Only Sense Online 〜幻想抜刀の戦士〜 (蒼井しの)
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『始まりのonly』
『始まり』の衝撃、暖かさ


「これ! 売ってください‼︎」

「や、辞めてって。確かにこれは売り物だけどさー…」

露店広場。様々な生産者や、冒険者が素材やアイテムを持ち合い、独自で設定した値段で売り出し、賑わう広場で僕――『和宮金成(かずみやかなり)』は一人の生産職の方に土下座をしていた。

「い、いやこれが凄く欲しいっていうのは分かるんだけどさ。これは…」

 

一本の武器。

それと出会った時の衝撃を僕はまだ覚えていた。

黒々く、闇を感じる表面。だが、切っ先はそれに反し光を浴びて輝いている。

長さは63センチ。重さは1.5キロ程、種類は打刀。戦国時代に良く作られた刀だ。

俺はこの刀を見た時から、ゲーム「Only Sense Online」に夢中になってしまっていた。

 

「バーチャルの世界で現実と違う日常を。君だけのOnlyを!」

 

こんな広告が始まったのは何ヶ月前からか。

β版と言われるテストランが終わり、もう直ぐ発売間近となった「Only Sense Online」は何処でも予約が一杯だった。

もう既に一次出荷分を超える予約が入っており、今予約しても二次出荷に回されてしまうとニュースに流れた時は、「僕も予約すれば良かったかな」とすら後悔している。

しかし、もう間に合わないモノだ。

そんな事をウジウジ考えていても仕方ない。と強がりながら、今僕は家の広間でダラダラしながら「Only Sense Online」の発売日を迎えているのだった。

「宿題終わったし、何するかな」

中学で出た宿題は終わったし、それからの事を考えていると、家の備え付けのチャイムが鳴った。

「はーい?」

立ち上がり扉を開けると、そこには見知った顔。

「金成‼︎ Only Sense Onlineやっと届いたよ!」

「へ?」

何やら衝撃的な発言をしたのは幼馴染の『八生少小(よいしょうしょう)』学校ではショウと呼ばれている女の子がだ……、

「ショウちゃんどうしたのそれ?」

ショウちゃんの手には袋が二つ。その袋を覗くとエプソニー社のVRが、つまりは『Only Sense Online』がプレイ出来るVRが一つずつ入っていた。

「何言ってるの金成。あんたが勝ったからこれ予約出来たんじゃない」

「勝った?」

何に勝ったのだろうか? 懸賞とか?

「あれ、覚えてないの? 私のじーちゃんとの麻雀」

「麻雀…」

ショウのおじさんは大の麻雀好きで、良く僕たちが休みに入ると、麻雀を打ちに来る。

ショウは見てるだけでおじさんと遊ばないせいか、まるで僕を孫の様に扱い、麻雀を手取り足取り懸命に教えてくれる。

「何回も打ってるから覚えてないよそんな…あ」

思い出の中に微かな手掛かり。

「思い出した様ね。そう私がおじいちゃんにVRを強請った。そしたら…」

おじさんが「俺に勝ったら勝ってやるわい!」って言ったんだっけな。

その後、見事僕の勝利!

点差は2500差と際どい勝負だった。

今まで黒星ばかりだったおじさんとの闘いの初白星!

だが…、

「あれの商品が'これ'なんて話は初耳だけどさ」

VRが入った箱を見ながら、僕は心の高揚を抑えられなかった。

タブレットをおじさんに見せただけで僕は何の商品か実際分からなかったのだ。

負けても俺には損はない話だったし、受けた事だったが…

「嬉しかった?」

「それ以上。最高のサプライズだよ。入って!やろう!」

そう言って、ショウちゃんを家に案内して、広間でVRが入っている箱を袋から出す。

最近では徐々にゲーム内容が公開され、β版の噂と合わせドンドンと欲しいという欲求が強まってきた。

だが、今更予約してもいつ届くか分からないモノにお金は掛けられないと親に言われ諦めるしかなかったが、

「俺も遊べるんだ」

「私と一緒に、だけどね」

「あ、う、うん。ありがとうショウちゃん!」

しまった。嬉しさの余りショウにお礼を言うの忘れてた。

「忘れてたな…」

「ごめん忘れてました…」

「いいよ。私もさ、そういう嬉しい顔見れたから満足だし、暗い顔させてごめんね。早速やろう?」

箱の中からVRを取り出す。

ヘルメット状の形に白と黒がおり混ざりシンプルに仕上がっている。大きさもかなり大きい。大きく実ったスイカぐらいの大きさだろうか。

「うわぁ…」

全く未知の世界がこれで出来てしまう。そのことに僕は衝撃を受けていた。

どんな感じがするのだろくすぐったいのか? 痛いのだろうか? 重いのだろうか?

「ショウちゃん! 早速……ぷっ」

心の準備が出来、ショウちゃんに声を掛けたら、既にショウちゃんはVRを付けていた。

にしても…

「ぷははははははははは!」

「な、何よ! お、オカシイ?」

「い、いや体とVRのバランスがさ…」

そう、体が細いショウちゃんとVRのバランスが悪い。頭だけ大きい3Dキャラの容姿になってしまっている。

「だけどね。軽いのよこれ」

「そうなの?」

「ええ。何だか付けてるって感じがしない…。真っ暗何だけどさ」

ショウちゃんが、何故か体を近づけて……来ている。

「どうしたの?」

「金成こっち?」

どうやら俺の場所を探しているらしい。心細くなったかな?

「う、うん。こっちだよほら」

手を取って誘導してあげると、安心したか、動きを止めた。

「ごめん。何も見えなくてさ。あ、のさ。背中合わせていい? 手……握るの恥ずかしいし」

「いいよ。ほら、これでいい?」

周りが見えないショウちゃんのために自分から背中を合わせる。

何だか…これはこれで恥ずかしいな。

「私、先に行くよ。金成の分も出してあるから…」

「うん」

ヤバイ? 顔が熱い。ショウちゃんVRで見えてないよな…。

「後で会おうね。私、プレイヤーネームは『シゥ』だ、から…」

そう言って、ショウちゃんの声は途切れた。

「ん…」

気恥ずかしいながらも背中を、ショウちゃんと背中を合わせながら、自分のVRを手に取る。

ドキドキが止まらない。

「ふ、深く考えなくていいんだ。とにかく…被ろう」

そう一気にVRを装着した。

暗い。真っ暗闇。

それが、電源ボタンを押す事で明るくなっていく。

「設定? お任せでいいか。自分じゃわからないし……」

設定を幾つか合わせていくと、「ゲームをスタートしますか?」という選択肢がは流れていく。

「ショウちゃん既に設定とか終えてたのか。そりゃ早い」

そして、そのボタンを見た。どうやら選択肢などは視線を合わせると選択する様になっているらしく、操作も思いのほか簡単だった。

「あ、…」

意識が遠のいていった。

新しい世界へ。

自分が紡ぐ、新たな物語へと。

 

僕たちはスタートした。



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『始まり』と説明、センス

『チュートリアルを開始しますか? YES/NO』

 

暗い空間。

プレイヤーネームを『KAI』と登録し、ゲームを開始して目を開けた時いきなり登場したこの選択肢。

「やるべきか。やらないべきか……」

早くゲームをやりたいという気持ちが沸き立つ中、一度冷静に考える。

自分は初心者だ。流石に情報を読んだとはいえ、実際の理解とは程遠い。このゲーム独自のルールも存在するだろうし、ここは気持ちをグッと抑え……やるのが無難だろう。

YESのところを指で選択する。

そうすると、一気に暗い空間から緑の草原へといきなり風景が変わった。

ゲームだと知っていても、こんな急に風景が変わるのか。目を開け驚いているところにどこからか声がする。

「ようこそ『Only Sense Online』」

「へ、は、はい!」

機械的な声で、透き通る声はこの草原全体に広がって聞こえてくる。

オペレーターをするキャラもなく、声は続いていく。

「ここでは、『Only Sense Online』をこれからプレイするに辺りの基礎を学んで頂きます。

わからない時は、わからない内容を言って頂ければ、更に詳しい説明に入り、逆に飛ばしたい時は『skip』と言って頂ければ説明を飛ばす事が出来ます。

一気に終わりたい時は『finish』と言ってください。全ての説明工程を飛ばします」

とても長い説明だが、前置きとしては十分。

これからが本題だろう。

「では、まずこのゲームの根幹となる『センス』の説明をします」

センス――つまりは魔法なら魔法を使うための才能、剣なら剣を使うための才能。

「まずセンスを取得するには、SP『センスポイント』が必要になります。

このSPですが、思うだけで確認することが出来ます。一度『センスの確認』と思ってください」

(センス確認)そう思うと黒いボードが飛び出し、そこには『所持SP10』と書かれていた。

「そのSPを使い、センスを取得する事が出来、センスは使うごとに成長していき、やがて『派生センス』や『上位センス』を習得出来るようにもなります。

ところで、『KAI』様。魔法で戦うか。武器で戦うか。はお決めでしょうか?」

「武器で、剣で戦いたいです」

「でしたら、最初にまずは【剣】のセンスを習得しましょう。このセンスがなければ、剣で戦うことも出来ません」

「というと……?」

「はい。このゲームには『攻撃判定』というシステムがあります。この『攻撃判定』がなければ相手にダメージを与えることが出来ないのです。

『攻撃判定』はその対応するセンスをセットしなければ発生しません。例えば、剣の場合でしたら、それに対応する『剣』のスキルをセットすれば『攻撃判定』が発生します」

「それがないとどうなるんです?」

「装備は出来ますが、ダメージを与えることが出来ません」

なるほど。単純に武器を装備するだけではダメで、『センスと武器』がセットで初めてちゃんとした戦闘になるわけだ。

そう理解して、俺はいくつかのセンスの中から【剣】のセンスをSP1使い習得した。

「……結構最初から種類があるんだ」

一瞬見ただけではあったが、ざらっとみただけで20種類以上のセンスがある。

「はい。この中から好きなセンスを取得し、成長していくのがゲームの趣旨となります」

迷うなんてもんじゃないな。ちゃんと目的を決めなければ乱雑な、意味もない組み合わせになりそうだ。

「ですが、これもまだひと握りです。幾つかの条件とともに、更に取得出来るセンスは広がっていきます」

途方もない……始まりだけでこれなのだ。最終的にはどれだけのセンスの選択肢に迷わされるのだろうか。

「……良ければですが、初期センスに関してこちらで幾つか候補を出しましょうか?」

「へ?」

こちらの感情を読み取ってくれたのか、声がそう提案をかけてきた。

「いいですか?」

「はい。自分が思い描いた通り、お話ください」

「じゃあ……」

 

そうして、自分がこういうスタイルで戦闘したいということを話すと、どんなセンスが良いか。それがどういう効果があるかなどを簡易的に説明をつけながら教えてくれた。

その結果、俺は十個のセンスを取得する。

 

-----------------------------------

所持SP0

【剣LV1】【鎧LV1】【盾LV1】【発見LV1】【魔力LV1】【物理攻撃上昇LV1】【物理防御上昇LV1】【速度上昇LV1】【急所の心得LV1】【戦士の心得LV1】

------------------------------------

 

目指すは回避しながら相手の注意を惹くいわゆる『回避盾』というやつだ。

敵の攻撃を避けるための【速度上昇】。

それと、敵に狙われやすくなるスキルが習得でき、万が一に敵の攻撃に当たった場合耐えられる様に【盾】もとり、初期装備として『初心者の木の盾』が送られた。

斥候もこなしてみたいと【発見】も覚えてみたが、これから使ってみて調整が必要かと思った。このセンスの構築を考えるだけで、中々面白い。

敵によってはもっと違うセンスになるかもしれないが、そういう時には誰かとパーティを組んだ方が良いかもしれない。

そこについてはまだ不安定な要素ではあるが、説明を受けたことで、センスについて知れたのは大きい。

それだけでチュートリアルを受けた甲斐があったというものだ。

「【剣】のセンスにより初期武器として『初心者のロングソード』が与えられます。

ですがこのセンス構成ならば。

ロングソード系の武器よりも、短剣系の短い武器の方がクリティカル時にダメージが上がり、緊急回避スキルなどもありますので、より【急所の心得】や【挑発】を生かしやすいかもしれません」

「短剣? ……わかりました」

どこまでも丁寧だなオペレーターだ。

こちらの考えを汲み取ってくれるのもとても良い。まだ、イメージでしか出来ていない自分の『スタイル』が少し見えてきた。

「では、これでセンスのチュートリアルを終了します。戦闘方法についてのチュートリアルは如何しますか?」




5/28修正
スキル→センス
【挑発LV1】→【戦士の心得LV1】
恐らくだが、3巻のルカートのセンスレベルを見る限り初期で取れるセンスと考えにくい。SP20で開放するセンスの中の一つか、【盾】センスの派生系センスと思われる。
(恐らく説明文に何とも書いてなかったためSP20での開放が濃厚。盾の予測は外伝小説で【盾】のスキルにヘイトを稼ぐものがあったため)


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『始まり』の戦い、少女

ちょっとクロス。


広がったのは、レンガの建物と整備された道。

多種多様なな人々、見たこともない物、この世界には様々溢れていた。

 

戦闘チュートリアルを終え、一通り動きを覚えたことである程度の自信を付けた俺はその景色に圧倒されていた。

先ほどの草原も圧巻だったが、ここもまた違う意味で圧巻だ。

どうすればいいか……戸惑いを隠せない。

この中で皆何をしているのだろうか。敵であるモンスターを倒す為の準備だろうか。それとも情報収集? パーティを結成し、何があるか分からないダンジョンヘ?

