IS × AC ~空を駆る深緑の瞳~ (幻想迷子)
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第一幕 白毛の鴉は表舞台に舞い立つ
第一話 染空の再会


――何故こんなことになったのか、私は理解が追い付かなかった。

 

私――染空 思希(そめぞら しき)は手を引かれながらそう思いました。

『私』とは言ってますがれっきとした男ですので悪しからず。

諸事情で眼が使い物にならないので布で目隠しみたいに覆っています。

髪も腰の辺りまで伸びてしまっています。

おっと、自分語りはここまでにしましょう。

あまり無駄話に花を咲かせる時間もありません。

 

「そろそろ教室に着く。覚悟は良いか?」

 

今私の手を引きながら私の足並みに揃えてゆっくりと歩き、声をかけてくださったのは織斑 千冬さん。

 

私の眼が普通だった時、千冬さんの弟の一夏君と小学一年生の時に友人になって、知り合った方です。

今の私は15歳なので時が経つのはあっという間だと思います。

女性ですが、私なんか千人居たって足元にも及ばない程強くて、私の憧れの人です。

小学校から三年前までに掛けては親無しの私を預かってくれた恩人でもあります。

きっと、今はより美しく優しい方になっていることでしょう。

 

「...あまり褒めないでくれ、私はお前を...」

 

...あと、人の心を読む事が出来ます。

本当に同じ人間なのかはさておきこの方を超えられる気が全くしません。

そして、私の所為でこの方の心に暗い陰を落としている自分を歯痒く思っています。

 

「それ以上は言ってはいけません、千冬さん。あれは私自身が望んだ結果です」

 

過去にあったある事件の所為で、千冬さんは負い目を感じていることを私は知っています。

その事件の結果が、今の私なのですから。

 

「...責めてもいいんだぞ、私はお前を、思希を見捨てたんだ」

 

「それが私の選択です。...あなたをこれほど苦しめる位なら、私は――」

「それ以上は言うなッ!」

 

私の声に重なる形で千冬さんが怒鳴りました。

多くの視線を感じます。

早計でした、これでは彼女の印象が悪くなってしまいます。

 

「...済まない、怒鳴るつもりはなかったんだ、私にはその資格が無いのは解っている...それでも、『死んだ方が良かった』なんて、思わないでくれ...」

 

「...はい、申し訳ありません」

 

僅かに震える声を潜める千冬さんを耳と手で感じ取り、余計な事を言ってしまったな、と自分に悪態を吐きました。

 

気まずい雰囲気のまましばらく歩き、不意に千冬さんが足を止めました。

どうやら目的地に着いたようです。

 

「これから自己紹介をしてもらう、少しここで待っていてくれ」

 

そう言って、私の手を離して、歩いて行きました。

ちょっと残念だと思ったのは内緒です。

 

...少しすると、パァンと何かの破裂音が聞こえました。

誰かハリセンでも持っていたのでしょうか?

その後すぐに二発目のハリセンの音が。

またちょっとの間を置いて、黄色い悲鳴が響き渡りました。

私はどうやら廊下に居たようで、声が反響して奥まで響いてます。

『千冬様』という単語が聞こえたので、どうやら千冬さんが自己紹介したようです。

大人気ですね、千冬様。

なんて考えたら殺気を飛ばされました、ヤメテクダサイシンデシマイマス。

 

おや、呼ばれましたね、では入る事にしましょう。

 

拡張領域(バススロット)から杖を取り出して、一度床を杖の底で叩きます。

 

所謂空間把握(エコーロケーション)の為です。

そうして扉の位置を把握して入室します。

 

...教室に入ってまず感じた強い視線は千冬さんのものでした。

やめてください、私が杖を出す前に手を取ったのは貴方dはい私が悪いですだからそんな殺気をぶつけないでください。

 

次に、というより残りの全ての視線から感じるものは、驚きでしょうか。

まぁ妥当でしょう、私の存在は()()()()()()()()()()()

取り分け強い視線を向ける方が2人程居るのは気になりますが、今は自己紹介を終わらせましょう。

教室に入った直後にもう一度杖を叩き教壇の真ん中あたりに立つ。

 

「はじめまして、私は染空 思希という者です。諸事情により眼が使えないので皆さんにご迷惑をお掛けしますが、どうかお許しを。

趣味と言えるものは今はありませんが、特技はエコーロケーションです。これからよろしくお願い致します」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

俺――織斑 一夏は困惑していた。

きっと幼なじみの箒も同じだろう。

箒の場合は6年越しの再開だから無理もない。

それに、驚いたのは知らされていなかった2人目の男のIS乗りが現れたからではない。

三年間失踪していた筈の親友が、現れたからだ。

 

しかも、三年前から容姿もかなり変わっていた。

身長は少し伸びていたが、何故か眼を布で覆い隠しているし、髪の毛に至っては黒い筈だったのに今では真逆、真っ白だった。

銀とかではない、本当に、絵の具を塗りたくったみたいに白く染まっていた。

首には何故か黒い首輪(チョーカー)を付けている。

 

三年前、思希が失踪した時のことはよく憶えている。

なにせ、千冬姉の晴れ舞台だった日だから。

ドイツで開催されたモンドグロッソ、ISの第二回世界大会。

千冬姉がそれに日本代表で参加して優勝した。

ただ、決勝の時、千冬姉の様子がおかしかったのは今でも憶えている。

太刀筋に迷いがあった、普段の千冬姉から考えられない程に。

それでも優勝したのだから、流石は千冬姉、そう思っていた。

 

問題はそこからだった。

突然、千冬姉がISを付けたままどこかに飛去っていったのだ。

周りは大混乱だった。

その時やっと気付いたんだ、一緒に来ていた思希が、未だにトイレから帰ってきていないことに。

 

トイレに行ったのは千冬姉が試合に出る前だったし、本人は俺と同じくらい千冬姉の決勝を楽しみにしていた。

そんな思希が未だに帰ってこないのはおかしすぎる。

咄嗟に思希の携帯に電話するが、いつまで出ない。

そこまできてやっと理解できた。

思希に何かあったから、千冬姉の様子がおかしかったって。

 

結局、当時の俺には何も出来ず、帰ってきた千冬姉を問い質すことしかできなかった。

しかし、問い質すことすらできなかった。

帰ってきた千冬姉の『この世の終わり』のような顔を見てしまったから。

 

日本に帰ってきてからも色々大変だった。

千冬姉は『勝手に市街地でISを動かしたから』という理由で一年間ドイツに滞在することになったし、鈴や弾達にも問い詰められた。

それに答えられる筈もなく、あの時はとんでもなく苦しかったことを覚えている。

 

その思希が今、俺の目の前に居る。

見た目はだいぶ変わってしまったけどそれが堪らなく嬉しかった。

だからか無意識に、彼に声をかけていた。

 

「本当に...思希なのか?」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「本当に...思希なのか?」

 

む、たった今そう名乗ったのに疑われてしまいました。

まぁ非公開でここに来たわけですし、それも...ん?男性の声?まさか...

