響乱交狂曲 (上新粉)
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序章
序曲


皆様お久し振りです!
2作目を本日より投稿していきますが閲覧の際幾つか注意がございます。

・前作以上に主人公チートの可能性あり
・現状利根さんの出演予定なし
・艦娘に対する暴力的表現があったり

まあ他にも前作と違うところも多いですが以上の事が耐えられない方は気をつけて閲覧していってください。


 「やっちまった......」

 

俺は門長和大(となが かずひろ)宇和(うわ)少将が目を掛けてくれていたお陰で将来提督の座が約束されていた......はずだった。

 

「どうしてこんなことをしてしまったんだぁ......」

 

部屋の隅で跪いていた俺は対角線上にいる少女を見やる。

少女は自身の艤装の後ろに隠れて怯えながら俺の様子を伺っている。

少女の態度に凹みながらも俺は今日までの事を振り返っていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 「今日から宇和少将の所で研修か......楽しみだ。」

 

「お前が楽しみなのは少将の所にいる駆逐艦娘だろ?」

 

隣にいる優男は西村定治(にしむら さだはる)

俺と同期で士官候補生時代から良くつるんでいる友人だ。性格は一言で言ってしまえばチャラ男である。

 

「お前こそ戦艦娘とお近づきになりたいとか考えてるんだろうが。」

 

「ながもんよりは犯罪的じゃないからいいんだよ。」

 

「ながもんいうな。それに愛さえあれば法律なんて関係無いんだよ。」

 

俺は自分の言葉に感動し一人頷いていたが西村は何故か微妙な顔をしてこっちを見ている。

 

「......ながもん、マジで罪は犯さないでくれよ?」

 

「今のは感動するところだろ!?」

 

「ねえよ、不安しかない発言だぞ。」

 

「......まぁ、大丈夫だろ。その為にケッコンカッコカリがあるんだから。」

 

「いや、そのためじゃねーだろ!」

 

たしか艦娘の性能を上限以上に引き出す事が出来るらしいがどう考えても愛の成せる技じゃないか。

 

「はぁ......少将の前ではそんなこというなよ?」

 

流石の俺だって自分から夢を投げ捨てるような真似はしないさ。

 

「宇和少将がその手の話を持ち出さなきゃ大丈夫だ。」

 

「まあ、あの人がそんな話するとは思えないし大丈夫か......っと着いたぞ、気を引き閉めろよながもん。」

 

「お前に言われたかねぇよ。」

 

鎮守府の前まで来ると可愛らしい黒髪ショートポニーの女の子が出迎えてくれた。

 

「宇和少将の秘書艦、特型駆逐艦一番艦 吹雪ですっ!お迎えに上がりましたっ!」

 

吹雪の敬礼に続いて俺達も敬礼する。

 

「宇和少将の元で学ばせて戴きに参りましたっ!西村定治であります!」

 

「同じく門長和大だ、宜しくね吹雪ちゃん。」

 

「え......っと、はい......それでは司令室まで案内致します。」

 

なんで彼女は困った顔をしているんだ?

と思ったら西村まで鳩が豆鉄砲食らったような顔してどうした。

多少気になったが西村はいつもの事なので気にしないことにした。

吹雪ちゃんか......可愛いなぁ。

あんな子達と楽しく仕事が出来るなんて......海軍入って良かったぁ。

 

「門長、着いたぞ。門長!」

 

「え?もうついたのか。あっという間だったな。」

 

「お前が吹雪ちゃんそっちのけで自分の世界に入ってたからだろ?」

 

なに!吹雪ちゃんが俺に話し掛けて居たのか!?

俺は吹雪ちゃんの方を見やる。

 

「あ、吹雪......ちゃん?」

 

「なんですか?着きましたよ。」

 

なんか素っ気ない......

 

「あ......すまない。」

 

「宇和司令官、西村さんと門長さんをお連れしました。」

 

「入りなさい。」

 

「失礼しますっ!」

 

俺の言葉は放置され吹雪ちゃんは扉を開けると俺らに入るように促す。

 

「西村定治、只今到着致しましたっ!」

 

「門長和大、只今到着致しました。」

 

「やあ、良く来てくれた。」

 

この恰幅のいい鼻髭が凄いおっさんが宇和少将(下の名前は知らん)である。

正直この人はくどい位いい人ぶってるからあんまり好きじゃないんだよな......

 

「こちらこそ宇和少将の元で学ばせて戴けるなんて大変光栄でありますっ!」

 

つーかさっきから西村の奴気合い入りすぎだろ......

 

「世話んなります。」

 

「門長さんっ!!」

 

俺が普通に挨拶をすると突然吹雪が怒鳴り声を上げた。

 

「え......?」

 

「司令官になんて態度を取ってるんですかっ!!」

 

「え、俺は普通に挨拶をしただけなんだが。」

 

「宇和司令官へ向かってそんな挨拶が赦されるはずないでしょ!」

 

「いいんだよ吹雪。」

 

「駄目ですよ司令官っ!」

 

「私が良いと言っているんだ。」

 

「ひっ............はい、申し訳ありません......」

 

宇和少将は終始笑顔だったが吹雪ちゃんの怯みようを見る限りただの善人ではないようだ。

くそう、吹雪ちゃんになにしやがった......なんにせよ赦せる相手ではないことだけは解った。

 

「うちの娘が迷惑を掛けたね。」

 

「いえ、問題ないっすよ。」

 

「そうか、なら本題に入ろう。君達にはこれから一年間彼女らについて学んで貰うためにこの鎮守府に来て貰うことになった。」

 

「学ぶ......」

 

「知っての通り彼女達には心があり個性がある。より多くの個性を知って彼女達の力を最大限活かせるように差配するのが我々提督の仕事なのだ。」

 

「つまり、多くの駆逐艦娘と仲良くなればいいんすね?」

 

「おい門長っ!?」

 

「はっはっは、その通りだよ。だが駆逐艦以外とも仲良くしたまえよ?艦隊は一つの艦種だけでは成り立たんからな。」

 

「......了解っす。」

 

あ~......駆逐艦娘(幼い少女)以外と仲良くとかしたくねぇ~!

 

「話しておくべき事は色々あるが、遠路遥々来てくれた君達を長々と立たせておくのは忍びないからね。吹雪、今空いている二人を呼びなさい。」

 

「はいっ!」

 

吹雪ちゃんはおもむろにインカムを摘まむと何処かと連絡を取り始めた。

 

「急いでくるのよ。」

 

「いま向かっているそうだ、すまないがもうしばらく待っていてくれないか。」

 

「了解しましたっ!」

 

「別に問題ないっすよ。」

 

吹雪ちゃんがずっと睨んでるんだよなぁ......さっき無視しちゃったの怒ってるのかな......

 

「司令官、浜風到着致しました。」

 

「司令官、呼んだかい?」

 

「入りたまえ。」

 

扉から入ってくるその姿に魅せられた俺は咄嗟に足が動いていた。

 

「響さんっ、言葉遣い......を......」

 

吹雪ちゃんが響を注意するよりも早く俺は彼女を担ぎ上げて部屋を飛び出していた。

 

「え............?」

 

「響さんっ!!」

 

「ながもん!?」

 

「待ちたまえ門長君っ!」

 

俺は兎に角廊下を駆け抜けていった。

 

「まてっ!貴様何をしている!」

 

俺の目の前に黒髪ストレートの凛とした女が立ち塞がった。

 

「どけよおらぁっ!」

 

俺は止まることなく女の鳩尾へと拳をねじ込む。

 

「なっ!?......ぐっ......」

 

急所へと強烈な一撃を貰い呼吸が出来ず悶え苦しむ女を置き去りにし先へ進むと艤装を着けた少女達が照準を定めていた。

 

「響を放しなさいっ!」

 

「降伏してください、出来れば沈めたくは無いのです。」

 

「変態さんは赦さないじゃない!」

 

あれはこの娘と同じ格好をしているな。

姉妹艦という奴か......先程の様には行けないな。

 

「しっかり捕まってろよ......」

 

「へ......?」

 

俺は響を抱き抱えると廊下の窓から外へと飛び立った。

 

「ちょっ!此処は五階よ!?」

 

綺麗に着地しようとするもバランスを崩し尻餅をついてしまった。

 

「し、信じられないのです!?」

 

「だ、大丈夫よ!外には足柄さん達が居るもの!」

 

俺は体勢を直しつつ辺りを見渡す。

足柄が誰だか知らないが外に少女は居ないようだ。

 

「なら容赦しねぇぞぉっ!!」

 

俺は次々と放たれる砲弾から響を庇いながら正面に立ち塞がる茶髪ロングの女へ一気に距離を詰める。

 

「なんで怯まないのよ!撃てっ、撃てぇっ!」

 

女の目の前まで来た俺は左足で思いっきり地面を踏みつける。

 

「響に......当たったらどうすんだこらぁっ!!」

 

勢いを殺さず左足を軸にした後ろ回し蹴りは女の脇腹を正確に捉えた。

 

「ば......けも......の。」

 

「俺は少し丈夫なだけの人間だっつーの。」

 

邪魔な女を蹴り飛ばした俺は他の三人が怯んでいる間に工廠を探して走り出した。

 

 

 

途中何人か邪魔な奴をぶん殴りながらも漸く工廠へたどり着くことができた。

 

「どっかに船の一つ位置いてねえか?」

 

俺は工廠を見渡すと一つの人影を発見した。

 

「おい、そこのお前。」

 

「へぇ!?ど、どうしたんですか?」

 

「どっか近くに二人で乗れそうな船はないか?」

 

「えっ......と......そうですねぇ......。提督の指示で作った門長さん用のモーターボートくらいですかね。」

 

俺用って......あのおっさん俺になにさせる気だったんだ......

 

「俺がその門長なんだが。」

 

「え、そうなんですか!?なら早く乗ってみて下さいよ~。あ、感想は後で聞かせてくださいね!」

 

このピンク女は俺の事を聞いていないのか?

 

「ああ、解った。」

 

俺はモーターボートに乗り込みエンジンをかける。

小気味良い振動を感じながら大海原へと駆け出して行った。

後ろから砲弾が飛んでくるが最高速度五十ノットで旋回性能抜群なこのボートをもってすれば回避することなど容易かった。

艦娘達の追撃を振り切った俺が達成感に満たされていると、こめかみに硬い筒のようなものが突きつけられた。

 

「響?」

 

「鎮守府へ戻るんだ、さもなければ撃つ。」

 

「そうかー、ごめんなぁ。」

 

「ふざけるなっ!これは実弾だっ!」

 

「なるほど......じゃあちょっと貸してくれ。」

 

「へぇ!?」

 

俺は連装砲をかちあげると空中でキャッチし近くまで来ていた駆逐イ級の目玉を撃ち抜く。

 

「グガァーッ!!」

 

「流石に一撃じゃ沈まねぇな。」

 

「なんで......」

 

お、生意気にも俺に当てる気だな?

 

「しっかり捕まってろっ!」

 

「なんで使え......」

 

響が何か言っていたが取り敢えず今は回避を優先するため見事な高速ターンを決めた。

 

「うわぁぁあぁっ!!?」

 

「てめぇみたいなのろまに捉えられるかよっ!」

 

イ級が見当はずれな所へ撃っている間に俺は更に追撃を撃ち込む。

 

「さっさと沈みやがれっ!」

 

幾度も撃ち込まれたイ級の船体(からだ)は遂には蒼白い体液を噴き出しながら海底へと姿を消した。

 

「よし......あ、悪いが他に敵がいるかもしれんから暫く借りるな?」

 

「そうじゃないっ!なんで人間が艤装を扱えるんだ!」

 

「艤装?使えねぇけど。」

 

ああ......驚いてる表情も可愛いなぁ。

 

「それだよそれっ!」

 

ん?なんだ連装砲の事を言っていたのか。

 

「これは引き金付いてるし誰でも使えるだろ?」

 

「え......そんな......」

 

うおっ!どうやら悲しませてしまったようだ。

そ、そうか。きっと彼女はこれを持ってることに誇りを持っていたんだな!

 

「だ、大丈夫だぞ?確かに武器は皆使えるが君達みたく最大限活用することはできない!目に見える敵しか狙えないからな?」

 

「............」

 

くそっ!どうすればいいっ!

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 結局あの後響は一言も話してくれなかった......

そして偶然見つけた鎮守府跡地に身を置くことにして

今に至るのだが......

何故此処まで怯えて居るのだろう。

いや、大体見当は付いてる......ツインテールの深海棲艦とタイマン張った時に恐ろしい思いをしたのだろう。

 

「ほら、もう大丈夫だ。」

 

Не подходи(来るなっ)!」

 

歓迎......されてないよな......

因みになんで響が逃げ出さないかというと窓には何故か鉄格子が嵌まってる上に俺が鍵を締めて扉の前に座り込んでいるからである。

別に何かしようと思っているわけではないと言うことだけは俺の名誉の為に言っておく。

単純に響が目を離した隙に居なくなってしまうのが心配だからだ。

 

「これからどうすっかぁ......」

 

一人呟くも返事が返ってくることはなかった。




いやぁ~しょっぱなからアンケート無視かよとか言われそうな描写ですね......まあ前作も一応近接戦闘ありましたしその位の頻度であるのか程度にに思っといてください。



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第一番

睦月型も大好きなんです!出したいんです!
出すかどうかは未定ですが......


 ふぅ......取り敢えず何処行くにしろ響を捕らえん事には始まらん。

このままじゃ装備が無くても海へ逃げ出しかねんからな。

ここで新しく仲間でも出来れば............ん、そうかっ!

 

「響っ、新しい仲間を迎えよう!」

 

「私はいかないっ。」

 

「そうかー、じゃあ行ってくるわ。」

 

「............!」

 

「仲間連れてきてやるからしっかり待ってんだぞ。」

 

「コクコク」

 

俺は扉の鍵を開け廊下へと出ていく。

そして目の前で足音を響かせながら段々と音を小さくしていき......そして止める。

暫く息を潜めて待機しているとドアノブが少しずつ動きだしやがて扉の向こうから可愛らしいおててが姿を表した。

 

「げっとぉっ!!」

 

「ひぃぃっ!?」

 

俺はすかさずその手を繋ぎ扉を開け放つ。

 

「だ、騙したなぁっ!」

 

「待ってろっつったのに出てくるなんてやっぱり一緒に行きたかったんだなぁ?」

 

「違うっ!」

 

「そんな照れんなって!一緒に行こう、な?」

 

全力で拒絶する響を担ぎ上げ俺は工廠を探して建物内の探索を始めた。

 

「にしても......鎮守府ってのは何処も同じなのかね。」

 

「............」

 

「なあ響ちゃん?」

 

「............」

 

「聞いてるか?」

 

「............」

 

......駄目だ、完全に無視されちゃってるよ。

心なしか震えてるような気もするし......まあそれも可愛いんだがこれじゃ仲良くなんて夢のまた夢だな。

暫く考えたが答えも出ないので俺は考えるのを止め、工廠捜索に力を入れることにした。

 

 

 

 それから十五分後、案外早く見つかった工廠の扉の前に来ていた。

 

「入るぞ~。」

 

俺は返事など待たずに中へと入っていく。

中は向こうの鎮守府で見たのとさほど変わらず......ってなんで人がいる鎮守府と同じくらい綺麗なんだ?

 

「かんむすですぅ。」

 

「じゅうごねんぶりのらいきゃくですぅ。」

 

「うおっ、なんだお前ら!」

 

なんか知らんがちっこい生き物があちらこちらに漂っている。

 

「わたしたちをしらないんですかぁ~?」

 

「わたしたちはようせいですよぉ。」

 

妖精?ああ、そういや妖精達が艤装や兵器を動かしてるんだったか。

 

「おお、そうか。だったら建造したいんだが出来るか?」

 

「すこしならしざいもあるのですぅ。」

 

「さいていちでまわすのですぅ~。」

 

「にじっぷんになりましたぁ!」

 

出来るか聞いただけだったんだが早速造り始めてしまった。二十分か......工廠の中で暇潰ししてるか。

 

 

 

 

 建造開始から二十分が経過......

 

「何故勝てないっ?!」

 

「まだまだれんどがたりませんねぇ。」

 

「くそっ!もう一度だ!」

 

「なにしてるのですか~?」

 

「じかんですよ~。」

 

「あ?マルバツゲームだろっ......て完成したのか!」

 

二十戦全敗したのは気に食わないが只の暇潰しだしな......今度は勝ってやるとして今はどんな子が生まれたのか楽しみにしよう。

 

「それではどうぞ~」

 

妖精に連れられて現れたのはなんと天使であった。

 

「電です。どうか、よろしくお願いいたします。」

 

「か、かわいいっ!」

 

「電っ!逃げるんだ!」

 

「はわわっ!?響......ちゃん?どうしたのです?」

 

「俺は門長、よろしくね電ちゃん。」

 

「門長司令官さん、よろしくなのですっ!」

 

俺が右手を差し出すと電ちゃんは小さな両手で握り締めてくれた。

 

「ああ......良いなぁ......」

 

響達姉妹は皆可愛い過ぎて涙が出てきた。

 

「し、司令官さん!?」

 

「今すぐ逃げるんだっ!早くっ!」

 

「そーかそーか、そんなに独り占めしたいのか~響は可愛いなぁ全く!」

 

俺は左脇に抱えた響を右手で撫でようとするが全力で抵抗するので仕方なく今回は諦める事にした。

 

「まあ君みたいな可愛い子達を騙し続けるなんて俺のポリシーに反するから先に全部話しておこうか。」

 

「どういうことなのです?」

 

うおおっ!何だ此の可愛い生き物はぁっ!

不思議そうに小首を傾げるのは反則すぎるっ!

俺はその場に膝を着きそうになるのを必死に堪える。

 

「そ......そう、俺は司令官じゃない只の犯罪者だ。」

 

「わ、悪い人だったのです!?」

 

やはりと言うか電ちゃんの顔色がみるみるうちに青ざめていく。

 

「だけど君達に危害を加えるつもりはない、たとえ君達が俺に砲塔を向けようともだ。」

 

俺は右手を上げ争う意思がないことを示す。

 

「信じられない。」

 

響は変わらず俺を睨んでいたが一方で電ちゃんは少し戸惑っていた。

 

「悪い人なのに悪い事をしないのですか?」

 

「ああ、響を誘拐したのも愛するが故だ。」

 

「はわわ~愛の逃避行というやつなのです。」

 

「私は一方的に連れ去られただけだっ!」

 

そこが一番の問題だ......可愛いが......可愛いけどっ!

一方的な愛は哀しいのだよ......

俺は少しナーバスな気持ちになりつつもこの後の事を考え始めた。

電ちゃんに響を任せて食料でも取りに行くか。

 

「響、電ちゃん。ちょっと食いもん取ってくるから執務室で待っててくれないか?」

 

「了解なのですっ!」

 

「............」

 

「じ、じゃあ行ってくる......」

 

響から返事が無い......どうしよう。

俺は肩を落としながら食料を探す為まずは島を探索することにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 一方響は門長が出ていったのを確認すると直ぐに脱出の準備を始めた。

連装砲は持っていかれたので魚雷発射管だけ装備し部屋を出ようとしたところで電に袖を引っ張られる。

 

「何処に行くのです?」

 

「私は帰るんだ、電も来るかい?」

 

「ここから出ても無事には帰れないのです。」

 

電の一言に苛立ちを覚えた響は振り向き電の肩を強く掴んだ。

 

「なんでそんなこと言うんだっ!あいつが一人で来れるような場所だ、帰れるに決まってる!」

 

「じゃあ響ちゃんはここが何処だかわかる?」

 

「それは......」

 

ここが何処だか解らない響は答えられずに唯俯くしか出来なかった。

すると電は響の手に自分の手を重ねながら答えた。

 

「ここは中部海域に位置する元MS諸島前線基地だって妖精さんが言っていたのです。」

 

「中部海域だって!?そんな馬鹿な!」

 

「私も詳しくは知らないけれど今は深海棲艦の中枢だって聞いているのです。」

 

響は電から手を離しそのまま床へと座り込んだ。

 

「どうしろと言うんだ......」

 

電は響の前で屈み響の頭を撫でながら言った。

 

「どうもしなくてもここに居れば門長さんと私で護ってあげられるのです。」

 

「あんな人間に守られるなんていやだっ!」

 

首を大きく振って拒否する響を宥めるように電は響を強く抱き締めた。

 

「それなら私が護ってあげるのです。」

 

「い、なづ......ま?」

 

「響ちゃんを......護るのです。」

 

響にも聞こえないくらいの声で電はそっと呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 俺は一通り島を探索し集めた木の実なんかを集めて鎮守府へ戻ってきていた。

肉なんかも欲しいところだったが手持ちが響から借りた連装砲しかなかったため今回は諦めた。

 

「ただいまっと......お。」

 

「お帰りなのです。」

 

執務室に戻るとソファーの上で電ちゃんに膝枕をされながら可愛らしい寝息をたてて眠る響の姿があった。

 

「い、今なら......ゴクリ......」

 

俺はゆっくりと手を伸ばすが別方向から来た小さな手によって阻まれてしまった。

 

「い、電......」

 

「駄目なのです、さっき眠りについたのに起こしてしまうのです。」

 

電ちゃんは右手で俺の腕を掴みながら左手の人差し指を自身の口元まで持っていく。

 

「そ、そうだな......ここ何日かちゃんと寝れてないもんな。」

 

そう考えると俺もなんだか眠くなってきたな......

 

「ふぁあ~あ......俺も少し寝てくるわ。電ちゃんもちゃんと寝るんだそ?」

 

「はい、お休みなさいなのです。」

 

執務室をでた俺は近くの会議室の様な所へ入ると長机を並べてその上で横になった。

明日はどうすっかぁ......開発で狩りの道具とか釣り道具とか作れねぇかな。つーか資材集めねぇとな............まあ、明日考えればいいか。

こうして島での初めての夜は終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




中部海域の遠征とかどうしよう......


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第二番

ね、ねむい......あまり徹夜はするものではないな。
この話には未実装艦が登場しますので注意喚起しておきます。(レ 次回からは表示しない)

追記:夕月の挿絵を追加しました。
気が向いたら見てくれると嬉しいです。


 翌朝、俺は工廠へ行くと妖精達に狩りの道具を作れないか聞いてみた。

 

「つくろうにもしざいがないです。」

 

「やっぱそうか......どっかから持ってこないといけないわけか。」

 

「ちかくのしまにねんりょうならわいてますよ?」

 

「お、燃料が近くにあるのは有り難いな。」

 

ボーキサイトとか言うのは良いとして後は弾薬と鋼材か......

 

「そもそも弾薬とかどこでてに入れればいいんだ......」

 

「つうじょうはだいほんえいからしきゅうされるぶんとごえいにんむなんかのほうしゅうでにゅうしゅしてます。」

 

「このへんに仕事なんてくるか?」

 

「このへんにはしんかいせいかんしかいないねぇ。」

 

「......深海棲艦に補給艦が居なかったか?」

 

「わきゅうがいるよぉ?」

 

深海棲艦からなら問題ない......か?

 

「ワ級......いけるか?」

 

「いまのめんばーじゃきついのです。」

 

「せめてせんかんのしゅほうがないとねぇ。」

 

「駄目か......」

 

じゃあ敵の駆逐艦を拿捕して......動きを封じる方法がないか......

 

「だあもう解らん!どうすりゃいいんだっ!」

 

「いい方法がありますよ?」

 

一人の妖精が不敵な笑みを浮かべ提案してきた。

 

「......なんだ」

 

俺はそのあまりにもおぞましい雰囲気に思わず息をのむ。

 

「ここに対艦娘用の麻酔弾が20発あります。そして翌日一○○○に南方海域前線基地に艦娘が護衛する輸送船団が到着します。」

 

その妖精は不敵な笑みを崩さずこっちを見ている。

後はわかるだろとでも云うように......

 

「俺にこれ以上罪を重ねろと?」

 

「いい人ぶってたら彼女達を護っていくなんて出来ませんよ?」

 

「ぐ......」

 

いい奴ぶるつもりはないが響達にこれ以上嫌われる様なことはしたくない............だが.....。

 

「俺が彼女達をここへ連れてきてしまった以上彼女達の生活の安定が最優先だ。」

 

「覚悟は決まりましたね、では私がついていってあげましょう。」

 

妖精は俺が持っている連装砲へと跳び移ると溶けるように姿を消した。

 

 

 

 

 「あ、門長さんお早うなのです!」

 

電ちゃんは既に起きて身なりを整えてソファーに腰掛けていた。

響は起きたばかりなのか髪もボサボサで寝惚け眼ながらもしっかりと俺に敵意を向けている。

 

「おはよう響、電、今日も可愛いなお前らは。」

 

「......。」

 

「?」

 

うっし!気合い入った!

 

「じゃあちょっと出掛けてくるわ。」

 

「何処に行くのですか?」

 

「お?ああ遠征だよ遠征。明後日の昼前には戻るから待っててくれ。」

 

「遠征なら私達が行けるのです。」

 

「あー......これは危険な任務だからね。二人を危険な目に会わせたくはないんだ。」

 

まあ嘘は言ってないよな。

 

「それなら門長さんの方が危険じゃないですか?」

 

ん、今のは俺の身を案じてくれたんだよね?ちょっと違う意味に聞こえたのはきっと俺の心が汚れてるせいだろう......

 

「大丈夫、無理だと判断したらすぐに撤退する。」

 

「ですが............分かったのです。」

 

「よし、いい子だ。」

 

そう言って電の頭を撫でようとした俺の右手は響の手刀によってはたき落とされた。

 

「電に触れるなっ!」

 

「響ちゃん?」

 

くっ......地味に痛いしこれ以上無理に触ろうとしても響に嫌われていく一方なので今回も諦めることにした。

 

「じゃ、飯とかは一応木の実や果実と後は何故か鎮守府内に菜園が有ったから好きに使ってくれ。」

 

「了解なのですっ!」

 

俺は二人に手を振りながら部屋を後にした。

 

「ボートの燃料を補給してから行きましょうか。」

 

「そういや燃料も加工が必要だよな。」

 

「そこは私が現地で加工するので問題ありませんよ。」

 

向こうに加工施設でもあるのか?

妖精に案内されるままに向かうと施設も何もなくただ原油が湧き出ているだけだった。

 

「なあ......ほんとに此処で加工出来んのか?」

 

「勿論です、そのための私ですから。」

 

すると妖精は何処からかパイプを取りだし両端を原油とボートの燃料タンクへ繋ぎ、みるみるうちにパイプの中を原油が通り抜けていく。

 

「......これ原油がそのまま入ってないか?」

 

「このパイプの中で加工してますから。」

 

なんだその便利道具......まあどうでもいいか。

 

「補給完了です、行きますよ。」

 

「ああ、行くか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝○九○○南方海域前線基地近海。

 

「あーあ、今月の支給はこんだけかぁ。」

 

「これじゃあ遠征を繰り返さないと基地がまわらないぴょん」

 

「そういうな卯月、望月。このご時世何処だって厳しいんだ。」

 

夕日を連想させるような赤みがかった髪をポニーテールに結わっている少女が不満を漏らす二人を宥めている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「夕月の言う通りクマー、本土の奴等もぬくぬくするのに忙しいんだクマー。」

 

「球磨まで士気を下げるようなことをいうな......ってなんだあれは。」

 

ポニーテールの少女、夕月は電探に一つの不可解な反応を発見した。

 

「球磨、何者かが凄い速度で此方に来ているぞ。」

 

「敵艦かクマ!?」

 

「いや、深海棲艦にしては小さすぎる。それに五十ノット近く出ている。」

 

「うひゃあぁ、島風より早いっぴょん。」

 

「取り敢えず水偵を飛ばしてみるクマ。」

 

球磨が艦種を特定するため水偵を発艦させた。

暫くすると球磨から気の抜けたような返事が帰ってきた。

 

「......只のボートだクマ。」

 

「それなら安心だぴょん。」

 

「ちょっと待て、それはおかしくないか?」

 

「別にただ漂流したか遊んでるかのどちらかクマ~」

 

「漂流なら助けた方がいいわねぇ。」

 

「助けに行こうよっ!」

 

ボートがこんなところに居ることに疑問を抱かない球磨達に夕月は自分がおかしいのかと頭を抱える。

 

「......所属不明艦艇視認距離に入るぞ。」

 

「ほら、只のボクマァッ!?」

 

「あぐぅっ!」

 

球磨がボートを指差し夕月に言って聞かせようとした瞬間、二発の砲弾が球磨と望月へと直撃しそれぞれ彼女達を包み込むように白い煙が立ち上がり球磨達は夢の中へと抜錨を始めた。

 

「球磨と望月がやられた......卯月!睦月!如月!全員正面警戒っ!ボートから砲撃されたぞっ!」

 

「あらぁ、漂流者じゃなかったのねぇ?」

 

「およ?漂流者を装うなんてゆるさないよっ!」

 

「いや、相手は何も言っていないんだが……まあいい、行くぞっ!」

 

「う~ちゃんが沈めてやるっぴょん!」

 

全員で一斉砲撃を始めるも既にボートから次々と放たれる砲撃を受け一人また一人と夢の中へ誘われていく。

 

「むにゃ……如月ちゃぁ~ん……zz」

 

「う~ちゃんお腹一杯だぴょん……zzz」

 

「卯月と睦月がやられたか、しかしなぜ催眠弾なんだ?」

 

夕月が少しばかり考えに意識がそれたその一瞬を狙い澄ましたかのように敵の砲弾が襲い掛かる。

 

「夕月ちゃん危ないわっ!」

 

「しまっ!?」

 

夕月は砲弾があたる直前に如月に押し出され尻餅をついた。

 

「如月っ!」

 

「すぐに……司令官に……zzz」

 

「くっ……分かった。」

 

「まて。」

 

司令官に報告する時間を稼ぐために距離を取ろうとする夕月をボートに乗った男は呼び止めた。

砲門は既に構えられておりとても逃げ切れる状態ではなかった。

 

「……なんだ。」

 

「輸送船を置いて全員連れて撤退しろ。」

 

「これは俺たちの命だ、貴様みたいな輩に易々と渡せるものではない。」

 

男を性質の悪い強盗だと理解した夕月はその要求を却下する。

しかしこのままでは全員眠らされ輸送船を奪われた挙句全員揃って深海棲艦に沈められてしまうであろうことは夕月も理解していた。

 

(どうしたものか……)

 

十分程の膠着状態を破ったのは男であった。

 

「あ~……じゃあ輸送船についてる小型艇にボーキサイトは要らんから他の資源を三分の一ずつ積んでくれ。」

 

「なっ!?」

 

まさか強盗犯から妥協案が出てくるとは思っていなかった夕月は思わず声を上げてしまった。

 

「しまっ!」

 

先程のように此方の隙を的確に狙われると確信した夕月は必死に構え直しながらも頭の中で艦隊の皆に謝っていた。

 

(こんな場面でっ!すまん……卯月……皆っ!)

 

「お、どうした?」

 

「え……?なぜ何もしない。」

 

「いや……何をしろと?」

 

「先程の実力なら今の俺の隙をついて撃ち込む事も出来ただろう。」

 

夕月の言葉を受け男は自分の構えてる連装砲と夕月を見返して夕月が言っている意味を漸く理解した。

 

「ああ、わりぃわりぃ。別に逃げられると困るから呼び止めるために構えてただけで別に隙を伺ってたわけじゃねぇよ。」

 

「なぜだ?」

 

「いや、お前らも全部取られたら大変だろうし俺も眠れる少女達を海に放ってはおけないしな。」

 

「ふっ……強盗にも人の心があるというのか?」

 

「俺だって好きでこんな事してる訳じゃ無いしなぁ……。」

 

「何か訳有りのようだな、生活に困っているなら俺達の基地へ来ないか?」

 

夕月は男に提案を持ちかけるが男はばつが悪そうに頭を掻きながら答える。

 

「う~ん......有り難い話なんだが犯罪者を拠点へ連れてくのは止した方がいいぜ?」

 

「なに、未遂なら問題ない。幸いまだ司令官には報告し......。」

 

夕月が話終える前に男は連装砲を夕月へ向け直す。

 

「なっ!?」

 

「嬢ちゃん、素性も知らない相手へ無闇に情報を与えない方が良いぜ?」

 

「くっ......。」

 

(これでは俺も人の事は言えないな......)

 

「ま、そういうこった。俺は必要な資材が入りお前らは強盗に襲われながらも無事に帰投でき資材も三分の二は守った。それでよしとしようじゃねーか。」

 

男は砲門を下ろすと夕月に微笑みかけた。

 

「ああ、肝に銘じておく。」

 

「よしっ、これで完了か。悪かったな。」

 

小型艇への荷積みが終わると男は夕月に一言謝罪し南方の更に奥へと姿を消した。

 

「あっちはたしか............っと、先ずは卯月達を輸送船に乗せないとな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ~......彼女達とお近づきになりたかったなぁ。」

 

「そんなことしたら一瞬で捕まりますよ?色々な意味で。」

 

駆逐隊(チームロリ)の皆(軽巡?俺の視界には映らんな)と別れて早三時間、俺は悶々し続けていた。

 

「ああでもあんな断り方したら絶対嫌われたよなぁ......」

 

「ああもう五月蝿いですね。資材が有るんだから建造すれば良いじゃないですか。」

 

「妖精さん流石っ!そうだそうしよう!早速帰ったら建造だ!」

 

「はぁ......全く......。」

 

にしてもあの子......夕月とか呼ばれてたか......何か他の駆逐艦とは雰囲気が違うんだよなぁ。

顔立ちは幼いのに言動が俺に近いものを感じるんだよな......まあお陰で気楽に話せたからいいんだが。

ま、今はこの資材を使い道を考えながら帰るとするか!

こうして俺は爛々気分で真っ暗な海の上を猛スピードで駆け抜けていった。

 

 

 




何となく登場させたかったのです。
私の番外編を読んでいなくても問題は特にございませんのでご安心を。


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第三番

休みの日に起きるのが辛い( ´△`)


 「西野大佐からの報告は以上になります。」

 

「ああ、有難う大淀。」

 

白髪の老人は腰掛けた椅子を回し横須賀の軍港を見つめながら次なる一手を思案する。

 

「そうだな、彼女を門長くんの所へ送り込んで暫くは様子見だな。」

 

「しかしまだ彼の位置は特定出来ていませんが......」

 

「それならおおよその見当はついている。西野君の所から中部海域の境界にある前線基地跡地に向かって偵察機飛ばすように伝えといてくれ、それと彼女を一旦そっちに連れていくともね。」

 

「前線基地跡地......ですか?しかしあそこは既に深海棲艦の占領下では。」

 

「そんなこと彼には関係無いさ。それに燃料弾薬以外にあれだけの鋼材、設備が整った場所でなければ使い道が無いだろう。それと......」

 

老人は椅子を戻し大淀へ向き直り続けて指示を出す。

 

「彼女を送ってから一ヶ月程したらそれとなく宇和君の耳に入るようにしておいてくれ。」

 

「了解しました。」

 

大淀は敬礼すると踵を返し部屋から出ていった。

 

「邪魔が入らなければいいが......」

 

老人は机に肘を着き手を重ね祈るように佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃元前線基地では新たな艦娘が誕生していた。

 

「よっ!アタシ摩耶ってんだ。よろしく......な。」

 

摩耶が勢いよく開け放った扉の向こうには両手で顔を覆う電とそもそもそっぽ向いている響と何故かズボン脱いでいる門長の姿があった。

 

「な......な......なにやってんだてめぇはぁっ!!」

 

次の瞬間門長の顔面をライダー顔負けのドロップキックが襲う。

勢い良く吹き飛んだ門長は床を転がりながら執務室の壁へ激突した。

 

「ぐぅ......何しやがるてめぇ......」

 

「そりゃこっちの台詞だっ!チビどもの前で何しようとしてんだっ!」

 

門長は額に青筋を立てながら摩耶へと近づいていく。

 

「ポーカーで負けたから脱いでるだけだろうが、文句あっか。」

 

「どうみても嫌がってんだろうが。」

 

摩耶も門長を睨み付けながら近づいていく。

二人の距離が縮まっていき一触即発の危機に電が立ち上がった!

 

「二人とも止めて欲しいのですっ!!」

 

「「へ......?」」

 

突然の声に二人の視線は電へ向いた。

 

「私が......わたしが門長さんにトランプを......しようと言ったのが......い、いけないのです......」

 

今にも泣き出しそうな電を二人は慌てて慰めた。

 

「い、いや!俺があんな罰ゲームを考えたのが悪かった!」

 

「そ、そうだな。アタシもちょっとやり過ぎたぜ。」

 

「うぅ......ひっく......お二人には......仲良くして欲しいのです......」

 

「こ、この変態と仲良くだって!?」

 

「そりゃ無理な話だぜ。」

 

「あぁ?それはこっちの台詞だ!」

 

「ひっく......電のせいなのです......いなづまのせいでふ二人の仲が悪くなってしまったのですーーっ!!」

 

「わかったわかったっ!仲良くすりゃいいんだろ!」

 

「ほーら電!俺とあいつは仲直りしたぞ~!」

 

門長は電の方へ拳を突きだし親指を上に立てる。

 

「握手......」

 

「え......」

 

「仲直りの握手なのです......」

 

「それは......ちょっと......」

 

「やっぱり嘘なのです?」

 

電の表情が次第に曇っていく。

 

「嫌だなぁ~、嘘な訳ないじゃないか!これから夜露死苦ね摩耶サン!」

 

「ああヨロシクな門長サン(ロリコン野郎)!」

 

二人の間にミシミシと聞こえてきそうな位固い握手が交わされた。

 

「二人とも無事に仲直り出来てよかったのです!」

 

「お、おう......ソウダナー」

 

「あ、そういや二人建造したはずだがもう一人はまだ建造出来て無いのか?」

 

「あれ?さっきまで一緒に来てた筈だけどな。」

 

「ずぅーーっと此処にいるのねっ!!」

 

全員が声のする方へ視線を合わせるとスク水巨乳少女が手を振り回して地団駄を踏んでいた。

 

「あ、誰だお前?」

 

「さんざん放っとかれた挙げ句第一声が誰だとか酷いにも程があるのねっ!」

 

「彼女は潜水艦の伊19さんなのです。」

 

「自己紹介まで盗らないで欲しいのね!!」

 

「ひぅ!ご、ごめんなさいですぅ。」

 

「へぇっ!?べ、別に怒ってる訳じゃ無いのね。」

 

ゆっくりと動き出した門長は伊19の頭を鷲掴みにすると徐々に力をこめていく。

 

「おいこら駄乳、なに電ちゃん泣かしとんだ?埋めるぞ。」

 

「いたいいたいいたいっ!この仕打ちは幾らなんでもあんまりなのねーっ!」

 

「あ?反省の色が見れねぇなあ?そんなに壁と一つになりたいか。」

 

伊19を掴んだまま門長は壁際へと歩きだした。

 

「ちょっ!?イクが悪かったのね!許して欲しいのねん!」

 

「あ~ん?反省してるようには見えねぇなぁ。」

 

「わ、私は大丈夫なのですっ!だからイクさんを放してあげてほしいのです。」

 

イクの言葉は残念ながら門長には届かなかったが、電の一言により壁の改修素材になる運命からは解放されたのであった。

 

 

 

 「まあ......最低限の資材で建造してなんでお前らが出たのかは良いとして、此処に来た以上生きるために食糧調達はやって貰うぞ。」

 

「別にあたしらは最悪なにも食わなくてもくたばらねえぞ?」

 

「じゃあお前は飯無しな。」

 

「はぁ?ふざけんなっ!あたしはてめぇが生きるためにとかいうから死なねえっていっただけだろ!」

 

「うるせぇな、飯食うために手伝うか爪楊枝くわえて黙って見てるかの2択なんだよ。」

 

摩耶は歯軋りをしながら門長を睨み付ける。

 

「......わーったよ、だけどてめぇの分はねぇからな!」

 

「ちっ、別に構わねぇよ。じゃあ駄乳は魚とか取ってこいよ、解散」

 

「ちょっ!イクは駄乳でも海女さんでも無いのねっ!」

 

「周り全部海なのに魚食わんでなに食うんだよ。」

 

「問題はそこじゃないのねっ!提督はもっと話を聞いた方がいいの!」

 

「俺は提督じゃない、以上。解散!」

 

門長は意義を唱え続けるイクの首根っこを掴み廊下へと放り投げた。

 

「ほら、お前もどっか行け。」

 

「あ?てめぇみたいな変態を野放しに出来るかっ!」

 

「失礼な奴だな、俺ほど純愛な男はいねぇだろ。」

 

「子供と脱衣ポーカーをするのが何処が純愛だって?」

 

「只の戯れに決まってんだろ?実際に一回も勝ってないしな。」

 

「勝てないの間違いだろどーせ。」

 

摩耶の鋭い突っ込みが門長の心を深くえぐる。

 

「この......クソアマがぁ......ならば戦争だ。」

 

「お、やんのか?」

 

門長は机に勢い良くトランプを叩きつける。

 

「てめぇの裸なんか一切見たくねぇが全部ひん剥いて生き恥さらしてやらぁっ!」

 

「そっくりそのまま返してやんぜ!」

 

二人の壮絶なる脱衣ポーカーが幕を............閉じた。

 

「クソがぁぁっ!!」

 

「なぁ............幾らなんでも弱すぎねぇか?」

 

開幕と同時に響達は摩耶が撤退させたので難を逃れたが直接対峙していた摩耶は完全勝利したにも関わらず精神的に深刻な損害を受けていた。

 

「......取り敢えずパンツは穿けよ。」

 

「敵の情けは受けねぇ。」

 

「情けじゃねえっ!目に毒だから穿けっつってんだよ負け犬が!」

 

摩耶が怒鳴ると門長は無言でパンツを穿いた。

 

「覚えてろ、借りは必ず返す。」

 

去り際に一言だけ呟くと門長は部屋を出ていった。

 

「......なんだこれ、これじゃ只の弱いもの苛めじゃねぇか。」

 

摩耶は肩を竦めながら机に置かれたままのトランプを眺めた。

 

「十戦してツーペア以上の役が出ないとか本当にわざとなんじゃねーだろうな。」

 

摩耶はトランプを片付けながら一人不満そうに呟いていた。

 

 

 




今回は新しく仲間に加わった二人の自己紹介でした。
今度からの建造回にほぼ1話使うかは未定ですが折角なんで使いたいですね。


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第四番

 暴力女にポーカーで完全敗北を喫した俺は奴を打ち負かす方法を編み出すために島の海岸沿いを散歩していた。

 

「俺の得意分野なら余裕だったのにな。」

 

自分で呟いた直後にふと考える。

俺の得意分野ってなんだ......?

ことゲームに限っていえば今まで誰にも勝ったこと無いな......力比べ位か。

 

「って女相手に力比べで勝ってもなんの自慢にもなりゃしねぇっ!!」

 

やはり奴のホームグラウンドで勝ってこそだろう。

となると砲戦か、しかしボートが大破したら俺の移動手段が無くなるし奴を沈めたら響達との溝が更に深まってしまいそうだ。

 

「何か響の俺に対する好感度が上がる方法であの女に一泡吹かせる事は出来ないか......ん?」

 

何か打ち上げられてる奴が居るな。

近付いて見ると桃色の髪をしたクレーンのようなものを着けた女が流れ着いていた。

 

「少女じゃねえのか......」

 

気にせず通り過ぎようとした所で頭に何か引っ掛かるものを感じた。

確か......工廠にいて......クレーン......もしや!

こいつなら何とかしてくれるかもしれないっ!

 

「おい、起きろ。お前工作艦だろ?俺を海上で動けるようにしてくれよ。」

 

何度揺すっても起きねぇなこいつ、死んでんのか?

ん......取り敢えず呼吸はあるようだしドックに放り投げとくか。

 

俺はピンク女を担ぎ上げるとドックを探し始めた。

そういやドックって何処にあるんだ?

取り敢えず工廠で妖精に聞けばいいか。

工廠へ向かうと妖精の他に何故か暴力女も居やがった。

 

「なんでお前ぇが此処にいんだよ。」

 

「あぁ?そんなのアタシの勝手だろ......って......またやりやがったのかてめぇっ!?」

 

「またってなんだよ、なにもしてねーだろうが!」

 

「どうみても拉致ってきてるじゃねぇか!」

 

摩耶が指差す方を向くとそこには俺が担ぐピンク女の姿がある。

 

「あ、ちっげぇよバーカ。海岸でくたばってたから拾ってきたんだよ、そうそうドックは何処にあるんだ?」

 

「どっくならここをでてさんぼんめのじゅうじろをみぎに......」

 

「アタシが連れてってやるからかせ!」

 

なんだいきなり?別に誰が連れてったってかわんねぇだろ。

 

「断る。」

 

「いいから渡せっつってんだよこの変態野郎がっ!」

 

「なんだてめぇ、喧嘩売ってんのか?」

 

「とながさん、まやさんにわたしてほしいのです。」

 

なに!?妖精まで奴の味方をするのかっ!

 

「俺がこの女に何かするとでも思ってんのか!」

 

「ちがうよぉ、どっくはおふろだからおんなのこどうしのほうがいいんだよぉ。」

 

なんだ、そういうことかよ。

まあ風呂だろうがそのまま放り込んで置けば良いだろうとか思うがまあ別に他意がないなら俺も楽ができるしいいか。

 

「ほらよ、じゃあ任せたわ。」

 

「あ、おいっ!怪我人を投げる奴があるか!」

 

「そいつが治ったら覚悟しろよ摩耶ぁ。」

 

俺は奴にそれだけいい放つと工廠を出ていった。

 

「なんだあいつ......きもちわりぃな。」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 「ヴェールヌイっ!電っ!!」

 

あ、あれ?ここは......入渠施設......?

確かヴェールヌイ達の泊地修理中に深海棲艦に襲われて......

 

「お、目覚めたようだな?」

 

「摩耶......さん?貴女が助けてくれたのですか?」

 

「いいや、門長っつう変態野郎があんたを拾ってきたんだ。」

 

「へ、変態っ!?わっ、私に何か!」

 

意識がないことを良いことに汚されちゃったの!?

私が自分の身体を確認していると摩耶さんは苦笑いをしながら続けた。

 

「あ~、それは大丈夫だろ。変態つっても小さな子供にしか興味がないみたいだからな。」

 

「は、はあ......」

 

それはそれでなんか複雑なんだけど......

 

「ま、服は籠に入ってるから治ったら顔合わせ位はしてやりな。」

 

「は、はいっ!」

 

そういうと摩耶さんはドックを出ていった。

ヴェールヌイ達は此処にいるのかな......無事だと良いのだけれど。

修理が完了し篭の中の服に着替えると門長さんを探しに歩き始めた。

 

「提督なら執務室に居ますかね?」

 

私は勝手知ったる我が家の様に一直線に執務室を目指す。

まあ、鎮守府の構造は基本的に同じだし建築に携わっていた明石達(わたしたち)なら我が家みたいな物よね。

 

「到着っと。」

 

私は大きく深呼吸するとゆっくりと扉をノックする。

 

「どうぞなのです。」

 

(この声は......電!?)

 

すぐにでも開けたくなる気持ちを抑えながら返事を返しゆっくりと扉を開く。

 

「失礼しますっ!」

 

扉の先には電と響しか居なかった。

 

「明石さん、初めましてなのです。」

 

「............初めまして。」

 

「へ?ああはいっ!初めまして、工作艦明石ですっ!」

 

まあ......そう、だよね。皆同じところに流れ着くなんて都合の良いことは起こらないよね。

 

「あ、あの......摩耶さんから話は伺っているのです。確かに私達は明石さんの所にいる電達ではないのです。ですがそっちの電達もきっと大丈夫なのですっ!」

 

精一杯私を励まそうとしてくれる彼女がどうしても重なってしまい涙を見せないように電をぎゅっと抱き締めた。

 

「......そうだよね......皆大丈夫だよね。」

 

「はいなのです。」

 

暫く抱き締めているとにわかに廊下が騒がしくなり始めた。

そして執務室の扉が勢い良く開け放たれる。

 

「ここかぁっ!?」

 

「へぇっ!?」

 

思わず振り向くと白い軍服に身を包んだガタイのいい男性と目があってしまった。

 

「おい、うちの子に何抱きついてんだぁ?」

 

私の右肩を掴む手に力が入ってて痛いんですが......

そんなことはお構い無しに私に向かって悪どい笑顔を振り撒くこの人は何なんですかぁ~!?

 

「ええっと......門長さん......ですか?」

 

「ああそうだ、俺は優しいから期待に応えてくれたら今回のことは目を瞑ってやろう。」

 

「き、期待に?」

 

「ああ、俺を艦娘みたく海上を走れるようにしろ。」

 

「「......はい?」」

 

その場にいた全員がハモりましたよ。

 

「なんだよ、出来るだろ?」

 

しかもこの人素で言ってますよっ!?

一体どうしたらいいんですかこの状況!?

私が返答に困っていると摩耶さんが真っ向から彼の事を馬鹿にし始めました。

 

「兵装が使えるからって海上を走れる訳ねぇじゃんか!?」

 

「てめぇは黙ってろっ!俺はこのピンク女に聞いてんだ!」

 

私でも流石に......ってあれ?

 

「もうちょっと頭が良くなってから出直してきなっ!」

 

「きゃあきゃあうるせぇんだよ猿女がっ!艤装みたいの着ければ行けるかも知れねぇだろ!」

 

兵装が......使える?

 

「あぁ?なんだやんのか、海の藻屑にすんぞっ!」

 

「やってやろうじゃねぇか、表でな猿女!」

 

「ちょちょちょっとまってくださいっ!!」

 

「「あ"あ"!?」」

 

「ひぃっ!?あ、あの......艦娘の兵装が使えるって本当ですか?」

 

「ああ、兵装位普通使えるだろ?」

 

「いや、普通じゃありませんよっ!艦娘しか扱えない艤装をなんで使えるんですか!?」

 

「あ、そう。じゃあ俺も艦娘なんじゃね?」

 

「てめぇみたいなのが艦娘な訳ねぇだろっ!深海棲艦だ深海棲艦っ!」

 

「......そうですねぇ、その可能性もありますが少なくとも人間が扱える代物ではないんですよ。」

 

でも......艦娘にも深海棲艦にも男性型なんて聞いたことないのよねぇ。

それともいつの間にか人が使える兵装が開発され......ても仕方無い気がするのだけれど......あ!

 

「そうですっ!試しに門長さんに海面に立って貰えば良いじゃないですか!」

 

「よーし、いっちょやるか!響、電一緒に来るか?」

 

「......いやだ。」

 

「行くのですっ!」

 

「電!?」

 

響ちゃん凄い嫌がり様、あの人にそんなに酷い目に遭わされたのかな............それならちょっと赦せないな。

 

「......なのです。」

 

「う......分かった。」

 

あら?電がいつの間にか響を説得してる。

一体どうやって説得したのかしら......

 

「二人とも見に行くのです。」

 

「お、おおっ!そうかそうか!じゃあさっそく行こうか!!」

 

意気揚々と部屋を出ていく門長さんに付いていく様に

私達も部屋を後にしました。

 

「いっくぜぇっ!」

 

あの人は確信もないのになんで躊躇無く飛び込めるのでしょうか......

 

「っしゃあ浮いたぞっ!!どーだ猿女ぁ!」

 

「なあ明石......あいつは人間じゃ無いんだな?」

 

「えっ!?ええと......恐らくは。」

 

ま、摩耶さん!?目が怖いですよ?いきなり艤装を展開しだしてどうするつもりですかぁっ!!?

 

「くたばりやがれぇっ!!」

 

「ウラァッ!!」

 

ええっ!!響ちゃんまで雷撃始めちゃったの!?

摩耶さんの砲弾が門長さんの頭部に命中し、続いて響の魚雷が二本直撃した。

 

「お、おお......マジで沈んだんじゃねぇか?」

 

響から雷撃の援護が来るとは考えていなかった摩耶さんは唖然としてました。

まさか電あなた......響を連れ出した理由って......

 

「いってえぇ!!」

 

え......うそ......?

 

「信じられない......」

 

「マジかよ......」

 

水飛沫が収まると中から小破すらしていない門長さんがこっちに向かってきている所でした。

 

「おいおい、不意打ちたぁやってくれるなぁ摩耶ぁ......」

 

「な、なんだよやんのかぁ!?」

 

あ、摩耶さんテンパッてますね。

響は......ああ完全に怯えて電の後ろに隠れちゃってますか。このままだとちょっと不味そうかも......

 

「門長さんっ!」

 

「あ?後にしろ。俺はこの女とケリ着けねぇといけないんだ。」

 

「ああああのですねっ!しぇ、折角同じ島で生活しているんでしゅから平和的に演習で決着を着けましょう!」

 

あ、あれ?私なんでこんな噛み噛みなんだろう。

 

「......元々はそうするつもりだったしいいか。」

 

「でしゅ、でしたら私が準備しておきますので明日演習を行いましょう!」

 

演習という形で一旦その場は落ち着かせ私達は屋内へと戻っていった。

はぁ......早く二人を見つけて帰りたいけどこの人たちも暫くは放って置けないなぁ......

 




明石をいつ出そうか迷っておりましたが出さないと普通の砲戦が何時まで経っても出来ないので予定より早く登場してもらいました。
此処では主に仲裁役兼工作艦みたいな感じになるかなぁ(未定)
泣き落としは何度も使うと只の泣き虫な子になっちゃいますからw
その意味でも明石は早めに出すべきだと判断しました。

次回、リベンジャー門長!栄光は誰の手に!


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第五番

演習のシステムは前作と変更はない......と思います。


 「えー、それでは被弾箇所によって艤装の性能を一時的に低下させる電磁波を発生させる弾頭を使用しての演習となりますっ!」

 

「待ってくれ明石、あの野郎にその演習弾が効くのかよ?」

 

「あ?俺の強さに怖じ気づいたか?」

 

まあ俺もまさか魚雷二発受けてピンピンしてるとは思わなかったけどな......心に甚大な損害を受けたが。

 

「んなわけあるかっ!演習弾が効かないなら実弾を使うまでよっ!」

 

「まあまあ、それについては確認済みですのでご安心を。」

 

え?いつ確認したんだ。

 

「なのですっ!」

 

「ちょっ電!?」

 

「です?」

 

電?ああ、寝起きにご免なさいなのですって言いながら頭撃たれたのはそういうことだったのか......電にやらせるとは考えたじゃねぇか明石......覚えてろよ?

 

「いやぁ、ほら公平を期すために仕方無くですね......って声......届いてます?」

 

明石は後で半☆生して(半殺しになって)貰うとして先ずはあの暴れ猿女に男と女の力の差を見せつけてやらなきゃな。

 

「ええ......っと......兎に角先に相手を行動不能にした方が勝利です!」

 

「うっし!摩耶さまの実力見くびんなよ変態野郎っ!」

 

「ぶっ潰してやるから覚悟しろよ猿女が。」

 

意気込んだのはいいが二十キロ先とか遠いな......近付くのめんどくせぇ......こんなことしてないで早く響とイチャイチャするにはどうすればいいか考えなければ。下手したら深海棲艦以上に嫌われてそうだからな......自分で言って凹んだわ。

吊り橋効果とかも一切無いしどうすんだよほんと!

吊り橋......あ、まさか俺が吊り橋なのか?じゃあこのまま電と響禁断の愛が............それはそれでアリだがそこに俺が入れないのは悲しすぎるっ!

 

「門長さん?」

 

「んあ?どうした。」

 

俺は妖精に呼ばれて意識をもとの世界へ戻した。

 

「既に撃たれてるの気づいてます?」

 

「あ......そういやわずかに動きにくい気がする。」

 

「直撃1、至近弾10受けても気付かないなんてある意味凄い集中力ですね。」

 

マジか......一発直撃してんのかよ。違う意味で大丈夫か俺。

 

「摩耶は何処にいるんだ?」

 

「まだ視認は出来ませんので電探を使うといいですよ。」

 

電探?そんなの持ってたか?響の連装砲しか無かった気がしたが......

 

「うぷぷ......電ちゃんが朝の砲撃前に頭に着けてましたよ?」

 

何で笑いを堪えてるんだ?

妖精の様子に疑問を抱きながら頭に着いている電探とやらに触れる......おい。

 

「......これはなんだ?」

 

「くくくっ......電探ですよ?()()()()......ブフゥッ!」

 

「......アイツだな?」

 

男の俺にカチューシャなんか着けさせやがって......

 

「本当に半☆生したいらしいな明石ぃっ!」

 

俺は勢いのまま電探をへし折った。

 

「取り敢えず突っ込んで叩き伏せればいいんだ、いくぞおらぁっ!」

 

「脳筋な思考回路ですねぇ......まあ良いですけど。」

 

次々に降り注ぐ砲弾が直撃しようと俺は構わず突き進んだ。

 

「ったく、漸く見えてきたぜ。」

 

「回避せず直進とか......脳筋ここに極まりですね。」

 

「うるせぇ、装備がねぇんだから仕方無いだろ。」

 

おしっ!一気に距離を詰めるか。

全速力を出しみるみるうちに距離が縮まっていく。

 

「このクソがぁっ!くたばれぇっ!!」

 

摩耶の八発の魚雷が全て俺を捉える。

 

「これは回避しないと洒落にならないですよ?」

 

「全然曲がれん、無理だっ!」

 

曲がろうとしてもゆっくりとしか曲がらず回避出来るような状態ではなかった。

直後計八回もの爆発音が響き渡る。

 

「これが摩耶さまの実力だぜっ!思いしったか!」

 

「おお~、低練度とは思えない精度ですねぇ。」

 

「ハラショー」

 

「凄いのです摩耶さん!」

 

「戦場で油断か?」

 

水飛沫から飛び出した俺は小破に満たないダメージを負いながら摩耶の首もとを掴み上げる。

 

「ぐっ......くそったれがぁっ!」

 

摩耶が何度至近距離で撃とうが構わずに連装砲を構える。

 

「残念だったなぁ?猿女ぁ......」

 

引き金を引こうとしたときに俺は大変なことに気付いてしまった。

こんな悪役みたいな勝ち方見せ付けたら響との溝がチャレンジャー海淵レベルに深まってしまうのではないか?

 

「............やめだ。」

 

「あぁ!?」

 

俺は摩耶を離し帰投を開始する。

 

「ちょっと待てよっ!情けでも掛けたつもりかっ!?」

 

「あ?喧嘩で女に勝とうがなんの自慢にもならねぇことを思い出したからやめんだよ。」

 

「はぁ!?」

 

「だが明石、てめぇは後で工廠な?」

 

「あ、あはは......新しい装備の開発でしょうか?」

 

「それだけで済むかはてめぇ次第だな。」

 

「......き、肝に命じて置きます。」

 

「ふっざけるなっ!!」

 

突如背中から軽い衝撃が走る。恐らく俺に向けて撃ったんだろう。

 

「あんだよ。」

 

「逃げるなんて赦さねえ......決着を着けさせろ!」

 

何だこいつ、そんなに俺を悪人にさせたいのか。

 

「決着なんてついたようなもんだろ、てめぇがどんなに撃とうが俺を沈める事は出来ねぇ事は分かっただろ。」

 

「だ、だけどアタシはまだ無傷だずがっ!!?」

 

一向に引こうとしない摩耶の額に主砲を一発撃ち込んだ。

 

「ぐぅっ......きたねぇぞてめぇ!」

 

「明石、今の俺らの損害はどうなってる。」

 

「ええと......門長さんが10%、摩耶さんが30%ですね。」

 

「はあ!演習弾は効果あるんじゃねえのかよ!?」

 

摩耶が明石に文句を言うが明石は冷静に返す。

 

「ええ、効果は有りますよ。ただ門長さんの耐久と装甲が異常なだけです。」

 

「は?」

 

「演習前に調べさせて頂いたのですが耐久だけで言えば戦艦水鬼に匹敵するレベルなんですよ。だから恐らく摩耶さんが全弾命中させても門長さんを沈める事は出来なかったでしょう。」

 

いやぁ、俺も人間じゃないどころか深海棲艦と比較されるとは思わなかったわ。

......もしや本当に深海棲艦だったりして。

 

「な、なんでそれを先に言わねぇんだ!」

 

「聞かれてませんし戦術的勝利は取れますので問題はないかと?」

 

流石は俺にあんなことをしでかすだけはあるな、悪びれもなく言いやがる。

 

「俺だって逃げ腰の奴を追いかけるなんてクソつまんねぇことしたくねぇしな。」

 

そんなことする位だったら逃げ回る響を追い掛けてる方がずっと楽しいわ。

 

「......クソが......」

 

摩耶は漸く単装砲を下ろし帰路へと着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「さて......何か申し開きはあるか?」

 

「あの......流石の私も逆さ吊りのままでは開発出来ませんよ?」

 

「反省の色が見えないなぁ......やっぱ半☆生にすっか?」

 

「あれぇ......おかしいですね。なんか物騒に聴こえるんですが......」

 

俺は逆さの明石の腹部に連装砲を押し当てる。

 

「ごめんなさいごめんなさいっ!ただの出来心だったんですよぉ!」

 

「......はぁ、まあ今回は許してやるよ。」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、ただし条件がある。」

 

「ま、またですか......?」

 

「あ?半☆生の方が良いのか?」

 

引き金に指をかける。

 

「ちょちょっと!?いやですね~冗談ですって!」

 

冗談には聞こえなかったがまあいいとしよう。

 

「それで条件というのはだな......」

 

俺は計画を明石に伝えた。

 

「えぇ......四十六センチ三連装砲を四基ですか......アームも砲座もないのに一体何処に装備するんです?」

 

「そうだな、取り回しを良くしたいから両腕とこれみたく手持ちで作れ。」

 

「えぇっ!?世界最大級の艦砲を手持ちとか正気ですか!」

 

「世界最大つっても結局艦娘が装備出来るサイズに縮小してんだろ?」

 

「だからって手に持てるサイズでも反動でもありませんよ......」

 

「んなのはやってみなければ分かんねぇだろうが。」

 

「でっ、ですが!」

 

ああもうめんどくせぇな。

俺は連装砲で明石の腹を小突きながら続ける。

 

「使えるかなんてどうでもいい、聞いてるのはお前が作るのか此処で半☆生するのどっちが良いかってことなんだよ。」

 

「はあ......作りますけどそもそも艦娘にそんな使い方が出来る方は居ませんから門長さんが使えなくてもも文句言わないでくださいよ?」

 

「わーったよ。あ、それとまともな電探もな。」

 

「え、渡したじゃないですか?」

 

すっとぼける明石へ模擬弾を一発撃ち込む。

 

「うぐっ!......ちょっ......ほんとに撃つこと無いじゃないですか......冗談なのに......」

 

「一発で済ませたんだ、有り難く思うんだな。」

 

「あんまりこんなことしてると響達に嫌われますよ?」

 

「よ、余計なお世話だっ!じゃ、じゃあ任せたからなっ!」

 

確かに工廠に長居し過ぎたな、それに今の状況を響達に見られたらかなり不味い。

兎に角ここは一先ず戦略的撤退しかない!

 

「え、ちょっ!?流石にこのまま放置は勘弁してくださいよぉ~!」

 

明石が後ろでなにか言っているが俺は急ぎ響の元へ戻らねばならないため気にしないことにした。

 

「待ってろひびきぃーっ!お兄ちゃんがいま戻るからなぁー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ......もう帰りたい......あ、工廠妖精さん。私を吊るしてるウィンチ下げて貰えます?」

 

「ま、それはそれとして。手持ち型の大和砲なんて面白いわねっ!鎮守府に戻ったら武蔵さんにも使って貰おうかしら?」

 

地面へと降ろされた明石は立ち上がると意気揚々と開発を始めるのであった。




あれ......おかしいな?
門長の耐久が気づいたら予定の倍以上になってる......
まあいっか(すっとぼけ
久々に動いたら筋肉痛が酷くて携帯持つのが辛い。


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第六番

いや~執筆ペースがどんどん下がって来てますね~
ここらで心機一転心を入れ替えやっていこうと思います!
まあまだ六話なに言ってんだって感じですけどねw


「眠れねぇ......」

 

○二○○、襲い来る睡魔を一撃で殴り飛ばす強烈な空腹に叩き起こされた俺は食糧を調達しに出掛けることにした。

 

「つってもこの時間じゃ動物も見当たらねぇし海に行くか......あ?」

 

辺りを見渡すとふと基地の左端が明るいことに気付いた。

 

「あそこは工廠の方じゃねぇか......なにやってんだ?」

 

あ、そういや明石を逆さ吊りのまま放置してた気がしたな......まあ誰かが助けてるだろうがそのままだったら笑えるし行ってみるか。

腹へった......そういや狩りの道具もあっちだし丁度良い。

工廠へ着くと残念な事に明石はぶら下がってはいなかったが何だかよく分からない機械を弄っていた。

 

「おう、なにやってんだ?」

 

「あ、どうも。今は元となる四十六センチ三連装砲の開発中です。」

 

「へぇ、遅くまでよくやるわ。」

 

「あ~......もうこんな時間でしたか、本来は戦艦の方に手伝って貰った方が出やすいんですけどねぇ。」

 

ふ~ん......開発ってのはそういうもんなのか......

俺が興味無さげに返事をしていると逆に明石から質問が返ってきた。

 

「所で門長さんこそこんな時間にどうしました?」

 

あ、そうだ道具取りに来たんだった。

 

「腹へったから狩りに行くんだよ。」

 

「行動がまんま野生動物じゃないですか。」

 

「うるせぇ。おい工廠妖精、頼んだやつは何処にあるんだ?」

 

「あっちのたなにあるのですぅ」

 

「あれ、そう言えば演習の後門長さん補給しましたか?」

 

「あ?飯なら響達と食ったぞ。」

 

まあ、食糧もあまり集まって無いからそんなに多くは無かったが......

 

「あ~......これ飲んでみます?」

 

明石は手に持っていた缶を俺に手渡した。

 

「なんだこれは......」

 

「まあ飲んでみて下さい。」

 

怪しすぎる液体だが今の俺にはそれすらも旨そうに見えてしまった......

そして想像以上にどろっとした液体をゆっくりと喉の奥へ流し込んで行った。

 

「......っぷはぁ......不味くは無いが旨くも無いな、なんだこれは?」

 

「えっとですね、今のは私達の燃料......つまりは()()ですねっ。」

 

......こいつ、昨日の事を一切懲りて無いな。

 

「そうかそうか、そんなに逆さ吊りが気に入ったか。」

 

「へ?ちょっ、私にそんな特殊な性癖はありませんよ!?」

 

「重油なんて人間の飲み物じゃねーだろうが!」

 

「いやいや、この期に及んでまだご自分が人間だと思っているんですか?」

 

あー......まあ人間じゃあ無いか......無いのか?

 

「だからって重油は飲むのはなぁ。」

 

「私達は艤装に給油口が有りますのでそこから補給してますが門長さんは自身の艤装がありませんからね。」

 

「そういうもんか......ん、じゃあ潜水艦の奴等は飲んでるのか?」

 

「彼女達はまあ......一応給油口は有りますが殆どの潜水艦は経口摂取してますよ?」

 

「給油口が有るのにか?」

 

「ええ、まあ場所が場所なので......」

 

「場所?給油しにくいところにでもついてんのか?」

 

「ま、まぁ......そんな感じですよ、あはは......」

 

なんかハッキリしない感じだな......既に興味も失せているので別にどうでも良かったが。

 

「んで、これをどれだけ飲めば補給完了なんだ?」

 

「知りませんよ?」

 

俺の質問に明石はなに食わぬ顔で答えた。

 

「あ"?」

 

「凄まれても解らないものは解りませんよ。確認のためにそこの資材から飲めるだけ飲んでみてもらえます?」

 

どうやら本当に解らないらしい。

これで空腹が収まるなら良いかと俺は仕方無く重油を飲み始めることにした。

 

 

 

飲みはじめてから三十分後、明石は俺が飲み干した燃料を計測し驚愕と落胆の入り交じったような声を上げていた。

 

「いやぁ本当に満腹になったな......どうした?」

 

「いや、どうしたじゃありませんよ......今ほど近くに油田があって良かったと思えた日はありませんよ。」

 

「なんの話だよ。」

 

「門長さん、あなた燃費悪すぎですっ!」

 

燃費?なんの話だかさっぱり分からんな。

 

「たった一回の演習で大和型の最大給油量を上回ってるじゃないですかっ!」

 

ああ~確かに結構飲んだ気がするな。

 

「まあ腹が減っていたし仕方ねぇだろ。」

 

「仕方無いじゃないんですが............まぁ兎に角、門長さんは出撃を控えないとあっちの油田も干からびてしまいますよ。」

 

「ま、そんときゃそんときだ。んじゃごちそうさん。」

 

予定とは違ったが何だかんだで空腹が満たされたのでぶつくさ言っている奴に別れを告げ寝床へと帰ることにした。

にしても食わなくても良いのは助かるが一戦するだけであんなに飲まなきゃいけないのはきっついな......奴の言う通りにするのは癪に障るが移動は基本的にボートを使うか。

 

「ふぁあ......ま、明日考えりゃいいか。」

 

寝床へと帰ってきた俺を待っていたのは逆襲の睡魔。

満腹となった俺には為す術もなく意識を刈り取っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーケー!目標の島が見えてきたネー」

 

「周りに深海棲艦はいない?」

 

「周囲に敵影なし、大丈夫クマー」

 

「なるほど......あの島に奴が居るんだな。」

 

もう一度話して見たいが俺達の仕事は阿部元帥の所の金剛をあの島まで護衛する事だから直接会えるわけではない。

 

「そうだぴょん!あそこにうーちゃん達の資材を奪った悪い奴がいるんだぴょん!」

 

「元帥からの命令じゃなきゃすぐにでも沈めにいきたいクマー!」

 

「ソーリーね。明日には追加の資材が来るから見逃してネー。」

 

「それよりも私は皆で揃って帰れたこと方が嬉しいわ。」

 

「ああ、如月の言う通りだ。我々が全員無事で資材の追加まで来るなら申し分無いじゃないか。」

 

それに、俺にはどうにも奴が上から伝わっているような極悪人には見えなかった。

 

「球磨を騙した奴は許さないクマぁ!」

 

「睦月も赦しませんっ!」

 

むしろ余計な濡れ衣を着せられてる可哀想な人に思えてきた。

 

「皆さんサンキューネー、此処までくればノープロブレムデース!」

 

「解ったクマ、金剛さん健闘を祈るクマ!」

 

「もしなにかあったら連絡をくれれは直ぐに救援に行こう。」

 

「ドントウォーリー、地獄の金剛を見くびったらノーなんだからね?」

 

それだけ言うと金剛は颯爽と島へと向かっていった。

 

「......俺たちも帰投しよう。」

 

「油断せずに帰るクマー」

 

「夜明けも近いわ、急ぎましょう。」

 

あの島か......遠征先も近いしその内鉢合わせる事も有るだろうな。

その時に俺はどうしたら良い......いや、悩む事はないか。俺は卯月達を護る、それを第一に考えていれば自ずとするべき事は決まってくる。

 

「三時の方向に敵影二隻見つけたクマー」

 

「たった二隻ならやっつけるぴょん!」

 

この海域にたった二隻か......嫌な感じがするな。

 

「卯月、球磨。こちらへ向かってこないなら無理に戦闘することはない。」

 

「見逃すクマか?」

 

「我らの目的は達成している。無闇な戦闘は避けるべきだろう。」

 

「そうねぇ、相手の艦種も解らないのにこちらから仕掛けるのは得策ではないわねぇ。」

 

「クマー......確かに夕月と如月の言う通りだクマ、全員帰投するクマー」

 

「ぷっぷくぷぅ......暴れ足りないぴょん。」

 

「そういうな卯月、俺はお前に不要な戦いで傷付いて欲しくないんだ。」

 

俺は頬を膨らませ不満を顕にする卯月へと近付き頭を撫でながら宥める。

 

「戦って欲しくないとはもう言わない、だが心配している妹がここに居ることを覚えていてほしいなお姉ちゃん?」

 

本当は戦って欲しくないがそれは彼女達艦娘の尊厳に傷を付ける行為であると理解してからは俺はその事を口にしなくなった。

 

「...........ふ、不意討ちは卑怯ぴょん。」

 

「それに暴れ足りないなら稽古には付き合うさ。」 

 

「いつも通り仲良しねぇあの子達。」

 

「如月ちゃんも睦月に甘えていいのよ?」

 

「あらあら、甘えちゃおうかしら?」

 

「お前ら潮風を甘くしてないで周囲警戒しろクマーッ!」

 

こうして任務を終えた賑やかな水雷戦隊は月明かりに照らされて中部海域を後にした。




早速登場西野艦隊!夕月が意外と気に入ってしまいました。中身?いえ、知らない子ですね。
まあ今後も作者の趣味でちょくちょく関わって来るかと思いますw
あっとぉ!休憩時間が終わるのでこれにて!


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第七番

先を考えすぎてこんがらがってきました上新粉で御座います。
金剛の台詞に苦戦しております......配役を間違えたかもとか思い始める始末orz
これはあれですね、偉大なる大人気SS作家の作品で勉強させて頂かなければ!
寧ろこのままなれさせるという手も......

あ、本編入りマース!


「変態起きてっか~?」

 

なんだよ......こんな時間に朝早くから俺を起こすとは余程重要な事なんだろうな。

 

「......なんだよ猿女」

 

「あ?今朝流れ着いてた奴がてめぇに挨拶をしたいっつうから連れてきてやったんだよ。」

 

つまりそいつが俺の安眠を妨害した犯人と言うわけだな?

 

「連れてこい。」

 

「だってよ。」

 

「ヘーイ!ユーがここのテートクデースネー!?」

 

やたらとテンションの高い女が俺目掛けて突っ込んで来た。

 

「私は金剛型のネームシップ、金剛dぶっ!?」

 

俺は金剛のタックルに割り込むように前蹴りを顔面へ差し込む。

 

「ノーッ!?レディーのフェイスになにするデース!」

 

俺はそんなことはお構い無しに奴の袖と襟をしっかりと握る。

 

「ホワッツ!?そう言うのは時間と場所を弁えて......」

 

「時間を弁えるのは......てめぇだぁ!!」

 

奴の懐へ潜り込みそのまま背負い投げの要領で窓の外へと放り投げた。

 

「ちょっ、ここ三階だぞ!?」

 

「大丈夫だろ、艦娘だし。」

 

「なんだそれ......まあ良いや、アタシは戻るぜ。」

 

摩耶が部屋を出てから数分後、廊下がにわかに騒々しくなったかと思うと部屋のドアが勢いよく開け放たれた。

 

「うるせぇよ静かにしろ。」

 

「あ、ソーリー......ってノー!!死ぬかと思ったヨー!」

 

「お前が時間を弁えずに来るから悪い。」

 

「弁えるも何もワタシがここに来たのは一○○○デース!」

 

あー......もうそんな時間か、肉でも取ってくるかな......

 

「ヘーイ聞いてル~?」

 

「んで、お前は何しに来たんだ?」

 

「ワタシは仲間とはぐれてしまってここがどこだかもわからないのデース......ここに住まわせてくれませんカー?」

 

「ふ~ん......まあいいや。響や電に手を出したら海に沈めて深海棲艦の餌にするけどな。」

 

「オ、オーケーじゃあワタシはここにいるネー。」

 

「ここは俺の寝床だ出てけ。」

 

「じゃ、じゃあ隣の部屋を使わせて貰いマース!」

 

「あっそ、俺は食糧調達に行かなきゃならん。じゃあな。」

 

俺はルー語使いを廊下へ放り捨てて道具を取りに工廠へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......予想以上にクレイジーな人ネー、流石に三階から落とされるとは思わなかったヨ。

兎に角無事?に潜入をサクセスしたワタシは彼の周囲を探るため基地内を巡回を始めたのデース。

先ずは最初に出会った摩耶から話を聴いてみまショー!

 

「お?あの変態の事が知りたいって?奇特な奴だなあんたも。」

 

「テートクを変態呼ばわりですカー?」

 

「彼奴は提督じゃねぇよ、ただの変態だぜ?」

 

テートクではない?

 

「摩耶は別の鎮守府の艦娘という事ですカー?」

 

「いや?ここで建造されたぜ?」

 

「ホワッツ?じゃあどういうことデース?」

 

「彼奴が自分で言ってるしアタシもあんな変態が上司なんて思ってねぇってこった。」

 

変態......なるほど、ミスター門長はサディスティックな性癖なのですカ。それなら納得ネー!

 

「ならばあれも彼の過激な愛情表現なのですネー!」

 

「......大丈夫か?三階から落ちたときに頭でも打ったのか?」

 

「サンキューミス摩耶!」

 

「お、おう......ミス?」

 

彼の性癖が解ったところで次は工廠へゴー!!

 

 

 

 

「ワァオッ!?明石まで居るのは流石にビックリデース!」

 

「あれ、金剛さん?どっから来たんですか?」

 

「それが......仲間とはぐれてしまったのデース......」

 

「金剛さん......実は私もなんですよ、でも大丈夫で す!きっとまた出逢えます。それまでここで二人で待ちましょう!」

 

「そ、そーネー。サンキュー明石」

 

まさか本当に漂流してる人がいるとは......ソーリー明石。

 

「あ、そうです出会って早々で申し訳無いんですがよければ手伝って頂けませんか?」

 

「オーケー、ワタシに出来ることなら手伝いマース!」

 

「有り難う御座いますっ!実は今四十六センチ三連装砲を開発しようとしてるんですが中々出来なくて......」

 

「大和砲ですか?この鎮守府にはバトルシップが居るのですカー?」

 

「いえ、門長さんが使うそうなんですよ。」

 

「ど、どういうこと......デスカー?」

 

「あはは......まあそういう反応になりますよねぇ。門長さん自身も知らなかったみたいなんですが彼、人間じゃないんですよ。」

 

「おぉ......アンビリーバブル......それを知った彼はなんて言ってましたカ?」

 

「なんて?いえそもそも海上を走れるようにしてくれ何て言ってきたのも、この大和砲を作るように言ったのも門長さんですし。」

 

なるほど......一先ずは大丈夫そうですが念のため報告しておきまショウ。

 

「ソーリー......一つしか開発出来なかったネー。」

 

「充分ですよっ!有り難う御座います!」

 

「それじゃあワタシはここの皆に挨拶の途中だから行ってくるデース。」

 

「あ、あとの二人なら執務室に居ますよ?」

 

「サンキュー、それじゃあシーユー明石!」

 

「はいっ、またお願いします!」

 

あと二人は執務室に......執務室デスカ!?

秘書艦という事でショーか......まあ兎に角レッツゴーデース!

 

 

 

「失礼シマースっ!」

 

と言ってもここにはテートクはいないんデシタ。

 

「どうぞなのです。」

 

オー、このヴォイスは電デスネー?

 

「金剛デース!気が付いたらここに流れ着いてマシター!」

 

扉を勢いよく開けると電と電の後ろに隠れてワタシの様子を伺う響が出迎えてくれマシタ。

 

「ヒビキ?どうしまシタ?」

 

「ごめんなさいなのです。扉の開け方が門長さんに似ていたので響ちゃんは怯えてしまったのです。」

 

「......ご、ごめんなさい」

 

まあ、誘拐されたとは聞いてましたガ......ここまでバッドな関係デスか。

 

「オー......こっちこそソーリーね、ワタシは金剛型のネームシップ金剛デース。」

 

「響だよ......よろしく」

 

「電です、よろしくなのです金剛さん。」

 

「ユー達は秘書艦なのデスカ?」

 

「違うのです、門長さんがこの部屋を使って良いって言ってくれたのです。」

 

う~ん、彼女達だけ少し待遇が良いような気がしマース。キッズ特権でショウか......

 

「あ、あのっ!」

 

「ん~?どうしましたカ?」

 

「さっきの受け身、凄かったのです。」

 

「ふぇ!?オ、オーセンキュー......」

 

「それじゃあ響ちゃん。私達もお散歩に行くのです!」

 

「うん、いこう。金剛さんまたね。」

 

「シーユー響、電......」

 

何なんでショウ、この得体の知れない不安は......ノープロブレム......ただ受け身を見られただけネー。それなら練度が高いことくらいしか解らないハズ......

ただ、あまり迂闊なことは出来なさそうネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿部元帥。金剛から報告が届きました。」

 

「続けたまえ」

 

阿部は窓の外を見つめたまま報告を促す。

 

「はい、現在基地跡地に居る艦娘は響、電、摩耶、明石とのことです。」

 

「明石は恐らく現在行方不明となっている宗田艦隊の明石だろうな。電、ヴェールヌイの位置と一緒に宗田大将に伝えてくれ。」

 

「了解しました。次に彼が自身が人ではないと知ったそうです。」

 

「そうか......全てを知らなければ問題はない。」

 

「それと......彼女の正体に気付く可能性が高い艦娘が居るどの事です、処理しますか?」

 

「その艦娘は誰だ?」

 

「はい、電だそうです。」

 

大淀の報告に阿部は眉間を押さえて苦い顔をする。

 

「......それは駄目だ、金剛には細心の注意を払うように伝えておけ。」

 

「畏まりました。」

 

「くれぐれも駆逐艦には手を出してはならん。良いな?」

 

「......畏まりました。」

 

例え大淀に誤解され冷めた目で見られようが我ら人類の悲願の為にも彼を敵対させるようなことをするわけには行かないのだ。

 

「奴はまだ気付いていない今ならまだ行ける、やれるんだ。」

 

「......失礼します。」

 

阿部元帥が時折口にする奴が誰を示す言葉なのかは彼以外に知るものは居ない。その為大淀はいつも阿部が独り言を始めたタイミング下がるようにしている。

 

「奴に気づかれてしまっては我々のどんな企みも全て無駄になってしまう......だが奴に悟られなければ......いや、気付かれていないと言うのも私の希望的観測に過ぎないか。」

 

阿部は椅子へ腰を降ろし項垂れながら呟いた。

 

「門長くん、人の枠を超えた君ならいずれ世界を書き換えてくれると期待しているんだ。」

 

 




やっぱり原作のキャラが強い艦娘はむつかしいデース......
まあでも大事な阿部元帥との連絡役なんで結構登場するんでしょうねぇ......まあ勢いで乗り切るネー
参考SSを募集したいですねw


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第八番

無性に現実逃避がしたくなるお年頃の上新粉です。
後10年位経ったら何もかも懐かしく思える日が来るんでしょうかねぇ。
まあこの執筆活動も現実逃避の一環なんで一概に現実逃避が悪いとも言えませんかねw

さあさあそんな無駄話は気にせず本編へどうぞ~


 早速だが俺は非常に参っている。

まず始めに建造に回す資材がないので少女達をお迎え出来ないという事。そして......響との溝が一向に埋まらないという耐え難い事実!

 

「俺が響になにかし......てるか。誘拐ッつーか拉致だよなこれ......」

 

だけど俺は解って欲しいんだ、俺は誰よりも響を愛していることを!

 

「ヘーイ、そんな悩めるミスター門長にグッドなアイディアを持ってきたネー」

 

「勝手に入ってくんじゃねぇっ!!」

 

俺は突如背後に現れたルー語使いの顔面へ裏拳を叩き込む。

しかしルー語使いは俺の拳を左手で受け止めた。

 

「なにっ?」

 

「そうやって直ぐにハンドが出るのがミスター門長のバッドポイントネー」

 

「あ?何だよいきなり。」

 

「わからないですカー?響はユーの普段の行いを見てるから怯えてるのデース!」

 

「普段の行い?響にも電にも何もしていないし近付くことすら出来無いんだぞ。」

 

「ノンノンッ!他のメンバーに対してネー。」

 

「はあ?他のメンバーは別にどうでもいいだろ。」

 

「ほんとは解ってるでショー?明石から演習のストーリーをヒアリングしましたヨー」

 

「あぁ、あれはどうみても俺が悪役みたいな状況になりそうだったからな。」

 

「つまり!日常でもミスター門長が響とって悪役に見えてると言うことデース!」

 

な、なん......だと......じゃあ俺は響と仲良くなりたいのに他の奴等と仲良くしなければいけないのかっ!?

 

「う......う、うおおおぉおぉおおおっ!!」

 

俺は直ぐ様響達の部屋へ向かい扉を開け放つ。

 

「と、門長さん?」

 

「響ぃっ!見ててくれ、俺は全員と仲良くするぞっ!!」

 

「ビクッ!?............?」

 

「じゃあミスター門長、改めてよろしくネー!」

 

「お......おう。夜露死......ヨロシクナ、ルー豆柴」

 

「金剛デースっ!しかも深海棲艦みたいな喋り方になってマース。」

 

「金剛な、オーケーオーケー。じゃあまたな。」

 

つーか仲良くってどうしろっつうんだ......わかんねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、いきなりは無理がありますカー」

 

「何だか面白そうなのです!響ちゃんも一緒に観に行くのです!」

 

「え?わ、私は......」

 

「響ちゃんが来ないと門長さんが頑張ってる意味が無くなってしまうのです。」

 

「ビッキー、ワタシからもお願いするデース。」

 

「うぅ............わかった、でもビッキーは止めてくれ。」

 

「オーケーヒビキ!スニーキングミッションスタートネー!」

 

「なのですっ!」

 

「うぅ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてこった......見られてなきゃ別に良いかと思ったのについてきちゃってるよ。

ルー豆柴の差し金か?あのアマやってくれるぜ。

兎に角道具を取るには工廠に行かなきゃならんからな。

都合よくどっか行ってろ明石!それか奥に引きこもってろ!

意を決して工廠へ入り俺は愕然とした。

 

「あ、門長さん丁度良いところに来てくれました。」

 

こちとら最悪なタイミングだボケっ!

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「何を動揺してるんですか?」

 

うるせぇ!さっさと用件だけ言って消え失せろ!

 

「いや?別に何でもない......さ。それで用件はなにかな?」

 

「なんか今日の門長さんいつも以上にヤバいですよ?」

 

いいから用件だけ話せよ!余計なことを喋るなっ!

 

「ま、まあ......気にするな?」

 

「?......ああ~、そうですね。大和砲の手持ち型が一つ完成したんですよ。」

 

「ほんとか!?そういうことは先に言え......あ......よ、よくやってくれた。」

 

「ククッ......いえ、大丈夫ですよ。なので試しに使って頂きたいのですが。」

 

いま笑いやがったな......運のいい奴め。響達が見てなければお前がこいつの的になっていた所だ。

 

「んあ?お前ら揃って何やってんだ?」

 

よりによって集合すんじゃねぇっ!

 

「いま門長さんが頑張ってるみたいですよ?」

 

明石貴様ぁ......余計なことをぉ......

 

「あ?この変態が何か企んでんのか?」

 

「ミスター門長は皆とフレンドリーになろうと頑張ってるネー!」

 

てめぇらべらべらと喋りやがってぇ......

 

「はぁ?止めとけ止めとけ、てめぇが仲良くとか似合わねぇよ。」

 

似合わねぇ......か............猿女にしては良いアドバイスだ......

 

「響、ごめんな?」

 

「え?」

 

「やっぱこういうのは俺の柄じゃねえわ。」

 

正直自分を偽って響に好かれてもそれは俺じゃねぇからな。

 

「だけどな、俺は響を愛している。だから絶対にお前だけは傷付けない。」

 

「............」

 

「電、響と一緒に部屋に戻っていてくれ。」

 

「了解なのです。」

 

「あー......そう言えばまだ改修中の大和砲があったんでした......」

 

「オゥ!ワタシもヘルプしマース!」

 

「まあ待てや、てめぇら仲良くドックに送ってやるよ」

 

俺は二人を捕らえ工廠を出ていった。

 

 

 

 

「さぁて、明石、金剛。俺は何が気に入らないか分かるか?」

 

浮きに縛りつけた二人に向けて四十六センチ砲を構えて尋ねる

 

「えぇ......摩耶さんに似合わないって言われたことですか?」

 

明石は笑顔をひきつらせながら答えた。

 

「違うな。」

 

砲身を下げ明石達の足元へ()()を撃ち出す。

 

「ノォー!」

 

「ぐぅっ......!」

 

「金剛、分かるか?」

 

「うぅ......アイドントノー」

 

今度は砲身を少しあげ金剛の足に撃ち込む。

 

「ぐがっ......ノー......」

 

装甲に護られているため足が軽く焼け爛れる程度だが強烈な痛みに金剛は顔を歪ませる。

 

「じゃあ質問を変えよう。明石、あれは俺のキャラだと思うか?」

 

「い、いや......全く思わないですけど。でも頑張ろうとしてる方に水を差すのは......ねぇ?」

 

「違うだろ?面白そうだから囃し立ててやろうと思ったんだろ?」

 

「うぇ!?そ、そんなことは......ありませんよ?」

 

あくまでもしらを切ろうとする明石の腹部目掛け一斉射した。

 

「ぐっ......かはっ!?」

 

腹に強烈な一撃を受けた明石は喀血しながら苦しそうに呼吸をしている。

俺はそんなこと構わず話を続ける。

 

「俺は女に嘗められるのも嫌いだが騙されるのはもっと嫌いなんだよ!だから純粋な少女が好きなんだ。」

 

「そ、それは只のフィクションネー」

 

「あ"?何か言ったか。」

 

「ア,イエ......何でも無いデース......」

 

「とにかく、反発しようが敵対しようが構わねぇが俺を意図的に騙そうとする奴には容赦しねぇから覚えとけよ。」

 

「オ、オーケー。」

 

「っ......は......い。」

 

「じゃあ戻るぞ。」

 

二人を引き上げドックへ放り込んだ後俺は寝床へ戻り一人悩んでいた。

 

「響......どうすれば心を開いてくれるだろうか。」

 

まあ、少しずつアプローチしていくしかないか。

時が解決してくれるのではないかと淡い期待を抱きながら今日も眠りに就くのであった。

あ、そういや今日食糧調達してねぇや......明日いくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ちゃんは門長さんの事嫌いなのです?」

 

「......嫌いだ。」

 

彼奴は私から仲間や司令官を引き剥がした、赦せる筈がない。

 

「でも門長さんは響ちゃんの事が大好きみたいなのです。」

 

「それは......彼奴が小さい子が好きなだけだ。」

 

そう、偶々そこに居合わせた私が連れ去られただけで駆逐艦なら誰でも良かったんだ。

 

「それでもさっきの門長さんの台詞に私は入っていなかったのです。」

 

「それは......」

 

愛しているなんて言われたのは初めてだけど......だからって......

 

Я не могу верить ему(信じられない)

 

 

 




…………いやぁ、加虐的な表現って辛い……泣きそう。


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第九番

読みたい作品が次々と更新していく......読まねば。


 あ"~......今日は昨日行けなかった食糧の調達......を摩耶にやらせて俺は資材を確保しに行くか。

つーわけで俺は猿の鳴き声が聞こえるグラウンドへと足を運んだ。

 

「せいっ!うぉりゃあぁっ!!」

 

「おい摩耶。」

 

「んだよ、何か用か?」

 

なんでそんな汗だくになるまで近接戦闘の訓練をしてるのかさっぱり解らんが気にせず用件だけを伝えた。

 

「......アタシはてめぇの分は持ってこねぇっつったよな?」

 

「んなこたぁ分かってんだよ。俺が遠征に行ってくるからその間の響達の飯を用意しとけって言ってんだ。」

 

「お前が遠征?どう考えてもマイナスじゃねぇか!」

 

「るせぇ、俺には俺のやり方があんだよ。」

 

「へぇ......くれぐれも資材を枯渇させんなよ。」

 

「たりめーだタコ、つーわけだからちゃんとやっとけよ。」

 

「てめぇの分以外なら言われなくてもいつも準備してんだよ。」

 

へぇ、そいつは知らなかったな。てことは自分の取った分は全て自分で食ってたのか......やっぱ燃費わりぃんだな。

 

「ま、それなら良いや。じゃあな。」

 

用件を伝えた俺はそのままの足で工廠へと道具を取りに行った。

 

「おーい、明石。丈夫な縄何本かあるか?」

 

「ふぇ?私今日何もしてないですよ!?」

 

「ワタシはそもそも無罪ネー?」

 

「うるせぇ、今日縛り上げんのはテメーらじゃねぇよ。」

 

「へ?じゃあだれを縛り上げるんです?」

 

「ま、まさかついにヒビキにアーンな事やそーんな事をするつもりデスネー!」

 

「はっ倒すぞてめぇ。」

 

「ノーノー、イッツジョークネ!」

 

ったく......こいつは自重する気はねぇのか......

 

「まあいい、これだけありゃ充分だ。」

 

俺は数本の丈夫な縄を持って沖へと抜錨した。

 

 

 

「この間の駆逐艦たちでも拐いに行くんですか?」

 

「ちっげぇよ!」

 

全く......この妖精まで俺を犯罪者扱いしやがって......

 

「いや、立派な犯罪者ですよ?」

 

「ナチュラルに心を読むなっ!」

 

「まあまあ、それよりどうするんです?また輸送船団を横取りします?」

 

「それはお前が......まあいい。今日は深海棲艦のワ級から物資を奪う。」

 

「やっぱり奪うんじゃないですかぁ~」

 

駆逐艦(幼き少女)達から奪うより心が痛まないからいいんだよ」

 

「うわぁ、清々しい位エゴの塊ですねぇ!」

 

「放っとけ、砲身の操作は頼んだぞ。」

 

「はいは~い。」

 

あ、電探装備すんの忘れてた。

俺は明石に作らせた耳当て型の電探を装備する。

 

「よし......おぉ、頭の中に情報が流れ込んで来る感じだ......」

 

お、早速敵発見。ええっと艦種は............解らん。

 

「なあ、この電探で敵の艦種わかんねーの?」

 

「電探を何だと思ってるんです?無理です。」

 

「じゃあ水上機も装備しなきゃならねぇか。」

 

「摩耶さん連れていけば解決じゃないですか?」

 

「あいつ?来ねぇだろ。」

 

「それはどうですかねぇ?」

 

どうもなにもそもそも俺が奴を連れてこうとは思わねぇし奴も俺に付いてこようなんて思わねぇだろ。

 

「まあ......半分沈めれば良いか。」

 

おもむろに右手を構え妖精の準備を待つ。

 

「もう少し左に旋回を。」

 

「おう、ここか?」

 

「そこです、三......二......一......今です!」

 

妖精の合図に合わせて引き金を引くと同時に心地のいい怒号が鳴り響く。

 

「やっば撃ってるって感じがしていいなこいつは!」

 

「彼女達を撃ってるときもそんなこと考えてたんですか。」

 

「ん~......そういや何であんなにキレてたんだ?」

 

「うっわ、最低ですね。」

 

「うっせ!」

 

確かにすげぇ馬鹿にされたのはムカついたがあそこまでするつもりはなかった......はず?

 

「............ニヤリ」

 

「お、一人減ったか。次いくぞ!」

 

「今度は少し右に旋回を」

 

「おーう。」

 

「今です!」

 

ワ級いっかなー、見えねぇからわっかんねぇや。

妖精の言うままに撃ってるけど戦ってる実感がねぇ......

 

「よし、そろそろ近づくか。」

 

「装備が変わってもやることは変わらないんですねぇ。」

 

「資材の確保が目的だからな。最悪戦艦とかでも解体すれは資材になんじゃね?」

 

「まあ艦娘を解体するより鋼材は手に入ると思いますよ。」

 

「じゃあ全速前進だ。」

 

足に力を込め徐々に速度を上げ最大戦速30ノットのまま敵艦隊に接近していく。

 

「そろそろ見えてくるだろう。敵の艦種はなんだ?」

 

「へぇ、門長さんにしては運が良いですねぇ。」

 

「お、いるか?」

 

「はい、戦艦ル級flag ship二隻とワ級flag shipが一隻居ますよ~」

 

なるほど、よく解らんが資材が豊富だと云うことは分かった。

 

「よし、全員捕獲するぞ。」

 

捕獲っていっても別に生きてる必要はねぇよな。

俺は手始めに一番近くに居た戦艦に接近し奴の額に砲身を押し付け戦艦の頭を吹き飛ばす。

すると戦艦は首の断裂面から蒼い体液を撒き散らし海へ溶けていく。

 

「ちょっ、回収できねぇ!」

 

「当たり前じゃないですか、艦娘だろうと深海棲艦だろうと轟沈した船は回収不可能です。」

 

そうだったか......じゃあ生きたまま連れて帰らなければならないのか。

 

「キサマ、ワガキュウユウヲヨクモ!」

 

「あ、人型なら急所に良いの食らわせれば気絶すんじゃね?」

 

「金的ですね!」

 

「それは駄目だっ!つーかあいつら無いだろ!?」

 

「ナニゴチャゴチャイッテイルッ!!」

 

激昂した戦艦が俺に照準を定め一斉発射してきた。

 

「だからな、例えばここだよ。」

 

なんか所々痛い気がするが構わず戦艦の鳩尾に砲身をねじ込む。

 

「ガアッ!?ナニヲ......」

 

俺はそのまま引き金を引いた。

 

「カハァッ!?......ヒュー......ヒュー......」

 

戦艦の腹はでかい風穴を開けながら体液を垂らし海へ溶けていった。

 

「あ......威力たけぇな。」

 

「そりゃあ三十キロ先でも駆逐艦の装甲を貫通するような代物ですから。」

 

くそっ、じゃあ撃たなきゃいいんだな。

残ったワ級へと向かい少し加減しながら脳天から四十六センチ三連装砲を降り下ろす。

 

「ヒィィッ、ガァッ!?」

 

「よし、こいつ縛り上げて帰るか。」

 

「ワ級一隻でプラスになりますかね?」

 

「喫水線下が無駄にでかいし大丈夫だろ?」

 

そういや俺も治すのに鋼材を使うのか?

だとしたらまだ一回も修理してないな。

 

「まあ......大丈夫......だろ?」

 

俺は一抹の不安を覚えながら帰投するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「明石ー、居るか?」

 

海側から工廠へ入り明石を呼び出す。

 

「どうしまし............えぇ......どうしたんですかそれ?」

 

「あ、見て解らねぇか?遠征結果だ。」

 

「はぁ......これをどうするんです?」

 

動揺してるのか解らんが俺は当たり前の答えを当然のように答えた。

 

「明石、解体任せた。」

 

これで奴にも理解できただろう。

 

「いやいやっ!無理に決まってるじゃないですか何を言ってるんですかっ!?」

 

「艦娘だって解体すんだろ?そんな感じでやればいいじゃねぇか。」

 

「簡単にいってくれますね......」

 

「まあまあ、解体は私がやっておきますから明石さんは門長さんの修復資材の投入をお願いしますね~」

 

「へぇ!?あ、貴女は......」

 

「ああ、私は門長さん所で砲雷長やってます!」

 

「ほ、砲雷長!?解体出来るんですかっ!!」

 

「はい、手先は器用ですから!」

 

手先が器用っつーか万能だよなぁ......

 

「あ、因みに今回撃たれまくって小破はしてるので資材に気を付けてくださいねぇ」

 

「へぇ!?は、はぁ。分かりました、門長さんこちらへどうぞ。」

 

「おう、まさか俺がここに入ることになるとはな。」

 

衣服を脱ぎ捨てドックという風呂へゆっくりと浸かる。

 

「あ"あ"~」

 

「おっさんなんですねぇ。」

 

「うるせぇ、おっさんて歳じゃねえわ」

 

まだこちとら二十五だぞ?......おっさん......か?

まあいい、それよりもいつまでここに居ればいいんだ。

 

「なあ、後どれくらいで出れるんだ?」

 

「まだ十分もたってないですよ。」

 

「もう出たいんだが......」

 

普段十分も風呂に浸からねぇよ。

 

「今出てしまうと資材が無駄になってしまうので眠ってて大丈夫ですよ。」

 

大丈夫なのか?まあ確かに眠い......寝るか。

 

「んじゃ、終わったら起こしてくれ......」

 

「了解しましたぁ~」

 

心地よい温度の中徐々に意識が溶けていく。

明日は建造でもすっかなぁ......来るといいなぁ、響達のし......ま............Zzz....

 

「あぁ......ごゆっくり~......」

 

苦笑いを浮かべながら修復時間を眺める明石の呟きは門長には届かなかった。

 

51:32:45




あれ?おかしいな......電探も用意したのに戦闘距離が近いぞ?一体どうなっているんだ!
何とかせねば......


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第十番

最初期のように毎日投稿したいのに手が動いてくれない......


 俺が始めて入渠してから二日とちょっとが経過していた。

 

「門長さん、もう上がっても大丈夫ですよぉ。」

 

やっとか......二日間も風呂に入ってたらふやけちまうだろうが。

 

「なんでこんななげぇんだよ......」

 

「知りませんよぉ、ご自身の身体に聴いてみてください。」

 

「因みに今回お値段は燃料4000に鋼材8000となりましたっ!」

 

俺は妖精の強力な呪文に心が大破しそうになった。

 

「まじか............それで、今回の収穫はどうだった!?」

 

「収穫ですか?凄いですよぉ?」

 

よ、よかったこれで何とか......

 

「鋼材、燃料それぞれ2000。弾薬が1000。ボーキサイト100ですね!」

 

「遠征の収穫としては確かにすごいですが......」

 

完全にマイナスじゃねぇか......

俺は思わずその場にひざまづいた。

 

「ま、まあ今までの蓄積した損傷分もありますし......?」

 

「慰めなんかいらん......要は攻撃を受けずに敵を捕獲すればいいんだろ。」

 

「門長さんの場合耐久を1相当修理するのに鋼材80、燃料40を要するのでワ級flagshipを一隻捕獲するのに損傷を5%以下に抑えないとマイナスになるわよ?」

 

成る程な......要するに当たる前に当てろって事か。

 

「よし、明石。何でもいいから偵察機を作れ。」

 

「はあ、まあ作れますが門長さんはそんなに持てるんですか?」

 

「なにいってるんだ?まだ四十六センチ三連装砲一つと電探しか持ってねぇだろ?」

 

「いえ、今後の話ですよ。大和砲を四つ装備しようとされてるじゃないですか。」

 

「ああ、持てねぇのか?」

 

「そうですね、何故かスロットは五つありますがそれでも大和砲四つと電探で埋ってしまいます。」

 

そうか......まあそんときはそんときに考えりゃいい。

 

「そんなのは後回しだ、兎に角今必要だから直ぐに作れ。」

 

「はぁ......わかりました。」

 

よし、明石に偵察機は任せて俺は建造を始めるとするか。

資材を入れ建造ドックのスイッチレバーを下げようとした時、何者かに俺の手が止められる......ことはなくレバーを下げた。

 

「ちょっと!?少しは止まってくださいよぉ!」

 

「貴様、俺の野望を阻止しようというのか?」

 

「野望って......ただでさえ門長さんの修理と補給に恐ろしい位資材消費してるんですよ!?流石に開発が出来なくなってしまいます!」

 

「最低値で回してるだけだろうが......ったく、仕方無ぇから今回はこれで最後にしてやるよ。」

 

そういって二つ目の建造ドックのレバーを下げる。

 

「えぇ~......と言うか既にボーキが足りないので偵察機を開発出来ませんよ......」

 

あ..................そうかボーキサイト。

俺は前回輸送船団強襲時にボーキサイトを手に入れて無いことを思い出した。

 

「まて、じゃあなんで四十六センチ三連装砲の開発は出来たんだ?」

 

「それはここに元々ボーキサイトが結構余っていたので使わせてもらったんですが、それも大和砲の開発で殆んど......」

 

マジかよ......

 

「ヘーイ、ミスター門長?トラブルのようですネー!」

 

突如工廠の扉を開け放ってルー使い金剛が乱入してきた。

 

「なんだ急に、冷やかしなら帰ってくれ」

 

「ノーノー違いマース!ワタシがミスター門長をサポートするネー」

 

「サポート?一体どう......い......」

 

金剛の懐からチラリと覗かせるその姿に俺は言葉を失う。

 

「ワタシを連れていけばきっと役に立てるネー?」

 

「お前は要らん、そいつを貸せ」

 

「ノォー!?ストレート過ぎマース......でも残念ネー、ワタシの妖精さんが認めないデース」

 

「なに?」

 

「こんごうをわるくいうやつにゃぁこいつはわたせねぇな?」

 

「あ、やんのかこら。」

 

「門長さんストップです。」

 

妖精をつまみ上げようとした時、突然襟足を思い切り引っ張られた。

 

「いっつ......なにすんだ」

 

「門長さん、私達妖精に手を出すと貴方は妖精全員を敵に回す事になりますよ?」

 

「なんだそれ?上等じゃねぇか。」

 

「はぁ......知らないようなんで教えときますけど私達は艦娘達の建造、修理、艤装の操作、そして解体、種族単位で言えばそれら全てを行えるんです。」

 

「おう、それで?」

 

「そして自然の概念である私達に死も数の上限もない......まあぶっちゃけて言ってしまえば艦娘だろうと深海棲艦だろうと人間だろうと三日あればこの世界から消し去る事が出来る訳なんですよ。」

 

こ、こんなのは只の脅しに決まってる......が。

 

「な、ならなぜやらない。」

 

妖精は初めて出会ったときのようなおぞましい笑みを浮かべ答えた。

 

「もちろん私達が流れに身を任せるのが好きな種族だからですよ?だから基本的に私達の意思で手を出すことはありません......反撃は徹底的にしますけどね?」

 

くっ......流石に三日で消せると言うのは無いと思うが武器が使えなくなるのは困るな。

 

「わ、悪かった......じゃあ金剛」

 

「は、はいぃ!?」

 

蹲って頭を抱えていた金剛は勢いよく立ち上がり背筋をピンと伸ばし直立した。

 

「な、なんですカー?」

 

「......偵察は任せた。」

 

「おぉ......オーケー!!ワタシに任せればドントウォーリーネ!」

 

金剛は明らかに動揺しながらも受け答えた。

 

「あっは!そんなに動揺しなくても大丈夫ですよぉ?私達に直接的に手を出さなきゃいいんですから~」

 

回りの様子を見て妖精は愉しそうに話す。

全く......お前の方がよっぽど悪役が似合うぜ。

 

「じゃあ行きましょうかねぇ門長さん!金剛さん!」

 

「まあ......そうだな。」

 

「オーケー......レッツゴーネー......」

 

「あはは......いってらっしゃいませ~」

 

重苦しい空気の中俺はリベンジする為に沖へと出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「相変わらずこの移動時間は何とかならねぇのかよ......」

 

「ワタシとトークしてればあっという間ネー!」

 

「要らん、却下」

 

「おおぅ、即答デスカ......」

 

「ほらほら常に気を配っていないと被弾してしまいますよ~?」

 

流石に電探にも映ってないのに食らうわけ......なんて思った瞬間、俺の足元から大きな水柱が二度に渡り上がった。

 

「ヤッタゾ!」

 

「ヘンナセンカンヲシズメタゾ!」

 

「ミスター門長!?」

 

「だから言ったじゃないですかぁ。」

 

クソ潜水艦が......今のでてめぇら何体分の資材が飛んだと思ってんだ......

 

「ナンダアイツ!?」

 

「ゼンゼンキイテネェ!」

 

俺は急速潜航しようとする潜水艦の首を掴み上げる。

 

「ハナセ!」

 

「ソキュウサァーン!!」

 

「逃がさねぇよ」

 

ソ級に呼び掛けるヨ級目掛けて俺は主砲を撃ち込んだ。

 

「ヨキュウゥゥー!!チョッマテヤメロ!?ウワアァァァッ......」

 

続けて俺は再装填中の主砲でソ級の頭部を殴打し続ける。

返り血?を浴び白い制服の肩の辺りまで蒼く染まったところで所でソ級の身体は海へ還っていった。

 

「ちっ、くそがっ......」

 

「ちょっと、中にいたら危ないじゃないですか!」

 

「あ、忘れてた。」

 

つかいつの間に外に出てたんだ?

 

「アンビリーバブルネー......怖いもの知らずにも程がありマース」

 

「あ、いや......だってわざとじゃねぇし。」

 

「わざとじゃないなら仕方無いですね。」

 

「ホァッツ!?あれはオーケーですカ?」

 

「まあ、私達に対して悪意のない攻撃まで気にしてたら今頃戦争なんて無くなってますよ?」

 

「まあ......ずっと妖精と一緒に戦争してるわけだしな。」

 

それにしても潜水艦は忘れていたな、発見する手段がねぇ......今度はソナーと爆雷でも持っていくか。

 

「そうですか......ん?ミスター門長!南西方向にファイトしてる艦娘と深海棲艦がいるデース!」

 

「そうか。」

 

「ホワイ?行かないのですカ?」

 

「俺は既に犯罪者だからな。余計な接触は避けるのは普通だろ。」

 

「そうでしたカ......駆逐ガールズには荷がヘビィな相手ですが彼女達なら上手く撤退してくれるでショー」

 

ん......?こいつ今なんつった......

 

「艦娘は誰がいるんだ......?」

 

「ンー......球磨を旗艦に睦月型が五隻いるネー」

 

睦月型五人......だと!まさかあの時の彼女達では!

 

「それを先に言え!進路変更だ、救援に行くぞ!」

 

「オーケー!そう来なくっちゃ!」

 

俺達はいたいけな少女達を助けるべく全速力で南西へと急いだ。




妖精さんにストライキされたら要求を飲むしかなさそうだ......


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第十一番

先を考えすぎると何だか一話一話が薄まって行く気がする......やはり行き当たりばったりの方が私には合っているのかもしれない......


 「敵の艦種がわかったクマ......」

 

球磨が珍しく言葉を詰まらせている......恐らくそういうことなのだろう。

俺は嫌な予感を感じつつも球磨へ続きを促す。

 

「聴かせて欲しい」

 

「......旗艦がヲ級改flag ship、随伴艦がヲ級flag ship.軽巡ツ級elite、駆逐ハ級flag shipが三隻クマー」

 

「これは......撤退するべきよねぇ。」

 

「撤退するのも難しそうだけどね~」

 

さて......どうしたものか。

俺は球磨の方を見ると眉間を指で押さえてむむむと唸っていた。

 

「球磨?」

 

「むぅ......いや、何でもないクマ。全員面舵一杯!対空警戒を厳としこの海域から撤退するクマぁ!」

 

「「了解ッ!!」」

 

撤退を始めた所で卯月が突然叫び声をあげた。

 

「どうした卯月っ!」

 

「北東の方に艦影が二隻向かってくるぴょんっ!?」

 

この海域で二隻だと!?姫級か、それとも......

 

「次から次へと何なんだぴょんっ!!」

 

「如月ちゃん......」

 

「睦月ちゃん、生きるためにはやるしかないわよ!」

 

「敵の艦載機が来たクマー!」

 

俺達は向かってくる敵艦載機を迎撃するがあまりにも多すぎる物量を受け次第に損傷が蓄積されていく。

 

「っ!......まだ、やられるわけには!」

 

「夕月っ!?」

 

「夕月ちゃん!」

 

一発の爆撃が直撃し俺の制服が所々焼け落ちてしまった。

 

「大丈夫、まだ中破だ。」

 

「全然大丈夫じゃないぴょん!」

 

「夕月を中心に輪形陣を組むクマ!」

 

くっ......皆を護ると決めた俺が護られてしまうなんて。

 

「済まない......」

 

「あらぁ?おねぇちゃん達はそんなに信用出来ないかしら?」

 

「ちがうっ、そう言うことじゃない。」

 

「だったらおねぇちゃん達に任せると良いにゃしぃ!」

 

「うーちゃんももっと頼って欲しいぴょん!」

 

「まぁ、かわいい妹の為に頑張るよ~。」

 

睦月、如月、卯月、望月............そうだな、俺はまだまだ姉達には敵いそうにないな。

 

「ありがとう、姉さん」

 

「クマ~......姉妹愛を見せ付けるの構わないけど艦載機が撤退して行ってるクマー」

 

なに......撤退?そう言えば先程の二隻も居なくなっている。

 

「なにが起きているんだ......?」

 

「分からないクマ、でもちょうど良いから撤退するクマー!」

 

あの二隻は......まさか本当に?

俺は疑問が拭えないまま卯月に曳航され無事海域から撤退したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー......くそ!」

 

補給艦は居ねぇし空母はありったけの攻撃機を飛ばしてくれやがるし冗談じゃねぇ!

 

「クッ......コロセ......」

 

俺が右手に掴み上げてる空母が何か言ってやがる。

 

「てめぇらが資材になるならとっくに殺してる」

 

その方が損害も抑えられるしな。

 

「ナラバワレラヲドウスルツモリダ。」

 

「あ?資材にする以外にてめぇらを捕らえる理由なんてねぇよ。金剛、こいつから頭の奴ひっぺがせ。」

 

俺は空母を一人金剛に放り投げるともう片方の空母の帽子を引き剥がした。

 

「ホワッツ!?私がパージするのですカー?」

 

「フザケルナッ!」

 

金剛の方へ放り投げた空母は体勢を立て直し金剛へと殴りかかる。

しかし金剛はその手首を掴みそのままの勢いで地面へと叩きつける。

 

「私とならファイトになるとでもシンキングしてましたカー?」

 

金剛は手首を掴んだまま空母の背中を踏みつける。

 

「艦娘も接近戦出来るんだな。」

 

「イエース!といっても他のシップガールがインファイト出来るかはわからないけどネー」

 

まあそもそもここまで近付くことがねぇのか?

 

「オゥ......それにしても中々グロテスクなハットですネー」

 

金剛が空母の帽子を引き剥がし観察している。

まああんまり気味の良いもんではねぇな。

 

「一応目的のものは手に入りましたが派手にやられましたねぇ。」

 

「ああ全くだ、気付いたらパンツ一丁じゃねえか。」

 

「あれだけの魚雷を受けたら戦艦水鬼すら沈むと思うのデース。」

 

流石に魚雷三十本はやられ過ぎたな、身体が重く感じるぜ。

 

「修復資材が面白そうですねぇ?」

 

「全然面白くねぇ......どうすんだこれ。」

 

「一度ゴーホームした方が良いですヨー?」

 

「そうだな、最後にあっちにいる奴等の艦種を見てこい。」

 

「まだトライするんですネー......」

 

「補給艦の一つや二つもって帰んねぇと資材がやべぇだろ」

 

いくらボーキサイトの為とは言えこんなんじゃ他の資材が枯渇しちまう。

 

「オー!今回はル級flag shipとツ級flag shipとワ級flag shipがそれぞれ二隻ずつデース!」

 

「うっし!補給艦以外は沈めるぞ!」

 

四十六センチ三連装砲から鳴り響く轟音を合図に砲撃戦が再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方門長達が遠征(略奪)に出掛けた後。響達は工廠を訪ねていた。

 

「あら?お二人がここへ来るなんて珍しいですね、どうしました?」

 

「あの......明石さんに私達を鍛えて欲しいのです!」

 

「お願い......出来る......かな?」

 

響と電は明石に向かって深く頭を下げる。

 

「ん~......演習なら金剛さんの方が適任じゃないですか?」

 

明石は困ったように頭をかきながら答えるが響達は頭をあげようとはしなかった。

 

「金剛さんは暫くは門長さんと一緒に遠征をしていると思うのです。だからその間に私達も強くなりたいのです!」

 

「私は早く皆の所へ帰れるように強くなりたいんだ。」

 

「......そうね、気持ちは分かったわ!私も資材がないと開発出来ないし、私でよければ特訓に付き合うわ」

 

明石は二人の前に拳を突きだし親指を上に立てて答えた。

 

「......スパスィーバ」

 

「明石さんありがとうなのです」

 

響達に感謝された明石は照れ臭そうに頬を掻きながら、少しだけ門長の気持ちが分かったような気がして

 

「(まあ小さい子を可愛いと思うのは普通......ですよね?)」

 

などと自分に言い聞かせるのであった。




次は響回だ!!門長なんか知らん!カエレッ!!



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第十二番

最近自分書き方が解らなくなってきた......
ちょっと前作を振り返ってきます。


 「さて......先ずは()()()と演習をしてみましょうか!」

 

それだけ言うと明石さんは工廠の奥へと行ってしまった。

彼女達とは一体誰のことなんだろう?ここには今は私の他に明石さんと摩耶さんと電しかいないし摩耶さんとなら達とは言わないはず......

 

「電、誰と演習するのかな。」

 

「ん~、明石さんと摩耶さんじゃないのですか?」

 

電もああ言ってるしやっぱり明石さんと摩耶さんかな......

しかし明石さんが連れてきたのは艦娘というより私達より一回り大きい黒と紫を基調とした一つ目のロボットだった。

 

「はわわぁ......彼女達は何者なのです?」

 

彼女達!?あれを本当に艦娘だとでも言うのかい!?

 

「私は松型駆逐艦一番艦松だ。量産型だからと嘗めるなよ」

 

「同じく松型駆逐艦二番艦竹だよ!なあ松、装備外して良いか?」

 

竹が頭に手をやった瞬間、竹目掛けて松の単装砲が勢い良く降り下ろされた。

 

「んがっ!?」

 

「バカ野郎!死にたいのか!」

 

「えぇ~......」

 

「た、竹ちゃん!大丈夫?」

 

「............」

 

「何してる、装甲が衝撃を吸収しているから大丈夫だろう!」

 

「あ、ほんとだ!」

 

先程まで沈黙していた竹だったが松の一言でむくりと起き上がり始めた。

 

「明石さん、この人達はいつの間に連れてきたんだい?」

 

「この子達?この子達は門長さんが建造していった二隻よ」

 

「あれ?でもまだ門長さんが出掛けてから十分もたっていないのです」

 

「そうなの、気付かなかっただけで建造時間は三分程だったみたいなの」

 

「建造期間の短さも私達の自慢だからな」

 

建造期間が短いのは手が抜かれているのではと思いながら私は明石さんに不満を漏らす。

 

「明石さん、つまり彼女達の練度は1じゃないか。私は早く強くなりたいんだ!彼女等とのんびり訓練してる場合じゃない!」

 

「まあ、訓練というか響ちゃん達の実力を量るのに丁度良いんですよ。」

 

「だったら電や摩耶さんの方が!」

 

「響ちゃん、明石さんを困らせては駄目なのです」

 

う......電にたしなめられてしまった。

私だって力になってくれている明石さんを困らせたくはないさ。でも、あんな良く分からない建造したての駆逐艦?と戦ったって実力を量れるはずなんかない。

そんな私の気持ちに気付いたのか松と竹がどんどんこっちへ近付いてきた。

 

「私達を甘く見てると痛い目見るぜ?」

 

「なんたって島風型の後継ともいえる私達だからね!」

 

「彼奴の名を出すんじゃない!我々は奴とは違うのだ。」

 

本当にこいつらは何なんだろう......島風の後継には全く見えない。

もし本当に島風の後継なら油断は出来ないけど......

 

「......分かった、全力で行かせて貰うよ。」

 

「ふっ......そうこなくっちゃあ面白くない。」

 

「我々のジェットストリームアタックを見せてやる!」

 

「おい!先に相手に作戦を教える奴があるか!」

 

再び松は単装砲で竹を叩き伏せるが、松の台詞が無ければ何の事かさっぱりだったのは私だけかな......

 

「ふん、まあいい。知った所でどうせ対処はできん!行くぞ竹!」

 

「りょーかーい!じゃあ待ってるよ~!」

 

そのまま松と竹は工廠を出ていった。

 

「......あはは、じゃあ行こうか?」

 

「面白い人達なのですっ!」

 

「......そうだね」

 

正直変な奴等と言った方がしっくりくるけど......

なんて思いながら私も工廠を後にした。

 

 

 

 

「それじゃあ皆さん準備はいい?」

 

明石さんから演習のルールを再度確認すると私達は沖へと向かうと明石さんが通信機越しに呼び掛けてきた。

 

「大丈夫。」

 

「準備万端なのです!」

 

「こっちもいいぜ?」

 

「がってん!」

 

「良いですね!では戦闘開始っ!」

 

明石さんの合図と共に私と電は機関を最大戦速まであげる。

 

「一気に距離を詰めよう。」

 

「分かったのですっ」

 

あいつ等の装甲がどれくらいあるかは分からないけど少なくとも私達よりは高そうだ。

だったら砲撃戦よりも雷撃戦で即効をかけた方が良いはず。

 

「あれ?あっちの反応が一つしかないのです」

 

「一人?そんなバカな。」

 

もう一人は索敵外?でもそれだと味方との距離が離れすぎて作戦も何もあるはずがない。

 

「兎に角索敵に気を配りながら雷撃距離まで接近し......」

 

「響ちゃん危ないのですっ!」

 

「え......ってうわっ!?」

 

突然腕が引かれ私は尻餅をついてしまった。

直後私が居た場所には鉛の雨が無数に降り注いでいた。

 

「ここからは回避運動を取りながら近付くのです。」

 

「う......うん、分かった。」

 

「それにしても気のせいか一隻にしては弾の数が多い気がするのです。」

 

「気のせいじゃないかい?それにそうだとしてももう油断はしない」

 

これでも一次改装は済ませてあるんだ、練度1の駆逐艦になんか負けられない!

 

「行くよ電」

 

「了解なのです!」

 

回避運動を行いながら徐々に距離を詰めていき遂に互いの距離が四キロを切った。

 

「電!」

 

「響ちゃん!」

 

私達は左右に分かれ松を中心に交差させるように魚雷を放った。

魚雷に気付いた松は一直線にこっちへ向かってきた。

 

「気付かれた、だったら!」

 

迎撃するため私は連装砲を構えるが......

 

「特三型駆逐艦、噂ほどのものでもないな。なぁ?」

 

松が突然探照灯を構えるとこっちへ向けて照射してきた。

 

「くっ......昼間に探照灯だって!?」

 

「いまだ竹!」

 

なに!竹は近くに居ないはず......なのに

 

「りょーかい!行っくよー!」

 

そんな馬鹿な......なんで竹の声が!?

目が慣れて来た頃には既に魚雷が目の前まで迫って来ていた。

 

「響ちゃん戦闘不能!」

 

大きな水飛沫と共に明石さんから私は敗北を告げられた。

 

「どうだ、量産型も捨てたもんじゃないだ......ろ?」

 

「うあ......うぅ......ごめ....ん......いな....ずまぁ......」

 

何が負けられないだ。何が改装済だ。結局私はここに来てから何もしていないじゃないか。そんなことは分かっている......分かっていてもどうしようもなく悔しいんだ。

 

「ど、とうした!?大丈夫か?」

 

「あー、松が苛めたー!」

 

「おい!勝手なこと言うな!」

 

「わ....わたしは......づよぐ......なり....たい!もう......いなづま......に..守られる私じゃ......嫌だ!!」

 

「響ちゃん......」

 

「ええ、その為にこれから皆で頑張っていきましょうね!」

 

「これからも宜しくな響。」

 

「よろしく!」

 

そうだ......私はこれから強くなっていくんだ。

今日の悔しさを胸に秘めすっと手を前に出す。

 

「......次は負けない。」

 

「私達だって負けはしないぜ?」

 

松は差し出した手を固く握り返した。

私はその日、彼女達との間に何か友情の様なものを感じた気がした。

 

「あれ?でもこれって演習終わってなくない?」

 

あ......ど、どうしよう......私が演習を台無しにしてしまった。

明石さんは皆の実力を量るって言っていたのに私のせいで電はまだ何もしていない。

 

「あ......明石..さん....ご......ごめん......なさい......」

 

「へぇ!?大丈夫ですよ!明石さん的には問題無いですっていたたた!!」

 

「なあ明石ぃ、なんでお前の通信機から響の泣きじゃくる声が聴こえるんだぁ?」

 

「あ、ちょっ門長さん!?これはですね!色々事情がありまして......って何でパンツ一丁なんですか!?」

 

「あ?中破したからだろ。」

 

「あぁ......また資材が大変ですよ?」

 

「人助けしてたから仕方ねぇんだよ。それよりも何で響が泣いてるんだって聞いてるんだよ!」

 

「あはは......それはまあ色々と......」

 

どうしよう、私のせいで明石さんに迷惑が掛かってしまう!あの男を止めないと......

 

「あ、明石さんに手を出すな!へ、変態野郎が!」

 

「ひ、響ちゃん!?」

 

「............」

 

く、来るなら来い!全ては私の責任なんだ、皆に迷惑を掛けるわけには行かない!

私は連装砲と魚雷を準備し待ち構える。

 

「......入渠してくる。ボーキサイトは持ってきたからちゃんと作っとけよ......」

 

「え?あ......はい。」

 

......あれ?来ない。

 

「いやぁ......門長さんには悪いですが助かったわ。ありがとうね響ちゃん。」

 

「わ、私は何も......」

 

「響ちゃんの一言は門長さんには魚雷以上に効果抜群なのですっ!」

 

私の言葉が魚雷以上に効果がある?一体どういう事なんだろう......

 

「なあ、先程の声の男がここの提督なのか?」

 

「え~と、まあそんな所かしら?」

 

「じゃあ松、挨拶に行かないとね!」

 

「そうね......ただ今は入渠中だから一週間位経ったら挨拶しに行くといいわ。」

 

「入渠?一週間?奴は一週間も風呂に浸かっているのか?」

 

「まあそれは追々話すとして、今日はお疲れ様。明日にはメニューを考えておくからゆっくり休みなさい。」

 

「ふむ、分かった。では私達は先に休まして貰おう。行くぞ竹。」

 

「あいあーい」

 

工廠を出ようとする松と竹を明石さんが引き止めた。

 

「あなた達は私の部屋を使うといいわ。その代わり寝てる間にその艤装を調べさせてね?」

 

「ま、まてっ!これは私の体だ、外せるものではない」

 

「無駄よ松ちゃん!外せることは最初の竹ちゃんの台詞で確信してるわ!」

 

「ぐぬぬ......竹ぇ......」

 

「じゃあ私達はこれで失礼するのです」

 

「ダスビダーニャ」

 

「ま、まてぇ!待つんだぁ!」

 

「また明日ね~!」

 

私達は助けを求める松を置いて部屋へと戻っていった。

明石さんだし悪いようにはしないだろう......多分。

......それにしても私の言葉が魚雷以上の威力とはどういう意味なんだろう、やっぱり分からないや。

 

「(響ちゃんもまだまだお子様なのです♪)」

 

 

 

 




響が書きたい!つーか響メインの話を書こうかしら!
俺に複数の作品を同時進行出来る器用さがあれば......


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第十三番

か、書くペースがどんどんと落ちていく......ヴァイスシュバルツタノシ............


 一週間の長風呂が終わり体はリフレッシュしたが俺の心は入った時と何も変わらず消沈したままだった。

 

「変態......か、嫌われてるのは解っちゃいるが直球はやっぱ効くなぁ......」

 

「やっぱり似合わなくても周りと仲良くした方が良いんじゃないですか?」

 

「だからそんな自分を裏切るようなやり方はしたくねぇんだよ」

 

「我が儘ですねぇ......だったらいっそのこと力任せに襲ってしまえば良いじゃないですか?貴方にはそれくらい容易でしょう?」

 

確かに容易に出来るが......結局俺を心から好いてくれる可能性は無くなるし最悪自殺でもされようものなら俺は俺を死んでも怨み続けるだろう。

 

「却下だ。」

 

「腑抜けですねぇ......」

 

「うるせぇ、なんと言われようと俺は俺のまま響に好かれたいんだよ」

 

「はぁ、いつになることやら......」

 

「何十年経とうが構わねぇ、どうせ俺も人とは時間の進み方が違うんだろ?」

 

「まあそうですけど。響ちゃんに逃げられるとか考えないんですか?何十年もしたら響ちゃんも脱出出来るくらいには強くなりますよ?」

 

そこかぁ......それまでには少しでも響の心が俺に向いてくれるように頑張らねぇと。

 

「それに響ちゃんの鎮守府の方が助けに来るかも知れないですよ?」

 

「そんなのは追い払えば......」

 

「響ちゃんに更に嫌われるでしょうねぇ......」

 

「なっ......!」

 

どうすりゃいいんだ......ちくしょう......

 

「ま、響ちゃんと仲良くするためにいま出来ることをするしか無いんじゃないんですか?」

 

今出来ることか......兎に角響にアプローチし続けて俺の事を意識して貰うしかないか。

俺は再び響に想いを伝える為に執務室へ向かった。

 

「響っ!俺はお前が好きなん......だ?」

 

扉を開けながらストレートに想いを伝えるもそこには伝える相手が居らずモビルなスーツが二つ置いてあるだけだった。

 

「あんたが門長だな?私は松型駆逐艦一番艦松だ、

量産型だからと言って嘗めるなよ」

 

「私は同じく松型の二番艦竹だよ、門長さんよろしく!」

 

駆逐艦......こいつらが?いや待て、もしかしたら響達が着ているだけかもしれない。

 

「......取り敢えず脱いでくれないか?」

 

「はーい」

 

被り物を取ろうとする自称竹に自称松が単装砲を降り下ろす。

俺はその単装砲を左手で受け止めた。

 

「なっ!?」

 

「ふぇ?」

 

......なるほど、響達ではない事は分かった。

ならば多少強引にやるとするか。

俺は左腕で松を抱き上げ被り物に手をかける。

 

「やっ止めろ!私達の艤装は力任せに外せるものではない!」

 

「ふ~ん、どうすれば良いんだ竹?」

 

「えっとね~、後ろのカバーを開けて中のボタンを押せば取れるよ」

 

「バカ野郎!何教えてるんだ!!」

 

「カバー......これか。」

 

後頭部についているカバーを開けると中には赤いボタンが一つ付いていた。

 

「ボタン一つで外せるのか......そんなんで大丈夫なのか?」

 

「うるさい!良いから閉じろ、押すんじゃない!」

 

「押すなと云われたら押したくなるのが人情ってもんだよな」

 

まあなんと言おうとも押すけどな。

全力で抵抗する松の頭を押さえつけてボタンを押すと、中から深緑色のショートヘアーの幼い顔立ちの少女が顔を出した。

 

「み、みるなぁ......やめろぉ......」

 

か、かわいい......さっきまでの口調から少し生意気そうな奴を想像していたが完全に予想外だったぜ......涙ぐんでいるのがまたそそる......ってそうじゃない!

 

「何で見られたくないんだ?響程じゃないが充分に可愛いじゃないか。」

 

「う、うるさい!かかか可愛いとか言うな!」

 

「松はねぇ、自分の顔が好きじゃないんだってぇ」

 

竹が被り物を外しながら松の代わりに答えた。

そして俺はそんな竹の姿を見て固まった。

 

「お前ら......髪の色以外同じ......なのか?」

 

「そ、量産型だからね。だから松は私が装備を外すのも止めようとするんだよ~」

 

そう、そこには俯いて涙ぐむ松と瓜二つの顔でにこやかな笑みを浮かべる竹の姿があった。

髪の色が違うと言っても深緑か若草色かの違いだけでほぼ差なんて無いようなものであった。

 

「なるほどな......まあ、無理に取ったのは悪かった。だがな、お前は可愛いんだからもっと自分の顔に自信を持って良いと思うぞ?」

 

身体を捻り俺の腕から逃れた松は俯いたまま床に落ちた連装砲をひろいあげ......

 

「......明石といい、お前といい......私を何処まで辱しめれば気が済みやがるんだぁっ!!」

 

遂に暴走した松は俺に向けて連装砲を撃ちまくり始めた。

 

「ちょっまてって!悪かったってうお!?落ち着け松!」

 

「うるさい!貴様はここで沈める!絶対にだ!!」

 

何で俺はこんなに嫌われるんだ!?いや確かに俺が悪いのは解らなくもないがここまで撃たれる程では無いだろ!?

 

「竹!ちょっとお前の姉ちゃん何とかしろぉ!」

 

「はいは~い、松ストーップ!」

 

竹は暴れる松の後ろに立ち笑顔のまま右腕を首に絡ませる。

 

「何をする!放せたぐぇっ!?」

 

首に絡めた右腕を左手でしっかりとホールドし松の首を締め上げ気道を完全に塞いだ。

 

「か......はっ......」

 

暫くして松の身体から力が抜けたのを確認した竹は松を背負いこちらへガッツポーズを見せた。

 

「だ、大丈夫かそいつ......」

 

「ん?大丈夫大丈夫!門長さん、松が迷惑掛けてごめんね~?」

 

「あ、まあ大丈夫だ......あれは俺も悪かったしな。」

 

「と言うわけで普段はあんな格好だけどよろしく!」

 

そう言うと竹は俺に向けて左手でビシッと敬礼を行った。

わざとなのかは知らないが俺も敢えて左手で敬礼を返してやった。

 

「へへっ、じゃあまたね門長さん!」

 

それだけ言うと竹は執務室から楽しげに出ていった。

 

「ああ......なんだか心が少し救われた気がしたぜ」

 

「以外とチョロいんですね?」

 

「うるせぇ、お前に俺の気持ちが分かってたまるか!」

 

響には嫌われたままだし電は電で何だかよそよそしいし、遠征で出会った少女達には敵対されるし夕月にもあんな別れ方したからきっと嫌われただろうし......

 

「とにかく!そんな状況の中少女が親しげに接して来たら誰だって嬉しいに決まってんだろっ!!」

 

「はあ、どんな状況かは知りませんが泣きながら力説しない方が良いですよ?ドン引きですから、()()()()が。」

 

妖精がまあ私もですがと付け加えるがそんなことはどうでもいい!それよりも今とてつもなく恐ろしい事をいいおったぞこいつ!?

俺は直ぐ様扉の方を振り向く。

 

「響ちゃん待ってなのです~!」

 

静かな廊下に電の声と走り去る二つの足音だけが響いていた。

 

「ひ......ひびきぃぃぃ違うんだぁー!愛してるのはお前だけなんだぁー!!」

 

俺は響の誤解を解くために部屋を飛び出し全力で響を追いかける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「吹雪、作戦準備はどうなっている。」

 

「は、はい!あと少しで第二艦隊の練度が九十を越えます。ですが......」

 

「どうしたのだね?」

 

「あの......彼は中部海域にいるんですよね?でしたら放っておいてもいずれ......」

 

「それでは私の気が済まんのだよっ!」

 

宇和は拳を机に勢い良く叩きつけた。

 

「あの一件以降私の信用は地に落ちたっ!そのせいで私と繋がりのあったパイプは全て断ち切られた!」

 

「し、司令官......」

 

「私が何をしたと言うのだ!どう考えても奴のせいではないか!」

 

宇和は昂った気持ちを落ち着けるように深呼吸をすると椅子に座り込んだ。

 

「はぁっ......はぁっ......まあ、奴に対する復讐心が無いと言ったら嘘になるがそれだけでは無いのだ。」

 

「それは......いったい?」

 

「元帥は奴の事で何かを隠している。それを奴の口から吐かせれば元帥の弱みとなるはずだ。」

 

「阿部元帥が......?」

 

「そもそも元帥との繋がりのある奴だからこそ私は此処へ迎え入れたのだ。それならばこうなることも織り込み済みだったのではないだろうか、そう考えているのだ。」

 

「そ、そんな......じゃあ響さんが拐われたのも......」

 

宇和は吹雪に近付いて頭を撫でながら続ける。

 

「それも、元帥と奴の計画通りだったのかも知れんな」

 

宇和は吹雪の隣を横切り部屋を出ながら吹雪に一声かけた。

 

「この作戦の成功は響の救出にも繋がる。力を貸してくれるな?」

 

吹雪は振り返り宇和の背中へ向けて真っ直ぐに敬礼を送り答えた。

 

「了解ですっ!司令官!!」




門長のとこの資材管理が無理ゲー過ぎるorz


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第十四番

予想外の出費の連続で残りの生活が不味いことに......(汗)
TCGはやっぱり麻薬ですねw



 ちくしょう……あれから響が更に俺を避けるようになっちまった。

前まではすれ違う時に挨拶しても素通りされる位だったのに今じゃ俺の姿を捉える度にUターンするレベルだぞ!?

 

「本当に愛してるのは響だけなのにどうしてだ……」

 

「なにショボくれてんだ変態?」

 

「あ?……なんだ摩耶か……」

 

俺は上げた顔を再び下げて歩き出す。

 

「んだよ、人が折角声をかけてやってんのによ」

 

そんなことは俺の知った事ではない。

 

「俺は忙しいんだ、あっち行け。」

 

「忙しい奴がずっと執務室の前をうろついてる訳ねーだろ」

 

「だとしてもお前には関係ねぇよ。」

 

「ああもう!アタシはなぁっ、うじうじしてる奴を見てると苛ついてくるんだよ!」

 

「じゃあ見なきゃいいだろ。」

 

「アタシだってここが通り道じゃなきゃわざわざ来たりしねぇぜ」

 

通り道?ああ、食堂か。

 

「んで、響となんか有ったのか?」

 

摩耶から放たれるそのワードに俺は目を見開き首だけを摩耶の方へ向ける。

 

「なぜ知ってる」

 

「だってそこ響と電の部屋だろ?そこにお前がうろついていたら誰でも解るだろ。」

 

何かあった......確かにあったがそれ以前からも響は俺に一ミリも心を開いてくれない。

 

「なぜだ、なぜ響は俺を避ける?」

 

「アタシが知るわけねぇだろ?そんなのは本人に聞きな。」

 

本人に……か。

 

「心どころか目の前の扉すら開いてくれないのに本人にどうやって聞けるっていうんだ」

 

「はぁ......ったく仕方ねぇなぁ……アタシが調整してやっからいっぺん話し合って見ろよ、何か変わるかも知れねぇだろ?」

 

そういって摩耶は扉の前に立った。

 

「響、ちょっと話してぇ事がある。」

 

「……なんだい摩耶さん」

 

「わりぃ、大事な事だから中で話さねぇか?」

 

「済まないが今は開けることは出来ない、後でにしてほしい」

 

「......ああ、こいつを追い払えばいいんだな?」

 

「…………」

 

「と言うわけだ、てめぇは一旦どっかにいってろよ」

 

くそ……こいつに指図されるのは苛つくな……しかし、このままじゃ埒が開かないのは確かだ。しかたねぇ、今はこいつに任せるしかないか……

俺は固く握り締めた拳を押さえゆっくりと執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、つい口を挟んじまったがどうすっかぁ……取り敢えず頼んでみっか。

 

「変態野郎はどっか行ったぜ。」

 

暫く待っていると鍵の開く音が聞こえたからアタシは扉を開け執務室へと入った。

 

「お、なんだお前らも居たのか?」

 

執務室の中には響、電、松、竹の四人が所々に座ってた。

 

「響に大事な話があるそうだな、私達は出ていった方が良いか?」

 

「いや、構わねぇ。つーか協力してくれ。」

 

「協力?私達に出来ることなら良いけど?」

 

「ああ、響と門長に話し合いの場を設けようと思ってな。」

 

その瞬間、二人の視線に敵意が込められたのを感じた。

 

「あの男に仲間を売れと云うのか?」

 

「嫌だっ!!」

 

「ちょっと待てって!アタシは一言もそんなこと言ってねーだろ!?」

 

「ならばどう言うことだ。」

 

「別にサシで話してこいっつってる訳じゃねぇんだ……ただな?このままシカトこいててもあいつは付き纏い続けるだろうし、だったら一度ビシッとあの変態に何処が嫌いなのかをはっきり言ってやれば良いんじゃねぇかと思った訳だ。」

 

「なるほど……あの男の心をへし折る訳だな?」

 

「え~それは可哀想じゃないかな~?」

 

「それでも、想いは言葉にしなければ伝わらないこともあるのです」

 

「まあ、これは響次第だが……どうする?」

 

アタシは響の目を真っ直ぐに見つめる。

響は少し目を逸らしながら答えた。

 

「そ、それであいつが付き纏わなくなるなら……」

 

「わりぃな、そればっかりは保証できねぇ」

 

「そう……か」

 

明らかに肩を落とす響に続けて答えた。

 

「だがな、言わなきゃ恐らくずっとこのままだぜ?まあそのままで良いならアタシからはこれ以上言うことはねぇから好きにしな。」

 

「響ちゃん……」

 

「電……私は……」

 

響は電の方をじっと見続けていたがやがて意を決してアタシの方へ向き直りその決意を口にした。

 

「摩耶さん……私、伝えるよ。」

 

「おう!じゃあ全員呼んでくるからここで待ってろ!」

 

「全員呼ぶのか?」

 

「おおごとだねぇ~」

 

「一応だ一応」

 

松と竹の問いかけにアタシは執務室の扉に手をかけながら答えた。

 

「一応?ああ、あの男が実力行使に出たときの為か」

 

「まぁ、そんなとこだ」

 

魚雷を撃たれても響を贔屓するような奴が響達に手を出すとは考えにくいけどな……ま、備えあればってやつだ。

アタシは部屋を出ると金剛と明石を執務室へ呼び出してから門長を捜し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室を離れた俺は建物の裏側にある砂浜で体育座りをしたまま青い空と青い海を見つめ黄昏ていた。

 

「はぁ……響に何て言われるんだろうか……」

 

妖精がこの島に生息している猫をじゃらしながら答えた。

 

「二度とその面見せるなぁっ!!とかじゃないですか?」

 

「ぐふっ……やっぱりそんぐらい嫌われてるよな……」

 

「いや、流石に冗談ですよ?……って聞こえて無いですね」

 

おちつけ俺!嫌われているのは分かっていただろう。その上で少しずつ溝を埋めていこうと頑張ってるんだろ。

 

「いやしかし……そもそも俺の存在自体を否定されてしまったら俺は……」

 

「……ホントに響ちゃんの事になると女々しいですね貴方は」

 

「……否定は出来ねぇな」

 

「俺についてこいっ!って位の気概を見せりゃあ良いんですよ。」

 

「……男前だな」

 

「女の子にいう言葉じゃないですよ……」

 

妖精は猫の前足を手に取りながらジト目でこっちを睨み付けているが俺は気にせず話し掛ける。

 

「なあ、もし響が俺の事を二度と会いたくない位に憎んでいるなら元の鎮守府に帰してやろうと思ってるんだが......可能か?」

 

「そりゃここまで来れたなら戻るのは可能でしょうが......そんな簡単に諦められるんですか?」

 

「......簡単じゃねぇ。正直一ミリでも響が受け入れてくれるならこれ以上下らないプライドに拘るつもりはない。」

 

俺は響を幸せにしたい......ただ俺といる限りそれが叶わないならば俺は......

 

「なるほど、それも良いでしょう。ですが補給する当てが無い以上此処には恐らく戻って来れませんが良いんですか?」

 

「そうか......電や松と竹達は置いてく事になるのか。」

 

「そうですね、今の彼女達の練度ではここで暮らすのは厳しいでしょう。」

 

「それは......大丈夫だ、なんとかなるだろう。」

 

確か南方に前線基地が夕月達居るところだったな。そこに頼めばきっと受け入れてくれるはずだ。

 

「お、いたいた。ったくもうちょっと分かりやすい所にいろよな?」

 

後ろから不意に聞こえた声の方へ身体を捻るとそこには額から汗を垂らしながら俺を呼びに来た摩耶の姿があった。

 

「なんだ?やっぱり駄目だったか?」

 

それならそれで答えを先伸ばしに出来る......いやそれも無意味かも知れないが。

 

「はぁ?なに言ってんだよ、準備出来たから呼びに来たんだろうが」

 

「......そうか、じゃあ行くとするか」

 

俺は彼女の答えを聴くため摩耶と共に執務室へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 執務室に今までに感じたことの無い張り詰めた空気を感じる......

 

「............」

 

「............」

 

壁に掛かっている時計の時を刻む音だけが世界を包み込む。

しばしの静寂の後、俺は遂に響に訊ねた。

 

「響、お前の素直な気持ちを聴かせて欲しい」

 

「......」

 

「俺の事をどう思っている?」

 

「私は......お前が嫌いだ」

 

嫌いだ......そのたった一言が俺の俺の心に深く突き刺さる。

 

「そう......か」

 

「ああそうさ、お前は駆逐艦なら誰でも良かったのだろうけど......そのせいで私は姉妹や仲間から引き離された!」

 

「ちがっ、誰でも良い訳じゃない!俺は響を好きになったん......」

 

「うるさいっ!!......お前の言葉なんて信じないよ」

 

くっ......まあそうだよな。あんなことしておいていつかは分かってくれるなんて夢見すぎも良いとこだよな......

 

「......すまん、響」

 

「本当にそう思っているなら、二度と私の前に姿を現さないでくれっ!!」

 

それだけ言うと響は執務室からゆっくりと立ち去っていった。

 

「響ちゃん!」

 

「響!」

 

電と松も響を追い掛ける為執務室を出ていった。

 

「......あっ......済まねぇ......まさかそんな事情があるなんてアタシ......」

 

「いや......お前は響が想いを伝えてくれる場所を用意してくれた......感謝すれど責めるつもりはねぇ」

 

「門長......」

 

「ま、まあ流石に二度と顔を見せるなってのは言い過ぎちゃっただけだと思いますよ?」

 

「慰めは不要だ明石。それに今のは間違いなく響の本心だ、それはお前でも解るだろう」

 

「う、それは......」

 

ああ......全身がバラバラになりそうな位辛ぇ......がこれも響の為だ、甘んじて受け入れよう。

 

「お前らに話がある」

 

「ミスター門長?藪からスティックにどうしまシタ?」

 

俺が話を切り出そうとした時、突然電から通信が入ってきた。

 

「皆さん大変なのですっ!響ちゃんの鎮守府の艦隊が!?」

 

全く、狙い済ましたかのようなタイミングだな......だが、響にとっては良かったか......

しかし、次に聞こえてきた声は俺の予想を裏切るものであった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()!!」




やはり最近4000字を越えないですねぇ......2話分位纏めて上げようか思案中です。


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第十五番

暫く読み手に回りたいと思う今日この頃......読みたい作品が溜まっていくぅ~......
一段落したら少しだけ読み手に移るかもです(未定)


 言ってやった......あれだけ言えばあいつが付き纏うことも無いだろう。

はっきりと言い切った私は不思議な達成感を胸に抱きながら海岸沿いを歩いていた。

 

「良い啖呵だったぜ」

 

「でも、門長さん凄く落ち込んでいたのです......」

 

「別にあの男が落ち込もうが私には関係無いさ。それより私達は強くなって早くここを脱出するんだ!」

 

そして六駆のみんなとまた一緒に遠征したり遊んだりするんだ。

 

「そしたら電と松達にもみんなを紹介するよっ!」

 

「響の仲間か、楽しみだな」

 

「......楽しみ、なのです」

 

そういった電の顔は少し寂しそうだった。

ここを離れたくないのかな......

 

「あれは?......偵察機かっ!」

 

松の向いてる方を見ると彩雲の中隊が此方へ向かってきていた。

まさか、この近くに艦娘が!?

私は彩雲へ手を振ると私へと通信が入ってきた。

 

「こちら舞鶴第八鎮守府所属、響だよ」

 

「響、やっぱり響なのね。舞鶴第八鎮守府所属、加賀よ」

 

「加賀さんっ!」

 

「無事でなによりだわ」

 

「響ぃ!!無事なのね!?」

 

「その声は!姉さん!?」

 

「そうよ、迎えに来たわ響!」

 

こんなに早く会えるなんて......諦めないで良かった......!

 

「連合艦隊旗艦の長門だ。響、我々はそこから北に二十キロ先にいる。」

 

「解った!松と電を連れて向かうよ」

 

そういって私は電達の手を取って行こうとした......けど

 

「駄目だ!」

 

「え......長門さん、何が駄目なんだい?」

 

「奴に手を貸す艦娘は今ここで沈めていく、これは提督の命令だ!」

 

「奴?一体何を言っているんだあんたは」

 

「黙れ!悪の手先風情が私に話し掛けるなっ!!」

 

「長門さん......一体何を言っているんだい!?」

 

「良いか響、我々の目的は門長和大一味の撃沈及び門長自身の拿捕又は撃沈。だからお前以外を生かすわけには行かない。」

 

「違うっ!松と電はあの男の仲間じゃない!私の仲間だっ!」

 

「響......そういう問題ではないわ、解って頂戴」

 

「なんでだい加賀さん......二人は仲間だ、見捨てるなんて出来ない......」

 

みんないつも厳しくても優しいのに......なんで分かってくれないんだ。

 

「姉さん!姉さんなら分かってくれるだろう!?」

 

「響............司令官の命令は絶対なのよ......大人しく此方に来て」

 

そん......な......姉さんまでそんなことを言うなんて......

 

「......嫌だ」

 

「響......お願いよ......」

 

「意思は変わらんか......」

 

「......例え命令でも私は仲間を見捨てたりはしたくない」

 

「響ちゃん......」

 

「そう......」

 

次の瞬間私の目の前に二五〇キロ爆弾が投下された。

着水した爆弾は大きな水飛沫を上げて私の足元を揺すった。

 

「ぐ......あっ......!」

 

「響っ!!」

 

「響ちゃん!?」

 

「これが最終通達よ。そっちにつけば貴女も撃沈対象になるわよ、解ってるの?」

 

「響、私達は大丈夫だ。お前はあっちに戻りな」

 

「じゃないと響ちゃんまで沈められてしまうのです」

 

松......電......確かにまた姉さん達の元に帰るのが私の目標だ......

 

「でも......電達も......姉さん達も......仲間なんだ」

 

私には選べない......選べないよ。

 

「そいつらの仲間ならばお前は我々の敵だ!」

 

「残念ね......第二中隊、第三中隊。目標は駆逐艦()()

 

加賀さんは遂に艦載機を発艦させ私達を攻撃目標に定めた。

 

「来るぞ!対空迎撃っ!!」

 

松と電は直ぐ様砲門を構えるが私は未だに加賀さん達が攻撃してくるなんて信じられずに茫然としていた。

 

「ひいぃぃびいぃぃきぃぃぃいい!!」

 

すると後ろから恐ろしい叫び声とともに幾つもの砲弾か飛び立っていき私達の前方で無数に炸裂すると加賀さんの発艦した流星改と彗星一二甲を一瞬にして消し去った。

 

「まさか、私の艦載機達が一瞬で!?」

 

「選べねぇか響、見限れねぇか?」

 

振り向くと男がが両手に馬鹿でかい砲門を一つずつ構えて堂々と立っていた。

 

「な、なんでここに?」

 

門長は私の問いかけには答えずに話続けている。

 

「ならば俺が別の選択肢をやろう......あいつらと撤退するか、松達と後ろに下がるかだ。どっちを選んでも松達は無事だしあいつらも抵抗する奴以外は生かして帰してやる!」

 

何を言っているんだこの男は......そんなこと出来るわけない............

 

「嘘だ......お前の事は信じないっていっているだろ!」

 

「別に信じる必要はない、お前が選ぶのはこの戦いが終わった後にどっちと居たいかだ」

 

「どっち......と......」

 

長門さんも加賀さんや姉さん達もいつも優しくて一緒にいると安心出来る存在だった......

松や電達は一人だった私を支え護ってくれた仲良くしてくれた。出会って一ヶ月程しか経っていないのにその身を犠牲にしてまでも私を救おうとしてくれた......

私は......私は......

 

「ごめん、ねぇさん......私は松や電達と此方で暮らす」

 

「響............(ごめんなさい)

 

姉さん?今......

 

「全員斉射!ってぇーっ!」

 

長門の掛け声を合図に連合艦隊が一斉攻撃を始めた。

 

「んじゃお前らはしっかり下がってるんだぞ!金剛手伝え!」

 

「オーウ!中々ハードなミッションネー」

 

「お前は巡洋艦を大破させとけ、俺が戦艦をやる」

 

「駆逐艦ハー......オーケー」

 

金剛さんと門長が目標を話している間に私達は明石さんに連れられて島の反対側へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、響達は避難したか......じゃあひと暴れすっか!

 

「長門......同じながもんとして俺はお前の発言が絶対に赦せねぇ......お前だけは沈めさせて貰うぜ」

 

同じ仲間である筈の響を敵と言い切り、そして切り捨てたお前だけは絶対に沈めなきゃならねぇ......

 

「オー......私が大破させられた時以上にアングリーですネー......やはり彼女の影響でショーか」

 

「なにぶつくさ言ってやがる。さっさと巡洋艦を大破させろよ!」

 

俺は金剛に渇を飛ばしながら徹甲弾で戦艦扶桑と山城を撃ち抜いた。

 

「大分速力が落ちましたねぇ......腹に風穴でも空いたんじゃないですかぁ?」

 

妖精が中から愉しそうに話し掛けてくる。

 

「いやぁ、愉しすぎて最高にハイですよぉ!」

 

そう言いながら砲門と砲門をせわしなく行ったり来たりしている。

 

「他の妖精を呼べば良かったんじゃねぇか?」

 

「いえいえ!その辺の素人を応急的に入れるなら私一人の方が確実ですよ」

 

「そうか......それならいいが。」

 

「あっちにも戦艦が居ますよ!金剛型ですね」

 

「オォ......複雑な心境デース」

 

「じゃあひと思いに沈めてやるか」

 

「容赦無いネー......沈めないんじゃなかったんですカー」

 

「わぁってるよ、大破させるだけだ」

 

そう言って俺は戦艦どもに両手の主砲を構え一斉射していく。

流石に距離が近いだけあって互いに結構命中してんなぁ......俺は小破にはまだまだ程遠いけどな!