「……あっ」

忘れてた。ショウちゃんどうしてるだろう。

まだフレンド登録もしてないので、プレイヤー名――さっき言っていた『シゥ』の名前で同じ名前のプレイヤーがいるか検索をかける。

「いたいた」

結果は一人! 正にビンゴだ。

念のため有っているかどうか確かめるため、今後のためにも通信を試みる。

「ショウちゃん! ショウちゃんだよね?」

「え? その声金成? チュートリアル終わったの?」

良かった。有っていた様だ。

「今終わったところ。せっかくだし一回会わない?」

「あー。ごめん。今ちょっと出てるところなんだ」

「え」

な、なんと!!

「フレンド登録の通知は送っておくから、これ終わったら合流しよう? ホントごめん!」

「あー。うん。いいよー。うん」

や、やばいどうしよう。

フレンド通知が来てそれに登録した後。俺は途方にくれた。

まさか、ショウちゃんがパーティを組んで……?

「どうしよう。追い抜かれる……」

なんとしてもそれだけは防がなければいけない。俺の男としての沽券に関わる。

「一人でもなんとかなるさ!」

そうして……無謀にも俺は近くの草原へと駆け出した。

 

戦闘のチュートリアルでは全くセンスレベルは上がらなかった。

チュートリアルで自分がやったことは、戦闘の基礎と、動きのコツを掴んだことだ。

その時の自分はそれだけで大体はやれると思い過ごしてしまっていた。

「はぁ……はぁ……」

実際は一匹のブルースライムを相手にするのが精一杯。

しかも、長期戦。相手の攻撃を地道にガードし、隙を見てこちらが攻撃する。相手の手番と自分の手番を交互に繰り返して戦っている。

ブルースライムはその名の通り、青く丸いぷにぷにしている敵であり、その特徴はその中央の丸い玉らしい、どうやら自動再生のスキルがあるらしく、ちょっとの攻撃ではすぐ回復されてしまう。

逆に俺には盾があるため、ブルースライムの攻撃を跳ね返す『バッシュ』というスキルでダメージを全く食らわないが……。根本的に、ブルースライムも、俺も攻撃力、つまりはATKが致命的に足りないため決着がつき難い状態となっている。

それにつれ、センスは地道に上がっているのだが、それも微々たる物で、全く効率の良さを感じない。

「…くそっ!」

どうすればいいか戸惑いながら戦い続ける。

ちゃんとガードすれば、確かにダメージを受けない。だが……

「埒が明かないんだよ!」

攻撃を捨て、捨て身の戦法。

相手の攻撃をガードせず、一方的な攻撃に入る。

連打。連打。連打。連打。

徐々にスライムの勢いが弱まり、玉の部分が表面に現れる。

「いやああああああああああ!!」

最後だと力を要れ、その玉に有りっ丈の力を込め一撃を振るう。

そうすると、『クリティカル』と表示が出て来て、今まで見たこと無いようなダメージが出てきた。

「そっか……。そこが弱点なんだ……」

体の疲労が回り鈍くなった体を動かしながら、モンスターが近寄らないセーフティエリアまで何とか逃げ延びる。

「ただ……闇雲に攻撃しちゃダメだ。もっと相手の動きや、弱点を考えて動かないと」

ブルースライムの落としたドロップを確認しながら、さっきの反省点を確認した。

チュートリアルの戦闘と、実際の戦闘が違いすぎると、やっと俺は実感する。

「だからこそ。自分の戦い方を見つけないと」

今あるセンスで、そしてこれからのセンスで。

今、俺に出来るのは敵の急所を付く戦い方だ。

一旦急所を付けば、いくつかのセンスによりダメージが増大し、雑魚敵ならば一撃で倒せる威力が出せるかもしれない。

(色々な敵と戦って、弱点を把握しなくちゃいけない…かな)

まだ、自分は何も知らないという事を思い返し。それを補う『何か』を求め始めた。

「止まってても、仕方ない。やるか」

そこからは、思ったほど苦戦しなかった。

所々で、薬などの素材を集めながら戦っていったが、最初の戦いがいかに下手かを実感し、動きを変え、センスレベルが上がるにつれダメージも高くなってきたのだ。

しかし、この地道なレベリングがいかに非効率化を、教えてくれる存在が、この時俺の目の前に現れた。

 

それは、近辺のモンスター狩りを終え、少し奥に行った時の事だ。

 

モンスターが出るまで少し休憩と、腰を下ろした時、誰かが戦っている音がし、他人の戦い方も見てみたいと好奇心を走らせ、音がする方へ向う。そこには白髪のツインテールの少女が大きく、立派な角を二本もった猪の様なモンスターと戦っていた。

少女は自分から見たところ、確実に猪のモンスターと戦うためにはセンスのレベルが足りていない。

だが、何回もセーフティエリアに逃げて、戦って、逃げて、戦ってを繰り返すごとに、ドンドンとその差が縮まっていく。

もちろんそれでもセンスレベルの適応レベルには足りてないだろう。

だが、彼女の持つ知識や、経験。そして戦いの繰り返しが、その差を更に埋めていく。

早く、正確に。

まるでパターンを知っているかの様な動き。彼女はおそらくβ版の参加者なのだろう。

だからこその動き。そして自信。

 

強く。美しい。

 

研磨されていく動き。研磨されていく強さ。何度も挑み続ける心は決して折れない。

いいや、むしろ。

 

戦っていく度に、心が研ぎ澄まされていっている気がする。

彼女の確かな確信が、そこにはあった。

 

そうして彼女は戦いを終えた。

最後の方に武器が壊されたが、すぐに代わりの武器を出し猛攻を続けた結果彼女は勝った。

その時に彼女は笑顔を浮かべていた。

このゲームを本気で、楽しんでいた。

 

僕は思った。

 

彼女に勝てるようになろうと。彼女の様に、このゲームを精一杯楽しもうと。

 

そうして彼女が去った後、再度出現した猪のモンスターに立ち向かった僕は。

あっさり負けた。



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『始まり』の武器、相談

うん。やっぱり無理。

 

あの猪のモンスターの強さを確認し、今のセンスを改めて確認する。

 

----------------------------------------

取得SP0

【剣LV6】【鎧LV3】【盾LV4】【発見LV3】【魔力LV2】【物理攻撃上昇LV6】【物理防御上昇LV4】【速度上昇LV3】【急所の心得LV3】【戦士の心得LV6】

----------------------------------------

 

初期よりは大分成長したが、まだあの猪のモンスターには歯が立たなかった。

多少なりと抵抗はしたが、あの直線的な突撃が全然回避が出来ない。そもそも攻撃自体が通用していない。

「武器を最低でも変えなきゃいけないかな……」

雑魚モンスターを倒したときに落とすドロップと素材の採取を行ったことで売るものがいくつか出来た。

このゲームの通貨『G(ゴールド)』に変換すれば、今よりも良い装備が買えるはずだ。

NPCにそれらを売り払うと初期のGも合わせ『1万G』と纏まったお金になった。

その中には、いくつかレアドロップが混ざっていたらしく、それを買い取ってもらっての結果だが、かなり良い結果といえるだろう。(後で知ることなるが、これはNPCの値であり、生産を行う生産職たちに売ればもっと値が付いたとのこと)

「大体あの子も初心者武器じゃなかったよなあれ……少なくともこの剣ではなかったはずだ」

このゲームはまだ始まって間もない。彼女も流石にまだ上位の装備を装備はしていないだろう。

そのことを鑑みれば、彼女も初心者武器からのスタートをし、それが使えないと知っていたため、即座にお金に変換。そして、新しい装備を買ったのだ。

「初心者用の剣って弱いんだろうな」

実際初心者用の装備のAKTは5しかない。

さっき見たとき、NPCの店売りの装備でも一番AKTが高いもので8あった。

たかだか3の差だが、この『Only Sense Online』では自分がどのようなステータスをしているかが確認出来ない。

ステータスの種類として6種類存在するが、

 

ステータスの種類は

ATK:攻撃や腕力などに関係する。

DEF:防御や状態異状などに関係する。

INT:魔法や知識などに関係する。

MND:魔法防御や状態異状などに関係する。

DEX:器用さや生産などに関係する。

SPEED:速さや硬直時間などに関係する。

 

この6つが存在していることは確認されている。自分で見れない分、自分がどこまで成長したかなどは、センスで判断するしかない。

だが、装備に関しては別だ。

その装備にどんなステータスアップがついているか。その装備の追加効果は何か。それについてはきちんと確認が可能なので、その分装備に関しては特に数値や効果を気にしなければいけない。

たかが1されど1。

舐めてはいけないとは、情報サイトの言葉である。

「だけど、1万Gあったらもっといいもの買えないかな」

店売りのものは効果に安定性があるが、その代わり追加効果がない装備が多い。

しかし、生産職の人たちが作った防具や、武器。更には薬などは必ず+αの効果が付いている。

例えば、店売りよりもステータスが前後していたり、追加効果があったりとそこは職人によって様々。

少しでも良い武器をリーズナブルに買おうとするとやはり生産職たちの作った武器の方がお得なのだ。

あわよくば、その生産職の方ともコミュニケーションをしていき、末永い関係を作り出していくのが理想。

そう思いつつ街を回ってみると、広場に色んな人が座り商品らしきものを並べている姿が見えた。

「露店か……」

露店がいくつも集まり、そこで生産職の方たちが自身が作った売り物を売り出している。

「そっか。お店を持つにもお金がかかるし、まずここが足がかりになるのか」

何にでもお金は必要だ。

生産職は特に施設がなければ作れるものも少ないらしく、初めはあまり物を作れないと見たことがある。

なら、余計にここがチャンスだ。

大した品でなくても、初心者用の武器より良い品があるかもしれない。

そう思って、俺は露店を見て回ることにした。

 

そうして、俺はその刀を見つけのだ。

黒く、光り輝く『黒刀 一輪』を。

「あのね……君初心者?」

今話している女性が生産職の『アルミ』さん。どうやらこの品自身は自分で作ったものではないらしく、その事もあるのか、売るのに慎重になっている。

「はい。まだ最高センスレベルもLV6ぐらいです」

それを聞くと、ますます売れないとアルミさんは顔を困らせてしまった。

「『刀』っていうのはさ。武器の中でも扱いにくいんだ。それこそ、上級者レベルの人でも扱いに困るってぐらい。それをおいそれとは売れないんだよね……」

「だけど、置いてあるじゃないですか!」

「分かるけど、売って無駄になるものは売れない。大体これ価格書いてないでしょう? 『要相談』っていうテロップが表示されてない?」

確かに『黒刀 一輪』には価格が設定されていない。『要相談』とも備考欄に書かれている。

「これはね。売る人を見て決めるってことなんだ。こっちの意図が分かりにくかったのも悪かったけど。これだけは今の君じゃ売れない」

「じゃあ、どうしたら売ってくれますか?」

諦めたくない。俺はこの刀にそれだけの魅力を感じていた。

まるで妖刀に魅入られた侍。

「……ふーん。諦めてくれないか。じゃあ覚悟はあるっていうことでいい?」

「覚悟?」

「『刀』っていう系統の武器はね。すっごく特殊な武器なの。

まず武器の耐久度が低い。それに加えてちゃんと敵の弱点を攻撃しないと武器の耐久度が一気に減ってしまう。

そういう事もあって、不遇な武器の一つって言われているの。

センスも『刀』の特徴に合わせたものじゃないと使いにくくなっちゃうし、その運用が出来ない人とかが刀を辞めていくの私、β版の時沢山見たんだ」

話をしながら、刀を撫で、悲しそうな顔を浮かべるアルミさん。

「だからさ。正直、迷惑なの。ただの興味本位で武器を壊したり、捨てたりするのは。

貴方のような人は幾つも見たし、そこでね。

妥協案を出そうと思うの」

「は、はい?」

やばい。話についていけない。

「ちょっと来て。『工房』に案内するから、そこで話しましょ」

「へ?」

いや、なんで連れて行かれるのだろうか。

いや、露天しまってこっちこっちと手を振らないで欲しい。

いや、わかった行きます。どうなるんだこれ……。

 

