクン)

 

「私も戦います。 メイドとはいえ、仕える主を護るために武術の心得はあります」

 

「しかし……ファリンさんのお気持ちはよく分かりますが。 敵が分からない以上、いくらあなたが腕が立つと言ってもーー」

 

「問題ありません、私は1人ではないので。 ねえ、ビエンフー?」

 

「は、はいでフー!」

 

「ゼストさん、ファリンが足手まといにならないのは私が保証します。 どうか手伝いだけでもお願いできませんか?」

 

メガーヌの制止を振り切ってやる気を出すファリンに、すずかがゼストさんにそうお願いした。

 

「……分かった、ではあなたにはもしもの時のレンヤとアリサのフォローをお願いします」

 

「はい! 行きますよ、ビエンフー!」

 

「りょ、了解でフー!」

 

「クイント。 殿(しんがり)は俺とお前で持つぞ」

 

「了解しました」

 

アリシア達はバリアジャケットを纏って武器を持ち、俺とアリサはヴィヴィオとユノの前に行く。

 

「ヴィヴィオ。 しっかり掴まっててくれ」

 

「うんっ! えへへ……」

 

「失礼するわよ、ユノ。 あなたのお兄さんに比べれば心許ないかもしれないけどね」

 

「いえいえ、そんな事ありませんよ〜」

 

ヴィヴィオを抱きかかえ、脱出の準備は出来た。

 

「よし……なるべく陣形を崩さずにーー」

 

ダダダダダダダダッ‼︎

 

次の瞬間、対策課に大量の魔力弾が撃ち込まれた。 すぐさまプロテクションで防いだが、対策課は一瞬で銃痕だらけのボロボロになってしまった。 そしてドアを蹴破って入って来たのは……

 

「なっ……⁉︎」

 

「け、警備隊……⁉︎」

 

通信が途絶えたと思われる警備隊だった。 だが、その隊員の目に生気はなく、無言でこちらに機関銃型のデバイスの銃口を向けた。

 

「こっちだ! 裏から下に行ける!」

 

「え、裏って……」

 

「とにかく行くぞ!」

 

ラーグの指示で奥に向かって走り、各部屋を繋ぐ廊下の奥に差し掛かるとすずかが壁の一部を開き。 カードを読み込ませると……壁が下に下り、隠し上と下に繋がる階段が出て来た。

 

「これって……⁉︎」

 

「隊舎と研究室を繋ぐ階段だよ。 こっちにあった方が何かと便利な事もあるんだよ。 そういえばソーマ君達にはまだ説明してなかったね」

 

「どこの秘密基地ですか……」

 

「いいから早く行きなさい!」

 

追いついて来たメガーヌさんに急かされて階段を下り、研究室フロアに来ると今度は非常口を開けた。

 

「って、非常口なのに階段がないじゃないですか!」

 

そう、非常口は開けたら地上本部の外には出るが……階段も何もなく、高所故の強風が吹き付ける。

 

「非常時に使うから非常口なんだよ。 ほら、飛ぶよ!」

 

「ええええっ⁉︎」

 

ルーテシアが叫ぶ中、非常口から飛び出し、飛行魔法で制動を取った。 サーシャは輪刀を背中で回転させたり、ファリンは式神というものに乗ったり、ソーマは剣を低い位置にあるビルに投げて転移したりとそれぞれが地上に降り立った。

 

「追っ手は?」

 

「来ないわね。 地上部隊だから飛行魔法を使える人が少ないのだと思うけど……」

 

「それに、今のはまさか108部隊以外の警備隊では……?」

 

「見知った顔がいました……」

 

「まさかマフィアと同じように操られているのか……⁉︎」

 

「……昨日、はやてから情報が届いたんだけど。 上層部から地上本部及び本局、空域本部に通達とある栄養剤が支給されたそうだよ。 あんまり気にしてなかったけど、もしかすると……」

 

「その栄養剤がネクター……!」

 

「でも、ゲンヤさんはそんな事なにも……!」

 

「私達の部隊にもそんな通達ないわ。 どうやら何も知らない部隊にばら撒かれたようね」

 

対策課(うち)にもそのような通達は来ていない。 なのはとフェイトにもそんな話はなかったから、2人の同僚の周りは安心できるとは思うが、それでも相当数……

 

「くっ、一体どこまで……!」

 

「ここに留まっても別働隊が来る。 急いで移動するぞ」

 

「車庫は本部を挟んで反対側……走るしかありませんね」

 

「とにかく、まずは安全な場所まで……!」

 

(ピク……)

 

ガリューが何かを感じ取り、球の状態から元に戻って警戒した。 するとガリューが警戒した方向から警備隊が使用している装甲車が走ってきた。 ブレーキ音を立てながら横向きで止まり、次々と警備隊員が出て来ていきなり撃って来た。

 

「わわ、また来た〜⁉︎」

 

「いったん正面に出るぞ!」

 

急いで正面入口に向かうと……そこは警備隊で埋め尽くされていた。 本部内をガラス越しで見ると、受付や非魔導師の職員、一般市民は身動きが封じられているが危害は加えていないようだ。

 

「どれだけの人にネクターを……!」

 

「はやての情報が確かなら、あらかた9割は全滅だろ……」

 

「一体どこのバイオなんだよ⁉︎」

 

「ゲームのやり過ぎよ、アリシア……それに、噛まれて増えるより遥かにマシよ」

 

「デバイスや車を使えている時点でマシなのかなぁ……?」

 

「……このままだと包囲されるな。 一度クラナガンから出よう」

 

「そうですね……」

 

と、そこで隊員の1人に気付かれた。 その前に踵を返して走り、本道を南下する。

 

「どこに向かうつもり⁉︎ 本部はクラナガンの中心、飛ぶにしても郊外までには距離があるよ!」

 

「どこかで足を確保したいがーー」

 

ブォォオオンッ‼︎

 

大きなエンジン音を響かせ、装甲車が後方から現れ横について来た。 後部ドアが開けられ、操られている隊員が銃口を向けた。

 

「くっ……」

 

「飛び出せ霊脈動(さんぶんしん)!」

 

ファリンが前に出て、手を振り上げると装甲車の下から式神が3体が横並びで這い出し、装甲車をひっくり返した。

 

「ファリンさん、やるぅ!」

 

「へっへ〜ん、どんなもんですか」

 

「一昨日来やがれでフー!」

 

「お望み通り来たわよ」

 

『え……』

 

2人が後ろを見ると、奥からさらに数台の装甲車が迫って来ていた。

 

「ビ、ビエエン⁉︎」

 

「よ、余裕です……!」

 

「いいから逃げますよ!」

 

すぐに路地裏に入り、追っ手から逃げる。 途中で横に曲がり……そこから跳躍してビルの屋上に飛び乗った。 ビルの上を駆けては飛び移り、西へ向かった。 その間にも警備隊に遭遇し、その度に即制圧して囲まれる前に全力で走った。

 

「ふう……」

 

「上手く撒けたかしら……」

 

「パパ〜、だいじょうぶ?」

 

「あの、降りた方が……」

 

子どもはやはり人の機微に敏感なのか、ヴィヴィオとユノは心配そうに声をかける。

 

「いや、大丈夫だ……!」

 

「このくらい任せておきなさい」

 

「でも、2人共辛くなったらいつでも言ってね。 いつでも交代するから」

 

「冗談言うな、娘が重いはずないだろ!」

 

「……レンヤさん、すっかり親バカになりましたね……」

 

「あ、あはは……」

 

ソーマは少し呆れ気味になり、サーシャは苦笑する。 そして西に近付くに連れ飛び移るビルも少なくなり、発見される危険も考慮してまた路地裏に降りた。 こっそりと表を覗くと、全ての建物のシャッターが降りており、人の気配はなかった。

 

「……どうやら警戒線は張られていないようですね」

 

「ただ襲って連れて来いとしか命令されていないのでしょうね」

 

「はあはあ……」

 

「大丈夫、ルーテシア?」

 

「だ、大丈夫です、このくらいへっちゃらです……!」

 

「無理するなよ」

 

「……………………」

 

とはいえ、このまま逃走劇を続けるわけにもいかない。

 

「隊長……」

 

「……ああ」

 

ゼストさんとメガーヌさんが何かをするのように短い会話をした。

 

「ーーよし。 ここから先は別行動だ。 お前達はこの通りを抜けて西郊まで脱出しろ」

 

「ゼストさん……⁉︎」

 

「警備隊がほぼ全滅している以上、頼れるのはゲンヤの陸士108部隊だけだ。 街道に出たら連絡して車両で迎えに来てもらえ」

 

「わ、分かりました……ですがゼストさん達は?」

 

「私とメガーヌは撹乱のためここに残る。 連中の注意を引きつけてかき回そう」

 

つまり、2人は囮をかって出るのか。

 

「そ、そんな……」

 

「いくら強くても無茶だよ⁉︎」

 

「マ、ママ……」

 

「心配しないで、撹乱するだけで本格的な戦闘はしないし。 頃合いを見計らってちゃんと撤退するわ」

 

「そうですか……」

 

ゼストさんとクイントさんなら引き際を見誤ることはないだろうが……一体どれだけの人数を相手にするつもりなんだ。

 

「急げ! 奴らは待ってくれないぞ!」

 

「………行きましょう!」

 

「おじさん! 気をつけてねー!」

 

「ああ……!」

 

罪悪感を振り切り、2人を背にして走った。 5、6分ほど走り、ミッドチルダ西部、西郊手前まで来た所で一旦足を止めた。

 

「ふう………さすがにここまで来れば一安心かな」

 

「ええ……ゼスト三佐のおかげでしょうね」

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「……あの2人の事だから、心配いらないとは思うけど」

 

「そうだね、そう簡単にやられるような人達じゃないし」

 

「はい、いくら強化された警備隊でも。 それだけでやられるはずありません」

 

確かにネクターを投与して身体能力を強化しただけではあんまり意味はない。 慣れてしまえば力と速さも驚異ではなく、後はタフなだけだ。 と、その時腕の中にいるヴィヴィオの表情が少し辛そうだった。 無理もない、あれだけ激しく連れ回しては疲労も出るか。

 

「……ヴィヴィオ、ユノ。 大丈夫か?」

 

「だいじょうぶで〜す」

 

「ヴィヴィオもへいきだよー。 えへへ、みんなとはじめて会った時みたいだねー」

 

「はは……そうだな」

 

「あの競売会からまだ1月ちょっとかあ……」

 

「ちょっと信じられないね……」

 

「そうね……」

 

「ヴィヴィオちゃんが来てから、本当にあっという間でしたね」

 

本当に、あっという間だな……まだ両親にも紹介してもないのに。

 

「ーーさて、このまま街道に出るとして。 先に陸士108部隊に連絡する?」

 

「ああ、頼む。 繋がりにくかったらギンガの方でもいいだろう」

 

「ええ、わかったわ」

 

アリサがメイフォンで通話し、しばらく待ったが……

 

「……話し中のようね……」

 

「無理もありません……相当、混乱しているでしょうし」

 

「どこもかしこもこんな感じなんだろうな」

 

「しばらく通信は繋がりにくいかもしれませんね」

 

どの部隊……というより管理局全体がパニック状態。 これを治るにはホアキン先生をどうにかするしかない。 と、そこでアリサは1度通話を切った。

 

「仕方ないわ。 直接ギンガの方にーー」

 

(!)

 

ガリューが何かを感じ取り、街道方面に立った。

 

「ガリュー?」

 

「どうかしたの?」

 

「まさか……!」

 

すると、街道方面から数名のフェノールのマフィアとアーミーハウンドが現れた。

 

「フェノール……⁉︎」

 

「医療院を襲撃したのとは別働隊みたいだね……」

 

「300人近い大所帯です。 まだまだいるでしょう……」

 

「……迂回している暇もないですし……」

 

「ここは突破するしかないないようですね」

 

ヴィヴィオを降ろし、ファリンさんとユノと一緒に後ろに下がらせた。

 

「ヴィヴィオ、ユノ。 出来るだけ下がってくれ」

 

「……うんっ……!」

 

「はい……!」

 

「ファリン、ビエンフー。 2人をよろしくね」

 

「かしこまりました、すずかお嬢様」

 

「りょ、了解でフー!」

 

マフィア達は警備隊同様、生気のない目でこちらを見つめ……襲って来た。

 

「ソーマ、サーシャ、ルーテシア! 奴らは確かに強化されているが、攻撃がワンパターンだ! 集中して動きを見れば普通より弱いぞ!」

 

「無茶言わないでくださいよぉ……!」

 

「くっ!」

 

「うわっ⁉︎」

 

ソーマ達3人は強化されたマフィアとアーミーハウンドに苦戦した。

 

「助けないの?」

 

「援護はするが、あいつら自身に倒させる。 時と場合を考えたい所だが……この程度で苦戦しているようではこの後も同行は難しいからな」

 

「……レンヤ君って時々厳しいよね……」

 

「でも間違ってもいないわ。 足手まといの面倒は見ていられないわよ」

 

『!』

 

アリサの辛辣な言葉が聞こえたのか、3人は険しい表情になる。

 

「……サーシャ、ルーテシア。 気合いを入れて」

 

「うん、了解だよ」

 

「このまま黙っているのも癪だし」

 

すると3人は目の色を変えて敵に向かって走った。

 

「……大丈夫そうだね」

 

「アリサちゃんも厳しいね」

 

「教導官なら当然よ」

 

「そうだな。 さて、あたしは力を蓄えたいし、サポートに回るからな」

 

そう言うとアギトはアリサの持つフレイムアイズのコアに近付き、そのまま中に吸い込まれて行った。

 

「もう、アギトったら。 フェアリンクはしておいきなさいよ」

 

『分かってるって』

 

短い翼(エーラ・コルト)!」

 

その間にもサーシャが輪刀を片手で振り回してマフィアのデバイスを狙いって弾きながら前に進んだ。

 

「外力系衝剄……九乃!」

 

ソーマは指の間に針のように細い剄弾を形成し、マフィア達の手から弾かれて大きくそれたデバイスを撃ち落とした。

 

「ガリュー! 衝撃弾、発射!」

 

ルーテシアの指示でガリューがマフィアとアーミーハウンドに直撃しないが近場の地面に魔力弾を発射し、着弾すると……轟くような大きな音と衝撃が発生させ、奴らを撹乱させた。

 

「皆さん!」

 

「分かってる!」

 

「ええ……!」

 

「一気に決めるよ!」

 

「やあっ!」

 

一気に畳み掛け、アーミーハウンドを倒し、マフィア達を昏倒させて制圧した。

 

「ふう……思っていたより上手く行きましたね」

 

「強かったですが、驚異ではありませんでした」

 

「余裕余裕♪」

 

ソーマ達も最初は苦戦していたが、最後にはどこかホッとしたように余裕を見せた。

 

「皆、このまま街道にーー」

 

「ふふふ……」

 

突然、女性の笑い声が聞こえて来た。 辺りを警戒しながら見渡すと……道路脇にある街灯の上に淡い金の長髪した20代くらいの女性が座っていた。

 

「お見事。 さすがは異界対策課、優秀な人材が豊富ね」

 

「あなたは……」

 

「そこで何をしている、あなたは何者だ?」

 

「私はシャラン・エクセ。 そうね……ただの通りすがりかしら?」

 

「質問しているのはこっちよ」

 

「そう焦らないで。 私は幹部みたいな位置にいるわ……D∵G教団のね」

 

彼女……シャランがクスリと笑うと、体からゆらりと異質なオーラを放った。 今のは異界の気配……!

 

「まさか……魔乖術師!」

 

「他にもいたなんて⁉︎」

 

「ふふ……」

 

シャランが右腕を上げ、パチンッ! と指を鳴らした。 すると気絶したはずなマフィアが次々と起き上がり……その隣に彼女と同質のオーラが炎のように現れ、アーミーハウンドが復活するように出現した。

 

「なっ……⁉︎」

 

「そんな、完全に気絶させたのに⁉︎」

 

「それにグリードまで……!」

 

「エリンから聞いていると思うけど、魔乖咒は8つの系統に分かれているらしいのよ。 そして私の系統は“闇”、回復や蘇生が専門よ。 死後数分までなら生き返らせることもできるかもしれない、その気になれば墓から死者も蘇生できるかもね」

 

「……ずいぶんと曖昧な言い方だな」

 

「仕方ないでしょう。 この力を手に入れてから1月も経っていないんだから」

 

どうやら魔乖咒はここ最近発見され、扱えるのも数人みたいだな。 だが、系統が判明している以上8人はいると考えてもいい。 しかも滅と闇から考えても残り6つも常識では考えられない能力だろう。

 

「とにかく、そこから降りてもらよ」

 

「出来るかしら?」

 

「アギト!」

 

『マジカルエフェクト、バーン』

 

アリサはシャランに向けて手をかざすと真紅のベルカ式の魔法陣が展開され、大玉サイズの火球を撃った。 シャランは火球があたる直前に飛び上がり、その後火球が街灯に直撃し、その爆風でマフィアを挟んで反対側に降り立った。

 

「さてと、私はこれで失礼するわ。 まだまだ夜は長いわよ」

 

「待ちなさい!」

 

アリサの制止も聞かず、シャランは夜の闇の中に消えて行った。 追いかけようとするが、復活したマフィアとアーミーハウンドが道を塞いだ。 マフィアとアーミーハウンドがまた襲いかかって来たが、復活しただけで強さや行動は変わってはいなく……俺達も最初から戦ったので先ほどより早く片が付いた。

 

「たっく……手間を増やして」

 

「あのシャランって人は何がしたかったのでしょうか?」

 

「さあてね、分かりたくもない」

 

「ふう……そろそろここから離れよう」

 

「そうだね……っ!」

 

その時、前方からフェノールの所有している貨物車が2台現れ、先ほどより多い人数のマフィアが降りてこっちに向かって来た。

 

「……何人いるんだ……」

 

「少し面倒ね……」

 

「でも、増えた所で私達に勝てるわけーー」

 

「! 皆さん、背後から!」

 

サーシャが背後を向くと、警備隊が首都方面から現れた。

 

「くっ……!」

 

「追いつかれた……!」

 

「ちょっと、多いね……」

 

「ちょっとどころじゃないよ……」

 

「多勢に無勢ですねー」

 

「サーシャ、逃避行しないで」

 

「……実はおめえら余裕だろ?」

 

無駄口叩いてもマフィアと警備隊員は少しずつ、じりじりと距離を詰めていく。

 

「ふえ……」

 

「……お、お兄ちゃん……」

 

「大丈夫ですよ、すずかちゃん達なら……」

 

「ソー、バーット……」

 

くっ……何とかこの子達だけでも……。 そう考えた時、西郊方面からエンジン音が響いてきた。

 

「あれは……⁉︎」

 

「車がもう1台来ます!」

 

「増援……⁉︎」

 

「ううん、アレは……」

 

こちらに向かって走って来たのは高級リムジンだった。 2台の貨物車の合間を抜け、目の前で急ブレーキをして停止した。

 

「このリムジンは……アトラスさんの⁉︎」

 

「と言うことは……」

 

「皆さん! 早く乗ってください!」

 

「メルファ……!」

 

「話は後だ! とにかく乗ってくれ!」

 

「は、はい! ヴィヴィオ、乗り込むぞ!」

 

「うんっ!」

 

「ユノ、来なさい!」

 

「はーい!」

 

俺はヴィヴィオを抱え、銃で敵を牽制しながらリムジンに飛び込むように乗り込み。 雪崩れ込むように皆が次から次へと進路を変更するために動いているリムジンに乗り込んでいき……リムジンはドアを開けたまま急発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当面の危機を脱し、しばらくしてからアトラスさんとメルファに今の事態を説明した。

 

「ーーそうか、フェノールのみならず警備隊はおろか管理局全体まで……」

 

「……何といいますか……とんでもない状況になっていますね」

 

「……はい。 正直、夢でも見ている気分です」

 

「ところで、アトラスさん達はどうしてあの場所に?」

 

「ああ、アーネンベルクに商談があって、その帰りだったんだが……前に通ったミートスを出たすぐにマフィア達の襲撃にあってね。 何とか振り切って街に辿り着いたら君達が襲われていたというわけだ」

 

「そうだったんですか……」

 

何はともあれ助かった。

 

「いや〜。 本当に助かったよ〜。 それにこの車って防御処置されているの?」

 

「ああ、すずか君に作ってもらった特注品でね。 衝撃、魔力攻撃に対しても耐性があるから。簡単には破れないはずさ」

 

「でも、さすがに大質量による重圧や砲撃には耐えられないよ」

 

「そうでしょうね」

 

すずかが作ったからか、相変わらず飛び抜けて非常識な車だな……

 

「ーーお父様。 このままDBMに戻ってみては?」

 

「ああ、そのつもりだ。 彼らも疲れているだろうから、ゆっくり休んでもらおう」

 

「そんな、これ以上、迷惑をかける訳には……」

 

「お2人まで危害が及ぶかもしれですし……」

 

「気持ちはありがたいけど……」

 

「アリシアさん。 水臭いことは言わないでください」

 

「DBMのゲートは特殊合金製だし、魔力動力による物理結界もある。 簡単に破られる事はないだろう。 それにDBM総裁としてミッドチルダの治安については無関心ではいられない……できれば、詳しく事情を君達から聞かせて欲しいんだ」

 

「アトラスさん……」

 

「……分かりました。 ご迷惑になります」

 

「ふふ、決まりですね」

 

そうと決まった所で……ヴィヴィオもユノが喋っていないことに気が付いた。 2人を見てみると、目を閉じようとするのに耐えていたカ

 

「2人とも……なんだか眠そうだな?」

 

「えー……? ヴィヴィオねむくないよー」

 

「も、もーまんたーい……」

 

「どこからそんな言葉を……」

 

「でも無理もないよ。 もう10時近くだし……」

 

「あれだけの修羅場に付き合わせてしましましたから」

 

「ふふ、DBMに着いたらベッドを用意しておきましょう」

 

「よし、そうと決まればせいぜい飛ばすとしようか!」

 

「あ、法定速度には……」

 

「サーシャ、今法を言っても仕方ないよ」

 

「ひゅ〜、飛ーばせー♪」

 

半端強引に決められたが、ひとまず態勢を立て直すことを優先……と言うよりもヴィヴィオとユノを安全を確保したいのを優先して、アトラスさんのお言葉に甘えることにした。 ふと外の景色を見ると、通りに人の気配や車の往来はまるでないが……それ以外はいつも通りの景色だ。 火事や荒らされたという事はなく、それだけは不幸中の幸いだろう。 そうこう考えているうちに、リムジンはDBMビルに向けて坂を登り始めたのだった。

 



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130話

 

 

同日、22:00ーー

 

俺達はアトラスさんに連れられDBMに身を隠していた。 DBMは俺達が敷地内に入ると同時に重く強固な門を閉め、ビル全体を魔力による物理結界で覆った。 その後リムジン内で眠ってしまったヴィヴィオとユノをメルファの私室のベッドで寝かせた後……総裁室で、事の次第をアトラスさんとメルファに説明していた。 ソーマ、サーシャ、ルーテシアは先の戦闘で気疲れをしていたため、別室で休んでいてここにはいない。

 

「…………………………」

 

「……お父様……」

 

言葉も出ない、と言うのは表現は今のアトラスさんを表すのかもしれない。

 

「ーー現状で判明している事は確証があるわけではありません。 いずれきちんと証拠を揃える必要があるとは思いますが……」

 

「ああ……君達の立場ならそうだろう……だが私は……今、大きな失望感を感じている。 その教団とやらの罪深さはもちろんだが……そんな連中に付け込まれ、ここまでの事態を引き起こした愚か者達には心底呆れ果てたよ」

 

「………はい」

 

「返す言葉もありません……」

 

この事件は未然に防げなかった俺達管理局にも責任がある。 批難されても何も言えないし、弁明のしようがない。

 

「私とて、メッドチルダの状況が簡単なことではないものであるのは判っている。 フェノールのような存在や議員や役人達の腐敗についてもある程度は仕方ないと諦めていたが………どうやら、この事態になるまで中立を保ってきた私も愚か者だったようだな」

 

「そうですね……DBMは少なからず、ミッドチルダの政界に影響力があります。 お父様は今まで、あえて中立であろうとしていましたが……」

 

「その怠慢こそが今回の事態を招いた原因でもある。 ……すまない。 お詫びのしようもないくらいだ」

 

「それは……」

 

「考え過ぎじゃない? さすがに気にし過ぎだよ」

 

「実際、権限や責任があるわけじゃねえだろ?」

 

アリシアとアギトが自分を責めすぎだとフォローするが、アトラスさんは首を横に振った。

 

「いや、時に政権に対して財界がある程度働きかけるのは本来常識的なことだろう。 ……それ以前に、私にもミッドチルダに住む一市民としての自負もあったはずだ。 だが忙しさにかまけ……その心も頭の隅に忘れていたらしい」

 

「………………………」

 

「……それは私達も含めた市民、1人1人がそうだったと思います」

 

「ああ………いずれにせよ、ここで愚痴を言っても仕方ない。 この事態を解決するために我がDBMは総力を持って君達を支援させてもらおう」

 

「アトラスさん……ありがとうございます」

 

「とても心強いです」

 

「といっても、この状況は如何ともし難いです。 管理局本部や警備隊とも連絡が途絶えているのでしたね?」

 

「うん……何度も連絡してみたんだけど」

 

「……何らかの原因で通信妨害がかかっているようなの。 念話もダメ、ネットワークによるメールも無理だったよ」

 

「何者かがジオフロントの導線ケーブルが遮断されていました。 何とか迂回ルートを確保すれば通信網を回復できるとは思いますが……」

 

「ならば技術部のスタッフに最優先でやらせてくれ。 管理局本部、各警備部隊、レンヤくん達の寮との連絡は勿論だが……市内の各端末との連絡も取れればさらに状況も掴めるようになるだろう」

 

「判りました」

 

「そしてもう1つ……ヴィヴィオ君の事なんだが」

 

操られている警備隊が対策課を襲撃した理由……寮の襲撃から考えてもヴィヴィオが狙いなのは間違いないだろう。

 

「はい………操られていた警備隊が俺達を執拗に追った目的はヴィヴィオの可能性が高いと思われます」

 

「実際、私達に撃った時はほとんど威嚇射撃だったしね」

 

「けど、殿だったゼストとクイントには容赦なく撃ったようだね」

 

「ヴィヴィオちゃんを決して傷つけないで身柄を確保せよ………そんな風に操られているかもしれないね」

 

「まあ、ただのロリコンという線もありますが」

 

「ないわよ、絶対」

 

メルファが軽い冗談を言い、アリサが即否定した。

 

「とはいえ、ホアキン准教授といいましたか? 随分、不気味な方のようですね」

 

「いや……正直、あの人が何を考えているの判らないんだ。 何のためにヴィヴィオが必要なのか……白いファイルに挟まっていた写真がどこで撮られたものなのか……」

 

「そもそもヴィヴィオがどうして競売会の会場にいたのかすらまだ分かっていないのよ。 あの子がもう少し何かを覚えていたら、話は別だったんだけど……」

 

だがあんまり無理に聞けるような状態でも無いし、仮に覚えていたとしても……それは辛い物だろう。 そんなものは覚えていない方がいい。

 

「そうですか………確か、ヴィヴィオは聖王の、レンヤさんのクローンでしたよね?」

 

「……そうだな。 正確には色々と違うんだが、俺の血液が使用されたのは事実だ」

 

「でしたら、ゆりかごに使用するためにヴィヴィオを使うのでは?」

 

「ゆりかごって……聖王が所持していた超大型質量兵器で、数キロメートルほどある空中戦艦だったよね?」

 

「確かにアレの起動の鍵は生体認証みたいなやつだからな。 ヴィヴィオでも十分動くだろ」

 

ラーグはゆりかごを知っている素振りで答える。

 

「だけどよ、未だにどこにあるのか不明なんだろう? 歴史学者や考古学者が言うには、地中に埋まっているとか次元の狭間にあるとか虚数空間にあるとか諸説あるが……壊れてもう無いって線もあるぞ」

 

「……仮に現存して、ゆりかごを起動するためにヴィヴィオが必要とするなら……辻褄は合うね」

 

「それなら俺でも十分行けると思うが……」

 

「レンヤ君は強いからね、抵抗されたく無いのかもしれない。 だからヴィヴィオ君を狙っているのだろう」

 

「でも、アレを使うには聖王核も必要なんだよ。 今聖王核を持っているのはアルフィン……レンヤのお母さんなんだよ」

 

ソエルも同様に知っているようだ。 相変わらず隠し事の多い奴らだ。

 

「ああもう、頭がこんがらがって来た……!」

 

「……いずれにせよ、これだけの事態を引き起こしたと思われる人物だ。 恐ろしく危険な相手であることは間違いないと思った方がいいだろう。 君達をこのビルに匿ったのは簡単には特定できないだろうが……万が一の事はあり得る。 覚悟だけはした方が良さそうだ」

 

「……はい」

 

「ああ……」

 

ここに潜伏していることがバレるのも時間の問題。 ここは少しでも準備を整えて、魔力と疲労を回復させておかないと。

 

「各社との連絡などは引き続き、DBMのスタッフにやらせておく。 ヴィヴィオ君達も休んだことだし、君達も少しは休憩したまえ。 それともベッドを用意しておくかい?」

 

「いえ、それは遠慮しておきます。 それより、このビルの中でデバイスを整備できる場所はありますか? できれば次の戦いまでに準備しておきたいのです」

 

「それなら下の研究室を使うといい。 他のメーカーの使用区だが、使えるように取り計らっておこう。 他にも各メーカーの支社もあるから、補給もしておくといい」

 

「さすがは天下のDBM、なんでも揃いそうだね」

 

ホント、色々とよくお世話になっているよ、DBMには……

 

「……ご配慮、感謝します。 それでは少しの間、休憩させていただきます」

 

それで一旦解散となり、すずかとアリシアも用があるようなので一緒に階下にある研究室に向かった。 到着すると早々に2人は椅子に座り、ディスプレイと睨み合ってキーボードを叩いた。 俺も続いてほぼ同じように行い、レゾナンスアークの調整と……技術的な方面から抜刀の調整をした。

 

「……ふう、上手くいかないもんだな」

 

「何やってるの?」

 

「ん? アリシア、もう終わったのか?」

 

「まあね、フェイトがいないと出来ないし負荷もかかるけどね……ってコレを言ってもしょうがないか。 どれどれー……?」

 

アリシアは頭にのしかかりながらディスプレイを覗き込んだ。 う……重くはないがこの体勢はつらいし、何より……頭に柔らかいのが……!

 

「なんだ抜刀か。 これ、ミウラの抜剣を参考にしたんでしょう? まあ、近接戦のブレイカーなんてかなり使い勝手いいからねー」

 

「あ、ああ、昔の事だし。 見ただけのを真似しただけなんだがな」

 

「それでもよく出来ているよ。 うんうん、これならちょっと細かい調整だけで済みそうだね。 後はやっておくから、レンヤ休んでもいいよ」

 

「いや、これは俺のーー」

 

「いいからいいから、こういうのは私の専門分野なんだから。 それにレンヤは他に補給とかやる事がまだまだあるでしょう?」

 

急な襲撃だったし、手持ちの装備や物資も心許ないし……

 

「……分かった。でも無理はするなよ」

 

「分かってるって」

 

「じゃあまた後でな、レゾナンスアーク」

 

《イエス、マジェスティー》

 

残りをアリシアに任せて、一度ヴィヴィオとユノの様子を見にメルファの私室に入った。 豪華なベッドで2人は仲良く並んで寝ており、側にファリさんが見守るように控えていた。

 

(あ、レンヤ君。 お2人はぐっすり寝ていますよ)

 

(ああ、そのようだな)

 

ベッドの側に行き、ヴィヴィオの寝顔を見下ろす。

 

「……すーすー……」

 

(……よく寝ているみたいだな……無理もない、あれだけの大立ち回りだったし……)

 

「……んんっ………パパ……どこぉ……?」

 

その時、ヴィヴィオは顔をしかめて寝言をポツリと言った。

 

「なのはママ……フェイトママ……はやてママ……アリサママ……すずかママ……アリシアママ……みんな………暗い……怖いよぉ……どこ……どこに行ったのぉ……?」

 

(……ヴィヴィオ……)

 

怖い夢を見ているのかうわ言のように呟く。 俺はヴィヴィオの頭をそっと撫でた。

 

「……大丈夫。 必ず俺達が守り抜くから。 だからヴィヴィオ……安心してくれ」

 

「…………ん……………スゥ………」

 

ヴィヴィオに伝わったのか表情は柔らかくなり、穏やかな寝息を立てた。

 

(ああ、必ず守ってみせる……この子の明日は……未来は……俺達が作らないとな)

 

静かに部屋を後にし、何気なく最上階から3階下まで吹き抜けになっている展望に向かった。

 

「ん?」

 

「あ……」

 

吹き抜けにある落下防止用の手すりの上に……ビエンフーがいた。

 

「レンヤ、お疲れでフー」

 

「お疲れ様、ファリンさんと一緒にいないと思ったら……こんな所で何しているんだ?」

 

「ちょっと空を眺めていたんでフー。 こんな時でも、夜空は変わらないでフねー」

 

「そうだな……」

 

ビエンフーの隣に達を、一緒に空を見上げた。

 

「あ、そうだ。 前からビエンフーに聞きたい事があったんだ」

 

「? なんでフか?」

 

「お前、本当にあのビエンフーか?」

 

「ギクッ⁉︎ な、なんのことでフ……?」

 

「……………………」

 

俺は無言でビエンフーの頭……というよりハットを鷲掴みし、吹き抜けを下にして吊るした。

 

「ビ、ビエンーン⁉︎」

 

「いいからキリキリ言え。 他のノルミンならまだしも、お前みたいなキャラの濃いヤツがすずかのアイデアで作られるなんて無理あるだろ。 前々からおかしいとは思っていたが……もしかしてその身体を器にしているのか?」

 

「……………はいでフ……僕達はすずか様の意識に少し干渉してこの身体を作る事を誘導したんでフー。 騙すつもりは無かったでフ、すずか様やファリン姐さんも知っていたみたいでフし」

 

「そうか……」

 

初めてあった時からあり得ないと思うほど疑問に思っていたが……皆の前で無闇に質問もしたくなかったからな。

 

「それじゃあもう一つ聞いておく。 なんで俺達は()()()()なっているんだ? 霊力は十分にあると思うが?」

 

「そ、それは先代の……レンヤのお母さんのせいでフー。 あの人は神器に細工して、神衣化するとその人物に見えないようする術式を施すようにしたんでフー」

 

「……なるほど。 それで俺より霊力があるアリシアも見えなかったわけか……」

 

ビエンフーを足元に下ろし、手すりに寄りかかる。 引っかかることはまだまだあるが……今はこれでいいだろう。

 

「済まなかったな、脅すようなことして」

 

「いいでフよ。 レンヤの疑問も当然のことでフー。 それじゃあボクはファリン姐さんの所に戻るでフー」

 

「ああ……」

 

ビエンフーはファリンさんのいるメルファの私室に向かうと……入れ替わるようにアリサがエレベーターから降りて来た。

 

「レンヤ」

 

「外の様子を見ていたのか?」

 

「ええ、今のところは問題はなさそうね。 でも……ここからじゃ市民の安全なのかが見えないのが歯痒いわね……」

 

外の景色を見ながら、アリサは苦痛の表情をする。

 

「……大丈夫だアリサ。 なのは達ならきっと平気さ。 あいつらの実力は俺達がよく知っているだろう?」

 

「……ええ……そうね。 なのは達に限って不意打ち程度でやられるような子じゃないわ。 それに、VII組の皆もね」

 

「そういうこと。 特になのははウォーミングアップなのに真剣勝負するようなヤツだ、問題ないだろう」

 

しかも、真剣がダメなら全力に変わるし。 理由は楽しいからだし……

 

「……………………」

 

そこまで考えると少し思う事があり、口を閉じてしまった。

 

「また深く考え込んでいるわね」

 

と、見透かされたのか、アリサが顔を覗き込まれた。

 

「あんたはいつも1人で抱え込んで……ヴィヴィオが大切に思うのはあんただけじゃないのよ。 次そんな事考えたらその頭に風穴開けるわよ」

 

「……はは、肝に命じておく。 しっかし、俺とアリサは高い場所と夜景に縁があるのかな……イラの時もこんな会話していたよな」

 

「そうね。 その後には必ず大きな事件があったわ………そして何度も乗り越えて来た。 今回も何とかなるわよ」

 

「ア、アリサにしてはアバウトだな……」

 

「ふふ、そうかしら?」

 

悪戯っぽくクスクスと笑うアリサ。 こんな時なのに、相変わらず胆力があるというか、怖いもの知らずというか……

 

「……失礼なこと考えていないわよね?」

 

「そ、そんなことないぞ……」

 

「声が上ずっているわよ」

 

「……まあ、結局いつも通りって感じだな」

 

誤魔化すように拳をアリサの前に出した。

 

「この先も頼むぞ、アリサ」

 

「⁉︎ ……え、ええ……まあ、付き合ってあげなくもないわよ///」

 

拳を合わせ、友情みたいなものを確かめた。 何故かアリサの顔が赤くなっていたが………その後アリサと別れ、1度と補給をするため1階に降りた。 外の情報を詮索しながら補給をした後、休もうとエレベーターに足を向けた。

 

ピリリリリリリリ♪

 

エレベーターに入ったらすぐにメイフォンが鳴り始めた。 俺はなのは達かゼストさん、もしくはゲンヤさんからだと思いすぐに出た。

 

「はい、異界対策課、神崎 蓮也です!」

 

『ああ、私だ、アトラス・オルムだ。 すまない、管理局からの連絡あたりと勘違いさせてしまったかな?』

 

「い、いえ……もしかして、どこかと連絡が取れたのでしょうか?」

 

『いや、残念ながらまだだ。 実は、ゲート前の警備員から気になる報告があってね。 休憩中に悪いが、私の部屋まで来てくれないだろうか?』

 

「分かりました、すぐに伺います」

 

警備員からの報告……嫌な予感がするな。 俺は最上階に向かうべく、そのまま認証カードを使って上に上がった。 すぐに到着し、ノックして総裁室に入った。

 

「ーー失礼します」

 

中にはアトラスさんの他にアリサとメルファ、それに休んでいたはずのソーマ達がいた。

 

「レンヤさん……!」

 

「ソーマ、もういいのか?」

 

「はい、もう平気です」

 

「十分休めましたし、これ以上足手まといにはなりません」

 

「元気も魔力満タンですよ!」

 

(コクン)

 

もう3人とも平気そうだな。 それを確認し、次に何事かアトラスさんに聞いた。

 

「それで、一体何があったのですか?」

 

「ああ、警備隊の隊員が2人ほどゲート前に来たらしい」

 

「! それで……⁉︎」

 

「今のところ、攻撃する気配もなく留まっているだけみたいです。 まあ特殊合金製のゲートですから突破も難しいでしょうけど」

 

「そうか………俺達がここにいるのがバレた可能性が高そうだな」

 

「……ええ、そう考えた方がいいでしょう」

 

「ーー失礼します」

 

遅れてすずかとアリシアが総裁室に入って来た。

 

「すずか、アリシア」

 

「何でも警備隊員がゲート前に来たらしいね? はいパス」

 

「っと……ああ、今のところ、何もしてないそうだが……」

 

ピリリリリリリリ♪

 

放り投げられたレゾナンスアークを受け取ると同時に、この部屋に備え付けられていた通信機に着信が入った。

 

「ーー私だ……なに……」

 

おそらく警備員からのゲート前に来ている警備隊員についてだろう。 しばらくアトラスさんが話し終わるのを待つと……話しを聞くごとにアトラスさんの表情が怪訝そうなものになる。

 

「……ゲート前の警備隊員が妙なことを始めたらしい。 円筒状の装置のようなものを設置しているとの事だが……」

 

「! まさか……」

 

「指向性の魔導爆弾⁉︎」

 

すずか、アリシア、サーシャはそれが何なのか知っているようだ。

 

「爆弾⁉︎」

 

「それは一体……⁉︎」

 

「緊急時の時以外は使えないけど、本局が所持している破壊工作用の魔導爆弾だよ!」

 

「特殊合金製のゲートでもさすがに保たないかと……」

 

「そんな……」

 

「くっ、そんなものまで……」

 

「……操られている割には知恵が回りますね」

 

メルファは微妙に毒を吐いたが……ここにいるのが気付かれた以上、すぐに止めないといけない。

 

「ーー仕方ない。 アリシア、打って出よう」

 

「うん……それしか無いみたいだしね」

 

「……やるしかないか……」

 

(ポンポン)

 

レゾナンスアークを首に掛けながら次の行動を開始した。 ルーテシアは若干落ち込み気味だが……

 

「君達……⁉︎」

 

「いくら何でも無謀です!」

 

「いや、その魔導爆弾の設置を妨害するだけだ」

 

「まあ、そのまま帰してはくれなさそうだけどねえ」

 

「逃亡劇の次は防衛戦……ふう、なかなかハードな1日になりそうね」

 

「ふふ、1日で済めばいいんだけど」

 

「大丈夫です! 身体が頑丈なのが取り柄なので!」

 

「はあ、夜更かしはお肌の大敵なのに……」

 

「そんなの気にする歳じゃねえだろ」

 

(コクン)

 

軽口を言えるだけの体力はあるみたいだな。

 

「もちろん、応援が来るまでは耐えます。 はやてあたりなら俺達がここにいることは気付いているでしょう」

 

「ゲート前なら地の利もあります。 どうか任せてはもらえませんか?」

 

「……分かった。 くれぐれも気をつけたまえ!」

 

「はい!」

 

そうと決まれば早速部屋を出て、エレベーターに向かうと……不意に隣にあったメルファの私室の扉が開き……

 

「あれ? ……パパたち、どこに行くのー?」

 

目が覚めたヴィヴィオが出て来た。

 

「ヴィヴィオ……」

 

「あはは……ちょっとお仕事でね」

 

「? ……ヴィヴィオも付いて行っていい?」

 

「そ、それは……」

 

「えっと……」

 

「レ、レンヤさん……」

 

ヴィヴィオの唐突な発言に、ソーマとサーシャ、ルーテシアは対応に困る。

 

「……だめだ。 子どもはもう寝る時間だろう? ユノだってちゃんと寝ているんだからーー」

 

と、そこで今度はユノが部屋から出て来た。

 

「ユノ……」

 

「起こしちゃったかな……」

 

「その……目が覚めちゃって……」

 

「いや……うるさくしてゴメンな。 メルファ、ラーグ、ソエル。 2人の事を頼んでもいいか? ちゃんと寝かせておいてくれ」

 

「……ええ、分かりました」

 

「了〜解〜……」

 

「ああ」

 

ラーグとソエルはすずかとアリサの手からメルファの肩に移動し、メルファは2人に近寄った。

 

「ーーさあお2人とも。 温かい飲み物を用意しますから。 リラックスしたらまた寝ましょう」

 

「え、え……」

 

「?」

 

メルファは半端強引に部屋に入れ、俺達はエレベーターに乗って下に降りた。

 

「……………………」

 

「絶対に……守らないとね」

 

「……うん……!」

 

「皆、警備隊は人員不足のせいで個人での戦闘は弱いけど、それを埋めるように隊としての戦闘はかなり強い……操られているとはいえ、薬の影響も馬鹿にならない。 それに多分、もうワンパターンな行動はしないと思う。 厳しい戦いになるよ」

 

「ああ、分かっている。 俺達のチームワークが試されるってことだな」

 

警備隊の練度はよく知っている。 一瞬でも気を抜けばこちらも危ないかもしれない。

 

「ーーまずは爆弾の撤去。 そのままゲート前で隊員達の突入を阻止する」

 

「分かりました」

 

「やってやんぜ!」

 

1階に到着し、すぐに外に出て……

 

「異界対策課、これよりDBM防衛戦に入る……総員、必ず死守するぞ!」

 

『了解‼︎』

 

全員バリアジャケットを展開し、ゲートに向かって駆け出した。

 

 

 



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131話

 

 

DBMの侵入工作を防ぐため、俺達異界対策課はゲートに向かって走っていた。 すずかが管制室に指示をするとゲートが下がり……円筒状の装置を設置している2人の警備隊員がいた。

 

「させるかっ!」

 

「とりゃ!」

 

アリシアと同時に警備隊員に蹴りを入れて、装置から引き離した。 操られている警備隊員はすぐさま機関銃型のデバイスを起動し、襲いかかってきた。

 

「内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマが脚力を大幅に強化し高速移動を可能にし。 一瞬で警備隊員の前に立ち、デバイスを斬り上げた。

 

「ガリュー!」

 

(バッ!)

 

「フレイムアイズ!」

 

《アームズエイド》

 

ガリューが鳩尾に膝蹴りを入れ、アリサは腕力を強化して顔面を容赦なく殴り、坂を降れせた。

 

「アリサ、容赦無いね……」

 

「こうした方が正気に戻りやすいのよ」

 

「……ルーテシアの方がまだ優しいかったな」

 

「そうですね、いつもよりは」

 

「ソーマさん、それって私はいつも優しくないんですか……?」

 

ルーテシアはソーマに抗議する……それは放っておいて、残りの気絶した警備隊員は拘束して横に転がした。

 

「おおっ……!」

 

「やるじゃないか!」

 

後から付いてきた整備員と警備員が一連を見て褒める。

 

「よし……!」

 

「油断しないで! すぐに次がくるよ!」

 

「爆弾はまだ起動前、中に運び込んで解体してください!」

 

「ああ!」

 

「運び込むぞ!」

 

「ひっ、ひええ……!」

 

爆弾をここの整備員と警備員に運び込ませたの同時に、それを待たずして次の警備隊員が現れた。

 

「来たか……!」

 

「喰い止めましょう!」

 

次々と坂を登り、襲い掛かってくる警備隊員達。 連携し、各個撃破で確実に数を減らして行くが……こうも人海戦術で来られたら退却もままならない。

 

「くっ、中に入ろうにもこう矢継ぎ早に来られたら……!」

 

「ゲートを閉める時間を何とか稼ぐわよ!」

 

「は、はい!」

 

俺達は敵の猛攻に対処していくが、次第に疲労が目に見えてくる。

 

「この……!」

 

《バレットインパクト》

 

アリシアが2丁拳銃から着弾地点から衝撃波を発生させる魔力弾を敵集団めがけて無作為に撃ち……アリサが剣に焔を纏わせ、刃を伸ばして横薙ぎに構えた。

 

《アタックエフェクト、エクステンドエッジ》

 

「はあっ!」

 

横に一閃し、軌跡が地面に残ると……そこから焔が吹き出して広範囲に広がり、敵を一掃する。

 

「これで最後か……?」

 

「! いえ、第二波接近! まだまだ来ます!」

 

「くっ、ずいぶんと行儀よく正面から来るわね!」

 

と、アリサがそう言った次の瞬間、突然頭上に異界の気配を感じる、上空の空間が揺らぐと……次々と警備隊員が揺ぎから出て来た。

 

「なっ……⁉︎」

 

「転移反応は無かったはずなのに⁉︎」

 

「また魔乖咒か!」

 

倒しても倒しても地上から、虚空から警備隊員が次々と現れる。 さらには小型の飛空挺までが現れ、ビルを覆っている魔力結界を攻撃し始めた。

 

「まずい……!」

 

「この勢いで攻め込まれたらゲートも結界も保ちませんよ……!」

 

「っ……ここで喰い止めないと!」

 

「まだまだ来るよ、気を抜くな!」

 

「まずは空の敵を……!」

 

《スナイプフォーム、スパイラルライン》

 

スノーホワイトを長銃形態に変え、少なからずいる空戦魔導師や飛空挺のアフターバーナーを狙って緩やかに撃墜させる。 だが、飛空挺を無理に墜落させると死人が出かねない……すずかもいつも以上に慎重になってトリガーをひく。

 

「一体どれだけいるのよ!」

 

「! 北西15kmの地点から熱源反応多数接近してきます! これは……ミサイルが来ます!」

 

「ミサイル⁉︎ 質量兵器じゃないか!」

 

「フェノールの武器倉庫にあった入荷リストに載ってあったよ。 おそらくそれを使ったんだと思う」

 

「っ……アリシア、リンクを繋いでくれ! 迎撃する!」

 

「ちょっ、無理だよ⁉︎ 戦術リンクは陸戦用なんだよ! 高速で移動する空戦には向かないんだから! 距離が離れ過ぎればラグも出るし、ナノコンマ1秒の遅れも致命的なんだよ⁉︎」

 

「なら、もっと深く接続は出来ないのか⁉︎」

 

「出来ない事もないけど……それ以上は本当に適性が必要になるの! それこそ脳の波形がほぼ同一じゃないと……せめて私かフェイトがいけるくらいだよ」

 

「くっ……」

 

《落ち着いてください、マジェスティー》

 

レゾナンスアークにそう言われ、熱くなっていた頭を振って1度冷静になった。 焦り過ぎたようだ……

 

「ふう……ありがとうレゾナンスアーク、落ち着いた。 すまないなアリシア」

 

「ううん、焦る気持ちは分かるよ」

 

「ミサイル到着まで後30秒を切りました、急いでください!」

 

「悔いる暇もないか……レゾナンスアーク!」

 

《イエス、マジェスティー。 シールドビット、アクティベート》

 

飛行魔法でミサイルの来る方角に飛び、シールドビットを展開する。

 

「迎撃する……!」

 

《モーメントステップ》

 

「はあああっ‼︎」

 

菱形のシールドビットと併用してミサイルを防ぎ、一瞬で移動して刀で斬り落とす。 その間にも警備隊員が正面から襲って来ている、そっちを対処しようにもまだまだミサイルは来る。

 

(くっ……何とか耐えてくれ……!)

 

内心焦りながらもミサイルを迎撃し、全てのミサイルを防いだのを確認したらすぐに正面ゲートに向かった。 降り立った時、次の現れた部隊に見覚えのある部隊員がいた。

 

「! あの2人は……⁉︎」

 

「ミラにタント⁉︎ どうしてここに⁉︎」

 

「お知り合いですか?」

 

「ああ、以前管理世界のスプールスでの仕事で会ってな。 だが、どうしてここに……?」

 

2人は自然保護局所属のはず。 基本無人世界に滞在している彼らがどうして、偶然ここに居合わせたのに巻き込まれたのか……⁉︎ だがそんな気持ちとは裏腹に、2人は無情にも襲って来た。 アリサ達はやられる訳にもいかず、苦しい表情をしながら制圧した。

 

「はあはあ……」

 

「そんな、あの人達まで……」

 

「くっ、趣味の悪いことを……アギト!」

 

『了解!』

 

「『フェアライズ!』」

 

アリサは激情とともに剣を真上に投げ、剣先が下にして落下しアリサの腹部に刺さると魔法陣が展開し……魔力を膨れ上げながら輝きがアリサを包み込み、光が晴れると装甲に身を包んだアリサが現れる。

 

『フェアライズシーケンス、コンプリート』

 

「覚悟しなさい!」

 

『マジカルエフェクト、バーンラルグ』

 

地面に手をつきベルカ式の魔法陣を展開すると、敵の足元にも同様に魔法陣が展開され、そこから爆発するように火柱が上がった。

 

「よし!」

 

「これで大多数は……っ⁉︎」

 

炎が止むと……その中心に和服を現代風にしたような服を着ていて、隣にはまた異質な感じがする本を浮かせている紅紫色の短髪の中性的な人物がいた。 その人物の周りには無傷の警備隊員が彼、彼女? を敬うように綺麗に整列している。

 

「あなたは……⁉︎」

 

「何者だ、また魔乖術師か⁉︎」

 

「……ボクかい? ボクはサクラリス・ラム・ゾルグ。 君の言う通り、魔乖術師だよ」

 

……おそらく彼女……サクラリスは感情の篭っていない目で俺達を見る。 その目はサクラリスの周りには控えている警備隊員とはまた異質な要素を感じる。

 

「今度はあなたが相手になるのかな……?」

 

「いや、ボクはホアキンに部隊を連れて来るように言われただけだからーー」

 

次の瞬間、上空に空間の揺らぎがさらに起こり……先ほどとは比べ物にならないくらいの飛空挺が現れた。

 

「そんな……⁉︎」

 

「多過ぎる……それに、この力は一体……⁉︎」

 

「ボクの魔乖咒は“異”……ものごとの境界を操る魔乖咒だよ」

 

「ものごとの境界?」

 

ルーテシアは意味が分からないように首を捻る。 それを見たのか、サクラリスは先ほどの火柱でできた地面のヒビ。 その破片を手に取りこちらに放り投げた。 何をしたいのかは分からないが、当たる必要もないので手で弾こうとした時……破片が手をすり抜け、さらに胸もすり抜けて背後の地面に音を鳴らして落ちた。

 

「なっ……⁉︎」

 

「そこにあるのに触れない物……境界の曖昧。 この程度の魔乖咒なら簡単に出来るよ?」

 

「……本当に、魔法とは比なる力のようですね……」

 

「こんな力、どう対処すれば……」

 

ソーマとサーシャは初めて魔乖咒を目の当たりにし、困惑してしまう。

 

「まあ、ボクもシャラン同様に戦う気はないしホアキンの思惑も興味はない。 ボクはこれで失礼するよ、せいぜい死なないでね」

 

「待って!」

 

踵を返したサクラリスにすずかがとっさに追いかけるが、それを警備隊員が塞いだ。 と、サクラリスは突然足を止め、振り向かないでそのまま話し出した。

 

「あ、そうだ。 この後もホアキンと戦うなら“歪”に気を付けてね。 歪の魔乖術師は精神的に不安定な人間が多いから……人格破綻者というか情緒不安定で好戦的な人だから」

 

「え、なんだって……⁉︎」

 

「頑張れ、異界対策課。 それじゃあね」

 

関心がない素ぶりでそれだけを言うと歩き出し、目の前に現れた空間の揺らぎの中に消えていった。 後に残ったのは空を埋め尽くす飛行艇と、敵意もなく機関銃型のデバイスを向ける警備隊員だった。

 

「冗談でしょう……」

 

「この数はさすがにキツイわよ……」

 

改めて、一体どれだけの人数が取り込まれたのか考えてしまうが……目の前の敵の数はせいぜい全体の2割はあって欲しいと願いたい。

 

「やるしかない……!」

 

「せめて、応援が来るまで耐えるぞ!」

 

「はい!」

 

一寸の希望にすがるように、最後の足掻きのように俺達は大軍に挑み掛かった。 だが、やはり数の差には無理があり。 疲労も重なって徐々に押されて行く……

 

「ぐっ……」

 

「うう……数が多過ぎるよ……」

 

「フフ……なかなか頑張ったようだね」

 

その時、突然クツクツと笑いながら警備隊員達の間をかき分けて現れたのは……見知らぬ警備隊員だった。

 

「……?」

 

「あなたは……一体……?」

 

「ああ、分からないのも無理はない。 僕は彼の身体を借りてこうして語りかけているだけさ」

 

「! この口調……あんたは!」

 

「ホアキン先生……⁉︎」

 

「フフ、正解だ。 僕からの招待状には目を通してくれたようだね。 エリン君も一応、役に立ってくれたというわけだ」

 

「この野郎……!」

 

アリシアは怒りを露わにし、それに応えるようにすずかが口を開いた。

 

「一体、何のつもりですか……こんな事をしでかして……ミッドチルダ全土を混乱に陥れて……!」

 

「あなたは……D∵G教団は一体何をするつもりなんだ……!」

 

「ハハ、それを知りたいのであれば僕らの仲間になってもらうしかないな。 異界と何度も接触している君達ならネクターにもすぐ適応して、魔乖咒も使えるようになるよ?」

 

「ふ、ふざけないでください……!」

 

「あんな事をしでかしておいて……よくもそんな易々と……!」

 

ソーマ達にもあのファイルを見ていたので、やつらの所業はやはり許せないようだ。

 

「フフ、別に各ロッジの儀式は僕がやった事ではないけれどね。 無論ネクターのプロトタイプの実験データは回収させてもらったよ。 そのデータを元に、この地で僕はネクターを完成させた……そう、全ては運命だったのさ!」

 

「あ、あんたは……」

 

「何を口走って……」

 

「意味不明……」

 

「クク……“至らぬ”身である君達に理解してもらうつもりはない。 我々の要求はただ1つ。 あの方をーーヴィヴィオ様を返してもらうだけだ」

 

ホアキンは突然にヴィヴィオを返還を要求した。 いやそれ以前に、彼は何故ヴィヴィオを敬うように敬称を付けている……?

 

「あ、あの方ですって……⁉︎」

 

「それに、ヴィヴィオ様って……」

 

「あんた……あの子をどうするつもりだ⁉︎」

 

「勘違いしないでもらおう。 ヴィヴィオ様は元々、我らが御子。 その身を君達が預かったのはただの偶然に過ぎない。 あの方にはただ、あるべき場所に還っていただくというだけさ」

 

「ーーふざけるな……‼︎」

 

そんな要求は認めることなんて出来る訳もない。

 

「あんたらの狂信に……あの子を巻き込ませるものか!」

 

「さっきから聞いていれば………妄想めいたことばかり……!」

 

「あんたみたいな変態野郎に、ヴィヴィオを渡せるわけないよ……!」

 

「即刻、痛い目を見てお帰り願うよ……!」

 

「おととい来やがれ……です!」

 

「とっととヴィヴィオの前から消えてもらうよ、教育にも悪いし!」

 

皆も取り付く間も無く完全に反対する。

 

「やれやれ……交渉は決裂か。 ならば君達の屍を越えてヴィヴィオ様をお迎えさせてもらおう」

 

ホアキンが手を上げると、控えていた警備隊員達が機関銃型のデバイスの銃口を向けて来た。

 

「くっ……」

 

「負けるわけには……いかない……!」

 

「まだ、まだ……!」

 

「クク、祈りは済ませたかな……? ああ、心配しないでも……君達の屍はシャラン君に再利用させてもらうから。 それでは、死にたまえーー」

 

「だめえぇーーーー‼︎」

 

ホアキンの手が下される瞬間、背後から悲鳴のようはヴィヴィオの声が響いて来て……ヴィヴィオが俺達の間を通り抜け、前に出ると両手を広げた。

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……⁉︎」

 

「ど、どうしてここに……」

 

「おお、ヴィヴィオ様……」

 

「パパたちにイタイことしないで! イタイことしたらヴィヴィオ、絶対にゆるさない!」

 

「ヴィヴィオ……! いいから下がって!」

 

「ヴィヴィオちゃん、お願いだから……!」

 

「ヴィヴィオ様。 お迎えに上がりました。 そのような愚物どもなど放って我らの元にお戻りください。 今は何も分からないでしょうが。 貴方は我らのーー」

 

「いいから、ヤクソクして! パパたちにこれ以上、ひどいことしないって……!」

 

「っ……!」

 

ホアキンがヴィヴィオを連れて行こうと説得をしようとした時、ヴィヴィオは最後まで言わせず大きな声を出した。 そしてその声に……どういう訳かホアキンと、周りにいた警備隊員が萎縮するように反応した。

 

「え……」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……?」

 

「ど、どうして……」

 

何が変化したのかは分からないが、いつものヴィヴィオと何か雰囲気が違う……おそらくそれをホアキンは感じ取っており、ホアキンが操っている警備隊員の口元がつり上がる。

 

「フフ……ハハハハハハ……それでこそ、それでこそ我らの御子だ……!」

 

狂ったように笑うホアキン。 しばらくして収まると、ホアキンはヴィヴィオの顔を見て頷いた。

 

「かしこまりました。 ヴィヴィオ様さえお戻りになれば、彼らには決して危害は加えません」

 

「……ホントウに? イタイことしたりしない?」

 

「ええ、もちろんですとも。 さあ……どうぞこちらへ」

 

「駄目だ……!」

 

ヴィヴィオの隣まで歩き、手で行く道を塞いだ。

 

「パパ……」

 

「ヴィヴィオ……暗いのが怖いんだろう⁉︎ 俺達から離れるのが寂しくて嫌なんだろう……⁉︎ だったら、こんなヤツの言うことなんて聞いたら駄目だ!」

 

「……で、でも……ヴィヴィオ……何もわからないし……パパたちのメーワクになるなら……い、いっしょにいないほうが……!」

 

「迷惑なんかじゃない……!」

 

それ以上、ヴィヴィオに言わせないために大声で否定した。

 

「俺は……俺達の方こそ、ヴィヴィオの側にいて欲しいんだ!」

 

「……………え……………」

 

俺の言葉に、呆けるヴィヴィオ。 それに応えるようにアリサ達も前に出た。

 

「多分、私達は……あなたがいてくれたおかげで本当の意味で成長できたと思う……あなたを見守る……その事に、それぞれが求める意味を見出すことによって……!」

 

「そうだよ……ヴィヴィオちゃんと一緒だっから、皆が笑顔でいられたの。 皆とヴィヴィオを守るためなら……忌み嫌われてもいい……!」

 

「だかはヴィヴィオ……そんな事を気にしなくてもいいんだよ。 ヴィヴィオは元気に笑っている方が10倍可愛いんだから、その笑顔を見るだけで私達は勇気を貰えるの……!」

 

「……僕も、戦いたいから戦うんじゃない。 大切な人を守るため……それを教えてくれたのはヴィヴィオ、君だ。 絶対に守るんだ……!」

 

「ヴィヴィオちゃんと一緒にいられた時間、それに嘘偽りはありはしません。 戦いは嫌いですけど……そんな時間を壊されるようなら、私は(つるぎ)を取ります……!」

 

「私だって、大事な妹分を守れないようじゃ、お姉ちゃん失格だしね……!」

 

皆、俺と同じ気持ちで、ヴィヴィオを大切に想っている。

 

「……アリサママ……すずかママ……アリシアママ……ソーマ君……サーシャちゃん……ルールー……」

 

(コクン)

 

「ガリューも……」

 

「俺達は異界対策課だ。 自分の事を知りたいのなら俺達が一緒に探してやる……少なくともこんなヤツの言いなりになる必要はないんだ。 だからヴィヴィオ……行かないでくれ」

 

「……パパ………」

 

切な思いでありのままの言葉を伝えた。 ヴィヴィオはしばらくして、あの独特な雰囲気を消して元に戻り、コクリと頷いた。

 

「…………うん。 ヴィヴィオ、みんなと一緒にいる」

 

「そうか……」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「……クク……ハハハハハハハッ!」

 

その時、今まで静かに事の経緯を見ていたホアキンが笑い出した。

 

「よくもそんな妄言で我らの御子を誑かしたものだ………様子を見て預けておいたのがそもそもの間違いだったわけか……」

 

そして、笑いが冷めると一瞬で冷たい表情と目になり……

 

「異界対策課……! 貴様ら全員、嬲り殺しにしてくれる!」

 

鬼のような形相で睨み、周りの警備隊員がさらに近付いた。

 

「くっ……!」

 

「ヴィヴィオ! ゲートの中に入っていて!」

 

「ここは私達が……!」

 

「ーーその必要ねぇ」

 

その時、ホアキンの背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「⁉︎」

 

「あ……」

 

「……あなたは……!」

 

坂の下にいたのは……大剣を構えたテオ教官と、双剣を構えたシェルティスだった。

 

「走れ……ライトニングライン……!」

 

「剣晶五十二・旋廻飛光(せんかいひこう)!」

 

テオ教官は道中の警備隊員を稲妻形に高速で移動ながら倒し、シェルティスは空中に飛び上がると空中で全方位に結晶の斬撃を放って飛行艇を大破しないように撃ち落とした。 最後にテオ教官が俺達の前に立つと大剣を横薙ぎに振り、ホアキンに操られている警備隊員以外を吹き飛ばした。

 

「テオ教官……!」

 

「シェルティスさん!」

 

「オ、青嵐(オラージュ)……⁉︎」

 

「ちょっとちょっと! すごいタイミングできたね!」

 

「狙ってたみたいです……!」

 

「ふうー……こっちもギリギリなんだけど」

 

《まあ確かにタイミング良すぎでしたからね》

 

「ふ……狙えるほど器用でもねえしな。 それと、来たのは俺だけじゃないぞ」

 

「え……」

 

残っていた警備隊員を制圧しながらゼストさんとクイントさんが追いかけてきた。

 

「ふう……あの人早過ぎ……!」

 

「やれやれ、若い者にはまだ負けられないというのにな」

 

「ゼストさん……!」

 

「ママ!」

 

2人はそのままこちらに来るとホアキンに操られている警備隊員を拘束した。

 

「き、貴様ら……」

 

「あははっ……カッコつけすぎだよ!」

 

「お2人共……よくご無事で……!」

 

「幸い、良いタイミングでテオと合流できたのでな……」

 

「思わぬ加勢もあったから、こうして辿り着けたわけよ」

 

「思わぬ加勢……?」

 

「あれは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DBM前の坂に一台の警備隊の装甲車が止まり、警備隊員がまたビルに進行しようとした時……

 

「やれやれ……完全に操られているみてぇだな」

 

「行くぜえええーー!」

 

先に構えていたワシズカの蹴りと、ファクトの木刀が先頭にいた警備隊員に直撃して進行を止めた。

 

「ハッ……大したことないな! 新生HOUNDの力を見たかーー」

 

ファクトが意気揚々と語るが、言い終える前に警備隊員は何事もなかったかのように無表情で立ち上がった。

 

「な、なあっ⁉︎」

 

「チッ、さきに言っただろ⁉︎ ヤクを使ってタフになってると」

 

「す、すんません……コホン、野郎ども! 始めんぞ!」

 

『おおっ‼︎』

 

「さて、良い加減目を覚ましてもらおうか!」

 

『応っ‼︎』

 

2人の合図で隠れていたレイヴンクロウとHOUNDのメンバーが警備隊員を取り囲んだ。

 

「さあて……始めるとするか!」

 

「ティーダさんにカッコ悪いとこ見せんなよ! 全員縛り上げろ!」

 

『おおっ‼︎』

 

それを合図に、指定暴力集団と過去の罪を清算した不良チームがこの街を守るために戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらは……!」

 

「凄い……対等に戦えている」

 

「しかも結構、押してますよ……!」

 

「あはは……警備隊相手にやるじゃない!」

 

「ふう、ワシズカさん、今回は妙に大人しくしていたと思ったけど……」

 

「まあまあ、助かったんだから」

 

「くっ、不良ごときがどうして……」

 

ホアキンも彼らに止められるのが屈辱なのか、警備隊員の身体を使って歯軋りをする。 と、その時、空の方から薄い紫色の花びらが飛んできた。

 

『皆!』

 

「ツァリ!」

 

『よかった。警備隊に追われていたらしいけど、どうやら無事みたいだね』

 

「ツァリの方こそ、無事でよかった」

 

「他の皆も怪我とかはしてない?」

 

『うん、寮が襲撃された時、なのはがとっさに防御してくれたおかげで、皆ピンピンしているよ。 それと……こっちも反撃に転じたよ。 今破壊された通信ターミナルの復旧が終わったところ……限定的ではあるけど通信は回復したよ』

 

「そうか……!」

 

『現在、陸士108部隊と僕達がそっちに応援に向かっているよ! 他の警備隊でネクターを服用していない人の捜索もこちらでしておくよ。 皆、どうか気をつけてね!』

 

「ええ……!」

 

「くっ、馬鹿な……」

 

「ーーそういう事だ」

 

今の話を聞いていたホアキンが顔を歪ませ、その顔にテオ教官が一歩前に出て大剣を突きつけた。

 

「D∵G教団幹部司祭、ホアキン・ムルシエラゴ。 これ以上、このミッドチルダを好き勝手にはさせないぞ?」

 

「…………クク……いいだろう。 こちらの戦力はマフィアと航空部隊と合わせて1万近く……しかも無尽蔵の体力を持ち、眠る必要すらない……歯向かう者は皆殺しにした上で我らが御子を取り戻してくれる……ハハハ……! 楽しみにしているがいい……‼︎」

 

捨て台詞のように叫び、最後にオーラを放出しながら狂ったように笑い声を上がると操っていた警備隊員力なく倒れ伏した。

 

「……完全に気絶しました……」

 

「彼の操作が解かれたみたいだね。 この場合だと、かなり遠くからだと思うよ」

 

「もしかして……そこから警備隊全員を操って⁉︎」

 

「くっ……ホアキン本人を叩かない限り、どうしようもないって事ですか⁉︎」

 

「ーー居場所は判明している」

 

大剣をしまい、テオ教官がそう言い。 シェルティスも頷いた。

 

「え……」

 

「なのはとはやてが教団の拠点(ロッジ)を発見したんだ。 場所は北東にあるグランツェーレ平原ーーそこから行方不明者達が入った痕跡を見つけたそうだよ。 ちょうど今、潜入経路を調べているみたい」

 

「グランツェーレ平原……あんな場所に!」

 

グランツェーレ平原はかなり広い範囲……中心に行けば前後左右、地平線の彼方までラベンダーがぎっしり咲いているミッドチルダの観光名所だ。 その中央には……古くからある砦が残されている。

 

「確かに何かありそうな遺跡があったけど……」

 

「だったらそっちを叩けば……!」

 

ルーテシアが意気揚々に言うが、メガーヌさんが首を振って否定した。

 

「……そう単純な話じゃないのよ、ルーテシアちゃん。 どうやら街道や砦に続く空路にも相当な戦力が展開しているようなのよ。 主にマフィアと航空部隊だけど」

 

「いずれにせよ……こちらも戦力が限られている以上、闇雲に突っ込むわけにもいかん。せめてもう少しこちらにも戦力があれば何とかなるかもしれんが……それはほぼ、全ての管理局員と共に消えてしまっている。 今から残りをかき集めるにしてもな……」

 

「くっ……」

 

「ここに襲ってきたのも全体のほんの一握り……戦力差は絶望的ですね」

 

「ーーだからこそ、それに対応する策も作るだけだ」

 

今度はこちらの背後から声が聞こえて聞こえてくると……黒い制服を着たクロノがいた。 となりにはヴィロッサとユノもおり、少し後ろにはアトラスさんとメルファとファリンとビエンフーがいた。

 

「クロノ……⁉︎」

 

「それにヴィロッサも……!」

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「一体どこから……?」

 

「君達が敵を惹きつけている間に抵飛行でDBMの反対側から着艦したのさ。 なんとか合流できて何よりだ」

 

「フェイトママー!」

 

「ヴィヴィオ! 大丈夫だった⁉︎ 怪我はない⁉︎」

 

「うん! パパ達が守ってくれたの!」

 

飛び込んできたヴィヴィオを受け止め、フェイトは慌てて怪我がないか身体のあちこちを触ってか確認する。

 

「アトラスさん……!」

 

「あ、ユノにメルファさん!」

 

「皆さん、お疲れ様です。 しかしヴィヴィオちゃん、無茶をしないでください」

 

「そ、そうだよ……! いきなり走っていくから……! ……あんまりシンパイさせないでよ……」

 

「ご、こめんなさい……」

 

「……ふふ」

 

クロノは2人のやり取りを微笑ましく思い、ユノの頭を撫でた。

 

「お疲れ様です、すずかちゃん」

 

「怪我はないでフか?」

 

「うん、大丈夫だよ。

 

と、そこでゼストさんがクロノの前に出て敬礼をした。

 

「ーーそれでクロノ提督。 この状況を何とかできるのでしょうか?」

 

「ああ、だがその説明は後だ。 応援が到着した次第、すぐにクラウディアで出発する。 詳細はそこで話そう」

 

そうだ、まだ決着はついていない。 今度こそ、終わられせないと……と、そこでヴィヴィオが少し潤んだ目で俺のことを見上げてきた。

 

「パパ達……行っちゃうの……?」

 

「ああ……でも大丈夫だ。 絶対に皆でヴィヴィオのところに戻るから」

 

「ええ……必ず。 戻ってきたらまた料理を手伝ってちょうだいね?」

 

「あ……」

 

「確かにヴィヴィオちゃんが手伝ってくれたらすごく美味しくなるからね」

 

「だったらいっそうのこと、派手にパーティでもやろうよ。 知り合いを皆、寮に集めてさ」

 

「はは……それもいいな」

 

俺は1度、ヴィヴィオの頭を撫でた。

 

「……ヴィヴィオ。 本当は心細かったんだな。 自分が何者か分からなくて……ゴメンな、気付いてやれなくて」

 

「パパ……」

 

ヴィヴィオにこんな思いをさせたのは俺にも責任がある。 出生に違いがあるとはいえ、ヴィヴィオは俺の娘……それを自信を持って言えなかったから……そう思っていた時、ヴィヴィオは腰にギュッとその小さな両手で抱きついてきた。

 

「……うん、ヴィヴィオ、何にも知らなくて……胸がモヤモヤしてきちゃって……でも、パパ達がいてくれたからゼンゼン寂しくなかったよ……だから……だからね……! ゼッタイに帰って来てね!」

 

「ああ……約束だ!」

 

俺はヴィヴィオと約束を交わした後、この場の護衛と指揮をゼストさん達に任せてにクラウディアに乗り込んだ。 俺達が乗り込むと同時にクラウディアはすぐに夜の空に向かって飛翔した。

 

 



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132話

 

 

同日、23:20ーー

 

現在、俺はシェルティスと共に……真っ暗闇の中、雲の真上を道のようにして小型の飛行艇で飛んでいた。 ただし俺達がいるのは強風吹き荒れる甲板の上だ。

 

『これ以上は近づけねえ……奴らのレーダーに引っかかっちまう』

 

『……レンヤ、機関室に着いたら機能停止を忘れるなよ』

 

「ああ、分かっている」

 

「レンヤ……本当にやるのか?」

 

《あれ〜? 今更怖気ついたんじゃないですよねー? シェールティース?》

 

「いや、これは常人なら当たり前……」

 

「いいから行くぞ!」

 

「ちょっ、待って⁉︎ まだ心のーー」

 

問答無用でシェルティスの襟を掴み、飛行艇から飛び降りた。

 

「うわああああ⁉︎」

 

シェルティスが悲鳴が風でかき消される中、一瞬で雲を抜けた。 その先には……人口の明かりが一つもない地帯、その上空を大量の艦隊が埋め尽くしていた。 さて、何故いきなりパラシュートないのスカイダイビングまがいな真似をしているのかと言うと……それはほんの数分前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23:10ーー

 

DBMのビルからクラウディアで出発し、太陽の砦に向かう手段としてクロノの策を聞くため俺達異界対策課とテオ教官達はブリッジにいた。

 

「やっほー皆、久しぶりだねー」

 

「エイミィ!」

 

「地球に居たんじゃ……」

 

「こんな事態になっちゃったし、カレルとリエラをリンディお義母さんに預けて育児休暇繰り上げ、現場復帰ってわけ」

 

「それは大変ですね……でも、またエイミィさんがオペレーターをやってくれるなら安心です」

 

「あは、ありがとう♪」

 

こんな状況でも女子の会話には花が咲くものだな……

 

「コホン、あー話を戻してもいいか?」

 

「ご、ごめん、レンヤ」

 

「あ、うん。 それでクロノ君、策は本当にあるの?」

 

すずかがディスプレイに表示された映像を指差しながら質問した。 そこに映っていたのはグランツェーレ平原に上空に停留している航空武装隊の大艦隊……地上には主要道路にフェノールが防衛線を敷いている。

 

「いくらクラウディアでもアレを突破するのは至難の技……いえ、自殺行為よ」

 

「だから策を講じないといけないんだ。 例え可能性が低くても……」

 

「……まさかクロノ、また……運任せみたいな、賭け?」

 

「ああ、そうだ」

 

何の躊躇もなく澄まし顔で言いやがったよ。 比喩で頭を押さえながら一応その策とやらを聞いてみた。

 

「それでクロノ、その策と言うのはどんなものだ?」

 

「まず、ハッキリ言ってこのままだと突破は完全に無理だ。 シュミレーターもそう出している」

 

「だろうね……」

 

《正面突破の成功率0.6%、クラウディアの推定破損率80%オーバー。 冗談抜きで死にますね》

 

「そこでだ、あの大艦隊を指揮しているのは中央にあるこの母艦だ。 恐らくここから他の戦艦や飛行艇を指揮している。 まずはここを叩く」

 

「イヤイヤイヤ、ど真ん中じゃん。 ここにどうやって攻め入る気?」

 

小型の飛行艇で高速に入っても突破は不可能、飛行魔法を使っても感知されてアウト……一体どんな策があるんだ?

 

「奴らのはるか上空から小型の飛行艇でレーダーギリギリまで接近し、そこから生身の人員を降下……戦艦伝いで母艦に潜入して機関を停止させる」

 

「清々しいほど馬鹿で無防備な作戦ね!」

 

「さ、さすがに無理では……」

 

「シュミレーターによれば可能らしい。 もちろん、それを実行する人物を入れた時の確率だが」

 

「おいクロノ、それってもしかしなくても……」

 

「レンヤ、お前がやれ」

 

「だと思った!」

 

クロノの無茶振りはユーノにだけ向けられる物ではなかったか……

 

「あのクロノ、レンヤ1人だけなの? さすがに無理があるんじゃ……」

 

「それは問題ない、レンヤも含めて2人までなら行ける。 それ以上は無理だ」

 

「……話は分かったが……その後どうするんだ? 指揮系統は確かに麻痺するとは思うが、それでもあの数をどうするつもりだ?」

 

「目的は太陽の砦だから、全部倒す必要はないけど……」

 

「それに私達は? レンヤに任せてお留守番なんてヤダだからね」

 

俺達はいつも皆で苦難を乗り越えてきた、1人も欠けて戦う事はできない。

 

「母艦の機能を停止させた後、レンヤは即刻脱出……そのまま太陽に直行してくれ。 そして残りはこのクラウディアで送り届ける」

 

「それってつまり……」

 

「直進……正面突破だ」

 

「結局そうなるの⁉︎」

 

《成功確率45%にまで上昇、中破を覚悟すれば成功しますよ》

 

「シンプルイズベスト……事実、正面突破なら通り道の艦隊を相手にする覚悟があれば、残りはこちらに攻撃もできず、傍観するだけになるはず……指揮系統が麻痺してるならなおさらだよ」

 

「じゃあ、行けるんだね⁉︎」

 

「いいえ、まだまだ問題点は多いわ。 まず正面突破するには風穴を開ける必要がある……それにその作戦は送り届けるのが本命だから恐らく一撃離脱だとしても、私達が降りた後の防衛はどうする気? 最悪囲まれて蜂の巣よ」

 

その時、ソーマが手を上げて名乗り出た。

 

「それなら、僕が残ります。 シフト転移しながら敵艦隊を撹乱できます」

 

「わ、私も! 砲撃を逸らすことなら誰にも負けません!」

 

「私もやるよ、ガリューの隠密性はこういう場面で本領を発揮するんだから!」

 

(コクン)

 

「なら風穴はどうやって? クラウディアの砲撃を使ったら確実に死人が出るよ⁉︎」

 

「あいつらは操られているだけだ、それだけは避けねぇとな……」

 

「それに、防衛もクロノを含んでも4人だけだと……」

 

「ーー誰が4人だけって言ったんだよ?」

 

「え……⁉︎」

 

ブリッジに入って来たのはヴィータだった。 続いてシグナム、シャマル、ザフィーラ、リンスとリインも入って来た。

 

「皆⁉︎ どうしてここに⁉︎」

 

「本局から帰還しようとした道中、巻き込まれてしまってな。 その時ちょうど襲われていたクラウディアを応援し、そのまま乗って来たのだ」

 

「道はあたしらが開けてやるぜ、先に行ったはやてとなのはの事を任せたからな」

 

「我が主の事、よろしく頼んだ」

 

「皆は今のうちに休んでね。 だけど……あんまり無茶もしないで」

 

「ですですぅ〜。 皆さんなら大丈夫ですぅ!」

 

ヴォルケンリッターも作戦に協力してくれるようだ。

 

「さて、後はレンヤの同行者と正面突破におけるクラウディア前面の防衛だが……」

 

「なら僕が同行するよ」

 

「シェルティスが?」

 

「うん、皆消耗が激しいし、疲れていない人以外でレンヤと上手く連携できるのは僕くらいだも思う」

 

「おい、俺も一応消耗しているんだが?」

 

《レンヤはタフですからねぇ》

 

「はあ、答えになってないっての……」

 

「なら、疲労回復、魔力回復を増進させた新作のファンーー」

 

「結構です‼︎」

 

だが、休んでいたら朝日が来てしまう。 ホアキンが何を企んでいるか分からない以上、ここで時間を掛けるのは得策ではない。

 

「それで、残りはこの艦の正面防衛……つまりは1番敵からの激しい砲撃受ける場所。 その対応はどうするんだ、ザフィーラでもキツイだろ?」

 

「ああ、耐えられても10秒が限界だ。 すまない……盾の守護獣でありながらこの体たらく、何を言われても受け入れよう」

 

「しょ、しょうがないですよ……そ、それに、艦隊の一斉砲撃で10秒持つ人はザフィーラさんくらいしかいませんよ……!」

 

「……済まない」

 

「クロノは何か案は無いの⁉︎ 立案者でしょう⁉︎」

 

「10秒もあれば十分だ。 防衛はザフィーラ1人に任せる訳でもないし、クラウディアもちょっとやそっとの破損で落ちたらしやしない」

 

しかし、ザフィーラが尻尾のくたびれ具合が心中を語る中……このままの作戦では皆のも怪我人も出しかねない。 もっと堅固で確実な案は……

 

「……あるよ、1つだけ」

 

「え……⁉︎」

 

「本当かアリシア⁉︎」

 

「うん、リンクシステムの発展なんだけど……その機能の1つにリンクを繋いでいる2人が専用の装備を衝突、干渉させた時に生じるエネルギーを防衛に使う防御機構があるんだ。 前方から放たれる攻撃を即座に弾き無効化しつつ、特攻を仕掛けることができる。 30秒は持つよ」

 

そのシステムは、確かさっき焦っていた時にそんな事を言っていたような……現存のと違って空戦用だとか……

 

「30秒あれば到達から離脱までの時間を余裕で稼ぐ事ができる……ならアリシア、さっそくそれでーー」

 

「ただし! このシステムはまだ未調整なんだよ。しかもリンクシステムと違って適性はさらに厳選されるんだ。 脳波がほぼ同一じゃ無いといけないとか……」

 

「そんな……」

 

「な、なら私は……⁉︎ 私は姉さんと同じじゃないの……⁉︎」

 

「確か……大丈夫だったんじゃないのか? 言っていたよな、フェイトとは行けるって」

 

「うん、行けるよ」

 

「あ、焦らせんじゃねえよ……」

 

アリシアの説明不足のせいで一同、無駄にホッとする。

 

「さらに、従来のと違って制限時間が設けられていてね。 これは脳だけじゃなくて全ての感覚器官を共有するから、身体に負担をかけないため……制限時間は300秒。 さらにさらに専用の装備の耐久性の都合上、発動時間がさっき言った通り30秒程度なんだよねぇ」

 

「……アリシア、本当にとんでもない物を作ったな」

 

「そうかなぁ? まあ、これ失敗すると人格崩壊起こしたり最悪死ぬから」

 

「なんで1番重要な事を省くんだ!」

 

「アイタタタタタアァ!?」

 

冗談じゃ済まないぞそれは……俺はそんな不謹慎なアリシアの両こめかみをグリグリする。

 

「大丈夫だよレンヤ君。 そうさせないために、私も手伝って完璧に完成させるから」

 

「それに、ここで諦めたくないから……なのはとはやて、今もあそこで戦っているんだ。 この程度の障害で立ち止まっていられないよ!」

 

「……分かったよ。 無理はするなよ」

 

「それはお互い様だよ」

 

フェイトも覚悟しているようだ。 ため息をはき、アリシアを離した。

 

「イタタタ……それじゃあさっそく調整しようか。 デバイスも併用して使用するから、バルディッシュもお願いね」

 

《ロジャー》

 

「あ、シャマル。 嫌だけどファ◯タG、3つ用意して」

 

『え』

 

突然の要求にフェイトとすずかは唖然とする。

 

「え、いいけど……飲むの?」

 

「シャマルがそれを言う? 嫌だけど、絶対に休めないから……それで回復するしかない……嫌だけど」

 

「嫌って3回言いましたね……」

 

「それほど嫌なんだ……」

 

「ああ、アレは兵器だかんな」

 

「アレで1度、家族会議にまで発展した……」

 

「ワオ……」

 

(…………………)

 

変に誰も喋らなくなったが、クロノの咳払いで沈黙を破った。

 

「作戦はこれで決定する。 ファーストフェイズ、敵母艦の機能停止。 セカンドフェイズ、混乱した敵艦隊を突破し、本隊を太陽の砦に送り届ける。 作戦名はレイピアスラストとする……各自、全力で挑んでくれ!」

 

『了解!』

 

敬礼で作戦を受諾し、俺とシェルティスはファーストフェイズを決行するため小型飛行艇がある格納庫に向かおうとした時……

 

「レンヤ!」

 

「っと……クロノ、まだ何かあるのか?」

 

「ああ、無事に帰って来ることはもちろんだが……帰って来たら全員、一人前として認めてやろう」

 

「なんだその上から目線……」

 

でも、悪くないな。 今までの経験を積んだとしてもどこで一人前になったのか分からなかったからな。

 

「了解、さっさと一人前になってクロノを追い抜いてやるからな!」

 

「ああ、そうでなければコッチも困る」

 

それを確認して踵を返し、ブリッジを出て格納庫まで走った。

 

「よお、待ってたぜ」

 

「ヴァイスさん! あなたが操縦を?」

 

「ああ、人員不足では、こいつでお前らを送り届ける。 覚悟はいいな?」

 

「もちろんです!」

 

ヴァイスさんはそれを聞いて頷くと、飛行艇の中に入って行った。 俺とシェルティスも甲板に飛び乗ると……ハッチが開き、外気が中に入って来る事で緊張感が生まれる。

 

『行くぜ、ストームレイダー!』

 

《オーケー、テイクオフ》

 

エンジンの振動が高まって行き……俺達を乗せた飛行艇は発進と同時に空高く上昇して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い浮遊感を体験するのも終わりにし……着地する瞬間、魔力を下に放出して制動し、端にあった戦艦に降り立った。

 

「ふう……」

 

「何とかなったね……」

 

飛行魔法が使えるからと言っても、スカイダイビングするとなると何かが違って少し気疲れをした。

 

《母艦までの距離は約3000mです。 敵に発見はされていません、作戦通りこのまま直進しましょう》

 

「ああ……」

 

母艦のある方向を見ると、改めて敵の勢力を目に見えて圧倒される。 だが怖気ついてもいられず、脚に力を入れて隣の艦に向かって跳躍した。 停止してほぼ無風とはいえ、慎重に前に進む。

 

「……レンヤ、なんか手馴れているね?」

 

「魔法抜きでも戦えるように鍛えているからな。 ある程度の無茶な動きは出来るかもな」

 

「へ、へえ……」

 

《シェルティスもやろうと思えば出来るんじゃないですかぁ?》

 

「張り合わないでよ……」

 

お互い余裕を見せながら母艦に接近し、ようやく母艦に辿り着いた。

 

「大きいね……」

 

「XX級大型次元航行母艦……大規模な非管理世界の調査くらいしか使わない代物だが。 一応、武装も積んでいる、気を抜かずに進むぞ」

 

「了解」

 

さっそく近場にあった非常ハッチのセキュリティーロックを解除し、艦内に潜入した。

 

《ザルなセキュリティーでしたね。 見取図も簡単に手に入れられましたし》

 

「操られているから、そこまで細かい命令は受けられないんだと思う。 こっちとしては好都合だけど」

 

「機関部は下だな。 奴らが巡回してないとも限らないし、急いで行こう」

 

こんなスパイみたいな事は初めてだが、気配が読めるおかげでそこまで苦労せず前に進めた。 部屋に身を潜めたり、時にはダクトにも入り込んで進んだ。 順調に進んでいたが、ここで壁にぶつかった。 機関部に向かうにはこの先にある訓練場を通らないといけないのだ。 迂回路を探したが、どこも必ず人がいるような場所で、抜け道も見つからない。

 

「……ここを通らないと先に進めなかな」

 

「訓練場か……誰もいないといいんだが」

 

《この状況で訓練場を使うような物好きがいますかねぇ?》

 

「行ってみるしかないようだね……」

 

訓練場の前まで来て、中を警戒しながら中に入った。 訓練場は当然の事照明は落とされていて、人の気配はなかった。

 

「杞憂、だったかな?」

 

「そうだな……誰の気配もしないし。 このまま通り抜けーー」

 

「そうは問屋がおろさないぜ」

 

突如、上から男性の声が聞こえ……俺達はすぐさまその場から飛び退き……

 

「おらああっ‼︎」

 

それと同時にその声の主が短刀を振り下ろしてきた。

 

「くく、中々いい反応だ。 それでこそ殺し甲斐があるというもんだ」

 

「っ……一体どこから出てきたの⁉︎」

 

《発言を感知する以前は、周囲20mには全く生体反応はありませんでした。 いきなり現れたとしか……》

 

「まさか……魔乖術師か!」

 

「正解〜! よく分かったじゃん、蒼の羅刹……」

 

男はケラケラと笑いながら短刀を手の中で弄ぶ。 改めて男を見ると、顔はサングラスでよく見えないが20代くらい。 手入れしてなくて乱雑に切っている黒髪、そしていかにも軽そうな服装……

 

(読めないな……)

 

性格も軽薄そうで何を考えているのかサッパリ分からない。 だが、今の攻撃は確実にこちらを殺す気だった。

 

「あなた、暗殺者か」

 

「おお! これまた正解だ、オレぁ元は暗殺者……その過程で魔乖咒っつうもんが手に入ってよお。 これがまたオレと相性が良くてなぁ」

 

男がゆらりと左右に振れながら話す。 その揺らぎが大きく、ゆっくりになって行き……

 

「⁉︎」

 

「とにかくここをーー」

 

「シェルティス!」

 

いつの間にか男が消えていた事に気付いた時、虚空を使って辺りを把握し……シェルティスの背後から刃を感じ、すぐさまシェルティスを押し倒し刃を空振りさせた。

 

「このっ!」

 

振り向きぎわに右手に中型の銃を展開し、距離を取らせるために男に向かって撃った。

 

「お、おっとっと……危ないねぇ」

 

「どっちがだ!」

 

一瞬たりとも目を離したつもりはないのに、どうやって消えたんだ……

 

「ふむ……2回も避けられたとあっちゃ暗殺者として恥だな。 まあ最初からそんなもんは持ち合わせてはいねぇが……一応、敬意として名乗っておこう。 オレぁエルドラド・フォッティモだ。 魔乖咒の特性は“偽”、幻想を得意とする魔乖術師だ」

 

幻想……相手に幻ろしを見せ、惑わすような力か。 それなら気配もなく消えたり現れたりする説明がつく。

 

「シェルティス……戦うぞ」

 

「……分かった……」

 

シェルティスは双剣を構え、エルドラドから目を離さず警戒する。 俺も刀を抜刀し、エルドラドを見据える。 その行動を見たエルドラドは、顔を俯かせて肩で静かに笑い始めた。

 

「クククク……ああ来いよ、どこまで生きられるか……見せてもらおうかぁ‼︎」

 

一瞬でエルドラドの姿がかき消え、今度は複数の刃が同時に現れて迫ってきた。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《シールドビット、アクティベート》

 

「イリス!」

 

《敵エネミーの反応、消滅。 この幻覚からも何も反応がないよ》

 

虚空の状態を維持したままシールドビットを展開し、刀と合わせて同時に刃を防ぐ。 シェルティスも双剣を巧みに操って幻覚を捌いている。 刀やシールドに刃が当たる瞬間、ほとんどの刃は幻覚のため消えるが、たまに実物のよる衝撃もあるので気は抜けない。

 

「やるじゃねぇか! コレやったの初めてだが、防ぎきるとはなぁ!」

 

「初めてって……暗殺者に2撃目は普通ないはずだぞ」

 

「クク、違げえねぇ!」

 

今度は刃だけではなく、エルドラド自身が複数、幻覚として現れて周囲を囲まれた。 同様に捌くが、このままだとラチがあかない……

 

「どうしたどうした、もうギブアップか⁉︎」

 

「誰が……!」

 

「そうかそうか、なら……もっと行くぜ!」

 

一気に幻覚の移動速度と出現速度が上がり、緩急を付けられ対応に遅れ。 1人を捌き損ねて肩を浅く切られる。

 

「レンヤ!」

 

「大丈夫だ、問題ない。 レゾナンスアーク」

 

《傷口から毒性の反応はありません。 しかし、要注意されたし》

 

「分かった」

 

暗殺者だから短刀に毒でも塗ってあると思ったが……たがレゾナンスアークの言う通り、念のため軽く見ない方が良さそうだ。

 

「休む暇はねぇぜ!」

 

正面にいたエルドラドの顔が一瞬で真っ黒になり、狂気の顔でシェルティスに向かって特攻してきた。

 

「なっ……⁉︎」

 

《幻覚です! 落ち着いて対処してください》

 

「……っ⁉︎」

 

シェルティスは避けずにそのまま立っていたが……その幻覚に違和感を感じ、すぐさまシールドビットをシェルティスの前に移動させ。 幻覚がシールドに衝突すると……砂が地面に落ちた。

 

「これは……砂?」

 

「訓練場の砂だ。 エルドラドは幻覚の中に実物の砂を混ぜたんだ。 あのままだと目を潰されていたぞ」

 

《これが、暗殺者ですか……予想もつかない方法です》

 

「それは良い褒め言葉だ……ありがたく頂戴しよう!」

 

エルドラドの狙いは恐らく時間稼ぎだろう、このままだと奴の狙い通り時間を取られてしまう……いっきに片をつけるしかない。 シェルティスと目を合わせ、お互いに頷く。 そして、エルドラドが間合いに入った時……

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

その合図で飛び上がり、同時にシェルティスが剣を地面に刺し……

 

「剣晶六十八・刺突疾華(しとつしっか)!」

 

カウンター気味にシェルティスを中心とした全方向に地面から結晶が飛び出し、エルドラドを襲うが……ヤツはギリギリで避けた。

 

「うおっと……危ない危ないーー」

 

「まだまだ! 剣晶一三六・刺突大疾華(しとつだいしっか)‼︎」

 

「な、なにぃ⁉︎」

 

シェルティスはさらに力を込め……先ほどのを取り囲むようにさらに地面から結晶を出現させた。 それにはエルドラドも反応できず、幻覚が消えていき……本物が残った。

 

「そこだぁ‼︎

 

魔法陣を展開させ、それを足場にして一瞬でエルドラドの前に接近し……

 

「ぐああああっ!」

 

エルドラドは痛みで叫び、地面に倒れる。 勝った……そう思った時、エルドラドは霞のように消え、同じ場所に無傷のエルドラドが拍手しながら立っていた。

 

「お見事お見事、まさかやられるとは思ってもみなかった」

 

「やっぱりあれも幻覚だったか」

 

「ククク、実体のある幻覚はどうだった? なかなか面白いもんだろ?」

 

「実体のある幻覚……そこまでの事を魔乖咒は……」

 

ミッドチルダ式の幻術魔法、フェイクシルエットでもあんな事は出来ない。 どちらかと言えばこれは残像から実体のある幻像を生み出す剄技、千人衝に近い。 もっとも千人衝でもあんなにバンバンと分身が出るわけでもないし細かい動きも出来ないので、使い易さはこちらの方が高い。

 

「あ〜あ、疲れたな〜。 こんだけ稼げばホアキンの野郎も納得すんだろう」

 

エルドラドは短刀を納め、やれやれと肩をすくめ。 背を向けて歩き出した。

 

「まさか、逃げる気……⁉︎」

 

「待て!」

 

「そんじゃ〜なー。 せいぜいオレに殺されるまで死ぬなよー」

 

エルドラドは物騒なことをケタケタと笑いながら言い、そして魔乖咒を発動し……蜃気楼のようにゆらゆらと、霞に溶けていくように消えて行った。 何だか今まで会ったエリン以外の魔乖術師はかなり自由奔放だな。 組織としての統制に入っていないのか、それとも命令をしない時は基本自由なのか。 どちらにせよ……

 

「……遊ばれていたな」

 

《え……》

 

終始同じ雰囲気で殺気の少しもなく、本当に楽しそうに命のやり取りをしていた。

 

「うん、まるで本気を出していなかった。 彼が本気だったら一体どうなっていたか……」

 

《マジェスティー、ここは急いだ方が》

 

「ああ、考えても仕方ない。 こうなってしまった以上、すぐに機関部に向かおう!」

 

エルドラドのあの性格上、報告していないかもしれないが……あの戦闘で気付かれている可能性もある。 バレるのを承知で機関部に向かって走った。 訓練場から警報もなく、気付かれないまま機関室に到着し。 現在も駆動しているエンジンの前に来る。

 

「これがこの母艦のメインエンジン……」

 

「レゾナンスアーク、任せた」

 

《イエス、マジェスティー》

 

レゾナンスアークをコンソールに起き、システムに介入を始めた。 そして数秒でエンジンが停止して行き、駆動音と振動が徐々に消えて行く……

 

『機関の停止を確認。 これよりセカンドフェイズに移行するよ。 ヴァイス曹長の飛行艇に転移するから2人はそこでジッとしていてね』

 

「分かりました」

 

第1段階が成功し、ホッとする。 しばらく転送を待っていたが……突然母艦が揺れ始めた。

 

「何々⁉︎ 何事⁉︎」

 

「砲撃じゃない……これは、風か?」

 

『大変、2人共! 突発的に現れた乱気流のせいで転移が上手く行かないみたい! そこからだと格納庫が1番近いから、そこから脱出して!』

 

「冗談でしょう⁉︎」

 

「今更だな、こんな事態」

 

《本当に今更ですねー》

 

とはいえ、このままここに止まる意味もないのでさっさと機関部を後にし、エイミィさんの言う通り近場にあった格納庫に入った。 中にはクラウディアとほぼ同じ物があるが、数はこっちの方が上だな。

 

「えっとコンソールはっと……」

 

《シェルティス、右前方に》

 

「ありがとう、イリス」

 

ゆっくりと低い音を立てながら重鈍にメインハッチが開けられ、風を身体で感じながら下を見る。 光の点が1つもない真っ暗闇がそこにはあった。

 

「こ、今度こそヤバいかも……」

 

『そこから飛び降りて! あなた達が乗って来た飛行艇がスタンバイしているから』

 

「隠れる必要がもうないから普通に飛んだ方がいいんだが……行くか」

 

「あ⁉︎ 待ってよ!」

 

躊躇なく飛び降り、すぐに乗って来た小型飛行艇が見え。 同じ要領で着地した。

 

『どうやら上手く行ったようだな』

 

「はい……おかげさまで」

 

ヴァイスさんに労いの言葉を貰い、それと同時にレゾナンスアークに通信が届いた。

 

『レンヤ』

 

「クロノ、こっちの首尾は上々だ。 これより先に、太陽の砦に向かう」

 

『了解した。 こちらも準備は完了している、すぐに皆を送り届ける』

 

「ああ、頼んだぞ」

 

通信を切り、飛行艇の先頭まで歩いて下を見下ろす。 そこには広い平原にポツンと古い砦が置かれていた。 あそこが……

 

「それではヴァイスさん、このまま太陽の砦までお願いします」

 

『任せろ!』

 

アフターバーナーを噴かせ、飛行艇は太陽の砦に向かってゆっくりと降下して行く。 束の間の休憩が出来ると思い、力を抜いた時……突然機体が衝撃と共に大きく揺れだした。

 

「今度は何事⁉︎」

 

「ヴァイスさん!」

 

『分からねえ! いきなり……操縦が効かなくなった!』

 

《マジェスティー、船底に何かが張り付いています》

 

「っ!」

 

すぐに甲板を走って飛行艇後方から下を見下ろすと……巨大な両手が飛行艇をガッチリと掴んでいた。 何故こんなものが……と、考える間も無く。 飛行艇が地面に吸い込まれるように落下……いや落とされ始めた。

 

「シェルティス、ヴァイスさん! すぐに脱出を!」

 

「あ、ああ!」

 

『ちくしょう! なんだってんだ!』

 

悪態つきながらもヴァイスさんは脱出し、すぐに彼を抱えて飛行艇から離れた。 先に飛行艇が地面に叩きつけられる、爆発……炎上するのを上から見下ろし、その後大地に着地した。

 

「いったい何が……」

 

「分からないが、どうやらすんなり砦には行かせてもらえないようだ」

 

「マ、マジかよ……」

 

状況が追いつかず、言葉を失ってヴァイスさんが立ち尽くす。 煌々と燃え上がる炎……周りに咲き誇るラベンダーをも巻き込んで燃え広がる。

 

「……我が黄金六面体の前に敵は無し」

 

視線の向いている方角……飛行艇の墜落地点から低く重くのしかかるような声が響いてきた。 地面を引きずるような音を立てながら現れたのは……色褪せた黄土色のローブを目深にかぶり、指先すら袖の中に隠した不気味な姿。 身体の各所にはローブを締め付ける機械的なリングが施され、首や肩、肘から手首をきつく圧迫しているのが見てとれる。

 

(……こいつが)

 

対峙するだけで背中にのしかかる威圧感。 犯人は一目瞭然、すぐに分かったが……それと同時にこの男がかなりの強敵、いや……怪物だと直感的に悟った。

 

「我が名はマハ。 黄金のマハ」

 

目深のローブから重く、呪われるように響く名乗った。 それが宣戦布告であるかのように。

 

「これより介入。 対象3人の排除を開始する……」

 

徐々に迫って来る未知の敵を前に……冷や汗を背中で感じていた……

 

 



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133話

 

 

「な、何んだ……こいつは……?」

 

ピリピリとしている空間の沈黙を破ったのはヴァイスさんの呟きだった。

 

「おいお前、何者だ⁉︎ 俺達は管理局員だぞ!」

 

「………………」

 

マハと名乗る男は何も言わず、ただゆっくりこちらに近付いてくる。

 

「おい聞いてんのか! いったい何の目的でーー」

 

「無駄ですよ、あの男に何を言っても」

 

怒りかけたヴァイスさんを遮り、俺は刀をシェルティスは双剣を手の中で回し逆手に構えた。

 

「会話の通じる相手じゃないですね」

 

マハから受ける威圧感は明らかに敵意が混じっている。 飛空挺を墜落させたのがあの男なら、先ほど俺達のことを対象と言った。 狙われているのは間違いないだろう。 だが何だ、この男から違和感を感じるのは……?

 

「ヴァイスさん、離れてください」

 

視線をマハから離さず、後ろのヴァイスさんに聞こえるように絞るようにお願いした。

 

「で、でもよ……」

 

「あなたは遠距離からの狙撃を得意と聞いています。 いきなり僕達に合わせるのは無理があります、どうかここはお願いします」

 

返事をまたず、改めてマハを見据える。 先ほど墜落された時にあった巨大な腕は見当たらない……なら、出される前に叩く!

 

俺とシェルティスはほぼ同じに飛び出し、一瞬でマハと距離をつめた。 懐に入り、刀を振り抜こうとしたーーその瞬間。

 

()()()()()()()()()()

 

ローブに隠れた男の口元が、笑みを浮かべたように感じた。

 

()……()……()()()()……()……」

 

呟かれたのは奇妙なざわつき。 だが何だ……これを聞いた途端嫌な予感がしてたまらない。

 

()()()()()………()……()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()………()()……()()()()()()()()……()……()()……()()()()……()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()………」

 

ぼこり、と突如地面から何が飛び出してきた。 それは黄金の杭……地中から高速で撃ち出された無数の杭が、(やり)さながらな鋭利な先端を向けて放たれた。 何十本、何百本という桁違いの数が。

 

(こんな数を一気に創造して操作した⁉︎)

 

「くっ!」

 

考える暇もなく眼前に迫った杭を斬り裂く。 杭を払い、逸らし、飛び交う杭を弾きながら後退する。 濛々と巻き上がる土砂。 迎撃され地に落ちた杭が黄金色の輝きを失って土砂に変わった。 どうやらあれは黄金で出来た杭ではなく、土塊で出来た杭が黄金に光っていたようだ。 そして先ほどの違和感に気付いた、この男……

 

「規定する。 根が世界を覆う夢」

 

マハの呟きと同時に足元の大地が揺れた。 妙な気配が下から発せられるのを感じ、跳躍してその場から離れると……先ほどいた場所に根が飛び出していた。

 

「あれは……」

 

「……根?」

 

シェルティスは感じる事が出来なかったのか、呆然と右足に絡みついた人の腕よりも太い根を見た。

 

「規定する」

 

今度なマハの両側から何が這い上がってくる。 現れたのは勇猛な鬣をもつ獅子の像が2体。

 

「土塊より擬似創造。 色は紅玉、性質は雄壮、形状(かたち)は獅子。 2頭もって顕現せよ。 眼前の敵の排除を規定する」

 

次の瞬間、ただの像に過ぎなかった2頭の獅子の瞳が輝き出し、その代表も炎のように真っ赤に輝くルビー色へと変化していく。

 

「……まさか」

 

「ここまで精巧な造形を一瞬で……」

 

目の前の現象を目の当たりにし、俺達はマハの術式の一端を理解する。 マハの左右で雄叫びを上げる獅子……いや、これはもう赤獅子(マンティコア)……奴は幻想上の生物を創造したのだ。

 

「レンヤ!」

 

「大丈夫です!」

 

駆け寄ろうとしたヴァイスさんを一声で押し返し、シェルティスに絡みついた根を切断する。 そしてすぐに駆け出し、赤獅子の1体に接近した。 跳躍して頭上から迫る爪を蹴り弾き、空いた懐を横薙ぎで斬り裂いた。 シェルティスも、同様にもう1体の赤獅子顎先を剣の刀身で叩いた。 直後、今みで赤獅子だったものは土砂に変わり、さらさらと崩れて地に落ちた。

 

《シェルティス、この術式はーー》

 

「規定する。 世界が石になる」

 

イリスが何か言いかけた時、さらなるマハの追唱にかき消された。 地面を揺るがす地鳴りと共に足下の大地が沈みはじめ、逆に周囲から岩の壁がせり上がり……わずか数秒で巨岩の檻に包囲された。

 

「閉じ込められた⁉︎」

 

「……いや、これは」

 

僅かに空が見える頭上を見上げ、背筋が凍りついた。 奴の狙いは捕獲ではなく……

 

「重圧にて排除する」

 

ピシリッ……と何十トンほどよ質量をもつ巨岩の檻にひびが走った。 次の瞬間、頭上を覆っていた巨岩の天井が崩落し、雪崩のように押し寄せたきた。

 

「くっ……」

 

「飛ぶぞ!」

 

同時に跳躍し、岩と岩のわずかな隙間へ飛び込む。 避けきれない石片は刀で弾き、落下してくる岩から岩へと飛び移り、地上を目指した。

 

《……相変わらずデタラメな運動能力ですね》

 

シェルティスの首から下がる青い水晶が点滅するのをあえて無視し、崩壊する岩の牢獄から抜け、崩れずに残った巨岩に頂上に着地した。 そこから離れた場所にいるマハを見据える。

 

《マジェスティー、恐らくあの魔法は創成魔法(クリエイト)と思われます》

 

創成魔法……魔力を込めた物質を自分が思い描いた形に創成し、操る魔法か。 だがこの魔法はせいぜい数百キロしかできないはずだ。 文字通り桁が違う。 しかもこれだけの質量の岩をこうも繊細に操作して相手を閉じ込め、その岩そのものを自在に崩落させる術式。 魔力量もかなりの物かもしれない。

 

(……だが、違う)

 

奴の力の本質はそこではない、その前に行われる……

 

「規定する」

 

またマハの足下から創り出されたのは巨鳥の像。 黄金に輝く魔力光を浴びて輝く石像が、さらなる定義を与えられてい変化していく。

 

「地中の有機を抽出して擬似創造。 色は黒色、性質は激昂、形状は鳥。 体内に炎を有して顕現せよ。 眼前の敵を巻き込む破壊を規定する」

 

鋭い嘴と爪をもち、漆黒の怪鳥がその翼を羽ばたかせる。 ゆるりと飛び上がった怪鳥はゆっくりとこちらに飛来してくる。 だがその飛行速度は自然の鳥では有りえないほど遅い……おかしい、何が狙いだ? あれでは簡単に迎撃できてしまう速度だ。

 

《待ってください!》

 

「っ⁉︎ なんだどうした?」

 

魔力弾で撃ち落とそうとした時、レゾナンスアークに待ったがかかった。

 

《あの像から熱源反応があります》

 

「熱源反応?」

 

あの物体に熱が……一度マハの詠唱を思い返してみる。 体内に炎、それが熱を……激昂、怒り……地中から抽出……有機……有機、化合物!

 

「まずい、あれは鳥の形をした爆弾だ!」

 

「爆弾⁉︎」

 

「下手すればこの辺りが吹き飛ぶ!」

 

すぐにマハに背を向け、シェルティスの腕を掴んでその場から離れた。 だがその後すぐに漆黒の怪鳥が巨岩めがけて追突……そして、目の前が白に染まった。 間をおかず広がる衝撃波と熱が草原の花を燃やし、地面を剥がしていく。 逃げる途中でヴァイスさんも回収し、先ほどのマハの行動で地面に出来た無数の亀裂……その1つに雪崩れ込むように飛び込んだ。 すぐに頭上を衝撃が通過し……しばらくして燃える音だけが聞こえてきた。

 

「……逃走と判断する」

 

マハはそう告げると歩き始め、足音が遠ざかって行くのを確認して……ようやく大きく息を吐きながら脱力した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、問題ない。 助かった」

 

恐らく奴も俺達がこの亀裂のどこかに身を潜めている事には気付いているだろうが、探す術がないようで。 少しは時間が稼げそうだ。

 

「……しっかし信じられねえな、これが人間の術式かよ」

 

ヴァイスさんは悪夢を見ているかのように上を見上げる。

 

「大地をそのものをひっくり返すような質量操作。 創成魔法で操れる質量はせいぜい数百キロ。 しかし今の岩石操作は優に数十トン。 文字通り桁違い……」

 

《問題はそっちではありません》

 

「……さっきの赤獅子と怪鳥だね」

 

ただの土塊であったものがマハの魔力を帯びて動き出す。 赤獅子は本物の獅子と遜色ない動きて襲いかかり、怪鳥には強力な爆発物が積んでいるという特殊能力が与えられていた。

 

「覚えている? あの男、森羅万象を規定するって」

 

《ありとあらゆるものを創造できる、それがあの男の魔法術式だと考えているのですか? あり得ません、確かにマハの魔力量は推定A+はありますが……それでも、限度はあると考えます》

 

「僕だってそう思っている。 だけど」

 

イリスの考えに、完全には同意できない。 赤獅子や怪鳥、地中深くの岩盤をそのものを揺るがしてみせたのは事実だ。 あの男の術式……創成魔法、黄金六面体が桁外れなのは間違いない。

 

《私が気になっているのは、あの奇妙な詠唱です》

 

「規定する、とかいうやつか? 性質は、色は、って言ってたやつ」

 

《いいえ。 その前の“らかざざかかだ”という虫の羽音みたいな不気味な方です》

 

青い水晶が点滅しながら、イリスが予測した。

 

《気付きましたか? あの詠唱、ら、か、ざ、だの4文字のみで構成されていたんです。 さらにか、ざ、だの使用頻度に比べてらの使用回数が圧倒的に少なかった》

 

「そこに何かしらの法則がある……あの詠唱が奴の力の鍵を握っているはずということか」

 

「考えられるのは……その4文字が本儀式で、あの規定するから始まるのは単なる2次的なもの?」

 

《私も同じことを考えました。 あの4文字の詠唱が銃弾の装填(リロード)のようなもので、それを発射する引き金(トリガー)が規定するから始まる第2詠唱。 しかし……その仮説が正しかったとしても、4文字の詠唱が解読できなければ意味がありません》

 

「できる?」

 

《時間をかければ、可能です》

 

だが、たとえ詠唱を解読できなくとも……マハを倒さなければ太陽の砦には辿り着けない。 何か別の突破口も模索しないといけないだろう。

 

「とにかく……まずは現状をどうにかしねえとな。 次からは俺も戦闘に参加するぞ。 さっきの戦闘でお前達の動きは把握できた」

 

狙撃銃型のデバイス、ストームレイダーを調整しながらヴァイスさんが参戦すると言った。

 

「たったあれだけの間で……凄いですね」

 

「魔力量がお前達に比べてすずめの涙程度の俺にはそれしか取り柄がねえんだよ。 ま、足手まといにはならないつもりだ」

 

《それでも優秀ですよ。 ほとんどの管理局員は魔力量にあぐらをかきっぱなしですから》

 

「……褒め言葉として受け取っておく」

 

ヴァイスさんはやや呆れながらも苦笑した。 その後、メイフォンを取り出して時刻を確認する。 もう日付が変わっている、他の皆はどうなったんだ?

 

「にしても、クラウディアから何か応答はあったか?」

 

「それが全く。 定刻なっても道を作るための砲撃もありませんし、あっちでも何かトラブルが起こったのかもしれません。 なのはとはやてからも連絡もないですし……」

 

「……心配しても仕方ない、まずはマハをどうにかしないと」

 

立ち上がり、亀裂から少し顔を出した。 綺麗に花咲かせていたラベンダーは例外なく燃やし尽くされて地面が剥き出しになっている。 マハの姿は見当たらないし気配もないな……

 

(レンヤ、いる?)

 

(いや、いない……)

 

その時、後ろから気配……というより視線を感じた。 ゆっくりと振り返ると……目の前には色褪せた黄土色のローブの裾が見えた。 本当なら上を見上げたいが……その前に2人の襟を掴んで引き上げーーその時、ぐえっとカエルが潰れたような声が聞こえたがーー亀裂から自分と一緒に出た。

 

ドゴンッ‼︎

 

コンマ1秒遅れて先ほどいた場所に巨大な岩石が埋まった。 あと少しで圧殺されていたところだ。

 

「最悪だ、いきなり最悪だ!」

 

「いいからヴァイスさんは離れてください!」

 

心の準備が整う前に戦闘が再開され、マハは俺達を倒すために詠唱を始めた。

 

「規定する。 世界が森を唱和する」

 

地表に落ちた葉と花弁、地中からは大樹の根と蔓。 木々が擦れる音を立てながら天上を覆い尽くすように浮かび上がる緑が……吹き荒れる風に乗って瀑布の如き勢いで押し寄せてきた。

 

「あれは……避けるのは難しいね」

 

《出来ないわけではないんですね……》

 

「だったら……」

 

《オールギア、ドライブ》

 

「斬るのみ! 抜刀!」

 

《ブレイドオン》

 

全ての歯車が稼働し魔力を上げ、刀身は蒼い魔力光を纏った。 そして緑の滝に向かって飛び込み……

 

「はあああああっ‼︎」

 

裂帛と共に刀を振り下ろし、緑の滝を左右に叩き割った。 間髪いれずシェルティスがその間を通り抜け、一瞬でマハの眼前へ。

 

「規定する」

 

が、マハの次なる術式をすでに構成していた。

 

「地中の毒素を抽出して擬似創造。 色は白、性質は臆病、現状は蛇。 牙に猛毒を有して十尾をもって顕現せよ。 眼前の敵を封ずる毒鎖(どくさ)を規定する」

 

マハの足下に浮き上がる蛇の土像が、黄金の魔力を帯びて変化していく。 生々しく蠢く10匹の純白の蛇。 その口腔からは毒液が滴る牙がのぞきていた。

 

「……邪魔だっ!」

 

1匹一方向、合計10方向からの飛びかかる蛇を躱し、剣で弾いてマハへと迫るシェルティス。 追尾しようとした蛇は、後方から飛来した魔力弾で頭を撃ち抜かれ、土砂に戻って行く。 ヴァイスさんからの援護射撃だ。 そして蛇の軍勢を突破したその直後、対峙するマハの動きが止まった。

 

「規定する」

 

マハから発せられる黄金の魔力光、物質を顕現させる創成魔法の輝きがかつてないほどに強まっている。

 

「地中の鉱石より擬似創造」

 

大地が割れ、巨大な亀裂から盛り上がる巨大な鉱石、それも小高い山ほどをともなう鉱石がシェルティスとマハとの間に立ち塞がり、鉱石が出現した時に発生した衝撃でシェルティスは俺のいる地点まで後退した。

 

「色は褐色、性質は獰猛、形状は竜。 その創造に細工は不要。 大いなる体躯と牙、比類なき爪を有して単体にて顕現せよ。 全ての敵の圧倒を規定する」

 

黄金色に輝く魔力に覆われた鉱石が脈動し始めた。 鉱石が歪に変形していき、現れたのは火山石のような黒色の鱗をした巨体。 蜥蜴に似た逆三角形の頭部と、後頭部から突き出た2本の角。 大地を揺るがす逞しい四肢はそれだけで大人より大きく……

 

「地竜……こんなものまで!」

 

「もはや何でもありだな……」

 

グリードで竜種は何度か相手をした事があるが、どちらかと言えば腕と翼が一体化している飛竜ぐらいだ。 と、思考を辞めさせるように咆哮を上げる地竜。

 

《解析完了まで、あと50秒》

 

「長い!」

 

地鳴りを従えて戦車が走るような勢いで迫る地竜。 頭上から振り下ろされた巨腕を飛び越え、叩きつけるように横薙ぐ尾の一撃から身を捻ってかわす。 その時、ヴァイスさんの援護射撃が地竜の目に飛来したが……直撃せず弾かれる。 どうやら眼球にはガラスみたいな膜で覆われているようだ。

 

「圧倒せよ」

 

それが気に喰わなかったのか、マハの指示で地竜が再び動き出した。 その方向には狙撃銃を構えているヴァイスさんの姿が。

 

「マズい!」

 

「行かせるか!」

 

疾走、そして加速。 ヴァイスさんに迫る地竜に追いつき、その脚を同時に片側ずつ薙ぎ払った。 痛みや怒りがあるのか、激昂して地竜が振り返る。 傷付いた四肢で大地を踏みつけ、その巨大な尾を振りかざす。 その刹那、シェルティスは誰よりも高く飛んだ。 尾に飛び移り、背中を駆け抜け頭を目指して走った。 シェルティスのおかげで意識が上に隙に、地面すれすれに身をかがめ傷付けた片足に接近し、脚を斬り落とした。

 

「今だ!」

 

「ありがとう、レンヤ!」

 

妨害がなくなり、シェルティスは一気に頭部に接近して双剣を振り下ろした。 断末魔を上げて暴れる竜の頭部から、シェルティスは投げ出されるように離れ、受け身を取って着地した。

 

残り30秒。

 

「規定する」

 

立ち上がろうとしたシェルティスから、マハが視線を移動中のヴァイスさんに移した。

 

「天()く地母。 千の鎗にて射撃せよ」

 

黄土色の魔力を受け、大地そのものが金色に点滅。 脈動する大地。 その地表から、ぼこぼこと音を立てながら竹の様なものが次々と盛り上がってくる。 だが姿を現したのは竹ではなく、もっと鋭利な形をした……

 

「……鎗?」

 

「なんて凶悪な……」

 

金色に輝く土塊の鎗。 最初にマハが使用した術式だが、明らかに前回より強力だ。 この見渡す限りの大地から浮上する無数の鎗……数と規模が違いすぎる。 マハの言葉に偽らなければ、その数は千にも及ぶはず。

 

「ヴァイスさん!」

 

「嘘だろおい⁉︎」

 

《逃げてください》

 

慌てて逃げてはいるが、恐らくヴァイスさんにはこの数の鎗を1割も防ぐ手はないだろう。

 

「射出せよ」

 

マハの宣言。 同時に大地から突き出た千の土鎗がヴァイスさんに向かって射出された。

 

残り10秒。

 

「させるか!」

 

《シールドビット、アクティベート》

 

シールドビットをヴァイスさんの元に送り、鎗を防いだ。

 

「次!」

 

《カルテットモード》

 

その間に中型の機関銃を両手に構え、飛来する鎗を迎撃して行く。

 

「剣晶三四八・光臨翠流大瀑布(こうりんすいりゅうだいばくふ)‼︎」

 

シェルティスはいくつもの翠の結晶を頭上にマハと負けぬほどに大量に創り上げ、上空から降らせて土塊の鎗とぶつけて相殺した。

 

「はあ、はあ、くっ‼︎」

 

「…………………」

 

だが、徐々にシェルティスが押されて行く。 一から結晶を創り出すシェルティスに対し、マハは土塊という材料を加工して創造している。 疲労する速度はシェルティスの方が圧倒的に大きい。

 

「っ……!」

 

このままではマズい……迎撃をやめて駆け出し。 鎗を避けながらマハに迫る。 鎗の弾幕をぬって走り、後数歩で間合いに届こうとした時……

 

「ぐああっ‼︎」

 

「シェルティス!」

 

相殺しきれず、抜けてしまった鎗が深々とシェルティスの足に刺さっている。 後ろにはヴァイスさんもいた。

 

「済まねえ! 俺のせいでーー」

 

「いいから……! 早く逃げて!」

 

「んなことできるか!」

 

ヴァイスさんは倒れるシェルティスを担いで逃げてようとするが、無数の鎗は2人の背中を狙い高速で飛来する。 あの量はシールドビットだけじゃ防げない。 ならどうすれば……

 

(迷っている暇はない‼︎)

 

刀を納刀して地面に足を突き立て、地面を引きずりながら制動し。 振り返りながら抜刀の構えを取り……

 

「はあああああっ‼︎」

 

抜刀。 そしていくつもの斬撃が放たれ、その先にある黄金の鎗を斬り落とす。 だが、一太刀では足りない……もっと数を!

 

「おおおおおっ‼︎」

 

腕がかき消えるほど納刀と抜刀を繰り返し、2人に襲いかかる鎗を減らしていく。

 

「虚空……無影斬!」

 

刀を振り抜き、全方向に斬撃の波動が放たれ、周囲にあった鎗が止まった。 全て鎗に蒼い軌跡が走り、地に落ちあちこちに土砂の小山を作っていく。

 

そして50秒。 約束の時間が経過した。

 

「ーー脅威度の再確認、上位と判断して対処する」

 

距離を取ってさらなる詠唱へ。 マハのローブが魔力光に包まれた、その刹那……

 

()……()……()()()()……()……」

 

2()……1()……1()1()1()()……0()……》

 

イリスの声が、マハの詠唱に重なるように響きわたった。

 

()()()()()………()……()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()………()()……()()()()()()()()……()……()()……()()()()……()()()()()………………()()()()()()()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()………」

 

2()2()0()2()1()………1()……2()0()()0()()……2()1()1()1()2()0()0()0()2()1()2()0()2()1()………()1()……()0()2()2()0()0()1()1()……2()……2()2()……0()()0()()……2()1()1()1()1()………………2()0()2()1()0()2()1()1()1()()2()………0()0()0()2()()1()1()1()0()0()………2()2()2()1()0()………》

 

1秒の狂いもなく、完璧な同音で詠みあげた。

 

《ーー解析完了しました。 それに加えてイリスちゃんの知能レベルアップです。 203くらい上がりました》

 

「痛っ………基準はよく分からないけど……勝てる?」

 

《勝てます。 率直に言います、マハの詠唱は三進法です》

 

「三進法? それって一般的な物の数え方の十進法やコンピュータで使われている0と1だけの二進法とかの?」

 

《はい、その通りですレンヤ。 一方マハの詠唱は0、1、2で構成される三進法です。 か、だ、ざの3単語がそれぞれ0、1、2に対応しています。 その数字それぞれに意味を持たせ、複雑で強大な術式を編んでいたわけです》

 

「ん? おいちょっと待て、らはどうしたんだ?」

 

上着の袖を破り取り、シェルティスの太ももを強く縛り止血しながらヴァイスさんが疑問を言った。

 

《らは恐らく読点……カンマだと考えます。 他の3単語に比べて使用頻度が圧倒的に少ない……しかしそれだけでは確証は得られません。 ですが、この創成魔法の名称は黄金六面体です。 0、1、2という独立した3つの要素で構成されるという意味で3進法と共通概念をもっている。 ゆえにマハの術式は黄金六面体なのですね》

 

縦、横、奥の3辺が同じ長さの立方体……みたいなものか。

 

《マハの強大な魔導術式をを支えているのは複雑な詠唱儀礼です。 一見無敵の術式に見えますが、面白い欠点も判明しました》

 

ただし……と、そう続けたイリス。

 

《シェルティスは見ての通り故障中でして、必然的にあなたが挑む事になりますが……信用してくれますか?》

 

「ああ、信用する」

 

迷いもなく、マハを見据えながら答えた。

 

《やれやれ、変な所であなたとシェルティスは似ていますね。 ーー支援します、誘導はしますが指示はしません。 お気を付けて》

 

応答せず、少し笑みを浮かべた後、マハに向かって疾走する。

 

「規定する」

 

マハの足下に生まれる3つの土蔵。

 

「土塊より擬似創造。 色は紅玉、性質は雄壮、形状は獅子。 3頭をもって顕現せよ。 眼前の敵の排除を規定する」

 

前に使用した術式、だがその数は1体増えて合計3体。 赤獅子は草原に響き渡る咆哮を上げ、その逞しい四肢で地を駆ける。

 

「っ!」

 

1体でも厄介なのに、それが3体……とにかく各個撃破を優先して柄に手を添えたようとして……

 

《止まってください!》

 

レゾナンスアークを通してイリスが叫んだ。

 

《雄壮と規定された物は動的な対象しか狙いません! そのまま止まって、やり過ごしてください!》

 

本当か……? 思わず疑いながらも急停止しつつも柄から手を離さないようにした。 そして一瞬で迫る赤獅子。 その鋭い爪が鼻先を掠め……3体の獅子はそのまま通過し、後方に走り去った。 少し間を置き、また走り出す。

 

《そのまま聞いてください。 マハの術式を支えるのは長大な詠唱儀礼と、何百何千に及ぶ難解な条件設定です。 しかし同時にそれが弱点。 設定された条件を分析できれば術式の大半を無効化できます。 その条件を知られないために、マハの詠唱は3進法で構成されていたのです》

 

「………貴様」

 

マハの呻きそのものが、仮説が正しいことを告げる。

 

「規定する……地中の毒素を抽出して擬似創造。 色は白、性質は臆病、現状は蛇。 牙に猛毒を有して三十尾をもって顕現せよ。 眼前の敵を封ずる毒鎖を規定する」

 

マハの前衛として生まれる猛毒の白蛇。 鎌首をもたげて地を滑る白の軍勢を前にして……

 

《そのまま駆け抜けてください!》

 

イリスの誘導に、今度は一瞬も迷わず従った。

 

《臆病と規定された物は先ほどと逆、静止している対象しか狙いません! そのまま突っ切ってください!》

 

そのまま止まらず、逆に進行を止めた蛇を無視し、走り抜けた。

 

(ーー捉えた!)

 

マハが間合いに入り、柄を握る力がこもる。 この距離なら離れる事も防御も間に合わない。

 

「……我が術式に敵は無し」

 

マハが空を仰ぐように両手を掲げ、そして勢いよく振り下ろした。

 

「黄金六面体が規定する」

 

さらさらと、振り下ろした両袖から溢れる黄金色の砂。 いや、月明かりで反射するその輝きは、紛れもなく黄金そのものだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして黄金より生まれるマハ。 黄金によって創造した自分自身。 それを前にして悟った……これがマハの術式の真価、秘奥にして始原の黄金六面体なのだと。

 

「やっちまえ、レンヤ! 仇討ちだ!」

 

「……あの、勝手に殺さないで……!」

 

緊張感のない声援を背中で受け、黄金のマハが拳を振り上げる。 不可視の速度で打ち下ろされた拳、それがどんな威力なのかは分からないが……

 

(遅いっての‼︎)

 

虚空の領域に入った視界の前では、動きが早いただのパンチ。 頰を掠めながらギリギリで避ける。 掠めた衝撃波が頰が切れ、血が噴き出していくのを感じる。 だが、止まるわけにはいかない。

 

「こんな所で……立ち止まっていられないんだよ!」

 

蒼い魔力光を放つ刀身をひるがえし、黄金マハを像を切断し。 その勢いのまま下段に構え……

 

弧榎(こえのき)!」

 

大地もまとめて斬り裂きながら、マハ本体と先にあった岩ごと斬り裂いた。 次の瞬間、マハは力無く倒れ……衣服から砂金を出しながら倒れた。

 

「……痛み分け、か」

 

マハが倒れた場所にあるのは奴が着ていた黄土色のローブと砂金のみ。 それは今まで奴が人ではなかった事の証明だった。

 

《……恐ろしい相手でした。 まさかあの男すら単なる砂人形だったなんて。 あんまり驚いていないところ、どうやら気付いていたようですね?》

 

「ああ、割と最初からな。 どうも人と戦っている感じしなかったし、近付いた時に呼吸をしてなかったから。 シェルティスも気付いていたようだぞ」

 

「普通は気付かねぇよ……」

 

シェルティスに肩を貸しながら歩いて来たヴァイスさんが驚きながら微妙に呆れている。

 

「そうかなあ? 少し近付けば割と分かると思うけど?」

 

「だよなあ」

 

《……やれやれ、あなた達に常識を教えたいです》

 

夜の静けさーーと言っても上空には大量の飛行艇があるためそこまで静かではないがーーを取り戻した草原。

 

(………死ぬかと思った)

 

頰に付いた血を拭いながら胸の中でそうを思う。 マハの奴、物体を操作する力を黄金マハに最大限で使っていた、不可視の速度で繰り出された拳も納得だ。 しかも中身は人間よりはるかに比重がある黄金がギッシリと詰まっている体だ、当たっただけでも粉砕骨折は間違い無しだ。

 

「さて、本番はまだ何にも始まっていない……このまま太陽の砦に向かうぞ!」

 

「お、おー……!」

 

「ちょ⁉︎ 抱えるの手伝えよ!」

 

ヴァイスさんに言われもう片方のシェルティスの肩を抱えた時……

 

ドオオオオオオッ‼︎

 

暗い夜空に巨大な赤い魔力砲撃が放たれ、浮かんでいた戦艦の隊列が大きく乱れた。 あの色……アリサじゃないな。 おそらくヴィータ、恐ろしいものを覚えたか……と、今度はエンジンの高鳴りが聞こえた。

 

「すぐにクラウディアが来る。 急ぐぞ!」

 

浮遊魔法で面倒だからヴァイスさんもまとめて浮かし、そのまま掴んで太陽の砦に向かって疾走する。

 

「レンヤーー! もっと安全にーー‼︎」

 

「俺は関係ねえだろーー‼︎」

 

黄金のマハ……どうやらD∵G教団とは関わりの無さそうな人物だった。 そして恐らく、勘だが空白(イグニド)とも関係がある気がする。 そう考え事をしていたため……2人の叫びを無視ししてしまい、太陽の砦に入ったのだった。

 

 

 



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134話

 

同日、23:30ーー

 

レンヤとシェルティスがファーストフェイズ実行のため小型の飛空挺で出動した頃、別働隊である残りのメンバーは来たる作戦のため各々武装の準備をしたり体を休めていたりしている。

 

『…………………』

 

現在、作業を終えたアリシア、フェイト、すずかの3人が死屍累々とソファーで寝ている。 その手にはシャ丸印の炭酸飲料が……

 

「……これが、ファ◯タGですか……」

 

「で、でもでも、確かにちゃんと魔力は回復してますよ……!」

 

「あれで回復していると言われてもねぇ……」

 

(コクン)

 

後輩達は上司の姿と炭酸飲料を交互に見て戦慄する。

 

「効果は覿面だが、いかんせ味が最悪だからなあ」

 

「むしろ効果が無ければタダの兵器だ」

 

「2人とも酷い⁉︎」

 

「事実だろ」

 

ザフィーラの言う通り事実だが、かなり受け入れ難いのかシャマルはヨヨヨと崩れ落ちる。

 

「それにしても、レンヤさん達大丈夫でしょうか?」

 

「おめえが気にしても仕方ねえだろ、バッテンチビ」

 

「むう、そんなことないですうーー!」

 

「こら、2人とも」

 

「全く、喧嘩しないの」

 

『ーー作戦開始10分前だよ。 皆、配置について』

 

アギトの煽りをリインは間に受け、リンスとアリサは呆れながらも仲裁しようとした時、艦内に放送が流れた。

 

「ほら行くわよ。 レンヤとシェルティスも頑張っている、私達も負けていられないわ」

 

「りょ、了解……」

 

「気合い……入れ直さないとね」

 

アリサ達はセカンドフェイズ実行のためクラウディアの外に出た。 正面遠方には航空武装隊の次元戦艦が軒を連ねていた。

 

「……改めて見ると圧倒されるね……」

 

「あれを相手に、たった一隻で立ち向かうのですか……」

 

「作戦通りなら、勝ち目はある」

 

その時、お国見える母艦がゆっくりと墜落していき。 他の戦艦の様子が変わった。

 

『敵母艦、機関の停止を確認。 これよりセカンドフェイズに入るよ』

 

「レンヤ、やったんだね……!」

 

「でも、これかが本番です」

 

作戦の第2段階移行を確認した後、全員デバイスを起動させ。 バリアジャケットを纏う。

 

『これより進路を切り開く。 シグナム、よろしく頼むぞ』

 

「任せろ」

 

《ボーゲンフォルム》

 

カートリッジを使用しレヴァンティンを鞘と合体させ弓に変化させ、弦を引くと矢が形成される。

 

「翔けよ、隼!」

 

《シュツルムファルケン》

 

戦艦の合間をギリギリで狙い、射抜かれた矢は隼の形をした炎となって放たれた。

 

「行っけえーー!」

 

「…………! 待って!」

 

放たれた隼の射線上の空間が歪み出し、そこに隼が呑み込まれて消えた。

 

「消えちゃったです⁉︎」

 

「これは……⁉︎」

 

「異界の気配! 皆、気を付けて!」

 

各自、武器を構えて周囲を警戒する。 するとクラウディア頭上の空間が歪み……呑み込まれたはずの隼が出てきた。

 

「なっ⁉︎」

 

「軌道を変えられた!」

 

「うおおおおっ‼︎」

 

すぐさまザフィーラが飛び出し、障壁を展開して隼を受け止めた。 ザフィーラは苦悶を漏らしながら耐え、時間が経つと隼が次第に消えていった。

 

「ぐっ……さすがは烈火の将だ。 見事な一撃だった……」

 

「そんな賞賛はいらん! 防がれたのならまだしも……私の攻撃がお前達に向けられるとは……!」

 

シグナムは屈辱の限りと思わんばかりに拳を握り締め、怒りに震える。

 

「どこにいやがる! 隠れてないで出てこい!」

 

「……やれやれ、言われなくても出てやるよ」

 

クラウディア甲板の上、アリサ達の眼前の空間が歪み……1人の小柄な少女が出てきた。 血のような赤い髪、さらに左右側頭部の一部が白いメッシュらしきものがあり。 肉食獣の如き鋭い目付きに、時折口元に見える犬歯はまるで獣を彷彿させるようだ。 服装はいたって普通のようだが、首にはなぜか猛獣が付けるような刺々しい首輪があった。

 

「全く、せっかちな野郎どもだぜ。 ホアキンの野郎に頼まれたとはいえ、オレが出向くまでの敵じゃねえだろ」

 

「え、えーっと……」

 

サーシャはあまりの口の悪さに困惑するが、少女が言い放った言葉は全員を舐めている風に捉えられるため……

 

「随分と下に見られたもんだなぁ……!」

 

「ガキだからって舐めた口聞いたんじゃねぇよ……!」

 

乗せられやすい赤い2人はこうも簡単に煽られてしまう。

 

(……なんかあの子、昔のヴィータちゃんに似てない?)

 

(ああ、あそこまでの暴言は言わないが……)

 

(細部は違うが、容姿も似ているな)

 

少女とヴィータを見比べた後、シグナム達は後ろでこそこそと集まって何やら話し合っている。

 

(キャラが被っているですぅ)

 

(リ、リイン……どこでそのような言葉を覚えた?)

 

(はやてちゃんですぅ!)

 

(あ、主……)

 

「何やってるのよ、あなた達……」

 

「まあ、分からなくもないけど」

 

「あ、あはは……」

 

警戒しながらも横目でシグナム達を見て呆れるアリサ。 すずかもその行動の意味を理解し、フェイトは苦笑いしか出来なかった。

 

「それであなた、私達の邪魔をする……って事でいいのかしら?」

 

「まあそうだなぁ。 オレとしてはどうでもいいが……ホアキンに雀の涙程度の恩もあるし、テメェらにはここで悲鳴を上げてもらおうか……!」

 

少女は手を正面にかざし、手のひらの上の空間が歪み。 1冊の本が現れる。

 

(ゆが)みし世界樹(せかいじゅ)紙片(しへん)……オレはジブリール・ランクル! 魔乖術師、“歪”の担い手! さあ、行くぜ!」

 

「くっ……!」

 

少女、ジブリールの手に持つ本が独りでに開き始め。 左右の空間が歪み出し、そこから巨大な岩を飛ばしてきた。

 

「あっはっは! 潰れちまいな!」

 

「この子がサクラリスが言っていた歪の魔乖術師⁉︎」

 

「確かにどこかおかしな子ね……」

 

岩をクラウディアに打つける訳にもいかず、アリサとすずかが岩斬り裂き、残った破片をソーマとサーシャが外に出弾いた。 シグナム達も参戦しようとした時、いち早くその行動をジブリールが感じ取った。

 

「おっと、残りはこいつらと遊んでな」

 

ジブリール達の周りの空間が歪み……魔物の如き異形のグリードが現れた。

 

「なっ⁉︎

 

「このグリードは……⁉︎」

 

「現存するグリードにホアキンの野郎が手を加えた強化体だ。 オレ達に比べれば弱ぇが……時間稼ぎにはなんだろう」

 

「くっ……」

 

《シュランゲフォルム》

 

「邪魔だ!」

 

レヴァンティンを鞭状の連結刃に変え、周囲を薙ぎ払うように振り抜いた。 刃はグリードに斬りかかり、ダメージを与えて体勢を崩させる。

 

「急襲、猛牙、噛み付きなさい!」

 

《アベンジャーバイト》

 

その隙にシャマルがペンデュラムフォルムのグラールヴァントを揺らしながらジブリール方面にいたグリードを風の牙で噛み千切る。

 

「喰らえっ!」

 

《ゲフェーアリヒシュテルン》

 

シャマルが開けた場所に、ヴィータがジブリール方面に赤い魔力弾を前方に複数展開し、アイゼングラーフを担いだ。

 

「おっと」

 

「でやっ!」

 

鉄槌によって弾かれた魔力弾は……ジブリールではなく横にいたグリードに直撃した。

 

「ヴィータちゃん、あの子を狙ったんじゃなかったの?」

 

「あれ? 確かに狙ったんだけど……」

 

「くっははは! そりゃオレがそう仕向けたからな」

 

「何だと、どういう事だ!」

 

「オレの歪の魔乖咒は万物を捻じ曲げる力を持っている。 そして、それは人の心さえも歪めて捻じ曲げる事だって可能だ! 今回はテメェの敵意を曲げてグリードに向けてやったんだよ」

 

「人の心を⁉︎」

 

今まで出会った事のないタイプの敵に、全員の警戒心が跳ね上がる。 その変化を、ジブリールは眉を曲げて感じ取った。

 

「ほうほう、心が面白い方向に向いている、な!」

 

魔乖咒を手に纏わせ、人差し指を立てて色んな方向に指を振った。

 

「来るぞ、全員気を抜くな!」

 

「誰に言っているのよ。 この程度の()()()()、取るに足らないわ!」

 

「早く倒して、レンヤ君を助けないと!」

 

『おいお前達、何をーー』

 

「面白いとこなんだ。 邪魔すンじゃねぇよ」

 

全員の視線がジブリールから逸れ、クロノが呼び止めようとしたが……ジブリールに妨害され、アリサ達はグリードのと戦闘を開始した。 まるで彼女の敵意が無くなったかのように。 そして、それを仕向けたジブリールはアリサ達が必死にグリードと戦うのをニヤニヤと眺める。

 

「姉さん!」

 

「ほい来た!」

 

フェイトがグリードの足を魔力弾で撃ち抜き、体勢が崩れた所をアリシアが二刀小太刀で斬り裂いた。 グリードが消滅したのを確認し、フェイトが少し安堵した時……ふと視界にジブリールが入った。

 

(あの子は……確かジブリール。 なんでこんな所にいるーー)

 

「!」

 

《ハーケンフォーム》

 

「お?」

 

名前は知っている。 だがそれ以外なにも知らない女の子が、こんな場所で落ち着いている……そう思った時、彼女が何者か思い出し。 バルディッシュを変形させて鎌を掴み、駆け出した。 その行動にジブリールも反応し、振り下ろされた鎌を受け止めた。

 

「今すぐ皆の誘導をやめなさい!」

 

「誰がやめるかよ!」

 

フェイトがハーケンフォームのバルディッシュを横薙ぎに振り、まずはあの怪しげな本を狙おうとした。 だがジブリールは両手に手甲を装着し、そのまま受け止めた。

 

「なっ⁉︎」

 

「そらよ!」

 

「あぐっ……!」

 

一瞬の隙にフェイトが引き寄せられ、腹部に蹴りを入れられた。 フェイトが攻撃されたのにアリサ達が気付き、ジブリールがフェイトに手を出した……と思うと、苦痛の表情になって我にかえった。

 

「やられた! まさか今度は敵意を曲げられるなんて!」

 

「う〜……! 魔乖咒って何でもありー⁉︎」

 

「お、落ち着いてルーテシアちゃん」

 

(ポンポン)

 

「大丈夫、フェイトちゃん?」

 

「う、うん、平気だよ……思ったより重くなかったら」

 

「まあ、あの身長だからね。 蹴りはあんまり深くないでしょう」

 

「だが、油断は出来ない。 あの娘、魔乖咒の扱いもさることながら……どうやら徒手格闘にも秀でているようだ」

 

「ああ、フェイトをああも簡単にあしらうとは……」

 

ザフィーラは敵ながらジブリールを賞賛する。

 

「それにとっくに開始予定時刻を過ぎています。 このままだと作戦にも支障が……」

 

「……エイミィさん。 レンヤさん達から連絡は?」

 

『……………………』

 

「エイミィさん?」

 

応答がない事に不審に思うが……すぐに慌てた声が聞こえてきた。

 

『ご、ごめん! ちょっとこっちも立て込んでいて……!』

 

「それで、レンヤ達の状況は?」

 

『………数分前、レンヤ君達を乗せた飛空艇の……反応が途絶えた』

 

「……………え………………」

 

苦しげに言ったエイミィの言葉に、フェイトは思わず真っ白になる。

 

『どうやら母艦を脱出した後に襲撃を受けたみたいなんだよ。 今現在も反応を探索しているけど、妨害があるのか居場所がまだ掴めなくて……』

 

「そんな……」

 

この世の終わりのような絶望に陥るフェイト。 信じたくはないが、最悪の事態ばかり頭の中を過ぎる。

 

「大丈夫よフェイト。 レンヤは悪運は強いから、そう簡単にくたばらないわ」

 

「そうだよ。 フェイトは今までレンヤの何を見てきたの?」

 

アリサ達は何の不安も心配も感じてない。 フェイトは次第に落ち着きを取り戻した。

 

「……そうだよね。 ありがとう、皆」

 

「そうそう、落ち込んでいるなんてフェイトちゃんらしくないよ」

 

「んじゃ、まずはあの生意気なガキをぶっ潰さないとな!」

 

「あ、そういえばあの子はーー」

 

「………………(プルプル)」

 

ルーテシアがジブリールの方を確認しようと彼女のいる方向を見ると……茶番だと思っているのか、笑いを堪えるのに必死だった。

 

「清々しい程、性根歪んで捻じ曲がってんなー……」

 

「……サクラリスの言う通りだったわね」

 

「あんなに()()()のに……」

 

「! 小さい、だあ……⁉︎ テメェ……言っちゃいけねえことを言ったみてぇだなぁ……!」

 

「あ……」

 

リインの何気ない一言が、笑いを堪えていたジブリールを一瞬で怒らせた。 どうやら身長が低いというコンプレックスを刺激してしまったらしい。

 

「許さねえ……テメェら全員極刑だッ! 惨たらしくかっ捌いてやる!」

 

怒りに共鳴して手甲が変形していき、手甲に大きな鉤爪が装着された。

 

「そらっ!」

 

「きゃっ!」

 

突進。 そして力任せに振られた鉤爪はサーシャに向けられ、輪刀では防ぎ切れずに吹き飛ばされる。

 

「はあっ!」

 

「おっと」

 

横から振られたソーマの剣を避け、続けて鉤爪と剣が何度も打つかり火花を散らした。 力は五分、だが経験はソーマの方に分があり、巧みに2つの鉤爪を捌いてジブリールに剣を届かせる。

 

「はっ!」

 

「っ……痛ってぇじゃねーか。 こんな野郎に痛めつけられるなんて……! オレこそが痛めつける側なんだッ! それを思い知らせてやる! ミクロの果てまで刻み尽くしてやるッ‼︎」

 

血走った目で睨みつけるジブリール、まるで正気を失っているかのようだ。

 

「うらああああっ‼︎」

 

獣のような咆哮をあげ、歪の魔乖咒が放たれる。 すると地面が……クラウディアが揺れ始め、船体が軋み出した。

 

「まさか、クラウディア本体を破壊するつもり⁉︎」

 

「本当なら心を曲げて仲間割れにしてやりてぇが、オレはまだそこまで細かいことはできねぇ。 だがよぉ、思いっきり歪めてぶち壊すくらいは簡単なんだよ!」

 

「そんな⁉︎」

 

「今すぐやめなさい!」

 

「やなこった〜!」

 

(ブチ……!)

 

お巫山戯でここまでの愚行を重ねたジブリールに、アリシアはとうとう何かが切れた。

 

「……はあ。 そう、残念……」

 

「え、ちょっと姉さん。 まさか……」

 

前髪で顔を隠して黒く笑うアリシアに、フェイトは何をするつもりか理解する。

 

「ーー武力行使♡」

 

とてもいい笑顔でとんでもない事を宣言し、2丁拳銃を構えて、周囲にタクティカルビットを浮遊させる。

 

「そんじゃまあ、予定が詰まっているからサクッと終わらせるよ」

 

「あ、姉さん!」

 

タクティカルビットを攻撃形態のソードビットに変形させて突撃するアリシア。 フェイトはそれを止める……かと思いきやバルディッシュ構えて便乗した。

 

「へっ!」

 

受けて立とうとジブリールも鉤爪を構え、防御姿勢を取るが……2人の武装がジブリールの鉤爪に触れた瞬間、空間が歪み。 2人はそこに呑み込まれてクラウディア付近の別々の場所に落とされた。

 

『意気揚々と啖呵切っておいてアッサリ飛ばされているよ⁉︎』

 

『いや〜、キレているかと思いきや結構冷静だったね、あの子』

 

『こんな時でも姉さんはブレないね!』

 

距離が離れているため念話で会話し、飛行魔法で落下を止め、クラウディアに向かって飛翔した。

 

《サー。 このままではクラウディアは後60秒で崩壊、墜落します》

 

バルディッシュの予測を聞き、すぐさまクラウディアに向かって最高速で飛翔する。 だが思いの外遠くに飛ばされており、戻ったとしても残りの時間でジブリールを倒し切ることは……と、そこで2人は決心した。 この状況を切り抜けるための手段を使う事を。

 

『姉さん!』

 

『フェイトやるよ!』

 

『うん!』

 

《エアロシールド、アクティベート》

 

2人の背中に非固定型のシールドを展開し、クラウディアに向かって前に進みながらお互い近寄り距離を詰める。

 

《セブンスコード、受信範囲到達》

 

《ファーストプロポージング、レディ?》

 

「コネクティブアリシア!」

 

「ーーアクセプション!」

 

準備が整い……バルディッシュとフォーチュンドロップの誘導で、フェイトは迷わずシステム起動を宣言し、アリシアが了承することでシステムが起動した。 2人の頭にヘッドギアが展開、表面に描かれた丸い模様が虹色に光り出す。

 

《アプローチリング装着、展開》

 

《エスフィストガイド、ナビゲーション開始》

 

《アプローチリング受諾。 リンケージ開始》

 

《フォースベール、オープン》

 

《エンファティアレベル上昇。 コンソルクション開始》

 

《エスフィスト、アウト》

 

2機の誘導でシステムが構築されていき……次の瞬間、フェイトは突然不思議な空間に入った。 そこは日も照らす青空の中で雲の上。 魔法も使わず重量に従って落下するのみ。 そのまま雲の中に入った瞬間、水の中に飛び込んだ感覚になり……すぐ側をアリシアが通過した。 そこで現実に戻った。

 

システムが正常に起動。 2人の装備しているエアロシールドが背中に移動し、鱗状のエネルギーが結合して形成されたエアロスケイルの翼がそれぞれの魔力光で輝きながら展開される。

 

《カップリング、コンプリート》

 

「これが……」

 

フェイトは自分の身に起きた感覚に戸惑う。 感覚が何倍にもなっているような感覚……身体が軽く、誰よりも速く、どこまでも遠くに行けそうな気もしてくる。

 

『200秒! 200秒で片をつけるよ!』

 

『う、うん!』

 

スピードを上げると……今までとは比べ物にならない程の速度で飛翔し、ものの数秒でクラウディアに帰還。 視界にジブリールの姿を捉えると……

 

「なっ⁉︎」

 

フェイトの姿がかき消え、一瞬でジブリールの眼前に出てきた。 転移の如き知覚出来ない程の高速……いや、これはすでに神速の域に達っしている。 こんな速度を出せるのは今の状態のフェイトとアリシアだからこそできる荒技。

 

「せやっ!」

 

「ぐっ……!」

 

「姉さん!」

 

「了解!」

 

無防備に空いた胴体に掌底を打ち込み、ジブリールを艦の外に追い出し。 吹き飛ばされた先にいたアリシアが……

 

「天まで吹っ飛べ!」

 

《マルチブラスター》

 

「うわああああっ⁉︎」

 

6機のタクティカルビット全てが射撃形態ビットレーザーに変形し。 両手の2丁拳銃と加えて8門の砲門から砲撃された集束魔法は全てジブリールを捉え、ジブリールは宣言通り空高く、遠くに吹き飛ばされていった。

 

「よし! 障害は消えた!」

 

「あの子……SとMの両方を持ってそうだったわね」

 

「誰も聞いてないよ!」

 

「そんな事より、すぐに砲撃を! 作戦を再開させるよ!」

 

「シグナム、また撃てる?」

 

「……いや、1発撃った上に先の戦闘でそれほど魔力は残っていない。 撃てたとしてもまともな威力はないだろう」

 

「分かったわ。 なら私がーー」

 

「いや、その役目はあたしがやる」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを担ぎながら、クラウディア前方に向かって歩く。

 

「お前らはこの後も戦い続けるんだ。 体力と魔力は温存しておけ」

 

「でも、ヴィータに砲撃系の魔法あったっけ?」

 

「結構前にそういう武装をすずかに頼んでグラーフアイゼンに積んでもらってたんだ。 まだ未完成の装備だが、整備と調整は済ませてある」

 

「……突入隊を抜いて他に砲撃を使える人はいないからな」

 

「あ、あのあの、私も……砲撃、使えますけど?」

 

「ならシグナムのシュツルムファルケンレベルの威力は出るのか?」

 

「……………ごめんなさい」

 

「引き下がるの早⁉︎」

 

(コクン)

 

落ち込むサーシャは放って起き、アリサはブリッジと連絡を取る。

 

「エイミィ! エンジンは温ったまっている?」

 

『さっきから臨界一歩手前で準備万端! いつでも飛ばせるよ!』

 

「よし、ならさっさと始めるわよ!」

 

「ヴィータ、任せたぞ!」

 

「おう! さあ、次世代の……新しい力を見せてやる!」

 

ヴィータは背後に赤いベルカ式の魔法陣を展開し、そこから巨大な白いレールガンが出てきた。そして腰からエネルギーパック状のカートリッジを取り出す。

 

「カートリッジ、セット……!」

 

それをレールガンに装填、魔力が循環し砲門が展開、バレルが飛び出しさらに砲門が開いた。 急速にエネルギーがチャージされていき……

 

《ブラスターコントローラー》

 

「喰らえぇっ‼︎」

 

ドオオオオオオッ‼︎

 

トリガーが引かれ、チャージされていた魔力が発射された。 赤い砲撃が戦艦の合間を縫って通り抜け。 どこにも直撃せず、空に霧散していった。 砲撃を避けようとして戦艦が動いたおかげで、クラウディアが通り抜ける道が開けた。

 

「フェイト、行くよ!」

 

「了解、姉さん!」

 

クラウディアがアフターバーナーを噴かせ……太陽の砦に進路を向け、クラウディアは発進した。 そしてその前方にフェイトとアリシアが先導する。

 

『フェイト執務官ならびにアリシア二尉、所定ポイントに到着』

 

『2人とも、30秒だよ。 それが限界……気を付けてね』

 

すずかの心配混じりの声援を受けとり、フェイトとアリシアは顔を合わせ頷いた。

 

『機関、臨界到達!』

 

『クラウディア! フェイトとアリシアを追って直進! 最大船速‼︎』

 

クロノの指示でクラウディアは急加速、開けられた艦隊の合間を縫って進んで行く。

 

「うっ……」

 

「す、凄いG……」

 

「それにフェイトさんにアリシアさんもすごいスピード……」

 

「デバイスの技術限界を遥かに超えた性能……今の2人はお互いのポテンシャル共有している。 リンケージにより脳だけじゃなくて、全ての感覚を遅延劣化ゼロで共有……互いの能力を級数的に高め合っている」

 

「つまり、テスタロッサ姉妹の実力を掛け合わせたのが2人いるというわけか」

 

「……あの状態の2人を相手にしたくはないわね」

 

クラウディアにへばり付きながら、高速で飛行している2人を見てアリサ達はそう呟く。

 

《コードユニゾライズ、発動》

 

「行くよ!」

 

「うん!」

 

フォーチュンドロップの指示でフェイトとアリシアはお互い同時に横を回転し、背中のシールドを移動させサーフボートのように乗り……エアロスケイルを展開しているシールドを衝突させた。 そうする事で互いのエアロスケイルが干渉し、正面に2人の魔力光が混ざった黄色より濃い黄緑色の魔力光による壁が張られる。 そして、前方にいた多数の戦艦から魔力砲撃がクラウディアに向けられ放たれ……その全ての射線上に入り、砲撃を弾いた。 弾いては移動し、弾いては移動……それが息つく間も無く神速の速度で繰り返される。

 

「外してクラウディアに当てないでね!」

 

「そんなヘマしないっての!」

 

「姉さんだから心配なの!」

 

「それどういう意味⁉︎」

 

妙に喧嘩気味に会話するが、その間も神速の速さで砲撃を防ぐ2人。 そして残り10秒を切ったころ、徐々にスケイルの輝きが失われていく。

 

《3、2、1……タイム、アウト》

 

30秒を切り、エアロスケイルは完全に輝きを失った。 だが、その30秒の間にクラウディアは太陽の砦上空に到着した。

 

『降下開始!』

 

「行くわよ!」

 

「皆、どうか無事で!」

 

「行ってくるぜ!」

 

「皆さん! どうかお気をつけて!」

 

「主をよろしくお願いします!」

 

クロノの合図でアリサ、すずか、アギトは甲板を駆け出し。 声援をもらいながらクラウディアを飛び降りた。

 

「すずか!」

 

「フェイトちゃん!」

 

「掴まって!」

 

フェイトとアリシアはまだリンケージは切れて無かったので。 フェイトはすずかを、アリシアはアギトがしがみ付いているアリサを抱え。 一気地上に向かって急降下した。 フェイトはチラリと戦艦から攻撃を受けて遠ざかって行くクラウディアを見た。

 

(皆……)

 

「ーー大丈夫だよフェイト。 クロノが乗っている次元艦なんだよ? そう簡単に落ちたりしないよ」

 

「姉さん……」

 

「まだリンケージしているんだから、フェイトの考えは見え見えだよ♪」

 

そうしている間に太陽の砦前に降り立ち、辺りを見渡した。

 

「……レンヤ達は奥かしら?」

 

「連絡は取れないけど……おそらく」

 

「……デカップリング」

 

アリシアがシステム解除を呟き、エアロスケイルの翼がシールドに収納され、リンケージが切れる。 すると疲労が出たのかフェイトとアリシアはよろけて膝をついた。

 

「う……」

 

「さ、さすがにぶっつけ本番はキツいね……」

 

「大丈夫、2人共?」

 

「休むなら奥の方が良いわ。 肩を貸すから速くーー」

 

「おーい、皆ー!」

 

草原の方から彼の声が聞こえ、暗闇の中から走って来たのは……シェルティスとヴァイスの襟を掴んで疾走しているレンヤだった。

 

「レンヤ君!」

 

「無事だったか!」

 

「まあな。 シェルティスは無事じゃないが」

 

「…………………」

 

《いえ、あなたがとどめを刺しましたよ?》

 

「う……酔った……」

 

レンヤに引き摺られた2人は力無く地面に倒れる。 慌ててすずかが治療に当たる。

 

「そっちも敵の妨害にあったのか?」

 

「ええ、歪の魔乖術師にね。 サクラリスの言っていた通り狂っていたわ」

 

「レンヤ達にも敵が来たの? いきなり反応が消えたって聞いたから本当に心配したんだから」

 

「あー、かなりの強敵が出て来てな。 そいつに落とされたんだ。 痛み分けでなんとか勝てたくらいだ」

 

「そうみたいだね」

 

応急処置を終えたすずかが近寄り、レンヤの頰に手を当てて傷に治癒魔法をかける。

 

「っ……」

 

「あ、もうレンヤ君。 動かないで……!」

 

その時、レンヤは頰にあたる手からふわりと香るラベンダーのような匂いにドギマギして顔を背ける。 だがそうするとすずかを傷から遠ざける事になってしまい、余計密着する事になった。

 

「こっちも何とか隙を突いて迎撃できたくらいだ。 あんな奴2度と相手にしたくねぇ」

 

「歪か……余程の曲者だったみたいだね」

 

「ったく、敵はバケモノ揃いかよ……」

 

「……とにかく、本番はこれからだ。 まずは先行しているなのはとはやてと合流するぞ!」

 

「うんっ!」

 

「了解だよ」

 

疲労から回復したフェイトとアリシアが立ち上がり、太陽の砦に向かった。

 

 



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135話

 

 

同日、00:30ーー

 

俺達はフェイト達と合流した後……負傷しているシェルティスを安全圏に起き。 グランツェーレ平原、その中心地にある太陽の砦前の入り口に向かった。

 

「グランツェーレ平原……まさかここが……」

 

「教団が潜む拠点(ロッジ)だったなんて……」

 

「来おったな……!」

 

前方にあった開かれている石扉からなのはとはやてが出てきた。

 

「なのは、はやて!」

 

「お疲れ様、大変だったでしょう?」

 

「皆こそ……大変だったみたいだね。 詳しい話はさっき通信でテオ教官から聞いたよ」

 

「2人はどうやってここに? 地上からでもかなり難しかったのに……」

 

「レンヤ君が母艦を停止させた時の混乱に乗じてここまで来たんだ」

 

「それで、さっきやっとそこの入口を開けたばかりなんよ」

 

「あ……閉じていた扉が……」

 

以前、ここに来た時は記念祭が行われている時に人探しをしに来ただけだったので、気にしながらも放置していた。 だがこの短時間で仕掛けを探し出して開けるとは……

 

「変な仕掛けがあって開くのに手間取ってしもうたんよ。 せやけどこれで、連中の拠点に潜入することは出来るで」

 

「……本当に助かったよ。 俺達はこのまま、首謀者を逮捕しに行くけど……なのは達はどうする?」

 

「もちろん、手伝わせてもらうよ! そのためにここで待ってたし」

 

「失踪者も救出する必要もあるんやし、助太刀させてもらうで」

 

「……ありがとう。 2人が入れば百人力だ」

 

改めて太陽の砦を見上げる。 表面上は中世くらいの古い建造物だが、奥から微かに出ている異様な空気が異常の度合いを上げる。

 

「早く捕まえて、問い質さないとね。 なんで、あんな実験をしたのか……どうしてネクターを完成させたのか……そしてヴィヴィオに何をさせるつもりだったのか……」

 

「そうね……」

 

「締め上げることは結局確定みたいだね」

 

「ああ……確実に逮捕しよう。 操られた管理局員を解放して、ヴィヴィオの安全を確保するためにも」

 

「……行くんだね」

 

後方からヴァイスさんに肩を貸してもらいながら、シェルティスがヨロヨロと歩いて来た。

 

「シェルティス……!」

 

「止血したばかりなんだからあんまり動かないで……!」

 

「はは、さすがにこの怪我で付いていくつもりはないよ……」

 

シェルティスは安静にするために近場の壁に寄りかかった。

 

「……だからせめて、見送るくらいはさせてもらうよ。 不甲斐ないけど、僕はここで戦線離脱するしかないよ」

 

「シェルティスの事は俺に任せておけ。 お前達はさっさとこの馬鹿騒ぎを止めてこい」

 

「はい!」

 

俺達は太陽の砦に向かって走り出し。 中に入り、正面広場で1度確認のために止まった。

 

「どうだ……アリシア?」

 

この感じは身に覚えあるが、一応念のためアリシアに確認を取った。

 

「…………悪い予感が的中だね。 異界の力が働いているよ。 塔や僧院と同じだね」

 

「そう、やっぱり……どうやらこの先は一筋縄では行かないみたいね」

 

「グリードも徘徊しているはず、気を引き締めて行こう」

 

「それにしても……まさか、ミッドチルダの各所にグリードが出る場所こんなにもあったなんて……」

 

「基本、心霊スポットとしか見られていないから、放置しがちだったからね……」

 

「せやな……それにここのグリードはかなり強いみたいやで。 万全の体制で臨まなぁあかんなあ」

 

「そうだな……分かった」

 

そして、この最奥にこの事件の元凶……ホアキン先生がいる。 気を引き締め、少し前に出て身を翻し、皆の方を向く。

 

「当然、敵による待ち伏せもあるはずだ……皆、気を引き締めて行こう!」

 

『おおっ!』

 

探索を開始し、すぐ正面に鉄製の扉があったので……無理やりこじ開け先に進むと、謁見の間らしき場所に出た。

 

「ここは……」

 

「どうやらこの砦の城主の間みたいだけど……」

 

「あ……!」

 

フェイトは何かに気付き、思わず声を上げた。 視線の先にあったのは王の座る玉座……その上にある壁画、そこにはある紋章があった。

 

「あれは……!」

 

「僧院の礼拝堂の奥にあった紋章と同じ……!」

 

つまり、ここも含めて月の僧院と恐らく星見の塔は、昔D∵G教団が使用していた施設になるわけだ。

 

「これって……D∵G教団の紋章だよね? 見せてもらった資料とは細部が違うみたいだけど……」

 

「確かにそうだね。 本来なら確か翼が付いていたはずだけど……」

 

「多分、こっちのは簡略化された教団の紋章なんやろ。 もしかすると、現在の紋章の原型(オリジナル)になったものかもしれへん」

 

「それがこの場所にあるという事は……」

 

「………教団のルーツはこのミッドチルダに異界が認知される前よりも……おそらく聖霊教会に聖王教会が接触した時期辺り……30年前からだろう。 そして、この場所が発祥の場所かもしれないってことか」

 

「そして、6年前まではその時の有力者を取り込んで勢力を拡大したかもしれんなあ」

 

「なんてこと……」

 

その事実にすずかは思わず顔に手を当てる。

 

「いずれきちんと歴史を紐解く必要がありそうだな……」

 

「無限書庫やココブックスに何かあるかもしれへんな……」

 

「! 気をつけて……何か来る!」

 

次の瞬間、目の前の地面が紫色に光り出し……目玉を模した魔法陣が現れる。 そしてそこから浮かび上がってきたのは、僧院で出たのと似たグリードだった。

 

「出たな……」

 

「僧院で出たのと同種……!」

 

「やっぱりこの一帯が完全に異界化している……!」

 

「とにかく倒すよ!」

 

異形のグリード……アカ・マナフは巨体を揺らしながら襲いかかってきた。

 

「止めるよ、レイジングハート!」

 

《バイディングシールド》

 

アカ・マナフの振り下ろされた爪をシールドで防いだと同時に拘束、動きを封じた。

 

「今だよ!」

 

「焔よ、ロードカートリッジ!」

 

《エクスプロージョン》

 

「凍てつけ、ファースト、セカンドギア、ファイア!」

 

《ドライブイグニッション》

 

アリサはカートリッジをロードして刀身に焔を纏わせ、すずかはギアを2つ駆動させて刃に氷を付与させる。

 

「はあああっ!」

 

「やっ!」

 

2人は左右から接近し、アカ・マナフは焔と氷の乱舞を受ける。 アカ・マナフはそのままやられるわけもなく、空いている片手でチェーンを砕き、そして乱雑に両腕を振り回して2人を引き離した。 そして異常な速度で回復し、今までの傷を一瞬で直し、魔法を発動するため詠唱を始めた。

 

「させるか! 桐雨(きりさめ)!」

 

詠唱を止めるため、5つの斬りと7つの突きを一呼吸で行い。 アカ・マナフの詠唱を止めた。

 

「貫け!」

 

《ライトニングスピア》

 

詠唱をキャンセルされ、怯んだ隙に……フェイトの周りにスフィアが展開し、雷の鎗がアカ・マナフの四肢を貫いた。

 

「万海灼き祓え! シュルシャガナ!」

 

夜天の書が開き、はやての周りに炎が現れ複数の剣を形成し、アカ・マナフを焼き切り裂いた。 アカ・マナフを倒すと、それを鍵だったかのように教団の紋章が描かれた壁が沈んで行き……奥へと続く通路が現れた。

 

「これって……」

 

「……どうやらこの先が真の意味での拠点(ロッジ)みたいやな」

 

「ああ……入ってみよう」

 

通路を歩き、すぐあった階段を登り、そこにあったのは……

 

「ここは……⁉︎」

 

大きな縦穴……内壁には下に続く通路がある。 問題はその下、紫色の濃いモヤが目に見えて漂っていた。

 

「凄い……」

 

「地の底に続く縦穴……なんて大きさ」

 

「……塔、僧院、そしてこの砦の作られた年代は数百年前と言われているけど……」

 

「ここからの目測だと深さ500mくらいだね。 ふう……骨が折れる深さだよ」

 

あまりの光景に言葉を失うが、D∵G教団が関わっていると思うと建設された理由はロクでもないと思う。 その考えを答えるように、アリシアは思った事を口にした。

 

「……多分、この縦穴は煉獄に続く黄泉路を見立てて建設されたと思う。 怪異に近づいて、利用するため……そしてあいつらが供物を捧げる儀式を執り行うために」

 

「……最低の連中ね」

 

「許せない……そんな下らない事のために、子ども達を……!」

 

「ーーだったら、俺達の仕事はただ一つだけだ。 俺達の道を作ってくれた人達のためにも。 そして、俺達の帰りを待っているヴィヴィオのためにも……この辛気臭い幻想を叩き壊して、陽の光の下に引きずり出してやる! もう誰1人として、辛くて悲しい思いをしなくても済むように……!」

 

胸に燻っていた熱を言葉として吐き出し、拳を固く握り締めた。

 

「あはは、レンヤって妙な所で熱くなるけど……今回ばかりは乗らせてもらうよ」

 

「ふふ、私も乗ったわ。 敵は、全てを陰から操っていた得体の知れない蜘蛛のような存在……でも、私達なら必ず届くはずよ」

 

「うん……この戦い、絶妙に負けられない! ヴィヴィオちゃんのためにも……私自身のためにも……!」

 

アリシア、アリサ、すずかも同じ気持ちのようで。 苦笑しながらも賛同してくれた。 なのは、フェイト、はやても頷いてくれた。

 

「私達も力を貸すよ!」

 

「全力で皆を支援するから!」

 

「その大船、乗らせてもらうで!」

 

「よし……それじゃあ行こうか」

 

皆の正面に立ち、作戦行動開始の前置きを言った。

 

「時空管理局・異界対策課所属、神崎 蓮也三等陸佐以下4名ーー」

 

「同じく、戦技教導隊所属、高町 なのは二等空尉ーー」

 

「同じく、本局所属、フェイト・テスタロッサ執務官ーー」

 

「同じく、捜査部所属、八神 はやて三等陸佐ーー」

 

「ーーこれより事件解決のため、強制潜入捜査を開始する……!」

 

今更強制潜入捜査もなにもないと思うが、D∵G教団がこの太陽の砦の不法占拠しているし、問題ないだろう。 奴らの影響か、変異しているグリードを倒しながら下に降りるように進み、第二層に差し掛かった。 少し進むと、床や外壁に人工的な舗装がされており。 明らかに現代の人の手が加えられている。

 

「この辺りは近代的な設備が入っているわね……」

 

「もしかしてホアキン先生が改装させたのかな?」

 

「……多分そうだろう。 ネクターを完成させるための研究設備かもしれない」

 

「なるほど……医療院にその設備が無かった以上、可能性は高いかもしれへんなーー」

 

ふと、先の通路から人の気配がしてきた。 だがなんだ……2人いるが、両者共に気配が安定していない?

 

「……っ……!」

 

「誰か来るよ!」

 

奥から出てきたのはフェノールの構成員だ。 だが様子が変で、目の焦点が合ってなく、フラフラしている。

 

「あんた達……」

 

「こんな所にまでいるなんてね。

 

「あなた達! 大人しく投降しなさい! いくら薬で強くなっても、この人数を相手にーー」

 

「ま、待って!」

 

アリシアは手を横に出して止まるようにし、相手を観察するように見つめる。

 

「様子が……おかしい……」

 

「えっ……」

 

「……ァァアアア……」

 

「……ギギギギギ……」

 

突如、構成員2人が苦しみ悶えながらオーラを放ち始めた。

 

「な、なんなの……⁉︎」

 

「こ、これは……」

 

次の瞬間、2人は轟くような咆哮を上げながら一瞬でグリードと化した。

 

「えええっ……⁉︎」

 

肉体変異(メタモルフォーゼ)……⁉︎」

 

「ううん、どちらかといえば怪異化(デモナイズ)に近い……!」

 

「だが、迷っている暇はない……!」

 

「とにかくブチのめすわよ!」

 

変わり果てた2人の構成員……デモニクスが襲いかかってきた。

 

「くっ……」

 

「う……!」

 

突然の事でフェイトとはやては対応できず、振り下ろされた爪を怯みながらプロテクションで防いだ。

 

「しっかりしなさい! とにかく制圧するわよ!」

 

「元に戻すのはそれからだ!」

 

アギトが2体に火球を撃ち込み、フェイトとはやてから離れさせた。

 

抜楸(ぬきひさぎ)!」

 

接近して抜刀。 振り抜かず1体に柄頭をぶつけ、続けてもう1体を斬り裂いた。

 

「レン君! 離れて!」

 

《ショートバスター》

 

「シューート!」

 

背後から発射された砲撃を避け、砲撃は片方のデモニクスに直撃し、吹き飛んだ。

 

「行くよ、

 

《エクスコンビネーション》

 

「それっ!」

 

両手の小太刀をブーメランのように投げ、片方のデモニクスを考察するように斬りつけた後、すぐさま2丁拳銃で撃ちまくり……先ほど投げた小太刀が戻ってきてまた斬りつけアリシアの元に戻り、掴んだと同時に構え……

 

「まだまだ、続けるよ!」

 

デモニクスの眼前に近付き、何度も斬り裂く。

 

「これで……終わり!」

 

最後に突きを繰り出しながら通過し、一瞬で拳銃に持ち替えてデモニクスを撃ち抜いた。

 

《チェーンフォルム》

 

「はあっ!」

 

アリサはフレイムアイズをチェーンフォルムに変形、そしねチェーンを構えて螺旋を描くように投げ、デモニクスを完全に拘束した。

 

「フェイト!」

 

「りょ、了解!」

 

《プラズマスマッシャー》

 

環状魔法陣が複数生成し、接近して空いている左手で殴り。 ゼロ距離で発射し、もう1体吹き飛ばし、衝撃で煙が舞う。 煙が晴れると……2体のデモニクスは苦しむように唸り、体からオーラが霧散すると……残ったのは完全に気絶した先ほどの構成員2人だった。

 

「こ、これって……」

 

「悪夢でも見ているみたいだよ……」

 

「怪異化……まさかそんな現象が現実に起こるなんてな思いもよらんかった……」

 

制圧を確認し、膝をついてマフィア達の状態を確認する。

 

「ーー気絶している。 かなり衰弱しているけど、命に別状はないよ」

 

「ほっ……良かった」

 

なのはは命に別状がないのが分かると、ホッとする。

 

「恐らくこれもネクターの力……ううん、魔乖咒に辿り着けず、力を暴走させた時に起こる現象……」

 

「精神の変容が肉体に作用したのかもしれないな」

 

「そんな……出鱈目過ぎるよ。 いくらフェノールでも、こんな目に遭わせるなんて……」

 

「ホアキン、絶対に許せない……!」

 

「ああ……」

 

ホアキン先生の所業に、フェイトは怒りをあらわにする。 立ち上がり、辺りを見回す。 どうやらこの層には何かありそうだな。

 

「ーーとりあえず、この一帯を調べてみよう。 教団に関する情報が手に入るかもしれない」

 

「ええ……!」

 

「了解や……!」

 

先に進み、曲がり角の突き当たりにロックされた隔壁があった。

 

「これは……」

 

「ロックが3つ……この先に何かありそうね」

 

「うーん、この隔壁の材質は対魔力素材で出来ているね。 力づくで壊すのは無理だね」

 

隔壁をコンコンと叩かながらアリシアはやれやれと首を振る。

 

「この辺りにロックを解除するための端末があるはず、まずはそこを探してみよう?」

 

「そやな、その方がええ」

 

グリードを倒しながらこの層を歩き、とある部屋に旧式の端末があった。 すずかが軽く観てみると、どうやら生きているようで。 情報を得られないかさっそく起動した。

 

「動いた……!」

 

「どうやら数年前にイーグレットSSが開発した情報処理システムのようだね。 今となっては旧式だけど、当時はかなり高価だったはずだよ」

 

「多分資金はアザール議長が工面したのでしょうね……」

 

「ああ……いずれその辺りも徹底的に洗う必要がありそうだ。 すずか、他に何か分かるか?」

 

「うん………」

 

すずかはキーボードを弾き、情報を探した。

 

「ーーどうやらこの端末だと隔壁のロックの解除と情報の閲覧が出来るみたい。 でも、どうやら情報は一部しか残っていないみたい……」

 

「十分だ……さっそく調べてみよう」

 

まずは情報を閲覧する。 表示された文面を読んでみると……どうやらホアキン先生が作成した教団についての報告書だった。

 

「これは……ホアキン先生が残したものか」

 

「教団についての概要が残されているみたいだけど……」

 

「所々、読めなくなっているね」

 

「それもかなり重要な部分を。 これは恐らく……」

 

「うん、意図的に削除されたと思うよ。 データの復旧は難しいね」

 

「でも、ここで消されているのって聖霊教会とか夕闇の使徒だよね? 怪異の存在を肯定するって言っていたし……」

 

「うん、間違いないやろうな。 それ以外にも、気になる単語が削除されとるみたいやけど……」

 

この場ではこれが限界だろう……次の端末に向かうことにし、ロックを解除するための操作を行った。 これで1つ目、残りを探しに探索を続ける。

 

「んー、ユーノが見たら喜びそうな遺跡なのに……見事に荒らされているね」

 

「そういえば……ユーノ君ならとっくにここを探索していそうなのに。 どうして探索してなかったのかな?」

 

「前に聞いてみたが……どうやらその度に仕事が入ってお預けになってたらしい。 そしてその仕事を送っていたのは上層部」

 

「わっかりやすい妨害やなぁ。 ま、それでも気付かへんかった私もマヌケやけど……」

 

「はやてちゃん……」

 

「はやてだけじゃないさ。 俺やゼストさんやメガーヌさん、クイントさんだって出し抜かれたんだ。 気にするな……って、これ慰めになるのか?」

 

結局全員が出し抜かれた訳だし、傷の舐め合いになるのか? 慰めにならないな……

 

「ふふ、なんやそれ。 でも、少し安心したんよ」

 

「……そうか」

 

それからしばらくして2つ目の端末を発見。 起動し、中に残されていた報告書にはネクターについてが記されていた。

 

「かなり情報が削除されているな……」

 

「ええ……例の薬についての情報がまとめられているみたいだけど」

 

「せやけど、ここの研究施設を使って完成させたのは確かみたいやな」

 

「たった数年で、量産段階まで漕ぎつけたのか……」

 

アギトがその執念に畏怖するように唖然と驚く。 そこでなのはがある単語を指差した。

 

「この青精鉱(せいせいこう)っていうのは何だろう? 薬の原材料みたいだけど……」

 

「青精鉱……聞いたことのない名前だね」

 

《データベースに該当はありません》

 

「……そう。 そうなると無限書庫で調べる必要があるね」

 

「うへぇ、あそこからかぁ?」

 

「文句言わない。 とにかく先に進みましょう、すずか」

 

「うん」

 

ロックを解除をお願いし、隔壁に掛かっている2つ目のロックを解除した。

 

「…………………」

 

「ほな次に行こか……ってレンヤ君、どないしたん? そんなに考え込んで」

 

「え? あ、いや……何でもない。 次の端末を探しに行こう」

 

俺は青精鉱の名に引っかかるも、それを一旦後回しにし。 最後の探索を捜索する。 サーチャーも使いながら捜索すると、最後の端末がある部屋を見つけたが……その部屋の入り口は分厚い鋼鉄の扉で閉ざされていた。

 

「この先、みたいだね……」

 

「かなり厳重に閉ざされているな。 ここだけセキュリティが最新だぞ」

 

パスコードに指紋認証にカードキー、どれを簡単には行かなさそうだ。

 

「どこかに抜け道とかないのかな……?」

 

「えーっと……あ、あそこから入れるそうだよ」

 

なのはが指さしたのは……ダクトだった。 入り口だけ見ても人がちょうど1人入れそうな大きさだ。 入れるかどうかは置いておいて、サーチャーで繋がっているかを確認すると……

 

「…………あ、繋がっているよ」

 

「それなら行くわよ。 アギト、先導してくれる?」

 

「おう、分かった」

 

金網を外し、アギトが余裕でダクトに入る中、俺達はうつ伏せになってほふく前進でダクト内を進んだ。

 

「ふうふう……せ、狭い……」

 

「しかも汚い……」

 

「バリアジャケットを着ておいて良かったよ」

 

「う、進み辛いよ……」

 

すずかはキツそうに進んでいる。 フェイトも同様にどこか辛そうだ。 だが、それ以前に俺がヤバい。 アリサ、アリシア、はやてに次いでダクトに入ったため……目の前が……

 

「すずかとフェイトは抵抗が大きいからねぇー……」

 

「抵抗……?」

 

「そ、そそ、そんなことより! 先に急ぐわよ!」

 

「ア、アリサちゃん……⁉︎」

 

何かから逃げるようにアリサが素早くダクト内を進む。

 

「アリサちゃん……抵抗、小さいなぁ……」

 

「すずかとフェイトの抵抗がでかいだけだっての……アリサのは少し抵抗があるくらいなんだよ」

 

「せやなぁ、私もそんくらいや……ーーそれよりもレンヤ君。 見た?」

 

「な、なんだよいきなり……」

 

さっきから話が付いていけなかったのに、いきなりはやてが俺に振ってきた。

 

「いややなぁ〜、レンヤ君の熱い視線がお尻に刺さるんよ♪」

 

「……レン君?」

 

「違う違う! 誤解だ、これは不可抗力で……!」

 

「いやん、レンヤ君のエッチ♪」

 

「レン君!」

 

前も地獄、後ろも地獄。 そんなせめぎ合いを短時間の間に応酬しながら目的地に到着してダクトを出た。

 

「つ、疲れた……」

 

「っていうかはやて、タイトスカートなんだから見える訳ないじゃん」

 

「レンヤ君の熱い視線は、それだけでもう……」

 

「いい加減にしなさい」

 

「……はい」

 

アリサの静かな一喝ではやては黙った。 なのはも矛を収めてくれ、とにも角にも色々と助かった……って、なんでグリード戦以外で命の危機にさらされているんだ……

 

「ん……あ、あれ? ひ、引っかかった……?」

 

「え……」

 

今度はすずかがダクトを出ようとした時、何かが支えて出られなかった。

 

「だ、大丈夫すずかちゃん⁉︎」

 

「ん〜! んーーー!」

 

なのはに引っ張ってもらうが、中々出られなかった。

 

「嘘……フェイトでもFなのに、まさかすずかは……」

 

「ね、姉さん……! 言わないでよ……!」

 

「あーあ、見事につっかえてんなぁ……胸」

 

アギトが指摘し、つられて見てみると……なのはに引っ張られると同時にすずかの大きい胸が柔らかそうに形を変えて引っかかっていた。

 

「何マジマジと見てんのよ!」

 

「痛っ⁉︎ いや、これはだからーー」

 

(……レンヤって結構ムッツリだったりする?)

 

(せやな、その方がこちらとしてもええんやけどなあ。 でもやっぱりムッツリとちゃう?)

 

「そこ! こそこそ話さない!」

 

何だろう……この状況。 何でこんな目に遭っているのだろうか……すずかがなのはに引っ張られてダクトから飛び出るのを眺めながら茫然と思った。 そして、いつかまたダクトに入ったら絶対に先に入ろうと心に誓った。

 

それから気を取り直し、端末を確認する。 他と比べて比較的新しいが、3つ目の端末を発見し、同様に起動。 残されている情報を閲覧する。 どうやらこの端末には御子の……ヴィヴィオについての報告書のようだが……

 

「何じゃこりゃ……虫食いだらけじゃん」

 

「……どうやら教団にとって最大機密にあたる情報みたいやな」

 

「この、御子っていうのが、ヴィヴィオの事なんだよね?」

 

「……ええ……DBMビルに現れたホアキンがあの子のことをそう呼んでいたわ」

 

それを聞くと、なのはは何とも言えない表情になるが、レイジングハートを握る手は強くなっていた。

 

「正直、あんまり理性的な発言とは思えなかったけど」

 

「……いずれにせよ、この情報は直接本人から聞くしかなさそうだな」

 

報告書を読み取り、最後のロックを解除した。 これであの隔壁から奥に行ける。

 

内側からロックを解除して隔壁のある場所に戻り、開け放れた隔壁を通り奥へと進む。 下に降り、三層目に突入すると……奥から水の流れる音が聞こえ、その場所に向かうと……そこは下水道のような場所で。 赤くてドロドロしたような物が流れていた。

 

「これは……!」

 

「ま、まさか血の池か⁉︎」

 

「ヒッ……⁉︎」

 

「ーーううん、血の匂いはしないよ。 だけど、普通の液体でも無さそうだね……」

 

フェイトはこの異様な光景に恐怖して抱きついて来た。 頭を撫でて落ち着かせる時……アギトが驚愕して言ったことを、すずかが即座に否定した。

 

「……ひょっとすると何かの排水かもしれなんなあ。 ちょうどこの上の設備でネクターを大量に製造していたみたいやし」

 

「確かに、色は違うけどあの薬と似た匂いがするね……毒性は強くないと思うけど、触れない方がいいよ」

 

「誰が好き好んで触れるのよ」

 

「……そうだな、足元には気をつけよう」

 

「そ、そうだよね……こんなに血があるわけが……」

 

「でも、ここまで見た目が似ているの精神的にはちょっと辛いけど……めげずに先に進むしかないね!」

 

「ああ……!」

 

沸いて出てくるグリードを退けながら慎重に進むと、進行方向から複数の人の気配を感じた。 その場所に向かうと……そこには檻があり、中にはネクターを使用していた疑いのある失踪者が囚われていた。 どうやらここは牢屋のようだ。

 

「あ……!」

 

「もしかして、行方不明になっていた……」

 

「! あ、あんたらは……!」

 

すぐ側にあった牢屋に、クイラさんがおり。 こちらに気付くとどこかホッとした。

 

「クイラさん……無事で良かったです」

 

「管理局の兄ちゃん達……! た、助けに来てくれたのか⁉︎」

 

「ほ、本当に……⁉︎」

 

「あたし達、出られるの⁉︎」

 

「それは……」

 

一応、俺達は潜入してここに来ている。 彼らを脱出させるとなると相当時間がかかるはず……

 

「……とにかく扉だけでも開いてしまいましょう」

 

「そうだね……」

 

「あ……どうやらあれが扉の開閉装置みたいやな」

 

はやてが指差した方向にレバーらしき物があった。 同様に奥にも開閉用のレバーがあった。

 

「向こう側にもありみたいだし、早く開けてあげようね」

 

「ああ」

 

近付いてレバーを見てみると……古風だが、頑丈なレバーだ。 レバーを下ろすと片側の扉が開き、囚われていた人が檻から出た。 続けてもう片側のレバーも下ろし、ここに囚われていた人を解放した。 その後、いったん行方不明者達を集め、すぐに脱出は出来ないと説明した。

 

「す、すぐには出られない⁉︎」

 

「……すみません。 自分達も敵の目を盗んで潜入している状態です」

 

「グリードや操られたマフィアが辺りをウロウロしている……この遺跡もそうだけど、街までの安全も保証できねぇ」

 

「しばらくは、ここで救助を待ってしただくしかありません。 どうかご了承を」

 

「そ、そんな……」

 

いますぐこの地獄から抜け出せそうだと思ってたのに……そんな感じに行方不明者全員が落胆する。

 

「じきに混乱が収まれば警備隊も駆けつけると思います。 それまでの辛抱です」

 

「残っている管理局員も総力を挙げて収拾に挑んでいます。

 

「皆さんの事は絶対に助けますから、どうか安心してください!」

 

「わ、分かった……」

 

「念のためこの付近に結界を張るから。 皆はここで救助が来るま待っていてね」

 

なのは達の説得でどうにか了承してもらい、アリシアが結界を張った後探索を続けた。 まだまだ先は長い……気を抜かずに進まないと。 手を握りしめる力を入れながら、目の前のグリードに立ち向かった。

 

 

 



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136話

 

 

行方不明者を助け出した後、探索を続け……しばらくして別の牢屋があるフロアに出た。

 

「ここも牢屋か……」

 

「ここには誰もいないのみたいだけど……」

 

「………いやーー」

 

「だ、誰かいるのか……⁉︎」

 

アリシアが気配を感じたのと同時に、男の声が聞こえて来た。 隣の牢屋を見ると……そこにはカクラフ会長と数名のフェノールの構成員が囚われていた。

 

「カクラフ会長……!」

 

「え……あのフェノールの⁉︎」

 

なのはが突然の事で驚きながらも、扉の側まで近寄った。

 

「お、お前達、どこかで見たような……」

 

カクラフ会長が訝しそうに俺達の顔をジロジロと見る中、背後にいた構成員が俺達の正体に気が付いた。

 

「お、お前らは……⁉︎」

 

「異界対策課のガキ共……!」

 

「なに……⁉︎ 黒の競売会(シュバルツオークション)を台無しにした連中だと⁉︎」

 

「別に台無しにするつもりはなかったですけど……」

 

まあ、台無しになった方が世のためだったのかもしれないが……

 

「いずれにせよ、自業自得よ」

 

「そうですよ、いつかは暴かれるはずだったのが早まっただけです」

 

「ええい、黙るがいい! お、お前達のせいでワシは議長の機嫌を損ねて危うい橋を渡ることに……す、全ては貴様らのせいだ!」

 

「物凄い責任転嫁っぷり……」

 

温厚ななのはでも呆れるぐらい、カクラフ会長は暴言を言い放った。

 

「ホアキン准教授と共謀していた訳ではあらへんと言い張るつもりなんか?」

 

「も、もちろんだとも! ネクター……ま、まさかあんな恐ろしい薬だったとは……」

 

「さ、最初は潜在能力を高める薬という話だった……ヘインダールの襲撃も成功して皆、競い合って服用したが……」

 

「昨日の夜、服用した連中の様子が全員おかしくなってしまって……そ、それでこんな事に……」

 

「……それどころか……化物みたいになったヤツも……」

 

「……なるほどね」

 

弁解するように構成員が事の次第を話した。

 

「大方、睨んでいた通りだね」

 

「………………………」

 

「こ、これで分かっただろう! ワシも被害者の1人なのだ! とっととここを開けて、安全な場所に連れてーー」

 

「ーーふざけるな!」

 

身の潔白を主張してきたカクラフを怒り混じりで一喝する。

 

「な……!」

 

「元凶は確かにホアキンだろう! だが、あんた達に責任が無いとは言わせるか! 市民に薬を流したのは他ならぬあんた達だろうが⁉︎」

 

「そ、それは……」

 

「……その狙いも判っている。 ネクターに危険が無いか市民を使ってテストしたんだろう。 あわよくば販売ルートを確立して、抗争後には広めようとした……違うか⁉︎」

 

「ぐっ……」

 

「…………………」

 

図星を突かれ、カクラフと構成員は苦い顔をする。

 

「……今回ばかりは貴方達をかばう議員は現れないわ。 アザール議長に至ってはホアキン准教授との関係について幾つもの疑惑が持たれている」

 

「もう後ろ盾は無くなったと覚悟するんだな」

 

「ぐぐぐぐぐぐ……」

 

さらに顔を強張らせるカクラフ。 アリシアは少し溜息をついた後、牢屋を見渡した。

 

「ま、それはともかく……ゼアドールのおじさんはどうしたの? てっきり一緒に捕まっていると思ったけど……」

 

「……若頭は最後までホアキンに対抗していた……だが、化物になった仲間達に力尽くで押さえ込まれて……」

 

「その後は見かけていない……」

 

「……そうですか」

 

「ちょっと、心配やなぁ……」

 

「うーん、確かに……」

 

実質、統政庁を抜けていない訳だし。 そう簡単にやられないとは思うが……その時、なのはが、少し真剣な表情で聞いてきた。

 

「ーーねえ、レン君。 この牢屋の扉、どうする?」

 

「なっ……」

 

「このままにしておいたらちょっと危険な気もするし……かといって扉を開けたら逃げちゃうかもしれないし」

 

「……ああ」

 

「正直、難しい判断やな。 私はレンヤ君の判断に任せるんよ。 ここはレンヤ君が決めるのが筋やと思うし」

 

「………………………」

 

俺はしばらく考え……側にあったレバーまで歩み寄り、レバーを下ろし、扉を開けた。 その行動に、カクラフ会長達は笑みを浮かべた。

 

「レンヤ君……」

 

「……まあ、レンヤが決めたのなら……」

 

「ふふ……仕方ないわね」

 

「………あくまで緊急措置だ。 それに、丸腰しで脱出できるほど、この遺跡のグリードは生易しくない。 大人しく管理局の救出を待った方が賢明ですよ」

 

「フ、フン……ワシに指図するな! これで貴様も用済みだ! とっとと行ってしまえ!」

 

「何だとこのハゲ! せっかく助けてやったってのに!」

 

「……行くわよ」

 

「ああ……先を急ごう!」

 

怒りを露わにするアギトを抑え、俺達は探索を再開する。 少し先の通路にを進み、通路を抜けると……かなり開けた場所に出た。 辺りを見回していると……突然女性の笑い声が聞こえてきた。

 

「フフ……やっと来ましたね」

 

「この声は……!」

 

「エリンさん……!」

 

この広場の中央に、剣を持ったエリンさんが待ち構えていた。

 

「あ……! この人は確か……!」

 

「レンヤ君達が逮捕した、ミゼットさん秘書……」

 

「おや、エースオブエースに夜天の主もご一緒とは。 知り合いとはいえ……空白(イグニド)といい、あなた達もなかなか顔が広いですね」

 

確かに仕事の関係上、顔は良し悪しに関わらずかなり広い。 だが、そんなことに付き合ってるつもりはない。

 

「ーー戯言はそのくらいにしてもらいます。 マフィアや警備隊と違って、あなたは意志を封じられて操られているわけではない……自分の意志で協力しているなら罪はさらに重くなりますよ?」

 

「フフ、その罪というのは人間が勝手に決めたものだろう? 今日から、このミッドチルダは新たなる聖地となる……どうしてそんな下らないルールを気にかける必要があるのかしら……?」

 

「エリンさん……」

 

「話が通じねえな……」

 

「……駄目だね、これは」

 

「……貴女がどんな経緯でホアキンに取り込まれたのか……いずれ、事件の後にでもきちんと聞かせてもらいます」

 

そこで一旦区切り、刀を構え……エリンに剣先を向けた。

 

「だが今は……そこを退いてもらう……!」

 

それに続くように、なのは達も武器を構えた。

 

「アハハ、いいでしょう! 偉大なる同志から授かった真なる生命(ネクター)に至る力……! その目で確かめるといいわ……!」

 

笑い声を上げながらエリンから灰色のオーラが大量に発せられる。

 

「こ、これって……!」

 

「滅の魔乖咒……なんて量なの⁉︎」

 

「まさか……!」

 

『オオオオオオッ‼︎』

 

はやてがその行動に気づいた時、オーラが一気に膨れ上がり……一瞬でエリンは異形の怪物に変貌を遂げた。

 

怪異化(デモナイズ)した……!」

 

「しかもこれは、あのマフィア達よりも……!」

 

どこからともなく2体の飛竜型のグリードが現れ、怪異化したエリンの左右に控えた。

 

『……フフ……イイ心地ダワ……魔ノチカラヲ取リ込ミ、人ヲ超エタ存在ニ進化スル……コレゾ真なる生命(ねくたー)ヘノ道!』

 

発声がかなり異常をきたしており、まるで本物の意志を持つ化物に堕ちている。 そんな姿を、すずかは悲嘆してしまう。

 

「エリンさん……! どうしてそこまで……! どこまで堕ちれば気が済むのですか……!」

 

「……本当に、哀れな人……」

 

「どんな姿になろうとも同じだ……エリン・プルリエル。 公務執行妨害の現行犯により、これより身柄を拘束させてもらう!」

 

『シャアアアアアッ‼︎』

 

エリンはもう人とは思えない咆哮を上げ……尋常ではない跳躍で一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろした。

 

「抜刀!」

 

《ブレイドオン》

 

2つの意味で抜刀を同時に行い、振り下ろされた剣を弾く。 そして短刀を逆手で抜き、そのまま懐に入る。

 

楠間(くすのま)!」

 

軽く浮くように跳躍、そのまま短刀と長刀を別軌道で構えて回転し、エリンの身体中を斬り刻んだ。

 

『グアアアッ!』

 

「レンヤ!」

 

「!」

 

フェイトの呼びかけでエリンの体を回転の勢いで蹴って距離を取り。 1秒遅れてる先ほどの場所に飛竜が爪を突き立てていた。

 

「アクセルシューター、ファイア!」

 

同時に幾多もの魔力弾を展開、発射された魔力弾は複雑な軌道を描きながらエリンと2体の飛竜に向かって行き、頭を重点的に狙って怯ませる。

 

「今や! ブラッディダガー!」

 

はやての周りに血色の短剣が幾多も浮遊し、高速で発射され……着弾時に爆裂する。

 

『グウッ……ナメルナアアッ‼︎』

 

エリンは剣を盾にしてブラッディダガーを防ぎながら突進してきた。 だが、俺とフェイトはエリンの視界が剣で塞がれているのを利用し。 突進するエリンの横を通り過ぎて飛竜に接近した。

 

《ザンバーフォーム》

 

「はあああっ!」

 

フェイトはバルディッシュを大剣に変形させ。 横一文字で飛竜を2つに斬り裂き、飛竜は一瞬で消滅した。

 

杉重(すぎえ)!」

 

短刀で突きを放ち、浅く刺さると手を離し……柄頭を蹴り、飛竜の硬い皮膚をした胴体に捻入れ、飛竜は断末魔を上げる事もなく消滅した。

 

『グアアッ‼︎』

 

その行動に、エリンは怒りを咆哮で現し。 剣を構えると刀身に滅の魔乖咒が纏われる。 エリンは骨を軋ませながら腕に力を込め……滅茶苦茶に振り回した。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「危なっ⁉︎」

 

剣が一振りされる度に地面や壁が抉れるように消滅していく。

 

「すずか、止めるわよ!」

 

「うん!」

 

《アイスウォール》

 

すずかが正面に氷壁を何層にも作って滅の斬撃を防ぎ。 その合間を縫ってアリサがエリンに接近する。

 

「アギト!」

 

『アタックエフェクト、フレイムアサルト』

 

かなり近づいた時……氷壁の消滅とともに魔力を後方に放出、身体に焔を纏いながら一気にエリンの眼前まで接近し……

 

「はあああああっ‼︎」

 

魔力を放出する勢いで突撃しながら連続で斬りつける。 最後に飛び上がって上段から斬り降ろし、さらに反動を利用して斬り上げと同時にエリンを上空に飛ばした。

 

『ウウウ……アアッ!』

 

「うっく……」

 

痛みによる呻きを叫びに変え、空中で姿勢を変えてすずかに襲いかかった。 無造作に振られる剣を槍で巧みに捌くが、徐々にエリンの力押しに押されていく。

 

「あうっ……⁉︎」

 

『シャアアアッ!』

 

「な……ぐあっ!」

 

槍を払われ拳が追撃し、肩を強打されてすずかが吹き飛んでしまった。 次いで一瞬で距離を詰められ、エリンの左手に握られるように捕まってしまう。

 

『終ワリダ……!』

 

「ぐっ!」

 

脱出しようともがくが、尋常ではない握力でむしろ潰れないようにするのに手一杯だ。 奴の手から魔乖咒が解放されようとした瞬間……

 

「レン君を離して!」

 

《ロッドモード》

 

「はあっ……!」

 

なのはは棍を振り回しエリンの膝裏を攻撃し膝をつかせ、続けて低くなった後頭部を攻撃してエリンを怯ませる。 その隙にフェイトが左手腕に大剣を振り下ろた。 そのおかげで握力が緩み、すぐに脱出した。

 

「大丈夫、レンヤ?」

 

「ごめん、助かった」

 

『コノ……ガギ共ガ!』

 

「きゃっ⁉︎」

 

なのはを吹き飛しながらその場で掌底を出すと、そこから滅の魔乖咒が発射された。 俺達は回避行動を取りながら後退すると……異形の顔になったエリンが口元に笑みを浮かべた。

 

『フッフッフッフ、滅スルガイイ……』

 

エリンは剣を地面に刺し込むと魔乖咒を流し込み、奴を囲むように魔法陣が展開された。

 

『ソノ魂魄ゴトコノ世カラ消エ去レ!』

 

魔法陣を広がり続け、全員が魔法陣の中に入ってしまう。 このままではマズイ……

 

「やらせへんで!」

 

はやてがシュベルトクロイツを地面に突き立て、魔力をエリンに向け地に走らせ、エリンの周りの地面に四角形を描き……

 

「運命は箱の中に……シクザールクーブス!」

 

四角形から魔力障壁が迫り上がりエリンを立方体で囲った。

 

『ウガガァアア!』

 

「うぎぎぎ……!」

 

立方体を縮小させてエリンを潰そうとするが、相手も抵抗し。 はやてはシュベルトクロイツを両手で強く握りしめて魔力的にも身体的にも踏ん張る。

 

「すずか、決めるぞ!」

 

「うん!」

 

《スナイプフォーム》

 

長刀を納刀して駆け出す。 すずかはスノーホワイトを長銃形態に変え、エリンの胴体を狙って狙撃。 障壁の穴を開け……レゾナンスアークに短刀を展開させ、左手に合計三つの短刀を持ち、開けられた穴に向かって二刀を投擲する。

 

「はあっ!」

 

《……グウッ……!》

 

二刀の短刀が一点に集中して突き刺さり、次いで手元の一刀を同じ箇所に投擲。 地面を蹴り一刀と同じ速さで接近し……

 

杉重(すぎえ)三楔(みくさび)!」

 

『グ、ガアアアアッ……‼︎』

 

身を翻して一刀の柄頭に回し蹴りを打ち込み、刃先を腹部に捻り入れた。 刃先は魔力でコーティングしているため貫通しなかったが……エリンは杭を打たれたようにくの字になって吹き飛び、苦悶の叫びをもらすと……人の姿に元に戻る、そのまま地に倒れた。

 

「はあはあ……」

 

「す、すごく強かったね……一瞬でも隙を見せたら危なかったよ」

 

「ほんまにせやな……しかしネクター……どこまで常識外れなんや……?」

 

「……………………」

 

すずかはエリンの状態を見た。 あの怪異化が身体に異常をきたしてないか調べた。

 

「……大丈夫か?」

 

「うん……何とか。 かなり消耗したみたいだから、しばらくは動けないと思うよ」

 

「そうか……」

 

命に別状はないと分かり、少しホッとする。 こんなどうしようもない人でも、死なれては後味が悪い。

 

「だけど、連れては行けないし……ここに置いて行くしかないね」

 

「だね……さっさと先に進もう」

 

「そうだな……すずか、行こう」

 

「……うん」

 

すずかはエリンに向かって心の中で何かを語り、俺達は先に進むためエリンを拘束した後先に進んだ。

 

しばらくして、太陽の砦の地の底……第四層に突入した。 進む事に瘴気が濃くなり、それにつられてグリードの強さも上がって行く。 気を抜かず慎重に進み、奥にあった本拠地らしき場所があり、そこに架っている橋を渡り、奥の建物に向かおうとした時……進行方向から凄まじい闘気を感じた。 その闘気には覚えがあり、そのまま橋を渡ると……そこにはゼアドール・スクラムが臨戦態勢で待ち構えていた。 俺達はすぐさま武器を構えた。

 

「ゼアドール・スクラム……!」

 

「おじさん……ここに居たんだ」

 

「…………………」

 

アリシアの問い掛けに、ゼアドールはメイスを構えたまま無言だった。

 

「やっぱり……」

 

「どうやら他のマフィア同様に操られてしまったようだね……」

 

「……うわぁ、すごく大きい人。 それに、かなり手強そう……」

 

「元……やのうて現役統政庁の特務部隊、天の車の第一にしてフェノール商会の若頭……噂に違わぬやっちゃ」

 

ゼアドールが尋常ではない気迫と闘気を発し、はやては冷や汗をかきながら呟く。

 

「……………………」

 

「凄い気迫、手を抜ける相手じゃないよ」

 

「うん、苦戦は免れないね……」

 

なのはとフェイトが緊張を見せる中、ゼアドールは無言でメイスを正面に構え……足腰に力を込める。

 

『な、なんだ?』

 

「まさか⁉︎」

 

驚愕する間も無くゼアドールはその巨体で突進して来た。

 

「くっ……!」

 

《プラズマランサー》

 

フェイトが魔力弾を撃ち、止めようとするが……ゼアドールが豪語している防御魔法の前では足止めにもならなかった。

 

「きゃあ⁉︎」

 

「ま、まるで要塞が爆走しているようや!」

 

続けてゼアドールはメイスを振り上げた。

 

「⁉︎ あれ振り下ろされたら橋が壊れるよ!」

 

「させるかぁ!」

 

《フェアリンク》

 

アギトがすぐさまフレイムアイズのコアに入り、刀身から焔が放出する。

 

「はあああああっ!」

 

アリサはそのまま剣を振り上げ、同時に振り下ろされたメイスと衝突……力を相殺し、凄まじい衝撃が辺りに飛び交う。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

アリサとゼアドールは武器から火花を散らし、鍔迫り合いしながら睨み合う。 その隙に横から接近し、脇腹に向かって刀を振るったが……

 

「っ……⁉︎ やっぱり硬った……!」

 

ゼアドールが豪語している厚く硬い防御により容易く弾かれてしまう。 その直後、2人は鍔迫り合いをやめて離れ……追撃し、低い姿勢で下から潜り込む。

 

「……双樹(そうじゅ)!」

 

ほぼ同時に顎に向かって高速で2度蹴り上げる。 だがゼアドールは一撃目を紙一重に避け……二撃目は頭を振り下ろし、頭突きを繰り出して防がれた。

 

「痛っ……! やっぱりあんた正気だろ!」

 

痺れる足を振りながらゼアドールを指差す。 ゼアドールはしばらく俯いて沈黙していたが……顔を上げ、無表情の口元がニヤリとなっていた。

 

「ーーふははははは! さすがに誤魔化せぬか。 また腕を上げたようだな?」

 

「ええー……」

 

「………………」

 

「なんやそれ……」

 

「……はあ、道理でネクターの気配がしなかったかわけだよ……」

 

なのはとフェイトとはやてはポカンとした風に呆然とし。 アリシアは脱力して、やれやれと首を横に振るう。

 

「操られているのを装って、私達を襲う必要があったのかしら?」

 

「ふむ、実は言うと……つい数分前まではネクターを無理やり投与され、本当に操られていたのだ」

 

「え……」

 

「だが、気が付けばいつの間にか正気に戻っていた。 怪しまれる訳にもいかず、そのままここの番をしていたわけだ」

 

……誰がゼアドールと洗脳を解いたのか? だが、傷がないのを見ると、制圧して正気を取り戻せた様子でもないし。 何か別の方法でネクターを無力化した? 一体誰が……

 

「あの、体に異常はありますか? ネクターの身体能力強化はリミッターを外すような行為です……何か副作用がありましたか?」

 

「最初に投与された市民にはそれほど異常は見られなかったやけど……あんさんらの数人は怪異化する程や」

 

「……体が少し鈍くなっている。 このまま長引けば命に関わるだろう……」

 

「そんな……」

 

ゼアドールは体をほぐしながら答え。 それを聞いたフェイトは落ち込んでしまう。

 

「それでその……ゼアドールさんはこの後どうするのですか?」

 

「俺達はこのまま先にいるホアキンを捕まえに行くが……」

 

「私達も同行……と言いたいが、裏切っていたとはいえフェノールに義がないわけでもない。 私がフェノールである最後のケジメ……それをつけよう」

 

「ーーならアタシもついて行くぜ」

 

背後の建造物、その上に灰色の髪をし、右頬に切傷があるかなりラフな格好の女性が立っていた。

 

「キイか」

 

「えーっと? 数年のお勤めご苦労さん。 迎えに来たんだけど……まだ野暮用があるみたいだな」

 

「ああ、これは私がやらなければならない義務だ」

 

「やれやれ……これだから筋肉馬鹿は……」

 

キイと呼ばれる女性は首を横に振りながらボソリと呟き、俺達と同じ場所に降り立った。

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

「付き合わなくてもいいのだぞ?」

 

「バーカ、手伝うそれくらいの器量はあるっての」

 

頭の後ろで腕を組みながらゼアドールの横を通り、俺達の横も通り抜けたところで何か思い出したように振り返った。

 

「っと、おめえらとは初めましてだな。 第七、キイだ。 まあ、よろしく?」

 

「何で疑問形なんや……」

 

「いや〜、統政庁(ウチら)管理局(アンタら)って折り合い悪いじゃんか。 今後ともよろしくーって上手く行くのか、ちょっと分かんないからさあ」

 

「そ、それは……」

 

統政庁はミッドチルダの行政を、管理局はロストロギアの管理……2つの組織に対立する要素はないが……両組織の規模は大きい。 それだけで上層部は統政庁を敵視してしまう。 はっきり言えばコッチが悪い。

 

「まあ、そんなのはいいか。 ゼアドール、さっさと行って終わらせんぞー」

 

「……ふう、久しぶりだというのに変わらんな」

 

さっさと行ってしまうキイを追いかけるように、ゼアドールが俺達を通ろうとすると……すぐ横で一度止まり、こちらの方を向く。

 

「異界対策課。 私の代わりにホアキンに一撃を入れてはくれないか?」

 

「……そんなの、言われなくてもやるよ」

 

「結構」

 

それだけを言い残すと、ゼアドールは俺達が来た道を歩き出し。 先に行ったキイを追いかけたのだった。

 

「……凄い人だね、ゼアドールさんって……」

 

「あそこまで真っ直ぐな人、そうはいないよ」

 

「ちゅうか、一体何のためにフェノールに潜入してたんやろな?」

 

『さあな、大方上司かなんかからの要求とかじゃねえの?』

 

「……とにかく、後はホアキンただ1人ね」

 

建造物を見つめ、虚空で奥を探ってみる。 暗闇の先からは何も感じない……だが、それだけでも異様な感じがしてしまう。

 

「ーーどうやらこの先に真の黒幕がいるみたいだな。 今までの魔乖術師達からしても恐ろしく危険な相手だろう。 皆……準備はいいか?」

 

「ええ……!」

 

「もちろん!」

 

「いつでも行けるよ!」

 

『やってやるぜ!』

 

「こっちも任せて!」

 

「準備はいつでも!」

 

「さっさと捕まえて、ヴィヴィオを安心させたる!」

 

「よし……これより教団幹部司祭、ホアキン・ムルシエラゴの身柄拘束、及び逮捕に踏み込む……各自、全力を尽くしてくれ!」

 

『おおっ‼︎』

 

俺達は、最後の決戦を迎えるため……入り口に向かってはしひだした

 

 



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137話

 

 

ゼアドールとキイと別れた後、橋を渡りきって最奥にあった建造物の中に入った。 するとまた橋が架かっており、下には水が流れていて、どうやら地下湖のようたま。 そのまま一本道を進み続けると……しばらくして中央らしき場所に到着した。 そこには湖の上に立つ祭壇が建てられていた。

 

「ここは……」

 

「……地下の湖……?」

 

「こんなものが広がっていたんだ……」

 

「綺麗だね……」

 

「! 皆、あれを……!」

 

すずかが何かに気が付き、指差した方向を見てみると……祭壇の1番上の壁にはD∵G教団のシンボルマークの原型があり、その手前に球体らしき物体が祀られていた。 そして、その球体には見覚えがあった。 ホアキンが残したファイルに入っていた写真……あの球体の中にヴィヴィオが入っているのが映っていたあの写真に……

 

「ヴィヴィオの写真に映っていた……!」

 

「この場所で撮られたものだったのね……」

 

「……………………」

 

「フフ……ようやく来たね」

 

聞き覚えのある声、だが口調と発せられる声色が、俺の知る人物の印象から遠ざける……そして、祭壇の影からホアキン先生が出て来た。

 

「ホアキン・ムルシエラゴ……」

 

「い、いつの間に……」

 

「……どうやらホンマに只者じゃあらへんようやな」

 

赤い瞳をしたホアキンは、D∵G教団をその身で表すような衣装を着ており。 そしてその表情はいつもの呑気そうなものではなく……冷酷で、狂気のような表情を浮かべている。

 

「ーーようこそ。 我らの起源にして聖地へ。 異界対策課の諸君、そしてその友人達……歓迎させてもらうよ」

 

ホアキンは祭壇を降りながら、俺達を歓迎したが。 こちらにはそんな気はさらさらなく、武器を構えてホアキンの前に出る。

 

「ホアキン先生……」

 

「……あなたは……」

 

「随分と余裕だね……」

 

「……………………」

 

すずか、アリサ、アリシアは彼に言いたいことがあるようだが。 一歩前に出て先に言わせてもらった。

 

「ーーホアキン・ムルシエラゴ。 単刀直入に行かせてもらう。 ネクターを投与して操っている人々を今すぐ解放しろ。 どんな方法かは分からないが……あなたが操っているのは判っている」

 

「ああ、別に構わないよ」

 

「え……」

 

やけにアッサリ、まるでいつものノリのように了承したため、思わず疑ってしまう。

 

「DBMビルでも言っただろう。 ーーヴィヴィオ様を引き渡せばいくらでも手を引こうと」

 

「! ふ、ふざけるな……ッ!」

 

一瞬でも気を許した自分が馬鹿だった。 今目の前にいるのが、ホアキンの本性なんだ。

 

「まだそんな世迷言を……!」

 

「あんた……喧嘩売っているの?」

 

「貴方の要求は受け入れられません」

 

「ふざけないで……貴方なんかにヴィヴィオは渡せない!」

 

「この後に及んで、まだそんな事を言えますね?」

 

「そうとう狂気じみてんなぁ……自分、何様のつもりや?」

 

皆の応答はDBMの時と同じ、なのは達も否定してホアキンを睨みつける。 ホアキンは飽きられたように首を振ってため息をつく。

 

「やれやれ……話にならないな。 そもそもヴィヴィオ様は我らが教団の崇める御子ーーそれを返せというのがどうして理不尽なんだい?」

 

「自分達が6年前、どんな事をやったと思っている! そんな連中にヴィヴィオを引き渡せるわけないだろうが!」

 

「それよりも……いい加減、ヴィヴィオは何のために生まれたのか教えなさい!」

 

「ヴィヴィオは人造生命体で、レンヤの……聖王のクローンなのは判っている。 でも、ヴィヴィオを使って何をするつもり⁉︎」

 

アリシアは憤怒の如き勢いで小太刀の剣先をホアキンに向けて問い詰めた。 母の研究が開くようされるのが我慢ならない……フェイトも同様に怒りに満ちた目で睨んでいる。

 

「クク……なるほど。 ーー君達はまだ、ヴィヴィオ様がそんな方法で生まれたと思っているのか」

 

「え……⁉︎」

 

「プロジェクトFではない……?」

 

「ど、どういう意味……!」

 

「フフ、いいだろう。 神威(しんい)に至らぬ者に話すのは禁じられているが……君達には特別に教えてあげよう」

 

真実を知りたいが故になのはは焦る。 ホアキンは背を向け、祭壇を見上げると話し始めた。

 

「つい一月前までヴィヴィオ様は眠っておられたーーこの祭壇の聖なる揺りかごでまどろむように……怪異の手によって生まれるまでは!」

 

「!!!」

 

「なっ……⁉︎」

 

「……ま、まさか……」

 

「てめえ……何デタラメを言ってんだ⁉︎」

 

検査でも人造生命体と出ている。 それが覆ることは……

 

「フフ、別にそんな驚く事もないだろう? 大多数のグリードは本能に従い行動するが……最上位のグリムグリードには意志がある。 我々は遥か昔からあるグリードを崇めていた。 そして神託によりある男から聖王の遺伝子を手に入れ……我らのグリードがヴィヴィオ様を誕生させたのだ!」

 

予想していた事実とは違い、ホアキンが言った真実に呆然してしまう。 それを気に留めずホアキンは続て語る。

 

「……数百年前、ロストロギアを研究していた錬金術師の集団がこの地にあった。 この祭壇は彼らの技術を元に造られたと伝えられている」

 

「……ここ数年の信仰と思っとたけど……まさか、星見の塔を建造した錬金術師達が……」

 

「そ、そんな繋がりがあっなんて……」

 

「ヴィヴィオ様の誕生後、我らのグリードは眠りに就き、現在は7つの本となっている……当然、この事実を知る者は我が教団にすら残っていない……つまりそういう事さ」

 

「……そんな……」

 

遥か昔……恐らく古代ベルカ時代から、この狂気が始まっていたのか。

 

「何てこと……」

 

「……いつかは、真実を伝えるとは思っていたけど……まさか……」

 

「ヴィヴィオちゃん……」

 

俺達が想像しているよりも遥かに、ヴィヴィオの出生は深刻だった。 いつかは……必ずヴィヴィオに話さなければならない現実だが……

 

「フフ……何を哀しむことがあるんだい? ヴィヴィオ様に同情など不要……なぜなら彼女はこれより、真の神になるのだからーー!」

 

「なっ……」

 

「か、神って……⁉︎」

 

「ハハハ、文字通りの意味さ! 君達はいい加減、真実に気付くべきなんだよ! グリードこそ我ら人類が崇めるべき存在! それ以外の信仰など意味もない!」

 

「しょ、正気……⁉︎」

 

「まだそんな世迷言を言うつもり!」

 

「クク、だがそれが我がD∵G教団の説く真理だ。 よく誤解されるのだが……我々は別に、悪魔という存在を崇拝しているわけではない。 ただ、神という概念を否定するために好都合だから概念的に利用しているにすぎない。 毒をもって毒を制す……つまりはそういう事だよ」

 

「ふ、ふざけないで……!」

 

声を荒げ、すずかがホアキンの言葉を否定する。

 

「だったらどうしてあんな酷いことを……あなたのせいで……多く子ども達が命を……それ以上の親が悲しんだのですよ⁉︎ 悪魔なんて崇拝していないのに……どうしてそんな……!」

 

「すずか……」

 

「……すずかちゃん……」

 

悲痛な顔をしてホアキンを訴えるすずか。 だがホアキンはどこ吹く風のように笑う。

 

「クク……月村 すずか……君に理解されようとは思っていないさ。 検体達は神威に至るための贄に過ぎないのさ」

 

「っ‼︎」

 

「すずか、落ち着きなさい。 まだ奴から聞くことはまだあるわ」

 

「……丁度いい。 改めてあなたの口から聞かせてもらおうか……各地のロッジで行っていた数々の非道な儀式の目的……それは恐らく、ネクターの完成も含まれているとは思うが……」

 

「なんだ分かっているじゃないか。 その通り、全てはネクターの完成度を高めるための実験だったのさ。 人が極限状態の時に示す想念の強さや潜在能力の開花……それがネクターの完成度を高める格好のデータだったわけだ」

 

「………!」

 

……別に、こんな悪魔も否定するような所業を行なっている研究者はホアキン以外にも五万といるが……改めて本人口から聞かされると腹が立って仕方がない……!