 

「よし!俺は艦載機を落としながら長門(あの馬鹿)に突っ込む!」

 

「ホワッツ!?別にこの距離でもノープロブレムデース!」

 

「それじゃ駄目だ、俺は奴をぶん殴らなきゃ気が済まねぇんだ」

 

「あ~、また資材がぶっ飛んで行きますねぇ」

 

「う......それはまあ......何とかする......」

 

「ふぅ......オーケー、私は艦載機の撃墜をサポートするネー」

 

俺を止められない事を悟った金剛は諦めたように溜め息を吐きながら飛んでくる艦載機を三式弾と機銃を駆使して撃墜していく。

 

「おう、行ってくるぜ」

 

艦載機の一部を金剛に任せ、俺は長門をぶん殴る為に機関の出力を最大まで上げた。

正面から飛んでくる砲弾を直撃を最低限避けながら一直線に突き進み奴を視界に捉えられる位まで距離を詰めた。

 

「よぉ、てめぇが長門か」

 

「ふっ、あの時は不意打ちを受け逃走を許してしまったがもう私に油断は無い!」

 

こいつ......なんの話をしているんだ。

 

「何の事か知らんが先ずはてめぇをぶん殴る、話はそれからだ」

 

「きっさまっ......赦せん!今この場で沈めてくれるっ!!」

 

長門が主砲を全門此方へ向けた所で俺は右手の主砲を長門へ見舞う。

 

「ぐぅっ......まだこれしきでは私は沈まん!」

 

「当たり前だ、これで沈まれちゃ俺がここまで近付いた意味がねぇ」

 

長門が怯んだ隙に一気に接近し首輪のようなものを掴み上げ、そのまま海面に叩きつける。

 

「がはっ!?な......にを......!」

 

「なんで響を見捨てるような事を言った」

 

「な......に?我々に背いたのは奴だ......ならば敵として沈める......

当然であろう」

 

「あいつが言ったのか?お前らが敵だと」

 

「ああ、奴が貴様らの事を仲間だと言った......ならば貴様らの敵である我々は奴の敵だ......何も間違ってはいまい」

 

こいつ......自分の意見に一切の疑いももっていやがらねぇ......

 

「響は自分を切り捨てたてめぇみたいな奴でも今も仲間だと信じてる......だからここでてめぇを沈めれば俺は更にあいつに嫌われるだろう」

 

「嫌われたくない、だからここで私を見逃すとでも言うつもりか?ふん、詰めが甘いな貴様は......さらばだ門長和大っ!」

 

長門の全砲門が俺に向かって火を吹いた。

 

「そんな甘い考えでは私にはがふっ!?」

 

爆炎が視界を覆う中俺は掴んだ首輪を頼りに力任せに拳を降り下ろした。

 

「ああ嫌われたくねぇよ。だがな、それ以上にてめぇを二度と響には会わせたくねぇんだよっ!!」

 

煙で何も見えないが俺は構わず殴り続けた。骨が軋む音が耳に残り、骨を砕いた衝撃が拳から伝わり脳を刺激する。

俺はいつからかがむしゃらに顔だった物を殴り続けていた。

 

「ミスター門長!!」

 

夢中で殴り続けていた俺は金剛に羽交い締めにされた辺りで漸く思考を取り戻した。

 

「金剛か......どうした?」

 

「それはこっちのセリフデース!いくら呼び来てもリアクションが無いから来てみれば様子がファニーじゃないですカ!?」

 

「他の奴等はどうなった。」

 

「彼女以外は誰も沈んでないデース......加賀達がミスター達のバトルを見ていたようネ、速やかに撤退していったヨー」

 

「そうか......冷静な奴が居て良かった」

 

「ミスター門長、一つ良いですか?」

 

「ああ?んだよ」

 

「今回の行動は全てユーの意思ですか?」

 

「......それ以外に何がある、記憶が飛んでたりなんかしてねぇぞ」

 

あいつが赦せなかったのは俺も同じだ............()()

 

「オーケー......それならノープロブレムデース」

 

金剛が何を言いたいのかさっぱり分からん。

しかし、喉の支えが取れないようなこの感じは一体......

 

 

 




俺のハートがブレイクしそうや......


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第十六番

私の資材(現金)も底をつきそうな今日この頃......毎月の追加資材が待ち遠しい。


 「あ、門長さんお疲れさま......って一体どうしたんですかその格好っ!?」

 

「あ?何がだよ」

 

「気付いてないんですか!?」

 

俺は明石が持ってきた手鏡の中の自分の姿を確認すると上半身が赤いっつーか赤黒くなっていた。

 

「ああ......ただの返り血だ、問題ねぇよ」

 

「いや問題ですよっ!早く風呂で洗い流して来てくださいよ」

 

「報告してからでも良いだろ」

 

「響ちゃんをそんなに怯えさせたいんですか?」

 

はっ!そうか、このままでは響にトラウマを植え付けてしまうやもしれん!

 

「ちょっと風呂行ってくる!話があるから全員を執務室に集めといてくれ!!」

 

「はいはい、呼んでおきますから行ってきちゃってください」

 

俺は明石に召集を任せると急いで風呂に行き返り血を洗い流す。

そして風呂から出た俺はそのままの足で執務室へと向かった。

 

「全員揃ってるか?」

 

「はい、全員居ますよ」

 

「なんでてめぇは上半身裸なんだ......」

 

「んなの服が汚れたからだ。っとそんなことより話がある」

 

摩耶の突っ込みを軽くあしらって話を続ける。

 

「今日の事なのです?」

 

「ああそれも伝えて置かなきゃな。まずこっちの被害だが響、俺、金剛が小破、他は損傷無し又は軽微って所か......んで相手の損害だが」

 

響が真剣な顔つきで俺に意識を向けている。

この話じゃ無ければ素直に喜びたい所なんだがな......

 

「加賀、赤城、霧島、飛鷹中破。扶桑、山城、足柄、五十鈴、大破。暁、朧、龍驤、損傷無し。」

 

「......長門さんは!?」

 

響の問いかけに俺は嘘偽りなく返した。

 

「長門は......俺が沈めた」

 

「な!?......な......んで......」

 

「奴を見逃せばいつかお前が奴に沈められてしまう」

 

「そんなことは無い!長門さんだっていつか解ってくれた筈だ!」

 

「それはあり得ない、奴はお前を敵だとさも当然のように言い切った!お前の仲間だと言う言葉にも耳を貸さずにな」

 

「嘘だっ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!」

 

響は俺の言葉を信じようとはせず耳を塞いでその場に踞ってしまった。

 

「響ちゃん......」

 

不意に電が響に近づきそっと抱き締め囁いた。

 

「ねえ響ちゃん、長門さんが沈んでしまったのはなんでかわかる?」

 

「......それはあいつが長門さんを沈めたから......」

 

「ううん、違うのです。それは彼処にいた皆が強くなかったからなのです」

 

「強くなかっ......た?だって主力艦隊だよ!?皆強いに......」

 

響の言葉を遮るように電は話を続ける。

 

「強さと言っても戦闘力だけでは駄目なのです」

 

「どういう......こと......だい?」

 

「全ての他人を信じる強さ、それが長門さんにも門長さんにも......そして響ちゃんにも足りなかった、だから悲しい結末になってしまったのです」

 

「私は!私は長門さん達を信じてる!電達だって!」

 

「でも響ちゃんは門長さんを信じていないのです」

 

「そんなの当然じゃないかっ!どうやってあいつを信じろって言うんだ!」

 

「でも信じてれば長門さんは沈まずに済んだかも知れないのです」

 

「訳が解らないよっ!何を言っているんだ電......」

 

「もし、響ちゃんが門長さんの強さを信じて長門さんを沈めないで欲しいと頼んでいたら....そしたら長門さんを沈める事も無かったかも知れないのです」

 

「あいつがそんなこと......」

 

「するなんて信じてないから頼もうともしなかった」

 

「............」

 

「でも門長さん、長門さん以外誰一人沈めて無いのです」

 

「そんなの偶々だ......」

 

「たとえ偶々でも気遣わなければ門長さんの運じゃほぼ確実に出来ないのです」

 

今何気にディスられた気がする......電だから許しちゃうけど。

 

「私達は他人をもっと信じられる様になれば世界はいつか平和になるのです!」

 

「電......」

 

「為になる言葉をありがとうな電。まあだからと言って体も心も直ぐになれるものじゃねぇよな。」

 

「それは......そうなのです」

 

「ちょっ!?別に否定してる訳じゃねえぞ?ただ俺が出来ないことを無理強いはしたくねえから選択肢を用意してるってだけだ」

 

「選択肢だと?」

 

「ああそうだ松。これは響だけじゃなくお前ら全員の話だ」

 

「ミスター門長......」

 

「ここから北西に暫く行ったところに南方前線基地がある。そこの提督はどんな奴かは知らないが所属艦の話を聞く限りお前らならきっと受け入れてくれる筈だ。」

 

「なるほど、選択とは此処に留まるか南方に保護して貰うかと言うことか......」

 

「ああ、好きな方を選んでくれて構わない......っと言っても決まってるようなものか」

 

「ああ、考えるまでもないな。私と竹は此処に残るぞ」

 

「松......!そんなに俺の事を......」

 

「変な勘違いをするなっ!私達が既に海軍の敵である可能性があるから此処の方が安全だと判断しただけだ!」

 

「松も素直じゃないなぁ?あ、私は松も居るし此処の方が楽しそうだからねっ!」

 

「私は響ちゃんに付いていくのです!」

 

「電......私は......私は......」

 

「響ちゃん......」

 

「......此処に残るよ......いつか強くなって鎮守府の皆と仲直りするんだ」

 

「響ちゃんっ!その意気なのですっ!」

 

電は響に勢いよく抱きついてはしゃいでいた。

そんな微笑ましい光景を眺めながら俺は内心胸を撫で下ろしていた。

 

「良かったですね門長さん」

 

「ああ?なんだよいきなり」

 

「響ちゃんが居なくならなくて安心してるんでしょう?」

 

「......るせ、てめぇらはどうすんだよ」

 

「へ?私ですか?そうですねぇ......私はあっちにいきましょうかねぇ?」

 

「明石さん!?」

 

「行っちゃうのですか!?」

 

「おう、じゃあな」

 

「相変わらず容赦ないですねぇ......門長さんも少し位止めてくれてもいいんですよ?」

 

「あ?俺が言い出したのに俺が止めてたら何がなんだかわかんねぇだろうが」

 

「まあ......そうですよねぇ......取り敢えずは頼まれたものが完成するまではこちらに居ますよ」

 

「そうか、金剛は?」

 

「私はミスター門長についてくネー!!」

 

「おう、てめぇはどうすんだ?」

 

「あ、あたしも残るぜ。チビどもに飯作ってやらなきゃならねぇしな!」

 

なんと、まさか全員残るとは思っても見なかった。

最悪一人で生きていくことも覚悟していたからなんだか気が抜けたぜ。

 

「本当にいいんだな............よしじゃあ話は以上だ。響達はドックに行ってこい」

 

話は終わり各々は自身の部屋に戻っていった。

 

「なぁ変態、本当に海軍を敵に廻してるならいずれまた来るんじゃねぇか?」

 

ふむ、確かにこいつの言うことは尤もだ。

今回は一方向からだけだったが囲まれる可能性だってあるし今回も金剛が居なきゃ相手を沈めずに撃退するのも厳しかったからな。

俺一人でも響達を護りきる自信はあるが相手も沈めないようにとなると一人では流石に無理か......

 

 

「よし!全員で特訓しよう」

 

「はぁ?」

 

「なんだその顔は、そんなに特訓したくねぇのか?」

 

「ちげぇよ......今更過ぎて呆れてんだよ」

 

「今更?ああそういやお前は陸上で何かやってたな」

 

「アタシだけじゃねぇよ、響達だってとっくに始めてるぜ?」

 

な......に......?俺はそんなとこ一言も聞いていないぞ......いや、俺には言わねぇか。

 

「しかしいつやっているんだ、俺は見たことねぇぞ?」

 

「そりゃお前に見られないようにやってたんだろ?」

 

そうだったのか......じゃあ特訓は各自やってるとして後はどうするか。

 

「まあ来るもんはしゃあねぇし、アタシらはいつでも戦えるように資材と装備を整えとけばいいんじゃねえか?」

 

「なるほど......やはりそこにたどり着くか」

 

しかし、資材を溜めようにも俺が出るとそれだけでマイナスになりかねんからな。

だからと言って響達にそんな危険な任務をさせたくは無いしなぁ......

 

「やっぱり艦娘が護衛してる輸送船団を襲う方が楽に多く資材が入りますよ?」

 

「お前は艦娘に恨みでもあるのか?」

 

「いいえ?私は合理的なだけですよ?」

 

「確かに深海棲艦側は戦艦とか空母が護衛してるからな」

 

「いっそのこと深海棲艦側で船団護衛任務とかすればいいんじゃないんですか?」

 

「いや、あいつら話聞かねぇだろ」

 

確かに出会い頭で撃ってくるような奴等だが人形であれば話せることは確認済みだからな。

 

「ちょっと試してみるか......」

 

「はぁ!?マジかよ!」

 

「マジだ。俺の修理が終わり次第作戦実行だ。俺も響達が出るまで寝る事にする、じゃあな」

 

「深海棲艦を護衛とか......どうかしてるぜ。」

 

頭を押さえる摩耶はほっとき俺は隣の寝床へと帰って行った。

 

「言ったのは私ですが本当に深海棲艦側に付くつもりですか?」

 

「いんや、別にどっちに付くつもりもねぇよ。依頼ならどっちだって受けるつもりだ」

 

まあ艦娘から依頼が来ることはまず無いと思うがな。

 

「それじゃあどちらからもスパイだと思われますよ?」

 

「そんなのは仕事で示せば問題ない」

 

「ふ~ん、まあ楽しみにしてますよ。じゃあ私はこれで」

 

「おう、お前にも手伝って貰うからな」

 

「兵装の操作なら何なりと~」

 

妖精は俺の肩から飛び降りるとひらひらと手を振りながら廊下を飛び去っていった。

 

「......ま、なんにせよ今日の所は寝るか!」

 

しかしこの一時間後、空腹に睡眠妨害され続けた俺は工廠へと向かうことになるのだった。

 

 

 




寝てても資材(現金)が溜まる幽霊提督のようなお仕事がしたい(切実)


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第十七番

前作を書いているときのわくわくを取り戻したい!
やはり無鉄砲に書いていった方が良いのだろうか......


 「提督、艦隊が帰投しました」

 

「入れ」

 

ノックの音に気が付いた宇和は加賀に入室を促す。

 

「さて、早速だが戦果を聞かせてくれないか」

 

宇和の威圧的な視線を受け加賀は思わず視線を逸らしてしまった。

 

「.....目標の拿捕及び撃沈に失敗。私達は甚大な被害を受け旗艦である長門を失った為私の独断で撤退、南方前線基地にて修復・補給後帰投しました」

 

加賀は独断であることを主張し、懲罰は全て一人で受ける覚悟を決めていた。

 

「そうか......南方前線基地へ修復と補給に要した資材の手配をしたら補給をしてこい」

 

「え......懲罰は無いのですか......」

 

「長門が沈んだのは戦力を見誤った私のミスだ。お前らを罰するつもりはない、早く行け」

 

「......畏まりました、失礼します」

 

加賀は執務室を出ていった後、宇和は勢いよく机を叩きつける。

 

「なぜ私の邪魔をする門長!!大人しく捕まれば良いものを......こうなったら艦隊数制限など知ったことか、我々の全軍を以て島ごと消し去ってくれる」

 

宇和が企んでる所に突然電話のベルが鳴り響く。

 

「なんだこんなときに......」

 

宇和は受話器を取り不機嫌そうに答える。

 

「こちら舞鶴第八鎮守府宇和......」

 

「久方ぶりだな宇和少将、なんだか荒れているようだが?」

 

「あ、阿部元帥!?一体どうされました!?」

 

「それは君が一番よく解ってるんじゃないかね?」

 

「い......いえ、なんのことだか私には解りかねます......」

 

宇和は支援艦隊と称して許可なく連合艦隊を出撃させているため間違っても元帥に悟られてはいけないと必死にしらを切り通そうとしていた。

 

「連合艦隊を無断で出撃させ門長君の殺害を指示、そして返り討ちに逢った挙げ句長門を失ったそうだね?」

 

「なっ、なぜそれを!?......まさか西野の奴!」

 

「彼女は隠す必要があるなんて思っていない。当然だろう?彼女はただ連合艦隊の修復と補給を行っただけなんだから」

 

「ぐっ......それで、私を解任しあの男を放っとくおつもりですか」

 

「中々に察しがいいじゃないか。宇和彰吾少将、君を軍法会議にかける。最低でも懲戒免職は免れないだろう」

 

「なぜですか......あの男はいったい何なんですかっ!?」

 

「そうだな......彼は我々人類の希望......かもしれないね」

 

それだけ言うと電話は切れてしまった。

 

「くそっ!何が希望だっ!阿部、門長......貴様等の思い通りにはさせんぞぉ!!」

 

宇和は直ぐ様全艦娘に召集をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で電話を終えた阿部は含み笑いを堪えながら椅子に腰掛けていた。

 

「くっくっく......これで彼は全軍を引き連れて出撃するだろうな」

 

「しかし、それは軍規......いえ、世界の理に反する所業です」

 

「確か......過去に艦隊数の禁を冒した大将が鎮守府ごと消えたという話だったか。」

 

「はい、そしてその跡地には深海棲艦からのメッセージが残されていました。」

 

そのメッセージとはーヒトヲオサメルモノトハナシアイガシタイ、オウジナケレバワレワレカラウッテデルーといった内容のものであった。

 

「そこだ......なぜそこで奴等が話し合いを打診してきたのか、そして当時の元帥は何を話したのかをこの目で確かめたいのだよ」

 

「しかし、奴等が再び話し合いを打診してくるとは限りませんよ」

 

「その時はその時だ......どちらにせよ人類も永劫戦ってられる訳でもない。だからこそ何者かによって作られたこのバランスを崩さなければ我々が勝利することはないのだ」

 

大淀はある人物を思い出し、やっと附に落ちたようだった。

 

「なるほど、それで彼を放した......いえ、送り出したのですね」

 

「そういう事だ、宇和君のお陰で彼の今の実力も計ることが出来たしね」

 

今の彼なら姫級を一人で倒せると......否、それ以上の活躍を見せてくれると阿部は確信していた。

だが、その確信すらも根底から覆す存在が居ることも理解していた。

 

「奴は今どこに居るのか......それだけが私の不安だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほらほら、私の手作り何ですからしっかり持たないとお客さんに見えないじゃないですか!」

 

「ぐっ......うおぉ......重ぇ、一体何で作ってんだよこれ」

 

俺は妖精が宣伝の為に作ったクソデカイ看板を掲げて沖へと出ていた。

 

「高さ六十メートル!幅百メートル!厚さ十センチに補強に補強を重ねた最高傑作です!」

 

妖精は俺の肩の上で堂々と胸を張っていた......正直弾きたい。

 

「俺が修復する資材は残ってんだろうな」

 

俺は妖精を睨み付けるが、妖精はあっけらかんとした態度で答えた。

 

「いやですねぇ、貴方みたいなコスパ極悪な人の修復資材なんてあるわけ無いじゃないですかぁ?」

 

くっ......すっげぇうぜぇ。

 

「まあ、定期契約を結べればこっちのもんですよ!」

 

他人事だと思って好き勝手言いやがって......

 

「あ、撃ってきましたよ!」

 

「まあ......そりゃ撃ってくるよ......なぁっ!」

 

看板を斜めに構えて飛んできた砲弾を僅かに逸らす。

お陰で直撃は避けられるが一回で看板が少しひしゃげたのでそう何度も使えなさそうだ。

 

「お?只のガラクタかと思ったが案外良い盾じゃねぇか」

 

「ちょっ、何壊そうとしてるんですか!」

 

「俺の修復より安そうだから良いじゃねえか」

 

「そういう問題じゃないんですよっ!」

 

俺の耳元で喚き散らす妖精をスルーして一気に速度を挙げる。

その後何度かの砲撃を捌きやっと此方から見える所まで接近することに成功した。

 

「おい!聞こえんだろ深海棲艦!俺等に攻撃の意思はねぇ!!」

 

全力で声を張り上げると深海棲艦達は攻撃を中断し、一人の戦艦がこっちに近付いてきた。

 

「タタカウイシガナイトハドウイウコトダ、マサカコウフクスルツモリカ?」

 

戦艦は俺に砲門を突きつけながら問い掛けてきた。

 

「はっ、まさか。俺は仕事を探しに来ただけだ」

 

「シゴトダト?コンナトコロニキテナニヲスルトイウノダ」

 

「お前らの船団護衛なら任せな!成功報酬は五人分だがな」

 

「バカイウナ、ドコノウマノホネカワカランヤツニソンナニハラエルカ」

 

「これでも安い方なんだぜ?よし、取り敢えず初回報酬は俺の燃料と修理費用を負担してくれるだけで良いぜ?」

 

「フフフ、ワタシタチアイテニセールストハオモシロイカンム......ス......デ、イイノカ?」

 

「あ?どう見たら娘になんだよ。」

 

「ジャアカンムスコカ?」

 

「なんか嫌だ......俺は門長だ。こんなの他にいねぇと思うし種族は気にすんな」

 

俺がそう答えると戦艦はなにかを納得したようで砲門を下ろし艦隊に戻りながら俺に伝えた。

 

「トナガカ......ワカッタ、ヒメサマニツタエテオコウ」

 

「お!マジか!?じゃあ此処から南に真っ直ぐ行った所の島にこの看板立てとくから。お前らがそうだな......到着する一時間前位に合図として艦載機をその島に飛ばしてくれないか?」

 

「ワカッタ、ダガスベテハヒメサマシダイダカラナ。アマリキタイハスルナヨ?」

 

「ま、そんときゃ他の奴に当たるさ」

 

「ソウカ......」

 

「んじゃ、宜しく頼むぜ戦艦!」

 

「ルキュウダ」

 

「おう、じゃあなル級」

 

営業を終えル級達に別れを告げるとル級達はそのまま海の中へと潜って行った。

 

「戦艦も海に潜れるってすげーな......」

 

「なんだって深海棲艦ですからね」

 

「ああ、確かに深海棲艦だな」

 

それにしても深海棲艦って結構人型も多いんだな。

幼女とかもいるんだろうか......いや、駆逐艦はグロテスクな魚みたいな姿だしなぁ......

 

「どうしたんですか?そんな真剣な顔して、仕事が来るか不安なんですか」

 

「いやな、深海棲艦にも幼女は居るのかと思ってな」

 

「ア,ソウデスカー......想像以上に下らなくて安心しました」

 

「下らないとは失敬な!これは由々しき問題だろうが」

 

「そんなこと知りません。それよりさっさと看板立てに行きましょうよ」

 

「へいへい」

 

まあ、そのうち聞けば良いか。

俺はクソデカイ看板を担ぎながらずっと南の無人島を目指した。

 




相変わらず後書きに書くことが無くて困る。
内容について書こうにも致命的なネタバレをやらかしそうで怖くて書けない......
そのうち門長の艦これ的ステータスでも乗せますかぁ。


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第十八番

執筆活動も後10年続ければ今とは比べ物にならないような作品を書けるようになるかな......そんな希望を持つことによって続かない私は何とか今日も書き続けております。


 「ヘーイ、ミスター?看板の上を深海棲艦の艦載機が彷徨いてるネー」

 

「お?来たか!」

 

あれから1週間音沙汰が無かったから半ば諦めていたんだが、深海棲艦の奴等も案外捨てたもんじゃねぇな。

 

「んじゃちょっと行ってくる」

 

「オーケー、グットラックミスター門長」

 

俺は兵装を急いで装備すると、深海棲艦が向かっているであろう島へと向かっていった。

 

「......これは流石に不味いカモネ。テートクに指示を仰ぎますカ」

 

 

 

 

 

 約一時間後、看板のある島へ到着すると既に深海棲艦の艦隊は島に接岸していた。

 

「お、あんたが深海の姫さんか」

 

「アナタ、ヒメサマニタイシテナレナレシイワヨ!」

 

うお、まさかこっちでも注意されるとは......

 

「構ワナイワタ級。私ハ港湾ノ姫、人間ノ間デハ港湾棲姫ト呼バレテイルワ。ソシテコノ子ハ北方......」

 

「お母さん、娘さんを俺に下さい」

 

「エ、アノ......オ母サン?」

 

「オマエ......イヤッ!カエレッ!」

 

「ぐぼぁっ......な、何故だ......」

 

少女に嫌われるような呪いでもかかってるのか俺は......

 

「チョット!バカニスルノモタイガイニシナサイヨ?」

 

「タ級、ヤメナサイ!」

 

今にも襲いかかりそうなタ級を港湾が制止する。

 

「今度カラ一緒ニ仕事ヲスルノダカラ仲良クシナケレバダメヨ」

 

「シ、シカシヒメサマ......」

 

「イイワネ?」

 

「......ワカリマシタ」

 

港湾には逆らえないみたいでタ級は渋々腕を下ろし一歩後ろへと下がった。

 

「ゴメンナサイ、普段ハ良イ子達ナンダケレド......」

 

「別に問題ない」

 

ほっぽに既に嫌われているのは流石に効いたが今は耐えるとしよう。

 

「ソウ、ソレナラヨカッタワ......デハ本題ニ入ラセテ貰ウワネ」

 

そう言うと港湾は近くの岩に腰を掛けほっぽを膝の上に乗せると仕事内容について説明を始めた。

要約するとこんな感じだ。

輸送船団の護衛、そしてある島へ月一で資材で届けて欲しいとの事だった。

 

「ソシテ最後ニ私達組織ノ決マリ事ガアルノダケレド......他言無用ヲ約束デキルカシラ?」

 

俺は問題ないと無言で頷く。

 

「ワカッタワ......ジャア最後ニ、敵味方問ワズ被害ハ最小限ニ抑エル事」

 

「おう、わかっ......た......って敵もなのか?」

 

いや確かに元より駆逐艦娘達には手を出さない様に言おうとは思ってはいたがまさか深海棲艦側から提案されるとは思わなかったな。

 

「エエソウヨ。私達ノ組織ハイズレ艦娘、ソシテ人類トノ和平実現ノ為ニ活動シテイルノ」

 

「へぇ......大層なこった。でも人間や艦娘にはお前らと普通の深海棲艦の違いなんて分からねぇだろ」

 

一般人ならそれだけで殺せそうな位強い眼力で俺を睨み付けるタ級を無言でたしなめ港湾は続ける。

 

「ソウネ、デモイズレ普通トハ違ウ深海棲艦ノ存在ニ気付クハズヨ。ソレマデニ私達ノ組織ヲ他ノ組織ノ抑止力トナル位盤石ナモノニスルツモリヨ」

 

「ふ~ん......俺にはよく解らん。だがまあ都合が良いし了解した。」

 

これなら駆逐艦娘を狙わなくても問題は無さそうだな。

 

「ヒメサマァ......コンナワタシタチノシソウヲリカイシテナイヨウナヤツヲホントニヤトウツモリデスカァ......」

 

タ級が不安そうに港湾へ問い掛けるが港湾は問題ないと答える。

 

「ル級モ認メテルシ大丈夫ヨ。ソレニ船団護衛ハトモカクモウ一ツハ深海棲艦デアル私達ガ行ウヨリハ悟ラレニクイハズヨ」

 

「そういやその島に資材を運ぶのは何なんだ?」

 

「ソレハ申シ訳ナイケレド私達以外ニ繋ガリノアル貴方ニハ話セナイワ。コレハ貴方ノ為デアリ私達ノ為デモアルノヨ、ワカッテクレルカシラ?」

 

「まあ然程興味もねぇしどうでもいいや」

 

「ソウ言ッテクレルト助カルワ」

 

「んなことより幾つか此処で決めとかねぇといけねぇ事が有るだろ」

 

「ソウネ、タ級。アノ子ヲ連レテキナサイ」

 

「エー......ヤッパリカノジョハコンナヤツニハモッタイナイデスヨォヒメサマァ」

 

段々とラフになっていくタ級に港湾の温和な表情が一変する。

 

「一度決マッタ事ニ文句ヲ言ウツモリ?」

 

「ァ......ス、スイマセンナマイキイイマシタァ!イマスグツレテキマスッ!」

 

へぇ......伊達に組織の頭張ってる訳じゃねぇんだな。

俺が感心してるとタ級が何かデカ物を連れて戻ってきた。

 

「ヒメサマ!ツレテキマシタ!」

 

「ゴ苦労様。紹介スルワトナガ、彼女ハ補給艦ワ級flag ship後期型ヨ。」

 

「フラワートヨンデクダサイ」

 

フラワーなんて名前とは裏腹に一九〇の俺をゆうに越える身長のワ級が深々とお辞儀をしている。

 

「彼女ニハ貴方ヘノ報酬ノ運搬ト仕事依頼ノ際連絡役を担ッテ貰ウワ」

 

「成る程な......じゃあ頼んだぞワ級」

 

「イエ、ワタシノコトハフラワートオヨビクダサイ」

 

「フラワーとか柄じゃねぇだろ、ワ級でいい」

 

「ソンナ......ウゥ......」

 

「気ニシテルミタイダカラアマリ触レナイデアゲテネ」

 

「ふ~ん......ま、いいや。んで仕事はいつからだ?」

 

「ソウネ、仕事ニツイテハ後日フラワーニ伝エルトシテ今日ハ資材ノ運搬先ノ島ヲ覚エテキテ貰ウワ」

 

そう言うと港湾は両腕を上げほっぽの頭上で両の鉤爪を打ち付け甲高い金属音を響かせた。

 

「ヒメサマ、オヨビデスカ?」

 

すると、海の中から三人の潜水艦が現れた。

 

「ソ級、オマエ達デトナガヲアノ島へ案内シナサイ」

 

「ハイ、ヒメサマ。オマエガトナガカ、ツイテコイ」

 

それだけ言うと三人は再び海中に潜ってしまった。

 

「......どうやって着いていけと?」

 

「潜れば良いんじゃないですかぁ?」

 

「出来るかぁっ!」

 

「目ヲ凝ラセバ泡ガ見エルデショウ。ソノ泡ニツイテイッテクレルカシラ?」

 

俺は港湾に言われ目を良く凝らしてみると僅かに泡立っている所が三ヶ所確かに有った。

 

「みえ......はぁ、疲れた。後は頼んだ妖精」

 

「え~、面倒ですねぇ」

 

潜水艦の追跡は妖精に任せて俺は辺りを見回していた。

 

「誰一人ついてこねぇんだな......」

 

「それだけ島にあるものを他の深海棲艦に見られたくないのでしょう」

 

「深海棲艦?艦娘じゃねぇのか?」

 

「艦娘からしたら貴方が通ってる方が怪しいでしょうが」

 

そんなもんか......よく解らんが。

 

「まあ奴等の動きは他の深海棲艦にとって余り面白くはないだろうし邪魔が入らない様にってとこか」

 

「門長さんもう少し右ですよ」

 

「お、いつの間に曲がってんだ」

 

進路を修正しつつ何もない海を五時間ほど航海した所でやっと島が一つ見えてきていた。

 

「あれか?」

 

「ソウダ、アノシマガオマエノコンドカラノハイソウサキダ」

 

「私達の居る基地跡より小さいですねぇ」

 

「確かに......ん?あれは何だ?」

 

俺が指差した先には時代遅れな一隻の軍艦とそれを追い掛ける複数の陰であった。

 

「ナンダアノフネハ、シマニムカワセルワケニハイカナイ。オイハラウゾトナガ」

 

「おう、これが俺の初仕事っつー訳だな。報酬は頼むぜ」

 

「ツタエテオコウ」

 

ソ級より返事を受けた俺は意気揚々と軍艦へと進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くそっ!何なんだあの規格外の化け者共は!」

 

「特定不能っ!海軍のデータベースにも類似する艦種が在りません!」

 

軍艦に乗り込み百を超える舞鶴第八鎮守府全軍を率いて門長もろとも島を焦土に変えようとしていた宇和艦隊であったが、突如現れたたった六隻の正体不明の深海棲艦により既に壊滅状態であった。

 

「ええいっ!吹雪、暁!私が撤退するまで奴等の足止めをしろっ!」

 

「ちょっとっ!あんな化け物相手にたった二隻で足止め出来るわけ無いじゃない!」

 

「うるさいっ!出来るか出来ないかではない!私はやれと言っているのだ!」

 

暁が反論するも宇和は聞く耳を持たず一方的に命令すると無線を隅へ追いやってしまった。

 

「なによもう!信じらんない!」

 

暁が宇和の態度に腹を立てていると吹雪から通信が入ってきた。

 

「暁さん、実は南から更に四隻近づいて来てるのに気付いてる?」

 

「うそ!敵なの!?もうどうすればいいのよ!!」

 

がなりあげる暁とは別に吹雪は落ち着いた様子で続けた。

 

「確かに敵......ですが、その中に門長さんが居ました。彼と奴等をぶつければここを逃れることが出来るかも......」

 

「それはいいアイディアだわ!そうしましょ!」

 

一縷の希望を見いだした暁はそこいらに放っぽりだしていた装備を拾い集め構え直す。

 

「後三キロ程です、何とか逃げ切りましょう!」

 

吹雪達がラストスパートにかけて気合いを入れ直している一方、無言で吹雪達の会話を聞きながら沸々と込み上げる怒りを抑え生き残る為の算段を立てていた。

 

「門長め......奴が居るのか......非常に気に入らないが一度奴に取り入り確実に殺せるタイミングを窺うとするか」

 

宇和は急ぎ甲板に出ると門長の方へ向けて白旗を振り回した。

その三分後、宇和が乗る軍艦に門長が乗艦してきた。

 

「久し振りだなぁ......門長くん」

 

宇和は煮えたぎる殺意を表に出さない様に何でもない挨拶を交わす。

 

「なんであんたがいるんだ?しかもこんな古びた船なんか持ち出して」

 

「そ、それはだな......君にとある話を持ち掛けに直接出向いたのだ」

 

「ふ~ん......軍規違反してまでか?」

 

「なっ!?何を言っているんだ。私がいつ軍規違反したと言うのかね?」

 

内心を悟られない様に笑顔を貼り付けるが門長にはそんなことは関係無かった。

 

「ソ級から聞いたんだよ。あれは人類が掟を破ったときに現れる奴等にとって神のような存在なんだそうだ」

 

「きっ、貴様!深海棲艦についたのかこの裏切り者めぇっ!」

 

深海棲艦とグルである門長ではここを切り抜ける事は出来ないと悟った宇和は懐にある拳銃を門長へ向けありったけの殺意を込めて発砲した。

 

「おいおい、俺を今更拳銃で殺れると思ってたのか?」

 

「くっ......化け物めぇ......私を殺せば貴様は海軍全ての敵となるぞ......」

 

精一杯の強がりを見せる宇和であったが門長にとっては暖簾に腕押し状態であった。

 

「別に俺が殺る必要もねぇだろ、放っときゃあんたはこいつを棺桶に沈んでくだけなんだから」

 

「く、悔しいがその通りだ......だが!今助ければ貴様の罪を無かったことにしてやる」

 

「いらん」

 

「な、ならば貴様に好きな艦娘を用意してやろう!」

 

「ん~......じゃああそこにいる暁と吹雪」

 

「......わ、わかった!好きにするといい」

 

「よし、じゃあ助けねぇとな!」

 

この場を凌いだと確信した宇和は完全に油断しており門長の腕が襟裏を捕らえるのに気付けなかった。

 

「なっ!?何をする気だ貴様!」

 

門長に背負われた宇和は激しく抵抗するも門長は構わず海面へと飛び降りた。

 

「なにって助けんだよ、()()()()を」

 

「おい!話が違うぞ貴様ぁ!」

 

「別にあんたを助ければとは言ってねぇだろ?」

 

「くっ、そんな屁理屈をぉ......」

 

「屁理屈だろうが何だろうが俺は最初からあんたを助ける気なんかねぇよ」

 

門長は時折飛んでくる砲弾を避けながら吹雪達のもとへ辿り着いた。

 

「し、司令官と門長さん!?一体これはどういう事ですか!?」

 

「よう、今日からお前らは俺の仲間だ。勿論こいつの許可を貰っている」

 

「え?ちょっとどういう事!?訳がわからないわ!」

 

理解が追い付いていない吹雪と暁に軽く挨拶を済ませると門長は更に前に出て深海棲艦へ呼び掛ける。

 

「聞こえんだろ深海棲艦!このオッサンはやるから好きにしてくれて構わない。」

 

「貴様ぁ!絶対に赦さんぞぉ!!」

 

宇和が必死の抵抗を試みるが門長は特に気にする様子もなく続ける。

 

「だがな、この二人の艦娘はもう俺の仲間だ。手を出すなら容赦しねぇぞ」

 

「ヘェ......ソレモ面白ソウダケレド、私達ハ貴方ト違ッテ忙シイノヨ。ジャアネー」

 

そう言って深海棲艦の一人が艤装から一発だけ何かを放ち、海中へと消えていった。

 

「あれは......!」

 

直感的に翔んでくるものの危険性を感じた門長は飛翔物に向けて宇和を全力で投げた後直ぐ様吹雪達を呼び寄せて二人を抱き抱える。

 

「い、一体何を!?」

 

「ちょっ!?何すんの、離しなさいよっ!」

 

「動くな!」

 

宇和と深海棲艦が放った飛翔物が衝突した瞬間、辺りは光に包まれた。

 




ただ10年も続けてたら前書きと後書きが先に枯渇してしまいそうです(泣)


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第十九番

皆サーン!イベント頑張ってますカー?
ワタシは対潜装備が足りなくて難易度を下げてゴールを目指そうかと既に考えてマース(泣)
三式装備プリーズミー!


 「......これは流石に不味いカモネ。テートクに指示を仰ぎますカ」

 

執務室でミスターを見送った後、ワタシはテートクに報告するために部屋を出ることにしたヨー。

 

「此処なら誰からもノールックネ」

 

誰も居ない林の中でワタシは艤装をオープンし水偵の準備を始めたのデース。

 

「これをわたせばいいですかぁー?」

 

「ザッツライト!じゃあ頼みましたヨー?」

 

「はーい、いってきまーす!」

 

さてと、ヒビキ達の様子をウォッチングしに行きますカ。

 

「金剛さん、何をしてるのです?」

 

「ホワァッツ!!?」

 

ななななんでこの子はいつの間に後ろに居るのですカー!?

と、とにかくここにいるレジテメイトなアンサーを言わないと......

 

「ワタシは此処でトレーニングしていたのデース」

 

「はわわっ、強いのに訓練を怠らないなんて尊敬なのです!」

 

「ま、まあ日課みたいなものネー」

 

う......そんな羨望のアイズで見られるとハートが痛いデース......

でも気付かれて居ないようで助かりました。

 

「イナヅマこそどうしてここに?」

 

「あっ、そうなのです!摩耶さんがお昼が出来たから呼んでこいって言っていたのです」

 

オー......そう言うことでしたか、ならば彼女達を待たせてはノーですね。

 

「センキューイナヅマ、それじゃあ食堂までレッツゴーネ!」

 

「ごぉなのです!」

 

ん......あれ?でも電探に動きは無かったような......

 

「?」

 

......まあ、場所が場所だし気付けなかっただけでショー。

 

 

 

 

 

「皆サーン、お待たせしたネー」

 

ワタシが食堂へ到着すると既に皆椅子に座って待って居たのデース。

 

「おっせぇぞ金剛、今料理持ってくっから早く座りな」

 

「ソーリー、何か手伝いマスカ?」

 

「ん?じゃあ盛り付けるから机に並べていってくれ」

 

「オーケー!ワタシに任せるネー」

 

マヤの料理を次々と机に並べていき、遂にランチの用意がコンプリートしまシター!

 

「オー!マヤのランチはいつ見ても美味しそうネー」

 

「ま、見た目だけじゃねぇけどな!」

 

「わかってるのです!摩耶さんのご飯はいつ食べても美味しいのですっ!」

 

「摩耶さん、いつもありがとう」

 

「や、やめろって!アタシは好きでやってるだけなんだからよ......」

 

照れ臭そうに顔を背ける姿もキュートですネー。

ミスターとの仲もヒビキほど絶望的ではないですし......ああ彼がロリコンでなければ、なんて言っては元も子もないですカ......

 

「さあさあ皆さん席に着いて手を合わせまショー!それではミスマヤと全ての命に感謝して......いただきマース!」

 

「「いただきます!」」

 

挨拶を終えると皆はそれぞれ好きに料理を取り始めました。

それから一時間後、お腹を満たした彼女達は食堂で食休みがてら各々トークにフラワーを咲かせていました。

横須賀第一鎮守府にはなかった景色に浸りながらワタシは食後のティータイムを楽しんでいました。

ました......そう、この時までは......ネ。

 

「あの......金剛さん、水偵をどうして飛ばしていたのです?」

 

そう、この瞬間ワタシの思考は完全にフリーズしまシタ......そして悟ったのデース、この子に下手な嘘はマイネックを絞めるだけだと。

まさか全員が集まるこのタイミングで切り出してくるなんてネ。

ワタシの正体に感付いたのは流石デース......が、バット!まだまだ練度が足りないデスネーイナヅマ。

この状況ならまだ他のメンバーには隠し通す位はノープロブレムネー!

 

「彼女には近くに資材がないか探しに行って貰ってマース!やっぱりミスターからの供給だけ暮らすのはディフィカルトだからネー?」

 

オーケー、これで後は水偵を帰投させて話を合わせればパーフェクトネー。

 

「そうだったのですか......」

 

ホワイ?いくら当てが外れたからってここまで目に見えてショックを受けるとは思わなかったヨー。

 

「どうして落ち込んでいるんですかイナヅマ?」

 

「あの......ごめんなさい......です」

 

「ホワイ??ど、どうしましたカ!?」

 

「その......これ......」

 

そういってイナヅマが差し出したのは本来南方前線基地に向かってるはずの彼女でした......

 

「ワォ......これは一体?」

 

「ワタシが木の陰から飛び出した所に......丁度来てて......私......」

 

ノォ......これなら見られる前提で普通に海岸から飛ばせば良かったヨ......

 

「ま、まあイナヅマが無事で良かったネー!」

 

「しかし何故そんな視界の悪いところで発艦させていたんだ?」

 

「あ、確かに不思議だね~」

 

シット!なにイナヅマのアシストを上手くキャッチしてるネー!

 

「それはトレーニングを兼ねてたからデスガ......どうやら上手く行かなかったようデース......ソーリーイナヅマ」

 

「違うのです、電が飛び出さなければこの子はちゃんと飛び立てたのです」

 

ワタシはイナヅマをフォローしながら妖精さんの回収のためにごく自然に近づいていく。

あと少し......あとちょっと......

 

「んんぅ......もうたべられません......むにゃ......」

 

しかし突然の妖精さんの寝返りにより一枚の紙がドロップしてしまいました。

 

「お?」

 

「ア......」

 

「これは......?」

 

ノォォォッ!!?あれがビッキーの手に渡る訳には行きまセーン!!

 

「ストップ!ビッキッ!?」

 

ビッキーから報告書を奪い取ろうとするもアカシ&マヤにブロックされ動きを封じられてワタシは為す術も無く見守ることしか出来なかったヨ......

 

 

 

 

「さあ......こいつはどういう事か話してもらおうか!」

 

「ヘイ、逃げたりしませんのでその前に手枷と足枷を外してくれませんカー?」

 

「駄目だ、あんたに抵抗されたら私達じゃ太刀打ち出来ねぇからな」

 

「一応対艦娘用の麻酔弾は用意してますが念のためです」

 

ブラボー......悲しくなるくらいベストな対処法ネー

 

「んで?どうしてあんたはこんなとこで諜報員なんてやってんだ」

 

「それは......彼があるお方の孫だからデース」

 

「ある人の?」

 

「そう、その方はリビングレジェンドォォー!!?」

 

突如アラートがけたたましくワタシのイヤーをつんざいたのデース。

 

「耳がぁ......一体なにをしてるのデース」

 

「ああ、言い忘れてましたがその枷は艤装と同じ要領でついてまして虚偽を検知すると金剛さんの耳からアラートがなるようになってるんですよ!」

 

なんてクレイジーな......耳が遠くなったらどうするんデスカ。

 

「さあ観念しな、嘘ついてっと耳が悪くなるぜ?」

 

「諜報員なんて本来なら更に酷い拷問を受けるような所業だからな。なぁ竹?」

 

「でもまあスパイさんならそのくらいは覚悟の上何だろうけどね!」

 

確かに相手が深海棲艦ならば沈む覚悟も出来ていますが............ソーリーテートク。

やっぱり同胞を騙し続けるのはワタシにはハードネー......

 

「オーケー、皆サンには全てお話ししましょう。ワタシがここに来た理由、そしてミスター門長正体について......」

 

 

 




次回!門長の秘密が明らかに!......なるかもしれない。
ネタバレ:門長は炉裏魂である!!


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第二十番

思ったより話が続いたので今回も門長の出番はなしです知らない子で......ハナイデス私ハ門長サン好キデスでも駆逐艦の方がもーっと好きですっ!


 これはミスター門長が誘拐事件を起こす四年前の春の話ネー......

 

 

 

「遂に此処まで来たぜ......この学校を出れば念願の楽園生活を謳歌出来るんだな西村!」

 

この海軍を嘗めきった発言をしている青年が当時二十一歳のミスター門長デース。

 

「おいおい......思っててもそんなこと言うんじゃねぇよ。誰かに聞かれたら大変なことになるぞ?」

 

「おっと、それは不味いな!ところで西村、お前この渡された紙に何か書いてあったか?」

 

「ん?ああ、甲って書いてあったぜ。多分クラスの事だろ?」

 

フレンドであるミスター西村の持っているペーパーには「甲」と一文字書かれていた。しかしミスター門長の紙には何も書かれていなかった。

 

「なんだそれ、書き忘れか?」

 

「いやわからん、だがこれじゃクラスが分からないしちょっと教導室に行ってくるわ」

 

「おう、またな」

 

そう言ってミスター西村と別れた彼が再び姿を現したのは三年後の卒業間近だったのデース。

それではここからミスター門長の身に何があったのかを説明していきマース。

 

「ここが教導室だな......学徒番号676468、門長和大です」

 

ミスター門長は教導室をノックしスクールナンバーを伝えると中から一人の白い軍服に身に纏った初老の男が現れミスター門長に即効性の麻酔銃を撃ち込んだのデース。

 

「なっ......に......しや......が............」

 

「悪く思わないでくれたまえ、君は選ばれた人類なのだから......」

 

選ばれた人類......人類の中には艦娘の兵装を一部扱える個体は居ましたが彼はその中でも電探すら扱える極めて艤装適性の高い個体だったのデース。

そして彼の登場と共にワタシのテートクを中心とするある計画が本格始動しまシタ。

 

「素体は入手した、後は真七九八号計画の改修素材に高練度で尚且つ提督と強い絆を結んでいない戦艦二隻を用意せよ」

 

強い絆を結んでいる艦娘は提督と魂の繋がりがあるため改修素材にしても真価を発揮しないそうデース。

しかし強い絆を結んでいない戦艦の殆どは練度が八十にすら達して居なかったりと想像以上に難航を極めてまシタ......

 

 

 

 

 

 

 

「そこで計画の中心であるワタシの提督がいる鎮守府から練度九十九の大和型二番艦武蔵、そして同じく練度九十九である金剛型一番艦金剛が選ばれたのです.....」

 

「人に艦娘を改修するだって......なんだよその訳わかんねぇ計画は......」

 

「真七九八号計画は適合する人間の現代の知識と艦艇の記憶と艦娘の想いの力を合わせ過去に計画段階だった未成艦の艦娘化もとい擬人化させるプランデース」

 

「本人の意思など知ったことではないということか......まるで実験動物のような扱いだな」

 

「マツの言う通り、確かに彼のやり方は強引でした......しかしそれも全てはピースフルなワールドの為にテートクはっ!」

 

「ひっどい話だねぇ。どうせ保身の為に利用するだけ利用して用が済んだら処分でしょ?」

 

「ノー......あの人は......あの人はそんな人じゃないデース」

 

タケの言葉がワタシのハートをキリキリと締め付けていきます............我が身可愛さに彼女の優しさを利用してしまったのはワタシなのダカラ。

 

「竹ちゃん、そんなことを言ってはいけないのです。確かに三人とも可哀想なのです......でも金剛さんの司令官さんだってきっと自分なりの方法で平和な世界にしようと頑張っているのです」

 

「イナヅマ......信じてくれてセンキューデース」

 

「......あれ?改修された二人の内の一人って確か......」

 

ビッキー......悟られない様に気を付けていたのに。一番気付いて欲しくない子に気付かれてしまうなんて、スパイ失格ですネ......

 

「金剛さん、確か一つの鎮守府には同名艦は一隻しか建造してはいけない決まりになっているはず。けど金剛さんが改修されて居ないのは何故だい?」

 

「......グレイトなアイズの付け所デース。そう、本来改修されるはずだったのはワタシ......では何故改修されずにここに居るか」

 

「計画自体が完了しなかった......なんて事はまず無いな............恐らく別の奴が代わりとなったのだろう」

 

ここのチビッ子達は本当に頭が働くネ......これじゃあどっちにしろいつかは気付かれていたでショウ。

 

「ザッツライト。そう、ワタシの代わりとなった戦艦......それは」

 

ワタシの初めての親友でありワタシが初めて騙した彼女......

 

「ワールド・オブ・ビッグセブン。舞鶴第八鎮守府所属長門型一番艦長門......ワタシが彼女を陥れてしまったのです......」

 

「舞鶴第八......ってこの間来た響がいた鎮守府だよな」

 

「イエス、そこの長門デース」

 

「嘘だっ!だって長門さんは私が着任したときから居たんだ!」

 

「ビッキーが来たのは今から六年前でしたネ。ビッキーを一向に育てようとしないテートクに長門はどうにか出来ないかとワタシによく話してくれまシタ」

 

「明石さんっ!金剛さんは嘘をついているよっ!何で鳴らないんだい!?」

 

「......信じたくない気持ちは解るけど検知器は壊れてないわ」

 

アカシはビッキーに向かってとても気まずそうに答えてまシタ。

 

「だって......長門さんはあの男が沈めやがったんだ」

 

「ヒビキ、ユーが言っていたことを思い出すデース。少なくともワタシの知っている長門だったらヒビキ達に向かってあんなことは言わないネー」

 

ヒビキは先日の出来事を思い出したみたいで言葉を詰まらせていたネー。

 

「分かって貰えましたカ?これが彼の正体、そしてワタシのミッションは彼が人類に反逆を企てない様に監視することデース。ですから今日の話はくれぐれもミスター門長にはシークレットね?」

 

「秘密にするのは良いが最後に一つ聞いて良いか?」

 

「ホワッツ、なんですかマツ?」

 

「陥れたとはどういう事だ?」

 

「オゥ......勘の良いキッズは嫌われマスヨ?」

 

と言ってもワタシはボロを出しすぎただけ......デスカ。

 

「嫌う奴は嫌えば良い。私は私を解ってくれる奴が居ればそれで良い」

 

強いですネ......ワタシなんかよりずっと......うらやましいネ......

 

「......オーケー、話しまショウ。」

 

 

 

 

 

 私が選ばれたあの日、ワタシはテートクに呼び出されたのデース。

 

「テートク?話とは一体なんですカ?」

 

「君が助かる方法がある......と言ったらどうするかね?」

 

「あっ、あるのデスカ!?」

 

命令なら仕方ないと思っていても改修素材になんかなりたくない。当然ワタシは唯一の希望にすがろうとしまシタ......しかし。

 

「君と仲の良い舞鶴第八鎮守府の長門、確か彼女の練度も九十九だったな」

 

「ま......さか......ノー。マイフレンドを売るわけには行かないネー」

 

「そうか......それは残念だ、では君に最期の任務を与えよう。」

 

そうしてワタシに与えられたのは独国との交流が目的の遠征任務。

ワタシは分かってました。最初からテートクは長門を改修に使うつもりだったと....

だけどワタシは怖かったのデース。反抗して解体されるのも......長門を騙してワタシだけ生き残るのも......。

私が強ければ......今のミスター門長のように海軍を敵に回せる覚悟があれば......

しかしワタシは逃げてしまった......何も知らない振りをして命令通り独国へと......

遠征を終えて帰ってきたワタシは聞きたくない報告をテートクから聞かされまシタ。

 

「見たまえ金剛、これが真七九八号計画の姿だ。と言っても艤装の展開が現在出来ない状態だがな」

 

真七九八号計画の完成......それは彼女の犠牲をひしひしとワタシに伝えてまシタ。

 

「長......門......ソーリー......ごめん......なさい......」

 

「ああ、彼女は大分暴れていたね。お陰でうちと横須賀第三鎮守府の明石が中破してしまったよ」

 

ワタシはその場に泣き崩れて居るとミスター門長は近付き右手でワタシのネックを絞め上げ何かを呟いたのデース。

 

「......ウラギリモノメ」

 

「ぐぅ......っは......ソ......ソー......リー............」

 

このまま()()に殺される......当然だろう......そう考えていたとき。

 

「止めないか門長!!」

 

テートクの一声により一瞬ミスター門長の視線がテートクへと向いた。

その隙を突くように周囲から麻酔弾が何発も放たれたネー。

 

「っ!?............」

 

十数発ほどヒットした辺りでワタシは解放されミスター門長はその場に倒れこんだのデース。

 

「大丈夫か金剛」

 

「っはぁ......はぁ............イエス......」

 

「君にここで死んで貰っては困る」

 

永遠に続く呪縛に彼女を縛りつけてしまったワタシは彼女を救うことも死ぬことも出来ずにただ生き長らえている......

 

 

 

 

 

 

 

「なんで......なんで長門さんが......金剛さんが居なくなれば良かったんだっ!」

 

「ヒビキ............」

 

「おい響!幾らなんでもそんな言い方はねぇだろ!」

 

「っ......!」

 

「響ちゃん!」

 

瞳に涙を溜めたヒビキは部屋を飛び出してしまいました。

 

「響ちゃんを追いかけてくるのですっ!」

 

「私も行ってくるよ!」

 

すかさずイナヅマとタケがヒビキを追いかけてくれたのでひとまず大丈夫でショウ。

 

「さて、話すことは話しましたし邪魔者は去るとするデース」

 

立ち上がろうとしましたが椅子に縛られていたので直ぐに引き戻されてしまいまシタ。

 

「オー......ソーリー、枷を外して貰えますカー?」

 

誰も外してくれませんネー......まあ皆を騙していたのですから報いを受けるのは当然デスカ。

しかし、彼女らの反応は私の予想を裏切るものでシタ。

 

「去るって言っても他に行く当てなんかあんのかよ」

 

「それは......何とかなりマー......」

 

突如アラートがワタシのイヤーを襲ったネー。

 

「ノォォォッ!?」

 

「なんだよ、やっぱねぇじゃねぇか。」

 

「だろうな、奴の監視も出来ずにのこのこ帰ったのでは間違いなく見限られるだろうな」

 

悔しいですが否定は出来ないデース......恐らく別の鎮守府へ保護して貰ってもいずれは......

 

「バット、仲間を裏切るような艦娘を置いといてもプラスな事はナッシングデース」

 

「んな理由で仲間を見放したら寝覚めがわりぃじゃねえか」

 

「ノー......ワタシには仲間なんて呼ばれる資格はありまセーン。だから気に病む必要もナッシング!オーケー?」

 

「オッケーじゃねぇ......よっ!」

 

「いっ!?」

 

マヤの放ったチョップがワタシのヘッドにクリティカルヒットしたネ......

 

「あんたの目的はあいつが海軍に反逆しないように監視するのが目的なんだろ?だったら別に続けりゃ良いじゃねえか」

 

「私達に直接危害を加えに来たのでは無いなら問題はない。寧ろ続けた方がプラスになることもある」

 

「でも......私の報告を聞いた彼らが攻めて来る事だってあり得マース」

 

「そんときゃそんときだろ?別にそこであんたを責めたりはしねぇよ」

 

「それにお前が居なくなっても監視役はまた来るだろう。だったら今のお前の方が断然信用出来る」

 

「マヤ......マツ......セン......キュ......ウ......です」

 

長門......今はまだウェイトしててネ。いつか貴女を救い出す方法を見つけるから......そしてそれまではワタシ達でヒビキを守り続けるから、昔の様な過ちは繰り返さないデース!

ワタシは浸水して使い物にならない視界を閉ざし決意を固めまシタ。

 

「さて、金剛さん問題は纏まりましたが響ちゃんの方はどうしましょうか」

 

「それもそうだが、その前に一つ良いか明石」

 

「へ?どうしました松ちゃん」

 

「いや、この際だしお前も何か私達に何か隠してる事はあるなら話さないか?」

 

「松ちゃんの素顔とかですか?」

 

「なぁっ!?今は私の事は関係無いだろう!」

 

「あっはは!冗談ですよ。ただ、別に隠してるつもりは無いので訊かれれば答えますよ?」

 

「じ、じゃあお前は何者なんだ。どうしてここに来た」

 




はい、まだ続いちゃうんです!


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第二十一番

こ......これが夏風邪と......言うものか......ガクッ


 マツの質問に対してアカシは大して身構える訳でもなく自然体で答えました。

 

「はい、私は元々呉第一鎮守府第一艦隊旗艦をやっていました」

 

「工作艦が第一艦隊旗艦だと!?」

 

「まじかよ......」

 

「スッゴい新鮮な反応ご馳走さまですっ!」

 

マツ達のフレッシュなリアクションにアカシはご満悦のようネー。

 

「新鮮?工作艦が第一艦隊なんて普通驚くだろ」

 

「答えはノーね。工作艦明石は泊地修理の為に第一艦隊旗艦になるのはよくある事......だから海軍じゃ特に気に留められる事もないのデース」

 

「あはは、実はそうなんですよねぇ」

 

「但し、呉と大本営の明石だけは例外と聞いてマース」

 

「いやいや、大本営の明石さんと私なんかじゃ比較対象にすらならないですよ?」

 

「呉と大本営の明石......その二人は強いと云うことか?」

 

「イエース。大本営の超弩級工作戦艦、呉の魔法使いと言えば海軍でも一、二を争うビッグネームな二人デース」

 

後は奇想天外な装置を生み出そうとしているのも居るようデスガ......

 

「ま、まあそんな話は良いんですよ!周りが勝手に騒いでるだけですから」

 

「ククッ......魔法使い明石か......良い名前じゃないか」

 

「あ~......良いんですかぁ?松ちゃんの素顔を収めたプロマイドを皆に配りますよ?」

 

「なっ!馬鹿な!?あれは全て燃やしたはず!」

 

「バックアップ位常識ですよぉ~?」

 

「くっ、消せっ!今すぐ消せぇっ!!」

 

「嫌です、いずれは双子アイドルとして売り出すんですから」

 

「なっ......や............やめろぉっ!!!」

 

「あっはっはっは!!今は冗談ですよ~!」

 

「今は!?今も今度も駄目に決まってるだろぉっ!」

 

マツはアカシの右手にあるUSBメモリーを奪おうと必死に追いかけますが上手くかわされてるネー。

それにしてもそこまでして隠そうとするマツの素顔とは......とってもミステリアスデース。

 

「......っとそういえばどうしてここに来たか、でしたっけ?」

 

「はぁ......はぁ......そうだ、なんの目的があって来たんだ」

 

「ん~......確かに松ちゃんには言ってませんでしたね。私は第一艦隊旗艦としてサーモン沖北方を侵攻中だったんです。ですが突然の嵐に見舞われてしまって......それだけなら良かったんですが嵐により狭まった視界の所為でレ級eliteが近くまで来ていた事に気付けなかったんですよ」

 

「レ級elite?そいつは強いのか?」

 

「イエース......鬼や姫に匹敵すると言われる程ベリーハードなエネミーネー」

 

「そうです、正規空母三隻分の制空力と雷巡の雷装を持った超弩級戦艦......誰が呼んだか超弩級重雷装航空巡洋戦艦なんて名前が付く位の深海棲艦なんですよ?」

 

「な、なんだそりゃ?詰め込みすぎて訳分かんねーぞ......」

 

まあ、マヤの言い分も理解できるネー。それも姫や鬼のような特異個体でもなく、更にはアップグレードな存在も囁かれているのだから本当に恐ろしいエネミーデース。

 

「まあその悪いタイミングでレ級に遭ってしまったんです。」

 

「しかし、幾ら強いとは言ってもあの男ほどふざけた性能ではないだろう?明石達の第一艦隊の実力がどれ程かは知らないがそいつ一隻位どうにでもなったんじゃないか?」

 

すると先程まで平然と説明していたアカシの表情に陰り差しまシタ。

 

「......そうですね、恐らくそのレ級eliteはそこで撃沈しているでしょう。」

 

「だったら何があったというんだ?」

 

「今さっき言った通りですよ、悪いタイミングだったんです......ヴェールヌイと電、そして私は既にレ級の雷撃距離に入っていたが為に魚雷を回避しきれなかったんです」

 

「そういうことか......済まない、野暮な事を聞いてしまったな」

 

「いえ、松ちゃんが気になってしまうのは仕方ありませんよ。私だって好奇心は旺盛な方ですし」

 

「ああ、明石が好奇心の塊だという事は既に把握している」

 

「ちょっ!塊って程ではないですよ!?」

 

「ならばこいつは処分させて貰おう」

 

マツはアカシの一瞬の隙をついてUSBメモリーを奪い取ることに成功しました。

 

「あぁっ!駄目ですよぉ!」

 

アカシの制止も聞かずにマツはUSBメモリーをクラッシュしたネー。

 

「あぁ......私の松竹コレクションがぁ......」

 

「そんなものは忘れろっ!......そ、その代わりと言うわけではないが明石が再び呉の仲間に逢える様に私と竹も出来る限り力を貸そう」

 

「松ちゃん......ありがとうっ!じゃあ撮り直したいので早速脱いで下さいっ!」

 

「なっ!?ばか、それとこれとは話が別だっ!!」

 

「いえいえ、これは必要な事なんですよぉ?主に私の疲労回復(キラ付け)的に!」

 

「うるさいっ!こ、こっちに来るなぁ!」

 

フィンガーをうねらせて詰め寄るアカシに対してマツは後退しつつ徐々に扉へと向かっていったのデース。

それにしても......ミスター門長がアレなのはともかく、まさかアカシまでだとは......まぁ好みはそれぞれですし別に良いんデスガ。

 

「アカシ?今は兎に角ヒビキと話がしたいのデスガ......これを外して貰えませんカ?」

 

「え?ああっ、そうですね!今外しますね?ですが......どうするつもりですか?」

 

「ワタシはどうもしまセーン!ヒビキと話し合って最終的にワタシをどうするかはヒビキに委ねマス......ですのであの子がどんな答えを出しても決して責めないでくれますカー?」

 

枷から解放されたワタシは皆に頭を下げてお願いしまシタ。

 

「......ほんとにいいのかよ。何を話すか知らねぇけどよぉ、アイツはまだガキだからこのままじゃきっとあんたが出で行く事になっちまうぜ?」

 

「もちろん、誠心誠意を込めてヒビキと話し合うつもりデース。デスガ......守りたい相手の意思を無視して勝手に守るのは唯の自己満足だと思うのデス」

 

「いいじゃねぇか、そういうのも恰好良いとアタシはおもうぜ?」

 

「マヤ......センキュー、でもワタシが居なくてもあの子を守ってくれる存在は沢山いマース。ならばワタシはあの子の意思を尊重したいのです」

 

「ちっ......わぁったよ、勝手にしやがれ」

 

ワタシなんかを気遣ってくれてセンキュウ摩耶、でもこれは私なりのけじめデース。もちろん簡単に引き下がるつもりなんてありませんヨー!

 

「それじゃあヒビキの元へレッツゴーデース!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方響は鎮守府裏の浜辺に体育座りで膝に顔をうずめて一人泣きじゃくっていた。

 

「ながと......かえって......来て......よ......ながっ......とぉ......」

 

「......響ちゃん」

 

響に追い付いた電は響の元へ向かおうとしたところ竹によって止められたのだった。

 

「私達が行っても何も解決にはならないよ。彼女達の事を知っている金剛さんか張本人でもない限りね」

 

後者は先ず無いだろうけどね、と竹は言葉には出さず眼で電に伝えた。

そのまま見守ること三十分、松から竹へ通信が入ってきた。

 

「どしたの松?」

 

「こっちは取り敢えず話は纏まった。金剛が響に話があるそうだから響の場所を教えてくれ」

 

「はいは~い、今鎮守府裏の浜辺に来てるよぉ」

 

「了解した」

 

「ふぅ、後は丸く収まると良いね?」

 

「なのですっ!」

 

それから五分後、響のいる浜辺に遂に金剛が姿を現した。

 

「ヘーイ!ヒビキィー!」

 

「金剛......さん?」

 

響は金剛を見つけると直ぐに立ち上がり逃げ出そうとするが......

 

「響、私の事を嫌いになったのか?」

 

「長門さん!?」

 

響が慌てて立ち止まり声の方へ振り向くがそこには金剛一人しか居なかった。

 

「ソーリー響、ワタシの声じゃ止まってくれなさそうでしたので長門の声を借りまシタ」

 

「なんで......そんなこと......を!」

 

「どうしても話を聞いて欲しかったからデース!」

 

「話......?嫌だ、今は誰とも話したくないんだ」

 

「まずはワタシの所為で長門を巻き込み、そして救えなかった事を謝ります」

 

金剛はそう言って地面に膝を着き手を着き、そして頭を着けて響へ向かって謝罪した。

 

「本当にごめんなさい、響」

 

「な、何したって無駄だ!......どうせ長門さんは帰ってこないんだ......」

 

響は金剛に背中を向けて俯いている。

 

「その事だけど......ワタシに一つだけ当てがありマース」

 

金剛は頭を砂浜につけたまま響へ伝えた。

 

「なんだって!?それはどういうことだい!」

 

「DRCS......次元間遠隔司令制御機構というのは知っていますか?」

 

「聞いたことはある。確か異世界にいるとされている司令官の資質をもつ人間に艦隊の運用を任せる為に作られた機械だったはず。」

 

「ザッツライト、そしてその異世界とこの世界を繋ごうとしてるクレイジーな工作艦が居るのデース」

 

「まさかここの......!?」

 

「ノー、残念ながらここにいるアカシではありまセーン」

 

「じゃあ一体......はっ!だ、だからなんだと言うんだい!」

 

気付かぬ内に話に惹き付けられていた響は必死に取り繕おうと距離をとった。

 

「それがですね、彼女の鎮守府で艦娘と異世界に居る司令官の魂を入れ替えた事があるという噂があるんデース」

 

「そ、そう......世界を繋ごうとしてるならそれくらいしてるんじゃないか、私には関係無いけれど」

 

「本当にそうですか?魂を入れ替えたのデスヨ?」

 

金剛の言っている事が解らない響は訝しげに金剛を睨み付けるが、金剛は構わずに続ける。

 

「ワタシはおもうのデース、魂を別の器に移せるのならミスター門長から長門の魂を取り出せるのではないかと」

 

「なっ!そんなこと......改修された艦娘は元に戻せないって......」

 

「そう、通常の艦娘は改修された時点で意識などは対象の魂に融けてしまう......しかし長門にはまだ意識が残っているネー」

 

「そんな......ありえない」

 

「本当にそう思っていますか?ユーを連れ出したのがミスターだけの意思だと」

 

「そうに決まっている、長門さんはあんなことしない!」

 

「ユーを敵と見做した長門を沈めたのも?」

 

「暴力的なあいつがしそうな事じゃないかっ!」

 

「そうですね......ですが彼の行動の全てはヒビキ、貴女を護る為のモノなのですよ?」

 

金剛はゆっくりと立ち上がり響に近づいていく。

 

「残念ながらミスター門長の言うとおりあの長門は宇和の命令を聞くように指示を受けていたからどんなに時間を置いても響の思いは届かなかったネ......」

 

「......でもっ!元はといえばあいつが私を連れて逃げなければこんなことにならなかったじゃないかっ!」

 

「その誘拐がミスター門長だけの意思なら尤もなクエスチョンデース」

 

金剛は少しだけ言うのを躊躇ったがここで響に受け止めて貰えなければ自分がここに居られなくなるだけでなく長門を救うことすら出来なくなってしまう。

この一時だけは心を鬼にして響に真実を伝えた。

 

「ですが響、ユーは本来六年前に解体されているはずだったのデース」

 

「な...!?な、なにを馬鹿なことを......」

 

「確かに理由はフールな事ネー。宇和少将......彼は元敵国を極端に嫌っていた。その為彼の鎮守府に他国の言葉を使う艦娘は居なかった......ノン、居られなかったネー。あそこの霧島なんかマイクチェックが出来ないって嘆いていたヨー」

 

事実金剛の言うように宇和少将の前で他国の言葉を使う艦娘は練度に関係なく解体されていっていた。

 

「思い......出した。初めて司令官に会った日の事」

 

ーー長門っ!この敵国の艦を今すぐ解体しろ!ーー

 

「そうだ......あの時長門さんが......」

 

ーーイエッサー!おっと済まない、これでは私も解体しなければな?ーー

 

ーーきっさまぁ..........いいだろう!()()()()()()のお前だってうっかりはあるのだ、今回は聞かなかった事にしてやる......が、次はないと思え!ーー

 

ーー了解した。さあ戻ろう響ーー

 

「長門さんが護ってくれたから......私..」

 

「そう、だけど宇和だって決して無能じゃない......入れ替わった事には気付かずとも長門がユーに執着しなくなった事には気づき始めていまシタ」

 

宇和は長門を試すために響の話題をさりげなく出し反応を窺っていたという。

 

「そしてあの日、図らずも響は解体前の待機中だったのデース」

 

「そんな......嘘だ......あれから長門さんに言われてから一回も司令官には言っていないのに」

 

「敵国の艦を自分の鎮守府に置いておきたくなかったのでショウ」

 

「そんな話信じられない!信じられるわけがない......それならなんで私を連れ戻そうとしたんだ!」

 

「それは恐らく周りへの見栄と艦娘達への説得材料デスネ」

 

「うそだ......!嘘だ......」

 

「全てノンフィクションネー。だからこそ長門を救うチャンスがあるんデース」

 

「長門......」

 

「タウイタウイ泊地第六鎮守府......そこのアカシと協力すればきっと長門を救いだす事が出来マース」

 

金剛は響の前で立ち止まり右手を差し出す。

 

「ワタシを長門を救いだす手段として使ってくれまセンカ?」

 

しかし、響は握手には応じずに金剛の隣を通り過ぎていく。

 

「ワタシは信じない......本当に長門さんを助けるまでは金剛さんを認めないしその右手にも応じないよ」

 

「オーケー......今はそれでノープロブレムデース。見ててくださいネー!必ず長門を救って見せマースッ!」

 

金剛の決意を背中で聞きながら響は執務室へと戻っていった。




明石「ふぇっくしゅん!!」

夕張「明石さん大丈夫ですか?」

明石「ん?大丈夫、大丈夫!」

夕張「無理はしないで下さいよ?明石さんに倒れられたら作業が進みませんし何よりワタシがヴェルに怒られてしまいます......」

明石「本当に大丈夫よ。きっと誰かが噂してただけだから」

夕張「提督かしら?全くもう......」


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第二十ニ番

水無月を手に入れた!
俺の気力が大破しました。イベントから撤退します。


 くそっ.....なんだここは......海の上みたいだが真っ白で何も見えねぇ!

 

「はぁ......ったく、ここは一体何処なんだよ......」

 

取り敢えず真っ直ぐ行けば何か見えてくるだろうと進み始める事にした。

 

「つーか何も持ってねえのに何で浮いてんだ俺は」

 

「それはここが意識の海だからだ」

 

不意に後ろから俺の問いに答える声が聞こえた。俺は声のする方へ目を凝らすと少しずつ見覚えのある奴の姿が映し出されていった。

 

「てめぇ......また現れやがったか。」

 

「まあ落ち着け、私は争うつもりはない」

 

反射的に身構えるが奴は構える素振りも見せずにこっちへ向かってきやがる。

 

「そんな言葉を信じる訳ねぇだろぉ!」

 

俺は間合いに入った奴へと殴り掛かるが片手で呆気なく止められてしまった。

 

「なん......だとっ......」

 

「そんなに驚く事もないだろう、これが本来の艦娘と人間の差なのだ」

 

「なにいってんだ......まだ終わってねぇ!」

 

俺は奴の足に強烈なローキックをお見舞いする。

 

「ぐぅっ......!」

 

しかし、痛みに顔を歪ませたのは奴では無く俺の方だった。

 

「なんだこれは......鉄の塊を蹴ってるみたいじゃねえか」

 

「ふむ、中々理解が早いじゃないか。我等艦娘は艦艇の魂だ、だからそもそも体の造りからして人間とは違うのだ」

 

「......つまり俺が人間に戻ったってことか?」

 

「私は最初に言ったぞ?ここは意識の海だとな」

 

海っつーのはよく分かんねえが......つまりは俺の夢の中ってことか?

 

「あぁ.....なんとなく解った。んで?てめぇは何で出てきたんだ」

 

「そうだな、先にお前の勘違いを訂正しておこう。私はお前が沈めた長門とは別の長門だ」

 

「あ?それならもっと関係無ぇだろ」

 

「いや、お前と私は無関係じゃない。何故ならお前の中に私は居るのだからな」

 

「いや、出てけよ」

 

なんだそれ気持ちわりぃ......いや、寧ろ俺が響の中に......っていつになったらそこまでたどり着けるんだ!

 

「私だって好きで居るわけじゃないっ。出ていけるのなら出ていくさ」

 

「あ?なんだって?」

 

別の事考えてて何て言ってたか全然聞いてなかったわ。

長門は溜め息をつきながら説明を始めた。

 

「人の話はちゃんと聞け......いいか、私はお前の改修素材にされたのだ。大和型二番艦武蔵と共にな」

 

「私を呼んだか?」

 

すると前からゆっくりと褐色の駄乳が俺の方へ近付いてきた。

 

「む......今失礼な事を考えて居なかったか?」

 

「いや、別に」

 

「そうか、ならばいい。私は武蔵、こうして話すのは初めてだな」

 

「おう......で、改修されたお前らが何のようだ?」

 

「結論を急いでも良いことは無いぜ?それより折角三人集まったんだ、こいつを飲みながら語り合おうじゃないか」

 

すると武蔵は何処からか純米大吟醸とラベルの巻かれた一升瓶を持ち出してきた。

 

「残念ながらそんな時間はない、単刀直入に言うぞ。お前はこのままでは死ぬ」

 

「............はぁ?」

 

いってる意味が理解出来ずに純米大吟醸を見つめる俺に長門が問い掛ける。

 

「お前はあのとき何をしたか覚えてるか?」

 

「あのとき?ああ......吹雪と暁を助けようとした」

 

「何からだ?」

 

「宇和」

 

「違うっ、そっちじゃない!」

 

宇和じゃない......?だったら......

 

「よく解らん深海棲艦の放った噴進砲か?」

 

「そうだ、あれの弾頭にはかつて私が最期に受けたものを遥かに凌駕する破壊兵器が搭載されていた。それによりお前の体は見るも無惨な姿となっていたのだ」

 

なるほど......ってそれだと二人がやべぇじゃねぇか!

 

「おい!そんなことより暁達は大丈夫なのか!?」

 

「ふっ、自分が死ぬ直前なのにお前という奴は......大丈夫だ、暁達はお前のお陰で奇跡的に無事だ」

 

「ま、我々のお陰でもあるんだがな」

 

「そうか......ならよかった」

 

「ああ、だが状況としては全く良くない、お前はこのままではあと数時間も持たんぞ?」

 

そうか......響に一切好かれなかったのは心残りだがあいつ等を守って死ねるのならそれも本望......か。

 

「覚悟を決めているところ悪いが、私としては困るのでな。私の魂、お前に少しくれてやろう」

 

「困る?改修素材は確か艦娘が沈んだ時に昇天して再びこの世界に降りてくると授業で聞いたような......」

 

「授業......な、まあ確かにそうだ。だがその時に前の記憶などは全て失われてしまうのだ」

 

「なるほど......でもこんな夢の中でしか話せないのに記憶を失うのは嫌なのか」

 

「ああ、この体なら響を見守ることは出来るからな」

 

そういうことか、まあその響にはこれでもかって位嫌われてるがな。

 

「後はお前に対する謝罪の気持ちだ、済まなかったな門長」

 

「謝罪?素材にされてるしお前らも被害者じゃねぇのか?」

 

「そこではない、今までの自身の行動で不審に思った事があるだろう?」

 

不審に......覚えてねぇな......なんかあったか?

俺の様子を見てなぜか長門が肩を落としていた。

 

「......覚えていないのか......まあいい、まず響を拐った時、そして金剛と明石に対して。最後にあっちの長門を沈めた時......どうだ、思い当たるだろう?」

 

「ん~......あぁ、確かに金剛と明石をあそこまでボコった理由は解らないままだったな」

 

「他は疑問に思わなかったのか?」

 

長門は呆気に取られた様子でこちらへ訊ねてくるが俺は首を横にふる。

 

「いや、他は自分の意思で決めたことだが?」

 

「なっ、なんだそれは......私の謝罪を返してくれ......」

 

「ふふっ、良かったな長門よ?あいつとお前さんは中々に意見が合うようだ」

 

「はぁ......なんだこの複雑な心境は......」

 

「それが恋って奴なんじゃないか?」

 

「茶化すな武蔵!全く......兎に角お前をここで死なせはしない。手を貸せ武蔵」

 

「良いぜ?お前らと居ると楽しめそうだしな」

 

長門と武蔵が俺の手を取ると二人の体は徐々に光に包まれていく。

そうして辛うじて人形だと分かるくらいに輝いた辺りでその光は形を崩し俺の周りを包んでいった......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めると俺は見慣れない天井を見上げていた。

現状を確認するために俺は周囲を見渡す。

 

「ここは......何処だ?小さな小屋みたいだな」

 

次に自身の状況を確認する。

見るも無惨な姿つってたが全身包帯に巻かれてて良く解らねぇな。

 

「まあ全身包帯巻きってだけで充分すぎる位重症か......って、ん?」

 

扉が開く音に気付き、音のする方へ振り向くと赤いオーラを纏った深海棲艦の少女と目があった。

 

「オ、生キテタミタイダヨフラヲ?」

 

「待ッテエリレ、ダカラソッチニイッチャ駄目ダッテイッテ......」

 

俺が少女に見とれていると後から黄色いオーラを纏った空母がやって来た。

つーか見とれてる場合じゃねぇな、今攻撃されたら流石にやべぇんじゃねぇか?

............取り敢えずなにかしら返事はしとくか。

 

「お、おう。生きてるぜ?」

 

「ホラ、生キテルッテイッテルヨ?」

 

「......二人ヲ呼ンデクル、エリレハ見張ッテテ」

 

「オッケー!」

 

空母の方が出ていったので俺は少女の観察を続ける。

それにしてもこの少女は一体何者なんだ......エリレ?とか言っていたが駆逐艦だろうか。いやしかし、深海の駆逐艦はまんま化け物みたいな姿だったしな......

俺がまじまじと見つめていると不思議そうに首を傾げて訊ねてきた。

 

「ナンダ?オレガ珍シイノカ?」

 

「ん?ああそうだな、ほっぽちゃんの他にもこんな可愛い深海棲艦が居ることに驚いてるとこだ」

 

「カワイイ?オレガ恐クナイノカ?」

 

「恐い?何を恐がる必要があるんだ。」

 

「オマエモオレヲ恐いガラナイ、フラヲト一緒ダ。ジャア友達ダナ!」

 

そう言ってエリレは小さくて柔らかな手で俺の両手を握りしめ激しく上下に振り回した。

 

「トッモダチ!トッモダチッ!」

 

「はっはっはっ、嬉しいのは解ったがそんなに振り回したら俺の手が取れてしま......」

 

「アッ......」

 

............取れた。んでもって俺の腕はロケットパンチの如し勢いで天井をぶち破って外の世界へと飛び去って行った。

 

「何ですか今のは......ってきゃああぁぁぁっ!!!」

 

「どうしたのよ吹雪!......っぴゃあぁっ!!?」

 

部屋に入ってきた吹雪と暁が俺の姿を見て次々と悲鳴を上げる。

 

「なあ......人を見てその反応は流石に傷付くぞ」

 

「だだだだってうううでが......」

 

「べべべつに狼狽えてなんかいにゃ....いないわっ!」

 

うむ、可愛いから許そう。

 

「それより腕を探しに行かないとな」

 

「アッ!オレガ行ッテクル!」

 

エリレが右手を上げて名乗り出てくれた。

 

「それはありがたいが......良いのか?」

 

「イイノイイノ!オレガ飛バシチャッタンダモン」

 

「ううむ......じゃあお言葉に......」

 

「ソノ必要ハナイワ、落トシ物ハコレデショ?」

 

突然扉の向こうから放り投げられる俺の腕を俺は何とか身体で受け止めた。

 

「おい、俺の腕を粗末に扱うんじゃねぇよ空母」

 

「何?拾ッテキテアゲタノニオ礼モ言ワナイノ?」

 

「ああ?俺はそんな渡し方があるかっつってんだよ!」

 

「此方ハ小屋ヲ壊サレテルンダカラコレクライ許容シナサイ、器ガ小サクミエルワ」

 

「ハイハイ!二人トモストーップ!」

 

睨み合う俺と空母の間にエリレが割って入った。

 

「小屋ヲ壊シタノハオレナンダカラトナガニ当タッチャ駄目ダヨフラヲッ!」

 

「ウ......ダケド......」

 

「ダケドジャナイヨッ!」

 

「ムゥ............スマナイ」

 

「ソレニトナガモダヨッ!フラヲガ持ッテキテクレタンダカラマズハアリガトウッテ言ワナキャ!」

 

「そ......そうだな。悪かった」

 

「オレジャナクテフラヲニイワナキャ。ダカラホラ、仲直リノ握手ッ!」

 

......なんかデジャヴを感じるな。しかし、今はあの時とは違う。断るための正当な理由がここにある!

 

「済まないなエリレ、仲直りの握手をしようにも今は腕が......」

 

だが、俺の意思とは無関係に俺の腕は空母の元へと向かって行く。

 

「ハイッ!」

 

「ハ......イ?」

 

う~ん......深海棲艦と比喩でも何でもない俺の右腕が握手を交わしている......

 

「なあエリレ......これはどういう儀式だ?」

 

理解が全く追い付かない俺は思わずエリレに疑問を投げ掛けていた。

しかし、エリレは一点の曇りの無い瞳で俺を見つめながらはっきりと答えた。

 

「見テ分カルデショ?仲直リノ握手ダヨッ!」

 

............まあ、可愛いから良いか。

 

「マア、ソレハイイトシテ。オマエ達ハ一体何者ナノ?アソコデナニヲシテイタノ?」

 

空母は頭の触手でエリレを撫でながら俺達に問い掛けてきた。

ああ......そんなことより気持ち良さそうに顔を綻ばせるエリレが可愛い過ぎる。

 

「わ......私達は......」

 

「ヲ級さん、場所と資材を提供して下さった事には感謝してます。ですが深海棲艦である貴女に私達の情報を渡すわけには行きません」

 

「ソウ、ジャア一ツダケ教エテ。オマエ達ノ仲間デアルコノ男ハ一体何者ナノ?」

 

「それは......私達も分かりません。彼が一体何者なのか」

 

「あいつとは仲間なんかじゃないわっ!借りが出来たから仕方無く助けただけなんだから!」

 

ん?今のは聞き捨てならんなあ?

 

「暁ぃ、俺等は今は亡き少将殿が認めたれっきとした仲間だろぉ?」

 

「勝手なこと言わないでよっ!たとえ司令官が言ったとしても暁は認めないんだからぁ!」

 

「まあそんな堅いこと言うなって、これから一緒に暮らして行くんだからよ?」

 

「冗談じゃ無いわよっ!だったらここで暮らして行くわ!」

 

そうか......その手があったか......

 

「いや、しかし......こっちには響が居るんだぞ?」

 

「っ......最っ低ね......響を人質に取るつもり?」

 

「あ、いや......そうじゃないんだが」

 

「分かったわよ......行けば良いんでしょ。その代わり、響に酷いことしたら赦さないんだから!」

 

「お、おう......」

 

ドウシテコウナッタ......

 

「ソレデ、二人知ラナイトイッテルケド......オマエハ一体何者ナンダ?」

 

「ああ?俺はここに資材を運ぶ仕事を受けた艦娘の様なものだ」

 

「ココニ?......ソウカ、彼女達ノ仲間カ」

 

「つーかお前等こそ何でこんな所に籠ってんだ?」

 

「ン?オレ達ハネ、ココニ隠レテルンダヨ!」

 

「ハァ............ソレハイワナイデッテ言ッタデショ?」

 

「アレ?ソウダッケ?」

 

「隠れてるって艦娘達からか?」

 

「......ソンナトコロ」

 

まあ訳ありなんだろうな......俺には関係無いが。いや、これはエリレを連れて行けるチャンスか!?

 

「エリレ!俺の所に来ないか?誰から隠れてるか知らないが俺が護ってやる」

 

「ホントニ!?フラヲ、トナガガ護ッテクレルッテサッ!」

 

「......遠慮スル」

 

空母の周りをはしゃぎ回るエリレを空母は触手で落ち着かせながら俺の申し出を断る。

だが俺は一歩も引かずに言葉を返す。

 

「お前に聞いてンじゃねぇよ、俺はエリレに聞いてんだ」

 

「ソウカ......エリレ、私ハ此所ヲ離レルツモリハナイガオマエハドウスル?」

 

「エー......フラヲガココニ残ルナラオレモ残ル」

 

ま......負けた。これが付き合いの長さの差だというのか......

 

「まあ、当然よね!」

 

「そりゃあ、まあ......」

 

「コレガ答エヨ......修復ガ済ンダラ帰リナサイ」

 

あっのくそ空母、さっきまで仏頂面だったのにあからさまにどや顔しやがってぇ......

 

「デモサ、ドウヤッテトナガヲ直スノ?此処ニ修復施設ナンテ無イヨ?」

 

「「ア......」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




運命の歯車が今ひとりでに回り始める。
私の想像を越えたその先へ......


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第二十三番

気が付いたらもう九月......先月末は夏風邪でぶっ倒れていたせいで続きが書けませんでしたが大分回復したのでペースを戻していければと思います。


 「...........帰るか」

 

「死ニタイノナラ止メナイケレド」

 

「セメテ腕ガ生エテクルマデココニ居タラ?」

 

「気持ちは嬉しいが残念な事に俺の体は緑の生命体の様に再生はしないみたいなんだ」

 

心配そうに見上げるエリレの頭を撫でてやれないのが非常に残念だが、あっちに戻らねばこの腕は直りそうにも無いしな......

 

「腕を付ける事は出来ますよ?」

 

不意に聞こえてきたこの懐かしい声に思わず振り向くと一人の妖精が空間を漂っていた。

 

「生きていたのかっ!いや、それよりも今の話は本当か!?」

 

「それよりもって言いましたね......まあ良いですけど。で、腕でしたっけ?付けれますよ」

 

「頼むっ!今すぐ頼む!」

 

「あらあら~?人に物を頼むならもっと誠意を見せてくれませんとねぇ」

 

「誠意......切......腹......か?」

 

腕を付けるために腹を切る......そうか、これが等価交換か!

 

「何を閃いたのか知りませんがまさかボケで返されるとは思いませんでしたよ」

 

「なんだ......違うのか」

 

「はぁ......もういいですよ、腕を付けるんで横になってて下さい」

 

「おう......頼んだ」

 

妖精に促されるままに横になると直ぐ様作業が始められた。

 

「ま、こんなものですかね?」

 

作業開始から三十分後、俺の腕は遂に主のもとへ帰ってきたのだが......

 

「指しか動かねぇ......どうなってやがんだこれはぁ!」

 

「何って文字どおり応急措置ですよ、設備がありませんからね」

 

なんてこった......これじゃあエリレを撫でられないじゃないか!

 

「一応指は動くので引き金を引くことは出来ますよ」

 

「そうじゃない......そうじゃないんだ............はぁ」

 

「ごちゃごちゃうるさいですね、良いから帰りますよ」

 

仕方無い、今回は退こう......だが......またくるぞ!

 

「また会おうなエリレ!」

 

「ワカッタ、待ッテル!」

 

よしっ、今回はこの言葉で我慢しよう!

 

「よし、帰るぞ吹雪、暁!」

 

「え、あ......はい」

 

「ちょっと、私に命令しないでよっ!」

 

「あーはいはい、じゃあ一緒に行きましょうね暁ちゃん」

 

「お子さま扱いしないでよもうっ!」

 

俺は暁をあやしながら響の待つ基地を目指すのであった。

 

 

 

「ネェ......ナンデ()()()ヲ会ワセチャイケナカッタノ?」

 

「他ノ二人ハトモカク、アノ門長トイウ男ヲ信ジルニハ些カ問題ガアリスギル......」

 

「デモオレノ友達ダヨ?」

 

「貴女ガ彼ヲ友達ダトイウノナラ否定ハシナイ。タダ、私ガ彼ヲ疑ワナケレバキットヨクナイ結果ニナッテシマウ......貴女ニトッテモ......彼ニトッテモ」

 

「フ~ン......ナンダカ解ンナイケドワカッタ。マタ会エルトイイネ!」

 

「エエ............ソウネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地への帰投途中、俺等は深海棲艦の艦隊と遭遇していた。

 

「ソナーに感あり、潜水艦来ます!」

 

「た、対潜爆雷用意!」

 

「近づいて............こない?」

 

暫く待っていると突然ニ隻の潜水艦が海面へと浮上してきた。

 

「え?い、いまよっ!!戦闘開始っ!」

 

「私がやっつけちゃうんだからっ!」

 

あれはもしや......?

 

「待ったぁっ!!!」

 

俺は戦闘態勢に入った二人を呼び止める。

 

「な......なによっ、びっくりするじゃないっ!」

 

「敵を庇うつもりですか......」

 

「ちょっと待て、あれは俺の知り合いだ」

 

「はぁっ!?何を言ってるのよ!」

 

「......あの時一緒に居た潜水艦ですか......」

 

「理解が早くて助かる。安心しろ、俺の仲間である二人は奴等の敵じゃないから」

 

「信じられませんね、私と貴方だって敵同士なんですから」

 

「......吹雪、もしかして怒ってる?」

 

「いえ、憎んでいます......貴方さえ居なければ私は仲間も司令官も一度に失う事は無かったんですから」

 

まあ、そりゃそうだよなぁ......暁だってあの誤解が有ろうが無かろうが俺を恨む理由は充分にあるだろうし......

 

「ですが......身体を張って助けてくれた事には感謝しています。ですので信じてはいませんが私達は貴方に従いましょう」

 

「う......確かに助かるが無理に俺に従わなくても良いぞ?」

 

「私は響を助け出すために付いてきてるだけなんだからあんたに従うつもりなんて無いわっ!」

 

「お、おう」

 

「ドウシタトナガ?ワレワレノコトヲワスレテシマッタノカ。トイッテモミタメデハクベツガツカナイカ」

 

「ワレワレハオマエヲムコウノシママデアンナイシタソキュウダ」

 

「ああ、大丈夫だ。ちょっと二人に説明してたところだ」

 

俺はソ級に手を振り返して答えた。

 

「ナルホド、ソノフタリハコノマエオワレテタクチクカンダナ?」

 

「暁よっ!」

 

「............」

 

「オオコワイコワイ、ソンナニニラマナクテモオマエタチニキガイヲクワエルツモリハナイ」

 

ソ級は睨みつける吹雪を宥めるように両手を上げて吹雪達に掌を見せていた。

 

「んで?お前らはどうしたんだこんな所で」

 

「アア、オマエガアノシマニイルコトガワカッタカラヨビモドシニキタノダ」

 

「あの島?ああ、エリレと空母が居た所か」

 

「ヤハリデアッテイタノカ......ソノコトデヒメサマカラハナシガアル。ツイテコイ」

 

「話?おうわかった」

 

俺はソ級の誘導に従って港湾棲姫の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 「マズハ生還オメデトウト祝辞ヲ述ベテオコウカシラ」

 

「響と結ばれてもいねぇのにそんな簡単にくたばってたまるかってんだ」

 

「流石ネ、彼女達ニ出逢ッテ生キ残ッタ艦娘ハアナタ達ガ初メテジャナイカシラ?」

 

「カエレッ!カエレッ!」

 

「ああ、そういやソ級が神のような存在とか言っていたあいつらは一体何者なんだ?」

 

俺は両腕を揺らめかせたままほっぽちゃんを追い掛けながら港湾に聞いてみた。

 

「......正直ニ言エバ私達ニモ......イエ、コノ世界ニ彼女ノ正体ヲ知ッテイル存在ガ居ルトハ思エナイワ」

 

「なるほどな、だから神とか言って崇めているのか」

 

「エエ......タダ、恐ラク彼女達ト私達ハ相容レルコトナイデショウ。彼女達ハ世界変革スラ容易ク行エルチカラヲ持チナガラ現状ノ維持ヲ望ンデイル」

 

「ふ~ん、でもそれだといつかあいつ等と相対するんじゃねぇか?」

 

「ソウネ......戦ッテモマズ間違イナク勝テナイト思ウワ。ダカラ私達ハ彼女達トノ衝突ヲ避ケル方法ヲ今ハ模索シテイルノヨ」

 

「なるほどね、そしてあの二人に希望を見出すだけの何かがあって匿っていると言った所かしら?」

 

「アナタハイッタイ......」

 

「お、こいつに会うのは初めてだったか?こいつは妖精でうちの砲雷長をやってる」

 

「ども~!砲雷長で~す」

 

「イヤ、ソウイウコトジャ......マアイイワ。兎ニ角彼女達ノ存在ヲ知ッテシマッタ以上貴方達ヲ海軍ヤ他ノ組織ト関係ヲ持タセル訳ニハ行カナクナッタワ......残念ダケド副業ハ諦メテ頂戴」

 

「そうか......まあ俺としては資材の供給が有れば特に問題はない」

 

「ソウイッテクレルト助カルワ、資材ニツイテハ気ニシナクテイイワ」

 

「お!マジでか!?」

 

「いやぁ、姫さんも気前が良いですねぇ。良かったじゃないですか門長さん、基地の深刻な問題が解決しましたよ」

 

「エ......?ネェル級、今トテモ嫌ナ予感ガシタノダケレド気ノセイカシラ?」

 

「ザンネンナガラドウカンデスヒメサマ......」

 

「んじゃ、交渉成立と言うことで良いな?そしたらこの身体を治してくっから仕事の時は呼んでくれ」

 

「エ、エエ......ワカッタワ」

 

よっしゃ!今三番目位に深刻な問題が解決したところで二番目に深刻なこの問題を何とかしねぇとな。

俺はほっぽちゃんに腕を大きくブン回して別れの挨拶を済ませると吹雪達を連れて俺の基地を目指した。

 

 

 




皆様も香辛料(サドンデスソース)には注意しましょう。体力がごっそり持っていかれますぜ!


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第二十四番

分量を見極めれば意外と悪くない事が解ったのでサドンデスソース料理を作ってみようと思います!
加減を誤った時は......チーン


 ほっぽちゃん達と別れてから五時間。俺は漸く拠点へと帰ってきた。

 

「なんか随分懐かしいな、いつぶり位だろうな」

 

「よぉ変態、二週間も何処に......って何で大破してんだよ。資材を枯渇させんなって言っただろうが」

 

「うるせぇ、これは名誉の負傷なんだよ」

 

吹雪に感謝されたしな!信用は無いが............

しかし二週間か、随分と意識を失っていたようだな。

 

「そうかよ、何でも良いけどさっさと入渠してこいよ」

 

まあそうだな。先にー響だーそうそう響に会いに行くとするか。

 

「待てよ変態、ドックはそっちじゃねぇぞ」

 

「何を言っている、俺は響に会いに行くんだ」

 

「治してからでも良いじゃねぇか」

 

「馬鹿者っ!今を逃したら更に二週間も我慢しなければならないではないか!」

 

「お、おうそうか。別にアタシはどっちでもかまわねぇけど......」

 

「そうだ、暁達を先にドックに連れてってやってくれ」

 

「わかった、じゃあ二人はドックまで案内するぜ」

 

「あ、ありがとう」

 

「宜しくお願いします」

 

二人を摩耶に任せて俺は真っ直ぐに執務室へと急いだ。

 

「響っ!帰ってきたぞぉっ!」

 

「ひっ!?」

 

俺が扉を突き破ると響は机の下へ引き込もってしまった。

 

「随分と派手にやられているな、早く直さなくて良いのか?」

 

「ああ、だがその前に響に言いたいことがあるのだ」

 

「響に何か用事?てか本当に大丈夫?」

 

「どうしたのです?」

 

「問題ないさ......響、そのままで良いから聞いてくれ。お前に辛い思いを強いてしまって本当に済まない、許してくれとは言わないが出来る限りの償いはする。だから......これからも私にお前を護らせてくれ」

 

「............」

 

「それだけだ、じゃあ俺は風呂入ってくるわ。四人ともまたな!」

 

「どうしたんだ急に?」

 

「さあ?気持ちを新たに頑張るぞって事じゃないかな?」

 

伝えるだけ伝えると俺は執務室を後に今度こそドックへと足を運んだ。

 

「言いたいことは全部言ったのか?」

 

ーーああ、わざわざ済まなかったなーー

 

「他でもねぇ同志の頼みだ、別に構わねぇよ」

 

ーー何が同志だ、お前と一緒にするな。私の気持ちはもっと純粋なのだ!ーー

 

「ああそうかよ、俺はただ至極健全な一般男児なだけだ......つか水を差すようで悪いが響はお前の経緯を知らねぇんだろ?」

 

ーーそうだな、それならそれで構わない。私が本来の姿で響と会えない以上私の言葉だと伝える意味は無いからなーー

 

「そうか、まあ響は俺が護り続けてやるから任せとけ」

 

ーー違うな、我々で護るのだーー

 

「まあそう言うことになるのか」

 

ーま、とにかく今は風呂に入ってさっさと傷を癒そうぜ?ー

 

そういや武蔵も居たのか、まあ随分と喧しくなったもんだ......

工廠にいる明石に一声掛けてから俺の長い長い長風呂が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

一方(門長)の去った執務室ではちびっこ会議が開かれていた。

 

「なあ竹よ、先程の奴はあからさまにおかしくなかったか?」

 

「う~ん......言われてみれば雰囲気違った気がしなくもないね」

 

「もしかして......もう気づいているのでしょうか」

 

「......」

 

「響ちゃんはどう思いますか?」

 

「えっ......何が?」

 

独り考えに耽っていた響は電の問い掛けにより意識を一気に引き戻された所であった。

 

「お前が門長と長門の両方に面識があるんだ、何か気づいたことはないか?」

 

「そうだ......ね。様子はおかしかったかも知れないけど長門さんとは違う......」

 

とは言ったものの響の中では様々な感情が荒波の様にせめぎあっていた。

 

「違う......違うんだ......」

 

(あいつはあいつだ、長門さんじゃない......筈なのに金剛さんが余計なことを言うからもしかしたら何て考えてしまう......)

 

はっきりした答えが見つからず堂々巡りとなった思考を止める様に電は響を後ろから強く抱き締める。

 

「響ちゃん......結論を急ぐ必要は無いのです。それこそ長門さんに再び会える日まで先伸ばしにすれば良いのです。響ちゃんが自分の中に答えが見つかるまで私が護るのです」

 

「電......ありがとう、もう少しゆっくり考えて見るよ」

 

「私達だって力になるぞ?」

 

「私もいるからねっ!今は兎に角ご飯を食べに行こうよ。摩耶さんが待ってるよ」

 

「お、もうそんな時間か。摩耶に迷惑を掛けてはいかんな」

 

「ほら、響ちゃんも急ぐのです!」

 

「あ、うん」

 

電に手を引かれ、響は摩耶の待つ食堂へと掛けていった。

 

 




前話に入れれば良かったと絶賛後悔中......
長くなったり短くなったりと波の激しい作品ですんませんorz
次話はなるべく早めに上げようと現在進行形で妄想中です!


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第二十五番

金が無いのに、金が無いのにっ!
この世界の有象無象が俺を誘惑するだぁ!!
リスポーンまであと六日......


 「防衛に当たっていた横須賀第二、第三鎮守府主力艦隊壊滅。既に第一鎮守府正面まで迫ってきています」

 

「早すぎる......大量破壊兵器か」

 

「いえ......それが......」

 

普段からどんな報告でも淡々と話す大淀が珍しく口篭っていた。

 

「どうした?」

 

「それが、敵の誘導噴進砲により二十四艦ほぼ同時に心臓部(バイタルパート)に直撃、たった一斉射で戦闘か終了しました」

 

「そうか......正に規格外の化物だな」

 

「現在此方へ進撃中です。如何致しましょうか」

 

「戦闘態勢解除、奴らを執務室へ招待したまえ」

 

そう言いながら阿部はゆっくりと椅子に腰掛けた。

 

「し、しかし......それでは元帥が」

 

「なあに、抵抗したところで今の私達には奴らを止められないのは明らかだろう」

 

「それは......了解しました」

 

大淀は待機中の全ての艦娘に戦闘終了を言い渡す。

 

「そして、現時点で対象に一番近いものは武装解除し奴らを執務室へ案内せよ」

 

「よし、後は奴らが話し合いに応じてくれるかどうかだな」

 

待つこと三十分、小さなノックが執務室に鳴り渡った。

 

「陽炎型駆逐艦ニ番艦不知火、対象をお連れしました」

 

「ご苦労、通したまえ」

 

不知火が扉を開けると三体の深海棲艦が入ってきた。

 

「ゴ招待預リ光栄ヨ元帥?」

 

「チヨットシタ歓迎モ眠気覚マシ位ニハナッタワ」

 

「サア、タノシイ話シ合イデモ始メマショウカ」

 

「はっはっは、あれで眠気覚まし程度とは参ったね。それで、なんのようだい?」

 

阿部は深海棲艦の放つ圧倒的な気迫に屈することなく受け答えた。

 

「アラァ~?トボケルツモリカシラ」

 

「そんなつもりはないさ。ただね、この立場までくると思い当たる節が多すぎて検討がつかないのだよ」

 

「アッハハ!面白イワ!ワカッタ、私達ガ何者ナノカ。ソシテココニ来タ理由ヲ話シテアゲル」

 

「私ハミッドウェー。ト言ッテモ人間ガ造リ出シタ艦艇トハ関係ナイワ、言ウナレバミッドウェー海底棲姫トイッタ所カシラ?」

 

蒼白い肌に足首まで流れるストレートの黒髪が印象的な姫は答えた。

 

「ジャア私ハソロモン海底棲姫ッテコトネ」

 

「ソシタラ私ハバミューダ海底棲姫ニナルノ?」

 

続いて銀髪ショートのソロモン、銀髪セミロングで龍田の様に頭の上に三角形の何かが浮遊しているバミューダが名乗った。

 

「ミッドウェー......ソロモン......バミューダ......一体どういう事だ?」

 

「解ラナイカシラ、私達ハソレゾレノ海域デ生マレタイワバ艦艇ノ集合体ノヨウナモノ」

 

「ソシテ私達ノ目的ハ恒久的ナ現状ノ維持。ソノ均衡ヲ崩ソウトシタ人類ニ罰ヲ与エニキタ」

 

「......なぜそんなことを?戦争を膠着させることに何の意味があるのだ」

 

確かにどちらかが勝っても争いが全く無くなるとは言わないが今より被害を抑えられる筈......

そう考えていた阿部はやはり人間であり敗者の立場までは考えられていなかった。否、考えようとはしなかった。

そんな阿部に向かってバミューダは見下した視線を向けながら尋ねた。

 

 

「所詮生物、同胞ノ事シカ守ロウト考エナイ。全ヲ守ロウトハ思ワナイノ?」

 

「なに?相手の種族を護るなどそれこそ夢物語だ」

 

「ソウネ、ダカラ現状ヲ維持スルンジャナイ」

 

「無駄だ、海を塞がれたその先に人類は滅亡の道しか残されていない」

 

「大丈夫ヨ、ソノ為ニ彼女達艦娘ガツイテルノデショウ?」

 

「私達ガ維持シテイル限リ知的生命体ガ滅ブコトハナイワ!」

 

「お前達がそこまでの事をやれると言うのならなぜ争いを続けさせる」

 

深海棲艦の一人、ミッドウェーは阿部へと迫り耳元でそっと囁いた。

 

「アラァ、思ッタ以上ニロマンチストナノネ」

 

「なんだと?」

 

「争イノナイ世界ナンテ、生命ノイナイ世界以外ニ有リ得ナイワ、ヨ?」

 

「いやしかし、人類だけならばぁっ!?」

 

ミッドウェーの指先に装備されている機銃が阿部の心臓を瞬間的に蜂の巣に変えた。

 

「人類ダケナラダッテ!?ソンナ考エノ人間ハ幾ラダッテイルワヨ?ダカラ争ハナクナラナインジャナイ」

 

「黒人ダケナラ、日本人ダケナラ、仲ノ良イ奴ダケナラ......」

 

「ソウヤッテ他ヲ受ケ入レヨウトシナイ生物カラ争イヲ無クスコトナンテデキルワケナイジャン?」

 

「ッテアラ、アマリニモ下ラナイ事ヲ言ウカラツイヤッチャッタワ」

 

「マア元々ソノ為ニ来タノダシ問題ナイ」

 

「ソレヨリアノ駆逐艦ガ逃ゲチャッタケドドウシヨッカ?」

 

「ソウネェ......()()、スグニ処分シトイテクレル?」

 

「了解しました。所で一つ宜しいですか?」

 

大淀はミッドウェーに一つの資料を手渡した。

 

「コレハ?アア彼ノコトネ、無謀ニモ私達ニ楯突イタカラコノ間オッサント一緒ニ沈メテアゲタワ」

 

「そうですか、なら偽りの報告かもしれませんが。一週間程前に拠点に彼が帰投した報告が金剛よりあがっております」

 

「アラ、ヘェ......水爆ヲ耐エタンダァ......」

 

海底棲姫達の口角が不気味に吊り上がっていく。

 

「フ~ン......面白イ報告ネ、デモコノ程度ナラ均衡ヲ崩ス程ジャナイワ」

 

「彼がまだ本来の姿で無いとしてもですか?」

 

「本来ノ姿?ソレハドウイウコトダ」

 

「本来艦娘は艤装を展開して深海棲艦と渡り合う事が出来ますが彼は兵装のみで深海棲艦を圧倒しているのです」

 

「ソンナノ展開デキナイダケジャナイノ?」

 

「確かに現在は展開出来ていないようですが......」

 

「貴女ハ少シ心配性過ギルワヨ?マ、ソコガ良イトコロナンダケドモネェ。ワカッタワ、気ニ掛ケトクワ」

 

「何卒ご注意下さいませ」

 

「アアソウ、新シイ元帥コノ中カラ選ンドイテネェ」

 

ミッドウェーは大淀にリストを渡すと執務室から出ていった。

 

「オツカレ」

 

「ジャネ~!」

 

ソロモンとバミューダもミッドウェーに続き次々と部屋を後にした。

 

「......お戯れを」

 

大淀がリストをめくると様々な大将の名が並ぶ中に一人だけ少佐の名がありそこだけ丸で囲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は気が付くと奴等から逃げるように無我夢中で駆け出していました。

 

「はぁっ......はぁっ............奴等と戦うために生まれた存在なのに......これは重大な落ち度です」

 

しかし、不知火一人ではお話にならないでしょう。

だからといって艦娘全員が私を沈めようと躍起になっているこの状況で誰と手を組めると言うのか......

 

「......ここは、工廠ですか......兎に角弾薬と燃料は補給しておきましょう」

 

工廠の資材置き場から弾薬と燃料を調達していると入り口の方に艦娘の反応を不知火の電探が捉えました。

 

「もう見つかってしまいましたか、弾薬は不十分ですが仕方無いですね」

 

一気に飛び出し相手の重要区画を狙い撃とうとした。

しかし......

 

「少し話し合わないかしら?」

 

そこには両手を上げて武装解除した明石が歩いて向かって来てました。

 

「............良いでしょう。武装もしていない工作艦にやられる様な不知火ではありませんから」

 

「あはは、大本営の明石さんが聞いたら何て言うか......まあでも今は有り難いのでよしとしましょうか」

 

「それで、話とは一体なんでしょうか」

 

私は一切の気も緩めず明石を威嚇したまま話を伺うことにしました。

 

「いやね、とある条件を飲んでくれたら此処から貴女を匿ってくれる場所へ案内してあげようかなって思いましてね?」

 

「条件?それは......」

 

「それはですね............」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「グッモーニング!!良い朝ですネー!」

 

燦々と照りつけるサンシャイン、何処までも拡がるシーサイド!一ヶ月前にはこんな清々しい朝を迎えられるとは思わなかったネー。

皆さんには本当に感謝デース!

 

「随分と気分が良さそうですね、金剛さん」

 

「そりゃもうグッドもグッド、ベリーグッドデー......ス......」

 

ホワッツ......この声は此処じゃ聞こえないはずじゃ?

恐る恐るシーサイドの方を振り向くとサングラスを掛けたちょっと関わってはいけない感じの雰囲気を纏った桃色ポニーテールガールが私を凝視してました。

 

「ハ、ハロー不知火?ワタシの事を知ってる、オーケー?」

 

「何が言いたいのか解りませんね......まあ良いでしょう。横須賀第一鎮守府所属陽炎型二番艦不知火、中部前線基地の庇護下に入れて頂きたく馳せ参じました」

 

「庇護?一体横須賀に何があったのデスカ?」

 

「それは後で話します、今は門長少佐に会わせて頂けますか」

 

「オ、オーケー。この時間ならブレイクファーストの前ですから食堂に居る筈ネー」

 

「案内していただいても宜しいですか?」

 

「ノープロブレム......但し、ミスター門長にはワタシと関わりがあることはシークレットですヨ?」

 

「理由は解りませんが......まあ了解です」

 

取り敢えず釘を刺しておきましたが......予想外過ぎてボロが出ないか心配デース。

ワタシの不安は晴れないまま食堂へと向かうのでした。

 

 

 

 

 




しかし......此処を耐えれば新たな境地にたどり着けそうな気がする。


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第二十六番

くっ......まさか夏風邪がこの間の台風の様に帰ってくるとは。
しかし、遂にこの日がやって来た!
この上新粉、半月待ったのだ。
     ↓
    半月後
が、鎧袖一触とは正にこの事......(残高ェ......)

あ、嫌な未来が見えた......寝よう。


 修復明けの朝、何を企んでるか知らねぇが摩耶が俺の分まで朝食を用意しているらしい。

正直毒でも盛ってんじゃねぇかと心配だったが、長門曰く艦娘に効果のある毒はこんな場所で作れる様な物では無いらしいので一先ずは信用することにした。

 

「お、早いなお前達」

 

「てめぇが遅ぇんだよ」

 

「門長さんがお寝坊さんなのです」

 

いやぁ、電ちゃんにそう言われたら認めざるをえないな。

 

「全く......ほら、さっさと取りに来いよ」

 

「おう、って朝からカレーか?」

 

「んだよ、金曜の朝はいつもカレーって決めてんだ」

 

ああ、時間の感覚を失わない様にだったか知らんが別に朝じゃなくても良くね?

と思ったが誰一人として疑問に思ってなさそうなので口に出すのは控えることにした。

 

「んで、俺の分まで用意するなんてどういう風の吹き廻しだ?」

 

俺は摩耶からカレーを受け取ってから摩耶へ質問を投げ掛けつつ努めて自然に響の隣の席を確保した。

 

「そ、それは......吹雪達の事を聞く為......だ」

 

「そうか......なっ!?」

 

な、なんと言うことだ......一瞬目を離した隙にさっきまで隣にいた筈の愛しのマイエンジェルが遥か先の席へと飛び立ってしまったぁ!!?

 

「ん、どうし......ああ、そういうことな」

 

「完全に自然な流れだったはず......なぜだ」

 

「まあ、響にも思うところが有るんだろ。気長に待ってやりゃあ良いじゃねぇか」

 

成る程、確かに言われてみれば出かける前より姿が見れる分距離が近くなっている気がしなくなくもないな。

やはり暁達と会えたことが嬉しかったのだろうか。

 

「摩耶にしては良いこと言うじゃねぇか」

 

「一言余計だっつーの。つかそれより吹雪達はどうしたんだよ、また拐ったのか?」

 

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇ、今回は同意の上だ......よな?」

 

俺は暁達の方を見るがあからさまに敵意を返してきていた。

 

「生きるか死ぬかのニ択を迫られその上響さんを人質に私達に同行することを強いておいて同意の上ですか......」

 

「え、ちょっと待って。俺そんなこと一言も言ってなくね?」

 

「まじかよ......見損なったぜ門長」

 

「酷いのです」

 

「うっわ......鬼畜だね」

 

「いやまて!今のは流石に弁解させてくれ」

 

電や竹達の冷めた視線が超絶痛すぎる。

このままでは僅かに残っていた筈の俺の信用が跡形もなく消え去ってしまう!

 

「た、確かに根本的原因は俺かもしれない......だが!直接的に吹雪達を追い詰めたのは宇和の掟破りの無理な進軍と謎の深海棲艦だっ!」

 

「そうなのか?」

 

「まあ......否定はしません」

 

「次に俺は響を人質に取ったりはしないっ!」

 

「な、なによっ。私ははっきりと聞いたわよ!?」

 

「それはな、見知った仲間といた方が良いんじゃないかと思ったのと......是非とも暁達に此処へ来てほしかったから言っただけで他意はないんだっ!」

 

「な、なによそれっ。暁を騙そうとしたって無駄なんだから!」

 

「騙すつもりはない......ただ、誤解させてしまったのは済まないと思っている」

 

「し、信じないわよ......」

 

「あ~......まあ大体把握したわ。」

 

厨房から出てきた摩耶は暁達のもとへ歩み寄り、二人の頭を少し乱暴に撫で始めた。

今の俺には歯を食い縛り摩耶を睨み付けながら行く末を見守る事しか出来ないでいた。

 

「あいつを信じる信じないはどっちでも構わねぇけどよ、お前らはこれからどうしたいんだ?此処でアタシらみたくのんびりと暮らすか、海軍に戻ってまた深海棲艦を相手に戦い続けるか」

 

「そんなこと......」

 

「決まっています......」

 

「別に決まっちゃいねぇよ。戦わないのは艦娘の存在意義に反するって気持ちも解らなくもねぇけど、それでもアタシは今の生活を捨ててまで艦娘としての本分を全うしようとは思わねぇ」

 

「「............」」

 

「ま、直ぐに決めなくても良いけどな!此処を出たきゃ行ってくれ、幸い当てはあるみたいだしな?」

 

摩耶は返事を促すかの様に俺を流し見た。

 

「うっ......まあ、暁達が望むのなら」

 

出来るなら此処に居て欲しいが......無理に引き止める訳にも行かない......か。

 

「と言うことだ、どれくらいの付き合いになるかは解らねぇけどよろしくなっ!」

 

「よ、よろしく......」

 

「よろしくお願いします」

 

暁達が一先ず此処で暮らす事が決まった所で俺達は再びカレー食べ始めた。

 

「ヘーイ、ミスター門長に来客ネー」

 

俺はカレーを口にしながら頭だけ入り口へ向けるといつもの金剛の隣に少しばかり目付きの鋭い少女が立っていた。

 

「ん、その子はどうした?」

 

「彼女は訳あって此処に匿って欲しいそうデース」

 

「不知火です、貴方が門長少佐ですか?」

 

不知火は敬礼をしながら俺の名を呼んだ。

そういえば少佐だったのか、すっかり忘れてたぜ。

 

「ああ、もう少佐じゃねぇとは思うが俺が門長和大だ。遠路遥々俺に助けを求める少女を見捨てては男が廃るってな、歓迎するぜ不知火」

 

「はあ......それは助かります。では早速ですがこちらを聞いていただけますか?」

 

「おう、勿論だ!」

 

やっぱり少女から頼られるのは良いものだな!

不知火は腰に着けていた黒い長方形の物体を持ち上げると俺に向けながらスイッチを親指で押し込んだ。

 

「.....あ.......あー、マイクテステース......いやぁ、まさか本当にたどり着いちゃった感じかな?」

 

「不知火に落ち度はありません」

 

なんだろうな、あの箱から出てる声を聞いてると無性に苛ついて来るな......

 

ーーどんなに同名艦が居ようと奴の声は忘れないさーー

 

「あ、門長君聞いてます?お久し振りですねぇ。と言っても覚えてないかな?」

 

「そうだな、()()あんたとは初めて話したな」

 

「あ、やっぱり?じゃあ改めて自己紹介するわね!私は横須賀第一鎮守府所属の工作艦明石で~す。金剛ちゃんもそこに居るかしら?」

 

「......オーマイゴット」

 

金剛の知り合いか......

 

ーーああ、私は彼奴等の策謀によって改修素材にされたのだ。金剛は私の親友だったからもしかしたらとも思ったが、今も元帥の指示で我々の監視をしているのならば私だけがそう思い込んで居たようだなーー

 

成る程な、そういうことだったのか。

 

ーーうむ......正直あっちの明石には悪いことしたと反省しているよーー

 

まあ、それはどうでも良いが......

 

「それよりもあんたは何処に居るんだ、南方の前線基地か?」

 

だったら今すぐぶん殴りに行こうかと思ったが横須賀の明石は残念な事に簡単に殴りに行ける距離には居なかった。

 

「へ?勿論横須賀第一鎮守府の私の工廠ですが?」

 

「あ?横須賀から話してんのか」

 

「ホワッツ!?イヤイヤ、幾らなんでもインポッシブルデース。それにこんな長距離通信なんて出来ても傍受され過ぎて使い物にならないネー」

 

「さっすが金剛ちゃんは分かってるねぇ。しかし!とある工作艦と軽巡洋艦のお二人が作ったそうなので試しに使わせて貰ってるのよ!」

 

「オー......あそこのキテレツな明石デスカ」

 

「それにそこら辺のエニグマよりも複雑な暗号化をした上で鎮守府や艦娘の無線機を中継してるらしいから、そっちとこっちの通信機でしか複合化出来ないみたいよ?」

 

「そうか、お前を殴れないのは残念だが本題に入ろう」

 

正直何を言っているかさっぱり解らんから話を変えることにした。

 

「あはは、次あったら沈められそうですねぇ。まあ本題としては簡単ですよ?門長君の観察をさせて下さい」

 

「観察?それなら金剛がやってんじゃねぇのか?」

 

「え......なんのことですかネー?」

 

「あっはっは!!金剛ちゃんバレバレじゃないですかぁ!」

 

「ノ、ノー......なんのことだかさっぱりデスネー......」

 

金剛が必死にしらを切ろうとしているが横須賀の明石が大爆笑しているせいで全くもって隠せてなかった。

......まあそれ以前の問題だが。

 

「で、なんで更に観察人数を増やす?」

 

「それはですねぇ、工作艦として自分が関わった作品の経過が知りたいんですよぉ。大淀はあんまり教えてくれないんで」

 

「理由は解った、だがこの上なく不快だから却下だ」

 

「勿論ただとは言いませんよ、海軍全ての情報をリアルタイムでお伝えしますよ?」

 

「要らん帰れ」

 

「じゃあ始めに取って置きの情報をお伝えしますので考えて貰えませんか?」

 

取っておき?どうせ海軍の事なんてこっちには関係ないが一応聞くだけなら無料だし聞いてやるか。

 

「話してみろ」

 

「実はですねぇ、門長君を襲った例の深海棲艦はうちの大淀と繋がってるらしいんですよ」

 

「うん......思ったより面白いが俺には関係ないな」

 

「本当にそうですか?」

 

ん?関係ないだろう?

 

ーー確かに驚きだが我々に関係あるとは思えんなーー

 

ー私も特に思い当たる事は無いぜ?ー

 

よし、満場一致で必要ないのでお引き取り願おうか。

 

「そうですねぇ、じゃあ状況を整理しましょうか。まず私は貴方達と連絡が取れる状態にある、その私が貴方達が例の深海棲艦に取って脅威になると言う情報を彼女達に伝えたらどうなると思います?」

 

「工作艦一隻の言葉で動く様な奴らなのか?」

 

「普通の工作艦なら気にも止められないでしょう。しかし私は例の深海棲艦と関わりのある大淀と共に人々の為に尽力してきた仲ですから?」

 

「成る程な、俺を脅すとは良い度胸だ」

 

「脅してなんかいませんよ?ただ門長君に拒否されたら悲しくて大淀にあることないこと愚痴っちゃいそうだなって思いまして」

 

マジで沈めてぇ......

 

ーー全くもって同意見だーー

 

ーしかし、なんにせよこの話は飲まざる得ないぜ?ー

 

ああ分かってる、あの深海棲艦共の性格を考えると此処にいる全員が人質みたいなもんだからな。

 

「ちっ、非常に気に入らんが好きにしろ」

 

「流石門長君っ!解ってくれると思ってましたよ」

 

「その代わり奴らが響達に危害を加える様な事が有ったらそんときゃ分かってんだろうな?」

 

「大丈夫ですって!実際私が大淀に話すメリットがありませんから」

 

どうにも信用ならんな......まあ疑っててもどうしようもねぇか。

 

「あ、金剛ちゃんは引き続き報告宜しくね!勿論不知火ちゃんの事は内緒で」

 

「......オーケー、そうさせて貰いマース」

 

「うん!じゃあ皆さんこれから宜しくお願いしますねぇ!」

 

それだけ言うと奴は一方的に通信を切断しやがった。

 

「くそっ......つまり不知火が俺を頼って来たってのも演技だったのか......」

 

「いえ、不知火は嘘なんて付いていません。門長少佐の監視任務は生き残る為に明石の要求を飲んだだけですから」

 

「生き残る為?誰かに狙われてるのか?」

 

「はい、深海棲艦......海底棲姫の姿を知ってしまった私を消そうと大淀による撃沈命令が海軍全体に出ているようです」

 

「駆逐艦一人を海軍全体で潰そうってのか?訳わかんねぇな」

 

「マヤの言ってる事も分かりマース。しかしあのオーヨドがそこまでするくらいトップシークレットな案件なのでショウ」

 

「そうですね、海軍が深海棲艦と繋がっているのでは何の為に戦っているのか分かりませんから」

 

そうだよなぁ......手を組めるならなんで戦争を続けるんだって話だよな。

 

ーま、全ての生物が仲良く出来たら苦労はしないんじゃないか?ー

 

ーー確かにな、今の私にはそんな世界想像もつかないなーー

 

あぁ......なんか面倒くせぇな。

 

「まあいいや、周りなんか気にせず俺らは俺らでやりたいようにやれば良いんじゃねぇか?」

 

「はぁ......確かに貴方は自由そうで羨ましいですね」

 

「本能のままに生きてる様な奴だからな」

 

あれ?なんか不知火と松に呆れられてる......なんで?

俺だってちゃんと鋼鉄の理性を持って一日中君達を抱き締めたり撫で廻したりにゃんにゃんしたいのを我慢してるんだよ!?

 

「変態と一緒にされんのはすっげぇ不愉快だけどアタシも同じ意見だな。折角海軍も深海棲艦も関係ない所に居るんだからよ、そんな関係無い事を気にして考えが凝り固まっちまったら楽しくねぇだろ?」

 

「そうか、そういう考え方もあるな」

 

「勉強になります、摩耶」

 

「よ、よせよっ。ただアタシは思った事を言っただけだって」

 

摩耶の野郎......美味しいところ全部持っていきやがってぇ!!

なんでだ!?言ってる事はそんな変わらんだろ!

なのに何で俺は呆れられて彼奴は感心されるんだよっ!

 

ー摩耶とお前さんじゃ信用に差がありすぎるし仕方無いさー

 

武蔵、お前も摩耶派なのか......

 

ーーまあ落ち着け門長、信用と言うのは日々の積み重ねだ。お前も今から積み重ねていけばいずれ思いが伝わるさーー

 

長門............流石ビッグセブンは言うことが違うな。

 

ーーいや、私もお前と何も変わらないさ。悲しみもあれば怒りもある、好き嫌いもあるし憎んだりもする。ただ偉そうな事を言っているだけだーー

 

同じか......じゃあ俺も少しずつでも頑張ってみるか。

 

「おい、大丈夫か?」

 

ふと気付くと摩耶が俺の肩を揺すって呼び掛けていた。

 

「あ、どうした?」

 

「どうしたじゃねぇよ、物凄い形相をしながらこっちを見てるからどうかしたかと呼び掛けても全く反応がねぇしマジでどうかしたのかと思ったぜ」

 

「門長さんとっても怖かったのです......」

 

はっ、しまった!?早速電ちゃん達を怯えさしているじゃないかっ!

 

「だ、大丈夫だ!少し考え事をしてただけだからな?」

 

うっ......空気が重くなってしまった。

 

「ご、ごちそうさん!ちょっと体動かしてくるわ!」

 

いたたまれなくなった俺は食器を食堂に置いて一目散に食堂を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 




ヤヴァイ......最近頭がオーバーヒートしてきた。
楽しい、頭が燃えるのが最っ高に快感だっ!


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第二十七番

計算したら入力に掛かってる時間が内容を考えてる時間の二百分の一以下だった......思考時間を短縮出来ないだろうか。


 ああ......つい飛び出してしまった。

取り敢えずこの後どうするかを散歩でもしながら考えるか。

 

「此処にいましたか」

 

「不知火......追いかけて来てくれたのか?」

 

「はい、少佐の観察が不知火の仕事ですから」

 

あ、ですよねー......うん知ってた。

 

「まあでも、そんな肩肘張らなくてももうちょい気楽にやろうぜ?」

 

「お気になさらずに、不知火はこれが平常運転ですので」

 

「そ、そうか。それならまあ......いいか?」

 

それで本人が無理してないのなら良いんだが......

 

「っ!敵艦捕捉、距離二万......一隻です」

 

「一隻か......ちょっと行ってくる」

 

「摩耶達に報告しましょうか?」

 

「必要ねぇ。仕事仲間の可能性があるし、じゃなくても普通の一隻なら一人でも問題ない」

 

「......了解しました。同行します」

 

「それは構わないがあっちが攻撃してくるまでは攻撃するなよ?」

 

「しかし......」

 

「大丈夫だ、俺の後ろにいりゃ守ってやる」

 

「............了解です」

 

俺は不知火を後ろにつれて深海棲艦の元へ進むと、待っていたのは無駄にデカイワ級であった。

 

「門長サン、御無事デナニヨリデス」

 

「ま、簡単にはくたばんねぇよ。それより今日は仕事か?」

 

「ハイ、厳シケレバ無理強イハシナイトノ事デスガ」

 

「特に問題はない......あ、よく考えたら不知火は連れて行けねぇか」

 

「ソウデスネ、彼女ハチョット......」

 

「不知火に何か落ち度でも?」

 

不満そうに睨む不知火の頭に手を置きながら俺は状況を説明した。

 

「と言うわけで情報が漏れると仕事が無くなって基地の維持が出来なくなっちまうんだ。ワリィがこの事はあのアマには報告しないでくれないか?」

 

「............そうですか、基地の存続に関わるのであれば仕方ありません。不知火は帰投します」

 

「すまんな、気を付けて戻れよ」

 

納得してくれた不知火は素直に基地へと帰っていった。

 

「オ手数オカケシマス」

 

「まあ、こっちも仕事が無くなるのは願い下げだからな。で?今回は何だ、例の島に資材を運ぶのか?」

 

「ソノ通リデス、資材ハ近クノ島ニ輸送船を用意シテアリマスノデ持ッテイッテ下サイ」

 

てことはまたエリレに逢えるわけか......胸熱だな。

 

「アノ......何カ期待ヲシテイル所申シ訳アリマセンガ彼女達ヘノ接触ハシナイヨウニトノ事デス」

 

なん......だ......と?

 

「まあ普通に考えて隠蔽のために門長さんに任せてるのに貴方が彼女達と接触してたら無意味ですからねぇ」

 

「ぐっ......折角エリレを撫で撫で出来ると思っていたのにっ!」

 

「残念デスガ諦メテ下サイ......ソ、ソノカワリ私デヨケレバイツデモ......」

 

「断るっ、お前を撫でて俺に何の得があると言うのだ!」

 

「ヒドイ............ウゥ......」

 

肩を落とすワ級を尻目に俺は輸送船のある小島へと前進を始める。

こうして俺の初めての仕事は幕を開けたのだったが......

 

 

 

 

「............やっぱ長ぇ、往復十時間は長すぎるだろう。」

 

何か暇を潰せるものがあれば良いが見渡す限りの水平線に囲まれた世界にはそんなもの存在しなかった。

 

「つーかこんな長時間の遠征に艦娘も深海棲艦もよく耐えられるよな」

 

「まぁ、基本的に単艦で長距離の遠征なんかしませんからね」

 

くそぅ......これなら不知火についてきてもらえば良かったぜ。

 

ーー不知火と二人きりでも話題が無いんじゃないか?ーー

 

ーそれに暇なら私達もいるぜ?ー

 

お前らと話す話題の方がねぇし、お前らと話してると周りに要らん誤解を生むから却下だ。

 

ーーそれは濡れ衣だ、我々と話していても周りの事は解るだろう?ーー

 

人間は艦娘みたく器用な事は出来ねぇの。

 

「なら取り敢えずこっちに戻ってきてください、砲撃が飛んできますよ」

 

「おい......普通に参加してくんなっ......っと!?」

 

意識を表へ向けると前方から砲弾が降り注いでいるところであった。

 

「うおっ!あぶねっ」

 

直ぐ様舵を切ったお陰で直撃弾は辛うじて免れたが、やっぱり彼奴らと話してると録なことにならねぇな。

 

「敵は何処だ?此処から二十五キロ北東の地点か......よし、潰すかっ!」

 

「相手の被害は最小限にって言われたのもう忘れてしまったんですか?」

 

「あ、そういやそんなこと言ってたな」

 

だとすると旗艦を大破させねぇといけねぇ訳だ。

 

「だけど旗艦がどいつだか分からなくねぇか?」

 

「それは陣形を見れば大体分かりますよ」

 

「成る程、じゃあ任せた」

 

「あ~はいはい、え~相手は単縦陣で南東へと......現在丁字不利ですから旗艦は右端ですね」

 

「よしっ、それじゃあ砲戦開始だ!」

 

両腕に装備した二つの四十六センチ三連装砲を構える。

 

「もうちょい右です」

 

「おっし、ここか?」

 

「そのままで......三......ニ......一......今ですっ!」

 

妖精の合図に合わせて引き金を引くと相変わらずの轟音が耳を突き抜けていく。

 

「..................そろそろ弾着ですね、徹甲弾では無いので間違っても一撃で沈むことは無いでしょう」

 

「そもそも大破したかも分からねぇけどな」

 

やっぱり偵察機も持ってくるべきだったな......カタパルトはないけどな。

 

「まあ、砲撃が止みましたし大丈夫でしょう」

 

「ふ~ん、そういうもんか」

 

しっかし、砲戦っつーのはこんなにも退屈なのか?

 

ーーそんなこと言うのはお前だけだ馬鹿者ーー

 

ー普通あれだけの距離から一撃で相手を大破させるには相当な練度が必要だからなぁー

 

ーーお前の場合私と武蔵の錬度がかさ増ししている上にそこの砲雷長がずば抜けて優秀だからなーー

 

なんかなぁ、俺が何の役にも立ってねえのは気に入らねぇ。

 

ーーだったらお前も砲撃の訓練をしたらどうだ?ーー

 

砲撃はあいつに任せた方が良いだろ。

それよりも俺にしか出来ない事をするんだよ。

 

ーお前さんにしか出来ないことだって?ー

 

ああ、それはな............提督だ。

 

ーー......凄いな、まさか一点の曇りもなく提督になれると信じているとはーー

 

おい、どういうことだ。俺だって元少佐なんだぜ?

 

ーまあ、異世界から提督業務が出来るくらいなんだ。門長だってきっと出来るさー

 

だろ?よし、帰ったら提督になるぜ!

 

「と言うわけだ、さっさと仕事を終わらして帰るぞ!」

 

「何がと言う訳なのか知りませんが後七時間は戻れませんよ?」

 

「そうだった......」

 

俺の残り七時間の退屈極まりない遠征はまだまだ始まったばかりであった............帰りてぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「姫様ッ!エリア3-Dニ入ッタ侵入者ノ迎撃ニ向カッタリ級サンノ艦隊ガ帰投シマシタ!」

 

「......ソレデ、愚カナ侵入者ハ海底へト沈ンダノカシラ?」

 

姫は無駄に背もたれの高い豪華な椅子に腰掛け頬杖を突き、報告に来たチ級を一瞥する。

 

「ソ、ソレガ......僅カ一度ノ斉射デ旗艦ノリ級サンガ大破。ソノ後撤退途中ニ遭遇シタ艦娘ノ水雷戦隊ニヨリ轟沈シタソウデス......」

 

「バカナッ!?彼女ガ沈ンダッテイウノ!」

 

しかし、想定外の報告に姫は思わず立ち上がりチ級に怒鳴り散らした。

 

「私モ改flagshipデアルアノ方ガ沈ムナンテ信ジラレマセンガ、コチラニ姿ヲオ見セニナラレナイノガ証明カト......」

 

「冗談ジャナイワ、私ノ旧友ハ簡単ニクタバル様ナ存在ジャナイノヨッ!」

 

「姫様ッ!一体何ヲ!?」

 

姫は目の前の机を乱暴に蹴り飛ばし一目散に通信室へと向かった。

 

「ヒ、姫様?ドウサレマシタ!?」

 

「良イカラドキナサイ」

 

通信班のホ級を無理矢理退け基地全体に通信を繋いだ。

 

「離島ノ姫ノ名ノ下ニ命ズル。我ガ旧友ヲ襲ッタ不届キ者共ノ棲ミカヲ探シダシ、跡形モナク消シ去リナサイッ!!」

 

「姫様ッ!勝手ニ鎮守府ヲ攻撃シテハ掟ニ抵触シマス!」

 

「黙リナサイ、奴等ガ邪魔スルナラ纏メテ沈メルマデヨッ!」

 

「ヒ、姫様......」

 

離島棲姫は通信機を手に取り続けた。

 

「目標ノ特徴ハ追ッテ伝エルワ。全軍!一週間以内ニ奴等ヲ亡キ者ニシナサイ、イイワネッ!!」

 

「「「イエス!アイマムッ!!」」」

 

 




思い付いたアイデアをメモしたいのに思い付くときはいつもメモが出来ない状況で泣いたorz


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第二十八番

遅くなりましたっ!!
最近体や心が不調だったため執筆活動が思うように進められず時間が空いてしまいましたが、何とかペースを戻していける様に頑張って参ります!


 敵の襲撃から二時間後、大した問題もなく無事エリレのいる島へとたどり着いた。

 

「んで、後はどうするんだ?」

 

「後ハ私達ニオ任セヲ!」

 

突如輸送船から声が聞こえたかと思うと中からぞろぞろと補給艦どもが上陸してきていた。

 

「お?お前らそんなにぞろぞろと出てきたら目立たないか?」

 

「ゴ心配ナク!」「私達ガ降ロシ終ワルノニ」「十分モカカラナイデスカラ!」

 

まるで一人に話しかけられてる様な錯覚を覚える位に違和感なく補給艦どもは次々と俺に話し掛けていく。

 

「デスノデ」「門長サンハ」「船ノ上デ」「寛イデテ下サイ」

 

「……おう、わかった」

 

補給艦どもに促されるがままに船上へと上がった俺は、エリレ達が居るであろう方向に視線を向けた。

 

「エリレ……出てきてくんねぇかな」

 

「出てきても接触は出来ませんよ?」

 

「ぐっ、それは……そうだが…………ん?」

 

現実を突きつけられ項垂れながら島を見渡していると、茂みの中からこっちの様子を伺う蒼白く綺麗な髪をした少女と目が合った。

 

「ひび……き?」

 

少女は俺と目が合うと直ぐに茂みの奥へと見えなくなってしまった。

 

「どうしました?」

 

「いや……響みたいな子が今こっちを見てたんだ」

 

「響さん?此処には深海棲艦しか居なかったのでは?」

 

「ああ、この間見たときはエリレ達しかいなかったはずだが……」

 

「あの後流されて来たのか、隠れていたのか……もしくは門長さんの幻覚じゃないですかね?」

 

「幻覚じゃ……ねぇ…………はず」

 

いや、もしかして響に会えない事によるストレスが俺に幻覚を見せたのか!?

 

「いやっ、そんなことはない!確かに響に似ているが雰囲気が少し大人びていた」

 

ーふむ、さっきのは恐らくヴェールヌイだなー

 

ヴェールヌイ?海外の艦なのか?

 

ーいや、名前はソ連がつけたものだが間違いなく日本の駆逐だ。と、いうより響の二次改装後の姿だなー

 

響の二次改装後の姿があれか……それはそれでありだな。

 

「よしっ、ちょっと探してくる!」

 

「接触は禁止じゃないですか?」

 

「エリレ達じゃないからノーカンだろ?」

 

「ダメデスヨ」「コノ島ヘハ立チ入ルノハ」「禁止サレテ」「イマス」

 

俺の会心の言い訳を補給艦どもは一瞬で論破しやがった。

 

「ぐぬぬ……」

 

「ソンナコト」「言ッテイル間ニ」「任務」「完了」「シマシタヨ?」

 

「サア」「帰リマショウ」「門長サン!」

 

なんだよ……もう終わったのか。

 

「此処から五時間の帰り道ですね」

 

「うぁ……かったりぃ」

 

ー帰って提督になるんだろ?ー

 

「そうだった!俺は提督になって響に尊敬されるために帰らねばならぬ!」

 

「なんですか?退屈の余り遂に頭が溶けちゃいましたか」

 

「下らんこと言ってないで全速前進だぁっ!!」

 

提督となるため、俺は全速力で基地を目指す。

途中ちょっかいを出してくる奴は頭を吹き飛ばし(旗艦を大破させ)て無我夢中で突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 「はぁっ……はぁっ…………帰ってきたぞ……」

 

「オ、オゥ……どうしましたかミスター」

 

さ……流石に五時間全力疾走はキツかった……か。

いや、兎に角戻ってきたんだ。俺の新たな門出を響達に伝えなければ!

 

「こ……こんごう…………全員を……食堂に……」

 

「それはオーケーですが、ミスターはどうするつもりデスカー?」

 

「俺は自分で向かう……だから先に招集しておくんだ」

 

俺の胃袋が悲鳴を上げているが問題など……あるな。

金剛に招集を任せ俺は一度工廠で軽く補給を済ませてから食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 食堂には既に全員椅子に座って俺の到着を待っていた。

 

「待たせたな諸君」

 

「帰ってくるなり全員を集めたりして何を企んでやがんだ?」

 

「別に企んでなんかない。但し、重要な報告がある」

 

俺の真剣な雰囲気に皆が息を飲むなか、俺は一拍置いてから話し始めた。

 

「お前達の提督に、俺はなる」

 

「は……?一回入渠して来た方が良いんじゃねぇか?」

 

「なんだよ、何処にも損傷はねぇぞ?」

 

「ヘーイミスター?とても言いにくいケレド……この基地に提督のワークはナッシングネー」

 

「なん……だ……と?どういう事だ、説明しろ金剛ぉっ!!」

 

「オ、オーケー。まず提督のワークには何があるか分かりますカー?」

 

「ああ、それは知ってる。編成の構成や出撃海域の作戦指令、他の鎮守府との演習の予定を組む、遠征任務の指示……後は補給とか入渠とか建造開発の指示、それに報告書の作成と提出だったか?」

 

「エクセレントッ!大正解デース」

 

これでも提督目指して海軍に入った訳だしな。

 

「デスガ、それは普通の鎮守府の話ネー」

 

「……つまりどういう事だ?」

 

「まず私達から深海棲艦を倒しに行く必要がない」

 

「それ以前に私達の練度だとこの海域にいる深海棲艦に対抗出来ないのです」

 

「それに遠征に至っては練度どころか任務が無いよね?」

 

ううむ……確かに響達にそんな危ない事をさせたくは無いな。

 

「演習するにも相手の鎮守府もいねぇしな」

 

「だ、だが建造開発補給入渠!これらは指示が必要……な、は……ず?」

 

「補給入渠に指示が必要な程艦娘がいねぇだろ」

 

「建造開発はお前が自分で頼めば良い話だ」

 

ぐっ……ならば提督の意味とは何なんだ。

 

ーー我々の目的を統一させ規律を整える為に必要な存在が提督なのだ。その必要の無い今の生活には必要とならないのは必然だろうーー

 

提督になれば認められると思ったのに……

 

ーなに、そんな気落ちする事はない。他にも認められる方法はあるさー

 

「……提督は必要無いのか」

 

「ま、そういうこった」

 

「しかし何故唐突に提督になろう等と言い出したのだ?」

 

「別に大した事じゃない、ただ俺の力を認めて貰いたかっただけだ」

 

「力?お前のとんでもない耐久や火力を認めていない者など居ないと思うが」

 

「松の言っているそれは悔しいが俺の力ではない」

 

「な、なに訳わかんない事言ってんだ?」

 

「そうデース、ミスターはミスターで……」

 

変に狼狽える摩耶と金剛を見て俺は最近感じていたちょっとした変化の原因を理解した。

 

「お前ら……もしかして俺の正体を知ってたのか?」

 

「う"っ……ええとだな……」

 

「ああその通りだ」

 

「マツ!?」

 

「本人が知っているなら隠す必要もあるまい」

 

「デスガ……」

 

「それで門長、お前は自分の事を誰から聞き何処まで知っているんだ?」

 

狼狽えてばかりの金剛達とは裏腹に松達駆逐艦の面々は冷静にこちらを見据えていた。

 

「そうだな、まず聞いたのは当事者である長門と武蔵だ」

 

「長門ッ!長門と話が出来るのですカ!?」

 

金剛が突然立ち上がりこっちを睨み付けてきやがった。

 

「だったら何だっつーんだよ」

 

「長門っ!アナタに知って欲し……」

 

「待ってくれ金剛、今は門長の話を全て聞いてからだ」

 

「……オーケー、ソーリーミスター門長」

 

松の制止により金剛は静かに椅子に座り直した。

 

「きっかけは謎の深海棲艦にやられて意識を失っていた時だ」

 

「彼女達海底棲姫と交戦した時ですか」

 

「ああ、その時だ。まあ聞いた事といえばよく分からん計画の為に武蔵と長門が改修素材になったっつう事と、長門が金剛と明石を憎んているという事位か」

 

「そう、デスカ……」

 

「んで?長門に伝えたい事っつーのはなんだ?」

 

「それは……」

 

金剛は真剣な目でこっちを見つめたまま自分の知っていることを語り始めた。

 

 

 

 

「という事デース。ワタシを信用出来ないのは百も承知デース、それでも謝らせて下サイ……長門、本当にごめんなさい」

 

ふ~ん……そういう事らしいぞ長門。

 

ーー恐らく嘘は言っていないのだろう……しかし、理解は出来ても納得するのは容易には行かない様だーー

 

ま、確かに直ぐには信じられねぇわな。

 

「お前の話は分かった、だが直ぐには信用出来ないってよ」

 

「それは当然デース……償いは必ずさせて貰いマース」

 

「ふむ、改めて話を聞いたが段々と現地味を帯びてきたな」

 

「そうだね松、私も金剛さんや門長が嘘を言っている様には見えないかな?」

 

そう言って二人は響へと視線を向けた。

響は恐らく俺や金剛が話したであろう事は理解しているだろう。

しかしそれは響にとって受け入れたくない事実なんだろうな……

 

ーー私ですらこの有様だ、響にはまだ時間が必要だろうーー

 

「響ちゃん……」

 

「…………認めない」

 

響は一言呟くと立ち上がり、食堂を出ていってしまった。

 

「響……」

 

「ミスター、ビッキーは今自分自身の気持ちが分からなくて戸惑っていマース。ですから今は一人で考えさせてあげて欲しいネー」

 

「……ああ」

 

俺は食堂から出ていく響の背中を見つめながら、響との幸せの為に何も出来ていない自身の無力さを一人噛み締めていた。




あぁ~……一つの事に集中して打ち込める環境が欲しいぃ。


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第二十九番

響と過ごすハートフルなストーリーも書きたいなぁ


 食堂を飛び出した響は一人基地裏の海岸を歩いていた。

 

「……やっぱり信じられないよ、あんな乱暴で自分勝手な男に長門さんの魂が宿っているなんて」

 

いつでも自分を守ってくれた長門さんだったら誘拐なんかしないし、仲間に酷い事をしたりなんかしないはずだ。

そう考える響にとって、彼女(長門さん)(門長)はあまりにもかけ離れた存在であり納得など出来る筈が無かった。

 

「ア、アノッ!アナタハソコノ基地ノ艦娘デスカ!?」

 

長門と過ごした日々を思い出して泣きそうになっていると突如誰かの呼び声が耳に入って来た。

響は涙を拭い声のする沖の方へ振り向くと、見たことのない位大きなワ級が此方へ向かって来ていた。

 

「深海棲艦っ!?ど、どうしよう……やっつけないと」

 

「マ、待ッテ下サイッ!私ニ戦闘ノ意思ハアリマセン!」

 

艤装を展開しようとする響に対してワ級は武装解除したまま慌てて両腕を振り上げる。

武装解除したまま近づいてくるワ級を警戒しながら響は訊ねた。

 

「お前はなんだ、何しに来たっ!」

 

「ワタシハ門長サンヘ報酬ノ運搬ヲ任サレテイルフラワート言イマス、ッテソレ所ジャナインデス!門長サン達ニ伝エテ急ギココヲ離レテ下サイ!!」

 

「えっ?」

 

響にとって深海棲艦が武装解除して近づいてくる事も、ましてや避難勧告をしてくる事も今まで経験した事の無い体験だった為に理解が追い付いていなかった。

その為、遥か向こうから押し寄せるエンジンの音に気が付くのが遅れてしまった。

 

「逃ゲテ下サイッ!!」

 

「爆撃機っ!?いつの間に……!」

 

目の前の空を覆い尽くすように百を超える爆撃機の編隊が次々と爆撃を始めており、響の周りも次々と爆風に晒されていた。

 

「被弾!?いやだ……沈みたくないよ……」

 

響は無我夢中で撃ち続けるが彼女の練度では相手の爆撃機に掠りすらせず、響の装甲は一方的に削られていった。

 

「うぅ……ながとぉ……」

 

「大丈夫デス、門長サンハ必ズキマス。ソシテ……ソレマデハワタシガアナタヲ護リマスカラ」

 

何とか響と合流したフラワーは、響を背中に匿いながら単装砲と機銃を駆使して爆撃機を少しずつ墜としていった。

 

「な……んで……?敵なの……に」

 

「門長サンノ所ノ艦娘サンデショウ?私達ノ同志デアル彼ノ仲間ハ私達ノ仲間モ同然デス。仲間ヲ庇ウノハ艦娘モ深海棲艦モ同ジデスヨ?」

 

そんな彼女も所詮は補給艦であり、響を庇いながらの戦闘は直ぐに限界を迎えた。

 

「ウグゥッ……中破シテシマイマシタカ、コノママデハ……」

 

このままでは響諸共やられてしまうかと思われた……その時。

フラワーと響へ向かっていた爆撃機が突如煙を上げて次々と墜落していった。

 

「へっ、この程度なら防空巡洋艦たるこの摩耶様の相手じゃねぇな!!」

 

「摩耶さん!?」

 

響が振り向くと、岩場の上に立ち機銃を構える摩耶の姿があった。

摩耶を目標に捉えた爆撃機達は物量に任せ一気に摩耶の方へ押し寄せた。

 

「摩耶さん危ないっ!」

 

練度だけでいえば響よりも低い摩耶では幾ら防空巡洋艦であってもあれだけの数相手には手の打ちようが無い。

しかし摩耶は余裕の表情を崩さずに爆撃機を見据えていた。

 

「おっし、今だっ!!」

 

そして摩耶の合図と共に轟音が響き渡った。と同時に百近く飛んでいた爆撃機は跡形もなく消え去っていた。

 

「三式……弾?」

 

「ひびきぃっ!大丈夫か!?」

 

岩場の下から出てきた門長は一目散に響の元へと走った。

 

「門長サン、申シ訳アリマセン……ワタシガ不甲斐無イセイデ彼女ニ怪我ヲ負ワセテ……」

 

責任を感じたフラワーが門長に謝ろうとするも、門長の雰囲気が一変した事に気付いたフラワーは思わず言葉を詰まらせてしまった。

 

「……あそこの奴らだな」

 

「ハ、ハイッ!」

 

「そうか……摩耶」

 

「おう、なんだ?」

 

「響とワ級を入渠ドックに」

 

「おう、わかった……」

 

摩耶は響を背負い、フラワーと一緒に入渠ドックへと向かった。

 

「ミスター門長?ソロでファイトするつもりデスカー?」

 

「ああ、お前らは此処で敵航空機の迎撃だ。俺は敵の親玉に響に手を出した事をあの世で後悔させて来る」

 

敵別働隊の撃墜に当たっていた金剛達に指示を出すと門長は単騎で敵空母機動部隊へと突貫しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「またか……三式弾用意」

 

ありったけの憎悪を込めて鬱陶しい爆撃機(ハエ共)を蹴散らしながら徐々に距離を詰めていく。

 

「一人いれば十分だ」

 

敵機動部隊との距離が三十キロを切った所で俺は徹甲弾へ切り替え、敵艦隊へ向けて砲撃を開始した。

四十秒おきに爆音を轟かせながら電探を起動させる。

 

「撃破二、目標は残り三か」

 

敵艦艇を二隻沈めた所で俺は更に速度を上げ、一気に距離を縮めていった。

途中迫りくる砲弾を避け更に二隻を沈め、遂に敵機動部隊が見える距離まで到達した。

 

「クッ、ウワサドウリノバケモノメ!ドウホウノカタキハトラセテモラウゾ」

 

左目に蒼い炎が揺らめく空母が帽子から艦載機を発艦させようとしたタイミングを狙って帽子に目掛けて三式弾を撃ち込んだ。

 

「グゥッ……グガッ!?」

 

発艦口の目の前で炸裂した三式弾は帽子の中の航空機や航空燃料なんかに誘爆し、激しい爆煙と共に上半身を失った空母は海の中へ消えて行った。

 

「さあ、後はお前だけだ」

 

「ハハ、マサニバケモノダナ」

 

俺は戦意を失った雷巡の額に砲口を向けて問い詰めた。

 

「てめぇらの親玉は何処にいる」

 

「…………」

 

「答えろ、さもなくば殺す」

 

「……フフフ、ドウセハナシタトコロデワタシハコロサレルノダロウ?」

 

「返答次第だ」

 

「マアイイ、ワレワレノヤクメハハタサレタ」

 

「どういう事だ」

 

「ソウソウワレワレノボスニツイテダッタカナ?アノカタハリトウノヒメ、チュウブカイイキノイチブヲオサメテイル」

 

「離島……そいつは何処に居る」

 

「サアネ、ワタシノヨウナゼンセンノヘイシゴトキガシッテイルハズナイダロ?」

 

「そうか、ならば死ね」

 

俺は躊躇なく引き金を引き雷巡の頭は跡形も無く消し飛んでいった。

 

「港湾の奴なら何かしら知ってるだろう」

 

敵を殲滅した俺は補給の為、一度基地へと帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハートフルってなんなんでしょうねぇ?

