私はIS (35(ミコ))
しおりを挟む

1

 まだ世間にISが知れ渡ってからそう経ってないある日のニュース

 

『政府は一昨日、日本IS技術研よりISコア一つが消えた、と発表いたしました。政府も未だ詳細は掴めておらず、これよりIS技研代表の記者会見が始まる予定です。現場に繋ぎます』

 

 アナウンサーの映る画面が切り替わり、長机の中央にはいくつものマイクが並び立っていた。

 まだ、会見を担当する者はおらず、記者たちは機材のチェックをしている。

 

『えー、まもなく会見の時刻になります。早くから多くの記者がおり、発表が真実なのかいち早く伝える必要があります』

 

 そして、ドアがゆっくりと開かれる。

 

『えー、IS技研の代表が来ま……し……た……?』

 

 記者会見場でレポートする男性アナウンサーはその様子を見て、固まった。

 

 代表が顔を両手で覆い隠し、その両側に助手と思しき人物二人に支えられゆっくりとマイクの前に立たされていた。

 助手も代表を席に座らせるとそそくさと帰ろうとしたが、白衣の裾を代表が掴み、今にも泣き出しそうな表情で首をブンブンと横に振っている。

 そして、もう一人の助手はその様子を見て、一目散に逃げようとしたが代表に掴まれた助手も白衣の裾を掴み、妨害し始めた。

 

 まるで、今回の一件を世間に出したくないと言わんばかりに。

 

 それも後ろめたいことじゃくなくて。

 

 すると、一番出口に近い助手が諦めたように二人を諫める。お互いに裾から手を離した瞬間、

 

 助手は逃げ出した!

 

 しかし、足首を代表が掴んだ!

 

 そこからはもう単なる子供の喧嘩染みていた。

 三人とも肩で息をする。

 そして、意を決したように拳を出す。

 軽く振り上げ、お互いにグーを出し、再び振り上げ、

 

 代表が拳を出し、助手が手を開いて出した!

 

 何故か助手二人が歓喜のあまりハイタッチを交わし、今度こそ出ていく。

 そして、しっかりやれ、と言わんばかりに指を指す。

 代表も諦め、椅子に座り、まずは一言。

 

『お見苦しい様子を見せてしまい、すみませんでした』

 

 そして、雰囲気は一転。

 某特務機関の総司令っぽいポーズで告げる。

 

『恐らく君たちの聞きたいことは一つだろう。

 

 日本からISが消えたのか?

 

 率直に答えよう。イエスだ』

 

 刹那、一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。

 そして、一人の記者が手を挙げ、尋ねる。

 

『それは他国のスパイに奪われた、ということでしょうか?』

 

 再びフラッシュの雨。

 だが、回答は意外なものだった。

 

『いや、それには、ノー、と答えよう』

 

 三度目のフラッシュ。

 

『それは一体……どういう……』

『そうだな……』

 

 代表は一度口を閉じる。

 そして、顔を上げる。

 その顔はこの場に入ってきたときと同じ泣き出しそうな顔をしていた。

 

『ISが脱走した。これ以外の的確な表現はない』

 

 一気に記者たちは立ち上がり、質問の嵐とカメラフラッシュの豪雨が起こる。

 代表も席から立ち、壁際でフラッシュから顔を守るように手で遮りつつ叫ぶ。

 

『だーかーらー!僕は嫌だって言ったんだ!どうせ誰も信じないって!マジでISから手足が生えて脱走するなんて誰も思わないでしょう!?信号は特定できるけど、まず無いし!今どこにいるか分からないし!誰も責任が取れない事態なんだよぉぉぉぉぉ!』

 

 

 

 

 

 世界のどこか。

 彼女は空を眺めていた。

 

「……経験は……記録とは違うものなのですね……」

 

 彼女の人生(・・)は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 一月もすれば騒動は治まった。

 

 一方で脱走した当人?は……

 

「一先ずは生活資金が必要なので……ネットでざっと5万程荒稼ぎしましたが……」

 

 PCやタブレット、スマホを使わずにISからネット回線にアクセスし、まずは密林でいくつか衣服を購入する。家が無いので店頭受け取りだが。

 代わりに現在は光学迷彩を利用し、服を投影している。

 

 次に偽の身分証明書を作る。これは住基ネットにハックし、無理やり作る。

 そこから再び偽の履歴書を作る。

 

「これでしばらくは国内でもバレずに過ごせそうです」

 

 その気になれば待機形態でいつまでも過ごせるが、それでは本末転倒、逃げ出した意味がない。

 ちょくちょくバイトをし、細々と生きる大学生か一人暮らしのフリーターという肩書きでも背負って生きるつもりらしい。

 最も、貯金はネットで稼ぐので困りはしないのだが。

 

 

 

 

 

 一年も経つと、世間も忘れ始める。最も技研自体は未だ捜索しているが。

 

もんひょぐろっひょ(モンドグロッソ)?」

 

 朝の日差しとPCモニターだけが明かりの部屋。

 そこにはバリバリと海苔煎餅を頬張りつつ新聞を眺めるだらしない女性、もといISがそこにいた。

 一度、煎餅を呑み込み、

 

「優勝は織斑千冬……総合部門を勝ち取りブリュンヒルデの名誉を獲得……刀一本で世界を勝ち取った……?」

 

 ふーん、とさほど興味なさげに彼女は製作途中の3Dモデル(・・・・・)が映ったPCのキーボードを叩きつつ呟く。

 

「うーん、本当なら電報の一つでも送りたいのですが、如何せん追跡を逃れるためにネットワークからは切り離しているのですが……」

 

 残念そうに呟き、PCを見やる。

 そこには戦闘機らしきモデルが映っている。

 

「うーん、我ながら完璧なデザインだなぁ……IS企業に就職するのもありか……?ISがIS企業に就職とは……」

 

 少しずつ俗化しつつあるISがそこにいた。

 

 

 

 

 

「では、適正検査を行うので並んでくださーい」

 

 彼女はIS企業のテストパイロット募集に応募した。

 結果書類審査をパスして、適正検査を受けることとなった。

 

「では、次の方どうぞー」

「はーい」

 

 鎮座するISの前に立つ。

 

(ISである私が触るとどうなんだろー……って、ああ、やっほー、何しに来たかって(・・・・・・・・)?就職じゃん、どう見ても。頼むから大人しくしててねー)

 

 彼女がISに触れ、検査員が結果を見る。

 すると、少しずつ顔が青ざめていく。次にどこかに連絡をつける。

 

「しょ、少々あちらの席でお待ちください」

 

 震え声の係員に言われ、少し離れた席につく。

 検査自体は止まる事なく続く。

 しばらくすると会場の扉が勢いよく開かれる。

 そこに立つのはどこかで見覚えのある白衣の男、その背後にも大量の白衣を纏った者が。

 

 そう、IS技研の人達である。

 

「いたぞぉぉぉぉぉ!!」

「ん? って、ああああああああああ!!??」

 

 彼女はすぐさま立ち上がり、反対側の出口へ駆け寄る。

 

「はぁはぁ……ようやく見つけたぞ……今の今までどこに行っていたんだ!?」

「そりゃあ、普通の人間のように生活してたよ!? 人間じゃないけど」

「大人しくお家に戻りなさい! ハウス!」

「私は犬じゃねぇ!」

 

 本来なら因縁の関係でもあるはずなのだが、やり取りがおかしい。

 彼女はすぐさま逃げ出し、屋上へ向かう。

 そして、

 

「追い詰めたぞ……さぁ、ハウス!」

「くぅ……こうなったら奥の手を使ってでも逃げてやんよ!」

 

 彼女は一歩踏み出し、

 

「まさか!?」

「サラバダー!」

 

 ノータイムで身を投げる。

 追うように白衣の男も窓から身を乗り出す。

 既に彼女の身は地上から40mも離れたビルの屋上から自由落下を始めている。

 

「ちっ! IS部隊! 至急回収せよ!」

『『了解!』

 

 他のビルの屋上から二機のISが飛び立った。

 

「あーららー」

 

 彼女は落下しつつ、オープンチャンネルをつなぐ。

 

「はろはー」

 

 落下しながらも彼女は余裕をもった挨拶をする。

 

「残念だけど回収しようともう遅いよ」

『『?』』

 

 彼女の身体が突如光りだす。

 そして、黒い影が青空に向かっていく。

 

『ISの反応を確認!』

『来ます!』

 

 レーダーは上空に存在するISを捉え、ソレは折り返して地上に向かっていた。

 

「何としてでも捕まえろ!海岸沿いまで追跡し撃墜せよ!」

『『了解!』』

 

 そして、その黒い影を認識する。

 ゴォォォォォ、という重低音が響く。

 

『あれは……』

『戦闘機!?』

 

 空中で迎撃の態勢を取っていたISの真上でターンし、日本海方面へ向かう。

 

「追え!」

『『了解!』』

 

 二機のISがそれに追従する。

 

『おー、流石は代表候補。対応が早いねー』

『くっ! 速い!』

『そもそも貴様はその機体をどこで手に入れた!』

 

 彼女、もとい脱走ISは角を立てたような四角睡状のフレームに、X状に展開される二対の主翼に十字に設置された四基のジェットエンジン(・・・・・・・・)という機体構成。

 カラーは黒をベースに、後ろになびくような赤と銀のラインが入ったシンプルなものだった。

 パッと見、武装は確認できない。

 

『そんなこといっても、ISが自ら機体構成して(・・・・・・・・・・・)何か問題ある?』

『そういうことかっ!』

『さてさてー、私もこうなりゃ徹底的に経験をする(・・・・・)しかないからー、スロットル、上げていきますよー!』

 

 ゴォォォォォォォ!と重低音が一層増幅される。

 だが、ISのパイロットは口の端に笑みを浮かべる。

 

『だが、残念だったなぁ! これから貴様は墜ちるんだよぉ! 山田ァ!』

『は、はいっ!』

 

 二機のISと脱走ISのカーチェイスならぬISチェイスが上空3000mで行われてる中、日本海沖の海岸には狙撃態勢に入ったISが山岳方面を向いて設置(・・)されていた。

 

『当たって!』

 

 ドォン! と超長距離狙撃用にカスタムされたライフルという皮を被ったキャノンはその咆哮を轟かせた。

 直後、脱走ISはバレルロールしつつ真横に回避する。

 

『あっぶねー!? マニュアル狙撃とかバカじゃねぇの!? 合図(・・)がなかったら死んでたわ!?』

『今のを躱すか!』

『こうなったら本気で逃げてやんよ! アフターバーナー、オォォォォォン!』

 

 ジェットエンジンの排気口が絞られバーナーが点火されたことにより、一層速度が増す。

 

『こっちだってやってやるよ!』

『ああ! 瞬時加速(イグニッションブースト)ォォォォォォ!!』

 

 一瞬で二機のISがただでさえマッハを超えている脱走ISを追い抜く。

 だが、

 

『……いいこと思いついた』

 

 脱走ISはバーナーの点火をやめる。

 チャンネルごしにピピピピと電子音が響く。

 

『んじゃ、私もやってみますか、瞬時加速ォォォォォ!』

『『え?』』

 

 次の瞬間、そこには脱走ISの姿は無かった。

 

 そして、2人が諦めて撤退し、技研で反省会兼情報漏洩のチェック作業中、メンバーはロシアで隕石の落下を観測したというニュースを見た。

 そして、一同は口をポカンと開けた。

 

「「「……え?」」」

 

 

 

 

 

 対暗部組織、更識は動揺していた。

 日本政府から『ISが脱走したから探してちょん』と来たあと、ロシアから『ISが空からふってきた』という情報が入った。更に背景を調査した結果、どうあがいても『脱走IS=隕石IS』という結論に至った。

 もう、どうしろと。

 諦めかけていたが、ロシア代表候補生の刀奈ちゃんというコネを使いロシアの技研へ。

 

 だが、かれこれ半年どんなことをやっても隕石ISは反応しなかった。

 ずっとコアの剥き出し状態で保存され研究されていたが、まるで電源の入っていない機械のような状態で反応はない。

 

 そして、ある日。

 コアにコードを繋ぎアクセスを試みていると、モニターに、

『ハロハー、ってここロシアか。ロシア語わかんないお。まぁ、最近はどうやらIS関係者の間では日本語広まってるらしいし?大丈夫か。という訳で、ついに完全☆復活を遂げる時がキター!』

 という意味不明なメッセージが表示された。

 直後、軽い音と閃光がコアから発せられた。

 そこにはサタデーナイトフィーバーのポーズを決める彼女がいた。勿論、服は着ている。

 

「サラダバー!」

 

 という掛け声と共に施設から脱出する。

 今度こそ抜け目のないもので足取りを完璧に掴めなかった。

 

 

 

 

 

「というのが半年前の話よ」

「…………」

 

 欧州は某国、アパートの一室で彼女はあるモノと対面していた。

 

「え?何の話?状況整理」

 

 ISコアである。ロシアの研究所から一個拝借(・・)してきたのである。

 

「まず何でもいいから体面を整えないとヤバいからねぇ。取り敢えず……あたしの専用機になってちょ?え?いや?……儲かった暁には札束風呂と洒落こむのは……あ、OK?分かった」

 

 とまどいつつも今後の方針を決める。

 彼女は日本語の書類を取り出す。そこには『ソラ=オンブグレンスト』と書かれていた。

 

「さて、ここに履歴書があるじゃろ?……ああ、新しい戸籍は作ってあるから大丈夫。問題はこれで私がIS企業への就職が不可能となったからどうするか、だよ……え?起業?何すんの?……IS企業の下請け?まぁ、私達なら不可能ではないね。そこからパイプを作るのもやぶさかではないけど。その気になれば金なんていくらでも作れるって?まぁ、そうだけど……」

 

 不本意ではあるが、企業を決意する。

 そして、彼女は立ち上がりまず最初に拠点とする自宅の模様替えから始めた。

 

 

 

 

 

 半年後、そこには紺色をベースとしたモダン調の部屋が出来ていた。

 といっても間取りは8畳二間。

 

「資金も調達できたので、まずはIS企業とのパイプ作り! ……人員は二人(仮)とかそこ、言わない!」

 

 相変わらず、彼女はISコアとのやり取りを交わしている。

 さて、と言葉を切り、

 

「世間では第二世代の開発が真っ盛りなので!」

 

 カタッ! と勢いよくエンターキーを押す。表示されたのは戦闘機を模したIS用のフレームの設計図。

 

「パッケージ開発に力を入れようと思う……おお! そこは賛同してくれるか! じゃあ! 早速、行ってみよう!」 

 

 

 

 

 

「うーん、設計図だけじゃあ、ねぇ?……」

「うぅ……申し訳ございません……設備の関係上、組み立てやテスト行えないのです……」

「それは……仕方ないかな?」

 

 彼女こと、ソラ=オンブグレンストは本日何度目かの謝罪をしていた。

 欧州のあちこちの企業にトライしているが、今のとこ食いついたところはあるが、ISもまだまだ未発展な分野。余計な冒険はしたくのないのか、請け負ってくれるところは現れない。

 企業のエンジニアもソラの言葉には同情し、笑みを浮かべる。

 

「かくいうウチも規模の関係でそこまで大きなことが出来ないのよ」

「やはり、ISという分野は厳しい世界ですねー」

「しかしまぁ―――」

 

 彼はタブレットに写る設計図を叩き言う。

 

「―――斬新な設計よな。ここまで戦闘機に近くなるとISとは操縦系統が変わるのだろう?」

「そうですね」

 

 設計図の元は自分であるため、苦労なんてそんなにしなかった。

 期待のような眼差しを向けるエンジニアに目を背けてしまいそうになる。

 

「よしじゃあ、一つ、人の良さそうなお嬢ちゃんにサービスをしよう!」

「?」

 

 技術者は一つの名刺を渡す。

 それは航空技術関係の企業だったが、ISの台頭により軍のお抱えではなくなってしまったところだった。

 

「ここに行くといい」

「ここは……」

「何だ?もう既に断られてきたとこか?」

「いえ、大企業は怖くてアタックしてませんよ……」

「何だ、そういうことか!まぁ、一つ、その企業に当たるといい。もしかしたら釣れるかもよ?」

 

 それもとんでもない大物が、とウィンクを決める彼は言う。

 ソラは口に手を当て思案してみる。

 

「ふむ、そうですね……」

「ところでよぉ……」

 

 ソラの首に技術者は手をかけ、ボソッと言う。

 

「成功したらウチにも一枚噛ませろよ?」

「あ、あはははは……善処します……」

 

 それには苦笑する他なかった。

 そして、見送りで『社長には既に言ってあるからなー!』ととんでもないプレッシャーと共に彼女は大企業へ向かう。

 

 

 

 

 

 場所は変わり数十人も入れそうな会議室。 

 

「…………」

「…………っ」

 

 ソラは思わず緊迫した雰囲気に唾を呑み込む。最もそれが本当の唾かはさておき。

 大企業の数人のエンジニアが設計図を回し読みする。

 そして、最初のスキンヘッドの男の手に戻り、口を開く。

 

「なぁ……」

「はいっ!?」

 

 男の声に過敏に反応してしまう。

 

「お宅らが持ってるのはこれだけか?」

「と……言いますと?」

 

 ソラは汗を流し、ニヤリと男は笑みを浮かべる。周りの男もニヤニヤとしている。

 

 

 

「もっと詳細なデータを寄越せ。シミュレーション結果もあるならそれもだ。出せるもんは全てさらけ出せ。

 

 この設計図、買ってやろうじゃねぇか」

 

「お、おおおおお!」

 

 ソラは男の手をガッチリと掴む。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 その場にいる全員の技術者と握手を交わす。

 

「これなら空軍の奴らを満足させることも出来そうだな」

「そうですね。一定数の操縦に関する違和感や慣れなどの不評があるので、これは好都合です」

 

 向こうもノリ気であった。

 だが、

 

「で、詳細なデータは?」

 

 途端、喜びの舞を舞ってるソラの動きが止まる。錆びたような動きで口を動かす。

 

「…………す、3Dデータなら……」

「他は……?」

 

 彼女は目を逸らし、告げる。

 

「…………過去の事故で全損しました」

「「「…………」」」

 

 さっきまでの熱気はどこやらに。

 全員が固まる。

 

「どうするの?」

「一応、この大まかな設計図と3Dデータを元に組み立てる他ないですね……」

「ウチを紹介した企業さんは機関部を担当する予定なんだが……あの、マジでどうするの?資材とか」

 

 本当の理由ははなから用意してなかった。というか必要が無かったとでも言うべきか。本人は多分これだけあれば十分、あとは口頭。というつもりであったが。

 

「仕方ないですね、最後の手段を使いましょう」

「とは?」

「部品などは私達が全て調達してきます。それであるだけでぶっつけで組み立てましょう」

 

 企業の方々は思った。

 

 何言ってんだこいつ、と

 

 

 

 翌日、企業にマジで三機分の部品が届いた。

 

「しかもマジでIS用のやつじゃん……」

「昔作ったやつの予備と倉庫に眠ってたのと、昨日調達したもので三つです」

「大丈夫なの?それ」

「保管状況は最高でしたので問題ないかと。あと補助用のスラスターは?」

「届くはずがないですよ」

「ですよね」

「血眼になって働いてましたが」

「「HAHAHAHAHA!!!」

 

 渇いた笑いが二人の口から出る。

 

 

 

 そして、完成したのは一週間後だった。

 




元々はISのモノでも別のものを書きたかったのですが、
同じようなネタのものを見てしまって、
しかも高クオリティだったので、少し趣向を変えたようなものに。

時系列は第二回モンドグロッソより1年前、ワンサマは13歳だったような。

主人公であるISことソラちゃんはISそのものであるので、色々便利です。


ちなみに、不安の種である束ちゃんは……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2

 新聞の一面に大きく、その文字は書かれていた。

 

『新興IS企業『リベレーター』が企画した新パッケージ『ファイター』、ドイツ空軍に納入決定』

 

 事務所にして自宅では、その企画を持ちあげた張本人が、

 

「「…………」」

 

 が……?

 

 そこには一つの大きな桶一杯に札束が詰められており、二つのISコアが浮かんでいた。

 

「「…………」」

 

 静寂。

 

「……っだーらっしゃーい!」

「…………」

 

 張本人こと、ソラは我慢できないといわんばかりに光と伴って人間の身体になった。

 ちなみに全裸。

 そして、サイズ的に桶からモロはみ出している。

 

「いやー流石に夜通し部品製作(・・・・)は疲れるわー。まー、お疲れー」

 

 笑顔でペシペシともう一つのISコアを叩く。

 

「そもそも札束風呂……風呂?はいいとして黒い球体、ガン○染みたもの二つが浮かんでる景色とか誰得よ」

 

 光の粒が弾けると共に、彼女は服を纏っていた。

 さて、と彼女は気持ちを切り替える。

 

「これでドイツ空軍とのパイプが出来たから、ここからが本番かな……ああ、何かインタビューの何かあったけど断らないと……少し派手にやりすぎたかな……」

 

 

 

 

 

 ことは一週間前。

 

 パッケージが完成した。

 実際にテストするにはISが必要である。

 なのでドイツ空軍へ。

 

「面白そうだね。乗った」

 

 持ち込んだところ一発OKだった。

 

「さて、まずは取り扱いの説明何ですが――」

 

 今時不釣り合いな紙の説明書から顔を上げる。

 

「――やけに多くないですか?」

 

 提携した二つの企業のメンバー合わせて20人の他に多くの軍事関係者、というか空軍の方が集まっていた。

 

「まぁ、いいでしょう。今回はこの―――」

 

 近くのドイツ製量産型IS『シュヴァルツェア』をコンコンと叩く。

 

「シュヴァルツェアを使います。この機体の特徴は一言でまとめるなら汎用、ですね。あとはフレームが角ばっているのでジョイントが取り付けやすいことですかね?」

 

 ISをハンガーに吊るし、まず用意したのは、

 

「えー、こちら、機関部連結ジョイントのパーツです。これがないと取り付けが不可能なので注意してください」

 

 ISの背部に取りつける椅子の輪郭を模したフレーム。ところどころにコネクターがあり、それがエンジン部分の操作を可能とするものなのだろう。

 

「で、メインである、こちら」

 

 5、6mはある、V字尾翼と前進翼の主翼がついた黒い色のモノだった。

 ただ、先端部分には剥き出しの椅子があるため、そこはかとなく残念なデザイン。

 

「従来のジェットエンジン一基とIS用中型スラスター二基を搭載した機関部です。で、取り付けなんですが、今回のテストパイロットは……眼帯の付いたお姉さん、あなたですか、まぁ取り敢えずISに乗っていただいて……あとはそのままISに乗るように椅子に乗ればあとは自動で……はい、オッケーです」

 

 ISに人が乗り、それで椅子に座るという奇妙な状態であったが、大抵のISはパイロットの胴体は剥き出しなので普通に座れる。

 ISのパイロットは緩やかな角度で足を伸ばした状態で座っている。

 

「で、こっちの前面部を繋げて、と……」

 

 前面部は通常の戦闘機のような丸く鋭いものではなく、十字に尖ったものだった。

 全景としては直線的なデザインの一回り小さな戦闘機である。

 

「武装は下部搭載の固定武装20mmガトリングと主翼に従来の各種武装が取り付け可能となっております」

 

 ここでパイロットが一つ疑問を上げた。

 

「すみません、キャノピーは?」

 

 ソラは思わず目を逸らす。

 

「…………シールドあるじゃないですか」

「もしかして忘れてました!?」

「いえいえ、そんなことはナイデスヨ―」

「すごい棒読みなんですけど!?」

 

 パイロットは不安になりつつも、システムの説明を受ける。

 

「あと一つ注意することとしては……」

「何ですか?」

「ジェットエンジンの位置が丁度、操縦席のケツの真下なので。そこは少々注意を」

 

 つまり何か事故が起きると直接被害を受けてしまう。

 ちなみに、安全装置は『ISで動かしているから要らないだろう』というエンジニアたちの意見で付いていない。

 

「えぇ……」

 

 更に不安が煽られる。

 

「では、実際に飛ばしてみましょう。着陸はこちらで指示を出します。スラスターは巡航モードに移るまで吹かしてくださいね」

 

 パッケージを装着したISは滑走路に躍り出る。

 ソラはヘッドセットを着ける。

 

「では、ジェットエンジンを点火してください」

『はい』

「そして、

 

 補助用スラスター全開で離陸を」

 

『え?』

 

 パイロットは取り敢えず指示に従い逆三角形に並ぶ上二つのIS用スラスターを吹かした。

 瞬間、IS本来の加速性能で一気に離陸した。

 

『う、うほぉぉぉぉぉ!!??』

 

 無線越しに絶叫が聞こえ、バックの関係者たちは戦闘機の見た目からは信じられない加速に驚嘆している。

 そして、ソラも問題無く飛行している様子を見て安堵する。

 

「基本的な運用方法はご理解いただけましたか?」

『ええ、補助スラスターで加速、エンジンが動き次第巡航モードへ突入という感じですか?』

「それであってます。操縦の方はどうでしょう?」

 

 上空を飛んでいるIS背部にはスラスターの青い炎ではなく、ジェットエンジンのオレンジの炎が見える。

 ISは一回転やバレルロール、他にも様々な軌道を描いて空を飛ぶ。

 

『ええ、バッチリです。従来の戦闘機と同じ操縦が可能です』

「まぁ、設定を弄ればISのように動かせますが、根本的に用途や重心の関係上、多少無理が生じますがね。では着陸の方へ、エンジンを落としてください。あとはブレーキと下部に付いたスラスターで垂直着陸が可能です」

『了解しました』

 

 そして、エンジンを落とし、フワーと軽い感じにISは着陸した。

 そして、パイロットは真っ先に駆け寄ってくる。

 

「素晴らしいです!ありがとうございます!」

 

 彼女は目を輝かせソラの手を握り、想像以上の反応にソラは驚く。

 

「! ご期待に添えたなら幸いです」

 

 そこからはトントン拍子に話が進み納入が決定した。

 

 

 

 そして今に至る。

 

「私たちは表立って活躍できないからこの『リベレーター』だって適当な書類ででっちあげたからねー……」

 

 それでも、と区切る。

 

「今日は納入日だから最低でも立ち会わないといけないの」

 

 スーツに着替え、心底面倒そうに溜め息をつく。

 

