DRIVE SUNSHINE!! -加速する世界の中で- (Professor灰猫)
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第1話 浦の星女学院の新任教師は何者なのか

 世界の破滅ってのは、突然やって来るみたいだ。

 

 例えばとあるアイドルのライブを観て楽しんでいる、その時にも。

 

 

 今から半年前、世界は突然静止した。

 世界の人々は急に身体が重くなり、動かなくなる。まるで、怪奇現象の様に。ただその中で、人々の悲鳴、爆発音は響き、静止したと言っても静かではなく、まるで世界の終わりが来たかのように騒々しかった。

 

 事件は後に────グローバルフリーズと呼ばれるようになった。

 この事件によって、世界中で1億人を超える、驚く程の犠牲者が出てしまった。人類史上最悪の天災である。

 

 

 だが、俺達は知らなかった。いや、俺は少なからずとも知っていた(・・・・・)。この世界が静止する中、戦っていた一人の戦士の事を。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 グローバルフリーズが起こってから半年後。亡くなった人々の魂は、勿論戻っては来なかった。それは多くの人々を悲しませ、絶望させた。

 

 だが、皆が皆そうではない。悲しんでいる暇があるなら、この壊れた街を復旧しよう。止まっていないで、周りの人々を助けよう、助け合おう。そしてグローバルフリーズに対する日本政府の対応も早く、消滅しかけた街は殆ど戻っていた。

 

 しかし、やはりあの事件は、人々の心に深い傷跡を残した。そして、ここにいる少年も、グローバルフリーズから時間が止まっていたのだ。

 

 

 彼、(とまり)エイトは目を擦りながら、取っ手に手と掛けて扉を押す。朝の陽の光を浴びたのだが、全くとしてやる気が出ない。そんな事を思いながら目の前の光景を見つめた。

 

 それはエイトが元々住んでいた場所とはかけ離れて、広々としたスペースが有効的に活用されていた。まるで、豪邸その物である。彼がここに来てから間もないので、あまり馴染めてはいないようだ。

 

 エイトはキッチンに行き、食パンを取り出す。少々乱暴に、トースターへとぶち込むと、スイッチを適当に捻った。ぜんまいばねを使った簡易的なタイマーが、チッチッチッと音を立てている。彼はトースターから目を離すと、テレビの電源を入れて、白いソファーにドスンと座った。

 

 

『先日、沼津市で謎の怪死遺体が発見されました。似た事件はこれを含めて4件目であり、その付近では『どんより』が多発しており、警察はどんよりとの関連性も含め、調査を進めております』

 

 

「まぁーた、どんよりか……」

 

 

 エイトはため息をつきながら、テーブルに置いてあった『ひとやすミルク』と呼ばれるミルクキャンディーを、口に放り込んだ。ミルクキャンディー独特の甘さが、彼の口の中に広がってくる。

 

 どんより────とは、あのグローバルフリーズと呼ばれた事件と、ほぼ同じ怪奇現象の事である。まるで時間が止まるかのように、身体が動きにくくなる現象。最近では警視庁が公認(?)で────重加速と名称が付いたようだが。

 

 それでも大体の人々はどんよりと呼んでいる。きっと、そんな生易しい呼び方で、怯える心を隠そうと必死なのだろう。今ではスマホアプリでどんよりの警告をしてくれる様なものも出てくる程、どんよりは日常化してきている。その度に人々は恐怖し、怯えているのだ。

 

 

 ────チ-ン

 

 

「おっ、焼けた焼けた」

 

 

 オーブントースターから、ベルみたいな音が鳴り響く。それは食パンが焼けたという合図であった。

 

 エイトはソファーから立ち上がると、オーブントースターから、少し茶色く焼けた食パンを取り出し、皿に乗せた。そしてソファーに再び座り、食パンを食べようと思ったが、まだひとやすミルクを舐め終わっていなかった。小さめになったひとやすミルクを奥歯でガリッとかじって碎くと、そのまま飲み込む。そして何も味付けしていない食パンを、サクッと口にくわえた。

 

 

「うーん……口が渇くな」

 

 

 食パンに口の中の水分が吸い取られていき、何だか変な感じがする。そう思ったエイトは、またソファーから立ち上がると、今度は冷蔵庫の前に行き、扉を開けようとした。

 

 

「ん? 張り紙か?」

 

 

 すると字が書かれた、小さな張り紙がエイトの目に入る。

 

 

『泊ちゃ〜ん。挨拶、頑張ってねぇ〜!ちなみに今日のラッキーカラーは赤だよーん! だけど、運勢は凶だから気をつけてね! 純より』

 

 

「はぁ……ったく、課長ったら」

 

 

 それは、この家の持ち主である寺島(てらじま)(じゅん)からのメッセージだった。何故、エイトが『課長』と呼ぶかというと、彼は"警視庁特状課"という、どんよりなどの怪奇現象を専門とした課の課長なのだ。

 

 そして、自分の敬愛する父親や母親も()刑事で、特状課が設立される前までは、純の部下として働いていたらしい。つまり、知り合いという訳だ。

 

 最近は、やはりどんよりや怪死事件が多発している為、特状課も忙しいのであろう。しょうがないかとエイトは心の奥で納得し、冷蔵庫から牛乳を取り出した。

 

 牛乳とガラスのコップを持ってきて、再度ソファーに座ると、エイトは自分がここに来た理由を思い出していた。

 

 元刑事として戦った父親や母親の事、半年前のグローバルフリーズの事。

 

 

 そして、助ける事の出来なかった親友の事……

 

 

「……考えるのやーめた」

 

 

 そう言って牛乳をコップに注ぎ込み、食パンを口に詰め込む。そして牛乳を一気に飲んで、食パンを胃の中に流し込んだ。

 

 エイトは逃げたい事があると、毎回こんな事を吐くのだ。彼も逃げるなんて事はしてはいけないとは思っていたのだが、心に詰まった泥のようなものが、エイトを迷わせる。結局、映二はグローバルフリーズが起きたあの日から、ギアがかからないでいた。

 

 皿とコップを軽く水洗いした後、洗面所で歯を磨く。磨き終わると顔を洗い、ささっと寝癖を直した。

 

 

「あー、どれ着ていこうかな……」

 

 

 エイトは自室のタンスの中を開いて、頭を悩ませていた。実は今日、相当重要なところに行かなければならない。どれくらい重要かと言われれば、会社の社長に挨拶に行くくらい重要だろう。いや、最早一緒と言っても過言ではない。はっきり言ってしまえば、面接のようなものだからだ。