そうして、僕は何も分からぬまま、アルミさんの言う『工房』まで案内されることとなった。




6/2修正初期武器攻撃力3→5 店売り武器最大7→8
一巻に書いてありました……完全に見落としです。


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『始まり』の現実、支援

一日目終了。


「儂は武器を打つだけじゃ。結局それ以外は出来なんだ」

ただ、真っ直ぐに彼はそう言った。

その言葉こそ、彼の全てだったのだろう。

彼を俺は、信じてしまったのだ。

 

「なんじゃそいつ?」

始まりの街の南も南。

辺境と言っていい程人が立ち寄らない所にその『工房』は建っていた。

そこには、あの刀を作った彼――『ナルバス』さんが蓄えた髭を撫で下ろしながら椅子に座っている。

「彼はカ…『カイ』君、あの『黒鉄 一輪』に惚れちゃったんだってさ」

「馬鹿か」

「バカで悪かったですね!!」

改めてそう言われると色々恥ずかしくなってしまう。

勢いだけではなく、あの刀を真の武器として認めてしまった俺としては、そんなところでくじけてはいられない。

「あの刀が欲しいんです。その気持ちに変わりはないです。で、話って何ですか?」

頑なに刀は譲らないという姿勢だけでも見せていくと、その姿を見たナルバスさんはいきなり大笑いし始めた。

「プハハハハハハハ!! おいおいおいおい。こいつ本当に馬鹿か! クハハハハハ!!」

「あの……お爺ちゃん流石に笑いすぎ……」

「クヘヘヘヘヘ!! 何を言うアルミ! いや、いやこれは笑うしかないわい! なんせこいつには見る目がある!!」

「……?」

話が……全く読み込めない。

「儂の刀を見て『惚れた』とな。しかも今回の最高傑作である『黒鉄 一輪』を! いやはや。こいつはまぁ……」

ナルバスさんが俺の顔をジッと見て、値踏みをしているかの様に見てくる。

「お前は、何でこの刀を求める?」

「綺麗だし、よく切れそうだから」

「やっぱ馬鹿じゃな」

質問に即答したところ。また帰ってきたのは馬鹿認定。

そろそろ事情を教えて欲しい。

「だが、見る目がある馬鹿じゃ。まだ……石の部分しか見えてない原石の様な存在じゃな」

褒められて、いるのだろうか?

「おじいちゃん。そろそろ本題話していい?」

「ああ。ああ、そうか。なるほどな。お前はコイツに決めたのか」

決まった?

二人の中で気になる単語が出てきた。本題という内容も気になるが、何なんだ?

「ごめんね。色々衝撃だと思うけど、実はこれからが本題なんだ」

「じゃな」

「本題って何があるんですか?」

「実はね。私たちβテスターなんだけど……そこはわかる?」

「ええ、テストランをやった方ってことですよね」

β版をやった人はあの少女もだが、何か迷いがない。

既に何処かで自分の方向をもう見据えた落ち着きが感じられ、俺とは大違いだ。

「βテスターの人って、実はね。β版のお金をある程度引き継げちゃうの。それで私たちは初期から『工房』を手に入れて、一歩どころか。十歩ぐらいスタートラインが違うんだよね」

「まぁここを手に入れるにも相応の苦労はしたがな。その努力があればこそだ。そこは文句を言わせる気はない」

「その刀もこの工房がなければ作れなかったものだ」と付け加えられると、俺には何も反撃のしようがない。

「だがここを完成させ、センスも一通り成長させたところで、ワシらは思ったんじゃ。『行き過ぎたな』とな」

「行き過ぎた?」

この工房が? 行き過ぎた?

「早すぎたんじゃよ。まず、まだこんな工房を誰も持っていないだろう。なんせこの工房を作るにはGだけではなく、他の街まで自力で行かねばならぬしな。

で、工房を完成させ、どうするかと考えた時じゃな。その需要を儂らは考えたのじゃよ」

「需要?」

「そう、こんな施設が必要かどうかを。そしてここで出来る武器が、今のプレイヤーたちに求められるものかを」

益々言っている事の意味がわからない。

「……『黒鉄 一輪』実際に値を出したらいくらかわかるか?」

「わ、わからないです」

流石にそんな事情を初心者である自分が知るわけない。

「素材を考え、扱うモノが少ない、需要を鑑みても、50万Gはくだらんな」

「……は?」

「β版の生産職が作っていた鉄で出来た追加効果付きの装備の今の相場が大体5〜7万。つまりはその約10倍じゃ」

「か、か、か、か」

「買えるわけないんだよね」

「だから値を出さなかったんだ」と更に添えるアルミさん。そういう問題じゃない。だったら何故こんな高価な装備を出してたんだ?

「いや、安いアクセサリーも販売してたんだよ? ただ、君が刀しか見てなかっただけで」

……へ、へぇ。

「まぁその話は置いておくぞ。カイ……じゃったか。お前も思った通りだ。まだ、誰も、そんな高価な装備を求めていない。それに気づいた儂らは行き過ぎた代償として、これの維持費を一定期間で払わねばならぬ」

「結構高いんだよねぇ維持費。お金もありったけ使っちゃったし、結構ギリギリなんだよねぇ。私たち」

「そこでじゃ。その急務を脱出するため、先見通しを始めることにしたんじゃよ」

「せんけんとおし?」

「そう。つまりは初心者の育成。なんと君はその第一号として選ばれちゃったわけ」

「まぁといってもやるのはアドバイスと武器を多少融通するぐらいじゃがな」

「え、えーっと」

 

つまり、彼らは高速でこの施設を建てることに成功したはいいが、維持費が賄えないのが目に見えてきて。

どうすればいいかと考えた結果。初心者たちを……自分たちが必要になるレベルまであげちゃえばいいと、考えたわけか。

 

「なんでその方法にしたんですか?」

もっと方法だってあるはずだ。

自身のレベルを上げれば、それこそいくらだって強い敵を倒せるはずだし、自分に頼らなくても良いはずだ。

大体、自分がその額が出せないだけで、他の、テストランをしたの人ならば、数日で買える程度に成長するのじゃないだろうか……。

「今、β版をプレイした人に、自分たちの武器を売りつければいいんじゃないか……とか考えてた?」

見抜かれたような言葉だが最もだ。

「それが一番楽なんじゃないですか?」

「馬鹿じゃなやっぱり……」

「へ?」

「儂らはな。あのβ版を体験した。だがな。結局のところ武器を打つことが好きじゃった。大好きじゃ。

他の奴らもそうじゃ。冒険が好きな奴は好きだろう。釣りや料理が好きな奴は好きだろう。

そして……儂もその馬鹿の一人じゃ。

今回の件は完全にそれが空回った結果となった」

「おじいちゃん……」

「効率、効率。ならばその方法などいくらでもある。だがな。

最終的に何処へ行く? 

孤独か。高みか。……そんなもんに、価値はない。誰もいなくなって、周りを見渡せ。

ただ、孤独で震えるのに耐える人生が待っておる。

儂らはな。そうして感じたのじゃ」

深い悲しみの中で、決断した硬い判断を感じる。

彼らの話している内容は、正直言って、何故そうなったかがわからなかった。

経験してなかったからだろうか。自分がまだ何も考えられない若造だからだろうか。

ただ、何故か。グサリと来るものがあり、ジッと話を聞くことにする。

「それで、周りを見た。まだ、皆初心者ばかりだった。β版の奴らも、それにちょっと飛び抜けた程度じゃったが、その差は歴然じゃ」

それは、自分にも実感だった。βテスターとの差は埋まらない。そう簡単には。

たった数時間であの少女が猪のモンスターを狩れたように。

彼らは、もうこのゲームを『知っている』。

「だったら、そのちょっとを儂は埋めようと思った。

ちょっとの差は武器と儂が持っている情報を教える事でな」

「……」

「儂は武器を打つだけじゃ。結局それ以外は出来なんだ」

ただ、真っ直ぐに彼はそう言った。

その言葉こそ、彼の全てだったのだろう。

彼を俺は、信じてしまったのだ。

「俺は……僕は……貴方たちを信じます」

それが、俺の全てだった。

「きっと、それは貴方たちの覚悟だと思います。自分だけでなく、他人を見ることは、難しいんじゃないか……って、思うんです。

話の内容が、全部分かったわけじゃないです。

正直、分からないことのほうが多かった。

だけど、だから」

 

「僕は貴方の武器を振るいたい。僕は貴方も、貴方の刀も信じていますから」

 

最初は刀を見ただけだった。

だが、今は違う。

彼らに触れ、彼らの思いを聞き、自分なりに考えた。

そうして俺は、彼らの覚悟を……信じた。

「……そうか。わかった。儂はカイ。お主の武器を打とう!」

ナルバスは立ち上がり、槌を片手に持った。

「ところで、だが……カイよ。お前お金はいくら持っておる?」

何でお金の話?

「1G万あります」

「よしっ! では、それで武器を作ってやろう!」

「お金いるのですか!?」

今までの話から、え? 作ってくれるって!?

「あったりまえじゃろうが、武器作るには相応の苦労と施設がいるんじゃ。

ただ、今までの話はレートを下げてやるって話じゃよ」

「ぜ、全部ですか?」

「全部。それ以外にありえん」

「は、あはははは……」

「だ、大丈夫! しばらく使っていけるぐらいいい武器打つからさ!

それを使えばすぐ元は取れるよ!」

アルミさんがフォローしてくれた。

そりゃそうだけどさ……。

「使ってるセンスはなんだ? 教えてくれれば適正な武器の診断もしてやろう」

こうなってしまっては、俺に選択肢はない。

彼らに自分の適性を調べてもらうため、覚えているセンスのことを話して、チュートリアルでは短剣がおすすめだったとも伝えた。

「ほー。チュートリアルもかなり成長したもんじゃな」

「私たちの時なんか。そんなこと全然話してくれなかったよね」

「そのセンスじゃと。チュートリアル通り短剣がおすすめじゃな。一番『急所の心得』の補正が強く乗るし、回避のためのスキルも覚える」

「短剣だったらちょっとオマケできるかも」

「オマケ?」

「ああ、短剣はインゴット一つで出来るからの。かなり安めなのじゃよ」

へぇ。経済的にいいな。

「まぁ刀はインゴット三つ使うから。かなり高いのじゃがな」

「そんな……」

「あはは、お金貯めるまで『黒鉄 一輪』はキープしておいてあげるから。安心してね」

「それまでは、短剣で腕を磨くのだな」

 

そうして、ナルバスさんとアルミさんは僕に武器を作ってくれた。

それは別のところでひとつの波乱を呼ぶこととなるが、それはそれ。

舞台は次のステージに進んでいく。




6/2修正 今の生産職→β版の
一日目で追加効果付き装備は流石に無理でしょ……。
追加修正。もうちょっと主人公らしくなるんじゃい。


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『始まり』の休憩、お互い

ちょっと休憩。


起きた時、いつの間にか僕は転がっていた。

眠気と、不思議な疲れと、温かさの残り。

 

『そろそろ夕食だよ』

二人と別れ、明日武器が出来ると言われた後。

俺はしばらく途方に暮れていた。

それは、肝心の防御アイテムである『初心者の木の盾』も修理に一緒に出してしまったのだ。

『Only Sense Online』には各武器や防具に『耐久度』が設定されている。

この『耐久度』がなくなると武器が損傷していき、ついには壊れてしまう。

初心者シリーズの武器や防具は比較的に『耐久度』が高いのだが、盾は一番攻撃を受け、そしてスキルで跳ね返すところまでやっていたため、一番損傷が激しかった。

それで修理もやってもらうことになった。代金は初心者装備なのでいらないとのこと。

そんな中、先程の一文でメールが来た。

「あっ、そうか。そんな時間か」

そうして、俺は初めて『Only Sense Online』をログアウトした。

 