修正:
チ級とヲ級のセリフから漢字を外しました。


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第三十番

いやぁ、大変お待たせしました!
危うくリアル失踪しかけましたがまだまだ書いていきますよ〜!!
リアルの方は一段落?しましたので再び投稿ペースを戻して行ければ、と思ってますので期待せずにお待ち頂ければ幸いです。


 離島の手下共を沈めてから一週間、俺は修復を終えたワ級に呼んで貰った港湾棲姫達と馬鹿でかい看板の立っている島で合流していた。

 

「あんたに聞きたいことがある」

 

「エエ、話ハ聞イテイマス。デスガ……」

 

「なら話は早い、知っているなら教えてくれ」

 

しかし、港湾からはあまり肯定的では無い答えが帰ってきた。

 

「ドウカ止メテ貰エマセンカ、復讐ノ連鎖ヲ続ケテハナリマセン」

 

「だったらまた奴らが攻撃してくるのを指咥えて待ってろっつーのか」

 

「ソウイウ事デハアリマセン、デスガ…………イエ、ワカリマシタ。離島ノ居場所ハ教エマス、ソノ代ワリ私モツイテイキマス」

 

「姫様ッ!?幾ラナンデモ危険過ギマス!」

 

港湾の発言に驚愕したタ級は港湾の考えを必死に改めさせようとしていた。

 

「ココラヲ治メル離島ノ姫ト言エバEN.D(アースノイド・デストロイヤー)ノ大幹部ノ一人ジャナイデスカ!ソノ拠点ニ姫様ガ向カワレルナンテ認メル訳ニハ行キマセン!」

 

「ダカラコソヨ。タ級、コレハ私達ノ活動ニトッテモ必要ナ事ナノ。彼女達トノ和解ニ成功スレバ世界平和ヘノ筋道ガ見エテクルワ」

 

「ソレハ……ソウデスガ」

 

「ソレニ目ノ前ニ復讐ニ走ロウトシテル人ヲ見過ゴシテ世界平和ナンテ成シ得ルハズナイデショウ」

 

「リ、リョウカイシマシタ……」

 

「ト、イウ事デ私達随伴ノ下復讐シナイトイウ条件デナラバ彼女ノ居場所ヲオ教エシマショウ」

 

港湾の出す条件には全くもって頷き難いものであったが他に探す方法に宛てがある訳でもない。それに他の方法を捜している間にも響達を再び危険な目に合わせては元も子もないしな、仕方ない……

 

「……非常に気に入らないが分かった。だが、もし話し合いで解決出来ないと判断したらその場で離島を沈める。それが最大の譲歩だ」

 

「……仕方アリマセン、ソノ時ハ我々モ門長サンノ生存ヲ優先サセテ頂キマス」

 

港湾にはわりぃが此処までする奴らが和解に応じるとは思えねぇんでな、俺は奴を沈める準備をさせて貰うぜ。

 

「じゃ、交渉成立だ。可能なら直ぐに案内して欲しい」

 

「此処カラダト片道三日掛カリマスノデ彼女達ニオ伝エシテキテハドウデスカ?」

 

「それはワ級に任せることにする。それと俺がいない間響達を護ってやって欲しいんだが」

 

「イイデショウ、私ノ部下達ヲ島ノ警備ニ配備サセテオキマス」

 

「助かる、じゃあ行くか……っとその前にちょっといいかワ級、工廠に行って明石に頼んでた奴を持って来てくれ」

 

「エット、ソレハ明石サンニイエバワカリマスカ?」

 

「ああ、非常用って言えば分かるはずだ」

 

「了解シマシタ」

 

俺はワ級から秘密兵器を受け取ると港湾先導の下離島の棲家まで向かったのだったが……

 

二日後、俺達は空を覆う程の艦載機と夥しい数の深海棲艦と相対していた。

 

「……そりゃ妨害の一つや二つ来なきゃ面白くねぇよな」

 

「艦載機ハ構イマセンガ艦艇ハ出来ル限リ沈メナイ様ニシテクダサイ」

 

「……断ると言ったら?」

 

「資材ノ支給ヲ停止サセテ頂キマス」

 

「ちっ……そういう事だ、沈めない様に狙ってくれ」

 

「簡単に言ってくれますねぇ、門長さんこそタイミングしくじらないで下さいよ?」

 

「わかってる、そんじゃ行くぞ!」

 

「航空機ノ半分ハ任セマシタヨ」

 

「いや、半分なんて言わず全部墜とすつもりで行くぜ」

 

俺は両腕を水平より少し上に構え、妖精の合図で一斉に三式弾を黒く蠢く空へと放った。

六発の弾頭は空中で炸裂し空を覆う蝿共(艦載機)を一斉に焼き払った。

 

「ウソ……ナンテ威力ナノ」

 

「そうか?四十六センチ砲だしこんなもんだろ。それより駆逐と軽巡は任せた、コイツじゃ恐らく沈めちまうからな」

 

「エ、エエ任セテ。他ノ艦種ノ位置モ伝エルワ」

 

「おう」

 

港湾は頭を左右に振り我に帰ると次々と艦載機を発艦させ始めたので、俺は港湾の報告を待ちながら真っ直ぐ前進していった。

そして十分程進んだ所で港湾から報告が入ってきた。

 

「相手ノ戦力ガ分カッタワ、合計二〇四隻。内駆逐軽巡ガ手前ニ一二〇、重巡戦艦は七十二隻ニ空母ガ十二隻トイッタ所ネ」

 

「……多過ぎねぇか?深海棲艦は何でもありなのか」

 

「イエ、私達ニトッテモ掟ハ絶対デス……恐ラクソレダケノ覚悟ヲ持ッテ動イテイルノデショウ」

 

そうか、そんな覚悟を決める程俺が憎いのか。

深海棲艦にそんな恨まれる様なことした……か。

正直心当たりはあり過ぎて解らねぇがそんな事知ったこっちゃねぇ。

奴は俺を怒らせた、理由はそれだけで充分だ。

俺は電探で確認し、奥の方の戦艦や空母共だと思われる奴らの方へ砲門を向けた 。

 

「左手を少し上へ……今ですっ」

 

「おらっ、これでもくらいやがれ!」

 

耳を塞ぎたくなるような爆音(心地良い音色)と共に鉛弾が空の中へ吸い込まれていく。

 

「どんどんいきますよ〜!」

 

「おっし!やってやるぜ!!」

 

続けてニ斉射、三斉射と撃ち続けていく内に俺はある事に気が付いた。

 

「なあ、これ敵の被害状況を把握するとか無理じゃね?」

 

「エ、ソレハ……私達デ何トカ……」

 

「面倒だ、彼処の一番奥にいる奴倒せば終わんじゃね?」

 

「ソレハイケマセン!」

 

「なんでだよ、一つだけ孤立してるあいつが一番怪しいだろ」

 

「ソレハ……」

 

「あれが離島棲姫だからじゃないですかぁ?」

 

言いにくそうに吃る港湾に代わり妖精が答えた。

 

「なるほどな……」

 

「……ソウデス、ダカラ彼女ヲ沈メテハナリマセン」

 

「おし、じゃあ一丁吶喊(とっかん)すっか!」

 

「チョッ、話ヲ聞キナサイ!」

 

「聞いてるよ、だから捕らえに行くんだろうが!支援は任せたぞ」

 

「エ?チョット何言ッテイルカ解ラナイ……」

 

疑問符を浮かべる港湾を放置し俺は未だひっきりなしに降り注ぐ鉛豪雨の中に飛び込んで行った。

無数の砲弾が身体に突き刺さるが、それを自身の装甲でゴリ押しながら一直線に突進していく。

 

「全方位から魚雷八十以上来てますよ」

 

「うわ……ってそりゃそうか」

 

一斉に迫り来る雷跡に俺は思わず足を止め辺りを見回した。

今の自分の位置を考えれば当然かと考えながら左右の雷跡を確認し、充分に引き付けた所で魚雷目掛けて四十六センチ砲を撃ち込んだ。

砲弾は上手く魚雷を起爆させ、二つの水柱に続き俺の周囲で次々と高い水柱をあげていった。

 

「まあ、こんなとこ……って、あ」

 

だがしかし、そうそう上手い事いく訳は無く八十本中二十本は誘爆せず更にその内の十本は俺の足下でデカい水柱を上げた。

 

「クッソがぁっ!絶対上手く行ったと思ったのによぉ」

 

「まあ、魚雷に上手く当たっただけも運が良かったんじゃないですか?」

 

あぁ……マジ腹立ったわ、覚悟しろよ離島。

 

「門長サン、大丈夫デスカ?」

 

「ん?ああ港湾か。まだ小破すらしてないから問題ねぇ」

 

「エ……ソウデスカ、ソレナライイノデスガ……」

 

「それよりも敵のボスが見えてきましたよ」

 

「遂にお出ましか、ここは俺の交渉術(物理)で解決してやるぜ」

 

「チョット!?交渉ハ私ガシマスノデ……ッテ止マリナサイッ!」

 

俺は港湾の話を右から右に弾き返しながら拳を鳴らし離島へと近づいていく。

 

「タッタ一人ニリ級ガ負ケタト聞イタ時ハ信ジラレナカッタケレド、漸ク納得ガイッタワ」

 

だがしかし離島の声が聞こえてきた時、俺は俺史上最大の危機を迎えていた。

 

「くっ……聞いていないぞ港湾」

 

「ソシテオマエヲ此処デ沈メルベキダトイウコトモネ……リ級ノ仇ヨ、死ニナサイッ!」

 

「ナニガデスカ?ッテソレヨリモ前ヲ見タホウガ……」

 

「貴様は俺に目の前のゴスロリ美少女を手に掛けろと言うのかっ!?」

 

「ソウジャナクテ前ヲ!!」

 

「んだよ、前にはゴスロリの美少女が……っておおっ!?」

 

正面に向き直ると無数の攻撃機が俺を目指して向かって来ている 。

更に言うと、丁度俺の目の前で魚雷を一斉に切り離している所であった。

 

「あ……これちょっとやべぇか」

 

回避も迎撃も出来ない程の距離で切り離された魚雷を前になす術の無い俺はただ身構えていた。

ほどなくして俺の足下で次々と水柱が上がっていく。

 

「門長サンッ!?」

 

「ウフフフフ……ココマデ来ル間ノダメージニ加エテ四十モノ雷撃ヲ受ケレバ流石ノ奴モ唯デハ済マナイワ」

 

離島は己の勝利を確信しているのか、非常に分かりやすいフラグを建てながら水柱が収まるのを待っているようだった。

俺はその水柱の中で一気に機関を全開にし離島へと突っ込む。

 

「アラ、マダ生キテイタノネェ。デモ立ッテルノガヤッ……ト?」

 

「残念だったな、俺はまだピンピンしてるぜ?」

 

「ナ、馬鹿ナッ!ドウヤッテ凌イダッテイウノ!?」

 

「凌いだっつうか耐えただけだけどな。さて、今度はこっちの番だぜっ!!」

 

あまりの出来事に動揺を隠せない離島に対して俺はラムアタックを仕掛けようとする。

離島は直ぐ様我に帰り衝撃に備える為に身構えるが……

 

「うおぉぉしゲットォォォッ!!!」

 

その瞬間、俺は両手を広げ離島をがっしりと抱き上げた。

 

「エ……門長サン?」

 

「ハ……?一体何ノツモリカシラ」

 

「いやぁ、流石にこんないたいけな少女に乱暴する訳にはいかんだろ?だからと言って響達に危害が及ぶのを見過ごすつもりは無いけどな」

 

「ソ、ソレト今ノ状況ニ何ノ関係ガ?」

 

「……ソウ、私ヲ人質ニ攻撃ヲ止メサセヨウトイウワケネ」

 

「ん、まあそういう事だな。まず離島にはこっちの基地に来てもらう。んで後は部下達に基地の艦娘達へ危害を加えない様にしてくれれば万事オッケーだ。なに、不自由はさせないさ」

 

「私ト交渉シヨウトシテモ無駄ヨ、遅カレ早カレ私ハ奴ラニ消サレルモノ……ソシテソノ覚悟モ出来テルワ、離島ノ姫ノ名ノ下ニ命ズル! 全軍、私諸共コイツラヲ沈メナサイ!!」

 

離島の号令と共に周囲の深海棲艦共は雄叫びをあげ一斉にこっちへ攻撃を開始した。

 

「マジか!?取り敢えず殲滅すっか!」

 

「ナンデソウナルンデスカ!一旦撤退シマショウ。ソレニ先程ヌ級カラ基地へ向カッテイル深海棲艦ヲ発見シタトノ報告モ来テイマスシソレヲ含メテモ一度……」

 

「そういう事は先に言え!急ぎ救援に向かう!!」

 

「アーハッハッハッハ!!無駄ヨ無駄、オマエ達ハ此処デ沈ムノヨ。基地ニイル艦娘共トオナジ様ニネェ!!」

 

そんな事はさせん!待ってろ響、必ず助けに行く!!お前にどんなに嫌われていようと俺はどんな時でもお前を護る!!

 

「そして離島、俺はお前も沈めさせない。例え奴らが来ようと俺が護る」

 

「ハァッ?何ヲ言ッテイルノ、ソンナ方便デワタシニ取リ入ロウトデモシテイルツモリ?」

 

「ああその通りだ。お前は大切な仲間を奪っておいて何を言うかと思うだろうが聞いてくれ。俺はお前を護り続ける、更に俺の命を狙うのは構わない。だから……響達には手を出さないでくれ、頼む!」

 

俺は離島を抱き締めたままだが誠心誠意を込めて頼んだ。

俺からは離島の表情は見えないが一体どんな表情(かお)をしているのだろう。

 

「……クチデハナントデモ言エルワ。デモソウネ……基地ニイル艦娘ヲ誰一人欠ケル事無ク救ウ事ガ出来タノナラ考エテアゲナクモナイワ」

 

「その言葉信じるぜ、港湾!殿は任せた、俺は全速力で基地に戻る!」

 

「エェッ!?ココカラ全速力を出シテハ燃料ガモタナイノデハ?」

 

「その為の秘密兵器なんだよ!」

 

俺はワ級から受け取った洋上補給用のドラム缶をからパイプを引き伸ばし移動しながら補給を開始する。

 

「エェ……本当ニ彼ハ何者ナノカシラ」

 

「姫サマ、ヤッパリアノ男ト関ワルノハヤメタ方ガ……」

 

後ろの方で港湾とタ級が何か言っていたがそれどころじゃない!

俺は軽く聞き流しながら補給を続けるのであった。

 

 




私ももっと強く我が侭に生きたいですねぇ。


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第三十一番

久しぶりの日常回だひやっふぅ!!…………え?


「摩耶さん、ご馳走様」

 

「ごちそう様なのです」

 

「ご馳走様」

 

「ごちそーさまー!」

 

「ご馳走様です、摩耶さん」

 

「美味しかったわ、ごちそうさまっ」

 

「ご馳走様でした」

 

「おう、お粗末様。今日もあいつらはいるけど攻撃すんじゃねぇぞ」

 

「「はーい」」

 

朝食を終えた私は姉さんと一緒に工廠へ()()()()を取りに行っていた。

 

「明石さん、頼んでた物は出来たかい?」

 

「あら響ちゃん、勿論出来てるわよ?」

 

そう言って明石さんは奥からある装備を持って来てくれた。

 

「はい!これが聴音機(ソナー)と電探の複合型試作一号機、名前は九式波形探知機といった所かしら」

 

私は明石さんから新装備を受け取りまじまじと眺める。

 

「……なんで猫耳にしたんだい」

 

「嫌ですねぇ、猫耳ではなく狐耳ですよ?」

 

明石さんはよく分からない所を訂正するがそんな事はどうでもよかった。

 

「これは……私にはちょっと」

 

「え〜、付けてみましょうよ。似合いますって絶対!」

 

「そうそう、折角明石さんが作ってくれたんだから装備しなきゃ!」

 

「それは…………そうだけど」

 

流石に恥ずかしい……。

 

「そ、それにほら!恥ずかしかったら帽子で隠せば良いじゃないっ」

 

「……うん、分かった」

 

姉さんに諭され私は渋々新装備を装着する事にした。

 

「や、やっぱり私にはこういうのは似合わないだろう?」

 

「そんな事無いわ!とても似合ってるわ!(きゃあああ!みみがぴくぴくしてるぅ!撫で回したい……怒るかしら?)」

 

「良いじゃないですか!バッチリですよ!」

 

「どうしたんだい姉さん?目が怖い……」

 

「え?ああいえ何でも無いのよ……って明石さん!響を撮るのは禁止よっ!」

 

「いやいや、これは試作品の経過観察の為に撮ってるだけですって。あ、暁さんも現像したら要ります?」

 

「そういう事じゃないでしょ!……後で見繕ってくれる?」

 

「姉さん……?あの……訓練に」

 

「へっ!?そ、そうね。早速訓練に行くわよ」

 

「戻ったら感想聴かせて下さいね!」

 

「……分かった、ありがとう明石さん」

 

不満が無いといったら嘘になるけど、無理を聞いてを作ってくれたんだからこれ位は我慢しなくちゃ。

それに……姉さんに褒められるのは、嫌いじゃない。

 

「さ、行くわよ響っ!」

 

「えっ!?ちょっと!」

 

そう言うと姉さんは惚けていた私の手を引いて海辺へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、少し遅くなっちゃったわ」

 

「いえ、不知火達も今来たと……」

 

「あれ?響、随分可愛いカチューシャ付けてるね!」

 

「これは……気にしないでくれないか」

 

「何で?すっごい似合ってるよ?」

 

「いや……その」

 

「すっごい可愛いよ響っ!」

 

「響ちゃん可愛いのですっ」

 

「…………」

 

うぅ……これはなんて拷問なんだ……顔から火が出そうだ。

 

「おい、それ位にしないか。響を困らせる為に集まった訳じゃ無いだろう」

 

「松……!」

 

その瞬間、松が女神の様に輝いて見えた。

 

「あっ!松妬いてるんだ〜。大丈夫だよぉ松もとっても可愛いって!」

 

「なっ、どうしてそうなる!というかお前が言うんじゃない、お前も同じようなもんだろうがっ」

 

「あ、でも明石さんが松ちゃんの素顔はとっても可愛いかったって言っていたのですっ!」

 

「明石の奴余計な事を……ええい!とにかく訓練を始めるぞ訓練を」

 

「松の言う通りだよ。早く訓練を始めよう」

 

これ以上松に飛び火する前に私は本来の目的である訓練に移ろうと姉さんの袖を引っ張り海へ出ていった。

 

「もうちょっと松を弄りたかったかなぁ」

 

「くだらん事を言っていないで行くぞ竹」

 

「不知火さん?皆行ってしまったのてすよ?」

 

「……っは!?し、不知火に落ち度はありませんっ」

 

「?」

 

「あ、いえ……何でもないわ、行きましょう」

 

 

 

 

 

「ねえ響、電探の使い勝手はどうかしら?」

 

姉さんに訊ねられ私は電探を起動してみた。

 

「うん、問題ないよ。ただ索敵距離が私には広すぎるかな」

 

「それもそのはずです。それは不知火が掛けてきた電探(サングラス)を元に開発したそうだから」

 

「ふ〜ん、因みに性能はどんな感じなの?」

 

「えと……索敵距離は三十五キロ、水中索敵距離が十キロかな」

 

「え、それ何処の戦艦装備よ」

 

「いや、ここまでの物を頼んだつもりは無かったんだけど……」

 

「いいじゃないですか、グラサン(これ)も五十キロ先まで索敵出来ますがお陰でここまで来れました」

 

まあ、確かに精度が良ければ撤退もしやすいけれど……

索敵距離が五十キロもある電探って……何の為に作ったんだろう。

 

「なるほどな……よし、響の新装備の確認も終えたし早く訓練を始めよう!」

 

「松はせっかちさんだなぁ、焦らなくても訓練は逃げたりしないよ?」

 

「馬鹿者っ!敵はいつ現れるか分からんのだ、そんな事では敵を目の前にしてなす術なくやられてしまうぞ!」

 

「松の言う事は最もですが、肩肘張りっぱなしではいざという時に疲れてしまいますよ?」

 

「……不知火、流石の私もお前には言われたくないな」

 

「?不知火は何時でも自然体ですがなにか?」

 

「それが自然体だってぇ!?私は認めんぞっ!」

 

松達の掛け合いを姉さんや電と眺めていたけれど、私は今日も吹雪さんの姿が無いことを寂しく思っていた。

 

「ん?どうしたの響、何かやな事でもあった?」

 

「姉さん……吹雪さんは私を恨んでるのかな」

 

「へ?どうしてそう思ったの?」

 

「だって、吹雪さんは訓練に来てくれないし……それに私がもっと前に解体されていれば司令官も仲間も失わずに済んだかも知れない」

 

勿論あの男が他の駆逐艦を拐ってた可能性もあるけど……もし長門さんが私を助ける為に連れ出したのだとしたら……。

 

「響、顔を上げなさい」

 

「姉……さん?」

 

姉さんは普段とは違う強めの口調で私を呼んだ。

私は恐る恐る顔を上げると、突然両頬をつまみ上げられた。

 

「ね、ねぇふぁん!?」

 

「なに訳わかんない事言ってんのよっ!この口が悪いのねっ、えいっ!やぁっ!」

 

「いひゃい!いひゃいっふぇねぇふぁん!」

 

「口答え禁止!貴女ね、冗談でも言って良い事と悪い事があるわ!!」

 

「わ、わらひはじょうらんなんふぇ」

 

「尚悪いっ!」

 

「ひっふぁらないふぇ〜!」

 

「響……わかるでしょ」

 

不意に姉さんの手が私の頬を離れていった。

 

「姉……さん?」

 

「私もこの体になって知ったわ、姉妹を失う辛さを……だから、自分が居なけれはなんて言わないで頂戴」

 

「……だったら、あの時私達を一方的に攻撃したんだいっ!」

 

確かに姉さんが来てくれたらどうにかなる訳じゃ無かったかもしれないけど……でも。

 

「だからこそ行けなかったのよ……私までそっちに行ってしまったら鎮守府で待ってる雷達にこれ以上辛い思いをさせてしまうじゃない」

 

「姉さんも結局は私より雷達の方が大事なんじゃないか」

 

「私にとって皆大切な妹なの!どっちが大事かなんて比べられるわけ無いじゃないっ!!」

 

「姉さん……」

 

「本当はあの時一緒に来て欲しかった……でも、此処にも大切な仲間がいるんじゃ無理に連れ戻せないじゃない。それでも大切な妹を放ってなんておけないわ……だから司令官の馬鹿な進軍命令にも何も言わずに参加したの、雷達も連れてね」

 

私は勘違いをしていたのかも知れない。

姉さんは私を沈める事に謝っていたのだと思っていた。

だけどあれは私と一緒に居られない事に謝っていたんだ。

 

「でも私は……雷達は護れなかったわ……ごめん……ね……ひびきぃ……」

 

先程まで気丈に振舞っていた姉さんは私に謝ると糸が切れたように泣き崩れてしまった。

 

「ど、どうした暁!」

 

「何かありましたか?」

 

声を聞いた松達が心配そうに姉さんの元へ駆け寄ってきた。

 

「だ、だい……じょうぶ……ひっぐ……よ……な、ないでなんがいないわっ!」

 

「いや、どうみてもない……」

 

「まつうっしゃいっ!ズズッ……ひびき、良いこと?吹雪は貴女の事を恨んでなんかいないわ。だだ、ここの皆とどう付き合って行けばいいかわからないだけ。だから次そんな事言ったら許さないんだからっ!」

 

「う、うん。分かったよ姉さん」

 

「二人共大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよ」

 

「問題ないわっ」

 

「解りました、今日は二組に別れて対抗演習を行いましょう」

 

「演習か、我々の腕の見せ所だな。行くぞ竹っ!」

 

「今回はお二人には別れて頂きます」

 

「なっ、なん……だと?」

 

「確かにあなた達の連携は低練度とは思えない程に洗練されたものですが、艦隊戦は基本的に六人一組で行うものよ。だから他の仲間との連携も出来るようにしなさい」

 

「む、一理あるな……了解した」

 

「響、あなたは…………ハァ、まあいいでしょう。それでは私の方は松と電。そっちは旗艦暁に響と竹の三対三の対抗演習を始めます」

 

不知火さんがこちらを見て何故ため息を吐いたのかが解らずに姉さんを見ると私の手が姉さんの袖をしっかりと握っていた事に気づいた。

 

「あ……いや、これはそういうわけじゃ……」

 

「別に構いません、そこまで練度に差がある訳でもありませんし。但し、例え演習でも不知火は負ける気はありませんので」

 

「スタンドプレーはやめなさいよねっ!」

 

「当たり前です、そちらこそ一人で突っ込んで来ないように」

 

「突っ込まないわよっ!」

 

「では、位置に着いたら連絡します」

 

不知火さん達と別れた私達も開始位置へと移動を始めた…………忍び寄る不穏な気配には気付けるはずもなく。

 

 

 




非日常も続ければ日常と化すっ!(暴論)

次回!!
美少女だらけの対抗演習!前作ぶりにまともな艦隊戦となるかっ!?


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第三十二番

こりゃあ、驚いた。まさか四千文字も書いて此処まで話が進まんとは……
はよ続き書かねば(紙の様に軽い紙命感


 「こちら不知火、開始位置に到達。」

 

「こちら暁、こっちも今到着した所よ」

 

「了解、行動不能時はこちらの回線へ各自報告するように。それでは演習開始です」

 

「まずは第一戦速のまま前進するわ、竹も響も単縦陣で私に続いて。響は電探に反応があったら直ぐに教えるのよっ」

 

「りょーかいっ」

 

「わかった」

 

不知火さんとの通信を終えると同時に姉さんの指示に従い私たちは縦一列となり東へ真っ直ぐと進み始めた。

三十分程進んでいると私の電探が三つの反応を捉えた。

 

「姉さん、十一時の方向に反応があったよ!えと……単横陣で方位二七〇度へ進行中」

 

「このままだと反抗戦になるわね、よしっ!回り込んで丁字戦不利に持って行くわよ!」

 

「う~ん、いまだに違和感が抜けないかなぁ」

 

「そうだね、少し気にはなるけど仕方ないさ」

 

「そんな事は慣れなさいっ。()()私達には有利だとしても妖精さん達がそう言っている以上統一しなきゃ認識に齟齬が発生しちゃうでしょ」

 

そう、姉さんのいう事はもっともだ。そして妖精さんが何者にも縛られない存在である以上必然的に私達が合わせる必要がある為、私達艦娘にとって一方的に有利な状況にも拘らず今の呼び方となっている。

 

「取り舵一杯!直に相手の索敵圏内に入るわ、気を引き締めて!」

 

「「了解っ!」」

 

不知火さんの電探(サングラス)は今回使用しないと言っていたので恐らく駆逐艦娘に初期搭載されている索敵距離十六キロ程の電探を使用しているはず。

そう思い電探を確認すると相手との距離は既に十七キロを切った所であった。

 

「姉さん!彼我距離十七キロ切ったよ、予定通り丁字不利だ!」

 

「わかったわっ。十六キロ以内に入り次第絶え間なく撃ち続けるのよ、そうすれば相手は反撃に出にくいわ」

 

「さて、やりますかっ」

 

「まっかせてぇ!」

 

しかし、何故か竹は足に着けている四連装酸素魚雷をおもむろに発射し始めた。

 

「ちょっ!?なにしてんの!」

 

「え?だってこの距離から当てたら凄くない?」

 

勝手に魚雷を放った竹に対して姉さんはとても怒っていた。

 

「いい?その身勝手な行動一つで仲間を沈める事だってあるの。あなたは何の為に旗艦が居ると思ってるの?」

 

「……ごめんなさい」

 

「ごめんなさいじゃないでしょう?誰かが旗艦を努めなければ艦隊戦なんて成り立たないの。これは私達……いえ、深海棲艦にだって言える事よ」

 

「ね、ねえさん。竹だって反省してるみたいだしそれくらいに……」

 

「……そうね、今は兎にも角にも砲撃開始よ」

 

そういって姉さんは砲撃を始める。

私と竹も続いて砲撃を始めていると姉さんは少しだけ気まずそうに一言だけ付け加えた。

 

「別に何も考えるなって言っている訳じゃないわよ?旗艦に確認が取れる状況なら確認してから動けって言ってるの」

 

「……うん、わかった!次からは言ってから撃つね!」

 

「ちゃんと旗艦が許可してからよ?」

 

「おーけーおーけー!」

 

「もうっーーって砲撃だわ!全員面舵一杯っ!!」

 

相手の砲撃を捉えた姉さんはすぐさま私達に指示を送り、それを受けた私達は右に大きく回頭することによって砲撃のほとんどを避ける事に成功したが……

 

「くっ……」

 

「響っ、大丈夫!?」

 

「大丈夫だよ、まだ小破さ」

 

一発の砲弾が運悪く私の肩に直撃してしまったが有効射程ぎりぎりからの射撃だった為、大事には至らなかった。

 

「大丈夫ね、じゃあ直ぐに砲撃に戻って」

 

「分かった」

 

そうだ、私はもっと強くならなきゃ!電も姉さんも皆を護れる様に。たとえ演習だって負けるわけにはいかない!

私は直ぐに連装砲を構え直し砲撃戦へと戻った。

とその直後、松から行動不能を知らせる通信が入ってきた。

 

「おいっ、竹ぇっ!!お前だろあんな距離から適当に魚雷ばら撒きやがったのは!」

 

「やったぁ!運も実力の内ってねっ!当たる方が悪いのさっ」

 

「認められるかぁっ!!」

 

「あちゃ~、あの距離で当たるなんて松も相当運が無いわね……」

 

「松、まだ演習中だわ。静かにするのね」

 

「う……すまない……」

 

そのまま向こうからの通信は切れてしまった。

 

「いやぁ、やったね!」

 

「竹も調子に乗らないの、たまたま当たっただけだしそもそも人の命令を無視してんだから」

 

「むぅ……」

 

姉さんに窘められむくれている竹を眺めながら何の気なしに電探を確認すると私達六人の他に反応が不知火さん達の近くに増えていた。

 

「不知火さん!そっちに何かいるよ!」

 

私は直ぐに回線を繋ぎ不知火さんへ報告すると間も無くして不知火さんから返事が返ってきた。

 

「こっちは問題ないわ、此処二、三日島を囲っている深海棲艦の一人よ。但し良くない事が起こっているみたいね」

 

「良くない事?一体何が起きたっていうの不知火」

 

不知火さんは一息ついてから私達に深海棲艦から聞いた内容を伝えた。

 

「七十を超える敵深海棲艦の大艦隊がこの基地目指して進行中、三時間後にはここは戦場となるわ」

 

「七十だって!?そんなのどうすればいいんだい!」

 

「ほんと、無茶苦茶もいいとこだねぇ」

 

「確かに厳しいわ、でもここの深海棲艦と協力すれば撃退は可能なはず」

 

「なにそれっ!?深海棲艦と協力する艦娘なんて聞いた事無いわよっ!」

 

「そうですか?不知火は横須賀で見ましたが」

 

「そんなのどう見ても悪役じゃない!」

 

深海棲艦と協力することを姉さんは猛反対している。

姉さんの反対する理由は分かるし私だって鎮守府の仲間を奪った事は許せない…………けど。

 

「姉さん、私は不知火さんに賛成だな」

 

「響っ!?貴女まで深海棲艦と協力しようなんて言うの!?」

 

「姉さん、私達艦娘だって着任した鎮守府の環境や個体によって考え方は様々なんだ。だったら深海棲艦だって全てが敵だとは限らないんじゃないかな。それに……私はそんな深海棲艦に一度助けて貰ったんだ」

 

「響……わ、私だってこの間の深海棲艦には響を護ってくれた事は感謝しているわ!」

 

「だったら……!」

 

「うっ……そ、そうね……仕方ないわね。どうせ私達だけじゃ太刀打ち出来ないもの」

 

「ありがとう、姉さん」

 

「皆さん納得されたようですね、では彼女には伝えておきますので先に補給に戻って下さい」

 

「行こう、姉さん!」

 

私は姉さんの手を取って一旦補給の為に工廠へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 「お帰りなさい皆さん。演習はどうでした?」

 

「演習は中止になったわ。明石さん、悪いけど六人分の補給を準備してくれるかしら?」

 

「ええ、勿論用意できていますよ」

 

「さっすが明石さんだね!」

 

私達は明石さんの用意してくれた燃料と弾薬を補給しながら先程の話とこれからの動きを伝えた。

 

「なるほど、七十を超える深海棲艦をですか……」

 

「そうなの、だから明石さんには補給と修理を頼みたいのだけれど良いかしら?」

 

「そうですねぇ……補給は此方の妖精さんが用意してくれますので私は前線で皆様の修理を受け持ちましょう」

 

「それは、助かるけど……危なくないかしら?」

 

「そうだよ、幾ら練度が高いとは言え明石さんに無理はさせられないよ」

 

「確かに、工作艦が前線に出るのはどうかと思いますが」

 

「ええ……と、大丈夫なんだけどなぁ……」

 

工作艦の戦闘能力はほぼ皆無に等しい。その上耐久も回避も高くない為、前線に出る事がどんなに危険であるかなんて誰の目から見ても想像に容易かった。

しかし、そんな全員一致の反対を押し切ろうとする存在が突如現れた。

 

「ヘーイッ!話は聞きましたヨー。だったらアカシは前線に出すべきネー」

 

「金剛さん、この暑さで頭がやられてしまいましたか?」

 

「オウ、ベリースパイシーネー不知火。ワタシだって他のアカシならそんなインポッシブルな事言いまセーン」

 

「ここの明石さんなら平気だとでも?」

 

「イエース!なんたって彼女は呉の魔法使いと呼ばれ、数々の前線にて泊地修理ならぬ前線修理任務を請け負っていたんですからネー!」

 

「金剛さん、その呼び名は止めましょうよ……」

 

「呉……そうでしたか。分かりました、そういう事ならぜひお願いします」

 

「ま、まあ明石さんと金剛さんが大丈夫だっていうならわかったわ」

 

「でも明石さん、無理はしないで」

 

「わかってますよ!私だって簡単に沈むわけにはいきませんからね!」

 

「さぁ、ブッキーもマヤも外で待ってるネー!レッツゴー!」

 

補給を済ませた私達は吹雪さん達の元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 海岸へ出ると既に吹雪さんと摩耶さんが海に出て青空を睨み付けていた。

 

「ブッキー!マヤ!お待たせしましたネー」

 

「響さん……あなたは下がってたらどうですか?」

 

「いやだ、私も戦うよ」

 

「そうですか……どうなっても知りませんよ」

 

吹雪さんはそれだけ言うと興味なさげに顔をそらした。

 

「吹雪さん……」

 

やっぱり嫌われてるんじゃないかと不安に駆られていると海面から一隻のワ級が姿を現した。

 

「皆様、オマタセシマシタ。私ガ今回ノ基地護衛艦隊ノ旗艦ワ級flagship後期型、フラワートオヨビクダサイ」

 

「私が此方側の旗艦を臨時的に努めてマース、英国生まれの帰国子女金剛デース!今回は私達に協力してくれて感謝ネー」

 

フラワーさんと金剛さんの間に固い握手が交わされた。

確かに不思議な光景だけれど、私には不思議と様になっているように感じた。

 

「…………なんで深海棲艦なんかと……」

 

だけど吹雪さんはその光景を納得していなかった。

 

「あ……ふ、吹雪さん。あの……」

 

「どうしました、響さん」

 

吹雪さんにも分かって欲しい……深海棲艦の全てが憎むべき存在じゃない事を。

私を助けてくれたフラワーさんのような深海棲艦だって居るんだってことを。

 

「…………大丈夫ですよ。納得できなくとも今自分の為すべき事位は理解しています」

 

私が上手く言葉に出来ないでいると吹雪さんは私の頭に手を乗せたまま初めて微笑み掛けてくれた。

 

「私の……いえ、私達の居場所を護るために私は戦います。響さんも頼りにしてますよ」

 

「……分かった、やるさ」

 

結局私は吹雪さんに上手く伝える事は出来なかった。けれど吹雪さんは私に笑顔を見せてくれた、そして頼りにしてくれた。

その一言で私は嫌われていないんだと思えた、今はそれで充分さ。

 

「敵機接近!我々ハ水上艦ノ相手ヲシマスノデ艦娘ノ皆サンハ艦載機ヲオ願イシマス!」

 

「おっしゃあ!この摩耶様達に任せておきな!」

 

「準備オッケーネー!」

 

「命中させちゃいますっ!」

 

「量産型だと見くびるなよ?」

 

「どっちが多く落とせるかなっ!」

 

「当たって下さいっ!」

 

「落ちろっ」

 

「ってぇーい!」

 

「ウラァーッ!!」

 

皆の気勢と機銃音と共に今までで最大の海戦が幕を開けたのだった。




まともな砲戦をするにはもうちょっと練度が足りなかったかなぁ(誰のとは言っていない)


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第三十三番

もう……暫く戦闘なんて書きたくないでござる。

久々の6000字越えの為長文注意です。


 皆さんポテンシャルはノープロブレム……ですが正直このメンバーで何処まで耐えられるでしょうか。

 

「ヘーイフラワー、相手の艦載機はどれだけですカー?」

 

「エト……ヌ級ヲ級ニ加エレ級モ何隻カイマスノデ少ナクトモ一〇〇〇機以上ハ来ルカト」

 

少なく見積もっても一〇〇〇ですカ……流石に桁が違い過ぎるネー。

今はまだ数は来てませんが一度に来られたら私達だけでの迎撃はまずインポッシブルでしょう。

 

「サンキューフラワー。続けて悪いんだけれどユーのメンバーにツ級がいたら対空迎撃を手伝ってくれまセンカ?」

 

「ア、ソウデスネ!ワカリマシタ、スグニ来ル様ニ伝エマス」

 

「センキューネ。っと中々にハードになってきたネー」

 

二十五ミリ三連装機銃で散っているエネミーを撃墜しながら三式弾を駆使して集まっている艦載機達を纏めて吹き飛ばしその数は着々と減っていきマシター。

他のメンバーの損傷具合も大した事は無く安心したのも束の間、奥からは先程の倍以上の艦載機が向かって来てましたネ。

 

「どうしよう……まだあんなに」

 

「弾薬はまだあるがあれだけの数、対処し切れるか……」

 

「響、松。大丈夫デース!とにかく雷撃には気を付けて一機ずつデストロイして行けば何とかなりマース!」

 

「……了解、やるさ」

 

「承知した」

 

ソウ、一撃必殺の雷撃さえ当たらなければアカシが対応してくれるでしょう。

 

「対空迎撃部隊到着シタ!私ガ隊長ノツ級flagshipダ、支援スルヨッ!」

 

「オーイェス!協力感謝するネー」

 

支援艦隊が到着し、少しだけ戦線を押し返したケド。

今も昔もここまでの数の航空機を相手にしたことの無いワタシ達ではアカシのサポートがあっても厳しかったようデース……

 

「うぐぅっ……流石にこれは、恥ずかしいな」

 

「響っ!」

 

奮戦していたヒビキでしたが疲労が溜まり遂に撃ち漏らした攻撃機の雷撃を諸に受けてしまったネ。

 

「アカシ!直ぐにヒビキをっ!」

 

「分かってますっ……って響ちゃん避けて!!」

 

なんとヒビキに追い撃ちを掛けるように攻撃機がもう一機、大破している彼女を捉えてまシタ。

アカツキが直ぐに撃墜するも魚雷は既にパージされていたのデース。

 

「あ……あぁ…………いやっ、死にたく……ない……よぉ」

 

「ひーびーきぃぃ!!」

 

アカツキは全速力でヒビキの下へと向かい、機関が損傷し回避が取れなくなったヒビキを突き飛ばした。

次の瞬間、激しい衝撃と共に大きな水柱がアカツキを飲み込んだのデス。

 

「姉……さん……?姉さんっ!!」

 

「大丈夫……じゃないけど生きてるわ」

 

ボロボロになりながらもアカツキは何とかそこに立っていたネー。

 

「お二人を連れて少しだけ下がります!四十……いえ、三十分だけ護って頂けますか!」

 

「三十分……ですか」

 

「オーケー。私とマツ、タケの三人でアカシ達の護衛に当たりマース!他の皆サンは引き続き敵機の撃墜をお願いネー!」

 

「不知火、了解」

 

「響達の事は頼みますっ」

 

「おう、こっちはアタシ等に任せなっ!」

 

オーケー、今は彼女達を信じてワタシ達は奴らを一機も通さないよう此処を守り切りましょう。

 

「マツ、タケ。良いですカ、何があっても此処を通したらノーなんだからね?」

 

「無論、心得ている」

 

「分かってる、此処は絶対に通さないよっ!」

 

「三式弾オーケー、ファイヤー!!」

 

こうしてワタシ達の劣勢の中始まった防衛戦は、日を跨いでも一向にフィニッシュを迎える気配も無く続く事になるのでシタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が離島の本拠地を離れ1日と十時間が経過していた。

離島を抱えながらという事もあり追加補給した燃料も三分の一を切っていたが、それでも俺は全速力を出し続けた。

 

「ドンナニ急イデモ無駄ナノヨ、七十隻ヲ越エル私ノ艦隊相手ニ一日ダッテ耐エラレル筈ナイワ」

 

「そんなのは行ってみなきゃ分からん」

 

「フフ……オマエノソノ顔ガ絶望ニソマルノガ見物ダワ」

 

「…………」

 

「不安デ声モ出ナイノネ?カワイヒャウッ!?チョット!ナ……ニヲ……アッ……」

 

俺は無言のまま担いでいる離島の脇腹に頬ずりをしてやった。

 

「ナニ……カ……ァン……言イナ…ンンッ!?」

 

「だからよぉ、行ってみなきゃわかんねぇって言ったろ?人の話を聞かない子はお仕置きしちゃうぞ?」

 

「話聞かないのは貴方もじゃないですかぁ〜」

 

「うっせ!とにかく俺は響達を護ってお前も護る、だからお前も約束通り響達には危害を加えなきゃいいんだよ、分かったか?」

 

「…………姫ニ二言ハナイワ、モシオマエガ出来タラノ話ダケレドネ」

 

「よし、じゃあしっかり掴まってろよ!」

 

俺は背中に離島をおぶると両腕の主砲を前に構え妖精に指示を送る。

 

「とりあえず空母をしず…………中破以上にするぞ」

 

「艦種の判別が出来ないので無理です、というか何で水偵察積んでないんですか」

 

妖精からの冷静な突っ込みを受けて俺は水偵の存在を思い出していた。

 

「あ……そうだった……此処で水偵作れたりしないか?」

 

「非常識も大概にしたほうが良いですよ?」

 

「だよなぁ……」

 

幾ら無駄に万能な妖精でも出来ないことはあるよな……

望みが断たれ仕方なく突っ込もうと考えていたとき妖精がある代案を持ちかけてきた。

 

「まあでも貴方、今スロットに艦載機を搭載しているじゃないですか()()()

 

「え……装備?」

 

「チョット、コノチッコイノハ何ヲ言ッテイルノカシラ?」

 

確かにこの少女は艦載機を大量に装備しているが彼女が力を貸すとは到底思えない。

しかし、俺と離島の予想斜め上を行くような発言が妖精から飛び出してきたのだ。

 

「スロットにあるんですから門長さんなら使えますよ?」

 

「「……ハァ?」」

 

使えるってどういう事だ?俺なら説得できるとかそういう意味合いか……いや、それだったら俺よりも妖精の方が適任だろう。

となると……いや、まさかな。

 

「……どうやるんだ?」

 

半信半疑で妖精に使()()()を聞いてみると、妖精はさも当然のように答えた。

 

「簡単ですよ?ただ発艦するように念じればいいんです」

 

「コ、コレハ私ノ航空機ヨ!!オマエナンカニ発進出来ルハズガ……」

 

「だよな、俺も思うわ」

 

しかし、俺がひとたび念じると離島が押さえつける格納庫は無情にも主を押しのけて次々と発艦し直ぐに空の彼方へと飛び立っていった。

 

「チョッ、ナニガドウナッテイルノヨ!?意味ガ分カラナイワッ!」

 

「いや、俺にもわからん」

 

「つまり貴方は艦娘の兵装のみならず深海棲艦の兵装すら使用できる適正を持っているんですよ」

 

まあ流石の私も気づいたのは貴方が離島棲姫をおぶった時なんですけどねぇ――とか軽い調子で言っているがこれって兵装っつーか艦艇を装備してないか?

まあ、出鱈目なのは今更だが……兎に角これで俺が艦娘?かどうかも怪しくなってきたって事か。

 

ー別に、艦娘じゃないと困ると言うことも無いだろう?ー

 

ーーそのとおりだ、我々は響とその仲間を護る存在なのだからなーー

 

そりゃそうだが……本音を言えば矢張愛されたいし愛したい。

 

ーそれはお前さん次第だなー

 

ーーそれよりも眼は手に入ったんだ、早く助けに行くぞ門長!ーー

 

ったりめぇだ、言われるまでもねぇ!

 

「つーわけで暫く借りるぜ離島」

 

「ナンナノヨ…………既ニ私ニハ制御出来ナイシ勝手ニスレバイイジャナイ」

 

「んで、どうやって確認するんだ。通信か?」

 

「いえ、深海棲艦には私達の様な妖精は乗っていませんので眼を瞑って確認する方法のみとなりますね」

 

「へぇ、こんな中から見たい奴なんてどうやって選ぶんだ?」

 

次々と発艦される航空機を見送りながら俺は妖精に訊ねた。

 

「艦娘と一緒なら数機一組の番号の振られた中隊が幾つもあるのでその中で何番の中隊が観たいと念じればその中隊の隊長機の視点が映ると思いますよ?」

 

ほう、取り敢えず第一中隊を見るか……これが噂のVRか、自分の姿が見えない上に俯瞰視点とか正直違和感しかねぇ。

 

「因みに作戦指示なんかも念じれば勝手におこなってくれますので貴方の仕事は戦況を把握しながら各中隊への作戦指示と私の指示通りに腕を動かせば良いだけですね!」

 

「だけって……ややこしいわっ!取り敢えず空母が何処に居るか分かればいいんだよ」

 

いつもこんな事やってるとか頭おかしいんじゃねぇのか空母共は。

なんて考えてる間に敵が見えてきたのを確認した俺は電探の位置と見比べて空母の位置を特定し始める。

 

「一番近くに固まってる三十隻が空母共みたいだな――ってその奥にエリレも居るじゃねーかっ!?」

 

「エリレ?ああ、戦艦レ級ですか。この辺りなら別にいても不思議ではないでしょう」

 

「不味いな……」

 

「アラァ?ツイニ怖気ヅイタノカシラァ。マア無理モナイワネ、例エオマエノ馬鹿ゲタ装甲デアッテモマルレ隊ト当タッテ無事ニ済ムハズガナイワ」

 

「何とか彼女等を()()()()()止める方法は無いだろうか」

 

「ハ……?」

 

「取り敢えず戦闘機の第一中隊は弾着観測、第二中隊で制空権を奪取。その後第三中隊から第八中隊の攻撃機と爆撃機で敵飛行甲板を出来る限り大破させろ」

 

俺は発艦した航空機360機に大まかに指示を送り、目を開き再び主砲を構え妖精に目標を伝えた。

 

「よし、エリレもといレ級達の周りの深海棲艦を大破させつつレ級に接近を試みる」

 

「はあ……何か策でもあるんですか?」

 

「策など無い……が誠心誠意を込めて伝えればきっと分かってくれる筈だ!」

 

多分……まあもし駄目ならば明石に作らせた麻酔弾で暫く眠ってて貰う事になるが何とかなるだろう。

 

「はいそうですか、じゃあ右手を3度上に左手は2度左にずらしてください」

 

「よし」

 

「…………今です!」

 

妖精の掛け声を合図に引き金を引く。

轟音を響かせ6発の砲弾は放物線を描き水平線へと消えて行った。

目を閉じ観測機の視点を見ながら戦艦が背負っている異形の片方が吹き飛んでいるのを確認した。

 

「おぉ、ホントに当たってんだな」

 

「当然ですよ、なんたって私ですからね!」

 

「ああそう、じゃあ次だ」

 

態々肩の上まで登り、自慢げに胸を張る妖精の発言を軽く流しながら俺は次を促した。

接近しながら砲撃を繰り返すこと十数回、レ級達に無事接近するころにはレ級以外の深海棲艦は殆どが中破ないし大破していた。

 

「フ、フフ……オマエガ()()ニモ劣ラナイ規格外ノ化物ダトイウ事ハ解ッタワ。デモネ、マルレ隊ハ()()ニ対抗スルタメニ選バレタ艦隊。負傷シタオマエ如キガ敵ウ相手デハ無イワヨ!」

 

「成る程ね、レ級が五隻にelite級が五隻……それにあれは最近海軍で一件だけ存在が確認されたflagship級じゃないですか」

 

「オドロイタカシラ?アノ子達ハオリジナルニハ程遠イ試験段階ダケレド、ソレデモタッタ一隻デ陸上ノ姫二人ヲ撃沈シソノ後艦娘ノ連合艦隊ヲ追イ詰メタ実績ヲ持ッテイルワ」

 

ふ~ん……正直戦うつもりは無いから何でも良いんだが。

しかし折角教えてくれたのに素っ気ない返事をするのも可哀そうだしな。

 

「教えてくれてありがとな。だが心配するな、俺は大丈夫だ」

 

俺は右手で離島の頭を撫でながら感謝を伝えた。

 

「ハァ!?教エタンジャナクテ脅シタノヨ!ソレニドサクサニマギレテ頭ヲ撫デナイデヨネッ!」

 

さて、そろそろ声が届く距離か……

俺は離島の頭から手を放すと大きく息を吸い込みレ級へ呼びかけを試みた。

 

「おーい!そこの黄色いレ級!!俺と話し合わないか?」

 

砲撃が降り注ぐ中暫く待っていると黄色いオーラを纏ったレ級の一人が此方への砲撃を辞めさせてやって来た。

 

「姫様ト……ダレダオマエハ?」

 

「俺は門長和大、離島の仲間になる予定の男だ」

 

「仲間ニナルトハ言ッテイナイワ!」

 

「フ~ン……デ、ナンノヨウナノ」

 

レ級は余り興味なさげな問いかけに俺は簡潔に要件を述べた。

 

「俺はお前達みたいな美少女達を愛でたいんだ!」

 

「ン?ナニイッテンノオマエ」

 

あ、本音が漏れた……いかんいかん。

 

「じゃなくて……今お前達が攻めている所が俺の家なんだが一緒に暮らさないか?」

 

「結局欲望を隠せてないじゃないですか……」

 

なんだと!?完璧な流れだったはず……一体何処をどう間違えたというのだ。

 

「ン〜……ツマリオマエハ敵ナノ?味方ナノ」

 

こ、これはチャンスか?勿論答えなど決まっている!

 

「私達ノ敵ヨ、全力ヲ出ス事ヲ許可スルワ」

 

「ホント!?ヤッタネ!」

 

くっ、離島に先手を打たれたか……

 

「オイオマエ、簡単ニ沈ムナヨ?」

 

キラキラと輝かせるレ級の瞳はとても眩しかった。

そう、殺意100%濃縮還元されたその瞳は……

 

「ま、悪い気はしないな」

 

「こんな所でご自分が変態である事を再確認しなくても」

 

……この妖精は一々水を差す様な事を言いおってからに。

 

「まあいい。そんな事より来るぞ、換装用意」

 

「はいはい」

 

俺は離島を降ろすと麻酔弾に換装しつつレ級へ距離を詰める。

 

「アッハハハハッ!」

 

レ級は高らかに笑いながら尻尾に搭載された俺が持ってる主砲(四十六センチ三連装砲)と同じサイズの主砲を撃ち放った。

 

「今です!」

 

「おうっ!」

 

俺も交差する様に換装し終えた麻酔弾を放つ。

 

「ぐっ、少しだが効いたぜ」

 

またパンツ一丁になっちまったがこの距離じゃ避けれねぇだろ。

 

「門長さん、左です!」

 

「はっ?」

 

妖精に言われ左を見ると愉しそうに海面を()()()()()魚雷を放つレ級の姿があった。

 

「なあ……海の上って走ったり跳ねたり出来るのか?」

 

「理論上は可能ですよ、摩擦の少ないスケートリンクの上で走る様なものですから」

 

「なるほどな」

 

「あ、でも門長さんは止めた方が良いですね」

 

「なんでだよ」

 

「燃料の消費もその分速くなるからですよ」

 

……それもそうか。

俺は試しに目の前まで迫る魚雷を飛び越えてみた。

 

「やっべぇ!燃料が残り僅かだぜ!」

 

「アッハ!面白イナオマエッ!」

 

「はぁ、馬鹿ですか貴方は」

 

「うるせえ、只の確認だ」

 

「やっぱり馬鹿じゃないですか」

 

俺が妖精と言い合っている間にレ級は俺の懐まで潜り込み、勢い良くボディブローを決めた。

 

「マダマダコンナモンジャナイダロ!」

 

「いや、これで終わりだ」

 

「ア?」

 

俺はレ級が腕を引く前に両腕でその細い腕をしっかりと握り締めた。

 

「ハ、ハナセヨッ!」

 

レ級は尻尾で何度も俺を殴り付けるが、俺は怯むことなくレ級を引き寄せる。

 

海底棲姫共(あいつら)を相手にするんなら近接は無意味じゃねぇか?」

 

「クソッ!コノ、ハナセッ!」

 

レ級は俺の肩に噛みついて抵抗するも、俺は構わず妖精に指示を送る。

 

「麻酔弾の中の麻酔薬を直接打ち込む事は出来るか?」

 

「お易い御用ですよ〜」

 

妖精は軽く引き受けるとレ級の肩へと乗り移る。

 

「オリロ!殺スゾッ!!」

 

「妖精は死なないんですよ〜っと」

 

「グガァァッ!?ナ、ナニヲシ……タ……」

 

暫く暴れていたがやがて麻酔が全身に回りレ級は意識を失った。

 

「……ふぅ」

 

正直近接戦闘に持ち込まずにあの動きで避けられてたらやばかったかもな。

 

「取り敢えずレ級を連れてあっちに行くか

。離島もこっちにこいよ、終戦だ」

 

「マ、マダヨ!マダマルレ隊は健在ヨ!」

 

「妖精」

 

「準備オーケーですよぉ」

 

俺は他のフラグシップ級のレ級を背後から麻酔弾で眠らせた。

 

「ナッ!?ヒ、卑怯ダワ!反則ヨ!」

 

「反則も何もあるか。終戦だっつってんだろうが」

 

旗艦がやられ混乱するマルレ隊に近付きつつ金剛へ通信を繋ぐ。

 

「ヘーイ、やっぱりミスターでしたカー。助けてくれてセンキューネー」

 

「お前に感謝されても嬉しくねぇ。それより戦闘終了だ、こいつらにも止めるように伝えるからそっちも全員に伝えてくれ」

 

「フィニッシュ?オ、オーケー……全員に伝えておきマース」

 

よし、これで向こうは大丈夫だろ。

あとはアイツらか。

 

「おーい!」

 

こうして俺らの大規模作戦は双方に多数の大破者を出しながらも奇跡的に轟沈を出す事は無かった……らしい。

飽くまでも俺の把握している限りだが。




次回は日常に入る……かもっ!


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第三十四番

次は日常回といったな、あれは嘘だ。
いやぁ……此処を逃すと書くタイミングを失いそうだったのでつい(^_^;)

それと今回は三人称視点となります。
話数で言えば六話ぶりですが時間がたったせいで久しぶりに感じますねぇ。


門長と離島の過去最大級の抗争は無事終幕を迎えた。

しかし、全てが終わった訳ではない。

時同じくして南方前線基地では壊滅寸前の危機的状況へ追い込まれていた。

数は八十隻以上いるものの、レ級flagshipの様な飛び抜けた戦力が入っている訳ではない。

だが、深海棲艦の加勢があった向こうとは違い空母が圧倒的に足りていない為、制空権を完全に奪われ基地が壊滅するのも時間の問題であった。

 

「何とかしないと……このままじゃ……」

 

白い軍服に身を包んだ黒髪ポニーテールの女性、西野永海(にしのなみ)は執務室で前髪を滅茶苦茶に掻き乱しながらも打開策を見つけ出そうと必死になっていた。

そんな中、二人の少女が扉を蹴破り部屋の中へ飛び込んできた。

 

「う、卯月ちゃんに夕月ちゃん!?」

 

「しれぇかん!直ぐに此処を出るぴょん!」

 

「で、でもどうやって撤退するというの!」

 

「……陸奥さんや大和さん達戦艦と赤城さん加賀さん達空母が注意を惹きつけてくれている間に我々第四艦隊が司令官を連れて最寄りの基地へ向かう」

 

「そんなっ!彼女達を見捨てるなんて……」

 

西野が作戦に異を唱えようとしたところに夕月が割込む。

 

「司令官、分かっているだろう!どの道このままでは全滅は免れない……」

 

「だからって……」

 

「う~ちゃん達だって仲間を見捨てたくはないぴょん……でも、これは陸奥さん達の意思なんだぴょん」

 

「陸奥達が……」

 

「ああそうだ、司令官が我々を護ろうとしてくれているのと同じ様に我々も司令官の事を護りたいんだ」

 

「…………」

 

「心苦しいのは分かってはいるが先程言ったように時間が無い、済まないが命令違反の処罰は後で受けよう」

 

「こっちだぴょん!」

 

そういって夕月と卯月は思い悩む西野の手を取り執務室を離れた。

 

 

 

 

 

 「こちら夕月、今司令官を連れ出した」

 

「良くやったクマ、夕月達はそのまま工廠へ行くクマー!」

 

「分かった、そっちは?」

 

「球磨達も直ぐに向かうクマ、だけど……最寄りとは言えなんで態々あいつの居る所なんだクマ」

 

球磨の疑問は最もである。

確かに前線である南方基地は深海棲艦の侵攻をいち早く察知する為に置かれているので一番近い基地でもタウイタウイ泊地に設営されている基地であり、門長達の所に向かうより十倍以上距離がある。

だからと言って中部海域にある基地へ向かうのは深海棲艦の中枢へ乗り込む様なものであり、普通に考えて無謀以外の何者でもなかった。

それでも夕月には確信は無くとも理由はあった。

 

「ああ、勿論ただの思いつきじゃないさ。深海棲艦が何を狙って攻めて来たのか解らないが、もし司令官又は基地の艦娘含め全員ならば追ってくる可能性がある」

 

夕月の言いたい事を理解した如月が夕月に代わり答えた。

 

「なるほどねぇ、確かにあれだけの数を本土に近づけさせる訳には行かないわねぇ」

 

「ああ、戦力を余裕で割ける位に優勢な奴らが執拗に我々の基地の前で留まっているのを見るに目的は基地の壊滅か我々の殲滅だ。ならば我々があちらへ向かえば少なくとも本土まで危険が及ぶ事は無いだろう」

 

本土へ危険が及ばないように……確かにそれもあるが夕月にとってそんな事は重要ではない。

彼女の本当の目的とは、卯月をそして姉達を護りたい。

それこそが夕月が此処に来た理由であり、此処に居る理由。

そして、普通の鎮守府よりもあの男が手を貸してくれた方が助かる可能性が高いと踏んでの事であったが……

 

「でもさ~、噂じゃ深海棲艦と手を組んでるって話だよ?頑張って撤退したけど捕まりましたなんて勘弁だよあたし」

 

「そうだクマ、あいつは極悪人なんだクマ!やっぱりタウイタウイまで撤退した方が良いクマよ」

 

二人の反対に夕月は内心渋い顔をする。

一度だけとはいえ、門長と話した事のある夕月には彼が噂に聞くような極悪人とは思えなかったからだ。

しかし、だからといって皆の反対を押し切れるほどの根拠が無いのもまた事実であった。

 

「望月……球磨……」

 

「ちょっと待つぴょんっ!」

 

夕月が引き下がろうとしたその時、黙って聞いていた卯月が待ったを掛ける。

 

「卯月……?」

 

「確かに悪い奴かもしれないけど、うーちゃん達はあいつと直接話した訳じゃ無いぴょん!」

 

「まあ、あたし等は眠らされてた訳だしねぇ」

 

「あれは……うーちゃんも悔しかったけど……でも冷静になって考えればそこがまず変だぴょん」

 

「まあそうねぇ。麻酔弾なんて普通使わないし、その上夕月ちゃんだけ寝かさずに資材を三分の一だけ持って行ったなんて不思議よねぇ」

 

「ん~……言われてみれば可笑しな泥棒さんにゃしぃ」

 

卯月の説得により如月と睦月の考えが揺れた。

そして卯月は畳み掛ける様にさらに続ける。

 

「それに、夕月が行きたいって言うならうーちゃんは何処にだってついてくっぴょん!!」

 

卯月の一言に睦月と如月はお互いに顔を見合わせ、そして微笑み合って言った。

 

「そうだねっ!お姉ちゃんもついていくぞよ。にひひっ」

 

「う~ん、そうね。かわいい妹に頼まれたら断れないわねぇ」

 

「あんた等からしたらあたしも妹なんだけどぉ~……まぁ滅多に我儘言わないし、今回は()()()()()()譲るとするか~」

 

「姉さん達…………あ、ありがとう」

 

卯月達と一緒に生活を始めてから一年以上経つが未だにちやほやされる事に慣れていない夕月は顔を夕日の様に赤く染めながら小さな声で感謝を伝えた。

 

「あ~……もういいクマ……球磨達の目的は提督を護る事クマ、だからどっちが良いかの最終判断は提督に委ねるクマ~」

 

こんな状況にも拘らず甘々な空気全開の睦月型を前に球磨は半ば呆れながら判断を西野に放り投げた。

 

「私!?え、ええと……」

 

唐突に話を振られ動揺する西野を夕月が落ち着かせる。

 

「勝手に話を進めてしまって済まなかった司令官。安心して欲しい、どちらへ向かおうとも我々は全力で司令官を護る」

 

「そうだクマ―、ただどっちに行ってもリスクは発生するから提督の行きたい方を選べば良いクマ」

 

「そう、ね……」

 

西野は目を瞑り秘書艦である陸奥の顔を思い浮かべながら大きく深呼吸をしてから、目を開き指示を出した。

 

「これより陸奥達が前線を抑えてくれている間に私達はMS諸島前線基地跡まで撤退します」

 

「「「「「「了解(クマ)(ぴょん)!!」」」」」」

 

(陸奥、私はこの子達と生きてみせる。だからあなた達も、どうか……)

 

陸奥達の思いを胸に、工廠で合流した西野達は前線基地を去って行った。

 




少し短いですが戦闘は色々と避けたかったので此処までとなります。
次こそは日常回行きたいですねぇw


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第三十五番

途中深夜テンションが入ったせいでストーリーに影響を及ぼしそう……なんつって。
まあ文字数が伸びてしまった原因ではありますかねw


 全員を集めての会議はこれで何度目かになるが今までとは比べ物にならない程殺気立った空気が部屋を包み込んでいた。

 

「あ~……それでは新しい仲間を紹介しよう。彼女は離島棲姫、この辺を指揮している組織の幹部らしい。だが俺が離島を守る代わりにここにいる俺以外には危害を加えない事を約束してあるから安心していい」

 

「……その深海棲艦はここを襲った首謀者……ですよね」

 

「モチロンソウヨォ?ソレトココノ艦娘共ニ危害ハ加エナイトハ言ッタケレド、馴レ合ウツモリハナイカラ」

 

離島の見下す様な視線を受けた吹雪は、更に殺気を込めて離島を睨み返す。

俺はその間に入り、吹雪含め全員の説得を続ける。

 

「突然の事で納得し難いだろうが、彼女は根は良い子なんだって事を皆にも知って欲しい」

 

「はぁ?何を訳の分からない事を……」

 

「そ、そうデスヨミスター。いい子はこんな事しませんネー」

 

「ワタシガイイコダッテ?面白クモ無イ冗談ネ」

 

「いや、離島がこんな行動を起こしたのは俺に原因がある……らしい、な?」

 

俺は確かめる様に離島を見つめていると離島は憎しみの篭った瞳で睨み付けながら答えた。

 

「…………ソウネ、オマエガ居ナケレバリ級ハ沈マナカッタワ」

 

「そうかもしれん。だがしかし、だからと言って響達が巻き込まれるのは認められん。そこで俺は先に伝えた提案を持ちかけた。すると離島はその提案を呑むにあたってある条件を出したんだが、何だと思う?」

 

俺は吹雪を見ながら答えを伺う。

吹雪は少し考えてからゆっくりと口を開いた。

 

「侵攻中の深海棲艦を沈めずに制圧……でしょうか」

 

「惜しいな……正解は深海棲艦じゃなく艦娘を誰一人沈める事無く戦いを終わらせたら、だ」

 

「私達を?つまり絶対に沈める自信があったということですか」

 

「それもあるだろうが、きっと俺が有言実行出来る奴かどうかを知りたかったんだと俺は思う」

 

「絶対ニ沈メラレル自信ガアッタカラヨッ!都合ノ良イ妄想ハヤメテクレル!?」

 

「でもよ、吹雪が言ったように深海棲艦を沈めずに制圧する方がお前は仲間を守れるし俺にとっては無茶な注文だろ?」

 

まあ結果としてはどっちも成し遂げたんだが。

 

「ソレハ……」

 

「つまり、テメェの仲間一人護れないで敵である自分を護ろうなんて甚だ可笑しいって事だろ?」

 

「…………」

 

「ま、そういう事だ。根本的な原因は俺にあるんだから離島をあまり悪く言うのは無しにしてくれ」

 

俺は話を切り上げ周囲を見渡す。

ここで建造された摩耶や竹は兎も角、響達は流石に直ぐに受け入れるのは難しいか…………だがきっと分かってくれると俺は信じている。

 

「よし、難しい話はこれくらいにして飯にしようか」

 

「おい変態、テメェは先に風呂に入りやがれ」

 

おおっと、言われるまで気付かなかったが中破したままだったな。

 

「しかたねぇ、ちょっくら言ってくるわ。響も来るか?」

 

「うるさい」

 

一蹴されてしまった……軽いジョークなのに。

 

「摩耶さん達の修復は私がやりますんでこの後工廠にいらして下さいね」

 

「お、わりぃな」

 

「センキュー明石」

 

「なあ、俺もぱぱっと修理出来ねぇのか?」

 

無理(面倒なのでやりたくない)ですねっ」

 

イラッ……運の良い奴め。響達が見てなきゃぶん殴っていたところだ。

 

「わぁったよ、行ってくる」

 

俺は仕方なく引き下がり部屋を後にしたのだが……

 

「ん?何だあれは……」

 

海の向こうにある黒い点々に気付いた俺は一旦部屋に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地を出た俺達を追い掛けてきた十隻の深海棲艦から逃げ続けてから一日が経過し漸く目的地の島が見え始めたが、基地を防衛していた時から合わせて丸二日間気を張り続けていた為全員の顔からは疲労が見え始めていた。

 

「艤装が無ければ即寝だったぴょんっ!」

 

確かに艤装を外した瞬間寝付いてしまうだろう強い疲労を感じつつも飛んでくる艦載機を迎撃していく。

 

「卯月、あと少しだ。踏ん張ろう」

 

「ま、着いたからって大丈夫とは限らないけど、ねっ!」

 

「それでも、やるしかないよねっ!」

 

「夜更かしはお肌の天敵……なんて言ってられないものね」

 

「夕月、先に上陸して支援を頼んできて!皆はもう少し持ちこたえていて」

 

「了解した。直ぐ戻る」

 

「こっちもなんとか抑えとくクマー!」

 

俺は全速で艦隊を離れMS諸島前線基地跡へと上陸した俺は、そこで恐れていた事態を目の当たりにしたのだった。

 

「そんな……お前はそちら側だったのか……」

 

件の男、門長が深海棲艦を……それも姫級の手を引っ張って建物から出てきたのである。

 

何を動揺している、その可能性も分かっていただろう。だったらどうする。そうだ、俺は姉達に迷惑が掛かる前に刺し違えてでも止めるだけだ!

俺が魚雷を構え門長へ突撃しようとしたとき。

 

「おらぁっ!!聞こえてるだろ深海棲艦共!!戦闘を止めろ、これはここに居る姫様の命令だ!」

 

「フ~ン、ソレデ私ヲ連レ出シタノネ」

 

「わりぃな、これが離島の仲間をこれ以上沈めない一番最良な方法なんだ」

 

「……好キニスレバ」

 

暫くすると、後方から聞こえていた砲撃や艦載機の音が聞こえなくなっていた。

 

「これは一体……?」

 

「よっ、久しぶりだな」

 

唖然とする俺に門長は親しげに挨拶してきた。

 

「あ、ああ……ひさしぶりだな」

 

「成る程な、俺が大破させた(らしい)旗艦を沈めたのはお前達だったのか」

 

「大破させた旗艦?」

 

そういえば、少し前に大破したリ級改flag shipの艦隊と会敵したことがあったが……まさか。

 

「つまり、その旗艦の仇を討つ為に奴らは基地を攻め入ってきたのか?」

 

「エエ、ソノ通リヨ。全テハリ級ノ仇ヲ取ル為……ケレドコノ状況ジャ無意味ニ部下ヲ沈メルダケダカラクチヲダサナカッタダケヨ」

 

そして目の前に居る姫こそが俺達の基地を襲った黒幕という事か……

俺が言葉を詰まらせていると司令官達が島へ上陸し、こちらへと向かってきた。

 

「夕月!大丈夫クマか!?」

 

「球磨っ、そっちこそ大丈夫だったか?」

 

「おかげさまで、艦載機も深海棲艦も引き上げて行ったから問題無いわ」

 

「うぁ~、本当に一緒に居るよぉ~」

 

「それでも彼らが我々を救ってくれたのは事実だ」

 

感謝を伝えようと門長達の方へ向き直ると西野司令官が門長達と目の前で向かい合っていた。

 

「司令官っ!?」

 

幾らなんでも無防備すぎると止めるよりも先に司令官は口を開いた。

 

「門長さん、離島棲姫さん。この度は助けて頂き有難う御座いました」

 

そして帽子を脱ぎ深々と頭を下げて礼を述べた。

 

「だれだてめぇ?俺は彼女達を助けただけだ」

 

「コイツガ勝手ニヤッタダケデワタシハ関係ナイワ」

 

「すみません、紹介が遅れました。私は西野永海、階級は大佐。南方前線基地の司令官です、以後お見知りおきを」

 

「ふ~ん、俺達の事は知ってるみたいだし紹介は要らねぇな」

 

「大丈夫です、それと離島棲姫さん。先程夕月の通信越しに聞きましたが、今回の事は私達が沈めた部下の仇を取る為だと言うのは事実ですか?」

 

「……ダッタラナンダッテイウノ?」

 

離島棲姫は不敵に笑いながら答えるがその目には明らかな敵意が込められていた。

しかし司令官は頭を下げたまま続ける。

 

「本当に、ごめんなさいっ!」

 

「……ソレダケデ赦サレルトデモ思ッテルノカシラ?」

 

「勿論赦されるとは思っていないわ。ただ、この命は渡せない……その代わり、出来る限りの償いはするわ。だからこの子達には手を出さないで」

 

「虫ノイイ話、ヤッパリ死ヌノハ怖イノネ」

 

「そうじゃないわ……この命は皆の想いを背負っているから、此処で死ぬ訳にはいかないの」

 

司令官が答えると不敵な笑みを浮かべていた離島棲姫はみるみるうちにその表情(かお)を怒りで歪めていった。

 

「……ナニヨソレ、フザケタコト()カスワネ……」

 

「ふざけてはいません」

 

「ナラ戯言ヨッ!ソンナ戯言ガ通用スル訳無イデショ!!」

 

「何と言われようと私は生きなければならないんです!」

 

「ナニガ皆ノ想イヨ…下ラナイワッ!」

 

「離島棲姫さん。貴女だって部下の想いを背負っているから皆さんがついてくるのではないですか?」

 

「…………五月蝿イ……モウダマリナサイ」

 

「司令官っ!!」

 

司令官の一向に引かない態度に痺れを切らした離島棲姫が艤装を展開し、対空砲を司令官へ向けて構えた。

俺達は離島棲姫へ連装砲を構えるが奴に取っては威嚇にもならないだろう。

俺達が手も足も出せなかったその時、一つの影が二人の間を割って入った。

 

「と、門長……さん?」

 

「ナニヨ、オマエニハ関係無イデショ?ソコヲドキナサイ」

 

「まあな、だがこの女を此処で見殺しにすればそこにいる幼き美少女達を悲しませる事になる」

 

「......ソンナコトデ邪魔ヲスルツモリカシラ?」

 

「そんなことではないんだっ!幼き美少女達に幸せを、それが俺の最!優!先!事項なんだあぁぁぁっ!!」

 

この男、ひょっとしなくてもロリコンだった......のか。

 

姫級の深海棲艦すら一歩退かせるほどの魂の叫びを上げた後、奴は司令官を鬼の形相で睨み付けながら司令官の両肩を掴み上げた。

 

「おい女ぁ、お前の話はさっぱりだったがなぁ。もしこれ以上離島を困らす様ならただじゃおかねぇぞ?」

 

「あいつつつつつ……ちょっ、私これでも上官なんですが!?」

 

「あ"あ"?んなもん関係無ぇよ、死なない程度に破壊してやろうか」

 

「ひっ!?ご、ごめ……」

 

「待てっ!大人しく司令官を離して貰おう!」

 

門長が司令官の肩を掴み上げた時に直ぐ動き出していた俺達は門長を後方から砲塔を頭部へ突き付けた。

 

「お?いや、これは……仲裁、そう!仲裁に入っただけだ!」

 

門長ば手を離すとわざとらしく両手を顔の辺りまで上げてひらひらと左右へ振り始めた。

 

「全く、油断も隙も無いぴょんっ!」

 

「やっぱりこいつおかしいクマ」

 

「あ、なんか言ったか?アホ毛引き抜くぞアホ茶毛!」

 

「はっ、やってみろクマ!!」

 

「落ち着け球磨っ、そんな事しに来た訳では無いだろう!」

 

「邪魔するなクマぁっ!あいつだけは水底へ沈めるクマー!!」

 

荒ぶる球磨を卯月と二人で抑え、如月にアイコンタクトでこの場を任せる事にした。

如月はこちらへ微笑み返すと門長の方へと歩き出した。

 

「あの、門長さん?本題に入っても良いかしらぁ?」

 

「ん?ああ、ええっと?」

 

「如月と申します」

 

「ああ、如月ちゃんね。どうしたんだ?」

 

「いえ、私達が此処に来た理由をまだお話していませんでしたから」

 

「それもそうだな、どっかの誰かが此処に来るなり訳の分からんことを言い始めたからな」

 

そういって門長が睨んだ先を見ると司令官が申し訳なさそうに正座をしたまま落ち込んでいた。

 

「ごめんなさいね、司令官も色々思う所があるのよ」

 

「ま、別に良いけどよ。それで、理由ってのは?」

 

「ええ、実は私達の基地が深海棲艦の襲撃を受けて……私達は皆に司令官の事を頼まれて命からがら基地から撤退したのだけれど」

 

「なるほど、つまり此処で暫く匿って欲しいという事か」

 

「そのつもり、だったのだけれど……」

 

如月、一体何を……?

 

「門長さん……如月の我儘、聞いてくれるかしらぁ?」

 

「良いでしょう、何でも言ってみなさい」

 

「え……?」

 

如月は即答する門長に唖然とするも、直ぐに気を取り直し話を続ける。

 

「あ、ありがとう。えっとね、私達の基地にいる仲間を助けたいのだけれど……力を貸して頂けないかしら?」

 

「如月っ……それは」

 

「分かってるわ夕月ちゃん、今から行ってもきっと間に合わない……それでも、自分の目で確かめる前から可能性を捨てたくないじゃない?」

 

……確かにその通りだ、出来るなら助けたい。その想いは皆同じだ。

 

「……そうだな。門長、俺からも頼む」

 

とはいえ門長は今中破以上みたいだし望みは薄いか……

 

「いいぜ、んじゃ早速いこうか」

 

しかし、あの男は数瞬も考えずに即答したのだ。

俺達が呆気に取られる中、離島棲姫が蔑むように問い掛けた。

 

「ソンナ状態デ行クナンテ馬鹿ナノカシラ?」

 

「ん?離島について来て貰えば戦う必要は無いだろ?」

 

「勘違イシナイデクレル?私ハオマエノ仲間ニナッタワケジャナイノ。死ニタケレバ勝手ニ死ンデキナサイ」

 

そう言って離島棲姫はさっさと建物内へと戻って行った。

 

「駄目かぁ……悪ぃ、明石呼び出すからちょっと待っててくれ」

 

そして門長は徐ろに無線機を弄り始めた。

 

「此処には明石も居るのか……」

 

「うーちゃん達の所には居なかったねぇ」

 

「う…………済まない」

 

「ちょっ、そういうつもりで言ってないし、それに夕月が謝る所じゃないぴょん!」

 

そ、そうだった……俺は夕月だ、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

落ち着け…………うむ、もう大丈夫だ。

 

「よしっ、直ぐに明石が来る。そしたら出発だ」

 

俺が独り気持ちを落ち着かせている間に、門長の方も話がついたらしい。

 

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

 

「ああ、治しながら向かうから大丈夫だ」

 

「さ、流石工作艦……幾ら何でも出鱈目過ぎるぴょん」

 

俺の知っている工作艦と違うんだが、まさかそれが普通なのか……

 

「あ、あのっ!私もついて行きます」

 

「あ?お前が来ても足手まといだろ」

 

「それはっ、そうですが……」

 

「邪魔だから基地で大人しく待ってろや」

 

「そんな言い方しなくてもっ!」

 

「まあまあ提督、出撃は睦月達に任せるにゃしぃ!」

 

「大丈夫よ司令官、必ず無事に帰ってくるわ」

 

睦月と如月がいきり立つ司令官に寄り添う。

 

「陸奥さん達については行ってみなきゃだけど、アタシらは欠けることなく戻って来るからさー。まあ、待っててよ」

 

「うーちゃん達は伊達にこの辺りを遠征してた訳じゃ無いのでっす!」

 

「ああ、だから司令官には我々の帰りをどっしりと腰を据えて待っていて欲しいものだな」

 

「みんな……分かったわ、基地の子達の事頼んだわよ」

 

司令官の敬礼を受けた俺達は力強い礼を返した。

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「クマぁ……ん、一体何があったクマ?」

 

「はぁ、やっと正気を取り戻したか。出撃だ、これより南方前線基地に一度戻り仲間の安否を確認しに行く」

 

「そういう事なら了解クマ。でも奴とはいずれ決着(ケリ)をつけてやるクマー」

 

少しして明石と合流した俺達は再び海へ立ち、来た道を門長達と共に戻り始めたのであった。




夕月について私の気まぐれ短編集「卯月と馬鹿」に興味が無い方様に補足。
夕月は元々卯月が来た鎮守府(基地)を異次元から運営していた転生者の様なものである。因みに元の性別は男。
短編を観なくても問題無いと以前言いましたので補足させて頂きました。


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第三十六番

皆様長らくお待たせ致しまして失礼しました。
ノリで買った幼女戦記にどハマりしたり、久々に始めたロボクラフトが思いの外面白かったりとまぁ……アハハ
済みませんでしたorz
そ、それはそうと本日艦これ映画見てきましたっ!
余りにも予想通りの展開を持って来られたせいで恐らく感動するであろう場面で笑いを堪えるのに必死でしたが……(汗)
それでも、戦闘シーンはとても良かったので一度は見る事をオススメ致します。


 MS諸島前線基地跡を出てから何事も無く既に十五時間が経過しようとしていた。

苦戦しなかったとかそういう事ではなく()()()()()()()()()()()()

 

「気を付けろ卯月、何か嫌な感じがする」

 

此処がもし本土近海の海域であればそこまで気にしなかったであろう。しかし、ほぼ敵地ともいえるこの場所で十五時間もの間一度も会敵していないという事実は明らかな異常事態であった。

俺は念のため卯月へ警戒を促すが、卯月含め俺達第四艦隊は既にこの現状を理解しているようだ。

 

「睦月、如月、卯月は対潜を。望月と夕月は球磨と対空をそれぞれ厳重警戒クマっ!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

俺達が警戒を強める中、状況を理解していないのか現在修理中の門長は不思議そうに此方を眺めていた。

恐らく強すぎるが故に危機感というものが欠落しているのだろう、そう結論付け俺はすぐに視界を空と電探へ戻す。

すると門長から唐突に通信が入ってきた。

 

「どうした、何かあったか?」

 

「こっちは忙しいクマ、要件はさっさと言えクマ」

 

「クマクマうっせぇな……夕月、お前等は基地を確認してからすぐ戻れ。敵を一人発見した」

 

「ああっ!やんのかクマぁっ!」

 

「落ちつけ球磨、しかし敵は一人、例え姫級だとしても協力すれば……」

 

「悪いが却下だ、お前らの基地に向かってる艦載機の数だけでも千は超えてる様な化物が相手だからな」

 

「なっ……!?」

 

たった一隻で千を超える艦載機を発艦しているだと!?

姫級でもそんな情報は聞いたことが無いぞ!

余りにも信じがたい話だが奴がそんな直ぐに分かるような嘘を吐く理由も検討が付かず、俺は門長にどうするつもりかを訊ねた。

 

「ん?ああ、俺はお前らが無事に戦線を離脱するまで彼奴を足止めする」

 

「無茶だ、幾らお前が強かろうとそんな状態では無事じゃ済まないぞ!」

 

「かもな、じゃあ全員で撤退するか?お前らが後悔しないならそれも手だ」

 

確かにここで引き返したら悔いは残るだろうし、司令官に申し訳が立たない。

しかし、今無理に向かえば最悪の場合全員海の底で眠ることになるだろう。

 

「どうする……」

 

俺は皆に問い掛けた。俺一人で決める事ではないのは当然だが、それを差し引いても俺には決める事は出来なかった。

俺は薄情な奴かもしれない。勿論陸奥さん達を見捨てたいとは思わないが、それでも卯月達姉妹にそんな無謀な事はさせたくないし可能ならこのまま撤退したい。

だがそれが彼女達の思いに反するのであれば口に出来る筈もない。

数分の静寂ののち、初めに口を開いたのは卯月だった。

 

「……うーちゃんは撤退するべきだと思うぴょん」

 

「そんな、卯月ちゃんどうして……」

 

如月が悲しそうな声で卯月に問い掛ける。

 

「陸奥さん達を見捨てたくはないぴょん……でも、でも」

 

「如月姉さんだって分かってるでしょ?この状況で陸奥さん達を探すのがどれだけ無謀な事かくらいは」

 

俺は卯月と望月の言葉に驚き半分、そしてもう半分は不謹慎にも自分と同じ考えに安堵していた。

口籠ってしまう所を見ると如月も頭では分かっていたのかもしれない。

俺は考え込む球磨と睦月にも意見を促した。

 

「むむぅ……睦月もみんなを助けたいっ!けど……」

 

「球磨は――「時間切れだ、お前等は全員撤退しろ」」

 

割込むように呼びかけられた撤退命令に俺は疑問を覚えた。

 

「時間切れだと?何があった」

 

「偵察機がこっちに向かって来てる、お前らは本隊が来る前に戦線を離脱しろ。拒否権は無い」

 

「はっ!誰がてめぇの命令なんか従うかクマっ!!」

 

「てめぇには言ってねぇよ!勝手にくたばってろ!」

 

「やっぱりこいつだけは沈めないと駄目クマぁっ!!!」

 

「やめろ球磨っ!それ所じゃないのは分かってるだろ!作戦中止、全員撤退するぞ!」

 

球磨を落ち着かせて、俺は全員に撤退を伝える。

 

「……そうね、わかったわ」

 

俺達はすぐさま反転し司令官の待つ基地へ撤退を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、偵察機は落としたし突っ込むとすっか。明石、お前はそこで待機な」

 

「えぇ~、戦線に一人置いてくつもりですかぁ?」

 

「自衛くらいはできんだろ、んじゃ」

 

ぶつくさ文句を垂れる明石は放置してあそこの深海棲艦を追い払いに行くとするか。

俺は両手の四十六センチ三連装砲を空へ翳し、景気付けに三式弾をぶっ放す。

炸裂した子弾は空を覆う蝿共の一部を抉りとるように焼き払った。

 

「だが、あれだけ落としても減ってる様に見えねぇな」

 

「そうですね、元々の数があれですから」

 

仕方ない、艦載機は少しずつ落として行くとして近付かなきゃどうしようもないか。

埒が明かないと言うよりちまちまやるのが性に合わない俺は雷撃にだけ注意を向けながらいつも通り突撃するのであった。

 

「うぉらぁっ!良くもやってくれたなコラ!!」

 

「ウワッ、ナンダコノパンツ一丁ノ変態ハ!?キモイカラシネヨ!!」

 

深海棲艦は俺を見るや否や変態呼ばわりしながら魚雷と砲弾を同時にこっちへ撃ち出してきやがった。

俺は辛くも避け、態勢を立て直して更に距離を詰める。

そんな中、深海棲艦の姿を見た妖精が呼び掛けてきた。

 

「門長さん、あれはどうやらレ級改flagshipの様ですね」

 

「あ?あれはどう見てもレ級じゃねぇだろ。駄肉ババァじゃねぇか」

 

レ級はもっと小さくて抱き締めたくなるような愛くるしい存在なんだ。

それを事もあろうがあんな俺ぐらいは在ろう体躯の駄肉ババァをレ級と間違えるとは不届き者な妖精だぜ。

 

「……アレは彼女が言っていたレ級改flagshipのオリジナル個体……その成体で間違いは無いでしょう」

 

「なん……だと……っ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

本当にアレとレ級が同じだと言うつもりか!?

それじゃまさか彼女達も島に居る彼女もいずれ…………。

 

「…………認めん」

 

「あら、目がやばいけど大丈夫?」

 

「足止めは止めだ。奴は此処で存在諸共消滅させてやる」

 

「あぁ〜……止まらないでしょうが、一応言っときますと前に戦ったレ級とは恐らく次元が違うので戦うのはおすすめしませんよ?」

 

次元が違う?そんな事は関係ねぇ。

絶対にこの場で奴を抹消するっ!世界中のレ級の未来の為に!!!

 

「お前は此処で終わりだしんかいせぇぇぇいぃぃかぁぁぁぁぁんんんん!!!!」

 

「ウルセェキメェシネ変態ッ!!!!」

 

今ここに、一歩も引かない規格外同士の決戦の火蓋が切って落された!!

 

 




門長曰く駄肉ババァのレ級改flagship(成体)ですが実際はレ級の髪をロングにした、ボンキュッボンのセクシーレディを想像頂ければ幸いです(彼女の名誉の為にも)。


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第三十七番

最近スランプ気味になってきた......言葉が出てこない(-_-;)


 深海棲艦が放つ砲弾を掻い潜り手が届く距離まで接近した俺は目一杯力を込めた拳を奴の顔面目掛けて勢いよく振りかぶった。

 

「遅ェンダヨッ!!」

 

だがその拳を軽々と避けた深海棲艦は俺の懐に潜り込み腹部へ強烈な手刀を突き入れた。

 

「うぐ……っはぁ、少しは効いたぜ」

 

「強ガッテンジャネーヨ。デモマア俺ノ手デ貫通出来ナイ装甲ダケハ認メテヤルケド、ナッ!」

 

「がぁっ!?」

 

そして続けざまに前かがみになった俺の側頭部目掛けて追い打ちのハイキックを放った。

俺は衝撃に耐えきれず吹き飛ばされ、海面を引きずられていった。

 

「ダケドナ、俺相手ニ近接戦闘ハ......イヤ、戦闘ソノモノガ無意味ナンダヨ!」

 

「るせぇ、俺はまだ負けてねぇぞこら」

 

ちっ......だが正直厳しいな。万全の状態でも勝てるかどうかって所か。

 

―そうだな、今の状態じゃ間違いなく勝てないぜ―

 

――と言っても逃げれる状態でもないがな――

 

なんだお前らか、なんか策でもあんのかよ。

 

――済まないが、それは我々より妖精に聞いた方が可能性はあるだろう――

 

......使えねぇな。

 

―おいおい、私達はお前自身みたいなもんだぞ?―

 

だからだ、奴に勝ち目が見えて来ねぇんだよ。

一体どうすりゃいいんだ......ったく。

 

――勝てる方法が無いのならば己の出来ることをすればいい――

 

出来ることだって?

 

――ああ、ここで我々が直ぐに沈んでしまえば夕月達にまで危害が及ぶだろう――

 

っとそうだな、蹴り飛ばされた衝撃で大事な事が抜け落ちてたぜ。

 

――よし、ならばすることは決まったな――

 

当然だ。

 

「最後まで足掻いてやんよっ!!」

 

俺は立ち上がり両腕の主砲を奴へ向け声高々と気声を上げた。

 

「ソンナモンデ俺ヲ捉エラレルトデモ思ッテンノカ?」

 

深海棲艦は俺が放った砲弾を軽々と避けて接近してきた。

そして奴は再び俺の懐まで入ると俺の喉元を左手でつかみ上げる。

 

「ぐっ……く……くそったれ……くらい……やがれっ!!」

 

俺は首がへし折られそうな程に力の込められた左腕目掛け両腕に装備している四十六センチ三連装砲同士を渾身の力で叩き付けた。

 

「ナニッ!?」

 

「ちょ、あぶなっ!?」

 

ひしゃげる程強く奴の腕へ叩き付けられた砲塔はその衝撃により火薬庫が大爆発を起こし爆炎が俺と奴を包み込み俺は海面へ尻餅をついた。

被害はどうだ…………感覚がねぇな、また腕は飛んだか。

 

――まったく、無茶をする男だ......――

 

だが、奴の腕を捥ぎ取ることには成功したみたいだな。

やがて、煙が晴れ周りが見渡せるようになったので状況を確認しようと立ち上がると目の前には左腕を失うもあの深海棲艦は今だ健在であった。

付け加えるならば歯軋りをし全身から殺意を止めどなく溢れ出しながらこっちを睨みつけているところだ。

 

「キサマ……キサマダケハ赦サナイッ!!」

 

「許すも許さないもどうせ俺を殺す気なんだろうが」

 

「ウルサイッ!!今スグ死ネェェェェッ!!!!」

 

突如発狂しだした深海棲艦は尻尾から魚雷を積んだ攻撃機を無尽蔵に発艦し、その全てが魚雷を切り離すことなく特攻してきたのだ。

 

「まじかよ......どうにかならんか」

 

俺は妖精に念の為聞いてみるが妖精は予想通り肩を竦めて首を振るだけだった。

 

「ま、だがやる事はやったし仕方ねぇか」

 

あ、明石の事忘れてたわ…………しょうがねぇな。

俺は通信を開き明石へと繋いだ。

 

「はい、どうしました?」

 

「取り敢えず撤退しろ。後はお前らに任せる、じゃあな」

 

「へ、門長さん?」

 

俺は通信を一方的に切り突っ込んでくる攻撃機を眺めながら感傷に浸っていた。

どうせなら最後に響の声を聴きたかったぜ。

響と全く仲良くなれなかったのは心残りだが仕方ないか......いややっぱり死ぬわけにはいかん!

 

―そうは言ってもな、どうにもならんぞこれは―

 

――まあ、どうなるかは神のみぞ知るって奴だろう――

 

すっかり諦めていた俺は気を取り直して必死に避けようとした。

だがしかし健闘むなしく奴の攻撃機は次々と俺の身体を爆破していき、そして百以上の特攻を受け遂には意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………き……る…………ねぇ……い……?

 

誰かの声が聞こえる……聞き覚えは無い筈だがどこか懐かしい声だ。

徐々に声がはっきりと聞こえるようになってきた辺りで目をゆっくりと開く。

 

「あら?良かったわ、生きていたみたいね」

 

「こ……こ……は?」

 

俺は動かしにくい口を無理に動かし短い茶髪の女に場所を尋ねた。

 

「ここは南方前線基地……()()だけれどね。私は長門型戦艦二番艦陸奥よ、よろしくね」

 

「お……う………………と……なが……だ」

 

「嘔吐長田さん?」

 

「………………と……なが」

 

「あ、あらごめんなさい。門長さんね、分かったわ」

 

ったく、嘔吐長田って……んな名前あるかっつーの。

にしても長門型か、だから変に懐かしい感じがしたのかもな。

俺は現状を知るために起き上がろうとするが……

 

「腕……が…………」

 

「うで?それならあなたと一緒に流れ着いていたわよ」

 

ああそうだった、腕は吹き飛んで……あ?流れ着いてる?

 

「あなたと一緒に流れ着いてそこの妖精さんがここの救護室で応急修理をしてくれたのよ」

 

「まあ、ドックが潰れているんで完治は出来ないですけどね。あ、それと腕は着けない方が修理が早いんで今はそのままですよ」

 

どうせ装備もないですし。と言って妖精はふよふよと漂いながら部屋を出て行った。

 

「暫くはここで養生するといいわ、話せるようになったらあなたの事も聞かせてもらえるかしら?」

 

「…………お……う」

 

「うふふ、それじゃあ私は隣の部屋にいるわね。何かあったら呼んで頂戴」

 

陸奥は俺の返事に満足したのか微笑みながら部屋を後にした。

ふぅ、今回も生き延びたか……どうやら悪運だけはあるようだな。

 

――まだ我々は生きる運命なのだろうな――

 

運命ねぇ……その運命が響と結ばれる道があるのならいいんだがな

 

―なぁに、それはおまえさんの頑張り次第さ―

 

……それもそうか、んじゃあさっさと帰らねぇとな。

 

――そうだな、だったら今は眠るといい。何もできんのだからな――

 

わぁってるよ、んじゃもう寝るわ。

 

――ああ、おやすみだ、門長――

 

波の音だけが広がる暗闇の中、俺は再び意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 




門長がどうやって流れ着いたのかはいずれわかるでしょう。

因みに四十六センチ三連装砲二基はロストしました。


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第三十八番

最近の生活リズムが滅茶苦茶で考える時間ががが……


門長さんとの最後の通信が途絶えた日の翌日、基地へ戻ると夕月ちゃんと摩耶さんのお二人が港で出迎えてくれました。

 

「よう明石、お疲れさん」

 

「明石さん、あの男は一緒では無いのか?」

 

「夕月ちゃん、摩耶さん、その事なのですが……」

 

私がお二人に伝える為に口を開こうとしましたが摩耶さんが待ったをかけました。

 

「どうせ話すなら全員まとめての方が手間が掛からなくていいだろ。アタシらで執務室に集めとくから先に補給して来ちまえよ」

 

「はい……有難うございます」

 

摩耶さんに勧められ私は先に工廠へ向かう事にしました。

 

「はぁ……あんな無茶苦茶な人でも居なくなった事を伝えるのは心苦しいですね」

 

それに私に逃げるよう通信をくれるなんて思ってもいませんでしたし……。

私は燃料と修復に使用した鋼材や弾薬を補給しながら皆にどう伝えようか頭を悩ませていた。

 

「響ちゃんはどう思うのかな……」

 

淡々と話そうか、軽い感じで話そうか何て色々考えたけれど結局何も纏まらないまま補給を終えた私は思い足取りのまま執務室へ向かいました。

 

「よっ、全員集まってるぜ」

 

「あの男がどうなったのか聞かせてくれ」

 

「……分かりました」

 

私は全員に見つめられたまま部屋へと入り、深く深呼吸をしてからゆっくりと話し始めました。

 

「門長さんは夕月ちゃん達の撤退開始後、私を後方に待機させ詳細不明の深海棲艦相手に戦闘を始めました……そして夕月ちゃん達が海域から離脱してから約二十分後、私に撤退する様に指示を出し、その通信を最後に門長さんの反応が消失しました」

 

艦娘としては仕方ないのかも知れないけれど、余りにも事務的な報告をする自分自身が少し嫌になった。

そんな私の報告を聞いた皆さんの反応はまちまちでした。

 

「やはりか……」

 

「むぅ……」

 

事実を再確認し意外にも肩を落とす松ちゃんと夕月ちゃん。

 

「私のせいで……ごめんなさい」

 

「貴女が責任を感じる事じゃないわ、貴女は私の想いを代弁してくれただけ……」

 

自分に責任を感じる如月ちゃんと西野大佐。

 

「あいつは球磨がやっつけるんだクマっ!球磨の知らない所でくたばるなんて赦さんクマぁー!」

 

「そうよっ!暁達を護るとかいいながら勝手に居なくなるなんて無責任じゃない!」

 

それぞれ違った理由で憤慨する球磨さんと暁ちゃん。

 

「…………長門さん」

 

門長さんではなく中の長門さんを心配する響ちゃん……なんだかんだ言っても金剛さんの言ったことを信じているんですね。

 

「ですが彼の帰りを待つよりもこれからをどうするか考えた方が良いでしょう」

 

「そうですよ。彼が居なくなった事でこの深海棲艦が動き出すかもしれないんですから」

 

そして冷静に先を見据える不知火と吹雪ちゃん……って、あ。

吹雪の台詞にはっとした私達は一斉に離島棲姫の方へ振り向きました。

 

「フフフ、皆揃ッテコッチヲ見ツメテドウシタノカシラァ?」

 

そう言えば忘れてましたがこの姫級は仲間にはなってないんでした。

うーん、門長さんが居ない時に再び攻めて来られたら対処は厳しいかも知れないですね………。

 

「私としては直ぐにこの深海棲艦を撃沈するべきだと思います」

 

「ダ、ダメデスヨッ!?和平交渉ノ可能性ガ見エテ来テイルンデスカラ!」

 

「そんなの門長という抑止力があって成り立っていたんじゃないんですか?」

 

「ウゥ、ソレハ…………ソウカモ知レマセンガ……」

 

吹雪ちゃんの意見にフラワーさんが必死で反対するも痛い所を突かれ押し黙ってしまった。

 

「不知火も沈めるべきだと思います」

 

「確かに奴が居ない状況で奴を野放しに出来るほど我々は強くはないからな」

 

不知火に松ちゃんもどうやら吹雪ちゃんの意見に賛成みたいね。

と、言うよりここに居る殆どが同じ考えだと思う。

だけど艦娘の中で彼女だけは違った。

 

「もし離島さんを沈めてしまったら門長さんが帰って来た時にきっと悲しむのです。だから電は門長さんが戻るまで交代で離島さんを見張っていれば大丈夫だと思うのです」

 

彼女、電だけは門長さんが戻ってくる事を前提に考えていたの。

他のみんなは彼の帰還はほぼ無いものだと思っているだろうし私は実際に反応が消えた所を目の当たりにしている。

 

「そんな事、戻ってくるかも分からないのにリスクが高過ぎます」

 

「戻ってくるのですっ!門長さんは簡単に沈むような方じゃないのです」

 

それでも電は確信を持っているかのように言い放った。

生存は限り無くゼロに近い。

だが、それでもあの人なら帰って来ると。

 

「そうですね……それでは門長さんが戻るまで皆で見張ることにしましょう」

 

電に感応された私は無意識に言葉が漏れていました。

 

「明石さん、電、本気で言っているのですか?」

 

当然ながら、吹雪ちゃんは私達の発言を訝しんだ。

そんな吹雪ちゃんの問い掛けに私はありのままに答えた。

 

「吹雪ちゃん、確かに反応は消失してる……だけど電ちゃんの言葉を聞いて思ったの。門長さんが沈むなんてちょっと想像出来ないなって」

 

「根拠が無いじゃないですか……」

 

「あ、あはは……まあ、そうよね」

 

「はぁ………まあ良いですが、その代わり待つ期間だけは後でしっかり決めますからねっ」

 

あ、れ?正直自分で言ってて無理が有るかなぁと思ってたんだけど……呆れながらもどうやら吹雪ちゃんは私達の案を認めてくれたみたい。

 

「さて、私は電の案に乗りますが皆さんはどうしますか?」

 

「ま、確かにあいつが沈んだって言われてもピンと来なかったしな。アタシも乗るぜ」

 

「期間を決めるのであれば別にいいでしょう、彼がいた方が生存率が上がるのは確かでしょうし」

 

「オーケー、ミスターが簡単にロストするなんて有り得ないからネー」

 

摩耶さん、不知火、金剛さんに続き他の皆も次々と賛成していきました。

多数決ならば半数を越えた時点で決定だけれど、全員の意見はしっかりと聞き入れたいと思い、私は響ちゃんにも聞いてみた。

 

「ねぇ、響ちゃんはどう思う?」

 

「…………金剛……さん」

 

「ンー?どうしましたカー響?」

 

「離島棲姫を助けたのは長門さんの意思……なのかな」

 

う~ん……長門さんの意思ならばそれを信じるって事でしょうが他の鎮守府の長門さんを見ている限りでは離島棲姫や北方棲姫に攻撃出来なかったなんて話は聞かないですからね。

金剛さんは少しだけ口ごもるも、気を取り直し響の質問に答えました。

 

「あの頃の長門は見た目に惑わされる事は無く敵と定めた者に容赦はしませんでシタ」

 

「そっか、じゃあ……」

 

「ですが、それは彼女が当時海軍であり敵が深海棲艦と決められていたからデショウ」

 

「……つまり、どういう事だい?」

 

「そう、多分デスガ……皮肉にも海軍に裏切られそしてミスターの中で深海棲艦の事を知った事、それが彼女にとって誰が敵で誰が味方かを自身で考えられるようになったのではないかと思いマース」

 

それに加えて金剛さんは嘘偽る事なく自分にはこれ以上は分からないとも答えました。

当然門長さんの意思でもあるでしょうし、長門さんの意思じゃないかもしれない。

結局どう考えるかは響ちゃん次第になるわけね。

 

「…………うん、わかった……私は長門さんを信じてる、だから長門さんが帰ってくるまで離島棲姫を護るよっ」

 

響ちゃんは自分の胸を叩き決意をここに示した…………のはいいのだけれど……護る?

予想外な一言に私達は開いた口が塞がらなくなっていました。

 

「う……え?ひ、響ちゃん……護る、って……?」

 

「ああ、それが長門さんの意思ならば私はそれを引き継ぐんだ」

 

た、確かに門長さんがそういって連れてきたけど……流石に無理が……

そう思いながら何気なく視線を離島棲姫に移すと前かがみになりながら肩を震わせていた。

 

「……マモル?……駆逐艦ノオマエガ私ヲマモルダッテェ?」

 

怒ってる……?ま、まずいっ、ここで暴れられたら響ちゃん達が危ないっ!

響ちゃんを守ろうと動き出したその時!

 

「クックッ……クフ……フフ……アハ……アハッ……アッハッハッハ!!!!」

 

「へ……?」

 

離島棲姫は唐突にお腹を抱えて笑い始めた。

 

「クク……ハァ……見張リナンテドウトデモナルケレド……フフフ、イイワネォ……オチビチャンガマモッテクレルッテイウナラ頼ンジャオウカシラ?」

 

「頼む?一体響に何を頼もうと言うのですか」

 

吹雪の質問に離島棲姫は愉快そうに答えていました。

 

「モチロォン、クフフ……私ヲマモッテモラウノヨォ?アハハッ!!」

 

「まもる……艦娘から……ですか?」

 

「艦娘ナンカモノノ敵ジャナイワァ……ヤツラ()()()カラシタラネ」

 

「「規格外……っ」」

 

吹雪ちゃん達の鎮守府の全戦力をもののニ、三時間程で壊滅させ門長さんに一撃で致命傷を負わせる程の火力を持った深海棲艦……。

不知火が聞いた話では海底棲姫と呼ばれている存在。

 

「まさか、あなたが狙われているんですか?」

 

「ソウヨ?奴ラハ掟ヲ破ッタモノハ誰デアロウト赦シハシナイ。加エテソノ姿ヲ見タモノハ生キテ帰エルコトハカナワナイワ」

 

掟を破ったものを裁く……世界の裁判官のようなものですか。

 

「ダカラドッチニシロ私ガココニイル限リオマエ達ハ助カラナイノダケレド、ソレデモ私ヲマモッテクレルノカシラ?オ・チ・ビ・チャン?」

 

「うぅ……それでも……長門さんならきっと……護ろうとする筈だからっ!」

 

「信じているんですね、長門さんを…………離島棲姫、貴女の話が本当なら貴女をどうしようといずれ奴らは此処に来るでしょう」

 

「フゥン?ナンデ言イ切レルノカシラ?」

 

「私と暁、そして不知火さんは奴らを直接姿を見ていますから」

 

吹雪ちゃんの言動に合わせて暁ちゃんと不知火が頷く。

 

「と、言う事で此処は再び戦場となるので今度は貴女にも協力して頂きますよ」

 

「ハァ?ジョーダンジャナイワヨ、ドウシテワタシガ」

 

「私だって貴女を信用した訳ではありません。ですが、相手の戦力はそれこそ計り知れない……なら戦力は多いに越した事は無いと思いますが?」

 

「…………フン、優先目標ガ同ジナダケヨ。手ヲ組ムツモリハ無イワ」

 

離島棲姫はつまらなそうに言い捨てると、そのまま部屋を去っていってしまいました。

 

「あっ、私追い掛けてくる!」

 

「わ、私もついて行くのですっ!」

 

「響ちゃん、電!?」

 

続いて響ちゃんと電が止める間もなく部屋を飛びだしてしまった。

 

「大丈夫、私がフォローしにいくからアカシは入渠してくるといいデース」

 

「あ、金剛さん……」

 

金剛さんの一言を受け私は自分の身体を見直しました。

そう言えば流れてきた一部の艦載機の攻撃を受けて少し損傷してましたか。

 

「分かりました、それでは私も直して来ますのでこれにて失礼しますね」

 

私は部屋に残った皆さんに挨拶を済ませ、静かに部屋を後にしました。

相手の情報はほぼ無いに等しいけれど、離島棲姫達の組織に私達、そしてフラワーさん所の組織とで力を合わせれば何とかなるのではないかと、この時はの私は楽観的に捉えていたのかも知れません。

 

 




中継地点は用意しているのにそこまでの道のりが次々と延長し中継地点が遠のいていく……纏めねば。


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第三十九番

気力が高いうちに書いてしまおうという事でそろそろ朝ですが上げようと思います。
諸事情により今回は短めです。


俺が南方の基地に流れ着いてからおよそ一週間がたった。

話せるようになり、少し動ける位まで回復した俺は陸奥からこれまでの経緯を聞いていた。

 

「どうやら私が大破した赤城さんをドックへ運んでいる間に貴方が戦った深海棲艦が現れたらしいの」

 

「なるほどな、それでそいつに基地を潰されて今に至るって訳か」

 

「そうね、ただ前線にいた娘達の通信では他の深海棲艦も纏めて沈めていたと言っていたわ」

 

「ちっ……やっぱりか。それは多分そっちの深海棲艦が本命だったんだろ」

 

俺の見間違えじゃなきゃ奴は確か吹雪達を助けた時にいた深海棲艦のうちの一人だったからな。

 

「ええっ!?じゃあ私達はついでにやられたって事なの?」

 

「そんなもんだな…………だが、そんな事は正直どうだっていい」

 

「え?」

 

くそっ、このタイミングで来やがるとはふざけやがって……。

奴が何の為に此処に来たのかが分かったと同時に俺は激しい焦燥に駆られ立ち上がる。

 

「このままじゃ不味い、すぐに帰るぞ妖精!!」

 

「え?まって!そんな状態で帰るつもりなのっ!?」

 

「そうですよ、今行っても貴方に出来る事は無いですよ?」

 

できる事が無いだって?だからどうしたって言うんだ!

 

「響達のピンチにこんな所でゆっくりなんてしてらんねぇだろうがっ!!!」

 

「はぁ……私は別にいいんですけどね、んじゃ腕付けちゃうんで取り敢えず横になって下さいね〜」

 

「急いでくれっ」

 

「はいはい」

 

妖精は気の無い返事をしながら作業に取り掛かった。

そんな中状況を把握出来ない陸奥は俺に説明ん求める。

 

「ちょっと、一体どういう事なのよ。あの深海棲艦を知っているの?」

 

「しらんっ!分かってんのはこのままじゃ響達が危ないって事だ!!」

 

「はい、完了ですよ。後長門型の艤装があったので付けときましたよ」

 

「おう、助かるぜ」

 

おお、中々馴染むじゃねぇか。

 

--これは陸奥のだが同型の艤装だからな--

 

「なるほどな、んじゃ行くぞ!」

 

「姉さん?…………ってうそっ!?本当に行くのぉ!?」

 

俺はすぐさま部屋を飛び出し響達のいる基地へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「門長さん。永海……いえ、西野提督はそっちにいるのかしら」

 

西野……………………?

 

「いや、誰だそいつ」

 

「夕月ちゃん達と一緒に来た女性提督ですよ」

 

「ん、ああ!あのこっちについてこようとしてたアマか!」

 

「ついてこようと?」

 

「ああ、邪魔だから置いてきた」

 

「邪魔ってねぇ…………まあでも、ありがとう」

 

「ああ?何だいきなり」

 

陸奥はお礼を述べると徐々に近付いていき、やがて陸奥の唇が俺の右頬に触れ…………る前に上体を左へ反らし顔面を鷲掴みにし引き離した。

 

「……ちょっとぉ、女性の顔を鷲掴みにするのはどうかと思うわよ?」

 

「俺の間合いに入るお前が悪い」

 

陸奥の抗議を軽く流し少し後ろに放り投げる。

バランスを崩し転びそうになりながらも陸奥は何とか踏ん張っていた。

残念だったな陸奥よ、俺にそういう事をしていいのは幼き少女だけなのだ!

…………された事は無いけどな。

 

-はっはっは、ブレないなお前さんは-

 

--全くだ。だが、私の妹に手を上げるとは……覚悟は出来ているな?--

 

まっ待て!?俺が悪かった!悪かったから全砲門を俺に向けるのは止めてくれ!

つか、いまそれをやったら響達を助けられないだろうが!

 

--それぐらいわかっている。だからこれで許してやろう--

 

直後、俺の右腕は俺の顔面を思い切り引っぱたいた。

 

「ぶふぅ!?」

 

「ど、どうしたのよ!?いきなり両手を上げたと思ったら自分を引っぱたいたりして」

 

「気にするな、自身との戦いだ」

 

「そう……?まぁ、大丈夫なら良いけれど」

 

くそ……覚えてろよ。

しかし、今はそんな事考えている場合じゃないな。

 

「……何だか胸騒ぎがする、速度を上げるぞ」

 

「え、ええ。分かったわ」

 

頼む、間に合ってくれよ……

 

 

 




門長のLCF(LolitaComplexField)によりMSNB(陸奥を好きになるビーム)を無効化!
それにより長門のAOS(Anger of Older sister)発動!
門長に15のダメージ。

さて、ふざけるのも程々に本題に入りましょうかね。
次の展開についてとあるアンケートを活動報告にて取りたいと思いますので気が向いたら投票して頂ければ幸いです。
寝落ちしなければ6時半迄には上げるかと思います。


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第四十番 〜狂〜

アンケートの結果2番と4番が同票だった為、新しい試みもやって見たいと思い今回は4番の同時間軸の二つの視点を二話に分けて書く事に決まりました!
アンケートにお答え頂きありがとうございました!!

それでは本編をどうぞ!


遅っせぇ……後どれだけ掛かるんだよ。

こうしている間にも響に何かあったらと考えるだけで身体がねじ切れそうだちくしょう!

 

「おい妖精!まだつかねぇのかっ!」

 

「さっきも言ったじゃないですか。後三時間もしないうちに着くって言ってからまだ十分しか経ってないですよ?」

 

くっそ、せめて響達の状況が分かれば……ってそうか!偵察機を飛ばして確認すれば良いだけじゃねぇか。

 

俺は直ぐ様陸奥に偵察機を飛ばすよう命令した。

陸奥は了承し偵察機を飛ばしたが、十分後に陸奥から返ってきたのは全機撃墜されたという知らせだった。

 

「ちっ、使えねぇな」

 

「あら、そんな言い方しなくてもいいじゃない--ってそれどころかじゃないわよっ!私達の所に来た深海棲艦がこっちに向かって来ているわ」

 

「レ級flagshipの成体の事ですね」

 

「だからあれはレ級じゃねぇ!!」

 

「面倒くさいですねっ、じゃあ改レ級flagshipっていう別個体ですよっ!」

 

つまり名字が同じだけって事か……まあそれなら良いだろう。

 

「んで、そいつがこっちに来てるわけか」

 

「ええ、もう見つかってるなら逃げられないわよ?」

 

隠れられる島でもあれば良かったが生憎そんな島は近くには無いしな。

戦うしかないが勝ち目が無いのがどうにもならねぇな。

 

-勝てる可能性ならあるぜ?-

 

武蔵か……本気で言ってんのか?敵は規格外でこっちは両腕は使えねぇし大破状態だぞ。

 

-無論本気だとも。門長、お前に私の魂をくれてやろう-

 

いや、要らねぇ……つかもう既に改修されてんじゃねぇか。

 

-まあそういうな門長よ。それに確かに改修はされているが、それらは所詮我々の一部に過ぎない。だから我々はこうして自我を持ってるわけだが……-

 

--まてっ!そんな事をしたらお前の自我も記憶も無くなってしまうではないか!それでも良いのか武蔵!--

 

-長門、お前さんは不本意に改修されたらしいが私は元より覚悟の上でここにいるんだぜ?-

 

--だがっ!--

 

うるせぇっ!人の頭ん中で勝手に話を進めんじゃねえ!

ったく……んで?改修すれば奴に勝てんのか?

 

-それは分からん、だけど今のままじゃ確実に死ぬぜ?-

 

--だったらあの時みたく延命させれば!--

 

-今の状況を考えればそれは愚策だ、あの時運良く近くに助けられる奴がいたし敵も油断してさっさと帰っていたから助かっただけだ-

 

--それなら陸奥が--

 

-奴が瀕死の門長と陸奥を逃がすと思うか?ー

 

--くっ…………--

 

-という事だ、お前さん達とこうやって話せなくなるのはちと寂しいが死んでしまっては元も子も無いしな。それに艦載機が出ていない分先日よりは幾分かは可能性があると思ってるぜ?-

 

--武蔵……--

 

-あまり時間もない。さらばだ門長、長門-

 

確かに俺はこんな所で死ぬ訳には行かねぇからな、使わしてもらうぜ。

…………()()()武蔵。

 

-ほぅ……クックッ……ああ、また会えるのを楽しみにしてるぞ-

 

俺は楽しみでも何でもねぇよ。

 

俺は何も考えずに発してしまった言葉を否定する様に毒づくが、あの言葉を最後に武蔵から返事が帰ってくることは無かった。

それと同時に俺の身体は光を放ち始め、徐々にその姿を変えていった。

初めに身体中の傷が無くなり、腕が動くようになった。

続いてズボンの破れも治り、上着は……無くなった。

腰にはサラシが巻かれ両腕には今は亡き四十六センチ三連装砲よりデカイ連装砲が付けられていた。

 

「なるほど、これなら行けるか?」

 

「え……と、門長さん?服は一体どうしたのよ」

 

「あ?消えたな。まあ改装すれば格好が変わるヤツなんて他にも居るだろ?そんなもんだ」

 

陸奥の話を適当に返しながら自分の状態を確認する。

 

先程と比べれば体調も万全だし恐らく強さも比べ物にならないだろう……が、相手が相手だ。油断は出来ねぇ。

 

電探を使い空を確認するが未だに艦載機が向かってくる反応は無い。

相手の考えは分からないが俺は陸奥を迂回させ今の内に砲撃が届く距離まで接近する事にした。

 

接近すること三十分、艤装に付いている通信機から突如奴の声が聞こえて来やがった。

 

『ヤハリ生キテイタカ門長ァッ!!』

 

「なんだぁ?まるで知ってたかみたいな口ぶりじゃねぇかおい」

 

『当然ダッ!俺様ノ左腕ヲ壊シタヤツガアノ程度デクタバルワケネーダロッ!』

 

流石にそれはさっきまでの俺を買い被りすぎだぜ。

自分がどうして助かったかも分かってねえからな!

にしても、奴が少しでも油断していればと思ったがそうそう上手くは行かねぇか。

 

ならばと俺は更に改レ級との距離を詰める。

 

「近付いても勝機は薄いですよ?」

 

「無いよりはマシだ」

 

妖精の忠告は充分承知している。

それでもこっちからの砲撃がほぼ確実に当たらないのなら、一方的に撃たれる前に近付くしかないのが現状だ。

だから俺は奴が接近戦に持ち込んでくれることに賭けるだけだ。

 

更に近付く事十分、俺の期待通り奴はその手で俺を確実に沈めるため接近戦を選んだ。

道中砲撃を一切してこなかった事から冷静さを欠いてるのだろう……ならばと俺は敢えて大振りに右腕を振りかぶった。

 

「ンナノロマナパンチガ当タルカヨッ!!」

 

改レ級は当然の様に俺の拳を避け俺の鳩尾を正確に打ち込んで来る。

しかし、あの時の俺とは違い奴の攻撃に反応出来るようになっていた。

俺は身体を少しだけ動かす事によって急所への直撃を避ける。

 

「ぐっ……効かねぇなぁ」

 

「チッ、小賢シイコトシヤガッテ」

 

それが気に入らなかったのか改レ級は今度は空いた尻尾を使い俺に食らいつこうとして来た。

 

「勝つ為に手段を選んでられる余裕はこっちにはねぇんだよぉっ!!」

 

俺は口を大きく開いた尻尾へと連装砲を付けたままの右腕を思い切りぶち込む。

そして残った左腕で尻尾をがっちりと固定した。

 

「グガァッ!!ナ……ナニシヤガルテメェ……」

 

「勿論てめぇの足を止めて鉛弾をぶち込む為だ」

 

尻尾を捕えられ海面に叩き付けられた改レ級は俺の腕を振りほどこうと必死に尻尾を動かそうとしたり腕を噛みちぎろうとしていたが、驚いた事に地力で俺が勝っているらしく奴は俺の腕から逃れる事は叶わないでいた。

そうしている間に、全砲門を構え終えた俺は右腕以外の連装砲を躊躇うことなく撃ち放った。

 

「ウグゥ……テメェ……イイ気ニナルナヨ……」

 

「次だ!」

 

改レ級の言う事に聞く耳など持たず再装填を終えると再び奴に無数の鉛弾を浴びせる。

 

「クッソガ……コロス……殺シテヤルッ!!」

 

「俺は先を急ぐんだよ、さっさと死ね。次!」

 

三射目、四射目と俺は奴が弱るまで続けた。

やがて改レ級の抵抗が無くなって来たので、とどめとして最後に右腕の連装砲に装填された三式弾を放ち腕を引き抜いた。

 

「グッ……ガァアッ!?コノ俺様ガ……テメェナンカニ……」

 

尻尾の弾薬庫に引火し魚雷諸共尻尾を消し飛ばし、果ては格納庫にまで延焼したのか大量の艦載機がそのフードの中で繰り返し爆炎を上げていた。

 

「門長さん、あれは……倒し……たの?」

 

「ああ、先を急ぐぞ」

 

合流した陸奥の問いに軽く答え響達の元へ向おうととした時、突然背中に衝撃が走った。

 

「ヘッ……油断シタナ門長……」

 

「門長さんっ!?」

 

「な……に?」

 

振り向くと身体の半分以上が欠損し、およそ生きているとは思えない姿となった改レ級が骨すら見えているような右腕で俺の腹を貫いていた。

 

「テメェハココデ死ヌ……テメェノ仲間モ既ニチュークノ奴ガ始末シテイルダロ…………ヒヒッ、テメェラハモウオワリナンダヨッ」

 

『…………すっ……けて……』

 

『モ…………シ中ナンダ……ニシテヨ……』

 

今の声は響……それとこいつらの仲間か?通信機から……いや、それよりも響を助けに行かねぇと……このままだと響が……響が……

 

----死ぬ?----

 

っ……ざけんなっ!んなこと認められるかっ!!

 

俺は自分の下らない考えを否定するかのように改レ級の上半身を背部の主砲で弾き飛ばし先を急ごうとする。

しかしそんな俺の意思に反して俺の足は進む事を拒むかの如く膝から崩れ落ちた。

 

「ぐぅ……っ……どうなってやがんだおい!」

 

「それはそうよ、そんな重症(からだ)でまともに動ける訳無いでしょ」

 

陸奥は俺に肩を貸しつつ穴の空いた腹を指差して答えた。

原因は分かった、だからと言ってこんな所で立ち止まっている訳には行かねぇ。

 

「陸奥、妖精の案内通りに進んでくれ」

 

「え、ええ。分かったわ……でもどうするつもり?」

 

陸奥の問い掛けに俺は何も答えない。

何としても響は助けるとして、奴を倒すにはどうすればいい。

改レ級より弱ければまだどうにかなるかもしれねぇがもし奴以上なら……

 

結局何も浮かばず足だけを進めているとさっきからノイズを放っていた通信機が再び繋がった……と同時に響いた発砲音が俺の鼓膜を僅かに震わせた。

 

『いやああぁぁぁっっ!!』

 

だがその発砲音に紛れて彼女の悲鳴があったのを俺は聞き逃さなかった。

 

『…………ひっぐ……い……痛い……やだっ……やだよぉ……』

 

「おイ…………響になにしヤガったテメェ……」

 

あいつ……響を傷付けやがったな…………赦さねェ……強さなんか関係ねぇ……テメェらはタダじゃ殺さねえからナ。

 

『ンー?アハッ!ソッチカラ来テクレルナンテヤッサシー!』

 

奴の調子ニ乗った口調ガ俺の怒りを更に加速させル。

 

「うるせェ……神だろうガなんだろうガ響に手を出した奴ハ殺ス」

 

『キャアコワ〜イ!デモ貴方ニ私ガ倒セルカナァ?』

 

アイツが響を泣かセ響を傷つけ響をコロソウとしやがっタ、ナのにあイツはタノシそうはしゃいデやがル……ころす……--コロス--

 

「と、門長さん?貴方また姿が……それにその艤装は……」

 

「あら、追い出されてしまいましたか」

 

俺の殺意ニ呼応スル様に艤装が姿ヲ変えテイく。

腹ノ穴は塞ガリ全体が黒ク染まル。

背中には俺の身長ノ倍はあるデアロウ巨大な異形があリ、そしてソノ両肩には腕に持っていル連装砲と同じ大キサノ連装砲が二基ずつ、それと副砲ガ幾つも並ンデイる。

その姿は見るモノガ見ればひと目でワカル程に深海棲艦と化しているダロウ。

 

ダガ、姿ガ変わロウガ妖精ガ居ナカロうがヤル事ハ変わらネェ……奴ラヲ殺ス。

 

陸奥カラ腕ヲ離シ一人向カウ。

 

「門長さん……」

 

「今行っても巻き込まれるだけですよ」

 

少し進ムト砲弾ガ止マナイ雨ノヨウに降リ注グガ、ソノ程度ノ砲撃ナド歯牙ニモカケずニタダ突キ進ム。

 

「ウソォ!?カッタァ〜イ!ジャアコレナラドウカナァ?」

 

続イテ奴ハ艦載機ヨリモ早イ魚雷ヲ一斉ニバラ撒クガ、自分ニ当タル物ダケヲ副砲デ正確ニ撃チ抜キ爆破サセル。

 

「スッゴォ〜イッ!チュークビックリィ!」

 

余裕ヲ見セル深海棲艦ニ今度ハコッチカラ攻メル。

 

「シ……ネ……」

 

「ワタシニソンナ砲撃ハアッタラナイゾォ?」

 

軽々ト避ケテイクガ構ワズニ撃チ続ケナガラ接近シテイク。

ソシテ奴トノ距離ガ四キロヲ切ッタ時、俺ガ水平ニ放ッタ内ノ一発ガ奴の右腕ヲ捕ラエタ。

 

「キャアッ!イッタァ……マズッタナァ」

 

奴ノ動キガ一瞬止マッタノヲ見計ライ、両腕両足ヲ主砲デ吹キ飛バス。

 

「ウゥッ……ウソッ、ソンナ……チュークガ負ケルノ!?」

 

両腕両足ヲ失イ動揺スル深海棲艦ノ頭ヲ掴ミ上ゲ左腕ノ主砲ヲ突キ付ケル。

 

「今スグテメェノ仲間ヲ呼ベ、全員俺ガコロス」

 

「ウグッ……良イノカナァ?ソンナ事シテモ返リ討チダヨ」

 

「良イカラ呼ベ」

 

右手デ吊ルシタ奴ノ胴体ヲ左腕ノ主砲デ殴打シタ。

 

「ウヴゥ…………残念……ダケド呼ベナイヨ、()()()()()()()()()

 

「ア"ア"?」

 

直後、目ノ前ヲ圧倒的ナ熱量ト光ニ包マレタ。

記憶ニアルコノ光景、アノ時ノ奴カ……

暫クシテ視界が白カラ灰色ニ変ワッタソノ先ノ俺ノ手ニハ先程ノ深海棲艦ノ髪ノ毛、更ニ向コウニハアノ噴進砲ヲ放ッタト思ワレル深海棲艦ガコッチヲ観察シテイタ。

 

「アレ?ホントニ生キテル!?ヤルジャンアンタ!」

 

「次ハテメェダ……覚悟シロ」

 

 

 




いやぁ大変でした(;^ω^)
ただ書き方としては上手く書ければ良いんじゃないかなぁとは思いましたね。
読み手としてはどう何でしょう?アンケートは怖いんで取りませんがw


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第四十番 〜響〜

アンケートの結果2番と4番が同数でしたのでコイン様にお伺いを立てた結果、4番の同時間軸の二つの視点を二話に分けて書く事に決まりました。
アンケートに答えて下さったおもちゃんさん、片栗虎さんありがとうございました!

それでは本編をどうぞ!


明石さんが戻って来てから一週間ちょっとがたった。

それは私が日課となった自主訓練に併せて周囲の警戒をしていた時の事だった。

私の電探が北東二十キロ先にいる艦艇を捉えたのだ。

 

「北東二十キロ先から一つの反応がこっちに向かって来てるよっ!」

 

まさかと思いながらも私は急いで全員に伝えるため通信を飛ばした。

 

「オーケー、直ぐに水偵を飛ばすネー。戦闘準備は済ませておいて下サイネー!」

 

報告を聞いた金剛さんか直ぐに水偵を飛ばしてくれたけど、程なくして再び入ってきた金剛さんの声は明らかに動揺していた。

まさかと思い金剛さんに確認してみた所、アレが見た事も無い深海棲艦だと重い口ぶりで答えた。

 

水偵は落とされてしまったらしく、姿を確認することは出来ないがきっと例の深海棲艦に違いないとの事だ。

直ぐに皆も来てくれるみたいだけど、あの男ですら相手にならない程の深海棲艦に私達だけで本当に勝てるのだろうか。

考えただけで私は全身が恐怖に包まれ震えが止まらなくなっていた。

 

そんな化物から離島棲姫を護る?私がっ!?

出来るはずがない……呆気なく沈められるだけだ。

 

そんな私の事を岩場に腰掛け見ていた離島棲姫が嘲笑いながら言った。

 

「モウ逃ゲタラァ?オマエノ慕ッテイル長門トヤラダッテ同ジ状況ナラドウセ逃ゲ出スワヨ」

 

長門さんが逃げ出す?あの人はそんな事しないっ。

状況を判断して撤退する事はあっても長門さんが守るべき者を見捨てて逃げ出すなんて有り得ないっ!

……なら私だってその意思を継ぐと決めた以上、見捨てて逃げる訳にはいかないっ。

私は……私は長門さんの様な心の強い艦娘になりたいからっ!

 

「私は逃げない……長門さんの意思を守る為に……」

 

「アッソ……艦娘ッテノハ馬鹿バカリナノカシラ?」

 

離島棲姫は呆れた視線を私に向けたまま航空機を発進させていた。

そしてその航空機は迷う事なく一直線に私の方へ向かって来ている。

私は反射的に避けようとして躓いてしまった。

だけど、意外にも航空機は目の前で急旋回すると私の左上空で激しい爆発と共に粉々に砕け散っていた。

 

「逃ゲナイノナラ戦ワナキャ死ヌダケヨ?」

 

「え……?あ、うん…………ありがとう」

 

何が起こったのかは理解出来なかったが多分離島棲姫が私を助けてくれたのだろう。

……そうだ、もう戦いは始まっているんだ。

なら惚けている場合じゃないっ!

 

私は離島棲姫にお礼を述べた後、直ぐに気持ちを切り替え敵の攻撃に備え機銃を構えた。

 

「響、大丈夫かっ!」

 

間もなくしてみんなが港に集まって来た。

摩耶さん達に南方基地の皆、フラワーさんの組織と離島棲姫の組織の深海棲艦達。

皆で力を合わせればきっと何とかなるっ!

そう思えた……でも…………奴は紛れも無く怪物だった。

 

 

 

 

 

開戦から僅か一時間、私達の連合艦隊は無惨にも壊滅寸前の危機に瀕していた。

初めに奴に一番近かった深海棲艦達は艦砲とは思えない速度で止めどなく鳴り続ける砲撃音と共に次々と沈んでいった。

次にそこら中から雷撃による爆音が聞こえると同時に深海棲艦の殆どはやられてしまった。

そして残った深海棲艦達も相手の誘導噴進弾に悉く撃ち抜かれ海中へ消えていった。

勿論私達だって何もしなかった訳じゃない。

全員一つの目標に狙いを定め全力攻撃を仕掛けたんだ。空母だっていたし離島棲姫だって力を貸してくれた。

それでも奴の機動力の前では至近弾一つ与えることが出来なかったんだ……。

そうして私達はどうしようもないくらい一方的に追い込まれてしまった。

だけど奴は私達に止めを刺さずに近付いてきたのだ。

 

「ナァーンダ、アイツガイナインジャ張合イガナイナァ。ネェ、門長ッテ今何処ニイルカ知ッテル?」

 

目の前までやって来た深海棲艦は軽巡棲姫に似ているがその威圧感と艤装は軽巡棲姫のそれとは比べ物にならなかった。

 

「ネェ、何処ニイルカッテ聞イテルンダケドォ」

 

私はそんな深海棲艦に門長の場所を聞かれていたが、蛇に睨まれた蛙の様に竦み上がってしまい声を出すことすら出来ないでいた。

 

「チュークヲ怒ラセテモイイコトナインダゾォ?」

 

「あ……や…………たすっ……けて……!」

 

不満そうに奴が右手の回転式機関銃の様な主砲を私に向けた瞬間、目の前が突如爆煙に包まれた。

 

「フ……フフフ……爆撃機ニヨル連続特攻……流石ノ規格外モ無事ジャ済マナイデショ--ッウ!?」

 

離島棲姫の爆撃機六十機による特攻は主砲を一基破壊する事に成功したが本体にはダメージは通らなかったらしい。

 

「モウッ!オハナシ中ナンダカラ静カニシテヨネッ!」

 

そう言って奴は離島棲姫に向けて残った主砲を放ち始めた。

 

「ウグゥッ……バカナ……」

 

「や…やめ……ろ」

 

しかし奴は止めること無く撃ち続けた。

離島棲姫の艤装に次々と穴が空いていき腕、足、やがて下半身が千切れるまで奴は撃ち続けた。

 

「ウッ……カハァッ!?……ッ……リ級…………マタ……貴女ト……」

 

「いや……いやだ…………やめて……」

 

そして奴は止めとばかりに離島の頭部を撃ち抜くと再び向き直り私の身体へ砲身を押し当てた。

 

「フゥ……ソレジャア教エテクレナイ?門長ノ居場所」

 

「っ……し、知らない……」

 

今あいつは消息を絶っている、だから私は正直に答えたけれど……。

 

「ウッソダァ、チューク騙サレナイゾォ?」

 

「うぐぁ……っひぃ……」

 

私の答えが気に入らなかったらしく主砲で私の左足を撃ち抜く。

 

「ノー……響を……放すデース……」

 

「っ……待ってください……金剛……さん」

 

助けて欲しい……何で不知火さんが金剛さんを止めるのかが分からない。

私がどうなろうと知ったことではないのかも知れない。

きっとここでこいつに殺されるなら助けるだけ無駄だということかも知れない。

後向きな考えばかり浮かんできて、気付いたら涙が止まらなくなっていた。

 

「泣イテチャ分カラナイヨォ……エイッ!」

 

「いやああぁぁぁっっ!!…………ひっぐ……い……痛い……やだっ……やだよぉ……」

 

痛みと絶望でただ泣き喚いていた私に痺れを切らした深海棲艦が遂に止めを刺そうと私の頭に砲塔を向けた。

全身の組織が死を感じたその時、突然無線の向こうから聞き覚えのある声が入ってきた。

 

『おイ…………響になにしヤガったテメェ……』

 

「と…………な……が……?」

 

「ンー?アハッ!ソッチカラ来テクレルナンテヤッサシー!」

 

『うるせェ……神だろうガなんだろうガ響に手を出した奴ハ殺ス』

 

「コワーイ!デモ貴方ニ私ガ倒セルカナァ?」

 

門長を見つけた深海棲艦は砲を下げ、私を放すと愉しそうに門長の方へ走り出していった。

 

た、助かった……けど。

護れなかった……これじゃあ長門さんに顔向け出来ないよ……。

 

離島棲姫が居た場所を見つめながら意気消沈している私に金剛さんがふらつきながらも近付き、優しく私を抱き締めて慰めてくれた。

 

「大丈夫ヨ響……離島棲姫は守れませんでしたがユーが生きている事が長門にとって最も重要なリザルトなのデース」

 

「金剛……さん」

 

「響、私はあの時彼が戻って来たことに気付いていたから後は賭けるしか無かった……とはいえ、助けに行けなかったのは悪かったわ」

 

「不知火さん……」

 

少し落ち着いた今なら不知火さんが金剛さんを止めた理由が分かる。

あれ以外に私が助かる方法はなかった……だから金剛さんが動いても無駄死にしてたかも知れない。

……兎に角今は生きている事に感謝しよう。

 

「さあ、後はミスターに頼みまショウ。歩けますか?」

 

「私は大丈--っ!」

 

立ち上がろうと力を入るが、左足に力が入らず尻餅をついてしまった。

 

「ノー、無理は禁物ネー。よいしょっと……カモーン響?」

 

「…………ありがとう」

 

「ノープロブレムデース、さあみんなでお風呂にレッツゴーッ!!」

 

私は金剛さんに背負われボロボロになった身体を治しに私達は入渠ドックに向かっていると、突然の爆発音が建物中に響き渡った。

私は慌てて周囲を見渡すとあの深海棲艦が向かった方角で巨大なきのこ雲が……。

 

 

「……門長……長門さん……Не умирай(死なないで)

 

私は呟き、そして直ぐに自分に問い掛けた。

なぜ私はあの男の心配までしているのかと。

だけど納得のいく答えなんて見つからず、結局あいつの中に長門さんがいる可能性があるからだと自分に言い聞かせる事で考えを打ち切った。

 

 

 




もっと活かせたら良かったんですが……技術不足ですね・・・(・∀・i)タラー・・・


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第四十一番

皆様、新年明けましたね。
今年もどうか宜しくお願い致します。

SSを書き始めてもうじき一年となろうとしております故に、初心に帰って戦闘に力を入れようと思った…………のですが主人公が暴走しすぎてどうすればいいのかorz
という訳で新年になったから特に変わるという訳ではありませんが地道に頑張って行きたいと思いますので改めてよろしくお願い致します。


人類史上最凶最悪の大量破壊兵器-水素爆弾-

大戦時に使用された原子爆弾の数百倍から数千倍とも言われる破壊力の前には通常兵器をものともしない艦娘、深海棲艦でさえ容易く蒸発させる事の出来る人類が艦娘以外で唯一対抗できる手段である。

艦娘の登場により使われる事は無くなったがそれでも過去に姫級を数体まとめて消滅させた実績すらある兵器なのだ。

その爆心地で生き残れる生命など普通なら存在する筈が無い…………そう、()()()()()

 

「チッ……次ハテメェダ……覚悟シロ」

 

だが、海上に浮かぶ門長という男は過去二回も水爆の衝撃に耐えている。

一度目は全身が千切れ飛ぶ寸前の瀕死状態であったが何とか一命を取り留め、二度目となる今さっきに至っては背後の異形の半分は失ったものの本体に至っては両手に持った連装砲と共にほぼ無傷という状態である。

 

「アッハッハ!ダケド一発凌イダダケデ調子ニ乗ルナヨナッ」

 

門長を観察していた深海棲艦、ソロモンは予想以上に損害の少ない門長に驚きつつも未だ余裕の表情を崩さずに背部のコンテナから二つハッチを開き核熱弾頭搭載誘導噴進砲(核ミサイル)を再度発射させる。

しかし、そこに狙い済ましたかのように放たれた砲弾が誘導噴進砲の進行を阻害する。

 

「ナァッ!?グゥアァッ!!」

 

「ナンドモ同じ手ヲ食ラウカヨ」

 

砲弾が直撃した弾頭は衝撃とその熱量により火薬を発火させ激しい光が今度はソロモンを包む。

空を覆うほどのキノコ雲の中にソロモンの声は聞こえてこないが、門長は雲が薄くなるのを待たずにその中心へ主砲を撃ち続ける。

 

「オイ、マダ生キテンダろ」

 

「…………ハッ!ヤルジャンカテメェ!!」

 

反撃の機を窺っていたソロモンは門長が油断しないと見るや否や後ろへと飛び退き誘導噴進砲を構える。

しかし先程までの核熱兵器では無く通常の弾頭を使用する。

ぶっ飛んだ性能を持つソロモンでさえ何度も受けては無事では済まない代物なのだ。

既に二発の水爆を受け全身から蒼白い体液を撒き散らし、コンテナも半数は吹き飛んでしまっている。

と言ってももし人類がそれを使おうとした所で先程奴がやった様に撃ち落とせば何も問題はない。

だからこそ目の前の男が何故水爆受けて平然としているのかが分からないのだ。

もう一、ニ度直撃させれば分からないが今の奴に普通に撃っても当たらない事は既にソロモンも十二分に理解している。

それ故に今使える通常の弾頭百門に核熱弾頭を紛れさせ一斉射したのだ。

 

「下ラネェ……オチろッ!」

 

二百を超える誘導噴進砲が門長に襲いかかるが、門長はただ苛立たしげに空を睨みつけ両腕の連装砲から砲弾を弾き出す。

誘導噴進砲へ一直線に飛んでいった四発の砲弾は上空で炸裂し、幾万もの子弾が誘導噴進砲を貫き空は一瞬で爆炎に呑まれた。

核熱弾頭も例に漏れず門長の所へ辿り着く前に爆炎に散っていった。

 

「ハ、ハハッ。私ラミタイナ化ケ物ガ他ニモイルナンテネ……ナァアンタ、コッチ側ニ来ル気ハナイカ?」

 

「ア"ア"?俺ガテメェラノ仲間ニナルト思っテンノカ?」

 

「別ニ仲間ジャナイサ、私ラミタイニコノ世界ニ恒久的ナ戦争(平和)ヲモタラス存在トシテ君臨シ続ケルダケノ話ダ」

 

「……イイゼ、ソッチにイッテヤルヨ」

 

「フフ、ナラバ色々話シテオカナイトネ。無線ジャ傍受サレルカモ知レナイシコッチニキテヨ」

 

門長はソロモンの言う通りに近付き始める。

二人の距離は徐々に無くなっていき、やがて一息で手が届く位置にまでなった。

するとここまで終始笑顔の表情を見せていたソロモンが突如醜く歪む。

そしてソロモンは核熱弾頭の誘導噴進砲が格納されている全三十門のハッチを開放した。

 

「ククッ、ヤット隙ヲ見セタナ化ケ物。コノ距離ナラ避ケルコトハデキナイダロ」

 

「死ネ、深海棲艦」

 

「アア、ダガソレヲスレバオマエモ助カラナイゾ」

 

ソロモンは門長からの攻撃を抑止しつつも自分が助かる道を見つけ出すためにその頭脳を高速回転させていた。

しかし、ソロモンは致命的な勘違いをしていた。

それは門長に話が通じる状態であった為、少なからす躊躇が生まれると思っていた事である。

だが、たまたま噛み合っていたようにソロモンが感じただけで平時でさえ人の話を聞かない事が稀に良くある門長が怒りに我を忘れいるのだ。

つまり、元より仲間になる気が無いどころかソロモンの発言によってその怒りを助長させていただけであった。

 

「エ……ナッ!?マサカッ!!」

 

ソロモンが撃つのを躊躇させたと思い生きる道を考えようとした直後、門長の主砲はコンテナを貫通していた。

そして格納庫内部で核熱弾頭の一つが暴発した次の刹那、一斉に誘爆を起こし周囲は瞬く間に光と爆炎に飲み込まれそこにあった海水諸共全てを蒸発させた。

やがて煙の晴れたその場所には二人の姿はなかった。

 




今回はちょっと書き方が違いますが多分次からは戻るかもしれないですねw

……戦闘描写を勉強しなければ。


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第四十二番

やばい眠い音ゲータノシー


チャレンジャー海淵水深一〇〇〇〇メートル超。

嘗て地上数光年先まで到達した人類でさえ未到達の彼の地にて三人の深海棲艦──いや、深海棲艦からも逸脱した存在はその洞窟の中で楽しげに話し合っていた。

 

「アラァ?マサカソロモンマデヤラレチャウナンテ思ワナカッタワァ」

 

「レ級ヤチュークハ兎モ角、ソロモンガ負ケタノナラ放ッテオクノハ危険」

 

バミューダは三角形を頭の上で浮かせ『深海魚レシピ』と書かれた作者不明の書籍を捲りながら答えている。

 

「ソウヨネェ、デモソロモント一緒ニ沈ンダンデショウ?」

 

「ソウ、デモ油断出来ナイ。アノ男ハ一度耐エテイルノダカラ」

 

「フーン……ソレナラチョット探シニ行コウカシラァ?興味モアルシネェ」

 

「ナラワタシモ行クワ」

 

「待て、ミッドウェー、バミューダ」

 

話が纏まりバミューダも本を閉じて二人で洞窟を出ようとした時、不意に制止がかかった。

二人が振り向くと、黒く艶やかな髪を足首まで下ろした高身長のスレンダーな女がミッドウェー達の元に向かって来ていた。

 

「チッ……アラァ、ドウシタノカシラ?鉄底海峡()()()()()()

 

「……アイアンボトム・サウンド。何故止メル?」

 

「我々は干渉しすぎた……これ以上は均衡を崩しかねない。それは()()()()に対する裏切りである」

 

ミッドウェーはあからさまに顔を顰めながらアイアンボトム・サウンドへ異を唱える。

 

「デ、デモ……アノ男ガ生キテイレバイズレ均衡ハ崩レルワヨ?」

 

「分かっている、その件についてはあの御方に報告しておく。少なくとも我々が動くよりも世界に影響を与えずに対処して頂けるであろう」

 

「ウグゥ……ワ、ワカッタワヨォ。大人シクシテイレバ良インデショ」

 

ミッドウェーは再び席に着くと退屈そうに背もたれへもたれ掛かりその体を大きく反らせ始める。

バミューダも興味を失ったのか既に本を開き直しイ級のムニエルに釘付けとなっていた。

 

「(仮にも世界を管理する者の一角だと言うのに……)」

 

アイアンボトム・サウンドはそんな二人の様子を見て頭を抱えたくなったが、報告が先だと思い直し洞窟を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……う…………息が苦しい……ここはどこだ……俺は…………何を……?

 

俺はぼんやりとした頭を働かせここまでの出来事から現状を確認しようとするがそこで自分の記憶が抜け落ちている事に気付く。

確か深海棲艦共と戦っ……たよな?

間違いなく戦ったと感じるのに記憶が無い……。

俺は謎の違和感覚えたがそれを一先ず置いといて先に目の前のクッションらしきものを排除し、呼吸を確保する事にしよう。

状況は分からないが取り敢えず人の顔面にクッションを押し付けている奴は赦さん。

犯人への怒りを露わに、戦闘の損傷のせいかかなり動かしにくくなった右手を使いクッションを押しのけようとする。

 

「んぅっ…………っ!」

 

ん?何か聞こえた気がしたが……気のせいか。

しかしあまり力が入らないせいでクッションが動かせねぇ、このままだと冗談じゃなく窒息死してしまうぞっ。

クッションに殺されたなんて笑い話にはなるかも知れないが当事者からしたらふざけんなって話だ!

 

俺は左手も総動員し、再度クッションからの脱出を試みる。

 

「んぁっ…………んんっ……っ!まだ我慢して欲しいのっ……もう少しで海面に出られるのね」

 

今度はこっちに話し掛ける声が聞こえたかと思ったら後頭部から押さえ付けられクッションに強く押し付けられ脱出が更に困難となった。

 

くっ……そうか、此処で俺を窒息死させて確実に葬り去ろうというあの深海棲艦共の策略に嵌ったのか……。

確かにもうこの状況を脱する手段は残されていない、完全に奴らの勝ちだ。

だが、ただじゃ死なねぇぞ!何としてでも一矢報いてやるっ!

 

そう意気込んだのも束の間、拘束は呆気なく外され俺は呼吸と多少ぼやけているが視界を確保する事が出来た。

 

「んふぅ。門長てーとくっ、無事で何よりなのね!」

 

「ああ?…………誰だてめぇは、奴らの仲間か?」

 

「えぇ……一ミリも記憶に無いのは流石にあんまりなのね」

 

あんまりも何も初めて会った奴を思い出すなんて未来が見えてなきゃ不可能だ。

その事は奴も理解出来たらしく何故かため息一つついていたが説明する気になった様だ。

 

「はぁ……わかったの、鎮守府に戻りながら説明するのね」

 

「おう、だが俺をその駄乳で押し殺そうとした事は忘れんからな」

 

「そ、それは誤解なのねっ!イクは提督が海水を飲まないようにしてただけなのっ!」

 

「んなこと知るか、さっさと行くぞ」

 

駄乳の弁明には耳を貸さずに鎮守府へと歩を進ませる。

道中聞いた駄乳(伊十九とかいってたか?)の話を簡単に纏めると、俺を心配してくれた心優しい電ちゃんから何かあった時に俺を助けるよう頼まれていたらしい。

途中駄乳が何度か目を逸らしていたが別段興味も無いので放っておいた。

 

「電……ありがとな、俺帰るよ君たちの待つ場所へ」

 

「ま、まあ……嬉しそうで何よりなの……っと見えてきたのね」

 

暫く進み夜がすっかり耽った頃、漸く我が家の目の前まで到着したのだ。

時間が時間だからか建物の電気が殆ど消えており、付いているのは工廠と入渠ドック位である。

響達が入渠しているのではと思い、先に補給を済ませる為工廠へと向かう事にした。

 

「明石、いるか?」

 

「う、うぇっ!?門長さん!生きていたんですね!?」

 

「ったりめぇだ、それより補給の用意と……今の入渠ドックの使用状況を教えてくれ」

 

「あ、はい!え……っと今入っているのは金剛さんと吹雪ちゃんですが吹雪ちゃんはもうすぐ出ますが金剛さんは後七時間程掛かります」

 

七時間か……なげぇな。

続いて俺は明石に他の入渠予定がいるか訊ねた。

 

「後は……七時間の暁ちゃんと五時間の不知火が入渠待ちですね」

 

「……わかった、じゃあ不知火、暁と修復が完了したら起こしてくれ」

 

「はい、では点検と応急修理だけはさせて頂きますね」

 

「おう、任せた」

 

明石はそう言うと準備の為に奥の部屋へと入っていった。

俺がその間に補給を行っていると後ろから恨めしそうな声が耳に入ってきた。

 

「明石さんと初めて会ったのにスルーされたのね」

 

「あ?潜水艦なら見つからない方が良いんだろ?やったじゃねぇか」

 

「それとこれとは話が別なのっ!仲間にまで忘れ去られるのは全然嬉しくないのね!!」

 

「あ〜うるせぇ、だったらてめぇから喋りかければ良いだろうが」

 

「あ…………えへへ……それもそうなのね。流石てーとくなのぉ」

 

うぜぇ……取り敢えず此処で急速潜航させとくか。

駄乳の後頭部を鷲掴みにして地面に押し込もうと試みるが駄乳の抵抗により残念ながら埋めることは叶わなかった。

 

「っはぁ……はぁ……いきなり何するのね……」

 

「チッ……運が良かったな」

 

「てーとくは相変わらず容赦ないのね」

 

くそっ、ムシャクシャするがこの状態じゃ何をするにもままならねぇ。

仕方ねぇが治るまでは大人しくしておくか、下手な事したら響に沈められかねない状況だしな。

そうこうしている間に準備を終えた明石が俺を診察台へ誘導する。

 

「さて、診察しますのでじっとしていて下さいね」

 

「ああ」

 

「あ、あのっ!明石さん、初めましてなの!伊十九なの、イクって呼んで欲しいのね!」

 

駄乳の突然の自己紹介に明石は少し戸惑うも直ぐに理解したのかいつも通りの笑顔で返事をしていた。

 

「初めましてイクさん。イクさんはドロップでしょうか」

 

「イクは摩耶と一緒に建造されたのっ。ただ色々理由があって姿を見せることが出来なかったのね」

 

「そうなんですか?でも門長さんからも摩耶さんからも何も聞いていないのですが……」

 

「ああ、それについては明日電に聞いてみれば全て分かるだろう」

 

「はあ、まあ分かりました。それではイクさん、改めてよろしくお願いしますね?」

 

「よろしくなのっ!」

 

「まあこいつの事はどうでもいいから普通に動ける位にはしてくれ」

 

「どうでも良いと言うのは……応急修理は致しますが……」

 

「イクは大丈夫だから応急修理してあげて欲しいのね」

 

「すみませんイクさん……あ、でしたら吹雪ちゃんが上がったら入渠ドック使ってください。少し損傷しているようですので」

 

「にひっ、ありがとうなの!」

 

駄乳は明石に礼を言うと足早に工廠を去っていった。

 

「暁達優先に決まってんだろうが……」

 

「まぁまぁ、イクさんの入渠時間は五分も掛かりませんし大目に見て下さい。それより応急修理と言っても時間が掛かりますのでお休みになられてても良いですよ」

 

まあ……それ位なら仕方ねぇか。

 

「おう、終わったら起こしてくれ」

 

「了解しました。それではお休みなさい門長さん」

 

明石が言い終える頃には俺の意識は夢の世界へと旅立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

── 1階廊下 ──

 

 

 

 

 

 

 

「言われた通りに助けたけれど本当に良かったの?」

 

「良いのですよ、私は響ちゃんの望むようにするだけなのです。響ちゃんが幸せなら……それで……」

 

「ふ〜ん?ま、イクは面白そうな事に首を突っ込んで行くだけだから何でも良いけど……気付かれたくないならその表情(かお)はほぐしてから戻った方がいいのね」

 

「うっかりなのです。そうですね、イクさんも感づかれないよう気を付けて欲しいのですよ?」

 

「その点は問題無いのね、悲しい事だけど少し姿を眩ませればみんなイクのことなんか忘れてしまうのね」

 

「私は忘れませんよ、それではお休みなのです」

 

「お休み……電……にひっ、覚えてる人が居てくれるのはとても嬉しい事なのね」

 

 

 




あ、もう限界です私も寝ますですおやすみなさいです。


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第四十三番

〜今日のとなが〜
残り耐久 5/????(近日公開予定)
応急修理(12時間)により耐久が4回復しました。

さあ本編本編!



翌朝、診察台の上でタオルケットが掛かった状態で目を覚ました俺は台にもたれ掛かるように眠る明石にタオルケットを放り投げて一人食堂へと足を運んだ。

だが、昼飯時の過ぎた食堂には後片付けを行う摩耶と金剛しか居なかった。

 

「んだよ、てめぇらだけか……」

 

「オー、グッドアフタヌーンミスター…………ホワァァァッツ!!!?」

 

「どーした?蜚蠊でも出たか────ってなんだ、蜚蠊よりしぶてぇ奴が帰ってきたのか」

 

「うっせぇ、んなことより全員執務室に呼んどけよ」

 

「ホワイ……これはミスターのゴーストですカ……?」

 

「なんだてめぇ……そんなに俺が生きてちゃ悪ぃか」

 

「ノ、ノー!そういう訳じゃ無いデース、デスガ……」

 

煮えきらない感じが苛つくが奴の口を割るのは何時でも出来る。

そんな事より今は響に会いに行くのが先だ。

 

「まあいい、とにかく執務室だからな」

 

俺はすぐさま響の待つ部屋へ向おうと歩き出す。

だが、猿女は食器を仕舞いながら俺を呼び止めやがった。

 

「待った、全員集合だろ?だったら執務室じゃなくて地下で待ってな」

 

「何で地下に行かなきゃならねぇんだよ、俺はこれから響と感動の再会を果たしに行くんだよ」

 

「全員集合なら地下の隔離部屋に行かなきゃ出来ねぇよ」

 

「隔離?誰を」

 

「西野っつう提督だよ、放射能だか何だかで人間が外に出るのは危ねーんだとよ」

 

西野…………あ、そういや陸奥はどうしたんだっけ?

 

ーー陸奥なら昨日お前が戻って来るのを窓から見ていたぞーー

 

居たのか長門、つうか良く見えたなそんなの。俺は全く見えなかったぞ?

 

ーー戦艦は総じて目が良いんだ、まあお前の場合は周りを見てないだけだがなーー

 

うるせぇ……まあ、無事ならいいか。

 

「おーい、夕月達と来た女の事だぞ。覚えてねーのか?」

 

「ん、ああ。そんぐらいしってる。だが別にそいつは居なくてもいいから執務室集合でいいだろ」

 

「んなこと言ったって今後どうするかも話し合うんだろ?アタシらはともかく球磨達がどう動くかは提督が決める事じゃねぇか?」

 

「それは夕月達が一人一人決めることだろ?」

 

「そういう訳にも行かねーよ。本来艦娘っつーのは個人の主義主張があろうと原則提督の意見は絶対らしいからな」

 

なんだそれ、気に入らねぇな…………いや、待てよ。本当にそうなのか?