 

「もしかしなくても、一夏君ですか?」

 

「あぁ!そうだ!お前の親友の織斑 一夏だ!」

 

あぁ、この声、三年も経っているけれど、しっかりとした芯のある声、間違いありませんね。

 

「お久しぶりです、元気してましたか?大怪我や大病は患っていませんか?相変わらず鈍感ですか?」

 

「おう、見ての...聞いての通りぴんぴん、いや待て、最後のはなんだ?俺は繊細さには磨きが掛かっているぞ?」

 

「そう冗談が言えるのであれば、変わりないようですね、安心しました」

 

「いや冗談じゃ――」

「いつまで駄弁っている馬鹿者」

 

パァンと破裂音がなる。

成程、先ほどのハリセンは千冬さんでしたか。

しかし何故一夏君は呻き声を――

 

「お前も無駄話は後にしておけ」

 

コツンと千冬さんに何かで叩かれてしまいました。

触った感じ、四角い板状...出席簿でしょうか。

痛みはありませんし、きっと手加減してくださったのでしょう。

だってクラスの方々が「千冬様が加減した!?」とか「あの男の子、一体何者?」とか聞こえますから。

 

「な、なんで俺だけ...」

 

「ほう、私が織斑と染空を差別していると?」

 

呻き声が上がるほどのハリセンと痛みが全くない出席簿ではかなり差があると思いますが...

 

「なら、染空にも加減はいらないな」

 

急に私の耳元で囁かないでください、鳥肌が立ちました。

何故か冷や汗も流れます、理由はわかりませんが。

 

でも、先程までの暗い空気が今は千冬さんにない事がわかってよかったです。

自然と顔がにやけてしまいました。

 

「千冬様に耳元で何か囁かれてる...!?」

 

「幸せそう...羨ましい」

 

「やっぱり、千冬様の彼氏なんじゃ...」

 

盛大な勘違いを受けてますね。

二番目の方、確かにいつものと、いうよりよく知る千冬さんの雰囲気に戻ったのでホッとはしましたよ?

三番目の方、あまり失礼なことを言ってはいけません。

私が千冬さんに釣り合う訳がないじゃないですか。

ほら、千冬さんも怒って...

 

「そ、そう見えるか...そうか...」

 

...ないですね、どちらかというと満更でもないような...あっ、咳払いして皆さんを黙らせたうえに誤魔化した。

まぁ、万が一つもありえませんよね。

 

「...それより染空、眼について言っておくことがあるんじゃないか?」

 

おぉそうでした、忘れるところでした。

慌てて姿勢を正して皆さんに向き直ります。

 

「私の眼についてですが、一定条件下では見えるようになることを報告させていただきます。例えばISに乗っている間とかですね、IS搭乗時と普段の私のギャップに驚くことがあるかもしれませんが、先に謝罪させていただきますね」

 

ペコリと一礼して、手に持つ杖で床を突き、人影のない席を...どうやら一夏君の左隣りみたいですね。

足がもつれないように注意しながら席に着きます。

やっぱり見えないというの厄介極まりないですね。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一限目、終了。

 

()()()の下で勉強した事柄ばかりだったので、特に悩む問題もありませんでした。

隣の一夏君は終始呻いていましたけど。

そういえば、授業を教えてくださった方が千冬さんではなかったので少し驚きましたが、どうやら山田先生という副担任の方らしいです。

確かに、千冬さん一人に担任を任せるわけにもいけないでしょうしね。

 

「大丈夫ですか、一夏君」

 

「いや、全然...思希はどうだ?」

 

「私は良い先生に教えてもらいましたから」

 

ある方に三年間も根気良く教えてもらっていたのですから、分からないなんてこと言えません。

何故か一夏君から怪訝な視線を感じます。

なにかおかしかったでしょうか?

 

「ちょっといいか?」

 

おや、箒さん、いつの間に。

御用事は一夏君にでしょうか。

 

「久し振りだな、一夏、思希も」

 

「そうだな、あれからもう六年か...」

 

「感慨深いものを感じますね、お久しぶりです箒さん」

 

おや、また怪訝な視線を...箒さんからも?

やはりどこかおかしいみたいですね。

 

「思希、さっきからどうしたんだ?その喋り方」

 

「昔の思希は...こう、もう少し砕けた言葉使いではなかったか?」

 

...あぁ、そういう事ですか。

まぁ確かにだいぶ変わりましたね、()()()()()()()()()()()()()()()()

でもそれを言う訳にもいきませんし、誤魔化しましょう。

 

「三年も経てば言葉使いなど変えられますよ。あまり気にしないでください」

 

「いや三年でここまで変わるか普通...待て、それよりお前、三年間もどこに居たんだ?」

 

あ、これは拙いですね、墓穴でしたか。

言えるわけないです、特に箒さんには。

言ったらあの方が何をされるか...

 

「...まさかと思うが思希、お前---」

 

――キーンコーンカーンコーン――

 

良かった、予鈴に助けられました。

お二方に着席するように促すと、渋々といった視線を最後に各々の席に座りました。

隣の一夏君が「あとでまた聞くぞ」なんて言ってません。

言ってないったら言ってないのです。

 



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第二話 染空と貴族

二限目の途中なのですが、問題が発生しました。

私にではなく、一夏君に、ですが。

 

彼、授業が殆ど分からない発言をした上、何を思ったのか参考書を捨ててしまったようです。

それも、『電話帳と間違えた』そうで...彼、目は見えてますよね?

千冬さん――公私を分けてこれからは織斑先生と呼びましょう――が必読と書かれていたと申してますし...

 

「えっと...そ、染空君は大丈夫ですか?」

 

っと、ここで山田先生から私に白羽の矢が立ちました。

まぁ、私も分からないと思われるのは当然でしょうか。

同じ男子ですし。

 

「はい、問題ありません。流石にノートは書けませんが内容は把握しているつもりです」

 

「ほう、ではアラスカ条約を可能な範囲で構わない、説明してみろ」

 

今度は織斑先生から。

この条約、あまり好きではないのですが、駄々を捏ねても仕方ないですね。

 

「...正式名称、IS運用規定。通称IS条約。開発者が日本人だった為日本が技術を独占していましたが、他国がそれを危険視、その為にこの条約を作成。内容は、全ISの情報開示と共有、研究機関の設立。軍事運用の禁止。各国に割り振られたISコアの譲渡、取引の禁止。発覚した場合、終身刑。但し、国家防衛の為にのIS使用は許可――こんなところでしょうか」

 

「上出来だ、染空」

 

織斑先生からのお褒めの言葉...嬉しいです、嫌な事をやってのけた甲斐がありました。

 

「凄いですね、染空君!」

 

「これから嫌と言ってもISに関わっていく身ですから...これぐらい憶えていないければクラスの足手まといになってしまいます」

 

特に目を使えない私は、と心の中で付け加え、席に座りました。

 

隣では、参考書を一週間で憶えろと織斑先生に言い渡され、絶望に打ちひしがれる一夏君が。

 

...あとでお手伝いでも名乗り出ましょうか?