「ん……ん?」

何で横になってるんだ俺。

「そっか。だからメールか」

今日、家には両親は二人で出かけてしまっている。

そのため、今日の食事をシュウちゃんが作ってくれることになっていたのだ。

「見計らった様な感じだな……」

この『Only Sense Online』の発売日といい。両親の出かけるタイミングといい。

「というか。なんでショウちゃん俺の前に現れなかったんだ?」

自分も色々あったが、センスのレベル上げの間に何回か連絡したが、やはり無理だった。

何かあったのだろうか。

それとも……俺に言えない。何かが……。

「まぁ、食事の連絡はくれたし、一回行こうか」

どうしても様子が変なようだったら、それで一回訪ねてみよう。

ダメだった時には別の手段を考えて、手伝えるかどうか考える。

そう誓いを立て、俺は広間の横にある食事の部屋に映った。

 

「ショウちゃん。今日は夕食何作ったの?」

キッチンを軽く覗くと、鼻歌交じりで鍋をおたまで混ぜてるショウちゃんがいた。

「カレー。しばらく分作ったから、お母さんたちと食べてね」

「おお」

カレー。カレーだ! しかもいい匂い。

「ルーは?」

「中辛と辛口までたの」

「中身の具は?」

「じゃがいもと、にんじん。あと固めの牛肉。溶けちゃったけど、玉ねぎも入ってるよ」

「ホント! パーフェクトだよショウちゃん!」

「でしょでしょ」

カレーかー。カレーかー。

ショウちゃんの料理食べたことないけど、カレーならまずいってことはないし、これなら安心だよなー。

夕食に僕はとてもワクワクしてしまっていた。

「ご飯注いでくれる? そろそろ出来上がりだから」

「OK。机も並べとくけど。他に並べるものある?」

「コールスローも作っておいたから。冷蔵庫の中にあるよ。それ出しておいて」

「うん!」

全ては愛のターメリックッ。

何処かで聞いた歌を脳内で流すほどのご機嫌。そう、シーザーご機嫌だった。

先程のことについて、食事が終わってから思い出すほどに。

「はっ!!」

カレーを二杯ほど食べ、満足感に浸っている時、俺はようやく誓いのことについて思い出した。

「そ、そうだった!」

「カレーどうだった?」

「美味しかった! 明日も食べる! じゃないっ!!」

くそっ! カレー恐るべし!

俺の腹を満たすだけでなく、心まで満たそうとは恐ろしい……。

「ショウちゃん何かあった? ゲームの中で」

「え、えええ?! な。なんでもないよ?

「何が? なんでも?」

「い、いや、レベル上げに夢中になってただけだし! あ、そうだ! センス何レベルまで上がった? どんなのとった?」

ショウちゃんはどうやらひた隠しにする気なようだ。

……これ以上は追求しないでおこう。ショウちゃんのことだし、とやかくいうのはやめよう。

「センスね。センスはね。『剣』とか『急所の心得』『発見』とかかな」

全部説明するのをやめ簡単に説明していく。

「あっ、その構成なら斥候みたいなタイプかな」

「いや、最終的には敵を引きつけて、その攻撃を躱し、そして隙を見て反撃! っていうのが理想」

「回避盾ってやつ?」

「そうそう」

「ふーん。結構特殊そうね。センスの校生が最終的にどうなるか気になるわ」

「今はあんまり動けてないけどね。センスレベルはやっと『剣』が6いったところ」

「あら。遅いのね。私なんて魔法のレベルが10達したわ」

「……」

最初の敵を倒すことに手こずらされたせいかやっぱりレベル差が開いている。

「そういえば、ショウちゃんはどんなスタイルなの?」

気が沈むのを紛らわすため、次はショウちゃんのことを聞いてみた。

「私? 私はね。回復役かな。魔法攻撃も出来るように『光属性才能』と『闇属性才能』二つ取ってるけど」

「二つ?」

「そう。二つ取っていかないと。例えば、『光』に強い敵がいた時、『光魔法』で攻撃しても意味がないじゃない? そういう時には『闇魔法』があったら使えるじゃない」

「なるほどね。じゃあショウちゃんは『回復』『光属性魔法』『闇属性魔法』の三つが主かな」

「そういうこと。私は直接戦うのが嫌だったから。前は任せてるってわけ」

そうして話していると、ショウちゃんが皿を片付け始めた。

「じゃあまたゲームでね? 私もうちょっとレベル上げてるから」

「ショウちゃん」

早く片付けを済ませ、帰ろうとするショウちゃんを俺は呼び止める。

「何があってもショウちゃんは、ショウちゃんだから。助けてもらいたい時は言ってね」

「……うん」

その返事だけ残して、ショウちゃんは自分の家に帰った。

 

「レベル、上げるか」

追い越されるばかりではいけない。

もっと強くなる。守れるようになるために。




6/2修正 コールスローの歌→カレーの歌に変更。
誰がわかるんだこれ……(みなみけネタです)


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『始まり』の男の娘、先輩

TS始まります。


「あのね。私ね。男の子なの」

「は?」

何年も付き合っていた幼馴染から出た衝撃の一言。

わかる。わかるんだが……。

嘘でしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 

夕食が終わり次は自分の部屋でVRを起動し、ゲームを再開する。

眠くなる感覚の中、反転し、いつの間にかゲームの中へとダイブしていた。

「すごいな……これ」

違和感を感じない転換もそうだが、これでは現実とゲームの区別がまるでつかない。

「って、感心してる場合じゃない。狩りに行く……いや、クエスト受けてみるかな」

『クエスト』つまりはゲームの小さなイベントだ。

 

物を収穫し、それをNPCに渡すことで終わる『納品クエスト』。

フィールドに湧いているモンスターを指定された数倒して終わる『討伐クエスト』。

『クエスト』にストーリーがあり、ストーリーに沿って『討伐クエスト』や『納品クエスト』を複数回続けて、ストーリーを終わらせていく『チェーンクエスト』。

 

この三つが基本らしく。それ以外にも何やら隠しクエストのようなものが多数存在するようだ。

だが、実際皆が受けるのは『納品クエスト』か『討伐クエスト』である。

『チェーンクエスト』は長く、NPCの話もしっかり聞かないといけないため、受ける人は少ない。

今、俺が受けようとしているのは『討伐クエスト』。

何を狩るかは決まっていないが、自分に出来るものがあればそれがお金にもなる。センスのレベル上げにもなる。

ならば、受けないよりはお得というわけだ。

「……よく考えたら、最初から受けろよ俺……」

クエストについては既に事前情報で知っていたはずなのに、最初の時はそこまで頭が回っていなかった自分を呪う。

仕方ないじゃないか。レベル上げ楽しいんだもの。

「うーん、クエストか。こういうのは酒場かな」

ロールプレイングゲームの定番だよね。やっぱり。

いやぁ。ゲームしてるなぁ。ホント。

 

PPP!PPP!

 

そんな時にかかってくる着信。

「はいはい? ショウちゃん?」

俺を知っている人なんてこのゲームでショウちゃんぐらいなものだ、と当たりを付けいうとビンゴ。

液晶画面に『シゥ』とショウちゃんのプレイヤーネームが浮かび上がっている。

「あー。あの。金成、じゃなくて『カイ』だっけ」

「そっか。ごめん。俺もシュウちゃんじゃなくて、シゥって呼ばなきゃいけなかったね」

今まで慣れていた呼び方に甘えてしまっていた。

これはあくまでもオープンワールドのゲームなのだ。プレイヤー名が違うなら、リアルネームで呼ぶのはマナー違反か。

「そ、そういうことじゃなくて……あのね。一緒に……レベル上げしない?」

「うん。いいよ」

なんだろう。むず痒い。

何でこんなにもシゥちゃんは改まっているんだ?

「何処で集合? クエストはどうするの?」

「えっと、クエストは決まってるんだ……。丁度今、β版やってた人がいいクエスト見繕ってくれて、それをカイも誘って、一緒に受けようってことになってるの。

場所は、聖堂前でお願い」

「うん。了解。今すぐ向かうよ」

そこで連絡が切れた。

「聖堂前か……」

場所はわかる。だが、

「装備……初心者のままだけどいいかな……」

武器が出来るのは明日。装備は、耐久度はないが、ATK、DEFには心許無い。

といっても……、

「どうしようもないか」

まだ、一日目だ。

そこまで急いでもしょうがない。相手も……初心者装備なのを祈ろう。

 

聖堂前には待ち合わせの人が沢山待っていた。

人ごみが苦手な俺は出来るだけその中に入らず、ショウちゃん……じゃなくシゥちゃんを探していたが、見つからず、諦めて突撃することにした。

「シゥちゃんー? いるー?」

声で呼んでも人ごみの声でかき消されてしまう。

「こういう時のフレンド通信か……っていた?」

手を振っている影が見える。視線を見てもこちらを見ているので、おそらくあれがシゥちゃんなのだろう。

丁度背もそれぐらいだ。

「おお、い。シゥちゃん……」

そうして、気づいた時。

僕は、頭が白くなった。

 

短く整った髪は何処かボーイッシュ。いや、まだここまではいい。シゥちゃんは元々髪が短いし。

肝心なのはまな板だ。現実でもそこまである方ではなかったのだが、今では完全に、いや。見事なまな板となっている。

肉付きも少しピシッとしており、どう見ても、どう見ても。シゥちゃんの性別とイメージ合わない。

そして何より、男としての勘が、シゥちゃんを男として認めない。

「……シゥちゃん?」

 

そうして、衝撃な発言を聞いた僕はもう何とも言えなくなっていた。

いや、いや、いや!!

「シュウちゃん……いやシゥちゃんだよね」

肩をがしっと掴み、頑なに確かめる。

「う、うん」

「別人とか! ドッキリとかじゃないよね!!」

「うん……」

「そっか……」

そっか……そうだよね。だったら。

「良かった。ごめんね。シゥちゃん言い出すの辛かったよね」

全ての覚悟を決め、今の彼女を受け入れよう。

「カ、カイ!? ちょちょっと!」

「大丈夫。そんな姿になっても、シゥちゃんはシゥちゃんだよね。俺もう大丈夫だから。うん」

「な、な、何勝手に納得してるのよー!!」

「大丈夫シゥちゃん。オレも、これから頑張っていくから」

自然に笑みが出た。

これから消えそうな人の言葉が出たが、これが今の精一杯の想いだ。

それを聞いてか。シゥちゃんの顔が思いっきり赤くなっている。

風邪じゃないだろうけど、恥ずかしかったかな?

 

「くっくはははははははははは!!」

隣からいきなり声がする。

隣?

「いや、いや、聞かせてもらったよ。っていうかびっくりだ。他の人たちが立ち退いたぞ。君たち」

荒髪カットの女性が笑いをこらえきれない様子で、こちらに声をかけてくる。

「あ、ああ。すまない。私はポーカス。いやこれでもシゥちゃんと、君の……先輩となるかな?