 

「初っ端にテメェから飛び蹴りを受けた気がするんだが普通に考えれば反逆だろあれ」

 

「さあな、それはてめぇが提督じゃねぇからだろ?」

 

「提督かどうかの差がさっぱり分からねぇが…………まあしかたねぇ、んじゃ下に行ってるぜ」

 

「おう、またな」

 

摩耶と金剛に別れを告げ俺は一足先に地下に……行く前に執務室を覗きに行ったが中には誰も居なかったので仕方なく真っ直ぐ地下に向かう事にした。

 

 

 

 

地下室は装飾などは一切無く、降りてすぐ目の前にでかい鉄の扉がその存在を主張しているだけだった。

扉に付けられたスイッチを押し扉を開くと奥には更に扉が存在し、中に入ると後ろの扉が閉まり音声ガイダンスが流れる。

 

『着用している衣類をこちらにお入れ下さい』

 

服を脱ぎ指示された場所へ放り投げる。

 

『衣類の汚染内容を解析中....』

 

『続いて生体情報と汚染内容を解析します』

 

素っ裸のまま待たされる事十五分、解析が完了したのか再び機械が動き出す。

 

『検知内容、放射能汚染。属性──人…………訂正、属性──艦娘?』

 

『艦娘用除染シークエンスに移行、目を瞑り両腕を広げて待機して下さい』

 

「それでいいのか機械……」

 

俺は指示通りに両腕を広げながら目の前の機械に一抹の不安を覚えるが、機械はそんな事お構い無しに着々と作業を進めていく。

 

『洗浄を開始します』

 

開始の合図と共に足場がゆっくりと回り始め、周囲から叩き付ける様な勢いで液体が吹き掛けられていく。

 

『第二工程へ移行します』

 

上から大量のお湯で洗い流すと再び全身に液体を吹き掛けていく。

 

『最終工程へ移行します』

 

再びお湯を掛けられ全身に液体を吹き掛けられる。

そしてお湯で流しブザーと共に扉が開かれた。

扉の奥は更衣室となっていて、俺は用意されたバスタオルで身体を拭き洗浄された衣類に身を纏い漸く中に入ることが出来た。

 

「門長さんっ!」

 

俺が部屋に入るや否や目の前に現れた西野が突然頭を下げた。

 

「陸奥を……そして私達を助けてくれて本当にっ…………ありがとう」

 

「私達を守ってくれてありがとう」

 

「お前が居なければ我々は今頃水底に沈んでいただろう」

 

「如月達のお願い聞いてくれてありがとう」

 

「みんなを助けてくれてありがとうっ!」

 

「まあ、素直に助かったよ〜……あ、ありがとね」

 

「感謝はしてるぴょん。でもいつかリベンジしてやるから覚悟してるぴょんっ!」

 

「………………助かったクマ」

 

続いて陸奥が頭を下げるとそれに続き夕月達も一斉に頭を下げてそれぞれ感謝の言葉を述べた。

 

「俺は別に響を守る為に動いているだけで礼なんて言われる筋合いはねぇよ」

 

「それでも私達が助けられた事は事実です」

 

くそっ、やりにくいな……。

 

人生でここまで感謝された記憶が無い俺はいたたまれなくなり話を替えようと一足先に本題を切り出す。

 

「んなことより、お前らはこれからどうするつもりなんだよ」

 

「私達ですか?そう…………ですね。何とかして報告に戻らないと行けないのですが……」

 

「報告?俺らの事か」

 

「あっ、いえ!南方前線基地が壊滅した事を伝えるだけです」

 

「ふーん、なら金剛に伝えてもらえば良いじゃねぇか」

 

あいつに伝えさせれば良いと思ったがその意見は陸奥によって棄却された。

 

「金剛さんの報告の経由地としてうちの基地が使われていたから残念だけれどそれは出来ないわ」

 

「だから我々でタウイタウイ泊地まで向かい報告し防護服を借りに行こうと考えているんだが……」

 

「何度も言ってるでしょ夕月、情報が無い状況で無闇に動くのは危険なのよ」

 

「それは分かっているが動かなければどうにもならないのも確かだ」

 

「それでも貴女達の司令官として無謀な出撃はさせられないわっ」

 

「そんな事言ったって我々が行かなければ司令官はずっとこの部屋から出られないじゃないか!」

 

言い争う夕月と西野を余所に俺は何か忘れているような気がして、それが何かを思い出そうとしていた。

 

報告……海軍…………情報…………あ、そういえば奴がいたな。

 

「だったら不知火を通じて────」

 

「ヘーイッ!それならグッドなプランがあるデースッ!!」

 

俺の言葉を遮る様に言葉を被せて来やがったのは連絡が取れない役立たずな上に素っ裸の変態と化したルー豆柴であった。

 

「「こ、金剛さんっ!?」」

 

「まずはその見苦しいモン仕舞ってから出直して来やがれっ!」

 

俺はすかさず顔面を掴み露出狂を更衣室へと押し戻す。

 

「へ……?ノ、ノォーーッッ!!こここれは違うのデース!!見たらノーなのヨォー!」

 

「だったら見せんなボォケッ!」

 

更衣室へ放り込み扉を閉め夕月達の方へ向き直ると二人の言い争いは止み静寂が部屋を包み込んでいた。

その数分後、今度は服を着てきた金剛は赤面したままおずおすと部屋へ入って来た。

 

「ソ、ソーリー……忘れて貰えると有難いネー」

 

「思い出したら許さないっぴょん」

 

「あ、ああ……わかってる」

 

「そんなもんどうでもいい。それよりもグッドなプランっつうのはなんだ」

 

「それは逆に凹みマス……まあ良いケドネ。ワタシのプランはとってもシンプルネー、ミスターと私でタウイタウイ泊地に報告に行けばいいのデース」

 

なるほど、確かに夕月達に危険が及ばない一見良い案にも見える……

 

「だが、そこに俺が行く意味は無い。指名手配犯舐めんなよ?」

 

「確かに報告だけならミスターが来る必要はありまセーン。ですが長門、そこに貴女を救い出す可能性があるのデース!」

 

可能性か……果たしてそんな可能性が本当にあるのかどうか。

 

ーーそれは分からないが、そもそも不可能だと思っていた事だ。僅かでも可能性があるというのならそれを信じてみたいと思う。だが……ーー

 

ああ、分かってる。()()()()()()()()()()()

 

「良いだろう、行ってやるよ」

 

「本当ですカッ!?」

 

「ああ、但し響も連れて行く。それだけは譲れねぇ」

 

「オ、オーケー。ワタシからも伝えておきまショウ」

 

「つーわけだ、報告と防護服は俺達にまかして待っているといい」

 

「い、いや!これは我々の問題だ。これ以上迷惑をかける訳にはっ……」

 

俺は余計な遠慮を見せる夕月の腋を抱えて高く持ち上げその場で廻りながら話を続ける。

 

「だったらこの女を見捨ててうちに来るか?そしたら連れてってやるよ」

 

「な、なぁっ!?そんな事出来るわけっ!」

 

「だろ?だったらお前らはここでこの女を守ってな。ここだって安全じゃねぇのは分かってんだろ?」

 

「う……むぅ……」

 

回転を止めゆっくりと夕月を床に降ろす。

目を廻しふらついてる姿に思わず頬が緩むが、それに気付かれないように後ろを振り向く。

 

「ま、まあそれにこれは単に利害の一致だから別に気にすんな」

 

「ありがとう門長」

 

「本当に何から何までありがとうございます」

 

「そんじゃ、修復完了次第行ってくっから此処の事は頼んだぜ」

 

最後に一声かけ、俺は後ろ手で右手を降りながら部屋を出た。

 

一先ず俺のやる事は決まった。後は仕事の方の折り合いと現状の把握か……

 

ーー後は此処に残る者達の安全確保もどうにかしたいものだがーー

 

安全確保ねぇ……真面目な話昨日の奴らに攻めて来られたら対処しようがねぇよな。

 

ーーやはり我々が此処を離れるのは危険かーー

 

ああ、残念だが策が無い事にはな。

 

諦める方向で話が進みながら二重扉を抜けると目の前には何時の間にか居なくなっていた妖精が宙を漂いこっちを見てこう言った。

 

 

──私が手伝って上げましょうか?──

 

 

 

 

 




あれ、響が登場してない……どうしてこうなったっ!!
次回に持ち越しとは……辛い。


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第四十四番

や、やっと上げられる……。
一時的なスランプのようなものに襲われ二、三日前まで一文字も進まず危うく投げ出す所でした(;´Д`)
「読者が居なければ即失(踪)だった」みたいな感じです(笑)
ですのでこんな所まで読んで下さっている皆様にこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。

みんなありがとぉー♪(アイドル軽巡風)



 「私ならここの安全を一時的に確保するくらいわけありませんよ?」

 

妖精は得意げにそう語りながら俺の肩へ降り立つ。

俺は訝しみながらもこいつの案を聞いてみることにした。

 

「簡単ですよ?要はここに誰も来させなければ良いだけなんですから」

 

「それが出来りゃ苦労しねぇだろうが」

 

「もちろん貴方達には出来ませんよ、それは妖精のなせる技ですもの」

 

妖精のなせる技だぁ?一体なにをしようっていうんだこいつは。

 

「つか、んなこと出来んなら最初からやっとけよっ!!」

 

「頼まれてませんからぁ?」

 

こいつクッソむかつく……誰かこいつを消す方法を見つけろっ!

 

「とまあそれは冗談ですが、流れに身を任せるのを好む存在としてそこまで手を貸すわけにも行かないんですよ」

 

「あ?そういや前に聞いたときにもちょっと思ったが常に艦娘と一緒に居るのに今更じゃねぇか?」

 

それに確か深海棲艦の艦載機には妖精が乗ってないっつってたしな。

だが、妖精は俺の疑問に何食わぬ顔で答えた。

 

「妖精にだって個性がありますからね。放っておいたら絶滅してしまうようなか弱い艦娘や人類を護りたいと思う子もいるでしょう」

 

「か弱い?人間はともかく艦娘もか?」

 

「そうですよ?彼女達は成長するのに長い時間を要しますし、例えどんなに成長したところで姫や上位個体とは圧倒的な性能差が存在してますからね。一部の妖精達が艤装を使いやすく補助して簡単に沈まないよう保護して今の現状を維持できてるんですよ」

 

「なるほどな。てことはそう思わない奴も居るのか?」

 

今の話からするに艦娘に手助けしてる奴が全てでは無いのだろう。

寧ろ深海棲艦の手助けをする奴やどちらにも付かない奴の方が多いのかもしれない。

そんな俺の意図を察したのか、それともこの言葉を待っていたのか妖精はにやりと口元を歪ませる。

 

「そうですね。今回は深海棲艦側の子が使っている力の一つ、海流操作(羅針盤)の力を特別にこの海域一帯に使って上げましょうというわけなんですっ!」

 

「は…………海流操作?」

 

妖精がドヤ顔でこっちを見てくるが俺には一体何を言っているのかはさっぱりだった。

そんな俺の反応がいまいちだったのか明らかにテンションを下げながら皮肉を言い始める。

 

「へっ?ああ、誘拐犯の貴方には解りませんでしたか……」

 

「ちょっ、その言い方はやめろっ」

 

否定できねぇしこれでもほんの少し位は気にしてんだっつうの!

だがそんな事お構いなしに妖精は説明を続ける。

 

「まあ誘拐犯で強盗犯かつ殺人鬼な貴方にもわかるように言うなら目的地に着きにくくするための妨害ですよ。名前のとおり海流が変わるんで条件を満たさないと辿り着けないように出来るんですよ」

 

「おいやめろ俺が極悪人みたいじゃねぇかっ!」

 

「え?全部事実じゃないですかぁ」

 

いや待て、殺人なんてしてねぇぞ?

 

ーー宇和を殺ってるではないかーー

 

あ……あれも殺人か?まあ、そうか……

 

「まあまあ、そんな気にしないで下さい」

 

「つーか強盗は唆したてめぇも共犯だろうがっ!」

 

「人間が決めた法律なんて知りませんねぇ?」

 

「こいつ……っ!」

 

「まあぶっちゃけこっちは大丈夫なんで行ってきちゃって良いですよ〜」

 

非常に腹立たしいが……夕月達との約束も果たせるしうまく行けば長門も俺から出ていく。一石二鳥なこのチャンスを逃す手は無いか。

 

「分かった、んじゃあここは任せたぞ。それとこのことは他言無用な」

 

「はいは~い、他言無用の理由は知りませんが任されましたよぉ~」

 

妖精は俺の兵装を操作できる他の妖精を呼んでくると言い残して壁をすり抜け消えていった。

 

……よし、これで事実を知る者は俺等とあいつだけだ。

 

ーーいったい何を企んでいるんだ?ーー

 

分からんか?あいつがどれだけ信用できるか分からないが響からしたらきっと俺より妖精の方が信用が高いだろう。

 

ーー自分で言うのは辛くないか?ーー

 

辛ぇよっ!……けどおそらく事実だ。

だからあいつがここは安全だと言ったら響が俺に付いていく意味が全く無くなってしまう。

しかしっ、さっきも言ったがあいつの言う事がどれだけ信用できるか解らない。

 

ーーなるほどな、それで響を連れ出すために妖精を口止めしたのかーー

 

ああ、それに響と距離を縮めるチャンスでもあるしなっ!

 

ーーふっ……そうか。なら頑張るといいーー

 

当然だ──っと誰か来たようだな。

 

「お帰りなさい、無事に帰って来てくれて何よりなのです」

 

階段の方を振り向くと天使の微笑みが俺の帰還を祝福してくれていた。

 

「おおっ!お陰で戻ってこれたぜ、ありがとな電!」

 

「へ?いえ、私はイクさんにお願いしただけで助けたのはイクさんなのです」

 

「それでも電が俺を気にかけてくれなきゃ俺は今ここに居なかった訳だからな。やっぱり電のお陰だ」

 

「それは……どういたしましてなのです」

 

くぅ〜っ!響の姉妹だけあってやっぱり可愛いなっ!

 

ーーそれには同意するが肝心の響が来ていないなーー

 

ん?隠れてるだけとかじゃないのか?

 

俺は辺りを見回して見るが確かに響の姿は何処にも無かった。

てっきり電と一緒だと思ったんだが……。

 

「なあ電、今日は響は一緒じゃないのか?」

 

俺が尋ねると先程までとは打って変わって酷く落ち込んだ様子で答えてくれた。

 

「……響ちゃんは会いたくないって言っているのです」

 

「なん…………だとっ……?」

 

俺はいつの間に響に嫌われる様な事をしたというんだ……。

出る前は顔を見せてくれてたし俺が居ない間に何かあったのか、それとも俺の記憶が不鮮明な間に何かあったのか。

もし後者なら修復不可能な溝が形成されているかも知れん。

俺は電に確認して見ることにした。

 

「な、なあ電。実は昨日の途中から記憶があやふや何だが、もしかしてその間に俺は響に何かしてしまったのか?」

 

しかし電は首を振って否定する。

そしてあの時響達の方で何があったのかを電から聞かされることとなった。

 

「門長さん、今回の全体の被害は聞いていますか?」

 

「いや、一応入渠ドックの利用状況は聞いたが全部かは分からねぇな」

 

「そう……ですか。実は私達()()()誰一人欠けなかったのですが……」

 

「そうか、となるとあいつらか……」

 

「はい、一緒に戦ってくれた深海棲艦の皆さんは……」

 

そうか、それは港湾や離島には悪い事をしたな。

 

「分かった。それは被害の確認も含め後で俺から港湾と離島と話してみる」

 

「その事なのですが……」

 

しかし電はとても云いにくそうに言葉を続ける。

 

「離島棲姫さんはもう居ないのです……」

 

「いない?自分の拠点に帰ったのか?」

 

「いえ……離島棲姫さんは沈んでしまったのです。」

 

なっ!?まさかあいつに!…………いや、違う。

 

「俺の……せいだ」

 

俺が護ってやるって無理やり連れてきたっつうのに何も出来てねぇじゃねえかっ!

くそっ……それどころか一歩間違えりゃ響を失っていた場面だって幾つもあった。

なのに俺が何も学習しねぇから離島は死んだ。

響が俺を軽蔑するのも考えりゃ当然な話だったんだ。

こんな護ってる気になってるだけの自己満野郎の所になんかいたらいずれ響も…………それなら……

 

「電、俺はこれからタウイタウイ泊地に行ってくる。そこでお前達保護して貰えるように頼んでくるから、俺が戻ったら皆で向こうに移ってもらう。手間は掛かるがそっちの方が良いだろう」

 

あっちなら余計な事に巻き込まれることも少ないだろうし、きっと助け合える仲間が出来るだろう。

 

「だから他の奴にも────」

 

「門長さんっ」

 

だが電は俺の言葉を遮り俯いたまま一歩一歩あゆみ寄ってくる。

そのただならぬ雰囲気に思わず後ずさりしそうになった次の瞬間、俺の息子が緊急警報を発信した。

 

「〜〜〜〜ッッ!!?」

 

何が起きたのか理解が追い付いていない俺に電は声を張り上げる。

 

「ざっけんななのですっ!響ちゃん達を散々振り回しておいて守れないからどっか行け?いい加減にしやがれなのですっ」

 

「い、電……確かに勝手な言い分だしそれで今までの事がチャラになるとも思ってはない。だが……っ!」

 

響が俺から解放されることで幸せになれるのなら──

 

そう口にしようとした時、俺の息子が再び蹴り飛ばされ言葉は無理矢理中断させられた。

 

「言い訳なんか聞きたくないのです。男なら一度決めた事は貫き通しやがれなのです!」

 

「うぐぉ…………だが、それでも俺が一番に望むのは響の幸せなんだ」

 

「知っているのです。でも金剛さんの話が本当なら響ちゃんは既に解体されていた筈なのです。どういった経緯があろうと助けた以上途中で投げ出すのは無責任なのです」

 

「しかし……俺といても幸せになれない所かいずれ響まで……」

 

「…………そうですか。電は門長さんみたいに諦めは良くないので響ちゃんと()()に残る為に貴方をタウイタウイに行かせはしないのです」

 

そういうと電は錨を展開し頭上へと掲げる。

 

「いな……づま?じ、冗談だろ?」

 

「電は冗談が得意では無いのです。向こうに行って海軍を相手にするより門長さん一人を処理する方が簡単なのです」

 

冗談である事を期待するも電の目は全く笑っていなかった。

激痛が未だ続き、この場から逃れる事も叶わないまま早くもその時は訪れた。

 

「門長さんの事はタウイタウイに行ったって伝えておくのです」

 

「ま、まて電!」

 

「さよならなのです」

 

電は俺の呼び掛けに応じる事なく錨を振り下ろした。

 

「駄目だ電ぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

……………………振り下ろされた錨は俺の股間数センチ手前の床を打ち砕く。

生きてきた中で最高の恐怖を味わい俺は足が竦んでしまいまともに動けないでいた。

 

「……響ちゃん、何が駄目なのです?」

 

「そ、それは……い、電にこんな事して欲しくない……から」

 

「私の事を思ってくれるのは嬉しいのです。だけど私は自分の事よりも響ちゃんの幸せを見届ける事を優先するのです」

 

電は床から錨を引き抜くと再び振り上げる。

 

「そ、それにそいつの中には長門さんがいるかも知れないから……」

 

「別にすぐに殺す訳じゃ無いので安心して欲しいのです。まだ止める理由はありますか?」

 

「それは…………」

 

響は電に反論出来ずに押し黙ってしまった。

だが、それも当然な話だ。

響が俺自身を好いてくれる様なことは何一つ出来ていない。

いや、たとえあったとしてもそれは長門に対する感情になっているだろう。

結局俺は最初から響にとって恐怖の対象でしかないんだ。

それなら最後にすっぱりと切り捨てて俺を諦めさせてくれ。

 

「響……前にも聞いたかも知れないがもう一度聞かせてくれ。」

 

「…………なんだい?」

 

「俺の事を……どう思ってる?」

 

「私は…………」

 

今にも泣き出しそうな響はなんとか声をひり出しながら続ける。

 

「お前が…………嫌い……だっ……た」

 

「ひび……き?」

 

「だけど……分からない……分からないけどっ…………いなくなるのは……嫌……なんだ」

 

「長門さんと関係ないとしてもですか?」

 

「それは……分からない。けれど、優しくしてくれたのは……守ってくれたのは……長門さんだけじゃない……気もするんだ」

 

響……俺の事を見てくれるのか……。

 

ーー良かったじゃないか。お前のやって来たことは無駄じゃなかったなーー

 

「だから……電……」

 

響は錨を掲げる電の手を取りゆっくりと下ろす。

それを見た電は一息つくとまるで憑き物が落ちたかのようにいつもの笑顔を見せ、空いた手で響の頭を撫でた。

 

「よく出来ました、なのです」

 

「……はい?」

 

「へ?どういう……」

 

「はい、嘘をついている響ちゃんに自分の気持ちを認めるお手伝いをしてあげたのですっ」

 

「それってつまり……」

 

「本気で俺を殺そうとした訳じゃない……のか?」

 

「ふふ、電に門長さんを撃沈させる火力は無いのです」

 

なんだ、そうだったのか……。

マジで死を覚悟した瞬間だったぞ。

 

「でも、もし今回みたいに途中で投げだすのなら……その時は電の本気を見せるのです」

 

電と目が合った瞬間、俺は凍てつくような寒気に襲われた。

そして確信した。あれは演技でも何でもない、響の一言で俺の死は決定的なものとなっていたという事を。

 

「お、おう……分かってる」

 

そうだ、響が俺を少しでも必要としてくれてる事が分かった。

なら俺から離れる理由なんか何一つ無いっ!

 

「響っ!」

 

「なっ!なに……?」

 

「これから長門の具現化の為にタウイタウイ泊地へ向かう。だから響にもついてきて欲しい」

 

俺はそう言って響に右手を差し出すと、響は暫し躊躇ったがやがてゆっくりと俺の手を取り応えた。

 

「…………ダー」

 




今後仕事の方が忙しくなってくるので今回位の一、二週間に一回投稿出来るかのペースになるかと思いますが失踪すると電ちゃんに襲われそう(R-18G)だから失踪は有り得ません。
ですので気長にお待ち頂ければ幸いです。


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第四十五番〜電〜

第四十五番が終わる時、新世界への扉が開く(誇大広告)


皆が集まった後、改めて今後の方針が話合った結果私と響ちゃんと金剛さんは門長さんと一緒にタウイタウイへ向かう事が決まりました。

その後他の方達の方針も決まった所で門長さんは入渠ドックへと歩いて行きました。

私も皆さんに一言伝えてから地下室を後にしました。

 

「ふぅ……今日は少し疲れたのです」

 

「電?今日は随分お疲れなのね」

 

私が一人呟いていると不意に後から声を掛けられ不覚にも少しびっくりしたのです。

ですがそれを悟られるのも癪なので努めて冷静に言葉を返しました。

 

「イクさん、今迄私の我儘に付き合ってくれてありがとうなのです。ですが、もう皆に姿を見せても大丈夫なのです」

 

「ん〜……やっぱり止めとくのね。潜水艦(イク)が目立ってもいい事は無いのね」

 

イクさんはそう言っておどけて見せた。

自分を知ってる人が居ないという恐怖は私には想像出来ないのです。

だからイクさんが大丈夫と言うなら今はそれを信じる事しか出来ないのです…………でも。

 

「自分に嘘は付かないで下さいね?」

 

「にひひっ!その台詞、そっくりそのままお返しするのね」

 

「……?電は自分に正直に生きているのです」

 

「でもぉ?響とてーとくをくっつけても電にメリットは無いのね」

 

確かにこのまま門長さんと響ちゃんの仲が良くなろうと私が響ちゃんと結ばれる事は無いのです。

でも、最初の内なら兎も角今あの男を消してしまえば響ちゃんは長門さんを含め忘れる事が出来ないだろう。

そうなった後で私が何を言おうと響ちゃんの心を癒す事は出来ないかも知れない。

 

「自分に嘘を付いてるつもりは無いのです。ただ今は響ちゃんが幸せになれる方法が他に見つからないだけなのです」

 

そこに関しては私も門長さんと一緒なのです。

響ちゃんの幸せが第一。響ちゃんを悲しませたくも、ましてや傷付けたくも無いのです。

 

「う〜ん、それならイクも一緒に考えてあげるのねっ!」

 

イクさんは自身のその大きな胸をトンと叩いて言った。

 

「ふふ、ありがとうなのです。心強い友達が居て電は幸せなのです」

 

「んふっ、イクも友達の役に立てるなら嬉しいのね」

 

「ありがとう。それでは私は部屋に戻るのです」

 

「またなのね」

 

イクさんと別れ部屋に戻ると、先に戻っていた響ちゃんがソファにもたれ掛かって寛いでました。

 

「おかえり電」

 

「ただいまなのですっ」

 

うんっ、響ちゃんはいつみても可愛いっ!

一緒にいるだけで心が癒されていくのです。

はっきり言って門長さんには勿体無いのですっ!

やっぱりあいつはなんとかしないと駄目な"のて"すっ!!

……少し脱線しかけた思考を戻す為に響ちゃんの方を見ると何だか浮かない様子でこっちを見ていたのです。

 

「どうしたのです?」

 

「あっ……その……今日は……ごめん」

 

突然頭を下げる響ちゃんに少しばかり戸惑うが鈍感なあの男とは違い響ちゃんが何を気に病んでいるか察した私は隣へと座り、優しく響ちゃんを抱きしめたのです。

 

「大丈夫。今日の事は私がやりたくてやった事、だから謝らないで欲しいのです」

 

「でも……私がちゃんと言えれば……」

 

「ううん、響ちゃんがとっても悩んでいた事も知っているのです。だから謝らなきゃ行けないのは無理矢理聞き出した電の方なのです。響ちゃん、ごめんなさい」

 

「ちがうっ、電が謝る事なんてないよっ!電は私の事を思って動いてくれたんだから」

 

「分かったのです」

 

「えっ?」

 

「響ちゃんが私を悪くないと言うのなら悪くないのでしょう。じゃあ私が響ちゃんを悪くないと言ったらどうですか?」

 

「うっ、それは…………うん、わかった」

 

「ほら、やっぱり響ちゃんはいい子なのです」

 

響ちゃんは何も悪くないのです……悪いのは響ちゃんの運命を掻き乱す世界と……その運命に感謝している私……。

 

「響ちゃん、今日は色々あって疲れたでしょう?お夕飯までまだあるのです。少し休むと良いのです」

 

「……うん、確かに色々あって疲れた……けど電も疲れてないかい?」

 

「はい、電も少し疲れたので一緒に少しおやすみしましょう」

 

私は立ち上がり、響ちゃんの手を取り寝室(提督仮眠室)へと入っていきました。

お布団へ入ると連日の疲労もあったのか響ちゃんは直ぐに寝入ってしまいました。

その可愛らしい寝顔を眺めながら今日の事を思い返し、やがて私も眠りについたのでした。

 

「響ちゃん…………おやすみ」

 




第四十五番が終わると思っていたのか?

まだまだいくぜっ!


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第四十五番〜凛〜

週に一二回と言ったな、あれは嘘だ。
いえ、なんでもないです。
相変わらずの不定期更新ですがどうぞ、よろしくお願い致します。
因みにサブタイトル右の文字はフィーリングで決めてます。

電「私はどうしてそのままなのです?」

俺「え?他のが良かった?他だと『黒』とか『闇』になっちゃうけどいい?」

電「…………」

俺「ははは……な、なーんてね?」

電「…………はぁ、出来れば沈めたくなかったのDEATH!!!」


ーFATALITYー


私不知火は今非常に困っている。

それは私が門長和大の動向を定期的に明石に報告しなければ私の所在が大淀に伝わってしまうかもしれないからだ。

つまり、私がここにいる為には門長和大を監視し続けなければならないという事になる。

だが気が付けば彼と同行する事は叶わず、それ所かどういう訳か深海棲艦の輸送任務を手伝う事になっていた。

勿論この任務は横須賀(むこう)の明石には話してはならない。海軍に漏れたことが深海棲艦に伝わればこの基地の補給手段が無くなってしまうからだ。

 

「くっ……これは……不知火の落ち度……?」

 

私だって必死に食い下がった。

しかし基地の存続を秤に掛けられてはどうにもならないじゃないっ!?

……とにかく、次の報告までに横須賀(むこう)の明石が納得する策を考えなければなりませんね。

金剛に代わりに報告をして貰うのが簡単ですが他人のうっかりで基地ごと壊滅なんてごめんです。

特に彼女は練度の割に抜けてますからね。

まずは工廠に行って────ってあれは。

 

工廠へ歩き出そうとした私の向かいから潜水艦伊十九がなにやらご機嫌にスキップをしながらやって来ました。

 

確か彼女はあの男がここに来た頃に建造されるもつい最近まで門長どころか摩耶の記憶にすら残さずに瀕死の門長を幾度と無く救ったという話らしい。

…………それが本当なら実績は充分ですが、正直信じ難い話ね。

止めておきましよう。

 

「ふんふ〜んっ。あ、こんばんはなのねっ!」

 

「こんばんは、には少し早い気もしますがどうも伊十九さん」

 

「堅苦しいのっ!もっと気楽にイクって呼んで欲しいのねぇ〜?」

 

少し鬱陶しいのでさっさと話を切り上げて工廠へ向いましょう。

 

「承知しました。では、私は先を急ぎますのでこれで」

 

「えっ?あ、うん。またなのねっ!」

 

切り方が雑でしたが、まあいいです。

 

特に気にすることなく伊十九さんに別れを告げてから私は工廠に向かいました。

 

 

 

 

工廠には明石の他に今回私と同じ任務に着いた吹雪と暁が愚痴を言いながらも艤装の整備に勤しんでいた。

 

「全くもうっ!私だって響と一緒にいたかったのにぃー!」

 

「いつまで言ってるんですか……まあ、艦娘である私達が深海棲艦の手伝いなんて納得出来る話ではありませんが」

 

「私達が生きる為には仕方ないこと。二人共割り切るのね」

 

私は二人に言い聞かせるようにしながら明石の所へ向かって行く。

 

「不知火さん、貴女だって異を唱えていたじゃないですかっ」

 

「そうよっ!なに自分だけ割り切った様なこと言ってんのよっ!」

 

ええ、言いましたとも。

だがそれは私の任務に支障をきたすからであって深海棲艦だからどうとかいう話では無いのだ。

 

「私は反対したのは私に課せられた任務を遂行する為よ」

 

「で、でも結局こっちに居るじゃない」

 

「……理由は貴女達も分かってるでしょ?」

 

「それは…………まぁ」

 

猛反対していた私達三人が引き下がらざる得なかった理由は簡単だ。

胃袋を掴まれたと言うと言い方が悪いが、要は毎日食事を作ってくれている摩耶さんに頭を下げて頼まれてしまっては断れる筈がありません。

食事とは私達に取って言わば娯楽の様なものであり、それが失われるというのは愛煙家が住んでる国が突然完全禁煙になるのと同意義なのですから。

 

「だから私は任務を果たす手段を考えているのです」

 

「ふ、ふぅん?任務も良いけど艤装の整備位はしっかりとやっときなさいよねっ!」

 

「そんな事は百も承知よ」

 

生き残る為に任務を果たす方法を考えているのにそのせいで他を疎かにして結果沈みましたなんて本末転倒もいいとこですから。

けれど私には先に明石に聞いておかなければいけない事がある。

 

私は暁達の前を通り過ぎ、明石の元を訪ねた。

 

「あら、どうしたの不知火」

 

「明石、出来なければ良いのですがこれを……」

 

「こちらがどうしたのですか?」

 

私は明石に通信機を渡し話を続ける。

 

「こちらの解析と複製を5日以内に出来ますか?」

 

「え"っ!?これをですか?」

 

あからさまに苦い顔をする明石を見て把握する、やはり無理な話かと……。

 

「う〜ん……そうですねぇ……」

 

「出来ませんか……いえ、無理を言ってすみません。他の方法を考えてみます」

 

「あ、待ってくださいっ!」

 

時間が無いため明石にひとこと言い、他の方法を探すべく工廠を立ち去ろうとした所で明石に呼び止められた。

 

「なんでしょう?」

 

「その通信機、六時間だけ貸していただけませんか?」

 

「ですが複製は出来ないのでは?」

 

なら余計な時間は使いたくないのですが……。

 

「いえ、向こうの暗号パターンが分からないので横須賀の明石とは通話が出来ませんが複製自体は出来るかも知れませんよ?」

 

それでは複製する意味が無いのでは…………いやまて、考えるのよ不知火。

 

「明石、横須賀とは通話出来ないということは複製した物は何処と通話出来るのですか?」

 

「えっ?そりゃあこれと……ですが」

 

いいっ!つまりこの通信機と複製した通信機は通話が出来て尚且つ大元の通信機は横須賀の明石と通話が出来るっ!

……落ち着くのよ不知火、まだ確認が足りないわ。

 

「そう、それじゃその二つはどれ位まで繋がるのかしら?」

 

「ま、まあ……複製なんであっちの明石が言ってる事が本当なら艦娘の通信機や通信塔を経由するんで理論上何処にでも届くようになるかと」

 

イエスッ!!完璧だわ、これで問題はほぼ解決されたわね。

 

「分かりました、それでは改めて複製をお願い出来ますか?」

 

「はい、勿論です!」

 

ああそう、念には念を入れておかなければね。

 

「それともう一つ、複製の方に出来れば変声機能を付けてくれませんか?」

 

「複製の方にですね?了解しました」

 

「ありがとうございます」

 

『おーい、不知火。飯が出来上がるぜ』

 

っ!?なんと、もうそんな時間でしたか。

気付けば暁達も居なくなってましたね。

 

「了解です。直ぐに向かいます」

 

さて、このまま明石を放って私達だけで頂くのも忍び無いので摩耶さんに言ってこっちで一緒に頂くことにしましょうか。

 

「それでは明石、私は一度失礼します」

 

「は〜い」

 

既に集中しているのか生返事で答える明石に背を向け、私は一人食堂へ足を運んだ。

 

「本日の夕飯はカレーですか。ふぅ、楽しみね」

 




まだまだ続くのですっ!


上新粉さんへのおしおきもまだまだ続くのです。


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第四十五番〜母〜

摩耶「おい……母ってなんだよ」

俺「え?じゃあ給食のおば──」

摩耶「あ"?」

俺「イエ、ナンデモナイデス……」

摩耶「つか母親ならアタシより合ってる人がいんだろ」

俺「まあ、ここでは無い何処かへ行けばいるんじゃないですかねぇ?(o´艸`)」

摩耶「はぁ……もういいわ」

俺「ひっ!?…………あれ?無事だ」

不知火・暁・吹雪・ブロ「と思っていたのか?」


地下室での話し合いの結果、門長・金剛・響・電の四人がタウイタウイ泊地に行く事になった。

他の仕事の割り振りに所々揉めたもののまあ無事に話は纏まったわけだ。

んでアタシはというと……まあ、いつも通り飯の用意とチビ共の世話って所だな。

別にアタシだって出撃や遠征をしたくない訳じゃねぇぜ?

ただこんな所でこんな状況じゃあアタシや松達みたいな練度じゃ出掛けらんねぇし、そもそも意味がねぇからな。

だからこうして今も飯の支度をしながらのんびりと暮らしてるわけだ。

それにここなら一々動き回らなくてもほぼ全員に会えるしなっ。

 

「ヘーイ、マヤー?私もヘルプしマァックショォンッ!」

 

────っと、早速来たみたいだな。

 

「手伝ってくれんのはありがてぇけどよ、大丈夫か?」

 

「ソーリー、ノープロブレムネー。きっと誰かがワタシのトークをしてるだけデース」

 

「なるほどな……じゃあワリィけど人数分の食器を出しといてくれ」

 

「オーケー!」

 

金剛意気揚々と食器棚に向かったが直ぐに戻って来ると困った様に肩を竦めていた。

 

「おう、どした?」

 

「ええとマヤ……ここには今何人いるのですカ?」

 

どうやらここの住人の数を把握していなかったみたいだな。

そんなんでスパイがつとまるのかよとか一瞬思ったけどまあそもそも戦艦の本分じゃねぇし仕方ねぇよな。

それはそうと今は確かアタシ含めて二十人居たはず。

その内、門長がドックで陸奥は食材を除染して西野と一緒に下で食ってるし、フラワーも組織の配給があるから要らないっつってたな。

後は…………あ、そういやイクが居たのを忘れてた。

えーと、つまり十七人分用意すれば良いわけだ。

 

「普通の皿を十七枚持ってきてくれ」

 

「オッケーッ!まっかせるネー!」

 

金剛は気合いの入った返事をして再び食器棚へと向かって行った。

さて、こっちもちゃっちゃと始めっかな!

金剛に手伝って貰いながら夕飯の支度を進めていると腹を空かせたのか松と竹が食堂に顔を覗かせていた。

 

「どーした?飯ならもう少しかかるぞ?」

 

「んーとねー、松が手伝いたいんだってぇ」

 

「なん、なんでお前がいうんだっ!」

 

竹が入口から松を引き剥がしながら答え、松が必死に抵抗しながら文句を言っている。

 

「まあ、手伝ってくれんのはありがてぇけど別に気を使わなくても良いんだぜ」

 

「いや、誇りある松型のネームシップとしていつまでもタダ飯食らいでいる訳には行かないのだ。私に是非とも手伝わせて頂きたい」

 

「ふ〜ん?にしては今更な気がしなくもねぇが……なんかあったのか?」

 

「そ、それは……だな……」

 

「それは?」

 

「その……………………」

 

「…………」

 

「なんていうか…………あれだ……」

 

……焦れってぇな。

 

「もういい、竹っ!」

 

いつまで経っても話し始めようとしない松に痺れを切らしたアタシは事情を知ってるであろう竹に話を振った。

 

「はいは〜い」

 

「ちょっと待ってくれ!?これは私の問題なんだっ」

 

止めようとする松を放置し、竹は簡潔に話してくれた。

 

「なるほどな。つまりそのままじゃ細かい作業が出来ないけど素顔を見せるのは恥ずかしいから言い出せずにいたっつうわけか」

 

「…………うむ」

 

「そういう事だね」

 

あ〜……確かに飯の時は口の部分だけ開けてたけど箸とかスプーンとかは持ちにくそうだったなぁ。

 

「おっし分かった!だったら少しずつ慣らしていくかっ!」

 

「おっけー!」

 

「うぅ……」

 

んじゃあ取り敢えず金剛には席を外してもらうか。

 

「おーい、金剛ぉ!」

 

「どうしましたカーって、オー!マツにタケじゃないデスカー!ディナーにはまだ早いですヨー?」

 

「やっほー金剛さん。そういえば出発は明日って門長さんが言ってたけど支度は大丈夫?」

 

「へっ、明日出んのか?」

 

「いやいや流石にインポッシブルでショウ?」

 

また直さずに出掛けるつもりかと思ったが竹が言うにはどうやらそういうことではないらしい。

 

「なんかねぇ、陸奥さんが壊滅した南方基地から持ってきた高速修復材を使うんだってさ」

 

へぇ、そんな事があったのか。

金剛も予定が一気に前倒しなって焦ってるみたいだし丁度いいや。

 

「サンキューな金剛。こっちは松達が来てくれたし後は自分の事をやってきな」

 

「ソーリーマヤ、ワタシはこれで失礼させて貰いマース!」

 

そう言い残すと金剛は足早に食堂を去っていった。

それにしても……

 

「なあ、もしかして金剛しか居ないの知ってたのか?」

 

「まあね、いつも摩耶さんを手伝ってる人で私達より先に地下室を出てったのは金剛さんだけだったからね」

 

変にタイミングが良すぎると思ったがそういう事か。

竹も松の為に最初からこういう状況を作ろうとしてた訳か。

まあ何にせよ状況は整った。

後は外から見えないように受取口のシャッターを降ろして扉に立ち入り禁止の看板でもおけば大丈夫だな。

 

「よぉし、こんなもんだなっ!」

 

「わざわざ済まない、迷惑を掛けるな」

 

「なぁに、気にすんなっ。取り敢えず簡単な事からやって貰うからさっさと外しちまいな」

 

「りょうかいっ!」

 

「わ、わかった……」

 

松達に空いてるスペースで艤装?を外す様に促しアタシは沸騰しはじめた寸胴の火を弱め灰汁を取り始める。

 

ん〜、手伝ってもらうっつってもそんなにやる事残ってねぇんだよなぁ。

後は灰汁取りながら野菜が柔らかくなるまで煮込んでルーを入れるだけだし、飯ももう炊いてるしなぁ……。

あ、そうか。アタシが下に食材を渡してる間に寸胴を見ててもらえば良いのか。

後は台所の片づけとかだな。

 

「うぅ……せめて頭部だけは……」

 

「私が出すんだから一緒一緒っ!」

 

「そういうことじゃ──ってああっ!?」

 

「摩耶さーんっ!準備出来たよぉー!」

 

「お?じゃあ早速……って、おおう」

 

 

【挿絵表示】

 

 

準備が出来たみたいだから早速手伝って貰おうと思って竹達のいる方を見るとそこには睦月型よりも幼い容姿をした愛くるしい二人の少女がそれぞれ違った表情を見せながら立っていた。

松の性格からは想像出来なかった幼い顔立ちにも驚いたが、それ以上に二人が余りにも似過ぎている事にアタシは驚きを隠せないでいた。

 

アタシにも姉妹艦の記憶はあるが鳥海はアタシと違って頭脳派なイメージ(あくまでイメージだけどな)だし、姉ちゃん達にいたってはもう色々とデカいし寧ろ似てる所の方が少ない位だ。

 

っていかんいかん、あんまり凝視してたら松を不安にさせちまうな。

 

「よしっ、よく頑張った。それじゃあ早速手伝って貰うぜ」

 

「おっけー!」

 

「……任せてくれ」

 

「おし、じゃあアタシはこの後ちょっと下に食材を届けてくっからその間にやってて貰いたいことを教えるぜ」

 

そうして松には台所の片付けを。

竹には寸胴を見てもらい何かあったら連絡する様に伝えると、アタシは食材を持って地下室へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあアタシはそろそろ戻るぜ」

 

「いつもお手数をお掛けしてすみません。私も何かお手伝い出来れば良いのですが……」

 

「殆どあの変態のせいなんだからアンタらが気に病む事じゃねぇよ」

 

「いえ、ですが……」

 

う〜ん……アタシはいつも通り食材を渡しに来てるだけなんだが、どうやらここの提督は何も出来ないのが悪とでも思ってるみたいなんだよなぁ。

何か頼める仕事があれば楽なんだけどな……。

 

「ん〜……じゃあ代わりにアタシらに知恵を貸してくれないか?」

 

「知恵……ですか?」

 

「おう、例えば今うちで使える食材がこんなもんなんだけどよぉ。これで作れる料理を思い付いたらアタシに教えて欲しいんだ」

 

アタシはここで手に入る食材のメモを西野提督へ渡した。

 

「この中でですね……はい、思い付いたらお伝えします」

 

「おうっ、ここには人が居ないからどうしても知識が偏っちまうんだ。だから他にもアンタの意見を聞かしてもらう事が在るだろうからそん時は頼むぜ?」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

「ん、それじゃあな」

 

あ"〜……流石に露骨過ぎたか?

まぁ、事実献立がマンネリ化してるし嘘を言ってる訳じゃねぇしまあいいかっ。

 

食材を渡し終えたアタシはもうじき飯が出来上がる事を伝えながら食堂へと戻り始めた。

けれど、響と電からの返事が帰ってこなかったのが気になったアタシは通り道にある執務室の前に止まりノックをする。

 

「おーい、響ぃ〜電ぁ〜飯だぞー?」

 

……返事が無い、いねぇのか?

扉を開き中へ入るが部屋は真っ暗だった。

二人を捜しながら奥の部屋へのドアノブに手を掛ける。

 

「ここに居なきゃ他を当たるか……」

 

そう考えつつも扉を開くとそこには仲睦まじく一つの布団に寄り添って小さな寝息を立てる二人の姿があった。

 

「ふぅ……しゃーねぇな、朝飯はちゃんと来いよ」

 

聞こえていないことは知りつつもアタシは一声掛けてから扉を静かに閉め、再び食堂をめざすのだった。

 

 




摩耶「まだまだ続くから見てくれよなっ」


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第四十五番〜技〜

明石「まあ、安直な上新粉さんならそうなりますよねぇ」

俺「それなら〜完全変態〜の方が良かったですか?」

明石「どんな意味合いであろうとご遠慮します」

俺「ちぇ、残念ですねぇ」

俺「(明石さんとの対談では流石に死亡フラグは立たないでしょう)」

門長「おいてめぇ」

俺「くそっ!やられた!」

門長「あ"?なにがだよ」

俺「いえ、なにも?」

俺「(落ち着け俺っ、まだやられると決まった訳じゃない)」

門長「なんだこいつ?まあそんな事はどうでもいい、おいっ!」

俺「は、はひぃ!?」

門長「なんで俺が一度も出てこねぇんだ。喧嘩売ってんのか?」

俺「(なんだこのジャイアン……)真打なんで次には大活躍しますよ」

門長「……本当だな?」

俺「ちょろい(勿論ですっ!)」

門長「…………てめぇ、死にてぇんだったら最初からそう言えや」

俺「へっ?あ、しまっ」

???「上新………………粉?粉塵爆破」












「んぅ…………はっ!艤装射出機構っ!?そんなものが出来ていたなんてっ!」

 

──ってあれ?ここは一体…………ああ、門長さん応急修理とメンテナンスをしてる内にどうやら寝落ちしてたみたいですね。

 

私は頭の上から無造作に被せられたタオルケットをどかして周囲を見渡す。

 

はぁ、やっぱり夢でしたか。

当然と言えば当然ですが……残念です。

 

「ん?そう言えば門長さんは何処行ったのでしょうか」

 

私は近くを行ったり来たり忙しなくしてる妖精さんの一人に門長さんの行方を尋ねると妖精さんは足を止めずに先を指さした。

妖精さんの指差す先を見ると入渠ドックが稼働しており

、入渠時間を示すカウンタは99時間59分59秒のまま止まってました。

 

「ああ……ドックが空いたんですね」

 

初めて見た時は機械の故障を疑いましたが妖精さん曰く

 

「かどうはしてるからもんだいないっ!」

 

との事らしいのでそれ以降気にしても仕方ないんだと悟ってからは気にしなくなりましたが。

 

「それで、今回は入渠時間はどうなったんですか?」

 

「にゅうきょじかんはたぶんじゅうごじかんくらいですぅ!」

 

「え……?でもカウンタは相変わらずなんだけれど」

 

「こうそくしゅうふくざいのおおばんぶるまいだよっ」

 

「じゅうつかうのです」

 

高速修復材?門長さんか陸奥さんが持ってきたのでしょうか?

というか、十個使って十五時間って……使わなきゃ一月半かかるじゃないですかぁ。

 

相変わらずの門長さんのぶっ飛び具合に呆れながらも妖精さんと代わり修復用の資材を投入し始める。

 

……それにしてもこれだけの資材を工面してくれてる港湾さんの所の懐事情が私は心配でなりませんね。

一つの鎮守府が持てる最大資材貯蔵量(120万キロトン)の約17%程が一回の修復に使われているんですよ?

もっといい使い道はあったんじゃないかと私は言いたい。

まあ、お陰様で我々も今の生活が出来てる訳なんですけどね。

さて、と。後は時間を見て高速修復材を入れるだけね。

 

一通り資材を投入し終えた私は艤装を降ろし事務所兼自室へ入った。

 

「ふぅ……他の娘なら一回で済むのにあの人はもぉ……」

 

「へーイッ!エクスキューズミーッ!」

 

温かいお茶を入れて一息つこうとしていた時、慌てた様子の金剛さんが工廠の扉を勢いよく押し退けて入ってきました。

 

「アカシーッ!ミスターの入渠がワンデーでコンプリートするってリアリィデースカーッ!!?」

 

私はお茶を諦め、部屋の扉が蹴破られる前に部屋を出る事にしました。

金剛さんが言ったことは殆ど分かりませんがミスター(門長さん)と入渠の事で金剛さんが知りたい事と言えば恐らく時間の事でしょうか。

私は妖精さんから聞いた話をそのまま金剛さんに伝えました。

 

「オー、やはりノンフィクションでしたか……サンキューアカシ、ついでに場所と工具を貸してくれまセンカ?」

 

「良いですよ、好きな所を使って下さい。工具もあっちにありますので」

 

「サンキューネー」

 

「いえいえ、と言っても私のでは無いんですけどね」

 

っと、そろそろ一つ目の高速修復材を入れる時間ですね。

私が眠っている間に妖精さんが並べておいてくれた修復材の一つを持ち投入口へ流し込んでいく。

 

「ヘーイアカシー?今の生活はどうですか?」

 

「へっ?」

 

金剛さんからの突然出された質問を理解するのにすこしばかり時間が掛かってしまいました。

 

「えっと……どう……って、まあ楽しいですよ?」

 

取り敢えず思った事を口に出すと金剛さんは続けて私に質問を投げかけた。

 

「呉に戻りたいとは思いますカ?」

 

私は考えるまでもないとでも言うように即答しました。

 

「勿論です、私は帰りますよ」

 

ヴェルと電と一緒に。

 

「今の生活に未練はありませんカ?」

 

「未練は……あります」

 

確かにあっちはこんな楽な毎日ではありませんし、深海棲艦の事を知る機会なんてないです。

それに松ちゃんや竹ちゃんと離れ離れになるのだって辛いし、何より呉とは比べ物にならないくらい物騒な場所なのに呉よりも平凡な日常も大好きです。

 

「ですが……呉にも大切な仲間と尊敬出来る提督が居ます。それに、ここの人達とだって今生の別れとは限らないじゃないですかっ」

 

これが私の心からの気持ち。

でも、これは私の気持ちであって誰かに押し付けるものじゃない。

 

「まあ、私はこう言いましたが何よりも自分の気持ちが大事ですからね。どうしたいかは人それぞれですよ」

 

「オゥ……こんなバレバレではスパイ失格ですネ」

 

「そりゃあ、やりたくも無い事を極めるのは至難の業ですからねぇ」

 

「それもそうネ…………サンキュウ、それじゃ私は部屋に戻りマース」

 

そう言うと金剛さんは工具を元の場所に戻してスッキリとした顔で工廠を出ていきました。

 

「頑張って下さいね、金剛さん」

 

金剛さんの幸せを願いながら、私は自室へと戻ろうとしたのですが……。

 

「明石さんっ!装備の開発をお願いしたいのだけれどいいかしらっ!」

 

次は暁ちゃん、と吹雪ちゃん?どうしたのかしら。

 

「構わないけれど、突然どうしたの?」

 

「そう言えば明石さんは来てませんでしたね」

 

「あっ、そうだったわね!全員集合なのに明石さん()()居なかったわね」

 

えっ、全員集合?何も聞いていないのだけれど……

 

「一体何の話だったの?」

 

「それが聞いてよ明石さんっ!あの男と金剛さんがタウイタウイに行くらしいんだけどね、どうしてか響と電も行くみたいなのよっ!」

 

あ、なるほど。それで金剛さんが慌ててたんですか。

────って響ちゃんまで!?

 

「それって門長さんが無理に連れてくって事?」

 

「それだったら全力で止めてるわっ!ただ……響が自分で行くって言ったのよ」

 

う〜ん、それじゃあ電ちゃんが一枚噛んでるのかしら?

 

「でね、それだけじゃないのよっ?事もあろうが私達があの男の代わりに深海棲艦の手伝いをする事になったのよっ!?」

 

「響が彼と共にタウイタウイへ行くのは百歩譲って認めましょう。ですが何故私達が深海棲艦の手助けなんて」

 

まあ、深海棲艦に敵対心を持つのは海軍の艦娘としては当然だけれどねぇ。

現状を考えると私としては複雑な心境かなぁ。

 

「でもほら、解散してるって事は曲がりなりにも納得したんでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「……仕方が無かったんです」

 

二人共苦虫を噛み潰したように顔を歪ませながら拳を握り締めていた。

お二人を黙らせる様な切り札でもあったのでしょうか。

 

「ま、まああの深海棲艦達からは敵意は感じませんでしたし大丈夫ですよ!」

 

「確かに助けて頂いた恩はあります。けど……」

 

「襲って来たのも深海棲艦だし……」

 

「それでも任務に備えて装備を整えに来たんですよね?」

 

「そ、そんなんじゃないわっ!ただ強くなりたかっただけなんだからっ!」

 

そうは言っても暁ちゃんの装備は後期型の高角砲と五連装酸素魚雷に新型高温高圧缶だし、吹雪ちゃんに至っては最大改修済みの秋月砲と五連装酸素魚雷に十三号対空電探改でもはや開発する意味は薄いんじゃないかと思うんですが。

 

「まあ決まった以上全力で臨みます。ですのでメンテナンス用に場所と工具を貸して頂けませんか?」

 

「ちょっ!?わ、私だってそう言おうとしてたんだからぁっ!」

 

あはは……賑やかですねぇ。

 

「了解しました、ではあちらに工具はありますのでお好きに使って下さい」

 

「ありがとうございます明石さん」

 

「ありがとっ、お礼はちゃんと言えるしっ!」

 

「どういたしまして〜」

 

いやぁ、どんなに練度が上がっても暁ちゃんは暁ちゃんですね。

 

「それじゃあ私は奥の方に居ますから何かあったら言ってくださいね〜」

 

暁ちゃんに十分癒された私は部屋へ戻りすっかりぬるくなったお茶を啜りながら漸く一息つくことが出来ました。

 

う〜ん……昔だったらこれぐらいなんて事は無かったんですが、やはり少し弛んでるかもしれないわね。

正直呉に戻ってやって行けるか少しだけ不安かも……。

ここは皆さんに頼んで艤装の整備を任せて貰おうかしら?

うん、それがいいわね。

それと折角なんだから深海棲艦の方達の艤装も見たいですね。

今度港湾さんに掛け合ってみましょう。

 

「明石、失礼します」

 

それに────っと吹雪ちゃんかな?

思考を中断し、開く扉の方に意識を向けると丁度不知火が入って来ている所でした。

 

「あら、どうしたの不知火」

 

「明石、出来なければ良いのですがこれを……」

 

そう言って不知火はおもむろに通信機を渡してこられたので受け取ったのですが……。

 

「こちらがどうしたのですか?」

 

「こちらの解析と複製を5日以内に出来ますか?」

 

「え"っ!?これをですか?」

 

これって私の想像通りなら向こうの明石の作品よね……多分響ちゃんの電探の時みたく出来ないかって事なんだろうけどこれはちょっと安請け合いは出来ないかなぁ。

 

「う〜ん……そうですねぇ……」

 

「出来ませんか……いえ、無理を言ってすみません。他の方法を考えてみます」

 

不知火も急いでる様だしここは断るべき──いや、本当にそれでいいのかしら。

これを複製したいって事は恐らく報告に関する事よね。

他に簡単な方法があればわざわざダメ元で頼みに来たりしないだろうし、何もせずに突っぱねるのもあれよね。

ってもう出て行こうとしてるっ!?

 

「あ、待ってくださいっ!」

 

「なんでしょう?」

 

咄嗟に呼び止めると不知火は怪訝そうに(いつも通りかしら?)こっちに振り向いた。

今を逃したらアレに触れられる機会はきっと無い!

私はさっきまで考えていた建前をすっ飛ばしてただこの心の命ずるままに不知火に頼んだ。

 

「その通信機、六時間だけ貸していただけませんか?」

 

「ですが複製は出来ないのでは?」

 

あ、どうしよう。暗号パターンなんて絶対解らないし、そもそもどうやって超長距離通信を可能にしてるのか想像もつかない……けど此処で引いては工作艦の名折れ!

 

「いえ、向こうの暗号パターンが分からないので横須賀の明石とは通話が出来ませんが複製自体は出来るかも知れませんよ?」

 

まあ暗号化は無理なんでそれはちゃんと伝えておかないとね。

 

私の返事を聞いた不知火は暫く黙り込んでいた。

やっぱりそれじゃ駄目なのかなぁと思っていると不知火から再び質問が帰ってきました。

 

「明石、横須賀とは通話出来ないということは複製した物は何処と通話出来るのですか?」

 

「えっ?そりゃあこれと……ですが」

 

他にこんな通信機はないし多分複製出来てもこれ以外には繋がらないでしょう。

 

「そう、それじゃその二つはどれ位まで繋がるのかしら?」

 

しかし、不知火は私の返答に納得が行ったのか二、三度頷きながら質問を続けました。

 

どれ位繋がるかは実際出来て試してからじゃないと分からないけど本物通りに出来ればスペックは一緒になるんじゃないですかね?

 

「ま、まあ……複製なんであっちの明石が言ってる事が本当なら艦娘の通信機や通信塔を経由するんで理論上何処にでも届くようになるかと」

 

「分かりました、それでは改めて複製をお願い出来ますか?」

 

キタコレっ!!

遂にあそこの変態(あ、良い意味ですよ?)技術に触れる事が出来るのですねっ!

サングラスも相当なものですがあれは彼女の作品とは違い純粋にキチガイスペックだったんで参考にしやすかったんですよね。

って門長さん達が行く所って良く考えたらあの明石がいる所じゃないですか!?ああ〜、私も行きたかったなぁ!──っていま考えてもしょうがないですね。

今は取り敢えずYESorYESの二択の返事を不知火にしないと。

 

「はい、勿論です!」

 

「それともう一つ、複製の方に出来れば変声機能を付けてくれませんか?」

 

変声?あ、そう言う事ですか。

傍受される事を想定した際のリスクを少しでも減らそうという事でしょうか。

 

「複製の方にですね?了解しました」

 

「ありがとうございます」

 

ふっふっふ、六時間掛けてしっかりと解析さして頂きましょう。

まずは間違っても直せないなんて事の無いように慎重且つ迅速に設計図を書き出して行きましょう。

その後は妖精さんに部品の製作を依頼してその間に試験電波を飛ばして通常の無線の干渉具合から仕組みを解析してそれから暗号通信に含まれてるデータ情報から解読出来ないかも一応試して見ようかしら?

それからそれから……あぁもうワクワクしてきたわっ!

時間も限られてるし直ぐに始めないとっ!

 

「それでは明石、私は一度失礼します」

 

目の前の未知の塊に心奪われて居た私が出ていった不知火に気付いたのは不知火がカレーを持って戻って来てからの事でした。

 

 




明石「次が(第四十五番の)最後になりますんで投稿まで暫しお待ち下さいね」

俺「因みにいつの間にか始まってた第一章も次で最後です!」

明石「あれ、良く生きてますね」

俺「メリケン粉とすり替えておいたのさっ!そんなのにも気付かないとは流石は脳筋完全変態門長と言うだけはあるな」

明石「あぁ…………」

門長「メリケン粉だろうが小麦粉だろうがどうでもいいんだよっ。んで?誰が脳筋完全変態だってぇ?」

俺「え、いや……訂正のしようがな──」

門長「殺すっ」

俺「ごごごご視聴ありあとごさいやしたぁぁぁああっっ!!?!?」



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第四十五番〜狂〜

くっ……連日投稿出来なかったよorz
皆様お待たせ致しました。
最近門長視点書いてるより他の娘視点の方が書いてて楽しいなと思いつつあります上新粉です。
別に彼が悪いわけじゃ無いんですが…………ま、まあこれ以上余計な事を言って粉微塵にされるのもあれなのでやめときます。

ともあれ今回が序章の締めとなります。
だからという訳でもありませんがどうぞごゆっくりしていってください。


よし、どうやら全員揃ったみたいだな。

 

ーーまだ明石が来ていないぞーー

 

どうせ寝てんだろ、別に居なきゃ困るもんじゃねぇし問題無いねぇ。

 

明石と奥にいる夕月達以外が揃ったであろう所で俺は一歩前に出て話を切り出す。

 

「よく集まってくれた、今日はお前達に二つ伝えておきたい事がある」

 

全員が無言で視線を俺に集中させる中俺は話し始める。

 

「まず始めに、俺の修復が完了次第俺と響と電でタウイタウイ泊地へ出掛ける事になった」

 

「ヘーイッ!ワタシも居ますからネー!ミスター?」

 

「響を無理やり連れだしてどうするつもりっ!そんな事認めないんだからっ!」

 

「私も反対です。貴方が一人で行けばいいじゃないですか」

 

俺の報告にすぐさま突っかかって来たのは予想通りの暁、そして吹雪だった。

敵意を剥き出しにして睨んでくる二人に俺の心はかなりの深手を負ったが、今の俺はこんな所で折れるような心を持ち合わせてはいなかった。

 

「無理矢理?違うぞ暁……今回はな、響が付いてきてくれるって言ったんだぜ」

 

「なっ……!?そんな馬鹿なこと……」

 

「えっ!?そ、そうなの響?」

 

響は無言のまま首を縦に振り肯定を示した。

 

「そ、そう……なの…………だったら、私もついて行くわっ!」

 

「そうですね暁、私達二人で響を護りましょう」

 

「ホワイッ?ワタシ見事にスルーされてませんか?」

 

いやまぁ自業自得かもしれねぇけどよ……ここまで敵対されると流石に凹むぞ。

 

ーー直接的では無いにしろ吹雪達の鎮守府を潰した原因だからなーー

 

そうか……そうだな。

どうしたら赦してくれるんだろうか。

 

ーーどっちにしろ今は無理だろう。それよりも今回は吹雪達を連れてく訳には行かんのだろう?ーー

 

ああ、本当は連れて行きたいが吹雪達には別に頼みたい事があるからな。

 

「少佐、私も同行させて頂きたいのですが」

 

「不知火もか?いや、悪ぃが吹雪と不知火と暁には残ってやって貰いたい仕事があるんだ」

 

「仕事?不知火には他に遂行しなければならない任務が……」

 

「私もあんたの為に動いたりなんかしないわよっ!」

 

「私達に何を頼もうというのですか」

 

まあ当然快く受けてくれたりはしねぇよな。

けど受けてくれねぇと俺が此処から離れられねぇからどうにかしないとな……

 

特に何も浮かばなかった俺は取り敢えず用件をそのまま伝える事にした。

 

「俺が居ない間だけでいいんだが、港湾とこの輸送船護衛をやって貰いたいんだ」

 

「はぁ?それは私達に海軍を裏切れということですか」

 

「じ、冗談じゃないわっ!そんな事出来る訳無いじゃないっ!」

 

ここまでは想定内だ。此処から俺の説得術が真価を発揮するぜ。

 

「別に裏切る必要はねえよ、ただ道中付いてくだけだって。それにあいつらは共に戦った仲間だろ?」

 

「そんな事は海軍からしたらどうでもいい話ですよ」

 

「そ、そうよっ!他の鎮守府の艦娘に見つかったらどうするのよっ!」

 

「うーん……それもそうか……」

 

ーーおい、逆に説得されているではないかーー

 

そ、そんなばかなっ……まて、他に材料があるはず。

 

俺は吹雪と暁の言い分に納得しつつも何か良い方法が無いか考えてみる。

 

……そうだ、最初から金剛一人にやらせれば良かったのか。

 

ーーはぁ……金剛は一緒にタウイタウイに行くんだろうがーー

 

あ?あぁ……そういやそうだったな。

んじゃあ明石……はなんか役に立たなそうだから駄目か…………よし、こうなったら最終手段だ!

 

俺は暁達の前でひざまづき、両手を付きながら頭を垂れて全身全霊を込めて頼んだ。

 

「暁っ!吹雪っ!不知火っ!頼む、お前達だけが頼りなんだっ!」

 

「お断りするわっ!」

 

「出来ません」

 

「自身の任務に支障が出るのでその任務は受けかねます」

 

俺の全員全霊は無惨にも砕け散ったのだった。

すまん響、俺の力不足で今回の遠征は始まる前に失敗してしまった。

土下座したまま心の中で響へ謝罪していると摩耶がゆっくりと俺と暁達の間に割り込んできやがった。

そしてこの猿女は俺の見せ場を完全に奪って行った。

 

「アタシからも頼むっ!資材もそうだけどよ、食材も港湾達の支援が無きゃ持ちそうにねぇんだ」

 

「うぅ……」

 

「確かにあれだけの畑ではどうにもなりませんものね」

 

「ああ、この変態がいる内はいいがこいつは遅かれ早かれ一度あっちに行かなきゃならねぇからな。そうだろ?」

 

俺は地に伏したまま答える。

 

「勿論だ、響には幸せになって欲しいからな」

 

「響の為だっていうのっ?」

 

「そうだ、俺の身体には長門の魂が改修されているのは知っているだろ?」

 

「ええ、一応明石さんから聞いています」

 

吹雪が顔を顰めている所を見るに納得はしていないであろうことは理解出来た。

しかし、話は知っているようなので俺は気にせず話し続ける。

 

「その長門の魂を引き離し、再び合わせてやりてぇんだ」

 

「本当なの?」

 

「嘘じゃない」

 

「あんたに聞いてるんじゃないわよっ!それと下から覗かないでよ変態っ!」

 

「ちょっおまっ!?」

 

俺が顔を上げて答えた所に綺麗なフォームで放たれた暁のトゥーキックが俺の顔面に飛び込んで来た。

 

「はぁ……はぁ……で、どうなの響?」

 

「え?……うん、本当だよ姉さん。私はもう一度長門さんに会いたい」

 

「そう…………わかったわ」

 

暁は俺の顔面から足を引き抜くと響の元へ向かうとその肩をがっしりと掴んだ。

 

「響が自分で決めたのなら何も言わないわ。だけど、何かあったら直ぐに言いなさい、何時でも助けに行くわ」

 

「姉さん……うん、ありがとう」

 

「まあ、そう言うこった。だからこの変態が居ない間に来る仕事を誰かが受けないと資材も食材も尽きちまうかもしれねぇんだ。本当はアタシや松竹みたいな海軍に所属してない奴らがやれりゃあ良いんだが今のアタシらじゃ足手まといもいいとこだからな」

 

「ま、まぁ……摩耶さんに無理はして欲しくないわね」

 

「ええ、摩耶さんを失う訳には行きませんからね」

 

「仕方ありません、両立出来る方法を考えるとしましょう」

 

俺の言葉には一切揺るがなかった三人の意志を曲げさせただとっ!?

……くっ、アイツと俺でどうしてここまで差が出るというのだっ!

 

「ぐぬぬ……取り敢えず話は以上だ。話は俺から港湾に伝えておく」

 

「話は終わりか?んじゃあアタシは一足先に飯の準備して来るわ」

 

「ワタシもお先に失礼しマース!」

 

そう言って去って行った摩耶の後に続くように金剛も

階段を上がっていった。

……って出発日を言ってなかったな、まあいいか。

 

「そうそう響、電」

 

「なんだい?」

 

「です?」

 

「出発は明日を予定してるから今日明日の内に支度を整えておいてくれ」

 

俺が言ったことが上手く伝わらなかったのか、響達は目を丸くしてこっちを見ていた。

その愛らしさに俺は無意識のうちに二人の頭へと手が伸びていた。

だが、その手は響の頭頂部へ着艦する前に小さな両手により遮られてしまった。

 

「はっ、これが剣術唯一の徒手空拳。白羽取りかっ!」

 

うん、これはこれでいいな。

 

「何馬鹿なことを、そんな状態で向かうつもりかい?」

 

状態?ああ、そういう事か。

 

「心配してくれてありがとな響」

 

「……別に、そういう訳じゃ……」

 

俺は響を安心させるためにこれからの予定を話し始める。

 

「大丈夫だ、明日までにちゃんと直してくっから」

 

「無理だ、高速修復材も無いのに直るはずがない」

 

やっぱり知らなかったか、俺も陸奥に言われるまで知らなかったからな。

 

「ふっふっふ、実はな……」

 

「陸奥さんが高速修復材を持って来てくれたのです」

 

「えっ、そうなのかい電?」

 

お、俺の台詞が……………。

あれ?でもさっき響と一緒に驚いていた気が……?

 

「だから明日の朝までには直ると思うのです」

 

「そうだったんだ……わかった、私も準備しに戻るよ。電は?」

 

「私は寄る所があるので先に戻ってて欲しいのです」

 

「わかった、また後で」

 

「あ、私と松も戻るねっ!四人とも気を付けて行ってらっしゃい!」

 

「お、おい竹!そんな引っ張るんじゃないっ!」

 

響に続いて松と竹も地下室を離れていった。

まあ他に伝える事もないし此処に留まってても仕方ないだろう。

 

「よし、質問はないな?じゃあ俺も行くぜ」

 

「お疲れ様なのです」

 

「「ぐぬぅ……」」

 

なんかすっげぇ悔しそうに俺を睨み付ける三人は居たが余計な事を言って拗れさせる訳にも行かんので俺は見なかった事にしてそそくさと部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

さて、明石を叩き起こしてから身体を直しに行くとするか。

 

工廠へ向かうと予想通り明石は今朝と同じ格好でいびきをかいて眠りこけていた。

その頭を引っぱたいてやろうと明石に歩み寄る。

 

「とながさ〜ん、ごようですかぁ?」

 

突然足下から呼び掛けられたので俺は渋々足を止めて下をみた。

 

「あ〜?お前らじゃなくてアイツに用があんだよ」

 

「しゅうりですねぇ?わたしたちがやっておきますのでむかっちゃってください〜」

 

「いや、まあそうなんだが……」

 

「あしたまでですね〜わかりましたぁ〜」

 

わらわらと出てきた妖精共が俺を入口まで押し戻していく。

 

「は〜い、それではぁ〜ごゆっくり〜」

 

そして遂に外まで追い出され締め出されてしまった。

 

「ぐっ……!この俺が妖精に負けるだとっ!?」

 

ーー下らぬ事を言ってないでさっさと行くぞーー

 

くそぅ……確かに目的は達成したがなんだこの敗北感は。

 

結果風呂に入ってる間ずっと悶々とし続ける事になった…………チッ……覚えてろ明石め。

 

 

 




ご愛読ありがとうございます。

後ほどアンケートを活動報告に上げようかと考えておりますので宜しければご確認下さいませ〜。

それでは皆さんまた近い内にお会いしましょう。




さて、そろそろ天これを書きはじめようかな。


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第一章
第四十六番


皆様ご心配おかけ致しましたっ!
無事帰ってきてまいりましたので投稿を再開致したいと思います。
期間がいてしまったためリハビリも兼ねてますので雰囲気が変わっていたり短めで話の進みもアレですがそれでも暖かく見守っていただけると嬉しいです。


明石達から見送られながら基地を出てから四日、何度か深海棲艦の襲撃を受けたものの特に苦戦する事なく俺達はタウイタウイへ向けて航行していた。

 

「それにしても、50ノットで航行する20インチ連装砲を積んだバトルシップなんてクレイジーにも程があるネー」

 

「んなもん俺じゃなくてボート作った奴に言えよ」

 

目的地へは俺の燃費の悪さでは例の非常用を使っても往復が出来ない距離にある為、基地に来る時に使ったボートを使っているのだが幸いな事に主砲を持ったまま乗る事が出来たからこいつのいうクレイジーなバトルシップになっているだけだ。

因みに響も一緒に乗らないかと誘ったが一蹴されてしまったのはここだけの話。

 

「にしても遠すぎねぇかタウイタウイとやらは。流石に同じ景色ばかりで飽きてきたぜ」

 

「舞鶴は更に先だけどね」

 

「ゔっ…………それは、そうだよな……すまん」

 

響から冷めた視線でその話を出されては俺に反論の余地などなくただ黙る事しか出来なかった。

 

「ま、まあプロブレムがナッシングなのはいい事ネ?」

 

金剛がフォローしようとしていると突如奴が不知火から渡された通信機から耳に響くような高い音がなり始める。

 

「金剛さん、通信機がなってるよ」

 

「オーケー、今とりマース」

 

『金剛さん、報告の時間です』

 

「ちょっ!誰だそいつは!?」

 

金剛が通信を起動させると野太いオッサンの様な声が聞こえて来たが、金剛は元々知らされていたのか気にする様子もなく返答していた。

 

「了解ネー、そっちはノープロブレムですカー?」

 

『残念ながらそちらからは暗号化されて何を言っているかは解りませんので切ります。頼みましたよ』

 

そう言って暫定オッサンは一方的に通信を切った。

怪訝そうな顔で金剛を見る俺と響に金剛は声の主が変声器を使った不知火である事を教えた。

 

「という事で少し報告してきマース」

 

そう言って金剛は少し離れて行った。

そして響も電と話しているので必然的に一人となった俺は仕方なくこの後の事を考えてみた。

 

先ずはあっちの司令官に南方前線基地の報告と防護服の支給をしてもらう訳だが……

相手は海軍だろ?今更あれだが俺が居て本当に手を貸してくれると思うか?

 

ーー普通は無いだろうな、そもそもDRCSで運営している鎮守府ならこの世界から話を聞いてもらう術は無いはずだーー

 

ああ、司令官が居ないんだったか?

 

ーー正確にはこの世界には居ないだけだがなーー

 

艦娘に戦わせといて自分だけ安全な所にいるって事か……気に入らねぇな。

 

ーーだが話では金と権力が関わらない分提督の居る鎮守府より待遇がいい所もあると聞いているぞ?ーー

 

ふ〜ん、タダ働きなのかそいつらは。

 

ーーその辺は解らないが恐らくこちらの通貨は向こうでは使えないのではないか?ーー

 

なる程、つまり何の為に提督をやってるか解らない胡散臭い奴らって訳か。

そんな奴らに状況を伝えてもどうにかなるとは思えねぇな。

 

ーーだが目的の艦娘がそこに居るのだから仕方あるまい──っと、どうやら手厚い歓迎の様だなーー

 

ふと意識を電探に移すと四十機程の艦載機の大隊が俺達目掛けて飛んできている所であった。

 

「ちっ面倒だ、全部落とすか」

 

「えっ!?ちょっストォップ!!」

 

俺は三式弾に換装しすぐ様大隊へ向けて二発放ってやった。

 

「これでよしっ」

 

「ノォォーーッ!!全く良く有りまセーン!バッド過ぎるネー!」

 

さっきから喧しい金剛を尻目に煙が晴れるのを待っていたが驚く事に先に落としたはずの大隊の全てが煙の中から飛び出してきたのだ。

 

「あ?どうなってんだ」

 

「さんしきだんでいっきもおとせないなんてひどいうでですねぇ」

 

「はぁ?こんなもん適当に撃っても当たんじゃねえのかよっ」

 

だが妖精は何も分かっていないとでも言う様に肩を竦ませて答えた。

 

「そんなんでおちるのはしんまいようせいくらいです」

 

んだよ、そういう事ならさっさと言えっつうんだ。

俺は気を取り直して連装砲を構える。

 

「んじゃあ後は任せた」

 

「もうせんせんをりだつしてるのでむりです」

 

妖精が指差す先を見ると大隊は三方向に散ってる所であった。

 

「オーマイガ……アレが鎮守府からだったらどうするんデスカ」

 

「いや、戦闘機が来たら落とすのは普通だろ?」

 

「だからって……こんなの宣戦布告しているようなものネー……」

 

あ、それもそうか。

 

ーー済まない、少しばかり早とちりしてしまったようだーー

 

まあやっちまったものは仕方ねぇし取り敢えず先に進むか。

 

気を取り直して進んだのはいいが予想通り厳戒態勢にて出迎えられる事となった。

 

「連合艦隊か……ま、そうなるわな。金剛、響達を連れて下がってろ」

 

「ノォーッ!?ミスター門長!この状況どうするつもりですカーッ!?」

 

俺は通信機越しに喚き散らす金剛を気に留めずに歩を進めていく。

策?んなもんあるわけねぇだろ、旗艦に直接話に行くだけだ。

もちろん反撃はするけどなっ!

意気揚々と両腕の連装砲を構えながら近づいていくが一向に相手から攻撃が来ることは無く、やがて旗艦と思われる一人の少女の元まで辿り着いた俺は驚愕を浮かべる。

 

「此処まで撃って来ないなんてね、戦闘の意思は無いと取るか余裕の表れと取るかは悩み処だけど──」

 

「な……なん……だと?」

 

「まあどちらにしろ私達では束になっても勝てないだろうしこちらとしては友好的であることを──ってなんだい?私の顔に何かついているかな」

 

ひび……き?ま、まて……抑えるんだ俺……

 

ーーそ、そうだ。今は響が見ている、此処で変なことをすれば貴様だけの問題ではすまぬぞっーー

 

んなもん知らんが折角上がってきた株をみすみす暴落させるつもりはないっ…………だがっ、目の前の少女も改装しているとはいえ間違いなく響じゃないかっ!

 

ーーい、いや。確かにそうだが落ち着け門長っ!今ここで間違いを犯せば協力を得られないだけでなく両方の響から軽蔑される人生となるぞ!それでもいいのかっ!?ーー

 

ぐっ……そ、それは……いやだ!

 

ーーならば落ち着けっ!今は耐えるのだーー

 

…………ああそうだな、助かったぜ長門。

 

ーーなに、私とて一人では冷静になれなかったさーー

 

ふっ、やはり同志という訳か。

 

ーーう、うるさいっ。そんなことより早く答えんと疑いの目で見られているぞーー

 

おまっ、そういうのは先に言え先にっ!

 

「い、いやぁてっきり迎撃が来るもんだと思ってたから拍子抜けしちまってな」

 

「なるほど……まあ無用な戦闘は無いに越した事は無いからね、ちょうど良かったよ」

 

「あ、ああそうだな。俺等も頼み事が有って来ただけで闘いに来たわけじゃねえんだ」

 

「頼み?まあ立ち話も何だし中でゆっくり話そうじゃないか」

 

そう言うと目の前の大人びた響はおもむろに無線機を持ち出し他の仲間へ警戒解除を命じた。

 

「よし、そしたらそちらの金剛さん達も呼んできて貰えるかい?」

 

「おう、わかった」

 

金剛と連絡を取り無事に合流した俺達は大人響の案内でタウイタウイ泊地第六鎮守府へ足を踏み入れたのだった。

 




次話近日公開予定!
天これも近日公開予定!



5/10 セリフを一部修正しました。


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第四十七番

ああ〜頭の中がマインクラフトに埋め尽くされるぅ〜

せめて週一投稿に戻したいのに戻せない(;Д;)(;Д;)


大人響は俺達を応接室のソファーに座る様に促した後、給湯室と思われる小部屋の奥へと入って行った。

暫く待っているとお盆の上に湯呑みを人数分乗せて戻って来た大人響は湯呑みを全員に配ると隣にいた巫女服の様な恰好の女と共に対面のソファーに腰を下ろし、落ち着いた口調で話し始めた。

 

「さて、先ずは自己紹介からしよう。私はここタウイタウイ第六鎮守府の秘書艦を務めているヴェールヌイだ。よろしく」

 

「おうっ、宜しくなヴェールヌイ」

 

ヴェールヌイか……そういや前に武蔵がそう呼んでたな。

 

「そして私の左に居るのが第一艦隊旗艦、金剛型三番艦の榛名だ。」

 

「榛名です、よろしくお願い致します」

 

「おう」

 

ーーおい、露骨に態度を変えるんじゃないーー

 

別に興味がねぇから適当に流しただけだ。

 

ーーおまえという奴は……ーー

 

「あ、あの……榛名は何か気に障るような事をしてしまいましたのでしょうか」

 

「オーッ!ソーリー榛名、ミスターはこれが通常運航なので気にしないで貰えると助かるネー」

 

「それなら良いのですが……もし榛名に至らぬ点があれば遠慮なく仰って頂けますでしょうか」

 

「ドントウォーリー、こっちこそアポなしの訪問で申し訳ないデース」

 

「結果的に被害は出てないんだ、問題は無いさ」

 

くぅっ、こっちから航空機へ攻撃してると言うのになんていい子なんだ!流石は響と撫でてやりたいところだぁっ──とこっちの自己紹介はまだだったな。

 

「んじゃあこっちも自己紹介させてもらおう。俺の名は門長和大、元少佐だ」

 

「なるほど、やっぱり君が門長少佐だったんだね。噂は海軍中に伝わっているよ」

 

おお、いつの間にか有名人だな俺。

 

ーーまあ、十中八九指名手配だろうがなーー

 

うっせ、お前も共犯だろうがっ。

 

ーーむぅ、それを言われると痛いなーー

 

「ま、まあ噂は所詮噂だ。俺はあっちの基地で静かに暮らしてるだけだぜ?」

 

「あれで静かならソロモン海戦は物音一つ聞こえない戦場になってしまうよ」

 

「ま、まあそう言えなくもない……か?それはさておき他の三人は恐らく知ってると思うが手前から響と電とルー豆柴だ」

 

「ヘーイミスター、またその呼び名ですカー?」

 

響の冷静な突っ込みに耐えルー語使いをスルーした俺は紹介を続ける事にした。

 

「……舞鶴第八鎮守府所属、響……だよ」

 

「舞鶴第八?そこは確か──」

 

「榛名っ!」

 

「はっ、はい!?」

 

何か疑問を口にしようとした巫女服の女にヴェールヌイは突き刺すような鋭い声で窘めた。

 

「その発言は配慮に欠けるよ」

 

「そ、そうでした!響さん、誠に申し訳ございません。榛名、この身を持って償わせて頂きますっ!!」

 

「だっ、大丈夫だから!私は大丈夫だから落ち着いて榛名さんっ!?」

 

女は窓から身を乗り出そうとしていたが響とヴェールヌイに引き戻され漸く落ち着いた様だった。

つうか艦娘なら三階から落ちても平気じゃねぇか?

 

「ごめんなさい、取り乱してしまいました……」

 

「いや、大丈夫。無事で良かったよ」

 

「榛名さん、貴女は第一艦隊なんだから突破的な行動は控えてくれないかい?」

 

「面目御座いません、反省致します……」

 

「エーと……自己紹介の続きをしてもオーケーですカー?」

 

「失礼、それじゃあ改めてお願い出来るかい?」

 

「オーケー、ワタシは横──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は中部海域の前線基地で建造された電です。よろしくなのですっ!」

 

「よろしく……電」

 

「なんかワタシの紹介が飛ばされた気がするネー……」

 

「あ?今さっきしただろ。んじゃあ早速幾つか伝えなきゃならん事と頼みたい事があるんだが聞いてもらえるか?」

 

「聞くのは構わないが希望に応えられるかは分からない、それでも良いかい?」

 

「ああ、構わない。といっても一つは俺じゃなく海軍の問題だからそれは聞き入れてくれないと困るんだけどな」

 

俺は少し温くなったお茶を飲み干してから、一つ目の依頼を持ち掛ける。

先ずは頼まれていた夕月達の件について俺は金剛の補足を挟みながら事細かに説明した。

 

「そんな事が……分かった、伝えてくれて有難う。その件については本土に報告して防護服も送って貰うことにするよ」

 

「よし、じゃあそれで頼む。んでもう一つだが……俺からすればこっちが本題だ」

 

「……なんだい?」

 

「単刀直入に聞こう。ズバリ近代化改修された長門を引き剥がして元の身体に戻して欲しいんだが出来るか?」

 

と聞いてみたものの、実際工作艦や工廠の妖精に聞いた方が早いのは事実だろう。

俺の問いにやはり額に手を当て悩んでいたヴェールヌイだったがやがて辿り着いたのかこちらを向き直り一つの答えを見出した。

 

「詳しくは明石さんや夕張に聞いて見なければ分からない。けど……」

 

「けど?」

 

「いや、もし出来たとしてもそれに掛かる時間や資材を考えると私が決める訳には行かないんだ。その件については今夜司令官に確認を取ってみるよ」

 

「ああ、頼んだぜ」

 

「ホワッツ?ここのテートクは異世界から指示を送っているのでは無いのですか?」

 

そう言えば……俺は完全に忘れていたが異世界とは連絡が取れないんだったか。

金剛から疑問を投げ掛けられたヴェールヌイは意外そうに愛らしい瞳を丸くしていたが直ぐに我に返り答えを返した。

 

「ああ、そうだね。司令官からは指示が届くだけでこちらから連絡を取ることは出来ない。その事はこの鎮守府でもごく少数しか知らない事実なんだけど海軍では知れ渡っている事なのかな」

 

「そうですネ。大本営でも機密事項に指定されてますガ、残念ながら人の口に戸は立てられないのはいつの世も同じなのデース」

 

「それもそうか、なら隠しても仕方ない。実際はその事実を知っている一部の艦娘で話し合って決めるつもりだよ」

 

「オー、そうでしたか」

 

ふ〜ん……良くわからんがそんな隠さなきゃならん事か?

 

ーーそうだな、何処に居るかも分からぬ者からの命令では不安も不満も出るのだろうーー

 

そりゃそうか、考えるまでも無かったな。

 

「さて、話はまとまり次第伝えさせて貰うよ。それまでは寮の空き部屋で済まないが待機していてくれるかい」

 

「おう、いい返事を期待してるぜ?」

 

「それはこちらにとって釣り合うだけのメリットを見い出せればと言ったところだね。榛名さん、彼等を航巡寮の空き部屋に」

 

「畏まりましたっ!皆様、榛名に付いてきてください」

 

そうして俺達は榛名に案内されるまま航巡寮とやらへ向かったのだった。

 

メリットか……連装砲一基とかじゃダメかねぇ。

 

 

 

 

 

────二一〇〇 執務室────

 

 

 

 

「どうだい明石さん?」

 

「そうですねぇ……その長門さんの自我が残っているのであれば理論上可能だとは思いますが……」

 

「何か問題があるのかい」

 

「はい、これは今進めてるプロジェクトでの課題でもあるのですが……たとえ取り出せても留めておく術が無いんですよ」

 

「そうか……司令官の時はそれぞれ肉体という器があったから出来たのか」

 

「あれ?でも長門さんなら艤装に移せるんじゃ無いですか?」

 

「夕張ちゃん、残念だけれどそれも無理だわ。魂が艤装としてこの世界に顕現しているからそこに別の魂を載せることは出来ないの。提督が重巡利根の艤装を着けても水上に立てなかったのは恐らくこれが理由だったと思うわ」

 

「そうですか……となると今は帰って貰うしか無いわね」

 

「そうね、本当は彼の身体を隅々まで調べ尽くしたいのだけれど……」

 

「身体中弄り回した挙げ句出来ないなんて言ったら暴れ出しかねないからねぇ」

 

「ああ、何処まで事実かは分からないが舞鶴第八鎮守府を壊滅させたという噂だからね。敵対する訳には行かないし、今回は──」

 

『なあ、話は少し戻るけどちょっと気になったことがあるんだ』

 

「司令官?どうしたんだい」

 

『いや、さっき明石が取り出した魂を留めておけないって言ってたじゃない?』

 

「ええ、そう言いましたよ。それかどうかしました?」

 

『だったら建造ってどうやってるのかなぁって思った訳なんだけど』

 

「建造ですか?それは簡単ですよ。使用した資材に魂を…………それだっ!!」

 

『????』

 

「あ、明石さん?何か分かったのかい?」

 

「はいっ!提督のお陰で大きな課題の一つが解決しました!!」

 

『そ、それは良かった』

 

「早速ですが提督っ!今日訪問された門長さんの依頼を受けようと思いますので資材を利用しても宜しいでしょうかっ?」

 

『お、おうわかった。枯渇はさせないでね?』

 

「善処しますっ!さあヴェールヌイ、夕張ちゃん行くわよっ!」

 

「はいっ!明石さんっ!」

 

「わかった、そしたら呼んでくるから工廠で待っていて欲しい」

 

「分かったわヴェル!明石さーん!工廠に行きますよぉっ!」

 

「……はぁ、急に呼び出してしまって済まなかったね司令官」

 

『いんや、大丈夫。寧ろ何時でも呼んで欲しいくらいだ』

 

「……スパスィーバ。それじゃあ私も行くよ、お疲れ司令官」

 

『ああ、お疲れ様』

 

 




あ"あ"〜ヴェルとにゃんにゃんしたいんじゃ〜(*゚∀゚)


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第四十八番

イベントに集中していた為投稿が遅れてしまいました。
週刊投稿する気あんのかっ!って思われるでしょうが実際したいとは思っているんです!
しかし!誘惑が!使命が!多いorz
ガングートが欲しい!
あと北方水姫だけなのに資材が尽きて一時撤退を余儀なくされる。
その空き時間を利用して今回投稿に至りました。

そんな事はどうでもいい!本編だっ!!



「こちらが航巡寮です。三号室から六号室まで空いてますのでご自由にお使い下さいませ」

 

「サンキュー榛名、有難くお借りしマース」

 

ご自由にということは誰が何処を使おうと構わないと言う事か、ならば俺が選ぶ道は一つ……

 

「響っ!是非とも一緒の部屋に──」

 

「響ちゃん、三号室に行くのですっ」

 

「あっ、うん分かった」

 

「ちょっ……」

 

「門長さんは隣の部屋を使うといいのです」

 

電はそう言い残し響を連れて三号室へと入っていった。

あれ以降電に嫌われてる気がする。

わざわざ他の部屋と言わずに隣の四号室を指定したのもたまたまだとは思い難かった。

 

「オー……そ、それじゃあワタシは六号室を使わせてもらいマース」

 

金剛もそそくさと部屋に入っていった。

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

「はぁ……」

 

俺は軽く凹みながら榛名に応えることもなく四号室へと入った。

それから数時間、夕飯に呼ばれ腹を満たした俺らは再び部屋で待機していると小さなノックが部屋に飛び込んできた。

 

「門長少佐、今は大丈夫かい?」

 

「お、おうっ!──ってヴェールヌイの方か。空いてるぜ」

 

一瞬響が来てくれたのかと期待した俺はどうやら声のトーンが少し下がってしまっていたらしい。

 

「響違いで済まなかったね」

 

「いや、お前が悪いわけじゃねぇんだ。気にしないでくれ」

 

「そうか。君と響の間に何があったかは知らないけれど二人が上手くよう応援しているよ」

 

「ありがとな。んで、俺の所に来たってことは返事は決まったのか?」

 

「ああ、その事なんだけどね。門長少佐が良ければこれからこの後工廠に来てくれるかな、勿論長旅で疲れてるだろうし無理にとは言わないよ」

 

工廠にと言う事は肯定的な返答だと受け取って問題は無いか?

 

「それは助かるがそっちにメリットはあったのか?」

 

「うーん……そうだね、そしたら戦闘データも取りたいだろうし明日辺り演習に付き合ってくれないか?」

 

「戦闘データ?そんなんでいいのか」

 

「噂通りなら億は下らない情報になると思うよ。と言っても門長少佐の情報を売ろうなんて気はサラサラないから安心して欲しい。ただ好奇心旺盛な二人の閃きに協力して欲しいだけなんだ」

 

そんなに俺の情報が貴重なんかねぇ?

 

ーー海軍でも一部の人間しか知らない極秘情報の塊だからな、私だって計画の事を知ったのは改修された後だーー

 

なるほどな。まあ交渉が成立するならどうでもいいか。

 

「んじゃあ交渉成立って事でいいんだな?」

 

「こちらとしては問題ないね」

 

「おっし、そしたら早速連れてってくれ」

 

「助かるよ。それじゃあ案内しよう、艤装を持ってついてきて」

 

俺はヴェールヌイに案内され工廠へと向かった。

 

 

 

 

 

 

向こうに初めてついた時も思ったが鎮守府の構造は何処も同じらしいな。

 

「着いたよ、此処が工廠だ」

 

見慣れた工廠の扉をヴェールヌイが開くと中には出撃準備中と思われる数人の艦娘と何やら熱く語り合っている二人の艦娘の姿があった。

 

「やはりここは長門型の艤装を形作ってから移した方が確実性が上がるんじゃ無いですかっ!」

 

「でもそれだと想定外の事態に対処出来ない可能性があるわ。それよりも通常建造と同じ様に未加工の資材を用意してそれに移してからの方が安全だと思うの」

 

「しかし、その方法じゃあ長門さんの魂が移せる状態になる前に他の魂が入ってしまう可能性もあって確実とは行きません」

 

「そうねぇ、そのタイミングを見つけないと行けないわね」

 

「二人とも話し中に済まないがお客さんだ」

 

ヴェールヌイが割って入る事で二人は漸く俺の存在に気が付いたらしく、慌てて自己紹介を始めた。

 

「あ、これは失礼致しましたっ!私タウイタウイ泊地第六鎮守府に所属している工作艦明石と申します!」

 

「私は軽巡洋艦夕張、宜しくね門長さん?」

 

「今回門長少佐の依頼を受けてくれる二人だ、仲良く頼むよ」

 

「おう、門長和大だ。よろしく頼むぜ」

 

「うん、それじゃあ私は仕事に戻るよ。頼んだよ夕張、明石さん」

 

「まっかせといてよ!」

 

「工作艦の名にかけてやり切って見せますよ」

 

二人の返事に頷くとヴェールヌイは工廠を後にした。

 

「それでは門長さん、早速ですが艤装を出して貰えないかしら?」

 

「艤装?これか?」

 

俺は両手に持っていた五十一センチ連装砲を机の上に降ろした。

 

「えっと……兵装の方じゃなくて海に出る際に着けている艦橋なんかは?」

 

「ない、これを持ってりゃ海に出れるだろ」

 

「えぇ…………明石さん、これって……」

 

「うーん……前例が殆ど無いから自信は無いけど多分艤装の展開が出来ないのかしら」

 

「でもそうなるとどうやって調べるんですか?」

 

「そうねぇ、方法はあった筈だけど流石に覚えてないわねぇ」

 

何だか雲行きが怪しくなって来たな。

 

「どうした、もしかして出来ねぇのか?」

 

「あ、いえ移すこと自体は可能なのですがその為に門長さんの艤装から情報を確認する必要がありまして」

 

「それが出来ねぇのか」

 

「出来ない事は無いのですが前例が殆ど無くてやり方を覚えていないんですよ」

 

つまりその方法が無いと先に進めないっつう事か。

なら今日出来ることは無いな。

 

「なるほどな。だったら俺は部屋に戻るぜ、方法が分かったら頼むぜ」

 

さーて帰って寝るか。

 

ーーなあ、今基地に居る明石なら方法を知ってるんじゃないかーー

 

ああ、そういや俺の耐久とか知ってたな。

だけど連絡手段が無いだろ。

 

ーー私もそう思ったんだがな。よく考えたら今金剛が持っている通信機を作ったのは目の前の明石ではないか?ーー

 

だったらどうしたっつうんだ?

 

ーーいや、それなら暗号も分かってるんじゃないか?ーー

 

…………なるほど、聞いてみるか。

 

「なあ明石、前に何処にでも届く通信機を作った記憶はあるか?」

 

「通信機ですか?」

 

記憶に無いのか首を傾げている明石に対して夕張は思い出したらしく明石に耳打ちをした。

 

「ああっ!横須賀の明石さんが引き取っていった物ですか!」

 

「そうだ、それのコピーが色々あってうちの基地に居る不知火が持ってるんだが」

 

「コピー?はぁ、それがどうかしましたか?」

 

「実はそこに呉の明石もいてな、更に言うとオリジナルの通信機の一台は今金剛が持っているんだ」

 

「く、呉の明石さんっ!?ととと言う事は呉の明石さんとれれ連絡が取れるんですか!」

 

なんか以外な所で食いついたな、まあいいが。

 

「ああ、ただ一つ問題があってだな。こっちの通信機からじゃ暗号化されてて話が出来ないんだ」

 

ここまで言えば奴も察しがついたらしく眉間を押さえてブツブツ言い始めた。

 

「暗号かぁ……複合表はどこにあったかしら……」

 

「明石さん、ヴェルならもしかしたら憶えてるんじゃない?」

 

「いや、流石の彼女でも厳しいんじゃ。」

 

ためらう明石に反して夕張は既にヴェールヌイと連絡を取り始めていた。

 

「……うん、うん。それじゃあ待ってるわね」

 

通信を終えるとヴェールヌイが来るまでの間に俺の噂の真偽を知りたいと夕張にせがまれた。

俺もどんな噂が立っているのか気になっていたので承諾する事にした。

 

「じゃあ先ずは一番有名な噂ねっ!舞鶴第八鎮守府をたった一人で壊滅させたってのは本当なの?」

 

何でこいつはそんな噂がたってる奴を前に怯むことなく聞けるんだ?

事実なら完全に敵じゃねぇか。いや、それを確認しようとしてるのか?

 

「いや、結果的には俺のせいになるかもしれんが俺が直接潰したわけじゃねぇ」

 

だが、嘘を付く必要は無いので俺はありのままを述べた。

 

「ふ〜ん、流石に単艦で百隻を越える艦娘を相手にしたってのは無理があるわよね」

 

まあ、実際の所行けそうな気はするけどな。

 

「あ、それじゃあ素手で姫級を沈められるってのは本当?」

 

「姫?姫級とは殴りあった事は無いな」

 

長門は殴り殺した事はあったが。

 

「やっぱりかぁ、流石に誇張しすぎよねぇ」

 

所々俺のせいにされてるがどうやら俺のやった事は全て広まってる訳じゃねぇみたいだな。少し安心したぜ。

 

「お待たせしたね」

 

案外時間が経っていたらしく気が付いたらヴェールヌイが再び工廠へ戻ってきていた。

 

「あ、わざわざ悪いわねヴェル」

 

「頼んでいるのはこっちだしね、これ位どうってことないさ」

 

「すみませんヴェールヌイさん、以前作った通信機の複合表なのですが憶えてますか?」

 

「ああ、それなら憶えてるよ」

 

え、暗号って憶えてられるものなのか?

 

「流石ですねっ!では申し訳有りませんが複合表を書き出して頂けますでしょうか」

 

「その事だけれど。ついでに金剛さんから通信機を借りてきてるし、いまからそっちの明石さんと連絡が取れるのなら私が直接伝えようか?」

 

「えっ……か、可能なのですか?」

 

「さ、流石のヴェルにもそれは厳しいんじゃない?」

 

だがヴェールヌイはさも当然のように答えた。

 

「自分で考えた暗号だ、それ位わけないさ。門長少佐、そちらとは今連絡をとっても大丈夫かい?」

 

「あ、ああ。大丈夫だろうけど……恐らく不知火が持ってるから変わってもらってくれ」

 

「了解、それじゃあ……」

 

ヴェールヌイはそう言って通信機を繋ぎ始めた。

 

『どうしましたか金剛さん?』

 

相変わらず野太いオッサンの声が通信機から発せられている。

ヴェールヌイは返答する為にその小さな口を開いた……

 

「こдеたдыоダхочチи неダпоキнаクцеアфоウあэтすцеカотモЮр」

 

恐らく暗号化すれば伝わるように話しているのだろうが俺らには何を言っているのかさっぱりであった。

 

『明石に用事ですか、まあいいでしょう。今替わります』

 

結局俺は目の前に広がる異質な状況に終始飲まれていたのだった。

 

「あкароアлет」

 

『どういたしまして。私も何時かそっちに遊びに行くからその時は宜しくね』

 

「ゼбудカвсしфев」

 

「いやぁ、助かりましたヴェールヌイさん」

 

「ヴェルが頭良いのは知っていたけどまさかここまで凄いとはねぇ」

 

「そんなことは無いさ、自分で考えた暗号だから出来ただけさ」

 

暗号を考えただけでも充分凄ぇと思うが照れ隠しに人差し指で頬を掻くその仕草が可愛過ぎてそんな事はどうでも良くなっていた。

 

「さて、方法も分かりましたし直ぐに始めましょう」

 

「あ、時間が掛かるから門長さんは眠ってて良いわよ?」

 

「この前も言われたな。まあ楽だから良いけど」

 

それに寝ずに移動してたつけが回ってきたみたいですっげぇ寝みーんだ。

俺はカプセル型の容器に横になり目を瞑るとすぐさま意識は夢の中へと吸い込まれて行った。




次回!大演習!久々の戦闘回の予感(まあ演習ですが……

来週には上げたい(願望)


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第四十九番

久々にあるお方のSSの続きを呼んでテンションが上がったので書いちゃいました!
睦月型もみんな可愛いよね!
夕月も早く来ないかなぁ〜


……さん…………と……さん……

 

揺すられる感覚を覚え重い瞼をゆっくりと開くと、視界に映り込んできたのは愛しい響……ではなかった。

 

「ん……響を連れて出直して来な」

 

「なに言っているんですか、もう朝ですよ。検査の方も完了しましたので起きてください」

 

少しづつ意識がはっきりしていく中で俺を起こしたのがやはり響じゃなく明石であった事に不満を漏らしつつも仕方なく上体を起こす事にした。

 

「んで?もう長門は出てったのか」

 

「流石に昨日の今日で出来る事じゃ有りませんよ。今回取った情報から長門さんの魂を特定して移し替える方法を見つけるのに暫く時間が掛かると思います」

 

はぁ、やっぱそうなるか。

まあそれならその時間を有効活用して響と親睦を深めるとするかな。

 

「そうか、なら俺は響達の所へ戻るぜ」

 

「あ、待って下さい!」

 

 

貴様。俺の邪魔をする気か?

 

 

目で明石を黙らせ工廠を出ていこうとするが奴は再び俺を呼び止める。

 

「んだよ、喧嘩なら買ってやるよ」

 

「いや、そうじゃなくて。響ちゃん達なら直ぐにこっちに来るので待ってた方がいいって言おうとしたんですよ」

 

「へ?響がこっちに来るのか?」

 

「もう来てるよ。この子を怖がらせたくないなら冷静になったらどうだい?」

 

突如背後から聞こえた声に俺は反射的に首を捻り振り向いた。

 

「ヴェールヌイ!?響と電まで!」

 

「ヘーイミスター、ワタシもいますヨー?」

 

「おはよう門長少佐、昨日はよく眠れたかい?」

 

「門長さん、おはようなのですっ!」

 

「…………おはよう」

 

はっ、心無しか響が怯えてる気がする!

 

「おはよう響〜?今日はいい天気だなぁ」

 

「…………」

 

や、やっちまったぁ……。

親睦を深めるどころか溝が深まってんじゃねぇか……

 

「怖がらなくても大丈夫だよ。きっと彼の根っこは優しい、響はそうは思わないかい?」

 

「…………思わない……事も……ない」

 

「ナイスフォローだぜ、おかげで救われた。まあただ俺は優しいとかそういう柄じゃねぇと思うけどな」

 

今まで言われた事もねぇし俺自身他人に優しくなんて考えた事もねぇ。

 

「そんな事ないのですっ!門長さんは悪鬼羅刹の如く優しいのです」

 

いやいや電ちゃんまで────ってえ?なんかおかしくね?

悪鬼羅刹って優しい存在だったっけ?

 

「そ、それはそうと昨日の演習の件だけど朝食の後で頼めるかな」

 

「お、おういいぜっ!因みに相手は誰なんだ?」

 

悪いが正直な話六対一でも負ける気はしねぇんだよな。

だがヴェールヌイは俺の事を随分と評価してくれていたらしい。

 

「そうだね、本来なら絶対にこんな事はしないのだけれど。今回は門長少佐が噂に違わぬ実力者だと判断してこちらの主力十二隻による空母機動部隊で当たらせてもらうよ」

 

「なるほど、そんじゃあ精々楽しませてもらうぜ」

 

「こちらも利根川艦隊主力という誇りがある。全力で勝ちに行かせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えた俺達は演習のルールを聞いた後、演習海域まで出ると開始位置にて向こうから通信が入るのを待っていた。

 

「待たせたね、こちらもいま開始位置に着いたよ」

 

「おう、こっちはいつでもいいぜ」

 

「了解。それじゃあ三度目の砲撃が開始の合図だ、こんな条件で言うのも何だけど良い試合にしよう」

 

「ああ、楽しみにしてるぜ」

 

通信が途切れてから暫くして砲音が鳴り響く。

一回、二回、そして三回目の砲音が戦闘開始を告げる。

 

さて、敵は空母機動部隊だったか?

 

ーーああ、機動部隊が翔鶴、赤城、鳳翔、大和、利根、筑摩の六隻。そして水雷戦隊がヴェールヌイ、神通、暁、北上、ビスマルク、榛名。いずれも練度九十は越えている強者揃いだーー

 

なるほどな、空母は少し厄介か。

 

ーー厄介なのはそれだけじゃないさ。ヴェールヌイ、あいつは普通の駆逐艦だと──いや、普通の艦娘だと考えない方が良いだろうーー

 

確かに昨日のは驚かされたな。

だが、戦いは頭が良いだけで勝てるもんじゃねぇだろ。

 

ーー確かにその通りだが……戦略のせの字も知らない様な男が言ってもなーー

 

うるせ、兎に角戦闘は始まってんだ。

後はやる様にやるだけだろ。

 

俺は一方的に話を終わらせると表へと意識を向ける。

丁度前方から偵察機の中隊がやって来ている所であった。

 

「今落としてもこっちの位置は割れてるか、だがまあ鬱陶しい事には変わりねぇ。三式弾に換装だ」

 

「は〜い、さんしきだんですねぇ〜?」

 

換装を終えた連装砲を正面に構え、妖精に指示を仰ぐ。

 

「よし、あいつを墜とすぞ!」

 

「そしたらそのままかまえてぇ〜…………はっしゃー!」

 

弾けるような轟音と共に打ち出された三式弾は敵中隊の進行方向を遮るように飛んでいき奴らの目の前で激しく炸裂した。

 

「たーまやー!ってか?」

 

「かーぎやー!」

 

なんて余韻に浸っていたのも束の間、なんと黒々と広がる爆煙の中から落としたはずの偵察機が悠々と飛び立って行ったのだ。

 

「……おい、落ちてねーじゃねぇか」

 

「ば、ばかなっ!?へんさにはっしゃたいみんぐともにかんぺきだったはずっ!」

 

どうやら妖精は俺以上に動揺しているようだ。

まあ確かに俺から見ても一機も落とせなかったのは不思議ではあるが……

 

「ま、偵察機ぐらい大した問題じゃねぇ」

 

が、やはり空母が厄介なのは変わらねぇな。

先に潰すべきだな。

 

「おい、こいつの射程はどんぐらいだ?」

 

「たしか……ゆうこうしゃていさんじゅっきろ、さいだいしゃていはよんじゅうごきろだったはずです」

 

「よし、なら空母が五十キロ以内に入ったらやるぞ」

 

「まかせなさいっ!ふねにならあててやります!」

 

主砲の扱いは自信満々な妖精に任せて俺は基地にいる明石に改修させた電探を起動させる。

 

お、もう索敵範囲内に居るじゃねえか。

数は八か……あの少し離れてる奥の奴が怪しいな。

 

ーー順当に考えれば戦艦二、又は空母二かーー

 

戦艦空母が全員下がっていれば巡洋艦の可能性もあるか?

 

「ま、分かんねぇが兎に角奥の二隻を潰すぞ」

 

「おくのふたりか、しょうち!」

 

「みぎてをにせんちうえにあげてください」

 

「ひだりはいっせんちしただ」

 

「こんなもんか?」

 

「「はっしゃ!!」」

 

妖精共のタイミングで両腕の連装砲を一斉射すれば海面を波立たせながら四発の砲弾は空の彼方へと消えて行った。

と、同時に未だに水偵を受け取っていないことを唐突に思い出した。

あれからドタバタあり過ぎて完全に忘れてたが明石の野郎ちゃんと作ってあんだろうな……。

取り敢えず帰ったら確認してみっか。

 

「兎に角今は考えててもしょうがねぇ、再装填までどれ位だ?」

 

「あとにじゅうびょうです」

 

二十秒か……まだ距離はあるが駆逐艦(少女)相手に肉弾戦に持ち込む訳にも行かねぇし少し速度を落とすか。

そう考えた矢先、対空電探に一つの大きな反応を捉えた。

 

「何だあれ、でかい飛行物体でも飛んでんのか?」

ーーいや、あれは航空機の群だ。十個中隊程だろうーー

 

「電探で判別出来ない程固まってるって事か?」

 

ーーあれだけの芸当、舞鶴の空母艦娘より練度は高いかもしれんなーー

 

「だがあんなもん当てて下さいって言ってるようなもんじゃねぇか。いくぞ妖精!」

 

「やってやんよ!」

 

三式弾への換装を済ませ航空機の塊へ狙いを定める。

 

「ってぇーー!!」

 

「おらぁっ!」

 

しかし、三式弾が放たれた直後航空機は四方へ散開したかと思うとすぐ様切り返して俺を囲むように突っ込んできた。

 

「くそっ!あんな固まってても三機しか落ちねぇのかよ!」

 

「かんむすのかんさいきはばけものかっ!!」

 

「わ〜!!ぎょらいがいっぱいきたぁ〜!?」

 

四方から二百近い数の魚雷がばらまかれ逃げ道を失った俺はなす術もなく雷撃の嵐に飲み込まれて行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇利根川艦隊サイド◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

うーん……やらかしてしまったかもしれない。

鳳翔さんの流星をその場に待機させて状況を確認してもらっているが水煙が酷くて視認は未だ出来ないらしい。

一応明石さんから戦闘終了の連絡は来てないから轟沈判定にはなっていないだろうけれど……。

 

「流石に大破してしまった……かな」

 

「はっきり言って轟沈判定になって無いだけでも異常だと思うわ」

 

暁の言う通り、最大火力だけで考えれば姫級二、三人は沈められるような火力を放ち尚且つ全てが足元で起爆するように魚雷同士を接触させたのだ。

普通ならこんな過剰火力を単艦にぶつけたりはしない。

それでも、厳重警戒中の連合艦隊を前にしても怯むことなく突き進んでいくあの姿と、中部海域からここまでの道のりを目立った傷も負わずにやって来た事を踏まえるとこれでも足りない気がしたんだ。

 

「済まない、秘書艦である私が相手の力量を測り間違えるなんて」

 

しかし、過ぎてしまった事はどうにもならない。

明石さん達には後で謝っておこう。

そう考え、決着を付けるため艦隊に指示を出そうとした時。

 

「目標視認っ!ヴェールヌイさん、どうやら貴女の見込み通り……いえ、それ以上の様ですよ?」

 

「っ!鳳翔さん、彼の被害状況が分かったのかい!?」

 

「あら、そんなにあの方の心配をされては提督がやきもちを妬いてしまいますよ?」

 

「そ、そういう事じゃない!」

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

もう、鳳翔さんも人が悪い……私が心に決めた人は一人だというのに──ってそうじゃない!

…………ふう、兎に角一度落ち着いて状況を確認しよう。

 

「鳳翔さん、報告を頼むよ」

 

「はい、目標は現在こちらへ向かって進行中。損害はありますけど小破に満たない位ですかね」

 

「了解」

 

あれだけ受けて小破未満か。

時間までの撃破はまず不可能と考えるべきか……となると。

 

「翔鶴さんと赤城さんは後退しつつ第二次攻撃の準備を」

 

「はいっ!」

 

「了解しました」

 

「鳳翔さんは彼我距離三十キロを維持、弾着観測と周期的に偵察。大和さんは鳳翔さんのサポートと余裕がある時に砲戦に参加して欲しい」

 

「畏まりました」

 

「大和、了解しましたっ!」

 

「榛名さんとビスマルクの二人は射程ギリギリから、利根さんと筑摩さんは二十キロを維持しながらそれぞれ砲戦を開始してくれ。神通と北上、そして私と暁は十五キロ辺りを維持しながら魚雷をまくよ」

 

「任せなさいっ!」

 

「任せてっ!」

 

「承知しました!」

 

「やっちゃいましょ〜」

 

「行きますっ!」

 

「腕がなるのう!」

 

「ふふ、行きましょうか利根姉さん」

 

「最後に一言、今回に限っては撃破では無く勝利を目標とする。つまり被害は最小限、火力は最大限とする事を意識して欲しい」

 

「「了解っ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆とながサイド◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、流石に焦ったなぁ。

魚雷を百九十発以上も食らったこともだが、それ以上にそれを受けて尚小破すらしねぇこの身体に焦ったわ。

 

ーー確かにな。だが私が離れた後にどうなってるかは分からんのだからあまり無茶はするなよ?ーー

 

わぁってる、俺だって本当は響と平穏に暮らしてぇんだよ。

 

ーーほう、てっきり戦闘狂なのかとばかりーー

 

誰が戦闘狂だ誰がっ!──ったく。

必要があるから戦ってるだけだっつーの。

 

「じゅんびばんたんだっ」

 

「いつでもうてますよ〜」

 

「お、装填完了か」

 

俺は気を取り直して再び連装砲を構える。

狙いは勿論空母────って空母がどれだか本格的に分かんなくなってきたぞ。

下がっている二人はおそらく空母だと思うが今撃っても弾着までに射程圏外に出ちまうな。

んじゃあ三十キロ位にいる奴全員を撃てばいいか。

 

「三十キロ付近にいる奴らを順番に撃っていくぞ」

 

「まかせなっ」

 

「は〜い」

 

ーーふふふ、それにしてもまさかお前がこれ程考えながら戦う姿が見られるとはなーー

 

あぁ?仕方ねーだろうが。艦載機が落とせねぇ以上無理やり突っ込んでも被害が増すだけなんだからよ。

距離も一向に縮まらねぇわ魚雷は次々と流れてくるわでそりゃ考えたくもなるぜ。

 

ーーああ、見事なまでに相手の戦術に嵌っているな。最初の一撃でのこちらの損失を確認するや否や敵を倒す戦術から敵を抑える戦術へと即座に切替えた様だなーー

 

倒す戦術から抑える戦術?良く分からねえが つまり【ガンガンいこうぜ】から 【いのちだいじに】に作戦を変えたって事か。

なら俺に考えがある。

 

ーーほう、なにか作戦を思いついたようだなーー

 

ああ、魚雷を避けずに全速力で突っ込む!

 

ーーそれは……作戦……か?ーー

 

そうだ、だが何も勝算無く突っ込むわけじゃねぇぞ?

恐らくあの中に俺より速力の小さい奴がいるだろう。

 

ーー確か鳳翔と大和の最大速力はお前より小さかったかーー

 

やはりか。俺はそいつらに全力で接近して潰す。

そうすれば陣形も乱れる筈だ。

 

ーー成程、耐久と装甲に物を言わせた作戦とも言えないお粗末なものだが……この状況では他に方法も無いかーー

 

そうと決まれば善は急げってな。

俺は機関を全開にし、他より動きが遅いと感じた前方奥の二人へと突っ走った。

 

 

 

 

 

 

途中攻撃機による一斉雷撃と水雷戦隊からの雷撃を受けて中破手前まで削られたものの果たして鳳翔と大和の目の前まで接近する事に成功した。

 

「さて、散々やってくれたがとうとう追い詰めたぜ」

 

「あら、これは参りましたね」

 

「ここは大和に任せて!鳳翔さんは下がってくださいっ!」

 

「大和さん……ええ、分かりました」

 

「悪いが空母ば逃がさねぇぜ!」

 

俺は後退を始める鳳翔に向けて構えた連装砲を放つ。

だが、その直前に振り下ろされた大和の手刀によって砲口は下げられた砲弾は大きな水飛沫をあげて海中へと没した。

 

「やってくれるじゃねぇか……っ!」

 

「鳳翔さんの所へは行かせませんよ」

 

「いいぜ、まずはテメェから潰してやるよ!!」

 

「大和の力を舐めない事ねっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー戦闘終了ー

 

 

 

 

 

 

 

 




テンションが上がりすぎて予定より長くなってしまったので丸々戦闘回で止めます。
演習結果は次回のお楽しみに〜


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第五十番

第四十九番だけ文字数が長いのは気に入らなかったので分割して出来たのがこちらとなります。
短い上に話の進展はそんなにありません。

区切りの良い話がそんなんでいいのかって?
語呂や縁起を気にしない、それが上新粉クオリティ。



さて、演習は終わった訳だがまずはこれを見てもらいたい。

波止場のコンクリート直に正座をさせられて先程から響に説教を食らっているパンツ姿の男が一人。

その隣では同じように正座をさせられヴェールヌイから説教を食らっているはじけた服装(物理)の女が一人。

 

どうしてこうなったかというと簡単な話お互いルール違反の為、引き分けというか無効試合となったのだ。

ルールは聞いていた筈だったが響が見に来てくれた事が嬉しくて舞い上がっていたのだろう。

長門曰くーーお前が喧しくて聞こえなかったーーのと演習でそんな事する艦娘はそんなに居ないらしく舞鶴にはそんな禁止事項は無かったとの事だ。

 

「聞いているのかい門長!?君は下手したら大和さんを沈めてたかもしれないんだよ!」

 

「いや、でも俺も中破してたし流石にそこまでは」

 

「門長には前科がある事は知っているんだよ」

 

「はい、そうでした」

 

くぅ……完全に犯罪者扱いだが響に言われちゃ反論も開き直りも出来ねぇ。

けど大和だってノリノリだったし……つうかあいつはルール知ってたんだろ?

俺は響のお説教を受けながら少しだけ聞き耳を立てた。

 

「君はここの鎮守府で何度演習をしているんだい?」

 

「すみません、覚えてません」

 

「今回で1934回目だよ。回数は覚えて無くても流石にルールは覚えているだろう?」

 

「はい……」

 

「はぁ、確かに滅多に意識しないルールかも知れない……だからこそ確認の意味も込めて全員の前で説明したんだ、ちゃんと聞いてたかい?」

 

「はい、聞いていた……の、ですが」

 

流石秘書艦なだけあってきっついなぁ。

その様子を見ていられなくなったのか鳳翔が止めに入ってきた。無論ヴェールヌイを、だ。

 

「本当に反省してるのかいっ?」

 

「いや、本当に悪かったと思ってるんで許してください何でもしますんで」

 

「……その言葉に嘘は無いかい?」

 

「もちろん。響に許してもらう為なら神だろうと捻り潰す」

 

「……本当に、反省しているのかい?」

 

止めてっ!そんな冷めた目で俺を見ないで!

今のは出来ないことは無いと言いたかっただけなんだぁ!

 

「はぁ……分かった、それならあっちの話が終わったら大和さん達に謝って。誠意を込めて」

 

「お、おうそうだな。謝んなきゃな」

 

流石に今回は俺にも非があることは認めてるんだぜ?

ただちょっとなんて言ったらいいのか分かんねぇだけで。

 

「大和さんが守ろうと必至だったことは認めるし鳳翔さんがそこまで言うならこれ位にしておくけど……今後こんな事が無いように頼むよ」

 

「はい……申し訳ありませんでした」

 

「ヴェールヌイ、ちょっといいか?」

 

「門長少佐、うちの大和が悪いことをしてしまったね。勿論修理と補給に必要な資材はこちらで持たせてもらうよ、本当に済まなかった。」

 

「門長さん、誠に申し訳御座いませんでした」

 

「いや、それについてはルールを聞き漏らしてた俺に責任がある。済まなかった、本当に悪いと思っている」

 

「ふぅ……ふふ、それなら大和さんとの熱い戦いを魅せてくれたお礼として修理と補給の資材はこちらで負担させてくれないか?」

 

「それは……とても助かるがそっちの資材は大丈夫か?」

 

「なに、今の所連合艦隊全員大破しても修理出来るくらいには余裕はあるから問題ないさ。それで鋼材と燃料は幾ら使うんだい?」

 

俺は妖精を呼び出し必要資材を算出するよう頼んだ。

 

「かけました〜!」

 

「おう、これぐらいだな」

 

俺は妖精が書いた紙をヴェールヌイに渡した。

しかしヴェールヌイはその紙を手に取ったまま突然固まってしまった。

 

「あのぅ、ヴェールヌイさん?どうされました?」

 

「ああ……済まない。やっぱり大和さんには資材になってもらわなければならないようだ」

 

「えぇっ!?そ、そんな!どうかそれだけはっ!」

 

「はは、流石に冗談だよ。ただ、暫くは出撃はおろか演習にも出れない事だけは覚えておいてくれるかな」

 

例の紙はヴェールヌイから大和へと所在を移した。

 

「え〜、必要資材。燃料が二……万二千……鋼材が……よ、四万四千っ!!?わ、わたしやっぱり解体されてきますっ!!」

 

「だからそれは冗談だって!それにどっちにしろ大和さん一人じゃ全く足りないから!」

 

「まあ……そうなるよな。補給は頼みたいが修理は帰ってから何とかするから気にしないでくれ」

 

「うぅ……力になれず済まない門長少佐」

 

まあ自業自得みたいなもんだしヴェールヌイの可愛い百面相も見れたし俺としては十分だ。

 

「まあこっちは例の件を頼まれてくれてるだけで感謝しかないんだ。気に病まないでくれ」

 

そう言って俺は俯くヴェールヌイの頭を撫でながら慰めた。

暫くして俺は衝撃を受けた。

こ、拒まれない……だと!?

つまり俺はヴェールヌイのこの柔らかな髪を撫で続ける事が出来る正に無敵状態!!

生きてて良かったっ!!ありがとう!そしてありがとウボァッ!?

 

「行こう、電」

 

「はいなのですっ!」

 

再び衝撃を受けた……主に脛に。

 

「だ、大丈夫かい?」

 

「あ、ああ……問題ない……それじゃあ何か有ったら呼んでくれ」

 

「わ、わかった。それじゃあ大和さん、門長少佐に補給場所を案内して上げてくれ」

 

「分かりましたっ、こちらです門長さん」

 

俺は脛の痛みを堪えながら大和と共に波止場を後にしたのだった。




テンションが高いままなら更に上げるかも?


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第五十一番

ガングートキタ━━━\(≧Д≦)/━━━!?
これで勝つる!!
しかし作中には登場予定はありませんw

Гангут「面白い。貴様には特別に銃殺刑かНКВД(エヌカーヴェーデー)仕込みの拷問、好きな方を選ばせてやろう」

粉「((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ」


翌日、響に謝る為に隣の部屋向かうも電に入口で追い返されてしまった俺は電の威圧感に負け部屋の前に居座ることも出来ずに先程からぶらぶらと鎮守府内を理由も無く徘徊している。

 

「ヘーイミスター?悩んでいても仕方ないネー。ほとぼりが冷めるまで大人しくしてるが吉デース」

 

「んなこた解ってんだよ、だからこうして鎮守府を散歩してんだろうが」

 

全くこのルー豆柴は何当たり前なことを言ってんだか……。

馬鹿にするのも大概にしろってんだ。

 

「それならノープロブレムですが……そっちは駆逐艦寮ですヨ?」

 

「ばっ!?ちげーから!俺は駆逐艦寮がこっちにあるなんて知らなかったしっ!?長門がこっちだっつうから歩いてただけだしっ!」

 

「オゥ……長門がですカ……」

 

「そうそぅ──」

 

次の瞬間、俺の右手が自身の顔面にクリーンヒットした。

 

「ぐがっ……てめぇ……」

 

ーー貴様が他人に罪をなすりつけるからだ馬鹿者っ!ーー

 

てめぇだってここの少女達とお近づきになりたいとか思ってんだろ!

 

ーーき、貴様と一緒にするなっ!それに今はタイミングが悪いだろう……ーー

 

つまりタイミングが良ければお近づきになりたいんだな?

 

ーー……兎に角引き返すぞーー

 

まあいい、確かにこれ以上響との溝を広げたくはないからな。

しかしあのオーラで今や隣部屋にすら戻れねぇし他に行く宛もねぇからな……どうしたもんか──

 

「オイ、トナガ。チョットイイカ?」

 

海沿いで途方に暮れていると不意に海の中から呼び止められた。

 

「てめぇはどこのどいつだ?」

 

俺は不機嫌そうに尋ねると声の主は静かにその姿を現した。

 

「オット、ハヤマラナイデクレ?ワタシハコウワンノヒメサマニツカエテイルソキュウダ」

 

港湾……ああ、あいつの所の潜水艦か。

 

「んで、その潜水艦が態々鎮守府の敷地にまで何しに来たんだ?」

 

「コレクライノケイビナラハイルノハワケナイ──ットソウソウ、ココニキタノハシンパイショウノヒメサマカラオマエニコトヅテヲタノマレテナ」

 

「言伝?そんなに急ぎで伝えなきゃいけない事か?」

 

「ソウダナ。ヒトツメハワカッテイルトハオモウガワレワレノソンザイヲココノカンムスニハナスヨウナコトハシナイデクレ」

 

「んなもんそもそも話す気なんかねぇよ」

 

「オマエナラソウイウトオモッテタ。ダカラコッチガホンダイダ。リトウノヒメノチュウシントオモワレル()()()()()()()()()()()()ガオマエヲネラッテイルトノジョウホウガハイッタ」

 

「離島の……リ級?」

 

何か聞き覚えがあるな……なんだったか。

 

ーーお前が輸送護衛中に大破させたのもリ級改flagshipだったなーー

 

ああ、なるほどな──ってそいつは確か。

 

ーーそうだ、夕月達が撃沈させている。だから別個体だと思うが……ーー

 

だが確証はねぇか……

 

「──ット、ドウヤラカンムスガキタヨウダ。ホウコクモスンダシワタシハシツレイシヨウ」

 

「おう、わざわざすまねぇな。気を付けとくぜ」

 

「アアソウダ、サイゴニヒトツ。カノウナラソウホウヒガイハサイショウゲンニタノムトノコトダ」

 

「ったく……向こうは殺す気で来るっつうのに無茶言うぜ」

 

「ソレデモヒメサマハオマエナラデキルトシンジテイルノダロウ……ムロンワタシモナ」

 

それだけ言い残すとソ級は物音一つ立てずに海底へと消えていった。

 

「無茶振りもいい所だが……ま、そういう契約だしな」

 

「おおっ!門長よ、この辺りに深海棲艦の反応があったのだが見ておらぬか?」

 

直後息を切らせて走ってきたのは腰に褌の様な布をぶら下げたツインテールの女であった。

 

つうか見つかってんじゃねぇか……。

 

「ああ、そいつなら俺が沈めといたから問題無い」

 

「なんとっ!?流石は大和と殴り合った男なだけはあるのう!」

 

なんか感心されたが深海棲艦を素手で殴り倒す位なら普通の戦艦でも出来ると思うんだが。

 

ーーそもそも海戦で殴り合うこと自体が普通では無いがな。それより今の話、上手くこの鎮守府の者にも伝えた方が良いんじゃないか?ーー

 

あ〜そうか。今来られると此処が戦場になんのか。

けどヴェールヌイ達に迷惑をかける訳にもいかねぇしなぁ……取り敢えず響達の事だけ頼むか。

 

「おいツインテジジィ、ヴェールヌイは今何処に居るか知ってっか?」

 

「ジジィじゃとっ!?うら若き淑女に向かってジジィとはどういうつもりじゃ!」

 

「うるせぇ、喋り方がジジィだからジジィっつったんだよ。いいからさっさと答えろ」

 

「おのれぇ〜……知るか莫迦者っ!執務室でもなんでも勝手に探せば良かろうっ!!」

 

ツインテジジィは不貞腐れながらそう言い残して港を去っていった。

 

「ちっ……仕方ねぇ、聞いて回るか」

 

「そ、その前に執務室にいきませんカー?」

 

「お、金剛にしてはいいアイデアじゃねぇか」

 

「オーゥ……トネには同情しますネー」

 

?何言ってんだこいつは…………ま、それよりも執務室だな。

金剛が何やら呟いていたが大した事じゃ無さそうなので気にせず執務室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────以上が今日の予定だけど、何か気になる事はあるかい?」

 

『いや、問題無いよ。あ、そういやこの前来た彼の経過の方はどうだい?』

 

「う"っ……一応は問題無い、けど……」

 

『けど?』

 

「大和さんに指導が行き届いていなかったせいでちょっと……門長少佐を演習の判定じゃなく中破させてしまったんだ」

 

『なるほど……それで今は彼は入渠中なのかい?』

 

「いや、それが……資材が足りなくて補給だけして貰っている状態なんだ」

 

『足りない?いや確かに余り多くはないけどそれでも各資材二万は残ってたはずだけど』

 

「鋼材が……四万四千必要らしい」

 

『…………そ、そっか……ごめん』

 

「べ、別に司令官が悪いわけじゃ────」

 

「失礼するぜ」

 

話し中だったので常識人らしく聞き耳を立てて待っていたが話が一向に終わらず待ち切れなくなった俺は勢い良く扉を開け放った。

 

「ヘーイ、普通はノックをするのが礼儀ですネー」

 

「と、門長少佐と金剛さん!?な、なにか用かな?」

 

「ん?ヴェールヌイ一人か?話し声がしてたと思ったんだが」

 

「気のせいじゃ、ないかな?此処には私一人しか居ないけど」

 

あれが気のせいだったら俺の耳がやばい事になるんだが。

まあヴェールヌイが言いたくない事なら無理に聞く必要も無いしな。

先程の会話は気にしないことにして本題に入ろうとしたその時。

 

『どうした!?大丈夫かヴェールヌイ!ヴェールヌイっ!!』

 

突如悲痛な叫びを上げる男の声が部屋に響いた。

 

「〜〜っっ!」

 

「「…………」」

 

頭を抱えるヴェールヌイを前に俺達は何も声を掛けられずにいた。

 

『ヴェールヌイっ!どうした?返事をしてくれっ!』

 

「私は大丈夫だから、黙っててくれるかな()()()

 

『えっ!?あ……ごめん、またやらかしちゃった?』

 

声の主は画面の向こうから俺達の姿を確認して、自分が何をしでかしたかを理解したらしい。

 

「別に司令官が悪いわけじゃないさ、だから一旦黙っててくれないかい?」

 

「あ、はい……」

 

「門長少佐、金剛さん。悪いけどこの事は他言無用で頼めるかい?勿論ただとは言わない、修復なら司令官に何とかしてもらうし他に要望があれば出来る限り応えよう」

 

なんだか良くわからんが周りに知られたくない重要なことらしい。

となれば話は早いな。

俺は本題を切り出し秘密を守る対価として響達を此処で事が済むまで護ってもらうように頼んだ。

 

「そんな事が……わかった。けど本当にそれだけでいいのかい?狙われているなら無理せず修理した方が……」

 

「いいんだよ、んな事したらそっちがやってけなくなっちまうだろ?」

 

「それは…………」

 

「だから響達だけは絶対に護ってくれ」

 

「……ダー、彼女らは命を懸けて護ろう」

 

「頼んだ……つってもお前らも沈むんじゃねぇぞ」

 

「勿論、利根川艦隊はもう誰一人沈ませないと決めたんだ。信頼してくれていい」

 

「よし、それなら安心だな」

 

後は俺が奴らを食い止めるだけだな。

数は分からねぇが少なくとも舞鶴の時より多いのは確かだろうな。

 

ーー全員がこちらを狙ってくればまだ何とかなるだろうがーー

 

ああ、だが離島の時を考えるにその可能性は低そうだな。

俺が長門と対策を練っているとヴェールヌイから提案が一つ上がった。

 

「修理の代わりというわけでは無いけれど門長少佐さえ良ければこちらから少佐の方へ支援艦隊を出させてくれないか?」

 

「支援艦隊?いや、そっちは鎮守府の防衛をしてくれれば大丈夫だ」

 

「いや、もちろん第一艦隊と第二艦隊は鎮守府防衛に当たらせるつもりだ。それでも前線で少しでも敵戦力を削れた方が防衛もしやすいからね」

 

ふ〜む、それも一理あるか……。

 

「分かった、だが前線に出す奴には伝えといてくれ。敵艦船は撃沈しないようにな」

 

「どういう事だい?なぜ敵を沈めさせないんだい?」

 

あ〜……まぁそうくるよなぁ……。

あいつらとの契約を話すわけにもいかねぇし……つってもなぁ……。

 

「あ〜……あれだ、あいつらの中にも話せば分かる奴がいるかもしれねぇだろ?」

 

「ふ〜ん……意外に甘いんだね?」

 

流石に無理があったか?

 

ーーそれ以前に海軍で言ったら反逆罪で処刑される様な発言だからな?ーー

 

マジかよ……やっちまったか?

 

「そ。そういう訳じゃなくてな?ほ、ほら!姫級とかは喋るだろ?だからな!」

 

「ふふっ、別に誤魔化そうとしなくてもいいさ。私達も話し合える深海棲艦がいる事は知っているからね」

 

「な、なんだ……そういう事なら────」

 

「ただ、そうじゃない深海棲艦もいる。そこを見誤れば沈むのはこっちだ」

 

「ああ、勿論分かってる。だから沈めずに撃退するのは前線だけだ」

 

「了解、前衛には伝えておこう。それと哨戒機からの報告が入り次第警鐘を鳴らすからそれを合図にしてくれ」

 

「おう、助かる。じゃあそっちの準備は頼んだぜ」

 

前準備は良し、後は来るのを待つだけか……。

 

ーーしかし、気が重い戦いだなーー

 

まあ、奴らが俺を恨むのも間違いじゃねぇからな。

だからっつってこんな所でやられるつもりはねぇよ。

 

ーー当然だ、響を護るべき我々が沈むなんて事あってはならん!ーー

 

ま、そういうこった。そんじゃあ一丁暴れるとすっか!

俺は気を引き締め直すと一人波止場へと戻った。

 

 




利根「吾輩の扱いに対して異議を申し立てたいのじゃ!」

上新粉「それはね………………門長故致し方無しっ!」

利根「む、むぅ……なんじゃその謎の説得力は」

上新粉「私自身は利根さんの事が大好きなので堪忍してつかーさい」

利根「お主が好いておるのはヴェールヌイであろう」

上新粉「もち!ですが私は皆好きですよ?作中に登場してる人は特に」

利根「むぅ……はぐらかされている気もするがまあ良い。これからも精進するのだぞ?」

上新粉「この上新粉!命に変えてもこの作品だけは完結させる所存であります!!」

利根「うむ!その意気じゃ!」



Ps.ガングートさんには次回作(未定)での出演という事でご了承頂きました。


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第五十二番

うーん……やはり書ける時と書けない時の波が激しいのは何とかしたい所ですねぇ。

〜報告〜
第四十五番〜母〜にて松と竹の挿絵を追加しました。
作者による拙いアナログ絵ですが良ければ見てくださいね〜


 波止場へと戻ってきた俺が水平線の先を見据えながら次の戦いについて思案すること一時間。

ふとある疑問が頭の中をよぎった。

 

「…………なんでここに戻って来たんだ?」

 

冷静になって考えてみればまだ響達になにも伝えてねぇし、それ以前に奴らがいつ来るかも分からんのにこんな所で待ってる意味もなかったぜ。

今為すべき事に今更ながら気づいた俺は急いで響達の下へ戻ることにした。

だが、突然鳴り響く警笛に足を止める事となった。

 

「おいおい……幾らなんでも早すぎるんじゃねぇか?」

 

ーー別件か……若しくは既に我々の位置が割れていたかーー

 

その直後、鎮守府中にヴェールヌイと思われる少女の声が響き渡る。

 

『緊急事態発生。翔鶴、榛名、神通、そして門長少佐の四名は大至急作戦準備室へ。四名以外の練度五十を超える艦娘は何時でも出撃出来る状態で各自待機。繰り返す──』

 

俺が呼ばれるって事はどうやら後者の可能性が高いな。

事情の説明も兼ねて響達も呼びに行くか。

 

ーー大至急なのだから急げよ?ーー

 

わぁってるよ、響達も放送は聞いてるだろうし少し説明すれば付いてきてくれるだろう。

俺は響達のいる部屋まで一目散に駆け出した。

 

「響っ!いるか!?」

 

「と、門長っ!?」

 

扉を力任せに開くとそこには驚いた様子の響と刺すような視線を送る電がベッドに腰掛けていた。

 

「どうしたのですヴェールヌイさんに乗り換えた浮気者門長さん、彼女が呼んでるのですよ?早く行ったらどうなのです?」

 

「ちょっ、それは誤解だ……ってその話は後だ、兎に角何も言わず付いてきてくれ」

 

直ぐにでも誤解を解きたい所だが今は何より時間が無い。

電が辛辣だが今は耐えるしかない……。

 

「えっ……と……分かった、行こう電」

 

「……響ちゃんが行くのなら電はついて行くのですっ!ただし、門長さんには後でたっぷりお仕置きを受けて貰うのです」

 

事が終わった後で沈められたり……しない……よな?

得体の知れない寒気を覚えつつも俺は響達を連れて作戦準備室へ急ぐ事にした。

 

 

 

 

 

部屋に入ると五人は難しい顔で既に話し合いを始めていた。

 

「わり、少し遅くなったか?」

 

「というよりミスターは何処に行ってたのですカー?」

 

「テメェには聞いてねぇし何処だって良いだろ」

 

「オ、オウ……ソーリー」

 

「こちらは問題ないさ──っと響達も来ているようだね」

 

「ああ、何も聞かされ無いでってのも不安だろうしな。響達にさっきの話も踏まえて説明を頼む」

 

「分かった、時間はあまり無いから急ぎで集中して聞いて欲しい」

 

そうしてヴェールヌイは俺が先程伝えた事、そして今置かれている現状について説明を行った。

現状としては鎮守府近海に百近くの深海棲艦が突如出現しこっちに侵攻して来ているというものであった。

 

「ただ、意外な事にあれだけの大艦隊だというのに姫級はおろか戦艦や空母すら居ないと言うのは唯一の救いだろう」

 

「その中にリ級改flagshipはいたか?」

 

「ああ、全艦確認出来たわけじゃないけれど凄まじいオーラを放つリ級改flagshipがいたという報告を受けているよ」

 

やはり奴らか……戦艦や空母が居ないっつうのは気になるが恐らくリ級が従える艦隊なんだろうな。

正直話し合いなんてかったりぃ事はしたくねぇが沈めんなって言われてる以上奴らを納得させる以外に方法はねぇよな。

 

「よし、そしたら前衛の奴らは相手を沈めない様に前線を維持してくれ。抜けられた奴は後衛に沈めてもらう」

 

とここで予想通り反論が入った。

意義を立てたのは空母機動部隊旗艦の翔鶴だ。

 

「待って頂けませんか?私達の提督と違い深海棲艦は大破すれば撤退するとは限りません。それなのに沈めずに前線を維持するのは無理があると思いますが……」

 

「わぁってるよ。だからお前達のとこの艦隊が前線を抑えてる間に俺がリ級改flagshipの所まで行って話を着けてくるんだよ」

 

「ですが……話し合いで解決出来るとは限らないのではありませんか?」

 

「勿論解決出来ないと判断した時点で連絡するし、前線を抜けた奴には容赦しなくていい」

 

「しかし……」

 

何時までも渋る翔鶴に対して俺が苛立ちを覚えた辺りでヴェールヌイが割って入り翔鶴に説得を始める。

 

「翔鶴さんの危惧する所はもっともだけれど、彼だって何も無しに理想を述べている訳じゃない。それにリスクがあるにしろ前線を抜けた深海棲艦の撃沈は認めるという妥協案も出しているんだから、これ以上の問答は時間の無駄じゃないかい?」

 

「それは…………そうですね、失礼致しました」

 

「よし、そしたら水上打撃部隊は前線で門長少佐の支援を空母機動部隊は後衛から前線の支援及び前線を抜けた敵の撃沈に当たるように、以上!」

 

「「了解しましたっ!!」」

 

一糸乱れぬ敬礼を見せると三人は部屋を出ていった。

 

「さて、門長少佐も準備が出来次第出撃してくれ」

 

「ああ、だがその前に響達の事なんだが……」

 

「そうだね、彼女達の事は鳳翔さんに頼んでおくよ。響、電、二人ともこっちにおいで」

 

ヴェールヌイが手招きをするが二人は……というより響は一向に動こうとしなかった。

 

「どうした響?」

 

「……私も行く」

 

「おう、だからヴェールヌイについていって……」

 

「違うっ!私も行ってリ級に謝りたいんだ!」

 

「え…………」

 

謝る?響が?どうして?

突然の事に俺は理解ができなかった。

すると響からあの時の事を改めて聞かされる事となった。

 

「守るって言ったのに……すぐ近くにいたのに……私が弱かったから……」

 

「響…………」

 

危険な戦場に響を連れて行きたくはないし、離島の事は全て俺の責任であり響が謝る事なんて無い。

しかし、響が望んでいる事を俺の考えだけで簡単に否定して良いのだろうか。

 

「私が弱い事も、危険な事をしようとしてるのも分かってる。それでも私を連れて行って欲しい!」

 

護りたい者を戦場に連れ出すなんて矛盾している。

だからって大切な者の思いを蔑ろにするのはどうなんだ?

どうすればいい……どうしたら。

 

ーー簡単……とは云わないが一つだけ方法があるーー

 

なに、本当か?

 

ーーああ、今までと違って一緒に居れるのだから守れば良い。違うか?ーー

 

…………全くもってその通りだ。

今更考える事も無かったな。

 

「分かった、一緒に謝りに行こう」

 

「門長っ……スパスィーバ」

 

「良いのかい門長少佐?」

 

「ああ、何があっても俺が響を護る」

 

「分かった、他の二人はどうする?金剛さんは可能なら手伝ってくれると助かるけれど」

 

「勿論ヘルプしますヨー?任せて下サーイ!」

 

「ありがとう、電はどうするんだい?」

 

「う〜ん……電はお留守しているのです。門長さん、響ちゃんを()()()()()()()()

 

「お、おう。分かってる」

 

「そしたら門長少佐達は波止場に向かってて、電は私に付いてきてくれ」

 

「おうよ」

 

「宜しくお願いします」

 

そう言ってヴェールヌイは電の手を取り部屋を出ていった。

 

「そんじゃ俺らも行くか」

 

「うん、行こう」

 

「レッツゴーッ!!って待って下さいネー!?」

 

喧しいルー語使いを放置し響の手を取って俺達は波止場へと歩いていった。

道中響の手の温もりを感じながら内心歓喜に満ちていたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 




進まない!投稿に時間が掛かった挙げ句この展開の遅さ!なんとお詫びすれば良いのやら……(汗)


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第五十三番

気分の波を一定にする方法はありませんかねぇ?

あ、今回は後書きはありません(キリッ
べ、別に面倒な訳じゃないんだからねッ////


鎮守府近海へと展開した俺等を待ち受けていたのは止むことを知らぬ大小様々な砲弾の嵐だった。

 

『これ以上接近するのは困難ですね、この辺りで一度応戦致しましょう!』

 

榛名の提案にヴェールヌイは頷き、すぐさま全体に指示を出し始める。

そんな中、俺は響を背に守りながら歩を進めていた。

 

『門長少佐っ!?今行くのは危険過ぎるっ!』

 

「大丈夫だ、響には至近弾一発たりとも当てさせやしねぇよっ!」

 

『そんな……幾ら何でも無茶だ。一旦敵の戦力を削ってからでも……』

 

なおも静止を促すヴェールヌイに大丈夫とだけ伝えると会話を一方的に終わらせ正面にいるであろうリ級改flagshipを見据える。

 

「ああ、何があろうが俺は響を護るだけだ」

 

俺と響目掛けて飛んでくる砲弾をバットに見立てた連装砲で次々と弾いていく。

 

「なるほど、確かに悪くねぇな」

 

補給中に大和から演習時の話を強制的に聞かされていた時は鬱陶しい奴だと思ってたが、そのお陰でいま響を護れている事だけは感謝してやろう。

 

「門長、魚雷が接近してるよっ!」

 

響の声で俺はふと下を見ると前方から百を超える魚雷が迫ってきていた。

と言ってもヴェールヌイ達の様に全てが一点に向かっている訳ではないので全てが当たる事はない。

俺一人なら構わず突っ込むが、それだと響を巻き込みかねないか。

 

「なら……響っ!こっち来い!」

 

「えっ!?あ、うん!」

 

俺は響を呼び寄せるとその手を取ってそのまま抱き上げた。

 

「ひゃっ!?ちょ、なんなんだいっ!??」

 

慌てふためく響を抱き上げたまま両脚に力を込め、海面を大きく離れていった。

 

「ぴゃぁぁぁぁーっ!!!?」

 

魚雷の群れを眼下に収めながら悠々と飛び越えていく。

数秒して無事着水した俺は軽く放心状態の響を背中に背負い突き進んで行く。

魚雷は回避できたものの前に突出しているからか、はたまた俺の存在に気が付いたからかは不明だが砲撃の勢いは段々と増していった。

 

「ちぃっ……流石の猛攻撃だなちくしょうっ!」

 

どんなに動かせても俺の腕は二本しかねぇんだよっ!

今はまだ響に怪我はねぇがこれ以上進むのは流石に骨が折れるぜ。

火力を減らそうにも響を護りながら反撃出来るほど余裕も無ぇと来たもんだからどうにもならねぇ。

足止めをくらい苛立ちを覚えているとヴェールヌイから再び通信が入った。

 

『門長少佐、無事かい?』

 

「ああ、俺も響も大した損傷はねぇ」

 

『それは何よりだ。どうやら敵の本隊はそっちに狙いをさだめたらしい。現在敵戦力の無力化に務めているから済まないがもう暫く堪えて欲しい』

 

そうか、こっちに集中してるって事はヴェールヌイ達は一方的に攻めれるのか。

だったら(砲撃)が落ち着くまで響を護るだけだな。

 

「響、もう動けるか?」

 

「えっ、と……うん、大丈夫だよ」

 

俺は響をゆっくり降ろすと、ヴェールヌイへ伝える。

 

「わかった、そしたらこっちは任せろ」

 

『済まない、可能な限り急ぐから進軍はそっちで判断してくれ』

 

「おうっ」

 

ヴェールヌイとの通信を終え、響を後ろに下げた俺は引き続き無数の砲弾を弾いていく。

当然全ては弾けないがそこは自身の装甲でゴリ押していった。

そうして防戦を続けること十分弱。

深海棲艦の猛攻は瞬く間にその勢いを失っていった。

 

「やるじゃねぇか」

 

「すごい……あれだけの数の深海棲艦を十分も掛からずに制圧出来るなんて……」

 

『スパスィーバ、我々も伊達や酔狂で鎮守府を背負っている訳じゃないからね』

 

ーーま、演習で体験した練度の高さを考えればこの結果も頷けるものだーー

 

確かにな……無効試合になったとはいえあのまま続けてたらどうなってたかは分かんなかったな。

そんな事はともかく、ヴェールヌイが道を開いてくれたんだ。

さっさと決着(けり)つけてくるか。

 

「さんきゅな。んじゃ、俺達は行ってくるぜ」

 

『了解。ただリ級改flagshipには気を付けた方がいい』

 

「分かってる、この艦隊をまとめてたボスだからな」

 

『いや、鳳翔さんの話では普通の深海棲艦とは明らかに異なる挙動で回避行動を取っていたらしい。そのせいで奴だけは未だ損傷はないんだ』

 

異なる挙動で回避?奴も跳ねたりするって事か…………面白ぇっ!

 

ーー話し合いじゃなかったのかーー

 

あ……わぁってる、話し合いが上手くいかなかった時の事だよ。

 

ーーふぅん?ならいいがーー

 

訝しげに答える長門から意識を逸らし、ヴェールヌイへ返答をする。

 

「分かった、注意しておく」

 

『うん、それじゃあ気を付けて』

 

通信終了後、未だ僅かに飛んでくる砲弾を弾きながらリ級の元へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナタガトナガネ?」

 

そうして十数分程進軍し、漸くリ級改flagshipが視界へと入って来た所で奴の方から呼び掛けてきたのだった。

 

「ああそうだ。そういうテメェは離島の部下か?」

 

「ブカ……エエ、ソウネ。ワタシハアノコノサイショノブカ……」

 

最初の部下か……やはり離島とは親しかったんだろうか。

 

ーーとなると目の前のリ級はお前が大破させた奴の可能性が高いなーー

 

なるほど……そうだな。幸いすぐに事を起こすつもりは無さそうだし少し話してみるか。

俺は近づきながらリ級に質問を投げかける。

 

「なあ、俺が聞いた話だとお前は艦娘の水雷戦隊に撃沈された筈なんだがどうやって生き延びたんだ?」

 

「ソレイジョウチカヅクナッ!……アア、アノトキノクチクカンドモネ。アンナノハギョライノキバクニアワセテカイチュウニテッタイシタダケヨ」

 

どうやらその時のリ級で間違いないらしい。

それにしても海中に潜れるのは便利そうだな。

 

ーー深海棲艦と潜水艦だけの特権だなーー

 

羨んでも仕方ねぇ。それより、生きてたなら離島に伝えれば万事解決だったんじゃねぇか?

そう考えた直後、リ級の方から憎しみと共に答えを伝えて来た。

 

「タダ、キズガフカクマトモニコウコウデキナクナッタワタシハ、キズガイエルマデカイチュウヲタダヨッテイタワ」

 

「そうか、それで連絡も取れなかったのか」

 

「ソウヨ。ソシテウゴケルヨウニナッタワタシヲマッテイタノハリトウデハナク、イキショウチンシタブカタチダケダッタワ」

 

「そうか、そいつらから話を聞いたのか?」

 

「……キイタワ、アナタガリトウヲサラッテカンキンシワタシタチニヨウキュウヲノマセヨウトシテルッテコトヲネッ!」

 

「まてっ!他には聞いてないのか!?」

 

リ級は全砲門を俺に向けて要求する。

 

「アトハリトウニキクワ、サッサトリトウヲカイホウシナサイ」

 

「なっ、まさか……」

 

マジか、まだ離島が沈んだ事は知らねぇってのかよ……。

 

ーー敵対してる相手からこの事実を伝えても果たして信じるかどうかーー

 

火に油を注ぐだけだろうな……残念だが話し合いで解決は無理か。

俺が話し合いだけでの解決を諦めて戦闘態勢を取ろうとしたその時、後ろから響が飛び出し俺とリ級の前に割って入った。

 

「響っ!?」

 

「……クチクカンガナンノヨウナノ。ワタシトヤルツモリ?」

 

「危ないからさが────」

 

「門長は黙っててっ!」

 

あまりの気迫に俺は思わず押し黙ってしまった。

リ級が睨みつける中、響は突如頭を下げて言った。

 

「リ級さん、ごめんなさいっ!」

 

「……ナニ?ユルシヲコウノナラサッサトリトウヲカイホウシナサイ」

 

「あのっ、これから話すことは全部事実だから……信じて欲しい」

 

「響っ!それは──っ!」

 

「黙ってて!!」

 

響が言わんとしてる事に気付いた俺は止めようとするも再度一蹴されてしまった。

 

「門長の危惧してる事は分かってる……でも、ちゃんと伝えなきゃ」

 

 

 



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第五十四番

あ、第三十六番に手書きの挿絵を追加しましたので良ければどうぞ〜


響から事の顛末を聞かされたリ級は押し黙ったままわなわなと肩を震わせていた。

 

「謝って赦される事じゃないのは分かってる……だけど、出来るなら私に償わせて欲しい」

 

俺は今にも飛び掛りそうなリ級を警戒しながらも響の意思を汲み返答を待っていた。

だが、リ級は飛び掛る事も答える事も無く突然その場に崩れた。

 

「ソンナコト……ウソヨ…………シンジナイワッ!」

 

「信じる信じないは勝手だが響の言ったことは全て本当だ。現場にいた奴に聞けば解る事だろう」

 

「バカイワナイデッ!ミトメナイ……ミトメラレナイノヨ……」

 

リ級はゆっくりと立ち上がり再び砲門を俺達に向け始める。

ちっ、これ以上は聞く耳持たねぇか。だったら力ずくで黙らせるだけだ。

 

「響、下がってろ」

 

「でも……」

 

「どのみちあいつは話が聞ける状況じゃねぇ、説得は後だ」

 

「…………うん」

 

響を納得させ後ろに下がらせると、リ級に向けて両手の五十一センチ連装砲を構える。

 

「オマエタチヲタオシテリトウヲトリカエスッ!シズメェッ!!」

 

「俺達を倒しても離島は帰って来ねぇんだよっ!!」

 

「ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイッ!!」

 

リ級が放つ一斉射を連装砲を前に構えて弾き、一気に近づく。

何やら妖精が中で騒いでいるが今は気にしない。

続けて放たれた魚雷は避けずに真っ直ぐに突っ切る事で響に流れ弾が行くのを防ぐ。

 

「シズメシズメシズメシズメェェッ!!!」

 

更に近付き手が届く距離まで来た所でリ級は我武者羅に右腕の艤装を振り下ろした。

 

「生きてたら少し冷静になって話を聞けよっ!」

 

「とながさんもはなしきかないですけどね〜」

 

「ハナセッ!──ナッ!?」

 

俺は左腕でリ級の右腕を受け止め右腕に力を込める。

そして渾身の力でリ級の脇腹目掛けて振り抜こうとしたが、リ級の背後の海中から覚えのある殺気を感じた俺は反射的にリ級の右腕を引っ張っていた。

 

「ほう?良く反応したな」

 

直後、一本の刀がリ級の胸と俺の肩を貫いた。

 

「カ、ハッ!?」

 

「ぐっ……てめぇ……()()の一味だな」

 

「いかにも、だが標的はお前では無い」

 

そういって黒髪がクソなげぇ女は突き入れた刀を九十度捻った。

俺じゃない、つまりリ級かっ!

 

「っと、そうは行かねぇよっ!」

 

俺はすぐさま後ろに飛び退き長黒髪アマの右薙からリ級を離す。

 

「何故そいつを庇う。貴様らの敵だろう」

 

「まあな、だが依頼主との契約なんでな。敵だろうが殺す訳には行かねえんだよ」

 

それに響も負い目に感じてるしな。

此処でこいつを死なせれば響を後悔させちまう。

 

「それでもやるっつうんなら相手になるぜ?」

 

「……いや、止めておこう。どうせそいつはもう持たん。下手に留まって海軍所属の者に見られる様な愚行を犯すつもりは無い」

 

「お?まさかビビってんのかよ」

 

「と、門長っ!」

 

響が止めようとする理由は分かってる。

だがまともにこいつらと相対出来るのは今の内なんだ。

だからこそ一人でも多く奴らを沈めなければならねぇ。

響を、そして電や基地の松達を守る為にも……。

 

「安い挑発だ、生憎貴様の事はあの方に一任してある。私が出る幕ではない、さらばだ」

 

「逃がすかよっ!」

 

長黒髪アマに掴み掛かろうと右腕を伸ばすが……

 

「今のお前では私に触れる事すら叶わぬ」

 

「はっ……?」

 

気づいた時には肘から先が跡形も無く消え去っていた。

そして状況が飲み込めず惚けているうちに長黒髪アマは海底へと消えて行った。

 

「何が……起きた?」

 

「門長!門長っ!早くリ級さんを助けないと!」

 

奴が消えた後も暫く惚けていたが、響の呼び掛けによって漸く我に返った。

 

「お、おう……とにかくヴェールヌイ達の所まで戻るか」

 

「うんっ!急ごう!」

 

俺は響に促されるままに引き上げて行った。

あのアマ……以前やり合った改レ級とはあからさまに格が違った。

あんなのに攻めてこられた時、本当に響達を護れるのか?