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

授業も終わり、私と一夏君、箒さんの三人が集まります。

他の方々は外野としてこちらに視線を送ってきています。

学園唯二の男ですし、興味はあれど、というものでしょうか。

 

「思希、先ほどの件は忘れていないな?」

 

そう言ったのは箒さん。

いや、私としては忘れていただけるとありがたいのですが...それを聞いた一夏君もそれを問い詰める気でいるのか、私への視線を強めました。

自然と嫌な汗が伝うのを感じます。

 

「そ、それより一夏君の勉強を...」

 

「俺のことは後だ、思希。ここ三年一体どこで何やってたんだ?」

 

言い逃れもさせてもらえなさそうです。

周りの方々も私の空白の三年間が気になるようで、手助けの気配はありません。

これは...詰みでしょうか。

仕方がありません、『あの方』には勧められていませんが...

 

「わかりま――」

「ちょっとよろしくて?」

 

話し始めようとした直前、救世主が現れました。

本当は感謝の言葉を述べて跪きたいぐらいでしたが、こう...言葉の節に威圧感を感じてしまい、感謝の言葉は喉元で止まってしまいました。

それでもこうして話しかけてくださったのですから、それに答えましょう。

どうやら私と一夏君に用事があるようなので。

 

「はい、私達に何かご用でしょうか?」

 

「あら、男の方にしては礼節があるようですわね」

 

...あぁ、この方は女尊男卑主義の方でしょうか、あからさまに言葉に棘がありますし。

一夏君と箒さんもその言葉を聞いて雰囲気が曇ります。

 

「初対面の方への礼節は弁えているつもりですので...それでどちら様ですか?」

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試主席のわたくしを?」

 

ちょっと地雷を踏んでしまったでしょうか...言葉の端に憤りを感じました。

 

「申し訳ございません、何分(なにぶん)この通り眼が使えないものでして...彼女は一夏君のお知り合いですか?」

 

「いや、知らん」

 

てっきり知り合いかと思いましたが、違ったみたいですね。

また地雷を踏み抜いてしまったのか、オルコットさんからピリピリとしたものを感じます。

 

「ふん、IS開発者の国だから期待していましたが...それはただの例外、他は所詮、極東の島国ですわね。このわたくしのことさえ知らないだなんて。本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡...幸運なのです。その現実を、少しは理解していただけません?」

 

「へえ、それはラッキーだな」

 

「...馬鹿にしていますの?」

 

素なのか態となのかは分かりませんが一夏君、煽るのはやめてください。

こちらはいつオルコットさんの怒りが爆発するかヒヤヒヤしていますから。

 

「ISのことで分からないことがあれば、まあ...礼を尽くすのでしたら、教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒した、エリート中のエリートなのですから」

 

ほう、オルコットさん()倒したのですか...流石は国家代表候補ですね。

 

「入試って、あれか?ISを動かして戦う?」

 

「それ以外にありまして?まあ確かに、ペーパーテストもそれを作った者との戦いと言えるでしょうが」

 

「...おかしいな、俺も倒したぞ、教官」

 

「...は?」

 

一夏君もですか...!凄いですね、教官を倒してしまうなんて。

ですがまぁ...

 

「...私も倒してしまいましたけど」

 

「...え?」

 

...結構小声で言ったつもりでしたが、どうやら聞こえてしまっていたらしいです。

急いで弁解しなければ...

 

「いえ、とは言ったものの...専用機を使いましたから...」

 

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

あぁ、また余計なことを口走って...今度は聞き耳を立てていた方々からも声が上がりましたし...やってしまった...

 

「待ってくださいまし、本当に盲目のあなたが専用機をお持ちで!?」

 

おや?オルコットさんは私のことを盲目と仰いましたか。

 

「えぇと、私、盲目という訳では---」

 

――キーンコーンカーンコーン――

 

...なんとも言い難いタイミングでチャイムがなってしまいました。

 

オルコットさんは「また後で来ますわ」と去っていき、外野の方々の気配も離れ、一夏君と箒さんも自身の席に戻りました。

...次に話す時には誤解を解かなければいけませんね。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

さて、次は織斑先生の授業のようですね。

気配が他の方々とは比べられない程威圧...あ、いえ、洗練されたものだったので直ぐに分かりました。

だからそんな殺気混じりの視線をぶつけないで...

 

「さて、これから授業を始める...ああ、その前にクラスの代表を決めなくてはな」

 

それは放課後などでよろしいのでは...アッハイ無心でいます。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席...まぁ、クラス長だな。クラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが競争は向上心を生む。ちなみにクラス代表者は一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない」

 

...織斑先生、それ、暗に私か一夏君にやれと言っていると同意義なのでは...

 

「なんだ染空、何か不満でもあるのか?」

 

「イエ、ナンデモナイデス」

 

顔に出ていたのでしょうか...いや、きっと心眼でしょうね。

布で目元を覆ってるのですからそうに違いない。

 

「それで?誰か居るか?」

 

「はいっ!織斑君を推薦します!」

 

「じゃあ、私は染空君を推薦しまーす!」

 

あぁ、やっぱりこうなりましたか。

でも、私がついでのように言われたのは些か納得出来ません...むぅ。

っと、それ以前に私はそんな大役務められませんか。

 

「...え!?俺!?」

 

一夏君、反応がワンテンポ遅れてますよ。

考え事でもしていたのでしょうか?

 

「織斑先生、私は辞退したいのですが」

 

「お、俺も辞退したいです!」

 

「自薦、他薦は問わないと言った。推薦された者に拒否権などない、と言いたいところだが、確かに染村の現状を見るに代表は厳しいか。良いだろう、染村は認める」

 

辞退できたことにホッと胸を撫で下ろします。

私を推薦してくださった方は私の現状を思い出してか「あっ...」と声を漏らしていましたし、ど忘れていたみたいですね。

まぁ、折角の男性IS搭乗者(珍しいもの)ですし、代表にしたがる気持ちも分からなくはありませんけど。

 

「ちふ――」

 

「織斑先生だ」

 

一夏君の発言を遮るハリセンの音。

私は出席簿でしたし、やはり可愛い弟には加減しているのでしょう。

何故一夏君が呻き声を上げているかは知りませんが。

 

「お、織斑先生、俺は辞退できないんですか?」

 

「染空には事情があっての例外だ、織斑の辞退は認めん」

 

それを聞いてか一夏君が諦めたように溜息を吐き、恨みの籠った視線が私に向けられてます。

好きで眼を封じてるわけではないんですよ、半分は。

 

「では、織斑が代表ということでいいな?」

 

なかなかスムーズに採決までいきましたね。

これで授業に――

 

「待ってください! 納得が行きませんわ!」

 

戻れませんでした。

この気迫はオルコットさんですね。

急に机を叩く音が聞こえたのでびっくりしてしまいました。

概ね、男の代表が気に食わないと思ってるのでしょうか?

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

ほう、合ってるとは、私にしては良い予想でした。

いや、ここでは『悪い』、ですかね。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭御座いませんわ!」

 

...ちょっと待ってください、流石にヒートアップしすぎなのでは?

大分恐ろしいことを口走ってますよ?

これは止めに入った方がいいですよね、これ以上は――

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体、わたくしにとって耐え難い苦痛で――」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「なっ...!?あっ、あっ、貴方ねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

一夏君!?なんで火に油を注ぐんですか!