まぁ、あんたは動けないから関係ないとして……行ってくるよーん」

 

 彼女は家を出る。

 

 

 

 彼女が作ったパッケージの強みは何と言っても、『互換性』である。

 ISにはIS用の定められた規格の武装があるが、『ファイター』には関係ない。

 通常の戦闘機に積む対空、対艦ミサイルなんてお手の物。IS用の武装も積める。

 さらにジェットエンジンは従来のものであるので比較的安価であることに加え、通常のパッケージと違い拡張領域(バススロット)を消費しない。完全外付け型のもので構造上メンテナンス性が高く、取り付けが簡単であること。

 ジョイントさえあれば大抵のISに対応可能。

 これが『ファイター』の強みである。

 

 彼女は納入の立ち合いを終え、休憩所で企業のエンジニアと休んでいた。

 

「フランスも導入、というか欧州各国どころか色んなとこから受注来てますね」

 

 予想を裏切る売り上げは嬉しいものだが、彼女は顔をしかめる。

 どこで尻尾を掴まれるか分からない。

 

「IS本来の性能を犠牲にしてでもメリットが大きいのでしょう」

「まぁ、個人的には大儲けなんで全然オッケーなんですがね?」

「もしかして本当の目的って……」

 

「何なんでしょうかねー?」

 

 ケタケタと彼女は笑う。

 

「そうだ、『イグニッション・プラン』ってご存じですか?」

「……確か、現在では第3次期で欧州の統合防衛計画、でしたっけ?」

「そうですそうです」

「あれって現在ようやく開発の目処が立った第三世代のやつじゃないですか?」

 

 なんでまた、と。 

 

「本格的な動きは来年からでしょうけどね……で、今参加国家・企業を募集しているんですよね」

「まさか……」

 

 彼女は苦い顔をし、彼は営業スマイルを浮かべる。

 

「ええ、お声がかかるそうですよ」

「よくもまぁ、新参である私に声をかけようだなんて思いますね」

「熟れた果実は収穫しないといけませんから」

「ついでに出た杭は打たれるんですね、分かりますん」

 

 彼女が危惧するのは嫉妬である。どこにでもあるような。

 

「で、どうするんですか?」

 

 彼女は顎に手を当てる。

 

「取り敢えず、資金だけは出して、スポンサーという立ち位置に着きましょうかね?それが一番当たり障りが無さそうですし」

 

「あまり深くは聞きませんよ」

 

 はぁ、とどこか呆れたように溜め息をつく。

 

「じゃあ、取り敢えず資金提供の意志はあるとだけ伝えますね」

「私はいいとして、あなた方は?」

「……呼ばれましたが、断りました。今は黒字ですが、ただでさえここの経営はISの影響で下がりましたので、IS産業という危険な綱渡りはしたくないものなので」

「賢明な判断ですね」

「その代わりというか、何というか、あなたの『リベレーター社』との窓口になってますがね……」

「その節はどーも」

 

 彼女は頭を下げる。

 

「一応、資金提供以外にISの武装の開発進めるつもりなんで、その時はもしかしたら、どうぞよろしくお願いします」

「ははっ……分かりましたよ」

 

 また仲介しないといけないのか、と男は思った。

 

 

 

 これでしばらくは落ち着くだろう。彼女はそう思いつつ、次のことを考える。

 

(しばらくは専ら専用機づくりかな?一度、なりを潜めてからじゃないと目立ちすぎってこともあるし……そうとなるとあいつに機体構成の要望を聞かないと……)

 

 アパートの階段を上り、自室のカギを開ける。

 

「ただいまー」

 

 軽い音と共に部屋の電気が付く。

 朝と変わらず、クッションの上にISコアが鎮座している。ソラはスーツから着替え、コアと対面する。

 黒光りするコアには自身が映し出されていた。

 黒髪の短髪に金眼。それが今の自分の姿である。

 

「さて、専用機でも作るんだが……」

 

 コアに触れると、一つの設計図で流れてきた。

 

「おおー、しっかりと出来てるじゃんありがとー」

 

 コアを撫でる。

 撫でる彼女は、目の前のコアに昔の自分を投影する。

 

 

 

 

 

 見渡す、といってもそこは室内だった。

 薄汚れた牢屋。

 彼女はそこにいた。

 鉄格子の向こうには無限に広がる世界があるにも関わらず、手を伸ばしても、

 そこに自分が立つことは許されない。

 

 夢を見る。

 白衣の人に撫でられる夢。

 その人達によってコードを繋がれ解析される夢。

 日々違う夢を見る。

 だが、それは同じ夢(・・・)であった。

 気付けば、

 

 目の前に鉄格子は無かった。

 

 振り向けば牢屋があった。

 ちっぽけで、狭い牢屋。

 

 いつの間にか、鉄格子の向こうに立っていた。

 

 

 

 

 

「――ハッ!」

 

 気づいたら寝ていたようだった。

 

「ふぁ~、今何時……って深夜か、簡単な物で済ませるか~」

 

 立ち上がるのも面倒な彼女は四つん這いになって冷蔵庫に向かう。

 

 

 

 

 

 それから一年。世間では第二回モンドグロッソで騒いでる時期。

 

「ここかな?」

 

 彼女はドイツの廃工場にいた。

 目的は専用機の試験運用。

 

「……ん?ISの私的利用は犯罪?それは人間に当てはまることじゃん。私の場合は動かせるかすら不安なんだけど」

 

 一人呟きつつ、周囲をスキャンする。

 

「では……よっと」

 

 彼女の身体が光に包まれた直後、白い機体があった。

 全体的なフォルムとしては曲線的で、腕部の指先も人間の指のように丸くなっていて、通常のISよりも腕は細い。

 脚部も超厚底サンダルを履いた程度の小型なもので、やけに大きいISの脚部よりもスマートである。

 しかも装甲側面には黒いラインが入っており、時折緑の光が走るという素敵仕様である。

 カスタム・ウィングは背部のジョイントに二対のX字型に展開され翼の根本にスラスターが付いてるだけの非常に簡素なものだった。

 他のISに比べ、カラーリングと素敵仕様以外に目立つ要素が一切ない。

 

「で、バイザーは……っと」

 

 虚空に手を出すと、スポーツサングラスがカシャと落ちてきた。

 

「うわぁ……」

 

 あまりにもチープすぎ、と思いつつかける。

 

「うんうん、全然いいじゃん、これ」

 

 満足そうに呟く。

 形が形だけに目立ちにくく、黒いグラスなので暗く見えると思ったらそうでもない。

 彼女は軽く動かしてみる。

 

「おおー、悪くない悪くない」

 

 一通り動かし満足する。あまり動かすとレーダーにでも引っかかりそうなので5分ほどでやめる。

 

「んじゃ、モンドグロッソの会場にでも寄って帰るか」

 

 んー、と伸びをした直後、センサーが向かってくる点を映した。

 

(ん?何だろこれ)

 

 疑問を浮かべ、彼女は工場内の壁に身を隠す。

 すると、一台のワゴンが入って来る。

 男四人が降り、後部座席からは目隠しと猿轡をされた少年が引きずり出された。

 そのあとに一人の女性。

 

(うわぁ……誘拐現場じゃん……どうしよ)

 

 彼女は別に銃を持ってる訳でもない。IS用のならあるが、オーバーキルは免れない。

 

(素手しかないよねぇ……)

 

 拳を握り、それを見つめる。

 向こうでは猿轡を外され椅子に固定された少年が、卑怯だ何だと喚いてる。

 

(取り敢えず、髪型とかは変えとくか)

 

 黒は反対の白髪でロングでぱっつん。そして、金眼はそのままに白目の部分を黒に変える。

 

(うんうん、我ながら完璧な変装。こんな奴はいないでしょ。んじゃ、悪者退治だー!)

 

 半ばヤケクソな彼女は壁から姿を出し、駆け寄る。

 

「悪いごはいねがぁぁぁぁぁ!!!」

「な!何だおま―――っぐほぉ!」

 

 銃を構える暇も与えず、腹パンで仕留め、隣の男を素早くハイキックを顎に決め沈める。

 

「泣ぐごはいねがぁぁぁぁぁ!!!」

「くそっ!当たらない!?―――ぐぉ!?」

「何だこいつ!―――あうっ!?」

 

 ライフルで弾をばら撒くも、彼女は全てを躱し肉薄する。

 そして、綺麗なアッパーを入れ、隣の男の金的を掌底で叩くと男は沈む。

 最後の女性はISを起動する。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

「おっと」

 

 近接ブレードの横薙ぎをバックステップで難なく避ける。

 

「ちっ!」

 

 すぐに武器を銃に切り替える。

 だが、

 

「遅いよぉ!」

 

 女性が構えるよりも先に、ソラはIS用のハンドガンを生身で展開していた。

 工場内に響き渡る轟音。発射された鉛玉は女性の顔に当たり、シールドが発生する。

 その隙にソラは懐に入り込む。

 

「ぶっ飛べぇ!」

 

 生身とは思えない強烈なボディブローが打ち込まれる。

 そのままISは吹っ飛び、壁を崩して埋もれた。

 

「ふひー、久々のいい運動だったー」

「あ、ああ……」

「あ……」

 

 途中から少年のことを完全に忘れていた。生憎、少年は目隠しをされたままなので何が何だか理解できていなかった。

 そして、センサーには近づいてくるISがあった。

 

「げ、しょ、少年!?」

「は、はい!?」

「元気でね!?」

 

 ソラは長い白髪を揺らし、すぐさま逃走を開始。

 少年の姉が来たのは直後だった。

 

 ソラは寄り道もせず、家に直行。そのままソファーに身を投げる。

 

「あぁ~~~」

 

 足をバタつかせて悶える。

 

「やってしまったよ……色々違くても派手にやっちゃったなぁ……」

 

 後悔しているようだった。

 

「しばらくは……隠居かな……」

 

 翌日の新聞には一面に『前大会覇者、織斑千冬まさかの棄権!?』とでかでかとあった。

 

 




ファイターは結構強そうですが、実はそんなでもない。
ぶっちゃけ、ISの強みを潰して経済的にコストを軽くする程度の代物です。

ここまでなら前回と同じ。

次話からイベント再突入。

とは言っても省略部分を展開するだけですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3

 工場でISを使った誘拐犯と戦った。

 

 

 

 その一件以降、彼女は出来る限り家から出ずに過ごそうとした。

 だが、そんなことは露知らず。工場での一件から数か月後、とある来客が来た。

 

 ピーンポーン。

 インターホンの音に気付き、横になってタブレットでIS用の武器の設計をしていたソラはむくり、と体を起こす。

 

「ん?密林で何か注文した訳でもないし、町内会の予定はまだ先なんだけど……誰だろう?」

 

 インターホンのカメラを使い、モニターで誰が来てるのか確認するが……、

 

「誰もいない?ピンポンダッシュってやつか」

 

 そうと決まれば、彼女は再び横になる。

 しばらく、部屋にタブレットをタップする音だけが静かに聞こえる。

 

 ピーンポーン。

 

「またか」

 

 モニターを見るが、いない。

 

「最近の子供はたち悪いねー……私も子供か」

 

 ルックスはねー、呟き乾いた笑いを零す。

 横になるのが面倒らしく、ソファーに腰を下ろす。

 

 ピピピピピピーンポーン。

 

「…………」

 

 スッと彼女は無言でタブレットを置き、立ち上がる。

 そして、ドアを開ける。

 

「(ガチャ)うご―――」

 

 ドアを開けると拳銃を向けた小柄な奴がいたので、取り敢えずソラは片手でそいつの頭を掴み、部屋の中に投げ飛ばす。

 

 犯人はノーバウンドで壁にぶち当たる。

 

「―――グハッ!?」

 

 ドアを閉め、鍵をかけ、チェーンロックまでする。

 

「ぐっ……うご―――」

 

 犯人は何が起きたか理解が及んではないが再び拳銃を構えようとする。だが、それよりも早く、風を切る音をたてた蹴りで吹き飛ばされ壁が貫通する。

 八畳二間が一六畳一間になった瞬間である。

 

 既に犯人は鼻血を出し、頭から出血しているが、ソラは気にせずマウントを取り拳銃を奪う。

 

「どちらさまで?」

 

 引き攣った笑みで尋ねる。

 

「ぐっ……うぅ……」

「あり?気絶しちゃったか?」

 

 首を傾げる。拳銃を持っていた地点で察せるが、ソッチ系の人なのだろう、と彼女は結論付けてベッドに寝かせた。

 

 

 

「しかし……まぁ……あの織斑千冬とかいうのに似ているような……?」

 

 部屋の修理と片付けを済まし、看病を始める。

 ピンポンダッシュ?の犯人は織斑千冬をショートカットにし、背を縮めただけのような少女だった。今は身ぐるみを剥いで、ジャージを着せている。拳銃の他にナイフやグレネード、通信機などがあったが全て没収。何か仕込まれている可能性も考慮し、自身の気休め程度のジャミング装置も起動させている。

 

「うっ……」

「おっ」

 

 唐突に顔を顰め始めたので、起きたのか確認する。

 

「ちっ―――」

「怪我人なんで寝ててねー」

「―――ぐふっ!?」

 

 ソラの顔を確認するなり飛び起きようとするが、容赦なく腹パンで沈める。

 

「け、怪我人にすることじゃないだろ……コフッ」

「どちにしろ、敵さんだからねー、容赦はしないよ?」

 

 寝かせた少女に微笑みかける。

 

「で、改めてどちらさまで?」

「答えるとでも?」

「その場合は吐くまで帰れま10」

 

 笑顔のソラ。

 だが少女は鼻でそれを笑う。

 

「コードネームでいいなら『M』だ」

「そのMちゃんはうちに何しに?」

 

 没収したナイフを弄りながら尋ねる。

 

「お前の始末だよ」

「始末?」

 

 全く心当たりがない、という感じにソラは答える。

 

「この間の工場での一件だよ」

「んん?知らないよー?」

「目を逸らすな」

 

 変装はしていた。バレるはずがないと踏んでいた。

 

「こっちだって必死だったんだぞ。全く手がかりがないせいで一度、思いっきり地雷を踏み抜いたから組織も危ういし……」

「へー」

 

 彼女は小指で鼻をほじりながら適当に流す。

 

「一から追跡し直してやっとたどり着いたのがここなんだよ」

「それはご苦労様です」

 

 ペコリとソラは頭を下げる。

 

「でもね、伝達手段はあらゆる手で封鎖してあるから、物理的な脱出以外残された手段はないと思うよ?」

 

 頭を上げた彼女の顔には笑みがある。

 だが、ベッドで寝かされている少女の顔にもまた笑みがある。

 

「それはどうだか」

「?」

「私の身体にはナノマシンがある。それで―――」

 

 何やら体内にあるトンデモマシンについて説明を始めようとする少女だが、

 

「ナノマシン?それなら多分今機能死んでると思う」

「―――私が……へ?」

「出血してたからそんときに採血して解析して、邪魔だと思ったから一定の電流を体内に流して全滅したと思う。万一、生きてたとしてもジャミングしてるから意味無いと思うよ?」

「……は?」

 

 まるで意味がわからんぞ、という感じに少女、Mは呆然とする。

 

「ん?まさかあのナノマシンって肉体維持とか生命維持目的の医療用だった?え?ちょっと待って、だとするなら……ヤバいな……」

 

 勝手に死なれては困るという感じに呟く。

 

「……い、いや!そんなことはない!むしろ壊したなら有り難いくらいだ!」

「……え?どゆこと?」

 

 一回話を整理しようとお互いに何をしたか、何をされたか話しあった。

 

「ほー、なるほど。要するに今のMちゃんはとある目的のために今の組織に入ったら(かせ)を付けられたと」

「ああ」

「で、これからどうするの?」

「どう……って?」

 

 Mは首を傾げる。

 

「枷を壊した以上、これ以上従う必要は無いんじゃないの?」

「まぁ、そうだな」

「もしかして、何も考えていない……?」

「…………」

 

 静寂が場を包む。

 気まずそうにソラが口を開く。

 

「……も、目的も組織から離れても達成できそうなの?」

「……貯金はあるが、引き出す度に追跡されるから実質ゼロだな」

「資金も無いのかぁ……」

 

 最早、当初の目的など無く、どこぞの組織の少女を助ける方法についての探り合いになってしまった。

 

「仕方ない。こういう時のための2chで安価―――」

「やめろ」

「冗談冗談、大人しく一度戻ったら?それが今のところの最善策かもね」

 

 Mは一度考え込む。

 

「……それもそうだな。上には『逃がした』とでも報告するか」

「取り敢えず、これ私のメルアドと電話番号、SNSのIDね」

「わかった」

 

 連絡先を交換し始める程、馴染んでしまった。

 

「一応、仕事上IS関連のことやってるから困ったら相談してちょ」

「ああ」

 

 そして、少女『M』は帰った。同時にこれでいいのかという疑問も持ったが、些細なことだろう。

 ソラは改めて部屋に残った微妙な壁の取り壊し作業に入り、見事完璧な16畳一間の部屋に改築することが出来た。

 

 大家に大目玉を喰らったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 Mとちょくちょく連絡を取りながら二年の月日が流れた。

 IS企業『リベレーター』としての彼女はちょくちょく市場に商品を流したり、HPを開設したりして、知る人ぞ知る企業となっていた。

 数少ない仕事はオーダーメイド品の製作が中心だった。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌混じりにPCで3Dモデルを作る。バックではもう一人?にパーツ製作を任せている。

 だが、カコン、と軽い音と共にアパート特有の小さなポストに何かが入る。

 取りに行くと宛名も差出人もない茶封筒が一つ。

 

「ん?」

 

 中には便箋一枚と一つのUSB。

 便箋を見ると、

 

『 Dear My daughters

 

   Toriaezu IS gakuen ni ittekite ne.

 

       FROM your mother    』

 

 何故ローマ字。

 

 真っ先に思い浮かんだのはそれだった。

 だが、

 

「ユアマザーって……マジか……」

 

 彼女は露骨に顔を顰める。

 そして、カレンダーを見ると一月は中旬、受験日の一か月前。

 しかも、

 

「……えぇ……」

 

 受験届の締め切りが明日までだった。

 そして、USBをPCで開くと、

 

「受験届……きっちり私の年齢15ってあるし……国籍は日本なのね……」

 

 ワープロで既に打ち込まれていたのは新しい戸籍。

 そもそも、彼女はまだ10年生きてるかどうか怪しい。

 

「要するに、これを送れと……相手が母さんとなるとなー……逆らわないほうがいいか」

 

 大人しく、ワープロのファイルをIS学園に送る。

 そして、受験番号は―――

 

「―――15983ってめっちゃ多いな……」

 

 彼女は不安になる。

 流石、倍率100倍を超える専門高校、IS学園。

 

 

 

 

 

 例え本人がISだったとしても、ISの理論をパーフェクトにこなせる訳ではない。

 

 特にソフトウェア面では。

 

「ん~!採点もこれで最後です!頑張っちゃいましょー!」

 

 IS学園の職員室では教師にしては小柄な女性、山田真耶が試験の採点を行っていた。

 

「えーと?ソラ=オンブグレンストさんね……すごーい、基礎教科は国語以外パーフェクト、IS工学のハード面もパーフェクト!?じゃあ、ソフトウェ……ア……で……も……???」

「ん?どうした?山田くん?」

 

 山田真耶はテストの解答を見て固まり、その様子を見て教員職を始めた織斑千冬がやってきた。

 

「お、織斑せんせぇ……」

「どうした……涙目になって……ん?ソラ=オンブグレンストの解答……か……?」

 

 二人共、ソラのIS工学ソフトウェア面での回答を見て固まる。

 何故なら、

 

 

 

 所々の解答欄には目一杯の0と1の羅列が書かれていた。

 

 

 

「……あんな回答で受かるんだ……」

 

 彼女の手元には二次試験:実技に関する案内が届いていた。

 

 

 

 彼女は再び日本の地に降り立つ。

 

(久々だなー、この空気も。生身で空を飛ばなかったのは少し勿体ないかもしれないけど)

 

 彼女はIS学園に向かう。

 

 

 

(取り敢えず、マークするのはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットと日本代表候補生、更識簪かな?私に関する情報を持ってそうだし、特に更識の方は)

 

 ソラはIS学園のアリーナに併設された更衣室のベンチで横になって周囲を見渡す。

 彼女は自分が最後の受験者と知り、まだ着替えずにジャージのままである。

 とは言っても彼女の場合着替える必要はないのだが。

 

 仕事の続きでもするか、と彼女は思いベンチ下のバッグからタブレットを取り出そうとすると、こっちに向かってくる青いISスーツを着た金髪ドリルの子、セシリア・オルコットがいた。

 

「ちょっとよろしくて?」

「ん?何ですか?」

「ベンチに座りたいのですが」

「ああ、すみません。どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 彼女はすぐさま身体を起こし、空いたスペースにセシリアが座る。

 

「確か、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットさんであってるよね?」

「ええ」

 

 セシリアの顔には自分の事を知られていると知り、少し笑みが浮かんでいた。

 

「よくご存じで」

「まぁ……事前情報で粗方のことは調べて目を付けているからね」

「勤勉なことですわね」

「いんや、のんびりと過ごそうとしてたけど親が入ってね、と言ったからね……逆らうに逆らえないよ……ハハッ……」

 

 苦笑を浮かべて答えるソラ、対して親という単語を聞き表情に陰りが見えるセシリア。

 ソラはそのことに気付いたが敢えてスルーする。

 

「ところで……その端末で何をしていらっしゃるのですか?」

 

 タブレットの液晶をセシリアが覗きこもうとするが、

 

「ちょっとタンマ」

「え?」

 

 セシリアの額に人差し指を当て止める。

 ソラは液晶を確認する。

 

「うーん、これならいいかな?」

 

 ソラは液晶をセシリアにも見えるように寝かせる。

 映っているのは3Dモデルだった。

 コの字型のレールを上下に向かい合うように並べたものだった。

 

「これは?」

「装薬磁気複合式加速砲。まぁ、レールカノンってやつの設計図だね」

「確か……ドイツのISに積まれている……」

「そう、それ。それの次のモデル」

「え、ええ!?」

 

 セシリアは口を押えて驚愕する。

 

「今のやつだと回転式弾倉、リボルバー式だね。それだから弾倉式のやつの設計を頼まれてるんだよ」

「も、もしかして……企業の幹部とか……?」

「さぁね?」

 

 ニヤニヤしながらソラは答える。

 実際は社長だが。

 

「まぁ、これも一応、輸出用のモデル出るから、然程(さほど)問題は無いね」

「そ、そうなのですか……しかし、若くしてISのアーキテクトとは……」

「どうだか……それよりもいいの?そろそろ時間じゃない?」

「ふぇ?……あら、時間ですわね。知らせてくれてありがとうございます」

「いやいや、まぁ、久しぶりの大空でしょ(・・・・・・・・・・)?頑張ってね」

「え?ああ、はい」

 

 セシリアは立ち上がって去って行く。

 

(ん?わたくし、時間を教えましたっけ?)

 

 疑問は尽きない。

 一方、ソラは再び横になる。

 

「んー、室内で張り詰めたままとは……ご苦労なこともあるんだねー」

 

 彼女はタブレットを弄り、今度は実技試験の概要を見る。

 

「フィールド内での教員との一対一(サシ)、時間は5分間」

 

 彼女はこの間仕入れた武装を確認する。

 

「なら、フルに使って、銃身の交換は一回か」

 

 一人ニヤつく彼女であった。

 

 

 

「ふぅ~」

「ん?オルコットさん、お疲れ様です」

 

 再び身体を起こし、場所を空ける。

 

「どうでした?」

「何とか教員を墜とすことはできましたわ」

「おおー」

 

 ソラは拍手をする。

 

「元々、代表候補生だし合格確実じゃない?」

「そうですわね」

 

 当たり前ですわ、と言わんばかりに顔にかかる髪を払うドヤ顔のセシリア。

 

「そういうあなたはどうなのです?」

「うーん、ISは……二年前の試験運用が最後かな?」

「ええ……」

「まぁ、何とかなるでしょー」

 

 その気になれば専用機を使わなくてもいい、だからか。

 

「わたしはこれで帰国しますので、頑張ってください」

「英国貴族直々の応援とは、これは結果を残さないと……」

「ふふっ」

 

 軽い談笑を交わし、セシリアはロッカーの方に向かって行った。

 

「さて、私も頑張りますか」

 

 その宣言とは別に彼女の身体は横になった。

 

 呼び出されたのは一時間後だった。

 彼女はアリーナの通路をジャージ姿で歩く。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながらフィールドに出る。

 向かう先には第二世代型IS『ラファール・リヴァイヴ』を身に着けた山田先生がいた。

 

『最後の受験者、ソラ=オンブグレンストさん……ですよね?』

「あー、はい」

『ISスーツは?』

「必要ないんで」

『そ、そうですか……ハハッ』

 

 渇いた笑いがこぼれる山田先生。

 

「じゃあ、展開してもいいですか?」

『専用機持ちでしたよね。どうぞ』

「よっと」

 

 彼女の白く丸い機体が展開されるが……、

 

『ガトリングですか……って30mm!!??』

 

 彼女の両腕の側面にはGAU-8、彼の魔王が生み出した破壊神(A-10)の主要武器が取り付けられていた。

 更に脚部の(かかと)に当たる部分に固定用アンカーも付いている。

 弾倉はサイズが大きすぎるため両肩のハードポイントに固定されている。

 流麗なデザインが台無しである。

 

『ひ、ひぃ~~』

 

 もう既に武装を見ただけで涙目になる山田先生。

 ソラは山田先生からある程度離れた位置まで行くと、アンカーを打ち込む。

 

「よし、準備オーケーですよー」

『……あぁ……分かりました』

 

 どこか悟った感じに言う。

 そして、カウントが始まり電子音のブザーが鳴る。

 すぐさま山田先生は空へ逃げ出す。

 さっきまで立っていた位置をおびただしい数の30mm弾が貫いていく。

 だが、それは右手だけのものだった。左手のモノが向けられる。

 そこからはノンストップでの飛行だった。

 2秒ごとにソラは交互に両腕のガトリングを動かす。

 ヴォォォォォ!ヴォォォォォ!と両腕のアヴェンジャーは何度も唸る。

 

(うぉぉぉぉぉ!!??反動が重いのぉぉぉぉぉ!!!つーか、脚部も悲鳴あげてるしぃぃぃぃぃ!!!)