 

 

「やっぱ、第一印象は重要なんだけどなぁ……いや、これでいいか」

 

 

 エイトが手に取ったのは、嘗て自身が身に付けていた、淡い色のスーツ。ワイシャツとスーツを身に付け、ネクタイを締める。のだが、ネクタイは緩めており、スーツのボタンは開けておくなど、非常にだらしがなかった。

 

 だが、エイトにとってはいつものスタイルなので、彼自身は気にしていなかった。財布や、特殊な形をした車の鍵をズボンのポケットに突っ込んだ後、玄関をくぐった。

 

 庭に駐めている、赤い車体のスポーツカー────トライドロンの扉を開けて乗り込む。すると、突然。

 

 

 《今日ぐらい、スーツを整えたらどうなんだ。エイト》

「あぁ、ベルトさん」

 

 

 エイトしかいない車の中から、低めの男の声が響き渡る。普通の人から見たら、かなり異常な光景だが、エイトにとってはいつもの事である。それでも三ヵ月程前からなのだが。

 

 その声と共にスピードメーターと思わしき部分のディスプレイに、人の顔の様な表情が映る。そう、声の主はこのスピードメーター、では無くベルトだ。

 

 彼の名はクリム・スタインベルト────通称、ベルトさん。エイトはそう呼んでいる。ベルトに名前があったり、喋ったりするなど可笑しな事だ。最近開発された人工知能でも、こんなに流暢な日本語は話さない。

 

 

「いいんだよ、別にギアが入った訳では無いし」

 《はぁ……全く。君の父親である、シンノスケと瓜二つだよ。キリコくんの面影は、なかなか見当たらないねぇ》

「ははは……親父かぁ」

 

 

 確かに、とエイトは苦笑いしていた。ベルトさんは、エイトからは彼の父親である、泊シンノスケの面影しか見当たらなかった。

 

 

 《さぁ、行こうじゃないか。君の新たな職場に、挨拶にね》

「そうだな、ベルトさん。トライドロンのエンジン、蒸してくれよ!」

 《OK! トライドロン!》

 

 

 そう言って、エイトはアクセルを踏み込む。法定速度に引っかからないようにだが、トライドロンのエンジンを全開にして、その豪邸を後にした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 場所は変わって、此処は静岡県沼津市の、内浦湾の西に張り出した岬にある女子高────浦の星女学院(うらのほしじょがくいん)。名前の通り、女子校である。

 

 

「遠いな、ここ!」

 《まさか私も、車で三十分もかかるとは思わなかったよ……》

「課長は、何であんな所に別荘なんか建てたんだよ……」

 《恐らく、占いで決めた……そんな所だろう。それに、あそこから見る海は最高だ。何故、あの様な土地を、誰も買わなかったのだろうか……》

「ベルトさん、今は絶賛する時じゃないと思うんだけど……」

 

 

 その浦の星女学院の駐車場いるのは、停車しているトライドロン。そして、その中には新人芸人の漫才ばりの会話をしている、エイトとベルトさんだった。

 

 

「よし、じゃあ行ってくるわ、ベルトさん」

 《分かった。だがシフトブレスとホルダーは、しっかり付けていきたまえ》

「んな事、分かってるよ」

 

 

 エイトはトライドロンから降り、校門をくぐり抜けて見廻してみる。

 

 浦の星女学院の校舎は比較的古く、壁にヒビなどが目立っていた。しかし、海の近場に建っているためか、プールなどの設備は整っているようだ。浦の星女学院は比較的高いところに建っているので、ここからは駿河湾を一望出来る。

 

 

「あの〜! 泊先生っ!」

「あっ、のぞちゃん。久しぶり」

 

 

 すると、エイトの目の前に走って来る女の教師。見た目は若く、エイトと同じくらいだ。

 

 

「泊先生! ここでは、一条先生と呼んで下さい!」

「ええっと……一条先生。どうしたんですか?」

 

 

 はるちゃんと呼ばれた彼女は────一条(いちじょう)ノゾカ。エイトの中学、高校との同級生であった。今、彼女は浦の星女学院で教師をしている。

 

 

「始業式がもうすぐ終わりますよ!? 新任式はその前だったでしょう! 何堂々と遅れてるんですか!?」

「げっ……まずい」

「行きますよ、泊先生!」

 

 

 ノゾカはエイトの腕を引っ張ると、強引に校舎の中へと連れて行く。

 

 そうエイトもまた、今日から浦の星女学院で勤務する事となったのだ。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『生徒の皆さん、始業式お疲れ様でした。次に、新任式へと移らせて頂きます』

 

 

「へぇー、曜ちゃん。どんな人が来るんだろうね?」

「んー、きっと若い人だよ! ノゾカ先生みたいな!」

「そうなかぁ? この学校に若い人なんて来るのかなぁ……?」

 

 

 入学式が終わり新任式へと移る頃、高海千歌と渡辺曜はそんな事を話していた。何にしろ、この浦の星女学院に新任とは、あの若いノゾカを除けば珍しい事だからだ。

 

 千歌と曜の周りには、新入生を含めて百人にも満たない生徒しか座っていない。今年は三十人も後輩がいただろうか。それ程までに少なく、この浦の星女学院は先程、理事長から廃校との発表が出されたばかりである。

 

 なのに今頃、新たに教師が来るというのだ。

 

 

「我が校の生徒の皆様。浦の星女学院の廃校が決定した事は、ご存知のことかと思われます。その為、この度カウンセリングの教師として、我が校に一人の新任教師を迎え入れる事になりました。それでは、泊先生。ご挨拶をお願い致します」

 

 

 生徒会長の黒澤ダイヤが、説明し終わりその場から下がった。本来なら、ここで新任教師が舞台裏から登場する筈なのだが。

 

 

「……来ないね」

「確かに……」

 

 

 生徒会長が話してから五分程。その新しく来る教師と思わしき人影は、どこにも見当たらない。次第に会場がざわついてきた。教師の中でも、どうしたんだと顔を見合わせている者がいた。ダイヤは何事ですのと、少々焦っているようだった。

 

 まて、考えてみれば新任式というのは、始業式の前に行うのではないのか。となると、一体どういうことなのだ。これはアホな千歌でも分かる事である。

 

 

「……って曜ちゃん、私アホじゃないからね!」

「えっ、私何も言ってないよ!?」

 

 