 

ーーこれからの事を考えるのなら私はこの身体を離れない方がいいのかも知れんな……ーー

 

その手段は論外だ、響の気持ちを裏切るつもりか?

 

ーーしかしだな……ーー

 

他にも方法はあるはずだ。それに必ずしも戦わなければならないとも限らねぇだろ。

 

ーー…………うむ、そうだな。済まなかったーー

 

ーー(だが、保険は掛けさせてもらおう)ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「門長少佐、お疲れ──ってその右腕はどうしたんだいっ!?」

 

「ああ、これはな────」

 

ヴェールヌイ達と合流した俺達は先程の出来事を説明し、リ級を助けられないかを尋ねた。

 

「刀を持った長い黒髪の深海棲艦……鳳翔さんの報告にあった異常な速度で動き回る黒い影と言うのはそいつの事だったのか……」

 

「黒い影?なんかあったのか」

 

「ああ、相手をしていた深海棲艦がその正体不明の黒い影に次々と沈められていたんだ──っとそんな事よりリ級の事だったね。利根さん、応急修理要員を呼んでくれるかい?」

 

「それは構わぬが……本当に助けても大丈夫かのう?」

 

「大丈夫さ、女神を使うわけじゃ無いからね」

 

「うむぅ……」

 

どうやらツインテジジイこと利根とやらが渋りながらも艤装から応急修理要員を呼び出しリ級の修理を始めたようだ。

リ級の方はどうやら大丈夫そうだが今の話を聞くに他の奴らは全滅だろうな。

ったく、ままならねぇもんだな。

 

「どうやら終わった様じゃな」

 

「了解。それでは皆作戦完了だ、帰投しよう」

 

「「了解っ!!」」

 

横槍が入ったせいで完璧とは言えないが、取り敢えずは響が無事なら万事オーケーだな!

その後は何事もなく帰投を果たした俺は波止場に着いてから初めて金剛が後衛にいた事を知るが、普通にどうでも良かった。

 

 

 

 

 




金剛「ノォーッ!?どうしてワタシがこんなにもエアーなのデスカー!?」

上新粉「いや、メインヒロインは響ちゃんなのに響ちゃんが目立たないのは金剛さんのせいかなって?」

金剛「バッドアンサーデース!ビッキーが目立たないのはユーとフリーダムなミスターのせいネー!」

上新粉「え〜?それはユーちゃんが可愛そうだよ〜」

金剛「お前の事ダヨッ!このファッ〇ンボーイッ!!」

上新粉「ちょっ!?落ち着いて下さい金剛さん口悪くなってる!大丈夫ですって、今後出番が出てきますから(きっと)!」

金剛「……リアリィですカー?」

上新粉「コクコク」

金剛「嘘吐いたらノーなんだからねっ!」

上新粉♪~ <(゚ε゚)>

金剛「Hey motha fucker(おい テメェ)!!!!」


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第五十五番

そろそろ摩耶&松編も書き始め無いとなぁ〜
あ、サブタイトルは未定です。


鎮守府に着いた俺達はリ級を牢へと入れる事なった。

ヴェールヌイ曰く海軍の施設内で深海棲艦を自由に歩かせるには問題が多すぎるらしい。

榛名が監視する中、リ級が収容された牢に響と共に牢に入り話し掛ける。

 

「おう、話は聞く気になったかよ」

 

「テキノテニハオチナイワ、ハヤクコロシナサイ」

 

「それが出来れば苦労してねぇよ」

 

「アナタナラタイハシタシンカイセイカンクライワケナイデショ?」

 

「そういう事じゃねぇ……あ〜……」

 

正直特にこれ以上こいつに話す事ねえな。

契約の事はこっちの話だしな。

俺はちらりと響の事を見やると、響は言いたい事があるらしくおずおずと口を開いた。

 

「あ……あの……()()さんの……こと……」

 

だがそのワードが出た途端、リ級は鋭い視線で響を睨みつけた。

 

「テキノイウコトヲウノミニスルツモリハナイノ……ムダナハナシヲシナイデクレル?」

 

「う、うぅ……ごめん……なさい」

 

ちっ、このアマ……いいぜ、死にたいなら俺が引導を渡してやるよ。

響を泣かせたリ級にトドメを刺そうと拳を振り上げるが、そこで突然身体が動かなくなった。

 

「ナニヨ、ヤルナラサッサトヤリナサイヨ」

 

「……よーし、いい度胸だ。待ってろよテメェ」

 

ーー待たんか馬鹿者がっ!気持ちは分かるが今は手を出せば本当に沈めてしまうぞ!ーー

 

ああ?だから沈めようとしてんだろうが!邪魔すんなっ!

 

ーーここでお前がリ級を沈めたら港湾からの供給が止まるぞーー

 

うっ……だがんなもんあいつらがやった事にすれば……

 

ーー響に罪を背負わせるのか?ーー

 

なっ!?誰もそんな事言ってねぇだろ!!

 

ーーだが此処でリ級を沈めれば響もこの先ずっとこの事を隠さなければならなくなるのだぞ?ーー

 

そ、れ……は…………くそっ、分かった。

だがそれじゃあ響が報われねぇ、奴に信じさせるにはどうすりゃいい。

 

ーー簡単だ、敵の言う事を受け容れないのなら真実を知っている奴の味方の所に連れてけばいいーー

 

味方?そんなん何処にいるんだよ。

 

ーー分からんが恐らく我々の基地近くにまだいるのではないか?ーー

 

基地か……じゃあ目的を終えたらこいつを連れてきゃいいんだな。

 

ーーそういう事だなーー

 

ああ、わかった。

 

「という訳でてめぇは俺らが戻る時に一緒についてきてもらうぞ」

 

「……ハ?ナニガトイウワケナノカサッパリナンダケド」

 

おっと、ついそのままの流れで話しちまったな。

俺は長門と話た内容を簡単にリ級に伝えた。

 

「──っつう事だ、離島の事を知りたきゃそっちで聞くんだな。じゃあ行くぞ響」

 

「え、っとうん!そういう事だから私達の用事が終わったら一緒に行こう、リ級さん!」

 

「…………クダラナイワ」

 

榛名に終わった事を告げ響を連れて牢を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リ級を連れていく?」

 

「ああそうだ、勿論諸々が済んでからだけどな」

 

唖然とするヴェールヌイに俺はそう告げる。

頭を悩ませるヴェールヌイに続けて確認をした。

 

「ああ、それと可能ならリ級を修理してくれねえか?」

 

「へぇっ!?深海棲艦のかい?それは……少し厳しいかな」

 

まあ、当然っちゃあ当然だよな。

 

「分かった、んじゃあそれはこっちで何とかするわ」

 

あいつらが近くにいれば楽なんだが……確かめようが無いしな。

 

「そうして貰えると助かる。リ級の処遇についてはそちらで引き受けるという事で良いんだね?」

 

「ああ、話が早くて助かる。だが頼んでばかりなのも悪ぃな……なんか俺に手伝える事はねぇか?」

 

「え?う〜ん……気持ちは有難いけど今の所門長少佐に動いて貰う程の案件は無いかな」

 

ん?これは体良く断られたのか?

 

ーー門長にしては察しがいいな。普通に考えてお前の様な運用コストが極悪な奴を通常運用する訳には行かんからなーー

 

ま、そりゃそうか。

 

「わかった、まあなんかあったらいつでも呼んでくれ」

 

「そんなに気を遣わなくてもいいさ。前線基地壊滅の報告と鎮守府防衛の報酬とでも思ってくれればいい」

 

そう言ってヴェールヌイは薄く微笑んだ。

俺も笑みを返し、一言礼を伝えた後部屋を出ていった。

さて、後は俺の身体とリ級の修理だけか。

前者は待つしかないからどうでもいいが後者をどうするかだな……

いい案が浮かばず廊下をぶらぶらと歩いていると前から電が駆け寄って来るのが見えたので気持ちを切り替え電を出迎えた。

 

「おー!寂しかったか電ぁ!無事に帰ってきたぞー」

 

しかし、両手を大きく広げ受け入れ態勢を万全に整えた俺の股下を電は滑り込む様にくぐり抜けた。

それだけならまだよかったが滑り込む際に上げていた電の足が俺の主砲(意味深)に全力で衝突したのだ。

 

「響ちゃん!無事で良かったのですっ!良かったのですぅ〜!!」

 

「へ、あの……電?えっと、その……」

 

「ぐぅおぉぉぉぅ……い、電ぁ……」

 

呻き声を上げながらその場で身悶える俺には目もくれず電は響をひっしりと抱きしめていた。

 

 

 

 

「……っはぁ、危うく主砲がおしゃかになっちまう所だったぜ」

 

ちっ、しぶといの奴なのです……あれ?門長さんその腕はどうしたのです?」

 

何か聞こえた気がしたけどきっと気のせいだろう。

()()足が引っかかったに違いない、絶対そうだ。

 

「こ、これはなんか刀を持った深海棲艦にやられたんだ」

 

「はわぁ、痛そうなのです」

 

心配そうに俺の腕を見つめる電を他所に自前の主砲を押さえながら思っていた……こっちの方が被害が甚大であると。

 

「それはそうと響ちゃん、リ級さんとのお話はどうでしたか?」

 

俺に対して関心が薄いのは悲しかったが蒸し返して更に息子を痛めつけらる事を恐れた俺は成り行きを見守る事にした。

 

「それが……聞き入れて貰えなかったんだ。無駄話はするなって」

 

「ふ~ん、無駄話……ですか。それで、リ級さんは門長さんが沈めたんですか?」

 

「いや、基地に戻る時に連れてく為に今は鎮守府の地下牢に収容されてる」

 

「はわわ?沈めて無いのですか……ちょっと用事を思い出したのです」

 

その瞬間俺は気付いた、電が雰囲気が変わっている事に。これは俺が響を遠ざけようとした時と同じだ。

此処で行かせてはならない!

俺は隠す気のない露骨な言い回しで歩き出す電の肩を掴んで呼び止める。

 

「何ですか門長さん?電は忙しいのです」

 

あの時の電と今の電が重なり嫌な汗が流れるが、俺は至って冷静を装いながら長門に言われた事と同じ言葉を電へと伝えた。

 

「──だから一旦基地に連れていく。その後はリ級と港湾達に任せるつもりだ」

 

電は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていたが響に重荷を背負わせたくないという共通の思いで何とかその矛を収めて貰った。

 

「分かったのです、それじゃあ電は響ちゃんと部屋に戻っているのです」

 

そう言うと電は響の手を取り来た道を戻っていった。

ホッと一息ついた後、俺も特にやることも無かったので暫く鎮守府内をぶらぶらしてから部屋へと帰ったのだった。

結局その日は特にいい案が浮かぶ事はなかった。

 

 




もう電ちゃんが門長に対して取り繕う気が無いよぉ……
(´;ω;`)


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第五十六番

こんな時期に風邪を引くとは……デジャブを感じる……
ま、まあ取り敢えずは落ち着いたので執筆再開しました。
遅れを取り戻したい(願望


 リ級の襲撃から一週間が経ったある日、俺はタウイタウイの明石に呼び出され工廠に来ていた。

 

「あっ、どうもお待ちしておりました門長さん」

 

「早速だけどこっちに来てもらえるかしら?」

 

「なんだ、分離する準備が整ったのか?」

 

奥に進むと明石と夕張がカプセルの様な機械の周りで何かの準備をしながら手招きをしていたので、俺は機械に歩み寄りながら呼んだ理由を聞いてみた。

だが、返ってきた答えは俺の予想とは違ったものであった。

 

「いえ、それはもう少し掛かりますが──」

 

「なら出来たら呼べ、俺は戻る」

 

「ちょっと!?待って下さいよ!」

 

ちっ、俺は響や電と親睦を深める方法を考えるのに忙しいんだから余計な事で呼ぶんじゃねぇ。

俺は文句を垂れながら工廠を出ようとしたのだが。

長門によって強制的に動きを止められた上で話は最後まで聞けと長々と説教を受けた。

話の大半は覚えてねぇが─響に愛想尽かされるぞ─という一言により渋々明石たちの話を聞くことにしたわけだ。

 

 

 

「──と、いうわけですが如何でしょうか?」

 

明石が一通り話終えると俺に返事を求めてきた。

実際の所、小難しい話ばかりで殆ど何言ってるか解らなかったが。

まあ解った所だけで要約すると俺と長門を分離させる過程で俺の艤装を展開する方法が見つかったらしい。

 

「んで?艤装が展開出来ると何が出来るんだ?」

 

「え?ええと……海上を航行出来る様になるわよ?」

 

「もう出来てんだろ」

 

「そ……そうよね。後は…………明石さんっ!」

 

どうやらこいつは何も知らないらしい。

夕張が明石に放り投げたので俺も明石に聞く事にした。

 

「そうですね、本来艤装が展開出来ないと航行すら出来ないので夕張ちゃんの言う事も間違っては無いんですけど……私からは門長さんが艤装の恩恵を受けてないと考えられる事をお伝えしますね」

 

艤装の恩恵?今のままでも充分戦えてるのに更に強くなんのか?

 

ーーそれは分からない。しかし奴らから響を護る事を考えれば幾ら強くなっても行き過ぎという事はなかろうーー

 

……確かにそうだな、特に今回相対したあの黒長髪アマから響を護るのは至難の業だろうな。

だからっつって引く気もねぇけどな。

 

「あの~門長さん……聞いてます?」

 

なんとなく呼ばれた気がしたので表に意識を向けると明石が訝しげにこっちを見ていた。

 

「どうした、まさかもう話は終わっちまったか?」

 

「いえ、まだですけど……」

 

「そうか、それで艤装の恩恵ってなんだ?」

 

何やら明石が不満げに目で訴えて来るが気にせず明石に説明を促した。

明石は暫くジト目でこっちを見ていたが、やがて溜め息を漏らしつつポツポツと話し始めた。

 

「……まぁ、別に良いんですけど……。それで艤装の恩恵についてですが、私達の中では私達が行使できる艦艇本来の性能(ちから)の事を〝艤装の恩恵"と呼んでいるんです」

 

「艦艇本来の?つまり海の上を走ったりできるとかそういうのか?」

 

「勿論それも恩恵の一つです。そして恩恵の中には艤装を装備していれば行使できるものと、展開しなければ行使できないものの二種類ある訳なんです」

 

装備?展開?訳が分からなくなってきたぞ……

 

ーー簡単に言えば艤装が()()()状態なのが()()()()()()()状態なのが()()()という事だーー

 

なるほどな……つまり今の俺は艤装が見えない状態ってことか。

……という事は……分かって来たぜぇ?

 

「つまり、海の上を走るのは()()()でも行使できる恩恵って事だな?」

 

だが、自信満々に言い放った俺の推理はむなしく空を切ることとなった。

 

「う~ん……此処までの説明をご理解頂いているのは有難いのですが、と言うよりそれは艤装展開時でなければ出来ないと先程言ったのですが……」

 

「は?」

 

「ま、まぁという事で門長さんは完全に例外ですので先日頂いた戦闘データや身体データから門長さんが現在受けていないと思われる恩恵をご紹介いたします」

 

そういって明石は右ポケットから折りたたまれた紙を俺の目の前で開き始めた。

開かれた紙には色々と書かれていて、明石はその紙を指差しながら説明を続ける。

 

「まず一つ目に門長さんを艦艇と見立てた時の最大推力を十全に使えるようになります」

 

「最大推力を十全に使えるとなんか意味あんのか?」

 

俺の質問に明石は顔に驚愕を浮かべる。

 

「いやいやいや!なにかどころか全てにおいて意味がありますから!」

 

「お、おう」

 

「良いですか?艦娘であろうと人間であろうと歩くのには足を上げる力が必要ですし走るなら大地を蹴りあげる力が、泳ぐなら手で水を掻いたり足で水を蹴ったりする力が必要です。つまり我々が動くのに必要なのがこの推力という力なのですっ!それが十全に使えるというのがどれだけの事かはもうわかりますよねっ?」

 

なんか明石にすっげぇ捲し立てられて腹が立ったが、まあ言いたい事は分かった。

つまりは基礎身体能力が向上するって考えときゃ問題ないだろう。

 

「そいつは理解した。他には?」

 

「へ?あ、はい。次はですね、艤装展開中における眠気や空腹の抑制が行われます」

 

「眠気や空腹の抑制?ずっと動いてられんのか?」

 

「まぁ疲労も溜まりますし燃料も切れますので動き続けると言うのは無理ですかね。それにあくまでも抑制ですので艤装を外した時や格納時に一気にしわ寄せが来ますのでどちらにしろ度を超えた無理はしない方が良いですよ?」

 

そうか、やっぱ完全無欠とはいかねぇよな……だが長期戦も出来ると考えれば悪くもねえか?

 

「なるほどな。で、他にはまだあるのか?」

 

「後はですね……あ~、これについては既に恩恵を受けていたら申し訳ないんですが思考能力、速度の向上ですね」

 

思考能力に速度の向上か……良いじゃねぇか艤装の恩恵とやら。

これさえあれば俺の事を散々馬鹿にしやがった猿女に一泡吹かせる事が出来るってこった。

 

「……あの、最後のは絶対に向上する保証はありませんからね~…………ってダメだこりゃ」

 

「ふっふっふ……覚悟しろよ猿女ぁ……」

 

明石が何かぶつぶつ言っていたが俺は気に留めずに摩耶に一杯食わせる算段を立てていた。

少ししてある程度考えもまとまったので早速明石に艤装を展開できるよう依頼を出した。

 

「お任せくださいっ!では早速施工しますのでこちらで横になって頂けますか?」

 

どうやら明石はこの施工を試したくてうずうずしていたらしく、俺が頼むと既に準備万端の状態の機械に入るよう促してきた。

俺はその機械の中で横になると強めの麻酔が掛けられ数分もしないうちに夢の世界へと誘われていった。

 

 

 

 

 

あんな悲劇が起きるなど露知らず…………

 

 

 

 




艤装の恩恵については他にも色々あります。
ただ、門長は作中で話したもの以外は確実に恩恵を受けているものなので名称と一言を此処に記しておきます。
アクティブ(展開時)
水上航行(作中) 
推力最大(作中)
活動限界(作中) 
高速回路(作中)

パッシブ(装備時)
集中防御(艦艇の装甲を得る)
兵装操作(兵装の操作が可能)
推力活用(最大推力の一割までなら活用可能)
経口補給(燃料を口から補給可能)

細かい所を言えばもう少しあるかと思います。


と、いっても本作の独自設定なんですけどねw


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第五十七番

最近絵を描いてないなぁ……


…………テ……セ……

 

どっからか声が聴こえる……長門か?いや、違うな。

 

……スベ…………コ……

 

あ?何言ってんだ、つかてめぇは誰だよ。

 

スベテ……コワセ……スベテヲ……コロセ……

 

なに訳わかんねぇこと……

 

コワセコロセコロセコロセコワセコワセコロセコワセコワセコワセコロセコロセコロセコワセコワセジャマスルモノヲチカヅクモノヲフレルモノヲスベテッ!!

 

 

 

 

 

ーーースベテコワセチリモノコサズーーー

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、後はこの工程を終えれば施工は完了ですね。

ただ……何でしょうこの言い知れぬ不安は。

何故だかやってはいけない事をしているような……

 

「ねえ夕張ちゃん。ホントに大丈夫かしら?」

 

「何を弱気になっているんですか!これは新しい技術の発展に必要な事何ですよ!?」

 

確かに夕張ちゃんの言う通り前例の無いこの施術を成功させれば確実に技術的発展に繋がるわ。

だけど……ううん、恐れていては進展はしないわね!

 

「ありがとう夕張ちゃん、それじゃあ艤装展開行くわよっ!」

 

私は最後のレバーを一気に下げた。

次の瞬間、門長さん体が光に包まれ徐々に艤装が象られていく。

しかし、その光が収まる前に事件が起きてしまった。

なんと門長さんが横になっている台が突如轟音と共に激しい爆炎に包まれたのです。

 

「くぅっ!?夕張ちゃんっ!大丈夫!?」

 

近くにいた夕張ちゃんに呼び掛けても返事が無い。

すぐに駆け寄ろうとしたけれど目の前の衝撃的な光景を前に足が竦んでしまった。

 

「あ……と、門長……さん?」

 

私がそう呼んだ戦艦棲姫の様な異形を背負ったその存在は私に見向きもせず一直線に歩き始めた。

その存在の進む先にはなんと最初の爆発で吹き飛ばされた夕張ちゃんが立ち上がろうとしている所でした。

 

「夕張ちゃんっ!!」

 

夕張ちゃんは最初ので中破している様だわ。

このままじゃ不味い!早く夕張ちゃんを助けないと……

でもどうやって!?私みたいなただの工作艦に出来る事なんて……

せめて足が動けば!お願い!動いて私の足!

こうしている今もあいつと夕張ちゃんの距離が縮まって行っているの!お願い……誰か…………

 

「ウラァーッ!!」

 

あいつが夕張ちゃんに手を伸ばしたその時、工廠の扉の方から聞き覚えのある掛け声と共にあいつ目掛けて砲弾が突き刺さる。

 

「あ……ヴェ……ヴェールヌイ……ッ!」

 

「大丈夫かい夕張。明石さんも下がって」

 

「ヴェル!ありがと。でもあれは……」

 

「分かってる、門長少佐だろ?支援要請はしてある、だから二人は離れてて」

 

「わ、分かったわ。行くわよ夕張ちゃん」

 

私はこの場をヴェールヌイに任せて傷付いた夕張ちゃんをおぶって安全な場所まで避難する事にしたわ。

 

 

 

 

 

ーside.ヴェルー

 

 

 

 

さて、明石と夕張や工廠いた艦娘・妖精を無事に避難させる事に成功したまではいいが……どうしたものか。

通常の門長少佐でさえ私達の連合艦隊とやり合える実力を持っているのにそれが艤装展開時に暴走したって?

冗談でも笑えないな。

幸いな事に兵装が使えないのか先程から近接戦闘しか仕掛けてこないので辛うじて避難させる時間は稼げたが……正直倒せる気がしないよ。

 

「くっ、これなら!」

 

奴の大振りな叩きつけに合わせて飛び退きながら魚雷を放り投げる。

魚雷は奴の懐で激しい爆発が起こるが、煙が晴れる前にすぐさま飛び掛かって来た。

 

「分かってたけど……やっぱり足止めにすらならないね」

 

奴から距離を置いた直後、翔鶴さんから無線が入った。

 

『こちら空母機動部隊旗艦翔鶴。ポイントαへ到達致しました』

 

『こちら水上打撃部隊旗艦榛名。ポイントβへ到達しましたっ!』

 

「了解した、直ぐにポイントγに向かう」

 

『ご健闘を祈ります。お気をつけて』

 

向こうの準備は出来たようだね、それじゃあ奴を案内しようじゃないか。

 

「こっちだよ、ついておいで」

 

私は工廠のドックへ飛び込みそのまま海へと出た。

奴も同じ様に飛び込み全力で追い掛けてくる。

追い付かれないように距離を保ちながらポイントγまで段々と近付いていく。

 

「こちらヴェールヌイ、後五分で目標がポイントγに到着するよ」

 

『こちら翔鶴、了解致しました』

 

『こちら榛名、了解ですっ!』

 

準備は出来てる、後は誘導するだけ。

しかし、とうやらそう上手くは行かないらしい。

先程まで一切動きを見せなかった奴の艤装が突然動き出した。

 

「なっ!?これは不味い……」

 

この距離で狙われれば避けようがないうえに戦艦の主砲が直撃すれば駆逐艦である自分など一溜りもないだろう。

一応女神はあるにはあるが、それだとポイントγまで奴を誘導する事が出来ない。

どうするか…………はぁ、仕方ない。

 

「こちらヴェールヌイ。ポイントγを私の現在位置に変更する。私は敢えて接近し少しでも奴の足を止める」

 

『ヴェールヌイさんっ!?そんな事は認められません!』

 

「大丈夫だよ翔鶴さん。私は女神を持っているし、予想以上に距離が稼げなかったんだ。これではポイントγに辿り着けずに女神を無意味にしてしまう」

 

翔鶴さんの反対を押し切ろうとするが彼女は一向に認めようとしなかった。

 

『現在位置をポイントγに変更するのは承知致しました。その前に目標の足止めをこちらで行いますのでその間に撤退して下さい』

 

「いや、奴は魚雷の一発二発じゃ止められないから火力は全て集中させてくれ」

 

『しかしっ!』

 

奴に気を配りつつ翔鶴さんをどうすれば理解させられるか考えていたせいで奴の後ろから近付いていく一つの反応に気付くのが遅れてしまっていた。

 

「離れるんだっ!!」

 

だが、その彼女は止まること無く奴に後ろから抱き着いた。

 

「門長ぁっ!!なにをしてるんだよぉっ!!」

 

「だ、だめだ響……今の奴は門長少佐じゃない……離れるんだっ」

 

「そんな事ないっ!……ねぇ門長、私が分かるだろう?長門さん……ねぇ、聞こえてるでしょ!」

 

響の呼び掛けに反応したのか奴は動きを止め響の方を振り向いた。

 

「門長…………ほら、私の事がわか……って……?」

 

だが、響の声は奴には届いていなかった。

奴は響の頭を鷲掴みにすると全ての主砲を向け始めたのだ。

 

「ウラァーッ!!」

 

私は叫びながら撃ち続けた。

奴の注意を惹き付ける為に。

しかし奴はこっちに見向きもせず掴み上げた響を睨み続けていた。

 

「わ……わたしは大丈夫……だよ?」

 

恐怖で震えた声で呟く響。

だがそんな事はお構い無しに遂に奴の主砲が轟音と共に放たれてしまった……

 

 

 

 




こういうの書くのってホント辛い……


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第五十八番

ジャマスルモノハスベテコワス……

 

「門長ぁつ!!なにをしてるんだよぉっ!!」

 

マタジャマガ……コロス……

 

「……ねぇ門長、私が分かるだろう?長門さん……ねぇ、聞こえてるでしょ!」

 

ナンダコイツハ……オマエハダレナンダ……ヒビ……キ?

 

「門長…………ほら、私の事がわか……って……?」

 

ガアッ、メザワリダッ!……コイツハ……コロスッ!

 

ーー目を醒ませ馬鹿者っ!貴様は今何をしているか解っているのかっ!?ーー

 

ナガ……ト…………グゥ……ウルサイ!ジャマスルモノハスベテコワス!!

 

ーー響を護るべき貴様が今誰を手に掛けようとしているのか良く見てみろっ!ーー

 

オレガ……ダレヲ……?ヒビキ……ウゥ……

 

ーーそうだ、響だ!貴様は今響を傷付けようとしているんだぞ!ーー

 

シラナイッ!チカヅクモノフレルモノスベテコワス!!

チリヒトツノコサナイッ!!

ダカラコイツモ────

 

「わ……わたしは大丈夫……だよ?」

 

ア……アア…………アアァァァァッ!!!!

 

ひび……き……

 

 

 

 

 

ひびきぃ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひびきっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に主砲が轟音を響かせ放たれた……

黒煙が身を包み一寸先どころか自分の姿すら分からない。

目の前で拡がる炸裂音により聴覚も役に立たない。

硝煙の匂い以外を感じる事も出来ない。

それでも…………

それでもこの胸に抱える小さな温もりだけはしっかりと感じていた。

 

「ほら……大丈夫だった……よ?」

 

響は震える体を抑え顔を上げると俺に笑顔を作って見せた。

 

「響っ……俺は……すまん…………何があっても護るなんて言っておきながら……済まな……い」

 

そんな響に俺はただ謝る事しか出来なかった。

それでも響は俺を抱き締め返して言ってくれた。

 

「それでも門長は護ってくれた。それに…………初めて会った時ほど怖くは無かった……よ?」

 

「響……ひびきぃ…………っ!」

 

柄にも無く俺の眼から零れ落ちる涙が治まるまでの間、響は優しく微笑みながら背中を擦り続けてくれていた。

 

 

 

 

 

 

──sideヴェル──

 

 

 

 

二人の成り行きを見届け、安心している所に翔鶴さんから通信が入った。

 

『ヴェールヌイさん、こちらからでは詳細が確認出来ないのですが目標は現在どういった状況でしょうか』

 

ああ……翔鶴さん達には聞こえてないから仕方ないか。

私は通信を第一艦隊から第四艦隊に繋ぎ、作戦の完了を伝える。

 

「目標の無力化は成功したよ。作戦は完了、全員ご苦労だった。各自帰投を開始してくれ」

 

『『了解っ!!』』

 

さて、門長少佐も落ち着いたみたいだし話を聞きに行きますか。

 

「調子はどうだい?門長少佐」

 

彼等の元へ近付き軽く挨拶をすると彼は真剣な表情で半壊した工廠を見つめながら尋ねてきた。

 

「なぁ……()()は俺がやったのか?」

 

私は一瞬どう答えるべきか考えたが、嘘偽り無く答えることにした。

 

「そうだね。ただ中破してしまった夕張以外の皆は無事だからそこは安心していい」

 

「そうか……やはり暴れちまってたか……すまん」

 

そう言って彼は私に頭を下げた。

 

「いや、元はと言えばこちらが余計な事をしたせいなんだ。気に病まないでくれ」

 

私はそう言って彼を慰めるが響を手に掛けようとした事が相当堪えているのか彼は未だ浮かない顔をしている。

 

「門長少佐。ここまでの……記憶が途切れるまでの経緯を聞かせてくれないか?」

 

そんな彼に対して心苦しく思いながらも私が尋ねると暫くして彼は少しずつ話し始めてくれた。

 

「……艤装の展開を出来るようにするっつうんで明石の奴に言われて作業中は寝てたんだ。そしたら…………不意に聞いたことも無い様な声が俺に呼び掛けて気やがった……」

 

──スベテコワセチリモノコサズ──

 

それを聞いた途端に意識が途切れ次に気が付いた時には響に向けて引き金を引いていたという事らしい。

つまり長門以外の憎悪に塗れた存在が艤装の展開を切っ掛けに門長少佐の内側から表に出てきたか。

艤装本体がその存在という可能性も無くはないが現在門長少佐の意識がある状態で艤装が展開しているのを考えると可能性は低いかな。

後は…………

 

「ごめんな響、痛かっただろう?」

 

「大丈夫……前に電が言ってた様に私は長門さんも門長も信じてたから」

 

「響…………ありかとな」

 

まぁ、これはないだろう。

こういう事は後で明石さんに調べて貰う事にしよう。

 

「さぁ、取り敢えず鎮守府に戻ろうか」

 

「ああ…………中破させちまった夕張の奴にも謝んなきゃなんねぇしな」

 

「それはこちらの……まあ夕張も気に病んでるかも知れないから御見舞に言って貰えると有難いかな」

 

それと響、門長少佐の発言が余りにも意外だったとしてもそんなにも驚愕を顔に浮かべなくても……

流石に可哀想じゃないかな?と思いながら響の頭を撫でながら帰投するのであった。

 




友人のとある手伝いをしていたので……というのを口実にしていたら投稿がおそくなってしまい申し訳ありませんでした!
手伝っていたのは事実ですが書く時間は充分あったんですよねぇ……

とまあこんな不定期更新な作品ですが読んで下さる皆様の為にも失踪だけはしないようにしっかりとした形で完結させたいと考えておりますのでこれからもどうぞ宜しくお願い致します。


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第五十九番

夏コミ……はぁ、もうあんな人混みには入りたくないですね(満身創痍)



響達と共に工廠に戻って来た俺は自分がやらかしたと思われる惨状を目にした。

見上げれば夜空の星が一望でき、周囲を見回せばそこら中の壁が崩れ落ちている。

そして何かを引きずった様な乾き切っていない赤いシミ、ヴェールヌイの話を聞く限り夕張のものなのだろう。

 

「……ヴェールヌイ、何か俺に手伝える事はあるか?」

 

だがヴェールヌイは俺の申し出に対して首を横に振って言った。

 

「その気持ちだけで充分さ。実際私達も明石さんと妖精さん達に任せるしか出来ないからね。それよりも……今は安定してる様だけど一応明石さんに調べて貰った方がいい」

 

「つっても今のあいつにそんな余裕は無ぇんじゃねえか?」

 

「そうだね……それなら伝えるだけ伝えておくよ」

 

「ああ、じゃあ悪い。俺は夕張んとこ行ってくる」

 

「分かった、夕張なら多分まだ病室に居ると思うけど場所は分かるかい?」

 

「大丈夫だ。それと頼んでばっかで悪いが響を入渠させてくれないか?」

 

「わ、私も一緒に夕張さんに謝りに行くよっ!」

 

あんな目に合っているのにまだ俺に付いてきてくれるのか……響。

響の心遣いは嬉しかったがせめてあの声の主が分かるまでは俺は響の傍に居るべきではない。

俺はしゃがんだまま響の頭を撫でながら諭す。

 

「ありがとな、でも俺のせいで響も怪我してるだろ?それに夕張に響が謝ってもあいつが困惑するだけだ。だから今だけは俺の言う事を聞いてくれないか」

 

「……うん、そう……だね」

 

響は気を落とすも渋々納得してくれた様だ。

そう……これでいい。後で金剛辺りにでも俺から響を遠ざける様に言っておこう。

そうして俺は響に背を向け夕張が居るであろう病室へ向かった。

 

 

 

 

 

病室に向かう途中、中庭のベンチに座る夕張の姿を見つけたので俺は中庭に出て夕張に声を掛ける。

 

「おい、もう出歩いて大丈夫なのか?」

 

「うぇっ!?とととととながさんっ!??ど、どうして?工廠で明石さんに診てもらっていたんじゃ!?」

 

「あいつなら忙しそうだったんでな、一段落着いたら調べて欲しいとヴェールヌイが明石に伝えてくれている」

 

「へ、へぇ〜。そっかぁ……」

 

未だに動揺している様子の夕張に此処にいた理由を尋ねる。

 

「お前こそこんな所でなにしてんだよ。怪我はどうした」

 

「えっ、と……私も艦娘だしあれぐらいなら気にする程じゃ無いわ?ただ…………」

 

先程迄の慌てた様子とは一転、夕張は酷く落ち込んだ様子で言葉を少しずつ紡ぐ。

 

「あの……本当に…………今日はごめんなさい」

 

「謝んなきゃなんねぇのは俺の方だ、お前が謝ることなんてねぇだろ」

 

しかし夕張は首を横に振って否定する。

 

「違うの、艤装の展開工程に入る前に明石さんが中止しようとしたの。今思えば明石さんはこうなる事を予感してたのかも知れない」

 

「そうか。だがやったって事は明石が大丈夫だと思ったんだろ?」

 

「ううん、中止しようとした明石さんに私が促してしまったの……『技術の発展に必要な事』なんて尤もらしい言葉を並べてね」

 

なるほど、そんなやり取りがあったから責任を感じてるのか。

 

「だからってお前が気に病むことじゃねぇよ。俺の意思で明石にやって貰った事だし、その結果暴走してお前や工廠をあんなにした挙げ句に響すら手に掛けようとしたのは間違いなく俺の身体だ。だから……こっちこそ……その……悪かった」

 

「…………っ!?」

 

俺頭を下げて謝った。

少しして頭を上げると夕張は目を丸くしたままこっちをみて固まっていた。

 

「…………なんだよ」

 

「へっ?ああとごめんっ。門長さんって人に頭を下げる様な印象が無かったからびっくりしちゃって……」

 

何なんだよ、響にも物凄い形相で見られたがそんなに意外か?案外頭下げてると思うんだけどな……

 

ーー響やヴェールヌイの様な駆逐艦にはなーー

 

長門か、ああまあ確かに考えてみればそうかもしれねぇな。演習の時も大和にと言うよりヴェールヌイに謝ってる感じだったしそもそも頭下げてはねぇな。

まああれはあいつもルール聞いてなかったみたいだしどっちもどっちって感じだったからなぁ。

 

ーー……ふっ、まあ悪い事ではないし別にいいのでは無いか?ーー

 

まあ、それもそうか。

 

「あ、あの……門長……さん?べ、別に悪気があった訳じゃ無くてその…………」

 

ふと気付くと夕張が不安そうに俺を見上げていた。

はぁ、またこのパターンか……

 

「あ〜、ちょっと考え事してただけだから気にすんな」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「ああ……とにかく、伝えたい事はそれだけだ。じゃあな」

 

そうして俺は中庭を後に工廠へと戻って行くのだった。

 

 

 

突然聞こえた謎の声……もし明石に頼んでも解決出来なかったら俺は一体どうすればいい…………

 

 

 




門長が抱える爆弾を果たして明石は取り除く事が出来るのか!?
次回「門長視点ではありません。そしてこれはタイトルではありません」

ご期待下さい!!程々に!!


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第六十番

今回はスラスラ書いて行けました!(尚投稿間隔はお察し)


ヴェールヌイさんと一緒に入渠を終えた私はそのまま付いていくように工廠へ戻ると応急的に修理された屋根の下で診察台に腰を掛ける門長とその横に立つ金剛さん。そして険しい顔つきでモニターを睨む明石さんがいた。

 

「お疲れ様。明石さん、何か解ったかい?」

 

「あ、ヴェールヌイさんに響ちゃんお疲れ様です。えぇ、まだ確証がある訳では無いんですがおおよその原因は……」

 

門長が暴走した原因……確か声が聞こえたって言ってたけど。

もしかしてその声の主が解ったのかな?

私は全神経を集中させて明石さんの声に耳を傾けた。

けれど門長は私に聞かれたくないのか金剛さんを呼んだ。

 

「その前に……金剛、響を電の所へ案内してやってくれ」

 

「ミスター……オーケー、行きましょうヒビキ」

 

「嫌だっ!」

 

私の事を大事にしてくれてるのは分かってる。

でも……もう、嫌なんだ……助けられてばかりで……護られてばかりで…………私だって門長や皆の力になりたいんだっ!

私は感情のままに金剛さんの手を振り払ってしまった。

 

「っ!?ヒビキ……」

 

「あっ、ごめんなさい……でも……私は出ていかないよ。此処で話を聞いて、そして一緒に考えるんだっ」

 

「…………なあ、響」

 

「な、なんだい?」

 

先程まで苦り切った顔をしていた門長は私の事を見ながら真剣な表情で口を開いた。

私は思わず一歩引いてしまいそうになるのを堪えて聞き返すと門長は暫くして話し始めた。

 

「俺はな、例え嫌われようともお前を護りたい。幸せになって貰いたい。それは今でもそう思ってる」

 

「う……うん」

 

「だがな、本音を言うと響に好かれたいし響にとって欠かせない存在で居たいんだ」

 

「それならっ──」

 

門長も長門さんも大事な仲間だし恩人だ、もう嫌いになんてなれるはずが無い。

そう口にしようとしたが門長の次の言葉によって止まってしまった。

 

()()()()()()()()()()

 

「えっ?」

 

ここまでだって?つまり門長にとって私はもうどうでも良いって事なのかい?

そんな……何で…………

 

「う、そ……だよ、ね?」

 

「本当だ、俺は長門と離れたら別れる。後は長門や金剛達と仲良く暮らしてくれ」

 

なっ……嫌いになったの?…………私が我が儘だったから?嫌……どうして……なんでだよぉ……。

訳が解らない……もう……嫌だ…………こんな所に居たくないっ!

 

「……っ!」

 

「ヒビキ!?」

 

工廠を飛び出し訳も分からず走った。

色々な人達にぶつかったけどその度に立ち上がりただひたすらに走り続けた。

やっと……やっと信じる事が出来たのにっ!

こんなのって酷いよっ……馬鹿…………門長のバカぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どれ位走っただろうか。

気が付くと日は沈み辺りは仄暗い闇の色が姿を現し始めていた。

辺りを見回すと艦娘の姿は無く人間が通りを忙しなく駆け回っている。

 

「そっか……いつの間にか鎮守府の外に出ちゃってたんだ」

 

少し先にさっきまでいた鎮守府が見える。

でももう戻りたくない……違う、戻る場所なんてないんだ。ずっと門長が護ってくれていたのに対して何もして来なかった癖に自分が信じたから信じて欲しいなんて虫の良い話がある訳ないじゃないか。

きっと門長だけじゃない、金剛さんも長門さんだってこんな私に呆れてるさ。

 

「はぁ……これからどうしよう」

 

もう鎮守府には戻れない……だからと言って艦娘である私が外でまともな生活を送れるとは思えないし……

 

「おい、貴様駆逐艦響だな?こんな所で何をしている」

 

一人途方に暮れていると突然背後から男に呼び止められ私は慌てて振り返るとそこには海軍のものである白い制服に身を包んだ男が立っていた。

 

「あ、え……ええと」

 

何処かの司令官?と、とにかく何か言わないと怪しまれちゃう!

 

「た、ただ今司令官の護衛として街に出ております!」

 

あわわわっ!?違う、これじゃだめだ!

どうしようどうしようええと……

 

「なに?貴様の司令官は何処だ」

 

「ああええと……その……」

 

「貴様……もしや脱走兵か?」

 

その瞬間、全身の血の気が引いた。

艦娘の脱走兵は即時解体。つまり人間で言う死刑宣告の様なもの。

嫌だ……恐い……しにたくない。

 

「ひっ!?ちちち違うっ!」

 

「待て!逃がさんぞ!」

 

逃げたそうとすぐ様振り向いて走り出すがその前に腕を掴まれ引き戻されてしまった。

 

「なんだ、艤装なしか。なら刃向かえると思うなよ?」

 

いや……嫌だ……

 

「おい!無駄な抵抗するな!」

 

「いやっ、嫌だ!誰か、助けてっ!門長ぁ!!」

 

「いい加減にしろ!貴様みたいな脱走兵を助ける奴なんか居ない!」

 

そう……だ……。

門長が私を助ける理由なんてもう無いんだ……なのに、私はまだ門長に甘えようとして……

 

「は……はは……」

 

「なんだ、イカレやがったか?まあ連行が楽で良いが」

 

司令官も舞鶴の皆はもう居ないし門長達にも見放された。

私が此処で抵抗する意味なんてもう無かったんだ……。

 

「ははは……ねぇ、私はこの後どうなるんだい?」

 

やっぱり聞いてる通り解体されるのだろうか。

それとも拷問でも待っているのだろうか。

……もうどうでもいいか。

 

「なんだ、そんな事も知らんのか。脱走兵は──」

 

そこでその男の声は途絶えた。

更には掴んでいた手が私の腕から離れていく。

何が起きたのだろう?

私が俯いていた顔を上げると……

 

「脱走兵は俺と一緒に鎮守府に戻るんだぜ?」

 

「と、門長っ!?」

 

そこには地面に伏して気絶している男と手を差し伸べる門長がいた。

だけど素直には喜べない……。

だって門長にとって私は要らない子なんだから、きっと解体されるに違いない。

 

「別にわざわざ来なくたって私は脱走兵として解体されるんだから良いじゃないか!」

 

「何言って──」

 

「もうここまでだって言ったじゃないか!門長の言う通りにならない私なんて要らないんだろっ!!」

 

もう放っといて欲しい、折角諦めようとしてるのに変に期待させて心を揺さぶらないでくれ…………。

 

「裏切られるのは嫌……だ……」

 

「響……ありがとな」

 

「えっ?」

 

なんでありがとうって……

 

「そしてごめんな。俺の事をそんなに信じてくれてたなんて思わなかったんだ。だからああやって突き放す風な言い方をすれば俺の事なんて見限って長門達と楽しくやって行けるんじゃないかと思ってたんだ」

 

「そんなの……いきなり言われたって……」

 

「だよな、長門を含めあの場に居た全員に怒られたぜ。『あれなら子供じみた悪口の方がまだマシだ』ってな。結局あの中で響の事を分かってなかったのは俺一人だったって事だ……はは、ごめんな響」

 

「で、でも見限られたいって言うのは私の事なんてどうでも良くなったからじゃないのかい!」

 

そうじゃなきゃ門長が私に見限られたい意味が分からない。

けれど門長はニッと口角を上げながら尚もつづける。

 

「まぁ、普通はそうなるわな。だがな?俺は一言も響の事を嫌いだなんて言ってないぞ?」

 

「で、でもそれもここまでだって……」

 

「ああ言ったな。響に好かれたいし響にとって欠かせない存在でいたい……でもそれもここまでだってな?」

 

へ?つまりどういう事?

 

「な、何が違うんだい。結局言ってる事は」

 

「全然違うぜ?響に好かれ、そして欠かせない存在でいる事を諦めなければならない理由が出来てしまったんだ。そしてそれこそが重要で、更に言えば本当なら響を突き放してでも隠しておきたかった話だ」

 

私に隠しておきたかった話?

 

「あっ、もしかして門長が聞いた声の……」

 

「流石だな、ご名答だ」

 

そう言って私の頭を撫でると門長は先程までの軽い雰囲気とは打って変わって真剣な表情で話し始めた。

 

「そう、これは明石の所の検査結果と長門の話を併せて夕張達にも手伝って貰って行き着いた一番可能性の高い推察なんだがな……あの謎の声というのはどうやら俺自身の一部なんだそうだ」

 

「門長の……一部」

 

「ああ、正確には俺と長門の負の感情の集合体の様なものらしい。長門が奴らと戦う時の保険として自分の魂を意識が保てるギリギリまで改修したらしいんだが、その一部がどうにも深海棲艦に近い魂の構成に変異した結果が謎の声とあの艤装って訳なんだ」

 

「門長と長門さんの負の感情が深海棲艦化したって事?」

 

「そうだ。更に言えば魂の一部が変異してる所為でそこだけ取り除くって事が出来ないらしい。まあだからと言って長門がした事は間違いだとは思っていない。事実今の状態でもあいつらに勝てるかは五分五分って所だしな」

 

取り除く事が出来ない。

つまり門長がまた暴走してしまうかも知れないという事?

確かに怖いけど……思い出すだけで背筋が凍りつきそうになる……だけど…………

 

「わ、私は……門長を信じる。だから……」

 

みんなで一緒に戻ろう?

そう口にしようとしたけど門長は哀しそうに首を横に振ったんだ。

 

「確かに前に電が言っていたように信じる事は大事かも知れない……けどな、駄目なんだ。俺が俺を信じられねぇ。響にだけは手を出さないと確信を持っていたにも関わらずあと一歩間違えてたら響をこの手で沈めてしまう所だった」

 

「で、でも大丈夫だったじゃないかっ!私はこうして生きてる!」

 

「だが次も大丈夫だなんて保証はない!」

 

「そんな事!そんな……こと」

 

門長がちゃんと話してくれた……なのに私はやっぱり何も出来ないの?

どうすれば……どうすれば助けられるの!

 

「……響は優しいからな。本当の事を話したら俺みたいなのでも心配して悩んじまうんじゃないかって思ったから出来れば言いたくなかったんだ」

 

私に心配させない為にわざと嫌われようとして?それなのに……。

……何か……何か私に出来る事が……何が出来るかは……分からない……けど。

 

「…………約束して」

 

「約束?」

 

「ああ、門長が自分を信じれる様になって必ず帰って来るって。絶対に諦めないって……」

 

「響…………解った、コイツを何とかしたら必ず戻って来る。だから皆と待っててくれ」

 

「信じてるよ」

 

今の私にこれ以上出来る事はきっと無い。

だから今は門長が早く戻って来る様信じて待つんだ。

 

「……ああ、それじゃああいつらも響の事を心配してるし鎮守府に戻るか!」

 

「そっか、皆に謝らないと」

 

でも良かった、門長に見捨てられた訳じゃ無かったんだ……よね?

まだ少し不安はあるけれど、また門長を信じてみたいと思い鎮守府までの帰り道を手を繋いで歩いて行った。

 




響を連れ去ろうとした名も無き軍人に黙祷!
m9(^Д^)

軍人「いや、死んでねぇっておいこらっ!!」


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第六十一番

上がったぁ!……あれ?二話ともこっちだ……まあいっか!

白雪「…………は?」

す、すいません転これも頑張ります……


響と約束を交わしたあの日から一週間、俺は工廠で響達が集まるのを椅子に座って待っていた。

 

「うむ、遂にこの日が来たか……胸が熱いな」

 

「そうだな」

 

「色々あったが無事にここまで来れたな……」

 

「俺の方は解決してないがな」

 

「……そうだな、済まない」

 

「冗談だ、気にすんな」

 

「うむ……だが、本当に行くのか?」

 

「まあな、これも響の為だ」

 

「そうか…………」

 

それ以降そいつは口を開くことは無く時間だけが流れていき、やがて外がにわかにざわめき始めた。

 

「お待たせしました!本日は遠路遥々来て頂きました皆様の為に素晴らしいものをご用意致しましたっ!」

 

「用意って……私は商品か」

 

そいつは不満げに呟きつつも緊張した面持ちで待機している。

だがまあ響達の話し声を聞く限り気付いては無さそうだな。

…………電は気付いてるかもしれんが。

 

「さあさあ皆さん!こちらの扉にご注目ぅ〜!!準備は良いですか〜?それではどうぞおいでくださいませ!」

 

明石から合図が掛かる。

 

「出てこいってよ」

 

「う、うむ……少し緊張するな」

 

そう言いながらもそいつは立ち上がり扉を勢い良く押し開けると腕を組み、悠然たる立ち姿で響達の前に出ていった。

 

「長門型一番艦長門だ、久し振りだな。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」

 

「な……がと……さん?」

 

「無論、私が長門だ。忘れてしまったか?」

 

直後、響は長門に全力で抱きつき嬉しさのあまり泣き出して長門の腹部を涙で濡らしていた。

 

「長門さんっ!長門さん!うぅ……良かった……また、会えた……」

 

「響、今まで辛い思いをさせてしまって済まなかったな」

 

長門は優しい目で響を見つめながらその頭を優しく撫でた。

 

「ううん……逢いたかった……ずっと逢いたかったから…………うぅ……うわぁぁぁぁぁん!!」

 

そうして堰を切ったように大声で泣き出す響を長門は何時までも優しく撫で続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、響が落ち着きを取り戻した所で話を切り出そうとする長門を遮るように金剛が手を上げた。

 

「ヘイ長門、一つ聞いても良いですカ?」

 

「ん?どうした金剛」

 

「あ、あの……このタイミングで非常に言い辛いですケドネ?本当に舞鶴第八鎮守府の長門で間違いありませんカー?」

 

ったく、このルー豆柴は余計な水を差しやがる。

空気を読まない質問に長門は眉を顰めつつもルー語使いに対して答えた。

 

「その通りだ、貴様に裏切られた舞鶴の長門だが?」

 

「そ、それは…………長門……ごめんなサイ」

 

頭を下げる金剛にそれを睨み付ける長門。

そのまま時が止まったかのように誰一人として動かずにいた。

 

「……………………ぷっ、あっははははは!!」

 

だが、沈黙に包まれた空間に耐えきれなかったのか突如長門が吹き出して笑い始めた。

 

「長門……?」

 

「はっはっはすまんすまん、前もって準備しておいたのだ。金剛ならきっと疑うと思っていたからな」

 

突然の事で頭が追い付いていないらしく頭に疑問符を浮かべる金剛に長門は続けた。

 

「安心しろ金剛。お前の気持ちは十分伝わったし私が戻れるように協力してくれた事については本当に感謝している、ありがとう」

 

「オォ……ナガトーッ!!」

 

「はっはっは、お前も私の腹で泣くか?」

 

「うっ、ぐすっ……このままでいいネー」

 

そう言って長門をしっかり抱き締め嗚咽を洩らす金剛を眺めていた響は少し膨れてる様にも見えた。

 

「響、長門が空くまでで良いからこっちに来るか?」

 

そこで俺が冗談混じりに響に尋ねると響はいつもの様に頷いて……()()()()

 

「……長門さんが空くまで……だから」

 

お……お……ウオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッッッッッッッッッッッッ!!

響が!響が自分からおおお俺の左手を!にぎにぎにぎ握ってるぅうううっ!!!

遂に……ついにこの日が来たっ!

長門の代わりだとかそんな事はどうでもいい!!

感謝っ!愛しき天使に感謝!

 

「と、門長っ!?」

 

「うぐぅ……ズズっ……何でもない……うっぐ……大丈夫だ……」

 

「えっ、と……そう……かな?」

 

おぢづげ俺っ!響が引いでるぞ!

顔面から今にも溢れ出しそうな体液を堪えながら右腕で顔を覆った。

 

「う、うわぁ……」

 

「引きすぎて基地に戻れるレベルでドン引きなのです……」

 

明石と電にこれでもかと言うぐらい引かれているがそれも仕方ない事だろう…………明石は赦さんからな。

結局金剛と俺の所為で収拾が着かなくなってしまったので長門の話とこれからの事についてはまた明日話す事となりその日は解散した。

響?勿論長門と電と一緒の部屋にいるぜ?

しかし!今日はそんな事気にならないくらいに気分が良いんだ。

同時に俺の中の決意が揺らいだ気がしたが気にせず部屋に戻り安らかな眠りにつく。

 

……例え決意が揺らごうが俺の進む道は変わらねぇんだ。

 




門長のマジ泣きとかドン引きですわ〜

門長「なぁ、五十一センチ徹甲弾と十五・五センチ徹甲弾、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

いやぁ……どっち付けても私は元気100倍にはなりませんよ?

門長「なるほどどっちもか……良いだろう欲張りめ」

え、ちょ言ってな────

門長「問答無用だぁっ!」



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第六十二番

良いペース!この調子で行きたいですね!

門長「どうせ一時的なもんだろ?」

そそ、そんな筈はっ!?


長門が俺から出ていった翌日の明朝。

 

「うわあああああああっ!?」

 

突如飛び込んで来た響の叫び声で目覚めた俺は急いで隣の部屋に向かいその扉を蹴破った。

そこには驚愕を浮かべる響と響に駆け寄り目を丸くする電、そしてその二人の視線の先には黒髪ストレートの駆逐艦程の見た目の少女、()()が眠たげに目を擦っていた。

 

「んぅ……何なのだ?」

 

「ななな長門さんが……」

 

「ち、縮んでるのです……」

 

「なんだ、まだ言ってなかったのか」

 

つうか響達は良く分かったな。俺なんか最初気付かなくて危うく抱き締めそうになったぞ?

 

だが長門(小)はまだ起きたばかりで頭が冴えないらしく半眼でぼけーっと辺りを見回していた。

目覚めるのを待つのも面倒なので長門(小)に歩み寄り目の前で勢いよく両手を叩いた。

 

「ふぁっ!?な、なんだ!……ああ、門長か。脅かすな……全く」

 

「何時までもボケボケしてるからだろうが、早く響達に説明してやれ」

 

「うむ?まだ話してなかったか……分かった、取り敢えず皆を集めて工廠に行こう。話はそれからだ」

 

俺達は制服に着替えて金剛を呼び出すと、その足で工廠へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

「あ!皆さんおはようございます!」

 

「おはよう明石、早速で済まないが私の艤装を用意してくれないか?」

 

「ああ、昨日のお話の続きですね?わっかりました!」

 

明石が奥に入ってから数分後、そいつが持ってきたのは四十一センチ連装砲が四基八門搭載された間違いなく長門型の艤装であった。

 

「うむ、助かる。これで話が出来るな」

 

長門(小)がその身体には不釣り合いな艤装を腰に装備するとその身体はたちまち光に包まれ形を変えていく。

そして光が収まる頃にはその姿は元の長門の姿へと戻っていた。

 

「も、戻った……?」

 

「うむ、今ので何となく気付いているかも知れんがギリギリまで門長に改修を掛けた影響か艤装を装備してる状態でしかこの身体を維持出来なくなってしまったらしい」

 

「でも、昨日は部屋に戻った後も縮んで無かったじゃないか」

 

響の指摘に長門は少し考えてから返した。

 

「うむ、恐らくだが艤装からの供給が暫く残っていたのだろう。それと少しややこしいんだが縮んでる間は大元の記憶の一部しか持っていないから少し話が噛み合わない事もあるだろうし小さい私は記憶力もあまり良くないから用がある時は艤装を着けるように言って貰えると助かる」

 

確かにややこしい……だが待てよ?それならあの長門(小)はこいつとは別物と考えても良いんじゃないか?

ククク……それなら小さい内に抱き着いても問題は無い筈だ!

 

「ああそれと解ってるとは思うが衝撃的な出来事は記憶に残り易いからな?門長よ」

 

「……べ、つに何も考えてねぇよ!」

 

「どうせ小さい私になら何しても大丈夫だとか考えていたのだろう?」

 

こいつ……俺の思考を読みやがったな?

しかも響が聞いてる前で口にするとはやってくれるじゃねぇか……まあ今日は特別に赦してやろう、お陰で話しやすくなったしな。

 

「まあ、そんな事はどうでもいいんだ」

 

「否定はしないんだね?」

 

「ゔっ……ま、まあ良いじゃねぇか。」

 

響の指摘を濁す事によってその場にいた全員が白い目を向ける中、俺は咳払いを一つして話を始める。

 

「んで、これからの話なんだがな……リ級を港湾達に預けたら俺一人で不知火が居た横須賀鎮守府に行こうと思う」

 

「ホワッツ!?まさか復讐するつもりですカ!?」

 

「はっはっは、やるなルー豆柴、面白い事言うじゃねぇか。まあ目的としては俺の暴走を止めに行く」

 

「オ、オォ……つ、つまりアカシの所に行くという事でしたカ」

 

「ああ、だから問題無い。解決したら基地には戻る」

 

ここまで話し終えた時、電が睨みつけている事に気付いた俺は電に言いたい事が無いか訊ねてみる。

 

「とまあこんな感じだが何か質問はあるか電?」

 

「…………門長さん、本当に帰ってくる気はあるのですか?」

 

俺は電の問いに暫く考える素振りを見せた後、静かに、しかしハッキリと答えた。

 

「何があるかは解らないがこれだけは言える。俺は響とずっと一緒に居たい」

 

それでも納得していない様子の電の肩に響が手を置いて言った。

 

「門長なら大丈夫だよ電。私と約束したんだ、絶対に戻ってくるって」

 

「響ちゃん…………響が信じるのなら電から言う事は無いのです。ですが……」

 

響に説得によって渋々納得した電は肩に置かれた響の手をそっと下げると俺に向けて歩き出した。

そして目の前まで近付き俺を見上げると俺にしか聞こえない程の声で……

 

「響ちゃんを裏切ったら絶対に()()()()()()()()

 

一言だけ言い残し軽やかな足取りで響の元まで戻って行った。

 

逃がさない……か。危うく身震いしてしまう所だったぜ。

落ち着け……かなり危うかったが問題は無い。

 

俺は服の下に冷や汗をかきながら身なりを正してから全員に告げる。

 

「よし、つーわけで昼前には此処を出る。俺はヴェールヌイに伝えてくるから各自準備しといてくれ」

 

そうして俺はそのまま執務室へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室に着いた俺はヴェールヌイに事の顛末とこれからの動きを伝えていた。

 

「──っつう訳だ、何も返せなくて済まなかったな」

 

「いや、そんな事ないさ。興味深い話も聞けたし、君の様な人と友好関係を築けた事を大変嬉しく思うよ」

 

「いやいや、お世辞なんか言っても何も出ないぜ?」

 

「お世辞なんかじゃないさ。私は君の事をとても気に入っているよ」

 

お?意外な好印象じゃないか。告白したらもしかして受けてくれるんじゃないか?

ま、俺は響一筋だからんな事しないがな。

 

「そいつは光栄だが……あんたはあの提督の事が好きなんだろう?流石に俺とあいつを較べたら可哀想だぜ?」

 

「ん?ああ、そう言えば鳳翔さんにもからかわれたけど私が心に決めたのはあの人だけだよ。少佐に対してはそういった感情は無いから安心して欲しい」

 

とヴェールヌイは薄く微笑んで言ったがその言葉は俺の心にクリティカルに突き刺さっていた。

 

「安心って……その謎な方向の気遣いが痛いぜ……あんなモヤシ野郎の何処が良いんだ……

 

「門長少佐。今のは聞かなかった事にするけれど……これ以上の司令官への侮辱は私達への宣戦布告と受け取らせて貰うよ?」

 

口角を僅かに上げて笑みを浮かべるヴェールヌイだが、その眼には明らかな敵意が込められていた。

 

おっと、どうやら地雷を踏んじまったか?

これ以上余計な事を言えばマジで戦争を始めかねないな。

だがそれよりも俺は……。

 

「わ、悪かった……もう言わんから止めてくれ。その眼は俺に効く」

 

その見た目で敵視されると出会った頃の響がフラッシュバックを起こすから勘弁してくれ……。

 

俺が心に深いダメージを受けてたじろいでいるとヴェールヌイは一息吐き、そして普段通りの表情(真顔)に戻り口を開いた。

 

「ま、解ってくれたなら何よりだ。それで、門長少佐はこれからどうするんだい?」

 

「これから?それはさっき──「誤魔化しは要らないよ」」

 

ヴェールヌイ……?

 

「誤魔化し……?いや、俺は……」

 

しかしヴェールヌイは俺の返事を待たずに更に続ける。

 

「思い当たる節があるみたいだから言及はしないけどこれだけは理解して置いてくれ……君の決断一つで響を一生不幸にするよ」

 

「なっ……!?何を……」

 

俺の決断が響を不幸にする?そ、そんなばかな……有り得ない。

 

「少佐にとって護るべきものは何か、それを良く考えてから決める事を推奨するよ」

 

俺が護るべきもの、そんなの考えるまでもねぇだろ。

だからその為に奴らを……

 

「……はぁ、忠告はしたからね」

 

「あ、ああ…………」

 

 

 

 

結局ヴェールヌイが何を俺に言いたかったのかは全く分からないまま、収容されているリ級を連れてタウイタウイ鎮守府を出る時間となった。

波止場へはヴェールヌイの他に夕張と明石が見送りにやって来ていた。

 

「それじゃあ皆、気を付けて帰ってくれ。また会える日を待っているよ。ね、門長少佐?」

 

「ん、ああ……」

 

「…………」

 

俺はまた何か間違っているのか……?

 

「門長……」

 

「大丈夫だ……心配ない」

 

傍らで不安げに俺を見上げる響を撫でながら宥める。

 

そう、大丈夫なんだ。響は護れる……それで問題無い筈だ。

 

「門長さん?あんまり気負い過ぎると老けるわよ?」

 

「うるせぇ、余計なお世話だ」

 

夕張の奴要らん事を……だがまああれこれ考えるのは元々性分じゃねぇしな。

俺は俺がやれる事をやるだけか。

 

「おっし、行くか!そんじゃ他の奴らにも宜しく言っといてくれ」

 

「承知した、気を付けて…………ダスビダーニャ(また会おう)

 

最後にヴェールヌイと別れの握手を交わし、一行は鎮守府を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府を離れて一時間、水平線しか見えない海の真ん中で全員に止まるように声を掛けた。

 

「どうした門長、何か居たのか?」

 

「いや、そうじゃない。だが俺はこの辺りで別れるつもりだ。だからその前に港湾とこの潜水艦が近くにいないか一応確認して欲しいんだ」

 

問い掛ける長門に俺は首を横に振って答えた。

だが長門達は難しい顔をしながら腕を組んで言った。

 

「それは流石に無理があるな」

 

「居るかどうかもアンノウンですし、居ても他のサブマリンの可能性もあるネー」

 

「あ?何言ってんだてめぇは、日本語で喋れ」

 

「えっ、と……見つからないかも知れないし、見つかっても違う潜水艦の可能性もあるって事じゃない、かな?」

 

「おおっ、流石は響!確かに言われてみればその通りだな」

 

響の名推測にしきりに感心していると突然目の前に水飛沫が降り掛かってきやがった。

 

「呼ばれて飛び出てなの!」

 

「何しやがるてめぇ!誰も呼んでねぇよ!」

 

「んがぁ!?」

 

水飛沫の中から飛び出してきた肉塊を俺は反射的に叩き落とした。

 

「ま、待って欲しいのです!電が頼んで付いてきてもらってたのです」

 

あれ、電が?じゃあこいつなんか用があって出てきたんじゃ……。

 

「おい、起きろ駄肉」

 

「ふぁ〜……イク大金星なのね〜……えへへ〜」

 

水面に腹を向けて浮いている駄肉の頭を掴み上げて揺すってみるが完全に気を失っており目覚める気配は無かった。

そうこうしてるうちに少し離れた所から二隻のソ級が静かに姿を現した。

 

「ム、トナガノナカマトイウノハウソダッタノカ?」

 

「アンイニシンジテシマッテイタ、アブナイトコロダッタワ」

 

「ん?お前ら港湾のとこのか?」

 

「イカニモ、コノカンムスカラトナガガワレワレニヨウガアルカラキテホシイトイッテイタカラキタ」

 

あ、なんだ。電が手筈を整えてくれて居たのか。

最近敵視されてる様に感じてたが、大事な場面で手助けしてくれるなんて!やはり天使の異名は伊達じゃないな!

 

「まあこの肉の事はどうでもいいがお前らに頼みがあるのは本当だ」

 

「ドウシタ?ソコノリキュウノケンカシラ?」

 

「察しが早くて助かる。攻めてきた面子で唯一の生き残りのこいつを経緯を知ってる仲間の所に連れて行ってから直してやってくれ」

 

「ユイイツ?ホカハシズメタノカ」

 

「俺じゃねぇよ、一隻の刀持った異常な深海棲艦に全滅したそうだ」

 

ヴェールヌイ達が大破させてたからだと思いたい所ではあるが……。

 

「……ヤツラノナカマカ?」

 

「多分な、まともに見たのは俺と響の二人だけだが普通じゃなかった」

 

「ソウカ、ヤツラノカイニュウガアッタノナラシカタガナイ」

 

「ムシロヒトリデモイキテタノガフシギナクライダモノネ」

 

「そうだな。もし奴とまともにやり合ってたら今頃リ級共々沈められていたかもしれねぇな」

 

「ワカッタ、ソウイウコトナラコイツハワレワレガツレテイコウ」

 

「ああ、頼んだ」

 

「ウム、タシカニ」

 

「デハナトナガ、マタアオウ」

 

俺がリ級を降ろすとソ級達はリ級を連れて海底へと潜って行った。

 

リ級の件はこれで大丈夫だろう。

後は……俺だけだな。

 

「よし、そんじゃ俺もそろそろ行くぜ」

 

俺の言葉に一様にこっちへ視線が集まる。

だが返事を返したのはその内二人だけであった。

 

「うん……またね」

 

響は涙を堪えて見上げて

 

「門長、お前なら大丈夫だ。必ず戻ってこい」

 

長門は力強く、一見対照的だが二人の目は真剣そのものであった。

そんな二人を交互に見やってから俺は言葉を返す。

 

「さんきゅうな響、長門」

 

実際に知り合ってから三ヶ月くらいだったがお前達に会えて良かった。

ぶっちゃけ後悔なんて言い出したらきりがないが、一つだけどうにもならない心残りがあるとすれば…………響の信頼を裏切っちまった事ぐらいだな。

 

「響、長門。お前達の幸運を祈ってるぜ」

 

「わ、私も門長の幸運を祈ってる!」

 

「門長…………待ってる、からな」

 

ありがとな長門……響は頼んだぜ。

ありがとな響………………じゃあな。

 

響達に背を向けて進み出した俺は姿が見えなくなるまで一度たりとも振り返らず走り続けて行った。

 

やがて響達から見えなくなると俺は禍々しい異形の如き艤装を展開し、心が蝕まれて行くのも構わずに全力で突き進む。

 

 

響を護る……その唯一つの目的を達する為に。

 

 




話的に此処から暫く響達は登場しなくなる予定です…………辛い。

耐えられなくなったら何かしらするかも知れません(オイ


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第六十三番

アズールレーンに時間が取られていくぅ~


響達と別れてからおよそ三日程は経ったか……。

後どのくらいで目的地に辿り着けるかは定かではないがそう遠くもないだろう。

 

「グッ……まだダ、奴らをシズメルまでは!」

 

俺は飛びそうになる意識を何とか押さえつけながらモーターボートを全速力で走らせていく。

だが限界はすぐそこまで来ていた。

 

「クソッ……此処で暴走シチマッタら全て水の泡ジャねぇか!」

 

ああ……ナニモカモコワシテ……っだぁ!まだだっつってんだろっ、大人しくしやがれ!

グゥ…………せめて奴らと対峙する時マデは黙ってテくれよ。

 

「大丈夫か?」

 

「…………ハ?」

 

心の葛藤を繰り広げる中に突如飛び込んできた声に俺は耳を疑った。

 

いや、アリえネェ……俺の周りにハ誰もイナイ、勿論長門も出て行ったのだから俺に話しかけてクル奴は体を乗っ取ろうしてくるコイツ以外はいない。

こんなぶっ壊れた奴が理性的に話しカケテくるとも思えねぇし……。

 

「……妖精カ?」

 

俺は声の主に対して問い掛けてみると声の主は豪快な笑い声を上げて話し始めた。

 

「はっはっは!わたしだわたし、忘れてしまったか?薄情な奴だなぁ全く」

 

「誰だよ……いや、待てよ?」

 

確かに聞き覚えのある声だが……しかしあいつはあの時に……

 

「お前……まさか……」

 

「お?思い出してくれたか!約束通りまた会えたな、相棒」

 

声の主はそういって漸く姿を現した。

 

「武蔵……かと思ったが、なんだ只の妖精か」

 

目の前に現れたのは褐色肌にさらしを巻いた二頭身の妖精であった。

 

「おいおい、見た目が変わってるのはお互い様だろう?」

 

「確かにそうだが……今一つ信じらんねぇな」

 

「ふ~む……ま、気持ちは解らなくもない。私自身何が起こったのか良く解らんしな?だが事実として私はお前さんの事を知っているし、お前さんが今あまり良くない状況だと言う事も知っている」

 

「良くない状況か……まあ、確かにその通りだが。もしお前が武蔵だとして今の状況をどうにか出来るとでも言うつもりか?」

 

「そうだな……根本的な解決は出来ないが、その場しのぎで良いなら方法は無くはないぜ?」

 

根本的解決は出来ない……期待していた訳じゃねぇがやっぱ響の元へは戻れそうにねぇか……。

だがまぁ目的すら果たせずにこんな所で暴走しちまう位なら試してみるのもありか。

 

「分かった。なら一時しのぎで構わんからやってくれ」

 

「ん?ああ、実はもう既にやっているんだが気づかぬか?」

 

は?何言ってやがんだこの妖精もどきは。

 

「なに、自分の身体を見れば分かるさ」

 

「身体?別に何とも……って艤装は何処行きやがった?」

 

疑問を浮かべる俺に対して妖精もどきは得意げに腕を組んで答える。

 

「詳しくは私も解らんが簡単に言えばお前の艤装を無理矢理格納したのだ」

 

「あ?なんだよ、そんなこと出来んのかよ」

 

「ああ、だがあくまでも無理矢理だからな。次にお前さんが自分の意思で展開すればもう手のつけようがないぜ?」

 

そういう事か、だから一時しのぎっつう訳か。

 

「なら仕方ねぇ、行くとするか」

 

「……ほんとに良いのか?今引き返せば響と暮らし続ける事は可能なのだぞ?」

 

「そうだな、寧ろそうしてぇよ」

 

「だったら──」

 

「だがあんな所で戦わずに過ごすなんて恐らく無理だ。それに例え戦わなくたって抑え続けられるとは限らねぇだろ?」

 

「む……ならば抑え続けられる保証があれば()()なんてやめて基地に戻ってくれるか?」

 

そう言った妖精もどき……いや、武蔵の真剣な目が俺を真っ直ぐ見据えていた。

 

「なるほどな、俺や長門にとっちゃ憎い相手だがお前からしたら大事な提督だから護りてぇってか?」

 

「……そうだな。それに提督は今の海軍に無くてはならない存在なんだ」

 

「へぇ?それじゃ俺らは海軍の為の必要な犠牲だって事かよ」

 

「そういうつもりではない!だが……そうだな、済まない」

 

ただ……こいつの気持ちも解らなくもねぇ。俺だって何があろうと響を庇うだろうし、響の為なら俺の命くらい喜んで捧げるつもりだ。

 

「……ったく。まあいい、どっちにしろ横須賀には行くぞ。暴走を抑えておける保証がなきゃどっちにしろ選択肢はねぇんだ」

 

「門長……そうだな、明石にあてが無いか聞いてみるのが一番だろう」

 

「奴らが俺を迎え入れてくれるかどうかも怪しいけどな」

 

「こっちから仕掛けなければ大丈夫だろう。提督達はお前さんと事を構えるつもりはないからな」

 

どうだかな…………っと漸く本土が水平線に見えてきたな。気を引き締めて行くとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

……と、気合いを入れたのが三十分前。

そして今俺がいる場所は横須賀第一鎮守府とやらの工廠内だ。

本当に何事も無く入れてしまい呆気に取られていると奥から俺を勝手にこんな身体にしやがった奴らの一角が姿を現した。

 

「いやぁ、まさか本当に此処まで来られるとは……あ!もしかして私かなり危険な状況なんじゃないですかねぇ?」

 

明石の全く危機感を感じさせない軽い口調に俺は湧き上がる怒りを抑え務めて冷静に言葉を返す。

 

「運が良かったな。別件が無きゃテメェを直ぐにでも地中に轟沈させてやるところだ」

 

「あっははは!それは助かりました!それで、本日はどの様な御用で?」

 

やっぱり沈めてぇなこいつ……。

今にも殴り掛かりそうな俺の気配を察したのか右肩に乗っている武蔵が首筋に手を当てながら口を開いた。

 

「落ち着け相棒。頼みたいのは相棒の身体の事なんだが……」

 

「あら?妖精さんにしては流暢に話しますし、それに随分と焼けた肌をされてますね?」

 

「む?ああ、私は横須賀第一鎮守府の武蔵だ。といってもこの姿では信じられんか?」

 

「武蔵さん!?あら……いやぁ~……長門さんが小さくなったのは伺っていましたがまさか武蔵さんが妖精になられているのは流石に予想外でした」

 

「はっはっは、私も良く解っていないからな。っとそれより話を続けても良いか?」

 

「あ、そうですね。武蔵さんの事は後で詳しく伺うとしまして先に門長さんの件を伺いましょうか」

 

といった具合に武蔵が勝手に話し始めたので俺は仕方無く内容を補足しながら横須賀の明石に伝える事にした。

 

「──と、言う訳だ」

 

「う〜ん……そういう事でしたか」

 

「何か当てはないか、明石」

 

明石は話を書き留めたメモを見つめながら唸りつつ答える。

 

「そうですねぇ、その手の案件はタウイタウイの彼女達で駄目なら私の知る中には解決出来る方は居ませんね!」

 

「こんなにした張本人が出来ねぇってどういう事だよ」

 

「確かに処置を施したのは私達ですが大元の設計図は阿部元帥と()()()妖精に数名の人間の科学者が生み出したものですからねぇ……」

 

「んだよ使えねぇな。じゃあその元帥に合わせてくれ、そいつならなんか知ってるんだろ?」

 

「あれ?不知火から聞いてませんでしたか?」

 

とぼけた顔で聞き返してくる明石に怒りが込み上げてくるがまあいい……今は話を聞くのが先だ。

 

「不知火からは海軍と海底棲姫共が手を組んでるって話しか聞いてねぇぞ?」

 

「う~ん……あ!そういえば金剛さんに伝わらないように私が伏せさせてたんでした!」

 

「あ”?てめぇ……ケンカ売ってんのか?」

 

「いやいや、ほんとに忘れてただけで悪気は無かったんですって~」

 

マジでむかつく奴だぜ……いつか沈めてやるから覚悟しておけよ。

 

「……んで、金剛に伏せてた事ってなんだよ」

 

「それがですね、阿部元帥の事なんですが……不知火の目の前で海底棲姫によって殺されているんですよ」

 

「なに?」

 

「そんな……馬鹿な……」

 

「武蔵さんには信じがたい話でしょうが事実です」

 

「…………なんて事だ」

 

武蔵が俺の肩の上で膝をつき愕然とする中、俺はなんとも呆気ない結末に面食らっていた。

 

なんだよ……復讐しようにも相手が居ねぇのかよ。

 

「……仕方ねぇ、じゃあ今の元帥と合わせてくれ」

 

「…………いいですよ?では早速参りましょうか」

 

海軍の奴らと似たようなやり口になるのは気に入らねぇが、世界(響達)の平和の為に新しい元帥には犠牲になってもらうぜ。

そんな俺の企みを知ってか知らずか、明石は不敵な笑みを浮かべて俺を元帥の下へと連れて行った。

 




ん~……なんだか地の文が少ないような……あ、門長が何も考えてないからだ!
あ……えと……冗談、ですので……その…………主砲をこちらに向けるのはやめて頂けません……か?



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第六十四番

 明石の先導のもと俺達は執務室と書かれた表札の前まで来ていた。

此処に今から犠牲になる元帥が居るわけか。

明石が扉を開けたと同時に突っ込んで一気に仕留めてやるぜ!

俺は半歩下がり、下げた左足に力を込めて何時でも飛び込めるよう身構えて待った。

 

「明石です。提督にお客様をお連れ致しました」

 

そんな俺の動きを全く見ていない明石は扉をノックして要件を伝えた。

 

「分かった、通してくれ」

 

「失礼します」

 

すると暫くして中から男の声が帰ってきた為、明石は一声かけてドアノブに手を掛けた。

 

にしても随分若い野郎の声だな……俺と同じ位か。いや、下手すりゃもっと若い…………ま、だからなんだって事もねぇか。

余りにも若すぎる声に疑問を覚えたが、そんな事は今の俺には関係ない。

俺は明石が扉を開き人の姿が見えた瞬間、そいつ目掛けて全力で突っ込んだ。

 

「うおぉぉぉらあぁぁぁ!!個人的な恨みはねぇが餌としてくたばり…………なあぁ?」

 

扉の向こうから見えた野郎の顔面目掛けて渾身の左ストレートをぶちかましてやろうと左腕を振りかぶった所までは良かった。

だがその男の顔を見た俺は、驚きのあまり足が縺れそのまま倒れこむような体勢で男の目の前の机を真っ二つに粉砕しただけで終わった。

 

「お……おいおい……相変わらず滅茶苦茶だなぁ?()()()()

 

「どういう事なんだ……どうしてお前が此処に?」

 

「あらー、お知り合いでしたかー。意外でしたー」

 

ああ、間違いなく知っている……つうか同期で俺に話し掛けてくる奴なんて他に居なかったしな。

だからこそ奴が此処にいる意味が解らない。

俺は体を起こしながら奴に再び問い掛ける。

 

「どうしてお前が横須賀の執務室にいるんだ……西()()。宇和の所に居たんじゃなかったのか?」

 

「あー……そうだよな……あ、取り合えずそこに座ってくれ」

 

西村は困ったように後頭部をかきながらソファーに座るよう促したので俺は言われるままに腰を下ろした。

すると明石が何かに気付いたのか突然声を上げた。

 

「あ!お二人で積もる話もあるでしょうし、私と大淀は席を外しますね?」

 

「ちょっ、明石あなたっ!」

 

「え?いや別に俺は……」

 

「まあまあ。そんな遠慮せずに!さっ、大淀にも話があるんです!」

 

「な、なら別に此処ですればいいじゃないですか!?」

 

「提督とは関係ない話なので邪魔になっちゃうじゃないですかー」

 

とかなんとかいって何故か明石は抵抗する大淀とかいうメガネを無理矢理引っ張って部屋を出て行った。

何がしたいんだ……まあいい。

喧しいのが居なくなったところで西村が口を開いた。

 

「それじゃあ順を追って話そうか。ながもんが宇和少将の所で響を誘拐した直後に別鎮守府に飛ばされたんだよ」

 

「俺のせいか、そりゃ悪かったな」

 

「いや、まあ……確かにながもんが逃げた事で舞鶴では研修どころじゃなくなった訳だけど、俺自身は別の鎮守府でちゃんと研修は受けてたからな」

 

「そうか」

 

研修……ん、研修期間って確か半年間じゃなかったか?

俺が響を連れて宇和の所を出てってから……ええと、確か……まだ三ヶ月も経ってねぇよな。

 

「研修はどうしたんだ?此処でやってんのか?」

 

「んー……それがな、研修中に突然転属の指令を受けたんで転属先だった横須賀第一鎮守府に足を運んだんだよ。そしたらそのままこの部屋まで案内されて大淀に色々説明された後、此処の提督として着任する事になってたんだよ」

 

「は?訳が解んねぇ、二階級特進とかいうレベルじゃねぇだろ」

 

だが西村も俺同様なにも分かってないらしく肩を竦めつつも続けた。

 

「まあその辺は大淀の方が詳しいだろうし後で聞いてくれ。それよりも聞いたぜながもん、お前あの後随分と面白い事になってたそうじゃねぇか」

 

「あの後?ああ……確かに宇和の艦隊が攻めてきたり離島の部下やら海底棲姫やらが攻めてきたり色々あったなぁ」

 

一体この三ヶ月弱で何度死にかけたことだか……。

過去を振り返りながらしみじみとしていた俺を西村は不思議そうに眺めていた。

 

「あ?んだよその顔は」

 

「いや…………海底棲姫っつう初めて聞く単語だ出てきたもんだからつい、な?」

 

「はあ?金剛から聞いてるだろ」

 

「は?何処の金剛から聞くんだよ」

 

何言ってんだこいつ……大丈夫かよ。

 

「おまえんとこの金剛以外に誰がいるっつうんだよ」

 

「いやいや、それは有り得ねぇよ。だってうちの金剛なら先週建造されたばかりでまだ演習しかしてねぇんだぜ?」

 

「…………はっ?」

 

つまりどういう事だ。

西村の奴が何か隠しているのか?

だが隠すつもりならそもそも聞かなきゃ良いだけじゃねぇか。あいつから聞いてくる意味が分からん。

次に考えられるのはこいつに色々吹き込んだ大淀とやらが敢えて伝えなかったか。そもそも金剛が嘘をついているか。

…………分からん、だが特に隠す必要も無いか。

 

怪訝そうな目を向ける西村に対して少々イラッとしたが一息吐いて気持ちを落ち着かせてから俺は海底棲姫の事、そいつ等が何をしたか何かを掻い摘んで説明してやった。

静かに聞き終えた西村は暫しの間眉間を摘んだまま険しい顔をしていたが頭の整理が付いたのかやがて口を開いた。

 

「……つまり、そいつらの居場所を突き止めて撃滅する為にこの鎮守府を訪れたっつう事か?」

 

「正確には奴らと関わりのあるこの鎮守府をぶっ潰して奴らを誘き出した所を沈める為だ」

 

「そうか…………」

 

「ああ、本来なら司令官諸共消し炭にするつもりだったが……同僚のよしみだ。お前はさっさと此処から離れな」

 

だが西村はこの提案に首を横に振りつつ真剣な表情で答えた。

 

「なあながもん、残念だけどどっちの意味でもそれは出来ないと思うぜ?」

 

「……どういう事だよ」

 

「大淀から聞いた話と今お前から聞いた話を併せて考えても大淀は逃げた俺を放っては置かないだろう。事実不知火は阿部元帥殺害の犯人として鎮守府中に手配が回ってるしな」

 

「不知火が?」

 

「ああ、恐らく海底棲姫とかいう連中を隠す為じゃないか」

 

そうか、奴らの存在を伏せつつ不知火を指名手配にするには理由が要るか。

だがどうやら始末する理由なんて幾らでも捏ち上げられる様だな。

 

「それは解った。で、他にも出来ないつった理由があんだろ?」

 

「もちろん。もう一つについてはながもん、お前に関わる事だ」

 

「俺に?」

 

「そうだ、お前は此処を潰す事で海底棲姫を誘き出すって言ってたが知っての通り此処は全ての鎮守府を統括してる横須賀第一鎮守府」

 

「ん、大本営じゃねぇのか?」

 

「大本営は確かに海軍の頭だがあっちの相手は政府や民衆であって深海棲艦と相対しているのは横須賀第一鎮守府を主軸とした百を超える大小様々な鎮守府なんだよ」

 

ふーん……つまり横須賀第一鎮守府が一番強えって事か。

 

「てことはアレか、俺じゃあ横須賀第一鎮守府奴らに勝てねぇって言いてぇのか?」

 

面白ぇ、やってやろうじゃねぇか!

意気込んで立ち上がるが直ぐに西村から待ったが掛かる。

 

「落ち着けながもん!まだ話は終わってない!」

 

「あ?なんだよ」

 

「あー、つまり此処を叩こうとすれば大淀が少なくとも横須賀の第二、第三鎮守府を動かす。下手すりゃ柱島やタウイタウイ、ショートランドとかにも支援要請を出すかもしれない。そうなればどれだけの数を相手にする事になるか解らないぞ」

 

「それ位覚悟の上だ」

 

確かに一筋縄じゃ行かねぇだろうが、そんぐらい出来なきゃ奴らを沈めるなんざ夢のまた夢だ。

 

「ながもん……俺の言ってる事を本当に解ってるのか?」

 

「は?ったりめぇだ。多勢に無勢だって言いてぇんだろうが実際やれない事はねぇ」

 

しかし、俺の返事を聞いた西村の反応は意外なモノであった。

 

「はぁぁぁ……だと思った」

 

西村は深い溜息を吐くと手で頭を押さえながら呆れたような口調で続ける。

 

「あのなぁ、俺が聞いた話が本当ならお前にそれ位やれる力がある事は想像に難くねぇんだよ」

 

「なら他に何があるっつうんだよ」

 

「はぁ……お前さ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「なっ!!?」

 

いや……そうか…………言われてみれば確かにその通りだ。

俺が艤装を展開して海軍とやりあう事になれば駆逐艦娘だって少なからず犠牲になるだろう。

その中には響やその姉妹達だっている筈だ。

それに全てが終わった後俺はどうなる?

恐らく沈むまで破壊の限りを尽くすのだろうが……はっ!もし誰も俺を沈める事が出来ずに響の元へ行ってしまったら?

あの時だって一歩間違ってたら取り返しのつかない事になっていたんだぞ!今度も大丈夫っつう保証が無いから響と別れてここまで来たっつうのに……結局俺の計画は最初から破綻してたって事かよ。

 

「おーい……ながもん?」

 

ならどうすりゃ良い……どうすれば響を護れるんだ。

俺が沈めば奴らは響達に手出ししないのか?

いや、保証はねぇしそれによく考えりゃ問題は奴らだけじゃねぇ。

攻撃的な深海棲艦の組織が艦娘である響達に襲い掛かるかも知れねぇ。

他にも不知火を追って海軍から艦隊がやって来る可能性だってある。

クソがっ!こんな力があってもたった一人を護り続ける事すら出来ねぇのかよ……。

 

「ながもん……大丈夫か?」

 

「…………どうしたらいい」

 

「へっ?」

 

「俺は響を護りたいだけなんだ……なのに、方法が解らねぇんだよ……」

 

「海底棲姫って奴らを撃滅するのも響を護る方法だったって事か?」

 

「ああ、それが唯一の手段だと考えたからな」

 

俺の答えに西村は不思議そうにしながら質問を続ける。

 

「だったら方法が解らないっつうのはどういう事だ?」

 

「……駄目なんだよ。どうやら俺は次に艤装を展開したら自分を保てなくなっちまう。だが奴らを倒すには必然的に艤装を展開しなきゃならねぇ」

 

「つまり最悪の場合、暴走したながもんが響を手に掛けてしまう可能性があるっつうわけか」

 

「そう言う事だ。それに奴らだけじゃねぇ、他の艦娘や深海棲艦だって襲って来ないとは限らねぇだろ」

 

「艦娘が?あー、不知火の件もあるしな……そうだよなぁ、つうか平和な世界にでもならん限り安全を確保し続けるなんてなぁ?」

 

平和な……?

 

「つってもそれが出来りゃ苦労は……ってどうした?」

 

西村が呼び掛けて来るのも気にせず俺は先程の奴の言葉を反芻していた。

 

平和な世界か……確かに深海棲艦と艦娘と人間が和解すれば響達の安全を保証出来るようになる筈だ。

そんな事が果たして出来るのか?

今の世界が示す通り限りなく不可能に近いだろう……だが、深海棲艦の一組織の頭である港湾と海軍の主力である横須賀第一鎮守府の頭である西村。

二人と繋がりのある俺なら僅かでも可能性が無いだろうか?

 

「西村、頼みたい事があるっつったら聞いてくれるか?」

 

「ながもん?えぇと……まあ聞くだけなら出来るが、力になれるかは分からないぞ?」

 

「大変だろうが突然元帥になってもやって行けてるお前なら出来る頼みだ」

 

「おいおい、流石に買い被り過ぎだぜ?まぁ……それで、何を頼みたいんだ?」

 

「ああ、今日明日の話じゃないが何時か深海棲艦から和解の話が持ち込まれた時に受け入れられる体制を整えて置いてくれ」

 

「おぉう……確かに簡単な頼みではねぇな……」

 

こめかみを押さえ唸る西村に対して俺は更に頼み込む。

 

「まあな、頭の堅い連中を説き伏せるなんて俺じゃあ絶対に出来ない事だ。だがこれはお前にしか出来ない事なんだ。頼む!」

 

「…………ながもんはこれからどうするつもりだ?」

 

「俺は一度響達の元へ戻る。そして響を護りながら深海棲艦達の方を説得してみる」

 

「そうか……そっちは任せちまって良いのか?」

 

「やれるだけやってみる。手を貸してくれる仲間もいるしな」

 

「……解った。進捗確認とかはどうする?」

 

「明石経由で連絡が取れる。あぁ後大淀には気付かれないように気をつけてくれ」

 

「大淀に?」

 

「ああ、あいつは奴らと繋がってるからな。変に横槍を入れられたくないんだ」

 

そう考えると明石のあの行動にはそういった意味があったのかも知れねぇな。

 

「そういう事か……解った。なら暫く時間を置いてから準備を始めるとしよう」

 

「ああそうか、暫くはあいつも警戒してるだろうからな」

 

「そういう事。もし実現すりゃあ俺達は英雄かもな。お互いに頑張ろうぜ、ながもん」

 

「おう、頼りにしてるぜ西村!」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべながら差し出された西村の右手をガッシリと握り締めたのだった。

 




門長の同期西村満を持して登場!
って覚えてる方は居るんですかね……。
投稿ペースが遅すぎて三ヶ月の話を書くのにまさか一年半も経ってなんてorz


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第六十五番

目が疲れた……画面もあまり見たくない(´pωq`)


西村との話し合いが纏まり響達の居る基地へ戻る事にした俺は横須賀の工廠で修復と補給を受けていた。

と言っても後は乗ってきたボートの補給が終われば完了だけどな。

 

「いやぁ~修復資材もさる事ながら燃費の悪さも異常過ぎますよ、ほんとそんなんで良くやっていけてますねぇ」

 

「こんなんにしたのはてめーらだろうが……」

 

「あはっ、その通りです!と胸を張っては言えないのが悔しい所ですが、事実門長さんのその力は明らかに常軌を逸してますからね」

 

「あ?それがお前らの真なんたら計画何じゃねぇのかよ」

 

「あら、金剛さんか武蔵さん辺りからお聞きになられてたんですか?」

 

「ああ、金剛が前に言ってたのを思い出しただけだ」

 

つっても内容の殆どは覚えてねぇがな。

 

「そうでしたか、それなら話は早いですね。その真七九八号計画というのは嘗ては様々な問題が立ちはだかり建造不可能とされ起工するに至らなかった超大和型戦艦七九八号艦、完成していれば紀伊と名付けられていたであろう戦艦を艦娘もとい人型として建造する事を目的として行われたのですが……まあ、我々の計画としては戦艦棲姫等の姫級を単艦で撃退できれば充分だったんですよ」

 

「…………?その戦艦棲姫っつうのが何者か知らねぇが奴ら程じゃなきゃまず負けねぇと思うぜ」

 

明石の言う事はさっぱり解らんので何となく理解出来た部分に対してだけ返答すると明石は何故かその言葉に興奮ぎみに食いついてきやがった。

 

「そもそもそこが既におかしいんですよ!海底棲姫の存在なんて私達艦娘は勿論、人間達にだって恐らく知らないでしょう。そうするとどうして門長さんが規格外な力を持つ未知の存在に対抗出来たのでしょうか」

 

「そんなん俺が強かったからだろ」

 

「今はそんな話をしてる訳じゃありませんよ。良いから黙って聞いててください」

 

なんだこいつ……そもそも何でこいつの訳分からん話を聞かされなきゃならんのだ。

補給が終わったらさっさと帰るか。

 

「ですが実はこの計画に関わった者で唯一初めから奴らの存在を知っていた可能性のある人物がいるんですが誰だか分かりますか?」

 

「は?大淀じゃねぇのかよ」

 

「いえ、確かに大淀は知っていたみたいですが計画には関わっていません。答えは門長さんがいらした時にした話の中にとある妖精が出てきたのを覚えてますか?」

 

「知らん」

 

「あはは、ですよねー。私の推測ではその妖精こそが海底棲姫なるものを生み出したのではないかと思うんですよ」

 

「訳わかんねぇ、奴らの目的は現状の維持なんだから俺を強くする理由がねぇだろ」

 

「確かに不知火からの又聞きですがそう聞いてます。ですがこうは考えられないですか?門長さんを引き入れる事によって戦力を補強し尚且つ人類に対して余計な事をしても無駄だという見せしめにしようと企んでいたのだと考えれば門長さんの規格外の強さにも辻褄が合います」

 

はぁ、何が辻褄が合うだ。そんな考えが奴らにあったらいきなり攻撃を仕掛けてきたりしねぇっつうの。

ふぅ……補給も終わったしこれ以上こいつの下らん妄想に付き合ってやる義理は無い、さっさと行くとするか。

俺は補給を終えたボートに乗り込みエンジンを回し始める。

 

「門長さんもそう思いませんか!ってあれ、聞いてますか?」

 

「そんじゃ、西村によろしく言っといてくれ。じゃあな!」

 

「えっ、あのちょっと!?」

 

明石が何か言おうとしてるが俺はそれをエンジン音でかき消しアクセル全開で工廠を飛び出して行った。

にしてもこの俺が世界平和なんつうもんを唱えるなんてこれ以上ねえぐらい似合わねぇ……だが、他に俺が響を護れる方法がねぇんなら仕方ない。

世界を平和にする方法なんて皆目見当もつかないが、後どれだけ時間が残されているかも解らん……だったら動くしかねぇよな!まずは一度基地に戻ってから考えるか。

こうして俺は決意を新たに大海原を駆け抜ける。

目指すは遥か南東、響が待つ中部前線基地!




これにて第一章は終了となります。
第二章はアンケートの集計結果を元に門長がタウイタウイへ出発した日から帰ってくる辺りまでを摩耶視点で進めていく予定となります。

話の特性上響の登場が後半以降となります(泣)

追記︰章の区切りが中途半端だった為タウイタウイ編からここまでを第一章に変更致しました。
元々章を分けたのも途中からでしたので皆様に混乱を招いてしまった事を深くお詫び申し上げます。


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第二章
第六十六番~母~


お久しぶりです!
第二章は門長達の居ない基地での日常を描いていきます。
番外編的なお話ですので本編と直接関わる事は恐らく無いと思います。



……正直この章が一番大変な気がしてます( ̄▽ ̄;)


「ん~っ……ふぅ、少し休憩にすっかぁ」

 

洗濯物を干し終えたアタシは大きくのびをしながら青空を眺め一息ついた。

松達が手伝いに来るまでまだ時間はあるしこんなに天気が良いんだ。少し位ゆっくりしたってバチは当たんねぇだろ。

そう思い中庭に設置されているベンチに頭の後ろで手を組んで仰向けに寝っ転がり軽く目を閉じる。

 

そういやあの変態野郎が響達を連れてタウイタウイに治療?に出てからもう三週間か……色々あったけど過ぎちまえばあっという間だったなぁ。

 

アタシはうとうとしながらこの三週間の事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~三週間前~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門長達を見送った後、フラワーと内容や日程について説明を受けている不知火達遠征組以外の面々は各々が部屋へ戻ったり工廠へと歩き出したりしていた。

因みにアタシは昼飯の支度の為食堂へと向かっている所だ。

 

「さ~て、今日の飯はどうすっかなぁ」

 

ん~……肉じゃがは……夕飯にするかぁ……あ、そういやこの前北方棲姫が一緒に来た時に大量の秋刀魚を持ってきてくれたのがまだ残ってたな。

よし、昼は秋刀魚の塩焼きにでもすっか!

 

今日のメニューを決めたアタシが厨房へ入り料理支度を整えていると厨房の扉を叩く音が聞こえてきた。

 

「おー、開いてるぜ」

 

そう言って扉の方に目を向けると奥から松と竹の二人が入って来る所だった。

 

「失礼する、済まないが今日もよろしく頼む」

 

「摩耶さんよろしくねー!」

 

「おう!こっちこそよろしく頼むぜ。んじゃあそっちで準備して来いよ」

 

「は~い」

 

「……承知した」

 

さてと、奥で松達が着替えてるしアタシは今ある食材を確認しとくか。

ええ……と、あったあった。

ひい、ふう、みー…………よしっ、秋刀魚も人数分はあるし大丈夫だな。

 

「摩耶さ~ん、お待たせ!」

 

「ま、待たせて済まない……」

 

「お?思ったより早いじゃねーか」

 

「う、うむ……私から頼んだ事だ。あまり摩耶に迷惑を掛ける訳にはいかんからな」

 

「そんくらいの事迷惑だなんて思わねぇよ。けどよ、可愛い顔してんだから別に隠すような事なんてないと思うぜ?」

 

「まっ、まま摩耶までいうかぁっ!?わわわたしは断じて可愛くなんかっ!」

 

「まぁまぁ、落ち着けって。そんな取り乱すことでもねぇだろ?」

 

松がどんなに否定しようがこんな姿見せられちゃ誰だって同じ事を言うだろ。

顔を真っ赤にして狼狽える松を暫く宥めつつそんな事を考えていると、肩で息をしながらもようやく落ち着きを取り戻した松はじっとアタシの顔を見ていた。

 

「ん、どうした?」

 

「……摩耶は良いさ、隠す必要も無いくらい美人なんだから」

 

「は……?今なんて?」

 

松から帰って来た言葉が理解出来なかったアタシがもう一度聞き返すと、松は少しふてくされた様に答えた。

 

「摩耶は綺麗で女性らしいからそんなに自信が持てるんだろ」

 

「アタシが?女性らしい?」

 

松は何も間違った事は言っていないといった様子でコクリと頷いた。

いやいや、綺麗で女性らしいっつうのは西野提督とか陸奥みたいな奴を指す言葉で間違ってもアタシに使う様な言葉じゃねぇだろ?

アタシが反論の為口を開こうとした時、意外な所から追撃が入って来た。

 

「そーだよー?摩耶さん綺麗だし家事全般出来るしすっごい気が回るしとてもいいお嫁さんになれるんじゃないかなぁ?」

 

「へ……?な……な、なななななぁぁっ!?た、竹ぇ!!おおおお嫁さんってお、お前なぁっ!」

 

「あっははは~、摩耶さん顔真っ赤だよぉ?」

 

「う、うっせぇ!ひとをからかうんじゃねぇよ!」

 

「くくくっ……だが、竹の言う通りだと思うぞ?」

 

「ば、ばかやろうっ!……あぁ~もう、いいから始めんぞっ」

 

……ったく、余計な事言わなきゃ良かったぜ。そもそもアタシ等は艦娘だし、そうでなくともこんな場所じゃ相手なんか…………っていやいや、あいつは論外だろ!

アタシは余計な雑念を振り払うように頭を振ると松達に指示を出しながら昼飯の準備に取り掛かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 そうして十一時半過ぎには飯の支度が完了し、松達が机に料理を並べている間にアタシは使用した調理器具を洗っていた。

 

「よし、そろそろ皆を呼ぶぞ。艤装はどうする?」

 

「す、すまない。直ぐ着けてくる」

 

「私はいいかなー」

 

「良い訳無いだろ!早く来いっ!」

 

「えー?」

 

料理を並べ終えた後、松は渋る竹を引っ張って食堂の奥へと入っていった。

その間にアタシは無線を使い全員に飯が出来た事を伝えていると早速食堂の扉が勢い良く開かれた。

 

「秋刀魚だクマぁーーーーっ!!」

 

「いただきますぅー!」

 

「睦月ちゃん、それは気が早過ぎるわ?」

 

「摩耶さんこんにちわ~。ごめんねぇ?毎度騒がしくてさー」

 

「いいじゃねぇか、元気過ぎるくらいが丁度良いんだよ」

 

始めにやってきたのは球磨、睦月、如月、望月の四人だった。

普段はこれに卯月と夕月も加わり一層賑やかになる訳だが何でも相談事があるとかで今日は二人とも明石の所にいるらしい。

 

「折角早く来てもらってわりぃけど皆が集まるまでもうちょっと待っててくれよな」

 

「だ、大丈夫クマぁー……」

 

若干一名大丈夫じゃなさそうだが出来れば皆で一緒に食った方が美味いからな。

他の面子の到着を待っていると、食堂の奥から艤装を着けた松達が戻って来た。

 

「あれれ?松ちゃんに竹ちゃん、どうして厨房から?」

 

「まさかつまみ食いクマっ!?」

 

「違うわっ!……竹と二人で摩耶の手伝いをしていたのだ」

 

「あらぁ、偉いわねぇ二人とも。でもそうねぇ……あ、そうだ。私達にも何か手伝わせて貰えないかしら?」

 

「むむむ……睦月もお手伝いしますぅ!」

 

「はっ!それなら味見が出来るクマ!」

 

「いやいや、動機が邪だよ……まぁ、私もやれる事はやるよ~?」

 

「ありがとなお前ら、けど今は松達とアタシだけで十分やっていけてるから大丈夫だ。人手が必要な時が来たら改めて頼むぜ?」

 

「「はーいっ(クマーっ)」」

 

こいつ等の気持ちはすげぇ嬉しいが松の件がある以上頼むわけには行かねぇからな。

ま、十分やっていけてるってのも嘘じゃないけどよ。

そんなこんなで球磨達と雑談している内に全員が集まり正午前には揃って昼飯を食べ始めたのだった。

 




私の知らない世界、それが日常(錯乱)


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第六十七番~母~

門長視点で日常を書くよりは書きやすい……はず?


 「よしっ、今日はお前らも一緒についてきてくれ」

 

そう言って松竹の二人を連れてやってきたのは西野っつう女提督が保護されている地下施設の入口だ。

 

「むぅ?食材を届けに来たのは解るが態々三人で来ずとも言ってくれれば竹か私が行ってくるぞ?」

 

「おうっ、次からはそうして貰うつもりだが最初くらいは、な?」

 

「いやいや……流石にこれくらいは私一人でもこなせるぞ」

 

「分かってるって。んじゃ先に入ってるぜ」

 

少し呆れた様子の松を横目にアタシは揚々と施設の扉を開けて中に入っていく。

そして音声ガイダンスに従い除染を終えたアタシは更衣室で着替えながら松達が入ってくるのを待っていると扉の向こうが俄かに騒がしくなった。

 

「まっまて!これは聞いていないぞ!?」

 

「ほらほら摩耶さんも西野さん達も向こうで待ってるよ~」

 

「し、しかしっ…………むぅ」

 

おーやってるやってる。松にはちょっと辛いかも知んねぇけど竹もいるしきっと大丈夫だろう。

二人の様子に耳を傾けつつ暫く待ってるとやがて扉が開かれ、中から顔を赤くした松が一糸纏わぬ姿で現れた。

 

「まやぁ……食堂を出る前は艤装を着けたままで良いと言っていたではないかっ!」

 

「あー、そういえば言ってなかったカナー?」

 

勿論言ってないんだけどよ。

まあ先に伝えたらきっと行きたがらなかっただろうし、それじゃあ松の特訓にならねぇ。

とはいえまだあれから一週間しか経ってねぇのに無理矢理連れてきたのは流石に不味かったかもなぁ……。

 

「……帰るっ!」

 

「わ、悪かったって!明日の夕飯は松の好きなもん作ってやっから待ってくれよぉ」

 

回れ右をし出口へ一直線に戻ろうとする松をアタシが必死に引き留めていると、その出口から除染を終えた竹が松と同じ一糸纏わぬ姿で入って来た。

 

「な~にしてんの松?」

 

「竹、私は食堂に戻るぞ!」

 

「え~、これくらい一人でこなせるんじゃなかったの?」

 

「その時とは状況が違うんだ!」

 

「それに明日からは一人で行かなきゃいけないんだよ?」

 

「そ、それは竹が行ってくれ……その間に私は竹の分までやっておくから」

 

竹が持ち出してきたのは入る前にしていた松とアタシのやり取りであり、松も何とか反論を述べているが竹は簡単には引き下がらなかった。

 

「ふ~ん?状況が違うなんて戦場の常だと思うけどなぁ」

 

「それはそうかも知れないが……そ、そもそも情報に偽りがあるのだから作戦自体無効で──」

 

「でもねぇ、摩耶さん別に嘘を言った訳じゃないしー?情報云々言うなら情報収集を怠った松の責任じゃないかなー?」

 

「いや、それはアタシが──」

 

アタシは二人の話し合いを聞きつつ誤解だけは解いとこうとしたが竹が口元に指を当ててサインを出したので、アタシは頷き大人しく成り行きを見守る事にした。

 

「だ、だが摩耶は艤装は着けたままで大丈夫だとっ!」

 

「そうだね。でも摩耶さんは艤装を着けたまま中に入れるとは一言も言ってないよね?」

 

「そ、そんなの詭弁だっ!」

 

「詭弁〜?そんな事ないよ。摩耶さんは松や私達の事をちゃんと考えてくれてるし、そもそも知ってる場所に食材を届けるだけなら摩耶さんだって最初から一人で行かせるでしょ?ほら、少し考えれば分かる事じゃない?」

 

「それは……そう……かもしれんが」

 

「それともあれかな?誇り高き松型駆逐艦のネームシップともあろうお方が自分が気付かなかった事を棚に上げて嘘吐きだとか詭弁だとか言って一度放った言葉を曲げるつもりなのかな?」

 

「ぐぬぬぬ…………そう……だな。済まなかった摩耶」

 

「い、いやアタシも言い方が悪かったよ。ほら、さっさと身体拭いて着替えちまいな」

 

竹に説得させられアタシに深々と頭を下げる松にいたたまれなくなったアタシはすぐさま話題を逸らした。

すまねぇ松、今回の事は全面的にアタシが悪ィんだ。

心の中で松に謝罪していると身体を拭き終えた竹が着替えを持ってアタシの方へ駆け寄り、そっと耳打ちをしてきた。

 

「ま~やさんっ。上々でしょ?」

 

「あぁ、ありがとな。にしてもすげぇよな、アタシじゃあんなにスラスラと言葉が出て来ねぇぜ」

 

「あはは、あれくらい大した事ないよ。あーでも摩耶さんにはあーやって人を騙すような小細工は向いてないし似合わないから止めた方が良いかな?」

 

「あ”~……」

 

人を騙すか、言われてみれば確かにそうだよなぁ。

松の事を騙した上に竹に汚れ役までやらせて何やってんだアタシは……。

 

「……そうだよな。ごめん、竹に嫌な役やらしちまったな」

 

「ふふ、よかった。やっぱり摩耶さんは摩耶さんだねっ」

 

自分の行った事を猛省し謝罪するアタシを見上げていた竹は何故か満足気にそう返すと、着替えを済ませ松を連れて西野達が待っている部屋へと入って行った。

 

「アタシはアタシ……?」

 

竹が言った言葉の意味が解らず暫く呆けていたが、扉の閉まる音ではっと我に返ったアタシは届けるべき食材を持って急いで部屋へと入ってった。

中に入るとそこには茫然と立ち尽くす陸奥と西野の姿があった。

だがまあ無理もねぇ。幾ら姉妹艦とはいえ此処まで瓜二つなのも滅多に居ないだろうし、それに加えていつもは強気な松が借りてきた猫のようにしおらしくなってしまっているんだから初めて見た奴は誰か分からなくてもおかしくねぇ。

ともあれこのままじゃ埒が明かねぇしアタシは食材を持ったまま西野に声を掛けた。

 

「おーい、いつまで呆けてやがんだ?」

 

「え……あっ、摩耶さん!?い、いつも有難う御座います!」

 

「おうっ、取り敢えずこっちに置いとくぜ」

 

「えっ……と、摩耶?この子達って……」

 

陸奥がそう訊ねてきた事でアタシは二人が茫然としていた本当の理由を理解した。

 

「あー、まだ二人に何も説明して無かったのか」

 

「うん、挨拶しただけだよ?」

 

ま、そりゃそうか。二人が入ってから然程経ってねぇもんな。

アタシは気を取り直し陸奥達に松と竹が手伝いに来てくれた事を伝えた。

 

「へぇ~、そういう事だったのね?」

 

「ああ。つう訳で明日からは松と竹が交代で届けに来るから宜しく頼むぜ」

 

「はい、此方こそ宜しくお願いします。松さん、竹さん」

 

「う、うむ……宜しく頼む」

 

「よろしくね!それと西野さん?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「西野さんは普段睦月や如月達の事をなんて呼んでるの?」

 

「えっ?なんてって……?」

 

西野は竹からの唐突な質問の意味を理解出来ないまま暫くぽかんとしていた。

アタシも言いたい事が解らずに竹の方を見るが、竹は別段周りを気にする事も無く先ほどの質問の補足をするように口を開いた。

 

「ん~例えばさぁ、睦月や如月の事を()()()()とか()()()って呼んでるのかな?って」

 

「へ?えと……いえ、睦月ちゃんは睦月ちゃんですし如月ちゃんは如月ちゃんですが……それがどうしましたか?」

 

「でしょっ!」

 

すると竹は我が意を得たりとばかりに西野に向けて指を差して言った。

 

「だったらさ、私達の事もそう呼んでよっ!」

 

「で、ですが……私達はこちらの皆様から支援を受けている立場ですから」

 

「んも~分かってないなぁ。摩耶さんも私もこの基地の皆もそんな気遣い望んでないの!」

 

「し、しかし……」

 

「しかしも駄菓子もないの!西野さんがそんなだと睦月達だって気が休まらないでしょ!」

 

「…………」

 

暫く考え込んでいた西野だったがやがて考えが纏まったのか一つ頷くと顔を上げる。

 

「そうよね、あの子達には此処の皆と仲良くして貰いたいものね」

 

「永海……」

 

「ええ、解ったわ竹ちゃん、松ちゃん、摩耶ちゃん……ありがとう。そして今暫くの間お世話になります」

 

「はいは~い、改めて宜しくね!」

 

「宜しく頼む、西野大佐」

 

「おう、よろしくな!あ〜てかこのタイミングで非常に言い辛いんだが……ちゃん付けは出来れば勘弁してくれねぇか」

 

流石に照れ臭ぇっつうか呼ばれ慣れてないしこそばゆいんだよな。

 

「えっ?あ、ごめんなさい……」

 

「ああっ違う違う!別に構わねぇんだけどよ。どっちかと言えば呼び捨てて貰った方がしっくり来るかなぁって」

 

「え~いいじゃん摩耶ちゃん。似合ってるよ、マ~ヤちゃん?」

 

「おい竹っ!お前は黙ってろっつうの!」

 

アタシが竹に言い返していると陸奥の方から支援が飛んで来やがった。

 

「あらあら、それなら私もこれからは摩耶ちゃんって呼ぼうかしら?」

 

「ちょ、陸奥まで悪のりすんなよな……」

 

「えっと……でも良いと思いますよ?摩耶ちゃん、可愛らしいじゃないですか」

 

「は~い皆様ご一緒に~」

 

「「ま~やちゃん!ま~やちゃん!」」

 

「ちょ……お前ら、マジやめろって……は、恥ずかしいだろうが……」

 

遂には西野まで乗っかりだしやがったぜ。

松は端っこの方で我関せずな姿勢を貫いてるし救いはねぇのか!?

 

結局この公開処刑はこの後十数分もの間続いたのだった。

はぁ~、これが松を騙した報いだっつうのかよ…………もう二度とあんな真似しねぇぞちくしょうっ!

 




第二章を書いてる最中に次の章を考えている自分がいる。


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第六十八番~母~

この章は日常なんでシリアス展開は無しの方向を予定しております!
ふ、フラグじゃない…………はず。


 はぁ~この間は酷い目に遭ったぜ……まああれから西野も少しは肩の力が抜けたみたいだし結果的には良かった……のか?

──っと、そろそろ出る時間か。

今日はフラワーが資材とかを届けに来る日だ、来る前に色々準備しておかねぇとな。

 

「おーい松、竹」

 

「どうした?」

 

「はーい、どしたのー?」

 

「この後フラワーから食材を受け取りに行くけどお前達も来るか?」

 

「行くよーっ」

 

「…………」

 

いつもと変わらぬ調子で答える竹とは反対に松は疑いの眼差しをこっちに向けて押し黙っていた。

 

「あー、この間は悪かったよ。今回はホントに大丈夫だからさ安心してくれよ」

 

そんな松の様子を見てアタシは本当に馬鹿な事をしたなとこの間の事を改めて反省しつつも艤装を外す必要が無いことを伝えた。

 

「……食堂に戻るまで外さなくて良いんだな?」

 

「ああ、此処に戻るまで外す事は無い」

 

「大丈夫だよ松っ。摩耶()()()は良い子だからもうあんな言い方はしないって、ね?」

 

「……くくっ、そうなのか摩耶()()()?」

 

「ぐっ、てめぇら……はぁ、分かってるって。今度からは外す必要がある時は濁さずに言うから……その呼び方はマジで勘弁してくれ」

 

「あはは、仕方ないね。それじゃあ松も摩耶さんも早く行こうよ」

 

「ふふっ、そうだな……ってこら竹!ちゃんと装備してけぇぇぇっ!」

 

はぁ~、竹にゃ適わねぇなぁ……。

竹を何とか引き留めた松が竹に艤装を着けさせるのを確認するとアタシは二人を連れて工廠へと向かった。

工廠に入ると一足先に吹雪が一人で準備を始めていた。

 

「よっ!準備の方はどんな感じだ?」

 

「お疲れ様です摩耶さん。準備は丁度完了したとこです、ってあら?今日は松と竹も来ているんですね」

 

「おう、手伝いとして来てもらったんだ。人手はあった方が良いだろうしな?」

 

「そうでしたか。それはとても有難いです」

 

「お?そう言えば後の二人はどこ行ったんだ?」

 

「不知火は入渠中です。私は不知火を曳航して撤退する事になりましたが暁はそのまま任務を続行してますのでもうじき遠征から帰って来ると思いますよ」

 

「曳航して撤退?不知火は大丈夫なのか?」

 

「心配しなくても平気ですよ松さん。大破はしましたが命に別状はありませんから」

 

「そ、そうか。それなら良かった」

 

「良くないわよっ!」

 

不知火の無事を確認し松がほっとした直後、怒号と共に工廠の扉が勢い良く開け放たれた。

その先には帰ってきたばかりだと思われる暁が肩で息をしながら立っていた。

 

「おぉ、おかえり」

 

「ただいま摩耶さん――って違うのよ!吹雪、不知火は何処なの!?」

 

暁に物凄い剣幕で詰め寄られた吹雪は呆れた様に溜め息一つ吐くと修復時間の表示を指差した。

 

「あ、そりゃそうよね。ってなんなのよー!やっぱり駄目じゃないあのバカぁ!」

 

「おいおい落ち着けって。そんな声を荒らげてどうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたもないわよ!あのバカったら今日の出撃直後から様子が変だったから帰投しろって言ってたのに大丈夫だって頑なに撤退を拒んだ挙句大破して尚進もうするわでほんっと大変だったんだから!」

 

「あの不知火がか……何があったんだ?」

 

「分かんないわよっ!だからこれから問い詰めに行ってくるわ!」

 

確かに不知火が何か悩んでるなら話を聞いて解決してやりたいけれど、暁が行った所で果たして不知火が打ち明けるかどうか。

だったら……

 

「待った、不知火の所にはアタシが行ってくっから暁は二人に積み降ろしを教えてやってくれ」

 

「わ、私じゃ役に立たないって言うの!?」

 

「その通りです。なのでここは摩耶さんに任せて暁さんは大人しくこちらを手伝って下さい」

 

「お、おい吹雪っ!?」

 

「~~っ!バカにしないでよ!私だって人の悩みを聞くことくらい出来るんだからぁ!!」

 

「あ~いや待て、そうじゃなく……っておい!」

 

顔を真っ赤にした暁はアタシが呼び止めるのも聞かずにどすどすと大きな足音を立てて工廠を出て行ってしまった。

はぁ~……まあ変に拗れたりしなきゃいいが。

アタシは何も言わずに暁を焚き付けた張本人を見やる。

 

「……?どうしましたか摩耶さん」

 

「……いや、なんでもねぇ」

 

「そうですか」

 

何食わぬ顔でそういうと吹雪は既にフラワーが来るであろう水平線へ目を向けていた。

……まぁ今は考えてても仕方ねぇか。

そう思いアタシも前を向き水平線を眺めていると唐突に吹雪の方から声が掛かった。

 

「摩耶さん」

 

「おう?」

 

「暁さんが戻ったら不知火さんの事を宜しくお願いしますね?」

 

「おいおい、アタシが言うのもあれだけど暁だって結構しっかりしてるし案外大丈夫かも知んねぇぞ?」

 

もう少し暁の事を信じてやってもいいんじゃねぇかと思ったが、吹雪が言いたいのはどうやらそういう事では無いらしい。

 

「そういう問題ではありませんよ。単純に共に出撃している私や暁さんには話しにくい悩みではないかと考えただけです」

 

「ああ、そういう事か。でもそれなら態々暁の神経を逆なでするような言い方しなくても良かったんじゃねぇか?」

 

「駄目です。不知火さんにはなんでも一人で解決しようと意固地になる事が、どれだけ周りに心配を掛けているか知っていただく良い機会ですので」

 

「ふ~ん……なんか意外だな」

 

アタシが思ったままに口にした言葉に不満があるのか吹雪は一瞬不機嫌そうな表情を見せた。

 

「意外……どういうことですか?」

 

「いや、吹雪もどっちかっつうと不知火側の考え方なのかと思ってたからさ」

 

「……そうですね、私の場合は妹達に不安を与えない様に気を配っていたつもりだったのですが。暁さんから響さんの思いを聞かされて、その後『自分一人で全部解決しようとする人に周りが見えてるわけないでしょ!』って叱られて初めて自分がどれだけ周りが見えてなかったか思い知らされました」

 

「暁がねぇ……あいつ自身結構強がってて逆に子供っぽく見えたりするけどな」

 

「ふふっ、確かに負けず嫌いですし諦めも悪いですがそれでも一人で思い詰めたりしませんし、今日の出撃の時だって旗艦のル級さんに頭を下げてあらかじめ不知火さんのフォローを頼まれていたからこそこうして無事に帰って来れた訳ですしね」

 

なるほどなぁ……子供っぽく見えるのは裏を返せば信用して貰うために素の自分を見せてるって事か。

 

「へぇ……思ってたよりレディーなんだなぁ」

 

「えぇ、私よりずっと姉らしいですよ。暁さんは……」

 

そう口にする吹雪を見ると悔しさと申し訳なさが入り混じった様な瞳で水平線を見つめていた。

そんな吹雪を何とか元気付けてやれないかとアタシは吹雪の頭を撫でてやりながら言葉を紡ぐ。

 

「ま、アタシは吹雪だってしっかり姉ちゃんやってると思うぜ」

 

「本当に、そうでしょうか……」

 

「ああ、暁とはやり方は違えど妹達の為に頑張ってきたんだろ?それはきっと暁も響も解ってる。だからそう自分を責めるもんじゃないぜ?」

 

「摩耶さん…………いつまで頭を撫でてるつもりですか?」

 

「お、おう悪ぃ」

 

「…………べ、別に嫌という訳ではありませんが……

 

アタシは咄嗟に手を離し自分の頭を掻いていると吹雪はそっぽ向いたまま小さな声で何かを呟いた。

 

「ん?何だって?」

 

「何でもありませんっ。それよりフラワーさんが来ましたよ」

 

「お?ホントだ。おーいっ!」

 

数分後、工廠のドックに停泊したフラワーと挨拶を交わしコンテナを降ろしてもらった後、アタシは松達に作業内容を説明しすぐさま物資の積み下ろしに取り掛かった。

 




大丈夫……まだ大丈夫なはずだ。


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第六十九番~母~

なんだか近頃、話の書き方が変な気がします。
もっと基礎から勉強したいと思う今日この頃……


午後八時、入渠を終えた不知火がドックから出てくるのを見つけたアタシは不知火に声を掛けた。

 

「よっ」

 

「摩耶……どうも」

 

「おいおい待てって、飯用意してんだから食いに来いよ」

 

「いえ、不知火は大丈夫ですから」

 

そう言ってそそくさとその場を立ち去ろうとする不知火の腕を掴み引き止める。

 

「遠慮すんなって、今日はカレーだからすぐに食えるぜ?」

 

「カレー……いえっ、用事が有りますので失礼します」

 

「用事?金剛に連絡するのは明後日だろ?」

 

「あ、いえ……えと……別件が……」

 

「別件?飯食う暇もねぇくらい緊急なのか?」

 

「ええ、そう……です。ですから……」

 

そう答える不知火の様子は普段からは想像もつかないくらい狼狽えていて、嘘を吐いてるであろう事は誰の目にも明らかだった。

 

「なぁ、動揺を全く隠せてねぇぞ?」

 

「ばっ、馬鹿な!?そ、そんなはずは……」

 

「まあ本当に緊急の件があるっつうならアタシも手伝うし吹雪達にも手伝って貰う事だって出来るからよ、話してくれよ」

 

「ゔっ、それは…………すいません、別件なんて無いです」

 

「ん、そっか。じゃあちゃっちゃと飯行こうぜ」

 

「…………はい」

 

呆気なく陥落した不知火の手を引いてアタシは食堂へと足を運んだ。

夕飯の時間は既に終わり、松と竹にも部屋に戻って貰い食堂にはアタシと不知火の二人しか居ない状態となっている。

そんなのは勿論様子がおかしい不知火から話を聞く為だ。

因みに暁は作業が終わる前には戻って来てぷりぷり怒りながら積み降ろしをしてたから恐らく聞き出せてねぇんだろうな。

それはともかくとして、取り敢えず不知火には飯を食って落ち着いて貰おうと温めたカレーを差し出す。

 

「まずは飯にしようぜ?」

 

「…………戴きます」

 

椅子に座ったまま暫く微動だにしなかった不知火だったが耐えられなくなったのか遂にスプーンを手に取りカレーを口に運び始めた。

そんな不知火の様子を厨房から見ていたアタシは胸を撫で下ろし、不知火が食べ終えるまでの間そっと見守っていた。

 

 

 

 

 

 

「……ご馳走様です」

 

「おう、お粗末様」

 

カレーを食べ終えた不知火がコップの水を飲み干し一息吐いた所でアタシはピッチャーを手に厨房から出る。

そして不知火のコップに水を注ぎつつ早速本題を切り出す。

 

「なあ、今日の朝から様子が変だって暁と吹雪が心配してたぞ?」

 

「変……ですか。別に普通だと思いますが?」

 

「いやなぁ、何時もなら飯を断るだけであんなに取り乱さねぇだろ。そもそも断る理由も解んねぇしな」

 

「それは……その…………あれです」

 

「つーかそれだよそれ。いつもそんなに歯切れ悪くねぇだろ?」

 

「うっ……そう、でしょうか。いえ……ですが……」

 

ん~……焦れってぇなぁちくしょう……。

 

「あ〜もういい!」

 

「え?」

 

こんな不知火と長々と話すくらいなら無理矢理聞き出してやんよ!

アタシは背後から不知火の腰に手を廻しそのまま抱き抱える。

そして状況が理解出来ずに唖然とする不知火に対してアタシはこう告げた。

 

「お前が何を悩んでるか話すまでアタシも離さねぇからな」

 

「な、なにを言っているんですか。そんな事出来るはずが……」

 

「いーや、アタシはやるぜ」

 

他にいい方法が思いつかねぇしな。

 

「し、しかしそれでは任務に支障がでますし摩耶だって」

 

「どのみちそんな状態で出撃なんてさせらんねぇし金剛にはこのままでも伝えられんだろ?アタシの方なら今は松達が手伝ってくれてるし睦月達だって頼めば助けてくれるっつってたから問題ねぇ」

 

「そ、そうですか……ですが不知火に悩みは有りませんので時間の無駄だと思いますよ?」

 

ほっほぉ〜、そう来たか。

まだ話さないで済むとか思ってんのか?

じゃあこれならどうだ!

アタシは不知火に片腕を見せると一瞬だけ連装砲を展開して見せた。

 

「なっ…………!?」

 

「分かったか?アタシはお前を取り逃がす気もねぇし寝るつもりもねぇ。長期戦も覚悟の上だっつうことだ」

 

「で、ですが起きているにも限界がある筈です」

 

ちっ、流石に知ってるか。

アタシも明石から聞いたわけだしまあ海軍出身の不知火なら知ってても不思議じゃねぇか。

 

「まあそうだな、補給無しで三週間って所らしいが補給ありならどうだろうな?」

 

これについては明石も知らねぇっつってたし絶対にやるなって念を押された位だからきっと不知火も解らねぇはずだ。

 

「…………」

 

どうやらその予想は的中らしく不知火はそのまま暫く黙り込んでいた。

やってやったぜ!なんて得意気になっていたが暫くして熱が冷めると客観的に自分を見る事が出来る様になり、そして考えた。

流石にこれは強引過ぎじゃね?

反省したアタシは出来る限り柔らかい口調で諭す事にした。

 

「なあ不知火、自分の悩みを自分で解決しようとする姿勢は立派だとアタシは思う。けどな?自分一人で解決出来ないような時に周りに助けを求めるのも同じ位立派な事だと思うぜ?」

 

「助けを求めるのが…………立派?」

 

「ああそうだ。だって助けを求められるって事は仲間の事を気にかけてるって事だからな」

 

「不知火が……周りを気に掛けてないと?」

 

「アタシは不知火じゃねぇから其処までは解らねぇな……けど、お前が周りを頼らなきゃ周りが困ってもお前を頼れねぇだろ?」

 

「…………」

 

「今日の出撃だってもし暁がル級達に頼らずに一人でどうにかしようとしてたら大破じゃ済まなかったかも知れねぇんだぞ?」

 

「……不知火は助かるべきでなかった」

 

「は?それはどういう事なんだ?」

 

発言の意味が理解出来なかったアタシが詳細を訊ねると不知火は再び押し黙ってしまっていたが、やがて観念したようにぽつりぽつりと話し始めた。

 

「実は……先日何者かから無線機に連絡が入ってきました」

 

「無線機っつうと金剛と連絡を取ってる方か?」

 

「はい。ですがその者は一切暗号化せずに話し掛けて来ました」

 

「えっと?つまり傍受されるのを覚悟で不知火に通信を繋いできたって事か?」

 

だが不知火は首を横に振った。

 

「違うのか?」

 

「ええ、恐らく意図的に傍受させる事によって私の位置を特定しようという大淀側の魂胆でしょう」

 

「なるほどな。それで?そいつとは何を話したんだ?」

 

やっぱ話を長引かせる為の他愛もない話か?

いや、それだったらそもそも不知火が取り合わねぇ。

アタシは色々と推測してみたもののその答えは予想だにしないものだった。

 

「いえ、相手は私に名乗った後明石に代わってくれと言ってきました。なのでその時の私は深く考えずに明石に代わってしまいました」

 

「は?明石にか?つか名乗ったって……」

 

「そうです。確かタウイタウイ第六鎮守府秘書艦のヴェールヌイと言っていましたが今考えれば全て私に怪しまれずに通信を続ける手段だったのでしょう」

 

ちゃんと名乗る事で相手を信用させるか……あれ?なんかおかしくねぇか?

 

「なあ不知火。お前って今海軍中に狙われてるんだよな」

 

「はい、そうですがそれがどうかしましたか?」

 

「だったら海軍所属って事を名乗ったら逆に怪しまれるだろ」

 

「…………はっ!?」

 

不知火は暫く顎に手を当てて考えていたが漸くこの事実に行き着いたのか驚きを隠せないまま顔だけをこっち向けていた。

 

「そうでした……あの時気付いて居れば防げたと言うのになんて事をっ!」

 

「お、おいおいそうじゃねぇって。アタシが言いてぇのはそいつは別の用事があって連絡して来たんじゃねぇかって事だよ」

 

「別の……?」

 

「ああ。つか明石に代わったんならそいつと何の話をしたか聞けば良いじゃねぇか」

 

「しかし、万が一明石が内通者だったら話を合わせてくる可能性が……」

 

「あー、それは大丈夫だろ。そもそも明石は金剛が来る前から居た訳だしな」

 

「ですが可能性が無い訳では──」

 

「良いから行くぞ!アタシが大丈夫っつってんだから大丈夫だっつうの!」

 

アタシは不知火の話をぶった斬ると不知火を抱えたまま強引に工廠へと向かった。

真剣に悩んでる不知火には悪いがアタシは今回の件は不知火の危惧するような話じゃないっつう確信があるんだ。

正直明石が内通者だとか近くに明石がいるのを知ってるんだったらそんなまどろっこしい事しなくても特定すんのに時間は掛からねぇはずだからその線は無いと考えていいと思ってる。

と言っても不知火に話すつもりねぇけどな。

不知火にとって余計な不安材料になりかねない事を言う気はねぇよ。

 




語彙力云々よりも読みやすい文章の書き方を勉強したいです。


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第七十番~母~

不知火編延長戦開始ぃ!!(想定外w)


不知火を抱えたまま工廠に入ると明かりは点いているものの見える範囲には人影は見受けられなかった。

 

「え〜と、奥の部屋か?」

 

「摩耶、流石に恥ずかしいのでそろそろ離して頂けないでしょうか」

 

「お、そういやそうだった。つーか全然恥ずかしがってる様にみえねぇし寧ろくつろいでねぇか?」

 

「そうでしょうか?確かに居心地は悪くないですが」

 

「なら別に良いじゃねぇか」

 

「いえ、恥ずかしいのも事実でして」

 

「あら?摩耶さんと不知火が一緒に来るなんて珍しいわね……というかほんとに不知火?なんか抱き上げられた猫みたいになってるけど」

 

アタシ達の話し声が聞こえたのか奥の部屋からやって来た明石が思わぬ光景に口をポカーンとしていた。

その様子に不知火の恥ずかしさが限界を迎えたのかするりとアタシの腕から抜け出し隣に立ち上がると何事も無かったかのように振舞う。

その一連の動作も猫っぽいなと思ったのはきっと明石も一緒だろう。

だが別にそんな不知火を見せに此処に来たわけじゃ無いのでアタシは早速明石に訊ねる事にした。

 

「あー、今時間大丈夫か?」

 

「えぇまぁ丁度暁ちゃんの艤装の整備が終わった所ですので問題ないですよ?あ、立ち話も何ですし奥で話しましょうか」

 

「ああ、助かる」

 

明石に案内された部屋は明石の作業場となっているのか色々な道具や機材が散乱して足の踏み場も無い様な状態だった。

 

「あっ、すみません!片付ける前でしたので、直ぐに片付けますね」

 

「あ、いやぁ…………少し聞きたい事があるだけだし別に此処でも大丈夫だぜ?」

 

「いえいえ、軽くですがすぐ片付けますっ!というか普段から散らかしてる訳じゃなくて作業後だからこうなってるだけですよ!?そんなに引かないで下さいよっ!」

 

「分かってる、分かってるって。な?不知火」

 

「はい、そういう事にしておきます」

 

「えぇっ!?不知火は前に見てるでしょ~!?ほら見て!摩耶さんが私を片付けられない女として見てるじゃないのよ~!」

 

「ま、まぁまた来た時に証明出来るんだし今は良いじゃねぇか」

 

済まねぇ明石、判断材料がこれしか無い現状じゃフォローのしようがねぇ。

 

「はぁ……分かりました、今は諦めましょう。あ、どうぞそちらに腰掛けちゃって下さい」

 

「おう、さんきゅ」

 

「失礼します」

 

アタシと不知火が座布団に腰を掛けたのを確認した明石は対面の座布団に座ると早速用件を聞いてきた。

 

「それで今日はどうされました?」

 

「ああ、この間明石が無線で連絡を取り合った相手が居ただろ?」

 

「私がですか?えーと、タウイタウイのヴェールヌイさんと話した時の事ですかね?」

 

「そうそう、そいつと何の話をしたか教えて貰いたくてよ」

 

「はぁ……それは構いませんが」

 

明石は何故アタシがそんな事を聞きたいのか分からないといった様子だったが、その時の会話を思い出しながら話し始めた。

 

「えっと……確か艤装が展開出来ない門長さんの身体の検査方法を教えて欲しいって言ってたから説明したくらいかな?」

 

「は?門長だって?」

 

「門長さんがどうかしましたか?」

 

「いや、だってあいつは今……はっ!」

 

そういや言ってたな……()()()()()()に行くって。

 

「不知火、謎は全て解けたな?」

 

「で、ですがそこの鎮守府が大淀側でないという保証は無いのでは!」

 

と此処で明石が割って入ってきた。

 

「あー、そういう事でしたか。それなら大丈夫ですよ不知火さん」

 

「明石?何故大丈夫だと言い切れるのですか」

 

「そうですね。まず初めにあそこはDRCSで運営している鎮守府ですのでその性質上手配が廻っている艦娘の捜索指令は発令されないんですよ」

 

「なんだそれ?だったら隠れ放題じゃねぇか」

 

「はい、勿論そういった事が起きない様に指定の艦娘が着任した際には横須賀第一鎮守府に連絡が行き現場の提督を介さない即時引渡し手続きが行われる様になってます。ですから条件付きとはいえ不知火さんは横須賀第一の明石さんの話を受けて正解だった訳ですね」

 

「そうでしたか……」

 

もしもの事を想像したのか不知火は少し青ざめているようだった。

その事に明石も気付いたらしく声のトーンを上げ次の話へとり替えた。

 

「それともう一つ!これは私の経験に基づくものなのですがね?あの無線機実は簡単に作れる者じゃ無いんですよ!」

 

「は?しかし現に明石が複製していたではないですか」

 

「え~と、あれって実はその場凌ぎの為に現物も少し弄って金剛さんの無線と共有させているんですよ」

 

「ええと……?金剛の無線と共有させると何が起こるんだ?」

 

いまいち要領を得ないアタシを見て、明石は詳しく説明してくれた。

 

「えっとですね、私達が普段使ってる無線機と言うのは周波数、所謂チャンネルを合わせる事で通信を可能にしています。それはあの無線機も一緒なのですが問題はその合わせ方です」

 

「合わせ方?それが特殊ということですか」

 

「ん~特殊というか秘匿性を上げるためだと思うのだけれどチャンネル切り替えが自動制御になってる上にプログラム自体に厳重なパスワードが掛かってて何チャンネル使われてるかすら解りませんでした」

 

「しかし、それならパスワードを解析すれば済む話ですしそうでなくとも時間をかければいずれはチャンネル数は解るのでは?」

 

と不知火が言うと明石は途端に遠い目をしながら答えた。

 

「そうですねぇ……十分経つと組み直される上にあんな幾つあるかも解らない規則性を組み合わせた文字の羅列のような暗号を解ける人が居るなら解るかも知れませんが、私は解析は専門ではないので今度イクさんに頼んで見ようと思います」

 

「そうですか……」

 

えぇっと……?どういう事だ?

さっぱり分かんなくなって来やがったぞ?

頭がこんがらがって来たアタシは一旦整理する為に明石に声を掛けた。

 

「ちょっといいか?もし違かったら悪ぃんだけどよ。今の話と金剛の無線に共有させたら何が起こるかって話しは繋がってる……のか?」

 

「あ……そうですね、ここまでお話する必要は無かったのですがつい」

 

明石はそう言って照れ笑いを浮かべると咳払いを一つして再度話し始める。

 

「まぁ、という訳で本体とチャンネルを合わせる事が出来ないのでそれなら金剛さんの無線に繋いでしまえばいいという解決策を編み出したわけですよ」

 

「ふむ、つまり現状では金剛さんの所持している実物以外ではこちらに通信が出来ないということですね?」

 

「そうなるわね!因みに周波数を合わせる為に金剛さんの艤装にも勝手に手を加えさせて貰ったわ」

 

「おいおい、せめて一声掛けてやれよな」

 

「ですがそうすると新たな疑問が出てきます」

 

「疑問?」

 

「はい、それだと向こうの声は暗号化されるはずでは?」

 

ああ、そう言えばそうなるのか。

でも不知火は暗号化されてないまま話し掛けて来たって言うし明石も向こうの話を聞いたわけだよな。

 

「うーん……そうなんですよねぇ」

 

アタシも不思議に思い明石の方を見るが明石も渋い顔をして唸っていた。

 

「明石にも分かんねぇか」

 

「いえ、あっちはあれが作られた場所なのでパスワードを解除するソフトかなんかがあるはずです。それでプログラムを弄ればどうにか出来ると思うのですが到着予定と連絡があった時間を考えるとちょっと……」

 

「そうですね、予定より早かったとしても到着してから二日も経ってませんからね」

 

「実際プログラムを見たわけじゃないので何とも言えませんが恐らく簡単ではないでしょう」

 

うーん……謎は深まるばかりってか?

アタシはあんま詳しくねぇから検討もつかねぇしなぁ。

もっと詳しい奴に聞ければいいが正直明石以上に詳しい奴なんて此処には居ねぇだ……ろ?

 

「そうだよ!いるじゃねぇか!」

 

「へぇあ!?ま、摩耶さん!?」

 

「摩耶、いきなりどうしました?」

 

「気になるなら作った本人に聞けば良いじゃねぇか!」

 

「本人……ああっ!なるほど!」

 

「ですが軍属ですよ?この様な事に時間を割くとも思えませんが」

 

あ〜……ま、そん時はそん時だ。

 

「兎に角やって見なきゃ始まらねぇだろ!ちょっと行ってくるぜ!」

 

「行ってらっしゃいませ~」

 

アタシは不知火を連れて直ぐに不知火の部屋へ無線機を取りに走った。

そして無事回収すると再び工廠へと戻ってきた。

 

「よしっ。……なあ不知火、これはどう使えば良いんだ?」

 

「こちらのボタンを押せば向こうに呼出音が鳴ります。繋がった際にこちらのランプが点灯しますのでそしたら話し掛けて下さい」

 

「これか、よし…………お?繋がっ──」

 

『Дどеドрлоシнеどывцщ?』

 

繋がったと同時に意味不明な音声が飛び出して来たのでアタシは無線を耳から離しつつ慌てて不知火の方をみる。

 

「もしかして……壊しちまったか?」

 

「いえ、向こうで暗号化されたものが直接出力されてるだけです」

 

そ、そうなのか。あせったぁ……てあれ?けどこの状態じゃ会話できないんじゃねぇか?

…………まぁ、一応言ってみるか。

 

「金剛か?悪ぃんだけど前みたいにそっちと話せる様に出来ねぇか?」

 

『Оおпオекрちлыマвзжиьке』

 

何を言ってるのかはさっぱりだったが通信は繋いだままだったから暫く待つ事にした。

それから三十分が経ち、やっぱ駄目だったかと通信を切ろうとした時……

 

『мщв......こちらタウイタウイ第六鎮守府秘書艦ヴェールヌイ、そっちの名前と要件を聞かせて貰えるかい?』

 

遂に向こうからの応答があった。

アタシは柄にもなく緊張しつつ、無線を手に取った。

 

「お、おう。アタシはこっちの明石達と一緒にいる摩耶ってんだ。要件は単純なんだ、来るはずのない所から突然通信が来たもんだからうちの不知火がすっかり怯えちまってな」

 

「べ、別に怯えている訳ではありませんっ」

 

「まあこのままじゃ私生活にも支障が生じちまうかも知んねぇから不知火を安心させるために一つ教えて欲しい事があるんだ」

 

『ふむ、それは申し訳ない事をしたね……分かった、協力しよう。それで私は何を話したらいいんだい?』

 

「お!話が分かるね!じゃあ忙しいだろうし早速聞くが、本当なら今みたいに会話が出来ない筈なのにどうしてそっちの言葉がこっちに伝わるんだ?」

 

アタシの説明が悪かったのかも知れないがヴェールヌイは無線機の向こうで考えていた様で少しの無音が続いたがやがてアタシの問いに答えた。

 

『ああ、これは簡単な事さ。こщгкеこиьчджцハгкфпだрйзщ……と、こっちではこうやって話してるだけさ』

 

「え……?つまりどういう事なんだ?」

 

アタシは理解する事が出来ず呆けているとヴェールヌイは補足するように話し始めた。

 

『まぁ、説明すると暗号化した際に伝えたい言葉になるように発声しているんだ』

 

「えぇっ!?さ、流石に冗談ですよね?」

 

驚きを隠せないのは横で聞いていた明石だった。

 

「そんなに驚く程の事をやってんのか?」

 

「いやいや!驚くなんてもんじゃありませんよ!?そもそもエニグマ以上の秘匿性を持った暗号を全て覚えてなければ出来ませんし、例え暗記したとしても言いたい言葉を即座に暗号化して更にそれを発音するなんて不可能だと断言出来ます!」

 

「いや、実際話してるわけだし断言は出来ないだろ」

 

「それは……きっと何か別の方法で……」

 

『うーん、明石さんの言っていたことは概ね正しいけど少し訂正箇所があるかな?まず残念な事にこの暗号自体にエニグマ程の秘匿性はないよ、あくまで私個人で考えた暗号だからね。ちょっと特殊なのと無線機のチャンネル制御なんかで秘匿性を上げてるだけさ』

 

「だからってそんな……信じられない……」

 

『まあ明石さんの気持ちも分からなくないけど私も嘘を言ってないし、どうしたものか……』

 

未だに信じられない様子の明石は一旦放っておくとしてアタシは不知火に聞いた。

 

「どうだ、これで安心したか?」

 

「別にそういう訳ではありませんが……ですがおかげさまで胸のつっかえは取れました」

 

「おっし、どうやら安心したようだ」

 

『そうか、それなら良かった。代わりに明石さんを悩ませてしまったが大丈夫かい?』

 

「あーまあそっちは大丈夫だろ。気になるなら直接そっちに行って来いって伝えとく」

 

『そうだね、明石と夕張共々心待ちにしているよ。おっと、暁が呼んでるから私はそろそろ失礼するよ』

 

「忙しいのに手間掛けさせちまって悪かったな」

 

『問題ないさ、それじゃ』

 

「ああ、それじゃあな」

 

その会話を最後に通信は終了し、アタシは無線機を机に置いて一息ついた。

 

「ふぅ……大分時間は掛かったがこれにて不知火の心配は完全解決したわけだな?」

 

「……はい」

 

「さて、此処で問題だ。今回の件での不知火の落ち度はなんだ?」

 

「…………自分の早とちりで仲間に迷惑を掛けた事、でしょうか」

 

「近い……が、もっと根本的な問題だ」

 

「根本的……?」

 

今一つピンと来ていない不知火へアタシは別の質問を投げかける。

 

「じゃあ今回の件はどうやって解決したんだ?」

 

「それは摩耶が明石の所へ相談しにいっ……て……」

 

「そうだな。じゃあもしアタシが不知火から無理やり聞き出そうとしなかったり、アタシが連れて行かずにうんうん唸ってそのまま解散してたらお前はどうしてた?」

 

「それは…………それ……っは……き……っと…………

 

アタシの問いの答えを想像したのかいつしか不知火は拳をぎゅっと握り締め必死に涙を堪えながら一言一言紡ごうとしていた。

そんな不知火の言葉を止める様にアタシは優しく抱き締めて言った。

 

「そんな考えただけで泣きそうになる様な事を決意せざるを得ない状況になる所だったんだせ。な、周りに助けを求めるのも大事だろ?」

 

「しら……っぬい……はぁっ……一人で……出来る事など知れてる……とっ…………知っていた……はず……っなのに!……忘れてっ……しまってぇっ……た……のは……重大……っな…………落ち度……で……す……」

 

「そっか。忘れてたって事はちゃんと思い出せたんだろ?良かったじゃねぇか」

 

「うゔ……ですが…………でっ……すがぁっ……」

 

「いいよ、今は存分に泣いときな」

 

「うっ……うう……うわぁぁぁぁぁん!!」

 

そのまま不知火が泣き疲れて眠りに就くまで背中をさすり続けてやった。

そして不知火を布団に寝かせた後、アタシも部屋に戻って寝る事にした。

けど何故か解らねぇがさっきからモヤモヤした気持ちが収まらない……一体何だっつうんだ。

 




説明が多い気がするのは上新粉の仕様(趣味)です。
そんな細かい所を説明されてもって思われそうですが……


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第七十一番~母~

シリアスは抑えられた。日常の勝利である(大本営発表)


全然眠れそうに無かったアタシは気を紛らわそうと再び明石の所に戻って来ていた。

 

「明石、まだ起きてるか?」

 

「摩耶さん?忘れ物ですか?」

 

「いんや、ちょっとまだ眠れそうになくてな。大丈夫かな?」

 

「ええ、平気ですよ」

 

「ありがとな」

 

アタシは明石にお礼を言って座布団に座る。

……つっても特に話す事も思い浮かばねぇな。

そう思ってると明石の方から話題を振って来てくれた。

 

「いやぁ、今日もお疲れ様でした。不知火もあの調子ならきっともう大丈夫そうですね」

 

「ああ、そうだなぁ」

 

あれ、会話が終わっちまった……。

しかし明石は気を使ってくれたのか別の話題を振ってくれた。

 

「そう言えば松ちゃん達はちゃんとやってますか?」

 

「んあ?どっから聞いたんだ」

 

「睦月ちゃん達が話してたのを小耳に」

 

「そっか……お陰様でとても助かってるぜ」

 

最近は皆で一緒に飯が食える様になったしな。

そういうアタシはあいつらに恩を返せてんのか?

アタシの出来る事……かぁ。

 

「……摩耶さん」

 

「お?」

 

不意に明石に名前を呼ばれたアタシは顔を上げる。

明石はアタシの顔を見ながらニンマリとした笑顔で言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。ですよ?」

 

あ、そっか……だからアタシは戻ってきたのか。

 

「…………けど、いいのか?詰まらない話になるぜ?」

 

「摩耶さんは困ってる人の話を詰まらないって切り捨てるんですか?それに先程から救難信号が発信され続けているのに放っておける程私は非情ではありませんよ」

 

救難信号って。なんだよ。アタシの身体は世間話をしたくて来たわけじゃないってアタシより先に知ってたってことかよ。

 

「……ぶっ、あっははははっ!はは、アタシってば分かり易い身体してんなぁ」

 

「そうですね、そういう所も摩耶さんらしくて私は好きですよ」

 

「あー……ありがとな。じゃあ悪ぃがちょっと付き合ってくれ」

 

「もちろん、あ、それじゃあいつ甘えたくなっても良いように隣に行きましょうか?」

 

「いやいやそれは流石にな?」

 

「恥ずかしがっていたら言いたい事も言えないですよ〜?」

 

「そ、そうか?いや、でもなぁ……」

 

「ほら、何を躊躇ってるんですか?はっきりしないでうじうじするのは貴女自身が嫌ってる事ですよ!」

 

うっ……そうか、そうだよな。人に言うだけ言って自分が駄目じゃ筋が通らねぇ……よな?

 

「…………頼む」

 

「何をですか?それじゃ伝わりませんよ!」

 

「………………」

 

「あ……ちょっと調子に乗っ──」

 

「と、隣にっ!……来て…………くれ……

 

「あ、えと摩耶……さん?」

 

くっそ恥ずかしい……けど言わなきゃ……駄目だ!

 

「甘えっ……させて……欲しい…………

 

……ふぅ……ってあ、ああちょっ!?ななななに言ってんだアタシわぁ!!?

意味分かんねーし!別に言う必要ねーだろこんな事!!

 

「…………」

 

「わわわりぃ明石っ!ア、アタシやっぱもう戻るわ!!じゃ、また──」

 

「あか……し?」

 

急いで立ち上がろうとするアタシは不意に後ろから抱き締められた。

 

それだけでさっきまで感じていた恥ずかしさなど既に何処かへと消えアタシはえも言われぬ安心感に包まれた。

 

「ごめん、少し調子に乗り過ぎちゃいましたね」

 

「いや……でも、だいぶ楽になった」

 

「そうですか?では、座り直して残りも吐き出してしまいましょうか」

 

明石に促されるまま座布団に座るとアタシはそのまま明石の肩にもたれ掛かった。

 

「膝の上でも良いんですよ?」

 

「ん、これで良い」

 

「そうですか、分かりました」

 

「……なぁ、アタシってあいつらの力になれてんのかな……」

 

「そうですねぇ。質問を質問で返す様で申し訳ありませんがご自身ではどう思われます?」

 

「アタシ?……アタシ自身はさ、実際人にご高説垂れる事が出来るほどこの世界を生きてねぇからよ……今の時代を戦い抜いてきた不知火達にアタシが口を出すってのはお門違いっつうか、烏滸がましいんじゃねぇかって思うんだ」

 

「……そうですね。それでも私は摩耶さんにはそのままでいて欲しいと思っています」

 

「は……?なんでだよ、訳わかんねぇ」

 

「先程摩耶さんは不知火に対して周りに助けを求めるのも大事だと言いました」

 

「ああ……」

 

アタシ自身一人じゃ絶対にここまで生きて来れなかったって言える位に周りに助けられて来たからな。

だからこそアタシも仲間の力になりてぇ……!

なりてぇ……だから…………アタシは……

 

「……ですが助けの求め方が解らなかったり、不知火の様にいつの間にか言えなくなってしまった人に対してはこちらから踏み込んで行かなきゃ救えないのも事実です」

 

そう言いながら明石はアタシの頭を引き寄せ自身の膝の上にそっと乗せた。

その時感じた頬を伝う冷たさに初めて自分が泣いていた事に気付いた。

左手で目元を覆い泣いているのを隠そうとするアタシの頭を明石は優しく撫でながら続けた。

 

「そういう時に真っ向から当たって、時には強引に引っ張り出してあげて、そうして悩みを一緒に解決してあげられる人が必要なんです。それが出来るのは摩耶、此処には貴女しかいません。そんな貴女だからこそ皆に慕われているんです」

 

「アタシが……?」

 

「えぇ、門長さんや金剛さん。私や不知火達には出来ない、摩耶にしか出来ない事だと断言してもいいです」

 

そっか、そうだと……いいな。

 

「でもさ……やっぱアタシ一人じゃ荷が重すぎるからよ…………また……こうして……甘え……て……

 

「えぇ、私で良ければ──ってあら……ふふっ、おやすみなさい摩耶さん」




摩耶様が良い夢を見れます様に……


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第七十二番~母~

矛盾の壁が目の前に現れた。

どうする?
矛盾の壁にある僅かな隙間を潜り込む。
スーパー堤防の様にそこまでの道のりを壁と同じ高さにする。
➡︎壁が建っていない所を進む。


スーパー堤防実現は厳しいですよね。


陽の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。

その眩しさに、アタシは右手を顔の上に掲げ薄目を開ける。

視界には記憶に無い天井……。

アタシは微睡みの中、此処が何処なのか確認する為視線を動かす。

 

「……あ、明石」

 

「あら、おはようございます摩耶さん」

 

「…………」

 

明石と目が合ったアタシは昨晩の事を思い出し、あまりの恥ずかしさに思わず背を向けた。

 

「え~、と……どうされました?」

 

くそ~……幾ら不安があったからってなんであんな事をやらかしちまったんだ。

だが、いつまでもこのままって訳にも行かないのでアタシは明石に背を向けたまま口を開く。

 

「明石……昨晩の事は全部忘れてくれ」

 

「昨晩の事全部ですか?それは出来ません」

 

「なっ!?ちょっ、マジで頼むって!」

 

明石の方へ勢い良く向き直り頼み込むも、明石は首を横に振り頑なに拒んだ。

 

「ダメですっ、摩耶さんとの約束を忘れてしまったら摩耶さんは一人で悩みを抱えてしまうかも知れないじゃないですか!」

 

「う……あ……うぅ……」

 

確かに最後明石に何か話した覚えが……。

 

「ですが皆さんには絶対に言いませんのでご安心下さい。私達だけの秘密ですっ」

 

「う……わりぃ……」

 

出来れば忘れて欲しかったが誰にも言わないでくれるのなら……いいか。

少しずつ落ち着きを取り戻し始めたアタシはその事を一旦置いといて現状の把握に努めることにした。

 

「なあ、此処って……明石の部屋か?」

 

「えぇ、そうですよ?兵装改修施設内にある寝室です」

 

「へぇ~……」

 

普段から片付けているのか部屋は工廠の方とは違い綺麗に整理されていた。

アタシは周囲を眺めながらその事に感心しているとふと机の上にある時計が目に止まる。

 

「あ……あ……あぁっ!?」

 

「へぇ!?ど、どうかなさいましたかっ?」

 

「は……はち……」

 

「はち?」

 

「もう八時過ぎてんじゃねぇかぁー!!」

 

「は、はい……今は八時半ですが──」

 

やっべぇ!呑気に話してる場合じゃねぇぞ!?