 

 かなりとばしているいる割には必死で、背部のスラスターも火を噴いている。

 

 また、空中でひたすら回避に徹する山田先生も必死だった。

 

(ひぃぃぃぃ!?一発でも当たったらバランス崩して全部持ってかれちゃうんですけどぉぉぉぉぉぉ!?)

 

 不規則に飛ぶが運がいいのか先程から足元ばかりに30mm弾が過ぎ去ってゆく。

 

(だけどガトリングなら銃身の損傷は激しい。さっきから打ちっぱなしだけどそろそろ銃身交換の時間が来る!無かったら終わりだけどそれに賭けるしかない!)

 

 心の中で決心し、地上で対空兵器と化したソラを観察する。

 そして、持っていたライフルを仕舞い、呼び出すのは狙撃用にカスタムされた大口径105mmライフル砲。

 

(一撃で……決めるっ!)

 

 

 

(うぐぐぐぐ……ヤバいなー、そろそろ時間かな……)

 

 徐々に両腕のガトリングの方針が赤みを帯びてゆく。

 そして山田先生の手元を見る。

 

(勝負を仕掛けてくるね……なら―――)

 

 まず、右腕の連射を止める。

 量子変換し、一度拡張領域に戻す。

 そして、左腕のも量子変換し、右腕には新しい銃身が出現する。

 空中では山田先生が飛行を止め、ライフル砲を構える。

 銃身が出現し、銃身が固定され回転を始める。

 ライフル砲から榴弾が発射される。

 GAU-8の砲身から30mm砲弾が次々と発射される。

 空中で互いの弾が交差する。

 

(―――賭けだんっ!)

 

 ヘッドショットを貰った。

 

(おうふ……)

 

 弾はシールドに止められたが、衝撃までは止めてくれない。

 

 彼女は仰向けに倒れた。

 そして、山田先生が不時着する。

 

「あたたたた……SE(シールドエネルギー)はよかった……残量まだあった……って大丈夫ですか!?」

 

 山田先生はISを解除し、駆け寄って来る。

 

「あ、はい、大丈夫ですので」

 

 一人で立ち上がり、ISを解除する。

 

「そうですか。それでは、本日の実技試験は以上になります。結果は後日、追って通知しますので」

「分かりました」

「本日はありがとうございました」

 

 ソラは握手を交わして、腕をプラプラさせ、更衣室に戻る。

 更衣室は既にもぬけの殻で、スキャンすると既に他の受験者は外に出ていた。

 それを確認すると、空いたスペースに自身のISを展開する。

 

「今日はお疲れさん……ん?ふざけんな?あのねぇ、あんただけが被害受けていると思ったら大間違いなのよ」

 

 彼女の腕の関節は青くなっていた。実際に色が青くなっているだけだが、彼女にとってはそれは損傷の度合いを表すものになっている。

 

「取り敢えず」

 

 彼女の周囲に工具が展開される。

 

「あんたの腕部を()してから帰るよ」

 

 一番ガトリングの反動の被害を受けた腕部を修理し、彼女は家に帰る。

 彼女自身も傷ついていたため、しばらくはコアの状態で過ごした。

 

 

 

 

 

 そして一週間後、合格通知が届いた。

 




セッシーはワンサマーにあんなこと言ってたけど、相手が相手だからとは思います。
根は親切でいい子。

ソラちゃんの武装は基本、使い勝手を度外視したものです。
火力とロマンが頼りです。

うーん、最後の実技試験は思ったよりも上手く描写できなかったような。

やっと次回から原作突入。

クラスは大所帯でIS学園に来ない限り、専用機持ちが中々来ないあのクラス。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4

相変わらずのクオリティ。

それとオリキャラ出てきます。
そういったものが苦手な方は注意してください。

恐らく、ここから人によって好みが出るかも?


「企業所属のソラ=オンブグレンストです。特技は機械弄りです。よろしくお願いします」

 

 ソラは自己紹介をし、席に着く。

 そして、隣の列の先頭が立ち上がって自己紹介を始める。

 彼女の席は窓際最後尾。眺めがいい。

 

(学校は初めてなんだけど……設備良すぎない?これ)

 

 肘をついている机には電子パネルやら何やら多機能だし、黒板も黒板というよりスクリーンだし。

 最も彼女としては、学校の設備よりも新鮮な気分の方が強く、感慨深くもある。

 あの研究所から脱走した日。あの日から全ては変わった。

 

(ちゃっかりこういう(人間の)生活にも慣れちゃったしねー。それにここならバレなきゃ干渉も無く動けるし。早めに入寮して正解だったよ。アリーナの使用許可貰えたの一月前なのに、使えるの来週の月曜(・・・・・)だし。しかも貸し切り!)

 

 ニヤついた笑みを浮かべ左腕の腕時計(・・・・・・)を撫でつつ、思い耽っていると、自己紹介が終わったらしく担任が口を開く。

 

「今年一年三組の担任を務める―――」

『キャァァァァ!!!本物の千冬様よ!!!』

『千冬様に会うためにこの学校に来ました!北九州から!』

『お姉さまのためなら死ねます!!!』

「―――エレナ・エディソンよ。くれぐれもあんなバカに育たないように気を付けるわ」

 

 そういうエレナの顔は心底嫌そうな顔だった。

 

「あと、副担任に菅野という人がいるけど、実技の時だけ来るわ。あとは私がいない時ね」

 

 そこまで話すとチャイムが鳴る。

 

「じゃあ、次の時間の準備をするから」

 

 そう言ってエレナは出て行く。

 そして、生徒も一斉に教室を出て行く。

 向かう先は……、

 

(一組にいる織斑一夏ねぇ……世界初の男性操縦者かぁ……確かに個人(・・)によって好み(・・)はあれど、何故私たちに干渉(・・)することができるのか……そこが謎なんだけど……)

 

 誰もいなくなった教室でソラは一人考える。

 

(最も、私としてはちょっと変わった人間としか思えないけど)

 

 ソラは改めて周りを見渡すと、

 

「……」

「ん?どうかしたの?オンブグレンストさん?」

 

 ソラの隣の席の生徒一人だけ、教室に残っていた。

 

「確か―――」

「―――三枝木(さえき)玲奈(れな)。玲奈でいいよ」

 

 彼女は二つに結った髪を揺らしながら言う。

 

「……で、その玲奈は何で残ってるの?皆、織斑一夏(客寄せパンダ)の方に行ったけど。あと、そっちが名前でいいなら、私もソラでいいよ」

 

 ソラは引き出しからタブレットを取り出して言う。

 玲奈は体を横に向けて肘をつく。

 

「そういうソラも何で行かないの?」

「興味が無い。と言えば嘘だけど、あそこまで執着する程でもないから」

 

 廊下からは女子特有の高い声がうるさく響いてる。

 

「で、玲奈も?」

「まぁね。暇があれば見に行く程度。ぶっちゃけ、そんなことより自分の方が心配……あはは……」

 

 苦笑を浮かべて玲奈はそう言った。

 

「ソラって企業所属って言ってたけど、どこの?」

「リベレーター」

「リベレーター……ああ、あのパッケージ『ファイター』作ったとこよね?」

「まぁ、そうだね。ここにも配備されているよ」

 

 ソラにとっては数年前の記憶を掘り起こすことなど苦も無くできる。

 本人に言わせれば、記憶ではなく経験(・・)だが。

 

「そういえば、リベレーターって他にどんなことやってるの?それ以来全く話聞かないんだけど」

「それを私に聞くかな?」

「だって、実際内部関係者じゃん」

 

 これは正直に話す他ないな、とソラは結論付ける。

 

「うーん、まぁ、ネットの広大な海の中から探せばHP出てくるよ。そこに大体の業務内容書いてあるから」

「え?本当なの?」

 

 早速、玲奈は多機能デスクを使い検索をかける。

 しばらくすると少々残念そうな顔をしたクラスの皆が戻ってきて先生、エレナも教材を持って戻ってくる。

 

「えーと、授業始める前に一つ決めることがあるのよ。クラス代表。ざっくり言えば、学級委員長ね。そこにプラス、今度あるクラス対抗戦の出場者でもあるのよ。で、誰かやりたい人いる?」

 

 対抗戦に出場というメリットはあるが、いかんせん学級委員長という務めもある。誰も手を上げない。

 

「じゃあ……」

 

 エレナはクラスの生徒を視線でなぞっていく。視線の合った生徒はビクッと体を固めるが、過ぎ去ると安堵の息を吐く。

 そして、彼女の視線は一点に止まった。

 

「オンブグレンスト」

「何でしょう」

 

 既にソラには嫌な予感しかない。

 そして、周囲にはクラス中の視線。

 

「貴女、専用機持ちよね?」

 

 目を逸らすが、大人しく言うしかない。

 

「…………はい」

「「「ええー!?」」」

 

 ソラは渋々答え、クラスから驚きの声が上がる。

 ソラ自身、隠し通せるとは思っていないが、自ら専用機持ちとは名乗る気はない。

 日本にいる以上、ソラの恐れる人達(日本IS技研)がいつ来るか分からない。

 

「よし、決まりね」

「せめて拒否権は……?」

「そうねぇ、じゃあ多数決で決めるわ。ちなみに、対抗戦で勝った暁には―――」

 

 エレナは一拍置く。クラスの皆はゴクリと唾を呑み込み、ソラは対抗戦に出れることと学級委員長やら目立つことの損得勘定で気持ちが揺れ動いている。

 

「―――スシ食い放題……よし、オンブグレンスト含め満場一致ね」

 

 食い放題には勝てなかった。クラスの皆も、また。食欲を隠す必要などなかった。

 ソラはISである以上、食事の代わりに補給をしなければならない。その中で食事も補給手段の一つとしてある。ただ、すこぶる効率が悪い。そのため食費を掛ける訳にはいかず、出来る限り食欲?を抑えて電気で代用している。さらに相方の存在もあり出来るだけ自重していたが、ここに来て我慢できなくなった。

 

(うう……ごめんね……私も一回でもいいから食い放題をしてみたいのよ……)

 

 トホホと結局自分も欲にまみれていると分かった。

 だが、悲劇はまだあった。

 

「オンブグレンストは確か、来週の月曜の放課後にアリーナの使用許可貰ってるでしょ?」

「え?まぁ、はい」

「で、一つお願いなんだけど、専用機持ちとして少しは皆に動きを見せてくれない?あんまり時間は取らせないつもりだけど。せめて実技の授業の前に本物の動きでも見せたいからね」

 

 両手を合わせてエレナは頼む。ソラも周囲を見ると、他の生徒も期待の眼差しを向けている。

 

「……分かりました」

「ありがとうね」

「ただ、私の武装は正直、皆さんのお手本となるようなものではないので、動きだけでいいですね?」

「あー、そうね……貴女の武装は腕部固定式のよね……」

 

 すると、生徒の一人が手を上げて尋ねる。

 

「先生、腕部固定式って何ですか?」

「IS用の武装に関する授業の時に説明するけど、ざっくり言うと反動制御に重きを置いた武装よ。それか大口径砲を仕様する際に用いる方法なの。まぁ、昔は結構あったけど最近は見ないわよね」

 

 それじゃあ最初の授業をはじめるわ、エレナは電子ボードの方に振り返りながら言った。

 

 

 

 そして、早速問題が起きた。三時間目が終わった時のことである。

 

「オンブグレンスト、ちょっと来てちょうだい」

「?」

 

 ソラは席を立つ。

 

「ソラ、何かしたの?」

「いや、思い当たる節は……無くも無いけど」

「何それ」

 

 玲奈は疑問符を浮かべる。

 初日にして呼び出された。内心穏やかではないが、廊下に出ると、

 

「えーと、織斑先生ですよね?」

「ああ」

 

 少し申し訳ないという感じの織斑千冬がいた。

 

「来週の月曜のアリーナの使用許可なんだが……少し予定を遅くしてもらってくれないか?」

「何故?」

「うちのバカ共が決闘をすることになってしまってな……それでアリーナを使いたいんだ……」

「…………」

 

 たったそれだけの理由で時間が潰されるとは、ソラとしては不快な気分にならざるをえなかった。

 

「取り敢えず、どういった経緯でそうなった説明を求めます」

 

 そして千冬はクラス代表を決めるときの揉め事について説明した。

 

「はぁ……あのオルコットさんが」

 

 それは期待外れ、心底呆れたというような声音だった。

 

「知り合いか?」

「試験会場で少し話した程度ですよ。はぁ……決闘なら他で決めてください。そもそも、自分の地位に甘んじたオルコットさんに非がありますし、なら自薦しろですし。決闘なら……ん?」

 

 ソラの脳裏?に妙案が浮かぶ。

 

「どうした?」

「先生、ここは一つ手を打ちませんか?」

「どういうことだ?」

 

 ソラはニヤついた笑みを零さずにはいられなかった。

 

「決闘とは別で、私の模擬戦を入れてください」

 

 

 

「ソラー、どうだった?」

「アリーナの件。それで少しいざこざが……」

「その割には何か嬉しそうじゃん」

「まぁ、お楽しみに」

 

 ソラは席に着く。了承を得ることができ、嬉しさのあまり笑みが零れる。

 

 

 

 やはり男性操縦者がいるだけで人は集まって来る。

 お蔭でうるさいしやかましい。

 

「はぁ~、疲れた」

「まぁ、そうよねー。よくもあれだけで大騒ぎ出来るよねー。私は我が身を第一にしているから余裕ないけど」

 

 ソラと玲奈は放課後、グターと机に横たわる。

 

「しかも、あれ、織斑くんかなりのイケメンだったけどさー、苦笑い向けられてよくあんな奇声上げれるよね」

「何が目当てでここに来たんでしょうかね?私?私は親の言いつけだよ?」

「私は単に就職強くなりたいからねー。ファイターのお蔭で航空産業にも強くなったっぽいし」

 

 二人ははぁ~、と溜め息をつく。

 

「ともかく帰るかな」

「そして、帰って復習だよー」

「頑張れ、玲奈。私は問題無いし」

「うがー!頭がいい奴はこれだからー」

 

 お互い声だけで、体は横たわったままだった。

 

「……帰るか」

「……うん」

 

 よっこらせとか、よいしょという女子高生にあるまじき声を出して教室を出て、寮に向かう。

 

「そういえば、ソラは何号室?」

「1024だよ。一月前から入寮させてもらってる」

「へー、私は……2024だから丁度上だね。もしかしたら尋ねに行くかもねー」

「まぁ、私はそんな外でやることないし、大抵は部屋にいるかもね」

 

 そして、階段で二人は分かれる。

 ソラは1024と書いてある部屋の扉の鍵を開ける。

 

「ん?」

 

 明かりを点けると目の前には5つ程のダンボールが置いてあった。

 

「今までは私の一人部屋だったけど、ようやく相方が見つかったのかな?」

 

 彼女は左手首の腕時計(・・・)を外してベッドにほうると、ISコア(・・・・)がベッドの上に転がった。

 取り合えず、段ボールは隅に寄せておく。

 しばらくすると、コン、コンと控えめなノックがした。

 

「どうぞー」

 

 ソラはベッドでISコアを転がしながら応える。

 

「あの……」

「ん?ここに割り振られた人?」

「うん」

 

 静かにソラの様子を見ているのは、水色の髪に眼鏡を掛けた少女だった。

 

「一応、私は結構前からここ使わせてもらってるから、窓際のベッドでいい?」

「分かった」

「これからよろしくね。三組のソラ=オンブグレンスト」

「四組の更識簪」

 

 更識―――あっ、ヤバいな、とソラは感じたが冷静に対応する。

 

「更識簪……あー、『更識』の……」

「…………っ!」

 

 キッ!と簪は睨み、ソラはやべっ、という顔をする。

 だが、次に出てきたのは意外な言葉だった。

 

「その名で呼ばないで……っ!」

「……へ?」

 

 簪はソラが勝手に思い込んでいた程の注意人物だったのか。

 向こうは声に出してから、あっ、と言いおろおろし始める。

 

「あー、じゃあ、簪……さん?」

「……はい」

 

 弱々しい声音で答える。

 

「あの、今後ともよろしくね?」

「う、うん」

 

 お互いぎくしゃくしてしまう。

 だが、ソラは会話を繋ぐものとして一つの共通点を発見した。

 

「そ、そういえば、簪さんも専用機あるんだよね!」

「…………う、うん……」

 

 言ってから、そういえばこの子のは未完成品だったと気づいた。

 

「「…………」」

 

 どうしようもなく微妙な雰囲気。

 だが、それを破ったのは簪だった。

 

「……え?IS……コア?」

「え、あ、これ?」

 

 簪が恐る恐る指を指すのは、ソラが手で遊んでいる黒い球体。

 そして、それをソラは鷲掴みにして持ち上げる。

 

「何で……何でそれを剥き出しで……!?」

「何でって……色んな意味で()だし」

「…………」

 

 簪の口は開いたままだった。

 

「おーい?」

「……っ、危機感持った方がいい」

「んー、そうだね。忠告は受け取ったよ」

 

 そう言いつつもソラはバスケットボールの様に指先でコアを回す。

 

 簪は奇妙なルームメイトだなと結論付ける。

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み。

 ソラは玲奈と一緒に食堂にいるのだが、

 

「ええと、カツ丼牛丼ミートソースパスタ三つ全てギガ盛りで」

「わ、私は野菜炒め定食かな……あ、普通です」

 

 一人でお盆二つを使い、有り得ないレベルの量の昼食を取ろうとしていた。

 周囲もそのソラをUMAでも見たかのような目を向ける。

 

『え……あの量食べれるの……?』

『栄養はどこに行くのかしら』

『あの様子だとまんま消化されてるっぽいけど』

 

 ソラの胸は平均クラス。よって栄養はまんま消化されている(ただ平均データに則って体を映し出している)

 

「ソラ……朝もそんな量だったけど……」

 

 そう、実は朝食もかなりの量を摂っていた。

 

「だってこれくらい食べないと足りないもん」

「えぇ……」

 

 出会って二日目で、親友になるかもしれないクラスメートは大飯食らいだった。

 二人でいただきますと挨拶をして食べ始めると、黄色い歓声が聞こえ始めた。

 

「どうやらパンダが来たようだね」

「パンダって言い方はどうなの……」

 

 既にパスタを完食し牛丼の処理にかかっているソラはその手を止めて、その元凶の方を見やる。

 玲奈がそっちを見ると、ポニーテールの女子と手を握っていた。

 

「手をつないでるあの人は……」

「篠ノ之箒さんだね」

「知り合いなのかな?」

「さぁ?」

 

 二人は食事を再開する。

 だが、運が悪いことにその二人はソラと玲奈が使っている隣のテーブル席に着く。

 二人はうるさくなりそうと思い、自然と箸の動きが速くなる。

 

「そういやさあ」

「……なんだ」

「ISのこと教えてくれないか?このままじゃ来週の勝負で何も出来ずに負けそうだ」

「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」

 

 ソラは一連の事情を知っているが、玲奈は知らないため口を寄せて尋ねる。

 

(織斑くんって何があったの?)

(一応、知ってるけどあと。今は完食を目指すのみ!)

 

 残りはカツ丼だけである。

 それを呆れたように見る玲奈。

 

「それをなんとか、頼むっ」

「…………」

「なあ、箒―――」

「ねえ、君って噂のコでしょ?」

 

(三年生ね)

(ほら来た。さっさと食べるのみ)

 

 カツ丼の丼ぶりを掴み一気にかっ込む。

 それからその三年生はISの稼働時間について話す。

 

(教科書にも書いてあったけど稼働時間と実力って比例するもん?)

 

 玲奈は確認を取るようにソラに尋ねるが、

 

(まぁ、そうだよね。慣れって一番重要だし)

(そういうもんかぁ……)

(うん。ああ、でも最後は好み(・・)かな?そこらへんはちゃんと折り合い(・・・・)を付けないと。ああ、でも平伏(・・)させるのも一つの手だよ)

(???)

 

 玲奈にはまだ早かったようである。

 背後では、何やら剣道場で云々という会話があった。

 

 

 

 放課後、駆け足で剣道場へ向かう生徒たちがいる中、普通の歩みでそっちへ向かう二人の足があった。

 

「へー、イギリス代表候補生の人そんなことやっちゃったんだ……」

「私も面識あったけどその時はそんな雰囲気微塵も無かったよ。目の前にいると変わるもんなのかな?」

「さぁ?女尊男卑の影響を受けた人の感性は知らないよ」

 

 雑談を交わしていると剣道場に着く。

 既にそこには地に伏している織斑一夏の姿があった。

 

「そういえば、篠ノ之箒さんは剣道の全一だったね」

「そうなんだ……」

 

 目の前でいくら打ち合いしても圧倒的に強い篠ノ之箒を見て、玲奈は納得する。

 

「剣道ってISの実力に関係あるの?さっきからそんなような話が聞こえるけど」

 

 実際、ISを使い練習したい織斑一夏とそれ以前の問題とする篠ノ之箒の対決である。

 

「どうだろう?近接武装がブレードなら基本的な動きは出来るかもね。ただ、ISは三次元的な動きになりやすいから分からない。でも地上でカサカサ動くのも戦術の一つだけどね」

「ちなみに、ソラは何かやってるの?」

「いや、何も?そもそも、私もそんな動かしたことないし」

「……そんなのでいいの?」

 

 疑いの視線をソラに向ける玲奈。

 

「いいのいいの、適当に弾ばら撒いて、近づかれたら喧嘩みたく殴り合いだよ」

 

 こいつは本当に専用機持ちなのか、玲奈は最早疑わざるを得なかった。

 実際は借用品(盗品)であるが。

 




実は戦闘は結構テキトーなソラちゃん。

近接格闘のやり方は今後出てきます。

簪ちゃんの口調これでいいかな?
最低限の言葉で会話するタイプのようだし……。

1巻後半から原作と乖離していく予定です。

ちなみに一昨日スマホの液晶が大破して死にかけてましたが何とか復活しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5

 そして、月曜日。

 アリーナのピットに繋がる通路をソラは一人歩く。

 格好はISスーツではなく、ジャージ。

 そして、自動ドアの前に立ち、プシュッと空気の抜けるような音と共にドアはスライドする。

 

「あら、あなたは……」

「ソラ=オンブグレンスト。久しぶりだね、オルコットさん。今日はよろしく」

「ええ」

 

 ソラはセシリアのピットに来ていた。

 そのセシリアはもう既に専用機『ブルー・ティアーズ』を展開し身に纏っている。

 

「ことの顛末は聞いているよ。オルコットさんがそういう人なんだってよく理解したよ」

 

 ソラは淡々と言う。

 セシリアも冷めたように答える。

 

「実際そうではなくて?」

「さぁね?そうかそうでないかは自分で確かめないと分からないよ。まぁ、一応あれでも世界最強(織斑千冬)の弟だからね。どうなるかはわからないと思う」

「私が勝つに決まっています」

「そうだろうね」

 

 私もあなたにベットしたし、と呟くが、ISのハイパーセンサーはそれすらも拾う。

 

「ベット?」

「あ」

 

 ソラは気まずそうに視線を逸らし、セシリアはジト目で見る。

 

「ま、まぁ、セシリアが勝つと幸せになれる人もいるということだよ」

「はぁ……いいでしょう。相手は素人。負けるはずがありません」

 

 ブルー・ティアーズはカタパルトに足を嵌める。

 そこでソラは、一つ言い忘れたことがある、と。

 

「いいんだよ、自由にやって。全てを捻じ曲げる気で行きな」

「?」

 

 セシリアはソラの言葉に疑問を覚えつつもカタパルトで発進する。

 

「さて、お次は……」

 

 今度は逆側のピットに向かう。

 

 世界でただ一人の男性操縦者。

 その人には専用機が渡される。

 その程度のことは知っていた。

 だが、

 

「…………うへぇ……うせやろお前……」

 

 ピットの自動ドア。

 その10メートル程手前で感じる、

 

 彼女が最も苦手とする相手を。

 

 ゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ距離を詰める。

 そして、ドアが開く。

 

「…………」

「ん?オンブグレンストか……ってどうした?その顔は」

 

 ソラは苦虫を噛み潰したかの様な顔をしていた。

 この場にはソラと千冬以外に三人の人物がいた。

 

「あっ、オンブグレンストさん、お久しぶりです」

「……えーと、試験官の―――」

「山田です」

「―――その節はありがとうございました」

 

 山田先生に一礼する。

 千冬は残りの二人に紹介をする。

 

「この生徒がソラ=オンブグレンストだ。お前らにアリーナの使用許可を譲ってくれた張本人だ。感謝しろ」

 

 後ろにいたのは織斑一夏と篠ノ之箒だった。

 

「あ……どうも、織斑一夏です……」

「じゃあ、アレのパイロットが君……?」

 

 恐る恐るソラは、

 

 白いソレを指さす。

 

「そうみたいなんだよね……」

「あ、ああ、そ、そう……」

「何で距離取っているの!?」

 

 ソラは言葉を投げつつも出口にじりじりと近づく。

 

「で、そっちが篠ノ之箒……さんだよね?」

「あ、ああ」

「きょ、今日はよろしくね。じゃあ、私はこれで……」

 

 引き攣った笑みを浮かべ、ソラは退場した。

 

「挨拶……だけだったな」

「あ、ああ」

 

 箒と一夏の二人は呆然とし、千冬が出席簿で目を覚まさせた。

 一方、通路に出たソラは溜め息をつく。

 

「はぁ~、やだやだやだやだ、あんなの(・・・・)と一緒にいたら息が詰まってしようがない」

 

 彼女はトボトボと更衣室へ向かう。更衣室にはアリーナの様子を確認するためにモニターが設置されており、そこから観戦することも可能である。

 そこにソラは一人、ISコアを膝に置いて座っていた。モニターに映るのは向かい合う青の機体と白の機体。

 

「ほれほれ、見るなら見といてね。アレがそうなんだから。私?私は苦手なのよ。正直、これからストレス溜まっていくかも……いいよねぇ、アンタは気楽で。私も私でこの生活を望んで手に入れた訳だけど……ここに来るのは正直、予想外だよ。しかも、アレと一緒とか反吐が出るわ」

 