あぁ、クラス内の空気も次第に澱んで...オルコットさんもよくあんな喧嘩売りましたね。

このクラス、唯でさえ日本人が多いというのに...あ、拙い、織斑先生が殺気を溜め始めてます。

山田先生は怯える雰囲気を醸し出しながら、教室の隅に...ってあなた本当に先生ですか!

確かにやんわりと優しい雰囲気の方でしたから喧嘩ごとは苦手みたいですけど...!

あぁ、目立ちたくないのに...!

 

――ガン!!バキッ

 

「なんだ!?」

「なんですの!?」

 

なにですって?

お二人を止めるために杖で床を思い切り突いたんですよ!

この空気に耐えられなかったんですよ!

今度は床を凹ませてしまったかもしれない罪悪感と皆さんの視線が辛いですけどね!

...まぁ、少し腹が立っているので、ついでに晴らさせて頂きましょう。

発言の為に立ち上がって、まずオルコットさんの声がしていた方を向き言葉を発します。

 

「...失礼、余りにも耳障りだったので」

 

「耳障りですって?祖国を――」

 

「祖国を侮辱されたのが許せない、ですか?貴方から始めた事でしょうに。そも、貴方は己の発言の重みを理解出来ていますか?」

 

「な、何を――」

 

「貴方は先程、この国の人々(日本人)を極東の猿と形容致しましたが、何処の誰がISを開発したのかお忘れなのですか?また、貴方はイギリス代表候補生。貴方の言葉が御国の言葉と捉えられるとは考えないのですか?」

 

「ッ...!」

 

オルコットさんがこれ以上自らの立場を貶めないように言葉に被せるように言いましたが、少し言葉が強かったでしょうか?

取り敢えずは置いておくとして、一夏君も諭しましょう。

 

「一夏君、貴方の愛国心は素晴らしいとは思います。が、侮辱に対して侮辱で返すのは愚の骨頂。それは己自身も相手と同レベルであると言うも同じです」

 

「で、でもよ...」

 

「でももなにもありません。貴方の発言で無関係なイギリスの留学生の方々が気を悪くするとは思わなかったんですか?」

 

これだけ言えば一夏君も自分が何を口走っていたか理解できたでしょうか。

彼、根は良いんですが熱くなると軽く我を忘れるのは昔も今も変わってませんね。

それが一夏君の良いところでしょうけど。

 

「...そうだな、思希の言うとおりだ。悪い、言い過ぎた」

 

「...私も口が過ぎましたわ。申し訳ございません」

 

双方の謝罪の言葉を聞けてホッと一息。

あわや大惨事かとも思いましたが、止めに入って正解でしたね。

嫌でしたからね、入学早々この険悪ムードの中で過ごすのは。

 

「ですが」

 

...ん?

 

「やはり男だからといって代表者にさせるのは納得がいきません。そこで、貴方()に決闘を申し込みますわ」

 

あぁー、そこは譲らないんですね、オルコットさん。

まぁ男嫌いのようですしそれも...あれ?

 

「貴方...『達』?」

 

「えぇ、染空 思希さん、貴方にも決闘を申し込みます」

 

どういうことなの...

今の流れから何故私に飛び火したんですかね...

 

「貴方は先程『専用機を所持している』ことを示唆していました、それに相応しい方であるのか見極めたいのです」

 

貴方が妄言を吐いてないかの確認でもあります、とはオルコットさんの言葉。

成程、ここでさっきの失言が活きてきた訳ですか。

...やはり余計なことは言うものではありませんね...

 

「なんだ染空、専用機所持者でいることを明かしたのか」

 

「いえ、織斑先生...口を滑らせたといいますか何と言いますか...」

 

そう言うと織斑先生は呆れたように溜息を吐きました。

分かってますよ織斑先生、私自身呆れてますから。

 

「ならば染空、オルコットと対戦しろ。お前の蒔いた種だ、責任を持て」

 

「...了解致しました。オルコットさん、その決闘の申し出、承諾させていただきます」

 

ここまで来たらもう自棄です。

負けるつもりはさらさらないのですが、やっぱり目立ちますよねぇ...絶対。

 

「それで、一夏君はどうするんですか、決闘。断っても問題ないと思いますが」

 

「それについてだが、その決闘をクラス代表者決定戦とする。染空の言った通り、受けるつもりがないのなら降りても構わん」

 

成程、それに勝ったどちらかに決めるというわけですか。

手間も省けていいですね、一夏君はやりたがっていませんでしたし、ここは降り――

 

「いや、やるよ。思希、ち...織斑先生。もう腹は括ったから」

 

――ないみたいですね。

多分、さきの口論で何か思うことがあったのでしょう。

 

「では一週間後にクラス代表決定戦と染空対オルコットの対戦を行う。三人ともいいな?」

 

その言葉に私は頷き、否とする言葉がないのでお二人も同意したようですね。

ではさっさと机に座って授業を...あれ、杖の先が床に着きません。

こんなに短かったでしょうか?

 

「...染空、予備の杖は持っているか?」

 

「?いえ、持っていませんが...」

 

「...」

 

えっ、なんでそこで溜息を...あっ(察し)...

 

「...一夏君、放課後の先導、お願いできますか...?」

 

「...おう」

 



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第三話 染空の部屋

一か月半近くとある理由で居なくなって捻り出したのは千文字短い一話のみ。

リンクスを名乗れないな、私。


クラス代表や決闘云々の事案があった後、私は無事にその日の授業を終え、放課後の教室で静かに座っております。

 

他にも一夏君と箒さんが居ますが、お二人はどうやら決闘の日まで剣道の稽古をするようで、今はその予定を話し合っているようです。

 

ISで練習出来ないのかと一夏君は言ったのですが、訓練機の数は限られてますし、アリーナも予約があるでしょう、と私が言うと素直に諦めてました。

その時の箒さんの声色がどこか嬉しそうだったのは久々に幼なじみと竹刀を交えられるからでしょう。

 

教室で話し合っているのは訳がありまして(杖の事とは別件で)、三限目の終了後に山田先生が私と一夏君に放課後残るように言われたからです。

...決してなにか悪事を働いた訳ではありません、きっと、多分。

 

私は何をしているのかというと、ISに録音しておいた今日の授業を再生して振り返っています。

それ以外にできることなんて数えられる程しかありませんしね。

 

少しして、教室に二人分の足音が近づいてくるのが聞こえてきました。

山田先生と...織斑先生のようですね。

...何故か織斑先生は教室外で待機してますけど。

 

「織斑君、染空君、居ますか?」

 

「はい、揃っていますよ」

 

山田先生の声にそう答えると、右手を持たれて手の平になにかを渡されました。

 

「これは...鍵ですか?」

 

「はい、染空君と織斑君には今日から学生寮で暮らしてもらうよう政府に要請されているので...」

 

ふむ、政府の要請ですか。

私は元より寮生活をするつもりだったので問題ないのですが――

 

「あれ?俺、一週間は家からの通学って聞いてたんですけど...」

 

――一夏君はどうも違うようですね。

危機感がないというかなんというか。

 

「多分、一夏君の安全の確保の為だと思いますよ。唯でさえ、存在が貴重なのですから」

 

「...そうなのか?」

 

「男性でISを動かせる時点で、かなり」

 

そこまで言って自分の希少性を理解したのか、一夏君は納得したようで成る程、と言葉を漏らしました。

 

「あ、でも荷物を取りに行きたいので――」

 

「その必要はない、私が持ってきてやった。これだけあれば十分だろう?」

 

織斑先生が満を持して登場。

入ってこなかったのはサプライズのつもりでしょうか?