 おや、今誰か私の事を馬鹿にしたのではないか。いや、疲れているのかなと、千歌は不思議そうにする。

 

 

「いってぇ! ちょ、おい。のぞちゃん! 悪かったから蹴るなって!」

 

 

 そんな事をしている内に、舞台裏から新任教師が生徒達の前に登場した。

 

 だが、何かを叫びながら腰を抑えている新任教師は、よたよたとマイクの前に立つ。

 

 

「えー、えー、ああ」

 

 

 マイクテストをしているのだろうか、マイクをポンポンと叩きながら声を出している。調整が終わると、新任教師は咳払いをした。

 

 

「えっと、今日から浦の星女学院のカウンセリング教師として、着任した泊エイトです」

 

 

 泊エイトと名乗った彼を見た女子生徒達は、何だか顔がニヤついていた。

 

 それもその筈、この泊エイトという新任教師は180くらいはあるだろう高身長で、しかも稀に見ないイケメンである。口の下にポツンとあるほくろは、キュートさも醸し出していた。女子生徒達のハートは打ち抜かれてしまった。

 

 ネクタイやスーツなどはきちんとこそされていないが、またそれがいいのかもしれない。

 

 

「あ……っと」

 

 

 そんな女子生徒達の反応を見て戸惑っているのか、エイトは言葉が詰まっている。女子生徒の半数以上は、次に発せられる彼の言葉を楽しみにしていた。

 

 

「……自己紹介は以上です」

 

 

 ガタン……とこの場にいた全員が、崩れ落ちるような音がした。エイトから発せられたのは、意外すぎる言葉である。

 

 

「ちょっと泊さん! しっかりして下さい!」

『そうだな、エイト。こういう大切な場でこそ、ちゃんと話したまえ』

「あー、分かったって」

 

 

 幕の裏からノゾカの怒っている声が聞こえてくる。それを聞いたエイトは、横を向いて手で抑えるように分かったと言う。下にも目線を向けていたのだが、それを不可解に思った者は数名しかいなかった。

 

 また咳払いをして、壇上に両手を置いた。

 

 

「えー、俺は皆と歳が近いから……あ、いや男だから、話しにくい事もあるかもしれないけど、それだから相談してほしい事もあるんだよね。だから、何か不安な事があったら、俺に言ってくれ。これでも一応、皆よりは先輩だから。どうか、よろしくお願い致します!」

 

 

 自己紹介が終わると、生徒達からは盛大な拍手が贈られた。所々からは面白い先生だねーなどと、声が上がっている。ポツポツと黄色い声援もあった。

 

 エイトはそのまま、膜の裏にある控え室へと歩いて行った。

 

 

「あれ? 何だろ、あのミニカー……」

 

 

 その時、千歌だけは気付いていた。エイトの後ろを付いていく、一台の赤いミニカーに。

 

 

『これで、新任式を終了させて頂きます』

 

 

 司会がマイクを使って新任式の終了の合図、これで浦の星女学院の、始業式と新任式は閉会したのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「全く……一体、何なのですかあの方は……」

 

 

 一方、新任式が終わって生徒達が下校している頃、生徒会長であるダイヤは溜息をつきながら、明日の入学式に向けて書類などの整理に追われていた。

 

 ダイヤが溜息をつきたいのは書類の整理が大変とかそういったものでは無く、カウンセリングの教師として来た、あのエイトという男性教諭の事だ。

 

 

「何故、このような時期に新任教師を……」

 

 

 今、この浦の星女学院は少子高齢化によって生徒の数が減少、更にはあの怪現象であるどんより、通称重加速が、この付近で多発(・・・・・・・)。原因は謎のままだが、その影響で沼津市の中心へと移り住む人が多くなった。この浦の星女学院から転校していく生徒も、少なくはなかった。

 

 そのような事例が重なり、廃校が決定してしまった(・・・・・・・・・・・)。ダイヤも廃校が決定したからといって諦めた訳では無い。生徒会長としても、廃校は何とか回避したいのだ。

 

 だが、そこへあの新任教師が来てしまった。理事長も廃校によって不安が高まる生徒達のカウンセリングとして、彼を起用したのだろう。

 

 それでも、エイトの行動は気に食わなかった。ネクタイは締めていない、スーツもしっかり着こなしていない、挙句の果てには新任式に遅れてくるなど、ダイヤから見ればダメ人間のその姿であった。

 

 

「これからルビィも入学するといいますのに……これでは先が思いやられますわ……」

 

 

 明日の入学式を終えれば、自身の妹である黒澤ルビィもこの学院に通う事となるのだ。あんな教師がいる高校に、自分の妹を通わせていいのかとダイヤは頭を抱える。

 

 いや、別の趣向で考えてみよう。これはルビィの男嫌いを治すチャンスでもあるのだ。これからルビィは社会に出て、働いていかなければならない。そうなると男性との接触も不可避だ。あの気安そうなエイトなら、ルビィの男嫌いを治してくれるのでは。まて、気安過ぎてルビィがエイトにくっついていくのではないだろうか。これでは教師と生徒の禁断の恋に……

 

 

「あぁぁぁぁ! 何を考えているのですの(わたくし)はぁぁぁぁぁ!」

 

 

 いつの間にか過剰な妄想に入ってしまっていたダイヤは、頭を両手で押さえ込んで一人絶叫していた。ダイヤ以外は誰も、この部屋にはいない。この絶叫は数分は続いていた。

 

 

「はぁ……私とした事が取り乱してしまいましたわ……。もう帰りましょう」

 

 

 書類の整理も終わった所なので帰ろうと立ち上がり、書類を棚にしまい鞄を持ち上げようとした。

 

 

 その時、身体の動きが鈍くなる。そのような感覚がダイヤを襲った。

 

 

「っ……!? どんよりですの……!?」

 

 

 そう、あのどんよりが発生した。ダイヤの足取りは重くなり、木の枝から飛び立つ鳥の羽の動きは遅く、揺れる木々もゆったりとしていた。

 

 まだ、これならいつものどんよりと同じ現象であったのだ。

 

 

 しかし、今日は違う。

 

 

「確かに大企業のご令嬢って感じだなぁ!」

「ばっ、化物!?」

 

 

 ダイヤの目の前には、まるでコブラの様な機会で作られたモノ。人間の言葉を話す化物が存在していた。胸には『031』の数字が刻まれている。その機会生命体は、ダイヤに近づくと片手で首を掴み持ち上げたのだ。