 

「ちなみに子どもが多かった理由は単にデータサンプルの精度の問題さ。 思春期を迎える前の幼く無垢な検体の方が色々とーー」

 

「……っ……」

 

「やめろ……!」

 

次々と出てくる事実にはやては顔を背け、はやての前に出て庇うように声を上げ、それ以上語らせるのを辞めさせる。

 

『いい加減にしろ! この人でなし‼︎ あたしのいた研究所より外道がいるなんて虫酸が走る!』

 

「……アギト」

 

アリシアが心配そうにアギトの名を呟く中……先ほどから考え込んでいたフェイトが一歩前に出る。

 

「……ーーホアキン・ムルシエラゴ。 察するに、あなたはそうした数々の実験を統括していた責任者だったようですね……?」

 

「フフ、その通りだ。 だからといって教団内の位階が高いわけではない。 そもそも我が教団は真なる神の元、平等のーー」

 

「あなた達の教義なんて正直、どうでもいい」

 

興奮した趣で語ろうとしたホアキンを、なのはの静かな一喝で止めさせた。 そして、なのはの表情はなにやら暗い感じがする……

 

「ーーそれより、だったら知っているはずです。 “楽園”と呼ばれていたロッジのことを……」

 

「! その名前は……⁉︎」

 

「あの黒いファイルにあった……」

 

どうしてなのはが今それを口にしたのかは分からないが、ホアキンは楽園という単語を聞くと少し驚きを出した。

 

「ほう……その存在を知っているのか? あれは教団の有力者がわざわざ作らせたロッジでね。 各地の有力者を取り込み、弱味を握って教団の手づるとする。 正直、僕が考えていた実験の趣旨からかけ離れてしまったロッジだったよ」

 

「……やっぱり……」

 

「……推測通りだったね……」

 

なのはとフェイトは何か知った素ぶりで、予想通りだった事に気を落としする。

 

「ちょ、ちょっと2人とも! もしかして楽園を知っていたの⁉︎」

 

「……2年前かな? フェイトちゃんと協力して次元犯罪者を捕まえた時、ある記録媒体を押収したんだ。 その中にあったファイル記録されていたのは……この世の物とは思えないくらいの地獄だったんだ……」

 

「ファイル名は楽園……当時は何にも分からず。 今になってようやく彼らの仕業だって気付いた……本当に、この事をレンヤ達に教えていればこんなことには……」

 

「なのは、フェイト……」

 

……なのはとフェイトが見た映像はどんなものなのか分からない……だが、そんな心境を悟らせないためにいつも健気に振舞っていたのか……そう思うと胸が締め付けられる感覚に陥るが、2人のおかげで気付いた事もある。

 

「なるほど……そういう事か……その楽園とやらに引き込んで議長の弱味を握ったんだな⁉︎」

 

「あ……!」

 

『そう繋がんのかよ……!』

 

「フフ、全てのロッジの実験結果に目を通していたからね。 6年前、実験の停止と同時に襲ってきた組織により殆どのロッジが失わされた後……丁度いい後ろ盾を手に入れることが出来たわけだ。フェノールなんていう、便利な手足のオマケ付きでね」

 

「やっぱりか……警備隊を操れているのもその辺りの関係だな……?」

 

「そういえば……」

 

「あ! あの栄養剤や!」

 

「恐らくね、多分議長から警備隊司令に回させたんだと思う。 何でもいいから説明を付けて、効果の高い栄養剤の名目で」

 

「まさしくその通り! クク、まさかこんなあっさりと信じるとは思わなかったが……」

 

「くっ……」

 

「ゲンヤさんの部隊以外の司令って……海や空に勝ちたいからって以前から焦っていたけど……」

 

「さすがに迂闊すぎるわよ……!」

 

しかし、この場にいない人物を罵倒しても意味はない。 今はゲンヤさん達に任せるしかない。

 

「ーー楽園に話を戻すが、あれは妙な終わり方をしたようだな。 どうやら例の襲撃と同様に、異篇卿とやらに潰されたようだが……やれやれ、何のつもりだったのやら」

 

「異篇卿……」

 

「聞いたことのない組織だね……」

 

「ああ、しかし楽園には一つだけ大きな心残りがあったな。 天才的な適応力を持つ、1人幼い検体がいたんだが……これがまた傑作でね! 周囲にいた別の検体の人格をネクター投与をきっかけに自分のものとして取り込んだのさ! いや、その実験データだけでもせめて回収できていればーー」

 

「ーーもういいです」

 

ピシャリと、なのははそれ以上何も言わせないように、静かに奥底から怒りの重圧を言い放った。

 

「知りたいことは全部判りました。 もう、それ以上話す必要はないです」

 

「……ごめん、レンヤ。 少し出しゃばっちゃっみたいだね」

 

「いや、おかげでこっちもかなり整理できた。 ーーこれで心置きなく、逮捕に踏み切れそうだ」

 

一歩前に踏み出し、徽章を取り出してホアキンに見せるように突き出す。

 

「ーーD∵G教団幹部司祭、ホアキン・ムルシエラゴ。 法に基づき、傷害、騒乱、不法占拠、薬物使用、虐待、拉致、怪異の使用など数多の容疑で逮捕する……!」

 

「略式ではあるけど、捜査令状、および逮捕状も既に出ているわ!」

 

「大人しくお縄に付いてもらうよ!」

 

「ーーフフ、いいだろう。 僕と君達のどちらが目的を達せられるのか……ここは1つ、賭けをしようじゃないか」

 

ホアキンは笑い声を上げながら手を頭上に掲げ、魔乖咒を身体から発せられ……髪が一瞬で真っ白になり、頭上の空間から魔乖咒が迸り、錫杖が出現し、それを掴んだ。 俺達は警戒しながら一歩下がり、武器を構える。

 

「その髪は……⁉︎」

 

「しかも、どうやらその杖はデバイスですらないね……」

 

「フフ、僕の髪はこちらの方が地の色でね……ネクターを投与し続けて少々風変わりな体質になったんだ。 何せここ数年、まったく睡眠を取っていないくらいだからねぇ」

 

『おいおい……シャレになってねぇぞ』

 

「なるほど……それで医療院勤めをしながらここまでする時間が取れたのか」

 

「フフ、さすがは捜査官。 いい所に気付くじゃないか」

 

ずっと寝ていないのなら、策を講じる時間はいくらでも作れるわけか。 それに、先ほどの水色の髪がネクター、投与により変色したものなら……同じ水色の髪をしたクレフも……

 

「ーーちなみにこの杖は例の錬金術師達が造り上げた魔導具の最高傑作の1つさ。 ロストロギアすら凌駕する力を秘めていてね……」

 

杖の力を証明するようにホアキンが魔法陣を展開し……奴の左右から凄まじい力を持った2体の翼を有した人形型のエルダーグリード……レグナ・アグエルが顕現した。

 

「こんなものまでの使役できるくらいさ……!」

 

「くっ……!」

 

「うっ……」

 

「……ここで、負けるわけには……!」

 

フェイトはバルディッシュを握る力を込める。

 

「さて、そろそろ幕切れとさせてもらうよ。 多分、今日という日は記念すべき1日になるだろう……ヴィヴィオ様が神となって我らが悲願を達せられる日にね!」

 

「ふざけた事を!」

 

「あなたなんかに……絶対に負けない……!」

 

刀を構え、俺達はホアキンとレグナ・アグエルに向かって駆け出した。

 

「偉大なるヴィヴィオ様のために……消えてもらおうか!」

 

ホアキンが杖を掲げ、奴の指示で2体のレグナ・アグエルは左右から焔を刃状に飛ばして来た。

 

葉杓(はのひしゃく)!」

 

刀を振るい、2つの焔の刃を受け流しながら絡め取り……跳ね返すように2体に撃ち出した。

 

《ザンバーフォーム》

 

「ホアキン!」

 

「フフ……」

 

杖の先端から魔乖咒で構成された闇色の刃が展開され。 振り下ろされた大剣を苦もなく受け止めた。

 

「っ……⁉︎」

 

「僕が非力だと思ったかい? ネクターを投与しているんだから……当然だよ!」

 

大剣が弾き返され、フェイトは大きく吹き飛ばしされる。

 

「はああああっ!」

 

「フハハハハッ!」

 

間髪入れずすずかが裂帛の声と共に怒涛の突きを繰り出し、ホアキンはそれを笑いながら全て避け、受け止める。

 

『なんて奴だ、ただの優男じゃなかったのかよ⁉︎』

 

「あいつに、常識なんて通用しないわね……」

 

「フハハハハ! その通り!」

 

ホアキンは杖を突き出し、先端から魔乖咒の弾丸を発射する。

 

「させない!」

 

《アクセルシューター》

 

「弾幕……シューート!」

 

撃たれた魔乖咒の弾丸を複数の魔力弾で相殺し、残りがホアキンに迫る。 魔力弾が当たる直前にすずかがホアキンから離れ…… いくつもの魔力弾が炸裂する。

 

「……フフ、フハハハハ! 痛いじゃないか!」

 

「やっぱりタフでもあるね……」

 

「これは、骨が折れるでえ……」

 

そう愚痴る中、はやての足元から熱が発せられて来た。 発生源を調べると……レグナ・アグエルが地面に炎を送っていた。

 

「! はやて、避けろ!」

 

「え……」

 

「全く!」

 

注意がホアキンに向いているのか、レグナ・アグエルの警戒が散漫したいたようで、はやてはすぐに理解できなかった。 すぐさまアリサがはやてに向かって飛び出し、タックル気味に押し退け……次の瞬間、その場から焔が放射され、アリサはそれに巻き込まれた。

 

「ア、アリサちゃん!」

 

「そんな……⁉︎」

 

「……ーーいや」

 

『フェアライズシーケンス、コンプリート』

 

炎の中から機械的なアギトの声が聞こえ……炎を剣で薙ぎ払い、現れたのはフェアライズを完了させ、紅い装甲を身に付けたアリサだった。

 

「無事だったか?」

 

「ええ、アギトが居てくれたおかげよ」

 

『烈火の剣精が炎に負けてたまるかよ!』

 

「ーーアリシア、敵の撹乱を!」

 

「了解!」

 

《スレットマイン》

 

アリサの指示でアリシアが敵正面に向けて広範囲に四角い魔力弾をばら撒き……小規模な爆発と目くらましが連鎖して起き、奴らの視界を塞いだ。 そしてアリサは剣に焔を纏わせ、片方のレグナ・アグエルに接近した。

 

『リミットアタック、バーニングストライク!』

 

「燃えろ!」

 

『やややややややっ!』

 

レグナ・アグエルを超える焔で何度も切り刻む。 最後に左手の拳を握り焔を纏わせ……

 

「ーー吹っ飛べ!」

 

燃え盛る拳を胴体に叩き込み、正面に向かって爆発させ。 レグナ・アグエルは消滅した。

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「はあっ! 白檀(びゃくだん)!」

 

歯車を駆動させながらもう1体の力を溜めていたレグナ・アグエルに接近し、両腕を切り払って上空に蹴り上げ。

 

「まだまだ! 黒檀(こくたん)!」

 

追撃。 跳躍してレグナ・アグエルを追い抜く間際に斬り、空中を蹴って何度も繰り返す。

 

「はあああ……灰檀(かいだん)!」

 

身体を捻り、勢いを付けて頭上に踵落としを喰らわせ。 地面に叩きつけ……

 

「これで終わり! 栴檀(せんだん)!」

 

刀を地面に向けながら急降下、レグナ・アグエルの胴体を貫いた。 落下時の衝撃が刀から爆発的に広がり、レグナ・アグエルを消滅した。

 

「やるねえ……だがこれまでだ!」

 

ホアキンは両手で杖を握り、足元に魔乖咒によって描かれた魔法陣が展開される。

 

「ハハハ……真の起源を見せてあげるよ」

 

「なにを……」

 

「! あれは……⁉︎」

 

アリシアが上に何かあるのに気付き、同様に上を向くと……そこにはどの体系にも当てはまらない魔法陣……巨大な魔乖咒の魔法陣が展開されていた。

 

「来たれ……災厄の宝珠!」

 

魔法陣に紫電が走り……突如、魔法陣と同等の大きさの球の形をした物体が出てきた。 球無機物の物体と言うより、丸い生き物のような有機物特有の感じがするが……本能的に受け付けない外見をしている。

 

「うわっ……」

 

「これまたけったいなもんが来おったなあ……」

 

「気を付けて皆……

 

ホアキンは掲げていた杖を振り……

 

「カラミティスフィア! フフフフ……ハァーハッハッハッハッハ‼︎」

 

宝珠にあった紅い部分から魔乖咒の砲撃が発射された。 砲撃は細く鋭利な形をしている……それに、砲撃は全員を捉えている。 このままだと全滅は免れない……

 

「なのはちゃん!」

 

「はやてちゃん!」

 

2人が同時に宝珠に向かって飛び上がり、協力して巨大な障壁を展開した。

 

「ぐううっ……」

 

「な、なんて力……!」

 

展開とほぼ同時に砲撃が障壁に突き刺さり、2人は苦痛の表情をして耐える。 しかしいくら2人の防御が強固であろうと、このままだと押されるのは時間の問題だ……

 

「どうしたら……」

 

『アレを先に壊すしかねえな』

 

「……あんな巨大な物体、今の状態じゃあすぐには破壊出来ないわ……」

 

先ほどのリミットアタックが身体に来ているのか、アリサは悔しそうな表情を浮かべる。 代わりに俺が破壊しようと柄に手を掛けようとした時……

 

「無駄だよ! あの宝珠はかなりの硬度を持っていてねえ。 特に斬撃には耐性があって、破壊するの至難の業……諦めるといいよ!」

 

「くっ……」

 

遠距離から壊そうと考えていたが……近付けば砲撃の餌食。 かと言っても遠距離だと砲撃魔法で壊すしかないが……

 

(ここ最近砲撃魔法使って無いし……)

 

全く使えなくなったわけではないが……ここ最近、どうにも俺は砲撃魔法とは相性が良くなかったのが分かった。 だからといって、訓練を疎かにする理由にはならないが……

 

(単発、圧縮した魔力弾による射撃魔法……それしかない!)

 

レゾナンスアークに中型機関銃を1丁展開してもらい。 カートリッジを装填、1発の魔力弾を銃内に形成する。

 

「レ、レンヤ君……?」

 

「……俺が破壊する。 それまで耐えてくれ」

 

「りょ、了解や……!」

 

「ちょ、ちょっとレンヤ……! あんた、砲撃魔法と相性が良くないんじゃ……!」

 

「今はとやかく言っている暇はない。 アリシア、宝珠破壊と同時にホアキンを」

 

「了解。 ちゃんと破壊してよね」

 

責任重大、だがこんなプレッシャーはいつも通り。 宝珠を睨みながら銃に魔力を込め続ける。 その時ーー

 

【ーーー撃ち破りなさい!】

 

「!」

 

当然頭に聞こえた女性の声。 知り合いの女性の声でない……が、聞いた事のある、無茶振りを言っているがどこか安心するような声。

 

「ああ……そうだね。 夢とはいえ、あなたはそんな人だった……」

 

「?」

 

「レンヤ?」

 

『何言ってんだ?』

 

皆が怪訝に思う中、俺は後方に向かって駆け出した。

 

「レン君⁉︎」

 

「レンヤ! 危ないよ!」

 

なのはとはやての防御内から出たため、砲撃がこっちに向き。 貫くような砲撃が降り注いで来た。

 

「逆境を……」

 

砲撃を回避しながら振り返り、同時に銃を両手で構え銃口を宝珠に向け……

 

「撃ち破れ!」

 

《ドライブバレット》

 

トリガーを引き、銃口から放たれた球体状の魔力弾。 高速に縦に回転している魔力弾は宝珠の中心を狙って飛来。 魔力弾が宝珠に撃ち抜き、宝珠からの砲撃が止まった。

 

「なに⁉︎」

 

「アリシア!」

 

「ほい来た!」

 

宝珠が破られた事に驚愕するホアキン。 アリシアはその隙を見逃さず、駆け出す。 小太刀を構えて刀身に魔力を纏わせ、3段階加速し、加速しながら3人に分身した。

 

《カタストロフィドライブ》

 

『せいやっ!』

 

「ぐうっ……ああああっ‼︎」

 

3人のアリシアはホアキンに向かって三方向から接近。 分身2人が左右から交差するように小太刀を振り抜き。 最後に本体のアリシアが中央に向かって小太刀を振り下ろし……3つの斬撃が交差、地面に*を描き、魔力エネルギーが飽和し……爆発した。 その中心点にいたホアキンは吹き飛ばされ、祭壇の壁に激突し膝をついた。

 

「……よし……!」

 

「賭けは私達の勝ちだね!」

 

「大人しく投降してもらうわよ……!」

 

膝をついて顔を俯かせているホアキンはクツクツと笑い出した。

 

「クク……やれやれ。 ……1つ教えてあげよう……知っての通りネクターの効能は単純な身体能力の強化などではない……感応力の強化、引いては服用者の潜在能力を引き出すものだが……その使い方を極めれば……こんな事もできるのさ……!」

 

ホアキンは立ち上がるのと同時に魔法陣を展開し……頭上に一瞬目玉が現れ、赤い涙を流しながら開眼。 魔乖咒が発せられると、俺達は一瞬で結界に囚われ、圧力がかかり膝をついてしまう。

 

「な……⁉︎」

 

「な、なんなのコレは⁉︎」

 

「く、空間が……呪縛されている……⁉︎」

 

「うっ……く……」

 

「い、一体何が……」

 

「! これ、夕闇の使徒が使っておった……⁉︎」

 

はやてがそれを言ったおかげで思い出した……これは夕闇の使徒に封じられていた時に使用された結界!

 

「レンヤ君を含めたそちらの3人は面白い体験をしていたようだね。 杜宮市、ネメシス、ゾディアック……それに、夕闇の使徒か……」

 

「! まさか……私達の記憶を⁉︎」

 

「まさか……そこから再現したんか⁉︎」

 

「おや、空白(イグニド)に真紅とも会っていましたか。 それに黄金も……何故我らを手助けしたのか……やはり異篇卿は何を考えているのか判りませんね」

 

何? マハはホアキンに頼まれて妨害していたわけではないだと? だったらどうして……だが、記憶を奴に見られているのは、どうやら事実のようだ。

 

「クク……賭けは僕の勝ちだ。 ーーさっそく君達にはネクターを飲んでもらうよ? そうすれば君達は僕の思うがまま……ヴィヴィオ様も納得してお戻りになってくれるだろう」

 

『! てめえ……!』

 

「それが狙いで私達をここまで……⁉︎」

 

「クク、君達のような愚物にどうしてわざわざ面会の時間を割いたと思っている? 全てはヴィヴィオ様のため……それ以外の理由がどこにあるといんうだい⁉︎」

 

「……あ、あなたは……」

 

「ふ、ふざけないで……!」

 

こんな状況だが……いや、だからこそ聞いておきたい事があり。 俺は顔を上げて質問をしてみる。

 

「……そこまでの力を手に入れておきながら……その上、ヴィヴィオに拘る理由が一体どこにあるんだ……?」

 

「ほう……?」

 

「あの子の出生が複雑だったとしても……あくまで普通の女の子であるのは変わらないんじゃないのか……? それだけの力を手に入れておきながらどうしてヴィヴィオに拘る……?」

 

繰り返すように、質問し。 ホアキンに答えさせるようにするが……結構お喋りな彼なら意味はないかもしれないが……

 

「た、確かに……」

 

「根本的な問題だね……」

 

「クク、言っただろう。 彼女は神となる御方……ヴィヴィオ様の前には、この力など比較するのもおこがましいだろう。 いや、クク……そもそも比較すること自体、意味の無いとも言えるのかな……?」

 

「またワケの判らないことを……」

 

「狂っている……」

 

「まあいい……この際だから聞いておく。 ーーどうしてヴィヴィオは競売会の場にいたんだ?」

 

「…………………」

 

空気を読まない質問だとは思っているが……ホアキンのお喋りな口は開かなかった。

 

「確かにそれも……まだ判っていないわね……」

 

「マフィアの方でも……心当たりは無かったそうだけど……」

 

「……続けて聞くぞ。 俺の両親を……シャオ・ハーディンとアルフィン・ゼーゲブレヒトは知っているか……?」

 

「! ああ、そうだったね!」

 

俺に質問で今思い出したかのような素振りを見せ、俺をジッと見つめる。 こんな質問をしたのにはもちろん理由がある。 あの2人は夕闇の使徒の時と同様になぜか巨大な事件と関わっている節がある。 どうやら予想は外れてはいなかったようだ。

 

「なるほど……赤ん坊の時に捨てられ……以来一度も会っていない……ミッドチルダと関わってから両親の逸話は耳にするが発見の糸口にもなっていないか……ははーーこれは傑作だ!」

 

記憶を見られ、自分の思い出が汚されたようで怒りがふつふつと湧いてくるが……なんとか寸でのところで抑え込む。

 

「そういえば君はあの厄介な奴らの息子だったな……!」

 

「……それは肯定の言葉と受け取ってもいいのか?」

 

「フフ、確かに当時、彼らは僕の存在を追っていた。 厄介だから秘密裏に聖王教会に彼らの存在の情報を流してながら、フェノールに頼んで抹殺するよう依頼したんだが……どうやら別の勢力が彼らを追い払ってくれたみたいだな。 カクラフはさも自分達の手柄のように僕に恩を着せてきたが……ゼアドールの方は否定していたからその可能性は無いだろう」

 

「なるほど……だろうと思ったよ。 ーーあなたみたいな男に、両親が負けるわけがない」

 

「‼︎」

 

挑発的な物言いに、ホアキンは眉を吊り上げる。

 

「ほう……面白い事を言うじゃないか」

 

「ヴィヴィオが競売会の場にいた経緯……多分それも、あなたにとっては想定外の出来事だったはずだ……自分から神と崇める存在を手放すわけがないからな……」

 

「……確かに……」

 

「手放す理由がないね……」

 

「……くっ………」

 

図星だったのか、ホアキンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「……確かにあの日……ヴィヴィオ様は永き眠りからようやくお目覚めになった……だが、僕がそれを知った時にはこの祭壇から居なくなっていた………おそらくご自分で地上を彷徨い出たと思ったが……」

 

「そして偶然、出品予定だった人形のトランクに入り込んだ……? 馬鹿げている。 そんな事がありえる訳がない。 空白から聞いた情報もある。 つまりーー今回の事件に関しては黒幕であるあなたも知らないことが少なくないという事だろう」

 

「ぐっ……」

 

『はは……いい気味だ!』

 

「やめなさいアギト、品がないわ……」

 

「でも、レンヤ君、凄い……!」

 

「うう、同じ捜査官なのに……レンヤ君に敵わんなぁ……」

 

はやてはなぜか落ち込んでいるが……そこは放っておき。 ホアキンは先ほどの事実をぬぐい払うように首を左右に振ってから口を開いた。

 

「だ、だからどうした! ヴィヴィオ様がお戻りになればそのような粗末な疑問はーー」

 

真なら生命(ネクター)? 冗談も大概にしたらどうだ……? あなたが今していることは、誰かの記憶を盗み見て、誰かの力を真似しただけだろう……あなたが非道な実験を元にして完成させた薬も同じ……罪のない子ども達を弄んで愚かな試行錯誤を繰り返した挙句、偶然見つけた結果でしかない……そんなものは、決して“生命”であるはずがない……!」

 

「き、貴様……」

 

「確かに“生命”というには下劣すぎるたわね……」

 

「……意地が悪い、って言ってもいいと思うよ」

 

「……所詮、あなたは偶像にすがりついている哀れな人だったんですね……」

 

「そやな、同感や」

 

アリサ達の言葉に、ホアキンは動揺しさらに顔を歪める……そして、刀を強く握り締め、足に力を入れて大地を踏みしめる。

 

「……そして今もなお……あなたはその下らない幻想をヴィヴィオに押し付けようとしている。 あの陽だまりのように明るい、無邪気で天真爛漫で……そして思いやりもある俺達の大切なあの子に……!」

 

蒼い魔力が身体から漏れ出し……

 

「ーーそんな馬鹿げた事をさせてたまるか‼︎」

 

魔力を爆発的に放出しながら声を轟かせながら立ち上がり、結界を破壊した。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「あ……」

 

「身体が動く……!」

 

「呪縛が解けた……⁉︎」

 

「そうだ……所詮、夕闇の使徒の真似をしていただけのもの……動揺すれば保てない程度の不完全なものだったんだ……!」

 

「レンヤ君の気合いがブチ破ったちゅうわけや……!」

 

『やるじゃねえか!』

 

身体中に魔力が行き渡るを感じ、力を込めながら刀の剣先をホアキンに向ける。

 

「ーーホアキン・ムルシエラゴ。 あなたの器はもう見切った。 この上、何をしようとも俺達は絶対に屈しない。 大人しく投降してもらおう」

 

ホアキンはさらに動揺を露わにし、杖を落としながら後退していく。

 

「ハハ……参ったな……これじゃあ……しか……じゃないか……」

 

「……?」

 

「何をブツブツ言っているの⁉︎」

 

痺れを切らしたアリシアが叫んだと同時に、ホアキンは俯かせていた顔を上げた。 その表情は狂気に満ちている。

 

「ヒハハ……! これじゃあ切り札を使うしか無くなったじゃないか‼︎」

 

狂ったように笑い、懐から小瓶を取り出した。

 

「な……⁉︎」

 

「そ、それは……」

 

「まさか……」

 

小瓶の中にはネクターと同じ形状をしたタブレットが多数あった。 ただし、その色は翠ではなく……血のように紅い色をしている。

 

「クク……教えてあげよう。 これぞ完成したネクターの最終形とも呼べるもの……君達が手に入れたものが“翠の生命”と言うならば……さしずめこれは“紅の生命”と言ったところかな……?」

 

「も、もしかして……」

 

「エリンやマフィア達を怪異に変えた……⁉︎」

 

「魔乖咒もそれで……!」

 

「はははーーその通り!」

 

言うや否やホアキンは小瓶の蓋を投げ捨て……自殺するかのように紅いネクターを一気に飲んだ。

 

「しまった……!」

 

「あんな大量に服用したら……!」

 

『な、何が起こんだ……?』

 

ホアキンの身体の内側から鼓動する心臓の脈動が目に見えて、身体全体が振動する。 何が起こっているのかは定かでないが……どう見てもマズイ事が起きている

 

「中毒症状が……⁉︎」

 

「と、とにかく急いで吐かせんと……!」

 

「早くしないと命に関わる!」

 

「視える……視えるぞ……!」

 

すずか達の心配とは裏腹に、幻聴を見ているかのようにホアキンは呟く。

 

「……大いなるD………失われた力の源が……!

ヒャハハハハハハハハハ!」

 

今まで以上に狂ったように笑い、身体からとんでもない量の魔乖咒が溢れ……ホアキンの額から角が生えてきた。 目に見えるように身体が膨張、変異していく。 巨大化してくホアキンに地面が耐えきれずヒビ割れ、魔乖咒が全体に放れる。

 

「っ……!」

 

「きゃっ⁉︎」

 

「な、何が起こっているの⁉︎」

 

目を覆い、魔乖咒に耐え。 目から腕を離すと……そこには下半身が地面に埋まり、上半身だけが地上に出ている程巨大な人形のグリードがそこにいた。

 

「なっ……⁉︎」

 

「……こ、これは……」

 

「うっ……なんて霊圧……⁉︎」

 

「じょ、冗談だよね……?」

 

『マジかよ……』

 

「ば、馬鹿げとる……これはもうあかんよ……」

 

「フェ、フェイトちゃん……これって……」

 

「うん……夕闇と同等……ううん、もしかしたらそれ以上……⁉︎」

 

フェイトは大袈裟そうに言うが……どうやら冗談抜きの比喩抜きでマジっぽいな。

 

『アア……ココチヨイ……今コソ我ハ……総テノ真実ヘト至ッタ……世界ノ在リ方………ソノ秘メラレタ意図モ……』

 

「っ……気を確かに持て! そんなものはまやかしだ! “真実”というのはそう単純に掴めるものじゃない……!」

 

『クク……ソレハ単二人身ノノ限界……我ニハ総テガ視エルノダ……ゔぃゔぃお様ノ失踪ノカラクリ……ソシテ貴様ノ両親ガ消エタ真相モ……コレカラみっどちるだ二起コル災厄モ………ソシテ、大地ノ法ノ塔ハ虚シク焼ケ落チルダロウ』

 

「くっ……」

 

「出まかせを……!」

 

「! ……カリムの予言とも……一致しとる……⁉︎ まさかホンマに……⁉︎」

 

「はやてちゃん……?」

 

『モハヤ貴様ラヲ生カシテオク意味モ無クナッタ……至レヌ身ノ不運ヲ嘆キナガラココデ果テルガヨイ……」

 

黄色一色だけとなった眼で俺達を見下ろし、膨大な魔乖咒を発しながら銀の巨体を軋ませる。

 

「……エリンさんの怪異化とは格が違うみたいだね……」

 

「うん、さすがにちょっとばかり戦力差があるかも……」

 

「でも、どうやら避けられる戦いでは無いみたいね……」

 

『ま、最初から逃げる気はさらさらないがな』

 

「ああ……覚悟を決めよう。 ーーアリサ、アリシア、すずか、アギト。 それに、なのはにフェイトにはやて」

 

皆の名を呼び、刀よ剣先を魔人となったホアキン向けて叫ぶ。

 

「これが最後の戦いだーー皆、必ず倒すぞ‼︎」

 

『おおっ!』

 

ミッドチルダのため、そして……ヴィヴィオの未来のため。 今日最後の戦いが始まった。



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138話

 

 

『アアアアアアッ‼︎』

 

紅いネクターを飲み、魔人と化したホアキンが無造作に、しかし確実に狂気を持った巨腕が振り下ろされる。

 

「っ!」

 

「なんてバカ力!」

 

地面に落とされて腕が地鳴りと衝撃を放つ。 やはり筋力や重さ、甲殻の硬度も比べ物にならないくらい上がっている。 まともに喰らえば重症は免れないだろう。

 

《タクティカルビット》

 

「行っけえ!」

 

「光剣……クラウソラス!」

 

アリシアはタクティカルビット、緑色のビットレーザーに変換させ、全方向から魔力レーザーを照射し。 はやては直射型の砲撃魔法を放ち、左肩に直撃すると球状に衝撃波が展開、ホアキンの体勢を崩した。

 

「よっしゃっ!」

 

「早くしないと、元に戻せなくなるよ! 急いで制圧するよ!」

 

「わかってる!」

 

『アアアッ!』

 

アリシアの注意を受けていると。 ホアキンが咆哮を上げながら右手が炎を纏い、掌底を繰り出した。

 

「フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

カートリッジをロードし、同様に焔を纏った剣が掌底とぶつかる。 焔を散らしながら威力を相殺した。 そのまま間髪入れず、ホアキンは左手を振り上げ、今度は冷気を纏った掌底を放った。

 

「スノーホワイト!」

 

《オールギア、ドライブ》

 

ギアを3つ全て駆動させ、冷気を纏った槍が掌底とぶつかる。 冷気が急速に広がりながら同様に威力を相殺……そして両手が伸びているホアキンの正面からなのはが飛び出した。

 

「レイジングハート!」

 

《ロッドモード、ディバインインパクト》

 

「てやああぁっ!」

 

棍に変形させたレイジングハートの打突部位の先端に球状に魔力が纏われる。 ホアキンの真下に潜り込み……飛び上がるのと同時顎に向かって棍をかち上げ、直撃と同時に魔力が炸裂した。

 

「まだまだ!」

 

『グウッ……アアアアッ!』

 

「!」

 

「なのは!」

 

《プロテクションEX》

 

「っ! ありがとう、レイジングハート」

 

《どういたしまして》

 

追撃し、反対側の打突部位に纏った魔力をぶつけようとした時、ホアキンの頭部の角が雷を放ち、なのはに向かって落とされたが……レイジングハートが攻撃を防いでくれた。

 

《サードギア、ドライブ》

 

「はっ! 散椿(ちりつばき)!」

 

落雷で砂塵が舞う中、左からホアキンに接近しながら3つ目の歯車を駆動させ。 胴体に一種で何度も切り刻んだ。

 

『ハッハハ……コノ程度カ……!』

 

だが剣戟を受け切ると、急速にホアキンの魔乖咒が高まって来た。

 

『ハハハハハ!』

 

笑い声を上げながら角の頂点から電撃が放電、周囲に無差別に落ちる。

 

「皆、屈んで!」

 

《ライトニングロッド》

 

「ぐうっ……!」

 

「フェイト!」

 

バルディッシュか掲げ、避雷針のように電撃がフェイトに集まる。 そしてホアキンは右手を掲げ、魔乖咒を手から放出され……右手が翼のような異形の剣と化した。

 

『砕ケ散レェ!!』

 

そのままこっちに向かって振り下ろされる。 まともに喰らったらマズイ!

 

「皆、右側に避けろ!」

 

「う、うん!」

 

「レン君!」

 

陽欅(ひのけやき)!」

 

振り下ろされた剣と刀が接触し……衝撃と力を受け流し、奴の剣を左側に晒す。 晒された剣は祭壇が割れ、瓦礫が飛び上がる。

 

「ぐっ……」

 

やはりあれだけの質量を受け流し切る事は難しく。 それなりに衝撃を貰ってしまう。 吹き飛ばされ、体勢を崩してしまう。 その隙を狙われ、ホアキンが右腕を掲げる。

 

「レンヤ!」

 

《リフレクトビット》

 

すかさずアリシアが3つの青いビットを使用して展開した魔力障壁が間に割って入り。 放たれた掌底を受け止めた。

 

『グウウ……! ……フフ……イイダロウ……コノママ滅ボシテヤル……!』

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

《プロミネンスエッジ》

 

「はあああああっ!」

 

《クリスタルスラッシュ》

 

アリサとすずかが同時に飛び上がり、巨大な焔の斬撃と氷の水晶がホアキンに直撃した。 その攻撃に耐えられず、痛みに叫ぶとホアキンの身体全身が光だし……爆発。 脱皮するように銀の甲殻を吹き飛ばし、銀の甲殻の中から金の甲殻が現れた。

 

「ええっ……⁉︎」

 

『何か剥けやがった!』

 

「この……!」

 

《トライデントスマッシャー》

 

フェイトが左手に展開した3つの魔法陣から砲撃を放った。 砲撃は同じ箇所に直撃したが……煙が晴れた時、奴は無傷だった。

 

「そんな……!」

 

「さっきとは比べ物にならないくらいスペックが上がっとるなあ……」

 

『マジやばくね』

 

一瞬でも気を抜けば負けるのはこちらだ。 その時、ホアキンから膨大な量の魔乖咒が溢れ出してきた。

 

『我ガ力、トクト味ワウガイイ!』

 

両手を地面に振り下ろし、その勢いで下半身を地面から抜き……そのまま飛び上がった。 ここでようやくホアキンの全長を目にするが、やはりかなりデカイ。

 

『灰塵ニ帰スガイイ!』

 

右手に炎を、左手に冷気を纏い、さらに2つの魔乖咒が増幅されて行く。 この状態ですでにかなりの密度の魔乖咒、もし撃たれでもしたら……

 

「何て密度の魔乖咒だ⁉︎」

 

『あんなの防ぎようがないぞ!』

 

「砲撃で相殺するよ! 皆、手伝って!」

 

「う、うん!」

 

「やるしかないないようやな!」

 

全員、カートリッジをロードしたり。 ギアを最大駆動させて魔力を高めていく。 そして……

 

『光トナレェ!!!』

 

ホアキンが両手を合わせて突き出し、相反する魔乖咒が混ざり合い……お互いを打ち消し合わず、巨大な魔乖咒の砲撃が放たれた。

 

「スターライト……」

 

「プラネットベルト……」

 

「アイスエージ……」

 

なのは、アリシア、すずかが己の最大威力の魔法を放つべく、魔力を高め。 そして砲門がホアキンに向き……

 

『ブレイカー!!!』

 

数多の星の集いから放たれる桜色の砲撃。 幾多もの砲門から放たれる黄緑色の砲撃が束となり、1つとなった砲撃。 全てを凍てつかせる冷気を持った紫色の砲撃。 それらが魔乖咒の砲撃とぶつかり合い……威力が拮抗する。

 

「ううっ……」

 

「さ、3人がかりで互角だなんて……」

 

「でも……負けられない!」

 

「アギト、急ぐわよ!」

 

『おう!』

 

《チェーンフォルム》

 

「はあっ!」

 

アリサは鎖を砲撃に巻き付けるように投擲し、アギトのコントロールで螺旋を描きながらホアキンに近付き……ホアキンを拘束した。

 

『ヌウウッ⁉︎』

 

「フェイト!」

 

《ソニックソー》

 

「分かってる!」

 

《ジェットザンバー》

 

砲撃が拮抗している間にフェイトと共に左右から接近し、刀に魔力を走らせ……交差するように斬り裂いた。

 

『シマッ……グアアアアアアアアアアッ!!!』

 

ダメージを受けた為、砲撃が散漫してしまい……拮抗を崩れ、3人の砲撃が直撃した。

 

「銀の隕石……アガートラム!」

 

『ガッ⁉︎』

 

背後から接近していたはやてがシュベルトクロイツの剣十字に密度の高い魔力を纏わせ……ホアキンの後頭部を殴りつけて地上に落とした。 偶然か否か、先ほどまでホアキンがいた場所に落とし……また下半身が埋まった。

 

『オオオオオオオオ……!!!』

 

その衝撃でホアキンの身体が隅から隅まで血の色に変色し。 右手が吹き飛び、右手が鋭利な刃物のようになってしまった。

 

「こ、これは……!」

 

「か、完全に暴走しちゃったみたい……」

 

「こうなったらもう……先生の身体は……」

 

「自業自得……そう言えば簡単だけど……」

 

『それを通り越して哀れだな』

 

「……もう、理性も無くなっているんよ……」

 

『ギイイイイイ……!!!』

 

獣の如き叫び声と人間の叫び声が混ざり合い、ホアキンは苦しみながら両腕を地面に捻り入れた。 次の瞬間、俺達の足元からホアキンのと同色の両腕が変形した紅い蔓のような物が飛び出し、身体にまとわり付かれ拘束されてしまった。

 

「なっ……⁉︎」

 

「うわっ……!」

 

『お前ら!』

 

「し、しもうた……!」

 

『……オオオオオオオオ……!!!』

 

ホアキンか完全に我を忘れており、ただ視界に入っているものを殺そうとするだけの狂人となっている。

 

「……っ……!」

 

「くっ……このままじゃ……!」

 

「こ、こんな所で……諦められない! 後ちょっと、後ちょっとであの子に届くのに……!」

 

「そうだ……! 絶対に……何としてもあの子の元に還る……!」

 

なのはと……皆と一緒に必ずヴィヴィオの元に……ヴィヴィオと一緒に第3学生寮に帰るんだ!

 

「……父さん、母さん……どうか、力を貸してくれ……!」

 

「……その発言に理解しかねますが。 あなたの両親ではありませんが、貸しにしておきます」

 

突然、頭上から少女の声が聞こえ……どこからともなく緑の巨鳥が舞い降りて来た。 その巨鳥の背には……クレフ・クロニクルがいた。

 

「あ……!」

 

「あの鳥は……!」

 

「ゼフィロス・ジーククローネ……」

 

「クレフーー!」

 

「……哀れ、ですね。 しか自業自得です……終わらせましょう。 私の過去に……」

 

《Ready、Sonic Gear》

 

クレフは魔人となったホアキンを哀れみの目で見ながらクローネの背から飛び降り、左腕に付いているガントレットを操作した。 ガントレットの画面から緑色の光が放射され、緑色の小さなパーツが出現し、パーツが組み合わさり円柱型のパーツが作られる。

 

「バトルギア、セットアップ……!」

 

クレフがバトルギアを掴みクローネに向かって投げ……バトルギアが巨大化し、クローネの背にばつ印型の装置の先端に特徴的な4つの円形部分があるソニックギアが取り付けられた。

 

「……バトルギアアビリティー、レベル2……!

クローネ……吹き飛ばして……!」

 

《Ability Card、Set》

 

「バトルギアアビリティー発動、ソニックギア・ニルヴァーナ……!」

 

バトルギアとクローネとの接点部分を中心として、ソニックギアで特徴的な4つの円形部分を大きな円を描くように回転させる。 それによって円形部分それぞれが発生させた突風が合体し、強烈な風圧を伴った巨大竜巻がホアキンを襲った。 腕が地面から離れ、拘束が解かれ解放される。

 

「腕が……!」

 

「よし、これで……!」

 

「……これが最後のチャンスです。 もうその方は保たないでしょう……どうか止めを」

 

「そんな……」

 

「くっ……!」

 

軽く言ってくれる……だが、それ以外にホアキンを救う方法がない。 苦痛にさえ悩みながも俺達立ち上がり……

 

「おおおおおおおおっ……!」

 

ホアキンに向かって駆け出した。 せめて一思いに……全力で、終わらせる!

 

「やるぞ……アリシア、はやて!」

 

「うん!」

 

「ほんま、かんにんなあ……せやけど、きちんと終わらせなぁあかん……!」

 

はやてが古代ベルカ式の魔法陣を足元に展開して魔力を溜め出し、両手で短刀を構え、アリシアは二刀小太刀と4つソードビットを構え、ほぼ同時に飛び出す。

 

「せやっ!」

 

はやてが杖をホアキンに向けて振り下ろす。 すると魔力球が展開してホアキンを拘束し……一気にアリシアと共に懐に飛び込み……

 

八咫翠華羅刹閃(やたのすいからせつせん)!!』

 

8方向から放たれた斬撃が拘束しているホアキンに炸裂した。

 

『グアアアアアアアアッ!!!』

 

ホアキンが断末魔を上げながら、身体から紅い魔乖咒が溢れでて、ホアキンの身体が崩壊して行く。 そして、ホアキンは理性を持った目で、俺達を見た。

 

『……ハ……ハハ………やるじゃないか……忌々しいが……最後に正気を取り戻してくれた事だけは………礼を……言っておこう……』

 

「ホアキン……あなたは……」

 

「………………………」

 

なのはは少し、同情した目で彼を見つめる。 他の皆も、どこかそんな心境で彼を見つめる。

 

『クク……憐れみの目で僕を見ないでくれたまえ………見届ける事は叶わないが……我らの大望は成ったのだから……あの方は………ヴィヴィオ様はきっとーー!』

 

そこで身体の限界が到達。 紅い光と電撃を放なちながら……ホアキンは消滅した……

 

「……あ………」

 

「はあ……最後まで世迷言を……」

 

「でも……哀れね……」

 

「………うん………」

 

『どうしようもない奴だったが……』

 

静寂に戻った空間で、俺は下を向きながら考え込んでしまう。 他に、方法がなかったか、と。

 

「……そう気にせんといてや。 あの狂気の薬を大量に飲んだ時点で、もう彼は助けられへんかったんや」

 

「うん……そうだね……出来れば私も、助けたかったけど……」

 

「ああ……最後まで……彼の妄想を晴らすことが出来なかった……出来ればきちんと裁きを受けて自分の罪を受け止めて欲しかった。 そうでないと……彼自身も、彼が犠牲にした人達も哀し過ぎる……」

 

「レンヤ……」

 

「……レン君……」

 

その時、フェアライズを解除したアギトとアリシアが近付いて来て……

 

「オラ! 何しけたツラしてんだ!」

 

「そんなアホ面、らしくないよ!」

 

2人に背中を強く叩かれた。

 

「アリシア……?」

 

「あたし達は全能じゃねえ! 全てが上手くいくわけがねえんだ! それでも精一杯やって、ここまで来れたんだろうが!? ベストとは言わないけど……上出来だよ! ここにいる私達達だけじゃない、クロノ達皆の力でここまで来れたんだから!」

 

「……アリシア……」

 

「……避けられない犠牲は……時にはあると思うけど。 その死を決して忘れず背負って……そして、救われた命もあると考えてもいいと思うよ」

 

「……すずか……」

 

「彼は自滅してしまったけど……まだまだ後始末は残っている。 ミッドチルダ全域の混乱、そらから操られていた人の安否も……落ち込んでいる暇は無いわよ」

 

「……アリサ……」

 

アリサ達に慰め……というより励まされる。

 

「……ありがとう。 そうだな……ヘコんでいる場合じゃないか。 それに……ヴィヴィオやクロノとの約束もちゃんと守らないとな……!」

 

「ええ……!」

 

「全員で無事にあの子の元に戻る約束……それとクロノ君に一人前と認めてもらう約束だね」

 

「アハハ……何とかどっちも守れそうだね」

 

少し離れた場所で見ていたなのは達は、微笑ましそうに見つめていた。

 

「……何だか、異界対策課に入っていればよかったって思っちゃうな」

 

「そうやなあ……ちょっと、羨ましいかもなあ」

 

「ふふ……でも、よかった……」

 

「……どうやら幕引きのようですね」

 

横からクレフの声が聞こえ……そこでクレフがいたことを忘れていたことに気付いた。

 

「本当は私の手で決着を付けたかったのですが……これもまた、巡り合わせだと納得しましょう。 過程は違えど、結果は同じですし」

 

「クレフ……!」

 

「……これで心残りは無くなりました。 私はこれにてお先に帰投させてもらいます」

 

「待って!」

 

クレフはクローネの背に飛び乗り、飛び立とうとした時……フェイトが呼び止めた。

 

「あなたは……あなたは本当にジェイル・スカリエッティの……!」

 

「ーーその質問には答え兼ねます。 そちらの聖王も知っていると思いますが……今回の私の行動に組織は関係していません。 私個人の独断です」

 

「で、でも助けてくれた……!」

 

「それはお互いの利害が一致しただけ……次に合間見えた時は、私はあなた方に弓を引きます」

 

「……そうか。 でも、これだけは聞いてくれ。 助けてくれてありがとう」

 

「……………………」

 

クレフはキョトンとした顔で俺達を見下ろし、すぐに無表情の顔に戻った。

 

「次に会う時は……どうか、私が人であるように……」

 

「え……」

 

「……クローネ」

 

「ピィィッ!」

 

クレフは何かを呟いた後、クローネに指示を出し。 クローネは翼を羽ばたかせて飛び上がり、天井に空いていた穴に入って行った。

 

「……行っちゃったね」

 

「あの子も、D∵G教団の被害者だったんだよね? 助けられなかったのかな……」

 

「それは分からないわ。 でも、あの子はあの子の居場所があるんでしょう。 それを壊すつもりは今の所は無いわ」

 

「……そうだな」

 

「さて、辛気臭いのはこれくらいにしとこ。 早くここからーー」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

突如、地下全体が揺れ始め、天井からパラパラといくつもの小石が落ちてくる。

 

「な、何々⁉︎ いきなり何なの⁉︎」

 

「こんな時に地震……? タイミングが良過ぎる気がするけど……」

 

いきなりの地震に不審に思う中。 祭壇の後ろ側の壁が崩壊し、隠れていた向こう側の空間が出てきた。 そこにあったのは……巨大な戦艦、今見えているだけでも全体のほんの一部なのがわかる。

 

「なっ……⁉︎」

 

「戦艦⁉︎ どうしてこんな所に……」

 

「っ! 見て、甲板に誰かいる!」

 

目を凝らし、甲板の上を見ると……甲板の縁に数人の集団がいた。 全員、驚いたり混乱している様子もなく。 縁に座っていたり、平常心で立っていたりしている。 いや、それ以前に……彼らの数名には見覚えがある。

 

「あれは……シャラン・エクセにサクラリス・ラム・ゾルグ!」

 

「それにジブリール・ランクルも!」

 

「エルドラド・フォッティモ……まさか……」

 

「全員、魔乖術師……」

 

1人、あの小さい子には見覚えがないが……アリサ達が知っているようで、他の4人を含めて8人全員が魔乖術師で間違いないだろう。 見知らぬ4人のうち1人は素顔を出しているが、残りの3人はフードを着て顔を隠している。 そして、彼らの乗る戦艦をよく見ると……

 

「あの戦艦……おそらく、聖王のゆりかごだ」

 

「えっ……⁉︎」

 

「な、何で動いているの⁉︎」

 

「別に内部機関を起動させて動かしてはいないよ。 ちょっとボクの異の魔乖咒の力で別の場所に移動させるために人力で動かしているだけ」

 

懇切丁寧にサクラリスが教えてくれた。 が、口で言うのは簡単だが……相当な魔力量……奴らで言う魔乖咒の量が無ければ不可能だ。

 

「ていうか、何で今頃出てきたの⁉︎ この際ゆりかごとがここにあるのかは置いておいて……あなた達のリーダーが消えたってのによくもそんな平気な顔をしているね!」

 

「……あなた達も参戦していれば、負けていたかもしれない……にも関わらず、どうして⁉︎」

 

「……オレ達はホアキンを利用していたに過ぎない。 グリードとか、神なんかに興味はない」

 

一歩前に出て、説明したのは白髪をした20代くらいの男性だった。 小脇に一冊の本を持っている。 よく見ると他の7人も同様に本を所有しているようだ。

 

「あなたは……」

 

「オレはナギ、ナギ・アスパイア。 改めて言おう、オレ達はホアキンを利用していたに過ぎない。 復讐も報復もない、ただ、この場は見逃してくれると助かる」

 

男性……ナギは右手に滅の魔乖咒を纏わせながら頼み込んだ。 明らかにお願いじゃなくて脅しに見えるが……ホアキンとの死闘でコッチはかなり疲労している。 あちらも戦う意思がないのなら……見逃すしかない。

 

「そうか、あんたがゼアドールを正気に戻してくれたんだな?」

 

「……へえ、これだけで分かるなんて、なかなか感が働くな。 そうだ、滅の魔乖咒で奴の体内のネクターを分解させた。 奴には恨みはなかったからな」

 

「……あんた達の目的は何なの。 どうしようもない奴だったけど、ホアキンからその力を貰ったのでしょう! 恩義の1つもないわけ⁉︎」

 

人として当たり前の事が許さないのか、アリサが彼らを糾弾する。

 

「……魔乖咒、異界の力を引き出して世界を歪める力……この力を引き出すにはさあ、別にネクターは必須じゃねえんだよなあ、これが」

 

「何だって⁉︎」

 

「ネクターはきっかけに過ぎず、異界の……ザナドゥの一端を感じ取り、それを己の精神で担うことで魔乖咒が発動する。 ホアキンは最後まで盲信に取り憑かれ、それに気付かなかったがな」

 

「それに元々D∵G教団に階級はあれど平等を旨としている。 集まった集団もホアキンのような狂信者だったら、利用するだけの者もいた」

 

「つまり、組織としての信頼や結束力に欠けまくっていたのよ。 あなた達がホアキンをどうこうしようが私達は無関係なわけ」

 

「くっ……」

 

「なんて奴らだ……」

 

歪である魔乖術師はともかく、それ以外の魔乖術師も人としてどこか歪んでいる。 ホアキンには劣っているかとしれないが、それでもかなりの狂人集団だ。

 

「ねえ、レン君……そう言えばホアキンさんが言っていたよね。 ヴィヴィオを誕生させたグリードは力を使い果たして、8つの本に分かれたって……」

 

「……まさか!」

 

「いいや、この本とそのグリードとは無関係だ。 全く関係がないとは言い切れないが、(くだん)のグリードはこの魔導書ではない」

 

「それでも、普通の本ではないんだね……」

 

奴らの持つ8つの魔導書から異様な雰囲気を放っている。 グリードの事を抜きにしても気は抜けない。

 

「今の私達の目的はこのゆりかごを持って行くこと。 あなた達と事を構える気はないわ」

 

「くっ……」

 

シャランがそう告げると同時に……ゆりかごが沈み出した。 船底の周辺が歪んでそこに沈んで行っている。

 

「アレだけの巨大な質量を転移させるの……⁉︎」

 

「デタラメな……!」

 

「それじゃあな、異界対策課。 それと金色の死神に翡翠の剣舞姫(メルティス)……次に合った時は覚悟しておけよ!」

 

「え……」

 

ジブリールは恐らくフェイトとアリシアの事を指しているのか、二つ名らしき名前を言い……彼らと共にゆりかごは消えて行った。

 

「……何、今の名前……」

 

「こりゃ、全員に付いてるかもなあ〜。 あーあ、変なの付けられる前に烈火の剣精でよかったよかった」

 

「あんたはそこまで気にする必要はないと思うわよ」

 

「死神……私、死神なんだ……」

 

「ま、まあ……フェイトちゃん結構バルディッシュをハーケンフォームにしてるからなあ。 仕方ないんとちゃう?」

 

「な、ならこの際、自分から名乗っちゃおうよ! 雷渦の閃姫(イースグリーフ)とか羅轟の月姫(バルディッシュ)とか!」

 

「……後者被っている上に余計酷くなってるよね?」

 

確か閃光の戦斧、だっけか? しかしすずかの奴、よくそんな言葉が思いつくな。 よく童話や小説を読んでいるからかな?

 

「そういや、アリサとすずかにもあんのかな? あだ名ってか、異名が?」

 

「……知りたくないわ」

 

「ええっと、アリサちゃんは紅蓮の執行者(エグゼキューター)で……すずかちゃんが氷結の戦乙女(ヴァルキュリア)……なんや、イメージまんまやなあ」

 

はやてがメイフォンで調べながら、やはり変な単語を言った。 っていうか、調べればすぐに見つかるのかよ……

 

「いやーー!! そんな嫌な名前聞きたくなーーい!!」

 

「お、落ち着いてアリサちゃん……! いいと思うよ、紅蓮の執行者! すごくカッコいいよ!」

 

「そ、そうそう! 鎖を使って戦うあたりが!」

 

「ああもう……なんか急にグダグタになって来てるし!」

 

一気に緊張感のない空気になった事にため息を1つついた後、ここでのやる事はないのでここから出る事にした。

 

「ほら早く帰るぞ。 一刻も早くヴィヴィオの顔が見たくなってきた」

 

「あ、うん……そうだね!」

 

「ふう、そうね。 それにルーテシア達にも……」

 

「あはは、それじゃあボチボチ戻ろっか……!」

 

「うん……」

 

少し、魔乖術師達の事が気になる中……その事を頭の隅に追いやり、俺は皆の方を向き……

 

「ーー異界対策課、撤収準備。 囚われた人達を護衛しつつ、マフィア達の身柄を確保しながら地上に戻ろう……!」

 

そして地上への帰路につき、道中のグリードが消えて比較的楽に事が進み……地上に着く頃には日が昇っていた。 そしてどうやらゼアドールは自分のケジメを付けたようで……1人残らず、カクラフ会長も含めて拘束されていたが、ゼアドール本人の姿はどこにも見当たらなかった。 恐らく統政庁に帰ったのだろう。 保護者やマフィア達の人数を確認した後、彼らをなのは達が引き受けてくれ、一足先に砦から出ると……朝陽の陽射しが地下で冷えた身体に降り注ぎ、心身共に温まる……もうすっかり夜明けだ。

 

「あ……」

 

「……朝陽が……」

 

「……綺麗だね……」

 

「うん……それに暖かいね……」

 

「それに眩しいな……」

 

「パパーーーーっ!」

 

その時、砦の入り口方面からとても聞き覚えのある、今一番会いたい人物の声が聞こえて来た。

 

「この声……⁉︎」

 

「まさか……!」

 

確認しようと急いで階段を降りると……正面にあった階段からヴィヴィオが慌てながら昇ってきて、その勢いのまま抱きつかれた。

 

「ヴィヴィオ……!」

 

「……〜〜〜っ〜〜〜〜!!!」

 

「はあはあ、待ってえ……ヴィヴィオちゃーん……」

 

ヴィヴィオは泣きそうな顔を押し付け、精一杯力強く抱き締めてきた。 その後に、ヴィヴィオを連れて来たであろう、ラーグとソエル、ファリンさんとビエンフー、テオ教官やゼストさんにメガーヌさん、それにクラウディアに搭乗していたクロノやソーマ達。 ヴァイスさん、彼に抱えられているシェルティス。 それにゲンヤさんとギンガとクイントさん……スバルとティアナとティーダさんも一緒にいた。 それと後からマフィアを拘束し終えたなのは達も砦から出て来た。

 

「よ、よかったぁ……! パパも、アリサママも……すずかママもアリシアママも無事で……!」

 

「よお、お疲れのようだな」

 

「やっほー♪ 元気?」

 

「どうしてヴィヴィオが……」

 

「あはは……しかもすごい大所帯だね」

 

「今し方、市街に展開していた警備隊員達が全員気絶した。 それで取り急ぎ、彼女を連れてこちらに出向いたというわけだ」

 

「ふふ、連れて行ってとダダをこねちゃってね」

 

「そう言いながらわざわざ連れて来ているじゃない。 あなたらしいわ」

 

「ちょ、ちょっとクイント……!」

 

「はは……」

 

2人の会話に苦笑いしながら。 一端、ヴィヴィオを身体から引き離し、クロノ達の方を向いた。

 

「クロノ、そっちも無事だったんだな」

 

「おかげ様でな。 お前達が突入した後、ティーダ率いる航空武装隊が応援に来たおかげで何とか持ち堪えられた」

 

「クラウディアもクルー達も全員無事だよ。 ミッション、大成功だね♪」

 

「ええ、何とか……ですけど」

 

「それに、スバルとティアナも無事だったんだね」

 

「はい! 私とティアも、騒動の始まりの時にティーダさんに助けられたんです!」

 

「後少し遅れていたら、身内にやられていました……」

 

「危機一髪だったわけか」

 

そうか……ギンガから連絡が来た時、かなり心配したが。 怪我が無くて良かった。

 

「はやてちゃん!」

 

「おっと……リィン、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リンス。 無事でよかったんよ」

 

「主も、ご無事でなによりです」

 

「皆そろって怪我をしているわね。 帰ったら健康診断も受けてもらうわよ」

 

「ええ〜、ぜんぜん平気だし。 そんなんいらねえよ」

 

「ダメだ、全員きちんと受けるべきだ。 魔乖咒が人体にどのような影響があるのか分からないのだから」

 

シャマルが俺達の身体にある傷を軽く診察し回り、リンスがヴィータに説教気味に注意する。

 

「すずかちゃん、怪我は大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫だよ。 ありがとうファリン、ヴィヴィオを見ていてくれてれ」

 

「はい!」

 

「当然でフー!」

 

少し疲労が見えるが、ファリンさんとビエンフーは身体で奮い立たせて元気を表現する。

 

「シェルティス君、怪我は大丈夫?」

 

「シャマルさんに治療してもらったから、大事にはならないよ」

 

《身体の丈夫さだけはピカイチですからねえ》

 

「ま、耐えるのが男ってもんだ。 これぐらいで根を上げるようなモヤシじゃねえって事だな」

 

「あ、あはは……」

 

苦笑いをして会話を流しつつ、次にゲンヤさん達の方を向く。

 

「ゲンヤさん、ギンガも……」

 

「皆さん、お疲れ様です!」

 

「こっちの部隊もようやく身動きが取れるようになってな。 それで様子を見に来たんだが……とりあえず、危機は去ったんだな?」

 

「はい……」

 

「グリードも全て姿を消してしまいましたし……」

 

「おかげで全員、連れて帰って来れたぜ」

 

「ま、マフィア達は拘束して、地下に置いたままだけど……」

 

「……むしろこれからの方が大変かもしれないわね」

 

後始末は山ほど……いや、比喩抜きで無限書庫くらいはありそうだ。 こんな所でユーノの気持ちが判るようになるなんてな……そして多分、クロノへの恨みも湧くかもしれない……

 

「そうだな……市民への説明と、諸外世界への対応……操られていた隊員のケアも必要になるな……」

 

「マフィアも一通り、拘束する必要がありそうですね」

 

「そして今回の事件に関する、一連の証拠集め……一ヶ月は大忙しだろうな」

 

「なんなら……俺も手伝ってやろうか?」

 

「……そうだな、こき使ってやるよ」

 

テオ教官は素直に手伝うとは言わず、ティーダさんもそれを理解しているようだ。

 

「……ふふっ……」

 

「確かに死ぬほど忙しくなりそうだけど……」

 

「でも……何だかすべてが良い方向に行きそうだね?」

 

「ええ……私達なら、きっと」

 

「……ああ………」

 

「うんっ!」

 

「だよね!」

 

(コクン)

 

「あうあう、でも一ヶ月も大忙しだと……学院に行けない……勉強ができない……単位が取れない……」

 

「なぜ韻を踏む……?」

 

「モコに頼んで補習を受けさせてやるよ。 もちろん、お前ら全員な」

 

「ですよねー……」

 

「ふふ……」

 

学生としても管理局としても、やる事は山積みだな。 クロノは一歩前に出て、俺達を見渡した。

 

「ーーレンヤ、アリサ、すずか、アリシア。 それになのは、フェイト、はやて。 詳しい報告はゆっくりと聞かせてもらうとして……とりあえずーー決着は付けてきたか?」

 

「あ……」

 

クロノの質問に、俺達は顔を見合わせ……

 

『はい……!』

 

大きく頷きながら返事をした。

 

「上出来だ。 これでどうやら……お前達を一人前として認めてやる事が出来そうだ。 そして、来年から始める部隊ーー古代遺物管理部、機動六課……安心して発足できる」

 

「あ……」

 

「そうだったね……」

 

「すっかり忘れとったよ……」

 

「しょうがないよ、今日は本当に大変だったから……」

 

度重なる戦いが一時的に目標を忘れていた。 と、そこでクイントさんが何か思い付いたように手を叩いた。

 

「さて! ここは記念に一枚、功績と一緒に写真に収めて起きましょうか!」

 

「え……⁉︎」

 

「クイントさん⁉︎」

 

「お、お母さん……」

 

「クイント、やっぱり役職を間違えていないか?」

 

「それに、そこまで祝うようなことでもないですよ? 敵はまだ残っていますし……」

 

「気にしない気にしない♪ ほらほら、全員入った入った」

 

「やれやれ……」

 

「ふふ、いいじゃないの」

 

クロノがやや呆れながらも、エイミィさんに腕を組まれる。 まだまだ新婚の雰囲気を醸し出して気がするな。

 

「写真、とってもらうの〜?」

 

「ああ……ニッコリ笑うんだぞ?」

 

「うんっ!」

 

「えっと、私達は……」

 

「さすがに遠慮した方がいいですよね……」

 

事件解決に貢献していないと思っているソーマ達は、遠慮がちにしている。

 

「おらおら。 遠慮すんなっつーの。 ルールーも入ってけよ?」

 

「なら遠慮なく。 ガリュー、一緒に入ろう!」

 

(コクン)

 

「やったー♪」

 

「目ぇ開いていいか?」

 

「地味に怖いからやめて」

 

「全く……」

 

「フフ、たまにはこういうのも悪くないですね?」

 

そうと決まればさっそく写真を撮るために、それぞれが立ち位置に移動する。

 

「ほな、皆も入るで!」

 

「わ、私はこのような事は初めてで……」

 

「気にすんなって! 命抜かれる訳じゃねえんだから」

 

「……ヴィータ、それはどこから聞いた知識だ?」

 

「一昔前の迷信ですぅ」

 

「……はやてちゃん、リィンに何を吹き込んでいるのかしら?」

 

「主……」

 

八神家の教育を少し垣間見ながら、次々と階段に並んで行く。

 

「ほら、お父さんも!」

 

「おい押すなよ……!」

 

「ティアもソーマの横あたりに!」

 

「ちょ、ちょっと、何でソーマの隣……⁉︎ でもこれ、どんな、絵面になるのかしら」

 

全員で階段に並び、クイントさんがメイフォンを魔法で浮かせ、自分も入りながら写真を撮る準備をとった。

 

「さあ、行くよーー……はい、チーズ!」

 

パシャリ、とメイフォンから撮影音が鳴り……1枚の写真が撮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーミッドチルダに恐るべき混乱を引き起こしたD∵G教団の存在。 それに利用されたマフィアと薬物によって操られていた警備隊。 そしてアザール議長を始めとする数々の有力者達の不始末……事件の概要は、情報局によって報じられ、前代未聞の大スキャンダルへと発展した。

 

ここに至ってクローベル統幕議長は管理局局長、警備隊最高司令両名を解任……各課の責任者やゲンヤ部隊長に事件の徹底究明を命じた。 ゼスト捜査官を始め、今まで上層部に押さえつけられていた捜査官達によって全ての議員が教団とのコネクションが洗い出され……何名もの逮捕者が出るに至って、ミッドチルダ政界に対する市民の不信感は頂点へと達した。

 

そんな中、DBMのアトラス総裁が次期市長選挙の出馬を電撃表明し……今まで兼任していたクローベル統幕議長の理念を継いで、健全な政治体制の確立を公約に掲げた。 そしてクローベル統幕議長もまた、逮捕された議員達の補欠選挙への出馬を表明し……早くも次の議長候補として各方面から期待されているという。

 

そして事件から1ヶ月後ーー

 

そのクローベル……ミゼット統幕議長によって、俺達は庁舎に呼ばれた。 事件解決の貢献人として、管理局全体から異界対策課に表彰式が執り行われた。 知人や各部隊の隊長が同席する中、俺はミゼットさんから表彰状を受け取った。

 

そしてーー白熱した市長選が終わり、俺達が通常の学院生活と業務に戻った日……異界対策課の玄関に真新しいカバンを持ったヴィヴィオの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、本当に大丈夫か? やっぱり初日くらいは俺も付いていった方が……」

 

ヴィヴィオが今日から聖王教会系列の教会の日曜学校に行く日。 異界対策課のメンバー全員がヴィヴィオの新たな一歩を心配していた。 本来日曜学校はおろか小学校にもまだ行かない年齢だが……ヴィヴィオが行きたいと初めて駄々を言ったため……渋々、だが嬉し混じりで許可した。なのは達は別件があったため。かなり羨ましいそうにしていたが……

 

「だいじょーぶ。 ちゃんと道は覚えたよ! それにユノともいっしょに行くんだし。 パパ、心配しょー!」

 

「で、でもなぁ……」

 

「全く……本当に親バカなんだから。 あんただってこのくらいの歳で旅してたじゃない」

 

「いや、それはラーグとソエルも一緒にいたからで……それにそんな非常識がヴィヴィオが出来るはずがないじゃないか!」

 

「……非常識なのは認めるんだ……」

 

(コクン)

 

ルーテシアと、球状態でルーテシアの肩に乗っていたガリューが少しだけ驚いた。

 

「ふふ、そういうアリサちゃんこそずっとそわそわしているよね?」

 

「う……こ、これはその、保護者の(さが)というか……」

 

「……やれやれ。 せっかくのヴィヴィオの晴れの日だ。 もう狙われる事も無いんだし、せめてきちんと見送ろうぜ」

 

「そうそう!」

 

(コクン)

 

「あうあう……大丈夫だよヴィヴィオちゃん。 怖い事はないよ〜、リラックス、リラックス……!」

 

「ふえ?」

 

「……サーシャ、君が一番怖いよ……」

 

不安が行き過ぎで逆に表情が暗くなり過ぎているサーシャに、ソーマは少し引いた。

 

「いやまあ……分かってはいるんだけどな」

 

「……何だか子どもを持つ親の気持ちが判る気がするわ」

 

「クク……」

 

「何だかねぇ……」

 

離れていた場所で見ていたラーグとソエルは、呆れながらも微笑ましいそうにこの光景を眺めていた。

 

「ーーお前らこそ、新市長から相談に呼ばれてんだろう?」

 

「そろそろ出かけたらどう?」

 

「あ、そうだな………その事なんだが、ラーグ、何か聞いてないのか?」

 

「一体どんな相談なの?」

 

「それは新市長から直接聞いた方がいいだろう」

 

「ーーともかく今日はレンヤ達皆にとって新しい一日になるはずだよ♪ 頑張ってね!」

 

「……了解」

 

「やれやれ。 また忙しくなりそうだね」

 

「まあ、忙しいのはいつもの事ですね……」

 

「だね」

 

(コクン)

 

忙しのはいつものこと……だが、このいつもを守る事が何よりも大切。 やる事や解決していない問題はまだまだあるが……俺は今日を掴めたんだ。 今はそれだけでいい。

 

「それじゃあ、ヴィヴィオ。 通りまで一緒に行くわよ」

 

「うんっ!」

 

それぞれの今日やる事のために玄関を開け、一度ラーグ達に向かって振り返り……

 

『ーー行ってきます!』

 

そして、新たに今日を始めた。

 

 

 




零編(仮)完結!

なんやかんやでようやくここまで漕ぎ着けました。 とはいえはまだまだ先は長い、StrikerSまでもう少しです。


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139話

 

 

7月26日ーー

 

「終っーー……わったああ!!」

 

アリシアが腕をうんと伸ばして叫んだ後、電池が切れたように机に突っ伏した。 あのD∵G教団が引き起こした騒乱から早2ヶ月……自由行動日の午前丸々使ってようやく全ての補習を終了した。

 

「ふう……流石に堪えるな……」

 

「だらしないわね。 もっとシャキッとしなさい、みっともない」

 

「……無茶言わないでよ……頭が破裂しそうなんだから……」

 

「ふふ、この調子だとサーシャちゃんも同じかもね?」

 

すずかが微笑みながらそう言うと……どこからか『あうあうあうあうー!!』と言う叫びが聞こえた。

 

「…………………」

 

「よく頑張りましたね。 後は中間試験でどうなるか……見守っていますよ」

 

「はい、ありがとうございます。 モコ教官」

 

「ふふ、私も学生時代はとても苦労していましたが……あなた達も大概ですね」

 

「あ、あはは……」

 

「モコ教官は学生時代はどんな学生だったのですか?」

 

唐突に、気になったのかアリサが質問した。

 

「そうですね……昔の私はひ弱でしてね。 歩く事も億劫だったんですよ?」

 

「へえ、意外ですね。 今じゃとても想像はできません」

 

「ええ……本当に……」

 

「あ、私気になります! モコ教官の学生時代の話し!」

 

「……あまり、いい話ではないのですが……」

 

少し恥ずかしそうにしながらも、モコ教官は語ってくれた。

 

「私の母校はレルムではなく、首都内の南西部にある普通高でしてね……学校に来るのも満身創痍な状態で……」

 

【うう、やっと着いた……やっぱり1人じゃクラナガンから出るのはキツイか……】

 

「クラナガンかよ! 思いっきり近場じゃん!」

 

【クラナガンを舐めるなよ】

 

「知らねえよ! ていうか誰に言ってんの……!」

 

つい敬語を忘れてツッコンでしまう。 こんな堅物なモコ教官でも昔は無茶苦茶だったんだな……

 

「コホン、私の事はもういいでしょう。 あなた誰もこの後予定があるのでしょう?」

 

「は、はい」

 

はぐらかされた気もするが、人を待たせているのは事実だ。

 

「さて、それじゃあ行きましょう。 あなた達もこの後、あの子達の指導をするのでしょう?」

 

「ああ、事件の前でも時間が取れなくて……ここ最近も疎かにしがちだったな」

 

「確か武練館で待っているはずだよね? もう来ていると思うから速く行こう」

 

「ええ〜〜、もうちょっとだけ休もうよー」

 

「あんたはもっと指導者としての責任を持ちなさい」

 

ぶつくさ言いながらもそうやって教えてくれる所がアリサらしいな。 ラーグ曰く、ツンデレらしいが……よく分からん。 兎にも角にも教室を出て武練館に向かうと……正面玄関の前に4人の少女と1人の少年が立っていた。 が、そのうちの2人が額をぶつけ合って超至近距離で睨み合っていた。

 

「……はあ、またやってる……」

 

「まあまあ、喧嘩する程仲が良いとも言うよ」

 

「おーい、エルスー!」

 

アリシアの呼びかけで4人がこっちを向くと、パアッと表情を輝かせて駆け足で俺達と前まで来た。

 

「レンヤさん! 今日はお忙しい中、ご足労おかけします!」

 

「いや、距離的にご足労かけたのはこっちなんだが……」

 

「師匠! 今日はスパーリングか!?」

 

「まだ基礎も出来てないのに、やるわけないわよ」

 

「アリシア先生! 今日こそ固有結界を教えてください!」

 

「……何度も言っているけど、本来あんなのは出来ない方が幸せなんだよ」

 

「すずか様! ご指導、よろしくお願いします!」

 

「すずか様、今日はお嬢様をよろしくお願い致します」

 

「あ、あはは……すずか様は辞めて……」

 

様々な経緯で俺達が指導する事になった子達。 俺が指導しているのは礼儀正しい黒い長髪のミカヤ・シェベル。 アリサが指導しているのは勝気な性格をしている赤髪のハリー・トライベッカ。 アリシアが指導しているのは短い黒髪でおでこが眩しいエルス・タスミン。 すずかが指導しているのは少しウェーブのかかった金髪のヴィクトーリア・ダールグリュン。 そして彼女の執事のエドガー・ラグレント、最近地球の和食にハマっているそうだが……何を間違えたのかおでんから和食に入っているそうだ。

 

「聖王様もお久しぶりです。 事件の解明、D∵G教団を制圧した手腕、大変お見事です」

 

「あー、俺1人じゃ絶対に無理だったんだがな。 それと聖王はやめろ、レンヤでいい」

 

「かしこまりました、レンヤ様」

 

「…………………」

 

様も辞めろ、と言うのはあんまり意味がない気がする。 ヴィクトーリアは旧ベルカの王家・雷帝ダールグリュンの血をーーほんの少しだけーー引いているらしく。 聖王である俺に言わずもがな、様付けで呼んでくる。 その時、アリサが手を叩いて視線を集めた。

 

「さあ、時間が惜しいわ。 武練場の使用許可はもらってあるから、各自準備が出来次第武練場に集合すること」

 

『はいっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てやぁ!」

 

「っと……」

 

抜刀により放たれた刀身を受け止め、弾き返す。 ミカヤは刀を納刀せずにそのまま斬り結んでくる。 先ほど武練場に移動したらそれぞれのスペースですぐに練習が開始されたのだ。

 

「そうだ、納刀するタイミングを見誤るなよ」

 

「はい!」

 

刹那の間も開けない剣戟を繰り出し、納刀をさせないようにする。 現在は抜刀してない状態での近接戦闘の指導をしている途中だ。 チラリと意識を他のグループに向けて見ると……

 

「な、なあ師匠……これいつまで続ければいいんだ?」

 

「そうね……両手で50段は行ってもらわないと」

 

「そ、そんなあ〜……」

 

ハリーは胡座をかき、両手の平には小さめの炎が出ている。 その上に紙があり、さらにその上に炎……紙と炎が交互に積み重なって塔を作っている。

 

「ほらエルス、もっと早くバインドを展開して。 敵は一瞬でも待ってくれないよ」

 

「は、はい!」

 

「はい、ハズレ」

 

エルスの周りに無数のゴムボールが飛び交い、エルスはボールを捕らえようとバインドを放つが……的も小さく、外れてしまう。

 

「っ……あう……!」

 

「ヴィクトーリアは防御は固いけど、どうしても足元がお留守にしがちだね。 懐に入られたら終わりだよ?」

 

「も、申し訳ありません!」

 

ハルバードをネイルフォームのスノーホワイトを装備しているすずかに弾かれ、爪を首に添えながら注意している。

 

「はっ!」

 

「おっと……!」

 

流石にミカヤの事を放っておき過ぎた。 胴に向かっていた刀を柄頭でギリギリ防ぐ。

 

「余所見をしないでください!」

 

「スマンスマン。 ほら、もっと掛かって来い」

 

「やあああ!」

 

それから数時間、訓練をした結果……

 

『はあはあ……』

 

ものの見事に全員バテバテになっていた。

 

「ま、こんなものね」

 

「大丈夫ですか、皆様?」

 

エドガーが4人にタオルと飲み物を配る。 それを俺達は離れた場所で見ていた。

 

「……あの事件から早2ヶ月……もうすっかり平和って感じだね」

 

「うん。 怪異による事件もそれっきり全く起きなくなっているし……」

 

「そして内通者の洗い出しで管理局は今の所綺麗になっているけど、根本的な解決にはなっていない……むしろ、酷くなっているわ」

 

「巨大過ぎるゆえの小回りの効かなさ、か……だからやるんだろ? 機動六課を」

 

事件解決直後に言ったクロノの宣言通り、機動六課の発足が出来つつある。 発足予定は来年の4月……レルム魔導学院を卒業するのとほぼ同時だ。

 

「部隊舎の場所はどこだっけ?」

 

「確か中央区画、湾岸地区にあるミッドチルダ南駐屯地内A73区画だったはずよ。 前にはやてと視察に行ったんだけど……周辺がどことなく雰囲気が海鳴に似ていたわ」

 

「へえー、1度見に行きたいね!」

 

……あれ? その場所、どこかで聞いた事あるような……まあいいか。

 

「とはいえ、来年から発足なのにやる事はまだまだたんまりあるからな〜……もしかしたら夏期休暇もおちおち取れないかも」

 

「そうね。 クロノにこき使われるユーノの気持ちがようやく分かった気がするわ」

 

「あ、あはは……あ、そうだレンヤ君。 分隊名は決めたの?」

 

「分隊名?」

 

「ほら、六課で担当するそれぞれのポジショニングを担当する分隊の。 なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんも同じように分隊を持つみたい。 それで、レンヤ君と……私も分隊を持つ事になったでしょう?」

 

「あ、ああ……そうだったな」

 

この前報告してもらったけど、ゴタゴタし過ぎてはやての報告聞き流してた。

 

「レンヤが分隊の隊長で私が副隊長、そしてすずかが分隊の隊長でアリシアが副隊長。 なんだが不思議ね、今更副隊長なんて」

 

「そうだねー、隊長だけ決めて後はなーんにも決めずに今までやって来たからねー」

 

「コホン、話を戻すけど分隊名は結局の所どうするの? ちなみになのはちゃんの分隊名はスターズ、フェイトちゃんはライトニング、はやてちゃんはロングアーチだよ」

 

「そうだなあ……」

 

いきなりそう言われても……なのはとフェイトは2人らしい分隊名だな。 なら俺らしいと言ったら……

 

「……フェザーズ……フェザーズかな」

 

「フェザーズ……うん、いいと思うよ!」

 

「そう言うすずかのはもう決めたのかしら?」

 

「私の分隊名はクレードルだよ」

 

「なるほど……いいんじゃないか?」

 

こうして今ある平和を噛み締める事が出来る。 だが問題は残っている、D∵G教団から脱走したナギ率いる集団の行方。 そしてホアキンが言った未来を見たという世迷言……しかしあの時、その一文にはやてが反応していた。 強ち間違いではないのかもしれない。 そして……

 

「アザール元議長と元統幕議長秘書エリンの亡命、か……」

 

そう、この2人は逮捕される直前に別の次元世界に亡命していたのだ。 亡命した次元世界は特定しているが、外交問題で手は出さないのだ。

 

「もうD∵G教団も無くなって、議員としての地位も権力も無くなっているのに……」

 

「……ともかく、それ以上の詮索は私達の管轄外よ。 今は……」

 

チラリと、休んでいる4人に目配りし。 ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ーーあの子達を鍛えるわよ」

 

その言葉が聞こえたか分からないが……4人はビクリと身体を震わせ、辺りを見渡した。

 

「あ、あはは……」

 

「アリサって教導になるとなのは並みにスパルタだね……」

 

「やれやれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、日が沈むまで訓練が行われ……4人は立てなくなるまでしごかれた。 主にアリサのせいで。 そんなクタクタの4人を車でクラナガンまで送り、1人ずつ家に送った後異界対策課に寄った。

 

「あ、レンヤ」

 

対策課に入ると、デスクワークをしていたツァリがこちらに気付いた。 今日は正規メンバーは休みで、嘱託魔導師の3人だけしかいない。

 

「もう補習と教導は終わったの?」

 

「ああ、その教導していた生徒を送ったついでにここに寄ったんだ」

 

「ならちょうど良かったよ。 レンヤじゃないと出来ない物がいくつかあってね。 まとめて置いたから目を通して置いて」

 

ツァリが指差した方向にあったのは……山のように積まれた書類だった。 そのちょっと離れた机の上にはその倍の書類がある……

 

『……………………』

 

そして書類に埋もれて見えなかったが、リヴァンとユエが無言で黙々と書類と格闘していた。

 

「……一息入れよう」

 

「……うん」

 

紅茶を淹れ、3人が一息入れている間、自分がやるべき書類と格闘を開始した。 その途中、リヴァンが質問してきた。

 

「レンヤ、まだ管理局は混乱しているのか?」

 

「そうだなあ……ほとんどの部隊の司令が解雇、逮捕されたおかげでまだまだ混乱中。 信頼できる人物の階級を上げてその役に付けるにも時間が掛かっている状態だ」

 

「へえ……レンヤ達はD∵G事件で階級は上がったの?」

 

「二階級特進を断って一階級上がって今は二等陸佐だ。 はやても俺と同じ二等陸佐で、なのは、フェイト、アリサ、すずか、アリシアは名目はバラバラだが一等尉ぐらいだ。 後対策課のメンバーは軒並み上がっているな」

 

「皆さん、かなり優秀ですからね……それで、レンヤは何故二階級特進を断ったのですか?」

 

「これ以上上がってたまるか。 この書類の山がもっと増える羽目になる。 受け入れていたら天国に向かって二階級特進している所だ」

 

「み、身も蓋もないね……」

 

ツァリは少し呆れながら苦笑いをする。 その時対策課の扉が開けられ……シェルティスが中に入って来た。

 

「あれ、シェルティス?」

 

「何か対策課に用でも?」

 

「うん、ツァリ達が働き詰めって聞いたから差し入れを持って来たよ」

 

「お、なんだ? お前にしては気が効くじゃねえか」

 

「君の分はないよ」

 

「なんだと!?」

 

またいがみ合いが始まったな。 まあ、かれこれ2年ちょっとの付き合いだから、今では喧嘩する程仲が良いって感じになっているけどな。

 

「ふむ、期せずしてVII組の男子が集まりましたね」

 

「そういえばこうして僕達だけで集まるのって久しぶりだよね?」

 

「いつもレンヤの周りには絶対に女子達がいたからね。 男だけで集まるのってそう無かったと思うよ」

 

「……それ、俺のせいなのか?」

 

そう質問すると、全員そろって頷いた。 解せない……

 

「とまあ、こんな時だからこそ男だけでしか話せない事も偶には話したいよなあ」

 

「? それってどういう事だ?」

 

「そりゃもちろん……好みのタイプ女子の話しさ!」

 

「ーーとっとと終わらせて帰るぞ」

 

付き合ってはいられず。 リヴァンの豪語を聞き流して、手元の書類に目を落とした。

 

「まあまあレンヤ。 実際レンヤの周りには魅力的な女子が多いでしょ? 結構前から気になっていたんだよねー」

 

「……なのはとは家族同然だし、フェイト達はただの幼馴染だ。 それ以上もそれ以下もない」

 

「うーん、もうちょっとないのかな? なのは達に恋愛感情があるのかないのか」

 

シェルティスにそう言われ、ピタリと作業の手を止めてしまう。 なのは達が好きって言われればもちろん好きだが……Likeの方でLoveではない。 だがそう考えると、どうしても何かが引っかかるような気がしてならない……

 

「もうそれぐらいにして下さい。 あまり褒められた行為ではありませんよ?」

 

「……了ー解。 さて、仕事を再開しますか」

 

「ごめんねレンヤ。 変な事聞いちゃって」

 

「……………いや。 気にしないでくれ。 それに気になっても仕方ないさ」

 

「あ、僕も何か手伝うよ」

 

「ああ、ならお願いするよ。 そこのーー」

 

そして静かな戦闘は夜まで続き……何とか夕食までには終わらせて寮に帰れた。

 

「ただいまー」

 

「あ、パパ! おかえり!」

 

玄関先のソファーで絵本を読んでいたヴィヴィオが俺達に気付き、こっちに向かって駆け出し元気よく飛び込んで来た。

 

「おっと……相変わらず良いタックルだ」

 

「えへへ」

 

「おかえりなさい、皆。 今はやてちゃんが夕食を作っている所だから、夕食前に手を洗って来てね」

 

「分かりました」

 

「ふう、やっとメシだ……」

 

一度部屋に戻って荷物を置こうとすると、ヴィヴィオがそのまま引っ付いてついて来た。

 

「ヴィヴィオ、日曜学校は楽しいか?」

 

「うん! ユノちゃんの他にもおともだちがい〜っぱい! できたんだよ!」

 

「そうか……」

 

友達もでき、楽しそうに過ごせているのなら安心だ。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「しんぷさんとシスターさんが姫様ってよんでくるのが……」

 

「ああ……」

 

真偽はどうあれヴィヴィオはおれの娘、聖王の娘として広まってしまい。 結果、ヴィヴィオがベルカの人達から姫と呼ばれている。 だが強く否定するとまた面倒になってしまい、結局そのままになっている……

 

「ごめんなヴィヴィオ。 嫌だとは思うけど、そこはなんとか我慢してくれないか? これはヴィヴィオの為でもあるんだ」

 

「うーん……? ……分かった! だからパパ、こんどパパのお菓子を食べさせて!」

 

「……はは、了解。 とびきり美味しいのを作ってやる(純度の高いミードと大き目のサンエッグを使おう)」

 

娘の可愛さに負けて異界の食材を使おうと決めた時、扉がノックされ……フェイトが入って来た。

 

「レンヤ、そろそろご飯が出来るよ」

 

「ああ、すぐ行く」

 

「あ、ヴィヴィオも一緒だったんだ。 急にどこ行ったか心配したんたから」

 

「ごめんなさーい、フェイトママー」

 

「もう、本当に反省しているの?」

 

フェイトに注意されているのに、ヴィヴィオは笑顔で返事をし。 フェイトを困らせる。 そんな2人を押して食堂に向かい、先にいたなのは達と夕食を食べた。

 

「やっぱはやての料理は美味いなあ!」

 

「うん、また腕を上げたんじゃないの?」

 

「えへへ、そうかあ? 自分だとよく分からへんけど嬉しいなぁ」

 

はやての料理に舌鼓を打ち。 食後のお茶を飲んでいる時、アリシアが話を切り出した。

 

「そういえば聞いた? なんでも異界対策課の入隊希望とレルム魔導学院の入学希望者が激増しているって?」

 

「ああそれね。 VII組設立以降からその傾向はあったけど……D∵G事件を皮切りにうなぎ登り状態よ」

 

「うわー……倍率がとんでもない事になりそうだね……」

 

狭き門がさらに狭くなるのか……こりゃ大変だな。

 

「あー、その事なんだがな……」

 

テオ教官が食器を置き、咳払いをした。

 

「どうやら来年度のVII組の入学は取り止めになったそうだ」

 

「え!?」

 

「な、なんやて!?」

 

「えぇーーー!?」

 

「ど、どういう事ですか!!」

 

「VII組が……無くなるのですか!?」

 

テオ教官は慌てて皆を手で抑えた。

 

「おいおい、落ち着け。 アリシアが言った通り入学者が激増しているが……当然学院(ウチ)はその全てを受け入れられない。 そして今回の事件を気にレルム魔導学院は本格的に戦術的な、そして武術も視野に入れたカリキュラムを組むことなり。 結果……分校を新設することが決まった」

 

「分校……ですか?」

 

「ああ。 場所はこことは真逆、クラナガン西郊にあるミートス。 そこにレルム魔導学院・ミートス第II分校を設立することが決定した」

 

「な、なるほど……」

 

学院も学院で対応が忙しくなっているのか。 しかし分校と本校のVII組が消えるという事は……

 

「つまり、VII組は分校に移動する事になるんですね?」

 

「ああ、建設は来月から始まり、完成は2年後くらいだ。 その間に現1、2年のVII組は卒業している頃だから、ちょうどよく入れ替わる事が出来る」

 

「これも、時代の流れですかね……」

 

「まあ、学院はこんな感じだが……レンヤ、お前の方はどうなんだ?」

 

そこでテオ教官が俺に話を向ける。 俺の方というと……異界対策課の方だろう。

 

「……そうですね。 無闇に新人を入れては本末転……機動六課の事もありますし、一時活動停止するしかないです」

 

「信頼できる人物が入れば、その限りではないんだけど……」

 

「ーーそれなら、私でよければ引き受けますよ?」

 

一時活動停止しか方法がないと悩んでいた時、ユエが手を上げてそう言った。

 

「私は学院卒業後は異界対策課に所属しようと思っていました。 私だけでは心許ないとは思いますが、どうか検討してはくれませんか?」

 

「心許ないわけないよ! むしろ心強いくらい!」

 

「なら僕も手伝うよ。 僕は卒業後は情報局に所属しながら無限書庫の検索も兼任することになっているんだけど……もう一個くらい兼任しても問題はないよね?」

 

「俺もやるぞ。 対策課の仕事は中々面白いからな」

 

「僕も本局と兼任しながら、対策課を手伝うよ。 異界対策課が活動停止するなんてあり得ないからね」

 

「皆……」

 

4人が協力してくれる事に感謝するが、それでもまだ問題は残っている。

 

「……ツァリ達が協力してくれるのはありがたい、とはいえ……正式に2人、手伝いで2人だと厳し過ぎる。 ソフィーさんの要望でベルカの騎士を派遣させてもらう事もできるが、それでも数人。 新たに新人を入れる必要もあるが……」

 

「試験はもちろんやるとしてもいきなりグリード関連に当たらせることは出来ないわ。 何らかの対策が必要になるわね……」

 

「ん〜……ランク制なんてどうかな? その人の実力に合った依頼を受けさせるの」

 

「あ、それいいね! それなら新人でも安心できるよ!」

 

なのはの提案に、アリシアは納得する。 確かにそれなら自分の適正に合った依頼を受けさせる事が出来る。

 

「むう、パパ達! 今はごはんのじかんだよ!」

 

「あ……ごめんねヴィヴィオ。 ちょっと盛り上がっちゃった」

 

「確かに今する話じゃなかったな。 すまんヴィヴィオ」

 

「せやな、冷めてまう前に早う食べよ」

 

話を切り上げ、夕食を再開した。 やるべき事はいっぱいあるが、仲間達と手を取り合って行けばきっと乗り越えられる。 なせば大抵何とかなるだろうが……今はこの時を楽しんで行こう。

 

 

 



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140話

 

 

あれから瞬く間に俺達の日常は月日が経ち、慌ただしい業務もようやく落ち着いて来た。 そして、学院生活も順調、機動六課の設立も順調に進んで行っている時のとある日、俺達の元にある情報がもたらされた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦75年、2月上旬。 第3管理世界・ヴァイゼン。 首都西郊、森林地帯ーー

 

生い茂った手付かず草木が周りにある中、この管理世界にいる管理局員の先導の元、道無き道を通り……

 

「ーー到着しました」

 

「…………!」

 

目的地に到着した。 進行方向の先にあったのは洞窟だが、門が構えてあり。 人の手が加えられている事がわかる。 あそこはD∵G教団、旧ヴァイゼン・ロッジ……

 

「……こんな辺鄙な場所にあったのか」

 

「ここが、ヴァイゼン・ロッジ……」

 

「6年前に教団が放棄した場所だね……」

 

「なんて悪趣味な門構だ……」

 

ロッジまで歩きながら、それぞれが第一印象を呟く。 目の前まで来ると、案内人の管理局員が振り返った。

 

「自分の案内はここまでです。 16:00まで連絡がなく、定刻を超えた場合……こちらの部隊が制圧に参ります」

 

「了解した」

 

「案内ご苦労。 後は任せてくれ」

 

「はい。 皆さんの事ですから心配は無用だと存じますが……どうかお気をつけ下さい」

 

管理局員は敬礼をすると、来た道を引き返して行った。

 

「ーーどうします? このまま踏み込みますか?」

 

「ああ、もはや猶予もない……ティーダ。 奴らの罠や仕掛けなどはどう思う?」

 

「恐らくあるだろう。 だが奴らも6年前のここを全て把握している訳ではない……奴らが罠で時間を取られている可能性も考慮してもいいだろう」

 

「ですが、徘徊しているグリードの方はーー」

 

気配を感じ、すぐさまレゾナンスアークを起動。 バリアジャケットを纏い、刀を抜く。 次の瞬間……ロッジ内からグリードが出て来た。 グリードを確認した3人も同様にデバイスを機動して武器を構える。

 

「これは……!?」

 

「グ、グリード……!」

 

「ロッジの地下にいた個体だよ……!」

 

「ーー来る!」

 

二体の単眼で球体状の歪んだ身体を持つグリード……ビジョウが襲いかかってきた。

 

「はあああっ!」

 

だがあの事件と同種のグリード。 半年以上経過して、俺達は訓練を積んでさらに力を付けた。 二体程度では相手にならず……刀を振り下ろし、最後の一体を倒したのを確認する。

 

「くっ……まさか今のグリードは!?」

 

「レンヤ、もしかして……」

 

「ああ、太陽の砦の地下で徘徊していたのと同じ種類だ。 どうやら“あの人達”がここに逃げ込んだのは確実みたいだ」

 

「ふう……往生際の悪いことだ」

 

だが、エリンがその往生際をしている何かがここにあるのかもしれない。 そうなるとやはり……

 

「ーー時間がない。 とにかく入るぞ。 今なら間に合うはずだ」

 

「はい……!」

 

「分かりました!」

 

目的を確認し、俺達はロッジに入って行った。

 

俺達がこの地に訪れたのは第4管理世界・カルナログからの連絡がきっかけだった。 D∵G事件の定か、カルナログへ亡命していたアザール元議長及び元統幕議長秘書エリンがカルナログ政府からの追放処分をうけたのである。 そして何故か、2人は新たな潜伏先としてヴァイゼンを選び……急遽、新市長によってヴァイゼン政府との協議が極秘裏に行われ、2人の逮捕が執行される事となった。 しかし、極めて複雑な問題を持つため、逮捕は正規の指揮系統から外れている異界対策課に任される形となり……さらに管理局の陸、海、空が協力する異例の形で捜査体制が整えられたのだった。 そしてヴァイゼンでの捜査から数日ーー俺達はアザール、エリン両名が教団の旧ロッジ跡に向かった事を突き止めた。

 

「ここは……」

 

洞窟の中に入ると、中はどうやら鍾乳洞のようで。 それに加えて辺りには宗教的な装飾が多々あった。

 

「鍾乳洞だね……でも、人の手が入っているよ」

 

「元々は数百年前に使われていた石窟寺院跡だったようだ。 それをD∵G教団が改修し、儀式を行うロッジとして利用した。 6年前まではな」

 

「教団が謎の組織に襲撃された時ですね。 今となっては奴らの儀式の痕跡もほとんど無くなっているでしょう」

 

「何だか今でも信じられないよ……そんな事があったなんて」

 

「……どこまでも最悪な連中だったようだな」

 

そう、どこまでも妄想に取り憑かれた哀れな連中……だがそれでも、奴らの所業が許される事はない。

 

「ーーティーダさん。 2人が向かっているとしたら、恐らくロッジの最奥にある祭壇なのでは?」

 

「ああ、その可能性が高いだろう。 太陽の砦にあったような不思議な祭壇が……アザールはともかく、エリンがそこを目指していても不思議ではないだろう」

 

「……ええ」

 

「ひょっとして、ネクターも関係しているのでしょうか?」

 

「その可能性も否定できん。 どうやらエリンはホアキンからネクターをかなり受け取っていたようだ。 それも翠色のではなく、紅色のを」

 

紅色のネクター……エリンやホアキン、マフィア達を魔人に変えた薬か。

 

「……場合によっては同行しているアザールの身が危険かもしれない。 取り返しがつかなくなる前に何としても2人を拘束しよう」

 

「うん!」

 

作戦決行するため、準備を整え……

 

「よしーーそれでは始めましょう」

 

捜査開始の合図を言うべく、3人の前に立った。

 

「地上本部捜査部所属、ゼスト・グライカンツ三等陸佐」

 

「うむ」

 

「本局執務官所属、フェイト・テスタロッサ執務官」

 

「はいっ!」

 

「空域本部航空武装隊所属、ティーダ・ランスター三等空尉」

 

「ああ」

 

3人の所属と名と階級を言い、捜索参加を確認する。

 

「これより次元管理局、異界対策課による強制捜索、及び逮捕任務を執行します。 逮捕対象は、アザール元議長、及びエリン元統幕議長秘書の2名。 期限は本日16:00ーー各自全力を尽くしてください!」

 

「分かった……!」

 

「はいっ!」

 

「了解した!」

 

そして、俺達は両名の逮捕するため先に進んだ。 先に進みながらメイフォンで時刻を見て、まだ来ないかと嘆息するが……気にし過ぎてはいられず進み。 途中、岩の扉を開けてそのまま通路を抜けると……

 

「こ、これって……」

 

そこにあったのは、何らかの実験装置だった。 手入れもされてなく放置されていた為、所々錆びて壊れてしまっているが……

 

「もしかしてこれが……」

 

「奴らの実験の名残りか。 ネクターを投与された子ども達が非道な方法で何人も犠牲になった、な」

 

「くっ……外道どもが」

 

「D∵G教団……やっぱり、許せない……!」

 

「……………………」

 

フェイトが固く拳を握り締め、俺は装置を見つめる。 もしかしたら、ここでクレフが……だが、今はそこまで気にしていられず。 雑念を頭から振り払う。

 

「……エリン達が何をしようとしているのか分かりませんが……2度と、この場所を利用される訳にはいきませんね」

 

「ああ、勿論だ」

 

「必ず阻止しよう……!」

 

「よし、先を急ぐぞ!」

 

改めてD∵G教団の所業を確認しつつ、歩みを進め。 途中、それなりに手強い恐竜型のグリードの群れと遭遇したが……俺やフェイトはもちろんの事、ベルカの騎士であるゼストさんと武装隊のエースであるティーダさんも全く引けを取らず、グリードをあっという間に制圧した。

 

「ふう、こんなものか」

 

「俺達も、まだまだ捨てたもんじゃ無いですね」

 

大型の恐竜型のグリードを相手にしたにも関わらず、2人は息を荒げる事もなく全然余裕そうに見える。 グリードとの戦い方はともかく、戦闘においては2人の方が上を行っているな。

 

(……2人共流石だね)

 

(ああ、俺達と全く引けを取ってない)

 

「ん? どうかしたか?」

 

「いまの戦闘で怪我でもしたか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「問題ありません」

 

「そうか……お前達の事だから心配は要らないと思うが無理はするなよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

気を取り直して、先を見据える。 そろそろ追いついてもおかしくはない頃だが……

 

「さて、そろそろ中間地点だろう。 とっとと追いつくぞ」

 

「了解です」

 

グリードを退けながら先に進み、開けた場所に出ると……そこにはエリンに押され、怯えながら歩かされているアザールがいた。

 

「エ、エリン君……いい加減に解放してくれ……! も、もう私は付き合いきれん!」

 

「やれやれ、困りますねぇ議長。 貴方にはミッドチルダの政界にちゃんと返り咲いて頂かないと……この私が次期市長となるためにもね」

 

今もまだ幻想を抱いているエリンにアザールが引き摺り回されているような感じだな。

 

「い、いい加減にするがいい! ミッドチルダの政界に返り咲く!? 今更そんな事が可能だと思っているのか!? ましてや貴様ごときがあのアトラス・オルムから市長の座を奪えるはずがなかろう!?」

 

「クク、簡単なことですよ。 人の身では叶わなくとも、真なる“神”に近付けば容易い……あらゆる因果を見通す真理があればどんな現実も思いのままになる……そう、かの偉大なるホアキン・ムルシエラゴ師のようにね!」

 

「く、狂っている……」

 

「させるか……!」

 

俺達は急いでエリンの元に向かった。

 

「お、お前達は!?」

 

「フフ、追いついてきたか。 お久しぶりと言っておこうか。 レンヤ君、フェイトさん、それにゼストさん。 ヴァイゼン首都での捜査はご苦労だったわね」

 

「エリン、あんた……」

 

「我々が追っているのに気付いていたというのか?」

 

「フフ、全ては偉大なるネクターの力によるもの。 君達が我々の行方を追ってヴァイゼンを訪れたこと……そして我々の動向を突き止めて政府の許可を得てからここまで追って来たこと……全てお見通しなのよ!」

 

「くっ……」

 

「どうしてそこまで……」

 

「どうやら意味の分からない知覚で俺達の動向を察知していたようだな」

 

「つ、つまりお前達は管理局の人間というわけか」

 

明らかにその発言は俺達、管理局の事に興味がなかったような発言だが、アザールは嫌そうな顔を横に振る。

 

「……ええい、背に腹はかえられん! 頼む、素直に投降するからこの狂人を取り押さえてくれ!」

 

「おやおや、狂人とは失礼ですね」

 

「言われるまでも無い……」

 

一歩前に出て、懐から徽章を取り出してエリンに見せるように前に突き出す。

 

「ーーアザール元議長、及びエリン・プルリエル! 次元法改正項目に基づき、拘置所脱走、及び多数の余罪であなた達の身柄を拘束する。 大人しく投降してもらうぞ!」

 

「フフ、そう焦るものじゃ無い。 今日、私はホアキン師の跡を継いでDへの扉を開く事になる……余興はそれからでも遅くなかろう!?」

 

「なに……?」

 

ティーダさんが怪訝に思う中、エリンは剣を構えると……足元に魔乖咒の魔法陣が展開され。 左右に一体ずつ、翼を有した人形型のエルダーグリード……

 

「ひ、ひいいっ!?」

 

「こ、これって……!」

 

「グリードの一種か!?」

 

「ホアキンが従えていたエルダーグリードの強化種か……!」

 

「フフ、あれよりも遥かに強力な個体だけどね」

 

剣を納め、エリンは腰を折って礼をした。

 

「ーーそれでは皆さん。 我々は先に行かせてもらもらいますよ。 ホアキン師が遺した守護者の力、とくと味わうといいわ!」

 

エリンは踵を返し、嫌がって叫び喚くアザールを引き摺って奥へと向かった。

 

「ああっ!?」

 

「クッ、逃すか……!」

 

追おうとするが、二体の……レグナ・ヴリエルが魔力を溜め、行く手を塞ぐ。

 

「どうやら尋常な相手では無さそうだな……全力で撃破するぞ!」

 

「はいっ!」

 

時間をかける訳にはいかないが、勝負を急ぐと隙ができ……取り返しのつかない事になりかねない。 虚空で辺りの空間全体に意識を向け、レグナ・ヴリエルの攻撃を避け……無手で懐に入る。

 

落柊(らくひいらぎ)!」

 

顔面の左を裏拳で殴り。 瞬転、下半身を右から回し蹴りし体勢を崩し……胸ぐらを掴んで背負い投げを繰り出し、レグナ・ヴリエルを地面にめり込ませ。

 

「バルディッシュ!」

 

《ザンバーフォーム》

 

フェイトはバルディッシュを大剣に変形させ、もう一体のレグナ・ヴリエルに斬りかかった。 レグナ・ヴリエルは避け、弾きながら後退して行き……その先にティーダさんが控えていた。

 

「おらあっ!」

 

ティーダさんが中型の銃剣を構えると……フェイトはその場から離れ。 銃剣を片手で振り回し、斬り裂きながら魔力弾を撃ち込んでいく。 と、そこでもう片方のレグナ・ヴリエルが埋もれたまま、上から大玉くらいの氷球を落として来た。

 

「やば……」

 

《モーメントステップ》

 

「くっ……!」

 

《ソニックムーブ》

 

高速でその場から離れると、着弾地点から巨大な氷柱が飛び出していた。

 

「むんっ!」

 

埋もれているレグナ・ヴリエルに、ゼストさんが胸に槍を突き立て……レグナ・ヴリエルは消滅していった。 ティーダさんが攻撃を続けているレグナ・ヴリエルは瞬間的に回復し、銃剣を弾いた。

 

「なっ……!」

 

弾かれたのに驚愕するティーダさん。 だがすぐに顔を引き締め、レグナ・ヴリエルの反撃を後退して避ける。

 

「プラズマバレット!」

 

間髪入れず、フェイトが雷の魔力弾を全方位から放ち……

 

棘楡(とげにれ)!」

 

針のように放たれた蹴りが胴体に突き刺さり、倒れながら地面に埋まり……レグナ・ヴリエルは消滅した。

 

「くっ……時間を取られたか!」

 

「よし、追いかけるぞ!」

 

ゼストさんとティーダさんは急いでエリンが向かった通路に向かって走った。

 

「あ!? ちょっと待ってください!」

 

「レンヤ、早く抜いて……!」

 

先ほど放った蹴りのせいで足が地面に嵌まり、フェイトに引っ張ってもらって抜こうとする。

 

「何をやっている! 急いでーー」

 

「! ゼスト、上だ!」

 

ゼストさんが遅いと注意した時……頭上から何が落ちてくるのを感じ。 ティーダさんの警告で、ゼストさんは上を見る事もなく後退すると……上から突然大粒の土砂が降って来た。 ゼストさんは逃れる事が出来たが……通路は完全に塞がれてしまった。

 

「み、道が……!?」

 

『こちらレンヤ! ゼストさん、応答お願いします!』

 

『……こちらゼスト。 問題ない、ティーダ共に無事だ』

 

地面から足を引っこ抜き、すぐさま念話で安否を確認し……無事だと分かるとホッとする。 が、どうやら先ほどの戦闘の衝撃で脆くなった地盤が崩落したようだ。

 

『土砂は退かせそうか?』

 

『出来なくはありませんけど……そうした場合、二次災害の危険があります』

 

『……そうか。 こうなっては仕方ない。 お前達は何とか迂回路を探せ。 私達は先行している』

 

『了解しました。 どうかご無事で……!』

 

念話を切り、辺りを見渡し……別の通路を見つける。 あそこからならもしかしたら最奥に続いているはずだ……

 

「よし、あそこから行ける。 早く2人と合流しよう」

 

「うん!」

 

分断されてしまったが目的は変わらず、俺とフェイトは先に進む。 その途中、歩いている最中に足元から気配がし……フェイトもそれに気付き飛び退くと。 その場所から植物型のグリードが触手を伸ばして飛び出て来た。

 

「はっ!」

 

「やあっ!」

 

一瞬でグリードの前に接近し、同時に刀と鎌を振り下ろし……刃が交差するようにグリードを斬り裂いた。

 

「こんなものか……」

 

「ゼストとティーダは大丈夫かな……?」

 

「あの2人なら問題ない。 俺達より年長者だし、実力も分かっている。 余程の事がない限りは大丈夫だろう」

 

ゼストさんの槍の腕は達人並みだし、ティーダさんの銃剣も以前より磨きがかかっていた。 そんな2人がやられるなんて……考えるだけで杞憂かもしれない。

 

「それにしてもさすがフェイトだな。 あの一瞬で俺と合わせてくれるなんて」

 

「そ、そうかな? レンヤだから次に何をするか分かっただけで……」

 

「アリシアと同じくらいこっちも合わせやすかった。 やっぱり姉妹だからかな?」

 

「あはは、さすがにそこまでは……」

 

フェイトは手振りで否定するが、強ち間違いではないかもしれない。 こうして並んで戦うと、フェイトとアリシアはやっぱり姉妹だと実感できる。

 

「姉さんか……今頃、六課の稼働準備中なんだろうね?」

 

「ああ、そのはずだ。 アリシアが居てくれたらーーいや、アリサにすずかもそうか。 それになのはとはやて……あの5人がここに居てくれたら恐いものなしなんだけどな」

 

「ふふっ、確かに。 考えてみると異界対策課って本当にバランスが良いよね? 役割がきちんと分かっているから、どんな状況でも対応できそうだよ」

 

「実際、ずいぶん助けられたな。 戦闘以外でも、色んな方面で得意分野が違っていたし……」

 

互いが互いを支え合い、力を重ねて今までやって来た。 誰1人として欠ける事の出来ない大切な仲間達……

 

(皆……今頃頑張っているかな?)

 

そう心の中で思いながら先に進むと、進行方向に岩の扉があった。

 

「これは……」

 

「また扉か……」

 

少し嘆息しながらも扉の前に行き、軽く押してみるが岩の扉は固く閉ざされている。 崩落の危険もある為力強くで開ける訳にもいかない。

 

「駄目か……おそらく、入口近くの扉と同じように解除する装置があるはずだ」

 

「うん、探してみよう」

 

軽くサーチャーで辺りを捜索すると、それらしき装置を見つけた。 すぐに向かおうとした時、フェイトが何やら考え込んでいた。

 

「それにしても……ゼスト達のほうはどうなっているのかな?」

 

「あの2人なら滅多な事じゃ遅れを取ることはなさそうだけど……敵はネクターを使っている上に、あんな危険なグリードも呼び出せる。 楽観は出来ないかもしれないな」

 

「そうだよね………ふう、こんな時にメイフォンで連絡が取れたらよかったんだけど」

 

「通信機能が使えるのはミッドチルダと中継地点がある次元世界だけ、ここにはまだその設備は整えられていないからな。 念話もこの場所じゃ近距離でしか使えないし。 改めて考えると通信という物は凄く便利だったんだよな。 皆からのサポートも滞りなく受けられたし」

 

「そうだね……皆、ちゃんとやっているかちょっと心配だね」

 

「はは、ヴァイゼンへ出発するまえ、ヴィヴィオとプラットホームまで見送りに来た時か。 仕事を放り出して来たからな……」

 

心配してくれるのは嬉しいけど、何も全員で見送る事はなかっただろうに……

 

「あはは……ヴィヴィオと一緒に次元艦に乗り込もうとしてきたね」

 

「今回、ヴィヴィオは珍しく駄々をこねてたからな」

 

離れたくない気持ちは分かるが、何とかなのは達の説得で抑える事は出来た。 泣きそうなヴィヴィオの顔を思い出すと心を締め付けられる……

 

(けど、無事で帰って来るって約束したからな)

 

ヴィヴィオと交わした大切で、絶対に破ってはいけない約束……俺はそれを守るため、そして守り抜いた上で任務を達成させる。

 

「大切な人達がミッドチルダで俺達の事を待っている……何としても任務を達成して、無事な顔を見せてやらないとな」

 

「……うん!」

 

改めて約束を確認した後、サーチャーで見つけた装置がある場所に向かった。 そこにはレバーがあり、レバーを入れるとこことは別の場所が動いた音がした。 おそらく先ほどの場所にあった岩の扉開いたのだろう。 戻ろうとした時、行く手をグリードを塞いでいた。

 

「はっ!」

 

「やっ!」

 

先ほどと同じように瞬殺しようと刀を居合いで抜き、フェイトも鎌を振り下ろすが……思った以上に敵グリードの甲殻は固く、弾かれてしまった。

 

「固い……!」

 

「フェイト、離れろ!」

 

《ドライブウェッジ》

 

「はあああっ!」

 

短刀を殴るように放ち、刃がグリードの固い甲殻に突き刺さった。

 

「カートリッジ……」

 

《イグニッション》

 

短刀に内蔵されているカートリッジが炸裂し、グリードの内側から衝撃を与え……グリードの甲殻がみるみるひび割れていく。

 

「フェイト!」

 

《サンダーアーム》

 

「やああああっ!」

 

左手に雷を纏わせ、グリードを殴ると……グリードは吹き飛び、甲殻がバラバラに飛び散り、消滅していった。

 

「よし……!」

 

「ふふっ、お疲れ様」

 

辺りにグリードがいないか確認した後、デバイスをしまい。 フェイトから労いの言葉をもらう。

 

「それにしても……エリンは本当に何が狙いなんだろう? どうやら元議長の方は無理矢理付き合わされているみたいだけど」

 

「……分からない。 ただ、ホアキンと同じ力を手に入れようとしているのは確かみたいだ」

 

「ホアキンと同じ力……マフィアや警備隊を操っていた力かな?」

 

「ああ、それも危険だったけど、さらにタチの悪い力がある。 人の心や背景を“視る”力だ」

 

自分の心を無断で侵入されているようで……とても心地の良いものでない。

 

「あ……! それって凄くマズイよね……?」

 

「ああ、ある意味どんな風にも悪用できる能力だろう。 それどころか……」

 

「……未来を視る力……」

 

フェイトの呟きに、無言で頷いて同意する。 あの力の真相は分らない……はやての推測ではハッタリ、虚言の可能性は低いと考えているが……

 

「いずれにせよ、エリンにホアキンと同じ末路を歩かせる訳にはいかない。 絶対に……生かして捕まえないと」

 

「レンヤ……ホアキンが死んだのは別にレンヤのせいじゃ……」

 

「それでも……死なせずに捕まえることは出来たんじゃないかと思ってさ。 今更なのは重々分かっているけど……」

 

「………………………」

 

「はは、落ち込んでいるとアリシアとアギトにまたどやされるな」

 

次に入れらる喝は全力の魔力弾かもしれないな……

 

「ーー先を急ごう。 ティーダさん達と合流しないと」

 

「うん……!」

 

先を急ぎ、閉ざされていた岩の扉があった場所に戻り。 開かれていた扉を通り抜け……このロッジの最奥、祭壇の間に辿り着いた。

 

(あ……!)

 

(いた……!)

 

その祭壇の前に、エリンとアザールがいた。

 

「クク……ホアキン師から聞いた通りだ。 この場所なら私の目的も万事滞りなく達せられるだろう」

 

「クッ……いい加減にしないか! ホアキンといい貴様といい、気が触れたようなことを……! き、貴様らの妄想に私を巻き込むんじゃない!」

 

「ハハ、あなたこそ人の事をとやかく言える立場ですか? 楽園でしたか……あんな場所を利用していた割にはずいぶんと偉そうな物言いですね?」

 

……結局、アザールも旨い汁だけを吸っていた……ただの独占者だったわけだ。

 

「あ、あれは教団に手先に騙されて連れて行かれただけで……あんな悪趣味な場所と知っていれば、断じて首を突っ込んだりしたものか! おまけに妙な薬まで盛られて……わ、私の方こそ完全な被害者だ!」

 

「やれやれ、そのような釈明が世間に通用すると思いですか? ミッドチルダタイムズが独占取材したらさぞ盛り上がってくれるでしょうね」

 

「ぐっ……」

 

「そこまでだ……!」

 

俺達はデバイスを構え、エリンの元に向かう。 祭壇は太陽の砦と似てはいるが、細部の形状が所々異なっている。

 

「おお、お前達は……!」

 

「おやおや、あなた達ですか。 面倒な連中を撒いたと思ったらさらに面倒な奴らが紛れ込んで来たものね」

 

「その巨大な祭壇……ここがロッジの最奥か。 ティーダさん達はどうした!?」

 

「ああ、武装隊のエースと槍神どのね。 さすがに厄介だったから足止めさせてもらったわ。 今頃、グリード10体を相手に翻弄されている頃でしょうね」

 

「なっ……」

 

「あのグリードを10体も……」

 

ゼストさんとティーダさんなら、負ける事はないと思うが……応援は望めないだろう。

 

「おかげで師から受け継いだコマを使い切ってしまったけどね。 けど、あなた達ならともかく、あの連中も確実に始末できるわ。 私はゆっくりと、この聖なる場所で目的を果たさせてもらうとしよう」

 

「させるか……!」

 

「武器を捨てて投降しなさい!」

 

フェイトはバルディッシュを突きつけて投降を促すが……エリンは身体から魔乖咒を放ち、眼の色を血のような赤い色に変色させた。

 

「やれやれ……状況が判っていないようね。 それにしても、他のメンバーの姿がなぜ見えないかと思っていたけど……なるほど、八神 はやての企てに協力しているようね」

 

はやての夢を企てと言われ、怒りがふつふつと湧いてくるが……今はそんな場合ではなく。 頭を振り払い、エリンを見据える。

 

「っ……!」

 

「私達の記憶を……!」

 

懸念はしていたが、どうしても防ぎようがなかった。

 

「さらに新市長と統幕議長による新たな体制・法案作りへの協力……なるほど、そうする事でこれまで以上に対策課が動きやすい政治的な足場をつくるつもりね。 新市長の提案らしいが、なかなか興味深い試みじゃないの」

 

「…………………………」

 

「しかし、これだけの人材を管理局ごときに埋もれさせておくのは愚かとしか言いようがないわね。 よし、私が市長になった暁には異界対策課は解体させてもらおう。そして私の専属秘書には……あなたがいいわ」

 

「なっ……!?」

 

エリンは俺に指を差し、フェイトは突然の事に驚愕する。

 

「あなたの才能はどの分野でも力を発揮できる、ここで捨て置くのはもったいない……ええ、それがいい。 それがいいわ!」

 

「ふざけないで……! あなたのふざけた妄想にレンヤを付き合わせるものか!」

 

(フェイト、凄い剣幕……)

 

「フン……そもそも、あなたのような小娘が釣り合うわけないわ。 彼は血筋も由緒正しく、器量も良い……ここで悪い芽の1つは摘ませてもらうわよ」

 

エリンは剣を抜き、魔乖咒を膨れ上がらせると……一瞬で怪異化した。

 

「ひいいいっ……!?」

 

「これって……!」

 

「紅いネクターによる怪異化!」

 

『フフ、この聖なる場所ではいつもの覚醒も殊更心地よい……大いなる望みを叶える前のささやかな供物……せいぜい足掻いて、もがいて、のた打ち回ってもらう!』

 

「そうはいくか……!」

 

《オールギア、ドライブ》

 

「あなたなんかに……レンヤは渡さない!」

 

最初から全てのギアを駆動させて魔力を上げるが……隣にいたフェイトが今まで見たことのない怒りを露わにする。 エリンと同時に飛び掛かり、剣とザンバーフォームのバルディッシュが衝突、火花を散らす。

 

『あら、嫉妬かしら?』

 

「うるさい!」

 

怒りの形相で大剣を振るうフェイト。 それを今の所理性があるエリンが余裕で受け流し、避ける。 エリンがカウンターを入れるが、フェイトの持ち前のスピードで避ける……だが、あまりにもフェイトらしくない。

 

「フェイト、冷静になれ! エリンは挑発してお前のペースを乱そうとしている!」

 

『未だに思いを伝えられないなんて……なんて健気な子なのかしら!』

 

「っ!!」

 

《サー!》

 

またエリンに煽られ、バルディッシュの制止も聞かず段々とスピードは上がって行くが、動きが単調になって来ている。 このままではマズイ……魔力を練り上げ、勁に変換し。 大きく息を吸い込み……

 

「フェイト!!!」

 

『ッ……アアアアッ!? う、煩い!!』

 

(ビクッ!?)

 

内力系活剄・戦声(いくさごえ)

 

一度仕切り直すため、空気を震動させる剄のこもった大声を放つ威嚇術を放った。 聴覚といった五感が良くなり過ぎた影響か、エリンは耳を抑えて苦しみ。 名を呼ばれたフェイトは一瞬身体を竦ませる。 2人の攻撃の手が止んでいる隙に、間を割って入り……エリンに蹴りを入れて吹き飛ばした。 そしてフェイトの方を向き、フェイトの肩に手を置いた。

 

「フェイト。 なんで怒っているのかはわからないけど……俺はエリンの物になったりしないし、連れて行かれたりもしない」

 

「レンヤ……」

 

「なんだ? 信用できないのか? それはちょっとショックだな〜、何年も一緒に過ごしてきたのに……」

 

「えええっ!? し、信じる! 信じるよぉ……!」

 

「はは、それでこそフェイトだ」

 

ポンポンと、ヴィヴィオを慰める時のように軽く叩きながら頭を撫でる。

 

「も、もうレンヤ……///」

 

『ーー私を無視してんじゃないわよ!』

 

「っと……」

 

背後から振り下ろされた剣を、振り返り際に刀で受け止める。

 

「別に無視はしてない。 ちゃんと気配で把握していた」

 

『その余裕、気に食わないね!』

 

剣に滅の魔乖咒を纏わせ、左から振られて来た。

 

天松(あまつ)!」

 

ギリギリのところで転がるように避け。 地面に空いている左手を着き、逆さの体勢でエリンの顔面に踵を落とした。

 

『グウ……貴様アアァッ!!』

 

「おっと……」

 

激情し、無差別に手から紫電を放って来た。 以前、見た事のある技だったので、注意しながらフェイトの元まで後退する。

 

「うむ、さすがに女性の顔に蹴りを入れちゃマズかったかな?」

 

「男性でもダメだと思うよ……」

 

エリンは剣を逆手に持って頭上に掲げた。 あの構えは……闇神楽。 剣を地面に刺して魔法陣を展開、中にいる者の生命力を奪い取る技だ。

 

『させるか!』

 

フェイトも同じ答えに辿り着き、ほぼ同時に飛び出した。

 

《ライオットザンバー》

 

《トライダガー》

 

フェイトはバルディッシュを変形させて柄が魔力ワイヤーで繋がっている双剣に。 俺は三本の短刀を展開、左手の指の間に挟んで三本同時に握る。

 

《ロードカートリッジ、スパークブレイド》

 

「はあああっ!」

 

カートリッジを炸裂させ、雷を纏った双剣で何度も斬り裂く。

 

《ブレイククロウ》

 

「せいっ!」

 

フェイトが離れと同時に三本の短刀に魔力を走らせ、獣の爪のように振り下ろし……エリンの胸に甲殻を砕くように三本の傷跡を付けた。 だが……

 

『…………ククク……ハーッハッハッハッハッ!』

 

強力な魔法をぶつけたというのに、エリンは発せられは魔乖咒の量は減らず笑い声を上げている。

 

「これは……!」

 

「ぜんぜん効いていない……!?」

 

「ひ、ひいいいっ……!」

 

怪異となったエリンが恐ろしくなったのか、アザールは情けない声を上げながら逃げようとするが……

 

『おやおや……勝手な退場は困りますねぇ。 あなたが好き勝手していたミッドチルダ議会ではないのだから』

 

エリンは左手をアザールに向け、魔乖咒の弾丸を放ち……アザールの足元に着弾、爆発してアザールを吹き飛ばした。

 

「ああっ……!?」

 

「エリン、貴様……!」

 

『フフ、まだ利用価値があるから軽く気絶させただけよ。 それより、他人のことを気にしている余裕はあるのかな?』

 

その言葉を皮切りに、エリンはさらに膨大な魔乖咒を放出する。

 

「くっ……!」

 

「こ、これは……」

 

『クク、教団のロッジは全て地脈の真上に作られている……その真上で覚醒することでディーへと至る扉が開くことが可能になる……フハハ、師から聞いた通り!』

 

魔乖咒を放ちながら剣を逆手に持って掲げ、地面に突き刺すと……歪な音を立てながら身体を膨張させ、 一瞬で魔人と化した。 ホアキンの魔人化とほぼ同じだが、頭部の角が一本角ではなく二本角の差異がある。

 

「そ、そんな……」

 

「くっ……あの時のホアキンと同じか!」

 

『クク……コレゾ師ノ至ッタ境地……コレデ総テノ真実ハ我ノモノニ……………?…………』

 

エリンは何かがおかしいのか。突然自分の両手を見る。

 

『…………ナゼダ………………ナゼ何モ視エナイ……?』

 

「……?」

 

「何だか様子が変だよ……」

 

『……ナゼダ……! ナゼDガ視エナイ……!?真ナル神ノ息吹ガドウシテ感ジラレナイノダ!? コレデハ話ガ違ウデハナイカ!!』

 

その発言、魔人となって理性が働らなくなっいる証拠。 そして、ホアキンを師として尊敬していた訳ではなく、利用していたと言うことと他ならない。

 

「クッ……しっかりしろ! ホアキンが真実を語っていたとは限らないだろう!?」

 

『ダ、ダマレ! ダマレダマレダマレエエッ!』

 

俺の言葉が受け入れられないのか、癇癪を起こしたかのように否定する。

 

『マアイイ……マズハ手始メニ貴様ラヲ贄トシテクレル……ソノ上デみっどちるだヘ帰還シ、御子ヲ奪ッテクレルワ!』

 

「貴様……!」

 

「! レンヤ、危ない!」

 

ヴィヴィオの事を出されて頭にきてしまうが、フェイトの警告で我に返り。 その場から飛び退くと……突然頭上から巨大な剣が落ちてきて祭壇に突き刺さる。 魔人エリンはその剣を苦もなく片手で引き抜いた。

 

『ククク、ソレデハサラバダ……矮小ナル己ノ身ヲ嘆イテ塵ト化スガイイーー!』

 

「しまっーー!」

 

剣が落ちた衝撃で飛ばされてしまい、対応が遅れ。 巨大な剣が振り下ろされようとした時……

 

「はああああッ!」

 

『ナ……!』

 

背後から裂帛の気合いと共にゼストさんが走ってきた。 ゼストさんは横から飛び上がり、巨大な剣を横に弾いた。

 

「喰らえ!」

 

『グオオオオッ……!?』

 

そして、ティーダさんによる威力の高い魔力弾がエリンの体勢を崩した。

 

「あ……!」

 

「ゼストさん、ティーダさん!」

 

少しバリアジャケットが汚れているが、目立った傷もなく。 2人は魔人となったエリンと向かい合った。

 

「やれやれ……何とか間に合ったか」

 

「レンヤ、フェイト。 よく持ちこたえてくれた」

 

「お2人の方こそ、よくご無事で……!」

 

「さすがに10体は手こずらされたがな。 話は後だ! まずはコイツを無力化するぞ!」

 

「生半可な相手ではない! 全力で当たるぞ!」

 

「はい!」

 

「了解です!」

 

振り下ろされた剣を左右に避け……ティーダさんの銃剣の刀身がオレンジの魔力光を纏い、魔力によって刀身が延長した。

 

「おらあああっ!」

 

銃剣をバットを扱うように豪快に振るい、脇腹を斬り裂いた。

 

「はあっ!」

 

ゼストさんが反対側で三段突きを放ち、続けて槍を手の中で回転させ……その勢いで縦に斬り裂く。

 

『ヌウウ……アアアッ!』

 

その攻撃にエリンは耐えきれず、ガムシャラに剣を振り回して来た。 しかも剣に滅の魔乖咒を纏っているというオマケ付きで。

 

「掠りでもしたら即アウトです! 絶対にデバイスでは受け止めずに避けて!」

 

「チッ……!」

 

「面倒な……」

 

ティーダさんとゼストさんは悪態つきながらも上手く避け……

 

《ブリッツアクション》

 

「っ!」

 

フェイトは緩急を付けながら剣の合間を縫って接近し、剣を握る腕を斬りつけた。

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

剣の乱舞が止み、フェイトの合図ですぐさま三本の短刀を投擲し……

 

「九頭龍・川崩れ!」

 

長刀に込めていた集束魔法を斬撃に乗せて飛ばし、三本の短刀に纏わせるのと同時にカートリッジを炸裂させ……巨大な九頭の竜がエリンを襲った。

 

『オオオオオオッ……!』

 

九頭龍・川崩れが直撃すると、その衝撃でエリンは剣を手放し。 身体が紅く血のように変色し苦しみ出した。

 

「むっ……!」

 

「!」

 

短刀を回収し、エリンを観察する。 このパターン……あの時のホアキンと同じ状態だ。 この後俺達は拘束され、ピンチに陥った……

 

「ーー来る! 気を付けてください!」

 

「あ……!」

 

「チッ……!」

 

俺の警告にフェイトが意味を読み取り、2人も警戒を強める。 そしてエリンが両腕を地面に突き立て、同時に俺達はその場から飛び退く。 次の瞬間、先ほどいた場所から紅い蔓のような物が捻れながら飛び出していた。

 

「せいっ!」

 

「やあっ!」

 

「は……!」

 

「はああっ!」

 

間髪入れず、蔓に一斉攻撃し、蔓を破壊した。

 

『オオオオオンン……!』

 

するとそれを皮切りにエリンが悶え苦しみ出し、身体から魔乖咒が漏れ出して身体の崩壊が始まった。

 

「これは……!」

 

「と、溶けている……!?」

 

「ホアキンの死亡時の報告にあったやつか……!」

 

『アアアアアアアア………イヤダ……イヤダアアアアアアッ!! 死ニタクナイ……死ニタクナイヨオオオッ……!』

 

此の期に及んで命乞いをするエリン。 自業自得、と言ったらそれで済むが……

 

「………っ…………」

 

「……哀れな」

 

「くっ……!」

 

これ以上、誤ちを繰り返す訳にはいかない! 俺は崩壊しつつあるエリンの前まで出る。

 

「レンヤ!?」

 

「おい、何するつもりだ……!?」

 

「エリン! 気をしっかり持て! 自分を見失うな! あんたは、あんただろう!」

 

『……グググ……ギギギッ……?』

 

俺の言葉に反応した……まだ猶予は残されている!

 

「ホアキンと違ってあんたは紅いネクターを大量に飲んだ訳じゃない! だったら助かる! 絶対に諦めるな!」

 

『ググ……ガガガ……』

 

「レンヤ、お前……」

 

「……レンヤ……」

 

ティーダさんとフェイトは俺の行動の意味が分かったのか、呟くように名を呼ぶ。

 

『ウウウ……アア………ド……ドウシテ………ココマデシタ私ニ…………ドウシテ貴様ハ……』

 

「……それとこれとは話が別だ。 あんたは確かに罪を犯した。 でも、だからと言ってこんな場所で死んでいいほど罪深かったとは思えない。 それに、あんたが死んだらユミィやミゼット議長だってきっと哀しむ。 だから……絶対に自分を取り戻してくれ!」

 

『……ゆみぃ……みぜっと先生……ゴメンナサイ……ドウシテ私ハ…………クッ……! アアアアアアアアアアアアッ!』

 

一瞬、自我を取り戻したと思いきや。 崩壊が進んだのか、苦悶の叫びを上げ……魔乖咒の流出が加速する。

 

「クッ、駄目か……!?」

 

「な、何とかならないの!?」

 

「くっ、こんなのさすがに専門外だぞ!? 何でアリシアを連れて来なかったんだ!」

 

「このままでは……むっ!」

 

「天に坐す我らが主よ。 魔に引かれし哀れな迷い子を御身の光で呼び戻さんことを……」

 

後ろから詠唱が聞こえ、エリンに身体に方陣が展開、崩壊が抑えられる。

 

「これは……聖句……?」

 

「来たか……!」

 

背後から現れたのは、白装束を身に纏った中性的な少年……聖霊教会の武装騎士団・刻印騎士団(クロノス=オルデン)の一人、小日向 純だった。

 

「お前は……」

 

「済まない、時間がないからすぐに処置をさせてもらうよ。 レンヤ、少し退いてくれ」

 

「全く……ギリギリだぞ」

 

軽く文句を言いながら道を開け、ジュンはエリンの前に出る。

 

『ググググ………アアアアアアッ……!』

 

「ふむ、崩壊一歩手前だね。 ……けど、何とか踏み止まってくれたか。 これならーー」

 

ジュンは目の前に六芒星を描くと、詠唱を始める。

 

「我が身に主と聖霊によって刻まれし聖刻よ」

 

追唱と共に、腕部の右上にある刻印が浮かび上がる。

 

「光となって昏き瘴気を払い、迷い子の道を示せーー!」

 

刻印がさらなる輝きを放ち、エリンに展開している方陣が共鳴するように輝きだす。

 

「こ、これって……」

 

「あの光は一体……」

 

フェイトとティーダさんが不思議に思う中、輝きが一気に広がり出し……光が晴れると、ジュンの足元に気絶したエリンが倒れていた。

 

「あ……」

 

「も、戻った……!」

 

「ふう……何とかなったか」

 

冷や汗を拭きながら、ジュンは膝をついてエリンの安否を確認する。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、気絶しているだけだ。 数日は目が覚めないと思うけど、命に別状はないよ」

 

「そうか、良かった……」

 

「はぁ……一安心だね」

 

最大の危機を脱し、張りっぱなしだった緊張感が解けてようやく力が抜ける。

 

「それはともかく、あんたは一体何者なんだ!? 妙な格好をしているが……一体なぜこの場所に!?」

 

「あれ、レンヤ。 僕のことを話していないの?」

 

「間に合うかどうか分からないと言われたからな。 立場が立場だろうし、念の為伏せさせてもらった」

 

「なるほど、正直助かるよ。 レンヤって意外に気が効くんだね?」

 

「意外は余計だ。 だがまあ、来てくれて本当に助かった」

 

「お前ら……何勝手に話を進めている……!」

 

さすがに説明もなしに勝手してたせいか、さすがのティーダさんもすこしキレたが、ゼストさんは予測がついたようだ。

 

「ふむ、どうやらレンヤが独断で保険を掛けていたようだな」

 

「あなたは確か……聖霊教会の武装騎士団・刻印騎士団の人だったよね?」

 

「それは確か、聖王教会に異界の事実を伝えた宗教組織だったはず……」

 

「それに刻印騎士団……聖霊教会の方針異界の封印を実際に行う精鋭部隊であり、騎士一人一人が人間離れした戦闘能力と回復力を誇ると聞いているが……」

 

「……そこまでお見通しだったとは」

 

改めてそう言われると恥ずかしいのか、ジュンは苦笑いをする。

 

「初めましてーー聖霊教会、刻印騎士団に所属する小日向 純です。 レンヤからの連絡を受けて参上させてもらいました。 どうか見知りおきをーー」

 

 



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141話

 

その後……アザールとエリン両名を逮捕。 後処理を済ませ、今はヴァイゼンの次元港にいる。

 

「ーーそれではティーダさん。 2人の護送はよろしくお願いします」

 

「ああ、任せておけ」

 

エリンは担架に乗せられながら、アザールは両手に手錠を付けられながら次元艦の乗せられ。 ゼストさんとティーダさんはそのまま彼らを収容所に護送して行くため、ここで別れる事になった。

 

「ーージュン。 改めて礼を言おう。 まあ、本当なら事前にこっちに連絡が欲しかったが」

 

「あはは、そうしたかったのは山々なんですが……あまり管理局に干渉は出来なくて……」

 

「……そっちにも事情があるのは分かっている。 無理に聞いたりはしない」

 

「……助かります」

 

「何はともあれ、小日向 純。 とにかく今回は助けられた。 改めて礼を言わせてくれ」

 

ゼストさんは頭を下げてジュンにお礼を言った。

 

「レンヤには以前、助けられましたから。 本当だったら、例の教団の件も含めて僕も付いて行きたい所だけど。 この後も任務がありますし、もし次に何かあったら教えてもらえると」

 

「ああ、教会を通じてそちらに連絡させてもらおう」

 

俺も今回、ジュンと連絡が取れたのは教会を通じたからだ。 意外と聖霊教会が友好的だったのが驚きだが。

 

「ーーレンヤ、フェイトも。 今回は本当によくやってくれた」

 

「い、いえ。 管理局として当然の義務を果たしたまでです」

 

「今回はイレギュラーも多かったですし。 お2人がいなかったら厳しかったです。 本当にありがとうございます」

 

「ふ、むしろ私達がアリサ達の代わりが務まるか心配していたが……お前達の期待に応えられたようだ」

 

「若い者にはまだまだ負けられねえ、と言いたいが。 お前らと比べると負けてもいいかもしれねえな」

 

「あ、あはは……」

 

若い者って……ティーダさんも十分若いでしょう……

 

「それでは私達は一足先に行かせてもらう。 また協力するような事があればよろしく頼む」

 

「はい、こちらこそ!」

 

2人は管理局の次元艦に乗り込み、ミッドチルダに向けて次元空間に入って行った。

 

「君達も恵まれているね。 所属は違っていても、いい先輩じゃないか」

 

「ああ、本当にそう思うよ」

 

「そうだね……クロノもそうだし」

 

「それで、君達はどうするの? このまま次の便の次元船でミッドチルダを戻るつもり?」

 

「ああ、そのつもりだ。 そうだ、ジュンはまだ時間はあるか? 無理言わせて来てもらったわけだし、安易だとは思うけど何か奢らせてくれないか?」

 

「うーん、それはありがたいけど、この後すぐに地球に戻らないといけなくてね。 僕の次元転移法はタイミングを逃すと次に転移出来るのが明日になるんだ。 本当なら、例の教団についても詳しい話を聞きたいんだけど……」

 

「D∵G教団、か……」

 

壊滅してもなお、その名は消え褪せる事はなく、忌み嫌われる名として残るだろう。

 

「やっぱり聖霊教会の方でも何か掴んでいるの?」

 

「いや、それが全く。 僕達が教団と関わったのは4年くらい前の事件が最後」

 

「4年前……」

 

「謎の組織が教団を襲撃した後か?」

 

「ああ、あれから残っていたロッジの一つを制圧したんだ。 ……ここだけの話、教団の中でも最悪と言えるようなロッジでね。 正直、人体実験がマシに思えるくらいイカれた儀式をしていた連中だったよ」

 

「そうだったのか……」

 

「本当に……最低の連中だったんだね」

 

「まあ、今はそのことはいいだろう。 それにあの時の借り作ったままだったから、今回は助けられて良かったよ」

 

借りと言うと、夕闇の時か……

 

「別に借りを作った気はなかったんだが……お陰で犯人を生かしたまま捕まえることができた。 ありがとう……本当に助かった」

 

「いや、さっきのオレンジの髪の人も言っていたけど、何とかなったのはレンヤのお陰だよ」

 

「俺の、お陰?」

 

「ああ、あの人がギリギリのところで保ったのは君の言葉があったからだろ。 そうでなかったら僕が処置しても、おそらく助からなかったはずだ」

 

「そう、かな……?」

 

「うん、きっとそうだよ! レンヤが必死に語りかけたから、エリンも自分を取り戻せたみたいだったし!」

 

「フェイト……」

 

俺はただエリンを正気に戻って欲しかったから……いや、ただ死なせたくなかったから。 理由なんてない、無我夢中で叫んでいただけだ。

 

「はは……異界対策課だったっけ? また機会があったら詳しい話でも聞かせてくれ。 これで教団の件も一通りケリが付いたはずだけど、また何かあるかもしれないからね」

 

「うん、その時はお願いね」

 

「……それじゃあ俺達はこれで失礼するよ。 コウ達によろしくな」

 

「ああ、お疲れ様」

 

ジュンに別れの手を振りながら、俺とフェイトは次元港に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はジュンと別れた後、ミッドチルダ行きの次元艦に乗り込み。 数分後ヴァイゼンを出発、これから数時間は次元空間の中を揺られる事になる。

 

「ふう……でも無事に任務が片付いてよかったよ。 正直、危ない場面がチラホラあったから、レンヤ達の足を引っ張りそうでヒヤヒヤしたよ」

 

「はは、心配性だなぁ。 フェイト程の実力者が遅れを取るはずがないだろう」

 

《その通りです。 サーは自身を過小評価をし過ぎています》

 

「ほら、バルディッシュもそう言っているし」

 

「もう、皆して……」

 

フェイトは困り顔になるが、どことなく嬉しそうだ。

 

「それにしても……はやてはちゃんとやっているかなあ?」

 

「いつもは冗談を言うけど、はやてはちゃんとやっていると思うよ。 皆で掴む夢なんだから」

 

「そうだな……」

 

膝をついて窓から外を眺める。 どこ見ても同じ景色だが、実際に空の上を飛んでも変わらない景色を見ることになると思い、ボーッと眺めた。

 

「……やっぱり、フェノールのことを懸念しているの?」

 

「…………………」

 

「フェノールの存在は結果的に、ミッドチルダの裏の秩序を守る意味で無くてはならない存在だった。 でも、それが教団のせいで前触れもなく消え去った……」

 

「……パワーバランスの崩壊。 今はワシズカさん達レイヴンクロウが睨みを効かせているし、心機一転した管理局も頑張ってくれている。 だが、確実に何らかの組織がフェノールが空けた席を狙っている。 そして、これは失脚した議員達にも言えることだ。 代弁者がいなくなったことで、各方面の政治干渉が強くなる。 だからそうならない為にも、新市長は俺達に期待しているんだ」

 

「うん……だからレンヤ達は六課に来るんでしょ?」

 

「ああ、新たな局面を前に可能な限り各方面と連携して、より高度な活動を出来るようにする。 来年、対策課にも即戦力と新人も入ることにもなっているし。 そういう意味で、六課への出向は意味のある事だと思う」

 

それに、ここ最近の異界化は極端に少なくなっている。 あるとすれば、人為的なグリードの使用……異界対策課にいては何の解決にもならない問題だ。 いつまでもこもっていては現状は変えられない……今できる最善を行動で示すしかない。

 

「さて、ミッドチルダまで数時間……なんだか待ちきれないなぁ」

 

「うん、そうだね……それに数日、留守にしていると何だか懐かしい感じがするね」

 

「そうだな……」

 

フェイトの言葉に同意し、懐から1枚の写真を取り出す。 俺達、レルム魔導学院・VII組としての最後の学院祭の時に取った集合写真……その真ん中で、楽しそうに笑っているヴィヴィオが写っていた。

 

(……ヴィヴィオ……寂しがってないといいんだけど…………それに、学院の卒業か……)

 

「学院祭の時の写真だね。 あの時は楽しかったなぁ」

 

「そうだな、はやてとアリシアが企画したゲーム大会で学院祭が体育祭混じりのお祭り騒ぎになったしな」

 

腕相撲とか椅子取りゲームとか押し相撲とか、魔法抜きのゲームをやって優勝者を決める大会。 以外にも盛り上がり、いい思い出になったのは確かだが……

 

「色々あったよな……」

 

「あ、うん……特にすずかのが凄かった……」

 

「…………………」

 

運動系なのでジャージでの参加だったが、すずかは前が閉まらず上を羽織っただけだった。 1年の時は閉まっていたのに……やっぱりアレのせいだとは思うが。 それをはやてとアリシアが僻んで叫びまくり、すずかは無理矢理を前を閉めたのだが……ヤバイくらい張りまくっていた。 そんな状態で運動をすれば結果は一目瞭然、チャックが吹っ飛んで……不幸にも俺の頭に直撃した。 その後の記憶は無くなっていた……

 

「……チャックぼーん事件……」

 

「言うな、すずかの名誉の為に言うな」

 

学院祭後、その際ですずかとはギクシャクしていたんだから。 しかもその事件のせいで一時期レルムでは超くだらない事件が多発したのだから……

 

結局、その後は沈黙が続き……戦いの疲労が出たのか、俺とフェイトは寝てしまった。 それからどれくらいの時間が経ったのか、船内放送が流れてきた。

 

『まもなく、第1管理世界・ミッドチルダ、首都クラナガンに到着いたします。 各管理世界方面、定期次元船をご利用のお客様はお乗り換えください』

 

「……ん……」

 

……そろそろミッドチルダに到着するのか。 軽く伸びをして、固まっていた身体を解きほぐす。 ふと、肩に重みを感じ、横を見ると……フェイトが寄りかかって寝ていた。

 

「フェイト、フェイト。 そろそろ着くぞ」

 

「んんん……ふあああ〜……」

 

フェイトは大きな欠伸をして目を覚まし、しばらくボーッとしている状態になった。 いつもなら見られないフェイトの行動に苦笑しながら窓の外を見ると……そこには大都市、クラナガンの光景が広がっていた。

 

それからすぐにミッドチルダ中央次元港に到着。 軽くここ最近のニュースを見ながら到着ロビーに向かうと……

 

「パパーーーーっ!!」

 

「あ……」

 

出口からヴィヴィオが全速力で走ってきて、お馴染みのお帰りタックルをして来た。

 

「ヴィヴィオ……! 迎えに来てくれたのか」

 

「うんっ! 今日帰ってくるって聞いたから! だいじょうぶ!? どこもケガしてない!?」

 

「ああ、平気だ。 ただいま、ヴィヴィオ」

 

「おかえりっ、パパ!」

 

ヴィヴィオは一度俺から離れ、今度はフェイトに抱き着いた。

 

「えへへ……フェイトママもおかえりなさい!」

 

「ふふ……ただいま、ヴィヴィオ」

 

フェイトは嬉しそうな表情でヴィヴィオの頭を撫でる。 こうしてヴィヴィオと接していると、帰って来たと実感できる。

 

「フェイトーーー!」

 

と、今度はプレシアさんが走って来て……フェイトに飛び付いた。

 

「か、母さん!?」

 

「ああ、フェイト! 無事で良かったわ! おかえり! ケガは無いわよね!? もしフェイトが傷物になったら……そいつを……」

 

「プレシア! 気持ちは分かりますが落ち着いてください……って、う……」

 

追い付いてきたリニスが抑えようとするが、プレシアが溺愛状態から一瞬で黒くなるとちょっと引いた。 相変わらずの親バカっぷりだなぁ。 って、人の事言えないか……

 

「だ、大丈夫、大丈夫だから! ていうか、たった数日なのにそんな大げさにしなくても……」

 

「分かってないわねフェイト! 時間なんて関係ないのよ! そうよね、ヴィヴィオちゃん?」

 

「うんうん、そのとーり!」

 

「はは……」

 

ヴィヴィオとプレシアさんのやり取りを見て思わず苦笑してしまうが、気持ちは分からなくもない。

 

「何だか戻ってきたって実感があるね……」

 

「レンヤ君……おかえんなさい」

 

「あ……」

 

出口から今度ははやてとシグナムが出てきた。

 

「はやて……はやても別に出迎えなくても良かったんだぞ?」

 

「あはは、仕事に一区切りがついたんや。 それで迎えに来たんや」

 

「そうか……」

 

「フェイトちゃんもお疲れ様。 危険な事はあらへんかったか? レンヤ君、たまーに無茶する事があるからなぁ……」

 

「うん、もちろんあったよ。 見ているこっちがハラハラするくらいだよ」

 

「事情はゼストから聞いている。 相当無茶をしたそうだな?」

 

シグナムに指摘され、ぐうの音も出ない。

 

「まあそれは置いておくとして。 レンヤ、ちゃんとケリは付けてきたか?」

 

シグナムは真剣な眼差しで俺を射貫くような眼光で見られ、無意識に背筋を伸ばす。

 

「……はい。 無事、両名共に逮捕しました。 ゼストさんとティーダさんが軌道拘置所の方に護送しています」

 

「そうか……これで教団絡みの事件は一段落したと見ていいだろう」

 

「はい。 でも、俺達にはまだまだやる事があります」

 

「そうやで、まだまだやる事はぎょうさん残っておるで!」

 

「そうだけど……とりあえず、今は休ませて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月中旬ーー

 

桜がチラホラと咲く中、今日は学生として最後の自由行動日……ソーマ達が気を利かせてくれたおかげで対策課の仕事もなく。 久々の休日を過ごそうと思うが……

 

「…………………」

 

特に予定もなく、ベットに寝転び天井をボーッと眺めていた。 学院の依頼は1年の通過儀礼のようなもので、今は受けてないし。 とはいえ、このまま惰眠を貪っても意味はないし、気晴らしにお菓子でも作ろうと食堂に向かった。

 

「あ、レンヤ。 アンタにしては遅いじゃない」

 

一階に降りたら玄関にアリサがいた。 手には服などが入っていそうな紙袋が2、3袋持っている。

 

「まあ、ちょっとな……」

 

「どうせアンタの事だから、暇でする事ないんでしょう?」

 

「うぐ……い、今からお菓子を作ろうと思ってな……」

 

「そう。 でもそれなら後でいいわね。 ちょっと待ってなさい」

 

許可も取ることもなくアリサは階段を登り、自分の部屋に向かった。

 

「……まあ、いいけどさ」

 

ふと、自分のポストに手紙が届いていたを見つけた。 手紙を取り、宛名を見ると……ユン・カーファイと書かれていた。

 

「老師からか。 住所は教えたけど、今まで手紙なんて出さなかったのに」

 

しかもこっちから手紙を送ろうにも老師は流浪の旅人、デバイスはおろか通信機器も持っていないから連絡の取りようがない人だ。 封を開けて手紙を読むと……

 

「…………はは、相変わらずの旅道楽だな。 各地をのんびり放浪してるんだな」

 

前半はユン老師がどこで何をしているかの報告のようなもので、思わず笑ってしまう。 ご壮健そうでなにより……続いて後半の文面を読んでいくと、そこには重大なの事が書かれていた。

 

〈この(ふみ)が届く頃には1月くらい前になろう。 前触れもなく謎の集団がワシを襲ってきた。 心配せんでもかすり傷の一つもありゃせん、軽くひねってやったわ。 だが、奴らはワシを殺そうとも、捕らえようともせず、ただただワシの攻撃を耐え続けていた……戦いを長引かせるのに意味があったのか? そう仮定すると八葉の技を全て出した時、奴らは早々に撤退した。 これが何を意味するのかは分からん、じゃがもしかしたらおぬしとも無関係ではないと思い文を出した次第じゃ。 レンヤ、おぬしがこれを読み、どう思うかは定かではないが…………心せよ、近いうちに戦乱が始まるやもしれん。

ユン・カーファイ〉

 

「……………………」

 

手紙を読み終え、黙って手紙を見つめる。

 

(老師に接触して八葉一刀流を盗んだのか? だが、それで何の意味がある? 襲撃者の目的は……そして正体は?)

 

分からない……情報が少な過ぎる。 せめて写真……はデバイスも持ってないのから無理だとしても、似顔絵くらいは同封して欲しかった。

 

「パパーー!」

 

考えを辞めさせるように元気な声と共にヴィヴィオが背中に抱き着いてきた。

 

「おっと……ヴィヴィオ、危ないからいきなり抱き着くのはやめなさい」

 

「はーい」

 

ヴィヴィオが離れ、後ろを向くと……

 

「えへへ、どうパパ? 可愛い?」

 

そこには綺麗に着飾ったヴィヴィオがいた。 ヴィヴィオは服を見せるように一回転する。

 

「ああ、可愛いよ。 アリサに着させてもらったのか?」

 

「うん! アリサママが可愛いからって!」

 

「ふふ、さっそくお披露目してるわね」

 

後に続いてアリサが降りて来た。

 

「アリサがコーディネートしたのか?」

 

「ええ、今日くらい着飾ってもいいと思ってね」

 

「パパ! お散歩行こ、行こ!」

 

「分かった分かった」

 

ヴィヴィオは先に寮を取り出し、自分も出ようとした。 ふと、先の手紙に何か引っかかりを覚え、もう一度読み返してみるが……

 

「レンヤ?」

 

「あ……いや、何でもない。 すぐに行く」

 

結局分からずじまい。 手紙を懐にしまい、アリサとヴィヴィオを追いかけて寮を出た。 気にはなるが、今は隅に置いておこう。

 

ピリリリリリリ♪

 

不意に、じぶんのメイフォンに着信が入ってきた。

 

「誰から?」

 

「えっと……はやてからだ」

 

何の用かはわからないが、とりあえず出てみた。

 

「もしもし、レンヤだ」

 

『あ、レンヤ君。 今ルキュウにおるん? それと近くに誰かおるか?』

 

「ああ、今ルキュウだし、アリサとヴィヴィオが一緒にいるけど……」

 

『なら、2人と一緒にレルムの第1ドームに来といて。 面白い事があるから』

 

「面白い事?」

 

『そんじゃあ、絶対来るんやで!』

 

行くとも言っていないのに一方的に切られた。

 

「はやてはなんだって?」

 

「……なんでも第1ドームに来て欲しいって。 アリサとヴィヴィオにも一緒にって」

 

「ヴィヴィオも?」

 

「全く……今度は何を企んでいるのかしら?」

 

アリサは嘆息するが、ここで考え込んでも仕方なく。 魔導学院に行き、客席方面からドーム内に入った。 すると、そこには俺達以外にツァリ達がいた。

 

「あ、レンヤ」

 

「ツァリ。 それに皆も……」

 

「私達ははやてちゃんに呼ばれてここに来たんだけど……」

 

「どうやらVII組が集められたようだが……」

 

「お、皆来たなぁ」

 

「こっちだよ!」

 

少し困惑する中、フィールドのど真ん中にはやてとアリシア、そして何故かテオ教官がいた。

 

「アリシアちゃん、はやてちゃん。 一体何するつもりなの?」

 

「それはなあ……!」

 

ババン! という効果音と共に空間ディスプレイが展開された。 そこに映っていたのは……

 

「レルム魔導学院の最強は誰か?」

 

「ほんきのもぎせんたいかいー?」

 

「そう! 私達、VII組最後の本気の模擬戦をやるよ!」

 

アリシアは高らかに宣言し、フォーチュンドロップを起動させてバリアジャケットを纏った。

 

「レギュレーションはバトルロイヤル! 最後の1人になるまで戦い、レルム魔導学院最強を決定するよー!」

 

「ほら、かかってこいよ」

 

一瞬、俺達はポカンとするが……

 

「ふふ、いいじゃない。 燃えてきたわ……!」

 

「いい加減、VII組最強を決めるのも悪くないなぁ」

 

「記録として残す戦い……今までにない趣向ですね」

 

テオ教官が大剣を構えて挑発し。 アリサ、リヴァン、ユエは早速参加、バリアジャケットを纏ってフィールドに降りた。

 

「フェイトちゃんーー」

 

「いいよ……なのはとは、いずれ白黒付けたかったし!」

 

「うん、お願いするね……フェイトちゃん!」

 

続いてなのはとフェイトがフィールドに飛び降り……

 

「うう、こんな所で引いてたら……よし! 必ず勝手やるぞ!」

 

「ふふ、ツァリ君。 いつになく本気だね」

 

ツァリとすずかも参加した。

 

「ほらレンヤ! 後はレンヤだけだよー!」

 

「あ、ああ。 今行ーー」

 

「ちょっと待ったーー!」

 

いきなり背後からランディとエステート達、I組が現れた。

 

「僕達を差し置いて学院最強を決めるなんて言語道断!」

 

「VII組の皆さん! ここでどちらが最強か白黒ハッキリさせましてよ!」

 

「ホホウ、最強ときたか」

 

「え……この声は……」

 

すると下からヴェント学院長とエルメス教官が現れた。

 

「が、学院長!?」

 

「どうしてここに……確かドームの使用許可はちゃんと取ったと思うやけど……」

 

「フフ、気になって見に来たんじゃが。 なかなか面白い事をしている、久々に血湧いてしまったわ」

 

「やれやれ、無茶はよしてほしいですが。 昔から言い出したら聞かないのですから」

 

「ええっと、もしかして……」

 

「ウム、ワシらも混ぜてもらおうかのう。 学院最強を名乗りたいのであればワシらを倒していかんとな」

 

…………マジですか…………

 

「仕方ありません、学院長が無理をしてもいけませんから私もサポートするとしましょう」

 

ヴェント学院長は巨大な斬馬刀を、エルメス教官はライフルを構えると……とんでもない気迫を放ってきた。

 

「マ、マジかいな……」

 

「さあ、全員でかかってくるがよい」

 

「雛鳥をいじめるようで気が咎めますが、今回はしかたありませんね」

 

「な、なんて迫力だ……」

 

「ほれレンヤよ、おぬしも早う降りてこんか」

 

学院長に手招きで誘われ、少し口元が緩んでしまう。 毎度毎度強敵と戦って来たが、挑戦という形はあまりなかった。 これが……挑戦か!

 

「その胸……お借りします! レゾナンスアーク! セットアップ!」

 

《イエス、ユアマジェスティー》

 

バリアジャケットを纏い、フィールドに飛び降りて長刀と三本の短刀を抜刀した。

 

「その意気や良し……!」

 

「パパー! ママ達ー! 皆、頑張ってーー!!」

 

「コホン……さあて、変則的になっとるけど。 これより卒業バトルロイヤルの開幕や!」

 

「全員、張り切って行こーー!」

 

『おおっ!!!』

 

開幕と同時にバリアジャケットを纏ったはやてが空に魔力弾を打ち上げ……花火のように炸裂。 それと同時に、俺達……レルム魔導学院最後の本気の模擬戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月25日、魔導学院・最終日ーー

 

桜が咲き誇る中。 前日、俺達はめでたくレルム魔導学院を無事に卒業……第3学生寮の荷物は全て片付けられ、

 

VII組は新たな門出をルキュウ駅前にいた。

 

「ーーそれじゃあ、行くかな」

 

「皆、元気でね」

 

「ああ、皆も元気で。 と言っても……どうせすぐに会えそうな気もするしな」

 

「ふふっ……そうね」

 

「私達7人は六課に行くだけで……本格的な職場復帰みたいなもんだからねぇ」

 

「ね、姉さん……」

 

アリシアはこんな時でもブレないなぁ。

 

「でも、こうしてVII組の繋がりが消えるのは……寂しいかな」

 

「VII組としての繋がりが全てではありませんよ、フェイト。 これはあくまで一時の別れ……私はそう信じています」

 

「今はそれぞれ、為すべきことを果たすだけだよ」

 

「うん、そやな!」

 

「道は分かれたけど……またきっと交わる。 私達はVII組だからね!」

 

「ああ……お互い頑張ろう」

 

卒業の祝いは昨日の卒業式でも言ったが、俺達は改めて祝いを口にした。

 

「うんうん、桜もいい感じに咲いてくれたし」

 

「門出の季節、ですね」

 

「まあ、この風景は少し名残惜しいでフねー」

 

テオ教官やファリン達も俺達の門出を祝ってくれる。 そして、俺達は頷き……テオ教官の方を向いた。

 

「ん? 何だ?」

 

「ーーテオ教官」

 

「この三年間……」

 

『どうもお世話になりました!』

 

「…………ぁ…………」

 

俺達はこの三年間、俺達を指導してくれたテオ教官に感謝し……お礼を言った。

 

「私達がこうして、新しい門出を迎えられたのも教官のおかげです」

 

「無茶苦茶な指導だったけど……まあ、色々とためになったし」

 

「テオ教官がいてくれたから、私達は心身ともに強くなれました」

 

「ふふっ、最後に皆で一言お礼を言おうと思って」

 

「こうして……不意打ちさせてもらいました」

 

「また機会があれば、よろしく指導をお願いします」

 

「お前達……」

 

テオ教官は少し呆けた後、バッと背を向けた。 その背は少し震えている。

 

「……ふ、ふざけんじゃねえぞ……最後まで……威厳のある姿を見せようとしたのによ……」

 

「教官、ムシが良すぎ」

 

「ドッキリ大成功やな」

 

「ちょ、ちょっとやりすぎたかも……」

 

「……すずか、さすがにあざと過ぎたんじゃないか?」

 

「そ、そうみたいだね……委員長として最後に何か提案できればと思ったんだけど……

 

「って……おめえらの発案かよ……!?」

 

涙をぬぐい、テオ教官は振り返ると同時に驚愕した。

 

「やれやれでフー」

 

「フフ……いいオチが付いたね」

 

少し離れた場所で、ファリンさんとビエンフーが微笑ましそうに俺達を見つめる。 そして、クラナガン行きのレールウェイが来る定刻になり……

 

「それじゃあ、テオ教官。 さようなら!」

 

「さようなら、テオ教官!」

 

「また会いましょう!」

 

「おう! 怪我病気すんなよ!」

 

手を振って、テオ教官と……レルム魔導学院と別れ。 駅に入ると、先に待っていたヴィヴィオがこちらに気付いて近寄って来た。

 

「パパ。 お話は終わったの?」

 

「ええ」

 

「ああ、待たせてごめんな、ヴィヴィオ」

 

「ううん! ヴィヴィオ、くうきがよめる女だから!」

 

「………それは…………ちょっと違うかな?」

 

「ふえ〜?」

 

「……はやてちゃん……?」

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

「あからさまに口笛を吹かないでよ……」

 

一悶着ありながらも到着したレールウェイに乗り込み、今度はルキュウと別れを告げ……レールウェイは首都クラナガンに向けて走り出した。 それと同時に、俺達は新たな道を走り出したのだった。

 

 

 




今度は閃の軌跡II(仮)完です!

今回の投稿でちょうどこの小説を書き始めて一年……案外あっという間でした。

次回! StrikerS編に入ります! 後半の人外対戦に乞うご期待!


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StrikerS編
142話


 

 

新暦75年4月22日、ミッドチルダ北部に位置する臨海第8空港近隣、廃棄都市ーー

 

そんな人気もないゴーストタウンのような場所にある廃ビルの1つ、そこの屋上に2人の少女がいた。

 

1人はハチマキを締め、足にはローラーブーツを履いていた。 右手には回転機構のある篭手のような物を装着している。 そんな重そうな篭手を物ともせずに、ハチマキ少女……スバル・ナカジマは精神統一から開眼すると、何度も突きや蹴りを繰り出し、念入りにシャドーを行っていた。

 

もう1人はオレンジ色の髪を短いツインテールにしている少女……ティアナ・ランスターは、黙々と中折れ式の拳銃型のストレージデバイス……アンカーガンの調整をしていた。

 

「スバル。 あんまり暴れていると、試験中にそのオンボロローラーが逝っちゃうわよ」

 

「うえ……!? ティア、嫌な事言わないでー! ちゃんと油も差してきた!」

 

スバルはちょっとだけむくれて、ティアナに目を向けた。 スバルはシャドーをするのを止め、ティアナに話しかけた。

 

「ところでさ、今日はもう2人、昇格試験を受けるって言ってたよね?」

 

「そうね。 確か、そんな事を言っていたわね」

 

スナップを効かせて、ティアナはアンカーガンを元に戻した。 あまり興味がないのか、返事が素っ気ない。 スバルは、逆に興味津々といった感じでティアナに絡みつく。

 

「ね、ね、どんな人なのかな?」

 

「あー、鬱陶しい! どんな人でもいいわよ! アタシ達のやる事に変わりはないんだから!」

 

ねーねー、と抱きついてくるスバルの顔を、ティアナはグイッと押し返す。

 

「でもー……試験中だけとは言え、一応チームメイトだよ? 気にならないの?」

 

「別に……足さえ引っ張らなきゃどんなヤツでもいいわよ。 しっかし遅いわね……後5分で試験開始よ。 よっぽど肝が据わっているのか、よほどのバカね。 それにアンタ、これから試験だってのに随分余裕があるじゃない?」

 

左手首に展開したディスプレイの時刻を見ながら、スバルに言っても同じだろうがティアナは呆れたように言う。

 

「だって、私とティアなら合格間違いないもん! 頼りにしてるよ~、ティア!」

 

えへへ、と笑ってまたスバルがティアナに抱きついた。

 

「こら、やめなさいって!」

 

じゃれついてくるスバルを引き離そうとした時、突然甲高い音が鳴り響いた。 2人は音の発生源を見ると……

 

『え?』

 

そこには純白の剣が突き刺さっていた。

 

「え、えーー!?」

 

「この剣は……!」

 

次の瞬間、その剣の隣に2人の男女が転移して来た。 どちらも額に汗をかき、息が上がっていた。

 

「はあはあ……」

 

「ギ、ギリギリセーフ……?」

 

剣を掴み、支えにして立ち上がったのは藍色の瞳をした少しクセのある茶髪の少年……ソーマ・アルセイフは時計と辺りを交互に見る。

 

「あ、あうあう……走馬灯が見えたよ……」

 

腰が抜けてペタンと座っているのは小柄で白いセミロングの髪とワインレッドの瞳をした気弱そうな少女……サーシャ・エクリプスは緊張が解け、真っ白になったかのように俯く。

 

「ソ、ソーマ!?」

 

「あ、ティア! それにスバルも……2人も陸戦Bランク昇格試験を受けに来てたんだ?」

 

「一緒に受ける2人ってソーマ達だったんだ! 異界対策課の2人がいるなら……これはもう受かったも同然だね!」

 

スバルがポジティブに思考を向けるが、ティアナは無言でソーマの元に向かい……一瞬で背後に回って首を絞めた。

 

「ぐえ!?」

 

「アンタあれ程時間には気を付けろって言っていたのに、定刻ギリギリってどう言うことよ!? それに試験前だってのに2人してすでに疲労してるじゃない! サーシャに至っては虫の息!」

 

「……こ……これには深いわけが……」

 

ソーマは腕をタップしながら弁明しようとするが、脈に決まっていて息すら出来ていない状態で話すことも出来なかった。

「ティア! 首入ってる! 入ってるから!」

 

「あうあう……!」

 

スバルはティアナを止めようとし、サーシャはどうしようか手をワタワタさせて混乱している。 2人に止められるようにティアナはソーマを解放する。

 

「ゴホッ、ゴホッ……し、死ぬかと思った……」

 

「それで、何でそうなっているのよ?」

 

謝る事もなく、ティアナは質問する。

 

「えとえと……今朝、ホロスに突発的にグリードが現れたんです。 本当なら私達が対処する必要がなかったのですが……ソーマ君がウォーミングアップに丁度いいって、レンヤさんに無理を言って……」

 

「しかもそのグリードが強くてねえ……手こずって、それで遅刻ギリギリで来たわけ」

 

「結局アンタのせいじゃない!!」

 

「痛い痛い痛いーー!」

 

「あ、あはは……2人共相変わらずだね……」

 

ティアナに頭をグリグリされて痛がるソーマを見て、さすがのスバルも苦笑する。 その時、試験開始の定刻になり、アラームが鳴ると同時に4人の前に空間ディスプレイが浮かび上がる。

 

スバルとティアナは素早く動くが、ソーマとサーシャはヨロヨロと動き、横一列に並んでピシッと直立不動になる。

 

『おはようございます! さて、魔導師試験の受験者さん……4名、そろってますか?』

 

『はい!』

 

『は、はい……!』

 

ディスプレイに映し出されたのはリインフォース・ツヴァイ空曹長。 今回試験監督を担当になっている。

 

『確認しますね? 時空管理局陸士386部隊に所属のスバル・ナカジマ二等陸士と……』

 

「はい!」

 

『ティアナ・ランスター二等陸士』

 

「はい!」

 

『同じく時空管理局異界対策課に所属のソーマ・アルセイフ一等陸士と……』

 

「はい!」

 

『サーシャ・エクリプス一等陸士ですね?』

 

「は、はい!」

 

『所有している魔導師ランクは陸戦Cランク。 本日受験するのは、陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で間違いないですね?』

 

『はい!』

 

「間違いありません!」

 

3人が元気よく返答し、ティアナが後付けで確認する。

 

『はい! 本日の試験官を勤めますのはわたくし、リインフォース・ツヴァイ空曹長です。 よろしくですよー!』

 

自己紹介するリインフォース・ツヴァイ空曹長に貫禄なく、まるで1日試験官のように可愛らしく敬礼する。

 

『よろしくお願いします!』

 

4人は特にツッコム事もなく、敬礼を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ試験が始まる頃かな? 私とはやては、ヘリに乗って試験会場である廃棄都市上空に来ていた。

 

「お? 早速始まってるなぁ」

 

ヘリのサイドハッチを開けて、ショートカットの女性……私の親友でもある八神 はやてが身を乗り出すように下を見ている。

 

「リインもちゃんと試験官してる」

 

リインの姿を見て嬉しそうに笑うはやて。 娘とも言えるリインの初の試験官だから凄く心配していたけど、上手く行っているようで安心したみたいだ。 でも……

 

「はやて、ドア全開だと危ないよ。 モニターでも見られるんだから」

 

「はぁい」

 

私が注意すると、はやては素直に返事をしてハッチを閉めた。 そして、私の隣に座る。 私はモニターに受験者の4人を映し出す。

 

「こっちの2人が、はやての見つけだした子達だね?」

 

「うん。 2人ともなかなか伸びしろがありそうな、ええ素材や」

 

「ソーマとサーシャは形としてこの試験を受けているけど……」

 

前者2人と後者2人の実力の差は一目瞭然……でも、スバルとティアナにはまだまだ伸び代がある。 鍛えてあげれば化けるかもしれない逸材だ。

 

「今日の試験の様子を見て、行けそうなら正式に引き抜き?」

 

そう、はやてに尋ねる。 私たちは、これから設立する新設部隊のフォワードになりそうな人をスカウトする為にここにいる。 どこかトボケているように見えて、はやての目は確かだ。はやてはD∵G事件以降、この2人に目をつけていたらしい。 もっとも、それを聞いたのはつい最近の事だけど。 この親友は、隠れて悪巧みをして私達を驚かすのが好きなようだ。

 

「うん……直接の判断は、なのはちゃんにお任せしてるけどな」

 

「そっか……」

 

「部隊に入ったら、なのはちゃんの直接の部下で……教え子になる訳やからな」

 

はやてはそう言って、スバルとティアナをアップにする。 うん、二人ともいい表情だ。 けど……ソーマとサーシャはすでに満身創痍ギリギリだ。

 

「……それでどうしてあの2人はもうボロボロなのかな?」

 

「うーん、レンヤ君に聞くところ。 ついさっきまでグリードと戦っていたそうや」

 

「あ、あはは……何と言うか……すごい子達だね」

 

さすがの私も少し愛想笑い。 2人らしいと言えばらしいが……やはり苦笑してしまう。

 

『ーーまあそう言ってやるな。 この試験はあの2人の総集でもある……ここは心を鬼にして見守らないとな』

 

通信が入り、ディスプレイにレンヤの顔が映る。 レンヤもこことは別の場所で試験の様子を見ている。

 

「レンヤ……でもこれって、見守る以前にすでに千尋の谷に落としているよね?」

 

「それはちゃうな、むしろ自分から谷に落ちたんや」

 

『獅子の子は千尋の谷に挑んだ……ありかな?』

 

「ないよ!」

 

そして、試験場から離れた場所にある施設……そこでなのはが試験全体のチェックをしていた。

 

《範囲内に生命反応、危険物の反応はありません………コースチェック、終了です》

 

「うん。 ありがとう、レイジングハート。 観察用のサーチャーと、障害用のオートスフィアも設置完了……私達は全体を見てようか?」

 

《イエス、マイマスター》

 

「ーー首尾は上々かしら?」

 

「あ、アリサちゃん」

 

なのはの背後から同じ白い教導官の制服を着たアリサが歩いてきた。

 

「アリサちゃん、試験前なのに2人をコキ使うのはどうかと思うよ?」

 

「その事は説明したでしょう? あの子達が望んだ事で、理由も聞いている。 自らを追い込んで試練を乗り越えようとする……いい事じゃない」

 

「それでも限度があるよ。 2人が相手をしたグリードってA級でしょう?」

 

「それに気付いて追いかけた時にはもう討伐された後、移動も自分達でするの一点張り……やれやれ、変な所で遠慮するというか、何というか」

 

アリサはやや呆れながらも、心の中で2人の応援をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験開始時刻になり、試験官のリインがテスト内容の説明を始める。

 

『4人はここからスタートして、各所に設置されたポイントターゲットを破壊。 ああ! もちろん破壊しちゃダメなダミーターゲットもありますからね? 妨害攻撃に気をつけて、全てのターゲットを破壊……! 制限時間内にゴールを目指してくださいです! 何か質問は?』

 

「あ……えーと……」

 

「はい」

 

『はい。 サーシャさん』

 

「制限時間の停止は最後の1人がゴールした場合に止まるんですよね?」

 

先ほどのオドオドした様子はなく、サーシャはしっかりとした気持ちで手を上げて質問した。

 

『その通り! たとえ制限時間内に3人がゴールしたとしても、最後の1人が制限時間をオーバーした場合……4人まとめて失格です! その辺りも考慮し、試験に望んでください! 他に質問は?』

 

「……いえ」

 

「ありません!」

 

ソーマとティアナが答え、

 

『では、スタートまであと少し……と言いたいですが、ソーマ陸士とサーシャ陸士の事情は聞いています。 なので10分の猶予を与えます。 体力の回復に使うもよし、ポジショニングを確認するためのミーティングをしてもよし。 すでに試験は開始されているという緊張感を持ってください! それではゴール地点で会いましょう、ですよ!』

 

可愛らしく人差し指を立てて、リインはモニターを閉じる。

 

「さて、ミーティングを始めるわよ。 2人もそれでいいわね?」

 

「うん、座りながらでも出来るし」

 

「は、はい、構いません」

 

4人はポジショニングを確認、それを元にティアナが作戦を立て……10分が経過し、カウントダウンが始まった。 それを確認すると4人は表情を引き締めた。 カウントがゆっくり減って行き……

 

「レディ……」

 

最後の1つになるとティアナがスタートの合図を言い……

 

『GO!』

 

カウントがゼロになり、4人は走り出した。 その様子を、隊長、副隊長陣が離れた場所で見ていた。

 

スタートの合図と同時に数十メートルを駆け抜け、廃ビルの端で止まった。

 

「先導するよ!」

 

「行きます!」

 

ソーマは向かい側の廃ビルに剣を投げ、壁に刺さるのと同時に転移し……屋上からターゲットを狙い。 サーシャは背に輪刀を浮かせ、飛翔して1階からビル内に突入した。 次にティアナは、アンカーガンからワイヤーを打ち出した。 ワイヤーがビルの外壁に当たり、魔法陣が現れるそのまま壁に固定される。

 

「スバル!」

 

「うん!」

 

スバルは頷くとティアナの腰に手を回した。 ティアナがワイヤーを巻き戻し、スバルを抱えて空中へ飛び出す。

 

「中のターゲットを潰してくる!」

 

「手早くね」

 

「オッケー!!」

 

2人の後を追うように二手に分かれる。

 

ビル内に突入したスバルは障害用のオートスフィアの攻撃をローラブーツによる機動力で避け、鍛えられたシューティングアーツによる技でスフィアを破壊して行く。

 

「ロードカートリッジ!」

 

音声信号でカートリッジがロードされ、回転機構が急速に駆動し……

 

「リボルバー……シューーット!!」

 

正拳の打ち出しと共に魔力弾が発射。 ジャイロ回転しながら離れた場所にあったスフィアを破壊し、喜ぶ事もなくリボルバーナックルを振り払うと次のターゲットに向かって走った。 階下のターゲットを破壊しようとしたら……

 

「はああっ!」

 

サーシャが輪刀をブーメランのように投げ、ターゲットを連鎖して破壊していた。

 

(1階のターゲットを破壊してしてもうここのターゲットを!?)

 

「スバルちゃん! 次のポイントに向かうよ!」

 

「う、うん!」

 

少し呆けるが、スバルはサーシャの後に着いて行く。

 

屋上ではティアナがアンカーガンを構え、ターゲットに狙っていた。

 

「落ち着いて、冷静に……」

 

自分に言い聞かせるように呟くと、眼下のビルにいるターゲットに狙いを定めた。 足下に魔法陣が発生し、アンカーガンに魔力弾が装填される。 それを確認して、ティアナは引鉄を引いた。 魔力弾がターゲットを次々と破壊していく。更に奥からターゲットが湧き出てきて、ティアナはそれに向かって魔力弾を放つ。

 

「あっ!」

 

紛れ込んでいたダミーターゲットに気付き、即座に銃口を隣に逸らし……ターゲットを撃ち抜いた。

 

(残りは……!)

 

「ーーティア、行くよ!」

 

残りのターゲットを破壊しようと銃口を上げた時……背後からソーマが現れ、ティアナの手を引いて走り出した。

 

「ソーマ!? アンタどこから……」

 

そこで問い詰める前に、狙おうとしてしたターゲットを見ると……ダミーターゲット以外全て破壊されていた。 その後転移でティアナの元に来たのだろうが……

 

(あの量のターゲットを……早過ぎる……!)

 

そこには先ほどティアナが破壊したターゲットの倍以上は転がっていた。

 

「飛ぶよ!」

 

「……ええ!」

 

ティアナはすぐさま思考を切り替え、ソーマの後に続いた。 ソーマは剣を地上に投げて突き刺すと……転移して地上に降り立ち、その後4人はすぐに合流した。

 

「いいタイム!」

 

「当然!」

 

「この調子で行こう!」

 

「うん!」

 

互いに称賛し合い、4人は次のポイントに向かって走った。 前方に現れたターゲットを確認すると……

 

「行っくぞおぉ!!」

 

「スバルうるさい!」

 

「ティア、落ち着いて」

 

「あ、あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。 なかなか良いね」

 

「そやなぁ。急造チームにしては息が合っとる」

 

『……だが、全体としては穴だらけだ』

 

レンヤの考えに同意する。 スバルとティアナは2人の実力に驚き、判断が遅れ。 逆にソーマとサーシャは飛び抜き過ぎて2人の反応を上回る行動をしてしまう。 結果、上手く行っているようで噛み合ってないチームが出来上がる。

 

「このまま最後まで行くかな?」

 

「それはどうやろなぁ……?」

 

私の質問にニヤリと笑うはやて。 あ、これは悪巧みをしている時の顔だ。

 

「最終関門の大型オートスフィア。 受験者の半分以上は脱落する難物や。 コレをうまく捌けるかな?」

 

モニターに2メートルはあろうかと言うオートスフィアを映し出すはやて。 確かに、これを落とすのは一苦労しそうだ。

 

「今のティアナとスバルのスキルだと、普通なら防御も回避も難しい中距離自動攻撃型の狙撃スフィア」

 

『それに加え、ソーマとサーシャのスキルに合わせて基礎スペックをかなり上げられている……2人が歩幅を合わせないと難しいだろうな』

 

「どうやって切り抜けるか、知恵と勇気の見せ所……」

 

『お手並み拝見だな』

 

はやての言うとおり、足りない部分をどうやって補うのか、これがこの試験のもっとも重要視されている部分。 それを見るために、私もはやてもここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外力系衝剄……九乃!」

 

ソーマは攻撃を避けながら指の間に針のように細い剄弾を形成。 腕を振り抜いて針を飛ばし、スフィア落としていく。

 

鉄の平和(フェッロ・パーチェ)!」

 

サーシャは輪刀を前に突き出し、円内に魔力障壁を張ってスフィアの攻撃を引き受けた。

 

「そのまま引きつけて!」

 

サーシャの背後で隙を伺い、アンカーガンを構えたティアナが魔力弾を撃ち、スフィアを落としていく。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

負けじと、スバルもリボルバーナックルでオートスフィアを粉砕する。 そのエリアの全てのターゲットが破壊され、攻撃が止んだ。

 

「……よし、全部クリア」

 

ティアナをカバーするように3人は辺りを警戒し……ティアナが周囲の安全を確認してアンカーガンを下ろす。

 

「この先は?」

 

「このまま上。 上がったら最初に集中砲火がくるわ。 サーシャ、先に上がって壁役を頼める?」

 

「は、はい! 防御、反射には自信がありまふ!」

 

ティアナとスバルはカートリッジを交換し、準備を整えながらティアナは作戦を伝える。 そしてサーシャはここで緊張してきたのか、最後の方を噛んだ。 相変わらず肝心な時にプレッシャーに弱い。

 

「次にオプティックハイドを……そういえばソーマ、アンタ似たような魔法を使えたわね?」

 

「ん? ああ、千人衝(せんにんしょう)だね。 それで撹乱すればいいんだね?」

 

「アンタのそれは実体もあるから、そのままやってもいいけど……後方を狙いなさい。 囮を出すから、前方はこっちで引き受けるわ」

 

「了解」

 

「よし、スバル。 クロスシフトでスフィアを瞬殺……やるわよ?」

 

「了解!」

 

作戦が決まり、ティアナが頭上の高速道路に開いた穴を見据える。

 

「カウント5よ。 じゃあ始めるわよ……」

 

ティアナは圧縮した魔力弾で穴から離れた場所を撃ち抜き、上に出ると破裂し……スフィアがそっちに向かい……

 

「はあっ!」

 

遅れてソーマが千人衝を使いながら穴から飛び出し、数十人のソーマが左側に向かって行き、ターゲットを次々破壊していく。 スフィアが反対側から出たソーマを注目するが、次に出てきたサーシャに目標をロック……サーシャにオートスフィアの集中砲火が襲いかかる。

 

「あうあうあう!?」

 

障壁を破られないように注意しながら、反射でスフィアを落としていき注意を集める。 サーシャを攻撃しているオートスフィアの背後……全体の右側からローラーブーツの音が近づいてきた。

 

「5、4!」

 

二本の土煙と火花をが走りながら一体のオートスフィアが突然凹み、大破した。

 

「3!」

 

宙から浮かび上がるように、スバルが姿を現す。 数体のスフィアがスバルの姿を捉える。

 

「2!」

 

リボルバーナックルが高速回転を始める。 その音に反応したスフィアが、サーシャからスバルへ照準を変え、攻撃を始めた。 スバルは射撃を避けながら飛び上がり……

 

「1!」

 

残り1秒でティアナも現れる。 すでに三発の魔力弾が形成されてティアナの周囲に浮かんでおり、発射体制が出来ていた。

 

「0!」

 

「あう!」

 

攻撃に巻き込れないようにサーシャは穴に飛び込み……

 

「クロスファイア……」

 

「リボルバー……」

 

『シュウゥーーーット!』

 

ティアナのクロスファイアーシュートとスバルのリボルバーシュートがオートスフィアを一瞬で殲滅した。

 

「あうあう……お、終わりましたか?」

 

ヒョッコリと、穴から顔をのぞかせるサーシャ。 辺りを見ると、非攻撃型のターゲットはソーマが一掃していた。

 

「イエイ! ナイスだよ、ティア! 一発で決まったね!」

 

成功したのが嬉しいのか、スバルはピョンピョンと跳ねながらはしゃぐ。

 

「まあ、サーシャとソーマが攻撃を引きつけてくれてたからね」

 

思った通りの作戦で上手くいったからか、ティアナも安堵の表情を見せる。

 

「あ、そっちも終わった?」

 

「うん。 まあ、ね……」

 

スバルはソーマの方を見ると……ソーマの背後には無数のターゲットの残骸があった。 残っていたとすればダミーターゲットくらいだ。

 

「流石です、ソーマ君!」

 

「…………………」

 

「あ、あはは……あ、そういえばティアって普段はマルチショットの命中率あんま高くないのに、ティアはやっぱ本番に強いなー!」

 

「うっさいわよ!さっさと片付けて次に……」

 

ティアナっがムッとした顔になって不機嫌そうにスバルを見た時、ティアナの目が見開く。

 

「あっ!」

 

その意味を瞬時に理解したサーシャはスバルに向き直る。

 

「?」

 

キョトンとした顔をしているスバルの背後に、撃ち漏らしていた一機のスフィアが狙いを定めていた。

 

「スバル防御!」

 

「させない!」

 

サーシャはすぐさま輪刀を構える、障壁を展開しながらスバルとスフィアの間に投げ。 ティアナがスバルの元に駆け出した。 スフィアが射撃。 射撃は輪刀で防いだがティアナがスバルを押して射線上から出した。

 

「うわぁ!?」

 

「退散です……!」

 

「クッ!」

 

ティアナは2人から離れ、反撃を試みる。 銃口をスフィアに向け、魔力弾を発射しようとした時……

 

「ああっ!?」

 

地面の窪みに足を取られ、転倒してしまった。

 

『ティア!』

 

「ティアナちゃん!」

 

「くっ……」

 

ティアナは地面を転がってオートスフィアの攻撃を避け、魔力弾を2発撃った。 1発目は外し、2発目が当たる瞬間……横から針が飛来して来てオートスフィアを破壊する。 その時、外してしまった流れた弾丸が監視用サーチャーを破壊してしまった。

 

(やっちゃった……)

 

ソーマだけがサーチャーの破壊に気付き、色んな意味でやってしまったという顔をする。

 

「ティア!」

 

「騒がない! なんでもないから……」

 

「嘘だ! グキッていったよ! 捻挫したんでしょ?」

 

「ごめんティア、僕がもっと早く終わらせれば……」

 

「だから何でもない……痛っ!」

 

心配するスバルをよそに立ち上がろうとしたが、左足首に激痛が走りうずくまる込むティアナ。

 

「見せてください!」

 

ティアナを近くの隆起したコンクリートに腰を下ろさせ、左足を出す。 サーシャはティアナの足を取ると、僅かに捻ってみた。

 

「……っ!」

 

「痛みますか?」

 

「……少しね。 でも大丈夫よ」

 

ティアナは強がってみせるが、その顔色をみれば歩く事さえ困難な事が分かる。

 

「とにかく、応急処置を……」

 

回復魔法と鎮痛魔法を使い、捻挫の応急処置を施した。

 

「これでよし。 でも気を付けてください、すぐに悪化するかもしれません」

 

「……アリガト……」

 

お礼を言うティアナだったが、その口調は沈んでいた。

 

「ティア、ごめん……油断してた」

 

「僕も不注意だった……僕の責任だ。 急造のチーム、連携が上手くいかないのは当然なのに……」

 

「……別に、アンタ達の所為じゃないでしょ。 それにアンタ達に謝られると、返ってムカつくわ」

 

消え入りそうな声で謝るスバルひ見て分かるくらいに落ち込んでいる。 ティアナが憮然とした表情で答える。誰が悪いと言う訳ではない。 あえて言うとしたら、自分の運が悪いとティアナはそう思った。

 

(確かにスバルは油断していたけど、安全確認を怠ったのはアタシだし、バックスとしてはやってはいけないミスだった。 ここでアタシがお荷物になっちゃダメだ。 アスカもいるし、スバルも目標がある。 なら……仕方ないか)

 

「ティアナちゃん?」

 

「……走るのは無理そうね……最終関門は抜けられない」

 

「ティア?」

 

ティアナの言葉に、スバルが不安そうな顔をする。 ソーマとサーシャも同様にそう思っている。

 

「アタシが離れた位置からサポートするわ。 そうしたら、アンタ達だけならゴールできる」

 

「ティア!!」

 

「うっさい! 次の受験の時はアタシ1人で受けるって言ってんのよ!」

 

ティアナはスバルを叱りつけるように叫んだ。

 

「次って、半年後だよ!?」

 

「迷惑な足手まといがいなくなれば、アタシはその方が気楽なのよ。 わかったらさっさと……クッ!」

 

立ち上がろうとしたけど足がまた痛み出して、ティアナはよろけてしまう。 近くの瓦礫に掴まって、何とか立っている状態だ。

 

「ほら、早く!」

 

ティアナはスバルに先に進むように促す。 サーシャが何かを言おうとした時、先にスバルが口を開いた。

 

「ティア………私、前に言ったよね。 弱くて、情けなくて、誰かに助けてもらいっぱなしな自分が嫌だったから、管理局の陸士部隊に入った」

 

「……………………」

 

「魔導師目指して、魔法とシューティングアーツを習って、人助けの仕事に就いた」

 

「知ってるわよ。 聞きたくもないのに、何度も聞かされたんだから」

 

完全に2人の世界に入っているが、ソーマとサーシャは黙って話を聞き。 ティアナはスバルに背を向けた。 聞く耳持たないというアピールのようだったが、スバルは構わずに話を続ける。

 

「ティアとはずっとコンビだったから……ティアがどんな夢を見てるか、魔導師ランクのアップと昇進にどれくらい一生懸命かよく知ってる」

 

気持ちが分かる表れか、スバルは震えている。

 

「だから! こんな所で! 私の目の前で! ティアの夢をちょっとでも躓かせるのなんて嫌だ!ティアを置いていくなんで絶対に嫌だ!」

 

「じゃあどうすんのよ!走れないバックスを抱えて、残りちょっとの時間でどうやってゴールすんのよ!」

 

ティアナは振り返ると同時に強く言った。そうすれば、怯むかと思ったから。 だが、スバルは意外にもしっかりした言葉で答えてきた。

 

「裏技……! 反則、取られちゃうかもしれないし……ちゃんとできるかも分からないけど……うまく行けば私もティアもゴールできる!」

 

「……本当?」

 

(あの……この試験、4人でゴールしないと意味がなかったんじゃ……)

 

(……そんな事を言える空気に見える?)

 

(…………あう)

 

半信半疑でティアナはスバルに聞き返した。 そして、すでにソーマとサーシャは空気になっている。

 

「あ……! あ、えと……その、ちょっと難しいかもなんだけど……ティアにもちょっと無理してもらう事になるし、よく考えるとやっぱり無茶っぽくはあるし……そのなんて言うか……えと、ティアがもしよろしければっていうか、その……」

 

さっきまでの自信がどこに行ったのか、スバルは口籠ってしまい。 それを見ているティアナの機嫌は一気に悪くなる。

 

「あー! イライラする!」

 

そして思わずキレたアティアナは、足の痛みを忘れてスバルの胸ぐらを掴んで引き寄せた。

 

「グジグジ言っても、どうせアンタは自分のワガママを通すんでしょ! どうせアタシはアンタのワガママに付き合わされるんでしょ! だったったらハッキリ言いなさいよ!」

 

ちょっと驚いた表情のスバルだったが、すぐに真剣な目になる。

 

「2人でやればきっとできる。信じて、ティア」

 

その言葉に、不思議と安心するティアナ。スバルから手を離して時間を確認する。

 

「……残り時間……4分ちょっと。プランは?」

 

「うん!」

 

嬉しそうに頷くと、スバルは作戦を話した。 が、そのプランを聞いて、ティアナを含め、ソーマとサーシャもギョッとする。

 

「ちょ……それ、本当に反則ギリギリじゃない! 試験官の受け取り方次第じゃ減点よ?」

 

「でも、やるしかない!でしょ?」

 

イタズラっぽくスバルが笑う。

 

(ああ、この子ったら変な所で大胆なんだから……)

 

だがティアナは思わず苦笑してしまった。 そこで、ついにサーシャがおずおずと手を上げた。

 

「あ、あのあの……お話の所申し訳ありませんが……この試験、4人がゴールしないと意味が……」

 

『あ……』

 

そこでようやく気付いたのか、間抜けな声を出した2人。 次いでティアナは先ほどな発言が恥ずかしくなったのか、顔をみるみる赤くし。 スバルは頭をかきながらアハハ、と苦笑いをする。

 

「コホン……えっと、ティア?」

 

「っ!! とにかく! 時間がないわ。 手短に説明するわよ」

 

自身の羞恥心を頭を振ることで消し、ティアナは頭の中で組み上がった作戦を伝えた。

 

「作戦は以上、行くわよ!」

 

『おおっ!』

 

スバルとサーシャはすぐさま目標地点に向かい、ソーマはティアナを抱えてゴールに続く道の上まで連れて行く。

 

「ここでいいわ」

 

「了解」

 

瓦礫の陰にティアナを降ろし。 ティアナは早速足元にオレンジの魔法陣を展開してフェイクシルエットを発動……ティアナの幻影がゴールを目指して走る。

 

すると、左側にあったビルから無数の魔力弾が発射。 ホーミング付きで幻影のティアナを襲った。

 

『確認したよ。 ソーマ君、お願い』

 

「了解!」

 

続いてソーマが飛び出し、大型オートスフィアの的になる。 すると、次に飛んできたのはいくつもの小型のオートスフィアだった。

 

「あれは……」

 

考える暇もなく、小型のオートスフィアから機関銃並みの速度で魔力弾が発射される。

 

「っ! 内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマは足に剄を流し、脚力を大幅に強化して高速移動。 スフィアに斬りかかるが……異常なほどの硬度を持つバリアが剣の進行を止めた。

 

「甘い!」

 

外力系衝剄・轟剣

 

剄を練り上げ刀身を覆うように収束させ、いとも簡単にバリアごとスフィアを真っ二つに斬り裂いた。

 

そして、スバルは足元に青いベルカの魔法陣を展開し……

 

「よし! ウイング……ローーーッド!!」

 

地面を殴り、目標オートスフィアがいるビルまで道を作った。 そして小脇にサーシャを抱える。

 

「あの……先に行っちゃダメですか?」

 

「ダメ!」

 

本当にダメな理由は絶対にないと思うが、サーシャは諦めて項垂れる。

 

「させない!」

 

「そこ!」

 

ウイングロードがビルに直撃した衝撃でスフィアが反応するが……ティアナがスフィアの周りにフェイクシルエットによる幻影がスフィアの注意を逸らす。

 

『行って!』

 

スバルはリボルバーナックルのカートリッジをロードし……

 

「行っくぞおお!!」

 

ローラブーツが火花を散らし、一瞬で最高速度に達し……ウィングロードを走り抜ける。

 

「きゃあああああ!?」

 

サーシャは悲鳴を上げながらも輪刀を正面に構え、魔力弾を発射してビルの壁にヒビを入れ……

 

「でやああああ!!」

 

スバルがブチ抜いた。 すぐにサーシャを離すと、そのままオートスフィアに向かって殴りかかった。

 

「おおおおおっ!!」

 

拳はスフィアのバリアによって防がれるが……何度もカートリッジをロードし、破壊しようとする。

 

「スバルちゃん、無茶だよ!」

 

スバルだけでは突破は無理だと判断し。サーシャは輪刀を振り回してその場で何度も回転して……

 

巨人の投擲(ティターノ・ランチャーレ)!」

 

輪刀を投擲した。 高速で回転している輪刀はバリアに直撃すると削りながらどんどん進んで行く。 するとサーシャの方が威力が高く、バリアの密度を輪刀方面に上げたため……スバルの方のバリアは薄くなった。

 

「うっ……りゃあああああ!」

 

あろうことかスバルは拳を出しているにも関わらず指を立て始める。 するとリボルバーナックルがバリアを貫通し始め……その状態で拳を握り、腕を引いてバリアを無理矢理引き剥がした。

 

「やった!」

 

「スバルちゃん! 避けて!」

 

バリアを破っただけではスフィアは破壊できない。 スフィアからの射撃でスバルは吹き飛ばされるが……腕を交差させて防ぎ。 後ろに飛び退いて後退する。間髪入れず、横から剣が飛来し、スフィアの頭上を通ると……

 

「はああっ!」

 

ソーマが転移して、剣を掴んで振り下ろす。 頭のセンサーを破壊した。

 

「一撃必倒!」

 

スバルは魔力弾を展開、リボルバーを回転させ魔力を急速に上げる。 その構えはまるで、魔力弾が砲弾。 スバルが撃鉄のような構図だ。

 

「スバルちゃん! これ、使って!」

 

サーシャが輪刀を投げると、魔力弾の前に輪刀が置かれ。 それが砲身のような役割をする。

 

「ありがとう! 行っくぞおお! ディバイーーン………バスターーーー!!」

 

拳を振り抜き放たれた砲撃は、輪刀を通り抜けて威力が増幅され。 スフィアに直撃すると、スフィアは耐える事なく吹き飛ばされ……射線上にあった壁をブチ抜き。 屋上に及んでビルを大破させた。

 

「ええっ!? 何、この威力……!?」

 

「えへへ、輪刀を陣として規定。 相手の攻撃を遮断して逆に陣を通り抜けた人や魔法の魔力を大幅に増幅できるんだぁ」

 

「説明はいいから、早く行くよ!」

 

「あ、うん!」

 

「あ、あわわ……」

 

『残り……後1分ちょい……急いで!』

 

サーシャは慌てて説明を止め、ソーマ達はティアナの元に向かった。 4人は最後の手段を実行し、ゴールに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の直線の先にあるゴール地点で、リインは4人を待っていた。

 

「あっ! 来たですねぇ!」

 

遠くから土煙が2つが近付いて来た。 1つはティアナを背負ったスバル。 もう1つは天剣をボードにして乗ってスバルと併走しているソーマとサーシャだ。

 

「見えた!」

 

「ゴールまで後ちょっと!」

 

「後何秒!?」

 

「20秒……まだ間に合う!」

 

ティアナはスバルの問い掛けに答えた後すぐ、アンカーガンを構えて残りのターゲットを撃ち抜いた。

 

「はいっ! ターゲット、オールクリア……です?」

 

その時、日に影が掛かり。 上を向くと……ボロボロの大型オートスフィアが行く手を塞いで来た。 4人を撃退しようと砲門を覗かせ、魔力をチャージしている。

 

「ちょっ!? 倒したんじゃなかったの!?」

 

「い、いや〜、そこまで確認している余裕なかったから……」

 

確かに吹っ飛ばしただけで、完全に機能停止に追い込んだ訳ではないが……

 

「スバル、突っ込んで! 道は僕達で切り開く!」

 

「了解!」

 

「え? ちょっ、スバル!?」

 

ソーマの言葉を迷う事なく了承し、速度を上げるスバル。 ティアナは全く了承していないが……

 

「サーシャ、お願いできる?」

 

「うん……今度は……全力で!」

 

輪刀をスフィアに向かって飛ばし、円内に魔力が張られる。

 

「我! 天の力を借りて……陣を示す! 輝きの時代(エター・ブリーオ)

 

詠唱後、輪刀の魔力は高まり。 スフィアから発射された砲撃を弾いた。 サーシャとソーマは飛び上がり、ソーマは通常の大きさになった剣を掴む。

 

「天剣よ……!」

 

ソーマは陣の中に飛び込み……心身共に力が漲るのを感じ、刀身に走る剄の量が増幅する。

 

「はあああああ!!」

 

一閃。 抵抗も無く振られた剣はスフィアを横に真っ二つにし……完全に破壊した。 すぐに剣をボードに変化させ、輪刀を掴んだサーシャと共に飛び乗りゴールを目指す。

 

「よし、最後の難関突破!」

 

「後はゴールするだけよ! スバル!」

 

「了解! 魔力、全開ィィィ!!」

 

スバルは残り魔力を全てローラブーツに注ぎ込み、一気に加速した。

 

「ス、スバルちゃん、速い!」

 

「くっ!」

 

遅れないようにソーマも加速するが……

 

(あれ、どうやって止まろう……)

 

そう思った時、振り解かれないようにしがみ付いていたティアナが叫んだ。

 

「ちょっ、スバル! 止まる時の事考えてるんでしょうね!?」

 

「えぇ!?」

 

驚愕するスバル。 完全に忘れていたようだ……

 

「うわぁ……」

 

「嘘っ!?」

 

「ソ、ソーマ君……?」

 

「……………………」

 

「何か言ってえぇ……」

 

こちらも同じ状態ではないよね、と言う意味でソーマの名前を呼んだが……どうやら同じのようだ。

 

「あ、何かちょいヤバです」

 

4人のスピードを見て、リインはそう呟く。

 

『わあああぁぁぁ!!!』

 

絶叫を上げながら制限時間ギリギリでゴールラインを通過する4人。 もう目の前はバリケードで行き止まり……そして絶叫を上げながら突っ込んで行き……

 

「アクティブガード。 ホールディングネットも必要かな」

 

《アクティブガード、ホールディングネット》

 

次の瞬間、4人は桜色の閃光に飲まれた。

 

「……あれ、生きてる?」

 

ギッュっと瞑っていた目を開き、ソーマら辺りを見渡す。 だが、その景色は逆さまだ。 ソーマはアクティブガードに逆さまに引っかかっている。

 

「あう〜……」

 

サーシャはホールディングネットに顔面から突っ込んで気を失っていた。 スバルは片方のローラブーツが脱げて変な体勢に、ティアナはアクティブに掴まっていた。

 

「もう〜〜! 4人とも、危険行為で減点です!」

 

その時、ゴールから飛んで来たリインが頰を膨らませ、怒りながら4人を叱った。

 

「ちっさ……」

 

「アギトさんサイズだ……」

 

リインの全体を始めて見たティアナとソーマは、上官だという事も忘れて思った事を言った。

 

「頑張るのはいい事ですが、怪我をしては元の子もないのですよ! こんな事じゃ魔導師としてはダメダメです! 全くもう……!」

 

リインはプンプンと怒って説教をしてくるが、その容姿のせいでまるで叱られている感じはしなかった。

 

「あはは、まあまあ」

 

更にリインがお説教をしようとした時、それを止める声がした。 すると空から白いバリアジャケットを纏ったなのはが降りて来た。 隣には赤いバリアジャケットを纏っているアリサもいた。

 

「ちょっとビックリしたけど、無事でよかった」

 

「とりあえず試験は終了よ」

 

アリサはちらりと上を向く。 視線の先にいたのは上空を飛んでいるヘリのハッチから手を伸ばして魔法を発動前で待機しているフェイトと夜天の書を片手に持っているはやてがいた。 アリサはそれに向かって軽く手を振り、2人はホッとした。 なのは魔法を発動させ、4人の身体をフワリと浮かび上がらせ、優しく地面に下される。

 

スバルとソーマはそのまま立ち上がったが……気絶しているサーシャは横に、捻挫しているティアナは地べたに座り込んだ。

 

「リインもお疲れ様。 ちゃんと試験管できてたよ」

 

「わあい! ありがとうございます! なのはさん!」

 

さっきまで怒っていたリインは、なのはに褒められると一瞬で笑顔になる。

 

「全く、調子に乗りやすいんだから……」

 

「まあまあ」

 

アリサは不満があるのか呆れるが、なのははそれを制すとバリアジャケットを解除して4人に向き直った。

 

「まあ、細かい事は後回しにして……ランスター二等陸士」

 

「あ、はい!」

 

「怪我は足だね。 治療するからブーツ脱いで」

 

「あ! 治療なら私がやるですよー」

 

「あ……えと……すみません」

 

ティアナは少し困惑しながら治療をお願いした。

 

「それよりも……ソーマ、サーシャ! 正座!」

 

「は、はい!」

 

「熱っ……ついいーー!?」

 

アリサは気絶しているサーシャを軽く炙って起こし、ソーマと並べて正座させた。

 

「アンタ達があの体たらくとはどう言う事よ! 意気揚々にグリードを先に倒しておきたいって言ったのはどこの誰かしら……!?」

 

「す、すみません……」

 

「あのあの……それは私じゃなくてソーマ君が……」

 

「口答えしない!」

 

「はいぃーーー!?」

 

今のアリサは、まさしく(イレギュラー)であった……

 

「な、なのはさん! お久しぶりです!」

 

スバルはなのはの前に来ると、ビシッと姿勢を正して挨拶した。

 

「うん、久しぶり。 教団事件以来かな、あれからまた腕が上がったみたいだね?」

 

「はい! でも……今回は、その……ご期待に添えなくて……」

 

「気にしないで、スバルは今出せる全力で試験に挑んだ……それでいいの」

 

「……はい!」

 

納得はしないものの、スバルは元気よく返事をした。 その時、アリサがなのはに近寄った。

 

「さて、そろそろ行くわよ」

 

アリサの背後には意気消沈気味の2人がいた。

 

「あ、あはは……こってり絞られたみたいだね。 試験の採点をするから、4人は事前に指定のあった場所で待機」

 

『はい!』

 

『は、はい……!」

 

なのはの言葉に、ソーマ達4人は敬礼をして答えた。

 

 

 



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143話

 

 

「はあ……何やってんだか……」

 

ソーマ達がノンストップで突っ込むのと、その後アリサに説教されるのを眺め。 採点をするため待機場所に移動する所で通信を切り、イスに深く座り込んで嘆息する。

 

「ふふ、スバルちゃんとティアナちゃんと組んだからかな? 2人の意外性が上がった気もするよ」

 

「そもそも、アイツらは単独で戦うのが得意たがらなぁ」

 

「冗談……とは言えないか。 ソーマ達には本当の意味で、チーム戦を教えていなかったからな」

 

すずかから受け取った紅茶を一口飲みながら、アギトの言葉に少し同意する。 あの2人の場合……強大なグリードを倒す時は、強力な魔法を交互に出して倒すのがセオリーだったからな。 どうしても単独で戦うことに慣れておりチームで戦うのは苦手のようだ。

 

「さて、俺達もそろそろ行こうか」

 

「うん。 試験の結果は……まあ、残念だと思うけど……」

 

すずかがにべもなく事実を言うが、無駄に取り繕っても結果は変わらない。 席を立ち、待機場所に向かった。 到着すると2人が座っており、こちらに気付くと立ち上がった。 ここで敬礼しないあたりが異界対策課らしいな。 残りの2人はなのは達が担当し……一旦座らせ、話を切り出す。

 

「さて、結果を発表する前にお前達には聞いてもらいたい事がある」

 

「私達に、聞いて欲しい事ですか?」

 

俺は、今から4年前に起きた航空火災事故について、要約して語った。 なのは達も同様にスバルとティアナにこの話をするだろう。

 

「ーーそんな経緯で、八神二佐は新部隊設立の為に奔走。 4年程かかってやっと一歩踏み出せた……という事なんだ」

 

「部隊名は時空管理局本局、遺失物管理部……機動六課だ」

 

「登録は陸士部隊。 フォワード陣は陸戦魔導師が主体で、特定遺失物の捜査と保守管理が主な任務だ」

 

「遺失物……ロストロギアの事ですね?」

 

「そうだよ」

 

ソーマの質問に、すずかが答える。 だがソーマはまだ疑問を残している。

 

「それで、何故そんな話を僕達に?」

 

「ああ、まあ簡単な話……2人には機動六課のフォワードに入ってもらいたい」

 

『え……』

 

突然の事に、2人は呆然と驚く。 まあ、そうなるよな。

 

「厳しい仕事にはなるけど……濃い経験は積めると思うし。 ソーマ達にはあんまり関心がないと思うけど、昇進機会もある……どうする?」

 

「え、それは……」

 

「これは強制じゃない。 断っても今まで通り対策課の仕事をするだけだけど……俺達は六課に出向するけどな」

 

「あ、それでユエさん達を正式に対策課に入れて。 少人数の新人を迎え入れて、あの制度を作ったんですね?」

 

「さすがサーシャ、話が早えじゃねえか」

 

とはいえ、やはりまだ納得はしないか……

 

「……俺達、異界対策課は市民の要望を答え続けて今の形になって、今の形でやって行くだろう。 だが、このままいいのか?」

 

「え……」

 

「このまま、根本的な解決にならないまま異界対策課は続けていいのか……そう言う意味でも考えみて欲しい」

 

「ーーま、今はとりあえずそれは後でいいでしょう」

 

「あ、アリサちゃん」

 

ちょうどそこに、試験の採点を終えたアリサがやって来た。

 

「試験の結果を発表するわよ」

 

それを聞き、2人の表情は真剣な物に変わる。

 

「両名、技術は問題なし。 しかし、危険行為や報告不良は見過ごせる限度を超えているわ」

 

いつも通りに、アリサは事実を淡々と答える。 ソーマとサーシャは見るからに沈んで行っている。

 

「理由は、答えなくても分かるわね?」

 

「……はい……」

 

「よって、両名不合格……なんだけど」

 

「え……?」

 

「あなた達の魔力値や能力を考えると、次の試験までの半年間Cランク扱いにするのは返って危険と判断するわ。 これは試験管と高町一等空尉との共通見解よ。 もう片方の両名も同じ……よって、特別講習に参加するための申請用紙と推薦状よ」

 

アリサは2人の前に必要な書類を置いた。

 

「これを持って空域武装隊で3日間の特別講習を受ければ、4日目に再試験を受けられるわ」

 

「えっと……」

 

「来週からみっちり鍛えられて、少しはチームメイトの把握とルールを遵守を覚えてきなさい」

 

「対策課は気にするな。 おめえらがいなくても問題ねえからな」

 

『ありがとうございます!』

 

2人は嬉しそうな顔をすると、お礼を言って頭を下げた。

 

「それと合格までは返事は保留でいい。 よく考えて決めてくれ」

 

『はい……!』

 

ソーマとサーシャは元気よく返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤさん達との説明も終わり、一度落ち着こうとサーシャとこの施設の中庭に向かっていた。

 

「なんだか色々あり過ぎて頭がこんがらがっちゃうよ……」

 

「へえ、サーシャでも混乱するんだ?」

 

「……酷いよ、ソーマ君……」

 

「いや、違う違う。 サーシャって神様のいうとおりとかホルスとか、僕の分からない事をいっぱい作っているからさ。 そんなサーシャでもって……」

 

「なるほど……」

 

落ち込んだと思ったらあっさり気を保ったサーシャ。 ホント、メンタル弱いね……そう思っている間に中庭に着くと……

 

「な・に・よ! 言って欲しかないわよ! バカ言ってんじゃないわよ!」

 

「きゃああ!? 痛い痛い痛い! ギブギブギーブー!」

 

「ふんっ!」

 

「あいて〜〜……」

 

ティアがスバルのお尻を抓っていた。

 

「何やってるの……2人共」

 

「あ、ソーマとサーシャ。 そっちも話は終わったのー?」

 

「うん。 もしかして、2人も六課に?」

 

「ええ、誘われているわ。 それにしても……」

 

ティアは僕とサーシャを見て、なぜかため息をついた。

 

「なんでアンタ達は私服なのよ?」

 

そう、僕達が今着ている服は管理局の制服ではなく私服……仕方ないとはいえ、ここにいるとやはり目立つ。

 

「そう言われても……最初っから異界対策課だったし……」

 

「異界対策課は基本、私服ですから」

 

「いいなぁ。 私服で仕事が出来るなんて天職だよ〜」

 

「アンタなんかに異界対策課が務まるわけないでしょ。 グリードを倒せる倒せないはともかく……アンタに依頼が出来るとは思えないわ」

 

「そんなことないよ! ね、ソーマ! 依頼ってどんなのがある!?」

 

目を輝かせながらスバルは興味津々に聞いてくる。

 

「そうだなぁ……基本、人助けみたいな物だから。 スバルでも出来ると思うよ」

 

「でも、1日10件以上は受ける事になるよ」

 

「…………やっぱり辞めよっかな、異界対策課………」

 

「アンタって子は……」

 

仕事量を聞いて、スバルはあっさり引いた。 ティアも呆れている。

 

「それで話を戻すけど、どうするの? 機動六課の話」

 

「僕は、そうだなぁ……魔導師としても、武芸者としても上を行くレンヤさんに指導を受けて、もっと強くなりたいから……かな?」

 

「あはは! それ私も! 私もなのはさんに色んな事を教えてもらって、もっともっと強くなりたい!」

 

「私は……執務官の夢、最短距離で行きたいから、かしら?」

 

「あうあう、皆さん明確です……」

 

「サーシャはないの?」

 

スバルに聞かれ、サーシャはワタワタした後……深く考え込んだ。

 

「……私は、分からないです……分からないから、探しに行くために六課に行きたいです。 それじゃあ、ダメかな?」

 

「ううん! 全然大丈夫!」

 

「目標を見つけるため、それも立派な動機だよ」

 

動機なんて、基本なんでもいいのかもしれないけどね。

 

「それにいいよねー、2人は個人で一人前扱いされて。 私なんかティアと合わせて一人前なんだもん!」

 

「あ、スバル。 それ言ったら……」

 

だが、時すでに遅し。 またもやムカついたティアが一瞬でスバルの背後に回り……

 

「そ・れ・を・言うな! メッチャクチャムカつくのよ! 何が悲しくて、アタシはどこ行ってもアンタとコンビ扱いなのよ!」

 

「痛い痛い痛い! ごめんなさい、ティアごめんなさ痛ーい……!?」

 

ティアはスバルの背にのしかかって頰を思いっきり抓った。 ちなみに、最初は僕も入れてトリオ扱いだったりする。 これってもしかして、トリオ再結成?

 

「ふん! まあいいわ。 上手くこなせれば、アタシの夢への短縮コース……アンタのお守りは御免だけど。 ま、我慢するわ」

 

「ふふ、ティアナちゃんったら……」

 

「相変わらずだね」

 

ティアのツンデレが面白く、僕達3人は嬉しそうに笑い。 ティアは変わらずツンケンしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人の楽しそうな光景を、離れた場所でなのは達が見下ろしていた。

 

「あの4人は、まあ入隊確定かなあ?」

 

「だね」

 

「あの2人なら来ると思ったわ」

 

「なんや、なのはちゃんとアリサちゃん、嬉しそうやね?」

 

嬉しそうな表情をよく見るようにはやては2人の顔を覗き込む。

 

「2人共、育て甲斐がありそうだし。 時間掛けてじっくり教えられそうだしね」

 

「今まで教導する機会もなかったし、これを機ににね」

 

「あはは、それは確実や」

 

なのはとアリサの教導官として、4人はやり甲斐がありそうな人材のようだ。

 

「新規のフォワード候補は……後3人だっけ? そっちは?」

 

「2人は別世界。 今、シグナムとルー子が迎えに行ってるよ」

 

「ーーなのは、はやて!」

 

奥から報告が終わったフェイトとリインとレンヤがやって来た。

 

「待たせたな」

 

「お待たせ」

 

「お待たせですぅ!」

 

リインはフェイトの肩から飛ぶと、はやての隣に停止した。

 

「ほんなら次に会うんは、六課の隊舎やね」

 

「皆の部屋、しっっかり! 作ってあるですよ!」

 

「うん!」

 

「楽しみにしている」

 

「期待してるわ」

 

「それじゃあ、また後でな」

 

はやてとリインとアリサはまた別の用事を済ませに行き、なのはとフェイトとレンヤはそれぞれ隊に戻ろうとした。

 

「うーん、さて。 それじゃあ隊に帰ろうかな?」

 

「私、車で来ているから中央まで送って行くよ。 レンヤはどうする、一緒に乗って行く?」

 

「ああ、お願いするよ。 新車がまだ出来てないからな」

 

「あはは、またすずかちゃんの凝り性だね」

 

半年前にレンヤは個人的に対策課にある車と同型の車の開発をお願いした。 が、半年たった今でも完成してなかった。 外側すでに終わっているそうらしいが……

 

ピリリリリ♪

 

その時、レンヤのメイフォンに着信が入ってきた。 相手はどうやらアリシアのようだ。

 

「はい、神崎 蓮也です」

 

『あ、レンヤ? 試験はもう終わった?」

 

「ああ、今からフェイトに送もらうつもりだ」

 

『そっか。 こっちも引継ぎの準備は出来ているよ。 レンヤが来ないと進まない仕事もあるんだから、寄り道しないで帰って来てよね?』

 

「分かってるよ」

 

『それじゃあ、また後でね』

 

通信を切り。 その後、フェイトの車に乗り込み。 車を走らせながら残りのフォワードの情報を見ていた。 ちなみにこの車もすずか製だったりする。

 

「へえ、本当にこの子達なんだねえ、フォワード候補」

 

「まだ子どもだから、ちょっと……心配なんだけどね?」

 

「だが、能力的には問題なし。 将来が有望だな」

 

「まあ、私の隊だし。 一緒なら少しは安心かなって」

 

「ていうか、俺達もこれより前から戦っているよな? そこまで過保護にしなくても……」

 

「レンヤは分かってないよ。 もし、ヴィヴィオがこうなったら……どう思う?」

 

「断固拒否!」

 

即答である。 先まで言っていたことはどこに行ってしまった。

 

「あ、あはは……レン君もフェイトちゃんも似た者同士だね」

 

それは、なのはにも言える事だが……2人はそれをあえて言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ中央区画、クラナガン中央ターミナルーー

 

人の往来が盛んに行われている中、1人の赤髪の少年が誰かを探すように辺りをキョロキョロしたり、腕時計を見ていた。

 

「えっと……あ!」

 

その時、エスカレーターから地上の茶色い制服の上にコートを着た長身で髪をポニーテールにしている女性と、少年と同年代の紫髪の少女が降りて来た。 少年は女性に見覚えがあり、すぐさま前に出て敬礼した。

 

「お疲れ様です! 私服で失礼します! エリオ・モンディアル三等陸士です!」

 

「ああ、遅れてすまない。 遺失物管理部、機動六課のシグナム二等空尉だ。 長旅ご苦労だったな」

 

「いえ!」

 

少年……エリオはかなりかしこまった感じでシグナムと話す。 と、シグナムの横からひょこりと出て来た少女がエリオに近付いた。

 

「ふうん? あなたがエリオ君?」

 

「は、はい……」

 

「私はルーテシア・アルピーノよ。 よろしくね、エリオ君!」

 

「は、はあ……」

 

敬礼していた手を掴まれて握手するが、突然の事にエリオは困惑する。 そしてシグナムは1人足りないのに気付き、辺りを見渡した。

 

「もう1人は?」

 

「は、はい……まだ、来てないみたいで……あのーー」

 

「なら私とエリオ君とその子を探しに行くわ。 いいわよね?」

 

「ああ、もちろん。 エリオ、君にも頼んでいいか?」

 

「は、はい!」

 

エリオのルーテシアは探し人の名をキャロ・ル・ルシエと教えてもらい。 早速その少女を探しに行った。

 

「ルシエさーん! ルシエさーん! 管理局機動六課新隊員のルシエさーん! いらっしゃいませんかー!?」

 

「……どんな探し方よ……」

 

ルーテシアはエリオの探し方に疑問を持った時、ルーテシアのポケットから黒い球が飛び出し、肩に乗って展開した。

 

(キョロキョロ)

 

「ガリュー、どうかしたの?」

 

「ルシエって……ええっ!? な、なんですか……それ?」

 

「それとは失礼ね。 この子はーー」

 

「はーいっ! 私です!」

 

『ん?』

 

上から返答が聞こえ、フードを被った民族衣装のような服を着ている少女が慌ててエスカレーターを降りて来た。

 

「すみません!遅くなりましたー!」

 

「あの子……」

 

「ああ、ルシエさんですね? 僕はーー」

 

「きゃあっ!?」

 

エリオが自己紹介をしようとした時、少女は足を踏み外し転倒してしまう。

 

「あっ!?」

 

《ソニックムーブ》

 

「えっ!?」

 

エリオはとっさにソニックムーブを発動、驚愕するルーテシアを置いて高速移動。 エスカレーターの壁を蹴るように人混みをかき分けて進み……転倒しそうになった少女受け止めた。 そのまま2人は上階に行ったが……

 

「うわっ……!?」

 

「きゃああああ!?」

 

着地に失敗してバランスを崩し、結局転倒してしまった。

 

「あいててて……す、すみません。 失敗しました」

 

「い、いえ。 ありがとうございます。 助かりました………ん?」

 

少女の視線が下を向き、つられてエリオも視線を下に向けると……エリオの両手は少女の胸にあった。

 

「あ…………」

 

「あ、すみません。 今どきます」

 

「あ! あの、こちらこそすみません!」

 

「……ひゅう、エリオ君のラッキースケベー」

 

いつの間にエリオの隣にしゃがんでいたルーテシアが、ニヤついた顔でエリオを見ていた。

 

「わっ!? ル、ルーテシア!? ち、違うんだ! これには訳が……!」

 

「???」

 

必死に弁明するエリオだが、当の本人はまるで何も分かっていない……その時、少女の持ち物であるバックが動き始め……

 

「キャルー」

 

「あ、フリードもごめんね。 大丈夫だった?」

 

「キュクルー!」

 

無事を現すように、小さな竜……フリードは翼を羽ばたかせて飛んだ。

 

「竜の、子ども?」

 

「あの、すみませんでした。 エリオ・モンディアル三等陸士ですよね?」

 

「あ、はい!」

 

「初めまして。 キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります……! それから、この子はフリードリヒ。 私の竜です!」

 

「キュルーー!」

 

少女……キャロは敬礼しながら名乗り、フリードはキャロの膝に乗ってひと鳴きした。

 

「へえ、可愛いわね」

 

(コクン)

 

「えっと、それであなたは……?」

 

「ああ、私はルーテシア・アルピーノのよ。 こっちは私の友達のガリュー、よろしくね、キャロ」

 

(ペコリ)

 

自己紹介をし、ルーテシアの差し出された手の上に乗っているガリューはお辞儀をして挨拶した。

 

「わあっ……! 可愛い!」

 

「あ、そうだ……ルーテシアは管理局員なんだよね? 所属と階級は……」

 

「……そう言えば聞いてない」

 

「ありゃ、しまったな……私のいた所じゃ階級なんて関係ないし、言う必要もなかったら忘れてたよ」

 

「言う必要がない? それって一体……」

 

困惑するエリオとキャロ。 そんな2人を見てルーテシアは苦笑し、口を開いた。

 

「私の階級は三等陸士。 所属は今度から機動六課になるけど……以前は異界対策課にいたんだ」

 

(ビシッ!)