何故か一夏君が本日何度目かの絶望混じりの溜息を小さく吐いてますが。

私の荷物はどうなっているのでしょう?

 

「染空の荷物は既に部屋に届いている、安心しろ」

 

「...ありがとうございます」

 

心を読まれるのは安心出来ませんが、荷物に関しては安心できました。

本当になんで心が読まれるのか気になる所ですが、今は別に聞きたいことがあるので一旦区切ります。

 

「それより...私と一夏君は相部屋なのですか?」

 

これが今私が一番気になっていること。

まかり間違っても女生徒と同じ部屋などあり得――

 

「いや、染空と織斑は別部屋だ」

 

――るかもしれませんね、これは。

 

「え?じゃあ俺と思希はそれぞれ一人部屋ってことか?」

 

「いえ、織斑君は篠ノ之さんと相部屋です」

 

「なんだと!?」

 

あー、一夏君は篠ノ之さんと相部屋なんですね。

(悪名)高い『天災』の妹と『ブリュンヒルデ』の弟という注目度(面倒事)高い(多い)二人を纏めておこうとい魂胆でしょうか?

確かにお二人に何かあったら国が滅ぶと言っても差し支えないですしね。

...冗談ですよ、織斑先生。

なので睨まないで下さいお願いします。

 

「いやそれは流石に箒に悪い気がするんですが...」

 

「そ、そんなことはないぞ!それに今から部屋割りを変えるなど先生方に迷惑が掛かるだろう!」

 

「でもよ、幼馴染とはいえ男女が相部屋ってのは不味いだろ」

 

まぁ、一夏君の言い分も正しい、というより正論ですね。

花の女子高生と男子高生を相部屋というのは流石にどうなんでしょう...

 

「なに、そんなことになれば私が直々に『注意す()』る、問題ない」

 

「私の考えを読んだうえで恐ろしいことを言いますね、織斑先生」

 

これほど説得力のある発言ができる方は織斑先生以外に私は知りません。

 

「で、でも部屋は一か月後にはまた変わりますから」

 

「今ではないのですか?」

 

「織斑君と染空君の入寮が決定したのが急だったので、部屋を用意できなかったんですよ」

 

「それは...ご迷惑をおかけします」

 

先程、一夏君は入寮を初めて聞いたようですし、私も入学手続きは入学式の二週間前でしたからね。

教師陣の方々にはだいぶご迷惑をお掛けしたのでしょう。

 

「と、なると私は一人部屋なのですか?」

 

これが問題です。

一人部屋は何も問題ないのですが、もしも見知らぬ誰かと相部屋になってしまえばその方にご迷惑をお掛けしますし...私も色々と気にしなくてはいけなくなりますし。

いっそ一夏君達の部屋に泊まってしまった方が――

 

「あぁ、染空は私と相部屋だ」

 

――は?

 

「えっと...聞き間違いですかね、今、私は織斑先生と相部屋だと聞こえたのですが」

 

「いや、正しく伝わっているな。もう一度言うが、染空は私と相部屋だ」

 

...嘘...ですよね?

織斑先生と、相部屋?

『あの』織斑先生と?

 

「...一夏君」

 

「うん?なんだ?」

 

「骨は拾ってくださ――痛ッ!?」

 

「失礼なことを言うな馬鹿者」

 

ゴスっと嫌な音が頭頂で鳴り鈍い痛みがじんわりと...失礼なことは言いましたがもう少し手心を加えてほしいです...

 

「ほう、どうやら不服と見える。良いだろう、その心意気を正してやる」

 

「え、ちょっと――」

 

織斑先生、襟を掴んで何をする気ですか?

あ、このまま部屋に連れて行くと、成程。

...誰か助けてくれませんか?

私、死因がゴミに埋もれてっていうのはちょっと――あぁごめんなさい!

引きずらないで!せめて抱えるなりしてくださーい!

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方、二人が去って行った教室にて

 

「...大丈夫だろうか?」

 

「ん?あぁ、多分大丈夫だ。思希がいなくなってから千冬姉、頑張ってたからな」

 

「...どういう意味だ?」

 

「まぁ...機会があれば分かるさ」

 

そんな会話が交わされたという。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

さぁ、やってきました寮長室。

織斑先生はどうやら学生寮の寮長のようで、ここに着く迄に多くの視線を感じ、立ち止まったということは目的地に辿り着いたということでしょう。

 

因みに、織斑先生に引きずられて居たのですが、教師という立場か、はたまた面倒になったからか途中からは引きずるのを辞め、私の手を取って先導してくれました。

 

前者が理由だった場合、一夏君への罰は如何なものかと思いましたが。

 

織斑先生が寮長室の扉を開いたようで、扉の開く音の後、また手を引かれたのでそれに従って足を動かし、少しだけ歩いてから織斑先生が私の手を離しました。

扉の閉まった音の後に施錠音が聞こえたので、織斑先生が気を利かせてくれたのでしょう。

 

確かに、()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()ですし。

 

「...思希、もう目を使ってもいいぞ。この部屋に盗撮や盗聴の危険はないからな」

 

ほら、やっぱり気を利かせてくれてました。

名前呼びになったのは、今はプライベートだからということでしょう。

私も名前呼びさせていただきましょう、いつまでも気を張ってるのは疲れますから。

 

「では、お言葉に甘えて」

 

まずは目隠しを外して瞼を開きます。

この時点では視界は0。

 

次に、首輪を指で二度叩いて私の専用機のシステムを起こします。

 

――『瞳』の制御を解除してください

 

≪指示を受諾、『瞳』を起動します≫

 

頭の中に女性の機械音声(COMボイス)が響き、真っ暗闇から少しずつ光りが広がるように、視界が開けていきます。

 

また少し待てば、今まで通り3()6()0()()視界が開けて、――未だに慣れない感覚に顔をしかめながら――部屋の状況や織斑先生の様子が確認出来ました。

 

千冬さんがどこか心配そうに私の顔を覗いていました。

多分、顔をしかめたのがいけなかったのでしょう。

 

「...そんなに心配そうにしないでください。私は大丈夫ですから」

 

「!...見えているんだな」

 

「えぇ、ですから、お気になさらず」

 

余計な心配を掛けたくないのでそう答えましたが、千冬さんが未だに不安げな顔をしているので、別の話題...を?

 

「...つかぬ事をお聞きしますが――この部屋の掃除はどなたが?」

 

「む、なんだ。その含みのある言い方は。...まぁいい、この部屋は私が掃除している」

 

360度見えているにもかかわらず首を動かして見渡し、千冬さんの言葉に驚き、向き直ってしまいました。

 

「...人は変われるものなのですね」

 

「失礼な事を言うな馬鹿者」

 

手刀を頂きました。

 

ですが仕方ないでしょう?