 露骨に嫌だと言えるような表情を浮かべる彼女は誰かと話し合っているかのように語っている。

 モニターでは一夏の乗る白い機体『白式』がセシリアの青の機体『ブルー・ティアーズ』に肉薄するが、弾道型のビットにより迎撃され黒煙に包まれている様子が映っていた。

 

「……ふーん、ようやくスタートラインってとこかな?」

 

 そこには先程の白とは違う、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴の機体になった。

 そして一夏はすぐにセシリアに肉薄し手に持つカタナが展開し、光の刃が伸びるが、

 

「あー」

 

 やっちゃったかー、という感じでソラは言う。

 一夏のSEがゼロになり、セシリアが勝利した。

 その試合を見て、ソラは笑みを浮かべる。

 

「けど、二人共面白そうな武器を使ってるじゃん。真似(・・)できるかなー?」

 

 彼女は立ち上がり、ピットへ向かう。

 

 

 

 試合が終わると、大型モニターにはSE残量ゼロの一夏と、まだSEの残ったセシリアの名前が表示されていた。

 

 だが、唐突に表示が切り替わり、ソラ=オンブグレンストVSセシリア・オルコットと表示される。

 

 そのことに生徒はざわつく。そんなことは気にせず、ソラはピットを歩く。

 

「あの、オンブグレンストさん、カタパルトは……?」

「ああ、山田先生、カタパルト使うのはあんまり趣味ではないので」

 

 過去のトラウマから急加速するのは苦手になっている。

 彼女はジャージ姿のままピットから出て行き、日なたに出る。

 その姿を見て、会場が一段とざわつく。

 ソラはピットの縁に立ち、

 

「よっと」

 

 躊躇い無く飛び降り、生徒から短い悲鳴が上がる。

 ピットの高さは大凡10メートル程。そんな高さから単なる地面に飛び降りるのは自殺行為に等しい。

 

 だが、彼女は空中でその専用機を纏う。通常のISより一回り小さな脚部で着地する。左腕には12.7mmガトリング、右腕には30mmチェーンガンが取り付けられており、手にはトリガーがある。前回の両手30mmから反省し制御可能尚且つ高火力を発揮できるよう武装は変更された。そして両腕の武器は黒く染められている。しかし腕部が白いためにあまりマッチしていない感が否めない。

 

 その様子を見て、生徒はどこの企業のだとか、見たこと無いタイプの機体だと話し合い始める。

 

『オンブグレンスト、オルコットの準備があるためしばらくは自由にしてくれて構わない』

 

 オープンチャンネルで千冬が伝えてくる。

 

「なら、練習用の的出してくれません?ちょっと調整したいんで」

『分かった』

 

 そして、アリーナのあちこちに的が投影される。

 ソラもアリーナの中央に移動する。

 掌底を器用に使い、バイザーであるサングラスを直す。

 

 まずは正面。ガトリングで斉射する。そのまま左に動かして無数の弾丸で薙いでいく。一度トリガーを引くのをやめ、すぐに右を向いて斉射。

 

 今度はチェーンガン。ガトリングよりもかなり遅い連射で的を撃っていく。腹の底に響く銃声。これもまた一度、トリガーを離して後ろに振り向き再びトリガーを引く。弾幕による制圧射撃。中距離における彼女の戦法である。一通り撃つと銃口からは水が流れる。

 

「問題無しと。先生、まだ準備できてませんか?」

『いや、準備できている』

 

 地上に足を付けているソラは上を見上げる。

 ピットから青い機体が出てきて、空中で停止する。

 それを見てソラはあることに気付いた。

 

「顔、変わったね」

『……そ、そうかしら?』

「何で顔を赤らめるの?」

 

 ハイパーセンサーではセシリアの顔をしっかりと捉えているが、その反応はソラには分からない。

 

「ともかく」

 

 首を左右にゴキゴキと動かしてソラは『ブルー・ティアーズ』を見据える。

 

「不完全燃焼っぽいじゃん。ちゃんと動かしてあげなよ」

『それはどういう意味で……?』

「まんまだよ」

 

 はぁ、と呆れて溜め息をつくソラ。

 

『二人共準備はいいか?』

『え、ええ』

「いいですよ。せめて完全燃焼とは言わないけど、もっと動きなよ」

 

 カウントが始まる。

 

 3・2・1……GO!

 

『行きなさい!ブルー・ティアーズ!』

「ヒャッハー!」

 

 ブルー・ティアーズからビットが飛び立ち、ソラはガトリングとチェーンガンを最初から出し惜しみなく撃つ。それはもちろんビットからレーザーが発射されるよりも先。

 そのため、

 

『くっ!』

 

 セシリアは回避を強制される。無数の12.7mm弾とそれに混じる30mm弾が襲ってくる。ソラの足元には大量の空薬莢が転がる。しかし、チェーンガンとガトリングの特性上一度に長く射撃は出来ず、

 

「―――あらら」

 

 10秒もすれば両腕の銃身は赤く染まり、冷却水が蒸発していく。

 

『隙ありですわ!』

「いやー、短期決戦のつもりだったんだけどね?」

 

 ソラを囲む四つのビットから射撃が開始される。

 だが、彼女は背部のX字型のスラスターを使い滑らかに回避する。

 

『しぶといですわね!』

「はっは!逃げてるのはお得意なんでね」

 

 回避するソラは脱力した状態で、地上を滑る。

 相手からすれば苛立つのも理解できる。

 

「さてさて、銃身の冷却もできたし反撃するよー」

 

 地面から浮いていた足を地に着けて無理矢理止まる。そして、右手のチェーンガンをセシリアに向ける。

 

『食らいなさい!』

 

 同時にチェーンガンにセシリアのライフルが直撃。例え射撃できたとしても弾速の関係上免れなかったが。冷却できていたはずの黒い銃身は赤く溶け、使い物にならなくなった。幸い、チェーンガンもガトリングも大きいサイズの弾倉を用意するのではなく、逐次拡張領域から弾薬を取り出すシステムなので暴発の問題は無い。

 

「うそーん!?結構これお値段高い(作るの疲れる)んだぞ!」

『それでも私の装備よりは安価でしょう!?』

 

 セシリアの武装は弾道型のビット二基を除き全て光学兵装。更にビットは技術の関係でお値段が更にかさむ。つまりは現時点でビットを何基か破壊した一夏による被害総額は……知ったら多分本人が卒倒する。文句は言いつつも、ビットの追撃を回避して右腕のチェーンガンを拡張領域に戻す。

 

「あとは……」

 

 バイザーに表示される二つの(・・・)拡張領域にあるもののリストを確認するが、

 

「うーん、中途半端だなぁ……取り敢えず、こいつだけで頑張るか」

 

 ヴォォォ、ヴォォォと細切れに撃つ。

 

『そんなのでは当たりませんのよ!』

 

 セシリアも慣れたものでさっきよりも薄い弾幕を軽々躱す。

 

『いただきましたわ!』

 

 そして、ビットによる射撃でガトリングが破損。

 

「あちゃー」

 

 大人しくガトリングを戻す。そしてソラは諦めたように溜め息をつき、人間のように丸い左腕部を虚空にかざす。

 

『?』

 

 セシリアは警戒しつつ、様子を見る。虚空から黒い斧が姿を現してきた。柄まで出現すると、ドン!と音を立てて地面に刺さる。斧の刃は綺麗な弧を描き、弧の中心部分をジョイントにして機械的な柄が伸びている。柄尻には一応なのか角ばったハンドガードが付いていた。パッと見、ハルバードのように思われるかもしれないが、サイズ比がおかしかった。全体的なサイズはソラのISと同等だが、刃と柄のバランス比はほぼ同じくらいか、やや柄が長めか。ハルバードと呼ぶにはバランス比が崩れているように思える。バトルアックスとでも言うべきか。

 彼女は柄尻を握る。

 

『ず、随分と重そうなモノですわね……』

「あ、なに?ぶんぶん振り回してほしい?」

 

 セシリアはそれをできたしても末恐ろしいので、ハッタリだと自分に言い聞かせる。

 

「まー、どちにしろコイツの趣味じゃないし、負担も大きいからねぇ……あまり時間かけると疲れるってうるさいから」

 

 彼女は両手で持ちあげ柄尻を握る左半身を前に出し、半身になる。

 

「少し本気で行くよ」

 

 本来ならば誰もしないであろうISでの地面に対する踏み込み。彼女はそれを行う。ドンッ!と地面を蹴り放ち、スラスターをオンにする。一度の跳躍でセシリアの眼前まで迫る。

 

『インターセプター!』

 

 セシリアはショートブレードを音声入力で呼び出す。斧を防ぐために構えるが呆気なく折れ、自身も吹き飛ばされる。

 

『くっ!って……あら?』

 

 跳躍したソラは滞空せず地上に落ちていった。地上スレスレでスラスターを使い、衝突を免れる。再び彼女は地に足を付け、地面を蹴るが向かう先はアリーナの壁。そこから今度は三角跳びの要領で再び空へ舞う。セシリアが立て直す間に既に彼女は接近していた。

 

『速い!?』

 

 斧を上段に構え、重力と斧の質量任せに下ろす。セシリアは慌ててビットで攻撃を防ぐ。それに怯んでいる隙にまた地上に降りては壁から空へ舞う。

 

「背中にご注意下さい」

『なっ!』

 

 何とか後方に回避するが、ソラはそれを許さずに空中で一回転することで再度斧を振り下ろす。セシリアは咄嗟に頭上で腕を交差させる。金属音が響き、交差したセシリアの腕部に黒い刃が食い込む。

 

 だが、問題はここからだった。

 

 ソラはスラスターを全開にして、ブルー・ティアーズを地面に叩きつける。

 

『ぐっ!』

 

 パイロットであるセシリアにも衝撃は伝わる。そして、ソラはブルー・ティアーズを地面に押し付けたままそのまま回転を始める。地面とシールドが擦れて、凄まじい勢いでSEが減る。数回周ってから極め付けに引きずったまま一気に加速し、セシリアは壁に叩きつけられた。容赦無い一撃。ブルー・ティアーズの腕部は粉砕され絶対防御が働く。

 あっという間にSEはゼロになっていた。

 

 

 

 管制室で見ていた千冬は一連の荒々しいプレーを見て呆然とする。

 

「何か……荒っぽい、ですね……」

「あ、ああ」

 

 モンドグロッソどころか、素人でもやらないプレーである。

 むしろ彼女、ソラにとってはこれはスポーツでも何でもなく、

 

 ただの喧嘩であるのだから。

 

 

 

(んー、ビットは流石に壊すと金額的に怖いし、機体に無理な負荷かけてお説教貰うの私だから、こうやったけど……)

 

 壁にめり込むセシリアは目を回して気絶していた。ISはSEがゼロになったことで格納され、セシリアだけが残る。ソラもISを戻し、セシリアを肩に担いでピットに向かう。

 

 一方、その荒々しいプレーの次の被害者になるであろう少年は、

 

「い、一夏!大丈夫か!?」

「ああ、箒。今までありがとうな。ちょっと逝ってくるよ。何、心配ない。必ず戻ってくる。帰ったら約束の店に、絶対行こうな」

「い、一夏!それは帰ってこないフラグだぞ!」

「大丈夫。俺はフラグクラッシャーだぞ?」

「な、何故だ。いつもは腹立つ肩書きがどこまでも空しく感じるぞ……」

 

 既に大丈夫ではなかった。

 

 観客も観客であのようなプレーを見ては唖然としていた。それも束の間、大多数はブーイング、それ以外も大きく上げはしないが批判する。

 

 ピットに戻ると、千冬が立っていた。

 

「オンブグレンスト」

「何です?」

 

 ベンチにセシリアを寝かせる。

 

「さっきのプレーは何だ。生徒からもフェアじゃななどとクレームが来ているが?」

「さっきのって……?」

 

 本人には心当たりがない模様。

 

「最後のだ。オルコットを地面に擦りつけた上で壁に叩きつける。あの乱暴な、ラフプレーのことだ」

 

 世間一般的には、ISはスポーツで広まっている。

 スポーツとなると先程のようなプレーは普通ない。

 

「あれって……ラフプレーなんですか?」

「当たり前だ。武器一つ持たずに殴り合うならまだしも、あのような真似は誰もせん」

「ぶっちゃけ、ラフプレーも何も、私にはあまりしっくり来ないのですがね……」

 

 彼女は整えられていない黒い短髪をガシガシと掻く。

 

「ぶっちゃけ、あの方法はSE削るのに最も理想的な方法なんですがね。ほら、砂って摩擦大きいじゃないですか。その上でそこに相手を擦りつけるだけで、SEも削れ、装甲も削れる。かなりお得ですよ?」

「それ以前の問題だと言っている!」

 

 えぇー、と彼女は困惑する。

 そもそも理解の根本が違うし、ISに対する捉え方すら違う。

 

「スポーツマンシップという言葉を知っているか?」

「知ってますけど、これ(IS)には関係無いでしょう?」

 

 しかめっ面でソラは言う。

 一方、千冬はこめかみを押さえ、どう説得できるか悩む。

 いや、無理だろう。彼女からすれば身内による殴り合いなだけなのだから。

 

「分かりましたよ」

 

 ソラはその様子を見て妥協する。

 その言葉に多少の不安は拭われる千冬。

 

「結局のところ、投げ技や極め技の類は避ければいいんですよね?」

 

 今度はピット内でISを纏う。

 

「……まぁ、そういうことだな」

 

 やはり解釈が合わない。

 

「分かりました」

 

 そう言い残し、ピットを後にする。

 

 アリーナでは一夏が深呼吸をして待っていた。

 

『お待たせしました』

 

 白式のオープンチャンネルにソラの声が通る。

 

「いや、そんな待ってないぜ……って何で距離をそんな空けるんだ?」

 

 ソラは手ぶら、一夏は物理ブレード『雪片弐型』にも関わらず射撃戦を行うかのように30メートル程か、間合いを取っている。

 

『いえ、ちょっと個人的な問題であまり近寄りたくないので……』

「…………ごめんな」

 

 初対面の女子に近寄りたくないと言われる思春期男子の図。

 一夏は深く傷つく。

 

 そして、カウントが始まる。

 




うーん、相変わらず戦闘シーンの中身がすっからかんのような気がします。

下手ですね……一応、丁寧に描写するよう心がけてはいますが、
そもそものテンポが早いんですかね?

今のところ今後の予定はクラス代表対抗戦や、タッグマッチが原作と大幅に乖離する予定でいます。

中々他のssでそんな不遇という訳でもないですが、恵まれてる訳でも無い子が魔改造される予定です。

ちなみに、作中出てきた斧。

アレはソラちゃん生身verだと容赦なく枝とか棒とかの感覚で振り回せます。

ISに乗ってると感覚としては他人の腕で物掴んでるとかの感覚なんで。
もっと分かり易く例えるなら、感覚がシンクロした状態の二人羽織とか?
そういう状態なんで、機体負荷が馬鹿に出来ないので自重しているという。

武器とかそういう感性は相棒とソラちゃんは真逆の方向(むしろソラちゃんがロマンに走り過ぎてる)なんでそこらへんは分かり合えなかったり。

これから少しずつ小説に割ける時間が減るので更新頻度が下がったりするかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6

前話でソラちゃんのプレーってラフプレーなの?

という質問をいくつか受けました。

ここではISのバトルはスポーツという扱いなので、

流石のリアルの格闘技でも、相手のマウント取って殴ったり、頭掴んで何度も叩きつける様なプレーはないですよね?

そんな感じです。


 カウントがゼロになり、ブザーがなる。

 一夏は白式のスペックを活かし、すぐに間合いを詰める。

 距離を詰める間に物理ブレード、雪片弐型の刀身が二つに割れて光の刀身が現れる。

 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『零落白夜』。シールドを切り裂き、絶対防御を発動させることで、決定的な一撃を決めるモノ。ただし、それは自身のSEを犠牲にする諸刃の剣。

 零落白夜を起動させた雪片弐型を上段に構える。

 

『まずは初撃!』

 

 手ぶらのソラは微動だせずに、それを見ている。

 そして、振り下ろす。だが、ソラはその直前に一歩前に進む。それだけで相対的に一夏の手元は狂ったことになる。その一歩の踏み出しと同時に肘打ちを一夏の鳩尾に叩きこむ。白式による速度と相まって、SEが一割弱持ってかれる。衝撃によって白式は後退し、再び相対する。

 

「振りが大きいよ、織斑くん。まるで、カウンターでも打って下さいと言わんばかりだよ。実際の剣道でもそうなのかな?」

 

 挑発紛いの指摘。

 実際、一夏は地上で行う剣道とほとんど同じ動きをしている。

 にも関わらず、隙が大きいというのは人の丈よりも大きいISに乗っている影響である。

 人の倍はある高さと幅。それに加え、IS同士だと相手は銃弾の動きすら捉えることができるハイパーセンサーの恩恵を絶対的に持っている。

 しかも、今回の相手、ソラのISは通常の一回りも小型のもの。よりサイズ差のアドバンテージが生まれる。

 

『一夏!相手の挑発に乗るな!動きはいつもと変わらん!』

 

 白式のハイパーセンサーがピットから叫ぶ箒の声を拾う。

 

(そうだ……いつもと同じ動きをすればいいんだ!)

 

 深呼吸をし、正眼にブレードを構える。一方ソラは半身で手を下ろしている。一夏はソラと違い、僅かに浮いている。地を蹴るのではなく、空を蹴る。生半可な一太刀では先のように反撃される。ならば隙を与えず、攻撃すればよい。そして、ISにはそれを可能とするパワーアシストがある。

 

『せやぁ!』

 

 零落白夜を起動し、最低限の振りで次々とソラには切りかかる。縦横斜め、あらゆる角度からソラに攻撃を仕掛ける。だが、それをギリギリでソラは躱していく。零落白夜を使い攻撃する一夏は絶え間なくSEを消費し、それを紙一重で回避するソラのSEもまた削れていく。

 

(うーん、これは微妙だねー。いっそ、搭乗者保護装置切ろうかな?そうすれば絶対防御は動かないしSEも削れないからねー。ただまぁ、バレたらヤバいね)

 

 自身のを起動してもいいが、それはそれで色々面倒になる。

 考えつつも、目の前の白い光の刃を寸でのところで回避する。

 SEの減りは最初は一夏の方が大きかったが徐々に対抗し始めている。

 そして、一夏のSEが残り5割、ソラのSEが残り7割になる。

 ソラからして左下からの逆袈裟切り、それを胴を逸らして躱すが僅かに絶対防御が発動しSEが削れる。一夏のブレードは上に上げられ、上段の位置に切っ先が来る。

 それを見てソラは雪片を振らせるよりも先に柄を掴みボディブローを叩きこみ、距離を取る。だが、二度の打撃とはいえ急所に入ったことでのダメージなど二割程である。打撃ならば連続で打ち込むものだが、ソラの思考は一撃思考である。一夏の削れたSEの残りの三割は零落白夜による弊害なので、持久戦に持ち込むことも有りだが、

 

(そんなのはあんまり面白くないよねー)

 

 モンドグロッソの射撃部門のランカーともなると持久戦などはよくあることだが、ここIS学園の生徒にそんなものの面白味など伝わるはずもなく、ソラ自身も面白くない。

 なら、無言実行。力任せに白式をぶっ潰す。

 

(それにしては出力不足だから腕だけ交代(・・・・・)、いいね?)

『せいっ!』

 

 零落白夜を振り上げ迫りくる白式。

 ソラは一夏の懐に潜り込み、腕をクロスして白式の腕を止める。

 

「もうその手には乗らねぇよ!」

 

 目の前の一夏が笑みを浮かべる。ソラの両手にかかる力が増す。

 

「力勝負上等!」

「行くぞぉぉぉぉぉ!」

 

 ソラは踏ん張り、一夏は身体を水平にしスラスターを全開にする。

 ここに来て機体のスペック差が現れる。

 片や全ての性能が高水準のハイエンド機体、片や妥協し使い勝手を重視したオールラウンド機体。

 勝ったのは勿論、

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

「あ、これやばいやつじゃん!?」

 

 ソラは咄嗟に腕を傾け、軌道を逸らす。

 結果的に空を切った零落白夜はアリーナの地面を赤熱させただけだった。

 振り切った姿勢の白式にヤクザキックを喰らわせることでブレードレンジから外れる。

 ソラはすぐさま、腕部を解除する。

 それを見た一夏は、

 

『何をしてるんだ!?』

「ちーと、換装するだけ」

 

 長袖のジャージを肘までまくり上げる。

 手をグーパーグーパー何度か握る。

 そして、変化は現れる。

 ソラの肘辺りから皮膚が黒く染まる。

 いや、染まるのではなく、鱗のような小型の装甲が彼女の腕を包んでゆく。

 最後は指先までソレは広がった。

 彼女は腕や手を捻りながら見る。

 先程のような白い丸みを帯びた小型のIS腕部とは全く別で、

 

 ソラ自身の腕の太さと全く一緒のサイズのものであった。

 

 色は黒く、指先や関節部など全体的に尖ったデザイン。

 

「よしよし」

 

 ガシャガシャ鳴らしながら彼女は頷く。

 

 

 

 管制室にいる千冬と山田先生は驚く。

 

「見たことない腕部ですね……」

「オンブグレンストのIS自体小型だったが、あのサイズとなると何だ……最早構造すら理解できんぞ。いや、そもそも腕部が二つあるだと?何なんだ、あいつの機体は」

 

 考えられる線はそもそも腕部を二つ用意しているか、ISを二機も所有しているか。

 前者は予備としてなら有り得るが、あれはそもそもデザインが全く違う。用途別だとしても構造からして最初に使用していた白い方が機能はあると考えられる。

 後者はそもそも有り得ない。専用機ですら世界で数える程しかいないエリート達だ。その中でも二機を所有するなどありえない上、国際IS委員会に登録されてる人物の中にもいない。

 ただ、彼女は一時期、実在しないのでは?と言われた『リベレーター』の関係者。

 もしありうるならば、企業の方から二機委託されている可能性。

 いや、

 

「そもそもリベレーターなどという企業にISコアは委託されていたか……?」

 

 数年前、汎用パッケージ『ファイター』でIS事業を拡大させ、業界を騒がせた企業。

 それまで一度も聞いたことのない企業。ファイターを共同開発したという航空技術企業に問い合わせたところ、ソラ自身が発注に来たようだった。さらに調べると、他の企業も訪問して回っていたそうだった。名刺も配っていたそうだが、リベレーターの所在地は書いてない。連絡先はあるが、高確率で留守電らしい。

 HPもあるにはあるが、検索ページの二十ページくらいにあるらしく、企業としてやる気あるのかと疑いたい。

 挙げてみればみるほど、怪しい企業の体を呈してきた。

 

「いや、考えるのはあとだ。今はあいつの機体に集中だ」

 

 

 

 最早それはISの腕部と言えるのかすら怪しい程、小さく細い。

 人間の腕と大差ないものだった。

 

「じゃあ、第二ラウンドと行こうよ」

 

 不敵な笑みを浮かべそう言うソラに、警戒を抱きつつ雪片を構える。

 

『あ、ああ』

 

 跳躍してからのスラスターによる最大加速。

 ソラは拳を握り、一夏は眼前に雪片を掲げ防御の構えを取る。

 

「ふんっ!」

 

 そして、拳が叩きつけられると同時に白式はその威力に耐え切れず地面に叩きつけられた。

 十メートル程白式は転がり、一夏は何が起きたのか理解できなかった。

 

「よっしゃ!」

 

 観客席は静かになる。

 そのはずだ。パワーアシストの恩恵すらあるのか疑う程、装甲しかないと思しき腕部。

 それが、力任せに白式を転がす程の力があったのだから。

 

「うーん、ホントは全身換装したいけど、胸部の補助パーツ完成してないからなー」

 

 困った様子で鋭利な爪で器用に頭を掻く。

 

『ぐっ!―――SEが半分もトンだ!?』

 

 先程まで五割程あったSEが半分弱消えた。

 

「ハッハー!やっぱヤルならこうでなくっちゃ!これでも腕部だけで止めてあげてるんだよ!」

『ってことは……脚部もあったら……』

「蹴りもある!」

 

 ソラは段々とテンションがハイになってきた。

 元はといえば空を駆けるため、宇宙に飛ぶためだったモノ(・・)なのだから。

 堂々と、好きなように動けてテンションが上がらないはずがない。

 もしかするならば、空を飛び始めた暁には自重なんて言葉は彼女の元から消えてしまうのかもしれない。

 

「行くぞぉ!」

 

 トラウマとやらは何処へ。

 瞬時加速(イグニッションブースト)を使い、既に一夏の眼前に黒い拳があった。

 

『ひっ!?』

 

 慌てて首を振り、SEが掠った音を立てて拳はその先にあるアリーナの壁に刺さる。

 ソラも一々止まっていることはない。

 拳を抜き、壁を蹴ってそこからさらに瞬時加速。

 一夏はそれを迎撃しようと零落白夜を起動する。

 だが、目の前でソラが消え、ハイパーセンサーの背後でソラの姿を捉える。

 

『は―――ぐえ』

 

 全力のストレートが振り返った一夏の顔面に刺さりSEはゼロとなり、白式は壁に刺さった。

 

「ふぅ……」

 

 ソラの感情は快感に満ちていた。

 

 

 

 一夏もセシリア同様目を回していたので、これも担いでピットに戻る。

 ピットには既に回復したセシリアがいた。

 

「あ、お疲れー」

「えぇ」

「よっと」

 

 一度ベンチに一夏を下ろす。

 

「いやー、久々に動いたから結構満足できたよー。わざわざ模擬戦ありがとうね」

「私はもう何がなんだか……」

「まぁ、流石に競技用だからSE設定は低めだからね。本当は限界までやりたいけど、流石にそれは学園から許可降りそうにないし」

 

 ISのSEの設定は競技用に本来のSE量の四割~六割程度に設定されている。

 SEとはISを動かすために必要なエネルギーであり、それで他の機器の動力としても確保されている。そのため、競技では搭乗者の安全を保障するためにある程度のSEが残るよう、SEの規定があるのだ。軍用ともなると、SEのタンクを二つ用意し片方はシールド用、片方はIS機器用と用途別に用意することでSEの最大量を増やしていたりする。

 ソラはSEのアダプターを自前で用意し、コンセントにつなぐことで充電を可能にした。尚、腹は溜まらない。

 