よろしく頼むよ」



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『始まり』のボス、弱点

「いいね。君はすごいよ。カイ君」

前にそびえ立つのは、大柄の土の塊。なれど、その一撃地面を揺らし、大地に穴を開ける。

「戦いっていうのはね。守りでもあるけど、根本的には自分のペースを握ることなんだ。

どんな攻撃が来ようと、どんなギミックがあろうと。

最後に勝つのは、自分を乱さなかったものさ」

三倍はあろう高さをジッと見つめ、並び立つ女性はそう言った。

戦い始めて、五分近く。まだ……戦いは終わらない。

だが、俺たちに負ける気は毛頭なかった。

 

お互いの自己紹介が終わりフレンド登録を済ませた後、シゥちゃんとポーカスの馴れ初めを聞いた。

どうやら、シゥちゃんはとある青髪の女性プレイヤーに魔法を教えてもらおうとして、パーティに入れてもらったらしい。そしてパーティの前線役の一人がここにいるポーカス。

そのポーカスに俺のことを紹介して、俺のこのゲームへのスキルアップを狙ったというわけだ。

「それじゃあ何処行こうか。オススメは手頃なところじゃ。近くにいるビックボアかな?」

ビックボア。俺が戦っていた猪のモンスターだ。

「あいつは最初の狩りには丁度いいんだよね。数人いれば狩れるし、その素材で軽防具系も作れるからまさに序盤のお供だね」

「俺はそれでいいです」

「わ、私も……」

シゥちゃんはまだ姿に慣れてないか、俺に続いてしどろもどろで返事をする。

「そうか。じゃあビックボアの討伐クエストを受けてその後に行こうか」

そうして酒場に移動し、任務を受けようとクエストボードを見たとき、ポーカスが苦い顔をした。

「やばい。このクエスト複数のパーティが受けてる」

複数受けている? クエストボードのその依頼表を見ると、今受けているパーティ数と思わしき数字が浮かび上がっていた。

「12組」

実際の人数にしたらもっと多いだろう。

パーティは何人でも組めるが、ペナルティや戦略の関係で六人が最適だと考えられている。

この依頼を受けている全パーティが6人でないにしろ。3人で計算しても36人がこのクエストを受けていることになる。

「ダメだね。こういうクエストを受けると下手すると取り合いでPVP(プレイヤーVSプレイヤー)になって騒動になる可能性がある。

言いだしたのは僕だけど、予定変更しよう」

「じゃあどうするのです?」

「そうだね……候補としては三つ。

1『雑魚モンスターの討伐クエストを受ける』地味だけど確実だし、お金も貯まるし堅実だね。

2『待つ』これについてはおすすめしない。先程もいたようにデメリットも高いからね。

そして最後の一つが……」

出来れば言いたくなかったというポーカスの顔に何を言い出すのかと期待してしまう。

「3『無茶をして、強いモンスターに挑む』これは更におすすめしない。

僕が本気を出さなきゃいけないし、君たちがやられる可能性が高いからさ。

だけどセンスは一番上がるだろうね。早くセンスを上げたいって言うならおすすめカモネ」

この三つ。

正直言って俺は三つ目の案に心惹かれていた。

早くセンスを上げたいのもあるが、実際戦ってみたいのだ。

「カイ君は逸る気持ちを抑えきれてないみたいだね……。だけどね、考えて。

私一人じゃもちろん勝てないモンスターだし、君たちを加えても勝率は、五分……いやいいところ3分ぐらいだね。そんなところに挑むんだよ?

あとから私が悪かったとかはなしだよ」

「カイは、そんなこと言いません」

シゥちゃん……。

シゥちゃんの言葉に全面の信頼を感じた俺は少し泣きそうになった。

だが、泣けはしないと思い、全力で涙を止め、涙目になっている。

「そっか。シゥも止める気はないんだね。

はぁ……じゃあ仕方ない! 私の本気! 見せてあげるよ!」

さっきから一変。ポーカスさんの顔が、やる気で満ち溢れていた。

「但し、私から飛ばす指示には従ってね。

それは最低限。負ける気で行く気はないから、勝つ気で行くよ」

「「は、はい!」」

燃えに燃え上がるポーカスに勢い押される俺たち。

「狩るボスはゴーレム! 物理に強いからシゥの魔法主体で戦っていくよ!

私とカイ君はボスの攻撃をこっちで一点に引き受ける!

いいね!」

「「は、はい!」」

頼もしくもあるが、勢いが強すぎないか……この人?

「よっし。やるぞー!」

「「おー!」」

そうしてクエストを受け、俺たちは無謀にもゴーレムに立ち向かうこととなったのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

「ぜぇ……ぜぇ……」

「どうしたのー? まだ三割しか削れてないぞー」

ゴーレムとの戦闘に入り、少し立った時の光景。

俺とシゥちゃんが初めての激しい戦闘により、HPは減らないが、体力がどんどんと削られていった。

それにゴーレム戦に入る前にも何匹かのモンスターに襲われ、それも撃退して行っている分かなり精神が削られている。

「ほら! 私しかほとんどダメージ与えてないじゃん! そんな気でやる気だったの!?」

「クソッ!」

なんとか剣を握り、ゴーレムの前に立つ。

圧倒的威圧感。

俺はこの戦闘に入ってから全くゴーレムに致命的なダメージを与えられていない。

「スキルを打つんんだよ! 《インパクト》か《デルタ・スラッシュ》覚えてるでしょ?」

「でも、ダメージが!」

「ダメージはいらなくてもいいの、焦らない焦らない。

君は、スキルを打つことだけを考えて」

センスのレベル上げのためだろうか。そう指示してくる真意は正直分かりかねない。

だが、先程の約束もある。

俺はそうしてスキル《インパクト》を放っていくが、やはりダメージはあまり与えられない。

(硬い! ただ打つだけじゃ駄目だ! 弱点だ。弱点を狙うんだ。この敵だって何処かに弱点が!)

土で出来ている体には一分の隙もない。

シゥちゃんは回復と魔法攻撃の切り替えで手一杯で、混乱しないようになんとか保っている。

シゥちゃんの魔法ダメージはかなり効いているところがあり、ゴーレムを怯ませたりもしていて、役立っている。

だからこそ、自分が不甲斐ない。

いや、見るんだ。

ゴーレムを絶対何処かに弱点がある。

「はぁ……はぁ……」

意識が遠くへ、遠くへ。

「大丈夫?」

ポーカスが心配してくれる。が、大丈夫だ。

むしろ……

「詠唱終わりました! 《ライトシュート》!!」

ゴーレムに魔法が放たれる。

それによりまた、怯んだゴーレムを見たとき、俺はやっと気づいた。

肩に微妙な、隙間がある。首の根元にもだ。

(あれは……ゴーレムの繋ぎ目。そこを攻撃すれば)

だが、ゴーレムの怯みが解かれ、その繋ぎ目の部分がまた見えなくなってしまった。

(そうか。ボスはある一定の条件でしか弱点を狙えないのか。

ゴーレムだったら怯みの時とか、他にもあるんだろうか?)

「よっしっ!《フィフス・ブレイカー》!!」

ポーカスさんが怯みの隙に接近し、スキルを浴びせるとゴーレムは、その衝撃により転倒する。

(今だ!!)

それは直感だった。

おそらくゴーレムは怯んだり、倒れたりすると弱点を表すと当たりをつけた俺はその転倒を見て、先程繋ぎ目が出た肩の部分に対し、

「《インパクト》!!」

スキルを放つ!

すると、今までの自分では考えられないダメージが表示された。

やはり僕の考えは正しかったのだ。

「へぇ……」

ポーカスさんが自分に並び立つ。

 

「お願いします!」

「ああ、僕とシゥがゴーレムを転倒か怯みを与える。

カイ君はその隙に攻撃をお願いね」

「はい!」

ドンドンと、この即席パーティに纏まりが生まれていくのを感じる。

 

ただ、攻撃するだけだった自分。

魔法と回復でテンパっていたシゥちゃん。

俺たちを守るためスタンドプレイに走らなければいけなかったポーカスさん。

 

この三つの交われなかった道が一本の道となり、繋がっていく。

「転倒させた! いけるね!」

「はい! 《インパクト》!!」

「ポーカスさん。回復します!」

「ありがとうシゥ」

こうして連携が生まれ、俺は始めてパーティというのを感じていた。

一人で出来ないことを、みんなでやっていく。

これがパーティ。

「《ブラックシュート》!! カイ!」

「ああ、《インパクト》!」

言葉がどんどんと短くなっていく。

名前を呼ぶだけで、自分が何をすればいいか感じ、それに合わせて動き、次に繋げる。

それがループとなり、ハメの状態を作ることに成功した。

『新たなスキルを習得しました《ショック・インパクト》』

そして――

「《ショック・インパクト》ッ!!!」

新たなセンスを放つ!

着実にセンスのレベルが上がっている。

ゴーレムの動きにも慣れ、ポーカスさん一辺倒ではなくなってきたとき。

「よーしそれじゃあ一回休憩」

 

ポーカスさんはセーフティエリアへの撤退を選択した。



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『始まり』の笑顔、勝利

周りが見れてなかった。

シゥちゃんのMPはそこ切れ、ポーションの消費アイテムは底をつき、撤退したとき僕はそれを知る。

 

「ふぅ……飲む?」

ポーカスさんが休憩中の俺に水を差し出してくれる。

「水って意味あるんです?」

「いや、全く。ゲーム的にはね。だけどこういう時に飲むと美味しいんだよねー」

そもそもこのゲームに味の原理があるのか分からない俺は、戸惑いながらも水を受け取り飲んだ。

すると、スカッとくる冷たさに、体が感動してしまった。

「う、旨い……」

水なんて味がないと思っていたが、無性に美味しい。

これならいつだって、飲める気がするほど俺は高々水だと思っていたものにハマってしまってた。

「いやいや、ゲームでもこういうのは大切だよ。楽しむためにさ。シゥもいる?」

「はい……」

シゥちゃんはかなりげっそりしてしまっている。

疲れもあるだろうが、あそこまでやってまだ倒せないのかという不安も出てきているようだった。

実際にあの戦闘で俺のセンスはかなりレベルアップしている。

だが、倒せないというのは根本的に装備の問題が凄まじく響いているのではないだろうか。

自分の現在のセンスを確認する。

 

----------------------------------------

取得SP3

【剣LV12】【鎧LV4】【盾LV6】【発見LV4】【魔力LV6】【物理攻撃上昇LV12】【物理防御上昇LV6】【速度上昇LV7】【急所の心得LV8】【戦士の心得LV12】

----------------------------------------

 

あまり防御には回っていなかったため防御系センスは成長していないが、攻撃系センスの上がりがかなり大きい。

スキルも覚えていっていることを考えれば、やはり武器の問題なのだろうか。

「どうしたの? センスとにらめっこ?」

センスボードを確認していた俺に、ポーカスさんが気にかけ声をかけてくれる。

「いや……ゴーレムまだ倒せないかな……って」

「まだって5割は削ったんだけどなぁ。カイ君の攻撃も効くようになったし、本当にあとちょっとだよ。

だけど、これからはもうちょっと慎重にかな。消費アイテムがなくなっちゃったし、今までは無理が出来たけど、これからは、それがないからちょくちょく休憩を挟むよ」

「こんなに大変なんて思わなかった……」

「……その……ごめんなさい」

シゥちゃんの弱音を聞いて、かなり答えてしまい、つい謝ってしまう。

「いや、いいんだ。君たちには大変さも学んでもらおうと思ったしね。

自分より強い敵との戦いが以下に大変かっていうのも知って欲しかったんだよ」

自分より強いものとの戦い……だが、結局のところこれも序の口なのだ。

今はポーカスさんがほとんど攻撃を引き受けてくれている。

俺に来るのは、時々出る流れ弾と俺がポーカスさんに近づきすぎて受けてしまったダメージ。

そのダメージを受けただけでHPが半分となり、シゥちゃんに回復を負かす羽目になる。

「だけど……もう、少し……なんですよね」

「まぁね。思ったより早かったかな。カイ君が通常の戦士系センス構築だったらもっとかかったと思うけど、急所を狙うクリティカルヒッターだから助かったよ」

そうじゃなきゃ、諦めてたね。と付け加えるポーカスさん。

それだけ、本当ならばかなり、苦しい戦いなのだ。

成長があって、やっと戦力になるクラス。

「ポーカスさん……」

「ん? なんだい?」

「武器の予備とか貸してくれませんか?」

「……そっか」

何か思い返したように、ポーカスさんはイベントリから一つの剣を取り出す。

「NPCの店売りの武器。これでもうちょっとマシになるかな」

AKT7の武器……実際これでどこまで変わるだろうか。

「それを貸すんだ。これからはもうちょっといけるよね」

ふふっ、とプレッシャーをかけ、笑いかけてくるポーカスさんはかなり意地悪に見えた。

「やれるだけはやります。俺がやれること、ありますよね」

「そうだね。それぐらいは最低。やってもらわないと……シゥ!」

「は、はい!」

「元気ないね……。アノ日?」

「そ、そんなわけないじゃないですか!!」

「いやハハハハ、そう元気あるならよろし、じゃ第二回戦いっくよー!」

そうして、シゥちゃんのMPが回復したところで、2戦目が始まった。

 

だが、それでもまだまだゴーレムには敵わない。

そうして、何度も、何度も繰り返していく。

ここで諦めなかったのは、ポーカスさんの存在が大きかった。

彼女は気さくで、冗談も言え、褒めるところは褒められる良い大人だったからか。何度挑んでも雰囲気はあまり悪くなかった。

 