 

 

「かっ……!? く……るし……」

「はっはぁー! とんだ上物だなぁ!」

 

 

 ダイヤの首が締まっていく。呼吸が出来ず意識が朦朧とし、目の前の機械生命体が不気味に話す声も聞き取れなかった。自分の手を見れば、気持ち悪い程に赤く染まっていく。このまま、この様な化物に殺されてしまうのだろうか。ダイヤに絶望が迫った。

 

 

「がっ!?」

「(何……です……の……?)」

 

 

 しかし、ダイヤに死は訪れなかった。その機械生命体にミニカーの様なモノが突撃し、機械生命体を弾き飛ばした。ダイヤの身体はそのまま生徒会室の床に落下し、声を出す間もないまま気を失った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 重加速が治まった生徒会室。そこには痛がりながら、床に転げ回っている機械生命体────ロイミュードと。

 

 

「まさか新任初日にロイミュードとはね、ベルトさん」

 《全くだよ。しかも生徒を襲うなんてね》

 

 

 泊エイトと、エイトの腰に巻かれたベルトさん、兼────ドライブドライバーの姿があった。そしてロイミュードの周りを飛び交うは、意志を持ったミニカー────シフトカーが存在していた。

 

 

「おのれぇぇぇ……よくも、俺の邪魔ぉぉぉ……!!」

「邪魔するに決まってんだろ。人の命が危なかったんだ」

 

 

 ロイミュードが低い声で叫ぶが、エイトは当たり前だと、その言葉を除けた。

 

 

 《ここで戦えば、施設を破壊してしまう可能性がある。場所を移そう》

「だな、おらぁ!」

「ぐっ……!?」

 

 

 ベルトさんの指示に従い、エイトはロイミュードを蹴り飛ばして窓から突き落とす。場所は校舎の裏側、木々が生い茂る山の中へと移っていた。

 

 

「やっぱ、りんなさんの作った靴やばいな……よし、この場所なら何とかなるだろ。行くぜ、ベルトさん!」

 《OK! Start your Engine!》

 

 

 エイトはドライブドライバーのイグニッションキーを捻る。ドライブドライバーからはエンジン音のような音が鳴り響いていた。そして右手に握られたシフトカー────シフトスピードを回し、左腕に巻かれているシフトブレスに装着する。エイトはそのまま、シフトスピードを押し倒した。

 

 

 《DRIVE! type SPEED!》

 

 

 ドライブドライバーのディスプレイには『S』の文字が、赤く浮かび上がる。すると、エイトの身体が赤い装甲に包まれて、何処からともなく飛んできたタイヤが、肩から身体を横断するかのように掛かったのだ。そうしてエイトは謎の戦士に変身してしまう。

 

 

「貴様ぁぁ! 何者だァ!」

 

 

 ロイミュードが立ち上がり、謎の戦士となったエイトを指さして声を荒らげた。

 

 

「俺は『仮面ライダードライブ』! お前、ひとっ走り付き合えよ!」

 

 

 謎の戦士兼────仮面ライダードライブは、膝を曲げ腕を添えて構える。ロイミュードは他に『043』のバット型ロイミュードと『082』のコブラ型のロイミュードを引き連れ、ドライブに襲いかかった。

 

 

「はぁっ! おらっ!」

 

 

 ドライブは低姿勢で潜ってかわし、確実にパンチを決めていく。だが、相手は機械生命体であるロイミュード三体。数の暴力もあって、横から来た031と082の攻撃を避ける事は出来なかった。

 

 

「っ……クソっ!」

 《エイト! 戦略を変えていきたまえ!》

「分かってるよ、ベルトさん! 来い、フレア!」

 

 

 ドライブが手を掲げると、その右手にはオレンジのシフトカー────マックスフレアが飛んでくる。シフトブレスのシフトスピードを取り外し、マックスフレアを取り付けて押し倒した。

 

 

 《タイヤコウカーン! Max Flare!》

 

 

 後方にいた043を弾き飛ばして、炎を纏ったタイヤがドライブに装着される。直ぐに横にいた082に炎のパンチを押し込む。その隙を見て、082が飛び掛ってこようとするのだが。

 

 

「次はコイツだ! スパイク!」

 

 

 ドライブに飛んできたのは緑の刺々しいシフトカー────ファンキースパイク。ファンキースパイクをシフトブレスに装填、押し込む。

 

 

 《タイヤコウカーン! Funky Spike!》

 

 

 針のようなタイヤがドライブに装着。そして飛び掛って来た082を回転させたタイヤでダメージを与えつつ、上にはじき飛ばす。更に043も棘のキックで、宙に上げた。

 

 

「お前だ、シャドー!」

 

 

 そしてもう一台飛んで来たのは、紫の車体のシフトカー────ミッドナイトシャドー。シフトブレスに装填して、倒す。

 

 

 《タイヤコウカーン! Midnight Shadow!》

 

 

 手裏剣のようなタイヤがドライブに装着。落下してきたロイミュード二体を、高速の連続パンチで叩いて、叩いて、叩きまくった。

 

 

「おらぁぁぁ!」

 

 

 そして二体のロイミュードは宙で爆散した。出て来た数字のコアも、共に砕け散る。これはロイミュードが消える瞬間だった。

 

 

「おのれぇぇぇ!」

「はっ!」

 

 

 すかさずドライブは両手に手裏剣状のエネルギーを生成し、031にぶつけた。031は火花を散らしながら、草むらに転がっていった。

 

 

 《決めるぞ、エイト!》

「あぁ、ベルトさん!」

 

 

 《ヒッサーツ!》

 

 

 ドライブは再びシフトスピードを装填して、ドライブドライバーのイグニッションキーを捻ると、シフトブレスのボタンを押した。

 

 

 《Fullthrottle! SPEED!》

 

 

 そしてレバーを倒すと、031にタイヤ状のエネルギーが挟み込み弾く。そして走って来たトライドロンがドライブの周りを旋回し、そのトライドロンを蹴って031をキックする。さらにトライドロンを蹴ってもう一発、もう一発と確実にキックを決めていった。

 

 

「グ……ァァァァァァァァ……!?」

 

 

 そして031は爆散。出て来たコアも粉々になった。

 

 

 《Nice Driveだ! エイト》

「おう、ありがとな。ベルトさん」

 

 

 シフトスピードを取り外したドライブは、元の姿であるエイトに戻った。ベルトさんをディスプレイには笑顔の表情を浮かべている。

 

 

「また、人を守れたよな。親父……」

 

 

 エイトは空を見上げる。こうして、一人の少女の命は守られたのであった。

 

 




書きたかったんや。ただ、それだけ

サンシャイン!!小説に挑戦してみました!やったぜ

ダイヤさんってこんなんでよかったのかな……わからん

ドライブの原作通りには進めません。オリジナル力を出していきたいです

ラブ武神!の合間に書いていたので、投稿してみました。いわゆる気休め小説的なやつです。

サンシャイン!!はまだアニメが始まっていないので、本格的になるのは八月かな……

感想、評価お待ちしております!