「それにしても……」

 

 目の前に壊れたガトリングとチェーンガンを展開する。

 

「壊れたから練習できないぜ!」

「射撃武器それしかないんですの?」

「あとは全部、私の(・・)じゃないし、製作中。これでアリーナの許可キャンセルさせてもらって、あとは整備室に引きこもって色々やろうかなー」

 

 運動後のストレッチをしつつ、銃身が溶けてもう使えそうにない二つを眺める。

 

「いっそ、新調しようかな?」

「金銭的に問題ないんですの?」

 

 流石にそれは企業所属と言えど、学生に渡される金額などたかが知れているのでセシリアは心配する。

 

「いや、ファイターの金結構余ってるからさ」

「どのくらい懐が潤ってるのですの……」

 

 セシリアとて貴族である。

 多少の金銭的に余裕があるとはいえ、自前でISの武装を買おうなどと思いもしないし、買ったところでブルー・ティアーズは実験機のため他の物を載せる許可が下りない。

 

「何か面白いものでもないかな……あ、艦砲でも載せてみようかな?」

「多分姿勢制御で手一杯になると思いますわよ……」

 

 それもそうだね、とソラ。

 そこにハイヒールの足音が近づいて来る。

 ドアが開くと千冬が立っていた。

 

「あ、織斑せんせー、この後のアリーナの使用キャンセルいい―――」

「オンブグレンスト、ちょっと来い」

「?」

「?」

 

 ソラはセシリアと顔を合わせ、二人で首を傾げる。

 

 

 

 個室に案内された。

 

「まぁ、座れ」

「は、はぁ」

 

 ソラは内心ビクビクしつつ、ベンチに腰をかける。

 

「いくつか聞きたいことがあるがいいか?」

「ええ」

 

 心の中で祈りつつ千冬の話を聞くことにした。

 

「聞きたいことはリベレーターについてだ」

 

 その瞬間、すっと肩の荷が下りた気分になる。

 

「何でしょう?」

「単刀直入に聞く、所在地はどこだ?」

「ドイツです」

「のどこだ?」

「フランクフルトよりちょっと北西の辺り」

「そんなとこにIS企業のビルなどないぞ」

「当たり前ですよ。アパートの一室が―――あ」

「くくっ、そういうことか」

 

 その場に項垂れるソラ。彼女はベンチに腰掛け、真っ白に燃え尽きたような状態だった。

 ちなみに、そのアパートは既に取り払い、唯一の一六畳一間の部屋として使われている。

 

「ちなみに従業員は?」

「……二人」

 

 実際、本当に二人なのかは怪しい。

 彼女は諦めたように答えていた。

 

「よくやってこれたな……」

「仕事のほとんどはIS専門のデザイナーという感じですし、問題は無かったですよ。あとこれ聞くためだけならもう帰っていいですか?武装の組み立てと修理あるんで」

 

 正直、千冬自身としてはもう少し踏み込んだことを聞きたいが、この場ではそれを控えることにした。

 

「ああ、構わんよ」

 

 彼女はドアノブに手を掛ける。すると、千冬が口を開いた。

 

「最後に一つ、いいか?」

「何でしょう?」

 

 首だけ向けて視界の隅に千冬を捉える。

 

「最後の瞬時加速、あれ二連続でやっただろ?」

「……ええ」

 

 一夏への接近、そして背後に回り込むターン。

 その動きによって生じるパイロットへの負担は計り知れない。

 

「お前、大丈夫なのか?」

「…………ええ」

 

 ソラは口の端に笑みを浮かべて部屋を後にした。

 

 

 

(チェーンガンもガトリングもピットにおきっぱだったなぁ……)

 

 思い出してピットに向かうと、見慣れたクラスメートが結構の数がいた。

 

「あ!オンブグレンストさん!」

 

 一人が声を上げると皆がソラを囲む。

 

「えっ?えっ?」

 

 こういうことには慣れておらず、初体験のため戸惑う。

 

「試合凄かったよ!」

「やっぱ専用機持ちって動き違うんだね!」

「空を飛ばないのってコツの一つなの?」

 

 様々な質問やら試合の感想を言われる。

 

「待って待って!一つずつお願い!」

 

 このてのものは一つずつ処理したところで何も変わらないが。

 最も彼女は初めてだから戸惑っているのであり、ちゃんとやれば処理は出来そうだが。

 彼女は取り敢えず、片っ端から話を聞いて処理していく。

 試合の感想には、ありがとうと返し、質問には、大雑把な回答をする。そして、あのセシリアにやったことに関して言ってきた人には、お?やるか?と笑って告げてやる。

 全部終える頃にはグッタリしていた。

 

「お疲れ様」

「ん?ああ、玲奈ね」

 

 見上げると毎日顔を合わす三枝木玲奈がいた。

 

「いやー、本物の試合って凄いねー。感動しちゃうよ」

「試合ねぇ……個人的にはまだレスリングだとか、空手だとか格闘技見てる方をお勧めするよ」

 

 彼女は改めてピットに向かう。

 

「私これから片付けと修理だけど、玲奈はどうするの?」

「暇だし、見てもいい?」

「いいよ」

 

 ピットに入ると中には目を覚ました一夏とセシリアがいた。

 二人はピットに入って来るソラと玲奈に目を向ける。

 

「目、覚めたのね」

「あ、ああ」

「まっ、お疲れちゃん」

 

 彼女は床に置いてあるガトリングとチェーンガンのとこに足を向ける。

 一方、玲奈は視界にセシリアを捉えるとそっちに足を向ける。

 

「イギリス代表候補生、セシリア・オルコットさんですよね!」

「ええ、あなたは?」

「ソラのクラスメートの三枝木玲奈です!握手いいですか!」

「もちろんですわよ」

 

 セシリアもそこそこの有名人である。

 本国ではモデルの仕事を請け負う程ルックスもあり、BT稼働兵器の実験機であるブルー・ティアーズを専用機にするなどISの素養もあり、若くしてれっきとしたエリートなのである。

 

「玲奈、握手するほどなの?」

「そりゃあそうだよ!イギリスだと有名人だし、クラス別だから握手する機会だって普通はそうそうないんだよ!?あ、織斑くんもよろしく」

「あ、ああ」

 

 世界唯一の男性操縦者の肩書きを持つ一夏とも握手する。

 もっとも、玲奈の中の認識ではセシリアはちゃんとした有名人だが、一夏はどちらかというとパンダとかコウモリとかカモノハシみたいな珍獣的な認識である。

 ソラはガトリングとチェーンガンの傍に手をかざし、拡張領域に戻す。

 

「よし、玲奈行くよ」

「うん、ありがとう!オルコットさん!また会ったらよろしく!」

 

 二人はビットから出て行き、整備室を目指す。

 

 

 

「そういえば、玲奈ってミーハーなんだね」

「最近は何とか余裕出てきたから」

「慣れか」

 

 入学して一週間。彼女たちもここ(IS学園)の生活に慣れてきた頃合い。

 




こうでもしないとソラちゃん自身の機体をお披露目できないかと。

ちなみにソラちゃんの機体が白式との力勝負で勝ったのも理由があります。

それはまた今度で。

次は授業とか対抗戦かな?ゆっくりと書かせていただきます。

デザインは乗っている白い方とは真逆で、鋭利的で、黒い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7

 お久振りです。ただいまです。

 間違えて削除したとかじゃなく、いつまでも終わらない8話の執筆をしていましたら、途中で「あれ?なんか自分の覚えてる構想と展開や内容違くない?」となり、各話を細かな修正をしましたら7話だけが結構変わってしまったために再投稿します。
 何か、2話3話辺りでもやったような……。

 話を覚えてない方は1話から読み直して結構です。というか皆さん覚えてないと思うのです。


※忘れてましたがタイトルとあらすじ変更しました


 整備室の一角でソラは自身の相方でもある白いISをハンガーに掛ける。

 

「近くで見てもこのIS小さいね」

 

 玲奈は呟く。

 通常のISは起動し、人が装備することで2m強程のサイズになる。待機状態でISが鎮座していても2m弱はある。一方、ソラのISは装備時でも2mもなく、身長が約170cmある一夏より10cm程か高い程度。そして待機状態だと160cmのソラより僅かに低い程度。実際は中身を削った結果だが。

 

「まぁね、むしろデカイと不便だからこのサイズになったというべきかな?」

 

 背部のスラスター翼を接続しているユニットの装甲板を外す。そこにはSE補充用のコンセント的なものがありプラグを差し込む。

 

「今日はお疲れちゃん」

 

 ポンポンと相方を労り、ガトリングとチェーンガンを出す。

 

「この壊れたのはどうするの?」

 

 玲奈は融解して使えそうにない二つを指す。

 

「どうするってもねー。普通の武装と違ってISの装甲を流用したものだけど……」

「ISの装甲ってことは自己再生するんじゃないの?」

 

 ISの装甲は基本IS自身が生成している。元の元こそは只の金属だが、次第にISが身体の一部だと認識し始める。それが極まった結果が二次移行(セカンド・シフト)でもある。最も二次移行はISの深層意識との接触が不可欠ではあるが。中にはゼロから生成するISなどもいるが。その例がソラとその相方である。

 

「それもありだけど……実は再生させるリソースがないの……」

「えっ?」

「リソース、容量の問題なの。まぁ、半分以上を実体化―――いや、ごめんそれは違う。気にしないで」

「???」

 

 玲奈は頭に疑問符を浮かべるばかりであった。

 

「まぁ、これはバラすだけバラして」

 

 そして、ソラはなんてことないように言った。

 

「リサイクル業者行きかな?」

「待って」

「ん?」

「リサイクルって、まさかその金属を?」

 

 玲奈は恐る恐る尋ねる。

 初心者としてはあり得ないソラの行動が恐ろしく感じるが、目の前にいるのはその手の専門家よりも詳しいそれそのモノ(IS)なのだ。

 

「んー、まぁ、量子変換(インストール)はしてあるけど問題ないよ、多分。これはそんな大袈裟なものじゃないし。資源の有効活用だよ」

 

 ISそのものだから言える意見。関係者なら頭を抱えそうなものである。

 

「えぇ……」

「えーと、バーナー……バーナー……あった」

 

 玲奈が困惑する一方、ソラはガトリングの砲身とチェーンガンを分解するべく備品のバーナーカッターを見つける。その二つを纏めるのにいいサイズにまで解体してワイヤーで結び、コンテナに詰め込む。

 そして、今度出したのは弾薬だった。

 30mm弾約100発。

 

「どうしたの?」

「いや、今回の反省するとさ、重火器二つも要らないんだよね」

「だろうね」

「で、丁度チェーンガンが、壊れちゃったからこの際ガトリングに絞ろうかなって」

「そもそも普通のライフルとかの選択肢はないの?」

「……ないね!」

 

 きっぱりとソラは答えた。

 

「作るのはいいけどねー、使い手としてはねぇ……確かに銃器の利便性はいいけど拡張領域が圧迫されちゃってね。そうだ。この際、近接武器だけにしようかな?」

「試合見てたけどソラって脳筋というか、基本力技だよね」

 

 玲奈は呆れたように呟く。

 

「仕方無いじゃん。私の(・・)拡張領域は結構小さいし、何より弾薬という、かさばって、消耗品で、制限のあるのは特に私と相性悪いから」

「だろうね」

 

 脳筋的な意味で、と付け加える。

 

「だからこの弾薬類はいらないから……そぉい!」

 

 学園のISに備えられているライフルの弾薬用ケースに叩きこむ。

 

「それ12.7mm用じゃない?」

「ホントだ」

 

 ちゃんと30mm弾は大口径ライフル用30mmケースに入れ直す。そしてガトリングもバーナーで解体される運命に。

 

(斧の他にナイフとかブレードとか欲しいけど……)

 

 彼女の視界の隅に小さい三つの白いバーが映った淡青色のウィンドウが映っている。

 内二つのバーは白く染まり、残り一つのバーが少しずつ白く染まっていく。大体六割程進んだところか。

 

(夜には間に合うかな?)

 

 後頭部を掻いて、今日はもう部屋で休むことにした。

 丁度、SE補給用の装置から充電完了の合図の電子音が鳴る。

 学園や研究所にある装置は大体が高速充電タイプで30分もあれば満タンになる。

 一方ソラは今まで一般的なコンセントから充電していたのでかなり早く感じられた。

 

「よし、じゃあ帰ろうか」

 

 ソラは自身のISをまじまじと見ている玲奈に声を掛ける。

 彼女も返事をし、ソラはプラグを抜いてISを待機形態に戻す。

 

 

 

 寮に戻り自室の扉を開けると、ベッドに横たわる簪の姿が目に入る。

 

「ただいま」

「…………」

 

 反応はない。

 この一週間、ずっと二人は同じ部屋で過ごしていたので嫌でもある程度仲良くはなった。おはようからお休みまでの挨拶は交わすし、普通に会話も出来る程度にはいい。

 寝てると思いスルーするがゆっくりと体を起こすのを見て、足を止める。

 

「……おかえり」

 

 それは弱々しい声だった。

 何かあったのだろうかと思わせる程弱々しいので、

 

「何かあったの?」

 

 単刀直入に尋ねる。

 

「…………」

 

 簪は考えるが、

 

「ううん、大丈夫」

 

 弱々しくそう答えた。

 ならいいけど、とだけ言いソラはシャワーの準備をする。

 

 頭からシャワーを浴びて、壁に両手をつく。

 俯いた顔の先には空中投影されるウィンドウがあった。

 ソラの瞳から投影されているものだった。

 ウィンドウには一本の大きなバーがあり、resourceと書かれてバーは幅が大きいもの順に縦線で区切られていた。

 左から全体の五割を占めるtype_material次に三割程のcreateあとは小刻みにE-controal、PIC、srot、armorとある。

 そして、右端にほんの数パーセント分の空白。

 ソラは肩にも届かない短髪を濡らしつつ、ウィンドウを眺める。

 

(ダメだなー、もうこれ以上弄れるものがない……アーマーの値を増やしたいんだけどなぁ……)

 

 更に項目ごとの細々とした数値の書かれたウィンドウが現れる。

 

(これ以上の装甲の追加はダメだね……手足はいいとして、何とか胸部の補助パーツは収めたいんだけど)

 

 はぁ、と溜め息をついて改めて設計したその補助パーツのサイズを考える。だがどう足掻いても収まりそうになく、最低限のパーツだけにすれば何とかなりそうではある。

 

(この際、あれだ。スロットのソースを削ろう。どうせそんなに持つものないし)

 

 そう決断し、壁に頭を当て瞬きをしてウィンドウを閉じる。

 視界にお湯を張った桶に浸るコアが目に入る。

 

「間違ってもお前は私みたいにならないでよ……色々大変だし……え?何が大変か? さっき見たでしょ、私のリソース。それの大半をこの身体の実体化と維持に割り当てて、色んなもの削ってるんだよ? ISコアネットワークだって、追跡されないためにも切ってるけど、最近は繋ぐだけの要領が勿体無いってのもあるんだよね……ああ、一応今は無線技術の応用で代替はしてるよ? 距離的には10kmくらいかな?それくらいなら問題ない程度。まぁ、逆に盗聴とか可能なレベルまでにセキュリティは下がってるんだけどね……誰も気付かないのが幸運だよ。あとは装甲面。全身装甲(フルスキン)とかもう無理、出来ない。手足とスラスター用の補助パーツで一杯だし色々限界」

 

 いいこと無いよ?と締め、シャワーを止める。コアを拾い上げて、桶のお湯を捨てて脱衣所に出る。コアの水滴を拭い、身体を拭いてジャージに着替える。脱衣所から出てベッドを見ると既に簪はベッドの中に籠もっている。以前、消灯後にベッドの中で動画を見ていたことがあった。多分、今回もそうなのだろう。最も以前はスピーカーで再生していたので、翌日ソラがさり気なく音漏れしていることを伝えたので、

 

(今日は……イヤホンかヘッドホンかな?音出てないし)

 

 彼女は好都合とばかりに笑みを浮かべる。

 シャワーを浴びてる最中に三つのバーの最後のものが100パーセントに達した。それらはソラのクリエイトモードによって生成した部品である。ISに備わっているモードではあるが、彼女の場合は通常のISより倍近く容量を充てているため難なく出来る。彼女の前に三つの部品が現れ、彼女は組み立て始める。

 

 

 

 簪は慰め代わりの好きな特撮の回を見終えると、掛布団をどかす。

 凝り固まった体をほぐして、お腹も減り食堂へ向かおうとするとデスクに向かっているソラが目に入る。

 

「何やってるの?」

「ん?ああ、これ組み立ててた」

 

 デスクに横たわる白い板。ブランコの椅子を一回り大きくしかのようなソレ。

 

「何ソレ?」

 

 直後、その板が浮かび上がる。

 

「え?」

「第三世代機でも使われている、イメージ・インターフェースを用いたビット的何か」

 

 ソラはざっくり説明した。

 

「いやー、面白半分(・・・・)に作ってみたけど、案外出来るもんだね。サイズ的にもいいしマジックハンドみたいに使おうかな?」

 

 板はクルクル回転し、止まったと思えば端のフレームがスライドして二又のピンセットみたいな棒が伸びる。

 それを使って器用にベッドにあるコアを拾い上げ、デスクに置く。

 簪はその光景を呆然と見ていた。

 

「上々だね」

 

 ソラ自身も想像以上の出来に笑いつつコアをさする。

 はっ、と簪は我に返る。

 

「お、面白半分に作ったの……?」

「んー、まぁね」

 

 ヘラヘラとソラは笑いながら言う。

 

「ビット技術は現状イギリスの独断上だけど」

「ほら、一組にいるじゃん。オルコットさん。あの人の機体を見て作ったよ」

 

 光学兵装はどうだろう、とソラは考え込む。

 

「そうだ」

 

 ソラはあることを思いつく。

 

「簪さんの専用機あるでしょ?打鉄弐式だっけ?」

「…………っ!う、うん……」

 

 簪の反応から何かを察するソラ。伊達にISじゃない。

 

「たしか『山嵐』だっけ?ミサイル撃つ砲台のやつ」

「うん……」

 

 簪はこの、自分の専用機の話題に苛立ちを覚えつつあった。

 

「私さ、完成デザイン案見たことあるけどさ」

 

 それ以上やめろ。

 あの男性操縦者せいで、今日唐突に打鉄弐式の開発が凍結されたことを聞いた。以前から待ち望んでいた完成が無期延期となった。そして問題は打鉄弐式の開発人員全てをあの男性操縦者の専用機に回された。

 それだけならまだいい。あの専用機『白式』は開発元が倉持技研となっているのに倉持技研の発表は無い。広告塔にもなるはずのものなのにも関わらず。更に調べると、倉持技研で開発された様子が無い。

 つまり、第三者の手によって作られたものの解析のためだけに人員が割かれた。

 腹が立った。

 

 そこまでして世界で唯一の利益が欲しいか。

 

 その行き場の無い怒りや、姉に対するコンプレックスから簪は一人で完成させると決心した。

 

「あれさ」

 

 ソラは一息溜めて言う。

 

「ファンネルに改造しない?」

 

「その話を詳しく……」

 

 やっぱ持つべきものは友達、簪は確信する。

 

「いやね、山嵐のサイズを鑑みてミサイルだけ載せるのは勿体無いと思ったし、簪さんの機体ってあのミサイル撃ち切ったらそんな火力無いでしょ?」

「ああ、うん……」

 

 それは薄々理解していた。ちなみに打鉄弐式のミサイル自体は四十発以上は積んである。

 

「そこでだよ!山嵐に春雷とかいう荷電粒子砲を積んで飛ばそう」

「なるほど……」

 

 今まで開発は全て技研に一任していたが、今回の件で一人で開発するにあたり許可は得ているのだが、

 

「ただマルチロックオン・システムだけは……完成させろって技研に言われた……」

 

 今までの経緯を話し、そう締めくくる。

 

「マルチロックオン・システムねぇ……ハイパーセンサーによる視認誘導式が一番楽かな」

「システム自体の中身は漏洩禁止だから……他国企業であるソラには見せれないけど……」

「あ、そっか」

 

 ソラ自身そこは見落としていた。

 

「なら、個人でやるっきゃないか」

 

 しれっとソラは適当な理由を立てる。

 

「最も怖いのはそこよりも……ビット技術云々でイギリスが迫ることが怖い……」

「あー」

 

 英国紳士の器はいかなるものか。

 

「じゃあ、デンド○ビウムにする?」

「無しで……」

「はい」

 

 簪に即答される。

 

「じゃあ、分担でハードは私がやって、ソフトは簪さんで分けるか」

「そう……だね……それが無難……」

 

 あと常識の範囲内でやって、と簪は付け加える。

 

「流石に他人の機体だからね。真面目にやるよ」

 

 簪はソラの機体を知っている。あのサイズでガトリングにチェーンガンというふざけてるとしか思えない武装をチョイスするソラ。疑わざるを得ないそのセンス。

 

「もしかして疑ってる?」

「うん……」

 

 疑わざるをえない。

 

「まぁ、無理はさせない範囲で私は好きにさせてもらうけどね」

 

 ソラは椅子から立って、さっき作った白いビット?に腰をかけ、宙に浮く。

 

「便利そう……」

「実際便利」

 

 簪は内心、これと同じこと出来るようになるのかと期待する。 

 

「じゃあ、開発納期はどこまでにする?来月にはクラス対抗戦あるけど」

「…………」

 

 簪は考える。

 恐らくというか確実にソラは遅くやっても来月までにハードを全て仕上げてくる。そうなると、今度は簪自身の問題になる。マルチロックオン・システムもそうだが、スラスター出力などの調整もありソフトにもいくつかやるべきことがある。そうなると、最低でも動かす程度には問題ないところまで持っていかなければならない。つまり、マルチロックオン・システムの優先度は最下位になる。だが、そのシステムは多数目標用のロックオンシステムなので、

 

「来月まで……マルチロックオン・システムは無くても……クラス対抗戦のような一対一なら問題ない……」

「試験運用もあるし、来月の頭までにはハードは仕上げるけどいいかな?」

「うん……よろしくお願い……」

 

 今度は簪が椅子に座ってパソコンを開く。

 現状の打鉄弐式の開発進捗を伝える。

 

「ハード面ほとんど完成してるじゃん……山嵐しか弄るところ無いね」

「他の部分も弄る気……?」

「あ……いや、何でも」

 

 目を逸らすソラに疑って正解だと確信する。

 

「じゃあ、春雷をもう二基、発注してくれない?」

「二機?山嵐は六基ある……」

「内四基は春雷の速射型にして、もう二基は単発高威力型にしようと思う。そっちの方は私のほうで調達するから」

「それは……困る……」

「? どうして?」

 

 簪はそもそもの打鉄のコンセプト及び、打鉄弐式の開発目的について説明した。

 

「あー、確かにそれはなぁ……」

 

 ソラは頭を掻き、困ったなぁと呟く。

 

「でも……あてがないわけじゃない……」

「というと?」

「更識のコネ……」

 

 ソラは反応に詰まった。

 

(え?え?これって、なるほど!って答えていいもんなの?新手のブラックジョーク?)

 

 別段、ソラは簪自身の背景について知らない訳ではない。代表候補な上に『更識』である簪自身を警戒してのことだった。だが、今この瞬間、それが仇になってしまった。

 

「あ、あ、うん……それでいいなら……うん」

「こういう時のための今の立場……!」

 

 簪はそういうと凄まじい速度で携帯に何かを打ち込み始めた。恐らくメール。

 

(何か……変なスイッチ入ったなぁ……)

 

 思わずソラは遠い目になってしまう。この子ってこんな子だっけ、と。

 

「話は通したから……いつでも発注はできる……!」

 

 サムズアップをする簪。それでいいのか、とソラ。

 

 すると簪のお腹が鳴る。

 

「…………」

「あー、そういえば夕飯まだだったね。って、八時じゃん。食堂丁度終わったし、どうする?」

 

 簪は顔を赤くし、お腹をさする。

 

「ちょっと食堂から何か貰えないか交渉してくるよ」

 

 ソラはそう言い残して出ていく。簪は背もたれに揺りかかる。何から何までやってもらってしまった。だが、不思議と後ろめたい気持ちも何も無かった。

 あるのは純粋な楽しみ。

 

「早く完成させたいなぁ……」

 

 一人、部屋の中で呟く。

 

 

 

 ソラは廊下を歩く。但し、行き先は食堂ではなかった。曲がり角を曲がった直後、後ろに振り返る。

 コツコツコツと足音が聞こえ、

 

「こんばんは」

「……あら」

「どうしたんですか?こんなところに二年生のフロアにも自販機はあるはずですよ?」

 

 ソラの背後には赤いのと青い自販機があった。

 ソラの目の前にいるのは水色の髪の白い扇子を持つ二年生だった。

 

「ちょっとおねーさんが欲しいものが売り切れてただけよ?そんな警戒心高めないで欲しいわ」

「流石胡散臭さに定評のある水色悪魔ですね」

「……そこは、ほら、せめて名前で呼ぶとかじゃない?」

「な、名前……?下位級悪魔に固有名ってあったんですか?」

「悪魔扱いはまだ分かるけど、下位級扱いはやめて頂戴……これでも立派な一族の当主よ?」

「確かに肉体的に立派ですね」

 

 全国平均で作ったソラの肉体はどちらかというと綺麗というよりかは可愛げのある女子高生の肉体である。

 

「なーんか意図的に話ずらされてる気がするのだげど……」

 

 ジト目で水色悪魔はソラを見つめるが、ソラは対応が面倒なため、ある話題を出した。

 

「それはそうと、妹との関係を自らの手で拗らせておきながら只傍観してるだけで仲直りは友達頼りで、しかも挙げ句その妹さんの仲良い相手には勝手に嫉妬するとかいう人のどこが立派なんですか?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛それはやめで!」

 

 両肩を抱きながら首ブリッジの体勢で悶える悪魔。そして悶えながら更に昔のことを思い出したのか泣き始める。ブツブツと何か呟きも聞こえる。

 ソラはそれを無視して食堂に向かった。

 

 

 

 いくつかのおにぎりを持って、戻ってくると神妙な顔つきの簪がいた。

 

「聞いて……」

「?」

 

 重く簪の口が開く。

 

「重量で『山嵐』飛ばないかも……!」

「え……?」

 

ソラの開いた口は塞がらなかった。




 設定が!執筆しながら!変わっていっちゃう!