この()()()()()()()()()()()()()()()()()部屋を千冬さんが作り出したと言うのですから。

 

(三年前まで)の話になりますが、千冬さんは家事全般が非常に苦手でした。

料理をすれば炭を生み、掃除をすればゴミが増える...一体何度私と一夏君で千冬さんの部屋の大掃除をしたのか。

ひと月に少なくて一回、多くて四回でしたか。

 

ですが、この部屋にはそんな昔の惨状を引き起こしていた本人によって清掃されたと言うではありませんか。

 

――彼女は本当に千冬さんか?

 

そんな考えが脳を過ぎりましたが、冷たい視線に冷や汗が出て鳥肌が立ったのでこれ以上考えるのは辞めました。

 

私だってまだ命は惜しいのです。

 

「これなら、もう一夏君や私がお世話をしなくても大丈夫ですね」

 

「!?」

 

感心してそう呟くと千冬さんが驚いたようで、直後に少し悲しそうな表情を...何故?

 

「わ、私の世話は嫌だったのか?」

 

「?...三年前でしたら、確かに少しめんd――で、ですが千冬さんのお役に立てていたので、とても嬉しかったですよ!」

 

面倒くさかった、そう言おうとしてしまいましたが、千冬さんがこの世の終わりのような顔をしてしまったので急ぎ取り繕いました。

 

「ほ、本当か?」

 

「えぇ、本当です。貴方に、織斑家に受け入れられたときから、私は貴方と一夏君の役に立てることを、今でも嬉しく思っていますよ」

 

そう言うと、千冬さんはまた悲しそうに――今度は哀れむような視線で――私を見ました。

 

「...だから、あの時、お前は自分を捨てたのか?」

 

あの時――千冬さんの言うそれは、きっと三年前のことでしょう。

 

...私は、私の選択に後悔はありません。

千冬さんの世間体への名誉が守れたのなら、私はそれで満足です。

ですが...千冬さんの言いたいことは、きっと別でしょう。

 

「...私自身を大事にしろというのなら、既にそうしてますよ」

 

「どの口がそれを言う...思えば、思希はいつもそうだったな。私や一夏の為に、自分を犠牲にする節があった」

 

「そうでしたか?」

 

「あぁそうさ。あの時(三年前)に限ったことじゃない、それ以前から――私がお前を預かった時からか、お前がどこか自分を蔑ろにしていたのは...」

 




前書きの消えてた理由はACfaでNとHでオールS取ったり暗い魂やってたりその他もろもろしたから。

粗製にも程がある。


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第四話 染空と千冬

――その日は、特に何でもない普通の日。

 

両親は朝早くに出かけて行って、愛する弟も友人と遊びに公園に出掛けている。

私は休日をダラッと部屋で過ごしているだけだ。

 

お昼時を過ぎた頃に、両親が帰ってきた。

私は部屋から出て、出迎えに行き――思わず固まってしまった。

 

帰ってきたのは三人、父と母。

そして――

 

「...」

 

弟と同じくらいの歳の、白い肌に無造作に跳ねた黒髪、眠たげに垂れた眼の男の子。

 

それが私――織斑 千冬と染空 思希の出会いだった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

染空 思希という名前の少年は、どうやら彼の両親が蒸発してしまったらしい。

そこで、染空家と縁のあった私の両親が彼を引き取った、ということだ。

 

...何故、そんな大事な話をしてくれなかったのかと、内心両親に悪態を吐いた。

口には出さなかったが。

 

「...」

 

思希は黙ったまま、ジッと私を見続けている。

正直、居心地が悪かった私は、正面に座っている彼に話しかけてみた。

因みに両親は私と思希を会話させる為か、少し離れた場所で見守っている。

 

「...何か、用か?」

 

言って、心の中で頭を抱えた。

もう少し言い方がなかったのかと。

威圧的だし、無意識に睨んでしまった感覚がある。

視界の端には、苦笑いしている両親が映っていた。

 

人付き合いの苦手な私は、当時友人...いや腐れ縁と呼べる存在は片手で数える程しかおらず、目つきが鋭いのも相まって腐れ縁以外に話しかけてくる人物は皆無に等しかった。

その腐れ縁曰く、

 

『ちーちゃんが人を睨みつけたときの視線って、ほぼ人殺しのそれと――あばばばばばばばばば!?』

 

と言われて無意識に頭をわし掴んでいたぐらいだ。

...私だって傷つくのだ、そういうことを言われると。

 

そんな視線を真っ向から受けたのだ、弟――一夏と同い年の彼が。

また因みに一度、一夏にも睨みつけ(それ)を見せたことはあったのだが、結果は大号泣。

宥めるのにかなりの時間とおやつ代が私の小遣いから消えたのは言うまでもない。

きっと泣かれるだろうと思っていたが、思希は――

 

「...これから、よろしくお願いします」

 

僅かにはにかみながら、そう言ったのだ。

流石の私も面食らって呆けて、両親も驚いていた。

ただ、黙っているつもりもなかったので――

 

「あぁ、これから、よろしく」

 

そう、返した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

それから思希と、織斑家(私達)との暮らしが始まった。

 

幼いながらにしてどこか大人びいたというか、子供らしからぬ落ち着いた様子の思希は、両親には好評だった。

曰く、手のかからない良い子と。

 

同い年の一夏からは、あまり遊び甲斐がないといった主旨のことを口では言っていたが、新しい家族が増えて喜んでいたのは知っている。

 

私はといえば...まぁ、その落ち着きぶりに少し違和感を感じたが、仲は悪くなかった、と思う。

...お互いに話すことがなかっただけで、決して怖がられないか不安だった訳ではない。

 

思希はといえば、私達家族を見て、楽しそうにしていた。

何を考えていたのかは分からない、訊きもしなかったが、それが邪なものではなかったとは、断言出来る。

先も云った通り、一夏と同年代らしからぬ落ち着きを見せていて、一人の時には歳らしい幼さが散見できた。

...普通は逆じゃないのか、と何度か思った。

 

とにかく、新しい家族を迎え入れて家が賑やか、とはいかないが、明るい雰囲気になったのは事実だ。

 

だが、それも――私達の両親までもが失踪するまでの、僅かな間だけであったが。

 

何も言わずに消えてしまった両親が残したのは、私達三人が数ヶ月暮らしていけるだけの僅かな金だけだった。

 

一夏が両親の失踪に関して()()()()()、私達三人だけで居る事に疑問を抱いていなかったのは唖然とした。

思希はそんなことはなく、かと言って涙を流す訳でもなく、悲しそうにしていた。

 

彼に訊いた、「何か知っているのか」と。

彼は首を横に振り、

 

「何も。俺には、何も...」

 

そう、顔を歪めて答えるだけだった。

いつも通りの大人びいた態度の内に、何かを乗せて。

昔は、それが何を意味していたのかは分からなかったが、今は分かる。

 

あれは、何かを忌み嫌う表情と、同じだった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

それから私は『あの事件』を起こすまで、学校に通いつつバイトを始めた。

これからは私が一夏と思希を育てなければならないと、ある種の脅迫観念に動かされて、学校と道場――両親が失踪する前から通っていた、友人の実家――と睡眠時間以外の殆どを働くことに割り当てていた。