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第2話 彼はどのように事件を解決に導くのか

 暗闇の道、正確には闇夜の海に照る月によって少し藍色に光る道。そこを場違いな一台の赤いスポーツカーが静かに走り抜ける。

 スポーツカーの車内には一組の男女が乗っていた。一件、カップルのようにも見えるが、そんなヤワなものではない。それは男のだらしないスーツと、女────少女の制服が物語っている。

 

 この男女の関係は、つい数時間前────といっても昼間に新任式を終えた新任教師のエイトと、その教師が着任した女子高の生徒にして生徒会長のダイヤなのだ。

 

 

「…………」

 

 

 車内に静寂────ピリピリとした空気が漂う。このピリッとしたような電撃の走るオーラを、ダイヤが醸し出しているのは明確だった。

 

 ダイヤが気を失ってから暫くして、彼女は保健室のベッドで目を覚ました。起き上がれば、隣の椅子に座っているのは、あの第一印象が最悪だったエイトだったのだ。ダイヤの額に皺がよるとエイトは少しばかりオロオロした。普通の反応なのだが、何だか頼りなさげでダイヤは益々不機嫌になる。

 エイトが言うには、ダイヤが生徒会室で倒れていたので保健室まで運んだとの事。それは機械の怪物に襲われたからと話せば、現実味が無いと嘲笑される事は間違いないだろうし、第一、ダイヤ自信そんな事があったなどと信じる事は出来ない。夢ではないだろうかと、勝手に結論づけていた。

 

 ────ここまで運んでくださり、ありがとうございます。恐らく疲れていたのでしょう。と起き上がったダイヤからエイトに向けて一言。やはり好印象は持てないが、教師である彼に対して不服な態度を取るわけにはいかない。

 ────では、私はこれで。と立ち上がり、保健室を去ろうと扉に手を掛けるダイヤ。

 だが、

 

 

「こんな時間だし、家まで送るよ」

 

 

 その一言が耳に入り、はぁ?と言葉が口から飛び出そうになるが、何とか噛みしめて掛け時計を見上げる。

 今の時刻は九時を過ぎたところ。窓から外を見れば真っ暗で、夜目で薄く校門が見える程度。一体、どれだけの時間気を失っていたのかと。

 確かに浦の星女学院からのバスは、この時間帯になると出ていない。だが、それなら自分の執事にでも迎えに来させればいい。そうエイトに話すと────いや、家の人に迷惑をかける事出来ないし、俺が連絡入れるの忘れたし。ここは俺が……。とまた訳の分からないことを言い始めた。いや忘れたのかよとツッコミたくなる。

 

 結局、エイトのお節介に負けたダイヤが、こうしてエイトのスポーツカーに乗っているのだが。不服な態度を取らないと言った前言を撤回しよう。

 

 

「えっと、ダイヤさんは生徒会長をやってるんだっけ」

「ダイヤでいいですわ。教師に"さん"を付けられるのは、余りいい感じはしませんので。先程の質問ですが、泊先生は私が生徒会長として壇上に立ったのを覚えてらっしゃらないので?」

 

 

 さん以前に気分が悪そうなんですがそれは、と思うエイトを残して、ダイヤは喧嘩腰に質問に質問で返した。まぁ、エイトは遅刻してきているので生徒会長からの言葉など聞いていないのだが。

 

 

「な、なんかゴメン」

「別に、謝罪は要求していませんが?」

「……とにかく、俺はまだ沼津に来て少ししか経たないから、色々と世話になるかもしれないから、よろしくな」

「えぇ、貴方とは短い間だと思いますが、私がお世話をするかも知れませんわね」

 

 

 皮肉った様な言葉だが、これは浦の星女学院が廃校するという事実を突き付けるのと、彼女なりのよろしくなのかもしれない。いや、彼女の今の心境を考えると後者は全くと言っていい程、可能性はゼロに近い。

 

 しかし、こんな空間ももう終わる。ダイヤの自宅が近付いてきたのだ。

 外観は木でできた二階建ての普通の民家のようにも見えるが、似合わないような大きい庭や玄関の前にある門が他の家と格が違う事が分かる。

 そして、何よりも目を引いたのは門に付いた灯りに照らされる大柄な男であった。白髪をオールバックにしており、肌は浅黒く日本人とは思えないが、日本人特有の童顔。180センチはあるエイトよりも一回りは多い身長に、着こなしている黒スーツと白手袋。ダイヤが言っていた執事であろう。こう見るとダイヤは、相当なお嬢様なのかもしれないとエイトは思う。

 二人が車を降りると、男は右手を前に回して一礼した。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「遅くなりましたわ、イチヤ」

 

 

 イチヤと呼ばれた男、その姿は豪快かつ優雅だ。数秒間頭を下げ、顔を上げる。男の視線はエイトに行っていた。

 

 

「その男は……ダイヤ、遂に硬度十のお前にも男が出来たか。別に見せびらかせに来てもいいが程々にしろ。爺さんに見つかったら世話役の私はクビだからな」

「はぁ……そうではありませんわ。今日、浦の星女学院に来た教師です」

「ほう、君が噂の……」

 

 

 急に口調が変わり、男はダイヤを皮肉ったが、そんな無礼をいつもの事のようかにスルーする。エイトが戸惑うのも束の間、男は顎に手を添えエイトをジロジロを見定めている。

 そしてそのゴツゴツした手を差し伸べてきた。

 

 

「……ダイヤの幼少期から世話役をしているイチヤだ。あのダイヤモンドを通して長い付き合いになると思うからな、よろしく頼む」

「泊エイト、浦の星女学院の教師をやってます。よろしく」

 

 

 エイトも手を差し伸べて熱い握手を交わす。やはり、イチヤの手はエイトとは違って硬く、とても重い握手であった。

 

 

「イチヤ、行きますわよ」

 

 