 

「………え」

 

「異界、対策課?」

 

「キュクル?」

 

ルーテシアは所属を答え、ガリューはなぜか胸を張る。 そして所属を聞いた2人は呆けながら固まっている。 フリードも小首を傾げており……

 

『えええーーーっ!?』

 

2人の絶叫が響いた。 それは異界対策課の名がかなり知れ渡っている証明でもあった。 と、2人が叫んだ拍子に、キャロの懐から1枚の写真が落ちてきた。

 

「あっ!」

 

「これは……写真ね」

 

ルーテシアが写真を拾い、そのまま写真を見た。 写っていたのは今よりさらに幼いキャロと、栗色の髪をした少女だった。

 

「あら、キャロがさらに小さい時の写真ね」

 

「……うん。 7年前の写真なの」

 

「と言うことは3歳くらいだね。 この子とは仲良しなんだ?」

 

「……う、うん」

 

エリオの質問に、キャロは歯切れの悪い返事をした。 それにルーテシアは察して話を変えた。

 

「……さて、それじゃあシグナムも待っている事だし。 早く行くとするわよ」

 

「あ、うん。 そうだね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

(……写真に写っていた女の子……どこかで……)

 

ルーテシアは写真の少女が記憶に引っかかるが、結局よく分からず。 シグナムの元に向かった。

 

 

 



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144話

 

 

4月29日ーー

 

模擬戦闘試験から1週間弱が経過し、いよいよ機動六課始動の日を迎えた。 そして、俺達異界対策課の4名は地上の茶色い制服を着て部隊長オフィスに向かっていた。

 

「へえ、3人とも結構似合ってるな」

 

「えへへ、そうかな?」

 

「まあ、悪くはないわね」

 

「私はこの上に白衣を着るけどね」

 

アリサ達の地上の制服姿は結構新鮮だった。 と、はやてのいるオフィス前に来ると。 ちょうどなのはとフェイトもいた。 2人はオフィスに入る所で、軽く手を上げて挨拶して、なのはがドアベルを押した。

 

『はい。どうぞ』

 

『失礼します』

 

はやての許可を得てオフィスに入った。

 

「おお! 6人ともお着替え完了やなぁ」

 

「皆さん、よくお似合いですぅ!」

 

「俺は元々この制服だぞ」

 

この中で前から地上の制服を着ていたのは俺とはやてくらいだろ。

 

「まあまあ、褒められて悪い気はしないでしょう」

 

「ふふ、またすぐに同じ制服を着られるんなんてなぁ。 ちょっと嬉しいんよ」

 

「紅から茶に変わっただけだしね。 私としては紅の方がいいんだけどなあ」

 

「確かに、紅の方が思い入れがあるからね。 いっそ、対策課の制服を作って紅にしちゃおうかな?」

 

「やめなさい」

 

すずかが割と本気でそう言ったが、アリサがすぐさま止めた。

 

「まあ、私となのはは教導隊制服の時間の方が多くなると思うけどね」

 

「そうだね。 事務仕事とか、公式の場ではこっち、て事で」

 

「対策課より規則が固くなったのが難点だけど……」

 

「アンタだけでも帰っていいわよ?」

 

「冗談だって……」

 

「ふふ。 さて、それじゃあ……」

 

フェイトの切り出しで、俺達は頷き。 両足の踵を合わせて敬礼した。

 

「本日ただいまより、神崎 蓮也二等陸佐……」

 

「月村 すずか一等陸尉……」

 

「アリサ・バニングス一等空尉……」

 

「高町 なのは一等空尉……」

 

「フェイト・テスタロッサ執務官……」

 

「アリシア・テスタロッサ執務官……」

 

親しき仲にも礼儀あり、と言う感じだが。 それでもまだ緩い感じがする。

 

「計6名、機動六課に出向となります」

 

「どうかよろしくお願いします」

 

「はい……! よろしくお願いします……!」

 

形式に則って挨拶をしたが、やはりおかしくなってしまい、皆笑ってしまった。8人で笑い合っていると、再度ドアベルが鳴った。

 

「どうぞ!」

 

「ーー失礼します。 あ、これは皆さん、ご無沙汰しています」

 

中に入って来たのは眼鏡を掛けた青年で、かしこまって敬礼をする。 彼の事はすぐに分かったが、なのはとフェイトは彼をよく見つめる。

 

「え~と……」

 

「もしかしてグリフィス君!?」

 

「はい。 グリフィス・ロウランです」

 

名前を呼ばれるとグリフィスと呼ばれた青年は格好を崩し、なのはたちは笑顔で声をかける。

 

「うわぁ……! 久しぶりだね!」

 

「うん。 前に逢った時はこんなに小さかったのに」

 

「一体いつの話? もう数年前よ」

 

なのはは再開を喜び、フェイトは懐かしさからか手を腰の位置まで下げて、小さい頃のグリフィスの背丈を表し、アリサは呆れながらツッコンだ。 そしてしばらく、そのまま会話を続けるが、時間が少し経ち過ぎたので話を止めた。

 

「おっと、もうこんな時間。 積もる話はまた今度にして。 グリフィスは何か報告があってきたんじゃないのか?」

 

「あ! 失礼しました。 報告してもよろしいでしょうか?」

 

「うん、どうぞ」

 

「はい。 只今、フォワード陣7名含む、機動六課 課部隊員とスタッフ、全員揃いました。 今はロビーに集合、待機させています」

 

グリフィスの報告を聞くと、はやては笑みを浮かべる。

 

「そうかぁ、結構早かったなあ。 ほんなら、レンヤ君、なのはちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、アリサちゃん。 まずは部隊の皆にご挨拶しにいこか」

 

『うん!』

 

「了解」

 

「行きましょうか」

 

そう言って、オフィスを出てロビーへと向かう。 そこには各役割ごとに別れて並ぶ機動六課のメンバーがいた。俺達は前に並ぶと、一緒に簡易的な壇上に立ち、はやてが一歩前へ出ると部隊長挨拶を始める。

 

「私は、この機動六課の課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長を務めます。 八神 はやてです」

 

すると、六課のメンバーから拍手が起こる。それが静まるのを待って再度話し出す。 この機動六課が行っていくべきことそしてありかたを。そして、部隊長にしては些か短い挨拶が終盤に差し掛かり、最後にはやてはこう締め括った。

 

「この機動六課全員が一丸となって事件に立ち向かえると信じています。 と、あんまり長い話は嫌われるんで以上、これまで。 機動六課課長及び部隊長の八神 はやてでした……!」

 

はやてらしい挨拶が終わると、再度全員から拍手が送られた。 それに対しはやては手を上げて応えると、なのはの方を向いた。

 

「それでは、最後に隊長の紹介をします。まずはスターズ隊から」

 

「はい。 私はこの機動六課フォワード部隊のスターズ隊隊長の高町 なのは一等空尉です。 主に新戦力、フォワード陣の戦技教官を務めますので、よろしくお願いします」

 

「あたしは、スターズ隊副隊長の八神 ヴィータ三等空尉だ。以上」

 

ヴィータのあまりの自己紹介の短さに全員が苦笑する。そして、苦笑いのはやてが前に出ると、ライトニング隊に自己紹介を促す。

 

「……あはは。 それでは続きまして、ライトニング隊」

 

「はい。 私はライトニング隊隊長のフェイト・テスタロッサ執務官です。 私は執務官としてのこの機動六課を支えていきます。フォワード隊の事はあまり見れないかもしれませんが……なのは隊長から、アリサ隊長から色々と教わって実力をつけて行って下さい。 それでは、これからよろしくお願いします」

 

「私はライトニング隊副隊長、八神 シグナム二等空尉だ。 至らないところもあるだろうが、よろしく頼む」

 

ライトニング隊の紹介が終わると拍手が起こり、それが静まるとはやては俺の方を向いた。

 

「ほな、次はフェザーズ隊」

 

「はい。 俺はフェザー隊隊長の神崎 蓮也二等陸佐だ。 基本的に様々な部隊の援護、援助したりする。 まあ、出張版異界対策課と思っていい。訓練でもお手伝いでも、気軽に頼んでくれ」

 

すると六課のメンバーがクスクスと笑った。 まあ、それはそうか。 普通なら考えられない挨拶をしているからな。

 

「コホン……」

 

と、そこでアリサが咳払いした。 また静かになり、話し始めた。

 

「フェザーズ隊副隊長のアリサ・バニングス一等空尉よ。 高町一等空尉同様、フォワード陣の戦技教官を務めるわ」

 

紹介が終わり、拍手が贈られる。 続いてはやては次の部隊の自己紹介をした。

 

「ほな、最後はクレードル隊や」

 

「はい。 クレードル隊隊長の月村 すずか一等陸尉です。 後方支援が主だけど、場合には遊撃を買って出ます。 もちろん、それが無い方がいいのですが……気楽にやって行きましょう」

 

すずからしいとはいえ、変な締め方だな。

 

「次は私ねー。 私はクレードル隊副隊長のアリシア・テスタロッサ執務官。 特にかしこまらなくてもいいから、気軽にしてね♪」

 

アリシアの挨拶が終わり……その後ロングアーチの紹介が終わると再度拍手が送られ、部隊長挨拶はお開きとなった。 解散となると俺は1箇所に集まるフォワード陣が目に入り、近付いて声を掛けた。

 

「ソーマ、サーシャ、ティアナ、スバル、ルーテシア」

 

「あ、レンヤさん!」

 

「バカ! ここはもう対策課じゃないのよ……!」

 

「レンヤでいいよ。 対策課の癖はそう治らないだろうし」

 

「そ、そうしてもらえると助かります」

 

「ただし、公式の場ではちゃんと形式に則るように。 まだ管理局はD∵G事件でゴタゴタしているとはいえ、そこだけは守ろうな?」

 

『はい!』

 

そこだけ、を強調して注意し。 俺はエリオの方を向いた。 エリオとは以前フェイトの紹介で会っており、最初は遠ざけられていたが……次第に仲良くなったのだ。

 

「それとエリオ、久しぶりだな。 あれから腕は上がったか?」

 

「はい! すずかさんの出した練習メニューをちゃんとこなして来ました!」

 

「なら大丈夫だろうと思うが、なのはの教導は厳しいから覚悟しておけよ」

 

「は、はい!」

 

「それから君がキャロ・ル・ルシエだな。 これからよろしくな」

 

「はい! 精一杯やらせていただきます!」

 

「ルーテシア、キャロのフォローをしてやれよ。 もしかしたらこの子もアレを使うかもしれない」

 

「了ー解。 その時は任せておいて」

 

「??」

 

話が分からず、キャロは小首を傾げる。 と、その時、なのはが近付いて来た。

 

「レン君、そろそろいいかな?」

 

「おっと、初日から訓練に入るんだったな。 時間を取らせて悪かった」

 

「ううん、気にしないで。 レンヤ君もこの後本局に行くんでしょ?」

 

「ああ、アリサとネクター服用者のリハビリの最終確認にな。 なかなかネクターには……D∵G教団には手を焼かされる。 それじゃあ、後は頼んだぞ」

 

「うん、任せて」

 

軽く手を振ってソーマ達と別れ、アリサの元に向かい。 ヘリが待っている屋上に向かった。 屋上に到着すると、パイロットのヴァイスさんにリインが何やら叱っていた。

 

「あ、レンヤ、アリサ」

 

「ちょうど来たなあ」

 

「あの2人は何をやっているのかしら?」

 

「ま、大方ヴァイスさんがふざけてそれをリインが叱っている、って所だろ」

 

「おお……! まさしくその通りや!」

 

……本当はそうでなければと冗談で言ったんだけど……と、その時ヘリと同じ屋上にあった小型飛行艦、出動時のスクランブル用のピット艦だ。 こんなのを最新式のヘリと一緒に持てるなんて……すずか、本当に半端ないな。

 

「それにしても、ヴァイスさんはどうしてヘリのパイロットに? ヴァイスさんは確かに事件の時に墜落、した小型飛空船のパイロットをしてましたけど……」

 

「墜落したのを強調するな! けどまあ、狙撃一本じゃどうしても無理があってな……それで各種乗用機のライセンスを取っていた矢先、はやて隊長に誘われてな」

 

「なるほどね……墜落、も失敗ではなく。 経験として見たのね」

 

「だから墜落言うな!」

 

「はいはい、それは後にして早ういくで。 行き先は首都クラナガン、中央管理局までなぁ」

 

逃げるようにヘリに乗り、ヴァイスさんはぶつくさ言いながらもストームレイダーをリンクさせたヘリを発進させた。

 

「なあなあレンヤ君、レンヤ君も会議に出てくれんか? 会議場所は地上本部やし、レンヤ君がいると話が捗るんやー」

 

「こっちにも予定があるのは知っているだろ。 今地上にいる人達は信用できる……それを信じないのなら、俺を信じていないのと同じだぞ?」

 

「うう……せやかてレンヤ君……」

 

「フェイトもいるんだし、事前に流れは決めているんでしょう? 仮にも隊長なんだからシャキッとしなさい」

 

「はーい……」

 

そして、俺達を乗せたヘリは駆動音を上げながら飛び上がり、クラナガンに向かって飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃ーー

 

レンヤと別れたソーマ達は制服から訓練用の動きやすい服に着替え。 訓練場に向かって走っていた。

 

「ここね」

 

「何もない……?」

 

「あ……! あれは……」

 

走りながらそれらしき訓練場が無いのを不審に思うスバル。 そしてサーシャは海上にある幾多もの六角形の台を見て、何かに気付いた。

 

それからなのはの前に並び、一旦デバイスを預けられ。 アシスタントの女性がデバイスに端末を接続し、調整してから返却した。

 

「今返したデバイスには、データ記録用のチップが入っているから。 ちょっとだけ、大切に扱ってね? それから、メカニックのシャーリーから一言」

 

「えー、メカニックデザイナー兼、機動六課通信主任のシャリオ・フィオーニ一等陸士です。 皆はシャーリーって呼ぶので、よかったらそう呼んでね?」

 

『はい!』

 

全員元気よく返事をするが、ソーマはおずおずと手を上げた。

 

「あのー……僕の天剣は……?」

 

ソーマだけが、デバイスが返してもらってなく。 シャリオの手の中にあった。

 

「あれ? 事前に言ってなかったっけ? ソーマの天剣は当面は使用不可だよ」

 

「ええっ!?」

 

「大丈夫。 ソーマにはこっちで用意したデバイスを使ってもらうから」

 

「そういう問題じゃないんですけど……」

 

落ち込みながら、ソーマはなのはから青い棒の形をしたデバイスを受け取る。

 

「ルーフェンの技術を元にして作った錬金鋼(ダイト)です。 天剣より遥かに劣りますが、これも訓練のうちです!」

 

「ふう、仕方ないか……レストレーション」

 

復元鍵語を言い、復元させると。 ソーマの手の中に青い剣が展開された。

 

「天剣と同じ魔法刻印を刻んでありますから、問題なく転移は出来るはずですよ?」

 

青石錬金鋼(サファイアダイト)……ぶっつけ本番でこれはキツイですね……」

 

「あの! なんでソーマはその天剣? というのを使っちゃっダメなんですか?」

 

スバルが最もな疑問を言い、なのはは少し考えた後……口を開いた。

 

「それの説明には少し歴史を遡る必要があるかな? 数十年前……時空管理局がルーフェンの持つ12の天剣をロストロギアと認定して、押収しようとした事があったの」

 

「ええええっ!?」

 

「スバルうるさい……!」

 

「驚くのは無理ないですよ。 その時の管理局の体制はそれはもう……!」

 

シャリオはそれを思い出したのか、憤慨してソッポを向く。

 

「それで、管理局員がルーフェンに行ったんだけど……全員がボロボロで帰って来たの」

 

「それは、もしかして……」

 

「そう、その時の天剣授受者によって撃退された。 完膚なきまでに」

 

そのなのはの発言に、ソーマ以外は軽く身震いを起こした。

 

「そもそも、なぜ天剣がロストロギア認定される事になったのには天剣の異常性があるからです。

ルーフェンの天剣授受者に与えられる特殊な白金錬金鋼(プラチナダイト)、それが天剣です。 普通のダイトは重量・密度・高度・粘度・形状・伝導率の何処かで妥協しなければなりませんが、天剣にはそれがありません。 全ての要素において、使用者の望み通りに、望む形に設定が可能……また膨大な剄力を持つ天剣授受者がどれだけの剄を込めても決して自壊する事が無いのです」

 

「実際、天剣は複数あるけど、そのどれを取っても性質は全く同じ。 天剣の中身を入れ替えても気付くことはないくらいにね」

 

「それでロストロギア認定を? でも、いささか決定が早急過ぎませんか?」

 

「ロストロギアは未知の技術や魔法の総称の事を示すわ。 あながち否定は出来ないけど……聞く限りでは、危険と判断するにはやっぱりかなり早急ね」

 

サーシャとルーテシアが、話を聞いてそう決定付ける。

 

「……ねえティア……そもそも天剣授受者って……何?」

 

「アンタって子は……! まあ、仕方ないか。 私もソーマに聞かなきゃ知らなかったわけだし……天剣授受者はルーフェンの最強の武芸者12人に与えられる称号よ。 天剣授受者となった武芸者には、天剣とその称号を示すミドルネームや様々な特権が与えられるって聞いてるけど……」

 

「私が知っている天剣授受者は3名。 ユエ・タンドラ、天剣クォルラフィンの所有者。 リヴァン・サーヴォレイド、天剣サーヴォレイドの所有者。 そしてーー」

 

「……ソーマ・アルセイフ、天剣ヴォルフシュテインの所有者。 ソーマ・ヴォルフシュテイン・アルセイフ……」

 

『????』

 

難し過ぎて、先ほどから話について行けてないエリオとキャロの頭の上にはハテナマークしか出てきてない。

 

「コホン、話を戻すけど。 その後、管理局はルーフェンと条約を結び。 ルーフェンが責任を持って管理することで話がついた。 そして今、私達の部隊の1人がその天剣を所持していると……」

 

「あっ!」

 

「……遺失物管理部が遺失物を使っている……そういう事ですか」

 

「そう、まさしくそういう事だね。 もちろん認定は解除されているけど、一度認定すると根が強いからね。 あらぬ波風を立たせないためにも、どうかここは納得してくれるかな?」

 

「…………はい、分かりました。 ですが後でちゃんと返してくださいよ」

 

「もちろん!」

 

「………後、解析しても無駄だと思いますよ? すずかさんですら解明するのを諦めましたから」

 

「ギクッ!? そ、そんなことないですよ〜〜……」

 

あからさまに口笛を吹いてごまかすシャリオ。 解析する気満々だったようだ……

 

「それとこれも、ソーマ君の剄量は膨大ですから……普通の錬金鋼だとすぐに飽和してボン! です。 ですから、はいこれ」

 

手渡されたのはダイトを入れる剣帯(けんたい)、そこにソーマがもっているダイトと同種のダイトがいくつも懸架されていた。

 

「全てにデータ記録用のチップが入っているから、全部壊したらダメだよ?」

 

「は、はい!」

 

なのはに凄んで言われ、ソーマはその圧に萎縮していまう。

 

「さて……話は長くなったけど、早速訓練に入ろうか?」

 

「は、はい?」

 

「でも、ここでですか?」

 

「ふふ、シャーリー」

 

「はーい!」

 

シャーリーは返事と同時に空間ディスプレイを展開。 データを入力し、起動すると……六角形の台の上に、廃棄都市をモチーフにした訓練場が現れた。

 

「機動六課自慢の訓練スペース……なのはさん完全監修の陸戦用空間シュミレーターだよ!」

 

「しかも、このシュミレーターはディアドラグループの最新式で、本来なら六課に配備される事はなかったんだけど……なんと、今回は特別に配備してもらったの! いや〜、異界対策課様々だねぇ〜♪」

 

本当に嬉しそうに笑うなのは。 少し現金な気もするが……ソーマ達は初めて見る空間シミュレータに驚きながらも中に入り、準備を開始した。 そのソーマ達になのはから声がかかる。

 

『よしっと……皆、聞こえるかな?』

 

『はい!』

 

『うん、いい返事。 それじゃ、訓練を始めるね。 シャーリー』

 

なのはは合図を送ると、シャーリーは頷きコンソールを叩く。

 

「はい、なのはさん。レベル設定はこれくらいですかね……っと」

 

操作が終わると、スバル達の目の前に魔法陣が12個現れる。 それと同時になのはの声が再度響き渡る。

 

『私達、機動六課の仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理……その目的を行う上で相手をしなくてはいけない相手が……これ。 私達がガジェットドローンと呼んでいる魔導機械』

 

『っ!』

 

『おお〜……!』

 

その魔法陣から現れた楕円状の機械を見てスバル達は息を飲み、ソーマ達は珍しそうな目で見る。 なのはは説明を続け、一通りの説明が終わるとソーマ達は覚悟を決め真剣表情で敵を見る。 そして、それをなのはが確認すると訓練開始の合図を出す。

 

『それじゃあ、準備はいいかな? 第1回模擬戦闘……作戦目的は逃走する12体のガジェットドローンの破壊、もしくは捕獲。 制限時間は15分以内』

 

『はいっ!』

 

「了解です!」

 

「やるよ〜!」

 

「うーん、使いにくい……」

 

スバル達は緊張感を持って真剣な表情で返事をするが……ルーテシアはマイペースに返事をし、ソーマは受け取った錬金鋼が手に馴染まず、話を聞いてなかった。

 

『それじゃ……ミッション・スタート!』

 

なのはの声と共にスバル達は駆けだす。この瞬間から、彼女たちの厳しい訓練が始まった。

 

 

 

その様子を、隊舎から見ていたヴィータ、シグナム、アリシアの3人は背を向けると隊舎の方に帰っていく。その途中、シグナムは2人に向かって問いかける。

 

「お前達は参加しなくていいのか?」

 

「アイツらは……特にあの4人はまだ足元もおぼつかないひよっこだし、残りの3人はじゃじゃ馬だ。 アタシが教導に出るのは当分先になるだろうな」

 

「私もパスだね。 あの子達に最適な魔法の開発と、山のようにある書類の整理をしなきゃならないし」

 

「そうか……」

 

シグナム自身も同じなので、特に追求しなかった。

 

「それに自分の訓練もしたいしさ。 同じ部隊なんだ。空ではアタシがなのはを守ってやらなきゃなんねぇ……少しでも力をつけねぇと。 もうアタシは、繰り返さねえ……なのはの事も、レンヤの事も……この忌むべき力に、頼ったとしても……」

 

ヴィータは自分の手の平を見て、硬く握り締めた。 その言葉を聞いて、シグナムは同じ身長になったヴィータを真剣な顔で……アリシアは笑顔で見つめて一言……

 

『頼んだぞ(よ)』

 

「ああ」

 

そうヴィータに言った。 その視線にヴィータは一瞥し、簡潔に……だが即答でそう答えた。 それを聞いた2人は笑みを浮かべる。

 

「……そういえば、シャマルは?」

 

「自分の城だ」

 

「じゃあ、ザフィーラは?」

 

「ファリン達と一緒にヴィヴィオのお守りをしてくれているよ」

 

「………………………」

 

それを聞いたヴィータは、なんとも言えない顔をする。

 

 

 

そして、医療室ではシャマルがご満悦の笑みでデスクを手でさすっていた。

 

「うんうん、いい設備。 これなら、検査も処置も……かなりしっかり出来るわね」

 

「本局医療施設の払い下げ品ですが……実用にはまだまだ十分ですよー!」

 

「皆の治療や検査、よろしくお願いしますね! シャマル先生!」

 

「はーい♪」

 

笑顔で返事をするシャマルだが、その時医療室にいたリンスが書類の山を置いた。

 

「ではシャマル、消耗品の一覧表だ。 ちゃんと目を通して置くように。 後、医療機器の実用出来た場合の点検や補償の確認もある。 全て目を通した上でサインしてくれて」

 

「ええ〜〜!? それならリンスがやってくれてもいいじゃな〜い……」

 

「ここの責任者はシャマルだ。 皆の命を守る者として、責任を持て。 後ほどすずかが訪れる。 医療器機は彼女が修理するので、それによる修理代の見積もりも出しておいてくれ」

 

「ふ、ふええ〜〜ん!?」

 

「そ、それでは失礼しま〜す」

 

「どうか、ご無事で……」

 

隊員がそそくさ部屋を出る中、シャマルの悲鳴は虚しく医療室に響き渡った。

 

 

 

場所は戻り、訓練場ーー

 

そこには苦戦しながら6機のガジェットドローンを追いかけるスバルの姿があった。スバルは全速力で追いかけ、その勢いで飛び上がった右手のリボルバーナックルを構えると……

 

「はぁぁぁ………はぁ!」

 

気合と共に魔法弾を放つ。しかし、ガジェットドローンはそれを悠々と回避しそのままの速度で遠ざかってしまう。

 

「何これ!? 速っ!?」

 

その動きを見て思わずスバルの口から驚きの声が漏れる。 しかし、スバルから逃げ切った先に居たのはエリオが槍型のアームドデバイス……ストラーダを構えてガジェットドローンに向かって走り出す。 その瞬間、敵の接近を感知したガジェットドローンは小さな魔力弾を連射し、弾幕を張った。

 

「っ!」

 

エリオは自慢の機動力を最大限に発揮し弾幕を掻い潜ると壁を利用して高く跳躍し、ストラーダを振るう。2つの魔法刃を生成して放ち、魔力刃らガジェットドローンに向かった。

 

「だっ! ……はあっ!」

 

しかし、ガジェットドローンはまたも攻撃を散開して回避すると高速で走り去る。

 

「ダメだ……ふわふわ避けられて当たらない」

 

エリオもまた、息を上げながら悔しげに声を漏らす。

 

「内力系活剄……旋剄!」

 

もう片方の6機を織っていたソーマは、脚力を大幅に強化し高速移動。 ガジェットドローンと並走する。

 

「てやっ!」

 

さらに加速。 回り込んで一体を斬り裂き、続いてもう一体を斬ろうとした時……錬金鋼から煙が上がっていた。

 

「え!? たったこれだけでオーバーヒート!?」

 

開始早々限界が来た錬金鋼に、ソーマは驚愕し速度を落としてしまう。 そんなソーマを他所に、ガジェットドローンは逃走。 ビルからビルへ移動していたサーシャが先回りして行く手を塞いだ。

 

「巻き込め……()の円環!」

 

輪刀を前に突き出し、高速に左回転させて気流を操り、ガジェットドローンを吸い寄せる。

 

竜巻の矢(トルネード・アロー)!」

 

回転によって輪刀の中心に集束した空気が矢となって放たれ。 ガジェットドローン一体を貫いた。

 

「よし! お次はーー」

 

『バカ! 避けなさい!』

 

「え……きゃあ!?」

 

サーシャの背後からスバルとエリオから逃げて来たガジェットドローンが現れ、魔力弾を連射して来た。 ティアナの注意でとっさに避けたが、輪刀の回転が止まり……動きを封じていたガジェットドローンが解放された。

 

それをビルの上から見ていたティアナが前衛の4人に念話を飛ばす。

 

『スバルとエリオ、分散し過ぎ! そしてソーマとサーシャはさらに分散し過ぎ!! ちょっとは後ろの事も考えて!』

 

『は、はい!』

 

『ご、こめん……!』

 

『す、すみません……!』

 

『ティアー! もう錬金鋼が一つダメになったんだけど……』

 

『知らないわよ!』

 

スバル達は慌てて謝り、ティアナはソーマの質問を無視して、逃げて来た目標を確認しアンカーガンを取り出すとオレンジ色の魔力弾を生成する。 そして後ろに待機していたキャロに指示を出した。

 

「ちびっ子、威力強化お願い」

 

「はい!ケリュケイオン……!」

 

《ブーストアップ、バレットパワー》

 

キャロは返事を返し、両手にはめたグローブを構えるとピンク色の魔法陣を展開させた。

そして、ティアナに向かって左手を振ると射撃の威力強化魔法をかける。 その瞬間、ティアナが形成していたオレンジ色の魔力弾が輝きを増し一回り大きくなる。 それを確認すると引き金に指を掛け……

 

「シュートッ!」

 

4つの魔法弾が後方4機のガジェットドローンに向かって放たれる。 しかし、4機に当たる直前、何かにぶつかって魔法弾が消滅してしまった。それを見たティアナは驚きで目を見開く。

 

「バリア!?」

 

「いえ、あれはフィールド系ね」

 

「魔力が消された!?」

 

ルーテシアがその正体に気付くと、続いてスバルも驚きの声を上げる。 それを聞いていたなのはは微笑むと、頷いて解説をする。

 

『そう……ガジェットドローンにはちょっと厄介な性質があるの。 攻撃魔力をかき消すアンチ・マギリング・フィールド。 通称、AMF。 普通の射撃は通じないし……』

 

「あぁ、くっそ! このぉ!!」

 

その解説の間も逃げ続けるガジェットドローンに対し、苛立ちが抑えきれずにスバルがウィングロードで追いかける。 が、それを見たティアナが咄嗟にスバルを呼び止める。

 

「スバル、バカ危ない!!」

 

『それに、AMFを全開で出力されると……』

 

それに合わせてなのはの解説が再開すると、スバルがビルの屋上に差し掛かろうというところでガジェットドローンの一体がAMFの効果範囲を最大まで拡大させた。 その瞬間、屋上まで伸びていたウィングロードは屋上まで届かず、途中でスバルは投げ出される。

 

「あれ? あ、きゃぁぁ!?」

 

そして、投げ出されたスバルはビルの中へと勢いよく突っ込んでいくのであった。

 

『飛翔や足場作り、移動系魔法の発動も困難になる。 スバル、大丈夫?』

 

「いっつ~……なんとか」

 

『まぁ、訓練場では皆のデバイスにちょっと細工をして擬似的に再現してるだけなんだけどね。 でも、現物からデータをとってるし、かなり本物に近いよ』

 

『これを突破する方法はいくつかあるんだけどね。どうすればいいか素早く考えて、素早く動いて』

 

なのはからの念話を聞き終わると、ティアナがキャロに問いかける。

 

「ちびっ子……あんた、名前なんて言ったっけ」

 

「キャロであります」

 

「キャロ、手持ちの魔法とそのチビ竜の技で何とかできそうなのある?」

 

ティアナの問いかけに対してキャロはしっかりとした目で見つめ返す。

 

「試してみたいのが、いくつか」

 

「私もある」

 

その回答に満足したのか、ティアナは笑みを浮かべる。

 

「ルーテシア、あんたとその球で陽動してくれる?」

 

「球言わないで、ガリューは私の大切な友達なんだから。 でもまあ、この程度なら使わなくてもいいかな?」

 

ルーテシアはガジェットドローンを一瞥すると、左腕に装着してあるガントレットを操作し。 ガリューがルーテシアの肩から降りた。

 

《System Down》

 

するとガリューが光り出し……本来の姿のガリューに戻った。

 

「なっ……」

 

「ええっ!?」

 

「行っくよー……ガリュー!」

 

(コクン)

 

ガリューはルーテシアを抱えて飛び出して行った。 ティアナは一瞬ポカンとするが、すぐに戻ってスバルを念話で呼んだ。

 

『スバル!』

 

『オ~ケ~!』

 

コンビを組んで長い二人はその一言で会話が成立しスバルはエリオに指示を出す。

 

「エリオ。 ルーテシアと合流して、あいつら逃がさないように先行して足止めできる?」

 

「あ、えっと……」

 

いきなりの指示に戸惑うエリオ。 しかし、戸惑っている暇はないとばかりにスバルはエリオに向かって一言で説明する。

 

「ティアが何か考えてるから、時間稼ぎ……!」

 

「……やってみます!」

 

『こっちもフォローするから、落ち着いて行こう』

 

スバルの勢いに押されて、エリオはやる気の表情で引き受け、ソーマがフォローを買って出る。

 

そしてここからソーマ達の反撃が始まった。まず、ルーテシアが4機のガジェットドローンを誘い出し、エリオがビルの連絡橋の上で待機する。

 

「行くよ……ストラーダ! カートリッジロード!」

 

《エクスプロージョン》

 

「でやああ!」

 

ガジェットドローンが来るタイミングに合わせてカートリッジをロード。 魔力を上げ足元に黄色いベルカの魔法陣を展開。 青電を放ちながら、ストラーダを振り回して連絡橋を破壊する。 破壊された連絡橋の瓦礫がガジェットドローンに直接当たり、撃破を成功させる。 すると、土煙の中から無事だった2機が飛び上がり、スバルはそれを見て高く飛び上がる。

 

「潰れてろっ!」

 

気合の一言と共に1機をリボルバーナックルで撃ち落とす。 しかし、破壊までには至らなかったため悔しげな表情をして後ろに飛び着地。

 

「やっぱり魔力が消されちゃうと、イマイチ威力が出ない……」

 

すると、後ろに回り込んでいた機体を……今度は足で引っ掛けるように捕まえて地面に押し倒し、ゼロ距離でリボルバーナックルを打ち込んだ。

 

「うりゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

すると、今度はリボルバーナックルがガジェットドローンに穴を開けて撃破した。

 

「うわー……スマートじゃない……」

 

(コクン)

 

それを見ていたルーテシアは軽く引き、ガリューは頷いて同意する。

 

そして別の場所では、ビルの屋上からはキャロとティアナが。 残り6機のガジェットドローンをソーマとサーシャが追い込んでいた。

 

「連続で行きます。 フリード、ブラストフレア……ファイア!」

 

キャロはフリードに魔力を与えると……フリードよ口から炎が形成され、ガジェットドローンへと放った。 ガジェットドローンの前に着弾すると、ガジェットドローンは炎に包まれ動きが抑制される。 それを確認したキャロは足元に桃色のミッドの魔法陣を展開させた。

 

「我が求めるは……戒めるもの、捕えるもの……言の葉に答えよ。 鋼鉄の縛鎖……錬鉄召喚! アルケミック・チェーン!」

 

ガジェットドローンの真下に魔法陣が展開はらると鋼鉄の鎖が無数に現れ、それぞれが目標に向かって伸びていき2機を捕縛するが……一機を逃してしまった。

 

「ああっ!?」

 

「ーーインゼクト!」

 

逃げた一機の周りに無数の羽根虫達……インゼクトが囲んだ。

 

「相手は人間でもグリードでもなくて機械……なら、大技なんか必要ない!」

 

インゼクトがガジェットドローンの隙間に入り込み、中の配線をショートさせた。 ドローンは機能を停止し、重力に従って地面に落下した。

 

「お疲れ様」

 

「あ、ありがとうございます。 ルーテシアさん」

 

「ルーテシアでいいよ。 ほら立って、まだ終わってないよ」

 

ルーテシアはキャロに手を差し出し、キャロは遠慮しながらもおずおずと手を取り……

 

「うん! ルーテシアちゃん!」

 

笑顔で頷いた。

 

そして、ティアナは2機のガジェットドローンを追ってビルを飛び移りながら射撃ポイントに到着した。

 

「こちとら射撃型。 無効化されて……はいそうですかって下がってたんじゃ、生き残れないのよ!」

 

そう叫ぶとカートリッジをロード……オレンジのミッドの魔法陣を展開させて、再度魔法弾を生成する。同時にスバルとソーマへ指示を飛ばした。

 

『スバル、ソーマ。 上からしとめるから、そのまま追ってて!』

 

『うん!』

 

『了解!』

 

すると、ティアナは生成した魔法弾に対して魔力を再度注ぎ込む。ティアナが行っているのは多重弾殻を作るための魔力操作。

 

(固まれ……固まれ……固まれ……固まれ!! )

 

集中を切らさず、急いで魔力を集中させて生成した魔力弾を殻で包み込もうとする。 思いと違って中々固まらない殻に焦るが……

 

「うあぁぁーー!!」

 

ティアナの叫びに呼応し、殻に包まれた魔力弾が出来上がる。 次の瞬間……

 

「ヴァリアブル・シュートッ!!」

 

多重殻魔力弾が発射され、それはAMFを突き破り見事2機のガジェットドローンを打ち抜いて見せた。 それを間近かで見ていたスバルは自分の事のように喜び、ティアナに呼びかける。

 

「ティア、ナイス! ナイスだよティア! やったね~、さすがー!」

 

それに対し、ティアナは消耗が激しかったのか、息を荒げながらその場に座り込んだ。

 

「スバル、うるさい! これくらい……当然よ!……はぁ、はぁ」

 

そう返すと、息を切らせながらそのまま仰向けに倒れこむ。 と、そこでティアナの隣にルーテシアが現れ……

 

「ちょっとちょっと、後2機……残ってるわよ?」

 

頰を突きながらガジェットドローンが残っている事を伝えた。

 

「あ、しまった!」

 

「ああ、いいわよ。 こっちでやっておくから

『サーシャ、準備はオーケー?』」

 

『うん。 現在、目標2機を追って40キロで南下中。 進行方向にソーマ君とガリューを確認……行けるよ』

 

離れた場所で、サーシャは滑空しながら2機を追っていた。 T字路に差し掛かった所で2機は分断し……一体は何も空間でいきなり攻撃を受け……次の瞬間環境迷彩で姿を消していた、拳を突き出しているガリューが現れた。

 

「ガリュー!」

 

追って来たサーシャの声でガリューはガジェットから離れ……

 

「天地投げ!」

 

ガジェットの隙間に手を入れ、振り回して壁や地面に何度も叩きつけ、ガジェットを破壊した。

 

そして、もう一体の進行方向にソーマが立っていた。

 

「レストレーション……」

 

新しいダイトを手に持ち静かに復元鍵語を言い、剣を構える。 ガジェットドローンはソーマに向かって魔力弾を連射し、バク転で避け。 次の攻撃も屈んで避け……

 

「……っ……」

 

無呼吸で剣を振り、ガジェットに横線が走る。 両者そのまま通り過ぎると、ガジェットが機能を停止し……線が走った部分から二つに割かれ、火花を散らして爆発した。

 

「………ダメにしちゃったな……」

 

錬金鋼を顔の前に持って行き、刀身が捻り曲がった剣を見て……ため息をつく。

 

まだまだ問題はあるが……こうして、ソーマ達の初めての訓練が終了した。

 

シャリオは今回の訓練の結果をまとめていた。

 

「デバイスのデータはどう?」

 

「はい! いいのが取れました!7機共良い子に育てられます!」

 

「それにしてもソーマ君……早速やっちゃったね」

 

「うう、丹精込めて作ったダイトなのに……一つはオーバーヒート、一つは大破……でも! 彼の剄に耐えうるダイトを作る事が出来れば……むしろ燃えて来ましたよお!!」

 

「あ、あはは……程々にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備隊の最終リハビリが終わり、帰る頃にはすっかり夜になっていた。 ちょうど隊舎に帰って来たはやてと一緒に食堂に向かっていた。 食堂に到着すると、シグナム達、ヴォルケンリッターが席を囲んで夕食を食べていた。

 

「あ、はやて、レンヤ!」

 

「ヴィータ! 皆でお食事かぁ?」

 

「はい。 色々打ち合わせがてら」

 

それを聞くと、はやては膝を下ろして獣状態のザフィーラの頭を撫でた。 俺も撫でる……とまではいかず、両膝に手を置いてザフィーラの顔まで視線を下げた。

 

「ザフィーラ、今日はヴィヴィオの面倒を見てくれてありがとな」

 

「気にするな」

 

一言だけだが、付き合えて嬉しそうな気持ちも感じた。

 

「はやて達はもうご飯は食べたか?」

 

「お昼抜きやったから……もうお腹ぺこぺこや」

 

「それは大変です。 急いで注文しましょう」

 

「レンヤ君も食べてないわよね? 一緒にどう?」

 

「なら、お願いします」

 

「分かった。 少し待っていろ」

 

「おおきになあ……!」

 

シグナムとシャマルとリンスは夕食を注文しに行き、俺は上着を脱いで背もたれにかけ席に着くと、はやては肩から下げていたバックを椅子に置いた。

 

「あれ? リインは?」

 

「そういえば、確かはやてと一緒にいたはずだよな?」

 

「ああ、ここにおるんよ」

 

はやてが置かれたバックを開けると……リインがスヤスヤと寝ていた。

 

「……相変わらずよく寝るな、コイツは」

 

「まあ、一生懸命働いてくれてるらなぁ」

 

「はは、リインなりに頑張ってくれているんだな。 俺達も負けてられないな?」

 

「ふふ、そやなぁ」

 

ヴィータは少し微笑むと、静かにバックを閉めた。 それから持って来てもらった夕食をいただき、雑談を交わしながら食事を取った。 ていうか、ザフィーラが下で犬のように普通に食べているのに誰もツッコまない。 ザフィーラよ、お前は……それでいいのか?

 

「中央の方はどうでしたか?」

 

しばらくしたら、シグナムが食器を置いて、はやてにそう聞いて来た。

 

「まあ、新設部隊とはいえ、後ろ盾は相当しっかりしとるからなぁ。 そんなに問題はないよ」

 

「後見人だけでも、リンディ提督にレティ提督にクロノ君……じゃない、クロノ・ハラオウン提督」

 

「それに最大の後ろ盾、聖王教会と教会騎士団長のソフィーと騎士カリム……これだけそろって入れば文句は言えないでしょう」

 

「レンヤの時も、そんな感じだったのか?」

 

「うーん……違うかなぁ? はやての場合は後見人なってもらうに対して、俺の場合はあっちから後見人になってもらっただからな。 ま、その分ゴタついたけど」

 

何度も対策課を本局や空域に移籍させろとうるさかったからな。 その度にレジアス中将のお世話になったし。

 

「そや、ヴィータ、現場の方はどないや?」

 

「ん? なのはとフォワード隊は挨拶後すぐから夜までずっとハードトレーニング。 んぐ……新人達は今頃グロッキーだな」

 

「こらヴィータ、行儀が悪いぞ」

 

途中、食べ物を口に入れてから話すヴィータをリンスが注意する

 

「まあ、全員やる気と負けん気はあるみたいだし。 何とかついて行くと思うよ」

 

「そう……」

 

「後でなのはに話を聞くとするか」

 

スバル達4人はバテていそうだが、ソーマ達は余力を残してそうだな。 ま、そうなるとなのはのしごきが激しくなるだけだが……

 

「バックヤード陣は問題ないですよ。 私以外は和気藹々です……」

 

「シャマルはもっと責任を持ってくれ」

 

「グリフィスも相変わらず、よくやってくれてます……問題ありませんね」

 

「そうかぁ……」

 

はやては何か思い詰めた顔をすると、唐突に語り出した。

 

「……私達が局入りしてかれこれ10年……遣る瀬無い、もどかしい思いを繰り返してやっと辿り着いた……私達の夢の部隊や……!」

 

そこで、一旦はやてはフォークでプチトマトを刺し、話を続ける。

 

「レリック事件をしっかり解決して。 カリムの依頼もきっちりこなして……皆で一緒に頑張ろうな……!」

 

「おう、任せとけ!」

 

「ふふっ、もちろんです……!」

 

「我ら守護騎士、あなたと共に」

 

「あなた意志は私達の中に……共に歩んで行きましょう」

 

……ザフィーラもなんか言えよ……

 

「あ、もちろんレンヤ君も一緒にな♪」

 

「おいおい、強引だな……」

 

空いている腕を組まれ、はやてはニッコリと笑う。

 

「なんや嫌なんか?」

 

「嫌な訳ないだろう。 何があっても、俺ははやての事を守り続けるよ」

 

「っ!」

 

本心でそう言うと……はやての顔はみるみる赤くなって行く。

 

「どうかしたか?」

 

「う、ううん! なんでもあらへん……///」

 

ソッポを向くも、腕を離してくれないはやて。 少し気になるが、仕方ないか……その時、リインの入っているバックが揺れ……目をこすりながらリインが出て来た。

 

「う〜ん……いい匂いがするですぅ〜……」

 

「匂いで起きたか。 意地汚い奴め」

 

「えへへ……」

 

リインも起きた事だし、そろそろ……先に夕食を済ませ、組んでいた腕を解いて席を立った。

 

「さて、俺はこれで失礼させてもらうよ。 後は家族水入らず……俺の事は気にしないでくれ」

 

「そんなん全然気にせんよ。 むしろレンヤ君も私の家族にならないかぁ?」

 

「はいはい、冗談言ってないで。 この後一度ヴィヴィオに顔出した後、また仕事なんだ」

 

「………ほんますまんなぁ、初日から苦労かけて……」

 

「いいってことよ。 本当に家族になりたいんなら遠慮しないでなんでも頼ってくれ。 なんせ俺は、超が付くほどのお人好しだからな」

 

「普通、自分で言う? でも、ほんまおおきに、レンヤ君」

 

お礼を手を振って返事をし。 食器を下げた後、宿泊舎に向かった。 確か今日はなのはの部屋にいるはずだ。 なのはの部屋の前まで来て、ドアベルを鳴らした。

 

「なのは、レンヤだ。 今入っていいか?」

 

『レ、レン君!? ちょ、ちょっと待って!』

 

ドアの先からなのはの慌てた声と、少しドタバタした音が聞こえ……

 

『よし……どうぞー』

 

許可をもらい、部屋に入った。 部屋は俺の部屋と同じ構造のかなり広めな部屋で、なのははパジャマで肩に上着を着てベットの上に座っていた。

 

「ああ、ごめん。 着替え中だったか?」

 

「ううん、気にしないで。 それより、ヴィヴィオの様子を見に来たんでしょ?」

 

ベットの中を見ると……そこには5歳くらいの少女、ヴィヴィオがスヤスヤとうさぎのぬいぐるみを抱えて眠っていた。

 

(……よく眠っているな……)

 

横まで来てしゃがみ込み、寝顔を見ながら頭を撫でる。

 

「……ん……パ……パ……」

 

寝言で俺の事を呼ぶヴィヴィオ。 返事は頭を撫でて返し、立ち上がる。

 

「それじゃあ、なのは。 ヴィヴィオの事をよろしくな」

 

「うん。 レン君も無理しないでね……」

 

「大丈夫だって。 間に合わなかったら明日、なのはに手伝わせるから」

 

「ふふ、レン君酷ーい。 でも、ありがとう」

 

酷いのかお礼を言っているのかは分からないが、苦笑するなのはに手を振って部屋を後にした。 執務室に向かう中、外から汚れているソーマ達を見かけた。

 

(……やっぱりあの3人との差があるな。 合わせているとは思うけど……ま、そこはスバル達の成長力に期待するしかないか)

 

疲労と服の汚れ具合を見て、スバル達に期待を寄せておく。 そして顔を上げて夜空を見上げる。

 

(やっと始まった……いや、これから始まるのか。 老師が言う……戦乱が)

 

 



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145話

 

 

5月13日ーー

 

フォワード達の最初の訓練から2週間が経ち。 ようやくこの機動六課に隊員達が慣れ始めていた。

 

徹夜明けの身体に日光を浴びせようと散歩してた時、訓練場に足を運んでみると……そこでは、早朝訓練最後の訓練が丁度終わったところだった。 なのはは満足げな表情でバリアジャケットを解除し、制服姿になるとスバル達に近づく。

 

「さて、皆もチーム戦に大分慣れて来たね」

 

『ありがとうございます!』

 

なのはが笑顔でソーマ達を見てそう言うと、ソーマ達は引き締めた表情で答える。 なのはのバリアジャケットが少し被弾している……どうやらシュートイベーションをしていたようだな。 と、そこでなのははティアナを方を向いた。

 

「ティアナの指揮も筋が通って来たよ。 指揮官訓練、受けてみる?」

 

「い、いや。 あの……戦闘訓練だけで一杯一杯です」

 

と、ティアナが苦笑いで返し、そのまま会話をしていた。 俺は皆に近付き、軽く手を上げて挨拶した。

 

「皆、お疲れ様」

 

「あ、レンヤさん! お疲れ様です!」

 

「あー、楽にしていいぞ。 基本的に敬礼はしなくていいから」

 

全員が敬礼するのを手で制し。 ソーマ達はすぐに、スバル達は渋々てを下げた。

 

「もうレン君。 ここは異界対策課じゃないんだから、ちゃんと規則は守ろうね」

 

「公式の場ではそうするさ」

 

「もう……」

 

なのはは少し怒ったのか、少しだけ頰を膨らませる。

 

「…………ん?」

 

「キュク?」

 

その時、近くから微かなスパーク音が聞こえ、フリードも同様に感じ取ったのか声を上げた。 エリオも気付き、鼻をヒクつかせる。

 

「あれ……なんか焦げ臭くないですか?」

 

すると、ティアナがスバルの足元を見て慌てて声を出す。

 

「あ、スバル! あんたのローラー!」

 

「え? あ、うわ……やば~……」

 

ティアナの指摘にスバルは自分の足元を見て、慌てた様子でローラーブーツを外して手に持った。 見るからに寿命なのが見て取れる。 するとそれを見たなのはは、少し悩み顔をした。

 

「オーバーヒートかな。 後でメンテスタッフに見てもらおうか」

 

「はい……」

 

「ティアナのアンカーガンも厳しい?」

 

「そうですね……騙し騙しです……」

 

2人は困った表情でなのはの言葉に頷く。 それを見て、俺はソーマの方を見た。

 

「そういえばソーマ。 今日は何個使い潰したんだ?」

 

「……なんで使い潰した前提で聞くんですか?」

 

「壊してないのか?」

 

「………………一個です。 オーバーヒートは四個……」

 

「ま、成長してはいるな。 ソーマはもう少し剄の扱いを上手くならないとな」

 

ま、ミッドの技術じゃアームドデバイスでもソーマの剄に耐えられる物は作れないからな。

 

「今後、こんな事が続くと予算が無くなってしまうかもしれないな……次壊したらベルカにあるクレイ渓谷の色金鉱床から原料を採って来てもらうかもな?」

 

「そ、そんなあー……」

 

冗談まじりでそう言い、ソーマは目に見えて落ち込む。 その後冗談と言って手を振り、なのははソーマ達を見渡す。

 

「ふふ……皆、戦闘訓練にも慣れて来たし……そろそろ実践用の新デバイスに切り替えかな……?」

 

「新……」

 

「デバイス?」

 

「あ、アレですか」

 

そう独り言を呟くと、何のことかわからないのか、スバル達はポカンとした表情を浮かべて、サーシャには心当たりがあった。

 

「取り敢えず一旦寮でシャワー使って、着替えたらロビーに集まろうか」

 

『はい』

 

なのははそう言って皆を連れて寮に向かって歩き始める。 すると寮の玄関前で、すずかが黒塗りのスポーツカーに乗っているフェイトとはやてと話していた。

 

「あれって……月村隊長とフェイト隊長……それに八神部隊長?」

 

「あ……なのはちゃん達は訓練終わり?」

 

「うん。そうだよ」

 

こちらに気付いたすずかはなのは達に声を掛ける。

 

すると、7人は車に近寄り、特にスバルが驚きの声を上げる。

 

「うわ~凄〜い! これ、フェイト隊長の車だったんですか!?」

 

「そうだよ。 地上での移動手段なんだ」

 

「すずか手製のスポーツカー……ディアドラとも張り合えるくらいの出来前だぞ」

 

「す、凄すぎる……」

 

ソーマ達は物珍しげにフェイトの車を眺め。 ついでに補足を言うとティアナが驚愕で思わず声が出る。 そして、はやては車から少し体を乗り出して皆の様子を見る。

 

「皆、訓練の方はどないや?」

 

はやてに尋ねられると、スバル達は姿勢を伸ばす。

 

「あ~……ははは」

 

「頑張っています」

 

「……みたいだね」

 

すずかは全員の訓練で汚れた姿を見て、満足げに頷く。 すると、フェイトが申し訳なさそうな表情でエリオとキャロを見つめた。

 

「エリオ、キャロ。 ごめんね……私、2人の隊長なのに訓練見てあげられなくて」

 

「あ、いえ。そんな……」

 

「大丈夫です」

 

特に気にしている様子もなく、2人は笑顔で返した。

 

「サーシャちゃんもごめんね。 訓練だけでも大変なのに、私の手伝いもさせちゃって」

 

「いえ、私の方もプログラムをお手伝いできて嬉しいです! 学院の勉強も教えてくれてますし!」

 

落ち込み気味に謝るすずか。 だが、サーシャは本心で嬉しそうに笑う。

 

「俺の方ももう少ししたら参加できるから……ソーマ、ルーテシア、その時はよろしくな」

 

「はいっ!」

 

「はーい」

 

それを見てなのはが全員を見渡し、フェイトとはやてに向き直る。

 

「7人ともいい感じに慣れて来たよ。いつ出動があっても大丈夫」

 

「そうか。 それは頼もしいな」

 

なのはの言葉を聞いて、嬉しそうな声を上げるはやて。ソーマ達も褒められて嬉しいのか笑みを浮かべた。

 

「そう……それなら、今日の昼にアリサちゃんを呼んで来るよ。 ちょうど新デバイスに切り替えるんでしょう?」

 

『え!?』

 

すずかの言った事に、ソーマ達は来てほしくないという感じの複雑な表情を浮かべる。 アリサもスパルタだからな。 今のなのはの教導にアリサが加われば……そして、それに気付いていないなのはは笑顔を浮かべる。

 

「それは丁度いいかも。 これから7人のデバイスを新しいのに切り替えるところだったんだ。 アリサちゃん来てくれるなら訓練も幅が広がるかも」

 

「アリサちゃんからは私が話しておくから、後で会議室にきてね」

 

「了解」

 

午後の訓練の相談場所を決めた。 と、そこでフェイトとはやてがどこに行くのか分からず、聞いてみた。

 

「2人はこの後どこかに行くのか?」

 

「うん、ちょっと6番ポートまで」

 

「教会本部でカリムと会談や。 夕方には戻るよ」

 

「私は、お昼前には戻るから……お昼は皆で一緒に食べようか?」

 

『はい!』

 

ソーマ達は元気よくフェイトとはやてに答えると、それを見てからフェイトが車を発進させる。

 

「ほんならな~」

 

はやては手を振って全員に声を掛けると、スバル達は敬礼し。 ソーマ達も慌てて敬礼して2人を見送る。 そして車が見えなくなるとなのはが声を掛け、スバル達は訓練の汚れと疲れを落としに寮に戻っていく。 向かう途中、なのはが振り返ってきた。

 

「レン君はこの後どうするの?」

 

「そうだな……仕事は午後にアリシアが持ってくるし。 ちょうどいいから俺もなのはと同行させてくれないか? ちょっと刀の調整をしたいからさ」

 

「うん、分かった。 また後でね」

 

一度なのはと別れ、眠気を覚ますため食堂でコーヒーをもらい。 頃合いを見計らってデバイスルームへ向かった。 その途中、階段でエリオが疲れたような顔をして頬杖をついて座っており。 ガリューとソーマが壁に寄りかかっていて、ソーマは暇そうにあくびをしていた。

 

「どうしたんだお前達?」

 

「あ、レンヤさん!」

 

「うん?」

 

「キュクル~」

 

(スッ……)

 

ガリューはいつものように騎士風に挨拶し、エリオは俺がきた事になぜか喜んでいた。 そのエリオの隣にいたフリードが俺のもとへ飛び、一鳴きしながら肩に止まった。動物のフリードを首下を撫でてみると、気持ち良さそうな声を出した。

 

「それでどうした、またトラブルか?」

 

「いえ……女子の皆さんが遅いなぁって」

 

「ああ、そう言う事。 女子の風呂又はシャワー、着替え、買い物は時間がかかるものだ。 それを待つのも男の役目ってものだ」

 

「へえ……」

 

「レンヤさんは、もしかしてなのはさん達と?」

 

「ああ……何度もあった」

 

ここ最近ではヴィヴィオの服選びが一番長かった……

 

「さて、それはいいとして……ソーマ、お前は俺と先にデバイスルームに行くぞ」

 

「え、それはどうして……」

 

「シャーリーにお前の剄量を測るように言われたんだ。 今まで測定する暇はなかったし、測定してそのまま新デバイスに使うんだ」

 

説明すると、ソーマは納得したように頷いた。 フリードを下ろしてソーマとデバイスルームに向かい。 中に入ると、ちょうどシャーリーとアギトがダイトの調整をしていた。

 

「よお、来たか」

 

「シャーリー、アギト、お待たせ」

 

「あ、来ましたねー。 では早速、前置きなしでハイこれ」

 

シャーリーは持っていたダイトをソーマに渡した。

 

「そのダイトに軽〜く継続的に剄を流してね。 いい? 軽〜くだよ?」

 

「は、はい……レストレーション」

 

念を押されて、壊さないでと遠回しに言われたソーマは少し戸惑いながらダイトを復元した。 シャーリーは復元したダイトに配線を繋ぎ、ソーマはダイトを両手に持って剄を流し始めた。 するとダイトは淡い青い光を帯びだした。

 

「ふむふむ……肉体の疲労と剄の出力はそれほど関係ないのかな〜?」

 

「よし、そのまま剄を送り続けてろ」

 

「はい」

 

問題無さそうだな……それを確認し、本来の目的である刀の調整を始めた。 しばらく作業を進めていると、なのは達がデバイスルームに入って来た。

 

「あ、レン君。 もうソーマ君の剄を測ってたんだね?」

 

「ああ、早い方がいいと思ってな」

 

「ありがとうね……それと、ごめんね皆。 後ですぐに来るから先にシャーリーとリィンからデバイスの説明受けててね」

 

なのははそれだけ言うと、一旦その場から離れて別の場所へと向かった。 スバル達は首を傾げるがシャーリーから6人の新デバイスが見せられると目を奪われ、自分たちのデバイスに夢中になる。

 

「うわ……これが」

 

「アタシ達の新デバイス……ですか?」

 

「そうで~す。 設計主任はすずかさんの助言の元あたしが。プログラムはサーシャちゃん。 協力はなのはさんフェイトさんレイジングハートさんそしてリィン曹長」

 

測定中の為手を動かしながら説明するシャーリー。 スバルはネックレス型のデバイス、ティアナはカード型のデバイスを見ると驚きの声が漏れ、それにシャーリーが勢いよく頷く。

 

「え、プログラムはサーシャがやったの!?」

 

「う、うん……プログラムだけは、すずかさんにも太鼓判をもらっているから。 今回、デバイスのプログラミングをお願いされたの」

 

サーシャは照れながら答え、自分の青い六角形のコアがついたブレスレット型のデバイスを見つめる。 それに対し、エリオとキャロとルーテシアは外見が変わらない腕時計とブレスレットの新デバイスに首を傾げる。

 

「ストラーダとケリュケイオンとアスクレピオスは変化なしかな?」

 

「うん。そうなのかな?」

 

「なんか拍子抜けね」

 

……と3人が話をしていると、リィンがエリオの頭に乗っかり否定をする。

 

「違いますよー。同じなのは外見だけです~」

 

そう言うと、リィンとシャーリーはそれぞれのデバイスについて説明を始める。そして最後にリィンが6つのデバイスを周囲に呼び集めると6人を見つめて……

 

「この子達はまだ生まれたばかりですが、色んな人の願いや思いが込められてて、いっっっぱい時間かけてやっと完成したです。 ただの武器や道具だとは思わないで、大切に……だけど、性能の限界まで思いっ切り全開で使ってあげて欲しいです!」

 

「うん……この子達もね、きっとそれを望んでいるから」

 

そう言って、リィンとシャーリーの説明が終わると新デバイスをスバル達に渡す。

 

「っと……測定終わりっと……もう剄を送らなくていいよ」

 

「はい」

 

「あの、ソーマは何をしているのですか?」

 

「ソーマの新デバイスも……見当たりませんが……」

 

ちょうどそこで刀の調整を終え、俺が説明した。

 

「基本的に、ルーフェンの武芸者は戦闘を補助するデバイスは使わないんだ。 自身が磨いて鍛えた剄技で巧みに使って戦う……それが武芸者だ。 だからソーマのダイトは耐久性を上げるだけで現状維持ってわけだ」

 

「今はその剄量の測定をしてんだ。 訓練だけだと正確な数値が出ないからな」

 

「それにしても……ソーマ君の剄量はとてつもないですねー。 レンヤさんの数倍はありますよ」

 

「ええっ!?」

 

「神崎隊長の……数倍!?」

 

さすがに驚いたのか、スバル達は驚愕した顔だソーマを見る。

 

「あはは……多いだけで、まだ一度もレンヤさんに勝ったことはないんだけどね」

 

「けど、その代わりにバリアジャケットはありますけどね。 まあ、それは置いておくとして……やっぱりそうなるとなると、複合して……」

 

デバイスメカニックとしてのスイッチが入ってしまったのか、自分の世界に入ってしまうシャーリー。

 

「そういえば……あのレンヤさん。 このリイン曹長と同サイズのこの子は?」

 

「ん? ああ、そういや自己紹介してなかったな。 あたしはアギト、そこのバッテンチビと同じユニゾンデバイスだ」

 

「むう……アギトちゃん! だからリインはバッテンチビじゃないですよ!」

 

「うっせ、お前はバッテンチビで十分だ」

 

売り言葉に買い言葉、あっという間に見た目が天使と悪魔の喧嘩が始まった。

 

「……また始まった」

 

「あ、あはは……相変わらず仲悪いな〜あの2人」

 

「ルーテシアちゃん、なんで仲が悪いか知っているの?」

 

「うーん、なんて言うか……ソリが合わないんだよね、あの2人」

 

ルーテシアが苦笑交じりでそう言う。 と、そこでデバイスルームの入口が開き、なのはが入って来た。

 

「ゴメン、ゴメン。遅くなっちゃったかな」

 

「なのはさ~ん」

 

「いえ。 ナイスタイミングですよ。 丁度基本的な説明を終えた所ですから」

 

すると、リィンはなのはの近くに寄り添いシャーリーは笑顔で迎えた。

 

「そう……新デバイスはすぐに使える状態なんだよね?」

 

「はい!」

 

なのはの問いに対してリィンが元気よく答える。 そして説明を続け、なのはとリインがデバイスのリミッターについて説明した。

 

「あ、出力リミッターって言うと……なのはさん達にもかかっていますよね?」

 

「う〜ん……私達はデバイスだけじゃなくて本人にもだけどね」

 

『え……?』

 

「能力限定と言ってな。 六課の隊長と副隊長陣は全員かかっている」

 

説明するも、スバル達はあんまり良く分からないでいた。

 

「ほら、部隊ごとに保有できる魔導師ランクの総計規模って決まってるじゃない」

 

「あ! あはは……そうですね」

 

「一つの部隊で沢山の優秀な魔導師を保有したい場合は、そこに上手く収まるよう魔力の出力リミッターをかけるですよー」

 

「まあ……裏技ちゃあ、裏技なんだけどね」

 

「しかもこの六課の魔導師ランクの総計規模の大きさは無理言って、普通の課より大きいんだ。 ランクを下げたところで、俺達全員が一つの課に入られるわけ無いからな」

 

隊長、副隊長陣全員にリミッターをかけてもAAランクはかなりいるからな。

 

「ウチの場合はだと……はやて部隊長とレンヤ隊長が4ランクダウンで。 隊長達は大体2ランクダウンかな?」

 

「4つ……!? 八神部隊長と神崎隊長ってSSランクだから……」

 

「Aランクまで落としているんですか……!?」

 

「はやてちゃんも大変ですぅ……」

 

「レンヤさんは大丈夫なんですか? 八神部隊長と違って前線に出るわけですから……」

 

エリオが心配している目で俺を見上げてくる。 そんなエリオの頭をポンポンと撫でる。

 

「大丈夫、大丈夫。 そこは上手くやりくりしているから、エリオが心配するような事はないよ」

 

「そう、ですか……」

 

「そうだぜ。 レンヤは魔力が使えなくても戦い続けるからな」

 

「……あの、なのはさんは?」

 

隊長達、と言われたからにはもちろんなのはも対象に入っており。 スバルが遠慮がちになのはに聞いた。

 

「私は元々S+だったから……2.5ランクダウンでAA。 だからもうすぐ1人で皆の相手をするのは辛くなってくるかなぁ?」

 

「…………………」

 

続けてリインが落ち込みながらリミッター解除方法を教える。

 

「そんなことが……」

 

「まあ、俺達の話はそんなに気にするな」

 

「そうだよ。 今は皆のデバイスの事」

 

「……はい」

 

「はい!」

 

それを確認したシャーリーが説明を続けようところで……『ALERT』という表示がモニターに表示され隊舎内に警報が鳴り響いていた。

 

「これって……!」

 

「第一級警戒態勢か……」

 

「グリフィス君!」

 

なのはの呼び出しに、レイジングハートが回線を開いて正面ディスプレイにグリフィス君映し出された。

 

『はい。 教会本部から出動要請です!』

 

『応答願います、こちらはやて!』

 

グリフィスが映っている画面の隣のディスプレイにはやてが映った。 その後ろにある背景は……どうやらカリムの執務室から通信を入れているようだ。 その後フェイトやアリサ、すずかも通信に入って来た。

 

『状況は?』

 

『教会騎士団の調査部で追っていたレリックらしきものが見つかった! 場所はエイレム山岳丘陵地区、対象は山岳リニアレールで移動中との事や……』

 

『移動中って……』

 

「まさか……!」

 

犯人はガジェットドローン、場所はエイレム山岳丘陵、襲撃されたのはリニアレール、目的はレリック……これらを元に導き出される答えは……

 

「……あのガジェットドローンが直接リニアレールを運行制御を乗っ取ったんだな?」

 

『その通りや。 リニアレール車両にいるガジェットは最低でも30体。 大型や飛行型の未確認タイプも出ているかもしれへん』

 

『……どうやら、相手も本腰を入れて来たかもね』

 

はやては現状を一通り説明し終え、息を整えた後、厳しい表情で声をかける。

 

『いきなりハードな初出動やけど、レンヤ君、なのはちゃん、フェイトちゃん、行けるか?』

 

『私はいつでも!』

 

「私も!」

 

「任せてくれ」

 

『スバル、ティアナ、ソーマ、サーシャ、ルーテシア、エリオ、キャロ。みんなもオッケーか?』

 

『はい!!』

 

今回の出動はフォワード達にとってデビュー戦。フォワード7人の連携が作戦成功の鍵を握っている。 ソーマ達もはやての自分達に寄せている期待を感じ、力強く返事をする。

 

『よしっ、いいお返事や! シフトはAの3……グリフィス君は隊舎での指揮、リインは現場観戦』

 

『はい!』

 

『すずか隊長はバックアップで出動』

 

『了解しました』

 

『なのは隊長、フェイト隊長は現場指揮。レンヤ隊長とアリサ副隊長は現場補佐をお願い 』

 

『了解したわ』

 

「了解だ、八神部隊長」

 

普段とはまた違う真面目な表情であえて部隊長と自分の事を呼ぶ俺に、はやては少しだけ笑顔になる。 だがそれもすぐ引き締まったモノに戻る。

 

『ほんなら、機動六課フォワード部隊……出動!!』

 

『はいっ!!』

 

『了解!』

 

それが合図となり、前線メンバーは一斉にデバイスルームを飛び出した。

 

 

 



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146話

 

 

六課としての初めての出動……フォワード陣は急いでヘリポートまで走り。 ヘリポートに着くと既に小型飛行艦のエンジンが動いており、いつでも発進できる状態だった。

 

「来ましたね、いつでも飛ばせますぜ!」

 

「お願いしますよ、ヴァイス陸曹!」

 

「ーーパパ!」

 

ソーマ達に続いてヘリに乗り込もうとした時、後ろからヴィヴィオが駆け寄って来て。 そのまま抱き付いてきた。

 

「ヴィヴィオ!」

 

「パパ、行っちゃうの?」

 

「……ああ、これからちょっとお仕事でな。 大丈夫、ちゃんと無事に帰ってくるから。 ヴィヴィオはファリンさん達と待っていてくれないか?」

 

「………うん」

 

おそらく警報で心配をかけてしまったのだろう。 いつものように頭をポンポンと撫でてヴィヴィオを落ち着かせる。

 

「………前々から思ってたけど、あの子……誰?」

 

「教団事件の時、一緒にいたのは見たことあるけど……」

 

「忙しかったから、自己紹介もしてないし……」

 

「隊舎でよく隊長達と一緒にいるのを見かけますよね?」

 

スバル達はハッチから不思議そうに俺達を見る。 それに気付いたソーマはヴィヴィオに事を説明した。

 

「あれ、ティア達は知らなかったんだ? あの子はヴィヴィオ、レンヤさんの娘さんだよ」

 

「ええっ!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! えっと、神崎隊長は今は確か19で、あの子はどう見積もっても……5、6歳……ってことは……!」

 

「ないない。 ティアナが思っているような事は全然ないから」

 

「ヴィヴィオちゃんは養子として、レンヤさんの娘さんなんです。 と言っても正真正銘、ヴィヴィオちゃんはレンヤさんの娘さんなんですけどね」

 

「え……それって……」

 

その時、手を叩く音がし。 アリサが手を叩いてスバル達の会話をやめさせた。

 

「はいはい。 無駄話はそれくらいにしなさい。 ま、緊張が解けたようでよかったわ」

 

「ヴィヴィオ、ごめんね! ママ達、出来るだけすぐに帰るから!」

 

「じゃあ、ヴィヴィオ。 行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい……」

 

ヴィヴィオをファリンさんに預け、半ば飛び込む形でヘリに乗り込むと……すぐに飛行艦はヘリポートから離陸し、作戦区域まで飛翔した。 飛行艦の中ではなのはとアリサとリインが現地での対処と役割を確認し合っていた。どんなに万全な状態で任務に望んでも何が起こるかはわからない。 隊長という職務は常に如何なるイレギュラーに見舞われても迅速に対応しなくては、任務達成どころか部下の命を危険にさらしてしまうのだ。

 

フォワードの……特にスバル達の4人はやっぱり緊張しており、あのティアナでも座ってうつむいている。

 

(まぁ、緊張して当然か)

 

これから赴く場所は戦場……訓練のようにミスを簡単にできはしない。それはバリアジャケットを装備したとしても危険に変わりはない。 一歩間違えれば“死”が待っていると考えれば緊張するのは当然の事、逆に緊張しない方がおかしい。

 

ソーマ達3人は適度な緊張感を持って冷静でいる。 何度も怪異と戦っている証だが、そのせいで実力共に差は激しい……

 

フォワード達を一瞥し、俺はコックピットへと足を運ぶ。

 

「よぉレンヤ。 新人達はどんな感じだ?」

 

「分かってて聞いてるだろ?」

 

「はっはっ! 違いねぇ。 新人達にとっちゃ今回の出動は大分ハードだからなぁ。 とても忘れられない思い出になるのは間違いねぇな」

 

「いい経験になるといいんですけどね……まあとにかくヴァイスさん、作戦行動区域までどれくらいで着くか教えて下さい」

 

「そうだな……早けりゃざっと、10分ちょいだな」

 

思ったより早いな。 それは喜ぶべきか、悔やむべきか、怪しい所だが。

 

「新人達を頼むぞ、レンヤ隊長さんよ?」

 

「露払いはしておくさ……それと、ヘリと比べて乗り心地はどうです?」

 

「……大役過ぎて畏れ多いぜ……」

 

その言葉に笑顔で返してコックピットを後にし。 ソーマ達がいる搬入口の上にある汎用室に入った。 そこではすずかとアリシアが状況と機材をチェックしていた。

 

「あ! レンヤー!」

 

「すずか、アリシア。 そっちは問題ないか?」

 

「うん。 動力機関、機体共に問題なし……でも、私達の出番がない方が、本当は安心なんだけどね」

 

「そうだねえ。 まあ、私としてはこの反重力カタパルトから発射されたい気もするけど」

 

「はは、確かにあれはアトラクションみたいな感じだからな」

 

その時、ちょうど全体通信でオペレーターの1人、アルト・クラエッタが作戦行動区域に、ガジェットⅡ型の反応を探知したという報告が上がった。 それを聞き俺は搬入口に戻ると、なのはがヴァイスさんに通信していた。

 

「ヴァイス君、私も出るよ! 空に出てレンヤ隊長と迎撃、フェイト隊長と合流して空を抑える!」

 

「了解です、なのはさん!」

 

《メインハッチ、オープン》

 

なのはの指示を受け、ヴァイスさんがピット艦のハッチを開放。 この高度だけあって内部には強めの風が入り込み、なのはの髪をなびく。

 

「アリサちゃん、新人達の事をお願いね」

 

「ええ、あなた達は空を抑える事だけに集中しなさい」

 

「よろしく頼んだぞ、アリサ」

 

それだけを言い、俺となのははハッチに足を向ける。

 

「じゃ、ちょっと出てくるけど皆も頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」

 

『はい!』

 

「はい……」

 

ソーマ達がが元気よく返事をする中、キャロだけは遅れて返事をする。 見ただけで元気もないのがわかる。

 

「大丈夫だよキャロ、そんなに緊張しなくても」

 

なのははキャロの元に向かうと、両頬に手を当てた。

 

「キャロ、離れてても皆とは通信で繋がってるからキャロは1人じゃないからね。 ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから、ね?」

 

「……はい!」

 

キャロの返答に笑顔で応じるなのは。 俺はキャロの所まで来て、肩に手を置いた。

 

「キャロ、怖いか?」

 

「え……」

 

「正直に言ってくれ。 別に怖くても誰も責めやしない」

 

隣のソーマ達に目配りして、皆笑顔で答えてくれた。 それを見たキャロは俯くと、ポツリと呟いた。

 

「……怖い、です。 戦う事も、自分の力も………なのはさんはああ言ってくれましたが……やっぱり、私自身が……怖いです……」

 

「……そうか」

 

こうして、フォワード陣を見て改めて思った……全員、誰もが心に闇を抱えていることを。 そしてその気持ちは痛い程よくわかり、キャロの頭に手をソッと乗せて優しく撫でた。

 

「………それでいいんだよ」

 

「え……」

 

その言葉に、それまで俯いていたキャロは顔を上げる。

 

「その気持ちを偽ってダメだ。 認めて、それを乗り越えてようとして足掻くのが普通なんだ。 その気持ちを嘘偽ってしまえば……いつか、限界が来てしまう」

 

「……………………」

 

「自分の力の怖さ、その本質を……その恐ろしさを知っているなら、キャロは大丈夫だ」

 

キャロから離れて一歩下がり、全員を見渡す。

 

「俺がここに立っていられるのは仲間の力のおかげだ。 誰1人欠けたらここには立っていない……お前達は1人じゃない、お互いがお互いを守りながら、壁を乗り越えて行けばいい」

 

この意味がわからないかもしれないが、7人の心には残っただろう。 今はそれだけでいい……そして、俺はキャロにある物を手渡すと、なのはと顔を合わせて頷き……ピット艦から飛び降りた。

 

「レゾナンスアーク……」

 

「レイジングハート……」

 

『セーット、アーップ!』

 

《スタンバイ、レディー、セットアップ》

 

デバイスを起動、バリアジャケットを纏い……変形した相棒を掴む。なのははアクセルフィンを発動して制動し、俺はエアステップで空中を踏んで立ち上がる。

 

「フェザーズ01、神崎 蓮也。 作戦行動を開始する!」

 

「スターズ01、高町 なのは。 行きます!」

 

準備が完了し、コールサインを言った後……俺達は目標に向かって飛翔した。 そして、暫く空を飛んでいると前方に目標が見え始めた。

 

『フェザーズ01、ライトニング01、スターズ01共にエンゲージ』

 

『こっちの空域は3人で抑える。 新人達の方のフォローをお願い』

 

『了解!』

 

「こうしておんなじ空を飛ぶのは久しぶりだね、レン君、フェイトちゃん」

 

「ああ、そうだな」

 

『偶にはゆっくり飛びたいけどね』

 

フェイトが上から合流した時、敵飛行型ガジェットが接近してきた。 俺達は方向を変えてガジェットに接近する。

 

「ふっ……」

 

空気を蹴って移動、ガジェットの横を通りながら斬り裂き……それを刹那の間で行う。 なのはも離れて入れば魔力弾と砲撃、近付けば棍で対応。 フェイトも持ち前のスピードで戦場を駆け回り、ガジェットを斬って行く。

 

『思ったより数が多いね』

 

『カートリッジが保つといいんだけど……』

 

「そうなったら、すずかに頼むさ」

 

『ーーうん、こっちはいつでも準備万端だよ』

 

『補給は任せてね!』

 

すずかとアリシアの通信でそう言い、視界を埋め尽くすほどいるガジェットーーざっと千はいるーーを一瞥し、目の前のガジェットを斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任務は2つ。ガジェットは1機残らず殲滅させ、そしてレリックを安全に確保すること」

 

艦内では、リインのガジェットがリニアレールを占拠している現状が表示されているエアディスプレイを指差しながら、フォワード達に的確な指示を与えていた。

 

「スターズ分隊とライトニング分隊、そこのソーマとルーテシアを加えた3人ずつのトリオでガジェットを破壊しながら、車両前後から中央に向かうです」

 

「そして私とサーシャが先行して、フォワード達が降下中狙い撃ちされないよう降下ポイント近くにいるガジェットを破壊しに行くわ」

 

「は、はい! 頑張ります……!」

 

続いて、リニアレールの全体図が表示され。 レリックが入っているケースとその場所が映し出された。

 

「レリックはここ、7両目の重要貨物室。 先に到達したどちらかのチームが確保してください」

 

『はい!』

 

「で……」

 

一区切りおいて、リインはクルリと一回転すると騎士甲冑姿になった。

 

「私も現場に降りて、管制を担当するです!」

 

「さて、それじゃあ始めるわよ」

 

アリサは歩きながら紅い菱形のクリスタル……フレイムアイズを取り出し、それを見たサーシャも慌てて袖をめくってデバイス……ラクリモサを出す。

 

「フレイムアイズ……」

 

「ラクリモサ……」

 

『セーット、アーップ!』

 

ヘリの中でデバイスを起動し、2人はバリアジャケットを纏う。 完了するとアリサは剣を掴んでハッチに向かい、サーシャも続いて行くが……

 

「あれ? サーシャのそのバリアジャケットって……」

 

「え……ああ、これね」

 

スバルに指摘されてサーシャは自分のバリアジャケットを見下ろす。 所々細部は違うが、上に着ている紺色のロングコート……すずかのバリアジャケットと似ていた。

 

「月村隊長のと似ているような……」

 

「ああ、その事は後で話すですぅ。 ほら急いで急いで」

 

サーシャはリインに押され、ハッチの前に出て下を見下ろす。 高い所は地上本部の高い位置にある異界対策課からよく見ていたが、そこから飛び降りるとなると少し緊張する。

 

(だ、大丈夫。 教団事件の時は飛び降りていた……このくらい、大丈夫!)

 

「……あちらの空域を隊長達がおさえているわ、サーシャ! 準備はいい?」

 

自分に言い聞かせて自信を持つが、アリサに呼ばれて慌てて意識を戻す。

 

「は、はい……いつでも行けます……!」

 

「よし。 フェザーズ02、アリサ・バニングス。 出るわ!」

 

「クレードル03、サーシャ・エクリプス。 行きます!」

 

2人は駆け出し、ハッチから飛び降りる。 重量に引かれるまま、もの凄い速度でリニアレールに向け降下する。

 

「量が多いわね……」

 

「っ……来ます!」

 

降下中に、降下ポイント周辺にいるガジェットが自分達の武装の射程内に2人がが入ると一斉に攻撃を開始し、魔力弾が次々と襲いかかった。

 

「っ!」

 

サーシャは輪刀を前に出して障壁を張り、角度を計算して魔力弾を撃ち返しガジェットを攻撃する。

 

「はああっ!」

 

アリサは重力魔法で弾幕の合間を縫って一気に降下し、剣を振り下ろしてガジェットに突き刺さし……リニアレールに降り立った。

 

「……!」

 

着地した前方にいた、複数のガジェットの攻撃によりアリサの居た場所は爆煙に包まれる。

 

「アリサさん!」

 

サーシャはその光景を見て悲鳴に近い声で呼ぶ。 次の瞬間、爆煙から炎を纏った鎖が飛び出し。 前方にいた全てのガジェットを焼き切った。

 

「フレイムウィップ。 こんなものね」

 

「さすがです、アリサさん。 無用な心配でしたね」

 

鎖を戻し、剣に変え一振り。 一連の流れが洗練されており、微かに燃える焔が優雅さを引き立てていた。

 

「……こちらフェザーズ02、安全地帯確保したわ。 残りのフォワード隊、降下用意を開始しなさい」

 

初期段階を完了したアリサは、ピット艦で待機しているフォワード達に通信を入れた。

 

「さあて、新人ども。 隊長さん達が空を抑えているおかげで……安全無事に降下ポイントに到着だ。 準備はいいか!」

 

『はい!』

 

ソーマ、スバル、ティアナはハッチの前に立ち、元気よく返事をする。

 

「スターズ03、スバル・ナカジマ……」

 

「スターズ04、ティアナ・ランスター……」

 

「フェザーズ03、ソーマ・アルセイフ……」

 

『行きます!』

 

3人は同時に飛び出し、リニアレールに向かって降下する。

 

「行くよ、マッハキャリバー」

 

「お願いね、クロスミラージュ」

 

「さてと……」

 

スバルとティアナは自分のデバイスに声を掛けて見つめ、そして掲げた。

 

『セット・アップ!』

 

その掛け声と共に、2人は青色とオレンジ色の光に包まれバリアジャケットを身に纏い目標地点に着陸した。 それを確認すると、ヴァイスはライトニング隊の2人に声を掛ける。

 

「次、ライトニング! チビ共、気ぃ付けてな」

 

『はい!』

 

エリオとキャロとルーテシアは高い空から目標地点を見つめていた。 しかし、キャロの表情が硬いことに気が付いたエリオはキャロに声を掛ける。

 

「一緒に降りようか?」

 

「…っ!?」

 

キャロはビクッと体を震わせるとエリオを見つめる。 そんなキャロに対して優しく微笑み手を差し出すエリオ。すると、表情が柔らかくなりキャロは大きく頷いた。

 

「うん!」

 

「ひゅー、エリオってば男前〜」

 

そして2人は手を繋ぎ、それを見てルーテシアはからかうようにエリオを小突く。

 

「か、からかわないでよ……」

 

「冗談、冗談♪ ほらキャロ、私も怖〜いから一緒に行こ♪」

 

「ルーテシアちゃん……うん!」

 

3人で手を繋ぎ、そして改めて目標地点を見据える。

 

「ライトニング03、エリオ・モンディアル!」

 

「ライトニング04、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」

 

「フェザーズ04、ルーテシア・アルピーノとガリュー!」

 

『行きます!』

 

3人は空に向かって駆け出すと、地上に向かって落ちて行く。そして、顔を見合わせ声を上げた。

 

「ストラーダ!」

 

「ケリュケイオン!」

 

「アスクレピオス!」

 

『セット・アップ!』

 

その瞬間、3人は黄色とピンク色と紫色に包まれ光が収まると、バリアジャケットを身に纏ってスターズ隊の後方に着地した。

 

「来たわね」

 

「はい」

 

ヘリから降りてくる6つの光をリニアレール上から確認したアリサとサーシャ。

 

光の内3つはリニアレール上に立つアリサの前に降り立ち、その中からエリオ、キャロ、ルーテシアが現れた。 そこでサーシャがある事に気付く。

 

「あれ? 2人共、その服って……」

 

『え……うわぁ!? このバリアジャケットのデザインって、なのはさんのバリアジャケットと似てない!?』

 

「僕とキャロのはフェイトさんバリアジャケットと似てる……」

 

「ふーん……私はいつも通りね」

 

通信越しにスバルの驚いている声が聞こえる。 4人は自分達が身に纏っているバリアジャケットを見て興味深気に見回している。 スバルとエリオの表現どおりフォワード達のバリアジャケットのデザインは両隊長のバリアジャケットと酷似している箇所が所々見られる。

 

スターズはなのはのバリアジャケットをベース、ライトニングはフェイトのバリアジャケットをベースにしているのは一目瞭然だ。

なのはに憧れているスバルからすれば彼女と同じデザインのバリアジャケット着れるのは感激の一言だろう。

 

「あ、だからサーシャのバリアジャケットはすずか隊長の似てたんだ」

 

「あはは、良かったね」

 

「え、ええ……ってアンタその格好……」

 

ティアナは恐る恐るソーマを指差す。 ソーマも同様にバリアジャケットを纏っており。 髪を一纏めに結い上げ、黒のズボンにTシャツ、上には肩が出ている白いジャケットに両腕に張り付くように来ている黒いアームガードと、その上に被せるように二の腕までの長さの白いアームガードが付けられている。

 

「あれ、シャーリーさんが言ってたよね? デバイスはこのままだったけどバリアジャケットは付けるって」

 

「そ、そういえば……それにソーマのバリアジャケットもレンヤ隊長のと似ているね」

 

「外見だけじゃないですよ」

 

「リイン曹長」

 

いつの間にかヘリから降りて来たリインが、驚いているフォワード達にバリアジャケットの説明をする。

 

「デザインだけでなく、性能も各分隊の隊長さんのを参考にしてるですよ。 ちょっと、癖はありますが高性能です!」

 

『わあぁ……』

 

『! スバル、感激は後!』

 

「早速お出迎えね……」

 

アリサは空から現れた第2波を一瞥する。

 

「私はリニアレール上空のガジェットを抑えるわ。 サーシャはこのままスターズと合流、レリックを押さえなさい」

 

「はい!」

 

《グラビティフライ》

 

それだけを伝え、アリサは飛んで行った。 その後すぐに、異変を察知した。

 

「来るよ!」

 

「っ!」

 

次の瞬間、リニアレール内にいたガジェットが天井に射撃、天井を破壊しようとする。 それに反応して、マッハキャリバーとクロスミラージュが出力を上げる。

 

《ヴァリアブルシュート》

 

「シューーット!」

 

AMFを突破するための多重弾殻射撃、それを一瞬で作り上げ射撃。 AMFを貫いてガジェットを破壊する。 続いてスバルが車内に入り……

 

「うおおおっ!!」

 

目に入ったガジェットに拳を振り下ろし、そのまま掴んで他のガジェットにぶつけて破壊した。 その隙にティアナは車内に入り、リニアレールのコントロールを奪い返そうとする。

 

「外力系衝剄……竜旋剄!」

 

活剄により強化した腕力で体をコマのように回しながら、周囲に衝剄を放ち。 竜巻を起こして接近していた飛行型ガジェットを吹き飛ばした。 ソーマはそのまま先に行こうとすると……足元から強力な魔力の高鳴りを感じ……

 

「うわああっ!?」

 

「うわぁ!? とっと……」

 

《ウィングロード》

 

スバルが車内からガジェットを破壊するために放った一撃が天井を突き破り、そのせいで吹き飛ばされてしまった。 体勢を崩したスバルはマッハキャリバーの援護でリニアレールに着地していた。

 

「いったた……スバル、大技を出すならもっと考えてよね」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「……そろそろティアナが車両の停止の行動を終えている頃だろけど……それでも止まらないという事はガジェットを破壊しただけではダメだったのかな? とにかく急ごう」

 

「うん!」

 

先行し、3両目に差し掛かると前から大量のガジェットが現れた。

 

「ソーマ君! 前方から敵多数接近!」

 

「各個撃破! 気を抜かずに行こう!」

 

「応っ!」

 

ガジェットは射撃する事もなく突進してきたため、容易く破壊するが……それは捨て身の囮だったようで。 数機のガジェットに横を抜かれて囲まれてしまった。

 

「しまった……!」

 

「囲まれた!」

 

その状態から複数のガジェットからAMFが発生し、ガジェットのアームが襲いかかってきた。 スバルはとっさに拳を構え、肩をすくめて首をガードする構えを取り。 サーシャは輪刀を手の中で回転させ……

 

「はあああっ!」

 

ソーマはダイトに剄を流し、内力系活剄で強化した身体能力でガジェットを斬り裂いた。

 

「嘘っ!? こんな強力なAMFの中でなんでソーマは魔力が使えているの!?」

 

「ーー剄は、簡単に言えば魔力を超圧縮した物です。 魔力結合は尋常じゃない程強固で……ソーマ君の前ではAMFは無いに等しいんだよ」

 

「そ、そういえば……訓練の時もそんな感じだったような……」

 

「むしろ、スバルらなんで今まで気付かなかったの?」

 

「いや〜、自分の事だけで精一杯で」

 

「……2人共、緊張感ないね」

 

「そうか、な!」

 

背後に現れたガジェットを、スバルは振り向き間際に肘を入れる。

 

「お母さん直伝!」

 

そう言いながらシューティングアーツの基本的な蹴りをガジェットに叩き込み。 吹き飛ばされて他のガジェットも巻き込みながらリニアレールから落下した。

 

「基本的なキックを必殺レベルにしたキック」

 

「名前ないんだ……」

 

「……前から思ってたけど……スバルちゃんって本当にシューティングアーツの使い手なの?」

 

「うん、そーだよ。 お母さんが言うにはかなりアレンジしたみたいだけど」

 

「まあ、拳と蹴りはシューティングアーツでは当たり前だけど。 スバルのは肘や膝も使っているからね」

 

と、そこでティアナが戻って来て、緊張感のない3人を見て嘆息した。

 

「……アンタ達、何やってんのよ」

 

「あ、ティア。 お帰りー」

 

「お帰りー、じゃないわよ。 なに3人して呑気にダベってるのよ。 今は作戦中よ、真面目にやりなさい」

 

「す、すみません……」

 

「それじゃあ、気を取り直して……レリックを回収しに行こう」

 

ソーマ達4人は7両目に向かい、立ちはだかるガジェットに挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェザーズ1、スターズ1、ライトニング1。制空権獲得!」

 

「ガジェットⅡ型散開、開始!」

 

「ガジェットは1体も逃がすな。 こちらから位置情報をリアルタイムで送信して隊長2人をサポートしてやれ」

 

シャーリーとルキノの声にアギトが指示を飛ばす。 すると後ろからドアが開く音が聞こえ、その音に反応してグリフィスが振り向く。

 

「皆、お待たせ!」

 

「八神部隊長!」

 

「お帰りなさい!」

 

「意外と速かったな」

 

グリフィスとシャーリーとアギトが声をかけると、はやては笑顔で答える。 そしてグリフィスは報告を始める。

 

「ここまでは比較的、順調に進んでいます」

 

「そっか。 このまま何もなく……」

 

グリフィスの報告を聞き、はやては安心したように言葉を発しようとするがシャーリーがそれを遮った。

 

「ライトニングF、8両目突入。 っと」

 

シャーリーはサーチャーから届いた8両目のスキャンデータを分析すると……

 

「これは……エンカウント! 新型です!」

 

「って、言ってる傍からか……」

 

アギトは少し額を抑え、改めてディスプレイに映る戦場を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ライトニングは突如として現れた新型のガジェットに苦戦を強いられていた。

 

「ぐっ、固……!」

 

フリードの放ったブラストフレアは弾かれ、ルーテシアの魔力弾もAMFで防がれ、エリオの渾身の一撃もガジェットの装甲の固さで届いてなかった。 するとガジェットから強力なAMFが発生した。 その影響は後方で支援の準備をしていたキャロにまでおよんだ。

 

「えっ……」

 

「AMF……!?」

 

「こんな遠くまで……さすが実戦ね……」

 

ルーテシアは久しく感じてなかった緊張感に冷や汗を流す。 エリオは魔法による強化と援護がなくなり、ガジェットに押され始める。

 

「ぐっ……」

 

「あ、あの……!」

 

「大丈夫……任せて!」

 

「どこが大丈夫なのよ! キャロ、レンヤさんから渡された物があるでしょう。 使い方は前に教えたわよね? 早く装着しなさい!」

 

「う、うん!」

 

ルーテシアは説明しながら紫色のガントレットを装着し、キャロも慌てて黄色いガントレットを装着した。

 

「っ……!?」

 

エリオはガジェットにロックされていることに気付き、飛び上がって放たれる魔力レーザーを回避……しかし着地の瞬間、死角から出て来た二体目ガジェットのアームに吹き飛ばされ、壁に激突する。 それを見たキャロは思わす声を上げた。

 

「エリオ君!」

 

「大丈夫……だから!」

 

「でもっ……」

 

「でも何もない! 助けるわよ!」

 

《トーデスドルヒ》

 

天井から飛び出し、魔力付与を行った黒いダガーを召喚し、射出する。ダガーはガジェットのアームの合間を縫ってカメラに向かうが……もう一体のガジェットのアームによって防がれ、そのまま魔力弾を発射されて被弾してしまう。

 

「うっ……」

 

痛がる暇もなくガジェットはルーテシアに襲いかかり、ルーテシアは手に魔力をコーティングしてアームを防ぐ。

 

「くっ……こんな事ならもっと近接戦慣れしとけばよかった……」

 

《Gauntlet Activate》

 

そうボヤきながら、ルーテシアは装着していたガントレットにいつの間にかカードを差し込み起動していた。

 

「ルーテシアちゃん!」

 

「ーーキャロ、ピンチの時こそ落ち着きなさい。 焦ったって何んにも意味はないわよ」

 

アームに弾かれながら後退し、ルーテシアはニヤリと笑う。 キャロは気になってガジェットを見ると……先ほどの場所に1枚のカードが落ちており、前触れもなく地面に浸透していった。

 

「あれって……」

 

「ゲートカード、セット完了っと。 ガリュー、準備はいい?」

 

(コクン)

 

「爆丸、シュート!」

 

ルーテシアはガリューを掴み、エリオを抑えているガジェットの真下に投げ……

 

「ポップアウト! ダークオン・ガリュー!」

 

紫色の光を放ちながら巨体化したガリューがガジェットを押し退けた。 キャロが驚愕する中、ルーテシアはすぐさま別のカードを入れる。

 

「な、なんて大きさ……」

 

《Ability Card、Set》

 

「こうなったらAMFなんて関係ないのよ! アビリティー発動! ダーク・サーベル!」

 

アビリティーが発動し、ガリューの右手に魔力が集まり……剣を構成してガジェットを斬りつけ、外に吹き飛ばした。

 

「キャロ、私とガリューが敵を引きつけておくからエリオをお願い!」

 

「え……う、うん!」

 

ルーテシアは車両前方に向かい、キャロはエリオの元に向かった。

 

「エリオ君……大丈夫?」

 

「うっ……」

 

「キュクル………」

 

エリオを呼びかけても呻き声しか聞こえず、キャロはすぐに治療を施そうとした時……別のガジェットが2人の前に降りてきた。

 

「あっ……!?」

 

「キュクル!」

 

突然の事に思考が停止し、主人を守ろうとフリードが威嚇するが……ガジェットはアームを振り上げる。

 

「っ!」

 

キャロはとっさにエリオに覆い被さり、エリオを守ろうとする。 そして、アームが振り下ろされ……

 

パシュッ!

 

何かが射出される音が聞こえ、ガジェットのレンズに当たった。

 

「え……?」

 

キャロは何が起きたか分からなく、続けて二回同じ音がしてガジェットの残りのレンズに当たり……

 

「ーーしれ! ーードーー!」

 

蒼い電撃が迸り、電撃は誘導されるかのようにガジェットに直撃。 ガジェットは中からショートし、爆発した。

 

「い、一体何が……」

 

キャロは顔を上げて辺りを見渡すと……奥の暗がりに誰かいたのに気付く。

 

「だ、誰!? 姿を見せてください!」

 

精一杯の勇気で声をかける。 返答を待つが……代わりに聞こえたのは先ほどの何が射出される音だった。 今度は壁にあるパネルに当たり、また蒼い電撃が発生し。 奥の隔壁が上がった。

 

「待って!」

 

慌てて追いかけるが……追いつく前に隔壁が閉ざされてしまった。

 

「今のは……人? でも、どうして……」

 

「キュル……」

 

「ーーキャロ! そっちは大丈夫!?」

 

「え!? あ、うん……なんとか」

 

ガジェットを倒し終えたルーテシアがガリューの肩に乗って戻ってきた。 キャロは先ほど起きた事で困惑し、頭が混乱してとにかく返事をした。

 

「う、いててて……」

 

「だ、大丈夫? エリオ君?」

 

「……うん、なんとか……」

 

「これ、キャロがやったの? やるじゃない」

 

「え、えーっと……これは、そのー……」

 

「キュクル……」

 

(?)

 

ハッキリ言わないキャロに、ガリューが首を傾ける。 と、その時、突如エリオ達がいる車両の天井や壁が凹み始めた。

 

「なっ……!?」

 

「これは……」

 

「ガリュー! 後退よ!」

 

すぐさまガリューはエリオとキャロを抱え、車両内から脱出した。 外に出て、敵の姿を確認すると……

 

「で、デカイ……」

 

「なんて大きさ……」

 

「これはちょっと……」

 

車両を攻撃していたのは新型ガジェットよりさらに巨大なガジェットドローンだった。

 

「デカ!? どこからあんな物が出て来たのよ!」

 

『どうやら光学迷彩で車両内に潜んでいたみたい。 こっちも今確認した』

 

『エリオ、キャロ、ルーテシア。 こっちは今手が離せない。 今すぐ後退して、俺達の救援を待て』

 

「了解」

 

「あ、あんなのどうやって……」

 

「くっ……」

 

エリオは痛む身体に鞭打って動かし、ストラーダを杖にして立ち上がる。

 

「エリオ君!? ダメだよ動いちゃ、まだ怪我も治っていないのに!」

 

「僕が……やるんだ……!」

 

だが、エリオは膝をついてしまう。 AMFもいまだ健在、出来ることは少なかった。

 

「エリオ………っ! ガリュー!」

 

心配する中、ルーテシアは迫って来たアームに気付き、ガリューに指示を出す。 ガリューはまだ発動していた剣で防ぐが……横をすり抜けられ、キャロに向かって行く。

 

「あっ……」

 

「キャロ! ぐあああっ!」

 

エリオはキャロを庇ってアームに直撃、地面に叩きつけられてしまう。 そして何もできない自分にキャロが戸惑っているとエリオはガジェットの攻撃に気絶してしまい、アームに捕まってしまった。

 

「エリオ!」

 

「エリオ君!」

 

「キュル!」

 

キャロ達は必死に呼びかけるが……ガジェットは気絶しているエリオを車両の外へ放り投げた。 それを見たキャロは目に涙を浮かべる。

 

「エリオ君………エリオくーーーん!!」

 

「ちょっ、キャロ!?」

 

エリオが落ちて行くのを目にして叫ぶ。 その時……キャロの脳裏に過去に自分を救ってくれた恩人達の顔が浮かび上がり……覚悟を決めると車両から飛び降り。 ルーテシアは慌てて追いかけようとするが、自分に飛べるすべがないと自覚し踏みとどまる。

 

それを見ていた司令部のスタッフたちは驚き慌て始める。 はやてはそれを見て気になることはあるが、気持ちを切り替えて対応した。

 

「いや、あれでええんよ」

 

「え!? あ、そうか!」

 

はやては頷いて、キャロ達の様子を見る。 するとシャーリーは思い出したかのように笑顔を浮かべ、それを通信で聞いていたなのはが付け加える。

 

『そう……あれだけ離れればAMFの効力が弱まる。 使えるよ、キャロのフルパフォーマンスの魔法が!』

 

そして、そのキャロ達は刻一刻と地面に近付いていた。 キャロはその中で、気絶しているエリオ見て思いを強くし、小さな手を必死に伸ばす。

 

(守りたい……優しい人。 私に笑いかけてくれる人達を。自分の力で……)

 

「守りたい!」

 

そして、キャロはエリオの手を掴むと抱き寄せてると、ケリュケイオンが出力を上昇させ。 2人は魔力球に包まれ、落下速度を落としていく。 そこにフリードが現れ、キャロの真正面で止まるとキャロは真剣な表情でフリードに話しかける。

 

「フリード、今まで不自由な思いさせててゴメン。 私、ちゃんと制御するから………行くよ! 竜魂召喚!」

 

キャロの声に呼応し巨体なピンクほ魔力光が周囲に溢れる。 そして、エリオは目を覚ますとキャロの様子に驚きながらもその光景をじっと見ていた。

 

「蒼穹を走る白き閃光……我が翼となり天を駆けよ! 来よ、我が竜フリードリヒ! 竜魂召喚!!」

 

キャロが呪文を唱え終わると大きな雄叫びと共に巨大な竜が現れた。 その背にキャロはエリオと共に乗ると、ガリューと戦っている新型ガジェットと向かい合う。 フリードが先ほどよりも巨大な火球を生成し始め、さらにキャロが魔力を注ぎ始めた。

 

「ルーテシアちゃん!」

 

「了解! アビリティー発動!」

 

《Ability Card、Set》

 

「ディープ・シャドー!」

 

「フリード。 ブラストレイ……ファイヤ!」

 

取っ組み合っているガリューが自身の影に沈んでガジェットから離れ。 間髪入れず放たれた大きな火炎がガジェットを包み込み、その荒々しい炎はガジェットを燃やし尽くそうとする。 しかし、炎の中から現れたガジェットには傷一つついていなかった。

 

「やっぱり、固い……」

 

「あの装甲形状は、砲撃じゃ抜きづらいよ。 僕とストラーダがやる……!」

 

『いいえ、それだけじゃあれは突破出来ないわ。 キャロ、ガントレットを使いなさい。 フリードを進化させるよの』

 

「進……化?」

 

念話でルーテシアがそう言うが、キャロはあまり理解できなかった。 ルーテシアはフッと笑うと、ガジェットの方を向く。

 

「キャロの初陣よ、大人しくしてもらうわ! アビリティー発動! ブラックチェーン!」

 

ルーテシアの魔力でアビリティーが発動。 ガリューが床に手をつき、影がガジェットまで伸びて影の鎖がガジェットに巻き付いて拘束した。それを見たキャロは、慌ててガントレットを起動した。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ええっと……確かこうやって……」

 

慣れない手付きでガントレットにカードを入れて起動する。 するとパネルから黄色い光が溢れ……フリードがその光を浴びると全身が同色に光だし、凝縮して一つの小さい球になった。 だが、エリオとキャロはフリードに乗って空を飛んでいたため、そうすると……

 

「あ………うわああああ!?」

 

「きゃあああああっ!?」

 

2人は重力に従って、再度落下し始めた。

 

「ゲートカード、オープン! ゼログラビティ!」

 

すぐさまルーテシアがリニアレールに設置していた指定した対象を浮かせる効果があるゲートカードを発動し、2人の落下を止めた。

 

「キャロ! フリードを!」

 

「っ! 来て、フリード!」

 

「キュクルー!」

 

キャロの呼びかけに応え、白い球がキャロの目の前に現れ……球が開き、竜の形を取ると一鳴きした。

 

「フリードが、いつものガリューみたいに小いさく……」

 

「これが……」

 

手のひらに乗っているフリードをマジマジと見つめ……次にガジェットを一瞥する。

 

「行くよ……フリード!」

 

「キュクル!」

 

「爆丸、シュート!」

 

フォームも何もなく、ただフリードを投げた。 球は空中で展開して輝くと……

 

「ポップアウト! ルミナ・フリードリヒ!」

 

グアアアアアッ!

 

黄色い光の中から現れたのは、先ほどの真のフリードリヒの姿より一回り大きく、神々しく光輝く竜だった。 甲殻は陽の光を反射して輝く程の光沢を持ち。 牙、爪はより鋭く……翼は鏡のような輝きを持っていた。 そして2人はフリードの背に乗った。

 

「す、すごい力……」

 

「これがフリードの、進化した姿……?」

 

「グルル………」

 

2人が不思議に思う中、フリードは後ろに顔を向けて、強い意志を持った瞳で頷いた。

 

「キャロ、早く! もう保たないわよ!」

 

「う、うん! えっと、えーっと、こうかな?」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ブラストレイ!」

 

アビリティーが発動し、フリードは口を開いて火球を生成し……高速で火炎の砲撃を発射した。 火炎はガジェットのバリアに衝突し、貫通したが……ガジェットは寸での所でアームを犠牲にして砲撃を防いだ。

 

「す、すごい威力……さっきとは比べ物にならない」

 

「でも、後一撃が足りないわ……」

 

「……キャロ、僕が行くよ。 援護をお願い」

 

「……うん、お願い」

 

それを聞いたエリオが買って出て。 キャロは頷き、新しい呪文を唱え始めた。

 

「我が乞うは青銀の剣、若き槍騎士の刃に祝福の光を」

 

《エンチャント・フィールドインベント》

 

「猛きその身に力を与える祈りの光を」

 

《ブーストアップ・ストライクパワー》

 

「行くよ、エリオ君!」

 

「了解!キャロ!」

 

エリオはキャロに返事を返すと、ガジェットに向かって飛び降りる。 その瞬間、キャロはケリュケイオンから2つの光を放つと、エリオに向かってその光を与える。

 

「ツインブースト・スラッシュ&ストライク!!」

 

《受諾》

 

「はあぁぁっ!」

 

《スタールメッサー》

 

エリオはキャロからの強化魔法を受け取るとストラーダを振り、エリオに向かって伸びてきていたアームを切り落した。

 

《エクスプロージョン》

 

そしてエリオは車両の屋根に着地するとカートリッジロードを行い、ストラーダから薬莢を2つ吐き出させる。

 

「一閃必中! でえぇぇっりゃぁぁああっ!!」

 

渾身の裂帛と共に駆け出し、ストラーダでガジェットを突き抜くと、担ぎ上げるように槍を持ち上げ、一刀両断にした。

 

「ガリュー!」

 

「え……うわっ!?」

 

「これだね!」

 

ルーテシアの指示でガリューすぐさまエリオを抱えて離脱し……キャロは直感で2枚のカードをガントレットに入れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「ダブルアビリティー発動! シェードリング! プラス……サンライトレイ!」

 

ガジェットの周りに光の輪を展開し、フリードは太陽の力を両翼に溜め……光の輪に向かっていくつもの光線を放った。 光線は光の輪に直撃、威力を増幅させ全方向からガジェットに光線を浴びせ……完全に溶解する前にガジェットが爆散し、それを見たキャロはエリオに向かって笑みを向ける。

 

「やった!」

 

その光景を管制室でモニタリングしていたオペレーター達は、喜びと同時に状況を確認する。

 

「車両内部、及び上空のガジェット反応すべて消滅!」

 

「スターズF、無事にレリックを確保!」

 

『車両のコントロールも取り戻したですよ。 今止めま~す!』

 

「ああ、ほんならちょうどええ。スターズの3人とリインはヘリで回収してもらって……そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしようかな?」

 

『はいです!』

 

「ライトニングとフェザーズはどうします?」

 

「現場で待機。 現地の局員に事後処理の引き継ぎ、よろしくな」

 

そしてリニアレールは停止し、スバル達によってレリックは運び出された。

 

事件は無事解決したが、キャロは気になる事があり。 局員が来る前にエリオとルーテシアと一緒に新型ガジェットに襲われた車両に来ていた。

 

「……やっぱり誰もいない……」

 

「このリニアレールは無人運転のはずよ。 誰かいたなら既に報告に上がっているし、サーチャーにも引っかかるわ」

 

「そうだね……あ、これは……」

 

エリオは制御パネルに打たれていたペンの大きさくらいの針のような物を見つけた。

 

「これは……」

 

エリオは先ほどキャロから聞いた蒼い電撃を思い出す。 もし、この針が避雷針の役割を果たし、電撃によってハッチが開閉したなら……

 

(……無理だ。 僕でも、もしかしたらフェイトさんでも電気の魔力変換資質でそんな繊細な事は出来ない)

 

「ストラーダ、ここのハッチを開けられる?」

 

《目立った破損はありません、出来ます》

 

ストラーダをパネルに接続し、しばらくハッチが開き。 3人は次の車両に入った。 中は暗く、キャロが側にあった電源を入れると……コンテナや機材が積まれていた。 どうやらここはレリックがあった貨物室とは別の貨物室のようだ。

 

「何かないか手分けして探しましょう」

 

「うん」

 

「キュクルー!」

 

(コクン)

 

ガリューといまだに球状態のフリードもコロコロ転がりながら捜索を手伝ってくれ。 しばらく探しているとルーテシアが何かを見つけた。

 

「これは……」

 

機材の上に置かれていた2つの開けっぱなしのケース。 中には何もないが、片方のケースには緩衝材が敷かれており。 緩衝材のくぼみは下のがくの字の形を、上のは少し曲がった縦の長方形いくつもの並んでいた。 それはつまり……

 

(拳銃と、弾を装填するマガジン……)

 

もう一つのケースそのものだけしかなく、恐らくは衣類の類だろう。 そして、背後にあった破壊されたコンテナを一瞥し……捜索していた他のメンバーを呼んだ。

 

「ルーテシアちゃん、これって……」

 

「ええ、誰かが閉じ込められていた……それで間違いないでしょう」

 

「問題はどうやって脱出したのか、そしてどうして僕達を助けてくれたのか……その人物は今どこにいるのか、分からない事だらけだよ。 ん?」

 

エリオはコンテナの中を覗くと……そこには小型の冷蔵庫があった。 中には何もなく、扉が開けぱなしで冷気が漏れている。

 

「……隊長の判断を仰ぐわよ。 私達でどうこう出来るレベルじゃないわ」

 

「う、うん」

 

「りょ、了解……」

 

3人はどこか納得てないが、限界を感じ。 隊長陣にこの事を報告し、リニアレールから降りるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は同じくーー

 

とある薄暗い謎の研究所のような場所では白衣を着た男が、大型のモニターでレリックを回収している前線メンバーを見ている。

 

『レリックが管理局に確保されたようです』

 

「ほぉ、なかなかやるね。 流石と褒めるべきかな?」

 

モニターに映る紫色の長髪の女性が映っている。 口調からしてこの男に仕えているのだろう。

 

『追撃なさいますか?』

 

「……やめておこう、レリックは惜しい……が、彼らのデータは十分取れただけでも十分さ」

 

手元に今回の戦闘記録を眺め、白衣の男の口元が不気味につり上がる。

 

「それにしても……この案件はやはり素晴らしい。 私の研究にとって、興味深い素材が揃っている上に……」

 

男は大型の空間ディスプレイへ視線を向ける。 ディスプレイには隊長陣とティアナを抜いたフォワード隊の姿が幾つも映しだされている。 そして、次に映し出されたフェイトとエリオの映像に、男はまるで研究者がサンプル品を眺めるように見ている。

 

「生きた“プロジェクトF”の完成体を見る事ができた……だがやはり一番気になるのは……」

 

怪しく歪む男の口と大きくなる瞳孔。 そして次にレンヤの映像と……六課の隊舎の外で遊んでいるヴィヴィオの大きく映し出された。

 

「ーー神崎 蓮也……そしてヴィヴィオ……今世で聖王の血を濃く有している2名か」

 

モニターを凝視する男の背後に、いつの間にか白髪で黒いスーツ姿の二十代の男が立っていた。 小脇には大きめな本を持っている。

 

『貴方は……』

 

「おや? 珍しいお客様だ。 どうだい? たまには私とティータイムでも……」

 

「ふふ、それは魅力的だが。 それはまた別の機会にしようかーースカリエッティ」

 

白衣の男……スカリエッティと呼ぶの男。 スカリエッティと呼ばれた男は残念そうにため息を吐く。

 

「それは残念。 まぁいいか……では別の話をしようか。 ナギ君」

 

「ああ、ではここに来た要件を。 例のアレの改修は順調……というか、あの2人を逃しても良かったのか? 貴重な成功体だろ?」

 

正面の空間ディスプレイに映し出されたのはリニアレールの貨物室にある破壊されたコンテナと……フォワードから隠れて走行中のリニアレールから飛び降りた2人の少年少女だった。

 

「構わないさ。 あの2人は野に放たれてこそ輝く……それを最後まで見れる保証はないけどね」

 

「そうか……後、あの子の調整も済んだ。 やっておいてあれだが、本当にアレでよかったのか?」

 

「ああ……道具には、意思は必要ない……」

 

そう言い切ると、スカリエッティは徐々に笑いだし……その場に響くように笑い声を上げた。

 

 



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147話

 

 

5月20日、初の出動から1週間後ーー

 

あれから出動もなく、今日も六課は通常勤務……フォワード達も個別スキル訓練に入り、より一層精進しているだろう。 まあ、しているというよりは……

 

「させてるんだけどな」

 

「何独り言を言っているんですかーーー!!」

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

後ろを走っていたソーマはツッコミを入れて来た。 今俺はソーマ、ルーテシアの訓練をしていた。 今日は午前の仕事はそこまでなく、時間が出来たので2人の指導をしていた。

 

「そ、そもそもなんで走らされているの……」

 

「オールフィールダーはすぐに移動し、どんな距離でも対応する必要がある。 そうなると体力は必須、意味は分かるだろう?」

 

「だ、だからってこんな強力な魔力負荷バンドを付けなくても……」

 

「お前達の戦闘スキルは俺がよく知っている。 まずは応用より基礎を固めないと、足元すくわれるぞー」

 

基礎はとても大事だ。 基礎が出来なければ応用も難しいし……技術、魔法、作戦、これら全てが通用しなくなった時、基礎はとても重要な役割を果たすことが出来るからな。

 

「ほら、後10キロだ。 張り切って行くぞ!」

 

「ひええー……!」

 

「じぇ、じぇろにも〜〜……」(意味不明)

 

(パタパタ)

 

ルーテシアの肩の上で両手にうちわを持って応援するガリュー。 と、その時……左から何かが接近するのを感じ、その場から飛び退くと……

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

ソーマは吹っ飛んで来たスバルに巻き込まれ、そのまま転がりながら木にぶつかった。 スバルが飛んで来た方向にはグラーフアイゼンを振り下ろした状態のヴィータがいた。

 

「ヴィータ、もうちょっと手加減してもよかったんじゃないか?」

 

「う、うるせ……お前らがここを通るから悪いんだ」

 

「だ、大丈夫ですかー?」

 

「う、う〜ん……」

 

「ふひゃ!?」

 

ソーマがスバルを押し退けようと腕を上げた時、突然スバルが奇声を発し……

 

「いやああああっ!!」

 

「ぐふぁっ!?」

 

リボルバーナックルでソーマの鳩尾を思いっきり殴り、ソーマはそのまま死に絶えたように気絶した。

 

「あーりゃりゃ……」

 

(…………)

 

「お、おい大丈夫か?」

 

慌てて近寄り、容態を見てみる。 気絶しているだけで、特に問題なしっと……

 

「スバル、少しやり過ぎだぞ」

 

「え!? え〜〜っと……すみません……」

 

「はあ……なにやってんだよ」

 

結局、フェザーズはそのまま休憩となり。 その場でスバルとヴィータの訓練を見学、ヴィータがフロントアタッカーとしてすべき事を教えていた。

 

「あ、フィールド系か……」

 

「ん? 何かあんのか?」

 

「い、いえ……! ただ、フィールド系なら私のシューティングアーツと相性がいいかなーって」

 

「ふうん? なら試してみろ、どう打って欲しい?」

 

「それじゃあ射撃型で」

 

2人は距離を取り、ヴィータは魔法を発動して周りにいくつもの鉄球が浮かび上がる。

 

《シュワルベフリーゲン》

 

「でやあっ!」

 

グラーフアイゼンで鉄球を打ち出し、スバルは身体全体に魔力を纏い……

 

「っ!」

 

両腕を縦に別の高さに上げて防御の構えを取って前進。 鉄球が当たる直前に片足も上げて……防御の上に鉄球が直撃すると腕と足を捻るように回転、鉄球を弾いた。

 

「なるほど、な!」

 

「ぐうっ……!」

 

ヴィータはスバルの考えに納得しながら接近し、横にグラーフアイゼンを振った。 スバルは肩をすくめて、あえて肩で受けて衝撃を逸らして威力を半減させた。

 

「ふむ……お前のシューティングアーツ……アタシが知ってるのとはかなりアレンジされてんな。 シューティングアーツはクイントから教わったんだよな?」

 

「は、はい」

 

「拳や蹴りはともかく、攻撃に膝や膝まで使っている……それに今の防御の動き、明らかに対武装兵用に改良されてんな」

 

……確かに、ギンガから見てもそれは感じた。 突進して来た敵には容赦なく顔面に膝蹴りを入れ、キックでグリードを吹っ飛ばしてたな。

 

「……あ……」

 

今思い出した、ギンガのあのしなる鞭のような蹴り……スバルの防御の構え……武器に対抗している武術……

 

(ムエタイじゃん……)

 

地球の武術の一つで、簡単に言えばお国柄のキックボクシング。 ……軽そうなクイントさんならシューティングアーツをムエタイ風にアレンジしそうだな……

 

「さて……」

 

少し気にはなるが一先ず置いておいて、魔力弾をソーマの耳元に設置。 軽く炸裂させると、ソーマはビックリしながら飛び上がった。

 

「うわっ!? ………あれ、ここは……」

 

「もう十分休めただろ? 訓練を再開するぞ」

 

「は〜い」

 

「え、あ……はい!」

 

その途中、フェイト、なのは、アリサの訓練場を走りながら少しだけ見た。 フェイトはエリオとキャロに回避のトレーニングを、なのははティアナに瞬時に判断して射撃するトレーニングを、アリサはサーシャに間合いの取り方を……全員、的確なスキルを鍛えている。 俺もエリオとキャロの指導が出来そうだが……俺の場合、高速戦闘状態の回避は基本的虚空……直感で回避しているから2人の指導に向いてない。

 

それと、余談だが。 本来ソーマの指導はシグナムが担当するのだったが……あの人の指導は届く距離まで近付いて斬れ……だけだったので。 当分は基礎を固める事になった。 まあ、シグナムの指導を受ければそれだけで実戦経験は得られそうだけど……

 

それから数時間後ーー

 

ホイッスルと同時に午前の訓練が終了した。 フォワード陣は全員例外なく息を上げて地面にへたれこんだ。

 

「個別スキルに入ると、ちょっとキツイでしょう?」

 

「ちょっとと……言うか……」

 

「その……かなり……」

 

「レンヤ隊長とフェイト隊長は忙しいからそうしょっちゅう付き合えねえけど、アタシは当分お前らに付き合ってやっからなあ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

意気揚々にグラーフアイゼンを突き付けながらヴィータの言葉に、スバルは少しありがた迷惑そうに返事し、俺とフェイトは思わず苦笑いしてしまう。

 

「それから、ライトニングの2人は特にだけど……フェザーズ、スターズ、クレードルの皆もまだまだだが成長している最中なんだから」

 

「くれぐれも、無茶は控えるように。 身体に異常を感じたらすぐに報告するだぞ」

 

『はいっ……!』

 

「じゃ、お昼にしよっか」

 

『はいっ!』

 

最初の返事よりも大きな声で返事をし、少し現金に思いながらも隊舎に向かった。

 

「ん?」

 

その途中……進行方向から肩まである髪を一纏めにして、スバル並みのラフな格好に長袖のジャケットを着て、赤いスカーフを首に巻いて左頰に絆創膏を付けた女の子が両手に荷物を抱えて歩いてきた。

 

「あら? あなたは……」

 

「……ハーイ……コマンダー……ソエルから荷物をデリバリーしてきたよ」

 

「お、ありがとう」

 

この、会話に英語をカタカナ読みしたように混ぜてゆっくり話す不思議っ子はエナ・ヴェルシス。 ついこの前異界対策課に配属した新人だ。 年は確かスバルと同じ15歳だったな。

 

「中はなんだ?」

 

「アイドンノー……特に何も聞いてないよ」

 

「……中は見てないでしょうね?」

 

「そこはライダーとしてのポリシーがあるから……見てないよ」

 

……そう、エナが異界対策課に入った動機は人助け……依頼を中心として働きたかったからである。 本人いわく魔力量もCしかなく、そこまで強くないからだと言う。

 

「あれ? レンヤさん、その子は?」

 

「私は、エナ・ヴェルシス。 異界対策課の新人だよ……ユー達は六課のフォワード隊だね……ナイス トゥ ミーチュー……」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「大切なものはシュペヒトクィーン……嫌いな事はゆっくりと安全運転だよ」

 

「え……」

 

よく分からない自己紹介だな……そのままエナと一緒に隊舎の玄関前に行くと……すずかが大型ロードスポーツ型のバイクのメンテナンスをしていた。 その隣には屋根なしの管理局の制式採用車が停められていた。

 

「あ、お帰りエナ。 レンヤ君に荷物は渡せた?」

 

「イエス……」

 

「うわぁ! すごいバイク!」

 

「カッコイイ……!」

 

「ただのバイクじゃない……シュペヒトクィーン……私の相棒」

 

スバルとエリオが好奇心の満ちた目でバイクを見る。 このバイク、シュペヒトクィーンはすずか限界以上に改造されたマシンで、安全性に難があったりする……と、その時隊舎内からはやて、リイン、シャーリーが出て来た。

 

「あ、皆お疲れさんや」

 

「はやてとリインは外周りか?」

 

「はいです、ヴィータちゃん!」

 

「うん、ちょおナカジマ三佐とお話してくるよ。 スバル、お父さんとお母さん、お姉さんになんか伝言でもあるか?」

 

「あ、いえ。 大丈夫です」

 

「なら、俺からよろしく言っておいてくれ」

 

「了解や」

 

はやてとリインは車に乗り込み、エンジンをかけた。

 

「じゃあ、はやてちゃん、リイン、いってらっしゃい」

 

「ゲンヤ三佐とクイントさん、ギンガによろしく伝えてね」

 

「うん」

 

「いってきま〜す!」

 

車が発進し、それを見送った時……ちょうどすずかがシュペヒトクィーンの点検が終わった。

 

「これで、よし! エナちゃん、特に問題はないよ」

 

「センキュー ベリマッチ……すずかさん」

 

「シュミレーターで何度も確認しているけど……運転に支障はない? 少しでも違和感があったら言ってね」

 

「ノープロブレム……すずかさんのおかげでシュペヒトクィーンは完璧……私には分かる……彼女にはソウルがあるから……」

 

「ソウル? そんなのあるわけないじゃない、変な事を言うのね」

 

「……シュペヒトクィーンを……ディスったの……?」

 

「な、なによ。 本当の事でしょう?」

 

ティアナは事実を言っただけだと思うが、表情は変わってないがその発言はエナにとっては少し気分を悪くしたようだ。

 

「ま、まあまあ落ち着いてよ。 ティアも悪気があったわけじゃ……」

 

「なら……後ろに乗って……あなたにも聞かせてあげる……シュペヒトクィーンの……ソウルが奏でる音を……」

 

「ええっ!? なんでそうなるのよ!」

 

ソーマが間に入って止めようとしたが、その前にエナがそう言いながらシュペヒトクィーンに近寄った。

 

「ふふっ、結構頑固な子だね。 いいよ、少しならティアナを連れてっても」

 

「センキュー」

 

「高町隊長!?」

 

なのはが許可を出した事にティアナは驚き、それを聞いたエナはシュペヒトクィーンに跨り、エンジンをかけた。

 

「早く……乗りなよ……乗れば分かるよ……シュペヒトクィーンにソウルがあるって……」

 

「ああもう、乗ればいいんでしょう! 乗れば!」

 

ティアナはほぼヤケになってシュペヒトクィーンに乗った。

 

「ちゃんとホールドしておいてね……聴かせてあげる……シュペヒトクィーンの……そして……」

 

ブオオオオンッ!!!

 

「アタイのソウルフルなシャウトをなぁ!」

 

一気にアクセルを噴かせ、シュペヒトクィーンはいきなり臨界まで上昇したような音を出す。 そしてボーっとしていたエナの顔が突如豹変する。

 

「ちょっ!? なによこれー!?」

 

「黙ってねぇと、舌噛んじまうぜ! シューティングスターは誰にも止められねぇ! ヒヤッハーー!!」

 

「きゃあああああああ!!??」

 

ティアナを後ろに乗せたエナのシュペヒトクィーンはいきなりのウィリーを披露し、前輪が地に着くとともに一気に走り去って行った。

 

「……なに、あれ?」

 

「エナちゃんはバイクに乗ると性格が変わっちゃうんだよ」

 

「いえ、それもありますけど……あのスピード……」

 

「シュペヒトクィーンは元々エナの改造していたのを、すずかが限界以上にカスタマイズしているから……初速は300キロ、最速は500キロは出るぞ」

 

「……すずか……あんたなにやってるのよ」

 

「〜〜〜〜〜〜♪」

 

珍しくすずかは口笛でごまかした。 それから2分後、エナとティアナを乗せたシュペヒトクィーンが爆音を奏でながら戻ってきた。 猛スピードから目の前で急ブレーキをかけ、後輪が浮き上がりながら停止した。 エナの表情はコロっと元に戻り、ティアナは倒れるようにシュペヒトクィーンから降りた。

 

「六課隊舎前にピットイン……ファーストレコード更新……ソニックブームは……まだ出ない……どう……シュペヒトクィーンのシャウト……聴こえた?」

 

「な、なによ……あの異常なスピードにハンドリング……もうバイクじゃないわ……兵器よ兵器…………っていうか……八神部隊長……追い越したし……」

 

「ノー……シュペヒトクィーンはバイクでも、兵器でもない……シュペヒトクィーンは……ソウルを持ったパートナー……」

 

エナにとってシュペヒトクィーンはデバイスのような、相棒みたいなものなのか……

 

「だったら……今度会ったら……また乗せてあげる……メニー タイムス。 ユーが……シュペヒトクィーンのソウルを……感じられるまで……」

 

「お、お断りよ……」

 

「残念……悲鳴は……私にとって……最高のプレゼンなのに……」

 

本当に残念そうな顔をし、エナはスバル達の方を向いた。

 

「どう……乗ってく……?」

 

そう聞くと、全員首を物凄い勢いで横に振って否定した。

 

「もうそれくらいにしときなさい。 まだ配達は残っているんでしょう?」

 

「オウ……3分もタイムロスしてる……それじゃあ、シーユー グッラーク」

 

エナはエンジンをかけ、また表情を豹変させるとアクセルを全開に回し。 ヒヤッハーと叫びながらクラナガンに向かい、数秒で見えなくなった。

 

「……………………」

 

「異界対策課の人材不足ってここまで深刻だったの?」

 

「エナがぶっ飛んでいるだけだ」

 

「ティアー、大丈夫?」

 

「こ、これが大丈夫に見えるなら眼科に行きなさい……」

 

「それだけ言えれば大丈夫だね。 ほら、立てる?」

 

ソーマがティアナに手を貸し、ティアナはフラフラになりながらも立ち上がる。

 

「うーん、今度エナちゃんに耐G訓練の協力をしてもらおうかなあ?」

 

「つまり、あれに全員乗せるのか」

 

『ええっ!!??』

 

なのはが冗談交じりにそう提案すると、ソーマ達全員が驚いた顔をした。

 

「やめなさい。 それなら飛行艦に乗せた方が効率が良いわ」

 

「あ、確かに」

 

「まあまあ、それは後にして。 フォワード達はこの後も訓練があるんだし、私達も早くお昼にしよ」

 

すずかはアリサとなのはを押して隊舎に入り、ヴィータもやれやれと首を振りながら後を追い、ソーマ達もホッとして続いて行った。 俺とフェイトは顔を見合わせ、少し笑い。 後に続いくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤさん達隊長陣と別れた後、僕達フォワード陣はシャーリーと一緒に昼食を食べていた。

 

「なるほど、スバルさんのお父さんとお母さんとお姉さんも、陸士部隊の方なんですね」

 

昼食の山盛りにされたパスタを食べがら雑談し、キャロが先ほど八神部隊長に聞いた事をスバルに質問していた。

 

「うん。 八神部隊長も一時期……ハム……父さんの部隊で研修してたんだって」

 

「それと異界対策課設立当初の責任者もゲンヤさんだったらしいよ。 今はレンヤさんだけど、クイントさんとギンガも含めてお世話になったそうで」

 

「へえ……」

 

「まあクイントの場合、お世話になったと言えば語弊がありそうだけど」

 

ルーテシアの言葉に同意する。 確かにクイントさんの場合は、引っかき回されたの間違いだと思うけど……

 

「しかし、うちの部隊って関係者繋がり多いですよね。 隊長達も幼馴染同士なんでしたっけ?」

 

「そうだよ。 なのはさんとアリサさんと月村主任と八神部隊長は同じ世界出身で……レンヤさんとフェイトさんとアリシアさんも子どもの頃はその世界で暮らしてたとか」

 

シャーリーさんは1度パンを一口食べた後、続けてそう説明した。

 

「ええっと、確か管理外世界の97番?」

 

「97番って……うちのお父さんのご先祖様がいた世界なんだよねー」

 

「そうなんですか?」

 

「うん」

 

エリオの疑問に答えながら、スバルは空になった皿にパスタのお代わりをよそった。

 

「そういえば、名前の響きとか何となく似てますよね? なのはさん達と」

 

「そっちの世界には私もお父さんも行った事ないし……よく分かんないだけどね」

 

「ふ〜ん……」

 

食べるのに集中して、珍しくエリオがそんな返事をした。 というか、山のように盛られたパスタを減らしているのは主にこのスバルとエリオ……エリオは育ち盛りと理解できるが、スバルは昔と変わらず燃費が悪いのか、それとも……

 

「あれ? そういえばレンヤさんはなのはさん達と一緒の世界出身じゃなかったっけ?」

 

「神崎隊長はミッドチルダ出身よ。 アンタあの人が聖王だって事忘れたの?」

 

「あ、ああそうだった……」

 

「でも、それならどうしてレンヤさんの名前の響きはなのはさん達と似ているんですか?」

 

キャロは最もな疑問を聞いてきた。

 

「うーん、まあ……調べればすぐにわかるかな……なんでもレンヤさんは赤ちゃんの時に先代の聖王様に97番世界に捨てられたみたいなの。 おそらく名前もその影響だと思うよ」

 

「あ……」

 

「聞いちゃ悪かったな……?」

 

「あの人はそんな事を気にするような人じゃないわよ。 あ、でも少し気になるわね……蓮也って名前、その世界でつけられたんでしょう? だったら本当の名前ってあるのかしら?」

 

「やめなさい。 本人がいない所でそんな話をしないで」

 

レンヤさんの疑問に興味が出たルーテシアをティアが一言で制した。

 

「なになに? パパのお話?」

 

「わっ!? ヴィヴィオ!?」

 

「ミュウミュウ!」

 

突然後ろからヴィヴィオがニュッと顔を出してきた。 その腕の中にはノルミン……サポートが抱えられていて。 腕から出るとテーブル下にいたフリードとガリューと会話を始めた。

 

「ミュウ〜」

 

「キュクル!」

 

(コクン)

 

……ダメだ、何言っているの全然わからない。

 

「あらヴィヴィオ、レンヤさん達とご飯を食べてたんじゃないの?」

 

「うん、そーだったけど、パパ達はいそがしいからすずかママが皆の所に行っておいでって」

 

「なるほど……」

 

シャーリーさんは納得し、隣の席にヴィヴィオを座らせた。

 

「そうだ。 前にヴィヴィオはレンヤさんの養子だけど、ヴィヴィオはレンヤさんの本当の娘ってアレ、結局どう言うこと?」

 

「ああ、アレね。 うーん、さすがにこれは言っちゃマズイよなぁ……」

 

「??」

 

ヴィヴィオがいる手前、流石に話すわけには……当の本人は小首を傾げているけど。

 

『ヴィヴィオはプロジェクトFの被害者よ』

 

「ちょっ……!?」

 

「ぶふっ!?」

 

「きゃあ! エリオ君!?」

 

ヴィヴィオにだけ聞こえないようにルーテシアが念話で言ってしまい……全員が驚いた顔をするが、特にエリオが驚いたようで。 口に含んでいたパスタを吹き出した。

 

『ル、ルーテシアちゃん……!? いきなりそんな……』

 

『いずれ知る事になるのを今言っただけよ。 ヴィヴィオには隠しているけど、私達には話してくれたじゃない』

 

『それは……そうだけど……』

 

レンヤさんとヴィヴィオの関係を説明した。

 

『ーーと言うわけ。 どんな経緯であれ、ヴィヴィオは間違いなくレンヤさんの娘なんだ。 レンヤさんもいずれ真実を伝えるべきか悩みながらもヴィヴィオを可愛がっているんだ』

 

『そうだったの……』

 

シャーリーも

 

「皆、さっきからだまってどーしたの?」

 

「え!? い、いや……なんでもないよ!」

 

「ちょっ、ちょっと大事な話をしてたんだよ。 ね?」

 

「う、うん。 そうそう!」

 

「んー? もしかして、ヴィヴィオとパパの事?」

 

「えっ……!? あ……ど、どうかなぁー……」

 

……鋭いな。 だが、念話の内容を話すわけにもいかず……皆は飲み物を口にして誤魔化そうとする。

 

「ーーヴィヴィオ知ってるよ。 ヴィヴィオは普通の子どもじゃないって」

 

『ぶうううっ!?』

 

ヴィヴィオの口から出た思いがけない事実に、僕達はそろって飲み物を吹き出した。

 

「ゴホゴホ……ヴィ、ヴィヴィオちゃん……? い、一体それはどこで聞いたのかな?」

 

「結構前にソエルとラーグから」

 

「あんの白黒まんじゅうどもめ……!」

 

口元を拭きながら、ルーテシアは怒りに満ちた声を出す。

 

「ヴィヴィオちゃん、その……気にはならないの?」

 

「んー、ちょっとビックリしたけど……あんまりかんけーないかな」

 

「え……」

 

「教えてくれなくたって、ヴィヴィオはパパの事だーいすきだもん! それだけじゃダメなの?」

 

「……ううん、そんな事ないよ」

 

「ああ、ヴィヴィオ可愛いわ〜!」

 

「ううう……ルールー、くすぐったいよ〜」

 

ルーテシアは思わずヴィヴィオを抱きしめて頬擦りをする。

 

『すごいな……まだ5歳なのに、あんなしっかりしている』

 

『ええ、そうね……』

 

「あ……もうこんな時間! 早く食べないと午後からの訓練に間に合わない!」

 

「あう、そうでした!」

 

「早く……モグモグ……食べないと!」

 

「スバル、食べながら喋らない!」

 

とにかく急いでパスタを食べ終え、少しお腹が重くなるのを感じながら走って訓練場に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の訓練が始まり……俺はそれに参加せず、まだまだ残っていた執務に追われていた。 だが……

 

「ああああっ!! 多過ぎる! 六課の書類に加えてなんで対策課の書類があるんだよ!?」

 

「レンヤ君は一時的に対策課は出ているけど、最高責任者はレンヤ君だから」

 

「手伝いたいのは山々だけど、すずかも私もまだまだ忙しいからねえ」

 

「……それ、自分から増やしてないか……?」

 

(フイッ……)

 

そう質問すると、2人は揃って目を逸らした。 すずかは機器の改造研究、アリシアは魔法とデバイスのプログラムの開発……終わっても思いついてきりがないな……

 

「そ、そういえば! さっきエナちゃんからもらった荷物、まだ開けてなかったよね!」

 

「なにが入っているのか確認しないと!」

 

「全く……」

 

あからさまに話を逸らしたな……だが、気にならない訳でもなく。 荷物を開けてみると……中には黒いファイルがあった。 その上にはメモ書きが。

 

「えっと……“空域部隊の構成を洗い出しをしている時に見つけたものだよ。 役に立つと思うから見てねー。 ソエル”」

 

「……どう言う意味?」

 

「どうやらそのファイルがソエルちゃんが伝えたいものらしいけど……」

 

黒いファイルを手に取り、中を開いてみると……

 

「怪異殲滅部隊、イレイザーズの情報!?」

 

「イレイザーズ!?」

 

「それって……3年の会議以降結成された部隊。 今の今までなんの音沙汰もなかったのに……!」

 

急いで中身を流し見て確認し……構成員の項目で手を止めた。

 

「そうか……そう言う事だったのか!」

 

そのページに載っていたのは……あの魔乖術師達7人で構成された部隊だった。

 

「まさかイレイザーズ自体が奴らの手中だったなんて……」

 

「もっと入念に調べておけば、事前に教団事件が未然に防げたかもしれないのに……」

 

「……あのクイントさんですら尻尾も掴めなかった連中だ。 どうやっても奴らの策が上を行っていたと思う。 ふう、今は過去の失敗を悔いている暇はない。 フェイトとはやてが帰ってきたら会議を開こう、2人はいつ頃帰ってくるんだ?」

 

「はやてはゲンヤとの協力もそろそろ得られたと思うし、フェイトも今は地上本局に出ているはずだっけ……とりあえず連絡してみるよ」

 

「頼む」

 

その後、2人は夜に帰ってくると言うことで……時間が空いたので身体のほぐしがてら夜の訓練に参加し。 なのは、アリサ、ヴィータと混じってフォワード達を指導して……今日の訓練を終えた。

 

「……よし、今日の訓練はここまでよ」

 

『はい……ありがとうございました……!』

 

「はい。お疲れさま」

 

「お疲れ」

 

「ちゃんと寝ろよ?」

 

『はい。 お疲れ様でした』

 

なのはの訓練終了の声に、スバル達は声をそろえて返事をする。 俺達も最後に一言伝え、スバル達は挨拶をして寮に向かって歩き始めた。

 

「ふぅ……みんなお疲れ様」

 

「ああ、お疲れ」

 

「今日も何とか形になったわね」

 

訓練場に隊長達だけが残るとお互いに今日の訓練について話を始める。それを見たヴィータはため息をつくと呆れ顔になった。

 

「しかし、レンヤはともかく、なのはとアリサはホント朝から晩までずっと連中に付っきりだよな……疲れるだろ?」

 

「確かに……あんまり訓練は見ていないけど、ソーマ達はまだまだ荒削りの原石程度の実力だ。 あれを磨き上げるのは中々に重労働だと思うぞ」

 

「だからこそ、アンタやヴィータ、私達が手伝いをして早く1人前になれる様に訓練を行ってるんでしょ?」

 

ヴィータの言葉に同意しながら少し心配し、アリサは特に気にしてなさそうにする。それに対して、なのはは作業をしながら頷いた。

 

「そうだね。 皆それぞれに役割があるんだから。 それに私は機動六課の戦技教官だもん。当然だよ」

 

なのはは笑顔を浮かべると、さも当然のように言う。 と、そこでヴィータが何かを思い出したかのような素振りをする。

 

「後あれだ……なんつうか……もっと厳しくしねえでいいのか? アタシらが入った時の新人教育なんて挨拶から歩き方まで、もう何でもかんでも厳しく言われてたじゃん?」

 

「……戦技教導隊のコーチングは、基本どこに行ってもこんな感じよ」

 

「細かいことで怒鳴って叱りつけてる暇があったら……模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめしてあげた方が、教えられる側は学ぶことが多いって、教導隊ではよく言われてるしね」

 

「口より先に手が出やすいのよ。 少なからず問題視しているけどね」

 

「……おっかねぇな……おい」

 

「はは、テオ教官といい勝負だな」

 

ヴィータが少し教導隊に畏怖し、俺は少し苦笑する。 そしてなのはは空間シュミレーターを消すとこっちに振り向いた。

 

「私達がするのは真っ新な新人を教えて育てる教育じゃなくて、強くなりたいっていう意思と熱意を持った魔導士達を導く戦技教導だから」

 

「……まぁ、何にせよ大変だよな教官ってのも」

 

「でも、ちゃーんとヴィータちゃんもできてるよ、教官。 立派立派」

 

「な、撫でるな!」

 

「あはははは! うーん、でも身長が高いから撫でにくいね〜」

 

「何だよそれ!?」

 

なのははヴィータの頭を撫ではじめ、ヴィータは文句を言いながらその手から逃れようとする。 それを見て、俺とアリサは笑っていた。

 

「さて、それじゃ俺達も戻るか。 なのは、今日の訓練データは後で整理してデータルームに送っておくよ」

 

「あ、うん。お願い」

 

「後なのは、一度これまでの成長データを比べてみましょう。 あの子達の正確な成長具合を知りたいわ」

 

「うん、わかった。 一応個人ごとに分類してるからわかりやすいとは思うけど何かあったら聞いてね?」

 

俺達は隊舎に向かって歩きながら、ソーマ達の訓練データをまとめる作業をどうするか話をした。 と、その時視線を感じ……振り返ってみるとヴィータが何か決意した思いを胸に秘めてなのはを見つめていた。そして、なのははヴィータの視線に気付いたのか、後ろを振り向く。

 

「ん?」

 

「っ……!」

 

「何?」

 

「な、何でもねぇよ! 行くぞ、なのは」

 

「うん、ヴィータちゃん」

 

ヴィータは照れ隠しに前を歩き出し、なのはが笑顔で付いて行く。 その光景を、俺とアリサは微笑ましく見守っていた。

 

「ふふ、なんて言うか……分かりやすいわね」

 

「ああ、ヴィータらいしと言えばらしいけど……」

 

無意識に手が胸に伸び、そこにある傷跡を服越しに抑える。 おそらくヴィータが感じている感情は……。 首を横に振り、思った事を振り払うとなのは達の後に続き。 一度、汗を流そうと浴場に向かうと……

 

「きゃはははは! わっぷ……」

 

「おっと、ヴィヴィオ。 なにしてるんだ?」

 

女子の浴場からヴィヴィオを走って出てきて、そのままぶつかって来たのを優しく受け止める。

 

「あ、パパ!」

 

「何してんだよ……って、髪がまだ濡れてんじゃねえか」

 

「あ、ホントだ。 もうヴィヴィオ、ちゃんと髪を拭かないと風邪を引いちゃうよ?」

 

「えへへ……」

 

「こら、レンヤで拭かないの」

 

甘えなのか、それとも髪を拭こうとしたかはわからないが……頭を擦り付けて来たヴィヴィオをアリサが抱えて引き離す。

 

「ヴィヴィオちゃん! 髪をちゃんと拭かないーー」

 

「あ、すずか。 ヴィヴィオ、を?」

 

「と…………」

 

ヴィヴィオを追いかけて浴場からすずかが出て来たが……その姿はバスタオル一枚しかなかった。 水に濡れた身体が妙に艶めかしく、お互い時が止まったように見つめ合い……

 

「きゃあああああ!!」

 

「ご、ごめん!」

 

すずかが悲鳴を上げながら蹲り、慌てて反対方向を向いて視線を外すが……その代わりに怒りの形相のアリサと、黒いオーラを放っているなのはと向いて合う事になった。

 

「レンヤーー!!」

 

「いや、これは不可抗力で……!」

 

「レン君……ちょっと、お話しよう?」

 

「それだけはイヤだ!」

 

「ふえ?」

 

状況が飲み込めないヴィヴィオを他所に、何かないかと視線を巡らせ……

 

「ヴィ、ヴィータ!」

 

「…………………」

 

せめてもの救いをヴィータに求めたが、ヴィータは助け舟も出さず無情にも合掌しかしなかった。

 

「レン君、ちょっとコッチにおいで……」

 

「あ、ちょっと! 引っ張らないで……あ、ああああああっ!?」

 

その後、俺は罰として……女子の管理局地上制服を着せられてーー制服は1番体格が近いシグナムのをーーなぜか女装させられた。 会議の為帰って来たはやてとフェイトには驚きの顔で見られ……はやてはアリシアと結託して俺の姿をありとあらゆる方向から激写した。

 

今日、俺は男女のこの関係の理不尽さと消えない傷を……身心ともに受けたのだった。

 

 

 




Vividに向けての先取り情報。

ストライクアーツは空手。
ベルカ流護身術は柔道。
ルーフェン武術は中国拳法。
そしてシューティングアーツはムエタイ、という感じにしていきます。

ルーフェン以外無理がある気がする……


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148話

閃の軌跡IIIに対して。

……セドリックよ。 何があったのだ?


 

5月30日ーー

 

「緊急の派遣任務や、レンヤ君」

 

「いや、いきなり呼び出しおいて開口一番なに言ってるんだ?」

 

火急だという事で呼び出されて急いで部隊長室に赴いたが、中ではリインと呼び出した本人がニッコリと笑っていた為……自分が嵌められた事に気付き、脱力した。

 

「まぁ緊急やないんやけど、任務を依頼してきたトコが教会からやからそれなりに重要なんよ」

 

「教会って……もしかしてカリムからか?」

 

「そうで〜す! カリムさんから今朝管理世界外にあるロストロギアの回収をお願いされたのです!」

 

リインが俺の前に飛び、任務内容を説明を追記した。

 

「ソフィーさん達も忙しいからすぐに動かせる隊がないのは知ってるけど……それで、どこの管理外世界なんだ?」

 

「ふっふっふ〜、聞いて驚くな〜? なんと、管理外世界97番、地球の玖州にある海鳴市や!」

 

「へえ、海鳴市ねえ……」

 

「なんや、驚いとるのかよう分からんリアクションやなぁ……」

 

「これでも結構驚いているぞ。 経験上、その程度は毎度のことで驚き慣れただけだ」

 

ただまあ、海鳴はロストロギアを引き寄せる運命にあるのかと思ってしまったりしてしまう。

 

「まあええ。 緊急出動があらへんかったら2時間後に出発や。 メンバーはフォワード隊の新人・隊長陣は勿論の事、私とリインにリンスにシャマルが同行するんよ」

 

「……多過ぎないか?」

 

「まあ、ある程度の広域捜査になりますから。 司令部も必要ですので」

 

その言い方だと、部隊はグリフィスに任せるとして、ザフィーラは六課で待機だとしても、六課の戦力のほとんどが出動って……

 

「俺は残った方が良いんじゃないか?」

 

「え……どないして?」

 

「明らかに過剰戦力だ。 新人達も実力をつけてきているし、少しメンバーを減らした方がいいと思うぞ」

 

「え、いや、せやかてな……」

 

「?」

 

急にしどろもどろになるはやてに、少し困惑すると……リインが念話をしてきた。

 

『レンヤさん、はやてちゃんはレンヤさんと久しぶりに帰りたいんですよ〜』

 

『帰りたいって……そうか、教団事件の事もあって一昨年から帰郷してなかったな……』

 

帰ったのはレルム魔導学院在学時の2年生の冬期休暇が最後……それ以降はヴィヴィオを保護し、そして教団事件のゴタゴタで……その次は六課設立の為。 帰る暇なんてなかったからな……

 

(……しょうがないか。 ロストロギア回収がメインだけど、別に家族と会っちゃいけないわけでもないしな)

 

それにロストロギアを相手にするわけだし、過剰戦力でも用心に越したことはないか。

 

「分かった。 派遣任務に同行するよ」

 

「! ホンマか!? いやーさすがレンヤ君、話が分かるなぁ!」

 

「段取りはヘリポートから地上本部の転送ポートから地球に向かうんだよな? フェザーズとクレードルはこっちで伝えておく。 他の部隊の連絡は任せる」

 

「はい! 了解でーす!」

 

部隊長室を出て、ソーマ達の元に向かう。 こうして俺は第2の……いや、第1の故郷と言ってもいい第97管理外世界・地球へと向かう事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュク~」

 

(コロコロ)

 

和気藹々とキャロとルーテシアが手の上で球状態のフリードとガリューが転がして遊んでいる中、六課前線メンバーとヴァイスさんが操縦するヘリで地上本部にある転送ポートに移動中だった。

 

「いや〜、本当に久しぶりだね〜、帰るの。 なんか狙っているようで怖い感じもするけど」

 

「せやなぁ。 でも、なんやいつもの同じ感じでワクワクせえへんか?」

 

「そうだね!」

 

はやてとアリシアは楽しそうに会話する。 一応、仕事に行くわけで帰る訳じゃないんだけどな……

 

「何だかこれから任務に入るとは思えないくらいテンション高いね、はやてちゃんとアリシアちゃん」

 

「にゃはは、そうだね。 でも本当はあまりこう言う事言ったらダメだけど、任務先が地元だとやっぱりちょっと気持ちが浮いちゃうな」

 

「地球かぁ……久しぶりだね」

 

「時々両親に連絡で顔を合わせているけど……実際に会うのは本当に久しぶりね」

 

「俺としてはいヴィヴィオを置いていくのが心残りなんだがなあ……」

 

なのは達は仕事だとわかっていても気持ちが浮かれてしまうのは、経緯はどうあれやっぱり故郷に帰られるのは嬉しいのだろうが……やはりヴィヴィオを残して行くのが辛い。 一度両親に紹介したかったし……

 

「なのはさん達の故郷かぁ~……凄く楽しみだよ!」

 

「どんな所なんだろうね?」

 

「綺麗な場所でしょうか?」

 

スバルは、任務先が自分が尊敬する教官の出身世界であるという事で、普段から元気が売りのスバルはいつも以上に元気全開。 ソーマとサーシャも行ったことのない場所を予想する。 そんな2人の横ではキャロが端末で管理局のデータベースを閲覧して書いてある情報を読み上げ始める。 

 

「えっと……第97管理外世界地球、文化レベルB……」

 

「魔法文化なし……次元移動手段なし……って、魔法文化無いの……!?」

 

「にしては過去の魔法関連の事件が多いわね……しかも規模がデカイし」

 

情報を読んだティアナが驚きの声を上げる。 なのは達のような高ランク魔導師の出身世界という事もあり、魔法文化のあるイメージがあったのだろう。 そしてルーテシアは過去に海鳴で起きた事件にも目を通し……その事件の大きさと数に若干引いた。

 

「ないよ。 ウチのお父さんも魔力ゼロだし」

 

「スバルさん、お母さん似なんですよね?」

 

「うん!」

 

確かにスバルとギンガは母親似だが、変な所までは似ないで欲しいと切に願う……

 

「それと、ミッド出身ですけどフェイトさんとアリシアさんも小さい頃暮してて……なのはさん達と一緒に地球の学校に通ってたそうですよ」

 

「ご家族が今も暮してますし」

 

フェイトの事をよく知るエリオとキャロは、詳しく自分が育った地球の事を教えていたようで。 この2人もスバルと同じで地球に行ける事が結構楽しみだったようだ。

 

「……けど魔法文化がない世界で、どうして八神部隊長やなのはさん、アリサさんやすずかさんのようなオーバーSランク魔導師が……」

 

「まぁ、簡単に言えば突然変異とかたまたま~かなぁ?」

 

「あ、八神部隊長! す、すみません……」

 

さっきまでアリシアと話していたはずのはやてがいつの間にかティアナ達の傍に立って話しに参加した事でソーマ達は驚く。

 

「ええよ、別に」

 

「私もはやて隊長も、魔法と出会ったのは偶然だしね」

 

「私とアリサちゃんは先に異界と関わって、それから魔法と出会ったんだよ」

 

「ことの発端はレンヤだけどね」

 

「は、はは……そうだったっけ?」

 

『へぇ~』

 

隊長陣の魔法との出会いを聞いて、ソーマ達は驚きの声を出す。 と、そこでシャマルがリインに。 アリサがアギトに私服を渡していた。

 

「あれ? リインさん、アギトさん、その服って……」

 

「この服は、はやてちゃんのちっちゃい頃のお下がりですよ」

 

「あっちで着る為のやつでな」

 

「あ、いえ……そうではなく」

 

「着れるのかな……って……」

 

「その……八神部隊長とアリサ隊長のお下がりでは……着れないんじゃ?」

 

どうやらはやてとアリサの小さい頃の服のサイズが合っていないと、キャロ達は不思議に思っていた。

 

「? あっ、そういう事ですか。 そう言えばフォワードの皆には見せた事はなかったですね」

 

「そういやソーマ達にも見せたことはなかったな。 ま、見てなって」

 

『?』

 

疑問に答えるように、2人の足元に古代ベルカ式の魔法陣を展開した。

 

「システムスイッチ……」

 

「アウトフレーム……」

 

『フルサイズ!』

 

『おお!?』

 

リインとアギトが身体を構成するシステムを変更した瞬間……2人の体が光に包まれ、光が収まるとエリオとキャロとルーテシアと同じくらいの大きさになったリインとアギトがソーマ達の目の前に降り立った。

 

「でか!?」

 

「いや、それでもちっちゃいけど……」

 

(……何で着てた制服まで大きくなってるんだろう?)

 

ティアナとスバルはリインとアギトの大きさの変化を見て驚いているようだが、ソーマは2人の着てた制服まで何故か大きくなっている事に疑問の目で見ていた。

 

「普通の女の子サイズですね」

 

「向こうの世界には、リインサイズの人間も、ふわふわ飛んでねぇからな」

 

「あの……一応、ミッドにもいないとは思いますよ?」

 

「はい……」

 

いたとしても、そこは人形が置いてあると思うがな。 リインはキャロに近付き、手を頭に乗せて水平に動かして背を比べた。

 

「ふむ……だいたい、エリオやキャロやルーテシアと同じくらいですかね?」

 

「ですね」

 

「リインさん、可愛いです!」

 

「へえ、何だか新鮮な感じね」

 

……どうみても子どもが増えたようにしか見えないのは気のせいだろうか?

 

「リイン曹長、そのサイズでいた方が便利じゃないんですか?」

 

「こっちの姿は燃費と魔力効率があんまり良くないんですよ〜」

 

「コンパクトサイズで飛んでいる方が楽なんだよ」

 

「なるほど……」

 

「あう、アギトさん達も世知辛いですね……」

 

世知辛いというか、リインは知らないがアギトはプライベートの時は基本この身長だったからよくわからない。 というかサーシャ、お前学院にいたから知ってるだろ?

 

数分後、シグナムのメイフォンからアラームが鳴り、はやてに声をかける。

 

「八神部隊長……そろそろ」

 

「うん。 ほんならレンヤ隊長、なのは隊長、フェイト隊長。 私とすずか副隊長とシグナム達はちょお寄るとこがあるから」

 

「やっぱり俺も着いて行こうか?」

 

シグナムがいるし、心配はないと思うが……一応聞いてみた。

 

「うんん、ええよ。それよりもレンヤ君はフォワード達事を頼むわ」

 

はやては少しだけ真剣な目で俺を見つめ……それに負けて頷いた。

 

「……わかった。 シグナム達が付いているし何もないと思うが、気をつけろよ?」

 

「心配しすぎや。 ほな、またな!」

 

「皆、気を付けてね」

 

「うん」

 

「ああ、そっちもな」

 

「先に現地入りしとくね」

 

『お疲れさまです!』

 

「はーい」

 

それから目的に地に到着し……ヘリを降りてからは、はやて、すずか、ヴィータ、シグナム、シャマル、リンスと一旦別れ。 俺達は転送ポートへと向かう。 任務はこれから始まったばかりだ、気を引き締めていかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球、海鳴市郊外ーー

 

地上本部に到着した後転送ポートを使い、俺達は地球へと飛んだ。 転送の影響で発生した光が消え……最初に視界に入ってきたな太陽の光を反射して輝く湖と、緑豊かな自然。 またそこには別荘らしき建物も立っており、差し詰め湖畔のコテージというイメージが一番似合っている。

 

「はい、到着です!」

 

「ここが……地球」

 

リインが俺達の前に出て、手を広げて到着を元気よく告げる。 ソーマの心境は予想通りか外れたのかは分からないが、驚いていることは分かる。

 

「わぁ~」

 

「ここが……」

 

「なのはさん達の……故郷……」

 

自然を見慣れているとはいえ、キャロやティアナ、スバルも目の前の光景に目を奪われている。

 

「そうだよ。ミッドと殆ど変わらないでしょ?」

 

「空は青いし……太陽も一つだし」

 

「山と水と自然の匂いまでそっくりです!」

 

「……最初は一体どんな場所だと思ってたのよ……」

 

(コクン)

 

「キュクル~」

 

「湖……綺麗です」

 

「うん」

 

ティアナとキャロ、エリオもこの景色について感想を言い、ルーテシアがツッコミを入れた。

 

「と言うか……ここは具体的にどこなんでしょう? なんか湖畔のコテージって感じですが」

 

「もしかして、あそこの建物が?」

 

「はい! あの別荘がリイン達の活動拠点になりますよ。 これも現地の方が使用を快く承諾してくれたからですね!」

 

「……現地の方、ですか?」

 

「そうね……そろそろ来てもいい頃だけど」

 

アリサが腕時計を確認すると、ちょうど一台の車がこちらに近付いてきた。

 

「自動車? こっちの世界にもあるんですね」

 

「それはありますよ。 文化レベルBはミッドチルダから魔法を抜いたレベルですから」

 

「もちろん技術的な差異はあるけど、交通機関はだいたい同じだと思うよ」

 

「……オメェら、言いたい放題だな」

 

「あ、あはは……」

 

比較対象がないので気持ちは分からなくもないが、もう少し言葉を選んで欲しい。 車は俺達の前で止まると……運転席から執事服を着た老人……鮫島さんが出てきた。 鮫島さんはアリサの前に行くと恭しく礼をした。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「鮫島、出迎えご苦労様。 そっちは変わりない?」

 

「はい。 旦那様が最近会ってないと寂しがっておられましてよ?」

 

「事情は説明したんだけどね……一度顔を見せた方がいいかもしれないわね」

 

「その方がよろしいかと」

 

俺達にとっては見覚えのある光景だが……スバル達は何も分からずぽかーんと見ていた。 ソーマ達は知っていたが、実際に見るのは初めてで同様に驚いていた。

 

「あ、あの……アリサさんってもしかして……」

 

「アリサは地球では良い家柄の出なんだ」

 

「まあ、簡単言えば貴族のお嬢様ってやつ」

 

「バニングス家の執事をさせてもらっている鮫島と言うものです。 どうか見知り起きを」

 

『えっ!?』

 

アリシアが付け加えるように説明し、鮫島が丁寧に挨拶するとスバル達は驚きの声を上げる。

 

「そんなんじゃないわよ。 変に誤解するようなことは言わないでよ」

 

「別に隠すような事でもないでしょう? あ、ちなみにすずかちゃんもここではお嬢様だから」

 

『ええええっ!?』

 

さらなる事実にさらに声を上げるスバル達。 と、その時。 車の後部ドアが開き……

 

「ーー全く、お前と会う時はだいたい騒がしいな」

 

「はは、そうだな。 本当に何かが起こっていて騒がしい」

 

車から出て来たのは……俺達と同年代くらいの青年と。 活発そうな短髪の少女だった。

 

「久しぶりだな、レンヤ」

 

「お久しぶりです、レンヤさん!」

 

「久しぶり、コウ、ソラ。 ジュンとは前に会ったが、元気にしてたか?」

 

「まあ、ボチボチな」

 

「押忍! 毎日元気にやってます!」

 

コウは俺達を見回し、はやてとすずかがいない事に気が付いた。

 

「そういえば、はやて達は?」

 

「別行動よ。 違う転送ポートから来るはず……恐らくすずかのところね」

 

「そうですか。 後でご挨拶に伺いませんとね」

 

ソーマ達は話が飲み込めないでおり、キャロがおずおずと手を上げた。

 

「あの、レンヤさん。 このお2人は?」

 

「ああ、紹介するよ。 ちょうどこの海鳴で異界の調査をしていた所、俺達の任務に協力してくれる事になった2人だ」

 

「ども、時坂 洸っス」

 

「郁島 空です! どうかよろしくお願いします!」

 

「ど、どうも……」

 

2人の挨拶に温度差があり、特にティアナはソラに戸惑いながらも返事をし。 その後ソーマ達も自己紹介をした。

 

「あの、アリシアさん。 異界の調査って言ってましたけど……コウさんとソラさんも異界対策課なんですか?」

 

「違うわ、この2人は異界対策課じゃないわよ」

 

「そうだよ、2人は元々ここ地球にある組織に所属しているんだ」

 

「そのロストロギアってのが、今回海鳴で発生している異界化の原因の1つだと考えている。 その名目で俺達も協力させてもらうわけだ」

 

「なるほど……」

 

事情は理解したようで……さっそくアリサに案内でコテージの中に入り、荷物類を置いた後リビングに集まる。

 

「さて……じゃあ、改めて今回の任務を簡単に説明するよ」

 

『はい!』

 

フォワード達が返事をし、なのはが空間ディスプレイを表示する。

 

「捜索地域はここ、海鳴市の市内全域。 反応があったのは、ここと、ここと……ここ」

 

「移動してるな」

 

「移動してますね」

 

モニターの対象が移動した事で反応が感知された場所を表している点滅を見てコウとティアナは声を出す。

 

「そう。 誰かが持って移動しているのか……それとも独立してるのかは分からないけど……」

 

「対象の危険性は?」

 

特に注視しなければならない点を、なのはに質問した。

 

「対象ロストロギアの危険性は、今のところ確認されてないよ」

 

「仮にレリックだったとしても、この世界は魔力保有者が滅多にいないから……暴走の危険はかなりないよ」

 

だがそれでも用心に越した事はない。 コウ達が懸念している通り異界化の兆候もあるし、何よりロストロギアだ。 何らかの弾みでどうなるか分からない。

 

「とは言え、相手はやっぱりロストロギア。 何が起こるかもわからないし、場所も市街地……油断せずに、しっかり捜索して行こう」

 

「うん、了解」

 

「では、副隊長達には後で合流してもらうので……」

 

「先行して出発するわよ」

 

『はい!』

 

任務を開始し。 スターズはリインとで対象ロストロギアを手分けして捜索。 フェザーズとライトニングは市内各所にサーチャーの設置、コウ達はサーシャを加えて現存する異界の調査という割り振りとなった。

 

「さて、私は夕食の買い出しにでも行ってくるわ」

 

なのは達がリビングから出た後、アリサが買い出しを申し出て来た。

 

「買い出しって……コテージに用意されてないのか?」

 

「急な話だったから何もないわよ。 人手は十分たりてるし、このくらい任せて起きなさい」

 

「アタシも行くぜ。 久しぶりに街並みを見て回りてぇし」

 

『ならアリサちゃん、すぐに合流できるし、私も一緒に行くよ。 コテージだし、バーベキューなんてどうかな?』

 

「ええ、それがいいわね」

 

それから程なくして、コテージに八神家が合流。 六課メンバーは部隊長であるはやての作戦行動開始の合図で海鳴市へとそれぞれ動き出した。

 

さっそく俺達は街に出て、市内を捜査しながら要所要所にサーチャーを設置して行く。

 

「本当に、平和な所なんですね……」

 

「本当だね……」

 

「魔法文化がないから、分かりやすい犯罪が少ないんだろうね」

 

「つまり分かりにくい犯罪はある、どんな場所でもそれは変わらないって事ね」

 

エリオ、キャロ、ソーマ、ルーテシアの4人は、一見兄妹に見えなくもない感じで歩きながらサーチャーを設置していた。

 

「キュクー」

 

「あ、フリード。 出て来ちゃ駄目だよ」

 

「キュクルー……」

 

ポケットからフリードが顔を出し、出たそうに鳴くが……キャロが注意すると残念そうに鳴いて引っ込んだ。

 

「うーん、静かにできるならガリューみたいにおもちゃとして外に出せるんだけど……」

 

(キョロキョロ)

 

「ガリューも物珍しそうに見ているからね」

 

「なら早く終わらせて、フリードを出してあげよう」

 

『はい!』

 

ソーマの言葉に3人が頷くと、サーチャーの設置を続けた。

 

ピリリリリリリ♪

 

その時、メイフォンに着信が入って来た。 どうやらサーシャからのようだ。

 

「レンヤだ。 何かあったのか?」

 

『あ、レンヤさん。 実は捜索地域内の異界を調べていたのですが……いなかったんです』

 

「いなかった? 何がだ」

 

『……怪異が、一体も見つからなかったんです。 今まで調べた4件全部が』

 

「……………………」

 

今あるだけの情報だけではまだ断定は出来ない。

 

「……サーシャはこのままコウ達と調査を続けてくれ。 何かあったらまた連絡するように」

 

『はい。 あ、コウさんから話したい事があるそうで、変わりますね』

 

間を置いてメイフォンからコウの声が聞こえて来た。

 

『この異変、どう思う?』

 

「判断材料が少ない、まだ何とも言えないけど……4つの異界からグリードが全滅、もしかしたらヤバイのが出て来ているかもしれない」

 

『同感だ……そんじゃ、また後でな』

 

通信を切り、メイフォンをポケットに入れる。

 

「サーシャから?」

 

「ああ……」

 

通話の内容をフェイトとシグナムに伝えた。

 

「……なるほど、そんな事が」

 

「警戒しておくに越した事はないが……もしグリードとの戦いになった場合、スバル、ティアナ、エリオ、キャロはまともに戦えると思うか?」

 

「難しいでしょうね。 グリード戦は対人ともガジェットとも勝手が違う、そういう事態が起きなければいいんだけど……」

 

「そうだね……こんな事なら1度は低ランクの異界に連れて行った方が良かったかもしれないよ」

 

今となって後悔しても後の祭り、仕方なしと思い作業を進めようとすると……遠くから妙な気配を感じた。

 

「この感じは……」

 

「レンヤ?」

 

すぐに探ろうとするが、すでに気配は消えていた。 気配がした方角は……確か旅館があったはずだ。 旅館から発せられたものだとすれば、予想できるのはあの白いゲートの異界……

 

「ねえレンヤ、どうかしたの?」

 

「! あ、いや……なんでもない。 少し考え込んでただけだ」

 

「あ、待ってよ!」

 

誤魔化すように歩き始め、少し懸念しながらも気を取り直してサーチャーを設置して行き……全員がサーチャーの設置が終わった頃、今度ははやてから通信が入って来た。 通常こういう時の通信はデバイスを通しての全体通信だが、怪しまれない為にもメイフォンで通信している。

 

『ロングアーチからフェザーズ、スターズ、ライトニングへ。 さっき、教会本部から新情報が来てな。 問題のロストロギアの所有者が判明したそうや。 どうやら、運搬中に喪失。 事件性は皆無やって』

 

『本体の性質も逃走のみで、攻撃性はないそうよ……ただし、大変高価なものなので、出来れば無傷で捕まえてほしいとのことよ』

 

はやての説明を、シャマルが補足した。 しかし高価なものか……そう言われると無駄に緊張してやらかしてしまいそうだな。

 

『ってなわけで、気ぃ抜かずにしっかりやろ』

 

『了解!』

 

はやての言葉に全員の斉唱が響き、通信は終わった。 そしてこれで……この海鳴で起こっている異界化(イクリプス)は偶然に起こったものという事が分かった。

 

「レンヤ、どうかしたの?」

 

「あ、いや……何でもない」

 

「そう? 今からスターズの皆を拾って行くけど、レンヤはどうする?」

 

「なら一緒に行くよ。 場所はどこだ? 俺が運転して行く」

 

「ならお願いね。 場所はーー喫茶・翠屋」

 

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリオ達を呼び、車に乗り込んでしばらく走らせ。 一軒の喫茶店の前に車を止めた。

 

「……………………」

 

車から降り、無言で喫茶店を見上げる。 なのは達はすでに中にいるようだが……

 

「こんな形で帰って来るとはなあ……」

 

「どうしたのレンヤ、早く入ろ?」

 

フェイトに引っ張られ、中に入ると……

 

「いらっしゃーい♪ フェイトちゃん、久しぶり~」

 

出迎えてくれたのは、高町 桃子……俺の育ての母親だ。

 

「桃子さん。お久しぶりです」

 

「あの、フェイトさん。こちらの女性は?」

 

エリオが母さんが誰なのか訪ねた。

 

「ああ、ごめんね。こちらの方は、レンヤとなのはお母さんの……」

 

「高町 桃子です、よろしくね♪」

 

フェイトに続くように、桃子が自己紹介すると、しばらく静まり……

 

『お母さん!?』

 

予想通り、ほぼ全員が驚いた。 するとルーテシアがフェイトの側に近寄る。

 

「ねえ、フェイト……」

 

「うん、どうかしたの?」

 

「この世界では、不老不死の研究でも成功しているの?」

 

「……気持ちはわかるけど、落ち着いてね」

 

フェイトがルーテシアが落ち着かせ、俺は母さんの前に出る。

 

「ただいま、母さん。 あんまり顔を出せなくてごめん」

 

「もう、あなたはいつも謝るんだから。 いくら時間が経っても、こうして今顔を見られた……それで十分よ」

 

「……ありがとう」

 

頰に添えられた手を、甘んじて受け入れる。

 

『なんだか……こんなレンヤさん初めて見た』

 

『うん……なんだか、まだ子どもみたいに……』

 

『ふふ、どんな人でも……親は必要なのね』

 

ソーマ達が何か念話で話しているが……その時店のドアが開いてコウ達が入って来た。

 

「えっと……ここであってんのか?」

 

「そのようですけど……」

 

「あ、レンヤさん!」

 

「コウ、そっちも調査が終わったのか?」

 

「ああ。 特に何も分かんなかったが、後で報告しとく」

 

と、その時。 店の奥から高町 士郎……父さんと高町 美由希……姉さんが出て来た。

 

「お? レンヤにフェイトちゃんか。 久しぶりだね」

 

「久しぶり~レンヤー!」

 

「わっ!? ちょ、抱きつかないでよ……!」

 

「お久しぶりです。 士郎さん、美由希さん。 皆、こちらはレンヤとなのはのお父さんとお姉さんの……」

 

「なのはの父で、高町士郎だ。 よろしく」

 

「私が姉の高町美由希です。 よろしくね」

 

姉さんが抱きついたまま自己紹介し、全員また沈黙しかなかった。 まあ、どういうわけかウチの家族はなせが若い……若く見えるからな。

 

「レンヤ〜、今何考えたの〜?」

 

「ぐ……入ってる……入ってるから……!」

 

そして変な時に鋭いのも……とにかく振り解くと、なのはが近付いて来た。 その表情はどこか苦笑い気味だ。

 

「あ、レン君……」

 

「ふう……どうかしたのか、なのは?」

 

「えっとね……」

 

なのはにしては歯切れが悪いな。 と、なのはは見た方が早いと手を引いて店の奥に連れて行き……

 

「あ、お帰りなさい。 レンヤ君、皆さん」

 

「モグモグモグ……」

 

そこには挨拶をするファリンさんと……ケーキを食べるのに集中しているヴィヴィオがいた。 ヴィヴィオは視線に気付いて顔を上げ、俺の姿を捉えた。

 

「あ……パパ!」

 

「……えっと……ファリン? これは一体?」

 

「ヴィヴィオちゃんが行きたい行きたいと何度もごねちゃってね。 急遽、リンディさんに相談した所……レンヤ君が監督責任という事で来ちゃいました♪」

 

「いや来ちゃいました、じゃなくて……」

 

ここに来たのは仕事で、遊びに来たわけじゃないんだが……

 

「パパ。 ヴィヴィオがいちゃ、めーわく?」

 

「う………」

 

目をウルウルさせて、雨の中捨てられた仔犬のような目をして見上げるヴィヴィオ……

 

「そ、そんな事ないぞ!」

 

「わあ、ありがとうパパ!」

 

大喜びではしゃぐヴィヴィオ。 こんな表情をされたら勝てない……なのはもこれに負けたんだな。

 

「うー……レンヤとなのはに先を越された〜……」

 

「ふふ、そうね。 まさか恭ちゃんよりも先に孫を連れて来るなんて」

 

「人生なにが起こるか分かったものじゃないな」

 

その光景を見て、父さんと母さんは微笑み。 姉さんは落ち込む。

 

「レンヤ、この子がおめぇの子どもって……」

 

「事情があるんだよ。 とりあえず今は養子で納得してくれ」

 

「は、はい」

 

事情を知らないコウとソラにはとりあえずこれで納得してもらった。

 

「……あれ?」

 

「ん……どうかしたの、エリオ?」

 

「い、いえ……桃子さんと士郎さんはレンヤさんの両親なんですよね?」

 

「あ……」

 

「……………………」

 

……誰かが聞くとは思っていたが……なのはは少し暗い顔になってしまう。

 

「……俺は養子だ。 高町家に今まで育てられたんだ」

 

「あ! そ、その……すみません!」

 

「別に謝る必要はない。 俺は父さんと母さんに育てられた事を、誇りに思っているからな」

 

「レンヤ……」

 

胸に手を当て、昔を思い出しように話す。 辛い時もあったけど、後悔はしていない。

 

「と、そうだ。 まだお母さん達にヴィヴィオちゃんに自己紹介してなかったよね?」

 

「あ、うん。 そうだね」

 

なのはが話を変え、俺はヴィヴィオを立たせて父さん達の前に立たせた。

 

「ほらヴィヴィオ。 挨拶」

 

「はーい! 神崎 ヴィヴィオです! よろしくお願いします!」

 

「はい、よろしくね、ヴィヴィオちゃん」

 

「元気な子じゃないか」

 

「えへへ」

 

いつものように挨拶するヴィヴィオ、父さん達にも好印象のようだ。

 

「それにしても、ヴィヴィオちゃんは可愛いねえ〜♪」

 

「ふえ〜……?」

 

姉さんに抱き締められ、ヴィヴィオは何も分からない顔をする。

 

「ねえ、ヴィヴィオ。 このままウチの子にならな〜い?」

 

「ウチの子〜?」

 

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 

「いつも忙しいパパ達よりも、ずっと一緒に入られるよ〜?」

 

「う〜ん……」

 

からかうように姉さんはヴィヴィオを誘うが、ヴィヴィオはどうしようかと考えた込むと……

 

「ゼッタイにイヤ」

 

「ガーーン!」

 

とても良い笑顔で断り、姉さんは本気で落ち込んだ。

 

「ヴィヴィオ……」

 

「だってパパ達と離れるなんてイヤだもん。 ヴィヴィオ、ゼッタイに行かない」

 

「ヴィヴィオ……(じーん)」

 

なのはは思わす感動して目に少し涙を出していた。 その気持ちは分かる、これが親の気持ちなのか……

 

「……ふふ、ごめんね。 冗談が過ぎちゃった。 それで……いつ式を上げるの?」

 

『姉さん(お姉ちゃん)!!』

 

「あはは、冗談冗談〜♪」

 

からかっている姉さんを声を揃えて注意し、その後顔を合わせると……なのはは顔を赤くしてしまい、気まずい空気が流れた。

 

「あ……あ、そういえばお父さん。 お兄ちゃんは?」

 

ふと思い出したのか、なのはが質問した。

 

「恭ちゃんだったら、1度2日前に帰ってきたけど、忍さんとまたロンドンに行ったよ」

 

「うーん、それは何とも……」

 

「タイミング悪かったね~」

 

「お兄さん……ですか?」

 

狙う事なんて出るとは思っていないが、少なからず残念だと思う。

 

「そうだよ……っと、君は?」

 

「あ、失礼しました。僕はソーマ・アルセイフです」

 

士郎の問いかけにソーマが挨拶していると、それに続くようにエリオ達が挨拶した。

 

「よろしくね。 そうだ、コーヒーと紅茶でもどうかな?」

 

「あ……ではでは、いただきます」

 

「私は紅茶を頼むわ」

 

「あ、私もそれで!」

 

「俺はコーヒーをお願いするッス」

 

「あ、そうそう。 クッキーもいるかい? 自慢の新作でね」

 

「わあ、ありがとうございます!」

 

エリオ、キャロ、ルーテシア、ヴィヴィオはクッキーをもらい、美味しそうに食べた。 俺も1つもらい、一口かじった。

 

「……うん、すごく美味しい。 父さん、また腕を上げたじゃないの?」

 

「はは、それは頑張った甲斐があったな」

 

「レンヤも皆からお菓子が美味しくなっているって聞いているわよ。 もし暇が出来たら遠月にでも行ってもらおうかしら?」

 

「はは、美味しいのは材料がいいからだよ。 まあでも、当分暇は取れないと思うけど……何とかして帰れるようにはするよ」

 

謙虚するように言い、話を聞いていたスバルが質問して来た。

 

「材料って、レンヤさんお菓子作る時に何か特別な食材でも使っているんですか?」

 

「ああ、たまに異界から取れる食材を使っているんだ」

 

そう答えると、スバル達はビシッと石のように固まってしまった。

 

「あ、あの……もしかして……前に食べたチーズケーキにも?」

 

「ああ、使っているぞ」

 

次の瞬間、スバル達4人は口元を押さえた。 あ、そうか。 怪異が蔓延る異界から取れた食材って聞くとゲテモノのイメージがあるからな。

 

「な、なんてものを食べされるんですか!!」

 

「ティア、落ち着いて。 ティア達が思っているようなものじゃないから」

 

「異界には人が食べられるもんがあるんだ。 別に害はないから俺らもよく重宝してるんだ」

 

「君達も食べたのなら分かるでしょう? とっても美味しかったって!」

 

コウとソラが説明を付け加え、スバル達は納得するようにホッとした。

 

「と、もうこんな時間……俺達はそろそろ行くよ」

 

「またね、お母さん、お父さん」

 

「バイバーイ」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

「気をつけるんだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「また後でね〜」

 

俺達は父さんに別れを告げ、車に乗り込んでコテージに向かって行った。

 

 

 

 



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149話

ふと思った。 Force辺りのエリオとキャロにトールズ士官学院の紅いVII組の制服を着させてみると……案外違和感ないんじゃないんですかね?


 

 

家族と別れた後、郊外にある湖畔のコテージに向かい、夕方頃に到着した。

 

「やっと着いたー」

 

「運転させてすまないな。 フェイト」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「アリサ達はもう帰って来ているようだな」

 

全員2台の車から全員降りると、背伸びしたりして身体を解した。 すると、キャロのポケットから出てきたフリードが、鼻をひくつかせた。

 

「キュクー!」

 

「どうしたの、フリード?」

 

「なにか気付いたの?」

 

キャロとルーテシアがフリードに問い掛けようとしていると……エリオとスバルも何かに気付いた。

 

「あれ、なんか………」

 

「いい匂いが……」

 

少し辺りの匂いを嗅いでみると、風に乗っていい匂いが漂っていた。 コテージの方からだ。

 

「ああ、はやてちゃん達がもう晩御飯の準備してるのかもね」

 

「え……晩御飯?」

 

なのはが匂いの元を言い、サーシャがその意味を聞こうとした時、コテージからアリサ、すずか、アリシア、アギトが出てきた。

 

「あ、おかえり皆」

 

「サーチャーの方は手際よく終わったみたいだね」

 

「ああ、後は反応を待つだけだ」

 

「そうか。 それと久しぶりの海鳴はどうだったんだ?」

 

「うん! 昔と変わってなかったよ!」

 

「アリシアママ〜!」

 

「あ、ヴィヴィオ! 本当に来ちゃってたんだね……」

 

仕事の話から海鳴はどうだったかという話に変わり、少しソーマ達を置いて話し込んでしまう。

 

『……なんだか、普通だね。 なのはさん達』

 

『ええ、ちょっと意外ね』

 

『そうかなぁ? レンヤさん達は基本こんな感じだと思うけど……』

 

『そうね。 最近はキッチリしているけど、対策課では基本こんなのよ』

 

『へえ……』

 

スバル達が意外そうな目で見ていると、コテージに車が1台入って来て、ソーマ達は視線がそちらにいく。 中から降りてきた自分はさっき別れたばかりの姉さんとエイミィさん、あと犬のような耳と尻尾をつけた少女……アルフだった。

 

「は~い!」

 

「みんな~お仕事してるかぁ~?」

 

「お姉ちゃんズ、参上!」

 

そして、どうしてか3人はやたらテンションが高かった。

 

「エイミィさん!」

 

「アルフ!」

 

「それに……美由希さん?」

 

「さっき別れたばっかりなのに……」

 

「いやぁー、エイミィがなのは達に合流するっていうから。 私も丁度シフトの合間だったし」

 

そうだったのか。 一言くらい言って欲しかったけど、姉さんにそれは愚問というものか……

 

「エリオ、キャロ、元気にしてた?」

 

『はい!』

 

「2人とも、ちょっと背伸びたか?」

 

「あはは、どうだろう?」

 

「少しは伸びたかな?」

 

どうやら姉さん達のようで、少し気になってなのは達に一言言って俺はそっちの方に行った。

 

「あれ、姉さんも来たんだ?」

 

「えへへ……」

 

姉さんは教えなかった事に詫びる振りもしないでピースする。

 

「あれ、この人は……確かあの事件にいた」

 

「君達とは写真を撮った時以来だね。 私はエイミィ・ハラオウン。 よろしくね」

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

「ちなみに彼女はクロノの奥さんよ」

 

「ええっ!?」

 

ルーテシアが何気なく言ったクロノの妻という事にサーシャは驚き、次にアルフが胸を張って自己紹介をした。

 

「そしてアタシはフェイトの使い魔のアルフだぞ!」

 

「へえ……ってフェイト隊長の使い魔!?」

 

「そうだよ、アルフは私の使い魔なんだ」

 

ティアナと疑問に答えたのは、こっちに歩いてくるフェイトだった。

 

「フェイトー!」

 

主人と再会したアルフが、喜びのあまりフェイトに抱き付く。 まるで愛犬が飼い主にベッタリ甘えているようで、見ていると穏やかな気持ちになってくる。

 

「エイミィ。 カレルとリエラは?」

 

「母さんが見てくれてる。 本当は連れてこようかと思ったけど、そろそろお眠の時間だしね」

 

「そう……」

 

ここでずっと話し込んでいるわけにもいかず。 コテージに向かうと……匂いが強くなり、何が焼ける音が聞こえてきた。 そして、新人達の視線はその発生源に向けられて……

 

「あ! 皆、おかえり!」

 

「おかえりなさ〜い!」

 

『八神部隊長!?』

 

はやてが上着を脱いで鉄板焼きで料理を作っていた。 隣ではリンスが野菜を切っていた。

 

「八神部隊長が鉄板焼きを!?」

 

「料理なら私達がやりますから!」

 

スバル達ら驚きと遠慮から変わろうとする。

 

「ああ……いやまあ、待ち時間あったし。 料理は元々得意やしな」

 

「それに、お前達は設置と捜索任務で疲れてるだうろ。 ここは任せてくれ」

 

はやてとリンスの二人は、首を左右に振って料理を続行した。 と、そので先に戻っていたヴィータが現れ……

 

「はやて隊長の料理はギガウマだぞ? ありがたくいただけ」

 

久しぶりにはやての作る料理が食べたいのが本心でそう告げた。するとシグナムがシャマルに近づいた。

 

「シャマルよ。 お前は手出ししなかっただろうな?」

 

「リンスに止められたわよ………」

 

唇を尖らせて不服そうに言った。

 

「なに?」

 

「こんな物を入れようとしたからな……全力で止めた……」

 

リンスが指さした方向にテーブルがあり、その上にはかなり混沌めいたものが置かれていた。

 

「これ、全部異界の素材だね……」

 

「えっと……この油は紺青の霊油、蒼海を思わせる異界の油だね。 こっちは獣魔の骨、鉄のような硬さの怪異の骨。 これは悔悟の翼、悔悟の念に満ちた怪異の翼……」

 

「いったいこれで何を作る気だったのよ?」

 

「よくやった、リンス!」

 

アリシアとすずかが素材の説明をし、アリサが疑問に思う中……シグナムはリンスの肩に強く手を置いて褒め称えた。

 

「あの……もしかしてシャマルさんって料理が?」

 

「本人は否定するが、下手だ」

 

「違うもん! シャマル先生、お料理下手なんかじゃないもん!!」

 

ソラの質問にシグナムが答え、シャマルは年不相応に可愛らしく全力で否定する。 そう、シャマルは恐ろしく料理が下手なのだ。 1番記憶に新しいーー新しいといっても5年くらい前だがーーのではオムレツを作ろうとして……結果、固すぎる何かが出来た。 それをザフィーラに無理やり食べさせたところ、ザフィーラは瀕死に追い込まれた。 さらに酷い時は料理が変異して、倒したグリードから出てくる霊石になる始末だ。 どうやったらそうなる……

 

「黙れ。 今まで何回、ザフィーラがお前の作ったモノを食べて倒れたと思っている」

 

「マジか?」

 

「……大マジだ………」

 

それを聞いたコウが、視線をヴィータに向けてと聞くと……ヴィータは視線を上に向いて眼から一筋の雫を垂らしながら告げた。 さらにコウは視線を動かして、なのはとフェイトを見た。

 

『……あ、あはは……』

 

二人はそろって苦笑い。 最後に隣のはやてを見ると……

 

「………………」

 

空を見上げていた。 死んでない、断じてザフィーラは死んでないから……勝手に家族を殺すなよ。

 

「ま、まあでも。 異界の物でもちゃんと食べらるのはありますよ! ほら、例えばこのムーンシープとか!」

 

ソラが場の空気と話題を変えようと、鉄板の上に焼かれていた肉を指差した。

 

「うわぁ……いい匂い」

 

「す、すごい霜降り……」

 

「月の光みたいで綺麗……」

 

スバル達は焼かれているムーンシープに目を奪われる。 コウは他に何かにないか探し、紫色の果物を見つけた。

 

「あとは……あ、こいつだ。 ほれ、食ってみろよ」

 

「え、これって……」

 

「アンブロシア。 あらゆる果物の風味を持つ異界の霊果だ。 一口で3日はしのげるぞ」

 

「う〜〜ん!! おいし〜〜!!」

 

「あ、こらヴィヴィオ! 勝手に食べちゃいけません!」

 

食べてはいけないわけではないが、断りもなく食べるのはご法度。 間違いを正すのも親の役目だが……話は上手く逸らせたようだ。

 

「あ、はやてちゃん。 私も手伝うよ」

 

「ヴィヴィオも! ヴィヴィオも手伝うー!」

 

「ふふ、ならお願いしようかなあ」

 

「ヴィヴィオが手伝ってくれると、料理がうんと美味しくなるからね」

 

「なら私も。 フォワード一同、食器出しと配膳。 お願いしていい?」

 

「は、はい!」

 

「了解です!」

 

それからすぐに調理が終わり、少しはやての前置きを言った後……並べられてた料理を食べ始めた。

 

「美味しい!」

 

「ホントだ、すげぇ美味え!」

 

「ふふ、気に入ってもらえてなによりや」

 

初めてはやての料理を食べるのフォワード陣はもちろんの事、コウとソラも美味しそうに食べている。

 

「そういえば、レンヤさんとコウさん達ってどんな関係なんですか?」

 

楽しく食事をしている最中に、唐突にスバルがフォークを咥えながらそう質問して来た。

 

「んー、どういう関係と言われても……」

 

「やっぱ友達じゃねえか?」

 

「ですよね。 初めて会った時は大変でしたけど」

 

「うん、確かに。 本当に大変で、ギリギリだったね」

 

「? どういう事ですか?」

 

「私とコウ君達はある事件の最中に初めて出会ったんだよ。 まあ、その事件というのは秘密裏に起きて、スバル達が知らないのは当然だね」

 

なのはは3年前に起きた夕闇の事件についてかいつまんで説明した。

 

「ーーとまあ、こんな感じで。 事件が収束した後友達になって。 こうしてたまに連絡も取り合っているんだよ」

 

「そ、そんなことが……」

 

「驚きですぅ……」

 

「あ、でも……魔法も使えないのにどうやってグリードと戦ったのですか?」

 

疑問に思ったティアナが最もな質問をする。 どうやら他のフォワード陣も同じだったようだ。

 

「確かに、そうですね」

 

「うーん、どうしますか? コウ先輩?」

 

「ま、教えといても大丈夫だろ。 もしかしたら一緒に戦う事になりそうだし」

 

ソラの問いにコウは頷き、箸を置いて説明を始めた。

 

「ーーソウルデヴァイス。 異界やそれにまつわる技術に耐性を持つ“適格者”が霊子体を用いて呼び出す武器……それが俺らの武器だ」

 

「ソウル……デヴァイス?」

 

「簡単に言えば自分の心を武器として具現化した物……って考えるといいですよ」

 

「そんで、ソウルデヴァイスの形状や性能は適格者の個性によって決まり、基本的に同じものは存在しない。 ま、例外はあるがな」

 

「あのあの、それって今見せてもらえませんか?」

 

サーシャが遠慮がちに、だが目を光らせて興味津々に聞いてみた。

 

「そいつは無理だ。 ソウルデヴァイスは異界あるいは異界の影響の強い場所でなければ召喚は出来ねえ」

 

「そう……ですか」

 

「サーシャちゃん、そう落ち込まないで」

 

「もしかしたらすぐにでも見れるかもしれねぇぞ」

 

落ち込んだサーシャをすずかとアギトが慰めた。 と、そこでソーマが2人を実力を測るように見た。

 

「そういえば……皆さんはどんな訓練を受けてソウルデヴァイスを発現させる事が出来たのですか?」

 

「あー、そいつはな……」

 

「なんと申しましょうか……」

 

「どうかしたのですか?」

 

真剣に聞いているソーマを見て、コウとソラは苦笑いしながら歯切れが悪くなる。

 

「私達は、特に訓練とかは受けてなくて。 異界と関わったのも偶然なんです」

 

「ええっ……!?」

 

予想外の事実に、サーシャは驚愕する。 他の皆もそれぞれ食事の手を止めて驚愕を表していた。

 

「ソウルデヴァイスの使い方は、適格者として覚醒した時点で知識として得る事ができるんだ。 覚醒したばかりの適格者であっても戦闘そのものは可能なんだ」

 

「なんかこう……昔から使っているように手に馴染んでいて。 私は空手で鍛えていた事もありましたけど、ホントすぐに戦えちゃったんです」

 

「す、すごいですね……」

 

「……………………」

 

エリオはどう凄いのかわからず呟き、ティアナは複雑そうな顔をしていた。

 

「ま、俺達からすればお前達の魔法っつうのが逆によくわかねえけどな」

 

「科学で証明されている現象、というくらいですね」

 

「うーん、その話はまた後にしようか。 そろそろ食べないと冷めちゃうからね」

 

「そうだな」

 

アリシアが区切りよく話を止め、俺達は少し冷めたが、それでも少しも味が変わっていない料理を食べた。

 

それから食事が終わり、後片付けも終わり、一段落つくとはやてが口を開いた。

 

「さて、サーチャーの様子を監視しつつ、お風呂済ませとこか」

 

『はい!』

 

風呂という単語が出たからだろうか。 ソーマとエリオはともかく、特にスバル、ティアナ、サーシャ、キャロ、ルーテシアは嬉しそうに返事をする。 女性というのは本当にお風呂が好きなようだ。

 

「まぁ、監視と言っても、デバイスを身に着けてれば反応を確認できるし」

 

「最近は本当に便利だね〜」

 

「技術の進歩ですぅ!」

 

なのはのシミジミとした言葉に、リインが嬉しそうに言った。

 

「あれ? でも、ここにお風呂なんてないよね?」

 

「まさか、そこの湖で水浴びなんて言わないよね?」

 

「そうよね……ここお風呂ないし、この時期でも湖で水浴びは間違いなく風邪ひくわね」

 

アリサの言うとおり、暖かくなったとはいえ、水浴びをこの湖の冷たさで出来るものではない。

 

「そうすると……やっぱり」

 

「あそこですかね」

 

「あそこでしょ!」

 

そこでなにか心当たりがあるのか姉さんとエイミィさんが揃って声をあげる。 なのは達も分かったのか、顔を見合わせて頷いた。

 

「それでは、六課一同。 着替えを用意して出発準備!」

 

「これより、市内のスーパー銭湯へ向かいます」

 

「スーパー?」

 

「銭湯?」

 

「ああ、あそこか」

 

「スーパーはともかく、銭湯ってのは公衆浴場の事だよ」

 

なのはとフェイトの号令にあったスーパー銭湯という単語が、ミッド育ちのスバルとティアナには伝わらない。 すずかはソーマ達にも簡単に銭湯について説明する。 銭湯がどういうものかわかったソーマ達は、隊長達を見習って銭湯へ行く準備を始める。

 

「よし! 準備できたらさっさと行くで!」

 

『はい!』

 

「ああ」

 

はやての号令が終わり、車に乗り込んで六課メンバーとその他一同は銭湯へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらしゃいませ、こんばんは~! 海鳴スパラクーアⅡへようこ……団体様ですか~?」

 

スーパー銭湯こと海鳴スパラクーアⅡに到着、営業スマイル全開の店員が俺達を出迎える。 ただ人数の多さに流石に店員も一瞬驚いた様子を見せたが、直ぐに対応を始めた。

 

「えっと~、大人20人と……」

 

「子ども7人です」

 

「エリオとキャロと……」

 

「アギトとルーテシアと……」

 

「ヴィヴィオ〜!」

 

「後私とアルフです!」

 

しっかし、改めて見ると以前にも来た事があるが銭湯にしては大きくて近代的というか……俺のイメージだともっとレトロな感じで煙突が立っているイメージだからな。 あ、夏だとプールもやってるのか。 世知辛い世の中の体現してるな、ここは。

 

「あれ、アギトって確か……」

 

「安い方がいいだろ」

 

「いやでも……」

 

「まあ、あんたがそれでいいなら何も言わないけど……」

 

アリサもそれで納得し。 それから受付の店員に案内され、俺達は支払いのあるはやてを残し男女の暖簾がある前まで移動する。 暖簾に書いてある字を見て……

 

「……男女別か。 混浴じゃなくてよかった」

 

「ですね。混浴だったら大変でしたね……」

 

子どもの頃、ここではちょっと苦い経験があったため、混浴なんて実際にあるわけないが少しホッとする。 しかし、エリオは俺のような苦い経験はないはずだが……単純に女性と一緒に風呂に恥ずかしさもあり入りたくはないのだろう。

 

「エリオくん、一緒にお風呂入ろう!」

 

「ええぇっ!? だ、だめだよキャロ! 僕は男の子だし、それにレンヤさん達だっているし……」

 

恥じらいもなく、異性のエリオを一緒にお風呂に誘うキャロにたじたじなエリオ。 だがそこにフェイトが更に追い討ちをかける。

 

「……でも、せっかくだし一緒に入ろうよ」

 

「フェイトさん!?」

 

おっと、ここでフェイトの親バカが発動。 エリオが追い込まれていく。 エリオはなんとか逃げ道を探すが……キャロの指差した注意書きの看板には、女性風呂への混浴は11歳以下の男児のみでお願いしますと……書かれていた。 今のエリオは10歳な訳で、制限をクリアしている為問題なく女湯へ入れる。 というか説明書きにある外国人向けの英語、よく読めるよな。 いくらミッドチルダ語と似てるからって。

 

「え……い、いや……あ、あのですね! それはやっぱり……スバルさんとか、隊長達とか、ソラさん達もいますし!」

 

しどろもどろになりながらもあらゆる抵抗を試みるエリオ。 しかし……

 

「別に私は構わないけど?」

 

「てゆーか、前から頭洗ってあげようかとか言ってるじゃない」

 

「アタシらもいいわよ……ね?」

 

「うん」

 

「いいんじゃない? 仲良く入れば」

 

「私は大歓迎です! エリオ君みたいな子とはよく入っていますし!」

 

「ひゅー……エリオのエッチー……」

 

……無情にもティアナとスバル、アリサ、すずか、なのは、ソラにエリオの退路は潰される。 ルーテシアは明らかに楽しんでいるが……

 

「パパ! パパもヴィヴィオと一緒に入ろーよー」

 

「はいはい。 それはまた今度な」

 

それを余所に、袖を引っ張ってお願いして来たヴィヴィオを軽くあしらう。

 

「エリオと一緒にお風呂は久しぶりだし……入りたいなぁ」

 

「うぅ……」

 

とどめの一撃とばかりにフェイトがお願いし、エリオは観念した……ように見えたが、まだエリオは諦めていなかった。 エリオはこっちに助けを求めるような視線を送る。 その小動物のような瞳を見てしまえば、見捨てる事はできない。

 

「そのくらいにしておいてくれ。 エリオだって恥じる気持ちは持ち合わせている」

 

「こんなちっこくってもいっぱしの男、ここは遠慮してくれや」

 

なんとか断れるようにフォローし、コウはエリオの頭をポンポン叩いた。 だがフェイトはまだ諦め半分のようだったので……

 

「じゃ、そういう事で。 また後でな〜」

 

「あ、レンヤ!」

 

逃げるように暖簾を潜って中に入り、その後女性陣も中に入っていったが……

 

「え~っと……」

 

「キャロ?」

 

「キュクル?」

 

(?)

 

キャロは、注意書きに書かれた看板の一部を見ており。 ルーテシア達はキャロの行動を不審に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男湯まで逃げきったと言っていいのか……まあとにかく風呂の入るために今は脱衣場にいた。

 

「カギは腕に付けるんだ。 無くしたらロッカーは開けられないし、当然弁償だ」

 

「はい、分かりました」

 

上着をを脱ぎながら、エリオにロッカーの使い方を教える。 おそらくこの感じだと銭湯のルールも知らないはずだ。 後でソーマと一緒に教えるとしよう。

 

「………………」

 

「? どうした?」

 

シャツを脱いだ所でエリオが何かを見て固まっいた。 視線に気付いたのかハッとなるエリオ。

 

「い、いえ! その……レンヤさん達の体って凄い引き締まってるな……って」

 

「まぁ、それなりに鍛えてたからな」

 

「そうですね、あんまり意識したことはありませんでしたけど……」

 

「俺はそんな事してないんだが……グリードと戦っていればイヤでもこうなる」

 

俺、ソーマ、コウは身体を見下ろしながら何となく上腕と腹筋に力を入れる。その姿にエリオは目を更に奪われてしまう。やはり少年でも鍛えられた身体というモノに興味があるようだ。

 

「レンヤさんが以前勤めていた異界対策課って、これくらい鍛えないと入れないんでしょうか?」

 

「まさか。 これくらい鍛えれば誰でもなれる。 それに力だけが異界対策課じゃない、エナがいい例だ」

 

「ただ、エリオはまだ成長期だし。 焦らずゆっくり力を付けて行けばいいよ」

 

「そうですか。 でも、僕もこんなふうに鍛えら、えっ!?」

 

「 ? 」

 

突然エリオがこちらを見て……いや、背後を見て固まってしまった。 何が後ろにあるのか確かめようとしたら……

 

「エリオくん! レンヤさん!」

 

「あ」

 

「キャ、キャキャキャキャロ!?」

 

振り向いた先には、体にバスタオルを巻いたキャロが立っていた。一瞬だけ驚いて、直ぐに元に戻るが……エリオは完全にパニックに陥っており、死にかけの金魚のように口をぱくぱくしている。

 

「どうしてここに……」

 

「キャロ……意外と大胆だな」

 

「?」

 

「ふ、ふふふ、服!! 服!?」

 

「うん。 女性用更衣室の方で脱いできたよ。 だからほら、タオルをーー」

 

「うわぁ!?」

 

「ダメよキャロ、前は開けちゃあ。 エリオが興奮しちゃうでしょう?」

 

「こうふん?」

 

「し、しないよ!! って、ルーテシアまで!?」

 

タオルを開けようとするキャロをいつの間にか隣にいたルーテシアが止め、エリオはもっと顔を赤くする。

 

「てゆーか、あの、こっち男性用!?」

 

「女の子も11歳以下は、男性用の方にも入っていいんだって……係りの人が教えてくれたから」

 

キャロの言葉に納得する。女湯に11歳以下の男の子が入れるならその逆もあるという訳だ。 随分と仲が良いとは思うが、エリオにとっては少し気の毒だ。 現に今もエリオは顔を真っ赤にしており、話しが進む様子はない。 ここまで来てしまっては仕方ないと思い……

 

「しょうがないか……キャロ、一緒に入か?」

 

「はい!」

 

「レンヤさん!?」

 

叫ぶエリオにコウは静かに肩に手を置き、耳打ちする。

 

「エリオ、諦めろ。こうなったら、お前が女子風呂に行くか、こっちでキャロと一緒に入るかの二択しか残されてない」

 

「……はい……」

 

エリオは観念し、項垂れた。 がっくしと項垂れるエリオの背中を押して、嬉しそうなキャロと、この状況を楽しんでいるルーテシアを連れ浴場へと入る。 先に簡単に湯の使い方とか、作法とかを教えてから

 

「2人共、髪を洗ってやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

シャワーの蛇口を回し冷水とお湯の比率を熱くない程度に調整しまずはキャロの髪を洗う。 よくヴィヴィオの髪を洗っていたので、それなりに手慣れている。

 

「キャロの髪はサラサラだな。流石は女の子だ」

 

「えへへ」

 

「……うっ……」

 

「ねえねえ、私は?」

 

「ああ、ルーテシアもな」

 

キャロの隣にいるエリオは、未だこの現実を認められないのか目を固く閉じ、首をキャロとは反対方向に向けたが……その先にはルーテシアがいて。 ルーテシアはウインクして返すが、結局エリオはシャワーを被って俯いた。

 

「ほらルーテシア、お湯を被せるよ?」

 

「はーい」

 

「エリオも、恥ずかしがってねえでさっさと洗うぞ」

 

「は、はい」

 

年長者3人で子ども達3人の髪を洗ってあげた。 雑談しながら洗い終わり、自分達の事もすぐに終えて俺達は湯船に浸かった。

 

「はぁ~、気もちいいね」

 

「そ、そうだね」

 

うっとりとした表情で気持ちよく湯船に浸かるキャロ。 エリオにその心境を伝えるが、エリオはそれどころではないようだ。

 

「あはは、フリードとガリューも気持ちいい?」

 

「キュクル〜」

 

(コクン)

 

ルーテシアは桶に湯をいれて、そこに球状態のフリードとガリューを入れて2匹にも風呂に入れてあげていた。

 

「ふう……こういうのもたまには悪くねえな」

 

「日頃の疲れが溶けて出そうですね」

 

「ああ、任務の途中じゃなかったら……ゆっくり浸かっていたかったな」

 

それに、こうして誰かと一緒に湯に浸かる事はルーフェンへ小旅行に行った時以来だ。 そこまで離れた年ではないが、少し……

 

「懐かしいな……」

 

「え、何がですか?」

 

「あ……ちょっとな。 以前にも他のVII組の皆とこうして湯に浸かっていた、って思ってさ」

 

「VII組? ああ、あの紅い制服の……」

 

コウは事件が終わった時の制服姿を思い出していた。

 

「俺らも似たような事があったな……ま、その後レムのやつに試されたんだがな」

 

「レム!? まさかコウ、異界の子と会った事があるのか!?」

 

「お前んとこもか!?」

 

「ああ、以前にコウと同じように試されたんだ。 龍のグリードに化けてな」

 

「同じだ、龍のグリードじゃなくてこっちは狐のグリードだったがな」

 

意外な共通点があり、話が盛り上がってしまうが……話が見えないソーマ達は困惑していた。

 

「あの、レンヤさん……レムとは?」

 

「……簡単に言えば異界の子……ザナドゥの全てを知っていると言われている幽霊みたいな傍観者だ」

 

「えっ……!?」

 

「異界がなんなのか、怪異がなんなのか……レムはその全てを知っている。 が、教える気はねえみたいで。 それでいてピンチの時には助けてくれるよく分かんねえ奴さ」

 

「そんな人が……」

 

意外な事実に、ソーマ達も含めて驚いていた。 最近は会っていないけど、もしかしたら今回の任務中に会えるかもな、多分。 そこで一旦話を区切り、ゆっくりと湯船に浸かった。

 

「あ、エリオエリオ。 あっちに露天風呂があるみたいだよ?」

 

しばらくして、ゆっくり出来なかった……というより落ち着きのないルーテシアが露天風呂がある事に気付き、エリオを誘った。

 

「本当!? 行こう、エリオ君、ルーテシアちゃん!」

 

「わ、分かったから引っ張らないで……すみませんレンヤさん、ちょっと外の露天風呂に行ってきます」

 

「わかった。なにかあったら念話で連絡しろよ」

 

「はい」

 

「は〜い」

 

エリオとキャロとルーテシアは駆け足で露天風呂に向かうドアに向かって行った。 それから数分後……

 

『すみません! レンヤさん、聞こえますか!』

 

突然エリオから念話が届いた。 かなり焦っているようだが……

 

『ん? どうかしたのか、エリオ?』

 

『き、緊急事態なんです! 早く来てください!!』

 

……念話しながら何かに耐えているような感じだな。 何やってるんだ?

 

『うっ……お、お願いします! 早く助けてください!』

 

『……わかった、すぐに行く』

 

『お願いします!!』

 

「さて……」

 

「? レンヤさん、どうかしましたか?」

 

ソーマは突然立ち上がった事に声をかけてきた。

 

「ちょっとエリオに念話で呼ばれてな。 少し見に行ってくる」

 

そう言いながら腰にタオルを巻いて湯船から出て露天風呂に向かった。

 

 

それを見送ると、コウはある看板に気付いた。

 

「ん? なになに……この先の露天風呂は混浴です? ……あ、もしかしてエリオが呼んだ理由って……」

 

「ま、まさか……」

 

 

エリオに呼ばれて露天風呂に向かうが、少し人が少ない気がしながら露天風呂に行くと……

 

「エリオ! いい加減、放しなさい!」

 

「いやです~!」

 

何なら揉め事が聞こえてきた。 とにかく中に入ってみると……

 

「レンヤさん!」

 

「エリオ、何かあったの、か?」

 

そこには……エリオを連れ出そうとするフェイトが、となりにはなのはが。 ただし、一糸纏わぬ状態でだが……

 

「え……」

 

「レ、レン君……?」

 

「な、なのは……フェイト……」

 

お互いただただ顔を固まりながら見つめ合う。 その間に緩んだ拘束を抜け、エリオは薄情にもそそくさと男湯の方に逃げるとそ、れと同時に……ボン!と音を立てて、なのはとフェイトは一瞬で顔を赤くした。

 

『きゃあああああ!!』

 

「ご、ごめん!」

 

2人の悲鳴で我に返り、あわてて背を向けた。 ……なんか、前にもこんな事があったような……

 

「ど、どうしてここに? ここは男性は入れないはずだよ」

 

「あ……しまった、そうだった。 忘れてたし、エリオが入ってたからつい……」

 

「うう〜〜……」

 

「ーーなのはちゃん、フェイトちゃん、すごい悲鳴がしたけどどないんしたんや?」

 

なのは顔を真っ赤にして羞恥でジト目で睨む。 背中にその視線がチクチクと刺さっていると……悲鳴を聞いたのか、はやてが入って来た。

 

「あ……レンヤ君……」

 

「そ、それじゃあ俺はこれで……」

 

「まあ待ちい、乙女の柔肌見といてただ帰るのはあかんで」

 

ふにょん……

 

「いいっ!?」

 

はやてが一瞬で背後に来て……何やら背中に柔らかいものを押し付けられた。

 

「……ふっふー、ここでレンヤ君を籠絡して……既成事実を……」

 

「は、はやてちゃん!?」

 

「ダ、ダメーー!」

 

次の瞬間、グイッと背後に引っ張られ……3人と揉みくちゃになりながら転んでしまった。

 

「ルーテシアちゃん? 何も見えないよ?」

 

「ここから先はアダルティーなので良い子は見ちゃダメよ」

 

「だな……」

 

……どうしてこうなった……現在の状態は、転んでしまうのを防ぐために地面に両手をつこうとしたらこれまた柔らかいものを掴み。 顔は同様に何か柔らかいものに包まれている状態になってしまった。

 

「あ……///」

 

「んっ……///」

 

「っ……///」

 

視線を巡らせると……両手がなのはとフェイトの双丘の片方を鷲掴みにし、はやての双丘に顔面から突っ込んでいた。

 

「わああああああっ!? ご、ごごごごめん!!」

 

自分でもビックリする程静止状態から飛び上がり、ものすごい勢いで90度頭を下げた。 3人はバスタオルで身体を隠しながら立ち上がり、目の前に立った。 ビンタの一つ……三つを覚悟したが……

 

「レン君」

 

「……はい」

 

「ちょっと、頭を冷やそっか♪」

 

「え……うわっ!?」

 

魔法で引っ張られ、水風呂に入れられた。

 

「ぷはぁっ!」

 

「レンヤ君、この意味をよう考えるやで」

 

「恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、怒ってはいないから」

 

「レン君はわざと覗きに来るような人じゃないからね」

 

「え……」

 

それだけを言い残して、なのは達はキャロとルーテシアを連れて女湯に戻って行った。 ドアが閉められ、しばらく放心してしまう。

 

「キュクルー」

 

(ピョンピョン)

 

置いていかれたフリードとガリューはこっちに飛んで来て肩に乗り、正気に戻そうとしてくれた。

 

「……大丈夫だ。 係りの人が来る前に早く戻ろう」

 

2匹を掴み、スクッと立ち上がってそそくさと露天風呂を出た。

 

(意味、か……)

 

はやての言葉と一緒に、以前リヴァンに言われた事も思い出した。 一体、俺はなのは達の事を本当にどう思っているのか……

 

(だが……なのは達から見て俺は……)

 

いつものように頭の中でパーツを巡らせて推理する。

 

「っ!」

 

導き出せた答えに驚愕し……あり得ないと頭を左右に振る。 まずは2度目の頭を冷やすために冷水を被るとして……逃げたエリオを締め上げよう。

 

 

 



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150話

 

 

露天風呂で一悶着あったが、エリオを頭グリグリの刑に処した後。 女性陣とーー当然、なのは達と少しギクシャクしながらーー合流し。 全員温泉から出た。

 

「ふい〜〜、なんだかすっかり堪能してしまいました」

 

「日頃の訓練の疲れも、ちょっと取れたでしょう?」

 

「はい」

 

「できれば、もうちょっとだけ居たかったけどね〜」

 

「しょうがないよ。 一応任務中だし」

 

「また今度の機会に持ち越しね。 それはそうと……」

 

アリサは振り返り、俺、なのは、フェイト、はやてを見回す。

 

「アンタ達……何かあったの?」

 

「そ、そうかな?」

 

「な、何もないよ?」

 

「う、うん……特になーんもあらへんよ」

 

「そうだよ。 露天風呂で鉢合わせてなんかーー」

 

とっさになのはがフェイトの口を塞ぎ、愛想笑いで誤魔化す。 アリサ達は不審に思い追求しようとする。

 

「……ん?」

 

「この感覚は……」

 

「ちょっと、何誤魔化そうとーー」

 

その時、俺とアリシアが何かの気配に気付き、その直後……

 

「! サーチャーに反応が!」

 

キャロのケリュケイオンと、シャマルのクラールヴィントが反応を示した。

 

「リインちゃん!」

 

「エリアスキャン……ロストロギア反応キャッチ!」

 

「皆、頑張ってね」

 

「お姉ちゃん達は別荘で待ってるから」

 

「フェイト、アリシア、エリオ、キャロ……気を付けてな」

 

「うん!」

 

『はい!』

 

「ありがとね、アルフ」

 

「パパ、頑張ってね」

 

「ああ、姉さんの言う事をちゃんと聞くんだぞ?」

 

「うん!」

 

声援を受け取り、姉さん達はコテージに向かうため車に乗り込んだ。

 

「ティアナ。 シャマル先生とリイン、はやて隊長にオプッティクハイド!」

 

「はい!」

 

なのはの指示に、ティアナはクロスミラージュを構えて応答する。

 

「空に上がって結界内に閉じ込めるわ。 中で捕まえて!」

 

『はい!』

 

「ほんなら……スターズ、ライトニング&フェザーズ、クレードル、出動や!」

 

『了解!』

 

はやてはスイッチを切り替え。 指揮官らしい、凛とした声で命令を出し、フォワード陣は敬礼で答えた。

 

「俺達は周辺を散策している。 何かあったら連絡してくれ」

 

「ソーマ君達、頑張ってね!」

 

「ありがとう、ソラさん」

 

ソーマはソラからの激励をもらい、コウの元にアリサ達が近寄った。

 

「なら、私達も同行する。 異界が現れたら只事では済まされないわ」

 

「そうだね。 なんか、妙ーな気配がするし」

 

「2人よりも効率はいいし、問題ないよね?」

 

「ああ、助かる」

 

作戦が決まり、協力者を含めた機動六課は目標に向かって出動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

海鳴市内、河原ーー

 

ロストロギアの封印処理をフォワード陣、その指示を基本ロングアーチに任せ。 隊長、副隊長陣は河原上空で隠蔽用の結界を張っていた。

 

「ロストロギアの封印作業か……昔を思い出すね」

 

「にゃはは……そうだね。 後でユーノ君とメールしよかな」

 

フェイトとなのはが昔を思い出して、懐かしんでいた。

 

「それって確か、ジュエルシードだっけ? その時は魔力隠蔽用のペンダントをしてたからよく分からなかった」

 

「そうだね。 ソエルちゃんとラーグ君はリンディさんに接触していたみたいだけど」

 

「むしろ、レンヤ達が異界なんてものに関わっていたのが一番驚いたよ」

 

「ま、お互い様か……」

 

結界を維持しながらも他愛ない雑談を交わし、ソーマ達は順調にロストロギアの封印処理を終えた。

 

「終わったようやな」

 

「さて……後はコウ達の方だがーー」

 

ピロンピロン♪

 

いきなりメイフォンが鳴り響き、急いで取り出した。

 

「はい、神崎です」

 

『ーー時坂だ。 そっちは終わったみてぇだな?』

 

「ああ、今さっきな。 そっちはどうだ? 不穏な気配はしてないけど」

 

『散策した異界は全て空。 ただ……』

 

そこでコウは一旦話を区切り、一呼吸置いた。

 

『……なんかヤベえ予感がしてならねぇんだ』

 

「ヤバい予感?」

 

……こういう時の勘、経験則は当てになる。 お互い、異界……特に夕闇の戦いを経験しているしな。 その時……頰に水滴が当たった。

 

「あ……」

 

「雨が降ってきたね。 濡れる前に早く撤収しよう」

 

「そやな」

 

はやてがフォワード陣に撤収準備を始めさせ、シグナム達に補助を任せた。

 

ピロンピロン♪

 

それと同時にメイフォンがまた鳴り響いた。 今度は……ホロスによる反応だった。

 

「これは……!」

 

画面に映し出された結果に驚愕する。

 

「異界の反応が……7つ!」

 

「え……!?」

 

「なんやて!?」

 

場所はここを中心とした数キロ先の四方点と四隅点の8つ、それから北を抜いた7箇所だ。 まるでロストロギア封印を皮切りに出てきたようなタイミングだ。とにかく、各異界に3名ずつ対処する事にし、スバル達の4人をバラけさせるようにチームを組んだ。

 

「……よし。 今回の異変はロストロギアによって誘発されたものであるが……各自、慎重に異界の探索をするように」

 

『はい!』

 

異界に関する事なので、指揮権ははやてから譲渡してもらい。 全員の指揮を取った。 急遽リインとリンスも作戦に参加することになり。

 

俺、シグナム、キャロは北東

なのは、ヴィータ、スバルは東

フェイト、すずか、エリオは南東

アリサ、ソーマ、ティアナは南

アリシア、サーシャ、アギトは南西

はやて、ルーテシア、リインは西

コウ、ソラ、リンスは北西

 

各自、その地点に発生した異界を請け負うことになった。

 

「ーーこれより、海鳴市に発生した7箇所の異界の調査、及び探索を開始する。 各自、全力を尽くしてくれ!」

 

『了解!』

 

『おおっ!』

 

ソーマ達とシグナム達は敬礼しながら……コウとソラ、なのは達はVII組の名残で喝を入れるように応答した。 散開し、キャロを抱えながら北東に数キロ先にあったゲートの反応がある竹林に入った。

 

「ここか……」

 

「ここのどこかにゲートが……」

 

「キュクル……」

 

「ふむ、雨脚が強くなってきたな。 何事も無ければいいが……」

 

雨の激しさは移動中で勢いが増している。 まるで、今回の異変と連動しているように……

 

(……現世に影響を及ぼす程の力を持った怪異……グリムグリードの仕業か?)

 

それにしてはいつもの異変とどこか差異がある気がする。

 

「レンヤさん? どうかしました?」

 

「……大丈夫だ。 先に進もう」

 

「はい!」

 

「………………」

 

不審を残しながら竹林内を進み。 少し開けた場所に、赤い門……ゲートがあった。

 

「これが……ゲート。 異界に入るための門……」

 

「キャロ、肩の力を抜け。 お前はお前に出来る事を最大限に発揮すればいい。 私もフォローする」

 

「はい。 ありがとうございます、シグナムさん!」

 

「キュクルー!」

 

シグナムは、ゲート初めて目の当たりにしたキャロの肩に手を置き。 緊張を解いた。 それを確認し、六課に出向してから初めてゲートと向かい合った。

 

「ーー行くぞ!」

 

「はい!」

 

「キュクル!」

 

「ああ!」

 

俺達はゲートに向かって走り出し、ゲートを潜り抜けた。

 

「う……」

 

キャロが眩しさのあまり目を覆い隠し、そのまま異界に突入した。 ゲートを潜り抜けると……異界の中は岩山を模している異界だが、異界の中も雨が……しかも土砂降りのように激しく降っていた。 側を流れる川は洪水のように荒々しく流れている。

 

「ここが……異界。 本当に別世界みたい……」

 

「キュクル……」

 

「どうやら、外の雨も無関係ではなさそうだな」

 

「……おそらく残り6箇所の異界も同じかもしれない。 それを確かめる為にも、前に進もう」

 

俺達はデバイスを起動し、バリアジャケットを纏う。

 

「ーー先導する。 キャロは補助をしながらグリードの迎撃。 シグナムはキャロを援護しつつ殿を頼む」

 

「はい!」

 

「了解した」

 

正面から降り注ぐ豪雨に逆らいながら、異界の探索を開始した。 といっても、コウの報告通り……グリードが一体もおらず。 異界自体、迷宮の形をとってなく。 一本道を進んでいた。

 

「な、何も来ませんね?」

 

「……拍子抜け、と言いたいが……レンヤ」

 

「ああ、この先から強い気配を感じる。 おそらくは……」

 

先から感じられる気配にはどこか覚えがある。 だが、一体どこで? 頭を捻っても思い出せず、最奥の開けた場所に出た。 あいも変わらず豪雨が続いていて、岩山が辺りを囲っていた。

 

「ここが最奥か?」

 

「何もいませんね……」

 

「………っ! 来る……!」

 

次の瞬間……雨雲を突き破り、一体の東洋の龍が舞い降りて来た。 その龍は……数年前に白いゲートの異界で相対した龍……一首の神龍だった。 神龍は天に向かって咆哮し、空気を震わせる。

 

「きゃあ!?」

 

「キュルー!?」

 

「あの時の、龍型のグリムグリード!」

 

「くっ、なんて凄まじい咆哮だ。 だがーー」

 

シグナムは鞘からレヴァンティンを抜き、剣の剣先を神龍に突き出した。

 

「だからこそ、戦い甲斐があると言うものだ! 行くぞ、レヴァンティン!」

 

《ヤヴォール》

 

神龍はこっちに向かって再び咆哮を上げ。 シグナムは大地を踏みしめ、水しぶきを上げながら飛び出した。

 

「はあああああっ!」

 

裂帛の気合いとともに剣が振り下ろされ。 神龍は身体を捻り、鋭利な尾で受け止めた。 そのまま水しぶきを弾きながら戦い始める騎士と神龍……うわぁ、1人であの神龍を抑えているよ。 少し凄いと思ってしまうが、傍観を続けている気は無く、回り込むように走り出す。

 

「陣風!」

 

《シュトゥルムヴィンデ》

 

神龍が口を開けてシグナムに向かって飛び出して来た。 シグナムは至近距離で剣を振るうと同時に衝撃波を発生させ、刀身に乗せて斬撃を飛ばし……斬撃が神龍に直撃した衝撃で噛みつきを避けた。

 

「無茶な避け方をする!」

 

衝撃で怯んだ隙に神龍に潜り込み、両手で刀を構える。

 

軌槐(きえんじゅ)!」

 

刀は振らず、構えを取ったまま近付いて移動しながら斬りつけた。 複雑に動き回る蛇の身体を相手だとこれが有効、避けるのに専念しながら攻撃できる。

 

パチン!

 

その時、キャロが自分の両頬を叩いて活を入れていた。

 

「私、竜召喚士なのに……竜を怖がってちゃダメだよね! 行くよ、フリード!」

 

「キュクル!」

 

《Gauntlet Activate》

 

左腕に装着していたガントレットを起動、にカードを入れてシステムを起動させた。

 

「ゲートカード、セット!」

 

ゲートカードを地面に投げ、キャロはフリードを手のひらに置いた。

 

「行くよ、フリードリヒ……!」

 

「キュクル!」

 

「爆丸、シュート!」

 

思いっきりフリードを投げ、球は神龍に目の前で止まり……

 

「ポップアウト! ルミナ・フリードリヒ!」

 

グオオオオオッ!!

 

球が地面に立って展開。 光を放ちながら巨大化したフリードが現れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! レイヴンロア!」

 

フリードの身体に光の螺旋を纏い力を上げ、さらに神龍にも同様に光の螺旋で逆に力を下げた。

 

「行くよ、フリード!」

 

キャロは魔力を送りながら指示を出し、フリードは咆哮を上げながら突進した。 光の螺旋がドリルのような役割を果たし、神龍は受け止める事も出来ず吹き飛んだ。

 

「やるな、キャロ」

 

「ありがとうございます! でも、まだまだ行きます!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ルミナスフォース!」

 

見事な活躍振りにシグナムはキャロを賞賛し、勢いづいたキャロは続けてアビリティーを発動。 フリードは鏡の翼を広げ、魔力レーザーを撃ち出した。

 

「やった!」

 

レーザーが直撃し、神龍は煙に包まれる。 その時、神龍が静かに唸り始め、身体から電気を帯びだし……雨と風が一段と強くなってきた。

 

「龍もお怒りのようだな」

 

「他人事みたいに言うな……」

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

シグナムの軽口にツッコミながら、レゾナンスアークに長刀の刀身に埋め込んであるファーストギアを駆動させる。

 

「っ!」

 

《モーメントステップ》

 

刀を構えると同時に地面を蹴り、素早く神龍に接近する。 すると神龍は……

 

オオオオオオッ!!

 

「っ!」

 

咆哮を上げながら目の前に雷を落とし、ギリギリのところで避けたが余波で体勢を崩してしまう。だがタダでやられる訳にはいかない。短刀の1本を抜刀と同時に投擲、額に突き刺さった。

 

「これで……!」

 

「ーーレンヤさん!」

 

攻撃が通った事を確認しながら受け身を取ると……後方からキャロが声を上げた。 一瞬遅れて、左から神龍の尾が迫って来ていた。

 

「ぐっ!」

 

とっさに刀で防ぎ、尾が刀とぶつかり合って火花を散らしながら横を抜ける。 すぐさまその場から離れようとしたら……尾がしなり、抵抗が無くなって防御で踏ん張っていた足元が躓きそうになる。 そしてさらに尾が周りを囲み、捕縛されてしまう。

 

「このっ……!」

 

「レンヤ!」

 

振り解こうともがくが、その前に神龍が頭を天に向け、身体が電気を帯び出した。

 

「しまっーー」

 

ピシャァッ!!

 

「ぐあああああっ!!」

 

神龍が避雷針となって落雷を自身に落とし、身が裂けるような痛みが身体中を駆け抜ける。

 

「ぶはぁっ! バリアジャケットに電撃耐性が無かったら一瞬で黒焦げだぞ!」

 

《何度も防げません。 速やかに脱出を》

 

「出来たら直ぐにやってる!」

 

だが身体中を蛇に巻きつかれているのと同じで、力技では全く抜けられない。 魔法陣を外に展開して魔力弾を発射するが、神龍の硬い鱗の前では効果は薄い。

 

「ーー喰らえ!」

 

「フリード!」

 

その時、神龍の顔に何発もの大型の魔力弾が撃たれ。 怯んだ隙にフリードが尾に噛みついて締め付けを緩ませた。 すぐに拘束から抜け、キャロの元まで後退する。

 

「大丈夫ですか、レンヤさん!?」

 

「……ありがとうキャロ、助かった」

 

「私には礼はないか?」

 

「あ、ごめん……って……あれ?」

 

あの魔力弾って……誰が撃ったんだ? キャロはあそこまで威力は出ないし、シグナムは剣1本だし……疑問に思いながらシグナムの方を向く。 右手にはいつもと同じようにレヴァンティン。 だが左手には……レヴァンティンと同じカラーリングがされた大型のハンドガン型の魔導拳銃を持っていた。

 

「シグナムが……銃を!?」

 

「古き騎士だからといって……新たな戦い方くらい取り入れる!」

 

いや、それ以前にシグナムが剣と銃って……子どもの頃使っていたが凶悪な組み合わせだ。 戦闘狂に拍車がかかりそうだか……

 

《蛍火》

 

「はあああっ!」

 

1人考え込んでいる間に……シグナムが魔導銃を神龍に向け、轟音を立てながら大型の魔力弾を神龍に向かって撃った。 着弾と同時に魔力弾が炸裂して炎が爆発するように弾け、神龍は爆発にもまれて大きなダメージを負った。

 

《業火輪》

 

「これも受け取れ!」

 

続けて今度は神龍の横から炎を纏いながら接近、横一文字に斬り裂き。 後ろへ飛び退くと同時に魔導銃を乱射して体勢を崩させた。

 

「ここだ!」

 

《ドライブウェッジ》

 

ここで神龍の額に突き刺さっていた短刀のカートリッジを炸裂させ……神龍の額がヒビ割れた。

 

「キャロ!」

 

「はい! 今だよフリード!」

 

《Ready、Sparta Blaster》

 

俺の合図で、キャロはすぐさまガントレットを操作した。 画面から黄色い光が照射され、宙に小さなパーツが展開。 組み合わさって1つの八角推状のバトルギアが完成し、それを掴んだ。

 

「バトルギア……セットアップ!」

 

フリードに向かって投げ、バトルギアが巨大化して背中に装着。 八角推が開き、フリードの背中に縦横に4枚の細い翼、そして斜めに特徴的な4枚の翼が出来た。 続けてキャロはガントレットにカードを入れる。

 

「バトルギアアビリティー発動! スパータブラスター・リゲル!」

 

グオオオオオオッ!!!

 

フリードは咆えると、特徴的な4枚の翼から針状にした強力な魔力レーザーを雨のように降り注がせた。 レーザーは神龍の身体中を余す事無く直撃し……神龍は力無く倒れた。

 

「やった!」

 

「よくやったキャロ。 なかなかの戦いぶりだった」

 

「えへへ……」

 

シグナムに褒められて頭をかきながら照れるキャロ。 まともなダメージを受けたのは俺だけだな……ま、油断してた自分のせいだけど。

 

「っと……痛てて」

 

「あ、レンヤさん! 今治療します!」

 

「大丈夫大丈夫。 この程度慣れてるから」

 

「ダメです! ちゃんと治しておかないと、後々響いてしまいますよ!」

 

「お、おう……」

 

いつものキャロよりも強気で説得され、押されながらも素直に頷いた。 と、それと同時に辺りが光り出し……異界が収束して行った。

 

「う……ううん……?」

 

「どうやら現実世界に戻ったようだな。 だが……」

 

シグナムは上を……竹林の葉が遮る先にある空を見上げた。 グリードを倒したというのに未だに雨が降り続いていた。 俺はキャロに治療を受けながらメイフォンを取り出し、シャマルと連絡を取った。

 

「こちらフェザーズ01。 ロングアーチ、応答をしてくれ」

 

『ーーこちらロングアーチ。 北東の異界の収束を確認……順調に終わったようね?』

 

「まあ、なんとか。 他の皆は?」

 

『フェイトちゃん達、アリシアちゃん達、コウ君達の担当した異界は収束したよ。 残りの皆もそろそろ終わる頃だよ』

 

フェイト達はもちろんの事、コウ達もさすがだな。 俺ももうちょっとしっかり……いや、もっとしていれば、もっと早く終わったと思うが……

 

「……グリードは……? 他の組が相手をしたのはどんなグリムーグリードだった?」

 

『え……ええっとね……どうやら皆龍型のグリムグリードみたい。 もしかしてレンヤ君達も?』

 

「ええ、まあ……」

 

となると、他の……というより現在現れている異界全てに龍型のグリムグリードがいた事になる。 合計7体のグリムグリード……何か引っかかる。

 

「……いったん合流しよう。 場所は先ほどの河原で」

 

『了解、皆にも伝えておくわ』

 

通信を終了し、メイフォンをしまう。 移動する事を2人に伝え、飛行魔法を使用しようとした時……

 

ピロンピロン♪ ピロンピロン♪

 

着信が入り、またメイフォンを取り出した。 画面に映し出された相手は……

 

「エイミィさん?」

 

「なに……?」

 

「何かあったのでしょうか?」

 

不審に思いながらも回線を開き、メイフォンを耳に当てる。

 

「はい、もしもーー」

 

『レンヤ君!!』

 

不意打ちでスピーカーと思うほどの音量で思わずメイフォンを耳から離した。 耳を抑えて連絡してきた経緯を聞いてみた。

 

「エ、エイミィさん……落ち着いてください。 一体どうしたんですか?」

 

『そ、それが……美由希が……美由希がゲートに……!』

 

「……姉さんに何かあったんですか?」

 

……どうやらエイミィさんはかなり混乱しているようで……エイミィさんと自分を落ち着かせるように静かに聞いた。

 

『私達、レンヤ君達と別れてからコテージに行って、皆の帰りを待っていたんだけど……今さっき突然目の前にゲートが現れて。 ゲートからいきなり蛇の尻尾みたいなのが出てきた美由希を……』

 

「……そうですか……」

 

おそらく、蛇みたいな尻尾というのは神龍の事だろう。 だが、神龍は倒したのと今交戦中のを7体……ゆえに8体目が姉さんを攫ったのだろう。

 

(っ! 8体目の龍……姉さんを攫った理由……まさか!)

 

今回の事件と関連する物が、昔読んだ書物の内容と酷似しているのに気付いた。 確証はない、だがそれ以外に思いつかない。

 

「エイミィさん、すぐにシャマルを向かわせます。 落ち着いて、俺達の帰りを待っててください。 姉さんは必ず救ってみせます」

 

『う、うん……お願い、レンヤ君……』

 

通信を切り、すぐにまたシャマルに連絡。 コテージに向かわせるように指示を出し……アリシアと連絡を取った。 そして龍と姉さんに起きた事態、行き着いた推測を伝えた。

 

『……レンヤの推測通りだね。 このままだと美由希の身が危ない』

 

「やっぱりそうなるか……! 姉さんと本命がいる場所は?」

 

『もちろん。 残った八方位の一つ……河原を中心にした北……風芽丘だよ』

 

「そうか……分かった」

 

『1人で行こうとしないでよね。 すぐに私達も向かうから!』

 

念入りに釘を刺され、通信を切られた。 俺は2人に今までの話の概要をかいつまんで説明し、特にキャロは驚愕した。

 

「そんな……美由希さんが……」

 

「……此度のグリードの正体……目星はついているのか?」

 

「ああ、アリシアと相談して可能性が上がった。 今回の事件を引き起こしているグリードの正体は……」

 

一呼吸おいて、口を開いた。

 

「ーーヤマタノオロチ。 それがグリムグリードの正体……いや、もう相手は怪異じゃない。 神……神獣と言ってもいい。 伝承と少し差異はあるが、美由希姉さんは生贄に選ばれたんだ……洪水の龍神を沈める生贄に」

 

 



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151話

 

 

憶測だが2人に元凶の正体を説明した後、衝撃の事実に驚いているキャロを引き連れて風芽丘に向かった。 到着すると、雨風がさっきよりも増して激しさを増している。 遠くに見える川は今にも氾濫しそうな勢いだ。 それからすぐに、後ろからフェイト達がやって来た。

 

「レンヤ!」

 

「お待たせ!」

 

フェイト、アリシア、コウ達のメンバーがここに集まって来た。 他はまだ交戦中だろう。

 

「私達も今来た所だ」

 

「大体の状況は聞いているな?」

 

「はい。 まさか美由希さんが連れ攫われるなんて……」

 

「あの、さっき言っていたヤマタノオロチというのは?」

 

エリオの質問に、フェイトが答える。

 

「そうだね……簡単に言えば昔のお話に出てくる8つの頭と尻尾を持つ神獣だよ。 洪水の化身とも言われているんだ。 まさかこの地にその骸があるとは知らなかったけど……」

 

「骸というより、おそらく宝玉かなんかの核だろう。 骸は別の神社にあるって聞いているし。 そもそも、本当に八首の龍かどうかもまだ確証はないねえし」

 

「……7年前、レムがここの龍の力を一部分だけを借りて私達を試した。 けど、今回はロストロギアの影響で本体が目覚め、贄を求めた……」

 

暗そうに言うが、一転変わって、アリシアは何事もなかったような顔になる。

 

「ま、そもそもヤマタノオロチが載っている古事記は、天皇と天照御神についてが主に書かれている書記。 それ以外の事は曖昧で矛盾していて、ヤマタノオロチもそれに当たるんだよ」

 

「高天ヶ原を追放されたスサノオが、どうやって高天ヶ原にいる天照に天叢雲剣を献上したとかね」

 

「部分的にいい加減だったんですね……」

 

「……今はそんな事はどうでもいいだろう。 問題はどうやって高町さんを助け出すかだ」

 

「……推測だけど、なのはちゃん達が戦っている全ての神龍を倒した時……道が開けると思うよ」

 

「だといいんですけど……」

 

ソラの懸念ももっともだ。 このままでは激しい雨風降る丘の上で待ちぼうけになってしまう。 その時……目の前の空間から強大な力の奔流を感じた。

 

「っ!?」

 

「これは……」

 

突如として現れたのは赤いゲート、しかもエルダーグリードが潜んでいると思われる通常のゲートとは形状が異なるものだ。 そしてその中から感じられる気配も……

 

「この圧倒的なオーラは……!」

 

「す、すごい……」

 

「この感じ……前にも。 でも、似ているけど決定的に違う!」

 

「ふむ、どうやら途轍もない相手が待ち受けているようだな……」

 

……この先にはエリオとキャロは同行させる訳にはいかない。 2人をリンス、シグナム、アギトに任せて残りの7名が突入することになった。

 

「これより、異界に突入する。 目標、異界内の元凶及び高町 美由希の身柄保護……皆、全力を尽くしてくれ!」

 

『おおっ!!』

 

「皆さん、頑張って下さい!」

 

「気を付けて行くのだぞ」

 

作戦開始な合図を言い、全員から響くような応答を受ける。 エリオとリンスの声援をもらいながらゲートを潜り抜け、俺達は異界に突入した。 光が晴れると……そこは大きな空間が広がっていた。 どうやら谷底のような場所で、周囲には鳥居が、崖の上は木々で覆われていた。

 

「ここって……」

 

「……やっぱり海鳴温泉で現れた異界と似ているね」

 

「どうやらここも迷宮にはなっていないようだな」

 

「! レンヤ、あれ!」

 

フェイトが指差した方向に、球体が浮かんでいた。 その中には……気絶している姉さんがいた。

 

「姉さん!」

 

「……怪我はないみたい」

 

「そうだね、どうやら無事みたい」

 

『ーー何者だ』

 

突然、頭に響くような重々しい声が響いて来た。 次の瞬間、周囲にある8つの鳥居が揺らぎ、何かが飛び出し異界の中心でぶつかりあった。 8つの力が交わり……一体の巨大な怪異……8つの首をもつ龍が現れた。

 

「これは……!」

 

「なんて力……」

 

八頭(やず)ノ神龍……」

 

「あの神龍の集合体……まるで格が違う……」

 

「こいつぁ……九尾と同等かもしんねえな」

 

皆、目の前の強大な存在に視線が釘付けなってしまう。 だが、俺はそんな事よりも……胸の中に渦巻いている感情が出てしまいそれどころではなかった。

 

「……アンタが一体何者かはこの際どうでもいい……俺が聞きたいのはただ一つ、姉さんを一体どうする気だ!?」

 

奴に向かって怒り混じりに問い質した。 八頭ノ神龍はその16の眼で見下ろし、首の一つが口を開いた。

 

『ーー我は遥か太古の時よりこの地で眠りにつきし存在(もの)。 名は失われ、我の存在を知る者はいないが……この霊域で理由のない眠りについていた』

 

「……あ……」

 

「これほどの神格の存在がこの世にあったなんて……」

 

「か、神様……?」

 

サーシャがポツリと呟いた言葉に、八頭ノ神龍は静かに首を振る。

 

『我は神ではない……我は厄災を呼びよせる存在……いつの時代、我が同胞が討たれたのもしかり。 龍とは災害の象徴であるがゆえに』

 

「あ………」

 

「随分と謙虚な奴だな」

 

この事態を引き起こした元凶にしては、そうかもしれないな。

 

「……アンタがそういう存在というのは分かった。 ならなおさら、なぜ姉さんを攫った。 一体何をするつもりだ!」

 

『此度の目覚めは異様な力によって、我の眠りを妨げられた。 そして、この地の中で最も輝く魂を贄として……我は現世に出る』

 

「なっ……!?」

 

「なんでそんな事を!?」

 

今までの言動とは真逆の答えに、すずかは思わず声を上げた。

 

『このまま眠り続けてこの星、この世界の行く末を見届けるのも悪くないが……この手で終焉を向かわせるのもまた一興。 ゆえに、力を取り戻すためにこの娘を贄として喰らう、ただそれだけだ』

 

「っ……!」

 

「なんて事を……!」

 

「とんだふざけた野郎だ……」

 

「神の気まぐれ……そこに人の意志はない、か……」

 

目が覚めたから世界を滅ぼす……気まぐれで、理由もなく、ただ滅ぼそう、動機はそれだけ。 たったそれだけで……しかも、力を取り戻すと言った。 ヤマタノオロチが討伐され、力を失ったと仮定すれば……現世の影響が洪水程度なのも納得できるが。 あの大雨が異界化(イクリプス)のほんの片鱗だとすれば……本来の力で現世に出られでもしたら……!