ええとまずカレーに火をかけて……って白飯まだ炊いてねぇじゃん!?

ああ不味い!と、兎に角直ぐに食堂に行きながらどうすっか考えねぇと!

 

「────ってあのぉ……聞いてます?」

 

「わ、悪ぃ明石!ちゃっちゃと飯の準備してくるわ!」

 

「えっ、だからちょっと待ってってば!」

 

「うおっ!?」

 

明石に一言言って急ぎ食堂へ向かおうとするアタシの腕が不意に後ろに引っ張られ、アタシは危うくすっ転びそうになった。

 

「いきなり何すんだよ!?危ねぇだろうがっ!」

 

アタシは明石の方へ振り返り声を荒らげて注意すると、明石は拗ねた子供の様に頬を膨らまし抗議の目を向けて言った

 

「摩耶さんが私の話を聞かないから悪いんですぅ」

 

「話?つっても今はそれどころじゃ──」

 

「ですから松ちゃん達は摩耶さんが休まれる事を知っているので大丈夫ですって話をしていたのに摩耶さん全然話を聞いてないんですもん」

 

「そ、そりゃあ悪かった……って、え?」

 

休み?なんで?もしかして自覚症状が無いだけでアタシの身体に何か問題があんのか?

 

「な、なぁ……そんなに酷いのか?」

 

恐る恐る尋ねると明石はアタシの事をキッと睨みつけると、強めの口調で言った。

 

「そりゃあ酷いですよっ、気付いてなかったんですか!?」

 

「ま……マジか……」

 

明石がここまで言うって事はもしかして……助からねぇのか?アタシ……。

 

「明石ぃ!頼むっ、アタシを見捨てないでくれ!」

 

「うぇ?ま、摩耶さん!?別に見捨てたりなんてしませんって!そこまで深刻にならなくても……」

 

「じ、じゃあ助かるのか?信じていいんだな!?」

 

アタシが縋るように明石両手を握り締めて尋ねると、明石は何故かキョトンとした顔をしたまま首を傾げる。

 

「へ?助かるってどういう事ですか?」

 

「いや、どういうって……アタシの身体は酷い状態だってさっき……」

 

「えと……ちょっと話が見えて来ないのですが……」

 

「だーかーらー、アタシが休まなきゃいけないほど酷いのかって聞いたら『そりゃあ酷いですよっ、気付いてなかったんですか?』って返しただろ!?」

 

アタシが説明すると明石は漸く納得したらしく何度も頷いていた。

 

「で、実際アタシは助かるのか?」

 

「あー……えーと、まぁ。結論から言いますと現状は問題ありません。ただ、結構疲れが溜まってるようでしたのでその事を松ちゃんに話したら今日明日は休ませてやってくれと言ってましたので了承しました」

 

「え……?じゃあ酷いっつうのはどういう……」

 

「あ、それは摩耶さんが『無視するのがそんな酷い事か?』なんて門長さんみたいな事を言い出したのかと思いついカッとなってしまって……すみません」

 

「そういう事か。あぁ……良かったぁ」

 

勘違いだった事に安堵し気が抜けたアタシはその場に崩れ落ち、深い溜め息を吐き出した。

とその直後、部屋の扉が勢い良く開かれると二つの人影が飛び込んできた。

 

「明石っ!摩耶はそんなに深刻な状態なのか!?」

 

「摩耶さ~ん!大丈夫?お粥作ってこようか?」

 

どうやら松と竹はアタシ達の会話を途中まで聞いてたらしい。

心配そうにこっちを見つめる二人にアタシは掻い摘んで説明してやった。

 

「なぁ~んだ、ただ単に松の早とちりだったんだね」

 

「むむむ……だがまぁそれなら良かった」

 

「心配してくれてありがとなっ。でももう大丈夫だ、飯食ったらそっちに合流するぜ」

 

アタシはやる気十分に松達にそう伝えるが唐突に明石から待ったが掛かった。

 

「駄目ですよ、疲れが全然取れてないんですから今日は一日安静です」

 

「えぇ~?つっても疲れなんか全然感じねぇぞ」

 

「そういうのは艤装を外してから言ってください」

 

「艤装を?」

 

明石に言う通りに展開した艤装を外してみた。

その直後、全身を襲う倦怠感にアタシは再びその場に崩れ落ちる。

 

「「摩耶(さん)!?」」

 

何が起きたのか解んねぇけど此処で認めるのは負けた気がするし、松達に弱い所は見せらんねぇ。

そう思ったアタシは何とか立ち上がろうと試みるが……。

 

「ぐっ……つ、疲れなんか……はぁ……感じ、ねぇ……ふぅ……」

 

「はいはい、強がりは良いですから入渠ドックに向かいますよ」

 

「うっ……あ……」

 

そう言って明石はアタシを軽々と背負い部屋を出ていった。

アタシは意識が朦朧とし、抗うことは出来なかった。

 

「それじゃあ松ちゃんも竹ちゃんも今日は宜しくねっ」

 

「それは良いのだが、摩耶は本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ、何度か入渠してるとは言え、三ヶ月近くも艤装を着けたままだったからそのツケが来ただけ。入渠して何日かすれば元気になるわ。貴女達には寝る時はちゃんと外す様に言ってたでしょ?」

 

「ああ。それは守っているが……そういう理由があったのか」

 

「てっきり明石さんが松を隠し撮りする為だと思ってたよ~」

 

「ちょっ、流石にそこまではやらないわよ~!」

 

「そうだぞ竹。幾ら明石でもそこまで下衆な事はせんだろう」

 

「そっかぁ、それもそうだねっ!」

 

だがその時、背中にいたアタシは明石が安堵している事に気付いた……きっとやろうとしてたんだろうな。

 

 

 

 

そうして風呂場へと運ばれたアタシは明石に服を脱がされ、そのまま湯船まで運ばれたのだった。

 

「あ~……三人ともすまねぇな」

 

「お気になさらず。困った時はお互い様ですから」

 

「ああ、摩耶にはいつも世話になっているからな」

 

「それじゃあ私達は行くからゆっくり休んでね~」

 

そういうと三人は風呂場から出ていった。

 

「……ありがてぇな」

 

暫くして残りの入渠時間が表示された。

 

「うげ、十二時間ってどういう事だよ……」

 

アタシの練度じゃ大破してもこんなに掛かんねぇと思ったが、どうやら三ヶ月のツケっつうのは相当な物のようだな。

 

「まぁ、身体も尋常じゃないくらいダルいし一眠りするか」

 

起きたばっかだしあんま眠れねぇかとも思ったが、それ以上に身体は疲れていたらしく、アタシの意識が飛ぶまでに十分も掛からなかった。

 

 

 

 

 

「あ!摩耶さんがいるぴょんっ!」

 

「しまった!そう言えば朝に松達が話してたじゃないか」

 

「でも摩耶さん眠ってるみたいだぴょん」

 

「そ、そうか……なら今の内に着替えて戻ろう」

 

「んん……ぅ……」

 

「「!!?」」

 

どうやらいつの間にか寝ちまってたみたいだな。

あれから何時間経ったんだろうかと目を開けるとそこには何故か驚きを隠せないといった風にこっちを凝視する卯月とそんな卯月とは逆にこれでもかと言うくらい顔を背ける夕月が立ち尽くしていた。

 

「どうした?お前等も入渠か?」

 

「う、うーちゃん達は訓練で汗をかいたからお風呂に入りに来たぴょん」

 

「卯月っ!?」

 

「おぉ、そういや普通の風呂も併設してるんだったな……で、なんでそこにずっと突っ立ってんだ?」

 

「あ……それもそうだぴょん。身体洗ってきま~っす!」

 

「ちょおまっ!?」

 

卯月は夕月の腕を引っ張り洗い場へと駆けてった。

 

「走ったら危ねーぞ?」

 

「はーい!」

 

ふう、後三時間かぁ……長ぇ。

アタシは残り時間に溜め息を吐くと、ぼーっと二人の様子を見ていた。

 

「どうする気だ卯月、今出たら確実に怪しまれるぞ」

 

「分かってるぴょん……こうなったら夕月には目を瞑ってて貰うぴょん」

 

「それはそれで怪しまれそうだが……仕方ない。感じは悪いが摩耶の方を向かないのが無難だろう」

 

「それならうーちゃんはフォローするぴょん!」

 

「よし、頼んだ。そしたら身体を流したら作戦開始だ」

 

何を話してたかは聞き取れなかったが、二人の仲の良さは遠くからでも感じ取れた。

やがて身体を洗い終えた二人は入渠ドックの隣の湯船へとやって来た。

 

「お待たせっぴょん!」

 

「し、失礼する……」

 

「おお、別に待ってた訳でもねぇんだけどな」

 

なんて言いながら夕月の方を見るが明らかに様子がおかしい。

湯船浸かって間もないっつうのに既に顔が自身の髪のように紅くなっているし、加えて言えばここに来てから全く目を合わせようとしない。

疑問に思ったアタシは夕月に声を掛けた。

 

「なぁ夕月、もしかしてお前に何か気に障るような事したのか?」

 

「い、いや……そういう理由じゃないんだ」

 

「じゃあなんでそっぽ向いてんだよ」

 

「あ、いや……これは……な」

 

なーにか隠してやがんな?

 

「おーい、もうちょっとこっち来いって」

 

「それは……ちょっと……」

 

アタシが夕月に手招きしていると突如卯月が立ち上がり視線を遮った。

 

「摩耶さん!これ以上は危ないぴょん!」

 

「危ない?」

 

「夕月は大きな生おっぱいを見ると抑えが効かなくなって飛びついてしまう病気なんだぴょんっ!!」

 

「は……?」

 

「お、お、おいいいっ!!?何言ってんだお前はぁっ!!」

 

「うびゃあぁ!?おおお落ち着くぴょ~んっ!!」

 

顔を真っ赤にして卯月の肩を激しく揺さぶる夕月を理解が追い付いていないアタシは暫く茫然と眺めていた。

 

「それなら感じ悪い奴と思われる方がまだマシだろうがぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うびゃびゃびゃびゃぁぁぁ~……」

 

「はぁ……はぁっ……」

 

漸く思考が追いつき我に返った時には卯月は言葉にならない声を発しながら目を回し、夕月は肩で大きく息をしていた。

 

「ええと……大丈夫かそいつ」

 

「はぁ……はぁ……はっ!?おい卯月!卯月っ!?」

 

「うびゃぁ~……も~びっくりしたぴょん!何するんだぴょん!」

 

「はぁ……すまん、確かにやり過ぎた。けどな卯月、お前は俺を変質者にするつもりか?」

 

「ぷっぷくぷぷぅ~……うーちゃんだって夕月の為に考えたのにぃ……」

 

「ああ、それは分かってる。ありがとな卯月」

 

「んふふ~。分かればいいのでぇっす!」

 

いいなぁ……仲のいい姉妹っつうのはやっぱ憧れるな。

アタシも鳥海や姉さん達とあんな風に……ってアタシの柄じゃねえか。

 

「それじゃあうーちゃん達はそろそろ出るぴょん」

 

「喧しくして済まなかった。摩耶、お大事にな」

 

「おう、さんきゅうな」

 

アタシは湯船の中から夕月達が出ていくのを見送った。

あ、結局夕月の様子がおかしかった原因は解んなかったな。

まさか本当にそういう病気だったり……なんてな。

その後も小破した暁が入って来たり、竹が様子を見に来てくれたりとあまり退屈しない十二時間だった。

さーて、復帰したらまた頑張るとすっかぁ。




皆様も決して無理はなさらぬ様に!



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第七十三番~母~

松竹コンビをもっと輝かせたい!
いっその事スピンオフか松竹メインの外伝を書くのもいいかも知れない!
まぁ、予定は未定ですがね……まだ草案すらありませんので。

松・竹「ふぁっ!?」


 「……や…………さん……」

 

ん……ぅ…………う~……ん。

 

「……や……まや………」

 

んぅ…………ん~……う?

あれ……誰かに呼ばれて……?

 

「摩耶っ!!」

 

「うぉっ!な、なんだぁ!?」

 

いきなり耳元に響いた叫びにアタシは弾かれたように飛び起きると、そこには心配そうに顔を覗き込む松と竹の姿があった。

 

「摩耶さん大丈夫?」

 

「わりぃ、寝ちまってたか。良い天気だったもんでちょっと横になってたらついな」

 

「本当に大丈夫か?疲れているのなら後は変わるぞ」

 

「そうそう、無理は駄目だよ摩耶さん」

 

「へへ、ありがとな。でも本当に大丈夫だ。艤装も今は着けてねぇしな」

 

アタシは二人の頭を撫でながら感謝を伝える。

 

「うぅ……そ、それならいいが」

 

「あははっ!松ってば顔真っ赤~」

 

「う、うるさい!仕方ないだろ……直に撫でられるのは…………は、恥ずかしいのだ」

 

「そぉ~?私は気持ちいいけどなぁ。摩耶さんもっと~!」

 

「おう、良いぜぇ。うりうり~」

 

「わ、私はもう大丈夫だ!」

 

「遠慮すんなって!」

 

アタシは松が止めるのも構わず二人の頭を撫で続ける。

つい悪乗りしちまったがそれもしかたねぇ話なんだ。

なんせ三週間前までは松が艤装を外したままで歩くなんて想像も出来なかった光景だからな。

慣れさせる為に艤装を外させる口実として半ば無理矢理西野の所に食材を届けに行かせたりもしたが、その後の進展はあまりなかった。

けど、十日程前にアタシ自身が艤装を着けたままだった為に疲労が蓄積し、明石から休暇を言い渡されたあの日を境に松達の様子は変わった。

最初は西野に食材を届けに行くときに艤装を着け直さず行くようになり、更に数日後には艤装を着けずに出歩く場面も見受けられた。

そして今日の昼飯時、二人は皆が集まる食堂へ出る事を決意したのだ。

 

「よっし!じゃあ早速お披露目と行くか!」

 

「おーっ!」

 

「うむ……」

 

アタシは二人の手を引いて意気揚々と食堂へ足を運んだ。

 

 

 

 厨房の勝手口から中に入り、食堂をそっと覗き込むとそこには現在基地にいる西野と陸奥を除く全員が既に集まっていた。

皆アタシらが来るのを待ってるので、扉を開ければ必然的に注意は一点に集中する。

その事を知ってか知らずか意外な事に竹の顔にも緊張が見て取れた。

 

「照れんな照れんな、いつも通りで良いんだよ」

 

アタシはそう言って二人の背中をポンと叩き励ました。

すると竹はこっちを向いて少しだけ固めの笑顔を返すと松の手を取り声を掛けた。

 

「じゃあ、行こっか松……松?」

 

「うっ……うむ!」

 

しかし、松は緊張が最高潮に達しており、返事はするものの一向に足を動かそうとはしなかった。

だが気持ちも解らない訳じゃねぇ。自分の見られたくない姿を大勢が注目する中で晒す訳だし、その覚悟は恐らく並大抵のものじゃねぇはずだ。

……しゃあねぇなぁ。だったらアタシも一肌脱いでやるか!

アタシは一度深呼吸をしてから食堂まで聞こえるくらいの声を上げた。

 

「大丈夫だ松。お前にはこの摩耶()()()が付いてるぜ!」

 

「……ぷっ、あっはっはっはっ!」

 

直後、食堂が俄かに騒めき出すのと同時に竹が堪え切れず笑い出した。

アタシが照れ臭さを表に出さないように必死に耐えていると腹を抱えて笑っていた竹が松の肩をバシバシ叩きながら言った。

 

「あっははははっ!だってさ松!私達には摩耶ちゃんが付いてるから大丈夫だよ!!」

 

「…………ぶふっ!あっはははっははっ!!ああその通りだなっ。くくっ……摩耶ちゃんがいれば怖いものなしだ」

 

自分で言っといてなんだがすっげぇ複雑な気分……つかいつまで笑ってるんだこいつら。

 

「……おらっ、準備が出来たならちゃっちゃと行くぞ!」

 

「ふふっ、ああ済まない。それと……ありがとう摩耶、おかげで気が楽になった」

 

「じゃあ行ってきま~す」

 

そうして落ち着きを取り戻した二人は颯爽と食堂へと出て行った。

予想通り全員が注目する中、松は改めて自己紹介を始める。

 

「ま、松型駆逐艦一番艦松だ。改めて宜しく頼むっ」

 

松に続いて竹も自己紹介を始める。

 

「松型駆逐艦二番艦竹だよっ!今度からはこの姿で居る事が多くなるから改めて宜しくっ!」

 

そして竹の自己紹介が終わった直後、食堂は溢れんばかりの拍手喝采に包まれた。

 

「ずっと隠してるから何かヤバイものが出てくるのかと思ってたクマー」

 

「松ちゃんも竹ちゃんもとってもかわいいですぅ~!」

 

「そうねぇ~随分可愛らしい子が出てきたわねぇ?」

 

「うん……二人ともとても可愛らしいじゃないか」

 

「ぷっぷくぷぅ~!可愛くてもうちの夕月は渡さんぴょん!」

 

「あんたは夕月のお父さんかよ~。つか見た目なんてそんな気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ……まぁ改めて宜しく~」

 

「素の自分を見せるのは決意の表れと言う事ですね。おめでとうございます、松さん竹さん」

 

「少々……いえ、かなり意外ですが悪くは無いわ。松、竹、これからもよろしく」

 

「顔を真っ赤にして俯いてるその表情たまりませんねぇ!あら!竹ちゃんも珍しい表情も頂きです!」

 

「おい、いつまでやってんだよっ」

 

「いっつ!?何するんですか摩耶ちゃん!」

 

「うっせぇ!そんな暇なら配膳手伝いやがれ!飯にすんぞ!」

 

未だ拍手の止まぬ中、アタシは変態カメラマンと化した工作艦にチョップを叩き込んだ後、厨房に戻り白飯とみそ汁をそれぞれお椀によそい始める。

配膳を完了し挨拶を済ましたアタシ達は一斉に飯を食べ始めた。

アタシは横目に松や竹の様子を見ると、松は相変わらず恥ずかしいのか周りを頻りに気にしているものの、何となく周りとの距離が縮まってるように感じた。

因みにアタシは二人の様子を見ながら何故か挟まれた明石と卯月にずっとちゃん付けで呼ばれ続けていた所為で精神をガリガリ削られていたのは此処だけの話だ。

そんな昼食の最中、アタシらにある一報が入って来た。

 

『グッドイーブニング!皆さーん、ただいま戻りマーシター!!』

 




いやぁっふぅぅぅぅーっ!!!!!
響が帰ってきたぁぁぁぁぁっ!!!!!!!
テンション上がって来たぜぇ~?行くぜっ!

金剛「ヘーイ、私達も帰って来てマース」

知らん!私には響と電しか見えんっ!

長門「鉄拳制裁っ!!」

うわらばぁっ!?

長門「私の戦友を無碍に扱う事は赦さんぞ」

ぐふっ……すみません長門さん、金剛さん……調子に乗りすぎました。

長門「うむ、まあ良いだろう。今回はこれで赦してやろう。次は無いからな?」

はいっ、すみませんでした!
そ、それでは皆さんまた来週~


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第七十四番~母~

タイピング速度をもっと上げたい!!
目標は高く目指せ600key/min!
まあ打つ速度に比例して執筆速度が速くなるとは限らないんですよねぇ(遠い目)



 金剛から帰投の一報を受けたアタシは飯を食い終わっていた事もあり一人海岸まで出迎えにやって来ていた。

別に卯月と明石に挟まれて弄られ続けるのに堪えられなかったって訳じゃねぇかんな。本当だぞ……。

にしても金剛達と会うのも三週間ぶりかぁ。色々あり過ぎてもう何年も会ってない気がするぜ。

 

「オーッ!マヤ、お久しぶりデース!」

 

「よっ、相変わらず元気そうで何よりだ──って何人か見ねぇ顔が居るじゃねぇか」

 

アタシは見慣れない面子の方に目を遣る。

するとその内の一人がアタシの前までやって来て右手を差し出した。

 

「私は舞鶴第八鎮守府元艦隊旗艦長門だ。こうして会うのは初めてだな摩耶」

 

「ど、とうも。えーとつまり……変態野郎から無事離れられたって事っすか?」

 

アタシは若干緊張しながらも右手を握り返し尋ねると長門さんは首を縦に振った。

 

「ああ、凡そその認識で問題は無い」

 

成程、そもそもそれが目的だった訳だしな。長門さんの方は何となく分かった。

んで……こっちの奴らは何やってんだ?

アタシは今にも暴れ出しそうなリ級とそんなリ級の両脇を抱えるル級の方を見てると、それに気づいたル級が声を掛けてきた。

 

「スマナイ、タノミタイコトガアルノダガスコシイイダロウカ?」

 

「カンムスドモメッ!サッサトアノコヲカイホウシナサイ!サモナケレバゼンインミナゾコニシズメテヤルワ!!」

 

「頼みたい事?。それはいいけど……そいつは一体何者なんだ?」

 

「カノジョハリキュウカイフラッグシップ。リトウセイキノフルクカラノセンユウダッタラシイ」

 

「そうだったのか……もしかしてまだ離島の件は伝えてないのか」

 

「アア、セツメイシタガキクミミヲモタナカッタラシイ。ダカラリトウノブカカラチョクセツキイテモラオウトオモッタノダガ……」

 

ル級の目的は解ったもののアタシ達にはどうにも出来ない事をル級に伝えた。

 

「悪ぃ、あいつらはあれから姿を見てねぇんだ。あんた達が解らねぇんじゃ正直お手上げだ」

 

「ソウカ。ソレデハスマナイガモシダレカガココニキタラワタシタチガクルマデマタシテオイテクレルカ?」

 

「ああ、それ位ならお安い御用だぜ」

 

「タスカル。デハワタシタチハイッタンモドロウ」

 

「ハナシナサイヨッ!オマエタチモタダジャスマサナイワ!!」

 

ル級は礼儀正しくお辞儀をすると暴れるリ級を抱えたまま海中へと潜り始める。

アタシはその丁寧さに感心しながら二人を見送っていると、建物内から飯を食べ終えたと思われる松達が声を上げながらこっちへやって来ていた。

 

「あーっ!響に電に金剛さんおかえりー!」

 

「オーッ!!このボイスはもしかしてー?マツにタケですネー?二人ともベリーベリーキュートデース!!」

 

「とっても可愛いのです!ね、響ちゃん!」

 

「なっ……!?」

 

「う、うん…………なんていうか、意外……っは!?べ、別に可愛くない事は全然ないんだ!とっても可愛いと思うしっ。ただもっと大人びてるのかと思ってたから……」

 

「うむ!折角可愛い顔をしているのだから隠してしまうのは勿体無いと常々思っていたのだ」

 

「……うぅ。や、やめろ~っ、可愛いって言うなぁ……」

 

「あっはっははは!声が出てないよ松~」

 

竹が笑いながら松をからかうも、既に恥ずかしさが最高潮に達している松には聞こえてなさそうだった。

つうか長門さんってもしかして門長や明石達と同類……なのか?ってそろそろ松が茹で上がっちまうし下手するとアタシに飛び火が来ないとも限らねぇからな、話を変えるとすっかね。

アタシは咳払い一つすると先程からずっと気になっていた事を金剛に訊ねる。

 

「なぁ、さっきから思ってたんだけどよ。あの変態野郎は何処行ったんだ?」

 

「そ、それが……」

 

だが、金剛は途端に口篭り、その顔も何だか浮かない様子だった。

良く見れば電や長門さんも苦虫を噛み潰した様な険しい表情をしているが、イクや響は平然としている。

何があったのかがさっぱり掴めないアタシは黙ったまま待っているとやがて金剛は話し始めた。

 

「ミスターは長門と離れた後、横須賀へ向かいました」

 

「横須賀?」

 

「エェ、実は……」

 

詳しくは省かせて貰うが金剛の話をまとめるとどうやら艤装が暴走してしまうという問題を解決する為に門長は横須賀第一鎮守府の明石に会いに行ったらしい。

金剛から話を聞き終えたアタシは違和感を感じていた。

もしその話が本当なら金剛や長門さん達があんな顔する理由が無ぇし、それに横須賀第一鎮守府つったらあの海底棲姫共(化け物ども)と繋がってる所だったはず。

んな所に行くなんて自ら沈められに行くようなもん──ってあの馬鹿野郎っ……そういう事かよ。

 

「あの野郎……端から此処に戻る気なんてねぇのかよクソっ!」

 

「違うんだ摩耶……勘違いしないでくれ。こうなったのも私が余計な事をしたからであって門長に非はないんだ!」

 

「何も違わねぇ。例え暴走の原因を作ったのが長門さんだろうが、それをどうにもならねぇって早々に諦めて響達から逃げだしたのはあいつじゃねぇか!」

 

「違うっ!奴だって悩んでいた、響と共に生きたいと願っていた!それでも、心から響の幸せを考えた結果選ばざるを得なかったのだ!!」

 

「選ばざるを得なかっただぁ?一緒に居たいならどうして方法が見つかるまで足掻こうとしねぇ!」

 

「奴にはそれが出来るほどの時間は残されてなかったんだ!少しは奴の気持ちを組んでやれないのか!」

 

「それはこっちのセリフだ!!あいつが犠牲になった所で喜ぶ奴なんて此処には居ねぇんだよっ!」

 

「きっ、貴様ぁっ!門長の覚悟を愚弄する気か!」

 

「あんたはあいつにそんな事されて嬉しいのかよっ!嬉しくねぇだろうが!」

 

「当たり前だっ!!それでもっ……響の幸せの方が重要なのだ。私も奴も……自分の事以上になぁ!」

 

「だったらっ────」

 

 

「いいかげんにしろぉ!!」

 

 

 

直後、響の怒鳴り声が辺り一帯に広がる。

アタシと長門その気迫に思わず黙り込み響の方を向き直ると、響はその瞳に涙を溜めながらこちらを睨みつけて言った。

 

「門長は帰って来るって言ったんだ!なのに何で二人共帰って来ないって決めつけてるんだよぉ!!」

 

「響っ……私は──」

 

「長門さんの嘘吐きっ!戻って来いって……待ってるって言ってたじゃないかぁ!!」

 

「う……ぐっ…………」

 

「摩耶さんも馬鹿だっ!門長は決して諦めたりなんかしてない!門長から直接聞いた訳でもないのに勝手に決めつけんなよぉっ!!」

 

「……………………」

 

まさか響が門長の事で此処まで言ってくるなんてな。

確かに門長から直接聞いた訳でもその場に居合わせていた訳でもねぇ、長門達の様子や話からそう考えただけだ。

なのにアタシは勝手な想像で頭ごなしに決めつけていた。

馬鹿か……ふ、そうかも知んねぇな。

 

「……響、悪かった。そうだよな、決めつけは良くねぇよな」

 

「そうだな、済まなかった響。私も奴を信じよう、きっと帰って来るとな」

 

「うぅ…………ひっ……ひっ……く……ながとさん……まやさん……」

 

「うむ。では摩耶よ、私達は響を連れて一度部屋に戻る。済まんが私と金剛、二人の入渠を明石に頼めるか?」

 

「ああ、いやええと……了解っす長門さん」

 

「ふっ、長門で構わん。今更気遣いは無用だろう。摩耶、貴様の仲間を思う熱い気持ちしかと胸に響いたぞ」

 

「長門さん…………ああっ、分かった!んじゃ改めてよろしくな長門っ!」

 

「ああ、宜しく頼むぞ。ではまたな」

 

長門はアタシと固い握手をした後、響を抱き上げて電と共に建物内に入って行った。

アタシはその力強い背中を見送ると松と竹を連れて工廠へと歩き始めた。

 

 

 

 

「門長さんが無事に帰ってくるといいねっ!」

 

「奴はまともではないからな、その内何食わぬ顔で帰って来るさ」

 

「ま、確かにまともじゃねぇからな。案外そんな感じかもなっ」

 

 




長いようで短かった番外編も残すところあと少し。
次回っ!遂に奴が!?

それではまた次週お会いしましょう~


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第七十五番

書き上がってましたので予定通り行きますよ~!
因みにサブタイトルで判る方もいらっしゃるかも知れませんが今回は摩耶様視点では御座いませんのであしからず。



俺が横須賀を出てからおよそ一週間が経とうとしていた。

今の所は特に身体に異常は感じねぇが油断は出来ねぇ。

 

「武蔵、近くに敵の反応はねぇか?」

 

俺は索敵を任せてる武蔵に状況を確認した。

何がトリガーになるか分からん以上、出来れば戦闘は避けたいからな。

だが一向に返答が来ない武蔵に苛立ちを覚えた俺は口調を強めて再度武蔵を呼び出す。

 

「おいっ、聞いてんのか武蔵ッ!」

 

「……はっ!?す、済まない相棒。何だったかな」

 

「敵の反応が無いかって聞いてんだよ」

 

「敵の反応か……ああ、今の所大丈夫だ」

 

「そうか」

 

「…………むぅ」

 

ちっ、あれからずっとこの調子だ。

こいつの気持ちも分からないでもねぇが、いつまでも人の肩の上でうじうじされんのも鬱陶しい。

 

「おいこら、過ぎた事を何時までも引き摺ってたってしょうがねぇだろ!」

 

「うむ…………」

 

「ちっ……んなしょぼくれるのに無駄な時間割いてるくれぇなら、テメェが信じる元帥様の気持ちに報いる為に何が出来るか考えた方が百倍有意義だろうが!」

 

「門長…………くくっ……まさかお前さんからそんな風に励まされるとは思わなかったぞ?」

 

「あ?うっせぇよ。テメェが一週間もクヨクヨしてっからだろうが!こちとら我慢の限界なんだよ!」

 

柄じゃねぇ発言なのは自分が一番良く分かってんだよ!

あからさまに笑いを噛み殺しやがって…………ったく。

だがまぁ、折角の響との感動の再会をこんな事で水を差されたら溜まったもんじゃねぇからな。

 

「ふふっ、確かに言う通り時間は有意義に使わねばな…………ありがとうな、相棒」

 

「分かりゃ良いんだ分かりゃ……っておい、正面からなんか来てんじゃねぇかよ」

 

「あっ、すまん。さっきまでは居なかったと思ったのだが」

 

おいおい、マジで頼むぜ。

こっちはボートの運転で手が離せねぇから索敵を任せてるっつうのによ!

しかし、来ちまったもんた仕方ねぇと俺は奴が何者かを目を凝らして確認してみる。

ちっ、まだ遠くて解りにくいがあの黄色いオーラを纏って艦載機を飛ばしてるって事は空母のflagship級か?

敵だとするとかなり不味いな……取り敢えずボートから降りるか。

 

「武蔵、ボートの操縦頼めるか?」

 

「ああ分かった。だがお前さんはどうするつもりだ?」

 

「どうもこうもねぇ、相手がやる気なら受けて立つしかねぇだろ。話はそれからだ」

 

俺は相手を捉えたまま降りる為にモーターボートを減速させていると艦載機の様子がおかしい事に気付いた。

よく見ると艦載機は爆弾も魚雷も積んでおらず、代わりに翼下から垂れ幕の様な物をはためかせていた。

 

「なぁ、あれはなんだ?」

 

「あれは射撃訓練用の標的だな」

 

「つまりあいつは何がしたいんだ……?」

 

「…………さぁ?」

 

上に気を取られている間にも相手は着実に接近していたらしく俺がその異変に気付いた時にはそいつは俺の懐まで飛び込んで来ていた。

 

「トーナーガァーッ!遊ボウゼーッ!」

 

「な、レきゅうごふっ!?」

 

減速していたとはいえまだ三十ノット近く出ていたモーターボートに対して真正面から三十ノット超で突っ込んでくる少女の姿をした戦艦。

凡そ百キロを超える速度で衝突した俺達はそのままボートから勢い良く弾き出され、海面を何度も叩きつけられながら少女と共に転がっていった。

 

「ごほっ、ごほっ……!ふぅ、まさかこんな熱烈なアタックを受けるとは思わなかったぜ」

 

「コノ間ノ続キヤローゼッ!」

 

「おぅふ、すっげぇ元気だな」

 

「普通ならどちらかが沈んでも可笑しくはない事故なんだがなぁ」

 

マジかよ……つかこの間の続きって事はこいつは離島の時に俺と戦ったレ級か?

 

「まぁいいや、それでこの間の続きなんだけどな」

 

「ウンッ!アノ時ハヘンナチッコイノニ邪魔サレタケタケド今度ハ俺ガ勝ツカラナッ!」

 

ああ、癒されるなぁ……ってそうじゃねぇか。

俺はレ級の頭を撫でながらその申し出をやんわりと断る。

 

「悪ぃが燃料と弾薬を補給してからな。まともに動けない俺と戦っても面白くねぇだろ?」

 

「ウーン、確カニ弱ッチィノトヤッテモツマンナイナァ…………ウンッ、ワカッタ!ジャア早ク帰ロウゼ!」

 

そう言って俺の手を引くレ級を眺めながら俺はすっ飛んでったモーターボートを回収するとレ級を乗せて再び我が家へ向けて突き進んで行った。

 

「オォォォォーッ!スッゲェー!?」

 

「こんなスピード感初めてだろ?」

 

「ウンッ!俺ヨリ全然速イ!!」

 

そんな興奮冷めやらぬレ級を横目に三時間程走らせていると前方に基地の様相が薄らと見えてきた。

 

「おっ、あと五分くらいで着くな」

 

「勢い余って座礁するなよ?」

 

「おいおい、幾らなんでもそんな初歩的なミスをやらかす訳ねぇだろ」

 

俺は海岸が近づくにつれ、徐々に速度を落としていく。

えーっと、確か工廠はこっちだったか。

 

「ウンショ、ヨイショ」

 

「お?どうしたレ級」

 

取り舵を切りつつ工廠を探しているとレ級が唐突に操縦する俺の膝の上に潜り込んできた。

俺はその様子に幸福を感じながらもどうしたのか尋ねると、レ級は満面の笑みをこちらを見上げるとスロットルレバーを握る俺の手を握り締める。

 

「ど、どうしたっ!?なななにかあったのか?」

 

「ンー…………エイッ!」

 

突然のスキンシップに動揺する俺を気にする様子も無く、レ級は俺の右手と共にレバーを勢い良く前に倒した。

 

「いや、お、俺には響っつう愛する人が……って、へ?」

 

「イッケェーッ!!」

 

「おぉぉぉっ!?」

 

フルスロットルで加速していくボートにレ級はどうやらご満悦の様子……なのは良いんだが、このままじゃ基地に帰れねぇ。

仕方なくレバーから引き離すために左手でレ級の腕を掴んで引っ張る。

 

「ちょ、レ級!?ちょ~っとその手を少しどかして貰えんかねぇ?」

 

「ヤダーッ!モット飛バスンダァッ!」

 

「それも後でな!今は基地に戻るんだって!」

 

手を離す事を頑なに拒むレ級に苦戦しながらも漸く引き剥がす事が出来た。

レ級は不満そうに尻尾を船体に何度も打ち付ける。

 

「バンバンすんのやめい!ボートが壊れちまうだろ!?」

 

「ダッタラ離セーッ!」

 

「それも駄目だ!離したらまたレバーを上げるだろ」

 

「ギャー!ギャー!」

 

「ああもうっ!聞き分けの悪い子とは遊ばないぞっ」

 

「おい門長、レ級と戯れてる場合ではない!今すぐ前を見ろ」

 

「んだよ!こっちは今忙しいんだ……ってああ!?」

 

横槍を入れてくる武蔵に苛立ちを覚えながらも一度前を見てみる。

すると海岸が既に目の前まで差し迫っていた。

更に言えばレバーも戻し忘れていた為、最高速力五十ノットのまま突っ込んでいる所だった。

当然の様に転舵出来る余裕など既に無い。

 

「レ級!衝撃に備えろっ!!」

 

「ヘッ?」

 

その数秒後、俺達は本日二度目の人間砲弾を敢行する事となった。

 

「いつつつ……大丈夫かレ級?」

 

「ウーン……フラフラスル~」

 

地面を転がってたせいで目を回してるみたいだが、それ以外の問題は無さそうだな。

しかしボートの方はそうも行かねぇだろうなぁ。

俺は砂を払いながらボートを探すと手前の砂浜の方で予想通り音を立てて炎上していた。

 

「あ〜あ、しゃーねぇな。後で明石にでも頼んどくか」

 

「はっはっはっ、まさか本当に座礁させるとは思わなかったぞ」

 

「あれは不可抗力だろ、どうにもならん」

 

誰が悪いわけでもないんだ!

 

「まあそれは良いが、まずは何処に行くんだ?」

 

「門長!早ク補給シヨウゼ!」

 

「ああ、だがその前に響に合わせてくれ」

 

「エー?ハヤクシロヨナァ、コノ前ノ続キモシタイシボートッテ奴ニモマタ乗リタインダカラヨ!」

 

「解ってる解ってる。んじゃあ武蔵、後でレ級の修復が出来そうな奴呼んでくっから工廠に連れてっといてくれ」

 

「ああ、承知した。ついでに明石に入渠する事も伝えて置くぞ」

 

ん?ああ、確かに何度か戦闘もあったし二回の人間砲弾で俺も多少の損傷はあるからな。

 

「おう、頼んだ」

 

その辺の事は武蔵に任せて俺は先ず響が居るであろう執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の前に着いた俺は響にすぐに会いたい気持ちを必死に抑えて扉をノックする。

ふふふ、俺だって学習したんだ。

扉を力任せに開け放っても響を怖がらせるだけだって事をなっ!

そうして暫く待ってるとゆっくりと扉が開かれた。

 

「あ……と、と……門長さん!??」

 

扉を開けて中から現れたのは響……ではなくどういう事か明石の奴が驚きを隠せないといった表情でこっちを見てやがった。

 

「…………」

 

「えっ……と、おかえりなひゃっ!?」

 

俺はお呼びでない明石ごと両開きの扉を勢い良く開け放ち部屋の中を見渡す。

中にはお茶を啜りながら半眼でこっちを見据える電と机の後ろから顔半分を覗かせプルプルと震えながら様子を窺う響の……はっ!?

しまったぁ!結局怖がらせてんじゃねぇか!!

 

「ひ、響?た、ただいま~元気だったか~?」

 

「………………」

 

へ、返事が無い……どうすれば……。

 

「い、いや別に脅かすつもりは無かったんだが……すまんっ!」

 

「と…………な……が……」

 

「初めは頑張って我慢してたんだけど……」

 

などと弁明していたその直後、俺の身体に小さな衝撃が走る。

視線を下に落とすと響が俺の腰周りにひしとしがみついて嗚咽を漏らしていた。

 

「響?どうしたっ、まさか明石になんかされたのか!?」

 

「ええっ!?」

 

明石の野郎……ただで済むと思うなよ?

俺は奴に対して怒りを漲らせていたがそうではないと響は首を横に振る。

違うのか。電が響を泣かせる様な事するとは思えない。となると……やっぱりさっきの俺のが原因なのか。

 

「いや、その…………驚かせて悪かった」

 

しかし響はまたもや首を横に振り、そして嗚咽混じりの掠れた声で話してくれた。

 

「……ひっ……ぐ…………信じてた……っ……帰ってぐるって……げどっ……ずずっ…………怖かった……からっ……」

 

「響…………」

 

「でも……ひっ……帰って来てくれたっ……だから……いいの………………おかえり、となが」

 

そう言って抱き締める力を強める彼女の思いを受け、俺はあの時ヴェールヌイが俺に話した言葉の意味を初めて理解した。

そして危うく響を不幸にしてしまう所であった事に。

俺が居なくても長門が居れば大丈夫だと思っていたが、やはり俺はまだ響の事を何も分かってやれて無かったのかも知れねぇ……。

正直問題は解決してねぇし、どうやっても響を悲しませる決断をせざるを得ない状況になるかも知れない、だが……今の俺なら間違った決断をする事は無いだろう。

だから今は、俺を信じて待っててくれた響に感謝を込めて確りと言葉で伝えよう。

 

 

 

 

 

「ああ、ただいま」

 

 

 

 

 

 

 




門長帰宅っ!門長帰宅っ!
視点も切り替わったのでそろそろ第三章に入ろうと思いますが話が始まらないのでもうちょっとだけ第二章続きます。


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第七十六番

やっぱ門長視点書きにk……ゲフンゲフン!
さ、さぁさぁ本編へどうぞ~!(^ω^;);););)


響との再会を果たした俺は明石にも用がある事を思い出し明石の方へ振り向いて声をかけた。

 

「そうだ明石。幾つか用事を済ませたら直してくっから入渠の準備をしといてくれ。あ、それと正門前の砂浜にボートが転がってっからそれも直しといてくれ」

 

「へ?は、はい……ってボートが転がってるってどういう事ですか!?」

 

「あ?どうもこうもねぇよ。色々あって海岸に突っ込んだから直してくれっつってんだよ」

 

「色々……はぁ……」

 

「そういう事だ、じゃあちょっと行ってくるわ。またな電っ、響っ!」

 

「うんっ、またね」

 

「………………」

 

「じ、じゃあ……な?」

 

ゔ……戻ってきたというのに電の俺を見る目が痛い。

やはりあの時の俺の考えは見透かされてたのか?

俺は少々凹みながらも響達に一時の別れを告げ、部屋を後にした。

ま、何時までも引き摺っててもしゃあねぇし、きっと時が経てば電も分かってくれる筈だ。

兎に角今は先にやる事をやっちまわねぇとな。

俺は用事がある二人を探す為、建物内を歩き回り、やがて目的の一人が廊下で漂っているのを見つけると直ぐにそいつへ声を掛けた。

 

「おーい、砲雷長っ!」

 

「ん?あらおかえりなさい門長さん。ご無事そうで何よりです」

 

「ああ、中破したり右腕が吹っ飛んだりとか色々あったが何とかな」

 

「また腕を飛ばしたんですか、貴方も好きですねぇ」

 

「好きで飛ばしてる訳じゃねよ」

 

「はぁ、まぁでも今は平気そうですしもう解除しても平気ですかね~」

 

ん?ああ、そういや海流なんたらっつーのを頼んでたんだったっけか。

 

「いや、そのままの方が安全なら解除しないで貰いたいんだが」

 

「嫌です。疲れるんですよぉ」

 

「即答かよ……ちっ。まあ良いけどよ、響達は俺が守りゃいいだけだしな。つうかそれよりも、深海棲艦の修復を頼みてぇんだが出来そうか?」

 

「修復ですか、解体でなくて?」

 

「ああ、レ級を治して欲しいんだ」

 

「へぇ、別に出来ますよ~」

 

「そうかっ、そしたら今工廠に武蔵と居る筈だから治してやってくれ」

 

「あら、武蔵さんもいるんですね~。りょうか~い、ではでは~」

 

そう言うと妖精はふよふよと漂いながら壁をすり抜けて行った。

さて、後はあいつだけだが一体何処に居るんだか。

俺が周囲を見渡していると二人組の少女がこっちへ掛けてくるのが見えた。

 

「ん、あの二人は……」

 

「あーっ!やっぱり門長さんだ!おかえりー!!」

 

「竹っ!そんなに引っ張るんじゃない!」

 

「おー、やっぱり松と竹かっ。遂にその可愛い姿を見せてくれる気になったんだな!」

 

「へへへっ、改めてよろしくね~」

 

「別にお前の為に艤装を外している訳ではないっ!身体の負担を考えての決断だ」

 

松は近づく俺から離れるように二、三歩下がってそう答えた。

別にそんなに警戒しなくても何もするつもりはねぇ……つっても信じてくれなさそうだな。

響との距離が縮まって調子に乗ってた分、電や松にこうも立て続けに拒絶されると正直凹むなぁ……。

 

「なぁ……長門が何処に居るか知らないか?響達の部屋には居なかったんだが……」

 

気を取り直そうとは思いつつも予想よりダメージが大きかった為、俺は気分が上げられないまま二人に尋ねると、松に長門なら艤装を取りに工廠に向かったと教えて貰った。

 

「工廠か……まあ丁度良かった。ありがとな松、んじゃちょっと行ってくるわ」

 

「う、うむ…………」

 

松に礼を言いそのまま工廠へと歩き出す俺に、松は反射的に壁を背に俺の一挙一動を深く警戒していた。

う~む、そんな警戒されるような事は……した、のか?

解らん……が、まぁ…………課題は多いな。

 

「もぅ、ま~つ~?────」

 

「ゔっ……だが────」

 

二人はあの後何か話しをしていたが俺は聞き耳を立てる余裕も無く、数々の問題に頭を悩ませながらとぼとぼと工廠を目指し歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分程して工廠へ到着した俺が中に入るとそこにはきょろきょろと何かを探している様子の黒髪の少女、長門(小)の姿があった。

艤装を取りに行ったっつうのにまだ小さいままと言う事は恐らく艤装を探してんだろう。

俺が声を掛けると長門(小)は目を輝かせてこっちに飛びついて来た。

 

「とながーーっ!!ありがとう、良く帰って来たっ!」

 

「あー…………あぁ、まあな」

 

意外なタイミングでの感謝の言葉に若干戸惑いつつも、俺は目の前の少女に当たり障りの無い返事で受け止めた。

歓迎される事に悪い気はしねぇが、長門から帰って来た事を此処まで感謝される理由がいまいち解らん。

 

「なぁ、どうしたんだ長門。俺がいない間に何かあったのか?」

 

「うんっ!色々あるがとにかく帰って来てくれてありがとうなんだ!」

 

「いや、その色々を詳しく聞きたいんだが……」

 

「色々は色々だっ!ありがとう門長!!」

 

あ~うん。すっげぇ懐かれてる感じで嬉しいんだが……このままじゃ埒が明かねぇな。

俺は一先ず艤装を着けるように長門(小)に伝えると、彼女はハッと思い出したかのように慌て始める。

 

「そうだっ!艤装をつけに工廠に来たのだが、艤装も明石も居なくてな!」

 

「明石?あいつならさっき執務室に……つか無線で連絡を取れば良いだろ」

 

俺がそういうと長門(小)は少し落ち込んだ様子で答えた。

 

「無線は艤装についてる……だから明石と連絡が取れない」

 

あ~確かに長門が離れた日にそんな事も話してた気が……。

 

「はぁ、だったら一人で行動すんなよな」

 

「うぅ~…………気を付ける」

 

……ったく、中身は長門のくせにその見た目でそういう仕草はずりぃぜ。

俺は目を伏してシュンとする長門(小)の頭を撫でつつ、無線で明石へと連絡を取り始めた。

 

「おー明石、今何処に居んだ?」

 

その直後、明石の喧しい喚き声が俺の耳元を劈いた。

 

『何処に居るじゃありませんよっ!なんですかあのボートの惨状はぁ!』

 

「ちっ、うっせぇなぁ。ちょっと全速力で海岸に突っ込んだだけだっつうの」

 

『全速力っ!!?一体どうしたらそんな事に…………はぁ、もういいです。兎に角あれを直す事は出来ませんので新しく作り直しますよ?』

 

「そうか、まあそれはどっちでもいい。それより長門が工廠で待ってるぞ」

 

『あっ!工廠にいらしてたのですね!了解です、直ぐに長門さんの艤装を持ってそちらに戻りますね』

 

そういうと明石は一方的に通信を切断しやがった。

俺は明石が艤装を持って直ぐに来る事を伝えると長門(小)は再び目をキラキラとさせ、元気な声でお礼を言った。

……あ~ちくしょう。見れば見る程この天使と長門が同一人物とは思えねぇんだよなぁ……つうかなんでこんなキラキラしてんだよっ!!あっちに居た時はもう少し落ち着いてなかったか!?

 

「あっ、長門ちゃん!探しましたよ~?」

 

「うぅ……明石、すまない」

 

ん?どうやら俺が虚像と現実のジレンマに悩まされている間に明石が長門の艤装を担いで工廠へと入って来ていたようだ。

 

「ってまて明石てめぇ、なに苛めてんだコラっ!」

 

「ええっ!?いやいや苛めてませんって!」

 

──って違う違う、待つのは俺だろうが。

良く考えてみろ……あの少女は長門、空想上の少女と言っても過言じゃない存在だ。

つまりあの少女を愛でると言う事は長門を愛でる事と同義。

それでも俺はあの少女を愛でると言うのか?

…………まぁ、幻想だろうが空想だろうが少女は少女で可愛いんだから仕方ない。

~証明終了~

 

「と言う訳で明石てめぇには後でその子を苛めた罰を受けて貰おう」

 

「え”っ……何がと言う訳なのかさっぱりなんですが…………」

 

「良いからさっさとそいつを長門に渡しな」

 

「へぇ、渡しますけどもぉ……」

 

そして明石から艤装を受け取った長門(小)はその姿を本来の物へと変貌させた。

 

「……………………」

 

「よし、これで話が出来るな……って、どうした長門。なんかあったか?」

 

「いや、なんでもない……ごほんっ。門長よ、良くぞ帰って来てくれた」

 

「まあな。つうか色々って何があったんだ?」

 

「わ、私が言ったのか?済まんが覚えがないな…………そ、それよりも私に話があるんじゃないのか?」

 

長門の不審な態度が妙に引っかかるが聞き出すのも面倒だと俺はさっさと話を切り出した。

暴走については応急的な処置のみで根本的な解決は出来なかった事。

俺や長門をこんな状態にした主犯格である阿部とかいう奴は既に海底棲姫に殺され、今は俺の唯一のダチである西村が横須賀第一鎮守府の提督をやっている事。

そして西村と話し合った結果、響を護り続ける為に世界平和を成し遂げる以外に方法は無いという結論に辿り着いた事。

俺が一通り話し終えると長門は険しい表情を見せながら重々しく口を開いた。

 

「門長よ、お前の気持ちの変化はとても喜ばしい事だ。それに本当に実現できれば響を護り続ける事も出来るだろう」

 

「ああ、俺が何時まで持つか分からねぇ以上他に方法は無いと思っ────」

 

「だがその方法には賛同出来ないな」

 

「……はっ?どういうつもりだ長門」

 

「勘違いするな、私とて平和を願っていない訳ではないし、響の幸せを第一に考えている。だがその響の気持ちを考えれば賛同など出来るはずも無い」

 

「響の気持ち……俺が考えねぇって言いてぇのか?」

 

俺は響の事を想ってるからこそこうして世界平和だなんて柄にもねぇことをやろうとしてんのにこいつは一体何が言いてぇ……。

だが、怪訝な目を向ける俺に対して長門は首をニ、三横に振ると、逆に俺を睨み返した。

 

「やはりお前は響の事を分かっていない。響が本当に望んでる事はなんだと思う?」

 

「響が本当に望んでる事?」

 

「ああ、それが解れば世界平和を成し遂げただけで響が幸せになれる訳では無い事も解るだろう?」

 

「響の幸せ…………」

 

その時俺の脳裏に浮かび上がったのはついさっき見た泣きじゃくりながら出迎えてくれた響の姿だった。

そうだ、俺はあの時響を不幸にしてしまう所だったと思ったんだ。

……確かに長門の言う通りだ。例え世界平和を成し遂げた所で俺が助かる訳じゃない。

そうしたらきっと響に後悔を残してしまうかもしれない…………それは本当に響にとって幸せな事か?

 

「いや、違う……それは俺の自己満足だ」

 

「門長…………」

 

「わりぃな長門、さっき言ったことは忘れてくれ。世界平和を諦めた訳じゃねぇが先にやらなきゃなんねぇ事が出来た」

 

「ふっ、そうか。それならば私も最大限尽力しよう」

 

そう言って長門は俺に右手を差し出した。

俺も右手を出し、返事の代わりにその右手を固く握り不敵に笑った。

ふと扉の開く音に気付き俺達が音のする方へ振り向く。

するとそこには妖精武蔵とレ級が入って来ていた。

 

「や~遅くなった、明石は居るか?」

 

「オー!此処ガ工廠ッテヤツカ!」

 

「え~っと、妖精……さんと……ってえぇっ!レ級じゃないですか!!?」

 

「褐色肌の妖精にレ級flagship……門長、二人ともお前の知り合いか?」

 

「ん?ああ、つかお前も知ってる奴だ。以前俺らと戦った離島の所のレ級とそこの妖精は武蔵だ」

 

「ふむ、やはりあの時のレ級…………って武蔵だと!?まさか横須賀の武蔵だというのか!!」

 

驚愕を隠せない長門に対して武蔵はいつもと変わらない様子で答えた。

 

「その通りだ、久しいな長門よ」

 

「なっ……なんと、本当に……無事だったのか」

 

「ふふん、まあな。理由は解らんが有難い限りだよ」

 

「あらあら、武蔵さんてばいつの間に妖精になったんですかねぇ?」

 

「うむ、気付いたらなっていたとし……か?」

 

「「!?」」

 

直後、流れるように会話に混じってきた存在にその場にいた全員の注意が武蔵の隣へ注がれる。

だが当の本人、つまり砲雷長は特に気にすることなく武蔵の隣からレ級の元へと近付く。

 

「アーッ!オマエアノ時ノチッコイノ!次ハギッタンギッタンニシテヤルカラ覚悟シロッ!」

 

「ふ~ん……まぁこれくらいなら五時間って所ですかね」

 

「無視スンナーッ!!」

 

「つかどっから湧いて来やがったんだよ」

 

「湧いたとは失礼な、普通に扉から入って来ましたよ。皆さんが気付かなかっただけでしょうに」

 

肩を竦め呆れた様に首を左右に振る妖精に怒りを覚えるも、実際に見ていない以上言い合ってもしょうがねぇし俺は話を変えた。

 

「ああそう、じゃあ何で俺よりも来るのが遅かったんだ?」

 

「ちょっとした野暮用ですよ。と言うかいつ修理するかまでは言われてませんし~?」

 

「……ちっ、確かにそうだな。じゃあ今から頼んだぞ」

 

「はいは~い」

 

「それじゃあ俺も直して……ってあ、そうだ明石には罰を受けて貰うんだったな」

 

「ええと、罰を受ける言われが無いと思うのですが……」

 

邪悪な笑みを浮かべる俺に明石は顔を引き攣らせながら答える。

たが俺はそんな事もお構い無しに明石に俺の身体の事を説明した上でこう告げた。

 

「っつう訳でお前には俺の体の問題解決に動いてもらうぜ。一応タウイタウイの明石と夕張にも協力を求めてみるが基本的にこの件はお前に一任する」

 

「魂の変異ですか……って、えぇっ!!私がですかっ!?」

 

「てめぇ以外に誰がいるっつうんだよ。ああ、あっちとの連絡手段は後で考えとく」

 

「ちょ、流石に荷が重過ぎると言うか無茶と言うか……」

 

「無茶だろうがどうにかしなきゃ大変な事になる問題だからな。何としても解決しなきゃならん」

 

「うへぇ……拒否権無いじゃないですかぁ」

 

もちろん簡単にどうにかなる問題じゃねぇが詳しくねぇ俺がやるよかこいつらに任せた方が可能性はある筈だ。

まあ俺は俺で何か方法が無いか探して見るつもりではあるが。

 

「他に方法があるなら考えるが当面はこれで行く。っつう訳で任したからな」

 

俺はそれだけ言い残すと工廠を離れ、入渠ドックへと向かった。

待っててくれ響。お前の為に必ずこの身体を何とかしてやるからな!

 




取り敢えず第二章はここまでとなります。
まあ章分けは結構適当なんですが(オイ

次章は久々に彼女達が登場致します!
ヒントは結構最初の方に登場した二人組です!
そもそも皆さんは覚えて居るのでしょうか……(汗)


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第三章
第七十七番


第三章スタートッ!!
章の切り替わりがグダるのは仕様です。


基地に戻ってから約二週間が経った。

つっても俺はその間ずっと風呂に浸かってただけだが。

その間にあった事と言えば松が謝りに来た事くらいか。

松の露骨な態度にショックを受けなかったかと言えば嘘になるが、それでも謝りに来られるとは思いもよらなかった俺は嬉しさのあまり危うく松の事を抱き締めてしまう所だった。

まあそんな事もあって俺はこの二週間を気分良く過ごしていたのだ。

そうして入渠が終わった俺はまず初めに工廠へと足を運んだ。

 

「おう、ワ級の奴は来てるか」

 

停泊場のの方を見ると丁度暁と吹雪に不知火と摩耶、それとワ級の計五人が荷降ろしをしている所であった。

 

「ア、オハヨウゴザイマス門長サン。ドウナサイマシタカ?」

 

「ちょっとお前らの姫さんに幾つか聞きたいことがあってな」

 

「姫様ニ聞キタイ事デスカ?ソレナラ積ミ降ロシガ済ミ次第オ伝エシテキマスネ」

 

「ああ、頼んだ」

 

「ちょっとっ、それなら貴方も手伝いなさいよ!」

 

「お、おう。それもそうだな」

 

暁に言われるまま俺は資材の積み降ろしを手伝い始めた。

二時間ほど掛けて積み下ろしを終えた暁達はワ級にお礼を述べると各々に工廠を離れていったので、俺はワ級に呼び掛ける。

 

「そんじゃあ今から頼めるか」

 

「ア、ハイ。ソレデハオ伝エシテキマスノデ二、三日程オ時間ヲ頂キマス」

 

「時間が掛かるのか……ならこっちから出向くか」

 

「イエ、姫様ガスグニ対応出来ズニ無駄足ニナッテシマウトイケマセンノデ申シ訳アリマセンガオ待チ頂ケマセンカ?」

 

「まあ、それもそうか。じゃあ頼んだ……っとそうだ、途中でもし離島の所のレ級に会ったらこっちに呼んどいてくれ」

 

「レ級デスカ?ワカリマシタ、モシアッタラ伝エテオキマス」

 

約束は約束だからな。演習用の弾が通じるかどうかが問題ではあるが……まあ後で妖精に聞いてみるか。

ワ級を見送った俺は妖精に話を聞きに行ったり、訓練に励む響を見ながら和んだり明石の検診を受けたりしながらワ級からの連絡を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

それから三日程経ち、港湾の所へ行っていたワ級が漸く姿を現した。

 

「オ待タセシマシタ門長サン。早速デスガアチラノ小島マデ来テ頂ケマスカ?」

 

「おっ、つうことは時間が取れたって事か」

 

「ハイ、姫様カラモ頼ミタイ事ガアルトノコトデスノデ」

 

頼みたい事ねぇ……新たな仕事か何かか?

まあリ級の件もあるし、そうでなくとも普段から世話になってるからな。

 

「ふ~ん。ま、良いだろ。んじゃあさっさと行くとすっか」

 

「エェ、一緒ニ向カイマショウ」

 

ワ級と基地を離れた俺は一時間程掛けて馬鹿でかい看板のある小島へと辿り着いた。

 

「おーっす、久しぶりだな姫さん。ほっぽちゃんも元気だったかぁ?」

 

「クッ……コノオトコハイツモイツモッ」

 

「カエレ……ッテ、イッテルノ!」

 

「二人共止メナサイ。ニシテモ思ッタヨリ元気ソウデナニヨリダワ」

 

「ああ、取り敢えずは何とかな」

 

いつもの如くほっぽちゃんに拒絶された俺が傷付きながらも辺りを見回すと港湾とほっぽちゃんに加え、タ級やル級と言ったいつもの面々とは別に黄色いオーラを纏った二人組の姿がある事に今更ながら気が付いた。

 

「……おっ?なんだ、こんな所に居たのかレ級!」

 

「途中デフラワーガ会ッタラシクテネ、丁度良イカラ連レテ来テモラッタノヨ」

 

「オー門長ッ!話ナンカ早ク終ワラセテ約束通リ続キシヨーゼ!」

 

「おう、後でなっ!それで……」

 

「………………」

 

「どうなんだ?ちゃんと仲間から話は聞けたかよ。なぁ、()()

 

「………………」

 

俺はレ級に手を振って応えた後、その横で俺を睨み付けていたリ級に声を掛けた。

リ級は暫く黙ったままだったが、やがて諦めたかの様に重い口を開いた。

 

「…………キイタワ。ダカラトイッテオマエヲユルスツモリハナイ。オマエモ、アノバケモノドモモイズレマトメテケシテヤル」

 

「そうだな……離島との約束は守れなかったんだ。俺も赦されるなんて思っちゃいない。それでも俺は響の為にも死ぬ訳には行かないし響に手を出すなら容赦はしない。その事だけは忘れんなよ」

 

「フン、ソッチコソセイゼイカクゴシテオクコトネ」

 

リ級はそれだけ言い残すとさっさと海中に潜って行ってしまった。

静まり返った空気の中、港湾が仕切り直すように咳払いを一つすると本題に入り始めた。

 

「エエト、ジャア先ニソッチノ要件ヲ聞キマショウカ」

 

「こっちは伝えたい事と聞きたい事が一つずつあるが……」

 

「ソウ、ナラ先ズハ報告ヲ聞イテモイイカシラ?」

 

「ああ、そっちはあんたらの目的に関わる事なんだが。まぁ簡単に言っちまえば海軍との和平の可能性が開けた」

 

「「……ハッ?」」

 

意味が分からんとでも言いたげな顔で俺の方を見つめるタ級ら三人に向かって西村と話した事を大まかに伝えた。

すると今度は小声で話し合い初め、それが終わると港湾は気を落ち着かせるように一息ついてから俺の方を向き直って聞いてきた。

 

「エット、ツマリ我々ガ和平交渉ヲ持チ掛ケレバ話ガ纏マルヨウニ門長サンノゴ友人ガ根回シシテ下サルト言ウ事カシラ?」

 

「んーと、まぁそんなもんだな。つっても簡単な事じゃねぇだろうし直ぐにって理由には行かねぇだろうがな」

 

「イエ、ソレデモ充分過ギルワ。我々ニトッテ人類トノ対話ハ彼女達ノ次ニ大キナ悩ミノ種デシタカラ」

 

ふぅん?まあでもそうか、突然目の前に太刀打ち出来ない相手が現れたらそりゃ話し合い所じゃねぇわな。

そう考えると西村には相当無理難題を押し付けたのかも知んねぇな……ま、あいつなら大丈夫だろ。

 

「まぁ報告としてはそんな感じだ。後はお前らっつうか深海棲艦に聞きたい事なんだが……」

 

「深海棲艦ニ……ツマリ種族トシテ聞キタイッテ事ネ?」

 

「ああ、お前らの様に争いを望まない奴らと離島達みたいに艦娘達を積極的に襲ってる奴ら。深海棲艦の本質としてはどっちが近いんだ?」

 

海軍の常識を当てはめれば深海棲艦は本能のままに襲ってくる化物。だが、港湾を初めほっぽちゃんやル級らを見てると本当はこっちが本心ではないかとも思える。

しかし、港湾の答えはそのどちらでも無かった。

 

「ソウネ……結論カラ言エバドチラモ深海棲艦ノ本質ト言エルワ」

 

「どういう事だ?矛盾してる様に思えるが」

 

「全テノ深海棲艦ニ共通スルモノ……ソレハ強イ負ノ感情ヲ持ッテ産マレタトイウコト。一言ニ負ト言ッテモ色々アルワ。怒リ、嫉ミ、怨嗟、憎悪……確カニ攻撃的ナ感情モアルケレド、他ニモ諦念、恐レ、苦シミ、劣等感ト言ッタ感情モ持ッテイルノ。違イハドノ感情ガ強ク出テイルカッテダケ」

 

「なる程な。もし深海棲艦になってもお前ら見たくやれるかとも考えたが……そう上手くもいかねぇか」

 

「エ、深海棲艦ニナルッテドウイウ……?」

 

「いんや、もしもの話だ。気にしないでくれ」

 

「ハ、ハァ……良ク解ラナイケド気ニスルナト言ウノナラ詮索ハシナイワ」

 

「ああ、悪ぃな」

 

別段隠すような事でもねぇがまあ、やたらめったら話してもロクなことにならねぇだろうしな。

タ級はまだ俺を訝しんでるようだが、港湾の方は切り替えが済んでるようだったので俺は港湾側の用件を尋ねる事にした。

 

「それで、俺に頼みってのは新しい仕事か何かか?」

 

「エェ、ソウ捉エテ貰ッテモ構ワナイワ。門長サン、貴方ニ物資ノ輸送ヲ頼ンデイタ島ガアッタノヲ憶エテルカシラ?」

 

「島……物資……あっ、エリレと空母が居た島か!あ~久々に会いてぇなぁ」

 

つっても接触は禁じられてるんだよなぁ……非常に残念だ。

 

「んで?その島がどうした?追加の輸送か?」

 

「イイエ、ソノ島ナラ先週艦娘達ノ襲撃ニ合ッタカラ引キ払ウ事ニナッタワ」

 

「はっ?襲撃だって?」

 

「エェ、ダカラ今後アチラヘノ輸送ノ必要ハナイノ。ソノカワリ──」

 

「よーし分かった。俺の次の仕事は艦娘艦隊を潰してエリレを救い出す事だな?」

 

覚悟しろよ艦娘共、艤装なんか無くたってテメェら(幼女を除く)を沈める位訳ねぇんだよっ!

 

「話ヲ最後マデ聞キナサイッ!」

 

「へぁ?」

 

「ハァ……二人共無事ニ島カラ撤退シテルワ。ダカラ貴方ニ頼ミタイノハ二人ノ保護、トイウヨリ彼女達ヲ匿ッテ貰イタイノヨ」

 

「なんだよ、ビックリさせやがって……俺としちゃエリレが来るのは大歓迎だが、どうしてこっちなんだ?お前らで匿った方が安全だろ」

 

だが港湾は首を横に振ってこう答える。

 

「私達ガ匿ッテシマウト向コウニ仕掛ケル口実ヲ与エテシマウカラソレハ出来ナイノ。ソノ分貴方ノ所ナラ向コウモ迂闊ニハ手出シ出来ナイデショウ」

 

「向こうって海底棲姫共の事か?」

 

「ソッチジャナイワ。アースノイドデストロイヤー。通称EN.Dト呼バレル人類及ビ艦娘ノ殲滅ヲ企ム過激派組織ノ事ヨ」

 

「EN.D……あぁ、そうか。離島が居た組織か」

 

「エェ、ホボ全テノ制海権ヲ確保出来ル程ノチカラヲ持ツ彼女達ニ較ベレバ私達ナンテ数アル軍閥ノヒトツニ過ギナイワ」

 

確かに離島の軍だけでも海軍を相手取れる程度には戦力が揃ってたからなぁ。

人類も艦娘も殲滅させるっつうのも奴らが居なきゃ案外簡単に達成出来てたのかも知れねぇ。

だからこそ疑問が残る。

 

「そうか。だがそれならどうしてお前らもそいつらもあの二人をそこまで重要視するんだ?言っちゃ悪ぃがアイツらより強い奴ならそれこそごまんと居るだろう」

 

「…………ソレハ彼女、ヲ級ノ精神構造ガ私達トハ明ラカニ異ナルカラヨ」

 

「精神構造?なんだそりゃ、意味が分からん」

 

「私達深海棲艦ハ物事ヲ考エ話スダケノ知能ハ持ッテイルモノノ根本的ニハ本能ノママニ活動ヲ行ッテイルノ。言ッテシマエバ自分ノ気持チヲ押シ殺スナンテ器用ナ真似ハデキナイノヨ。私ノヨウナ姫ト呼バレル個体ナラ多少譲歩スル事モデキルケレド……」

 

港湾が言ってる事を簡単に纏めるとやりたい事はやる、やりたくない事はやらないってのがはっきりしてるって事だろうか。

成程、非常に解り易くて良いじゃねぇか。

 

「デモ彼女ハ違ッタ。戦ウ事ヲ嫌ッテイルニモ関ワラズツイ数ヶ月程前ニ逃亡スルマデハEN.D中枢直属艦隊第一航空戦隊旗艦トシテ艦娘達ヲ相手ニ戦イ続ケテイタワ」

 

「ふ~ん、そんなの怖くて逆らえなかっただけじゃねぇのか?」

 

「確カニソノ可能性モアッタケレド、私ガ確信シタノハ初メテ彼女ト話シタ時ヨ。ソノ日私ハEN.Dカラ逃亡シタ彼女達ヲ保護シヨウト声ヲ掛ケタノ。ソシタラ彼女ハコウ言ッタワ……『私達ガソッチニツイタラ両方ニ迷惑ガ掛カッテシマウワ』ッテネ」

 

「自分が火種になる事が解ってたって事か?」

 

「ソレハ解ッテタデショウケド問題ハソコジャナイワ。彼女ハ両方ノ迷惑ニナルト言ッタ……ツマリ彼女ハ自分ガ耐エラレナクナッテ飛ビ出シタ組織ニモ関ワラズ迷惑ヲ掛ケタクナイト断ッタッテコト」

 

そうか、港湾の言いたい事がなんとなく分かってきたぞ。

確かに逆らえない位恐れてたなら後先なんて考えずに身の安全を最優先するのが普通だ。

つまり奴は無理矢理戦わされてた訳じゃなく戦いは嫌いだが自分の意思で戦ってたって事か。

 

「あー、何となくは解った。だがどうして戦ってたのかも解らんし、解った所で最初の質問の答えとしちゃあ根拠に欠ける話だと思うぜ」

 

「ソウネ。彼女ガEN.Dデ戦イ続ケテタ理由ハ解ラナイケレド、モシ彼女ノ精神構造ガ後天的ニ変化シタモノナラ私達ハ変ワル事ガ出来ルトイウ生キ証人トシテEN.D、ソシテイズレハ()()()スラ説得出来ルト考エテイルワ。ソレニ先天的ナモノダッタトシテモ彼女ノソレハ近クノ深海棲艦ニ少ナカラズ影響ヲ及ボシテイルトイウ事ニナルワ」

 

近くの深海棲艦……つまりレ級は何らかの影響を受けてるって事か。

個体差だと思ってたが確かに言われてみれば他より平和的だった気もしなくもないな。

まぁ、腕は飛んでったが…………。

 

「えーつまり?深海棲艦が変われば争い合う必要も無くなるって考えてる訳か」

 

「勿論ソレダケデ平和ニナル程甘イモノデハナイコトハ解ッテイルワ。ケレド深海棲艦ガ強イ理性ヲ持テルトイウノハソレダケ大キナ意味ヲ持ツ事ナノ」

 

「成程ねぇ……まあでもそれが世界平和ひいては響を守る為だっつうならその依頼、喜んで受けさせて貰うぜ」

 

「アリガトウ、ソウイッテ貰エルト助カルワ。ソレジャア二人ニ話シテクルワネ。二、三日中ニハソッチノ島ニ着イテルト思ウワ」

 

「あ、着いたら艦載機か何かで基地の周りを巡回させる様に言っといてくれ」

 

「エェ、ワカッタワ。ソレジャア私達ハコレデ失礼スルワネ」

 

「おうっ、忙しい中わざわざさんきゅーな」

 

「構ワナイワ」

 

港湾は背を向けたまま応えるとそのまま海中に見えなくなった。

 

「アッ、オマチクダサイヒメサマー!」

 

「オネェチャンマッテーッ」

 

「またねーほっぽちゃん!」

 

残念ながらほっぽちゃんは俺の声が聞こえなかったらしくこっちを見る事無くタ級と共に港湾の後に続いてった。

そう、聞こえなかったなら仕方ない……仕方ないんだ。

 

「アッハッハッハッハ!アイカワラズオモシロイヤツダナトナガハ」

 

「あぁ?何笑ってんだよ」

 

突然の笑い声に俺は腹立たしげにル級の事を睨み付けだ。

 

「ハハ、スマンスマン……ニシテモ、トナガニハハジメテアッタトキカラオドロカサレテバカリダナ。ワレワレシンカイセイカンニジブンヲウリコミニキタノモオドロキダッタガ、マサカカイグントハナシヲツケテキテシマウトハナ」

 

「成り行き上そうなっただけだ。つかまだ始まってすらねぇしな」

 

「ソレデモダ。オオクノシンカイセイカンハヤツラヲカミトアガメルガ、ワレワレニトッテハオマエコソガスクイノカミトイエルノダロウ……ナンテナ?」

 

「はっ、冗談。救いなんてのは自分が行動した結果なんだよ。それをさも自分が救ってやったみたいな面した奴と同じだなんて御免被るぜ」

 

だったら響の守護霊になってずっと後ろをついて回りてぇっつーの!

 

「フフッ、ソウカソウカソレハスマナカッタ。ダガオマエトアエタコトデジタイハイイホウコウニムイテルノハタシカダ。ダカラコレカラモイイカンケイガツヅクコトヲネガッテイルヨ」

 

「そうだな、是非ともそうありたいものだぜ」

 

「アア。オット、アマリナガイシテルトヒメサマニシカラレテシマウナ。デハマタナトナガ」

 

「おう、またなー」

 

俺はル級が潜って行くのを見届けながら港湾との話を思い返していた。

強い理性……つまり確固たる意志を持つ事が出来れば深海棲艦になっても自分を保てるって事だよな。

まぁ深海棲艦に近い状態ってだけで同じ理屈が通用するかは解んねぇけども、他に分かってる事もねぇし信じてみようじゃねぇか。

…………一番はその前に解決出来る事だけどな。

いつの間にかル級の姿が完全に見えなくなっていたので俺は今後の事を考えながら基地へと帰って行った。

 




次回、凡そ60話ぶりくらいにエリレとフラヲの0Oコンビが登場いたします!
長かった……っ!原案としては二人の視点での話を本作と同時進行で書くという無謀な試みを本気で考えていた位思い入れのある二人なんです。(まぁもしやってたら十中八九挫折してましたが……( ̄▽ ̄;)
いつかは二人の過去の話を書いたスピンオフ作品を書くかも知れませんね。
まぁ転これの方もあるので作者のモチベと需要があればですが。


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第七十八番

あかん、ペース上げて行かんと週一投稿が崩れてしまう~(゚ρヾ)ゴシゴシ


港湾との話し合いから三日、約束通りソ級と共にやって来たエリレと空母を引き取った俺は基地の面々を食堂へと集めて二人を紹介する事にした。

 

「吹雪に暁、それに俺と一緒だった長門達は憶えているだろうが二人は俺の命の恩人のエリレとその仲間の空母だ。訳あって今日から此処で暮らす事になったから仲良くやるんだぞ」

 

「レ級ellteダヨ!フラヲノ事ハフラヲデ、オレノ事ハエリレッテヨンデネッ!」

 

「お久しぶりです。いつぞやは助けて頂きましたからね。恩義には報いましょう」

 

「ま、まぁ困った時はお互い様よねっ」

 

エリレ達に対する周りの反応はまちまちだったが離島の時と較べれば随分空気が穏やかなのは気のせいじゃないだろう。

まあ離島が基地を襲ったリーダー格だったからというのもあるが、それでも俺は深海棲艦を敵視していた吹雪達のその変化を嬉しく思った。

 

「まぁ、基地の事で分からない事があったらこの中の誰にでも聞いてくれ」

 

「ワカッタ!」

 

「……仮ニモ深海棲艦ガ来タッテイウノニ誰モ警戒シナイノネ」

 

意外そうっつうか軽く呆れた様子で周囲を見回す空母の問いに対して摩耶が代表して答えた。

 

「アタシを含めた此処にいる奴等は深海棲艦は全て敵だなんて短絡的に考えちゃいねぇんだよ。現にアタシらは港湾達の助けがあるからこうしてやって行けてる訳だしな」

 

「成程、ダガ私達ガ味方ダト言ウ確証ハナイ」

 

「確証も何ももし敵ならそこの変態や吹雪達を助けたりなんてしねぇだろ」

 

「私達ガ貴女達ニ危害ヲ加エルトカ、若シクハ敵対組織カラノスパイダトカハ考エナイノ?」

 

俺達への疑いを未だ解こうとしない空母に痺れを切らしたエリレが空母の手を引っ張った。

 

「フラヲッ!コレカラオ世話ニナルノニソンナ意味ノナイ話デ溝ヲ作ッテチャダメダヨッ!」

 

「イヤ、意味ガナイワケジャナイ。ソレニ……マアイイワ。暫クノ間ダケドヨロシク」

 

「おうっ、よろしくな!」

 

「じゃあ金剛、二人に基地を案内してやれ。それと部屋も適当に決めとけよ」

 

「オーケー。それは構わないケド、ミスターはこの後どうするのデスカー?」

 

「俺はまだ話があるからな、つっても手が空いてる奴だけで構わねぇ。別用がある奴は此処で解散とする」

 

「そ、じゃあ私達は輸送護衛の予定についてフラワーさんと話してくるわ」

 

「あー、その事なら俺も帰って来たし後は俺が引き継ぐから安心していいぞ」

 

「その必要はないわっ」

 

暁達にも暫くの間苦労を掛けたからな、これからはゆっくり過ごして貰おう。

そう考えていた俺は続く暁達の言葉に瞬きする事も忘れ唖然としていた。

 

「私達でも出来る護衛任務は私達でやるって言ってるのよ」

 

「勿論私達では役不足だという任務もあるでしょうし。そういう時は門長さんにお任せしますが、それ以外は私達が行った方が効率も良いでしょう。何より貴方がなるべく基地に居る方が響や他の皆さんにとっても安全だという結論に至りましたから」

 

安全か……そういえばまだこいつ等に話して無かったか。だが、話した所で不安にさせるだけでどうにか出来る訳じゃねぇ。

それに吹雪達の練度はこの基地でも上位に入る高さだ。

無理さえしなきゃ問題ないだろうし、だからこそ俺が居ない間の代行を任せたんだ。

 

「……分かった、だが無理だけはすんなよ。お前達に何かあれば響を悲しませるし俺も正気を保てる自信はないからな」

 

「当然よ、あんたはどうでもいいけど響を悲しませるような事はしないわ。あんたと違ってね?」

 

「うぐぅ……な、なら良いんだ。じゃあ俺が必要なら後で教えてくれ」

 

「分かったわ、じゃあ行ってくるわね」

 

そう言って食堂を出ていく暁達を見送ってから俺は少し考えてからこう言った。

 

「やっぱいいや、今日は解散」

 

「えっ、門長……?」

 

「んな顔すんなって、また後でそっちに遊びに行くから待ってな響っ」

 

「う、うんっ。わかったよ」

 

「じゃあ後でな。おらっ、いつまで艤装付けてんだ長門、さっさと工廠行ってこい。それと明石、テメェも持ち場に帰れ」

 

俺はそれだけ言うとさっさと食堂を後にした。

 

「はっ?……っ!ああ、それもそうだな。明石も早く工廠に戻ったらどうだ?」

 

「えっとぉ……あっ!い、いつの間にかこんな時間ですね?それでは失礼致します」

 

「……何なんだよ一体」

 

「さあな、唯の気まぐれじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

食堂を離れた俺は遠回りをしながら目的地を目指していた。

多少露骨なやり方だったがお陰で俺が到着した時には二人共工廠で箱に腰を掛けて待機していた。

 

「他は誰も居ない様だな」

 

「ああ。だがあまりに唐突過ぎて一瞬分からなかったぞ」

 

「そうですよ~、私も長門さんからパスが無ければ気付きませんでしたよ」

 

「それはお前が鈍いだけだろ」

 

「ちょ、それは酷くないですかぁ?」

 

明石の抗議を聞き流した俺は他に誰もいない事を確認すると、近くの箱を引き寄せて椅子代わりに座り早々と本題を切り出した。

 

「さて、今回お前らに手伝って貰いたいのは二つ。一つはタウイタウイの明石に協力してもらう方法とその連絡手段の相談。そしてもう一つはエリレ達を襲った艦隊の所属と目的だ」

 

「ふむ、その前に一ついいか?」

 

「なんだ?」

 

「恐らくそれは先程話そうと事だろうが響達に話すのをやめたのは何故だ?」

 

確かに長門の疑問はもっともだ。もしかしたら響達にも怪しまれたかも知んねぇな……まあ、今更だな。

 

「簡単に言えば吹雪達を不安にさせない為だ」

 

「吹雪達を?」

 

「そうだ、あいつらは今回危険な護衛任務を進んで引き受けてくれたのは俺の力を信頼しての事だ。だが、その俺が力が出せない事を知れば不安を生みその不安が事故に繋がりかねない。だから彼女達には知られない様にしたいんだ」

 

「……理由はそれだけなんだな?」

 

「それだけだ。馬鹿な事をするつもりは無いから心配すんな」

 

目が覚めたっつうのにこれ以上寝惚けた事を言うつもりはねぇ。

そんな俺の決意を察した長門は一息ついてから話を再び本題へと戻した。

 

「そうだな……向こうの協力が得られるのであれば連絡手段ならどうにかなるぞ」

 

「どうするつもりだ?」

 

「なに、不知火が持ってる例の無線機をあっちで一つ作ってもらうのだ」

 

「成程な……確かに作れるだろうしそれがあれば連絡はどうにかなりそうだが、最初の連絡はどうする?」

 

「なに、私が少し沖に出て水偵を飛ばせば四日程で帰って来れるさ」

 

つまり金剛がやってた見たく水上機に伝令役をやらせるっつう事か。

 

「よし、じゃあそれはお前に任せた」

 

「承知した。では明日にでも出るとしよう、っとそうだ。行く時は金剛を連れて行っても良いか?」

 

「分かった。ああそれと手紙の内容はそっちで頼めるか」

 

俺は交渉も文章も得意じゃねぇからな。

 

「ん、あぁ……解った。確かにお前が手紙を書く姿など想像も出来んからな」

 

「うっせ、兎に角任せたからな。で、後はエリレ達を襲った艦娘の事なんだが……」

 

「う~ん……正直皆目見当も付きませんね」

 

「うむ、我々が直接会った訳ではないからな。道中にヲ級達を見つけたのか、そもそも二人を目標としていたのか……」

 

「あとはその島に目的があって上陸の際に戦闘になった……なども考えられますが、やはり情報が皆無ですから」

 

あー、そりゃそうだよな。

海軍の事なら西村に聞ければ一番なんだが、流石にこっちから連絡を取るのは不味いか。

エリレ達が何が情報を持ってるか明日辺り聞いてみるかぁ…………。

 

「あっ、そういや……」

 

「ん、どうした?」

 

「いや、関係があるかは解んねぇんだけどよ。前にエリレ達が居た島へ資源を輸送した時にヴェールヌイに会った事を憶えてるか?」

 

「っ!?」

 

「島で?ああ、草陰からこっちを見てたヴェールヌイの事だな?」

 

「そうだ、お前と武蔵も見てるし恐らく見間違いや幻覚の類ではない筈だ。だが、その子はエリレ達とこっちに来ていないんだ」

 

「そうだな。多分海軍の艦娘に保護されたんじゃないか?」

 

「その可能性も十分考えられるが、もしかしたら──」

 

「とっ、門長さん!!その彼女の他に電は居ませんでしたかっ!?」

 

長門と俺の間に突如割って入ってきた明石が物凄い形相で俺を問い詰めて来る。

俺は苛立ちを覚えつつ明石を力ずくで引き剥がして箱に座らせた。

 

「電とは会ってねぇよ!……ったく、何なんだいきなり。」

 

「あ……す、すみません」

 

「で?何か心当たりでもあんのか」

 

「えっと……確証があるわけではないのですが、もしそうなら…………この基地にも来るかも知れません」

 

「は?エリレ達を狙ってるって事か?」

 

「いえ、もしレ級さん達を襲ったのが彼女達なら次の目的は恐らく私でしょう」

 

「一体どういう事なんだよ、分かるように話せ」

 

明石の言ってる事がいまいち理解できなかった俺は、神妙な面持ちで黙り込む明石へ話すように促した。

五分程の静寂ののち、明石は気を落ち着かせるように深呼吸してから、漸く話し始める。

 

「門長さんが島で見られたヴェールヌイとレ級さん達を襲った艦隊はもしかしたら………………呉第一鎮守府、私が所属している鎮守府の方達かも知れません」

 

「呉?何の為に……つっても海軍が深海棲艦を攻撃するのに理由なんてねぇか」

 

「まぁ、通常はそうですが。もし呉の艦娘でしたら行方不明となったヴェールヌイ達の救出が目的だったのかも知れません」

 

「なるほどな、それでそいつらがエリレ達に捕まってると勘違いしたってことか」

 

「その可能性は考えられます。そして……」

 

「ふむ、そうか。もしそうなら明石の救出に此処に来る可能性もあるという事か」

 

「……はい、ですので皆さんに迷惑が掛かってしまうかも知れません」

 

口篭る明石の言いたい事を察した長門が続け、それを肯定するように明石は答えた。

なるほどな、もしそうならこいつを助けに来るだけだろうし戦わずにするかも知んねぇ……相手が交渉に応じればな。

正直エリレを襲った事は赦せねぇがエリレと一緒に居れるって事でチャラにしてやるつもりだ。

 

「よし分かった。電も居たかどうかは明日エリレに聞いてみる事にして、もしそいつらが来た場合に戦わずに済む方法を考えるぞ」

 

「えっ!?」

 

「なんだよ、そんな戦いてぇのかよ」

 

「い、いえ……まさか門長さんからそんな提案が出るとは思わなかったもので」

 

「ふふっ」

 

ちっ、どいつもこいつも人の事を戦闘狂呼ばわりしやがって失礼な奴らだぜ。

 

「つか初めに充分に戦えねぇっつってんだろうが。いいから案だせ」

 

「くくっ、ああそうだな。戦わずに解決出来るのならそれに越した事は無い」

 

「ええ、それもそうですね」

 

その後度々話が脱線しながらも一応の対応策をまとめる事が出来たのであった。




正直花粉が酷くて集中力ががが……。
投稿日迄には落ち着いてくれてる事を切に願います。


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第七十九番

レ級は可愛い!ヲ級も可愛いです(キリッ


 翌朝、俺はエリレ達に確認する為に二人の部屋の扉を叩いた。

少しして内側から空母が返事をしたので扉を開き中へと入ると、そこには帽子のような艤装を外し椅子に腰掛ける空母とその横のベッドですぅすぅと可愛らしい寝息を立てるエリレの姿があった。

 

「ふふ、エリレはまだおネムか」

 

「気持チ悪イ視線ヲエリレニ向ケナイデ。話ナラ外デ聞クワ」

 

「あ"あ"?空母てめぇ喧嘩売ってんのか?」

 

「デ、ナンノ用?私達ニ話ガアッテ来タンデショ」

 

くそっ、会ったときから腹立たしい奴だ。

だが話があるのは事実だし気持ちよさそうに眠ってるエリレを起こすのも忍びない……こいつの事は嫌いだが仕方ねぇ。

 

「ちっ、ああそうだよ。てめぇで良いからちょっと来い」

 

「他人ヲ呼ブ態度デハ無イケレド、此処デ騒ガレルノモ迷惑ネ」

 

「いちいちムカつく野郎だ……こっちだ」

 

俺は苛立ちを抑えながら空母に付いてくるように言うと、中庭に設置してあるベンチまで足を運んだ。

まだ朝が早い事もあって、中庭には人影は無く二人の足音だけが耳に伝わって来た。

一足先にベンチへと腰掛けた俺は空母が隣に座るのも待たず話を始める。

 

「取り敢えずお前に聞きたい事がある」

 

「ジャマ、モウ少シ端ニ座リナサイヨ…………ソレデ?何ガ聞キタイノ」

 

「邪魔なのはテメェの帽子だろうが。何で被ってきてんだよ……ってんな事どうでもいい。聞きたいのはあの島に居た艦娘が誰なのかって事だ」

 

「艦娘…………エエ、私ノ様ナ髪色ノ艦娘ト此処ニ居ル茶色髪ノ艦娘ガイタワ。確カヴェールヌイト電ッテ言ッテイタ」

 

「そうか、やはり電も居たのか……で、その二人はどうしたんだ?」

 

「島ニ来タ艦隊ハ二人ノ僚艦ダト言ッテイタシ、恐ラク自分達ノ鎮守府ニ帰ッタト思ウケド……見送ッタ訳ジャナイカラ絶対トハ言エナイ」

 

「ふぅむ……」

 

電も居てあの島に来た奴等も二人の僚艦。どうやら明石の予想は概ね正しい事が解ったが一応これも聞いとくか。

 

「じゃあ次だ。二人とはいつ何処で出会ったんだ?」

 

「ソウネ……二人ト会ッタノハ私達ガ組織ヲ抜ケテ間モ無クダカラ、三ヶ月位前ニナルノカシラ。私達ガアノ島ニ上陸シタ時ニ浜辺ニ打チ上ゲラレテイタノダケレド……」

 

三ヶ月前だとすると大体明石の奴が此処に漂着してたのと同時期だな。

となると奴等が此処に来る可能性はかなり高めと見て良いだろう。

 

「よしっ、大体解った」

 

「ソレガ……ッテ?」

 

俺はベンチから立ち上がり大きく伸びをしてから空母にこう告げた。

 

「戻ったらエリレに伝えてくれ。仮定呉の連中に見られると面倒だから事が落ち着くまでなるべく建物から出ないようにしてくれってな」

 

「エ、エェ解ッタワ……」

 

「頼むぞ、じゃあな」

 

「エッ、スパイカドウカヲ確認スル為ニ呼ンダンジャナイノ?」

 

俺が立ち去ろうとすると空母の奴が不思議そうな顔をして訳分かんない事を口走り始めやがった。

スパイかどうかなんて確かめた所で現状で裏付けが取れねぇんだから時間の無駄だろうがっ!

つか例えエリレがどっかのスパイだろうと可愛い事に変わりはねぇしテメェがスパイじゃなかろうとムカつく奴だって事は変わらねぇっつうの!

……まあつまり何が言いたいかと言うとだな。

 

「んな無駄な事してる暇があったらなぁ……響といちゃいちゃしに行くんだよぉっ!!!」

 

「…………ハ?」

 

俺は声高々に宣誓した後、空母をその場に置き去りにして響の元へ歩み始める。

っとその前に暁達の所に行ってワ級に暫く基地に来ない様に伝えて貰わなきゃな。

ええと時間は……わからん。だが朝から出撃の予定があったはずだし今頃は工廠いるだろ。

工廠へ向かおうと中庭を出ると正門の方から黒い影がこっちに向かって突っ込んで来ていた。

 

「あれは……?」

 

「オーイッ!トーナーガーッ!!」

 

「お前は離島のとごふぉっ!?」

 

近づく影の正体を捉えた直後、腹部に鈍い衝撃が走り俺はその場に膝をつく。

 

「ドーシタ?アソボーゼー」

 

「ぐぅぅ……レ級、危ないから思いっきし突っ込んで来るのは止めような?」

 

「何ガ?ソンナ事ヨリ何時マデ待タセンダヨ!早ク続キスルゾ!」

 

くっ、流石に忘れてなかったか。

はぁ……正直美少女達に砲を向ける事はしたくないんだがなぁ。

まぁ約束しちまったのは俺だし受けないわけには行かねぇが、実弾何て以ての外だし麻酔弾もちょっとフェアじゃねぇ。

となると演習用の模擬弾だけだが、果たして深海棲艦に通用するかどうか…………取り敢えず確認しに行くか。

 

「まぁ待て、この間の続きをしようにも兵装は今工廠一度工廠に行かなければならないんだ」

 

「エェ~、ジャア工廠ッテトコニ行ケバ続キガ出来ルンダナ?」

 

「そりゃあ……まぁ、な」

 

「ヨシッ!ナラサッサト行コウゼ門長!!」

 

「わかったからあんま引っ張んなって、危ないだろ」

 

俺はレ級に腕を引かれながら再び工廠へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 十分後、工廠に辿り着いた俺は丁度出て行こうとする明石の肩を掴み引き止める。

 

「いっ!?いきなりなんですかぁ。私はこれから朝食に行くので話なら後にして貰えませんか?」

 

「だとよ?待てるかレ級」

 

「冗談ジャナイ!ドンダケ待タセルンダッ!」

 

「だよな、我慢出来ないよな?」

 

「えぇ~……ですが摩耶さんも待ってますしぃ」

 

「んなもん先に食っとけって伝えとけ」

 

明石は不服そうにこっちを見るが俺は引き下がるつもりはない。

ただでさえ暁達が水平線上に消えてくのを見送ったばかりだっつうのに明石まで逃がしちまったら俺が此処に来た意味が無くなっちまうだろうがっ。

そんな俺の意思が伝わったのか分からねぇが明石は溜息を吐きながら工廠へと引き返した。

 

「はぁ……直ぐに対応出来るかは内容によりますからね?」

 

「別に難しい事じゃねぇよ。演習用模擬弾が深海棲艦に効果があるのか知りたいだけだ」

 

「深海棲艦にですかぁ?うーん……解りました、確認してみますのでレ級さんにちょっと協力をお願いできますか?」

 

「ナンダ!ヤルカッ?」

 

「その気はありませんよ。身体が動かしにくくなったら教えて頂くだけで結構です」

 

「何スル気ダ!ヤラレル前ニヤッテヤルッ!」

 

俺は今にも飛び掛かりそうなレ級の腕を抱えながら何とか言い聞かせようと試みる。

 

「まあ待て、これは……その……あれだ。全力の俺と戦うには必要な事なんだ」

 

「必要?」

 

「そうだ、俺はお前も仲間だと思ってる。だから仲間に実弾を使うなんて事はしたくないんだ」

 

本音を言えば例え敵であってもこんな愛らしい少女を手に掛ける事はしたくないだけだがな。

つうわけで明石が怪訝な目でこっちを見てようがそんな事はどうでもいいのだ。

俺の言葉を受けたレ級は暫し首を傾げて考えていたがいまいちピンと来ない様子で答える。

 

「ウーン……良ク分カンナイケドコレガ終ワレバ全力デ相手シテクレンダナ?」

 

「あ、まあそんな所だ」

 

「ヨシ、ジャア早クシロピンク!」

 

「そうだ早くしろピンク」

 

「ピンクって私の事ですか……ってか門長さんまでピンクって呼ばないで下さいよっ!?」

 

「いいから早くしろって」

 

「もぉ~、何なんですかこの扱いは……じゃあ電磁波を発生させますので体に異変を感じたら言って下さいね」

 

明石はぶつぶつ言いながら円錐状の筒をレ級のお腹に当てながら手元の機械を弄り始めた。

暫くは特に変化が無いのか不思議そうに自分に当てられてる筒を眺めていたレ級だったが、それから十分程経過した頃レ級の表情が変化した。

 

「ナ、何ヲシタピンクッ!ヤメロォ!!」

 

「あっ、無理に動いちゃ駄目ですよ!」

 

「ア、レ?ウワァァッ!!?」

 

「レ級っ!」

 

レ級は自身の身体を襲った初めての異変に危機感を覚えたのか咄嗟に右に飛び退くが、思い通りに動かせず足が縺れてそのまま派手にすっころんでしまった。

俺は慌てて駆け寄りレ級の無事を確認すると、レ級を抱き上げてから明石を睨み付ける。

 

「おい明石、レ級に何をやったんだ」

 

「そんな怖い顔されても……模擬弾に使用されてる特殊電磁波が有効か確認しただけです」

 

「……そうか。で、その模擬弾は万一にも沈める心配は無いんだよな?」

 

「それは心配ありませんよ。港湾さん達に頼んで彼女達の修理もやらせて貰ってますが海水で腐食しない事以外は機関や船体は我々艦娘と変わらないので機関や兵装が止まった所で沈むような事はありませんよ」

 

「もしこれでレ級が轟沈するような事があればてめぇがどうなるか解って言ってんだろうなぁ?」

 

「門長さんが打撃を行わなければその弾で撃沈する事は出来ませんから大丈夫ですよ」

 

くっ、こいつ……まさかタウイタウイで俺が響に説教を受けた事を知っているのか?

きっと金剛の奴が話したに違いない、許さん!

奴の処罰は後で考えるとして、明石がこう言う以上俺は奴の言う事を鵜呑みにする他無いようだ。

 

「分かったよ、じゃあ演習用の弾薬に切り替えてくる。レ級も弾薬の換装は出来るか?」

 

「カンソウ?」

 

俺は模擬弾を工廠の妖精に用意するよう頼んだ。

数分して妖精達が持って来た弾薬箱から一つ取り出しレ級に見せる。

 

「この弾薬だ。撃てるか?」

 

「ン?同ジ形ダシ撃テルダロウケド、ナニコレ?」

 

「これが何度でも俺と戦える代物だ」

 

「ホントニ!?スッゲーッ!解ッタ使ウ!!」

 

意気揚々と換装を始めるレ級とその姿に癒されながら弾薬を切り替えていた俺が明石の居ない事に気付いたのは三十分後のレ級の換装が済んだ後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




話が全然進んでない気が……気にしない!
次回は演習回です!


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第八十番

なんだか久々に長くなってしまいました。
戦闘シーンは相変わらずですがねw


 兵装準備が完了し、工廠を出てから一時間。

演習を始める為に俺とレ級はそれぞれ二十キロ程離れた位置へと着いた。

無線での連絡が取れないレ級には一発目の空砲が戦闘開始の合図だと伝えてある。

 

「ほんとうにわたしたちでよかったのか?」

 

「せんせいのほうがよかったんじゃないですか~?」

 

俺は左手の主砲の装填を済まていると、二人の妖精が砲塔から姿を現して不安そうに尋ねてくる。

こいつらの先生ってのは恐らくあの砲雷長の事だろう。

 

「あいつは近くに居なかったからな。それにお前らなら他の奴よりこの主砲の扱いに慣れてんだろ?」

 

「わたしたちはふようだったんじゃないのか?」

 

「いらないからおいだしたんじゃないのですかぁ?」

 

妖精は今にも泣きそうな目で俺を見るが俺にこいつらを追い出した記憶なんてものはない。

 

「追い出した?俺がいつそんな事したってんだ」

 

「ながとさんたちとわかれたあとです~」

 

「へいそうのなかできゅうそくをとっていたらとつぜんはじきだされたのだ」

 

長門達と別れた後か……そういえばあの時武蔵しか顔を出さなかったな。

そうか、基地に一緒に戻ってた訳じゃなかったのか。

俺があの時の事を思い出していると突如右肩から声が聞こえてきた。

 

「あの艤装はお前たちが入れる隙間が無かっただけだ。安心すると良い、此奴が追い出したわけではない」

 

「「ほんとうにっ!?」」

 

「ま、そんな所だ」

 

「やはりそうだったか!しんじていたぞ!」

 

「よかったぁ~!てっきりやくたたずだからすてられたんだとおもってたよぉ~」

 

実際の所その辺りの記憶は曖昧なんだが……まぁなにはともあれ二人が安心してくれたなら良しとしよう。

……で、今俺の肩に乗っかってる妖精だが。

 

「いつの間に来たんだ……武蔵」

 

俺の右肩の上で腕を組む妖精、武蔵はひとしきり笑った後で俺の質問に答えた。

 

「ふふっ、私はお前さんの艤装を抑えてるんだぞ?艤装と一体になってるに決まってんだろう」

 

「んなもん知らねぇよ。つかそれだと逆に昨日はどうやって抑えてたんだよ」

 

「存外細かい男だな。なに、この体はお前さん艤装を借りて作った精神体の様なものだよ」

 

やれやれと肩を竦める武蔵の姿に怒りを覚えた俺は武蔵を軽く指先で小突こうとするが、その指は武蔵の体をすり抜けて空を切った。

 

「これで納得したか?」

 

「……ああ、意味が分からん事が分かった」

 

「ま、世の中そんなもんさ。それより準備が出来たのならさっさと始めてやったらどうだ?」

 

おっとそうだった。レ級をこれ以上待たせるのも悪ぃしな。

 

「準備は良いかお前ら!」

 

「まかせなっ!」

 

「がってん!」

 

力強い返事に満足した俺は右手の五十一センチ連装砲を空に掲げ号砲を轟かせた。

その一分後、俺は機関を稼働させ電探を起動させた。

妖精曰くレ級にまで音が伝わるのに一分位掛かるという事らしい。

つまり正しくは今からが戦闘開始と言う訳だ。

 

「二十キロか、普通なら充分射程圏内だが……」

 

相手はあの時のレ級flagshipだ。

近距離で撃っても横っ飛びで難なく避けて来る相手にこの距離から撃ってもまず当たらないだろう。

なら近づくしかねぇ……だが簡単に近付かしてくれるかどうか。

頭の中でどうするか考えていると、妖精が俺に呼び掛けてきた。

 

「どうした?」

 

「こうくうきがきてるっ!」

 

「しかもばくげききだよぅ~」

 

爆撃機……マジか、レ級って戦艦じゃなかったか?

ってああ、そういや魚雷も撃ってたっけな……って今はそんな事言ってる場合じゃねぇ。

すぐ様対空電探に切り替えると二百は超えようかという反応が真っ直ぐこっちに向かってきていた。

 

「成程、全力で戦うつったしな……三式弾へ換装急げっ!」

 

「あいさ~!」

 

俺は砲弾の換装を行いながら、いつでも撃てるように航空機の群れに連装砲を構えつつ空を睨み付ける。

約束した以上俺も全力でやらせて貰うぜ!

換装完了の報告を受けた俺は、既にすぐ近くまで来ている爆撃機の向かう先目掛けて一斉射目を放つ。

上空で炸裂した三式弾は数万もの子弾を撒き散らしながら次々とレ級の爆撃機を落としていく。

 

「てっきちょくじょう!」

 

「しょうげきそなえ~!」

 

一斉射では全てを落としきれなかった爆撃機四十機程が次々に爆弾を投下していく。

 

「ちっ……こんなの損傷の内にも入らねぇぜ」

 

俺は撃ち漏らした爆撃機に再び狙いを定めようと上を見ると奴らは二手に分かれており一方はレ級の下へ戻ったが、もう一方は何故か俺の上空に張り付くように飛び回っていた。

 

「なんだ解んねぇが逃げねぇっつうんだったら望み通り撃ち墜としてやんよ!」

 

俺は砲身を上空の爆撃機に向けて再装填を待っていると再び妖精が騒ぎ始める。

 

「わ~!ほうげきだぁ!!」

 

「たいひー!たいひー!」

 

ちっ、そりゃ撃ってくるよな。

だが俺だってこの距離で当たるつもりはねぇぜ?

レ級、この技はお前から教わったものだからなっ!

俺は左足に力を十分に込めてから思い切り右へと飛び跳ねた。

その数秒後、本来なら俺が居たであろう場所に正確な砲撃が突き刺さり大きな水飛沫を上げた。

 

「ほう?ものにしていたのか」

 

「いや?初めて見たときと今ので二回目だ」

 

「……いるよな、運動神経だけは良い馬鹿って」

 

「うっせぇ、つかテメェも同類じゃねぇのかよ」

 

「心外だな、横須賀の主力は阿呆には務まらんのだ」

 

「知るか、つか今はんな事言ってる場合じゃねぇんだよ」

 

ってああもう次が来てんじゃねぇか!

だが見えてしまえばこっちのもんだ。

俺は再び左足に力を込め大きく右側へ飛ぶ。

 

「門長っ、もう一度飛べっ!」

 

「なに?」

 

綺麗に着水したその直後武蔵が何故か声を荒げた。

俺は何事かとレ級が放った砲弾を再度見ると何と避けたはずの弾が俺目掛けて飛んできている。

 

「なっ!?ぐぅ……っ!くそっ、どうなってやがんだ」

 

「恐らく直上の爆撃機を用いての弾着観測射撃だ。お前さんの安易な考えが見抜かれ……っ!?下だ門長!」

 

「したっ!?なんだとぉっ!」

 

武蔵の声に反応し下を見るとすぐそこまでやってきていた数本の魚雷の内一本が足元で起爆し周囲の魚雷を巻き込んで大きな水柱を上げた。

立て続けの攻撃を受け俺の身体は思うように動かず…………という事は無かった。

 

「……まあ、百以上も魚雷を受けても平気な身体がこれぐらいでどうこうなるわけが無いわな」

 

「ふむ、既にお前さんの存在がフェアでは無かったという事だな」

 

レ級に攻撃を当てなければ俺に勝ちはないな。

それでもいいが、お互い全力でやりあってる訳だし折角なら勝ちてぇよなぁ。

だったらどうするか……なんて考えるまでもねぇ!

 

「よし、全速力でレ級の下まで突っ込むぞ!」

 

「お~けぇ~!」

 

「やってやろうぜ!」

 

「ははっ、やはりいつも通りだな」

 

いつも通りで結構。小細工なんて柄じゃねぇんだよ!

俺は機関の出力を今出せる限界まで引き出して一直線にレ級の所へ突き進んだ。

四十センチを超える弾雨は両手の主砲で方向をずらし、俺の進行方向を先回りする様に放たれた魚雷は跳躍によりその上を通り過ぎて行った。

 

「良いぞっ、これなら大した損傷も無く接近出来そうだ」

 

「あちらさんも簡単には近寄らせてはくれないみたいだぜ?」

 

「てきばくげききせっきん!」

 

「うわぁ~!?またきたー!!」

 

にわかに騒ぎ出す妖精達の声に反応し対空電探に切り替えると先程の倍以上の数の爆撃機が一斉に向かって来ていた。

だが、何機来ようが関係ねぇ!一つ残らず叩き落としてやるぜ!

 

「墜ちろオラァ!!」

 

俺は再び三式弾を装填し、ギリギリまで引き付けた所で四発の砲弾を一斉に撃ち放った。

レ級の爆撃機に直撃したのか放たれた三式弾は一キロ先で擬似爆煙と共に炸裂した為、子弾が俺の身体に僅かな損傷を与えた上に煙で視界までもが奪われてしまった。

状況は見えねぇがあれだけ固まってりゃ少なくとも半数以上は落ちたはずだ。

そう判断した俺は直ぐに煙を抜けると、そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。

 

「一機も居ないだと?まさか全て墜ちたっつうのか」

 

「ふっふっふ、ばくげききなどおそるるにたらず!」

 

……いや、それならそれで好都合だ。

一先ずそう結論付けるも、言い知れぬ違和感は拭い切れなかった。

そして数秒後、武蔵の一言によってそれが間違いでなかった事を知らされる事となる。

 

「右舷後方から爆撃機だ!それもかなりの数が残っている!」

 

「なっ!?」

 

対空電探で確認した俺はその数に驚きを隠せなかった。

最初は四十機程残っていたが、今度は四十機程しか落とせていなかったのだ。

ちぃっ!兎に角今は避け続けるしかねぇか……。

 

「再装填急げよ!」

 

「まかせろっ!」

 

「い~そ~げ~!!」

 

右や左に飛び跳ねる事で爆撃を避けようとしたが、流石の俺も三百もの絨毯爆撃から逃れる事は叶わなかった。

その結果、二百発近い爆撃を受けた俺は異常な耐久性を持ちながらもかなり追い詰められていた。

 

「ちくしょう……損傷はどうなってる」

 

「そんしょうはまだしょうはだけど~、げんざいさんかしょでかさいがはっせいちゅう。ちんかにじかんがかかります~」

 

「それよりもねんりょうがのこりわずかだ」

 

小破か……それ位ならまだやれるが、燃料が切れそうなのは不味いな。

燃料が切れれば確実に負ける……演習とは言えそんな致命的な敗北だけは避けねぇとな。

 

「……あの爆撃機を何とかしねぇ事にはなぁ」

 

「それなんだが、三式弾を放った直後に爆撃機の一部が弾頭目掛けて突っ込んでる様に見えたんだ」

 

「なに?それで被害が抑えられるっつーのかよ」

 

「そこまでは解らんが、もしかしたら奴はそれを見越して動かしたのでは無いかと思ってな」

 

「良ク解ッタナ!ダガ解ッタ所デモウ遅セェ!!」

 

不意に前方から聞こえてきた声に俺は思わずレ級の方へ向き直った。

 

「なっ、いつの間にこんな所まで……それにもう遅いだと?」

 

「アア、モウ艦載機ハ使ワナイカラナ!」

 

そう言うとレ級は駆け寄りながら魚雷を無造作にばら撒く。

だが距離が近い為すり抜けられる程間は無く、加えて燃料の問題から飛び越える事も出来ずに俺は正面から魚雷群に突っ込む羽目になった。

 

「ぐぅっ……!まだまだぁぁっ!」

 

噴き上がる水柱の中を強引に突っ切りレ級の目の前まで接近する事に成功した俺は、後でレ級には謝ろうと心の中で決意すると左の主砲を彼女の体の中央へと撃ち出した。

 

「ナ、グガァァァッ!?」

 

「あっ。わ、わりぃ!」

 

亜音速で放たれる五十センチ超の砲弾は案の定二発ともレ級の腹部に直撃し、彼女ごと数百メートル遠方へと弾き飛ばした。

激しい自責の念に駆られた俺はレ級の安否を確認する為、彼女の下まで急いで駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「クッ……」

 

レ級は俺の呼びかけに応じたように立ち上がるが腹部をさすりながら何かを堪えている様子だ。

もしかしたら内部をやってるかも知んねぇ、直ぐに連れて帰らねぇと。

俺はレ級を連れて戻るためにその手を取ろうとするも、レ級自身によってその手は弾かれてしまった。

 

「なにしてんだっ、早く直しに戻らねぇと……」

 

「クク……クックックッ……アッハハハハハハハハ!!!イイゾトナガッ!ヤッパリオマエトヤリ合ウノハオモシレェ!!」

 

「は?突然な──ぐぁっ!?」

 

いきなり高笑いを始めたかと思いきや、レ級はそう言って突如俺の首元を掴み上げた。

 

「戻ルナンテ寂シイ事イウナヨォ。マダマダ楽シモウゼェ!!」

 

「ぐぅ……っ!」

 

握り締めるレ級の右手は尋常でない位に力が込められており、俺の首を圧し折ろうという意思がその手からひしひしと伝わって来ていた。

う~む、こりゃあやべぇな……今頃肉弾戦禁止だなんて言う訳にも行かねぇし。

けどなぁ、模擬弾とはいえこれ以上レ級の苦痛に歪む顔は見たくねぇしなぁ。

なんてこった……まさか近付く事がこうも裏目に出るとは思わなかったぜ。

 

「おいっ、何をしてるんだ門長っ!このままでは死ぬぞ!!」

 

「ちっ、んな事分かってんだよ」

 

こんな所で死ぬつもりはねぇっつうの!

俺はレ級の目を見ながらその手首を左手で握った。

 

「レ?」

 

「レ級、結構痛いと思うがゴメンな?」

 

レ級に一言謝ってから俺は握った手首に力を込めた。

 

「ギャアァァッ!!」

 

手首を握り潰される様な痛みを感じたレ級は思わず右手を開いてしまい、その瞬間に俺はレ級の手から抜け出した。

はぁ…………愛する少女達を護るべき力で少女を傷付けてしまうとはなんて最低な奴なんだ。

出来る事ならこれ以上傷付けたくないと考えるも、当然レ級の戦意が衰える気配はない。

俺に残された手はレ級の意識を奪う事だけだ。

 

「武蔵、レ級を苦しめずに気絶させる方法はないか?」

 

「ふむ……それはまた難題だな」

 

「頼む、これ以上は俺の心が耐えられん」

 

「……そうか」

 

そうこうしている内に痛みが落ち着いて来たレ級が既に此方へ狙いを定めていた。

 

「だぁぁっ!?また捕まるわけには行かねぇぞ!」

 

「ならば逆にお前さんがレ級を捕らえて絞め落とせば良いんじゃないか?」

 

「俺が?」

 

レ級を絞め落とす、か。

いや、確かに出来るし加減すれば怪我をさせる心配も無いが…………色々な意味で俺の正気が保てるかどうか。

だが悩んだり他の手を考えてる余裕はねぇ!今こそこの三ヶ月で鍛え上げた鋼鉄の理性の本領を発揮するぜ!!

 

「うおぉぉぉ!!やってやるぜぇぇーっ!!!」

 

「アハハハハッ!!イイナァ、面白イナ!トナガァッ!!!」

 

レ級は心底楽しそうに笑い声を上げながら拳を強く握り締め、今度は助走をつけて俺の顔面へ全力で振りかぶって来た。

俺はそれを少しだけ左下に屈み右腕でレ級の拳を受ける。

吹き飛びそうな衝撃と右腕に走る鈍痛は歯を食いしばる事で堪え、もう片方の手でレ級の肩を捕えようとしたその時、レ級の背後から無数の物体が飛んで来るのが俺の目に映った。

 

「レ級っ、こっちだ!」

 

「オウッ!?」

 

俺はレ級の腕を掴むと全力で後ろに飛び退いた。

その直後、さっきまでレ級と俺が居た場所には大小様々な砲弾が雨の様に降り注いでいた。

 

「艦娘カ……?俺ノ楽シミヲ邪魔シヨウッテ言ウノナラ容赦シネェゾ」

 

レ級は不意打ちを受けた事よりも俺との勝負に水を差されたのが余程気に食わなかったのか、殺気を漲らせながら弾の飛んできた方角を睨み付けて今にも艦載機を発艦させようと両腕を前に伸ばしている。

かくいう俺はレ級とのひとときを邪魔されたっつう苛立ちとこれ以上レ級を傷付けないで済むっつう安堵がないまぜになりなんとも複雑な心境であった。

どうすっかなぁこの状況……レ級を止めるか、レ級と一緒に奴らをとっちめるか。

頭の中が纏まらないまま何気なく電探を起動させた俺は、状況が芳しくない事を悟った。

 

「ちっ……レ級、一旦基地に戻るぞ」

 

「ヤダ、俺ハ邪魔シタ奴ヲ潰シニ行ク」

 

「どっちにしろその弾じゃ足止めにしかならねぇだろ?」

 

「……ワカッタ、変エタラスグ行クゾ」

 

「それは約束出来ねぇが、代わりに落ち着いたらまた何時でも付き合ってやるから我慢してくれ」

 

「エー……絶対ダカラナ?」

 

「ああ、約束だ」

 

「絶対絶対ゼェーッタイダカラナッ!」

 

「おうよ!」

 

ぐふぅ!上目遣いは反則だぜ……って、こりゃあまた戦う事になっちまうな……まぁ、今は良しとしよう。

それにしても正面に六……右後ろと左後ろにそれぞれ六隻……見えるだけでも十八隻か。

この島を包囲するつもりか?だとしたら後ろにも一艦隊いるかも知れねぇな。

奴らが何しに来たのかは知らねぇが、これは直ぐに響や電達の所に戻るべきだと俺の勘が告げている!

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!響に何かしやがったらただじゃおか……ね……え?」

 

な、何が起きた!?突然進まなくなりやがったぞ?

それどころか足を動かす事すら出来ねぇじゃねぇか!

 

「とながさん。ざんねんなおしらせです~」

 

「ねんりょうが…………きれた」

 

「は…………はあぁぁぁぁっ!!?」

 

待て待て待て!燃料が無くなると兵装が使えなかったり航行が出来なくなるのは分かるが歩けなくとは聞いてねぇぞ!

これじゃあ戻れねぇじゃねぇかっ!砲弾が降り注ぐ中立ち往生か!?

いや、まだだ……まだ方法は残されている!

俺は急いで無線を繋いでみた。

 

「おい、誰か聞こえるか!おい!」

 

だが機関が動いてない所為か無線も繋ぐ事は出来ず、幾ら待とうとも応答が返って来る事はなかった。

そ、それでもまだ手はあるはず……はっ、そうだ!俺が動けないのなら動けるレ級に曳航して貰えば良い!

 

「レ級、さっきの戦いで燃料が切れちまったみたいだ。わりぃが俺を基地まで引っ張ってってくれないか?」

 

「ソウナノ?ワカッタ!」

 

二つ返事で応えてくれたレ級の優しさに涙腺が崩壊した俺は目から体液をだだ漏らしながらレ級に手を伸ばすが、ここで新たな問題が露わとなる。

 

「ウググググ……ンンンンッ……!」

 

「レ級?大丈夫、か?」

 

「マダマダァ……」

 

レ級は頑張ってくれているがどうやら俺の排水量(体重)が異常らしく、進んではいるものの全然速度を出せないのだった。

 

「ありがとなレ級、でももう大丈夫だ。俺は一人で何とか戻るから代わりに艦娘の艦隊に包囲されてる事を基地の奴らに伝えて来てくれ」

 

「ウー……マダヤレル!俺ノチカラハコンナモンジャネェ!!」

 

「解ってる。だがこの事を一刻も早くあいつらに伝えてやらないといけないんだ。頼むレ級」

 

それでも諦めずに引っ張ってくれるレ級には感謝しかないが、これ以上俺につき合わせるとレ級を巻き込みかねない。

 

「ムムムムム……分カッタ、行ッテクル」

 

納得はしてなさそうだがレ級は渋々了承すると、俺の手を放して基地へと戻って行った。

これでいい……幸い上半身は動かせるんだ。後は誰かが来るまで耐え抜くだけだな。

 

「おらぁ!掛かってこいやっ!!」

 

俺は気を引き締め直すと二つの動かなくなった主砲を手に、降り注ぐ砲弾を弾いて行くのであった。

 

 

 

 

 




某検証動画でも有りましたが人の姿で軍艦と同じ重量だと色々と解決しがたい問題が発生するようですので此処では下記のように定義しております。

艦艇の魂である艦娘は、艤装を付けたまま海上に立つと海底にある船体と繋がり海を航行する事が出来るようになり、その過程で排水量及び密度を船体と共有させる必要がある。

要するに陸に居る時は見た目相応の体重となり、海上に居る時は軍艦の排水量と同じ体重となるという事ですね。

まあ今後体重に触れる事は殆ど無いと思いますが……

因みに門長の通常体重は77kgで排水量としては約200000t(第八十番現在)程となっております。
どこぞの列車砲積もうとしてた戦艦や氷山を船体に使おうとした空母と比べればまだまだ小さい方ですね(錯乱


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第八十一番

上新粉っ!完全復活!!(花粉症的な意味で)


海の上では不動の標的艦と化した門長が必死の抵抗を見せている中、門長達の拠点である中部前線基地へ戻ったレ級flagshipは何処に艦娘が居るのか解らないので一先ず置いて行った弾薬を取りに工廠へと足を運んでいた。

 

「アッ、艦娘イタッ!!」

 

工廠では明石がエリレの艤装を整備していたのだが、突然の訪問者に明石、エリレ、フラヲの三人は一様にレ級flagshipの方を見やった。

 

「へ?えと、レ級さん?」

 

「ナ~ニ?」

 

「貴女ノ事ジャナイワ。ソレニシテモ……港湾サン達ダケジャナクテマサカ離島サンノ所ニ配属サレテルレ級flagshipマデ出入リシテルノネ」

 

「えと、まぁ色々ありまして……」

 

呆れたように呟くヲ級と苦い顔を浮かべる明石をよそにエリレは興味津々でレ級flagshipに張り付いていた。

 

「強ソウ!イイナァ……ネェネェ!ドウヤッタラフラグシップニナレルノッ?」

 

「ドウヤッテ?ウーン……強クナレバ良インジャネ?」

 

「オオ!ナルホドッ、アリガトッ!!」

 

実際はレ級flagship自身も生み出された時からflagship級なので確証も何もある訳では無いのだがエリレはその答えに納得すると嬉しそうにフラヲの下へと戻って行く。

興奮気味のエリレの頭を帽子に付いてる触手で撫でて落ち着かせるフラヲを茫然と眺めていたレ級flagshipだったが、ふと此処に来た理由を思い出し慌てて用件を話し始める。

 

「アッ、ソウダッタ!門長ガ此処ノ艦娘ニ直グニ伝エテクレッテ言ッテタンダヨ!」

 

「門長さんが?」

 

「ソウ!ソレニ門長モ今動ケナクナッテンダ!」

 

「レ級さん……だと混同しますのでえと、レフラさん。今の話詳しくお聞かせ頂けますか?」

 

レ級flagship改めレフラから島が包囲されている事、そして門長が燃料切れを起こして立ち往生している事を聞かされた明石は一つの可能性を想起していた。

それはつい先日門長達の話し合いで自身が話した呉の艦隊についてである。

勿論、レフラの姿を捉えた別の艦隊という可能性も捨て切れないが、それだと四艦隊で島を包囲している理由としては不十分だ。

明石は昨日話した対応策を思い出し、直ぐに基地にいる全ての艦娘へ回線を繋ぎこう伝えた。

 

「皆さん、大至急工廠に集まって下さい!」

 

『明石さん、何があったんだい?』

 

「事情は集まってから話します。それとなるべく建物内を通ってきて下さい」

 

明石が招集を掛けてから十分後、遠征に出てる暁、吹雪、不知火を除く二十名もの人、艦娘、深海棲艦が工廠に集まっていた。

その中で踏み台に上がった明石は全員の意識が自身に集中したのを確認すると咳払いを一つしてから落ち着いて話し始める。

 

「皆さんに集まって頂いたのは今置かれている状況をお伝えする為でもあります。が、それ以上に工廠が構造上一番安全だと考えたからです」

 

「明石さん、安全ってどういう事?一体何が起きてるんだい?門長の姿も無いみたいだし……」

 

不安気に尋ねる響に対して明石は一拍置いてから答えた。

 

「門長さんは燃料が無く今は動けない状態にあります」

 

「なら燃料を届けに行けば──」

 

「ですがこの島は既に四艦隊に、つまり二十四隻もの艦娘に包囲されています。ですから我々が彼女達に敵対する意思は無いという事を伝えるまでは皆さんには安全の為こちらの工廠に避難していて頂きたいと思います」

 

「避難しろっつうのは構わねぇけどよ、その囲んでる奴等が攻撃してこないとは限らねぇだろ?」

 

「それは……」

 

明石は摩耶の質問に答えようとして言葉を詰まらせた。

摩耶や他の艦娘達にとっては当然の様に浮かび上がってくるそれは、相手が呉第一鎮守府の艦隊だというただの願望に囚われていた明石を現実に引き戻すには十分な力を持っていた。

摩耶の言葉で少しばかり冷静さを取り戻した明石は再びどうするか考えた。

自身の所属する鎮守府の艦隊で無ければそもそも話し合いも出来ないかも知れない。

それに舞鶴第八(響や長門が所属していた)鎮守府の例がある以上、明石の所属する艦隊にしろ絶対大丈夫とは言い切れないのだ。

だが、そこまで考えが及んでもなお諦める事が出来なかった彼女は悪く言えばやはり冷静さを欠いていたのだろう。

 

「……確かに摩耶さんの言う通り相手が一方的に攻撃してこないとは限りません。ですので、皆さんはいつでも此処を離れられる様に準備しておいて下さい」

 

「皆さんはって……お前はどうしようってんだよ」

 

発言に疑問を抱いた摩耶に対して明石は一呼吸置いてから口を開いた。

 

「私は一度彼女達への呼び掛けを行きます。その後、相手が応じないようであれば皆さんお伝えしてから私も撤退致しますので後程合流しましょう。」

 

「呼び掛けるって……そんな無茶認める訳ねぇだろっ!」

 

「そうだよ明石さん!自分で何を言ってるか解ってるのかい!?」

 

四方を囲む二十四隻の艦隊を相手から明石一人で逃げ切る事がどれだけ無謀であるかなど、摩耶と響だけではなくこの場にいる全員、それこそ明石自身ですら理解している。

だが、包囲されている以上基地を離れるには相手が誰であろうと応戦しなければならず、そうなれば両間に交渉の余地などなくなってしまう。

 

「わかってる。でも……もしかしたら呉の皆が私を迎えに来ただけかも知れない。もしそうならっ」

 

誰も傷付かずに済むかもしれない。

 

 

「けど今来てんのがそいつらかだって解んねぇんだろ?無線とかで確認出来ねぇのか?」

 

「無線は皆さんが集まる前に確認しましたが私が最後に使用していたチャンネルでは応答はありませんでした」

 

「じゃあ尚更行かせる訳には行かねぇよ」

 

「摩耶さん……」

 

俯いたまま何かを堪えるように拳を強く握る明石の姿に摩耶はいたたまれなくなり視線を逸らす。

摩耶とて明石の事を大切に思ってるし出来るならその思いも汲んでやりたいと考えている。

だが……いや、だからこそ彼女にそんな危険な賭けをさせたくはないのだ。

 

「……とにかく、あの変態も居ねぇ以上その行動は認めらんねぇ」

 

そして、自分には彼女の願いを叶えるだけの力が無いという認めざるを得ない事実に幾ら憤りを覚えようと摩耶にはこう答える事しか出来なかった。

だが、そんな摩耶の気持ちを知る由もない明石は俯いたまま静かに呟く。

 

「……摩耶さんには解らないですよ。大切な仲間同士が争い合う未来を回避出来る可能性があるのに『危険だから』なんて言葉で片付けられる程私は冷徹にはなれません!!」

 

「うっ……」

 

真剣な眼差しで見つめる明石に思わず息を呑む。

此処で建造され、此処の仲間と日々を共にしている摩耶には気持ちは分かるなどと言えるはずもなかった。

 

「……すみません。回線は開いておきますので相手が応じなければ直ぐに此処を離れて下さい」

 

「おい待てっ!」

 

明石は艤装を装備しながら一言伝えると、そのまま工廠を飛び出して行った。

 

「くそがっ……どうすりゃ良かったんだよ」

 

そう呟き、腹立たしげに頭を掻き毟る摩耶の前に響が歩み寄り摩耶の目をみてはっきりと言い切った。

 

「決まってるだろう?何があっても大丈夫な様に戦闘準備を整えるんだよ。明石さんを護るんだ」

 

「はぁ?相手はここまで来る様な高練度の艦娘が四艦隊もいるんだぞ!?そんな相手に先制を取らせてまともにやり合えるわけ──」

 

「ナンナラ俺一人デ全員沈メテクルゼ。キヒッ、丁度門長トノ戦イニ水ヲ差シタ事ヲ水底デ後悔サセヨウト思ッテタ所ダカラヨ」

 

「……やれんのか?」

 

「一艦隊ズツ近付イテ潰シテケバ楽勝ダッツウノ」

 

摩耶は考えた。

レフラの実力は解らないが金剛が話していたレ級のflagship個体ならばそれぐらいやって退けるのだろうと。レフラの一分の揺らぎすら見せない自信に満ちたその眼がそう信じさせる。

だがそこに響からの待ったが入り、摩耶とレフラは一様に響の方を振り向く。

 

「それはやめよう。レフラも無事じゃ済まないだろうし。何より相手が明石さんの仲間達なら()()()()()()()()()()()

 

「ケッ、甘チャンメ」

 

「響……」

 

摩耶は決意に満ちたその言葉から響自身嘗て今の明石と同じ境遇であり、それを切っ掛けに此処に居る三名を除く全ての仲間を失っていた事実に気付いた。

自分より幾分も幼いその身に自分には想像も付かない程深い傷を背負う少女が、自身と同じ悲しみを今の仲間に背負わせたくないと弱音を吐かずに息巻いているのを見た瞬間、摩耶には響が自分より断然強く大きい存在の様に感じていた。

 

「…………ったく、しゃあねぇな。他の奴らもそれでいいんだな?」

 

摩耶はそれを悟られないように格好付けがましく全員に問い掛けた。

すると全員からは当然の様に肯定が返って来たので、摩耶は不敵な笑みを作ってみせると全員に号令を掛けた。

 

「おっし!!全員いつでも動ける様に戦闘準備を怠るんじゃねぇぞっ!!」

 

「「おぉーっ!!!」」

 

直後、空気を揺るがす様な雄叫びが工廠中に響き渡ったのであった。

 

 

 

 




花粉症は治った……しかし今度は猛烈な眠気が……( ˇωˇ )


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第八十二番

最近指の進みが良い気がする(錯覚)


摩耶さんの静止を振り切り工廠を飛び出した私は砲声の聞こえる方角を目指して大海原を駆け抜けていました。

理由は二つ。工廠から一番近かったのと、門長さんの安否確認及び燃料の受け渡しの為です

ほどなくして想像以上に集中砲火を浴びる門長さんが見えてきました。

 

「門長さん!?大丈夫ですか!!」

 

「あ"あ"?大丈夫じゃねぇ事くらい見りゃわかんだろ!!此処で耐えてたらもう一つの艦隊までこっちに来て撃ちまくりやがってちくしょうがっ!!」

 

「これから彼女達に接近しますので少しはマシになる筈ですからもう暫く頑張って下さい!」

 

「ああ?今なんつった!?っておい無視すんじゃねぇ!」

 

こちらを見ずに絶え間なく降り注ぐ砲弾を弾きながら文句を垂れる門長さんに私は一声掛けると全速力で門長さんの横を通り抜けていきました。

これだけの時間砲撃に晒されてなお大破していないあの人ならまだ大丈夫だとは思いますが、少しでも早く彼女達に接触した方が良さそうですね。

門長さんより前に出た事で砲撃の一部はこちらに向きましたが未だに沈まない門長さんに脅威を感じてるのか殆どの砲は引き続き門長さんを狙ったままでした。

 

「これくらいなら……」

 

私は速度を徐々に落としながら取り舵を一〇度で切る。

そして砲弾が見えてきた所で速度を一杯まで上げ、その上で面舵を一杯に回す。

そうする事で急旋回急加速を可能とし、相手の砲弾の殆どを回避する。

これが私の航海術、水上機母艦のあの娘的にいうなら『明石流戦闘航海術』って所ね。

但し長年の艤装改修の末に完成した航法だから少しは耐えられるけれど、普通の艤装でやったら歯車も舵も一発で使い物にならなくなる位には諸刃の剣ってのが難点ですが……。

相手の姿が見える位置まで後十キロ、このペースなら一時間程でしょうか。

厳しいですが不可能ではないわ!

呉の魔法使いなんて呼び名はあまり好きじゃないけど、伊達や酔狂で呼ばれてる訳じゃないんですよ!

 

「工作艦明石、参ります!」

 

私は掛け声と共に気を引き締め直し再び取り舵を切り始めました。

 

 

 

 

 

 

そうして自身の身体から限界を知らせる悲鳴を響かせながら弾幕をくぐり抜けていく事一時間半。

至近弾を受け小破してしまったのもあり予定より時間が掛かったものの漸く相手の姿が見えてきました。

それとそれに伴い先程まで私に向けて降り注いでいた砲撃がピタリと止みました。

私はその時、自身の予想が確信に変わるのを感じ、タイミングを見計らうとこれでもかと言うくらい声を張り上げて呼び掛けました。

 

「私は呉第一鎮守府所属!工作艦明石です!!お願いします、直ちに戦闘を中止して下さい!!」

 

その数十秒後、門長さんへ放たれていた砲撃が完全に停止しました。

ほっとした私は真っ直ぐに艦隊の方へ向かうとそこには懐かしい仲間達の姿が。

 

「武蔵さん……電……ヴェル……」

 

「無事だったか明石!先程は済まなかった」

 

「明石っ!」

 

「わ、私……ごめんなさい」

 

「ううん、気にしないで下さい」

 

ヴェールヌイと電も無事だった。大切な仲間を失わずに済んだ、私はそれだけで充分……。

強い安堵感に私は思わず腰が砕けてしまいました。

暫くして武蔵さんが私の所まで来て肩を貸してくださいました。

 

「ありがとうございます、武蔵さん」

 

「礼は要らんさ。旗艦を庇うのは僚艦の役目だろ?」

 

「ちょっと武蔵さん!?からかわないで下さいよぉ。私は修理の為に旗艦を任されてるんですっ!」

 

「ふっ、はっははははっ!!」

 

そう言って頬を膨らませる私へ武蔵さんは豪快に笑い出しました。

そして私の背中をバシバシ叩きながら武蔵さんはこう言いました。

 

「お前程の努力家を差し置いて我が呉第一鎮守府の艦隊旗艦になど誰がなれよう?」

 

「そ、そんなっ!私はただ……」

 

「武蔵さんの言う通りさ。うちには工作艦だからなんて言う子は居やしないさ」

 

「うぅ……ヴェルまで何なのよぉ……」

 

私はただ工作艦だから旗艦をやっているってだけなのが申し訳なくて……だから、せめて少しでも皆さんの役に立てればと思ってただけなのに。

まさか、そんな風に思って貰えてたなんて、私……うぅ……わたしぃ……。

 

「うっ……うぇ……どうじて優しぐするんでずかぁ~……泣かない様にとおもっでいだのにぃ~……」

 

「はっはっは、何を我慢する事がある?泣いた方がすっきりするだろう」

 

「だってぇ……ひぐっ……ヴェルも電も大変だったのに……」

 

「周りに気を配れるのは明石のいい所だが、我慢は良くないな?泣きたい時は泣いたらいいさ」

 

ヴェルが私の背中をさすりながらそう言った直後、武蔵さんが隣でボソッと呟きました

 

「そうだぞ?こやつも私とあった時は目を真っ赤にして泣きじゃくってたから安心して泣くといいぞ」

 

「ずずっ……うぇ?」

 

「な、なななにを言ってるのか解らないな?クールビューティで通ってる私に限って有り得ないなぁ」

 

「ほう?なら帰ったら明石に艤装からその時の映像を抜き出してもらってプロジェクターで皆に見て貰おうか」

 

「ゔっ……す、済まなかった。それだけは止めてくれ鎮守府内を歩けなくなってしまう」

 

「そうだなぁ?じゃあ間宮アイスで勘弁してやろう」

 

「ぐっ……仕方ない、解った」

 

「くすっ、あははははっ!」

 

そんな二人のやり取りを前に私は堪えきれずに気付いたら笑い出していました。

四ヶ月の空白なんて無かったかのようないつも通りの暖かさに、私の涙もいつの間にか乾いていました。

 

「武蔵さん、ヴェル、ありがとう。もう大丈夫です」

 

「そうか?わかった 」

 

「ふふっ、間宮アイスご馳走様、ヴェル?」

 

「なっ!これは武蔵さんとの契約で……」

 

「ですが戻ったらメンテするのは私ですよ?」

 

「ぬぅ……ふっ、そうかそれは残念だ。ならば先程の明石の姿も晒す事にしよう」

 

「ゔっ…………」

 

「ふふっ、冗談さ。帰ったら一緒に食べよう」

 

そういってヴェルは軽く微笑むが、すぐに表情を戻すと門長さんがいる方へ視線を向けて聞いてきました。

 

「そうだ明石。君は来る途中にあそこの化け物の姿を見たかい?」

 

「化け物ですか?途中で出会ったのは門長さんだけでしたが……」

 

「門長……?」

 

「なっ……!?まさか……」

 

聞き覚えのない名前にヴェルと電は首を傾げるが、武蔵さんや神通達は心当たりがあるらしく額に汗を流しながら二人に説明を始めた。

 

「門長和大、少し前まで海軍で問題になっていた男だ。奴と敵対した艦隊は鎮守府ごと潰されたという話がある程の圧倒的力を持つ異常個体であり、発見次第即時海域から撤退せよと全ての鎮守府に通達される程のものだ」

 

「中部海域に潜む魔神……深海棲艦の最終兵器……様々な呼び名がありますが名前以外に正確な情報が無く一部では深海棲艦側のプロパガンダではないかと言われていた存在です。どうしましょう武蔵さん、このままでは鎮守府の皆さんまで……」

 

「落ち着け神通、奴が反撃してこないのには何か理由があるかも知れん」

 

「海の上に立つ男…………武蔵さん、彼と少し話してくるよ」

 

「なっ、正気かヴェールヌイっ!」

 

「ヴェールヌイさん!?危険すぎますっ!」

 

武蔵さんの話に思い当たる節があったのか、ヴェルは門長の方へ歩みを進め出す。

慌てて引き留めようとする武蔵さん達にヴェルは言いました。

 

「このまま戻っても鎮守府ごと潰されるなら逃げ場はないじゃないか。だったら反撃の無い今の内に交渉した方が良いだろうさ。それに、どうやら明石が世話になったみたいだからね?」

 

「あ、えぇと……」

 

「敵に敬称を付けたりしないだろう?敵対していないのなら好都合だ」

 

まぁ、ヴェルの言う事は解らなくないけど……いえ、これはチャンスと捉えるべきね。

門長さんとヴェル達が手を取り合えれば私の危惧してた事は起こらなくなるのだから!

 

「えぇ、大丈夫です皆さん。門長さんには私とヴェルからお話し致しますので武蔵さん達は少し後ろで待ってて下さい」

 

「……そうか、明石が言うのなら我々は見守るとしよう。明石、奴は本当に大丈夫なんだな?」

 

「はい、大丈夫です。安心して見てて下さい」

 

私は武蔵さんの確認に首肯で返すとヴェルと二人で門長さんの元へと向かいました。

道中私はヴェルに彼女達の事について尋ねました。

 

「ねぇヴェル、貴女を保護してくれてた二人の事は皆に話したの?」

 

「いいや、下手に話すと彼女達に迷惑が掛かってしまうし皆も惑わせてしまうからね。落ち着いたら司令官に相談しようとは思ってるよ」

 

「まぁ、仕方ないわよねぇ」

 

海軍の艦娘は基本的に深海棲艦を敵としてしか認識していない。

それが海軍の教育として行き渡っている。

それは厭戦的な個体の多い電等に起こりやすい敵を攻撃する事を躊躇ってしまうという事が起きない様にするためである。

だから下手に私やヴェル達がそういった情報を漏らしてもそれはそもそも信じて貰えないし、信じた所で今度は躊躇いが生まれるなどデメリットにしか成り得ない。

大多数の子にとってそれが常識である事に私は悲しく思いながらも自分の置かれていた状況も話しました。

 

「私の所も門長さんを中心に艦娘が深海棲艦の輸送護衛を行ったりと友好な関係を築いてますが、そんな話をした所で誰が信じるんだって話だからねぇ」

 

「えっ…………は、はは……そうだね。正直私ですら理解が追い付かなかったくらいだし、他の人なら尚更だろうね」

 

「でしょ?だからこの話は提督にも内緒よ?」

 

「もちろん。これで司令官が倒れでもしたらことだからね」

 

そう言って私とヴェルは互いに笑い合いながら門長さんの元へ向かっていたその時、二人の無線から同時に通信が入って来たのです。

 

「ヴェールヌイっ、明石!気を付けろ!!正面に三隻、何かが速力三十ノット前後で直進してくるぞ!」

 

「すまねぇ明石っ、燃料切らしてるそこの馬鹿に大至急補給してくれ!!()()()()()()()()()()()()()()()()!!」




今更ですがレフラってちょっと語呂が悪い気がします。
良い名前を思い付いたら変えるかも知れないですね。


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第八十三番

レフラはやっぱりレフラで行こうと思います。


レ級flagship……レフラ接近の報を受けた私とヴェールヌイは更に急ぎ門長さんと合流を果たしました。

 

「明石、彼の補給を始めてくれ」

 

「解ったわ」

 

「おう明石。助かるぜ……って、ん?そっちの娘はもしかして……」

 

「やあ、こうして話すのは初めてだね。私は呉第一鎮守府所属、暁型駆逐艦二番艦ヴェールヌイだ。先程は私達の艦隊が迷惑を掛けてしまって済まなかった」

 

そう言って頭を深々と下げるヴェールヌイに門長さんは気まずそうにしながら言葉を返しました。

 

「いや……そんな気にする事の程でもねぇって。大丈夫大丈夫」

 

「済まない、このお詫びは必ずさせて貰うよ」

 

「お詫び?ほぉ……」

 

「門長さん?ヴェルに変な事したら響ちゃんにチクりますよ」

 

「てめっ……べ、別に髪を撫でたいとか抱き締めたいなんて言ってねぇだろうがっ!?」

 

「はぁ……そんなの響ちゃんに言えばいいじゃないですか。と言うか今はそれどころじゃないんですよ」

 

私は門長さんに釘を刺しながら摩耶さんからの話をを簡潔に伝えました。

 

「レ級が来てんのか……まあ確かにあいつの言い分も解らなくはねぇからなぁ」

 

「えぇ、ですがこのままではヴェル達に甚大な被害が出てしまいます」

 

「そうだなぁ……」

 

「お願いだ門長さん……虫が良いのは解っている。だが貴方無くして連合艦隊に匹敵すると言われているレ級flagshipを相手にどうにか出来る程の力は今の我々にはないし、かといって向こうの艦隊と合流する時間もない。だから……」

 

「門長さんっ、私からもお願いします!」

 

ヴェルに続いて私も頭を下げてお願いしました。

 

「……頭を上げな」

 

私達は門長さんに言われるままに頭を上げると門長さんはヴェルの頭の上に手を乗せると彼女の銀色に靡く髪を撫で始めました。

 

「えっ……?」

 

「と・な・がさ~ん……?」

 

「テメェは黙ってろ明石っ…………よし、依頼料はこれで良いだろう」

 

「へっ?えと……」

 

「何してんだ?さっさとレ級の所に行くぞ」

 

そうして門長さんはそのままレフラの所へ向かい始めました。

私は隣を向いてヴェルの様子を見てみるとヴェルは帽子を深く被って何かを呟いてました。

 

「……スパスィーバ

 

「ははぁ~ん。ねぇヴェル、もしかして門長さんに惚れちゃった?」

 

「な、何をいうとるかっ!?いぃ、い、色恋沙汰なんてきょ、興味無いね!」

 

「そぉ?まぁでも止めといた方が良いわよ。あの人ロリコンだからヴェルにも優しくはしてくれるかも知れないけど一番は響ちゃんだから」

 

「…………私だって響だ

 

「ん~?」

 

「なっ、何でもないっ!!早く行くよ明石っ!」

 

ヴェルは顔を真っ赤にしながら速力を上げて少し前に出ました。

私はそんなヴェルの背中を暖かく見守りながら内心何とも言えない気分になっていました。

う~ん、冗談半分だったんだけどなぁ。てか普通あれだけでそこまで意識しますかねぇ……?まぁそんなちょろい所も可愛いんですがね。

 

「明石おい!ちんたらやってると置いてくぞ!」

 

「ちょっ、私これで一杯一杯何ですけどぉ~!」

 

ただ、言っちゃ悪いですが門長さんは異性としては何が良いのか私にはさっぱり何ですよね。

だからヴェルには悪いけどこの恋は応援出来ないわ。

……まあでも、この一大事にこんな緊張感の無い事を考えてられるってのは門長さんがいる事による安心感があってこそだというのは紛れもない事実ですがね。

 

「門長さん、目標まで残り五キロだよ」

 

「任せろ、俺に考えがある」

 

私の思考が脱輪している間にどうやらレフラとの距離が詰まっていたらしい。

少し後ろを航行している私からはまだ見えないが、二人からはそろそろレフラの姿が見えてくる頃だろう。

 

「門長さん、どうするつもりですか?」

 

「もちろん突っ込む。まぁ兎に角見てろって」

 

そう言うと門長さんはいきなり両腕に持っている五十一センチ連装砲を放り投げると更に速度を上げて行きました。

確かに主砲塔一つでもかなり重量がありますから外せばその分速度は出るかも知れませんが、そこまで差は出ないと思いますし何より兵装も持たずにどうするつもりなんでしょうか。

そう考えていた私はヴェルから入った通信を聞いて茫然としました。

 

『凄いね、全速力でも離されていくよ』

 

「…………はい?」

 

ヴェルの最大速力三十八ノットに対して距離を離してる?

いやいやまさかそんなはずは。

 

「ヴェル、多分貴方の機関に異常があるんじゃないかしら」

 

私は門長さんの放り投げた砲塔を曳航しながらヴェルに尋ねるもヴェルの答えは一つだった。

 

『いや、機関に損傷はないよ。考え難いだろうけど確かに四十ノットは超えてるね』

 

「いやいや、門長さんの最大速力は三十ノットですよ?そんな何処かで聞いたような逸話じゃないんですからぁ」

 

『そうだね、私も例の逸話を目の当たりにしているような感覚だよ。おっと、そろそろ視認距離外に出てしまうね』

 

はぁ……門長さんはどれだけ理から外れれば気が済むんですか全く。

私は半ば呆れながら、重りのせいで遅くなった歩を進ませてお二人のもとを目指したのでした。

 




潮「男の人が凄い速度で走ってます!?きっと四十ノット以上は出てます!」


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第八十四番

最近密かな遊戯王ブームが再来しております。
まあ相手が殆ど居ないんですがね(物理的に)


主砲を捨てた俺は一直線にレ級の元まですっ飛ばしていた。

補給したとはいえ殆ど燃料が無い今の状況じゃまともな手段でレ級を止めるなんて出来るはずがねぇ。

そこで俺は少し前にレ級と再開した時を再現しようと思い立った。

つってもレ級を怪我させる訳には行かねぇからすっ転ばない様にはするがな。

そうこうしてるうちにレ級が視界に入って来る。

 

「武蔵!後どんぐらいでレ級と接触すんた!」

 

「あと二分も無いぜ相棒っ!」

 

この距離で二分掛からねぇのか……つう事はタイミングは一瞬だろうな。

俺は速度を落とさずに両手を前に広げてレ級が来るのを待った。

 

「ドケドケェーッ!!」

 

「来いやぁああーっ!!」

 

よし、思った通り直進して来たっ。

レ級を目の前まで引き付けると俺はその脇腹を両手でがっしりと掴み上げようとするが無情にもその腕は空を切る。

俺が捕まえようとしたその瞬間にレ級は空高く飛び跳ね、俺の頭上を易々と飛び越えていったのだ。

 

「マッテロ門長、アイツラヲ潰シタラ続キヲヤルゾ!」

 

「ちがっ、待てレ級!あいつらは敵じゃねぇ!!」

 

だがレ級は聞く耳など持たずに直進して行ってしまった。

不味い、兎に角追い掛けねぇと!

そう考え旋回しようと舵を切ったその瞬間、燃料が底を尽き再度足が動かなくなる。

 

「しまった!?レ級、止まるんだレ級っ!!」

 

俺は必死に呼び止めようとするも、既に聞こえていないのかレ級の姿が段々と小さくなって行く。

 

「くそっ、どうすりゃいいんだ。これじゃあヴェールヌイとの約束も守れねぇしレ級だってただじゃ済まねぇ……どうにかしねぇと!」

 

「ふむ、まだどうにかなるかも知れないぞ?門長、アレを見ろ」

 

「何だ武蔵、今はそれどころじゃ……あ?」

 

俺は苛立たしげに武蔵の指さす先を見ると上空を覆う無数の航空機の群れが俺の頭上を通り過ぎていた。

 

「これは一体……」

 

暫く呆気に取られていると今度は正面から俺を呼ぶ声が聞こえたので、俺は首を下げて正面に向き直る。

すると正面からエリレと空母の二人組が向かって来ていた。

 

「逃ゲラレチャッタネ!後は任セテ、俺トフラヲデ止メテクル!!」

 

「エリレ!待てっ、それは危険だ!」

 

「エリレノ事ハ私ガ護ルワ、ダカラ貴方ハソコデ指ヲ咥エテ待ッテナサイ」

 

「んだと空母こらぁ!!喧嘩売ってんのか!?良いぜ買ってやろうじゃねぇか!!」

 

だが空母は俺の言葉を気にも留めずただ横を通り抜けて行きやがった。

あのクソ空母がぁ~!どれだけ人の神経を逆撫ですれば気が済みやがるんだ!!

あ〜ムカつくぜ。あのクソ空母にもだが何よりも実際にあいつの言う通り指を咥えて待ってる事しか出来ねぇっつうのが一番ムカつくんだよちくしょうっ!!

 

「武蔵っ、それに妖精ども!どうにか動けるように出来ねぇのか!」

 

「それはむりだ、ねんりょうがなければどうにもならない」

 

「はらがへってはいくさはできぬぅ~」

 

「そういう事だ。後はあの二人を信じるしかなかろう」

 

くそっ……なんてザマだっ!足は動かねぇし主砲もねぇ。出来る事なんて腕を動かす位……ん?

そうかっ!足が使えなきゃ腕を使えば良いんだ!

 

「どうした!?何処をやられたんだ!」

 

「何処もやられてねぇよ」

 

俺は徐ろに前のめりに倒れ込むと海面でクロールの如く腕を動かし始めた。

見ろっ!これこそが俺が考えた燃料が切れた時の最終手段だっ!

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………動かねぇ。つかそもそも海面に当たって水をかけねぇ」

 

「……当たり前じゃないか、手や身体が海面に浮かなかったら転んだだけで沈んじゃうだろ?」

 

俺は暫く腕で水をかこうとしていたが、不意に頭上から声が聞こえてきた愛らしい声に俺は振り返り声の聞こえた方へ見上げる。

 

「ヴェ、響っ!?どうしてここに!」

 

「ヴェ……?ああ、まぁ誰と仲良くしようが門長の勝手だからね…………別に良いさ」

 

「い、いや。そうじゃなくてだな?まさか響がこんな所まで来てるとは思ってなかったからであって、仲良くしてたから出ちゃったと言うわけじゃ……」

 

「別に良いって言ってるだろ?何を言おうと関係ないさ……そんな事より早く戻るよ」

 

「ぐふっ、関係ないか…………って戻る?いや、ちょっと待ってくれ!直ぐにレ級を止めに行かねぇと……」

 

「その事なら心配は要らない。長門さん」

 

「お?」

 

俺は響が奴の名を呼ぶまで長門達基地に居た面々がすぐ近くまで集まっていた事に今の今まで気付いていなかったようだ。

 

「私と金剛、そして陸奥の三人がエリレ達に続きレ級flagshipを止める。その間に他の者は門長を工廠まで曳航し補給・修理をさせよ!」

 

「「了解!!」」

 

「おい長門、たった三人で止めるつもりか?」

 

「三人ではない、先行している二人を合わせれば五人だ。それに今さっき明石経由で呉の武蔵達と協力して止めることとなった」

 

「呉と?それは認められん。奴らからしたらレ級はどう捉えても敵になっちまう。そんな──」

 

レ級を沈めて解決なんてのは論外だ。

おれがそう口にしようとした時、長門が遮るように口を出してきた。

 

「それについても相談済みだ、安心しろ。それに燃料すらないそんな状態のお前に何が出来ると言うんだ」

 

「ぐっ…………」

 

レ級は簡単には止まらないだろう。

そうなればヴェールヌイ達呉の奴らにも被害が出る。

最悪仲間が沈みなどしたらそんな話が護られる筈がない。

だが、俺が行ける状態出ないのも事実だ。

少なくとも燃料を補給しない限りはな…………

 

「……分かったよ。ただ、燃料と弾薬の補給が済んだらすぐに戻るからな」

 

「ああ、それまでには止めてみせるさ」

 

「よし、じゃあ頼むぜ」

 

「ダー、それじゃあみんな行こう。気をつけてね長門さん、金剛さん、陸奥さん」

 

「あら、ありがとね響ちゃん。行ってくるわ」

 

「うむ、任せておけ。レ級の奴も呉の奴も全員まとめて連れ帰ってやるからな」

 

「ソーソー、帰ったら皆でパーティーデース!」

 

長門達と別れた俺は響達に縄で引かれながら基地を目指すのであった。

 

「頼むぞ……長門」

 

俺は響達には聞こえない位の声でそっと呟いた。

同じロリコンであるお前ならどうするべきか解ってるよな……。

 




頑張れロリコーン長門!負けるなロリコーン!

長門「喧嘩を売っているのなら買おうじゃないか」

スイマセンデシタナガトサマ>orz


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第八十五番

過去に上げてた短編作品を長編でリメイクしたいなぁと欲望が湧き出つつある今日この頃……

せめて本作が完結してからにしますが^^;


門長達と別れた三人は急ぎレフラの所へ向かっている。

その道中はとても静かで暫くは誰も口を開く事は無かった。

だが、その空気に耐え切れなくなった金剛が一番にその口を開いた。

 

「ヘーイ、ナガト?」

 

「ん?どうした」

 

「彼女を……レ級flagshipを本当に連れ戻すつもりデスカ?」

 

レ級flagshipを本当に無事に連れ戻せるのか?

加減しては返り討ちに遭うのではないか?