 と、そんな光景など見もせずに、ダイヤはすたすたと玄関の方に向かって行く。

 

 

「すまんな。今、ダイヤには色々と余裕が無くてな。君とは色々と話してみたい事はあるが……今日はこれで失礼する」

「あぁ、それじゃあまた。」

 

 

 イチヤは先程のように一礼すると、ダイヤの後ろを付いていく。幼少期からの付き合いらしいので、何だか親子みたいだなと感想を持ってしまう。

 

 

「さて、んじゃよろしくな。ジャスティスハンター」

 

 

 二人を見送った後、胸ポケットに入っていたミニカーに指示をする。その白と黒を基調としたパトカーのミニカーは分かったかのように前後に動くと、黒澤邸に飛ぶようにして走って行った。

 それを確認すると、エイトもまたトライドロンに乗車してエンジンを蒸し、その場を去って行った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 《何故、ジャスティスハンターをダイヤ君の護衛につけたのかね》

 

 

 場所は変わって、エイトの住んでいる純の別荘の地下。中央にはトライドロンが停車しており、下から発光するLEDがトライドロンを照らす。周りを見渡しても数々の機械設備が存在している。

 

 ここはトライドロンの格納庫某メンテナンス施設『ドライブピット』

 

 このドライブピットはクリム曰く三代目となるらしい。前のドライブピットには開発施設もあったのだが、今のクリムの姿では開発が出来る訳でもなく現在の装備の調整のみ。エイトに関してはそのような技術を持っている訳では無いので、開発施設はここに移転する際に前のドライブピットに放置してきたのだ。

 

 閑話休題。

 

 二輪のタイヤが付属した機械に身体を巻き自立可能のなったクリムは、エイトに対してそう投げかけた。何故なら彼女を襲ったロイミュードはもう撃退した筈だ。今更、シフトカーであるジャスティスハンターを護衛につける必要があるのだろうか。

 

 

「それは後で説明する」

 

 

 そんなクリムの疑問を置いておき、エイトは冷静に答える。何やら彼には策があるらしい。

 エイトはそばに置いてあるノートパソコンを操作すると、空間に電子画面が映る。どうやらビデオ通話のようで、奥には一人エイトやクリムには見い知った顔が映る。

 

 

『よぉ、エイト。元気か?』

「ゲンさん、久しぶり」

 

 

 画面の奥にいる彼は矢追(やおい)源八郎(げんぱちろう)。元警官でエイトの父親であるシンノスケの同僚で、エイトも多く世話になった人である。

 彼は警視庁捜査一課の課長であり、捜査一課と警視庁特状課の橋渡し役だ。しかし警視庁の人間の多くは重加速を信用していない現実主義者なので、ほぼ機能していないも当然だが。

 

 

「それでゲンさん……今回の怪死事件は」

『被害者は堀内麻耶、二十二歳女性。沼津に仕事に行っていた東京の大企業の社長らしい。金持ちが狙われたのも前の事件と同じ。死因は首を絞められた事による窒息死……なんだが、これも不可解でな。人間以上の力で締め付けられ首の骨が折れているにも関わらず、首の皮膚には人の手の形で内出血の跡がある。そして……』

 

 

 源八郎は手元にある資料を読み始める。特状課は警視庁の一階に設立されている。源八郎は課長なので警視庁から動く事はほぼ無いと言っていい。更に東京から静岡までは200キロはある。出張以外は行かないであろう。

 資料は静岡県の県警と連携して入手したモノだろう。

 読んでいる口が止まり、源八郎は険しい顔になった。

 

 

『緊急での死亡解剖の結果、彼女の身体中の水分が金になっている(・・・・・・・・・・・・・・)事が判明した』

「これも前の事件と同じか」

 

 

 身体中の水分が金になるなど、普通では考えられない事だ。涙、唾液、胃液、血液……その全てが別の物質になっていると考えると、普通の人間なら身体が震えるくらいに悍ましい。

 だが、この二人は冷静に状況を把握している。

 

 

『後、俺の部下が現地に行ったんでな。あの超小型ピコピコ八号を持たせてやって、嫌々だったが測定した所、重加速粒子を確認。そしてその現場では、どんよりがあったとの証言もある』

「やっぱりか……」

『あぁ、やっぱこの事件はホイコーローの仕業に違いねぇ』

「ロイミュードな、ゲンさん」

 

 

 源八郎のいつもの言い間違いに呆れ顔になるエイト。

 ロイミュードの存在は普通なら他人には絶対に口にしないが、源八郎否特状課は例外だ。特状課のメンバーは全員で四名。課長である純、橋渡しの源八郎、そしてあと二人。その二人は警視庁の人間では無いが、捜査に協力する客人である。

 彼等はエイトの数少ない協力者だ。別に自分達からバラしたわけではなく、色々と様々な経緯があって判明しただけというのが大雑把な説明だ。本当なら現実主義者である源八郎がロイミュードの存在を話すのは、彼なりに事件があったからだ。

 

 

「で、今回のロイミュードがコピーした人間は」

『それなんだが……って先生と究太郎! 今エイトと……』

『はーい! エイト君、元気?』

『エイト君! 沼津の生活はどう?』

「お陰様で、元気です」

 

 

 源八郎だが、隣から出てきた二人の男女に押し出され、座っていた椅子とともにひっくり返ってしまった。

 その二人の男女とは、源八郎より少し若い特状課の客人である。

 

 

『あの強化シューズの調子はどう?』

「普通のロイミュードだったら余裕で蹴り飛ばせますね。威力はかなり強かったです」

『でしょ〜! さっすがー、私!』

 

 

 白衣を身につけるんるんと椅子で回っている彼女は稲神(いながみ)リンナ。見ての通り研究者である。

 彼女の重加速やロイミュードに対しての開発作品は数知れず。重加速の粒子を感知する重加速探知機、ピコピコだったり、エイトが履いている対ロイミュード用の強化シューズも彼女が開発した。つまり天才科学者の部類に入る。

 他にドライブの武器なども開発しているのだ。

 

 

『エイト君、多分今回ロイミュードがコピーしたのは舞田仁志、三十二歳男性。第一の事件の社長が経営していた会社に勤めていて、重役の人間のミスを押し付けられて退社させられたらしいね。数週間前に死体が発見されたんだ。こいつも変死。そしてこの男はいすれも四つの事件の現場で目撃されている。防犯カメラにも映ってたんだよね』