そこに同年代との青春なんてものはなかったが、当時はどうでもよかった。

 

友人やその家族に心配されるようになった頃、家族に変化が起きた。

 

一夏と思希が家事をするようになった。

勿論、私は驚いた。

小学校に入ってそれ程経っていないというのに、私が促した訳でもなく率先して掃除洗濯料理としているのだ。

一夏は朝食を、思希は私が遅く帰ってきたときの夜食を。

最初こそ見た目も味も酷いものだったが、あまり気にならなかった。

思わず、一夏を捕まえてどういうことかと話を聞き出した。

 

「しきが言ってたんだ、ちふゆねぇにだけふたん?をかけちゃいけないからおれたちもできることはやろうぜって」

 

「...本当に、思希がそう言ったのか?」

 

「うん、『おれたちはかぞくだから、ちふゆさんにだけつらい思いをさせちゃいけない』って言ってた」

 

そう聞いて、その日の夜食を作る思希に、一夏が言ったことの真偽を訊いた。

一夏はとっくに眠っている時間にも関わらず、眠そうな仕草すら出さずに夜食を支度していた思希は手を止める。

 

「はい、確かに言いましたよ」

 

「...何故、そんな事を?いや、そもそも、お前は本当に...」

 

その先を言おうとして、口を噤んだ。

思希の表情の変化を見て、これは聞いてはいけないことだと、本能が告げていた。

 

「...俺は、貴方と一夏の為なら、この命を賭しても構わないと、思っています。むしろ俺は、そのためにここにいる」

 

「思希、お前は...」

 

「家族というものを教えてくれた貴方達に、俺は感謝している。そういうものを、俺はここに来るまで知らなかったから。この暖かさを教えてくれた貴方達を、俺は守りたい。この楽しさを教えてくれた貴方達を、俺は助けたい。家族を失う辛さを教えてくれた貴方達を、俺は支えたい」

 

歳不相応の言葉の羅列を一息に言う思希。

私は、黙って聞いていることしか出来なかった。

 

「...千冬さん、他人に頼れとは言いません。でも、せめて俺と一夏には、少しだけでも良い、頼ってください。俺達は、家族です。貴方一人に負担を、辛い思いをさせたくない。やれることは確かに少ない、けどそれでも、少しは俺達にも担わせてください。頼りないと言われてしまえば、そこまでですけど...」

 

生意気言ってすいません、と思希は顔を俯かせる。

普通なら、彼を不気味がるだろうか。

なにせ、一般的な子供の言葉とは大きく逸脱して、流暢に言葉を発している。

これを異常と言わず、なんとするか。

 

ただ私は――涙を流した。

思希が珍しく狼狽して私に駆け寄り心配していたが、涙が止まることはなかった。

私を心配し支えたいと言ってくれた思希対しての感謝と、思希を疑っていた私の愚かさに対する後悔の涙が、流れ続けた。

 

そう、()()()()()のだ。

思希が、両親の失踪に関わる原因じゃないのかと。

私と一夏に仇なす、敵じゃないのかと。

今はそんな事、思ってもいないが。

 

ただ、今でも時折考えてしまう。

思希は、何者なのかを...

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「...い...ら先生...織斑先生?」

 

思希の声が聞こえて、思い出の海から浮上する。

久しく会った彼と二人きりになって、昔の事を想い耽っていたらしい。

思希は心配そうに、()()()()()()()()()()()()()()()()私の顔を覗いていた。

 

()()()()()()()()()、彼の容姿はすっかりと変わってしまった。

身長が僅かに伸びたことは些細なこと、昔の日本人らしい黒髪からは色素が抜けきってしまったようで、雪のような――あるいはそれよりも白い――白髪を、後ろ髪は腰にまで長く伸ばし肌もそれに応じてか死人のように、とまではいかないが病的に白く。

 

何よりも変わってしまったのは、その眼。

一般的に白目と呼ばれる部分は黒く染まりあがり、緑色の瞳は僅かにだが光を放っているように見える。

口調もどこか昔と変わり他人行儀になって。

おおよそ、彼を彼たらしめていた要素は殆ど変わってしまっていた。

 

何故こうなってしまったのか。

詳しい事は知らない。

少なくとも二年、思希と共に居た友人(馬鹿)にも問い詰めたが――

 

「ごめんねちーちゃん、それはしーくんから直接聞いて」

 

とはぐらかされてしまった。

私が思希を同室にしたのは、護衛と、それを聞き出すことが目的だ。

しかし、いざ本人を目の前にすると、言葉が詰まる。

仕方ないとは思わない、彼がこうなってしまった一端は、間違いなく私が担っているのだから。

彼がこうなった経緯を知る義務がある。

 

「...今はプライベートだ。畏まる必要はない。それよりも思希、教えてほしい。今まで、どこで何をしていたんだ?」

 

「...あの方と居た時期のことなら、話します。ですが、それよりも前は...申し訳ありません、まだ、話せません」

 

顔を俯かせて言う思希は、言葉通り申し訳なさそうに言う。

本当は全部話してほしい。

だが、思希にも話す覚悟が必要なのだろう。

 

それを了承すると、思希は携帯端末を取り出しどこかに連絡を取り始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

千冬さんが私のこれまでを知りたいと言ってくるのは予想していた。

一夏君や箒さんも気にしているようだったから、千冬さんも気にしてるんじゃないか、と少し期待していた。

千冬さんが悲痛な面持ちで訊いてきたので、不謹慎だったと自分を軽蔑しましたけど。

 

ただ、私がこの体になった後から今までの話をするには、一応許可を取っておいた方が良いかもしません。

あの方は身内にダダ甘ですから問題ないでしょう。

 

事前に貰っていた携帯端末の中に登録してあった番号にかけて端末を耳に当てる。

 

『...もしもし』

 

数回コール音が鳴った後、目的の人物ではないが知人の声が聞こえる。

 

「私です、クロエさん」

 

クロエ・クロニクル。

目的の人物の庇護下にあり、寝食を共にした家族と呼べる一人。

庇護下に入る前からも少しだけ知った仲ですが、これ以上(回想)は今は蛇足ですね。

 

『思希...どうかしたんですか?』

 

どこか喜色を含んだ声でクロエさんが言う。

今日別れたばかりだというのに、寂しかったのでしょうか?

 

「相変わらず、可愛いですね」

 

『えっ』

 

思わず声に出してしまった。

端末から衝撃音が鳴る。

不必要なことを言って驚かせてしまったらしい。

少し間を置いて、咳払いが聞こえる。

 

『...突然、変なことを言わないでください』

 

「申し訳ございません、驚かせてしまったようで」

 

『別に、怒っている訳ではありません。...それより、何のごよ――』

 

『クーちゃんどうかした?あぁ、しーくんから電話かな?うん?クーちゃん顔真っ赤だね、しーくんに何か言われたのかな?』

 

『た、束様!?』

 

おや、お呼びするまでもなく来てくれましたか。

お電話代わっていただきましょう。

 

「クロエさん、今回は束様に用事があるので、代わっていただけますか?」

 

『え?あ...はい、分かりました...』

 

どこかしょんぼりとした声で言うクロエさん。

実は顔を赤くするぐらい怒っていて、追求できなくてしょげた?