 

「……そんな事……そんな事させるか! 神だろうがなんだろうが、そんな事のために人の命を……姉さんの命を使わせる訳には絶対にいかない!!」

 

「うん……レンヤとなのは……それにエイミィを悲しませないためにも。 あなたを倒します!」

 

『……くくく……はっははははは! いいだろう、終焉前の余興だ……存分に楽しませてみろ!!』

 

俺とフェイトは啖呵を切り……八頭ノ神龍は全ての口で笑い声を上げながら8つ首を広げ、16の眼で睨みつけてきた。 俺達はデバイスを起動し、バリアジャケットを纏い。 コウとソラはソウルデヴァイスを起動……コウは蛇腹剣型のレイジングギアを、ソラは手甲型のバリアントアームを装備した。

 

「ーー総員、迎撃準備! 全力を持って目標を撃破する!」

 

『おおっ!!』

 

それと同時に、八頭ノ神龍が8つの口で咆哮を轟かせた。 俺とアリシアは怯むことなく飛び出し、左右から胴体に斬りかかった。

 

「っ……固っ!」

 

「いつつ……伝承通りなら……鱗は鋼のように固いわけだね。 属性としては鋼属性と、洪水の化身でもあるから霊属性もあり得るかな……」

 

「隼風拳! やっ!」

 

「スノーホワイト!」

 

《スナイプフォーム、フリージングショット》

 

軽くアリシアが神龍の情報を説明し、ソラが神龍の顔に向かって手甲に溜めた力を拳を撃ち出す事で放出、それを連続で行い神龍を怯ませ。 その隙にすずかはスノーホワイトを槍から狙撃銃に変形、地面と接している部分を凍らせて神龍の動きを妨げる。

 

「サーシャちゃん!」

 

「うん! ラクリモサ……モード、メゾルーナ!」

 

サーシャはすずかの合図で飛び出し、両手で輪刀の左右の取っ手を掴み……輪刀を割って2つの半月刀にした。 右を順手で持ち、左は逆手に持って構え、八頭ノ神龍に接近する。

 

「奏輪舞踏!」

 

三頭の神龍が噛み付いて来たが、サーシャは回転しながら避け、すれ違い際に斬りつけた。 その時、八頭ノ神龍は巨体を縮め、首を引っ込み出した。 次の瞬間、神龍は水を発生させる事で氷を砕き、水を纏って捻りながら突進して来た。

 

「きゃあっ!?」

 

「くっ……さながら洪水が襲ってきたみたいですね!」

 

「上手い例えだね!」

 

《プラズマランサー》

 

「はあっ!」

 

フェイトがプラズマランサーを放ち、背中に直撃すると八頭ノ神龍は少し苦悶の声を漏らした。 直撃した部分を見ると僅かだが傷ついたいた。 フェイトの攻撃なら確実にダメージは通っている。

 

「フェイト! 私に雷を!」

 

「分かったよ、姉さん!」

 

アリシアに向かってもう一度プラズマランサーを撃ち、アリシアはそれを小太刀で受け止め……

 

《エンハンス》

 

「雷鳴の刃!」

 

プラズマランサーを受け取った勢いで飛び上がり、一頭に斬りかかる。 だが浅く入っただけで、鋼のように固い鱗は突破出来てない。

 

「っ……やっぱり固い!」

 

「固いのなら……」

 

《モーメントステップ》

 

一気に飛び出し、八頭ノ神龍の周りを疾走する。 襲ってきた首を避けながら短刀を投擲、それを3回繰り返して八頭ノ神龍の胴体に3本の短刀が突き刺さった。

 

「ーー砕くまで!」

 

《ドライブウィッジ・トライアル》

 

そして3本の短刀のカートリッジを炸裂、3箇所からヒビが走り……背中が一気にボロボロになった。

 

「そこだああ!」

 

「天翔脚!」

 

間髪入れずコウがレイジングギアを振るい、ソラが大きく跳躍して風を切り裂く鋭い前蹴りを放つ。

 

バリッ……

 

不意に、何かが割れる音が聞こえてきた。 次の瞬間、八頭ノ神龍は一瞬で脱皮し、2人の攻撃は残った皮が受けて砕け散り……中から無傷の八頭ノ神龍が現れた。

 

「なっ……!」

 

「嘘っ!? 脱皮して避けた!?」

 

しかも、脱皮のせいで今まで八頭ノ神龍が受けていたダメージはほぼ無くなっている。 鱗も新品のように輝いている。 飛んで来た短刀をキャッチしながら神龍を警戒する。

 

「蛇の脱皮は死と再生の象徴……神龍とはいえ、まさかそんな力まで持っていたなんてね」

 

「……反則すぎる能力だな!」

 

そう罵倒しても怪物相手に意味はなく、八頭ノ神龍は8つの口を開け……8柱の激流の如きブレスが放たれた。

 

「くっ……アンカースライド!」

 

コウは水平に伸ばしたギアが空間を掴み、刃先を収納する反動を利用して前方へ一気にスライド移動を行う。 それで八頭ノ神龍のブレスを避け、移動の際に発生した衝撃波で牽制する。

 

だが八頭ノ神龍はブレスを辞めず、続けて首を全方位に広げて回転を始め……避けきれず直撃してしまう。

 

「きゃあ!?」

 

「ぐっ……!」

 

とっさにプロテクションで防ぐも衝撃は防げず、かなり後退させられた。

 

「はあはあ……曲がりなりにも神……そう簡単には倒させてはもらえないか……」

 

「これで本調子じゃなえってのが反則だよな」

 

「それがせめてもの救いですね」

 

「……それでも、負けるわけにはいかない。 必ず倒して美由希を助けてやるんだから!」

 

「まだまだ、行けますよ!」

 

アリシアの気合いに皆が反応し、再び八頭ノ神龍に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん…………」

 

レンヤ達が八頭ノ神龍と戦っている中……空中で浮かんでいた球体内で気絶していた美由希が目を覚ました。

 

「……ここは…………確か……私はーー」

 

現状を理解しようと頭を働かせようとした時……下から轟音が響いて来た。

 

「ふひゃ!?」

 

美由希は驚いて飛び上がり、下を見下ろすと……レンヤ達が八頭の怪物と戦っていた。

 

「レンヤ!? それにフェイトちゃんにアリシアちゃん、すずかちゃん……それにコウ君とサーシャちゃん、ソラちゃんも!」

 

戦っている事に驚愕したが、それよりもどうして自分がここにいるのか疑問に思い。 自分が球体の中にいる事を理解すると……

 

「私……捕まったの!?」

 

そして記憶が途切れる前に、コテージで何かに捕まった事も思い出した。

 

「くっ……この! 壊れろ、壊れろ!」

 

ここにいては迷惑どころか戦いの妨げになってしまう。 美由希は足場を何度も蹴るように踏みつけ、脱出を試みる。

 

「壊れろ……! 壊れろって!!」

 

だが、何度やっても球体は振動すらせず……美由希は勢い余って躓き、転倒していまう。

 

「はあはあ……くっ……!」

 

美由希は転倒して横向きになった体を仰向けにし、悔しそうに下唇を噛む。 美由希は悔しさよりも、自分の不甲斐なさに落胆の方が強かった。 肝心な時に足手纏いになっている事を悔い、今まで培ってきた剣も役に立たない。

 

「何か……何か方法が……!」

 

微かな希望にすがる一心で自分に言い聞かせるが、絶望に完全に呑まれそうになった時……

 

チリン……

 

『ーーへえ、これは……』

 

突然、鈴の音と共に少女の声が響いてきた。 美由希は飛び起きると……目の前にいきなり少女が現れた。 不思議な雰囲気を出している半透明な少女……レムがいた。

 

「!」

 

それと同時に何か変な感覚を感じた……まるで世界に影響しているような。 それを証明するように、今まで聞こえていた戦闘音がピタリと止んでいた。 慌てて下を見ると、レンヤ達と怪物がまさしく時を止められたように固まっていた。

 

「な、なにこれ……」

 

度々重なる異常事態にとうとう頭が追いつかなくなってきた。

 

『予期せない事態が起きたけど……それよりも本来紡がれるはずのない因果が紡がれるなんて。 本当に君達には驚かされる』

 

視線を下に向け、レムはレンヤとコウを見ながらそう呟いた。

 

「あ、あなたは一体……」

 

『ふふ……今はそんな事より彼らを助けたいんでしょう? だったら……』

 

唐突にレムは美由希の胸を指差した。 すると美由希の胸が淡い光を放ちながら輝き出した。

 

「ーーえ……」

 

『これはただのきっかけ……後は君次第だ。 君という新たな存在がこの先どんな因果が紡がれるのかーーー見届けさせてもらうよ』

 

美由希は何がなんだか理解不能になっているが……胸に手を当て、光を掴む。

 

(これだけは分かる……戦える!)

 

『ふふ……さあ、行くといいよ。 全ては()()()()だ……』

 

パチン……

 

美由希の決意が決まった顔を見て、レムが指を鳴らすと同時に……美由希を閉じ込めていた球体にヒビが入り……崩壊と同時に世界は再び動き出した。

 

「ーーうおおおおおおっ!!」

 

『むっ!?』

 

「み、美由希さん!?」

 

「あの光は……!」

 

突然美由希が解放された事にレンヤ達と八頭ノ神龍も含めて驚愕し、美由希は雄叫びを上げながら落下する。

 

「斬り開けーーアストラル・ソウル!!」

 

右手を前に突き出し、水球が現れるとそれを握り潰し……1本の小太刀が顕現した。

 

「ふうっ……渦流刃(かりゅうじん)!」

 

美由希はその小太刀を両手で握り締めて構え……水を噴出して加速、さらに刃のように形成して高速にスピン回転をかけながら八頭ノ神龍を斬り裂いた。 その行動で落下の勢いを殺し、レンヤ達の前に降り立った。

 

「あなた……私を食べたいんだってね?」

 

1歩前に進み、剣先を八頭ノ神龍に突き付け……

 

「だったら……私を仕留めず、踊り食いする気で来なさい!!」

 

意気揚々と盛大に啖呵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と起こる出来事に、俺達は魂消た。 突然姉さんを捕らえていた球体が破壊され、姉さんがいきなり小太刀を顕現すると同時に八頭ノ神龍を斬り裂いて目の前に立ったんだから。

 

「ね、姉さん……?」

 

「その小太刀は……」

 

「小太刀型のソウルデヴァイス……まさか、美由希さんが《適格者》だったなんて……」

 

適格者……確かソウルデヴァイスを顕現できる者の名称だったな。 姉さんの持っている小太刀……コウの蛇腹剣のソウルデヴァイスとソラの手甲のソウルデヴァイスとどこか酷似している。

 

「助太刀するわよ。 自分が狙われているのにおちおち寝てられないし」

 

「姉さん……」

 

「止めないでよ。 今まで私はレンヤ達が頑張っていた事を他人事だと思っていた……とても辛く苦しい事だとわかっていても自分とは縁遠い、力になれないと思っていた。 それがとても最低な事だって……捕まって初めて自覚した! もう、私は……レンヤ達から目を背けたりしない!!」

 

「だ、だからって……いきなりこのレベルの敵と戦うのは無茶です! いくら御神流で身体を鍛えたとしても、ソウルデヴァイスの使い方がわかっていたとしても……」

 

フェイトは納得していないが、同意できないわけでもないのか歯切れが悪い。 と、そこでコウが2人の間に手を入れて会話を止めた。

 

「ーーぐだぐた言っている暇はねぇみてぇだぞ」

 

「……そう、みたいだな」

 

姉さんから視線を少しずらして前を向くと……8箇所からシューーという蛇の鳴き声がして来た。 音源の正体はもちろん八頭ノ神龍。 やつは地面に尻尾を突き刺すと、そこから地面が針のように隆起して迫ってきた。

 

「しまっーー」

 

澪弧斬(みおこざん)!」

 

「ブーメランエッジ!」

 

隆起を回避しようと行動する中、姉さんとサーシャがほぼ同時にその場で一回転。 その勢いで姉さんは小太刀に纏った水を、サーシャは輪刀をブーメランのように放ち……2人は神龍に向かって飛び出した。 2つの回転する刃は隆起した岩を斬り裂くと、2人は足元が隆起する前に飛び上がり神龍に接近した。

 

「捻り押し!」

 

サーシャは無手の状態で真ん中の神龍の牙を掴み、捻りを加えて横に押し……他の神龍を巻き込みながら押し倒し……

 

飛瀑衝(ひばくしょう)!」

鋭く八頭ノ神龍に向かって飛んだ姉さんは、小太刀を両手で逆手で構え……激流を纏いながら振り下ろした。 背に突き刺さった小太刀から衝撃が発散、水が空気を震わせながら飛び散った。

 

「す、すごい……」

 

「さすが美由希さん……もうソウルデヴァイスを使いこなしている」

 

「俺達も負けてられねぇな!」

 

結局、姉さんの参戦はそのまま続行となり。 攻撃パターンも読めて来たので一気に畳み掛けた。

 

「マキシマムレイジ!」

 

「裂空……爪牙!」

 

コウはアンカーギアを巨大化させ神龍の胴体に刺突し、ソラは隙間のない乱舞で突き進み……最後に強烈な一撃を入れて吹き飛ばした。 それを見た姉さんは興味津々に目を輝かせた。

 

「何それ……どうやったの!?」

 

「え、えっと……こう、溜まった気を一気に解放する感じで」

 

「う〜ん……こうか、なっ!!」

 

ソラが漠然と説明し。 姉さんはその通りに、本能に従って抜刀したまま居合いの構えを取り、小太刀の刃渡りを水で広げ……

 

荒海(あらがみ)……大蛟(みずち)!!」

 

居合いで振り抜き、水の斬撃が放たれた。 水の斬撃は同じ大きさのまま枝分かれし、八頭ノ神龍を滅多斬りにした。

 

「おお……! できた」

 

「嘘だろ……射撃、飛翔、剛撃スキルをあっと言う間にものにしただけでも驚きだってのに。 1発でEXスキルを習得しやがった」

 

「コウ先輩は初めての時、結構苦戦しましたからね」

 

「うっせ」

 

2人は軽口を叩きながらも攻防を続け、サーシャが二頭の首筋を斬り裂くと……怒り狂った八頭ノ神龍が力任せに突進しながら頭突きを繰り出した。

 

《ノーザンウォール》

 

「っ! まだまだ!!」

 

すずかが槍を横に構え、地面から氷壁を出現させ突進を防いだ。 八頭ノ神龍は連続で頭突きをして突破しようとするのをすずかは氷壁を維持して堪えた。

 

「一気に決めるぞ!」

 

『おおっ!』

 

俺の掛け声に応答し、八頭ノ神龍を取り囲み一世に攻撃をした。 全体に圧力をかけ、八頭ノ神龍は痛みで咆哮を上げる。

 

「今だ!」

 

「九頭龍・川崩れ!!」

 

間髪入れず3本の短刀を投擲、長刀を振って収束した魔力を飛ばし。 短刀に上乗せすると同時に短刀のカートリッジを炸裂……九頭の龍が八頭ノ神龍に襲いかかった。 八頭ノ神龍は一頭ずつ対処するが、頭一つ足りず、一頭が神龍の空いた胴体に直撃した。

 

「八が九に勝てるかよ」

 

「姉さん!」

 

「行っくよー!」

 

合図で飛び上がり、自分の周りに無数の水の小太刀を創り出した。

 

「ほらほらほら!」

 

ソウルデヴァイスの小太刀を放り投げて水の小太刀を掴んでは投げ、掴んでは投げを一瞬の間に何十回も行い、刃の雨が八頭ノ神龍に降り注ぐ。

 

「あれは……ソウルデヴァイスの力を極限まで引き出した時に発動できる……X(クロス)ドライヴ……そして、そこから放たれるX(クロス)ストライク……」

 

コウは驚きと少し関心混じりで戦闘を眺める。

 

「援護します! はあああ……せいっ! やっ! はっ!!」

 

その隙を狙ってソラが超スピードによって生み出した分身で流れるような連打を繰り出して離脱……そして、着地した姉さんは落ちて来た小太刀を掴み……

 

水華(すいか)……千瀑破(せんばくは)!!」

 

刹那の間に神龍を小太刀を振り抜いた状態で通り過ぎ……1秒後、八頭ノ神龍から無数の斬撃が飛び散り、首の1つが地に落ちた。 八頭ノ神龍は消えはしなかったものの、倒れ伏した。

 

『イエーイッ!』

 

姉さんとアリシアはハイタッチし、勝利を喜び合うが……自分の命が関わっていたのに呑気なものだな。 ま、姉さんらしいといえば姉さんらしいが。

 

「これで、終わりなのかな……?」

 

「どうだろう? まだ首が7つあるし……」

 

「気は抜けないね」

 

ソラは目が閉じている残りの首を見て、改めて緊張を表す。 サーシャも半月刀を持ちながら同意し、すずかも頷いた。 すると……切れた首の傷口から神龍の顔が出てくるように再生し、一瞬で八頭ノ神龍が復活した。

 

「っ!」

 

「やっぱり……!」

 

「姉さん達! 浮かれてないで構えて!」

 

『ーーその必要はない』

 

突然、戦い始めてから今まで口を開かなかった八頭ノ神龍が喋った。 しかも自ら始めた戦いを止めたのだ。

 

「え……」

 

「いったいどういう……」

 

『我は先ほどの者とは違う者だ。 我らはそれぞれ人格を持っているがその中で最も強い一体が主人格となり、残りは眠ったままだ。 我は2番目に強い者なり。 主らが先の首を落としたおかげで出てこられた』

 

「そ、そんな事が……」

 

「え、えとえと……それで、あなたはその……美由希さんを……」

 

サーシャが恐る恐る、姉さんを狙っているか聞いてみると。 神龍は首を横に振った。

 

『先の首は傲慢であった。 確かにその者の魂を手放すのはとても惜しいが……その者の力が覚醒した以上、我の手に余る。 それに現世に出て厄災を振り撒く気もない』

 

八頭ノ神龍は16の眼でコウ達を見下ろし……

 

『次こそは主らに滅せられるだろう』

 

唇を釣り上げるように笑って言った。

 

「あ、あはは……」

 

「ま、否定できねぇな」

 

そう指摘されてソラは苦笑いし、コウは納得する。 何はともあれ、これで異変は解決したと考えてもいいだろう。

 

『さて……せめてもの詫びだ。 受け取るといい』

 

姉さんの目の前に青と黄色光が集まり始め……1つの2色が交わっている、青と黄色の太極図のような宝石が精製された。

 

『霊と鋼の力を秘めた守護石だ。 そなたに加護があらん事をーー』

 

それを皮切りに、白い光が溢れ出し……異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異界が収束し、現実世界に帰還した。 立ち上がると、そこは風芽丘だったが……すでに雨が上がっていて上は星空がよく見える。 緊迫していた空気が終わり、それぞれ息を大きくはいたりその場に座ったりして緊張を解いた。

 

「ふう……戻って来たね」

 

「うん、そうだね」

 

アリシアは伸びをして、フェイトは夜空を見上げながら緊張をほぐした。 俺は丘に大の字で寝そべっている姉さんの元に行った。

 

「姉さん、怪我はない?」

 

「ううん、ぜーんぜん。 むしろ体力気力がスッカラカンだよ……」

 

姉さんは脱力するように息をはき、夜空を見上げる。 そんな姉さんの隣に腰を下ろした。

 

「……レンヤ。 レンヤは子どもの頃からこんな大変な事を続けていたんだね」

 

「今回のは異例だよ。 いつもはもっと安定している」

 

「そっか……」

 

喋るのも億劫なのか、それ以降黙ってしまった。 それからなのは達が到着し、今回の異変の概要を説明した。 ロストロギアが間接的に関わっていたとしても、放っておいたらかなりの大事件になっていただろう。 その後、なのは達が到着した。 先ほどまでの状況を詳細を説明したら……

 

「え!? お姉ちゃんが……適格者で、戦ったの!?」

 

「ああ、さすがに俺も驚いたよ。 姉さんはどうやってソウルデヴァイスを出現させたんだ?」

 

「あ、うん、それはねー……あれ? どうやったんだっけ?」

 

「無我夢中だったのかしら?」

 

「うーん、そうかも。 いきなり出て来たような感じだったし……」

 

「そうですね。 私の時もそんな感じでした」

 

「コウもそうだったの?」

 

「いや、俺はちょっとばかしレムに手助けしてもらったんだ」

 

……ホント、何がしたいんだろうな。 傍観者と言っておきながら助けてくれるし。

 

「そうなんだ……私とアリサちゃんもソウルデヴァイスじゃないけど、魔法、異界と関わるきっかけをくれたのはレムちゃんなんだ」

 

「へえ、意外な共通点やなあ」

 

「レム? レム、レム、レム……ん〜〜?」

 

「姉さん、どうかした?」

 

「もしかして美由希もーー」

 

「ーー分かんないや!」

 

悩んだ末に笑顔で言い、思わず俺達はズッコケてしまう。 人を期待させておいて……

 

「さて、そろそろ帰るとしよか。 後片付けやロストロギアの運送や、やる事はまだまだ残っとるし」

 

「そうだな……それでは機動六課、帰投準備!」

 

『了解!』

 

指示を出し、シグナム達が持って来てくれた車に乗り込みコテージに向かった。 到着すると、フォワード達に指示を出して使用したコテージの後片付けと清掃をしている中、姉さんとエイミィさんが無事を確かめながら抱き合っていた。

 

「本当に仲良いね。 2人共」

 

「ああ、それにかなり心配していたみたいだし。 そういえば、風芽丘に来るのに時間がかかってたけど……何かあったのか?」

 

「ええ、ティアナとスバルが神龍との戦闘で負傷してしまったのよ。 シャマルに治療をしてもらったんだけど……全員バラバラの場所だったから時間がかかっちゃったの」

 

なるほど、道理でティアナの表情が思わしくなかったのか。 落ち込んでいないといいが……その後、姉さんはどこかに向かい。 エイミィさんはフェイトと話していた。

 

「そっか、もう帰っちゃうんだね」

 

「一晩だけでも……ってわけにもいかないんだよな?」

 

「ごめんね……エイミィ、アルフ」

 

「今度は休暇の時に、遊びに来るよ」

 

なのはとフェイトは、早く別れることを残念に思いながらも再開を約束をしていた。

 

「パパ、怪我してなーい? 痛いとこなーい?」

 

「大丈夫だよヴィヴィオ。 心配させたな」

 

「えへへ……」

 

心配してくれたヴィヴィオの頭を撫で、ヴィヴィオは気持ちよさそうに笑った。 その後ヴィヴィオをすずかに預け、一度外に出た。

 

「ってわけで、これからそっちにシグナムが届けるから」

 

外では、はやては空間ディスプレイを開いて、依頼人であるカリムに報告していた。

 

『ありがとう、はやて。 今回の早期解決は、部隊にとっては順調な成績よ』

 

『騎士シグナム、途中まで私が向かえに行きますね』

 

「はい、ありがとうございます。 騎士シャッハ」

 

すると、カリムの視線がはやてに向いて……

 

『でも、いいの? 少しくらい休んで、会ってきていいのよ?』

 

カリムが遠回しに言っているのは、この地に眠るはやての両親のことであろう。 しかしはやては。カリムの言葉に静かに首を振った。

 

「私の帰る場所は……機動六課や。 地球……ここには、何時でも来れる……せやから、大丈夫や」

 

『そう……』

 

はやての言葉に、カリムは微笑んでいた。 フェイトがメールを確認していると……本局の捜査部からメールが届いていた。 どうやらスカリエッティの件らしいな。 報告書を作成しながら湖畔付近を歩いていると……姉さんとコウ達が湖の側にいた。 姉さんとコウはメイフォンーーコウのはサイフォンだがーーを取り出して何かしていた。

 

「これで……よし」

 

ピロンピロン♪

 

「お、きたきた。 これが?」

 

「ああ、ソウルデヴァイスの保存と展開を司るアプリだ。 機種が違うから出来ねえと思ったが……上手くいったようだな」

 

「姉さん、コウ、何してるんだ?」

 

「あ、レンヤ。 ちょっとソウルデヴァイスを使えるアプリをもらったんだぁ」

 

「ソウルデヴァイスを……アプリで? どう言う原理だ?」

 

「あー、そこはネメシスに……アスカにでも聞いてくれ。 それとこいつも」

 

ポケットから財布を取り出すと、1つの名刺を姉さんに渡した。 名刺には鍛冶金物《倶々楽屋》 と書かれていた。 どうやら東亰の杜宮にある店のようだな。

 

「そこでソウルデヴァイスの強化が出来ます。 話は通しておきますので、暇があったら来てみてください」

 

「へえ〜……ありがとね」

 

姉さんはまじまじと名刺を見つめた後、財布にしまった。

 

「……姉さん。 姉さんはこれからどうする気?」

 

「え……」

 

「姉さんは“力”を手に入れてしまった。 その力を一体どうするつもり? 護身用として放置して、今まで通りの生活を送る? コウ達の元に行って異界に関する……裏の世界に入るつもり?」

 

これは真面目な話だ。 姉さんなら力の使い方を見誤らないとは思うが……聞いておきたかった。

 

「……決まってるよ。 この力は誰かを助けるために……そして、レンヤとなのは、皆を手助けするために使いたい」

 

「姉さん……それって……」

 

「ーーじゃ、私は用事が出来たから先に帰るね!」

 

その意味を聞く前に……目の前から消えてしまい。 姉さんはいつの間にか車のまで移動した。

 

「えっ!?」

 

「いつの間に!」

 

「神速!? 逃げるために御神の奥義を使うな!」

 

「車は返しておくから、エイミィに先に帰るって言っておいてねー!」

 

返事も待たず車に乗り込み、姉さんはこの場から去って行った。

 

「あ、あはは……美由希さん、あんな事があった後なのにすごい明るいですね」

 

「はあ……まあそれが姉さんだからな。 いつだって変わらない、俺となのはの姉だ」

 

「一人っ子には分かんねえが……羨ましいな、そう言うの」

 

その後、なのは達と清掃を終えたフォワード達が帰投準備が整い。 俺達はエイミィさん達とコウ達に別れを告げて、地球を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、機動六課、部隊長オフィスーー

 

「やっほー、来ちゃった♪」

 

正午、昨日と今日で溜まった2日分の雑務業務を終わらせ。 いざ昼食を済ませようとした時はやてに呼ばれ。 オフィスに向かうと……そこには、側にキャリーバッグを置いている姉さん……高町 美由希がいた。

 

「……いや、来ちゃったじゃないよ」

 

軽く頭痛がして額を押さえる。 昨日、ソウルデヴァイスの使い道を考えさせたが……昨日今日でここに来るなんて。 フットワーク軽過ぎだろ……

 

「父さんと母さんには説明したんだよね?」

 

「もちろん、2人共喜んで許可してくれたよ。 それでリンディさんに事情を説明して、クロノ君の責任の元、民間協力者として機動六課に参加するよ。 よろしく〜」

 

姉さんはとてもいい笑顔でピースする。 視線を逸らし、デスクに座って手を組んで口元を隠している、少しうつむき気味のはやてを見た。

 

「……クロノ君はもちろんの事、カリムからの推薦もあってな。 断る事が出来なかったんよ。 しかも管理局は適格者の取り扱いは当然初めて……そういう意味で六課は一応実験部隊やし、今後もし他の適格者が現れると想定してどうしてもデータを取りたいと上層部も……」

 

「へぇ……世界は違っても公務員だし。 やっぱり大変なんだね、そういうの」

 

「誰のせいだと思ってるんだよ……!」

 

思いっきり怒鳴りそうだったが、怒りを拳を握り締め構えて抑え。 静かに怒鳴った。 と、その時ドアがノックされ……

 

「ーー失礼する。 捜査方針の確認をしに来た」

 

ティーダさんが入って来た。 捜査方針というと……スカリエッティの件か。 そういえばゼストさん達と一緒に担当してたな。

 

「あ、分かりました。 今フェイト隊長を呼びますんでお待ちください」

 

「……………………」

 

「? 姉さん?」

 

姉さんがティーダさんを見つめ固まっている。

 

パキューン……!

 

「ストライク!」

 

「……はい?」

 

……なんか幻聴と錯覚で姉さんの心臓が撃たれた気がし、姉さんは目を輝かせてグッと親指を立てている。

 

「あー、あなたは?」

 

「は、はい! 今日から機動六課に民間協力者として配属される事になりました高町 美由希、27歳です!」

 

……背筋を張って自己紹介してるし。 ほらティーダさんも困惑してる、姉さんらしくないというか……あ、そういえば姉さんとティーダさん、同い年だ。

 

「あ、ああ……ティーダ・ランスターだ。 ん? 高町……もしかして、高町 なのはの?」

 

「姉です! そういうあなたは、もしかしてティアナちゃんの?」

 

「はは、高町は羨ましいな、素直で可愛い妹がいて。 ウチのはツンケンしてるからな」

 

「いえいえ、むしろあれくらいが一番可愛いですよ。 なのはは優秀過ぎて姉の威厳が丸潰れになりますから」

 

「なるほど、確かにな」

 

2人だけで会話が盛り上がり、俺は呆然としていた。 はやては姉さんの表情を見て、納得し。 面白そうにニヤニヤ笑いながら2人を見守るのだった。

 

 




レム「本来紡がれるはずのない因果が紡がれるなんて」

別訳
レム「この作品であなたの出番はもうないのに、まさか今後も続けて出て来るなんて」

美由希「酷い!」

※どのSSを見ても美由希さんが活躍するあんまり作品がなかったなぁー、と思い。 思い切って適格者にしちゃいました♪

ちなみに、ティーダさんと美由希さんの年齢は原作のプロフィールを見て……

ティーダ……正式な年齢は書かれてませんでしたが、ティアナと11歳差らしく。 StrikerS時のティアナが16歳なので27歳。

美由希……無印のプロフィールで17歳。 10年経って27歳。

以外にも同い年でした。


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152話

 

 

6月1日ーー

 

俺となのはの姉こと、高町 美由希が民間協力者として六課に配属されて早2日……姉さんはクレードル隊に預けられる事になり。 姉さんの存在は管理局からすれば異例であり異質で……上層部から急かされるように適格者とソウルデヴァイスのデータ収集に追われていた。

 

「あ〜……疲れた〜……」

 

「大丈夫、お姉ちゃん?」

 

午前のデータ収集が終わり、姉さんはソファーに座って脱力する。 なのはから飲み物を受け取ると一気に飲み干した。

 

「ふう……一応、人助けのためにここにいるつもりなんだけど。 なーんか私が想像してたのと違うんだけど? 私は実験されにここに来たんじゃないってーの!」

 

「ま、まあまあ、気持ちは分からなくもないですけど。 異界の外でソウルデヴァイスを起動できてしまった理由を解明しないと、美由希さんを戦闘に参加させるわけにはいかないんです」

 

どういうわけか、姉さんは現実世界でソウルデヴァイスを召喚できたのだ。 コウに聞いたところによると、ソウルデヴァイスは原則、異界あるいは異界の影響の強い場所でなければ召喚は不可能となっている。 となると、魔法文化があるこの世界だから召喚できたのか、それとも異常がこのミッドチルダに起こっているのか……それを検討しなければならない。

 

「やっぱり大変なんだね、時空管理局って……」

 

他人事みたい、というわけではなく。 姉さんはかなり真剣な表情で考えている。 と、思いきや。 徐にメイフォンを取り出し……四苦八苦しながらソウルデヴァイス展開アプリを開いて右にフリックし……

 

「ソウルデヴァイス起動……」

 

ソファーに座ったまま右手に小太刀のソウルデヴァイスを展開、掴んでジーッと眺めた。 ていうか、姉さんの機械オンチ直ってなかったのか。 機械ひしめくミッドチルダでどう生きるんだよ……

 

「……ねえすずかちゃん、そろそろ異界に行ってもいいよね?」

 

「え……確かに、そろそろ実戦データが欲しいですけど……」

 

「なら行こうよ! このままだと息が詰まっちゃうよ!」

 

ソウルデヴァイスを虚空に消しながら立ち上がり、先ほどの疲労を感じさせず元気になる。

 

「もう、お姉ちゃんったら……」

 

「まあ、ミッドチルダを案内がてら、異界を探索するのでいいんじゃないかな」

 

「そうだな……聖王教会に行ったら何か分かるかもしれないし……」

 

メイフォンを取り出し、はやてと連絡を取った。 事情を説明し、姉さんを連れ出せるか聞いてみた。

 

『ーー了解や、外出を許可するで。 通信回路を開いておいてぇな』

 

「ああ、分かった。 ありがとな」

 

『別にかまへんで。 あ、せやったらベルカの紅茶の茶葉を買ってきてなぁ』

 

「了ー解。 後の事はよろしくお願いする」

 

通信を切り、外出許可が下りた事を言うと姉さんはガッツポーズをして喜んだ。 一緒にアリシアも同行する事になり、自分の車でクラナガンに向かった。

 

「おおっ……! レンヤいい車持ってるねぇ」

 

「すずかが開発した車なんだ。 凝り性だからかなり乗り心地はかなりいいんだよな」

 

「う〜ん、私としては弟に色々負けてる事にちょっとショックかも……」

 

「今更でしょう、そんな事」

 

そんな雑談をしながら目的地に到着し、とりあえずクラナガンのメインストリートを案内した。

 

「へえ、ここがねぇ…………あんまり異世界感がしないね」

 

「まあ、確かに期待して初めてこの光景を見ると拍子抜けだと思うな」

 

「ていうか、美由希はどんなのを想像してたのさ?」

 

「なんと言うかこう……箒に乗ってるような」

 

「無いよ、絶対」

 

だが、クロゼルグなら……もしかしたらな。 どこにいるか知らないけど。

 

「そういえば、なんで2人はメガネしてるの?」

 

「変装の一環だよ。 俺達はそれなりに有名だから」

 

「このメガネには認識阻害の魔法がかけられていてね。 かけるだけでバレないから便利なんだよ」

 

プライベートの時も重宝している優れものだ。 そのまま一通り案内したが、クラナガンの主要地区を回るだけでも1日以上はかかるため、切りがいい所で近くのゲートに向かった。

 

「そうだ、東亰にはいつ行くの?」

 

「東亰? ああ、倶々楽(ぐぐら)屋か。 説明は一応聞いたけど……」

 

メイフォンを取り出し、裏返して裏面を見る。 正確にはその下にある基盤を……

 

「メイフォンの基部にはグリットと呼ばれる機構があり、そのグリットを異界素材を用いて開封・強化する事でソウルデヴァイスの潜在能力を高めることができる……まさかネメシスとディアドラグループが通じていたとは思ってもみなかったな」

 

「通じていたと言うより、ネメシスがサイフォンの設計図を故意に流しただけなんだけだね。 今になって分かるなんて……美由希のメイフォンにアプリが送信できた時に気付いておけばよかったよ」

 

「意外と分からないものなんだね……と、話は戻すけど。 ソウルデヴァイスを強化するために必要な異界素材って、レンヤは持ってるの?」

 

「10年以上貯め続けているのが倉庫で埃被ってるよ。 まあ、ここ最近研究のために使っているけど……今度、東亰に行ったらゾディアックに買い取ってもらおうかな?」

 

確かに異界素材とジェムはかなりあるし。 使い道がほとんどないのが倉庫にあるだけ……資金として売った方が活用できるな。

 

「っていうか、その素材でソウルデヴァイスを最大まで強化する気? ゲームだったらとんだ邪道だよ。 エレメントなら融通してもいいけど」

 

「うぐ……ま、まあ。 身の丈に合わないものをいきなり持っても意味はないし。 ゆっくり慣らしてから強化していくよ」

 

「それがいいよ」

 

それからデパートの屋上の隅ににあったゲート前に到着し、進入防止用の結界を解いて異界に入った。

 

そして数分後ーー

 

「はあはあ………あ、あれ……おっかしいなぁ……前はもっとこう……動けたのに……」

 

異界を出た俺達は、膝をついて息を上げている姉さんに疑問に思った。 というか、何もない所で転んだりソウルデヴァイスを手からすっぽ抜けたり……ドジも直ってなかったのかよ……

 

「戦い方、ソウルデヴァイスの扱い方は分かっていた。 けど最初よりは明らかに動きが悪いな」

 

「うーん、火事場の馬鹿力だったのかもしれないね。 でも美由希ならすぐに動けるようになるよ。 焦らず頑張ろう」

 

「う、うん……」

 

アリシアに回復魔法をかけてもらい、姉さんは少し落ち込みながらも頷いた。 ちょうどこの下にはフードコートもあり、姉さんを空いていたテーブルに座らせて飲み物を買いに行く。

 

『すみません、お茶をくださ……い?』

 

店の前でお茶を頼もうとした時、隣から全く同じセリフでお茶を頼む声がした。 視線を隣に向けると……そこには黒髪の少女、ミカヤ・シェベルがいた。

 

「えっと……あれ? あなたは……っ!」

 

「あ! すみません! お茶を2つお願いします! 大至急!!」

 

「は、はい!」

 

認識阻害で一瞬誰だか分からなかったが、ジッーと見つめられたおかげで気付かれ。 誤魔化すように大声でミカヤの文のお茶も買い、そそくさとその場を離れた。

 

「ふう……なんとかバレてないようだな」

 

「す、すみません、レンヤさん。 事情は知ってたんですが、つい……」

 

「構わないよ、結果的にバレなかったし」

 

「そうですか……それで、レンヤさんはどうしてここに?」

 

「ああ。 ちょっと姉にクラナガンを案内しているんだ」

 

詳しい事は省いてそれだけを言うと……ミカヤは驚きながらも目を輝やかせた。

 

「姉!? レンヤさん、姉さんがいるんですか!?」

 

「コ、コラ……! 静かに……!」

 

「す、すみません……あ、そう言えば前に言ってましたね。 私と同じ、剣の道を進んでいる姉がいると」

 

「今回はそれと少し違う事情でミッドチルダに来ていてな。 すぐそこにいるから紹介するよ」

 

「ほ、本当ですか……! ありがとうございます……!」

 

少し大声気味で頭を下げながらお礼を言うミカヤ。 それを苦笑しながらお茶を渡し、姉さんとアリシアがいる場所に戻ると……そこには誰もいなかった。 と、ちょうどそこにアリシアが戻ってきた。

 

「あれ? レンヤ、美由希は?」

 

「アリシア、どこ行ったかしらないのか?」

 

「うん。 ついさっきはやてから連絡が来てね。 美由希の件で聖王教会からソフィーが来てくれるみたい。 それで席を離れていたんだけど……」

 

辺りを見渡して姉さんを探そうとした時……デパート内が少し騒ついているのに気づいた。

 

「これは……トラブルが起きたのか?」

 

「え?」

 

「そうだね。 もしかしたら……」

 

ミカヤは何がなんだが理解出来ない中、アリシアと顔を見合わせて頷き……ミカヤを待機させて俺達は目的地に移動しながら状況を確認し、どうやら一階の広場で何が起きているらしい。 俺達は一度二階の吹き抜けで状況を見ようとした。

 

「ここだね。 うーん、人が多くて見えないよ」

 

「……あ、あれって……」

 

人だかりに隙間から中心を除くと……そこには女の子を背にして庇っている姉さんがいた。

 

「姉さん……」

 

「早速厄介ごとに巻き込まれているね。 レンヤ達家族ってトラブルに愛されてるの?」

 

「俺に聞くな……」

 

「ーーあんた達、言いがかりはよしなさいよ! 私は見てたわよ、この子に自分からぶつかって行くのを!」

 

「ああん!? こちとらダチが肩やっちまったんだ! どう落とし前つけてくれんだぁ!?」

 

「いてぇーよー……いてぇーよーー……」

 

……ずいぶん古典的な絡みだな。 と、思ったが、本当に痛がってるよ。 とにかくメガネを外して……跳躍。 二階から広場の中心に飛び降りると、そこでは姉さんとガラの悪い男4人が言い争っていた。

 

「(ん? あいつらの付けているブレスレット……)そこまで。 両者落ち着いてくれ」

 

「ああん!?」

 

「レンヤ!」

 

「っ……」

 

姉さんが庇っている子は俺を見ると姉さんの背に隠れてしまった。 チラッと見えたが、どうやら初等部の上学年くらいの年頃だな。 そんな小さい子に絡むなんて……

 

「事情は理解している。 これ以上騒動を起こすのなら連行せざる得なくなるが……どうする?」

 

「ああ、知るかよそんな事!」

 

「(やっぱり……)動くな……お前達はリベルテだな? 身柄を拘束させてもらう」

 

リベルテ……魔法を最強だと信仰しているような犯罪集団……彼らは基本的に魔法至上主義者だ。 簡単に言えば魔法が使える魔導師の中には魔法を使えない人達を見下し、そして魔法以外のどんな力をも格下として見る者達の事を意味する。 この傾向は犯罪組織が1番多いが、一般の魔導師や時空管理局にもいたりする。 昔から度々見たことのある光景だが……この白昼堂々ここまで主張しているのは初めてだ。 芝居で痛がっている男を観察すると……目の下にクマ、薬物の末期だな。 他も彼よりは軽症とはいえやってるな。

 

「レンヤ、大丈夫!?」

 

リベルテのことを姉さんに説明していると……上からアリシアが降りて来て、周りにシールドビットで囲み、周りの民間人に被害が出ないようにする。 すると奴らは銃型のデバイスを取り出し、銃口を向けてきた。 それを見た民間人は悲鳴を上げながら逃げて行く。

 

「はあ……やっぱり俺ってトラブルに愛されてるのかな……」

 

「さあね。 この程度のトラブルなんて気にしてられないし」

 

「そりゃそうか」

 

全く臆する事なくデバイスを起動し、左手に短刀3本を構える。 魔法も長刀も使わない……妄信的な頭に現実を教え込まないとな。

 

「ーー待って。 私がやる」

 

左手にメイフォンを持ちながら姉さんが前に出た。 その表情は変わらないが怒りに満ちている。

 

「そんな……そんな事だけで人の価値を決めるなんて……ふざけているのにも程がある! ここは非魔導師である私が制裁を下す!」

 

「美由希……」

 

気持ちは分からなくもない……だが、突然リベルテの4人は大笑いする者、嘲笑うかの様に鼻で笑う者など人それぞれだが、姉さんの言葉を馬鹿にする様に笑い出した。

 

「なんだこいつ、魔力を持ってねえのかよ!」

 

「てめぇなんかお呼びじゃないんだよ!」

 

「魔法も使えないクズに用はない。 さっさとそこをどけ!!」

 

「……はあ、話にならない」

 

姉さんは溜息をつきながらメガネを取り、ポケットにしまう。 そしてメイフォンを胸の前に持っていき、展開アプリを起動。 画面を横にフリックし……

 

「ソウルデヴァイス起動……斬り開け、アストラル・ソウル!」

 

右手に小太刀型のソウルデヴァイス……アストラル・ソウルを召喚して、握り締めた。 それを見てリベルテの奴らは驚愕し、一歩後ろに下がった。

 

「見た所、あなた達は下っ端だね。 叩いても埃は出ないと思うけど、知らしめてあげないとね……」

 

「ひ、怯むな! やっちまえ!!」

 

『うおおおおっ!!』

 

それを皮切りに一斉に引き金をひき、無数の魔力弾が襲いかかってきた。

 

「ーー遅い!」

 

姉さんはその一言でかき消え。 同様に一瞬で魔力もかき消えて……奴らの背後に姉さんが現れた。 次の瞬間、奴らの銃に線が走り……バラバラになって地に落ちた。

 

「御神流……薙旋(なぎつむじ)……」

 

静かに放った技の名を言い、流れる動作で小太刀を脇に佩刀した。 リベルテは少し時間を置いた後、無言で倒れた。

 

「あ……」

 

鞘がない事に気付き、姉さんは照れ臭そうに頭をかいた。 それにしてもあの動き……さっきとは別人だな。

 

『美由希って、スイッチの切り替えで結構変わるんだね?』

 

『ああ、あんまり推奨したくないが……やっぱり、兄さんに認められるているだけあって凄まじいな』

 

感情によって力が発揮される……現代の魔法でも感情の変化で多少は魔法の威力に変化はあるが、あそこまでの変化は考えられない。 ソウルデヴァイス……魂と結びついているだけあって感情による影響が大きいのか? そこでリベルテが視界に入り、推測はそこでやめて警備員を呼んだ。 奴らは逮捕されたが、リベルテの情報は得られないだろうな。 連行される中、姉さんは絡まれていた女の子と話していた。

 

「大丈夫だった? 怖い思いさせてごめんね」

 

「……いえ。 気にしないでください。 先にぶつかったのはこちらですから。 ……無駄に絡んできましたけど」

 

「そういえばどうやってぶつかったんだ? 相手、それなりに痛がっていたけど」

 

「はい。 あれです」

 

女の子が指差した方向に……台車の上に小型の白い冷蔵庫が置かれていた。

 

「……ディアドラグループの最新式。 ブレイカー撃たれても大丈夫がキャッチフレーズ……」

 

「ソアラ……何てもの作ったんだよ」

 

「お前も人の事言えないだろ」

 

毎度毎度変なものを作るアリシアにツッコミながら、女の子を見る。 髪は銀髪をポニーテールにし、服は年相応の可愛らしいもので……女の子はペコリと頭を下げた。

 

「……ありがとうございました。 このご恩は忘れません」

 

「ううん、気にしないでいいよ。 今度からは気をつけてね」

 

「はい……以後、気をつけます」

 

もう一度頭を下げた後、女の子は台車を押しながらデパートを後にした。 それと入れ替わって上からミカヤが降りてきた。

 

「レンヤさん! 大丈夫でしたか!?」

 

「大丈夫大丈夫。 頑張ったのは姉さんだからな」

 

「あ、そうでした。 それにしても……美由希さん! 凄まじいワザでした! さすがレンヤさんのお姉さんですね!」

 

「あ、あはは……悪い気はしないけど。 なんか複雑だね……」

 

褒められているが、何か複雑なのか姉さんは苦笑いをする。 ちょうどそこに警邏隊も到着し、事後処理を彼らに任せてデパートを出た。 ミカヤと別れ、車を停めた場所に向かうと……隣に駐車していた車にソフィーさんが寄りかかっていた。

 

「あれ、ソフィーさん? どうしてここに?」

 

「連絡しただろう。 適格者の件でそちらに向かうと。 こんな事態に巻き込まれているとは思ってもみなかったがな」

 

「あ、あはは……」

 

「レンヤ、この人は?」

 

「ああ、そうだった。 この人は聖王教会、教会騎士団の団長を務めているソフィー・ソーシェリーさん。 俺の先生でもあるんだ」

 

「昔の話だ。 さて、今回私が出向いたのには理由はお前達にこれを渡しに来たのだ」

 

ソフィーさんが乗って来た車の背後に周り、荷台を開けると……中には何かの機材が置かれていた。

 

「これは?」

 

「つい先日、聖霊教会を通じてネメシスから送られてものだ。 これでソウルデヴァイスを強化できるそうだ」

 

続いて、ソフィーさんが懐から記録媒体を取り出して渡した。

 

「その機材の使い方と、異界に関する必要最低限の情報、それとネメシスの連絡が入っている。 必要ない異界素材があったら売って欲しいそうだ」

 

「なるほど。 考えることは同じみたいですね」

 

聖王教会を経由すればわざわざ出向く手間が省けそうだ。 そう考えていると、ソフィーさんが姉さんの事を注意深く見ている。

 

「? な、なにか……?」

 

「いや。 姉がいると聞いてはいたが、中々面白い逸材だな。 もしよかったら騎士団に入ってみないか? 返事は六課のゴタゴタが終わった後でもいいが……どうだ?」

 

「う〜ん、そうですね〜………保留ってことで。 確かにここにいるキッカケはソウルデヴァイスのおかげなんだけど……この力を使って何をするのかってのは、まだ分かってないんだ。 管理局に行くにしろ、聖王教会に行くにしろ、まずはこの力を見極めて……私が進むべき道を見誤らないようにしないと」

 

自分の胸に手を当て、姉さんは強い意志を持った目でソフィーさんを見つめる。

 

「……そうか……レンヤ、とても良い姉を持ったな」

 

「はい。 自慢の姉です」

 

時々頼りないけど、子どもの頃から尊敬できる人格者だ。

 

「と、そうだ。 風の噂で聞いたのだが……お前達は学院を卒業する時、模擬戦をしたらしいな? 誰が勝ったのか、聞いてもいいか?」

 

「あ、それ私も気になる」

 

「ああ……それですか……」

 

「う〜〜ん……あれはね〜……」

 

俺とアリシアは揃って歯切れが悪くなる。

 

「別に負けたからといって責めはしない。 私はお前の師ではないからな」

 

「いえ、別にそういうわけでも負けて悔しいわけでもないんですよ。 あの模擬戦は俺達VII組の門出……悔いはありません」

 

「まあ、簡単に言うとね。 勝ったのは……はやてなんだよ」

 

「……何?」

 

「はやてちゃんが……皆に勝った?」

 

予想外だったのか、姉さんも含めて以外にもソフィーさんも驚いていた。

 

「正確に言えば勝利を横から掻っ攫って行ったんだよ。 模擬戦終盤、残りは俺、アリサ、なのは、ユエ、シェルティス、そしてはやての6人。 俺達は戦ってたんだけど……はやては隅に隠れていてな……」

 

「え……」

 

「残りが纏まった所をデアボリックエミッションで一掃……それで勝ったわけ。 はあ、とんだ狸だったわけだよ」

 

「……今に始まった事でもないけどな」

 

俺達は揃って溜息を吐いた。 別に反則でもないし、作戦と思えば正当性はあるのだが……

 

「ふむ、確かに騎士はやてならやりかねないな。 変な所で策士だからな」

 

「あはは、確かに」

 

その後苦笑いがしばらく続いたが、ソフィーさんが仕事が残っていたそうなので車に乗ってその場を去り。 俺達も頂いた機材を確認した後、六課に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日ーー

 

ミッドチルダ北部、廃棄都市の一角。

 

「ただいま帰った」

 

デパートで絡まれていた少女が冷蔵庫を引きながら、廃ビルにある一室に入った。 そこには1人の少年が読書をしていた。

 

「あ、お帰り。 大丈夫だった?」

 

「ええ、少しトラブルがありましたけど……何とかなりました」

 

少女は冷蔵庫に電源を入れながら答え、少年から貰ったかなり冷えた水を飲んだ。

 

「トラブルって……もしかして管理局にバレたの?」

 

「いえ、確かにあのリニアレールを確保しようとした時に現れた人物でしたが……私を知っている素ぶりはありませんでした。 問題はないと考えてもいいでしょう。 そちらの方はどうでしたか?」

 

「ああ、うん。 かなり強固なセキュリティだったけど、なんとか戸籍は偽装できそうだよ。 問題はまだまだ山積みだけど……第一歩としては上出来かな」

 

少年はズレたメガネを直し、テーブルに置かれていたノートパソコンと向かい合った。 そこに映っていたのは少年と少女の偽装された来歴が表示されていた。

 

「……偶然故意か、真偽の程はわかりませんけど。 この機会を逃せば私達はモルモットに逆戻りです。 それだけはイヤです」

 

「僕も同じだよ。 この力だって、本当は捨てたいけど……奴らから逃げ切るためには必要だ。 利用できるものは利用する……自由を掴み取る為にも!」

 

少年は固く拳を握り締め、少女は無言で頷く。 そして冷蔵庫が完全に稼働を開始すると少女は冷蔵庫を開け……中に入った。

 

「こうなると不便ですね。 冷却装置が機能してないのが」

 

「仕方ないさ。 谷川に落ちてそれだけで済んだのだから。 後の事は僕に任せて、しばらく休むといいよ」

 

「了解です。 休眠モードに移行します」

 

それを確認すると、少年は冷蔵庫を閉めた。

 

 



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153話

リィン以外のVII組メンバーが出て来ましたね。

エリオットがちょっとユーノに似てなくもないような……


 

 

6月16日。 ミッドチルダ、首都南東上空ーー

 

現在、はやて率いる機動六課メンバー、そして民間協力者である姉さんこと高町 美由希と共に、ヘリで新たな任務先へと移動中。 その中で、はやてが任務の概要の説明を始め、全員が真剣な面持ちとなる。

 

「ほんなら改めて、ここまでの流れと今日の任務のおさらいや」

 

パネルを操作しモニターを開き、これまでで入手した情報を表示される。

 

「これまで謎やったガジェットドローンの製作者、及びレリックの収集者が現状ではこの男……違法研究で広域指名手配されてる人物、次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの線を中心に捜査を進める」

 

空間ディスプレイが表示され、映像腰でもわかる異様な雰囲気を漂わせた1人の白衣を身に纏った男が映し出される。 隣にはこれまでスカリエッティが起こしたと思われる事件のデータもあった。

 

「こっちの捜査は、主に私が進めるんだけど……皆も一応覚えておいてね」

 

『はい!』

 

捕捉で説明するように話すフェイトに、フォワード陣は元気良く返事をする。 次にリインが前に出て、はやてに変わり任務先について説明する。

 

「で、今日これから向かう先はここ……ホテル・アグスタですよ」

 

「骨董美術品オークションの会場警護と人員警護。それが今日のお仕事ね」

 

リインの説明に、補足してなのはが説明を付け加える。

 

「取引許可が出ているロストロギアがいくつも出品されるので、その反応をレリックと誤認したガジェットが出てきちゃう可能性が高い……とのことで私達が、警備に呼ばれたです」

 

「この手の大型オークションは、密輸取引の隠れ蓑にもなるし、いろいろ油断は禁物だよ」

 

執務官としてこういったケースを多く見てきたフェイトが言う事からか、フォワード達は任務に対しての緊張を敷き直す。

 

「まあでも、黒の競売会(シュバルツオークション)よりはマシだろ。 適度な緊張感を持って励むように」

 

「確かに、アレと比べたら楽かもね」

 

俺の言葉に、すずかは苦笑しながら同意した。

 

「は、はい……」

 

「あの、黒の競売会とは?」

 

ティアナが疑問に思った事を早速聞いてきた。 まあ、話しても問題ないだろう。 アリサ達と顔を見合わせて頷き、説明を始めた。

 

「マフィア、フェノール商会が2年前まで続いていた闇オークションよ。 上流階級の御用達の裏の催し、扱いに困る曰く付きの物品を相手に押し付けることが最大の利点の競売会よ」

 

「議員や議長もそれに手を貸していてね。 上層部から圧力をかけられたせいで管理局も聖王教会も手出しできない……裏と言っておきながら結構堂々としていたオークションだったね」

 

「そ、そんな事がミッドチルダで起きてたなんて……」

 

「情報規制がかけられていたし、何より……私達が潜入捜査した時……そこでヴィヴィオちゃんを保護したんだよ」

 

『えっ……!?』

 

その事実に、スバル達4人は驚きの声を上げる。

 

「まあでも、ヴィヴィオの存在があったからこそ黒の競売会が潰れたと言ってもいい。 フェノールが人身売買の疑いを無罪にする代わりに俺達への手出しは出来なくなったからな」

 

「ん〜〜、あれ? 確かヴィヴィオって、あれ……どうなってるの?」

 

「んん?」

 

聞いていた話と噛み合わないとのか、スバルとエリオは頭をひねって考えている。

 

「……大方、ルーテシア辺りに聞いたんでしょう。 それ以上は特秘事項な上、複雑になっているからノーコメントよ」

 

「そ、そうですか……」

 

ティアナはそれ以上なにも聞かず、ソーマにフォローされるも照れ隠しに小突いていた。

 

「コホン……現場には昨夜から、シグナム副隊長とヴィータ副隊長、リインフォース・アインス准空尉他、数名の隊員が張ってくれてる」

 

はやてが咳払いをして話を戻し、警備状況を説明した。 警備は厳重に厳重を重ねている、並みの犯罪者なら潜り込む事すら困難だ。 まあ、並みの犯罪者なら……だが……

 

「私達は建物の中の警備に回るから、前線は副隊長の指示に従ってね」

 

『はい』

 

返事を返したフォワード陣。 その中でキャロが何かに気付き視線をそちらに向ける。

 

「あの、シャマル先生。さっきから気になってたんですけど……その箱って?」

 

その言葉を受けて、考えを一旦止めてシャマルの隣の座席へと視線を移す。 そこにはケースが8つあった。

 

「ん? ……あ、これ?……ふふ、はやてちゃん達のお仕事着♪」

 

キャロからの質問に、シャマルは笑みを浮かべて、楽しそうに返答した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタ。ロビーーー

 

そこでは、オークションに招待した客の受付を行っていた。 しかし、違うと分かっているとはいえ、やはり黒の競売会と比べてしまうな……

 

「いらっしゃいませ」

 

受付を行っていたホテルスタッフは、視界に新たな客が見えると、頭を下げた。 そんな彼の視界に入ったのは、オークションへの招待状ではなく……管理局員を示すIDカードだった。

 

「あっ……!」

 

受付係は驚愕の声と同時に、顔を上げた。

 

「こんにちは、機動六課です」

 

彼が目にしたのは、ドレス姿のはやて、フェイト、なのは、アリサ、すずか、アリシアの6人とスーツ姿の自分だった。

 

今回、警備の配置は主力部隊の新人達が外に展開。 隊長陣が内部から警備することになっている。 だが、隊長陣が着ているのはドレスやスーツである。

 

これは訳があり、ホテル・アグスタから管理局に警備の依頼があった際に指定されたのである。 ホテル内部、特にオークション参加者の目に入る場所を警備する場合は正装姿のみ受け付ける。

 

という訳で、久しぶりにスーツに袖を通したのだった。 ぱっと見、メガネもかけているので敏腕の社長に見えなくもない。 って、設定が黒の競売会と同じなような……

 

「ふう、久しぶりとはいえ。 慣れないものだな」

 

少し気疲れしながらネクタイを締め直す。 子どもの頃、アリサに誘われたパーティなどで着た時はそこまで気にしなかったが。 中学に上がった頃自分が聖王だと分かった時から、パーティなどの催しで着ると違和感が出てしまった。

 

「レンヤくん、似合っとるで」

 

「うん、スーツ姿がかなり似合ってるよ」

 

似合っているかどうか少し疑問に思っていたが、はやてとフェイトは誉めてくれた。

 

「ありがとう、はやてもフェイトもよく似合っているよ」

 

思った事を口にし、はやてとフェイトのドレス姿を誉めた。こっちも久しぶりに見るドレス姿。 デザインはそれぞれではあるが、今のはやて達と相まって魅力を十二分に引き立てており。 更に6人とも淡く化粧をしているので、より一層大人っぽさが引き立ち、魅力を倍増させている。

 

「あ、ありがとうな……///」

 

「ありがとう……///」

 

誉められた2人は、顔を赤くして俯きながら返答した。 他の4人もドレスの感想を言うと顔を赤くして警備に向かったんだけどな。 それから警備を開始し、各自バラバラにホテル内を散った。

 

「ーーと言っても、オークション開始3時間前……特に怪しいところはないが……これって嵐の前の静けさなのかなぁ?」

 

《理解しかねます》

 

今回はスーツということで左胸に飾りとして付けているレゾナンスアークに聞いてみるが、長年の付き合いだというのに素っ気ない答えが返ってきた。

 

「あれ? レンヤ?」

 

「ユーノ、久しぶりだな」

 

オークション会場を回っていると、偶然にもユーノとロッサ、そしてティーダさんと出くわした。

 

「やっぱり……久しぶりだね。 さっきフェイトを見かけたと思ったんだけど……六課もここの警備を?」

 

「ああ、ロストロギアを扱っている競売会だからな、念のためにだ」

 

「なるほど、それなら安心してオークションに臨めそうですね」

 

「そこまで期待されてもな……ま、この競売会に黒いものがない事を祈るよ」

 

「レ、レンヤ、顔が怖いよ……」

 

割と本気でそう言い。 ユーノが引く中、ティーダさんの方を向いた。

 

「ティーダさんもここの警備を? ちょっと管轄から離れてませんか?」

 

「まあな。 ちょっとクロノにこいつらの面倒を任されちまってな。 不本意だがこうしてここにいるわけだ」

 

「僕はあんな奴の頼みなんかこれっぽっちも嬉しくないですから」

 

「はは、相変わらずだな。 ユーノとクロノは」

 

「見ていて飽きないよね」

 

うんうんと、ロッサとともに頷く。 と、そこでティーダさんが肩に手を置いた。

 

「さて、レンヤ……不出来な妹だが、よろしく頼んだぞ。 あいつは自分の力を過小評価する節があるからな、何事もなければいいんだが……」

 

「それは……確かに。 自分の力を過剰評価するよりはマシですけど、アレはアレで問題ですね」

 

ティアナは自信満々に自身の力量を図らない馬鹿ではなく、自身の力を下に見過ぎている馬鹿である。 だがそれでも事件が起きた時、過程は違えど結果は同じになる事が多い。 例えば……カートリッジロードの過剰使用。 前者はこれぐらい簡単に出来ると思い、後者これぐらいじゃないとダメだと思い……力量を理解せず自爆、最悪味方まで……

 

「まあ、そうならないためにもなのはとアリサが指導してます。 妹さんはどうか任せてください」

 

「ふ、期待してんぜ」

 

「レンヤ……」

 

無意識に胸に手を当てた事にユーノが気付いた。 少し気を使わせてしまったようだな……よし、ここはあれだな。

 

「そうだユーノ、ヴィータにはもう会ったか?」

 

「え!? そ、それは……」

 

「もう行くとこまで行ったのかな?」

 

「ほう、最近の若者は進んでんなぁ」

 

「え、まさか本当に?」

 

「ち、違います!! 皆してからかわないでよ!!」

 

ユーノの叫びの弁明を、俺は笑いながら返し。 逃げるようにその場を後にし警備を続行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達がホテル内の警備をしている中……外では残りの六課のメンバーが警備に当たっていた。

 

『でも今日は八神部隊長の守護騎士団、全員集合かぁー』

 

そんな中……暇だったのか、スバルが別の場所で警備をしているティアナに念話を繋げて、雑談していた。

 

『そうね……スバルは結構詳しいわよね? 八神部隊長や副隊長達の事』

 

周辺への警戒を怠らずに、ティアナはスバルに問いかけた。

 

『うーん、父さんと母さんやギン姉から聞いたことぐらいだけど。 八神部隊長が使っているデバイスが魔導書型で、それの名前が夜天の書って事。 副隊長達とシャマル先生、リンス先生、ザフィーラは八神部隊長個人が保有しついる特別戦力だって事。 で、それにリイン曹長を合わせて、7人揃えば無敵の戦力って事……まあ、八神部隊長達の詳しい実状とか能力の詳細は特秘事項だから、私も詳しくは知らないけどね』

 

聞いた話と言いながらも、かなり詳しくスバルは説明した。

 

『レアスキル持ちは皆そうよね……』

 

『ティア、何か気になるの?』

 

普段と違うティアナの様子に気付いたスバルが反応する。

 

『別に……』

 

『そう……じゃあ、また後でね』

 

スバルは深く詮索せずに、警備を再開した。 そんな中、ティアナは六課メンバーを思い返していた。

 

(六課の戦力は、無敵を通り越して明らかに異常だ……八神部隊長がどんな裏技を使ったのか……いや、確か神崎隊長がレジアス中将に無理を言ったとも聞いたわね。 それでも、隊長格全員がオーバーSランク、副隊長でもオーバーSからニアSランク……他の部隊員達だって……前線から管制官まで未来のエリート達ばっかり……あの歳でもうBランクを取ってるエリオとレアで強力な竜召喚士のキャロは、2人共フェイトさんの秘蔵っ子。 危なっかしくはあっても、潜在能力と可能性の塊で優しい家族のバックアップもあるスバル)

 

ティアナはそこで一旦思考を止めて、視線を横に向けた。 そこには、ソーマとサーシャ、ルーテシアがいた。

 

(極めつけがあの3人……ソーマは剣技は神崎隊長より劣っているけど、高密度の魔力……剄を操り、フォワードの中じゃトップの実力。 しかも短期間で剄の力加減を習得して、ここ最近ダイトを破壊してない。 サーシャは戦闘はもちろん、特出すべきは技術者としての才能……すでに私達のデバイスのプログラムを組んでいるほどの天才。 ルーテシアはキャロと同じだけど、特殊なシステムを使った戦闘は驚異的。 そしてあの作意めいた指揮は私すら越える。 これが異界対策課の……怪異と戦い続けた者の実力)

 

ついこの間の任務で初めて戦ったグリード……あれを基準としてしまって自信を喪失する。 ティアナは少し歩き、付近で警備をしていた美由希を見た。

 

(そして民間協力者である美由希さん。 ソウルデヴァイスを操る適格者という存在。 初めての戦闘であのグリードを越える怪異を圧倒し、その後の戦闘訓練でも私をあっさり越えてしまっている……ホント、自信なくすわね)

 

なのはの訓練は力が付いているかどうか実感できず。 さらに同じ2丁拳銃を扱うアリシアに銃を教わっているからか、ティアナは今までにない深い劣等感と、より一層力を欲するようになった。 ティアナの目には、隊長陣がどんな事でも出来る超人に見えていた。 そこでティアナは俯いたが、ハッとなってすぐに頭を振った。

 

(だけど、そんなの関係ない! 私は……立ち止まる訳にはいかないんだ!)

 

目を閉じ、抱いた劣等感を振り払い。 ティアナは意気込むと、警備に意識を集中させた。 自分の力を証明する……ティアナは意志を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルから離れた場所にあるーー静寂に包まれる森から、時代錯誤の鎧と仮面を着けた女性と水色の髪の少女が六課が警備中のホテルを眺めていた。

 

「……中々の逸材が揃っていますね。 刃が交れないのが残念に思います」

 

鎧の女性は本心で残念がり、隣にいた少女がジッとホテルを見つめている事に気付いた。

 

「何か気になる事でも?」

 

「……………(コクン)」

 

少女無言で頷くと、そこへ空色のハチドリが少女の方へ飛んで来た。 ハチドリは少女の前でホバリング、ピィピィと鳴きながら何かを伝える。

 

「……ドクターの傀儡が、近付いて来ています」

 

「ーーマスター」

 

そのとき、背後に頭から爪先まで甲冑を着た青年が突然現れ、マスターと呼ばれる女性の前に跪いた。

 

「このような戯れ、いつまでお続けになられるつもりですか?」

 

「……戯れ、とは。 一体どこからどこまでの事ですか?」

 

「全て、です。 マスターの目的は重々承知しています。 しかし……その過程であの様な男の力を借りる必要があるのでしょうか。 諸悪の根源はほんの一部……その一部を刈り取るために無垢な民を戦火に落とす事は信義に反します」

 

青年の言動に、マスターに固い忠誠を誓っているのが分かる。 だが、マスターの命に何処までも従いつつも、マスター間違いを正すという一つの忠誠の形も持ち合わせている。 騎士の鏡のような青年騎士だった。

 

「……貴殿の言い分は最もです。 既にあの男によってこの子が犠牲となってしまいました」

 

女性は膝をついて少女と視線を合わせた。 その見つめる少女の目は光を失っており、視線の先は女性ではなく虚空を見つめているようだ。 女性は手甲を着けた手で少女の頰を優しく撫でる。

 

「ですが……既に賽は投げられました。これは止める事は私達には不可能……可能性があるとすれば……」

 

女性は立ち上がり、ホテルの方を向いた。 その瞳に捉えているのは、一度刃を交わした人物がいる起動六課。

 

「ーー任を与えます。 彼らの雛鳥を試してみなさい……この先、我らの壁となれるかどうかを、貴方達で確かめるのです」

 

「はっ!」

 

次の瞬間……青年の背後に、細部は違うものの同種の甲冑を着た3人が現れた。 1人は戦鎌(ウォーサイズ)。 1人はデュエリングシールド。 1人は二刀のソードブレイカーと……それぞれの手に、もしくは装備していた。 そして跪いていた青年は立ち上がり、腰に佩ていた剣……ロングソードを抜刀し、目の前に掲げた。

 

「我ら……騎陣隊(きじんたい)にお任せください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オークション開幕数分前ーー

 

ホテルの屋上で周囲を警戒していたシャマルのデバイス……クラールヴィントに未確認物体の反応が検知される。

 

「クラールヴィントのセンサーに反応……!? シャーリー!」

 

『はい!……来た来た、来ましたよ!』

 

『ガジェット・ドローン陸戦Ⅰ型、機影60、90……』

 

『陸戦Ⅱ型、2、4、8……』

 

応答するシャーリーに続き、アルトとルキノが状況を報告する。

 

「前線各員へ。 状況は広域防御戦です」

 

「ロングアーチ01の総合管制と合わせた……現場はシャマルとリィンフォース・アインスが取る」

 

『はい!』

 

リンスとシャマルの指揮の元、機動六課前線部隊はガジェットからホテル防衛の為、迎撃を開始された。

 

時は同じく、ホテル内会場外で警備についていた俺とはやては、オペレーター陣のガジェット襲撃の報告を受け、予想通りの展開に警戒を改め直す。

 

「フォワード達が迎撃に、動いてるみたいだな」

 

「シグナムとヴィータにザフィーラもや。 今頃フォワードの前に出てガジェットを叩いてる頃やろうな」

 

そう言ってる側から、ホテルから見える森1ヶ所から爆発が起こる。

 

「……派手に、やってるな」

 

「あのくらい序の口やろ。 レンヤ君もそう言うワリには、派手な戦い方やと思うよ」

 

「そ、そうか?」

 

思い返しても身に覚えはない。 せいぜい緩急がついた高速戦闘での立ち回りや付近を更地にする程度や敵を無双みたいに倒すぐらいだけど……

 

「……いまの所、私達が出る幕はなさそうやなあ」

 

「ああ……だが気は抜けない。 こういうのは常にイレギュラーがつきものだ」

 

防衛ラインを突破され、新人達がピンチになった場合は勿論出るが、そうならないなら、新人達の成長を確かめる意味でも、出来れば手は出したくはない。

 

「フェイトちゃん?」

 

そこで、フェイトの名を1人呟くはやて。 どうやらフェイトと念話で状況を報告しているようだ。

 

「フェイトからか?」

 

「うん。 なのはちゃんとフェイトちゃんが、主催者に外の状況を伝えたら……オークションの中止は困るから時間を遅らせて様子を見るって」

 

「妥当な判断だな。 今避難させるとガジェットの攻撃から来客を守りながら避難する事になる」

 

その後一旦皆と合流し、事前に確認しておいたオークションに出品される品物が保管されている部屋に向かった。 基本的に出品物が置かれている部屋はIDを見せればすんなり通してもらい、出品物も見せてもらった。 だが、1箇所だけ不審な場所があった。

 

「関係者以外立ち入り禁止……か」

 

「リインが調べてくれた情報では、この先はただの倉庫のはずやで?」

 

「倉庫の中身も……被災時に使われる食料や寝具みたいだけど」

 

「な〜んか、こういう時って何かあるんだよねぇ」

 

「姉さん、そんな適当な……」

 

「そうでもないわよ。 アリシアの勘は結構当たるし、確認する価値はあるわ」

 

「……行こう」

 

バリケードを越える。 暫く歩くと、1つの扉があった。 まるで後付けしたかのように、この会場の雰囲気とは不釣り合いなほど厳重で武骨なロックが付けられた扉が。

 

「いかにもって感じやな……」

 

「電子ロック……私の魔法ならロックだけ壊せるかも」

 

「いや、無理矢理破壊するのはマズイ」

 

俺はフェイトがロックに手を伸ばそうとするのを止める。 確かにフェイトの電気の魔力変換資質なら破壊は可能だが……こう言ったロックには外部からの力に反応する機能がある可能性もある。

 

「すずか、お願いできるか?」

 

「うん。 開かない扉は……開けるのみ♪」

 

持っていたバックからカードを取り出すと。 カードリーダーな差し込み、展開されたキーボードを弾き始め……数秒でロックが解除された。

 

「よし、開いたよ」

 

「さすがすずか、頼りになる」

 

「えへへ……そうかな?」

 

褒めると頰に手を当てて照れるすずか。 ロックが解除された事ですドアノブに手をかけると……ガチャガチャと音がするだけで開かなかった。

 

「…………………」

 

「……キーロックもあったようだね」

 

「仕方ない。 はやて、ピッキング対策の研修は受けてるよな?」

 

「え!? も、もちろんや」

 

「なんでそこで驚くの?」

 

少し不安を覚えるなのはだが……

 

「大丈夫だ。 俺も自信がない」

 

「ええっ……!?」

 

「事実、以前のトランクならまだしもこのドアロックだ。 俺も昔受けた知識も曖昧だし、手伝ってくれるか?」

 

「も、もちろんや」

 

俺は伊達メガネを外し、携帯しているツールボックスからピッキング用のツールを取り出した。 ツールを鍵穴に入れ、感覚通りにツールをカチャカチャと動かし始める。

 

「あ、そこはこうとちゃうん?」

 

「そうか? ……あ、そうみたいだ。 やっぱりはやてが居てくれて助かった」

 

「ふふん〜、そうやろ」

 

順調にピッキングが進み、はやてと一緒に鍵穴を覗き込む。 そうなると必然的に顔が近付いてしまい、隣1cmにはやての顔がある。 しかもいつもと違って髪を結い上げて薄く化粧もしており……かなり気恥ずかしい。

 

(こっ、これは……! 近い、近いんよ! でも、真剣な表情のレンヤ君をこんな至近距離で……あ、少し照れとる。 ふふ、可愛ええなぁ♪)

 

(むう……)

 

(……羨ましい……)

 

(ピッキング研修、受けとけばよかった……)

 

(はやてめ、こんな時に一歩リードしてる……)

 

(はやてちゃん、ズルい……)

 

(………………………)

 

……なんか、後ろから無言の視線が突き刺さる。 はやては得意げな顔をしてどこ吹く風のように受け流すが、ピッキング中で手元が狂ってはいけないのにこのプレッシャーはキツい。

 

カチャン……

 

「ふう……」

 

「やったな、レンヤ君」

 

扉の鍵を開き、色んな意味で出た汗を拭い、息を吐いて脱力する。 だが、今もなお視線が突き刺さる。 ここはどうにかして空気を変えないと……俺はなのは達をジーっと見つめた。

 

「な、なに?」

 

「どうしたの、レン君?」

 

「……うん。 やっぱり6人とも綺麗だとても良く似合っている」

 

「なっ!?」

 

突然の発言に驚くと……ボンっと音を立てて6人の顔が赤く染まった。

 

「あ、あの、その……ありがとう……///」

 

「いきなりそう言われると照れちゃうよ……でも、ありがとう///」

 

「ホンマはわざとちゃうやろな? まあ、ありがとさん///」

 

「も、もう、レンヤ君たら……///」

 

「こんな時になに言ってんのよ///」

 

「えへへ……でもありがと、レンヤ///」

 

似合っているのは本当だし、素直な感想を述べたが……ちょっと良心にくる。 兎にも角にも本題の部屋に入ることにする。

 

部屋に入ると、色々な品物が置かれていた。その中には色んな骨董品が数多くあった。 アリサがデータと照らし合わせると……どうやら違法品の品々だったようだ。 さて、後は証拠と一緒に、出品者を捕えるだけか…

 

「誰だ!?」

 

『!』

 

俺達は一斉に扉の方向を向く。 そこには関係者であろうガラの悪い男が4人いた。 男達は得物を抜こうとスーツの中に手を伸ばす。 だが、その前に……

 

「はぁっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

「ふっ!」

 

「かっ……」

 

「はっ……!」

 

「ぐっ……」

 

「ほいっと」

 

「ぐほっ!?」

 

俺達は一気に相手の懐に入り込み、俺は1人目をアッパーで。 フェイトは2人目を飛び上がって回し蹴りで。 アリサは3人目の胸ぐらを掴んで背負い投げ。 アリシアは4人目の腹を掌底を撃ち込み気絶させた。

 

「ふえ〜……さすが皆、すごいなぁ」

 

「真似できひん早業やな」

 

「賞賛は後……来るよ!」

 

すずかが入り口を睨んでそう言った。どうやら気付かれてしまったようだな……ん? これは……

 

「あれ? この人達……フェノール残党じゃない?」

 

「え……あ、ホントだ。 この人達フェノール商会の……」

 

「カクラフ会長が逮捕されてなお、こんな事から足を洗えないなんて……」

 

意外な事実だが今は放っておき。 すぐさま廊下に出ると、10数名の男達がやってきた。 どうやら男達もフェノールのようで……奴らは懐に手を入れ、そこから拳銃を取り出した。 質量兵器の拳銃……だが、そんなものを突き付けられて怯む人物はこの中にいない。

 

「はっ!」

 

《プロテクションEX》

 

発砲と同時になのはが前に出て、通路を埋めるようにプロテクションが張られ銃撃から身を守る。

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《タクティカルビット、ソードモード》

 

続いてアリシアがソードビットを飛ばし、元マフィアの拳銃を斬り落とす。

 

「狙い撃つよ」

 

《スナイプフォーム》

 

すずかがスノーホワイトを狙撃銃に変形させ、男達を撃ち抜いて行き……

 

「アリサ!」

 

「分かってるわよ!」

 

アリサと共に一瞬で接近し、徒手格闘で無力化していく。

 

「はい、そこまでや」

 

逃走を図ろうとした者ははやてが立方体の魔力結界で拘束した。 残りの無力化した男達はフェイトが拘束していく。

 

「これで……よしっと。 なんとかなったね」

 

「ーー連絡しておいたよ。 オークション開始前に抑えられてよかったよ」

 

「とはいえ、まだまだ敵は残っているんだけど……シグナム達に任せるとしましょう」

 

その後、警備をしていた警備隊員数名が到着し、事後処理を始めた。 これが終ったら、また会場での警備に戻ることになるだろう。

 

会場に戻る途中、窓の外……遠くの方から爆発音が聞こえてきた。 どうやら予想通り、ガジェット達が攻めて来たようだ。 一度シャマルと連絡を取り、現段階では問題がないようで。 一度は全員で会場の警備へと戻ったが、気になる事があり、少し時間を置いてはやて達に一言断ってから会場を後にした。 会場には6人に加え、六課以外の警備の人間もいる……余程の事態がない限り問題ないだろう。 俺は先程の倉庫だ見つけた資料を取り出した。

 

「……競売会の出品物じゃない、おそらく密輸品のリスト。 探しださないと」

 

こういう場合、1番怪しいのは地下駐車場。 密輸品ならば安易に持ち運べない……持ち込みと受け渡しが同時に可能にするトラックなどの搬入が予想される。 地下駐車場に到着し、徘徊していた警備員に断りを入れて捜索を開始……一台の身元不明のトラックを発見した。

 

「これか、密輸品が乗せてあるトラックは」

 

《推理通りですね》

 

「ただの推測だ。 さて、中身は……」

 

荷台を開けると、中には木箱が積まれていた。 中身は分からないが、リストに載っていた項目数を考えれば全て密輸品だと思ってもいいだろう。

 

「よし、警備員に連絡をーー」

 

「させると思いますか?」

 

突如、頭上から声が降ってきた。 見上げる前にその場から跳びのき……短刀1本だけを展開して構える。 すると、トラックの屋根から甲冑を纏った人物が降りてきた。

 

「お前は……」

 

「初めまして、蒼の羅刹。 私は騎神隊の隊長を勤めている、ラドム……円環のラドムと言います。 以後見知り起きを」

 

騎士らしく礼をする人物は、声からして青年……もしくは同年代の男だと思われる。 そして、あの全身に着込んでいる甲冑は……

 

「アンタ……もしかしてフェローの?」

 

「……まさか、私を見ただけどそこに辿り着くとは。 マスターが一目置かれるわけです。 その慧眼、誠に見事」

 

……なんか調子狂うな。 明らかにこの状況って敵対してるんだよな? フェローのように高尚な精神を持ち合わせているんだろうが……やはりジェイルと結び付けるには綺麗すぎる。

 

「D∵G教団がアンタ達の傀儡組織だったとしても……今更ここに出てきた理由はなんだ?」

 

「……やはり素晴らしい。 そこまで見抜かれていたとは……しかし、その問いにはお答えできません」

 

その返答と同時に、ラドムは剣を抜いた。 どうやらやる気みたいだな……長刀とバリアジャケットも展開し、左に逆手の短刀、右に長刀を構える。

 

「……………………」

 

無言の睨み合いが続く中……無動作で跳び出し先に仕掛けた。 様子見の一閃、ラドムは難なく受け止め鍔迫り合いになる。

 

「っ……片手でこの力。 やりますね」

 

「よく言う。 あっさり止めておいて」

 

力を込め、短刀を振るい。 トラックから距離を取らせようした時……刀が絡め取られ、視界が反転した。 投げられた……!?

 

「くっ……」

 

空中で受け身を取り、ラドムを見据える。 今奴は刀身を握って棒術のように捌き、俺を投げ飛ばした。 奴の剣は見た目はロングソード……しかし両側の樋の部分が内側に弧を描いており、そこだけ刀身が狭い。

 

「ハーフソードか」

 

「ご名答。 剣身を持つことでコンパクトな立ち回りが可能なロングソード」

 

「しかし、いくら手甲をしてるとはいえ。 刀身を持つとはな……サーシャで見慣れていたとはいえ、他にやる奴がいるとはな」

 

「サーシャ……ああ、あの円月刀使いですか。 彼女を含め、あなたの育てている雛鳥は我がマスターが評価する逸材ぞろいでした。 ただ……」

 

ラドムは肩を落とし、ため息をついた。

 

「1人、心底落胆する人物もいましたが」

 

「っ!」

 

誰とは聞くつもりはない。 一定の距離から斬り合い、ラドムは刀身を掴んで棒術のように立ち回り……剣戟を防ぐ。 だが、棒術の腕はなのはより下だ!

 

「はあっ!」

 

「くっ!」

 

ハーフソードを弾き飛ばし、ラドムの手から飛ばした。 すぐさま懐に入ろうとすると……ラドムはハーフソードが完全に飛ぶ前に剣先で持ち。 そのまま振り抜いた。

 

「ぐうっ……!!」

 

迫ってきた柄と鍔をすぐに反応して受け止めたが……まるでヴィータの一撃のような重さで、吹き飛んだしまい壁に衝突してしまった。

 

「素晴らしい反応です。 今のを完全に防ぐとは……アバラの一本は貰いたいところでした」

 

「痛っつ……殺し打ち、モルトシュラークか」

 

剣を鈍器に見立てた技……どうやら奴は騎士でありながら、戦場を生き抜く戦士でもあるようだ。 だが……こっちもタダでやられるわけない。

 

「っ……完全に回避したと思いましたが……」

 

ラドムはよろけ、脇腹を抑えた。 あの一瞬の間に短刀で二撃撃ち込み、続いてモルトシュラークを防いだのだ。

 

「………ここまでにしましょう。 今回は痛み分けで手を打ちませんか?」

 

「何を馬鹿なことを。 お互いダメージはあるものの、明確な損傷はアンタだけだ。 それに、襲撃者と取引するつもりはないし、逃すわけもない」

 

「ふふ、でしょうね」

 

ラドムは脇腹から手を離し、視線を横に向けた。 その先には先程のトラックがあり……中の木箱の1つが破壊され、中身が無くなっていた。

 

「っ! 貴様……!」

 

「これで痛み分けにしましょう。 ですが、私の負けは必然……次はあなたからこの手で勝利を勝ち取ります」

 

拳を固く握り締めて目の前に掲げ、ラドムは見たことない転送魔法で転移して行った。

 

「……!」

 

すぐに転移した地点に向かい、残っている残留魔力を調べる。 この深緑色の魔力光にこの感じ……

 

「……クレフ・クロニクル」

 

あの子もこの付近にいたのか? ガジェットも現れているから、この手口は十中八九ジェイルの仕業。 だがここにレリックはない……奪って行ったのは密輸品の1つ。 レリックとは別の研究に必要なものだったのか?

 

「ふう……ダメだ。 これ以上は深読みしすぎる」

 

静かに頭を振り、思考を止める。 この場での推測はこれで限界だろ、他の戦闘報告も考慮して検討するべきだ。 一度なのは達と合流しないと。 痛みを感じさせずに立ち上がり、すでに開始されたオークション会場に向かった。

 

 

 



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154話

 

 

オークション開始前。 ホテル・アグスタ周辺ーー

 

ホテル・アグスタをガジェットから防衛する前線部隊。 ヴィータがグラーフアイゼンで打ち出した鉄球はAMFを物ともせずガジェットⅠ型を破壊し。 シグナムの攻撃を受け止めようとしたガジェットⅡ型は、迫るアームごとレヴァンティンに真っ二つに斬り裂かれ、大型拳銃から放たれた大型の魔力弾で残りのガジェットを一掃する。 ザフィーラはⅠ型から放たれるレーザーを、ザフィーラは不動のまま防ぎ、勇ましい雄叫びと同時に地中から魔力の針が出現し、Ⅰ型を串刺しにする。 そして身の丈程ある太刀を出現させて咥えると、そのままガジェットを斬り裂いた。

 

フォワード達は先行して戦っているヴォルケンリッター達の活躍を見て、驚かずにはいられなかった。

 

「副隊長とザフィーラ、すご~い!」

 

「さすがはベルカの騎士。 レンヤさん達と全然引けを取ってない」

 

「これで……能力リミッター付き……」

 

スバルは純粋に、ソーマは賞賛してヴォルケンリッターの戦いに驚いているようだが、ティアナは何か他の意味もあるようだった。

 

このまま行けば、ヴォルケンリッターだけで状況を終了させる事も可能だろう。

 

『山岳方面より、新たなガジェットが接近中!』

 

ロングアーチから、敵の増援の報告が入る。 しかもその場所は、シグナム達が戦っている場所とはホテルを挟んで正反対。 この指示はフォワード陣が受け持つことになった。

 

『フォワード陣はガジェットの迎撃に向かってください』

 

『了解!』

 

ソーマ達は迷いなく返答し、現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルからやや離れた森の中で、甲冑の女性……フェローと水色の髪の少女……クレフが戦闘を眺めていた。 そこへ、ある人物から通信が入る。 フェローは通信者の顔を見た瞬間、仮面に隠された瞳が僅かに動く。

 

『ご機嫌よう。 騎士フェロー、クレフ』

 

「……ご機嫌よう……ドクタースカリエッティ……」

 

「……何用ですか?」

 

クレフは通信者のスカリエッティへ無表情で挨拶を返すが、フェローは不快そうにスカリエッティを仮面越しで睨む。

 

『冷たいねぇ……近くで状況を見ているんだろう? あのホテルにレリックはなさそうなんだが……実験材料として興味深い骨董が1つあるんだ。 少し協力してはくれないかね?

君達なら、実に造作もない事の筈なんだが……』

 

「お断りします……レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはず」

 

『そう言う割には、君の騎士達が出張っているようだけど?』

 

「……………………」

 

スカリエッティの頼みを即座に断るが、行動が監視されていたようで、それ以上反論ができなかった。 だが特に表情を変える事なくスカリエッティは、クレフの方に視線を移す。

 

『クレフはどうだい? 頼まれてはくれないかな?』

 

「……了承しました。 ドクタースカリエッティ」

 

『優しいな……ありがとう。 今度ぜひ、お茶とお菓子を奢らせてくれ。 君のガントレットに私が欲しい物のデータを送ったよ』

 

その言葉と同時に、クレフの左腕に装着していた緑色のガントレットの起動ボタンが点滅、データが転送された。

 

「……受け取りました……失礼します、ドクタースカリエッティ。 朗報をご期待ください」

 

『ああ、それではごきげんよう』

 

通信を切り、クレフは魔法を行使するためコートを脱ぎ捨てた。

 

「……良いのですか?」

 

「はい」

 

「…………………」

 

即答して頷くクレフ。 そこに彼女の意志がない事は、フェローも承知だが……彼女にはどうする事も出来なかった。 クレフは足元に召喚のミッド式とベルカ式が複合したような魔法陣を出現させる。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット……チャージオン」

 

ガントレットを起動し、続けて手を横に突き出した。

 

「来て……おいで……七色の翼を広げ、かの者に災厄を……」

 

次の瞬間、クレフの隣に孔雀が現れた。 深緑色の翼と七色の飾り羽を有した孔雀が。 クレフは孔雀の頭をひと撫ですると、カードを取り出した。

 

「キランディ……お願い……」

 

「クエー!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動……ウイングインターフェイス」

 

カードをガントレットに差入れ、能力が発動……孔雀は鳴きながら翼と飾り羽を広げ、飾り羽が飛び散り、ホテル方面へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマ達フォワード陣がホテル周辺で警戒を敷いていた時……キャロのケリュケイオンと、ルーテシアのアスクレピオスが反応を示した。

 

「あっ!?」

 

「これは……!」

 

「キャロ、ルーテシア、どうしたの?」

 

「近くで、誰かが召喚を使ってる」

 

「この感じ……あの子ね……」

 

エリオの問いに答えるキャロ。 ルーテシアは召喚反応から発動者を予測する。 それとほぼ同時に、現場指揮担当のシャマルから通信が入る。

 

『クラールヴィントのセンサーにも反応! だけど、この魔力反応って……』

 

『お、大きい……』

 

シャマルの通信に管制のシャーリーも入る。 また魔力反応を探知して直ぐに、ガジェットの動きが急激に変わり状況が変わる。 動きが変わったガジェットはシグナム達の攻撃にすら対応しはじめた事で、副隊長陣もガジェットの対応を状況に適したものへと移行せざるおえなくなった。

 

『ザフィーラはシグナムと合流して』

 

『心得た』

 

念話で戦術の変更を確認し、副隊長陣はガジェット迎撃を再開する。

 

そしてフェザーズとスターズ、ライトニングは合流し、ホテル正面付近で警戒に当たっていた。 そんな中、キャロとルーテシアのデバイスが再び反応をしめす。

 

「!? 遠隔召喚……!」

 

「来るわよ!」

 

次の瞬間、4つの深緑色の召喚魔法陣が地面に展開される。そして、そこから現われたのは30機以上のガジェット。

 

「あれって、召喚魔法陣!?」

 

「召喚ってこんなこともできるの!?」

 

「うわぁ〜……魔法ってなんでもあり?」

 

「優れた召喚師は、転送魔法のエキスパートでもあるんです」

 

現れた召喚魔法陣に動揺を隠せないエリオとスバルと美由希に、キャロも驚きながらも解説をする。

 

「解析…………近いわね。 少なくとも術者は近辺に潜んでいるはずよ」

 

「なんでもいいわ、迎撃行くわよ!」

 

『おおっ!!』

 

ティアナの指示で、6人は臨戦態勢に入る。

しかし、最初は良かったものの……途中からガジェットが訓練のシュミレーターのものとは比べものにならない動きをし、ことごとく攻撃が回避されてしまう。 かろうじて当たった魔力弾もAMFが強化されているのか、大したダメージを与える事はできなかった。

 

『レーダーに反応! 数は3……でも、この反応はガジェットじゃない?』

 

その時、ロングアーチからそのような報告が来た。 次の瞬間、木々の間から何かがスバルに向かって飛来してきた。

 

「ぐっ!?」

 

それをとっさに肩で受け、フィールド系の防御魔法と併用して衝撃を半減以下になるようにした。 スバルはすぐさま体勢を整え、飛来して来た物体を確認すると……それは人1人が入るくらいの大きさの盾だった。

 

その盾は独りでに飛んできた木々の間へと戻っていき、その先にいた何者かが盾を掴んだ。

 

「誰っ!?」

 

「姿を見せなさい!」

 

ソーマとサーシャが警戒を強めながら声を掛ける。 するとその人物は歩いて木々の間から姿を見せた。 全身を甲冑で身を包んだ時代錯誤な騎士がいた。

 

「あ、あなたは……」

 

「この人……強い……!」

 

いきなり現れた人物にスバル達は驚愕し、ソーマとサーシャは目の前の人物から滲み出る闘気で緊張を高める。 更に、別方向からソーマに向かって風が吹き……

 

「っ!?」

 

「不意打ち御免!」

 

同様に甲冑を着た人物が両手にソードブレイカーを構えてソーマに斬りかかった。

 

「……ハッ……!」

 

「……む?」

 

サーシャは突如目の前に現れた空間の揺らぎに反応し……輪刀を防御に構えると同時にまた甲冑を着た人物が戦鎌を振り回しながら現れ、両者は自身の得物と共に回転しながら一瞬の攻防を行った。

 

「離れなさい!」

 

一旦状況を確認しようとティアナが両者の間に魔力弾を放ち、距離を取らせた。 甲冑を着た3人組は隊列を組み、武器を構えた。

 

「騎士……?」

 

「かなり以前の質量兵器で武装してた騎士……一体何者?」

 

「ーー我らは……」

 

さらに、3人組の背後からもう1人現れ……

 

「我らは騎陣隊……偉大なるマスターの命により、手合わせを願おう」

 

名乗ると同時にロングソードを鞘から抜いて構えた。

 

「くっ……あのレベルが4人……正直厳しいね……」

 

「……お父さんやお兄ちゃんも大概だったけど……世界は広いねぇ……あ、世界の意味違った」

 

「み、美由希さん……何を呑気に……」

 

突然現れた敵を前に美由希はあっけらかんとし、思わずサーシャが呟いた。

 

「あの、こっちは8人もいるんですよ? 1人ずつ2人で対処すれば……」

 

「数の差なんて、連携でどうとでもなるのよ。 あの4人、私達より連携が取れているわよ」

 

「それに……ひとりひとりの強い。 私とソーマ君の2人ががりでようやく1人と相手できるくらい……エリオとキャロには荷が重すぎる」

 

「そんな……」

 

「くっ……!」

 

状況を冷静に判断するが、その事実はエリオとティアナを苦悶の表情にする。 と、その時ソーマ達の背後から無数がガジェット現れ、襲いかかってきた。

 

「こんな時に!」

 

「邪魔!」

 

「ーー無粋な」

 

ティアナがガジェットに銃口を向ける間に……4人の姿がかき消え。 破壊音と同時に風を切る音……武器を振るう音が聞こえ、ガジェット全機が破壊された。

 

「なっ……!?」

 

「なんて速度……!」

 

「助けて、くれた?」

 

「っ……アンタ達、何が目的なの?」

 

虚空に向けられた銃口を慌てて4人に向けるティアナ。 彼はその返答は剣を構える事で答えた。

 

「改めて名乗ろう。 騎陣隊、隊長を務めている円環のラドム」

 

ロングソードを構えてラドムと名乗った青年の次に、盾を構えた騎士が前に出る。

 

「私はウルク。 流動(るどう)のウルク」

 

次に戦鎌を構えた騎士が……

 

「……静寂の……ファウレ」

 

次に両手にソードブレイカーを構えて騎士が……

 

「破滅のゼファーだ」

 

それを皮切りに、騎陣隊は隊列を組み。 ソーマ達に向けて強烈な敵意を向けた。

 

「ひっ……」

 

「キャロ、落ち着きなさい。 呑まれてはダメ」

 

「ふふ……邪魔者はなし。 どうやら彼らは私達だけの手合わせを所望みたいね」

 

「……ティアナ、全体の指揮を任せる。 的確な指示を出して!」

 

「言われなくても……!」

 

ソーマの提案を了承したと同時にエリオと美由希が飛び出した。 ウルクは盾を横に構え、2人に向かって突撃した。 エリオ完全に避け、美由希はギリギリ小太刀で受け流しながら潜り込もうとすると……ウルクを壁にした死角、左右からファウレとゼファーが武器を構えていた。

 

「うわっ!?」

 

「っ……」

 

エリオは驚きながらも振り下ろされた戦鎌を受け止め、美由希はソードブレイカーと刃を合わせないように牽制しながら少しずつ後退する。

 

「てやあああっ!!」

 

突撃を続けていたウルクにスバルが飛び膝蹴りを撃ち込み、勢いを減少させ……横からソーマが剣を振り抜いた。

 

「ふうっ!」

 

ウルクは盾を回転させながら振り回し、スバルを弾くと同時に瞬時に盾を移動。 ソーマの一撃を塞いだ。

 

「キャロ! ルーテシア! 皆の防御と回復を!」

 

「は、はい!」

 

「それしかないわね……!」

 

この状況でフリードとガリューを入れてしまえば状況はさらに混乱する。 ティアナはそう判断し、ラドムを牽制しながら指示を出した。 2人はすぐさまソーマ達の援護に回る。

 

「はあっ!」

 

「来ますか……」

 

その隙に、サーシャは輪刀を2つの半月刀にし、交戦中のソーマ達を飛び越えて後方にいたラドムに向かって行く。 サーシャは円回転を利用し、半月刀の威力を上げながら隙間ない連撃を繰り出す。

 

「てやああ!」

 

「…………………………」

 

その連撃をラドムは難なく受け流し……一瞬の間に刀身を捉えて弾き返した。

 

「まだまだ!」

 

片足を地面に突き刺すように踏みしめ。 身体を限界まで捻り上げ、爆発的な勢いで回転し。 その速度を乗せた半月刀を振り下ろした。

 

「ほお……やりますね!」

 

「きゃあ!?」

 

だが、ラドムは片手で持ったロングソードで受け止め。 刀身を掴んでサーシャを後方に投げた。

 

「くっ……硬い……!」

 

「中々の一撃です。 ですが……」

 

中央で交戦中のソーマとウルク。 ウルクは盾を回転、ソーマの剣を弾きながら後退。 ソーマも即座に反応し、剄を身体に流して強化。 背後に回り込んだが……

 

「な……いない!?」

 

「ソーマ! 前ーー」

 

「ここですよ」

 

「かはっ!?」

 

ティアナの警告の前にソーマの胴体に蹴りが入った。 ウルクは一瞬で盾の正面に移動して隠れ、ソーマが気付くと同時に盾を反転させて蹴りをいれたのだ。

 

「ぐううう……!」

 

「……荒削りだけど、よく仕上がっている」

 

エリオの渾身の槍を、ファウレは棒だけで防ぐ。 実力差はまさしく子どもと大人の差……いや、それ以上だ。

 

「うあああっ!?」

 

「次……」

 

無音で鎌を振るい……戦鎌の峰でエリオを無力化し。 ファウレはキャロとルーテシアを視界に入れた。

 

「っ!」

 

「キャロ、しっかりしなさい!」

 

「ーーはああ!」

 

すぐさまスバルがウイングロードで壁を作り、上から拳を振り下ろした。 リボルバーナックルと戦鎌が衝突、武器の接触部分から火花が散る。

 

「はあっ!」

 

「はっ!」

 

美由希とゼファーは手元が見えない攻防が続くが、ゼファーは何度もソードブレイカーの峰にかませようとする。 美由希は握りを緩めて手の中で回転させる事で対処しているが、握りを緩めるという事は、一つ間違えれば小太刀が弾かれかねない危険な行為……美由希は神経を尖らせて集中した。

 

「ぜあああああっ!」

 

「っ……澪孤斬(みおこざん)!」

 

高速で放たれた突きを紙一重で避け……円回転で回避しながら斬撃を飛ばし、距離を取り。 ゼファーが追撃しかけた所を、ティアナが魔力弾を撃って止めた。

 

「ありがとうティアナ!」

 

「はい! ルーテシア、キャロ……エリオを!」

 

「は、はい!」

 

ルーテシアが転移魔法でエリオを回収し、キャロが回復魔法をかけながらルーテシアがエリオの頰ビンタして喝をいれた。

 

「ほらしっかりしなさい!」

 

「ぶっ!?」

 

「ル、ルーテシアちゃん!?」

 

驚くキャロを、ルーテシアは手を……アスクレピオスを突き出して止めた。

 

「仕切り直すわよ……キャロ、準備いい?」

 

「うん! アルケミックチェーン!」

 

騎陣隊全員に鎖で拘束しようとするが……全員虫を払うかのように鎖を引き千切った。 だが、たった1秒だけでも稼げた……

 

「トーデスドルヒ!」

 

ルーテシアは1秒の間に魔力のダガーを精製、騎陣隊全員に誘導して放ち……手前で爆発させた。 それにより、両者は一旦離れる事が出来た。

 

「つ、強い……」

 

「個々の力だけじゃない……最初のあの連携で、完全に分断されてる……!」

 

「これが、騎陣隊……」

 

「くっ!」

 

特にティアナは自分の非力さに、歯噛みをせずにはいられない。 自分に対して苛立ちを覚える。 その時、ソーマ達に念話が入ってきた。

 

『防衛ライン、もう少しもちこたえててね! ヴィータ副隊長がすぐ戻ってくるから!』

 

「大丈夫です! ちゃんと無力化して、制圧します!」

 

『ちょ、ティアナ大丈夫? 無茶しないで!』

 

「大丈夫です! あんなに朝晩練習してきてるんですから!」

 

心配するシャーリーにそう応えると、ティアナは全員に指示を出す。

 

「ソーマ、サーシャ、エリオ、美由希さん、センターに下がって! 私とスバルのツートップで行く! 突破口を開くから、ソーマとサーシャ、美由希さんでこじ開けて!」

 

「あ、はい!」

 

「ちょっとティア! 無茶が過ぎるよ!」

 

「そうですよ! ここはヴィータさんを待ってーー」

 

「ーースバル! クロスシフトA、行くわよ!」

 

「おうっ!」

 

サーシャの言葉も聞く耳持たず、ティアナは行動を起こした。 クロスシフトAとは、ウイングロードで駆け回り敵を撹乱、ティアナの射程に誘導し、複数のターゲットを殲滅する作戦だ。 今回はティアナの射撃も撹乱に入り、決め手はソーマ達が引き受ける作戦だ。

 

(……証明するんだ……特別な才能や、凄い魔力が無くたって。 一流の隊長達がいる部隊でだって……どんな危険な戦いだって……どんなに強い敵だって……!)

 

「うっく…………ティ、ティア! は、早く……!」

 

あの4人を引き付けるのはまさしく命がけ……スバルは騎陣隊の猛攻に耐えながら時間を稼ぐ。 ティアナはその間にカートリッジを4発ロードし、周囲に無数の魔力弾を出現させ魔力を上乗せさせていく。

 

「私は…………撃ち抜く……どんな相手にだって!」

 

自分に言い聞かせ、更に魔力弾に魔力を圧縮させ、威力を高める。

 

『ティアナ!4発ロードなんて無茶だよ! それじゃあティアナもクロスミラージュも……』

 

「撃てます!」

 

《はい》

 

再三の警告も、意固地となっているティアナに通じる訳もなく、シャーリーに構わず魔力を圧縮する事を続け、ティアナはクロスミラージュを構える。

 

「クロスファイアー……」

 

騎陣隊に狙いを定め、引き金を……

 

「シューーートッ!!」

 

引いた。 ティアナの放った誘導弾が騎陣隊に襲い掛かる。

 

「はあぁぁぁぁッ!!」

 

休まず撃ち続け。 次々と魔力弾が騎陣隊に飛来、騎陣隊は難なく避けるが……数で押されて徐々に隊列が崩れて行く。 ソーマ達はそれを狙い一気に接近……騎陣隊の4人にまともな一撃を食らわせた。 だが………

 

「あっ!?」

 

その内の一発が敵から逸れ、ウイングロードを走るスバルへと向かっていく。 多数の魔力弾の制御する事は難しい技術な上に、カートリッジロードによる負荷……完全制御できなかった魔力弾が暴走したのだ。

 

騎陣隊を引き付けていたスバルは、集中して騎陣隊から目を離して無く……背後から迫る魔力弾に気付いていない。

 

『スバルさん!』

 

「えっ……?」

 

エリオとキャロが声を上げ……スバルは迫る魔力弾に気付くが、回避が間に合わない。 直撃しかけた時、スバルの前に影が割って入り……爆音と共にスバルが爆煙に飲み込まれた。

 

「う、嘘だろ……」

 

フォワードのフォローに駆け付けたヴィータが、爆煙を見て唖然とする。 無論、この目の前の状況を作ってしまったティアナも……誰もが最悪の光景を頭に思い浮かべていた。 そして、煙が晴れると……

 

「あ、あなたは……」

 

「兄……さん……?」

 

スバルの前には防御魔法陣を展開し、銃剣を構えたティーダの姿があった。

 

「やれやれ、気になって警備を抜け出して来てみれば……」

 

ティーダは呆れながら視線を下に……ティアナに向けた。

 

「すまねぇ、ティーダ。 アタシがもっと早く来ていれば……」

 

「気にするな。 俺はただ妹が心配になって護衛を放ったらかしてきた、ただのバカだ」

 

ティーダに軽く頭を下げて謝った後、ヴィータは地上で呆然としているティアナをキッと睨みつけ、怒声を上げた。

 

「ティアナ! この馬鹿! 無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!」

 

「あ、あの! ヴィータ副隊長……今のもその、コンビネーションの内で……」

 

ミスショットを撃ってしまったティアナを庇おうとするスバル。 だがその弁解は無茶苦茶であり、全く筋が通っていない。

 

「ふざけろタコ! 直撃コースだよ今のは! ティーダが割ってなけりゃ、お前の背中に直撃してたんだぞ!」

 

「違うんです! 今のは本当に私がいけないーー」

 

「いい加減にしろ」

 

「えっ……?」

 

下で騎陣隊と戦闘を続けているソーマ達を見ながら……この言い争いに嫌気が差したティーダは、スバルに厳しい口調で話し掛ける。

 

「さっきの動きでお前は何一つミスなんてしていない。 ミスをやったのはティアナだ」

 

「ち、違いーー」

 

更に食い付こうとするスバルにティーダは銃剣をスバルの喉元に突き付け黙らせた。

 

「スバル、お前は優しい……だが勘違いするな。 今のお前の言葉はかえってティアナを苦しめているぞ」

 

「えっ?」

 

「誰だって失敗はする。 問題はその失敗を次にどう生かすかなんだ。 アイツの……妹の事を思うなら、今は何も言うな」

 

「………………」

 

ティーダは殺気を少し混ぜて言い。 スバルは言い返せず、ティアナの事を思い口を閉じた。 ティーダも心苦しいが、命の危険があるこの場で私情と優しさは持ち込めない。

 

「あと、スターズはもう前線から離脱しろ。 戦闘なんてとてもじゃないが任せられない。 いいよな、ヴィータ?」

 

「ま、待ってください! 私達はーー」

 

「ティーダの言うとおりだ。 テメェらは下がってろ。 後はアタシ達がやる」

 

「………はい」

 

有無を許さないヴィータに、スバルは大人しく下がる。 2人が地上に向かおうとした瞬間……大きな衝撃が走った。

 

「うあぁぁ!」

 

「きゃあ!」

 

「うっ……」

 

「エリオ!」

 

「っ……」

 

ソーマとサーシャは吹き飛ばされ、エリオは腹を抑えながら膝をつき、美由希は衝撃を地面を引き摺りながら耐えるも苦悶の表情を見せた。

 

「ーー潮時ね」

 

「……器は見極めた。 マスターもお喜びになるよね?」

 

「ああ……こりゃ、うかうかしてられねぇな」

 

ウルク、ファウレ、ゼファーはおそらく満足といった表情を仮面の下に見せているだろう。

 

『ラドム』

 

「っ……マスター。 たった今名を果たしました」

 

ラドムにフェローから念話が届き、ラドムは姿勢を正して応答した。

 

『確認しました。 あなたにはこの後、ホテルからある物を持ってきてもらいたいのです』

 

『……私に、盗賊紛いな真似をさせるおつもりですか? 失礼ながらその命、もしやスカリエッティの物では。 クレフによるガジェットの操作も感じ取れました、その目的は……』

 

『ーー無論、断られても咎める気はありません』

 

それ以上の言葉を止めるように、フェローは咎める気はないとラドムに言った。

 

『いえ、マスターがそう判断されたのなら。 私はそれに付き従うまでです』

 

念話を切り、ラドムはロングソードを納め、右手を左胸に当てて礼をした。

 

「では、これにて失礼させてもらう」

 

「中々楽しかったぜ。 アンタとぶつかり合えなかったのが少し残念だがな」

 

「そりゃどうも」

 

「ーー撤退します……ウルク」

 

「了解」

 

ラドムの指示でウルクは頭上で盾を回転させ……業風を放ちながら振り下ろし、地面を叩き割った。 地割れは全体に広がり、それにより砂塵が舞い上がり、騎陣隊は砂塵に紛れて撤退を始めた。

 

「……逸材揃いだと思いましだが……凡骨が混じってましたか」

 

「!」

 

砂塵の中からラドムが呟いた言葉を、ティアナは聞き逃さず。 衝撃を受けたようにこの世の絶望を表すような表情をして、俯きながら2、3歩よろけながら後退する。

 

「ちっ……!」

 

ティーダはイラつきながら砂塵に向かって飛び込み、銃剣を一閃して砂塵を晴らすと……そこには誰もいなかった。

 

「逃げたか……」

 

「転移反応もなし、か。 厄介な奴らが出てきたな」

 

「……………………」

 

「ティア……」

 

その後、副隊長陣とティーダの活躍によりアグスタに進行していたガジェットは全て殲滅され、無事防衛に成功。 前線を外されたティアナとスバルはホテルの裏手で警備についていた。

 

「ティア……向こう、終わったみたいだよ?」

 

スバルは、後ろ向き俯いたティアナに気を使って声をかける。

 

「私は……ここの警備やってるから……アンタはあっち行きなさいよ」

 

「……あのね、ティア」

 

「いいから行って」

 

「ティア、全然悪……」

 

「スバル」

 

ティアナは悪くない……そう元気付けようとしたが、追ってきたソーマが肩に手を置いて止めた。 ソーマは静かに首を振り、スバルはティーダに言われた事を思い出し……喉まで出てきた物を飲み込んだ。

 

「うんん、何でもない……また後で、ね? ティア」

 

「事後処理は僕達でやっておくから……」

 

それだけを言いのこし、ソーマとスバルは引きずりながらも走り去った。 1人残されたティアナは、壁に手をつき涙を流す。

 

「私は……私は……」

 

頭に思い浮かぶのは、自分の放った魔力弾がスバルめがけて向かってい場面。 もしあの時ティーダが間に入っていなかったら……起こりえた最悪の事態を思い浮かべ、握り締めた拳を壁に叩く。

 

【凡骨が混じってましたか】

 

「私は……!」

 

自分が犯したミスが許せず、ティアナはそれ以上言葉を続けられなかった。 そして、ラドムの言葉を認めてしまう自分がいた……その憤りは、ティアナ自身を追い込んでいった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高台ーー

 

戦況が収束していく中……ホテルから離れた場所に居たクレフ達の元に、足にトランクを掴んでいる白い隼が飛んできた。

 

「お帰り、クローネ……手に入った?」

 

「ピューイ」

 

クレフがそう問い掛けると、白い隼……クローネは足元に降り立ち、肯定の意味を表してひと鳴きした。

 

「それじゃあ……それはドクターに届けてくれる?」

 

「ピュイ」

 

クローネは頷き、トランクごとスカリエッティの元に転送された。 それと同時にフェローの背後に4人の騎士……騎陣隊の4人が控えた。

 

「マスター、ただいま帰還しました」

 

「ご苦労でした。 ラドム、あなたには不快な思いをさせてしまいましたね」

 

「いえ……マスターご決断であれば、私はそれに従うまでです」

 

その答えにフェロー頷くと、ホテルの方を向いた。

 

「あの者達はいかがでしたか?」

 

「はい。 荒削りではありますけど、中々見所のある子達でした」

 

「……ちょっと、楽しめました」

 

「アレはすぐに化けると思います。 子どもの成長は侮れませんし、胡座をかいているとすぐに喉元を斬られそうですね」

 

「ですが……少々残念な者もおりました」

 

「あの誤射をした、橙色の髪の娘ですね」

 

フェローはホテルを一瞥すると、マントを翻して踵を返した。

 

「蒼から受けた傷は?」

 

「問題ありません」

 

「では……引き上げます」

 

「はっ!」

 

「はい、クレフ」

 

「ありがとうございます」

 

ウルクは拾い上げたマントをクレフに渡すと、クレフは淡々と礼を言ってマントを羽織った。 フェロー達はホテルを背にして歩き始めると……音もなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタ内ーー

 

俺は駐車場での出来事をロングアーチに報告しながら、オークション会場に向かっていた。

 

「ーーえい!」

 

と、オークション会場前に来ると。 はやてが長い緑髪の男性……というかロッサに軽く拳を腹部に叩き込んでいた。

 

「っと……この!」

 

はやての拳を受けたロッサは、はやての頭に手を置いて、はやての髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。

 

(仲の良ろしい事で)

 

「また任務を放り出して、サボっとるとちゃいますか? アコーズ査察官?」

 

「ひどいなぁ、はやて。 僕だって任務中だよ……重要人物の護衛でね」

 

その2人の様子を見て、少し戦闘で荒んだ心が癒される気がした。 それと同時にチクリと痛んだ……なんだ、この痛みは?

 

「はやて」

 

「あ、レンヤ君! 大丈夫やったか?」

 

「少し受けただけだ。 問題はない」

 

「そうか……良かった」

 

はやては本当に安心したように安堵し、その後見惚れるような笑顔になった。

 

「どうやら色々とあったみたいだね。 さて、僕は失礼しようかな……2人の邪魔をしたくないし」

 

「な!? ななな何を言うとんのや! そ、そんなんじゃあらへんし……」

 

ロッサの冗談にはやては顔を真っ赤にしながら反論し、無意識に髪を指で弄って照れ隠しをした。

 

「はは、相変わらず仲良いな、はやてとロッサは」

 

「うん? ああ、まぁね。 はやてとはそれなりに付き合い長いからね、はやては僕にとってかわいい妹のようなものなんだ」

 

「ロッサの妹……ねぇ~?」

 

「あれ? もしかして不服かい?」

 

はやては腕を組んで、微妙な顔でヴェロッサを見る。

 

「カリムの妹なら納得やけど、ロッサの妹はなぁ~」

 

「酷いなぁ」

 

はやてにそう言われ、笑いながら少し複雑そうな顔になるロッサ。 その微笑ましいやり取りを聞いていると2人は本当の兄妹にしか見えない。

 

チクッ……

 

(! まただ……一体なんなんだ?)

 

ダメージを受けた部位でもないし、持病もあるわけないのに……胸が痛い?

 

「レンヤ君? どないしたんや?」

 

「あ……いや、何でもない」

 

「?」

 

はやては小首を傾げ俺を見てくる。 それを顔を逸らして耐えると……逸れすぎて少しロッサとぶつかってしまった。

 

「おっと……」

 

「あ、ごめん。 ちょっと悪ふざけが過ぎた」

 

「………………いや、構わないよ。 それより聞きたい事があるんだけど」

 

「ん? なんや?」

 

「ーーレンヤって、最初は女装してここの警備に当たらせる予定だったのかい?」

 

「なっ!?」

 

ロッサの口から出た言葉に思わず驚愕してしまう。 なんでもいきなりそんな事を……

 

「あ! お前勝手に人の頭の中を覗くなよ!」

 

「あはは、ぶつかってきた君が悪いんだよ」

 

詫びる気もなく笑うロッサにヘッドロックをかました。 ロッサの希少技能(レアスキル)の一つ、思考捜査。 触れた相手の頭の中を読むことが出来るホアキンみたいな趣味の悪い力だ。

 

「趣味の悪いとは酷いなぁ……」

 

「だから人の頭の中を覗くな!」

 

ヘッドロックを辞めてすぐさま離れる。 ホンット趣味悪いな。

 

「それではやて、何か写真でもないのかな?」

 

「おお! もちろんあるで〜♪」

 

はやてはノリノリでメイフォンを取り出し、ある写真をロッサに見せた。 メイフォンに写っていたのは……艶のある黒い長髪、大胆に両肩が晒されている紺色のドレスに同色の二の腕まで覆う手袋をはめ。 長い睫毛に薄っすらと化粧が施される事によって目がパッチリと開かれており、髪型によって顔全体が小顔風に見え、頰を赤くして恥じらう長身の女性が写っていた。

 

「どや? メッチャ美人やろ!」

 

「いや、はやてが胸張らないでよ! メッチャクチャ恥ずかしいかったんだからな!」

 

最初、スーツやドレスが入っていたケースは8つあった。 そしてホテル内の警備をしたのは7人……1個多かったのだ。 そして着替える時にはやてとアリシアがこのドレスとかつらを持って迫り、その後姉さんも便乗して……結果こうなった。 ちゃんとした部隊なのに何でこうふざけているのか疑問に思いたいが……それ以前に俺は何度女装されればいいんだよ……

 

「ほほう……これはこれは、凄い変わりようだね。 はやてすら越える美人じゃないか」

 

「ぐはっ! そ、それを言われると何とも言えんダメージが……」

 

「……ノリいいな。 2人とも……」

 

とにかく、報告は一応終わっていたので逃げるようにその場を後にした。

 

その後ソーマ達の様子を見るため、地上本部の制服に着替えてホテルの外に出た。

 

外では調査隊が慌ただしく動いており、ラドム含めた騎陣隊と言われる4人組と……フェローとクレフの捜索を行っていた。 そしてそれをソーマ達が積極的に手伝っていた。 その中で、ティアナだけがいつもと様子が違った……先ほどのロングアーチからの報告では誤射で危うく同士討ちになる所だったようで、その事を気にしているようだ。

 

「レンヤ」

 

呼び掛けられ声の聞こえた方を見る。 調査班から離れた所で、ドレスから地上本部の制服に着替えたなのはとフェイトがこちらに歩いてきた。

 

「あ……」

 

2人と一緒に、薄い金髪にメガネを着けた女性のような顔立ちの男性……ユーノも一緒にこちら歩いてきた。

 

「はやてちゃんに報告は終わったの?」

 

「ああ。 さっき別れたところだ」

 

「お疲れさま」

 

「そっちもな……それとユーノもお疲れ様。 オークション、大変だったろ?」

 

隣にいたユーノに労いの意味も込めて言った。 ユーノは照れ臭そうに後頭部をかく。

 

「あはは、まあレンヤ達ほど疲れてはいないよ。 それよりも、なのはの教え子の……ティアナって子。 何か言わなくてもいいのかい?」

 

「……うん。 その事はティアナのお兄さんであるティーダさんに任せてるよ。 なんとかケアできればいいんだけど……」

 

「おーい、なのはー!」

 

その時、ユーノの後方からヴィータが近付いてきた。

 

「調査隊を奥の方に向かわせたいんだが……って、ユーノ! おめえもいたのか!」

 

「やあ、ヴィータ。 どうやら無事みたいだね、怪我がないようでよかったよ」

 

「あたりめえだ。 それよりも……ちゃんと寝てんのか? 少し顔色が悪いようだが、ちゃんとメシ食ってんのか?」

 

ヴィータがキツめの目つきでユーノを覗き込むように睨み、ユーノはタジタジになりながら顔を晒す。

 

「ちゃ、ちゃん寝てるし、ご飯も食べるよ……あ、そうだ。 レンヤに聞きたい事があったんだ」

 

「俺に?」

 

あからさまにユーノは話を変えて、ヴィータは少しご立腹で頰を膨らませており、なのはが肩に手を乗せてなだめている。

 

「それで、聞きたい事ってなんだ?」

 

「うん。 この前遺跡調査で第8管理外世界に行ったんだ。 そこの海の多島海って場所にある小島に小さい遺跡があって、その壁画に……ううん〜、これは見た方が早いかな?」

 

珍しく説明を省いて、ユーノはメイフォンを取り出してある画像を見せた。 そこには多種多様な生物が描かれていおり、それが並んで一方向に向かって歩いている壁画だった。

 

「へえ、こういうの見るのは初めてだけど……歴史を感じるね」

 

「人じゃない? けどこれは一体……」

 

「あはは、まあまだ調査中で何を比喩しているのか僕もさっばりなんだ。 それで、レンヤに聞きたいのは……この集団の最後尾に並んでいる人物なんだ」

 

ユーノが指差したのは、列の最後尾に並んでいる女性と思わしき人物。 壁画なので目と言った特徴は描かれていないが……髪を結い上げて長いリボンで結び。 両手がミトンのような手袋……

 

「ーーっ!」

 

「レンヤ!?」

 

突如、頭に何かが流れ込んできた。 脳裏に浮かんできたのは……

 

「(ここは……玉座?)……ぐうっ!?」

 

「レンヤ! おい、どうしたんだ!」

 

ヴィータの呼び声が遠い……次の瞬間、意識が誰かと一体化したような感覚に陥る。

 

【いったいどれくらいの時がたったのだろう。 命がいまだに吸われ続けている、意識が……自我が崩れていく。 ああ……このままでは死んでしまうだろう……でも、死ぬ事は出来ない。 命の炎は燃え尽きる事なく、自我が崩れては……楽しい思い出……悲しい、辛い思い出と共に修復されていく。 戦はまだ続く……しかし、この王座に座る意味はあるのだろうか……私は、私は……】

 

視線が移動し、自身の右足……右太股を見た。 裾を掴んで上げて行き、右太腿が光に晒されていき……

 

【ーー決心は着きましたか?】

 

「レン君!?」

 

そこで意識が現実に戻ってきた。 いつの間にか蹲っており、なのはに抱き締められていた。 心臓の音が聞こえ、少しずつ落ち着いていく。

 

「レンヤ、大丈夫?」

 

フェイトもかなり心配させたようで、目尻に涙を浮かべていた。 俺はもう大丈夫と言い、なのはは心配しながらも離れてくれた。

 

「ごめん、レンヤ。 まさかこんな事になるなんて……僕が知りたいが故に後先考えなかったから……」

 

「ユーノのせいじゃないさ。 こんな事、誰にも予想は出来なかった」

 

「そうだぜ。 ユーノが負い目を気にする必要はねえんだ。 何もなかったんだし」

 

それを決めるのはヴィータでは無いんだが……まあいいか。 とりあえず先ほどの夢のような物を思い返そうとするが……何も思い出せず、思わず額に手を当てる。

 

「あれ……? 何も、思い出せない?」

 

「あの時に何かあったの?」

 

「……もしかしたら、彼女の記憶かもしれない。 封印されたように霞んでいるけど……」

 

『ーー通達。 現場調査が終わったので、機動六課は撤収します。 総員、撤収準備が終わり次第ヘリまで戻ってください』

 

と、そこでシャマルからそのような通達が入り。 それと同じタイミングで俺達の下にはやてとロッサが来て、それと同時にティーダさんとティアナも戻って来た。 ユーノはティーダさんとロッサと共に本局に戻ることになり、俺達は六課に帰投するためヘリに向かった。

 

ホテル・アグスタの警備任務は、色々な凝りを残しながらも……こうして幕を引いたのだった。

 

 



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155話

 

 

同日ーー

 

夕方頃に機動六課に帰投し……任務があった事から午後の訓練は休みとなり、その場で解散となった。 なにやらレンヤさんの顔色が悪かったようだが……何もないといい、早々となのはさん達に連行されていった。 いつもの事になったので特に気にする事はなく、今は汗を流そうと隊舎に向かったのだが……ティアが自主練をしたいと言い出し。 それに僕とサーシャは反対したが、スバル達は賛成して自主練をしようとした。 が、ティアはそれを断って1人で行ってしまい、呼び止める事が出来なかった。

 

「…………………」

 

その後、風呂に入って任務の疲れを取り。 湯船に浸かって思いにふけっていた。

 

「……ソーマさん」

 

「ん? 何かな、エリオ?」

 

「どうしてティアナさんは、あそこまで力を求めているんでしょう? 力を求める理由、分からなくもないんですが……ティアナさんのは少し強過ぎると思うんです」

 

エリオの疑問はもっともだ。 ティアのあの執拗に力を求める様は常軌を逸している。 だけど今は……

 

「……その事は、後で皆と一緒の時に話すよ」

 

「はい」

 

風呂から上がり、どうやらスバルの方にも同様に質問されたそうで。 スバルと目を合わせると……静かに頷き。 近くの休憩所にあったテーブルに座って話し始めた。

 

「ティアが、あそこまで力を求めるのは……やっぱりお兄さんの、ティーダさんの影響なんだよね」

 

「まあ、そうでしょうね。 ティーダの実力は管理局でも上位に入るほどの実力者……その兄を持って焦らない筈がないわね」

 

「それもあるんだけど……その切っ掛けを作ったのはある事件なんだ」

 

そこで一区切りし、スバルは一呼吸置いて口を開いた。

 

「公式には発表されてないけど……異界対策課設立当初の事件にティーダさんが関わってたらしいんだ。 ティアから聞いた事なんだけど、それが切っ掛けみたい」

 

「それが、切っ掛け……?」

 

「よく分からないね。 その事件って、何があったの?」

 

「うん。 その事件の初めに依頼したのは他でもない僕なんだけど……最初に言って置くと、その事件前のティーダさんは結構温厚だったんだよ」

 

「え、マジ?」

 

「とてもそうは思えないよ……」

 

「キュクル」

 

(コクン)

 

予想外の事実に、エリオ達は驚きを隠せない。 まあ、そうだよね。 あの時の性格の変わりようは別人だと思えるくらいだし。

 

「……ティーダさんは昔、ハンティングって言う不良チームにいたんだ。 それがある事件で解散……逃げるように性格を変えたらしんだけど、そのハンティングが異界関連の事件を起こしてね。 レンヤさん達と一緒に事件を解決して、過去と向かい合って今の性格に戻った……となるんだけど」

 

「それが原因にしてはちょっと……よく分からないね」

 

美由希さんは頭をひねって考え込む。 こういう所、そこはかとなくレンヤさんと似ている。 血は繋がってなくても、やっぱり姉弟なんだな。

 

「恐らく、差を感じたんだと思う。 ティーダさん、それ以降みるみる力を付けて……今では優秀な執務官。 ティアは嬉しさの反面……置いてかれる、そう思ったみたいなんだ」

 

「そう、かもしれませんね……」

 

「その気持ち、ちょっと分かるかも。 私も恭ちゃん……私の兄に追いつきたくて剣術を頑張って来たし。 適格者になって、ある意味レンヤとなのはと同じ舞台に立つ事が出来たんだけど……2人は私の遥か先にいる。 内心、これでもかなり焦ってるよ」

 

「へえ、そうだったの。 いつも能天気に笑ってるから気にしてないと思ってた」

 

「……ルーテシアちゃんは時々サラッと毒を吐くね……」

 

しかも悪気があるわけでもなく、ニコニコしながら……

 

「そうだとしても、あの任務の直後から自主練……ちょっと、心配だね」

 

「もしこのまま続けば、いつか必ず身体を壊してしまいます。 でも、何とかしてあげられるのでしょうか……」

 

「そうだねぇ……このままだと、恭ちゃんやなのはみたいな事にもなりかねないし……」

 

美由希さんは本当に心配そうな顔をし、少し俯いてしまった。

 

「ーーとりあえず、今は様子を見ましょう。 この事はレンヤさん達ももちろん気付いていると思いますし、僕達も出来る限りティアをフォローしてあげましょう」

 

「うん!」

 

(コクン)

 

「もちろん!」

 

「ええ」

 

「はい!」

 

「キュク!」

 

「任せてください!」

 

それから解散となり……時間を置いたら一度ティアの様子を見に行こう。 ティアの事だ、きっと休まず練習してバテバテになっているはず、スポーツドリンクを差し入れに持って行くとしよう。

 

そして深夜ーー

 

一度スバルとティアの部屋に向かったが、中にはスバルしかいなく、まだ帰って来てなかったようだ。 心配になり、スバルと手分けして探しに行った。 ティアを探して敷地内の林に入り。 しばらくしてティアを見つけた。 早速声を掛けようとした時……手を鳴らす音が聞こえてきた。

 

「もう止めとけよ」

 

「! ……ヴァイス陸曹……」

 

声が掛けられて、ティアナが振り返ると…そこにはヴァイスさんが立っていた。 僕は何故かとっさに木を背にして隠れ、殺剄で気配を消した。

 

(あれ? 何で隠れたんだろう……?)

 

「一体、何時間やるつもりだ? いい加減にしないと身体壊すぞ」

 

やってしまったものは仕方なく、そのまま隠れる事にした。

 

「……見てたんですか?」

 

「ヘリの整備をしながら、スコープで時々な……」

 

不機嫌顔のティアナの問いに、ヴァイスさんは呆れながら肩をすくめた。

 

「ミスショットが悔しいのは分かるけどよ。 精密射撃なんかそうホイホイ身につくもんじゃねえ。 無理な詰め込みで、変な癖が付くぞ?」

 

ヴァイスさんがそう問い掛けると、ティアナは少し顔をしかめた。

 

「っ……って、昔なのはさんが言ってたんだよ。 俺ぁ、シグナム姐さん達とは、割と古い付き合いでな」

 

「それでも……詰め込んで練習しないと上手く何ないんです……限界まで続けます……自分、非才の身なので」

 

そう言ってヴァイスさんに背を向け、自主練習を再開した。 それを見たヴァイスは、苦い顔をして頭しながら少し離れてティアナの自主練習を見始めた。

 

「非才か……俺からすりゃ、お前は十分に優秀なんだがなぁ? 羨ましいくれぇだ……」

 

「…………………」

 

ヴァイスさんは本当に羨ましそうに言うが……ティアナには皮肉にしか聞こえず、無視して練習を続けた。

 

「ま、邪魔する気はねぇけどよ……身体には気をつけろよ? お前達は身体が基本なんだから」

 

「ありがとうございます……! 大丈夫ですから……!」

 

「……ふう」

 

お礼を言いながらも手を止める事のないティアにヴァイスさんは呆れるしかなかった。 ヴァイスさんは一言言ってその場から離れた。 そして僕が隠れている木の側で立ち止まり……

 

(……早く行ってやんな……)

 

「!?」

 

それだけを言うと、隊舎の方に向かって行った。 パイロットの印象しかないけど……八神部隊長が選んだ人材、あの人もただ者じゃなかったようだ。 まさか殺剄をしている僕を見つけるなんて……

 

「ティア……!」

 

「……スバル」

 

その時、視線をティアの方向に戻すと……スバルがティアと向かい合っていた。 僕がヴァイスさんに驚いている間にスバルがティアを探してここに来たようだ。

 

「ティア、あれからずっと自主練してたの?」

 

「……アンタには関係ないでしょ。 私はもう少し続けるから、先に戻って」

 

心配するスバルを、ティアは素っ気なく返す。 ティアの意地っ張りはここまでくるとただの我儘に聞こえてくる……

 

「私、知りたいんだよ! ティアがどうして自分を追い込んででも力を求めるのか……」

 

「…………………」

 

「私に出来る事なら何でも手伝うから!」

 

「っ……」

 

本当にティアの事を思ってスバルは叫ぶが……その言葉で、無言を貫いていたティアはさらに顔を険しくし、俯いた。

 

「……人の気も、知らないで……」

 

「え……?」

 

留めていた怒りが漏れる小声で何かを呟いた。 そして勢いよく顔を上げると……

 

「ーースバルに……! 私の気持ちなんか、スバルなんかに分からないわよ!」

 

「!!」

 

怒りの形相で大声で叫んだ。 その事にスバルは思わす息を飲んだ。

 

「アンタはいいわよね? すごい母親と姉がいて、魔法や戦い方を教えてもらって……」

 

「…………………」

 

「兄さんは確かに強いわ。 でも、あの日以来、一気に忙しくなって、私にかまけている時間はなくなったわ。 理由は分かってる、どんどん管理局で強くなっていく兄さんを誇らしくも思ったわ。 でも、私は……兄さんに置いてかれたわ」

 

今まで溜め込んでいた想いが決壊し、ティアは感情を出さずにはいられなかった。

 

「……悪気がないのは分かってる。 時間を無理に作ってプールに行った事だってある。 でも、それでも……! アンタなんかに、私の気持ちが分かるわけないでしょ!!」

 

「………ぁ…………」

 

「ーーそこまでだよ」

 

見てはいられず、殺剄をやめて木の陰から出た。 2人は僕の姿を確認すると居心地の悪い空気が流れた。

 

「ソ、ソーマ……」

 

「……ソー、マ……」

 

ティアは戸惑い、スバルは普段なら見ない悲しい顔をしていた。

 

「ティア、言い過ぎだよ。 気持ちは分からなくもないけど……」

 

「………………アンタだって……」

 

「え……」

 

また何かを呟き、ティアは顔を上げてキッと睨んで来た。

 

「アンタだって、いきなり私の前から消えたくせに! 兄さんも構ってくれなくて、ソーマも突然ルーフェンなんかに行って……私を1人ボッチにしたソーマなんかに!」

 

「っ!」

 

思い掛けない所で矛先が自分に向き、ティアはそのまま走り去ってしまった。 見覚えのない、だが確かにある罪に……放心してしまう。

 

(……ティアを、1人に……)

 

ビキンッ!

 

「!?」

 

何かが割れるような音……とっても聞き覚えのある音が突然響いて来た。 すると、スバルの背後の空間が赤くヒビ割れ広がって行った。

 

「なっ!?」

 

「……え……」

 

スバルはかなり落ち込んでいて、背後のゲートに気付いていなかった。 次の瞬間、赤い門が……ゲートが顕現した。

 

「ーーきゃああっ!?」

 

「まずいーー逃げて!」

 

咄嗟に叫ぶが、スバルは何も出来ずゲートに呑み込まれて行った。

 

「くっ……スバルーー!!」

 

すぐさま助け出そうと、無我夢中でゲートに飛び込み……異界に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートをくぐり、異界の中に突入すると……異界の中は辺り一面、床から天井まで黄色かった。 どうやら鋼の属性が色濃い異界迷宮のようだ。

 

「くっ……スバルーーーー!! いたら返事をしてーーーー!!」

 

大声で呼びかけるが……グリードが蠢く音しか返って来なかった。 やっぱり最奥にいるのかもしれない。 スバルなら大丈夫……

 

「って、確か今のスバルはマッハキャリバーも持ってない! いくらスバルでもマズイ!」

 

ティアの前に出たスバルの格好はラフな部屋着、武器の1つも持ち合わせていないはず! 一刻も争う……レンヤさん達に連絡する時間もない。

 

「レストレーション!」

 

ダイトを取り出し、復元鍵語を叫びダイトを復元して剣にする。 ダイトと最大限の注意を払いつつも急いで最奥に向かった。 襲って来たグリードは大した脅威ではなかったが……最奥に到着する頃にはダイトが煙を上げていた。

 

「くっ……何とかここまで持ってくれたけど、エルダーグリード相手にするには……!」

 

だが、素手でも倒せない訳ではない。 スバルに身も心配だ、迷っている暇はない。

 

「! 見つけた……!」

 

最奥に到着し、スバルを見つけたのだが……スバルは改造シューティングアーツの構えを取り、ゴーレム型のエルダーグリード……ドレッドゴーレムと対面していた。 ドレッドゴーレムの腹部の赤いコアが発光すると、スバルに向かって魔力レーザーが照射された。 スバルは難なく避けると……

 

「とりゃあああああっ!!」

 

側面に回り込み、身体にフィールド系の防御魔法を展開しながら流れるように回し蹴り、パンチ、肘打ち、ローキック、膝蹴りを繰り出した。

 

「はあはあ……デバイスの補助なしが……ここまで辛いなんて……」

 

確実にダメージを与えているが、マッハキャリバーの補助が無い分いつもより魔力の消費が激しく。 体力の消費と共にスバルの動きを鈍くしている。 そして、ドレッドゴーレムが右腕を振りかぶり、スバルに振り下ろそうとした。

 

「あ……」

 

「スバル!」

 

振り下ろされる前に飛び出し、紙一重の所で助け出し。 もつれ合いながらドレッドゴーレムから離れた。

 

「大丈夫、スバル?」

 

「う、うん……平、気……!?」

 

スバルから離れ、ドレッドゴーレムに向かって剣を構えながら無事を確認すると。 スバルは何かに驚いた声を出した。

 

「スバル?」

 

「うわ!? こっち見ないで!」

 

「ぶっ!」

 

振り向こうとしたら顔を押されて首が変な方向に曲がり、変な声が出てしまった。 そして、チラリとスバルの格好が見えた。 どうやら上の服が破れてしまったらしいんだが……今のスバルはラフな部屋着。 つまり上1枚しか着てなく、それが破れるとなると……

 

「…………………」

 

「ううう〜……」

 

無言で上着を脱いで渡したが……見られたと気付かれ、スバルに唸り声を上げながら睨まれた。

 

「と、とにかく……! 後は僕に任せて、スバルはそこで待ってて!」

 

「あ……」

 

逃げるようにドレッドゴーレムに向かって走り出し、敵を見据えながら剣に剄を流す。

 

(これじゃダメだ……もっと丁寧に剄を扱うんだ。 余った剄を放出、ダイトにかかる負荷を減らすんだ!)

 

過剰分をダイトに留めておくな……外で剄を溜めておくように……

 

「ーー掴んだ!」

 

外力系衝剄・連弾変化……重ね閃断

 

今まで頭で組み立ていた技……連弾を。今、成果として放った。 外力系衝剄・閃断を連弾として放つ。 剣を振り、衝剄を線状に凝縮して斬撃として放ち、それに加えて留めておいた剄を先に放った斬撃に重ねた。 斬撃は威力を増し……ドレッドゴーレムの左腕を根元から切り落とした。

 

「よし……!」

 

連弾の成功に、思わず拳を握る。 だが……今の一撃でダイトに限界が到達。 崩れるように自壊して行った。

 

「……まだまだ粗さがあるというわけか……だけど!」

 

ドレッドゴーレムが残った左腕を身体ごと回転させて振り回すのを避け、懐に潜り込み……

 

剛力徹破(ごうりきてっぱ)……咬牙(こうが)!」

 

外側からの衝剄と徹し剄による内外同時攻撃により、ドレッドゴーレムを吹き飛ばし、壁にぶつけた。

 

「ってて、やっぱりユエさんのようにはいかないか……」

 

見様見真似で放った剄技。 剄に乱れが生じ、右手を傷付けてしまった。

 

「スバル、怪我はないよね?」

 

「う、うん……」

 

念のため負傷の有無を確認した。 無事を確認すると、右手をプラプラと振って痛みを誤魔化そうとしていた時……突然スバルが後方を見て目を見開いて驚愕した。

 

「! ソーマ、後ろ!」

 

その警告に、すぐさま振り向くと……ドレッドゴーレムが猛スピードで突進して来ていた。 しまった……油断してた!

 

「くっ……この……!」

 

「ーーうおおおおおっ!!」

 

すぐに対応しようとした時……後ろから走って来たスバルが僕を追い越し。 突進してきたドレッドゴーレムの両肩に手を置き……

 

「てりゃあああ!!」

 

容赦無く、ドレッドゴーレム顔面らしき単眼に膝蹴りを入れた。 剛力徹破・咬牙もどきでもヒビが入らなかったのに……スバルの膝蹴りは顔面を粉々にする威力があった。

 

「よしっ!」

 

(うっそだぁ〜……)

 

生身であの威力って……スバルって素でもなかり強いね。 ともかく、あの一撃にはドレッドゴーレムは耐えきれず。 光を放ちながら倒れ伏し、チリとなって消えて行った。 それと同時に周囲が光り出し……異界が収束して行った。

 

現実世界に戻ると、そこはすっかり真夜中……すでに深夜を回っていたみたいだ。

 

「ふう、戻って来られたね。 大丈夫、スバル?」

 

「こ、こっち見るなぁ……!」

 

「ご、ごめん!」

 

さっきの一撃で服がはだけ、健康的な肌がチラリと見えた。 それにしても……

 

(ティアも結構着痩せするけど……スバルもかなり着痩せしてるんだね)

 

「ううう〜……///」

 

考えが読まれたのか、上着を着なおして身体を隠すように抱き締め。 頰を赤く染めて膨れっ面で睨んできた。

 

「そ、それにしても……レンヤさん達遅いなぁ。 ホルスもある事だし、最初からいてもおかしくないんだけど……」

 

「ーー気付いているに決まってるだろ」

 

頭上から声をかけられ、すぐに上を向くと……木の幹に寄りかかって枝に座っていたレンヤさんがいた。

 

「レ、レンヤさん!?」

 

「ふう、休めって言ったのに……とは言えーー」

 

ピピ、ピピ♪

 

「懸念してた通りか」

 

レンヤさんはメイフォンの画面を見て嘆息した。 何も言わずメイフォンをこっちに向かって放り、慌てて受け止めた。 ホッと一安心しながら画面を見ると、そこにはサーチアプリが表示されていた。

 

「!……この数値……ティア……」

 

ティアの画像と共に、サーチアプリが高い数値を弾き出している。 ティアは間違いなく怪異と関わりがある証拠……だが、恐らくティア自身もこの事に気付いていない。 だけど、元凶はティアを狙って、すぐ側にいる。

 

「……今のティアナを1人にするなよ」

 

「え……」

 

「それって、どういうことですか……?」

 

レンヤさんは木から飛び降り、メイフォンを取ると懐に仕舞い。 背を向けた。

 

「ーー人間の持つ“負の感情”。 怒り、妬み、嫉み、恨み……そんな想念に怪異が引き寄せられるケースがある。 そして目をつけられた者の感情の揺らぎに共鳴して異界化を引き起こし……まるで神隠しのように異界に引きずり込む事がある。 本人を……もしくは居合わせた人間を」

 

「それは……!」

 

今し方起きた異界化、サーチアプリの結果……それはつまり……

 

「じゃあ、さっきの異界化はティアが原因だったのですか!」

 

「可能性は高いだろう。 このままだとティアナ自身が異界に取り込まれるのも時間の問題だ」

 

「くっ……」

 

「そんな……」

 

スバルは目に見えて落ち込むが……何か思いついてバッと顔を上げた。

 

「……あ! だったら、すぐにティアを追いかけないと!」

 

「現在ティアナは自室で寝ている。 対応はこちらでもするが……この件、俺達隊長副隊長陣は手を出さない。 お前達自身の手で解決しろ」

 

「え……!?」

 

「そ、それは一体……」

 

「俺達はこの件を傍観していると言っているんだ。 この事件はお前達にとって大きな転機になるだろう……もちろん、ヤバそうだったら手を貸すが……どうする?」

 

……教団事件の時もそうだったけど。 レンヤさんのいきなりの試験は、失敗すれば色んな意味でヤバくなる事ばかりだ。 だけど……

 

「……サーシャにも、協力させてもらっても?」

 

「ああ……ティアナには勘付かれるなよ……健闘を祈ってる」

 

それだけを言い残すと、レンヤは隊舎に向かって去って行った。 残された僕達は、事の重大さを改めて感じていた。

 

「うう……レンヤさん、いつにも増して厳しいよぉ……」

 

「信頼されて任されているのか、丁度いい事件が起きたから試練として任したのか……ま、それはどうでもいいかな」

 

レンヤさん達がどんな思惑を考えていようと、やる事は変わらない。 スバルの前に行き、座っているスバルに手を差し伸べる。

 

「僕達はティアと仲直りして、グリードをブッ飛ばす……それでいいんじゃないかな?」

 

「ソーマ……ふふ、あはははははッ!! そうだね、その方が分かりやすくていいや!」

 

僕の考えに同意するようにお腹を抱えて笑うスバル。 一盛り笑った後、目尻に付いた涙を拭って差し伸ばされた手を取り、立ち上がった。

 

「頑張ろう、ソーマ。 ティアと仲直りするため……」

 

「ティアを狙うグリードをブッ飛ばすため……」

 

『やるっきゃない!!』

 

手を握ったまま上にあげて手を組み合い、声を揃えて叫んだ。

 

 



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156話

 

 

6月24日ーー

 

色々とギクシャクしながらも、スバルがティアナの早朝訓練に付き合い。 本来の訓練にも気合いが入り、少しずつだが元の関係に戻って来たが……根元は未だに引きずったままだ。 それに早朝訓練も正規の訓練メニューにない秘密の特訓……これでは心身共にティアは参ってしまいかねない。 これに加えて3人だけで怪異を発見、撃退しなければならない。 そして、怪異を見つけ出す1番手取り早い方法は……

 

「っ………!」

 

それは出来ない。 頭を左右に振って雑念を振り払う。

 

「ソーマさん?」

 

「どうかしたんですか?」

 

自身の行動に、サーシャとエリオが不審に思い声をかけてきた。 何でもないとなんとか笑って誤魔化し、朝食を口に入れた。 隣を見ると……大量に盛られたパンを美味しそうに食べるエリオ。 相変わらずスバル並みの食欲、見てるだけで満腹になりそうだが……そうすると保たないので、ちゃんと食べよう。

 

「あれ? そういえばティアナさんとスバルさん、遅いですね? いつもなら1番最初に起きていたのに……ソーマさん、何かしりませんか?」

 

エリオがパンの壁越しに聞いてきた。

 

「さ、さあ……サーシャ、何か知っている?」

 

「うえぇっ!? そ、それは……」

 

「?」

 

事情を知っているサーシャは、いきなり話を振られた事に驚きワタワタする。 と、そこに手のひらにフリードを乗せたキャロと、肩にガリューを乗せているルーテシアがが食堂に入っきた。 逃げるように手を上げると、それに気づいた2人が寄ってきた。

 

「おはようございます。 ソーマさん、サーシャさん、エリオ君」

 

「おはよう、キャロ」

 

「おはよう、いい朝ね」

 

「そ、そうだね」

 

キャロはいつも通りだが、僕達の行動にルーテシアが不審に思い、少し顔をしかめる。

 

「フリードとガリューもおはよう」

 

「キュクルー!」

 

(ペコリ)

 

それから2人も朝食を取りに行き、しばらく和気藹々と朝食を食べていた。

 

「ーーあ……あの、ソーマさん。ちょっと気になる事があるんですけど……」

 

「え……何かな?」

 

突然、キャロが思い出したかのような顔をして、質問してきた。

 

「えーと、食堂に来る前にスバルさん達の部屋に寄ったんですけど、返事がなくて」

 

キャロの言葉に、僕とサーシャの動きがピタリと止まる。 まさか……

 

「2人は部屋にいた?」

 

「よくわからなかったんですけど……いなかったと思います」

 

「そう……」

 

ティア、今日も早朝から特訓を……スバルも付き合っているみたいだし。 無理してないといいんだけど……

 

「モグ……そういえば……最近ソーマ。 ティアナと何かあったのかしら?」

 

「え……!?」

 

「なーんかいきなり折り合い悪くなっんじゃない。 特にティアナがソーマを避けてる気がする。 それにスバルとも。 スバルはいつも通りだと思うけど、どことなく落ち込んでるわよ、あれ」

 

「あ、僕もそう思った。 何かこう……ギクシャクしているよね?」

 

「お2人は喧嘩でもしたのですか?」

 

「そ、そん事ないさ。 ほら、しっかり食べて。 じゃないと今日一日保たないよ!」

 

「そ、そうだねー」

 

サーシャも緊張しながらも同意してくれ。 何とかこの場はやり過ごせた。 だが、ティアとの関係も、ティアを狙うグリードの事も何にも出来ていない。 時間はもう残されていないのに、事態は刻一刻と悪化して行く。

 

ここ最近ティアの日々過酷だ。 早朝自主練に始まり、日中のなのはさんの訓練。 それが終わってから深夜にまで及ぶ自主訓練と、寝る間も惜しんで特訓に明け暮れていた。 僕はそんなティアを苦々しい表情で見ていた。常軌を逸した訓練をしているティアとスバルを止めようと、訓練前後で何とかコミュニケーションを取ろうとしたが、全ては無駄に終わっている。 最初はティアも反応していたが、今では無視を決め込んでいる。 強引に話をしようと思っても、ホテルアグスタ警備後の夜の事もあって強く言えずにいた。 ティアを放ったらかしにしたのは自業自得……だが確実に自身に責はある。

 

「……付け焼き刃の技や連携なんて、脆いだけなのに……」

 

血反吐吐いて、辛い思いをして手札を増やそうとしても……ティアとスバルの特訓の事を。 そう、呟ずにはいられなかった……

 

(明日は模擬戦もある……何事も無いといいんだけど……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月28日ーー

 

午前中のまとめとして、2on1の模擬戦が行われた。 ライトニングから始まり、クレードル、フェザーズ、スターズの順番でこれまでの訓練成果の総集として模擬戦が行われた。

 

「ーーまあ、いいでしょう」

 

『あ、ありがとうございます!』

 

模擬戦の相手をしてもらったアリサさんに何とかいい勝負をし、ギリギリ合格点ももらった。 ライトニングの模擬戦を担当したアリシアさんは結構ユルユルだったのに……

 

「よし、それじゃあ次はスターズだね。 バリアジャケット、準備して」

 

『はい!』

 

僕達は見学のためビルの屋上に移動し、それから模擬戦が開始された。 今のところは2人ともなのはさんについて行けてる。

 

「ーーごめん遅れて。 もう始まっちゃった?」

 

と、そこにフェイトさんが屋上に現れた。 かなり急いで来たようだが、息が上がってない所が流石だと言える。

 

「フェイトさん」

 

「どうしてこちらに?」

 

「本当は今日の模擬戦、私と姉さんとアリサが受け持つはずだったんだ」

 

「そうだったんですか?」

 

「この頃なのは、働きっぱなしだったから疲労が心配でよ。 フェイトに今日の模擬戦を提案したんだけどよ……」

 

「朝から晩までみんなと一緒に訓練して、1人だけの時はモニターとにらめっこして訓練映像を確認して訓練メニューを考えたりで」

 

「私も負担を減らそうとしてるんだけど、なのはは妙な所で遠慮して。 まあ、テオ教官のおかげで柔な鍛え方はしてないし、倒れる事は無いと思うけど」

 

「なのは……少なからず心労は溜まってるだろうね」

 

「ああ……このままじゃなのはでもいつかまいっちまうから、休ませてやりたかったんだよ」

 

「そう……全くあの子は……そういう所はレンヤと似てるんだから」

 

2人から聞かされた自分達の知らない場所でのなのはさんの姿。 自分達がどれほどなのはさんに……隊長方に想われていたのか、キャロとエリオとルーテシアは改めて知り感銘を受け。 美由希さんは少し呆れながらなのはさんを見上げた。

 

「本当なら、全ての模擬戦をアリサが担当するはずだったんだけど……」

 

「なのは、頑固だからねぇ……まあ生徒の成長を確認したいのは分かるけど」

 

「あ、そういえばレンヤさんは? 今日は来られないんでしょうか?」

 

「レンヤなら大丈夫、必ず来るよ。 執務がひと段落ついたら直ぐに向かって」

 

「考えてみりゃ、アイツもアイツでけっこう激務だよな」

 

普段、六課のほぼ全体の執務やフォワード隊の訓練と僕達の個別指導。 更にたまに来る対策課の依頼や任務……慣れているとは思うとはいえ、なのはさん並みに心配になってくる。 だが、今僕が懸念する所は……

 

「…………………」

 

ピピ、ピピ♪

 

メイフォンを取り出し、サーチアプリに表示された数値を見る。 やっぱり……あの夜から日に日に数値が上がっている。 もしかしたら、何らかのきっかけで今日ピークに達っするかもしれない。

 

(ティア……)

 

「ーー戦況が動いた」

 

「クロスシフトね」

 

横目で僕の行動を見ていたヴィータさんとアリサさんが流れが変わった事を伝えた。 グリードの事は隊長達もすでに認知している。 そして、相変わらずこういう時の皆さんは手厳しい……

 

「クロスファイアーー………シュートッ!」

 

ティアが仕掛け、幾つものクロスファイアがなのはさんを目がけて不規則な軌道を描いていく。

 

「……なんかキレがねーな」

 

「コントロールはいいみたいだけど……」

 

「それにしても……」

 

……恐らく、ティアは他の作戦を考えていて集中しきれてない。 そして、この魔力弾の動きではなのはさんを追い立てるのがやっと、撹乱させる事はできない。 その時、ウィングロードがなのはさんに向かって行き、スバルがなのはさんに向かって行く。 本来なら、向かって来るスバルは幻覚によるフェイクのはずだが……あのスバルは本物だ。 なのはさんは直ぐにそれに気付き、牽制のため魔力弾を発車する。 スバルはなのはさんが放った魔力弾を、身体に纏ったフィールド系の防御魔法とシューティングアーツの防御の体捌きで弾き飛ばしながら前に突き進む。

 

「うりゃあああああっ!!」

 

拳をなのはさんに向け振り下ろす。 拳となのはさんのシールドがぶつかり、魔力が飛び散る。

 

「ぐう……」

 

「…………………」

 

しばらく打ち合いが続いたが、なのはさんがレイジングハートを振りぬき、スバルを大きく弾き飛ばした。

 

「こらスバル! ダメだよ、そんな危ない軌道!」

 

ウイングロードに着地したスバルに、ティアの誘導弾を躱しながら話すなのはさんの叱咤が飛ぶ。

 

「うわっ……っと、すみません! でも、ちゃんと防ぎますから!」

 

自分の注意に対してスバルが応えた一言に、なのはさんは一瞬表情を少し厳しくするが、ティアの姿が見当たらない事に気付く。

 

「っ……」

 

辺りを見回して直ぐにティアを見つけるが、そのティア行動……レーザーポインターが頰に当たりながらなのはさんは訝しむ。 ティアは廃ビルの屋上に立ちクロスミラージュをなのはに向け構え、魔力を収束させていた。 その行動はティアナのポジションからは考えられないものだ。

 

「砲撃? ティアナが?」

 

「……おかしいわね。 あんな動きは……」

 

「…………………」

 

戦闘を観戦していたフェイトさんとアリサさんがそんな声を漏らし、アリシアさんは険しそうな顔をして模擬戦を見つめた。 ティアをよく知る者がこのティアの動きを見れば、驚くのも無理もないのかもれない。 あれは秘密特訓によるアレンジだ。

 

『スバル! 特訓成果……クロスシフトC、行くわよ!』

 

「ーーおう!!」

 

恐らく念話でのティアの指示に、スバルは気合いの入った声で応える。 スバルはカートリッジをロードし、足に装着したマッハキャリバーが唸りを上げ、なのはさんへ急接近する。

 

「でえぇりゃあああああっ!!」

 

なのはさんは接近するスバルを魔力弾で迎撃するが、スバルはそれらを超スピードで掻い更に潜り重い一撃を繰り出す。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

「……っ!」

 

2度に渡り、スバルの拳となのはさんのシールドがぶつかり合い、魔力を弾けさせながら攻めぎ合う。 スバルは弾かれないように足に力を込めながら耐える。

 

「っ!」

 

その時、魔力の揺らぎを感じた。 なのはさんも同様に気付き……それと同時に屋上で砲撃を放とうと構えていたティアナの姿が一瞬にして消える。

 

「あっちのティアさんは幻影!?」

 

「じゃあ、本物は!?」

 

「ーーいた!」

 

屋上からなのはを狙っていたティアは幻影魔法のフェイクシルエット……キャロとエリオが慌てて視線をフィールド内に巡らし、ティアナを探そうとし、ルーテシアがティアの姿を捉えた。

 

「ティアナちゃん!?」

 

サーシャが声を上げ、ルーテシアの指した方向を見る。 その先にいたのはティア……勿論フェイクではなく本物。 ティアはあらかじめスバルが展開していたウイングロード上を駆け上がり、2人に向かって接近する。 ティアはクロスミラージュを右手に持ちトリガーを引き、オレンジ色の魔力で構成された短剣を生み出す。

 

「あれは……」

 

「まさか……!」

 

「っ!」

 

ティアの行動に全員が驚愕する中。 剣帯からダイトを抜き取り……復元して剣にした。

 

「! ソーマ……!?」

 

「ーーすみません……こんなの、見過ごせません!」

 

活剄で脚力を強化し、ビルから飛び降りてティアの元に向かう。 そして、ティアはなのはさんの頭上辺りまで駆け上がると、足場のウィングロードを力強く蹴り……

 

「一撃……必殺!」

 

短剣を展開したクロスミラージュを構え前に突き出し、なのはさん目がけ急降下していく。

 

「でええええぇぇぇぇいっ!!」

 

勝った。無防備ななのはさんの背を前にして、ティアは確信の笑みを無意識に浮かべていた。 その時……

 

「レイジングハート……モードリリース……」

 

《オーライ》

 

「っ!?(何て威圧……マズい!)」

 

感情のこもっていない、氷のような冷たい声が耳に届いた気がした。 模擬戦を止めるべく、剣をティアのクロスミラージュに向かって投擲した。

 

ガキィィッ!

 

「なっ!?」

 

「………………………」

 

剣がクロスミラージュを弾き、辺りに甲高い音が響き渡った。 ティアの表情が驚きを見せる中、瞬時に転移してティアの前に現れ。 両肩を掴んで横に移動させ……隣にあったウィングロードに飛び降りた。

 

「ティア……」

 

「くっ……ソーマ! 何で邪魔したの! あと少しで勝てたのにーー」

 

パァン!

 

言い終わる前に、ティアの頰を叩いた。 ティアは叩かれた頰を抑え、呆然と僕を見つめた。

 

「ティア……ティアが求めていたのはこんなの喧嘩みたいな力なの?」

 

「……え……」

 

「傷や怪我、他人の心配も厭わない戦術が……本当にティアが求めていた力なの?」

 

顔を上げ、ウィングロードの上に立っているなのはさんを見た。 少し表情は暗いが、任せてくれるみたいだ。

 

「独り善がりで、なのはさんの気持ちすら考えないで焦って……ティア、君は本当に1人ぼっちになりたいの?」

 

「っ!」

 

「確かに、あの時僕はティアの側に居られなかった。 言い訳は言わない……でもよく考えて。 今、ティアは本当に1人ぼっちと思う?」

 

「そ、それは……」

 

思う所があり、ティアは黙って俯いてしまう。 ティアの持っている力はティアだけの力じゃない。 技術だって、クロスミラージュだって、1人ぼっちでは決して手に入れられないものだ。 だが、ティアの表情にはまだ迷いがある……だからある言葉を口にした。

 

「……自分の舵は自分の意志で取れ」

 

「え……」

 

「昔、レンヤさんに言われた言葉。 他人に自分の価値を委ねるなって意味。 ティアはいつも凡人って言って努力して来た。 けど、それは本来嫌味にしか聞こえないんだ」

 

「な、なんで? 私はどう見ても凡人で……」

 

「ーーヴァイスさんはどう? あの人はバリアジャケットを展開できる程の魔力もない……けど、それを補える程の狙撃の腕を持っている。 エナだと戦う事すら出来ない……でも、エナは自分の仕事に誇りを持っている。 そんな彼女を……ティアは凡人と言う?」

 

「…………………」

 

遮るように事実を言うと、ティアは喉まできた言葉を飲み込み、口を閉ざした。

 

「確かに、レンヤさん達と比べるとそう思っちゃうかもしれないけど……それはティアだけに言える事じゃない。 それに、僕とティアが戦えば勝率は五分五分なんだよ? だからそこまで深刻に考えなくてもいいんじゃないかな?」

 

「…………だからって……だからって、あんな事言っておいて……」

 

「ティア、それは……」

 

自責の念が湧き、それが目に見えて黒い影のようなものが溢れ出して来た。

 

「ーーッ!?」

 

「しまった!」

 

「ーー今更、アンタ達にどんな顔したらいいのよ!!」

 

ビキンッ!!

 

その言葉が皮切りとなり、ティアの背後に赤い亀裂が走った。

 

「えーー」

 

「ティアナちゃん!」

 

「ティア!」

 

赤い亀裂が広がり……完全にゲートが顕現した。

 

「きゃああああっ!?」

 

ティアは直ぐに反応できず、顕現したゲートの飲み込まれて行ってしまった。

 

異界化(イクリプス)……!」

 

「やっぱり特異点として働いていたか」

 

「レンヤさん……」

 

いつの間にかレンヤさんがなのはさんの隣にいて、肩に手を置いてなのはさんを落ち着かせていた。

 

「ここは俺に任せろ。 ソーマ、サーシャはティアナの救出、及びグリードの討伐に当たってくれ」

 

『了解!』

 

「あ、あの! 私にも行かせてください!」

 

サーシャが隣に来たと同時に、ウィングロード伝いに息を荒げながらスバルが走って来た。

 

「こうなった原因は私が手をこまねいていて、どうにかしたいと思っていてもティアの感情に流されていただけで……だから、私の意志で、ティアを助けたいんです!」

 

「……危険を伴うよ? それでもいいの?」

 

「もちろん! お母さんのしごき以上に怖いものなんてないし!」

 

意気揚々に言うけど……クイントさんに失礼じゃ? 事実だけど……

 

「レンヤさん、後はよろしくお願いします!」

 

「ああ、気を付けろよ」

 

「ーーよし、それじゃあ行くよ!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

僕達3人は、ティアを救い出すためゲートを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜けると、そこは巨大な月が空に浮かび、迷宮が月光の下にある庭園だった。 迷宮には水路が用いられているで、足元に水が流れていた。

 

「これが迷宮としての異界……こうして見るのは初めてかも」

 

「ソーマ君、スバルちゃん、無理はしないで確実に進んで行こう」

 

「うん……分かってる!」

 

僕とサーシャはバリアジャケットを纏い、武器を構えると迷宮に向かって走り出した。 足が濡れるのも気にしてはおられず、鬼神に迫る勢いで襲いかかる怪異を倒し、迷宮を駆け抜ける。

 

「ーーティア!」

 

息つく暇もなく最奥に辿り着き。 その中央にティアがいた。 周りに禍々しい影のようなものが纏わりついており、ティアは苦しそうに蹲っていた。

 

「ス、スバル……アンタまで……こんな所に……」

 

「なにあの影みたいなのは!?」

 

「まさか、あれが……!」

 

「待っててティア。 今すぐ助けてーー」

 

「ーーバカッ!! なんで来たのよ!?」

 

近付こうとした僕達をティアは拒絶の一括で止めた。 思わず足を止めてしまい、ティアは顔を左右に振った。

 

「助ける、だなんて……私にそんな価値、無いわよ……! アンタに……アンタ達にどれだけ、酷いことをしたと思って……!」

 

「ーーそんなこと、関係ないよ!」

 

「え……」

 

スバルのその一言に、ティアは思わず口を開けてしまった。 呆けるティアに、スバルは一歩前に踏み出す。

 

「私のシューティングアーツは確かにお母さんから教えてもらったものだよ。 でも、そこから訓練校に入って、ここまで来れたのはティアとソーマのおかげなんだよ。 私1人じゃ絶対に無理……2人がいたから頑張って来られたんだよ?」

 

「幻術魔法だって、ティアナちゃん並みに出来る人ってあんまりいないんだよ? 確かに私はティアナちゃんの持ってないものを持ってる……けど、逆に言えばティアナちゃんの持っているものは私には無いものなんだよ」

 

「だから僕達はチームなんだ。 それに、ティアはなのはさん達は完璧だと思っているけど……実際は全然普通なんだよ? 歳だって実際はそこまで差はないし、失敗だってする……僕達は人間なんだから完璧にはなれないんだ」

 

「あ……」

 

「ティーダさんだってティアとの関係で四苦八苦している。 レンヤさん達も僕達と同じで平和のために頑張ってる。 そして、私達もティアと仲直りしたと思っている……ティアもそれと同じ。 ただ無茶だっただけだよ」

 

僕達が出せる言葉はもう少ない……最後に一呼吸置いて、口を開いた。

 

「だからね、ティア……ここから出て、一緒になのはさんに叱られに行こう? まずはそこから初めて、前に進もう?」

 

「ソー、マ……」

 

心に届いたかどうかはわからないが、少し安堵の表情を見せた。 だが……突如、ティアに纏わりつく影が勢いを増した。

 

「ーーうああっ!?」

 

「ティアッ!?」

 

「早く逃げーー」

 

次の瞬間、影がティアを飲み込み………影が具現化したような、上半身が影から出ている鋭い爪を持つ半透明なエルダーグリードが顕現した。

 

「ファントム……! 人の心の影に付け込むエルダーグリード……グレアファントム!」

 

「あのグリードを倒さない限り、ティアは助けられない! 行くよ、サーシャ、スバル!」

 

「はいっ!」

 

「うんっ!」

 

グレアファントムを前にし、武器を構えて向かい合う。

 

「待ってて……ティア!」

 

グアアアアア……!

 

グレアファントムが鈍い咆哮を上げ。 スバルは咆哮をものともせずグレアファントムに向かって走り出した。

 

「でやああああっ!」

 

跳躍、左足を振り上げ。 グレアファントムの顔面に向かって振り抜かれたが……

 

「えっ!?」

 

「スリ抜けた!?」

 

突然グレアファントムはほぼ透明になり……蹴りは抵抗なくスリ抜け、スバルは驚きながらも体勢を立て直し着地した。

 

「くっ……内力系活剄……旋剄!」

 

両脚に剄を流し、脚力を大幅に強化し高速移動。 グレアファントムの背後に回り込み、連弾を使いながら剣を振り抜いた。 今度は手応えを感じた。

 

「こっち!」

 

振り向こうとしたグレアファントムに、サーシャが魔力弾を放った事で敵意がサーシャに向き。 グレアファントムは左手を振り上げて黒い影のような魔力弾を放った。

 

「廻れ!」

 

サーシャはその場で静止、輪刀だけを回転させ。 迫ってきた黒い魔力弾を輪刀上に這わせるように受け流し……撃ち返した。 だが牽制に撃たれたようで、大したダメージもなく。 グレアファントムは爪を突き立てながら右手を構えた。

 

「ふっ、せい!」

 

振り下ろされた爪を一撃目は受け流し、二撃目は懐に潜り込んで避ける。

 

「外力系衝撃……轟剣!」

 

「てや!」

 

剄を練り上げて刀身を覆うように収束させ、胴体を斬りつけ。 サーシャは輪刀の刀身を掴んで顔面に叩きつけた。 するとグレアファントムは腕を交差させ……振り下ろしと全体に円形の黒い衝撃波を放った。

 

「おっと……」

 

「とおっ!」

 

「あわわ……!」

 

僕達は後退して迫ってきた衝撃波を飛び越えて躱した。 滞空している状態で剣を投げ、転移して頭上を取った。 だがグレアファントムはそれを狙い……影の中に潜り込み、剣は虚空を斬った。

 

「っ……重鈍の刃鋼(メタロ・ペテンザ)!」

 

影はサーシャの真下に這い寄り……グレアファントムが爪を振り回しながら影から飛び出してきた。 その前にサーシャは輪刀の中に入り高速に回転、球体のようになり。 ボールのように持ち上げられて攻撃を防ぎ……

 

「でりゃあ!」

 

ウィングロードで先に回り込んでいたスバルがその状態のサーシャをボールのように蹴り……グレアファントムの胴体にぶつけた。

 

「よし!」

 

「よくないよ!」

 

「あうあう〜〜……め、目が回ります〜……」

 

直ぐに目を回しているサーシャをビンタして目を覚まさせ……

 

「トイトイ! トイやあああっ!」

 

その間にスバルが素早くキレのあるフットワークでグレアファントムの攻撃を避けながらパンチを繰り出している。 その時、グレアファントムは左手を振り上げ、地面に叩きつけた。 その衝撃で地面は這うように黒い衝撃波がスバルに迫った。

 

「遅いっ!」

 

スバルは危なげなく避け、再び攻撃しようとした瞬間……スバルの背後から衝撃が襲った。 先ほどの衝撃波はどうやら追尾型、そして……

 

「う、動けない……!」

 

「捕獲効果もあったのか!」

 

黒い影がスバルに纏わりつき、動きを束縛されていた。 グレアファントムはスバルに向かって爪を向ける。

 

「こ、このおおおおおおっ!!」

 

スバルはガムシャラに身体を動かし……ギリギリの所で振りほどいて爪を回避した。

 

「スバル!」

 

「あ……」

 

スバルの元に駆け寄って腰を掴んで抱き寄せ、剣を投げ転移し。 グレアファントムから距離を置いた。

 

グレアムファントムは両腕を地に付け……障壁を展開しながら鈍い咆哮を上げ、全体に影の衝撃波を放った。

 

「きゃあっ!?」

 

「サーシャ!」

 

「大丈夫!?」

 

「う、うん……大したことはないよ……っ!?」

 

確かに大きなダメージは負っていないようだが、何故かサーシャはその場から動かなかった。 よく見ると身体が硬直している……

 

「あの咆哮で身体が麻痺したのか!」

 

「ぐっ……」

 

サーシャは何とか動こうともがくが……突如グレアファントムが魔力を貯めだし、両手を天に掲げた。

 

「っ!?」

 

「マズい……あれはマズい!」

 

「サーシャ!」

 

救い出そうと僕とスバルは走り出すが……グレアファントムの両手に影の魔力が集まり……影の魔力の塊を振り下ろした。

 

「おおおおおおっ!!」

 

「くっ!」

 

「きゃっ!?」

 

ギリギリの所でスバルがグレアファントムの腕を蹴り、着弾を遅らせ。 その間にサーシャを抱えてその場を離脱……一瞬遅れて影の魔力が爆発、グレアファントムの目の前に影の衝撃波が柱のように立ち登り、異界の天まで衝撃が登った。

 

「きゃあああああっ!?」

 

衝撃が全体に広がり、空中にいたスバルは吹き飛ばされるが、何とか体勢を立て直して着地した。

 

「ソーマ君!」

 

「了解!」

 

そのやり取りだけで会話が成立し、グレアファントムに向かって駆け出す。 グレアファントムは爪を振り下ろすが……

 

「させない! 巨人の投擲(ティターノ・ランチャーレ)!!」

 

輪刀を振り回してその場で回転、その加速を利用して輪刀を投げた。 投げられた輪刀は爪に直撃し、輪刀が爪を弾き返した。 そのまま剣に大量の剄を流し込み……

 

「うおおおおおっ!!」

 

天剣技・霞楼

 

剣を振り抜いた。 一閃の斬撃として放った衝剄を、グレアファントムの胴体に撃ち込んだ瞬間……ゼロ距離で多数の斬撃として四散させる。 グレアファントムに大きなダメージを負わせたが、この技は天剣で放つ剄技……ダイトこの技に耐えられず一瞬で限界を超え、風化してボロボロと崩れ去った。 グレアファントムは呻き声を上げながら倒れ伏し。 身体から丸いコアのようなものが露出した。

 

「何あれ……?」

 

「あれがグレアファントムを構成するコア……弱点だよ!」

 

「だったら……!」

 

スバルはコアに向かって走り出し、跳躍。 右腕を振り上げ、カートリッジをロード……リボルバーナックルが急速に駆動を始め、スバルの右腕に6つの魔力弾が浮遊する。

 

《マグナムフィスト》

 

「ぶっ壊れろおおおおおおっ!!!」

 

コアに拳を振り下ろした瞬間魔力弾がリボルバーナックルに装填、それと同時に炸裂……コアに衝撃を撃ち込んだ。

 

「まだまだああああっ!」

 

スバルはそれを合計6回実行、魔力弾が炸裂する度にコアにヒビが走り……最後の1発が撃ち込まれると完全に砕け散った。

 

グレアファントムは断末魔を叫び……天に手を伸ばしながら溶けるように消えて行き。 後に残ったのは地面に横たわっているティアだった。 直ぐさま駆け寄り、上半身を上げて無事を確認する。

 

「ティア……!」

 

「……よかった、怪我はないみたい」

 

「ーー異界化が収束するよ」

 

辺りから白い光が溢れ出し、空間が歪んで行き……現実世界に戻って来た。 どうやら訓練場のビルの上のようで。 外はもう日が沈みかけていて、もう夕暮れ時だった。

 

「無事に戻ってこられたみたいだね」

 

「うん。 本当に無事かどうかはこれからなんだけど……」

 

「うっ……」

 

「ティア……!」

 

ティアが呻き声を漏らし、思わず呼びかけると……後ろからレンヤさん達が飛んで来た。 すずかさんがすぐに応急処置と状態を確認する。

 

「無事のようだな?」

 

「はい……何とか勝てました」

 

「あの、すみません。 ご迷惑をおかけして……」

 

「気にしないで。 スバルのせいじゃない事は分かってるから」

 

「……かなり消耗しているみたい。 まあ、ここ最近の疲れもあるんだと思うけど」

 

診察を終えたすずかさんがそう言い、一先ず安堵する。

 

「なら、医務室に運ぶわよ。 ソーマ、連れて行きなさい」

 

「は、はい!」

 

休ませる意味も含め、訓練を中止してアリサさんに言われティアを抱え、医務室に向かうのだった。

 

 



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157話

 

 

同日ーー

 

日は沈み、すっかり夜となった六課の医務室では、グリードによって気絶していたティアナが目を覚ます。

 

「あらティアナ、起きた?」

 

「シャマル先生……えっと……え……」

 

「ここは医務室よ。昼間の模擬戦でグリードに攫われたのは覚えてる?」

 

「……はい……」

 

それよりも前に、なのはの意向に背いた事も……

 

「一時的とはいえグリードに取り憑かれていたから、少なからず心身ともに影響があると思うわ」

 

「え……?」

 

シャマルのその言葉にティアナは一瞬放心するが、直ぐに思い出した。 あの夜を模した異界でソーマ達が自分のために言葉を尽くし、救ってくれたことを。

 

「まあ、仮になのはちゃんの魔力弾が直撃しても、訓練用に調節しているから体にダメージはないとは思うけど……」

 

「そう、ですか……あの、ソーマやスバル達は?」

 

「皆、自室待機中よ。 それに六課中、今はこの話しで持ちきりで大変……はい、これ」

 

そう言ってシャマルはニッコリ微笑みながら訓練用ズボンをティアナに差し出す。 ズボンを手渡され、初めて今の自分の服装が訓練用シャツに下着だけだと気付く。 この格好をまんま見られたと思えば、恥ずかしさを覚えてずにはいられなかった。

 

「どこか痛い所はある?」

 

「い、いえ……大丈夫です……って、9時過ぎ!? ええっ、夜!?」

 

横にあった空間ディスプレイに映っていた時計の針は9時過ぎを指していた。 模擬戦があったのは昼過ぎ……外を見ると暗く、いつの間にか日が沈んでいた。

 

「凄く熟睡してたわよ。 死んでるんじゃないかって思うくらい」

 

シャマルの話しを聞いて、唖然としてしまうティアナ。まさかここまで長時間寝ていたとは夢にも思わなかったようだ。

 

「最近、殆ど寝てなかったでしょ? すずかちゃんも言ってたけど。 溜まってた疲れが、まとめて出たのよ」

 

「そう、ですか……」

 

ティアナは色んな思考が頭の中でごちゃ混ぜになり……ポツリとそう呟くのだった。 と、そこにカルテを持ったリンスが入ってきた。

 

「目が覚めたか」

 

「リンス准尉……」

 

「見た所、倦怠感などはなさそうだな。 なら彼らに顔を見せてやれ」

 

「え……」

 

ティアナは医務室の出入り口の方を向くと……ソーマとスバルとサーシャが顔を覗かせていた。

 

「ア、アンタ達……!?」

 

「や、やあ……」

 

「あ、ヤバ」

 

「ティ、ティアナちゃん。 元気で良かったよ〜」

 

ソーマ達はしまったといった顔をし、ゾロゾロと医務室に入った。

 

「気分はどう?」

 

「ま、まあまあね。 それよりもアンタ達、自室待機命令が出ているのに何してるのよ?」

 

「もちろん、ティアが心配だからに決まってるよ!」

 

「はい! グレアファントムを討伐するのは手こずりましたけど、何とかティアナちゃんを助けられて良かったです!」

 

「……そう……迷惑かけたわね」

 

と、そこでティアナは自分の格好を思い出し……頰を薄く赤に染めながらソーマの方を向いた。 ソーマは特に気付いた様子はないようだが……

 

「ソ、ソーマ? 下、向くんじゃないわよ?」

 

「え……下が何、か……!?」

 

「っ〜〜〜///// 見るんじゃないわよこの変態!!!」

 

「アップルッ!?」

 

一瞬で顔を真っ赤にしたティアナのキレッキレのアッパーカットが炸裂、ソーマは綺麗な弧を描いて医務室から退室した。

 

「あらあら、怪我人追加かしら?」

 

「やれやれ、どうやら余分に回復したようだな」

 

シャマルとリンスは、ソーマ達を呆れながらも微笑ましそうに眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティアナの暴走、それに共鳴して発生した異界化……それらを収束させ。 気絶したティアナを医務室に運んだ後、俺達隊長陣はフォワード陣に自室で待機命令を出し、事態の収集に当たっていた。

 

「う〜ん……訓練場のど真ん中に異界のゆらぎが残っちゃってるね」

 

「ここに残しておくと訓練の妨げになるわね。 何とか移動出来ないかしら?」

 

「訓練場の隅っこに移動するくらいの方法はあるにはあるけど……完徹になるね」

 

「ソーマ達の安全の為だ、背に腹はかえられない。 それで行こう」

 

訓練場のど真ん中にあるゲートのゆらぎを隅に移動させる為、行動を開始した。 方法としては4人がかりで結界でゲートを囲み、ゲートに干渉しないように移動させる……それだけでいいのだが、この作業は少しのズレも許さないしかなり神経を使うのだ。 日が昇る前に終われば上々だな。

 

「それじゃあ、まずは道具を持ってこないとね」

 

「なら俺が持ってくるよ。 アリシア達は準備を進めておいてくれ」

 

「ええ」

 

「よろしくお願いね、レンヤ君」

 

道具を取りに行くため訓練場を出ると、出入り口側でなのはがシュミレーターのチェックをしていた。 だが、その手を動かす表情は暗い。

 

「…………………」

 

「なのは……」

 

「っ……フェイトちゃん……」

 

「なのは」

 

「あ、レン君も……」

 

隊舎方面から来たフェイトと鉢合わせし、なのはもちょうどチェックを終えたようなので一緒に隊舎に向かう事になった。

 

「さっきティアナが目を覚ましたよ。 グリードによる心身の影響がないみたいで、スバルと一緒にホフィスに謝りに来てたよ」

 

「そう……」

 

「なのはは訓練場だから、明日朝一で話したらって、伝えちゃったんだけど……」

 

「ん……ありがとう」

 

フェイトの会話に、短い応答で答えるなのは。

 

「でもごめんね。 レン君から話しは聞いていたんだけど……結局、私の監督不行届きで。 レン君やフェイトちゃん、皆に迷惑をかけちゃって……」

 

「あ……ううん、私は全然」

 

「ああ、気にしすぎる事はないさ、この件は俺にも責任はある。 ソーマ達の為とはいえ、原因をソーマ達に任せっきりでティアナを蔑ろにしてしまったのだから」

 

もっと、ティアナと親身になって話を聞いていれば、こんな事には……

 

「ティアナとスバル、どんな感じだった?」

 

「……うん。 まだちょっと、御機嫌斜めだったかな?」

 

「はは、スバル達がまだまだ子どもだって事だな」

 

「あはは、そうだね……まあ、明日の朝ちゃんと話すよ。 フォワードの皆と……」

 

「うん……」

 

「……もっと、早くに話しておくべき……いや、過ぎた事は悔いてもしょうがないか」

 

胸に手を当て、静かに首を振る。 その行動を見たなのはは表情を暗くする。

 

昼の時もなのはを落ち着かせるため、なのはの手を自分の胸に持って行き……胸にある傷を意識させてどうにか落ち着かせた。 仕方ないとはいえ、なのはの罪を意識させてしまいかなり罪悪感がある。 夜空に浮かぶ2つの月に一瞥しながら隊舎の中に入ると……突然、六課隊舎中にアラートが鳴り響いた。

 

俺達は顔を見合わせて頷くと、走り出した。 指令室に到着すると、はやてがグリフィスに現状を確認している途中だった。

 

「はい。 東部海上にガジェットII型が出現しました。 付近にレリック反応は今のところは無く、ガジェットの総数は60機を確認。 現在確認されているスペック以上の機動性と速度で旋回飛行を続けています」

 

報告が終わる頃になのはとフェイト、隊長2人が駆け付けモニターを注視する。

 

「航空II型、12機編隊が6隊、機編隊が4隊」

 

「発見時から変わらず、それぞれ別の低沿軌道で旋回飛行中です」

 

「レリックが狙いじゃないのか?」

 

ガジェットの目的はレリックや、それに近い反応を持つロストロギアの収集。 なら、今回のガジェットの出現の意図が読めない。

 

「海上施設も船も何にもない場所を旋回飛行だけをしている点から推測すると、これは……」

 

「まるで、打ち落としに来いと誘っているように見えますね」

 

「それに、現存のスペック以上の機動を誇っているとなると……ガジェットのテストも兼ねているかもね」

 

「壊されるのを前提で、ガジェットのデータを取るつもりなんだろうな」

 

「うん、そうやろうな……」

 

すずかとアギトの推測に同意し、はやては椅子に座りながらこちらに視線を向ける。

 

「テスタロッサ執務官、これをどう見る?」

 

「……犯人がスカリエッティなら……こちらの動きとか、航空戦力とかを探りたいんだと思う」

 

「この状況ならこっちは、超長距離攻撃を放りこめばすむわけやし……」

 

「一撃でクリアですよ~♪」

 

はやての隣にいるリインが名案だと言うかのように手を上げる。 まあ、この殲滅作戦は高ランク魔導師が多数所属するからこそ成立する戦法。 全ての部隊が出来るわけでもない。

 

「だが……わざわざ相手の策に乗る必要は、ないと思う」

 

「ええ、レンヤの言うとおりね。 無闇に手の内を見せる必要はないわ」

 

「まぁ実際、この程度のことで隊長達のリミッター解除ってわけにもいかへんしな……高町教導官はどうやろう?」

 

「こっちの戦力調査が目的なら成るべく新しい情報を出さずに、今までと同じやり方で片付けちゃうかな」

 

「うん……それで行こう」

 

はやてはグリフィスと同意見で、作戦の方式が決まった。 空に出動するメンバーは俺となのはとフェイト、アリサとアギト、ヴィータの6名に決まった。

 

指令室から退室した俺達はヘリポートへと移動し。 ピット艦が出動待機する側でフェザーズ、スターズ、ライトニング、クレードルのメンバーが集まった。

 

「今回は空戦だから、出撃は私とレンヤ隊長とフェイト隊長、アリサ副隊長とアギト空曹とヴィータ副隊長の6人」

 

「皆はロビーで出撃待機ね」

 

「そっちの指揮はすずかとアリシアとシグナムだ。 留守を頼むぞ」

 

「待機だからって、気を抜くんじゃないわよ」

 

『はい!』

 

「……はい」

 

指示に対する返事がティアナだけ、他の6人と比べ何処か覇気に欠けていた。 それによって俺達の視線は自然とティアナに向けられる。

 

「後、それから……ティアナは出動待機から外れとこうか」

 

「っ!」

 

なのはの一言で、フォワード達に動揺が走る。 当のティアナは、ソーマ達以上に動揺しているのがわかる。

 

「その方がいいな。そうしとけ」

 

「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし」

 

「ーー言うことを聞かない奴は……」

 

なのはの言葉を遮って呟くティアナ。

 

「使えないって、ことですか」

 

ティアナは俯き、肩を震わせたながら呟くようにして言った。 それを聞いたなのはは短くため息を吐いた。

 

「自分で言っててわからない? 当たり前のことだよ、それ」

 

自然となのはの口調が厳しくなっていくのがわかる。 顔には出さないが内心、ティアナの今の言動に呆れてしまっていた。 そんな感情を余所に、ティアナはなのはに感情ぶつけ続ける。

 

「現場での指示や命令は聞いてます! 教導だって、ちゃんとさぼらずやってます」

 

それを聞いたヴィータがティアナの前に行こうとするが、なのはが手で止める。

 

「それ以外の場所での努力まで、教えられた通りじゃないと駄目なんですか!?」

 

一気に叩きつけるように言葉を話すティアナ。 それでも、なのはは何も言わない。 なのはは知ろうとしている……ティアナが何を思って、何を望んでいるのか。 なのはは自分の過ちを正し、ティアナと共に成長しようとしている。

 

「私は、なのはさん達みたいにエリートじゃないし、ソーマやスバル、ソーマやエリオみたいな才能も、ルーテシアやキャロみたいなレアスキルも無い! 唯一の取り柄の銃の腕も、この中じゃ霞んでしまう! 少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ、強くなんてならないじゃないですかっ!?」

 

目尻に涙を浮かべながら、内に秘めた不満を叫んだ。 その時、アリサがティアナの目の前に移動し……

 

パーーンッ……

 

裏手でティアナの頰を叩き、乾いた音が響いた。 結構力を入れたようで、ティアナが少し飛んで倒れた。

 

「アリサちゃん……!」

 

「アリサ……」

 

「加減はしたわ。 このまま放っておいたらシグナムが拳でやりそうだったし。 それに……」

 

アリサは肩に手を置いてリンスに止められていたシグナムに一瞥した後、ティアナを見下ろし……

 

「ここは駄々をこねて、どうにかなるような場所じゃないわよ」

 

その言葉を境にティアナは崩れ落ちた。 座り込むティアナにスバル達が駆け寄る。

 

「私達を見て嫉妬する暇があるなら、他にやる事があるんでしょう?ヴァイス、行くわよ!」

 

「りょ、了解です!」

 

アリサの呼び掛けで、コックピットでスタンバイしていたヴァイスが慌てながら応える。

 

「ティアナ! 思い詰めちゃってるみたいだけど、戻ってきたらゆっくり話そう!」

 

「早く入れ! 付き合うなってのに!」

 

力なくその場に座り込んでいるティアナに、ヴィータに引っ張られながらなのはは必死に声を掛け続け……ピット艦は六課を飛び立った。

 

『……ソーマ、サーシャ。 ティアナの事、よろしく頼んだぞ』

 

『は、はい!』

 

『ま、任せてください!』

 

念話で2人にそう伝え、なのはの方を向いた。 開きっぱなしのハッチの側で小さくなっていく六課を見つめていた。 しばらくして現場空域手前に到着した。

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

「お前達も気をつけろよ」

 

「ああ、フェイトとヴィータも気をつけてな」

 

2人はハッチから飛び降り、デバイスを起動しながら現場に向かって飛翔した。

 

『704、現場空域に到着!』

 

『ライトニング01、スターズ02……エンゲージ』

 

フェイトとヴィータがガジェットと接触、交戦を開始し。 魔力光の閃きが真っ暗闇の海を瞬かせる。

 

『そんじゃあなのはさん、気ぃつけて』

 

「うん、ありがとうヴァイス君」

 

「なのは」

 

「うん?」

 

俺は飛び出そうとしたなのはを呼び止め……

 

「気をつけてな」

 

胸に手を当てながら、本心でそう言った。 なのはは少し目を伏せると、笑顔になった。

 

「……うん。 レン君も気をつけてね!」

 

ハッチから飛び出し、レイジングハートを起動。 交戦中のフェイトとヴィータがいる空域に向かった。

 

『私達も行くわよ』

 

「……ああ、分かってる」

 

俺、アリサとアギトが担当するのは離れた場所にある空域……そこに向かうのは少しの距離があるので……

 

『ーーベリファイチェック完了、出力正常に上昇中』

 

『ブラストオフ!』

 

はやての発進指示で、ピット艦の甲板の一部が蓋のように開いた。 そこから、フェアライズ状態のアリサが出てきた。

 

『くぅ〜! これ1度言ってみたかったんや』

 

『や、八神部隊長……』

 

開かれた蓋の一部が展開、アリサの飛行重力魔法と反対の魔力を充填し……放出すると。 アリサは指定空域に向かって発進……というか発射した。

 

『イヤッホー!』

 

「アギト、真面目にやりなさい」

 

『分かってるって……エネミーガジェットを確認。 サーチ……合計36機、6編成で旋回中』

 

アギトはスイッチを切り替え、機械音声で状況を報告する。

 

「まずは集めるわよ……フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

『マジカルエフェクト、バーンエクスプロード』

 

カートリッジをロード、出力を一気に上げ。 ガジェットを破壊しながら指定空域まで誘導する。

 

「さて、俺達も行くか」

 

《イエス、マジェスティー。 ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「ブラストオフ!」

 

カタパルトデッキに移動し、ギアを駆動させ。 魔力を上げながらアリサに続いて発射……ガジェットを誘導している空域に先回りする。

 

「殲滅する!」

 

《スカイレイブレイカー》

 

「はあああああっ!!」

 

収束、圧縮させた魔力を巨大な斬撃として放ち。 回避行動に移ったガジェットも巻き込んで撃墜させた。

 

「レンヤ! 討ち漏らしてるわよ!」

 

《サイファーバースト》

 

アリサは自身を魔力で包むと、複数の紅い閃光となり。 残っていたガジェットを一瞬で撃墜した。

 

『残存ガジェット2機、 現空域から南東に逃亡しています』

 

「逃げの一手……最後の最後のまでデータを取る気満々だな」

 

「合わせなさい、撃ち落とすわよ」

 

《カノンフォルム》

 

「ああ」

 

《カルテットモード》

 

フレイムアイズの刀身の一部がスライド、砲身を覗かせる。 こちらも片手に小型機関銃を展開させて構える。

 

「外すなよ」

 

「誰に言ってんのよ!」

 

引鉄を引き、2つの魔力弾が発射。 寸分違わずガジェットを直撃し、煙を上げながら海に墜落した。

 

『フェザーズ01、フェザーズ02、60機目を撃墜!』

 

『増援……ありません!』

 

『ちぇ……アタシらが最後かよ』

 

「ふう、勝負している気は無かったけど……少し残念ね」

 

「まあとにかく、これで任務完了だな」

 

数はあっちの方が少なかったけど、少し悔しいかもな。

 

『皆、事後処理は海上観測隊任せて。 皆はそのまま帰投してな』

 

「了解。 機動六課、帰投します」

 

ピット艦に戻り、六課に帰投すると……屋上でシャーリーが出迎えてくれた。 だがその理由は……

 

「ええ!?」

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

シャーリーは両手を合わせて謝り倒した。 どうやら出撃している間にフォワード陣になのはの教導の意味……過去を話したようだ。

 

「うう……ダメだよシャーリー。 人の過去勝手にバラしちゃ……」

 

「ミステリアスな女の魅力が少し減ったな」

 

「そ、そんなんじゃないよ〜!?」

 

ヴィータの冗談になのはは涙目で否定する。 というか、これ俺の過去も話したよな、絶対。 まあ、派遣任務の時、何度か仄めかしたけど。

 

「ダメだぜー、口の軽い女はよー」

 

「そのー……なんかこう……見てられなくて」

 

「ま、いずれはバレる事だしな。 そんなに気にする必要はねぇんじゃねぇか?」

 

アギトがやれやれと首を振りながら言う。

 

「……シャーリー。 ティアナ、今どこにいる?」

 

「あ、えっと……多分ーー」

 

シャーリーはおそらくティアナがいる場所を話し、なのははすぐにそこに向かった。 後のことはなのはに任せても大丈夫だろ。 それにしても……

 

「……なんだか、学院にいた時みたいだな」

 

「え、何が?」

 

「人との関係を取り持つこと……学院にいた時はかなり苦労したなぁ」

 

「ふふ、そうね。 シェルティスとリヴァンの時と、フェイトとアリシアの時とかね」

 

「も、もう、からかわないでよ」

 

こうして、夜空の下、色んな感情が入り混じる中……六課の夜は更けて行った。

 

翌日ーー

 

ティアナ達はいきいきとした表情で、早朝訓練に挑んでいた。

 

 



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158話

 

 

7月2日ーー

 

模擬戦での一件から数日が経過した。 今日もフォワードのメンバーは朝からなのはとアリサの教導を受け、メキメキと実力を付けてきていた。 そしてその日の午後……

 

「う〜んっと……ここだね」

 

ソーマ、サーシャ、ティアナ、スバルの4人はミッドチルダ西部の郊外にある聖王教会系列の教会前にいた。

 

「ふう……何でアタシ達が対策課の手伝いをする羽目になったのよ」

 

「ご、ごめんなさい……! 対策課はいつも人手不足で、偶にこうして私達が依頼を受け持つ事もあるんです」

 

「というか、ティアとスバルを同行させたのはなのはさんの指示でしょう? そう文句言わないの」

 

「むぅ……それは、そうだけど……」

 

納得のいかないティアナは頰を膨らませる。 ソーマ達は現在、午後の訓練を急遽異界対策課の依頼を手伝っていた。 訓練漬けの毎日なので気分転換も兼ねており、エリオ達も別行動で同様に依頼を手伝っている。

 

「それで? ここでどんな依頼を受ければいいの?」

 

「え〜っと、ハチの駆除をお願いしたいみたい」

 

「怪異全く関係ないわね! そんなの専門の業者に頼みなさいよ!」

 

「ま、まあまあ。 とにかく行ってみてから考えよう」

 

スバルはキレるティアナを落ち着かせ、ソーマ達は教会内に入った。 ここの責任者である神父に会おうと教会に入ると……

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「あら、スバル。 それに皆も」

 

神父と一緒に、陸士108部隊に所属しているギンガ・ナカジマと出くわした。

 

「何でギンガさんがここに?」

 

「ここのシスターさんから、教会内にあるハチの巣を駆除をしに来たのよ」

 

「え、それって私達と同じ依頼……」

 

神父に確認を取ってみると……どうやら神父とは別にシスターが陸士108部隊に届けを出したようで。 結果ダブルブッキングとなったようだ。

 

「すみません、こちらの不手際で……」

 

「いえ、気にしないでください。 カブった所で一緒にやれば特に問題はありませんから」

 

「そうだね! さすがお姉ちゃん!」

 

「はあ……さすが姉妹ね……それで、そのハチの巣はどこにあるんですか?」

 

「ああはい、こちらです」

 

神父に案内され、教会から少し離れた小屋に案内されたのだが……

 

「ほら、アレです。 いつの間にかあったんですよ」

 

「え……」

 

指差された方向にあったのは……小屋の壁を突き破っている巨大なハチの巣だった。

 

「どうですか? まあ、こちらは全部お任せしますけど」

 

「お任せしますじゃないわよ。 アレのどこがハチの巣なのよ……バケモノの巣の間違いでしょう!!」

 

「す、すみません! 昨日までは何もなかったんですよ!」

 

「あわわわ……」

 

キレ気味のティアナは、クロスミラージュを神父の額に当てて脅し気味に責め立てる。 神父は慌てて弁明し、どうやら一夜にしてこんなハチの巣が出てきたらしい。

 

「どこの世界に一夜にしてこんなハチがいるのよ。 女王蜂の我儘っぷりが目に見えるわね」

 

「いや、それティアが言える事じゃないから」

 

「うーん、これどうにかなるかなぁ?」

 

「そこを何とかお願いします。 私もこういう職業なんで殺生とかはちょっと……」

 

「人間は死んでもいいのかしら? バケモノに喰い殺されてもいいのかしら!?」

 

「っていうか神父に殺生もなにもないですよ。 異端審問とかやってそうですし」

 

「まあ、どうやらこれは私達の専門分野みたいですよ? エコーに反応がありますし、異界絡みなのは間違いないですよ」

 

サーシャがメイフォンを操作し、確認を取った。

 

「このままだと近隣にも迷惑がかかりますし、お願いします。 私らも応援しますので、聖歌歌いますので」

 

『〜〜〜〜〜〜♪』

 

いつの間にか後ろで盾を構えていたシスター達が一斉に聖歌を歌い出した。

 

「聖歌は辞めなさい! 縁起でもない!」

 

「あ、ではアカペラで。 皆さん、準備しますよー!」

 

「あ、ちょっと! 何を勝手に!」

 

神父の先導の元、関係者は準備のためにゾロゾロと教会内に入って行った。

 

「どうしよう……準備始めちゃったよ……」

 

「というかアカペラに準備って必要?」

 

「さ、さあ……」

 

「……頭痛くなってきた。 神崎隊長達はいつもこんなことをしてたのね……軽く同情するわ」

 

「あ、あはは。 まずは元凶のグリードが潜むゲートをどうにかしないと。 この小屋の中に反応があるよ」

 

「そうだけど……この巣を放置するのもね」

 

どう対処しようか悩んでいたソーマ達を他所に、スバルとギンガは準備体操をして体を解していた。

 

『ん?』

 

『ホァタアアァァッ!!』

 

スバルとギンガが姉妹仲よろしく一緒に飛び出し……巨大ハチの巣を容赦無く蹴った。巣が小屋に沈み込み、砂塵や風圧が舞う中、ティアナ達は呆然と2人を見た。

 

「終わったよ」

 

「これにて一件落着」

 

ナカジマ姉妹は笑顔で振り返って終わりを報告したが……振り返った先にいたソーマ達は地面に倒れ伏していた。

 

「あれ? 何やってるの?」

 

「おーい! ティアー、ソーマー、サーシャー!」

 

『話しかけくるんじゃないわよ! あのバカは姉が揃うともっとバカになるなんて……!』

 

『ちょっとティアー! ハチに死んだフリって意味あるの!? 聞いた事ないんだけど行けるのこれ!?』

 

『一説によると……死んだフリをしなくても動かないでじっとしているだけで、生き物と認識されない事が多いみたいです………多分』

 

『いや、そんな真剣に返されても……』

 

ソーマ達は地に倒れ伏した状態のまま、念話で会話する。 それよりも彼らの後方……神父達がソーマ達同様に死んだフリをしていた。 何人か血反吐吐いてダイニングメッセージを書いている。

 

「ねぇーー! ここからどうするのーー?」

 

「ちょっとあなた達ー、何死んだフリしてるのー?」

 

「…………あれ? 襲ってこないね」

 

「……そうね、留守だったのかしら?」

 

「いえ、異界にいるのではないでしょうか?」

 

何事もない事が分かり、ソーマ達は死んだフリを辞めて立ち上がり。 巣の前に向かった。

 

「そもそもこれ、本当にハチの巣なのかしら?」

 

「ゲートがこの奥にありそうですね。 でもハチの巣が道を塞いで通れないみたいですけど……」

 

「と、言うことは……」

 

「道がないなら……」

 

「え……」

 

『作るだけ!』

 

2人は声を合わせて頷き……巣を一蹴、粉々に壊した。

 

『よしっ!』

 

ゴンッ! ゴンッ!!

 

「よくないわよバカ姉妹!」

 

ティアナはスバルはおろかギンガにも容赦無く脳天に拳骨を下ろし、2人は頭から煙を上げながら倒れ伏した。そんな事を他所にサーシャは開けた道を通り、エコーを起動してゲートを顕現させた。

 

「で、ではでは、行きましょうか」

 

「う、うん、そうだね……」

 

「レッツゴー!」

 

いつの間にか復活したスバルが先導し、意気揚々に異界に突入した。

 

数十分後……全身が異界の蜂蜜、ミード塗れになったソーマ達3人がトボトボと、ナカジマ姉妹が笑いながら異界から出てきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、首都クラナガンーー

 

「はーい! 横断歩道は手を上げて渡りましょうねー!」

 

『はーい!』

 

美由希が横断用の旗を手に、子ども達に道路を横断させていた。 子ども達が去った後……

 

「って、ちっがーーうっ!!」

 

美由希は旗を地面に叩きつけた。

 

「これ異界対策課の仕事だよね!? なんでこんなボランティア紛いなことしてんの!?」

 

「異界対策課に依頼のほとんどはボランティアみたいなもんよ。 比率で言えば8:2くらい」

 

「何が8? ねえ、一体何が8なの!?」

 

「あ、やっぱり9かも」

 

(コクン)

 

「余計酷くなってる〜〜!?」

 

ルーテシアの残酷な真実に地面に手を付いて項垂れる美由希。 そんな中、幼稚園児の手を引いて来たエリオとキャロが歩いてきた。

 

「まあまあ、これはこれで楽しいですよ?」

 

「はい! とても楽しいです!」

 

「キュクルー!」

 

2人は子ども達にからかわれながらも、楽しそうに子ども達に道路を渡らせる。

 

「……そもそも、この中で一番年長者なのに、この扱いってどうよ?」

 

「フォワードの中で一番ミッドの事を分かってないんだから、あんまりウロチョロされたくなかったんでしょう? それに美由希、機械オンチだし」

 

「くっ……事実だし何も言い返せない……!」

 

「あ、あはは……それにしても、平和ですね。 先月の任務が嘘みたいです」

 

エリオは人の往来を眺めながら、そう呟いた。 エリオは人や車の喧騒が当然のように聞こえる日常が、久しぶりに思っている。

 

「私は初めてターミナルに行った時の人の多さにびっくりしてたから、よく分からないけど……確かにそうかも」

 

「ふっふーん、これも私達(対策課)がコツコツと地道に重ねて来た結果よ。 ……すぐそばに得体の知れない化物が潜んでいるかも知れない、いつもそんな恐怖を持って欲しくないから私達が頑張って……市民の皆と助け合いながらここまで頑張ってこれたんだ」

 

(コクン)

 

ルーテシアは胸を張りながら誇らしげに話してくれ、同意するようにガリューも頷いた。

 

「そうだね……他の管理局の人も優しくしてくれたし。 レンヤ達、ホントに皆に愛されているんだね」

 

「改めてすごいですね……」

 

「ーーにゃあ〜」

 

「ん?」

 

「あ、猫ちゃんだ〜♪」

 

不意に足元から猫の鳴き声が聞こえ、足元に黒猫がいた。 キャロは膝を曲げ、顔を綻ばせながら黒猫の頭を撫でる。

 

「野良猫かな?」

 

「首輪とかないし、そうだと思うよ」

 

「キュクルー」

 

「にゃあ」

 

エリオとキャロは寄って来た猫を目を輝かせながら優しく撫でる。

 

「にゃあ……」

 

「あれ? この子もしかしてお腹空いているのかな? 何かあったかな……」

 

「すみません、私は何も持ってないです」

 

「僕も食べさせてあげられるものは……」

 

「う〜ん、残念ながら今は……A5霜降り和牛しか持ってないわ」

 

いきなりルーテシアの両手に持ちきれない程の大きな肉が登場した。

 

「って、どこから大きいお肉を出したの!? それになんで持ち歩いているの!?」

 

「この後お母さんに届ける予定だったから」

 

(コクン)

 

「そ、そうなんだ……」

 

「そっか、それしかないか。 それじゃ仕方ないか、ごめんね。 このお肉じゃ身体に良くないから」

 

「にゃ、にゃあ……」

 

「変わりと言ったらなんだけど………これ、焼いてみたから」

 

美由希が猫の前に置いたのは……正体不明の暗黒物質だった。

 

「こっちの方が100倍身体に悪いですって!!」

 

「はあ……まいいわ。 あなた達、猫と戯れるのもいいけど、ちゃんと仕事しなさい」

 

「う、うん」

 

「ごめんなさい……」

 

「キュクル〜……」

 

ルーテシアに注意されて、2人は目に見えて落ち込む。

 

「にゃあ!」

 

「あ!?」

 

「キュクルーー!?」

 

突然猫がキャロに飛びかかり、肩に乗っていたフリードを咥え、走り去ってしまった。

 

「フリードーーー!!」

 

「あっちゃあー、フリードが物珍しくて興味持っちゃったか。 前にもガリューであったんだよねー」

 

(コクン)

 

「いやそうじゃなくて! 早く追いかけないと!」

 

美由希が猫を追いかけ出し、エリオ達も慌てながら続いて走り出した。 日頃なのはとアリサの訓練を受けている4人、猫に追いつく事などわけないが……猫は軽やかなフットワークで捕獲の手を逃れ続ける。

 

「うわあっ!?」

 

「もう、素早っこいわね!」

 

「フリードーー!」

 

「キュクーー!」

 

「待ちなーーぎゃん!?」

 

猫ばかりに気を取られ、美由希は頭から鉄柵に突っ込んだ。猫は華麗に鉄柵の間をすり抜け 、美由希の伸ばした手は鉄柵の間を抜けるだけで虚空を掴むのだった。

 

「美由希さん!?」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ーーふ、ふふ、ふふふ……」

 

メガネがずり落ちるのも気にせず、美由希は突然不敵に笑いだした。

 

「また、また私の邪魔をするんだね、鉄柵くん……」

 

「ちょ、ちょっと美由希……?」

 

「こ、この威圧は……!?」

 

「あわわわ……」

 

(ブルブル……)

 

黒いオーラを放つ美由希に気圧され、3人と1匹は恐怖を感じていた。 美由希はゆらりと立ち上がり、おもむろにメイフォンを取り出した。

 

「ソウルデヴァイス……」

 

「ちょ、ちょっと! 何する気よ!?」

 

「落ち着いてください、美由希さん!」

 

「ダメですよ! ソウルデヴァイスを出しちゃ!」

 

「止めないで……! 私は今こそ、鉄柵を超えなくちゃいけないの!」

 

美由希がエリオ達に止められる中……

 

「にゃあ」

 

「キュクル」

 

そんな光景を屋根の上から……いつの間にか仲良くなっている猫とフリードが見下ろしていた。

 

 



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159話

 

 

7月3日ーー

 

深夜、フレームがフルサイズ状態のリインは人気のない通路を疲れ切った顔で歩いており、飲み物を買おうと近くの自販機に向かっていた。 現在、六課の仕事が山のようにあり、その中でも比較的量が軽いリインですら頭を悩ませていた。

 

「………………はあ………」

 

リインはおしるこ(粒入り)しか売ってない自販機をしばらく眺め、ため息をついた。 だが背に腹はかえられず、結局それを買った。おしるこを手に、疲れ切った顔をしながらネクタイを緩めながら自室に戻ると……

 

「……あ……」

 

「よお、お帰り〜。 邪魔してんぜぇ〜」

 

アギトが自分の室のようにソファーでダラケきっていた。 リインは疲れ切った顔からイライラした顔に変わった。

 

「……通りで散らかってると思ったら……」

 

「? ここだけだろ」

 

そもそも何故ここにいるのか、と聞きたい所だったが。 リインは無視して向かい側のソファーに座り、おしるこの缶の蓋を開けて中身を飲んだ。 それと同時にアギトも持参していたジュースを開けた。

 

「…………………………」

 

リインは視線をテーブルの上に向けた。 そこはジュースの空き缶と菓子類でゴチャゴチャしていた。 それがリインのイライラを加速させる。

 

「……噂好きの掃除係のおばあちゃんがこれを見たらどう思うんでしょうか……?」

 

「んー?」

 

「子どもみたいにグータラとお菓子とジュースを食っちゃ寝していると、皆に思われるのはとても我慢できません……!」

 

「何だそれ? アタシの事言ってんのか?」

 

「あなた以外に誰がいると言うんです!?」

 

アギトの物言いに、とうとうリインの不満が爆発した。

 

「はぁん、随分じゃねぇか。 お偉いリイン様にとっては菓子食ってジュース飲んでれば全員子どもってわけか?」

 

「そう言う言葉使い辞めてもらえます? B級映画のギャングみたい……!」

 

「何言ってんだよ。 オメェの主はギャングの親玉みたいなもんじゃねえか」

 

「っ!」

 

アギトは足で指差しながらふざけた風に言うと……リインの堪忍袋の尾が切れ、おしるこ缶をテーブルに叩きつけた。 その際中身が飛び散る。

 

「心外です! 私とはやてちゃんは六課がそう思われないように毎日努力しているのに……! それなのに下っ端のあなたがその調子じゃ……!!」

 

「下っ端……!? 下っ端だと!? よくもまあそんな舐めた口聞けたもんだなぁ!!」

 

売り言葉に買い言葉……リインの溜め込んでいた怒りが日頃思っていた事を吐き出し。 アギトも一気に頭に来て、怒りを表すように持っていたジュース缶を投げ捨てた。

 

「その無責任な根性が下っ端なんですぅ! 少しは自覚を持って下さい!!」

 

「うっわ、偉そーに……いっつも肝心な時は役立たずのくせに。 この前のアグスタの時だって羽みたいのに襲われたのを誰が助けたのかなぁ〜?」

 

「酷い侮辱です! 私の仕事が何たるかを知らないくせに!」

 

自分の力不足を痛感しながらも嫌いな相手に指摘されるのは我慢ならず……むしろ開き直って日々溜めていた鬱憤を吐き出した。

 

「ええそうですよ! 脳みそが筋肉で出来ている古臭いあなたには私の責任は想像も出来ないでしょうね!」

 

「っ! 煩っせい!」

 

リインの言い分に怒りを覚え、アギトは足で思いっきりテーブルを踏みつける。

 

「だったらたまには身体張って、敵の前に立ってみな!」

 

「フェアリンクシステムに頼っておいて一端の勇者気取りですか!」

 

「はっ! ユニゾンばっかでまともにフェアライズした事もないやつに、何が分かるってんだぁあ!?」

 

「いいえー使えます〜。 でも使わないだけですぅ!」

 

「ああ〜、そうだったわけ?」

 

「ええ! 直感に頼るだけでフェアリンクシステムの性能を活かしきれない野蛮なあなたの戦い方なんかよりー。 ずーっと、ずーーっと上手く使えますー!」

 

「こ、こっのガキが……!」

 

胸を反り返すリインは反りすぎて天井を見上げ、アギトは怒りに震えるが……と、そこでアギトは何かを思いつき。 ニタリと口元を歪めた。

 

「ふん、だったら見せてみな」

 

「え…………え?」

 

「そこまで言うなら、模擬戦で勝負しようぜ。 もしアタシが負けたら〜、六課の中を……裸で一周してやるよ!」

 

「は、はだ!?」

 

服を捲り、ヘソを見せながら答えるアギトに、リインは顔を赤くして両手で身を隠す。

 

「本当ならフェアリンクシステムを使って白黒付けたいが、アタシらの問題にアリサを巻き込みたくはねぇ。 でままあ、テメェの場合は下着で許してやらなくもねぇぞ〜? く、くふふふふふ……」

 

かなり悪い顔をして笑うアギト。 明らかに調子に乗っていた。 だがリインは、頰を赤くしたまま腕を組んで……

 

「…………いいでしょう、上等です……!」

 

「え……」

 

「勝負しようじゃありませんか。 フェアリンクシステムで。 あなたのその思い上がりを、この私が正して上げましょう。 負けたら裸で一周でも何でもしてみせます!」

 

「っ………」

 

お互い、歯を噛み締めながら怒りの形相で睨み合った。 こうして……2人の仲の悪さによって引き起こされた喧嘩という名の模擬戦が決定したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月4日ーー

 

翌日、リインは昨夜の怒りが冷めることなく、怒りの形相で端末を睨み……

 

(アギトなんか………大っ嫌いっ!!!)

 

キーボードを弾き、端末に怒りをぶつけるように文字を打ち込むのであった。 そして……

 

〈親愛なるアギト・バニングス様。 6日18時00分、六課敷地内、陸戦用空間シュミレーターまで来られたし〉

 

『リミッターの限定解除、非殺傷設定付きのリストバンドは手配済み。 リインフォース・ツヴァイ…………追伸、逃げないように。 負けたら………裸で、六課一周よおおっ!?』

 

突然六課全体に告知されたこの情報は……食堂で一緒に昼食を食べていた管理局達を含めて、レンヤとヴァイスも驚愕させた。

 

「な、何でこんなことに……?」

 

「リイン曹長とアギト曹長が模擬戦……!?」

 

「あわわわ、どうしてこんな事に……」

 

「仲が悪いとは知っていたけど、まさかここまでするなんて……」

 

「そういえば昨日、素振りの帰りに2人が喧嘩していたような……?」

 

どうようにフォワード陣もこの告知に驚いた。

 

「裸……!? ちょ、リイン曹長……? それとも、まさかアギト?」

 

「ーーアタシじゃ不満か?」

 

「うおっ!!??」

 

いつの間かフルサイズのアギトがヴァイスの隣に座っていた。 しかもかなりイラついている顔をして、ポ○キーをタバコのように咥えながら。

 

「あの温厚なリインが………受けるのか?」

 

「受けるさ。 さすがにここまで言われちゃあね……く、くくく……」

 

「あ、あははー……」

 

アギトは少し苦笑い気味で呟き、笑う。 それにスバルは少し引きながら苦笑いをする。

 

「辞めた方がいいですって、可哀想ですよ」

 

「そうよ。 いつものような喧嘩じゃない?」

 

「リインちゃんは一応まだ子どもだよ、大人気ないってー?」

 

「そうは行くか。 ま、せいぜいからかってやるよ。 ベソかいて……『ごめんなさーい!』って言うまで、散々小突きまわしてやるよ……! ふふ、ふふふふふ……!」

 

アギトは“ごめんなさい”の部分を涙目になりながらリインの声真似し、すぐに悪い顔をして笑ってる。

 

「みょ、妙に嬉しそうだね……」

 

「さすがに大人気ないっスよ」

 

「それはあっちも同じだよ。 全くガキなんだからなー」

 

「ーー誰がガキですって?」

 

反論がアギトの隣から聞こえ、またいつの間にかリインが座っていた。

 

「こ、これはこれは曹長殿」

 

「軽く捻ってやるとでも思ってるんでしょう? でも、そうは行きませんよ」

 

「ふっ……それよりも裸で六課一周……オメェに出来るのか?」

 

「あなたこそ……」

 

2人は睨み合い、何とも言えない空気が食堂に漂う。 周りにいた隊員達もそそくさと逃げる中、リインが立ち上がった。

 

「仕事がありますので、外回りに行ってきます!」

 

「は、はい……」

 

「い、行ってらっしゃい……」

 

荷物を持って憤慨したまま、リインは食堂を後にした。

 

「は、はだ……リイン曹長の……裸っ!?」

 

「………ヴァイス」

 

「うお!? リンスさん!?」

 

慌てていたヴァイスの背後に、いつの間にかリンスがいた。 その顔は姉妹揃って怒りの形相をしている。

 

「貴様、人の妹に良からぬ目で見てはいないだろうな……?」

 

「め、めめめ滅相もありません!!」

 

手をワタワタし、しどろもどろになりながらも何とか弁明するヴァイスを他所に……

 

「いつかはこうなるとは思っていたけど……」

 

「ふう、かなり大ごとになったわね」

 

「アリサちゃん、心配じゃないの?」

 

すずか心配そうな目でアリサを見る。 アリサはそれを一瞥すると、紅茶を一口飲んだ。

 

「……これはアギトとリインの問題よ。 いい機会だし、この辺りでケリを付けた方が2人のためだわ」

 

「ま、そのために少しはこっちで色々と手回ししておかないといけないけどな」

 

「やれやれ、ティアナの件が一件落着したと思ったら……」

 

「仕方ないよ。 六課の皆は、誰もが何かを抱えている……今回はその思いがぶつかり合っただけ」

 

すずかの言葉に、全員が無言で頷く。 そしてそれ以上は語らず、レンヤはコーヒーを飲み干すとおもむろに立ち上がった。

 

「さて、やるとしますか。 手伝ってくれるか、アリサ?」

 

「し、仕方ないわね。 手伝ってあげてもいいわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ中央、首都クラナガンーー

 

「…………………………」

 

その街並みの中で、明らかに不機嫌そうなオーラを放ちながらズンズンと地面を揺らしそうな勢いで歩いているリインがいた。 そんなリインを、市民の方々は怪訝そうに見つめる。 それを他所に、仕事帰りのリイン……その歩幅が少しずつ小さくなり、オーラが縮小して行き……

 

「……はう……どうしましょう……」

 

完全に消えると、リインは両膝と両手を地面に付いて項垂れた。 その顔はすっかり冷めており、“やってしまった”という顔をしていた。

 

「……戦闘経験はアギトちゃんの方が遥かに上……どうやったってリインが勝てる相手じゃないですよぉ……」

 

だが、放ってしまった矢はもう戻せない。 後悔先に立たず、リインはこの状況をどう乗り切ろうか周りの視線も気にせず考えていた。

 

「ーー何してるの?」

 

「ふえ?」

 

声をかけられ、リインが顔を上げると……目の前に黄色い髪をした少年が屈んで顔を覗き込んでいた。

 

「どうかしたの? 天下の往来で四つん這いになって?」

 

「はっ……!」

 

リインは辺りを見渡し、すぐさま飛び上がるように立ち上がった。 膝を払って咳払いをし、何事もなかったかのように振る舞った。

 

「ありがとうございますです。 えっと、あなたは?」

 

「僕? 僕はコルディ、ただの一般市民さ」

 

「それ、自分でいいます?」

 

「じゃあ、フリーの魔導師ってことで」

 

「適当ですね……」

 

呆れながらも場所を変え、近くにあった公園のベンチに座った。 コルディはリインと同い年に見える少年だが、リインは見た目だけで実年齢は二桁にも満たない。 そして座った2人だが、現在の心境のリインは思わず愚痴らずにはいられなかった。

 

「ーーなるほど、そんな事があったんだね」

 

「……はい……私も頭に血が上ってしまいまして……こうなってしまいましたです……」

 

「ふうん……で、後になって後悔していると。 見た目に似合わず大胆なことするんだねぇ」

 

「そ、それは……」

 

その言葉にリインは反応する。 事実、リインの見た目の精神年齢は合っていない、その事が胸に刺さり、リインは俯いた。

 

「ま、とにかく勝てるまでも行かなくても良い勝負が出来ればいいんじゃないかな?」

 

「そうは言われても……」

 

思い切った顔をして勢いよく立ち上がり、リインの前に立った。

 

「よし! じゃあ、僕が手伝ってあげるよ!」

 

「え……」

 

「まだまだ未熟だけど……僕は姉さんに教導と指揮を教わってもらってるんだ。 ちょっとくらいは力になれると思うよ?」

 

笑顔で答えるコルディだが、リインは訳のわからない顔をして困惑している。

 

「ど、どうしてそんな事を……今会ったばかりなのに……」

 

「そんなの、手伝ってあげたいからに決まってるよ! 僕が手伝いたいって決めた、僕がそうしたいって決めた、ただそれだけ! 君の意志に、想いに……熱く、熱く燃えるようなバチバチを僕が感じただけ! それ以外の理由なんてこれっぽっちもない!」

 

コルディはその場で楽しげに笑いながらクルクルと回る。

 

「さあ、とにかくまずは行動だ!」

 

「わっ!?」

 

「場所は南寄りの海辺でいいよね? それじゃあ、レッツ・ゴー!」

 

リインの意見も聞かないままコルディはリイン手を取り、鼻歌交じりで目的の場所に向かった。 リインは流されながらもコルディの提案に乗り、今日は帰らないとはやてに連絡した。

 

その後、リインも移動中の間に乗り気になり、その意気のまますぐに特訓を開始……八神家近く、人気のない砂浜で特訓を開始する事にした。

 

『そう、分かった。 ーーーーに伝えておく』

 

「ちょ、だから!」

 

ブツン! ツー、ツー、ツー……

 

「………………………」

 

コルディは連絡して相手に問答無用で通信を切られ、メイフォンから聞こえる話中音が虚しく響いた。 コルディはメイフォンをしまい、後ろを振り向くと……準備運動をしていたリインがニコリと笑った。

 

「じゃ、じゃあ、そろそろ始めようかな?」

 

「はい! お願いします、コーチ!」

 

「あ、あはは……コルルでいいよ。 皆に愛称でそう呼ばれてるから……」

 

「はい、コーチ! いえ、コルルさん♪」

 

リインは敬礼しながら笑顔で答えた。 それに対してコルディ……コルルは愛想笑いで返した。

 

「コホン……まずはそのアギトって人の戦闘パターンを想定して。 弾丸回避訓練(シュートイベーション)が最適な訓練法だね」

 

「シュートイベーションと言っても、通常の魔力弾ではなくサッカーボール台の炎球ですけど……とにかく、お願いします!」

 

リインはバリアジャケットを纏い、蒼天の書を手に持って身構える。 コルルは頷くと、手のひらを上に向け……大きめの電撃が迸る魔力弾を展開した。

 

「それは……」

 

「僕は電気の魔力変換資質を持っているんだ。 種類は違うけど、本番と似た特訓ができるはずだよ」

 

「なるほど……では、お願いします!」

 

「ーー行くよ!」

 

コルルは手を振りかぶり、リインに向かって雷球を投げた。

 

「まだまだ、続けて行くよ!」

 

「え……」

 

間髪入れずに第2球を投げると、リインはすぐに反応できず呆けてしまい……

 

「きゃあああああ!?」

 

「えええっ!?」

 

アッサリと直撃、威力は弱めてあるとはいえ電撃がリインの身体中を走り回り……地面に倒れ伏した。

 

「ちょ、リイン!」

 

予想外の事にコルルも焦り、リインの元に駆け寄ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日ーー

 

夜遅く、会議室の一室で八神家とレンヤ達が集められた。

 

「リインが不良になってもうたぁーー!!」

 

議題はこれ、リインがこの時間になっても帰ってこない事だった。 もちろん連絡は届いているが……はやては気が気でなかった。

 

「リインが……リインが……リインが帰って来ないんよーー!」

 

「は、はやてちゃん、落ち着いて……!」

 

「ど、どうどう……」

 

「そんな事で俺達を呼び出したのかよ……」

 

「そんな事とはなんや! これは八神家の一大事なんやで!!」

 

半狂乱状態のはやてをレンヤ達が抑えて何とか宥めようとする。

 

「主はやて、落ち着いて下さい。 リインも夜天を守護するヴォルケンリッターの一員、必ず理由があるはずです」

 

「理由って、確実にアギトとの模擬戦の事じゃねぇのか?」

 

「アギトちゃんに勝つために秘密の特訓、そんなとこかしら?」

 

「問題はそこじゃあらへん……問題は一体誰と一緒に特訓しとるかや」

 

「と、言うと?」

 

はやての疑問になのはが詳細を聞いてみた。

 

「リイン1人で特訓なんて無理があるし勝機もない、だれか指導するやつが必要や」

 

「それがどうかしたの?」

 

「……知り合い全員に連絡をとったんやけど……誰もリインを見てないらしいんや」

 

「それは……少し心配ね」

 

「メイフォンも繋がらへんし。 も、もしかして……悪い大人に唆されて……!」

 

(はやてちゃーーん!!)