「そういえば、ポーカスさんは何か目標とかあるんですか? このゲームで」

何回もの休憩を繰り返している時、そんなことを聞いたのは偶然じゃなく、自分の意志だった。

あの時の彼女がどうして、俺達がやっているような無茶をやっているか知りたかったのだ。

その為に、ちょっとでも近い人、β版をやっていた人ならば同じ想いがあるのではないかと、期待してのことである。

「私? 私はねー」

ニシシと笑うポーカスさん。

「楽しむことかな。その為に、やることは全部全力で行きたい」

初戦はゲームだしね。

そんなことを言う彼女は、やっぱり笑い顔だった。

「じゃあ行こうか。もうゴーレムの体力はほとんど残ってないし、いけるいける」

そうして、また戦いに駆り出す。

 

この戦いは、最後には勝利に終わった。

最後に得るものは大きかった。それは、僕が最後の最後まで忘れてはいけないものだと気づくのは、もう少し後になる。



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『始まり』の終わり、始まり

「どうだー? そっちに薬草あったか?」

ポーションを作るため薬草のため走り回ることとなった僕。

レンジャーと名乗った弓使いのティースは、生産系のスキルを持っていた。

このティースと、とあるボスとの戦いの準備をするためこうして、消耗品を作っていた。

この男との出会いで、僕の『Only Sense Online』生活は激変することとなる。

気さくで、屁理屈だが、仲間のことをしっかり見ることができる彼は、

 

後の僕の親友である。

 

「疲れた……」

あのゴーレムとの激しく長い消耗戦を終え、僕はすぐに仲間と別れログアウト押した。

ポーカスさんとシゥちゃんも同じようにすぐログアウトしたようで、ログインいる印がない。

「明日に備えよう……。寝る」

そうして――しばらく数日が経った。

 

俺は中学三年生の受験生なため、それからは勉強と『Only Sense Online』を繰り返すような生活となっていった。

それから、ポーカスさんやシゥちゃ……シゥとは時々狩りに出るぐらいにはなったが、俺は基本的にはソロプレイだ。

理由としては、シゥがメインとしているパーティが忙しいらしく、こちらに付き合えないというのと、俺がパーティを組もうという気があまり起きなかったからだ。

ゴーレムみたいに、強敵を相手にするときは確かにパーティが最適だとは思うのだが、別段。今の自分ならば、ボス以外ならば一人で狩れるし、【発見】センスによる採取も地味に自分の趣味となってしまっていたのが原因である。

行ったフィールドの採取は行わないと何故かそんな気分がし、ついつい採取してしまう。

シゥとパーティを組んだときそのことについて非効率だとか、不必要だとか言われてしまい、マイペースでやるにはやっぱり一人なんだなと実感してしまったのである。

元々人と喋ることも上手く出来ないし、これはこれでレア素材が出たときはニヤッとして面白い。

「別にいいんじゃないか。これぐらい」

といっても、素材は生産系のスキルを覚えなければちゃんとしたアイテムにならないため、ただイベントリを圧迫するだけの要因となっていることは内緒だ。

 

何か変化があったといえば、二つ。

 

一つ目として、シゥちゃんという呼び名がシゥと呼び捨てになった。

これは次の日シュウちゃんに直接言われたことなのだが、

「あのね……あんた私はあっちでは男のキャラになっちゃったのよ! それをちゃんちゃんちゃんちゃんって言ったら、周りから不審がられるでしょう!! 今度からゲームの中では呼び捨て!! わかった!!」

シュウちゃんの見た目は確かに髪が短くボーイッシュに見えるが、それをVRが誤認識するとは、実際に事例もあったらしく、ポーカスさんのパーティには簡単に受け入れられたらしい。

なのでポーカスさんの呼び方も男の子でも女の子別に間違えじゃない『シゥ』と呼び捨てだったのだ。

「髪伸ばせば可愛くなるんじゃない?」

「うるさい!!」

そうしてちょっと、シュウちゃんとの距離が開いてしまった。

 

二つ目は装備とセンスだ。

ゴーレムを倒したことによることと、今までの成果かセンスが幾分と上がった。

今の俺のセンスは

 

----------------------------------------

取得SP13

【剣LV20】【鎧LV13】【盾LV16】【発見LV10】【魔力LV15】【物理攻撃上昇LV20】【物理防御上昇LV18】【速度上昇LV17】【急所の心得LV16】【戦士の心得LV20】

----------------------------------------

 

防御系のセンスが全く育ってなかったため、それを中心としてなるべく鎧で受ける戦いを心掛けここまで成長することに成功した。

だが、やはり全体的に見て【鎧】のセンスの成長が芳しくない。

敵の攻撃は、避けるか、盾で受けてしまうため、中々センスが成長しにくいのもあり、自分の戦闘スタイルには合わないのかもしれないと、違うセンスも考えなければいけない状況になってきている。

SPを20まで取得すれば、ポーカスさんが新しいセンスが出現してそれを入手出来ると言っていた。それを気に一気に構築を考え直すのもいいかもしれない。

そして装備の話だが、ついに1万G払った装備が完成したのだ。

「ほれこれ」

場所はナルバスの工房。入ってきた俺に渡されたのは、比較的短いショートソードだった。

「これぐらいが、ぎりぎり短剣として扱える長さじゃ。

あんま短すぎるとこれまで使ってた装備と違いがありすぎて使いづらいじゃろうしな」

 

『鉄刀 小雨』AKT+11 SEED+3

『鉄で出来たショートソード。

小さな水玉を掴んでも、それは最後に手からすり抜ける』

 

今までの装備の約二倍近くの装備。これで火力の問題は大分解消されるだろう。

だが、このこじゃれた一文はなんだろう?

「ああ、あとな。アルミがこれもついでに付けてやれとな」

そう言って渡されたのは、革のベルトだった。

 

『革のベルト』DEF+1 DEX+3

『革で出来たベルト。

ポーチが常備されており、色々な物が収納可能』

 

「この二つがあれば、そこそこは戦えるじゃろうて。

ちゃんとした防具は防具屋に頼め。探せばいくらでもあるはずじゃ」

「ありがとうございます……」

「何、別に良いんじゃよ。元々儂ら生産職は作る相手がいないとスキルも伸びん。儂らはWIN‐WINな関係だ。

ただ、武器は出来れば上手く使ってやってくれ。こっちで強化はいくらでもしてやる」

ガッチリ腕を組み、自分の作品が俺に装備されるところを見届ける。

「うむ。初心者装備に毛が生えた程度じゃが。マシはマシじゃろて」

「これがあれば、かなり戦えそう」

「じゃろうな。耐久度には気を付けろ。初心者武器ではないからの。耐久度に限界が来れば壊れるぞ」

「はい」

そうして装備とセンスが強化された俺はあのビッグボアを一人で倒せるぐらいにはなっていた。

「だけど。『黒刀 一輪』の値段は……」

「50万じゃな」

しばらくは、装備を買うお金すらなさそうだと、装備についてはやりくりしようと決意する。

 

これによって、俺にとっての序盤の準備は終わった。

これから、これからが、俺の本当の『始まり』が幕を開けたのである。

 

その始まりは、いつものように防具の素材を集めるためにビックボアを狩ろうとクエストを受けようとしていたときのことだった。

「げっ、クエスト受注パーティ数5か」

前にもこんなことがあったなと思いつつ、次はゴーレムのクエストも見たが……、

「こっちは受注パーティ10……」

倍の数。今日は夜からのログインだったため。こんなに待っては明日のための睡眠ができない。

「……どうしようかこれ」

何処かに、狩りに出ようかどうか迷ったとき、

「クエストに迷ってるなら、オススメがあるぜ?」

「!?」

ズバッと後ろを振り向くと、耳の長いローブに身を包んだ男がいた。

「いや、驚かせて悪い。パーティを組みたいんだが誰も組んでくれなくてな。手当たり次第に声をかけているんだ。

一人で稼ぐにも限界があるだろう? どうだ?」

「………」

怪しい。怪しいが、一応聞かねばならぬことがいくつかあると、疑問に思ったことを聞くことにする。

「なんで、パーティを組んで貰えないんですか?」

「持ち武器が弓だからだ。かなり不遇不遇って言われてるからな。それでみんな組みたくないんだろ」

「おすすめのクエストというのは……」

「チェーンクエストだ。最終的な報酬の入りがかなりいいらしい。道中で幾つかのクエストも受けるからセンスのレベルも上がる。

そして、最後にはボスとの戦闘。

王道だろ?」

「……いいですよ」

別に自分にデメリットがある話ではなさそうだ。と思ったのが受けた理由だ。

弓がいくら不遇武器だからといって、それだったら俺が目指している刀はどうなのだろうか。

ポーカスさんやアルミさん。ナルバスさんの話を聞いたが、刀だってコスパは良くないし、特徴が尖っていて使いにくいと言われたし、そう言う意味では不遇武器だ。

そんな同じ不遇武器を扱う(俺は扱おうとしているものだけど)者同士、除け者には出来なかった。

「……ホントか?」

「はい。フレンド登録送りますね」

「あ、ああ! よろしく頼む! 俺はティース。エルフのレンジャーだ」

「レンジャー?」

「そうだ。俺は弓使いだが、その都合でな。生産系のセンスも覚えているんだ。

自分で狩りをし、作り、そして使う。どうだ? レンジャーだろう?」

ナニヲイッテイルカ、サッパリダ。

「ア、ハイ」

そこで思った。

僕はもしかしたら、どんでもない人を仲間にしてしまったのではないかと。

 

そして、僕はティースとチェーンクエスト『呪いの戒め』を受けることとなった。



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『始まり』の家、呪い

呪いは相手を憎むこと。

呪いは自分を削ること。

人を呪わば穴二つ。

相手を呪うとはすなわち、自分も呪うことである。

 

「夜になると、ガーブスさんのところの甥っ子が『苦しい。苦しい』と唸るのさ。

毎晩毎晩。何故か原因を見ておくれ。

あの声が恐ろしくて、夜眠れんのさ」

クエストを受けたあと、依頼人のゲンコおばさんのところに訪れると彼女はこう言った。

ゲッソリした姿は彼女の身をつい案じてしまうほど真に迫っている。

「ガーブスさんの家は、何処なんですか?」

「この家の裏手さ。近所のみんなも迷惑しとる。

依頼料はみんなで集めたもんさ。何とかしたらそれを支払おう」

「裏手か。ばーさんが死ぬ前には終わらせてやるよ」

「頼むぞ若造」

かなり被害が広がっているらしいところもそうだが、なんて重い話なんだろう。

「おいおい。暗い顔するなよ。ゲームだぞ。ゲーム」

「まぁ……そうなんですけど」

ここまで現実味を帯びてしまうと自分の中で整理が付かない。

何とかしてあげたい。そう思ってしまう心が、自分の足を掻き立てる。

「第一クエストは調査クエスト。

報酬はないが、調査系に向いてるセンスが育ちやすいな」

「『発見』ぐらいなら持ってますよ」

「お、ホントか。俺は『罠解除』しか持ってないから頼むよ」

『罠解除』とはトラップ解除のセンスなのだろうか。

にしても、『罠解除』だけじゃトラップは発見できないはずだ。バランスが悪い気がする。

それとも……何か隠してる?