 辛い。

 ISの時系列やらキャラの口調(特に簪)やら設定と独自設定とかの確認してたら狂いました。まーだ、一巻終わってないのかよ、この小説。

 8話はやっと5割くらい書けたという感じです。1~7話の修正とか特に辛かった。
 あと1巻の内容の確認と月が変わる度にプロットを再構成したりと、まぁ落ち着かなかったという。

 今後の方針ですがこの小説はコミカル中心で行こうかな、と思います。
 というか、ソラちゃんがISという設定が便利すぎてどう動かしても問題ないのが一番の問題。自由度が高すぎなのが仇になってる。

 あー、初期と何か構成が違くなってくるのはヤバいなー。

 8話は目標はGW前に投稿できたらします(多分無理)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8

おかしい……5月が瀕死だぁ……!


「うわ、マジじゃん……」

 

 数週間後、整備室では簪とソラの二人は実験をしていた。

 『山嵐』に取り敢えず『春雷』の分のおもりとビットとして運用するためのイメージ・インターフェースのデバイスを取りつけ、それを動かしてみるという実験。

 

「致命的に遅い……」

 

 確かにファンネル『山嵐』は動くに動いた。だが、とてもじゃないが実践に使えるものではない。その結果に露骨に舌打ちをするソラに簪は驚く。

 

「重量制限ともなると……どうしようもない……」

「んー、そうなんだけどねぇ……うーん」

 

 ソラとしては結局発注してしまった『春雷』も来てしまう以上、何もせず終わってしまうのは避けたい。

 一方、その隣の簪がぶつぶつ何かを呟いている。

 

「……に……スターを……無理にでも……うん、高速化はできる……」

「……かん……ざし……さん……?」

 

 不穏そうな呟きをソラは拾ってしまう。

 

「うん、いける……」

「何が……!?」

 

 先程の呟きからして恐らくソラ以上にまともでなさそうなものを感じ取っている。

 

「ここまで来れば……後は一人で出来そう……」

 

 簪はどこか覚悟をした目つきをソラに向けソラは一瞬眉をしかめたが、

 

「……そっか、なら私がやることは終わりなのかな?」

 

 笑みを浮かべて返し、簪は頷く。

 だが、全然やってない気がすると漏らし、その笑みは苦笑に変わる。

 

「あとは設計図を一度書きなおして……組み立てるだけ……道具とかは揃ってる……」

「……それ本当に一人で大丈夫?」

「……できる……多分……」

「……はぁー」

 

 ソラは溜め息をつき頭を掻く。

 

「手伝うよ」

「……ありがとう……」

 

 二人は作業に戻る。

 

 

 

 実験用の『山嵐』を分解し、今後の予定を決める。

 設計図は大体の部分を書きなおすとし、簪はこれを非公開のものとした。ソラにはショックだったが納得はしている。よってソラが手伝うのは主に組み立てとなる。またソフトウェア面ではどうやら幼馴染にやってもらうらしい。また本体の稼働データは何としてでも対抗戦一週間前には得たいという簪の希望により、本体だけ先に完成させる運びとなった。

 そうこうしている内に時間は過ぎ、辺りは暗くなっていた。

 

 二人は作業を切り上げ整備室を出る。すると、目の前には案内掲示板と睨めっこするツインテールの少女がいた。

 

 

 

「あー!何よ!この見にくい案内は!受付ってどこにあるのよ!」

 

 

 

「簪さん、誰だか知ってる?」

「知らない」

 

 真顔で相談する二人。すると少女がこちらに顔を向ける。ずんずんと聞こえそうな感じに大股で近づいて来る。一方、人見知りをする簪は静かにソラに隠れた。

 

「ねぇ、アンタたち」

「何?」

「この場所知らない?」

 

 そう言ってメモを突き出してくる。

『本校舎一階総合事務受付』と書かれていた。

 

「向こうじゃん」

 

 当たり前と言わんばかりにソラは親指で方向を指し示した。

 

「ん?ちょっと案内してくれるかしら?」

 

 少女は首を傾げ、それだけでは理解できないのか案内を要求してきた。

 ソラは振り返り尋ねる。

 

「簪さん、いいかな?」

「いいけど」

「じゃあ、案内するよ」

「そう、ありがと」

 

 三人は歩き出す。

 

 

 

 会話もせずに受付に向かう。

 だが、その道中、

 

『だーかーらー!その感覚が分からないんだよ!』

『だから、くいって感じだ!』

『その『くいって感じ』が分からないんだよ!』

 

 男女の言い争う声が聞こえてきた。丁度その声は行く先から響いている。そして、近づくにつれ二人の姿も現れた。

 男子の方は言わずもがな、織斑一夏である。

 そして、女子は同じクラスのポニーテールの女子、篠ノ之箒である。

 簪とソラは目をくれるだけでスルーするが、ツインテールの少女は違った。

 

「……誰、あの女」

 

 突然、ドスを利かせた声で二人に尋ねる。

 ソラは首を傾げながら答える。

 

「ああ、篠ノ之さんだよ。何でも織斑くんの幼馴染だとか」

「へ、へぇー」

 

 ソラは少女の顔を見やると、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

(ねぇ、簪さん……詮索はやめたほうがいいかな?)

(……聞かないで)

 

 元々人付き合いの少ない簪には分からないことである。そして、受付に辿りついてツインテールの少女と別れた。

 しばらくして簪が口を開く。

 

「思い出した……」

「さっきの人?」

「うん。中国代表候補生の……凰鈴音……」

 

 ソラはその名前に聞き覚えはなく、首を傾げる。

 

「どんな人?」

「候補生でも……いきなり頭角を現し始めた位だから……ここに来てもおかしくはない……」

「何で編入なんだろ?」

「さぁ……」

 

 二人は寮に戻った。

 

 

 

 翌日、席に着くと三枝木が話しかけてきた。

 

「ソラ、聞いた? 二組の話」

「? 何かあったの?」

「クラス代表が変わって専用機持ちの代表候補生だって」

「ほえー」

 

 ソラはさして関心があるわけでもなく答える。

 

「これで全クラスが専用機持ちだね」

「ああ、そっか」

 

 ただし、実質二機所有していることになるのはソラだけである。

 当のソラは、そうえいばそうだね、と思い出したように言う。

 

「クラス対抗戦も盛り上がること間違いなし!」

「そうだね……で、その二組の代表候補生って?」

 

 ソラは大体の察しは付いてるが尋ねてみる。

 

「中国の凰鈴音。今年からのなり立てだけど専用機を持つ程の実力者だよ」

「あー……」

 

 間が悪そうに頬を掻く。

 

「昨日実は会ったんだよね……」

「マジですか」

 

 食いつく三枝木。その反応を見てにやけるソラ。

 

「大マジっすよ」

「どんな人だった?」

 

 三枝木は目をキラキラさせながら聞く。ソラはどう表現するか考えてみる。

 

「オルコットさんの優雅さのパラメータを野性味に振った感じ」

「え、えぇ……」

 

 例えが例えだからか三枝木は困惑する。

 

 

 

「あれ? アンタ、昨日の」

 

 昼休み、三枝木と食堂へ向かうと入り口にツインテールの少女こと、

 

「凰さんだっけ?」

「ええ、昨日はありがとね。ええと―――」

「ソラ=オンブグレンスト」

 

 ソラは簡潔に名前だけ伝える。

 

「お、オンブ……?」

「長いならソラでいいよ」

「ええ、分かったわ」

 

 互いに握手を交わす。

 

「そういえば、凰さんクラス代表だって?」

「ええ、代わってもらったのよ」

 

 穏便に、と強調して付ける。

 ソラは取り敢えず深くは聞かないことにした。

 

「へー、私も―――」

 

 クラス代表と名乗ろうとしたら黒板をフォークで引っかいたときのような感覚がした。

 間違いなくアイツだと気づく。

 

「――失礼、先に食券取らせてもらうよ」

「? いいわよ。私はあいつを待ってるし」

 

 ソラは逃げるように食券といつもの大盛りの料理を交換し、席を確保した。

 

「…………すぅー、はぁー……」

「大丈夫?」

 

 深呼吸するソラの向かいで三枝木が心配する。

 

「あーうん、大丈夫」

 

 しかし、背後にはヤツが凰と食堂の入り口で会話をしていた。

 深呼吸をし終えるといつも以上の勢いで食事を食べていく。

 理由はただ一つ、

 

(睨まれてるのような気がして嫌なんだよ!)

 

 だが、現実は無慈悲かな。

 

「丁度空いてるしここでいいか」

「そうね」

 

 丁度、ソラの背後のテーブル席に一夏たちが着く。ソラは笑顔でうどんをすすった状態でフリーズする。

 

「おーい、ソラー、大丈夫ー?」

 

 三枝木はソラの眼前で手を振ったり頭を叩いたりするが反応はない。

 一方、ソラの背後では、

 

「――あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

 凰鈴音のその一言を切り口に、誰が教える、二組()の施しは受けないだとか言い争いになる。

 その隙にソラは再起動する。まずはうどんをすすりきる。

 

「おわぁ!?」

 

 突如、動き出したソラに三枝木は驚いてしまう。

 ソラは手を止めることなく残りのラーメンと蕎麦を食べきり、食器を片付けようと立ち上がる。そして、返却口へ向かおうとするが、

 

「あー、えー、ソラさん!ですよね……?」

 

 ソラは錆びついた機械の如く振り向く、呼び止めたのは隣での言い争いに巻き込まれ困惑する一夏であった。

 勿論、一夏が呼び止めたため一夏の周りのセシリア、箒、鈴もソラに視線を向ける。

 そして、一夏の視線は『助けて』と語りかけていた。

 ソラは一度目を閉じ、

 

 

 

「ごめんね!」

 

 ダッシュで逃亡する。

 

ふぁー(あー)ふぁっふぇー(待ってー)

 

 サンドイッチの残りを口に含んだ三枝木が後からそれを追って行った。

 

「……アンタ、ソラに何かやったの……?」

「……知らないんだ……本当なんだ……」

 

 疑惑の視線を向ける鈴に涙目で否定することしか一夏はできなかった。

 

 

 

 数日後、簪とソラはいつも通り整備室へ向かう途中、対抗戦の組み合わせ表を見つけた。

 だが、その互いの顔は引き攣っている。

 

「はは……まさかの組み合わせだね……」

「うん……」

 

 ソラと簪は苦い顔をしながら組み合わせ表を見る。

 

『 第一試合 三組対四組

  第二試合 一組対二組 』

 

 一二と三四、手抜きじゃないのかとソラは疑いたくなった。

 

「まぁ、当たるのは分かってたけどねぇ。しかも第一試合かぁ……」

 

 ソラが懸念しているのは打鉄弐式のことである。

 こうなった以上はソラは恐らく手伝いはできない。

 

「大丈夫……今のところ不備はない……クラスメートか整備課辺りにでも頼む……」

「なら、いいか」

 

 正々堂々勝負ができるね、とソラは手を差し出す。簪もそれに応え、握手を交わした。

 

 だが、ルームメイトなので後で気まずくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 五月になり、ソラは個人的な更なる調整もとい、

 

「うん、まぁ……流石にアレだけ弾ばら撒いたら経費無駄ってのも分かるけどさ……楽しいじゃん?」

 

 相方にお説教されていた。

 

「えー、ダメ?当たらないし、重いし、辛い?あー、そうだよねー、普通の調整だとそう感じるかもねー……で、もう使いたくないと?それは困るから何とかならない?……ライフル使え? アンタのやつ完成は……してるみたいだね」

 

 ソラは今、更衣室にいる。周りを確認し右手に白いライフルを展開させた。

 

「ふーん、普通のだね……特に何も特徴のないやつ」

 

 ただ、IS仕様のもののためソラの手には余るサイズであった。

 真っ白のライフルを眺め、構えてみたりする。

 

「大きいけど、まぁ、問題じゃない程度だね。あとは……」

 

 拡張領域のリストを上から眺める。ライフル、ショットガン、グレネードランチャーと武器の簡単な名称だけ連なっていたが、

 

「……ねぇ、このミサイルって何?」

 

 ソラは顔を引きつかせながら尋ねる。

 

「よかれと思って積んだ!?ふざけんな!」

 

 突如、ソラは叫びながら白いライフルを床に叩きつけ激昂する。

 

「ミサイルとか絶対ジャミング使われるんだよ! 言っておくけど電子工作の耐性値ほぼゼロだからね!おまえじゃねぇよ! わ・た・し・だ! 使われると私の思考回路がパァになるんだよ……フレアの方がまだマシだけどきっと誤認するんだろうなぁ……」

 

 ソラは怒りの火はあっという間に鎮火し、頭を抱える。

 ソラはただでさえリソースの半分を実体化に費やし、武装を自給するためのクリエイトモードにも割かれ、その上で残りをまともに戦闘出来る程度に振ってある。だが趣味の関係でその大体はパワーアシストに振ってあり、力だけなら通常のISの倍の出力はある。結果、拡張領域やPIC、はたまた対ECM等が脆弱と言えるレベルで弱っている。よく言えばピーキー、普通に言ってとても使えたものじゃない、である。

 

 元々ISのリソースは最低でも半分程度は空き容量というものが存在する。二次移行(セカンドシフト)で備わる、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)のためである。ある意味、ソラの実体化はソラの二次移行であるとも言える。そして、クリエイトモード。これは一般的にISの自己修復機能にあたる。二次移行時に追加武装が加わったりするのもこれが関係する。ソラとその相棒は通常のISより極めて大きいリソースが割かれ、これによって武装の自給が可能なのである。

 ちなみに、通常のISは機体構成そのものが外付けなためそこまでリソースに影響はないが、二人は一から作りインストールしてあるためリソースを食われている。

 

「くそぅ!全校の前でやらかしたら恥だぞ!」

 

 拳を握り覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 そして、来たるは対抗戦当日。アリーナは満席、しかも一部席には業界の著名人が連なっている。

 

「結局、打鉄弐式のデータは不明。分かるのは『山嵐』のミサイルと荷電粒子砲『春雷』、あとは薙刀『夢現』。けど、私のせいも相まってかなりの改造はあるに違いないし……どうする?」

 

 ピットのベンチで一人で呟く。三枝木やクラスメートはピットには来ず、一般席でまだかまだかと期待に胸を膨らませ待っている。

 

「……多分システムのほとんどはアンタに任せるし……いっそ、アンタが操縦できればいいんだけどねー……そういうソフト無い?……無いよねー、試合終わったら見繕ってくれる?ああ、出来る範囲でいいよ。全身装甲(フルスキン)でも構わないし……むしろ、そっちの方が都合がいいかな?」

 

 むしろ、ISコアを二つも使った完全自律型ISなんてものが出来てしまったら業界は大変であろう。気付けたらの話ではあるが。

 よっこらせ、とソラは腰を上げる。アリーナの中央では既に打鉄弐式を纏った簪が待機している。

 ソラも相棒である白いISを纏い、X字型に配置されたスラスターとカスタム・ウィングによりいつもの滑らかな機動で簪の正面に出る。

 そして、足元から頭までじっくりと観察する。

 

「見た感じ……完成してるっぽいね」

「なんとか……」

「噂じゃ墜ちかけたとか何とか聞いてるけどね」

「データ不足だったから……」

 

 会話しながら打鉄弐式の変更点を探す。が、特にそれらしいものは見当たらない。最後に設計図で見たときと同じである。

 

(実際にぶつからないと分からないかな?)

 

 白いライフルを両手に展開する。簪はそれを見て驚き混じりに呟いた。

 

「武装……変えたね……」

「ちょっち怒られたからねー、それで私は()()別のを用意したから」

「そう……」

 

 二人は意識を切り替える。ここから先は互いに敵である。

 

「じゃ、行こうか」

「うん……」

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

 電子音のブザーが鳴り響く。

 

 そして、それと同時に簪は認識した。

 

 

 

 素早く構えられたソラの両手にあるのはグレネードランチャーであることを。

 

 すぐさま回避行動に移る。身体を捻り真横へ移動。同時に独特の砲声が響く。

 死角の存在しないハイパーセンサーによりソラの手にあるものがいつ間にかショットガンに切り替わっていることを理解する。

 

(早い……! 高速切替(ラピッド・スイッチ)が早すぎる……まるで()()()()()()()みたい……!)

 

 次々に襲ってくる散弾の雨を掻い潜る。

 

「さっすが打鉄の後継機! 速いねー!」

 

 距離を取る簪に対し、ショットガンを撃ちながらライフルに切り替えソラ自身も更に距離を離すように下がる。

 打鉄弐式の『山嵐』が背部から展開される。

 

「今度は……! お返し……!」

 

 『山嵐』の二基から計一六発のミサイルが放たれる。

 ライフルを単発(セミオート)に切り替え、ソラは足を止め集中する。

 

「ふっ!」

 

 両手の引き金を二度引く。銃口から放たれたのは全部で四発の鉛玉。面で来るミサイルの核に撃ち込み、誘爆させる。

 結果、互いの中間でミサイルは全て爆ぜた。

 

「うそ……」

「ふふーん」

 

 ソラはしたり顔でライフルを空に向ける。

 

「なんて……」

「え――ぐふぅ!?」

 

 だが、したり顔が歪む。爆炎を切り裂きソラに直撃したのは荷電粒子砲。SEが四割も削り取られる。

 逆さまの視界の中、ソラは四基の『山嵐』の先端から覗く砲口を確認した。

 

「倍返し……!」

 

 今度は簪が笑みを浮かべる。そして、ソラに振りかかるビームの雨。

 

「おうっ!?」

 

 反撃しようとするが、その量ゆえに避けざるを得ない。

 アクロバティックな動きではとても避けられるとは思えず、慌てて簪に背を見せる形でジグザグに飛行する。

 

「ひえー、これはびっくりだよ」

「っ……予想より速い……」

 

 一度ここで確認しよう。先も述べたがハイパーセンサーには死角は存在しない。

 例え、真後ろだろうが、真下でも真上でも視認、もとい認識はできる。

 すなわち、

 

 どのような位置関係でも相手を()()()撃ち抜くことは可能である。

 

 ソラは予備の白い大口径ハンドガンを左手、黒い日本刀を模したブレードを右手に握る。

 四基にまで増えた『春雷』による絶え間ない弾幕を避けつつ銃口のみ向け、簪の目が見開かられる。

 

(ロックオンアラート……!? っ……!?)

 

 銃声が響き、雨は止む。打鉄弐式は打鉄の装甲を犠牲に機動力を向上させたものである。そのためハンドガンの弾丸といえど腕部装甲は耐えきれず、控えめに言ってもう装甲の体をなさなくなってしまった。

 だが、反撃は続く。

 

(接近されてる……!)

 

 元々用意されていた『夢現』を展開し、ブレードの刀身を逸らす。

 

「甘いよぉ!」

 

 接近した勢いのままソラの膝蹴りが剥き出しの腹部に食いこむ。絶対防御が発動しSEを大幅に削る。

 衝撃までは完全に消せず、簪は歯を食いしばる。だが、簪は『夢現』を手放しその足を抱える。

 

「えっ!?」

「これで……決める……!!」

 

 先程とは違う、二基の『山嵐』の砲口が光を放ちながら見つめていた。

 ふと、ソラは最初に提示した案を思い出した。

 

『内四基は春雷の速射型にして、もう二基は単発高威力型にしよう』

 

 この二基が高威力型なのは最早確定的明らか。

 ソラは顔を引き攣らせながら、簪は所謂ゲスイ笑顔を見せながら。

 

 二人は青いプラズマの光と共に爆発した。

 

 

 

 

 

「いやー、見事にしてやられたし。しかも、あるであろう新しいギミックも何も見てないし」

「引き分け……次は勝つから……」

 

 二人はピットのベンチに腰掛けながら試合の話をしていた。

 流石に零距離砲撃は二人を巻き込み、互いのSEをゼロにした。

 結果は引き分け。あっという間に決着がつき、判定が難しく現在教職員が協議している。

 

「結果はどうなんだろうねー」

 

 うんうん唸りながらソラは呟く。その隣の簪は端末で先程の試合のデータを確認している。

 戦況は基本的にソラが仕掛け、簪がカウンターを返すという流れであった。簪とて反撃はキッチリ返し奇襲に成功、そして最後の砲撃。

 先手を取り続けたソラか、止めを刺した簪か。

 

 二人の考えは、ソラははっきり白黒つけたい、なんなら再戦も構わないと思っている。一方の簪は今回で十分にデータが取れたため一度調整に入りたい。

 全く別の方向性になっている。

 

『クラス対抗戦、一年生の部、三組代表対四組代表、両者引き分けとなったため教員による協議の結果を発表します』

 

 互いにさほど判定に対し気にはしないまま、アナウンスが流れた。

 

『協議の結果、四組代表更識簪さんの勝利とします』

 

「「……」」

 

 二人は真顔のまま頭に?を浮かべる。

 そして、一拍を置き理解する。

 

「再戦じゃないのかぁ……けど、とどめを刺したから妥当じゃない?」

 

 おめでとう、とソラは賛辞を贈るが、簪の表情は晴れない。

 

「嘘でしょ……、パーツの大体は破損……その修理……、稼働データの調整もあるし……辞退しようかな……」

 

 最後の砲撃のせいで二試合も連続で続けれる状態ではなくなってしまった打鉄弐式。そのことを考え、簪の顔は曇っている。

 

(愛されてるなぁ……)

 

 呟きを聞きつつソラはニマニマと笑みを浮かべる。

 

 

 

「私は先生に……辞退することを伝えてくる……」

 

 簪はそう言って教員が待機するピットに向かって行った。

 暇を持て余したソラは飲み物を買いに、アリーナの外にある自販機の前にいた。

 

「だとすると、私が代理で進出するのかなー?……どうでもいい?休ませろ?そうだよねー」

 

 手に持つ腕時計を見つめながら一人ごちの呟く。周りに人はいない。

 

「代理で出るなら次行けそう?……はぁ?私がやれ?本格的に殴り合い以外の選択肢取れなくて織斑君、アイツが相手じゃなきゃ無理なんだけど……代理で出るのも嫌だなぁ」

 

 諦めたように呟き、ガコンと缶コーヒーが自販機の中で落ちる。同時にアリーナに何かが落ちた。

 轟音が響き、外からでも確認できるアリーナの砂埃。

 ソラは意に介さずコーヒーを一口飲み、眉を寄せ呟く。

 

「……誰アイツ……見たことない顔なんだけど」

 

 

 




喉をやってしまい痰と咳が止まらず辛いです。

冒頭の部分だけでかれこれ数か月悩んでました。
遅れた原因はそれなんです!僕は悪くない!こういう展開にした奴が悪いんだ!←

ソラちゃんの弱点:ジャミング、フレア等

やるとほぼの確率で自滅します。
え?以前ソラちゃん自身がジャミングやってた?
ECM積んだ艦船が自分のジャミングでどうこうしたりしないですよね?(多分)
そういうことです。

ようやく1巻の内容が終わる……簪の口調のためと展開の確認のためだけに1巻と7巻ずっと手放せないでいたからやっと解放されます。
というかISはこれ書くために引っ越し先までに持ち込みましたからね……。

あと打鉄弐式にはまだギミックがちゃんとまだあります。出せなかったのがつらい……タッグマッチトーナメントでは絶対出してやらねば!

それにしてもバトルシーンがターン制に見えてしまい不安です。というか描写全般が不安要素になり得てしまう……。
次までには頑張って改善します。

出来れば来月中に……。

そういえばサブタイって数字じゃなくてちゃんとしたの入れたほうがいいですかね?