 

「あああぁーーーっ!!?? リイン! どこ行ったんやリインーーーッ!!」

 

「お、おい、はやて……」

 

「ああもう!」

 

変な妄想で再び狂乱状態になるはやて、レンヤ達は取押えるように落ち着かせる。 保護者として当然の反応だが、今までリインを正しく教育できたかと言えば……肯定はできない。

 

ピロンピロン、ピロンピロン♪

 

不意にシャマルのメイフォンにメールが届いた。

 

「あ、ごめんなさい…………リインちゃんからみたい」

 

「内容は!」

 

「ええっと………『模擬戦のために今日明日は八神家に泊まります。 街で会った男の子に指導してもらっているので心配しないで下さい。 リイン』……ですって」

 

「機動六課出動ーー」

 

ゴスッ!

 

「さて、部隊長が寝てしまった事だし。 会議は終了でいいわよね?」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

「お、おやすみなさーい」

 

はやてがシグナムとリンスが肩を貸して運ばれ、そのまま全員が会議室を出て行く中……レンヤとザフィーラが最後に残っていた。

 

「街で会った男の子、ね。 吉と見るべきか凶と見るべきか……」

 

「リインはああ見えても人を見る目はある。 問題はないだろう」

 

「だといいんだけどな」

 

リインの指導相手を懸念しながらも、2人はそう呟くのだった。

 

場所は変わり食堂……そこでアギトとすずかが夜食を食べていた。

 

「……リインちゃん、本気で練習してるみたいだよ」

 

唐突に、すずかがアギトにそう言った。 理由はもちろん模擬戦の原因となったリインとアギトの喧嘩についてだ。

 

「バカな奴、付き合わされている奴も気の毒なこった」

 

「そんな言い方はないでしょう……! あの子は出来ないことを、アギトちゃんに言われたから出来るって証明しなくちゃいけないだよ。 私達に少しでも追いつこうと頑張って、フォワードの皆には情けない姿を見せまいと頑張っている……そんなリインちゃんに向かって……」

 

「ーーんなこと、知ってるよ……!」

 

「え……」

 

意外な一言にすずかは思わず呆けてしまう。

 

「好きなおやつも、嫌いな虫も、下着の趣味も……! そんでもって……アタシはあいつのああいう不必要な事まで肩肘張っている事が気に食わないんだよ、前から」

 

「……そうだったの?」

 

「そうだ……変な悲壮感背負ってさ……自分が世界を変えられるとでも思ってんだろ? ガキってのはこれだから」

 

「アギトちゃんだったら……どうだったの?」

 

「ん? ん〜〜……多分、あいつよりもっとバカだったろーな」

 

「ーーぷっ……ふふふふふふ」

 

「な、何だよ?」

 

「ふふ……ううん、それがアギトちゃんの本音なんだね?」

 

すずかは手で口元を押さえ、笑いを堪えながらそう聞いた。

 

「そうだな………そうかもしんねえな。 アタシ……あいつに劣等感を感じてんだろうな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月5日ーー

 

翌日、コルルと鼻頭に絆創膏を付けたリインは模擬戦に使用されるシュミレーター訓練場マップと睨み合っていた。 今は戦術方面の対策をしていた。

 

「……………………(チラ)」

 

「……………………(チラ)」

 

2人共目だけ動かしお互いをチラ見しようとしたが、2人同時に行ったため視線が合わさってしまった。 そしてリインは大きく息を吐いてマップから身を離した。

 

「……コルルさんも勝てるわけないって思ってるんでしょう?」

 

「え……そ、それは……」

 

「いいんです、無理しないで。 でも、私だってバカじゃないし、一応は戦いの基礎くらいは知ってるつもりです」

 

「……じゃあ、勝つつもり?」

 

「はい! コルルさんがコーチを申し出てきてよかったです! 色々と意見が聞けてよかったです!」

 

その後も2人の意見を出し合い、ぶつかり合いながら戦略をまとめて行った。

 

「ーーどうでしょう?」

 

「……うん、いいと思うよ」

 

「そうですか! 良かった〜、苦労して考えたかいがありました!」

 

先ほどまでの張り詰めていた表情から一転、花咲くような笑顔になった。 コルルはそんなリインに目を奪われるが、すぐに正気に戻りマップを指差した。

 

「時間を考えたら、進路はこっちにした方がいいと思うよ。 逆光になるはずだから」

 

「なるほど……」

 

「ただ、いずれにせよチャンスは1度きり……」

 

「やってみて……ダメなら諦めます」

 

リインはそう言い、マップを消し立ち上がった。

 

「アギトちゃんをビックリさせるんです!」

 

「……ビックリ?」

 

「はい! それさえ出来れば裸で六課一周くらいどうって事はありませんです。 本当ですよ?」

 

本当に嫌という顔をせずに、リインは笑顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦、当日ーー

 

「ーー遅え!」

 

「ふわあぁ〜……」

 

定刻を過ぎてもリインは姿を現さず、アギトのイライラがつのるばかりだった。 立会人を引き受けたヴァイスも退屈で欠伸をもらしていた。

 

「……あのさぁ」

 

「あんだよ?」

 

「アギト、宮本武蔵って読んだ事ある?」

 

「んん? ………………………誰だ?」

 

アギトはたっぷり時間を置いて考え……結局何も出なかった。 それを聞いたヴァイスはガックリとうなだれた。

 

「……いや、気にしないでくれ……」

 

それから数時間が経ち……夕方になり、日が海に日と重なりそうになった頃……リインが姿を見せた。

 

「随分待たせてくれたな?」

 

「ごめんなさいですぅ。 ちょっとお腹が空いてましたから軽く食事を済ませてきたんですぅ」

 

「……チッ」

 

陽気に答えるリインに、アギトは険しい顔をして舌打ちをする。

 

定刻はとうに過ぎだが模擬戦を開始し、まずはお互いが見えない位置からのスタートとなった。

 

『アギトちゃん……』

 

模擬戦開始数秒前、リインがアギトに念話を飛ばして声をかけた。

 

『なんだ?』

 

『……手加減は無用ですからね?』

 

模擬戦開始の合図のため、ヴァイスがスターターピストルを天に向け……

 

『ふっ……上等だ!』

 

パンッ!

 

火薬が破裂……模擬戦が開始された。 それと同時にアギトがリインに向かって飛び出し、リインはビルの合間をぬって移動を開始した。

 

「あー! もう始まっちゃってる!」

 

「あれアリシア、仕事が残ってるからって帰ったんじゃなかったのか?」

 

「それはリインが時間に来なかったからだよ。 今さっきリインを食堂で見たって聞いて、慌てて来たんだから」

 

「そ、そうか……」

 

ヴァイスは本当に食事を取っていた事に驚きつつも、模擬戦に目を向けた。

 

「ーー見っけ」

 

アギトはビルの屋上に飛び乗り、そこからスコープを使いリインを視認した。

 

「本来のアタシなら白兵戦だが……ユニゾンデバイス単機で何が出来るっての。 こいつで……終わらせる」

 

手のひらに火球を出し、狙いを定め、遠距離からの攻撃で決着をつけようとする。 その容赦の無さにヴァイスが苦笑いし……アギトは直撃させず余波で倒そうとし、火球が放たれた。

 

「きゃっ……!」

 

狙い通り火球はリインのすぐ側の壁に直撃、余波でリインの体勢が崩れた。

 

『外れです』

 

「は? 何でだよ!」

 

『直撃してないですよ。 手前の壁に当たっただけ』

 

「何言ってんだよ! 本番だったら壁なんか一緒に吹き飛んでいるだろ!」

 

『だがこれは模擬戦です。 そこを間違えないでください』

 

「ッ〜〜〜! たくっ!!」

 

贔屓に聞こえるが正論でもあり、アギトはイライラをぶつけるように、直撃を狙って今度は小さめの火球を放った。

 

「はあはあ……!」

 

息を荒げながらもリインは迫って来た火球をギリギリで避け、余波で体勢を崩しながらも耐えた。

 

『全て外れです、直撃してないですよ』

 

「っんだよそれは!? ………っ!」

 

ヴァイスを文句を言うためにリインから視線を逸らした隙に、リインが放った魔力弾がアギトのすぐ下のビル壁に直撃。 煙幕弾だったらしく、直弾の衝撃と共に煙幕が舞った。

 

「うあっ!」

 

『これも外れです。 良かったですね、アギト曹長。 本番だったらただじゃ済まなかったですよ?』

 

『そうそう。 やるねー、リインも。 頑張れー』

 

「テ、テメェらなぁ……! っあ!?」

 

アギトは通信で明らかに審判が贔屓めいた判定をしているのに腹をたてるが……その直後同じ場所にまた煙幕弾が撃たれ、アギトは体勢を崩した。

 

「チッ……まあいい。 要するに直撃させればいいんだろ?」

 

『そうです』

 

「ーーじゃあ……よく見てろよ!」

 

3発目の魔力弾を飛んで避け、リインに向かって飛翔する。 それを確認したリインはアギトに背を向けて移動した。

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

リインは魔力温存のため、飛行魔法を使わず。 息を荒げ走って移動していた。

 

「はっ! うあ!?」

 

左右に撃たれる火球を避け、身体が汚れるのも御構い無しにフィールドを走る。

 

「(これが……本番を想定した戦場……)っ………ああっ!?」

 

足元に火球を撃たれ、転倒しそうになるが。 側にあったコンクリートから剥き出しの鉄骨を無我夢中で掴んで転倒を止めた。

 

(あ、あれが非殺傷設定だったら……! アギトちゃんはいつもこんな苦しい中を……!)

 

足を止め、膝をついてしまうリイン。 火球が着弾した地面が剥がれているのを見て……走って出てきた汗と共に、恐怖で出てきた冷や汗が急速に身体を冷やして行く。

 

「(何で同じユニゾンデバイスなのに……次元が違う。 敵わない……)とても敵わない!」

 

『リイン!』

 

思わず胸に渦巻いた気持ちを言い放った時……リインに念話でコルルの声が届いてきた。

 

「コルルさん!」

 

『アギトって人の動きが鈍っているよ。 落ち着いて移動して!』

 

「わ、分かってます。 でも……」

 

『大丈夫。 君になら出来るはずだよ、僕が保証する!』

 

リインは横を向き、訓練場の近くにあった波止場を見た。 そこにあった灯台の下に、リインを見守るコルルがいた。 リインはコルルの目を見て……顔色が変わった。

 

「ーーはい!」

 

リインの顔に活力が戻り、再び地面を蹴って走り出した。

 

「意外と粘ったな。 だが、これで……」

 

走り回るリインの背中を一瞥し、右手の人差し指と親指だけを立て……指で銃を撃つ構えを取った。

 

「さあて、終わらせるか……!」

 

指先に火球を置き。 射撃アシストを使い、狙いを定めた瞬間……リインの姿が掻き消えた。

 

「なっ……幻影魔法!?」

 

アギトは驚きながらも冷静に目視でリインを探し始める。

 

「……大したもんだな、ホント。 だが」

 

関心しながらもリインを発見。 確実に直撃を狙うため両手に火球を持ちながら飛翔して接近する。

 

「はっ……!」

 

「遅え!」

 

接近に気付き、振り返ったリインよりも早くアギトは腕を振り下ろし……次の瞬間、アギトの視界が強烈な光に遮られた。

 

光の正体は太陽……アギトの隙を作るため、日暮れの逆光を利用したリインの作戦である。 このためにワザと定刻を越えて日暮れ前に現れ、逆光がさす西へ向かって移動していたのだ。

 

「なっ!?」

 

「やあっ!」

 

リインに妨害の素振りは無かった……アギトはその油断が判断を鈍らせ、迫ってきたバインドに拘束、地面に叩きつけられた。

 

「ぐう……」

 

「………………………」

 

アギトが目を開いた時、目の前には幾つもの魔力弾を浮遊させているリインがいた。

 

「当たって!」

 

リインは夢中で、出鱈目に魔力弾を発射。 今の緊迫している精神状態もあってほとんど外れているが……直撃判定を取れる魔力弾がアギトに当たった。

 

「はあはあ、っはあはあ………!」

 

過呼吸気味に息を荒げるリイン。 その瞳はまだ戦っており、視線はアギトから離さなかった。

 

「ーーそこまで! 勝者、リイン曹長!」

 

審判のヴァイスが模擬戦の勝者と終了を告げ、模擬戦は終わった。

 

その後、疲労しているリインは後で来るとのことで。 アギトはアリシアとヴァイスの元に戻った。

 

「負けたぞー、完敗。 ケチなんかつけないぞ。 罠を用意しとくのがズルいとか、審判が贔屓ばっかりしてるとか、皆でリインの味方してアタシはなぁんて不幸で孤独なんだろー……とか、そういう愚痴も言わない。 これが実戦だったらやっぱり勝ったのはアタシだろーとか、そういう見苦しい主張もしねぇよ」

 

「……思いっきり不満があるみたいですね?」

 

愚痴をかなり言い、ヴァイスはその事を指摘しながらも事実なので強くは言えなかった。

 

「あ、あはは……油断大敵、ってことで」

 

「……そうだな。 油断大敵ってことだよなー。 ふ、まあアタシなんか……アタシ何やってだろーなー……たっくさー……やれやれ……」

 

アリシアの言葉を飲み込み、アギトは項垂れながら何度も踵を鳴らし……そのまま座り込んだ。

 

戻ってきたリインは、俯きながらアギトの前に来た。

 

「アギトちゃん……」

 

「ーー色々酷い事言って済まなかったな」

 

「っ!」

 

感極まり、リインはアギトに抱きついた。 アギトは泣いているリインの頭を優しく撫でた。

 

「ごめんなさい……! こんなバカなことして……」

 

自分の言い放ってしまった言葉を理解し、涙声でリインは誤った。

 

「いや、負けて良かったさ。 この方が多分自然なんだろ。 でもま、これっきりにしような?」

 

「ぐす……はい! もうこんな事はこりごりです」

 

アギトはリインの頭を撫でながらそう言い。 リインはアギトから身を離し、涙目で返事をした。

 

「あのー、それで………裸で六課一周って件は?」

 

ヴァイスはアギトがその事をやるかどうか、恐る恐る聞いてみると……2人はヴァイスを嫌いな虫でも見るかのような冷たい目をして……

 

『最低』

 

「ぬっあ!?」

 

容赦無く、2人でヴァイスの顔面を蹴った。 地に転がったヴァイスを見て、2人は嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだい、ぶあっ!?」

 

どこかの薄暗い部屋、コルルが入って来た瞬間誰かに顔面を蹴られ、コルルは反対側の壁まで吹き飛ばされた。 コルルを蹴り、足を振り上げた状態で立っていたのは……騎士甲冑に身を包んだ女性、流動のウルクだった。

 

「今までどこほっつき歩いていた? このポンコツデバイス」

 

「ま、待って! ちゃんと説明したでしょう!? 敵状偵察だよ! 敵状偵察!」

 

「あんたにそんな趣旨と策を考えているわけないでしょう。 どうせその場任せのノリでしょう」

 

ウルクは寝転がっているコルルの頭を鷲掴みにし、衝撃を与えるように魔力を流すと……コルルは一瞬光ると小人サイズになってしまった。 ウルクはそのまま巨人が人間を掴むようにコルルを持った。

 

「ポンコツデバイスが帰って来たわよ」

 

「……お帰りー……」

 

「ようやく帰って来ましたか。 勝手な行動は困りますよ?」

 

「あ、あはは……」

 

ラドムの眼光に睨まれ、苦笑いしながらウルクの手から逃れた。

 

「? コルル、何か楽しいことでもあった?」

 

「あ、わかる? すっごいバチバチするような楽しい事があったんだよー♪」

 

クレフの質問に答えながら、コルルはジリジリと距離を取って行く。 そのまま逃げようしているらしいが……

 

「……ダメ」

 

「ふにゃう!?」

 

「ーー目を離すなとマスターに言われてます。 敵の手に渡るようなら破壊しろとも」

 

「ぎいやああああぁ!! 今! 今破壊されるーー!?」

 

ファウレは逃げようとしたコルルを転ばせ。 ウルクは容赦なく頭と体を持ち、捻った。 首が限界まで曲げられ、脅しにしては目が本気に見える。

 

「あら? 破壊するなら私にくれませんか? ユニゾンデバイスの解体なんてそうありませんから」

 

横にいた茶髪でメガネをかけた少女が手を上げ……その隣にあったガジェットから幾つものアームが飛び出した。 そのアームの先端にはドリルやカッターやらが大量に取り付けられていた。

 

ウルクは無情にもコルルを部屋の隅に放り投げられた。 ガジェットはドリルなどの駆動音を轟かせ、単眼カメラが怪しく点灯しながらゆっくり接近する。

 

「いーーやあああーーーっ!?」

 

「ふふふ、痛くしませんから、大人しく私に解剖ーー」

 

「させるかバカ」

 

コルルに迫っていたガジェットを、ゼファーが背後から踵落としで脳天を凹ませ停止させた。

 

「こんなんでもマスターの大事な友人だからな。 そう手荒に扱われると困る」

 

「あっ、ちょっと待っーー」

 

有無言わさずコルルは『コルルのへや』と書かれた紙が貼られた金庫に放り入れられ……扉が閉められた。

 

『うわ酷っ! えっとこういう時は……はっ! あ、暗黒の帳がーー! 暗いよー! ママ、怖いよー! ベットの下に斧を持った男がいるよーー!!』

 

「これで安心ですね」

 

「ピュイ」

 

「安心の定義が少し違う気もしますが……」

 

「……バカにはいい薬」

 

扉を叩きながら叫ぶコルルをスルーして、この部屋にいた全員はコルルを放っておいて部屋を出て行った。

 

 



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160話

 

 

7月8日ーー

 

今日もフォワードのメンバーは朝からなのはとアリサの厳しい教導を受けていた。 俺は模擬戦の時に発生した異界の調査のために訓練場を訪れ、調査が終わって異界を出る頃には訓練も終わっていた。 ソーマ達はあの一件以来、それなりに心を許しあえるようになり。 アギトとリインの事も含めて六課はいい方向に風が吹いていた。

 

「はい、今朝の訓練と模擬戦も無事終了……お疲れ様。 でね、実は何気に今日の模擬戦が第2段階クリアの見極めテストだったんだけど……」

 

『え!?』

 

「ふふ、どうでした?」

 

なのはの答えた事に、フォワード陣が驚きの声を上げる。 まあ、驚くのも無理はないか、いきなりだったわけだし。 そして、なのはが驚いた表情を見て笑いながら後ろにいるフェイト、アリサ、ヴィータに評価はどうかと問いかける。

 

「合格」

 

『早っ!』

 

フェイトの即答に、ティアナとスバルは思わず思ったことを口に出した。

 

「まぁ、こんだけみっちりやっていて問題あるようじゃ大変だってこった」

 

『あ、あはは……』

 

ヴィータの言葉に、エリオとキャロとルーテシアが苦笑いする。

 

「私も、皆できていると思うけど……アリサちゃんはどう?」

 

「まぁ、最初の頃に比べれば断然によくなっている。皆……よく頑張ったわね」

 

『はい! ありがとうございます!』

 

アリサの激励に、ソーマとサーシャは座りながらも背筋を伸ばしてお礼を言う。

 

「うん。 それじゃあ、これにて2段階終了」

 

「やった~!」

 

フォワードの全員は本心で喜んだ。 色々と右往左往したが……ここまで来れたからな。

 

「デバイスのリミッターも1段解除するから、後でシャーリーの所に行って来てね」

 

「明日からはセカンドモードを基本形にして訓練すっからな」

 

「はい!」

 

「………え、明日?」

 

ヴィータが言ったことに、姉さんが思わず聞き直した。

 

「ええ、訓練再開は明日からよ」

 

「今日は私達も隊舎で待機する予定だし」

 

「皆、入隊日からずーっと訓練漬けだったしね」

 

つまりどういう意味か……ソーマ達は顔を見合わせた。 俺は苦笑いしながら皆に近付いた。

 

「ーーつまり、今日は全員1日お休みと言う訳だ」

 

「あ、レン君」

 

「もう調査はいいの?」

 

「ああ、あの異界は特に問題ないだろう」

 

「まあとにかく……今日1日休むなり街に行くなりして、疲れをリフレッシュしてから明日また訓練を頑張りさい」

 

『は〜〜い!』

 

休みだと分かると、皆は訓練の疲れも忘れ、控えめなティアナとサーシャも含めて元気よく返事をするのだった。

 

 

訓練終了後、俺達はすずかとアリシア、はやてとシグナム達と鉢合わせし。 そのまま一緒に朝食を取っていた。

 

「へぇ……皆は町で朝食を済ませるんだね?」

 

「ここの食事は不味くはないとはいえ、たまには他の物も食べたんでしょう」

 

「ふふ、そうだね。 私はここのごはんは好きだよ? どこかお母さんの味がするし」

 

「六課のおばあさん達は地球文化がそれなりに好きだからな」

 

それと噂好きでもある。 よく有らぬ事を吹聴したりして困ってたりもする。

 

「お姉ちゃんも街出ても良かったんだよ?」

 

「いいのいいの。 私は部屋でゴロゴロしてる方が性に合ってるから」

 

「それはそれでいいのか……?」

 

アギトとは美由希の自堕落っぷりに呆れる。

 

「そういえばヴィヴィオは?」

 

「ついさっきファリンとビエンフーと一緒に街に出かけたよ。 多分公園で遊んでいるんだと思う」

 

「そうか……ヴィヴィオとは最近遊べてないし。 寂しい思いをさせているかもな……」

 

「考え過ぎよ。 あの子は我儘をあまり言いたがらない子よ。 とはいえ、やっぱりそう考えるのも……」

 

「親バカめ」

 

ヴィータにそう言われ、自覚がありながらもどうしようもないと思いつつも苦笑してしまう。 まあそこは置いておき、ちょうど食堂で空間シュミレーターのモニターに表示されニュースが流れてきた。 そのニュースを聞き流しながら和気藹々と食事を続ける。

 

『ーー当日は首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による管理局の防衛思想に関しての表明も行われました』

 

レジアス・ゲイズ……という名前が出ると俺はテレビに視線を向ける。 なのは達も気になるのか、モニターの方に注目する。

 

『魔法と技術の進歩と進化、素晴らしいものではあるがしかし! それ故に我々を襲う、危機や災害も10年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している! 兵器運用の強化は進化する世界を守る為のものである!』

 

巌のような強面な表情と、厳とした迫力で表明を行うレジアス中将。 最初にあった時よりはまろやかになった気もするが……相変わらずで何よりだ。 レジアス中将に参列していた管理局員達の拍手を聞きながら、食事を再開した。

 

『首都防衛の手は未だ足りん。 地上戦略においても、我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪発生率も20%、検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込むことが出来る!』

 

「……このオッサンはまだこんなこと言ってんのな」

 

「中将は、古くからの武闘派だからな」

 

ヴィータは呆れながらパンを口に頬張り、シグナムは思った事を口にした。 だがそれを否定するようにアリサは静かに首を振った。

 

「でも、それは彼の優しさの裏返しよ。 人の上に立つ以上、示しが無ければいけない……そう言う意味で、レジアス中将は私達に期待しているのよ」

 

「対策課としても、六課としてもねー」

 

「そしてゼストさんが力でミッドを守り、レジアスさんが政治でミッドを守る。それがあの人達のやり方」

 

「……もし、あの時ゼストさんを救えなかったら……レジアス中将はあの見た目の通りに、そしてさらに深刻になっていたかもな……」

 

「ゼストの旦那、元気になってるかなぁ〜?」

 

「……あ、ミゼット提督」

 

「ミゼットばーちゃん?」

 

なのはがモニターに映っている人物を見て呟いた。 ヴィータはミゼットに反応しモニターを見る。 視線をモニターに戻すと、レジアスさんの背後に、ミゼットさんの他にもレオーネさん、ラルゴさんが同席していた。

 

「あ、キール元帥とフィルス相談役もご一緒なんだ」

 

「伝説の三提督揃い踏みやね」

 

「でもこう見ると……普通の老人会だな」

 

「あ、確かにー。 浮きまくってるけど……」

 

……確かに。 それにレジアス中将の表明もすぐ側で行っているので……かなり浮いている。 場違いではないことは分かっているが。

 

「もうダメだよヴィータ、偉大な方達なんだよ」

 

「管理局のシステムを組み立てた凄い人だけど、こう見るとヴィータちゃんと同じ印象を受けるね」

 

「ま、アタシ好きだぞ。 このばーちゃん達」

 

ヴィータは嬉しそうに笑い、はやてと同じ気持ちのようだ。 ただ……

 

「前にミゼットさんと会ったら、ヴィータが大きくなり過ぎたって愚痴ってたぞ」

 

「そうね、孫娘の限度を越えているのかもしれないわね」

 

「な、なんだよそれ!?」

 

「まあそれはいいとして……ミゼットとレオーネの孫達、シェルティスとユミィと友達だしねぇ。 そこまで世界観が違うとはあんまり思わないかなぁ〜」

 

「そうだね。 雲の上の存在とはあんまり思わないかな?」

 

「そやな。 対策課のおかげ、それにVII組での経験のおかげかもしれへんなあ」

 

「ええ、そうかもしれません。 あの3年間は主はやてを大きく成長させました」

 

『ーー私は今までそう考えてきた。 しかしこの考えも変えなければならないといけない』

 

その時、流しっぱなしにしていたニュース……レジアス中将の発した言葉になのは達は思わず驚いた。俺達対策課のメンバーは顔を見合わせ……少し笑い、コーヒーを一口飲んだ。

 

『いくら技術が進化しようと我々も変わらなければ何の意味はない。 我々一人一人の力は弱い……だから共に助け合い手を取り合わなければならないのだ。 海も陸も空も関係なく互いが協力することで犯罪がなくなる。 それを図らずとも立証してくれたのが異界対策課だ。 彼らは世界の脅威たるグリードを討伐する傍ら……海、陸、空関係なく協力してくれる。 おかげで地上の犯罪発生率は30%低下し検挙率は40%を超えた。私はこの実績を見て海、陸、空の3つが対策課のように協力し合えればさらなる効果を発揮すると確信した。 今必要なのは管理局の改革なのだ』

 

レジアス中将の長い表明に拍手が送られる中、なのは達はポカーンとした顔になる。 無理もない、今までレジアス中将が言っていた事とは全然違う発言だからな。

 

「ふーん、ようやく切り出したのかなー?」

 

「ホント、レジアス中将も随分と丸くなったものね。 昔とは大違い」

 

「ふふ、いつも強面だからすっごい分かりにくいけど。 内心喜んでいるみたい」

 

「いや、アレのどこが喜んでるんだ?」

 

「全然変わってないですぅ」

 

それなりに交流があった対策課のメンバーはともかく、なのは達にはレジアス中将の感情の変化はよく分からないようだ。

 

「さてと、俺はもう行くよ」

 

「ああそうか。 レンヤ君はまだ仕事あったんやったけ?」

 

「ああ。 午前は事務処理、午後は対策課に行って訓練場にある異界の現状報告。 ちゃんと働く限度は守っているとはいえ、当分はソーマ達みたいに休めないだろうな」

 

「お互い、大変やな……」

 

「なら、事務処理くらいは私がやっておこうか? この後仕事は簡単な書類整理だけだから」

 

「なら、ありがたくお願いするよ。 ありがとな、フェイト」

 

「ううん、気にしないで」

 

(むう……)

 

(出遅れちゃった……)

 

(ま、まだまだ焦る段階じゃないわ)

 

(フェイトちゃん、抜け目ないなぁー)

 

(お姉ちゃんを出し抜くとは、やるようになったね)

 

なにやらなのは達の視線が気になるが、フェイトは特に気にせず。 俺の腕を引いて食堂を後にした。

 

「あ、ごめんレンヤ。 少し待って来れないかな?」

 

「何か予定でもあったのか?」

 

「ううん、エリオ達が……」

 

「……ああ。 それぐらいなら構わない、行こうか」

 

心配なんだな、エリオとキャロが。 フェイトは過保護だと思うが、俺もヴィヴィオの事でも人の事を言えないな……

 

その後、休憩スペースに向かい。 先にいた私服のエリオにフェイトは母親よろしく忘れ物が無いかの確認やお小遣いが足りるかどうかの確認をした。

 

「エリオー!」

 

(パタパタ)

 

「お待たせしましたー!」

 

「キュクルー!」

 

着飾ったルーテシアとキャロがやって来た。 2人とも年相応に可愛らしい服を着て、肩の上にはガリューとフリードがおり、エリオは頰を少し赤くして固まっていた。 俺はそんなエリオの反応に苦笑し、静かに背後に回って耳打ちをした。

 

(ほらエリオ、褒めてあげろ)

 

「(え!? あ、はい……!) ふ、2人とも、よく似合ってるよ……!」

 

「えへへ、ありがとう!」

 

「へえ、気の利いた事を言うじゃない。 及第点はあげるわよ」

 

「あ、あはは……」

 

ルーテシアの少し辛い評価にエリオは苦笑い。 相変わらずマセてるな、こいつは。

 

「そうそう、これからシャーリーから貰ったプランなんだけど……どう思う?」

 

「どれどれ?」

 

差し出されたメイフォンの画面に映っていたプランを見ると……どう見たってデートプランだった。 このプランの意味絶対エリオとキャロは知らないだろ。 笑顔で無意味に応援するシャーリーの顔が思い浮かぶ……

 

「ま、まあ3人には少し難しいと思うし。 このプラン通りにしなくてもいいじゃないか?」

 

「ふう〜ん?」

 

(?)

 

「キュクル?」

 

その後、3人を正面玄関まで見送りし。 ソーマ達を見送っていたなのはと一緒に中に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻り、ティアナ達は街に出るために足を確保していた。

 

「貸すのはいいけど、転かすなよ?」

 

「はい、分かってます」

 

ティアナは公道で街に向かうため、ヴァイスが私用していたバイクを借りる事にしていた。 その隣にはサイドカーが外されたレンヤのバイクも置かれていた。 ヴァイスが訓練でのティアナの動きを褒める中、ソーマがやってきた。

 

「ヴァイスさん!」

 

「おう! 準備は、出来てるぞ」

 

二つ返事でバイクのキーを放り投げ、ソーマは危なげなく受け取る。

 

「2人は?」

 

「正面玄関で待ってるわよ。 ……あのヴァイス陸曹、聞いちゃいけない事だったら申し訳ないんですけど……」

 

「ん?」

 

唐突にティアナはバイクのエンジンをかけ、跨りながら遠慮がちにヴァイスに質問する。

 

「ヴァイス陸曹って魔導師経験ありますよね?」

 

「……まあ、俺ぁ武装隊の出だからなぁ。 ど新人相手に説教くれられる程度にはよ。 オメェの兄さんとも何度か仕事をした事もある」

 

「あ……」

 

そこでティアナの一瞥し、話を続けた。

 

「とはいえ……昔っから乗り物……特にヘリとかが好きでな。 そんで今はパイロットだ。 ま、腕が鈍らない程度に時々シグナム姐さんにシゴかれているがなぁー……」

 

「…………………」

 

「ほれほれ、彼氏が待ってんだろ。 行ってやんな」

 

「なっ!?///」

 

背を向け、からかいながらガレージに入るヴァイスに。 ティアナは顔を一瞬で真っ赤にして慌てふためく。 ちょうどその時、横にバイクに跨ったソーマが来た。

 

「むぅ……」

 

「ティア、どうかしたの?」

 

「何でもない! 行くわよ!」

 

「???」

 

照れ隠しのように先に行ってしまったティアナを、ソーマは困惑しながらも追いかけた。 正面玄関に着くとスバルとサーシャがおり、見送りになのはがいた。

 

「じゃ、転ばないようにね?」

 

「大丈夫です。 前の部隊にいた時はほとんど毎日乗ってましたから」

 

「ティア、運転上手いんです!」

 

「そう。 ソーマ君も気をつけてね」

 

「はい。 反面教師がいましたし……」

 

「エナちゃんですね……」

 

バイクに乗ったら性格が豹変して爆走するエナ……アレを見たら誰でも気圧されてしまう。

 

「あ、お土産買ってきますね! クッキーとか!」

 

「嬉しいけど、気にしなくてもいいから。 皆で楽しく遊んできてね」

 

『はい!』

 

「行ってきまーす!」

 

ソーマとティアナはアクセルを回し、なのはに見送られながら六課を出発した。

 

「うっきゃあああーー!! たーのしーーい!!」

 

かなりのスピードで何度もカーブを曲がり、スバルは興奮して変な叫びを上げた。

 

「ちゃんと掴まってなさいよー」

 

「だーいじょーぶーー!」

 

先頭を走る2人は楽しそうに走るが、後方を走っていた2人は少し違かった。

 

「うっ……あのコーナリングをあのスピードで入るかなぁ」

 

「あうあう、ティアナさん……結構怖いもの知らずです」

 

上司に反論できる時点で怖いもの知らずも何も無いが……ソーマはティアナに着いて行くのに精一杯だった。

 

『ソーマー、まずは街でアイス食べる事になったんだけどいいよねー?』

 

『う、うん。 それで構わないよ』

 

『ならスピード上げるわよ。 ちゃんと着いて来なさいよね!』

 

『あうあう、ティアナちゃんも性格変わってるよぉ……』

 

念話でそのような会話をしながら、ソーマ達4人は公道を走り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル達がゆっくり息抜きしている中……ミッドチルダの地下道路で事故が起きていた。 警邏隊が道路を封鎖、事故の原因の調査をしていた。

 

「ーー陸士108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です。 現場検証のお手伝いに参りました」

 

この事件の場に、長い紫の髪に頭の後ろで結んだリボン女性……スバルの姉であるギンガ・ナカジマが現れた。

 

「ありがとうございます」

 

「横転事故と聞きましたが……」

 

「ええ、ただ事故の状況がどうも奇妙でして」

 

管理局員の話を聞きつつ、ギンガは辺りは観察する。 辺りにはトラックの積荷であろう物が無残にも散乱していた。

 

「運転手も混乱しているようですが、どうも何かに攻撃を受けて……荷物が勝手に爆発したって言うんですよね」

 

「運んでいた荷物は缶詰や飲料ボトル……爆発するような物ではないですね……」

 

「それと、下の方に妙な遺留品があってですね……」

 

それは……斬り裂かれて破壊されたガジェットだった。 ギンガは驚きながらも視線を横に向ける。 妙な液体が転々としており、その先には……

 

「……これは……生体ポット……!?」

 

中身がない、生体ポットが置かれていた。

 

「どうしてこんな物が……っ!」

 

生体ポットが積まれていた事実にギンガは驚くが、それと同時に嫌な気配を感じ。 その方向に振り向くと……そこにはガジェットがいた。

 

「ーーとりゃあああああっ!!」

 

ガジェットの発見と同時にノーモーションで飛び出し、回し蹴りを繰り出してガジェットの胴体を凹ませ。 その勢いのまま壁にめり込ませた。

 

「ふう……レンヤさん達の判断に仰ぐしかないわね」

 

ギンガはそう呟くが、管理局員達はギンガの変わりようにかなり引いていた。

 

 

時を同じくして、エリオ達は楽しそうに街を歩いていた。

 

「っ!」

 

突然、エリオは何かを感じ。 笑顔だった顔を一緒で引き締めた。

 

「? エリオ君?」

 

「いきなりどうしたの? 変な顔して?」

 

「……キャロ、ルーテシア。 今何か聞こえなかった?」

 

「何か?」

 

「ゴトっていうか……ゴリっというか……」

 

エリオは辺りを見渡し、目の前にあった路地裏が目に入った。 すぐに走り出し、路地裏に入ると……タイミングよくマンホールの蓋が動いた。

 

「な、何?」

 

「静かに……警戒しなさい」

 

ルーテシアも真剣な表情になり、この後どうなるか警戒する。

 

ガンッ! ガンガンッ! ガンッ!!

 

マンホールが引っかかっているようで、力づくで開けるようにマンホールを何度も蹴られる音がし。 それから何事なかったかのようにシーンとなった。

 

「……あ、あれ?」

 

「何も出てこないわね……」

 

「そうだね………っ!?」

 

3人が緊張を緩めたその時、凄まじく剣呑な気配がマンホールの下から発せられた。 その気配にキャロが尻餅を付いた瞬間……

 

ジャキンッ!!

 

マンホールの上が一瞬閃き……

 

ガンッ!!

 

マンホールの4当分され、その一切れが蹴り上げられた。

 

『っ……!』

 

その現象に3人の息を飲んだ。 誰かいる、しかも凄まじく強い……

 

「っ!」

 

出てきたのは……1人の黒髪の少年だった。 年はエリオ達と大差ないが……少年はエリオ達の姿を捉えると警戒し、敵意を剥き出しにし。 手に持っていた身の丈に合わない普通の……質量兵器の太刀を構えた。

 

「ま、待ってください! 僕達は時空管理局です!」

 

「ううっ……!」

 

エリオはIDを見せながら警戒を解こうとするが、少年は突然胸を押さえ出した。

 

ドックン! ドックン!! ドックン!!!

 

「オオオオオオオオッッッ!!!」

 

少年の胸から黒い魔力が溢れ出し、天に向かって雄叫びをあげると黒い魔力が全体に放出された。

 

「きゃあ!!」

 

「こ、この魔力は……!」

 

「うっく……!」

 

エリオ達は魔力に気圧されないよう踏ん張り、黒い魔力が晴れると……そこには少年が立っていた。 だが、その姿は変化しており。 黒髪が白髪になり、黒い瞳が血のような紅の色になっており。 身体中から黒い電撃や炎のようなものまで出ている。

 

「オオオオッ!!」

 

「っ! ストラーダ!」

 

《セットアップ》

 

襲いかかってきた少年に、エリオはすぐさまストラーダを起動、バリアジャケットを纏い振り下ろされた太刀をストラーダで受け止めた。 その衝撃音に、一般市民は何事かと集まってしまう。

 

「ぐうっ! 何て力だ……!」

 

「アアアアアアッ!!」

 

エリオは余りに力に膝をつき、両手でストラーダを掴んで堪える。 その威力は地面を凹ませ、亀裂が走るほどだ。

 

「シャアッ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

少年は一瞬力を抜き、そのせいで踏ん張っていた力が空振りしエリオは前につんのめる。 それを狙って少年はエリオの胴体に蹴りを入れ、反対側のビルに吹き飛ばした。 そこでようやく、自体を理解した一般市民達が慌てふためくようにエリオ達から離れていく。

 

「エリオ君!」

 

「エリオ!」

 

「だ、大丈夫だから! 2人は六課に連絡を!」

 

心配して呼びかけたキャロとルーテシアに問題ないと言い、エリオはストラーダを支えにして立ち上がる。

 

(……どこかデタラメのようで、太刀筋に理がある。 理性は飛んでいるけど、彼が持っている剣術は生きているのかな?)

 

ピンチの時こそ冷静に状況を判断せよ……レンヤの施した教えがエリオに活力を与えていた。

 

(僕が今もてる、槍術の全てを彼に……! フェイトさん、ごめんなさい。 無事に夕方まで帰れそうにありません!)

 

「オオオオオオオオッ!!」

 

「はあああああああっ!!」

 

心の中でフェイトに謝罪し、エリオは自分から少年に走り出し……2人の少年の叫びと共に、太刀と槍がぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロンピロン! ピロンピロン!

 

フェイトと事務処理をしていた時、レゾナンスアークに通信が届いた。 どうやらルーテシアからの六課全体に向けられたようだ。

 

「六課全体に?」

 

「これは……ルーテシアか、なにかあったのか?」

 

『こちらフェザーズ4! 緊急事態につき現場状況を報告します! サードアベニュF23の路地裏にてレリック思しきケースを発見!』

 

『ケースを持っていたらしい、私達と同年代くらいの男の子ですが……』

 

困惑するキャロが次に映し出したのは、エリオと白髪と紅の目をした少年が戦っていた光景だった。

 

『ッシャアアアアアアアッ!!!!』

 

『ぐっ!? うおおおおおっ!』

 

少年が獣のような叫びと共にとんでもない速度でエリオに肉薄、鋭い太刀筋が一瞬でエリオを斬りつけた。 エリオも負けじと応戦するが……少年は鎖に繋がれている手も御構い無しに、レリックごと振り回している。

 

『相手は錯乱状態よ。 しかもレリックに鎖が繋がれている状態でもあり得ないくらい強い!』

 

『し、指示をお願いします!』

 

かなり緊迫しているようで、キャロはもちろんのことルーテシアも冷や汗を流していた。 はやては行動に移し、なのははスバル達に指示を出した。

 

『スバル、ティアナ、ソーマ、サーシャ。 ごめん、お休みは一旦中断』

 

『はい!』

 

『大丈夫です!』

 

「救急の手配はこっちでする。 4人はそのままエリオ達の元に向かって」

 

『はい!』

 

「ソーマ、サーシャ、少年を無傷で制圧。 その後応急処置、レリックの回収だ。 通信は常時開けておいてくれ」

 

『了解』

 

『わ、分かりました!』

 

俺達はすぐさま準備を整え、ヘリポートに向かって走り出した。

 

「エリオ……無事でいて……!」

 

「フェイト……」

 

先ほど映し出された傷付いたエリオを見て、悲痛な表情を浮かべながらも足を止めなかった。 そんなフェイトを頭を優しく撫でた。

 

「! レンヤ……」

 

「大丈夫だ、フェイト。 エリオを信じよう、あの子はフェイトが思っている以上に強い子だ」

 

「レンヤ……うん……」

 

少しはフェイトの気持ちは落ち着いたようだな。 だが、それでも急がないと……少年の事もあるが、レリックもある。 ガジェット、スカリエッティが出張ってくる可能性が高い。 やれやれ、飛んだ休日になってしまったな。

 

 

 

 



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161話

 

 

同日ーー

 

ルーテシアからの通信を受け、ソーマ達の4人と美由希が急いでルーテシア達の元に向かった。 ソーマ達は美由希と合流すると、目的地方面から大きな戦闘音が轟いて来た。 ソーマ達はその地点に向かうと……

 

「オオオオッ!!」

 

「うあああっ!!」

 

白髪の少年の必死めいた猛攻に、エリオは冷静に対処し耐えていた。 そのすぐ側にあったビルの陰にキャロとルーテシアがいた。 どうやら気付かれないようにエリオを援護していた。

 

「エリオ、キャロ、ルーテシア!」

 

「あ! スバルさん、ティアさん!」

 

「現状は?」

 

「見ての通りよ。 気付かれないように援護はしているけど、後衛の私達だけじゃ横槍は入れらなかったわ」

 

「た、確かに……凄まじいですね」

 

少年とエリオの攻防は徐々に勢いを増しており。 辺りの被害がどんどん大きくなっていっている。

 

「ぐっ! はあはあ……」

 

「ホロビヨ……」

 

大きく弾かれ、エリオは槍を地面に刺して支えにし息を荒くする。 その隙に少年は太刀を持つ右手を上げて、刀身を左側に置きながら剣先を下に、左手を刀身に添える独特の構えを取り。 刀身に禍々しい紫色の炎が纏われる。

 

「ーーオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

「くっ……」

 

「エリオ君!」

 

キャロの叫びに答える事が出来ず、エリオは振りかぶられる太刀を耐えようと目を閉じ……

 

「ウッ……アアアア……」

 

「ーーえ?」

 

突然、少年は勢いを失い。 黒い魔力もフッと消え、力無く倒れた。 間をおかず少年の白髪は元の黒髪に変化した。

 

「……た、助かったー……」

 

同様に限界だったようで、緊張が解けエリオは地面に大の字で倒れた。

 

「エリオ!」

 

「大丈夫!?」

 

「う、うん。 何とかかんとか……」

 

ソーマ達は2人の元に駆け寄り、キャロがエリオに回復魔法で応急処置を施し。 ソーマとティアナは少年から太刀を取り上げ、心苦しいが念のため拘束した。

 

「サーシャ、その子の容態はどう?」

 

「…………気を失っているだけのようです。 命に別状はありませんが……消耗が激しいですね。 ちゃんと検査しないとどうとも」

 

「そう……それにしてもかなりボロボロね。 これは戦闘で?」

 

「元からこうだったわ。 それに地下水路をかなり長い距離を歩いたんでしょう」

 

「……エリオ達と同じくらいだね」

 

エリオと同じくらいとはいえまだ子ども。 それもこんな服でレリックと一緒となると……余りにいい考えは思い浮かばなかった。

 

「……レリックの封印処理は?」

 

「あ、それは私が封印を施したので、ガジェットが襲ってくる心配はないと思います」

 

「それとこれを見なさい」

 

ルーテシアはレリックが入っているケース、それを縛っている鎖を手に取った。 ケースが縛ってある判断の鎖、ケースが縛れるくらいの隙間があった。 そこからティアナは推測を立てた。

 

「……レリックは2つあった?」

 

「今、ロングアーチに調べてもらっている」

 

そうなると、残りのレリックはどこにあるのか……ティアナは顎に手をあて、どう判断するか模索する。

 

「……隊長達とリイン曹長とアギト曹長、シャマル先生とリンス先生がこっちに向かっていくれてるそうだし……とりあえず現状を確保しつつ、周辺警戒ね」

 

『はい!』

 

「了解です」

 

冷静に正しい判断、あの一件以来ティアナは大きく成長した。 それから数分後、レンヤ達を乗せたヘリが近くのヘリポートに着陸した。 すぐにシャマルが少年の、リンスがエリオの治療を始めた。

 

「……危険な反応はないけど、バイタルが乱れているわね。 さっきの変化が影響してるのかもしれないわね」

 

「そう、ですか……」

 

「あれは一体、何だったんでしょうか?」

 

「現状ではレアスキル、としか言いようがないわね」

 

まるで、鬼を彷彿とさせるような力……ここでは何も出てこないだろうとレンヤは静かに首を振った。 ちょうどそこでリンスがエリオの治療を終えた。 腕や顔はもちろんの事、バリアジャケットの下に至るまで治療がされている。

 

「大きな外傷はないが、全身切傷か。 あの猛攻もよく耐えたものだ」

 

「あ、あはは……防御には自信がありませんでしたし、回避に専念しましたからギリギリ何とか」

 

「エリオ、本当に大丈夫? 痛いところがあったらちゃんと言うんだよ?」

 

過保護で心配性なフェイト。 心配なのは分かるが、エリオを揺するのは辞めてもらいたい。

 

「フェ、フェイトさん……揺らさないでください。 全身が痛いです……」

 

「あ! ご、ごめん……」

 

「フェイト、心配なのは分かるけど後のことはリンスに任せましょう」

 

「それと済まないな、皆。 せっかくの休みだったのを」

 

「いえ、気にしないでください」

 

「平気です!」

 

「私は少し不満だけど……」

 

「み、美由希さん……」

 

「はは……本当に済まないな」

 

美由希の正直な不満に苦笑するも、レンヤは本当に済まないと思って謝罪した。

 

「ケースと男の子はこのままヘリで搬送するから。 皆はこっちで現場調査ね」

 

『はい!』

 

「っと……レンヤ君、この子をヘリまで運んで」

 

「分かりました」

 

レンヤが男の子を抱きかかえ、なのはとフェイトと一緒にヘリに向かう。 ソーマ達が現場調査に向かう中、立ち上がろうとしたエリオをリンスが抑えた。

 

「エリオはドクターストップだ。 理由は言わなくても分かるな?」

 

「で、でも……」

 

「お願いエリオ、これ以上無茶はしないで」

 

「フェイトさん……はい」

 

「大丈夫! エリオの分もしっかりやるから!」

 

「私達に任せて、さっさと怪我を治しなさいよね」

 

エリオを慰めつつ、レリック確保のためソーマ達はデバイスを、美由希はソウルデヴァイスを起動し、地下水路に入って行った。

 

「ーーパパ!」

 

その時、ヴィヴィオがレンヤ達の元に現れ。 ヴィヴィオは走って近寄り、その勢いのままレンヤに抱きついた。

 

「パパ、けがしてない?」

 

「ヴィヴィオ! どうしてここに?」

 

「ヴィ、ヴィヴィオちゃ〜ん……待って〜……!」

 

「ファリンさん。 もしかしてヴィヴィオと一緒にこの付近を?」

 

「ふう、ふう……はい、ちょうど近くにいたんですよ。 それでさっきの爆発音から逃げようとしたら、ヴィヴィオちゃんがいきなりここに向かって……」

 

追いついてきたファリンは、なのはの質問に息を整えながら説明した。 偶然かどうかは分からないが、ここに残しても危険なのでこのままヘリに乗せる事にした。 全員がヘリに乗り込み、すぐに離陸すると……

 

『アグスタを襲撃してきたロボットが現れました! 地下水路に数機ずつのグループで数は……40機です』

 

『海上方面からも確認しました。 地下水路と同じで数機ずつのグループで数は80です』

 

「……はやて、地下水路の方はソーマ達に任せて。 俺、なのは、フェイト、アリサは海上から来る敵の迎撃に当たる」

 

ロングアーチからの報告を受けたレンヤは、少し考えた後はやてにそう提案した。

 

『うん、それが一番やろね』

 

はやてもそれが最善と考え、案に賛同した。そして、演習を行っていたヴィータが敵を感知し、演習にいた上官……ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐が気を利かせ、こちらに向かって来ているとの報告を受けたはやては、レンヤとアリサ、なのはとフェイトの組みに分け。 残りのシャマルとヴァイス、リンスとアギトはヘリで待機指示を出した。

 

「頑張れよ、リイン」

 

「はいです! アギトちゃん!」

 

「さてと……行くか」

 

「皆、気をつけてね」

 

アギトとシャマルに見送られながら、レンヤ達は近くにあったビルに降ろしてもらい。 出撃の準備をした。

 

「それにしてもフォワードの皆、ちょっと頼れるような感じになってきた?」

 

「ふふ、これからもっと頼れるようになってもらわないと」

 

「……それじゃあ行きましょう」

 

アリサの言葉に頷き、レンヤ達はデバイスを起動した。

 

「早く事件を解決して、また皆に休みを上げよう」

 

「うん」

 

先の事を考えながら、レンヤ達は敵機を迎撃するため飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマ達は地下水路を走りながら、応援として来てくれたギンガと連絡を取っていた。

 

「ギンガさん、お久しぶりです!」

 

『うん、ティアナ。 チームリーダーはあなたでしょう? そっちに向かうから指示をくれる?』

 

「はい! 一先ず南西の……ジオフロントE区画を目指してください! 途中で合流しましょう!」

 

『ジオフロントE……開発予定区画だね。 了解!』

 

メイフォンで位置を確認し、ギンガはメイフォンに示された地点に向かって走り出した。

 

「ギンガさんって、スバルさんのお姉さんでしたよね」

 

「そう! 私のシューティングアーツの先輩なんだ。 すっごく強いからとても心強い」

 

「へー、1度会ってみたいなぁ〜」

 

「しっ! 通信は最後まできちんと聞くように」

 

美由希の軽口にルーテシアが注意する。 その後すぐにギンガから担当していた捜査内容を伝えられた。 どうやら担当していた事件で人造魔導師を創り出す生体ポットを見つけ、調査している最中にこの事件が起こったようだ。

 

「人造魔導師って……!?」

 

「いい聞こえはしないけど、それってどう言う意味なの?」

 

「ーー優秀な魔導師の遺伝子を使って、人工的に生み出した子どもに。 投薬とか、機械部品の埋め込みとかで、後天的に強力な魔力を能力持たせる……それが人造魔導師」

 

美由希の疑問に、意外にもスバルが答えた。 その内容に、ヘリで通信で聞いていたエリオとヴィヴィオが反応する。

 

「非人道的な実験のため管理局はそれを固く禁止しているけど……秘密裏に行われていたようだね」

 

「ええ、倫理的な問題はもちろん。 今の技術では色々な問題があってどうしても無理が生じる」

 

「コストもかかりますし、よっぽどの事がない限りその技術に手を出す人達なんて普通はいないいはずなのに……」

 

「……だけど、もしロストロギアが関わっているとしたら、どうなる?」

 

「まさか……」

 

その時、ケリュケイオンが点滅、何かに反応した。

 

《動体反応確認、ガジェットドローンです》

 

「来ます! 小型ガジェッド、10機がこちらに向かってます!」

 

ソーマ達は足を止め、すぐさまフルバックのキャロとルーテシアを囲むように隊列を組んだ。 地下水路という狭い空間を視野に入れた隊列だ。

 

「総員迎撃準備!」

 

「機動六課フォワード部隊、ガジェッドを一掃するよ!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フェザーズ1、スターズ1、ライトニング1、ともに3グループ目を撃破……順調です!』

 

「せい!」

 

どうやら順調のようだな。 だが、ガジェットの性能が最初より3倍の速度になっている点を見ると……実験に付き合わされているようで腹立つが。 どっかの赤い彗星かっての。

 

「! この気配……!」

 

その方向を見るが、目視でも何もなかった。 しかし、確かにそこには何かがあった。

 

「アリサ、北西方向に何か感じないか?」

 

「……確かに、妙な気配がするわね……強力な幻影でガジェットを隠しているようね」

 

次の瞬間、レーダーに大量のガジェット反応が検出された。

 

『航空反応増大! これ……嘘でしょう!?』

 

「こちらフェザーズ1。 ロングアーチ、冷静になれ。 敵は光学迷彩、および幻影で奇襲をかけたに過ぎない」

 

『ロ、ロングアーチ、了解。 しかし、対処方が検討つきません!』

 

「今からガジェットをまとめて殲滅するから……消滅時のデータから幻影と実機の判別パターンを割り出せ!」

 

『りょ、了解!』

 

《オールギア……ドライブ。 ロードカートリッジ》

 

応答しつつ、3機のガジェットを斬り裂いた。 だがやはり……光学迷彩で実体のあるガジェットが消えており、幻影で作り出された実体のないガジェットはそこら中にいる。 その区別は実際に現場にいないと判断のしようがない。

 

そして判別パターンを出すべく、レンヤは刀身のギアを全て駆動させ、さらに3本の短刀のカートリッジをロード、一気に魔力を高め……

 

「ーースカイレイ……ブレイカーー!!!」

 

裂帛の声と共に刀を振り下ろし、巨大な蒼い魔力斬撃が放たれた。 斬撃は2グループに迫り、跡形もなく殲滅した。

 

『ありがとうございます。 このデータを元に全力で見つけます!』

 

「よろしくな。 ふう……さすがに併用はキツイな」

 

シャーリーが意気込む中、レンヤは一息吐きながら短刀のカートリッジを交換する。 2グループを潰したとはいえ、周りにはまだまだガジェットが残っている。 その時、アリサがレンヤに近寄り、2人は背を合わせた。

 

「ーーどう思う?」

 

「……確実に引きつけられているな」

 

『本命は地下、もしくはヘリの可能性が高いね』

 

『うん。 主力もそっちにいるかもしれない』

 

つまり、この大量のガジェットは実験兼囮というわけだ。 そうと決まればすぐにこの場を切り抜けなければならず、フェイトがある提案を出した。

 

『なのは、私が残ってここを抑えるから。 レンヤ達と一緒に』

 

『フェイトちゃん!?』

 

『何言ってんのよ! 置いて行けるわけないでしょう!』

 

『このままだと時間をかけてしまう……限定解除すれば、広域殲滅でまとめて落とせる』

 

『それはそうだけだど……』

 

もちろん、今のリミッターが掛かっている状態でも殲滅は可能だが。 1分1秒も無駄に出来ない以上、時間はかけられない。

 

『なんだか、嫌な予感がするんだ』

 

『……確かに、俺もそんな感じがするし。 ここで時間を取られるのは得策じゃないな。 フェイト、神威を使うか?』

 

『うん。 お願ーー』

 

『割り込み失礼!』

 

フェイトが了承しようとした時、突然はやてが会話を止めるように通信で割り込んできた。

 

『ロングアーチからライトニング1へ。 その案も、神器の仕様も、限定解除申請も部隊長権限にて却下します』

 

『はやて……!』

 

『なんではやてが出動を?』

 

『嫌な予感は私も同じでなぁ。 空の掃除は私達がやるよ』

 

はやてと共にすずかとアリシアがこの場に現れた。

 

『皆、後は私達に任せて』

 

『ここ最近出番なかったから、身体が鈍ってしかたなかったんだよねー』

 

『ちゅうことで、レンヤ君アリサちゃん、なのはちゃんフェイトちゃんは地上に向かってヘリの護衛。 ヴィータとリインはフォワード陣と合流。 ケースの確保を手伝ってな』

 

『了解!』

 

はやての指示で、レンヤ達は地上に向かい。 入れ替わりにはやて、アリシア、すずかが海上に出た。

 

『本当に限定解除はいいんだな?』

 

「かまへんかまへん。 地上部隊の上層部は面倒だってレンヤ君言っとたし、それに許諾取り直しが面倒やし。 まあ、昔ならいざ知らず、レンヤ君とテオ教官に鍛えられた私は一味ちがうでぇ。 自信過剰じゃあらへんで?」

 

『ふふ、分かってるわよ。 頑張ってね、はやて』

 

「うん、任せとき!」

 

『ちょっとちょっと! 私達がいるから、でしょう?』

 

『そういう所が自信過剰じゃないのかな?』

 

「そ、そんな事あらへんよ!」

 

『あはは♪ まあそれはそれとして、ガジェットを殲滅ポイントに誘導するよ。 準備を始めてね』

 

《スレットマイン》

 

次の瞬間、アリシアが海上に向かって飛翔。 周囲に四角い魔力弾をばら撒き……1秒遅れて広範囲に爆発、閃光、煙幕が張られた。 誘導しつつも自由気ままに戦っているアリシアを見て、はやては苦笑しつつ空高く飛び上がり、雲の上で停止した。

 

「おし……久しぶりの遠距離広域魔法……行ってみよか!」

 

足元に白い古代ベルカ式の魔法陣を展開し、魔力を高める。 はやては魔力を上げていき、魔法発動可能となった所でメイフォンを取り出した。

 

「こういう時、メイフォンのアプリって結構便利なんよなぁ。 ホンマはどういう原理かは未だに知らんけど……」

 

はやてはアプリを起動。 目標ガジェットを捕捉、自身の座標と比較して発射方向を確認する。 はやては精密なコントロールは出来るが、遠距離照準は出来なくもないが機械の方が正確なため、サーシャお手製の遠距離照準補助アプリを使用した。

 

「ーー来よ、白銀の風……天よりそそぐ矢羽となれ!」

 

騎士杖を掲げ、はやての前方にミッド式の魔法陣が展開。 その周りに小さくなっているが、同様の4つの魔法陣が展開された。

 

『フェザーズ1、スターズ1、ライトニング1、安全域に退避。 着弾地点の安全……確認』

 

「おっし……第1波、行くよー!」

 

掛け声と共に4つの魔法陣に魔力が収束していき……

 

「フレース……ヴェルグ!」

 

遥か先にいたガジェットII型の集団を一掃した。 その光景を間近で見ているアリシアの心境は呆れと感心の半分だった。

 

『うわぁ……すごい絶景だなぁ……』

 

「ーーすずかちゃん!」

 

『了解! クレードル1、目標を狙い撃つよ!』

 

《高密度圧縮魔力、チャージ完了。 フライシュッツメーザー》

 

「ショット……!」

 

ビルの屋上で、腹這いになりながらスナイプフォームのスノーホワイトを構えたすずかが……はやてが撃ち損じたガジェットを超遠距離から放たれた魔力レーザーで次々と撃ち落とした。

 

「まだまだ、第2波もすぐに行くで!」

 

『私に当てないでよ〜?』

 

『ふふ、あんまりウロチョロしていると私が当てちゃうかもね?』

 

「怖っ! すずかちゃん怖っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!!」

 

ソーマの一閃で、最後のガジェットを破壊した。 フォワード陣はレリックを探索している途中、ガジェットと遭遇、戦闘に入っていた。

 

「ふう、外は何だか大変みたいね」

 

「大丈夫だとは思うけど」

 

「……レリックの推定予測ポイントまで後少しです」

 

「よし、気を引き締めて行ーー」

 

ドガンッ!!

 

美由希がそう言いかけた時、スバルの横の壁が突然爆発し、それにソーマが巻き込まれ吹っ飛んだ。 ティアナ達が警戒する中、爆煙が晴れると……そこにはギンガが立っていた。

 

「ギン姉!」

 

「ギンガさん!」

 

「2人とも久しぶりだね。 って、あれ? ソーマ君は?」

 

「こ、ここです……」

 

声のした方を見ると瓦礫の山からソーマが出てきた。 ギリギリの所で防御に成功したようだ。

 

「ギンガさん。 壁抜きする前に安全確認をしてください。 後少しで死んでましたよ……」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「はあ……まあそれはともかく。 この先にレリックがあるはずです。 ガジェットを警戒しつつ迅速に向かいましょう」

 

「了解しました」

 

作戦を確認しながら、ギンガはスバル達の後ろにいたキャロとルーテシアと美由希に視線を向けた。 その視線に気付き、キャロは慌てて敬礼し。 ルーテシアと美由希は笑顔で手を振った。

 

その後、予想通りガジェットと遭遇。 交戦に入った。

 

「せやぁ!」

 

「ガリュー!」

 

(コクン)

 

ソーマは高速で移動しながら通り抜け側にガジェットを斬り裂き。 ルーテシアの指示で通常状態のガリューがガジェットをまとめて破壊する。 スバルとギンガの進行方向にガジェットIII型が道を塞いだ。

 

「スバル! 一撃で決められる?」

 

「決める!」

 

《ロードカートリッジ》

 

その会話だけで決まり、ギンガがガジェットIII型に接近、その背後でスバルがカートリッジをロード、リボルバーナックルが回転を始める。

 

「ふっ……!」

 

ガジェットIII型が放った3発の魔力レーザーを、ギンガはフィールドシールドとシューティングアーツの体捌きで最小限の力で弾いた。 続けてギンガは左手のリボルバーナックルを回転させ、拳を振り抜いた。 ガジェットIII型は2つのアームを交差させて防ぎ……

 

「はあああっ!」

 

拮抗もせずアームを破壊、そのまま本体を殴り。 吹き飛ばした。 そして、スバルがローラブーツで天井を走り、追撃をかける。 目の前に魔力スフィアを、両手に加速帯を展開させ……

 

「ディバイーーン……バスタァァーーッ!!」

 

AMFを容易く貫通。 腕をガジェットに捻じ込ませ、その状態のまま砲撃……破壊した。

 

「やるようになったわね、スバル。 でも、少しシューティングアーツが疎かになってないかしら?」

 

「う……訓練で使う時はあるけど、シューティングアーツをメインにした訓練はしてないから……」

 

「そう。 今度お母さんにたっぷりと鍛え直させてもらいなさい」

 

「そ、そんなぁ〜……」

 

「あ、あはは……クイントさんは手加減がないからね……」

 

クイントの特訓が嫌なのか、ガックシと項垂れるスバル。 ソーマも他人事のように同情する。 気を取り直し、地下水路の奥に行くと。 キャロが流されたレリックの入ったケースを発見した。

 

「あ、ありました!」

 

「ホント!?」

 

「これで任務完了ね」

 

レリックが無事発見され。 ソーマ達は一息ついた……その時、突然ソーマがバッと上を見上げた。

 

「! 何、この気配は……?」

 

「ソーマ?」

 

「どうかしたの?」

 

羽のようなものが高速で飛来、キャロのすぐ側に着弾し、衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃあっ!?」

 

「キャロ!」

 

「ーーさせない!」

 

砂塵が舞い上がる中、追撃をしかけてきた正体不明の敵を。 美由希が飛びかかり、その人物を弾き飛ばした。

 

「美由希さん!」

 

「っ……何者!」

 

美由希が小太刀を突きつけた暗がりに、小型車サイズの鷲のような猛禽類の特徴を持つ緑色の鳥がいた。

 

「キルルル……」

 

「鳥……?」

 

「…………………」

 

美由希達が突然現れた鳥に警戒する中……先ほどの爆風でキャロの手から離れたケースをフードを被った人物が拾った。 背はキャロと同じくらいで、子どもなのが見て取れる。

 

「ん? あっ!」

 

「…………………」

 

キャロはすぐに気付き、慌てて近寄るが……フードの子どもは無言で手を前に出し。 スフィアを展開、発射した。 キャロはそれに驚愕しながらもすぐさま防御魔法を展開するが………

 

「きゃああっ!!」

 

「キャロ!」

 

「キャロちゃん!」

 

咄嗟の事で防御が甘く、容易く破壊されてしまいキャロは吹き飛ばされてしまい、ルーテシアが急いで駆け寄った。 ソーマ、サーシャ、美由希はフードの子どもを敵と判断し、拘束しようと動き出そうとすると……

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動……破邪・流星嵐」

 

「ギャオルルルル!」

 

フードの子どもから発せられた呟きの後に。 緑鳥の鳥らしくない咆哮と共に全身が緑色の炎を纏い、ソーマ達に向かって突撃した。

 

「きゃあ!」

 

「ぐっ……」

 

「な、なんてパワーにスピード……」

 

「キルルルル……!」

 

「うおおおおっ!」

 

緑鳥が追撃をしかけようとすると……スバルが緑鳥に向かって飛びかかり、跳び蹴りを仕掛けるが……緑鳥は軽やかに飛び、蹴りを避ける。 緑鳥とスバルは真横を通り過ぎ……

 

「まだまだ!」

 

ようとしかけた時、スバルが身体を捻り右足を地面に突き立て制動をかけ。 跳んだ勢いを利用して回転、左足で回し蹴りを繰り出した。

 

「キルル!」

 

「これもダメ!?」

 

「ーートイやあああっ!」

 

スバルの回し蹴りが避けられた瞬間、ギンガが飛び出し。 鋭いパンチを放ち、緑鳥は翼で弾いて後退した。

 

「何、この感じ……」

 

「キルルルル……」

 

「こら! そこの君! それ危険な物なんだよ! 触っちゃダメ、こっちに渡して!」

 

「……………………」

 

ソーマはフードの子どもにレリックを渡すよう話しかけた。 フードの子どもは一瞬振り向いたが、すぐに踵を返した時……

 

「っ……!」

 

「ーーごめんね、乱暴で」

 

フードの子どもは肩を抑えられるのを感じて足を止め。 次の瞬間、背後にティアナが現れフードの子どもにダガーモードのクロスミラージュを添えた。 どうやらティアナはオプティックハイドで静かに接近していたのだ。

 

「でもね、これホントに危ないものなんだよ? 」

 

「……………………」

 

『ーークク。 カウント3で目を瞑って』

 

その時、フードの子どもに向かって念話が届いた。 念話を飛ばした人物は、了承を受け取らないままカウントを始める。

 

『1、2の……』

 

「…………………」

 

「! しまった!」

 

「ーーシュペヒトモメント!」

 

サーシャがフードの子どもが顔を……視界を隠した行動の意味に気付いた瞬間……突然2人の頭上から黄色い魔力弾が発射され。 ティアナ達の目の前に着弾、轟音と閃光が辺りに広がり、ティアナ達は目を閉じ耳を塞いで膝をついてしまった。 それと同時に子どものフードが外れ……中から長髪で水色の髪をした少女が出て来た。 少女はティアナを一瞥すると、気にせず離れた。

 

「っ……待ちなさい!」

 

「キルルッ!」

 

「きゃああああっ!!」

 

「ティア!」

 

ティアナは制止を呼びかけ、追いかけようとするが……緑鳥が道を塞ぎ。 翼の羽ばたきで起こった突風で吹き飛ばされてしまう。

 

「っ!」

 

しかし、ティアナは受け身を取って体勢を立て直し、クロスミラージュの銃口を向ける。 狙いはフードの子ども、気絶を狙い引鉄を引いた。

 

「っ!」

 

「キルルル……」

 

放たれた魔力弾は緑鳥が弾き、少女は視線を上に向けた。 そこの排水管に腰掛けていたのは………黄色い髪をした、人形サイズの少年だった。

 

「ーー水臭いじゃないか、僕達に黙って行くなんて。 ククもクローネも」

 

「え……」

 

少年の言った言葉に、キャロは呆けた声を出し。 顔を上げ、フードから外気にさらけ出した少女の顔を見ると……声も出せず、目が動揺を表すように震えた。

 

「コルル……」

 

「本当に心配したんだからね。 そのせいで姉さんに探しに行けって駆り出されるし……ま、僕が来たからには大船に乗った気になってよね。 この雷鳴の槍精! コルディアが来たんだからね!」

 

スポットライトを自分に当て、コルディア……コルルは意気揚々にポーズを決めた。

 

「さてと……じゃ、逃げよっか」

 

「…………泥舟の間違いじゃない?」

 

意気揚々と、堂々と名乗ったコルルは、今言った事と一転して真逆の事を言った。 その温度差に、表情は変わらないがククは冷えた目で見つめた。

 

 



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162話

 

 

同日ーー

 

「てやっ!」

 

コルルはソーマ達に向かって手を上げ、振り下ろした。 すると突如雷落が発生、コンクリートを砕き砂塵が舞い上がる。 すぐさまソーマ達は後退し、距離を取った。

 

「キャロちゃん、大丈夫?」

 

「…………………」

 

「キャロ?」

 

「どうしたの? どこか怪我でも……」

 

キャロを抱えた美由希が話しかけるが……一点の方向だけを見つめて放心するキャロ。

 

「……ごめんね」

 

「あ……」

 

「ちょ、美由希さん!?」

 

美由希はキャロの首を少し圧迫させ、キャロを気絶させた。

 

「気絶しただけよ。 今のキャロ、明らかにおかしかったから」

 

「ご、強引ですね……」

 

「でも、おそらくその理由はあのククって子にあるようだね」

 

「………まさか!」

 

キャロとクク、その理由にルーテシアが気付いた時。 砂塵の中から緑鳥……クローネが現れ。 鋭い爪を突き立てながら滑空してきた。

 

「はああっ!」

 

咄嗟にギンガが飛び出し、クローネの爪とギンガのリボルバーナックルが激突。 火花を散らし、爆発。 その衝撃で両者は離れた。

 

「よっと」

 

間髪入れずコルルが雷球を発射、地下水路に流れていた水にぶつけ水飛沫をあげる。

 

「……ティア、どうする?」

 

石柱に隠れ、水飛沫を浴びながらソーマがこの後どうするのか聞いてみた。

 

「任務はあくまでケースの確保よ。 撤退しながら引き付ける」

 

「相手は逃走が目的だよ。 上手く行くの?」

 

「……こっちに向かっているヴィータさんとリインさんに上手く合流できれば……あの人達を止められるかもしれません」

 

「うん。 それがいいと思うよ」

 

『ーーよし、中々いいぞ』

 

作戦が決まった時、ヴィータの念話が届いてきた。

 

『ヴィータ副隊長!』

 

『私も一緒です。 皆さん、状況を呼んだナイス判断ですよ!』

 

「あのあの、お2人は今どちらに?」

 

「ーーっ!」

 

サーシャがどこにいるのか質問した時、コルルが何かを察知した。

 

「クク、増援だよ。 どうやらあの子達の親御さんが来たみたいだね」

 

「…………………」

 

コルルの警戒に、ククが上を見上げた瞬間……

 

「とりゃあああっ!」

 

ヴィータが天井を突き破って両者の間に割って入って来た。 その影響で砂塵が舞う中、中からリインが古代ベルカ式の魔法陣を展開しながら飛び出してきた。

 

「ーー捕らえよ、凍てつく足枷! 凍てつく足枷(フリーレンフェッセルン)!」

 

ククの周辺に水が舞い上がり、瞬時凍結させて閉じ込めた。

 

「今だ!」

 

「ぶっ飛べ!」

 

その隙を狙ってソーマがクローネに向かって九乃を飛ばし。 怯んだ隙にヴィータがラケーテンフォルムのグラーフアイゼンをクローネに向かって振り抜き。 クローネは爪で受け止めるが、少しの拮抗の後に吹き飛び。 先にあった壁に激突した。

 

「……今のは……ううん……ただの見間違いの……」

 

「リイン?」

 

「! み、皆、無事で良かったですぅ!」

 

ヴィータはリインの行動に不審に思うが、声をかけられリインはソーマ達の無事を確認する。 だが、ソーマ達……特にティアナ達はヴィータ達の確保に至るまでの早業に呆然としていた。

 

「あ、あはは……」

 

「ふ、副隊長達、やっぱり強ー……」

 

「でも局員が公共施設を破壊して良かったのでしょうか……?」

 

「まあ、このジオフロントE区画は開発予定区画と言って、計画性のない案件だったしいいんじゃないかな?」

 

「そ、そういうものなのかな?」

 

ソーマ達がそんな事を疑問に思う中、ヴィータは吹き飛ばしたクローネの元に向かうと……そこには何も無かった。

 

「……ち、逃げられたか」

 

「ーーこっちもです! 逃げられた、ですね」

 

ヴィータの呟きにリインも反応し、凍てつく足枷を解除すると……そこには誰もいなく。 地面に穴が空いていた、恐らくここから脱出したのだろう。

 

ドオオンッ!!

 

その時、轟音と衝撃と共に地面……ここは地下なので全体が揺れた。

 

「っ……何だ!?」

 

「ーー大型召喚の気配があったわ。 恐らくそれが原因でしょう」

 

揺れの正体をルーテシアが推測で答える。 だがそれでも長居は無用で、ヴィータは脱出を図った。

 

「一先ず脱出だ! スバル!」

 

「はい! ウイングローードッ!!」

 

スバルは拳を地面にぶつけ、ウイングロードを上に向かって螺旋を描きながら脱出路を確保した。

 

「スバルとギンガが先導しろ! 殿はあたしとソーマが勤める!」

 

『はい!』

 

「了解です!」

 

「美由希さん! これ」

 

ティアナは美由希に拾ってきたキャロの帽子を渡した。

 

「ありがとね。 それにしても……ちょっと強くやり過ぎたかな?」

 

「あ、あはは……どうなんでしょう?」

 

「ルーテシア、レリックの封印処理をお願いできる?」

 

「いいけど……何を考えているの?」

 

「ちょっと考えがあるの。 手伝って」

 

「ふう、了解!」

 

ソーマ達はウイングロードを伝って地上に向かった。

 

そして地上では、さらに巨大化したゼフィロス・ジーククローネの周りが大気が渦巻いており。 それによる重圧で大地を揺るがしていた。 その頭上ではベルカ式の魔法陣の上に立っているクレフがいた。

 

「やめてよクク! そこまでしなくてもいいじゃないか!」

 

そのククの行動に、コルルは異議を唱えて辞めさせようとする。

 

「それに埋まった中からどうやって探す気なのさ? それに彼らを生き埋めにしたらそれはそれで面倒だしさ」

 

「………あのレベルなら死ぬ事はまず無い。 ケースはクアットロとセインに頼んで探してもらう」

 

「それもダメだって! あの変態とナンバーズと関わっちゃダメだって姉さんからも言われてるでしょう? 協力関係とか言ってるけど、実際奴らはククの事を……!」

 

コルルがそう言いかけた時、大きな音が轟いてきた。 どうやらクローネの起こした重圧で地割れを引き起こしたようだった。

 

「……あーあ、やっちゃったよ……」

 

「クローネ、行こう」

 

「ピイィ……」

 

コルルは地割れを見てガックシと項垂れる。 クレフは特に気にせず、クローネを戻そうとガントレットを操作しようとした時……クローネの全体から鎖が飛び出し、巻き付いてクローネが戻るのを妨害した。

 

「ピイィィ……!」

 

「あ、やっぱり生きてたね」

 

コルルが視線だけ辺りを見渡す。 いつの間に六課のメンバーに囲まれており、どんどん距離を縮められていく。

 

「ちっ!」

 

2人はティアナの狙撃を避け、コルルは雷球を投げてティアナを牽制。 クレフは複数の鉄の塊を精製、近付いてきた全員に向かって発射……爆発した。 クレフも撃墜を狙わず、牽制で放ったようだ。

 

クレフはそのまま廃棄された高速道路の上に降り立つと……激流が意思を持つかのようにクレフの前に接近。 弾けると、中から美由希が現れ、小太刀をクレフに突き付けた。

 

「っ……」

 

「コルルさん……」

 

コルルも移動した先に氷のダガーが待ち構えおり、身動きを制限された。 ダガーを設置したリインは困惑しながらコルルを見つめ、2人を拘束した。 この人数相手に、コルルとクレフは逃げる事すら出来なかった。

 

「あらら……」

 

「ふう、子ども虐めてるようでいい気分はしねぇが……市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕する」

 

「ーーまずは、あの子を大人しくさせてもらいましょうか?」

 

飛んできたルーテシアが、彼女によって拘束されているクローネを一瞥した。 クレフはその意図を読み、クローネを球に変え。 自分の足元に転がした。

 

「爆丸システム……それにクレフ・クロニクル。 何度かレンヤさん達と交戦した事のある子よ」

 

「この子が……」

 

クローネを拾いながら、ルーテシアは自身が知っているクレフの素性を話した。

 

『は〜い♪ ククお嬢様♪』

 

その時、クレフにクアットロから念話が届いた。 クレフは問いかけられる質問を無視して念話に応答する。

 

『クアットロさん……』

 

『何やらピンチのようで……お邪魔でなければクアットロがお手伝いいたします♪』

 

『はい、よろしくお願いします』

 

『……くふふ、とても使い易いお人形さんですこと。 では、私が今から言う事をそのまま赤い騎士にお伝え下さい』

 

クアットロは内心ドクターに感謝しつつ、狂気に満ちた笑みをしながらそう伝えた。 そしてクアットロはクレフに向かって話し始めた。

 

「逮捕はいいけど……」

 

「っ……」

 

突然クレフは硬い口を開き、抑揚のない棒読みで話し始めた。

 

「大事なヘリは放っておいていいの?」

 

『なっ……!』

 

「まさか!」

 

「狙いはもう片方のレリック!」

 

ソーマとサーシャはその答えまで導き出したが……その結果でどう対処するかまでは答えが出なかった。 クレフはピクリと震えると顔を上げ、ヴィータの方を見た。

 

「ーーあなたは……また、守れないかもね」

 

「っ!!」

 

ヴィータの表情が驚きを見せる中……それとほぼ同時に、ヘリに向かって砲撃が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻ーー

 

俺達は海上のガジェットをはやて達に任せ、レリックが積んであるヘリに向かっていた。

 

「ーーあ、見えた!」

 

海上から全速力で飛行し、ようやくヘリに追いついた。

 

「よかった、ヘリは無事みたい」

 

「ふう、後はもう片方の方だけど……」

 

「そうだな……っ!」

 

その時、別の方向から巨大なエネルギーの波を感じた。 それと同時にオペレーターから通信が届いた。

 

『市街地に高エネルギー反応! 大きい!?』

 

『っ!』

 

『レンヤ君! 狙いは……!』

 

「ーー分かってる!」

 

すずかの警告に、飛行速度を一気にあげる。

 

『砲撃のチャージを確認! 物理破壊型……推定Sランク!』

 

 『チャージ完了までの予想時間、約10秒!』

 

「短いわね!」

 

チャージ後のトリガーを引くまでのタイムラグ、発射から着弾までの時間も入れても間に合うかどうか……

 

「ーーなのは!」

 

「ーーアリサ!」

 

だから、俺とフェイトはほぼ同時に2人の名を呼び、手を伸ばした。

 

「うん!」

 

「行くわよ!」

 

俺はなのはの手を掴み、フェイトはアリサの手を掴み……

 

『行っけええーー!!』

 

身体強化を最大にし、全力でヘリに向かって投げた。 間髪入れず、アンノウンがヘリに向かって砲撃を発射。 砲撃がヘリに迫って行き……コンマの差でなのは達が間に割って入り……

 

ドオオオオンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『砲撃……ヘリに直撃……』

 

『そんなはずない……状況確認!』

 

『ジャミングが酷い……データ来ません!』

 

「そんな……」

 

ロングアーチからの応答に、ヴィータ達は呆然とする。

 

「ヴァイス陸曹と、シャマル先生……」

 

「それにエリオとアギトと……ヴィヴィオとファリンさんまで……!」

 

「お姉ちゃん……」

 

「ーーテメェ!」

 

ヴィータは怒りのあまりクレフの胸元を掴み、地面から足が浮くように持ち上げた。

 

「ちょ、副隊長! 落ち着いて!」

 

「うっせ!」

 

「ヴィータさん、落ち着いて下さい。 近くにレンヤさんが居たはずです、必ず皆さんは無事です」

 

「っ……」

 

その時、ギンガは何かの気配を感じ。 後ろに振り返ると……地面から人差し指を立てた手が生えていた。 どう見たって普通じゃないと感じたギンガは……

 

「ーーてやっ!」

 

「うわっ!?」

 

その場で短く跳躍、身体を捻って不審と感じた美由希すぐ側の地面に踵落としを放った。 手は当たる直前に引っ込んだが……美由希は咄嗟に避けたせいで持っていたケースを落としてしまい。

 

「いっただきー♪」

 

「待ちなさい!」

 

今度は両手が生えてきてケースを掴み、ティアナが魔力弾を撃って止めようとするが、そのまま持って行ってしまった。

 

「くそっ!」

 

ヴィータは急いで追いかけ、それにティアナ達が続いて行く。

 

「…………………」

 

「ーー動かないで。 砲撃を撃った人物、さっきの物質を通過する人物も含めて組織構成を洗いざらい喋ってもらうよ」

 

残ったソーマ達は2人を監視し、ソーマはククの前方を剣で塞いだ。

 

「コルルさん……何であなたが……」

 

「あはは、騙す気はこれっぽっちも無かったよ。 あの時の行動も僕の独断……やりたいからやっただけ。 そうでしょう?」

 

「……………………」

 

コルルの回答に、リインは微妙に納得してしまった時……

 

「ーーん……」

 

「キャロちゃん」

 

「キュル……」

 

「……サーシャさん……フリード……」

 

サーシャに抱えられていたキャロが目を覚ました。 キャロは辺りを見渡し、状況を確認しようとし。 視界にククの姿が入ると目を見開いた。

 

「……ククちゃん……」

 

「ーーえ」

 

「ククちゃん!」

 

「わわ!? キャロちゃん、暴れないで……!」

 

キャロは抱きかかえられたままジタバタと暴れ、たまらずサーシャはキャロを離し。 すぐにキャロはククの前に向かった。

 

「今までどこにいたの!? 突然行方不明になって……皆、心配してたんだから! それにその髪はどうしたの!? 昔は綺麗な茶髪だったのに……それに!」

 

「うわっ!? キャ、キャロ……?」

 

ルーテシアの手から緑色の球……クローネをひったくられ、ククの眼前に突き付けた。 今まで見たことのないキャロに、ルーテシア達は困惑する。

 

「キュル! キュル!」

 

「この子、ククちゃんのお友達のクローネだよね? このシステムを使っているのはともかく……さっきのあの姿、獣化だよね? どうして禁忌の力をーー」

 

フリードも忙しなくククの頭上を飛び回り、キャロは今まで発したことの無い大声でククを質問責めにする。 その声にヴィータ達も足を止めてしまう。

 

「………………あなたは……」

 

「っ……クク、ちゃん?」

 

「あなたは……誰?」

 

「っ!!」

 

ようやく発した言葉に、キャロは衝撃を覚え、フラフラと後退する。 その時、ククはおもむろに目を閉じた。

 

「ーーほい、クローネ回収」

 

「あ!? ククちゃん!」

 

「待て!」

 

「ばーいば〜い♪」

 

一瞬でキャロの手からクローネをひったくり、先ほどと同様に地面に沈んで行った。

 

「! コルルさん!」

 

『待たね、リイン。 アギトにバチバチよろしく言っておいてね』

 

「っ……!」

 

コルルもそれだけをリインに言い残し、両名の反応が途絶えてしまった。

 

「……反応、ロストしました」

 

「ーーくそ……!」

 

ヴィータは思いっきりグラーフアイゼンを地面に叩きつけた。 地面がひび割れる中、ヴィータは通信を入れる。

 

「……ロングアーチ。 ヘリは無事か? あいつらは……落ちてねえよな!?」

 

クレフの言葉に過去の記憶がフラッシュバックする中、ヴィータは悲痛な叫びを八つ当たりのようにロングアーチにぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリが砲撃に直撃した地点……そこでは未だに砲撃によるノイズで観測が難しかった。

 

『……スターズ2からロングアーチへ……』

 

その時……通信がノイズに塗れだが、確かに聞こえた。 砲撃による爆煙が晴れると……そこにはヘリと共に無傷のなのはとアリサがいた。

 

『こちらスターズ1、およびフェザーズ2。 ギリギリセーフでヘリの防御……成功!』

 

『ホンット、ギリギリだったわね。 まあ、砲撃が大した威力じゃなかったのも救いだけど』

 

アリサが言うには本当に大した事なかったのだろうが、それでも冷や汗モノだった。

 

『はあー……危なかった、ギリギリや』

 

『ふひー、冷や汗かいたよ』

 

『ふふ、なのはちゃんとアリサちゃんにはいつも驚かされるね』

 

はやて達も通信越しホッと一息をついた。 だが、俺が一安心するにはまだ早い。

 

「さて、俺達もやるぞ」

 

「了解!」

 

俺達は砲撃の射線上にあったビル、その屋上に2組の女性を捕捉した。 俺はその位置情報をすずかに送った。

 

『すずか、そこから狙いるか?』

 

『もちろん。 もう捕捉したよ』

 

さすがすずか、もう遥か遠方にいたすずかがスコープ越しに砲撃を撃った人物を捕捉したようだ。 そして引き金を引き……持っていた大砲を破壊した。

 

『ふふ、スコープ越しの出会いは別ればかりだと思ってたけど……こういうのも悪くないね』

 

……一瞬寒気を感じだが、気を取り直し。 フェイトは幾つもの魔力弾を発射、回避方向を誘導させるように魔力弾を操作し……ビルの屋上は爆発。 2名は狙い通りの位置にあったビルの屋上に降り立った。

 

「ーーお前達が」

 

「! こっちも!?」

 

「速い……!」

 

先回りされた事に驚いたのか、2人組は驚愕の表情をする。 それと、メガネをかけた女性はどっかで見た覚えがあるような……そう思っていると2人組は踵を返して逃走を始め、俺達はすぐに追跡する。

 

「そこの2人、止まれ! 時空法に基づき、市街地での危険魔法使用、及び殺人未遂の現行犯で……逮捕する!」

 

「あなた達の背景……洗いざらい喋ってもらいます!」

 

「今日は遠慮しときますー!」

 

今日もの間違いかもしれないが……とにかく捕まえない事には始まらない。 その時、メガネの女性が何かを始め……2人の姿が掻き消えた。

 

「ーーレンヤ!」

 

「分かってる!」

 

《モーメントステップ》

 

一瞬で加速、超高速で搔き消えるように移動し。 銃を構え、何もない地点を乱射した。 すると消えていた2人組が姿を現した。

 

「嘘っ!? シルバーカーテンが破られた!?」

 

「気配が見え見えだ。 どうやら能力にあぐらをかいていたようだな?」

 

「くっ……!」

 

まあ、今のは気配も含まれているが、実際はほぼ直感で見つけたんだけど……

 

「ーー最終通告だ。 これ以上の逃走は身の安全を保障できない」

 

「あ、あらあら〜……」

 

「………………」

 

メガネの女性はどこか楽しみながらも両手を上げて降伏の意志を見せ。 残りの長い茶髪を後ろで縛った女性の反応を見ると……

 

「ディエチ!」

 

「っ!」

 

いきなり背後から人の気配が現れると共に奴らとの間に丸い物体……手投げの爆弾らしき質量兵器が投げ込まれた。

 

《ラウンドシールド》

 

咄嗟にレゾナンスアークが防御魔法を展開。 次の瞬間、質量兵器から大量の煙が発生した。 どうやら2人を逃がすための目くらましだが、あんまり視界に頼らない俺には通用……

 

「だあっ!」

 

「な……」

 

煙の中から茶髪の女性が両腕で頭を守りながら突進してきた。 まさか攻撃に転じて来るとはおもなかったが、冷静に対処。 拘束しようと腕を掴もうとすると……腕は掴めずにすり抜けた。

 

「幻影……!?」

 

「シルバーカーテン……最大駆動!」

 

どうやら幻影で頭を守っていた腕は幻影、本当は頭突きのように突進してたようだ。 そして後ろに抜かれ、メガネの女性が茶髪の女性を回収、逃走した。 巻き上がる砂塵の中、気配が消え……何も感じ取れなくなった。 どうやら姿を消す機能を最大に使い、かなり遠くまで逃げたようだな。

 

俺はもう逃げていると思うが、質量兵器を投げた人物を見ようと後ろに振り返ると……地面から手が生えていた。

 

「あ、やばっ……」

 

人差し指についていたカメラがこちらを向き、すぐに沈んで行った。

 

《どうやら無機物内を自在に通り抜けられるようです》

 

「厄介な能力を持っている事で……まあいい、はやて! 通告無視を確認! よろしく頼む!」

 

『了解や!』

 

念話ではやてにそう報告し、レゾナンスアークに位置情報を転送させた。

 

『位置確認……詠唱完了! 発動まで……後4秒!』

 

「了解……! フェイト!」

 

「うん……!」

 

はやてと通信後、すぐにUターン。 その場から離脱する。 チラリと背後を見ると……はやての魔力がする巨大な黒い球体が浮かんでいた。 広域空間攻撃による燻り出し……はっきり言って大袈裟過ぎるな。

 

『遠き地にて、闇に沈め………デアボリック・エミッション!!』

 

黒い球体が圧縮し……爆発するように増大、辺りを一帯を黒い衝撃が飲み込んでいく。 あ、いた……2人は上空に逃げたが……

 

《投降の意志なし……逃走の危険ありと認定》

 

「そう……」

 

パルディッシュの意見を聞くと、フェイトは魔力を高め出し。 2人を挟んでその反対方向にはなのはとアリサが待ち伏せしており。

すでに砲撃の発射体制に入っていた。

 

「トライデント……スマッシャー!」

 

「ディバイン……バスターー!」

 

「アトミック……ブレイザーー!」

 

3人はカートリッジをロード。 目標の2人に向かって容赦無く同時に砲撃を放った。

 

「これは………避けられないわね」

 

「そうですね」

 

2人が諦めモードに入っていると……砲撃が当たる寸前、何かが間に割って入り、2人を回収していった。 3つの砲撃が衝突、大きな爆発を引き起こしながら辺りを見渡す。

 

『ビンゴ!』

 

「ーーじゃない! 避けられた!」

 

『え……』

 

「直前で救援が入ったね……ロングアーチ、すぐに追跡を!」

 

『は、はい!』

 

フェイトが指示を出す中……俺はなのは達の前から姿を消し、ある場所を目指してた。

 

「ーー見つけた」

 

「なっ……私のランドインパルスに追いついたのか!?」

 

先ほどの地点から数十キロ離れ地点、そこに先ほどの2人組と救援に入ったと思われるもう1人の女性がいた。

 

「あなたのその魔法みたいなのは前に見た事があってね。 それで反応できたのさ。 まあ、俺は敵を認識するのに視覚はあんまり頼ってないのもあるけど」

 

「くっ……」

 

《マジェスティー。 3人の内2名は9年前、違法研究所で交戦した人物です》

 

「ーーああ、思い出した。 そこのメガネの女性……確かクアットロって言ってたね」

 

「…………………」

 

レゾナンスアークにそう言われ思い出した。 そういえばゼストさん達を救出した時に襲いかかってきた3人組、その中にあのメガネの女性と短髪の女性がいたな。 他は当時同い年ぽかった銀髪の少女……これは今はいいか。

 

「さて、昔の事は置いておいて……今度こそ大人しく投降してもらおうか」

 

「ちっ……!」

 

威圧を発しながら刀を突き付け、短髪の女性は身構える。 すると横から羽根が飛来してきま。 問題なく切り落とし、飛来してきた方向を見ると……ビルの路地裏からクレフが現れた。

 

「……クレフ・クロニクル」

 

「ククお嬢様!」

 

「……サンドストリーム」

 

久しぶりだというのに、警告もなしに手をこちらに向け、ククが砂塵の竜巻を引き起こし飛ばしてきた。

 

「ーー抜刀!」

 

刀に集束魔法を付与、迫ってきた竜巻を両断したが……

 

「忠告しておく、マテリアル1に噛まれるなよ」

 

「何っ!?」

 

短髪の女性はそれだけを言い残し、奴らはその隙にククの集団転送によって逃げられてしまった。

 

『…………だめです。 完全にロストしてしまいました』

 

「……ふう、逃したものは仕方ないか」

 

それにしてもマテリアル1……ってことは2もいるわけで。 奴らが狙ったのはヘリ、機内にいた人物は……そう推測するとマテリアルに当てはまる2名は、あの少年とヴィヴィオ。

 

「……考えても仕方ないか」

 

思考を切り替え、その場をなのは達に任せ。 ソーマ達と合流するため、高速道が見える地点にあるビルに降り立った。

 

そこではヴィータが深刻そうに報告する中、ギンガがスバルの脇腹を小突き。 スバルは意図を理解して頷いた。

 

「あ、あの〜……ヴィータ副隊長」

 

スバルは遠慮がちに声をかけるが、目の前にグラーフアイゼンを突き付けられて言い出せず。 ヴィータは報告を再開する。

 

「ああ、フォワード陣はベストだった。 今回は完全にあたしの失態だ……」

 

「リインもです……」

 

「ヴィータさん、あのー……」

 

「っ、何だよ! 報告中だぞ!」

 

今度はソーマが声をかけるが、自分の責任と分かりながらもイラつくヴィータを、サーシャが慌てふためきながらも落ち着かせようとする。

 

「あ、あのあの、怒る気持ちは渡りますけど、一旦落ち着いてください」

 

「いや……あの、その……ずっと緊迫してたのでいつ切り出そうかと迷ってたんですけど……」

 

同様に、ティアナも遠慮がちに話を切り出した。

 

「レリックには一工夫してまして……」

 

「ん?」

 

『あ、あははは……』

 

3人は苦笑いした後、ヴィータとリインにその一工夫した内容を説明した。

 

「ケースはシルエットではなく本物でした。 あたしのシルエットって衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから」

 

「なので、ケースを開封してレリック本体に直接厳重封印をかけてね」

 

「それでその中身は……ちょっとごめんねー」

 

「え?」

 

スバルは断りを入れてキャロの帽子を取ると、そこには花咲いたカチューシャがあった。

 

「え、何これ?」

 

「ーーこんな感じで」

 

パチンッ!

 

キャロがあたふたする中、ティアナは指を鳴らして魔法を解除。 カチューシャの魔法が解けてキャロの頭の上にレリックが出現した。

 

「ふえええ!? な、何で私の頭の上にレリックが!?」

 

「こうしてレリックを守ってたのよ。 それで敵との直接接触が一番少ないキャロに持たせたの。 まあ、気絶してたから勝手に乗せたけど」

 

「そうだったんですかぁ〜!」

 

「あ、あはは……」

 

リインは驚きながらも納得し。 ヴィータはしてやられたと顔を引攣らせ、変な笑い声を出した。

 

「……気絶させたのは美由希さんでしょう」

 

「あ、あはは……」

 

「まあ、キャロとククが顔見知り……同郷だったのは驚きだけどね」

 

「あ……」

 

何気なくルーテシアがそこを指摘すると、キャロは色んな感情が胸の中で渦巻き……落ち込んでしまった。

 

「……話すべきかな、D∵G教団……過去に引き起こされた事件を……」

 

「ーー陛下!」

 

キャロに真実を伝えるか否か悩んでいたら……背後から声をかけられ、振り返るとシャッハとシグナムが飛んできた。

 

「シャッハ、シグナム。 遅い到着だな」

 

「どうやら、我々の出番は無くなったようだな」

 

「ああ、ご足労をかけたな」

 

「いえ、気にしないでください。 ここは素直に任務完了を喜ぶとしましょう」

 

俺達はソーマ達の元に向かい、すぐに事態の収拾に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、聖王医療院ーー

 

市街地での事件を収集した後、聖王医療院に例の少年とフェイトの強い意向でエリオを搬送、治療を受けさせた。

 

『検査の方は一通り終了、大きな問題はなさそうだったから今からそっちに戻る』

 

なのは一緒に移動しながら、フェイトに少年の容態を念話で報告していた。 本当はフェイトも来たがっていたが、自分の立場をようやくわきまえて俺となのはにエリオを任せたようだ。

 

『うん、了解』

 

『フォワードの皆は?』

 

『元気だよ。 キャロの怪我も割と軽かったし、報告書を書き終えて今は部屋じゃないかな?』

 

そう言い切ると。 フェイトは少し間を置いて質問してきた。

 

『それでその……エリオは?』

 

『外傷ばかりで臓器などの損傷はなし。 そのまま健康診断も受けさせるから、明日にも退院できるってリンスが』

 

『そう……よかった』

 

砲撃で狙われたこともあり、やはり心配だったのか。 フェイトはホッと一息ついた。

 

『私も戻って報告書書かなきゃ。 今回は枚数多そ』

 

『大丈夫。 資料とデータは揃えてあるから』

 

『あはは、ありがとう』

 

『ま、1番酷かった報告書を思い出せば……どんなのでも楽だと思うさ』

 

『…………そうだけど……思い出させないでよ……』

 

フェイトでも目に見えてテンションが下がった。 やっぱりあの教団事件後の報告書は堪えたようだ。 俺もだけど。

 

そこで念話を切り、俺となのはは医療院の購買前に差し掛かった。

 

「あ……これ、あの子にどうかな?」

 

なのはが手に取ったのはうさぎのぬいぐるみ……どうとはと言うと、恐らく少年へのお見舞いの品だろう。

 

「いやいや、ヴィヴィオじゃないんだから」

 

「え〜? じゃあこっちは?」

 

今度は隣にあった犬のぬいぐるみを指した。 いや、大して変わってないんだけど……

 

「……まあ、うさぎよりはいいか」

 

それで決まり、犬のぬいぐるみを購入した。 その後病室前でなのはと別れ、少年が寝ている病院に入った。 その中にあったベットの中にあの少年が眠っていた。 その側に、ヴィヴィオが少年を見守っていた。

 

「あ、パパ」

 

「ヴィヴィオ。 六課に帰って無かったのか?」

 

「うん。 ちょっと気になって」

 

枕の隣になのはのお見舞いの品である犬のぬいぐるみを置いた。 ……やっぱり違和感があるな。

 

「ワンちゃんだあ……! パパ、ヴィヴィオのうさぎさんと一緒だね!」

 

「は、はは……そうだな」

 

ヴィヴィオの言葉に苦笑いで同意しながら、側に立てかけられてあった刀袋に入っている太刀を手に取った。

 

「太刀、か……」

 

太刀を鞘から抜き、刀身を眺める。 奴らと少年、そしてこの太刀から推測すると……そこで考えを止め、太刀を片付けた。

 

「……ここから先は資料を見ないとな……」

 

「パパ?」

 

「あ、何でもないよ。 そろそろママ達が心配してるし、帰ろうか?」

 

「うん!」

 

差し出した手をヴィヴィオは笑顔で握り、手を繋ぎながらもう一度少年に振り返った。

 

「じゃあ、また来るな」

 

「バイバーイ」

 

それだけを言い残し、俺とヴィヴィオは病院を後にした。

 

 

 



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163話

 

 

7月9日ーー

 

「ごめんねレンヤ、運転を任せちゃって」

 

現在、アリサとフェイトとアリシアと共に聖王医療院に向かって自分の車を走らせていた。 目的は入院している例の少年とエリオの迎えだ。

 

「気にするな。 あっちにはシャッハもいることだし、俺が仲介した方がいいだろう」

 

「……ありがとう」

 

「フェイトはエリオの事が心配で心配で涙で枕を濡らしてたよね〜?」

 

「な、泣いてないよ! 姉さん、あんまりデタラメを言わないでよ!」

 

「心配なのは本当なんだ?」

 

「そ、それは……」

 

図星のようで、フェイトはアリシアにからかわれながら慌てふためく。 まあ保護者としての気持ちも分からなくもないが、本来なのはが行くはずだったのを無理言って変わってもらうのをお願いするとは思わなかったな。

 

「それで、何でアリサも一緒に来たの?」

 

「昨日、前々から聖王医療院に依頼していた2種類のネクターの分析結果が出たみたいなのよ。 私はその結果を確認するためにね」

 

「ホアキンに代わって薬学と神経科の両部門を引き継ぐ人物……まあ、どうしても警戒しちゃうねー」

 

「そこは安心していい。 何でもベルカ流護身術の達人でサーシャの先生でもあり、それに整形外科の先生でもあるそうだ」

 

「うわ〜、聞くからに完璧そうな人だね〜」

 

アリシアは今聞いた情報だけでそう言うが、実際にどんな人かは俺も知らない。 昔、ソフィーさんに聞いた話ではアリシアの言う通り完璧な人と言っていたが……

 

「それにしても……検査が済んで、何らかの事実が判明したとして。 あの男の子はどうなるのかな?」

 

「そうだな……ヴィヴィオの時と似ている状況だけど、色々と難しいだろう。 何より、あの力を野放しにする訳にもいかない」

 

「そう……」

 

アリシアの質問に答えたその時、通信が入ってきた。 回線を開くと相手はシャッハだった。

 

『陛下、聖王教会シャッハ・ヌエラです!』

 

「事前にそちらに向かうと連絡はしておいたはずが……何かあったのか?」

 

『申し訳ありません、こちらの不手際がありまして。 検査の合間に、あの少年が姿を消してしまいました』

 

「え、それホント!?」

 

シャッハに非があるわけではないが、急いだ方が良さそうだな。 アクセルを強め、スピードを上げて走り……数分後に聖王医療院に到着。 それと同時に医療院内からシャッハが走りながら出迎えてくれた。

 

「申し訳ありません!」

 

「状況はどうなっていますか?」

 

「はい……特別病棟とその周辺の封鎖と避難は済んでいます。 今の所飛行や転移、侵入者の反応は見つかっていません」

 

という事は、外部からの誘拐ではなく。 少年自身の意志で逃げ出したという事か。

 

「……外には出られないはずだよな?」

 

「ええ」

 

「では、手分けして探しましょう。 レンヤと姉さんもそれでいいよね?」

 

「ああ」

 

「もちろん」

 

避難している人達の中に紛れてないかの確認をアリサがし、残りはシャッハも含めて二手に分かれて捜索を開始した。 俺はシャッハと共に院内の捜索を始めた。 その過程でシャッハに診断結果を聞いた。

 

「検査では一応危険反応は無かったんだよな?」

 

「はい。 年齢不相応に魔力量が異常に高い事と……魔力光が2つある事以外は」

 

「2つ? 俺と似た感じということか?」

 

「いえ、陛下のは蒼い魔力光を虹色に変化させる事です。 あの少年は赤い魔力光と黒い魔力光が別々に存在しているのです」

 

変化によって2種類あるのではなく、同時に2種類存在しているということか。 そんなの普通じゃない、明らかに後天的に後付けされた力……

 

「そうなると、あの子は……」

 

「はい。 悲しい事ですが……あの子も姫様同様、人造生命体なのは間違いないです。 その影響による潜在的な危険も確認されてます」

 

シャッハが懸念しているのはあの鬼の力か……その後、少年入院していた特別病棟の病室に向かった。

 

「もぬけの殻ですね……」

 

「……シャッハ、あの子の太刀は?」

 

昨日見舞いに来た時、ベットの横に立てかけてあった太刀が刀袋だけを残して消えていた。

 

「検査の時、置いて来させたはずです……まさか!」

 

すぐに病室から出て捜索を再開した。 しばらく捜索を続けると……

 

「ん? あれは……!」

 

中庭に差し掛かると、シャッハは何かに気付いて窓の外を見た。 つられて見てみると……ここの病院服を着て、抜き身の太刀を構えてフェイトとアリシアを威嚇している少年がいた。 ちなみになぜか、頭の上にあの芝犬っぽいぬいぐるみを乗せていた。

 

「ーー逆巻け、ヴィンデルシャフト!!」

 

「ちょっ!?」

 

シャッハは少年の姿を取られると、リングに通した2枚のプレートの形状をしたデバイス……ヴィンデルシャフトを取り出し起動。 バリアジャケットを纏い、一瞬で窓から飛び出し両者の間に降り立った。

 

「あのバカ!」

 

双剣を少年に向けて構え、敵意を見せるシャッハ。 あれでは余計に警戒を強めるだけだ。 あの鬼の力も顕現してしまう。 あの力は身体を酷く酷使する……あの年齢で昨日に引き続き顕現してしまうと最悪命に関わる。

 

「ちょ、ちょっとシャッハ?」

 

「さすがに大袈裟では……?」

 

さすがのフェイトとアリシアも困惑しながらシャッハを呼び止めようとするが、シャッハの視線は少年から離さなかった。

 

「う、うう……」

 

「…………………」

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

「?」

 

シャッハの敵意に当てられ、少年は動悸が起こっているように息を荒げ始め……胸を押さえ出した。

 

ドックン! ドックンッ!! ドックンッ!!!

 

「ーーオオオオオオオオッッッ!!!」

 

少年の胸から黒い魔力が溢れ出し、天に向かって雄叫びをあげると黒い魔力が全体に放出された。 髪は白髪に、瞳は真紅に……そして全身からは赤黒い陽炎のような炎と雷が発生している。

 

「下がってください! 私が抑えます!」

 

「シャアアアアッ!!」

 

少年は獣のようや叫びと同時に、陥没させる程の爆発的な脚力で地面を蹴り上げ、シャッハとの距離を縮め……双剣と太刀が激突した。

 

「は、始まっちゃったよ……」

 

「ーー今すぐ止めるぞ!」

 

「わっ!? レンヤ……?」

 

俺もすぐに窓から飛び降り、フェイトとアリシアの前に降り立った。

 

「早く止めないと、あの子の命に関わる!」

 

「まさか……!」

 

「そりゃそうだよ。 あの力を使い続けたら先に身体の方が壊れちゃうよ。 急いだ方がいいね」

 

そうと決まればすぐに決行。 俺はデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、一瞬で拘束できるタイミングを見計らう。

 

「ウウ、ハァッ!!」

 

「早ーーぐあっ!」

 

少年は突きの構えを取ると、静かに姿が搔き消え……一呼吸置いてシャッハの真横に現れ、既に刀を振り切っていた。

 

「今のは……疾風!」

 

「え、はやて?」

 

「違う! 八葉一刀流、二の型疾風だ……まさか、老師から盗んだ技術をあの子に転写したのか!?」

 

そう推測すると、あの定まっていない太刀筋……八葉の知識だけあり、老師の剣を丸々転写されてる所為で身体がついて行けてない。 そんな事御構い無しに少年は太刀を振るい続ける。

 

「オオオオッ!!」

 

「っ!」

 

「ーー今だ……静柳(しずやなぎ)!」

 

太刀が振り下ろされ、シャッハが防ぎながらも弾かれる……その隙を狙って間に割って入り。 短刀で太刀を抑え、重心をズラした後足を引っ掛けて転倒させ、片腕を背中に回して抑えつける。

 

「ウアアアアッ!?」

 

「凄い力だな……!」

 

「レンヤ!」

 

「今すぐ拘束するね!」

 

「ーー大丈夫だ。 ここは俺に任せろ」

 

近寄ってきたフェイト達が少年を捕縛しようとするが、その前に説得を試みた。

 

「落ち着け。 ここは君のいた場所じゃない、誰も君を傷付けたり邪険にしたりしない。 ああ、今回のは相手の勘違いだから。 出来れば許してほしい」

 

「うぐっ……」

 

図星のようで、シャッハはぐうの音を出して引き下がった。 シャッハもまだまだ修行が足りないようだな……

 

「信じて欲しいとは言わない。 けど……怖がらないで欲しい、俺は絶対に君を見捨てたりはしない」

 

「ウウ……ウアアッ!!」

 

「おっと……」

 

「レンヤ!」

 

「待ってくれ……!」

 

少年は尋常じゃない力で拘束を振りほどき、俺を投げ飛ばした。 伝わったかどうかは分からないが……攻撃はしてこなかった。

 

「グッ……オオオオオッッ……!」

 

突如、少年は胸を押さえ天に向かって咆哮、力を抑さえようとし……

 

「うあ……」

 

「おっと……」

 

フッと消えるように黒い魔力が消滅し、髪も瞳も元の色に戻った。 少年は糸が切れたように倒れ、地面にぶつからないよう急いで抱き止めた。

 

「ふう、気絶しただけか」

 

「ーーふむ、どうにか丸まったようだね?」

 

「きゃあっ!? い、いつの間に後ろに……!?」

 

フェイトの背後に、気配を消して現れたのは白衣着た細い目が特徴な年若い男性だった。

 

「はは、驚かせたようだね。 私はここの医療院で整形外科の医師をしているオーラル・セルシオというものだ。 そしてホアキン教授の後任、と言えば聞こえは悪いが。 まあ、事実だから仕方ないか」

 

「い、いえそんな事は。 サーシャの先生なんですよね? だったら信用できます」

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

フェイトが体裁を言うと、はっはっはっとオーラル教授は気にしてない風に笑った。

 

「それでオーラル教授、ネクター服用者の診断結果は?」

 

「ああ、今朝方最後の問診表が届いてね。 これでひとまずネクター服用者全員の治療が完了したことになった」

 

「そうですか……!」

 

思いがけないところで情報が得られたな。 ずっと六課のことで手一杯で聞く暇もなかったし。

 

「ふふ、良かったね」

 

「では早速だが、ネクターの分析結果を君達に報告しよう。 少々、付き合ってもらうよ」

 

「あ、はい。 お願いします」

 

少年を看護婦ーーナースかシスターか判別が付きにくいがーーに預け。 俺達はオーラル教授の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後退院準備していたエリオと合流し、そのままついて行く事になり。 聖王医療院の医学研究棟、その見覚えのある研究室……以前ホアキン元教授が使用していた研究室に俺達は案内され。 オーラル教授から話を聞くことになった。

 

「ーーネクターを徹底的に分析した結果……まず第一に、ネクターには脳のリミッターを強制的に外す効果があることが分かった」

 

「脳のリミッター……とういうと?」

 

「そもそも人間というものは、本来持っている身体能力の半分も使えてないとされている。 身体への負担を減らすため、脳が引き出せる能力に無意識の制限をかけるからだ。 このリミッターを意図的に解除することがもし可能なら……理論上、その個人が持つ限界までの能力を発揮できるようになるはずだ」

 

「つまり、ネクターとは単に筋力を強化する薬ではなく……普段使われていない潜在能力を強引に引き出す薬というわけですね?」

 

「その通りだ」

 

シャッハの質問にオーラル教授は頷く。 確かに、それならあの異常なまでの力が出るのは頷ける。

 

「無論、無意識にかかっていたリミッターを外せば、体への負担は相当なものだけどね」

 

「確かに、教団事件の後の陸上部隊の皆は相当疲弊してたからね。 しばらくは指一本動かすのもキツイようだったし……」

 

「まあ、みっちりリハビリ訓練をやったおかげで、ようやくカンなどを元に戻したわ」

 

「あ、あははー……」

 

アリサは腕を組み、うんうんと頷きながら何かを思い出すかのように同意する。 実体験があるのか、軽くエリオが引いているが……

 

「……カン、といえば。 高まったツキとカンを頼りにギャンブルで連勝をしていた人もいましたね。 それと同時に性格や言動が豹変したようでしたが……それらも、ネクターが脳のリミッターを外しているから、で説明がつくのでしょうか?」

 

「うむ、そう考えてもいい。 この薬には五感の働きを飛躍的に高める作用も確認されている。 副作用として神経質になり、情緒不安定な状態になることも分かっている。 それが凶暴な性格への変化につながるのだろう」

 

「なるほど……」

 

「確かに一通りの説明が付きそうですね」

 

「ーーだが、あくまで生化学的に説明できるのはここまで」

 

エリオもここまでの内容を理解する。が、そこでオーラル教授は静かに首を横に振った。

 

「え……」

 

「いくつかの効能については非科学的としか言いようがない。 具体的には、先ほども話に出たツキを呼び込むという効能……そして、君達も何度か目撃したという魔人化(デモナイズ)という肉体変異現象だ」

 

「……た、確かに……」

 

「それがあったわね……」

 

魔人化……人体を怪異(グリード)に近い形で変異させる現象。 これは科学的に解明するのは確かに難しいだろう。

 

「……魔人化を引き起こすのは紅いタイプのネクター……やはり翠のタイプのものとは異なる成分だったわけですか?」

 

「それなんだが……実は、翠のタイプのネクターも紅いタイプのネクターも成分的には何ら変わりはない。 少なくとも生化学的にはね」

 

「そうですか……」

 

フェイトとシャッハ、エリオは驚きを露わにするが。 俺、アリサ、アリシアは納得している感じで受け取った。

 

「おや、レンヤ君とアリシア君、アリサ君はあまり驚かないんだね?」

 

「2つのネクターの違いは色と魔人化できるかどうか……その違いを出すための物質なんて現実にあるかどうか」

 

「それに、色の違いは精製時の処理の差で変わるとして……主成分は同じなんでしょう?」

 

「ああ、分子構造もほぼ一致している……にも関わらず、紅いタイプは肉体変異などという説明不可能な現象を引き起こしている……まあ、異界化(イクリプス)や怪異に常識な通用しないな」

 

「あ、あはは……」

 

オーラル教授の言った事は事実で否定できないのか、フェイトは苦笑いをする。

 

「それに、幻覚の類いではない事は紛れもない事実よ。 あの肉切る感覚がハッキリと、この手で感じたわ……」

 

「判っているとも。 だからこそ、ここが限界なのだ。 私の方面からネクターを調べてみた結果ではね」

 

「……なるほど……」

 

「サーシャさんの先生でも、これ以上分からないのですか?」

 

「私とて万能ではない。 こと心と魂の問題についてはね」

 

異界の専門家でも心と魂のような形なきものの解明はされていない。

 

サーシャと初めて出会った時の事件でこのにの結び付きは切っても切れない関係という事は証明されているが……それ以外は何も。 そしてこのミッドチルダでは魔法が科学的に証明、魔力という形がないものが解明されていても……この2つは未だに謎のままだ。

 

「そしてネクターはおそらく、それらと肉体を共鳴させるような何らかの働きを秘めているのだろう。 恐らく、ホアキンもネクターの全貌は掴めてはいまい。 教団に伝わっていた秘儀を元に試行錯誤を繰り返して完成させ、量産化に成功しただけのはずだ」

 

「確かに、そのようなことを本人も認めていました」

 

「ああ、各世界で行われていた儀式のデータを元に、試行錯誤しながら完成させたと言っていた……」

 

「ふむ、やはりそうか。 彼は有能で熱意もあったが天才というほどズバ抜けた発想の持た主ではなかった。 それが悪い方向に出てしまったか……」

 

その言葉に、どうやらオーラル教授は以前からホアキンと関係が会ったらしい。

 

「ひょっとして……」

 

「あのホアキンと面識があったのかしら?」

 

「ああ、医科大学で学んでいた頃の後輩さ。 卒業してからは会ってはいなかったが、時たま研究成果などについての連絡はしていた。 だが、まさかこのような形で医の技術を悪用し、自らの身まで滅ぼすことになるとは……」

 

「教授……」

 

「……お察しします」

 

「いや、詮なき事だ」

 

首を振り、話を続けた。

 

「ーーいずれにせよ、私から報告できるのはここまでだ。 ネクターの真相に迫るには別のアプローチが必要になるだろう。 そしてこれは私のカンだが……ネクターの原料であるという青精鉱なる鉱石の特質が鍵になるのではないかと思う」

 

「青精鉱……」

 

「教団のデータベースに記されていた名前ですね……」

 

教団事件の時に教団の端末から回収したD∵G教団の詳細なデータ、そこに記載されていたネクターの原料が青精鉱だ。

 

「しかし、結局どんな鉱石でどこから手に入れていたのかも判ってはいないわよね?」

 

「ああ、私も知り合いの鉱石学者などに当たってみたが該当するものは見付からなかった。 教団にのみ伝わっていた新種か、それとも……いずれにせよ、薬の効能を考えると、その鉱石もあり得ない性質を持っているのではないかと推測できる」

 

「あり得ない性質ですか……」

 

「な、何だがよく分からなくなってきました……」

 

どうにかここまで話についてきたシャッハは、ここでお手上げの状態になった。 俺は少し考え込んだ後、教授に軽く頭を下げた。

 

「ーーオーラル教授。 どうもありがとうございました。 おかげで、今まで漠然としていた事がある程度整理できた気がします」

 

「そうか、ならばよかった。 ネクターの成分調査についてはこちらでは一旦打ち切るが……また、何か判ったことがあれば遠慮なく訪ねるといい。 私でよければ意見を言わせてもらおう」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「あ、そうそう。 サーシャにも時々顔を出すよう言っておいてくれ。 試したいマッシ〜ンが出来たのでね……」

 

「それって、あのグローブを着けた木人形ですか?」

 

部屋の隅に置かれたミットグローブを着けた木人形を指差し聞くと……オーラル教授は誤魔化すように笑った。 その後研究室を後にし、病棟屋上で一度足を止めた。

 

「……なんか色々判ったようで謎がさらに増えたような気分ね」

 

「よくは分かりませんけど、何だがモヤモヤします……」

 

「うん、ホアキンが亡くなった今、あまりに手がかりが少なすぎる……せめて教団のデータベースの解析が進めば何か判るかもしれないけど……」

 

「すずかもロングアーチ陣も手こずっているようだし……そこは今後の課題だな」

 

デリートされている事もあるが、元々の端末が旧式なのと破損が酷いためバグやラグやらが発生して、消失したデータの復元は難航している。

 

「私達騎士団も、出来る限り陛下達をお手伝いします」

 

「ああ、その時はよろしく頼むよ。 さて、あの子を連れて六課に戻るか」

 

「では、手配は私がしておきますので」

 

「ありがとうございます、シスターシャッハ」

 

「あの子が寝ている間にサッサと六課に運びましょうか」

 

「ア、アリサ……もうちょっと優しく言おうよ……」

 

「あはは! 物事をズバって言うアリサには無理な相談だよ♪」

 

その後、寝ていた少年を車に運び、エリオも含めて6人が乗った車が発進。 シャッハに見送られながら医療院を後にした。

 

 



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164話

 

 

同日ーー

 

その後、俺達が六課に戻るとはやてがなのは達に召集をかけ。 なのはとフェイト、アリサ、アリシアを連れて聖王教会に向かった。 恐らくカリムから六課の創設の真の理由を教えるのだろう。 俺とすずかははやてから事前に聞いていたから、今回は六課で待機していた。

 

「……………………」

 

そんな中、医療院から連れてきたあの少年は六課到着と同時に目を覚まし。 特に暴れるなどしなかったので自分の置かれている状況など説明した。 その間、少年は顔色も変えず無言でただ頷いて答えた。 それが終わると少年に与えた部屋からそそくさと出て行き、現在は太刀を抱きかかえて埠頭の縁に座ってボーッと海を眺めていた。

 

「あの子、海を眺めて何してるんだろ?」

 

その様子をフォワード陣が見ており、恐らく全員が思っている事を姉さんが口にした。

 

「あの子、また暴走したんですよね? 大丈夫なんですか?」

 

「ああ、短時間だったから身体への負担も少なくてな。 特に問題はない」

 

「いえ、そうではなく! 連れてきて大丈夫なんですか!? 心配なのは分かりますが、教会に預けてもよかったのでは?」

 

「あ、あのあの、ティアちゃん。 もう少し声を抑えて……!」

 

「あの子に聞こえちゃうよ……!」

 

慌ててサーシャとソーマが、あの子に声が届かないようにティアナを静かに抑える。

 

「確かに、六課の安全を考えるとティアナの言い分も最もだ。 だが、これは俺が何とかしないといけない気がするんだ」

 

「……私情が出ていませんか?」

 

「そうかもな。 そうかもしれない……どこかヴィヴィオを見ているようで放ってはおけないんだよ」

 

フェイトも、エリオとキャロに対しての気持ちもこんな感じなのだろう。 保護者としてではなく、家族として心配している……

 

「うーん……エリオ君はどう思うの? 彼のこと」

 

「え……!?」

 

「いきなり理由も無しに襲われたんだから、怒りの1つくらい出てもいいんじゃない?」

 

いきなり攻撃されて入院までする事になった……普通なら怒ってもいいかもしれないが……

 

「……どう、だろ………彼の境遇は理解出来るし、あの時の表情も切羽詰まっているようにも見えた。 僕は彼を責めるつもりはないよ」

 

「そうか……強いな、エリオは」

 

フェイトの教育か、それともエリオの境遇の影響か分からないが……そう褒めるとエリオは照れて顔をうつむかせた。

 

「できれば、あの子の事もどうにかしたいけど……」

 

「とりあえず、さりげな〜くあの子の隣に行くとしよう」

 

「ーーよし。 じゃあ俺が行ってくる」

 

姉さんの提案に乗り……同意しながら釣り道具を取り出した。

 

「釣りをする気満々ですね……」

 

「これはただの口実だ。 ま、お前達はまず書類仕事があるだろ。 訓練がない分頭を動かせよ?」

 

「は、はーい……」

 

苦手なのか、スバルの返事には元気がなかった。

 

「と、そうだキャロ、後で会議室に来るように。

 

「!」

 

「キャロが認めるのなら他の皆も連れてきてもいいからな」

 

「……分かりました」

 

それだけを言い残し、釣り道具を持って少年の元に向かった。 少年は1度振り向いて俺を一瞥し、また海の方に向き直した。

 

「隣いいか?」

 

「…………………」

 

無言は肯定と受け取り、隣に座る。 だが少年は横に少し移動してあからさまに距離を取った。 その行動に苦笑いしながら手に持っていた竿を振って釣りを始めた。 気になるのか、浮きをジッと見つめている。

 

「ここは穴場でな。 結構いい魚が釣れたりするんだ」

 

ま、今は昨日のドンパチの所為で海がかなり荒れおり。 全く釣れないか運良く釣れるかのどちらかだがな。

 

「………俺を………」

 

「ん?」

 

「俺を、どうするつもりですか?」

 

会ってから始めて交わした会話は、探りを入れられていた。 どうやらまだ信用されてなく、疑われているようだ。

 

「別にどうもしないさ。 当面は六課にいてもらうけど、それ以外は特に何も言わない」

 

「…………………」

 

そう言うと少年は黙り込んでしまった。 それはいいんだが、先ほどから気になるのは……医療院の時から少年の頭に乗っかている犬のぬいぐるみだ。 よっぽど気に入ったようにみえる。

 

「そういえば、そのぬいぐるみ。 ずっと頭の上に乗せてるけど、よっぽど気に入ったのか?」

 

「ほ、ほっといてください……あげませんから」

 

少年は頭とぬいぐるみを押さえながらプイッとそっぽを向く。 だが、仕切りにチラチラとこちらの様子を確認している。

 

「ふふふ……あはははははっ!!」

 

その行動がおかしく見えてしまい、つい笑ってしまった。

 

「な、何ですか!?」

 

「いやなに、俺に警戒しているのに釣りに興味津々で。 そのくせぬいぐるみを見せたがる……まるでうさぎだな」

 

「むう……」

 

「まあ、うさぎと言っても1人が好きな……孤高の魔物っぽいけど」

 

頭の中でもの凄い顔をした前歯が凄いうさぎが思い浮かぶ。 そう思っていると少年は頰を膨らませて太刀を左右に揺らしていた。

 

「…………………」

 

「はは、まあそう不貞腐れるなよ。 結構君が普通の子なのが分かったよ……って、そういえば君の名前は?」

 

「……マテリアル1……」

 

「……そうか。 じゃあ君は今から一兎(いっと)だ」

 

「え……?」

 

「一匹の兎で一兎。 今の君にぴったりだろ?」

 

「イッ……ト……」

 

ぶっちゃっけ今決めた安直な名前だけど、マテリアル1よりは全然マシだろ。

 

「あの、えっと……」

 

「ああ、そういえば自己紹介してなかったな。 俺は神崎 蓮也、まあ好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ、レンヤさん。 これから俺は……どう生きればいいでしょう?」

 

……この子は確かに人造生命体だが、ヴィヴィオより年上なため、確固たる自我を持っている。 それ故に自分の存在意義を見出せずにいるようだな。

 

「人の理から外れた俺がいるだけで周りの人が不幸になる。 そんな俺が生きていた所で……意味があるのか……」

 

「……………イットは、自分が生きる事が許されないと思っているのか?」

 

「……分からない……なにも……なにも……」

 

「ーーやらなきゃいけない義務はないさ」

 

「……え」

 

「どんな命であれ生きる意味は人それぞれだ。 今、君は生きている。 だからそれを願い続けるべきだ」

 

「……生きたいと願い続ける……」

 

「ああ」

 

「……………………」

 

自分の考えを言ってみたが、イットは思い悩んでいた。 それからしばらく、海の細波を聞いていると……

 

「パパーー!」

 

隊舎の方からヴィヴィオが走ってきた。 ヴィヴィオはそのまま釣りをしている体勢の俺の背中に抱きついた。

 

「おっと、ヴィヴィオ。 どうかしたか?」

 

「これ! ヴィヴィオが書いたの!」

 

一度離れ、横に座ったヴィヴィオに差し出されたのは年相応の絵心で描かれた自分だった。

 

「へえ、上手いじゃないか」

 

「えへへ……」

 

褒めるように頭を撫で、ヴィヴィオは気持ちよさそうに笑い、笑顔になる。

 

「ねえねえパパ。 その人は?」

 

「え……俺は、その……」

 

「この子はイット。 今日から六課で面倒を見ることになったんだ」

 

「へえ……私ヴィヴィオって言うの! よろしくね!」

 

「あ、うん……」

 

イットはヴィヴィオに手を掴まれて握手し、戸惑いながらも返事をする。 過程は違うが2人は同じ境遇だ。 傷の舐め合い……かもしれないが、いい影響になるだろう。

 

「ーーあ! パパ、お魚が動いているよ!」

 

「え!?」

 

ヴィヴィオに言われ正面を向くと……竿がしなっており、浮きが沈んでいた。 竿を掴み、持ち上げてみると……かなりの大物がヒットしたようだ。

 

「これは思いがけない僥倖を当てたようだな……!」

 

思った以上の力で引っ張られ。 腕に力を入れ、足腰にも力を入れて踏ん張り、リールを巻き上げる。

 

「おおっ……! 久しく感じてなかったこの感覚……やっぱり釣りはいいなぁ!」

 

「パパ! 頑張って!」

 

「おおー……!」

 

その様子をヴィヴィオは応援し、イットも興奮を隠せずに海面を見入った。

 

「うっ……おおおおおおっ!!」

 

気合いとともに腕を限界まで振り上げ……海から銀色に輝く巨大なマグロっぽい魚が一本釣りされた。

 

「おおっ!? ツェナーだ! こんな岸の近くにいるなんて……昨日の戦闘で追い立てられたのか?」

 

「やったー! 釣れたー!」

 

「おおっ!」

 

2人は陸に上がったビチビチと跳ねるツェナーを目を輝かせながら喜んだ。 尾ひれを掴んで持ち上げてみると、かなりの重量感を感じた。 かなり身が引き締まっていて美味しそうだ。

 

「よし……今夜はイットが来たお祝いだ。 たっぷりとご馳走を食べさせてやるからな!」

 

「やたーー!」

 

「え、あ……ありがとう、ございます……」

 

今まで喜んでいた表情が打って変わり、イットは最初の時のようにまた表情を暗くする。

 

「まだ、気持ちの整理がつかないか?」

 

「……分かりません」

 

「そうか………レゾナンスアーク……刀を」

 

《イエス、マジェスティー》

 

一旦ツェナーを拘束しながら置いて。 レゾナンスアークに頼みながら膝をつき。 左腰に刀を展開した佩刀、ゆっくり抜刀する。 その行動にヴィヴィオは驚き、イットは警戒して太刀を握る力が強まる。

 

「パパ!?」

 

「…………………」

 

「ーーイット。 俺は君に誓う。 俺の全てを賭けてでも、イットの事を救ってみせる」

 

刀を持ち替え、剣先を自分の胸に向け、柄をイットに向けながら誓言を口にした。 しばらくの沈黙の後、イットは顔を背けた。

 

「……難しくて。 よく、分かりません……」

 

「じゃあ、言い方を変えよう。 俺は、イットに必ず自分で選んで歩いて行ける未来を作ってみせる」

 

「……余計分かりません」

 

「今はそれでいいさ」

 

「むう……パパ! ヴィヴィオにも分かるように言って!」

 

「はは、そのうちにな」

 

刀を納めて立ち上がり、膨れっ面のヴィヴィオの頭を撫でてごまかし。 ツェナーを持って六課に戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー

 

夕食に釣り上げられたツェナーで作られた一品が追加され、皆であっという間に平らげてしまい……その後、満腹になってウトウトしていたヴィヴィオを寝かせ。 俺ははやてが帰って来たとなのはに教えてもらい、こっそりとキャロに例の件について会議室で話すと伝えた後、すずかと一緒に部隊長室に向かった。

 

「ーーはやて」

 

「あ、レンヤ君、すずかちゃん……」

 

「どうしたの? 明かりも点けずに」

 

中に入ると部隊長室は真っ暗で、はやては明かりも点けずデスクに座っていた。

 

「どうだった? なのは達は」

 

「まあ、予想通りの反応やったな。 覚悟はしとったけど、それでも驚いてた感じや」

 

「そうか……予言の内容は俺からレジアス中将に伝えておく。 まあ、信じるかどうかは別として……」

 

「ふふ、あの堅物おじさんが信じるなんて想像できへんなぁ」

 

そう言いながらはやてはカリムのレアスキル……預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)によって出た詩文が書かれた紙を渡した。 内容は……

 

旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地

死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

死者達が踊り、中立つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち

それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる……

 

「前と変わってないな……ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と、管理局システムの崩壊」

 

「……変えられる、未来なのかな……?」

 

「分からへん……けど、その予言の内容に、なのはちゃん達はこんな時間まで意見を出し合ったんや」

 

「それでこんな時間に帰って来たのか」

 

そう言いながらはやてから古代ベルカ語で書かれた原文の写しも受け取り、目を通す。 俺は彼女の記憶があるからなのか、古代ベルカ語はそれなりに読める。

 

「……紅き結晶、無限の欲望、狂人達が交わる地

護り人の下、聖地より彼女の翼、異形となりて蘇る

使者達は踊り、異なる詩の元大地の法の塔は虚しく焼け落ち

大地は蒼き翼と狂人達の宴により混沌と化す

それを先駆けに次元の海を守る法の船は砕け落ちる……」

 

原文を読み、自分で選んだ和訳を音読した。 それを2人は聞き、どう言う意味か考え込む。

 

「うーん……だいたいは同じやけど所々の部分が違うなぁ」

 

「それにカリムの和訳より、その……怖い文書が多いね」

 

「俺もあっているかどうかはわからないが……判断材料としては十分じゃないか?」

 

言ってて色々と気になる点は多いが、今はこれでいいだろう。 と、その時、はやての表情がこの暗がりの中でも分かるくらい暗い事が分かった。

 

「……はやて。 お前は……自分の選択を後悔してるか?」

 

「そんな事あらへん!」

 

はやての表情から思った事を口にすると。 突然はやては声を荒げて否定し、すぐにハッとなって背を向けた。

 

「そんな事あらへんけど……レンヤ君達にもこの命を助けてもろうた恩もあるし……」

 

「なら私達も六課に参加した事も後悔してないよ。 それに、それが友達でしょ?」

 

「友達を助けるのに理由はいらない、当然だろ? 俺ははやてを信じる。 はやてはこの道を選んで進んだんだろ?」

 

「うん……自分で選んだなら受け入れるよ。 自分で決めるっちゅうのはそういうことなんやから」

 

はやては自身の胸に手を当て、自信の満ちた表情で言った。

 

「さて、ここに来た本題に入ろうか。 キャロに教団事件の被害者について話そうと思う」

 

「! それって……!」

 

「うん。 キャロちゃんにクレフ・クロニクルの……延いてはD∵G教団の概要をね」

 

「…………分かった。 かなり堪える話やろうし、念のためリンスも同席させるで」

 

「ああ、それで構わない」

 

はやての了承を得て、その後呼ばれたリンスと一緒に会議室に入りキャロを待った。

 

「し、失礼します」

 

「来たな」

 

ドアがノックされてキャロが会議室に入り、キャロを先頭にスバル達も続いて入ってきた。 どうやらフォワード陣全員いるようで……ソーマ、サーシャ、ルーテシアは少なからず知っているはずだが、どうやら付き添いでいるようだな。

 

「全員来たのか……キャロはいいんだな?」

 

「はい。 皆さんにも知ってもらいたいですし、私1人だと心細いですから……」

 

「キュクル……」

 

「そういうこと。 追い出さないでよね?」

 

(コクン)

 

「分かってる。 キャロが認めたのなら何も言わない」

 

それを確認するとキャロ達は席に座り、すずかが前に出て説明を始めた。

 

「まずクレフ・クロニクルについて話す前に、ある組織について説明しなくちゃいけないの」

 

「ある組織とは?」

 

「ーーD∵G教団。 聞いたことくらいはあるだろう?」

 

ティアナの質問に答えると、全員驚愕した表情になる。 すずかは皆のその表情を一瞥すると、話を進める。

 

「D∵G教団……簡単に言えば聖王の存在を否定している狂気の教団。怪異を信仰しているとされているけど、これは“聖王を否定する”ということからきたもので、実際は都合がいいので形式的にそうしているようだね」

 

「へえ……」

 

「あ、あの……何でこんな話を」

 

「話は最後まで聞くように」

 

姉さんが興味深そうに聞く中、キャロがすぐにクレフの事を知りたいばかりに質問するが。 すずかが静かに一喝し、説明を再開する。

 

「……平等を唱えており、幹部司祭であっても位階そのものはさして高くない。名称の「D」は未だに不明だが……「∵」は~なぜならばを意味し、「G」は怪異、グリードを意味する」

 

「ここ数十年間で最悪の事件を起こした最低最悪の組織……各次元世界から多数の子ども達を誘拐して「儀式」と称した非道な人体実験を行い、その過程でネクターと呼ばれる薬品を開発、子どもたちがその実験で使用された」

 

「そんな……」

 

すずかに続いて補足として説明し、スバルは思わす口に手を当てた。 同様にティアナ達も皆同じ反応のようだ。

 

「けど、教団はまた別の犯罪シンジケートによって襲撃、崩壊した。 その組織の意図は分からないけど、結果的に教団本体は崩壊したものの、教団そのものは完全に滅亡するまでには至っていなかった。 そして一部の幹部が「楽園」と呼ばれる拠点を勝手に創り上げ、議員などの権力者たちに提供して取り込んでいったの」

 

「……でもそれは、教団事件の時に関係者全員逮捕されたんですよね?」

 

「ああ、議員から秘書に至るまで隅々調べた。 今の議会に教団の息のかかった人物はまずいないだろう」

 

「ーーこれまでがD∵G教団の大まかな概要……そして、キャロに話すのはその中の一部」

 

一度手を叩いて説明を終わらせ。 すずかはキャロの隣まで歩き、白いファイルをキャロの前に置いた。

 

「白いファイル?」

 

「目を通してみて」

 

「は、はい……」

 

真実を知りたい気持ちと不安が入り混じるなか、意を決してキャロはファイルを開いた。 そこには……非人道的な実験の数々と拠点が乗ってある地図、そしてーー実験を施された被験者の顔写真の数々。

 

「こ、これは……!」

 

「酷い……」

 

「そのファイルに記載されているのは6年前に行われたらしい“儀式”の被験者達。 そしてその被験者の大半はもろとも拠点を処分されている」

 

「外道め……!」

 

「ま、まさか……そんな……」

 

無情ながらも事実を述べる。 そしてキャロは教団の説明とこのファイルを見せた意味が分かったのか、それでも震える手でページをめくって行き……ある1つの写真に目が止まる。 水色の髪をした、生気のない目で写真に映る少女。

 

「ーーーっ!!」

 

「嘘……」

 

「現在、なぜクレフ・クロニクルがスカリエッティに加担しているのかは定かではないが……過去、教団の被験者の1人だったのは事実だ」

 

スバル達はもちろんだが、キャロの驚き用は半端じゃなかった。 リンスもそれを懸念してキャロの元に寄り、乱れていた精神を落ち着かせた。

 

「……教団事件後、私は各世界の誘拐事件を徹底的に洗い出した。 するとその大半は教団が関わっていた事実を見つけた。 そしてその中に、クレフちゃんがいた」

 

「……家族は……ククちゃんのお父さんとお母さんは!」

 

「……残念だけど………誘拐された日にお亡くなりに……」

 

「っ……」

 

……やっぱり、辛そうだな。 だが、ここで話さなければ前には進めない。

 

「キャロ。 確かクレフの元の髪の色は茶髪だったらしいな」

 

「……………はい」

 

「今のあの水色の髪になったのはネクターを多量に投与されたせいだ。 その他にも眠る事が出来ないなどの症状があるが……彼女にそれがあるかどうかは判断できない。 また、別の症状もあるかもしれない」

 

「……記憶障害、ですか?」

 

「キャロちゃんの事が分からないのなら、それも否定できない」

 

そこまで言うと、とうとうキャロの目から涙が溢れ落ちる。

 

「キャロ!?」

 

「だ、大丈夫です! 大丈夫……ですから……」

 

「キャロ、無理はするな」

 

「……私達が知るクレフちゃんの事はこれで全て。 もちろん、私達も全力でクレフちゃんの事を救い出す。 けど、あの子が犯罪組織に協力している以上、最悪罪に問われる場合もある……」

 

時空管理局は一応公務員みたいな役職……私情で見逃す訳にはいかない。

 

「キャロ。 アルザスにいた頃のクレフはどんな感じだったんだ?」

 

「………いつも明るくて、友達のクローネと一緒に遊んでました。 でも、6年前……ククちゃんの家が火事にあったんです。 原因も分からなくて、ククちゃんを含めた3人の行方が分からなくなって……捜査のため訪れた管理局も夜逃げとして取り扱われました」

 

「え……いったいどうして……?」

 

「ククちゃんの家はル・ルシエとは違う家系なんです。 召喚士として優秀家系でしたが、どうしてかルシエから嫌われていて……よく長から関わらぬよう注意されてました」

 

今のキャロでは考えられない程の大胆さだな。 それだけクレフと会うのが楽しみであり……それだけ後悔も深いのだろう。

 

「でも、私とククちゃんはそんな事関係なくお互い目を盗んでは遊んでました。 そんなククちゃんが……私の事を……忘れちゃたなんて……」

 

「そ、それは仕方ないよ。 教団が人道に反した実験を無理矢理クレフに施してたからで……クレフ自身も忘れたくなかったと思うよ?」

 

「あ、あのあの……レンヤさん。 何とかならないのでしょうか?」

 

「さあな。 俺達では何とも言えないが……お前達がやるなら何とかなるかもしれないな」

 

「え……」

 

「それはどういうことですか?」

 

「私達だとあの子の目を覚まさせる事は難しく、保護したとしても海上隔離施設行きに出来るかどうか……でも、あなた達……キャロちゃんになら、それが出来るかも知れない」

 

「これも教団事件の延長……キャロ、お前にその意志があるのなら協力は惜しまない。 どうする?」

 

キャロは涙を拭い、強い意志を持った目で俺を見た。

 

「……私……やります! 絶対に、この手でククちゃんを取り戻してみせます! 必ず……!」

 

「キュル!」

 

フェイト……お前の預かり知らない所でキャロは確かに成長しているぞ。

 

「キャロ、僕も協力するよ!」

 

「言わずもがな、あの子には借りがあるしね♪」

 

(コクン)

 

「もちろん、僕達もキャロに協力するよ」

 

「こ、こういう時こそ年長者として頼りにしてください!」

 

「ま、これを聞いて黙っている方が無理あるわよ。 乗りかかった船、付き合ってあげるわよ」

 

「まったく〜、ティアは素直じゃないなぁ〜」

 

あの重苦しい空気から一転、キャロの意志に賛同する者が次々と名乗りを上げ。 和やかな空気に変わった。

 

「あはは、いい感じになってきたね、このチーム」

 

「いや、姉さんもそのチームに入っているよね?」

 

「全くだ、美由希もあの中に入ればいいだろう」

 

「いやいや、年長者があそこに混ざるには勇気がいるって」

 

「ふふ、そうですね。 でも、これでキャロちゃんも一歩前に進める。 それは喜ばしい事だよ」

 

俺達はそう言いながら、和気藹々としているキャロ達を見守るのだった。 そして後日、俺はイットに親代わり……保護責任者になると提案すると、イットは恐れ多いと思いながらも了承してくれた……なぜかなのは達まで便乗してきたが、多いに越した事はないと思いそのまま了承した。

 

 




八葉一刀流→一刀→いっとう→イット→一兎

つまりそゆこと。


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165話

 

 

7月16日ーー

 

日が昇り始めた朝早く、フォワード陣がなのはとアリサの指導の元、早朝訓練をする中……

 

「えい! やあ!」

 

「もっと脇を締めて。 力を入れ過ぎず、脱力して振るように」

 

「は、はい!」

 

訓練場が見えるすぐ側でイットの剣を指導していた。 イットはスカリエッティの所為でユン老師の剣……八葉一刀流を頭に転写されている。 だがそれだけでは何の意味もない……剣は心を持ってこそ意味を持つ。

 

それにイットの身体付きは年相応の武術をしていない身体……動きはイメージ出来るが身体がついて行かず、基礎もままならない状況だ。 だからこうして毎日基礎をしっかりと固めている。

 

「……よし。 今日はここまでだ」

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

終了を言うと、イットは木刀を地面刺して杖にし、膝をついて息を荒げた。 やっぱり体力ないな。 まあ当然か、ヴィヴィオも数日は誰かと手を繋いで、それを支えにして歩いていたし。

 

「パパーー!」

 

と、その時、隊舎の方からフェイトとヴィヴィオが手を繋ぎながら歩いてきた。 ヴィヴィオはフェイトの手から離れて駆け出すと、お馴染みのタックルしながら抱きついてきた。

 

「おっと……ヴィヴィオ、おはよう」

 

「うん! おはようパパ! おはようお兄ちゃん!」

 

「う、うん。 おはよう、ヴィヴィオ……」

 

どういうわけか、あの日以降ヴィヴィオはイットの事を兄と呼ぶようになった。 理由を聞くと何となくらしく、姉さんも呼ばせたかったようだが……伝家の宝刀“ゼッタイにイヤ”でいつも通り撃沈された。

 

「フェイト、ヴィヴィオを散歩に連れ出していたのか?」

 

「うん。 気分転換にね」

 

「そうか。 この後、フェザーズとライトニングは任務だよな。 あっちはどうだった?」

 

「前に行った実習と変わってないよ。 船長さんとも話はついているし、到着した次第すぐに出航できるって」

 

「そうか……」

 

それを聞いて少し考え込むと……イットから離れたヴィヴィオが手を引いてきた。

 

「パパ! 朝ごはん、行こ!」

 

「ん? ああ、今いくよ」

 

「イットもシャワーを浴びておいで。 一緒に朝食を食べよう?」

 

「は、はい」

 

イットは差し出されたフェイトの手を戸惑いながらも取り、俺達は仲良く隊舎に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を済ませた後、フェザーズとライトニングのメンバーは列車でミッドチルダ南部に向かっていた。 窓の外に流れる景色を眺めながら先日の事を思い出した。 この前オーリスさんが六課に臨時査察が来たのだ。 だが、特に何事もなく終わった。 帰り際、たまには地上本部に顔を出すようにと催促されたが……そこは苦笑いしながら頷いた。

 

「ーーそういえば……前から思ってたんですけど。 ヴィヴィオっていつも何しているんですか?」

 

「あ、それ私も気になる」

 

唐突に、キャロが日頃ヴィヴィオが普段なにをしているのか聞いてきた。

 

「日曜学校に行く時以外は基本部屋でお留守番だな。 寮母のアイナさんとすずかのメイドのファリンさんが面倒を見てくれて、ザフィーラも一緒にいてくれている。 ま、今のザフィーラの仕事はイットの監視がメインだけど」

 

「そう、ですか……」

 

エリオは心配なのか、それとも別の感情が渦巻いているのか……襲われた身としては複雑な心境なんだろう。

 

そしてフェイトはエリオ達に、後の事態……を予言関連をボカした上で地上本部が襲撃される可能性を語った。

 

「ーーテロ行為って……地上本部にですか?」

 

「まあ、そういう可能性があるっ……て程度だけどね」

 

「でも、確かに。 管理局施設の魔法防御は鉄壁ですけど、ガジェットを使えば……」

 

「そう。 管理局法では、質量兵器保有は禁止だからね……対処しづらい」

 

「質量兵器?」

 

質量兵器の意味がわからないのか、キャロは首を傾げた。

 

「簡単に言えば、魔力を使わない武器の事だ。 分かりやすい例はイットの持つ太刀が質量兵器に当たる。 まあ、今の説明のままだと本来イットの持つ太刀は押収されるはずなんだけど……そこはほら、裏技でちょちょいと」

 

「そ、それっていいんですか?」

 

「別にイットが太刀を無闇矢鱈に振り回すような子じゃないのは知ってるからな」

 

「コホン。 話は戻して……」

 

咳払いで話を戻し、フェイトは過去に起きた戦争の話を交えながら質量兵器の恐ろしさを伝えた。

 

「管理局は創設以来、平和の為、安全の為にそういう武装を根絶して、ロストロギアの使用も規制し始めた。 それが150年くらい前」

 

「だが、色んな意味で武力は必要だ。 当時の管理局はどうしたと思う?」

 

唐突に質問のようにソーマ達に問いかけると……顎に手を当てたり、首を傾けたりしながら考え始めた。

 

「う〜ん……」

 

「ーーあ……比較的クリーンで安全な力として、魔法文化が推奨されました」

 

「正解。 魔法の力を有効に使って管理局システムは今の形に、各世界の管理を始めた」

 

空間ディスプレイを展開、3つ管理局本部を映し出した。

 

「各世界が浮かぶ次元の海……次元空間に本拠。 発祥の地、ミッドチルダに地上本部。 そしてミッドチルダ西部に空域本部を置いた」

 

「あ! それが新暦の始まり。 75年前……!」

 

「そう。 で、新暦前後の1番混乱していた時期に管理局を切り盛りして。 今の平和を作るきっかけになったのが?」

 

「ーーかの三提督……」

 

エリオがそう答えると、フェイトが頷き。 空間ディスプレイにこの前放送された三提督が映し出された静止映像を表示した。 それを見て皆は納得する。

 

「へえ〜」

 

「なるほど」

 

「ふむふむ」

 

「ま、歴史の勉強は置いていて」

 

フェイトは両手を右から左に移動させ、身振り手振りで話を元に戻した。

 

「ガジェットが出てくるようなら、レリック事件以外でも六課が出動になるからね、ってこと」

 

「今まで以上に大変になるが、しっかりやれよ?」

 

『はい!』

 

説明が終わり、ソーマ達はそれぞれ会話を始めた。 そんな中、フェイトはバルディッシュを取り出し。 無言で見つめた後……硬く握り締めていた。

 

俺はそれを何も言わずに横目で見た。 その後、昼前までには目的地である終点に到着。 ホームを抜けると……

 

「おお〜! 海だーー!!」

 

目の前に広がっていたのは陽の光で輝く青い海。 真っ先にルーテシアが飛び出し、目を輝かせながら海を眺めた。

 

「海くらい毎日見てるだろ」

 

「レンヤさんは分かってないなー。 あそこには砂浜がないでしょう、リゾートホテルがないでしょう……その違いこそが! 同じ海でも天と地ほどの差があるんだよ!?」

 

「あ、熱く語るね……」

 

「ル、ルーテシアちゃん、どうどう……」

 

「キュクル」

 

(パタパタ)

 

エリオとキャロは興奮気味のルーテシアを落ち着かせ。 フェイトが移動しながら次の説明をした。

 

「次は港で船に乗って、目的の島に行くよ」

 

「そういえば、何でヘリで来なかったのですか? そのまま島にまで飛んで行けそうですし……」

 

「確かに……今回クレードルはヘリを使っていませんでしたし、こうしていると手間も感じます。 一体どうしてですか?」

 

街並みを眺めながら歩いていると、キャロとエリオが疑問に思った事を質問してした。

 

「目的の島の名前はオルディナ火山島……そこは年中上空の気流が強いから滑走路もヘリポートもないし、海路から上陸するしかないんだ」

 

「まあ、船旅もまたいい経験になると思うよ」

 

程なくして港に到着し。 フェイトはそこに停泊していたフェリーを指差した。

 

「これが私達が乗る船、オルディナ火山島とミッドチルダ本土を繋ぐ定期貨物連絡船ユルバンだよ」

 

「おおー! フェリーだぁー!」

 

「大きいですね……乗船するだけにしては大き過ぎる気もしますが……」

 

「ーー人を乗せる他に、荷物の運搬や宿泊施設なんかが詰まってるからな。 ちょっとした旅行気分が味わえぞ」

 

その時、誰かがエリオの質問に答えた。 声は頭上から聞こえ、タラップからこの船の船長服を肩に羽織っている男性が降りてきた。

 

「あ! ライル船長!」

 

「久しぶりだな、フェイト。 初めて会った時は学生だったのに、今は管理局の執務官とは……出世したもんだな」

 

「……初めて会った時から執務官ですよ……」

 

ガハハと笑うこの船の船長を前にフェイトはガックシと項垂れる。

 

「あのフェイトさん、この方は?」

 

「ああ、そうだね。 以前、レルム魔導学院の実習でお世話になったライル船長。 今回、私達が乗るフェリーの船長だよ」

 

「よろしくな、チビども」

 

「ど、どうも」

 

「よろしくお願いします……!」

 

挨拶が終わり、俺達はフェリーに乗り込み。 それから数分後、フェリーはオルディナ火山島に向けて出航した。

 

「ーーオルディナ火山島はミッドチルダ本土より南に400キロ程離れた場所にある活火山島だ。 今回、俺達の任務は火山島の資源調査と……火山島に潜入している密猟者の捕縛だ」

 

出航してすぐ、ロビーの一角を借りてソーマ達に目的地の説明と任務の概要を話していた。

 

「密猟……者?」

 

「まさか、火山島の資源を狙って?」

 

「うん、その通りだよキャロ。 前に自然保護隊にいただけはあるね」

 

フェイトが素直に褒めると。 照れ臭いのか、キャロはえへへと照れながら笑った。

 

「つまり、僕達の今回の任務は主にその密猟者の捕縛。 その次に資源調査って事でいいんですか?」

 

「うん、概ねその通りだけど……表向きの任務は資源調査だけで通してね」

 

「これは密猟者対策のためだ。 どちらにせよ俺達が行く時点で警戒されるが……これはこれ以上警戒されないための配慮だ。 くれぐれも気をつけろよ」

 

『はい!』

 

「キュクルー!」

 

(コクン)

 

ソーマ達は元気よく返事を返し。 詳細な事項が載っている資料データを渡してその後の質問は受け付ける事にし、そこで一度解散となった。 移動時間は丸一日、フェイトも実習の時は港まででオルディナ火山島に行くのは初めてらしい。

 

「フェイト」

 

「あ、レンヤ」

 

夕方になり、船内から出ると……手すりに寄りかかって日が沈むのを見ているフェイトがいた。

 

「どうしたんだこんなところで? あんまり潮風に当たるとベトベトになるぞ」

 

「え、そうなの? 訓練場に長時間いてもそんな事なかったけど……」

 

「訓練場には軽く結界を張ってあるからな。 潮風は基本届かない。 知らなかったのか?」

 

「………うん」

 

……フェイト、昔からどこか天然な所があるけど……ここまでだったとはな。

 

「ま、それはともかく。 今回の任務……どう思う?」

 

「依頼者はオルディナ火山島の自然保護隊から。 信頼できる部隊だし、おそらく密猟者は本当にいるけど……」

 

「問題は侵入経路か。 転移や飛行魔法だと必ず探知できる。 だから海路からの侵入になるが、その対策を自然保護隊が怠っているとは思えない」

 

「そうなるとその監視網を何らかの方法で潜り抜けた……今回の任務、油断はできないね」

 

昼から一転した、目の前に月明かりで照らされた海を見つつそのような会話をする。 そのあと皆で夕食を取った後、コーヒーを飲みながら六課から送られてきた書類を後でまとめて処理しようと種類ごとに整理していた時……メイフォンが着信音を鳴らしてきた。

 

「ーーなのはか。 もしもし?」

 

『あ、レン君。 もうオルディナについた?』

 

「まだ船の中の海の上だ。 そっちはどうだ? ヴィヴィオはまた愚図っているか?」

 

『あはは、まさしくその通り。 不貞腐れ顔でザフィーラの尻尾に抱きついているよ』

 

うわぁ〜……簡単にその光景が想像できるよ。 ザフィーラが困り顔でされるがままなのも……

 

「まあ、それはいいとして。 イットの具合はどうだ?」

 

『今も頑張って稽古しているよ。 レン君がいなくても大丈夫なようにって』

 

「はは、やっぱりイットとエリオは似た者同士だな。 エリオも今自主練をしているんだ」

 

食堂から甲板が見える位置まで歩くと……甲板の上でエリオが一身に槍を振っていた。 他に同乗していた人達もエリオの槍さばきに魅せられていた。

 

『……ねえレン君、レン君はイットの素体になった人物を知ってる?』

 

「それは…………」

 

『イットの黒い魔力、それがイットの心身ともに侵している。 そのせいで情緒不安定、いつ暴走してもおかしくない……もしかしたら、あの子はそれを恐れて。 忘れるために剣を振っているのかな?』

 

「……そうかもしれない。 でも、俺はイットの事を信じているし……救うと……そう誓ったからな」

 

『レン君……』

 

俺は首を横に振り、気持ちを切り替えた。

 

「話が逸れたな。 イットの素体についてだな……もちろん知っている」

 

『……………………』

 

「……古代ベルカ時代、一時期2人の王を連れ回し。 黒のエレミアと親友だった人物……」

 

目を閉じると脳裏に浮かぶ。 無愛想で、それでいて優しく。 そして誰よりも復讐の念に駆られていた人物……

 

「ーー異形の左腕を振るい。 復讐に駆られ、自分の心を貫き通した……鬼神と謳われた者。 それがイットの素体主だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

日が昇っても、そこまだ海のど真ん中。 目覚めとともに外の空気を吸おうと甲板に出ても、そこは船が海を進む音が聞こえるだけ。 任務中とはいえ初めての船旅、その醍醐味を味わうのは中々楽しかった。

 

「レンヤさん、昼頃には到着するんですよね?」

 

全員で朝食を取っている時、ソーマがそう質問してきた。

 

「ああ、昼前には到着。 昼食を取ったらすぐに任務を開始する」

 

「ならそれまでは自由行動ね。 エリオ、キャロ。 昨日は出来なかった船内探検に行くわよ!」

 

「ええっ!?」

 

「ちょ、ルーテシア!?」

 

「ほらほら、レッツゴー!」

 

「キュクルーー!」

 

(ふるふる……)

 

エリオとキャロがルーテシアに引っ張られて食堂を出て行き、肩に乗っていたガリューがやれやれと首を横に振った。

 

「いいんですか?」

 

「あはは……まあ、到着するまでの間だし。 それに2人にも子どもらしい遊びをしているのも……嬉しいとは思うし」

 

「そうだな。 エリオもキャロも年相応に遊んでもバチは当たらないんだけどな」

 

「うん……」

 

そして、本当は戦ってほしくない事も……フェイトはそう思っている。 だからこそフェイトは2人を守り抜くのだろう。

 

その後、定刻通りユルバンはオルディナ火山島に到着。 俺達は管理局の施設に向かってそこで荷物を置き、資源調査と密猟者の詳細な情報を受け取っていた時……

 

「ーーあれ? レンヤさん、フェイトさん?」

 

「え、ギンガ!?」

 

「ギンガ、どうしてここに?」

 

ばったりと陸士108部隊所属のギンガ・ナカジマと鉢合わせになった。

 

「私はここに仕事の関係で訪れていて……今は密猟者の捜索に当たっています」

 

「なるほど」

 

「俺達は街の外で資源調査に向かう。 何かあったら連絡をくれ」

 

「分かりました」

 

ギンガと別れ、街の外に出てさっそく資源調査を開始、フェイトが調査のための順序や注意点などの説明を始めた。

 

「ーーと、言うわけで、説明は以上。 調査方法は今説明した通りだよ」

 

「それでは、結晶鉱石の量と純度の調査を開始するぞ」

 

『はい!』

 

説明が終わり、俺達は分担して調査をする事になった。 どこかで密猟者が監視しているかもしれないので、全員知らないフリを装う。

 

「私はフリードと空から調査しますね」

 

「キュクルー!」

 

「あ、空は危ないから私もついて行くよ。 高く飛び過ぎたら気流に巻き込まれちゃう危険もあるから」

 

「だ、大丈夫ですよフェイトさん。 あまり高く飛びませんし、火山には近寄りませんから」

 

「ダメ。 キャロはエリオ同様に危なっかしいんだから」

 

「あ、あはは………はあ……」

 

エリオは自分もまだ心配されていると分かり、苦笑いをした後ため息をついた。 結局一緒に行く事になり、フェイトとキャロはバリアジャケットを纏い、ゆっくりと飛翔して行った。 残りの俺達も地上から調査を始めた。

 

「へえ……少し錬金鋼(ダイト)の原石に似ているなぁ」

 

「そうなんですか?」

 

森の中で目につく結晶をレンズ越しで次々と観察し、状態などを記録して行く。 それと崖の上からこうして見ると、地面の至る所から結晶が出てきており、かなり幻想的な風景だな。

 

「ふ〜む……ねえ。 この結晶って何に使えるの?」

 

「ん? 主にデバイスのコアに使われるな。 管理局が使っているデバイスのほとんどが、ここで採取されている結晶が使われている」

 

崖の上からルーテシアの質問に答え。 膝についた砂を払い、跳躍してルーテシアの隣に着地した。

 

「そうなんだ……」

 

(コクン)

 

「確かアリシアさんが言ってました。 ここの真下に地脈……しかも特殊な地脈湧点があって。 それが影響してここの結晶が成長しやすいとか」

 

「ああ。 その結晶の種類によって様々な用途に合わせてデバイスが作られるんだ。 例えばその白い結晶なら回路作りに必要で、あの赤い結晶は出力を増幅する部品に加工できるそうだ」

 

「へえ………それならクレードルに調査、採取させればよかったんじゃないの?」

 

「その他にも採取した後の結晶の精密な調査や加工があるんだ。 そうなると負担がかかるし、俺達に出来るならそれでいいだろ。 それに、気分転換にもなるだろう」

 

「あ……キャロの……」

 

ルーテシアの呟いた言葉に無言で頷く。 その時、背後からソーマが走ってきた。

 

「レンヤさん! 前回の調査記録より成長がかなり進んでいるようで……どうしますか?」

 

「そうか。 それなら予定通り保護採取ができそうだな」

 

「保護採取?」

 

隣で作業していたエリオが首を傾げていたので、保護採取の説明をした。

 

「エリオ。 こういった鉱石は時間をかけて形成される」

 

「はい」

 

「それゆえに、自然に伸びていく分だけを採取して……根こそぎ採ったりしない。 それが保護採取だ」

 

「なるほど……」

 

「自然の調和を乱さず、大地の恵みを少しだけ分けてもらう……そんな感じですね」

 

ソーマがまさしくその通りな答えを出した。 現代の発展した社会でも、自然との関係は切っても切れない……だからお互いを支えつつ、共に生きていかなければならないのだ。

 

「結晶や鉱石は人の便利な暮らしに大切なものだが……大地と自然もそれと同じくらい大切なものだ。 そのため、この島には大きな採掘場はなく、大規模な採掘も禁止されている。 一応、この先もし自然保護隊に行くなら覚えて損はないぞ?」

 

「はい!」

 

経験談として説明し、エリオは元気よく頷いた。 と、その時……

 

ドオオンッ……!!

 

ここから離れた地点、火山がある方向から轟音が響いてきた。 それにソーマ達が飛び上がるように反応しながら驚いた。

 

「うわっ!?」

 

「な、何々! 何なの!?」

 

「噴火! レンヤさん、あれは大丈夫何ですか!?」

 

「ああ、結構頻繁に起こっているらしいから問題はないはずだ。 まあ、あの火山の火口付近には竜が住んでいるからな。 あれくらいは普通だろ」

 

「へえ…………って、竜!?」

 

何気なく答えた質問に、ソーマは慌てて聞き直した。 あ、そういえば言ってなかったな……

 

「竜って、フリードみたなやつ?」

 

「うーん、竜と言われれば竜だけど。 見た目は蛇とトカゲを合わせた感じに近いな。 何でもここに街が出来る前から住み着いていて、この島の大地に活力の恵みを与えているんだとか」

 

「その竜がグリードという可能性はありますか?」

 

「エコーにも反応はない。 確実に真正な竜だ」

 

まあ、竜が存在する自体珍しいからな。 驚くのも無理はないし、対策課としてグリードという線も考えなくもない。

 

「さて、早く保護採取を終わらせよう。 明日は火山に近付くしな」

 

「うへぇ、暑そうだなぁ……」

 

「これも訓練のうちだよ」

 

気を取り直して俺達は結晶の採掘を開始しようとした時……

 

「ーー! 何だ……」

 

何か、妙な感覚が身体中を通り抜けた。 だがそれは一瞬だけで、辺りを見回しても何もなかった。 今のは敵意や気配というより……悪寒や前触れに似た感覚だ。

 

「……何か、起こるかもしれないな……」

 

直感とも言える根拠のない事だが……空を見上げ、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

「どういう事でしょう……?」

 

「グルルル………」

 

私達はレンヤ達と別行動で空から調査していた時……フリードが何かを感じ取り、街と火山の中間にある森に降り立った。 そこで暴れていたり、怯えている動物達を発見した。 元の姿のフリードに恐怖しているわけでもなく、キャロの腕の中にうさぎが震えながら収まっていた。

 

「森も、何だか落ち着きがないです」

 

「グルルル」

 

「……そのようだね。 これは密猟者が侵入した影響?」

 

……いや、恐らく違うだろう。 だとすれば一体なにが……私には計り得ない脅威を動物達が感じ取っているのかもしれない。

 

「……予定通り調査を再開するよ。 この事は皆と合流してから考えよう」

 

「は、はい」

 

先に飛翔して安全を確保しつつキャロを待って。 キャロはうさぎを優しくおろし、慌ててフリードに飛び乗り、飛び立った。

 

「それじゃあ行こっか」

 

「はい!」

 

 



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166話

 

 

同日ーー

 

保護採取を終え、管理局施設に戻ると……先にフェイトとキャロが到着していた。

 

「フェイト、先に戻っていたのか」

 

「うん、島をぐるっと回って。 一通り見てきたよ。 はい、資源調査をまとめておいたから」

 

フェイトはメイフォンを操作、資料を送り。 調査報告書を受け取った。 軽く目を通し……

 

「…………こっちと差分のない結果だな。 密猟者に盗られた形跡もないし……これなら他の場所でも保護採取はできそうだ」

 

「そう……よかった」

 

「でもそうなると、密猟者は何が目的でオルディナ火山島に侵入したのでしょう?」

 

「結晶の採掘が目的でないとすれば……この島で他に目的があるのでしょうか?」

 

「う〜ん……」

 

エリオ達は頭をひねって考え込む。 と、丁度そこに自身の捜査を終えたギンガが戻って来た。

 

「あ、レンヤさん達。 戻って来てたんですね」

 

「丁度良かった。 ギンガ、差し支えなければ得られた密猟者の情報をもらえないか?」

 

「? ええ、構いませんよ」

 

ギンガは少し疑問に思いながらも捜査結果を話してくれた。

 

「どうやら報告にあった密猟者は火山を中心にして活動しているようです。 付近で街の人が怪しい人影を見たとも報告を受けてます」

 

「火山で? 火山では結晶は育たないはず……他に金目のものがあるの?」

 

「いえ、特出してそのようなものは何も……せいぜい竜がいるくらいです」

 

「竜……先ほどレンヤさんが話してましたよね、あの火山の火口に竜が住むって」

 

「ああ、聞いた話ではな」

 

「あのフェイトさん、あの動物達についても話した方が……」

 

「あ、そうだね。 実はーー」

 

フェイトは先ほどの調査で動物達の変化を話してくれた。

 

「動物が怯えたり暴れていたりしていたのか……確かに気になるな」

 

「うん。 なんだか何かを感じ取っているみたいで」

 

「動物が騒ぐ……災害の前兆か?」

 

地球にいた頃、地震の前には動物達が機敏に何かに反応するとアリサとすずかから聞いた事がある。 もしかして……

 

ズウウウンッ!!!

 

そう考えた時、突如建物全体が大きく揺れ出した。

 

「な、なになに!?」

 

「地震……いや……!」

 

「外だ……確かめるぞ!」

 

俺達は急いで施設を出て、辺りを見回すと……

 

「な……!?」

 

「あれは……!」

 

港にある造船所の上に、ツノが顔と同じ方向を向いて三叉槍のような……さらに頭上に燃え盛る火球を乗せているのが特徴な長大な竜が鎮座していた。 突然起こった事に、人々は混乱しながらも竜から逃げている。

 

グギャアアアッ!!!

 

「うわっ!?」

 

「な、何あれ!?」

 

「なんて大きさ……!」

 

「これは……竜!?」

 

「はい、おそらくは火山に住む竜です!」

 

ルーテシア、ギンガ、ソーマ、エリオは目の前の竜に驚愕を見せるが。 さすがは竜を使役しているだけあって、キャロは冷静だ。

 

「まさか……これは報告された密猟者が!?」

 

「……まあ、否定はしない」

 

ギンガの問いに答えるように、造船所の上から誰が答えた。 次いで現れたのは……銀髪の男性だった。

 

「……!」

 

「あなたは……!」

 

「あなたは誰、そこで何をしているの!」

 

フェイトはバルディッシュを起動し、魔力球を展開しながら男性に向かって質問した。

 

「……異篇卿第一位、白銀のアルマデス。 俺はそういう者だ」

 

淡々とフェイトの魔力弾による威圧も気にせず男性……アルマデスは質問に答えた。

 

「白銀……アルマデス?」

 

「異篇卿……空白(イグニド)の仲間か!」

 

「空白!? それって前にお母さんが言っていたあの……!?」

 

「それを抜きにしても……あの人、かなり強いです……!」

 

エリオ達はアルマデスから滲み出る闘気を感じ取り、冷や汗をかいている。 俺はエリオ達の前に出て壁となり、アルマデスを見上げる。

 

「アルマデスといったな。 そんな大層なものを連れてなんのつもりだ? 異篇卿は何を企んでいる!?」

 

「さてな……む!」

 

アルマデスに質問を投げかけるが、彼はわざとらしく肩をすくめた時……勝手に竜が街に向かって火球を放った。 この行動はアルマデスにも予測出来なかった事から、どうやら竜は操られているだけのようだ。

 

「ああっ!?」

 

「街を焼き払う気つもり……!?」

 

「……やれやれ。 手間をかけさせてくれる」

 

アルマデスは一回の跳躍で竜の額に飛び乗り竜を操る。 竜はこちらに背を向け、身を縮めた。

 

「ま、待ちなさい!」

 

「……この件に首を突っ込むのはあまりおすすめしない。 身の安全を考えるなら無用な手を出さぬ事だな」

 

それだけを言い残し、竜は強烈な風を起こしながら飛翔。 火山に向かって飛んで行った。

 

「きゃあっ!!」

 

「待て!」

 

「すぐに追いかけないと!」

 

「ーーダメだ、街の被害状況を確認が先だ」

 

「でも……!」

 

「役割分担をする。 追跡班と救助班にわける、それでいいな?」

 

エリオとキャロ、ルーテシアはすぐに走り出そうとするが、肩に手を置いて止め。 軽く説得し……理解してくれ、エリオ達は黙って頷いた。

 

「ギンガ、キャロ、2人が竜を追跡してくれ。 くれぐれも手は出すなよ」

 

「レンヤ!?」

 

「は、はい!」

 

「了解しました!」

 

敬礼し、2人は火山に向かって走り出した。 俺達も救助に向かおうと造船所に行こうとしら……フェイトがキャロを向かわせた事を納得いかないように道を塞いだ。

 

「レンヤ! どうして2人を……!」

 

「ギンガは数日前からここにいるから地理は分かってるはずだ。 そして、この状況ならキャロが何らかの情報を手に入れられる」

 

「それは……」

 

「エリオもそうだが、キャロも成長している。 信じてくれ、俺とキャロを」

 

脇を通りながら頭を軽く叩きながら撫で、造船所に向かい。 フェイトもしぶりながら後に続いた。

 

「レンヤさん! 造船所内で瓦礫の下敷きになった人や逃げ遅れた人が多数います!」

 

「分かった、すぐに行く!」

 

造船所に入ると、中は大混乱だった。 機材は地面に散らばり、ここの関係者が瓦礫や鉄骨が通路を塞いで脱出出来ずにいた。

 

「ーーフェイト。 ソーマと一緒に逃げ遅れた人を避難誘導してくれ!」

 

「了解!」

 

「分かりました!」

 

2人は動ける関係者の元に向かい、避難誘導を始めた。

 

「エリオ、ルーテシア。 俺達は瓦礫の撤去を手伝うぞ!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

辺りを見回し、瓦礫の前で止まっている3人を見つけ、駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!」

 

「誰か下にいるの!?」

 

「は、はい……息子が……私をかばって瓦礫の下敷きに……!」

 

「分かりました。 このくらいなら1人でも……!」

 

瓦礫の側に寄り、両手でしっかり掴んで……

 

「フッ!!」

 

一呼吸で持ち上げた。 瓦礫の下には男性が倒れていた。 どうやら衝撃で身体を打っただけで、外傷は軽く意識もあった。

 

「エリオ、運ぶのを手伝って!」

 

「うん!」

 

その後、エリオとルーテシアが男性を運び出し、この島唯一の病院に運び込まれた。 事態の収拾に辺り、怪我人は多いものの死人はいない……不幸中の幸いといった結果となった。

 

そして、事態がある程度落ち着いた後。 その場を現地の管理局員に任せ、俺達はギンガとキャロを追ってオルディナ火山に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、暑いわね」

 

ギンガとキャロはアルマデスと竜を追跡し、この島の火山に向かっていた。 火山に近付くにつれ当然気温は上がり。 ギンガは額の汗を拭い、上着を脱いでネクタイを緩め、少しでも涼もうとする。

 

「だいぶ火山に近付いて来ましたから。 どうやら竜は火口付近に降りたようです」

 

「……キャロちゃん、もしかして暑いの平気?」

 

「うーん、フリードの攻撃は炎を使いますから。 自然と暑さに慣れちゃいましたね」

 

「キュクル」

 

汗一つない表情でキャロとフリードは頷いた。 ギンガは少し羨ましく思いながらも山を登り始め……その中腹で洞窟を発見した。

 

「ここは……」

 

「こんなところに洞窟なんてあったっけ?」

 

「キュクルー!」

 

「あ、フリード!」

 

突然、フリードがキャロの肩から飛び出し、元の姿に戻って洞窟に入って行った。 2人は慌てて追いかけ、洞窟の内部に入り込むと……

 

「ーーうあっつ!?」

 

その先は溶岩が流れている空洞だった。 2人の足場から溶岩までの距離は離れているが、発せられる熱気は凄まじいものだ。 2人は危険を感じ、念のためバリアジャケットを纏った。

 

「さて、フリードはどこに……」

 

「キュクル!」

 

「あ、フリード! そこにいた!」

 

空洞の中央、天井が吹き抜けになっている地点にフリードがいた。 そこに向かうと窪みがあり……

 

「スピー……スピー……」

 

「竜の……赤ちゃん?」

 

竜の赤ん坊がその場で蹲ってスヤスヤと寝ていた。 一見するとあの街を襲った竜とは別種の竜に見えるが、その頭の上に乗っている球体が類似していた。

 

「あの竜の子かな? ………似てないけど」

 

「おそらく成長過程で身体の長大化や角の発達、翼の退化などが行われると思います。 それにほら、燃えてないだけでこの頭の球体がそっくりですよ」

 

「あ、ホントだ。 コブみたい」

 

「キュクルー」

 

キャロが頭の球体を指差し、ギンガは納得する。 それにフリードも同意するように鳴くと……竜の赤ん坊が目を覚ました。 赤ん坊は真ん丸い可愛らしい目でギンガとキャロとフリードを見つめる。

 

「…………………………」

 

「お、おはようございま〜す……」

 

伝わるか分からないが、ギンガが挨拶すると……

 

「ギャア! ギャア! ギャア!」

 

赤ん坊は目をウルウルさせ、口から炎を出しながら泣き叫び始めた。

 

「ああ、泣いちゃった……どうしよう?」

 

「私に任せてください」

 

キャロは迷う事なく果敢に赤ん坊に近付き……人間の赤ん坊を抱くように抱えた。

 

「大丈夫、大丈夫だから。 私達はあなたのお母さんを助けに来ただけだから」

 

「え!? あれメスなの!?」

 

ギンガはあの竜がメスだった事に驚くが、キャロは関係なくあやすように腕を揺らした。

 

「キュキュイ♪ キュキュイ♪」

 

「ふふ、良かった」

 

「キュクル〜」

 

すると赤ん坊は泣き止み、機嫌を良くして嬉しそうに鳴いた。 フリードも同様にキャロの頭上を飛びながら鳴いた。

 

「へえ〜、さすが竜召喚士。 手慣れているわね」

 

「昔のフリードもこんな感じでしたから。 それにしても、この子がここにいると言う事は……おそらくここが竜の巣でしょう。 でもお母さんがアルマデスに操られて……許してはおけません」

 

「そうだね。 よし、まずはこの吹き抜けを抜けるとして……その子はどうする?」

 

「キュ?」

 

キャロの腕から離れ、自身の翼を羽ばたかせて飛ぶ竜は首を傾げた。

 

「ごめんね、私達が絶対にあなたのお母さんを連れて帰るから。 ここで待っててね」

 

「キュクル、キュクー」

 

「キュキュ、キュイー♪」

 

キャロと共にフリードも事情を話し、竜の赤ん坊はほとんど理解していないと思うが頷いてくれた。

 

「じゃあ行くよ……ウィングロード!」

 

リボルバーナックルを地面に叩きつけ、螺旋状にウィングロードを吹き抜けに通した。 そして2人はウィングロードを駆け上る。

 

「いい子だから大人しくしてねー!」

 

「すぐにお母さんを助け出すから!」

 

竜の赤ん坊にそう言い残し、2人は吹き抜けを上り……吹き抜けを抜けるとそこは火口内にある平坦な場所、頂上付近に出た。

 

「頂上まであと少しだね」

 

「はい、何としてもあの子のお母さんを取り戻さないと……!」

 

グギャアアアッ!!

 

その時、別の場所から竜の咆哮が聞こえてきた。 2人は急いでその場所に向かうと……

 

(あ、あれは……!)

 

火口付近の開けた場所には……竜と対立するアルマデスがいた。

 

「………………………」

 

アルマデスは無言で懐から黒い物体を取り出すと……その物体から黒い波動が放たれた。 次の瞬間、竜は唸り声をあげながらとぐろを巻き、大人しくなった。

 

「よし……それでいい」

 

アルマデスは竜が命令を聞いた事を確認し、肩をすくめる。

 

「ふむ、データを取るにはまだかかるか。 面倒だが、もう少し付き合うとするか」

 

(!!)

 

(! ギンガさん!?)

 

その言葉に、ギンガの冠に触れ。 ギンガは怒りに任せて岩陰から出て、アルマデスの前に歩いていく。

 

「……何が面倒ですって……?」

 

「! お前は……」

 

「街を襲っておいて、面倒とは随分な言い草じゃないの?」

 

「陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマ陸曹か」

 

「……なかなかの情報収集力ね、感心するわ」

 

相手がどのような組織か探りながら呆れ半分でそう言い。 あまり有益な情報が出てこないとわかると次いで表情を切り替えた。

 

「さて、今すぐ投降するか、ボコボコにされて逮捕されるか……選ばせてあげるわよ?」

 

「ふ、どうらも捨てがたい提案だ。 だが、後者を選ばせてもらおう」

 

「それは……なかなか気が合うわね!」

 

《セットアップ》

 

ギンガはブリッツキャリバーを起動、バリアジャケットを纏い。 左手に装着されたリボルバーナックルをアルマデスに突き付けた。

 

「威勢のいいことだ。 だが、この程度の事件、差ほど大きくはないだろう。 11年前……お前が見た光景に較べればな」

 

「ーーー!」

 

「管理局の最重要人物の経歴は一通り調べさせてもらった。 お前の経歴は簡単に洗い出せた。 そうだろ、タイプゼロ・ファースト?」

 

「…………………………」

 

ギンガは一瞬アルマデスの言葉に呆然とし……少しずつ反応していき、次第に怒りと共に拳を強く握り締め出した。

 

「……ふざけんじゃ……ふざけんじゃ、ないわよ……!」

 

そして、怒りのあまり魔力が漏れ出し……

 

「何も知らない奴が、知ったような口を利くなああっ!」

 

地面を砕くほど踏みつけ、一瞬でアルマデスに接近、リボルバーナックルを振り下ろす。 アルマデスはどこ吹く風のように避け、怒涛の連続で攻撃を繰り出すギンガの蹴りや拳を避け……顔面に迫った拳を展開した大剣で弾いた。 そして幾度となくリボルバーナックルやローラブーツと大剣がぶつかり火花を散らし、アルマデスはギンガの渾身の拳を大剣の刃で受け止め鍔迫り合いになる。

 

「……腕は確かのようだが……冷静に欠いてる、万に勝ち目はないぞ。 加えて竜の脅威もあるだろう。 そこの竜召喚士の力も借りない……なのに何故、あえて1人で挑む?」

 

「そんなの関係ないわよ……あなたは気にくわない……ただ、それだけなのよっ!」

 

「やれやれ……その程度か。 これでは竜を使うまでもない」

 

「なに……!?」

 

アルマデスは軽い人踏みで一瞬で後退、そしてすぐに接近し……高速で大剣を振るい、わざと防御の上を狙ってギンガを弾き飛ばした。

 

「くうっ……」

 

「ーーそれでお前の力が限界ではないのは分かってる」

 

「な、なんですって……?」

 

「俺が剣を振るうのは理に至るため……しかしお前は、己の力から逃れるために振るっている」

 

「…………………………」

 

ギンガにそのような自覚はないが、こうして面と言われ……反論の言葉が出なかった。

 

「己の力、存在を畏れている。 それを母から得た別の力を振るうことで己の本質から目を背ける……その武術さえあれば、己の力を使う必要がないと思っているからだ。 しかし、どのような力であれ使いこなさなければ意味はない、ただ空しいだけだ。 そして……在るものを否定するのもまた“欺瞞”でしかない」

 

「……………やめなさい……………」

 

「立ち上がることもできず……己の存在を畏怖したまま朽ち。 考えるのを放棄し、常に自覚のない迷路を彷徨い続ける……人ですらない」

 

「うるさああああいッ!!!」

 

それ以上聞きたくない、認めたくない……ギンガは自暴自棄になり叫んだ。

 

「はあああああっ!」

 

怒りが混じった、裂帛の気合いと共にローラが火花を散らしながら回転、アルマデスとの間合いを一気に詰め膝蹴りを繰り出す。 それをアルマデスは大剣の腹で受け流し、続いて放たれた蹴りを跳躍して避ける。 ギンガはそれを追撃、移動しながら一瞬で前転、踵落としを繰り出すも……アルマデスはほんの少し横に移動、紙一重で避け距離を置いた。

 

「この……」

 

「無様だな……せめてもの情けだ。 そろそろ幕を下ろそう」

 

アルマデスは大剣を構え、気迫と魔力を貯め始める。 ギンガはその気迫と魔力に気圧され後退する。

 

「はあああああああっ……」

 

「くっ……」

 

「ーーはっ!」

 

ギンガは防御の魔法と体勢を整えたが……神速の一閃が身体中を駆け抜け。 リボルバーナックルとローラブーツが破壊され、ギンガは膝をついた。

 

「……かはっ……!?」

 

「………………………」

 

決着はつき……アルマデスはうずくまるギンガの背中を一瞥し、竜の方に向き直った。

 

「さて……ちょうど時間のようだな。 今のうちに“コレ”の制御式を調整しておくか……」

 

「……ま、待ちなさい……」

 

アルマデスは懐に手を入れようとした時、背後から地面が殴られる音と共に呼び声が聞こえてきた。

 

「ま……まだ……まだ終わってないわよ……」

 

「この期に及んでまだ力を見せないか……いいだろう」

 

大剣を握る力を入れ直し、アルマデスはギンガに向かって歩みを進める。

 

「至らぬ身のまま果てるがいい」

 

大剣を真上に掲げ、振り下ろそうとした時……

 

「だめーっ!!」

 

キャロが甲高い声を出し、2人の間に割って入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はアルマデスを追い、火山を登っていた。 その途中、キャロからの念話で位置を教えてもらったが……キャロの声がかなり切羽詰まっていたようで。 急いで聞いた地点に向かうと……そこではボロボロなギンガと余裕があるアルマデスが戦っていた。

 

「あれは……!」

 

「な、なんでギンガさんが戦って……」

 

「だめーっ!!」

 

「! キャロ!?」

 

キャロの悲鳴とも取れる声が別方向から聞こえ、倒れているギンガの前に出てきた。

 

「ギンガ、キャロ!!」

 

「……留めろ」

 

俺達もすぐに向かおうとすると……竜が動き出し、火球が放たれ行く道を塞がれ。 続いて威嚇されてキャロ達の元に近付けなかった。

 

「フェイトさん!」

 

「くっ、マズイですね……」

 

「キャロ!」

 

「な、なにしてるの……私の事はいいから……早く逃げなさい……!

 

ギンガは残りの力で顔を上げ、アルマデスは様子見で一歩前に出た。

 

「こっ……こないでくださいっ! でないと、こ……攻撃します!」

 

「キュクル!」

 

キャロはアルマデスの威圧に相対し、怯えながらも威嚇としてケリュケイオンを突き付ける。

 

「アルザス出身のキャロ・ル・ルシエか……内気と聞いていたがいささか無鉄砲が過ぎるな……大人しくそこをどくがいい」

 

アルマデスは大剣をキャロの眼前に突き付ける。

 

「ど、どきませんっ! 私はーー」

 

バン!

 

アルマデスは大剣の腹でケリュケイオンとフリードを弾いた。 その衝撃でキャロは倒れ、帽子も取れてしまう。

 

「キャロ、フリード!!」

 

「女子供とて関係ない。 必要とあらば……斬る」

 

「や、やめなさいっ……!」

 

「お前もだ。 いい加減……」

 

アルマデスがそう言いかけた時、横からギンガを遮るように手が出てきた。 その正体はキャロで、両手を目一杯広げアルマデスの前に立ち塞がった。

 

「……そこをどけと言っている」

 

「ど……どきません」

 

「………キャロ………」

 

「私は……弱いです。 でも、そんな私でも意地くらいあります。 あなたが何と言おうと……ギンガさんはギンガさんです。 出会って間もないですが……ギンガさんはスバルさんのお姉さんなんです。 それだけでギンガ・ナカジマという女性が優しい人だって分かります! 意味はよく分かりませんが……あなたの言うような人じゃないです!!」

 

キャロはよく知らなくてもギンガの長所を精一杯口にし、両手を広げ続けながらゆっくりと立ち上がり……

 

「だから……私……絶対にどきません!!」

 

アルマデスの顔を見ながら、自分の意思をはっきりと叫んだ。 その行動に、アルマデスは目を細め……フッと目を閉じた。

 

「……健気なことだ。 邪魔も入ったようだし、今日はこれで退いてやろう」

 

「え……」

 

「キャロから離れろー!!」

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガリュー!!」

 

とうとう痺れを切らしたルーテシアがガントレットを起動。 すぐさまガリューを投擲、巨大化したガリューが竜を抑える。

 

「フッ……ようやく出てきたか。 これで最後の実験を始めることが出来そうだ」

 

大剣を収め、竜はその場で高速で回転。 ガリューを弾き飛ばし、すぐにアルマデスは一回の跳躍で竜の額に飛び乗った。

 

「あっ……」

 

「ま、待ちなさい……ッ!」

 

「忘れるな。 ギンガ・ナカジマ。 欺瞞を抱えている限りお前は何者にもなれない。 大切なものを守ることもな」

 

「……………ッ……………」

 

「待てっ!! 白銀!!」

 

「神崎 蓮也。 お前はお前で心しておけ」

 

「なに……」

 

「今回の実験が終われば計画は次の段階に移行する。 気を引きしなければ必ず後悔する事になるぞ」

 

アルマデスは意味深な事を言い残すと黒い装置を取り出し、それで竜を操作して火口から飛び立った。

 

「行くぞ、隕竜メランジェ」

 

「待ちなさい! ガリュー!!」

 

「ルーテシア! 深追いはしないで!」

 

「あのキャロがあんな事を豪語出来るようになった……だったら、私も負けてられないわよ!!」

 

ルーテシアはガリューの肩に乗り、竜……メランジェとアルマデスを追って火口から飛び出した。 頂上に出てルーテシアはガリューから降り、竜を見据える。

 

「竜も白銀も……両方痛い目を見てもらうわよ! キャロの思いに……答える為にも!!」

 

(!)

 

ルーテシアがそう叫んだ瞬間、ガリューが一瞬震えると。 ガリューから紫色の魔力が溢れ出し、ガリューを覆い始めた。

 

「うわっ!?」

 

「ガリューが!」

 

「な、何が起こってるの……敵の攻撃!?」

 

「いや、あれは……」

 

突然の事に困惑しながらも経緯を見守る。 数秒してガリューを覆う黒い球体が揺らぎ出し、闇が弾けると……そこにはガリューがいた。 だがその姿は大きく変化しており、大きさは変わっていないが全体的にスマートになっている。 腕や脚、胸などに軽装だが鎧と見て取れる物が装着されており。 トレードマークのマフラーが風に吹かれながら竜を見据えて立たず舞う様は一見して侍とも見て取れる。

 

「これは……」

 

「ガリューの姿が……変わった?」

 

「まさか……進化したのか……」

 

以前、ソエルから聞いたことがある。 このシステムを使用使い魔がある一定以上の経験を積むと外見が変化する現象……進化が起こると。 そしてその現象は使い魔の全てのポテンシャルを飛躍的に上昇させるとも……

 

「ダークオン……ヴォイド・ガリュー……」

 

唐突にルーテシアが進化したガリューを見ながらそう呟いた。 だがルーテシアはそんな場合ではないと頰を叩き、驚きつつも竜の方へ視線を向けた。

 

「ガリュー! 構えなさい!」

 

(コクン)

 

「そ、そこから攻撃するの!?

 

「当たるわよ! ダークオンの遠距離攻撃を舐めない事ね!」

 

意気揚々にガントレットを操作するが……何も起こらず。 ルーテシアは慌てふためきながらガントレットをいじくりまわす。

 

「……あれ? あれ、あれあれ? バトルギアが、作動しない……」

 

「…………ああ! メガブラスターが進化したガリューに対応してないんだ」

 

「え、マジ……? だったら……!」

 

《Ability Card、Set》

 

「ガリュー! 進化した力を見せてやりなさい! アビリティー発動! ナイトカーテン!!」

 

手をポンと叩いて推測を言うと……ルーテシアはバトルギアが使えないとわかるとすぐさま別の手を取り。 首に巻いてあるマフラーが闇色に光り、独りでに動き出してガリューが腕を振るうと高速で竜に向かって飛来した。

 

「グオオオオ……」

 

「しつこい奴め……」

 

マフラーはメランジェの尾に絡みつき、距離にして3km……2体の巨大な生物がマフラーで綱引き状態になった。

 

「ガリュー! ルーテシア! そのままの状態を維持しろ!」

 

(コクン)

 

「了解!」

 

一瞬でルーテシアの元に、次いでガリューの腕に移動。 マフラーを橋にして一気にアルマデスの元まで接近する。

 

「アルマデス!」

 

「っ……速いな。 さすがは蒼の羅刹だ」

 

あの距離を数秒で移動した事を賞賛しながら大剣で横一閃に振るわれた刀を防ぐ。

 

『レンヤさん!』

 

「ああ!」

 

『フュージョンアビリティー発動! スピリットブレイク!』

 

ルーテシアの合図ですぐに離脱。 ガリューは伸ばされた状態のマフラーが光沢を放ち、変幻自在の刃がメランジェを斬りつけた。 メランジェは痛みの咆哮を上げ、巨大な火球をガリューに向かって放った。

 

「アビリティー発動! ディスペルクロウザー!」

 

左手で火球を受け止め、吸収。 吸収したエネルギーを自身の魔力に変換して右手から紫色の魔力弾として打ち返した。

 

魔力弾はメランジェに直撃、その間に俺は不安定となった竜の足場に飛び乗り。 アルマデスに向かって刀を振り下ろし……そのまま鍔迫り合いになった。 大剣と刀の接触している部分から火花が散り、互いに竜の上で睨み合う。

 

「答えろ! お前達は何が目的だ!」

 

「その問いに答えるつもりはない。 だが、あえて言うなら……ーー鏡界計画(きょうかいけいかく)

 

「!」

 

一呼吸置き、アルマデスが紡がれた言葉に俺は目を見開いた。

 

「覚えておくことだ。 例えお前達でもどうしようもならない現実があることに」

 

その隙にアルマデスは力を緩め身を翻し……自身から海に向かって落ちた。 その行動に転移と予測した次の瞬間、メランジェが赤く光り出し……一瞬で凝縮され。 赤い球となってアルマデスの手の中に収まった。 そしてアルマデスの足元に見たことのない陣が展開され……アルマデスは転移した。

 

(魔力が……感じられなかった……!)

 

あの転移には魔力反応が無かった。 その事が気になりながらも回収されるマフラーを掴んで皆の元に戻った。 その後、負傷しているギンガを連れて吹き抜けを経由して火山の麓に向かった。

 

「済まない、逃してしまった」

 

「ううん、気にしないで。 出し抜かれたけど……怪我がなくて良かったよ」

 

「ですか、それと同時に敵対勢力の全貌も少し見えてきました。 あれほどの戦闘能力を持つ人間が何人もいそうですね」

 

「はい。 ですが……」

 

エリオは視線を後ろに向けた。 そこにはあのメランジェの子どもの竜が泣きわめいていており、キャロが必死に謝りながら宥めていた。 どうやら母親が消えたことに気付き、飛んできたようだ。

 

「ギャア! ギャア!ギャア!」

 

「ごめん……ごめんなさい……あなたのお母さん……取り戻せなかった。 何も……出来なかった……!」

 

「キャロ……」

 

キャロは竜の子どもの謝罪と自分の不甲斐なさの両方の意味で、炎がかかるのも気にならずに竜の子どもを抱きしめた。 エリオもそれを黙って見ることしか出来なかった。

 

「あの子……母親を奪われたんだよね……この後どうなるんだろう……?」

 

「人工保育としたいところだが……自然保護隊でそれができるのは……」

 

「ーー私がやります」

 

竜の子どもを抱えたまま、キャロが名乗りを上げた。

 

「私が、お母さんを取り戻すまでの間、この子を育てます!」

 

「キャロ……あなたはそれでいいの?」

 

「はい。 罪滅ぼしだと思われてしまいますが……これは私がしなければならない、私自身の意志だと思います」

 

「キュイ!」

 

いつの間にか泣き止んでいた竜の子どもが、キャロの目尻についた僅かな涙を舐めた。 伝わったかどうかはわからないが、キャロの表情が少し和らいだ。

 

「! ありがとう……」

 

「そういえば、この子の名前はどうする?」

 

「キュ?」

 

「名前……そうですね……女の子みたいですし……ルーチェなんてどうでしょうか?」

 

「へぇ、いいんじゃないかな?」

 

「キュイー!」

 

「あ、気に入ったようね」

 

(コクン)

 

「キュクルー!」

 

「ガリューもフリードも喜んでいるね」

 

フォワード陣が竜の子ども……ルーチェを囲みながら

 

「ふう……機動六課はいつから保護施設になったんだ?」

 

「あはは、そうですね……」

 

「笑い事じゃないっての」

 

「アイタ……」

 

応急処置を受けながら軽口を叩いてるギンガの額を指で弾いた。

 

「大体の事情はブリッツキャリバーの戦闘ログで分かっている。 けど、あんまり無茶はしないでね」

 

「そうですよ」

 

「ソーマ……」

 

「ギンガさん事情はスバルから聞いてます。 感情的になるのは理解できますが……」

 

ソーマは膝をついて、横になっているギンガの手を取った。

 

「今のギンガさんは迷っています。 でもそれでいいんです。 迷ってこそ人は人であれるんです。 だからギンガさん、今は自分を見つめ直してください。 歩みを止めないためにも……」

 

「………………………」

 

手を握る力が込めるのを感じながら、ソーマの言葉にギンガは黙って聞いた。

 

「さて、イレギュラーはあったが一応は任務完了だ。 六課に帰投するぞ」

 

「は、はい!」

 

「だが……」

 

振り返り、俺はキャロの額を指差し……

 

「時に任務には裏がある。 その裏まで完遂しなければ任務は終わらない……キャロ、お前の任務はここで終わりか?」

 

「いえ! 必ず取り戻してみせます……ルーチェのお母さんも、ククちゃんも!」

 

「結構」

 

キャロは出された質問に迷わず強く頷きながら返答した。

 

 



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167話

 

 

9月上旬ーー

 

あのオルディナ火山島の任務から1ヶ月近く経った。 日に日に暑さが強まる中、その期間中に幾度となくガジェットの出現、または襲撃。 特にグリードを使用した襲撃が……従来の(ビースト)昆虫(インセクト)植物(プラント)(ピスケス)(バード)天使(エンジェル)妖魔(デモニア)妖精(フェアリー)機凱(エクスマキナ)精霊(エレメンタル)タイプはもちろん。 龍精(ドラゴニア)巨人(ギガント)獣人(ワービースト)タイプなど珍しい種類も現れまさしく魑魅魍魎。 立ち向かうのは人類のみ……何度も交戦を繰り返す日々だった。 そのうち本物の神霊種や幻想種とかが出て来そうだな……

 

そして、今日の朝練から機動六課にギンガとマリエルが出向となった。 自己紹介を終え、それぞれ準備運動し……訓練が開始された。 そんな中、なのはの提案でスバルとギンガの一対一による模擬戦が始まり。 俺達はそれを見学していた。

 

「はあっ!」

 

「っ……!」

 

お互い、シューティングアーツによる攻防とローラブーツで常時移動しながらの格闘戦。 ギンガの猛攻に、スバルは防戦一方だ。 だが、ギンガの攻撃にキレがない……その事に気付かない六課の隊長と副隊長陣ではなかった。 特にギンガを見るシグナムの眼光は凄まじい……

 

「はあああっ!」

 

《ストームトゥース》

 

「っ!」

 

《プロテクション》

 

ギンガは左拳を引き絞り、リボルバーナックルが回転。 スバルは右手を突き出し、プロテクションを張って防御を展開し……

 

「ーーはああああああっ!」

 

激突、拮抗は一瞬……ギンガがプロテクションによる防御を破った。 そして肉薄、左の打ち上げがスバルのボディに入り、その衝撃で砂塵が舞い上がる。

 

「……なるほど。 悪くはないが……」

 

「ああ。 ギンガの動きに迷いがあるな」

 

「ギンガ……」

 

シグナムとヴィータに見抜かれる中、事情を知るフェイトは静かに見守った。 火山島の任務に同行したソーマ達も心配そうに見守る。 そして砂塵が晴れていくと……

 

「ーー何これ……こんなの、ギン姉の……!」

 

「!」

 

ギンガの一撃をあえてフィールド系の防御……ディフェンドアーマーで受け止め、スバルは受けた一撃に悲痛な顔をする。

 

「こんなの、ギン姉の……拳じゃないよ!」

 

《ディフェンサー》

 

ギンガはとっさに防御魔法を展開し。 スバルは一瞬で拳を構え鋭いパンチが放たれ……拮抗する事なくギンガは吹き飛ばされた。 確かにスバルは成長しているとはいえ、本来ならリボルバーナックルを回転させてない一撃で破られる防御ではないはずだ……

 

「相棒!」

 

《ギア・セカンド》

 

スバルは追撃をかけ、マッハキャリバーのモード2を起動。 外見の変化はないが出力が向上し、機動性が上がってすぐにギンガに追いついた。

 

「てやっ!」

 

「っ!」

 

追撃の勢いを利用した回し蹴り、それが当たる直前ギンガは跳躍……蹴りは木をへし折り、ギンガはウィングロードで上空に退避。 スバルもウィングロードで追いかける。

 

「はあっ!」

 

「でやあっ!」

 

藍紫色と水色の2色のウィングロードとギンガとスバルが上空で激突。 何度も交差して火花を散らす。

 

「ギン姉! 何迷ってんの!? パンチがぶれっぶれだよ!」

 

「っ……! 分かってるわよ……そんな事は!」

 

「何があったの? 後で話してよね!」

 

「あなたに言ったところで……!」

 

姉妹喧嘩一歩手前……2色のウィングロードが正面から衝突、その狭間で2人が激しい攻防を繰り広げる。 リボルバーナックルを駆動させず、掴みや膝蹴りや肘打ちが放たれ、それを身体をズラして受け威力を落としながらの防御が行われた。 だが、徐々にスバルが押している。

 

「お2人とも……何かあったのでしょうか?」

 

「うーん、あれはお姉さんの方に原因がありそうだね」

 

「そうね。 確かにギンガさんの様子がいつもの違うわね。 スバルもそれに気付いて反発しているし……」

 

事情を知らないサーシャ、美由紀姉さん、ティアナは2人を見て困惑する。 と、横からフェイトが近寄ってきた。

 

「レンヤ、ギンガの事は……」

 

「一応、クイントさんとゲンヤさんには話してある。 だが、それでもどうしようも出来ないだろう。 ギンガが六課にいる間に、ギンガ自身で掴み取らなければ……先はない」

 

非情だと思われるが……これはギンガが悩み、乗り越えなければならない。 その時、上から爆発音が鳴り響き。 上を見上げ、煙か晴れると……スバルの頭を掴んで放たれたギンガの膝蹴りが、スバルの眼前で寸止めされていた。

 

「ーーはい! そこまで!」

 

なのはの模擬戦終了が告げられ、ギンガはスバルから離れ、背を向けた。 勝者はギンガだが……息が上がっているに対し、スバルは少しだけ息が乱れている程度だった。

 

「あ、あはは……負けちゃった。 やっぱりギン姉は強いや……」

 

「そうでもないわよ。 スバルも色々上手くなっているし、私もうかうかしてられないわね」

 

2人は会話しながら戻ってきて、その後はスバルはフォワード陣とシグナム達とで先ほどの模擬戦の評価や対処指導を始め。 ギンガはこちらの方にいた。

 

「ギンガ。 どうだった、スバルの成長は?」

 

「びっくりしました。 攻防の切り替えが早くて、威力も段違いで……」

 

「そう。 それで、ギンガ自身の評価は?」

 

なのははあえて直球で言った。 その問いにギンガはうつむきながら答える。

 

「…………ハッキリ言って、ダメダメでした。 まだ、自分自身と向き合っている最中。 迷いっぱなしです。 スバルにああ言われても仕方ないですね」

 

ギンガはあははと苦笑いをする。 あれから1ヶ月……まだ自分自身を見い出せていないようだな。

 

その後、ギンガを含めたフォワードチーム9人と前線隊長6人チームの時々行われる模擬戦が開始された。

 

数十分後ーー

 

「ーーはい、じゃあ今日はここまで」

 

「全員、防護服解除」

 

『はい……』

 

「……皆マジチート……」

 

俺達は何事もなく歩く中、フォワード陣は息絶えだえで座り込んでいた。 姉さんが人聞きの悪い事を言った気もするが……

 

「ふむ、惜しいところまでは行ったな」

 

「後もうちょっとだったね」

 

「もっと精進する事ね」

 

シグナム、フェイト、アリサはそう言うが……ソーマ達は聞き流し、後もう少しのところでと言いながら嘆いていた。

 

「反省レポートまとめとけよー」

 

『はい』

 

「特に美由紀姉さん、あんまり感覚的な擬音語を書かない事」

 

「は〜い」

 

最初の時の姉さんのレポートはなのはがズガーンと撃ってきたとか、レンヤがシュッと現れてとか、実際にそん感じで動いたかもしれないが……とにかくよく分からないレポートだった。

 

「ちょっと休んだら、クールダウンして上がろう。 お疲れ様」

 

『ありがとうございました!』

 

フォワード陣は少し休み、さっそく体操や柔軟でクールダウンを始めた。 その間、しばらく今後について話し合っていると……

 

「パパ〜! ママ〜!」

 

「あ……」

 

こちらに向かって、ヴィヴィオと太刀を抱えて困惑しているイットを引っ張って走ってきた。 どうやらファリンさんとザフィーラが連れてきたようで、シャーリー達と一緒にいたすずかとアリシアが付いて行っている。

 

「ヴィヴィオー!」

 

「転ぶんじゃないわよー」

 

「……あれ? なんかデジャブ?」

 

アリシアが首をひねりながら何かを思い出そうとするが、何事もなくヴィヴィオがお馴染みのタックルをかまして来た。

 

「おっと、ヴィヴィオは今日も元気だな」

 

「うん!」

 

「イットも、鍛錬は続けているか?」

 

「は、はい。 紛い物でありますが、八葉の一端ですから……」

 

質問すると、イットは遠慮がちに答える。 やはり、ヴィヴィオより年上なため心を開くには時間がかかりそうだ。

 

「そういえば、あの黒髪の子は? 質量兵器持ってるけど……」

 

「えーっとですね、あの子は……」

 

「はっ! ま、まさか……ヴィヴィオちゃんに続いて第2子……!?」

 

「違うわ!」

 

「あ、そうだよね。 ヴィヴィオちゃんより歳が上だし……ま、まさか……ヴィヴィオちゃんより前に……!?」

 

「な、何馬鹿な事考えてんのよ!? そ、そんなわけないじゃない!?」

 

「ふふ。 アリサちゃん、何を考えているのかなぁ?」

 

「す、すずか……笑みが怖いよ……」

 

マリーの暴走に、アリサが動揺しながら否定した。 そんな光景を俺とヴィヴィオは笑って見つめ、手を繋いで隊舎に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝訓練が終わり、現在は皆で食堂にて朝食。 全員で食事を運んでいた。

 

「なるほど、ヴィヴィオちゃんと同じ保護児童なのね」

 

両手にトレーを持ち、席に移動しながらイットの事情をマリーに説明した。

 

「僕の時の同じような感じです」

 

「レンヤ君が保護責任者、後見人がなのはさん達6人です」

 

「ああ、うん、そっか……よかった」

 

「……何が?」

 

マリーの安堵に疑問を覚えるが、朝食を食べる時には頭の隅に追いやった。 皆で楽しくワイワイと朝食を食べる中、ヴィヴィオの皿の上にはピーマンが横にあった。

 

「ヴィヴィオ、好き嫌いはダメだぞ。 しっかり食べないと大きくなれないぞ?」

 

「え〜……だって苦いの嫌いだもん」

 

「ヴィヴィオ、ピーマンは体にいいのよ?」

 

「好き嫌いは良くないから、頑張って食べようね?」

 

「うう〜〜……」

 

皆が説得するも、ヴィヴィオはピーマンを見つめながらしぶる。 その隣では、イットが器用に箸を使いながらピーマンが入っているサラダ炒めを食べていた。

 

「ほら、お兄ちゃんも食べてるわけだし」

 

「え、俺はその……」

 

話を振られ、1度箸を置いてイットは縮こまりながら口ごもる。 前にリンスが言っていたが、イットにはここに来る以前の記憶がある。 つまり、非人道的な実験を受けていた……食事もままならず、好き嫌いなんて言えないのだろう。

 

「……まあ、そやなぁ……好き嫌い多いと、ママ達みたいな美人になれへんよ?」

 

それを見たはやてが、機転を利かせてくれた。

 

「イットはレンヤみたいにカッコよくなるかもね?」

 

「あ、はい……」

 

「う〜……」

 

説得を続けるが、ヴィヴィオは恨みを込めるようにピーマンを睨みつける。

 

その背後で、キャロがニンジンをエリオに渡そうとしていたが……話を聞いていたのか。 エリオにどうするか聞かれ、こちらもしぶりながら結局自分の口にいれた。

 

「キュー、キュー」

 

「あ、ごめんねルーチェ」

 

キャロの足に擦り寄って来たのは隕竜の子どものルーチェ。 あの一件で母親を異編卿に連れ去られ、今はキャロが保護している。 ルーチェは一応赤ん坊なので哺乳瓶でミルクを与える食事になっており、それなりに大きいのでエリオが抱え、キャロが哺乳瓶を持ってルーチェにミルクを飲ませた。

 

「キュ、キュー♪」

 

「よしよし、いい子だねルーチェ」

 

「ルーチェもすっかりここに慣れたわね〜」

 

「そうだね。 それにしても……」

 

サーシャはルーチェを抱えているエリオ、哺乳瓶をもつキャロを見て頷いた。

 

「こうして見ると、夫婦って感じだね」

 

「ふ、ふーふー!?」

 

「あらら。 動揺しすぎて伸ばしてるよ」

 

「うーん、まあそう見えなくもないけど……」

 

ルーテシアは微笑みながら立ち上がり、2人の前に向かい……キャロから哺乳瓶を取ってエリオに寄り添った。

 

「こっちの方がエリオ的にはいいんじゃないの?」

 

「ええっ!?」

 

「ル、ルーテシアちゃん!?」

 

「ルーチェもエリオもペッタンコなお母さんより、こっちの方がいいと思うわよ?」

 

ルーテシアは胸をはり、キャロと現在の違いを見せつける。 確かに同い年にしては発育に差があるな……

 

「レン君? 何見てるのかなぁ?」

 

「痛い痛い!?」

 

突然なのはに耳を思いっきり引っ張られる。

 

「レンヤってまさかそういう趣味?」

 

「どおりで私達に靡かないわけだね」

 

「……犯罪だよ?」

 

「レ・ン・ヤ?」

 

皆一斉に疑いの目を向けるが、特にフェイトが怖い……

 

「違う! 違うから! 俺の好みとしては……」

 

『好みとしては?』

 

誤解を解こうとそこまで口に出すと……なのは達は怒りから一転して興味津々になって答えを待った。 しかも、何やら目が光っているような……まるで獲物を狙う肉食獣の如し……

 

「えっと…………料理ができて、明るくて優しい女性かな?」

 

そう答えると……三者三様、ガッツポーズしたり考え込んだり落ち込んでたり……なのは達はそんな事をしていた。

 

「? お兄ちゃん、ママ達どうしたの?」

 

「さ、さあ……?」

 

(! 俺の女性の好みを聞いて………まさかな)

 

勘違いと思い頭の隅に追いやり、朝食を口にいれた。 それにしても、六課はいつでも騒がしいな……学院を思い出す。

 

その後、俺は地上本部に向かい。 異界対策課に顔を出した。

 

「あ、レンヤ! 久しぶり〜♪」

 

「久しぶりソエル、元気してたか?」

 

「ソエルはいつでも元気100倍だよ〜♪」

 

飛び込んできたソエルをキャッチし、近くのデスクの上に置いた。

 

「そういうお前の方こそ元気なのか? かなり忙しいと噂で耳に入ってんぞ」

 

「まあな。 今のところスカリエッティ、異編卿、それに魔乖咒師集団もこのミッドチルダで暗躍している。 まあ恐らくスカリエッティの戦闘機人は大した事なかったけど……それ以外の実力、技術力は化物レベルだ」

 

「蒼の羅刹が言うならマジだろうなっと」

 

資料室から出てきたリヴァンが両手に抱えきれない程の紙媒体をデスクにドンと置いた。

 

「よおリヴァン、依頼が終わったのか?」

 

「ああ。 公開意見陳述会が迫ってるから、ここ最近は管理局の各部署の雑務に追われてる。 ユエは今ベルカに、ツァリも無限書庫に行きっぱなしで、エナもミッド郊外の隅から隅まで爆走中だ」

 

「それはそれで楽しそうだな」

 

「違いねえ」

 

2人揃って冗談のようにハハハと笑うが……数秒でため息に変わった。 たまに六課のフォワード陣に手伝ってもらっているが……それでも対策課は管理局一人手不足だ。 アルバイトでもいいから募集しようかな……ミッドチルダなら中等部の子でも働けるし。

 

「シェルティスから連絡は?」

 

「今んとこ特にないな。 前に来たのは空は現状問題はないくらいとかで……やっぱり警戒すべきはここくらいだと」

 

リヴァンはその場で足踏みをした。 つまりここ……地上本部というわけだ。 レジアス中将が信頼できるとはいえ、その下につく他の管理局員の黒い噂は絶えない。 そして1番問題視しているのは最高評議会……150年前からその席は変わってなく、何を考えているのかまるで分からないでいる。

 

「ふう、問題は山積みか」

 

「そうだな……さて、俺はもう行くよ。 レジアス中将に用もあるし」

 

「行ってらっしゃーい」

 

ソエル達に見送られ、そのままエレベーターで上層階に向かい。 レジアス中将がいる部屋に向かうと……

 

「ーーうおっ……!?」

 

通路を曲がったら地上の管理局員が通路の左右にビッシリと列を作って整列していた。 これにはさすがにビックリした。 非常識にはビックリしないのに……と、そこでその往来を堂々と歩いているレジアス中将を発見した。

 

「レジアス中将!」

 

「む? レンヤか、何かあったのか?」

 

「いえ、定期的な報告に来たのですが……これは?」

 

「ふう、各地上部署を足で回っていたのだが……陳述会が1週間後なのか、景気付けのようにこうなった」

 

「そ、そうですか……」

 

少し鬱陶しそうに話すが……さすがはレジアス中将、人望が厚いと言う事だろう。 と、そこで左右の管理局員達がヒソヒソと話しているのに気付いた。 こっそり聞き耳をたてると……どうやら若造が中将に気安く近付いてんじゃねえよ的なアレらしい。 昔から中将はもちろん色んな人に優遇されていたようなもので、実績は出しているとはいえ恨み妬まれる事はたまにある。

 

「おいお前、いくらなんでも中将に不敬ではないのか?」

 

と、それを体現するように中将の背後に控えていた1人が一歩前に出て来た。

 

「やめないか。 彼は……」

 

「お言葉ですが、神崎二等陸佐は少々上司に馴れ馴れしいと思われます。 教団事件もお前達の手柄ではない、我ら管理局の手柄だ。 そこを履き違えるな」

 

そう言い切り、彼は背後に控えた。 レジアス中将は少しため息をつき、俺を隣に置いて移動した。

 

「すまないな。 彼は優秀なのだが……いかんせ融通がきかなくてな」

 

「いえ、どんな形であれ年上を敬うのは当然の事です。 自分が不躾でした。 それに教団事件解決は確かに俺達の手柄ではありません。 事実、当時1人でも欠けていたら解決は出来なかったでしょう」

 

「そうか……」

 

「それでは自分はこれで。 オーリス三佐、後ほど報告書を送ります」

 

「分かりました」

 

ここにいるとまた面倒になりそうなので……足を止め敬礼し、視線が背中に刺さる中来た道を引き返した。 逃げるようにエレベーターで降下し、壁に寄りかかってため息をついた。

 

「ふう……一応ここはホームなのにアウェー感が半端ないな」

 

《嫉妬というものでしょうか?》

 

「そうだな。 誰もが持っている感情……人はそれを内に抑えて生きている。 それがあるからこそ人は人であれるかもしれない」

 

《正と負、善と悪が両立して人であれると?》

 

「善がなければ争いか絶えず、悪人が跋扈し。 悪がなければ欲という概念がなくなり、人から感情が消え失せる。 正義も度が過ぎれば悪になり、悪人であるからこそ捌ける正義もある……結局、その人次第なんだろうな」

 

自分で言っておいてあれだが、実際は自分自身もよく分かっていない……まあ、人間が分かるというのは永遠になくていいだろう。

 

(そういえばあの子が言ってたな。 人間は美しい面もあれば醜い面もある事……愛情と憎しみのどちらか一方だけではなく、その二面を併せ持ち、その狭間で悩み、苦しみ、それでも前に進もうとする……)

 

そう考え、結局意味がわからないと降参気味に笑った。 その後六課に帰り、軽く書類の整理をし。 フォワード陣の様子を見ようと訓練場に向かった。 そこではフォワード陣に混じってシグナムとヴィータが軽い訓練をしていた。 まあ、とうに軽いという基準を超えているが……

 

「あ、レンヤさん!」

 

「サーシャ、皆仕上がって来ているな」

 

「はい。 明日にはデバイスの3つ目のリミッターも外れますし、公開陳述会までにはせめて使えこなせるようにします」

 

「その息だ」

 

すぐ側ではフォワード陣と混じってイットがエリオと訓練をしていた。 最初は険悪な出会いだったが……歳はイットが1つ下だが今では仲が良いようだ、2人ともいい顔をしている。 と、そこでシグナムとヴィータが訓練を終えて降りてきた。

 

「ふう……どうだレンヤ? ここは景気付けに私と本気の模擬戦をしてもらえないか?」

 

「……いいけど、景気付けはついでだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「まあいいんじゃねぇか。 敵は化物がうじゃうじゃいる。 フォワード陣の目を慣らすにはちょうどいいだろ」

 

目を慣らすって……ここ最近の奇想天外満載な怪異を目の当たりにしていまさら驚く事はないと思うが。 敵には人をやめてそうなのがいそうだし……

 

「分かった。 受けて立つ」

 

「そう来なくてはな……」

 

「あ、では僕が審判を務めてもいいですか?」

 

「いいぞ、間近で見て驚かないようにな」

 

「はい!」

 

そうと決まり。 ヴィータ達は隅により、俺とシグナムは訓練場の中心で相対した。

 

「ーー行くぞ」

 

「はい」

 

それを合図にデバイスを起動。 バリアジャケットを纏い、3本の短刀と長刀を構える。 同様にシグナムもレヴァンティンを起動し拳銃と剣を構える。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

互いに睨み合い、沈黙が続き……

 

《モーメントステップ》

 

「ーーしっ!」

 

ノーモーションで飛び出し、袈裟斬りを放った。 シグナムはすぐに反応、冷静に剣で防ぐ。 一瞬の鍔迫り合いの中、短刀から魔力を放出。 それを推進力にして押し込む。

 

「っ……!」

 

シグナムは刀を弾いて距離を取り、拳銃を構え。 燃え盛る魔力弾を撃ってきた。

 

「くっ……」

 

《シールドビット、アクティベート》

 

大量に迫る魔力弾を弾き、対処できないのはレゾナンスアークの操作によるシールドビットで防ぐ。

 

「ーー昇龍(しょうりゅう)……」

 

「っ!?」

 

穿牙(せんが)ッ!!」

 

背後から気配と同時にシュランゲフォルムによる蛇腹剣が高速で放たれた。 斬撃は迫ってくるが……あえて斬撃に向かって走り出す。

 

「え……!?」

 

「レンヤさん!?」

 

「ーーいや、あれでいいんだよ」

 

サーシャとキャロが俺の行動に驚き、ソーマが冷静に観察する。 そして斬撃が目の前まで迫り……直撃する前にモーメントステップで横に移動、コートの裾が切り裂かれる中ギリギリで避けた。

 

「はあああっ!!」

 

身体を捻り、四刀を揃えて斬りかかる。 刃が届く瞬間……シグナムはシュランゲフォルムのレヴァンティンの柄を手離し、鞘を手にして防いだ。

 

「はあっ!」

 

放たれた蹴りを躱し、地上に降り立ち。 続けて振り下ろされた蛇腹剣を避ける。

 

「まだ終わらんぞ!」

 

《蛍火》

 

振り下ろした蛇腹剣を剣に戻し、銃口をこちらに向け乱射。 大した威力はないが、あの魔力弾は爆発する……1発でも当たれば体勢が崩れ。 そこから一気に距離を詰められて剣でやられる。

 

「っ……!」

 

「そう来るか……!」

 

だが、俺は怯まず……銃弾と爆炎の嵐を自分が生きられる隙間を走り抜ける。 距離が縮まるに連れシグナムにも苦悶の表情が見えてくる。

 

鎌枸(かまからたち)っ!!」

 

回転で威力をあげ、3本の短刀を爪のように振り下ろした。 シグナムは拳銃と剣を交差させて防ぎ、衝撃で地面が割れる。

 

「ーーぜあ!」

 

シグナムは踏ん張りながら弾き、お互い距離を置いた。

 

「……腕を上げたな」

 

「シグナムこそ。 まさかレヴァンティンから手を離すとは思ってもみなかった」

 

「騎士の誇りたる剣を手放すなど……あまり褒められた行為ではないがな」

 

《今の行動がなければ命に関わるダメージを負うなら。 それもやむなし》

 

「そういう事。 柔軟な思考をしている証拠ですよ」

 

「そうか……」

 

そんな会話をしながらもシグナムは高度を下げて地上に降り立った。

 

「さて、今までは武器と技だけの勝負だった。 次からはーー」

 

《エクスプロージョン》

 

「全力で行くぞッ!」

 

「望むところ!」

 

《オールギア……ドライブ》

 

お互いに魔力を上げ、放つのは全力の技。 無納刀で居合の構えを取り、刀身に青い魔力を纏い。 シグナムは八双の構えを取り、刀身に赤い魔力が纏われ……

 

「陽光ーー」

 

「月光ーー」

 

「ストーーープッ!!」

 

刀を振り抜こうとした時……自分とシグナムにバインドがかけられて拘束された。 色は桜、という事は……

 

「2人ともやり過ぎだよ! シュミレーターも壊れそうだよ!」

 

上空から憤慨気味のなのはが降りてきた。 改めて周りを見てみると……ちょっと森が焼け野原気味の更地になっていた。

 

「一体これで何度目だと思ってるの……! 2人の軽い模擬戦は被害が酷いから気が気じゃないんだから……!」

 

「あら〜……やり過ぎたな〜」

 

「ふむ、緊迫して周りの事など考えてもいなかった」

 

「ーー黙りなさい」

 

『はい』

 

なのはの前に直立不動でシグナムと一緒に並んだ。 ガミガミと叱られる中、側ではフォワード陣にアリサが先ほどの模擬戦の解説していた。

 

公開意見陳述会まで残り1週間。 機動六課は特に緊張もしてなく通常運転だ。



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168話

 

 

9月12日ーー

 

地上本部公開意見陳述会……予言が現実となり、事件が起こるとしたら今日。 現在、ミッドのほとんどの地上部隊はこの警備に回され、それは六課も同様。 フェザーズとスターズとリイン、フォワード陣6人は前日から警備に。 フェイトは当日、そしてはやては会議にリンスとシグナムはその護衛に付いていった。 クレードルはすずか以外六課で留守番。 もしも、何かが起こるとしたら何らかの関係のあるイットとヴィヴィオが居るここにも来る可能性ある。 なのでイットとヴィヴィオの護衛にザフィーラ、クレードルが襲撃時の迎撃、それらの指揮をシャマルと兼任してアリシアという体制になった。

 

「ーーはい。 そこはその配置で。 はい……ではよろしくお願いします」

 

今は久しぶりに座る対策課のデスクでツァリ共にと警備状況を確認していた。 通信を切り、一息ついた。

 

「お疲れ様、レンヤ」

 

「お疲れ。 そっちはどうだった?」

 

「全然。 警備は完璧万全の一点張り、これはゼストさんの仲介が欲しいかもね」

 

「ゼストさんもレジアス中将同様に忙しい。 ゼストさん達が防衛に目が回らない事に目をつけて勝手しているようだ」

 

ここの地上本部の警備部隊と連携を取ろうとしても、変更しないと言っている。 こうなるとこっちも勝手するしかなくなる。

 

「しょうがない、やるかな」

 

「あ、やるの? レンヤの未来予知みたいな推理」

 

「ただの予想だよ。 天気予報みたいなもの」

 

「でも、レンヤの推理は的を射ているものばかりだからね。 信用はできるよ」

 

そうは言っても。 相手の手札を知っていて、それがどう攻撃するのかを予測。 それにどう対処するかという問題なだけ。 他に知らないが手札あったらそれまでなんだけどなぁ……と、そこで急にツァリが顔を上げた。

 

「あ、ヴィヴィオだ」

 

「どこまで念威を飛ばしてるんだ」

 

「いやぁ、前にリヴァンから聞いたのが気になってさ。 隣にいるのがまた保護したイットって子? ちょっと不安がっているよ」

 

「……別に、1日くらいいない事くらいあったんだけどな……」

 

昨日ーーといっても数時間前ーーの夜、出発する時にイットとヴィヴィオが見送りに来ていた。 その時の表情が何かを案じるように不安がっており、イットもそわそわしていた。

 

「そっか。 ヴィヴィオちゃんらしいね」

 

「そうだな……」

 

「あ、そういえば。 内部警備の時デバイスは持ち込めないけど……そこはどうなっているの?」

 

「例外なし、デバイスは持ち込めない事になっている。 フォワードの……ソーマに預けようと思っている」

 

「うーん、少し不用心じゃないのかな……あぁ!?」

 

「ん? どうかしたか?」

 

突然ツァリが奇声をあげて硬直した。 何故か顔が赤い。

 

「フェ、フェイトが……服を……」

 

「何覗いてんだよ!」

 

容赦無く脳天にチョップし、ツァリは頭を抑えて蹲った。 だが、ツァリのせいで少し脳内でフェイトの脱衣シーンを妄想してしまい……頰が熱くなるのを感じながら頭を思っ切り振って雑念を振り払い。 作業を再開した。

 

「ふう………もう日の出か……」

 

いつの間にか窓から日差しが差してきた。 公開陳述会開始時刻は1500(ヒトゴーマルマル)、運命の時は刻一刻迫って来ている。

 

(でも、止めることはできない。 今できる最大限の手を打って……この壁を乗り越えみせる)

 

数時間後……ソーマに1階、エントランス前に来るように連絡しながらその場に向かった。 到着すると、ちょうどはやて達が入ってきた。 フェイトが視界に入ると……数時間前の事を思い出してしまい、両頬を叩いて眠気と共に吹き飛ばした。

 

「はやて、フェイト、シグナム」

 

「あ、レンヤ君。 お出迎えご苦労様」

 

「何か問題でもあったか?」

 

「特に何も。 各ジオフロントにも警備網も張っているし、今度は遅れをとらないつもりだ」

 

「でも相手は強大で尻尾も掴めない。 油断はできないよ」

 

フェイトの言う通り。 敵犯罪組織が化物じみているのがゴロゴロいる以上、どこまで通用するか……念のため、非常事態が起きた場合本局と空域にすぐに応援を頼めるようにしてあるが……

 

「まあ、今回の会議……その陳述内容もアレやし。 荒れるかもしれへんなぁ」

 

「ああ。 特に地上部隊の陳述内容……地上防衛用の迎撃兵器、アインヘリアルか」

 

「それって確か、レジアス中将の反対を押し切ってミッドチルダの高地に建造された三基の……」

 

「ああ。 かなり強行派がいたらしくてな。 最高評議会の意向もあったし。 その他の言い分も最もだったわけで結局了承されてしまったわけ」

 

「うん。 それももちろんやけど………内部によるクーデターもな……」

 

はやてが両肩に手を置いて顔を寄せ耳打ちした。 周りに聞かれないようにする配慮なんだろうが……それなら念話でいいのではと思うのは間違いだろうか?