「着いたぞ。ガーブスさんの家だ」

その家は木造の2階建てだった。二階にはベランダが設置されていて、そこには家庭菜園の植木鉢が幾つか置いて……

「植木鉢……倒れてる?」

「そうみたいだな。どうやら荒れているようだ」

ノックをしてみても、中々呼びかけに応じてくれない。

「こりゃダメだな。勝手だが入ろう」

ガチャっとティースが扉を開くと、白く、冷たい吐息のようなものが中から溢れ出してきた。

「な、なんだこりゃ?」

白い煙に触れ、ステータスを確認するティース。

「ど、どうともなってない……か」

バットステータスは見受けられなかったようで、ホッとした顔を見せるティース。

「なんだこれ。前来た時こんなのなかったぞ?」

「クエスト受けたんですか? 前に?」

「そりゃそうだ。そうでなきゃ誘わないさ。ボスまで行って結局仲間がいなかったから負けたけどな」

「もしかして、俺がいるから?」

「そういう可能性もある。だとしたら、全体的な難易度が変わったのかもな」

「難易度が、変わる?」

そういうこともあるのだろうか。

「ああ、そうだ。このゲーム一人の時と多人数の時の難易度が違うらしいぜ。

センスのレベルにも反映されるらしいし、クエストにしか現れないボスはセンスレベルを一定源超えると追加行動とかが発生したりな」

難易度調整のための措置だろうが、二人でこんなにも変わるものなのか。

「……もしかしてセンスのレベル。20レベル超えているもの一つもなかったり……」

ギクッ、という効果音が聞こえた気がする。

「悪いか?」

「いえ、全然」

20レベル超えてないとわかっただけで良かった。

なら、攻撃は自分が引き受ければいい話だ。ゴーレムのときのポーカスさんのように。

「弓使いなら、前に出ないでくださいね」

「任せるよ前線。俺はレンジャーなんで。な」

ムスっとしながらもティースは前を俺に譲ってくれる。

「でも、暗いですね。松明あります?」

まるでダンジョンのような暗さ。前は見えるに見えるが、2M先は中々見えない。

薄気味悪い白い煙は、まるでホラーのようだ。

「あるぞ。だが、家の中だからな。燃えたりするかもしれないから出すのはやめたほうがいいだろう」

ホラーからいきなりコメディになるような発言。

確かに家が燃えたら洒落にならないが、この暗さ……『発見』のセンスだけでは補えない。

「奇襲に注意してください。見えないと『発見』のセンスも弱まるので」

「ああ、了解」

俺はショートソードを、ティースは短弓を構える。

ティースの武器も見たら初心者武器ではなく、誰かの手に作ってもらったようなNPCの店売りでは見たことがない武器だ。

ならば、ゴーレムに挑んだ時の俺よりは充分戦えるはず。

『うっ……うう……』

上から、声が聞こえてくる。

苦しみの声だ。嘆きの……声も混じっていて、色々な感情が、負の感情が見て取れた。

「上か、ということは二階だな」

玄関から廊下に上がっていくと、階段があり、そこから二階にいけるようだ。

声が……ドンドンと大きくなっていく。

「上がるか? 他のところにアイテムとかあるかもしれないぞ」

当たりの道は外れ。こういうのはアイテム回収からが上策だとティースは言っている。

「……アイテム……あるかな」

「あるんじゃねぇか? 俺は前来たときまっすぐ行っちまって後悔したんだが」

「行こう!」

アイテムに目が眩んでなんかいませんよ?

ただ、トラップの落とし穴に落ちて、落ちる場所を確認してMAPを埋めるのが好きなだけです。

「何かあるかな……何かありますかね……?」

「お前もゲーム好きなやつだな」

「MAPとか全部制覇したくありません?」

「わかるが、このゲームでそれをやる気はないな。やっぱり2DゲームでMAPを一マス一マス地味にちょこちょこ埋めるのが一番楽しい」

「あの地味さが楽しいですよね」

「やったあとMAP全部確認するのが楽しいよな」

「トロフィーとか出たとき興奮します」

「違うな! 制覇したっていう快感だけで俺は満足するッ!」

「変態!」

「オマエモナ!」

あははははー……。

「真面目に行きますか」

「そうだな。罠があるかもしれない」

「そういえば、薬草とかあるか? あったら『合成』でポーションにするが」

「あ、お願いします。イベンドリが結構パンパンで困ってたんです」

トレードに出すと、『合成』のセンスを使ってすぐにポーションとして物が帰ってきた。

「一つはもらっとくぜ。手数料としてな」

「安いですよ。今のレートだと」

「いいんだよ。これからよろしくって証だ」

気に入って、貰えたのかな。

素直にポーションを受け取り、まず階段近くの扉を開ける。

そこはキッチンと、料理を食べるためのテーブルが置いてあった。

「誰も、いないですね」

「あ、ああ。た、確か……って俺があんまり言うとネタバレだし、言わねぇ」

始めての俺に気を使ってくれるティースに、感謝しつつ、周りに気を配る。

「保管庫とかに、アイテムないかな」

「いや、もしかしたらほかのところに。壺とかないか壷」

勇者行為と言われる物色を始める俺とティース。

結局ここを探しても何もなかった。

「うーん。ないか。他あたってみるか」

そうして、食事部屋を出て、階段の奥にある扉に進んでいく。

『うっ……うーうー』

廊下に出ると再び唸った声が響き渡るが、こうなれば声の主にはしばらく待ってもらうしかない。

「なんか。可哀想になってましたね」

「こんなもんだ。ラスボスが勇者の寄り道を待つ時間よりマシだと思おうぜ」

「アハハハハ……」

心当たりがあり過ぎて苦笑しか浮かばない。

扉の前に立ち、扉を開く。

「次は何の部屋でしょう」

「うーん? リビングとかか。それとも倉庫とかか。俺にはそれぐらいしか想像できん」

「ですよね」

そうして、扉を開くと。

 

「「GAYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!!」」

「「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」

 

腐った腕、ドロドロの肉体。

腐った特有の鼻にツーンと来る腐臭。

モンスター『グール』が二体襲いかかってきた!




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『始まり』の混乱、階段

混乱――一定時間の間。味方と敵の判別がつかなくなる。

 

「ひ、ひへろ?」

視線が歪み、視界が黄色くなっていく。

敵はそこにいるはずと振り返り、武器を振ると何やら声が聞こえる。

が、その声が誰のものか、はたまた敵のものかも判別できない。

「な、なんらこれ」

何処が、何処だかわからない。

それ以前に、なんだろう。くらくら。くらくら。

「ヒグッ!?」

口の中に何か押し込まれたのを感じた。

滅茶苦茶まずい。苦味が走り、植物の様な渋みが口や胃、喉に伝わっていく。

「まっず!」

「大丈夫か!」

「ティース!?」

な、何が一体どうなっていたんだ?

「【混乱】のバッドステータスだな。気付け草で直したんだが……グールだ。来るぞ」

「っ!?」

そうだ。敵が襲ってきてるんだった。

ティースは素早く前衛を俺に任せ、俺はグールの攻撃を盾で防いだ。

「人間系モンスターなら!」

攻撃を防いだ盾で、敵を弾き、そのままショートソードを敵の弱点である心臓を狙う。

そのまま串刺しにし、モンスターを倒す。

「もう一体!」

二体目のグールの攻撃を避け、その隙に一体目のように弱点を串刺しにした。

「……ふぅ」

「戦闘になると俺いらずだな」

「最初の【混乱】以外は……ですけど」

だが、グールの攻撃を受けたわけでもないのに何故【混乱】にかかってしまったのだろう。

「フィールド効果っていうのか。これが」

「効果付きフィールドっていうことですか」

「そうそう。多分だが『プレイヤーが驚くことで【混乱】を与えるフィールド』なんだろうここが」

フィールド効果は様々だ。

それについてはプレイヤー間で調査中ではあるが他にも【恐怖】や【怒り】などのバッドステータスを与えるものがあるらしい。

「にしても、前こんなのなかったぞ。どういうことだ」

「これも、難易度調整の影響?」

「か。それとも一定の条件を満たしたか。だな」

おかしいところが多い。

ティースとの認識の違いが大きい、どういうことだ。

「部屋を探そう。もしかしたらなにかわかるかもしれない」

「はい」

部屋を調べると、【発見】がいきなりとある地点に反応を示した。

「ここ?」

何も変哲もない床なはずなそこを【発見】は赤いマーキングで示している。

床に耳を当ててみると、風の音が……下から響いていていた。

「地下?」

「何かあったか?」

俺の不審な様子に反応して、ティースが来てくれた。

「ここの下があるみたいなんです」

「地下があるってか。ということは、スイッチが何処かにあるのか……案外簡単に開くのか」

「そっちはどうでした?」

「アイテムが幾つか。今のうちに分けておくか」

ティースがとってきたアイテムは『ポーション*2 気付け草*2 ガーブスの日記』だった。

「日記?」

「ああ、こういうのは【言語学】のセンスを持ってないと意味ないアイテムらしい。中身を読んだがちんぷんかんぷんだったぜ」

「じゃあ、日記を解読することはできないっと」

「事の顛末とかを知りたいなら、必須なのかもな【言語学】のセンスって」

だが、ないものはしょうがない。いや……いっそとってしまおうか。

「取るのはやめとけよ。『今は』。

一レベルじゃ、簡単なのしか読めないだろうし、何があるかもわかんないんだからな」

「はい……」

諫められ、少し落ち込む。

そうして、とってきたアイテムをお互いに分けたのと、気付け草を幾つかもらった。

「俺が混乱食らった時はお前が回復しなくちゃならない時もあるかもしれないしな」

「あれ? そういえばあの時ティースさんは【混乱】を受けなかったんですか?」

「いや、受けた。だからイベントリから気付け草を飲んだんだ。

見たらカイは【混乱2】を食らって、俺は【混乱1】しかもらってなかったから状態的にお前の方がひどかったんだよ」

だから正常に動けなかったのか。

「【混乱1】ぐらいなら自分で動けるが、2からはやばいらしいな。出来るだけ驚かないように備えとかないとな」

こう思うと、バッドステータスはこのゲームにおいてかなり辛いのかもしれない。

【恐怖】【混乱】【怒り】などは特に行動が縛られる上に正常な判断が出来なくなる。

「【混乱耐性】ってセンスもあったな確か」

「あったが、結局レベル1じゃなって感じだ。そのうちバッドステータスについてはちゃんとした対策練らないと色々なところを回るにはダメなのかもな」

スイッチを探しならが、喋っていると、ティースの方に反応があった。

「あった。ここを引っ張れば」

床の一角に開く場所があり、そこにレバーがあったようだ。

それを引っ張ると先ほどの床が開き、床の下に階段が出てきた。

「ビンゴですね」

「階段……地下……」

ティースは何故かすごく難しい顔をしている。

「俺が正当法じゃなかったか。それともな……」

「行きましょうよ」

「ああ」

そうして、地下の階段へと足を進める俺たち。

「松明付けるぞ」

更に暗くなる地下を目の当たりにし、松明を付ける。

階段は螺旋状に続き、どこまでも続くかと思えた。

だが、俺たちはその時忘れていた。

 

この闇に染まった家に住む。一人の男を



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『始まり』の地下、アクセサリー

地下は暗く、ジメジメしていた。

湿気が、まるで俺たちを別のどこかに誘うように、肌を引っ張る。

足元には相変わらず白い煙が、誘う。

ここが何処か。俺たちが何をしに来たのか。

虚ろな意識をしっかり保ち、俺たちは螺旋階段を降りきった。

 

「なんだここは?」

松明の明かりの先に見えたのは大きく血で書かれている魔法陣。

「魔法の……現場?」

「いや、おかしい。どういうことだこれは……」

ティースが何故か慌てている。

「待て、『呪いをかけたのはザダーブじゃなかったのか!!』」

「ティース!?」

ティースの頭上に【混乱2】のステータスが現れる。

気付け草を口の中に突っ込み回復を狙うがまだ【混乱1】のままだ。

気付け草って【混乱1】しか治せないのか?!