金剛の質問はそういった不安の色が表れていた。

それは長門自身も思わないことではなく、実際には決めかねている所でもあった。

 

「金剛。お前ならこの作戦をどう見る?」

 

「どう考えて、も…………いえ、そうですネ」

 

金剛は長門の真剣な目を見て直ぐに思考を切り替える。

そして一つずつ状況を確認し始めた。

 

「呉の主力なら平均練度は九十七位……それにフラヲにエリレ……そしてワタシとナガトにムツ………」

 

金剛はブツブツと呟きながら頭の中で情報を纏めた上で二人にこう告げた。

 

「インポッシブルではないと思いマス……ケド、フラレの実力がアンノウンである以上決して良策とは言い難いネー。最悪ミスタークラスなら沈める事すら容易では無いですカラ個人的にはおすすめ出来ないデース」

 

「そうか……確かにな。むしろ門長と同等であればやるべき事は明瞭だったのだがな」

 

長門が危惧しているのはレフラと門長の間にどれだけの差があるかという事である。

もし差がないのであれば彼女が今しがた口にした通りやれる事など残った二艦隊の合流、そして門長が戻ってくるまでの時間稼ぎ位だろう。

しかし、連合艦隊に匹敵するとはいえレフラが地力では遠く門長には及ばない事を長門は知っている。

が、逆に言えばそれだけしか知らないのだ。

敵の力量を早々に見極めねて動かねば双方の被害を抑える事など出来るはずがない。

故に長門は此処でどう動くべきか慎重にならざるを得ないのだ。

 

「……どうするべきか」

 

「ナガト……」

 

険しい面持ちで構える長門を見て、陸奥も何か案がないか考えつつ徐に口を開く。

 

「そう、ねぇ……門長さんは一体どうやって止めるつもりだったのかしら?」

 

「門長だったら?あいつなら恐らくレフラに突っ込んで…………そうかっ!」

 

「え?な、なに!?どうしたの姉さん!?」

 

突然の大声に目を見開く陸奥を余所に長門は一人自嘲気味に笑い始める。

 

「はは……散々奴に言っといて辿り着く場所は私も同じでは人の事を言えんな。問題は残る……が、上手く行けばこれ以上無い位に平和的な方法だろう」

 

「姉さん、なにか作戦があるの?」

 

「ああ、作戦とも言えないお粗末なものがな?」

 

二人は長門を訝しげに見つめるが長門は気にせず金剛に質問を投げ掛けた。

 

「金剛、最大で何ノットまで出せる?」

 

「へ?えーと、一杯で三十二ノット迄なら行けると思うネ……」

 

「そうか、ありがとう。そしたら一つ頼みたい事がある」

 

長門は金剛と陸奥に作戦内容を一通り説明した所、その内容に二人はただ唖然とするしかなかった。

しかし、こうなる事を予想していた長門はにやりと口角を上げると大きく息を吸い込み通信機を口元に構えた。

そして……

 

喝っ!!

 

「「ひゃいっ!!?」」

 

砲撃が耳元で放たれたかの様な長門の一喝に二人は思わず飛び上がる。

 

「なっ、何するのよ!いきなりビックリしたじゃない!」

 

「鼓膜がブレイクするかと思ったネー……」

 

「すまんすまん、お前達の惚けている様が目に見えたのでな」

 

「あんな説明を聞けば当然でしょ!?頭をどうかしたのかと思ったわよ」

 

「オーウナガト……これもミスターの影響ですカー?」

 

耳を抑えながら抗議する二人の話を聞きながら長門は二、三頷くと足踏みをしながら金剛の質問に答えた

 

「ふむ、それもあるだろう。だか私は今の自分の方が好きだし、何より楽しいからな」

 

「本当ですカ?」

 

「ああ、だからこそこの場所はより良い形で護りたいのだ」

 

艦娘、人間、そして深海棲艦。

全ての種族が手を取り合って過ごしている世界の理想とも言えるこの居場所を護って行く為にも誰一人沈めるわけには行かない。

そんな長門の決意を理解した金剛もまた覚悟を決めた。

 

「ザッツライト、大切な場所を護るためにはワタシ達が此処で踏ん張らなきゃデース!」

 

「仕方ないわね、他の方法を考えてる余裕もないもの。金剛さん、姉さん。二人共気を付けるのよ」

 

「無論だ、奴を相手に油断する気は毛頭無いさ」

 

「任せて下サーイ!無事にミッションコンプリートしてくるネー!!」

 

この掛け合いを合図に金剛は機関を一気にフル回転まで持っていき、徐々にその速度を上げていく。

それに続くように長門も回転数を上げ、その上で海面を力強く蹴り出した。

その力を以て長門は一気に加速し、更に大きく一歩を踏み出していく。

これは門長も使っていた横っ跳びと同じ要領であり最大速力を出した状態で更に前へ跳ぶ事で限界以上の速度を出す事が出来る航法である。

当然普通の艦娘であれば思い付きすらせず、たとえ思い付いたとしても一朝一夕で出来るようなものではない。

だが門長と肉体を共有していた長門には無理な話では無かった。

 

「オォウ……逆に追い付けるか心配ネー」

 

と高速戦艦ですら思わず口にしてしまう程にずば抜けた加速力を以て長門は海を文字通り駆け抜けていく。

金剛も置いてかれまいと何とか長門について行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長門達が全速力でレフラを追いかけていく中、一足先に彼女を追い掛けていたフラヲ達は既にレフラとの航空戦を繰り広げている。

だが戦況としてはフラヲ達は苦戦を強いられていた。

搭載数が二人を大きく上回っており常に一体二以上の戦闘を強いられている為だ。

 

「エリレハ可能ナ限リレ級flagship本体ヲ狙ッテ」

 

「ウンッ、ワカッタ!」

 

ドッグファイトだけではレフラを足止め出来ないのでレフラ本体にも攻撃を行わなければならない。

その為、フラヲはレフラ本体に攻撃を集中する様にエリレに伝え自身はレフラの爆撃機を止める役目に専念したのだ。

 

「アッ、マタ落チチャッタ」

 

「エリレ、後何機残ッテルノ?」

 

「ウ~ント……後四十ダヨッ!」

 

エリレの元気の良い返答にフラヲは頭を悩ませる。

とは言ってもエリレが艦載機の扱いに重きを置いていない事は解っているしそもそも180機全て爆撃機である為、これだけ落とされるのは想定内である。

だからフラヲを悩ませているのはエリレではなくレフラの方であった。

三百を超える爆撃機は想定内ではあったものの、問題はその練度の高さにある。

フラヲ自身の戦闘機ですら徐々に落とされて始めている程であり、爆撃機相手に制空権を取られつつあるのだ。

 

「マサカ、爆撃機ニココマデ苦戦スルナンテ……」

 

「アッ、最後の一中隊ガ……」

 

エリレの報告を受けたフラヲの顔に焦りが見え始める。

エリレの爆撃機が尽きた以上戦力をレフラ本体にも割かねばならない。

だが残念な事に制空権が取られつつある現状においてはフラヲにそれを成し得るだけの性能(ちから)は持ち合わせていない。

可能性とすれば戦艦であるエリレならレフラに接近して足止めをする事も出来るかも知れない……だが。

 

「エリレ、下ガッテ」

 

「エッ?マダ艦載機ガヤラレタダケダヨ?」

 

「イイカラ」

 

フラヲはエリレに単艦で突撃させる事を良しとしなかった。

そんなフラヲの判断に不満があるのかエリレは少し不貞腐れながらフラヲに尋ねた。

 

「ウ~……フラヲハドウスンノサ」

 

「私モ残リノ攻撃機ヲ放ッタラスグ行クワ」

 

「ジャア俺モ残ル!」

 

「……駄目ヨ。モシアイツガコッチニ向カッテキタラ貴女ノ速力ジャ追イツカレテシマウデショ?」

 

「ウゥ~…………ワカッタ、無理シチャダメダヨ?」

 

「……エェ、解ッテル」

 

フラヲの返答にエリレは渋々後退していった。

確かにエリレ自体も最大速力二十八ノットと決して遅くはない。

だが実際問題レフラの方が早く通常でも三十ノット以上出る為、一度追われると逃げ切る事は厳しい。

対して自身の速力であれば引き離す事も可能であり、尚且つ此処でレフラを中破させられれば後は艦娘達でどうにか出来る筈だと考えていた。

だからこその判断であったが、フラヲは一つ重要な事実を見落として……いや、知らなかったのだ。

二度ほど行われた門長とレフラの戦いを見ていない彼女には知る由もない事実を……。

 

「魚雷投下完了……命中……八……」

 

フラヲが発艦させた攻撃機は墜とされながらも次々とレフラ目掛けて魚雷を放っていく。

レフラは軽い身のこなしで躱していくが三十を超える攻撃機からの雷撃を全て回避する事は叶わず合計で八本の魚雷がレフラの足元で激しい水飛沫を上げて全身を包み込んだ。

それでもフラヲは油断する事なく第二次攻撃の発艦準備を整える。

 

「マダ中破ニモ至ラナ……ッ!?」

 

だがそんな時、フラヲの予想を超える事態が起こった。

雷撃を受けたレフラは標的をフラヲへと変える。

だが問題はそこではなく、問題はその速度であった。

 

「ソンナ……確カニマルレ隊ノレ級flagshipハEN.Dノ中デモ一、二ヲ争ウ怪物ダトハ聞イテイタケドマサカ……」

 

レフラは海面を()()()()()()()()()四十ノットを超える驚くべき速力で突っ込んで来るのだ。

 

「クッ、第二次攻撃隊発艦!」

 

フラヲも後退しながら攻撃機を発艦させて抵抗するが、本気で向かって来ているレフラにとっては障害にすらならない。

 

「命中ゼロ……ナラバ爆撃機デッ」

 

すぐさま爆撃機を発艦させレフラの進路へ次々と爆弾を投下していくがレフラは減速するどころか更に加速して降り注ぐ爆撃の中を突っ切って来る。

その為フラヲの爆撃機が最後の爆撃を投下し終える頃には二人の距離は既に五キロを切ろうとしていた。

 

「テメェ等モ俺ノ邪魔スル気ナラ潰サレル覚悟ハ出来テンダロウナァッ!!」

 

「近イッ、攻撃隊発艦急ガ……グッ……不味イッ!」

 

フラヲが急いで発艦させようとしている所、飛行甲板目掛けて狙い済ましたかのようにレフラが放った五十センチ超の砲弾が突き抜ける。

フラヲは咄嗟に飛行甲板である帽子を掴みレフラが向かって来る方へ放り投げた。

その直後、フラヲの帽子は内部で誘爆を繰り返し激しい爆炎を撒き散らしながら海中へと没したのだ。

辛うじて対応が間に合ったものの、その損害は大きかった。

背後からの衝撃に堪え切れずフラヲは大きく吹き飛ばされ、海面へと何度も叩きつけられる。

爆炎は焼かれた背中のマントは崩れ落ち、その真っ白な背中にまで大きな傷痕を残していた。

全身を熱した鉄の棒で殴り付けられたような想像を絶する激痛に顔を歪ませながらも、フラヲはヨロヨロと立ち上がり後ろを振り返る。

 

「ウ……グゥ……ッ……少シデモ……足ヲ………」

 

フラヲはこれ以上逃げ切る事は出来ない事を悟り、レフラを少しでも足止めしようと手に持っている杖を両手で確りと握り正面に構えた。

 

「エリレ……ゴメン、無理シタクハ無カッタンダケドネ」

 

「艦載機ガ無キャ何モ出来ネェ空母如キガ俺様ノ邪魔ヲスルナンテ千年早ェンダヨォッ!!!」

 

黒煙の中をくぐり抜けて来たレフラが突進しながらフラヲへと全砲門を向ける。

だが既にフラヲにはそれを避ける事も捌く事も出来ない状態であり、フラヲ自身もその気は無かった。

殆ど身体を動かせないフラヲは刺し違えてでもレフラの足を止める覚悟をこの時既に決めていた。

 

「例エ身体ガ吹キ飛バサレヨウト、コノ手ハ離シハシナイワッ」

 

「死ニ損ナイガァ!斃リヤガレェッ!!」

 

最期の瞬間まで一点を睨み続けていたフラヲにレフラが引き金を引こうとしたその瞬間、フラヲの両サイドを二つの影が通り過ぎていった。

その影は一目散にレフラへと突っ込むとその足を取ってレフラの事を海面へ思い切り叩き付けた。

 

「ナッ!?誰ダテメェ等ハ!!離セッ!殺スゾ!!」

 

「そこまでだ!我々は門長からの伝言を伝えに来た!」

 

「ソーデース、だからビークワイエットでヒアリングしてネー?」

 

フラヲの目の前に突如現れた金剛と長門の二人はレフラを押さえ付けるとレフラに対して唐突に話を持ち掛けたのだった。




あぁ、レフラに首を掴み上げられながら罵倒されたい。


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第八十六番

週一ペースは保ってるものの一向にストックが増えない(´・ω・`)


「離セェ!!殺スゾテメェ!」

 

「ぐっ……だから話を聞けと……!」

 

長門と金剛の二人掛かりで何とか動きを封じているもののこのままではいずれ振り払われてしまう。

沈める事なくレフラを止めるにはどうにか説得しなければならないが、長門達の声に耳を傾けようともしない相手をどう落ち着かせるか、それが一番の問題であった。

 

「ヘーイレ級!一度クールになって話し合いまショウ」

 

「落ち着けレフラ、我々は敵では無い!」

 

「ウルセェ!邪魔スル奴ハ全テ敵ダ!離セェ!!」

 

二人がどれだけ呼び掛けようともレフラは応じようとはせず尚も暴れ続ける。

更にはフラヲの戦闘機と交戦していた爆撃機を戻し、二人に狙いを定めると次々に急降下爆撃を敢行し始めていた。

 

「不味い、一度離れるぞ金ぐぁっ!?」

 

「オォウッ!?」

 

長門達が爆撃を避ける為レフラから離れようとしたその時、押さえていた腕の力を緩めたその一瞬をついてレフラは素早く腰を捻りその勢いで両足をスクリューの様に回す事で足を掴んでいた長門と金剛を吹き飛ばしたのだ。

それぞれ別の方向へ吹き飛ばされた長門達は何とか受け身を取るがレフラは既に金剛の方へ走り出していた。

 

このままでは金剛が危ないが、長門が助けに行って間に合う距離でもない。

砲撃で止めようにも砲旋回が間に合わず、例え間に合ったとしても止められはしないだろう。

 

打つ手は無しと思われた長門は一か八かの賭けに打って出た。

 

「レフラっ!!話を聞かない悪い子とは遊んであげないって門長が言っていたぞぉっ!!」

 

傍から見れば子供に言い聞かせる時のようなちゃちな呼び掛けに感じるだろう。

その証拠にフラヲはおろか危機的状況であるはずの金剛ですら頭に疑問符を浮かべて長門の事を見ていた。

だがこの時、門長の中からレフラを見てきた長門には彼女が響達の様な駆逐艦の子と重なって見えていたのだ。

 

だからこその発言であったが果たしてレフラに届いたのかというと…………

 

「エッ!?…………ヤダ。トナガガ遊ンデクレナイナンテイヤダァァァッ!!!」

 

確りと届いたようでレフラは急いで爆撃機を全機着艦させるとすぐさま基地の方へと全速力で走り去って行った。

 

「「……………………」」

 

レフラの去った後、三人は結局ヴェールヌイ達が合流するまで同じ方向を見つめたまま一言も発する事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レ級flagshipは何処に…………って三人共どうしたんだい?」

 

「呉の所の……いや、何でもない。レ級flagshipなら無力化に成功した……筈だ。」

 

「そ、ソーネェ。無力化にはサクセスしたと思うデース」

 

「マァ、ソウナルノカシラ」

 

「え?どういう事……?」

 

揃いも揃って曖昧な返事をする三人にヴェールヌイも明石もさっぱり状況が掴めず首を傾げていると長門達に遅れて付いてきていた陸奥が途中合流したエリレと共にやって来た。

 

「フラヲッ!無理シチャ駄目ダッテ言ッタジャン!ドウシテソンナボロボロナノッ!!」

 

「ン、ムゥ……スマナイ」

 

「ねぇっ、今さっきレ級flagshipが基地の方へ走ってったけど大丈夫なの!?」

 

「うむ、これに関しては戻ってみなければ解らないが恐らくは大丈夫だろう」

 

長門は四人が来るまでに起きた事を順番に説明した。

事の顛末を聞き終えた四人は一様に気の抜けた顔をしていた。

 

「その気持ちは分かる。言った私ですらここまでなるとは思わなかったんだからな」

 

それを聞いたヴェールヌイは頭を抱えつつもその話を一旦置いておくことにしてフラヲ達の方に向き直り口を開いた。

 

「あ……うん、無事だったのなら良かった。それよりも、済まないがエリレとフラヲの二人は隠れていてくれないか?」

 

「エッ?ナンデ隠レルノ?」

 

「マア、当然ネ。良イワ、私達ハ海底カラ基地ヘ戻ッテルワ」

 

「本当に済まない……今海軍中に噂が広まると混乱を招く恐れがあるんだ」

 

そう言ってヴェールヌイ二人に頭を下げるがフラヲは気にする様子も無くエリレの手を取り基地の方へ振り返る。

そしてそのまま手の甲を振って見せながら海中へと潜っていった。

二人の姿が見えなくなってから三十分、遂に武蔵率いる呉第一鎮守府主力艦隊が長門達と合流を果たした。

 

「私は呉第一鎮守総旗艦、大和型戦艦二番艦武蔵だ」

 

「私は元舞鶴第八鎮守府所属の長門だ」

 

一歩前に出た武蔵がビシッと敬礼を向けて名乗る。

長門も同じように敬礼を返して名乗った。

挨拶を終えると武蔵は突然深く頭を下げ始めた。

 

「長門、そして基地の皆よ。今日まで明石を護ってくれて本当に有難うっ!」

 

「護ったなどと驕るつもりは無いさ。我々は支えあって無事に今日を迎える事が出来ただけさ」

 

「それでも貴艦等が居なければ明石とこうして再会を果たす事は出来なかっただろう。だから希望があれば何でも言ってくれ、最大限応えさせて貰おう」

 

武蔵はそう言って一度上げた頭を再び下げる。

他の呉所属艦娘達も一糸乱れぬ敬礼で応えたまま長門の言葉を一字一句聞き漏らさぬよう意識を集中させていた。

何かを要求するまで決して動かないという固い意志を帯びた彼女達の立ち姿に長門はどうしたものかと胸の前で腕を組み頭を悩ませる。

 

海軍の現状が分からず、自分達と繋がりを持つ事が武蔵達にどれだけのリスクが生じるか判断出来ない以上再度此処へ来る必要の出てくる頼みは出来ない。

とは言え、今この場で頼める事かある訳でもない。

 

そのような事を考えながら後ろの二人へ視線を移した時、長門は閃いた。

 

「そうだっ、少し前に南方前線基地が壊滅させられたのは知っているか?」

 

「あ、ああ。横須賀を通じて全体へ伝わっているが……それがどうしたというのだ?」

 

長門は確りと伝わってる事を確認しつつ陸奥を呼び寄せると陸奥の背後から肩を掴んで続けた。

 

「この陸奥を始めとする南方前線基地の生存者達を本土まで連れてってやって欲しいんだ」

 

「なっ!生存者が居たというのか!?」

 

「なんだ、そこまでは伝わってなかったのか?」

 

「う、うむ。実際に前線基地も見てきたが生存者など見込めない程に酷い有様だったからな」

 

事実門長が基地に来なければ陸奥も助かる事は無かっただろう。

南方前線基地跡地はそれ程までに壊滅的な状況であったのだ。

 

「そうか。だが実際にそこの提督を連れて我々を頼って来てくれた水雷戦隊と門長が連れて帰って来た陸奥達と共に暮らしてるのが現状だ。とはいえ、彼女達は己の責務を全うする為に本土へ戻ろうとしていてな。だが我々は海軍には余り顔を出せる様な立場ではないし、どうしようかと考えていたのだ」

 

「そうだったのか。確かに水雷戦隊と戦艦一人で提督を護りながら本土まで向かうのは至難の業であろうな。解った、我々が無事に彼女達を本土まで送り届けようじゃないか」

 

「ああ、宜しく頼む」

 

「皆さん、ありがとう」

 

陸奥が頭を下げる横で長門は右手を武蔵の前に差し出すと武蔵も不敵に笑って返事の代わりにその右手を強く握り返した。

 

「では一度我々の拠点へ来てくれ」

 

「うむ、承知した。全体に告げる!戦闘は終了だ!これより長門らの拠点へと上陸する。第一艦隊、第二艦隊、この武蔵に続けぇ!」

 

「ふっ、では行こう陸奥、金剛」

 

こうして全二十七隻は中部前線基地へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




あー!スピンオフとか別作品を書きたいんじゃああ!!

フラヲ「ストックヲ増ヤシテカラナ」

はい……( ´'ω'` )


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第八十七番

またゲームの誘惑がやって来るぅ〜
テラテックタノシ……


中部前線基地へと上陸したヴェールヌイ、明石を除く呉鎮守府の面々は目の前の光景に戦慄を覚えていた。

それもその筈、つい先程まで彼女らと激しい戦いを繰り広げていた恐るべき戦闘力を持ったレ級flagshipが軍服をボタンを閉めずにだらしなく着こなした男と仲良く手を繋いで現れたのだ。

その男の反対側には響が……居たのだが既に長門の方へと駆け出していた為、男の右手は何度も空を切っていた。

 

「な……なっ……まさか深海棲艦側にも提督が居るというのか!?」

 

「あ''?俺は提督なんかじゃねぇ」

 

提督じゃないと否定され武蔵が更に混乱する中、事情を知っている明石とヴェールヌイは門長が何も気にせずレフラを連れてきた事に頭を抱えつつも武蔵達に説明を始める。

 

「えっと、信じ難いとは思いますがこの人が先程武蔵さん達の砲撃を受け続けてた門長さんです」

 

「なんだとっ!?まさかっ、我々は謀られたというのか!」

 

「武蔵さん、信じられないだろうが落ち着いて聞いて欲しい。彼を味方と言い切るのは難しいが少なくとも今は敵ではないんだ」

 

「ヴェールヌイ、お前は何を言っているんだ……現に奴はレ級flagshipと結託しているではないか!」

 

武蔵はヴェールヌイの発言に耳を疑った。

彼女だけでなく殆どの艦娘にとってそれ程までに信じられない発言なのだが、その反応に納得の行かなかった男が一人。

 

門長はレフラの手を離し武蔵の前に立ちはだかると、見下ろす形で武蔵を睨み付けた。

あまりの威圧感に武蔵は思わず後退りしそうになるが、そこは大和型戦艦の意地として何とか踏み止まる。

そんな武蔵の心境など露知らず、門長は武蔵に物申した。

 

「人がレフラと演習をしてる所にテメェらが水を差してきやがったんだろうが。にも関わらずこれ以上レフラやヴェールヌイを貶めようってんなら望み通りテメェを潰してやろうかおい!」

 

「ぐっ……そもそも敵である深海棲艦と一緒にいる時点で信用など出来るものか」

 

「はぁ?テメェの思い込みで話を進めようとすんじゃねぇよ。海軍でどんな教育を受けてっか知らねぇがよぉ、此処じゃあ種族なんて大した差じゃねぇんだよっ」

 

「し、信じられん……」

 

「信じらんねぇだぁ?テメェが信じようが信じまいがこれが現実だ!つかんな事どうでもいいからテメェはレフラとヴェールヌイに土下座して謝れ!!」

 

門長は膝をついた武蔵の首輪の様なものを掴み上げて二人への謝罪を要求する。

だが、武蔵を掴む門長の腕の上にヴェールヌイが手を乗せた。

 

「門長さん、彼女を赦して欲しい。貴方が言っている事は実際此処では現実となっている事は明石から聞いている」

 

「お、おう……」

 

「けど、残念な事に海軍では武蔵さんの考えが普通だし事実攻撃的な深海棲艦が居る以上疑問を持つ余裕すらないのが現状なんだ」

 

「まぁ、確かにそうかもしれねぇな」

 

「だから、私達に時間をくれないか?今日明日とは言えないがいつか呉全体の……そして海軍全体の意識が変わった時。その時になら武蔵さんも心から謝れる筈だから」

 

「…………」

 

「レ級flagship」

 

「ン?ナンダヨ」

 

ヴェールヌイはレフラの方に身体を向けると深々と頭を下げた。

 

「今日は二人の勝負に水を差してしまって本当に済まなかった。今は貴女へ償える物を持ち合わせていないが次来る時までに用意しておきたいんだが、何か要望はあるだろうか」

 

「ヨーボー?」

 

「勝負を邪魔した詫びに何をして欲しいかって事だ」

 

門長が分かりやすく説明するとレフラは少し考えた後、思い付いた様に口にした。

 

「ジャア今度俺ト戦エ!ココニイル奴全員ガ万全ノ状態デナッ!!」

 

「なんと……解った、演習で良ければ全力で応えよう」

 

「約束ダカラナ!絶対来イヨッ!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「おーい、西野提督達を連れてきたぞ」

 

 

門長達が言い合っている間にこの場を離れていた長門と響が防護服に身を包んだ西野とその艦娘である球磨達を連れて戻って来た。

 

「武蔵よ、この八人なのだが。頼めるか?」

 

「あ……ああっ、それは問題ない」

 

一人物憂げな表情をしていた武蔵に長門が声を掛けると、武蔵はハッと顔を上げて長門の頼みを承諾する。

その頃他の呉メンバーはというと、既に理解が追い付かず半ば放心状態で立ち尽くしていた。

 

ともあれ、いつまでもこうしてる訳には行かないのでヴェールヌイが両手を叩いて皆の意識を現実に引き戻してから話しだす。

 

「さぁ、名残惜しいが司令官も皆も私達の帰りを待ってるんだ。宗田艦隊、中部前線基地から引き上げるよ。ほら、武蔵さんも行くよ」

 

「う、うむ、その通りだ。では西野提督はこっちへ、陸奥達は我々に付いてきてくれ」

 

「ええ、解ったわ……って、どうしたの永海?」

 

険しい表情で立ち止まる西野を不思議に思った陸奥は西野にどうしたのか問い掛ける。

すると西野は真面目な顔で陸奥達と向かい合うと意を決して口を開いた。

 

「皆に司令官として最後の指示を出します」

 

「司令官……?」

 

「どうしたクマ?」

 

西野艦隊一同の視線が西野へと注がれる。

そんな中彼女は一呼吸置いてから続けて伝えた。

 

()()()()()()()()()()()()。そしてこの世界に平和が訪れるまで南方前線基地の皆の分まで生き抜いて」

 

「「なっ……!?」」

 

陸奥達は突然の待機命令に驚きを隠せずにいた。

 

なにせ彼女達はつい数瞬前までは全員で本土に帰るものだと考えいたのだから当然である。

勿論誰一人として納得はしておらず、真っ先に食って掛かったのは元々秘書艦でありこの中で一番付き合いの長い陸奥であった。

 

「永海っ!?そんな冗談笑えないから止めなさいよ!」

 

「そうだクマ!皆でこれからもやってくって言ったクマぁ!」

 

「陸奥、球磨……ごめんなさい。言い出せなかったけど、最初から解っていたの」

 

「解ってたって、どういう……」

 

「難しい事じゃないわ夕月。南方前線基地を護れず基地の娘達を殆ど沈めてしまった私は間違いなく提督の権利を剥奪される。そして戻った貴女達は間違いなくばらばらの鎮守府へ配属となるでしょう」

 

「でっ、でも!それは司令官のせいじゃないっぴょん!司令官は最後まで諦めなかったぴょん!」

 

西野は反発する卯月の頭を撫でながら優しい視線を向けて続ける。

 

「有難う。卯月や皆に思ってもらえて嬉しいわ。でもこれは責任とかじゃなくてみんな一緒に笑っていて欲しいっていう私の我儘。だから」

 

「ならっ!永海だって一緒に居なきゃ意味無いじゃない!」

 

陸奥が西野の肩をがっしりと掴み目に涙を溜めながらも訴えかける。

西野は肩に走る痛みを顔に出さず、陸奥の手の上に両手をそっと乗せた。

 

「な……み……?」

 

「陸奥、ありがと……でもね?私には帰還命令が出ているの」

 

「うそ……だってそんなのいつ出たって言うの!?」

 

「ホントよ、防護服の中にね」

 

その手紙は少し前に長門から受け取った防護服の中で西野が見つけ、陸奥に用事を頼み席を外させた時に読んだのだと西野は言った。

そしてその内容は南方前線基地を襲った存在の報告及び今まで何処に居たかの報告であった。

 

西野に今回帰投指令を出したのは海軍上層部であり、その中でも中核に位置する横須賀第一の大淀の発案によるものである。

というのも南方前線壊滅により大淀は門長の情報を把握出来ない状態にあった時にタウイタウイから報告が入り、西野の帰投指令に合わせて門長の直近の情報収集手段として彼女を利用しようと考えたのだ。

 

「だから私だけでも本土に戻らないと。そうしないと貴女達に迷惑を掛けてしまうかも知れないから」

 

「そう…………解ったわ」

 

「ごめんなさい陸奥、そしてこの子達のこと────」

 

「違うわよ、私も付いて行くって言ってるの」

 

「へっ……?」

 

西野は陸奥が唐突に放った言葉の意味を理解出来ずに間の抜けた声で聞き返す。

すると陸奥はムッとした表情をしながら言い直し た。

 

「だからぁ、永海の言いたい事は解ったって言ってるの!」

 

「じ、じゃあっ」

 

「私だって睦月ちゃん達を引き離す何て可哀想な事したくないわよ。けどそれと同じ位貴女を一人にするなんて事はしたくないの!だから、私も付いていくって言ってるのよっ」

 

「陸奥……気持ちは嬉しいけれど、戻ってもきっと一緒には居れないわ」

 

「海軍の規則なんて知らないわっ。永海を誘拐してでも私は一緒に居るわよ!」

 

「誘拐って……ぷっ、陸奥の柄じゃないわね」

 

「な、なによっ!?別にいいじゃないの!」

 

陸奥の突然の犯行予告に思わず吹き出す西野。

そんな西野の様子を見て陸奥は不服そうに頬を膨らませて抗議するが西野は陸奥を宥めつつ息を整えてから再び話し始める。

 

「そうね、そんな生活も楽しそうだけど陸奥にそんな苦労は掛けられないわ」

 

「苦労なんかじゃないってば!だから……」

 

「うん、だから…………せめて一緒に暮らせる様に上層部を何とか説得してみせるわ」

 

「一緒に……って、へ?」

 

西野の予想外の返答に陸奥の思考が一瞬停止した。

 

それを見て西野は何かおかしな事言ったか?と首を傾げてキョトンとしていた。

 

「あ……えと、本当に良いの?」

 

「うん、最終的には上の判断になっちゃうと思うけど。精一杯説得を試みるから、だから……ついて来てくれるかしら」

 

「…………勿論、何と言おうともついて行くわよ!」

 

「ふふ、ありがとう。これからも宜しくね陸奥」

 

「えぇ!こっちこそ宜しく頼むわねっ!」

 

そうして二人は固い握手を交わす。

直後、周囲は暖かい拍手に包まれた。

その中には同じ鎮守府の球磨や睦月たちのものも入っていた。

 

「二人の気持ちに心打たれたクマ、睦月達は球磨が責任を持って守るから陸奥さんには提督を任せるクマ」

 

「お二人には幸せになって欲しいから睦月応援しますぅ〜!!」

 

既に二人きりで帰ると思い込んでいる球磨達に対して西野は首を傾げて尋ねた。

 

「あれ?皆も来てくれるものだと思ったのだけれど、早とちりだったかしら」

 

「なんですとぉ!?」

 

「球磨達も行けるクマか!?」

 

「やったぴょん!!」

 

そんな事微塵も考えていなかった球磨と睦月は驚愕し、卯月に関してはついて行く気満々だが、如月、夕月、望月の三人は冷静に言葉を返す。

 

「司令官、気持ちは嬉しいし出来るなら私達もついて行きたいけどぉ……」

 

「しかしな、陸奥さんだけでも厳しいだろうに我々まで居てはまず許可は降りないだろう」

 

「ちょっときつい言い方しちゃうとさ、司令官でもない一個人にこれだけの軍事力を集中させるなんて認められない事位分かるでしょ?」

 

三人の言っている事は紛れもない事実であり、軍規を十分に理解している西野には反論の余地は無かった。

そんな己の無力さを噛み締める西野に対して夕月は気まずそうに言葉を続ける。

 

「そんな顔しないでくれ司令官。確かに我々全員では行けないが恐らく陸奥さんだけなら不可能では無い筈だ」

 

そう言って夕月は陸奥の右手薬指を指差す。

そこには西野と陸奥を結ぶ強き絆の証が日に照らされて輝いていた。

 

「あっ……」

 

「それに我々だって今生の別れと決まった訳じゃない。海が平和になれば提督でなくとも艦娘でなくともまた会えるだろう?」

 

「それは、そうかもしれないけど……」

 

それでも迷いが晴れない西野を見て夕月は今度は陸奥に声を掛ける。

 

「陸奥さん、司令官を支えていけるのは貴女しか居ない。だから再び会う時まで司令官の事を頼みます」

 

「夕月…………えぇそうね、任せといてっ!私が永海の事を側で支え続けるわ!」

 

西野とは対照的に陸奥は夕月の言葉に背中を押されたのか固い決意を胸に夕月へ笑顔で応えると、陸奥は西野の肩をがっしりと掴み彼女に対して宣誓した。

 

「永海、私はこの先何があっても貴女の側を離れたりはしない。そして再びこうして皆と笑い合える未来を作る為に全力で協力するわ!だから……そんな顔しないで?貴女に泣き顔は似合わないわ」

 

「く、球磨達も胸張って提督に会えるように頑張るクマ、だから待ってて欲しいクマっ!」

 

「くま……」

 

球磨は精一杯の虚勢を張り言い切ると、逃げ出す様に建物へと走り去って行った。

 

「睦月も我慢するよっ!うぅ……ひぐっ……て、提督も次に逢う時まで涙はお預けにゃしーっ!!」

 

「睦月ちゃん……」

 

今にも零れ落ちそうな涙を腕で覆い隠し建物内へと走り去って行く睦月。

 

「寂しいけど、また逢える時まで待ってるから。如月を、私達の事を忘れないでね?」

 

「寂しかったり辛い時は無理せず陸奥さんに甘えなよ〜?んじゃまたいつかという事で」

 

「如月ちゃん、望月ちゃん……」

 

如月と望月は普段通りに振る舞いながら睦月達の元へと歩いて行った。

そして最後に司令官の前に残った卯月と夕月は西野にある物を差し出す。

 

「司令官、手を出してくれ。こいつを受け取って欲しい」

 

「これは……夕月の?」

 

夕月が差し出したのは睦月型全員が共通して付けている三日月形のバッジであった。

 

「そうだぴょん!この三日月は私達睦月型駆逐艦の誇りなのでぇっす!」

 

「そうだ、俺が初めて南方前線基地に着任した時に姉ちゃん達が俺にくれた物でこれには睦月型皆の想いが込められているんだ」

 

「そんな大切なもの貰えないわ」

 

西野が受け取りを拒むと夕月はふっと笑みを零して続ける。

 

「ああ、大切なものなのだから当然あげるわけには行かない。これは司令官に預けるだけさ。だから今度会う時に必ず返してくれよ?」

 

「例えどんなに離れていてもうーちゃん達はいつでも傍にいるぴょん!だから、だから何も心配……いらない……ぴょん」

 

「夕月ちゃん、卯月ちゃん……」

 

夕月は今にも泣き出してしまいそうな卯月の左手をしっかりと握りながら、西野に一時の別れを告げる。

 

「そういう事だから……また逢おう、司令官」

 

「有難う……皆もまた逢う時まで元気でね?」

 

「ああ、お互いにな」

 

そうして夕月も卯月を連れて建物内へと戻っていき、遂に西野が中部前線基地を離れる時がやって来た。

 

 

 

 

 

武蔵が西野の乗船する小型船を曳航する為にロープを括りつけて最終確認を取る。

 

「西野提督よ、この基地に忘れ物は無いな?」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

「よし、それでは宗田艦隊抜錨!!」

 

「「抜錨!!」」

 

武蔵の掛け声に合わせ艦隊の面々は大きな返事とともに錨を上げてゆく。

そんな中、錨を上げようとはせずに無線で全員に呼びかける者が居た。

 

「あのう、大変言い難いんですが……私も此処に残らせて下さい」

 

「「はぁっ!?」」

 




この話を書いてたら南方前線基地の皆の一年間をスピンオフとして無性に書きたくなりました。


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第八十八番

一日中テラテックしていたい〜音ゲーやりたい
〜遊戯王やりたい〜……はっ!?もしかして今充実してるかも!!


突然の残留宣言にヴェールヌイ達宗田艦隊の注意が一点に集まる。

一瞬にして注目の的となった彼女は苦笑いを浮かべながら話を続ける。

 

「と言っても呉に戻りたくない訳じゃないですし、寧ろ戻りたいです。ただ……帰ってしまったらきっともう深海棲艦(彼女)達の事を知る機会は殆どなくなってしまうでしょうから」

 

「そうか。確かに気持ちは解らなくない」

 

「ヴェールヌイっ!まさかお前まで!?」

 

ヴェールヌイの発言に慌てて振り向く武蔵にヴェールヌイは、左手の甲を武蔵の前に出し否定の意を示す。

 

「大丈夫、私は割り切ってるさ。ただ、そうだね……こっちとしてもそんな中途半端な気持ちで戻ってこられても迷惑だ」

 

「なっ!?何を言ってるんだお前は!」

 

「武蔵さんは少し黙ってて。いいかい?今日を逃せば私達からは迎えに来ることは二度と無いし連絡手段も勿論ない。ま、手土産でも持って帰ってきたら歓迎会位は開いてあげようかとは思ってるけど……それでも残るんだね?()()

 

ヴェールヌイからの最終通告に対して明石は息を飲み込むと、真剣な眼差しで見つめ返して言った。

 

「解ってる。必ず大きな手土産を持って帰ってみせるわ」

 

「ふっ、期待しないで待ってるよ。皆には申し訳ない報告だ。どうやら彼女は工作艦違いだったらしい。よって本作戦は失敗、現時刻を持って明石捜索作戦を終了とする」

 

ヴェールヌイが、無線を手に取り艦隊に作戦失敗を告げる。

当然周囲からは落胆の声が上がるが近くに居る武蔵はヴェールヌイに異議を申し立てた。

 

「待てっ、艦隊旗艦は私だ!それに明石を失う事が我々にとってどれだけの影響を及ぼすか等今回の作戦がが物語っているだろう!!」

 

憤りに任せヴェールヌイに掴み掛かろうとする武蔵だったがその腕はこめかみに青筋を立てた門長によって尋常でない力で握り締められる。

 

「ぐぅっ!!?」

 

「おいおいこら駄肉よぉ〜?俺の目の前で少女に手を上げようたぁいい度胸じゃねぇかよ、ああ?」

 

「ゔぐぐぐ……き、貴様には関係ないだぁっ!?」

 

武蔵は抵抗しようとするも門長の握る力は更に増していき、流石の武蔵もその場に膝を着かざるを得ない程であった。

 

「謝れ、そうすればこの両腕だけで赦してやんよ」

 

「ぐぅっ……わ、わたしは……悪く……ぐぐぐ……ないっ!」

 

「ほう?良く言った!じゃあスクラップにっ──!」

 

「馬鹿門長ァ!!」

 

誰かが叫んだ直後、握り潰される寸前であった武蔵の腕が突然解放される。

 

門長が顔面蒼白になりながらも首から上だけを声のした方へ向けた。

するとそこには非常にお怒りな様子の響が仁王立ちで門長を睨みつけていた。

 

「あ…………えと……いやその……ちがくて……」

 

突如門長はしどろもどろになりながらも弁解しようと言葉を発するも全て無意味であった。

 

「門長、何でも暴力で解決しようとするのは悪い癖だ。直ぐに武蔵さんに謝るんだ」

 

「いや、けど俺はこいつからヴェールヌイを守っただけで……」

 

「謝る気が無いのかい?そんな悪い門長はき、()()()()

 

「悪かった駄肉……じゃなくて武蔵!すまん!マジですまんっ!!」

 

響が放った一言を皮切りに門長は意見を540度転換し武蔵へ土下座しながら謝罪し始めた。

呆気に取られる武蔵を他所に一連のやり取りを見ていた長門が響の頭を撫でながら響にそっと声を掛けた。

 

「なっ、言う事聞いてくれるだろ?」

 

「う、うん。でも……良いのかな?」

 

「ああいうのは誰かが手綱を握っててやらないと手が付けられなくなるからな。少々荷が重いかも知れんが響、これはお前にしか出来ない事だ。頼めるな?」

 

「……解った、頑張ってみるよ」

 

長門の期待に応えるように響は一つ頷くと、長門の側を離れ門長の隣へ立つ。

そして武蔵の方を向いて深々と頭を下げた。

 

「武蔵さん、門長が迷惑を掛けちゃって本当にごめんなさい」

 

「響っ!?いやいやこれは俺がやった事で響が謝る事じゃ──」

 

「門長も頭を下げるのっ」

 

響の一喝により、門長は借りてきた猫の様に元の姿勢へと戻った。

 

「武蔵さん、本当にごめんなさい。皆の修理資材はこっちで受け持つから、門長の事を許してやって欲しい」

 

「い、いや。こちらこそ取り乱して済まない。私の事は大丈夫だから二人共顔を上げてくれないか?」

 

深々と頭を下げる二人を前に、武蔵は気まずさを覚え顔を上げるように促す。

武蔵の一言で響と門長はゆっくりと顔を上げる。

 

「本当に大丈夫かい?やっぱりちゃんと直した方が良いと思うけど」

 

「だ、大丈夫だっ。元々攻めてきたのはこちら側だし、そこまでしてもらう訳には行かんよ」

 

と言って響の案を体良く断る武蔵だったが、本心はやはり深海棲艦と繋がりのある門長達の所で修理を頼むリスクを考えた結果の判断であった。

 

「そっか……」

 

「テメェ、なに響の仏の様な提案を蹴ってんだおいっ」

 

「門長っ!」

 

「ゔっ……」

 

門長が再び武蔵に突っかかろうとするが、響の一声で直ぐにその手を止める。

 

その様子を少し後ろで眺めていた長門は響の成長を微笑ましく思いながら響の隣に立ち、武蔵と向かい合う。

 

「済まないな武蔵。お前の立場もあるだろうから無理にとは言わんさ」

 

「ああ、そう言って貰えると助かる。それと……まぁ、代わりという訳じゃ無いんだが、明石の事を頼んでもいいか?本当なら無理にでも連れて帰りたい所なんだが、こやつが帰るつもりが無いのなら無理矢理連れ帰ってヘソを曲げられては本末転倒だからな」

 

武蔵は苦笑いを浮かべながら長門へと頼んだ。

長門もふっ、と笑うと自身の胸に拳を当てて応える。

 

「任せておけ。明石の事は必ず無事に送り届けると誓おう」

 

「ありがとう……よしっ、待たせたな!」

 

長門に明石の事を託した武蔵は自身の迷いを断ち切り、無線を繋いで艦隊に号令を掛け直す。

 

「本作戦は現時刻を持って終了とし、これより帰投を開始する!全艦抜錨っ!!」

 

「「了解!!」」

 

宗田艦隊は今度こそ西野を連れて中部前線基地を離れていく。

そんな武蔵達の後ろ姿を儚げに見つめる明石に対して長門は横から話し掛ける。

 

「本当にいいのか?今ならまだ間に合うぞ」

 

だか明石は首を横に振ってその選択肢を否定する。

 

「いいんです、どっちに進んでもきっとこの気持ちは無くなりませんから。だから私は自分の選んだ道を突き進む事にしました」

 

「そうか、ならば我々が口を出す事では無いな。改めて宜しくな明石」

 

「はい、こちらこそ宜しくお願いしますっ!」

 

明石が選んだ道は果たして何処に続いているのか。

それを知る者は誰一人として存在しない。

だが、例えどのような道が待っていようと彼女は決して後悔しないだろう。

長門には彼女の瞳からそれだけの決意を感じ取っていた。

 

「よし、そろそろ我々も戻るとするか」

 

「あっ!!」

 

武蔵達の見送りを終え、長門達が建物内へ戻ろうとした時、摩耶が唐突に声を上げた。

 

「どうした摩耶っ」

 

「摩耶さん?」

 

一同の注意が摩耶に集中する中、摩耶は気まずそうに頭を掻きながらつい声を上げてしまった事を後悔しつつ答える。

 

「あ、いや……昼の騒ぎで全員出てたからよ、夕食の準備がまだ出来てねぇんだ」

 

その一言によって真面目な空気が一転し、辺り一帯に笑いが溢れ出した。

 

「ぷっ……ちょ摩耶さん、なにも今言わなくても良いじゃないですかぁっ……ふふっ」

 

「お、思い出しちまったんだから仕方ねぇだろっ!?」

 

「ふふっ、だが確かにそれは大変な事態だな。皆で力を合わせて準備するとしよう」

 

「お前らなぁ!ば、ばかにしてんのかぁっ!?」

 

「あっはは!違うよ、皆摩耶さんに感謝してるんだよ〜

 

「あぁ?それと今笑われてる事に何の関係が……って竹!それに松もっ、一体何処に行ってたんだお前らは」

 

松と竹は門長を工廠まで曳航し終えると直ぐに工廠を離れていたのだ。

摩耶が何処に行ってたかを尋ねると竹はニンマリと笑いながら摩耶に向けてサムズアップをして見せた。

 

「んふふ〜、摩耶さんのお悩み解決だよぉ?」

 

「お悩み?」

 

「夕食の事だ」

 

今一つピンと来ない摩耶に松が情報を付け足す。

それにより二人がさっきの話を聞いていた事を思い出した摩耶は漸く気付いた。

 

「まさか、お前らが夕食を用意しといてくれたのか!?」

 

「そういうこと〜」

 

「時間は無かったから簡単な物だがな」

 

直後、歓声が沸き上がった。

 

「でかしたぞ松!竹!」

 

「おぉ、流石だな!」

 

「い、いや……大した事はしていない」

 

「えへへ〜、何たって摩耶さんの一番弟子だからねっ!」

 

照れ隠しにそっぽ向く松と誇らしげに胸を張る竹。

対照的な二人の姿に長門達も思わず笑みが零れる。

門長はそんな長門の横に立ち何気無く声を掛けた。

 

「やっぱり駆逐艦(幼き少女)達は良いよなぁ長門」

 

「うむ、全くだ……ッておい!何を言わせるん……だ」

 

うっかり門長の意見に賛同してしまい、慌てて反論しようとするが時すでに遅し。

門長の隣で響が冷めた瞳で長門を見上げて居たのだ。

 

「え……えと、響?どうした?」

 

「……門長の言う通りやっぱり長門さんもロリコンという奴なのかい?」

 

響の強烈な言葉のストレートは流石の長門も片膝を着かざるを得ない程であった。

 

「くくく……門長、貴様はとんでもない事をしてくれたなぁ?」

 

「あぁ?先に響に吹き込んだのはテメェだろうが」

 

というのも先程門長が土下座している時に響と長門が話していたのを確りと聞いていたのだ。

だが長門は怯む事なく反論して見せた。

 

「あれはお前が暴走しない様に響に錨としての役目を任せただけだ」

 

「戯言を!止めたきゃテメェでやれ!響に背負わせんじゃねぇっ!」

 

「響なら出来ると信じたからこそ任せたのだ!な?響、分かってくれるだろう?」

 

「騙されるな響!あいつの中身はタダのロリコン戦艦だぞ!」

 

「それはお前もだろうが!響は私の事をそんな風に思ってないよな?」

 

「思ってるに決まってんだろうが!なぁ響?」

 

突然不毛な争いの真っ只中に巻き込まれた響は頭を抱えて俯いていたが、やがて我慢の限界が来たのか両腕を振り上げ大声で叫んだ。

 

うるさーいっ!!!二人なんかきらいだァー!!!!

 

そう言うと響は猛ダッシュで建物へと入っていってしまった。

 

「響っ!?」

 

「響ぃーっ!!」

 

一部始終を見ていた摩耶達も呆れた様に長門達へ一声掛けると食堂へ向かって行った。

そうして残された二人は自身の言動を恥じるとお互いに向き直り何も言わないまま、和解の握手が固く握られたのであった。

 

そしてその日の夜、響の部屋の前では長門と門長が二人仲良く並んで土下座するという奇妙な光景が見られという。

 

 




ひびきはとながにこうかがあることはながとにもこうかがあることをおぼえた。


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第八十九番〜月〜

前回の話のその後の話をちょろっと……と思っていた時期が私にもありました。
この話全三話程にてお送り致します。(予定)


作者のお気に入りの一人である彼女?視点のお話となります。



 司令官と別れたあの日から早くも二週間が経った。

俺達南方前線基地の面々は現在門長少佐の元でお世話になっているのだが、未だに哀しみから抜け出せずにいる姉妹達に対して俺はどう声を掛けたら良いのかが解らないでいた。

 

再会を約束したとはいえ、それが果たされるのがいつになるかと言えば一月二月の話ではない事くらいは皆解っているんだろう。

いや、解っているからこその現状なんだ。

 

「ご馳走様ぴょん……」

 

「お、おう。お粗末さん」

 

「…………」

 

朝食を終えた卯月が摩耶さんに食器を返して食堂を元気なく出ていくのをただ見送りながら思う。

 

普段なら真っ先に周りの空気を盛り上げてくれている卯月でさえこの有様だ。

そして元気が無いのは卯月だけでなく睦月も如月も同様であり、今は二人とも朝食を終えて食堂には居ないが彼女の姿はとても見ていられない程に弱々しいものであった。

 

「ごちそうさま~。摩耶さん皿洗い代わるね」

 

「おうっ、助かるぜ」

 

望月は卯月達と比べて落ち着いているのか()()()から率先して摩耶さんの手伝いを申し出ている。

 

「摩耶さん、俺も手伝おう」

 

加えて俺も朝食を終えた後、あれから毎日片付けを申し出ている。

摩耶さんにはとても感謝しているし今までの恩返しという気持ちもあるがそれとは別に摩耶さんに頼んでいる事があるのでその間の代わりというのもある。

 

「おう、わりぃな。んじゃあちょっと行ってくるわ」

 

「いつも済まない」

 

「気にすんなって。お前らこそあんま無理すんなよ?」

 

「ああ、俺は大丈夫だ」

 

「私もまあ大丈夫だからさ、球磨さんの事を頼んます」

 

「おうよ!この摩耶様に任しときなっ」

 

摩耶さんは元気の良い返事を返してくれると球磨の分の朝食をもって食堂を出ていった。

どうして摩耶さんにそんな事を頼んでいるのか。

ことの発端は一週間前にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

司令官と別れた日の晩。

俺は球磨を夕食が出来た事を伝えに球磨が篭っている部屋の前に来ていた。

 

「球磨、晩御飯の時間だ。食堂に行くぞ」

 

「球磨は今日はちょっとお腹が減ってないクマ。悪いけど摩耶さんに伝えておいて欲しいクマ」

 

「そうか、解った」

 

俺が食事に誘うも球磨は部屋から出てこようとはしなかった。

だがそれでも受け答えは確りとしてたし、そもそも艦娘である我々は食事を取らなくとも活動に支障は無い事もあり、この時の俺は球磨がそれ程までに思い詰めていたとは夢にも思っていなかったのだ。

 

しかし球磨は翌日も、そのまた翌日も部屋を出て来る事は無かった。

卯月や睦月達は自身の心の整理で精一杯だった為、俺と望月で食事の度に呼んだのだがその度に何かしらの理由でその誘いを断っていた。

そんな事が一週間も続き、流石におかしいと思い始めた俺は翌朝、望月と共に強行突入を試みる事にした。

 

「夕月〜、ホントにやるのぉ?」

 

「ああ、嫌な予感がするんだ。俺の気のせいなら良いんだが……」

 

強行手段に否定的な望月の考えも解る。

実際今やろうとしている事は人の心に土足で踏み入る行為と言っても差し支えない事なのだから。

だが、このまま球磨を放っておいては駄目だと俺の中の何かがさっきから警鐘を鳴らし続けているのだ。

そして艤装を付けて力任せに球磨の部屋のドアを蹴破った瞬間、中から飛び出してきた何者かに首を掴まれそのまま後方へ叩き付けられた。

 

「ぐっ……がはっ!」

 

「夕月っ!?」

 

「うぐっ……く……ま……」

 

中から飛び出してきたのは俺達と同じように艤装を背負い、何時から寝ていないのかも分からない程に目の下を黒くした球磨であった。

その腕には自身の物と思われる爪痕が幾つも痛々しく残っている。

 

そんなになるまで苦しみ続けた球磨は右手で俺を掴み上げながら、憎しみの滲み出る瞳で真っ直ぐに俺を睨みつけて口を開く。

 

「夕月が悪いクマ……球磨は夕月に対して憎しみが抑えられないからこうして篭っていたのに……」

 

「に、く……い?」

 

「そうクマ。夕月がこんな所に行こうなんて言わなければ球磨は捨てられる事はなかったクマ」

 

「うぐっ……く、ま……どう……して?」

 

あの時、球磨も司令官と陸奥さんだけで本土に戻る事に納得してたんじゃ……。

まともに声を出す事も出来ない俺の疑問を代弁するかの様に望月が球磨を止めに入る。

 

「いきなりどうしたのさっ!?球磨だって司令官と陸奥さんの事を納得して送り出してたじゃんか!」

 

「うるさいっ!」

 

俺から球磨を引き剥がそうとする望月に対して球磨は力任せに振り払った。

 

「う〜……いったいなぁも〜」

 

「もちづ……きっ!」

 

「余計な事をするなクマ。邪魔するならお前も容赦しないクマ」

 

望月は床に二、三ほど打ち付けられるも受け身を取り何とか体勢を立て直す。

痛みに顔を僅かに歪ませる望月に言葉で牽制すると球磨は俺を掴む手に力を込めながら答える。

 

「あの時の球磨は馬鹿だったクマ。少し考えれば司令官に逢えない事くらい分かる事だった……」

 

「……ち……がっ──かはっ!?」

 

「違くない!!じゃあ答えろ!最初に深海棲艦が現れてから何年経ってると思ってる!?提督が生きてる内に戦争が終わる保障が何処にある!」

 

球磨の腕に一気に力が込められる。

艤装を付けていなければ既に耐えられなかったかもしれない。

それに球磨の言い分は決して間違ってはいないのだ。

冷静に考えれば相手は地球の七割を支配する超大国で尚且つ五年前より兵站も戦力も整っている相手に対してこっちは延々と戦い続けているだけなのだ。

普通に考えればこのまま我々は人類と共に消耗し滅びるか深海棲艦に降伏する他無い。

 

だが……いや、だからこそ俺は此処に来た事を間違いだとは思わない。

此処に来たから陸奥さんも助かったし、司令官も助けられたと思っている。

それに……ここに来たのは卯月達皆が俺を信じてくれたからだ。

此処に来た事が間違いだと認めるのはそんな皆の信頼を裏切る行為、俺がそんな事をする訳には行かない!

 

「く……ま……っ!俺は……お前……にも……信じて……しい」

 

「信じるっ?海が平和になる事をか!?」

 

「そう……ぐっ……そう、だ」

 

俺がどうにかする。俺に出来ない事なら皆で考える。

それでも駄目なら俺から門長や一緒にいる深海棲艦に頼む。

何としてもこの海を平和にして見せる、だから……

 

「巫山戯るなっ!!騙されるか!騙されるもんかぁっ!!」

 

「ぐが……っは……!」

 

球磨に俺の思いを伝えようとするもその前に球磨が大声を上げて俺を壁に更に押し付けた。

 

「お前一人で何が出来る!艦娘だけで何が出来るって言うんだぁ!!」

 

更に逆上した球磨の方から砲塔を旋回する音が聞こえてくる。

 

ま、まずい!今の球磨は本気で俺を撃とうとしている。

この距離で十四センチ砲を喰らえばただではすまない!

俺は必死に球磨の腕から離れようとするが凄まじい力で掴まれた右腕を振り払えない。

そうしている内に球磨の主砲から装填時の金属音が響く。

 

「や……め、ろ……」

 

「お前さえ……お前さえ居なければっ!」

 

くっ……まだ早かったのか。

いや、そんな事はない。寧ろ遅すぎたのだ。

球磨がここまで思い詰める前に行動に出るべきだった。

って、今更後悔した所でどうにもならねえ!

俺はまだ卯月達を守り続けるっつう約束を果たし切るまではくたばる理由には行かないんだっ!

 

「く……ぬぉぉっ!!」

 

「駆逐艦が足掻いた所で無駄だっ」

 

俺は球磨の腕にぶら下がる様に体重を掛けるも球磨の腕は1ミリも下がることなく俺を押さえつけている。

 

だが俺の狙いはここからだ。

俺は床を強く踏みつけ右脚を跳ね上げるのに合わせて掴んでいる両腕を自身の方へ引き込む。

そうする事で更に速度が加わった右脚は球磨の下顎へと一直線に向かって行く。

俺の足が何かに強くぶつかる衝撃を受けて、球磨には後でちゃんと謝ろうと心に誓った次の瞬間、その気持ちすらも塗り潰す様な光景が目の前に広がっていたのだった。

 

「なっ……まさか……」

 

「だから言ったでしょ、お前らが幾ら足掻いた所で無駄なんだって!」

 

くっ、球磨を甘く見たつもりは無かったが……まさかあれを反応されてしまうなんて。

 

俺が放った全力の一撃は球磨の胸の上辺りで左腕一本で易々と止められてしまっていた。

 

流石は癖のある妹達を束ねる長女だ。

本人は意外となんて言ってるが意外でも何でもなく彼女はかなり有能な艦娘である。

そんな真面目で優秀な彼女をここまで追い詰めてしまったのはやはり……

 

「漸く分かったか、足掻いた所で変わらないモノは変わらない……」

 

此処へ来た事を間違いだとは今でも思っていない。

だが、その判断が今現在球磨を苦しめている事もまた事実だ。

俺を撃つ事でその想いが晴れるのなら潔く受け入れようと思う。だが……

 

「く……まっ!ほんとに……いい……の……か?」

 

「っ……なにが」

 

「俺の事を……仲間……だと、少しでも……思っている……の、なら……お前は……後悔す……る」

 

「余計な事を喋るなぁっ!!そんなに死にたいのかっ!」

 

声を張り上げて脅そうとする球磨を見つめながら、内心で安堵のため息を吐いた。

 

良かった、まだ間に合った。

球磨は元々面倒見の良い仲間想いな艦娘だ。

他は知らないが少なくとも目の前にいる彼女は間違いなくそうだ。

だからこそ司令官の事で悩み、俺や皆に当たったり心配を掛けたりしない様に今日まで顔を合わせてこなかったのだろう。

 

そこまで分かればもう大丈夫だ。

俺は球磨の腕から手を離して腕の力を抜いて球磨の瞳を真っ直ぐと見据えて話し始めた。

 

「球磨、お前のしたい事はなんだ?今の現状を招いた俺を撃つことか?司令官達との再会を果たす事じゃないのか?」

 

「や、やめろぉ!これ以上喋るなぁ!!」

 

「うぐっ!うぅ……」

 

球磨は俺の口を止めようと更に壁へと俺の身体を押し付ける。

だが俺は既に麻痺しつつある身体を省みることもせずに球磨への呼び掛けを続ける。

 

「っはぁ……俺を撃ってお前は満足なの……か?違うだろっ」

 

「やめろやめろやめろぉ!!」

 

遂に俺の声に耐えかねた球磨は俺を彼女から見て右に向かって放り投げた。

 

「夕月っ!?」

 

望月の様に上手く受け身が取れなかった俺は頭部を幾度も打ち付けてしまい、俺の意識は瞬く間に闇の中へと引き込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あれから俺は二日間眠り続けていたらしい。

目を覚ました時に傍に誰も居なかったのは少々寂しかったりもしたが、その後で望月から聞かされた話を聞いて俺は納得した。

 

望月の話では彼女の救援要請を聞きつけやって来た摩耶と明石とその妖精さん達によって球磨は艤装を強制的に外されそれまで一睡も取っていなかった反動で電池が切れた見たいに気を失ったらしい。

その後望月から事情を聞き、俺達姉妹への精神的負担と門長の暴走を危惧した摩耶達は今回の事を秘匿案件としたそうだ。

 

要するに今の俺の状況は俺と望月達しか知らないのだから誰も来ないのは当然なんだ。

 

それはいいとして、問題は球磨の方だ。

球磨は俺が目を覚ました翌日に目を覚ましたらしい。

と、いうのもあの日から俺も望月も球磨に直接会っていないのだ。

それは球磨が摩耶に頼んだ事であり俺や望月も承知している。

 

だから球磨の事は摩耶に頼むしかない……分かってはいるのだが、どうしても不安が残ってしまう。

今こうして望月と食堂の後片付けをしている今も後悔と自分に対する憤りがこの身を苛む。

 

「なぁ、望月は俺の事をどう思ってる?」

 

そんな不安からか俺は思わず望月に聞いていた。

 

「ん〜、言動がちょっとボーイッシュな可愛い妹とか?」

 

「そ、そういう事じゃ無くって……だな」

 

「ん〜?じゃあ未だにちやほやされると顔を真っ赤にする可愛らしい妹?」

 

「なっ!?べ、別に顔を赤くしてなんか……ってそうでもない!俺がこの基地に行くのを提案した事について……はっ!?」

 

軽い調子で茶化してくる望月に俺はつい核心を話してしまった。

だが望月は水を拭き終わった皿を棚にしまいながら俺とは対称的に普段通りに受け応えた。

 

「あ〜、成程ね。『夕月がこっちに行こうなんて言わなきゃ司令官と別れる事は無かったのに〜』とか『夕月さえ居なければ〜』って?」

 

「う、うう……そうだ。俺の発言が今の結果を招いた事に少なからず関係しているから……だから……」

 

いざこうして言葉にされると身体がバラバラになりそうな位に辛い。

それでも此処でハッキリさせなければきっと後悔するから……だから……

 

「本音を聞かせて欲しい」

 

「…………」

 

望月は何時もの気怠げな雰囲気を一変させて真剣な表情で俺の目を見据えて……

 

いだぁっ!!?

 

手に持っていたフライパンを頭上から強く振り下ろした。

俺が頭を抱えて痛みを堪えていると望月は深くため息をつきながら答えた。

 

「本音でって言うから言わせて貰うよ。あんたさぁ、馬鹿じゃないの?」

 

「へっ?」

 

理解が追いつかず、頭を抱えたまま顔を上げる俺に向かって望月はフライパンを突き付けなおも続ける。

 

「じゃあ何さ、もしも此処に来るのを提案したのがあたしだったとして今みたいな状況になったら夕月はあたしに対してお前さえ居なければ〜って思うのかよぉ」

 

「そんな事思う訳っ……」

 

俺は望月の質問を直ぐ様否定しようとするも言葉が詰まってしまう。

もし本当にそんな状況になった場合、俺が望月を責めない確証がどうして持てる?

今はその矛先が自分に向いているだけでそれが周りに向かないとは限らないじゃないか。

 

「済まない……絶対に無いとは言い切れっ!?」

 

再びフライパンの脅威が俺に襲い掛かった。

 

「馬鹿、考え過ぎなんだよ。誰だって難しく考えたら絶対なんて言えんでしょうよ」

 

「〜〜っ……だ、たがっ!」

 

「いい?知りたいのはあんたがアタシを責め立てたいのかそうじゃないのかって事」

 

俺が望月を責め立てたいかだって?

そんな事は決まっている。

 

「望月だけじゃない、俺は仲間の責任だなんて思いたくはない」

 

「そういう事。誰もあんたの事を責めようとは思ってないしそんな事して仲間を傷付ける方が辛いのっ。わかった?」

 

望月の言いたい事は分かる。だが、それは結局望月や皆に我慢をさせている事になるのではないか?

そんな俺の不安を察したのか望月はため息を一つ吐いて話を続ける。

 

「それにさぁ?例え夕月が提案しなかろうが南方前線基地が壊滅した時点で司令官とは一緒に居れない事は判ってたし、それどころかあたし等だって一緒に入れなかったかも知れないって事分かってる?」

 

「あっ……!うぅ……」

 

「はぁ、やっぱりねぇ。そんな事だろうと思ったよ」

 

すっかり抜け落ちていた……。

だが言われてみれば確かに本土に戻った所で皆離れ離れなってしまうのだ。

これは司令官が別れ際にも話していたが要はあのタイミングに限らず本土に戻った時点でそうなる事だった。

それに陸奥さんが言ってた様に司令官を連れて逃亡しても追ってがかかる可能性もあるし、俺達だけで門長の所みたくやって行けるとは限らない。

 

「最初から選択肢なんて無かったのか……」

 

「選択肢はあったよ。そして夕月、あんたは最善な選択肢を提示したしあたし等や司令官はそれが最善だと判断したから今あたし達は此処に居るんだよ」

 

「最善……本当にそうだったのだろうか」

 

もっと他に方法は無かったのか?

司令官も陸奥さんも皆と一緒に居れる選択があったのではないだろうか?

そんな俺の発言が気に食わなかったのか望月は俺を睨み付けながら無言でフライパンを振り上げる。

 

「す、済まない!」

 

「司令官と姉であるあたしや睦月達が判断した事に何か不満があるって言うの?」

 

「そういう訳じゃ無いが……」

 

「よし、終わりっと」

 

そういうと望月は徐ろに両手を叩いてパンッと大きな音を立てた。

突然の出来事に俺が望月の方を見ながら惚けていると彼女は外したエプロンや三角巾を畳みながら厨房を出ていく。

そしてエプロン等を元の場所へ戻し食堂を出る去り際に一度だけこちらを振り向いて言った。

 

「まぁでも、世話の掛かる妹ってのも可愛いもんだよ?だからさ、睦月達にも相談してみなよ。何か変わるかもしれないからさ」

 

「睦月達にも?」

 

「そ、お姉ちゃんってのは可愛い妹に頼られたら悪い気はしないもんだよ」

 

「うっ……そ、そういうものか?」

 

「そうそう、じゃあ頼んだよ〜」

 

それだけ言い残すと望月は食堂の扉を開けて出ていってしまった。

 

しかし……いまの睦月達に相談をするのは気が引けるのだが。

それでも何だか頼まれてしまったし、望月も何かしらの根拠があって言っているだろうからな。

……まあ、どちらにしても皆の今の状況についてはどうにかしたいと思っていた所だ。

望月に打ち明けた事で気持ちもさっきよりは落ち着いたしこの後睦月達の所へ行ってみるとしよう。

 

今後の行動が定まった俺は摩耶さんが戻ってくるのを待ってから食堂を離れ睦月達を探す為歩き始めたのであった。

 

 

 

 

 




球磨錯乱!門長に伝わったらやばい案件ですねぇ
(¯﹀¯٥).。oஇ


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第九十番〜月〜

艦これのアクションゲームとか出ないかなと思う今日この頃……
角〇さんやってくれないかなぁ……|´-`)チラッ


睦月達を探し始めたのは良いがこの時間皆が何処に居るかが分からなかった俺は一度自身のが使っている部屋に戻ると、何故か望月が椅子に腰掛け部屋にあった本を読み進めていた。

唖然とする俺に気付いた望月は本を閉じて大きく伸びをすると椅子をこちらに向けて口を開いた。

 

「ん、思ったより早かったねぇ」

 

「あ、あぁ。というかどうして此処に?」

 

「ん〜?どうせ見当はずれな所に探しに行ってるんじゃないかなって思ってね」

 

「見当はずれ?もしかして皆がいる場所を知ってるのか!?」

 

「まぁね、というかまず始めに確認すると思うんだけどねぇ?」

 

始めに確認する場所?朝食を終えて先ず始めに向かう場所……遠征や出撃があれば工廠だが今の所予定は無いだろうし。

すると休みの日に朝食を終えた後か…………あぁっ!!

 

「そうかっ!分かったぞ!」

 

「やっとかぁ、夕月って意外と抜けてるよね」

 

「うっ、否定は出来ない……だがありがとう望月!ちょっと行ってくる!」

 

「あいあ〜い」

 

望月にお礼を伝えると俺は急いで部屋を出ていった。

 

それにしても流石望月だ。なんだかんだ言って細かい所まで気を配ってくれている。

余り自分から目立とうとはしないが俺達の事を影からいつも支えてくれているのだ。

ならば俺はその期待には応えなければならない。

正直どうすれば良いかも分かっていないがそれでも嘗ての様な明るさを取り戻す為に俺は力を尽くすだけだ。

 

固い決意を胸に俺は睦月と如月が使っている部屋の扉を叩く。

 

「……どちら様?」

 

すると中からか如月が尋ねてきたので俺は息を飲んで答える。

 

「如月。俺だ、鍵を開けて欲しい」

 

「夕月……ちゃん?……鍵は空いているわ」

 

「ありがとう、失礼する」

 

そういって俺は目の前の扉を開けた。

するとそこには布団に包まって丸まっている睦月と椅子に座りながら力なくこちらに笑いかける如月の姿があった。

 

俺はその光景を前にして酷く胸が痛んだ。

望月は俺に負い目を感じる必要はないと言ってくれたがそれでも自分の言葉がこの状況を作り出したのではないかと自分の心が強く胸を締め付けてくる。

 

謝ってはいけない。此処で謝ってしまったら睦月達を更に苦しめてしまうかも知れない……けどっ!

謝らなければならない。此処で謝らなければ俺は睦月達に理不尽を押し込めさせる事になってしまうかも知れない!

相反する感情が鬩ぎ合い混沌とした思考の中で俺は無意識に言葉を紡いでいた。

 

「ごめん……なっさ……い」

 

「夕月ちゃん……?」

 

「俺が……こっちに向かおうなんて……いわな……っければ……」

 

俺の理性が必死に警鐘を鳴らしている。

これは皆に対する重大な裏切りだとがなり立てる。

 

「球磨や……皆も……ひぐっ、苦しまないで……悲しまないで……えぐっ……済んだ……の……に……」

 

それでも止まらない、もう止められない。

見栄も羞恥心も理性という理性が総動員で抑え込もうとするも感情という大きな力の前になす術もなく崩れていった。

 

「むつきぃ……きさ……っらぎぃ……ごめん……ごめっ……なさ……」

 

「夕月ちゃんっ!いいの……大丈夫だから、これ以上自分を責めないで……」

 

如月が優しく抱き締めてくれるがそれが更に俺の感情の暴走を助長させる。

 

「うぅ〜でも……でもぉ!俺が余計な事を言わなきゃ!司令官と居れたかも知れない……のにっ…………おれ……う……うぅ……うああぁぁあぁーん!」

 

「そんな事ないのっ。夕月ちゃんが居てくれたから私達はこうして一緒に居られるの!だから泣かないで夕月ちゃん……」

 

「そうだよ……夕月は悪くないよっ!夕月が居なかったらきっと睦月は一人ぼっちになっちゃってたと思うから……だから……な、泣かないでよぉ〜〜!うぇぇ〜ん!!」

 

「む、睦月ちゃんも泣かないで!?二人が泣いてたら……私だって我慢出来なく…………ぐすっ……」

 

「「「うあぁぁぁ〜〜ん!!!」」」

 

俺達は周りも気にせず大声を上げて泣き続けた。

それこそ今まで抑えていた分を取り戻すかのように何時までも泣き叫び続けていた。

やがて声が枯れ始め、部屋から咽び泣く声しか聞こえなくなったのはそれから一時間も後の話であった。

 

 

 

 

 

「えぐっ……あ……如月姉ちゃん……睦月姉ちゃん……ありがとう」

 

「ずすっ……ううん、お礼を言いたいのはこっちよ。ありがとね夕月ちゃん」

 

「えっ……?」

 

ただ如月の腕の中で泣いているだけの俺にどうして?

そんな俺の疑問に答えるかのように睦月が話し始めた。

 

「夕月につられていっぱい泣いたから気持ちがスッキリしたよっ!」

 

「ふふっ、そうね。司令官達とのお別れを悲しいものにしたくなかったから泣かないようにって思ってたけれど、間違いだったみたいね。だから気付かせてくれてありがとっ、夕月ちゃん」

 

「睦月……如月……」

 

俺が二人の為に何が出来たのかは分からない。

けど二人がこうして元気を取り戻してくれたのならそんな些細な事は別にいいのかも知れない。

俺は二人と少しばかり思い出話に花を咲かせた後、二人に改めてお礼を伝えた。

 

「今日は本当にありがとう睦月、如月」

 

「あら、もうすっかりいつもの夕月ちゃんね?」

 

「如月ちゃんばっかりずるいよぉ〜、睦月にも甘えて欲しかったにゃ〜ん」

 

「そ、それは……まぁ……そ、そろそろ俺は失礼しようかな。じゃあ二人共また後で!」

 

「あ〜っ、逃げたぁ!」

 

睦月の一言により少し前の自分を思い出した俺は恥ずかしさの余り逃げる様に部屋を後にしようとする。

だが俺がドアノブに手を掛けた時、如月に呼び止められた。

 

「夕月ちゃん待ってっ」

 

「ど、どうした?」

 

俺が首だけ振り向いて返事をすると、如月は真剣な表情で続ける。

 

「卯月ちゃんの事、頼んでも良いかしら?きっと私達より夕月ちゃんからの方が本心を話してくれると思うから……」

 

如月から卯月の事を頼まれるが俺の答えは初めから決まっている。

 

「ああ、任せてくれっ!」

 

俺は拳を突き出してそう答えた。

かけがえの無い姉妹であるのは当然だが、その中でも卯月は俺にとって特別な存在なのだ。

それこそ彼女無くして今の俺は存在しないと言い切れる程に。

 

「卯月が悩んでいる時は俺が支えてみせる。それが俺の存在理由でもあるんだ」

 

「夕月ちゃん……うん、もう大丈夫そうね?」

 

「あぁ、行ってくる」

 

俺は一つ頷くと扉を開き、睦月達の部屋を後にした。

目指すは卯月が居るであろう部屋へ!

 

 

 

 




角〇「自分で作れ、売ったら〇すけどな?」

出来るならやってます!〇されたくはないですが。


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第九十一番〜月〜

「卯月、居るか?」

 

「……うーちゃんは留守ぴょん」

 

居留守を使う割には部屋に鍵は掛かって居ないので俺は扉を開けて中へ入る。

そこには部屋の端っこで体育座りで小さくなっている卯月が何をするでもなく床を見下ろしていた。

 

俺はそんな卯月に近付き、黙ったまま目の前に胡座をかく。

卯月は一瞬だけ視線を上げて俺を見るが直ぐに先程と同じように床を見下ろし始める。

そのまま暫く静寂が続いていたが、十分程経った辺りかふとある事を思い出した俺がその静寂を切った。

 

「そう言えばあの時もこんな感じだったな」

 

「……?」

 

「卯月が初めて俺の所にやって来た日の夜の事だよ。覚えてるか?」

 

「忘れる筈無いぴょん。夕づ……馬鹿な司令官があっちの世界から居なくなった日だぴょん」

 

「ああ。そして夕月……俺がこの世界に生まれた日だ」

 

俺がこの世界に来てから凡そ二年。本当に色々な事があったな……。

 

「今日まで大変な事や辛い事もあったけど、それでも俺はこの世界に来てよかったと思っている」

 

だが、卯月は俺の言葉に対して首を大きく横に振って呟いた。

 

「……うーちゃんは今でも司令官を連れてきた事を後悔してるぴょん」

 

「卯月……?」

 

卯月の言葉が俺の胸にチクリと突き刺さる。

俺は来ない方が良かったのか、やはり俺が今の現状を作ってしまったのか?

卯月に否定されてしまったら俺は……俺の存在価値は……。

 

次々と良くない思考が巡るが俺は黙ったまま卯月の次の言葉を待った。

卯月も暫く口を閉ざしていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

 

「司令官がうーちゃんに何にも話してくれないから……いつかうーちゃん達の前から居なくなっちゃうんじゃないかって、いっつも不安で仕方ないぴょん!」

 

「……えっ?」

 

俺は予想外の言葉に思わず声を漏らしてしまった。

 

確かに俺は責められては居るのだが、その内容が今一つ理解出来ていない。

 

「何も話してくれない?どういう事だ?」

 

卯月とは良く話していたし、実際この世界で素の自分を見せられるのは彼女をおいて他にいない。

それなのに話してくれないというのがどういう事なのか皆目検討もつかなかった。

 

だが、それについては続く卯月の言葉によって理解する事となった。

 

「この前の球磨との一件だってうーちゃんに黙ってたぴょん!」

 

「なっ!?どうしてその事を!」

 

あれは卯月達に心配を掛けない為に俺を含めて五人しか知らない筈!

 

「やっぱり……何日か夕月の姿が見えないから皆に聞こうと思って球磨の部屋に言ったら廊下が凄い事になっててるし、その上球磨の部屋に摩耶さんが頻繁に出入りしてれば何かがあった事くらいうーちゃんだって気付くぴょん!!」

 

そうか、確かにそれだけの状況が揃っていれば俺と球磨の間に何かあったと考えてもおかしくはないか。

 

「確かに球磨と一悶着はあった……だが伝えなかったのは卯月や皆の状態を考えて──」

 

「それが不安だって言ってるんだぴょんっ!!」

 

ぐっと詰め寄られ俺は思わず身体を仰け反らせる。

それでも卯月は構わずに距離を詰めてくる。

 

「西野司令官や陸奥さんとのお別れを悲しんでたうーちゃん達に余計な心配を掛けないようにしてくれてたのは解ってる……けどっ、うーちゃんは夕月にもしもの事があって会えなくなる方が何倍も嫌だぴょん!!」

 

「卯月……俺は居なくならない。此処に来る時にあべこべとはいえちゃんと誓っただろ?卯月より先に沈まないって」

 

「で、でも……夕月はいっつも無理し過ぎだぴょん。いつでもうーちゃん達を守ろうとして怪我ばっかしてるぴょん」

 

確かに卯月の言う通り俺は姉妹を護る為なら多少の無茶は厭わないし、その為基地に居た時から俺だけ中破なんて事もざらにあった。

 

だがそれで皆が守れるならそれでいいと、自分では納得していた……と言うより怖かったのだ。

一緒に居ればいるほど彼女達を失うのがとても怖くなっていた。

それでも彼女達に戦うなとは言えるはずもなく、基地の役割上彼女達に危険度の高い任務が言い渡される事も少なくなかった。

 

だからこそ今までも尤もらしい理由をつけて危険の伴う作戦では最前線を買って出て居たのだ。

離島棲姫の時も司令官の許可が下りれば最前線へと立ち、今頃多くの仲間達と同じ道を辿っていたかもしれない。

 

そう考えると俺に弁解の余地なんてありはしなかった。

卯月の言っている事は至極真っ当で、もし俺が卯月の立場だったとしても同じ様に怒っただろう。

俺はそんな事にも気付けなかった自分を恥じた。

 

そして今にも泣き出しそうな卯月を抱き締め、その背をさすりながらただ一言謝った。

 

「そうだな、ごめん。卯月を悲しませる事はもうしない」

 

その言葉を皮切りに卯月は堰を切ったようにわんわんと泣き始める。

俺は卯月が泣き止むまで何も言わずに宥め続けた。

 

 

 

 

 

それから暫く経ってだいぶ落ち着きを取り戻した卯月が無言で俺の胸に手をつき離れようとしていたので、俺は抱き締めていた腕を緩めて卯月に様子を尋ねた。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、もう大丈夫ぴょん。ごめんね?夕月の服、肩の所くしゃくしゃになっちゃったよね」

 

「構わないよ、これ位なら干しとけばすぐ乾くだろう」

 

「あ、洗わないのかぴょん?」

 

「別に涙ならわざわざ洗わなくても良いと思うが……」

 

「うっ……そのぉ……涙じゃなくて……」

 

顔を真っ赤にして俯く卯月の言葉を聞いて俺は漸く理解する。

 

「くん……くん……」

 

「やっ、止めるぴょぉぉーん!?」

 

「ははは、冗談だ冗談。後で洗っておくって」

 

美少女の体液が付着した衣服と言えば特定の方々からすれば家宝として奉られる程のものだとは聞くが、幸か不幸か俺はそういった価値観を持っていないんでな。

 

「ぷっぷくぷぅ〜、夕月はうーちゃんにはいじわるだぴょん」

 

「まぁ、卯月は特別だからな」

 

俺は膨れっ面を見せる卯月の頭を優しく撫でながらそう伝える。

 

「ぅ〜そういうのは卑怯だぴょん……」

 

卯月は顔を紅くしながら俯きがちに呟く。

 

言った俺自身も顔を紅くする様な照れ臭い台詞ではあるものの、それは紛れもなく俺の本心であった。

それでも、自分が作ってしまった空気に耐えられなくなった俺は取り繕うように言葉を漏らす。

 

「そ、それに卯月になら事情を知ってるから笑い事で済むけど他の皆に同じ事したら普通にドン引きされそうだからなっ!」

 

「た、確かにそうかも知れないぴょん。というか皆に同じ様な事したらうーちゃんが赦さないでっす!」

 

「解ってるって、卯月以外にはしないよ」

 

「出来ればうーちゃんも勘弁して欲しいぴょん……」

 

「それは出来ない相談だ」

 

「ぷっぷくぷぅ〜っ!!お姉ちゃんをからかう悪い妹にはほっぺぐにぐにの刑だぴょん!」

 

そういって卯月は俺を押し倒してマウントを取ると俺の両頬を摘んで引っ張り始めた。

 

「いひゃいいひゃい!ふぉうふぁん、ふぉうふぁんふぁっふぇゔぁ!」

 

「ちゃんと反省するぴょ〜ん!」

 

「ひてふ、ひてふふぁらぁ〜!」

 

俺の必至の懇願空しく、たっぷり十分程俺の頬は卯月によって弄ばれたのだった。

 

 

 

 

 

卯月の手から漸く解放された頬を擦りながら俺は球磨の事が有ってから誰にもずっと話さずにいたある事を卯月に打ち明けようと考えていた。

 

話してしまえばきっと彼女達を巻き込む事になってしまうし、下手すれば司令官と再会を果たす手段を失ってしまうだけかも知れない。

だからこそ俺一人で動こうと考えていた事だったが、それは今し方交わした卯月との約束を破る事になってしまうだろう。

 

だから俺は意を決して卯月に伝える事にした。

俺の想い、そしてやろうとしている事を。

 

「卯月、ちょっといいか?」

 

「ん?またうーちゃんをからかうつもりぴょん?」

 

「はは、そうじゃないから大丈夫だって」

 

俺は良く分からない構えを取る卯月に苦笑しながら座るように促してから本題へと入る。

 

「実は球磨との一件があってからずっと考えてた事があるんだ」

 

「うんっ?」

 

「今後門長と繋がっている深海棲艦達と積極的に関わって行こうと思うんだ」

 

「ふぇっ!?ど、どうしてだぴょん!あの男に何か弱みを握られてるのかぴょん!?」

 

おお、なんとそうなったか。

少しはマシになったとはいえ門長に対する相変わらずの評価に俺は苦笑しながら首を横に振った。

 

「違うよ、彼女達の事を深く知る為だ」

 

「知ってどうするぴょん?」

 

「彼女達と実際に話してみて思ったんだ。決して話し合いが出来ない様な存在では無いって」

 

「でも……でもそれが多数派とは限らないし、そもそも私達艦娘に正しい情報を渡すかも分からないぴょん!」

 

卯月の反論は尤もだが俺はそれを踏まえた上でやはり深海棲艦の事を知っていくべきだと思っている。

それに理想論だとしても和解の可能性が少しでもあるのならそれこそが目標を達する為の道になり得るのではないのかと。

折角彼女達の事を知る事が出来る距離にいると言うのに何も知ろうとせず決めつけてしまうのはそんな可能性の芽を自ら摘んでしまうのと同義ではないかと。

 

俺は思っている事を全て卯月にさらけ出した。

その後で、卯月からどんな返答が来るか不安に感じながら何も言わずに待った。

 

難しい顔をしていた卯月だったがやがて大きく息を吐くと真剣な眼で俺を真っ直ぐ捉え言った。

 

「夕月の言いたい事は分かったぴょん」

 

「卯月……っ!」

 

「でもっ!ちゃんと球磨や睦月達皆に伝える事!夕月の事を心配してるのはうーちゃんだけじゃないぴょん」

 

「卯月……ありがとう。分かった、球磨には摩耶さんから一度話を伝えて貰って球磨の了承を得てから直接伝えよう」

 

そうと決まれば直ぐに動かなければな、皆が一日でも早く司令官達と再会出来るように。

 

俺は卯月に礼を述べ部屋を後にしようとした時、突然卯月に呼び止められる。

 

「どうした?」

 

「……うーちゃんは何時でも協力するぴょん、だから一人で抱え込まずに話して欲しいぴょん」

 

「卯月……ああ、分かった。ありがとな」

 

そうだ、俺は一人じゃない。

最初から分かっていたじゃないか。

 

卯月からの後押しを受けて俺は力強い一歩を踏み出して行った。

 




予定通りこの話で夕月達の後日談は終着となります。
次は本編に戻ろうと思ってましたが、もう一人の後日談をお伝えしようかと思っております。

因みに門長はその間はずっと入渠中の為、登場致しません。
入渠時間が週単位がデフォになりつつある門長の必要資材とは……港湾さんの懐事情が心配です。


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第九十二番〜技〜

明石さんの後日談は今回の一話だけとなります。
短い?いいえ、夕月達の話が予想外に名がっくなっただけです(`・ω・´)キリッ


「……ってな事があったんだよ。まぁ一時はとうなる所かと思ったが皆進む先が一つに定まったみたいで良かったぜ」

 

「へぇ〜そうだったんですかぁ、だから最近睦月ちゃん達の元気な声が工廠に聞こえてくるんですね」

 

呉の皆とお別れしてから早くも三週間。

今でこそこうして摩耶さんと休憩がてらのんびりとお茶しながら話せていますが、そんな私も最初の一日二日はは自室に引きこもり四六時中上の空でした。

やっぱり覚悟を決めたとはいえ次にいつ会えるか分からない仲間との別れは辛いものがあります。

 

そんな風に塞ぎ込んでいた私でしたがふとヴェルの言葉が脳裏に浮かんできたのです。

 

『……それでも残るんだね?明石』

 

そうだ、私は自分の使命を果たす為に自分で残ると決めたんだ。

だったらこんな事に時間を使っている場合じゃない!

 

そこからの私は後先も考えず行動し、その結果フラワーさんを通じて深海棲艦の皆さんの整備を本格的に受け持つようになりました。

フラワーさんや以前私が頼んで整備させて頂いた方々の口コミによって少しずつ私の所へ来て下さる方が増えていき、今では毎日一、二人は整備をする様になりました。

まだまだ未知な所はありますがそこは妖精さんと協力しながら対応し、今では新たな発見に心を躍らせる日々を過ごしています。

 

まあそんな経緯がありまして今は私の空き時間と摩耶さんの休憩時間が重なったのでこうしてお話している次第ですね。

 

「そうそう、にしてもすげぇよなぁ……アタシより一回り二回りも幼いっつうのに深海棲艦と艦娘と人類が手を取り合える様に動き始めてるんだぜ?」

 

「あれぇ?摩耶さんもしかしてちょっとナイーブになってます?」

 

「なっ、馬鹿っ!!違ぇよ、純粋に感心してるだけだって……まぁあの変態が世界平和とか言い出した時は感心っつうか失神しそうだったけどな」

 

「あっははは!いいじゃないですかぁ!?門長さんも実は平和主義だったんですよぉ〜」

 

「おいおい、流石に無理があんだろうよ」

 

まぁ私も最初にその話を聞いた時は腹が捩れる程笑いましたから摩耶さんの言う事も解りますけどね。

それはともかく、摩耶さん最近顔色が良さそうですねぇ。無理はされていない様で何よりです。

松ちゃん達が確りとサポートしているからでしょうかね?

代わりに私が松ちゃん達と触れ合う機会が減ってしまいましたが……それも摩耶さんの為ですから仕方ありませんね。

 

「……っと、そろそろ次の方が来られる時間ですね」

 

「おっ、そうか。んじゃアタシもそろそろ戻っかな!お茶、ありがとなっ!」

 

「いえいえ、それではお互い頑張りましょう」

 

「おうっ!」

 

元気の良い返事を響かせて摩耶さんは部屋を後にしました。

 

さて、私も準備しに行きますかね。

 

摩耶さんから元気を分けて貰った私は意気揚々と工廠へ出て行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

工廠に出た私が機材を用意していると海から工廠へ直接乗り入れる事が出来る出入り口から私を呼ぶ声が聞こえてきました。

 

「アカシサーン!イマスカーッ?」

 

本日の午後のお客様はフラワーさんの後任として現在輸送船団を仕切っているワ級flagshipさんです。

 

「いらっしゃいワフラさん。どうぞ上がってください」

 

「ワフラッテワタシデスカッ!?」

 

「へ?えぇと、すみません。嫌でしたらワ級さんと呼ばせて頂きますが」

 

「イエッ!フラワーサンミタイデカッコイイデス!」

 

フラワーさんは格好良いって言われたい訳じゃないと思いますが……まあ、喜ばれている様なので良しとしますかね。

 

「えと、それでは改めましてワフラさん」

 

「ハイッ!!」

 

「あはは、それでは艤装を外してこちらに上がってきてもらえますか?」

 

「ハイッ!オネガイシマス!!」

 

フラワーさんとは随分雰囲気が違いますねぇ。

恐らくワ級という名称は私達艦娘で言う所の睦月型や金剛型に相当するのかも知れませんね。

そうなると本当なら一人一人に名前があるのでしょうか。

気になった私は艤装を外して上陸するワフラさんに少しだけきいてみる事にしました。

 

「ワフラさん、個人的な質問で恐縮ですが一つ宜しいですか?」

 

「ナンデスカ?ワタシニコタエラレルコトナラナンデモキイテクダサイ!」

 

「はい、姫級以外の深海棲艦の皆さんはイロハ以外に個を識別する名前を持っているんでしょうか?」

 

私の質問の内容にいまいちピンと来ないのかワフラさんは暫く首を傾げていましたが何となく分かった様でワフラさんは自身なさげにこう答えました。

 

「エェト、ワタシタチハナマエヲモッテマセン」

 

「名前が無い?イロハ以外にという事でしょうか」

 

「イエ、ソモソモソノナマエヲツケタノハニンゲンタチデス」

 

ワフラさんから話を聞き終えた私は暫く開いた口が塞がりませんでした。

彼女曰く、深海棲艦の中で初めて組織らしい組織が立ち上がり、姫達が本格的に指揮を執るようになってから指揮系統に致命的な問題が発覚したそうです。

それこそが名前を持たない事による指令の伝達不良。

そこでその時のトップの一角であった後の港湾さんが人類が付けた名称を流用しようと話を持ち掛けたそうです。

当時の組織のトップ達は自身の名にさして興味を持っていなかったという事もあり、その案はあっさり採用された様です。

 

もしかしたらその頃から港湾さんは私達や人類との和解の道を模索していたのかも知れませんね。

 

ワフラさん達の事情は分かりました……ですがこれは私がどうこう言える問題ではない様です。

私一人で皆さんの名前をお付けするわけにも行きませんし、何より私自身まだ深海棲艦の皆さんの違いと言うものを把握仕切れていませんから。

 

「アカシサン?ドウシタンデスカ?」

 

「あ、いえ……すいません。事情も知らずに野暮な事を聞いてしまって」

 

「ヘッ?ウウン、ゼンゼンキニシテナイヨ?ソレニワカリニクイナラワタシノコトハワフラダンチョウッテヨンデクレルトウレシイカナ?」

 

「ワフラ団長ですか……?分かりましたっ!それでは本日は宜しくお願いしますね団長さん」

 

「コチラコソヨロシクネーアカシサン!」

 

こうして改めて団長さんの問診を開始する事にしました。

まず初めに自分で作った問診票を手に幾つか聞いていきます。

問診票は今の所人型、艤装一体型の大きく二つに分けて用意しています。

因みに団長さんを含むワ級さん達は海で見る時は解りにくいですが実は艤装の取り外しが出来る人型の艦種なのです。

 

私は自分で作った問診票を見ながら身体に異常を感じないかを確認していきます。

 

「団長さん、ここ最近で身体に違和感を感じたり自分の思った通りに動けなかったりした事は無いですか?」

 

「ウ〜ン、ヨクワカラナイケドソウイウノハナイカナァ」

 

「自覚症状は無し……っと。そしたら次は艤装の役割を確認しますね?」

 

深海棲艦とその名にある通り彼女達は私達艦娘と通ずる所があります。

それは装備であったり一人一人の性格であったりと様々ですが、調べていて気付いたのは艤装の役割の多くが艦娘と同じであるという事でした。

そこに目を付けた私は彼女達との親睦を深める意味を込めて深海棲艦の整備を受け持とうと思い立ったのです。

 

「これは……単装砲ですか?」

 

「チガウヨ〜、コレハレーダー」

 

「これは……?」

 

「コレハタダノボウシダネッ」

 

ですが見た目で判断するのは相当厳しいので、こうして一つ一つ記録に残していく為に一人一人からこうして艤装の役割を聞くことにしてるわけですね。

 

問診が済めば後は艤装及び本体の整備が始まります。

と言っても今はまだ損傷部分の修復は妖精さんに任せるか入渠して頂くしか出来ないんですがね。

 

「ネェアカシサン、ココハスゴイデスネ〜」

 

私が艤装の損傷箇所にチェックを入れていると不意にワフラさんが話し始めました。

 

「凄いですかぁ……まぁ確かに色々と凄いですが、どうしたんですか?」

 

すると団長さんはキラキラと瞳を輝かせながら答えてくれました。

 

「ダッテサ!ホカノトコロデハベツノワタシトベツノアカシサンガタタカッテルノカモシレナインデスヨ!?ソノフタリニイマノコウケイヲミセテアゲタイデスヨッ!」

 

「……っ!」

 

団長さんの一言で私が思い出したのはあの時の武蔵さんの反応でした。

あの時の私は実は少しだけショックを受けていました。

 

平和の為に活動を続ける港湾さんやフラワーさん、沢山の部下の信頼を背負っていた離島さんや、そんな彼女をずっと支え続けてきたリ級さん。

そんな彼女達の事が頭ごなしに否定された様な気がして。

 

「アカシサン?」

 

「い、いえ……」

 

でもそれは武蔵さんに限らず海軍全体の共通認識であり、それに疑問を覚えてしまった私はきっとヴェルの言う様に中途半端な気持ちだったのでしょう。

だから私はこの基地で答えを探していきたい、その先で海軍に背く事になったとしても私自身が納得出来る答えを。

 

「……そうですね。団長さん、いずれ見せつけてやりましょう。この世界の別の私やワフラさんに、艦娘と深海棲艦(わたしたち)は争い合うだけの存在じゃないって事を!」

 

「アカシサン…………ハイッ!ゼヒトモミセツケテヤリマショウ!」

 

そうして私と団長さんは固い握手を交わしました。

団長さんや港湾さん達の様な深海棲艦は話を聞いてる限りでもまだまだ少数派ですが、それでも基地の皆と団長さん達とならやり遂げられる。

確証も保証も有りませんがそれでも確かにそう思えた、そんな瞬間でした。

 

 




それぞれが少しずつ同じ方向を向き始めて来た所で第三章終了となります。

次回からは再び門長視点……となるかも知れませんねぇ?


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第四章
第九十三番


さあ、第五章の幕開けだっ!

不知火「第四章です」

………………。

不知火「ご自身が間違えたからって読者の皆様を混乱させようとしないで下さい」

そ、そんな事はともかく本編をどうぞ!!

不知火「逃げましたね。と言うか不知火ももっと話に関わりたいのですが……」

本編をどうぞ!!!



 

ー????ー

 

 

 

「……ソウ、彼女達ト合流シタノネ?」

 

「ハイ。我々モ追跡部隊ノ撮影シタ写真ヲ確リト確認シマシタノデ間違イアリマセン」

 

「解ッタワ。直グニ彼女達トコンタクトヲ取リナサイ」

 

「イエス、ボス!」

 

「フフフ……待ッテイナサイ門長。絶対ニ逃ガサナイワヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー中部前線基地中庭ー

 

いつも通りのクソ長ぇ入渠を終えた俺は長門を呼び出し中庭のベンチでとある計画を持ち掛けていた。

 

「改まってどうした。何か用か?」

 

「長門よ、早速だか響の水着姿を見たいとは思わんかね?」

 

そう、今は夏本番!そして此処は見渡す限りの海!ならばやる事など一つだろう!つーわけで今更ながら海開きというわけだァ!!

 

とはいえ俺が直接動けば電に警戒されてしまい最悪海底に沈められかねない。

それを回避する為に俺は風呂に浸かりながら約一ヶ月もの間入念に計画を練っていたのだ。

 

「そこでお前を同志と見込んで重要な仕事を頼みたいんだ」

 

「はぁ、いきなり呼び付けるから何事かと思えば…………で、私はどうすれば良いのだ?」

 

流石だ長門、お前なら乗ってくれると信じてたぜ。

俺は周囲を警戒しながら計画内容を長門へと伝えた。

 

「……という事だ。名付けて『伝言ゲーム作戦』だ!」

 

「ふむ、作戦名は安直だが内容としては悪くないな」

 

「だろ!これなら電も俺やお前の発案だと思わねぇ筈だ」

 

「ああ、恐らくな。だが──」

 

「よしっ!そうと決まれば善は急げだ!頼むぞ長門!」

 

おっとそうだ、長門と一緒にいる所を見つかるのは不味いな。

 

「じゃあ俺は戻る!繋がりを疑われるのは不味いから経過報告とかは一切要らんぞ!」

 

「あ、まっ……はぁ」

 

俺は長門にそれだけ伝えると直ぐ様建物内へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ……相変わらず人の話を聞かないなあの男は。

まぁ任された以上は完遂してみせるさ、ビッグセブンの名にかけてな。

さて、誰にどう伝えれば我々の痕跡を残さずに響まで届くか考えねばな。

 

門長に作戦を一任された私はベンチから立ち上がり当てもなく歩き始めた。

 

ふむ、この基地自体人数はあまりいないがその中でも交流が広いのは摩耶、松に竹、明石に金剛辺りだろうか。

だが松達から明石の奴も結構こっち側……いや、門長側の思考だと聞いているからな。

松に警戒されては電が察してしまう可能性も否定出来ない。

 

更には門長の奴が余計な事を言った事で今や私も警戒リスト加わってしまっている……全くもって遺憾だがな。

だから松や竹に伝えるのも止めておいた方が良いだろう。

 

そうなると残りは摩耶か金剛だが…………よしっ!

 

私は気合いを入れ直すと食堂へと足を運び始める。

五分程歩いて辿り着いた食堂には摩耶と松と竹が三人で夕食の準備を進めていた。

 

「あ、長門さんどしたの〜?」

 

「飯ならもう少し掛かるぞ」

 

「あ、いやそうでなくてだな。摩耶に個人的に話したい事があったんだが、忙しいならまた改めよう」

 

松達がいる中この話を唐突に持ち出せば確実に不審がられるだろう。

だからこの場は引くことにしようと考えた。

 

「二人共後は大丈夫だな?ちょっと長門の用事を聞いてくっから悪ぃけど後は宜しくな!」

 

だが気を利かせてくれた摩耶は二人に後を任せて時間に都合を付けてくれたのだ。

 

「何か大事そうだしねぇ?解った、後は松と私でやっておくよ」

 

「悪ぃな、この埋め合わせは必ずすっからよ!じゃあ向こうで話そうぜ」

 

「あ、ああ。わざわざ済まないな」

 

内容をそのまま伝えてしまえばなんて事は無い門長のただの願望なんだがな。

食堂から少し離れた一室に着いた所で私は一つ一つ言葉を選んで摩耶に話し始める。

 

「なあ摩耶。最近と言うか此処に来てから皆慌ただしくて息つく暇もさほど無かった様に感じないか?」

 

「なんだよいきなり……まあでも言われてみればそうだなぁ。アタシらなんかは比較的平和な中過ごしてきたから実感は薄いが響達や不知火達なんかは色々と振り回されて来ただろうからなぁ」

 

摩耶の言葉に私は頷きながら思う。

ここまでは彼女なら察してくれる事は解っていた。

後は言葉を間違えない様に提案を出せば良いと。

 

「そうだ。だから響達にもゆっくりと休養取ってもらいたいと考えているんだが、こんな孤島に娯楽を見出すのは思いのほか難しくてな」

 

「まぁそうだよなぁ、放棄された基地の発電機が生きてただけでも実際奇跡みたいなもんだよな」

 

実際問題妖精さんが残っていなければここで過ごすことすらままならなかっただろう。

と言うかどうして放棄した時に妖精さんはいなくならなかったのだろうか?

 

……いや、今考えてもしょうがないな。

今は如何に摩耶から例の言葉を引き出すかが重要なんだ。

 

「そうだ、響達に楽しんで貰おうにも此処には海しかないからな。どうしたものか……」

 

「海ねぇ……」

 

これはっ、来るか……来るのか?

 

「そうだな、やっぱ夏と言えば海だよなぁ」

 

来たっ!

 

「なるほどな、確かに夏の風物詩ではあるな」

 

「それにあいつらにしても遊ぶ為に海に入るってのも新鮮でいいんじゃねぇか?」

 

「うむ、言われてみればそうだな」

 

「じゃあ早速今日皆に伝えておくぜ」

 

「ああ、済まないが摩耶からも頼む」

 

ふぅ、これで何とか自然に話が広がるはずだ。

 

「そんじゃあ水着は明石にも頼んでみるかね」

 

「そうだな、明石か妖精さんに頼んでみるのが無難だろう」

 

「響の水着姿が見てぇもんな?」

 

「そうだ……なっ!?」

 

し、しまった!目的を達したと思って気が緩んでいたか。口が滑ってしまった……くっ、この長門。慢心をしていたというのか。

私は慌てて口を紡ぐが時すでに遅し、摩耶が冷めた視線を私に向けていた。

 

「くっ、言い逃れはせん。済まぬ摩耶!私は私利私欲の為にお前を利用しようとしたのだ」

 

これは私の責任だ。成功しようがしまいが結果は変わらないとはいえ、それでも私は仲間を売るような真似はしない。

そんな意思を持ちながら頭を下げる私に摩耶は溜め息一つ吐いてから口を開いた。

 

「はぁ、松達の前で話そうとしないからそんなこったろうと思ったぜ」

 

「そうか、その時点で察していたのだな」

 

「どうせあの野郎も一枚噛んでんだろ?」

 

「いやっ、門長は関係無い!私一人で動いてただけだ」

 

「いいよ、どっちにしろアタシは誰かにチクるつもりはねぇからよ」

 

誰にも言わないだと?何故だ、摩耶は何を考えているんだ。

いや、そうか解ったぞ!

 

「そうか、摩耶も松達の水着姿が見たかったのだな」

 

「あ"?」

 

「ち、違うのか?じゃあいったい……」

 

青筋を立てて睨み付けて来る摩耶にたじろぎながらも理由を尋ねると、摩耶は再度深く溜め息を吐いて近くの椅子に腰を掛けて答えた。

 

「訓練も実戦も殆どせずに大した練度もないアタシがあいつらの為に出来る事なんて数える程しかねぇんだ。だからこそ皆が楽しく過ごす為に出来る事は何でもやってやりてぇんだよ」

 

「摩耶…………」

 

「例えアンタらがどんな思惑を持っていようとな、結果として皆が楽しめるイベントなら何としても成功させてぇ。それがアタシに出来る事だと思ってるからな…………って、何言ってんだろうなアタシは、はは」

 

そう語る摩耶の姿は今の私が直視するには些か眩し過ぎた。

私は欲望に振り回されていた事を恥じて摩耶に頭を下げた。

 

「本当に済まなかった摩耶、そして改めて響達の為に協力を頼みたい!」

 

「お、おぉ……そんな頭下げなくても断りやしねぇよ」

 

「ありがとう、お陰で目が覚めた」

 

私は再度頭を下げて摩耶に礼を伝えた後、彼女と別れを告げて次なる場所へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、予定では今日が海水浴当日な訳だが響達は既に海岸に居るだろうか。

俺は明石から渡された海パンに着替えて海岸へと向かった。

 

エリレは空母と部屋にいるし不知火と吹雪は長門や金剛達と遠征に行っちまったが響と電と暁、松に竹、それに睦月達は全員揃っている。

つまりこの先の光景こそがまさに楽園(エデン)!!

長門の奴が何故か俺を遠征に連れて行こうとしていたがそうは行かねぇ!

俺を出し抜こうとした罰として逆に長門を遠征に送り出してやった!

 

「ひゃっほぉーう!!皆で遊ぼうぜぇ!!」

 

おおっ紺のスク水に胸元には確りとひびきとあしらわれている!解ってんじゃねぇか明石の奴!

あまりの破壊力に身体が思わず幼さがぷっくらと滲み出ているすべすべなお腹へと吸い込まれて行くようだ………ってふぁい?

 

……おかしい、俺の視線は数瞬前まで響の愛らしいぽんぽんを捉えていた筈だ。

それなのにどうして先が見えない暗闇を覗き込んでいるんだ?

 

「は?えっ、ちょま──!?」

 

このままじゃ響のお腹ではなく謎の大穴に埋もれてしまう。

俺は必死に踏ん張ろうと足に力を入れるが既に足は空を舞っていた。

原因は分からないが脛の痛みから何者かに足払いをされたのだろう。

 

こういう時はどうすればいい、取り敢えず目を瞑って落ち着こう。

 

「んぐぉっ!?」

 

目を閉じた直後、顔面に鈍い衝撃が走った。

 

「〜〜〜っっ!!」

 

「門長さん、後で掘り起こして上げるのです」

 

俺が頬を擦りながら空を見上げていると電と思わしき声が空から聞こえて来た。

かと思えば突然の砲撃音と共に周囲の砂が崩れ出し俺を頭の上まで埋め尽されてしまった。

 

「あっはっはっは!見事に埋められたな相棒」

 

くそっ、姿は見えねぇが武蔵の腹立たしい笑い声が聞こえて来やがる。

おいこら!笑ってねぇで此処から出る方法を考えやがれ!

 

「方法か、待つしかないな」

 

あぁ!?どういう事だ!

つかよく考えたら力ずくで出れば良いだけじゃねぇか。

 

「何も知らない睦月達がお前の直上で中々のスケールで砂の城を作ろうと頑張っているが……それでもお前さんはやれるのか?」

 

なっ!?つまり俺が動けば城は崩れ睦月達を泣かせてしまうかも知れないという事か……くそう、こんなはずでは。

 

結局俺が掘り起こされたのは夕方であり響の水着姿を再び拝む事は叶わなかったのだった。

 




????「響ちゃんのスク水姿を一目見れただけでも有難いと思いやがれなのです♪」


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第九十四番

久々にプールに行きましたがやっぱ暑い時は良いですね!
まあ私あんまり泳げないんですけどね( ̄▽ ̄;)


電に戦略的敗北を喫してから早一週間。

俺は前回の反省点を活かしつつ次の計画を練っていた。

 

前回は自然な流れにしようと全員に話を拡げたのが悪かったな。

きっと不自然な流れを感じ取った電に先手を打たれたに違いない。

だから今回は前回の二の舞とならぬ様に響が一人の時を狙って動く事にした。

 

「ふっふっふ、今日は明石に写真を渡すのを条件に作らせたこの空色の朝顔をあしらった風情のある浴衣を着てもらうぜ」

 

二人の時に水着を着てくれなんて言ったら警戒されるかも知れんが浴衣ならきっと着てくれる筈だ!

二人でのんびり花火と洒落込みそして………。

クックック……完璧な作戦だ。

そして万が一電に悟られても海水浴の時みたいなあからさまな妨害は来ないだろう。

 

そこまで考えた俺は今こうして響が一人になるのを後ろから見守っている所だ。

 

「私も姉さんや摩耶さん達の様に何か出来ないかな……」

 

「響ちゃんには響ちゃんにしか出来ない事があるのです。だからそんなに焦らなくても大丈夫なのですよ?」

 

「でも……」

 

「焦っても案は浮かんて来ないのです。だからじっくりと考えていけば大丈夫なのです」

 

「電…………うん、ありがとう」

 

くっ、この距離からじゃ二人の仲が良い事しか解らねぇ。

と言うか電が響の近くに居ない時ってあるのか?

 

……もしかしたら俺は重大な事を見落としていたのかも知れん。

電は俺?や外敵から響を護る為に殆ど一緒に居るのだ。

つまり俺は電が響から少しの間でも離れるまで誰にも見つかっては行けない、見つかれば必ず電に感付かれ詰みだ。

それでいてその瞬間がいつ訪れるのかは全くわからない。

 

「……それって無理ゲーじゃね?」

 

そこに気付いたのは昼を大きく過ぎた時であった。

だが俺は切り替えの早い男、すぐ様次なる作戦に頭を働かせていた。

と、その時!

 

「っ!?……響ちゃん、ちょっと先に部屋に戻っていて欲しいのです」

 

「電?えっと……うん、わかった」

 

電が真剣な顔で響に何かを伝えるとなんと元来た道を戻り始めたのだ。

 

つかやべっ!?こっち来るじゃねぇか!

俺は急いでそこらの草陰に隠れるが電の視線は既に俺を捉えていた。

 

「ぐ、偶然だなぁ電。そんな血相変えてどうしたんだ?」

 

既に手遅れなのは明白だが俺は何とか乗り切ろうと偶然を装う。

だが電の反応は俺の予想とは違うものであった。

 

「そんな事はどうでも良いのです、それよりも暫くの間響ちゃんに誰も近付かせないで欲しいのです」

 

「えっ?お、おぉ……わかった」

 

俺にそれだけ伝えると電は直ぐにその場を去っていった。

 

……何だか分かんねぇが、電から正式に許可を貰ったって事か?

 

マジか……マジ……か?ううぇぇぁぁぁあ!!?マジデ!?いいゃぁっっっふぉぉぉおおう!!!

遂に電ちゃんが認めてくれたって事か!これで障害は無くなった!!我無敵也!!!

 

「ひーびーきぃーー!!!この浴衣来て俺と花火しようずぇぇー!!!」

 

俺は全力疾走で奇声を上げながら響の下へと向かった。

そして振り返り呆然と俺を見つめる響の手を取ろうと右手を伸ばした。

だが俺の右手は何も掴むことなく勢い良く空を切った。

 

「なぁっ!?」

 

俺は慌てて正面を向き直るがそこには既に響の姿は無かった。

何事かと周囲を見渡すと階段の上には奴が居た。

 

「門長、私ニツイテコイ。サモナケレバコノ駆逐艦モ無事デハスマナイ」

 

「うそ、どう……して?」

 

響が信じられないといった表情で奴を見上げる。

だが奴は溜め息一つ吐いて響の問いを切って捨てやがった。

 

「私ハ言ッタハズダ、敵対組織カラノスパイトハ考エナイノカトナ」

 

正直スパイだろうがなんだろうがどうでもいい。

ただ響を悲しませた挙句に危害を加えようとする此奴を俺は絶対に赦さねぇっ!

 

 

「空母テメェッ!!!何してんのか分かってんだろうなぁ!!」

 

「無論意味モ無クコンナ事ハシナイ。大人シクツイテクレバ駆逐艦ハ解放シヨウ」

 

「うるせぇ、今すぐ響から手を離せ……俺の理性が少しでも残っている内にな」

 

「怖イワネ、ダケド私モ引ケナイノ。オ願イダカラ大人シクツイテキテクレナイカシラ?」

 

そうか、離す気は無いか……なら仕方ない。

エリレには悪ぃが此奴には階段のシミになってもら……待て、そう言えばエリレはどうした?

普段ならこの辺りで割って入って来る様なものだが。

まさか……

 

「テメェ、まさかエリレまで手に掛けたんじゃねぇだろうなぁ?」

 

「ナッ!?馬鹿ナ事言ワナイデ!!」

 

空母は先程までの冷静さとは打って変わって感情を剥き出しに反論してきやがった。

 

「じゃあエリレはどうした。何で一緒に居ねぇんだ!」

 

俺がそう聞き返すと空母は言葉を詰まらせた後、誤魔化す様に咳払いをしながら再び同じ質問を繰り返す。

 

「……トニカク、ツイテクレバ響ハ解放スル。ダカラ何モ言ワズニ来ナサイ」

 

エリレの事は気になるがこいつが言う通り響を話すとは限らねぇ。

俺はどう動くべきか考えていたが、響の一言により俺は覚悟を決めた。

 

「門長……私なら大丈夫。それにフラヲさんはきっと約束を守ってくれるよ」

 

「響……解った。おい空母、響の信頼を裏切るような事があれば簡単には死なさねぇから覚悟しておけよ」

 

「言ワレナクテモ約束ハマモルワ。ジャアツイテキテ」

 

響が信じるのなら俺は響を信じて付いていく。

だが同時に響だけは命に変えても守ってみせる。

それが俺を必要としてくれた響に報いる術なんだと信じて。

 

俺は何時でも動ける様常に意識を集中しながら空母の後に続いて海岸へと歩き出した。

 



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第九十五番

始めに何者かの視線に気付いたのは艦娘達が海水浴を行う二週間程前の事であった。

だが此処には艦娘や深海棲艦、特に深海棲艦の反応は非常に多くその中から監視してる者を特定するのは簡単ではなかった。

 

そこで私は動向を捉えにくくする為に建物内から出ない様にエリレに言い聞かせ、私自身も彼女から目を離さない様に行動を共にする事にしたのだ。

 

その為海水浴当日もエリレと私は摩耶の誘いを断り部屋で待機していた。

だがそれがいけなかったのだろう。

海水浴に行きたくて仕方なかったエリレは私の見ている前で突如走り出し、そのまま窓を破って飛び出して行ってしまったのだ。

 

慌てて窓から外を見下ろすもそこには既に彼女が着地した痕跡しか残されていなかった。

 

「不味イ、急イデ連レテ帰ラナイト」

 

「フフフ、相変ワラズ元気ノイイ事ダ」

 

私がエリレを連れ戻しに行く為扉の方へ振り向くと待っていたのはなんとEN.D中枢連合艦隊総旗艦ル級改flagship……私の()()()であった。

 

「ルフラサン、ドウシテココニ……」

 

「ドウシテカ、ソレハオ前ノ居場所ガ解ッタ事カ?ソレトモ何故私ガ生キテイルカトイウ事カ?」

 

「……後者ヨ」

 

私は相手の動きを制限する為に息を潜めていただけであって私達の居場所自体はEN.Dの情報収集力を以てすれば造作も無い事は解っていた。

それこそ逃走した直後からずっと把握されていたと考えても可笑しくないのだから。

だがルフラさんは私達が組織を抜ける際に敵対しエリレの雷撃によって沈んだ筈だった。

 

そんな私の疑念を知ってか知らずか彼女は不敵な笑みを浮かべながらその質問に答えた。

 

「簡単ナ話ダ、アル妖精ノチカラデ蘇ッタノダ」

 

「ソンナバカナ……」

 

「本当ニソウ思ウカ?オ前モ見タ事アルダロウ、沈ンダ筈ノ艦娘ガ甦ル姿ヲ」

 

「マ、サカ……」

 

彼女の言う様に艦娘の中には一度沈んでも何故か完治して浮かび上がってくる存在がいる。

確か応急修理女神とか言う妖精がその身を引換に艦娘を復活させるという話だったが……。

 

「ダガアレハ艦娘側ノ妖精ノ技術ダッタハズ。ドウシテルフラサンガ」

 

「ベツニ艦娘側ニイタ妖精ガコチラ側ニ来ナイトハ限ランダロウ?人間ヤ艦娘ニ失望シタ妖精ダッテ存在スルトイウコトダ」

 

応急修理女神頼みの無謀な特攻作戦、そんな艦娘達も数多く見てきた私にとってルフラさんの答えは私を納得させるには十分であった。

そして同時にこの状況で私に先が無いことも理解していた。

 

「ソレデ、ルフラサンガ直々ニ私達ヲ処断シニキタッテ事?」

 

それならそれで構わない。

ルフラさんによって救われた命だ、ルフラさんによって終わらせられるのならそれが運命なのだろう。

エリレだけでも救いたいが現状ではそれもままならない。

 

だが運命はどうやらまだ私に終わりを告げるつもりは無いらしい。

 

「勘違イスルナフラヲ。私ハ今デモオ前ノ事ヲ買ッテイルノダ」

 

「…………」

 

私を買っている?一体私に何を求めているのかが解らない。

ルフラさんの真意が掴めない私は黙ったまま続く言葉を待った。

 

「ナァフラヲ、門長ヲボスノ元マデ連レテキテハクレナイカ?ソウスレバレ級トオ前ノ脱走ト反逆ニツイテハ水ニ流シテヤロウジャナイカ」

 

ルフラさんの話は一見私にデメリットは無いように見える。

だが、ボスの目的が解っている以上簡単に頷ける話ではない。

 

「……モシ、断ルト言ッタラ?私ヲコノ場デ処分スルノカシラ」

 

ルフラさんは私の質問を聞いて薄ら笑いを浮かべるとこう答えた。

 

「私ハオ前ノ事ヲ買ッテルト言ッタダロウ?マァ、オ前ト一緒ニ逃ゲタモウ一人ノ無事ハ保証シナイガナ?」

 

「エリレヲドウスルツモリッ」

 

「ソレハオ前ノ返答次第ダ」

 

くっ、門長があちら側に行けばEN.Dは直ぐにでも行動を起こすに違いない。

だけど、もし断れば…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連レテキタワ、姿ヲ現シナサイル級」

 

浜辺へと辿り着いた私は水平線に向けて門長を連れてきた事を伝える。

すると海中よりいくつかのアブクが上がると共に三人の深海棲艦が姿を現した。

 

「アラ、ホントニツレテコレルトハネ」

 

「ソウキカンサマヤボスニトリイルダケノコトハアルナ」

 

「ソシキカラニゲダスヨウナオクビョウモノデモオツカイクライハデキルノカ」

 

最初に口を開いたのはル級改ellte。私が居た頃は副隊長の位置に立っていたが、私が抜けた事で繰り上がり今は隊長になったらしい。

ル級に続いて口を開いたのはチ級flagshipとツ級flagship。

二人共元々私の部隊の随伴艦であったが完全なル級支持派であり現在は重要なポストに就いてるらしい。

 

そんな三人から飛ばされる嫌味など気にしても仕方ないので私はさっさと門長を三人の前に差し出した。

 

「約束ハ果タシタワ、早ク門長ヲボスノ所マデ案内シテクレルカシラ」

 

「ハァ〜?ソンナエラソウニシテテイイワケェ?」

 

「オマエノダイジナダイジナオトモダチガドウナッテモイイノカ?」

 

「あ"あ"?」

 

はぁ……自身の優位性を保とうとする為に自ら地雷原に踏み込んで行くなんて。

その浅はかさにはいっそ感動すら覚えるわ。

 

私に対して放った言葉である事は明白だ、しかしそれを聞いてるのは当然私一人ではない。

 

「おいテメェ……今の話を詳しく聞かせろ」

 

門長が尋ねているのは素直に連れて行きたければ決して言ってはならない発言(ワード)

そしてこの時点で門長の殺気に気付きチ級達が言葉を選んでいれば決して伝える筈が無かった失言(ワード)

 

「ハァ?アンタハダマッテツイテクリャイイノヨ!」

 

「ジャネェト()()()()トイッショニソコノクチクカンモヤッチマウゾ!!」

 

「そうか……そういう事だったんだな……」

 

「ホント馬鹿……門長、落チ着イテ。イマ事ヲ起コセバエリレノ場所ガ解ラナクナル」

 

「るせぇ、んなもんこいつらから聞きだしゃあいい。おいテメェら、さっさとエリレの場所を吐け」

 

そう言って門長は殺意を滲ませながらドスドスとチ級へと歩き出す。

チ級も今更になって取り返しのつかない事をしたと気付いたのか元々青白い顔色を真っ青にしてガタガタと震えだしていた。

 

「ダカラソンナ簡単ナ話ジャ……」

 

「邪魔するなテメェも纏めて埋葬してやろうか、ああ?」

 

ああもう面倒臭い奴だ、私だって直ぐにでもエリレの救出に行きたいってのに。

けどエリレが奴らの手の内にある状態で反抗すれば交渉決裂と捉えられかねない。

彼女がそう判断した時点でエリレを救える可能性は限りなくゼロとなる。

 

だから何としてでも此処で門長を暴れさせる訳には行かないのだ。

 

「門長ッ!大人シクツイテコイトイッタ筈ダ、響ガドウナッテモイイノカ?」

 

「門長……」

 

「てめぇ……」

 

下手すれば私は此処で沈むかも知れない。

それでもエリレを守る為には手段を選んでは居られないのだ。

 

「モウ一度言ウ、大人シクツイテクルナラ響ハ解放スル。解ッタワネ?」

 

「……ちっ、解ったよ。その代わり響は此処で離して貰うからな」

 

「承知シタワ。アアソレトル級、貴女達モボス達ニ迷惑ヲ掛ケタクナイナラコノ子ニハ手ヲ出サナイ事ヲオ勧メスルワ」

 

「……タ、タイチョウ」

 

「ワカッテルワ、ボスニメイワクハカケラレナイシ……ソンナキケンブツヲカンリシキルジシンハナイワ」

 

話では神と呼ばれる深海棲艦すら降したと言われる化物をたったあれだけで止めた交渉材料、そのリスクを考えれば組織全体で管理しても手に余る存在であると言っても過言ではない。

 

それ故にル級は簡単に手は出せないと判断したのだろう。

私だってエリレの為じゃなきゃこんな危険な橋は渡りたくない。

 

「ジャア門長ハ連レテイクワ。響、貴方ハ此処デ待ッテナサイ」

 

門長が帰ってくるのをね。

 

口には出さなかったが少女の空色の瞳は確りと理解している様だった。

私はそんな彼女を地に降ろし、帽子の位置を直してあげると彼女と別れを告げる。

 

「ソレジャ」

 

「うん、()()()

 

私は少女の言葉には触れずに背中を向ける。

またエリレと一緒に戻れたらとは思う……けど、きっとルフラさんは今度こそ私を逃しはしないだろう。

 

私はEN.Dを抜けるには知り過ぎている。

どうしてあそこまでの立場を任されたのかは解らないが、それでも組織の囲いから外れた私は機密を保持した邪魔者でしかなくそれこそいつ処分されてもおかしくはないのだ。

 

だから彼女の瞳に答える言葉を持ち合わせていなかった私はまるで聞こえなかったかのように振る舞い門長を連れて島を離れていった。

 

「エリレ……直グニ行クカラ待ッテテ」

 

例え私がどうにもならないとしても、せめてエリレだけは自由に生きて欲しい。

 

 




響の存在は門長の最大の弱点であると同時に逆鱗でもあるという事です。


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第九十六番

あぁ〜早く二次元へ行きたいじぇ


深海棲艦の奴らによって連れてこられた場所は一見何も見当たらない小さな島だった。

 

「おい、エリレは何処にいんだよ」

 

「ワタシタチハキカサレテイナイワ」

 

「ソコノクウボニカンシャスルンダナ」

 

なんだ使えねぇな。

それにこいつは何わけわかんねぇ事言ってんだ?響を人質取るような奴に感謝する理由がねぇだろうが。

 

「ちっ、んじゃあさっさと知ってる奴の所に連れて行きやがれ」

 

「ハァ……コッチヨ」

 

戦艦が溜息を吐きながら半径二メートル程の縦穴を指差した。

中を覗くと傾斜六十度程の急勾配に縄が一本だけ垂れていて、中心には薄ぼやけた灯りが等間隔で奥まで続いていた。

 

「なんだこの面倒くせぇ入口は、もっと入りやすい場所はねえのかよ」

 

「深海棲艦ハ元々地上ニ入口ハ作ラナイノヨ、コレハ普段ハ滑走路トシテ機能シテイルモノヨ」

 

「滑走路?地上に出て発艦するのも面倒だってか?」

 

「それは分からんが、本当に此処から発艦出来るのであれば地上基地よりも断然発見しにくく攻めにくいだろうな。それにこの縦穴を潜って敵施設に攻撃を仕掛けるのは熟練の艦載機乗りでも至難の業だろう」

 

突然背中から現れた武蔵がそう言って答えた。

だが正直どうでも良い話だったので俺は適当に返事をしながら地下へと続く縄に手をかける。

 

「んで、此処を降りてから何処に行けばいいのか?」

 

「エ、アア。フツウニオリタサキデマッテレバダイジョウブヨ」

 

「あっそ」

 

俺は興味無さげに返してから縄を掴んだまま一気に縦穴を滑り落ちて行った。

 

お、流石に急だな。

掴む縄が無かったらやばかったかもな。

 

「おいおい、この速度ではあいつらより先に着いてしまうんじゃないか?」

 

「そうか?ま、別に良いだろ」

 

あいつらが来なきゃ勝手にエリレを探し始めりゃ良いだけの話だからな。

そう考えて縦穴を滑り落ちて行くが、残念な事に俺が下に降りた先には既に戦艦が待っていた。

 

「ヨク来タナ門長、歓迎スルゾ」

 

「さっきの戦艦……とはどうやら違ぇみてぇだな」

 

先程の戦艦と同じく黄色いオーラを纏っているが左眼には青い焔が揺らめき艤装も一回り程でかいそいつは泰然たる態度で話しかけてきた。

 

「ソウダナ、紹介ガ遅レタ。私ハEN.D中枢連合艦隊総旗艦ル級改flagship、簡単ニ言エバオマエヲ連レテキタ奴ラノ上司ノ様ナモノダ」

 

そう言ってル級は俺の前に立つと右手を差し出す。

だが俺はその握手には応じず奴の顔を睨みつけて尋ねた。

 

「てめぇが呼んだのか?ならさっさと用件を話してエリレを解放しろ」

 

「話ハ伝ワッテイナイノカ……マアイイ、オマエニ用ガアルノハ私デハナクボスノ方ダ。私ハオマエヲボスノ所マデノ案内役ヲ任サレタダケダ」

 

ボス?そんな事言ってたか?

良く分かんねぇが約束通りエリレを解放するなら何でもいい。

 

「じゃあさっさとそのボスって奴の所に連れてきな」

 

「フフ。コッチダ、ツイテコイ」

 

そう言って振り返り歩き出すル級の後を俺は何も言わずについていくことにした。

 

 

 

 

薄暗い洞窟を歩く事十分、目の前には金属製と思われる重厚な扉が立ちはだかっていた。

 

「ボス、門長ヲオ連レシマシタ」

 

ル級がその扉の向こうの存在に俺の到着を伝えた。

 

「通セ」

 

「失礼シマス」

 

少しして奥から女の声がするとル級は一声返し目の前の扉に手を掛け押し開けて行く。

扉を開き切ったル級は俺に入るように促すので俺は何も言わずに入って行く。

中はかなり開けた空洞となっており床に設置された薄暗い照明では天井が見えない程である。

床はここに来るまでの凸凹した道とは違い人が二、三人が並べる位の幅で舗装された道が一本奥まで続いていた。

そんな舗装された道を歩いて行くとその最奥には奴らがボスと呼んでいた奴だと思われる深海棲艦が玉座へ腰を降ろし昂然とした態度で出迎えていた。

 

「ハジメマシテ空漠タル存在ヨ。先ズハ私ノ誘イニ応ジテクレタ事ニ感謝スルワ。私ガ世界ノ六割ノ深海棲艦ヲ従エル組織EN.Dノリーダー、中枢ノ姫。人間共カラハ中枢棲姫ナンテ呼バレテルワ」

 

「人質を取っておいて何が誘いに応じてくれただ。早くエリレを解放しろ、断るならてめぇらを捻り潰す」

 

俺が五十一センチ連装砲を中枢ト名乗る存在へ向けて構えるがそいつは余裕の笑みを崩さずに口を開く。

 

「心配ハ無用ヨ、私ハ貴方ト争ウツモリハ無イノダカラ。捕縛シタレ級ナラ今頃ヲ級ト一緒ニイルンジャナイカシラ?」

 

争うつもりは無い?ヲ級と一緒にいる?

人質を取って俺を連れてくる様な奴の言葉を鵜呑みにする程俺は間抜けじゃねぇ。

 

「今すぐ此処に連れてこい。話はそれからだ」

 

「ウ〜ン、騒ガシクナルカラアンマリ彼女ヲ連レテ行キタクナインダケレド…………」

 

やはり素直には連れてこない……いや、連れてこれないのか。

恐らくエリレから情報を聞き出す為に拷問に掛けたからその姿を俺に知られる理由に行かないのだろう。

 

ここまで分かれば後はこいつに聞くことはねぇ。

今すぐ磨り潰してエリレを助けに行かなければ!

 

「それがテメェの答えか、ならばこれ以上話す事は無い。沈めっ!」

 

俺はそう言った直後、構えていた主砲の引き金を引いた。

 

「ボ、ボス!!」

 

洞窟内である為、想像を絶する轟音を立てながら放たれる砲弾はその次の瞬間には目の前の存在に着弾し激しい爆炎に包まれた。

 

轟音が今も反響し入口側に控えていたル級の声は聞こえないが激昴してこっちに砲を向けているので、俺はル級へたもう片方の主砲を向けて引き金を引こうとする。

 

と、その時ル級と俺の間に突然壁が現れた。

突然の事に呆気に取られつつも耳が少しずつ聞こえるようになってきた俺は背後から聞こえる高笑いに気付きすぐさま振り返る。

 

「アーッハッハッハッハッハッハ!ヤッパリ貴方ハコチラ側ヨ!」

 

「あ?まだ生きてやがったのか」

 

「フフフ……マア待チナサイ、私ハ別ニ連レテコナイトモ連レテコレナイトモイッテイナイワ」

 

「何だと?」

 

まるで俺の行動が分かっていたのか艤装と思われる異形はそいつの身とル級を庇っていた。

その為本体は煤一つ付いておらず玉座に座っていた時と変わらず白い肌と白く長い髪を垂らして立ち上がっていた。

 

「レ級達ハ今コッチニ来テルワ。本当ハ色々揺サブリヲ掛ケテ貴方ガ取ル行動ヲ観察シヨウト思ッテイタケレド、オ陰デ手間ガ省ケタワ」

 

中枢の奴が何を言っているのかさっぱり分からねぇ。

だがエリレがこっちに来てるっつうなら待ってれば分かるはずだ。

俺は再び中枢へと主砲を構え直し待っていると奴の言う通後ろの扉から聞き馴染みのある元気な声が飛び込んできた。

 

「ヘェ〜、コノ先ニボスガイルンダネ!」

 

「この声はっ!」

 

俺はすぐ様扉の方を振り向くと重厚である筈の扉がそこそこに勢い良く開かれたのであった。

 

「アー!門長モ来テタンダァ!」

 

「エリレ、モウチョット落チ着キナサイ」

 

「レ級、ボスノ御前ダゾ。口ヲ慎メ」

 

「良イノヨル級、今ノ彼女達ハ私ノ配下デハナイノダカラ。ソレヨリモ……門長、マダ得物ヲ降ロシテハ貰エナイノカシラ?」

 

言う通りにするのは癪だが、実際にエリレの無事は確認出来たからな。

 

俺は構えていた砲身を下に降ろし、中枢を睨み付けたままここまで連れてきた理由を改めて訊ねる。

 

「で?人質を取ってまで俺を呼び付けた理由はなんだよ」

 

下らない理由だったらさっさとエリレを連れて帰ろう。

そう考えていると、中枢は待ってましたと言わんばかりに口角を吊り上げて質問に答えた。

 

「ナァニ、簡単ナ話ヨ。人間共ヲ滅ボスノニ手ヲ貸シテ欲シイ、タダソレダケヨ」

 

「人間共を?つまりテメェの下につけって事かよ」

 

「別ニ上下関係ニコダワルツモリハナイワ。タダ私達ノ目的成就ノ為ニ力ヲ貸シテ欲シイノ、勿論報酬ハ貴方ノ望ムダケ用意スルワ」

 

ああ、つまり報酬と引き換えに俺に仕事を頼みたいって事か。

つってもこいつ等の目的は人類と艦娘の根絶だろ?

人間は兎も角響達にまで危害を加える様な思想の奴らに手を貸すなんてのは論外だ。

 

「響や電の様な美少女達すら手に掛けようとするテメェらに協力する気はねぇ。話は以上だ、帰るぞエリレ」

 

「ソウ、ナラ報酬トシテ鹵獲シタ艦娘ノ処遇ヲ貴方ニ一任スルトイウノハドウカシラ?」

 

「あ?お前らの目的は根絶だろ?艦娘の処遇を俺に任しちまって良いのかよ」

 

「エエ、構ワナイワ。人間サエ滅ボセバ後ハドウトデモナルノヨ」

 

「ふ〜ん……」

 

人間にそれだけの重要性があるかはさておき、鹵獲した艦娘はこっちで好きに出来るってのは確かに魅力的だ。

それに人間が介入しない方が話が纏まる可能性は高いかも知れん。

 

「悪くない……だがな、てめぇらの理想の先には俺の理想はねぇんだよ」

 

「貴方ノ理想ガナイ?ソレハドウイウ事カシラ」

 

「俺は支配者になりたい訳じゃねぇし、ましてや恐怖の象徴なんて以ての外だ。俺が目指すのは響との幸せな日常……そして、眩いばかりの無垢な笑顔が溢れる少女達との平和な世界。唯それだけだ!」

 

俺は目の前の中枢棲姫に向けてはっきりと言い切った。

だが奴は不気味な笑みを貼り付けたまま俺に問いかけて来る。

 

「残念ダケド貴方ノ理想ハ永遠ニ叶ウ事ハ無イワ」

 

「あ"あ"?んなもんやってみなきゃ分かんねぇだろうが!勝手に決めてんじゃねぇぞ!」

 

「ウフフ、空漠タル存在ノ貴方ハイズレ人類ハ勿論、艦娘ヤ深海棲艦カラモ忌ムベキ存在トナル。ツマリ世界ハ貴方ヲ受ケ入レナイ。ダッタラ貴方ガ世界ヲ支配スルシカナイ、違ウカシラ?」

 

「なっ……!?」

 

くっ、腹立たしいが此奴の言ってる事は全部が出鱈目って訳でもねぇ。

奴がどこまで知ってるかは解らねぇが現にタウイタウイの時ですら鎮守府の代表であるヴェールヌイや負い目を感じていた夕張達を除く殆どの艦娘があの日以降俺の事を避けていた。

艦娘ですらそうなのだから人類の反応なんて考えるまでもないだろう。

 

「確かに大多数からはすれば俺は脅威にしかなり得ないだろうし、お前の言う通り俺の理想は叶わねぇのかも知れねぇ」

 

「解ッテ貰エタヨウデナニヨリネ、ソレジャア……」

 

そして中枢の提案に魅力を感じているのも事実であり、少し前の俺なら二つ返事で受けていただろう。

 

「だがな、こんな俺を忌避する所か歩み寄ってくれる奴だって居るんだ。だからそいつらの為にも例え理想が叶わないとしてもお前らに協力する訳にはいかねぇ」

 

俺の返答が気に入らないのか中枢は一瞬だけ眉間に皺を寄せて俺を睨み付けた。

だがすぐに表情を戻すと自身の艤装に腰を降ろして片肘をついて俺に再び問いかける。

 

「……アノ基地ニモソンナ存在ガ居ルノカシラ?」

 

「ああ、だからどうした。手を出す気なら俺は此処でてめぇらを壊滅させる」

 

「ソンナツモリハナイワ。タダソウネ……門長、ヒトツ私ト賭ケヲシマショウ?」

 

は?賭け?

中枢の突然の提案に俺は理解が追い付かず唖然としていると奴は気にすることなく話を続けた。

 

「貴方ヲ慕ッテイル存在ガ居ル事ハ分カッタワ。ケドソノ者ガ貴方ノ恐ロシサヲ充分ニ理解シテイルトハ思エナイノヨ。ダカラソノ者ニモ充分ニ伝ワル脅威ヲ前ニドンナ行動ニ移ルノカ、ソレヲ賭ケノ対象ニシヨウッテ事」

 

「……どうする気だ?」

 

中枢の話は殆ど分からなかった為、俺は具体的にこいつが何をしようとしてんのか尋ねた。

すると中枢は艤装に腰を掛けたまま俺の前まで来ると、徐ろに俺の右手を掴んだ。

 

「は?何やってんだてめぇ」

 

少女以外が俺の右手に勝手に触れてんじゃねぇ!

たが俺が振り払う前に中枢は一言呟いた。

 

「目ヲ閉ジナサイ」

 

俺は中枢の発言を不審に思いながら片目だけ閉じてみる。

すると突然海を見下ろすような不思議ながらも何処か見覚えのある視界が広がっていた。

 

「これは、離島の航空機を借りた時の視点みたいだが一体……」

 

「フフ、ドウヤラ離島ノ配下ガ言ッテイタ事ハ事実ダッタミタイネ。コレハ私ノ艦載機ノ視界ヨ、ソシテコノ景色コソガ艦娘ガヒト目デ解ル脅威ヨ」

 

俺は開いていた方の目も閉じて艦載機の視界に集中すると段々と異様な光景が映り込んで来た。

基地から少し離れた海が黒く染まっているのだ。

 

いや、正確には黒い何かが一面を覆う様に浮かんでいるのだ。

 

「あれは……」

 

「ワカルカシラ?アノ海域ニハ今EN.D全体ノ約四割ガ集結シテルワ。ソノ中ニハ海域ヲ治メル一部ノ姫モ呼ンデアルワ」

 

「一体どうする気だ……」

 

とは言いつつも既に俺の中では最悪に近い想像が出来上がっていた。

俺を此処まで連れてきた上で組織の四割もの勢力を基地に集結させてする事なんて殆ど決まっている様なものだ。

基地にいる響達を人質に取り俺を従わせるか、俺を含め障害となりうる存在を排除するつもりか。

くそっ!俺は響を守りたいだけなのにどうしてこうなる!

だがそんな事を言っている場合じゃない、間に合わなくなる前に戻らなければ!

 

「何がそんなつもりはないだ、やる気満々じゃねぇか。いいぜ、その喧嘩買ってやるから後悔すんなよ!」

 

俺は中枢の手を振り払い部屋を出ようとした時、奴は俺の目の前を艤装で再び遮る。

そして目の前の障害を吹き飛ばそうと両手の主砲を構える俺にこう伝えたのだ。

 

「話ハ最後マデ聞キナサイ。ソレト勝手ニ部屋ヲ出テイケバ貴方ガ危惧シテイル事ヲ実行ニ移スワ」

 

危惧していること、つまり部屋を出ればその時点で基地にいる響達に手を出すと言う事か。

ならば中枢共を今ここで潰すしかない。

 

武蔵、再装填は済んでるか?

 

ーああ、だが奴とて一大組織を纏める者だ。此処で戦闘になった際の策は用意してあるだろうー

 

策か……確かに此処は奴らのホームだが、策の一つや二つでやられる様な俺じゃねぇ。

 

ー私以上に脳筋であるお前さんが考え付かんのも仕方ない。だが、お前さんが先走った結果基地の仲間を失う可能性がある事も考えた方がいいぜ?ー

 

なにぃ!?じゃあテメェは俺に指を加えて待ってろって言うのかよ!

 

ー違う、奴の話が終わってないのだ。判断するのはそれからだろうー

 

奴の話……そうか、だが奴が次に言う事はほぼ分かりきっているんだから時間の無駄だと思うけどな。

俺は武蔵の意見を少しだけ聞き入れ直ぐにでも撃てるように構えながら背後に佇む存在へ続きを促す。

 

「で?最後に何を言うつもりだ?」

 

「フフ、賢明ナ判断ネ。デハ詳シク話ソウカシラ、賭ケノ内容ト賭ケルチップヲ」

 

賭け?そういえばさっき賭けがどうこうって言ってたか。

背後で不敵に笑う中枢の話を聞く為、俺は砲塔を下げて仕方なく後ろに耳を傾けたのだった。

 

 




指が進まない……不味い、そろそろストックが尽きる可能性が(;´Д`)


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第九十七番

ぐはぁ……このままでは、間に合わない!

白雪「何を言ってるんですか?転これの更新を止めてるんですからまだ行けますよね?」

え、ええとぉ……

白雪「行けますよね?」

……善処します。


中枢棲姫が提示した賭けの内容、それは至極単純なものであった。

 

「つまり、あそこの深海棲艦共に対して俺の仲間が話し合いを持ち掛ければ俺の勝ち。抵抗したり降伏又は逃走した際はお前の勝ちって事か」

 

「エエ、理解ガ早クテ助カルワ」

 

理解はした。だが納得はしていない。

というのも俺は響や長門については大丈夫だとは思っているが、他の面子がどう動くかなんて検討も付かないからだ。

そんな賭けに乗るつもりはないし何よりそんな事で響を危険に晒す訳には行かねぇ。

という事で俺は奴の提案を蹴り基地に戻ろうと考えていた。

だが、中枢の次の言葉で俺の気持ちは大きく揺さぶられる事となった。

 

「貴方ガ賭ケルモノハ最初に話シタ条件デ貴方ガ私ニ協力スル事。ソレデ私ガ賭ケルモノダケレド……ソウネェ、万ニヒトツデモ私ガ負ケル様ナ事ガアレバ組織全体デ貴方ノ理想ニ協力スルッテノハドウ?」

 

俺の理想……つまり響との幸せな日々、そして笑顔溢れる少女達との平和な世界。

その大きな障害となっている存在は二つ。

一つは言わずもがな現状の維持を目的とした正真正銘の化物共、海底棲姫達。

そしてもう一つが深海棲艦以外を淘汰する事による平和を目的とした此奴らEN.D。

だからこそ此処でこいつらの協力が得られれば残る大きな障害は一つとなる。

たが、問題は此奴の言う事が何処までか本気なのかという事だ。

実際俺の理想と此奴らの目的は180度反対であり、それに協力するとは到底思えない。

 

「それが本気なら賭けのチップとしては悪くねぇ。だが、てめぇの今の言葉を信用するだけの根拠がねぇな」

 

俺がそう言うと中枢は目を閉じたまま指を顎に当てて考え始める。

 

「ウ〜ン、貴方ヲ此処ヘ連レテキタ意味ヲ理解シテ貰エテルト有難カッタノダケレド……良イワ、貴方ガ勝ッタラ私ノ生殺与奪ヲ委ネルワ」

 

「ボ、ボス!?気ハ確カデスカ!!ゴ自身ガ言ッテイル意味ヲ理解シタ上デ仰ッテルノデスカッ!?」

 

正直此奴の生殺与奪を委ねられた所で結局信じる証拠にはならねぇじゃねぇか。

そこの戦艦が取り乱してる意味も解んねぇし……ってまぁ自分とこのトップがあんな事言い始めたら普通に焦るか。

そんな戦艦とは対照的に中枢は冷静に話を進めていく。

 

「マァ、コレダケジャイマイチピント来ナイカシラ?」

 

「ああ、根拠としてはさっぱりだな」

 

「ソウネ、簡単ニ言エバ私ヲ殺セバEN.Dノボスハ貴方ニナル。ソウスレバ貴方ノ意向ニ背ク者ハ殆ド出ナイシ、出タトシテモソレダケノチカラガアレバ従エル事モ容易イデショウ?」

 

なるほど、今の話からするにEN.Dっつうのは実力至上主義な組織らしいが……。

結局どこまで行っても此奴の話を信じる証拠にはなり得ない。

そこで俺は隅で俺らの様子を見ていたエリレに事実確認を取ってみる事にした。

 

「なぁエリレ、EN.Dの現リーダーである此奴を倒せば倒した奴が新リーダーになれるって話は聞いた事あるか?」

 

正直な所彼女が組織の事情に詳しいとは思えないが俺はエリレの返答を元に考えようと思い尋ねると、意外な事にエリレは直ぐに答えてくれた。

 

「ウンッ!ソノ話ナラ最初ニ聞イタカラ挑ミニ行ッタケド負ケチャッタヨ」

 

「フフ、配属サレタソノ日ノウチニヤッテ来タノハ貴女ガ初メテダッタカラ良ク覚エテルワ」

 

成程、エリレがああ言ってるのなら恐らく全体の認識で間違いは無さそうだ。

エリレの想像以上の行動力に驚きつつも中枢の話が出鱈目ではない事を確認した俺はどうするべきか次の返答を考えた。

 

だが、腹立たしい事にどれだけ考えようと結局の所俺に選択肢など無かったのだ。

何せこの賭けの内容、勝っても負けても俺にメリットが用意してある。

勝てば勿論の事、負けたとしても俺が協力する条件を使えば基地の奴らの安全は保証される。

 

つうか逆に此処で降りれば響達を危険に晒す事になる。

あれだけの戦力相手では一日堪える事すら厳しいだろう。

だからといって例え此奴を沈めて俺がリーダーになった所で奴らが言う事を聞く保証なんてないし、()()俺に反乱を止める力は無い。

だから俺が今出来る事と言えば賭けに乗り此奴等が不審な動きをしないか見張る事だけなのだ。

 

くそっ、俺が奴らについて行った時から……いや、もしかしたら空母の奴が基地に来た時から奴の手の上で転がされていたって訳か。

 

「……解った。但し二つだけ条件がある」

 

「ナニカシラ?」

 

「一つはお前が賭けに勝った際だが、響達基地の面々に危害を加える事は認めん」

 

「エェ。『鹵獲シタ艦娘ノ処遇ヲ貴方ニ一任スル』、ソレガ貴方ガ協力スル条件ナノダカラ当然ネ」

 

中枢は少しも考える事なくそう答えた。

やはり最初からここまでは想定してたって訳か。

まあいい、これは確認みたいなもんで本命は別にある。

それの返答によっては此奴を沈めEN.Dの奴らが従う事に賭けるしか無くなるだろう。

 

「開始の合図として改めて全員に伝えろ。()()()()()()()()()、ってな」

 

さて、どう答えるか。

もし中枢が奴らにそう伝えれば再度別の指示を此奴が出すまでは響達の安全は保証される。

そうすると俺が賭けに勝った時に響達を人質に賭けを反故にする事がほぼ不可能になる訳だ。

指示を出そうとした時点で潰しに掛かればまともに指示は出せないだろうからな。

 

だからこそこの条件を受けるかどうかで奴の狙いが分かると踏んだのだ。

しかし、中枢からは思っていたのとは少し異なる答えが返ってきた。

 

「解ッタワ。但シ決着ガ着クマデノ私ノ安全ノ為ニ貴方ニハ枷ヲ着ケテ貰ウワ」

 

「枷だって?俺を縛った位でどうにか出来ると思ってんのか?」

 

「思ッテナイワ。ケド貴方ガ枷ヲ千切ッタ時点デ基地ノ子達ノ無事ハ保証シナイワ」

 

ちっ、つまりこれは防犯ブザーみたいなもんって事かよ。

だが逆に言えば奴が不審な動きをした時点で止めに行けば止める事も出来る状況でもある。

奴の考えは解んねぇが状況としてはどっちも下手な事は出来ねぇ筈だ。

なら…………

 

「解った、拘束だろうがなんだろうが好きにすればいい」

 

「ソ、賢明ネ。ルフラ、彼ニ枷ヲ」

 

「ハッ」

 

扉側に控えていた戦艦が頑丈そうな鎖を俺の手足に次々と繋いでいく。

やがて両手両足を繋ぎ終えた戦艦が再び後ろに下がると、中枢は俺の姿に満足そうに頷いた。

そして腰に付けていた無線機と思われる四角い物体を口元に近づけ俺の条件通りに始まり合図を告げた。

 

「作戦内容ヲ改メテ伝エルワ。今回ハ艦娘共ノ行動パターンノ観察。観察対象カラノ攻撃ガアッタ際ハ反撃セズ速ヤカニ撤退スル事!作戦違反者ハ私ノ航空機ガ直々ニ雷撃処分サセテ貰ウワ、以上!」

 

『イエス!ボスッ!』

 

通信機越しでも聞こえてくる深海棲艦共の号哭を皮切りに遂に賽は投げられた。

これ以上俺が干渉出来る事は無い。

後は響達を信じて待つ事しか出来ない俺はその無力感に歯噛みしながらただ事の成り行きを見守り続けていた。

 

「響……頼む、お前だけは無事でいてくれ……」




オラに書き溜められる集中力をくれー!!

響夜「何もしてない時間に少しでも書けばいいだろうに」


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第九十八番~響~

ガチャの沼は怖いですねぇ。
危うく二体目の諭吉さんまでリリースしてしまう所でした。



 門長が深海棲艦達に連れられて基地を離れてから数日が経った。

今日も島の周囲を歩きながら電探を起動させて三人の帰りを待っているが今の所反応は無い。

 

「はぁ……」

 

どうしてこんなにも落ち着かないのだろう……。

別に門長がこうして基地を留守にするのは今に始まった事じゃない。

タウイタウイで別れた時はもう少し冷静だったはずだ。

あの時は帰って来るって信じていたから?じゃあ今は信じていない?

違う、門長は私を置いて居なくなったりしないって信じてる!

けどあいつはきっとエリレを救う為に無茶するかもしれないから、また()()()()()になってるかも知れないから……。

 

「どうした響?具合が悪いのなら明石に診てもらうか?」

 

付き添ってくれていた長門さんに声を掛けられ私はハッとして長門さんの方を向いて首を横に振った。

 

「ん~ん、大丈夫。長門さん、毎日付き合ってくれてありがとね」

 

「な、なに!私が勝手にやっている事だ、気にする必要はない」

 

長門さんは何故か顔を逸らせながらそう答えるが長門さんには本当に感謝している。

舞鶴に居た時から長門さんは司令官に楯突いてまで私を守っていてくれた。

門長に改修されてしまってもあの人は私を救ってくれた。

そして今もこうして私の傍にいてくれる。

 

長門さんにも門長にも私は返しきれない程の恩がある。

報いる術は今の私には分からない……けど受けた恩には報いなければ誇り高き特型駆逐艦の名折れだ!

どうすれば自分が皆の力になれるかなんて考えつつも気づけば島を周り終えていた。

 

「ありがとう長門さん。それじゃあ基地に……って、ん?」

 

今日も門長達は帰って来ていない。

その事を確認して内心肩を落とした私が基地へ戻ろうと長門さんに伝え電探に手を掛けた時、西北西の方角に反応が六つある事に気が付いた

 

「どうした、何か反応があったか?」

 

「うん。方位二九〇、距離四五〇〇〇に反応が六つあるんだ。門長達かな?」

 

「六隻か……確認の為水偵を飛ばすとしよう」

 

「うん、お願い」

 

長門さんに水偵を飛ばして貰い待つ事十分。

水偵妖精さんから長門さんに通信が入ってきた。

 

『かんえいかくにんしました!』

 

「艦娘か?それとも深海棲艦か?」

 

『えっと、かんむすではあるのですが……』

 

「なんだ?」

 

『じつは……』

 

水偵察妖精からの報告が余りにも予想外だったらしく長門さんは素っ頓狂な声をあげて聞き直していた。

 

「はぁ~あ!?それは本当なのか?」

 

『まちがいありません。そうびがしょきのものです。それにうごきもつたないしうえのちゅういもおろそかです。わたしのけんかいではれんどいちからごくらいのすいらいせんたいです』

 

「練度が五にも満たない水雷戦隊が中部海域に来ているだと?損害状況はどうなってる!」

 

『そんしょうはみうけられません。あってもしょうはくらいでしょう』

 

「損傷軽微だと?そんなばかな」

 

「長門さん!は、早く助けに行かないと!」

 

こんな海域をうろついている所を好戦的な深海棲艦に見つかったらすぐに沈められてしまうよ!

私は慌てて長門さんの手を引くけど長門さんは何やら難しい顔をしたまま一向に動こうとしなかった。

 

「長門さんっ!急がないと彼女達が危ないよ!!」

 

「待て、落ち着くんだ響。本当に低練度の艦隊だけなら無傷で此処まで来れると思うか?」

 

「それは……」

 

普通に考えたら無傷で中部海域まで来るなんて事はあり得ない。

けど今は事実として彼女達が居るんだからそんな事考えている場合じゃない筈だ!