 

「ちょ、ちょっとはやて……! レンヤに近付き過ぎだよ……!」

 

「聞かれたくない話や。 こうした方がええやろ?」

 

「それなら念話でいいでしょ……!」

 

まさしくその通り。 するとフェイトははやての首根っこを掴むと俺から引き離してくれ、そのまま連れていった。

 

「ほら、早くいくよ!」

 

「ほなまた後でなぁ〜」

 

「ふう……すまないな」

 

「いつものことだ、気にするな」

 

シグナムの謝罪を軽く受け、一度ソーマの元に向かわないといけないのでその場で別れた。

 

「さてと……」

 

踵を返して歩き始め。 不意に顔を上げ、ガラス越しに空を見上げる。

 

「こちらの盤上は片や穴だらけ、片や万全の体制。 あちらの駒は強大で未知数……どこまで喰らいついていけるかな」

 

そう呟いた後、正面に向き直りソーマを探しに歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15:00ーー

 

開催までの間に晴れた空から一転して曇り空になる中、公開陳述会が始まった。 はやてが出席している中。 俺となのは、フェイトとアリサが地上本部の警備に当たっていた。 本来なら俺も出席するはずだったが、無理言って断った。

 

それから会議室の中を時折中継で覗き見しながら警備を続けた。 それから数時間は何事もなく会議は続き……外は夕暮れ時になってきた。

 

「レンヤ君」

 

「すずか、そっちはどうだ?」

 

「今の所クラッキングの類いはないよ。 とはいえ、以前の会議をると油断はできないよ」

 

「そうだな。 奴らの目的も明確に分かってるわけでもないし……圧倒的にこちらが不利だな……」

 

襲撃が分かってたとしても、どうしても後手に回ってしまう。 と、その時……どこからか発生した魔力反応を感じ取った。

 

「これは……!」

 

「! 地上本部のサーバー内にクラッキングを受けた! 通信管制システムに異常が発生したよ!」

 

それと同時に地上本部中にアラートが鳴り響いた。 敵襲だ……

 

「来たか……! 俺は会議室を見に行く、すずかはクラッキングの対応をしてくれ!」

 

「もうやってる!」

 

こちらで指示する前にすずかは一心不乱に空間ディスプレイのキーボードを物凄い速度で弾いた。

 

「俺は会議室に向かう。 なのはとフェイトはすずかを見ていてくれ」

 

「了解!」

 

「うん……って、あれ? アリサちゃんは?」

 

「アリサなら大丈夫だ。 俺の推理通りなら、な……」

 

頭で考えた推理はそれなりに保証があるが。 今感じ取れる直感みたいなものだと……嫌な予感しかない。 それでも今は信じるしかなく、会議室に向かって駆け出した。

 

 

 

場所は変わり地下にある魔力炉……そこに魔力炉を背にして右眼に眼帯をした銀髪の少女が立っていた。

 

「ーーふっ!」

 

両手に持っていたナイフを両腕を広げるようにしてナイフを投擲、周囲の壁に突き刺した。

 

「IS発動……ランブルデトーー」

 

少女は手を上げ、指を鳴らそうとした時……正面から紅い閃光が高速で飛来してきた。

 

「何っ!?」

 

「はあっ!」

 

紅い閃光が少女を弾き飛ばした後、周囲に刺さったナイフを弾きながら抜かれた。 少女がナイフを構えながら前を向くと……そこにはアギトとユニゾンしているアリサ・バニングスが堂々と立っていた。

 

「貴様は……!」

 

「レンヤの推理通りね。 相手が物質透過能力を有しているのがいる以上、警備はザルも同然。 となれば……後は残りのザルを取り払いザル穴よりも巨大なものを持って来るように仕向けるだけ。 つまり、魔力防壁の心臓たるここ、魔力炉を狙ったわけね」

 

『予想通り過ぎて怖いくらいだな』

 

アリサは剣を突きつけながらここに現れた理由を言い、少女は任務が阻害されるとわかり顔を歪める。

 

「大人しく投降しなさい。 抵抗は……」

 

剣を下ろし、闘気と魔力をあげながら……

 

「あまりオススメできないわよ?」

 

『痛い目見るのならそれでも構わないけどな』

 

「っ!?」

 

ニッコリと笑った。 見惚れるような笑顔だが、アリサから放たれる凄まじい威圧で掠れ。 少女は身震いを起こした。

 

「ーーただ、その前に!」

 

「おっと」

 

アリサは振り返りぎわに剣を振り抜いた。 それを危なげなく避けたのは燃えるような真紅のチャイナドレスを着た妙齢の女性……ナタラーシャ・エメロードだった。 アリサはナタラーシャと対面し、その隙に少女はナタラーシャの背後に回った。

 

「久しぶりね、ナタラーシャ。 カジノ以来かしら?」

 

「ええそうね。 覚えていただけて何よりだわ」

 

「初対面にあんな事があって忘れるわけないでしょ」

 

『随分と軽いやつだな』

 

軽く呆れながらため息をつき、アリサは改めてナタラーシャを見据える。

 

「それより、何故かここにいるのか……と聞くのは野暮かしら?」

 

「そうね。 私、勝算のない賭けはしないタイプなの」

 

アリサの質問を答えると同時にナタラーシャは自身の周囲に炎を出現させた。 その2つの回答と銀髪の少女とナタラーシャを見て、アリサは笑みを浮かべる。

 

「ふふ、いいわ……」

 

《ロードカートリッジ》

 

「相手にとって不足なし、ねッ!!」

 

『暴れすぎて魔力炉を壊すなよ!』

 

「分かってるわよ!」

 

次の瞬間、魔力炉の方向から噴火のような爆音が轟いた。

 

 

 

「こら! 無闇に近付いたらーーって、もう遅かったか……」

 

地上本部前で、クイントが空に上がった部隊に警告するも……一足遅く、高速でアンノウン2名が部隊に突っ込んで大半が撃墜される。 それと同時に地上本部の魔力障壁の出力が減少……召喚によってガジェットが侵入して来た。

 

「! 遠隔召喚……報告にあった……!」

 

「まさか……アリサちゃんが!?」

 

「いや、多分戦闘に巻き込まれただけだと思う。 おそらく相手は相当な手練れよ」

 

「くっ……クイント! すぐに他の隊員に指示を出すわよ!」

 

「分かってるわよ! ああもう、もうちょっと実力のある部下を持ちたかったわ! 今からでも遅くないからレンヤ君達来てくれないかしら!?」

 

「愚痴を言っても仕方ないわよ」

 

『その通りです』

 

2人の頭上に薄紫色の4枚の花びらで蝶を形作った念威端子が飛んで来た。

 

「ツァリ君! この状況下でも念威が使えるの?」

 

『ええ。 短所は端子を介さなければ通信ができないくらいです。 本拠と空域に応援要請をしました、すぐに到着するはずです。 通信管制もすぐにすずかがどうにかしてくれます』

 

「了解。 さあ、やるとしましょうか!」

 

「久々に暴れるわね!」

 

メガーヌとクイントは空を見上げ、襲撃者2名を睨み……同時に飛び上がった。

 

 

 

場所は変わり異界対策課。 そこではツァリ、ユエ、リヴァン、エナが対策課のあるフロアに閉じ込められていた。

 

「ーーくそ! エレベーターも非常階段もダメだ」

 

「直接外に出る扉もピンポイントで先に壊されました。 敵は恐らく私達をこの場に止める事なのでしょう」

 

「ツァリ、状況はどうなっている?」

 

『今は持ち直して敵の対応に当たっているよ。 でもちょっとマズイかも、戦闘機人に異編卿……あの霊山の時のフェローや報告にあった騎陣隊までいるよ』

 

「統率が取れてない分、こちらがやや不利ですね。 一先ず私達はここから出なくてはなにも……」

 

「ーーコンプリート」

 

そこで1人、両手に工具を持ちながらエレベーターと格闘していたエナが立ち上がった。

 

「……エナ、何したんだ?」

 

「んーー……オッケー、これで開くよ」

 

「何?」

 

リヴァンは半信半疑でドアに手をかけると……抵抗なくドアが開いた。

 

「エレベーターの固定パーツをバラしてオープンしたよ」

 

「エナもすずかに似てきましたね……」

 

「そんな事ないよ……」

 

そう言いながらポケットから大きめのカプセルのようなデバイスを取り出し。 放り投げるとポンと音を立ててバイク……エナの愛車シュペヒトクイーンが現れ、跨ると目の色が変わった。

 

「ーー今からド派手なライディングを開始するんだからなぁ!!」

 

「相変わらずそのテンションの差について行けねぇよ!」

 

「行くぜ行くぞ行きますぞーー!! 未知なるデッドロードがアタイを呼んでいるーー!!」

 

いきなりアクセル全開で発進してエレベーター内に入り、絶叫が反響でこだましながら一瞬で闇の底に消えて行った。

 

「……あれ死ぬんじゃね?」

 

「考えもないし行くような子ではないと思いますが……私達も脱出しましょう。 ツァリ、ラペリングは出来ますね?」

 

「も、もちろん。 ちゃんと皆と練習したし……!」

 

「ーーそうは行きませんね」

 

すぐさまリヴァンとユエはデバイスを起動、バリアジャケットを纏いながらそれぞれの武器を構え声のかけられた方向を向く。 その先の暗がりから……2名の甲冑を身に纏った人物が現れた。

 

「旧VII組、お相手願いましょう」

 

「ま、要は足止めなんだけどな」

 

「き、騎陣隊……」

 

「ここでおいでなすったか」

 

騎陣隊の2人は仮面の顎の部分に手を当てると……機械的にバラけて胸の甲冑に収まり、素顔を見せた。 ラドムは優男風の鮮やかな金髪で、ゼファーは三白眼気味のアッシュブロントだった。

 

「初対面なので名乗っておきましょう。 私は騎陣隊が筆頭、円環のラドムといいます」

 

「破滅のゼファー。 雛鳥と相手をしたかったが、お前らの方が楽しめそうだ」

 

両者はロングソードと二刀のソードブレイカーを抜刀し、リヴァンとユエと睨み合った。

 

 

 

「はやて!」

 

「レンヤ君!」

 

勢いよく駆けながら会議室に入り、とっさにはやての身の安全を確認した。 その後すぐにハッとなり、頭を振った。 私情を持ち込んではいけないこの場で俺は他の誰よりもはやての身を心配した?

 

「レンヤ君?」

 

「あ。 いや、何でもないよ。 とにかく今はーー」

 

「おい貴様! まだ会議の最中なのに勝手に入ってくるんじゃない!!」

 

言葉を遮るようにあの時の管理局員が出てきた。 俺はそれを無視し、背後で騒ぐ中レジアス中将の元に向かった。

 

「ーーレジアス中将! すぐに会議の中止を!」

 

「うむ。 外部からの攻撃により会議は中止する! 混乱防止のため、皆様はこの場で待機していてください」

 

さすがレジアス中将、すぐに退避させては混乱を招くだけだ。 ゼストさんも周囲を落ち着かせようとするが……

 

(恐らく、奴らの目的は……)

 

次の瞬間、衝撃とともに会議室は停電。 辺りがざわめく中、入口の防壁が降りてしまった。

 

「しもうた! 閉じ込められた!」

 

「くっ……AMFによる檻か!」

 

AMF全開の大量のガジェットで地上本部を取り囲んで大多数の魔導師を無力化されたな。

 

「まさしく牢獄(ジェイル)というわけですね……」

 

「濃度も高い……これでは魔力が結合できなくなっています」

 

「通信も通らへん……やられた……!」

 

っていうか、AMFの檻って……どれだけのガジェットを使ってんだよ。 毎度の襲撃で大量に出てきているが……今回はどんだけの量を用意したんだよ!

 

『レンヤ! 大丈夫!?』

 

「! よかった、繋がったか」

 

その時、ツァリからの念話と同時に胸ポケットから大きい花びら二枚、小さい花びら二枚が飛び出し。 それが蝶を形作って羽ばたき始めた。 念のためツァリの念威端子をもらっておいてよかった。 これでこの濃度のAMFを物ともせず通信ができる。

 

「ツァリ、現状報告を。 その後はプラン通りなら本局と空域から応援が来る。 それの中継を頼む」

 

『イエス・コマンダー』

 

どうやらシェルティスとティーダさんが上手く部隊を立て直しているようだな。 そして懸念してた通り、戦闘機人が出てきたか。

 

『ーー地下でアリサが敵戦闘機人及び異編卿と思われる人物と交戦中。 奮闘はしているけど、抜かれて魔力炉がやられたみたいだよ』

 

「防壁が降りてる時点で分かってるよ。 外の障壁が破られたのは出力が落ちたからだろう」

 

「アリサちゃん……大丈夫やろうか……」

 

「大丈夫よ。 騎士アリサは強い……それは他ならぬはやて、あなたが知っているはずよ」

 

カリムが近寄って来て、はやての肩に手を置いた。

 

『通信は僕を介して出来るけど、地上本部のハッキングはどうしようもできないよ。 どうやってそこから脱出する気?』

 

「それはもちろん……」

 

答えながら防壁に向かって歩み寄り。 途中で小型の魔法陣を重ねるように膝の前に複数展開し、駆け出すと同時に膝で壊すように通過。 一瞬で加速し……

 

「華凰拳……迅蕾脚(じんらいきゃく)ッ!」

 

刹那の間で防壁の前に移動。 その速度と身体を捻って回転を加えて捻じ込むように蹴り……防壁に亀裂が走り、粉々に破壊した。

 

「よし。 上手くいった」

 

「……レンヤ。 何をした?」

 

「華凰拳の1つの技に魔法による加速を加えました。 さっきの小さい魔法陣には加速と飛翔の術式が組み込んでありまして、それを重ねて連続で使用。 破壊したわけです」

 

「いえ、そもそもこの状況下でどうやって魔法を?」

 

「AMF下での戦闘には慣れてる。 一瞬くらいなら発動できる」

 

少し呆然としている皆さんの気持ちを代弁するかのようにゼストさんとカリムが聞いてきたので懇切丁寧に説明した。

 

「……お前も大概化物じみてるな……」

 

ゼストさんが何か言っているが、ここはあえてスルーしておく。

 

「コホン……とにかく! 脱出しますよ!」

 

先導して会議室を出て、まずは非常通路までの道を開くため同様に防壁を壊して進んだ。 それを続けて行くと……警備のため、というよりこちらと同様に閉じ込められていた待機していた管理局員を見つけた。 そこにはなのは達も一緒にいた。

 

「なのは、フェイト、すずか!」

 

「レン君!」

 

「はやても……大丈夫だった?」

 

「なんともあらへんで。 そっちの状況はどうなとるんや?」

 

「ついさっきツァリ君からの連絡で大体は把握しているよ。 現在、空ではアンノウン2名とクイントさん、メガーヌさん率いている部隊が交戦中。 アリサちゃんも地下魔力炉で異編卿と。 今ヴィータちゃんが推定ランクSのアンノウンに向かっているよ」

 

次から次へと……連絡法がツァリの念威しかない以上、対応が追いつかない。

 

「システムの方は?」

 

「今やっているけど……かなり手強くて。 スペックもこちらが劣っているみたいだし、一部区画を解放するのが限界かも……」

 

かなり切羽詰まっているようで、すずかは口よりも手を動かしながら答える。

 

「サーシャちゃんを置いて来たのは失敗だったね」

 

「こうなってら仕方ない。 すずか、エレベーターは動くか?」

 

「……ダメ。 扉は開けられるけどエレベーターは呼べないよ」

 

「それで十分。 はやては現場指揮をしつつすずかと非魔導師の皆さんを避難誘導してくれ」

 

「了解や」

 

「分かった」

 

それにしても……こうも簡単に防衛システムを麻痺させ、管理局の警備網をかいくぐるとは。 いくら腕利きのハッカーがいたとしてもすずか、サーシャ、ソエルが組んだファイアーウォールを抜けるなんて……

 

(! まさか……!)

 

「ーーレンヤ?」

 

「……大丈夫、何でもない。 ツァリはこのまま対策課で管制中継と指示を。 側には誰がいる?」

 

『リヴァンがいるよ。 ユエは地下に向かって言ってエレベーターこじ開けて下に』

 

「了解。 なのは、フェイト……レルムでの軍事訓練は覚えているよな?」

 

「! もちろん!」

 

「あれだね」

 

2人は頷き、すずかは空間ディスプレイで表示されたキーボードを弾き……エレベータードアが開いた。

 

「じゃあ行ってくるよ」

 

「気をつけろよ」

 

「はい!」

 

俺達はレジアス中将とゼストさんに敬礼し、底が暗闇の縦穴に飛び込んだ。 両手を魔力で覆い、ケーブルを掴んでラペリングで下に向かう。

 

「テオ教官には感謝しないとね」

 

「うん! でも私達以外にできる人がいなかったのは……少し呆れちゃったなあ……」

 

「仕方ないさ。 一から訓練し直しする程時間もないだろうし」

 

管理局員の大半が実戦的な訓練を受けていないのが現状だ。 改善されつつあるが、年長者には無理な話だし。 結局間に合わなかったようだな。

 

「緊急時の指示通りならソーマ達がデバイスを届けに来るはずだ」

 

「うん。 目標合流ポイントは地下通路……ロータリーホール……!」

 

「急ごう!」

 

手とワイヤーの間の摩擦で火花を散らしながら、落下するように下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このガスは致死性ではなく麻痺性です。 今から防御データを送ります』

 

ツァリの念威による全部隊に一斉連絡で地上本部に散布されたガスの防御データを送った。 ヴィータ達の元にも送られ、フォワード陣のバリアジャケットに防御データが施された。

 

「よし。 はやて達がいる会議室は無事なんだな?」

 

『はい。 今は脱出して非魔導師の方々を避難誘導してます。 あ、ロングアーチとの回線を開きますね』

 

蝶の念威端子がヴィータの周りを飛び交い、ロングアーチとの回線が開いた。 ヴィータが状況を把握する中、スバルが足を止める。

 

「副隊長! あたし達が中に入ります! なのはさん達を助けに行かないと!」

 

「異編卿も出ていています。 いくらレンヤさん達でもデバイスなしでは……」

 

「……分かった。 合流ポイントは分かってるな?」

 

『はい!』

 

『ヴィータ副隊長! 高速に本部に向かって航空戦力が飛来しています!』

 

その時、ヴィータはロングアーチからそう報告を受けた。 それと同時にヴィータは空からとてつもない気迫を肌で感じ取り……無意識のうちに額に冷や汗をかいた。

 

『ランク……推定オーバーSSです!』

 

「了解した。 リイン!」

 

「はいです!」

 

「そっちはあたしとリインが上がる。 地上はこいつらがやる!」

 

そう言いながらヴィータはポケットからシュベルトクロイツとレヴァンティンを取り出し、走りながら後ろにいたティアナとソーマに投げた渡した。

 

「こいつらのことも頼んだ!」

 

「届けてあげてくださいです!」

 

『はい!』

 

そこで二手に分かれ。 フォワード陣は地上本部に向かい、ヴィータとリインは空を見上げた。

 

「リイン! ユニゾン行くぞ!」

 

「はいです!」

 

『ユニゾンイン!』

 

2人は同時に飛び上がり、交差する。 次に現れたヴィータはバリアジャケットの赤い部分が白くなり、瞳の色が青に、髪がオレンジ色に変わった。

 

ヴィータは高速で目標に向かって飛翔。 その間リインが警告として念話を飛ばした。

 

『ーーこちら管理局。 あなたの飛行許可と個人識別票が確認できません』

 

「! この声……リインだね」

 

念話を受け取った2名のうちの片方……コルルが念話の声をリインだと判断した。

 

『直ちに停止してください! それ以上進行すれば迎撃に入ります!』

 

「ーー来ます」

 

白い礼服の目元だけを隠す仮面をつけた腰までの長い金髪の女性が、下から飛来した複数の魔力弾を見た。

 

「おっと……エントラーゲヴィッター!」

 

2人は魔力弾を避け、小人の少年……コルルが迎撃のため両手から電撃を放ち、枝分かれして撃ち落とすが……実体弾である鉄球は止められなかった。

 

「姉さん!」

 

「ええ……」

 

女性がコルルの前に立ち。 一瞬、ランスを持つ右腕がブレると……全ての鉄球が貫かれた。

 

「ーーはあああっ!!」

 

間髪入れず女性に向かって雲の下からヴィータが接近、ギガントフォルムのグラーフアイゼンを振り抜き、赤い魔力が球状に炸裂した。

 

『……ダメです。 完全に相殺されました……』

 

「分かってる。 しかも魔力の放出だけで防ぎやがった……!」

 

煙が晴れると……そこにはコルルの姿はなく。 金髪の髪が黄色い髪に変化した無傷どころか汚れもない女性が立っていた。 ヴィータは女性の出す魔力とオーラに警戒し、仮面越しに見える翡翠の瞳に自然身構える。

 

『さすが姉さん。 僕を使わなくても余裕で防げたよね?』

 

「……そう悲観するものではありません。 私の進む道に、あなたは必要不可欠な存在です」

 

『お世辞でも嬉しいよ』

 

初めて彼女が口にした声はとても澄んで……どこか引き寄せられる感覚に陥る。

 

『コルルさん……アギトちゃんの言う通り、真正の古代ベルカ式融合型……』

 

「! ああ、そうみたいだな……」

 

リインが声をかけてくれたおかげでハッとなり、ヴィータは気を引き締め。 グラーフアイゼンを構えなおした。

 

「ーー管理局機動六課、スターズ分隊副隊長……ヴィータだ!」

 

「フェロー。 騎陣隊が主、星槍のフェロー」

 

ヴィータの名乗り出に、フェローは迷わず返答する。 その反応にヴィータは眉を吊り上げる。

 

「名乗んならその面も外したらどうだ?」

 

「ならば貴女の手でお願いします。 貴女がこの面を剥ぎ取れたら私も夜風を味わえるというものです」

 

「舐めやがって……」

 

怒りを表すが……次の瞬間、フェローからとんでもない程の魔力が放出された。 その勢いで雲が吹き飛ばされ、ヴィータは思わず後退った。

 

「っ!?」

 

『な、なんて魔力……!』

 

『あーあ……姉さん、本気だ』

 

「見せてもらいましょうか? 夜天の一柱、その力の一端をーー」

 

フェローは流れるように、だが超高速でヴィータに向かってランスを突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻ーー

 

ソーマ達フォワード陣は隊長陣のデバイスを届けるため、目標合流ポイントに向かって走っていた。

 

「ーー! 敵襲!」

 

「マッハキャリバー!」

 

《プロテクション》

 

ソーマがいち早く敵襲に気付き、すぐさまスバルが前に出た攻撃を防いだ。

 

「……上!」

 

「ーーっ!?」

 

スバルは上を向いて防御しようとするが……襲いかかって来た人物の顔を見て驚愕し、振り抜かれた蹴りを防ぐも踏ん張りが無く壁に吹き飛ばされてしまった。

 

「痛っつ……」

 

「スバル!」

 

「ーー動かないで!」

 

ティアナがそばに寄ろうとすると……ソーマが手を掴んで止めた。 反論しようとすると、周りに幾つものピンク色のスフィアらしき物体に囲まれていた。

 

ソーマ達はそこで襲撃者2名の顔を見た。 1人はサーフボートのようなものを持っている濃いピンク系の髪を後ろでまとめている少女。 もう1人はローラーブーツと両手のリボルバーナックルといった、スバルと似た武装をしたスバルと顔立ちが似ている赤髪の少女……

 

「ノーヴェ。 作業内容忘れてないスか?」

 

「うるせぇよ。 忘れてねえ」

 

「捕獲対象5名……全部生かしたまま持って帰るんスよ?」

 

「ふん。 旧式とはいえ、タイプゼロがこのくらいでくたばるかよ。 大して喰らったわけでもねぇし」

 

「戦闘……機人」

 

スバルはスクッと立ち上がり、口元を拭いながら敵の正体を見破った。 どうやら衝撃は逃したようで、赤髪の少女のいう通り大したダメージを受けてなかった。 そしてソーマはスバルの進行方向にあるスフィアを一瞬で切り裂き、守るようにスバルの前に出た。

 

「お持ち帰り希望にしては……たった2人で来るとは舐められたものね」

 

「ルーフェンの武芸者を甘く見ないでもらいたいね」

 

「ーーふふ、私達は彼らの雛鳥を甘くは見てませんよ」

 

2人の言葉に答えるように、襲撃者2名の背後の暗がりから誰が歩いた来た。 その人物がゆっくりと見える位置に出てくると……

 

「! あなたは……!?」

 

空白(イグニド)……異編卿か!」

 

「はい。 空白ですよ」

 

「……それだけじゃないよ」

 

今度は通路先から古風な騎士甲冑を纏い、その手には戦鎌を持った女性が現れた。

 

「静寂のファウレ!」

 

「……久しぶり」

 

「ーー腕を上げたようですね」

 

「流動のウルク……」

 

ファウレの隣から、その手に盾を持ちながら同様の甲冑を身にまとっている女性……ウルクが歩いて来た。

 

「そこの銃士も一皮剥けたようですね。 人数は以前より少ないとはいえ、油断すれば膝を地に付かれるでしょう……あなた方も油断しない事をお勧めしますよ?」

 

「ご忠告、どうもありがとうス〜」

 

「ふん、余計なお世話だ」

 

戦闘機人2名は忠告を聞き流し、ウルクはやれやれと首を横に振るった。 だが気を取り直し、ウルクとファウレは何かを操作した。 すると顔を隠していた兜がガチャガチャと音を立てながら機械的にバラけて外れて行き……胴体の甲冑に収まり、2人の顔が光にさらされた。

 

「っ……!?」

 

「き、綺麗……」

 

「ふふ、褒められて悪い気はしませんが……手加減は期待しないでくださいね」

 

ウルクは短髪の紫苑色の髪に、前髪で左眼が隠れており右眼から見える薄紫色の瞳がソーマ達を見ている。

 

ファウレは背中まである白藍色の髪を一纏めにして左肩に回して乗せてあり、眠そうな黄緑色の眼で気怠そうにボーッとしている。

 

「……気乗りはしないけど、マスターの命で相手をしてもらうよ」

 

「くっ……」

 

「気乗りしないなら帰って欲しいわね……!」

 

「来ます!」

 

エリオの一声で、ソーマ達はそれぞれの武器を構えた。

 

これを機に、ミッドチルダを……延いては次元世界中を揺るがす戦いの火蓋が切っておとされた

 

 

 

 



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169話

 

 

同日ーー

 

「でりゃあああっ!!」

 

「はあ!」

 

ミッドチルダ上空、そこでリインとユニゾン状態のヴィータが同じくコルルとユニゾン状態のフェローと交戦をしていた。 ヴィータは怒涛の勢いで攻めに行くが、完全に見切られて対応されていた。

 

「フェローって言ったか……一体何が目的なんだよ?」

 

ランスとハンマーで鍔迫り合いになり、その間にヴィータが質問を投げかけた。

 

「それをあなたに言っても意味はありません」

 

「っ!?」

 

言葉は不要とばかりに自身の周囲に雷球を展開し、爆発させた。 衝撃がヴィータを襲うが、リインがすぐさまに防御魔法を展開していたためダメージはまぬがれた。

 

「さすがは夜天の騎士ですね」

 

『ちぇ、固いなぁー』

 

「……リイン、気づいたか?」

 

『はいです。 彼女らのユニゾンアタック……僅かにズレがあります。 融合の相性があまりよくないようですね』

 

「だが……!」

 

念話をしている隙にフェローが一瞬で間合いを詰め、神速の突きを連続で放った。 リインが防御するがそれでも保たず……とっさにヴィータはハンマーを盾にして防いだ。

 

「ぐうっ……!」

 

「そこは通してもらいます。 コルル」

 

『了解。 轟け……雷鳴槍!』

 

フェローの指示でコルルがランスに電撃を纏わせ、ヴィータに突きつけた。 同時に彼女から放たれる威圧に気圧されながらもヴィータはアイゼンを強く握り締めた。

 

 

 

地上本部、地下……そこでは機動六課フォワード陣がアンノウン2名と騎陣隊2名と交戦していた。

 

「やあっ!!」

 

「はあっ!!」

 

ウルクの盾とソーマの剣が衝突、周囲に衝撃が走り通路にヒビが走る。 ウルクは盾を回転させソーマを弾き、ソーマは着地すると剣を……自身の持つ錬金鋼(ダイト)に目を落とす。 錬金鋼は煙を上げておりオーバーヒート寸前だった。

 

「くっ……」

 

「次の獲物を出しなさい。 それとも……天剣を出しますか?」

 

「……お生憎、天剣は六課に置いてきてね。 悪いけどこのままやらせてもらうよ」

 

そう言いながら剣を待機状態に戻し、腰の剣帯から新たなダイトを取り出し復元した。

 

「私を倒すまでに保ちますか?」

 

「どうだろう……でも、全力でやらせていただきます!」

 

ソーマは剣帯からさらに2つのダイトを取り出し……

 

「レストレーションAD!!」

 

剣の柄に連結、さらに復元すると……ソーマの手には身の丈程の刀身と峰の部分にギザギザのソードブレイカーがあり、3つのインジェクターが取り付けられている片刃の黒い大剣……複合錬金鋼(アダマンタイト)があった。 それと同時に2人の間にオレンジの魔力弾が飛来、爆発して強烈な閃光を放った。

 

「なっ!?」

 

「はあああっ!」

 

ウルクは怯んだが、ソーマは地面を蹴り。 ウルクの盾を殴るように剣を振るい、壁に吹き飛ばした。

 

「っ……逃げの一手と思ってましたが、中々の策士になったようですね」

 

「後でそう伝えておきますよ!」

 

「……とお」

 

「っ……はあ!」

 

気合が入ってないが、目にも止まらぬ速さで振られたファウレの戦鎌をエリオは完全に見切りながら避け、反撃する。

 

「お……やるようになったね」

 

「このっ……!」

 

「させない、ガリュー!」

 

ポニーテールの少女……ウェンディが背後からエリオを狙おうとボードを銃のように構えて魔力弾を撃つが。 ガリューがエリオの背後の影から現れて防いだ。

 

「嘘っ!?」

 

「アビリティーカード、シャドウダイブ。 続けてアビリティー発動! ダーインスレイヴ!」

 

ルーテシアはガントレットにカードを入れアビリティーが発動。 ガリューの両手に魔力の苦無が現れ、ウェンディに向かって高速で接近する。

 

「うわっ……とおっ!?」

 

ウェンディは背後にいたガジェットをガリューに向かわせ、ガリューがガジェットを切り裂いている隙にボードに乗って離脱した。

 

「このグズ、さっさと仕留めろ!」

 

「無茶言うなっす!」

 

短髪の少女……ノーヴェが苛立ちと共にウェンディを罵倒し。 そのままローラブーツでスカイライナーを掛けながら移動し……

 

「だあああっ!!」

 

スカイライナーを飛び出しティアナに蹴りを放つが……直撃の後消えてしまった。

 

「っ!?」

 

「幻影……!?」

 

次の瞬間、フォワード陣全員の幻影が次々と現れ出した。 その幻影を作り出しているティアナは、崩落した瓦礫の影に幻影を援護増幅、援護しているキャロと一緒に隠れて幻影を発動させていた。

 

「う……くっ……」

 

《リミット、残り3分》

 

『……脱出タイミングまで持ちなさいよ。 戦闘機人2人はともかく……残りの騎士2人を振り切るにはまだ足りないわ……!』

 

《了解》

 

アリシアの薫陶の賜物か、ティアナは汗ひとつかかず大量の幻影を操作し。 辛そうに耐えるキャロの汗を拭いた。

 

「ーーみーつけた♪」

 

「なっ!?」

 

いつの間に2人の背後に黒い服と、黒い帽子を目深く被った男性……空白(イグニド)が身を隠すようにしゃがみながらそこにいた。 ティアナは動揺しながらも冷静に銃口を空白に向けた。 すると空白はワザとらしく狼狽しながら軽く両手を上げた。

 

「おっと……私は手を出しませんよ。 私の目的は別にあります。 彼女らとはあくまで同行しているに過ぎません」

 

「……それを信じろと?」

 

「ええ。 では私はこれにて……幸運を祈ってますよ」

 

すると空白は不気味に口元しか見えない顔で微笑み、闇と同化するように静かに消えていった。

 

「……掴めないやつね……」

 

ティアナは銃を下ろし、少し苛立ちを覚える。 その間もノーヴェとウェンディは見分けのつかない幻影に戸惑うが……

 

「って、そこの男2人は完全に本物だろ!」

 

騎陣隊と交戦していたソーマとエリオは本物だと気付いた。

 

「ですよ、ねっ!」

 

「……そうじゃなくてもバレバレ。 機械に頼るから戸惑う……」

 

「それが差です。 生まれたばかりで圧倒的に気配を察知できる経験が足りてない」

 

「う、うるさいっス!」

 

「なら、これはどうかな!」

 

ソーマは反転してノーヴェに向かって走り出した。

 

「このっ!」

 

ノーヴェは向かってくるソーマの顔面に拳を振るうが……またも直前に消えてしまった。

 

「またかよ!」

 

「いや……まだっス!」

 

一呼吸遅れ、ノーヴェを囲むようにソーマの分身が追加された。

 

「また幻影か!」

 

「……違う。 これ、実体がある」

 

ファウレの言葉を皮切りにソーマの分身が飛び出し、4人全員に攻撃した。

 

「なっ!?」

 

「千人衝……残像から実体のある分身を作り出す剄技だ!」

 

「っ……んなもん、全部まとめて潰せば……!」

 

「ーーうおおおおっ!!」

 

その時、突然ゆっくり歩いていたスバルの分身の一体……幻影に紛れた本物のスバルがローラブーツの加速で飛び出した。 ノーヴェに回し蹴りを繰り出し、ノーヴェの防御を吹き飛ばして瓦礫にぶつけた。

 

「ノーヴェ! ーーはっ!」

 

「はい、失礼♪」

 

気配を消してルーテシアがウェンディの背後に回り、何もする事なく離れるが。 その間にエリオが頭上に飛び上がり、セカンドフォームに変形したストラーダを振りかぶる。

 

《デューゼンフォルム》

 

「サンダー……」

 

「くっ!」

 

「レイジ!!」

 

ストラーダを振り下ろし、周囲に電撃が迸る。 電撃がウェンディを通して地面にながれ、周りにいたガジェットは回路がショートして破壊される。

 

「ーー総員、撤退!」

 

すぐさまティアナが撤退命令を出し、撤退しながら自分達の幻影を四散させた。

 

『……死ぬんじゃないわよ』

 

『分かってる。 ティアを置いていけないしね』

 

『…………バカ』

 

去り際に念話でそれだけを伝え、ソーマは1人その場に止まった。

 

「っのやろぉ!!」

 

「っ……」

 

「やれやれ……それで、あなた1人で私達を相手するつもりですか?」

 

「……無謀」

 

「無謀も百も承知。 それでもやらなきゃいけない……」

 

ソーマは剄を走らせ、剣呑の気迫で睨みつけた。

 

「天剣を舐めるなよ……!」

 

「っ!」

 

「……おお……!?」

 

「……確かに、私達も本気で挑む必要がありそうですね。 この力を手に入れて……久しくなかった挑戦。 ーー中々に血湧く思いです」

 

ファウレとウルクが相対す中、水を差すようにノーヴェとウェンディに通信が入って来た。

 

『ーーノーヴェ、ウェンディ。 2人とも、ちょっとこっちを手伝え。 もう一機のタイプゼロ……ファーストの方と戦闘中だ』

 

「なっ!? ギンガさんが!?」

 

通信を聞いていたソーマは驚きを露わにし。 その隙にウルクが飛び出し、盾を振るった。ソーマはハッとなって防御するも壁まで吹き飛ばされてしまった。

 

「行きなさい。 ここに居られると足手まといです」

 

「な、なんだと!?」

 

「ああもう、そんな安い挑発に乗らなでくださいっス。 ここはお二方に任せて、チンク姉と合わせて3人でファーストの方を確保するっスよ」

 

「くっ……行かせるか!!」

 

剄で足を強化し、高速でウェンディに向かって接近するが……ファウレが行く道を塞いだ。

 

「……早く行け」

 

「どうもっス!」

 

ウェンディはイラついているノーヴェの首根っこを掴み、早々とその場を離れた。 ソーマは追いかけようと振り切ろうとして加速するが……瓦礫が目の前を通り抜け、今度はウルクが道を塞いだ。

 

「……なら、押し通るまで!!」

 

「では、こちらも少し本気を出しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー陛下!」

 

俺達は合流ポイントであるロータリーホールに到着すると……背後からシャッハが追いかけて来た。

 

「シスターシャッハ!」

 

「……何かあったのか?」

 

「いえ、シスターカリムから皆様の応援にと駆けつけた次第で。 現在、すずか一尉が地上本部のシステムの一部を奪還したそうです」

 

「そう……さすがはすずかちゃん」

 

少なからず予言の件も含めてカリムに心配されたようだな。 その時、背後からフォワード陣が走って来た。

 

「あ、いいタイミング」

 

「……あれ? ソーマ君は?」

 

走ってくるフォワード陣の中に、ソーマの姿がなかった。

 

「はあはあ……お待たせしました」

 

「お届けです……!」

 

スバル、エリオ、ルーテシアの開かれた手の上には俺達のデバイスがあった。

 

「確かに」

 

「うん!」

 

「ありがとう、皆」

 

それを受け取り、改めてソーマがいない事を質問する。

 

「それでソーマはどこに?」

 

「ソーマは……先ほど戦闘機人2名と騎陣隊2名と交戦しました。 その殿にソーマは……」

 

「そうか……」

 

未だに交戦中と知り、デバイスを握る力が自然と強まる。 そしてシュベルトクロイツとレヴァンティンはシャッハが届ける事になり、キャロの手から渡された。

 

「お願いします」

 

「はい。 責任を持って私がお届けします」

 

「頼んだぞ」

 

「はい!」

 

「ーーギン姉? ギン姉!」

 

その時、スバルが耳に手を当ててギンガに連絡を取っていたが……どうやら繋がらないようだ。

 

「スバル?」

 

「ギン姉と通信が繋がらないんです!」

 

「さっきの戦闘機人の胸元に9と11のナンバーがあったわ。 最低でも残りの10人……その戦闘機人の誰かと交戦している可能性が高いわね」

 

「ギン姉……まさかあいつらと……?」

 

「恐らくは」

 

スカリエッティ一味に加え異編卿、騎陣隊も出て来ている。 一度ロングアーチと連絡を取ろうとフェイトは頭上を飛んでいた蝶の端子を見上げた。

 

「ツァリ、ロングアーチと繋いで」

 

『了解』

 

「ーーロングアーチ、こちらライトニング1」

 

『……ザザ……ライトニング1、こちらロングアーチ』

 

フェイトは六課のロングアーチに連絡を取るが、通信は雑音混じりでグリフィスから応答が来た。

 

「ロングアーチ、何かあったの?」

 

『こちらは今ガジェットとアンノウンの襲撃を受けています。 クレードルが持ち堪えていますが……クレードル2から、ライトニング分隊に応援を要請しています!』

 

推理は当たっていたが檻から脱出するのに手間取って対応が遅れてしまったな……だが悔いている暇はなく。 俺達は顔を見合わせ、頷いた。

 

「役割を分担するよ。 スターズはギンガの安否確認と襲撃戦力の排除」

 

「ライトニングはアリシア隊長の要請通り、六課に帰還」

 

『はい!』

 

「フェザーズ3はライトニングに同行。 俺はソーマの応援に向かう」

 

「分かったわ」

 

(コクン)

 

「ーーシャッハ、上の皆を頼んだぞ」

 

「非才な我が身の全力を持って」

 

シャッハは胸に手を当て、敬うように礼をする。 少し気恥ずかしくなるが、俺は全員の正面に立ち……

 

「ーー機動六課。 これより任務を開始する。 それぞれの要請(オーダー)を完遂し……死力を尽くして生き延びろッ!!」

 

『了解!』

 

それぞれの要請を完了するため、六課は四散して走り出した。

 

 



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170話

英雄伝説 閃の軌跡を題材にしたSSを新たに投稿しましたのので、良かったらそちらの方も気軽に見てください。


 

 

地上本部襲撃数分前、機動六課ーー

 

「……暇だねぇ……」

 

「そうですね……それとも嵐の前の静けさでしょうか?」

 

機動六課の待機所で準警戒態勢の状態で美由希とサーシャが暇そうにしていた。 そこにアリシアが両手に飲み物を持って待機所に入室してきた。

 

「美由希、もしもの事の時もすぐに動けるようにちゃんとしておいてよね。 美由希はスイッチが入らないとてんでダメなんだから」

 

「わ、分かってるわよ」

 

「それにしても……仮にここが襲われたら、大丈夫なんでしょうか?」

 

本来居るはずの交代部隊までも地上本部の警備に割かれている。 それに対して、六課の防衛戦力はヴォルケンリッターの2人と1匹を抜けば実質アリシア、サーシャ、美由希のたった3人……

 

「うん、無理だよ」

 

「ええっ!?」

 

「相手にもよるけど物量でこられたら逃げの一手しかないよ。 六課が潰れるのはイヤだけど……命には変えられないから」

 

「それは、そうですけど……」

 

『ーーアリシアさん!』

 

「うわびっくりした!」

 

その時、シャリオからの通信が入り、美由希がソファーから飛びがった。 それをシャリオはスルーし……

 

『地上本部に襲撃です! AMFが展開されていて皆さんと通信ができません!』

 

「! 始まってしまったね……!」

 

アリシアはすぐに気持ちを切り替え、六課全体に指示を出した。

 

「通信は予定通りツァリからの応答を待って……六課も警戒レベルを上げるよ。 近隣部隊に救援要請、バックヤードスタッフは念のために避難を始めさせて。 後の指示はグリフィスに任せるから」

 

『了解!』

 

次にザフィーラとシャマル、リンスに回線を開いた。

 

「ザフィーラ、リンス、聞こえてたね。 イットとヴィヴィオの事頼むよ」

 

『承知した』

 

『ヴィヴィオとイットは任せておけ』

 

『私も頑張りますよ!』

 

『はいでフー!』

 

アリシアはファリンとビエンフーがやる気満々なのに苦笑し、次の指示を出した。

 

「シャマル、敵の反応があったら教えて。 私達がすぐに迎撃に出る」

 

『分かったわ』

 

的確に指示を出しながら、アリシアは美由希とサーシャと共に隊舎の外に向かって走り出した。

 

「ま、魔力の問題じゃ無くこれは私の腕の問題。 私の魔法がどこまで通用するか……やってやろうじゃないの……!」

 

「ていゆーかさー、これどっちが本命なんだろうね? 地上本部か、ヴィヴィオちゃんかイット君か……」

 

「両方という可能性もありますよね?」

 

「それを考えるのはレンヤの仕事。 私達は目の前ことだけを見ていくよ」

 

『アリシアちゃん、高速でアンノウン2名を含む大量のガジェットが来たわ』

 

会話を止めるようにシャマルから連絡が届いた。 敵の目的を模索している内に事態は進んで行っている。

 

「ーー了解。 グリフィス、聞こえてる!?」

 

『はい!』

 

「地上本部にいるライトニング1、3、4を呼び戻して。 その次はロングアーチの避難、隊舎は放棄……殿は私が引き受ける」

 

「え……」

 

『なっ!? し、しかし!』

 

アリシアの命令に、グリフィスはもちろんサーシャも驚きの声をもらす。 だがアリシアはとても真剣な表情で決断している。

 

「これは命令だよ。 全責任は私が負う、いいね?」

 

『……了解。 アリシアさん達もお気をつけて』

 

「心配しないの。 これでもそれなりに修羅場はくぐってきてるし、いつもはヘラヘラしてるけどやる時はやるから」

 

通信を半ば強制的に終え。 アリシアとサーシャは迎撃の為前衛として空に上がり、美由希は後衛という陣形を取った。

 

「敵の迎撃をしながら徐々に後退。 ライトニングが来るまで持ちこたえるよ!」

 

「りょ、了解です!」

 

「やれやれ、大変なことになったもんだね!」

 

『ガジェットは約60機。アンノウンは変わらず2名です』

 

「了解。 とりあえず、先制の一撃といきますか!」

 

《サウザンドストーム》

 

アリシアは2丁拳銃を構えると周囲にガジェットの方向を向きながら無数の魔法陣が展開された。

 

「ーー無事で帰れると思わないでよッ!!」

 

そのまま正面に展開された魔法陣に砲撃を放つと……それが周囲の魔法陣に転送、魔法陣と同じ数の砲撃が放たれた。 砲撃は次々とガジェットを撃墜させていくが……

 

「ーーレイストーム!」

 

真下からアンノウンによって放たれた射撃魔法らしきもので妨害された。

 

「っと……!」

 

それと同時にもう1人のアンノウンがアリシアの背後から斬りかかられるが、アリシアは余裕で避けた。

 

「やりますね……さすがは翡翠の剣舞姫と言った所ですか」

 

そう褒め称えるのはカチューシャをつけた茶色のロングヘアーの少女。 両手にはエネルギーの刃で構成された双剣を構えている。 そして先ほどの射撃魔法を放った人物……短い茶髪の中性的な少女が正面に飛んできた。

 

「そりゃどーも。 てゆーかその名前どこで調べてきたのか気になるね。 ほとんど一般には知られてないないはずだけど?」

 

「それはご自分でお考えになられては? それに私達と話していると隊舎に被害が出ますよ?」

 

「問題ありません、すでに避難誘導は完了しました。 私達のやるべき事はあなた方をここで拘束すること……それだけです」

 

「……流石に僕達だけでは分が悪いですね……」

 

短髪の少女はパチンと指を鳴らすと……地鳴りが始まり、背後の海から巨大な何かが上がってきた。 上がって来たのは……

 

「……え、ええ!?」

 

首が痛いくらい見上げるほどの巨大な岩で構成された巨人だった。 額には丸くて黒い装置が取り付けてある。

 

「ドクターが地球の神話を元に複製したグリード……神話級グリムグリード。 地母神、ガイア」

 

「贋作なのでせいぜいAAAクラスですが、充分でしょう」

 

「マ、マジですかー……」

 

アリシア達の目的は撤退であって敵の殲滅ではないが……あの質量を前に2人で耐えられるか自信がなかった。その間にも、ガイアはゆっくり腕を上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「はあはあ……」

 

ミッド上空……そこでは息を上げてボロボロのヴィータと少し服が汚れている程度のフェローがいた。 不意に、フェローが地上本部の方を見た。

 

「……彼らが動き始めましたか」

 

『こりゃここを退けても突破は無理そうだね』

 

『! ヴィータちゃん! シグナムがこっちに向かってくるです!』

 

フェローとコルルが話している時、リインが念話でシグナムの応援を聞き。 応援が来るとわかりヴィータは少し安堵する。

 

「……ここまでのようですね」

 

『騎陣隊の皆に連絡したよ。 すぐに撤退するって』

 

ランスを下ろして構えを解き、フェローは撤退しようとすると……

 

「逃すか!」

 

ヴィータはアイゼンを構えて飛び出す。 隙を付いたと思われるが……フェローも同様に飛び出し、一瞬でランスを構えて神速の突きを放った。

 

「ぐううっ!」

 

ヴィータは放たれたランスを上に避け、柄をぶつけてランスの軌道を逸らし……

 

「シャルフシュラーク!!」

 

フェローの頭上に柄頭を突き出した。 フェローはとっさに左手の籠手で防ぎ、ヴィータは攻撃の反動で離れる。

 

「ちっ……!」

 

防がれたとヴィータは舌打ちをするが……

 

ピシッ……

 

フェローの面にヒビが入り、真っ二つに割れて壊れた。

 

「………ぁ………」

 

『綺麗……』

 

面はフェローの顔から離れ、空気にさらされたフェローの素顔は言葉にできないくらい美しく、ヴィータとリインは思わず呆けてしまった。

 

「ーー見事です。 我が面を砕くとは……」

 

「っ!」

 

その言葉に2人は正気に戻り、ヴィータはフェローを見据え、リインは自身の両頰を叩いた。

 

「ならばこの一撃、手向けと受け取りなさい!」

 

「なっ!?」

 

一呼吸の間に……まるで瞬間移動のようにヴィータの前に現れ、渾身のランスで薙ぎ払いってハンマーの中心に直撃し……ヴィータは地上に物凄い速度で吹き飛ばされた。

 

「うわああああ!!」

 

「次にまみえる時は決戦……覚悟して挑む事です」

 

『大丈夫かなぁ……リイン』

 

フェローは静かに闘気と魔力を静めながらそう呟き。 コルルは吹き飛ばさたリインの身を案じた。

 

そして吹き飛ばさたヴィータは地上のビルの一角、その屋上に物凄い速度で墜落した。

 

「痛ッ……あのやろ……」

 

痛む身体を持ち上げ、意識を保つように頭を左右に振った。 ヴィータは立ち上がろうとすると……ユニゾンをしているリインの反応が小さい事に気がついた。

 

「!? リイン? おいリイン!」

 

ヴィータが必死に呼びかける中……上空では、先ほどの地点にシグナムが向かっていた。 その途中、シグナムは進行方向正面に立っている人物を視界に捉えた。

 

「…………む?」

 

その人物はフェローだった。 フェローとシグナムは一瞬だけ目が合わさる。 そしてフェローは少し微笑むと……転移して消えて行った。

 

「今のは……」

 

『シグナム!』

 

シグナムは柄にもなく思考を巡らせていると……ヴィータから念話が届いた。 その声はどこか焦っており、悲しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部地下ーー

 

「はあはあ……くっ……」

 

「ーー終わりだ。 これ以上抵抗するな、傷は少ない方がいい」

 

ギンガは地下を捜索している途中、銀髪の少女の戦闘機人と交戦していた。 だが彼女が増援を呼び……現在はボロボロの状態で地に伏せ、それを3人の戦闘機人が見下ろしていた。

 

「なんだこいつ。 さっきのタイプゼロより弱ぇし」

 

「何だか拍子抜けっスね。 気を張って損したっス」

 

「手間が省けていいだろう。 ウェンディ、早く確保しろ」

 

「了解〜」

 

ウェンディはどこからか白いケースを取り出した。 おそらくあそこにギンガを収納する気だろう。

 

(まだ……まだ諦めたくない。 こんな所で……自分も見出せずに終わりたくない……!)

 

「ふん」

 

「うっ……」

 

思いに反してチンクに髪を乱暴に鷲掴みにされ、為す術もなく上に引っ張られ無理やり顔を上げさせられる。

 

「抵抗できないように腕の一本はもらっておこう。 心配しなくてもドクターがすぐに治してやる」

 

「ーーギンガさん!」

 

ギンガが収納されかけた時、正面の通路からソーマが現れた。 その姿は満身創痍で複合錬金鋼の傷ついてインジェクターも常に熱を排出している。 ソーマはギンガに向かって走り出したが、ソーマが出てきた通路から2つの影が飛来。 両者の間に割って入ってきたのはウルクとファウレ、2人は所々甲冑が破壊されていた。

 

「ちっ……おい、そいつを食い止めておけ」

 

「命令しないでください。 我らが従うのは偉大なるマスターただ1人」

 

「……弱いあなた達に命令させる筋合いはない」

 

「やっぱりあんたらとはソリが合わないっスね〜」

 

一応手を組みあっている同士だが、両者は険悪そうに睨み合う。 その隙にソーマはこっそり通過しようとするが……

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「うわああああっ!?」

 

ファウレによってあっさり看破され、目の前の壁に鎌が突き刺さった。

 

「……抜け駆けは禁止」

 

「こんな抜け駆け嫌なんですけど!?」

 

問答無用でファウレは壁から鎌を抜き、手の中で回しながら襲ってきた。 道を阻まれ、ソーマは突破できないもどかしさに苦痛が顔に出ていた。

 

「ソー……マ……君……」

 

ギンガは痛みに耐えながらも目を開けてソーマを見る。 そしてソーマは鍔迫り合いになり、ファウレ越しにギンガに向かって語りかけた。

 

「ーーギンガさん! ギンガとスバルの境遇は……僕には分かりません。 その苦しみも因縁も。 けど、ギンガさんは温かかったです!」

 

「………え………?」

 

「スバルに紹介されて初めて会った時握手しましたよね? その時のギンガさんの手、温かかったです。 ギンガさんは確かに戦闘機人かもしれません……でも! それでもギンガさんは人間として、ギンガさん自身で今まで生きて来たんでしょう!? それを否定する気ですか!!」

 

「ーー!」

 

「口ばかり動かさない事ですね!」

 

「っ……ああっ!!」

 

騎陣隊の2人を相手しながらソーマは自身の想いを素直にそのまま伝えるが……ウルクの一撃で床に叩きつけられてしまう。 想いを受け取ったギンガは呆けるように思考を巡らせ、ノーヴェは痺れを切らす。

 

「無駄話はもういい。 さっさと……」

 

「……発……動……」

 

「あん?」

 

ノーヴェは下を見ると……うつ伏せの状態のギンガが左手を地面に力強く掴んでおり……

 

「ーーIS……発動……ヴォイドシェル!!」

 

突如ギンガの身体から膨大な魔力が放出された。 それにより戦闘機人3名は吹き飛ばされ、次にギンガの足元に独特な形状をした魔法陣……テンプレートが展開、周りに薄い膜が形成されていく。

 

「な……!?」

 

「何っ!?」

 

「ーーやっと分かったよ……すっごく簡単で当たり前の事で……」

 

ゆっくりと立ち上がり、顔を乱暴に拭って吹っ切れた顔をし、黄色い瞳でソーマを見つめた。

 

「ギンガさん……」

 

「結局。 どうやっても私は私でしかない……それを認めない限り前にも進むことも後ろにも戻る事もできない。 例え私が何者であろうと、母さんに拾われてから色んな事があって、そしてここに立っている事に嘘はない」

 

カツカツと地面を鳴らしながらソーマの元に歩いていくギンガ。 その道を戦闘機人3名はいざ知らず、騎陣隊の2名は塞がずむしろ道を開けていた。

 

「ありがとう……ソーマやスバルのおかげだよ。 ううん、皆やお世話になった全ての人の……」

 

ソーマの前に着くと手を伸ばし、ソーマは手を取って立ち上がった。 ギンガは一瞬微笑むとクルリと一転し……チンク達の方を向き一歩踏み出した。 その一歩で床に衝撃とヒビが走る。

 

「ーーリベンジさせてもらうよ。 気をぬくと腕の一本じゃ済まないから」

 

「ちっ……」

 

「舐めるなよ!」

 

「いい気になるなっス!」

 

身体の調子を確かめながら挑発するギンガに、戦闘機人3名は怒りを露わにし、ギンガに襲いかかってきた。

 

「くっ……」

 

「大丈夫、下がっていて」

 

応戦しようと剣を構えるソーマを制し、ギンガは地面を踏み込み……一瞬でウェンディの前に出た。

 

「なっ……ぶはっ!?」

 

ウェンディは驚く間も無くギンガの膝蹴りが腹部を強打し、軸足のローラーブーツが逆回転。 火花を散らしながら急速にバックし……

 

「はああっ!!」

 

「うあっ!」

 

振り向き間際にノーヴェに回し蹴りを喰らわせた。

 

「貴様……!」

 

チンクは無数のナイフを投げ……爆発させた。

 

「ギンガさん!」

 

「………………………」

 

ソーマは身を案じて叫ぶが、煙が晴れると……そこには無傷のギンガが立っていた。 チンクはその事に驚愕を露わにする。

 

「何っ……!?」

 

「IS……ヴォイドシェル。 身体中の表面に真空領域を薄い膜のように展開するインヒューレントスキル。 それにより外からの衝撃を通さない防御力、空気摩擦をゼロにする事によって発生する超加速、そして……」

 

両手を目の前で広げ……空気を握りつぶすように音を立てながら勢いよく閉じ、拳を握った。

 

「壊れない拳が得られる! ま、スバルのと違って派手じゃないけど……ね!」

 

チンクに狙いをつけ……一瞬で移動して拳を放った。 が、同じように瞬時に現れたウルクの盾に防がれ、衝撃が辺りに響いた。

 

「っ……確かにそのようですね」

 

「……せい」

 

横からファウレが胴体を刈り取ろうとするが……ギンガを覆う膜によって寸前の所で止められてしまう。

 

「……硬いってもんじゃない。 衝撃が吸収されてる?」

 

「……はあああああ……」

 

するとギンガは屈みながら身をひねり、呼吸とともに魔力を練り上げ……

 

「はあああっ!!」

 

一気に解放、その場で跳躍しながら回し蹴りを放ち。 ウルクとファウレを吹き飛ばした。

 

「……厄介な」

 

「ーーギン姉!」

 

「! 潮時ですか……」

 

ウルクは現れたギンガを一瞥し、腕を横に振り払うと……自身とファウレ、そして戦闘機人3名の足元に不可思議な魔法陣らしきものが展開された。

 

「あ……!」

 

「此度は戦えた事、そしてあなたが前に進めた事を喜ぶとします。 ですが、決して安心しないよう」

 

「……すでに鏡界は始まっている」

 

「な、何を……」

 

質問する暇もなく、彼女らは転移していった。 それと同時に糸が切れたのか、ギンガが倒れ込んだ。

 

「っ……」

 

「ギンガさん!?」

 

「ギン姉!?」

 

2人は慌てて近寄り、ギンガを起こすと……左腕と右足の一部分の皮膚が裂け、そこから破損した機械のようなものが出ていた。

 

「腕が……!」

 

「ギン姉、大丈夫!?」

 

「大丈夫大丈夫。 袋叩きにされてからISを使ったから身体に限界が来ちゃっただけよ。 これ使うと息するのが辛い上に身体への負荷が大きいのが欠点ね。 それにブリッツキャリバーもごめんね、こんな持ち主で」

 

《そんなことはありません。 あなたは私にとって誇れるバディです》

 

「ありがと……」

 

ギンガは残っている右手でローラブーツにあるブリッツキャリバーのコアを取り、お礼を言いながら胸に当てた。 と、ちょうどその時。 向かい側の通路からレンヤとなのは、ティアナが到着し。 3人はレンヤ達に連れられて地上に向かった。

 

 



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171話

 

 

同日ーー

 

六課の外でアリシアとサーシャが交戦する中……隊舎内に侵入し、荒らし回っているガジェットを避難誘導をしながら美由希が潰し回っていた。

 

「くっ……木偶が多い事で」

 

非戦闘員の中で唯一逃げ遅れたアイナ、ヴィヴィオ、イット、ファリン、ルーチェを背にし、美由希は小太刀のソウルデヴァイスをガジェットに向かって構える。 ファリンもアイナ達を守ろうと式神を並べて盾にしていた。

 

「きゃあ!」

 

「ーー冥府起(はっくつ)!!」

 

すぐ側の壁が爆発し、ガジェットがヴィヴィオ達に襲いかかった。 すぐにファリンが対応し、床から式神を掘り起こすようにして飛び出させて破壊。 舞い上がった炎はルーチェが食べて消化した。

 

「キュイー♪」

 

「ルーチェすごーい!」

 

「竜って炎が主食なのね……」

 

「大丈夫みたいね……さて。 私にはAMFは関係ないとはいえ……この数を抑えるのは中々堪えるわね……」

 

「お、俺も戦います……!」

 

「こ、こら。 下がってなさい」

 

「無茶ですフよ……」

 

イットが太刀を手に取り前に出ようとしたが、ファリンとビエンフーが慌てて抑える。

 

「下がってなさい! イットには手が余るわ!」

 

「で、ですが……鬼の力を使えば……」

 

「レンヤはそのためにあなたに太刀を持たせ続けたんじゃないのよ!!」

 

「っ!」

 

一体が美由希の防衛線を突破し、ファリン達に向かって突進していく。

 

「しまっーー」

 

助けに行こうにもガジェットのコードが小太刀に絡みついて動けず。 応戦しようとファリンが式神を構えた時……横から魔力弾が飛来、ガジェットを射抜き破壊された。

 

「美由希さん! 大丈夫か!?」

 

「ヴァイス!? どうしてここに……」

 

「六課が襲われったって聞いて、全速力で飛んで来たのさ!」

 

《それでガジェットに撃墜されて隊舎に突っ込みました。 これで2度目ですね》

 

「うっせえ!」

 

そうストームレイダーに指摘され、ヴァイスは魔力弾を撃ちながら否定する。

 

無駄口を叩きながらもヴァイスの射撃は正確にガジェットを誘導し、どんどん一カ所に集めて行き……

 

「今だ!」

 

「ーー荒海(あらがみ)……大蛟(みずち)!!」

 

美由希が無納刀の居合いで小太刀を振り抜いて水の斬撃が放ち。 水の斬撃は同じ大きさのまま枝分かれしガジェットの集団を斬り裂いて一蹴した。

 

「皆!」

 

「シャマルさん!」

 

「リンスさんも無事で良かった!」

 

「心配をかけたな。 他のスタッフは避難が完了した。 来い、ザフィーラが脱出路を確保した」

 

「了解……ヴァイス! 撤退するよ!」

 

「応っ! アイナさん、立てるか?」

 

「は、はい」

 

「ヴィヴィオちゃん、イット君も大丈夫?」

 

「うん!」

 

「大丈夫です」

 

「……! 待って!」

 

撤退しようとしたその時……ファリンが手を横に広げて止めさせた。 すると奥の通路から誰かが歩いて来た。 現れたのは長い水色の髪をした少女……

 

「子ども……!?」

 

「あの子は……」

 

「! クレフ・クロニクル……!」

 

クレフは美由希達を視認すると、無表情でゆっくりとそちらに向かって歩き始めた。

 

「逃げるでフー!」

 

「逃げるが勝ちだね!」

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「ーーレッツ、爆駆走(すべりだい)!」

 

「キュイー!」

 

ファリンはアイナとイットとヴィヴィオを引き寄せ、式神を大きくしてボードのようにして乗り……その場から離脱、シャマルとルーチェも後に続いた。

 

「ヴァイス、私が前衛で突撃する。 援護をお願い!」

 

「あ、ああ……」

 

「シャマルさんとリンスさんはヴィヴィオ達をお願い。 この六課の中で1番狙われているのはあの2人だから」

 

「ええ、分かってるわ」

 

「そちらも気をつけろ。 ヴァイスも………ヴァイス?」

 

「! だ、大丈夫です……少し魔力の消費し過ぎただけです。 いやぁ……こういう時にスタミナがないってキツイっスねぇ」

 

リンスはヴァイスの顔色が少し気になり、声をかけるとヴァイスは苦笑いでヒラヒラと手を振った。

 

「……手が震えているぞ」

 

「っ!」

 

ヴァイスはリンスに指摘され、慌てて利き手である右手を左手で抑える。

 

「やはり、脳裏にあの時の場面が蘇ったか。 私はここに残って美由希の援護に回る、ヴァイスは先に退避していろ」

 

「で、ですが……」

 

「引き金を引けない状態で、一体何ができる? 大方、あの娘が妹と重なったのだろう」

 

「それは……」

 

図星なのか、ヴァイスは何も言えず俯いてしまう。 リンスはそんな彼の肩に手を置いた。

 

「責めはしない。 私はお前の代役をしただけだ。 ヴァイスは私の代役……ヴィヴィオ達を頼む」

 

そのまま肩を引いてヴァイスを半転させて背中を押し出し、リンスは美由希の元に向かった。 ヴァイスはここにいては足手まといになると自分に言い聞かせ走り出そうとするが……すぐに足を止めた。

 

(……おいおい、違うだろ。 俺はまた……大事な所で引き金を他人に任せて、後ろで縮こまって成功を祈っているだけか?)

 

「……? ヴァイス?」

 

「ーー違うだろ。 あれからずっと逃げてばっかで……ここまで来て尻尾巻いて逃げんなんて……そんなの、ただのチキン野郎じゃねえかぁ!!」

 

ヴァイスは力の限り天に向かって吠えた。 その時……突如ヴァイスの左胸が輝きだした。

 

「これは……!」

 

「その光は……まさか!」

 

美由希は驚きの表情をしながら光の正体を察し、ヴァイスは無意識に正面に手を伸ばし……

 

「ーー撃ち抜け……ストライクレーブ!!」

 

光が形を持ち出し、その手に掴んだのは……両側の節が刃のように鋭く、弦がほのかに光っている弓だった。

 

「こいつは……」

 

「弓のソウルデヴァイス……まさかヴァイスが適格者だったなんて!」

 

「適格者……? 俺が……嘘だろ……? っていか何で弓!? 使い方は分かるちゃあ分かるが……」

 

「………………………(スッ)」

 

「ピィイイッ!!」

 

「あ……」

 

クレフは美由希達に向かって手をかざし、クローネがそれに応じていくつもの刃のように鋭い羽を飛ばしてきた。

 

「っ!」

 

ヴァイスが慣れたように弓に3本の魔力で構築された矢をつがえ、射る。 3本の矢は複雑な軌道を描き、全ての羽を撃ち落とした。

 

「……新たな……適格者………」

 

クレフはヴァイスの手にある弓を一瞥し、左腕の緑色のガントレットにカードを差し入れた。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット……チャージオン」

 

ガントレットを起動し、両者は同時に駆け出し……そのフロアから轟音が鳴り響いた。

 

「……ふふ……頑張ってくださいね」

 

「………………………」

 

クレフと美由希達が交戦する中、影から2人の人物が……ザフィーラの確保した避難路に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ!! ふう……まったく手こずらせて」

 

息を上げ、汗を拭いならアリシアの背後でガイアが崩壊する中。 サーシャが戦闘機人2名を制圧していた。

 

「さて、あなた達も頑張ったけど……まだまだ経験が足りなかったようだね?」

 

「はい。 力を使っているだけで、応用などもなく。 使いこなせてなかったです。 神話級グリムグリードも対処すれば勝てない敵ではなかったです」

 

サーシャがオットーとディードを無力化し、アリシアが倒れている2人に話しかける。

 

「……いえ、私達の任務は達成できています」

 

「今さら負け惜しみ?」

 

「あなたの足止め…それが僕達の任務」

 

「足止め?」

 

「! まさか……シャマル!ザフィーラ!」

 

アリシアは通信を試みるが……応答は返ってこなかった。

 

「まさか……お2人が……!?」

 

すると、突然隊舎の一角が爆発。 爆炎が舞う中、色褪せた黄土色のローブの男……黄金のマハがイットとヴィヴィオを抱えており、もう1人の肩に白い隼をのせた水色髪の少女がガジェットII型に乗って離陸していた。

 

「ああ……!」

 

「ヴィヴィオ!!」

 

アリシアがすぐに救助に向かおうとすると……それよりも先に救援に来たエリオがストラーダのツヴァイフォルムで突っ込んでいった。

 

「規定する。 天()く地母。 巨槍にて隆起せよ」

 

振り返らず、マハが詠唱により海から巨大な黄金の槍が高速でせり上がり、それが壁となりエリオの進行は阻まれた。

 

「っ……まだだ!」

 

「千の鎗にて射撃せよ」

 

「な……!?」

 

間髪入れずマハが巨大な槍の表面から無数の鎗を生成……一斉に発射され、エリオは防御しながらも撃墜された。

 

「エリオ君っ!!」

 

「人の心配をする暇があるかしら?」

 

「え……うっ!?」

 

「グオオ……!」

 

いつの間にかキャロの背後に淡い金髪の女性……シャラン・エクセが立っており、女性は指を鳴らしてキャロとフリードを纏めて拘束。 海に落とされてしまった。

 

「エリオ、キャロ!!」

 

「上手くいったようですね」

 

「あなた達……!!」

 

バリアジャケットを着ているので大怪我はしていないと思うが……かなりの高さから落下したため安心は出来ず。 サーシャはオットーとディードを睨みつける。

 

「ーーアリシアちゃん、サーシャ!」

 

「皆、無事か!?」

 

その時、隊舎から美由希とリンス、ヴァイスと片腕がないファリンが出てきた。

 

「リンス! エリオとキャロをお願い!」

 

「わかった!」

 

「何があったのですか?」

 

「済まねえ、伏兵が潜んでいて……シャマルさんとザフィーラが……!」

 

「見つけた! あんたよくも不意打ちしてくれたわね! ヴィヴィオちゃんを返してもらいます!!」

 

「片腕がもげているのに痛みすらみせないとはね……戦闘機人以上に機械みたいね」

 

「うるさいです! ヴィヴィオとイットを返してもらいます、ビエンフー!」

 

「で、でもその体では……」

 

「いいからやる!」

 

「は、はいでフー!」

 

ファリンが何かをしようとした時……突然拘束されていた戦闘機人2名が闇に覆われ始めた。

 

「なっ!」

 

驚愕する中、闇が晴れるとそこには誰もいなかった。

 

「この子達は返してもらうわね」

 

「っ……いい加減に好き勝手は……!」

 

「ーー今、ここで戦うつもりはない」

 

アリシアが飛び立とうすると……突如男性の声とともに背後からアリシアの肩の上、顔の横に大剣が出てきて止められた。

 

「白銀の……アルマデス……!」

 

「俺たちと剣を交わすより、大事な事があるのではないか?」

 

「………それでも!」

 

アリシアは振り返り側に小太刀を抜刀し、アルマデスに斬りかかった。 アルマデスは瞬時に大剣を戻し、剣の腹で受け止める。

 

「美由希、サーシャ、ヴァイス! シャマルとザフィーラ、そしてロングアーチの救助を!」

 

「分かったわ!」

 

「は、はい!」

 

「了解です!」

 

両者が鍔迫り合いをしながら場所を遠くに移す中、アリシアからの指示で美由希とサーシャとヴァイスは急いで隊舎に向かい、その隙に拘束が緩んだため戦闘機人2名は自分で拘束を解いて逃走する。

 

「ーー逃がすかー!!」

 

《Ability Card、Set》

 

その時、埠頭にルーテシアとダークオン・ヴォイドガリューが立っており。 魔力を上げながらシャランとマハを睨みつけていた。

 

「別行動で行こうとした矢先……よくもエリオとキャロを落としてくれたわね! 千倍にして返してやる!!」

 

(グッ……)

 

エリオとキャロを落とされたのが頭にきているようで、ガリューも同じ気持ちで腰を下げ構えを取る。 そしてルーテシアは左腕の紫色のガントレットにカードを差し入れる。

 

「アビリティー発動! ブラックスター!」

 

ガントレットの画面が紫色に輝き、ガリューの両手に巨大な紫色の魔力で構成された十字形の投剣……手裏剣が展開された。

 

「イットとヴィヴィを返してもらうわよ!」

 

その言葉と同時にガリューは手裏剣を投げた。 手裏剣は投擲されると同時に闇夜に消え、飛来する音も立てずガジェットII型に向かって行く。

 

「無駄よ」

 

しかし、シャランが大き目の球状の闇の魔乖咒を放ち。 それが2つの手裏剣を覆うと……手裏剣は風船のように膨らみ、崩壊した。

 

「な……!? 手裏剣の魔力を増幅、飽和させて自壊させた!?」

 

「闇の魔乖咒の真骨頂は回復や蘇生だけど、こんな事も出来るのよ。 それじゃあお嬢ちゃん……バーイバイ♪」

 

「! 待て!」

 

シャランは手を横に振り抜き、そこから闇の霧が発生。 ルーテシアはすぐにガリューの肩の上に乗り彼女らに向かって飛んだ。

 

「ヴィヴィーー!」

 

闇に突っ込んだが……ガリューの手は空を切るばかりで。 闇が晴れると……そこには誰も、何もなかった。

 

「〜〜〜〜!! クソっ!!」

 

ルーテシアは胸の中が怒りでいっぱいになり、上を向いて叫んだ。 そしてどうやら、シャランも含め戦闘機人も引いたらしいが……余計な置き土産を残したようだった。 それは六課の施設殲滅を狙ったガジェット、起爆を待ちながらそこらかしこにいる。

 

「ルーテシア!」

 

「あ……アリシアさん! アルマデスは!?」

 

「……ダメージは負わせたけど、隙を突かれて逃げられた」

 

アリシアは悔しそうな表情をするが……個人の気持ちを優先さている暇はなかった。

 

「そういえばフェイトは? 一緒じゃなかったの?」

 

「フェイトさんはここに来る途中、ママとクイントさんが交戦していた戦闘機人2人を相手にして私達を先に行かせたの。 ママ達も一緒だから大丈夫だとは思うけど……」

 

「……そう」

 

アリシアはフェイトの事が心配になるが、すぐに気持ちを切り替えてロングアーチに連絡を取った。

 

「グリフィス! 聞こえてる!?」

 

『……はい……なんとか。 すみません…イットとヴィヴィオが連れて行かれて……』

 

「……いや、これは私の責任だよ……それより今は避難状況を教えて」

 

『はい、バックヤードの人間は全員シェルターに避難できています。 しかし、私達ロングアーチはまだです。 負傷している人間ばかりで避難は少し難しいです』

 

「一つ一つ落としている時間もないし……かと言って殲滅魔法を使えば皆に被害が行くし……」

 

「ここはサーシャとヴァイスを待とう。先ずはリンス達と合流するよ……状況を確かめないと……!」

 

「……はい!」

 

 

 

リンスとファリンは海に撃墜されたエリオ、キャロとフリードを助け出していた。 現在2人はファリンの式神の上に横たわり、リンスが診察している。

 

「……キャロは軽症だが、エリオはマズイな。 今すぐ治療しないと……!」

 

「キュイー……」

 

リンスはすぐさまエリオの上着を脱がせ、治療を開始した。 その隣ではルーチェが心配そうな顔をしてキャロを見ていた。

 

「う、ううん……」

 

「キュ!」

 

「あ、キャロちゃん」

 

「目が覚めたでフー」

 

キャロは目を覚ましたが……燃える六課を目の当たりにして目を見開いた。 その時、機動六課爆破が全体に放送され……キャロは俯いてしまう。

 

「! な、なんで……こんな……」

 

「キュキュイー!」

 

「む……キャロ、気が付いたか……」

 

治療をしていたリンスがキャロの方を見ると、彼女の下に大きな魔法陣が展開されていた。 その両頰には涙が伝っており……キャロの足元に巨大な四角い召喚陣が展開された。

 

「これは……!」

 

「ーー竜騎……召喚……ヴォルテール!」

 

背後にさらに巨大な魔法陣が展開、泣き叫ぶようにキャロが召喚したのは……体長15メートルにもおよぶ希少古代種『真竜』、ヴォルテールだった。

 

「キュイーー!?」

 

「私達の居場所を……壊さないで!」

 

悲痛な叫びに呼応するかのように、古の竜はその一撃で上空のガジェットを一掃した。 しかし、これだけでは終わらなかった。 ヴォルテールは暴走し、海に向かって無差別に砲撃を撃ち続けた。

 

「キャロ! キャロ!」

 

ファリンは式神で風圧を防ぎながらキャロに呼びかける。

 

「ファリン……さん?」

 

「よかった、正気に戻って……」

 

ファリンはホッと一安心する。 と、ちょうどそこにアリシアとルーテシアがやってきた。 ルーテシアはキャロを視界に入れると……無事を確かめるように猛スピードで抱きしめた。

 

「キャロ〜!」

 

「わっ!? ル、ルーテシアちゃん……苦しいよ〜……」

 

「キャロ、キャロがヴォルテールを召喚してくれたおかげで六課の安全は確保された、ありがとと言いたいけど……」

 

アリシアはチラリと横を見る。 そこにはヴォルテールがいるのだが……怪獣映画よろしく口からの砲撃を撃っている。 幸いなのが砲撃が市街地ではなく海を荒らしているくらいだが、いつ市街地に撃ってもおかしくない状況だ。

 

「キャロちゃん、止められる?」

 

「あ、はい。 今すぐに…………ダ、ダメです。私が感情のままに呼んでしまったから暴れています。 ある程度魔力を使うか、気絶させないと……」

 

「ふ〜ん、気絶ってどうさせるの?」

 

「高魔力の一撃……とにかく強力な一撃ならあるいは来ると思います。でも、ファリンさんがどうしてそんな事を?」

 

キャロは疑問に思うが、答える前にファリンとビエンフーはヴォルテールの方を向いた。

 

「ビエンフー! 今度こそやるよ!」

 

「はいでフー!」

 

2人は互いに頷きあうとファリンは式神を取り出し、ビエンフーは式神に魔力を込め始めた。

 

「伸びろ〜、伸びろー!」

 

そしてファリンは片腕で式神を掲げると……式神は天高く、グングンと一気に雲の上まで伸び……

 

「ーー光翼天翔くん!」

 

ファリンはそのまま勢いをつけて式神をヴォルテールの脳天に振り下ろし、強烈な一撃を与えた。

 

グオオオオ………

 

これでどうにか意識が朦朧、気絶したらしく。 ヴォルテールは弱々しい咆哮を上げながら元の場所に転送されて行った。

 

「ふう、お疲れビエンフー」

 

「お疲れ様でフー」

 

2人は勝利を喜び合うようにハイタッチした。

 

「す、凄いですね。 ファリンさん、魔導師だったのですか?」

 

「ん〜、厳密には違うけど。 だいたいビエンフーのおかげだよ」

 

「僕はこれでもAランクでフからね」

 

何のAランクかはキャロは分からなかったが……とにかくすごい事だけは理解した。

 

「キュイー!」

 

「あ、ルーチェ。 ごめんね、心配かけちゃって」

 

「ーー皆!」

 

と、そこに六課の炎を水飛沫を上げながら斬り裂き、そこから美由希達が歩いてきた。 美由希の先導の元ボロボロのシャマルがサーシャの肩を貸りて、傷だらけのザフィーラは重そうに息を上げているヴァイスが抱えていた。

 

「っ!!」

 

「ひどい怪我……」

 

キャロはシャマル達を見て息を呑み、ルーテシアは痛々しくて見てられなかった。 2人はシャマルとザフィーラをファリンの式神の上に横たわらせ、アリシアも補助として協力しすぐにリンスが治療を始めた。

 

「シャマルまで……これ以上は私の手に負えない。 ヴァイス、六課の地下からピット艦を出してこい、全員病院に搬送する!」

 

「了解です!」

 

「私も行く! ガリュー、瓦礫をどかして!」

 

(コクン)

 

ヴァイス、ルーテシアとガリューは地下に停めてあるピット艦を取りに向かった。 その後、地上本部はどうにか立て直し。 本部を襲撃したアンノウンを取り逃がしつつも残存ガジェットを撃退、事態が収拾しつつある中……地上本部にジェイル・スカリエッティから声明が出された。

 

 



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172話

 

 

9月13日ーー

 

地上本部襲撃から翌日……

 

「……見る影もないな……」

 

「そうだね……」

 

現在、なのはと共に他の隊員に指示を出しながら崩壊した六課の状況を確認し回っていた。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

お互い一言も喋らず黙々と仕事を続ける。 俺自身も声をかけたいが……今それをしたら簡単に崩れて壊れてしまいそうで怖かった。

 

『レンヤさん』

 

と、そこでソーマから念話が届いた。 同様になのはも恐らくティアナからの念話を受け取っていた。

 

『ソーマか……何かあったのか?』

 

『シグナム副隊長が現場を変わってくれまして。 僕とティアは病院の方に顔を出してきます』

 

『分かった。 フェイトもそっちに向かっている、合流するといい』

 

『はい。 それでは失礼します』

 

念話を切り、ちょうどあっちもティアナとの念話が終わったようで。 そのままなのはと並んですす汚れた廊下を歩く。

 

「あ……」

 

その時、唐突になのはが足を止めた。 その表情は動揺、悲しみ、後悔の色が混ざり合っているように見える。

 

「……っ……!」

 

そこには……汚れ、無残にも破かれて綿が出ているウサギと犬のぬいぐるみがあった。 ヴィヴィオとイットにあげたぬいぐるみ……

 

「うっ……く……」

 

「なのは……」

 

なのはの目に涙が浮かび……たまらず俺の胸に飛び込み、嗚咽を漏らしながら静かに涙を流した。 それを、俺はただただ頭を撫でるしかなかった。

 

ふと、ぬいぐるみが落ちている場所にある壁を見ると……そこには刀傷が途中まであり、その床には隆起したようや跡があった。

 

(イットの太刀に……黄金のマハによる創造魔法)

 

イットの抵抗が、自分の心を締め付ける……この戦いで多くの人が傷ついた。 こうなるとは予想していたのに……地上に戦力を集め過ぎた自分のミスであの子達を……

 

(約束、破ってしまったな……)

 

誓ったのに……イットを守ると、救ってみせると、そう約束したのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後なのはは涙を拭いながら謝り、その後会話もなく別れ。 俺は聖王医療院に向かった。 現在、ここには六課も含めて多数の管理局員が入院しており。 俺はアリサがいる病室に向かい、ノックして中に入った。 そこのベットの上にアリサ、横にアギトがいた。

 

「あら、いらっしゃい」

 

「やっほーアリサ、来たよー」

 

「アリサ、具合はどうだ?」

 

「元々不意を突かれて気絶しただけだから大した事はなかったんだけど……アギトが入れた薬湯のおかげですこぶる調子が良いわ。 いつの間にこんな事が出来るように驚いたわよ」

 

「えへへ……ちょっと興味が出たらのめり込んじまってな。 役に立てたのなら嬉しい事はないぜ」

 

「どうやら隊の中で1番に復帰するのはアリサのようだな」

 

「負傷者の中で1番軽いとはいえ、炎で受けたダメージでいちいち寝てられないわよ」

 

そこでアリサは真剣な表情になり、咳払いして話を変えた。

 

「……なのは達の様子はどう?」

 

「俺も含めて、皆同じだな。 気丈に振る舞っているけど、ヴィヴィオとイットが拐われたんだ、気が気じゃない」

 

そう言いながら静かに首を振った。 俺達は本当なら全てを放っぽり出しても助けに行くべきと思っているが……理性でそれを抑え、それが堂々巡りするばかりだ。

 

「ふう……そういえばアリサはナタラーシャと戦ったそうだな?」

 

「ええ、異編卿とは思わなかったけど、完璧な炎熱のコントロールにしてやられたわ。 初っ端、衝突の余波で魔力炉が一瞬で飛んでしまったのよ」

 

「遅れを取るとは思っていなかったが……予想外の結果だな」

 

「そうだね。 善戦していたとはいえ、ほぼ完敗に近いね。 それに私がヴィヴィオとイットの側に入れば、連れて逃げて入れば……」

 

「ーーストップ。 あの子達については誰の責任でもない。 いや、むしろ俺達全員の責任かもしれない……」

 

結局、誰もが責を負って楽になりたいのかもしれないな……

 

「……すずかは?」

 

「はやてと本局に。 壊れた六課の代わりにアースラを借り隊舎として使わせてもらえるように準備しているよ」

 

「ピット艦だけじゃ小さいからな。 老艦を無理させるのは気が乗らないけど……すぐに動かせるのはアースラしかない。 とことん最後まで付き合ってもらうかな」

 

「ま、落とされないように私達がなんとかするしかないわね」

 

それから2、3必要事項を伝え、病室を後にした。 アリシアは退院準備を手伝うとのことで俺はギンガとエリオの病室に向かった。

 

「あ、レンヤく〜ん」

 

「ん?」

 

この声はファリンさん、後ろから彼女に声をかけられて振り返ると……どこにもファリンさんの姿はなかった。

 

「こっちこっち」

 

「え……」

 

下から声が聞こえて下を向くと……そこにはビエンフーのハットの上に粘土みたいな材質のファリンさん人形がいた。 だがその人形はまるで生きているように動いていた。

 

「ファリン……さん?」

 

「うん、そうだよ」

 

「どうしたんですかそんな小さくなって……」

 

「いや〜、昨日の戦闘でボディにガタが来ちゃってね。 今はすずかちゃんが直しているから、直るまではこのパペットにOSを入れ替えてるわけ」

 

……一体どういう仕組みなのかはあえて聞かないでおこう。 なんか複雑な事情っぽいし。 そしてそのままファリンさんと共に病室に向かう事にした。

 

「入るぞ」

 

「あ、レンヤさん」

 

「お疲れ様です」

 

病室に入るとギンガがベットの上で起き上がっており、隣のベットでは左腕をギプスで固定しているエリオが座っていた。 他のソーマ、ティアナ、スバル、キャロ、サーシャはイスから立ち上がって敬礼した。 美由希姉さんとルーテシアはそのままだったが。

 

「ギンガ、エリオ、具合はどうだ?」

 

「問題ありません。 リンス先生に2、3日でギプスは取れるだろうって言われましたし」

 

「私も全治それくらいですね。 ちょっと神経回路がやられて動かしにくいですけど」

 

そう言いながらギンガは左腕を上下にゆっくり動かす。 その時に微かに駆動音がする。

 

「そうか………ここにいる全員、スバルとギンガの体についてはもうソーマかティアナ辺りから聞いているな?」

 

「はい。 大雑把にですが、ちゃんと」

 

「なら説明はいいだろう」

 

「うわぁ、レンヤも大雑把」

 

美由希姉さんが何かを言っているが、ここはスルーし。 機動六課……延いては地上本部の現状を説明した。

 

「そう、ですか……」

 

「地上本部だけじゃなく、管理局全体にも影響していますね」

 

「それに敵の主力も出てきた事も多かれ少なかれ……」

 

「ーースカリエッティ一味、騎陣隊、異編卿、魔乖咒師集団……どの組織も一筋縄ではいかない。 昨日の戦いは烽火だ……まだ始まったばかりなんだ」

 

「……………………(ゴクリ)」

 

話と空気が変わり、その雰囲気にスバルが息を飲んだ。

 

「で、でもまだ希望はあるわよね。 今回のはたまたま隙を突かれただけだし」

 

(コクン)

 

「それは違うよ、ルーテシア。 最初の地上本部システムの麻痺は手際が良過ぎた。 恐らく内通者がいたとみて間違いないよ」

 

「……そうね。 恐らく上層部の誰かがスカリエッティに情報をリークしたんでしょう」

 

「それについてはゼストさんが手を打った。 今内通者を洗い出している最中だ」

 

主にアイエへリアル設置を強行していた一派だったため、尻尾を掴むのはそう難しくはなかった。

 

「それに今回の一件でスカリエッティ一味も捨て置けなくなったね」

 

「はい。 戦闘機人はもちろんの事ですが、何よりグリムグリードを戦力として使用している事です」

 

「そして贋作とはいえ神話級グリムグリードの登場。 過去に傀儡型のグリードが登場しているから見ても、スカリエッティがお得意の物量作戦で来られたらいくら準備を整えても無理があります」

 

ソーマ達はいつの間にか今後の対策を話し合っていた。

 

「今まではグリードを操れず誘導していてましたけど、どうやらあの黒い装置で完全に操っているようです」

 

「あ、それってアマデウスが持ってたあの黒いの?」

 

「はい、恐らくは」

 

「はあ……結局、私達は敵組織の大きさを把握出来ずどうにかしなくちゃいけないわけね」

 

「どうすればいいのでしょう……」

 

ソーマ達が考え込む中、俺は横からそれを黙って聞いていた。 そして話が止まるのを見計らいってとある事を口にする。

 

「ま、この件でお前達が悩む必要はない。 こういうのは俺達隊員の役目だ。 お前達はさっさと怪我を直すのに専念していろ」

 

「はい……」

 

「まあ、既に敵の本拠地は判明している。 そう急ぐ必要はない」

 

「はい……って、ええ!?」

 

ティアナは生返事からハッとして、驚愕を露わにした。

 

「ルーテシアが戦闘機人の1人にサーチャーを付けたんだ。 そのおかげで判明した」

 

「い、いつの間に……」

 

「ほらいたでしょ? 赤髪を後ろで纏めているボードみたいなのを持った戦闘機人が。 エリオが攻撃する前に背後に寄って付けたのよ」

 

「ああ、あの時か」

 

「場所はミッドチルダ東部、森林地帯の山中だ。 今ヴェロッサ・アコース査察官が確認している所だ」

 

「って事は、反撃のチャンスはあるって事ですね!」

 

「仮にあったとしてもお前達の任務は首都防衛だ」

 

「ですよねぇ……」

 

「あはは……私としては少し安心です……」

 

少しは希望を持てたのか、皆は笑顔を見せた。 その後静かに病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課があんな事になったため、ゲンヤさんに許可を得て陸士108部隊を仮の拠点として活動する事になった。 今、隊長室でははやて達がゲンヤさんとクイントさんから戦闘機人について今までの捜査結果を説明をしている時、俺はここの訓練所に向かっていた。

 

《報告を聞かないのですか?》

 

「はやて達が聞いていればそれでいいだろう。 俺はちょっとでも勝機を見出せるようにしないとな……後もう少しで掴めるんだ」

 

そう言いながら右手を見下ろして見つめ、握りしめる。 と、訓練所に到着すると先客がいた。

 

「あれ、ヴァイス?」

 

「ーーうおっ!? って、なんだレンヤか……」

 

集中していたのか、声をかけるとヴァイスは驚いたように振り向いた。 焦るヴァイスを余所に、その手にある不思議な雰囲気を出す弓に視線を向けた。

 

「そういえば適格者になったんだってな?」

 

「ああ、なんかいきなり出ちまってな。 弓なんてシグナム姐さんとリヴァンのを見た事あるだけで使った事なんてねぇのに、不思議と手に馴染むんだよなぁ」

 

そう言いながらヴァイスはグリップを返して弓の両節にある刃を振り抜く。

 

「だが、使い方が分かるだけで使いこなせてねぇ。 何とか本番までには仕上げねぇと……」

 

「日頃特訓せずにヘリパイロットしてるからいざという時にこうなるんだ」

 

「うっせい」

 

軽く聞き流しながらヴァイスは矢をつがえ、ストームレイダーの補助で2キロ離れた的に狙いをつけ……矢を射た。 矢はギリギリ目視できる速さで飛び、的の中心やや左を射抜いた。

 

《ナイスショット》

 

「ふう……少し固すぎたがようやくここまで来れたか」

 

ヴァイスは息を吐きながらゆっくりと構えを解き、集中が途切れると途端に吹き出た汗を乱暴に拭う。

 

「ソウルデヴァイスとストームレイダーを併用して戦う気か?」

 

「ああ。 試してないがかなりの距離を狙いるらしいからな。 ストームレイダーにはターゲットとの距離と捕捉、照準をサポートしてもらうつもりだ。 そのための装備もすずかさんに頼んである」

 

「そうか……なら、俺も手伝うとしようかな」

 

レゾナンスアークを起動し、バリアジャケットを纏いながら周りに複数の的を模したターゲットが展開される。

 

「今から高速戦闘による近接格闘を仕掛ける。 ヴァイスはそれを避けるなり防ぐなり反撃するなりしつつ周りにあるターゲットを射貫け。 これなら速度に身体が慣れ、同時に目も慣れれば狙撃の命中率も上がる。 一石二鳥だ」

 

「…………いつもなら勘弁してくれ、とでもいうが。 よろしくお願いしようか……!」

 

今度は細心の注意と弱い技の選択、そして自身に課した枷をしながら訓練に挑んだ。 訓練所に剣戟と弦の音が響く中、数十分後……

 

「まさかここまでやるとはね……」

 

「はあはあ……ど、どんなもんだ……」

 

最終的にヴァイスは反撃どころか攻撃を開始し、そして的を落とす命中率が9割を超えてこの訓練を終了した。 それなりに訓練はしているとはいえ、この結果は驚きだ。

 

(これが……適格者として目覚めたヴァイスのポテンシャルか……)

 

「正直驚いたよ。 これなら本番までに仕上げられんじゃないか?」

 

「その本番がいつ来るか分かんねえけどな」

 

「……捜査状況にもよるが、だいたい1週間以下の期間は残されている。 まあ、3日後にしろ明日にしろ。 万全な状態で挑まなくちゃいけない」

 

例え全員が万全な状態でも、奴らに届くかどうか……定かではないが、やるしかない。

 

(それに、おそらく最終決戦の時にはリミッターが外れるだろうし)

 

「ふう……レンヤ、俺は先に上がんぞ」

 

「! ああ、俺はもう少し残ってるよ」

 

「あんまやり過ぎんなよ、明日もよろしくお願いすんだから」

 

「了解」

 

ヴァイスは手をヒラヒラさせながら隊舎に向かった。 気を取り直し、もう少し訓練しよう刀をぬこうとした時……

 

「レンヤ〜!」

 

聞き覚えのある声が訓練所の入り口から聞こえ、振り返ると……そこにはツァリ、ユエ、リヴァン、そしてシェルティスがいた。

 

「ツァリ! それに皆も!」

 

「それはお互いさまだよ」

 

「良かった。 無事とは知っていたけどこうして会えると安心する。 2人は騎陣隊のもう片方と相手したんだろ?」

 

「ああ、いけ好かねえ野郎どもだったが。 かなりの使い手だった」

 

「とても強い2人でした。 こちらが押していたとはいえ、まだ余力を残していました」

 

確かに、ユエの言う通りかもしれない。 フォワード陣の戦闘記録を見ても、騎陣隊の初戦が1番手強かった。 彼らの真骨頂は4人揃ってこそ発揮される。 と、そこまで考え込んでいると、シェルティスが前に出てきた。

 

「久しぶり、元気そうだね」

 

「シェルティス……空域の方はいいのか?」

 

「うん。 父さんとティーダさんがまとめているし、僕1人抜けても特に問題ないよ。 それで僕がここにいるのはある一件の事件がレンヤ達が追っている事件に関連していると思ったからなんだ」

 

「ある事件?」

 

「ーー数日前から突然、ユミィが失踪したんだ」

 

シェルティスから出された言葉に、一瞬驚いてしまう。 だがすぐに勝機に戻り、思考を巡らす。

 

「ユミィが? 一体何で……」

 

「分からない。 昨日の事件前から姿を消していて、それを追っていた矢先にこれだ。 どこか繋がっているように感じてね」

 

「つまり、ユミィが巻き込まれて。 どこかに監禁されていると?」

 

「その可能性も否定できない。 とにかく、僕はユミィを探さなくちゃいけない。 協力してもらえる?」

 

少し不安気味に協力をお願いするシェルティス。 だが、相談するまでもなく俺達の答えは決まっていた。

 

「もちろん!」

 

「言わずもがな、だな」

 

「微力ながら」

 

「ま、仮一つにしてやるよ」

 

「別にリヴァンはやらなくても大丈夫だよ」

 

「んだとテメェ!!」

 

相変わらずだな、この2人は。 だが、これでこそ俺達の友情としての形なんだろうな。

 

「? どうかしたの?」

 

「いいや、何でもない」

 

あの子達を攫われた罪は決して軽くはない。けど、少しだけ……ほんの少しだけ、皆のおかげで救われた気がした。

 



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173話

 

 

9月19日ーー

 

地上本部及び機動六課襲撃から1週間がたった。 傷跡はまだまだ残っているものの、その期間に防衛を最優先して反撃の準備を進めていた。 そして修繕を終えたアースラに本部を移すことで、機動六課現状復帰。 ギンガとブリッツキャリバーも共々完治、そのまま現場復帰した。

 

現在の六課の捜査方針としてはレリックを追う事。 その捜査線上にスカリエッティ、及び他の組織がいた……という、何とも屁理屈極まりない方針だ。 地上の捜査は本局と空域の協力してもらい進めているが、どうも最高評議会の圧力が強く、上手く進んではいない。 そこため、機動六課……及び異界対策課がやるしかないのが現状だ。

 

「全く、面倒で嫌気がするよ」

 

「はあっ!」

 

「やあっ!!」

 

だが、たとえそんなややこしい事になってもやるべき事は変わらない。 襲いかかってきた剣と槍を弾いてそう思った。

 

「ソーマは最も足に剄を! エリオは速度が足りてない、まだまだ上がるはずだぞ!」

 

『はい!』

 

「とりゃあ!」

 

今はスバルの膝蹴りを避けながら指導していた。 子どもの頃よく使っていたアースラの訓練場で、前衛フォワード陣の訓練、最後の仕上げに入っていた。

 

ピーーー!

 

「ここまで。 3人とも、疲れを残さないようにな」

 

『りょ、了解です……』

 

四刀の刀を納め、訓練場を見回しながらそう言った。 さて、これで準備は整った……

 

「そういえばレンヤさん、昨日何かあったのですか? 何かヨレヨレっていうか……動きが悪かったですよ?」

 

「…………調子が、な」

 

「そうですか。 それで話は変わりますけど……今日のアリサさん達、どこか気合いが入っていませんでしたか?」

 

「あ、それ私も思った。 なのはさん達もそこはかとなく肌がツヤツヤしてたよ」

 

「………気にするな」

 

ソーマとスバルが疑問に思い、問いただそうとする。 俺は無言で2人に近付き……肩に手を置いた。

 

「いいか? 世の中には知ってはならないものもあるんだ……覚えておけよ」

 

『は、はい』

 

自分でも我ながらいい笑顔で言った。 それでどうしてか2人は引き下がった。

 

「まあでも……」

 

「?」

 

「自分の心に嘘をつくのはやめて、覚悟を決めた……とだけは言っておくかな?」

 

「は、はあ……」

 

ぶっちゃけ理解しなくてもいいしこれ以上追求して欲しくもないのでこれにてバッサリ話を切った。

 

その後アースラの下部と連結しているピット艦に向かい。 そこの作業場で、アリサとアギト、デバイスなどを調整しているすずかとアリシアがいた。

 

「アリシア、すずか、調子はどうだ?」

 

「私はバリンバリンのフル充電完了だよ!」

 

「すこぶる問題ないよ。 この子達も絶好調」

 

すずかはコンソールを操作しながら、目の前にあるレゾナンスアーク、フレイムアイズ、スノーホワイト、フォーチュンドロップに視線を向け。 デバイス達はそれに返事をするように一瞬光った。

 

「ロッサから連絡は?」

 

「ルーテシアのサーチャーでフェイクのアジトを摑まされて死にかけた以来連絡はないよ」

 

「シャッハとユエがついてるとはいえ、大丈夫かなぁ?」

 

ユエはロッサの護衛として同行、リヴァンは地上本部、ツァリは無限書庫に。 そしてシェルティスはユミィの捜索に当たっている……そろそろ動きいてもおかしくない頃だな。

 

「あの子達も仕上がったようね? これにデバイスのリミッターも完全に解除、総力戦になるわね」

 

「後は俺達とレゾナンスアーク達のリミッターだけだな」

 

次に戦闘になったら両者の総力戦となる。 技と腕が負けているつもりはないが、低スペックのデバイスと限定された魔力ではかなり部が悪い。

 

「……ねえアギト。 前から思ってたんだけどアギトとコルルっていうユニゾンデバイスとはどんな関係なの?」

 

唐突に、アリシアが手を動かしながら目線だけを向けて質問した。 誰もが疑問に思っていた

 

「簡単に言えば同じマイスターから作られた兄妹機だ。 アタシはコルルの後に作られた2号機……3つの魔力変換資質に対応したコンセプトで3号機も開発を予定していたが途中で放棄。 結果、アタシとコルルだけになった。 その後は封印処理されて眠らされ、その後お互いどうなったかは知らねえ。 起きたらアリサのとこに行くまで実験続きだったわけだ」

 

かなり重苦しい過去なのに、アギトは自身とは関係ないようにケラケラと笑いながら語る。

 

「そもそも、純正であるアタシ達は兵器開発のために生まれた。 こうして普通……なのかは分かんねえが。 まあ、今はマシな暮らしをしてるから十分満足してるさ」

 

「アギトちゃん、そんな悲しいことは言わないで……」

 

「あなたはもうアタシの家族、無下には絶対にしたりしない」

 

「……あんがとよ……」

 

アギトはアリサの差し出された手に乗り、肩に乗せられながら照れ臭そうに礼を言う。 その後、俺もデバイスの最終調整を済ました。

 

「あ……そう言えば老師から手紙が届いていたな」

 

今日届いた紙媒体による手紙。 このタイミングで来るとは何とも言えないが……とにかく封を開けて読んでみると……

 

〈激動の時代において、刹那でもあっても闇を晴らす一刀たれ。

草々 ユン・カーファイ〉

 

「………それだけ………?」

 

ペラッペラの紙にたったそれだけ、一文と名前しか書かれていなかった。

 

(とはいえ……まるでどこかで見ているかのようだ。 やっぱり老師には敵わないや。 八葉が一刀……見せるしかないか)

 

「ーーレンヤ! 何してんの!? 早くこっちに来て!」

 

「ああ! 今行く!」

 

気を取り直し、手紙をしまって作業を再開する。 その後、デバイスの調整がひと段落ついた時……突然アースラ内にアラートが鳴り響いて来た。 俺達は互いの顔を見合い、頷き。 すぐさまブリッジに向かった。 到着するとはやて達がディスプレイに向かい合っていた。

 

「はやて、襲撃か?」

 

「そうや。 戦闘機人の集団が地上にある3機のアインへリアルを破壊しにお出ましや」

 

ディスプレイ内では管理局員が制圧され、アインへリアルが攻撃されていた。

 

「……アリサ」

 

「ええ、戦闘機人の動きが格段に良くなっているわ。 どうやら先の戦闘のデータを共有したようね」

 

「他の組織は見当たらないけど……」

 

戦闘機人達が3機のアインヘリアルを完全に破壊、制圧した。 俺はすぐさま地上で警備をしていたゼストさんと連絡を取った。

 

「ゼストさん。 そちらは大丈夫ですか?」

 

『何とかな。 だが戦闘機人は撤退し拡散、置き土産にグリード置いて行った上に魔乖術師が出張ってきた。 悪いが我々はそちらを対処しなくてはいけない』

 

「……分かりました。 こちらは俺達が何とかします。 そちらも、どうかご武運を」

 

『お前達もな!』

 

激励をもらい、ゼストさんは通信を切った。 その間を置かず次はロッサから通信が入ってきた。

 

『レンヤ。 今、大丈夫かい?』

 

「全然大丈夫じゃないけど……見つけたのか?」

 

『うん。 ここに来るまでグリードに襲われまくったから時間がかかったけど……何とか見つけたよ』

 

「私がサーチャーを付けたもの、当然よ」

 

『ああ。 それならすぐにバレて、サーチャーはフェイクのアジトに置いてあったよ。 おかげで死にかけた』

 

「うぐ……」

 

折角の策も逆手に取られ、ルーテシアはぐうの音も出なかった。

 

「話を戻してくれ。 愚痴は終わったら聞いてやる」

 

『それはありがたい。 出来れば君の作ったケーキで茶会でもーー』

 

「早くしろ」

 

『了ー解。 それで地道によくやく見つけて……今はシャッハとユエ君が迎撃に来たガジェットとグリードを叩き潰している。 教会騎士団からも応援を要請しているけど、そちらからも戦力を送れるかい?』

 

『うん。 もちろんやけど……』

 

ロッサの要請に言葉を濁すはやて。 自体は複数同時に動いていて戦力投入も慎重にならなくてはならない。 アインへリアルから撤収した戦闘機人は地上本部に向かっている。

 

『! 星槍のフェロー、及び騎陣隊4名……別ルートから地上本部に向かっています!』

 

「………………」

 

「? アリシアちゃん?」

 

ディスプレイに映し出されたフェローを、アリシア……そしてシグナムは視線を逸らさずジッと見つめている。

 

「! これは……スカリエッティのアジト付近にオーバーSランクの魔力反応を確認!」

 

画面が切り替わり、スカリエッティのアジトの近くの何も更地に……異編卿第一位、白銀のアルマデスが目を閉じ、ポツンと立っていた。 するとゆっくりと開眼、大剣を片手で掲げ……

 

『ーーはあああああっ!!』

 

凄まじい気迫と共に振り下ろした。 大剣は地面を真っ二つに切り裂き、余波で地割れが全体に広がる。

 

そして、全体にミッドチルダ中に流れ出したスカリエッティと通信。 奴は狂ったように管理局と聖王教会を罵倒しながら、アルマデスの手によって割られた大地が隆起し始め、姿を現したのは……

 

「聖王の……ゆりかご……」

 

教団事件の時、魔乖術師集団が持ち去った古代ベルカの戦艦。 それが自身の機関を駆動させて空に向かって飛翔している。 だが、あれを起動させるのには聖王の血族が必要不可欠……今世にそれを持つのは俺と母、そして……ヴィヴィオだけだ。

 

その疑問に答えるように、次に映し出されたのは……聖王のゆりかご、その玉座で拘束されながら座るヴィヴィオの姿だった。 次いでゆりかごのシステムが本格的に駆動。 その意味は……鍵たる主人の生命力を奪うこと。 ヴィヴィオが泣き叫び、父親と母親を悲痛に呼ぶ声が館内を満たす。

 

「………………(ギリッ)」

 

「………あ………ああ………」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ………ヴィヴィオ!」

 

『ここから夢の始まりだ! アハハ……アハハハハハーー』

 

バンッ!!

 

「……………………」

 

アリシアが無言でディスプレイを撃ち抜き、それ以上の耳障りな笑い声を消した。

 

「……行くぞ」

 

「ええ……」

 

俺とアリサ、すずかとアリシアは踵を返してその場から去ろうとする。

 

「ちょっと皆! 悔しくないの! ヴィヴィオがあんな……!」

 

「ーー悔しくないわけないだろ!」

 

怒りのあまり握り拳で壁に向かって振り抜き、ガンッ! という音を立て壁は凹んでしまう。

 

「こんなに怒りが胸の中に満ちるのは初めてだ。 今からスカリエッティの元に向かって八裂きにしたいくらいだ」

 

「レン、君……」

 

「だが聖王のゆりかごとスカリエッティのラボは別の場所。 片方しかいけない……だから別々で任務を行う。 はやて、指示を」

 

「……レンヤ君……うん、了解や!」

 

行こうとしたその時……またミッドチルダ中に映像が流れ出した。 今度は黒い服、黒い帽子を目深くかぶった人物、空白(イグニド)が映し出された。

 

「空白!?」

 

「今度はなんや……」

 

『ーー我々は異編卿。 この度はスカリエッティ氏の計画に便乗し、この場で我々の目的を宣言します』

 

固唾を飲んで次の言葉を待つ。

 

『……我々、異編卿の目的は……魔法文化の破壊』

 

「なっ……!?」

 

ただ聞くだけでは大それた夢見がちな野望だが、相手は異編卿。 大嘘を言うメリットはなく、逆に実行可能と言う可能性も出て来てしまう。

 

『世界は差別に、欺瞞に満ちている。 管理局は安全の為だという口達者な夢見がちな心理を押し付けている。 それが魔力を……リンカーコアを持たない人々が蔑まれ。 仮に持っていたとしても生まれながらの凡才に苦悩する……ならば! それを廃してしまおう! 世界は1度リセットされるべきなのだ!』

 

合うたびに不気味な奴だったが……今はどこか達成感があるのか、興奮の色が見える。 ホアキン並みに酔狂めいた事だが、ティアナは才能という言葉に反応する。

 

「何が押し付けよ。 あんた達も十分押し付けてるじゃない」

 

「でも、分からなくはないよ。 事実、魔力の有無による差別、暴力は存在する」

 

「でも、だからってあいつらの行いを容認するわけにはいかないよ!」

 

「止めよう。 スカリエッティも、異編卿も……必ず止めさせないと!」

 

と、そこで空白は画面から逸れ、こちらを急かすように態とらしくゆっくり横に歩きながら口を開く。

 

『ーーどうやって? という方も多いので方法を教えましょう。 まず、各次元世界に杭を打ち込みました。 それをこのミッドチルダを起点に魔力を破壊する波を連鎖させ全次元世界に流します。 芽の1つも残さず根絶やし、世界は生まれ変わります』

 

これで、空白が各世界に噂として現れているという説明がついた。 だが腑に落ちない部分もある。 奴が最初に現れてからの期間を考えればもっと早く襲撃しても遅くはなかったはずだが……

 

「……不可能ではないよ。 地上本部はミッドチルダの中心。 恐らくこの前の襲撃で最後の杭を打ち込んだんだよ」

 

「ようやく合致したな。 スカリエッティと異編卿の関係……お互いの計画にデメリットはなく、メリットしかないからな」

 

「魔法文化が無くなればガジェット、戦闘機人の有用性は確実なものになる……そういうことか……!」

 

「だから、私とキャロには見向きもしなかったのね……」

 

「! 待って……そんな事をしたら……使い魔であるアルフやリニスが……!」

 

「……例外なく、完全に消滅するわね……」

 

「リーゼ姉妹。 それにもしかしたらシグナム達、ヴォルケンリッターも……」

 

「当然。 アタシ達、ユニゾンデバイスもな……」

 

「そんな……」

 

「鏡界計画……まさかそんな巨大な計画だったとは……!」

 

「………! あれは……!」

 

突然、ディスプレイに映る聖王のゆりかごに変化が現れる。 ゆりかごから前後左右上下に何か丸い物体を合計6つ発射し、それが一定間隔で停止する。

 

次の瞬間、丸い物体が巨大化……6つの球体がゆりかごを囲うように菱形に線を繋げ、結界を張った。 そして今度はゆりかご本体に異変が起きる。 ゆりかごの至る所から瘴気のような黒々しい霧が発生、それが取り憑くように形なしていき……機械と生物が融合したような異形に姿を変えてしまった。

 

「……聖地より彼女の翼、異形となりて蘇る……異形過ぎるだろ」

 

「ザナドゥの全属性の特徴をグチャグチャに混ぜたような姿だね……」

 

少なくとも、どうやらあの場所に神話級グリムグリードはいるようだ。 複製ではなく……真正のが。

 

「どうやらあの球体をどうにかしないとゆりかご本体にはたどり着けないようやな。 地上の方もあるっちゅうのに……」

 

「だから役割を分担するんだ。 要請(オーダー)は3つ。 首都防衛、スカリエッティアジトへの突入、そしてゆりかごだ」

 

「どれも一筋縄ではいかない、覚悟を決める必要がある……これが最終決戦よ。 必ず奴らを打ち倒して」

 

「ヴィヴィオちゃんとイット君を取り戻さないとね」

 

『うん!』

 

 



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174話

 

 

同日ーー

 

無限書庫、ユーノから得られた情報により聖王のゆりかごが極めて危険度の高いロストロギアに認定。 それにより本局次元航行艦隊、空域航空武装隊も対策協力に合意。 陸、海、空の三勢力が事件解決のため動き出した。

 

そして機動六課、フォワード陣はゆりかごの突入に俺、なのは、はやて、アリサとアギト、ヴィータ。 フォローとしてシェルティス。

 

スカリエッティのアジトにはフェイト、すずか。 フォローとしてユエとリヴァン。

 

首都防衛にはソーマ、スバル、ティアナ、サーシャ、エリオ、キャロ、ルーテシア、ギンガ、美由希姉さんに加えてアリシア、シグナム、ヴァイス、リイン、エナの3グループに分かれ、全体の指揮がはやてに変わりツァリという構成で行動を開始した。

 

『第1グループ降下まで、後3分です』

 

「ーーつまり、ゆりかごを2つの月が交差する軌道上に上がらせる前に止めるしかないのか」

 

『うん。 そうなると手の打ちようがないよ』

 

俺は準備運動をしながら無限書庫にいるユーノと通信を取り、ゆりかごの詳細な情報を聞いていた。

 

『停止方法は3つ。 鍵となる聖王が停止を命じるか、動力炉の停止もしくは破壊。 最後は……ゆりかご本体を破壊する事』

 

「1つ目はヴィヴィオが操られている以上不可。 2つ目は可能だが結界やゆりかごの突入を含めると時間がかかる。 3つ目に至っては最終手段だな」

 

『そこは不可能とは言わないんだ……』

 

『相変わらず規格外だな、オメェも』

 

ユーノの手伝いとして無限書庫にいるアルフは、やれやれと首を振りながら肩を竦めた。

 

『そう言えば……ザフィーラは無事か?』

 

「酷い怪我だが、命に別状はない。 今は安静にしているよ」

 

『そっか、良かった……』

 

『アルフ、ここ最近その事で落ち着きがなかったんだよ』

 

『うっせ! オメェはヴィータの心配でもしてろ!』

 

『痛ッ!?』

 

アルフは照れ隠しのようにユーノを足蹴にし、ユーノは無重力状態で落下していった。

 

「…………………」

 

ふと、視界にアースラの倉庫区画で降下準備をしている最中、シェルティスの顔は少し悪そうにしていた。

 

「何か気になることでもあるのか?」

 

「……そうじゃないよ。 ただ、あの空白(イグニド)っていう人物がちょっと……」

 

「空白か……結局何者なんだろうな。 異編卿にしても鏡界計画にしても、不明な点が多過ぎる」

 

《次元世界征服にしても、似合わな過ぎな気もしますね》

 

魔法文化の破壊……管理世界においては大崩壊を招き、例え非管理世界でも魔力素質のある人々が何らかの影響を与えかねない事態になる。 必ず止めなくては。 と、そこでなのはとアリサがやってきた。

 

「なのは、アリサ。 もうフォワード陣の激励は済んだのか?」

 

「うん。 皆、無事に帰って来れるよ」

 

「あの子達はもう翼を持っている。 巣立ちの時よ」

 

「それはそれで少し寂しいけどね」

 

作戦を開始。 フォワード陣を乗せたピット艦がアースラと分離。 それを確認し、はやては俺達一同の方を向いた。

 

「それじゃあ、私達も行こうか!」

 

「ああ!」

 

「了解!」

 

『降下ハッチ、開きます。 どうかご武運を!』

 

アースラの降下ハッチが開き、俺達は迷わず大空に向かって飛び出した。 まるで自身が風になるような気分で落下し、カリムからの通信が入ってくる。

 

『機動六課隊長、副隊長一同。 能力限定完全解除……皆さん、どうか』

 

「しっかりやるよ!」

 

「気合い十分、問題ないよ」

 

「迅速に解決します」

 

「必ず、無事に帰ってくるわ」

 

「お任せください!」

 

「また、皆で茶会を開きましょうね!」

 

「……カリムはどっしり構えていればいい。 ベルカを頼んだぞ」

 

『はい……リミット、リリース!』

 

カリムの認証による機動六課隊長・副隊長のリミッター完全解除。 力が湧き上がるのを感じながら俺達はデバイスを起動し、目的地に向かって飛翔する。

 

「……皆、聞いてくれる?」

 

「すずかちゃん?」

 

移動する中、すずかが顔を少し伏せた後……顔を上げて俺達全員を見据える。

 

「私ももちろんだけど……レンヤ君となのはちゃん、フェイトちゃんとはやてちゃん、アリサちゃんとアリシアちゃん。 皆にはできればリミットブレイクは使って欲しくないけど……相手が相手だし、大惜しみは出来ないと思う。 だから、絶対に無茶だけはしないでね」

 

「ーーそれは無理かもしれないわね。 だってこの中で誰1人として無茶しない人なんていないでしょう」

 

「だね。 いつだって無茶無謀がない事件なんて一度もなかったよ」

 

「確かに皆の事を考えると辞めて欲しいけど……自分自身も出来るかどうかと言われれば……」

 

「最近少なくなってきた気もするけど……振り返ると多い気もするなぁ」

 

「あはは、毎回ギリギリでの勝利だったからねぇ」

 

「もう! 皆して……! 今回ばかりは私は本気で……!」

 

「心配しないくてもいい。 俺達は生き残る、必ずな。 あの子達に帰る居場所を、幸せに生きる未来を作るまでは……この命、散らせはしないさ」

 

誓いを確認するように、胸に手を当てる。 それに見て、なのは達は同意するように頷く。

 

「うん……ヴィヴィオのためにも」

 

「イットのためにも。 私達は勝たなくちゃいけない」

 

「例え……どんなに辛くても、どんなに苦しくても。 どんな結末になっても……必ずあの子達の手を掴まないと」

 

「ーーあ、そうや他にも大事な事があったわ。 これが終わったら正妻決めなぁあかんなぁ」

 

「……そうだね……確かに大事だね」

 

「それは………本当に大事な事なのか?」

 

『大事だよ!』

 

重苦しい空気から一転、自身を取り合う姦しい争いに変わってしまった。 事の発端である俺は、理解はしているが……今更ながらの後悔の念がこみ上げ……

 

「何で毎度毎度……戦いに赴く前に、敵は遠くじゃなくてすぐ側にいるんだよーー!?」

 

雲一つ何もない大空、宇宙に向かって悲痛そうに叫んだ。

 

「何をしてるんだお前達は……」

 

「皆さん、こんな時でも仲良しですぅ」

 

「相変わらずおめえらは緊張感ねぇなあ……」

 

「あ、あはは……ちょっと妬けちゃうな」

 

頭上を飛んでいるシグナム達の会話が聞こえ、恥ずかしくて頰が熱くなるのを振り払う。 と、そこで他の2グループのコースが外れるポイントに差しかかろうとしていた。

 

「……それじゃあ、私達はこれで」

 

「お互い、頑張ろうね」

 

「了解!」

 

フェイトはなのはと、すずかはアリサと拳を合わせ……2人は加速、スカリエッテのアジトに向かった。

 

「では、我らも」

 

「はやてちゃん、ヴィータちゃん、気をつけてくださいね」

 

「おう」

 

「リィンも気ぃつけてな」

 

「きっちり決着をつけるから、皆も負けないでよね?」

 

「ああ。 もう、負けやしないさ。 奴らを倒すまで……絶対に倒れない」

 

「うん!」

 

アリシア達は直進コースを外れ、地上本部に向かった。

 

「ーー見えてきたわね」

 

ゆりかごと、点にしか見えないが大量のガジェットとグリードを視界に捉えた。

 

「これは……」

 

そこは、既に戦場だった。 既に、航空武装隊がガジェットと飛行型のグリードと交戦に入っていた。

 

俺達、ゆりかご突入部隊は他の航空魔導師隊と合流、協力してガジェットを撃破しながらゆりかごへの突破口を開こうとする。

 

「ーーアリシアによればあの球体の内部には異界が存在しているらしく、俺達は各自異界に突入。 異界を攻略してゆりかごを覆う結界を破壊する」

 

「了解だよ」

 

「でもそうなると外の指揮が足りなくなるなぁ……そこはどうする気や?」

 

「そこはティーダさんに頼もうと思う。 あの人なら単独での戦闘力は申し分ないし、指揮も問題ないはずだ」

 

ガジェットを撃ち、グリードを切り裂いているティーダさんを見つけ、念話を飛ばした。

『ティーダさん!』

 

『! 来たか……要請は聞いている、外は俺に任せて本丸を叩いて来い!』

 

『了解!』

 

意識をなのは達に向け、号令をかける。

 

「機動六課! これよりそれぞれが球体内部の異界に進入、結界を解除する。 皆、必ず生きて戻ってこよう!」

 

『おおっ!!』

 

一斉に、自分が向かうべき目標に砲撃を放ち、ガジェットとグリードを撃ち落として道を作る。 俺は上方、なのはは前方、ヴィータは右方、はやては左方、アリサは後方、シェルティスは下方の球体に向かい、空いていた穴に向かって突入した。

 

 

 

「っ……! これは………」

 

球体内部に入った途端、ゲートを潜るような感覚に陥り……いつの間にか異界に入っていた。 そして眼前に広がる異界迷宮は空の下、雲の上に作られた石橋の一本道。 ただし、夥しい程の怪異で道は埋め尽くされており、さらに数十キロ先には巨大な石舞台が見える。

 

《どうやらあの球体の内部自体が異界で構成されていたようです》

 

「球体がゲートの役割を果たしいたって事か。 しかし……」

 

後ろを振り返ると……そこには出口たるゲートがなかった。 一方通行、この異界迷宮を攻略するまでは帰れないというわけか。

 

「行きはよいよい、帰りはこわい、か……言い得て妙だな」

 

《どう見ても行きもこわいと思いますが?》

 

「だよな。 恐らく他の場所もこんな感じだろ……急ごう」

 

長刀と3本の短刀を抜刀し、怪異の軍団に向かって走り出した。

 

 



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175話

 

 

数分前ーー

 

フォワード陣を乗せたピット艦は他の地域のグリードを制圧するのに使われる事になり、リンスを残してフォワード陣はヘリに乗り換え。 目的地に向かって飛んでいたが……現在、ヘリはガジェットに追われていた。

 

「っ……! ちょっとヴァイス! もう超過禁止速度超えてるでしょ!? ヘリが軋んでるわよ!!」

 

「いいから捕まってろ! 舌噛むぞ!」

 

「うわああっ!?」

 

ルーテシアの注意も聞き流し、ヴァイスは操縦桿を切って巧みにヘリを操り。 廃棄ビルの合間を縫って飛行し……ガジェットを振り切った。

 

「ーーよし、振り切った!」

 

「流石にヴァイス陸曹! やる時はやるねぇ!!」

 

「褒められてる気はしねぇが、あんがとよ!」

 

「降下ポイントだよ。 準備はいい?」

 

『おおっ!!』

 

「後の操縦は任せたぞ、アルト!」

 

「はい! お任せください!」

 

ヴァイスは操縦をアルトと変わり、ティアナが指揮を執って確認を取ろうとする。

 

「ーー要請(オーダー)を確認するわよ。 私達は旧市街地にて異編卿、魔乖術師、戦闘機人、召喚士その他諸々を含めた敵勢力を撃退、他の部隊の援護に回ること」

 

「他の魔導師部隊のほとんどがAMF下での戦闘経験はなし。 それに加えて不確定要素の多い敵と戦わせるのにも無理がある」

 

「だから私達が先陣を切り、敵戦力を削ります。 残りは迎撃ラインが止める算段です」

 

このラインを突破されれば市民への被害は甚大なものとなる。 失敗は許されない作戦だ。

 

「重要な役割だね……絶対に負けられない。 ルーチェのお母さんを……ククちゃんを取り戻す為にも……!」

 

「キュクルー!」

 

「ええ。 必ず、奴らの手から救い出しましょう」

 

(コクン)

 

「でも……でも、チョットだけ、エースの気分になりますね」

 

何気なくエリオが言った事に、全員一瞬ポカーンとなるが……直ぐに笑顔になり、ヴァイスはエリオの頭を乱雑に撫でる。

 

「うわっ!?」

 

「たっく、こんな時にそんな軽口言うとは。 お前らもレンヤ達に似てきたな」

 

「ふふ、そうね。 緊張感の無さがそっくり」

 

緊迫した空気に柔らかな風が吹いた。 そしてソーマ達は気を新たにして直ぐに顔を引き締める。

 

「しかし、我々の役割は重要だ。 この迎撃ラインを突破されれば市街地、地上本部はすぐ目の前だ」

 

「……絶対にストップさせないとね……」

 

「はい!」

 

「それじゃあ、機動六課……行くわよ!」

 

『おおっ!!!』

 

ティアナの号令を応え。 直ぐにハッチが開き、全員躊躇なくヘリから飛び降りた。

 

空中でフリードとガリューがポップアウト。 エリオとキャロはフリードの背に、ルーテシアはガリューの肩に乗り。 残りはそのまま地上の廃棄高速道路に着陸、敵勢力の進行方向に向かって走り出した。

 

しばらくして。 進行方向にあるビル、その屋上に長い水色髪の少女……クレフ・クロニクルが立っていた。

 

「! あれは……」

 

「ククちゃん!」

 

全員が彼女を視界に捉え、警戒を強める中……突然、クレフは明後日の方向を指差した。 指差した方向には……アルトが乗るヘリがあった。

 

「! フリード!」

 

「ちょ、キャロ!?」

 

「キャロ! 待ちなさい!」

 

キャロはアルトを助けようと前に出てしまう。 ルーテシアは独断先行するキャロを追いかける。

 

「予定変更、あっちから捕まえるわよ!」

 

「うん!」

 

「その方が良さそうね」

 

「了解! ウイングーー」

 

スバルがウイングロードを発動しようとした時……突然、緑色の砲撃が飛来。 全員咄嗟に避けるが、スバルとギンガは同位置、美由希とヴァイスは高架下、ソーマとティアナとサーシャは近くのビルに飛び乗り。 戦力が分散されてしまった。

 

「敵襲!?」

 

「分断された。 っ! ティアナ、後ろ!」

 

背後から長い茶髪の戦闘機人……ディードが奇襲。 ソーマがティアナを押し出し、迫ってきた赤い刃を復元した錬金鋼(ダイト)で防いだ。

 

「ソーマ!」

 

「余所見をしている暇がありますか?」

 

「っ!?」

 

背後に流動のウルクが現れ、盾を薙ぎ払ってきた。 ティアナは咄嗟にクロスミラージュをダガーモードにして受け止める。

 

「騎陣隊……!」

 

「ふっ!」

 

「きゃあ!?」

 

「ティア!!」

 

盾が回転しダガーが弾かれ、一周して振られた盾がティアナに衝突。 反対側のビルに吹き飛ばされてしまった。

 

「ティア!?」

 

「あなたも余所見をしないことです!」

 

「っ……はあっ!!」

 

「ソーマ君! ……っ!」

 

咄嗟にその場で回転、輪刀で背後から迫った斬撃を弾いた。

 

「破滅のゼファー……!」

 

「あんたの相手は俺だ」

 

「退いてください!」

 

隣の廃ビルに吹き飛ばされたティアナをソーマが助けに行き、それをウルクとディードが追いかけ中……屋上ではサーシャとゼファーが交戦を開始した。

 

 

 

高速道上では、小柄な銀髪の戦闘機人……チンクと赤髪のスバル似の戦闘機人……ノーヴェがナカジマ姉妹の前に立ち塞がった。

 

「ギン姉」

 

「ええ。 やるしかないわね」

 

「今度こそ木っ端にしてやるよ」

 

「この前の仮、返させてもらおう」

 

「あら、逆恨みは良くないわよ?」

 

「ーーエリアルキャノン!」

 

砲撃が放たれが……猛スピードでバイクに乗ってきたエナが前輪のブレーキを掛け、バイクを持ち上げて後輪ではじき返した。

 

「ギリギリセーフだな!」

 

「ありがとう、エナ!」

 

「へっ、整備されてないロードを走るのは久しぶりだが……燃えてきだぜええっ!!」

 

アクセルを捻り轟音たてながらエンジンをふかし、エナは燃え滾る目でチンクとノーヴェを睨んだ。

 

「こうなりましたか」

 

「! 円環の、ラドム」

 

ノーヴェのいる側から歩いて来たのは……騎陣隊筆頭隊士、円環のラドムだった。

 

「騎陣隊・筆頭隊士、円環のラドム……参る」

 

 

 

高架下では美由希とヴァイスの前に、魔乖術師……ジブリール・ランクルとサクラリス・ゾルグの2人が立ち塞がった。

 

「テメェらの相手はアタイ達だ」

 

「適格者の力……見せてもらうよ」

 

(わい)()の魔乖術師……」

 

「おいおい、適格者としての初陣にしてはヤバ過ぎねぇか?」

 

《同感です》

 

それぞれ小太刀と弓矢を構え、相手も両手の籠手についた鉤爪と小振りな剣を構えた。

 

「けっ、それはコッチの台詞だ。 せっかくリベンジに燃えていたのにテメェら相手だと萎えるぜ」

 

「言ってくれるわね……」

 

「ふわぁ〜……私はどっちでもいいよ」

 

「なら帰れ!!」

 

次の瞬間、高架下で2人の適格者、2人の魔乖術師が魔力とは異なる力を衝突させた。

 

 

 

そして、エリオ達がソーマ達が敵と交戦を開始しているのに気付いた。

 

「皆さん!!」

 

「すぐに合流を……!」

 

「! ーー正面! 来るわよ!」

 

ルーテシアの警告で頭上を見上げると、巨大な緑鳥……ゼフィロス・ジーククローネが爪を立てて飛来してきた。

 

「ホイールプロテクション!」

 

ケリュケイオンを構え、そこから渦を巻くような防御バリアが発生。 それを飛ばして襲いかかってきたジークの飛行を阻害し横を通り抜ける。

 

「ーーふふ。 さあ、悲劇の幕を上げましょう」

 

闇がクレフの隣に沸き起こり、それが人の形をとり……シャラン・エクセが現れた。

 

「シャラン……闇の魔乖術師……!」

 

「異編卿の思惑は知らないけど。 まあ、私はどうでもいいけど」

 

「……聞いておきたいんだけど……魔乖術師の目的は? 残りはあなた達だけなんだけど、目的が明確じゃないの」

 

「自由よ」

 

「は?」

 

シャランのあっけらかんとした回答に、エリオ達は思わず呆けてしまった。

 

「私達に目的はないわ。 私達はそれぞれにありとあらゆる自由が認めているのよ。 明確な野望があるのは滅の魔乖術師であるナギ1人……後はどっか行ったり、彼からのお願いでこうしているだけよ」

 

「なんて適当な……」

 

何とも適当な言葉にエリオ達はさらに飽きれてしまうが……シャランはそれを無視し、指を鳴らした。 すると隣の空間が歪み出し……肩に機関銃、手には片手剣と盾を装備した巨大な人型のガジェットが現れた。

 

「これは……!?」

 

「ガジェット!?」

 

「強襲用ガジェットV型、ストライザー。 これで人数は五分五分ね」

 

ガジェットV型はエリオに標的に狙う中、シャランは続けてポケットに手を入れた。

 

「それよりも……これ、なーんだ?」

 

見せびらかすように取り出し、摘むように持っていたのは……特徴的な赤い球だった。

 

「! それはメランジェ……ルーチェの母親!」

 

「返して! それはルーチェの!」

 

「知った事じゃないわ。 使えるものは……使う主義でね!」

 

そう言いながら赤い球は頭上に放り投げられた。 すると赤い球は展開、赤い光を放ちながら長大な竜……隕竜メランジュが現れた。

 

「隕竜……メランジュ……」

 

「操られているみたいね」

 

「ちなみに、この子も私の力によって操っているわ。 この可愛い可愛いお人形を返して欲しければ頑張る事ね、お子様達?」

 

「!!」

 

「さあ、好きに暴れて来なさい」

 

シャランは手を払い、メランジュを遠ざけるように指示をした。 メランジュはそれに従い、この場から離れながら無差別に火球を放った。 そしてその言葉にキャロは怒りを露わにするが。 すぐに鎮めて1度を目を閉じ……開眼、意志を持った目でシャランを見つめる。

 

「……一石二鳥です……あなたを倒して、ククちゃんとメランジュを返してもらいます!!」

 

「前から気に食わなかったし、ここで捕まってもらうわよ!」

 

「あら怖い。 クク、敵よ……殲滅しなさい」

 

「ーー了解しました。 対象3名、爆丸2体……危険度4と推定、これより殲滅に入ります」

 

 

 

次々と戦闘が開始される中、スバルはノーヴェの攻撃を受け切りながら吹き飛ばされたティアナに念話で応答を確認していた。

 

『ティア! 応答して、ティア!』

 

「ーーケホッ、ケホッ! うっさいスバル! 念話を傍受されるわよ! 今は目の前の敵に集中しなさい!」

 

『う、うん!』

 

『気を付けてね、ティアナちゃん』

 

「いた……! ティア、大丈夫?」

 

ティアナを追いかけソーマもビルに入り、手を貸してティアナを立ち上がらせる。

 

「分断されちゃったね」

 

「ええ、ツーマンセルじゃ不味いわ。 全員とすぐに合流をーー」

 

すぐさま自分が突っ込んで出来た穴で外に出ようとした時……周囲の色が青に統一し、目の前に壁ができ出られなくなってしまった。

 

「結界……!」

 

「閉じ込められた!」

 

「そうは問屋がおろささいッスよ〜」

 

階下からウェンディとディード、そして騎陣隊のウルクとファウレが進入してきた。 2人は状況を把握するため咄嗟に柱の陰に隠れ、身を潜める。

 

「皆と分断されたわね……しかもこんな密閉された空間に入れられるなんて……」

 

「こっちには騎陣隊が2名、さらに戦闘機人は2名……全体的に見ても部が悪いね」

 

「騎陣隊が4人揃うよりマシよ。 彼らは4人揃って真の力を発揮する……ワザとかは知らないけど、リーダーのラドムがこの場にいない。 2人なら正気はあるわ」

 

「戦闘機人もちゃんと作戦に入れてよね」

 

「分かってるわよ。 しっかし、あんただけど組むのは久しぶりね。 ……行くわよ」

 

ティアナの言葉にソーマは無言で頷き……2人は同時に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェローとコルルが地上本部に向かって進行している途中……その進行方向にアリシアとシグナムの2人が立ち塞がった。

 

「翡翠の剣舞姫、そして管理局の騎士ですか」

 

「本局機動六課、アリシア・テスタロッサ一尉」

 

「同じく、シグナム二尉。 中央本部には何をしに?」

 

「ええ、少々予定が。 個人的な私怨な、ようなものです」

 

「……レジアス中将に復讐ですか?」

 

「確かに彼にも償うべき罪はありますが……そんな生易しいものではありません」

 

「……ならば、ここを通す訳にはいかないな」

 

シグナムは一瞬目を閉じ、開眼と同時にレヴァンティンを抜き、銃を構えた。 アリシアもタクティカルビットを展開しながら2丁拳銃を構えた。

 

「……ねえ、今更遅いとは思うけど何か事情があるんでしょう? 話してはもらえないかな?」

 

最後の望みを託し、アリシアはフェローに問いかけるが……それを無視してフェローはデバイスを起動、右手に騎乗槍(ランス)を持ち、構える。

 

「ーー問答は無用。 互いに得物を持ったからには全力を持って当たるがいい。 さもなければ命はないぞ」

 

「ツ!? 来る!!」

 

「言葉は尽くした。 ここから先は剣で語るしかないようだね」

 

「聞かせてもらいます。 あなた方の信義を」

 

コルルとリイン、2人の決意は既に決まっており。 2人のユニゾンデバイスがそれぞれのマスターの正面に立ち……ユニゾン、互いに対立した。

 

『雷鳴の槍精、コルディア。 恩義に報いるように、この命を賭して参ります』

 

『祝福の風、リインフォース・ツヴァイ。 管理局の一員として……コルルさん、あなたの友人として止めさせてもらいます!』

 

『………! 言うようになったね、リインフォース・ツヴァイ!!』

 

2人が魔力を放出し、牽制し合う。 いざ交戦に入ろうとしたその時……不意にシグナムが口を開いた。

 

「……やはり、見間違いではなかったようだ」

 

「? シグナム?」

 

何かに気付いたようだが、その表情は驚愕やあり得ないなどといった色が見え。 シグナムはフェローに向かって指をさした。

 

「何故あなたが生きているのだ、星槍のフェロー……いや、雷帝フェルベルト・ダールグリュン!!」

 

「え……ダールグリュン?」

 

雷帝ダールグリュン……旧ベルカの王家、聖王や覇王に次いでその名を轟かせた英雄の名。 だがシグナム達、ヴォルケンリッターのような特別な事情もなく、今の世まで生きている事にシグナムは驚きを隠せなかった。

 

「やはり……気づかれてしまいましたか」

 

「得物は違えど、見間違える筈がない。 この際生きていることはいい。 だが、何故だ……何故あなたのような人が、守るべき民を危険に晒してまで!」

 

『それは……』

 

「ーーこれ以上の言葉は無用です。 知りたければ……私を倒すしかありません」

 

「くっ……!」

 

その言葉を皮切りに、フェローから凄まじい程の勢いで魔力が放出される。

 

「来るがいい!」

 

「ーーいざ……」

 

「参る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトとすずかはスカリエッティアジト向かう途中で別働隊と合流。 その後アジトに到着し、先導していたヴェロッサとシャッハと合流、別働隊をヴェロッサに任せフェイト、すずか、シャッハは襲いかかるガジェットを破壊しながら奥へと進んでいた。

 

「スカリエッティはこの先に?」

 

「はい。 ロッサの偵察によればこの先にスカリエッティがいるはずです」

 

「急ごう。 彼を捕縛できたらヴィヴィオちゃんが解放されるかもしれない……!」

 

シャッハの先導の元、3人はアジト内を進む。 通路を進むと、向かいの横に繋がる通路からユエとリヴァンが出てきた。

 

「フェイト、すずか!」

 

「ようやく見つけたぞ」

 

「ユエ、リヴァン!」

 

「2人共、無事でよかったよ」

 

そのまま奥へと進む。 しばらくして通路の様式が変わって行くと……

 

「なっ……!」

 

その場所の壁の至る所に培養液の入ったカプセル内に人が浮かんでいた。 カプセルの下には番号が書かれており、非人道性が醸し出ていた。

 

「これは……人体実験の素体……!?」

 

「なんと惨い事を……」

 

「……人の命を持て遊び、ただの実験材料として扱う。 あの男がしてきたのは……そういう研究なんです」

 

「フェイトちゃん……」

 

フェイトはまるで鏡を見ているようにこの光景を見ていた。

 

「すぐに止めましょう。 それが、彼らの救いとなるなら」

 

「うん」

 

その時、かなり大きめ目な地震が発生した。 どうやら遠く離れた場所で爆発があったようだ。 だが、そのせいで頭上の柱に挟まっていたガジェットが落ちてそうだ。

 

フェイト達は直ぐにその場を飛び退くが……床から水色髪の戦闘機人がシャッハとユエの足を掴んで止めさせた。

 

「シスター! ユエ!」

 

「待ってください、すぐに助けます!」

 

「! 敵だ、来るぞ!」

 

二刀のブーメランのような物が飛来、リヴァンがそれを弾き……

 

「はあああっ!!」

 

「穿て……」

 

《アイスピラー》

 

ユエが茜色の剄を右手に纏い、振り下ろして床を破壊して下に落下し。 落ちてきたガジェットはすずかが地面から氷柱を登らせ、天井と挟んでペシャンコにした。

 

「シスターシャッハ! ユエ君!」

 

『大丈夫です、すずかさん。 大した怪我はしてません』

 

『戦闘機人一機を補足しました……確保次第、すぐに合流します』

 

「……了解です。 2人とも、どうか気を付けて」

 

念話を切り、目の前の戦闘機人2名……トーレとセッテと対面した。

 

「……フェイトお嬢様。 こちらにいらしたのは帰還ですか? それとも……叛逆ですか?」

 

「まだそんな戯言を……!」

 

リヴァンが前に出ようとしたが……それをフェイトが手で制し、自身が一歩前に出てバルディッシュを2人に突きつけた。

 

「どっちでもない。 犯罪者の逮捕……それだけ。 ただ、それだけ」

 

「あなた達の世迷い言に、フェイトちゃんは付き合わないし。 私がそうさせない。 そこを退いてもらうよ」

 

自身の意志を示すように……フェイトはザンバーフォームのバルディッシュを、すずかはトライデントフォームのスノーホワイトを戦闘機人達に突き付けた。

 

 



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176話

 

 

両陣営……それぞれの目的達成のため、地上本部及び都市に襲撃してきた敵対勢力を機動六課、フォワード陣が対応。 廃棄都市のいたる所で戦闘が開始されていた。

 

「はあっ!」

 

その中の一角、結界で囲われた薄暗い廃棄ビル内ではソーマとティアナが戦闘機人2名と騎陣隊2名と戦っていた。

 

ティアナが魔力弾を撃ちながら走っていると、背後にディードが現れ双剣が振り抜かれた。 だが、刃は抵抗なくティアナを斬り裂き……幻のように消えていった。

 

「……幻影ですか」

 

ディードは目の瞳孔をカメラのレンズのように動かし、彼女のデータ化された視界で幻術の中に混ざっていた本物のティアナを捉える。

 

「同じ手が通用すると……」

 

「ーーはっ!?」

 

「思っているのですか!」

 

迷いなくティアナに向かって行き、蹴りを放った。 ティアナは両腕を交差させてガードするも、壁際まで吹き飛ばされ。 砂塵が舞う中ダメ押しにウェンディが魔力弾を撃ち込む。

 

「ソーマ!」

 

「了解!」

 

だがティアナは無事で、ディードとウェンディに向かって弧を描きながら無数の魔力弾を撃った。 2人が魔力弾を防ぐ中、ティアナは魔力アンカーを上階に伸ばし上へと向かい……

 

「ーー外力系衝剄……」

 

『!!』

 

「竜旋剄っ!!」

 

一瞬でソーマが彼女達の前に現れ……剣を振り上げた。 剄によって練られた竜巻が発生。 2人を上階の天井に叩きつけ、真ん中の吹き抜けを登らせる。

 

「この……!」

 

「ウェンディ、すぐに制動をーー」

 

「させると思ってる?」

 

ディードは体制を立て直そうとするも、吹き飛ばされた先に両手にダガーモードのクロスミラージュを構えたティアナが待ち構えていた。

 

「ツインズレイ!」

 

「ぐあっ!」

 

「うわっ!?」

 

二刀の魔力の刃を交差させるように振り下ろし、ディードを撃ち落としてウェンディにぶつけ。 地上に落下していった。

 

「ーーティアナ! 上!」

 

「なっ!?」

 

「遅い」

 

ウルクがティアナが留まっている階から飛び出し、その階の壁に叩きつけた。

 

「ぐううっ……」

 

「退けっ!」

 

「やっ」

 

ソーマは押し通ろうとするが……ファウレの戦鎌が振り回して行く手を塞いだ。 ティアナは吹き飛ばされた痛みでその場に留まっていると……彼女に向かってウルクが落下の勢いをつけて盾を振り下ろした。 咄嗟に横に転がり避けるが、元いた場所は砕かれ綺麗に穴が開いていた。

 

「っ!! 筆頭はどうしたのよ!? この場にいないみたいだけど!」

 

「ラドムはゼファーと共に外にいるわよ。 それよりも、自身の身を案じていなさい」

 

「IS発動……」

 

「!? 後ーー」

 

「ツインブレイズ」

 

「っ! あっっ!?」

 

一瞬でディードに死角を取られ。 ティアナは片刃を防ぐも、もう片方の刃が腕を斬り裂いた。

 

「っ! 内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマ脚力を強化し、高速移動しながら地面に衝剄を撃ち込み、砂塵を空中に舞わせティアナの元に向かう。

 

「ティア、大丈夫?」

 

すぐさま肩を貸して移動、放たれウェンディの魔力弾を回避する。 そのまま一つ上の階に登り柱の陰に隠れる。

 

「あの2組みの連携が出来ていないのが唯一の救いだけど……人数の不利が否めないね……」

 

「……もう大丈夫よ。 応急修理はした」

 

「了解。 それでどうする? 一対一ならともかく、応援が望めない以上、この狭い空間じゃティアナの本領は発揮できないし苦戦は免れない……何とか結界を破壊する時間があれば……」

 

「…………アレを……使うわ」

 

唐突にティアナが口にした言葉をソーマは理解し、驚きで目を見開いた。

 

「もしかして……でもすずかさんがまだーー」

 

「ここで使わないなら結果は同じよ。 使わずに死ぬより、使って生き残りたい。 レンヤさんの要請(オーダー)……死力を尽くして生き残れ、でしょ? 私は全力を出し切りたい。 でも、絶対に死にはしない」

 

「……しょうがないなぁ……」

 

ソーマはティアナを離れ、柱の陰から出ると……敵4名が反対側におり、両者は吹き抜けを通して対立する。

 

「差は明白、まだ続ける気ッスか?」

 

「ええ。 あなた達程度、すぐに突破してみせるわ」

 

「……ふうん……?」

 

「自信があるのは良いですが……過剰でもなさそう、何か策があるようね?」

 

「さて、どうだろうね?」

 

言葉で牽制し合う中、ティアナは一歩前に出て……

 

「ーー行くわよ!!」

 

オレンジ色の魔力光が彼女を覆うと……突如として、ティアナの両腕と顔にオレンジ色の波打ったような紋様が浮かび上がってきた。

 

「! そこまで入れているなんて……」

 

「流石に2ヶ月じゃこれが限度だけど……充分行けるわ」

 

「な、なんスか……あれ?」

 

「魔力が飛躍的に上昇している……!」

 

「ーー魔紋(ヒエラティカ)……肌に直接魔力刻印を描き、魔力を流す事によってタイムラグなくノータイムで紋章魔法(ヒエラ・マレフィカ)の発動が可能な特殊な魔法術式……」

 

「私が言うのもアレですけど、乙女の柔肌によく刺青を入れる気になりましたね? 確か、1ミリ入れるだけでもとんでもない激痛が走る筈ですよ? しかも神経に直接作用するもので麻酔の類も意味はなく、ただ耐えるしかない。 見た所……核たる胸、心臓の上にあたる部分も含め顔、両腕の肩から手の先まで入れていますね。 最初の邂逅にその素振りがなかった。 ならば、この短期間で入れるとなると……発狂する程の、想像を絶する程の痛みを伴ったはずです」

 

「……あんた達の筆頭の言う通り凡才なものでね。 こうでもしないとあんた達には届かないから。 でも……やるからには勝つ、それだけよ」

 

ティアナは二丁のクロスミラージュを構え、体の魔紋の光が増し薄暗い廃ビル内を照らしていく。

 

「う〜ん……こりゃ認識を改めるしかないようッスね?」

 

「ええ。 類い稀に見る強靭な精神力……捕獲対象に入れても問題はないでしょう」

 

「それは光栄ね。 全然嬉しくないけど!」

 

「ふふ。 他の子達も含めてもあなたの勇気、知恵、力……以前とは比べ物にならないくらい成長しましたね」

 

彼女はティアナを賞賛すると……突然、騎陣隊2名の足元に光り輝く陣が展開され、ウルクとファウレの威圧が一層増してしまった。

 

「!!」

 

「これは……!」

 

「なら、次は示してもらいます。 この壁を乗り越ええるだけの意志があるのかを……!」

 

「……彗煌陣(すいこうじん)……2人しかいないけど、気をぬくとすぐに死ぬよ……」

 

「第2ラウンド、開始って事だね」

 

「ええ。 ソーマ、必ず勝つわよ!!」

 

「はあっ!!」

 

ティアナとディードは同時に飛び出し、吹き抜けの中心でお互いの……二刀の刃を衝突させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃棄都市上空ではキャロとクレフが、ルーテシアとシャランが、エリオとガジェットV型が交戦していた。

 

「ククちゃん! 私、キャロだよ! 分からないの!?」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動……フライスラッシャー」

 

「っ……アビリティー発動! スピリットロア!」

 

キャロの必死の呼び掛けに、クレフは攻撃によって応答する。 クローネは翼を羽ばたかせ、三日月型の無数の魔力弾を作り出し、一斉に発射した。 それに対してキャロはフリードの背に乗りながらも防御。 光のピラミッド型の結界を展開、攻撃を防いだ。

 

「お願い、話を聞いて!」

 

「……クローネ……」

 

「! フリード……!!」

 

クローネは再び翼羽ばたかせ、今度は羽根が飛来してきた。 キャロはフリードに指示を出し、上中へと逃げるが羽根は追尾してくる。

 

「キャロ! っ!?」

 

キャロの身を案じてエリオは上を見上げるが……余所見している隙にガジェットV型が接近し剣を振り抜いた。 エリオは槍で防ぐも、続けて攻撃され防戦一方だった。

 

「っ!! このガジェット……何て強さだ!?」

 

「ふふ、それはそうよ。 スカリエッティが丹精込めて生物技術を抜きにして作った最高傑作よ。 中々面白いおもちゃでしょ?」

 

「あなたは黙ってなさい!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ミスティシャドウ!」

 

ガリューが無数の羽虫となり、シャランの放った攻撃を避けて周りを囲った。

 

「切り刻みなさい!」

 

羽虫がシャランに群がり、身体中を切り裂き始めた。 シャランはそのまま落下し地面に落下した。 だが……

 

「あらあら、痛いわねぇ」

 

「! 傷付く前に再生している……!?」

 

何事も無かったかのように立ち上がり、身体についた砂を払った。

 

「闇の魔乖咒の特徴、忘れたとは言わせないわよ?」

 

「なんてデタラメな回復力……けど、負けられないのよ!」

 

ルーテシアは元に戻ったガリューの肩に飛び乗り、魔力で構成された短刀を展開しながら新たなアビリティーカードを手に取る。

 

「ストラーダ!」

 

《デューゼンフォルム》

 

ストラーダをデューゼンフォルムに変形、ブースターを点火してその勢いで上空に登り。 飛んでいたフリードの背に飛び乗った。

 

「メランジェの元にも行かないといけないのに……!」

 

「ーーククちゃん! 私は……あなたの力になりたいの! 救いたいの!! だから応えて!!」

 

「!」

 

キャロの言葉に、ようやくクレフは反応を見せた。 その反応を見て、エリオとルーテシアも彼女に問いかける。

 

「僕達は君を救いたいんだ! フェイトさんが僕にしてくれたように……僕も、救えるのなら救いたい!!」

 

「……る……さい」

 

「こっちの話も聞きなさい! あなたはレンヤさん達から聞いてる、自分の過去に決着をつけようとしてたじゃないの!? 今更操られてんじゃないわよ!」

 

「……るさい……うるさい……」

 

「私が、私達が絶対にククちゃんを救い出してみせるから! だからククちゃんも負けないで!!」

 

「うるさい………うるさい! うるさい!! 」

 

「ククちゃん!!」

 

「うるさいっ!!!」

 

キャロの呼び掛けを否定し、クレフはその顔に初めて感情を……怒りを露わにした。 そしてクレフは懐からX状の絵が描かれている赤いアビリティーカードを取り出し……

 

「アビリティー……発動!!」

 

ガントレットに差し入れず、直接クローネに投げた。 カードはクローネの胸に向かい……絵のXが伸び出し、クローネの全体に巻きつき始めた。

 

「ピィイイイ!! ピィイイイイ!!!」

 

それが縄のように巻き付き、締め上げる。 何が起こるのを感じながらも……クローネは空中でもがき、苦しみだした。

 

「これは……!?」

 

「止めて! クローネが苦しんでいる!!」

 

キャロが悲痛に叫ぶが、クレフは止まず。 突如、凄まじい勢いの竜巻が発生、クローネがその中に入ってしまった。

 

「強制進化……ゼフィロス・ミラージュ・ジーククローネッ!!」

 

「ーーギャオルルルルッ!!!」

 

翼を広げ竜巻を振り払って現れたのは……翼が三対六翼となり風切羽は刃のように鋭く、剣のような爪を見せる足、翠色の羽根を羽ばたかせ鋭い猛禽類の目をエリオ達に見せるクローネだった。

 

「なっ!?」

 

「い、いきなり進化した……!」

 

「ーーカオス・アビリティX(エックス)……限界を超え、強制的に進化させる事ができるアビリティーカード……」

 

「! そんな事をすれば、クローネの身体が保たないわよ! 今すぐ戦うのをやめなさい!」

 

「ええ、いいわよ。 あなた達が降伏するなら、ね?」

 

「くっ……」

 

「ーーゲートカード、オープン! ゼフィロスリアクター!」

 

地面に展開されたゲートカードの効果を発動し、クローネの魔力が高まりながらクレフは続けて叩きつけるようにガントレットにカードを差し入れる。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ジャッチメントミラージュ!!」

 

ガンドレットの緑色の輝きと共に、クローネが空高く飛び上がる。 そして一気に加速し、降下……その途中でまるで蜃気楼のように分身し、3人に向かって飛来する。

 

「くっ……アビリティー発動! エンシェントグロウ!」

 

「アビリティー発動! ダークアウト!」

 

フリードが自身とガリュー、エリオとキャロとルーテシアの魔力を上げ、ガリューが苦無をゲートカードの四隅に突き刺し、無効化してクローネの魔力を下げ……減速したクローネの突撃を避ける。

 

《ライトスピア》

 

「はあああっ!!」

 

力が増したエリオは高速で飛び出し、槍に雷を纏わせ……裂帛の一撃により、ガジェットV型貫き……横に斬り裂き破壊した。

 

パチパチパチ……

 

「お見事。 隙を見逃さず、一気に勝負を着けた判断……将来が楽しみね」

 

「そんな事はどうでもいい。 クレフの洗脳を解除してください」

 

「ふふふ……ええ、いいわよ」

 

パチン!

 

「………………!」

 

エリオの言葉に応答するように答えるようにシャランが指を鳴らした。 それを合図にして、クレフがダランと頭を下げ……ゆっくり上げるとその顔に意志が無くなっていた。

 

「ククちゃん……?」

 

「…………………」

 

「……………(キッ)」

 

キャロは無表情になってしまったククを一瞥し、元に戻っていない事が分かると次にその上空で見下ろしているシャランを睨みつける。

 

「…………………(フッ)」

 

「………っ………!?」

 

クレフが不敵な笑顔を見せた。 それにキャロは硬く拳を握りしめ、左腕のガントレットが黄色く光輝く。

 

「アビリティー発動……ブラストショット!」

 

フリードは口を開け、巨大な炎の弾丸がシャランに向かって放たれた。

 

「クク」

 

「アビリティー発動、ゾーンヴェルデ」

 

シャランの一声でクレフが対応、クローネが緑色の魔力を纏い高速で移動、火球を翼の一振りで消しとばした。

 

「おやおや、魔法にキレが無くなってきているわねぇ?」

 

「……っ……」

 

「……キャロ」

 

「!!」

 

そこで今まで口を閉ざしていたクレフの口が開いた。 突然の事にキャロはもちろん、エリオとルーテシアも驚きを隠せなかった。

 

「ククちゃん、やっと……!」

 

「本当に、私がシャランさんに操られていると思う?」

 

「………え」

 

「私は自分の意志でこうしているの。 だから、邪魔をしないで。 これが本当の私だから」

 

クレフの口から出た言葉に、キャロは呆然とするが……すぐに否定するように頭を左右に振り正気を保った。

 

「嘘を言わないで! あなたは本当のククちゃんじゃない!」

 

「そう思う? 弱い者を傷つけるのも……」

 

言葉を続けながらククは視線を下げ、足元に咲いていた花を踏み潰した。

 

「美しい物を破壊するのも……楽しくてしかたがない。 今の私が……本当の私」

 

「!?」

 

(マズい!)

 

クレフの言葉にキャロの心が乱されている……それに気付き、エリオはこれ以上言わせぬように彼女に向かって飛び出した。

 

「キャロ! 彼女の言葉に惑わされないで!」

 

一気に距離を詰めクレフに槍を振るった。 クレフはそれをバックステップで躱し、槍が頭上を通り過ぎた時……ガントレットが緑色に輝く。

 

「アビリティー発動、ライフイーター!」

 

「うわあああっ!!」

 

頭上にいたクローネが魔力弾を連射、エリオに降り注ぐと爆発し。 エリオは傷を負いながらも何とか防御しており、キャロの隣まで後退する。

 

「キャロ、しっかりしなさい!」

 

「ーー分かってる! あれもシャランの作戦……私の心を惑わせて集中力を乱そうとしている!」

 

(! ……そうか! 頭では分かっている……けど、動揺は隠せていない! 心に迷いが生まれている証拠!)

 

視線がクレフから離れず目が動揺を表し、先程から額の脂汗が止まらないでいる。 エリオはすぐにキャロの状態を察知、危惧していた。

 

(不味い……魔力が徐々に弱まっている! 早く何とか……いや、すぐに決着をつけないと!)

 

魔力が弱まるのに同調するように、ガントレットの輝きが徐々に弱まってきていた。

 

「おやおや。 あなたはククの言動を私の作戦だと? だとしたからあなたはククの事を何にも分かっていなかったようね。 人は表面はニコニコと愛想よくしているけど、心の奥底では相手の憎悪や憎しみに満ちている。 それが……人間でしょう?」

 

「っ〜〜!! 黙れーー!!」

 

怒りに比例するようにケリュケイオンが強く点滅し、同時にガントレットも輝く。

 

「アビリティー発動! ボルテックスキャノンッ!!」

 

キャロは感情に任せてアビリティーを発動。 フリードの眼前に白い雷の球体を発生させ、咆哮によって砲撃として放った。

 

「アビリティー発動、フェンサーシールド!」

 

しかし、クローネが羽ばたきによって竜巻を起こし。 容易く砲撃を防いだ。

 

「そして、追加効果として相手のアビリティーを無効化する」

 

「! エンシェントグロウが……!」

 

邪な風がキャロ達の合間を抜けてエンシェントグロウの効果が消え、無効化されてしまった。

 

「中々の威力ね。 そろそろ本気になったのかしら?」

 

「くっ! あの砲撃があの程度の防御で防がれたですって……!」

 

「キャロ、落ち着いて。 魔力が乱れて魔法もフリードのアビリティーも本来の威力が出ていないよ」

 

「ーークク、こっちにおいで」

 

「はい」

 

シャランの命令に従い、クレフはシャランの元に向かい。 シャランはクレフの腕を掴み、少し前側に置いた。

 

「少しは盾になるでしょう」

 

「ククちゃんを盾に……」

 

シャランの非道な扱いにキャロは怒りを覚える。 だが、クレフはそんな事も御構い無しに魔力を込め始める。

 

「……アビリティー発動、ドレイクツイスター!」

 

「!! アビリティー発動! シャイニングフォース!!」

 

クローネは目の前に巨大な竜巻を作り出し、その風圧が伴う斬撃を放ち。 フリードは鏡の翼で光のエネルギーを充填し、口から砲撃として放った。

 

「くっ……」

 

「なんて威力……」

 

両者の攻撃が中間で衝突、強烈な衝撃を辺りに轟かせる。 アビリティーのレベルは互角……拮抗状態が続く。

 

「キャロ。 私が本当にあなたの友達でいたと思っているの?」

 

「…………………」

 

「確かに。 キャロとはル・ルシエとも関係なく遊んで、助け合っていた。 でも、私とあなたとでは立場が違う。 全てが対等の立場にない……私達に……」

 

クレフは悲痛に顔を歪め、緑色に輝くガントレットの光が増していく。

 

「どういう絆が築けると言うの!!」

 

クレフの怒りの感情に比例し、クローネの竜巻の威力が増した。 それにより拮抗が偏り、フリードの砲撃がかき消されるように押され……竜巻が直撃した。 その光景をシャランは笑みを浮かべる。

 

「フフ、フフフ………」

 

「この力……ククちゃんは本当に、私に強い憎しみを……」

 

「グルル………」

 

「くっ……」

 

「ーーそれでも私は頑張った。 あなたに負けまいと召喚士として一人前になれるよう努力した。 でも、その途中で私は教団に攫われた。 非道な実験を毎日のように受けた。 私と同じ境遇の子達の悲鳴を毎日聞いて……1人、また1人と消えていった。 いつ自分があの中に入るのかと思い夜も眠れなかった。 私は……人生を憎んだ。 そして、あなたも」

 

「っ……!」

 

「アビリティー発動、フライデストロイヤー!!」

 

クローネは目の前にレンズのような空間を作り出し、そこに光線状にした魔力エネルギーを口から発射することでレンズを通り抜けた魔力エネルギーを光線状から電撃状に変えて攻撃してきた。

 

「っ………アビリティー発動、スパークロア!」

 

すぐさま防御に回り。 フリードは鏡の翼を広げ、放射状に伸びる光線を放射して構成された盾を作り、飛来した雷撃を相殺した。

 

「フフフ……まだ跳ね返す程の力があるようね?」

 

「ーーふ、ふふ……」

 

「あら?」

 

シャランは相殺したのに関心していたが……キャロは似合わず小さく笑い声を上げた。 その間にシャランはクレフを近くにあった廃ビルの屋上に下ろす。

 

「ククちゃんの今の言葉が本当なら、私と一緒にいたククちゃんが笑顔でいるはずがない。 作り笑いは……管理局に保護されて以来、フェイトさんに保護されるまでよく見ていたから」

 

「キャロ……」

 

(そう、嘘。 全部あの人がククちゃんに言わせている作り話)

 

(フフフ……もうひと息かしら)

 

洗脳によって言わされている、そう理解しているがキャロの心が確実に大きく揺れ動く。 それをシャランは不敵な視線でキャロを見下ろす。

 

「キャロ。 あなた、あの出来事を覚えている?」

 

(っ……まだ……!)

 

「6年前……私が攫われる1ヶ月前、祭りの最中にル・ルシエの家に泥棒が入ったでしょう? そして祭事のため飾られてあった家宝たる首飾りが盗まれた。 部屋はメチャクチャに荒らされて、犯人も未だに分からず……ちなみにねキャロ、犯人は私なの」

 

「…………え…………」

 

「あなた達ルシエは事あるごとに私達家族を足蹴にしてきた。 その意趣返しに私がやった事なのよ!」

 

事実、過去に起きた事件の主犯がクレフだと。 その理由が自身への恨みだと突きつけられ……キャロは動揺を隠せなかったが、直ぐに否定した。

 

「あ、あ……っ! ふざけないで! ククちゃんにそんな事が出来るわけないでしょう!?」

 

「フフフ。 でも犯人は捕まらなかった。 そうでしょう、クク?」

 

「それに私は祭事の時、あの首飾りが家にあるとキャロから教えてもらった事がある」

 

「それが何の証拠になるって言うの……!? 泥棒なら、鍵をこじ開ける事くらいーー」

 

キャロが必死に否定するように叫ぶ最中、ククは懐を探り……竜の牙に装飾が施された首飾りを出した。 それを目にしたキャロは目を見開いてその首飾りを凝視しする。

 

「キャロ、見て? 宝石のような輝きはないけれど壮麗と言う言葉が似合うでしょう?」

 

「ーー!」

 

「これが何だか……分かるわよね? あなたの家の家宝の首飾りだから。 どう、似合う?」

 

クレフは首飾りをワザとらしく自身の胸元に当てキャロに見せつける。

 

「あの時盗み出してからずっと私が大切に磨いていたから」

 

「あ……あ……ああ……」

 

呆然とクレフと首飾りを見て……キャロはその瞳に涙が留めなく、溢れるように流れ落ちる。

 

「う……そ……嘘……」

 

「ーー所詮は、才能がある家の人間に……虐げられ、蔑まれた者の心なんか……分からないのよ!!」

 

《Ready、Karma Spinner》

 

「バトルギア……セットアップ!!」

 

強く首飾りを握りしめ、怒りに比例するようにガントレット上で緑色のパーツがパズルを組み合わさるようにして円柱型の緑色のバトルギア形作り、クレフはそれを掴みクローネに向かって投げ……クローネの背の装置を起点とし、非固定型の刃が付いた4つの円盤が周りに浮遊した。

 

「バトルギア・アビリティー……発動!! カルマスピナー・バニッシュ!!」

 

続けてバトルギア専用アビリティーを発動。 4つの円盤が高速に回転。 さらにクローネの囲うように回転し、クローネの口に魔力が集まり……巨大な竜巻を纏った巨大な砲撃が放たれた。

 

「嘘……嘘だよね……」

 

「キャロ! しっかりしてキャロ!!」

 

「っ……! もう避けられない……ガリュー! 防ぐわよ!」

 

(コクン)

 

「アビリティー発動! バインドシールド!!」

 

ガリューは籠手を身の丈ほどの盾に変化させ、さらに自身のマフラーを伸ばし、とぐろを巻いてルーテシア達を守ろうとする。

 

「キャロ!!」

 

「っ……アビリティー……発動……ボルテックス……キャノン……」

 

エリオの叱咤にキャロは涙を流しながら左腕を、ガントレットを上げ発動しようとするが……ガントレットは光もせず、フリードも困惑してキャロを見つめる。 そんなキャロをクレフは微笑みながら見下ろす。

 

「ふふふ……」

 

「……出て……ボルテックスキャノン!!」

 

ガントレットを突き出し、ほぼやけくそに叫ぶが……結果は変わらず。 何も起きなかった。 そして……

 

ドオオオオオオンッッ!!!

 

砲撃がキャロ達に直撃、地面を大きく抉り強烈な衝撃が辺りに響いた。

 

「……おもしろいぃ……全くもっておもしろい……! 人の心が崩れるのは、いつ見ても快感ね!」

 

キャロの涙を嘲笑うかのように、シャランは笑い狂う。 その隣でククは意志のない瞳、しかし笑みを浮かべている表情で見下ろしていた。

 

 




……いつかはこうなると分かってはいたが。 途中から作品が変わった気がする……


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177話

 

 

心を折られたキャロ、そしてエリオ達にクレフの怒りに満ちた砲撃が直撃した。 ガリューが防御を固めていたが……エリオ達がいた場所は瓦礫のみの更地となり、砂塵が高く舞い上がっていた。 そして砂煙が舞う中……シャランは笑みを止め、退屈そうに目を閉じる。

 

「向かってきた割には惨めな最後ね。 ねぇ、クク?」

 

「はい」

 

シャランの問いに、クレフは大して考えもせず頷く。

 

「ーーうおおおおおっ!!」

 

「!?」

 

その時、煙の中からボロボロのエリオがストラーダの推進力で飛んできた。 そしてシャランに接近し、胸に槍を振り下ろし鮮血が散る。 シャランは痛みで顔を歪めるも、腕を振りエリオを殴り飛ばした。

 

「痛ッ………まさか、防御から出てあの砲撃に向かい。 私に一撃いれるとはね」

 

「ハアハア、ハアハア………くっ……!」

 

「でも、愚かとしか言いようがないわね。 立っているのが不思議なくらい。 あのまま守られていればいいものを……」

 

バリアジャケットも8割は破壊され、ストラーダを杖にして立っているのがやっとの状態だ。 そして、直ぐにシャランの傷は癒えてしまった。 砂塵が晴れると……そこには身を呈してキャロとルーテシアを守っていたボロボロのフリードとガリューが立っていた。

 

「ほう……? 身を呈して主人を守るとは、見事ね。 今のはクローネの最大級の攻撃だったのだけど……」

 

「グオオオオ……」

 

(………………)

 

「ハア……ハア……くっ!」

 

ルーテシアも先ほどの砲撃の防御に大半の魔力を持っていかれ、意識が朦朧とし、エリオ同様に立っているのもやっとだった。

 

「いや? もう虫の息ね。 防御もギリギリ、反撃の魔法も出せないくらいではね……」

 

「……エ、エリオ君……ルーテシアちゃん……」

 

「!! この……バカ!!」

 

パンッ!!

 

キャロに頰に振られたルーテシアの張り手、その余りの威力に2メートルは吹き飛び、地面を引き摺って止まった。

 

「フ、フハハハ……」

 

「っ……ル、ルーテシアちゃん……」

 

「フウ……フウ……!」

 

ルーテシアは息を荒げ、足元がおぼつかないながらもゆっくりとキャロの元まで歩み……その胸ぐらを掴んだ。

 

「あなた何してるのよ!! 救うんじゃなかったの!? だったから一言二言言われたくらいでへこたれてんじゃないわよ!! 彼女はもう敵よ! それが分かった時点で何で攻撃しないのよ!」

 

ルーテシアの怒りは理解できる。 だが、キャロは答える事が出来ず涙を流す。 それを見てルーテシアは歯軋りをする。

 

「っ……! 引っ込んでなさい。 腰抜けを守っている暇はないわ」

 

「ルーテシア……」

 

「行くわよエリオ。 犯罪者2名、制圧するわよ……!」

 

ルーテシアはキャロを乱暴に投げ、エリオと共にシャランと対面する。

 

「アハハハ! これはおもしろい! 私、痛ぶるのもかなり好きなのよね!」

 

「……シャラン、あなたも調子に乗らないでください!」

 

「ふん、虫の息で……何を吠えているのやら!」

 

シャランはその手から魔乖咒による弾丸を発射、エリオに向かって飛来する。

 

「うおおおおっ!! でやっ!! はあっ!!」

 

エリオは裂帛の気合いを入れ、槍を振るい魔力弾を弾いた。そしてゆっくりと、倒すために確実にシャランの元に向かう。

 

「エリオ君……(左腕と右脚が……ほとんど動いていない……)」

 

「ふふ、身体が思うように動いていないわよ?」

 

エリオのダメージを見透かされ。 シャランは手に魔乖咒を集め、鞭のようにしならせてエリオに向かって飛来させる。

 

「っ! トーデスデルヒ……!」

 

迎撃しようとルーテシアがダガー展開、発射するも躱され。 エリオは何とか避けよとするが……鞭がしなり、エリオの左腕に巻き付き……爆発した。

 

「うわあああああっ!!」

 

「エリオ君!」

 

「くっ……ガリュー!」

 

「フハハハ! 今度はどこを潰してあげようかしら!?」

 

シャランは笑いながら、エリオとルーテシア、ガリューを痛ぶる。 クレフとクローネはその光景を黙って傍観していた。

 

「っ……ブラストショット……!」

 

キャロは腕を上げ、魔法を使おうとするも……何も起きなかった。 ケリュケイオンも全く反応もしない。

 

「グルル………」

 

(魔法が……出ない……助けなきゃいけないのに……魔力が……湧かない……心が真っ暗に……闇の中に沈んで行く……)

 

キャロは地に両手をつき、少しづつ思考が停止、目の前が真っ暗になっていく。

 

「うわあああっ!!」

 

「きゃあああっ!!」

 

その間にもシャランの攻撃にエリオとルーテシアは倒れていく。

 

「このままじゃ……エリオ君とルーテシアちゃんが……」

 

慈悲なき、弄ぶような攻撃にルーテシアとガリューは倒れ、エリオはシャランのいた高さから落下した。

 

「エリオ……大丈夫?」

 

「……っ!!」

 

ルーテシアは身を案じるが……エリオは天に上げていた手を握りしめ、地面に振り下ろした。

 

「キャロ……」

 

「………ぁ………」

 

「キャロの思いで追っていたものは……キャロが信じていたものは……あんな言葉で潰される……潰されるものだったのっ!!」

 

「ーーふん」

 

「ぐあああっ!!」

 

耳障りと思ったのか、シャランは強めの光弾を放った。 それによりエリオは吹き飛んでしまう。

 

「ーー信じたい! 私だって信じたい……! 私の友達だったククちゃんの事を……でも、そのククちゃんの言葉は……私を、ずっと恨んでいたと言う……シャランの言わせた嘘と信じたい! でも……盗まれた家宝の首飾り……憎しみから出た行動……何を根拠に嘘と言えるの……! 何を根拠に……嘘と……!!」

 

また涙が溢れ出し、頰を伝って手に零れ落ちる。 その時……一陣の風がキャロの涙を拭うように頰を撫でた。

 

「っ……!? この風……どこかで……!!」

 

何かに気付き、唐突にキャロはバッと顔上げ、クレフの顔を見た。 そしてキャロの目に映ったのは……クレフの腕に着いている波打った風のような模様の木製の腕輪だった。

 

(あれは……ククちゃんと最後に行った祭事の時に私が上げた……魔除けの腕輪……木は悪しきを払い、風は恵みを運び……道を示す……)

 

「あ………」

 

【これを着ける時は助けて欲しい証。 風が私達の道を示し……必ず帰るべき家に向かわせてくれる!】

 

フラッシュバックするクレフとの思い出。 それが分かると、キャロの目に光が宿る。

 

「風が……道を示す……!」

 

『ーー助けて……キャロ』

 

「! ククちゃん……」

 

口から出た声音ではない。 念話でもないが……確かにキャロには聞こえた。 クレフの叫びが……

 

『助けて……助けて、キャロ!!』

 

シャランの隣で無表情に立っているクレフを……キャロの目には涙を流して救いを懇願するクレフが映った。

 

「ククちゃん……聞こえたよ。 あなたの本当の声が……!」

 

「ーーふ、そろそろゲームは終わりにしないとね。 1日、1時間くらいにしなくちゃ」

 

「……くっ……ふざけて……!」

 

「……そんなに経ってないわよ……」

 

「そう? でも、終わりにしましょう」

 

手を突き出し、シャランの周りに幾つもの巨大な魔乖咒による砲弾が形成され……エリオとルーテシア、ガリューに向かって振り落とされた。

 

「ルーテシア!」

 

「!? エリオ!?」

 

せめてルーテシアだけでも、と。 エリオはルーテシアを守ろうと彼女に覆い被さる。 が、その時……背後にいたキャロが立ち上がり、燦々と黄色く光り輝くガントレットを上にあげ……

 

「フリード! 上を向いて!」

 

「! グルオオオオッ!!」

 

「ーーアビリティー発動! テラ・ソルレイン!!」

 

フリードの翼から高速に光線が上空に打ち上げられ……天から、太陽から降り注ぐように光線が落下。 シャランの砲弾を上から押し潰し、そのまま両者の間の大地に……廃棄都市の真ん中に巨大な谷を作った。

 

「これは……!」

 

「凄っ……」

 

「っ……うあああああっ!!??」

 

目の前の状況に、光線が目の前で降り注ぐのをエリオとルーテシアは呆然と見ていた。 そして……腕を突き出していたシャランはその右手を光線で焼かれていた。

 

「ごめんなさい……エリオ君、ルーテシアちゃん。 フリードとガリューも……必ず、必ず力になるから……」

 

キャロは涙を拭い、吹っ切れた顔をし。 一歩前に出てエリオとルーテシアを見つめた。

 

「一緒に戦って! もう、惑わされない!」

 

「っ……了解!!」

 

「任せなさい!」

 

2人はキャロの願いに迷いなく答え、シャランに向かって対面する。 そして……吹っ切れたキャロの意志にフリードが反応した。

 

「グオオオオオッ!!!」

 

「!? フリード!?」

 

突如、フリードは天に向かって咆哮を上げ……光に包まれしまった。 その光景に驚きつつも、エリオとルーテシアはこの現象に見覚えがあった。

 

「これは前にガリューにあった現象と似ている。 まさか……!?」

 

「進化……まだ半年しか経っていないのにもう……!」

 

そして……光りが弾け飛んだ。 中から現れたのは……頭の頂点に剣のような鋭い一角を持ち、口にはリングを咥え、四肢は強靭に大地を踏みしめ。 鏡のような翼だったものは透き通るようなクリスタルに変わり。 爪や鱗、牙などが鏡に似た光沢を放っていた。

 

太陽の化身のような白銀の竜……全体的に鋭利な体格となった新たなフリードリヒがそこにいた。

 

「(ククちゃん……必ず……必ず……あなたを助ける!) 行くよ……ルミナ・ホライゾン・フリードリヒ」

 

「グオオオオオッ!!」

 

キャロはクレフを見据えて手を上に掲げ、それに応えるようにフリードは雄々しく吼える。 とはいえ、進化してフリードの身体能力が上がったとはいえ、疲労やダメージまでは回復しきれていない。 何よりキャロやエリオ達のダメージも蓄積されている……そして、腕を焼かれたシャラン。 この程度すぐに回復してしまうが……それでも彼女の怒りは収まらなかった。

 

「私の腕を……ガキ供が……どこまでも舐めたてんじゃないわよ!」

 

怒りのあまり口調が崩れてしまっている。 シャランは高速に飛び出すと、ジグザグと飛行しながら距離を詰める。

 

「不意打ちを1発当てたくらいで意気がってるんじゃないよ、死に損ないが!」

 

「っ……スパークーー」

 

「ーー遅いわ!!」

 

「うあっ!!」

 

シャランは魔乖咒で鞭を形成しキャロに向かって投げる。 キャロは対応しようとするがその前に鞭が左脚に巻きつき……爆発、キャロは倒れてしまう。 だが息つく暇もなく魔乖咒の砲弾をキャロに発射する。

 

「キャロ!!」

 

「アビリティー発動! シェードリング!」

 

フリードがキャロの目の前に光の輪を展開し、シャランの砲弾を角度を変えて跳ね返した。

 

「ふん。 もう跳ね返すので精一杯のようね。 足は傷付き満足に歩く事も出来ないでしょう。 残りも満身創痍……私を怒らせた事を後悔する事ね!」

 

「ううっ!!」

 

「やあっ!!」

 

立ち上がろうとしたキャロに追い打ちをしかけ吹き飛ばす。 エリオが攻撃に転じようとするも、軽く躱されてしまう。

 

光弾(これ)くらいが早くて避け難いようね。 今のあなた達ならこれで十分ね」

 

(速い……まさかここまで出来るなんて……どんな人でも魔乖術師……侮っていた……やっとここまで来たのに……! ククちゃん……!)

 

「この……私達を舐めるんじゃないわよ!」

 

《Ready、Prayer Armor》

 

ルーテシアはガンドレットを操作し。 複数の紫色のパーツが展開、組み合わさり正方形のバトルギアが構築され……

 

「バトルギア……セットアップ!!」

 

ガリューに向かって投げた。 バトルギアはガリュー背に装着され……身体の上下を覆う、まるで陣羽織のような鎧が形成された。

 

「バトルギア・アビリティー発動! プレアーアーマー・シャウラ!!」

 

ガリューの纏う鎧が紫色に輝き、波動を発すると……一瞬でガリューの数十の分身が出現した。

 

「行って……ガリュー!」

 

ガリュー達は一瞬で消え……シャランとクレフ、クローネを囲うように現れた。 そしてガリュー達は両手を近付け、その間に紫色の魔力を充填し……全方向から彼女らに向かって砲撃を放った。

 

「ククゥ!!」

 

「ダブル・アビリティー発動! メタルヴェルデ。 プラス……ハイパーヴェルデ!!」

 

「キルルルッ!!」

 

クローネは両翼の風切羽の刃を伸ばし、刃と身体の一部分を鋼のように変化させる。 さらに風切羽を緑色に輝かせてビットのように切り離し、クレフ達をを取り囲むような位置に配置し……全方向からの砲撃を防いだ。

 

「ふふ、この程度……さあクク! 憎っくき召喚士に最後の贈り物をあげなさい!」

 

「………………(コク)」

 

クレフは無言で頷き、ガントレットを輝かせて手をエリオ達に向けて掲げる。

 

「来るよ……キャロ、ルーテシア!」

 

「分かってるわ!」

 

「今度こそ……!」

 

相手がどんな手でこようとも、エリオ達は現状の万全の体制で構えるが……

 

『!?』

 

「ーーバトルギア・アビリティー発動……カルマスピナー・アルタイル」

 

突如としてクローネが横を向き、円盤から放たれた4つの砲撃は全く別の場所、エリオ達の真隣に直撃した。

 

「一体何を……!?」

 

「! まさか……」

 

その時、突然地揺れが起き始め。 砲撃が直撃した部分から亀裂が走り……エリオ達がいた部分が崩落を起こし、キャロの作った谷に落下していく。

 

「うわあああっ!?」

 

「フリード!」

 

「ガリュー!」

 

すぐさまルーテシアはガリューに、キャロはフリードに乗りエリオを救出し。 谷から脱出しようとするが……その先にシャランが待ち受けていた。

 

「沈みなさい!」

 

「アビリティー発動! ディスペルクロウザー!」

 

ガリューは左手で光弾を受け止め、ダークオンエネルギーに変換した光弾を右手から打ち返した。 シャランは驚きもせずにそれを避け、その間にエリオ達は谷から脱出した。

 

「ちっ……ガキ供が……!」

 

「行きなさいエリオ!」

 

エリオはフリードの背からガリューの手の平に移動し……ガリューはエリオをシャランに向けて投擲した。

 

《エクスプロージョン》

 

「うおおおおおっ!!」

 

カートリッジを炸裂させ、雷撃を纏った槍で一閃。 シャランの腕を斬り裂いた。

 

「っ……学習能力がないのか!? 何度やっても私に傷跡すらも残せないのよ!!」

 

「ハアハア……でも、これならどうです?」

 

息を上げながらも答え、シャランの腕を見た。 つられて彼女も斬られた腕を見ると……そこには雷球が定着していた。

 

「なっ……!?」

 

「いっけえええっ!!」

 

《スパークスフィア》

 

「ぎゃあああああっ!!!」

 

雷球が放電。 シャランは絶叫を上げながら雷撃の痛みをその身体で表す。

 

「アビリティー発動! スピリッツボール」

 

クローネの周りに緑色の球が浮遊し、それがシャランにぶつかり、弾けると光の粒子が舞った。 それがシャランの傷でなく、心を癒し鎮めた。

 

「……ありがとう、クク。 よくもやってくれたわね……肉体的な損傷が望めないから精神的に疲労させようって魂胆ね? 随分と浅はかな策ね……もう手打ちに近いのかしら?」

 

「っ……まだ、私は戦えます!」

 

《Ready、Release Canon》

 

「バトルギア……セットアップ!」

 

キャロはバトルギアを投げ……フリードの背に巨大な一門の大砲が装着された。 続けてアビリティーカードをガントレットに差し入れる。

 

「バトルギア・アビリティー発動! レリーズキャノン・カノープス!!」

 

バトルギアアビリティーが発動し、急速に砲身に魔力が充填されていき……

 

「はあっ!」

 

「! キャロ!! 今すぐ発射して!」

 

「ーーフリード!!」

 

シャランが手をかざした事にルーテシアが反応。 すぐさまキャロは発射宣言し……1つの砲門から無数の魔力砲撃が発射された。

 

「また飽和狙っての自壊かしら? もう同じでは喰わないわよ!」

 

「くっ……小生意気な小娘が!」

 

「アビリティー発動……ウィングハリアー」

 

クローネは六翼の翼を大きく広げ、風切羽から魔力を放出……上空に駆け上がり、音速を超える速度とあり得ない軌道を飛行し砲撃を避ける。

 

「な、何て速度と機動力だ……!」

 

「! エリオ、キャロ! 対防御体制!」

 

ルーテシアはクローネが近付いているのに気付き。 エリオとキャロを抱き寄せて防御障壁を展開し……次の瞬間、クローネの刃のような片翼が障壁を破壊した。

 

「うわあああっ!?」

 

『きゃああああっ!?』

 

通過による衝撃波でフリードとガリューは吹き飛び。 直接衝突してしまったエリオ達は大きく吹き飛ばされ、地面を強く転がる。 3人は身体のあちらこちらから血を流し、既に満身創痍だ。 だが、キャロは頭から血を流しながらも諦めずに立ち上がる。 エリオとルーテシアも立ち上がり、フリードとガリューもその目には敗北の色はない。

 

「……う……く……(もう少しなのに……やっと手が届く場所まで来たのに……!)」

 

「……ふう……ふう……キャロ。 あなたはこの時のためにやる事はやって来たはずよ」

 

「っ……フェイトさんと、ルーテシアと、レンヤさん、なのはさん、それに皆さんと。 次元世界を守る……なんて大それた事じゃないけど。 生きる為に、自分の為に、そしてフェイトさんの為に頑張って来たじゃないか」

 

「……うん。 フェイトさんに提案されかもしれない。 流されるように来たのかもしれない。 逃げたいから背を向けたのかもしれない。 でも……もしかしたら、私は……この時の為に、六課に入ったのかもしれない」

 

一歩、また一歩前に出ながらキャロは目を閉じ、フェイトとエリオ。 フォワードのメンバーと隊長、副隊長達との訓練の日々を思い出す。 そしてその中のフェイトの言葉を口にする。

 

「ーーどんな事があっても目を閉じちゃいけない。 一瞬でも周りが見えなくなったら……そこで終わる」

 

瞬きもせずキャロは次々と放たれた光弾を紙一重で避ける。 フェイトとの訓練の日々が……今ここでキャロを前に歩かせる。

 

「冷静に……攻撃を見極める……!」

 

「何を小言を!」

 

怒りによって放たれた光弾を跳躍して避ける。 続けて鞭も放たれるも目を閉じず、瞬きもせず必死に避け……

 

「こいつ……段々動きが……くそが……!」

 

シャランは光弾を隙間なく連射するも……キャロは全て紙一重で躱し続ける。

 

「足に怪我を負っているのになぜ……なぜそこまで動ける!?」

 

シャランは小技で痛ぶるのにも痺れを切らし、大玉サイズの光弾を放つ。 しかしそれも避けられ、シャランはイラついて歯軋りをする。

 

「キャロ……」

 

「うん。 大丈夫だよ、エリオ君」

 

逆転の可能性を信じて、キャロ達は前を見る。 だが、シャランは何かを思いつきクレフに近付く。

 

「ふふ、さあクク。 どうしようかしら?」

 

「……!」

 

クレフが一瞬よろめき……意志のありそうな、悲しみが見える顔でキャロを見下ろした。

 

「辞めてキャロ!」

 

「っ……」

 

「私からシャラ……ン様を、仲間を奪わないで! キャロ……あなたはいつまで私を苦しめるつもり……!? やっと手に入れた自由を……本心から心を許せる仲間を奪っていくつもり!?」

 

「………………(シャランの名を言い淀んだわね。 彼女の本当の仲間は、本心から大切だと思っているのね……)」

 

クレフの言葉が全てが嘘ではない事をルーテシアは気が付いた。 そして、キャロの目には叫ぶ虚言を吐くクレフは映っておらず。 キャロが見つめる先は、その腕に着いている腕輪と……キャロの視界だけに映る涙するクレフの姿だけだった。

 

『助けて……私をシャランから救い出して!!』

 

(ククちゃん……私が必ずククちゃんを助ける!)

 

「ーーアビリティー発動! エアルストリーム!」

 

「はあっ!!」

 

クレフはアビリティーを発動し、クローネが起こした大波のような全てを破壊する風を飛ばし。 シャランは牽制の為に無差別に光弾を発射した。 キャロ達は光弾を避け……

 

「アビリティー発動! スカイボルト!」

 

キャロはフリードの両翼から光線を発射して風の大波を相殺し……

 

「アビリティー発動! ヴォイドプレッシャー!」

 

「ぐあああああっ!?」

 

「ストラーダ!」

 

《エクスプロージョン》

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

ガリューの手から魔力を放出、残りの風を圧量を増やして押し潰し。 ついでに接近していたシャランを地面に叩きつけ、エリオが追い打ちをかける。

 

「ぐうう……(なぜ……なぜガキ供の魔力が無くならない……2人はいい。 だが、桃髪の小娘にはククの言葉には強い暗示をかけてある。 陰険ジブリールが施した直接心に語りかけるとても強い言葉……!)」

 

この決戦の為に、キャロを対象にして勝利への策は張り巡らしてきたシャラン。 だが、心を砕いたはずのキャロは立ち直り、エリオとルーテシアも予想外の実力を持ち……彼女のシナリオとは全く違う展開となっている事に驚愕していた。

 

「(いくらあの小娘が耳を塞ごうと気を逸らそうと……強く聞こえているはずなのに……!) ぐううっ……クク……! 首飾りを見せろ!」

 

必死に叫ぶシャランの命令に、クレフはル・ルシエの家宝の首飾りをキャロに見せるように掲げる。

 

「キャロ! この首飾りが見えないの!?」

 

「……うん。 よく見えるよ、ククちゃん。 でも、何でだろう……私にはそれが偽物にしか見えないの」

 

「!? に、偽物だと……!? ふざけるな……! あれは私がククの記憶を覗いて忠実に作り上げた……ーーあっ!?」

 

「……シャラン・エクセ……語るに落ちましたね」

 

「ふう、随分と必死ね。 そんな種明かしを自分から喋るなんて」

 

エリオとルーテシアは哀れみながら見つめ、シャランは自身が追い詰められている事も明かしていた。 後もう少しと思った時……

 

カシャン……

 

クレフの手から首飾りが滑り落ち……廃ビルの屋上にぶつかり砕け散った。 そして、それを落としたクレフの目には光が映っていなかった。 今まで、クレフが言っていた言葉が虚言だと立証された証拠だ。

 

「シャラン。 あなたに人の心を知る事は出来ない。 人の心を完全に操ろうなんて……永遠に出来るはずがない!」

 

「もう終わりです……大人しくしてください!」

 

「っ〜〜〜!?!? ク、ククゥ!!」

 

最後の手段としてシャランが取った判断は……クレフは一歩前に出て、廃ビルから飛び降りた。

 

「なっ……!」

 

「ククちゃん!?」

 

「ハッハァ! さあどうする!? このままだと大事な大事なククちゃんが、あんたが作った高熱で焼かれた谷に落っこちて死ぬわよ!」

 

「このっ……! 無駄な悪あがきを!」

 

「ククちゃん!!」

 

キャロは迷わずクレフに……谷に向かって走り出す。 その時、ルーテシアの意識がクレフに向いてしまい、シャランを拘束していた圧力が消えてしまう。

 

「! (圧力が解けた……! 魔法で助けるか、竜が飛んで助けるかは分からないが……) この勝負、私が貰った!!」

 

シャランは重圧から解放され……起き上り、クレフに向かって走るキャロに手をかざした。

 

「アビリティー発動! ミラージュタイフーン!」

 

クローネは大きく口を開け、そこから鋼鉄をも破壊する巨大な音波を放った。

 

「負けるかぁ!!」

 

《Ability Card、Set》

 

「プレアーアーマー・ダンマ!!」

 

迫ってした音波をルーテシアが対処し、ガリューの纏うプレアーアーマーが紫色の波動を放ち……音波を完全に無効化した。

 

「くたばーー」

 

キャロに向かって光弾が放たれようとした、その時……クレフのアビリティーの発動と同時にキャロの手からアルケミックチェーンが飛ばされ、シャランの手をかざしていた腕に巻き付き……上に投げ飛ばした。 そしてシャランから巨大な光弾が何もない空に空撃ちされた。

 

「な……に……!?」

 

「あなたの器はもう見えました! エリオ君!!」

 

「わっ!?」

 

キャロはシャランを投げたアルケミックチェーンをそのままエリオに伸ばし、エリオは驚きながらもチェーンを掴んだ。

 

「お願い……私をククちゃんの元に!」

 

「ーーうん!」

 

「行って来なさい!」

 

エリオはチェーンしっかりと握り締め。 キャロはチェーンを掴んで走り出し……迷いなく谷に飛び込んだ。

 

「くっそぉ……これで最後だぁ!!」

 

シャランはクレフに手をかざし、精神操作の為のリンク……使い魔と似たリンクを通して魔力を譲渡する。 キャロとクレフは同時にガントレットにカードを入れる。 そして、キャロのガントレットの輝きは……クレフのガントレットの輝きより遥かに強かった。

 

《Ability Card、Set》

 

「カルマスピナー・ニルヴァーナ!!」

 

「レリーズキャノン・サンサラ!!!」

 

同時に放たれたのは高熱を発する黄色い砲弾型の魔力弾と荒れ狂う対流している緑色の同型の魔力弾。

 

「で、でかい……!」

 

「グオオオオオッ!!!」

 

「キルルルルルッ!!!」

 

谷の上で衝突する2つの巨大な魔力弾。 大きさはキャロの魔力弾の方が遥かに大きく、クレフの魔力弾が目に見えて押され……軌道がズレて空中にいたシャランに迫っていた。

 

「ふざけるな……この小娘の魔力に……なぜ私がーー」

 

次の瞬間、緑色の砲弾はかき消され。 黄色い砲弾がシャランを飲み込んでいった。 その大きさにエリオとルーテシアも呆然と見上げていた。

 

「ふう……………(ガキンッ!) !? わっと!?」

 

するとエリオが持っていたチェーンが強く張り、谷に向かって力が引いていた。

 

「ちょ、エリオ! 踏ん張りなさい!」

 

「ご、ごめん! でも重ーー痛ッ!?」

 

「2人だからって女の子に重いって言わないの!!」

 

「だ、だからって傷を抉るような事をしないでよ〜……」

 

エリオは強烈な痛みと悲しみで涙目になりながらもストラーダを地面に突き刺して踏ん張り、ルーテシアも手伝って引き上げようとする。 クローネも意識を失ってしまい、球に戻って落下してしまうが……それをガリューが救出した。

 

「お待たせ……ククちゃん……」

 

キャロは右手は命綱のチェーンを掴み、左手は気絶したクレフを強く抱き締め……嬉しさと、そして他の色んな感情も入り混じりながら涙を流した。

 

「やっと……やっと……!」

 

キャロは数年振りに感じるクレフの暖かさをその腕で確かに感じ取った。 そして2人は引き上げられ、エリオ達は自分達とクレフ、クローネのーーついでに拘束しながらもシャランにもーー応急処置をすると大の字になって倒れ込んだ。

 

「はあぁ〜……全部出し切ったわねぇ……」

 

「魔力も尽き果てたね……よくあそこまで絞り出せたのか不思議なくらいだよ」

 

「ホントだよ。 一度は尽きて何も出来なかったのに……吹っ切れたらいきなり湧いて出てきたんだもん」

 

「魔力、魔法は人の意識感情に機微に反応する……って、前にアリシアさんが言っていたわね」

 

その隣では元の姿に戻った、主人と同じくボロボロのフリードとガリューが座り込んでいた。

 

「キュクル〜……」

 

(…………………)

 

「あはは、フリードとガリューもお疲れ様」

 

「フリードもゴメンね。 迷惑かけちゃって……」

 

「キュクルー!」

 

「ガリューもよくやったわね。 まだまだ仕事は残っているとはいえ、最大の難関は突破したわ」

 

(コクン)

 

満身創痍で疲労困憊……全員立つのも億劫だった。 キャロはアルトに連絡を取り、アルトはかなり心配しながらもこちらに向かうとの事になり。 とにかく一息ついたその時……ふとルーテシアは何かを思い出した。

 

「………あれ? 戦闘が始まる前に何か重大な事があったような……」

 

「……うん。 この数十分で色々あったけど……何か、忘れているような……」

 

「……………って、ああっ!? まだルーチェのお母さんが残っているよ!!」

 

『あ……』

 

戦闘を開始する前。 シャランは球状態だったメランジェを放り投げ、暴走状態で野に放っていたのを思い出した。

 

それに気付くとキャロは無理に転がってうつ伏せになり、そこから両手を着いて立ち上がろうとする。

 

「うっ……く……! 早く! 早く助けに行かないと!!」

 

「ちょ、ちょっとキャロ。 激戦の後で私達はもう立つだけでもギリギリなのよ?

 

「ここは皆さんに任せるしか……」

 

「ーーダメ! ルーチェと、レンヤさんと約束したんだから! 必ず、自分の手で解決して……ルーチェを必ずお母さんのメランジェの元に返すって!」

 

まだ終わってはいなく。 キャロは既に限界の身体に鞭を打って立ち上がろうとする。 キャロ1人で行かせる訳にもいかず、エリオとルーテシアもフラフラになりながらも立ち上がろうとした、その時……

 

『ーー私の作品と戦っているFの遺産と2人の召喚士。 聞こえているかい?』

 

『!?』

 

唐突に前触れもなく、場違いにも目の前に空間ディスプレイが展開され……そこにこの騒動の主犯、その一角たる男が映っていた。

 

 




一気にフォワード陣、ちびっ子チームの終わらせてしまいました……そしてやっぱり作品が変わった気がする。

まあそれはそれはいいとして。 次は残りのフォワード陣なのだけど……ゆりかご、まだ先かな?


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178話

 

 

「オラオラ! とっととくたばりやがれ!」

 

現在、廃棄都市の路地裏で、美由希とヴァイスはビルを破壊しながら迫り来るジブリールから逃げていた。

 

「何よあれ!? 鉤爪がビルに当たる度に捻じ曲がって粉砕しているんですけど!?」

 

「それに、ことごとくこっちの攻撃が逸らされるぜ……!」

 

ヴァイスが牽制として矢を放つが……ジブリールに接近すると突如として不可思議軌道を描き、全く別の方向に直撃。 ジブリールは無傷だった。

 

「これが歪の魔乖咒の力……心すらも歪めるって聞いているけど、それ以前にあの異常な力も何!?」

 

「それにもう1人も……!」

 

そう言いかけた時……目の前にふわふわと浮いているサクラリス・ラム・ゾルグが美由希とヴァイスの前に立ち塞がったた。

 

「………………(パチン)」

 

サクラリスは無言で2人に手を掲げ、指を鳴らした。 すると目の前の空間が歪み……無数の刃が飛び出してきた。

 

「っ!? 渦流刃(かりゅうじん)!!」

 

「おいおいマジかよ!」

 

美由希は飛び上がって小太刀を逆手に構え、スピン回転しながら突撃し、ヴァイスは弓の節にある刃と矢を逆手で剣のように持ち迫って来た刃を弾いた。

 

「おらぁッ!!」

 

その間にジブリールが距離を詰め、無差別に鉤爪を何度も振るう。

 

「はあっ!!」

 

ガキンッ!

 

「っ!? やるじゃねえか」

 

美由希は小太刀に水を纏わせ、一太刀でジブリールの両手の鉤爪を弾き返した。

 

「ーーリバイスショット!」

 

そしてヴァイスが走りながら3本の矢をつがえ……射ると矢は高速でサクラリスに飛来する。 しかし、矢は全てサクラリスをすり抜けてしまった。

 

「マジかよ……」

 

続けてジブリールに放ち牽制しながら恐々とおののく。

 

「異はものごとの境界を操る力を持つ魔乖咒。 直接的な戦闘力はないけど、ある程度の事はできる」

 

「こんなのどうやって倒せばいいんだ!?」

 

「任せて……手はある! 多分……」

 

少しじしんなさげに言うが、ゆっくりた目を閉じ……開眼と同時に小太刀に激流が纏われる。

 

「でやあ!」

 

「無駄だとーーっ!?」

 

美由希は水の斬撃を放ち。 サクラリスは通り抜けると確信して防御も取らなく……斬撃はサクラリスの肩口を斬り裂いた。 この事実にサクラリスは驚愕し、傷口を抑える。

 

「……境界を越えて斬撃を飛ばした?」

 

「もしかしたら、と思ったけど。 上手くいったみたいだね」

 

「一体何をしたんだ?」

 

「……御神流・無月の構え。 形無き存在を実体として捉える境地……本来は視界が使えない時に使うんだけど、上手くいってよかったよ」

 

「……侮っていたかもね……」

 

サクラリスは懐から魔法薬を取り出し、傷口にかけながら後退した。 と、そこでジブリールがヴァイスに向かって接近していた。

 

「このやろ……!」

 

「おっと……アクセルストレイフ!」

 

刀身を巨大化させた矢に乗り鉤爪を避け、高速で移動しジブリールから逃亡する。 そしてUターンして目の前に姿を確認すると……矢を飛び降り、ジブリールに蹴り飛ばした。

 

「効くかよ!」

 

飛来してきた矢を斬り裂き。 続いてジブリールは跳躍と同時に鉤爪を切り上げ、縦長の斬撃を飛ばしてきた。

 

「おっと……!」

 

澪弧斬(みおこざん)!!」

 

ヴァイスはギリギリで避け。 美由希は回転して避け、その回転を利用して水の斬撃を放った。

 

「っ……! 痛ってぇじゃねえか!!」

 

「うわぁ……アリサちゃんに聞いた通り。 ダメージを受ければ受けるほど強くなる感じね……」

 

「面倒な性格してんな」

 

「ーーこんなのはいかが?」

 

「!?」

 

いつの間にかサクラリスが上空におり、彼女は右手を横に広げ、その隣の空間が歪むと……そこから大量のグリードが溢れ出てきた。

 

「なあっ!?」

 

「ゆりかご付近にいるのを引っ張ってきた」

 

「面倒くせえ事すんなっ!!」

 

サクラリスは剣を前方に掲げ、美由希達の周りにグリードを移動させ、囲まれてしまった。

 

「あはは! 潰れちまいな!」

 

「……やりなさい」

 

ジブリールが笑い、サクラリスが非情にも剣を振り下ろし。 グリードが一斉に襲いかかってきたが……

 

「とっ!」

 

「邪魔だ……エリアルイン!」

 

美由希は跳躍して、ビルを蹴り上げながらサクラリスとの距離を肉薄し。 地上に残ったヴァイスは弓を構え、その場で一回転。 節の刃が全方向から襲いかかったグリードを切り裂き。 さらに風で巻き起こし、離れていたグリードを吹き飛ばした。

 

「はあっ!!」

 

「っ……!」

 

空中で身体を捻り、サクラリスの手から剣を弾き飛ばした。 そして美由希は地上に着地し、2人の前にジブリールが前に出てきた。

 

「……知ってるか? 人間の感覚器官は対数で感じ取ってんだぜ?」

 

「はあ? いきなり何言ってやがる?」

 

突然のジブリールの哲学めいた発言に、ヴァイスと美由希は首を傾げる。

 

「簡単言えば感覚を正確にする計りのようなもんだ。 これを狂わされると……」

 

『!?』

 

ジブリールは手を上げ……下に振り下ろした。 すると、突然美由希とヴァイスが膝を着いてしまった。

 

「こうなるのさ」

 

突然、2人はまともに立っていられなくなり。 さらに美由希は音が正確に聞き取れなくなってしまったり。 ヴァイスは視界に映る光量が増減を繰り返ししまった。

 

「ぐぅ!? な、なにこれ……耳が!」

 

「視界が……なんだこれは……!」

 

「耳なら音階が狂い、目なら明るさが狂う。 中々面白いだろ?」

 

「相変わらず悪趣味な子ね……」

 

「子ども扱いするな!! オメェからブッ殺すぞ!!」

 

「怖い怖い」

 

サクラリスの戯言を真に受け、ジブリールは八つ当たりのように何度も2人を蹴り飛ばす。 鈍い音が響く中……2人耐えるが。 美由希は打たれ弱く、耐えるのです一杯に対し。 ヴァイスがふらつきながらも立ち上がるのにイラつきを覚えた。

 

「チッ、打たれ強いな」

 

「ハアハア! お生憎、ソウルデヴァイスでの戦闘経験が少ないんでね。 エレメントを防御系で固めてんだよ」

 

「ふぅん? なら……いいサンドバッグになりそうだな?」

 

気を良くしたのか、ヴァイスに集中して袋叩きにした。

 

「ほらほら? どうしたどうしたぁ!?」

 

「ぐ……くっ!」

 

「ーー見えた!」

 

「がっ!?」

 

その時……美由希が迷いなくジブリールに接近し。 蹴り上げてヴァイスから距離を取らせた。

 

「な、なっ!? なんでまともに動けんだよ!?」

 

「うーん……勘?」

 

「ふ、ふざけんな!!」

 

「ふざけてねぇよ!」

 

感覚が元に戻り、耐え抜いたヴァイスが起き上がると同時に接近する。

 

「しまっーー」

 

「そこだぁ!!」

 

刹那の間に一気にジブリールの真横に入り込み……

 

「クライムインゲージ!」

 

姿が搔き消える程の速度で弓の節の刃で連続で素早く切り裂き、最後に蹴り上げた。

 

「テ、テメェ……!」

 

「ハアハア……」

 

「ヴァイス、あんまり飛ばさない方がいいよ? ソウルデヴァイスに慣れてないのに……いきなり全部スキルを最大に強化したんだから。 エレメントを防御主体にしたとしても身体がついてこれるはずがない」

 

「なに、こいつらを倒すまで持てばそれでいい」

 

節々が痛む身体を動かし、ヴァイスはジブリールと対面する。

 

「さあ、デッドヒートだ……飛ばすぜ!!」

 

「舐めんじゃねぇ!!」

 

お互い同時に飛び出して、何度も武器を衝突させる。 所々、ジブリールは歪の魔乖咒を放つが。 その度にヴァイスは己のソウルデヴァイスの属性……風をぶつけ防御する。

 

「とっととくたばりやがれ!!」

 

「おおおおおおっ!!」

 

一瞬の隙をくぐり抜け……ヴァイスは右手に剣のような矢、左手に弓を構え飛び出した。

 

「オラオラオラァ!!」

 

振るたびに狂風が巻き起こり。 何度も切り裂き、一瞬で後退すると……

 

「吹き飛べ! テンペスタ……バースト!!」

 

弓の節が羽を広げるように三節になり、天に向かって矢をつがえる……放つと矢が散るように分裂し、全てが巨大な槍となった。 そして付近全体に強力な槍の雨が降り注いだ。 槍は地面に刺さると小規模の竜巻を起こし、一瞬で辺りは嵐と化した。

 

「おお……!」

 

「ち……クソが……! クソったれがあああ!!」

 

ジブリールとサクラリスが嵐に耐える中、ジブリールは血走った目でヴァイスを睨みつける。

 

「テメェら全員丸裸にして掻っ捌いてやる!!」

 

目の前に魔導書を出現させ、独りでに開き始めた。

 

「疾走を始めた獣の本能! その身貫く無数の鋼刃! 痛みを越えて至る楽土! アーー」

 

「グギャアアアアッ!!」

 

ジブリールが何かを発動しかけた時……突然上空に赤い長大な竜が現れた。

 

「なっ!?」

 

「あれは……」

 

「隕竜メランジェ! ルーチェのお母さん!」

 

暴れ回っていたメランジェがこの場所を通りがかった。 そしてメランジェは口に炎を咥え……ジブリールに向かって発射した。

 

「うあああああぁ……!?」

 

直撃はしなかったが……火球の着弾によって発生した衝撃で、小柄なジブリールは遥か彼方に飛んで行ってしまった。

 

「……どういうオチ?」

 

「まあ、命拾いしたかもな」

 

何とも締まりのない幕引きだったが、美由希とヴァイスには不幸中の幸いだった。 と、そこで不意にサクラリスが両手を上に伸ばし、身体を伸ばした。

 

「あーあ、終わりかな?」

 

「何ですって? それってどういうーー」

 

「じゃね」

 

美由希の言葉を無視し。 手を振りながらゆっくり後退して行き、サクラリスは静かに消えていった。

 

「……何なんだったんだ……あいつら……」

 

「さあね。 少なくとも、撃退成功かな?」

 

当面の危機は脱したが。 まだまだ終わっていないと、美由希は首を左右に振った。

 

「とにかく、次はさっきの竜を追いかけよう。 あの竜はルーチェのお母さん……暴れているようだし、なんとかしないと」

 

「おう!」

 

 

 

そして先程吹き飛ばされたジブリール。 クルクルと回りながら飛んでいき……南部にある森に落下した。

 

「くそっ!! あのクソ竜め……シャランの野郎、後でシメてやる!」

 

木々の枝がクッションになり、ジブリールは大した怪我もなく悪態つきながら森の中を歩きだした。

 

「つうかここはどこだ。 オレはどこまで飛ばされたんだよ?」

 

「ーー君は……」

 

「あん?」

 

その時、ジブリールはバッタリと誰かと出会った。 その人物は初等部くらい……ジブリールと同じくらいの男子で。 腰まである長い金髪を三つ編みにしてまとめていた。

 

「なんだテメェは?」

 

「ボクはただの通りすがりだ」

 

「へっ、そうかよ。 こんな事件が起きてんのに……こんな場所でか?」

 

「………………」

 

ニタリと歪に笑った。 まるで八つ当たりできるオモチャを見つけたような目をして男子を見た。

 

「今無性にイラついてんだ……オレに嬲られてくれやぁ……!!」

 

「それは出来ない。 ボクにはやらなければならない事がある……そして、君の所業は許される事じゃない。 償うべきだ」

 

「はっ! 調子こいて説教たれてんじゃねえよ!!」

 

魔乖咒を身体から溢れ出る。 そして男子は一瞬目を閉じ……力強い目で彼女を見つめた。

 

「なら相手になろう! ボクが最初の勲を示すために!!」

 

次の瞬間……その森から蒼い雷撃が迸った。

 

 



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179話

 

 

高速道ではスバルとギンガがノーヴェとチンクと交戦していた。 その横ではノーヴェに弾かれ、円環のラドムが壁に寄りかかって戦闘を傍観していた。

 

「でりゃ!」

 

「ちっ……!」

 

「遅い遅い!」

 

「素早い奴め!」

 

ギンガの隙間ない強力なラッシュにノーヴェは防戦一方だった。 チンクもスバルのローラブーツを使った緩急がついた距離の取り方に翻弄され、思うようにナイフを投げられなかった。

 

「このやーー」

 

「ーースバル!」

 

「とりゃっ!」

 

放たれたノーヴェの拳は簡単を弾き、ギンガの一声かけて頭を下げる。 間をおかず頭のあった場所から接近してきたスバルの蹴りが放たれた。

 

「ぐあっ!?」

 

「ノーヴェ!」

 

「余所見厳禁!」

 

「なっ……!?」

 

「ほう?」

 

一瞬でターゲットを変更、その切り替わりの早さにチンクはついて行けずギンガの拳をまともに喰らった。 その鮮やかな手並みにウルクは感嘆の声をもらす。

 

「私達姉妹の連携……」

 

「あなた達姉妹の連携で崩せるかしら?」

 

スバルが左側、ギンガが右側に……リボルバーナックルを突き出した構え、シューティングアーツ(クイント・アレンジバージョン)の構えを取りナカジマ姉妹は戦闘機人姉妹を挑発するように鏡のように並び合った。

 

「舐めやがって……!」

 

「挑発に乗るな、ノーヴェ。

 

「手を貸しましょうか?」

 

「いらねえよ。 オメェはすっこんでろ!」

 

「やれやれ……これでは何のために出向いたか分かりませんね」

 

強力関係にあるだけで馴れ合うつもりはない……分かってはいるが、それでもラドムは呆れるように肩をすくめる。 と、その時……

 

「きゃあああああっ!?」

 

どこからか甲高い悲鳴を上げながら誰かが高速道上に、両者の間に落下してきた。 そのせいで砂塵が舞い、ギンガ達とチンク達は一度距離を取った。

 

「イタタ……さすがは騎陣隊の隊士、一筋縄ではいかないですよ」

 

「って、サーシャ!?」

 

砂煙が晴れるとそこには、軽傷をして痛む箇所をさすりながら座り込んでいるサーシャがいた。

 

「あ、スバルちゃん、ギンガさん!」

 

「サーシャ! 無事だったんだね!」

 

「はい! 何とか」

 

サーシャは立ち上がり無事を見せる。 そしてウルクの目の前にゼファーが降り立った。

 

「ゼファー、どうやら手こずっているようですね?」

 

「ああ。 こっちの歯をことごとく躱しやがる。 さすがはベルカ流護身術を使うだけはあるぜ」

 

二刀のソードブレイカーを手の中で回しながらゼファーはサーシャを賞賛する。 そして、ラドムは壁から離れ……

 

「さて……どうやら、私の相手はあなたになりそうですね?」

 

「……っ!」

 

ラドムはロングソードを抜いた。騎陣隊の2人の剣気に当てられ、サーシャは怯みながら輪刀を構える。

 

「サーシャ!!」

 

「おっと……お前らの相手はアタシ達だ!」

 

「早くしないと彼女が死ぬぞ?」

 

スバルは援護に向おうとするも、行先をノーヴェに塞がれてしまう。 サーシャがピンチなり、途端有利だった形勢は敵の方に傾いてしまった。

 

「くっ……スバル! 一気に片をつけるわよ!」

 

「了解!」

 

『IS……発動!!』

 

スバルとギンガは同時にISを発動。 2人の足元にテンプレートが展開し、瞳の色が黄色に変わる。

 

「やっかいな……オーバーデトネイション!」

 

ISを発動させた事に顔を歪め、チンクはスティンガーを大量に空中に発生させスバルとギンガに集中射撃をかけ……爆破する。 だかチンクもこれでやったとは思わず、警戒を緩めない。

 

「とりゃあああっ!!」

 

爆煙の中からローラブーツから火花を散らしながらスバルが飛び出して来た。

 

「ちいっ!」

 

ノーヴェは舌打ちをしながらも牽制のため手甲のクリスタル部分から光弾を連射する。 だがスバルもジグザグと曲がる角度と速度に緩急をつけ避けながら接近する。

 

「ちょこまかと動き回りーー」

 

「ーーティー・ソーク!」

 

「な……!? ぐうっ……!」

 

横を通り過ぎる瞬間、ローラを加速させて一瞬ノーヴェに接近し横っ腹に肘打ちをかます。 突然の事でノーヴェは驚きつつも肘を落として防ぐも……

 

「ソーク・クラブ!」

 

「………………!?」

 

流れるように回転肘打ちを腹に打たれ、声も出せず怯んでしまう。

 

「この……!」

 

「あなたの相手は私よ?」

 

先ほどのノーヴェの言葉をギンガが口にしながらISの効果で一瞬でチンクの前に出た。

 

「よっこい、テッ!」

 

「そんな大振り……」

 

「からのテッ・ラーン!!」

 

「ぐはっ!!」

 

チンクは放たれた回し蹴りを避けるが、そこから蹴り足を変えローキックが放たれ胸に直撃する。

 

「ギン姉!」

 

スバルの合図でギンガはチンクから離れ……

 

「はあああああっ!!!」

 

リボルバーナックルではない、左手を地面に振り下ろした。 無手でも今のスバルはIS、振動破砕を使用中……衝撃が波となってチンクに向かって行き吹き飛ばした。 そして元々ボロボロだった高速道に一気にヒビが走り、崩壊していく。

 

「よっと……1人目確保っと」

 

道路が瓦礫となって落下する中、ギンガは気絶しているチンクを見つけ……ウィングロードで向かい確保した。

 

「チンク姉!!」

 

「ーー隙あり!」

 

一瞬で接近し……両手で首を押さえ込む首相撲(プラム)を仕掛け……

 

「カウ・ローイ!」

 

「ぐはっ!!」

 

容赦無く顔面に膝蹴りを入れた。 当然ノーヴェは視界を塞がれ、仰け反ってしまい。 さらに追い打ちをかけスバルは改造シューティングアーツの構えを取り……

 

「トイヤアアアアッ!!」

 

「ぶはっ!?」

 

鋭いストレートがノーヴェの顔面に入り、吹き飛ばした。 ノーヴェはきりもみしながら地面に引き摺られ……止まると同時に気絶してしまった。

 

「よし! この前のギン姉の借りは返したからね!」

 

「やり過ぎな気もするけど……それより、早くサーシャちゃんの援護に向うわよ!」

 

「うん! 了解!」

 

スバルはノーヴェを拘束し、ギンガはチンクを側に置いた。 そしてサーシャの援護に向おうとギンガがウィングロードを展開しようとした、その瞬間…… 側にあった結界で覆われた廃ビル。 ソーマとティアナを閉じ込めていた廃ビルの結界にヒビが走り……

 

『ーーうおおおおおっ!!』

 

結界を力強くで破壊し、ソーマとティアナが戦闘機人2名……ディードとウェンディを蹴り飛ばしながら飛び出してきた。

 

「あ!!」

 

「ソーマ! ティア!」

 

スバルは2人の無事を喜ぶ。 そしてソーマとティアナは2人を踏み台にして上に跳び……

 

「行くわよ……!」

 

ティアナは魔紋(ヒエラティカ)を輝かせながら左右に魔法陣を展開し……

 

「はあああああああっ!!」

 

両手を広げ、魔法陣に向かって圧縮魔力弾を連射する。 魔法陣を通し、魔力弾は2人の左右に展開された魔法陣に転送……2人は雨のように降り注ぐ弾を耐えるしかなかった。

 

「喰らいなさい、駆け抜ける十字……! クロス……ドライブ!!」

 

そして銃撃を止めるとすぐさまダガーモードに変え、魔力で刀身を伸ばす。 真上に魔法陣を展開し、それを足場にして一気に降下。 2人を十字に斬り裂いた。

 

「ふう……」

 

地上に降り立ち、落下してきたディードとウェンディを魔法で受け止め、拘束した。

 

「これで半分っと。 ふう……まさかあの2人がここまで強くなるなんて」

 

「先に戦闘機人を制圧できて良かったよ。 とはいえ……2人が4人になっちゃったけど」

 

ソーマが上からティアナの隣に降り立ち、彼女の呟きに同意し。 ラドムのゼファーの方を向くと……ウルクとファウレが合流していた。

 

「2人でも大変だったのに……それが4人になるなんて……!」

 

「大丈夫。 エリオとキャロとルーテシアがいないけど……この5人なら勝機は必ずある!」

 

「ソーマ君! ティアナちゃん!」

 

ソーマとティアナはサーシャと、そしてナカジマ姉妹と合流し。 四隊士とソーマ達5人はビルの上に降り立ち、何も無い空間を挟んで対面する。

 

「……戦うつもりなんだろうけど、始める前に聞いておきたい。 あなた達が戦う理由はありますか?」

 

「え……」

 

「ソーマ君、それはどういう意味?」

 

ティアナとサーシャはこの意味を理解しているが、ナカジマ姉妹だけはあの緊張から解けて呆けてしまう。

 

「あなた達のマスターは今地上本部に向かっている。 目的はマスターが達成せしめる……なら、あなた達は恐らく他の陣営の協力」

 

「あ、そっか。 もうここには彼らしかいないから……戦う意味がないんだ」

 

「……確かに。 我らの指名はスカリエッティへの協力……ここにいる戦闘機人、クレフ嬢とシャランがやられた以上、戦う理由はないが……お前達とは対等な勝負をしたいんだよ」

 

「え………」

 

「此の期に及んだまだ僕達と剣を交わそうと?」

 

「その通り……仕切り直しと行こう。 それで構わないな?」

 

ティアナは一歩前に出て、頷いた。

 

「……ええ。 不謹慎だけど……あなた達4人揃っていないとリベンジにならないのよね」

 

「私1人では届きませんでした。 でも、皆となら必ずあなた達にこの刃、届かせてみせます」

 

「結構」

 

「ーーこちらへ。 対等な地で決着をつけましょう」

 

四隊士は踵を返し、ウルクの先導の元ビルからビルへ移動を始めた。 ティアナ達は何も言わず、疑いもなく彼らに着いて行く。 数秒で到着したが……先程まで、ここではキャロ達が戦闘をしており。 今ここには居ないが……側には高熱の熱線でで抉れたかのような深い谷があり、その辺りはほぼ平地になっていた。

 

「あの子達……何やったのよ……」

 

「と、時折凄い音と衝撃が発生していると思ったら……」

 

「どうやらかなりの激戦だったようね」

 

「……まあいいでしょう。 我らの戦いには何もない平地が相応しい。 策略などない……互いの技と力の限りを尽くし、勝利を手にするだけの事……!」

 

騎陣隊の四隊士はソーマ達と対面し、一斉に武器を構えた。

 

「さて……始めるとしましょう。 当初はこちらが各個撃破を狙っていたのですが……」

 

「期せずして騎陣隊・四隊士……揃ってしまいましたね」

 

「……流石は、マスターが目を付けるだけの事はある……」

 

「……だが。 このまま引き下がちゃあー、騎陣隊の名が泣く」

 

そう言い切ると……騎陣隊4名の足元に光り輝く陣が展開され、威圧や気迫が増してしまった。

 

「マスターから全力を尽くせと命を受けています。 彗煌陣(すいこうじん)で一気に決めますよ!」

 

『応ッ!!』

 

騎陣隊はウルクを先頭、ファウレが左翼、ゼファーが右翼、後衛にラドムの菱形の陣形を組んだ。

 

「こ、これは……」

 

「気迫が一気に増した……!」

 

「やっぱり全員使えるんだね……」

 

「気をつけて! 私達はアレにかなり手こずったわ!」

 

「それは……一層気を引き締めませんとね」

 

ソーマ達も気を引き締め、騎陣隊と真正面から対面する。

 

「騎陣隊の誉れ……」

 

「……見せてあげる……」

 

「子ども達は自身の勲を示した。 次はあなた達の番よ」

 

「雛鳥が嵐を越えるだけの翼を得たのか……確かめさせてもらおう!」

 

「機動六課、フォワード部隊ーーこれより敵集団の制圧を開始する!」

 

『おおっ!』

 

ティアナの号令で、全員がそれぞれの武器を構え、勝利を信じて応える。

 

「意気やよし」

 

「……ティマイオスが一柱、雷帝直属ーー」

 

「騎陣隊が四隊士、お相手仕る!」

 

「いざ、尋常に勝負!」

 

ラドムの合図で……両者は同時に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ東部にある森林地帯……そこの洞窟にあるスカリエッティのアジトではフェイトとリヴァンが戦闘機人2名……トーレとセッテが密室空間での高速機動戦闘を繰り広げていた。

 

「はあああっ!」

 

ザンバーフォームのバルディッシュでトーレに斬りかかり、続いて背後からセッテが弧を描いた剣……2つのブーメランブレードをフェイトに向かって投擲する。

 

「疾ッ!!」

 

リヴァンは素早く矢をつがえ、矢を射る。 1つを弾くと、矢の尾羽に着いていた鋼糸が2つ目に絡みつき動きを停止する。

 

「………………」

 

「穿て……」

 

《ドリルアロー》

 

鋼糸を編み込んで矢とし、鏃が螺旋を描いた矢を放った。 セッテは球場の防御障壁を展開し……矢が障壁に衝突。

 

「ぐうぅ……」

 

「フェイト!」

 

「了解!」

 

リヴァンはセッテを矢で対応で動けないと判断し、トーレに向かって狙いを定め矢をつがえる。

 

「ふっ!」

 

矢は射ると同時に放射に広がり、狭い空間に鋼糸を張り巡らせる。 トーレは鋼糸を避けようとし機動力が落ちるが……フェイトは変わらない速度でトーレに接近する。

 

「ちっ!!」

 

大剣が横薙ぎに振られ、それをトーレはギリギリで避け、手足についた羽根のような刃……インパレスブレードで斬りかかった。

 

「うおおお!」

 

「っ……!」

 

《サンダーアーム》

 

バルディッシュが左手の籠手に雷を纏わせ……フェイトがそれでトーレのブレードを防ぎ、雷撃が飛び散る。

 

「ぐうっ……だあ!! トーレ!」

 

そこでセッテが時間が経ち威力が落ちた矢を弾き、すぐさまブーメランブレードを投擲した。 だが……この場所は既に鋼糸が張り巡らせている。 ブーメランブレードは鋼糸に遮られ……

 

「……スノーホワイト」

 

《ロックオン》

 

「なっ!?」

 

「ちっ……」

 

「ーーはああっ!」

 

「ぐっ! ぐあああっ!?」

 

後方で待機していたすずかがスナイプフォームのスノーホワイトでトーレの空いた腕を弾き、続いてセッテの足元を撃ち抜き牽制させる。 その隙にフェイトはバルディッシュを離し右手でトーレの腹部を殴った。 トーレは吹き飛ばされ、途中で鋼糸で腕を切ってしまった。

 

そしてフェイトは地面に着陸。 フェイトとすずか、リヴァンはお互いの背中を見せながらトーレとセッテと対面する。

 

「AMFが重いな。 剄を出すには影響はねぇが……フェイト、すずか、お前達は平気か?」

 

「問題ない。 この程度の負荷……充分耐えられる」

 

「でも、余力は残さないとね」

 

「そりゃ結構。 早くこいつらを倒して先に進んで、ユエとシャッハと合流しねぇとな」

 

トーレとセッテは構え直し、フェイト達を睨みつける。

 

「ぐうっ……よくこの鋼糸が張り巡らされた場所で速度を落とさず突っ込めるものだ」

 

「リヴァンとの……VII組の皆との3年間は私達を強くした。 私達はどんなペアでも最高のパフォーマンスで戦う事ができる」

 

「レルムの精神は……私達の糧となっている。 あなた達にはない絆が私達にはあるの」

 

「そう言うこった。 多分お前ら以上に経験を積み、その何倍の修羅場をあいつらと潜り抜けた。 お前らが機械の通信で連携しているのとは大違いなんだよ。 それに、そこのピンク髪の奴と、俺との相性は良さそうだしな」

 

「……あなたにとっては……の間違いでしょう……」

 

「……レルム魔導学院・旧VII組……侮っていたか」

 

その時……突然フェイト達の目の前に空間ディスプレイが展開された。

 

「!?」

 

『いやぁ、御機嫌よう。 フェイト・テスタロッサ執務官。 そしてリヴァン・サーヴォレイド准尉』

 

「スカリエッティ……!」

 

「ここで出てくるなんて……」

 

「おいおい、いきなり大将が何のようだよ?」

 

フェイトとすずかが警戒を強める中リヴァンが質問するが、スカリエッティは無視して話を続ける。

 

『私の作品と戦っているFの遺産と2人の召喚士。 聞こえてるかい?』

 

どうやらこの場所の他にエリオ達の元にも通信を送っているようだ。 しかし、突然スカリエッティは驚きた表情を見せた。

 

『って……おや? 既に決着が着いているではないか? それにあそこで伸びているのはシャラン君ではないか。 ふふ、ふははは! これは予想外だ! 彼女が着いていながら負けるとは! いや……かの竜召喚士君のクレフ君の想いがそれだけ強かったのかな?』

 

「エリオ、キャロ……」

 

「クレフちゃんを救い出せたんだね」

 

「へぇ、やるじゃねえか」

 

エリオ達が無事だと言うことにすずかとリヴァンはもちろんの事、特にフェイトが安堵した。

 

『ふっ……まあいい。 我々の楽しい祭りの序章もそろそろクライマックスだ』

 

「っ……何が……何が楽しい祭りだ! 今も地上を混乱させている重犯罪者が!」

 

『重犯罪? 人造魔導師や戦闘機人計画の事かい? それとも私がその根幹を設計し、君の母君……プレシア・テスタロッサが完成させた、プロジェクトFの事かい?』

 

「全部だ……!」

 

フェイトの怒りに満ちた答えに、スカリエッティはワザとらしく肩を竦める。

 

『いつの世でも、革新的な人間は虐げられるものだよねぇ』

 

「……そんな傲慢で……人の命や運命を弄んで……!」

 

『貴重な材料を無差別に破壊したり、必要以上に殺したりはしないさ』

 

(なら……意味があれば壊し。 必要最低限は殺しているんだな……ホアキン並みの外道だな)

 

『尊い実験材料変えてあげたのだよ。 価値のない、無駄な命をね』

 

「!!」

 

そのフェイトの感情にバルディッシュが応える。 大剣がさらに電源を纏い、出力を上昇させ……

 

「このおおおおおっ!!」

 

どこに狙いをつけているのかは分からないが、フェイト怒りに任せて大剣を振り上げる。

 

「フェイトちゃん! 落ち着いて!」

 

「ちいっ!」

 

『ふっ……(パチン)』

 

すずかがフェイトを抑えようとした瞬間……画面の中のスカリエッティが指を鳴らした。 するとフェイトの周りを囲うように地面に赤いテンプレートが展開された。

 

「飛べ、フェイト!」

 

「っ!」

 

するとテンプレートから赤いラインが伸び、フェイトはその場から離脱すると……ラインが軌道を変えフェイトの足に、大剣に巻き付いた。

 

「フェイトちゃん!」

 

「大丈夫。 問題ーー」

 

フェイトは大剣を振るい拘束を抜け出そうとした時、通路の先から誰か歩いた来た。 暗がりで良くは見えないが……

 

「…………! お前は!」

 

「ふふ、ふはははは……」

 

次第に顔が見えてきたその人物は……先ほどディスプレイの中にいた人物、ジェイル・スカリエッティだった。

 

「普段は温厚かつ冷静でも……怒りと悲しみにはすぐに我を見失う」

 

「動かないで!」

 

唐突に現れた彼の右手には鉤爪がついたデバイスに似た籠手を装着していた。 すずかは長銃をスカリエッティに向けるが、彼はそれを無視し。 鉤爪を掲げ、空を握り潰すと……バルディッシュの大剣が破壊されてしまった。

 

「フェイ……っ!?」

 

「あなたの相手は私です」

 

「ふふ……」

 

「しまっーー」

 

リヴァンが直ぐに救出しようとするが、その眼前にブーメランブレードが横切り踏み止まった。

 

フェイトが拘束されている隙にスカリエッティは赤い光弾を放ち、フェイトは地面に叩き落とされた。 そして先ほどのラインで角錐のような形で捕獲されてしまった。

 

「ドクターはやらせん」

 

「……大人しく投降は……してもらえないね」

 

制圧しようとすずかが放った魔力弾は一瞬でスカリエッティの前に移動したトーレによって防がれる。

 

「君のその性格は……まさに母親譲りだよ。 フェイト・テスタロッサ。 まあ、姉は父親似だけどね」

 

「その言葉……プレシアさんの目の前でハッキリ言えば!? 喜ぶと思うぞ!」

 

リヴァンは冗談を言ったが、スカリエッティは無視して流した。 その時……すずかに向かって煙を球状にしたような光弾が飛来してきた。 すずかはその場を飛び退き避けると……光弾は地面を抉って消滅した。

 

「なっ!?」

 

「これは……魔乖咒!」

 

「滅の……嫌な予感はしたけど、エリンさんのとは比べ物にならない!」

 

「ーーそれはそうだよ。 あんな紛い物と一緒にしないでもらたいものだね」

 

すずかの言葉に答えるように、スカリエッティの背後から声が聞こえた。 暗がりから現れたのは……スーツを着た、二十代くらいの白髪の男性だった。

 

「ナギ……エスパイア!」

 

「やあ、そこの2人とは2年ぶりかな?」

 

「どうしてあなたがここに……!?」

 

「それを答える義理はないかな? 確かに、僕も野望があり、彼とはお互いを利用し合う協力関係にあるが……僕の目的は今日中に達成はできないんだよね」

 

「ペラペラと喋りやがって……ならそのまま吐いてもらおうか! その野望とやらを!?」

 

「それはお答えできないね」

 

リヴァンの質問に、ナギはやれやれと首を振って回答を拒否した。

 

「ちっ……」

 

「ふふ、雑談はそのくらいにしておこう。 では……」

 

ナギは両手を軽く広げ。 その手から、身体中から滅の魔乖咒が溢れ出してきた。

 

「始めるとしようか?」

 

「っ!? あいつはヤベェ……マジでやらないと死ぬぞ!!」

 

「……出し惜しみはできなそうだね」

 

《ネクストフォーム》

 

「すずか!?」

 

スノーホワイトのフルドライブが発動し、バリアジャケットの形状が変化した。 カチューシャで止められた長い髪は頭の上に結い纏め上げられ。 機動性を重視したのか、大胆にもヘソを出している服装だ。 そしてその手には矢印の形をした槍を持ち、その姿はまるで戦いに赴く、戦姫のような姿だ。

 

「スノーホワイト。 ファーストギア……ファイア」

 

《ドライブ》

 

槍に装着されている歯車が駆動し、魔力を上げすずかは目を閉じる。 そして、目を開くと……その瞳は血のように赤かった。

 

「ほう……?」

 

「吸血鬼の力! 怪異とは違う、私の知らない幻想の一端! 興味が唆られる!!」

 

「すずか……」

 

「大丈夫。 レンヤ君も自分と似たような感じって言ってたし。 私は私の……皆を守るためにこの力を使う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃあああっ!!」

 

《ビットレーザー》

 

市街地上空、そこでは星槍のフェローこと雷帝フェルベルトと、機動六課所属のアリシアとシグナムinリインが交戦していた。 アリシアは両手の拳銃と周囲に浮遊する青いビットレーザーで弾幕を張る。

 

『アルティウムセイバー!』

 

「喰らうがいい……滅!」

 

だが、フェローは力を込め……ランスを横に渾身の一撃で薙ぎ払い弾幕を消し飛ばした。 その余波はアリシアとシグナムの元まで到達した。

 

「嘘おおっ!?」

 

「さすがは武の至境に到達しかけたと言われるだけはある。 尋常ではない魔力だ……!」

 

『……ゼストさん……テオさん……ものすごく強い人はことごとく見慣れていましたけど……あの人もかなり……』

 

リインはフェローの戦いぶりに戦慄していた。

 

「ーーレヴァンティン!」

 

《シュランゲフォルム》

 

だが、シグナムは怯まず。 鞘を展開しながらレヴァンティンはモード変換の準備をし、鞘に収め……その状態でカートリッジを炸裂させる。

 

『炎熱加速!』

 

リインによる援護とともに抜剣。 同時に蛇腹剣となり、伸ばされた刀身に炎が纏われる。

 

『「飛竜……一閃!」』

 

全力でフェローに向かって螺旋を描きながら振るい、炎を纏った砲撃級の魔力斬撃を放った。

 

『炎熱防御、衝撃加速……雷撃付与。 シュトルムランツァー』

 

「行きますよ……貫け!」

 

コルルが補助を行い。 フェローはランスに雷を纏わせ、突きの威力で前に突進する。 ランスは飛竜一閃を正面から撃ち破り、そのまま突撃する。

 

「まだだ!」

 

《蛍火》

 

牽制のため魔力弾を乱射し、連続で爆発を起こすが……フェローの速度は衰えず真っ直ぐランスを向けて突撃してくる。

 

「シグナム!」

 

《シールドビット》

 

シールドとランスが衝突。 止めたのは一瞬だけだが……それだけあればシグナムの前にアリシアが出られた。

 

「でやあっ!」

 

小太刀を交差させ、ランスの軌道を横に逸らした。

 

「やりますね」

 

「霊山の時から3年は経ってるし、今でもあのランスの一撃は身に染みているの!」

 

「ーーですが……まだまだ甘い!」

 

『雷雲よここに! アングリアハンマー!!』

 

「荒ぶる神の(いかずち)よ。いざ、戦さ場に来たれ!!」

 

コルルが雷雲を呼び、天に向けたランスの周囲に展開した雷の魔力球に落雷を落とし……全方向に雷撃と衝撃波を起こす。

 

「ぐっ!」

 

「な、なんて魔力!」

 

「ーーはあっ!」

 

「ああっ!?」

 

「うあああっ!!」

 

驚く間も無くフェローが接近と同時に一呼吸の間に高速で二突き、放ってきた。 ランスは2人の防御を貫き……飛行魔法が消されて吹き飛ばされてしまい、アリシアとシグナムは重力に従って落下してしまった。

 

地上に激突しかけた時……リインの機転で魔法陣を重ねて緩衝と利用、トランポリンのように少し跳ね上がり着地した。

 

「抜けられちゃったね……」

 

『反応はロストしてません。 すぐに追いかけるですよ!』

 

「……フェルベルト……まるで衰えを感じさせなかったな……」

 

「シグナム?」

 

「何でもない。 行くとしよう」

 

2人は飛び立ち、フェローを追いかけ地上本部に向かった。

 

 



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180話

 

 

数十分前ーー

 

「はああああっ!!」

 

ゆりかごを囲う結界の要の1つ、その中の異界を守護するエルダーグリードを渾身の一刀で斬り伏せた。

 

「ふう……手こずったな」

 

額の汗を拭い一息入れつく。 時間短縮のため既にレゾナンスアークのフルドライブ……スペリオルモードも発動しており、魔力も出し惜しみはしてなかった。

 

《異界化が収束します》

 

レゾナンスアークの言葉通り、周囲から光が溢れ出し……現実世界に帰還した。 だが、そこは未だに戦場。 管理局総出でガジェットとグリードと交戦していた。

 

「……ゆりかごがあんなに高く。 もう時間はないな」

 

脱出した場所は突入した地点から動かなかったようで。 顔を上げると上空にゆりかごが浮かんでいた。 しかし、周りに展開されている球体はその数を減らし、残りは2つとなっていた。 どうやら何人かの他の突入メンバーも既に異界を攻略したようだ。

 

「レン君!」

 

「無事みたいね」

 

後方からなのはとアリサが飛んできた。 2人とも既にレイジングハートとフレイムアイズのフルドライブ……エクシードモードとネクストフォルムを発動しているようだ。

 

「オメェがアタシらの後なんて珍しいな」

 

「厄介なグリードが多かったんでな。 残り2人ははやてとシェルティスか……」

 

「そのようね。 けど、その前にアレを見なさい」

 

アリサが指差した方向は上空、つまりゆりかごなのだが。 少しズレており、目を凝らして見てみると……ゆりかごを囲むように丸いリングがかかっており、四角い箱のようなものがリング上で移動していた。

 

「なんだあれ? あんなもの突入前には無かったはずだよな?」

 

「この場で交戦していたティーダさんによれば私達が突入したすぐ後に出現したそうだよ」

 

「ついさっき起動したみたいでね。 どうやらレーザー殲滅兵器のようで結果がこれ」

 

アリシアが指差して方を、真下を見ると……そこは焼け野原が線上に伸びていた。

 

「一種のレーザー兵器みたいでね。 何とか犠牲は避けられたけど、何度も撃たれるとマズイね」

 

「それにどうやらあの球体が消える度に威力が上がっている。 早いとこ何とかしねぇとな」

 

「そうだな……ーー!!」

 

その時、件の兵器が起動し。 四角い箱の底から砲身……いや長大な砲塔が飛び出し、急速に砲門にエネルギーが充填されていく。

 

『全部隊に通達! 上昇しろ!!』

 

ティーダさんが念話で大声で叫んだ。 すぐにこの場にいる管理局員は上昇し、射程の外に、ゆりかごの同じ高度に逃れようとするが……行く手をガジェットやグリードに塞がれる。

 

「ーーレンヤ!」

 

「了解!」

 

退路を開くためアリサと同時に飛び出し、高速で上空に向かい……

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

「ーー虚空千切(こくうちぎり)!」

 

真っ直ぐ突き進み、その線上にいた敵を全て斬り裂き退路を開いた。

 

「フレイムアイズ!」

 

《イクシードシステム。 イグニッション》

 

「さあ、燃やす尽くすわよ!」

 

アリサはフレイムアイズの柄にあるスロットルを回し、轟音を轟かせながら鍔の峰の方面にある排気口から魔力が噴き出す。

 

「ブレイジングアサルト!!」

 

魔力の噴射を推進力にして大火を纏った剣を一回ながら振り抜き、炎の円の斬撃が飛び、周囲にいたガジェット及びグリードを殲滅した。

 

「へぇ、スゲェじゃねぇか」

 

「うん。 高密度の魔力が凄い出力で噴き出しているよ……」

 

「ーーイクシードシステム。 カートリッジやギアーズとは違うコンセプトが採用されたシステム。 従来のとは違ってほぼタイムラグなしで魔力を上昇させられ、さらに物理的な加速も同時に得られる……その分、扱いはさらに難しくなるがな」

 

すずかとアリシアが共同開発で誕生した新しいシステム。 バイクのアクセルを回す要領で特殊魔力機関が駆動、魔力を上昇できるシステム……高速戦闘においてはカートリッジをロードしてから魔力を上げるにしても、ギアを回して上げるにしてもその間に隙があり。 前々からアリサは使いにくそうにしていた。

 

そして、1月前に完成の目処が立ち。 試験動作を経て……フレイムアイズのカートリッジとギアーズの併用機能を廃して昨日ようやく実装された。

 

「早く射程の外へ!」

 

「は、はい!」

 

「急げ!!」

 

ティーダさんが隊員達を叱咤し。 隊員達はすぐさま上空に退避し、次の瞬間……

 

ドオオオオンッ!!!