「舞田仁志……あの連続殺人犯のか」

『うん。元々彼が殺害した人間や、この事件で殺害された人間は彼が勤めていた会社の関連会社、又はミスに関わっていた会社の社員だ。ロイミュードがコピーしたなら、ほぼ確実にその意思を継いでいるかもしれない』

「分かった。なぁ、究ちゃん。その会社の関連会社とかで、黒澤っていう企業みたいなのはあるか?」

『どうだったかな……心当たりがあるなら調べてみるよ』

「あぁ、よろしく」

 

 

 眼鏡を掛け、エイトから究ちゃんと呼ばれる彼は西城(さいじょう)(きゅう)。と言ってもこの名はネットなどでのハンドルネームで、本名は誰も知らない。知らないので、この名で呼ぶしかないのだ。

 彼は情報を入手する事に優れており、自分のサイトを使った情報収集や某掲示板の書き込みを情報源としている。ネットの情報の殆どは嘘と言うが、究は本当の情報を見抜く事が得意。彼の情報を頼りに解決した事件は何個ある事か。

 

 

『いててて……っと言うわけだエイト。俺達はお前の味方だ。独りで抱え込んだりしねぇで、俺達を便りにしろよ』

「……ありがとう、ゲンさん」

 

 

 源八郎からかけられた言葉に、何かを思いながら微笑むエイト。

 エイトは教師という立場上、事件と向き合う事は表側では出来ない。彼は警察としてはこの沼津に来る事は無理だ。何故ならもう警察という夢には戻れないのだから。

 そのままビデオ通話を切る。エイトの後ろには黙って話を聞いていたクリム。そのクリムと向き合った。

 

 

「……ベルトさん、さっきの質問の答えだ。犯人であるロイミュード────031は舞田をコピーし、関連会社の人間を殺害している、という事はまた(・・)ダイヤか身内が襲われる可能性が高い」

 《むぅ……しかし、ロイミュード031はあの時撃破した筈だ》

 

 

 確かに今日、あの森の中でロイミュード031を含めた三体はドライブの攻撃を受けて爆発した。あの場には跡形も残っていない。

 しかし、例外はある。

 

 

爆発はした(・・・・・)。但しコアの破壊は確認出来ていない。もう四人も殺したとなると進化に近づいていてしぶといからな。勿論、他の二体もまだ生きている可能性はある」

 《あの日の反省……という訳かね》

「それもあるな。それに部下のロイミュードはあの二体だけじゃないかもな。031が撃破された恨みで同じような惨状を繰り返すかもしれない」

 《もう一度、黒澤君の身内に被害者が出る可能性がある、というのが正解だね?》

「だな」

 

 

 クリムが答えると、エイトはあっさり正解だと言う。

 ロイミュードはコアが残っている限り、何度でも肉体を手に入れて復活する事が可能だ。その対策の為にも撃破した際にコアの自動破壊機能が、ドライブの機能として付属しているのだが、強化されたロイミュードのコアまで破壊出来ない場合もある。

 更にロイミュードは意気投合した仲間と共に、ロイミュードの中で団体を作り動く事もある。ならば部下がもう一人二人いるかもしれない。そんな可能性をエイトは考慮して動いている。

 とクリムと話し、まだスーツ姿だったエイトは背伸びをした。

 

 

「じゃあベルトさん、今日はもうシャワー浴びて寝るよ。明日が本番になるだろうからな」

 《そうだね。今日はゆっくり休みたまえ》

「おやすみ、ベルトさん」

 

 

 欠伸しながらクリムに挨拶してドライブピットを出ていくエイト。その様子を不安そうな表情をモニターに浮かべながら、一人のベルトは見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「おはようございます、泊先生」

「おはよう、の……一条先生」

 

 

 昨日の襲撃から一晩立った。より一層増した桜吹雪がそれを物語っている。

 今日は浦の星女学院の入学式だ。校門の辺りでは、それぞれの部活が勧誘を行っている。入学者はパッと見少ないが、この賑わい方を見ると学院も捨てたもんじゃないなと感じる。

 

 エイトが学院に着くと、校門の橋に背中を授けているノゾカの姿を見かけた。ノゾカはエイトを見つけると微笑みそうになるが、咳払いをして挨拶する。待っていてくれたのかとくちにしそうになるが、言うと強化シューズ以上のキックボクシングが始まるので言わない事にする。

 

 

「あっ、先生! おはようございます!」

 

 

 二人が並んで満開の桜の下を歩いていると、黄色いメガホンを持った少女が元気良く走って来る。様子を見るに新入生では無く、在校生らしい。朝から元気だなとエイトは感心した。

 

 

「おはようって、えーっと……」

「あっ、二年の渡辺曜です! よろしくお願いします」

「おはよう、曜ちゃん。部活の勧誘みたいだけど……水泳部の?」

 

 

 彼女は渡辺曜というらしい。部活の勧誘らしいが、水泳部となるとどうしてこんなに元気なのかが分かる気がした。ただ、ノゾカが疑問詞にした事が、エイトとしては何か引っかかったようだ。

 

 

「えーっと、千歌ちゃんがスクールアイドル部を始めたので、その勧誘を……」

「スクールアイドル部……ですか?」

 

 

 そういう事かとエイトは頷く。つまりこの子、曜は友達が始めた部下と掛け持ちし勧誘を行っていたらしい。そのスクールアイドル部とは、高校の生徒を集めて結成されたローカルアイドル────言ってしまえば高校版ご当地アイドルといったものだ。今から五年前に、とあるスクールアイドルが大会で優勝してから、人気が爆発。今では数え切れない程のグループ数にまで発展した。

 ノゾカは首をかしげてスクールアイドル、スクールアイドル……とぼやいている。きっとスクールアイドルとはどんなものなのか、あまりイメージが湧いてこないのだろう。スクールアイドルは学校の許可さえあれば、すぐにでも始めることが出来る。学校の許可さえあれば、だが。

 曜の指さす先には新入生らしき生徒二人を勧誘している少女の姿。彼女が曜の言っていた千歌という人物だろう。一見、普通の勧誘に見えるのだが────

 

 

「ピギャァァァァァ!!」

「またルビィちゃんの人見知りが始まったずら」

 

 

 千歌が赤髪の少女に触れた瞬間────ノイズを思わせる様な悲鳴が赤髪の少女の喉から震え出てくる。思わず、その場に居座っていた全員が両手で耳を塞ぎ込んでしまう。一緒にいた同級生の口からは人見知りと溢れていたが、ルビィと呼ばれたこの少女の人見知りは、極度にも程があるだろう。