いや、彼女はそんな性格じゃありませんし、気のせいでしょう。

 

『お電話代わって、世界のアイドル(指名手配犯)束さんだよ!今朝ぶりだね、しーくん!』

 

「はい、今朝ぶりですね、束様」

 

『様付けは辞めてほしいんだけどなぁ...ま、いっか!それよりしーくん、クーちゃんに何言ったの?顔真っ赤にしてにやけてたんだけど』

 

「ちょっと思う所がありまして、相変わらず可愛いと。怒っている訳でなくて安心しました」

 

『...あぁ、うん。しーくんもそっち方面はいっくんみたいになってきたね、クーちゃん達も苦労しそうだね!で、しーくんの要件だけど。別に言っても良いよ!困ることじゃないし!』

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

『しーくん自身の事は逐一許可取ろうとしなくても良いよ、しーくんが話したいと思ったら話せばいいさ。...ただ、初日に専用機のことをバラしたのは頂けないなぁ』

 

「...聞いてたのですか」

 

『束さんだからね、割り切って!...まぁ、外野が煩くなるだろうから、ダミーの企業立てといたよ!【Line Ark(ラインアーク)】なんて名前にしたけど?』

 

「流石です、束様。では、明日より企業所属として振る舞うように致します。...もしかしなくても、今日の騒ぎは、ご覧に?」

 

『勿論、あの金髪ドリルがいっくんとしーくんに喧嘩売ってる所なんてバッチリと。イギリスのコア、全機停止させてやろうかな?それともあの金髪ドリルの罵倒を世界に――』

 

「やめて差し上げてください。前者は世界が大混乱します、後者も...一夏君の実力を知る機会をいただいたということで」

 

『うーん、束さんはイギリスとあの金髪がどうなろうと知ったこっちゃないけど...しーくんが嫌みたいだし、辞めてあげる』

 

「ありが――」

 

『そのかわり。あの金髪と戦うのは初期装備(プリセット)でね。PA(プライマル アーマー)も展開禁止が条件。破ったら両方実行しちゃうよ?』

 

「...了解しました」

 

『まぁ、あれにしーくんが負けるなんて万が一にも有り得ないけど!実戦経験もないみたいだし。条件破らずに勝ったらご褒美あげちゃうよ!用事はこれで終わりだね、じゃ、しーくん!アディオス!』

 

ぷつりと電話が切れる。

束様と話すと思考する暇が殆どない。

最後は一気にまくし立てられて終わり。

まぁ、少し疲れるだけで会話は楽しいのですけど。

 

「...あいつを様付けで呼ぶんだな」

 

黙っていた千冬さんはおかしなものを見る目をこちらに向ける。

まるで私が変人だと言わんばかりに。

ちょっと失礼じゃないですか、千冬さん。

 

「命の恩人ですから。それより、私が束様と居た時期のことを簡単にお話します」

 

姿勢を正して千冬さんに顔を向ける。

全方向見えているからといって、礼に事欠くつもりはないです。

 

「とは言ったものの、違法な研究所を潰してまわったり束様を付け狙う組織や部隊を撃退迎撃撃墜したり...それを約二年ですね」

 

「何をやっているんだお前達は...」

 

本当にそれぐらいしかしていなかったのでそのまま伝えると、千冬さんに呆れられた。

 

「...ん?となると、お前はいつからISを起動出来るようになったんだ?」

 

「...束様と出会う直前辺りです。起動した環境については...申し訳ございませんが」

 

あぁ、嫌な事を思い出してしまった。

確かにあの状況では仕方なかったし、束様もそれについては、むしろ心配してくださったくらいだ。

...だが、どんなに言い訳を並べようが、束()()の大切な夢を、()は――

 

「思希」

 

「!...すみません、少し考え事を」

 

「いや、お前にとっては嫌な思い出だったようだな。すまない、不愉快な思いをさせて」

 

表情に変化があったのだろうか、千冬さんは申し訳なさそうに頭を下げる。

別に、貴方が頭を下げる事ではなく、私自身の問題だと言うのに。

 

「それはそれとして...私の目の前で所属の偽装とはいい度胸だな、思希」

 

「え?...あ、それは」

 

千冬さんがギロリと私を睨みつける。

あぁ、よくよく考えれば確かに不味かった。

千冬さんはこの学園の教員だ、みすみすこんな不正を目の前で繰り広げられては見逃せないのだろう。

この学園に来てからドジばかり踏んでいる気がしてならない。

 

が、私の焦燥を見た千冬さんはフッと呆れたように笑う。

 

「さっき言ったろう、今はプライベートだ。私は何も聞いていなかった、そうだろう?」

 

「...よろしいのですか?」

 

「教師としては失格だろうさ。ただそれ以上に――お前とあれ()が起こす問題に付き合うのが面倒なだけだ」

 

「...ははは」

 

乾いた笑いしかでませんでした。

自覚しているので弁解できない。

 

「大体、束は何故始業式一週間前などという面倒極まりない時期にお前を表舞台に出したんだ。おかげで教員一同地獄を見たぞ。しかも一般公開するななどと無理難題を押し付けてきたせいで――」

 

そこからは千冬さんの愚痴が止まりませんでした。

原因がこちらにあるだけに何も言えない。

私はただ、千冬さんが止まるのを待つしかありませんでした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「――と、もうこんな時間か」

 

やっと止まりましたか。

千冬さんの言葉につられて部屋に据え付けられた時計を見れば、既に20時を回っていた。

約三時間程愚痴を言い続けられるとは、千冬さんは不満を溜め込みすぎなのではないでしょうか?

 

「それだけ私の周りには厄介事が多いということだよ、思希」

 

自然に心を読んでくる千冬さんはやはり人間を辞めていると思います。

私が言えることではございませんが。

 

「 それより、夕食はどうするんだ? 」

 

「明日の朝、食べますので不要です。私はもう寝ますよ」

 

「そうか。私はまだ少し仕事が残っている、おやすみ、思希」

 

「はい、おやすみなさい、千冬さん」

 

千冬さんはそのまま部屋を出て行った。

私は寝間着に着替え、床に敷かれた布団に潜る。

そろそろ頭痛が酷くなってきたので、『瞳』を停止させる。

あぁ、明日からどんな日常が待っているのか。

私は心を踊らせながら、意識を手放した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

≪システム、シュミレーションモードを起動≫

 

≪搭乗者と接続...承認≫

 

≪時期選択...国家解体戦争、受諾≫

 

≪任務...『アマジーグ奇襲』、高難易度(ハードモード)を選択≫

 

≪記録の読み込み中...読み込み完了≫

 

≪状況再現...異常なし≫

 

≪機体編成、読み込み完了≫

 

≪戦闘を開始します≫

 

ようこそ、戦場へ(おかえりなさい)。レイブン≫

 







好きなように書いて、好きなだけ放置する。

それが俺の書き方だったな...(殴


そのうちタイトル変えます。


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