 

砲門から高熱のレーザーが照射され、民間人などはいないが豊かな自然が焼き払われた。

 

「何をしているんだ? あんなことして意味なんかねぇのに……」

 

「分からない……けど、このまま放って置くわけにはいかない! レイジングハート!!」

 

《ブラスターモード》

 

なのははレイジングハートのリミットブレイクモードを起動。 外見的な変化はないが性能は先程は比べ物にならないくらい高くなり、出力も大幅に向上した。 しかし、その分使用者とデバイス両方に過大な負荷がかかる……諸刃の剣のような機能だ。

 

なのはの左右にレイジングハートと似たような機構の2つのビット……ブラスタービットが展開、浮遊する。

 

《ブラスターモード、アクティベート》

 

周囲に漂っている大量の魔力を集め、2つのブラスタービットに急速に魔力が充填されて行く。

 

『高町一尉がレーザー兵器を破壊します。 総員、敵集団に対処しながら後退してください』

 

『了解した』

 

全空域に念話で伝令を出し。 部隊が後退している間になのはは狙いを定め、発射準備をいていた時……突然高速で何かがゆりかごから発進、なのはに向かって飛来してきた。そしてゆりかごとなのはの間に割って入ってきたのは……人型をしたガジェットだった。

 

「あれは……!」

 

「新型のガジェット!?」

 

人型のガジェットはなのはに目標に狙い、両肩の装甲が展開、ワイヤーが射出される。 その先端には鉤爪が付いており、狙いはなのはで……なのはは飛翔して避けるが、充填の為速度が出せず掴まれてしまう。

 

「きゃあああっ!!」

 

「なのは!!」

 

「邪魔だ!」

 

すぐさま振り解こうとした瞬間、ワイヤーを使って電撃が走った。 バリアジャケットの絶縁で電撃は軽減されるもダメージは受けてしまう。 ヴィータも援護しようとするもグリードに行く手を塞がれる。

 

「っ……!! レ、レイジングハート……!」

 

《充填率60%》

 

援護に行けない事が歯痒いが、なのはは電撃に耐えつつ魔力を急速に充填していき……

 

《チャージコンプリート》

 

「ーースターライト……ブレイカァーーー!!」

 

チャージ完了と同時にトリガーを引き、槍のような杖の先端から巨大な集束砲撃魔法が発射された。

 

人型ガジェットのAMFと物理防御フィールドに直撃……ほんの少しの拮抗の後容易く突き破った。 砲撃はそのまま直進、はるか遠くにいた射線上のガジェットを破壊するも……レーザー兵器からは外れてしまい、砲撃はゆりかごを通過してしまう。

 

「外した!」

 

「でも、道は出来た!」

 

「ーーうううっ……!!」

 

「? なのは?」

 

外したにも関わらず、なのはは砲撃の発射を辞めず、その状態を維持したままレイジングハートを下に動かし……砲撃を動かし始めた。

 

「こいつは……!」

 

「砲撃じゃ……ない!?」

 

「あれは……魔力刃か!!」

 

「ーーこれが私達の……」

 

砲撃のような魔力刃、それがレーザー兵器に振り下ろされ……

 

《スターライトサーベル》

 

「魔法だああああっ!!」

 

魔力刃がレーザー兵器に沈み込むように斬り込み、そこから横に振り抜き……レーザー兵器を破壊した。

 

「な、なんて子なの……」

 

「さすがはなのは、と言ったところかな」

 

だが、なのはの奴、かなり飛ばし過ぎたな。 周囲の魔力を代用して自身の魔力消費を抑えたかもしれないが……あの砲撃を維持するのにかなり体力を消費している。

 

「ハアハア……」

 

「なのは、大丈夫か?」

 

「うん……AMFも弱かったし、大丈夫だよ」

 

「そんなわけねぇだろ! 砲撃は撃ってすぐ止めるもんなのに、あんなに保たせるなんて……レイジングハートの負荷も半端ねぇぞ!」

 

《問題ありません》

 

ヴィータの言う通り、なのははもちろんのこと、レイジングハートも砲身が歪むほどの高熱を放っており、先程から大量の熱を排出している。

 

『ヴィータ、なのはを頼む。 回復次第、合流してくれ』

 

『わかった』

 

「ふう……気疲れしたな。 それにしても……」

 

視線を横に向け、異形のゆりかごを見る。 ゆりかごにも砲撃……もとい魔力刃が直撃したはずなのに、無傷だった。

 

《砲撃が直撃した瞬間、砲撃の魔力が霧散を検知しました。 恐らく強力なAMFが展開されているもよう》

 

「なのはのスターライトブレイカーすら通らないAMFか……どう突破するか」

 

「レンヤ、あれ」

 

その時、浮遊していた残り2つの球体が消滅。 結界が解除された。 はやてとシェルティスがやったようだ。

 

「皆ーー!!」

 

「どうやら僕らが最後みたいだね」

 

そして異界から脱出したはやてとシェルティスがこちらに飛んできた。

 

「さっきよりかなり敵が減ったようやけど……ようやく本丸に突入か?」

 

「ああ。 先ずは入り口を見つける。 もしくはこじ開け、入り口を確保。 なのはとヴィータと合流次第ゆりかごに突入する」

 

「分かった。 まずは甲板に行こう」

 

『ティーダさん。 機動六課はこれよりゆりかご内部に突入します。 ある程度減らしたとはいえ、増援に警戒しつつこの場をお願いします』

 

『ああ、さっさとヴィヴィオとイットを取り返してこい!』

 

『はい!』

 

その時、ゆりかごから大量のガジェットが射出された。 ちょうど警戒すべきだった増援が出てきてしまったようだ。

 

「はやて、いけるか?」

 

「もちろん! 行くでぇ!!」

 

あの軍団をどうにか出来るかと質問すると、はやては頷き杖を天に掲げる。

 

「天より来たれ雷神の槌、此方に駆けよ颶風の天威……」

 

足元に白い古代ベルカ式の魔法陣を展開すると、ゆりかごの真下に黒い雲……雷雲が集まり始め、雷撃が内部と迸り……

 

「渦巻き集い地を穿て! エウテルペ!!」

 

杖が振り下ろされ……無数のかなり大きい枝状の雷が上下に落とされ。 上にゆりかごが、下にガジェットに落とされた、ゆりかごはほぼ無傷だったがガジェットは一掃した。

 

「よしよし♪ もうノーコンの称号は返却やな」

 

「気にしてたのね、それ」

 

満足気に頷くはやてに、アリサは少し呆れながらも微笑んだ。 そして障害物がなくなり、ゆりかごに接近し甲板に降り立った。 本来のゆりかごなら甲板のような平たい場所はないのだが……既にこれはゆりかごとは言い難いだろ。

 

「影の属性がかなり色濃いわね……」

 

「夕闇の落とし子を思い出すな」

 

異形といってもかなり機械的な変化が多い。 それでも本来のゆりかごと比べればふた回りは大きい。 侵入口を探そうと辺りを見回すと……甲板後部方面にあった内部へに入るための入り口が開いた。

 

「誘っているな……」

 

「好都合よ。 穴を開ける手間が省けたわ」

 

「ーー皆!」

 

ちょうどそこへなのはとヴィータが甲板に降り立ち、こちらと合流した。

 

「待たせたな」

 

「私らもちょうど着いたところや。 さて……レンヤ君、そろそろ行こうか?」

 

「ああ!」

 

例え罠であろうと、迷わずゆりかご内部に突入した。 内部もやはり影の属性が強いようだが、所々に植物を目にする。 まるで有機物と無機物が同時に存在、混ざり合っているような場所だ。

 

「どうやらさっきの球体のように、このゆりかご自体が異界と化しているようね」

 

「……気配がかなり多いわね。 進むのにも苦労しそうね」

 

「敵はグリードやガジェットだけじゃない……恐らく異編卿や魔乖術師も潜んでいるはず」

 

「それでも、やるしかねぇだろ。 シャマルとザフィーラのやられた借りを返さねぇといけねぇしよ」

 

「……いつでも行けるよ。 レンヤ、いつものをお願いできる?」

 

シェルティスの提案に無言で頷き、俺は皆の前に立った。

 

「機動六課ーーこれより異形と化した聖王のゆりかご内部の探索を開始する。 目標、艦首付近の玉座の間にいるヴィヴィオとイットの保護。 そして艦尾後部の駆動炉の破壊……皆、明日を掴むために、全力を尽くしてくれ!!」

 

『了解ッ!!』

 

発破のような号令に皆は大きく応え。 それぞれの武器を手にし、俺達は異界に向かって走り出した。 のだが……

 

「……なんでこうなった」

 

異界に入って数分後。 俺は独り、狭い通路……ダクトの中で匍匐前進しながらそう呟かずにはいられなかった。 順番は前からアギト、アリサ、なのは、俺、はやて、ヴィータ、シェルティスとなっている。

 

「仕方ないだろ。 大量にグリードやらガジェットやらが押し寄せて来て、後退しようと思った所にダクトがあったんだし」

 

「そもそも、なんでこんな場所に来てまでダクトがあるのかが疑問に思いたいのだが?」

 

「ゆりかごも一応戦艦やし、ダクトくらいあるやろ」

 

「そ、そういうものかなぁ……」

 

《あるもんは仕方ないですよ》

 

納得できるか、とは言えず。 結局ダクトを進むしかなかった。 そして……俺はまた列の中間にいた。 急いでいたとはいえ、敵の侵攻を防ぐのを放棄して先に入る訳にもいかなかったが……今回はなのはが前、はやてが後ろにいる。 太陽の砦の時とは逆だな。

 

「………………」

 

「………………///」

 

「なのはちゃーん? 今更照れる必要ないと思うで? それよりもっとスゴイ事をーー」

 

「わーわー! はやてちゃん、ストーップ!」

 

はやての言葉を言わせないようになのはは大声で叫ぶ。 しかし、ダクトの中で叫ばれると反響してかなりうるさい。 その意味を込めてはやてに軽くて蹴りを入れた。

 

「アタ……」

 

「それにしてもどこに向かってんだ? 方角が分かんなくなってきたぞ」

 

「方向からして後部に向かっているとと思うけどーー」

 

ガコン!

 

『!?』

 

その時、何かが動き出した音がダクト内で聞こえた。 次の瞬間……底が開いて落とされてしまう。

 

「うわあああっ!?」

 

「落とし穴!?」

 

「こんなダクトの中で!?」

 

「くっ……!」

 

そのまま落下していき、落下途中で二手に分かれてしまった。 そしてまたダクトの中に入り……途中でダクトが曲線を描いていたため落下から力が横に向き、滑るようにダクトを通り抜けどこかのアトラクションのように放り出された。

 

AMFが強過ぎて飛行魔法に支障が出るが、冷静に空中で身体を捻り姿勢を正し……着地する。

 

「ふう……してやられーー『きゃあ!』どわっ!?」

 

はめられたと後悔していると先程のダクトからなのはとアリサが飛び出して来て……俺は2人に押し潰されてしまった。

 

「痛たた……」

 

「もう、なんなの一体……」

 

「……あの……どいてもらえるかな?」

 

『え……』

 

2人に押し倒されているのは分かるが、何か柔らかい物に押し潰されて視界が塞がれている上に息がしづらい。 とにかく押し退こうと手を押し出そうとすると……

 

フニュン……

 

「あ……///」

 

「ん……///」

 

「あ」

 

この両手が鷲掴みにしている柔らかいものは、これってもしかして……とりあえず手を下ろした。 続いてなのはとアリサは退いてくれた。 その顔はどことなく……いや目に見えて赤くなっている。

 

「えっと……まあその、2人とも怪我がなくてよかったよ」

 

「……レン君のエッチ……」

 

「……変態、節操なし……」

 

「…………ごめんなさい…………」

 

「何やってんだお前ら?」

 

謝るしかなかった。 と、そこで薄紫色の蝶型の念威端子が飛んで来た。

 

『皆、無事……って、なにかあったの?』

 

「な、なんでもない……全員無事だ。 はやて達の方も無事か?」

 

『うん。 3人とも無事だよ。 どうやら意図的に分けられたようだね。 あ、通信をはやてに繋げるよ』

 

『ーーレンヤ君。 私達は無事や。 このまま予定通り任務を遂行するで、私達は駆動炉に向こう。 レンヤ君達はヴィヴィオとイットを』

 

「分かった。 気をつけてな」

 

『うん!』

 

通信を終え、ツァリに随時外の状況を伝えるようにし。 この先にあった通路を見た。

 

「そのうち分かれるつもりだったが、予定が早まっただけだ。 俺達は艦首、玉座の間に向かう」

 

「了解よ」

 

「さて、じゃあやるか」

 

気を取り直し行動を開始し。 目を閉じて手を前に出し、全ての感覚を研ぎ澄ませた。

 

「……風の流れ、音の反響からしてかなり入り組んでいる、ガジェット6、グリード4の割合で敵も多い。 しかも軽く1キロはある……ゆりかごの中は完全に異界と化しているようだな」

 

「よ、よく分かるね……」

 

「それも八葉の教えかしら?」

 

「手解きを受けただけだ、正統な後継者じゃない」

 

3学生の時、1度だけ老師はミッドを……ルキューのレルムを訪れた事があった。 その時に授業そっちのけで丸一日中、八葉一刀流の型を一通り叩き込まれてしまった。 心身共にバテバテになり。 老師は帰り際に、俺に初伝は一応授けたようだが……

 

(最初、八の型を徹底的に叩き込まれたけど……伍の型が一番しっくり来るんだよなぁ)

 

「まあ、今はこの事はいいでしょう。 先に進みましょう」

 

「AMFが強いから近接格闘が主流になるけど、気を抜かずに行こう」

 

武器を構えら俺達は異界迷宮へ足を踏み入れた。 迷宮の中は凶悪なトラップなどの仕掛けもあったが、慣れたもので冷静に対処して先に進む。

 

「ここは……」

 

しばらくすると開けた空間に出た。 しかし、ここはどう見ても古風な劇場という場所だ。 観客席が奥に向かうに連れて段差が上がる半円型で、中心に舞台がある真紅をイメージさせる紅い劇場……柱や壁の所々に見える黄金は絢爛差をさらに感じさせる。 そして、ここがゆりかごの中だと考えるなら場違いな劇場だ。

 

「何だここ?」

 

「劇場のようね。 もはや何でもアリね」

 

「かなり空間が捻じ曲がっているな」

 

「……あ。 あの人は……」

 

なのはの視線の先……舞台の上には真紅のチャイナドレスを着た長いウェーブがかかった赤髪の女性、ナタラーシャ・エメロードが高価そうな椅子に座っていた。 俺達は階段を降り、舞台の前に向かった。

 

「ーー題して、燃ゆる真紅の劇場……ようこそ、私の舞台へ」

 

「ナタラーシャ……エメロード……」

 

「まさかあなたがここにいるなんてね。 もしかして他にも異編卿がいるのかしら」

 

「ええ、このゆりかごには私の他にもマハ、空白(イグニド)、そしてアルマデス様もここにいるわ」

 

ナタラーシャは椅子から立ち上がり、舞台を歩きながら話した。 その左手は俺達の方に向き、次に舞台の反対側に向けた。

 

(登って来いって事か……)

 

俺は舞台に上がり、なのはとアリサも後に続き………舞台の片側でナタラーシャと対面する。

 

「一応聞いておくけど、あなたも魔法文化崩壊という夢物語を目論んでいるのかしら?」

 

「それを一番に推奨しているのは空白よ。 私達はただの偶然が起こした集まり……目的もなく、空白の余興に付き合っているだけ。 それが異編卿の形……歪でしょ?」

 

「……そうかもしれない。 でも、歪ではないと思う」

 

「レン君?」

 

「確かにあなた達が行っている事は犯罪だ。 しかし、魔乖術師と違ってあなた達には意志が感じられる。 目的は明白ではないのかもしれない……けど、その形があなたは気に入っている。 違いますか?」

 

「……………………」

 

思いがけなかったのか、ナタラーシャは少し呆ける。 そして口を手で押さえ、笑みを浮かべた。

 

「ふふ……本当に鋭い子ね。 そこまで見抜かれるなんて……」

 

「異編卿にも色々あんだな」

 

「ええ、そうね。 でも……それとこれとは話は別よ。 ナタラーシャ、ここを通してもらえないかしら?」

 

アリサは腰に佩た剣を抜き、ナタラーシャに向かって剣先を向けながら質問した。

 

「それはお断りさせてもらうわ。 一応は空白の考えに賛同している身、人の醜い一面は……よく知っているのよ」

 

「え……」

 

パチン!

 

不意にナタラーシャは右手を上げ、指を鳴らした。 すると彼女の左右の空間が歪み……2体炎の精霊(エレメント)、エルダーグリードE=クリムゾンが現れた。

 

「場も暖まった事だし……始めましょう。 この終焉へ向かう歌劇を!!」

 

ナタラーシャの意志に反応するように、全身から高熱の炎が留めなく勢いよく溢れ出してきた。

 

「熱っ!?」

 

「な、なんて熱量……!」

 

「気をつけなさい。 私でも火傷する程の豪炎よ!」

 

アリサを医療院送りした程の炎……警戒しつつ長刀と3本の短刀を抜刀し、号令を出す。

 

「状況開始ーー機動六課、目標を撃破する!」

 

『おおっ!』

 

同時にアリサはアギトとユニゾン。 髪はナタラーシャのような炎のように紅く、目は紫色に変わり。 柄のスロットルを回し魔力を高める。 と、そこで2体のE=クリムゾンが滑るように移動し、アリサとナタラーシャの直線上をジグザグと進みながら火炎弾をばら撒く。

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

水椹(みずさわら)!」

 

1番目の歯車を駆動させながら長刀を床に突き刺して手放し、左の3本の短刀で無納刀での居合いの構えを取り……縦並びの広範囲の魔力斬撃を放った。 アリサはこれを跳躍して避け、3本の斬撃は全ての火炎弾を弾き飛ばし、威力が落ちながらもE=クリムゾンに斬りつけた。

 

『内部機関駆動、炎熱加速!』

 

「フレアドライブ!」

 

剣が炎を上げながら刀身に纏い、回転をつけながらナタラーシャに振り下ろした。

 

「炙れ」

 

その一言で彼女の左右から炎柱が上がり、それが中に折り曲がりアリサの剣を受け止めた。 まるで質量のある炎の腕だ。

 

「爛れろ」

 

続けてナタラーシャの頭上からこちらに向けて炎が滝のように吹き出してきた。 炎は水のように流れながら迫って来た。

 

「アクセルショット……」

 

《ロッドモード》

 

「ファイア!!」

 

なのはは目の前に魔力弾を浮遊、レイジングハートを棍に変形させ、魔力弾に棍をぶつけて放った。 魔力弾は炎の波の中間を突き抜け……2つに割いた。

 

「行くぞ……!」

 

《モーメントステップ》

 

その間を高速で突き抜け、ナタラーシャとの距離を詰める。

 

《ポジグラビティ》

 

「はあああっ!!」

 

頭上で剣を止められていたアリサは自身に強い重力をかけ、さらにイクシードを駆動させ加速、炎の腕を突破した。

 

《セカンドギア……ドライブ》

 

柚匁(ゆずめ)!」

 

「喰らいなさい!」

 

2番目の歯車も駆動させ、左手の3本の短刀を操作魔法で浮かせ……風車のように高速で回転させながら突進し。 アリサは縦に回転し、加速して勢いよく自分ごと剣を振り下ろした。 と、不意にナタラーシャは両手を上げ……

 

(フン)ッ!!」

 

一瞬で両手から巨大な火球を作り出し、俺達に向かって放った。 咄嗟に回避行動を取ろうとするが……

 

(間に合わないっ!!)

 

「ーー避けて!!」

 

《メーザーフォース》

 

その時、背後から複数の砲撃が火球を消した……までは行かずとも勢いを衰えさせた。 その一瞬で俺とアリサは左右に飛び、射程から離脱した。

 

「ありがとう、なのは」

 

「助かったわ」

 

一息つく暇もなくE=クリムゾンに向かって走り出し、片方のE=クリムゾンは魔力を貯め始める。

 

「させるか!」

 

《モーメントステップ》

 

長刀を納刀し、一気に距離を詰め……抜刀と同時に背後に回った。

 

月梅(つきうめ)

 

刀を振り払い、納刀すると……E=クリムゾンに一閃が走り、消滅した。

 

「アギト、フェアライズよ!」

 

『応ッ! 遅延魔法の用意をしとく。 右手が火炎弾、左手が防御障壁だ!』

 

アリサの両手に紫色の魔力リングが展開し……ユニゾンが解かれ、アギトを置いてアリサはもう片方のE=クリムゾンに向かう。

 

《ブレイドライド》

 

地面に剣を突き刺してスロットルを回し、炎の道を作りながら剣で疾走する。

 

「でやあああっ!!」

 

複雑な軌道を描いて接近し、真下からE=クリムゾンを斬り上げた。 そして浮いたそれをなのは追撃する。

 

《ロードカートリッジ》

 

「理を尽くし、螺旋を掴む!」

 

カートリッジを炸裂させながら棍を振り回して力を一点に集中させ……

 

「とりああゃっ!!」

 

E=クリムゾンに振り下ろした。 その直撃による衝撃は凄まじく、強烈な音を響かせながら高速でナタラーシャに向かって落下する。

 

()えろ」

 

そう呟くと……E=クリムゾンは爆発、四散した。 そして発生した爆炎をアリサが突き抜けてきた。 ナタラーシャは火球を放つが、アリサは左手の遅延魔法を発動し。 障壁を展開して防ぎ……スロットルを回しながら剣を振り抜いた。

 

「やるわね」

 

「軽く受け止めておいてよく言うわ」

 

ナタラーシャは手に炎を纏わせ、アリサの一閃を受け止めていた。

 

「顕現術式による炎……敵じゃなかったら尊敬してたわね」

 

「それは光栄ね。 でも……」

 

その時、鍔迫り合いをしている2人の足元が陽炎のように揺らぎ始めた。 そして地面から炎が噴き出し始め……

 

「アリサちゃん!」

 

《ラバーバインド》

 

「きゃあっ!?」

 

「ーー(ゼツ)ッ!!」

 

なのはがアリサの腰にバインドを掛け、一気にバインドを引き戻し距離を取らせ……次の瞬間、ナタラーシャは自身ごと業火に焼かれてしまった。

 

「嘘……自分ごと……」

 

「ーーそんなわけあるかよ。 あいつが自分の炎で焼かれるはずがねぇ。 そんな事よりアリサ、こっちは準備万端だ!」

 

「ええ。 アギト……行くわよ!」

 

「応よ!」

 

『フェアーー』

 

「灰燼と化せ!!」

 

フェアライズを発動させようとした時……燃え盛る業火から横向きの炎の竜巻が飛来してきた。

 

「くっ……!」

 

《スピアウォール》

 

すぐさまなのはが魔力で構成された鋭角な障壁を展開し、炎の竜巻の衝撃の大半を横に逸らした。 だが、結果的に横に逸れた炎は2人を火炙り状態にしてしまった。

 

「このっ!」

 

「余波でこれかよ……」

 

「ハアハア……な、なんて炎……バリアジャケットを着ていても火傷するなんて……」

 

「応急処置する。 なのはジッとしてなさい」

 

アリサは一払いで炎を退け、アギトと共に火傷を負ってしまったなのはに応急処置を施す。

 

「ーーそんな事をさせると思う? 隙多いのよ、それ」

 

「確かにそうですね。 そして……あなたも」

 

「っ!」

 

ナタラーシャのすぐ横で魔力を込め、精神を統一してながら控えていた俺は……開眼してナタラーシャを見据える。

 

「ーー鏡花水月。 我が太刀は鏡……捉えた!!」

 

一瞬で加速、納刀状態の刀でナタラーシャを上には打ち上げる。

 

「はあああああっ!!」

 

追撃して神速の居合で一閃、通り抜け納刀。 そして追撃して居合で一閃……ジグザグとそれを繰り返しながら上昇し……

 

「斬ッ!!」

 

ある程度上昇すると一瞬で頭上に移動し、そこから神速の居合で一閃、スタッと地面に着地し……

 

「五ノ太刀……朔月(さくげつ)!」

 

刀を一振りして刀身に纏っていた魔力を振り払い、逆手に持ち替え。 目の前で鍔を鳴らせながら斜め向きに納刀すると……蒼の一閃が走り、上空のナタラーシャを一刀両断した。

 

「………………」

 

「レン君?」

 

「どうかしたのかよ?」

 

「手応えが薄い……」

 

「ーーふふ、ふふふ……やるわね。 でもまだまだ足りないわね」

 

地面に落下したナタラーシャは何事もなかったかのように起き上がり、不敵に笑みを浮かべる。

 

(原因はやっぱり八葉の鍛錬不足、ぶっつけ本番で奥義を使ったのが仇になったか……)

 

「さて、このまま終わるのも面白くないし……」

 

すると、ナタラーシャの全身から炎が溢れ出してきた。 しかもただの炎ではない、どことなく異質な気配を感じさせ……

 

「どこまで私を“アツく”させるか試させてもらいましょうかーー!」

 

一気に炎が溢れ出した。 その変化は彼女自身にも起き、目の瞳孔が縦に伸び、露出している顔や腕、足の表面に鱗のような模様が浮かび上がってきた。

 

「な、なに……これ……」

 

《熱量が段違いに上がりました。 このままではバリアジャケットの耐熱でも耐えられません》

 

「……あの鱗……コーの民か……」

 

「今まで本気じゃなかったのかよ!?」

 

「!!」

 

その時、ナタラーシャは手を掲げ、その手に渦巻く火球を出現させる。

 

「ーー避けなさい!」

 

(シャア)ッ!」

 

放たれた火球は渦巻きながら進み、俺達は防御を固めながら後退し避け……火球は左側に逸れて劇場を破壊する。

 

(ゴウ)ッ!」

 

続けて同じような火球を放ち、今度は最初から狙いが外れるも……右側の劇場を破壊する。 まるで準備運動をしているかのようだ。

 

「異編卿第2位、真紅……」

 

「ここまでだったなんて……!」

 

「(このままではヤバい……なんとか突破口を開かないと!)レゾナンスアーク! 抜刀ーー」

 

「ーーその必要はないわ」

 

『!?』

 

近接ブレイカーの抜刀を発動しようとした時……どこからともなく声が聞こえてきた。 聞き覚えがあるが、その前にいくつもの魔力刃がナタラーシャに飛来した。

 

「なに……!?」

 

「ーーバー・クワン・サバッド・ナー(狂気の牙を打ち振る舞い)ッ!!」

 

ナタラーシャを奇襲し、そして誰かが彼女に向かって突っ込み、突撃するように振りかぶって強烈な肘落としを放った。

 

「っ……!!」

 

かなりの威力で、ナタラーシャは防御しながらもかなり押され……舞台の壁まで押されてしまった。 そして舞台に降り立った2人は……

 

「クイントさん!?」

 

「それにメガーヌさんも!」

 

「どうしてここに!?」

 

「地上の方はひと段落ついてね。 後のことはゼスト隊長に任せて応援に来たのよ」

 

「ふふ、グットタイミングだったみたいね」

 

どうしてここにいるの答えると……2人は俺達を背にナタラーシャと対面する。

 

「へぇ……あなた達が出てくるなんてね。 私としては地上部隊筆頭とやり合いたかったんだけど……地上部隊の最強コンビ、これはこれで燃えるわね!」

 

竜のような瞳でナタラーシャはクイントさんとメガーヌさんに狙いを定める。

 

「ーー行きなさい。 彼女は私達が引き受ける」

 

「あなた達はヴィヴィオちゃんとイット君の元に」

 

「! ……はい!!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「どうか気をつけて!」

 

この場をクイントさん達に任せ、俺達は舞台裏に入り……そこにあったエレベーターで上に向かった。

 

 




次元世界中を恐怖で震撼させた管理局の白い悪魔!

その名はガン……ではなくて、高町 なのは!!

俗語で知ってから使ってみたかった、00が好きな作者。

この作品の赤い彗星は誰でしょうね(笑)。


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181話

 

 

レンヤ達と離ればなれになりながらも、はやて達は駆動炉に向かうため、異界迷宮を進んでいた。

 

「ふう……どれくらい進んだんやろか?」

 

襲いかかってきたガジェットとグリードを殲滅し、はやて達は辺りを見回しながら一息つく。

 

「さあな。 ガジェットやらグリードやらが邪魔で潰してたしあんま気にしてなかった」

 

《この先に広い空間があります。 恐らく中間地点だと思われます》

 

「………………」

 

そんな中、シェルティスは先の通路を静かに睨みつけていた。

 

「シェルティス?」

 

「どうかしたのか?」

 

「……ううん。 なんでもない……行こう……」

 

シェルティスは気になる事がありながらも先に進み、しばらくして通路を抜けると……薄暗い迷宮とはうって変わり太陽と大空がある、風なびく草原だった。

 

「ここは……外か?」

 

「異界やろうな。 意外と普通の光景で驚くけどなぁ」

 

「……いるんだろう? 異編卿第三位、黄金のマハ」

 

「え……」

 

シェルティスの呼び声に答えたのかはわからないが、近くの岩から地面を引きずるような音を立てながら現れたのは……色褪せた黄土色のローブを着て、身体の各所をリングで圧迫している人物……

 

「黄金のマハ……久しぶりです。 また草原で会いましたね、昼夜違いますけど」

 

「……………………」

 

「報告で聞いとったけど、無口やなぁ……」

 

「我が名はマハ。 黄金のマハ」

 

「って、そこで名乗るんかい!」

 

目深のローブから重く、響くように名乗った。 そして性分なのか、はやてはそれにツッコミを入れる。

 

「これより介入。 対象3人の排除を開始する……」

 

「問答無用かよ」

 

「マハはこんな人だよ。 そして……非情だ」

 

「来るで!」

 

「ーー()()()()()()()()()()()……()……()()()()……()……」

 

呟かれたのはマハが黄金たる黄金術式の詠唱。 虫の羽音のように紡がれる術式は万物を創造しえる力を持つ。

 

()()()()()………()……()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()………()()……()()()()()()()()……()……()()……()()()()……()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()………」

 

ぼこり、と突如地面から何が飛び出してきた。 それは黄金の杭……地中から高速で撃ち出された無数の杭が、(やり)さながらな鋭利な先端を向けて放たれた。 何十本、何百本という桁違いの数が。

 

「以前と同じ展開!」

 

「ーー撃ち返せ、イージス!」

 

はやてが目の前に六角形で構成された半球型の障壁を展開し、全ての鎗を防ぎ跳ね返した。

 

「弾幕はパワーだ!」

 

《ゲフェーアリヒシュテルン》

 

「でやっ!」

 

ヴィータははやての防御から出て横に移動しながら目の前に複数の鉄球を展開し、ハンマーを振り下ろし全て打ち出した。

 

「規定する。 花が理想を彩る夢」

 

怯むことなく詠唱し、マハは迫ってきた鉄球を地面から芽生えた土塊の花によって受け止められた。

 

「鉄球より擬似創造。 色は翡翠。 性質は嫉妬。 形状(かたち)蟷螂(かまきり)。 万物を斬り刻む鎌を持って顕現せよ。 眼前の敵の断滅を規定する」

 

ヴィータの鉄球は実体のある物理魔法。 マハそれを利用し、鉄球を受け止めた花が萎んで鉄球を呑み込み……エメラルドの光沢を持った蟷螂を創り出した。

 

「なっ……!? こっちの攻撃が利用されただと!?」

 

「初めて見るタイプだ……2人とも、気をつけて!」

 

蟷螂は真っ直ぐ、はやて達に向かって鎌を向けながら疾走する。

 

「散開!」

 

はやてがそう指示すると、3人は3方向に飛び出した。 すると蟷螂は左右のはやてとヴィータに鎌による斬撃を飛ばし、正面から来たシェルティスに鎌を振り下ろそうとする。

 

「剣晶十二……翠晶剣!」

 

シェルティスは自身の双剣を納め。 両手ににいくつもの翠の水晶で構成された剣を作り出し、振り下ろされた鎌を受け止め……剣を鎌にめり込ませるように斬らせて手放した。

 

「せいっ!!」

 

剣がくっついてまごついている間に新たに剣を作り、動体を斬り裂いた。 その間にはやてとヴィータはマハに向かって走り出す。

 

「はやて!」

 

「分かっとる!」

 

「ーー規定する。 世界は終焉を迎える」

 

はやてとヴィータが一歩踏み出そうとした時……黄金の魔力が波として地面に流れ……マハのいる方面を抜いてみるみるうちに草原が砂漠と変貌しまい、2人は足を取られてしまった。

 

「草原が一瞬で砂漠に……!」

 

「なんて魔力だ!」

 

これだけの質量を一瞬で変化させるだけの魔力、そして黄金六面体の本領が発揮されつつあり。 続けてマハは詠唱を行う。

 

「地中の砂鉄より擬似創造。 色は灰色。 性質は畏怖。形状は鼠。 個にして全、軍団にて顕現せよ。森羅の(かさね)を規定する」

 

次々と砂の中から何百……何千匹もの灰色の鼠が出てきた。 灰色というよりも鈍色に光る鉄のような針鼠だ。 それがカサカサと音を立て、砂漠に無数の足跡を残しながらはやて達に迫ってくる。

 

「うわぁ!? なんやこれ!?」

 

「うう……なんか知らねえけどゾワゾワってくるぅ!?」

 

「シェルティスくーーん! 助けてーー!」

 

「たっく……剣晶百十四、光臨翠瀑布!!」

 

呆れながらも上空に無数の翠の氷柱のような結晶を作り出し、それを高速に落下させ鼠の軍団を一掃しようとするが……氷柱が鼠に直撃すると身体を砂鉄にしてバラバラにし、その後二匹となって元に戻った。 つまり増殖した。

 

「うわっ!? 増えた!?」

 

「何やってんだよシェルティス!?」

 

「僕のせい!?」

 

「えっと……ここはどうしたらええんや? うーん……あっ、そや!」

 

刻々と鼠達が迫りながらも考え抜き……何か名案を思いつき、はやては杖を掲げる。

 

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。 銀月の槍となりて、撃ち貫け……石化の槍、ミストルティン!!」

 

鼠の軍団の真上に魔法陣を展開し。 魔法陣を中心に6本と、その中心から1本の最大7本の光の槍を放った。 すると一瞬で鼠達は時が止まったように動かなくなってしまった。

 

「本来なら非生物には効かんけど……応用でこないな事もできるやで」

 

「さすがはやて! アタシも負けられねぇな!」

 

対抗意識が出たのか、ヴィータはマハの背後に回り。 しっかりとした地面を踏みしめて鉄槌を振るう。

 

「モルトシューー」

 

「規定する。 愚者は奈落へ帰天する」

 

「ラー……って、おおっ!?」

 

「ヴィータ!?」

 

突如ヴィータの足元が崩れ、反応する間も無く落下してしまう。

 

「落とし穴!?」

 

《古典的、しかし効果的な戦術ですね》

 

「重圧にて排除する」

 

バンッ! と、音を立てヴィータが落ちた落とし穴は左右の壁に押し潰されて消えてしまった。

 

「ヴィータ!!」

 

《ツェアシュテールングスフォルム》

 

「ーーおらあああっ!!」

 

はやてが叫ぶ中、マハの真下の地面が盛り上がり……ヴィータが飛び出しフードに隠れた顎を蹴り上げた。

 

「この程度でやられるかよ!」

 

どうやらグラーフアイゼンのリミットブレイクを発動、ドリルとブーストが付いた鉄槌に変形し。 圧殺される前にドリルで穴を掘り、マハの真下から飛び出てきたようだ。

 

「規定する。 根が世界を覆う夢」

 

マハは一歩後退しながらも乱れない詠唱を唱える。 マハの足元から極太の根が飛び出し、ヴィータに絡み付こうとする。

 

「ちぃっ!」

 

「させるか!」

 

絡み付こうとした根をシェルティスが放った結晶によって射抜き、その間にヴィータは距離を取った。

 

「フラガラッハ……シュート!!」

 

はやては高密度の魔力で構成された1本の短剣を目の前に浮かせ、杖を一振りするとマハ目掛けて高速で発射された。

 

「規定する。 憤怒を遮断する」

 

はやてとマハの間にいくつもの土壁が盛り上がり、短剣は土壁によって進路を阻まれるが……短剣の勢いは全く衰えず、次々と土壁を貫通していく。

 

「…………っ…………!」

 

初めて聞いた痛みの反射神経からきたマハの声。 短剣が直撃し、マハは大きく吹き飛ばされる、

 

「よっしゃ! 上手くいったで!」

 

「ようやくまともなダメージを与えられたと思うけど……」

 

「あれくらいで倒れる奴じゃないからな。 気を抜くなよ」

 

3人が警戒を強める中、マハはスクッとダメージを感じさせずに立ち上がる。

 

「結晶より擬似創造」

 

ローブからこぼれ落ちたのは魔力が込められた結晶。 それが大地に落ち、水の中に落ちるように地面に吸い込まれる。

 

「色は藍色。 性質は意志。 形状は巨人。 その創造に細工は不要。 大いなる体躯と四肢、比類なき豪腕を有して単体にて顕現せよ。 全ての敵の圧倒を規定する」

 

地面が盛り上がり、少しずつ形作られる。 そして出来上がったのは藍色を基調にした丸い頭の巨大な人型のゴーレムだった。

 

「でかっ!?」

 

「圧倒せよ」

 

その一言で巨人は動き出し、一歩前に進めばその場所は砂であろうが固められて確実に前に進んでしまう。 そして徐々に歩く速度が上がり……見た目と体格に合わない速度で走ってきた。

 

「来たぁ!?」

 

「見た目に反して動けるんだね……」

 

巨人は跳躍し、飛び上がりながら腕を振り上げ……

 

『うわぁああああっ!?』

 

走る勢いと落下速度を利用して放たれたパンチは地面を抉り、衝撃ではやて達はかなり吹き飛ばされる。 それによりヴィータの怒りが第1段階を超えた。

 

「ブチ切れた……!」

 

《ゲッターラヴィーネ》

 

「おらあああっ!!」

 

感情の変化によって魔力が上昇し。 大地を蹴って巨人の真上に飛び上がり……鉄槌を巨人の足元に振り下ろし衝撃が立ち上った。

 

「はやて!」

 

「万海灼き祓え! シュルシャガナ!!」

 

ヴィータの合図ではやての周りに複数の炎の剣が展開、発射し。 巨人を足止めし……

 

「千山切り拓け! イガリマ!!」

 

巨人を超える背丈の大剣を精製し、真上から振り下ろし真っ二つに斬り裂いた。

 

「剣晶二十二……翠晶穿(すいしょうせん)!!」

 

シェルティスが走り出し、双剣を揃えて突き出し……そこから結晶が構成され。 自分自身が槍となり突撃する。

 

「阻め」

 

「うおおおおおっ!!」

 

土壁と結晶の槍が衝突し……槍が貫通し、シェルティスは土壁ごとマハを突き飛ばした。

 

「これで……!」

 

「……我が術式に敵は無し」

 

マハは立ち上がり、空を仰ぐように両手を掲げ、そして勢いよく振り下ろした。

 

「黄金六面体が規定する」

 

さらさらと、振り下ろした両袖から溢れる大量の黄金色の砂。 異界の陽の明かりで反射するその輝きは、紛れもなく黄金そのものだった。 しかし、以前よりその量はかなり多い。

 

(何て砂金の量だ……何かをする前に叩くしか……!)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして黄金より生まれるマハ。 黄金によって創造した自分自身。 ただし……詠唱の一文通り百にも及ぶマハが現れた。

 

「な、なんやてぇー!?」

 

「多過ぎだろ!?」

 

「エリス、本物はマークしているよね?」

 

《もちろんしていますが……全マハの魔力パターンが全て一致しています。 すんごいシャッフルされたら追い切れませんよ?》

 

「本物と偽物の区別がつかないってことね……」

 

そう思案していると……ダラーンと腕を下げながら、恐らく本物も含めてマハの軍団が襲いかかってきた。

 

「速い……!!」

 

「くっ!?」

 

「防げ、イージス!!」

 

マハの軍団は一斉に拳を繰り出し、はやてはまた防御障壁で凌ごうとするが……一体一体のパワーが桁違いに高く、耐えるのに精一杯だった。

 

「な、なんてパワーや……!」

 

「まさしくゴールデンパンチ……重さが違うね」

 

「このままやられるかよ!」

 

先程と同様にはやての障壁から飛び出し鉄槌を一振りし、ドリルの反対側にあるブースターを点火する。

 

「うおおおっ!! メツェライシュラーーークッ!!」

 

ブースターの勢いで回転しマハに突撃、直撃と同時にマハが砂金となり飛び散る。 その光景をはやてはジッと見つめていた。

 

(……なんや勿体ない気もするなぁ……)

 

「剣晶十九……飛雹晶!」

 

ヴィータの進行を阻まれないよう、シェルティスが幾つも結晶を飛ばし反撃するマハを止め、その瞬間を狙ってヴィータが通過し砂金が舞う。

 

「……そろそろヴィータも限界や。 早いとこ本物を見つけなぁあかんのに……」

 

はやては猛攻に耐えながら考えを巡らせる。 突破口を探して視線を巡らせる。 と、ふと地面に目を止める。

 

「(……ちょお待ち。 あの中に本物がいる保証はホンマにあるんか? 地の利は奴にある、つまりは……)ーー下や! アガートラム!!」

 

杖の先端に魔力を纏わせ……地面に振り下ろした。 杖はハンマーのように大地を震わせ、砂を吹き飛ばし、大地を砕いた。 打ち上げられる瓦礫と砂……その中にマハがいた。

 

「見つけた! シェルティス君!」

 

「任せて!」

 

シェルティスはその場で斬りあげる体制で構え、はやては防御をやめて飛び上がり……

 

「剣晶三十三……星清剣!!」

 

「銀の流星……アガートラム!!」

 

氷柱のように翠の結晶を伸ばして動体を突き刺し、十字杖から白い魔力刃が伸びマハを斬り裂いた。 すると地上にいたマハの分身は色を失い、砂金となってくずれおちた

 

「手応えあり!」

 

「ハアハア……どうや!?」

 

「……………………」

 

倒れ伏して微動だにせず分かりにくい反応だが、確実にダメージは蓄積されているようで、マハはすぐに立ち上がれなかった。

 

「見事……」

 

「え……」

 

マハはそれだけを言い残し、一瞬で転移して消えてしまった。 とても分かりにくく、静かな終わりだった。

 

「全く……最後まで無口な野郎だったぜ」

 

「ウプッ……回り過ぎた……気持ち悪い……」

 

「大丈夫か、ヴィータ? 見た目これやのにやっぱり中身はまだまだ子どもやなぁ」

 

「うっせ……ウプッ……」

 

手のかかる子どもを見ているような心情ではやては微笑みながらバランス感覚を整える魔法をヴィータにかけ酔いを止めた。 と、その時、奥へと続く道が開いた。

 

「道が開けたね」

 

「行こうか?」

 

「おう」

 

3人は出口に向かい歩みを進める。

 

「? なんやこれ?」

 

はやてはマハが倒れた場所に何かが落ちているのに気付き、近付いてそれを拾い上げた。

 

「これは……飴ちゃんの……髪留め?」

 

土を払いのけると、はやての手には2つで1組の飴型の髪留めがあった。

 

「マハの持ち物? それにしてはえらい可愛らしいなぁ……」

 

「はやてー! 何してんだー!?」

 

「あ、うん! 今行く!」

 

気になりながらも飴の髪留めをしまい、ヴィータの後に続いて通路を抜けた。

 

 



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182話

 

 

ナタラーシャを退け、後をクイントさんとメガーヌさんに任せて先に進んだ俺達。 エレベーターが停止すると、またガジェットやグリードが蔓延る迷宮に入った。

 

「また迷宮か……まだまだ先は長そうだな」

 

「……………………」

 

「2人が心配か、なのは?」

 

「うん……クイントさんとメガーヌさんの実力は知っているけど、彼女を相手にするにはどうしてもね……」

 

「大丈夫だよ。 あの2人がやられるはずない、クイントさんの言う通り私達は先に進もう」

 

「……そうだね」

 

「さて、まだまだ先は長い、気を抜かずに進むぞ!」

 

『了解!』

 

通路を見据え……俺達は同時に飛び出した。 もう時間も残されていない……敵を迎撃しながら正面突破で迷宮を駆け抜ける。

 

「キリがないわね……」

 

《……スキャニング完了。 玉座の間まで後3キロ。 途中に一つ、玉座の間の手間に一つ開けたフロアがあります》

 

「……そう……恐らくそこには強敵が待ち構えているようだね」

 

「………………! いや、そうでもないらしいぞ」

 

正面、進行方向から敵意と戦闘機人特有の魔力に似たもの……テンプレートを感じ取った。 遠視で先を見てみると……1人の戦闘機人がこっちに向けて大砲を構えていた。 しかももう発射体制が整っている!

 

「ーー総員、迎撃体制! 砲撃が来る!」

 

「! エクセリオン……」

 

咄嗟になのはが迎撃体制に入り、魔力を込めながら先頭に飛び出し……

 

「バスターーッ!!」

 

抜き打ちで砲撃を発射、ほぼ同時に放たれた戦闘機人の砲撃と衝突し拮抗する。

 

「……ブラスターシステム……リミット1、リリース!」

 

《ブラスターセット》

 

「ブラスト……シューーット!!」

 

リミットを一つ外して威力が増し。 なのはの砲撃が拮抗を破って圧倒し、相手の砲撃を……砲手ごと呑み込んだ。

 

「はあはあ……」

 

「大丈夫か、なのは?」

 

『相変わらずスゲェーなぁー、抜き撃ちでこれかよ』

 

「少し休んでなさい。 私が確認してくる」

 

事前に警告していたとはいえ、抜き撃ちは流石に堪えたらしい。 アリサが倒れている茶髪の戦闘機人を拘束した。 そして、その戦闘機人が俺達を見る目は……どこか人を見る目じゃないな。 大砲を封印しながらそう思った。

 

「さて……突入隊がここまでくる保証はないし。 ツァリの念威が届けばよかったんだけど」

 

「連れてくしかないわね、っと」

 

「な……!?」

 

アリサは目がラグっている戦闘機人を問答無用で抱えた。 同行者1名増えながらも、気を取り直し迷宮を進んだ。

 

「あなた……さっきの砲撃、手を抜いたでしょ?」

 

「………………」

 

「まあいいわ。 事情は局でたっぷり聞かせてもらうから」

 

アリサは抱えている戦闘機人にそう問いかけ、回答はなかったがどこはかとなく表情が肯定を表していた。

 

「……っ……」

 

「! なのは……怪我を……」

 

「大丈夫……このまま行けるよ」

 

自分も人の事を言えないが、なのはも無茶をするな。 俺とアリサ、アギトはなのはに負担をかけないようなのはを後衛に置き、その状態のままレイジングハートが観測したフロアに出ると……

 

「ここは……」

 

『ゆりかごの中に街?』

 

「廃棄都市……ううん、どこかの街かな?」

 

出たのは廃棄都市にしてはそこまで荒れていない、小高い建物が並ぶ夜の街並みだった。 雰囲気はミッドチルダではい、恐らくどこかの次元世界の街並みだろう。

 

「今度は誰が待ち構えているんだろう……」

 

「気配は……しないな」

 

「ーー待ってたぜ」

 

背後から声をかけられ、俺達はすぐにその場から飛び退き、背後を向いて武器を構える。 そこにいたのは……

 

「エルドラド・フォッティモ……」

 

「よぉ、久しぶりだなぁ……」

 

エルドラドは建物に寄りかかり、手の中でナイフを持て遊んでいた。 アリサは隅に戦闘機人を置き、念のため防御結界をかけてから奴と対面する。

 

「なるほど……気配がしないわけだ。 ならどうして声をかけた? 一応、あんたは暗殺者のはずだ?」

 

「気まぐれさ。 やろうと思えば首にナイフ撫でるだけで人は死ぬ……でもそれじゃあ面白くない。 そうじゃないか?」

 

「……理解しかねます」

 

共感してくれるようにそう問いかけるが、なのはは完全に否定した。

 

「まあ、御託云々はいいだろう。 やり合おうぜ……蒼の羅刹?」

 

「……確かに、言葉を並べている暇はない。 そこを通してもらおうか」

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

「いいぜ、俺を倒せてならなぁ!」

 

刀身のギアを駆動させながら戦闘態勢に入る。 その俺の応答が嬉しかったのか、エルドラドは笑顔になり、腰からナイフを抜き取った。 どちらにせよ狂ってはいるが、背に腹はかえられない。

 

(……ん? あのナイフ……以前のと違うな。 刀身にナンバリングされている。 3……0……9?)

 

気にはなるが、考え込んでいる暇はない。 抜刀の構えを取り……

 

《モーメントステップ》

 

「……抜楸(ぬきひさぎ)!」

 

抜刀、振り抜かず柄頭を突き出す。 が、当たる直前エルドラドは霧となり散ってしまった。 すると霧が街全体にかかり、辺りは霧に包まれてしまった。

 

「偽の魔乖咒……幻想を得意としてたな」

 

「この街並みに濃い霧……まるでロンドンね。 有害ではなさそうだけど……」

 

『っていうかあいつどこ行きやがったんだ? この辺り焼いて炙り出すか?』

 

「それで出てくるようなら苦労しないけど……難しいだろうね」

 

視界は不明瞭、音も聞こえるのはなのはとアリサの呼吸音だけ。 何が起きても対応できるよう構えていた時……

 

「っ!」

 

正面からナイフが飛来、風を切る音に反応して咄嗟に弾き返した。 すると、霧の中から黒と言ってもいい表現の、顔はよく見えないが何人ものエルドラドが俺達の周りを囲った。

 

《シールドビット、アクティベート》

 

「なのは、アリサ。 相手は暗殺者だ、バラけず機を伺うぞ」

 

「うん……」

 

「了解よ」

 

2つのシールドビットを展開しながら深呼吸、心を落ち着かせ虚空を発動する。 この状況はルーフェンでの暗星行路と同じ……全てを受け入れる、虚にして無……ただそれだけだ。

 

「はっ!!」

 

全方向から飛来してきたナイフを自分と2つのシールドビットで防ぎ……その間になのはとアリサは反撃できるように魔力を高める。

 

「ーーそこだ!」

 

ナイフの連撃を防ぐ合間に何もない場所に斬撃を放った。 斬撃は霧を払って進行し……甲高い音を立て何もない空間で消えた。 すると薄っすらとエルドラドが浮かび上がってきた。

 

「フレイムアイズ!」

 

《イグニッション》

 

「レイジングハート!」

 

《ロードカートリッジ》

 

アリサはスロットルを回し、なのははカートリッジを炸裂させて魔力を上げ……一瞬でエルドラドとの距離を詰める。

 

「イグナイト……キャリバーーッ!!」

 

「金剛撃ッ!!」

 

2人の高威力の技がエルドラドに直撃し、吹き飛ばされて建物に突っ込んでいった。 砂塵が舞い上がる中、刀を一閃して煙を払って突入すると……そこには窪みがあるだけで誰もいなかった。

 

「もう消えてるのか……」

 

「え、いない!?」

 

「それなりの威力の技よ。 確実にダメージは受けているわ」

 

『だが、まるでレーダーに反応がない……どこから来るか分かったもんじゃねぇ』

 

お互い背を合わせて3方向を向いて警戒する。 ……奴は暗殺者。 最初の邂逅は恐らく手を抜いていた。 暗殺者が大声上げながら奇襲するはずがない。

 

そして暗殺は必ず接近戦……この状況で奴が選ぶ白兵戦闘において殺傷性の高いスキル。 それは反応される事なく死角からの致命打……

 

「ーー短距離瞬間移動(ショートジャンプ)……!」

 

「っ!?」

 

《セカンドギア……ドライブ》

 

振り返り側に3本の短刀を振り抜き、エルドラドのナイフを防いだ。 エルドラドの表情は驚きに満ちていたが、すぐに元に戻り。 ギアの駆動によって発生した衝撃で後退した。 そこで奴の姿を改めてみると……先程のなのはとアリサの一撃を受けていたようだ。

 

「ちっ……そう簡単に()れねぇか……」

 

「そもそも最初から俺達の前に姿を見せたのが間違いだ。 最初から認知されてなければ俺も危なかったはずなのに……」

 

「ハン、言っただろ? それじゃあ面白くねぇと。 そんなのは……関係ねぇんだよ!!」

 

エルドラドは吠えるように襲いかかってきた。 刀とナイフが何度も飛び交い、何度も切り結ぶ。

 

「おらっ!」

 

「っ……散椿(ちりつばき)!」

 

振り下ろされたナイフを納刀状態の刀、鞘で弾き。 抜刀、一瞬で何度も切り刻んだ。

 

「はっはーー!! 面白くなって来たじゃねぇか!!」

 

身体中に切り傷を負い血を流し、攻撃を喰らったのにも関わらず狂ったように笑い、あろうことかエルドラドは自身の腕をナイフで切った。

 

「なっ……!?」

 

「面白れぇもんを……見せてやるよ……!!」

 

《リアクト・オン》

 

自分の血でナイフが濡れると……奴の周りに魔力と似た奔流が起こり、姿が見えなくなってしまった。

 

「これは……!?」

 

「ーーECディバイダー。 ディバイダー309、シュナイダー・リアクテッド。 魔導殺しの刃達……この中で生き残れるかなぁ!?」

 

姿が見えるようになると……服装は変わらないが、全身のそこらかしこに同型のナイフを懸架していた。 するとその全てのナイフが独りでに鞘から抜け……エルドラドの周りに浮遊する。 しかも先程の傷が完治している、あのナイフの影響か……

 

「な、なにあれ……」

 

「デバイス……じゃなさそうね」

 

「気をつけろ。 得体の知れない何かを感じる」

 

309……あのナイフにナンバリングされていたのと同じ番号だ。 何か関連があるとは思われるが……その前に無数のナイフが飛来してきた。

 

「来たっ!」

 

《プロテクション》

 

冷静にアリサは防御を展開するが……ナイフは何の抵抗もなく防御を貫通してしまった。

 

「なっ!?」

 

「くっ……!」

 

咄嗟にアリサの前に出て直感で刀を完全に物質化し、一瞬で直撃するナイフだけを斬り払った。 しかし、たったそれだけで刀にヒビが入ってしまった。 射出された威力じゃない、もっと別の何かでヒビが……

 

「レゾナンスアーク……」

 

《魔力が結合分断されています。 AMFとは完全に異なる武装です》

 

『あれはやべぇぞ……』

 

エルドラドから目を離さず、刀をリカバリーをしながらレゾナンスアークの推測に耳を傾ける。 アギトもその脅威を肌で感じているようだ。

 

「アクセルシューター……!」

 

牽制としてなのはが複数の魔力弾を放つ。 その全てが浮遊しているナイフによって防がれる。 だがその防がれた魔力弾の消滅の仕方……推測通り完全に魔力が結合分断されている。

 

「これはAMFより厄介だぞ……」

 

「どうしたどうした! たったこれだけでギブアップか!?」

 

エルドラドは両手にナイフを持ち、その刃渡りを通常の剣と同じくらい伸ばし霧の中に消え……背後から襲いかかってした。

 

「くっ……!」

 

「きゃっ!?」

 

「レンヤ!!」

 

両側にいたなのはとアリサを押し飛ばし、最小限の接触でナイフを受け流す。 やっかいなのは変わりないが、防御の無効化なんて滅の魔乖咒と似たようなもの……対処はできる。 だが、それに加えて気配を完全に消してどこからでも現れる偽の魔乖咒は厄介極まりない。

 

「いいぞ! だんだん動きが良くなってきたなぁ……面白くなって来たじゃねぇか!!」

 

「このっ……!」

 

側面に回り込み刀を一閃するが、エルドラドはボックステップで躱し、両腕を交差しながら一回転すると……その両手の指の隙間に鋭い刃先の8本のスカルペルを握っていた。

 

「ほらよ!」

 

弧榎(こえのき)!」

 

下段に構え、大地を斬り裂きながら飛来して来たスカルペルを一刀で吹き飛ばした。

 

「そらよ!」

 

その間に正面にエルドラドが接近し、振り抜かれた長いナイフをシールドビットで防ぐが……いとも簡単に真っ二つにされ、防ごうと長刀と3本の短刀を前に出し……手放した。

 

「なに!?」

 

「せいっ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

手放した瞬間、跳躍してエルドラドを飛び越えて背後に回り。 空いている背中に数打撃ち込み、足払いをし転倒させ……

 

「ーー落柊(らくひいらぎ)!」

 

踵落としを放って地面に叩きつけた。 そしてすぐにその場から離れ、視線をアリサの方に向ける。

 

「アリサ!」

 

「任せなさい!」

 

フレイムアイズをチェーンフォルムに変えて待機していたアリサ。 チェーンをエルドラドに飛ばすと一瞬で巻き付き、上に持ち上げた。

 

「テメェーー」

 

《フレイムリード》

 

「丸焦げよ!!」

 

脱出される前にスロットを回し、炎が鎖を伝わりエルドラドに直撃した。

 

「この……クソアマがぁ!!」

 

浮遊しているナイフで自分ごと鎖を斬り裂き、アリサを標的として狙いをつける。

 

「ディバイン……」

 

「!?」

 

「インパクト!!」

 

杖の先端に魔力を収束させ……下から振り上げ、直撃と同時に炸裂させ上にかち上げた。

 

《サードギア……ドライブ。 モーメントステップ》

 

「疾ッ!!」

 

3つ目のギアを駆動させ、足から螺旋状に魔力を爆発的に放出して追撃をかけようとするが……

 

「っ!?」

 

「そう易々やられるかよ!!」

 

エルドラドは回転して制動をかけ、周囲にナイフを浮遊させ……ナイフを自身の肘、膝、靴の踵に左右それぞれ、合わせて6振りのナイフが固定され、さらに両手の2振りで合計8振りのナイフがエルドラドの身体に装備された。

 

全身武器(カメレオン)……!!)

 

あれは厄介だ。 全てのナイフ、攻撃に気を配らなくてはいけなくなる。 その上防御も出来ない……完全に奴は俺を殺しに来ている。

 

「オラオラオラオラ!!」

 

「ぐううっ……!」

 

直撃を避けようと何度も全てのナイフを受け流すが……手数が足りない上に結合分断の能力を持っている。 刀にヒビが入る度にリカバリーをしても追いつかないでいた。

 

「そらよ!」

 

「っ!?」

 

「喰らえ……ブレードストーム!!」

 

大きく弾かれてしまい、その隙を狙いエルドラドは全身のナイフを構え……加速して突撃してきた。 だが、俺は冷静に……虚空の境地で刀を鞘に納める。 そして……

 

「八葉一刀流、秘技……虚月(こげつ)

 

モーメントステップで空を蹴り上げ、迫ってきたエルドラドの背後に一瞬で回り、刀を振り抜いた。

 

「鍔鳴る音は、鎮めの歌声……」

 

鎮ッ!!

 

「どうか鎮まりたまえ……」

 

勢いよく納刀、大きく鍔鳴りを響かせる。 そしてその納刀の勢いを利用し、鞘頭から斬撃を飛ばし……合わせて両斜め一文字、鞘納めから刹那遅れてエルドラドに2つの一閃がばつ印に走った。 そのまま重力が働き、エルドラドは受け身も取らず地に落ちていった。

 

「……あーあ、やられちまったなぁー……」

 

地に転がったエルドラドはそう呟きながらも胸の傷口が治りかけており。 ものの数秒で立ち上がってしまった。

 

「チッ……リアクターがなければこんなもんか。 まあいい、まだまだ手はある……もっと俺を楽しませてみせろや……!!」

 

エルドラドの意志に反応するように、浮遊していた全てのナイフがその刀身を伸ばす。

 

「もっと俺を楽しませろよ……!」

 

「まだ……!」

 

「もう時間が残されていないのに……」

 

「さて……そろーーん?」

 

その時、横からエルドラドに向かって強烈な赤い魔力斬撃が飛んできた。 エルドラドはそれを避け、飛来してきた方向を向く。

 

「誰だ?」

 

「! この魔力は……!」

 

斬撃がとんてきたのは上から、建物の屋上に目を向けると、そこにいたのは……

 

「あなたは……!」

 

「ソフィーさん!」

 

教会騎士団の騎士甲冑に身を包み、赤い雷撃を纏う剣を持っている女性……ソフィーさんが立っていた。

 

「お前達、無事か?」

 

「ええ、何とか」

 

「それよりもどうしてここに……?」

 

「なに、この事件はベルカも見逃せん事態だ。 現在騎士団は管理局と合流して事件の収拾にあたっている、私はお前達を追って来たのだ」

 

「そうだったのですか……」

 

「ソフィー・ソーシェリー……なるほど、あんたが出てきたか。 くく……面白くなって来たじゃねぇか」

 

ソフィーさんはエルドラドを一瞥するとヒラリと屋上から飛び降り、俺達の前に立ってエルドラドと対面する。

 

「だが……いくら騎士団長でも、この魔導殺しを前にしてその余裕、いつまで続けていられるのかな?」

 

「ーー笑止。 いかにそなたが強かろうと……最後に勝敗を決するのは、自身を勝利に至る一刀を振るうのみ」

 

赤雷を迸りながらソフィーさんは剣を構え、魔力を迸らせる。

 

「そこの戦闘機人は置いていけ、私が責任を持って連れて行く」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ソフィーさん! どうかお気をつけて!」

 

それと同時にソフィーさんは飛び出し、振り下ろした剣でエルドラドと鍔迫り合いをしながら俺達から引き剥がしてくれ。 その隙に置くに向かって走り……霧を抜け、次の道へ向かう迷宮に出た。

 

「それにしても……魔乖咒もそうだけど、あのナイフは一体なんだったんだろう?」

 

「……ECディバイダー……そう言っていたな。 通常のデバイス、魔法とは似て非なるものを感じた」

 

「気にはなるけど、現状では何もできないわ。 今はとにかく先に進みましょう」

 

「うん。 次が玉座の間……そこにヴィヴィオとイットがいる……!」

 

もう猶予は残されていない……俺達は回復に専念しつつも急いで迷宮を駆け抜けた。

 

 



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183話

 

 

廃棄都市では、フォワード陣と騎陣隊が雌雄を決するため、全力で交戦していた。

 

「ーー外力系衝剄……閃断!」

 

「はっ!!」

 

ソーマは飛び上がりながら衝剄を線状に凝縮して放ち、ラドムは迫ってきた衝剄を一刀で斬り伏せた。

 

「ソーマ、右翼から静寂が接近! スバル、ギンガさん、もっと隙間なく攻めて! 破滅を他とフォローさせない! サーシャはそのまま流動を抑えて!

 

『了解!』

 

ティアナはラドムと接近戦をしながらソーマ達に指示を出し、騎陣隊と対等に渡り合っていた。

 

凪の歌曲(カンツォーネ・カルマ)!」

 

サーシャは回転しながら色んな方向に輪刀を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、騎陣隊の隊列を乱し始めた。

 

「ウルク!」

 

「了解!」

 

ウルクは盾の中に身を隠し、その状態のままサーシャに突撃してきた。

 

「ふうっ!」

 

「うっ……」

 

「はっ!」

 

「きゃあ!」

 

サーシャは輪刀の中に入り、輪刀を回転させてウルクの突撃を受け流したが……回避先にいたラドムに一太刀喰らってしまった。

 

「くっ……」

 

「大丈夫、サーシャ?」

 

「は、はい……大丈夫です」

 

すぐ様ティアナが魔力弾を撃って距離を取らせ、ソーマが近寄ってフォローした。 するとすぐにスバルとギンガがゼファーに弾かれて後退し、ティアナもファウレの鎌を避けて後退、そのまま5人は隊列を整えた。

 

「やっぱり強い……」

 

「うう……腕がビリビリするー……」

 

「まるで隙がないわね。 こっちの連携が全然通らない」

 

「彼らと比べれば、私達のは一朝一夕みたいなものですからね」

 

「それでもやるしかないのよ……気張りなさい!」

 

ティアナは激励を叫び、ソーマ達はそれに応え騎陣隊に向けて武器を構える。 すぐにスバルとギンガが左右から飛び出し、両側から放たれた蹴りをラドムとウルクが受け止め……

 

「……ふんっ!」

 

ファウレが高く跳躍して鎌を振り上げ、ソーマ達3人の元に落下と同時に振り下ろし、その衝撃で大地は砕ける。

 

「きゃっ……!」

 

「ティア、牽制!」

 

「分かってる!」

 

3人は横に跳躍して避け。 ティアナはもう片方の手にも銃を持ち、ファウレに向かって魔力弾を撃つ。 ファウレは片手で鎌を回転させて弾き、その間にゼファーが弾幕をかい潜って接近。

 

「せいやっ!」

 

「うあぁ!?」

 

ゼファーの真下からのアッパーでティアナは打ち上げられ、ゼファーはそのまま追撃をかけようとした。

 

「ティアナちゃん!」

 

サーシャは輪刀を振り回してその場で何度も回転して……

 

巨人の投擲(ティターノ・ランチャーレ)!」

 

全力で輪刀をゼファーに向かって投擲し、高速で回転している輪刀はゼファーの二刀のソードブレイカーに衝突した。

 

「ぐうう……!」

 

咄嗟に身体を回転させて峰のブレイカーを使って輪刀を受け止め、回転により火花を散らす。

 

「……ふ」

 

そこにファウレが横から割り込み……鎌を振り上げて輪刀を打ち上げた。

 

「ーーそこ!」

 

《ファントムブレイザー》

 

それを狙い、ティアナがサーシャの後方で1丁のクロスミラージュを両手で構え……遠距離狙撃砲を発射、ファウレの上がっている腕を狙い撃って体勢を崩し……

 

「ーーせいっ!」

 

一瞬でサーシャが懐に潜り込み、甲冑に手を添えると……その状態で背負い投げを繰り出し、ファウレは硬い地面に叩きつけられた。

 

「がは……!」

 

「チッ……!」

 

牽制で放ったゼファーの斬撃をサーシャは跳躍して避け、空中に弾かれた輪刀を手にとって着地した。

 

「内力系活剄……疾影(しつえい)!」

 

ソーマはラドムに接近しながら強力な気配を発散し、即座に殺剄を行い移動することで全体の知覚に残像現象を起こさせる。

 

「はあっ!!」

 

「甘い……!」

 

何人もの残像がラドムの横や上を通過し、本物が横から斬り込むと……ラドムは即座に反応して受け止め、刀身を掴んで棍のように回してソーマを上に投げた。

 

「ふっ!」

 

「っ!」

 

外力系衝系・九乃(くない)

 

投げらたソーマは、回転して制動をかけながらすぐさま空いた左手の指の間に針のように細い剄弾を形成し放った。 ラドムはロングソードを一振りして払うが、一本が肩に刺さりよろめいた。

 

「ーー魔紋(ヒエラティカ)……発動!!」

 

それを狙い、魔力の放出と共にティアナの両腕と顔にオレンジ色の波打った紋様が浮かび上がってきた。

 

「はあああぁぁ!!」

 

クロスミラージュに魔力を込め、引き金を引くと……銃口から音速で魔力弾が撃ち出された。

 

「なっ……!?」

 

「なんて速度に威力……」

 

魔力弾はラドムのもう片方の肩に直撃し、大きく後退させた。 その速度にウルクも驚愕している。

 

「ティア、もしかして……!」

 

「ええ。 魔紋だよりだけど何とか形にできたわ」

 

ティアナが撃った魔力弾は質量兵器の銃を参考にした魔力弾だ。 今までのティアナの魔力弾は誘導などのコントロールをするため、速度と威力は低い、はっきり言えば銃型のデバイスを使わなくても杖型のデバイスでも同じ結果になる。

 

それをレンヤとアリシアに指摘され、教えられたのが超圧縮魔力弾。 通常サイズの魔力弾を銃弾の大きさに圧縮し、質量兵器の銃と同じ原理で発射させる技術……これを行うにはいくつもの行程があり、卓越した魔力制御が必要になる。 ティアナは試行錯誤の末に習得したが、10秒に1発が限度だった。それを魔紋によって2秒に1発に向上させた。

 

(使い方を間違えた大魔法は、使い方を工夫された小魔法に劣る……!)

 

アリシアから教えられた言葉が、失敗し独りだったティアナを前に進ませた。

 

「……今の魔力弾……オーバーS相当の魔力制御技能が必要、化けたね」

 

「おいおい、凡骨って言ったのはどこのどいつだよ?」

 

「……………………」

 

ゼファーのワザとらしい指摘にラドムは無言になりながらもスバルに一太刀入れ、次いでロングソードで腕を絡めて投げた。

 

「スバルちゃん!」

 

「だ、大丈夫。 まだ、まだやれる……!」

 

スバルは両手で拳を握って正面で打ち合わせ、呼吸を整えながら目を閉じた。

 

「ーー負けられない……負ける訳にはいかないんだ! 行くよ……マッハキャリバー!」

 

《オーライ、バディ》

 

リボルバーナックルのカートリッジを何度もロードし、足元にベルカ式の魔法陣を展開しながら拳を構え……

 

「……フルドライブ!」

 

《イグニッション》

 

「ギア……エクセリオン!!」

 

《ACS。 スタンバイ、レディ》

 

スバルの叫びに、マッハキャリバーが応答し。 左右のローラーブーツから青い翼が生える、駆動音が大きくなる。

 

「行きます……お相手、どうかお願いします」

 

「ふふ……いいでしょう。 来なさい」

 

拳を握り、両腕を頭の高さまで上げ。 緊迫した空気が流れ、そして緩やかな風が2人を撫でる中……

 

「ーーあ……」

 

不意にサーシャが一歩後退し、それによりビルの破片が落ち……地面にぶつかって砕け散ると……

 

「うおおおおっ!!」

 

「はあっ!!」

 

スバルはローラーブーツを火花を散らしながら駆け、ウルクは地が沈むほど蹴って同時に飛び出し。 リボルバーナックルと大盾が衝突した。

 

「おりゃあぁぁぁぁ!!」

 

「はあぁぁっ!!」

 

スバルは徐々に魔力と威力を上げながら隙間ないラッシュを繰り出し、その猛攻をウルクは盾を巧みに操って防ぎ、反撃していた。

 

「スバ……っ!?」

 

援護しようとギンガが前に踏み出した時……横から気配を感じ、蹴りを放つ鎌と衝突した。

 

「……無駄だよ」

 

「退きなさい……!」

 

「ギンガさん!」

 

「ソーマ、余所見しない!」

 

戦いは終盤に入り、ますます激しさを増していく。 くるくると戦う相手を変えて行けば攻防が入れ替わり、戦況が拮抗していた。

 

「どらあああぁぁぁぁ!!」

 

「ぐ……うあっ!」

 

スバルの隙間のない怒涛のラッシュで防御を崩して行き……渾身の一撃が盾ごとウルクを吹き飛ばした。

 

「よし!」

 

「ーースバル!」

 

ウルクを撃退したため気を抜いたのか、それを狙いラドムが間合いを詰めた。 ソーマが警告して叫ぶが……間に合ない。 スバルもダメージを覚悟した、その時……

 

「う゛っ……! カハッ!!」

 

「え………ギ、ギン姉!!」

 

咄嗟にギンガがスバルの前に出てラドムの剣を受け止めようとしたが……防御を貫通して剣が脇腹に入ってしまった。 ギンガは吐血し、吹き飛ばされてしまったが……

 

「い、行きなさい………スバルーー!!」

 

「ーーっ……う、うおおおおっ!!」

 

ギンガの叱咤を受け、スバルは後ろを振り返らず、叫びながらラドムに向かって行き。 6発の魔力弾を浮遊させて右腕を振りかぶり……

 

《マグナムフィスト》

 

「ぶっ壊れろぉぉぉぉ!!」

 

「くっ!」

 

スバルの拳をロングソードで防ぐが……魔力弾を炸裂した衝撃に弾き飛ばされ、間をおかず右手が腹部に押し当てられ……一瞬で5発、魔力弾を炸裂させラドムを吹き飛ばした。

 

「ウルク!」

 

「痛ッ………やられたわね……」

 

「…………負けない……!!」

 

ファウレはクールな雰囲気にしては珍しく声を上げ、鎌の刃に炎が灯った。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ……!」

 

眼前で鎌を回転させ、徐々に炎の大輪が膨らみ……

 

「カマエル……ストリーム!!」

 

突如、直線的な火炎の放射が逆巻くように渦巻き……それを圧縮して球状にし、ソーマ達に向かって飛ばしてきた。

 

「な、なんて魔力の奔流……!」

 

「ギ、ギン姉! 早く立って!」

 

「無茶言わないでよ!」

 

「ーーやるしかない……」

 

「!? ソーマ!?」

 

ソーマは苦渋の決断を即座にし、腰に巻いてある剣帯(けんたい)に手を伸ばした。

 

剣帯の金具をちぎって引き剥がすと、それを振り回す。 すると剣帯に収められていた無数の錬金鋼(ダイト)が、宙に投げ出される。

 

「レストレーション!」

 

復元鍵語を叫び……その瞬間、宙に舞った錬金鋼が一斉に光を放ち、復元した。 落下しようとする剣の群が剄の光が纏われ……ソーマは手を天に掲げ剄を放出し、膨大な紺色の剄が新たに巨大な刃を形成した。

 

外力系衝剄(がいりきけいしょうけい)轟剣(ごうけん)

 

そして宙に舞っていた錬金鋼達はそのまま巨大な刃に吸い寄せられ、まるで七支刀のような形状をとり、新たな光を放って剄の刃を生み出していく。

 

所持している錬金鋼の全てに連弾による剄を流し込む。 そして、今から放つのはたった一度だけの大技……

 

外力系衝剄・連弾変化(れんだんへんか)……轟剣・七支(ななつさや)

 

「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

無数の錬金鋼と剄によって生み出された刃はの大樹は迫り来る巨大な炎球と衝突し、衝撃による形態維持の限界を達して爆発した。 膨らむ衝撃波が炎を吹き散らす。

 

結果は確かめない。 ソーマの足は止まらない。 分断した炎の真ん中を突っ切る。

 

「無手で何が出来る!」

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

炎の中を真っ直ぐ駆け抜けるソーマ、ゼファーが道を塞ぎ、ソードブレイカーを振り下ろした時……

 

「なっ……!?」

 

「ーー我、天の力を借りて……陣を示す! 輝きの時代(エター・ブリーオ)!!」

 

ゼファーの眼前から忽然とソーマが消え、次に中が魔力で満たされ波打っている輪刀が横から割り込み、振り下ろされたソードブレイカーが弾かれた。

 

「今だよ!」

 

サーシャの背後には2丁のクロスミラージュを構えたティアナが控えており。 2つの銃口の先にはサッカーボール台の高圧縮された魔力弾が控えており……

 

《マキシマムショット》

 

「外さない……!!」

 

引き金を引くと、魔力弾が高速で発射された。 魔力弾はそのまま輪刀の輪を潜ると……オレンジの魔力弾に青白い魔力が纏われ、高速で輪刀から2度目の発射をがされた。

 

「これは……!」

 

「くっーー」

 

四隊士は迫り来る魔力弾に対処し……直撃すると大きな爆発が起き、爆風でソーマ達5人の身体が煽られる。

 

「ス、スゴ……」

 

「でも、これなら……!」

 

「……だと、いいんだけど……」

 

ソーマは懸念するように舞い上がる砂煙を静かに睨む。 そして一陣の風が吹き、煙が晴れていくと……そこには

 

「あ、あれでも倒れないの……!?」

 

「さすがは騎陣隊、ね」

 

「っ…………ギンガさん、下がっててください!」

 

「ここは私達が!」

 

「ダ、ダメ……!」

 

ギンガはもう戦闘不能……5対4でようやく拮抗していた。 いくら相手が消耗しているとはいえ苦戦は免れない。 と、その時、いきなりラドムが後ろを……地上本部の方にバッと振り返った。 それに他の3人も反応し、なにかを感じ取っていた、

 

「…………! マスター!?」

 

「地上本部から離れた……?」

 

「……行こう」

 

そのファウレの一言で騎陣隊の四隊士は何も言わずに一斉に踵を返し、地上本部方面に向かって跳躍して行った。

 

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 

「追いかけるわよ!」

 

「うん!」

 

先に全員の応急処置を済ませ、ソーマが負傷したギンガを抱きかかえ少し遅れながらも騎陣隊を追跡した。 ソーマの背に針刺すような視線を3つ受けながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう! 雑魚だけど数が多過ぎ!!」

 

(わめ)く前に手を動かせ!」

 

アリシアとシグナムはフェローを追って地上本部に向かっていたが……その道をガジェットとグリードに塞がれ、手をこまねいていた。

 

『! 星槍のフェロー、本部に突入しました! マズイです!』

 

「っ……!」

 

「ゼストが側に居ないのに……! ……レジアス中将……」

 

アリシアは地上本部から目を離しグリードとガジェットの軍団を睨め付ける。

 

「チンタラしてられない……! フォーチュンドロップ! 全魔法陣砲門……展開!!」

 

《オープンアップ》

 

アリシアを全方向に魔法陣が展開、その前に同じ数の魔力スフィアと魔力弾が展開され……

 

《ミリオンブリッツ》

 

「魂のカケラも残さない!!」

 

2丁拳銃のトリガーを引き、砲撃が魔法陣を通過。 周辺にいた敵性勢力に砲撃が転送され。 さらに魔力弾は上空から落として爆発し……ものの数秒で殆どを撃墜させた。

 

『す、すごいですぅ……』

 

「ボサッとしない! サッサと追いかけるよ!」

 

「あ、ああ……」

 

道が開け、アリシア達は地上本部に向かった。 そのまま人気のない通路を進み、フェローの目的であるレジアス中将の元に向かう途中……

 

「ーーあ……」

 

「すみませんね、ここは通行止めです。 迂回路は……どこにもありません」

 

ユニゾンデバイス、コルルが通路に障壁を展開し、それに寄りかかって道を塞いでいた。 まだ余裕があるのか冗談をアリシア達に言った。

 

「あなたは……」

 

「姉さんは自分の使命を……彼の罪を見定めに行っただけだよ。 ねえ、少し僕と話をーー」

 

コルルは時間稼ぎのようにヘラヘラするが……だが、シグナムは聞く耳持たず、レヴァンティンを振り下ろし、障壁を破壊した。

 

「やれやれ……せっかちだねぇ……」

 

「こちらは元より事情を聞くのが目的だ、無駄話に付き合う義理はない」

 

「事件の根幹に関わることなら尚更、ね」

 

シグナムはレヴァンティンを鞘に納めながらユニゾンを解除し、出てきたリインはコルルの前に向かう。

 

「コルルさん、あなたは後先考えない軽い性格なのかもしれません」

 

「いきなりズバッと言うね……」

 

「でも、だからこそ私はあなたの正体を知っても嫌えなかったんだと思います。 本当のあなたは誰隔てなく優しいから……アギトちゃんの事も、心配していたのでしょう?」

 

「………………」

 

コルルは顔をリインから背け、照れ臭そうに人差し指でポリポリと頰を掻いた。

 

アリシア達はそのままコルルを連れ、レジアス中将のいる執務室に向かった。 その途中……進行方向から爆発音と衝撃が届いてきた。

 

「なっ!?」

 

「まさか……!」

 

急いでその地点に向かい、レジアスの執務室に入ると……まず目に入ったのはどことなく悲しそうなフェロー、その手のランスには血が滴っている。 その次に横で倒れているオーリス。 そして……胸から血を流して机に倒れ伏しているレジアス中将と、戦闘機人と思わしき金髪の女性が同様に腹部から血を流しながら倒れていた。

 

「そんな……」

 

「姉さん……」

 

「……彼にはその口から、本心から聞きたい事があった。 その罪を背負い進むだけの意志があるかどうかを。 しかし……それも半ばにして……私もまだまだですね、無用な殺生をしてしまいました。 彼も含め、願わくば女神の元に……」

 

フェローは目を閉じ胸に手を当て、レジアス中将と戦闘機人に向かって黙祷をした。

 

「……雷帝よ。 これがあなたが成すべき使命だったのですか?」

 

「ーーいいえ。 これは使命の過程で私自身が確認したかった事……もうここには用はありませんが……」

 

シグナムの問いに即座に首を振って否定し、黙祷をやめてランスを一振りし血を払い踵を返して歩き始めた。 その道をシグナムが手で塞ぐ。

 

「どこへ?」

 

「最後にもう一つ、やらねばならぬことがあります。 それを果たしに……」

 

「あ……姉さん」

 

フェローはそのまま歩き……シグナムの横を通り過ぎた。 コルルは少し困惑しながらもフェローの後に続いた。

 

「ちょっとシグナム、行かせていいの?」

 

「あ、ああ、もちろん追いかけるが……」

 

「何か気になるのですか?」

 

「……いや、私の知るフェルベルト卿と、改めて差異がない事に気がついてな。 義を持ってことを成せ、不義には罰を……変わらないな」

 

シグナムはフェローの背を見て……少しだけ顔に笑みを浮かべていた。

 

「行くぞ」

 

「は、はいです!」

 

アリシアはせめてオーリスだけでもと救護隊に連絡を入れ、3人はフェローを追って部屋を後にした。

 



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184話

 

 

「ーーいた! アルトさん、早く追いかけて!」

 

「ちょ、キャロちゃん!? 怪我しているんだからジッとしていて!」

 

キャロ達はあの後アルトが操縦するヘリが到着し、保護者含め全員乗り込むと離陸。 本来なら戦線離脱する所、キャロが強引にメランジェの追跡を支持した。 最初はアルトはそれを拒否したが……ガントレットをチラつかされ、了解するしかなかった。 アルトは初めて見るキャロの強引さにかなり驚きながらもヘリを飛ばす。

 

「ていうかどうやって止める気なの? 逆鱗に触れたみたいに暴れまわっているけど……」

 

「ーー文字通り頭を冷やさせます。 メランジェのあの頭の火球をどうにかして消す手前までに水をかけられれば……あるいは」

 

「ここから海は遠いなぁ……」

 

頭の火球に水をかけ大人しくさせる……そう作戦が決まった時、突然メランジェが上昇し、顔をヘリの方に向けた。 口から炎が漏れながら……

 

「うわぁ!?」

 

「しっかり掴まって、狙われた!」

 

ヘリは急旋回すると、その場所に巨大な火球が通過した。 それを横目で見たアルトは冷や汗を流す。

 

「キャロ! 防ぐわよ!」

 

「うん!」

 

《プロテクション》

 

キャロはケリュケイオンを、ルーテシアはアスクレピオスを前方に掲げ。 ヘリの前方に障壁を展開、次に迫ってきた火球を防いだ。 が、それで2人は息を上げて膝を落としてしまう。

 

「キャロ、ルーテシア!」

 

「はあはあ……」

 

「くっ……まだ、回復、しきってないわね……」

 

先刻の激戦での疲労がまだ残っており、また魔法を使った事により2人に憔悴が見えるようになる。 そんな中、エリオがハッチの方を向きながらストラーダを構える。

 

「今度は僕が……!」

 

「エリオ君が行ってもキャロ達と同じ事の繰り返しだから! ここは年長者にーー」

 

その時、メランジェはヘリに向けて連続で火球が放たれた。 その弾幕にアルトは目を見開かせ……

 

「ーーやあああああっ!!」

 

直撃する瞬間、地上から放たれた水の斬撃が火球を斬り裂いた。

 

「皆、大丈夫!?」

 

「助けに来たぜ!」

 

「美由希さん、ヴァイス陸曹!」

 

美由希とヴァイスは火球を迎撃しながらヘリに接近し、中に入った。

 

「アルト、操縦変われ」

 

「は、はい!」

 

「ストームレイダー、アイハブコントロール」

 

《ユーハブコントロール》

 

ヴァイスはアルトの隣の操縦席に座り、ストームレイダーを端末に置いて操縦桿を握った。 ヘリは一気に上昇し、それをメランジェは下から追尾する。

 

「やっ! とりゃ!」

 

開かれたハッチでは落下しないように身体を命綱で固定した美由希が放たれた火球を迎撃する。

 

「美由希さん! 私が引きつけますから、その隙にメランジェの頭に大量の水をぶつけてください!」

 

「ちょ、キャロちゃん!? ボロボロなんだし、危ないから下がってて!」

 

「ーーフリード、ブラストファイア!」

 

「キュクル!!」

 

フリードは口から火球を放ち、メランジェの顔面にぶつける。 だが今のフリードは通常状態、ダメージを与えられるだけの威力は無かった。 メランジェはヘリを睨みつけ、咆哮を上げる。 むしろ怒りを煽る結果となってしまった。

 

「よし、怒った……ルーテシアちゃん!」

 

「了解。 突っ込んで来た所を結界で捕獲する……!」

 

キャロは冷静に欠いたメランジェを誘い、それをルーテシアが捕獲するという危険な賭けをした。 ルーテシアはアスクレピオスを構えた。

 

「やっ!」

 

「とや!」

 

「ーーそこ……!」

 

エリオと美由希の援護で定位置に誘導し、結界を発動しようとした時……メランジェは急降下し、ヘリの下に潜り込んで頭突きをして来た。

 

「くっ……!」

 

「うわあああっ!?」

 

「しまっーー」

 

機体が大きく揺れ、メランジェは火球を放つ準備をしながら狙いをつけ……突然、上空から落雷がメランジェに落とされた。 落雷による電撃はメランジェに大きなダメージを与え、そのまま地上に落下してしまった。

 

「メランジェ!」

 

「今のは……」

 

助かったとはいえ連絡も無しの第三者からの介入、美由希とルーテシアは辺りを警戒しながら見回すと……付近にあったビルの一角に1人の甲冑を纏った女性が立っていた。

 

「星槍のフェロー!?」

 

「な、なんでここに……」

 

「ーー皆!」

 

フェローの背後からアリシアとシグナム、リインが現れ。 飛翔してヘリの中に入り、アリシアはキャロとルーテシアを抱きしめた。

 

「わぷっ……!」

 

「良かった……怪我が酷いけど無事で本当に良かった」

 

「アリシアさん、苦しいですよぉ……!」

 

「それにシグナムとリインも……どうしてここに、というよりもなんで彼女達と一緒に!?」

 

「ちょ、ちょっと事情があってね……」

 

痛いところを質問され、アリシアは少し困惑2人から離れながら後ろを向いてフェローに話しかける。

 

「それで聞かせてもらってもいいですか? ここに来た理由を。 あの子達を竜から助けたかった……というわけでもないのでしょう?」

 

「ええ、ここに来たのはある一つの訳あって……」

 

フェローはヘリに向かって飛ぶ。 ヴァイスは逃げようと操縦桿を握るが、アリシアが様子見として止め……フェローは機内に入った。 コツコツと歩くだけで様になっており、美由希達が警戒を強める中……その青い双眸が1人を見つめた。

 

「ーーエリオ・モンディアル。 私はあなたと立ち合いを願います」

 

「え……」

 

「えええええぇっ!?」

 

突然の申し出に、エリオは驚くが、最も驚いたのはルーテシアだった。 驚きながらもエリオはハッとなって気を引き締め、困惑しながらも聞き返した。

 

「ど、どど、どうして僕と……?」

 

「この子を渡すに値するか否か、それを確かめる為です」

 

「……………………」

 

フェローは肩に乗るコルルに手を向けながら言う。 理由を聞き、エリオは考え込むように黙り込んでしまう。 キャロ達も心配そうに事の成り行きを見守る。

 

「捕らえられていたコルルは私が研究室を破壊した時、恩を返すという一点張りの理由で今まで同行を許していました。 しかし……これ以上は見果てぬ煉獄に進むと同じ、連れてはいけない。 ですから、コルルと同じ変換資質のあなたに願い申し立てたいのです。 この子をよろしく頼むと」

 

「……何で、僕なのですか? 同じ変換資質ならもっと相応しい人が……フェイトさんがいるはずです」

 

同じ電気の魔力変換資質を持っていようと、実力を考えればフェイトに預けた方が良いが……それを否定するようにフェローは静かに首を振った。

 

「彼女ではいけない。 エリオ・モンディアル1個人……まだ見ぬ理がある。 己の存在する意味、生きる意味を見つけようと足掻くあなただからこそ、雷鳴の槍精、コルディアの主人足り得るか……それを示してはもらえませんか?」

 

「……………………」

 

丁寧に話すフェローの説明に、置いていかれるはずのコルルは黙って聞いていた。

 

「差し出がましいのは重々承知です。 この立ち合いを断られても致し方ありません、ですからーー」

 

「……ます」

 

フェローが身を引こうとした時、エリオはポツリとなにかを言った。

 

「エリオ君?」

 

「レンヤさん達から聞きしその槍……未熟に加え、負傷の身ながら……その申し出、受けさせてもらいます」

 

「エリオ!?」

 

「ちょ、ちょっと! 何してるのよ!?」

 

「キャロ、ルーテシアはメランジェをお願い」

 

そう言いエリオはハッチから飛び降り、真下にあったビルに飛び降りた。 それに続いてフェローとコルルも飛び降る。

 

「始めましょう……」

 

「はい」

 

「僕が立ち合う、それでいいね?」

 

エリオとフェローは互いに対面し、武器を構え。 その中間に位置する場所でコルルが控えた。

 

「………………」

 

「………………」

 

ヘリのプロペラ音だけが聞こえ、キャロ達が固唾を飲んで見守る中、エリオはフェローの放つ気迫に押されていた。

 

(ぜ、全然隙がない……それに今の状態じゃあ、まともに戦えたとしても1分も保たない。 例え万全の状態でも1秒も保たないけど……一瞬の邂逅による短期決戦……これしかない!)

 

エリオは心を落ち着かせるために目を閉じて黙想をし……開眼と同時に叫んだ。

 

「ストラーダ、フォルムドライ!!」

 

《ウンヴェッターフォルム》

 

ストラーダの槍にある噴射口と石突から突起物が飛び出し、構える。 ストラーダの第三形態、エリオの電気の変換資質を最大限に強化するための形態……これで決めるようだ。

 

「……機動六課、ライトニング分隊……ライトニング03、エリオ・モンディアル……行きます!」

 

「いきや良し。 ティマイオスが一柱、星槍のフェロー……いざ、尋常にーー」

 

『勝負!!』

 

ほぼ同時に地面を蹴り上げて飛び出し、フェローはランスを神速の如き速さで放ち。 エリオはソニックムーブを使い、自身が雷となり槍を振るい……ほんの刹那の間交差し、互いに背を向けて立ち位置が入れ替わった。 そして一瞬の交差の後……

 

「……………………」

 

「ーーかはっ……!」

 

「エリオ君!!!」

 

エリオは血反吐を吐き、ストラーダを地面に突き刺し支えにして膝をついてしまった。 その間にフェローはスクッと立ち上がり、ランスを一払いする。

 

「そんな……」

 

「エリオの渾身の一撃を無傷なんて……」

 

「……いや」

 

ピシッ……

 

「!」

 

フェローの顔を覆う仮面にヒビが入り……完全に砕け散ってしまった。 フェローは空気に晒された、驚きを見せる顔に手を当てる。

 

「や、やった……」

 

「驚きました……まさかここまでとは……」

 

「ホント、ビックリしたよ……」

 

一太刀入れられた事に喜び、エリオは気が抜けて倒れてしまう。 そして面を破られたことにフェローはもちろん、コルル自身も驚きを露わにしている。

 

「エリオ君!!」

 

「また無茶して……!」

 

メランジェの治療を終えたキャロとルーテシアはエリオの元に駆け寄った。 2人はすぐに治療を施す。 と、そこに聖王医療院で療養していたはずのシャマルとザフィーラが短い茶髪の戦闘機人を連れて飛んできた。

 

「シャマルにザフィーラ!? どうしてここに……」

 

「皆が頑張っている中でオチオチ寝ていられないわよ。 さて……傷は深くないわね。 本当、敵ながら見事な腕前ね……」

 

シャマルがエリオを治療しながらフェローの視線を向け、皮肉気味に言った。 それを聞いたか否か、フェローは口を開いた。

 

「ーーさて、結果が出ました。 エリオ・モンディアル、あなたは雷鳴の槍精の主人に相応しい人間と認めます。 もっとも、そう決まったと同時に我が軍門に入れたいと思いましたが……それは栓なきこと、ここは諦めましょう」

 

本当に残念そうに首を振り、フェローはコルルと向き合った。

 

「コルル、本当に良いのですね?」

 

「うん。 皆と会えないのはかなり寂しくなるけど……これは姉さんが示してくれた道。 僕はそれを自分の意志で歩いて行くだけさ、バチバチとね」

 

頭の後ろで手を組み、気にしてない風にケラケラと笑うが……やはり別れるのは寂しいようで、少し悲しそうに見える。 と、そこで4つの影がフェローの前に降り立ち……騎陣隊の四隊士が主人の前に跪いていた。 その甲冑は汚れており、四隊士は目に見えて負傷していた。

 

「マスター、名を果たされたようでなによりです」

 

「私の不手際で盤面に立つ者が予想より消えてしまいましたが……あなた達も手酷くやられたようですね?」

 

「……はい。 凄く強く……戦いの中で強くどんどんなっていきました……」

 

「いずれは単騎で我らと並ぶ逸材となっていたでしょう。 失礼ながらマスター、その面は彼に?」

 

ウルクは視線を倒れているエリオに向け、フェローは肯定するように静かに頷いた。

 

「ええ、面を破られてしまいました」

 

「それは凄い、敵ながら見事」

 

ラドムはエリオに賞賛を送った。 そして、フェローは腕を横に振ると……足元に転送陣が展開された。

 

「あ!? ちょっと待って! 何良い雰囲気のまま帰ろうとしているの! こっちにはまだまだ聞きたいことが山ほど……!」

 

「ーーいずれ、また(まみ)える時もありましょう。 あなた方が前に進み続けるのなら」

 

「な、何を……」

 

アリシア達は彼女の言葉に疑問の念を感じるが……それを聞く前にフェローが頭上に手をかざし、一瞬光ると……その手にはハルバードが握られていた。 豪華絢爛な装飾が施されながらも実用的な、歴戦を潜り抜けたと感じさせるハルバードが。

 

「これを今世の雷帝に、今の私には不要なものです」

 

「……………………」

 

それを地面に突き刺すと……彼女らは転送され、消えていってしまった。 あとに残ったのはハルバードだけ、そしてそれを見届けたコルルは静かに目を伏せる。

 

「じゃあね、皆……」

 

「コルルさん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以前、トーレが伝えたか……君と私は親子なよく似た物だと」

 

スカリエッティのアジトで、拘束されているフェイトにスカリエッティは話しかける。

 

「やあっ!!」

 

「ふん……」

 

そのすぐ近くで、すずかとリヴァンがナギ・エスパイアと交戦していた。 すずか達が劣勢を強いられており、ナギ1人で戦況が傾いている。 戦闘機人2人はナギに任せ、フェイトを囲っている。

 

「チッ……ことごとく攻撃が消される!」

 

「これが……滅の魔乖咒の真の力……!」

 

全ての攻撃が一撃必殺、当たりでもすれば五体満足にはいられない状況……すずかとリヴァンの精神は次第に磨り減っていた。 その間にスカリエッティはフェイトにプレシアが完成させたプロジェクトFについて語りかける。 フェイトはそれを黙って聞いていた。

 

その次に、空間ディスプレイにエリオ達が映った。 満身創痍になりながらも暴走している長大な竜……メランジェを追っていた。

 

「……っ………ライオット……!」

 

《ライオットブレード》

 

それを見たフェイトは立ち上がり、バルディッシュに形態変形を宣言した。 バルディッシュはカートリッジをロードし、大剣から形を変え……片刃の長剣へと変形し、刀身に電撃が走る。

 

「はあっ!」

 

長剣を横に振り抜き、赤い魔力線で構成された角錐型の檻を破壊し、スカリエッティを睨みつけ構える。

 

「……………………」

 

「それが君の切り札か? ふむ、このAMF状況下でも余裕がありそうだね……私の予想を遥かに超える成長ぶりだ」

 

スカリエッティの言葉にフェイトは答えない。

 

「でも、ここで使っていいのかい? 私を倒しても、ゆりかごも私の作品達も止まらんのだよ? プロジェクトFは上手く使えば便利なものでね。 私のコピーは既に11人の戦闘機人達、全員の体内に仕込んである。 どれか一つでも生き残れば、すぐに復活し。 1月もすれば、今の私と同じ記憶を持って蘇る」

 

「……馬鹿げてる」

 

狂っているとフェイトは一蹴するが、スカリエッティはさも当然のように答える。

 

「旧暦の時代……アルハザード時代の統治者にとっては、常識の技術さ。 つまり君は、ここにいる私だけでなく、各地に散った11人の戦闘機人達全員を倒さねば……私も、この事件も……止められないのだよ!」

 

そう言うと共に、スカリエッティは鉤爪をつけた右手を握り締める。 再びフェイトの足元から赤い糸が発生し、フェイトを捕らえんと迫る。

 

「くっ!」

 

すぐにそれに気付き、その場を飛び退くフェイト。 だが……

 

「逃がしません」

 

「ーーは……!?」

 

「はあっ!」

 

トーレとセッテに先回りされ、道を塞がれた事により速度が落ちた瞬間を狙われて牽制されてしまい……その隙を突かれ、再び赤い糸に囚われてしまった。

 

「さあ、絶望したかい?」

 

「くっ……」

 

「君と、私はよく似ているんだよ」

 

「ッ!?」

 

唐突にそう笑みを浮かべながら答えるスカリエッティに、フェイトは有り得ないと思いながらも思わず息を呑む。

 

「私は自分で作り出した生体兵器達……君は自分で見つけ出した、自分に反抗する事のできない子ども達……それを自分の思うように作り上げ。 自分の目的の為に使っている」

 

「っ!! 黙れ!」

 

そんな気は絶対にない……フェイトはそう思いながら怒りを露わにし、自身の周囲にスフィアを展開して魔力弾を放った。 だがスカリエッティは手をかざし、AMFによる障壁で打ち消してしまった。

 

「違うかね? 君があの子達に自身に逆らわないように教え込み、戦わせているだろう?」

 

「っ……!」

 

「私がそうだし、君の母親も同じさ。 周りの全ての人間は自分の為の道具に過ぎない……そのくせ君達は、自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ……改心したとは言え、君の母親がそうだったんだ。 間違いなく君もああなるよ。 間違いを犯す事に怯え、薄い絆に縋って震え……そんな人生、無意味だとは思わんかね?」

 

「……………………」

 

「フェイトちゃん!」

 

「余所見はいけないね!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

スカリエッティの言葉を否定できない自分がいた。 肯定してしまいそうで自信喪失になりかけた時……

 

『違う!!』

 

繋がっていた通信から、エリオとキャロの声が響いて来た。 空間ディスプレイに映し出された2人はヘリに乗っており、どちらも酷い怪我を負っていたが……強い目をしてフェイトを見た。

 

「あぁ……エリオ、キャロ……なんて酷い怪我を……」

 

『無意味なんかじゃない!』

 

『ゴホゴホ……! た、確かにフェイトさんに導かれて六課に来ました。 でも……戦いの場に出た事も、ここまで来たことも自分達で選びました!』

 

『フェイトさんは、行き場のなかった私に、あったかい居場所を見つけてくれた!』

 

エリオは呼吸器官が傷ついて咳き込みながらも、自分の意志をキャロと一緒にフェイトに伝える。

 

『皆さんと一緒に、沢山の強さと優しさをくれた!』

 

『大切なものを守れる幸せを……沢山の人に幸せを与え、与えられる事を教えてくれた!』

 

『助けてもらって、守ってもらって、機動六課でなのはさんとアリサさん、レンヤさんとすずかさんに鍛えてもらって!』

 

『やっと少しだけ、立って歩けるようになりました! 私が前に進む答えも……結果も』

 

キャロは視線を後ろに向けると……そこには気絶して横になっているクレフが映った。

 

『フェイトさんは、何も間違ってない……間違っているはずがない!』

 

『不安なら、私達がついてます! 困った時は助けに行きます!』

 

『もしも道を間違えたら……僕達がフェイトさんを叱って、ちゃんと連れ戻します! もちろん、レンヤさん達と一緒に!』

 

「……ぁ……」

 

『ゴホッゴホッ!!』

 

『うっく……ハアハア……』

 

『2人とも! 無理しないで! ジッとしてなさい!』

 

無理に叫んだせいか2人は傷に響き、膝を付いて痛みに耐え。 横からシャマルが出て治療に当たる。 だが、2人はその手を払いのけ……

 

『この戦いが終わったら、キャロと一緒に伝えたい事がありましたけど……今伝えます!』

 

『フェイトさん……私も、エリオ君も、あなたの家族として……! あなたをこう呼びます!』

 

エリオとキャロは、一呼吸置くと……

 

『頑張って!! “お母さん”!』

 

自分達の想いを口にした。

 

「ッ!」

 

その言葉に、フェイトは目を見開く。

 

「……ごめん……なのは……レンヤ……もう少し、もう少しだけ……私の我儘を……!」

 

フェイトがそう呟くと、金色の魔力光に包まれる。

 

《ゲットセット》

 

「オーバードライブ……真・ソニックフォーム」

 

《ソニックドライブ》

 

フェイトを中心に、金色の魔力の奔流が放たれた。 するとフェイトのバリアジャケットが変化し、髪型が昔を思い出すようなツインテールに。 そして身に纏う装甲が更に薄く、防御を無視した完全な速さ重視の形態へと変わった。

 

(ゴメンね。 ありがとう………エリオ、キャロ)

 

心の中で謝罪、そして礼を言い。 目の前を真っ直ぐ見据える。

 

「疑う事なんて、ないんだよね………」

 

《ライオットザンバー》

 

ライオットソードが分離し、柄がワイヤーで繋がれたら双剣をその両手で掴む。

 

「私は弱いから……迷ったり、悩んだを……きっと、ずっと、何度も繰り返す。 だけど……いいんだ……!」

 

思いを胸に秘めながら双剣を握る力がこもり……

 

「迷っても前に進み続ける。 私は1人じゃない………エリオが………キャロが………皆が………そして、レンヤがいてくれるから!」

 

フェイトは双剣を、ライオットザンバー・スティンガーを構え……

 

「恐れる事なんて、何もないんだ!」

 

吹っ切れたようにそう言い放った。 それを聞き、トーレとセッテは身構える。

 

と、その時、フェイト達の背後で大きな爆発がおき、その中から煤汚れたナギが出てきた。

 

「すずか、リヴァン!」

 

「っ……中々やるようだね」

 

「確かに滅の魔乖咒は強力だ。 だが……強力な反面力押ししかできないようだな?」

 

「それが対処できれば問題ありません。 慣れるまで時間がかかりましたが……もう苦戦はしません」

 

すずかとリヴァンが警戒を強める中、ナギは微小しながらスーツに着いた汚れを手で払う。 そして相対する2人を一瞥し……

 

「ふっ……ここまでかな」

 

「なに……?」

 

「僕はこれでおいとまさせてもらうよ。 あとは好きにしていいよ」

 

「え、あ……ま、待ちなさーー」

 

すずかが止める間もなく、ナギは音もなく消えてしまった。 その身勝手な行動にトーレは怒りを露わにする。

 

「あいつ……なにを勝手に!」

 

「くくく、やれやれ……ここで逃げられたら私達が不利なのだが……まあいいだろう。 ゆりかごが起動した時点で彼らとの契約は終了しているしね」

 

スカリエッティは致し方なしと思い、やれやれと肩をすくめて首を振る。

 

「フェイトちゃん!」

 

「形成逆転だな?」

 

「くっ……いくら虚勢を張ったとは言え装甲が薄い! 当たれば簡単に墜ちる!」

 

「フェイトちゃんはあなた達には墜とされない!」

 

戦闘態勢に入ったトーレが叫び、すずかが間合いを詰めて槍を連続で突く。 トーレは両手と両足で防ぎ……スカリエッティの右手が僅かに動く。 フェイトは瞬間的にその場を飛び退き……一瞬遅れて先程の場所が爆発した。

 

セッテが飛び退いたフェイトに向かってブーメランブレードを投げつけようとするが……

 

「させるかよ!」

 

「ッ!?」

 

爆煙を挟み、リヴァンの矢がブーメランブレードを弾き阻止させられる。 リヴァンはそのまま爆煙を突き抜け、互いの武器をぶつけて鍔迫り合いになる。

 

その時、再びスカリエッティが右腕の鉤爪を動かすと床から赤い糸が発生し……すずかとリヴァンを縛り上げ、更にはフェイトにも襲いかかる。

 

「はあっ!」

 

だが、フェイトに向かった赤い糸はライオットザンバーによって切り裂かれる。

 

「もらったぞ!」

 

一方、セッテは赤い糸に縛られたリヴァンに向かってブーメランブレードを投げつけた。しかし、リヴァンは拘束されたまま指だけを動かし……張り巡らせていた鋼糸でブーメランブレードを絡め取った。

 

「なっ……!?」

 

「蜘蛛が自分の巣にやられるわけねぇだろうが!!」

 

叫びながら発剄を放ち拘束から脱し。 手をかざしてゆっくりと閉じ、それに比例するようにブーメランブレードが締め付けられるで砕かれる。

 

「ふっ……!」

 

《オールギア……ドライブ》

 

すずかも糸を凍らせて砕いて拘束から脱し、全てギアを回転させる。 そしてリヴァンはセッテの懐に潜り込み……

 

「内力系活剄……」

 

「しまっ……」

 

「ーー烈剄!!」

 

内力系活剄で腕力を向上させ、防ぐ間も無く拳がセッテの腹に入り……衝撃がセッテの腹部を突き抜け、そのまま気を失う。

 

「ふははははは!」

 

「科学者なのに、よく動けますね!」

 

すずかの高速の乱れ突きをスカリエッティは糸で、爪で防ぎ、身を翻して躱していく。 その事にすずかは思わず質問してしまった。

 

「くく、なに、研究も言い方を変えれば、肉体労働なんでね!」

 

「それは……同感です!」

 

変な所で共感しながらも、すずかは攻撃の手を休めない。

 

「バルディッシュ!」

 

《イクシードシステム。 イグニッション》

 

右手の長剣にスロットルが付き、フェイトはそれを全力で回し。 それに比例して速度が上がりトーレとの距離を肉薄する。

 

「ーーライドインパルス!」

 

トーレがフェイトのスピードに対抗する為にすぐにISを発動する。

 

フェイトとトーレが超スピードで空中戦を繰り広げた。 お互いの攻撃が掠め合い、傷が出来ても2人は止まらない。

 

「一気に決める!!」

 

するとフェイトが2本の剣を一つに重ね、大剣の状態……ライオットザンバー・カラミティへと形態変化させる。

 

「こおおおおお……」

 

フェイトは目を閉じ、心を落ち着かせながら呼吸を整え丹田に力を込め、大剣を振り上げ……ゆっくりと下ろし正眼に構える。

 

そのフェイトの変化にトーレは肌で感じ、冷や汗を流しながら警戒を強める。 そして……

 

「ーー参る!!」

 

「でやぁあああああっ!!」

 

フェイトは開眼と同時に飛び出し、高速で大剣を振り抜き。 トーレは自身ごと回転させ、回転により威力を上げた腕のインパルスブレードを繰り出す。

 

ガキンッ!!

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「ぐう……ああああっ!!」

 

互いの一撃がぶつかり合い、一瞬拮抗するが……すぐにトーレのインパルスブレードが耐え切れずに砕け散り……さらにフェイトは擦り抜き際にすぐに追撃、高速で移動と攻撃を連続で繰り返し……

 

《フルスロットル》

 

「でやっ!!」

 

トーレの正面に立ち、柄にあるスロットルを全力で回して大剣が雷撃を纏いながら刃渡りを伸ばし……

 

雷速の光斬(ブリッツ・ブレイド)!!!」

 

残像が残るほどの速度で切落、袈裟斬り、右薙ぎ、左薙ぎ、逆袈裟……いくつもの型を一瞬で振り、その斬撃の軌跡がトーレに集中し……強烈な雷撃を放ちなが、トーレは物凄い勢いで吹き飛ばされた。 そしてトーレを撃破したフェイトは身を翻し、そのままスカリエッティに斬りかかる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

裂帛の気合いを入れ、フェイトはスカリエッティに大剣を振り下ろす。

 

「ふん!」

 

「なっ……!?」

 

「嘘!?」

 

「なんて奴だ……!」

 

だが、驚くことにスカリエッティはそれを両手の鉤爪で受け止め、その衝撃で床が大きく陥没する。 その光景にフェイトはもちろん、すずかとリヴァンも驚きを露わにする。

 

「フハハハハハ……素晴らしい……やはり素晴らしい……ああ! この力、欲しかったなぁ! ……だが、私を捕える代償に、君はここで足止めだ……私が倒れても、子ども達が倒れても……見えない場所で既に楔は打ち込まれている! 私がゆりかごに託した夢は、止まらんよ!!」

 

スカリエッティの言葉に、フェイトは一瞬悔しそうな顔をするが……

 

「ーーその心配はありません。 さっきも言った筈です。 私達には、仲間がいると! ゆりかごは、必ず彼らが止めてくれる!」

 

「俺達を舐めるなよ!」

 

すずかとリヴァンがそう言い放ち、フェイトが飛び退くと同時にすずかがスカリエッティの懐に飛び込む。 そして槍を縦に振り回し……

 

「やあぁっ!!」

 

槍の石突きを勢いよくスカリエッティの顎にぶつけてかち上げた。 宙に浮くスカリエッティ、そこにフェイトが追撃をかける。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

フェイトが大剣を振り回し、剣の腹で宙に浮いたスカリエッティを叩いて吹き飛ばし、壁際に叩きつけた。

 

「ハアハア、ハアハア……」

 

「フェイトちゃん……」

 

戦闘が終わり、フェイトは息を整え……スカリエッティに歩み寄る。

 

「……広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。 あなたを……逮捕します」

 

 



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185話

 

 

フェイトがスカリエッティを制圧、拘束し。 シャッハとユエ、ロッサの無事を確認していた時……突然アジト内に警報が鳴り響いた。

 

すると通路が魔力障壁で封鎖され、それと同時に地震が起き始めた。

 

「これは……一体……?」

 

「なんかスゲェ嫌な予感がするんだけど……」

 

「ーーフフ……クアットロが、この拠点の破棄を決意したようだ」

 

「止めさせてください…………と、言っても、無駄なんでしょうね」

 

すずかがクアットロの無慈悲な決断の理由が分かっていた。 先ほどスカリエッティの言った事が真実なら、目の前のスカリエッティが死んでも問題ないということが。

 

「…………! ユエ君とシスターシャッハ、ロッサは一足先に脱出するみたい! フェイトちゃん、私達はーー」

 

「分かってる。 この人達を救わないと……!」

 

2人は頷き、空間ディスプレイを展開し。 このアジトのシステム侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダメ……ツァリ君と繋がらなくなっている……」

 

「そろそろゆりかごが軌道ポイントに到達する。 タイムリミットまであまり時間が残されていないのに……」

 

念威探査子(ねんいたんさし)も機能を停止しているし、何かあったのか?」

 

なのはは手のひらの上にある色を失った花びら……探査子を見せて呟く。 エルドラドをソファーさんに任せ、俺達は心身ともに疲労が蓄積されるのを自覚しながらも速度を落とさず、敵を退けながら迷宮を駆け抜けていたが……突然、ツァリの通信が途切れてしまったのだ。 何かあったに違いないが、ツァリがいるのはアースラ……かなり心配になってくるが……

 

「ーー見えた! あの先が玉座の間だ!」

 

「ツァリやアースラの皆は大丈夫よ……信じて、私達は目の前の事を……!!」

 

「了解だ!」

 

「ヴィヴィオ、イット……!」

 

懸念を頭の隅に追いやり、そのまま終点の広間にたどり着いた。

 

「ここは……」

 

迷宮を抜けた先にあったのは……大きな広間だった。 いわゆる玉座の間の手間にある広間、奥の巨体な扉の先に……と、そこでその扉を背に高等部くらいの黒髪の少年が片手で太刀を抱いて地べたに座っていた。

 

「あれは……」

 

「……………………」

 

「あ、レン君!」

 

俺は無言で前に進む。 問いかける必要はない、今は……

 

「……こうなる運命だったのかもしれませね」

 

広間の中心……円形の広間に差し掛かると少年が口を開き立ち上がった。 太刀を腰に佩刀し、円形の広間に入って俺と対面する。

 

「結局、俺は何者にもなれず……何もなし得る事は出来なかった。 出来るはずもなかった……」

 

「……見てくれが大きくなったからって、何を悟っているんだ……イット」

 

男子三日会わざれば刮目して見よとは言うが……これはないだろ。 イットは赤い旅衣装のような服を着て、顔を俯かせていた。

 

(……深く精神操作が施されているな。 これじゃ操られているのも自覚はないし、恐らくヴィヴィオにも……)

 

《彼からレリックの反応が検出されました。 その影響なのかは不明ですが、身体年齢が上がっているようです》

 

「なんて事を……!」

 

「まさか……ヴィヴィオにも……!」

 

「……なのは、アリサ。 先に進んでくれ。 ここは俺が引き受ける」

 

2人の前に出て、そう懇願するように声を強めながら言った。 これは、俺自身がやらなければ……成さなければならない事だ。

 

「で、でも……」

 

「行け! 俺は子どもの想いを受け止められないような父親じゃない。 2人もヴィヴィオの事、頼んだぞ」

 

「行くわよ、なのは。 ここは任せましょう」

 

アリサは了承してくれ、なのはは少し渋るが……決心して頷いてくれた。

 

「……気をつけてね」

 

「ああ……」

 

2人はイットの横を通り過ぎ……横目でイットを見ながらも玉座の間に入っていった。 その間、イットは2人には手を出さず、微動だにしなかった。 イットも奴らの手の中にありながらも、何とか争い……俺との一対一を所望したようだ。

 

「……言ってたよな? イットは生きることに意味があるとか……」

 

「………………」

 

「そんなもの……自分で見つけろ」

 

「!?」

 

意外だったのか、イットは顔に出さなくとも反応で驚きを見せた。

 

「俺だって生きる意味なんて質問されたら即答できない。 目的はある、成すべきこともある……けど、生きるとはなんだ? 日々の繰り返しか? 命を落として死ぬまでが生か? 答えられる者はいないだろう……」

 

一歩前に踏み出し、自分の考え……思いを言い続ける。

 

「だから自分で見つけるしかない。 当たり前な日々の中で……友達と、仲間と、家族と過ごす中で見つけて、それを大切にしていきたい。 その中にはイット、お前はもちろんヴィヴィオも入っている」

 

左手で鞘を掴み、右手で腰に差していた刀を抜刀し……

 

「だからこそ! 俺はこの戦いでは……八葉一刀流しか使わない!」

 

「!?」

 

「これが今の俺に出来る……ただ一つ、今のお前に示せる勲だ!」

 

レゾナンスアークに3本の短刀を収納させながら、俺は残りの長刀を抜刀して……剣先をイットに向けて豪語する。 イットは驚愕の表情を見せ……太刀を握る力がこもる。

 

「後悔しないで下さいよ……! ーーうう……ウオオオオッ!!」

 

イットは胸を押さえ……鬼の力を解放した。 髪は白く、瞳は紅く変わり。 赤と黒が混じった魔力が溢れ出す。 それに対して、俺は冷静に一歩前に出る。

 

「正式な弟子じゃないし、お前と比べれば遥かに劣るだろう。 だが……それでもあえて、俺はこう名乗る!」

 

その間にお互い魔力を高め合い、放出された魔力が両者の間で衝突する。 そして左手で刀を逆手に持ち替え、軽く右手を添えて居合いの構えを取る。

 

「ーー八葉一刀流、初伝………神崎 蓮也! 己の矜持を示す為……イット! お前を自由にする一刀を届かせる為……いざ、推して参る!!」

 

「ウオオオオオオオッ!!!」

 

同時に地面を蹴り上げ、広間の中央で振り抜かれた刀と太刀が衝突……強烈な衝撃が辺りに響かせる。

 

「うおおおおおっ!!」

 

「アアアアアアッ!!」

 

力が拮抗し、互いに力を増しながら鍔迫り合いになる。 どうやらイットは理性を持ちつつも鬼の力に身を任せている……そんな風になって戦っているようだ。 精神操作の影響かもしれないが……厄介には変わりない。

 

「シャアア!!」

 

「はあっ!」

 

力を加え、またもや同時に弾かれ……すぐにイットの前から消え横から接近、斜めに薙ぎ払が、イットはその攻撃に反応し防御。 そこから一瞬の間に何度も刀をぶつけ合った。

 

「な!?」

 

「シャアッ!」

 

高速に繰り広げられていた剣戟の嵐……その途中で防御を抜けられ、鋭い一刀で脇腹を斬られてしまった。

 

「カハッ! くっ……! (体格が大きくなった事で、老師との……子どもと大人の体格の差がなくなり、太刀筋が定まって剣の冴えが上がっている!)」

 

「オオオオッ!」

 

痛みをこらえ刀を納刀し、休まさせずに振り抜かれた太刀を紙一重で避ける。

 

「ーー伍の型……残月!」

 

身体が逸れながらも重心が安定しているおかげで瞬時に抜刀し、斬り返しで2度、力の乗った刀を斬りつけた。

 

「グウゥ……!」

 

刀は浅く肩と腕を斬り、追撃をかけるも一転して放たれた太刀に弾かれて阻まれてしまう。

 

「弧影斬!!」

 

「ソコダ!!」

 

後退し距離を取り、納刀から抜刀により放つ飛ぶ斬撃……それを同時に放ち、中央で衝突し消えてしまう。 と、次の行動を起こそうとした時……イットはその場で太刀を顔のある位置で突きを放つ構えを取り……

 

「ウオオオッ……!」

 

「がっ!?」

 

「シャアッ!!」

 

一瞬で消えたと思ったら10メートルの距離を半秒以内で詰め、一太刀入れ離脱。 さらに抜刀によって放たれた衝撃波で追撃をかけられてしまった。

 

(い、今のは疾風……だが速すぎる上に追撃をかけられた! 派生技か……!)

 

俺が知る八葉一刀流は基礎の8つの型のみ。 そこから派生した技は自分が編み出した伍の型だけで少なく……対応が遅れてしまった。

 

(基礎の8つの型ではダメだ。 勝機があるとしたら……伍の型だけだ……)

 

伍の型だけは自分が編み出した派生技がある。 状況はこちらが圧倒的に不利だが……そこに道を見出すしかない。

 

「ホロビヨ……」

 

「! それは……焔ノ太刀か!」

 

初伝でも威力が高い技……イットは太刀の持ち手を上げて剣先を下に、刀身を自身の隣にしながらもう片方の手で刀身に手を添え……刀身に紫色の禍々しい焔が纏われる。

 

「ウオオオオオオッ! シャアッ!!」

 

距離を詰められ……紫の焔ノ太刀の連撃を受け切った。

 

「ぐっ……ハアハア……」

 

何とか耐え抜いたが……身体中のあちらこちらに火傷を負ってしまった。 体力も削られたが、大技を出した後でイットの動きは鈍い……

 

「四の型……紅葉切り!!」

 

痛みを堪えながら駆け出し、すれ違い間際に一閃して斬り付け。 さらにそこから一転し、横に薙ぎ払い追い撃ちをかける。

 

「グウッ……!」

 

「……………………」

 

「ウゥ……ウオオオオオオッ!!」

 

「!!」

 

追い撃ちの一刀を受け切ると……イットの纏う鬼気が一層増してしまった。 一瞬で距離を詰め、太刀を振り下ろす。 だが……

 

(少しずつ太刀筋がブレ始めている……身体も体力も限界に近付いている。 このまま続けるとマズイ!)

 

このままでは命に関わる……時間はかけていられない。 だが、イットの怒気迫る剣戟、その剣戟を交じあわせる……その刹那の隙を狙い、一瞬で決めるしかない!

 

「オオオオッ!!」

 

「!」

 

今だ……この瞬間を……掴め!

 

「シャアアアアアッ!!」

 

「……八葉一刀流、秘技……虚月(こげつ)!!」

 

地を蹴り上げ、迫ってきたイットの背後に一瞬で回り刀を鞘から振り抜いた。 そしてイットに背を向け……大きく鍔鳴りを響かせながら納刀と同時に斬撃を飛ばす。 そして刹那の間が遅れ、イットに2つの一閃がばつ印に走った。

 

「ガアアアアア……ッ!!」

 

「これでもダメなのか……!」

 

《マジェスティー、過剰に魔力を蓄積させ。 レリックを外に放出、破壊するしかありません》

 

「くっ……イット、耐えてくれよ……!」

 

最後の最後、これが失敗すれば……そう考えて頭を振り払う。

 

(失敗を考えるな。 今は、己が出来る一刀を振るうのみ……!!)

 

「アアアアッ…………れ、れんや、サン……」

 

「ーー白夜を閃めかせるは虚無の一刀……」

 

目を閉じて精神を統一し、納刀の状態で刀身に収束魔法のブレイカーの抜刀を発動させた。

 

「疾ッ!!」

 

抜刀の構えを取り一瞬で飛び出し……抜刀。 背を向けて刀を振り抜きながらイットの横をすり抜き間際の刹那の間に7回斬り、斬撃がイットを中心に飛び散り……

 

「はあああああああっ!!」

 

刀を手放して踵を返し飛び散った斬撃……虚ろな刀を掴んで斬り、それを刹那の間にまた7回繰り返した。 飛び散る魔力を押し込んで、魔力が飽和させて魔力ダメージを与え続け……するとイットの胸元から赤い結晶、レリックが姿を現した。

 

「ウアアアアア……!!」

 

「終ノ太刀……(おぼろ)!!」

 

空に停止していた実刀を掴み一閃、レリックを真っ二つに斬り裂いた。 次の瞬間、レリックが破壊された影響か、イットを中心に魔力が爆発した。

 

「ぐっ…………イット!!」

 

咄嗟にレゾナンスアークが障壁を展開してくれ。 足腰に力を入れて踏ん張り、爆風に耐えながらイットの名を叫ぶ。 数秒で爆風は収まり、中に舞う砂煙が少しずつ晴れていくと……元の姿に戻ったイットが太刀を杖にして足がガクガクになりながらも立っていた。

 

「イット!」

 

「……はあはあ……」

 

倒れまいと踏ん張るイットに駆け寄り、倒れるすんでのところで受け止め。 回復魔法をかけながら優しく横たえた。

 

「済まない……俺がもっとしっかりしていれば。 お前を救ってみせると誓ったのに……」

 

「……いいえ……レンヤさんが気にする事はないですよ。 俺が不甲斐なかっただけですから……」

 

「そうか……っ!?」

 

その時……この奥、玉座の間で大きな魔力の奔流を感知し。 間をおかず大きな轟音と衝撃が辺りに響いて来た。

 

「うわっ!?」

 

「っ……この魔力、なのはか……また無茶して……」

 

イットにこの場に留まっていろと言い。 すぐになのはの元に向かおうとすると……身体に激痛が走り、膝をついてしまった。

 

「レンヤさん!?」

 

「痛っ……俺も人の事は言えないか。 大丈夫だ、すぐに良くなる」

 

「で、でも……!」

 

その時、辺りに警報が鳴り響いた。

 

『駆動路破損、管制者不在。 聖王陛下、戦意喪失』

 

どうやらこの奥で何があったに加え、はやて達がやったようだ。 こうしてはいられない……!

 

『これより、自動防衛モードに入ります。 艦載機、全機出動。 艦内の異物を、すべて排除してください』

 

「急がないと……くっ!」

 

「だ、ダメです! 傷に響いてしまいますよ!」

 

イットに身体を支えながら進行を抑えられ、それでも前に進もうとすると……前触れもなく周囲に白い光が溢れ出した。 そして驚く間も無く……異界は収束し、辺りは彼女の記憶にあるゆりかごの中と同じ風景になった。

 

「これは……」

 

「異界化が解かれた……? どうして突然、前触れもなく……」

 

恐らくはやて達の駆動炉破壊を引き金に収束したのだろうが……とにかくこうしてはいられない。 治癒魔法で身体を治しながら玉座の間に急いだ。

 

イットにささえながら玉座の間に入ると……中は爆煙に包まれており、何も見えなかった。

 

「なのは、アリサ!」

 

「ヴィヴィオー!」

 

少しずつ煙が晴れると……なのはとアリサがヨロヨロと立ち上がっていた。 その2人の先、玉座の間の中央は大きく陥没していた。

 

「アリサ、無事か?」

 

「え、ええ……何とかね」

 

「………ヴィヴィオ……?」

 

無事を確認すると、なのははフラフラになりながらも着弾地点に歩み寄る。

 

そして煙が完全に晴れると……着弾地点の中心にヴィヴィオが倒れていた。

 

「ヴィヴィーー」

 

「大丈夫……!」

 

歩み寄ろうとするなのはをヴィヴィオは一声で止めた。 だが、それは拒絶ではなく……

 

「ちゃんと……自分で……立ち上がるから。 今が……その時だから……」

 

ゆっくりと、フラフラしながらも立ち上がる。 一歩、また一歩と確実になのはに歩み寄る。

 

「強くなるって……パパと、ママ達に……約束したから……!」

 

なのはは目尻に涙を浮かべ、ヴィヴィオに駆け寄って抱き締めた。

 

「ママ……」

 

「ヴィヴィオ……」

 

強く抱き合う2人を見て、俺達は微笑む。 と、その時レゾナンスアークから情報が入った。 どうならゆりかごの船速が落ちたようだ。 次元航行艦隊の到着が間に合いそうだな。

 

『ーー聖王陛下、反応ロスト。 システムダウン』

 

そう思った時、ゆりかごが警報とともに突然アナウンスが流れ始めた。

 

「ーーレンヤ君! なのはちゃん!」

 

それと同時に、恐らくリインとユニゾンしているはやてとシェルティスと……どうしてか気絶している行方不明のユミィを抱きかかえていた。

 

「はやてちゃん!」

 

「皆、無事なようだね?」

 

「戦闘機人達はクイントさん達に預けて脱出した、後は私達だけや」

 

となると長居は無用だな。 それと気になっていたんだが……

 

「どうしてユミィがここに?」

 

「……僕にもよく分からない。 空白(イグニド)に囚われていたのを助けたんだ。 巻き込まれたのか……意図があって空白に攫われたのか……でも、今はそれどころじゃない」

 

「ええ、どうやら駆動炉の破壊とヴィヴィオを取り除いた事でゆりかごの最終防衛機構が発動したわ。 すぐに脱出をーー」

 

『艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします。 艦内の乗員は、休眠モードに入ってください』

 

アリサの言葉を遮り、そんなアナウンスが立て続けて流れ、今までにない以上に強力なAMFが発生する。 その瞬間、なのはが発動していた飛行魔法がキャンセル、さらにはやてとリィンのユニゾンが解かれてしまった。

 

「くっ!」

 

「なのは!」

 

大した高さを飛んでなかったとはいえ体勢が崩れたが、なのはとはやては何とか体勢を立て直して着地する。

 

これでは脱出が出来なくて味方の手によって天に召されてしまう。 そんな気はさらさらないので……はやてがなのはの壁抜きで制圧した戦闘機人を回収し、とにかく今は足で脱出した。 俺はイットを背負い、なのははヴィヴィオを抱きかかえると玉座の間を出て来た道を引き返した。

 

「!」

 

どうにかしてクイントさん、メガーヌさん、ソフィーさんと合流しようと模索してた時……進行方向から濃密な剣気が発せられて来た。

 

「な、なんて気圧……!」

 

「この剣気は……」

 

俺達は一斉に足を止め、この先にあった横に繋がる通路を睨んだ。

 

「ここであなたが立ち塞がりますか……」

 

「……異篇卿第一位、白銀のアルマデス……」

 

「ーー今だからこそ、意味があるのだ」

 

通路から出て来たのはその手に身の丈ほどの大剣を片手で持つ銀髪の男性……白銀のアルマデスだった。

 

「もうゆりかごは落ちる。 何を今更俺達の道を塞ごうとする?」

 

「ふ、愚問だな。 目的を……計画を達成せしめるためだ」

 

「達成もなにも、もうこれで終わりです」

 

「愚問と言ったはずだ。 異篇卿の計画……鏡界計画に、この事件は通過点に過ぎない」

 

「なっ!?」

 

この事件はスカリエッティ、魔乖術師集団、そして異篇卿によって引き起こされたもの。 確かに利害の一致で協力関係にあったと思われるが、こんな事をしでかしておいて通過点とは……

 

「この事件は所謂福音……スカリエッティがどうなろうとも、ゆりかごも、聖王も、俺にとっては関係ない。 空白(イグニド)自身を持って引き金は引かれ、鏡界計画の大半は終了した……後は」

 

そこで言葉を切り、片手を上げこちらに向けて指を差すと……

 

「その子どもを渡してもらおうか?」

 

「イットを!?」

 

イットに指を差し、声を強めながら答えた。 俺はイットをアリサに渡し前に出る。

 

「そう易々渡す訳にはいかない。 あんた達が何を企もうと、この子に手を出すなら……俺が相手になる……!!」

 

「ふ、いいだろう」

 

戦闘体勢に入り、視線を逸らさず睨み合いながら後ろに声だけをかける。

 

「シェルティス、皆を連れて離脱しろ。 ここは俺が引き受ける」

 

「で、でも、レン君1人だけじゃ……」

 

「ーー行け!!」

 

こちらに歩み寄ろうとする皆に大声で怒鳴り、足を止めさせた。 皆は少し顔を俯かせるが……すぐに顔を上げた。

 

「……気をつけてね」

 

「ちゃんと無事で帰ってくるんよ!」

 

「帰って来ても覚悟はして起きなさいよね!!」

 

「……………………」

 

アリサ達は激励を告げて迂回路を通る中、なのはだけが少し顔を俯かせながら近寄って来た。

 

「レン君……」

 

「なのは? 何をーー」

 

……それ以上の言葉を紡ぐ事は出来なかった。 ゆっくりとなのはは両手を自身の胸元に伸ばして寄りかかり、スッと流れるように背伸びをし……キス……してきたのだ。

 

「……必ず、必ず生きて帰って来てね」

 

「あ、ああ……」

 

なのはは身を離し、かなり頰を赤く染め。 俺は同様しながらも頷いた。 なんか……かなり恥ずかしい……

 

「な、なのは〜〜……!!」

 

「なのはちゃん……恐ろしい子や……」

 

「はわわ……! 大人だよ〜……」

 

「え、えーっとぉ……」

 

「あ、あはは……」

 

「……コホン、早く行け」

 

アリサ達はそれぞれの反応を見せ、軽く咳払いをし、声を強めて皆を行かせた。 改めて正面を向くと……アルマデスが笑いを堪えていた。

 

「ふふ……こんな時に女か。 噂は違わぬようだな」

 

「……一体どんな噂か問い詰めたいけど……これで邪魔は無くなった。 決着を付けよう……」

 

かなり気恥ずかしいが意識を切り替える。 今の状況では魔法はロクに使えない。 勝敗を決めるのは自分の剣の腕のみ……意識を切り替え、刀を構えながらアルマデスを見据える。 アルマデスも大剣を構え……剣呑な空気が辺りに充満する。

 

「はああぁぁ……!」

 

「こおおぉぉ……!」

 

呼気で自分の気を高め、勝負の開始を見極める。 それから数秒、数分たったのだろうか。 周りの音が聞こえなくなり、さらにそれが数秒続いた時……どこかで何が壊れる音が聞こえ……

 

『はあああぁぁっ!!/おおおおぉぉっ!!』

 

同時に床を蹴り上げ、互いの武器を衝突させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェローと彼女が率いる騎陣隊が撤退した後、騎陣隊を追いかけていたソーマ達と合流した。

 

「皆さん!」

 

「お互い、何とか命はあるようね」

 

「まあ、そうだね」

 

「ボロボロだけど、命あっての何とやらだし」

 

お互い軽口を言いながらも無事を喜ぶ。 そこで上空でホバリングしていたヘリが着陸した。

 

「っ!? エリオ君、なんて酷い怪我を……!」

 

「あ、あはは……一矢報いましたぁ……」

 

「聞いてよ皆〜。 エリオ、あのフェローとやり合ったんだよ? それで一撃、入れたんだよね?」

 

「見てるこっちがヒヤヒヤしました。 もう絶対に、絶〜対に! 安静ですからね!!」

 

「は、はい……」

 

「キャロちゃんとルーテシアちゃんも! 追加でギンガもね!」

 

『は、はい!』

 

凄みのある声で言い、キャロ達3人は怯みながら返事をした。

 

「美由希さんとヴァイスさんも無事で良かったです。 あの魔乖術師が相手だったので心配しました」

 

「あはは、強敵だったけど……なんかね」

 

「締りのねぇ結末だったかんな」

 

サーシャの言葉に、2人は苦笑いしながらソッポを向いた。

 

「ガジェットは活動を停止、これで地上の騒動は残りグリードだけ。 これなら確実に収束しますね」

 

「そうだな。 さて……」

 

ヴァイスはヘリを降り、空を見上げる。 その視線の先にはゆりかごが飛んでいた。

 

「船の上昇は止められたみてぇだが……あの中じゃまだ、戦いが続いてんだ」

 

「突入したなのはちゃん達と、連絡がつかなくなってるの」

 

『えっ?』

 

ヴァイスとシャマルの言葉に、スバルとティアナは声を漏らす。 ソーマはそれを聞き、手に力が入る。

 

「インドアでの脱出支援と救助任務……陸戦屋の仕事場だぜ! お前ら、さっさと行くぞ!」

 

『はい!』

 

「……………………」

 

ヴァイスの言葉に、スバルとティアナは返事をし、ヘリの中に駆け込んだ。 ソーマも同行したかっだが……錬金鋼(ダイト)は全て使い果たし、何も出来ないのが歯がゆかった。

 

「ソーマ君、これを」

 

その時、シャマルがソーマの目の前に手を差し出した。 その手のひらの上には剣の柄だけのダイト……天剣があった。

 

「これは僕の天剣……!!」

 

「この状況で、今更局がとやかく言うつもりはないし、言わせない。 だからソーマ君、これではやてちゃん達の道を切り開いて」

 

「ーーはい!」

 

大きく返事をし、ソーマは天剣を受け取りヘリに乗り込んだが……

 

「さてと、エリオ君は………って、ああ!?」

 

「うわっ!? なになに?」

 

突然シャマルが大声を上げ、辺りを見回した。

 

「エリオ君とキャロちゃんがいない……まさか!」

 

「ええ、フェイトの応援に行くって言ってたわよ」

 

ゴチンッ!!

 

「ッ〜〜〜〜〜!!??」

 

あっけらかんとして言うルーテシアに、シャマルは怪我人など関係なく脳天に拳骨を振り下ろした。

 

「ッ〜〜〜〜!!」

 

(ポンポン)

 

「はぁ……全く、どうしてあなた達はこう……自分を顧みないというか……」

 

シャマルは殴った手をプラプラさせながら溜息をついた。

 

「スバル……」

 

サーシャに支えられているギンガがスバルを呼び止めた。

 

「ギン姉?」

 

「これを……」

 

そう言って自分のデバイス……ブリッツキャリバーを差し出した。 もう戦えない自分の想いを託すように……スバルは無言で頷くと、確かに受け取った。

 

次々と乗り込むと……既にヘリの中にはエナがいた。

 

「ヘイボーイ、私の後ろはいつでも空いてるよ?」

 

「よろしくね、エナ」

 

「あれ? エナは今までどこにいたの?」

 

「皆が強敵と、ファイトしている間に、シティ方面に向かった、エネミーを倒してたよ。 とても、デンジャラスなライディングだった」

 

「あ、そう……」

 

ティアナはむしろエナが防衛線をかき回していたと思ってしまったが……それを口にする事はなかった。

 

シャマル達が見送る中ヘリは飛び立ち、空へと向かっていった。

 

「ーーあれ? あのちっこかったコルルって子は?」

 

 



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186話

 

 

ゆりかごではレンヤとアルマデスが最後の決戦を繰り広げている中、スカリエッティアジト前……そこには今しがた到着した聖王教会の教会騎士団がおり、シャッハとロッサが確保した戦闘機人数名を引き渡し、護送をしていた。

 

「……よし、私はフェイト達の救援に向かう。 後のことはよろしく頼みました」

 

「それなら私も……!」

 

「シャッハ! その怪我じゃ無理だよ。 あの戦闘機人に加えてA級エルダーグリードを何体も相手にしたんだ。 ここは無理せず、ユエ君に任せよう」

 

ユエに同行しようと、シャッハが再びアジトに向かおうとするが……ロッサが肩に手を置いて引き止めた。

 

「ですがロッサ、このままでは……!」

 

『ーー待って!』

 

「! フェイト!」

 

突然通信回線が開くと……そこにはフェイトが写っており、すずかと共に空間ディスプレイのキーボードを弾いて自爆を止めようとしていた。

 

『こっちは自力で脱出するから大丈夫』

 

『それより、この崩落を止めないと。 このポットの中の人達……まだ生きているかもしれない!』

 

『この人達に罪はねぇ、こんな奴のためにくだらない心中させてたまるか』

 

「で、ですが……!」

 

シャッハはなお食い下がろうとするが、その時……獣の叫び声が通信越しに轟いて来た。

 

『おっと……お友達が来たみたいだ。 こっちは何とかする! ユエ、お前はレンヤの元に!!』

 

「……分かりました」

 

「ユエさん!?」

 

ユエはリヴァンの提案に頷き、踵を返し……跳躍してレンヤ達の元に向かってしまった。 その迷いのない判断に、シャッハは疑問を覚える。

 

「どうして……そんなあっさりと……」

 

「信頼しているんだよ。 彼らの……VII組の絆はとても深いからね」

 

それ以外に答えはないと、ロッサは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマ達を乗せたヘリは、先行していたピット艦と合流し、ゆりかごの空域に到着した。

 

『ーー現在、ゆりかごの中は奥に進むほど強力なAMF空間が発生している。 他の部隊は負傷して救援には迎えない……お前達が頼りだ』

 

「ウイングロードが届く距離までくっ付けるそうだ。 そいつで突っ込んで、隊長達を拾って来い。 露払いはしといてやる!」

 

『はい!』

 

「燃えてきたぜぇぇ!!」

 

ヴァイス達は甲板におり、リンスがゆりかごの状況を通信で伝える。 カタパルトデッキにはバイクに跨ったティアナとスバル、エナとソーマがいた。 エナは相変わらず豹変しているが……

 

「……………………」

 

「ソーマ、天剣は大丈夫? ()()した方がいいかな?」

 

「え……」

 

「こんな時に寒いギャグかましてんじゃないわよ!!」

 

「痛ッ!? った〜〜〜い!!」

 

スバルはティアナの乗るバイクの後ろにおり、ティアナは振り返らず裏拳でスバルの額を思いっきり殴った。

 

「全く……」

 

「うう……緊張をほぐそうとしたウェットに満ちたジョークじゃないかぁ〜……」

 

「ふふ、相変わらずだね、スバルは」

 

「ーーおら、ぼさっとしてんじゃねえぞ! 狙い撃つぞ……ストームレイダー!」

 

《ロックオン》

 

ヴァイスは和気藹々としているソーマ達を注意しながら、利き目に付いているスコープを通して弓型ソウルデヴァイス、ストライクレーブを構える。

 

「リバイスショット!!」

 

ストームレイダーが撃ち落とすべき目標をヴァイスに伝え、矢を射れば目の前に現れるガジェットやグリードを次々と撃ち落す。

 

「あっ……」

 

その射撃に、ティアナは声を漏らす。 それに気付いたのかヴァイスは振り返らず、手を動かしながら喋りかけた。

 

「前に言ったな? 俺はエースでも達人でもねえ………身内が巻き込まれた事故にビビッて、それからずっと誰かに頼ってばかりだ……!」

 

自分の過去を語りながら、ガジェットやグリードを落とす手を緩めない。

 

「それでもよ! 無鉄砲で馬鹿ったれな後輩の道を作ってやることぐらいならできらぁな!!」

 

ヴァイスはその言葉と共に、ゆりかごの外壁に設置されたガジェットⅢ型を射抜き……その爆発によって突入口を作った。

 

「さすがです……」

 

「ーーよし! 行けっ!!」

 

ティアナは小さな声で賞賛しながらもヴァイスの号令でハッとなり、ハンドルを握りなおした。

 

「は、はいっ!」

 

「ーーウイングロード!!」

 

すかさずスバルがウイングロードで道を作り、2つのバイクのエンジンが吹かされ……空気を揺らす。

 

『主を頼むぞ……』

 

『ブラスト……オフ!』

 

グリフィスの指示と同時に、ティアナとエナはアクセルを全開にし……カタパルトデッキから射出された。 そこからウイングロードでゆりかごまでの道を繋げ……突入した。

 

ゆりかご内部に突入すると……ティアナはAMFの強度を肌で感じ、驚きを表す。

 

「くっ……本当に全然魔力が結合しない!」

 

「でも、私は戦闘機人モードでなら……撃てるし走れる!」

 

「剄も問題なし!」

 

「アタイのシュペヒトクイーンはこの程度じゃあ止まらねぇぞ!!」

 

目の前にはグリードの大群や隔壁が道を塞ぐが……

 

「行くよ……僕達でレンヤさん達を救うんだ!」

 

『おおっ!!』

 

構わずソーマ達は走り出した。 4人は何度も物理的に道を切り開いては突破し、ひたすらゆりかご内を駆け抜けていた。

 

「ーーん? あれは……」

 

「ヴィータ副隊長! ご無事で!」

 

「お母さん!」

 

「メガーヌさんにソフィーさんも!」

 

奥に向かう途中、ティーダのゆりかご突入部隊と負傷しながらも戦うヴィータ。 そしてクイントとメガーヌとソフィーと鉢合わせし……その隣を通過した。

 

「ちょっとなのはさん達助けに行ってくるね!」

 

「あっ!? スバル!」

 

「夕方には戻って来ますから!」

 

「そんな子どもの遊びじゃーー」

 

メガーヌの言葉が届く前に、4人はさらに奥に進み、バイクの音で声はかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩落するスカリエッティのアジトでは、シャーリーのサポートにより解除パスコードを入力するフェイトとすずか。 そして襲いかかるグリードを1人で食い止めているリヴァンがいた。

 

『ーーデータ解析、パスコード看破! フェイトさん!』

 

「うん!」

 

「これで……!」

 

2人はキーボードを操作し、パスコードを入力し終えると……自爆により続いていた地震が停止する。

 

「……止まっ、た……?」

 

『はい!』

 

「やった!」

 

シャーリーの言葉で、フェイトは一安心して息を吐く。 少し離れた所では、リヴァンが最後のグリードを倒した所だった。

 

「おっ、どうやら上手くいったみたいだな」

 

拓也も内心安堵する。 そして、フェイト達に歩み寄ろうとした時……フェイトの真上にあった天井が崩れ、崩落を起こした。

 

「ッ!?」

 

フェイトはすぐさま気付くが……反応が遅れてしまった。

 

「フェイトッ!!」

 

「フェイトちゃん!!」

 

すずかとリヴァンがすぐに助けに向かおうとするが、それよりも早く落盤が落ちると悟ってしまった。 そして、フェイトが落盤の下敷きになるかと思われたその時……

 

《ソニックムーブ》

 

閃光が2人を追い抜き、フェイトを救い出した。

 

「今のは……!!」

 

「っ……!」

 

落盤による風ですずかは顔を覆うが、誰がきたのかすぐに分かった。 目を瞑っていたフェイトがゆっくりと目を開けると、そこにはホッと息を吐くエリオの姿。 だが、その髪は黄色に近い金髪で、目は翡翠のような翠だった。

 

エリオは動かない身体をコルルとの初めてのユニゾンによって無理矢理動かし、キャロとともにここまで来たようだ。

 

「エリオ……?」

 

「はい! 大丈夫でしたか? お母さん?」

 

「! あ、改めて聞くと……そ、それは反則じゃないかな?」

 

「ちなみに、父親は誰なんだ?」

 

面白半分でリヴァンが便乗し、エリオは真剣に悩んだ。

 

「うーん、僕としては……やっぱりレンヤさんが1番かと」

 

「ちょ、ちょっとエリオ!?」

 

「くっ、まさかフェイトちゃん……外堀から埋める気じゃ……?」

 

「すずかまで何を!?」

 

『……なんか、緊張感ないね。 そう思わない、変態ドクター?』

 

「……フフ、そうだね……」

 

エリオとユニゾンしていたコルルは拘束されているスカリエッティを罵倒しながら見下ろし、スカリエッティも彼らを見てコルルの言葉に同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘機人としての能力を解放し、姉のブリッツキャリバー使うスバルと、天剣を掴み能力が十二分使用できるソーマ、そしてその2人の後を追うバイクに乗るティアナとエナがゆりかごの通路を駆け抜けていた。

 

「ーー前方から敵グリード……来るわよ!」

 

ティアナの宣言通り、道を塞ぐようにグリードが群がっていた。 ソーマはそれを見て……一気に飛び出した。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

天剣技・霞楼(かすみろう)

 

一閃の斬撃として放った衝剄を一定距離で多数の斬撃として四散させ、全てのグリードを一瞬で切り刻んだ。 そしてその剄技を放った後なのに、天剣はまるで悲鳴をあげない。

 

「これなら……!」

 

「うおぉぉ……!」

 

スバルは受け取った左のリボルバーナックルを振りかぶり……

 

「やっ!!」

 

砲撃を撃ち出し、正面の壁にヒビを入れ……

 

「うおっりゃああぁぁ!!」

 

続けて右のリボルバーナックルを振り抜き、眼前に迫った壁を破壊した。 そしてしばらくそれが続くと……

 

「ーーいた!」

 

「なのはさん! はやて部隊長!」

 

脱出のため走っていたなのは、はやて、シェルティスと鉢合わせした。

 

「ご無事でしたか!?」

 

「うん、なんとかね。 正直助けに来てくれて助かったよ」

 

「これもなのはちゃんの訓練の賜物やなぁ」

 

「…………? レンヤさんの姿が見えないですけど……」

 

「それにシェルティスさんが抱えている女性は……」

 

「その事は今は後にしよう。 脱出経路を案内してくれる?」

 

「は、はい!」

 

「こっちです!」

 

ソーマ達はなのは達を抱えるかバイクに乗せ、グリードを掃除した来た道を引き返し……ゆりかごを脱出した。

 

「ふう……それでなのはさん、レンヤさんはどうしてまだゆりかごに?」

 

「……脱出する途中、異篇卿のアルマデスと鉢合わせしたの。 それで彼はイットを狙って……それをレンヤ君が食い止めるために」

 

「それで……」

 

「すぐに応援に行きましょう!」

 

「ーーダメや」

 

ソーマ達が応援に向かおうとするが……それをはやてが一声で拒否された。

 

「どうしてですか!?」

 

「アレを見てみ」

 

後ろを指差すと、ゆりかごは上昇を始め、宇宙に向かおうとしていた。

 

「なっ……!?」

 

「ゆりかごは軌道ポイントまで自動航行させ、宇宙空間で次元航行隊の艦隊による主砲斉射で轟沈させる……悔しいけど、私達に出来る事はない。 今は信じて待つしかないんや」

 

「そんな……」

 

『ーースカリエッティ本拠地、震動停止……突入隊、及びライトニング01、ライトニング03……脱出確認!』

 

そこでシャリオの通信が入り、フェイト達の無事と任務の完了を確認した。

 

『巨大船内部に突入した魔導師、第1隊から第4隊まで退避。 最深部の機動六課メンバー……全員…………いえ、神崎二等陸佐の姿を確認出来ません!』

 

次元航行隊もなのは達を確認したが……レンヤがいないことに、その艦隊の1つ、クラウディアにいたクロノが驚きを露わにする。

 

「っ! レンヤのやつ……一体なにを……!」

 

『ーークロノ提督!』

 

そのとき、クロノの目の前に花びらで構成された蝶……ツァリの念威探査子が飛んで来た。

 

「ツァリか。 アースラは無事だったか?」

 

『はい。 僕1人じゃ無理でしたけど……アリシアとシグナムさん、ユエとティーダさんが来てくれたおかげでなんとか。 それよりも……今レンヤがゆりかご内で異篇卿第一位、白銀のアルマデスと交戦中です!』

 

「それでか!」

 

クロノは肘掛けを力強く殴る。 もう全艦の砲撃準備が開始されてしまい、止める事が出来なくなってしまったのだ。

 

「くっ……早くしろよ、レンヤ……僕の手を……君の血で汚してくれるな……!」

 

主砲のエネルギー充填完了時間……つまりタイムリミットまで、残り10分……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーアルマデス様! アルマデス様!!』

 

ゆりかご内でのレンヤとアルマデスの戦闘の途中……後退しないアルマデスに、このゆりかご内にいないナタラーシャに通信が入ってきた。

 

だがその間も攻防の手は緩めず。 引いては攻撃、引いては攻撃を繰り返し。 それによりジグザグと移動し、ゆりかご内部を破壊しながら高速で移動……戦っていた。

 

『一旦お引きください! 管理局が間も無く艦隊の主砲による斉射でゆりかごを破壊します!』

ナタラーシャは事の重大さを伝えるが……アルマデスは聞く耳持たず、攻撃の手を緩めなかった。 二人は同時に大剣と刀を振り下ろし、火花を散らしながら上に駆け上がり……弾いて距離を取る。

 

『アルマデス様!!』

 

「ーー邪魔だ!」

 

ナタラーシャの通信を手で振り払い、通信を強制的に切った。

 

「今をただ戦いたい……お前と戦いたい!」

 

「っ!」

 

一瞬で接近したアルマデス、レンヤはすぐさま短刀を収めるが……1本上に弾かれて手から離れ、刹那の間を置かず拳が放たれ……それを後退して足で受け止め、後退によって飛んだ短刀を掴んだ。

 

「ぐうっ!!」

 

強烈な横薙ぎを受け止め、尋常ではない攻防がさらに苛烈さを増していく。 既にギアも最大駆動しており、一進一退の戦いが続いているが……それよりも、レンヤの様子がおかしかった。

 

(……逃げられない……どうしてだ? どうして逃げない…………こんな事をしている場合じゃないのに……)

 

ーーーかえ

 

(頭の中に声が響く……! それが俺を無理矢理……どうして、突然こんな……!!)

 

ーーたかえ!

 

(まさか……! ここに来て……ゆりかごによって、彼女の記憶が……血が!俺を!)

 

ーー戦え!!

 

突然レンヤから苦悶の表情が消え……両目が紅玉と翡翠の色に変わった。 そして、関係なく襲うアルマデスの猛攻を防ぎ、振り下ろされた一太刀を紙一重で避けると背後に回り蹴り飛ばし、さらに一瞬で先回りして蹴り飛ばした。

 

「そうか……お前は聖王の血脈の者か。 ならば、分かるだろう……戦いが!!」

 

「ああああぁぁぁ!!」

 

大剣を振るえば壁や天井、床は砕かれ。 刀が振るわれれば同様に壁などが真っ二つに斬られる……そんな破壊を続けていた時……今度はレンヤに通信が開いた。

 

『ーーフェザー01! フェザー01!! これ以上の戦闘は無意味です!』

 

(! シャーリーの声……!)

 

ーー逃げるな!!

 

「っ…………違う!! 戻らないと!」

 

シャーリーの声を聞き……レンヤは頭を振り払って理性を取り戻し、両目の色が元に戻る。 だが、それでも頭の中に声が響く……

 

ーー戦え!

 

「ふざけるな……!!」

 

ーー戦え!

 

「ダメだ!!」

 

感情がグチャグチャになり、長刀と短刀を握る手が震える。 血が沸騰するように熱く、頭の中がメチャクチャになる。

 

ーー戦え!!

 

「っ!」

 

また目の色が変わり、アルマデスに向かって飛び出し、高速で剣を交じ合わせる。

 

(苦しい……呼吸が出来ない、身体が動かない! それでも戦いたい……俺の命が燃え尽きるまで……!)

 

自分の身体なのに自由には出来ず、感情に任せて身体が勝手に動く。 それでもレンヤは戦う……戦い続ける。そしてシャーリーの通信を完全に無視し、切断した。

 

『フェザー01!? フェザー01、応答してください! ……レンヤさん!!』

 

「! レン君!?」

 

「一体どうしたの……?」

 

『皆! レンヤを連れ帰って来て!』

 

「ソエル!?」

 

突然、六課にソエルから通信回線が開いた。 何か事情を知っているようだが、それをラーグが説明した。

 

『恐らくゆりかごに聖王の血が反応しているんだろう。 そうなると、選択肢が戦いだけになっちまう。 誰でもいいから止めてこい!』

 

『このままじゃ主砲を斉射しても、戦い続けるよ!』

 

ソエル達の説明に、なのは達は驚きを露わにするが……何も出来ないのが歯がゆかった。

 

「な、なにあれ……」

 

「バ、バケモノか……あの2人は……」

 

ポツリと、クラウディアのクルーが思わずそう呟いた。 ディスプレイ越しに、彼らの目の前には……あちらこちらで爆発が起きているゆりかごだった。

 

ゆりかごの前方が不自然な爆発をすればそれが線となって後方まで伸び……次元航行隊が手を出さずとも落ちそうな勢いで破壊されていた。 この状況を……AMFの中でたった2人の人間が引き起こしている事に驚愕していた。

 

『レン君! もう戦わなくていいんだよ!!』

 

「ーーうおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

「それだ、それでいい!!」

 

なのはの言葉も耳には入らず、既にレンヤの髪の色もヴィヴィオの髪色に似た金髪に変わり。 一瞬で懐に入り、短刀を放り投げ胸ぐらを掴み……勢いを殺さずタックルし、アルマデスを吹き飛ばしと同時に刀を振り上げ……

 

嵐杤(あらしとち)……!!」

 

「銀翼……!」

 

螺旋により威力が増した一刀を振り下ろし、アルマデスは一瞬で大剣を二閃し対抗した。 刀と大剣は轟音を響かせながら衝突し、あまりの威力に2人は同時に吹き飛ばされてしまった。 レンヤはいくつもの外壁を突き破り……

 

「カハッ!!」

 

ようやく壁に強く打ち付けられて停止し、受け身も取れず地面に落ちてしまう。

 

「ゴホ! ゴホ!……はあはあ……くっ……!」

 

大きく咳き込み、呼吸を整える。 アルマデスも吹き飛ばされた事もあり、ほんの僅かな休憩をしていた時……

 

「こ、ここは……」

 

辺りを見回すと、そこは玉座の間だった。 また同じ場所に戻って来たと心の中で苦笑しながら立ち上がろうとすると……

 

「……………………」

 

「…………?」

 

不意に、レンヤの顔に影がさした。 気配は感じなかった……確認しようと顔を上げると……

 

「ーーえ」

 

比喩抜きで本当に目が点になるような……あり得ない物を目にしてしまったような表情をしてしまう。

 

「やはりその血が、ゆりかごに反応して戦いを求めてしまったようですね。 忌むべき事であり……無くてはならない枷ではありますが、今世では必要ないでしょう」

 

声は年若い女の子の声、目の前にいたのは……この場所で、先ほどまでヴィヴィオが座っていた場所……王が座る場所にドレスのような戦装束を纏っている女の子がいた。

 

女の子は立ち上がり、近寄ると……レンヤの額に手をかざし淡い光を放った。 すると今まで頭の中で渦巻いていた声が綺麗に消えた。 両目の色も、髪の色も元に戻る。

 

「ーー行きなさい。 あなたを心に想う人の元へ……私と同じ過ちを繰り返さないでください……」

 

そう言い残すと踵を返し、この場から去ろうとする。

 

「……ま、待って。 待ってください……! なんで……なんであなたが……どうして……!」

 

レンヤは痛む身体を無理矢理起き上がらせ、去ろうとする女の子に語りかけるように質問する。 女の子はそれに答えるように身をレンヤの方に向け……

 

「……ーーー護り人」

 

「……え……」

 

何かを呟くと、突然ドレスの裾を捲り……自身の両足を見せてきた。 レンヤはすぐに顔を背けようとしたが、身体はすぐに動かず、女の子の脚を見てしまった。 が、照れる事は無かった……

 

「いずれ、分かる時が来るでしょう」

 

なぜなら、女の子の右太腿には……目を模した赤いアザがあったからだ。 しかもその裾をめくった両手は、その両腕は……義手だった。 そして女の子また踵を返し、今度こそ去って行った。

 

「………………」

 

あまりの出来事に呆けてしまい、頭がついていかない……だが……

 

ガラ……

 

「!」

 

不意に起きた落石がレンヤを正気に戻した。 痛む身体を立ち上がらせ、前だけを見る。

 

(今はアルマデスが最優先だ。 意図は読めないけど、()()のおかげで頭がスッキリした……今度は、俺の意志で戦うんだ!)

 

『ーーレンヤ!!』

 

その時、どこからともなくツァリの蝶の探査子が飛んで来た。

 

『レンヤ、聞いて! 君はーー』

 

「分かってるよ、もう大丈夫。 ようやく頭の中がスッキリした気分だ」

 

『レン君!!』

 

『よかった……本当に!』

 

『全く、心配してもうたわ』

 

『一体何があったの?』

 

「それはーー」

 

説明しようとした時、段々の衝撃が近付いて来ているのに気が付いた

 

「くっ……」

 

『ーーフェザー01、退却してください!』

 

「了解!」

 

踵を返し、また対面する前に逃げようとすると……壁を破壊し、現れたアルマデスがその退路を塞いだ。

 

「そうは……させない……!」

 

「っ……!」

 

やはり戦うしかない……レンヤは覚悟を決め、刀を構える。 するとアルマデスは首を横に振るう。

 

「まだだ、まだ俺は満足していない!」

 

「くっ!(改めて思うけど……この人、戦闘狂だ……!)」

 

「ーーどこまでも追うぞ!」

 

「うあああぁぁ!!」

 

再び、レンヤとアルマデスは刃を交える。 攻防は先ほどよりも一層激化し、両者ゆりかごを壊しながら駆け抜け……勢い余って外壁を突き破ってしまった。

 

「ここは……!」

 

「外に出たか……」

 

レンヤの目に映ったのは黒い空間に浮かぶいくつもの艦隊と、とても巨大な青い球体。 つまり……宇宙空間に出てしまった。 レンヤはバリアジャケットにより問題なく活動できるが……それを持たないアルマデスも、どういう理屈か動けるようで。 場所が変わっただけ……と言いたいが……

 

「うおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

外に出た事により強力なAMFの束縛から解放され、レンヤの魔導師としての力が完全に使用できるようになった。

 

《パルクールステップ》

 

「はあああぁぁぁ!!」

 

モーメントステップの空中バージョン。 それにより虚空を蹴り、アルマデスとの距離を詰め斬撃の間に蹴撃を繰り出し確実にダメージを与える。

 

それが高速で、神速で剣戟を交わし。 そのままゆりかご周囲を高速で移動する。 甲高い音が鳴り響けば、続いては隙間ない打撃音が鳴り響く。

 

『神崎二等陸佐を確認! 異篇卿と思わしき男性と交戦中です!』

 

『ですが、ゆりかご周囲で戦闘している模様……これでは主砲の範囲内です!』

 

「くっ……さっさと離れればいいものを……!」

 

『ーーそれは違います。 レンヤは何度もこの宙域から離脱しようとしてますが……それをアルマデスが先回りしてゆりかごから離れられないんです』

 

ツァリがクロノにそう伝え、クロノは悔しそうに歯ぎしりをする。

 

《主砲、充填完了まで……残り3分》

 

「もう時間は残されていないぞ……」

 

『レンヤ!!』

 

『早くしろ、巻き込まれるぞ!』

 

『そこから離れてください!』

 

『急いで!』

 

ツァリ、リヴァン、ユエ、シェルティスが喋り掛けるも、レンヤの意識は目の前のことで手一杯……まともに答えられる状況ではなかった。

 

『レン君……! お願い、早く……!!』

 

『パパァ!!』

 

『レンヤさん!!』

 

なのはとヴィヴィオとイットも切羽詰まったように懇願し、レンヤは隙をついて踵を返して逃げようとするが……アルマデスが放ったバインドが首に絡まり、息が出来ず拘束されてしまう。

 

『レンヤさん、退避してください! レンヤさん!!』

 

バインドを切り裂き、息つく暇もなく神速で振られる大剣を防ぐ。 シャーリーのオペレーションもまるで聞こえなかった。

 

さらに段々と肉弾戦も交わすようになり。 顔面、腹部を殴られるも蹴りを入れ、続いて迫ってきた拳を受け止めた。 そして受け流し、左手の短刀を突き出すが……

 

「なっ!?」

 

それをあろうことか左足に突き刺して防いだ、と言っていいのか……だがアルマデスは苦悶も見せず空いた右足で蹴り上げてレンヤを飛ばし、大剣を振り下ろす。

 

『レンヤ! 退避して、レンヤ!!!』

 

『何してんや!!』

 

『早く戻ってきて!」

 

『もうすぐ主砲の斉射が始まるわよ!』

 

『レンヤ君!!』

 

フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずかが急いで退却するように煽りをかけるが……レンヤは大剣を受け止め、さらに蹴りを連続で入れ、反撃するので手一杯だ。

 

「アルマデス様……」

 

その光景を、別の場所でナタラーシャが見ていた。 その彼女の背後に……全身黒色の人物、空白(イグニド)が歩いてきた。

 

「あら、生きてたの? まあ、そうでなくては計画がパァだからね。 そういえばマハは?」

 

「マハさんは所用らしいですよ。 大事なものを無くされたそうだとか……」

 

空白はナタラーシャの隣まで歩き、空間ディスプレイに映るレンヤとアルマデスの苛烈な戦闘を目にする。

 

「……本能のまま生きて、死ぬ。 生きとし生けるものとしては……ある意味最高の生き方。 お元気で、アルマデスさん」

 

「っ! 貴様……!」

 

その言葉にナタラーシャは怒りを露わにするが、空白はどこ吹く風のように流し……黒い帽子に隠れた淡い金髪が風でなびく。

 

「今……実像(ユメ)虚像(ユメ)は別れた。 その福音、派手に鳴らしてくださいね、アルマデスさん?」

 

映像の中のアルマデスを見て、空白は不敵に笑う。

 

『発射まで……10秒!』

 

『お願い……!/馬鹿ぁ!/レンヤ!/早くしなさい!/急いで!』

 

一斉に喋られ、何を言っているのは聞き取れなかったが……それでも2人は戦い続ける。

 

《5……4……3……2……1》

 

管理局の全員が固唾をのむ中……カウントダウンは刻一刻と迫り。 それでもレンヤは聞き流すしかなく、アルマデスの剣戟を避け、耐え、反撃する。

 

《ーー0》

 

『………………主砲……斉射、開始……!!』

 

重苦しく、後悔するような……しかし、決心するようにクロノが発射を宣言した。 すると、6隻からなる全艦隊の主砲からの砲撃……アルカンシェルが発射された。 全ての砲撃はゆりかごに着弾し、崩れかけていたゆりかごにとどめを刺した。 そして、ゆりかごは爆発を起こしながら墜落し、レンヤとアルマデスは……その余波に巻き込まれてしまった。

 

「レン君ーーー!!」

 

「レンヤァァーー!!」

 

地上ではその爆発が目に見え、なのはとフェイトの叫びが空に向けられる。 空高く輝いた閃光は花火のようで……儚く消えていった。

 

『巨大船、撃墜……』

 

『…………ゆりかごの……崩壊が……始まりました』

 

『……作戦……成功……任務……完了です……』

 

クラウディアのオペレーター、そしてシャーリーからの重々しい声で報告を受けた。

 

「あ……あ……」

 

「そん、な……」

 

「……ヒック……ヒック、うえええん! パパ……パパァァ!」

 

「ヴィヴィオ……」

 

全員、特になのは達6人は絶望したような表情を見せて立ち尽くす。 ヴィヴィオは周りの反応で理解したのか、涙をポロポロと流して泣き叫ぶ。 そんなヴィヴィオをアリサは強く抱きしめる。

 

「………………ぅ………………」

 

しかし……レンヤはかろうじて生きていた。 だが、ゆりかごの爆発の余波による衝撃で吹き飛ばされ、レンヤは額から血を流しながら気絶。 そしてミッドチルダの重力圏に引っかかり……大気圏をバリアジャケットによって突破し、地上に向かって落下していた。

 

それによりバリアジャケットを維持していたレゾナンスアークがフリーズし、成すすべなく重力に引かれて落ちていると……頭から血を流すアルマデスが追撃をかけてきた。

 

「待っていたぞ……この時を!!」

 

「ーーーっ」

 

その殺気にレンヤは目を覚まし、振り下ろされた大剣を避けるが……続いて振り下ろされた踵落としが左肩を砕いた。

 

「っ…………ああああぁぁっ!!!」

 

痛みを耐え、沸き上がる苦痛を咆哮に変え残っている右の長刀を振るう。 だが、アルマデスは飛行魔法で飛翔し避け、続けてレンヤは高速で魔力弾を撃つが……それも避けられる。

 

「ううっ!!」

 

一気に距離を詰められて背後を取られ、今度は左腕を砕かれてしまう。 痛みに耐えながら距離を取ろうとするが……一瞬で間合いを詰められて大剣を振り下ろされ、右腕が砕かれる。

 

レンヤは制動をかけ、反撃するが……それよりも早くアルマデスは動き、回し蹴りが頭に直撃、さらに血を流してしまう。

 

「あああ!!」

 

もう使えるのは足だけになってしまい、防御魔法を使って足を守り。 さらにその状態で攻撃に転ずるが……一瞬の攻防の隙に負傷した腕を掴まれ、痛みに耐える隙にアルマデスは手の指を揃えて手刀の形を取り、防御が薄かった左太腿を斬られてしまった。

 

「ぐうう……!! ……ま、まだまだぁ!!」

 

牽制で魔力弾を放つが……魔力も尽きかけ、大した牽制は出来なかった。 それを狙い、アルマデスはレンヤに向かって飛ぶ。

 

「っ!」

 

「今こそ……お前を倒す!」

 

アルマデスは大剣を構え、最後の一刀を振ろうとした時……

 

「ーー皆の元に生きて帰るんだ!!」

 

レンヤはほぼ無意識のうちに、一瞬で操作魔法と硬化魔法を同時に使用した。 操作魔法で骨折した骨をパズルのよう元に戻し、それを硬化魔法で固定、強化。 さらにまた操作魔法で無理矢理身体を動かし……一転してアルマデスから背を向けた。 アルマデスは無防備になった背に大剣を振り抜いた、が……

 

「なにぃ……!?」

 

斬り裂いたのはレンヤのコートだけ。 そしてレンヤは刀の刀身に蒼い魔力を、集束魔法(ブレイカー)の抜刀を発動し、真下から一気に接近し……

 

「斬り……祓ええぇぇっ!!」

 

八葉一刀流、伍の型の派生技。 秘技、虚月(こげつ)

 

それを無納刀で放ち、神速蒼き二閃がアルマデスの胸に刻まれた。 アルマデスはそれにより完全に戦闘不能になるが……

 

「……ふ……強くなれ……何も失いたくなければな……」

 

「……………………」

 

最後にそれだけを言い残し、アルマデスの溜めていた魔力にレンヤの斬撃が反応し、膨れ上がり……大きな衝撃が発生し、2人は吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーガッ!! グッ……ブホッ……!」

 

上空から飛行魔法による制動もなく、バリアジャケットの強度のみで地上に不時着。 情けない声を出し、地面を大きく引きずってようやく停止した。

 

「くうっ……はあはあ、はあはあ……」

 

何とか仰向けになり、空を見上げる。 目だけ動かして辺りを見ると……どうやらどこかの花畑に落ちたようだ。 ちょっと悪い事をしたかな……

 

「……レゾナンスアーク」

 

《……………………》

 

声をかけるが応答がない、完全にフリーズしたようだ。 メイフォンも出して見るが……画面が蜘蛛の巣のようにヒビ割れ、電源がつかなかった。

 

「皆が見つけてくれるのを待つしかないか……」

 

メイフォンを放り、大の字になって寝転ぶ。 休むといっても硬化魔法は解いてなく、解いたら信じられない程の激痛に襲われるだろう……が、それでも全身の傷により流れる血のせいで気力が持たない、早く来てくれ……

 

そう思いながらも目を閉じ、今日の出来事を思い返す。 ヴィヴィオとイットを取り戻すためにゆりかごに乗り込んで、戦って戦って戦って……本当に濃い一日であり、人生で1番死にかけた日だった。

 

「……………………」

 

そして、懸念すべき事は山ほどある。 異篇卿の目的、魔乖術師達の目的、そして……俺の前に現れたあの女の子についても……

 

「っ……痛ッ……」

 

無理に起き上がると身体中に痛みが走る。 そして辺りを改めて見回すと……どうやら高地にある花畑のようだった。

 

「……ベルカ方面みたいだけど……こんな場所あったっけ?」

 

仕事柄、このミッドチルダの隅から隅まで知っているはずなのだが……この場所はまるで時が止まったような、忘れ去られたような雰囲気を感じる。 その時ふと、崖の方に何かの石碑があるのに気がついた。 近寄って見てみると……ミッド語で何か書かれていた。

 

「……えっと……“あなたに永遠の愛を誓う、例え何があろうとも、どんな結末になろうとも……この想いに嘘はない。 アルフィン・ゼーゲブレヒ”って、母さん!?」

 

こんなものがあるのも驚きだが、母親がこんなラブレターを石碑に残す事が1番驚いた。 自分のことではないけど、なんか物凄く気恥ずかしい。これはアレだ、母親が授業参観に来た感じの恥ずかしさに近い。

 

『見つけた!』

 

「お、ツァリ」

 

その時、横からツァリの蝶の探査子が飛んで来た。 やっぱり探索においてツァリに右に出る者はいないな。

 

『良かった……生きてて本当に良かった……!』

 

「娘と息子を置いて先に逝けるかよ」

 

『そうだね。 すぐに救援を……って、皆!?』

 

「レン君ーー!!」

 

ツァリが驚いた声を出すと同時に、遠くからなのはの声が聞こえて来た。 振り返ると……なのは達6人と、アースラがこっちに向かって飛んで来ていた。

 

「おーい、皆ーー!」

 

「レン、君ーー!!」

 

「どわっ!?」

 

手を振って呼ぶと……なのはは着陸と同時に駆け出し、俺に向かって飛び込み、抱きつかれて勢い余って倒れてしまう。 しかもそれを他の5人も飛び込んで来て、超痛い……というか死ぬ程痛い……

 

「良かった……本当に、良かった……」

 

「もう……エリオもだけど、心配かけて……」

 

「ホンマ、生きててくれてよかったんよ……」

 

「……心配かけさせんじゃないわよ……」

 

「グスッ……」

 

「レンヤ〜〜……!!」

 

「ちょ……辞めてくれ……死ぬ……冗談抜きで死ぬから……」

 

なのは達は慌てて俺から離れてくれた。 なんかこんな事、前にもあったような気がするな……

 

「うーんと……最新医療機器を使えば全治2ヶ月ってところだね。 当分は安静にしていてよね?」

 

「了ー解」

 

ふと、また石碑が目に入る。 こんなものがここにあるという事は、恐らく両親はここで……

 

(覚悟を、決めろって事かな。 なんか験を担いだような気もするけど……)

 

目を閉じ……少し間を置いて目を開け、皆の方を向いた。

 

「ーー皆、こんな時だけど聞いて欲しい事があるんだ」

 

「え、なに?」

 

「大事な事なんだ」

 

「べ、別にいいけど……」

 

「それで、なにを話したいの?」

 

「それはーー」

 

 



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番外編 限りなく近く、極めて遠い世界

 

 

11月20日ーー

 

事件から2ヶ月ほど経ち、六課の隊舎も完全に修復されそれぞれのメンバーが通常の業務に戻っていた。 イットとヴィヴィオも一時保護と検査を終え、今は六課で平和に暮らしている。 幸せを……守れたんだよな。

 

ちなみに事件後、空気が読めないと判決を受けたクロノはなのは達やツァリ達によってフルボッコにされたりする……俺は仕方なしと思い、撃たれた事に気にしてはいない。

 

そして、逮捕されたスカリエッティとその一味の戦闘機人、ウーノ、トーレ、クアットロは事件捜査に協力的を見せなかった事からそれぞれ別世界の次元拘置所へ。 逆に罪を認め、事件捜査に協力的なチンク、セイン、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディードの8名はミッド海上の隔離施設。 そこにはライトニング隊が保護したクレフ・クロニクルとコルルことコルディアも自分の意志でそこにいた。

 

「よお、元気してるか?」

 

「また来たのかよ、随分と暇してんだな?」

 

「あはは、まあね」

 

隔離施設の広場の芝生に座っていた水色髪の女子……セインが皮肉気味に言う。 俺達、旧VII組男子組は時々、こうして彼女らの見舞いのように顔を合わせていた。

 

「どうやら良い子にしているみたいだね」

 

「子ども扱いをするな!」

 

「生まれて二桁歳を取ってないんだから十分子どもだよ」

 

「あはは、そうスっね」

 

ツァリはディエチの頭を撫で、ディエチは照れ臭そうにその手を払う。 それを見ていたウェンディは他人事のように笑う。

 

「……いい加減、私を心配するのはよしてもらいたいのですが……」

 

「そういうな。 鋼糸の怪我は普通の医療では治りにくいんだ」

 

「ふむ……?」

 

リヴァンは先の事件で負傷させてしまったセッテの治療を行っていた。 どうやらあの事件の時に腕や足を複雑に斬ったらしい。 その光景を横からチンクが興味深く観察している。

 

「他の姉君は残念でしたが、今度はあなた達自身の意志で……選ぶ道を模索してください」

 

「はい!」

 

「延いてはやはり……」

 

ユエはカウンセリングとして通っており、双子のオットーとディードにカウンセリングをしていた。 ちなみにユエ、どうやら聖王教会に興味を持ったようで、ここ最近は頻繁にベルカを出入りしていたりする。

 

「ヤッホー、レンヤ。 エリオは元気?」

 

「ああ。 もうすっかり回復して、槍の鍛錬を毎日やっている」

 

「そうこなくちゃ。 姉さんから受け継がれたんだ、かの雷帝の足元くらいにはなってもらいたいね」

 

ハードルかなり高いな……まあ、仮にも一撃入れたエリオなら、いつかはあの領域まで届くかもしれないな。 今後が楽しみだ。

 

「それよりも……レンヤの方こそまだ治ってないの?」

 

「右腕が1番酷かったからな。 もう数日はかかるそうだ」

 

まだ怪我が治りきっておらず、右腕をギプスで固定して首から下げていた。 これでも十分早い方だがな、本来なら半年はかかる。 まあ、歳のせいで代謝が落ちているのもあるけど……これが歳を感じるというものなのか?

 

「ふうん……?」

 

「ーークレフちゃん、キャロちゃんはあの時言った事は気にしていないみたいだから……そろそろコルルも含めて出所できるんだし、顔を合わせてもいいんじゃないかな?」

 

「…………はい…………」

 

シェルティスはクレフにそう話しかけ、クレフはとても小さな声で返事をした。 恐らくキャロとの関係修復は時間がかかるだろう。 D∵G教団に攫われたのも事実、しかし……どうやら操られていた時の記憶はないらしい。

 

あの闇の魔乖術師、シャラン・エクセは記憶が残るように仕向けていたようだが……記憶処理を施した歪の魔乖術師、ジブリール・ランクルがどういうわけかあっさり元に戻してしまった。 最も、それがなかったらキャロとルーテシアが脅していたそうだが……

 

魔乖術師で逮捕されたのは前述の2人のみ。 シャランは拘置所、ここにはいないがジブリールはこの隔離施設にいるそうだ。 聞くところによると、かなりこちらに協力的らしい。 なんかアリサと聞いた話と第一印象を元にするとかなり怪しいが……凄く大人しくしているようなので特に問題視はしていない。

 

「ノーヴェも、スバル……というより、クイントさんにちゃんと向き合ってやれよ?」

 

「うぐ……仕方ねぇだろ。 なんかあの人、妙な目つきでアタシを見るんだから……」

 

どうやらノーヴェはギンガとスバル同様、クイントさんの遺伝子から生まれたらしく。 一応直接的な遺伝子上の姉妹に当たるらしい。 それを聞いたクイントさんは“娘が増えた!”と、興奮しているのだ。

 

「ま、お前達も新しい道が開けたんだ。 まずは夢を……目標くらいはもってもいいんじゃないか?」

 

「目標かぁ……人外にならない事?」

 

「……どこ見て言っている……?」

 

「つうか、アタシ達の方がよっぽど人じゃねえぞ」

 

「そこは気にしな〜い」

 

調子のいいセインは俺を見ながら目標を言い、ノーヴェの指摘をどこ吹く風のように流した。

 

「……心身ともに良好か。 ま、元気そうでなによりだ。 ホレ、差し入れのーー」

 

「うおおおぉ!! ドーナツ寄越せーー!!」

 

「よこせー♪」

 

リヴァンは持っていたドーナツの箱をセッテに見せると……近くにいたウェンディはそれを見て目を見開き、リヴァンの頭を鷲掴みして襲いかかり。 便乗してセインも行った。

 

「あいつら反省する気あんのか……?」

 

「いいじゃないかな、面白くて」

 

「全く……」

 

「ふふ、これならここを出るのも時間の問題ですね」

 

「出たら出たで心配だがな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダにある霊園、そこにゲンヤ・ナカジマ、すずか、アリサ、シグナム、そして……ゼストが歩いていた。

 

レジアス中将の葬式は先週、知人や彼の舞台のみの静かなものとなったが、彼らは日を改めてまたここに来た。

 

「すずか、お前が見つけてくれたデータのお陰で、戦闘機人事件は綺麗に肩が付いた。 改めて礼を言わせてもらおう」

 

「いいえ……! あのハルバードを調べている途中、偶然見つけたものですから。 彼女も結構回りくどかったようですし……」

 

「ふ、言えてるな。 かの雷帝は人に試練を与えるのが好きだったからな」

 

「どこまでも武人、というわけね」

 

そしてそのハルバードは検査後、かの雷帝の願い通り。 今世の雷帝ダールグリュンの血統、ヴィクトーリア・ダールグリュンに受け渡された。 受け取った時のヴィクトーリアの顔は畏れ多く、しかし宝物を見つけたようなキラキラした目をして恭しく受け取った。

 

そして、レジアス・ゲイズが眠る墓に到着すると……そこには既に花が添えられてあった。 辺りを見回すと……木の陰にオーリスがいた。 その後ろには黒服の男が彼女を監視するように控えている。

 

オーリスはこちらに敬礼をすると、全員静かに敬礼を返した。そして……そのまま黒服の男に連れてかれて行った。

 

「ゼストさん……」

 

「致し方ない……

 

あのフェローから得られた情報により、過去の戦闘機人事件を裏から関与していた事が見つかってしまったのだ。 いくら改心したとは言え、過去の過ちは消すことは出来ない。

 

死者であるレジアスは罪に問われなかったが、生者であるオーリスには罪に問われた。だが改心している事もあり、大きな罪に問われないのがせめてもの救いだろう。

 

「レジアス……お前の守ろうとした世界は……俺が必ず」

 

「……………………」

 

「どうか、安らかに……」

 

そして墓の前で、彼らは静かに黙祷を捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隔離施設から出て、陸に戻ると一旦皆と別れ六課の道を帰っていく。 本来なら車で向かうのだが……右腕が使えないので公共機関で向かった。

 

(……ヒソヒソ……)

 

(ねえ、あの人……)

 

(うん、絶対にそうだよ!)

 

(……歩いて帰るべきだったかな……いや、変装してなかった自分の落ち度か……)

 

隔離施設近辺からまでは良かった。 が、都市部に近付く事に人は増えていき……市民から遠目でコソコソと噂話をされているのが聴こえてしまった。

 

どうやらあの事件、後にジェイル・スカリエッティ事件……もしくはJS事件の解決貢献者しとして機動六課の名が上がり、“奇跡の部隊”などと言われていたりする。

 

ともかく、その1人が変装もしないでレールウェイに堂々?と乗っていたりすると……周りが騒がしくなるのは当然の事だった。

 

俺はクラナガン中央ターミナルに到着するとすぐに降り、レールウェイからタクシーで向かおうとした時……目の前に黒塗りの車が停車した。

 

「ーーレンヤ!」

 

「アリシア!」

 

運転手はアリシアだった。 だがその登場によりさらに周りは騒ついてきたが……

 

「乗って、送っていくよ!」

 

「ああ、助かる」

 

視線から逃げるように助手席に乗り、車を出して騒ぎから離れた。 しばらく公道を走り、六課へ向かった。

 

「助かったよ。 まさかここまで有名になるとは思わなかったけど……」

 

「あはは、異界対策課から有名だったけど。 今回のはそれに拍車がかかったからね。 サインを書く練習でもすれば?」

 

「……冗談言うな……」

 

「なら……もっと堂々してよね、私達の()()()♪」

 

「ああ、そうだな……」

 

本当に嬉しそうに喋るアリシア。 なぜ自分が彼女の旦那と言われているのかというと……事件解決すぐのあの高原の花畑、石碑の前で俺が……6人全員に告白したからだ。

 

馬鹿で欲張りなのは重々承知だが、ずっと苦楽を共にしてきた彼女達1人を選ぶ事は俺には出来なかった。 だが……彼女達は目に涙を浮かべながら、頷いてくれた。

 

「式はいつにしようなぁ♪ なるべく早い方がいいよねぇ、ヴィヴィオとイットも喜ぶし♪」

 

「そうだな……」

 

イットは正式に俺の養子になる事になり、ヴィヴィオと同じ神崎の姪を与えられて神崎 一兎となった。 漢名になって語呂がいい……一兎って名付けたの俺だけど。

 

「フフフフ……って、違う違う。 コホン、それよりあの子達、どうだったの?」

 

「ん? ああ、元々スカリエッティに命令された傾向が強かったからな。 問題なく隔離施設からは出られるだろう。 後は保護者だけだけど……そこはナカジマ家が何とかするだろう。 コルルはフェイトが、クレフはメガーヌさんが見てくれるそうだ」

 

「そっか……良かった」

 

それを聞き、アリシアはホッと一安心する。 そしてしばらく静かに高速道を走っていた、その時……

 

「ーーうわっ!?」

 

「くっ……!」

 

突然、目の前に何かが通り過ぎ……アリシアは咄嗟に急ブレーキをかけ、俺は手すりに手をかけて衝撃に身体を固定し……耐えた。

 

「な、何今の……? 傘みたいなのが通り過ぎたけど……」

 

「…………あそこだ」

 

指差した方向に、青い日傘がクルクル回りながら飛んでいた。

 

「傘が吹き飛ばされている?」

 

「だとしても不自然だな……追いかけてくれ」

 

「了解!」

 

高速道から公道に戻り、不審な傘を追いかける。 傘は風に流されるように飛んでいるが、まるでこちらを誘っているようにも思える。

 

「路地裏に入った!」

 

「行くぞ!」

 

車から降り、路地裏に入る。 しかし、路地裏には傘の姿はなく、奥に進んでも見つけられなかった。

 

「どこ行ったんだろう?」

 

「……杞憂だったのか?」

 

あの事件の後だからなのか、それとも気を張り過ぎただけなのか、そう思った時……突如として目の前にモヤがかかり……霧が出始めた。

 

「? 何でいきなり霧が……」

 

「まさか……!」

 

話している間にどんどん霧が濃くなり、1メートル先すら見えなくなる程の濃霧に包まれてしまう。

 

「アリシア!」

 

「レンヤ!」

 

俺達は互いを呼びかけ、手を繋いだ。 そして何かに呑み込まれるような感覚に陥り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……?」

 

感覚が元に戻るのを感じると目を開け、辺りを見回す。 先ほどの……裏路地のようだ。 隣には手を繋いでいるアリシアもいる。

 

「ううん…………ここは……?」

 

「さっきと同じ場所のようだ。 変だな、異界に入るような感覚だったんだが……?」

 

「うん、それは私も思ったけど……気配がまるでしなかった。 でも、怪異と無関係ではなさそうだね」

 

なら、まずはこの場を離れ、六課や対策課に連絡するべきだろう。

 

「もしかしたら、JS事件の影響で起きてしまった歪みの所為かも。 それで厄介な能力を持ったグリムグリードが顕現した……って、所かな?」

 

「恐らくは。 まずは皆に連絡をーー」

 

路地裏から出て、メイフォンではやて達に連絡しようとすると……メイフォンは圏外だった。

 

「こんな街のど真ん中で……?」

 

「ーーあああああっ!?」

 

「うおっ……!? ど、どうしたアリシア?」

 

「な、ない……! 私の車が……無くなってるぅーー!?」

 

その言葉につられて停車した場所を見ると……アリシアの車は影も形もなくなっていた。

 

「うう……こんな短時間でレッカーされるなんて……酷いよ……」

 

「いやいや、そんな訳あるか」

 

「でも……だったらどうして……!」

 

「周りを見てみろ」

 

「周り?」

 

改めて周りを見回すと……普通のクラナガンの街中だった。 そうあの事件で大なり小なりでも被害に受けたはずの街中が……

 

「……あれ? もう復興工事が終わっている?」

 

「まだ事件から2ヶ月、いくらなんでも早過ぎる……もしかして……」

 

ピロンピロン! ピロンピロン!

 

答えを導き出そうとすると、間の悪い事にエコーにグリードの反応を検出した。 ここ最近音沙汰なかったのに……何かこの事態に関係していそうだな。 俺はアリシアと向かい合い、頷いた。

 

「皆と連絡が取れない以上、まずはここから行ってみよう。 情報を得られるかもしれない」

 

「うん。 でも、もしかしたら……私の想像を超える事になっているかもね……」

 

アリシアの呟きに無言で頷く。 エコーが示した座標はミッドチルダ中央区の大通り。 かなり目立つ場所にあるが……俺達はすぐにその場所に急行した。

 

指定した場所に近付く事に……悲鳴や戦闘音などの喧騒が大きくなっているのが聞こえた。

 

「まさか……現世に顕現しているの!?」

 

「……アリシア、こっちだ」

 

「え!?」

 

現場に向かおうとするアリシアの手を引き、近くにあるビルに入り、そのままエレベーターに乗って屋上に向かう。

 

「どうして屋上に!?」

 

「こんな状況だ。 いきなり出て行ってもマズイ、先ずは上から状況を把握する!」

 

そして扉を蹴破り、屋上に駆け込む。 そして縁まで向かい大通りを見下ろすと……そこでは管理局の一部隊と巨大な蛇のグリードが戦っていた。

 

「大蛇……ううん、海蛇のエルダー……でもない、あれグリムグリードだ」

 

「つまりはアレは眷属か。 となると、あの海蛇の主人は恐らくあの日傘の持ち主……これで辻褄が合いそうだが……」

 

顔を上げ、辺りを見回す。 この付近で1番高いビルに登ったので辺りを一望でき、景色はいたって普通のミッドチルダの街並みだが、記憶の中の街並みと差異があり過ぎた。

 

「元通りなんてレベルじゃない。 ここ付近の私の知っている大手産業の広告や支部がまるでないなんて……」

 

「ここはミッドチルダで間違いはない。 が、メイフォンが繋がらない事、完全に修復された街とその差異……導き出される答えは1つ、限りなく近く、極めて遠い世界ーー」

 

「ーー動かないでください」

 

とても聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。 だが、その声は明らかに警戒しているの色が見える。 俺達はゆっくりと振り返ると……

 

並行世界(パラレルワールド)……」

 

「時空管理局機動六課所属、フェイト・T・ハラオウンです。 この場所で何をしているのですか?」

 

いつも見る顔、いつも聞く声、いつも見る凛とした姿……だが、その名だけは差異があるも、目の前にいたのは紛れもなくフェイトだった。

 

 



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並行世界より

 

「避難警告は出ているはずです。 何故この場所にいるのか聞かせてください」

 

(恐らく)グリムグリードによって平行世界に飛ばされた俺とアリシア。 そして目の前には俺達に警戒しているフェイト。

 

あちらは初対面なのだろうが、こちらは長年の幼馴染と姉なので他人行儀に話されるとどうにもむず痒い感覚になってしまう。

 

「み、未発見の危険生物を観察していました。 ああいう手合いはまず観察から始めるべきなので……!」

 

俺は管理局の地上の制服を着ていたので敬礼し、隊士としてフェイトに嘘を言った。

 

ちなみに、アリシアは声をかけられた時点でメガネをかけており。 顔立ちがそっくりなでも髪型も違うので恐らくバレていないでいる。 不審に思われてはいるけど……

 

「そう……でも右腕が骨折しているんだから無茶はしないで」

 

「はい! 気遣い感謝します!」

 

(何とか乗り切ったね。 これからどうする?)

 

フェイトが横を通ってビルを降りた後アリシアが念話で質問し、この後どうするか考える。

 

(このまま流されたら俺達がこの世界の管理局員ではない事はすぐにわかる。 ここはグリードの混乱に乗じて逃げるしかないな)

 

(だね)

 

その時、覚えのある魔力が近付いているのに気付いた。 顔を上げると、桜色の魔力光が見え……

 

(なのはだ)

 

(……………………)

 

2人は地上に降下し、海蛇のエルダーグリード……リヴァイアスと戦闘を始めた。

 

だが、フェイトを見てもそうだが……弱いな、こちらの世界の2人に比べたら。 飛行魔法で感じる魔力量と運用、効率などが違い過ぎる。 だが決して弱くもないんだが……

 

「…………苦戦、してるね…………」

 

「まるで初戦闘の戦い方だな。 恐らくこの世界ではグリードが現れるのは初めてなんだろう。 しかもいきなりグリムグリード……気の毒に」

 

「助太刀する?」

 

「本来なら別世界の情勢に関与はあまりしない方がいいんだが……グリード自体が異常だ。 やるしかないな」

 

「了解!」

 

俺達は胸元から自分の相棒を取り出し……

 

「レゾナンスアーク……」

 

「フォーチュンドロップ!」

 

『セーット、アーップ!!』

 

起動してバリアジャケットを纏い、地上に降り立った。

 

「あなた達は……!」

 

「下がって! 君達が敵う相手じゃ……!」

 

「それはこっちの台詞だよ。 2人はいいから他の隊員を下げて、所詮はA級グリムグリード……私の敵じゃないね」

 

「そういう事、お前達は後ろで見ていろ」

 

「で、でも君は怪我してーー」

 

バキッ!!

 

「多分治ってるだろ」

 

右腕のギプスを思いっきり地面に叩きつけて粉々に砕き、自由になった右手を閉じて開いたりをして調子を確かめる。 それを見た2人はギョッとした顔をする。

 

「ーー状況開始……目標グリムグリードを撃破する。 アリシア、気合いを入れて行くぞ!」

 

「よっしゃあっ!!」

 

「ーーえ……」

 

刀を抜刀しながら激励を言い、アリシアは気合いを入れながら二刀小太刀を構えた。 そして、アリシアの名にフェイトが反応した。

 

《モーメントステップ》

 

夜枹(やなら)!」

 

一瞬でリヴァイアスの眼前に移動し、目に向かって刀を振った。 リヴァイアスは紙一重で避けたが……それは囮で、背後に周り首の後ろを斬り裂いた。

 

「アサルトダンス!」

 

アリシアはその隙に横から接近し、二刀小太刀による流麗な剣戟でリヴァイアスの身体を胴から斬り、尾に移動しながら連続で斬った。

 

だがリヴァイアスはとぐろを巻き……尾をしならせ、自身の周囲を薙ぎ払った。

 

「きゃあ!?」

 

「な、なんて力……!」

 

なのはとフェイトは驚きを見せるが、俺とアリシアはこの程度と思い無反応。

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

リヴァイアスの頭を蹴り地に伏せさせ、アリシアと隣に並んで顔の前に立つと……

 

『やっ!/はあっ!』

 

『とお!/ふうっ!』

 

『はああ……あっ! 滅爪乱牙ッ!!』

 

息のあった連続攻撃を撃ち込み、最後に大きく吹き飛ばした。

 

「す、凄い……」

 

「あの2人は何者……? あの強さで無名なんて有り得ない……それに……」

 

なのは達がさらに不審に思う中……リヴァイアスは砂煙の中から素早く突進して来た。 大きく口を開け、丸呑みしようと飛び込んで来た。

 

「危ない!!」

 

なのはは警告を叫ぶが……俺は既にリヴァイアスの横を通り抜けていた。

 

「え……」

 

「八葉一刀流……伍の型」

 

チン……

 

「残月」

 

横一閃、納刀と同時にリヴァイアスに身体に走り、リヴァイアスは倒れ伏し、塵と消えていった。

 

そして苦戦した相手をアッサリと倒す俺達にこの場にいる管理局員は唖然とする。 だが……

 

「さてと……」

 

「どうしよっか……?」

 

倒したはいいが……なのはとフェイト、そして気を取り戻した先ほどの部隊に囲まれてしまった。 俺はアリシアと背を合わせて彼らと向かい合う。 そしてフェイトが一歩前に出る。

 

「あなた達は何者ですか?」

 

「ただの地上所属の管理局員ですが?」

 

「突如として現れた危険生物を知っていて、かつそれに対処できるだけの実力を持っている。 これがただの管理局員とは言えません。 それに……」

 

そこで言葉を一度切り、アリシアを見据えて口を開いた。

 

「アリシアとは……何の冗談ですか?」

 

「? 冗談?」

 

「フェイトちゃん……」

 

どうやらハラオウン姓を名乗っているのに関係ありそうだな……さて、どうしたものかな。 そう考えていた時……道の片側から魔力の、いや……剄の波動を感じ……

 

「ーー危ない!!」

 

管理局員を吹き飛ばし、中央に茜色の剄を纏ったユエ・タンドラが地面に拳を振り下ろしていた。 しかし、その余波はこっちまで及んだ……

 

「2人とも、無事で良かったです」

 

『ユエが1番危なかったよ!!』

 

「あ、それは失礼しました」

 

自分の非を認め、ユエは綺麗にお辞儀をして謝った。 それはともかく……

 

「それよりもユエもこの世界に来たんだね」

 

「この世界? ここはミッドチルダではないのですか?」

 

「説明は後、今はこの場から離脱しよう」

 

『ーー逃走ルートは確保してあるよ!』

 

声と共に薄紫色の蝶の探査子が飛んで来た。 ツァリの念威探査子だ。

 

「ツァリ! 有難い、行くぞ!」

 

「おおー!」

 

「ま、待ちなさい!」

 

なのはの制止の声が聞こえるが……それを振り切って跳躍し、誘導する探査子を追ってビルからビルへ飛び移る。

 

『僕とユエの他にもリヴァンとシェルティス、ルーテシアちゃんがいるよ』

 

『それよりもどうなってんだ? まるでいきなり傘が現れたと思ったら霧が出て……そしたらこんな状況になって。 意味が分からないぞ』

 

「とにかく一度合流しよう。 まずは掻い摘んで今の状況を説明する。 皆、落ち着いて聞いてくれ」

 

俺はこの世界がミッドチルダの平行世界である事、そしてここに俺達を連れて来たのはグリードの仕業と伝えた。

 

「なるほど……」

 

『まさか……そんな事が……』

 

『でも事実、なんだろうね』

 

『チッ、やっと事件から落ち着いて来た矢先にこれかよ……』

 

ピリリ、ピリリ♪

 

皆の感想を聞いていると、いきなりメイフォンに着信が入ってきた。

 

「なんで繋がるの!?」

 

「メイフォン単機での通信圏内は5キロなんだよ。 もしもし?」

 

『あ、レンヤ! やっと繋がった!』

 

「その声……美由希姉さん!?」

 

通信の相手は美由希姉さんだった。

 

「姉さんもこっちに来てたのか……」

 

『うん。 よく分かんないんだけど……ヴィヴィオちゃんとイット君と一緒だよ』

 

「ヴィヴィオとイットが!?」

 

「え、あの子達もここに!?」

 

2人がここに来てしまった事に、俺とアリシアは驚いてしまう。

 

「と、とにかく合流しよう。 今どこにいる?」

 

『中央区にある……あれ、あんなのあったっけ? まあともかく、大通り近くの公園だよ!』

 

「……うん、分からない!」

 

「フォーチュンドロップ、通話の発信源を逆探知!」

 

《イエス、ロード》

 

フォーチュンドロップが逆探知を開始し……ここから東へ4キロ先にいる事が判明した。 俺達は進路を変え、その場所に向かった。

 

「皆さん、無事ですか!?」

 

「パパァ!!」

 

「おっと……」

 

到着し、3人の姿をすぐに見つけた。 すると、俺を見るなり飛び込んで来たヴィヴィオを受け止め、よしよしと頭を撫でる。

 

「イット、怪我はない?」

 

「は、はい。 大丈夫です……」

 

「ほら、堅苦しいからもっとリラックスして。 そろそろお母さんって呼んでもいいんだよ?」

 

「ぜ、善処しましゅ……」

 

イットの頰を優しく左右に引っ張り微笑むアリシア。

 

「ーーな、なんでヴィヴィオがここに!?」

 

「それにあの人は……」

 

いつの間にか、目の前にはスバルとティアナが立っていた。 反応から見るからに……この世界の2人だろう。

 

「マズい…………」

 

「逃げるよ!」

 

《スレットマイン》

 

アリシアが正面に向けて、広範囲に四角い魔力弾をばら撒き……小規模な爆発と目くらましの爆煙が発生した。

 

「うわっ!?」

 

「煙幕……!」

 

「ちょ、なんで逃げるの!?」

 

「事情があるの! 早く行くよ!」

 

俺はヴィヴィオを、アリシアはイットを抱えて飛び。 一気に6人に増えた一団はこの場から離れた。

 

『皆、この先にある廃工場へ。 ルーテシアが転移の準備をしているよ』

 

「それでこの場所からオサラバってわけだね!」

 

急いで指摘された廃工場に向かった、が……

 

「止まれ!!」

 

「時空管理局だ」

 

昔サイズのヴィータとシグナムが行く手を塞いだ。

 

「あれ突破するの難しくない?」

 

「不意打ち出来ればあるいは……」

 

「なにをごちゃごちゃ言ってやがる!」

 

「大人しくその少女を解放し投降しろ」

 

「悪い事をした覚えがないのですが……」

 

「さっき管理局員をぶっ飛ばしてたじゃん」

 

すると、シグナムが飛び出し、レヴァンティンを振り下ろしてきた。

 

すると姉さんが飛び出し、小太刀型のソウルデヴァイス、アストラル・ソウルを顕現させて振り下ろされたレヴァンティンを受け止めた。

 

「ひゅう♪ さすがシグナム、強烈だねぇ」

 

「なっ!? これは一体……!?」

 

シグナムは美由希姉さんが受け止めた事よりも、小太刀を見て驚愕している。

 

その時、横から紺色の剄弾が飛来。 シグナムを吹き飛ばした。 そして出てたのは……

 

「くっ……!?」

 

「ソーマ!」

 

「レンヤさん! よく分からないんですけど、シグナムさんを吹き飛ばして良かったのでしょうか!?」

 

「問題なし!」

 

「テメェーー」

 

「穿て!」

 

青白い細い集束砲撃がヴィータを射抜き、サーシャが目の前に飛び降りてきた。 そして……慌てふためきながらヴィータに頭を下げた。

 

「あうあう、ごめんなさい……」

 

「サーシャ、こっちに来て!」

 

「は、はいぃ!!」

 

どんどんこちらの世界の人間が増えていく中、廃工場に向かって駆け出すと……

 

「ーーヴィヴィオを返せええぇぇ!!」

 

「うあああああっ!?」

 

いきなり頭上から砲撃が接近し、それをギリギリ避けたが余波で少し吹き飛ばされてしまう。 こっちのなのはもヴィヴィオを溺愛しているよで、かなり怒ってる。

 

「なのはママ!? どうしてパ……ムグムグ……」

 

「ヴィヴィオ、ちょっとだけいい子にしていてくれ」

 

この世界のなのはは俺を知らない。 つまりパパは俺ではないので、ヴィヴィオが俺を父親と呼ぶと、あの自分の娘を攫われて怒り狂っている母親がどうなるか分からない。

 

「うわぁ……なのは、マジギレしてるよぉ……」

 

「って、お姉ちゃん!? なんでここに……!?」

 

「すまんな……我が妹よ。 世界は違えど、なのはは私の可愛い妹だよ……(グスン)」

 

「え、え?」

 

「御免!」

 

姉さんは酷い芝居をしてなのはを動揺させ、一気に距離を詰めて一刀の元、斬り伏せてしまった。 芝居は酷いけど、剣の腕は確かだから変にタチが悪い。

 

「ああもう、なんで誘拐犯の逃亡者紛いな事やってんだろう……」

 

「仕方ないですよ。 流石に騒ぎになり過ぎました、落ち着くまで離れた方が得策です」

 

「フェイト達に敵意剥き出しにされるなんて……なんか超複雑」

 

同感だ。 模擬戦や試合でもここまでなのは達に敵意を向けられた事はないだろう。 本当に複雑だ……

 

「こっちよこっち!!」

 

(ピョンピョン)

 

「ルーテシア、ガリュー!」

 

廃工場の敷地内には集団転送の準備をしていたルーテシアがいた。

 

「この世界の潜伏先まで転移するわ。 早く魔法陣の中に!」

 

「潜伏先って……ますます犯罪者チックになってきたような……」

 

「いいから入る!」

 

「フベラッ!?」

 

美由希姉さんに蹴られ、アリシアは吹き飛んで陣の中に入った。

 

「え、ルーテシアちゃん!?」

 

「あ……ヤッホー、キャロ。 元気してる?」

 

「え゛」

 

上空にフリードに乗ったエリオとキャロが現れ、ルーテシアは軽く手を上げて挨拶する。 エリオはそんなルーテシアを見て絶句する。

 

「それじゃあまた、あの怪物を追っているならまた会えるだろうね」

 

「待ちなさい!」

 

追いついてきたフェイトが接近してくるが……その前に俺達は転移して行った。

 

 

 

少しの浮遊感から解放され、地面に足をつける。 辺りを見回すと……どこかの古い建物の中、というより……

 

「もしかして……ここは太陽の砦か?」

 

「正解ー♪ ここにきたほとんどが太陽の砦に飛ばされたんだ」

 

どうやらここは教団が研究施設として使っていた区画のようだが……機材がまるで見当たらず、砦そのものの壁や床が見られた。 どうやら、この世界ではあの悲しい出来事はないようだと少しホッとする。 すると通路の先からツァリが走って来た。

 

「皆、無事!?」

 

「ちょっと精神的に疲れたかな……?」

 

「まさかフェイトに敵意剥き出しにされるなんて……」

 

「ーーそうみたいね」

 

「アリサママ!」

 

遅れて、アリサとすずかが出てきた。 ヴィヴィオはアリサを目にすると喜び、俺はヴィヴィオを下ろすと……一目散にアリサに抱きついた。

 

「2人もここに?」

 

「ええ、ついさっきね」

 

「一度奥に行こう。 他の皆も待っている」

 

「一体どれだけの人がここに飛ばされて来たんだ……?」

 

「あうあう……」

 

すずかの案内で奥に進む。 あの事件時のような禍々しい雰囲気はなく、至って静かで普通の建造物だ。

 

しばらく進み、牢屋があるフロアに到着し。 その牢屋の手間にあった部屋に入ると……

 

「よお、来たか」

 

「お前さんらも無事なようだな?」

 

「怪我がないようでなによりだ」

 

「お互い、面倒な事に巻き込まれたわね」

 

「ルーテシアちゃん、お疲れ様」

 

「全く、お前達といると退屈しないで済む……」

 

大きな長方形のテーブルを囲うように、リヴァンとシェルティスに他にアギト、ヴァイス、リンス、クイントさん、メガーヌさん、ティーダさんが座っていた。

 

そしてメガーヌさんの後ろに、誰が隠れていたのを見つけた。 身長からしてルーテシアくらいだとは思うが……

 

「さっきの報告より多くないか……?」

 

「あはは……皆が来る間にどんどん来ちゃってね……」

 

一体何人の人がこっちに飛ばされて来たんだよ? そして、メガーヌの陰にかけれるようにしていたのは……

 

「って、クレフとコルルも!?」

 

「ども」

 

「どうも……」

 

「ピューイ」

 

「あ、クローネも」

 

あの隔離施設の質素な服を着たクレフとコルルがいた。

 

「どうして2人まで……」

 

「ますます関連性が分からなくなって来たわね……」

 

「ーー先ずは状況の把握と情報の整理だよ。 レンヤ君、ここがどんな場所か気付いたんだでしょ?」

 

「ああ。 ツァリから大まかに聞いていると思うがままに、説明するから落ち着いて聞いてくれ」

 

改めてこの平行世界の事、俺達がここに連れてこられたのはグリムグリードの仕業と伝えた。

 

「なるほど……それで霧に包まれたと思ったらこんな場所に……」

 

「皆、霧が出る前に一度傘を見たんだよな?」

 

「うん! お兄ちゃんとお散歩してるとフワフワ飛んで来たよー!」

 

「……私も、見ました……」

 

「隔離施設の中なのにいきなり現れたからビックリしたよ」

 

「パラレルとパラソルかけてんじゃねぇだろうな……?」

 

「そ、そこは深く読み過ぎなような……」

 

ここに連れてこられる状況は皆同じなようだな。 今度はこの場にいる人を整理する。

 

「えーっと……この世界に連れてこられたのは俺とアリシア、アリサ、すずか、ソーマ、サーシャ、ルーテシアとガリュー、アギト、リンス、美由希姉さん、ヴァイス、ツァリ、リヴァン、ユエ、シェルティス、クイントさん、メガーヌさん、ティーダさん、イットとヴィヴィオ……そしてクレフとクローネ、コルルの22人と2匹というわけか……」

 

「かなりの大世帯だけどなのは達も含めれば少ないほうね」

 

「連れてこられた基準も明確ではないし……とにかく、当面は情報を集めながらここに潜伏しよう」

 

「そうだね」

 

「それにしても……」

 

そこで言葉を切り。 リヴァンは辺りを、部屋を見回した後……嘆息した。

 

「まさか太陽の砦(ココ)に潜伏する羽目になるとは……洗ってない2日目の風呂に入る気分だぜ」

 

「グリード相手にプライド語ってたら、命がいくつあっても足りないよ」

 

リヴァンの言葉にシェルティスは皮肉気味に言うが……珍しくリヴァンは反論せず、むしろそうだなと言って納得した。

 

「ともあれ、今後の方針はあの日傘の持ち主であるグリムグリードの撃破と元の世界の帰還。 これで行きましょう」

 

「問題ないわ」

 

「ただし、グリムグリードを探し出す過程でこの世界のなのはちゃん達……機動六課が立ち塞がります」

 

「本来なら協力した方がいいんだが、あまり並行世界に干渉するのはよろしくないと思う。 出会ってしまうかもしれないが、交戦は控えてくれ」

 

「了解です」

 

一応、これで納得してくれたようだが……

 

「……ティアナと、か……おかしな巡り合わせもあったものだな」

 

「我が主と……いや、この世界の主は彼らが守ってくれる。 ここは割り切ろう」

 

「リンスさん……」

 

「なのはとねぇ……なんか面白そう♪」

 

「ふふ、こっちのスバルはどれ程の腕前なのかしらねぇ」

 

やはり複雑なのだろう……身内や知り合いと完全に敵対するというのは……約2人、例外がいるが。

 

「しっかし、なんでこうなっちまったのかねぇ……」

 

「グリードにとやかく言っても意味ないよ」

 

「……それになんか、私達犯罪組織みたいね……」

 

「この場所がそうだしな」

 

「ええい、そこは言わないでよろしい!」

 

「ふふ……」

 

うんうん、この緊張感がない所が俺達らしいな。 と、そこでパンパンと、すずかが手を鳴らして雑談を止めた。

 

「さて……会議はこれで終わりとして。 次の問題はーー」

 

「今晩の夕食をどうするかだな」

 

アギトがそう答えると、クゥ……っと、ヴィヴィオがお腹を鳴らし。 えへへと頭をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課、会議室ーー

 

そこでは隊長陣とフォワードメンバーが集まっていた。 議題は未確認の危険生物の出現と……レンヤ達の事だった。

 

「ーーこの危険生物……彼らの言葉を借りるならグリムグリードと呼ばれるそうです」

 

「テスタロッサ、相手をしてどうだった?」

 

「……不確定な能力を有していて、身体能力も飛び抜けて高かったです」

 

「倒せなくもないのですが……現状では苦戦は免れないでしょう……」

 

「でも、それを彼らはいとも簡単に倒してしまいました」

 

「そして……」

 

次にシャーリーはレンヤ達の映像を映し出した。 その中で、フェイトは1つの映像に目を止めた。 そこに映っている長い金髪を三つ編みにした、自分とほぼ同じ顔立ちの女性を……

 

「アリシア……テスタロッサ……」

 

「フェイトさん……」

 

「そこも問題なのですが、1番問題なのはヴィヴィオちゃんとルーテシアちゃんの事です」

 

ディスプレイにヴィヴィオとルーテシア、服装の違う映像が2つずつ表示された。

 

「最初、ヴィヴィオが攫われたと思ったけど……あのレンヤって人に懐いていたし、何よりーー」

 

「今、ここにいる」

 

全員の視線がフェイトの膝下に向けられた。 そこにはヴィヴィオが寝ており、フェイトはスヤスヤ寝ているヴィヴィオの頭を撫でた。

 

「ルーテシアちゃんの方も確認取れたで。 あの時間の間、監視から離れとらんし、隔離施設から一歩も出ておらんそうや」

 

「それに……まるで別人のように明るかったです」

 

「私達に向かって笑顔で手を振ってました……」

 

「そうやな、いくら洗脳から解かれたとしてもあれは変わりすぎや。 さて、次は……なのはちゃん」

 

はやてはなのはの方を向き、なのはは意図が読め頷いた。

 

「こっちも確認は取れたよ。 お姉ちゃんは海鳴市にいたし、ミッドチルダにも行ってないし行ったことはない……」

 

「だが、あの刀は……」

 

次に表示されたのはソウルデヴァイスを持つ美由希。 結果だけを言えば、美由希にリンカーコアも魔力も有してはいなく。 小太刀にいくつものデータが表示されていたが結局の所は何も分かっていなかった。

 

「デバイスでもレアスキルでも、質量兵器でもない……観測では現象としか捉える事は出来ませんでした」

 

「意味が分からなくなってきたな……」

 

「それに、確認できるだけでも刀の男性とフェイトさん似の女性の魔力量はオーバーSを有しています。 特にこの黒髪の男性と茶髪の男子の魔力、密度が半端ないです! AMFでも簡単には解けない結合力です! さらに、この蝶のようなサーチャー。 これも先ほどの高密度の魔力で構成されていて、それに加えて超遠距離の念話が可能。 傍受も出来ません!」

 

「そんな嬉しそうに言われても……」

 

「……ホンマ、一体何者なんやろうなぁ……」

 

「勘違いしたとはいえ、いきなり敵意を見せたのは不味かったわね……」

 

「…………あの、先ほどから気になっていたんですけど……」

 

ルーテシアの右肩にズームアップされ、球状態のガリューが映し出された。 もちろん全員ガリューの事は知っているが、こんなに小さいのがガリューだという事は誰にも想像出来なかった。

 

「ルーテシアちゃんの肩に乗っているこれ、何でしょう……?」

 

「黒い……何だろう?」

 

「考えても仕方ないよ。 分からない事だらけで頭が混乱しようだし……」

 

「あんたはもう少しは頭を使いなさいよ……」

 

「……まあ、結果だけ言えば……私達はこのグリードが現れたとしても彼らに頼るしかない事、それだけは分かってしもうたな……」

 

「何かが起きているのは確かですが、その原因や概要すら掴めていません……致し方ないでしょう」

 

「でも、諦める気はないし……彼らとも和解したい」

 

「うん。 誤解も解きたいし、ちゃんと話もしたい」

 

「できれば手合わせも願いたいな」

 

「オメェはいっつもそれだな」

 

それで会議は終了となり、ぞろぞろと会議室を後にする中……

 

「……あれ?」

 

ふと、なのははレンヤに目を止め、ある一部をズームアップした。

 

(あのレンヤって人が左の二の腕に巻いているリボン……どこかで……)

 

なのははレンヤの左腕の二の腕に8の字で巻かれているリボンをジッと見つめ、首を捻った。

 

 



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鈍色鋼の劇

 

 

同日ーー

 

あの後、学生時代で培ったサバイバル訓練を生かして太陽の砦周辺で食料(川魚や野草や果物、そして解体済みのイノシシやシカ)を調達し、クイントさんとメガーヌさんの母親ペアによって調理され……夕食を済ました。 俺達年長者ならともかく、まだまだ成長するイットとヴィヴィオとルーテシアは食べないとまずいからな。 そして今は……

 

「ふう〜…………」

 

太陽の砦の最奥、地底湖の底に湧いていた温泉に入っていた。

 

「まさか元の世界では祭壇がある場所に温泉が湧いていたなんてな……リヴァンの言う通り、洗ってない2日目の風呂に入った気分だな」

 

「そんな気持ちいい気分が削がれるような事は言わないでよ……」

 

「でもまあ、実際に気持ちいいからいいじゃねえか」

 

「まさしく秘湯、ですね」

 

ちなみにこの温泉、どうやら実際に砦が機能していた時に使われていたらしく。 男女湯がキチンと岩の仕切りで別れていた。 しかも傷を治癒する効果もあるらしく、期せずして右腕の湯治が出来たわけだ。

 

問題があるとすれば、温泉自体が無害だが常に発火性の高いガスを纏っており。 炎を近付けると温泉の上が燃えるという現象が起きるくらいだ。 名付けるとしたら(ファイヤー)温泉だ。

 

「不幸中の幸いってやつだな。 日頃の疲れが取れるようだ〜」

 

「こっちに来れなかった奴らに悪いことしちまったかもな……」

 

「なんか複雑ですね……」

 

来たら来たで問題だけど、来れなかったらこの温泉を堪能したと思われて羨ましがられる……

 

『ちよっ!? 美由希さん何しているんですか!?』

 

『え? 私のソウルデヴァイスの属性は霊だからね。 この水の性質を貰えればなぁーって』

 

『今やらなくてもいいじゃない……剥き身の刀をこっちに向けられる身にもなりなさいよ』

 

『うわぁい! 面白ーい♪』

 

『きゃ!? やったなー!』

 

『こら、辞めないか!』

 

『あらあら、ルーテシアちゃんったら』

 

『やれやれ……』

 

壁を通して、女湯ではかなり楽しそうにしているようだ。

 

「……楽しそうですね」

 

「姦しいの間違いだろ」

 

「女はそれくらいがちょうどいいのかもしれないな」

 

「パパーー!」

 

その時、岩の塀の上にヴィヴィオが立っていた。 ちゃんとタオルを巻いているが……女湯からはアリサ達の心配した声が聞こえてくる。

 

「あ、こらヴィヴィオ! 危ないから降りて来なさい!」

 

「はーい」

 

元気よく手を上げて返事をすると……こっちに向かって降りて来た。 いや降りて来いとは言ったけど……

 

「ヴィヴィオ、良い子だからママ達の方に行きなさい」

 

「ええ〜? ヴィヴィオ、パパと入りたーい」

 

「いいじゃねえか。 すぐに大きくなるんだし、今のうちに一緒に入っとけよ」

 

「……その言い回しはどことなく犯罪っぽく聞こえるのは気のせいか……?」

 

もし気のせいなら俺の心がアレだから、ヴァイスの言葉が卑猥に聞こえるのだと納得できるんだが……

 

「わーい、お兄ちゃーん♪」

 

「うわっ!? ちょ、ちょっとヴィヴィオ!?」

 

結局そのまま放置する事に、子ども達の喧騒を聞きながら身を湯治した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

俺達が就寝した後、デバイス達がこの世界のネットワークから情報を集めていたようで。 それで分かった事はこの世界でもJS事件が起こっており、異界対策課がない事が分かった。

 

「ルキューもレルムもない、イラもアーネンベルクもない、マインツもない……それどころか……」

 

「対策課もないなんてな。 平行世界だからってここまで違うものなのか?」

 

「地上本部や機動六課、本局といった主要部署はあるけど……空はなく、むしろ地上部隊の1つとして航空武装隊が配備されている。 意味が分からんな」

 

「太陽の砦や星見の塔はあるくせに……どうなっているんだろう?」

 

自分達の世界とこの世界の差異が多過ぎて、俺達は困惑していた。

 

「はあ……個人情報だし、まだもう1人の俺達がこの世界にいるかは分からないとして……」

 

「パパー、お腹空いたー」

 

不意に扉が開き、眠そうな顔をしながらお腹を抑えるヴィヴィオが入ってきた。 それを見て苦笑し……

 

「まずは朝食しましょう」

 

「そうね。 メガーヌ、今日もやるわよ」

 

「ふふ、子持ちの母親としての見せ所ね」

 

「あ、私も手伝います」

 

昨日取った食材をすずかが冷凍したため今日まで保ち、それを解凍してあっという間に朝食が出来てしまった。

 

「うーーっん! やっぱりおいしー!」

 

「今日もそうだっけど、優しい味がするわ。 これが母の味というものかしら?」

 

「ふっふ〜ん、どう? 凄いでしょう?」

 

「でも、アリサちゃん達も結婚して、子を産めばすぐに上達するわよ。 もちろん、先輩として教える事も多いから気軽に頼ってね?」

 

『はい!』

 

3人は元気よく返事をするが……さっきっからリヴァン達が俺に向ける変な視線はなんだ?