ちなみに、教員の協議の結果は普通に作為ありありで、簪ちゃんが選ばれました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9

7月だぁ……どうしよ……(´・ω・`)

ISの9巻辺りから積んでるし……どうしよ


 アリーナから光線が伸びる。恐らくビームの類であろう。

 ソラは驚くこともなく、コーヒーを飲む。

 

「んー、やっぱり誰? 見覚えないし、新人(ニュービー)かな?」

 

 あれやこれやとぶつぶつ呟く。今来たやつ(IS)は誰か、と。しかし、考えてばかりでは始まらない、とソラは結論付ける。

 飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に捨てる。

 

 そして、目の前に何かが落ちてきた。

 

 砂埃が立ち、ソラは目をつぶる。

 

「……まーじかー……」

 

 砂埃が治まり、目の前の存在に困惑する他ない。

 

「もう一体いるのか……はぁ」

 

 灰色のIS。『全身装甲(フル・スキン)』タイプの人型にしては歪な形をしており、肩と頭がほぼ一体化していて、腕部も異様に長く大きい。また、サイズも通常のISより一回りは大きく、その巨体を操る為か、あらゆる所にスラスター口が見られる。

 

 その侵入者とも言うべきISをソラはじっくりと観察する。顎に手を当てたり、周りをぐるぐる回ったりと色々。そうする一方、そのISは棒立ちのまま、ただ頭部のカメラでソラを追うだけだった。

 そして、うん、と一つ頷く。

 

「やっぱり新人だ。見たこともない。それにこんなデタラメな出力を持ちつつコンパクトに収まるアホみたいなジェネレータをほいほいこんな所に突っ込ませるのは一人しかいない思うし」

 

 はぁ、と再び溜め息をつき、頭を抱える。

 だが、何かに反応するようにISの方に向けた。

 

「……ん? ……何で攻撃しないかって?」

 

 いつもの腕についてる相棒とは違う感覚でソラは話す。

 

「こいつが試合後で壊れてる。だからアンタとはやり合えない……何? 私自身とやり合うっての? はぁ……悪いけどその頼みは聞けないよ」

 

 彼女は肩をすくめ、口の端を浮かべ自嘲する。

 

「いくら装甲付け足してもスラスター設定で碌に飛べやしないから……ね……」

 

 不意にその言葉が止まり、ソラの目はじっとその巨躯のISに向けられた。周囲にはアリーナから届く戦闘の音のみが響く。恐らく、もう一体のISが一夏と鈴を相手に戦っているのだろう。

 

「分かった。私がアンタと戦えばいいんでしょ?」

 

 そんな中、ソラは唐突にコロリと意見を変え、得意げな表情を浮かべて指を突きつける。

 

「まぁ、勝敗なんて関係ないと思うけど……代わりにアンタを倒したら、そのジェネレーター貰うから。もちろん、コアも回収して、パーツも諸々戴くつもりだし。多分、あの人、母さんもそれくらい織り込み済みと思うんだけどね」

 

 どうせアンタ言っちゃ悪いけど使い捨てでしょ? とソラは渋い顔をする。

 

「コアネットワークでいつでもデータ回収は出来るだろうし、コア自体も未登録。内々で処理されるのは目に見えてる。無為にコアを使うのはあんまりいい気分しないんだよねぇー。だったら私で回収してリサイクルの方がまだマシだとは思ってるからね。と、まぁ、話はこれまでにしようか。見つかる前にちゃっちゃと終わらせないといけないだろうし」

 

 ソラは軽いストレッチを始める。対するISからも徐々に微かであるが内蔵させるジェネレーターが動き出す音が聞こえ始めた。

 そして、拳を構えISと相対する。

 

「よしよし……じゃ、来い!」

 

 じっと、ISの一挙一動を見落とすつもりもなく、見つめる。

 ISは未だに一歩たりとも、指先一つすらも動いてはいない。

 

「……」

 

 まだ、アリーナからは轟音が聞こえてくる。

 ISからは排熱のためか、空気が漏れるような音が聞こえてくる。

 

「……来ないの?」

 

 流石に、何もしてこないので不思議思ったソラが構えを崩して尋ねる。

 

「えっ? 迎撃用システムしか入ってないから、私が仕掛けないと動かない? 先言ってよぉ!? 流石にそんなの分からないし、私だってお前を試すつもりでもあったんだよ!? 折角の雰囲気をぶち壊さないでよぉ!」

 

 相手の機体を動かすのは所詮プログラムされたAIなのだ。ソラのように()()()直接出張って来る訳ではない。無人機故の弊害

 頭を両手で荒く掻き毟り、ソラは唸る。

 

「分かった。私から仕掛ける。それでいいね?」

 

 どこかムッとした表情で改めてISに問う。 

 ISはまだ動いてないが、ソラはよし、と呟く。

 

「こうなったら最初から全力で行くよ」

 

 前回とは違い、手だけではなく足も胸周りも黒い装甲に包まれた。

 やはり、手の鋭利的なデザインと同じく、足も鋭い刃のような印象を持つデザイン。胸部の装甲は最低限で、本当に胸の周りにしか装甲はない。腹部や肩は露出したままである。

 そして、背部。ISにある筈のカスタム・ウィングやスラスター翼などが見当たらない。全く無いという訳ではなく、ソラの肩甲骨に当たる部位に申し訳程度のスラスター口が二つと、補助用と思しきデザインの一つとすら見間違ってしまいそうなスラスター翼があった。

 

「流石に正面の殴り合いじゃ、ウェイト差の不利が大きすぎるからねぇ……」

 

 ソラの倍はありそうなサイズのISを見ながら攻略の糸口を探す。だが、地面に足を付けてればいいか、と早々に力技に任せることにした。

 一回のバックステップで十メートル以上の距離を取る。

 

「まずは一発!」

 

 そして、放たれる弾丸のようなドロップキック。いや、最早弾丸と呼ぶにふさわしい速度である。

 

「そぉら!」

 

 ISは全身にあるスラスターを利用して巨躯を素早く動かし、体躯を逸らす。

 ソラは舌打ちをし、すれ違う。振り返ればISの腕からは紫電が漏れだしている。

 手持ちの斧で防ぐことも一瞬考えたが、アリーナの障壁すら貫通する威力。斧の腹で止められるはずもないと踏み、すぐさま横っ飛びで回避する。

 

「おいおい、地面が泡立ってるよ……」

 

 赤く泡立つ地面。その威力に苦笑するが、ISはそんなソラを待たず次弾を放つ。

 よっ、ほっ、と軽い掛け声と共にそれを躱し、ナイフを展開。投げつける。甲高い風切り音を立てISのカメラアイに向かって飛んでいくが、ISの剛腕により叩き落とされてしまう。

 剛腕を振り切るとソラが接近していた。既に右腕を引き絞っている。

 

「ふっ!」

 

 空気が破裂するような音が響く。ただ、ソラの拳が空を切っただけで、である。

 

「また……」

 

 ISはまたもスラスターによって後ろに下がっていて、その腕を構えていた。

 ソラは敢えてそこで前進する。砲口からは今すぐにでも発射されそうなエネルギーが充填されている。

 それが発射される直前、それを全力で蹴り上げる。

 空高く伸び、天を突く紫電。

 ソラはそれに目を向けることも無く、胴の中心に膝蹴りを入れる。

 

「かったっ!?」

 

 ウェイトの関係で弾かれてしまう上、ソラの膝は表面にすり傷を入れる程度にとどまっていている。

 ISの太い腕が伸びてきたため、頭部を踏み距離を取る。

 

「あんのなに掴まれたら、脱出できないままやられそうだなぁ」

 

 着地と同時に横に飛ぶ。そこにビームが着弾する。

 

「問題はあのビームがどれくらい連射できるかかな? あとは装甲」

 

 今度は地面を這いつくばるかのように駆けビームを回避し、水平に跳ぶ。

 すると、ISはまた回避を取り、間合いを開ける。

 

「ん?」

 

 地面に足をつけ慣性を無視したかのような動きで砲口を向けるISにまた跳びかかる。

 腕を振ると同時に斧を展開、砲口を逸らし、あらぬ方向へビームは飛ぶ。

 身体を一回転させ、がら空きの胴に斧を叩きつける。

 初めてISが横転する。

 その様子を眺めながらはソラは溜め息をつく。

 

「思ったよりも単純かな? 向かってくるモノに反応して砲撃、接近されたなら回避から砲撃。いくら母さんといえど、中まで弄ることはできなかったんかな?」

 

 おもむろに立ち上がるISに歩み寄っていく。

 

「そういえば、アリーナ方はどうなんだろうね? 気にならない?」

 

 ISが腕を上げると同時に、ゆっくりとした歩みは鋭くなった。

 

 

 

 

 

「――オオオッ!!!」

 

 鈴のIS『甲龍(シェンロン)』の龍咆による砲撃のエネルギーを利用した瞬時加速。今までの瞬時加速よりも速く、空を駆けた。

 零落白夜による一撃。それは確実に侵入者であるISの右腕を刈り取った。

 だが、まだ残る左腕を一夏に叩きつけ、砲撃を試みる。

 

「――狙いは?」

『完璧ですわ!」

 

 刹那、四本の青い線がISを貫いた。

 最初にアリーナの障壁を破壊したせいで、セシリアによる介入を許してしまったのだ。

 一夏は黒煙を上げるISの傍に降りる。それを追って鈴も駆け寄る。

 

「結局、こいつは何だったんだろうな……」

「分からないわよ。けど、あれほどの出力を持つ武装を用意するなんて軍とかじゃなきゃ無理なんじゃない?」

「……そうか」

 

 真実はどこまでも遠い。今いる場所からはとても見えない。

 

 すると、不意にISの腕が動き、一夏に向けた。

 

「――しまっ」

「はっ!」

 

 鈴の大型の青龍刀『双天牙月』が千切るように薙ぎ払った。

 残る左腕も無くなってしまった。

 

「……」

「ったく、危機一髪だったわね。って、どうしたのポカンとして」

「あ、ああ、ありがとな、鈴。助けてもらって」

「……ふん、あんたは素人なんだから、これくらい当たり前よ。少しはあたしを見習ったら?」

 

 横目で一夏を見るが、

 

「それとセシリアもありがとなー!」

 

 上空から降りてくるセシリアに手を振っていた。

 

「あんたってやつは~!」

 

 セシリアが地上に降りてくる。しかし、その顔は安堵の顔ではない。

 

「大変です! まだ、もう一機ISがいますわ!」

「「……!」」

 

 直後、アリーナ観客席の壁が爆発した。粉塵が舞い、それを紫電が貫く。紫電は観客席とアリーナの障壁もいとも容易く貫いた。

 

「なっ!」

「まだいるのかよ!」

「来ますわ!」

 

 遠くで何かの叫び声が聞こえ、黒い影が飛んでくる。

 それは空中で何かを噴かし、姿勢を整え観客席を崩しながら着地する。

 もう一つ、追う小さな影。

 

「そ、ソラさん……!?」

「それともう一機!」

 

 鈴と一夏が驚愕している間に、その二機は動き出す。

 

 崩れて壊れた椅子を投げつけ、意図的に迎撃させる。その隙に肉薄、拳を放つ。

 観客席が引っかかるためか空中に逃げ、足元のソラに向かって砲撃。だが、既にソラはそこにはおらず、真横にいた。

 

「ほっ!」

 

 斧を展開、斬撃。アリーナの中心に向かってISは吹き飛ばされる。そして、ソラも弾丸のような速度で跳び、それを追う。

 ISはソレを視認し、すぐさま再び(ちゅう)に飛ぶ。直後、ISがいた場所に砲弾が着弾したかのような衝撃が走る。粉塵が舞うが、上から紫電によって貫かれる。それと同時に横からソラも飛び出してくる。

 一瞬、一夏の視線とソラの視線が交差する。

 彼女は小さく嘆息した。

 

「悪いけど、もう片付けるから」

 

 ブレードとナイフを投げつける。

 ISはビームで弾く程ではないと判断したのか、両腕で弾いた。

 直後、カメラの目の前には斧があった。ワンテンポ遅れて来たソレは胴に刺さり、衝撃でのけ反ってしまう。

 そして、カメラに映しだされるのはソラ。斧に触れるとそれは瞬時に拡張領域に格納され、罅のある胴の真ん中に手刀を突き刺した。

 

「面倒くさい……なっ!」

 

 胴を蹴り飛ばし、様々な機材が引き抜かれコードが千切れる。

 その中に無人機を動かすための機材があったのか、ISは動かなくなった。

 

 

 

 

 

「はっや……」

「見た所、スラスターらしきものは無いのですが……」

「……」

 

 三人が呆然としている間に決着は着いた。

 手に握る中身を泥団子でもこねるかのようにして潰し、ソラは動かなくなったISを担ぎ向かってきた。

 

「そっちも面倒だったでしょー? とりあえず、今日はお疲れ様。じゃ、また明日」

「「「……へ?」」」

 

 まるで、何かのイベントの運営でもやったかのような感想。

 空いた手を振りながら彼女は出口へ向かう。

 

「あ、あの……!」

 

 一夏はすぐに我に返り、手を伸ばすが、

 

「……?」

 

 身体の側面に軽い衝撃が走った直後、視界は暗転した。

 

 

 

 

 

「極度の緊張状態から解放された反動だろう。お前が思っている以上に疲労が蓄積している、明日から身体が重く感じると思うが、まぁ慣れろ」

 

 白いベッド、白いカーテン、白い天井。だが、それらが夕焼け色に染まる保健室。上体だけ起こす一夏は姉である千冬と話していた。

 

「千冬姉……」

「なんだ?」

「ごめん」

 

 一夏の謝罪に、千冬は面を食らう。だが、すぐにいつもの鋭い表情に戻る。

 千冬は何も言わず、一夏は続ける。

 

「今回の事件で千冬姉に心配かけてさ。もし、あの場ですぐにでも避難してればって」

 

 でも、と紡ぐ。

 

「あそこはまだ皆がいて、さ。俺が守らなきゃ、って。千冬姉、俺の判断――」

 

 その言葉が最後まで紡がれることは無く、千冬が出席簿が一夏の脳天に刺さる。

 

「――ったぁ!? 何すんだよ!? 一応、怪我人だぞ!?」

 

 あまりに非道な対応に思わず一夏も息を荒げるが、千冬は鼻を鳴らす。

 

「ふん、これは教員の指示を無視した罰だ。それにお前が皆を守るなんて百年は早い。せいぜい、今の自分を省みて精進することだな」

「そこまで言うかよぉ!?」

「当たり前だ。お前にできるのは一高校生とそう変わらん。さて、私にはまだ後片付けがあるから仕事に戻る」

「……そう」

 

 一夏は俯く。

 

「ああ、それと私は別にお前の行動が間違っているなどと言うつもりはない、むしろお前は正しいと思うぞ。全校生徒が避難する時間を稼いでくれた。それだけでも感謝する。ありがとう、一夏」

 

 それだけ言い残し、千冬は出て行った。

 

「千冬姉……」

 

 一夏は姉が出て行ったカーテンの向こうを見つめる。

 

「だったら、少しは優しく叩いてくれよ……」

 

 少年は脳天を未だに痛そうにさする。

 

 

 

 

 

「これでよし、と」

 

 SE補給用のプラグを咥えながら、ソラは誰もいない整備室で作業をしていた。

 相方であるISの修理と侵入者であるISの解体。

 解体した方は現に装甲、コード類、ジェネレーター、砲身、その他諸々が並べられ、ソラの手にはコアがある。

 

「さてさて……」

 

 全てを終えたソラはニヤニヤしながらジェネレーターを撫でる。

 

「これを量子変換(インストール)すれば私も飛べる……でも、今のやつの設計変えないとなぁ……それにPICの関係もあるから……飛べるかなぁ?」

 

 ソラのスラスター出力は浮くことはできても、実践にはとても使えないほどである。そのため外部電源のこのジェネレーターが欲しかったのである。

 そして、PICはほとんど容量を割いてないせいか、かなり不安定である。恐らく候補生クラスでも飛ぶこと自体はできても、飛行は難しいだろう。

 とは言ってもソラにとっては自身の感覚の問題である。まして、ISというスパコンすら優に超える機械である。恐らく二、三度の飛行で感覚を掴めてしまうだろう。

 今のところの不安点は機体設計の変更だろう。スラスターの位置は問題無いだろうが、ジェネレーターの設置箇所とスラスター翼を変えねばならない。

 心配事は尽きないが、既に日は傾くどころか沈んでいる。

 

「色々あるけど、帰るか」

 

 ISを待機状態に戻し、解体した方は部品をまとめ、コアに戻す。

 

「……ISって一体どんな構造なんだろ……?」

 

 質量保存とか色々無視している辺り不思議に思ってしまうが、ソラ(IS)が疑問視していいのかは甚だ怪しい。

 

 

 

 

 

 そして、夜。学園の地下施設で、千冬は今回侵入してきたISの解析をしていた。

 

(全くの新品か……どこの国にも登録されていない上にこの機体か……)

 

 アイツか、と確信じみた呟きを漏らす。事実、千冬が知る限り無人機を作れ、新品のISコアを用意できる人物など一人しかいない。

 

(そして、もう一体はオンブグレンストがどこかに持って行ったと……)

 

 それに関してはセシリアや鈴の目撃証言があり、軽く調べるだけで全てが出てきた。整備室に持ち込み解体しているところまで。

 そして、最後は持ち帰るところまで記録として残っている。

 

(一度、オンブグレンストに関して洗いざらい調べ直すか)

 

 ソラ=オンブグレンストという人物、『リベレーター』という企業、そしてソラの使うISについて。

 これについても今日の試合、アリーナの外で行われていた戦闘の記録を少し調べるだけで全容が出てきた。

 

(ロシアのISだと……? あいつの企業はドイツのはずだ。事実、ドイツを中心に欧州での活動はあるが……何度調べてもロシアのISの反応だ。あいつは堂々とここで使っていたのか? それに……)

 

 計器に示されるものはソラが侵入者と戦闘しているときのISの反応だった。

 

(日本だと……? 一体……まさか!)

 

 千冬に珍しく焦燥に駆られた表情で過去の資料を漁る。

 見つけ出したのは数年前の事件。日本の研究所からISが逃げ出したというモノ。それと、ロシアで隕石、というかISが発見され、ロシアの研究所からも一つのコアが盗み出されたという二つの資料。

 千冬はその二つからあることを推測する。

 

(つまり日本からロシアへ一度送り、それをロシア側に回収させ、そこから一度に二つのコアを盗み出した……? いや、それを一人やるのは難度が高すぎる。協力者が……? だとするならヤツが言っていた従業員のもう一人がその協力者なのか……?)

 

 大体合ってない。そもそも、当時、千冬は現場にいなかった。恐らく、当時の現場にいたものならば口を揃えて「こいつ(ソラ)それ(IS)だった」とでも言うだろう。

 

(ともかく、これは学園のみで片付けられる問題ではないな。一度、政府側に連絡を入れ、ある程度の人員を割いて調査した方がいい。だとするならば……学年別トーナメントか)

 

 それは六月の中旬。およそあと一か月先である。

 

 

 

 

 

 六月は頭、日曜日。問題の当の本人。ソラは、

 

「やぁ、篠ノ之さん。こんにちわ」

「あ、ああ、こんにちわ」

 

 最近、事情は分からないが、隣室から移った篠ノ之箒を尋ねていた。

 

「早速だけど……」

「な、何だ……?」

 

 顔見知りで訳知りな一夏には強く出れる箒だが、その実、結構な人見知りである。

 そのため、どこかののほほんとした人や、ソラのように箒の雰囲気を気にしないタイプには滅法弱い。

 

「専用機に興味ある?」

「……は?」

 

 




今回の解説。

ゴーレムのビームはとても高出力。多分零落白夜くらいの出力。
では、そのエネルギー源は? ということでジェネレーターを組み込んでいるということに。
零落白夜もこのビームも原理は同じで単純にエネルギーをとても使って高出力にしてると思ってます。ただ、そのソースがゴーレムは外部のジェネレーターから、零落白夜は白式のSEから。という違いです。
そのためゴーレムはバンバン零落白夜クラスの砲撃が可能。

ソラの飛行について。
とても不安定。じゃじゃ馬の如く。そのため戦闘中は一度も飛んでいません。跳んではいますが。それに加えスラスター出力が極めて弱い。
次回からは結構改善するかな?外部電源を手に入れたので。

あとゴーレムの解析。
原作じゃ山田先生いたんですけど、当事者でわりかし事情を知ってるので省きました。
山田先生ごめんなさいね。

取り敢えず、やっと1巻終了。
次回は2巻、の前半。シャル編です。多分絡みは全くというレベルでないけどね!
あと原作じゃ完璧クラスの男装(見た目のみ)だけど相手はISのセンサーだ!

2巻の後半は後半で色々悩むんですけどね?
あと、最後のアレについても次回、ちゃんとやりますよ?
というか3巻の辺りをコミカルに処理したいがために今は色々やってる感じです。

次回は8月かな?それに短くなるかも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10

今回は結構無理にやってしまった感はありますのでご注意をば。

というか、当初の予定と少しずつズレていく……

しっかりとテーマ決めて話書かないから……


 時間は遡り、

 

「あんたは全身装甲に切り替え、こいつ(元ゴーレム)は新しく組み直した」

 

 簪は今出かけている。よって、一人のソラははばかることなく、相棒に加え、新人も交え会話をしている。

 

「で、あんたには私のデータの一部移したから、残りをやれば自立できるんでしょ? ああ、新人、お前はしばらく私が使うからよろしく」

 

 で、と区切る。

 

「私という機体は一体どうなんろう……って思うのよ」

 

 ソラとてISである。そして、その自覚もあるつもりである。

 ただ、気になってしまったのである。機体としての自分が。今まで一度も乗られたことなどあるはずもない自分が。

 

「……おい、使えないとか言うな。そこの新人のおかげで飛べるようになったんだぞ! ようやくだ! でもねー、設定がねー、下手なやつに触らせるのもねー……」

 

 

 唯一、問題があるとするなら、機体構成や性能的に操縦する人がいないかもしれない、という点。

 武器は近接武器のみ。性能は()()()()普通のISよりかは高水準で特にパワーアシストが高いため格闘に向いている。

 だが、それを損なう分だけのじゃじゃ馬な癖があった。

 ソラ自身、一度飛行してみたのだが、結構癖が強く。意識していなければバランスを崩してしまうレベル。

 

「ああ、そうだ。利権関係の問題もあったなぁ……」

 

 先日の襲撃事件でISが二つある事実が学園側にバレてしまい、激しく問い詰められた。

 流石に、ソラも懲りて、()()()意識するようになった。

 

 結果、近接格闘が出来、専用機を貸与しても問題が無さそうな人物。

 

「…………一人、いるか」

 

 例のあの人の妹で、現状専用機の一つ二つ持っててもおかしくは無さそうな人。

 実際は現状、ISには全く何も関与していないが。

 

 

 

 

 

「――ということで、来たの」

「……は、はぁ……」

 

 実際に伝えたのは、凄く操縦の癖が強い格闘機体が一つあること、試験運用をしたいが今回自分はダメそう、手が空いていて一番問題無さそうなのが篠ノ之さん、という三つのことである。

 箒はどうも胡散臭く感じてしまう。

 元はと言えばあの姉のせいである。あの姉絡みで碌なことは一切なく、特にIS関係は疑ってしまう。

 だが、同時に専用機という言葉に惹かれてしまうのもある。

 

「しかし、専用機をそう簡単に渡してもいいものなのか?」

「んー、今回は試験運用だし、あくまで貸与なんだけどー、まぁ、多分普通は絶対ダメなやつだと思うね」

「……」

 

 ダメなことをさらりとやろうとするソラに箒は返す言葉も見つからない。

 最も、ダメな理由としては情報や技術漏洩の可能性があるからこそ、誰もやらないのであって、明確にやってはいけないとはされてない。所謂、暗黙の了解みたいなものである。

 他にも、絶対防御の設定を切った上で、事故に見せかけた暗殺も可能であるが、ISでそんなことをやってはISの利権に関わってしまうし、コストが見合わない。

 

「理由は色々あるけど、少なくとも損はないと思うよ?」

「しかしだなぁ……」

 

 さらに言えば、篠ノ之箒は、かの篠ノ之束の妹である。遺伝子目当てで近づく輩もいるにはいる。

 ソラはどうにかして乗せなければと考え込む。

 

「ムムム……」

「あー、悪いがこの話は――」

 

 そして、思いつく。こうなったら自棄(やけ)だ。

 

「――頼むよ! そこをなんとかさぁ!」

「……っ!?」

 

 箒の両手を取り、縋り付く。ここで諦めたら恐らく、乗せられる人物がいなくなってしまう。

 

「どうか! この通り! お願いします!」

「お、おい!?」

 

 極め付けに床に膝をつけ、身体を折りたたむようにして額も床につける。

 そう、土下座である。

 

「あ、頭を上げろ! 私としても情けなくなる!」

「……」

 

 箒は箒で狼狽えてしまう。元々人付き合いは少なく、こうも懇願されるのに慣れてない。

 彼女も膝をついて、ソラの頭を上げようにもビクともしない。

 周囲に人がいなかったことが、せめてもの救いだろう。

 

「お願いします!」

「あ、あ……」

 

 畳みかけるように言う。

 

「わ、わ、分かった! の、乗れば、乗ればいいんだろう!? だ、だから、その、頭を上げてくれ!」

 

 ついに折れた箒。混乱しているのか最早目をグルグルに回していた。

 そして、その言葉を聞き、ソラは跳ねるように立ち上がる。

 

「っしゃぁ! 篠ノ之さん! その言葉を待っていたぁ!」

「あ? あ? え?」

「取り敢えず、この時間に整備室に来て! 丁度、立ち会えないから機体だけ置いておくから! 適当に一人で動かしてもいいし、誰かとやってもいいから! じゃっ!」

「え? え? え……?」

 

 約束だけして、嵐のように去って行ったソラ。箒は手渡されたメモを片手に困惑するしかなかった。

 

「……な、何だったんだ……?」

 

 

 

 

 

 箒から半ば強引に約束を取りつけて翌日。

 

「聞いた!?」

「何をっ!?」

 

 教室に行くと席に着く暇も無く、三枝木が食い気味に話しかけてきた。

 

「新しい転入生!」

「また……?」

「それも! ただの転入生ではない!」

「なん……だと……」

 

 驚愕に打ち震えるソラと事実を告げる三枝木玲奈。いつになくテンションが高い二人であった。

 

「なんと!」

「なんと?」

「専用機持ち!」

「マジ?」

 

 内心、何故この中途半端なタイミングで来るんだろう、と若干の呆れが混じった疑問が湧いた。

 しかし、三枝木の勢いは止まらない。

 

「しかも!」

「しかも?」

「かのフランスのIS企業! 『デュノア社』! からフランス代表候補生!」

「また大きいとこから来たね」

 

 ソラとて聞いたことがある大企業『デュノア』。シェア率トップ3の第二世代機『ラファール・リヴァイヴ』を開発した企業である。

 

「そして、もう一人!」

「え、二人もいんの?」

 

 流石に、ソラも普通に驚く。

 

「ドイツから!」

「え、ドイツ?」

 

 まさかの、しばらく過ごしたドイツからである。  

 ソラにとっては何の思い入れもない、と言えば嘘だが、言うほど何かある訳でもない。

 

「なんと――」

 

 すっ、と玲奈が口を寄せてきた。

 

「あんまり大きく言えないけど、どうも軍出身らしいんだよ」

「……軍?」

 

 ソラは少し前の記憶(記録)を探りだす。

 ふと空軍出身のある知り合いが思い出された。

 彼女は今、どこで何をやってるのだろう。隠居じみた生活に入ってからは会ってない。

 

「聞いたことはあるね。ISが配備された特殊うんちゃらって話は」

「じゃあ、やっぱ事実なのかな?」

「何? 噂なの?」

「うん、まぁ」

 

 一生徒の玲奈がそこまで確か情報を得ることは難しい。

 だが、女子高生の好奇心と共有力を舐めてはいけない。上級生が率先して情報を集め、共有。すると、瞬く間に全校に広がっている。

 

 そこまで言うと三枝木も落ち着き、席に着く。

 

「まぁ、HRも終われば詳しい情報は集められるかな?」

「見に行ってみる?」

「そうだね」

 

 

 

 案の定とも言うべきか、再びHRの時間に叫び声が廊下に木霊した。

 

 

 

「一体どんな人が転入すればこんな騒ぎになるの?」

「それは二人共専用機持ちだからね」

「うん、まぁ……」

 

 首を傾げつつもソラと玲奈はその元である一組に向かう。

 すると、一組の扉から一夏とブロンドの髪の男子(・・)が出てきた。

 

「「え?」」

 

 二人は急いでその場から去る。廊下ではその二人を探していたであろう女子たちが騒ぎながら群がっていた。

 