「GIGIGI!!」

「嘘でしょ!?」

モンスターの出現。

次は透明なモンスター『ゴースト』。

足がなく、腕もなく魔法でプレイヤーを攻撃するモンスターだ。

しかも物理にとても強く、弱点も物理攻撃では付けない俺の天敵モンスター。

「ティースしっかりして!」

ゴーストと対峙し、切りつけるが魔法じゃなければダメージも微量。

ターゲットだけを自分に集中させるため、ゴーストに攻撃を続けるが、ゴーレムの魔法攻撃がこちらにはとても痛い。

Mindが低い初期装備なのがここで災いしている。

「たった一体だけど。これじゃあ」

ポーションを飲みダメージを回復していくが、それでも相手のHPを削れる気がしない。

「『ウインドカッター』!」

そこに一陣の風が、ゴーレムを襲った。

「ティース?」

「おう。すまんな」

後ろを見ると、おsこには【混乱】から回復したティースの姿が、あった。

「魔法使えたんだ」

「エルフのレンジャーだぞ。魔法ぐらい使えるつーの」

「GIGI!!」

モンスターのHPが一気に半分近く減った。

ゴーストは物理攻撃には強いが、魔法攻撃に著しく弱いのだ。

「『ウインドカッター』!」

もう一度、魔法を唱えると、ゴーストは倒れ、ドロップを出し消滅した。

「……あれ? 弓持つ意味あんまりないんじゃないの?」

「レンジャーは弓装備だ」

変なこだわりだが、助かった。

「ありがとう。にしても、さっき言ってたことって?」

「……あ、あー……」

とても気まずい顔をし、出来れば話題をそらしたいようだったが、数秒し決意の顔になる。

「ネタバレだが、いいか?」

「う、うん」

「実は、このクエスト。もう一人登場人物がいるんだ。それがさっき言ってしまった『ザダーブ』。

で、こいつがこのクエストの犯人なわけなんだが」

「この現場を見てしまったと」

「そうだ。このクエストは明らかにおかしい。俺が探索しなかったせいもあるけども、ここまで自体が反転するなんて考えてなかった」

「これ、どっちが犯人なんでしょう。そうなると」

「それの答えがここに、あるってわけだろうな。だが、これは……」

「何かわかったんですか?」

「ああ、多分【魔法才能】のセンスのせいだろうな。魔法陣に表示がある。

『黒く、歪みし想い。彼のものに宿りて、永遠なる孤独と、痛みを与えよ……』。

呪いだな」

「……どういうことでしょうかこれ」

「さぁな。だが、もしかしたら真犯人がガーブスの甥っ子……『ケーブス』なのかもな」

 

ピコン。

 

「ん?」

何かイベントリに反応があり見てみると『呪いの戒め』のクエストが終了している。

そして新たに『呪いの破壊』のクエストが開始された。

「破壊?! 破壊だとどういうことだ!!」

「ちょ、落ち着いてティース! また【混乱】にかかっちゃう」

「あ、ああすまん。いや……やばいなこのクエスト」

「何がです?」

「前に受けたクエストはこれをクリアすれば、次は『呪いの敵』までだったんだ。だが、今出たクエストは『呪いの破壊』。つまり……」

「これからはティースも未経験ってこと?」

「ああ、それもあるが、こうも選択肢が変わるとはな。このゲームかなり奥が深いぜ」

チェーンクエスト。次にどんなものが出るかが、全く予想が付かない。

「こりゃ、1からやり直しか。とにかく、ここの探索もするぞ」

「はい」

俺も自分用の松明を焚き、探索を開始する。

だが、そこは悪趣味としか言い様のないものが、沢山あった。

ドクロだったりとか、気色の悪いオブジェクトとか、まさに黒魔法と呼べるようなものばかり。

「これ……?」

その中で黒いミサンガ風のアクセサリーを見つけた。

 

『黒きブレイブ』AKT+3 DEF-3 Mind+5 追加効果:混乱耐性

『憎しみの中に勇気があった。それは迷いを断ち切り、黒き正しさを彼に与えた』

 

マイナス効果がある分微妙だが、混乱耐性がこのフィールドに噛み合っている。

「どっちが付けるかは相談かな。だけどこの説明文……」

とても意味深だ。

大体憎しみに勇気などあるのだろうかとまず思ってしまう。

「……やっぱり何かあるんだろうな」

何か選択がある。そんな気がした。

何が深いか。何が正しいか。そんなのは分からないが、俺はこの説明文について色々と考えながら進む。

「他には……ないか」

「そっちはどうだ?」

ティースの声が聞こえ、声の方に顔を向けると彼も何か拾えたようで、顔がニコニコしている。

「何か拾ったの?」

「状態異常のポーションだ。気付け草よりこっちの方が効果があっていいぞ」

「それはいいね。救済処置なのかな。こっちはアクセサリーを見つけたよ」

と言って黒いミサンガを見せる。

「ふーん。それはカイが装備しろよ。前衛で守ってもらわないといけないし、魔法は辛いだろう?」

「ありがとう。じゃあポーションも俺が持ってたほうがいいかな」

「そうだな。いざとなったらよろしく」

スっと混乱のポーションを渡してくれるティース。

さっきのようには、ならないようにしないとな。

「後は何かあった?」

「そうだな。後はこの魔法陣を攻撃で壊せば呪いが解けるってことぐらいかな。

だが、下手に手を触っていいものかどうかっていうのがな……」

「呪いってなんだかわかる?」

「いや、俺のときは全く分からなかった。

呪いって言ってもケーブスが苦しんでて、ザダーブがケーブスに呪いをかけた……ぐらいかな」

 

『それを壊しちゃ……いけないよ』

 

「ひっ!」

「驚くな!」

何処からかいきなり聞こえた声に震え上がった。

反転しそうになった意識を、ティースが殴ってくれたことで取り戻す。

「な、何さっきの声?」

「この声は……確かケーブスだったな」

「ケーブス? って上の?」

「ああ、こりゃ見られているようだ」

 

『それを……壊すなら……容赦はしない』

 

その声が響くと、この地下が急に暗くなる。

松明を使っているのに、まるで先がわからない。

 

『君たちには……眠ってもらおう』

 

「来るぞ! 構えろ!!」

ボス『黒魔法使いケーブス』が何処からか襲いかかってくる!!



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『始まり』と黒魔法使い、真実

闇がドンドンと広がる地下。

既に松明があっても1M先は暗闇である。

「どうする?」

ティースと背中を合わせ、お互いがお互いを確認し、敵の攻撃に備えた。

「光魔法は覚えてないですよね……」

「ああ、覚えているのは風属性だけだ」

「だったら」

策を練る。

相手の攻撃がどこから襲ってくるかわからぬ以上、ケーブスを罠に嵌めなければならない。

「いきますよ」

「ああ、行くぜ」

作戦を伝え、背中合わせをやめる。

これからは、お互いがお互いを確認できぬ闇の中へ入る。

僕たちはこの暗闇から、勝ちを、光を見出さねばならない。

 

『無駄!無駄無駄ッ!』

ケーブスの声がすると、脇腹に衝撃が走る。

敵の魔法攻撃だ。先程手に入れたアクセサリーによってダメージは軽減されているが……。

「っ!」

ダメージが無慈悲にHPを奪い取っていく。

『この暗黒は私が発生させたもの! 貴様らの動きは手に取るように分かるぞ。侵入者ども!』

「はっ、ノックはしたんだがな。出ない方が悪いんだよ!」

『入っていいとは誰も言ってないんだよ!』

「うっせぇ! こっちはばあさんから頼まれた依頼なんだ。強引に行くに決まってるだろケーブス!」

何処かケーブスを知っているようなティースの口ぶり。

おそらくは、失敗したときいくらかケーブスと話し、人となりを知っているのだろう。

「さぁ、火矢だぜ。燃えるなよ!」

『あははは! そんな見えぬ矢で何処に当てるというのだよ!』

ティースがケーブスと喋っている間に、ポーションを飲み、HPを回復させる。

死ぬわけにはいかない。

時々火矢が横を通り過ぎる中、走り出す。

地下の作りは石造りなので、何かに燃え移らなければ、ひどいことにはならないが、この場合燃えていればいるほど良い。

『なるほどな! わかったよ貴様ら! 火矢で明かりを作ろうというのか!』

「はっ! どうかな!」

『確かにな。何か物が燃えれば私の闇とて照らせるだろう。だが! おれこそ貴様を狙えばいい話!』

まずい。ターゲットがティースに集中してしまう。

「……見えた」

だが、それも終わりだ。

 

コトン。

 

『何?』

俺は松明を投げた。

「もう見えた。これで戦える」

火矢で攻撃するのは確かに作戦の一つだ。

それにより、ケーブスにダメージも狙いつつ、明かりを作る。

そうしてティースがちょっとずつ時間を稼いでいるところに、俺は松明をどんどんと配置していく。

俺が持っていた松明は、十本。

そしてティースの火矢何本かと、松明五本。

「ケーブス。反撃の開始だ」

 

と言っても、全部カバーするには致命的に松明が足りないのがこの作戦。

だからこそ。先制の速攻が必要になっていく。

『何!?』

一回見えるだけでいい。あとは、敵を逃がさない!

「『フィフス・ブレイカー』!!」

弱点に叩き込む五連撃。

「『連射弓・二式』!」

更に、ティースが追撃を入れる。

「『ショック・インパクト』!!」

「『ウインドカッター』!!」

まだ、まだ続く。

「『致命の一撃』!!」

「『剛弓・一式』!!」

急所のクリティカルヒットダメージを上げる『致命の一撃』。AKT依存で弓の威力を上げ攻撃する『剛弓・一式』この二つの一撃が、ケーブスのHPを削り取っていく。

そして、フィニッシュ!!

 

の前に、

 

「まだ生きてるよね。ケーブス」

『……なんだ』

「話をしよう。ケーブス。君に一体何があったんだい?」

「おいおい。悠長してたら……」

ティースが止めるのも最もだが、やっぱり気になる。

スキルの連撃をしておいてなんだが、俺は真相が知りたかった。

大体この手のイベントって一定源ダメージ与えないと成立しなかったりするとかいうメタ読みもちょっとだけあったのだが。

『……よかろう。話そう。私たち家族に起こった顛末を』

ビンゴ、だった。

ケーブスは見ると、黒いクロークで顔まで覆われており、その見た目も顔もわからない。

さっきまで暗かったのでわからなかったが、いかにも黒幕っていう格好だな……。

『このような格好で失礼する。まずはお二人方の名前を聞いて良いか?』

「なぁ」

予想以上の礼儀正しさに、おどけた俺にティースが声をかけてきた。

「やっぱりケーブスが黒幕じゃないってことかこれ」

「みたい……だね」

『どうかしたかね?』

敵からただのNPCに戻るといきなり手のひらがくるくると回るこの態度。

「あ、ああ。カイと言いますよろしくです」

「ティースだ。よろしく」

とにかく挨拶しないとNPCの会話が始まらぬらしいと感じた俺たちは指定通り挨拶をする。

『それでは、話をしよう。あれは……ほんの数週間前のことだった』

顛末としては、こうだ。

数ヶ月前。とある魔法使い(ザダーブ)がこの街に来て、ガーブス一家はそれを受け入れたらしい。

そうすると、ザダーブは密かにこの地下で研究を始めガーブス(この家の当主)がそれを見抜き、魔法に通じているケーブスに相談を持ちかける。

そうして、ケーブスは牽制のためガーブス家に住み込む。

だが、それでもザダーブは止まらなかった……。

『彼の狂気は本物だ。

全ての属性の魔法を操りながらも、彼はまだ研究をやめなかった』

「全部の属性……」

プレイヤーでやったらロマン構築と言われそうなセンス構築だ。

だが、こうしてNPCになれば話が違う。

それこそ、彼らは本当に全ての属性魔法を駆使し、戦えるのだ。

「やつの目的は何なんだ?」

『わからない。それは私の調べが足りなかった』

ティースの質問に、彼は首を振り、また顛末を話しだした。

『そうして彼は、私に分からぬようガーブスさんを殺し、グールにした。

グールにすれば、最低限怪しまれぬと思ったのだろう』

実際それは成功している。

俺たちが受けた依頼は、あくまでケーブスさんのことだけ。

『そうして、私にも彼の魔の手が迫った。

そうしたとき、私は彼に呪いをかけたのだ』

「呪い?」

『そう、彼がこの街に寄り付かぬようにすることと、彼に生きている間激しい痛みを伴わせる呪いだ。

呪いはその術者が倒れても続く。最悪の場合更に呪いは強くなるケースもある。

それを知っていた彼は、私からは手を引いた』

「二つの呪いか」

どうやら、ケーブス自身もかなり高位の魔法使いらしい。

……ん? ケーブスのHPが?

「ケーブスさん。体大丈夫ですか?」

『……実は最近かなりまずいことになっていてな』

「というとどういうことだ?」

『私がザダーブにかけた呪いが、私自身に呪いが跳ね返されようとしている』

「へ?」

『先程からHPバーが減っているのはそのせいだ。私はかなり今まずい』

HPを表示するバーが今赤に達した。

「ポ、ポ、ポ、ポ!!」

「おう。ポーション飲め」

『ありがたい。私は回復魔法が使えなくてな』

説明の途中で死にそうになるとは本当にNPCなのだろうかケーブスは。

当の本人は、ポーションを一気にがぶ飲みしてHPを回復させている。

『ゲプッ。実際、今は体を見せられぬ具合でな。

やつの呪い返しがかなり本格的になってきた。

これが本当に成功してしまえば、やつはこの街に混乱の渦に落とすだろう』

「この家のせいで混乱に陥ったが、次は街か。洒落にならないな」

「そういう話じゃないと思います……」

『そこでだ。カイ殿。ティース殿に折り入って頼みがある』

「もしかして……」

 

『ああ、彼――ザダーブを倒して欲しい』

 

――クエスト「呪いの破壊」が終了いたしました。

――続き「呪いの夢」を開始いたします。



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