 

「ヒューヒュー、モテモテだなぁ?」

 

「……それほどでも」

 

「開き直った!?」

 

「まあ、それはそれとして。 レンヤ以外の奴はどうなんだよ?」

 

ティーダさんが話を変え、少しホッとするが……その質問に他の皆は顔を逸らす。

 

「ふむ、全員脈ありっと……まあどうしてか俺達の周りにはいい女が多いからな。 1人や2人くらいいてもおかしくないだろう」

 

「ぼ、僕は健全に1人です!」

 

「おい、それは俺が不健全と言いたいのか?」

 

「ま、まあまあ……落ち着いてください」

 

そんなこんなで朝食を終え、ミッド全域の状況把握をツァリに任せて待機した。 それから日が頂点に行くか行かない頃……

 

「! 南東50キロの地点……ミッド南部の繁華街にグリードの反応の検出!」

 

「映像を出して!」

 

部屋の中央に空間ディスプレイが展開され、ミッドチルダの街並みとともに映し出されたのは……

 

「な、なにあれ……」

 

「巨大な……機械仕掛けの人形?」

 

「趣味が悪いわね……」

 

街で暴れているのは血のような赤いドレスを着た、3メートルくらいの人形型のグリード。 しかもドレス全体に壊れた普通の人形をぶら下げているのでかなり趣味が悪い。

 

しかし、問題はそれだけではなく。 対応のため出動していた管理局の部隊が……仲間同士で戦っていたのだ。

 

「か、管理局同士でなんで!?」

 

「見たところ原因はあのグリードしかいないけど……」

 

人形(パペット)のエルダーグリード……どうやら糸で吊って操っているわけじゃないね」

 

「それならどうやって?」

 

その時、見覚えのあるオレンジの魔力弾が発射され、グリードの頭を弾いた。

 

『ティア/ティアナ!』

 

『ティア! 全然効いてないよ!?」

 

『うっさい! 分かってるわよそんな事!』

 

『ーージジ……てぃあ……』

 

「!?」

 

あのグリード……ティアナの名前を言った。 すると、それが影響なのかティアナはガクッと頭を垂れ……

 

『………………』

 

『? ティア……うわっ!?』

 

スバルに銃口を向けて容赦なく魔力弾を撃った。

 

「ど、どうしてティアちゃんはスバルちゃんを……!?」

 

「表情がおかしい……まるで操られているみたいだ」

 

「野郎……!」

 

「……アリシア、これが何なのかわかる?」

 

アリサの問いに、アリシアは首を捻って考え込みながら唸る。

 

「……これは、説明が難しいね。 うーん……例として地球にある国、エジプト神話から取って説明するよ」

 

「また微妙なチョイスね」

 

「シャット・アップ。 ともかく、説明するよ。 まず、古代エジプト人は人間の構成を“5つの要素”で出来ていると考えていた。

(バー)

精霊(カー)

(シュウ)

心臓(イヴ)

名前(レン)

今回のグリード、恐らく名前……真名を知る事で意思を奪い、意のままに操る洗脳術……禁術に近いものだね」

 

「グリードがそんな事を……」

 

確かにグリードは特異な存在だが、ここまでの特殊な能力を持ったグリードはそうはいない。 エルダーグリードでこれなので……事の重大さが改めて思い知らされる。

 

「さっき言った5つはいずれか1つでも奪われると人間として成り立たなくなる。 名前を奪われるということは一生支配されることに等しい……」

 

「じゃあ、ティアナや他の人達は……!」

 

「ーー俺達がさせない! ルーテシア、転移の準備を! 出るぞ!」

 

「そんな事、あると思って準備済み! 誰が行く?」

 

部屋前に転移の魔法陣が展開され、ルーテシアは誰が行くのか質問する。

 

「俺に行かせてくれ。 世界は違うが、妹をあのままにしては置けない」

 

「私も行くわ。 スバルも放って置けないし」

 

「なら私もー」

 

「ルーテシアは顔が割れてるだろ……まあいい、俺とアリシア、リヴァンとティーダさん、クイントさんとルーテシアの6名でいく」

 

「ああっ!」

 

「了解!」

 

「ルーテシアちゃんは転移だけをやって、座標は僕がやるから」

 

「お願いします!」

 

結果、この6名で出動する事になった。 転移魔法陣の中に入り、ツァリがウルレガリアを起動して構える。

 

「ーー転移開始まで3秒……2……1……転移開始!」

 

俺達は転送され……目的地手前の林の中に降り立った。 それと同時にここら一帯に避難警告が出されていた。 俺は急いで現場に向かおうとした時……

 

「っと、名前を呼ばれるとマズイな……機動六課は部隊名で呼ぶとしても、クイントさん達3人はどうしましょう?」

 

「勝手に決めていいぞ」

 

「じゃあシスコン」

 

「おい……」

 

ルーテシアがティーダさんに向かってそう言い、ティーダさんは一言で否定した。

 

「えっと……じゃあ兄貴で」

 

「………………まあそれでいい」

 

かなりの間があったが、一応納得したくれた。

 

「クイントさんは……死神?」

 

「なんでそうなるのかしら……?」

 

「痛い痛い痛い!?」

 

一瞬で死神に背後を取られ、頭をグリグリされた。 リボルバーナックルを付けているから超が付くほど痛い……

 

「ううっ……では上島で」

 

「適当ね!? ……まあいいわ」

 

「メガーヌはー……キロさんで」

 

「あらあら、何桁か下がったわねー」

 

そんなこんなでやっと現場に向かい、管理局同士で戦闘しているという混沌めいた場所に出た。

 

「改めて見ると酷いわね……」

 

「全く、胸糞悪いな……」

 

「ーー兄貴は操られている局員の制圧、キロさんはフェザーズ03と一緒に制圧した局員を退避! 残りは目標エルダーグリードを撃破する! 総員、気合いを入れて行くぞ!!」

 

『おおっ!!』

 

二手に分かれ、俺達は人形型のエルダーグリード……パペットシンガに向かい。 パペットシンガは俺達を視界に捉えると、表情は変わるはずないのに笑ったような気がした。 すると……

 

アー、アー……ア゛ア゛アアァァ!!!

 

右手、左手を広げながら歌い……最後に大きく両手を広げると同時に狂ったように叫び出した。

 

「な、何あれ……」

 

「変なグリードだな」

 

「でも、やる事は変わらないわ!」

 

クイントさん……もとい上島さんは飛び出し、流れるように拳と蹴りを放ち、直撃と同時に火花を散らす。 流れるように、しかし怒涛の攻めでパペットシンガに確実にダメージを与えて行く。

 

アァァーーー!

 

パペットシンガは片腕を上げ、機械のドレスの裾が上がって行き……砲門が顔を覗かせた。

 

「嘘っ!?」

 

「避けろ!」

 

次の瞬間、全方向にレーザーが照射された。 そこからさらに回転し、周囲を焼き切って回って行く。

 

《ミラーデバイス、セットアップ》

 

「ふうっ!」

 

アリシアは照射されているレーザーの数だけミラーデバイスを展開し。 レーザーを上に反射、さらに反射させてレーザーをパペットシンガに返した。

 

「スカート部分は効かない、上半身を狙って!」

 

「了解!」

 

続いて、パペットシンガは砲門からミサイルを打ち上げた。 ミサイルは急激に軌道を変えると……俺に向かって飛来してきた。

 

「誘導弾か!」

 

魔力弾を撃って迎撃しながら走り、今度は全砲門から刃を出してきた。 砲門が回転し、自分も回転しながら突撃してきた。 しかも笑いながら……

 

「なんか……いつものグリードと違うな」

 

「感情が、意思を持っているって感じだね……」

 

アリシアと並びながら逃げ、パペットシンガの異常性を考察する。

 

「あたあぁっ!!」

 

すると、上島さんが飛びかかり。 鞭のようなキックでパペットシンガの顔面を蹴り、ビルに吹き飛ばして叩きつけた。

 

「容赦ない以前に街に被害が……」

 

「そこに人達、離れてください!」

 

「!」

 

その時、後方からスバルが飛び出してきた。 スバルはローラーブーツで加速し……

 

「でやあ!」

 

渾身の一撃を放った。 が、煙が晴れると……拳がスカートの装甲で止まっていた。

 

「うわあああっ!!」

 

パペットシンガが衝撃波を出し、スバルは吹き飛ばされ、ビルに激突する前に……上島さんが優しく抱きとめた。 地上に降り立ち、スバルを優しく地に着かせる。

 

「ーーえ、お母……さん?」

 

「あらスバ……って、いけないいけない。 大丈夫、怪我はしてない?」

 

「う、うん……」

 

上島さんはスバルを起き上がられるが、スバルはまるで幽霊でも見ているような目でクイントさんを見る。

 

火杠(ひのゆずりは)!!」

 

抜刀による摩擦で火花を起こし、魔力で火を燃え上がらせて腹部を一閃した。 それによりパペットシンガは身体中から火花を散らし、動きが止まった。

 

「止まった……?」

 

「今のうちに態勢を整えるよ。 近くにいる操られている人達はどこ? なんとか洗脳を解いてみる」

 

『そこから南に50メートルの地点に集めたわ』

 

「了解です。 レンヤ、上島、後はお願い」

 

「ああ」

 

「気をつけてね」

 

その時……火花を散らしながら停止していたパペットシンガが動き出した。

 

「っ!」

 

「まだ……!」

 

ーー私は……私は……

 

「! 言葉を……!」

 

ノイズ混じりだが、パペットシンガは確かに言葉を喋った。 先ほどまでは聞いた人の名を繰り返すだけだったのに……

 

ーー美しくなるんだっ!!

 

その願望の叫びが怪奇音となり、全体に広がる。 すると……名を奪われて操られていた管理局達が一斉に俺達を囲ってきた。

 

「うわあっ!?」

 

「スバ……くっ……ちょ、やめなさい!」

 

「あら、しょうがないわね」

 

その時……突然現れたキロさんが正面に手を出し、網目状に編まれた紫色のバインドを展開し。 それに操られている管理局員達を捕縛した。

 

「フェザーズ02の代わりに来たわ。 これで時間は稼げる、早く決めちゃってね?」

 

「は、はい!」

 

今まで戦っている所やイメージはなかったが……やっぱりキロさんもゼストさんの部下、そして上島さんのバディなんだな。

 

ーーキレイになるんだ……キレイに……なるんだ……もっと……もっとキレイになる……んだ……もっと……もっと……!

 

《敵性グリード、自我が崩壊しています》

 

「一体なにが……」

 

「……………………」

 

この言動に、俺はこのグリードが何かしらの想念による顕現と考えた。 恐らくは女性、劇団関係の……

 

「おらっ!」

 

そう考え込んでいると……上空から魔力弾が撃ち込まれパペットシンガは怯み後退し、ティーダさん……もとい兄貴が飛んで来た。

 

「兄貴!」

 

「操られていた奴らはあらかたフェザーズ04が転送した。 後はこいつを片付けるぞ!」

 

パペットシンガはよろけながら電柱にぶつかり、火がついてしまった。 パペットシンガは燃え盛り、着ていた服は燃え尽きて金属の身体が丸出しになる。 そして、まるで火傷をするようにパペットシンガは悶え苦しむ。

 

ーータスケテ……ダレカタスケテ……

 

火だるまになりながらパペットシンガは助けを求める。 だが炎が振り払われると……また敵意を向けてきた。

 

「もう何がなんだがだな……」

 

「だったら倒すしかないよ! ソードビット……フルオープン!」

 

少し比喩で頭痛がしてくると、アリシアが全てタクティカルビット、ソードビットを展開し、手を掲げ……

 

《ソードバレット》

 

「フルファイア!」

 

指を鳴らし、全てのソードビットが発射された。 ソードビットは装甲に弾かれては追撃して、弾かれては追撃してを繰り返し……

 

《メテオショット》

 

「撃つぜ!」

 

ティー……兄貴がゼロ距離で大型の魔力弾を発射し、上半身の装甲を大きく凹ませる。 って言うか、偽名決めておいてあれだけど……やっぱりややこしい……

 

ーーイヤダ……イヤダイヤダイヤダ!!

 

パペットシンガは鉄のスカートを翻し……巨大を支える四つ脚を出し、地面を踏みしめて立ち上がった。

 

「うわキモ!」

 

「やっぱり……何が……」

 

通常のグリードの大きな違いに深く考え込んでしまい……パペットシンガは飛び上がっては落下し、地面を大きく揺らしながら衝撃波を放つ……その一辺倒の攻撃となった。 だが俺はそれに気付かず、音によってハッとなり、ギリギリで避けるも余波で飛ばされてしまう。

 

「うわっ!?」

 

()()()!!」

 

「あ、ちょっ!?」

 

思わずの事だったのか、こっち来たルーテシアは俺の名を叫んでしまった。 もちろん、その叫びはパペットシンガの耳に届いていた。

 

「アー……れんや……」

 

パペットシンガが俺の名を雑音混じりに呟いた。 すると奴の口から黒い物体が飛来し、真っ直ぐ俺の胸に吸い込まれてしまった。

 

「そんな……」

 

「レンヤ君!」

 

「…………って、何も起きない?」

 

「え……」

 

確かに胸の中に君の悪い波動が入って来たが……すぐに霧散して消えてしまった。 何にも起きなかった……?

 

「何でだろう……名前が間違っているわけじゃないし……」

 

「とにかく、レンヤ! 早くとどめを!」

 

「お、おう……!」

 

《ファイナルドライブ》

 

兄貴に急かされ、全てのギアを最大駆動させて抜刀を発動した。

 

「秘技……虚月!!」

 

一瞬で距離を詰めて抜刀で一閃、納刀で一閃を刹那の間に行い……

 

「レイブラスト……!」

 

スフィアを展開し、振り返り際に殴って砲撃を撃ち……付けた傷に撃ち込み、パペットシンガを完全に破壊した。

 

「ふう……こんなものか」

 

「やったね、レンヤ」

 

「ルーテシアが俺の名前を言わなければもっと楽だったよ」

 

「いひゃいいひゃい〜!」

 

頰を摘んで左右に引っ張りながら歩き、最後にパッと離しながら状況を確認した。

 

「操られていた人達はどうだった?」

 

「う〜……アリシアさんが言うには問題ないようだよ。 名前による洗脳も解けたみたい」

 

「そうか……って、あれ? 兄貴……はもういいか、ティーダさんは?」

 

「操られていた人を集めた場所じゃない? ティアナもいるし」

 

「なら行きましょう。 スバル、あなたも来なさい」

 

「え!? あ、うん……」

 

気になるな……俺達はこの場をこの世界の管理局に丸投げし、アリシア達の元に向かった。 到着するとそこは林の中で、アリシアとキロ……ではなくメガーヌさんが横たわっている管理局を診ていた。 そのすぐそばで、横たわっているティアナの側にティーダがいた。

 

「ティーダさん」

 

「レンヤ。 済まないな、先に行っちまって」

 

「いいえ」

 

心配そうに頭を撫でながら答えるティーダさん。 分かっていると思うが、俺は一応言っておいた。

 

「ティーダさん。 ティアナはティアナであってもあなたの妹ではありません。 そこは……」

 

「分かっている。 だからって、ティアナを心配しない俺じゃないさ」

 

「そうですか……」

 

弁えていて大人なのか、シスコンなのかはわからないが……俺はアリシアとメガーヌさんの元に向かう。

 

「メガーヌさん、彼らの容態は?」

 

「問題ないわよ。 ちょっと精神にきてフラつくと思うけど、命に別状はない」

 

「霊的な繋がりも残ってないし……グリードは完全に消滅したね。 ま、気になることは残されているけど……」

 

「それは帰ってからな。 そろそろ他の部隊……機動六課が出張ってもいい頃ーー」

 

次の瞬間、ここら一帯が結界に覆われてしまった。 遅かったか……

 

「……捕まったね……」

 

「転移による離脱も無理になりました〜」

 

「ルーテシア、なんでそう楽しそうなんだよ……」

 

「あらあら」

 

「恐らくなのはちゃん達ね。 さすが、世界が違っても優秀ね」

 

「……え〜っと、とりあえずツァリの念威で救援を呼ぶな」

 

アリシアはポケットから停止中の念威探査子を取り出し、掲げると……探査子に色がつき、浮き上がって蝶の形を取って飛び始めた。

 

「あー、ツァリ。 グリードは倒せたんだけど結界に捕まった。 救援を求む」

 

『結界に? ちょっと待って…………この程度の結界ならレンヤ達余裕で突破できるでしょう』

 

さすがはツァリ、ものの数秒で周辺の状況を把握したようだ。

 

「問題はその後の離脱なんだよ。 結界壊してもその後転移するには時間がかかり過ぎるんだ」

 

『ああ、なるほど。 それなら買い出しに行っていたヴァイスさんとリンスさんを送るよ。 車を調達して今首都にいるんだって』

 

「ちょっと待て。 買い出しはともかく車の調達って……まさか盗んだのか!?」

 

『ゲンヤさんの部隊から貸してもらったみたい。 この世界のヴァイスさんだと思ってくれたようだよ?』

 

「………………」

 

ごめんなさい、ここのゲンヤさん。 会えたらお詫びします……

 

『ーーヴァイスさんと連絡ついたよ。5分で向かうって』

 

「コホン、了解。 5分後に結界の破壊と同時にヴァイスに拾ってもらって離脱。 行先は……星見の塔で」

 

場所を指定して通信を切り、皆に事情を伝え……俺達はこの場を後にする。

 

「それじゃあね、スバル♪」

 

「ティアナをよろしくな」

 

「あ……」

 

スバルはクイントさんに手を伸ばし、空を掴む。 その行動がどこか寂しそうに見えたが……気にしてはいられず、また犯罪者の如く逃げるようにして走り出した。

 

 



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今日の敵は明日の友?

 

 

不可解なグリードを倒し、この世界の組織と関わり合わないように俺達は結界の中を走っていた。

 

「まずは結界をどうにかしないとね」

 

「それなら私がーー」

 

走りながらアリシアは片手を上げ、指を鳴らすと……アッサリと結界は破壊された。

 

「ふっふーん、この程度の結界で私が止められると思うなよ?」

 

「アリシアが優秀なのかはともかく、やっぱり俺達の世界と比べると実力や技術レベルが低いな」

 

ティーダさんが破壊された結界を見ながらそう考察する。 確かに、なのはとフェイト、今日のスバルとティアナを見てもそうだが……言っちゃ悪いが弱かった。

 

「恐らくグリードの存在の有無でしょうね。 この世界にはグリードがいないから、なのはちゃん達も慣れてなかったから苦戦していた……それなら辻褄が合うわ」

 

「でも、あそこまで差が出来るかしら? ギンガは知らないけど、スバルの戦い方……普通のシューティングアーツだったわ」

 

「ティアナにしても、魔法にあんまり工夫がなかったな……」

 

考えても答えは出てこない。 その時、目の前に陸士部隊の車が急停止した。

 

「ーーレンヤ!」

 

「ヴァイスにリンス!」

 

「早く乗れ!」

 

どうやらヴァイスが乗ってきた車で、俺達は駆け込むように乗り込んで……すぐにアクセル全開で飛ばした。

 

「助かったよ。 このまま星見の塔までお願いするよ」

 

「ああ。 まあ、安全なドライブとは……いかねぇけどな」

 

俺はメイフォンを取り出し、ソナーアプリを開く。 と、そこで後部座席に……クレフとクローネ、コルルが座っていた。

 

「って、あれ? なんでクレフとコルルまでいるの?」

 

「どうも……」

 

「ピュイ」

 

「いつまでも隔離施設の質素な服という訳にもいかないだろう。 一緒に連れて行って服を買ってあげたのだ。 ここでは、この子達は犯罪者ではないからな」

 

「……別にあのままでもよかったのですが……」

 

「まあまあいいじゃない。 カワイイわよ♪」

 

「あらあら」

 

ルーテシアはクレフに抱きつき、メガーヌさんが微笑ましそうに2人を眺める。 その時、メイフォンに反応があり、後ろから複数人の追っ手が近付いていた。

 

「ご歓談中悪いが……お客様が来たようだぞ」

 

「……ですよねー」

 

「気配は5つ……シグナム副隊長率いるライトニング分隊とヴィータか」

 

上空から追ってきたのはシグナムとヴィータ、フリードに乗るエリオとキャロだった。 まあ、予想通りだな……

 

「ふむ……騎士達に追われる羽目になるとは、おかしな事もあるのだな」

 

「それもそうね。 キャロとエリオが真剣な表情で追ってくる……なんか複雑〜」

 

「キャロ……」

 

クレフは後ろを向いて、どこか悲しそうな目をしてキャロを見つめ……元の姿勢に戻りながら静かに目を伏せる。

 

「シグナム達には悪いけど、振り切らせてもらう。 ヴァイスはそのまま走ってくれ、ルーテシア、迎撃するぞ」

 

「はーい」

 

車の天井を開けてルーテシアと共に屋根に登り……シグナム達と相対す。

 

『そこの車、今すぐ速度を落として路肩に停車しろ』

 

「ーーだ、そうだが?」

 

「……いくらシグナム姐さんの頼みでも、それは聞けねぇな!」

 

リンスはそう隣のヴァイスに聞くが……ヴァイスは停止の呼び掛けを振り切り、さらにスピードを上げた。 それに対してシグナム達は停止の意思なしと判断し、デバイスを構える。 その前に、俺は彼女達に呼びかける。

 

「機動六課、被害を出したくなかったらこれ以上は関わるな。 この事件、既にお前達が手に負える範疇を超えている」

 

「そんな言い分、聞くと思うか!?」

 

「……だよなぁ」

 

っていうか、この言い方もう犯罪者じゃん……俺ってこんな感じだったけなぁ……

 

「はぁい♪ キャロにエリオ、こっちの私は元気してる?」

 

「ル、ルーテシアちゃん……」

 

「本当に……別人みたいだ」

 

「うーん、本人と言えば本人だけど……別人と言えば別人だからねえ。 ま、でも……手加減はしないよ」

 

『!』

 

2人はなにを思ったのか、過敏にルーテシアの言動に反応する。 と、そこでふと、ルーテシアはキャロの左腕を見た。

 

「そういえばキャロ、あなたガントレットはどうしたのよ?」

 

「? ガントレット?」

 

「これよこれ」

 

ルーテシアはキャロに見えるように左手を上げ、装着されてある紫色のガントレットを見せた。

 

「どうやら知らないようね。 ねえレンヤさん、シグナムとヴィータも貰っていい? なんか今なら勝てそうな気がする」

 

《Gauntlet Activate》

 

ガントレットを起動しながら、ルーテシアは不敵な笑みを浮かべてお願いした。 ……確かに、勝てるだろうな、多分。

 

「好きにしろ。 車の方は俺が守っておくから、全力で行ってこい。 油断はするなよ」

 

「了解! 行くよ、ガリュー!」

 

(コクン)

 

ルーテシアは気合を入れ、肩に乗っていたガリューがそれに応えるように頷く。 キャロたエリオはあの小さな物体がガリューとは思わず、驚きを露わにしている。 そしてルーテシアはゲートカードを屋根にセットし……

 

「爆丸、シュート!」

 

ガリューは丸まってルーテシアの手の中に飛び込み、ルーテシアは大きく右腕を振りかぶると……上に向かって投げた。

 

「ポップアウト! ダークオン・ヴォイド・ガリュー!!」

 

そして巨大なガリューが現れ、やはり初見の彼らは突然現れたガリューを驚愕しながら警戒する。

 

「な、なんだありゃ!?」

 

「かなり大きいけど……間違いなくあれはガリュー!」

 

「ーーいつまでも付いて来られたら敵わないからね。 一気に決めるよ!」

 

《Ability Card、Set》

 

ルーテシアはガントレットにカードを差し入れ、ガントレットを掲げる。

 

「アビリティー発動! ナイトカーテン!」

 

アビリティーが発動し、ガリューの首に巻いてあるマフラーが闇色に光ると独りでに動き出し……高速で射出されて縦横無尽にシグナム達の周囲を駆け巡った。

 

「なに!?」

 

「これは……」

 

「ガリュー!」

 

(グッ!)

 

ガリューはマフラーを勢いよく引っ張りって巻きとると……一瞬でシグナム達を捕縛し……

 

「アビリティー発動! レムヒュプノス!」

 

マフラーを伝い闇がシグナム達を覆い……力無く倒れてしまった。 ガリューは優しく放ると、ルーテシアはパンパンと手を叩いた。

 

「ほい、一丁上がりっと」

 

「流石だな」

 

「私の知る皆だったら余裕で避けられていたけどね」

 

確かに……そう思いながら車は星見の塔に統治。 そこから転移し、太陽の砦に帰投した。

 

「ーーで、こうなったか……」

 

俺達は再び会議室で話し合っていた。 そして今頭を抱えているのは……ニュースで放送されている内容だった。

 

『現在、突如としてミッドチルダでは正体不明の危険生物が出現しています。 その原因の関係者として、管理局はこの事件に関連のある彼らを指名手配しました』

 

次に、司会者の隣に映し出されたのは……昨日と今日、外に出た俺達の姿だった。 それを見た俺は……ガックシと項垂れた。

 

「……とうとう指名手配されちまったな」

 

「あ、あはは……ちょっと、笑えないかも……」

 

「仕方なし、とはいえ。 いい気分ではないですね」

 

「スカリエッティ達とかもこんな気持ちだったのかなあ?」

 

「……言うな。 考えたくもない」

 

ユエの言う通り、仕方ないが。 心に何かこう……来るものがある。 スカリエッティなら狂ったように笑って受け流すだろうが……俺には無理だった。

 

「日傘の持ち主であるグリムグリードの手がかりはなし。 長期戦になりそうね」

 

「元の世界との連絡もつかないし……第2の拠点として、月の僧院にも行った方がいいかもしれないね」

 

「うえ、あの趣味の悪い場所で寝泊まりしたくないよ〜」

 

確証はないが、血が流れた場所で寝るのは……精神が疑われるな。 だがまあ、最悪の事態として候補には入れないと。

 

「進展が出るまで、こんな事を続けるしかないようだね」

 

「……なんだか悪い事ばかりで気が参りそうだぞ」

 

「良いことがあるとすればここの天然温泉くらいね」

 

「女子的にはそれも良いんだけどね」

 

「いや……クイントさんはもう女子って年齢じゃーーブハッ!?」

 

ヴァイスが何か言いかけた時……クイントさんが一瞬で背後に回り。 後頭部を強く殴って石のテーブルに叩きつけた。

 

「兎にも角にも、このまま討伐と逃亡を繰り返しては無為に時間を過ごすだけだ」

 

「正体は漠然と……目的、概要もロクに分かっていない。 地味に八方塞がりだな」

 

「だが、このまま続けていても機動六課が必ず出て来るだろう。 色々違うが、なのは達の本質は変わらんだろうし」

 

「闇の書事件のように、首突っ込んで来るでしょうね」

 

「ふふ、そうだな。 彼女達はそうだろう」

 

覚えがあるのか、アリサの言葉にリンスは苦笑しながら同意した。

 

「だから、皆に提案があるんだがーー」

 

俺は皆にある事を提案した。 そして、そんなこんなでグリード退治と逃走を続けて1週間後……

 

「ーーやっと見つけたで」

 

太陽の砦を取り囲むように機動六課が勢ぞろいしていた。 見つかっちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、俺達はこの世界の機動六課隊舎に連行された。 手錠付きで。 指名手配から逮捕……人生の転落ってこんな感じなのかなぁ?

 

だが、この状況は概ね予想通り。 機動六課なら太陽の砦を見つけ出してくれると思っていた。 予想より1日くらい遅かったが……

 

「それで、あんたらの目的はなんや?」

 

そして今、リーダー格の俺が個室ではやてと対面していた。 他の皆は一緒の部屋のようだ。

 

「俺達をこの世界に連れてきたグリムグリードを討伐し、元の世界に変える事」

 

「……ホンマに別の世界……並行世界から来たん?」

 

「証拠はあるだろ。 この1週間でこの世界の事情は調べた。 アルピーノ家族の事情、アリサ達の魔導師か非魔導師の違い、そして……アリシア、クイントさん、ティーダさん、ここにはいないリニスとプレシアさん。 そして、リインフォース・アインスの死去。 これだけで信用出来ないか?」

 

「……………………」

 

得た情報をそのまま言うと、はやては少し顔を伏せる。 と、リンスが死んでいる……家族をそう言われると傷つく、少しデリカシーに欠けていたな。

 

「コホン、俺達のここ1週間の活動は必要以上に並行世界に干渉しないためだ。 まあ、結果的にこうなったんだけど」

 

机の下から両腕を上げ、手錠を見せる。

 

「それにしても、太陽の砦に行き着くまで随分時間がかかったな」

 

「え……結構早かったと思うんやけど……」

 

「1週間の間に出現したグリードは数えて21体。 逃走経路は毎度違うけど付近に星見の塔と月の僧院があった。 そこから予測すれば太陽の砦に陣を構えていることは容易に予想できたはずだが?」

 

「うぐ……」

 

「おおよそ聖王教会かヴェロッサ辺りに情報提供してもらったんだろ。 まあ結果的に良しとしよう。 前述の通り、俺達は太陽の砦に潜伏している情報を意図的に撒いていた。 それはどうしてか……分かるか?」

 

俺の質問にはやては少しの間考え込み……口を開いた。

 

「ええっと……管理局に協力を仰ぐため?」

 

「3割正解だな。 正確には機動六課にだ。 そして実力を図るためにも、な」

 

「実力やて?」

 

「全てグリードを相手にして、この世界の管理局は手も足も出てない。 そして俺達の介入によって解決している。 グリードの存在、全貌も掴めてないんだろ?」

 

事実と驚愕が混じったような顔をし、はやては何も答えられなかった。 俺は軽くグリードについて説明した。

 

「そんなのが君達の世界に……」

 

「そう、世界の裏側で跋扈している。 そして、それらの存在から市民を守るのが……異界対策課だ」

 

はやてに異界対策課がなんなのか聞こうとする前に、俺は用意していた記録メモリをテーブルの上に置いた。

 

「これに俺達が今まで起きた事件のデータが入っている。 これを見て、こちらとここの世界を見比べて吟味して、なのは達とよく考えてくれ。 首を突っ込むにしても、遅くはないだろ?」

 

それだけを言い残し……俺は席を立ち、シグナムに連れられて皆が待っている部屋に入った。

 

「どうだった?」

 

「当然の反応だった。 確かにこの世界のなのは達の実力は上位に行くが……それは魔導師レベルだ。 もっと身体能力がないとエルダーグリードも相手に出来ないだろう」

 

「グリードに対する経験値も足りてないしね。 このまま私達に任せてくれるといいんだけど……」

 

「無理無理。 あのなのは達よ、絶対に首を突っ込んで来るに違いないわ」

 

見た限り、戦闘能力はともかく性格にそんな違いはない……必ずと言っていいほどこの件に介入してくるだろう。

 

「あ、そうだ。 時間も余っているし皆でコレやらない?」

 

「ああ、それね。 良いわよ、ルールは分かっているわ」

 

「いざ……決闘(デュエル)!」

 

「ルーテシア、それは色々と違うから辞めろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻ーー

 

「な、何やこれ……」

 

はやてはレンヤから受け取ったメモリの中身をなのは達と一緒に見ていた。 映し出されたのは霧の魔女事件からこの世界でも起きたJS事件までの特筆して起こった事件と……D∵G教団、スカリエッティ陣営、異篇卿、魔乖術師集団などの犯罪組織の大まかな情報があった。

 

そして、それらを解決したレンヤ達の戦闘映像を見たはやては思わず驚愕の声を漏らし、なのは達は呆然としていた。

 

「ほ、砲撃を魔力刃に……」

 

「凄いけど……変なシューティングアーツ……」

 

「私の身体に刺青が……」

 

「イクシードシステム……なんて凄い力。 私より速い」

 

「あれがルーテシアちゃんが言っていたガントレットの能力……フリードが凄いことに……」

 

「キュ、キュク〜……」

 

「あ、あっちの僕はあんな凄い人と戦ったの……? しかも、キャロがすごくカッコイイ……」

 

スターズ、ライトニングは並行世界の自分を見て、驚く事しか出来なかった。

 

「ふむ、あちらのアギトの主人はバニングスか」

 

「つうかアタシがデカイ……メッチャデカイ!」

 

「おお、確かに。 メッチャ良い胸しとるなぁ」

 

「はやてちゃん、気になるけど今はそこじゃないわ」

 

「初代祝福の風……並行世界では生きているのか……」

 

「あの人が私のお姉ちゃんですかぁ……」

 

夜天の騎士はヴィータとの大きな違い、そしてリインフォース・アインスの生存に静かに驚いた。

 

「お母さん……ちょっと違うけど、ほとんど思い出の中のお母さんと一緒だ。 ねえティア、ティーダさんもーー」

 

「あれは兄さんじゃないわ!」

 

スバルがティーダの事をティアナにきくと……ティアナは乱暴に立ち上がり、声を上げて否定した。 すぐにハッとなり、バツが悪そうな顔をして座り直した。

 

「すみません……でも、兄さんはあんな豪快な人じゃないです。 一人称も僕でした……あれは、ティーダ・ランスターかもしれませんが……兄さんじゃありません……」

 

「ティアナ……」

 

「……コホン。 っていうか、俺もいるのかよ。 ドッペルゲンガーを見るようだ」

 

空気を変えるように咳払いをし、ヴァイスは他人を見るようにディスプレイに映る自分を見る。

 

「どうやらあっちの俺が持っている弓矢、なのはさんのお姉さんが持っていた小太刀と同じのようだな」

 

「聞いた話やとあれはソウルデヴァイス。 適格者と呼ばれる人物の魂が具現化した武器らしいんよ。 グリードと戦う時において重要な力になるそうや」

 

「魂が……武器に……」

 

単純に言えばレアスキルに該当する能力。 特にヴァイスは本当に羨ましいとボヤき、続けてシャーリーが説明を始めた。

 

「そして、こっちの世界でヴィヴィオを保護した時期、あちらの世界はイット君を保護して……さらにヴィヴィオは2年以上も前に黒の競売会(シュバルツ・オークション)という違法のオークションで偶然に保護……だからあちらのヴィヴィオはすごく明るいんだね」

 

「む……私達のヴィヴィオも明るいよ」

 

「あ、ごめんなさい……」

 

その説明になのはは少し憤慨し、シャーリは慌てて頭を下げた。

 

「そして犯罪組織です。 スカリエッティ陣営は怪異を使用している以外こちらと変わりありませんが……教団事件を引き起こしたD∵G教団の異端性、魔乖術師、異篇卿と呼ばれる集団の異常な力……もしこの世界に彼らが現れていたらと思うと……」

 

「……勝てる気がまるで無いな……」

 

シグナムの呟きに、全員が同意するしかなかった。 次にディスプレイに映し出されたのは……各地で起きたJS事件での戦闘映像。 特にレンヤとアルマデスの壮絶な戦いに、なのは達はポカーンと口を開けるしかなかった。

 

戦闘狂のシグナムですら、戦う前から勝てないと思うしかなかった。

 

「しかも、1番驚いたのは彼の素性ですよ。 まさかかの聖王の末裔だったなんて」

 

「シスターカリムとシャッハに伝えた方がいいのかな……」

 

「あっちの世界では聖王家は途絶えていないようだな。 それにあいつの血液でヴィヴィオが……っと、これは言っちゃいけねえな」

 

「ううん、気にしないで」

 

「……これらの情報は正しいんやろう。 結果だけを言えば、今ミッドチルダで起こっているグリードは彼らに任せるしかない、というわけやな」

 

「歯がゆいですが、それしかないかと。 あのソーマという少年、一太刀交えましたが相当な実力の持ち主……神崎達もそれ以上の実力と思われます」

 

この中で実力を図る目があるシグナムがそう言い……なのは達は意気消沈してしまう。 自分達の世界なのに、彼らに任せるしかない事が歯がゆがった。

 

と、そこで考え込んでいたシグナムが、はやてに向かって頭を下げた。

 

「主、お願いしたい事があります」

 

「ん? なんやシグナム」

 

「彼らの誰かと……剣をまじ合わせたいです」

 

先ほど言っていた事を考えると、シグナムの行動を全員が驚くしかなかった。

 

「おいおい、勝てないんじゃなかったのかよ?」

 

「これは勝利を求めるための戦いではない。 剣を交え、彼らの意志を感じるための戦いだ。 記録だけでは分からない……彼らの誰かを守ろうとする意志を……」

 

「な、なるほど……」

 

「……それはええ考えや。 これ以上唸っても何も答えは出んし、会議はこれでお終い。 早速聞きに行ってみるとしよか」

 

そうと決まり、なのはとシャーリーは先に訓練場に向かい、それにフェイト達がついて行き。 はやてとシグナムはレンヤ達のいる部屋に向かった。

 

「おおーい、今ええかーー」

 

「そこだ! 魔法発動、ヴァニッシュ! 自分のマスターがパラディンのため、相手マスターに7のダメージ!」

 

「うわっ!? やられた!」

 

「グリオンを召喚! 飛行を有していて、二回の行動が可能! マスターに連続速攻攻撃!」

 

「ちょ、ちょっとは手加減しなさいよ!」

 

「シーフのスキル、1枚ドロー! いいカードが来たぁ!」

 

「くっ……このターンを耐えきれば……!」

 

はやて達がレンヤ達を入れていた部屋に入ると……レンヤ達は楽しそうに、カードを片手に盛り上がっていた。

 

「な、なにやっとるんや……」

 

「あ、はやて! やっと会議が終わったの? かなり時間がかかってたね」

 

「いや、だから何をやっていて……」

 

「ああ、これ? ヴァンテージ・マスターズって言って、ここ最近ミッドチルダで普及しているカードゲームだよ」

 

レンヤ達は待っている間暇だったので、ある企業からからもらった人数分のデッキを使い、時間を潰していた。

 

「……自分ら捕まっている自覚あるん?」

 

「あんまり無いわね」

 

「緊張感無いのが私達だし」

 

「緊張感がないにもほどがあるよ!」

 

「はあ……まあええ。 ちょっと提案があるんやけどーー」

 

はやてはレンヤ達に微力ながらの協力と、相手を知るためシグナムとの模擬戦を提案した。

 

「なるほど……いい考えだ。 口より剣で語った方が分かりやすい」

 

「それで誰が戦うの? 私でも構わないけど」

 

カードを片付けてながらアリシアは全員に聞く。 するとアリサが手を上げた。

 

「私が行くわ。 この世界の私は非魔導師で地球にいるそうだし……それに、この世界の強さの基準を確認してみたいし」

 

「決まりだな」

 

こうして、アリサとシグナムの互いを理解するための模擬戦が決定した。

 

 



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交流模擬戦

 

同日ーー

 

レンヤ達並行世界組とこの世界のなのは達が機動六課の訓練場の隅にいる中、中心にはバリアジャケットに身を包んだアリサとシグナムが対面していた。

 

「さて、この勝負どうなるんやろうな?」

 

「アリサちゃんの魔力量はオーバーS、映像を見るからにかなり強い筈だよ」

 

「でも、シグナムも負けてないよ」

 

こちらのなのは達は簡単なプロフィールを見てシグナムとアリサを見て推測を立てる。

 

「レンヤ君、どう見る?」

 

「シグナムには悪いが負けは免れないだろう。 実力の差もあるが、アリサにはシグナムの手の内が見えている。 それに対してシグナムは未知の相手と戦う……実力云々以前の問題だろう」

 

「だよねえ。 見た感じ、あのシグナムは銃を持ってないし……」

 

「え……そっちのシグナムって、銃を使っているの?」

 

レンヤ達の会話に聞き耳を立てていたのか、シャマルは思わず聞き返した。

 

「うん。 チョー強いよ。 レンヤさんといい勝負」

 

「近中距離では無類の強さを誇ります。 僕も10本に1本取れるかどうか……」

 

「シグナムをアッサリ退けたお前でもそう言うのか……そっちのシグナムはどんだけ強えんだよ」

 

ソーマの謙虚な言葉に、ヴィータは少し戦慄する。

 

「バニングス。 お前は炎熱の魔力変換資質を持っているそうだな?」

 

「ええ、アギトの主人でもあるわ。 こっちではあなたが主人だそうね?」

 

「ああ。 先の事件で騎士ゼストから託された」

 

「私の方は研究施設から助け出して以来、かれこれ10年の付き合いになるわ。 そして、こっちの世界のアギトの立ち位置の代わりっぽいのが……あそこにいるコルルって子。 なんでもアギトの兄みたいよ」

 

「なるほど……」

 

世界の差異を改めて感じながら、レンヤが通信を開いて彼女らに呼びかけた。

 

『2人とも、準備はいいか?』

 

「問題ない」

 

「ええ、いつでも始めていいわよ」

 

応答しながらシグナムは鞘からレヴァンティンを抜き、アリサは腰に手を回してフレイムアイズを抜いた。

 

『立ち会いは俺が務める。 双方、全力を尽くすように』

 

レンヤの言葉に2人は無言で頷いた。 そして両者、剣を構え……

 

『ーー始め!』

 

「はあああああっ!!」

 

「やあああああっ!!」

 

ほぼ同時に飛び出し、剣を衝突させ……火花ではなくお互いの炎を撒き散らしながら鍔迫り合いになる。

 

「ふん!」

 

「っと……」

 

シグナムがフレイムアイズを弾き、続けて横薙ぎに振るう。 それをアリサは空中を蹴ってバク転して避け、横に向かって飛翔。 シグナムも飛行して追いかけ、移動しながら剣をまじ合わせる。

 

「……アリサちゃん、飛行魔法で飛んでないね」

 

「うん。 どことなくフワフワしている感じがする」

 

「よく分かったね。 アリサは頭が硬いから非現実的な飛行魔法が使えなくてね。 それで重力魔法を応用して飛んでいるんだ」

 

アリシアが解説すると、それを聞いたティアナが顎に手を置いて考え込む。

 

「重力って……それだったらもっとカクカクした軌道になるんじゃないんですか?」

 

「そのまま使ったら、ね。 応用したっていったでしょ? アリサは重力魔法を下に力が働く重力と上に力が働く反重力に分け、それをリニアモーターに置き換えて飛んでいるんだ」

 

「……つまり重力をN極に、反重力をS極に置き換えているだね」

 

「さすがなのは、飲み込みが早いね」

 

「だがそれだけではあそこまで速く、滑らかにはならない。 アリサはそれに加えて2つ重力を身に纏い、速度制御を出力ではなく身に纏う重力の密度によって制御している」

 

「密度?」

 

「見てみろ」

 

アリサは上昇し、そこから逆さになって足を揃えて空中を踏みしめ……蹴り上げてシグナムに向かって急降下、奇襲を仕掛けた。

 

「な、何や今の!?」

 

「ああやって身に纏う重力の濃度を足元に集中する事で、地面を蹴るように方向転換と加速が出来る」

 

「アリサさん曰く、空を飛ぶと言うより空を泳ぐ気分なんだって」

 

「へえ……」

 

キャロはルーテシアの言葉に興味深そうに声を漏らし、視線を模擬戦の方に戻す。

 

「やるな。 しかもまだ余力があると見える」

 

「そうね。 ちょっと悪いけど、手の内は読めているし……こっちにアドバンテージがあるだけよ!」

 

アリサは手数重視の小技の剣を振るい、シグナムを攻めていく。 確かにシグナムは歴戦の戦士であるが、恐らくアリサ……延いてはレンヤ達はそれ以上の戦場と死線を潜り抜けた戦士。 実力はややアリサの方に軍配が上がっている。

 

「ーーレヴァンティン!」

 

《エクスプロージョン》

 

「遅い!」

 

《イグニッション》

 

流れを変えようとシグナムはレヴァンティンのカートリッジを炸裂させて魔力を上げようとしたが……一瞬遅れてアリサが柄のスロットルをぶん回し、魔力放出力を上げて、シグナムの魔力が上げられる前に剣を大きく弾いた。

 

「なっ!?」

 

驚愕しながら後退し、遅れてレヴァンティンの刀身に炎が纏われる。

 

「カートリッジを使うなら距離を置いて使った方がいいわよ。 それじゃあ高速近接戦においては致命的に遅い」

 

「その機構は、一体……」

 

シグナムはフレイムアイズの柄を見て、思わず声が出る。 観戦していたエリオも気になり、オズオズとレンヤに質問する。

 

「あの、レンヤさん。 柄にあるバイクのハンドルのようなものは何ですか?」

 

「さっき見た通り、カートリッジを使う時に僅かながら時間がかかる。 それを解消し、魔力の上昇とそれを物理機動力に変換できるシステムが……イクシードシステムだ」

 

「単純に考えれば、バイクのスロットルを捻れば速度が上がる。 それをデバイスに置き換えれば魔力が上がる……シンプルにして分かりやすいでしょ?」

 

「ふむふむ、なるほどなるほど……」

 

興味深いのか、シャーリーは納得しながらアリシアの言葉をメモる。

 

「そういえば……レンヤ君やすずかちゃんのデバイスに組み込まれてあったあの歯車は?」

 

「あれはギアーズシステム。 カートリッジは使用後、膨大な魔力上昇が得られる……が、それは短い時間の間だけだ。 俺とすずかが使用しているシステムはその真逆の思想……ギアを個別に駆動させる事で長時間、緩やかに安定した魔力上昇が得られる」

 

「カートリッジのように爆発的な出力は得られないけど、長期戦においては群を抜いているよ」

 

「す、すごい発想です。 勉強になります……!」

 

シャーリーはレンヤとすずかの説明を一語一句違わずにメモを取る。 と、そこで戦況が動いた。

 

シグナムはシュランゲフォルムのレヴァンティンで周囲を薙ぎ払った。 アリサは迫り来る蛇腹剣を紙一重で避け、刀身の一部をスライドさせて砲身を出し、フレイムアイズをカノンフォルムの変形……いくつもの燃え盛る砲弾を撃った。

 

「くっ……!」

 

蛇腹剣では砲弾を消すことは出来ない事を悟り、シグナムは剣に戻そうとすると……アリサが高速で一気に距離を詰めた。

 

「させるかーー」

 

「はっ」

 

《フルドライブ》

 

砲身から炎が吹き出し、刀身にまとわりついて剣を形作る。 アリサがシグナムの眼前に出ると……シグナムは牽制で空いた手で鞘で防御するが、それを読んでいたアリサは防御の鞘を足蹴にして上に飛び上がった。

 

「なっ!?」

 

「あなたは咄嗟の防御の際に鞘を使う! だからこちらのシグナムは左手に銃やもう一振りの剣を持つようになったのよ!」

 

幾度となく模擬戦を重ねていくうちに日々進歩していくレンヤたちに対し、シグナム達は鍛錬を欠かさずとも若い者たちの成長に遅れをとっていた。

 

それが悪いとは言わないが、そんな自分を変え自分の主人たるはやてを守るためにシグナムは新しい武器を、ヴィータとシャマルは新しい戦い方や技を作ったのだ。

 

「バーニング……ソーーードッ!!」

 

そして炎の剣を掲げ、一気に振り下ろした。 シグナムはプロテクションと鞘で防ぐが……スロットルを回し、一気に加速して防御ごと斬り裂いた。

 

「そこまで! 勝者、アリサ!」

 

勝敗が決し、レンヤが声を上げて模擬戦を終了させた。

 

「いい模擬戦だったわ」

 

「ああ。 とても有意義な時間だった。 もっともあちらの私は銃を使っていたようだが……剣にしても、劣っているようだな」

 

「気にする事はないわ、私達の世界を見たはずよ。 強くならなきゃ……今頃死んでいたわね」

 

アリサとシグナムが喋っていると、レンヤが通信してきた。

 

『2人とも、戻って来てくれ。 はやてが後二回やるみたいだから』

 

「了解よ」

 

「では行くとしよう」

 

アリサ達はレンヤ達が観戦しているビルに向かい、次の対戦を決めていた。

 

「次は誰と誰が模擬戦を行う?」

 

「そうだな……実力というより、戦い方を見せるために。 最初はルーテシア、次に美由希姉さんかヴァイスだな」

 

「爆丸とソウルデヴァイスについてだね、それでいいんじゃないかな」

 

「じゃあお相手は、やっぱりキャロにお願いしようかな」

 

「ええっ!?」

 

「それじゃあーー」

 

「待ってください」

 

誰がキャロの手を引いて訓練場に向かおうとするルーテシアを鶴の一声で止めた。 止めたのは……クレフだった。

 

「キャロとのお相手、私に任せてもらえませんか?」

 

「クレフ?」

 

「お願いします」

 

「ピューイ」

 

クローネも同意するように鳴き、クレフは真っ直ぐレンヤを見つめる。

 

「……分かった、ならお願するよ。 すずか」

 

「うん。 はいククちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

「ピュイ♪」

 

クレフは緑のガントレットを受け取りながらレンヤとすずかにお礼を言った。 そしてクレフとキャロは訓練場に向かい……キャロはケリュケイオンを構えてフリードを本来の姿に戻し。 クレフはガントレットを腕につけた。

 

「ねえ、あのクレフって子……キャロとはどんな関係なの?」

 

クレフの行動が気になったのか、スバルが隣にいたサーシャに聞いてきた。

 

「えとえと……クレフちゃんはキャロちゃんの親友です」

 

「え……!?」

 

「と言っても、前までこの世界のルーテシアの立ち位置だったんですけどね。 僕達の情報を見たのなら分かるよね……D∵G教団について」

 

ソーマがそう言うと、なのは達から息を飲む音が聞こえてした。

 

「クレフの出身地はキャロと同じ、第6管理世界のアルザス。 数年前に誘拐されて……この前キャロの手によって助け出されて今に至るってわけだ」

 

「そんな事が……」

 

「……………………」

 

「……始まるよ」

 

風が吹いている中、クレフとキャロは対面する。 キャロはフリードの背に乗り、クレフはビルの上に佇んでいた。

 

「お、お願いします……!」

 

「……お願いします」

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン」

 

礼とともにクレフはガントレットを起動。 画面から緑色の光が放射され、クローネが球となる。

 

「は、隼が球に!?」

 

「あの装置……ルーテシアもつけてましたけど、あれは一体……?」

 

「百聞は一見にしかずだな。 見ていれば分かる」

 

「ゲートカード、セット。 お願い、クローネ。 爆丸……シュート……!」

 

シャーリーがガントレットを観察する中、クレフはカードを地面に投げ、懇願するようにクローネを掴み……投げた。

 

「ポップアウト、ゼフィロス・ミラージュ・ジーククローネ」

 

「キルルルル!!」

 

緑色の光を放ちながら現れたのは三対六翼の緑色の隼だった。

 

「これは……!」

 

「ガリューと同じ……もしかして彼女も?」

 

「ええ、あれは使い魔や召喚獣といったパートナーに仮初めの姿を与えて進化させるシステム……爆丸システム」

 

「主人と使い魔を線で繋ぐとしたら、爆丸システムはその間に入って魔力供給を補助、支援する働きがある」

 

「えっと……とにかく凄いって事ですね!」

 

頭を捻っていてよく分かっていないようだが、スバルは凄いの一言でまとめた。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動、フェザーバレット」

 

クローネは六翼を羽ばたかせ無数の羽根の弾丸を放った。

 

「プロテクション!」

 

「グオオオオッ!!」

 

正面にプロテクションに展開して羽根の弾丸を防ぎ、間髪いれずフリードが火球を放つ。 クレフはクローネに飛び乗り、空に飛び上がって火球を避ける。

 

「フリード!」

 

「グルル!」

 

フリードも飛び上がってクローネを追いかけ、訓練場の上空で飛行戦が繰り広げられる。

 

「ほおー……凄いねえ」

 

「機動力はクローネの方に部があるみたいだね」

 

「でも、フリードも負けてません!」

 

「……ククちゃん、大丈夫そうだね」

 

「ああ。 今は複雑な心境だと思うが、キャロはククのカウンセリングに熱心だったからな」

 

上を見上げながらレンヤは呟く。 2人のライダーは何度も衝突し、魔力を散らす。 ふとクレフは攻撃の手を止め、並んで飛行する。

 

「……やっぱり」

 

「?」

 

「やっぱり……あなたは私の知るキャロ・ル・ルシエではない。 ですから、改めて名乗らせてもらいます」

 

クレフはクローネの背に上で立ち上がり、胸に手を当て……

 

「私はクレフ。 クレフ・クロニクル。 コードネームは(シルフ)。 そしてこの子は……ゼフィロス・ミラージュ・ジーククローネ」

 

「キルルル……」

 

「これより模擬戦を終結させます」

 

「え……!?」

 

もう無くなっているとはいえ、自分のコードネームを名乗った。 その行動にキャロは驚くが、クレフは勝利宣言を言いながらガントレットにカードを入れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動、デルタストリーム」

 

アビリティーが発動し、クローネは翼を広げ、回転を始めた。 すると気流が乱れ、フリードの飛行を妨害する。

 

「うっ……フ、フリード!」

 

「ダブルアビリティー発動、ゾーンヴェルデ。 プラス……ゴーストストーム」

 

緑色の魔力を身に纏い、身体を強化して高速移動を可能にし。 さらに魔力を纏って威力を相乗させ、高速でフリードに飛来する。

 

「フリード!」

 

手綱を引き、フリードは上昇する。 背後からは高速でクローネが接近し、今にも激突しそうな勢いだ。

 

「プロテクーー」

 

「フェザーインパクト」

 

激突する瞬間キャロはプロテクションを張ったが……クローネはそのまま横を通過する。 しかし、クローネの背に乗っていたクレフがすれ違い間際に横から羽根を飛ばし……衝撃波を放った。

 

「きゃあああああ!」

 

衝撃でフリードは体勢を崩し落下し、キャロは背中から落馬……もとい落竜してしまった。 だが、すぐにクレフがUターンして受け止め、クローネは足でフリードの背を掴んだ。

 

「ーーそこまで! 勝者、クレフ!」

 

レンヤが声を上げて模擬戦を止め、模擬戦の

決着を付いた。 クレフはそれを聞き、キャロを後ろに乗せてレンヤ達の元に飛んだ。

 

「……あの!」

 

「?」

 

その時、キャロがクレフに声をかける。

 

「たしかに、私はあなたの知るキャロじゃありません。 でも……だからこそ、私とお友達になってもらいませんか!」

 

「!」

 

クレフは目の前に差し出された手を凝視する。 そして視線を自分の手に移して……手を背中に回してゆっくりと握手をした。

 

「はい……私でよければ」

 

「うん! よろしくね!」

 

その光景を、レンヤ達は嬉しそうに見ていた。

 

「……よかったですね」

 

「うん。 僕達じゃどうしようもなかったから……あの子が前に進めて本当に良かったよ」

 

「これで本当に、教団事件が解決したな」

 

ツァリ達は柔らかい表情を見せるクレフを見て、ホッと一息ついた。

 

「使い魔に仮の姿を与えて力を上げ、魔力伝導を飛躍的に高める……凄いシステムです。 実力も技術もこちらを遥かに上回っています」

 

「悔しいが、認めるしかねえな……」

 

「まあでも、まだまだ真骨頂じゃないんだけどね」

 

その呟きにシャーリーが驚きの視線を向ける中、レンヤは皆の方を向いた。

 

「さて、残り一戦は出来そうだが……こっちは美由希姉さんが行くとして、そっちは誰が行く?」

 

「あ、はいはい! 私が行きます!」

 

「スバル!?」

 

ウズウズしていたスバルが飛び上がる勢いで手を上げる。

 

「ならそれで決まりだね。 スバル、美由希さんは基本陸戦だから、なるべくウィングロードを使わないでね」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、行こっか」

 

すずかが軽い注意事項を言うと、美由希はスバルの手を引いてビルから降りて行った。 数分で2人は訓練場の真ん中に到着した。

 

「なあ、レンヤ君。 レンヤ君はなんで美由希さんの事を姉さんって呼ぶんや?」

 

「簡単に言えば、俺は高町家の養子だからさ。 両親に捨てられ、拾ってくれて、今まで親身になって育ててくれた……血の繋がらない大切な両親だ」

 

「ってことは、なのはと1つ屋根の下で……?」

 

「にゃ!? わ、わわわ、私そんな事……!」

 

「わかっているから動揺しない」

 

慌てふためくなのはをアリサは頭を軽く叩いて止める。 そして、陸上で美由希とスバルが対面する。

 

「……ソウルデヴァイス起動。 斬り開けーーアストラル・ソウル!」

 

美由希はメイフォンを操作し、右手に小太刀型のソウルデヴァイスを展開して構える。

 

「それが……」

 

「そ。 これが私のソウルデヴァイス。 私は魔導師じゃないからバリアジャケットは展開できないけど、Dなんとかのクラッシュどうたらを使ってるらしいから……怪我を気にせずおいで」

 

「はい……!

 

スバルもマッハキャリバーを起動してバリアジャケットを纏い、拳を鳴らした後構え……

 

『ーー始め!』

 

「うおおおおっ!!」

 

レンヤの開始の合図と同時にローラーブーツから火花を散らして飛び出した。

 

「ふっ……」

 

迫ってきた拳を美由希は小太刀で横に構えて一瞬受け止め、受け流してスバルの体勢を崩し……リボルバーナックルを斬り上げて弾き返した。

 

「っ!」

 

「遅い!」

 

すぐさまスバルは体勢を整えようとするが、それよりも速く美由希が背後を取り……

 

飛瀑衝(ひばくしょう)!」

 

逆手で小太刀を地面に振り下ろし、間欠泉のように強烈な水飛沫を上げてスバルを打ち上げた。

 

「うわあああ!?」

 

《ウィングロード》

 

マッハキャリバーがウィングロードを展開し、ローラーブーツで進むことで体勢を整えた。

 

「っとと!? 助かったよ、相棒!」

 

スバルはマッハキャリバーに礼を言い、下を見ると……どこにも美由希の姿はなかった。

 

「って、いない?」

 

《右手、ビルの中です》

 

「ーー渦流刃(かりゅうじん)!」

 

バッと右側に振り向くと……美由希が小太刀を立てながら水を放出し、高速で錐揉み回転しながら突撃してきた。 さながら水の力で回転するドリルだ。

 

「うわっ!?」

 

身をそらせて避けるも、僅かに触れてしまい。 リボルバーナックルに無数の傷を付けた。 そして美由希は制動をかけながら水球を周囲に浮遊させ、その上に立った。

 

「なかなかやるねえ」

 

「な、なにこれ……水球が浮いている?」

 

「私のソウルデヴァイスの属性は霊。 応用でこんな事も出来るんだよねえ」

 

その光景になのは達も驚き、フェイトはオズオズとアリシアに声をかけた。

 

「あの……アリシア……さん……」

 

「……フェイトに他人行儀にされるとかなりむず痒いんだけど……美由希が言った属性についてだね」

 

アリシアは複雑そうな顔をして頭をかいて、軽く咳払いをしてから説明を始めた。

 

「ソウルデヴァイスに限らず異界、グリードにはある法則性があるの。 焔、風、鋼、霊、そして影で構成される5属性……美由希は水や氷に関する霊属性だよ」

 

「ちなみにヴァイスは風属性、速度ではフェイトといい勝負するだろうな」

 

「そ、それは買い被り過ぎっすよ。 美由希のようにあんな事はできないし……まだまだですよ」

 

ティーダは賞賛するが、ヴァイスは身に余るように照れながら手を振った。

 

美由希は微笑むと、足から水球に沈み、自分から水球の中に入った。 スバルはその行動を不審に思えが……次の瞬間、先程より速度が上がった渦流刃で水球から射出された。

 

「くっ……」

 

ウィングロードで駆け抜け、美由希から逃れる。 スバルはこの場所から出ようとする。 だが、寸前のところで美由希に先回りされ道を塞がれてしまい……スバルは水球の檻に囚われてしまった。

 

「水球から水球に移動してスバルさんを追い込んでいる……」

 

「あんなに回って大丈夫なのかしら?」

 

「美由希さんの三排気管は達者だからね。 昔から遊園地のコーヒーカップを全力で回していたし」

 

「……そうだったね……」

 

すずかの言葉に、妹であるなのはガックシと項垂れながら同意した。 世界は違えど、共通点はあるのだった。

 

スバルは美由希を捉え、ラッシュをかける。 だが美由希はスバルの拳を左手で受け流し、隙を狙って蹴りを放ち押し返した。

 

「うぐっ……つ、強い……」

 

「なかなかやるねえ……でもまだまだこれからーーって、お?」

 

美由希は立ち上がると、左手を見下ろす。 そして左手を振ると顔をしかめる。

 

「左手が超痛い、なんで?」

 

確かに左手で防いだが、美由希は打撲もしてないのに痛みを感じる事を不審に思っていた。

 

「……クラッシュエミュレートが発動してるわね。 誰も説明しなかったの?」

 

「し、知っていると思って……」

 

「今からでも遅くはないから切っておく?」

 

アリシアにそう言われてレンヤは美由希を見る。 美由希は嬉々としてあいも変わらずスバルと戦っている。

 

「大丈夫だろ」

 

「ーー澪弧斬(みおこざん)!」

 

「うおおおおっ!!」

 

回転しながら移動し、水の斬撃を放つ。 それをスバルは手をかざしてプロテクションを張り、強引に突き進む。

 

2人は接触すると、お互いにラッシュをかけて打ち合う。 美由希は流れるように小太刀を振るい。 スバルはリボルバーナックルで小太刀を受けつつ、足技をかける。 そして……美由希が仕掛けた。

 

「これで決める!」

 

バックステップでスバルから距離を取り、居合いの構えを取り……

 

荒海(あらがみ)……大蛟(みずち)!!」

 

巨大な水の斬撃が放たれ、枝分かれして無数の斬撃がスバルに向かって飛来する。 スバルはウィングロードを駆け抜けてそれをかいくぐり……拳を握るが……

 

「なっ!?」

 

目の前に美由希はいなく、振られた拳は空を切った。

 

「ーーうわっ!?」

 

「はい、終わりっと」

 

そして、美由希はスバルの背後におり。 足払いをかけてスバルを転倒させ、眼前に小太刀を突き付けた。

 

「決め技を囮に使いますか……?」

 

「決着は付いてたと思うけど?」

 

『そこまで……て言わなくてもいいか』

 

『2人とも、戻って来て』

 

なのはが通信で呼びかけ、2人はレンヤ達の元に戻った。

 

「結果はそちらが全勝……クレフちゃんは全力だと思うけど、アリサちゃんとお姉ちゃんはまだ余力があるね」

 

「何でそない強いんや?」

 

「グリードと戦って、人外と戦い続けたからかな?」

 

「あ、あれとですか……」

 

「あんなレベルがウジャウジャいるのかよ……よく生き残れたな」

 

「まあねえ」

 

「ホント、何度も死にかけたわよ」

 

「大変だったんだね、アリサちゃん……」

 

「色んな人に助けられたからそこまで苦じゃなかったよ。 特に学院での経験は最高だったよ♪」

 

「えっと……確か、レンヤ達は高等部を卒業したんだよね?」

 

「ああ、この世界にはないが……かの覇王が創立した由緒正しい学院、レルム魔導学院をな」

 

「私らのうら若き青春は……仕事によって儚く消えてもうたからなぁ〜……」

 

フェイトの質問にレンヤが答え、はやては遠い目をして空を見上げる。

 

「なんだ、なのは達は高等教育を受けてないんだな?」

 

「ま、まあね……」

 

「確かに管理局での仕事も大事だが、若い時に出来ることをやらないと損するぞ……って、もう遅いか」

 

「まだ遅くないわ! まだピッチピチの二十歳や!」

 

「そ、そこまで必死にならなくても……」

 

「えとえと、まだはやて隊長はお若いですよ」

 

必死になって否定するはやてに、ソーマとサーシャは困惑しながらもフォローする。

 

クゥ…………

 

その時、可愛らしい腹の音が聞こえてきた。 ただし、二箇所から。

 

「パパー、お腹空いたー」

 

「空いたー」

 

2人のヴィヴィオがお腹を抑えて親に食事をねだった。 改めてヴィヴィオ2人を見ると、レンヤ達の方のヴィヴィオがかなり明るく見える。 だがそれも比べるほど差はないが……

 

「そろそろお昼か……」

 

「ヴィヴィオ、何が食べたい?」

 

『なんでも!』

 

「あ……あはは、そう言われると逆に困るけど……」

 

2人のヴィヴィオが同時に言い、なのは本当は一体何に困っているのかはわからないが……父親、母親の2人が親バカなのは変わりなかった。

 

「ーーリヴァン、何か作れるか?」

 

「この人数だからなぁ……ちょっとばかし豪快にやるか」

 

「お! リヴァンの料理かぁ……学院の時以来だね」

 

「え、君って料理できるの?」

 

フェイトは驚いた顔をしてリヴァンを見る。 それを慣れた風に流しながら肩をすくめる。

 

「お前に君呼ばわりはこそばゆいし、それ以前に見た目で判断しただろ」

 

「それはそうだよ。 リヴァンは素朴で野蛮だから」

 

「意味わかんねー貶し方するんじゃねえよ!」

 

リヴァンとシェルティス、最早これが定番の仲の良さの表し方だ。

 

「ちなみち僕達は全員料理はできるよ。 人並みだけどね」

 

「ファリンが来るまでは料理当番は基本ローテーションだったからね」

 

「さて……アリサ、火ぃ頼めるか?」

 

「ええ」

 

すると、アリサは誰もいない場所に火を放ち。 火は大き目な円を描き、それ以上は燃え広がらなかった。 そしてリヴァンがその周りに石を置いていく。

 

「って、ここで料理するの!?」

 

「ーー食材持ってきたよ〜」

 

「おお、あんがとよ」

 

いつの間にかルーテシアとガリューによって揃えられた食材は中華がメイン。 するとリヴァンは鋼糸を出しながら食材を上に放り……豚肉を角切り、豆腐をさいの目切り、卵は卵黄を傷付けずに一瞬で鋼糸で切った。

 

こんなやり方を見たことのないなのは達が驚く中……魔力を物質化して作った簡易巨大中華鍋に食材を入れ、取っ手を足で踏みつけて振り、空いた手で塩などの調味料を鷲掴みして投げ入れ……ものの数分でこの大所帯分の料理が完成した。

 

「す、すごい……あっという間……」

 

「こんな豪快な作り方初めて見ました……」

 

「そりゃそうだろ。 さあ、ルーフェンの郷土料理の完成だ。 不味くはないと思うぞ」

 

鋼糸を使った料理など聞くことはまずない。 レンヤ達は驚くなのは達を置いた料理を皿に取り分け……気にせず、まずは麻婆豆腐を口にした。

 

「おぉ……!? リヴァン、また腕が上がったんじゃないの!?」

 

「ん〜〜♪ 辛いけど優しい辛さ……前はただ辛いだけだったけどこれなら食べられるよ!」

 

「あの時は皆でハヒハヒ言いながらご飯と一緒にかき込んだよね……」

 

「それ以降、麻婆豆腐を見た人はいないけどね」

 

レンヤ達は思い出を遠い目を見てしながら思い返し、なのは達も恐る恐る料理を口にし……驚きで目を見開いた。

 

「ホント、美味しい!」

 

「あの豪快な作り方で出来たとは思えん程の味やなあ」

 

リヴァンの料理に舌鼓をうちながら、親睦会のように和気藹々としていた。

 

 



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黄昏の童子

 

 

腹も膨れ、それなりに信頼関係を築けた所で……俺達は六課の会議室に集まっていた。

 

「さて……満腹になり、お互いに信頼関係が出来た所で本題に入ろう。 俺達は独自に調査した結果…………何も分からなかった」

 

そう言い切ると、期待していたなのは達はガクッとコケた。

 

「な、なんやそれ……」

 

「どうやらかなり深い場所に隠れているそうで、調査もツァリの探査子と私の霊感頼り……ハッキリ言えばもう疲れた」

 

「お、お疲れ様です……」

 

「というか霊感って……グリードってもしかして?」

 

「ええ、幽霊に近い存在よ。 アリシアは私達の中で最も感応能力に秀でていてね、よく助けられているわ」

 

アリサは前に出て、スクリーンに映し出されたここ1週間に現れたグリードについて説明を始めた。

 

「ここ1週間で現れたグリードは全部で20体。 抜きん出て関係あるとしたら……海蛇、鼠、馬、羊、猪、兎、それに同時に猿、犬、鳥。 そして昨日の虎に牛ね」

 

「改めて見返すと……グリードの種別がバラバラだね」

 

「猿、犬、鳥が出た時なんかアレだと思ったよね? 桃太郎」

 

「あんまり可愛げがなかったけどね……」

 

「グリードに可愛げを求めるな」

 

太郎がいない、超凶暴なお供の三体だったな……そしてルーテシアの言葉を、ティーダさんはバッサリ切り捨てる。

 

「コホン……最初が海蛇、1番新しいのは牛……しかもエルダーグリードですね」

 

「エルダーグリード?」

 

「それって、さっき言っていたグリムグリードとは違うのですか?」

 

当然、彼女達はグリードの違いがわからないか。 そう思い俺達は説明を始める。

 

「エルダーグリード、簡単に言えばグリムグリードの下位に当るグリードだよ」

 

「エルダーグリードは自身の異界でしか力を行使できない。 だけど、グリムグリードは現実世界に自身の眷族を送る事で力を広い範囲で行使できる……」

 

「脅威度はグリムグリードの方が上なんですが……」

 

「虎と牛型のエルダーグリード……今までグリムグリードだったのに、なんでいきなり……」

 

異界対策課は一応グリードのプロフェッショナル?なのだが……グリードはそれを上回るほど奇怪で歪だ。 依り代の魔導書があるわけでもなく、だからといって突然変異で現れたわけでもない……ホント、グリードの特異性にはいつも頭を悩まされるな……

 

「ーーあ……あああぁぁ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然、アリシアが絶叫しながら乱暴に立ち上がった。

 

「ど、どうしたのアリシアちゃん?」

 

「分かった! 今回の事件……じゃないけど、牛と虎、2体のエルダーグリードの関係性! (ことわり)が作用する降臨儀式だ!」

 

そのアリシアの説明に、頭の中に電撃が走ったような感じになり……点と点が結びついた。

 

「……どういう意味?」

 

「……干支で丑と寅が位置する方角の意味、わかる? あそこ、鬼門だよ?」

 

「!? まさか……!」

 

「ーー鬼とは鬼門から這い出るモノ。 鬼門に位置する丑と寅の方角……北東より形を成したもの……そして、今まで現れたグリードも、干支を基盤にすれば」

 

「……順番から海蛇は巳、そこから子、卯、午、 未、申、酉、戌、亥……そして丑と虎、確かにそうなれば繋がるね」

 

「ね、ねえ……その仮説が正しいとして、残るのは……アレだよね……?」

 

「そうだろうな。 それにもしかしたら……八岐大蛇より、な……」

 

そう呟くと、意味がわかる人は顔を少し俯かせる。 と、そこでティアナとスバルが手を上げた。

 

「あ、あの……どうして牛と虎で鬼なんですか?」

 

「話が見えないのですが……」

 

「そうか、ミッドチルダ出身は知らなくて当然か。 大雑把に鬼のイメージは赤い肌をした筋肉質な身体、手には金棒……そして、牛のツノ、虎の皮の履物。 今回は鬼に関する概念が2つを捧げる事で新たな鬼のグリムグリードを顕現させたんだ」

 

「本当はそんなの存在しない、架空の存在なんだけど……グリードを贄にするとなると……」

 

「かなりマズイね……」

 

「あのレベルのエルダーグリードを贄にするなんて……霊気だけが異様に高かったからS級が出てもおかしくない」

 

S級……この位が鬼に当てはまると、ただ本能に任せた暴れまわり。 虐殺を繰り返す存在になる……

 

「やるしかないか。 俺も一応は蒼の羅刹……目には目をってね」

 

「あら、気に入ってたの?」

 

「そんなわけあるか。 アリシア、場所は北東でいいのか?」

 

「うん。 イラはなくて普通の街だけど……すぐに向かった方がいいよ」

 

「はやて、ヘリを借りるぞ!」

 

「りょ、了解や」

 

レンヤ達は会議室を飛び出し、屋上のヘリポートに停めてあったヘリに飛び乗った。 運転はレンヤがやり、エンジンをかけてプロペラを回転させた時……なのは達が走って来た。

 

「待って! 私達もーー」

 

「4人だけだ! それ以上は容認できない」

 

「え!? もっと連れてはいけないんですか?」

 

「そんなに強い人が多いのになんで……」

 

「話を聞いてなかった? 鬼なんだよ……今まで見たグリードとは比べ物にならない。 連れて行くにしても戦闘には参加させない、避難誘導に専念して」

 

シェルティスの凄味のある説明に、なんとか彼女達は納得してもらい。 なのはとフェイト、シグナムとヴィータが同行する事になった。

 

イットとヴィヴィオ、クイントとメガーヌとティーダとリンス、クレフとクローネとコルルは六課で待機し……残りはヘリに乗って目的地に向かって飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリは十数人を乗せ、ミッドチルダ北東にある町の郊外を飛んでいた。 近付くにつれ、鬼気と言うのだろうか……身の毛のよだつような気配が強くなってきた。

 

「うう……(ブルブル)」

 

「なんて嫌な予感……」

 

なのはとフェイトも肌で感じたのか、身体を抱いて震える。

 

「どうやらグットタイミングだったようね」

 

「ああ。 そろそろ着く頃だが……」

 

「ーー! 下から異常な程の霊力が……来るよ!」

 

窓から下を見ると……そこには大きな岩場があった。 その中で1番大きな岩にヒビが走り、大岩を砕いて現れたのは……

 

ーーオオオオオオオッ!!!

 

「鬼……」

 

「マジか……」

 

「なんて威圧、気迫がここまで届いてきます」

 

「……予定通りなのは達は近隣の住民の避難誘導。 残りのフォーメーションはいつも通り、街から離しつつ迎撃に当たる!」

 

『了解!』

 

ヘリの操縦をオートパイロットにし、なのは達を残して俺達は降下した。 そこで改めて鬼の全貌を把握する。 黒々した肌に頭から生えている鋭い一角の角、全長は3メートルを超え手には身の丈を超える肉断ち包丁を持ち、血走った目で降りて来る俺達を視界に捉える。

 

「これが……鬼……」

 

「確かに、ヤバそうだな」

 

「相手にとって不足なし……」

 

「ーー状況開始。 異界対策課、これより鬼退治を開始する……総員、全力で挑むぞ!!」

 

『おおっ!!』

 

ーーオオオオオッ!!!

 

鬼のグリムグリード……トワイライトオーガは咆哮を上げて走り出し、無造作に肉断ち包丁を振り下ろした。 それを散開して避けるが……地面に衝突すると地を割り、衝撃が辺りの木々を大きくなびかせる。

 

「なんて力……!」

 

「小細工なし、正真正銘の怪力かよ」

 

「掠ってもアウトっぽいね……」

 

技も何もない……ただ力任せにがむしゃらに振られている。 だがそのせいで変則的な剣戟になってしまい、受けることも受け流すことも出来ず距離を置いて避けるしかない。

 

「こういうのが一番厄介なんだけど!」

 

「! このグリード……街に向かってますよ!?」

 

「こんなのが街に出たら……!」

 

「ーーリヴァン!」

 

「応ッ!」

 

リヴァンは弓を構え、目にも留まらぬ速さで矢を何発も放ち……トワイライトオーガを鋼糸でがんじがらめにした。 トワイライトオーガはもがくが、もがけばもがくほど鋼糸が身体を切り刻んで行く。

 

「よし!」

 

「今だ! 一斉にかかれ!」

 

捕縛され、動きが封じられた隙を狙い……全方位から一斉に攻撃を仕掛けた。 斬撃は切傷を作り、打撃は骨を砕き、射撃は弾痕を無数に開け、突きは肉を断つ。

 

短期決戦で決着をつけようとした……その時、突如トワイライトオーガの肉体が隆起し、全員の攻撃をその身で弾いた。

 

「なっ!?」

 

「これは……!」

 

驚愕する間も無く、トワイライトオーガの受けた傷が治っていき……さらに肌が鋼のように硬化して鋼糸を切り、筋肉がさらに増える。

 

「傷が治って……!」

 

「しかも鋼糸まで切れた!?」

 

「まさか……攻撃を受ければ受けるほど硬くなるの!?」

 

「マズイ……今ので仕留められないと……!」

 

『! 危ない、避けて!』

 

ツァリの警告と共に、トワイライトオーガは包丁を両手で持ち……無造作に周囲を薙ぎ払った。 それによる衝撃で全員はもちろん木々は吹き飛んでしまった。

 

「くっ……!」

 

「なんて馬鹿みたいな力……!」

 

「キャアアア!」

 

「サーシャ!」

 

トワイライトオーガはサーシャに狙いをつけ、サーシャに向かって包丁が振り下ろされようとした時……横から人影が飛び出し、風が切られる音がすると肉断ち包丁を弾き返し、さらに吹き飛ばして壁にぶつけた。 巨大な剣を振って煙を振り払い、そこにいたのは……

 

「テ……」

 

『テオ教官!?』

 

「よお、久しぶりだな、お前ら」

 

大剣を片手で肩に担ぎ、獲物を狙う肉食獣のような目をした男……旧VII組の戦術教官、テオ教官が立っていた。

 

「いきなりこんな場所に飛ばされてこんな奴がいきなり現れてどうしようかなぁ、と困っていたら……一体どんな状況だよ?」

 

「あ、あはは……」

 

「それはですねーー」

 

ここが並行世界だということ、次元漂流されたのはグリードの仕業だと言うことをかいつまんで説明した。

 

「なるほどね。 しっかし、お前らはホントトラブルに愛されているな。 この前死にかけたばっかりじゃねえか」

 

「お、俺だってこんなの望んでいません!」

 

「そうか、よ!」

 

テオ教官は振り返り側に大剣を振るい、襲ってきたトワイライトオーガの包丁を受け止めた。 それにより発生した剣圧が巻き起こる。 そして両者は何度も剣をまじ合わせ、その度に衝撃が轟く。

 

「凄い……太刀風すら起きてない……!」

 

「大剣を振るうのに余分な力がない証拠だ。 あいつ、また強くなりやがったな」

 

「まあ、それがテオ教官だし」

 

その一言で、皆は納得する。 だが、いくらテオ教官でも決め手がない。 この中で一番攻撃力があるのは……

 

「ーーよし、剄で攻める……武芸者は剄を高めろよ!」

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

「応よ!」

 

剄を使える俺、ソーマ、ユエ、リヴァンは飛び出し、それを見計らってテオ教官が包丁を大きく弾きトワイライトオーガの体勢を崩した。

 

「先ずは俺!!」

 

外力系衝剄・爆刺孔

 

モーメントステップにより一瞬で距離を詰め、剣を右腕に突き刺して体内で指向性のある爆発を起こさせ……右腕を吹き飛ばし金棒を手放させた。

 

『次はリヴァン!』

 

「行くぞ!」

 

外力系衝撃剄・流適

 

ツァリの合図でリヴァンが背後から接近。 衝剄を左脚の細胞内に浸透させ内部からの破壊した。

 

『ユエ!!』

 

「おおおおっ!!」

 

剛力徹破・咬牙

 

脚でトワイライトオーガの胸を踏みつけて徹し剄を流し、続いて掌底で外側からの衝剄を撃ち込み……内外同時に破壊した。

 

『最後はソーマ君!』

 

「参ります!」

 

天剣技・静一閃(しずかいっせん)

 

ソーマは動けなくなったトワイライトオーガの前で天剣を掲げ。 剣に纏われた超高密度の剄を撃ち放った。 が……

 

「遅ッ!!」

 

しかし速度は遅く、思わずアリシアがツッコんだ。 だが、その遅い斬撃は地面を大きく抉りながら進み……超重力斬撃はトワイライトオーガを呑み込み、消滅させた。

 

「ふう……テオ教官、助かりました」

 

「お前らも無事で何よりだ。 それより……今後の方針は決まっているのか?」

 

「いえ、目下元凶の捜索中です」

 

「そうか……しばらくここで腰を落ち着かせる場所はあるか? 徹夜明けでかなり疲れてんだ」

 

「それなら六課に行きましょう。 詳細な情報もそこで」

 

なのは達も戻って来たので、俺達はヘリに乗って六課に帰投する。

 

「あの、レンヤ君。 この人がレンヤ君達の学生時代の?」

 

「ああ、テオ教官だ。 昔は俺達が束になってようやく勝てる程の人だ」

 

「す、すごい……」

 

「……手を合わせる前から負けを認めざる得ないか……」

 

なのはとシグナムはテオ教官を見て、驚きの表情で見つめる。

 

「しっかし、ホント久々だな。 また強くなったようで……シバいた甲斐があったもんだ」

 

「もっと言葉を選んでください」

 

「あ、あはは……」

 

「それに対し……なのはとフェイト、お前ら弱くなってねえか? 目に見えて弱体化してんぞ」

 

「そ、それは……」

 

「え、えーっとぉ……」

 

「テオ教官、実は彼女達はーー」

 

テオ教官は2人を怪訝そうにジロジロ見る中、ユエが2人の事を自分達が知るなのはとフェイトではない事を伝えた。 それを聞いたテオ教官は軽く目を見開いて驚いた。

 

「ほおー……なるほど、通りで」

 

「2つの世界には差異があるんですから、あまり無考えな発言は控えてくださいね」

 

「了解だ」

 

ヘリはそのまま六課に帰投し、俺達は早速会議室に集まった。 そして……

 

「ーー鬼はフェイクだ。 本命は別にいる」

 

「え……!?」

 

開口一番に事実だけを述べ、それに対してはやては思わず驚きの声が漏れ出る。

 

「おそらく日傘のグリムグリードはワザと鬼を出させたんだ。 まるで実験をしているようだな」

 

「夕闇よりタチが悪いね」

 

だが、なのは達はまるで話について行けてなかった。

 

「おそらく機械型グリードはフェイク、残りの生物型グリードを使って降臨儀式をやるつもりだろう」

 

「機械型グリードを混ざらせて、本命を隠していたようだね。 鬼が出たという事は……相手もそろそろ出てくるかも」

 

「干支となると……やっぱりアレかなあ」

 

「ーーあの〜、さっきっからなんの話かチンプンカンプンなんですけど……」

 

おずおずと手を上げて質問するスバル。 他の皆もついて行ってないようで……辛うじてシャーリーが首を傾げて考え込む程度だ。

 

「……鼠、牛、虎、兎、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪……これら11体を生贄に捧げれば……何が出ると思う?」

 

「えーっと……?」

 

アリサの問いに、なのは達は頭を捻る。 だが、答えが出る前にすずかがヒントを言う。

 

「ーー髭は鼠、耳は牛、掌は虎、目は兎、体は蛇、頭は馬、毛は羊、手足は猿、爪は鳥、鼻は犬、牙は猪……これらが合わさって、何が生み出されると思う?」

 

「また難しい質問を……」

 

そのヒントになのは達は頭を悩ませる。 その時、ふとキャロが閃いた。

 

「あ、どこかで聞いたことがあります。 確か竜になるとか……」

 

「竜?」

 

「そう、正確に言えば東洋風と言えばいいのかな? とにかく、それらを合わせる事で龍が生み出される。 しかも11体を完璧に融合させ、綻びもない完全なグリムグリード……その力は計り知れないね」

 

「つまり、私達は嵌められたのですね?」

 

「ああ、鬼なんか目じゃないヤツが出てくるぞ……」

 

「元凶でも厄介ってのに、まだ出てくるってわけだ。 さっさと決着をつけねえとヤバそうだな」

 

「急ぐ必要がありそうだね」

 

俺達の真剣な、剣呑とした雰囲気になのは達は冷や汗を流す。

 

「……進展があるまで現状維持。 何かあったらすぐに動けるようにはしてくれ」

 

「了解」

 

「今後、テオ教官の他に知り合いが次元漂流するとも限らない……はやて、管理局にを伝えておいてくれないか?」

 

「分かったで」

 

「あ、後連絡がつきやすいようにメイフォンの連絡先を教えてくれない?」

 

「…………? メイフォン?」

 

「あ、イラがないから……皆、メイフォンを持ってないのね」

 

こうして、順調と言っていいのか……とにかくこの世界の機動六課と協力関係を組み。 事件解決に向けて歩みを進めるのだった。

 

 



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親子より……紺碧の塔

 

龍の顕現の可能性の発覚から数日……龍の危険性は、すぐに上層部に伝えられた。

 

だが、警戒したからといってどうこうできるはずもなく。 闇雲に探しても仕方ないので、俺達は情報が入るのを待つことにした。

 

そして機動六課では、いつもの訓練が行われていた。その訓練には、並行世界組も参加している。

 

「はあはあ……」

 

「つ、強過ぎるよ……」

 

「これが……異界対策課ですか……」

 

その訓練では教導するべき立場にいるなのはとフェイトまでもが訓練を受けていた。 そして彼女らを教導しているのが……俺とアリサとすずかだった。

 

「皆、お疲れ様」

 

「んー、悪くないけど……もうちょっと筋力と瞬発力が欲しいわね」

 

「ここまでよくついて行っている方だ。 これはテオ教官が提案した訓練を簡単にしたやつ……まあ、初段階クリアってとこかな」

 

小休止しながらアリサ達と訓練結果をまとめる。 すでになのは達はバテバテだが……別に弱いわけでもない。 俺の基準でも上位に入るが、それ以上がゴロゴロいるので低く見えてしまう。

 

そんなこんなで徹夜明けから復活したテオ教官も訓練に参加し。 剣を出さず口で指導しつつ、訓練が終わると……

 

「すずかママ〜! レンヤパパ~!」

 

こっちヴィヴィオ……ややこしいのでヴィヴィが、1番近くにいた俺とすずかの名を呼びながら駆け寄ってきた。

 

俺はタックル気味に飛び込んで来たヴィヴィを受け止め、そのまま抱き上げる。

 

「えへへ〜」

 

「ふふ、ヴィヴィちゃんたら」

 

ヴィヴィは笑顔で胸元に抱き付き、すずかは微笑ましそうに笑う。

 

「………………」

 

その様子を、心なしか羨ましそうに見ているあちらのヴィヴィオ。

 

「あれ? どうしたのヴィヴィオ?」

 

「何かあった?」

 

ヴィヴィオの変化に気付いたなのはとフェイトが声をかけた。

 

「ねえ、なのはママ、フェイトママ……」

 

「何かな?」

 

なのはが膝を落として視線を合わせ、ヴィヴィオは振り返ると……

 

「パパ……いないの?」

 

(はい……?)

 

『ええっ!?』

 

とんでもない事を言い、なのはとフェイトは同時に驚く。 するとヴィヴィオはこちらに視線を向けた。

 

(ああ……なるほどね)

 

「そっか………ヴィヴィを見て、羨ましくなっちゃったんだね」

 

「え、えっとねヴィヴィオ…………パパは………」

 

仕方ないとはいえ、なのはとフェイトは困った顔をする。 それを、アリシアは遠目で見ていた。

 

(ねえねえはやて。 バタバタしていて聞く機会なかったけど……

 

(まあ、正式な恋人はおらんな。 ただ、なのはちゃんには友達以上恋人未満な相手はおるけど………)

 

(誰それ?)

 

(ユーノ君や)

 

はやては即答し、アリシアはあーっと言いながらどこか納得した。

 

(そういえば小学生からの付き合いだからね、あの2人)

 

(まあ、なのはちゃんは、仲のいいお友達って言いはっとるんやけどな)

 

(ーーなるほど、昔の私達とレンヤみたいな関係ね。 それで、きっかけが何もないから進展もしないと……)

 

(その通りや……って、アリサちゃん!?)

 

はやてはいつの間に隣にいたアリサに驚きながら、しかし声を抑えながらその場を飛び退いた。

 

(い、いつの間に……)

 

(あら、アリシアは気付いていたわよ?)

 

(気配も読めないんだね、あんなバレバレだったのに。 こっちのはやてはもうちょっと気配に敏感だったよ)

 

(……一体そっちの私がどうなっとるのか見てみたいんよ……)

 

顔に手を当てて項垂れるはやて。 その時、突然はやての前に空間ディスプレイが展開された。 映し出されたのはグリフィスだった。

 

『ーー八神部隊長。 無限書庫のユーノ・スクライア司書長と民間協力者のツァリ・リループ氏がお見えになっています』

 

「おお?」

 

「……噂をすれば……やな」

 

はやてはそう呟くと、一足先に隊舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーノはレンヤ達が現れる以前から謎の生物と言われていたグリードの事を調べていた。 だが、この世界の存在ではないグリードの事は無限書庫と言えど見つけることは出来なかった。

 

その途中、ツァリが無限書庫に向かい。 ユーノにグリードについて説明しつつ念威を使って本当にグリードに関する目録か調べ……結果は何も出てこなかった。

 

ユーノはその報告のついでに、気になっていた並行世界の彼らを見に来たのだった。 そしてツァリとユーノははやてへの報告を終えると、ユーノはレンヤに会っていた。

 

「やあ。 初めまして……って言うのも変かな? ユーノ・スクライアです」

 

「そうだな、俺は神崎 蓮也だ。 改めてよろしく。 ツァリは隊舎の方か?」

 

「うん。 もうはやてに報告を終えたところ」

 

2人は自己紹介をしながら握手をする。 そしてユーノは気になっていた事を聞いてみた。

 

「えっと……それで小耳に挟んだんだけど、レンヤがそっちの世界のなのはと恋人……っていうか、なのはを含めた女子6人と結婚を前提にした恋人というのは……本当かい?」

 

「……誰から聞いたんだよ……ああうん、恐らくアリシアからはやて辺りだろうけど……コホン、まあ、そうだ」

 

レンヤは突然の質問に驚くが、照れ臭そうにしながらも頷いて肯定した。 だが、ユーノはそれを聞くと真剣な表情を見せる

 

「ど、どうやって恋人になったんだい?」

 

「……もしかして、ユーノってなのはの事を……」

 

そう言うと、ユーノはハッとなりながら顔を赤くする。 それに鈍感だったレンヤは気が付いた。

 

「まあ、俺達が恋人同士になったのはいろいろ切っ掛けがあるけど。 一番大事なのは……」

 

「大事なのは……?」

 

「一直線に想いを伝えることかな?」

 

告白した時を思い返しながら、レンヤはパッと出てきた言葉を口にした。

 

「一直線に想いを伝える………」

 

「なのはって、ああ見えて自分への気持ちには鈍感だからな。 まあ、俺もだけど……」

 

「え……」

 

最後の部分はボソリと言ったのでユーノは上手く聞き取れず、思わず声を漏らし。 レンヤは失言をした風な感じになる話を戻した。

 

「とにかく。 はっきりと好きだって言うのが一番だな。 あーでもそれだけだと友達として好きと勘違いされそうだから、男として好きだらか、はっきりと愛してるぐらい言った方がいいんじゃないか?」

 

「あ、愛してる………」

 

レンヤの言葉に恥ずかしくなったのか、ユーノは顔を真っ赤にした。

 

「でも、本当にそのぐらい言わないと、気持ちは伝わらないな。 いつだって、な……」

 

「……レンヤ……」

 

「じゃあ、善は急げってことで、お膳立てはしてやるから、あとはユーノ次第だ」

 

そう言うと、レンヤは踵を返しなのはの元に向かう。

 

「え? ちょ、ちょっとレンヤ!?」

 

「なのはー!」

 

ユーノは止めようとしたが、レンヤはさっさと行ってしまい。 そのまま大きな声で離れた場所で休んでいたなのはに声をかけた。 するとなのはは呼び声に気付き、駆け足で近寄ってきた。

 

「何、レンヤ君?」

 

「ユーノがなんでもなのはに大事な話があるんらしいんだ」

 

「え、ユーノ君が?」

 

レンヤは道を開け、背後にいたユーノをなのはに見せた。 なのははユーノを視界に捉え、そのままユーノの方に歩いていく。

 

「……さて、どうなるかな……ユーノ」

 

レンヤはボソリと呟くと、後ろで2人の成り行きを見守った。 そしてなのはとユーノは対面する。

 

「ユーノ君、話って何?」

 

「え……あ……な、なのは………」

 

なのははいつも通りに話しかけるが……ユーノからすれば、突然の事で心の準備が出来ていなかった。

 

「レンヤ君から、大事な話があるって聞いたんだけど………」

 

「えっ……!? う、うん………」

 

ユーノは顔を赤くしつつ俯くように頷く。 彼は内心不安であったが、覚悟を決めてなのはを顔を上げてなのはを見据え……

 

「ーーなのは!」

 

大きな声でなのはに呼びかけた。

 

「えっ!? な、何!?」

 

いきなり大きな声を出したユーノに、ビックリするなのは。

 

「なのは!」

 

「は、はい!」

 

「僕は……君が……君の事が………」

 

なかなか言い出せないユーノであったが、一度深呼吸して心を落ち着かせ……勇気を持って叫んだ。

 

「君の事が好きだ! 友達としてじゃない……一人の男として、君の事が好きだ!!」

 

「………………ーーえっ?」

 

告白されたなのはは、一瞬何のことか分からなかった。 だから動揺しながらもユーノに聞き返す。

 

「ユ、ユーノ君………そ、それって………」

 

「うん。僕と付き合って……恋人になって欲しい」

 

突然の事で動揺するなのはの言葉に、ユーノは頷き、はっきりと告白の言葉を口にした。

 

「…………………あ」

 

すると……なのはの瞳から、ポロポロと涙が零れる。

 

「……ユーノ君……私……嬉しい」

 

「……………………」

 

固唾を飲んで静かに、内心ドキドキしながら返答を待つユーノ。 そして、なのはは目尻の涙を拭い……

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

パパーーーンッ!!

 

頭を下げてユーノの告白を受け入れた、その瞬間……2人の周りからクラッカー音が鳴り響いた。 すると近くの茂みから隠れて様子を伺っていたはやてとアリシアが出てくる。

 

「いや~、ようやく2人が上手くいったね!」

 

「ア、アリシアちゃん!?」

 

「アリシア!?」

 

「ちょいちょいアリシアちゃん。 ちょいと出てくるのが早かったんちゃうかな~。 もう少し見とれば、チューの1つくらいしたかもしれへんのに……」

 

突然の事に2人は驚き、みるみる顔を赤くしながらも問いかけた。

 

「み、見てたの?」

 

「そりゃもうばっちりと」

 

「ーー趣味悪いわよ、はやて」

 

「ふふ、アリサちゃんもかなりハラハラしてたよね?」

 

悪怯れる事なく肯定するはやて。 すると遠目で様子を見ていたアリサとすずかがヴィヴィオを連れて近寄ってきた。

 

「ほら、ヴィヴィオ。 念願のパパやで」

 

はやてはヴィヴィオの手を引きなのは達の前に出し、軽く背中を押してユーノの前に立たせる。

 

「……? ユーノ……パパ?」

 

ユーノを見上げ、小首を傾げながらそう言うヴィヴィオ。

 

「あ……うん。 そうだよ、ヴィヴィオ」

 

ユーノは一瞬驚いたが、すぐに笑顔になり、ヴィヴィオの頭を撫でる。

 

「パパッ!」

 

するとヴィヴィオはユーノの片足に抱き、ギューっと抱きしめた。

 

「お~お。 あんなに喜ぶなんて、よっぽどそっちのヴィヴィオの事が羨ましかったんやなぁ……」

 

そう呟くはやて。 その時、後ろからヴィヴィを抱きかかえたレンヤが歩いてきた。

 

「はは、なんだか昔のヴィヴィを見ているようだ」

 

「パパ! ヴィヴィオもパパギューってしてもいい?」

 

「ああ」

 

「ギュ〜〜〜!」

 

あの光景を見て羨ましく思ったのか、ヴィヴィオはレンヤの了承をもらうと首に手を回してギューっと抱きついた。

 

「よかったね」

 

「まあ、6人まとめて告白したどこぞの男よりはマシね」

 

「……言葉にトゲがあるね、アリサさんや」

 

「まあ、これで2人の仲も進展したし、めでたしめでたしやな」

 

隣で喋っているレンヤ達を尻目に、はやては腕を組みながらうんうんと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日……ミッドチルダ東部、森林地帯ーー

 

「うええ〜……ここどこ〜……?」

 

「うっさいわよ、スバル。 キリキリ歩きなさい」

 

「ふうふう……」

 

「キュクー……」

 

「ここは……確かスカリエッティのアジトの近くの……」

 

森の奥深く。 そこにはスバル、ティアナ、キャロとフリード、エリオの姿があった。 4人からは僅かながらも只者ではない雰囲気を放つことから、レンヤ達の世界の4人だという事が分かる。

 

「エリオの言う通りならミッドチルダから東にある森林地帯ね。 全く、レンヤさん達が突然消えて、探しにいこうとした矢先がこれ……またグリードかなんかに巻き込まれたのかしら……」

 

「連絡もつきませんし……ミッドチルダなら先ずは六課に戻りませんか? 何か情報が得られるかもしれません」

 

「そうだね。 まずは行動あるのみだ!」

 

「あ、じゃ皆さん、フリードに乗って下さい。 その方が早いですし、管理局員と接触できて情報が得られると思います」

 

「そうね、お願いするわ」

 

「はい!」

 

「キュクルー!」

 

すぐさまキャロはガントレットを起動し、フリードを爆丸として出現させた。

 

「お願いね、ルミナ・ホライゾン・フリードリヒ」

 

「グルル」

 

「……前々から思ってたけど、その最初のルミナって、何?」

 

「え!? ええっと……確か6属性を表していると言っていたような……詳しくは聞いていないです」

 

「それはそれでいいのかしら? まあいいわ、行くわよ」

 

キャロ達はフリードの背に乗り、フリードは大きな翼を羽ばたかせるとミッドチルダに向かって飛翔した。

 

「フリードが大きいと皆乗れて楽しいね♪」

 

「はい!」

 

「……全く繋がらないわね……」

 

静かなフライトの中、ティアナはメイフォンを睨みつけながら何度も画面をタップする。 それを見たエリオは首を傾げる。

 

「それはおかしいですね。 僕達のメイフォンは特別性で、ミッドチルダに入れば大抵の場所は繋がるはずなのに……」

 

「……情報が足りないわね。 この状況、恐らくレンヤさん達が消えた理由の一つでもある……フリード、急ぎなさい」

 

「グオオッ!」

 

フリードは速度を上げ、ミッドチルダに向かう。 そして数分後……

 

「見えました!」

 

「ミッドチル……いや、どこか変ね」

 

「? 変ってなにが? いつものミッドチルダだよ?」

 

「首都は未だに復旧作業中よ。 まだ工事が続いているはずなのに……目の前にあるのはいつものミッドチルダ、おかしいわ」

 

「確かに、そう言われれば……」

 

「ーーそこのお前達、止まれ!!」

 

その時、フリードの進行方向に管理局員が立ち塞がった。

 

「許可を得ていないミッド上空の飛行は禁止されている! 今すぐ着陸しろ!!」

 

「来たわね。 キャロ」

 

「はい」

 

キャロはフリードを着陸させ、ティアナは少し怒り気味の管理局員に事情を話し情報を集めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課隊舎ーー

 

「え、ティアナ達が捕まった?」

 

今日もいつものように訓練を行っていると、警備隊からティアナ、スバル、キャロ、エリオをミッド空域の違反飛行したため逮捕したという報告を受けた。

 

「捕まったもなにもその4人は訓練場で訓練を……ああ、なるほど、そういう事か」

 

「ええ、どうやら来てしまったようね」

 

「つまり、レンヤ君達の所のティアナ達という訳やな。 すぐに警備隊と事情を話して連れて来るんよ」

 

「よろしく、こっちの事情もなるべく説明しておいてね」

 

はやては部屋を後にし、残りはティアナ達が来るまでこっちのティアナ達の訓練を見ることにした。 しかし……

 

「同名の人が来るとなると……名前を呼ぶのがややこしくなりそうだな」

 

「ヴィヴィオの時もそうだったし、愛称で呼ぶしかないね」

 

「これでなのは達が来たらさらにややこしくなるわ。 早いとこケリをつけないと面倒ね」

 

ティアナはともかく、残りの3人の愛称を考えながら訓練場に向かうと……まず目に入ったのはイットとエリオによる近接訓練だった。

 

「はあっ!」

 

「うわっ!?」

 

イットの斬り上げた太刀が槍の打ち上げ、バンザイ状態となったエリオの眼前に太刀の峰を突き付けた。

 

「ま、参りました」

 

「ふう……」

 

エリオはそのまま降伏し、イットは太刀を離してから息を吐いた。 俺はそんな2人に拍手を送りながら近寄った。

 

「2人共、いい勝負だった。 また腕が上がったようだな」

 

「いえ、自分のは記憶と身体を合わせただけ……ズレを無くしただけです。 腕が上がったというのは少し語弊がーー」

 

「そんなのはいいんだよ」

 

「え……?」

 

ポンッと、イットの頭に手を乗せた。

 

「どんな事であれ、イットが自分の意志で剣を振るう……それに意味があるんだ。 今はまだそれでいいんだ」

 

「……………………」

 

「さて、こっちのエリオ達が来る前に、ここのエリオの指導をしようかな?」

 

「え……」

 

それから軽くエリオに槍の型と体捌きのやり方を教え、1時間後……こちらのスバル達が六課にやってきた。

 

「アリサさん、すずかさん、無事でよかったです!」

 

「突然音信不通になってしまったので心配しました。 どうやら他の皆さんも一緒にいるようですね?」

 

「ええ。 ここに来るまではやてから事情は聞いたかしら?」

 

「はい。 まさかここが並行世界で、しかも……」

 

「……なんだかとても変な気分です……」

 

「うん。 鏡を見ているようです」

 

エリオ達はもう1人の自分と対面し……両者ともに複雑な表情を見せる。

 

「さてと、とりあえず名前が被っているから愛称で分けるわよ。 こちらがティア、あちらがティアナで……星川、キャロル、エリオットにしておいたわ」

 

「星川ってなんですか!?」

 

「仕方ないじゃない。 スバルの愛称なんて思いつかなかったし、残りの2人も増やす以外なかったんだから」

 

「あ、あはは……まあ、仕方ないですよね」

 

スバルは半ば諦めながら愛想笑いをする。 するとコルルとクレフはエリオットとキャロルに近寄った。

 

「やあ、エリオ……じゃなくてエリオット、音楽は好きかい?」

 

「……コルル……楽しんでいるよね?」

 

「ククちゃん!! 良かった……レンヤさん達と同時刻で消えちゃったって聞いたから心配で心配で……」

 

「ごめんなさい、キャロ……ル」

 

「ふふ、良かったわね。 クク……プフッ……!」

 

「わ、笑わないでよルーちゃん〜!」

 

その時……パンパンと、アリシアが手を叩きながら近寄ってきた。 その表情は真剣そのものだ。

 

「4人と再会して早々悪いけど……龍が現れたよ。 それに次いで特大級の異界もね」

 

『!?』

 

「場所はミッド南東……海のど真ん中、異界がそこにあってこちらに龍が進行している」

 

皆が驚く中、空間ディスプレイに映し出されたのは……海の上に聳え立つ紺碧の塔と、槍のような頭をした長大な塔と同色の龍だった。 そのどちらの大きさも規格外に大きかった。

 

「な、なんて巨大な塔……」

 

「天空にも届きそうなくらい高いですね……」

 

「あ、あれが龍……」

 

「今までのバケモノの比べ物にならねえ……」

 

「恐らくあそこに私達をこの世界に次元漂流させた元凶……日傘のグリードがいるはずだよ」

 

「……よし、作戦を開始する。 こっちの機動六課で塔の攻略、残りのシェルティス達は龍の撃退、なのは達はシェルティス達の援護をしてくれ。 どれも命に関わる任務だ……皆、死力を尽くして生き残れ!」

 

『おおっ!!』

 

この世界での唐突な最終決戦……俺達は気合を入れて挑んだ。

 



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大渦巻の龍

 

 

塔に向かうため、ヘリで南東にある近海に向かい。 シェルティス達は龍を引きつけている隙に遠回りで飛んでいた。

 

「! レンヤ、あれ見て!」

 

塔の近付くと、アリシアが塔の真下を指差した。 そこを見ると……小型のグリードが民間人を攫い集めていた。

 

「人が……攫われている!?」

 

「マジかよ!!」

 

「ーー総員、降下開始! 速やかに市民を救出する!!」

 

予定を早めてヘリから飛び降り、パルクールステップで空中を蹴り一気に距離を詰め……小型の鳥型のグリードを斬り裂いた。

 

そして落ちてきた市民を魔力ネットで受け止め、この一連の間に先に塔に向かっていたアリサ達に追いついた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あ、ああ……なんともないよ。 ぐっ……」

 

「血が……!」

 

着陸すると、何人かの市民が負傷しており。 その中の眼鏡をかけた太った男性の腕から多量の血を流していた。

 

「っ……」

 

「ちょ、レンヤ!?」

 

俺はすぐさま左腕の二の腕にあったリボンを解き、彼の腕の付け根を強く縛って止血する。

 

「あ、ありがとう……」

 

「それお母さんの形見のリボンでしょう!? 使っていいの!?」

 

「今は人命が優先だ。 ちゃんと後で返してもらうから安心しろ。 美由希姉さん、リンス、ヴァイス! この人達を安全な場所まで、なのは達に応援も頼む!」

 

「了解!」

 

「任せて!」

 

しかし、一体どこから市民をここまで……この人数、塔が現れてから集めたにしては多い……ここ最近、失踪や行方不明者の続出などのニュースもなかったはずなのに……

 

「……まさか、今日一日だけで集めたというのか……?」

 

「恐らくそうだね。 さっきの鳥型のグリード、影属性だった……空間転移で一気に集めたんだと思う」

 

「人々を集めて、一体何をする気だったんだろうね?」

 

今までグリードにしてきた事を考えると……ロクなことではないことは確かだ。

 

「……考えても仕方がない。 俺達は予定通り塔の攻略を開始する!」

 

「了解!」

 

「来て早々いきなりこれですか……」

 

「やるっきゃないね!」

 

「が、頑張ります!」

 

「ーーはい」

 

「ピュイ」

 

「……ん?」

 

今、なんかここにはいない人物の声と鳴き声が聞こえたような……

 

「って、うわ!? クレフにクローネ!?」

 

「僕もいるよ♪」

 

「コルルまで……」

 

いつの間にかクレフとクローネ、コルルが背後にいた。 この子達は危険だからイット達と一緒に置いてきたはずなのに……

 

「……気配を消す事には自信があります」

 

「こんな大事な時に置いてきぼりなんてヤボな事は言いっこなしだぞ。 僕を頼れよ、相棒」

 

「……全く、本当に自由な相棒だね」

 

「はあ、来てしまっては仕方がないわ。 市民もかなりの人数がいるし、美由希さん達に任せるのも忍びない……一緒に来てもらった方がむしろ安全ね」

 

「クレフちゃん、ちゃんと私達の後について来てね?」

 

「はい」

 

軽く嘆息しながらキャロル……って、今はいないからいいか。 とにかくキャロとエリオの元に向かった。

 

「キャロ、エリオ、2人を見ててくれな?」

 

「はい!」

 

「任せてください!」

 

俺達は塔の入り口から内部に入り、かなりの高さの吹き抜けがあるフロアに出た。

 

「ここが塔の下層のようだね」

 

「これが塔の内部……異様な雰囲気ね」

 

「……? この気配は……」

 

それぞれが周囲を警戒しつつ見回す。 すると……

 

「ーーあれは……!?」

 

正面に石碑のようなものがあり、そこに刻まれていたマークに見覚えがあるも、急いで近寄って確認し……

 

「嘘だろ……」

 

思わずそう声を漏らすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、シェルティス達はツァリの指揮の元、龍型のグリムグリード……リヴァイアスと対面していた。

 

「改めて見るとホントにデカイね……」

 

『全長は軽く1キロを超えているね』

 

「これは骨が折れるな」

 

「ですが、やらなければなりません」

 

シェルティス達がそれぞれの武器を構えている中、その後ろではなのは達はリヴァイアスを前にして怯んでいた。

 

「あ、あれと戦うの?」

 

「今までとは威圧も大きさも段違い……」

 

「まさしくスケールが違うなぁ……」

 

『ーーはやて、今レンヤから伝令が届いたよ。 至急、塔に向かって。 どうやら一般市民が連れ去られたみたい』

 

「なんやて!?」

 

思いがけない報告に、はやては驚く。

 

『今すぐフォワード陣と救護班を塔にまて寄こして、今は市民の安全確保が最優先……護衛としてリヴァン、ヘリを手配したからお願いするね』

 

「たっく……戦わずして戦線離脱かよ……了解した。 フォワード、着いてこい、安全なルートで最速で向かうぞ」

 

「は、はい!」

 

「分かりました!」

 

リヴァンはティアナ達を引き連れ、後退した。

 

「エリオ、キャロ、気をつけてね……」

 

「フェイトさんも!」

 

「どうかお気付けて!」

 

後退際にフェイトが声をかけ、エリオとキャロは心配無用な振る舞いをし……ヘリに乗って行った。

 

「さあ、始めようか。 異世界同士、最後の共闘……さっさと倒して、元の平和な日常を勝ち取るぞ!!」

 

『おおっ!!/お、おお……!!』

 

ユエ達はシェルティスの激励に応え、なのは達も若干怯みながらも激励に応え……

 

ギャァアアアアッ!!

 

リヴァイアスは咆哮を上げながらその身翻して天高く飛び上がった。

 

「いきなりか!」

 

『皆、リヴァイアスの正面に立たないで散開しつつ接近して!』

 

周囲に念威探査子の花びらが舞い散る中、基本陸上戦のシェルティス達はティーダとなのは達に引っ張ってもらって上昇し、その後になのは達も続く。

 

するとリヴァイアスは巨大な口を開け、咆哮と共に激流を放出した。 全員それを避けるが……激流は海を切り裂き、陸に直撃すると刃物が切れたように大きく裂かれた。

 

「な、なんて奴だ……」

 

「水を高圧で放出する事で刃とする……珍しい事じゃない。 美由希もよくやる手だ」

 

シグナムはこの威力に戦慄するが、ティーダは当然のように軽く流す。 するとリヴァイアスは身を捻らせ……突進して来た。

 

「あの巨体でなんて速さ……!」

 

「手のかかる事を」

 

『ーーソーンバインド!!』

 

周囲に飛び散っていた花びらがバインドを展開し、リヴァイアスの進行方向に網目状のネットを張るが……絡まっても勢いは止まらず、無理矢理引き千切って突進する。

 

『質量が違い過ぎるね。 まるで勢いが止められないよ』

 

「だろう、ね!」

 

シェルティスは突進を避けながら巻き起こる突風に耐え、剣を振るい翡翠の結晶を形成する。

 

「剣晶二二四……洸輪牙(こうりんが)!!」

 

双剣の刀身に結晶を纏わせ、刀身を大きく延長して振り下ろし、リヴァイアスの胴体を切り裂いた。

 

《ソニックムーブ》

 

「はあっ!」

 

フェイトは高速で背後からリヴァイアスに接近し、4枚あるヒレのうちの1つにザンバーフォームのバルディッシュを突き立てた。

 

「ぐうう……うあっ!」

 

だがリヴァイアスは縦横無尽に動き回り、大剣が抜けてフェイトは放り出されてしまったが……すぐさまユエが同じ箇所に向かった。

 

「うおおおおっ!!」

 

掌底がヒレに衝突し、根元からヒレを破壊した。 リヴァイアスは痛みに悶え苦しむが、次の瞬間……流れるように、だが目にも留まらぬ速さで彼らの周囲を周り始めた。

 

「なっ……!?」

 

「速い!」

 

「! マズい……これは……!」

 

リヴァイアスは何度もその場所を回り……巨大な竜巻を発生させた。 その大きさはリヴァイアスの大きさを優に超える範囲……ミッドにも被害が及んでいる。

 

「くっ……負けるかってんだよ!!」

 

《シュワルベフリーゲン》

 

ヴィータは複数個の鉄球を展開すると、グラーフアイゼンを振って全力で撃ち、リヴァイアスを攻撃するが……リヴァイアスは虫を払うかのように身震いで鉄球を弾いた。

 

「ま、まるで効いてねえ……」

 

「くっ……レヴァンティン!」

 

《ボーゲンフォルム》

 

剣と鞘を連結させてカートリッジをロードし、弓となったレヴァンティンに矢をつがえ……

 

「翔けよ、隼!!」

 

《シュツルムファルケン》

 

矢が放たれ、炎の隼となって飛翔し……リヴァイアスの顔面に直撃したが、かすり傷程度の傷しか出来なかった。

 

「硬すぎる……!!」

 

『ヴィータとシグナムの攻撃が軽いだけだよ! 2人の魔力はこちらの2人と差異はない……けど、同じ魔法なのにこうも違うのは技量の差。 いくらアリサ達に師事を受けても短期間では埋まらなかったね』

 

「チッ……役立たずなのは分かっているが、どうしようもならねえか」

 

「気にしないで下さい。 皆さんは充分にやってくれています」

 

慰めと分かっているが、なのは達はユエの言葉を受け取った。 その時、リヴァイアスは咆哮を上げながらその身に竜巻を纏った。

 

「おっと……」

 

「霊と風属性が強いな……」

 

『ーーなのは、全部薙ぎ払って!』

 

「え、ええ!? わ、私が!」

 

『やり方はアリサから教えてもらったでしょう? 急いで!!』

 

「うっ……レイジングハート!」

 

《ロードカートリッジ》

 

多少しふりながらもカートリッジをロードし、リヴァイアスの尾に狙いを定め……

 

「ディバイン……サーーベル!!」

 

尾に向かって砲撃を放ち、思っ切り横に動かして胴体を伝って薙ぎ払うように顔面まで砲撃を放ち、竜巻を払った。

 

「ヒュウ、やるじゃねえか」

 

「はあはあ……キ、キツイ……」

 

「大丈夫か、なのは?」

 

『この程度でへばっていないで、まだ終わってないよ』

 

「来るぞ!」

 

リヴァイアスは大口を開けると……巨大な燃え盛る火球を放ち。 さらに海底の地面を隆起させて大地を盛り上がらせ、地上から鋭利な鎗を射出してきた。

 

「うそっ!?」

 

「焔に鋼属性……それはそうか、なんせ11体のグリードの集合体なんだからね」

 

『ーーあった! リヴァイアスの霊核が見つかったよ。 リヴァイアスの喉元……そこに霊核がある!』

 

火球、鎗、嵐を同時に対処しながら避ける中、念話でツァリがリヴァイアスの弱点を発見したと報告を受けた。

 

「だからといって、わっ!? どうやってあそこまで行くの!?」

 

「台風の目すらない暴風……突破するのは難しいね」

 

「突破が無理なら……道を切り開くまで!」

 

荒れ狂う暴雨の中ユエは飛び出し、全身の剄を高め……

 

「外力系衝剄……竜旋剄(りゅうせんけい)ッ!!」

 

活剄により強化した腕力で体をコマのように回しながら、正面に竜巻を模した衝剄を放つ。 竜旋剄はリヴァイアスに衝突すると、纏っていた暴風を打ち消した。

 

「今です!」

 

『ソーンバインド!』

 

「剣晶五四二……緑柱光牢《りょくちゅうこうろう》!」

 

ツァリが茨のバインドで拘束、シェルティスが地上から隆起したいくつもの巨大な翠の水晶の柱がリヴァイアスを挟み込み動きを封じた。

 

「行くぞ、アイゼン!」

 

《ラケーテンフォルム》

 

巨大化し、魔力噴射で加速したハンマーを大きく振りかぶり……

 

「ラケーテン……ハンマーーーッ!!」

 

リヴァイアスの頭に振り下ろし、海面に叩きつけた。 そしてシグナムは急降下してリヴァイアスに接近し……

 

「はあああああっ!!」

 

裂帛の気合いを叫びながら納刀状態でカートリッジをロードし……

 

「紫電……一閃ッ!!」

 

抜刀により放たれた火炎の一閃はリヴァイアスの右側面にあった二枚のヒレを両断した。

 

「おお……らああっ!!」

 

ティーダが海面スレスレで飛翔し、リヴァイアスの真下に行くと急上昇し……下からリヴァイアスの顎をかち上げて天を向かせ……

 

「ディバイン……バスターーー!!」

 

杖を構えて魔力を溜めていたなのはが砲撃を放ち、直撃と同時に爆発が起きる。 そして……フェイトがリヴァイアスの喉元に大剣を突き刺し……

 

「おおおおおおっ!!」

 

一気に振り下ろしながら降下し、リヴァイアスの身体に斬撃の軌跡を描いた。 リヴァイアスは断末魔を上げると自身が起こした竜巻に呑み込まれ、崩れ落ちていった。

 

「はあ、はあ……や、やった……!」

 

「な、何とか倒せた……」

 

なのは達はリヴァイアスによって隆起した大地に着地し、息を荒げながら座り込む。

 

「ふう、当面の危機は脱したな」

 

「後はレンヤ達を待つだけですね」

 

『探査子と届かないし、何もないといいんだけど……』

 

ユエ達が紺碧の塔に向かったレンヤ達の安否を心配していた時……海に沈みかけていたリヴァイアスは消滅すると……大量の小さな水の龍となって襲いかかってきた。

 

「なっ!?」

 

「まだこんな力が!」

 

「悪あがきを……!」

 

水龍は小回り効き、迎撃の弾幕を擦り抜けて接近し……なのは達の身体にまとわりついた。

 

「キャア!」

 

「なのは……ぐっ!」

 

「チッ!! 離せよ!」

 

拘束から逃れようともがくが……次の瞬間、水が固まり、凍り始めた。

 

「凍って!?」

 

「う、動けない……!」

 

「こっのぉ!!」

 

水が完全に凍り、さらにそこか徐々に気温が下がっていく。

 

《気温、急速に低下。-138.5……-185.4……-216.0…………-273.15、絶対零度、到達しました》

 

「嘘だろ!?」

 

レイジングハートの測定結果にティーダは思わず声を上げる。 それぞれが脱出しようと氷を砕こうとするも……それよりも早く修復されてしまう。

 

「シグナム! 何とかならねえのかよ!!」

 

「今やっている!」

 

シグナムはカートリッジをロードし、炎を燃やして氷を溶かそうとするも……溶ける気配はなかった。 その間にも氷はどんどん広がって、盛り上がっていた陸を超えて海を侵食していく。 ツァリが美由希達に救援を求めたが、それでどうにかなる状況でもない……

 

「くっ……どうすれば……!」

 

「ーーあら? まあ、これは大変」

 

『!?』

 

唐突に、頭上から声が降りかかりシェルティス達の前に舞い降りたのは……腰まである長い金髪を風になびかせ、翡翠と紅玉の瞳のオッドアイの女性だった。

 

「え……」

 

「そ、その目は……!」

 

「どうやらお困りのようね?」

 

女性は驚愕するシグナム達の視線を流し、口元に手を当てて微笑みながら彼らに質問するのだった。

 

 



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生きていた災厄

明けましておめでとうございます!

新年最初の投稿です!


「嘘だろ……」

 

塔の内部に入り、正面にあった石碑を見てそう言われずにはいられなかった。

 

「どうしたの、レンヤ?」

 

「何かあったの……っ!?」

 

アリシアが隣に来て、石碑を見ると……あまりの事に絶句してしまう。 石碑に描かれていたのは……

 

「D∵G教団のエンブレム……」

 

あの最悪の教団、その印だったからだ。 つまり、ここは教団の施設の可能性がある。

 

「! 思い出した……ここ、なのは達からもらった教団のデータにあった……楽園だよ!!」

 

「楽園って、教団の総本山であるロッジのこと!? 今まで調べても何も出てこなかったのに、今になってなんで!?」

 

「………ぅぅ………(ガクガク)」

 

「!? ククちゃん!!」

 

新たな事実を前に騒ぐ中、後ろでマークを見たクレフが自身を抱きしめて震えていた。 そぐさますずかはクレフに近寄り、落ち着かせるように抱きしめたい。

 

「トラウマを刺激されたようなものね……」

 

「どうします? 一旦クレフちゃんをリンスさん達に預けた方がーー」

 

スバルがそう提案した時……重鈍な音を立てて入り口の扉が独りでに動き、閉じ込められてしまった。

 

「閉じ込められた!!」

 

「っ……開かない……!」

 

『ーーよく来たわね。 異界対策課』

 

念話のようで、しかし物理的に辺りに響くような声が聞こえてきた。 すると、頭上で幻影のように現れたのは……青いドレスを着て、日傘を差している黒髪の女性だった。

 

「アンタは……」

 

「対策課を知っているという事は、私達の世界の人間ね? ホアキンは死に教団は崩壊した……なのに今更何をする気かしら?」

 

『ふふ……いきなり答えを出すのは野暮というもの。 知りたければ登って来なさい……この楽園の塔を』

 

女性は背を向けると幻影は蜃気楼のようにかき消え、側面にあった塔を登るための通路が開いた。

 

「この事態がまさかグリードではなく、人の手によるものとはね……」

 

「まさかここに来て私達の不始末のツケを払わさせられるなんてね……」

 

「少なからず残党はいると思ったが……ここで悔やんでも仕方ない。 先に進むとしよう」

 

これは俺達、異界対策課の後始末。 ティアナ達を巻き込んでしまったのは心苦しいが……彼女達ももう一端の魔導師、心配はしない。

 

「クレフちゃん、大丈夫?」

 

「……はい。 ご心配をおかけしました」

 

「ピューイ……」

 

クレフは気丈を装うが……あり得ないほどの汗をかいている。 心に……魂にまで根付いた恐怖はそう簡単に振りほどけない。 だが退路が断たれた以上逃げる事も出来ない。 意を決して先に進み、階段を上ると……少し開けた場所に出た。 そしてそこには……

 

「っ……いきなりエルダーグリードか!」

 

一体のまん丸い風船のようなエルダーグリードが待ち構えていた。 俺はすぐさま飛び出し、交戦を開始する。

 

「でも、1体しかいない……」

 

「……まるで闘うための舞台ね」

 

「ーーよし!」

 

迫り来る弾丸を避け、懐に入って一刀で斬り伏せ倒した。 すぐさま先に進み、また同じ構造のフロアに出ると……今度は鳥型のエルダーグリードが待ち構えていた。

 

「また……!」

 

「っ…………」

 

今度はアリサが飛び出して三手目で倒し、先に進み……またグリード立ち塞がった。

 

「まさか……これは挑戦か?」

 

「挑戦、ですか?」

 

アリシアが戦っているのを後ろで観戦しながら、思わず出た言葉にティアナが反応する。

 

「全階層にいるグリードを倒して最上階に向かう……これが正しいのなら随分と舐められたものだ」

 

「ええ、まるでゲームのようね」

 

「ーーで、どうするの?」

 

グリードを倒し、こちらに戻ってきたアリシアが質問する。

 

「このままだと時間がかかるが……要請(オーダー)を言うぞ。 俺達はその階層で仲間がグリード戦っている間に先に進み、そこにいるグリードを倒す……これを繰り返して上に進む。 安全のためキャロとルーテシア、エリオとコルルとクレフはペアで進んでくれ」

 

『はいっ!』

 

「分かったわ」

 

「……ヤー」

 

「危険だが……皆なら出来る、必ず教団の野望を打ち砕くぞ!!」

 

『おおっ!!』

 

そして次の階に到着し、そこにいたグリードを俺が相手をし。 他はその隙に脇を通って先に進んだ。

 

そして1分でグリードを倒し、次の階層に向かうと……すずかがグリードと交戦しており。 俺は援護せず、視線だけ交わらせると脇を通って上に向かった。

 

(外で見た高さと階層間の階段の数による高さ、それを踏まえて計算すると…………ざっと100階層! やるしかないか!)

 

数える事をレゾナンスアークに任せ、俺はただ階段を駆け上がり、出てきたグリードを斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、残留思念による氷ね……普通の方法ではまず壊れないし溶けない」

 

シェルティス達がリヴァイアスの最期の足掻きによって氷の呪縛にあい、脱出しようともがいていると……突然現れた金髪の女性が氷を見て1人納得する。

 

「これは普通の方法じゃあ突破は無理かもねえ」

 

「じゃ、じゃあどうすれば……」

 

「まあ、方法はなくは無いけど……」

 

「ーー皆〜!!」

 

「あ……!」

 

「お姉ちゃん!」

 

女性が何か言いかけたその時、塔のある方向から美由希が海の上に乗って走ってきた。

 

「大丈夫……じゃ、なさそうだね……」

 

「見ての通りだな……」

 

「ええっと、確かどれだったかしら……?」

 

「! あなたは……」

 

女性はどこからともなく古い本を取り出し、宙に浮かせ、本が独りでにページを開き女性が流し読みする。

 

「いきなり現れて、でもグリードやこちらの事情にも精通していて……あなたは一体何者なんですか?」

 

「その見てくれも含めて、お聞きしたいのですが?」

 

「あ、あった♪」

 

目当ての項目を見つけた女性はシグナムの質問を聞き流し、手をかざし……

 

「これで……」

 

ポンと音を立ててとても小さな火を発生させた。

 

「原初の火種をフーっと吹いて……」

 

女性は火に息をかけて火球にし、火球を氷に近付けると……みるみる氷は溶けていく。

 

「溶けた溶けた♪」

 

「や、やった!」

 

「後はこれで(ピリリリリ♪)あら?」

 

順調に氷を溶かしていると……ふと女性から通信音が聞こえてきた。 女性は胸の谷間に手を突っ込み……そこから携帯端末を取り出して耳に当てた。 その際、男性陣は顔を赤くしながら目を逸らした。

 

「もしもし〜? あら、あなた」

 

『あなた!?』

 

この場合のあなただと、彼女の夫という表現になるのだが……

 

「ええ、ええ……まあ! あの子とあったのね! 羨ましいわあ〜、もう何年も会ってないから寂しくて寂しくて……すぐにそっちに向かうわ!」

 

「え……」

 

「それじゃあねえ〜♪」

 

「ちょ、ちょっと待っーー」

 

止める間も無く、女性は炎をその場に落とすと……転移してどこかに去って行った。

 

「最悪だ! 散々期待させておいて儚い希望だけ残してどっか行きやがった!!」

 

「溶けるとはいえ、こんな残り火でどうしろと……」

 

残されたなのは達は残った火を前にして頭を悩ませる。 この中で動けるのは美由希だけ……その時、ふと美由希が何かを思い出したかのように手を打った。

 

「ーーあ……アレで行けるかも」

 

「お姉ちゃん?」

 

「太陽の砦の地下にあった温泉があったでしょう? 私、あの水の性質を出せるようになったんだよねえ」

 

「……それがどうしたんですか?」

 

「その水で残り火を広げる」

 

その一言に、全員驚愕する。

 

「炎を広げる水だと!?」

 

「ちょ、ちょっと待って! いくらなんでもあり得ないですーー」

 

「行っくよー!」

 

制止も聞かず、美由希は小太刀を構えて温泉水を勢いよく噴射し、残り火の上を通過してなのは達に浴びせると……氷は溶けて全員が脱出できた。

 

「え!?」

 

「なっ!?」

 

「これは……!」

 

「ふっふ〜ん♪ あそこの温泉はレンヤ命名、(ファイヤー)温泉……常に発火性の高いガスを纏っていて、少しの炎でも燃え上がるんだ」

 

「なるほど、残り火でその温泉水を炙り、水の温度が一気に上がってそれで氷を溶かしたのか……」

 

「よくやった、美由希」

 

ティーダに褒められて美由希は顔を赤くし、照れ隠しでドヤ顔をしながら胸を張る。

 

「それにしても、あの女性は何者だったのでしょうか……?」

 

「……まあ、あんな見てくれをしていたんだ。 大方の予想はつくけど……」

 

「あ! そうだ、皆にお願いがあって来たんだっけ!」

 

今思い出したかのように両手を合わせ、なのは達は塔に向かったが……

 

『……ねえ、皆』

 

「言わなくてもいいよ。 さっきの女性についてだろう? 僕も同じ事を考えていた」

 

「ええ。 先ほどの女性……あの目、色ではなくあの瞳……レンヤにそっくりでした」

 

結局、あの金髪の女性については何も分からないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーこれで……終わり!!」

 

降下しながら刀を振り下ろしてゴーレム型のグリードを真っ二つにし。 消滅するのを確認すると息を吐いて刀を納める。

 

「ふう……流石に手強かったな」

 

《現在、98階層です。 順番通りなら上層にはすずかが、他のメンバーは既に最上層に到達しています》

 

「なら急ぐか」

 

塔を登り続けて1時間……やっと最上層に到達した。 当然のように上に上がる度に敵は強くなり……追い抜いて、追い抜かされてを繰り返して何とかここまで来た。

 

そして99階層に到着すると……そこではすずかと、助太刀しているアリシアが仁王像のような腕が4本あるグリードと戦っていた。

 

「孤月閃!」

 

「四刀弦!」

 

槍と二刀小太刀と2つのソードビットによって5つの斬撃をグリードに刻み、消滅して行った。

 

「やったね」

 

「うん。 ありがとうね、アリシアちゃん」

 

「すずか、アリシア!」

 

グリードが消滅したのを確認し、2人の名を呼ぶ。 2人はこちらに気付き、俺は走って近寄った。

 

「他の皆はもう?」

 

「うん。 レンヤが来る前にサーシャが上に行ったよ」

 

「殆どがもう最上層に向かったようだね。 残りはーー」

 

「はあはあ……い、今どの辺り?」

 

《99階層です》

 

『あとちょっとだな』

 

と、そこにエリオとコルル、クレフが階下からやってきた。 エリオ達は俺達を視界に捉えると急いで走ってきた。

 

「皆さん!」

 

「エリオ、クレフ、無事で良かった」

 

「クレフちゃん、体調は大丈夫?」

 

「はい。 問題ありません」

 

『……他のメンバーはもう最上層?』

 

「うん。 もう敵と交戦しているかもしれない……急ごう」

 

俺達は走り出し、前まで登っていたよりも長い塔の内壁に沿って上に上がる巨大な螺旋階段を駆け上がり……

 

「ひゃーくっと」

 

「ここが紺碧の塔の最上層……」

 

最上層に到着した。 どうやらここは屋上にある塔屋のようで、周りには台座がありその上にはオブジェクトや資料が置かれていた。

 

「これって……」

 

「どうやら資料館のようだな」

 

『趣味の悪い事を。 嫌がらせ以外の何物でもないよ』

 

「……………………」

 

クレフはエリオの背にピタッと寄り添い、エリオを壁にして見ないようにしていた。 少し心配しながらも、1番奥にあった資料を手に取る。

 

そこには教団が崇めるグリムグリードについて書かれていた。 名前は混沌の書架(ケイオス・ダンタリア)……悠久の歴史を知り、未来を見通す力を持ったグリード。 しかし現在は7つの本に自身の力と肉体が分けられており、その本の所在も行方不明……

 

「何だそれ。 自分達を崇める神を見失っているんじゃないか」

 

それでよく神がどうのこうの言えたものだ……呆れながら資料を元の場所に放る。

 

「それにしても……先にここに来たはずの皆さんがどこにもいませんね」

 

「……人が通った後はあるみたいだけど」

 

「一体どこにーー」

 

ドオオオオオオッ……!!

 

『!!』

 

突然、かなり近い場所から轟音とともに衝撃が辺りに響き渡った。

 

「わわっ!!」

 

「これは……魔乖咒!」

 

「あっちからだよ!」

 

奥に扉があり、俺達は扉を蹴破って出ると……そこはドームのような空間になっており、その中央に……アリサ達がボロボロになって倒れていた。

 

「!」

 

「皆!!」

 

急いで駆け寄り、アリサの頭に手を回して軽く起こす。 バリアジャケットはボロボロで、焼けた跡や裂かれた跡が目立っていた。 だが……他の皆を見るとボロボロだがアリサほどではない……どういう事だ?

 

「大丈夫?」

 

「う……くっ……!」

 

「はあはあ……」

 

「そんな……アリサさん達がこんなになるなんて……」

 

「そんなの、この場に1人しかいない……!」

 

優しくアリサを横たえると……振り返り際に抜刀し、高速で迫ってきた弾丸を斬った。

 

「随分とご挨拶だな?」

 

『ーーふふ、この程度でやられるようならそれまでよ』

 

真上から声がすると……そこには先ほどの青いドレスを着た女性の幻影が空中にいた。 女性はドレスの裾を掴んで軽く持ち上げ、こちらに向かって礼をした。

 

『初めまして。 私はイム・ハリアー。 楽園の塔の管理者を務めさせてもらっているわ』

 

「まだ幻で……」

 

「……いや、もしかしたらアレが本体なのかもしれないね」

 

「え……」

 

『ふふ、その通りよ。 あなたも昔は霊体になっていただけはあるわね?』

 

女性はアリシアを見下ろすと、アリシアは少し嫌な顔をしながら肩をすくめる。

 

「不本意だけどね。 肉体の霊体化……一体何をやったのかな?」

 

『全ては大いなるDにいたるため……そのためにはこの身すら供物に捧げるのもいとわない……ただ、それだけの事よ』

 

「たっく……狂っているのは1人だけで充分だっていうのに……」

 

「ーー御託はいい。 この異変を終わらせるために……

 

『あら? 聞きたくないなかしら……なぜ、星見の塔、月の僧院、そして太陽の砦があったのかを?』

 

「……………………」

 

確かに、教団が存在しないはずなのになぜあの建造物があるのかは不思議で仕方がなかった。

 

『それはね、あなた達が来る前に……この世界で後付けしたからよ』

 

「え……」

 

『本来あるはずのない世界に後付けする事で時空の歪みを広げ……グリードを放った。 でもね、ここの人間は弱くて弱くて……倒されないと時空は歪む事はなくこのままでは儀式は完成しない、だからあなた達を呼んだの。 そしてあなた達のお陰で時空は歪みこうして楽園を降臨させる事が出来た!!』

 

原理としては夕闇の使徒と同じ……本来正規の世界に無いはずの物を入れる事で時空に歪みが発生し、それを繰り返す事でこの世界に現れたのか……

 

『楽園の力は万能! 世界の在り方を変える事が出来る! 手始めに全ての次元世界……並行世界に至るまでの全てを消滅させ、世界をリセットする!!』

 

「お決まりの宣言どうも。 でも……お決まりだからってそれをさせるわけにはいかない!」

 

「止めさせてもらうよ。 私達の全身全霊にかけて」

 

アリサ達を壁際に集め、残りの5人が前に出てそれぞれの武器を構えてイムと対面する。

 

『フフフ……』

 

「ーーき、気を付けなさい! 奴は……」

 

背後にいたアリサが声を上げ、イムが手を正面にかざした。 すると……辺りの雰囲気が変化した。

 

「!」

 

「これは……」

 

「まさか……魔力素の濃度が操作されている!?」

 

辺りの雰囲気の変化と呼応して、俺達は手に持つデバイスとの繋がりが途切れるのを感じる。

 

魔力素とは、管理下世界のほとんどに存在するもの。 これが存在する空間で生活することで体内にリンカーコアに魔力を蓄積できる。 よほど大人数が密集した密室でもない限り、個人の取り込む量よりも大気中に存在する量の方が多いため不足することはない。

 

逆に、濃度があまりに高くても吸収できる量に限界があるため、自然回復の阻害や魔法の暴走を起こす可能性がある。 通常濃度の±15%が適正値であり、それ以上でもそれ以下でも回復が阻害される。

 

だが、今起こっている現象はそれ以上。 そもそも、デバイスは魔導師がデバイスに魔力を送り込んで蓄積させて力を発揮させる……その流れが操られている。

 

『相反場、と言ったところかしら。 魔力素を操る事で魔導師とデバイスの繋がりを断ち切る……これで殆どがやられちゃって、そこの金髪のお嬢さんが何とか耐えたくらいね』

 

「それでアリサだけが……!」

 

「くっ……どんどんストラーダから魔力が抜けていく!」

 

『AMFに似ているけど……全く違う! 結合じゃない、魔力そのものに作用している!』

 

「ダメ……魔力が送れない」

 

「ピュイ……」

 

「魔力素濃度が低い状況下での戦闘訓練は私達、VII組しかしてないよ! テオ教官の訓練がこんな場所で役に立つなんて……!」

 

「意外にも教官してたんだね、あの人!」

 

いつ役立つか分からなかった訓練に感謝しつつ、改めてイムを見据える。 俺達を見下ろす目はまさしく見下しているように見える。

 

「皆、油断するな……それだけでアリサ達がやられる相手じゃない!」

 

「は、はい!」

 

「ーーヘルメスフィ、緊急起動。 ガントレットと直接(ダイレクト)に接続」

 

《オーライ》

 

クレフは胸に下げているブローチ型のデバイス……ヘルメスフィに指示を送り。 クレフは一瞬苦悶の表情を見せると……左腕についているガントレットが起動した。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット……チャージオン!」

 

「クレフ!?」

 

「まさか……腕に針を刺して直接魔力を送っているの!?」

 

それなら魔力素や相反場など関係無いが……クレフはゲートカードを投げながらクローネを球にして掴み、投げてポップアウトさせるとすぐさまアビリティーカードを取り出した。

 

「あなたの隙にはさせません。 アビリティー発動!」

 

《Ability Card、Set》

 

「デルタストリーム!」

 

クローネは6枚の翼を広げて回転し、気流が乱れ……相反場が大きく乱れる。

 

『あらあら、相反場が乱れちゃった。 でも……気を抜くとまた元に戻るわよ? 頑張ることね』

 

「言われなくても……!」

 

クレフは膝をつき、アビリティーの発動を維持する。 このチャンスを逃すわけにはいかない……俺は聖王の力を解放し、鮮烈になった視界でイムを捉え……腹部に力が集結しているのを発見した。

 

「アリシア!」

 

「分かってる! すずか、エリオとコルル! あいつのお腹を狙って! あそこが霊体化しているイムのコアだよ!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

『よし!』

 

『フフ、策を1つ退けたくらいで……思い通りにさせると思って?』

 

活路を見出し、散開してイムに接近する。 だがイムがそれを思い通りにさせるわけもなく……上空から隙間のない魔乖咒による弾幕が張られた。

 

「な、なんて弾幕……!」

 

「ーーエリオは自己防衛! すずかとアリシアはエリオをフォローしつつクレフを守ってくれ!」

 

「あ、レンヤ君!」

 

すずかが呼び止めようとする中、イムに向かって飛び出し、密な弾幕が張られている中を駆け抜ける。 聖王の目のお陰で反射神経や動体視力が上がり、そこに虚空を加える事でほんの僅かな隙間を縫って接近する。

 

『あら』

 

「はあっ!」

 

跳躍して自分に直撃する砲弾だけを斬り落とし、イムに向かって刀を一閃する。 だが……その一閃はかざされた手によって展開したいくつもの六角形で構成されたバリアによって防がれる。

 

『残〜念、あとちょっとだったわね』

 

「それはどうかな? 弾幕が止んでいるぞ?」

 

そう言うと同時にバリアを弾いて距離を取り、直ぐにアリシアが右から高速で接近し……

 

《ファイティングスタイル》

 

「とりゃりゃりゃりゃ!!」

 

両手に持っていた小型の2丁拳銃を銃身の下にレーザーサイトが付いた大型の2丁拳銃に変え。 魔力を放出しながらガンカタでイムを格闘戦に持ち込む。

 

『っ……霊体である私に触れるなんて!』

 

「幽霊だって、実態がないだけで存在はしている……数学の除算でどんなに割っても0にはならないようにね、後はそれを捉えるだけ!」

 

アリシアは銃を射撃ではなく鈍器として扱い流れるように、しかし目にも留まらぬ速さで攻撃する。 だがイムもタダではやられず、すぐさま自分に攻撃が当たる箇所にピンポイントでバリアを張って攻撃を防ぐ。

 

そしてイムが反撃に転じ、牽制としてノーモーションでアリシアに向かって弾丸を撃った。

 

「とおっ!」

 

するとアリシアは両足を振り上げて逆さまになりながら両手を上げて銃口を下に向け、魔力弾を発射する勢いで上昇し回避した。

 

『フフフ、さあこれはどうかしら?』

 

イムは手を掲げると……クレフの頭上に無数の槍が現れた。 そして手を振り下ろすと、クレフに向かって降り注ぐ。

 

「きゃああああっ!!」

 

「クレフ!」

 

槍がクレフに直撃してしまうが、エリオがソニックムーブで助け出す。 そして魔力素が元に戻ってしまうのを感じるが、その前に決着をつける。

 

『今だ、エリオ!』

 

「落ちろ、雷鳴!」

 

コルルによって室内に雷雲が発生し、エリオは槍を天に向けイムに落雷を落とした。 イムはバリアで防ぐが、続けてすずかが槍を天に向けた。

 

《スコールヘイル》

 

「霰よ、降って!」

 

コルルの雷雲を利用して霰を発生させ、大粒の雹を降らせる。 だが室内で降っている所を除けば所詮は普通の霰……バリアを張るだけで防がれてしまう。 だが……

 

「はあああああっ!!」

 

姿がかき消える程の速さでアリシアがイムの周りを駆け巡り、降り注ぐ雹をイムにぶつける。 イムを通り抜けるも身体全体を埋め尽くすほど雹をぶつけて一塊の氷の塊を作り出し……

 

「捕らえよ、素は形なき悠久の牢!」

 

『!?』

 

6つの雹を起点に六芒星を構成し、イムの氷に埋まっていない顔だけを実体化させた。 イムはそのまま地面に落下した。

 

「ぐうぅ……な、なぜだ……なぜ霊体化が解けているの?」

 

「あなたみたいなグリードはそれなりにいたし、対処法も知っている。 慢心が過ぎたね、無敵なんてあるわけもないのに」

 

「そうだな……」

 

だが、なにか引っかかる。 アリサが苦戦したには余りにも簡単に決着がついてしまった。 まるで……この状況を狙っていたような。

 

不審に思いながら考え込むと……突然週一辺りにローブとフードによって姿を隠している、おそらく教団の構成員が突如として現れた。

 

「なっ!?」

 

「こ、これって……」

 

「この人達は……教団の?」

 

Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(地獄の復讐がわが心に煮え繰りかえる)

Tod und Verzweiflung flammet um mich her!(死と絶望がわが身を焼き尽くす)

 

すると、全員が声を揃え……怨念に満ちた歌声を辺りに響かせる。

 

「これは……ドイツ語?」

 

「うっ………夜の女王のアリア……?」

 

「アリサ、目が覚めたのか」

 

気絶していたアリサが目覚め、彼らが口にする歌詞を答えた。 確かそれは……魔笛の1つ、だがあれは独唱曲。 こんな大勢で歌うようなものではない。

 

すると、突然床が光り出した。 床をよく見ると魔法陣になっており、夥しい程の文字が書かれ……その中心にはイムがいる。

 

「……………………(ニヤ)」

 

「! アリシア、直ぐそこから離れろ!!」

 

「ッ……!?」

 

警告と同時にアリシアは飛び退くようにその場から離れ……

 

Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(復讐の炎は地獄のように我が心に燃え)

 

「う……アアアアアアアアッ!!!」

 

最後の一節を唱えると、教団の人々が胸を抑え……絶叫を上げながら異形な存在へと変わり果て。 魔法陣の中心にいるイムに群がり、今度はイムが絶叫を上げる。

 

「っ!」

 

「うっ……」

 

「エリオ、クレフ!」

 

惨たらしい光景を見せぬよう、2人を庇って耳を抑える。 そして全ての怪物が集合し、1つの存在に成り代ると……そこには完全に実体化したイムが立っていた。 しかし、その目と気配は余りにも人とはかけ離れている。

 

『アアーーハハハッ!! ついに……ついに手に入れた! 終焉に至る力を!!』

 

「貴様! あれだけの人達を生贄にして自身にグリードを降臨させたのか!」

 

『元々はそこらへんの有象無象を贄にしようと思ってたけど……その前にアンタらに邪魔されて、主力は他の用があってここにはいなかったし残りは雑魚同然……全く、本当に使えない奴らだったわね』

 

「あなたって人は……!!」

 

「ホアキン以上の外道だね!」

 

『これで準備は整った……後はこの塔に魔力を充填し、私を生贄に世界再生の引き金を引くのみ!』

 

イムは高らかに、そして狂気的に笑い狂う。 だが、そんな夢見のような事よりも現実はそんな単純ではない……俺は冷静になってそれを指摘する。

 

「……ちなみに、その魔力はどこから出すつもりだ?」

 

『そうね……SSが100人くらいかしら?』

 

「どう考えてもそれはとてもじゃないけど無理です! 個人から出すにしても今からではとても待ち合わない!」

 

『それが可能なのよ。 あなた達のお陰でね』

 

「なに?」

 

『見なさい』

 

イムは隣に幻影のようで、空間ディスプレイのような役割を持った陽炎が発生した。 そこには塔の上空にいくつもの艦隊が映っている。

 

「次元航行隊……クロノ達か!」

 

『次元航行隊は艦の主砲……アルカンシェルの一斉斉射でこの楽園の塔を破壊するそうね。 どうやら上層部が強行して決行したようね』

 

「そんな……!?」

 

「…………! まさか、アルカンシェルの斉射で魔力の充填を……!」

 

「それが狙いか!」

 

楽園の塔にアルカンシェルを撃ち込み、それにより塔の起動に必要な魔力を確保する魂胆のようだ。

 

『フフ、この世界での教団の手はまだ残っているのよ』

 

「内部犯による犯行か……!!」

 

「で、でも、艦隊によるアルカンシェルがこの一点に斉射されたら私達だって無事では済まない!」

 

『その時は……一緒に心中するとしましょう』

 

『巫山戯るな!!』

 

心中など真っ平御免で冗談ではなく、俺達は声を揃えてキレる。 その時、気絶していた他のメンバーが目を覚ました。 それを確認してエリオに指示を出す。

 

「エリオ、皆に活を入れて塔から脱出しろ!」

 

「そ、そんな……皆さんは!」

 

「イムを倒して、アルカンシェルを撃たれる前に終わらせる!」

 

「それしかないね!!」

 

「ーーコホッ……私もいるわよ」

 

「アリサちゃん、もう大丈夫なの!?」

 

「身体の丈夫さは全員の周知の通りよ。 油断していたとはいえ、おちおち寝てられないし……やられたらやり返すのが私のポリシーだし」

 

汚れた口元を乱雑に拭い、アリサは立ち上がって剣を握る。 そしていつもの4人で災厄を前に立ち向かう。

 

「行くぞ……最恐災厄の悪霊……必ず打ち倒し、俺達の家に帰るぞ!!」

 

「ええ!!」

 

「もちろん!」

 

「やってやるぞー!」

 

『フフフ……さあ、世界ヲ終ワラセマショウ』

 

 

 



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3人目の聖王

ここ数日忙しくて投稿が少し遅れました。


『アハハハハハハハハハッ!!!』

 

塔最上層、そこではイムによる魔乖咒による隙間ない雨のような飽和攻撃が行われていた。

 

エリオ達は目が覚めたスバル達を連れて先に撤退し、ここには俺達4人と……目の前の魔神しかいない。

 

「冗談じゃない程の飽和攻撃ね! その魔力を塔に回せばいいじゃない!」

 

「いくら魔神になっているとはいえ、それでも足りないんだろうね。 世界再生……冗談では済まないかも」

 

「グリード相手に、いつだって冗談で済んだ事はないけどな」

 

「だよね!」

 

すずかがプロテクションで弾幕を防ぎ、その後ろで残りの俺達3人が隠れていた。 するとアリシアがバリアから飛び出し腕を振らず風に流されるようにし、姿勢を低くしながら駆け出す。

 

緩急をつけて弾幕を避けるが、それでも間に合わない時は真後ろに向けていた拳銃から魔力を放出して加速して潜り抜ける。

 

「はああああ……!!」

 

《ジェノサイドブレイザー》

 

「吹き飛びなさい!!」

 

周囲の魔力を砲身に集め、プロテクションから飛び出すと同時に巨大な火炎放射のような砲撃を放ち、横に薙ぎ払って弾幕を相殺した。

 

「今だよ!」

 

「ーー弧影斬!!」

 

弾幕が無くなると同時にすずかがプロテクションを解除して道を開け、抜刀から放たれた斬撃がイムに向かって飛ぶ。 イムは片手で薙いでかき消すが、その隙に背後からアリシアが接近する。

 

「はあっ!!」

 

「フフフ……」

 

連続で拳打や銃撃、蹴りを放つが……イムは微笑みながらのらりくらりと躱していく。

 

「レンヤ君!」

 

「ああ!」

 

すずかは槍を下段にし、腰を低くして力を込めながら構え。 俺は槍の上に乗ると……

 

「やあああああっ!!」

 

裂帛の気合いで槍を振るい、俺をイムの元に投げ飛ばした。

 

「………………(スッ)」

 

「なっ!?」

 

「え……」

 

イムはアリシアの右手を取り、後ろに受け流してこちらに向かってアリシアが驚いた顔をして飛んできた。 俺は振り抜こうとした刀を途中で止めて逆手に持ち替え、アリシアを抱き止めたが……その間にイムは天に手をかざし、巨大な魔乖咒による球を出していた。

 

「くっ……!」

 

パルクールステップで制動をかけ、空を蹴り距離を取ろうとするが……それよりも早くイムは手を振り下ろす。 迫ってくる球体、避けることは出来ずアリシアを庇おうとした時……

 

「ーーくるりと回る」

 

『ガッ!?』

 

突然、目の前に丸いリングが現れ、直撃するはずの砲弾がリングの中をくぐり抜けると……いつの間にかイムの背後にあったリングから出てきてイムに直撃した。

 

「て、転移で跳ね返した……?」

 

不可測に迫る攻撃を的確に転移して返すなど並大抵では出来ない。 こんな芸当、アリシアでも出来ないのに。 一体誰が……すると、横から長い金髪で紅玉と翡翠のオッドアイをした女性が出てきた。

 

「さてと……」

 

「ーーえ……」

 

「てってて〜、おっ出まし〜♪」

 

女性は持っていた翼の装飾が施された杖を掲げ、頭上に先程の丸いリングが浮かび上がると……

 

「にゃ?」

 

「あれ?」

 

「です?」

 

「な、なんやてー!?」

 

その中からなのは、フェイト、はやてとリインが落ちてきた。 突然の事だったのか3人は驚いている。

 

「え、ええええっ!?」

 

「なのは、フェイト、はやてにリイン!?」

 

今度はこちらが驚くが、リインを覗いた3人はイムを視界に捉えると……驚愕していた表情を引き締める。

 

「ディバイン……」

 

「ソニック……」

 

「走れ、銀の流星……」

 

3人は即座にバリアジャケットを展開せずにデバイスを起動し、魔力を高めるのと同時に……

 

『インパクト!/ザンバー!/アガートラム!』

 

それぞれの近接技をイムに叩き込んだ。

 

「ーーあ!? レン君達と戦っていたから思わず手を出しちゃったけど……」

 

「手助けして、よかったのかな?」

 

「まあ、ええんとちゃう? 結構グットなタイミングやったやろうし」

 

「まあそうだけど……」

 

「アギトちゃん、これって一体……」

 

『あー、その話は後だ。 それよりもーー』

 

「ああ、そうだな」

 

なのは達が遅れてバリアジャケットを展開する中、アギトの見えない視線に答えるように俺は突然現れた女性の前に立つ。

 

「はあ……ようやく見つけたと思ったらどうしてもこんな場所に……」

 

「まあまあ、終わりよければ全て良し。 私、あなたと再会できて嬉しいわあ」

 

女性は頰に手を添えて赤らめ、本当に嬉しそうな目をしながら俺を見る。

 

「あの、レン君。 大体予想がつくんだけど……この人は?」

 

「……アルフィン・ゼーゲブレヒト。 俺の……実の母親だ」

 

「………………え」

 

『ええええええっ!?』

 

「あらあら」

 

俺の言葉に全員が驚愕して声を上げる。 だが当の本人は面白そうにしているだけだった。

 

「はあ……百歩譲って母さんだとしても、どうしてここにいるの? なんで今頃俺の前に姿を現したんだ?」

 

「あら、母が子に会いに行くのに理由なんている?」

 

「俺の母親は高町 桃子、父親は高町 士郎。 事情があったとはいえ、20年間も姿を見せずに音沙汰なしでいたのはそっち。 今更出てきて母親面はやめて」

 

「……………………」

 

「レンヤ……」

 

腕を組みながら背を向け、強く突き返す。 もちろん怒っているわけではないが、それでも俺をここまで育ててくれたとのは高町家の両親……それを譲る気は無い。

 

「……はあ、積もる話はあるけど……先にイムを何とかする。 それでいい?」

 

「……それでいいわ」

 

「レンくん…………っ!!」

 

『ヴヴヴ……貴様……ヨクモ!!』

 

「あわわ……!」

 

異形の目だが、そこに狂気が混じりながら睨んでくるイム。 リインは慌ててはやてとユニゾンすると、母さんが俺達4人の目の前にリングを展開した。

 

「皆、そこを通って!」

 

俺達は返事を返す前にリングの中に飛び込み……イムの四方に転移して奇襲をかけ。 なのはとフェイトは自力で接近、はやてはその場で留まり、魔力を溜めながら魔法を発動するタイミングを見計らう。

 

「やあっ!」

 

すずかが飛び出し、高速の突きを繰り出すが……イムはヒラリと躱し柄を掴まれてしまったが。 すずかは槍を足場にして立ち上がり蹴りを放った。

 

『ム……!』

 

「!? キャアッ!」

 

鋭く放たれた蹴りは簡単に弾かれ、足首を掴まれて振り回され無造作に投げられる。

 

「ごめんすずか!」

 

《マジカルエフェクト、バーン》

 

飛んできたすずかに手をついて謝りながら飛び越え、アリサは剣に炎を纏いながら左手でアギトが発動した魔法……火球を放った。

 

『ウグ……アアアアッ!!』

 

「っ……はっ!」

 

火球を顔面に受けたが、軽くスス汚れた程度。 イムは咆哮とともに砲撃を放った。 アリサはそれを重力魔法によって空を蹴って避け、剣を振るうが……

 

ガキンッ!!

 

「なっ!?」

 

咆哮によって開いた口が勢いよく閉じ、ノコギリのような歯で挟まれ止められてしまった。

 

「アリサ!」

 

「離れろ!!」

 

2人で挟み込むように左右から接近し、長刀の柄頭で側頭部を殴り。 アリシアは一瞬で胴体に何度も拳を打ち込んだが……イムは剣を離そうとはせず、こちらの攻撃も効いてはいなかった。

 

「皆!」

 

自力で接近していたなのはがイムの四肢にバインドをかけ、その隙に俺とアリシアは距離を取り……

 

「離れろ!」

 

《ソニックブレイド》

 

下からフェイトが懐に潜り込み、双剣による神速の一閃を首筋に向かって放った。 それによりイムは口を開き、剣を離して迫ってきた双剣を避け……

 

「ーーバルムンク!!」

 

はやてにより後方から弧を描いて無数の剣が飛来。 イムは魔乖咒による弾丸を発射して対応する。

 

『あ、当たりませんです!』

 

「ぐうっ……今更元には戻らないとはいえ、本当に化物ね!」

 

「身体が硬いわけじゃないのに、どうして効いてないの……?」

 

「痛みに鈍いんだ……イムの奴、痛覚が無くなっている!」

 

『アハッ!(パチンッ!)』

 

イムは笑いながら指を鳴らすと……俺達を囲うように周囲に魔乖咒が溢れ出し、今まで出てきた機械型のグリードが顕現した。

 

「機械型のグリード!」

 

「囲まれたね……」

 

「でも、この程度……!」

 

『フフフ……マダ気付イテナイナンテ、オ気楽ナ奴ラネ』

 

「……なんですって?」

 

今だに理性があったのに驚きはしたが、アリサはそれを抑えながらも思わず聞き返す。

 

『ソモソモ、動物以外ノ他ノぐりーど……アレニハ人間ノ負ノ感情ニヨル憎悪ニヨッテ現レテイタ』

 

「人間の負の感情……?」

 

そういえば、1番最初に現れた機械型のグリード……綺麗になりたいなんていう人らしい事を言っていた。

 

『人デアルナラ必ズハ持ッテイル欲望、願望……ソレガぐりーどニヨッテ色濃ク顕現シ、オ前達ガ倒シテクレタオ蔭デコウシテ高純度ノ質ノ良イ魔乖咒ガ手ニ入ッタ。 御苦労ダッタワネ?』

 

「そんな……」

 

「悪に片棒を担ぐ事なんて何度もやったよ! 今更そんなこと言ったってね、ここでアンタを武力行使で倒せば丸く収まるんだから!」

 

「み、身も蓋もない……」

 

今までまで自分が行った行為が間違いだった、過ちだったなんて事は幾らでもある。 ツケは自分で払うもの……アリシアの言う通り、イムを倒せば済む事だ。

 

「気をつけて。 今の話が本当なら……周りのグリードを倒せばそれだけイムの力になるからーー」

 

『ならこうする!』

 

アリシアがアドバイスを言い終えると同時になのはとはやてが飛び出し。 はやてがチェーンバインド、なのはがラバーバインドで機械型のグリードをまとめて全部拘束し……

 

「ふんっ……!」

 

「ど……りゃあぁっ!!」

 

それぞれのバインドを杖の先端に括り付け、乙女らしからぬ声を出してブン回し。 グリードを振り回して一箇所に集め、さらにバインドで硬く拘束した。

 

「今のうちに!」

 

「了解!」

 

《残り1分》

 

「!!」

 

《ソニックムーブ》

 

タイムリミットが迫る中、グリードをなのはとはやてが抑えている隙にフェイトが一瞬で距離を詰め……

 

《ジェットザンバー》

 

「撃ち抜け、雷神!!」

 

神速の魔力斬撃が振り下ろされた、が……その一撃は片手で止められていた。

 

『中々ノ速度ネ』

 

「それでも……!」

 

《イグニッション》

 

柄のスロットルを全力で回し、魔力放出力を上げて押し込もうとする。 そして背後に回り込んで攻撃しようとした時……

 

「っ!?」

 

「腕が増えた!?」

 

『アハハハハハッ!!』

 

背中から無数の腕が生え、攻撃する前に押し返されてしまう。 そして、刻一刻と時は過ぎてしまい……ついに天が明るくなり、徐々に増えていく。

 

「アルカンシェルが!」

 

「!!」

 

次の瞬間、辺りは白い閃光に包まれ……

 

ドンッ!!!

 

砲撃音だけが耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、楽園の塔周辺にいたシェルティス達は市民と、撤退してきたスバル達をヘリに乗せて本土に戻る途中……アルカンシェルによる余波によって大きく揺れ、市民達は悲鳴をあげる。

 

『きゃあああああっ!?』

 

「なんだなんだ!?」

 

「な、何が起きているの……?」

 

市民は恐怖に怯え、なのは達が慌てふためく中……シェルティス達は冷静に状況を把握しようとする。

 

「い、今のは……!?」

 

「っ……ツァリ!!」

 

『どうやら軌道上にいた艦隊によるアルカンシェルの斉射だね。 どうやら上層部が強行して放ったみたいだけど……』

 

「何ですって! あそこにはまだレンヤ達がいるというのに!」

 

その時、ツァリが声を上げた。

 

『! 爆心地中央に魔力反応! 高密度の魔力が発生!』

 

「え!?」

 

「まさか……!」

 

すると、爆煙が晴れていき……中から紺碧の水晶によって構成された巨大な塔が現れた。

 

「な、何あれ……」

 

「外壁が崩れて……中から水晶?」

 

「……無事だよね? レンヤ達……」

 

「今は、信じて待つしかない……」

 

美由希は手を合わせ、レンヤ達の無事を祈り。 ティーダは静かに塔を見つめた。

 

「ケホケホ……い、生きてる?」

 

『何とかな……』

 

「ううっ……まさか敵の一か八かの賭けが成功して生き残るなんて……」

 

「なんか複雑だね」

 

そして、塔の最上層では……アルカンシェルを受けた衝撃によって崩落した瓦礫の下敷きになったレンヤ達が瓦礫を退かして這い出てきた。

 

レンヤ達は辺りを見回し、上にいたイムを視界に捉える。 イムは俯いて表情は見えないが……その口元は三日月のように歪んでいた。

 

『フフフ、アハハハハハハッ!! 成功ヨ! アルカンシェルニヨッテ塔ノ起動ニ必要ナ魔力ハ充填サセラレタ! 後ハ……引金ヲ引クダケダ!』

 

イムは顔を上げると同時に腕を突き出すと……腕があり得ないくらい伸び、レンヤに向かって襲いかかったが……

 

「ーーあぐっ!」

 

「……え」

 

アルフィンが横から割って入ってレンヤを庇い、腹部に傷を負ってしまった。

 

「か、母さん!?」

 

レンヤは慌ててアルフィンに駆け寄り、傷口を見ると……腹部から留めなく血が流れたいた。 すぐさますずかが応急処置に入るが……再度イムの手が飛来、レンヤは振り返り際に抜刀し弾き返した。

 

「引金という事は、俺を贄にして楽園の塔を発動させる気か!?」

 

『聖王ノ血ハ特別ナノヨ。 元々、聖王ハ兵器ノ部品ノヨウナ存在……使ッテ何ガ悪イノカシラ?』

 

「貴様……!!」

 

(兵器の部品、か……アレを見る限り、強く言い返せないけど、それでも……!)

 

怒り混じりでイムに問いかけ、その答えにフェイトは怒りを露わにする。 だが、それに対してレンヤは考え込んでいた。

 

『ハアッ!!』

 

だがこのまま考えに耽る訳には行かず……意識を外に向ける。 するとイムの背にある無数の腕が伸び、爪を立てながら迫ってきた。

 

《ロードカートリッジ》

 

「せいっ!」

 

左の3本の短刀のカートリッジを炸裂させながら振るい、前にあった腕の手首を切り落とし。 その後のを上昇して避けそのままイムに向かって飛ぶ。

 

そして3本の短刀を高速で投擲し、イムは残りの腕を集めて受け止める。 だがカートリッジをロードしたため短刀は勢いを失わず、腕と短刀は拮抗する。

 

「フレイムアイズ! リボルバービット、展開!」

 

後方にいたアリサが左右に巨大な砲身を有しているリボルバー式の浮遊している大砲を展開し。 フレイムアイズもキャノンフォルムに変形させ、リボルバーが炎を纏いながら急速に回転し、砲身に魔力が集まり……

 

《トリニティバースト》

 

「いっけえええっ!!」

 

3つの砲門から赤い3つの砲撃が発射された。 砲撃はイムに直撃し、イムは全身が炎に包まれ……ガムシャラに手を振り回しながら炎を振り払う。

 

『ギャァアアアアッ!!』

 

イムは全身に火傷を負いながら絶叫を上げ。 今度は四肢がゴムのように異常に伸び、刃のように鋭い爪が縦横無尽に飛来し……避けきれず右腕を切り裂いた。

 

「っ!! 負けるかぁ!!」

 

《ファイナルドライブ、ソードオン》

 

3つのギアをフル稼働させて魔力を急上昇させ、抜刀によって高濃度の蒼い魔力が刀身に纏われる。

 

「一切合切斬り落とす、虚空千切ッ!!」

 

刹那の間にいくつもの剣戟による軌跡が走り、イムの腕を全て斬り落とした。 そしてフェイトが大剣を上に投げ、大剣はその剣先をイムに向けて静止し。 フェイトは大剣に向かって手を掲げ……

 

「天庭よ、荒れ狂え……」

 

《アンバーボルト》

 

「失墜しろ、鳴神ッ!!」

 

振り下ろすと同時に大剣が雷を纏いながら高速で、落雷のようにイムに肩に突き刺さった。

 

「氷牢よ!」

 

次いですずかが全身から魔力を放出すると……雪が、吹雪が舞い、イムの周囲で吹き荒れると……一瞬で氷漬けにし……

 

氷華(ひょうか)……朧月槍(ろうげつそう)!!」

 

『ク……ソガアアアアアッ!!!』

 

魔力で刃を延長し、強化した槍を投擲した。 槍は薄紫色の軌跡を残し……イムの腹部を貫き氷が拡散し、まるで氷の花が咲いたようになった。 すると、今まで保っていた状態が不思議なくらいの身体が、砂のように崩れ落ちながら崩壊を始めた。

 

『グウウウ!! マ、マダダ……マダ私ハココデ死ヌ人間ジャナイ!!』

 

「あ!?」

 

「待て!!」

 

「ーーぐっ……!」

 

崩壊し始めているイムは大剣と槍を引き抜くと天井を開いて外に出て、それをはやてとアリシアが追いかけるが……先ほど切り裂れた右腕を抑えて膝をついてしまう。

 

「レン君!!」

 

「だ、大丈夫だ。 傷はそこまで深くない……それよりも早く母さんを連れて外に! 俺は後から向かう」

 

「……分かった気をつけてね」

 

だが、アリシアは外に出たが天井は既に閉まっており。 なのは達は別ルートから脱出を試みてその場を後にし……

 

「ーーッ……!?」

 

『レンヤ(君)!?』

 

なのは達がアルフィンを連れて撤退すると同時に……ガクリと膝をつき、受け身を取らずに地に倒れ伏した。 慌ててアリサとすずかが近づくと……レンヤは額に油汗をかきながら悶え苦しんでいた。

 

「ぐ……ハアハア……」

 

「まさか……毒!?」

 

「レンヤ君! レンヤ君!!」

 

「落ち着きなさいすずか! 先ずはここを脱出するのが先決よ!」

 

毒が入ったであろう右腕の付け根を抑えながら荒い息をし、レンヤは毒に耐えていた。 アリサはすぐさま脱出しようと辺りを見回すが……既に辺りには火の手が回っていた。 その時……瓦礫によって塞がれていた勢いよく扉が開かれ……

 

「ーーこっちだ、早くこい!!」

 

「リンスさん!」

 

出口の扉を開けたのはリンスだった。 リンスは慌てて叫びながら手でアリサ達を呼んだ。

 

 



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楽園の崩壊、そして……

はやてとアリシアは、消え始めていながらも塔を登り続けるイムを追いかけていた。 イムは超常的な身体能力で外壁を駆け上がり、その後を2人が追う。

 

『私ハ負ケラレナイ! 真ノ自由、人ガ運命ニ束縛サレナイ自由ヲ作ルタメニモ!!』

 

「! そうか……イム、あなたも教団の実験による被害者……」

 

「……居た堪れないなぁ……」

 

イムの必死な叫びに、アリシアとはやてはその中に含まれた感情を読み取り……ほんの僅か、少しだけだが同情した。

 

『痛ミト恐怖ノ中デ真ナルDハ囁イタ! 真ノ自由ガ欲シイカト呟イタ!! ソウ……私ハ選バレシ者! 私ガDト共ニ真ノ世界ヲ作ル!!』

 

「っ! それは人の自由を奪って……人を犠牲にして作るものなんかっ!!」

 

同情も刹那の間だけ。 はやてはその物言いに怒りを覚え、怒鳴る。

 

『世界ヲ変エルニハ人ノ意志、ソシテ神ノ意志ガアッテコソ実現出来ル! コノ世ハ矛盾ト混沌ノ泥デ出来テイル……ソレヲ変革スルニハコレシカナイト何故分カラナイ!!』

 

背から何本もの腕を生やし、その手の指先が空を描くと……巨大な魔乖咒による陣が形成された。

 

「なんて魔乖咒……まさか塔ごと消滅させる気じゃ!?」

 

「そんな事、させへんでえぇ!!」

 

『フフ、今度ハ人ノ届カナイ次元世界デ必ズーー』

 

その時、イムの頭上にリングが……アルフィンのリングが出現した。

 

「あれは……!」

 

『ナ、ナンダ?』

 

突然の事にこの場にいる全員が驚愕し。 リングから3つの魔力が飛び出すと……

 

「レヴァンティン!!」

 

「グラーフアイゼン!!」

 

「クラールヴェント!!」

 

「ーーえ?」

 

シグナム、ヴィータ、シャマルが騎士甲冑を纏った戦闘状態の姿で現れた。 その手には自身の愛機が握られ、魔力が高められ……

 

『紫電双閃!!/コメットクレイジー!!/ジャッチメントウィップ!!』

 

二刀蛇腹剣による一閃、ペンデュラムによる無数の刺突。 そして、ハンマーによる一点突破の打撃……それがほぼ同時に3人の技がイムに叩き込まれ、イムは何が起きたのか理解する間もなく、最後のハンマーの一撃により塔に向かって勢いよく落ち……塔を破壊して中に叩き込んだ。

 

「ちょっと待て! 同時に技名叫んだせいで何言ってんのか分かんなかったんだけど!?」

 

「仕方なかろう。 急にあの男によって呼ばれたのだ」

 

「っていうか、ヴィータちゃんって技名叫ぶのこだわっての?」

 

「み、皆……どないしてここに?」

 

「あ、はやて!」

 

塔の上空で言い争っている3人に、はやてとアリシアは困惑しながら近付くと……2人に気付いたヴィータが駆け寄ってくる。

 

「我が主、ご無事でなによりです」

 

「どこか痛いところはない?」

 

「そ、それは大丈夫やけど!」

 

「はやての言いたいことは分かってる。 アタシ達もいきなり現れたアイツに言われるままここに来たからな」

 

「アイツ? アイツって、誰かが3人をここに連れてきたの?」

 

「ああ。 ルーフェンの部族衣装を着た男だった。 あれはかなりの達人だったが……男が主の助けになると言われたので言われるがまま輪の中に入り……異様な人物がいたので思わず剣を抜いて今に至る」

 

相変わらず剣で全てを解決するシグナムだったが、はやてはそれよりもその3人を連れてきたの人物について考え込む。

 

(……あのリングから通ってきたちゅうことはアルフィンさんと縁のある人。 ルーフェンの部族衣装を……そういえば、レンヤ君のお父さんって……)

 

「ううーん……初めて会う人だったけど、どうにも初対面には思えなかったのよねぇ」

 

「あ、それはアタシも思った。 誰かに似てる気がしたんだが……」

 

記憶の中から思い出そうと頭を捻っていた時、塔全体が揺れ始めた。 すると魔力の奔流が起こり……崩壊し始めた。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「塔から魔力が……まさかアルカンシェルの魔力が暴走しているの!?」

 

「暴走!?」

 

「元々、あれだけの魔力を一か所に留めておく事自体が不安定なんや」

 

「! そうなったら行き場をなくした魔力が弾けて爆発するわ!」

 

「そうなったらここにいる私達も含めて、周囲にいる人達ももろとも全滅だね」

 

「なら、急いで皆をーー」

 

はやては塔の中に向かって飛ぶが……側にあった結晶が熱で柔らかくなったように膨らみ、爆発した。

 

「はやて!」

 

「大丈夫や……」

 

「器をも変形させるほどの魔力……想像以上の破壊力を秘めていそうだね」

 

「この場にいては危険です。 主、ここはお引きください」

 

「せ、せやかてまだ中にはレンヤ君達が……」

 

「この程度でくたばるような皆じゃないよ! 私達がイムを倒している間に撤退しているはず……私達も急ぐよ!」

 

はやて達は空を飛び、その場を離脱する。 そしてアリシアはチラリと塔の方を向き……

 

(大丈夫……だよね?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異界が崩壊して、膨大な魔力に塔も耐えられずに崩れる! 急いで脱出するぞ!!」

 

リンスの先導の元、アリサとすずかは2人で毒で動けなくなっているレンヤの両肩を抱え、崩壊する塔の中で出口に向かって走っていた。 すでにレンヤには異界の薬……アンチドーターを服用させたが、まだ目は覚まさない。

 

「……いつもレンヤが死ぬ思いで頑張っていた……今度は私達が!」

 

「うん、必ず救い出してみせる!」

 

「っ……崩壊するスピードが速い!」

 

「早く、こっちだ!」

 

アリサ達は急いで走るが。 退路はすでに崩れかけ、燃え盛る通路を走り抜けていた時……

 

「どこへ行く気だ?」

 

突如、どこからともなく現れた逆三角形の仮面を付けた男が立ち塞がった。

 

「くっ……!」

 

「教団の残党、他にもいたの!? もう、戦えないのに……」

 

「確か、イムが言っていたここにいないはずの教団の主力……」

 

いつもなら問題ない相手だが……今までの度重なる戦闘による疲労と、消耗し枯渇している魔力では抵抗すら出来ず。 どうにかしようと後ずさっていると、近くから風切る音が聞こえ……

 

「ぐあああ……!?」

 

「!!」

 

突風が巻き起こり、逆三角形の仮面の男を遠くに吹き飛ばした。 そしてそこにいたのは……

 

「ぐずぐずするな、行くぞ!!」

 

「ヴァイスさん!」

 

「行くわよ!」

 

「ーー行かせはしない」

 

再び走ろうとした時……筋肉質で、それぞれが違う種類の仮面を付けた見上げるほどの身長を有している4人の男に一瞬で囲まれてしまった。 その付けている仮面からは異様な気配が発せられている。

 

「か、囲まれたっ!!」

 

(この気配……かなりのランクのグリードがあの仮面に……! しかもこの人数……くそっ、今度ばかりはヤバい……!!)

 

「っ……お前ら……俺達が隙を作る! 振り返らず走り抜けろ!」

 

「ヴァ、ヴァイスさん!」

 

襲いかかってきた男の拳を、ヴァイスは左手の矢で受け止めたが……弾き飛ばされ、ゴギャっと、鳴ってはいけない音を立てながら腕が折れ曲がってはいけない方向に曲がってしまった。

 

「ぬぅああ!! エリアルイン!!」

 

痛みに耐えながらも右手の弓を構え、その場で一回転。 節の刃が楕円面の男を切り裂き、巻き起された竜巻によって天井に叩きつけた。

 

「やああ!!」

 

リンスの蹴りが猿面の男の脇腹に入るが……男は怯まず、手に持つ曲刀を振るった。 それにはリンスは避けられず、痛みを覚悟した瞬間……間にアリサが割って入り、曲刀を剣で受け止め、余りの威力に2人は吹き飛ばされてしまった。

 

「おい!! なんで隙を見て逃げねえ!?」

 

「っ……仲間を見捨てて逃げられる訳ないでしょう……!」

 

「それに……レンヤ君だったら……やっぱりこうしたはずだから!!」

 

「私達も加勢する、全員で逃げられるチャンスができるかもしれない……!」

 

例え戦えなくても、仲間を置いてはいけない……レンヤを壁に寄りかからせ、アリサ達は武器を構える。

 

「フン、意味のない事を!」

 

「構わん……みなで死ねい!!」

 

「ぐあっ!!」

 

「ヴァイス!!」

 

鳥面の男がヴァイスの顔面を殴って壁に打ち付け、拳を振りかぶりトドメを刺そうとしたその時……突然誰もいない鳥面の男の背後から腕がヌッと出てきて、鳥面の男の振りかぶっていた腕を掴んだ。

 

「!?」

 

「え……」

 

「誰だ!?」

 

「気配もなく我らの背後を取るとは……」

 

それには仮面の男達も驚愕し、すぐさま構えを取るが……腕を掴んだ部分からメキメキっという音が出てきた。

 

「ぐがあああ!!」

 

鳥面の男は絶叫を上げながら腕を振りほどき、そしてそこにいたのは……眼鏡をかけた太った男性、塔の入口にいたグリードに連れ去られたはずの一般市民だった。

 

「あ、あなたは……!」

 

「な、なんでここに!?」

 

(な、なんて力……)

 

アリサ達は太った男性を見て驚くが。 アリシアはどうしてここにいると言う感情より、あの仮面の男の腕を掴んで止めた事に驚いていた。

 

「逃げ出した贄か!?」

 

「! 危なーー」

 

蛇の面をした男が背後から太った男性に襲いかかり、アリサが叫んだが……

 

「うっ!!」

 

太った男性は右手の人差し指を立てふりかかった拳を……あろうことかその指の隙間に人差し指を入れて受け止めた。 それにより蛇の面の男からくぐもった声が漏れる。

 

「貴様!!」

 

「何者だっ!!」

 

今度は猿面と鳥面の男が襲いかかったが……今度は左手を広げ、2人の拳を先と同様に受け止めた。

 

「ば、ばかな、拳が抜けん!!」

 

「こやつ、魔神の類か!?」

 

「う、嘘……」

 

あの筋肉質な仮面の男3人を相手に、太った男性は顔色一つ変えず、指先だけで圧倒していた。 そして太った男性はその状態から3人を一気に振り回し……拳から指を抜いて壁に叩きつけた。

 

「おのれ!!」

 

すると、先ほどの曲刀を楕円面の男が怒りを露わにし。 跳躍して太った男性の頭上に飛び……

 

「ヒュウ!! くらえ!!」

 

曲刀を何度も振るって天井を破壊し、落盤が仁王立ちしていた太った男性の上に落下してしまった。

 

「ああ……!!」

 

「そんな……」

 

瓦礫が埋まり、火の手もあってアリサとアリシアは男性の安否に絶望するが……燃え盛る瓦礫が盛り上がり、岩が落ちる音とともに身体の骨がゴキゴキと組み変わるような音を立てながら太った男性が立ち上がり……ジュウっと何が焼ける音も聞こえ、太った男性が火の手から出てくると……

 

「あ、あなたは……」

 

そこにいたのは……羽織っていた外套の下にルーフェンの部族衣装を着た、セミロングの黒髪を一纏めにした二十代くらいに見える男性だった。 すずかは思わず男性を尋ねると、男性はすずか達の方を向き……

 

「私は、その子と縁のある者……名をシャオ・ハーディン」

 

『!!』

 

その名に、アリサ達は反応した。 それが本当なら、彼は……

 

(こ、この人が……!)

 

(ルーフェン武術の1つ、華凰拳歴代最強と謳われた武人!)

 

(そして……レンヤ君の……お父さん!!)

 

すずか達はバッと、背後の壁に寄りかからせていたレンヤの方に向き直ると……そこには既にシャオが肩に羽織っていた外套をレンヤに掛けている途中だった。

 

「!!」

 

「なっ、速い!」

 

「め、目の前にいたはずなのに!!」

 

「気配も、音もまるで感じなかった……!」

 

目の前から消える事すら自覚させない程の速さでシャオはレンヤの元に向かい。 父親らしい行動を見せるが……仮面の男達はシャオが背を向けた隙を狙った。

 

「えああああ!!」

 

「ちっ!!」

 

楕円面の男が曲刀を振りかぶり、飛びかかってきた。 ヴァイスは対応しようと弓を振ろうとした瞬間……シャオはパッと外套を手放し……

 

『うげ!!/がっ!?/おぶっ!!/むご!!』

 

『!!』

 

突如、強烈な旋風が巻き起こり、ほぼ同時に4人の仮面の男達のくぐもった声が聞こえ……勢いを失って地に倒れ伏した。 どうやら男達はシャオによって刹那の間に全身に何度も拳を撃ち込まれたようだ。

 

(は、速くて目で追えない!!)

 

(なんて速度!!)

 

「ーー息子が世話になったね」

 

『!?』

 

シャオはレンヤの元に戻ると重力に引かれて落ちようとしていた外套を掴み、優しくレンヤに被せた。 その間までにかかった時間は1秒にも満たず、アリサ達はシャオに翻弄される。

 

「えっ!?」

 

「感謝している」

 

「いつの間に!」

 

(な、なんてデタラメな速度……しかも今の攻撃、相手は死……)

 

シャオから感謝の言葉を受け取りながら、アリサは冷や汗を流しながら緊張で溜まっていた唾液を嚥下し。 ソーっと、後ろにいるあの攻撃を受け、血を流している男達を確認しようとすると……スッと、アリサの前に横から男達を遮るようにシャオの手が差し出された。 その手の上にはレンヤのリボンがあった。

 

「息子から手当に使われたリボンだ」

 

「え……」

 

「………………」

 

アリシアが呆然とする中、アリサは無言でリボンを受け取った。 するとシャオはフッと微笑む。

 

「ありがとう。 今まで私達の代わりに息子を……ルノの側に居てくれて」

 

「ルノ……それがレンヤ君の本当の……」

 

「ああ、だがもう……あの子はレンヤなのだろう」

 

シャオは少し寂しそうな顔をし、目を伏せる。 その時……

 

「ぐうう……!」

 

「ヴァイス!」

 

隣にいたヴァイスが折れた腕を抑えてうずくまり、リンスが慌てて処置を施す。

 

「……………………」

 

すると、シャオはヴァイスの方を向き、また一瞬で移動して手を伸ばすと……ヴァイスの折れた腕を捻り上げた。

 

「ぐあああ!!」

 

「き、貴様!! ヴァイスに何を!!」

 

その行動にリンスが怒りを露わにする中、シャオはどこからともなく圧力注射器を取り出すとヴァイスの折れた腕に打った。

 

「最新の回復促進剤を打った。 今、治療しなければこの腕はダメになっていただろう」

 

「えっ!?」

 

あの行動が治療と分かると、リンスは怒りの勢いを失い。 シャオは布でヴァイスの左腕を首に吊るし、即席のギプスを作った。

 

「なんて手際の良さ……」

 

「このやり方……どことなくレンヤに似ているような……」

 

「やっぱり、お父さんなんだ……」

 

「ーーおっと、どうやら迎えが来たようだ」

 

「え?」

 

すると、すぐ前にあった壁にヒビが走り……

 

「はあああああっ!!」

 

壁を粉々に破壊してユエが飛び出してきた。

 

「皆さん、無事ですか!?」

 

「ユエ!」

 

「助けに来てくれたの!」

 

「ええ、ヴァイスさんとリンスさんが救出に向かったので無用かと思いましたが……来てよかった」

 

「あ、ああ、本当に助かったぜ……」

 

「……ほう、見事な剄だ。 ヤンの後を継ぐだけはある」

 

「!? あ、あなたは……!?」

 

「それは後! 急いで脱出するよ!」

 

アリサ達はユエが壁を破壊して通って来た道を通ってショートカットして塔を脱出したが……まだ爆発の危険があるため転移で距離を取ろうとした時、目の前にツァリの探査子が舞い散る。

 

「ツァリーー!!」

 

『失敗しても恨まないでよね!!』

 

すると、塔の周囲を囲うように6か所から魔力が溢れ出ると……念威によって構成された桜の木が出現した。 それがバラバラに散って万を超える桜の花びらとなり、爆発寸前の塔の周りを回り、竜巻を引き起こすと……

 

ドオオオオオオンッ!!!

 

塔が爆発したが、竜巻によって衝撃と魔力は天に向かっていき。 アリサ達がいる地点まで衝撃は及ばなかった。

 

「魔力が空に……空中に流されていく!」

 

「た、助かった……」

 

「死ぬかと思った……」

 

『ゼエ、ゼエ……こ、こっちも死にそうなんだけど……』

 

命の危機を脱し、全員地べたにへたれこむ。 沿岸から念威を飛ばしていたツァリはバテバテになって倒れているのだった。

 

そして、2つの世界を隔てた事件は概ね解決し。 一同は一旦沿岸付近に集まった。 ちなみに2匹のザフィーラがいた。 どうやらこちらのザフィーラも飛ばされて来たようで、大太刀を背負っていなったら区別はつかなかっただろう。

 

「うっ……ハアハア……」

 

「レン君!」

 

「アンチドーターでも治せないなんて……」

 

「どうすれば……」

 

先の戦いでレンヤは毒で倒れ、全員はレンヤを囲って一心の思いで治療に当たっていた。

 

「私がもう1人……」

 

「あれがそちら側のシグナム……ふっ、勝てんな……」

 

「ほおー、こうしてみると圧巻やなぁ」

 

「よお、そっちのアタシ。 変わらずちっさいな」

 

「うっせえ! お前が無駄にデカいだけだろうが!!」

 

治療に参加できないシグナムやここのなのは達は、もう1人の自分を見てそれぞれ別の反応を示していた。

 

「……アルフィン」

 

「ええ。 皆、これをレンヤに飲ませて」

 

すると、アルフィンが手元に薬品が入ったビンを転移させ。 なのは達の前に差し出した。

 

「これをこの子に。 解毒薬じゃないけど、治癒力を高めて毒に抵抗出来る身体を作る事が出来る薬……これでレンヤを救えるわ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「じゃあ、早速ーー」

 

「あ、出来れば口移しでお願いね。 溢すとマズイから♪」

 

『!!』

 

アルフィンがそう言った瞬間、なのは達の背後に雷が落ちた。 そして硬直する中、はやてがビンを受け取った。

 

「じゃ、じゃあ皆こんなのイヤやと思うし、せやから私がーー」

 

「イヤじゃないよ! ここは1番付き合いが深い私がーー」

 

「な、なのは、はやて! 抜け駆けはズルいよ! 私がやった方が丸く収まるから!」

 

「それなら私がやるわ!」

 

「いや私がやる!」

 

「私だって!」

 

レンヤの頭上でやいのやいのと、6人の恋する乙女達がビンと唇を巡り合って騒ぎ立てる。

 

「み、皆、レンヤ君の事が好きなんだね……」

 

「なんだか変な光景だね……」

 

「なんやなんや、修羅場かいな」

 

こちらのなのは達3人は自分と同じ顔をした人物が、自分が見た事の無い顔をして争うのを複雑そうに見ており……

 

「んっ!」

 

『ああああああ!!』

 

「あ」

 

一瞬のスキを狙いフェイトがビンを手に取り……一気にグイッと、ビンを煽って薬を口に含み。 残りが大声を上げた時、アルフィンが声を漏らし……

 

「それかなりマズイから」

 

「○×◻︎△ッ?!?」

 

飲み込めず、かと言って吐き出す訳にもいかないフェイトはは声にならない悲鳴をあげる。 そして、涙目になりながらもレンヤに覆いかぶさり……口移しで薬を飲ませた。

 

「ん……///」

 

薬を飲ませらフェイトは顔を真っ赤にしながらレンヤかれ離れた。 するとすぐに効果が現れた。

 

「ーーうっ……! ゴホゴホッ!!」

 

「レン君!」

 

「…………ここは…………」

 

味のせいか咳き込みながらもレンヤは目を覚ました。

 

「身体が怠い……っていうか、また死にかけたのか……」

 

「全く、心配かけさせて……」

 

「良かった……本当に良かったよぉ」

 

レンヤの無事に全員が一安心した時……後ろの方でエリオが抱きかかえていたクレフが目を覚ました。

 

「……うぅ……う?」

 

「!! ククちゃん!」

 

「……ここは……」

 

「大丈夫? 痛いところはない?」

 

エリオはそう呼びかけるが、クレフはボーッとしながら自分を抱えていたエリオを見る。

 

「エリオ……さん……」

 

「よかった……どうやら無事のようだね」

 

『全く、ヒヤヒヤしたよ、っと』

 

コルルはユニゾンを解除し、近寄ってクレフの頭を撫でる。そんな中、クレフはジーッとエリオを見つめる。 そしてほんの僅かに、頰を赤らめる。

 

「……………………」

 

「? クレフ?」

 

「あなたが……私の葦牙(あしかび)……」

 

唐突に、クレフが胸に手を当ててそう呟き。 何のことかエリオは尋ねようとすると……クレフは手を伸ばしてエリオの首に手を回し……

 

「……ん……」

 

「え……むぅ!?」

 

「あ」

 

『あああぁーー!!??』

 

クレフは自分に向かってエリオを引き寄せ……口と口を合わせた。 つまりはキスをした。 エリオは突然の事に呆然としていた。

 

「な、なな、なななっ!?」

 

「幾久しく」

 

2人は離れるとエリオは口をパクパクして顔を真っ赤にし、クレフはエリオの胸に顔を寄せた。 その表情はどことなく嬉しそうだ。

 

「こ、ここ、これって……前にククちゃんが言っていた……こ、婚約の儀!?」

 

「婚約!?」

 

「くっ……思わぬところに伏兵がいるなんて……!」

 

「レ、レレレンヤァ!! エリオが……エリオが大人にぃ!?」

 

「落ち着けフェイト! ガクガク揺らすな、気持ち悪い上にまた毒が回る……」

 

「キュクル……」

 

(………………)

 

「ピューイ♪」

 

ギャアギャアと騒ぐ人達を他所に、召喚獣3体はその光景を微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイワイと言っていいのか、とにかく騒いでいたのをこちらに合流したテオ教官の一喝によりようやく落ち着き静かになった。 そして改めて今回の事件を思い返した。

 

「ふう、一時はどうなることかと思ったけど、何とかなったなぁ」

 

「まあ、私達にかかればあの位ちょちょいのちょいだね」

 

「調子に乗るんじゃないわよ」

 

軽口を叩くはやてとアリシアに、アリサが軽く手刀で頭を叩いた。

 

「ともかく、皆のおかげで助かりました。 管理局を代表してお礼を言います」

 

「皆、本当にありがとう」

 

あちらのはやては標準語でそう言って頭を下げ、次いでなのはもお礼を言った。

 

「さて、後はどう元の世界に帰るかだけど……」

 

「あ!? すっかり忘れてた!」

 

「連れてきたのはイムである以上、事件を解決して即帰還……とは行かなかったね」

 

「ど、どうするんだよ?」

 

どうしようかと思っていたら、母さんが前に出て胸を張った。

 

「それは私にお任せよ!」

 

「アルフィンさん?」

 

「どうやって帰るんですか?」

 

「もしかしてなのは達やシグナム達を連れてきたように?」

 

「この人数じゃあ無理ね。 だから、この子に連れて帰ってもらうのよ」

 

手を前に出して、ポンっと手品のように軽い煙を上げて出てきたのは……

 

「ヤッホー、久っしぶり〜♪」

 

「ソ、ソエル!?」

 

俺の守護獣のソエルだった。 ここ最近ご無沙汰だった気がする。

 

「もしかして、ソエルちゃんの転移魔法で?」

 

「うん! 元の世界にいるラーグをマーカーに、皆を連れて帰るよ!」

 

「ただし、もちろん一方通行だけどね」

 

つまり、この世界とも……ここのなのは達ともお別れか。 多少の寂しさも感じながらヴィヴィオ達とも合流し。 かなりの大人数になってしまったが、ソエルによる転移が始まった。

 

「モコナ=モドキもドッキドキ~! はぁーっ、ぷう~!」

 

額の宝石が光り、背から翼が生えると地面に魔法陣が展開され、陣の縁から魔力の波が上がり俺達を包み込んでいく。

 

「短い間やったけど、ホンマにありがとうな」

 

「こっちも、少しの間やったけど色々と勉強になりましたわ。 おおきにな」

 

「お互い、このミッドチルダの平和を……自分の幸せを大事にしようね!」

 

「うん!」

 

「バイバーイ!」

 

「皆さん、どうかお元気で!」

 

そして、包んでいたいた波が完全に俺達を覆い、球体となり小さく圧縮されると……

 

「は〜……パクッ! ぽ~んっ!」

 

ソエルが大きく口を開けて飲み込み、陣の中に飛び込んで行った。 光が収まり、はやて達が閉じていた目を開けると……そこには誰もいなかった。

 



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光さす未来の軌跡

機動六課ーー

 

数日間ここの責任者はいなかったが六課は滞りなく通常通りだった。 そして、六課が有する訓練場に、額の宝石が光っているラーグとラーグを抱えているシャーリー、グリフィスがいた。

 

2人はそわそわしながらその場で待っていると……突然上空に渦が発生し、ネバっとしたスライムのようなものが溢れ出して落ちてきた。 そのまま落下し、地面に落ちて弾けると……中からレンヤ達が出て来た。

 

「あ!」

 

「皆さん!」

 

「戻ってきたようだな」

 

シャーリー達はレンヤ達の姿を目にし、ホッと胸をなでおろす。

 

「プウ! ミッドチルダに到着だよ♪」

 

「……ふう、帰ってきたか」

 

上から落ちてきたソエルをキャッチしながら、レンヤは見覚えのある場所……というよりラーグを確認して、ここが元の世界だと認識した。

 

「皆さん! 無事だったんですね!」

 

「シャーリー! 心配かけてゴメンね」

 

なのはの元に駆け寄ったシャーリーは涙目になっていた。

 

「いえ、無事で何よりです。 それよりも早く皆に顔を見せてください。 皆、心配してましたから!」

 

「もちろん」

 

「あ、そうだ。 私の車って……どうなったの?」

 

「ああ。 それならレッカーされた後自分が回収しました。 傷や破損などはありませんが、ご確認しますか?」

 

「うん、お願いね」

 

それからいつも通りの身体検査……特にレンヤは毒をもらってしまったので入念にチェックし。 他にも脱獄の疑いをかけられてしまったクレフとコルルのフォローも行い、それからクロノやゲンヤ等の報告をしたためかなりバタバタしてしまった。

 

そして夜……各方面の報告を終えて落ち着いた時、レンヤはアルフィン、シャオと六課の屋上で対面していた。 が、それから数分間無言の状態が続いていた。

 

「………………」

 

「………………」

 

「ーー聞きたい事は山ほどあるけど。 先ず、なんで俺を捨てた」

 

先に沈黙を破ったのはレンヤ。 長年にわたって胸の内に秘めていた怒りと疑問を打ち明けた。

 

「そ、それは……」

 

「聞けば、最初の夕闇が現れた時にも地球に来ていた……その時くらい会えなかったんじゃないのか?」

 

「……仕方なかったんだ。 私達にはやるべき事があったのだ」

 

「それは?」

 

「ーー初代聖王の捜索」

 

「!」

 

「どうやら身にも、記憶にも覚えがあるようだな」

 

レンヤの反応を見てシャオは即座に見抜いた。 レンヤはホテルアグスタで記憶を、そして先のJS事件でその人物と対面していたからだ。

 

「歴史の通りであれば聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはゆりかごの動力となり。 意志すら無くし命を落とした」

 

「それくらい知っている。 エレミアの書記にもそう書かれていた」

 

「だが、死ねなかったら?」

 

「……………………」

 

レンヤは目を閉じて記憶の中を探る。 記憶の中の彼女は拷問のような扱いを受けながらも、死を望みながらも死ねなかった……

 

「……彼女は何らかの原因で不老不死になったとでも?」

 

「それを調べていたのよ。 しかも、その途中で邪魔する人もわんさか溢れ出して……捜索を決行した時、既に私の腕の中にはあなたがいたわ。 妨害が過激化する前に、どうしてもあなたを安全な世界に置く必要があった……」

 

「そこが第97管理外世界、地球だった」

 

やる事が1つ増えたと、そして予想通りと思いながらレンヤは嘆息しながら頭をかいた。

 

「はあ……ウイントさんとレイさん、老師から両親がどのような人物かを聞いて、俺を捨てた事に何か事情があるとは分かっていたけど……我が子を捨てる事は絶対に良くない事だ」

 

『……………………』

 

「でも、俺はある意味では感謝しているんだ」

 

「……え?」

 

怒りの罵倒かと思っていたのか、2人は感謝の言葉をもらうと驚いた顔をした。

 

「地球に捨ててくれたおかげでまずはアリサとすずかに。 次になのは達高町家に、それからフェイト達、はやて達、学院での仲間、そしてイットとヴィヴィオ……今では数え切れない程の友達、仲間、家族を手に入れる事が出来た。 それはとても嬉しくてかけがえのないもの……」

 

「レンヤ……」

 

「ルノ……それが本当の俺の名前、真名。 でも、悪いけど俺はこれからも神崎 蓮也として生きていく。 1枚の羽として、自由にね」

 

「ああ、そうだな。 お前はもう巣立った鳥……自由に生きるがいい」

 

「まあ、でも……」

 

レンヤは2、3歩歩いて2人の前に向かい……両手を広げて2人の肩に手を回して抱きしめた。

 

「この世界に生んでくれてありがとう。 父さん、母さん」

 

「レンヤ……」

 

「ふふ……」

 

アルフィンは目に涙を浮かべ、シャオはなんとか涙を耐えながらも笑みを浮かべてレンヤを抱き返した。 長い年月を埋めるように抱きしめ、それが数分続いた時……

 

「ーーいた!」

 

その沈黙を破るように屋上の入り口からメガーヌとルーテシアが現れた。

 

「メガーヌさん?」

 

「やっと会えたわね、シャオ! アルフィン!」

 

「あらメガーヌ。 久しぶりね」

 

「心配をかけたようだな」

 

「本当よ! いきなり2人してどこかに行っちゃうんだもの! 心配する身にもなってよね!」

 

まるで知人のように2人を心配しながら怒るメガーヌ。

 

「え……ママ、レンヤさんのパパとママと知り合いなの?」

 

「ええ、知り合いっていうより……私の()であなたの()()よ」

 

「………………はい?」

 

メガーヌの言った言葉が理解出来なかったのか、ルーテシアは思わず呆けた声を出す。 それはレンヤも同じだった。

 

「あら、言ってなかたかしら? ルーテシアちゃんはシャオとの子よ」

 

『……………………え』

 

「つまり、レンヤ君とルーテシアちゃんは腹違いの兄妹ね」

 

つまり、メガーヌとシャオは夫婦であり、ベルカの重婚を……そして数秒置いて……

 

『ええええええぇっ?!?!』

 

2人の絶叫が夜の空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦76年、4月28日ーー

 

そして、機動六課設立から1年……山あり谷あり奈落ありの1年を過ごした。 フォワード陣数名の進路を決めたり相談されたりをしながらも……実験部隊としての期間が過ぎて今日、六課は解散の日を迎えた。

 

ちなみに、父さんと母さんはベルカの聖王教会に戻り。 母さんは長年にわたり溜まりに溜まった雑務や書類仕事に涙目で追われ。 父さんはルーフェンに帰郷して親戚に無事を伝えた後、母さんの補佐をしている。 ひと段落すれば地球に向かい、高町家の両親に俺を育ててくれたお礼をしたいそうだ。

 

それと、今まで六課で保護していた竜……隕竜メランジュとその子供ルーチェは傷が癒え、ついこの前キャロが火山島に送り帰した。 キャロは別れを惜しみながらもルーチェを強く抱きしめ、二頭の竜は火山のマグマの中に消えていったのだった。

 

そして、事件解決から一悶着あったが街の治安維持や復興支援などに協力しながらも、現在……はやてによって解散の挨拶がされている。

 

「長いようで短かった1年間……本日をもって、任務を終えて機動六課は解散となります。 皆と一緒に働けて、戦えて、心強く嬉しかったです。 次の部隊でも、どうか皆元気に頑張って!」

 

はやてから全員に向けて激励をもらうと、隊員達の拍手とともに解散式が終わる。 そして隊員達は解散し、フォワード陣も少し拍子抜けしたような顔をしていた。

 

「うーん、なんかアッサリ終わったねえ」

 

「部隊長は堅苦しいのと長い話が苦手って前にアリシア隊長が言ってたからね」

 

「はい、ちょっと思っていたのと違いました」

 

「ですね」

 

「まあ、この後お別れ二次会もありますもんね」

 

「はやてさんらしいと言えばらしいけど」

 

「だね、沁みっぽいのは後回しにしたのかな?」

 

「……………………」

 

そんな中、スバルだけが俯いて暗い表情を浮かべていた。

 

『……スバルさん、元気ないね』

 

『なのはさんとお別れだし、次の配置……ティアさんと別れちゃったから……』

 

『一生の別れでもあるまいし、そこまで落ち込むこともないんだけど……』

 

『まあ……ちょっと寂しくなるね』

 

ソーマ達は念話で会話しながら、スバルと同じ気持ちで別れを惜しむ。

 

「あ、皆! ちょっと!」

 

すると、後ろからなのはに声をかけられ、振り返ると……なのはと、その後ろにはギンガとヴァイスが立っていた。

 

「なのはさん!」

 

「ギン姉も……」

 

「ヴァイスも……どうかしたの、なのは?」

 

「二次会前にフォワードメンバー……ちょっといいかな?」

 

なのははフォワードメンバーに訓練場へ集まるように指示し、ソーマ達は疑問に思いながらも訓練場へ向かうと……

 

「うわぁ……!」

 

「これって……」

 

そこにはシュミレーター使って再現された満開の桜の木々。 そして先に俺となのはを除いたはやてと隊長陣、副隊長陣、イットとヴィヴィオが待っていた。

 

「この花、確か……」

 

「うん。 私やなのはちゃん、アリサちゃんとすずかちゃんの故郷の花……」

 

「お別れと始まりの季節に、付き物の花なんだ」

 

「桜って言うんだ。 綺麗だろ?」

 

「桜……」

 

「ミッドにもこれと似たような花……ライノの花があるね。 これを見ると、その後本当に面白い出来事が起こる事が多いんだ♪」

 

「VII組創設……それが印象深いわね」

 

「うん。 でも、それと同じくらいの印象を今から、ね」

 

少し意味深な事を言うも……次にヴィータが前に出た。

 

「おっし……フォワード一同、整列!」

 

『はい!』

 

整列をかけフォワードメンバーが駆け足で集まると、なのは、アリサ、ヴィータから労いの言葉がかけられる。

 

「さて、先ずは民間協力者である高町 美由希さん。 今まで六課にご協力いただきありがとうございます」

 

「いいよいいよ。 私がやりたかった事だし」

 

「ヴァイス陸曹も、ソウルデヴァイス関係なく本当に良くやってくれたわ」

 

「へへ、ご期待に添えられたようで何よりです」

 

むず痒くそうに、しかし照れ臭そうに美由希姉さんは賞賛を受け取り。 ヴァイスもアリサからの賞賛を受け取った。 そして次に、なのははソーマ達の方を向いた。

 

「次は7人ともこの1年間……訓練も任務もよく頑張りました」

 

「この1年間、アタシはあんまり褒めた事なかったが……お前ら、本当に強くなった」

 

「ええ。 心身ともに、本当に強くなったわね」

 

その言葉に、ソーマ達は驚いた顔をした。

 

「辛い訓練、キツイ状況、困難な任務、不利な場面、絶望的な実力差……だけど、一生懸命頑張って負けずに全部クリアしてくれた……皆、本当に強くなった。 7人とも、もう立派なストライカーだよ」

 

フォワードメンバーの頑張りを思い返しながら賞賛を言い、その言葉にソーマ達は嬉しくて涙を流した。

 

「ああ、もう泣くな馬鹿たれ共が……!」

 

『……はいっ……!』

 

それを見たヴィータは自身も涙ぐみながらもそう言い、鼻声気味に返事をした。 そしてなのはとアリサも目に浮かべた涙を拭い……

 

「さて……せっかくの卒業、せっかくの桜吹雪……湿っぽいのは無しにしよう!」

 

「ああ……!」

 

なのはの言葉に同意するようにシグナムが一歩前に出て、その手にレヴァンティンを握る。 隣にいたフェイト、イット、ヴィヴィオは何事かと思っていたが……次にアリシアとすずかもフォーチュンドロップとスノーホワイトを手に前に出る。

 

「自分の相棒、連れてきているだろうな?」

 

ヴィータも胸元からグラーフアイゼンを取り出すと……起動してハンマーにした。

 

『え?』

 

「え……え?」

 

「……おい……この流れって……まさか!」

 

ソーマ達とフェイトと共に疑問に思う中、この状況にとても近い事が昔にあった。 そう思いながらシグナム、アリシア、すずかもデバイスを起動する。

 

「なんだ? お前達は聞いてなかったのか?」

 

「ーー全力全開、手加減無し! 機動六課で最後の模擬戦!!」

 

「やっぱりか!!」

 

VII組最後の模擬戦と同じ展開だ! 頭を抱えながらチラリとフェイトと一緒にはやての方を向くと……

 

「テヘッ♪ 私もやるで〜♪」

 

起動したシュベルトクロイツを持ちながら舌を出して軽く握った拳を頭にぶつけ、こっちに向かってウィンクした。 はっきり言ってイラつく……

 

そして……その言葉にソーマ達はお互いの顔を見合わせながら呆けるが……

 

『………はい!!』

 

直ぐに嬉しそうな顔をして返事を返した。

 

「ぜ、全力全開って……聞いてませんよ!?」

 

「まあ、やらせてやれ。 これも思い出だ」

 

「このままじゃある意味消えない思い出になりますよ……!! ヴィータ、なのは!」

 

「固いこと言うな。 せっかくリミッターも取れたんだしよ」

 

「心配ないない。 皆強いんだから」

 

「あ〜〜もーー!!」

 

フェイトは止めようと説得しようにも、3人はノリノリだった。 俺も儚い希望を持ちながらもアリサ達の説得を試みるが……

 

「ちょっと、お前ら……」

 

「大丈夫大丈夫、レンヤ君の思っている事は起きへんから」

 

「この日のために、訓練場を極限まで強化し。 シュミレーターも最新式にしてある……レルムの時みたいにはならない」

 

「ま、それを超えたら……この辺りは焼土ね」

 

「冗談に聞こえない!!」

 

「ーーレンヤパパ、大丈夫」

 

「はい、大丈夫です」

 

「え……」

 

地面に手をつき項垂れていると、ヴィヴィオが肩を引っ張って、イットが前方を指差すと……

 

「皆、楽しそうだもん」

 

楽しそうにデバイスを手にもつソーマ達を指差した。 確か嬉しそうだが……

 

「って、違う! ソーマ達の身の安全じゃなくてこの場の安全が1番心配しているの!」

 

「ふえ?」

 

「ーー母さんも、お願いします!」

 

「頑張って勝ちます!」

 

「ああもう……! それを言うのは反則だよ〜……」

 

エリオに母と呼ばれ、断りきれず頭を抱えるフェイト。

 

「レンヤさんもお願いします!」

 

「今日こそ、一本取らせてもらますよ!」

 

「頑張ってね。 お・に・い・ちゃ・ん♪」

 

「……ルーテシア、事実かもしれないが……それで俺を呼ぶな……」

 

数ヶ月前の心の傷を抉られつつも、嘆息しながらもレゾナンスアークを手に取って立ち上がった。

 

「頑張って!」

 

……ヴィヴィオのその応援で元気百倍だが、別の時に言って欲しかったこの心境。 そして、全員がバリアジャケットを展開し……

 

長刀1本のレゾナンスアークと短刀3本を持つ俺。

 

フレイムアイズを片手で構えるアリサ。

 

ファイティングスタイルで2丁拳銃を持つアリシア。

 

スノーホワイトを頭上で回しているすずか。

 

ロッドモードレイジングハートを持つなのは。

 

どっしりと身構えながらグラーフアイゼンを担ぐヴィータ。

 

目を閉じ、精神統一しながら双刀のレヴァンティンを構えるシグナム。

 

乗り気ではないも、ザンバーモードのバルディッシュを持つフェイト。

 

ニコニコしながらシュベルトクロイツを持つはやて。

 

天剣を復元させ、隙のない構えで剣を握るソーマ。

 

輪刀を身体に通し、真剣な目をするサーシャ。

 

全身に刻まれた魔紋(ヒエラティカ)を発動させ、クロスミラージュを両手に持つティアナ。

 

ガントレットにカードを入れ、アスクレピオスと共に構えるルーテシア。

 

ストラーダを構え、迷いなく前を見つめるエリオ。

 

ケリュケイオンを手に、自信に満ちた表情で待ち構えるキャロ。

 

改造シューティングアーツの構えをとり、戦闘機人モードを発動させているスバル。

 

小太刀型のソウルデヴァイス、アストラル・ソウルを逆手で構える美由希。

 

弓矢型のソウルデヴァイス、ストライク・レーブに矢をつがえるヴァイス。

 

「それでは、レディー……」

 

桜が舞い散る中、全員が準備を完了したところで……審判を引き受けたギンガの掛け声に、全員は構える。

 

数にして9対9のチーム戦……どう転ぶかは誰にも分からない。 そしてギンガ、ヴィヴィオとイットが開始の合図を言い……

 

『ゴー!!』

 

――ガキィィィン!

 

始まりの鐘を打ち鳴らすかのように、その音を天まで響かせるように……俺とソーマの剣が交差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後ーー

 

はやては特別捜査官に復帰。 地上に腰を据え、密輸物・違法魔導師関連の捜査を担当。 守護騎士一同と共に職務を続ける一方、レンヤ達との新しい生活を楽しんでいる。

 

フェイトは執務管補佐のシャーリーと共に次元航行部隊に複隊。 ティアナはフェイトの2人目の補佐官となり執務管になるための実務研修夢に向かって進行中。フェイトはレンヤと。 ティアナはソーマとあまり会えていないが、毎日定時連絡を取り合っている。

 

ルーテシアはメガーヌ共に一度世間から離れる事にし、無人世界カルナージに家を建てて隠遁生活を送っている。 キャロとエリオとも連絡は取り合っており、キャロの願いでクレフと一緒に楽しくやっている。 近いうちにキャロと共に故郷に帰る予定。

 

ヴァイスはアルトと地上部隊のヘリパイロットをしながら返納していた武装局員資格を再取得。 適格者でもあるのでグリードの討伐を率先して行っている。 そして、妹のラグナの押しもあってシグナムとリンスの関係も良好らしい。

 

美由希は六課で行く当てなく彷徨っていたのをティーダが広い、航空武装隊に所属する事になった。 美由希はシャマルとよく手料理を作っては……聖王医療院にお世話になっている1人の男がいるのだった。

 

キャロは前所属の辺境自然保護隊に復帰。 エリオは辺境自然保護隊に希望転属し、竜騎士・竜召喚士コンビとして自然保護・密猟者対策業務において活躍。 そしてルーテシアとクレフを含め、よくエリオを巡り合って爆丸システムをゲーム化した模擬戦を行っていた。

 

ヴィヴィオは本人の希望により、聖王教会系列の魔法学院……St.ヒルデ魔法学院に入学。 だが、何度も親バカであるなのはがアルフと共に盗撮を行い……その度にレンヤ達が回収する度にヴィヴィオは恥ずかしい思いをするのだった。

 

イットは己の剣の未熟を埋めている時、どこからともなくミッドにユン老師が訪問し。 イットの強い意向もあって、そのまま老師と共にミッド最北部に位置する辺境・アルマナック地方へ武者修行の旅に出た。 メイフォンを持っていったが、連絡がつかない日は度々あり。 その度にヴィヴィオは憤慨するのだった。

 

ギンガは関係者の指導のもと、収容された戦闘機人達の更生プログラムに参加。 プログラムは順調に進行しており、戦闘機人達はそれぞれの道を模索していた。 ソーマとも、時折連絡は取っているようだ。

 

スバルは本人の希望転職先に配置され。 災害対策、人命救助の最高峰、特別救助隊のフォワードトップとして活躍。 そして母を超えるため、シューティングアーツを極めるため、ソーマとお互いを研鑽し合っている。

 

なのはは戦技教導管……そして空戦魔導師として現場に残り、後進を守り、育て続ける一方、余り家にいることのできないフェイト、に変わって、他の5人と共にレンヤを支えている。

 

そしてレンヤ、アリサ、すずか、アリシア、ソーマ、サーシャは元いた部署、異界対策課に戻り。 日々市民の安全を脅かす怪異と戦っていた。 そして……後に対策課は管理局最強の部隊と謳われるようになり、レンヤ達は以前より多忙な毎日を過ごしているが……家族との時間は大切にしている。

 

 




これにてStrikerS編は完結です。 次はvividなのですが……主人公が変わるのでこのまま続けるか新しく投稿するか悩んでいます。 まあ書くのは当分先になりそうなのですが……

兎にも角にも……ここまでご愛読いただき、ありがとうございました!


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