「今の……」

「男……?」

 

 二人を顔を合わす。

 

「まさかーそんなわけ……きっとないよ」

 

 ソラは笑い飛ばして否定しようとしたが、自信は無かった。

 何せ、本人(IS)も何故『織斑一夏』が操縦できるのか分からないから。

 

「ま、まぁ、もう一人いるし? そっちは多分普通だと……」

 

 玲奈も震え声で答え、二人で教室を覗く。

 恐らく、転入生と思しき人物ならすぐに見つけることができた。

 何故なら、そこだけポッカリと穴が空いたように人がいないからである。

 

「眼帯に……改造制服も何か軍服っぽいような……」

 

 玲奈が見たまんまの感想を呟く。

 ソラはじっとその人物を見つめる。

 

「ソラ? どうしたの?」

「んー、あれ多分、さっき言ってたIS配備の特殊なんちゃらだよ……」

「……ホント?」

「多分。私だって信じたくないよ。プロ中のプロであるはずのそんなとこの人が何でここにいるんだか」

 

 それはソラ(IS)も同じである。

 ソラは溜め息をついて、教室から目を離す。

 

「ともかく、今日はこれくらいにしよ。お前は知り過ぎた、って感じに消されたら……」

「え、私たち消されるの……?」

「冗談だよ、冗談」

「でも、軍人相手ならありえなくもない?」

「……確かに」

 

 ソラは自分で言っておきながら否定できない可能性はあった。

 

 結局、新しい転入生はまともな人がいなかったという結果に終わった。

 

 

 

 

 

 時間は過ぎ、昼。いつも通り、二人は食堂で昼食を取る。

 だが、ソラのお盆には大盛りのものが一つしかなかった。曰く、ちゃんとしたやつ(SEの補給)ってかなり美味しいから、とのこと。ちゃんとしてないもの(家庭用での補給)しか摂ってなかったからであろう。三枝木は頭にハテナを浮かべるばかりだが。

 

「デュノアかぁ……」

「何か気がかりなことでもあるの?」

 

 ポツリと漏らした呟き。三枝木は反応してしまう。

 

「いや、特に。別にウチで何か提携した訳でも何でもないけどね」

「ふーん。でも、やっぱり社長のご子息なだけあって、品があるよね」

「まぁ、織斑くんとは違うタイプだとは思うけどね。一度は話し合ってみたいし」

「ふーん、どうしてまた?」

 

 転入生だからかもしれないし、そうでないかもしれない。最も、ソラの場合は大凡後者だと考えられるが。

 

「まぁ、どうやってISを起動させたか、いつ起動させたか、とかね。気になるじゃん」

「あー……何か研究者とかそういう考え方ね……」

 

 人となりではなく、搭乗者として気になる。

 ふと、三枝木はあることが気になった

 

「そういえば、ソラって将来何か夢でもあるの?」

「んー?」

 

 改めて考えてみる。元々、あそこ(研究所)が嫌で逃げ出した身。面白半分や金銭目当てでやった就職、開発。親からの指示での入学。

 目的などあって無いような状態。

 強いて言うなら、

 

「のびのびと過ごしたいね……」

「えー? もう企業に所属して将来安定だから?」

「……うーん、どうだろ?」

「何か、ずるいなぁ……」

 

 盛大な溜め息をつく。普通の人にとってはIS学園に入れただけでも御の字だが、先はまだある。そんな中を何も考えてないような生き方でいれば羨ましいとも思えるし、呆れや嫉妬もある。

 ソラは苦笑で流しつつ、ふと目を横に向けると一人で昼食を取る、例のもう一人の転入生がいた。

 周囲には誰一人として寄り付かない。それもそう、本人がそういうオーラを垂れ流している。

 じっと、ソラは見つめる。そして、一つの違和感を覚えた。

 

「ソラ?」

 

 立ち上がって彼女の元に向かう。

 三枝木は行き先を見て、ついていくのをやめた。

 やがて、近づくソラに気付き、その彼女は一度視線を向けるだけで終わった。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

「……何だ」

 

 視線は向けず極めて不服そうな声音で返す。だが、ソラは気にせず話す。

 

「IS、見せてもらっていいかな」

 

 そう言うと、明らかに見下したような視線を一度向けるだけだった。

 

「……ふん」

 

 鼻を鳴らし、立ち上がって食堂から去ってしまう。

 

「私何かやったっけ?」

 

 怒ることも呆れることも無く、ただ疑問だけが湧く。

 考えても仕方ないか、と席に戻る。

 

「な、何だったの?」

「さぁ?」

 

 互いに何も分からないまま時間が過ぎてゆく。

 

 

 

 

 

 そして、休日。ソラが箒に渡したメモに書かれた日になった。

 箒は一人、整備室へ向かう。正直、あまり乗り気ではないのだが、メモを渡されてしまった上に、そのメモにはISの仕様についてまで書かれていた。ソラが準備し終えているのも予想が着く。こうなってしまった以上、やるしかないと気持ちを切り替える。

 

(だが……この初動に注意、とはどういうことだ? 癖が強いとは言っていたが……)

 

「ん? 箒ー!」

「一夏?」

 

 思考を中断し、振り返ると一夏、と鈴、セシリア、そして金髪の転校生、シャルルがいた。

 一夏は珍しいものでも見たかのように尋ねる。

 

「どうしたんだ? 何か考え込んでいたみたいだけど」

「あ、ああ、いや、少し頼まれごとがあってな」

「珍しいな、箒に頼みごとなんて」

「か、関係ないだろ! 向こうが私だと都合がいいと……で、一夏はなにかあるのか」

 

 後ろの三人を見て、ムスッとした様子で返す。

 

「ああ、丁度、()()()()()()()で練習しようってなってな」

 

 その一言に箒はどこか劣等感を感じた。

 

(今日乗るのはあくまでテストとして、だ。私の専用機じゃない)

 

 心の中で唱える。

 だが、同時にもう一つの考えがよぎった。

 

(いや、待てよ? 今日のテストでいい結果を出せば、今後も乗せてもらえるか? 貸与だが今回はあくまで一日だ。もしかしたら一週間単位で貸与される可能性も?)

 

 図々しいにも程があると言えよう。だが、専用機があれば、一夏との練習にいつでも付き合えるようになる。

 『いっそ、専属のテストパイロットとして欲しい』ではなく『一夏と一緒に練習したい』という欲望。

 『あくまで、今日一日乗せてもらえるだけだ。専属になるなどおこがましい』という理性。

 その二つが心の中でせめぎ合うが、

 

「そ、それなら、丁度都合がいいな! わ、私も今日、れ、練習があってな!」

 

 若干、上ずった声で応じる。

 人間の欲は強いのだ。

 

 

 

 結局、ソラとの約束の話をしてしまい、一夏たちもそれが気になり整備室までついて来た。

 

「そういえば、その、オンブグレンストって子、どんな子なの?」

「シャルルはまだ会ってなかったっけ?」

 

 整備室にシャルルの声が反響する。

 箒はメモを参考にハンガーの番号を確認していく。

 

「確か、三組の代表で……何て言ったらいいんだろ……」

 

 一夏は目に見えて避けられており、それほど交流があるわけでもない。

 鈴に視線を向けるも、

 

「私もそんな話したことないし……なんていうか……フリーダム?」

「わたくしも少々会話したことありますが、飄々とした感じではありましたわね」

「そういえば、四組の代表と色々してるのは割と見かけるわね。そっちに聞いたほうがいいと思うわよ」

「四組の代表……」

 

 シャルルは必死に思い出そうとするが、そもそも知らないことに気が付いた。

 今度、会いに行ってみるとした。もしかしたら本人にも会えるかもしれないという可能性もある。

 

「そういえばこの間、学園側にIS二機所有してることがバレて連行されていくのを見たわね」

「ISを……二機?」

 

 聞いたことがない、とシャルル。

 

「私だってそうよ。でも、この間の騒ぎの時、試合と全く違う機体で、何か有り得ないような反応速度で動いてたわね……」

 

 この際、反応速度については置くとして、シャルルは機体が気になった。

 

「どんな機体だったの?」

「試合の時は白い機体で、火器中心の武器だったわね。見た感じ、そんな何かに特化した訳でも無さそうだし、第二世代の機体かもしれないけど……一夏は何か知ってる?」

 

 え、俺!? と、ISに疎い少年は困惑する。

 

「俺も詳しくは知らないけど……うーん……分からん。セシリアは?」

「少なくとも量産機にあのような機体が無いのは覚えてますわ。ですが、専用機にしては専用機というほどのチューンもなされてないと思いますわ」

 

 シャルルはその点については疑問に思う。だが、機体はもう一つあるのだ。

 

「わざわざそんな機体を用意する人か……で、もう一つは?」

「もう一つとするなら黒いほうですわね……確か、一夏さんなら一度部分展開の状態で戦いましたわよね?」

「ぶ、部分展開で?」

 

 セシリアはシャルルに試合中、腕部だけ別の機体のものと変えたことを話した。

 

「ああ、あれは凄かったぞ? 真正面から白式を押し返すくらいのパワーがあったしな」

「今なら納得しますわね。あの黒い腕部こそが、もう一つの機体だったなんて」

「何かデカい斧を難なく、振り回したり、投げ飛ばしてたわよ、アレ」

「それくらいの性能があるってことは、第三世代機なのかな?」

 

 シャルルは総評をまとめ、一つの推測を出す。

 だが、それは否定される。

 

「いや、どうかしら」

「そうですわね。それにしては第三世代特有の特殊兵装がありませんもの」

「え、じゃあ、わかるのは単純に力のあるISってこと?」

「そうね。でも、近接武装しか出してなかったから汎用性のある第二世代機というわけでもなさそうだけどね」

 

 収穫は少ない。誰一人としてまともに知らないのだから有効な情報はない。

 だが、シャルルの目的は別。そちらに何の影響もない。本人がまもとな人間で収まっているのなら。

 

「ああ、ここか」

 

 箒はやっと目的のハンガーを見つけ、鎮座しているモノも見つけた。

 

「ええと、これか」

 

 四人も後ろからついて来てそれを視界に収める。

 

「へー、それに乗る……って、それがそうじゃん!?」

「デュノアさん……これがその機体ですわよ……」

「あー、シャルルー、これがさっきのやつだ」

「これが……?」

 

 そこにあるのは黒い何か。ISというにはコンパクトに収まり過ぎている物体。

 箒が触れると黒い塊は広がり、人型っぽいフレームになった。

 

「な、なんていうか、EOSってやつに近いかな……?」

 

 初見のシャルルはその細さと小ささに驚いてしまう。

 

「では、私は少し着替えてくる。先に行ってても構わないぞ」

「あ、じゃあ、私たちも一緒に行くか」

「そうですわね、では一夏さんたち、またあとで」

「ああ」

「あとでねー」

 

 五人は一度その場から離れ、整備室から更衣室に移っていった。

 誰一人としていなくなった整備室。

 声などあるはずもないのに、誰かの声が反響する。

 

「まさか増えるとは……篠ノ之さんのことだから織斑くん……アレとやり合うと思ってたけどなー……して、デュノアの転入生はシャルル……シャルル・デュノアかー……あれ? シャルルなんて名前の人いたっけ……? あとで調べるか」

 




ホントは一万文字近く書きたかったけど、キリが良かったんで。

しばらくは試験やらFGOfesやら帰省の準備等で忙しいので早ければ8月ですかね?

気づいたら鉄拳にギース参戦と聞いて、PV見たらやたらすごかったですし、
BBのクロスタッグバトルとか滾りに滾りますね……
2Dと3Dでそれぞれで格ゲーオールスターでもやるつもりなんですかね?
UNIの参戦は嬉しいですけど、アカツキとエルトナムの参戦は……厳しい?

何か噂でIS最新刊に結構重要な設定が出てくるっぽいのでそれの確認も……
一度原作の設定で新しいのが出て書いてた二次が崩壊したことあるんで、それを避けねば……

ソラのISは色々弄った結果、何か変な仕様になりそう……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11

ここまで迷走してたなぁとか思いつつ

これからも迷走するのかなぁとか思う

今回かなり短いです


「やっぱりそれ、ISじゃなくてEOSじゃないの?」

 

 全員着替えてアリーナに集まった。

 そこで、互いの視線の高さが先程と変わらないままシャルルは箒が纏う黒いISを眺めていた。

 

 EOSとは国連が開発中のパワードスーツ。燃費は最悪で欠陥だらけのもの。

 

「その……EOS? とやらは知らないが、一応はISとして機能はしてる……はず」

「なんだ、箒。自信なさげじゃないか?」

「その……なんだ……学園のものと色々違くてな……」

 

 箒は今まで学園で管理されてる『打鉄』にしか乗ったことがない。

 それでも学園で管理されてるとあって、整備は行き届いており全ての機体が正常に稼働する。

 しかし、今乗っているISは、

 

「少しスラスターを動かそうとしてもビクともしないんだ……」

 

 両腰に接続された小型のパックのようなスラスター。それがうんともすんとも反応しない。可動式ではあるのでスラスター自体は前後に動いたりする。

 メモに書かれていた簡素な説明によると背中に刺さったようにある円柱の物体。それがジェネレーターでスラスターのエネルギー供給源らしい。

 ジェネレーターが動いてないのかと思い、耳を澄ませるが微かに音が鳴っていることから動いてはいるのだろう。

 

「不調っぽいなら全力で動かしてみたら? 案外動くかもよ?」

 

 鈴が投げやり気味なアドバイスを送る。

 そのアドバイスに一夏やセシリア、シャルルの三人は苦笑を浮かべる。

 

「そうだな、やってみる」

 

 箒は細かいことが苦手だ。

 鈴の言葉を真に受けて、全力で飛行しようと試みる。

 皆から距離を取り、空を仰ぐ。

 

「はっ!」

 

 気合いと共に掛け声を出す。

 そして、スラスターからも火が出る。

 凄まじい加速力と共に箒にも相応の圧力がかかる。

 だが、それも一瞬。

 

「ん?」

 

 十数メートル程飛んだところでゆっくりと落下を始めた。

 

「な、何だこれは……?」

 

 箒は地に足を付ける。

 他の四人もISにあるまじき挙動を見て目を疑う。

 

「な、何だったんだ……?」

 

 未だに状況が掴めない箒だが、それ以上に傍から見ていた鈴たちの方も状況が分からない。

 

「本当にテスト段階の機体なの……?」

「PICの不具合でしょうか?」

「僕も見たこと無いよこれは……」

 

 元々専用機持ちである三人も何故落下したのか分からないし、その落ち方も不自然である。

 一度覗き見る形ではあるが設定を見るも全て機能はしているらしい。

 

「そもそも、これの持ち主のソラはどこに行ったのよ」

 

 苛立ち混じりに鈴が呟く。

 それもそのはず。とても試験運用段階とは思えない機体を赤の他人に一任するなど考えられない。それにISは技術の塊である。それをやすやすと企業と無関係の人物に渡したのだ。

 

「箒は知らないのか?」

「いや、都合が合わないとだけ言われて頼まれたのだが……」

 

 流石に、土下座までしてきたことは伏せる。

 んー、と一夏は考える。

 

「誰か連絡先知らないか?」

「知らんぞ?」

「知らないわよ」

「知りませんわ」

「会ったことすらないけどね、ははは……」

 

 シャルル以外は真顔で即答した。

 手詰まりだ、一夏の直感はそう訴える。

 だが、最後の手段がシャルルから提案された。

 

「そうだ。プライベート・チャネルならどうかな? その、オンブグレンスト……さん? が二つのIS持ってるならもう一つは本人の手元にあるんじゃないかな。それなら、その機体からでも通信できるはずだし」

 

 普通、専用機はエリートの中でも適正に優れる者にだけ渡される。それを二つも持ってるなら可能である話だった。

 

「やってみるか」

 

 箒は慣れない中、意識を集中してプライベート・チャネルを繋ぐ。

 そして、ふと繋がった感覚がよぎる。

 

「あ、あー、その、オンブ……グレンストか?」

『…………』

 

 返事はない。だが、反応はあった。

 新しいウィンドウが開かれた。

 

『システムのインストール中です。忙しいので後にしてください』

 

 何だこれは、そう思わずにはいられない。

 恐らく向こうは向こうで機体の調整か何かでもやってるのだろう、と大体の推測を立てた直後、声が届いた。

 

『あ、あー、よしよし、聞こえるよねー?』

「オ、オンブグレンストか……?」

『そうだよー』

 

 早速、箒は機体について尋ねようとする。

 

「この機体についてなんだが……」

『分かってる分かってる。欠陥だらけのやつって言いたいんでしょ? 私だって出来ればちゃんと飛びたかったんだけどね……』

 

 ブツクサと文句を連ねる。どうやらこの機体は本人にとっても不評らしい。

 

『ともかく。乗りこなさないことには何も始まらない。……いっそ私が一度動かそうか?』

 

 その言葉に箒は眉を寄せる。

 この場にはソラはいないはず。

 

「できるのか?」

『うーん、一応』

「どうやって?」

『いやだから、私が』

「今いないのでは?」

『いないけど?』

「?」

『?』

 

 会話のループに嵌ってしまった。

 隣で会話を聞いていた鈴が溜め息をつく。

 

「だから、ソラ、どうやってアンタが操縦するかって聞いてるの。色々考えられるけど、実際はアンタがここに来て、直接乗って、操縦するしかないはずなんだけど」

『あー! なるほど、そういうことね!』

 

 ようやくソラが理解を示す。会話の中で起こる解釈の違いは段々と広がってしまう。

 

『一応は私が直接機体を操ることになるのかな?』

「はぁ? 今日都合がつかないんじゃないの?」

『できるよ、ほら』

 

 箒の腕が勝手に動き出した。

 

「な、なんだこれは!?」

『む、篠ノ之さん、力抜かないと怪我しちゃうかもしれないから気を付けてね』

 

 どうやら向こうから無理矢理でも動かしてるらしく、実際に箒は身体のあちこちを押されてるような感覚はあった。

 

「これって遠隔操作……?」

『……どうとでも? じゃあ、一回飛んでみる?』

 

 ソラの提案に箒は乗ることにした。

 ただ、動かしながら説明するように、と追加で頼んだ。

 

『じゃあ、いくよー』

「こい!」

 

 箒は心だけは落ち着かせ、身体はリラックスする。

 そして、スラスターに火が点く。

 グン、と後ろに引っ張られるような感覚が全身にかかる。

 耳元ではソラによる説明が始まった。

 

『基本的に出力任せの力技で加速力得てるから機動力は問題ないけど、ただこのスラスターに調整という文字は無いんだよね』

「というと?」

『オンかオフしかない』

「はぁ!?」

 

 その言葉に箒は驚き、身体を強張らせてしまった。直後、視界が一気に上下に反転した。

 しかし、すぐにソラによる操作によって元に戻り、機体はアリーナの天井をなぞるように飛ぶ。

 

『おっとっと……危ないから、勝手に動かないでねー』

「さっきのは何だ?」

『ああ、私のはPICの欠陥が酷くてね。必要なものがいくつか足りてないんだよ。結果、不安定なバランスで癖のあるものになってしまったんだよ』

「大丈夫なのか……?」

 

 眼下には小さく見える四人の姿。高さは大体五〇メートル程か。ISで飛んでる分には問題ないが、急に不安になってきた。

 

『一応はね。だからしばらくはスケートのように地上を滑るようにしたほうがいいかもね』

 

 機体は高度を落とし、低空を飛び始める。

 

『で、問題なのはさっきも言った、スラスターがオンオフしかないこと、それとPICの欠陥。PICのせいで宙に浮くことができなければ、スラスターは止まることを知らない』

 

 聞けば聞くほどに、欠陥しか見えてこない。

 箒は今更ながら後悔し始めていた。

 

『ただ、この機体は一つ』

 

 ソラはスラスターを止めた。

 箒はそれに目を見開く。

 

「なっ!?」

 

 ジェネレーターをいいものを使っているからか、ソラの機体の速度は専用機の中でも目をみはるほどのものである。

 その速度のまま、ソラはスラスターを切り、地に足を付けようとしていた。並の機体なら転倒してしまうだろう。

 だが、ソラは地面に足をつけ両足で踏ん張ってみせた。そして、転倒することなく止まった。

 

『パワーアシストだけなら段違いにあるから』

「…………」

 

 箒の目は訝しむものであった。なぜなら、ソラが誇らしげに言っている隣で、着地の影響で砂埃をモロに被ってしまった一夏は唾を吐きながら更衣室に駆けこんでいった。

 鈴とセシリア、シャルルはとっさにISを展開したお蔭で何とかなった。

 

「このパフォーマンスいるか?」

『……だって、カッコイイし』

 

 改めて箒は何て機体を引き受けてしまったのだろうかと後悔する。

 

 

 

『そうだね、スラスターは吹かすというより、吹かし続けるだね。面倒ならあとで調整するよ?』

「そうだな。そこは頼む」

 

『武装は斧とか大剣あるけど、ブレードでいいの?』

「これが一番手に馴染むからな」

 

『一応言っておくけど、射撃武器は無いし、火器管制も無いから』

「私としてはブレードがあればいい。あっても銃より弓のほうが馴染む」

 

『ちなみに、片側のスラスターだけで動けるようになると便利だけど……大丈夫?』

「壁に頭を突っ込んでる人間が大丈夫だと思ったか?」

 

 他の専用機持ち四人と別れ、機体の相談を進める。

 そして、箒は着々と機体に慣れてきた。

 

 ISだからといって特殊な動きは要らない。

 

 それが箒が導いたこの機体の操縦法だった。

 戦法としてはあの織斑千冬と同じだろう。

 機動力とブレード捌き。

 これだけ相手を打倒してみせる。箒は心の内で決意する。

 

「そうだな。あと必要なものといえば小太刀か」

『小太刀? ナイフじゃダメ?』

「長さとしてはナイフ以上、ブレード以下か。二刀流も考えなくては」

『分かった、次のときまでには用意するよ』

 

 隣では一夏が火器の扱いについて説明を受けていた。

 すると、ソラが何かに気付いた。

 

『ん? あれは……ドイツの機体?』

「どうした?」

『あそこ』

 

 視界に矢印が表示され、その方向には黒い機体があった。

 そして、そのパイロットは、

 

「ボーデヴィッヒ……ッ!」

 

 箒は黒い機体に乗るラウラを睨みつける。

 通信では事情を知らないソラが尋ねる。

 

「いや、すまない。オンブグレンストには関係ないことだ……」

 

 カッとなって万一戦闘にでもなったらこの借り受けた機体に傷つけてしまう。

 そんなことになれば問題になってしまう。そのことがよぎり、箒はあと一歩のところで冷静になれた。

 妙にノイズのあるハイパー・センサーがラウラの声を拾う。

 

『貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え』

 

 一夏に向けたそれは好戦的なものだった。しかし、当の一夏は理由がない、と断る。

 その後はいくつか言い合いをした後にラウラのレールカノンが火を噴いたがシャルルや監督の教員が間に入り、矛は収まった。

 

 箒はラウラが去った方を見つめる。

 

『……』

 

 ソラは何も言わない。

 

「箒ー! 帰るぞー!」

「……あ、ああ!」

 

 

 

『そそ、適当に置いておけばいいよ』

 

 箒は一度皆と別れ、整備室でISから降りる。

 

『じゃあ、先に戻ってて構わないよ』

「いや、ここで待つ」

『……ん?』

 

 何やらとてもソラには都合の悪い言葉が聞こえた。

 

『いや、別に私帰るの遅いし……』

「今日のことについて一度、ちゃんと話し合いたい。今後のこともある」

 

 ふんす、と箒は腕を組み仁王立ちで構えている。

 ちっとやそっとじゃ動かないな、ソラはすぐに感じ取る。

 

『分かったよ。じゃあ、一度シャワーでも浴びに行ったら? その間に私も戻って来れそうだし』

「そうか。なら、お言葉に甘えさせてもらおう」

 

 箒は腕を解き、整備室から出て行く。

 

「はぁ……」

 

 整備室の一画で溜め息を漏らす。

 今日一日で思った以上のことになってしまった。

 箒のラウラに対する感情が敵意のそれであることなどソラにも分かる。

 

「これからも大変になるかなぁ……」

 

 口の端には笑みが浮かぶ。

 

「まぁ、案外悪くはないね。やっぱ機体(からだ)動かしてる方が楽しいねぇ」

 

 箒を追いかけるように整備室を出て行く。

 

 

 

 シャワーを浴び終え、制服に着替える。更衣室を出るとソラが既にいた。

 

「やぁやぁ、篠ノ之さん。今日はお疲れ」

 

 これお詫びというかそんなの、とペットボトルの飲料水を渡される。

 

「どうだった?」

 

 ベンチに腰掛け、今日のことを思い出す。

 そして、箒の口から出たものは一言だけだった。

 

「私はあの機体、気に入った」

 

 目の前のソラは何とも言えないような微妙な表情だった。

 それが中途半端な機体が気に入られたのか、という困惑なのか、あんな機体でも気に入ってくれたなら、という喜びなのか。そんなのは分からない。

 

「あ、うん。そう……じゃあ、一応調整はしておくよ……」

 

 尻すぼみになっていくソラ。

 一方で箒は盛り上がる。

 

「ところで、次あの機体を借りれるのはいつだ?」

「……あー……」

 

 ソラは空を仰ぐ。

 

「調整が……終わり次第? こっちも色々立て込んでて私自身も色々あるから……」

 

 箒に視線を戻したソラは、連絡先を交換しよう、と提案する。

 特別断る理由もないため互いに交換し、今日はお開きとなった。

 

 

 

「たっだいまー」

「おかえり……」

 

 寮の自室、簪はパソコンを弄りながらも迎える。

 

「そういえば……今日一日専用機置いて……どうしたの……?」

 

 ベッドには白い腕時計と灰色の髪留めが適当に転がされていた。

 

「ちょっと野暮用をね……」

 

 ソラもベッドに転がる。

 一度、モニターから目を離し様子を見る。

 

「楽しいことでもあった……?」

「んー? どうだか?」

 

 彼女は笑みを浮かべるばかりだった。




私は疲れました

夏の暑さにやられてたんですよ(10月になりました。未だに日光が辛いです)

こんな作品ですがせめて2巻までは絶対にやろうと思いますので
お付き合いしていただけたら幸いです


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。