 しかし、この状態ですぐ動き出す者もいる。

 

 

「エ、エイくん!? ……あっ」

 

 

 それは、悲鳴に敏感なエイトだ。彼は元の職業からして、それ以前にほっとけない性格。身体がつい、というぐらいに悲鳴に敏感だ。

 突然、走ったエイトを昔の呼び名で呼んでしまい、赤面になりつつ口を塞ぐ。

 

 

「どうした?」

「ヒギャ────」

「ここはあえて地雷を踏んでいくスタイルずらね」

 

 

 だが、空気読めない泊一族の血を受け継いでいるエイト。正義感が強いだけなので、同級生の少女が言ったように、あえて地雷を踏んでいる訳では無いが、人から見れば見え見えの地雷に向かって走って行き、最後には跡形も残らなくなる状態だ。

 超強化音波装置作動ずら、と幻聴が聴こえてくる。エイト以外は耳を塞ぎ、第二のノイズが走るのを待っていた。

 

 

「きゃぁぁぁ!」

「なん、ぐぉぉぉっ!?」

「……ピギッ?」

 

 

 ────いくら待っても耳への衝撃はやって来ない。代わりに聴こえてきたのは、違う少女の悲鳴、少し太い悲鳴、お前は別の生物か何かかと言わんばかりのルビィの謎の悲鳴だ。

 第一の悲鳴は、どうやら小鹿のように立っているお団子少女のものらしい。その場に散った桜の量を見ると、桜の木から落ちてきたのだろう、と考察出来る者はエイトぐらいだろうか。

 そして、そのエイトなのだが────少女のリアルヒップドロップが頭に直撃し、そのまま地面にノックアウトしている。

 

 

「ごめんなさ……こ、この変態っ────たぁっ……」

「ぐふっ」

「泊先生!」

 

 

 スカートの下に男性が倒れていたら、誤っている途中にも変態と思って反射動作を起こしてしまうものなのだろうか。アスファルトと接吻をしていたエイトは死体蹴りが炸裂し呻き声を上げ、蹴った本人も涙目になりながら脚を抑えていた。

 その光景を見てしまったノゾカと曜、千歌はエイトに駆け寄った。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「うーん、何だか川の向こうに人が」

「駄目だよ、先生! 川は泳がないで!」

 

 

 恐ろしい事を口にしているエイトに、曜やエイトと話した事が無い千歌ですらも心配の声を掛けてしまう。

 上を見れば天国の後に地獄、下を見ても地獄。エイトの運命とは決まっているものであり、何とも哀れなものなのだろうか。

 

 

「じゃーんけーんぽん」

 

 

 この騒動の元凶は、何故かジャンケンを執り行っていた。

 

 

「あーっ! そのチョキ、やっぱり善子(よしこ)ちゃんだ!」

「善子って言うなー! ……って、ズラ丸!?」

「やーっぱり善子ちゃん、昔から変わってないずら」

 

 

 特殊なチョキを出したお団子少女は、善子というらしい。彼女は否定しているが、これが本名だろう。

 もう一方の語尾が気になっていた少女はズラ丸────とは呼ばないだろう。彼女達は幼馴染みか何かで、こうやって奇跡の再会を果たしたのだろう。状況が状況なので、美しい奇跡の再会とはならなかったが。

 

 

「いい! 私はヨハネ、ヨハネなんだからねっ!」

「あっ、お騒がせしました。善子ちゃん、どうしたの〜!?」

「待って〜っ! 花丸(はなまる)ちゃん!」

 

 

 善子は鞄を拾い上げ何故か頭に乗せると、自分をヨハネと自称し走り去ろうとする。ズラ丸もとい花丸はそれを追いかけ、ルビィもそれに付いて行く。いつの間にか、三人の新入生は嵐のように過ぎ去ってしまった。

 

 

「何だか……私達が台風に突っ込んで行ったみたいですね。泊先生?」

「完全にのびてるね」

 

 

 嵐が過ぎ去り、改めてノゾカがエイトに声をかけるが、彼は完全にのびきっていた。何回か戦ってきたロイミュードとの激戦でも気絶した事、無いのに。

 

 

「それよりも先生、時間大丈夫ですか?」

「はっ、もうすぐ会議の時間ですよ、泊先生! 早く起きて下さい!」

「うーん……」

 

 

 どうやらエイトが起きる様子では無い。仕方無いですね、とノゾカが自分よりも重い筈のエイトを、走りながらズルズルと引きずっていってしまった。

 その場にスクールアイドル部のチラシを持った千歌と、メガホンを大事に握りしめた曜だけが取り残されていた。

 

 

「……あはは、勧誘失敗しちゃったね。色々と巻き込んじゃったし」

「もう、一回の失敗で諦めちゃ駄目だよ! 気を取り直して、いってみ────」

「へぇ、スクールアイドル部……いつ設立されたのでしょうか?」

 

 

 その声に、二人は冷や汗を流しながらブリキのような動きで振り向く事となった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「チッ、今度は邪魔が入らねぇように、あの赤いヤツでも狙ってみるか。ヒヒヒ」

 

 

 不気味な笑いをするのは────全身黒の服に包まれた男。桜並木の下を走る少女を見つけると、次のターゲットにした。

 

 

「さぁ、苦しむ顔を見るのが楽しみだァ」

 

 

 まだ何もかもが始まりの、この日。

 舞うのは桃色に染まった桜の花びらか、それとも赤黒い血飛沫か。

 

 

 それは仮面ライダーにかかっている。

 

 

 

 

 




5ヶ月ぶりの更新、待たせたな(土下座)

サンシャインのアニメも一期終了という事で、書く事にしました。いつも間にか亀更新になっているのは、作者のリアルな忙しさによるものです。

さて書いてはみてますが……まず、廃校知らされるタイミングが違いましたね。ただ、ダイヤさんのキャラは自分の予想どうりだったのはびっくりです。
次回予告詐欺でしたね。やっぱり慣れない予告とかするもんじゃないです。ですので前回のに修正を入れておきます。次回は戦闘ですね……。
自分の後書きでは、ある程度考察していましたが……数少ない読者の方に楽しんで頂く為にも考察は無しにします。

質問などは感想でも受け付けています。ただし、ネタバレに関するモノは返信しないかもしれません。どうしても知りたい場合は作者にメッセージの方でお願い致します。

感想、評価お待ちしております


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