 

「長門さん!今はそんな事気にしてる場合じゃないよ!いつ深海棲艦が彼女達に襲い掛かってもおかしくないんだよ!!」

 

「響……そうだな。だが彼女達を引き入れる事で基地の皆が危険に晒される可能性もある。罠や囮でないと言う保証が無いのだ」

 

「うぅ……」

 

長門さんの言っている事はわかる。

考えたくないけどもし彼女達が私達に対する罠であれば基地の皆に迷惑が掛かってしまう事は十分にあり得る。

でも、それでもすぐ近くで危機に瀕している彼女達を見殺しにするなんて事……。

 

「…………ふぅ、分かった。私が彼女達と合流してくるからその間に基地の皆に伝えて来るといい」

 

「長門さん……」

 

「もし皆の了承が得られなくても私が責任を持って安全な海域まで送り届けてやるさ。響、行ってくれるな?」

 

私の気持ちを察してくれた長門さんは私の頭を撫でながらそう言って微笑みかけてくれた。

私は長門さんにお礼を伝えてから力強く頷く。

 

「ありがとう、行ってくるよ。長門さん、気を付けてね」

 

「ふ、ビッグセブンを侮るなよ?話が纏まったら教えてくれ」

 

「わかった!また後でね!」

 

私は長門さんに別れを告げると直ぐにみんなに通信を繋いで食堂に集まって貰う事にして私自身も食堂へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂には長門さんと門長、それと球磨さんを除く基地の皆が集まっていた。

どうやら吹雪さん達も皆に伝える事があったらしくそのタイミングで私から通信が入ったらしい。

 

「響さん、早速ですがそちらの用件から聞かせて貰えますか?」

 

「えっと、うん。さっきまで島の周囲を索敵していたんだけど……」

 

私は低練度の艦隊を見つけた事、今は長門さんが接触しに向かっている事、そして助けたいけどそれによって基地全体に危険が及ぶ可能性がある事を伝えた。

 

「だから皆の意見を聞きたいんだけれど、どうかな」

 

真っ先に答えたのは吹雪さんだった。

 

「そうですね、今の状況を考えると不安要素は出来る限り持ち込むのは避けるべきですね」

 

「今の状況?何かあったのか吹雪」

 

吹雪さんの言い方に疑問を覚えた摩耶さんが尋ねると、吹雪さんと姉さんは表情を曇らせながら答え始めた。

 

「これはフラワーさんから聞いた話ですが、門長さんが基地を離れてからここ中部海域で不穏な動きがあるそうです」

 

「不穏な動き?詳しい話は聞いてるのか?」

 

「えぇ、どうやら各海域からこの中部海域に深海棲艦が集結しているらしいわ」

 

「話では鬼や姫級も集まっているそうです」

 

深海棲艦が集結している。

目的はきっと門長か私達のどちらかだろうと考えているのは私だけじゃ無いはず。

だからこそ吹雪さんや姉さん達はこの情報を重く捉えているんだ。

 

確かに深海棲艦からの侵攻が危ぶまれる中、海軍からも攻め込まれる様な事になっては目も当てられない。

 

でも……だからこそそんな危険な場所に彼女達を放っておくなんて出来ない。

それに彼女達を安全な海域まで送るにも長門さん一人が孤立してしまうのは幾ら何でも危険すぎる。

どうすれば……どうしたら良いんだろう。

 

その時、思い悩む私の頭にポンと何かが乗っかった。

顔を上げるとそこには姉さんが私の頭に手を乗せてニッと笑い掛けていた。

 

「姉……さん?」

 

「確かにここに連れてくるのは危ないかも知れない……だったら私達でその子達を安全な場所まで連れていけば良いわ!違うかしら?」

 

「それは……長門さんもそう言ってくれたけど」

 

「そう?ならそれでいいじゃない。勿論長門さん一人になんて行かせないわ!」

 

姉さんは私が心配していた事をあっさりと解決してくれた。

だが姉さんの勢いは留まる所を知らなかった。

 

「それと響、貴女も一緒に来なさい!」

 

「え……えぇっ!?そ、そんな私なんて付いてっても足手まといだよ!」

 

「暁さん!響さんをそんな危険な任務に連れていこうと言うのですか!?そんな事認められません!!」

 

姉さんの突然の提案に吹雪さんも堪らず猛反対するが、姉さんも引く気は無く真っ向から吹雪さんに対峙している。

 

「今の状況じゃ基地にいても同じよ!だったら私が響を護れる場所に置いておくわ!」

 

「でしたら私もついて行きます!貴女一人じゃ危なっかしいですから!」

 

「ばっ、馬鹿にしないでよね!というか基地の守りもしっかりとしないと駄目なんだから貴女は基地にいなさいよ!」

 

「二人とも落ち着いてよぉ!?」

 

突如始まった姉さんと吹雪さんの壮絶な言い争いの末、どっちが出撃するかはじゃんけんで決める事となった。

 

「いいわね?勝っても負けても恨みっこ無しの一発勝負だからね!」

 

「臨むところです!絶対に負けませんよ!」

 

「最初はグー!」

 

「じゃんけん!」

 

「「ポンッ!!」」

 

姉さん、グー。

 

吹雪さん、チョキ。

 

「いよぉっっっっしゃああああぁぁあ!!!」

 

「そんなっ……私が負けるなんて」

 

愕然と項垂れる吹雪さんだったが何かを閃いたらしく直ぐ様頭を上げると姉さんに指を差して言い放った。

 

「そうですよっ、六人の護衛に三人で行くのは厳しいでしょう!やはり私も護衛に付くべきですっ!」

 

けど吹雪さんの発案は姉さんによって棄却されたのだった。

 

「基地も護らなきゃ駄目だって言ってるでしょ?バランス的にも私と貴方がどちらも基地を離れるという訳には行かないわよ」

 

「で、でも姉さん。吹雪さんの言う通り三人で六人を護衛するのは大変だよ?」

 

「響さん……!」

 

「そうねぇ……確かに響の言う通りね」

 

「で、ではっ!」

 

姉さんは期待の眼差しを送る吹雪さんに目を合わせずに少し考えた後、姉さん達のやり取りを静かに見守っていた三人に声を掛けた。

 

「それじゃ卯月、望月、夕月。貴女達三人が付いてきてくれないかしら?」

 

「任せるぴょん!」

 

「うへぇ、まじかぁ……まぁ良いけどさ」

 

「ああ、了解した」

 

姉さんは三人の返事に頷くと改めて私達に呼び掛けた。

 

「それじゃあ準備が出来次第すぐに出発するわよ!四人ともついて来なさい!」

 

「「了解っ!!」」

 

そうして私達は工廠で準備を行い先に向かっている長門さんとの合流を果たす為に基地を出たのであった。

 

 

 

 

 




本当は課金なんてしてる場合じゃないんですけどね。
金銭的にもこっちのストック的にも。


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第九十九番~響~

な、何とか……間に合っ……た。




※第七十七番が意図しない処で重複していた為、サブタイトルを一部修正致しました。


長門さん達と合流を果たした姉さん達はその有様に愕然とした。

その水雷戦隊には旗艦が軽巡那珂、随伴艦として駆逐艦五月雨、満潮、曙、潮、若葉の六人が居たのだが、そのいずれもが報告通りの初期装備だったのだ。

 

「柱島第十一鎮守府第一艦隊旗艦、那っ珂ちゃんだよ!よろしくねっ!」

 

「あ、暁よ……ってそうじゃないわ!貴女達はどうしてこんな所に居るのよ!!ここを何処だと思ってるの!?」

 

明るく自己紹介を始める那珂さんに対して姉さんは怒涛の勢いで問い詰める。

しかし、那珂さんは何を責められているのか解っていないらしく目を白黒させながら五月雨へと助けを求めていた。

そしてその様子に気付いた満潮が前に出てここまでの経緯を話し始めたのだった。

因みに五月雨も那珂さんと一緒になってあたふたしていたので気付かなかった様だ。

 

「どうして来たかなんて司令官が出撃命令を出したからに決まってるでしょ!ここは中部海域だって事は聞いてるわ」

 

「はぁ!?そもそも貴女達程度の練度でここまで来れるわけないでしょ!他に高練度の艦隊はいないの?」

 

「そんなの居ないわ!そもそもここまで深海棲艦に一度も会っていないもの。深海棲艦の勢力が縮小してるんでしょ?」

 

満潮の言葉を受けて姉さんは言葉を失った。

斯く言う私も彼女の言葉が信じられなかった。

 

深海棲艦の勢力が縮小してるなんて有り得ない。

舞鶴に居た頃だって鎮守府正面には絶えず深海棲艦が侵入して来ていた。

それが一年もしない内に全てが撤退するなんて考えられないし、撃滅したなんてもっと考えられない。

 

私はその事を長門さんに相談するとやはり長門さんも同じ考えだった。

 

「うむ、だが那珂達が無傷で此処に居る事も事実。ならば考えられる事は二つだな」

 

「二つ?」

 

「そうだ。一つは妖精の力で此処までの直通ルートが出来たか。もう一つは深海棲艦達が何処か一箇所に集中した為に接敵しなくなったか」

 

妖精の力でそんな事が出来るのかは解らないけど長門さんが言うならきっと可能性はあるのかな。

ただ、もう一つの深海棲艦が一箇所に集まっている可能性。

これに関しては一つ思い当たる事がある。

EN.Dっていう深海棲艦の組織が門長を連れていったって事だ。

理由は解らない……けどもし門長を倒そうとするならそれ位戦力を集中させる必要があるかも知れない。

もしそうなら門長は……

 

「門長……」

 

「あ、いや……だ、大丈夫だ!他に大規模作戦があるのかも知れんし、そうでなくとも奴なら無事に戻ってくるさ!」

 

「……うん、ありがとう」

 

私を気遣って励ましてくれる長門さんにお礼を伝えて私は気持ちを切り替える。

門長なら大丈夫、それよりも今は彼女達を無事に安全な海域まで送り届ける事が先決だ。

 

「兎に角、まだ損傷がないのなら何よりだ。満潮、此処は深海棲艦の本拠地が近く非常に危険なんだ。私達が護衛するから直ぐにこの海域を抜けよう」

 

私が撤退するように伝えるが満潮達は不審感が拭えない様子であった。

 

「そんな話をはいそうですかと信じられる訳ないでしょ?仮に此処が本当に危険な場所だったとしてもそっちから来たあんた達をどうやって信じろって言うのよ」

 

「わ、私達はっ!」

 

私は事情を説明しようと口を開くが、すぐに姉さんの手に塞がれてしまい続けることは出来なかった。

 

「私から説明するわ。貴方達は少し前に壊滅した南方前線基地の話を知ってるかしら?」

 

「南方前線基地が?五月雨、何か聞いてるかしら?」

 

「へっ?南方前線基地ですか……?ええと…………あっ、そういえば前に提督とその周知を読みながら南方基地ってどこだろうねってお話しをしていました!」

 

「アイツ、基地の場所くらい把握しなさいよ……まぁ、それはいいわ。で?その話がどうしたっていうのよ」

 

南方前線基地が壊滅した情報は規模に関わらず一応全ての鎮守府に伝わって居たようだ。

けどその話を持ち出して姉さんは何を話すつもりなんだろう?

姉さんは満潮達が情報を持っている事を確認すると本題へと入った。

 

「ここに居るのは南方前線基地で生き残った数少ない艦娘の一人よ」

 

「はぁ!?そんな話を信じろっていうの?」

 

「信じるかどうかは貴女達次第だけれどこれは事実よ。そしてこの辺りには基地一つを壊滅に追い込める程の戦力を持った深海棲艦達が居ると言う事もね」

 

「………」

 

「満潮ちゃん……」

 

心配そうにしている五月雨に見つめられながら満潮は眉間を抑えて考えていた。

 

姉さんの話した事は一見嘘を吐いているように思える。

けど一つだけ疑いようのない事実があった。

それは深海棲艦側にそれだけの脅威が残っている事、そして南方前線基地から然程距離が離れていないという事実。

 

満潮も気付いて居るからこそ返答に悩んでいるんだろう。

自分達だけで撤退するリスクと私達に護衛を頼むリスクを秤に掛けているんだと思う。

 

やがて答えを決めたのか満潮は一度顔を上げて私達と顔を見合わせてから今度は深く頭を下げて言った。

 

「お礼は必ずするわ。だから、その……安全な海域までの護衛をお願いしますっ!」

 

「「お願い致します!!」」

 

満潮に続いて他の五人も一斉に頭を下げた。

そんな彼女達の誠意に答える様に代表して長門さんが一歩前に出て右手を満潮の前に差し出した。

 

「こちらこそ、短い間だがよろしく頼む」

 

長門さんの手に気付いた満潮はその手を両手でしっかりと握り返した。

 

私は目の前の光景にほっと旨を撫で下ろしていると、突然長門さんの通信機にアラートが鳴り渡る。

 

「む、どうした?なっ、なんだとぉ!?」

 

「長門さん?」

 

酷く取り乱した様子の長門さんにどうしたのか尋ねると咳払いをして気持ちを落ち着けた後、今起こった事を話し始めた。

 

「みんな、心して聞いて欲しい。今この海域は深海棲艦の大艦隊に完全包囲されている」

 

「大艦隊って……」

 

「水偵妖精からの報告では少なく見積もっても千、と言うより数えられない程の数が基地を中心に覆い尽くしているそうだ」

 

「は、はぁっ!!?意味が分からないわよ!そんな馬鹿な事がある訳……!」

 

「…………」

 

どうしよう。このままじゃ基地に戻っても彼女達を守る事はほぼ不可能だ。

と言うより私達ですら抵抗出来る数じゃない。

けど……諦めない……諦めたくない!

何かあるはずだ、何かが……。

 

 

 

 

 




指が進まない時は潔く定期投稿を諦める所存です。
(迷走防止の為)


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第百番~響~

本作をご覧の皆様大変お待たせ致しました!
本日改めて再開致します!

ストックは……まあ一応用意しましたので暫くは定期投稿が出来る、か……と?


長門さんの水偵からの報告では百以上は確認されているらしい。

一箇所の偵察でこれなのだから周囲を囲っている深海棲艦の総数は少なく見積もっても千は越えているという事になる。

数だけでも離島さんの時の十倍以上はおり、その上鬼や姫と言った個体も多数存在しその戦力はチュークと呼ばれる海底棲姫の一角にも匹敵するだろうと長門さんは言っていた。

 

チューク

 

その言葉を耳にした時、私の心が恐怖で覆われそうになった。

けど長門さんが何も言わずに私の手を握ってくれたお陰でどうにか平静を保つ事が出来た。

私はその手を強く握り返しゆっくりと深呼吸をして気持ちを切り替えるよう努める。

 

ともあれそれほどの戦力を一箇所に集中させるとなると相当な規模の組織が動いているのが想像出来る。

そんな大組織が幾つもあるとは思えないしそれ以前に私達と関係のある組織なんてEN.D以外に考えつかなかった。

けれど同時に一つの疑問が浮かび上がる。

 

「長門さん、奴らはどうして此処までの戦力をこの基地に集めたんだろう?」

 

というのも門長が居ない事は奴らが一番良く知っているのだ。

なんせ門長はEN.Dの奴らに連れられて行ったのだから。

その事を伝えてある長門さんは顎に手を当てて少しばかり考える素振りを見せてから予想を口にした。

 

「そうだな……短期決戦による我々の掃討又は制圧というのが真っ先に思い付く可能性ではあるが、それを踏まえても過剰戦力である事は変わるまい」

 

「そうだよね。だけど他に何が考えられるだろう」

 

相手の目的が分からず、動く事も出来ないまま時間だけが過ぎていく。

そんな状況に堪えかねたのか彼女達が動き始めてしまった。

 

 

「何なのよ……ああもうっ!こうなったら一体でも道連れにしてやるわよ!」

 

「み、満潮ちゃん!?待ってぇ!」

 

希望が見えない状況に追い込まれた満潮が遂にヤケを起こし単艦で深海棲艦の方へ向かい始めてしまったのだ。

五月雨が慌てて止めようと手を掴むも呆気なく振り払われてしまう。

 

「はぁ……まあでもあいつの言う通りよ。どうせ助からないなら一隻でも数を減らしてから沈む、それが私達艦娘の使命よ」

 

「曙ちゃん!?」

 

「潮、あんたはどうすんの?残念だけど助かる道は無いわよ」

 

「わ、私は…………行きます。最期まで曙ちゃんと一緒に!」

 

「……そ、せいぜい足手まといになるんじゃないわよ!」

 

「えぇっ!!曙さんや潮さんまでもですか!?若葉さんも那珂さんも気をしっかり持って下さい!」

 

「うぅ……しかし……な」

 

「那珂ちゃんまだやりたい事いっぱいあったのにぃ〜!」

 

更には曙達まで覚悟を決めて満潮に続こうとしている。

那珂ちゃんや若葉は今の状況に絶望しきってしまっているようだ。

ダメだ、このまま満潮を行かせる訳にはいかない。

 

「ま、待って!!」

 

「……なに?」

 

「なんなのよ、話があるならさっさとしなさいよ!」

 

「うぅ……」

 

満潮と曙に睨まれ思わずたじろいでしまったが一応は足を止めてくれた。

 

「お前達が駆逐艦であった事に感謝するがいい」

 

なんて長門さんが門長みたいな事を呟いてたけど気にしないことにして満潮達の説得を試みようと口を開いた時、突如私宛に通信が入ってきた。

門長からかも知れないと直ぐに通信を繋いだ。

 

『イクなのねー!響ちゃん達に報告があるのねっ!』

 

「えぇ……と…………」

 

残念ながら門長では無かった。

と、いうより……どうしよう。向こうは私達の事を知ってるみたいだし多分知り合いだと思う…………けど、誰だろう。

 

「……長門さん」

 

「どうした?誰からの通信だった?」

 

「あのね?イクさんって人覚えてる?」

 

「なんだイクか」

 

良かった、長門さんが覚えてるなら話を代わって貰った方が良いよね?

 

「じ、じゃあ話を──」

 

そう言って長門さんに代わろうとしたんだけれど、何だか長門さんの様子がおかしい事に気付いた。

 

「イクね……まぁ、そうだな……」

 

「長門さん?」

 

「あ、あぁ……勿論覚えているぞ!初対面ではない……はず」

 

『……響ちゃんは仕方ないとしても長門さんには覚えていて貰いたかったのね』

 

あ、マイク切り忘れてた。

 

「あ、えと……ご、ごめんなさいイクさん!」

 

「す、済まないイクとやら。奴から離れた時に記憶の欠損があった様だ」

 

『長門さんの話は言い訳臭いけど慣れてるから別に良いのね……気にしてないの。そんな事より大事な事を伝えに来たのね!』

 

イクさんは気にしていないと言っていたけどその声は少し寂しそうだった。

もう忘れてしまわない様に今度イクさんと一緒にお話しよう。

私はそんな思いを胸に刻むとイクさんからの報告を尋ねた。

 

『さっきまで旗艦と思われる深海棲艦の真下にいたけど、全く攻撃が来ないのね!』

 

「へっ?何でそんな所に行ってるんだい!?」

 

『基地周辺を哨戒してたら見つけたの!だから深深度から微速で直下まで行ってから傍聴してたんだけどイクを警戒するどころか探信音一つ聞こえてこないのね』

 

「それは聴音機(パッシブソナー)で既に見つかってるとかじゃないのかい!?」

 

『それも考えたけどもしそうなら陣形を変えるなり何かしら動きがあるはずなのね』

 

なんて無茶をするんだ……幾ら深深度からの偵察とはいえ見つかってたら振り切るのだって容易じゃないだろうに。

 

けれどイクさんがくれた情報はとても貴重だ。

本気で攻め落とすつもりなら例え私達の中に潜水艦が居なかったとしても警戒は怠らないに違いない。

それは殆どの水上艦に取って脅威になるからだ。

対潜警戒を行わないというのは見えない敵を相手にするだけでなく手の内すらも相手に筒抜けになってしまいかねない。

フラヲ達から聞いた限りそれは深海棲艦側に取っても同じ事で、深海棲艦達も潜水艦以外は基本的に砲雷撃や艦載機の発艦等は行えないらしい。

 

だから相手が全く対潜警戒を行わないと言うのは普通では考えられない。

私は直ぐにイクさんの話を自分の考えも織り交ぜて皆に伝えた。

 

「なるほどな、確かに通常の艦隊戦では考えられんな」

 

「そうね、でもそれがどうしたって言うのっ?潜水艦なんか気にしなくても良いくらい戦力差があるって事でしょ!」

 

「ま、順当に考えればそうなるわよね。事実相手が対潜警戒してないからどうにかなるって訳じゃないだろうしね!」

 

「満潮や曙の云う事は最もだよ。けどそれだけじゃない、相手は空母や航空基地が居るにも関わらず未だ艦載機すら発艦させていないんだ」

 

「なによまどろっこしいわね、それがどうしたって言うのよ。さっさと結論を言いなさい!」

 

「そうね、アンタの考えを聞かせてくれるかしら?」

 

私が此処まで話した時点で長門さんは現状の異常さを理解していた。

後は柱島の曙と潮も何かおかしい事に気が付いた様子だった。

私は一拍置いてから自身が辿り着いた答えを発表する。

 

「実際の所は分からない、けど相手の目的は恐らく私達の降伏……正確には私や姉さん達基地に居る皆の降伏、だと思う」

 

「はぁ?深海棲艦が降伏勧告を出してるって言うの?流石にそれは無いでしょ。てかそれじゃあアタシ達はアンタ達に巻き込まれただけって事になるじゃない」

 

「うん……降伏勧告かどうかは推測だけど狙いが私達なのは殆ど間違いはないと思う。だからこそ柱島の皆だけなら助かる術はあるとも思ってる」

 

「なにそれ!アンタ本気で言ってんの!?」

 

「もちろん本気さ。一分でも可能性があるならそれに賭けてみるべきだ」

 

応じてくれるかは分からないけれど今の状況なら話す事位は出来る筈。

 

後は……

 

「長門さん。これから私は彼女達と柱島の人達だけでも帰して貰える様に交渉してくるよ」

 

「そ、それは……わ、私が行ってこよう!」

 

「いや、長門さんだと相手を警戒させてしまうかも知れないし私一人なら彼女達も迂闊には手を出さない……と思う」

 

「響っ!貴女一人で向かうつもり!?何か考えがあるのかも知れないけどそんな無茶はさせないわよ!!」

 

「大丈夫だよ姉さん。リスクが無い訳じゃないけどきっと私を攻撃して来る事はないよ」

 

門長に対しての人質として使うなら沈めには来ないと思う。

もし門長を既に倒しているなら構わずに撃ってくるだろうけど()()()()()()()()

けど私以外は不測の事態に備えて逃げれるように準備しておいた方が良いのも確かだよね。

 

「長門さん、私が向ってる間に基地の皆とも連絡を取って何時でも撤退出来る準備をお願い出来るかな?」

 

「それは構わないが……本当に一人で行くのか?」

 

「うん、大丈夫。私は信じてるから」

 

「……そうか。わかった、必ず無事に帰って来るんだぞ」

 

「もちろん、不死鳥の名は伊達じゃないさっ」

 

私は長門さんにそう伝えてその場を一人離れ、イクさんから旗艦と思われる深海棲艦の下へと進み始める。

帰ったらきっと吹雪さんや摩耶さん達に叱られるんだろうなぁ。まあでもそれはそれで幸せな事なのかも知れない。

これから危険域に入ろうと言うのにそんな暢気な事を考えてる自分に苦笑しながら改めて気持ちを引き締めて速度を上げたのだった。

 

 

 

 



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第百一番~響~

 長門さん達と別れてから凡そ一時間が経とうという時、水平線上が黒く見え始めた。

遂に視認距離に入ったという事だ。

思わず足を止めてしまっていた私は既に内心は穏やかでは無かった。

此処に来るまでもいつ集中砲火を浴びても可笑しくないという恐怖に苛まれ何度も足を止めそうになっていた。

それでも砲声や艦載機のエンジン音が聞こえて来ない事と超性能な電探で相手が見えているという事実を自分に言い聞かせて何とか足を進めていた。

だけど相手の姿が直接見えるようになって今まで抑えつけていた恐怖心が再び暴れだした。

 

怖い……嫌だ……戻りたい……長門さん……門長ぁ……

 

もう駄目だ、膝がガクガクでこれ以上動けないよぉ……

 

深海棲艦達の砲身全てが私に向けられ今にも放たれようとしている。

怖い……逃げ出したい…………けど、駄目なんだ。

皆に護られてばかりなんて……迷惑を掛けてばかりなんて……そんなのは嫌だ!

互いに支え合い、助け合って困難を乗り越えて行くのが仲間なんだ!

だからこれは私の役目。そう、私にしか出来ない事なんだ。

 

「動けっ……立ち止まるな!」

 

自分の膝を思いっきり叩いて喝を入れる。

そして腕で涙を拭い足に力を入れて前に進み始める。

 

「ただ護られて居るだけの私じゃ……ない!」

 

大丈夫、怖くなんかない!

周りの威圧なんか気にも留めず私はただ突き進むだけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた先には長く二股に分かれた前髪と頭に大きな角を生やした人型の深海棲艦が本人よりも大きな異形から伸びる砲門をこっちに向けて待ち構えていた。

 

「戦艦……棲……姫?」

 

その姿は知識としてのみ知っている存在、戦艦棲姫に類似していた。

しかし、その答えは本人によって訂正される事となった。

 

「奴ト一緒ニサレテハ困ルナ、ワタシハ戦艦水鬼改ダ」

 

「戦艦水鬼……改?」

 

言われて見れば資料や写真で見ていた戦艦棲姫とは特徴が違っている事に気が付いた。

でも戦艦水鬼は確か二回り程大きな連装砲だった筈……

 

だが戦艦水鬼改はそんな私の疑問なんかに興味は無いらしく続けて口を開いた。

 

「マア名前ナドドウデモイイ。ソレヨリモ駆逐艦、貴様ハ何ヲシニ単艦デ此処マデキタノダ。特攻カ?」

 

「ち、ちがう。私は……私は……」

 

此処で私はもう一度此処まで来た理由を思い起こした。

 

降伏しに来た?

 

ちがう!

 

仲間を逃がして貰いに来た?

 

……いや、そうじゃない。

 

私が此処まで来た理由、それは……

 

「話し合いに来た!」

 

私は戦艦水鬼改を真っ直ぐ見つめてそう答えた。

相手は目を細めると何も言わずにじっと見つめ返してくる。

永遠に続く様な錯覚さえ覚えるような張り詰めた静寂は遂に戦艦水鬼改の溜息によって破られた。

 

「ハァ……デ?ワタシト何ヲ話シ合オウトイウノダ?」

 

「えっ……ええと……」

 

「……マァイイ、コチラカラノ要求ハヒトツ。降伏シロ、ソウスレバ貴様ラノ命ダケハ助ケテヤロウ」

 

「…………」

 

やっぱり私達の降伏が目的なのかな?

でも、その要求自体がなんの為なのかが分からない。

 

「その要求に答える前に一つ聞いて良いかい?」

 

「ナンダ?イッテミロ」

 

「その指示を出したのは誰だい?」

 

「ソノ答エヲ貴様答エル義理ハナイ」

 

戦艦水鬼改は答えなかった。

けど、それこそが私に確信を与える答えとなった。

私は気持ちを落ち着けて改めて相手の目を見てこう答えた。

 

「私達は降伏はしないよ」

 

「ドウイウ事カ解ッテ言ッテイルノカ?」

 

私の答えに戦艦水鬼改は怪訝そうな顔で聞き返して来る。

けれど私の答えは変わらない。

 

「私は話し合いでの解決を望んでる。けどそれは決して降伏なんていう結果じゃない」

 

「我々ト対等ナ立場トデモイウツモリカ?」

 

「そうだね。私自身にはなにも力なんてないけど、話し合いで解決出来なければお互いが不幸になってしまう未来は見えているよ」

 

「フフフ、我々ノ未来ヲ人質ニ取ルトデモイウツモリカ」

 

戦艦水鬼改はそういって真に受けていない。

しかし、私は何も嘘を吐いてはいない。

問題は目の前の相手に何処まで話が伝わって居るかが解らない事だ。

もし何も伝えられてなかったり戦艦水鬼が門長を脅威に感じていなければ私は此処で撃たれてしまうかも知れない。

 

けど、私は信じる。

信じたからこそ此処まで来たんだ!

仲間や門長だけじゃなく、EN.Dの人達も!

 

「私は誰にも不幸になって欲しくない。幾ら夢や空想と言われてもそれが私の望みなんだ」

 

「クダラナイナ。ソンナノハ世界ヲ知ラナイオ子様ノ思想ダ」

 

「なんと言われようと私の気持ちは変わらない。EN.Dの人達にも幸せな世界を生きて欲しい」

 

「フフ、私ガ不幸トデモ言イタゲダナ?」

 

「確かに不幸かどうかは私が決める事じゃない。けど、こうして話し合えるのに相手を憎む事で分かり合えないのはとても悲しい事だ」

 

彼女達の恨みがどれ程の物かは解らない。

それでも相手を憎み話す事を一方的に拒絶していては分かり合う事は出来ない事だけは解る。

例え憎しみの強さが違うとしてもきっと彼女達は以前の私と同じなんだ。

だったら私は分かり合う事を諦めない。

長門さんが私を見守ってくれていた様に、そして……あいつ(門長)がずっと私を見捨てないで居てくれた様に!

 

「だから私はEN.Dの人達と分かり合おうとする事を止めない!」

 

「……ッチ、妄想ト現実ノ区別ガ付イテナイ餓鬼ガァ!少シ痛イ目ニ会ワナイト現実ガ見エン様ダナ!」

 

「っ……!」

 

痺れを切らした戦艦水鬼改が私を手に掛けようと背後の異形が大腕を振り上げたその時。

 

『テメェ……ぶち殺されてぇか!』

 

相手の通信機から突如響いた男の声が目の前で振り下ろされようとする大腕を止めていた。

 

 

 



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第百一番~狂~

百一番が二つあるのはいつもの仕様です。


 中枢棲姫のゲーム開始の合図から早くも一時間が経過していた。

状況としては奴にとっても俺にとっても予想外な展開となっていた。

まず初めに俺にとっての予想外だったのは俺らとは関係のない海軍所属の艦娘が巻き込まれていた事だ。

 

「おいっ、あいつらは……」

 

俺は無関係を伝えようと目を開き中枢の顔を見て思い止まった。

 

「アイツラ?彼女達ガドウシタノカシラァ?」

 

「まさか、てめぇの差し金か……?」

 

「アハ、ナンノ事カシラ?私ガ彼女達ヲ呼ンダトデモイウツモリ?」

 

このアマがぁ……嘗めた真似しやがって。

だが俺が此処で無関係を主張しようと奴は認めないであろう事は理解できた。

そしで俺の状況が変わっていない以上結局響達を信じて待つ以外選択肢はないと云う事もな。

 

「ちっ、くそムカつくアマだぜ!」

 

「アラアラ、随分ト嫌ワレテシマッタワネ」

 

中枢は口角を吊り上げて不気味に笑うが俺はそれを無視して目を閉じ再び響達に視界を向ける。

そして俺は再び驚愕した。

なんと響が単艦で深海棲艦の方へ向かい始めたのだ。

 

「な……響っ!?」

 

「マサカ……特攻デモ考エテルノカシラ?」

 

その様子に中枢すらも驚きを隠せずにいた。

確かに俺は響に託していた訳だが、まさか長門すら連れずに向かうなんて思わなかった。

今回に限って言えばその行動は正解であるとも言えなくはないが、実情を知らない響が選択するには余りにも危険過ぎる賭けなのだ。

 

「響……なんて無茶をしやがる」

 

長門の奴、一緒に居ながらどうして響を一人で行かせたんだ。

奴には後でじっくり話を聞く必要があるが今は響の行く末を見守る事が先決だ。

それに響を一人で行かせた以上長門達が勝手に動く事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから更に二時間が経った今、遂に俺と中枢の戦いに決着が着いた。

 

『だから私はEN.Dの人達と分かり合おうとする事を止めない!』

 

「……決まりだな、さあ早く撤退させな」

 

響は奴らとの和解を微塵も諦めるつもりは無いと言ってのけたのだ。

あれだけの深海棲艦に砲門を向けられながらも臆する事無く言い切った。

これ以上は響が言葉を変える事はあり得ないだろう。

 

「ソンナバカナ……和解ナンテアリエナイ…・・・有リ得ル筈ガナイワ!」

 

「てめぇらがそう考えている限りは有り得ねぇだろうな。それでも響は手を差し伸べる事を止めない」

 

「ウソヨ、アンナ駆逐艦ニ……クソッ……『妄想ト現実ノ区別ガ付イテナイ餓鬼ガァ!』」

 

怒りと悔しさに満ちた怒声を上げた中枢。

だがしかし、俺はその声がダブって聞こえた事に嫌な予感を感じた。

そして俺がすぐさま目を閉じるとその予感は確信へと変わる。

怒り狂った戦艦水鬼改はその背中の異形の腕を大きく振りかざし響に襲い掛かろうとしていたのだ。

俺は通信機を通してすかさず止めに入る。

 

「テメェ……ぶち殺されてぇか!」

 

『貴様ハ……ソウカ、貴様ガトナガカ。私ヲ沈メルダト?面白イ、ヤッテミロ!』

 

『あっ、ぐぅ……!』

 

だが奴は一度は手を止めるも今度は俺を挑発するかのように異形の腕で響を掴み上げやがった。

 

あのクソアマが……いいぜ、殺してヤるよ。

 

「今すぐ殺シに行ってやるカラ覚悟シろ」

 

ーおいっ、落ち着け門長!艤装を展開したら元には戻れんぞ!ー

 

ウルさい、少し黙レ。

 

俺は武蔵を意識の端に追いやると鎖を引きちぎり外へ出ようと歩き始める。

とその時、唐突に背後から肩を掴まれる感覚に俺は振り返る。

 

「ナンダ、邪魔するならテメェから潰すぞ」

 

「……作戦行動中ノ全軍ニ告ゲルワ。作戦ハ終了、速ヤカニ撤退シナサイ。戦闘ヲ継続スル者ハ雷撃処分ニ処スワ」

 

「……」

 

俺が振り払うよりも先に中枢は奴らに撤退を命じた。

その声を皮切りに中部基地を包囲していた艦隊は次々と海中へと帰って行く。

戦艦水鬼改も響から手を離し一瞥だけすると何も言わずに海中へと去って行った。

 

「戦艦水鬼ノ行動ニツイテハボスデアル私ガ責任ヲ取ッテボスノ座ヲ降リルワ。ソレデ許シテ貰エナイカシラ?」

 

「そうか、個人的には奴を沈めてぇ所だが……響も無事だしいいだろう。それで、テメェはどうする気だ?」

 

「ソウネ、ワタシハ消エルトスルワ。EN.Dノ元ボスガ健在ダト部下達ガ納得シナイシネ。後ハ貴方ガボストシテ組織ヲ好キニ使ウトイイ。ワカラナイ事ガアレバ其処ノル級ニ聞ケバイイ」

 

「ボス……!」

 

それだけを話すと中枢は扉の方へ歩き始める。

その姿を見ながら響が無事だった事で落ち着きを取り戻した俺は少しだけ考えた。

以前の俺なら此奴がどっか行こうが知った事では無かったが今はそういう訳には行かねぇ。

響はきっとこいつ等が不幸になる事を良しとはしないだろう。

きっと救いたいと望んでいる筈だ。

だったらどうするかなんて決まっている。

 

中枢が扉に手を掛けようとした所に俺は割って入る。

 

「よし解った。じゃあEN.Dのボスとしてテメェの脱走は認めねぇ」

 

「……ソウ、マア当然ヨネ。イイワ、撃沈処分ナリ何ナリ好キニシナサイ」

 

そう言って艤装を解除し両手を広げて見せる中枢に対して俺は少し考える素振りを見せてからこう言い渡した。

 

「そうだな……テメェを沈めたら部下共が復讐に来て面倒な事にならないとも限らねぇしなぁ。よし、表向きにはボスはお前のままで俺とは協力関係って事にすりゃあいい」

 

「ハ?本気デ言ッテイルノ?」

 

そこまで驚かれる様な事を言ったつもりは無いけどな。

 

「勿論だ。ぶっちゃけそんな馬鹿でかい組織の指揮なんて面倒な事やりたくねぇし何より響がたった一人で奴らの前に立って覚悟を示したんだ。俺が邪魔をする訳にはは行かねぇだろう」

 

「アノ駆逐艦ニ何ガ出来ルッテイウノ?」

 

「駆逐艦として練度相応の事しか出来ないだろう、今はな?だが響の真っ直ぐな思いはいずれ世界を変える。俺はその道となり橋となる為にこの力を使うつもりだ」

 

中枢は俯いたまま黙って聞いていたが俺が語り終えた所で徐ろに肩を細かく震わせ始める。

 

「フフフ……アハハハハッ!世界ヲ知ラナイ小娘ノ戯言ヲ本気ニスルナンテ貴方モ随分ト無垢ナノネ!」

 

「てめぇ……どうしても俺に喧嘩を売りたいようだな!」

 

俺が砲身を中枢へ向けて威圧するもそんな事気にする様子もなく中枢は話し続けた。

 

「面白イワ!ソノ駆逐艦ガ夢カラ醒メタ時、貴方ハ果タシテドウナルノカ楽シミダワ!」

 

「あ"あ"!?んな事にはならねぇ!響なら必ず平和を実現出来るに決まってんだろ!」

 

「アハッ、楽シミニシテルワァ。ソレデボス?具体的ニワタシハ何ヲ協力スレバイイノカシラァ?」

 

「あ?具体的にだって?」

 

一ミリも実現出来ると思っていない中枢の態度に苛立ちつつも中枢の質問に対して考えを巡らせる。

そこで俺はこの後の事を考えて居なかった事に気付いた。

 

仕方ねぇだろ!そもそもこいつらの組織をどうするか考える間もなく今回の騒動が起きたんだから考える余裕なんか無かったんだよ!

 

「それについては戻ってから話し合うからテメェも基地に来い」

 

「アーッハッハッハッ!ソンナンデ本当ニ大丈夫〜?EN.Dガ貴方ノ配下ニ入ッタ以上事態ハ直グニデモ動キ出スワヨォ?」

 

「うるせぇ!テメーは黙って付いて来れば良いんだよ!」

 

「ハイハイ、ボスノ命令ニハ逆ラエナイシ仕方ナイワネ」

 

くそ、鬱陶しい野郎が……放っとけば良かったか。

突然テンション上げやがって何なんだ一体。

だが問題の一つであったEN.Dに関しては解決したも同然だろう。

後は残る深海棲艦も引き込めれば良いが……。

ま、とにかく今は帰って響を愛でる事にしよう!

エリレと空母と中枢を連れてEN.D本拠地を離れた俺は明るい未来予想に心躍らせて帰ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「門長……貴方ハ果タシテ()()ト違ウ答エヘト辿リ着ケルノカ、楽シミニシテルワヨ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からは第五章へと突入します!
一章が短い?区切りが中途半端?
それがわたくし上新粉作品の定め!

なるべくなら章の区切りはちゃんとしたいんですけどねぇ……


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第五章
第百二番


第五章開始!!


 俺は少女を守れなかった……正しくは少女の心を守る事が出来なかったのだ。

 

「ひぐっ……ひっ……そんな……ぐすっ」

 

俺に背を向けた状態で膝を地に落とし泣きじゃくる目の前の少女。

そんな少女が抱えて居るのは既に冷たくなってしまった彼女の姉。

その先で今にも仕掛けて来ようとしている刀を構えた黒髪長髪の女……そして、艦娘や深海棲艦が入り混じった大艦隊。

その中には少女が信じた者達も混じっていたのだ。

 

目の前の黒髪の女は残酷な真実を突き付けるように少女へ言い放った。

 

「この世界に争いの無い平和など存在しない。故に闘争を以て調和を成すのだ。そして調和を乱す者は世界から淘汰される。目の前の現実こそがその証明となろう」

 

「なんで……そん…………わからない……わからないっよぉ!」

 

「貴様にも夢の終わりが来たのだ。受け入れろ、現在を」

 

「ひっぐ……い……嫌だ……嫌だよ……こんなの……現実じゃない……信じ……ない」

 

俺は少女の力になりたかった。

少女の願いを叶えたかった。

だがその為に俺がやって来た事は結果的に彼女を傷付けるだけのものであった。

友も、仲間も、そして親愛する姉すらも失った少女は世界に絶望しきった視線の合わなくなった瞳で、壊れかけの心で俺の方を見てうわ言の様に呟いた。

 

「と……なが、おね……がい…………こんな世界……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──もう……見たくない──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あああぁあああああぁああああああ!!!!」

 

「はわわ!?びっくりしたのです!」

 

「ごはぁ!!?」

 

うぐぐ……上も下も痛てぇ。

一体何がどうなって……ってあれ?夢?

 

辺りを見廻すが外の景色も基地の中も変わり映えしない日常が広がっていた。

何だかとんでもない悪夢を見ていた気がするが今さっき受けた衝撃と下腹部の激痛により頭の中から抜け落ちてしまったようだ。

というかいつの間にか自分の部屋にいるんだが。

たしか基地について真っ先に響に会おうと執務室に向かったはずなんだがそっからの記憶が……。

 

「門長さん、おはようなのです」

 

「お?おはよう電……ってどうしてここに?まさか俺を迎えに!?」

 

「響ちゃんを危険な目に合わせた門長さんには罰を受けて貰うのです」

 

えぇ、えっと……?

状況が全く理解出来ないが誰か説明を求む。

俺が辺りを見回すと抱腹絶倒する中枢棲姫と暗い微笑みで此方を見つめる電ちゃん以外は見当たらなかった。

 

う~む、中枢の奴は後で懲らしめるとして電ちゃんに状況を聞くとする……いやまて!

俺が此処に来るまでの記憶がないという事は暴走したか誰かに気絶させられたかという事になる。

だが暴走したのであれば自分の部屋で目が覚めるというのは少し考えにくい。

となると後者だが、俺が簡単に気絶するとは考え難いものの、嘗て俺に恐怖を感じさせた目の前の彼女ならばありえる話なのも事実だ。

 

そうなると下手な事聞いて電を刺激するのは不味いか……そうだ!武蔵、基地についてから今に至るまでに何が起きたか状況の説明を頼むぞ。

 

ーん?ああ、大凡お前さんの想像通りさ。電がお前さんの帰投するや否や至近距離で連装砲を急所に一撃。そして首のそいつを着けてここまで引きずって来たって所だなー

 

なるほど……道理で下腹部に激痛が走るわけだ。

危うく俺の息子が親不孝者になってしまう所だったのか。くわばらくわばら。

だがしかし響を危険な目に合わせたのは確かだし受け入れるとしよう。

…………で、この首についてる首輪は何だ?響に会いに行ったら爆発するのか?

 

ーさぁ、私には普通の首輪に見えるな。強いて言えば鎖の先を電が持っているくらいか?ー

 

そうだな。ならそこは電に聞いてみるのが一番早いか。

 

「なぁ電?俺の首に着けられた首輪は一体何なんだ?」

 

「はいっ、門長さんが勝手に居なくならない様にこの鎖を響ちゃんに持っていて貰うのです!」

 

電は先ほどとは打って変わって溢れんばかりの笑顔で答えてくれた。

束縛系幼女かぁ。それはそれであり……って響が?

 

「いや、それって寧ろ響に対する嫌がらせな気も……」

 

「響ちゃんからは承諾を貰っているのです。それと、犬は四足歩行なのですよ?」

 

「…………」

 

電からの有無を言わさぬ圧力に屈した俺は黙ってその場で両手両膝を着いた。

 

「アッハハハハハハッ!!ソノ姿最高ニ面白イワヨ!」

 

「笑ってんじゃねぇぞゴラぁ!!」

 

「四足歩行なのですよ?」

 

「あ、はい……」

 

くそぅ…………もうどうにでもなれっ。

 

「それと中枢棲姫さん。あなたにも()()()()()()()?」

 

「イ、イエ。遠慮シテオクワ……」

 

これは相当頭に来てますわ電ちゃん。

これ以上余計な事を言えば本当に首輪が爆発しかねないな。

 

「それじゃあ食堂に行くのです。港湾さん所のフラワーさんとル級さんもみんな集まって居るのです」

 

ああそうだ。今回の事と今後の事を話し合わねぇとと思って居たんだったな。

なんで電がそれを知っているのかは分からないが恐らく中枢から少し話を聞いたのだろう。

俺は電に手綱を引かれて四足のまま食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に入ると当然ながら全員の視線が俺達の方へ集中する。

全員の反応は殆ど同様であった。

 

「あれはっ、春に存在が確認された中枢棲姫ではないですか」

 

「アレガEN.Dノリーダー……」

 

まず初めに目が付くのは深海棲艦であり三人の中で一番高い位置に頭がある中枢棲姫。

 

「あれ?電、門長さんは何処にいるの?」

 

「そういえば少佐の姿が見当たりませ……」

 

「ぶふぅ!ちょっ、おま!?」

 

そして俺の姿を探す者。

まあ奥の方にいる奴は俺が入った時点で気付いたのか既に吹き出しているが……摩耶と明石と金剛に長門、テメェらは今度演習でボッコボコにしてやっから覚えてろよ。

 

電は響を呼ぶと俺の手綱を手渡していた。

受け取った響は少し困った様に照れていたが俺に目配せをしてからゆっくりと部屋の真ん中へと歩いて行く。

正直このままでも良いなと思ってしまったのは此処だけの話だ。

 

ードン引きだなー

 

此処だけの話だっつってんだろうが!聞いてんじゃねぇ。

 

ー聞きたくなくとも聞こえて来てしまったんだ。しかたなかろう?ー

 

ちくしょうがっ。

……まあいい、それよりも今は折角全員集まってる事だしさっさと話しを始めるとしよう。

 

「えーと、まずは俺の現状についてだが響を危険な目に合わせた罰を受けている所なんで気にするなと言っとく」

 

「ま、まあ当然ね!門長さんがいない間大変だったんだから!」

 

「そうですよ!何も相談も無く此処を離れてしまうなんて。貴方は私達が任せた事を理解していなかったのですかっ」

 

吹雪達が俺に任せた事……あっ。

俺は吹雪達が今も俺に変わって港湾の所の護衛任務を受けて貰っている理由を思い出した。

 

「そうだった……すまなかった」

 

俺は反論することなく四つん這いのまま吹雪達に頭を下げて謝った。

俺としては真面目に謝っているつもりだが四つん這いで頭を垂れる俺の姿が余りにも滑稽なのか暁が思わず吹き出していた。

仕方ないとは思うが正直ちょっとだけ傷付いた。

 

「ぷっ……も、もういいです!分かりましたから。か、顔を上げて下さい!」

 

吹雪は吹き出さない様に堪えているのか声を震わしながら顔を上げるように促してきた。

真面目な空気を崩さない様に必死に堪える吹雪が可愛いいのでもう暫くこのままで居ようかと悪戯心が芽生えたその時。

 

「門長さん?お話があるのではないのです?」

 

「よし、じゃあ話を始めるか!」

 

背筋に強烈な寒気を覚えた俺は直ぐに頭を上げて話を進める事に決めた。

じゃないとそろそろ本気で我が息子に別れを告げる事になりかねないからな。

 

俺は中枢棲姫の紹介から始め響と別れた後から基地に戻ってくるまでの経緯とその結果EN.Dとの協力関係を築いた事を簡単に纏めて話した。

 

「マサカ……門長サン一人デ解決シテシマウナンテ」

 

「スサマジイナ。ワレワレガヤッテキタドリョクハナンダッタノカトイイタイクライニナ」

 

「俺の力じゃねぇよ、響が頑張ってくれたのと中枢が約束を守ったからだ」

 

「わ、私はただ……」

 

「約束ヲ反故ニシタ所デ私ノ得ニナル事ハ無イ所カ暴走シタ貴方ニ深海棲艦ガ滅ボサレテハソレコソ本末転倒ナノヨ」

 

「まぁ……何にせよお陰で俺達の目標まであと一歩所まで来ている。そこで今後の動きについて皆で相談したいと思ってる」

 

そこで俺は一番にル級へと話を振った。

 

「ル級、お前なら港湾の考えを聞かされてるんじゃねぇか?」

 

「ン?ナゼソウオモウ。ワタシミタイナイッカイノシンカイセイカンヨリフラワーノホウガヒメサマカンガエヲキイテルトハオモワナイノカ?」

 

「なんとなくだがお前だけ他の奴より港湾に対する態度が違う気がした。あとワ級はポンコツっぽいからな」

 

「ヒドイッ!偏見デスヨ!」

 

つってもル級が港湾を慕っていないとかだったら話は別だがそんな事はないとル級は続く言葉で示した。

 

「ハハハ、ヒメサマニハワルイトハオモッテルガウマレツイテノハナシカタナンカハドウシテモナオセナクテナ。ダガヒメサマノダイコウトシテワタシガココニキタノハジジツダカラナ。ワタシタチノケイカクヲハナストシヨウ」

 

ル級はそう言うと俺達に港湾の計画を伝え始めた。

なんか色々と難しい話をしていたがこの後の動きとしてはEN,Dに属さない軍閥の勧誘と海底棲姫共の対策が主な目的っつう事らしい。

軍閥の勧誘はEN.Dの奴らに頼むのが早いだろうが……問題は海底棲姫共だ。

 

「中枢、軍閥の勧誘はお前等EN.Dに任せる。話し合いでの解決が理想だが、最悪相手を沈めなければ良しとする」

 

「イイワヨ、ソレクライオ安イ御用ヨ」

 

「頼む。で、問題は海底棲姫の奴らの対策だが……」

 

当然ながら意見は出ねぇか。

確かにまともに戦って勝てるような相手じゃねぇのは俺が身を以て実感してる。

だが話し合おうにも何処に居るのかなど見当もつかない。

 

「まあ、こればっかりは簡単にはいかねぇわな。それじゃあ各々で考えて何か会ったら教えてくれ。んじゃあ今日の会議はそんな所だな」

 

そう言って俺は一度会議を締めた。

あ、そういや中枢の紹介を忘れてたが別に良いか。

そんな事より奴の姿が見当たらねぇな。

それぞれが食堂を出ていく中俺は明石に声を掛ける。

 

「明石」

 

「ひぇっ!?ど、どうしましたか?」

 

「砲雷超が何処に居るか知らねぇか?」

 

「え?ああ、あの万能な砲雷長さんなら暇潰しに出掛けてくると門長さんが戻られる二日程前に出ていきましたよ?」

 

ちっ、奴からなら何かいい案が出るかと思ったが肝心な時に役に立たねぇ奴め。

だが居ないなら仕方ない、俺達でなんとか対策を考えねぇとならないか。

 

……ま、それはおいおい考えるとして。

折角電ちゃんが用意してくれたこの状況はある意味ではチャンスだ!

これを期に最近欠乏気味の響分を一気に充填してやるぜ!!

 

「よしっ、話は終わりだ。俺達も戻ろうぜ響!」

 

「えと。うん、行こっか」

 

俺はこの後の計画を練りながら響に手綱を引かれて意気揚々と食堂を出ていく。

 

「なにニヤついてんだあいつ……気持ち悪ぃな」

 

背後で猿女が何か言っていた気がするが気分上々の俺の耳には届く事はなかった。

 

 

 

 




久々に原案を見直してみたら最初の二三歩目位から道を外れまくっててびっくりしました。
覚えていたら完結後に原案を晒すのもありかも知れませんね。(尚需要は……)


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第百三番

今更ながらアンテに惹かれたのでsteamで丁度出てた日本語版を衝動買いしました!
最近時間がショートカットされてる様な……


 食堂を出た俺は響の提案で島の海岸沿いを歩いていた。

俺の膝や手の平に砂利やら貝やらが刺さったりするがそんな些細な事を気にするつもりはない。

なぜならこれは俺が何か言うでも無く響から言い出した事だからだ。

電がついて来なかった事は気になるがきっと響が俺と二人きりになりたいと説得したに違いない!

 

とするとこれは……もしや!?

 

「門長、こっちに来て」

 

響に誘われるままに俺は建物裏手の小さな丘に腰を掛ける。

続いて響も俺の隣に来るようにゆっくりと腰を下した。

おおぉ、落ち着くんだ。早まるな俺!

いや、だが……。

 

「ねぇ、門長?」

 

「お、おおうっ?」

 

「…………」

 

響が俺の右手にそっと両手を被せて見上げてくる。

これはっ……!俗に云う良い雰囲気というやつでは無いのか!?

 

「ひ、ひびき?」

 

「…………あのね」

 

間違いない!この状況に疑いの余地なんてある筈がない!

ついに……ついにぃ!!我が世の春がき──

 

「門長の身体、まだ治って無いの?」

 

……た?

 

「ええと?いや……俺は至って健康だぞ?」

 

質問の意図が分からないまま俺はそう答えるが、如何やら響の聞きたかった事とは違かったようだ。

響は首を横に振って否定すると手を握る力を強めて改めて聞いてきた。

 

「門長の()()、まだ解決してないの?」

 

俺の問題……?

もしやタウイタウイで別れる時に解決して戻るって言った事だろうか?

それについては明石の奴には頼んでは居るが現状はまだ糸口すら見えていない状況だが……。

いや、他の事かも知れないし、もしそうだとしてもそれを伝えるのは吹雪達の期待に応えられないと自白する事になるし、響に隠し事をさせる事もしたくはない。

そんな俺の少しの間を察したのか響は先んじて言葉を加えた。

 

「別に解決して無いからって私は門長を恐れたりはしない。それよりも何よりも私は…………私は門長に置いてかれる方が、怖い」

 

そう言った響の手は僅かに震えていた。

此処で嘘でも大丈夫だと言えば響は安心するかも知れない。

だが、同時に彼女の想いを再び裏切る事になる。

 

…………はっ、何を悩んでんだか。

答えなんか考えるまでもねぇってのによ!

響が俺を信じてるのに俺が信じないでどうすんだっつうの。

 

「悪ぃな響。最近色々あり過ぎて柄にもなく考え過ぎちまってたぜ」

 

「門長?」

 

「全部話す。だから響もそれを聞いた上で今後どうするか決めてくれ」

 

「……うんっ、わかった」

 

大丈夫だ、響なら分かってくれる。

 

俺は今の武蔵が抑えてるが何時まで抑えられるかは分からないという事と現在明石達に対策を考えさせているが艤装が展開出来ない以上このまま海底棲姫共と相対するのは厳しい事を正直に話した。

 

「──とまあ、こんな感じだ。簡単に言っちまえばいつ爆発するか解らない地球破壊爆弾って所だな」

 

「そっか…………」

 

響は暫く難しい顔をして考え込んで居た。

まあ目の前の存在が何れ訪れる脅威に退けられない所かいつ爆発するかも知れない超弩級危険物だって知らされたんだ。普通なら冷静を保つ以前に事実を認める事すら容易じゃない筈だ。

だが、響は何かに納得したのかスッキリした顔付きで立ち上がった。

 

「響?そうだっ、この事は……」

 

「解ってるさ、姉さんや吹雪さん達には言わないよ。皆を不安にさせたくないのは私だって一緒だよ。」

 

「ああ、済まない」

 

「門長が謝る事は無いよ。それで、私が今後どうするかだよね?」

 

響は真っ直ぐに俺を見つめると真剣な表情で答えた。

 

「私は門長と一緒に居る。そしてすぐ側で門長の事を護るから門長に私を護って欲しいんだ」

 

「響……」

 

響は俺の話をしっかりと受け止めてその上で俺の事を受け入れてくれた。俺を必要としてくれたんだ。

こんな小さな少女が大きな決意をもって応えたっつうのに俺が何時までも及び腰でどうすんだ!

 

今さっき気付いたばっかだろうが、俺に余計な考えは要らねえ!不安なんて物も似合わねぇ!

 

「おうよ!俺と響が一緒に居りゃあ不可能なんてねぇぜ!つーわけでこれからもよろしくな響っ!」

 

「ふふっ、こちらこそよろしくね門長?」

 

そうして俺と響は固い握手を繋いだのだった。

 

「おっし、それじゃあ部屋に戻るか。ってか四つ足に戻さないと電に睨まれちまうか?」

 

「あははっ、電には私から話すよ。私もこれは流石に恥ずかしいからね」

 

「知ってる奴しか居ないとは言っても流石に──」

 

「感動しましたっ!様々な苦難を乗り越えて今なお尽きぬ障害を前に固く繋がれたその手は正にお互いの絆その物!!これは俄然やる気が出てきましたよぉ!!」

 

響との強い絆をその手に感じつつ俺が非常に晴れやかな気持ちで丘を下ろうとした時、俺達の前に邪魔者が現れて何やらごちゃごちゃと言い始めたのだ。

 

「おいおい、盗み聞きとは感心しねぇなぁ()()よぉ?」

 

「いえいえっ、声が聞こえてきたので何かと思いましてね?近付いたのは良いけど出難い雰囲気でしたので仕方なく」

 

「だったら出てくんじゃ──」

 

苛立ちに任せ俺が明石の顔面に掴み掛かろうとした時、俺の足は宙を舞った。

そして抗う暇も無く次の瞬間、俺は地面に仰向けに横たわっていたのだ。

 

「門長っ!?」

 

「もう~、初対面の女性の顔に掴み掛るなんて紳士的じゃありませんよぉ?」

 

そう言って明石……いや、明石に良く似た何者かは俺の手を引いて立ち上がらせると敬礼をしてみせた。

 

「門長さん、響ちゃん、初めまして!()()()()の頼みで皆さんのトレーナーとして参りました、大本営所属兼海軍艦政本部第四部所属工作艦明石です!短い間ですがお願いしますね?」

 

 

 




前作から話には出ていた彼女が満を持して登場!

キャラの書き分けと呼び間違いには気を付けねば(戒め)


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第百四番

久々に5000文字超えた気がします。
長文注意?


 大本営所属の明石と名乗る女の登場に俺は怪訝な目を向ける。

西村が寄越したのであればいいがもし奴らと通じてる海軍の奴らからの使者であれば基地に立ち入れる訳にはいかねぇ。

 

「トレーナーだと?一体誰の差し金だ、目的はなんだ!」

 

俺は響を庇うようにしながら目の前の桃髪の女を問い詰める。

 

「彼の立場の関係上申し訳ありませんが私からお伝えする事は出来ません。後日直接彼の方から来ますのでその時にご紹介致します」

 

だが女は動揺する事なく平然と答えた。

 

「なんか胡散くせぇが答える気は無さそうだし今はいいだろう。それで、俺達を鍛えて何をしようってんだ?」

 

「えぇっと実はですね、海底棲姫と命名された規格外の深海棲艦の住処を極秘裏に彼と共同で進めていたのですが今回特定に至らないまでも大きく絞り込む事が出来ました」

 

明石が言うには殆ど記録が存在しない奴らの出現報告から奴らが来た方角を纏めて凡その絞り込みに成功したらしい。

 

「で?それとお前が此処に来たのと何の関係があるんだ?」

 

「はいっ!実はその場所というのが此処から少し北にある太平洋北西部周辺なんですよ。なので奴らとの戦いとなる場合どうしても貴方達が最前線になってしまうんです」

 

なるほどな。だから前線維持の為に俺達を利用しようって訳か。

勝手にドンパチやられて巻き込まれるのも面白くねぇし、俺としても響を守る為には艤装を使わずとも強くなる必要があるが……。

 

「お前の目的は分かったし内容に明らかな矛盾はない、お前が大本営の明石ならな」

 

もし奴が本物の大本営所属の明石でなければ海底棲姫を知っている事もその根城を絞り込んだという話も一気に信憑性を失う。

そもそも一介の工作艦にそれだけ情報が集まるなんてありえない事は碌に勉強していない俺だって容易に想像出来るからな。

どうやら明石は想定していたらしく、考える素振りも見せずに提案してきた。

 

「それは勿論。ですのでそれについては工廠で個体情報を確認して頂ければ証明出来るかと」

 

「個体情報?」

 

「建造やドロップした艤装を艦娘化した時に妖精さんが専用のデータベースに登録して管理してるんだよ」

 

「成程、ありがとな響」

 

疑問に答えてくれた響の頭を撫でつつ俺はどうして妖精が艦娘の情報を管理しているのか考える。

だが、その疑問も図らずも明石が答えた。

 

「本来は他鎮守府の艦娘が解体されたり潜入や工作行為を防止する為の物ですが、逆に考えれば全ての鎮守府に艦娘達(私達)の身分証明がある事にもなる訳です」

 

「そうか。まあ工廠に行けば分かるっつうならさっさと行くか」

 

正直妖精が関与する話でもない気がするがその辺はきっと妖精と海軍の間で話し合ったんだろう。

既に興味を失った俺は此奴の正体を確認する為に響を一緒に工廠へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人が工廠へ足を踏み入れると中では妖精達が資材を運んだり建造ドックの点検なんかをしていた。

俺は取りあえず一番近くにいた掃除をしていた妖精に声を掛けてみる。

 

「おい、そこのモップ妖精」

 

「わたしはもっぷようせいじゃありません~!」

 

モップ妖精は不満そうに抗議するが俺は気にせず用件を切り出した。

 

「こいつの個体情報を確認したいんだが可能か?」

 

「む~っ、こうしょうちょうならかくにんできるです。いまはあかしさんとじむしつにいるのです。かんしゃするのです」

 

事務室っつうと……ええと……

 

ー奥の片開きの扉の上に事務室と書いてあるだろうー

 

あ……べ、別に見つからなかった訳じゃねぇぞ!暁達が居たら声を掛けようと思っただけだ!

 

ーそうか、では暁達は居ないようだし行くとするかー

 

う、うるせぇ!!お前に言われるまでもねぇんだよ!

くそっ、余計な茶々が入ったぜ……。

俺は鬱憤を晴らすように扉を強く開け放つと口を開いたままアホ面を晒す明石(呉)と目が合った。

 

「おい明石っ!工廠長っつうのは何処に居やがる!」

 

「えっ?ええと、工廠長さんなら私の前に座ってる妖精さんですが……そちらの方は?」

 

明石(呉)の前に居る妖精……こいつか。

 

「工廠長、こいつが何処の所属か調べられるか?」

 

「しょぞくちんじゅふですかぁ?じゃあしらべますんでぎそうのてんかいしてくださいね~」

 

「はいは~い、お願いしますね?」

 

明石(自称大本営)は言う通りに艤装を展開して工廠長について行った。

 

調べられるか聞いたんだけどな……まぁ、話が早いが。

俺は何か既視感を覚えつつ明石(呉)と二人が戻ってくるのを待っていると十分程して漸く戻って来た。

 

「工廠長、結果はどうだった?」

 

「かのじょはだいほんえいしょぞくなのでかいたいやかいしゅうはできませんよぉ?」

 

「えっ、いま大本営って……?」

 

「そうか、わかった」

 

別に解体しろとは言ってねぇんだがな。

だがまぁ工廠長からの回答でこいつが大本営の明石だという事は証明された訳だ。

明石(呉)が何だか青い顔をさせてるがそんな事はどうでもいいか。

 

「取り敢えずお前が大本営から来たって事は解った。だが俺達を鍛えるつったってどうするつもり何だ?」

 

「訓練内容については皆さんにお会いしてから細かく練らせて頂きますよ。それと門長さんの暴走については聞いていますので艤装を展開せずに海底棲姫達と渡り合える術を身に付けて頂くつもりです」

 

明石(大本営)の奴が平然と言いやがるがこいつは奴らの実力を解って言ってやがんのか?

 

「おい、お前が教えるような小手先の技なんかで奴らとやり合えると思ってんのかよ」

 

「そうですねぇ……あ、そうだっ!門長さん、もし良ければ私と陸上で手合わせしてみませんか?工作艦の私の技術が性能で圧倒的に勝る門長さん相手に何処まで戦えるか体験して頂きましょう!それに私も奴らとの比較対象があった方がやりやすいですし」

 

「は……?」

 

この工作艦は何言ってんだ?

幾ら艤装が展開出来ないからって俺の身体能力は海底棲姫の仲間である改レ級flagshipをも凌ぐ程だ。

大和の時みたく身体が動かし難くなってるなら兎も角、万全の状態では俺の相手にすらならないだろう。

 

だがまぁ、俺を鍛えに来たっつうんならそれに見合う実力があるか見てやろうじゃねぇか。

それに出会い頭にぶっ倒してくれた礼もしてやらねぇとなぁ……?

 

「良いぜ、なら表に出ようじゃねぇか。期待外れだったらつまみ出してやっから覚悟しとけよ」

 

「あは、やるだけやってみますよ。燃料を補給したらね?明石ぃ、燃料貰えるかしら?」

 

「へぇ!?あ、はいっ!!」

 

「ん、ありがと!」

 

明石(大本営)は明石(呉)の持ってきた燃料を受け取ると豪快に喉奥へと流し込み始めた。

その様子を明石(呉)と茫然と眺めている内に補給を終えた明石(大本営)が俺の前に戻ってくる。

 

「お待たせしました、では行きましょうか!」

 

「ああああのっ!明石さんの強さを疑うわけじゃ有りませんが、流石に門長さんと戦うのは辞めた方が……」

 

「まぁ何にせよ門長さんには認めて貰わないと。それに強い人と戦うなんて久々ですからね。ワクワクしてるんですよ!」

 

明石(呉)は止めようとするが明石(大本営)はあくまでも戦う姿勢を崩さなかった。

 

つうか強敵と相対してワクワクするって俺なんかよりコイツの方が余程戦闘狂じゃねぇか。

明石(大本営)の態度に呆れながらも俺達は基地の前の開けた海岸へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸に着いた俺達は道中話し合ったルールを改めて確認する。

 

「兵装の使用は無し、艤装格納状態での格闘戦。先に小破させた方が勝ちって事だが……本当に良いのか?」

 

明石(大本営)の方から言ってきた事とはいえ余りにも俺に有利すぎる内容だ。

だが奴は全て承知の上で答える。

 

「もちろんっ、一発も貰わずに門長さんを小破させるくらいの技術でなければ教えた所で意味はないでしょう?」

 

「なるほど、それは言えてるな。だが本気で出来ると思ってんのか?」

 

俺は挑発的に尋ねるが、明石は考える素振りすら見せず事も無げに言ってのけた。

 

「ええ、門長さんも呆気なく小破しないで下さいよ!なんてね?」

 

「ああっ?そりゃこっちの台詞だぁ!一瞬で終わるんじゃねぇぞ!」

 

俺を舐めた事、死ぬほど後悔させてやるぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えー、それでは私呉第一鎮守府所属工作艦明石が開始の合図を務めさせて頂きます!」

 

明石(呉)の言葉に呼応する様に歓声が沸きあがる。

俺と明石(大本営)が位置についた時、誰から聞いたのか基地の連中がぞろぞろと海岸に集まって来たのだ。

見に来た奴らの話によるとどうやらこの明石(大本営)は海軍では陸上戦最強とも名高いらしく、戦艦すら薙ぎ倒すその姿から【超弩級工作戦艦】なんて呼ばれている工作艦とは思えない程の武闘家だそうだ。

 

「それではお二人共位置に着いて──」

 

まあ戦艦だろうがなんだろうが俺の相手じゃねぇが、問題は奴が言う技術だ。

出会い頭に貰ったあれもダメージこそ無かったが何をされたのか未だに分からねぇ。

だが、それでも負ける気はしねぇがな!

 

「よ〜い、始めっ!!」

 

「しゃあ!先手必勝だぁっ!!」

 

俺は明石(呉)の合図と共に地面を勢い良く踏み込んで瞬時に距離を詰め十二分に加速された右の拳を明石(大本営)目掛けて振り下ろす。

当たれば大破必須、受け止めても中破は免れない正に必殺の一撃。

しかし明石(大本営)は余裕の笑みを崩さず俺の拳に左手を添えると下方向へと力を受け流した。

 

「いつでも先手必勝とは行きません、よっ!!」

 

それによりバランスを崩し倒れ込む俺の勢いに上乗せする様に奴の踵が後頭部へ突き刺さり砂や砂利を大きく巻き上げた。

 

「普通なら大破してもおかしくないくらいの衝撃だったんですがね。どうやらまだまだやれそうですね」

 

「くそ、がぁ……!面白ぇ、てめぇのその余裕面を苦痛に歪ませてやるよぉ!」

 

俺は砂に埋まった頭を引き抜き顔の砂を払って目の前の相手を見据える。

油断はしていないらしく既に距離を取って構えている。

 

あれが技術って奴か、だがあんな小手先の技で圧倒的な力量差を覆せる訳がねぇ!

 

「こっからは手加減無しだ、陸で沈みたくなきゃさっさと降参しなぁ!!」

 

「まんま悪役の台詞じゃないですか──っておぉ!?」

 

俺は再び明石(大本営)に接近し今度は限界まで力を込めた中段蹴りを浴びせる。

さっきの打ち下ろしと違い相手の脇腹を捉えたこの蹴りなら受け流す事は出来ず明石(大本営)は後ろに飛び退いた。

 

「ふぅ、想像以上ですね。これは流石と言わざるを得ませんねぇ」

 

「へっ、言ってろ!今のでてめぇの弱点は見えたぜ」

 

俺は三度奴に接近を試みる。

奴の弱点、というより奴では俺の攻撃を受け流したり躱す事は出来ても防ぐ事が出来ない。

何故なら俺の殆どの攻撃を奴が防いだだけで小破する様な威力を持っているからだ。

だったら一撃必殺よりも受け流し辛いラッシュの方が効果的だって事だ。

 

そう結論付けた俺は接近戦でのラッシュを選んだ。

 

「ぐっ……ぅ!」

 

だが俺が走り出そうと地面を踏み抜いた直後、明石の右ミドルキックが俺の水月に深く突き刺さっていた。

 

「奇遇ですね、私も門長さん弱点が分かりましたよ」

 

「ぐっ……な、ん……だと!?」

 

「はい。動きが単調な事とその予備動作の大きさですね。と言っても普通の海戦なら気にする必要もない事ですが、門長さんが今後戦う可能性のある相手は普通では有りませんからね」

 

明石(大本営)は俺が息を整えるのを待つかの様に話し始める。

 

「そうかよ……それで?お前の技術を身につければ普通じゃない相手と渡り合えるって言いてぇのか?」

 

「そうですねぇ、あくまでも門長さんより圧倒的に強力なだけでしたら可能です。ただ、その上で相手の技術が上回る様であれば厳しいでしょう」

 

なるほどな、だとすると技術を身に付けたとしても奴を倒すのは厳しいかも知んねぇな。

 

「明石、お前の技術ってのは解った。だから最後に確認させてくれ」

 

「何でしょうか?」

 

「その腰の軍刀を俺に貸して俺の渾身の一太刀を捌いて見せろ」

 

「えっ……?」

 

俺の要求の意図が読めないのか明石(大本営)はキョトンとしている。

今なら一撃位入りそうだがそんな事は今更どうでもいい。

 

「その一太刀さえ捌ければ俺を小破させずとも俺の方から頭を下げてやる」

 

「……分かりました、やりましょう」

 

明石(大本営)は俺の要求を聞き入れ腰の刀を俺に投げ渡した。

 

「悪ぃな。響っ、済まんが工廠に残ってる高速修復材と工廠妖精を連れてきといてくれ」

 

「そ、そんな……」

 

心配そうに見つめる響を安心させる為に笑顔で返す。

 

「大丈夫だ、絶対に死なせねぇよ。だから頼めるか?」

 

「……うん、行ってくる」

 

そう答えて工廠に駆けてく響を見送ると再び明石(大本営)を真っ直ぐ見据える。

 

「……行くぞ」

 

「はい、いつでもどうぞ」

 

俺は鞘を抜き捨てて刃先を明石(大本営)に向けて構える。

力は脚だけでなく全身に満遍なく漲らせる。

己の性能だけで振り抜く一太刀すら捌けないなら奴を倒す力にはなり得ない。

だが中途半端な一撃では確認出来ない。

少なくとも奴の七割、いや八割の力で振り抜かなければ。

 

武蔵、もう少し出力を上げられねぇか?

 

ー止めておけ、精神が持たなくなるぞー

 

いや、此処で確認しておかなければ駄目だ。

奴らとの戦いの時に艤装を展開する必要性がどれ位あるかは確りと見定めておく必要がある。

それに明石(大本営)にも奴らの力の片鱗を知って貰った方が今後の為だ。

 

ー…………六割に抑えて一秒が限度だ。それ以上は認められんー

 

一秒だな、解った。

 

「明石、艤装を展開しろ。俺も一瞬だけ展開する」

 

「なっ!?……はぁ、正直無手の門長さんを小破させる方が簡単でしたが、良いでしょう!」

 

明石(大本営)は艤装を展開し限界まで出力を上げ始める。

奴も恐らくは俺の目的に気付いた様だ。

俺は明石(大本営)の準備が出来たのを確認し一気に出力を上げて明石(大本営)へと突っ込んで行った!

 




門長の最大出力とかは書くタイミングがあれば書くかも知れません。


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第百五番

門長の持っている刀がカチリと音を立てた次の瞬間、目にも映らぬ速さで明石(大本営)へ突っ込んだ。

その場に居た殆どの者には門長の姿が突然消えた様に見えていたが、大本営の明石だけは捉えていた。

いや、正確には限界まで思考を加速させていた彼女でさえ殆ど直感によりかろうじて反応していたに過ぎなかった訳だが。

 

(規格外とは聞いて居ましたがまさかここまでとは………っ!)

 

明石(大本営)の予想では門長の一閃を受け流した上で二撃は与えられると想定していた。

しかし門長の急速に膨れ上がる威圧感に自身の想定を更に上方修正するもそれすらも凌駕する門長の動きに瞬時にその考えを捨て己の培われた経験と直感に全てを委ねた。

その結果、自身の被害を省みず左手を刀の前に突き出す。

 

(ぐっ……うぅ!)

 

刀は無情にも明石(大本営)の左手をまるでバターの様にすんなりと切り裂いていく。

だがそれでも彼女は痛みに耐えながらほんの僅かに減速した刀身を掴んだ。

そしてその瞬間明石(大本営)は自身に襲い掛かる吹き飛びそうな程の力を利用し自身の体を無理矢理捩じる事で軍刀の腹目掛けて手刀を叩き付けた。

 

すると刀は彼女の狙い通り打ち付けた所から綺麗に二つに折れ刀身は門長の手から放たれるも残されたエネルギーが明石(大本営)の身体を激しく襲った。

だが明石(大本営)の闘志は錐もみ状態で吹き飛ばされても尚尽きては居なかった。

 

「ぐっ……!」

 

明石が吹き飛ばされながらに放った単装砲は見事に門長の眼前で爆煙を上げていたのだ。

 

 

 

と、ここまでが僅か一秒の出来事である。

それを見ていた者達はその後巻き起こる砂塵によって視界を奪われるが、そうでなくとも見えていた者は皆無だった為特に問題は無いだろう。

 

そうして結果しか見えなかった者達にとっては明石(大本営)が一方的にやられた様に映るが、真実は少しばかり異なっていた。

 

戦闘性能では駆逐艦にすら劣る工作艦が限定された条件とはいえ規格外の怪物、海底棲姫に匹敵する力を前に武器を破壊し尚且つ大した損傷でなくとも確かに一撃を与えたのだ。

 

門長が技術という物を認めるには充分過ぎる程の偉業を彼女は成し遂げた。

そんな彼女に門長は歩み寄り右手を差し出す。

 

「立てるか?」

 

「門長さん……ありがとうございます」

 

明石(大本営)は門長の手を借りてゆっくりと起き上がる。

そして明石(大本営)を立ち上がらせた門長は不敵な笑みを見せて再度右手を差し出して言った。

 

「充分だぜ、これからよろしく頼むな。明石」

 

「えっと……あ、はいっ!こちらこそ宜しくお願いしますね!」

 

明石(大本営)は一瞬キョトンとしていたがやがて門長の言葉の意味を理解しはにかんだ笑顔で握手に応えた。

 

そうこうしてる間に高速修復材を持った響が工廠妖精と共に現れた。

 

「あ……あぁ……明石さん!妖精さん、直ぐに治療を!」

 

響には余り凄惨な光景に思わず高速修復材を落としそうになったが直ぐに我に返り工廠妖精へ指示を出した。

 

そんな中門長は内心焦っていた。

響に高速修復材を持ってこさせたのは最悪の事態を考えての事ではあったがそれ以外にも響に今の様な光景を見せたくなかったからでもあった。

だが響が高速修復材を持ってくる以上それは無理な話であった事に今の今まで門長は気付いていなかったのだ。

 

(ややややばい!響に嫌われる……ど、どうする!!)

 

「あ、あのな響。これは……だな?」

 

「門長っ!」

 

門長はどう弁解するか悩んでいた。

正直に言えば最悪の事態どころか予想以上の結果だったのだが、それを伝えた所で響が納得する筈がない。

寧ろ初めからそうするつもりだったのかと更に怒られかねない。

そんな感じでしどろもどろしていた門長を助けたのはなんと(響からみて)被害者である明石(大本営)だった。

 

「響ちゃん。門長さんはね、私を信じてくれてたから真剣に相手をしてくれたのよ?私がその期待にちょびっと答えられなかったから怪我しちゃっただけでね」

 

「門長が……?」

 

「そう、それに彼が私を沈める気だったらこの程度じゃ済まなかったわ」

 

「門長……そうなの?」

 

響に見つめられた門長は思わずたじろいでしまいそうになったが何とか踏み留まって答えた。

 

「そこまで綺麗な話じゃねぇが……確かにこいつならやってくれんじゃねぇかって期待はあったし、致命傷にならないように気は使ってたつもりだ。けど……まぁ、高速修復材が必要となる事態も想定してたってのも事実だ。すまん」

 

門長は明石(大本営)のフォローを有難く思ったが、やはり響に隠し事は出来ないと正直に話す事にした。

響は門長の言葉を聞き、考えを纏める様に腕を組んで暫くうんうんと唸っていたがやがて彼女は門長の前に立ち一言だけ指示した。

 

()()、門長が壊したの?」

 

響が指を差したのは門長が明石(大本営)より借りた軍刀であった。

 

「えっと、これは……」

 

軍刀は紛れもなく明石(大本営)によって叩き割られたのだが、実際のところ軍刀は本来掛かり得ない異常な負荷により彼女の左手が触れる時には既に耐久限界を迎えていたのだ。

門長はその事実を知っていたからこそ少しばかり言葉に詰まったが、すぐに気を落ち着けて答えた。

 

「ああ、そうだよな。悪い事したら謝んねぇとな」

 

門長の答えに響は黙って微笑む。

そうして門長は真面目な顔で明石(大本営)の前に立ち、初めて自分の意志で駆逐艦(少女)以外に頭を下げた。

 

「明石、軍刀を駄目にしちまって悪かったな」

 

「あ、いえ。直接破砕したのは私ですから。それに一応原形は留めてますので問題はありません」

 

「それはよかった。こっちで直せるようなら資材は勝手に使ってくれ」

 

門長と明石(大本営)のやり取りを見ていた基地の面々は響を除き一様に唖然としていた。

傍から見れば門長の受け答えは何ら変哲もない一般的な内容だが、門長を知っている者からすればこれは今まででは考えられない様な対応なのだ。

それでもこの場に水を差すような無粋を行う様な者は居らず、奇妙な空気の中で話は進められていく。

 

「基地に残ってる奴らが全員集まって来たのは予想外だったが手間が省けた。もう聞いてるだろうがこいつは大本営所属の明石、此処中部基地が近々最前線となる可能性があるっつう事で俺らが自分の身を護れる様に鍛える為に来てくれたらしい。詳しくは本人から聞いてくれ」

 

そういって門長は明石(大本営)へと話を繋げる。

 

「はい、それではご説明致します。まず初めに私達が今回想定している相手の戦力ですが、一つは皆さんの中には相対してる方も居ると思いますが海底棲姫と呼ばれる規格外です。と言っても実際に相手が出来るのは門長さん位でしょう」

 

明石(大本営)の言葉がどうしようもない真実である事は門長と共に闘ってきた長門や実際にチュークと相対した不知火達は嫌と言う程身に染みていた。

それでも深海棲艦と戦う為に再び世界に生を受けた彼女達にとって屈辱以外の何物でもなく、拳をキツく握りしめる者も少なくなかった。

そんな彼女達を鼓舞するように明石(大本営)は少し語句を強めて続ける。

 

「ですが、敵は奴らだけではありません。あちら側の深海棲艦だけでなく、最悪海軍側の艦娘すら敵対する可能性があります。ですから……いえ、だからこそ戦闘となった際私達で周囲の敵を退け門長さんが奴らだけに集中出来るよう力を尽くすのです!」

 

明石(大本営)の鼓舞は基地の艦娘達の心を昂らせる。

それは普段戦闘を行う事がない摩耶や松達も同様であった。

 

「明石よ、私や竹は練度はまだ低い……だがこの基地の為、ひいては仲間の為に戦える力を学ばせてくれ!」

 

「アタシも頼む!皆が命掛けて戦ってる時にただ基地で待ってるってのは耐えらんねぇよ」

 

「勿論です。ただし、海軍側では半年後に強襲作戦を決行するとの話ですが前後する可能性も十分考えられる以上、訓練内容は熾烈を極める事になりますのでそれ相応の覚悟しておいて。じゃあ門長さんを除く全員にはこれから演習を行ってもらうから直ぐに艤装を着けて此処に戻って来るように、以上!」

 

「「りょうかいっ!」」

 

明石(大本営)の話が終わると含めた基地の面々は工廠へと歩き出す。

それを後ろから眺めていた明石(大本営)はふと思い出したように明石(呉)と門長を呼び止めた。

 

「明石、それと門長さん。ちょっとこっち来て貰えますか?」

 

「へっ?なんでしょうか」

 

「俺を響から引き離す程重要な話なんだろうなぁ?」

 

「ええ、門長さんがタウイタウイで海底棲姫と相対した事までは聞いてますがその後奴らと遭遇したり奴らの動向を聞いたりしましたか?」

 

海軍側の作戦は海底棲姫達の目的を考えた上で半年の間に動き出す可能性は低いという予測の元に建てられた作戦である故、前提が違えば作戦自体が無駄になってしまうのだ。

だからこそイレギュラーである門長と海底棲姫の動きを出来る限り把握しておく必要がある。

そしてそれは正しい判断であったと門長の返答が物語っていた。

 

「タウイタウイか。あれ以降のあいつらと接触はしてねぇが……あ、そういや中枢の奴がなんか言ってた気が……」

 

「中枢?その方は一体……」

 

「あ?ああ、そういやさっきは居なかったな。中枢棲姫だったか、なんか深海棲艦共を纏めてるボスらしい」

 

「中枢棲姫……」

 

明石(大本営)の記憶にあるのは春に存在が確認された姫級の深海棲艦。

海軍全体で波状攻撃を仕掛け漸く撃破に成功した規格外ではないにしろ他の姫級とは一線を画す存在である。

 

「それで、その方はなんと?」

 

「あぁ、なんか俺が組織と手を組んだら奴らが動き出すとかなんとか言ってたな」

 

明石(大本営)は門長の返答に言葉を詰まらせた。

奴らの目的を考えれば中枢棲姫が門長に行った事は至極当然なのだ。

中枢棲姫ほどの力を持つ深海棲艦が纏める組織なら少なくとも以前門長達が相対した離島棲姫と同等かそれ以上の規模があるだろうと明石(大本営)は考えていた。

 

中枢棲姫と門長さん達は現在協力関係にある訳ですか……だとすると奴らは直ぐにでも動くかも知れない。いや、直ぐに動くのであれば艦娘を扇動する事は厳しい筈ですし……

 

「おい、なにブツブツ言ってんだ。話は終わりか?」

 

「ふぁ!?あ、ええと……それとですね!門長さんは常時万全の状態で臨める様直ぐに入渠して来て貰えますか?」

 

考えに没頭していた明石(大本営)は突然声を掛けられた事で少々慌てながらも門長にもう一つの要件を伝えた。

格下相手であれば多少損傷を負っていようと問題はないが、同等以上が相手の場合その僅かな損傷が勝敗を分ける。

だから入渠時間が圧倒的に長い門長は訓練時間を削ってでもこまめに入渠するべきだと明石(大本営)は考えたのだ。

 

話が終わったら直ぐに響の元へ戻ろうと考えていた門長は一度は不満の色を示すが、明石(大本営)の考えを何となく察したのか門長は何も言わずに入渠ドックへと向かって行った。

 

門長が居なくなり、二人の明石だけが残った海岸。

少しばかりの静寂の後、先に声を掛けたのは明石(大本営)であった。

 

「ねぇ、門長さんの戦闘データって残してあるかしら?」

 

「門長さんの戦闘データですか……あるにはありますが」

 

明石(呉)の歯切れの悪さに明石(大本営)は疑問を覚えるも気にせず続ける。

 

「どういう事?まあいいや、それなら後で見せて貰える?」

 

「えぇっとぉ……情報に欠損が多いので参考にはならないと思いますよ?」

 

「情報に欠損ね……取り敢えずこの目で確認したいわね」

 

明石(呉)は何故か目を逸らしながらしどろもどろしている。

そんな彼女の態度に辛抱ならなくなった明石(大本営)は一方的に話を進めた。

 

「もういいわ!兎に角演習が済んだら向かうから準備しといて!」

 

「は、はいぃ!!準備しに戻りますっ!」

 

明石(大本営)は逃げるように去っていく明石(呉)を見送ると水平線へ向き直り皆の到着を待った。

 

「ふぅ……さて、期待してるわよ」

 

 

 




久々の戦闘が肉弾戦とか……どうしてこうなったorz


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第百六番~技~

 大本営の明石さんと別れ事務室へと戻った私はまず初めに部屋の掃除を始める事にしました。

こんな散らかってる部屋にあの人を入れる訳には行きませんからねぇ。

 

私は床に散乱している機材なんかを集めながら先程の大本営の明石さんと門長さんとの試合を思い出していました。

 

あの時門長さんから感じた背筋が凍るような寒気、それに尋常ではない速度……響ちゃんには伝えなかったけれどあれはきっと以前門長さんが話していた魂の変異による艤装の変質化よね。

どういうわけか暴走はしていなかったみたいだけれどあれが暴走したらなんて考えるだけでぞっとするわ。

そうなる前にどうにかしたいけれど、タウイタウイの明石と共同で研究を進めているとは言え半年以内に間に合わせるのは正直厳しいと思う。

色々方法を考えてはいるけれどやっぱり門長さんの艤装を下手に扱えないってのが一番のネックよねぇ。

 

 

 

そうこうしている内に片付けは済んだので次は門長さんの戦闘データを纏めてるファイルを開きシュミレーターの準備をしているとしているとドアを叩く音が聞こえて来ました。

 

「はーい、あいてますよー」

 

私が返事をするとなんと大本営の明石さんが扉を開けて入ってきました。

 

「準備出来てる~?」

 

「へっ!?あ、あれ?もうそんな時間ですか!?」

 

思わぬ来客に私は慌てて時計を見ると私が事務室に戻ってからまだ一時間程しか経って居ませんでした。

 

「え、ええと?演習は如何したんですか?」

 

「え?いやだってあそこに居たって見えないじゃない。だから審判は私の所の妖精さんに任せました」

 

私の質問に大本営の明石さんは当然とでも言うように答えました。

 

えぇ~……まぁ、この人が問題ないと思うのなら大丈夫なんでしょうし私も何とか片付けが終わったので気にしない事にしましょう。

 

私は気を取り直して大本営の明石さんに椅子をお渡ししてから準備の続きを進めました。

 

「えと、一応これが門長さんの戦闘データを残した物です」

 

「ふ~ん、じゃあ早速始めてくれる?」

 

「はいっ」

 

私は門長さんの戦闘データの中から一つを選びシュミレートを開始しました。

今みている映像は門長さんとレ級flagshipとの演習時の映像であり、数少ない正常にシュミレートが動くデータです。

 

「なるほどね、これが普段の門長さんの戦闘ね。実力としてはさっきの試合の序盤と概ね同じくらいね」

 

「そのとおりです。これは相手のデータもあるのでシュミレートと映像が同様の結果となる数少ないデータですね」

 

早送り等を行いながらざっと見て頂いた後、続いて次のデータの映像を再生しました。

次は日付的にタウイタウイで門長さんが暴走した時のデータの筈なのですが、残念な事に視覚情報と聴覚情報が全く入っておらず電探の情報くらいしかまともに確認出来ないものでした。

 

「これは……」

 

「はい、タウイタウイの明石から聞いた話では艤装展開による暴走を起こした時のものらしいですが。電探の情報以外正しく記録されて居ませんでした」

 

「その話は聞いてるわ。誰も轟沈しなかったと聞いてるけど、もし彼がさっきと同じだけ力を発揮してたのならそれはあり得ないと思う」

 

「えと、つまり不完全な暴走だったって事、でしょうか?」

 

確かに先程の試合を見てると響ちゃんが止める隙すらあったとは思えないけど……一体どうして。

 

「たぶんだけど……ねぇ、もしかして他の正常に記録されてないデータもこれと似たような症状じゃないかしら?」

 

私は大本営の明石さんに言われ、他のデータを幾つか開いてみる。

不鮮明ながら所々視界情報があったり聴覚情報があったりと違いはあったものの大多数は電探情報以外正常に残っていない状態でした。

 

「やっぱり。そのデータ、正常に記録出来ているとは考えられないかしら?」

 

「えぇっ!?これが正常って事は……」

 

「これはただの仮定だけど、恐らく彼の艤装はなんらかの原因で正常に展開出来ていない。それ故に彼自身の視覚や聴覚が機能していないという事はあり得ると思うの」

 

確かに門長さん自身の視覚が一時的に失われているなら視覚情報が記録されていないのも頷ける。

それに話ではタウイタウイのヴェールヌイが避難が済むまで時間を稼いだって聞いてるけどそれも門長さんが全力を出せて居なかったのなら辻褄も合いそうね。

 

いや、でも待って。それならもし門長さんの艤装が正常に展開されたら?

…………いや、これは結論を急ぐべきじゃないわね。

けど一応タウイタウイの明石には話しておこうかしら。

 

「明石?」

 

「へっ?あ、ええと……すみませんっ」

 

「別に良いんだけど、なんか引っ掛かる事でもあった?」

 

不思議そうにこっちを見つめる大本営の明石さんに私は自分の思った事を伝えてみました。

 

「ただ、この方法が誤りであれば取り返しのつかない事になりますし下手に実行には移せませんが……」

 

「そうねぇ……確かに実行は慎重に検討するべきだと思うけれど。いつでも実行出来る様に方法を見つけて置くのはありじゃない?」

 

「方法……です、か。なるほどっ、仰る通りです!ありがとうございます明石さん!」

 

そうと決まれば門長さんにも協力して頂かなければならないわ!

 

「あら、そろそろ演習が終わるようね。一旦戻るわ。後で今日の演習のデータを見るから用意しといてくれる?」

 

「はいっ、お待ちしてます。それでは行ってらっしゃいませ!」

 

部屋を出ていく明石さんを工廠の出口まで見送った私は部屋へ戻り、僅かながらに見えて来た希望を伝える為タウイタウイの明石に連絡を取り始めました。

 




明石同志で話をさせると頭がこんがらがってしまいそうです。
ただし、次も明石達の話となりますがね……


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第百七番〜技〜

リアルが厳しい〜(´TωT`)
流行りの異世界転生したい〜!


大本営の明石さんが来てから数日後、私はタウイタウイの明石と先日の門長さんの戦闘データについて話し合っていました。

因みにデータのやり取りは向こうが構築した独自のVPN《ヴァーチャルプライベートネットワーク》?というのを使っているとかで外部からの干渉はすぐに検知できるようにセキュリティも徹底しているそうです。

詳しくはいずれ伺いたい所ですが今は先に確認するべき事がありますので置いておきましょう。

 

そうして彼女にも見て貰った上で私は自分の考えを要点に纏めて伝えました。

 

『艤装の完全な状態での展開ですか……』

 

「ええ、それが出来れば門長さんの自我を保ったまま艤装を十全に扱える様になる可能性があると思うの。もちろん今のままじゃ外した時のリスクが大き過ぎるから試す事は出来ないけど、方法が見つかれば次に繋がる気がしないかしら?」

 

私が話し終えるも、向こうからの返事はまだ来ない。

まああの映像とデータを見た後じゃあ考えるのも無理はないけれど。

計測出来ただけでも大和型戦艦十二隻分に匹敵する出力を叩き出している上に耐久は現在の設備では計測すら出来ない。

 

そんな彼が無差別に暴走すれば人類も艦娘(私達)も深海棲艦も等しく無力だものね。

けれど門長さん自身がいつまで持つか解らないと言っている以上可能性は一つでも多く持っておきたい。

 

そんな私の気持ちを察してくれたかは別として、タウイタウイの明石は五分程考えた後答えてくれました。

 

『そうですね。今の所他に手掛かりもありませんし暫くはその方針で行きましょう』

 

「明石……ありがとう」

 

『ですがっ!少しでも不安がある時は言って下さい。決して不安を抱えたまま実行に移す様な事はしないで下さい……お願いします』

 

そういった彼女の言葉からは不安と後悔を感じました。

恐らく門長さんの暴走の時の事を引きずっているのでしょうか。

まぁ気持ちは分かりますし反省して次に活かす事は大事です、が。

 

「勿論その時はちゃんと話すわ。けどこの問題の解決にはあなたのその発想と探究心が必要なの。だから貴女は失敗を恐れずに取り組んでくれるかしら?」

 

『えっと……それは……』

 

「いい?実行出来るのはほぼ間違いなく一回限りだってのは解るでしょ。だからこそ検討する為の案は幾らあっても足りないの。それを失敗の可能性を恐れて口にしない事の方が失敗するより何万倍も迷惑なの、分かる?」

 

少しばかりキツい言い方をしてしまいましたね。

ですが、安全第一の保守的な考えでは斬新な発想は出ません。

だからこそ彼女には今の気持ちを吹っ切って貰いたいのです。

 

「明石、貴女なら解りますよね?研究や発明には失敗という過程があって完成するものだと言う事は」

 

『ですが……失敗すれば世界が滅ぶ様な実験ですよ?万一にも失敗する訳には──』

 

想像はしていましたが前回の失敗と今回の責任の重さが彼女の重荷になっているようね。

なら仕方ないですね……

私はタウイタウイの明石の言葉を遮るように答える。

 

「その考えは間違ってるわ。確かに焦って失敗しにいく必要は無いけれど、世界が滅ぶリスクは何をしなくても変わらない。今のまま門長さんが存在する限り残り続けるし最悪沈めるにしてもその時に暴走しない保証はない!」

 

『…………』

 

正直あんまり脅しを掛けるような言い方は好きじゃないんだけど、優しく諭そうとしても立ち直れないなら吹っ切る以外の選択肢を無くすしかないじゃない。

 

「だからまぁ、貴女が責任を感じる必要も失敗を恐れる必要もないのよ。私達がやる事は問題解決に向けて研究を進める事だけです。解りました?」

 

『…………ははっ……まぁ、言われてみればその通りですよね』

 

「その通りです。だから思いついた事を片っ端から伝えて頂けると此方としても有難いですね」

 

『はいっ、任せてください!』

 

うん、どうやら吹っ切れたみたいね。

確かに責任重大かも知れませんが、これは私達にしか出来ない事だからね。

これ以上に燃える仕事なんてそうそうありませんよ!

 

『あ、すみません。この後仕事があるんでそろそろ失礼しますね!』

 

「えぇ、何か気づいた事があったら連絡頂戴ね。それじゃあ!」

 

『はいっ、今日は有難う御座いました!』

 

私は通信が切れたのを確認すると無線機を机に置いて時間を確認しつつ再び大本営の明石さんと門長さんの戦闘を見直しました。

門長さんが踏み込んでから大本営の明石さんが吹き飛ばされるまで凡そ一秒。

最大まで再生速度を下げる事で辛うじて明石さんの動きが解る位で門長さんの姿は捉え切れずに白い塊にしか見えません。

 

昨日それについて工廠長さんにどうにか出来ないか相談したものの、どうやら海上では艤装の恩恵により排水量が増加するのであれ程の速度は普通出せないから必要ないと断られてしまいました。

確かに言う通りだとは思いますがやっぱりあったらいいなと思うので一段落ついたらタウイタウイの明石に話してみようと思う。

 

そんな事を考えながら何度も同じ映像を見ていた私は門長さんの顔に違和感を感じ始めました。

 

「あれ?これって……」

 

開始前と終了後の映像を何度も見直している内に漸くその違和感の正体に気付きました。

 

「門長さんの目…………赤い?」

 

 

 




ま、例えチート転生しても活かせずに対して今と変わらない生活をする事になりそうですがね!(`・ω・´)キリッ

不老不死とか死に戻りだけは勘弁!


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第百八番〜母〜

粉末現実逃避中……


※投稿が間に合わない場合は改めてお伝えいたします。


演習の後、大本営の明石によってアタシ等は三つの組に分かれて訓練を行う事となった。

けれどアタシは今の組みに疑問を抱いていた。

いや、勿論何か考えがあっての事だとは思うしみんな大切な仲間で別に嫌だって訳じゃねぇんだけどよぉ。

 

「それじゃあ初日なので点呼を取りましょうか!」

 

そんなアタシの気持ちとは関係なく明石(大本営)は点呼を始めている。

 

「長門っ」

 

「はいっ!」

 

「金剛っ」

 

「ハーイッ!」

 

「不知火っ」

 

「はい」

 

「暁っ」

 

「はいっ!」

 

「摩耶っ」

 

「……はい」

 

「声が小さいわよっ!もう一度、摩耶っ」

 

「はいっ!」

 

さて、この時点で解ってくれてるかも知んねぇが改めて紹介するぜ。

アタシが今いるメンバーはアタシ含めて五人、左から長門(82)、金剛(99)、不知火(96)、暁(93)、そしてこのアタシ、摩耶(17)様だ。

 

何なんだこの一人だけ場違いな練度の差は。

これがアタシの訓練で皆が教導艦って事なら贅沢過ぎるがまだ分からなくはねぇ。

だが明石(大本営)は組を決めた時にこう言っていた。

 

『皆様には強化箇所によって訓練内容毎に分かれて貰いましたので暫くはこの組分けで訓練を行いますっ』

 

それはアタシと長門達が同様の訓練を行う事を意味していた。

因みに強化箇所については明石は一切触れなかった。

もちろん、今日の点呼の後もだ。

 

「とりあえず今日は初日だし訓練スケジュールは軽めにしておいたわっ」

 

そういって手渡された紙を見てアタシは顔を青くした。

 

基礎体力作りはアタシも怠っていたつもりは無かったんだけどなぁ。

書かれている内容は普段アタシがやっているより数倍ハードな内容となってたんだ。

最初に頼んだ時から覚悟はしていたが……。

海軍で厳しい訓練を受けていた筈の長門や不知火まで動揺してるってのはどうなんよ?

 

海上訓練はどうやら二対三で旗艦をローテーションしていくらしい……ってやっぱり場違い感が半端ねぇな。

あとはついで程度に回避訓練と射撃訓練も入ってるみてぇだけど、アタシは正直そっちを重点的にやるべきなんじゃ……。

 

ここまで来てアタシは遂に明石(大本営)に尋ねる事にした。

もしかしたら奴の勘違いでここに入ってるって事も万に一つはあるかも知んねぇからな。

 

「なぁ明石?」

 

「どうしたの摩耶、何か解らない所でもあった?」

 

「いや、その……アタシって、本当にこの組であってるのかなぁって……」

 

そう尋ねるアタシに対して大本営の明石は含みのある笑顔で返して来た。

 

「ふ〜ん?始まっても居ないのにもう弱音ですかぁ?彼女達達と肩を並べる覚悟も無いのでしたら部屋で大人しく護られてても良いんですよぉ〜?」

 

「なっ?そういう事じゃ──」

 

「明石っ、幾ら貴様とて私の友を侮辱する事は赦さんぞ!」

 

アタシが言い返そうとしていたその時、横で聞いていた長門が間に割って入ってきた。

だけど大本営の明石は長門の事を気にも留めずアタシを真っ直ぐに見据えて続ける。

 

「摩耶、もし貴女が出来ないというなら直ぐに別の組に移って貰いますが……本当に良いんですね?」

 

真剣な表情の明石を前にアタシはまだ覚悟が足りていなかった事を気付かされた。

 

明石の真意は解らねぇけど意味がある事さえ分かれば十分だ。

それにこれはアタシが皆を守れる力を身に着けるチャンスなんだ。

だったら周りに劣等感なんて感じてる場合じゃねぇよな!

 

「いや、やってやるぜ!お前の期待に応えてやろうじゃねぇか!」

 

「覚悟は出来ましたね。でしたら始めますよ!」

 

「「了解っ!!」」

 

少し躓いちまったがこうして無事アタシ等の特訓が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから四時間程経過し、基礎体力訓練を終えたアタシ等は十分の休憩の後艤装を着けて海上へと出ていた。

このまま演習という事だが既に疲労困憊のアタシ等は余計な事を考える余裕なんて無かった。

二対三に分かれて定位置についた所で大本営の明石から通信が入って来た。

 

『みなさんは今出せる全力を尽くして勝利を掴み取って下さい。ただしあくまで艦隊戦ですので旗艦の意に背く行動は慎むように!もしそんな事をするのであれば……相応の覚悟をしておいて下さいね?』

 

「「…………」」

 

『それでは三度目の砲撃を合図に始めますよ!』

 

明石の通信が切れると同時に周囲に緊張が走った。

旗艦の意に背く行動を抑制する……つまり旗艦が如何に状況に適した指示を出せるか、そして随伴艦が如何に正確かつ迅速に指示通り動けるかが鍵を握ってるって事、だよな。

そして明石の奴は初めの旗艦に長門とアタシを指名した。

長門の随伴艦は金剛、そしてアタシの随伴艦は不知火と暁だ。

 

勝てる気がしない、無茶振りもいい所だ……ってさっきまでなら言っただろうが、覚悟を決めたそばからそんな恰好悪ぃ真似を晒す訳には行かねぇ。

例え演習でも負けるより勝ちたい、当然だろ?

 

アタシは海面を強く踏み付けて大きく水飛沫をあげる。

上がった水飛沫が顔に掛かり疲労で鈍った頭を少しばかり醒ました。

 

「よしっ!暁、不知火、調子はどうだっ?」

 

「わ、私は大丈夫よっ!それより……」

 

「不知火も大丈夫ですが……」

 

暁も不知火も大分疲れてる様子だが、まだ動きには出ていないみたいだ。

って事は恐らく長門達も似たような状態か……。

 

「おっけー。そしたら暁、不知火、始まったら先ずは対空迎撃からだ」

 

「了解です」

 

「解ったわ。で、どんな作戦で行くつもり?」

 

「ああ、それは──」

 

そのとき、三回目の砲撃音が轟く。

アタシは意識を前に向けて暁達へ通信を繋いだ。

 

「直ぐに水偵が来る筈だっ。まずは対空警戒用意!作戦は追って伝える!」

 

『『了解っ!!』』

 

二人が前に出たのを確認すると、悲鳴を上げる自分の両膝に喝を入れて暁達の少し後ろへと続いて行った。

 

さて、望み通り無理難題に全力を尽くしてやるよ。明石さんよぉ!!

 

 




戦闘を飛ばすか否か、それが問題だ。


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第百九番〜母〜

大変長らくお待たせ致しました!
ここから一気に突き進んで参ります!


演習開始の合図から十分、予想通り前方に水偵を三機捕捉した。

 

「暁、機銃の射程圏内に入ったら合図して撃ち始めてくれ。不知火は暁の合図に併せて撃ってくれ」

 

『了解です』

 

『でも私達の射程圏内に入って来るかしら?』

 

確かに金剛達ならそれ位慎重に来るか……だが、それでも一方的に監視出来る状況を利用しない手は無いはず。

だったら狙えるタイミングはある!

 

「大丈夫。二人は両舷強速で前進、暁から八キロメートル以内に偵察機が入ったら合図をくれ。その後で暁は面舵、不知火は取舵にそれぞれ十五度旋回しつつ第四戦速で前進し射程に入り次第対空迎撃開始!アタシも二人の間に入って射程に入り次第機銃掃射を始める!」

 

『『了解っ!』』

 

指示を出し終えた後、アタシは電探で偵察機の位置を確認しながら機関の出力を上げていく。

奴らは今アタシの位置から十四キロ地点を飛行している。

暁が八キロ圏内に奴らを捉えるまで後数分も掛からねぇだろう。

 

アタシが周囲を見渡しつつ暁の合図を待っていると予想通り三分もしない内に暁から通信が入って来た。

 

『彼我距離八キロに入ったわ!けどもう九時の方向へ旋回を始めてるっ』

 

作戦が見抜かれたか?いや、あれで問題ないと判断したのか。

どちらにせよアイツらが撃墜される可能性を危惧してるって事は即ちやれる可能性があるって事だな。

 

「問題ない!さっき言った通り行くぜ!」

 

二人の返事を無線越しに聞きながらアタシも速度を上げていく。

旋回中の背面からなら対応し辛いだろうし上手く行けば挟み込めるかも知んねぇ。

 

『機銃の有効射程圏内に入りました、これより機銃掃射開始します』

 

「ああ、そしたら偵察機が暁側に行くように誘導しつつ出来る限り追従してくれ!アタシも不知火寄りに回り込んで誘導する。暁は取舵一杯で進路を0-1-0に戻して前進しつつ偵察機が撤退せずに旋回を続けるようなら不知火と挟み込む様に進んでくれ!撤退して行く場合は深追いはせず砲撃に注意するんだ!」

 

『『了解(しましたっ)!!』』

 

 

 

 

 

──長門side──

 

 

 

 

 

 水偵を見送ってから十分が経過している。

相対距離としては四十キロ程から開始しているので進路上に摩耶達がいればそろそろ遭遇している筈だ。

だが未だ妖精さんからの報告は上がって来ていない。

ならばこちら側には居ないのだろう。

 

「妖精さん、一度帰艦してくれ」

 

『むむむ、むねんですがきかんします~』

 

こちらにいないとなると恐らく金剛の偵察域に居るだろう。

もしそうでなければ虱潰しに捜さなければならず、その間に接近を許してしまう可能性があるが……。

だが幸いにも金剛から吉報が入ってきた。

 

『ヘーイナガト!マヤ達を見つけたネー!』

 

「ほんとか!場所はどの辺りだ?」

 

『方位1-7-0、距離四〇〇〇〇デース!』

 

「了解した。ならば一度偵察機を帰艦させて回収及び補給後に再度発艦させてくれ。私の偵察機も併せて向かわせた後、距離三二〇〇〇を切ったら弾着観測射撃を敢行する」

 

『オーケー。皆さん一時帰艦するネー!』

 

よし、大凡の位置は把握出来たな。

後は偵察機が落とされないように気を付ければ弾着観測射撃を決められるだろう。

とはいえこの蓄積された疲労では同じ条件とはいえ高練度の駆逐艦である暁や不知火にこの距離から命中させるのは簡単では無い。

だから順当に考えれば旗艦であり重巡洋艦である摩耶を先に落とすべきであろう。

 

「金剛、まずは摩耶からだ」

 

『ふーむ、妥当だけど良心が痛みますネー』

 

「言わんとする事は解らなくもないが、摩耶とて覚悟をもって臨んでいるのだ。気を遣う方が却って失礼だぞ」

 

『……ザッツライト。彼女もきっと望んでいないデショウ』

 

そう、摩耶が自分の意思で我々と肩を並べて居る以上我々が手を抜いては彼女の為にならない。

だから我々は普段通り力を尽くすだけだ。

それに……

 

『ノォーッ!?偵察機が一機墜とされたヨォ!』

 

大本営の明石が練度の差を覆す様な何かを彼奴に見出したのだ。

であれば一筋縄で行くような相手ではあるまい。

 

「金剛、他の二機は無事離脱出来たか?」

 

『むぅ〜、エスケープは出来たけど一機は被弾してるから直ぐに再発艦出来るのは一機だけネー』

 

金剛には視認出来た時点で一度戻す様に言ってあった。

にも関わらず二機が被弾し内一機が撃墜されるとは。

不知火や暁達の対空能力が高いのか、それとも……。

まあ、どちらにせよ金剛はその一機が落とされては弾着観測射撃が困難になるか。

 

「解った。ならば再発艦後は私の中隊の後方に続いてくれ」

 

『オーケー、そうさせてもらいマース』

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、帰投して来た偵察機を回収した私達は燃料補給を行いながら前進を続けていた。

 

「金剛、もう一機の方は行けそうか?」

 

『ノー、やっぱり再発艦は出来ないネー』

 

想定はしていたがやはり金剛の偵察機は一機しか飛ばせない状態か。

ならば精度は下がるが金剛の偵察機には少し後方で観測してもらう事になるな。

大丈夫、その分私が当てれば良いのだ。

 

「ならば先程言った通りこちらの後方に続いてくれ。では発艦させるぞ」

 

『オーケー!こっちも直に補給が終わるからすぐに発艦させるネー!』

 

私は金剛の返事を聞いてからカタパルトに零式水上偵察機を載せて一機ずつ射出させていく。

計三機を発艦した所で金剛の方からも偵察機が発艦されたのを確認した。

 

併せて念の為に電探を確認するも当然ながら金剛とそれぞれの偵察機以外の反応はない。

確認はしていないが未だに偵察機の反応が無いという事は摩耶が水上機を積んで居ないと考えて間違いは無いだろう。

 

それなら妖精さんからの連絡が入るまでは大丈夫か。

そう思いつつも油断はしないように確りと気を張り詰めていた。

というかそうしてないと膝が笑ってしまいそうな程の倦怠感がこの体を苛んでいる。

 

見くびるつもりは無いがあれだけのハードなスケジュール、艤装を着けた私ですら疲労を感じているというのに他の者は果たして大丈夫なのだろうか。

……はっ!もしや何処かで倒れているのでは?

そうなら直ぐに助けに行かなければ!

 

横道に逸れつつあった思考を妖精さんからの通信が一気に引き戻してくれた。

 

『はっけんしました!まやさんしかいません!』

 

「そうか、ならばこれから弾着観……測を……?」

 

まて、何故摩耶一人だけなのだ?

 

「他の二人は近くに居ないのか?」

 

『はい、すくなくともみえるはんいには』

 

うむ……二人が何処へ行ったかは解らぬがまだ然程離れては居ないはずだ。

ならば私のと金剛の偵察機を一機ずつ摩耶に付けておいて弾着観測射撃を行いながら他の二機で索敵を続ければ良いだけだ。

 

「金剛、予定通り摩耶に集中砲火を浴びせる。偵察機はそのまま摩耶の上空を待機だ」

 

『オーケー』

 

続けて偵察機の妖精さんに通信を繋げる。

 

「一番機はそのまま距離を取りながら摩耶の上空を待機。二番機は西側、三番機は東側の索敵をしつつ戻ってきてくれ」

 

『いちばんきりょうかい!』

 

『にばんきしょうちしました!』

 

『さんばんきにんむはあく!』

 

それぞれの返答聞いた後、早速視線の先に居るであろう摩耶へ狙いを定めて一斉射目を放とうとしたその時。

 

『さんばんきひだん!これいじょうのこうこうふか!ふじちゃくします!!』

 

『にばんきひだん!そうじゅうふのうです~!!』

 

…………は?一体何が起きて居るんだ?

 

 

 

 

 

 

 

──摩耶side──

 

 

 

 

 

 

 よし、咄嗟の思い付きだったけど思いの外上手く行ったようだな。

 

「やったわね摩耶さんっ!あっちの偵察機を更に二機撃墜したわ!」

 

「相手の使える偵察機は多くて後三機、良い調子です」

 

アタシの直ぐ後ろから聞こえて来る二人の声を聞きながら少し離れた所で旋回しようとしていた偵察機に機銃掃射を行う。

その内の一発が運良く偵察機の腹に直撃し高度を下げて着水したのを確認したアタシは後ろに振り返り笑顔で返す。

 

「いんや、これで残り二機だ!」

 

アタシらがやった事は言っちまえば単純だ。

暁と不知火の二人をアタシの後ろに隠して偵察機から見えにくくした。

勿論そのままじゃ直ぐに見つかっちまうから二人には衝突しないギリギリまで近付いて貰った上でアタシが出力を最大まで上げてその排煙で上空から更に分かりにくくしたって訳だ。

例えアタシが最大戦速で飛ばしても暁達は追い付ける訳だしな。

 

と言っても普段の長門達なら二人が見えない事に気付いた時点で無闇にアタシに近付いたりはしなかったと思う。

だが疲労で判断が鈍ったのかアタシが旗艦だと油断してたのかは知らねぇが、アイツらは射程圏内にあっさりと入って来た。

 

「これで奴らも迂闊には近付けねぇだろ!」

 

「そうね!長門さん達も十分警戒している筈だわっ」

 

「ええ、ですのでこれ以上は相手も落とさせてはくれないでしょうが……」

 

「ああ」

 

不知火の言う通りだ。

長門達も恐らく今のでかなり警戒してくるだろうからな。

今後射程圏内に入ってくる事はまずねぇだろう。あったとしても何かしらの罠を疑うべきか。

けどそれならそれで構わねぇ!距離が離れていればそれだけ弾着観測の精度も下がるだろうしな。

 

「問題ねぇ、それよりそろそろ砲撃に注意だな。よしっ、通常の単縦陣に戻すぞ!」

 

「「了解っ!」」

 

アタシの掛け声で二人は少しずつ間隔を広げていく。

その直後、アタシの前方五メートル程先で八本の水柱が上がった。

 

「うおっ!?あっぶねぇ……まだ距離があると思ったが、流石だなぁ」

 

「まずいですね……暫くは一方的に撃たれ放題です」

 

くっそぉ……今のアタシじゃあこっちの戦闘距離に入るまで耐えるのは厳しいか。

せめてあの水偵さえ落とせれば……いや、落とした所で正面からの撃ち合いになった時点でアタシに勝ち目はねぇ、か。なら……

 

「暁っ!不知火っ!アタシはこれから後ろに退く」

 

「えぇっ!私達はどうすればいいの!?」

 

暁が驚くのも当然だ。アタシだって出来ればこんな格好悪ぃ作戦やりたくねぇ。

だが格好つけたいが為にテメェの力量も考えずに突出して一人で沈むなんて旗艦としては最悪だ。

 

「普通に考えれば一番練度が低く尚且つ駆逐艦より当てやすい重巡のアタシを狙ってくる」

 

だからアタシはどんなに無様な手段であろうが選ぶ。

 

「そこで暁は方位3-0-5へ、不知火は方位0-3-5へそれぞれ前進してアタシから離れるんだ。そこを狙って接近した長門達を横から挟み込む様に回り込んでくれ。そして雷撃射程ギリギリで雷撃開始。長門達が二人を狙うようなら狙われた方はその間無理せず距離を取ってくれ」

 

「……確かに私が長門さん達でも真っ先に摩耶さんを狙うでしょうが、しかし……いえ、そうですね。了解しました」

 

「わ、わかったわ!後はこの暁に任せておきなさい!」

 

「ああ、奴らとの距離も分かり次第教えてくれ!」

 

アタシは暁達が二手に別れた後、直ぐに後進を開始すると長門達から距離を取り始める。

 

「ふぅ、アイツらにあれだけ頑張らしてんだ。アタシがやられる訳には行かねぇよなっ!」

 

アタシは立ってるのもやっとな脚に喝を入れると降ってくる砲弾の雨をどうにか避け始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あぁ、ついに動き出せる!
というか2年近くも埋もれていたこの作品を読んでくれる人が今だに居ることに感動を抑えきれない!


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第百十番〜母〜

演習を終えた後、大本営の明石はアタシらを一人ずつ工廠の事務室に呼び出した。

内容としてはどうやら今回の演習のフィードバックと言うことらしいが……可能なら明日にして欲しかったぜ。

つうか艤装を付けてる時は疲労を感じにくいんじゃなかったのか?全身が重くて仕方ねぇよ。

 

とはいえ、承諾した手前向かわない訳には行かないのでアタシは覚束無い足でどうにか工廠へと向かった。

中に入ると丁度長門が扉に手を付きながら事務室から出てきた所であった。

 

「お?長門も大分お疲れみたいだな」

 

「まあな、だが摩耶こそ大丈夫か?厳しいようなら私から明石に断っておくが……」

 

「はは、ありがとな。けど大丈夫だ、態々個別に呼ぶ位だし明石にも考えがあるんだろうからな」

 

「うむ……そうだな。だがあまり無理はするなよ?私を含め皆が心配するからな」

 

「おうよっ!分かってるって!」

 

忠告する長門にアタシはサムズアップで答えた。

アタシだって皆に心配掛けたくねぇし別に無理するつもりはない。

 

「うむ、ではまたな」

 

アタシの返事に納得した長門が少しだけフラつく足取りで工廠を出ていくのを見送ると、アタシは大本営の明石が待っている事務室の扉を叩いた。

 

「摩耶だ、入っていいか?」

 

「あ、どうぞ〜。そのまま入っていいわよ」

 

明石からの返答を受けて扉を開くと明石と何人かの妖精は何やら機械を弄りながらこっちに手を振っていた。

 

「いらっしゃい摩耶、今日はお疲れ様。その辺に腰掛けててね」

 

「お、おう。それで?フィードバックって聞いてるけどアタシは何すればいいんだ?」

 

妖精達に手を振り返しつつ明石に通されるまま近くにある座布団の上に胡座をかいて早速用件を尋ねた。

明石は回転脚の椅子の背もたれに寄り掛かりながらモニターをこっちへ見せる様に動かしながら答えた。

 

「簡単な事だから安心して。演習の様子を見ながらその時どう考えて動いたかを聞かせてくれれば良いだけよ」

 

「はぁ……まぁそれは分かった。けど態々今日聞くのには理由があるのか?」

 

「勿論っ!思考というのはその時々で変わっていくものなんだから、出来る限り時間は置きたくないの」

 

即答した明石の言い分は尤もな気がしたのでアタシは黙ったまま頷いた。

 

「ま、そこまで時間は取らせないから安心してね!」

 

「お、おう。それは助かる」

 

「いえいえ。私から摩耶に確認したい事としては大きく分けて二つね」

 

二つ?多いか少ないかで言えば少ない気がするが……。

アタシが疑問に感じている内に明石は構わず話を進めていった。

 

「先ずは最初の所ですが……」

 

そう言って明石は映像を進めていたが、アタシが煙幕を張って不知火達を隠していた所で一時停止させると、真面目な顔で尋ねて来た。

 

「この行動だけど一見単純そうに見えて実の所とても高度な操艦技術と連携を要し、一歩間違えば重大な衝突事故に繋がる可能性があった事は理解してましたか?」

 

うっ……まぁ、確かに普通に考えてこんなコンディションでやる様な事じゃなかったとは思う……が。

 

「簡単な事じゃねぇのは分かってた」

 

「ふむ、ならそれを理解した上で敢えてあの戦術を取ったのは何故です?」

 

明石の尋問とも思えるような問い掛けにアタシはたじろぎながらも自分の考えと、不知火達にも伝えた事を話した。

 

「先ずは水偵を減らさない事にはどうにもならねぇ。だがまともに迎撃したんじゃ長門と金剛の水偵は先ず落とせないだろうとアタシは踏んだんだ」

 

「成程、彼我の戦力の把握は出来てるようね。けどそれだけでこの行動に踏み切ったとは言わないわよね?」

 

「いやまぁ、実際そこまで難しく考えてた訳じゃねぇけど……ただ、暁と不知火の二人じゃなきゃ提案しなかったし、反対があるようなら言ってくれとも事前に伝えてあるからな。出来ねぇ事はやらせる気は無かったんだ」

 

アタシがそこまで答えると明石は何処か引っ掛かる事があったのか声のトーンをさげて質問を続ける。

 

「ねぇ摩耶、私は始める際に旗艦の意に背く行為は慎むようにって言ったわよね?」

 

「……ああそうだな」

 

「であるにも関わらず二人のどちらかが反対したらあの作戦は止めてたって事?」

 

威圧的に聞いてくる明石に対してアタシは真剣に見返して答えた。

 

「ああそうだ。その時点でアイツらに無理にやらせるくらいなら命令違反だろうとアタシは別の作戦を考える」

 

そんな旗艦命令で強行するより確実に出来る事を実行した方が被害も抑えられるし戦果戦果だって上がるはずだ。

アタシの答えを聞いた明石は顎に手を当てながら何かを呟いた後こっちに向き直り落ち着いた口調で言葉を紡いだ。

 

「ふむ……貴女の考えは分かりました。なので私から1つ」

 

「へ?」

 

「まず貴女のやり方ですが、確かに軍属の指揮官としては褒められたやり方ではありません」

 

まぁ、自分の指示に自信が無いって周りに伝えてるようなもんだしな。

指揮官としては良い対応とは言えねぇか。

 

「ですが貴女の立場とアドリブ的な作戦指示にも適応出来る程の信頼関係を彼女達と築けている事も踏まえれば、マニュアル通りにしか動けない艦隊よりもより実践的と言えるでしょう」

 

「お、おう。そう……なのか?」

 

そんなこといきなり言われても正直複雑だぜ……。

要は艦隊戦のイロハなんて知識程度にしか知らねぇアタシが無茶苦茶な事させねぇ様にって思っただけの浅知恵だからなぁ。

 

そんなアタシの気持ちを知ってか知らずか明石は先程までの真面目な表情を崩して言葉を続けた。

 

「まあ色々思う所はあるかもしれないけれど、少なくとも私と今回一緒に演習した暁達は貴女のやり方を高く評価してるから自信を持ちなさい?」

 

「そっか、暁達が……それなら良かった」

 

「ふふ……さて、それじゃあもう一つ見てもらうわね」

 

明石はそう言って微笑むと映像を早送りして次の場面まで移す。

 

「この場面ね」

 

「あ〜……あぁ」

 

次に映し出されたのはアタシが二人を先行させて一人距離を取っている正直客観的に観ても情けねぇと思う場面だった。

 

「摩耶、貴方なら一緒に前に出ると思ったのだけれど……この時の考えを聞かせて貰えるかしら?」

 

「んー、まぁ確か情けねぇなとは思うけどよ……もしあそこでアタシが前に出てたら間違いなく大破して負けてたって言い切れる。アタシの勝手でアイツらの頑張りを無駄にする訳にはいかねぇよ」

 

だからアタシは二人を信じて絶対に大破しないよう意気込んで臨んだ訳だ。

結果的にそれが功を奏したけど、もし長門達がアタシを最初から狙わなかったりアタシが下がった上で大破判定になったりしてたらとんでもなく足を引っ張った結果になってただろう事も確かだから誇れる事じゃねぇな。

実際かなりギリギリだったわけだし……。

 

アタシの返事を聞き終えた明石は何度か頷きながら何かをメモに残していた。

 

「よしっ、分かったわ。それじゃあ朝話した通り明日からも同じ様に訓練後に演習で行くからゆっくり身体を休めると良いわ」

 

「ん?もういいのか。分かった、それじゃあアタシはこれで失礼するぜ」

 

明石に一言そう告げて部屋を後にしたアタシは工廠に艤装をしまう為に艤装を解除し一度床へと置いた次の瞬間。

全身を襲う倦怠感を堪える間もなくアタシの記憶はそこで途切れた。

 

 




摩耶様視点書きやすい!(戦闘を除く)


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第百十一番〜母〜

シリアス中尉です。


アタシが次に目が覚めた場所は見覚えのある工廠の天井だった。

艤装を外してからの記憶はねぇけど診察台の上で横になってタオルケットまで掛けて貰ってるって事は無意識にここまで来たってのは考えにくい……って事は、気を失ってたのか?

 

……マジかよ、長門にも言われたばかりだっつうのになにやってんだアタシは。

 

「あっ、まやさんがめをさましたです!」

 

「あかしさんにつたえてきます!」

 

アタシが頭を抱えていると俄に騒がしくなった。

顔を上げるとそこには二人組の妖精が丁度工廠を出て行こうとしている所だった。

 

「あ、ちょっと待った。悪ぃが少し聞きたい事があんだけどよ」

 

アタシが呼び止めると片方の妖精は振り返って聞き返してきた。

 

「はい?どこかからだのちょうしがおかしいですか?」

 

「いや、体調は大丈夫だけど……それよりアタシを運んでくれたのはお前達か?」

 

「いいえ!じむしつからでてきたあかしさんがかいほうしてました!」

 

事務室って事は大本営の明石か……迷惑掛けちまったみたいだな。

それにしてもたった一日で倒れるなんて情けねぇ。

次からはこんな事にならねぇ様にもっと気合い入れてかねぇとな。

 

アタシが反省していると不意に工廠の扉が大きく開き、外から血相を変えた明石が飛び込んで来た。

 

「大丈夫ですか摩耶さん!?」

 

「うぇっ!?って呉の明石か、アタシなら大丈夫だって」

 

「あ…………あぁっ……よかっ……たぁ!」

 

「お、おいおい。お前の方が大丈夫かよ」

 

明石はアタシの姿を捉えるとその場に崩れ落ちて大きく息を吐き出した。

 

「摩耶さんが倒れたって聞いたからまた無理してるんじゃないかって……私……」

 

「あー……無理をしたつもりはねぇ、けど情けない事に身体が訓練について行かなかったって言うか……な?」

 

あんまり認めたくねぇけど心配掛けちまった明石に隠し立てする訳にも行かねぇしな。

 

だが、その言葉に異を唱える声が聞こえてきた。

 

「摩耶、今回の事は貴女の体力が無いとかそんな単純な話では無いわ」

 

「あ、大本営の……それってどういう」

 

遅れて工廠に入って来たもう一人の明石、大本営の明石はアタシと呉の明石を事務室へ招き入れた。

 

「以前に艤装を常時装備したまま生活をしていたという話は呉の明石から聞いてたわ。それももう二ヶ月以上前の話だったので特に問題は無いと思っていたのだけれど……」

 

「まぁ、確かにそんな事はあったけど。でも今は艤装は毎日外してるぜ?」

 

「ええ、ですが三ヶ月近く続けていたその無理な運用で貴女の身体には深刻な後遺症が残ってしまったのね」

 

深刻な後遺症……。

アタシの中で嫌な考えが過ぎるがそれを振り払うように頭を何度も振ってから大本営の明石に詳しく尋ねる。

 

「……で、その後遺症ってのはなんだ」

 

「防衛機能の過剰反応とそれに伴う生命維持優先状態への誤遷移……簡単に言えば疲れを感じやすくなるのと昨日みたいに肉体の限界を誤認して行動制限が掛かってしまうって事ね」

 

「えぇ……と、つまり疲れやすいってのとそれを危ねぇって勘違いして無理矢理休めようとするって感じか?」

 

「ええ、その認識で問題ないわ」

 

そっか、じゃあ昨日みたいな訓練はもっと慣らして行かねぇと駄目だって事だな。

 

「成程な、そしたらアタシは別の組に移る事になるんだな?」

 

大本営の明石の期待に応えられなかったのは残念だが焦っても仕方ねぇ。

それでもその時までに自衛位は出来るようにしとかねぇと皆に迷惑掛けちまうからな。

 

「ああ、後遺症の事は分かったからそれより今後どうするか考えようぜ?」

 

「…………」

 

そう思い大本営の明石に訊ねたのだが、明石は一向に応えようとしない。

まあ何か難しい顔してるし考えがあるんだろう。

アタシはそう結論付けて待っていると、暫くして漸く明石が口を開いた。

 

「摩耶……工作艦として言わせてもらうわね?貴女には向こう1年間艤装の装着及び高負荷の訓練を禁じます」

 

「…………は?何言ってんだよ。確かにあいつらとは歩幅は合わせらんねぇのは分かる……けど艤装の装着と訓練の禁止ってどういうことだよ」

 

「どうもこうもそのままの意味よ。今後一年は艤装を付けずに激しい訓練もせずに暮らしなさい」

 

「…………ふ……ふ、ふっざけるな!!アイツらが必死に頑張ってるっつうのにアタシだけ護られてろって言うのかよっ!」

 

アタシは大本営の明石の胸ぐらを掴みあげて声を荒らげた。

それでも明石は冷静にこっちを見つめたまま続ける。

 

「至って真面目な話よ。知らなかったとはいえ貴女はそれだけの無理をしてきたの。これ以上無理をすれば普通に生活する事すら困難になるわよ」

 

「く……くそっ……が……」

 

「…………すみません摩耶さん。私がもっと早く気付くべきでしたのに」

 

隣で頭を下げ震える声で謝る呉の明石の姿を見て、アタシの理性は辛うじて心を引き留める。

 

解ってる、明石達に非はない。

今思えば呉の明石が絶対にやるなと言っていた行動を取ってた事に気付かなかったのはアタシだ。

それに大本営の明石だってアタシの身体を気遣っての発言だっつう事も分かる。

だから此処で二人に当たっても意味はねぇんだ。

 

大本営の明石の襟からゆっくりと手を離し二、三歩下がる。

 

「……悪かったな、明石。アタシはちょっと部屋で頭冷やしてくる」

 

「摩耶さん……」

 

「心配すんなって明石、こんなんでへこたれる摩耶様じゃねぇって。んじゃまたなっ」

 

アタシは申し訳なさそうに見つめる呉の明石に対して、極力いつものアタシらしく返してから工廠を出ていった。

 

 

はは……全く、艦娘の癖に艤装を装備する事も出来ねぇなんて笑っちまうよな。

ま、艦娘の使命を全うしようなんて崇高な心意気があった訳じゃねぇし…………そ、それに艤装が使えなくても今の生活に支障が出るでもねぇしな!

 

そう……だから気に病む事なんか…………くそっ……くそがっ…………ふざけんなっ!

皆が居場所を護る為に必死に歯ァ食いしばって強くなろうとしてるこんな大事な時にただ護られてるだけなんて認められっかよ!!

 

ちくしょう……どうすりゃいい…………。

 

……まてよ、例え艤装を使ったって今すぐにどうにかなるわけじゃねぇ筈だ。

だったら明石達にさえ気付かれないように訓練すれば良いだけじゃねぇか。

そうだ、せめて自分の身を自分で守れるくらいになってあいつらに迷惑を掛けねぇようにするんだ。

 

「おおっ、大丈夫だったか!明石から参加出来ないと聞いていたからやはり無理をしていたのではないかと心配してたのだ」

 

「長門……?」

 

ああ、そっか訓練の間の休憩時間中か。

この時間で既に息を切らしてるって事はきっと昨日よりハードな内容になってるんだろうな……アタシの身体が耐えられない様な訓練か。

 

「摩耶?どうした、まだ体調が優れないのなら休んで居た方が良い。部屋まで送ろうか?」

 

「……ははっ、心配掛けちまって済まねぇ。身体の方は大丈夫だぜ。ただ身体がついていけねぇみたいで今後一緒には訓練が出来ねぇのは残念だけどな?」

 

「む……」

 

「ま、そういう事だからそっちも頑張れよなっ!」

 

眉を顰める長門から視線を外しアタシはそのまま歩き始める。

しかしその直後、長門の右腕がアタシの肩を掴んで引き戻した。

 

「っ……!なんだよ、休憩時間はしっかり休んだ方が良いぞ?」

 

アタシは声色を変えないように気を付けながら長門に伝えるも、長門は気にせず無線を繋ぐと連絡を取り始めた。

 

「ああ、私だ。明石、勝手を言って済まないがこの後の訓練は私抜きで進めて欲しい……ああ……そうだ、すまんがそれで頼む」

 

「おいおい、天下のビッグセブン様が訓練をサボって良いのかよ?」

 

明石に休みの報告を行う長門に敢えて軽口を叩くが長門は一切耳を貸さずにアタシの腕を引っ張って近くの部屋に入って行った。

 

アタシは長門の行動が理解出来ずに黙って様子を伺っていると長門は近くにあった椅子を引き寄せてどっしりと腰を落とし、威圧するような低い声で話し始めた。

 

「済まないな摩耶、先程は軽く濁したがお前の身体事については大本営の明石から全て聞いている」

 

「……っ、そうか。まぁ隠す事でもねぇしな」

 

「私が明石から聞き出したのだ……で、その上で質問だ摩耶。お前はこの後どうする気だったのだ?」

 

「どうするって……そりゃあ艤装が使えねぇんだから飯作ったりとかいつも通りに過ごすしかねぇだろ?」

 

アタシは気にしてない風を装って答える。

だけど長門は全てを見透かしているかのように鋭い目付きでアタシを睨みつける。

 

「摩耶よ……貴様はそんな見え見えの虚勢を張っているのだ」

 

「なっ、何を言ってんだよ。アタシは別にいつも通りだって!確かに戦えないと宣告されたのは悔しいけど明石に止められたんだからもう割り切ってるよ」

 

「割り切ってるか……摩耶よ、元舞鶴第八の艦隊旗艦であるこの長門を余り舐めるなよ?」

 

長門の一喝がアタシの心を揺さぶる。

 

強くなれるあんたにアタシの何が分かる。

大切な仲間を護れる力を持ったあんたに何が分かるって言うんだ。

内側から溢れんばかりに押し寄せる負の感情を吐き出さない様にアタシは奥歯を強く噛み締める。

 

だが、続く長門の言葉はアタシの感情を逆撫でた。

 

「はぁ、私に真っ向から対立してきたあの時の貴様とは大違いだな……()()()()()

 

「なっ……!てめぇに何が分かる。他の奴らが此処を護る為に歯ァ食いしばって努力してる中で戦力外(役立たず)と宣告された奴の気持ちなんてよ!」

 

良いから放っておいてくれよ……アタシだってこれ以上こんな姿晒したくねぇんだよ。

 

「役立たず……?ふむ、お前は本当にそう捉えているのか?」

 

「はぁ?本当も何も艤装すら着ける事が出来ないアタシが役立たず以外のなんだって言うんだよ!」

 

「艤装がなければ役に立たない?そんなもの貴様の思い込みに過ぎん。そんな事は既に分かっているものだと思っていたのだがな?」

 

長門が何を言わんとしてるのか理解出来ないアタシは訝しむように睨み付けた。

そんなアタシの視線に気付いた長門はアタシに確認する様に質問を投げてきた。

 

「では聞くが摩耶よ、戦闘能力に乏しい一般的な工作艦は戦力外か?」

 

「なわけねぇだろ!あいつらには専門の知識と技能があるじゃねぇか!」

 

「そうだな。それでは人間……例えば西野の事はどう思う?艤装も使えず戦える程強くもない。そんな彼女は居ても居なくても変わらない約立たずだと思うか?」

 

「それ……は……ちがう」

 

確かに西野は戦えないし、そこまで頭が切れるようにも見えなかった。

それでも球磨達にとって掛け替えの無い存在であった事は当時のアイツらの様子を見てれば誰でも分かる。

西野はただ提督としてでだけでなく同じ仲間としてもアイツらの心を支えていた。

 

「そうであろう?なれば我々艦娘が艤装を使えずとも役立たずと決め付けるのは早計だとは思わんか?」

 

「…………」

 

長門が言いたい事は解る。

だが果たしてアタシにそれだけの何かがあんのか?

長門は未だ心が定まらないアタシの肩に手を置き、真っ直ぐとアタシの目を見て口を開く。

 

「摩耶、お前は何故我々と同じ班となったか聞いたか?」

 

「……いや、明石が何かアタシに期待していたんだとは思うけど」

 

「その通り、明石はお前に期待を寄せている。そしてそれは艤装が無くなった程度で失われるものでは無い」

 

「艤装がなくても……か」

 

その言葉で喉につかえていたものがストンと落ちた気がした。

まだ答えが見つかった訳じゃない……けど、そんな事まで教えて貰わなきゃ分からない程の馬鹿じゃどうしようもねぇ!

見てろよ、艤装が使えなかろうとアタシはアタシだ。これまで通り出来る事はなんでもやってやるぜ!

 

「サンキューな長門、もう大丈夫だ!アタシはこれから工廠に戻るからお前も訓練に戻れよな!」

 

「ふっ、いい顔だ。これなら心置き無く訓練に打ち込めよう。またな摩耶よ」

 

「おうっ、またな!」

 

アタシは元気良く長門に言葉を返すと部屋を出て再び工廠へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うちの摩耶様に艤装なんて必要無かったんや!


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第百十二番〜母〜

「明石!大本営の明石はいるか!?」

 

工廠の扉を勢い良く開くとそこには呆けた顔で出迎える呉の明石の姿だけである。

辺りを見回すが既に出ていってしまったのか大本営の明石の姿は無かったので、呉の明石に行方を聞いてみた。

 

「なあ明石、大本営の明石はどこ行ったか解るか?」

 

「え、ええと。あの人なら門長さん訓練場に行ってますが……あの一瞬で良く私と明石の違いが分かりましたね」

 

「ん、それくらい誰でも分かるだろ?」

 

幾ら同じ姿で生まれたって過ごしてきた環境が違えば性格や雰囲気だって違ってくるもんだ。

それに会ってからそんな経ってないならまだしも呉の明石とはそれなりに経ってるしな。

 

「…………」

 

それよりも明石はあいつに稽古を付けてる最中か……流石に邪魔すんのも悪ぃしな。

また時間を改めて頼むとするか。

 

「騒がしくて済まねぇな明石、また出直すわ」

 

そう言いながら工廠を出ようとしたアタシはふと立ち止まり、振り返って明石に声を掛けた。

 

「あー……なぁ明石、さっきは悪かったな。大分取り乱しちまったが今はもう大丈夫だからさ。お前も今回の事であんま思い詰めんなよ?」

 

まああんな情けない姿を見せちまったアタシが言えた事でもねぇけどな。

それでも今回の事で明石に責任を感じて欲しくねぇからよ。

 

「えっと……そうですね、お気遣いありがとうございます」

 

「はは、別にそんなんじゃねぇって。そもそも明石が気に病む事じゃねぇってアタシは思ってっからよ、あんま気にされっとこっちまで申し訳なくなっちまうぜ」

 

「あはは……分かりました。摩耶さんがそう仰るなら私もその様にしましょう」

 

「おうっ、よろしく頼むぜ!」

 

明石の返答に満足したアタシは再び正面に向き直り、訓練場へ向かう為に歩き始める。

さて、この後は松達の夕飯作りを手伝いに行くとすっかな。

 

「あっ、摩耶さんっ!ちょっと良いですか?」

 

「んあ、どうした明石?」

 

この後の動きを考えていると不意に後ろから明石に呼び止められた。

アタシはなんの用かと思い足を止めて顔だけ顔だけ振り向いて尋ねた。

 

「一つ伺いたいんですが、摩耶さんは深海棲艦の方々を見分ける事は出来ますか?」

 

「……は?」

 

脈絡のない質問に戸惑うアタシに明石は分かるように言葉を加えていく。

 

「いえ、摩耶さんは先程私と大本営の明石さんを直ぐに見分けてたのでもしかしたらと思いまして……」

 

「ああ……そういう事か……」

 

明石の言ってる事は解ったが……正直な所、アタシはあいつらの所属も分かんねぇしそもそも顔を見ただけって奴が殆どだしなぁ……。

 

「あ〜……悪ぃがアタシはあいつらとそこまで関わりがあるわけじゃねぇから断言は出来ねぇな。まぁこっちに居るフラヲ達がどうか位は解るとは思うけどな」

 

「ふんふん……十分です!でしたら一つ頼まれて頂けませんか!」

 

「へ、アタシが?一体何をするんだ?」

 

いやまぁ手伝える事があるなら喜んで協力するけど……明石のやってる事を専門的な知識の無いアタシが力になれるとはあんまりおもえねぇな。

 

だがどうやらそういう話ではないらしい。

 

「私が深海棲艦の方々の艤装をメンテナンスしているのは前にお話しましたが、実は彼女達には万一の渡し間違いを防ぐ意味も込めて艤装の整備が終わるまでこちらで待って頂いてまして……摩耶さんにはその間彼女達と交流を深めて頂ければと」

 

「へ?別に構わねぇけど……交流なら既に暁達がやってんだろ?」

 

「はい。ただあっちは良くも悪くも仕事上の付き合いという事でお互い余り踏み込まない様にしているみたいなので。ですからメンテ中の空き時間に彼女達が暇しないようにという意味も込めてお話を聞いて頂こうかと」

 

「なるほどな、明石の考えは解ったしアタシも興味が無いと言ったら嘘になるが……アタシはアタシでやらなきゃならねぇ事があるからなぁ」

 

アタシが頭を捻らせていると明石はふと気づいたようにある交換条件を持ち出してきた。

 

「もちろん無理にとは言いませんがもし受けて下さるならそのお礼に私も可能な限りそっちに協力しますし、それにきっと摩耶さんに取っても必ずプラスになります!」

 

まるで考えてる事が分かってるかのように断言する明石にアタシもなんだかその方が良い気がしてきた。

 

「解った、じゃあその条件で頼むぜ」

 

「もっちろんです!それではさっそく明日からよろしくお願いしますね!」

 

「おうっ、なら今日の所は松達の手伝いでもしに行くとするぜ。またな明石!」

 

アタシは昼頃に此処を出た時とは打って変わって元気良く明石に別れを告げると、鼻歌交じりに食堂を目指したのだった。

 

 




摩耶様視点は一先ずここまで!
次回は本作主人公のあの男の登場だぁー!!


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第百十三番

門長って誰だっけ?ってなってる人はまた1話から見ることをオススメします!


大本営の明石の奴から稽古を受けて早くも三ヶ月が経過していた。

体感的にはもっと経ってるように感じるがまぁいつもの事だろ。

俺は天才的なセンスによって明石の技とやらを次々と吸収し最早本家本元である明石すら軽々と超える程の使い手となっていた。

 

そんな俺は今横たわって青空を見上げている。

何故かなど答えるまでもない。

 

「ったく、俺とした事が油断したぜ」

 

そう、油断さえしなければ今や明石に負ける道理などない。

 

「門長さん、僅か三ヶ月でここまで身に付けた事は賞賛に値します。ですがハッキリ言って雑なんですよ。重心の移動にもっと気を配って下さい」

 

「ああ?やってんだろ!何が間違ってる!」

 

「例えば横中段蹴りを受け流した時に門長さんの場合重心が前に寄っているんです。この時は重心を真下に移動させないと相手が柔術の心得が無くとも力量差によっては受け流せずに押し切られてしまいます」

 

そうか前に重心が……って解るかんなもん!

……とはいえ、明石が艤装格納時の俺の横蹴りを難なく往なして見せた以上俺も明石の一撃くらい軽く捌かなけりゃメンツが立たねぇ。

 

「よっしゃ!もう一度だ、掛かってこいやぁ!」

 

「そうですね……っと、すみません。その前にやらなければならない事が出来ましたので此処で一旦休憩にしましょう」

 

「あぁ?なんだよ……ったく仕方ねぇな」

 

「すみませんね、それでは午後は一三○○にこちらで再開しましょう。それでは失礼しますね」

 

それだけ伝えると明石は訓練場を小走りで出ていった。

実際ちんたらやってる時間はねぇが、休息は重要だからな!

つーわけで俺は響を探しに行ってくる!

 

 

 

 

 

 

 

見つかんねぇ……。

 

響を探し求めて暫く歩き回っていた俺は海岸から水平線を眺める不知火の姿を捉えた。

 

「ん?何してんだあんな所で……」

 

俺は不知火のすぐ後ろまで近付くが気が付く様子は無い。

不知火がここまで警戒を疎かにするなんて、一体何が見えてるんだ?

 

俺は不思議に思いながらも不知火が見つめる先を同じ様に見つめてみる。

 

…………お?あれは……軍艦か?

 

視線の先に僅かに映る艦影に俺は嫌な記憶を思い出していた。

 

深海棲艦の登場で一気に廃れた旧式の軍艦に乗って来てるのは恐らく海軍の人間だろう。

宇和の例もあるし厄介事に巻き込まれる前にさっさと沈めるか。

 

「不知火」

 

「はっ!?はい!」

 

「じゃあ俺は工廠に置いてある主砲取ってくっからその間の監視を頼む」

 

驚きの余り肩を跳び上がらせる不知火の可愛い姿を記憶に焼き付けながら俺は彼女にあの船を見張ってるように頼む。

 

「え……あ、と……」

 

俺は狼狽える不知火を待たずに工廠へ行こうと振り返るが不意に手を引かれる感覚に思わず足を止めた。

 

「お?どうした不知火?」

 

「門長少佐、あれは敵ではありません。ですのでこのままお待ち頂けませんでしょうか」

 

「よし分かった、ならこのまま待つか」

 

「え……」

 

不知火がそう言うならそうなんだろう。

俺は直ぐにそう結論付けて不知火と共にあの船が近付いて来るのを待つ事にした。

 

それから三十分後、小型船に乗り換えて明石とサイドテールの女、それと響と同じ服を着た茶髪の少女の三人に先導されて軍服に身を包んだ男は中部前線基地へ上陸してきた。

 

あの野郎は……。

 

「横須賀第一鎮守府、元空母機動部隊旗艦加賀よ。よろしく」

 

「同じく横須賀第一鎮守府、元第一水雷戦隊所属雷よ!よろしくね門長さん!」

 

長門と離れた今でもアイツに対する憎しみは微塵も風化していない。

 

「久しぶりだね門長少佐。その顔なら大丈夫そうだが一応自己紹介しておこう。私は横須賀第一鎮守府の提督、そして元帥海軍大将阿部正勝(あべ ただかつ)だ。()、とつくがね」

 

「てめぇ……なんで生きてんのかは知らねぇが良く俺の前に姿を現せたなぁ!」

 

「少佐っ!?」

 

俺は瞬時に阿部の胸ぐらを強く締め上げる。

 

「ぐっ…ふ……此処で君に殺されるのなら其れが私の運命なのだろう……だが私怨に彼女を巻き込んでしまうのは忍びない。そうは思わんかね少佐?」

 

「あぁ?なんの話し━━」

 

阿部がそう言っておれの右腕の少し下を指さした。

釣られて視線を少し下にさげるとそこには物干し竿に掛かった衣類の様に俺の腕に掴まって揺らめく不知火の姿があった。

 

「少佐……!不知火はどうなっても構いません。ですが司令だけはどうかっ!」

 

いや、必死なのは分かるがその体勢で言われてもな……。

まぁ言っても奴は人間だし、連れてきた艦娘の数からしても俺達と事を起こそうって訳でも無いようだ。

なら無為に不知火を悲しませることもねぇか。

 

「まあいい、取り敢えずは不知火に免じて見逃してやろう」

 

俺はぶら下がる不知火を隣に立たせ頭を撫でながら告げた。

 

「そうか、ありがとう不知火。お陰で生き長らえる事が出来たよ」

 

「い、いえっ……ですが、司令はあの時……」

 

不知火の疑問に対して阿部は静かに笑うと自身の肩に指をさし答える。

 

「なに、簡単な話さ。彼女が辛うじて私の命を繋いでくれたのだよ」

 

そう言って阿部の奴が指を差した方に目を向けるとぼけーっと空を見上げる額にねじり鉢巻きを巻いた妖精が奴の右肩に座っていた。

 

「これは……応急修理妖精?しかし彼女達は私達艦娘しか直せない筈では……」

 

「分からないかね?まあ大雑把に言ってしまえばお前達や門長君と同じ存在となった訳だ」

 

俺や不知火達と同じ存在だぁ?それが本当なら油断ならねぇな。

警戒を強める俺に対して阿部は軽く笑いながら言葉を続ける。

 

「そんな警戒しなくとも艦娘の改修は行っていない。言わば君達の劣化版の様なものだから戦闘能力は人間のそれと変わらんよ」

 

「そうか……その割にはさっき俺が掴み上げた時に後ろの三人が動かなかったのはどういう事だ?」

 

こんな所まで付いてくるくらいだからコイツらの間にも夕月達にも劣らない程の信頼関係はある筈だ。

コイツらが提督じゃ無くなった奴の命令を聞く必要も無ぇしな。

 

「なに、我々の目的は最終段階に入っているからね。私が死んだ場合はそこの大本営の明石君に頼んであるよ」

 

「大本営の明石?」

 

あぁ、なるほどな。

明石が先に来てたのは実力を見せて俺の信用を得る目的もあったって訳か。

 

「って、それなら別にてめぇが来る必要もねぇじゃねぇか」

 

「そうだな、私が来たのは我々の目的には一切関係なくただ私自身の我儘さ。君と同じ境遇を持つ()()の事をどうしても知っておいて貰いたくてね」

 

「はぁ、俺と同じ境遇だ?」

 

「ああ。あれはもう三十年近く前になるか、艦娘を建造出来る設備が出来ず何処からともなく現れた艦娘を人は神の遣いだと本気で信じられていた頃。私は当時士官学校の教官として士官候補生達を指導していた」

 

阿部は良くある前口上を述べるとそのまま昔語りを初め出した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

当時は艤装適性検査等といった表立ったものこそ無かったものの、私達教官には候補生達に兵装を触れさせてその結果を報告する義務があった。

 

その当時大本営より貸与されていたのは、現在においても大多数の人間には起動させる事すらままならない艦娘専用の兵装、三十二号対水上電探であった。

 

扱える人間など存在する筈がない。

 

それが軍上層部の見解だったにも関わらず、当時兵装研究の第一人者であった結城博士はこれまでの数々の功績により上層部の反対意見を押し切り研究を続投させたのだ。

 

それでも適性個体が見つからなければ今の現状にはならなかっただろう。

だが、結果として適性個体は現れてしまった。

 

「頭の中に波形状の何かが……これは?」

 

「おおっ、見たまえ阿部君!遂に現れたぞ!!」

 

「まさか……」

 

私と結城の立会で行われた適性検査の中で彼女は事も無げに電探を扱って見せたのだ。

 

彼女の名は伊東 由紀(いとう ゆき)

当時の海軍では珍しい女性士官候補生の彼女に対する風当たりは決して弱いものとは言えなかったが、それでも彼女は揺るがない意志を秘めた強い眼をしていた。

 

「おめでとう伊東由紀君、君は力を手にするチャンスを手に入れたんだ!」

 

「力……?それってどういう事ですか?」

 

いきなりチャンスなどと言われても状況を飲み込める筈もなく、彼女は結城に怪訝な視線を向けていた。

しかし、結城はそんな彼女の事を気に止める事無く私に指示を出す。

 

「阿部君、こちらの準備が整うまでの一ヶ月の間被検体の安全を最優先に頼むよ?」

 

「彼女の意思は確認しないのですか?」

 

「確認など不要。倫理がどうこう云いたいのなら君が彼女を頷かせたまえ」

 

言いたい事だけ言うと結城は足早に部屋を出ていった。

 

「はぁ……取り敢えず今君が置かれている状況を話そう。その上で質問があれば私の知ってる範囲で応えよう」

 

そうして私は彼女に艦娘の存在、そしてその艤装を扱える適性個体を結城が探し続けていた事、実験の内容については聞かされていない事など私が知りうる限りの情報を伝えた。

 

「あの男は確認など必要ないと言っていたが、私はそんな非人道的な手段を認める気はない。君が拒むのならば私は君の意志を優先させて貰う」

 

門長君からすれば信じ難い話だろうが、当時の私は有無を言わさぬ結城のやり方には反対であった。

そんな私の話を聞き終えた彼女は暫く考えた後、私に一つ質問を投げ掛けた。

 

「阿部教官、私が此処で嫌だと言えば教官は私を逃がしてくれるのかも知れません。ですがもし私が別に構わないと言ったら教官はどうしますか?」

 

「言っただろう、私は君の意志を優先させてもらうとな」

 

彼女の問いは何を求めて居たのか、あの時の私は気付く余地もなく当たり障りのない回答をしてしまっていた。

 

「……そう、ですね。阿部教官、それじゃあこれから一ヶ月よろしくお願いします」

 

「そうか……」

 

彼女は少しの溜めの後、頭を下げて私にその場に残る意思表明を見せた。

 

 

それから一ヶ月。

私と彼女の間にはこれと言った会話など無く遂に結城の元に連れていく時が訪れたのだった。

 

「これ以上は本当に後戻りは出来ないぞ?お前は本当にこれでいいのか」

 

最後の問い掛けに対して彼女は口を開くことなく研究所へ歩み始める。

 

彼女が覚悟を決めているのであればこれ以上私が口を出すのは無粋というものか。

そう結論付けた私はこれ以上彼女に干渉する事なく研究所まで見送った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「だが、結果として実験も私の決断も失敗だった。艦娘を超えた存在となった彼女の叛逆により研究所は壊滅し結城博士も伊東由紀本人もそのまま行方不明となった」

 

「ふ〜ん、よく分かんねぇがまあ叛逆されても文句を言えた義理じゃねぇわな」

 

そもそも力があるのに弱い奴に従うなんて相応のメリットがあって成り立つもんだしな。

 

「その通りだ、後になって自らの過ちに気付いた所で今更私の言葉など彼女には届かない。だから門長君……身勝手な願いだと言うことを承知で頼む。私の代わりにどうか彼女の事を救ってくれないかだろうか」

 

確かに身勝手な野郎だ。

その女を救えなかった事を後悔してる癖にてめぇ自身で同じ実験しやがってんだからな。

 

だがまぁ、一つだけ此奴に感謝するとすれば響を護れるって事だろう。

 

「よし、そいつの特徴を言ってみろ。どうするかは兎も角話だけは聞いてやるよ」

 

「門長君…………!ありがとう」

 

「うるせぇ、てめぇの感謝なんか要らねぇからさっさと話せ」

 

「ああ、あの時の彼女は人より白い肌と下ろした状態では引き摺ってしまう程の黒髪を三つ編みにしていた。そしてこれは私の予想だが、恐らく海底棲姫達と行動を共にしているだろう」

 

白い肌に引き摺る程の黒髪で海底棲姫の仲間…………ちっ、よりにもよってあの黒長髪アマがそうだって云うのかよ。

初めてあった六人の他に居るなら違うかも知れねぇが……。

 

「おい、そいつは剣術か何かやってたのか?」

 

「剣術?済まないがそれは分からない。だが彼女は当時日本でも名の売れた剣術家に伊東 亜紀哉(いとう あきや)と言う男の孫娘だ。その可能性は充分有り得る」

 

なるほど、そいつの身内なら剣術を習ってても不思議じゃねぇって事か。

だが本当にそいつが俺の会ったアイツの事なら沈めることすら簡単な話じゃねぇ。

 

「話は解った、だがもしそいつが俺の知ってる奴の事なら約束はしねぇ。ま、もし話す機会があればてめぇの事を伝えておいてやるよ」

 

「そうか……いや、充分だ。これで私も心置き無く準備に取り掛れる」

 

「準備?一体何をする気だ」

 

「なに、基本的には君の目的を優先するつもりだ。しかし世の中どうにもならない事の方が多い。我々が行う事はそういった不測の事態に備えて保険を掛けておくのだ」

 

つまり、艦娘と人類と深海棲艦の和解。

それが成されなかった時は取捨選択を行う。

阿部は迷い無くそう答えた。

 

だがそんな事はさせねぇ、響やエリレ達の為にも絶対に成し遂げて見せる!

 

「てめぇが考えてる様な事には絶対にさせねぇ。もし邪魔する気なら容赦しねぇぞ」

 

「ああ、もちろんだ。私とてそんな理想の世界があるのなら是非お目にかかりたい」

 

「ちっ、まあいい。だが言っとくが不知火に免じて矛を収めてやっただけで、てめぇの事を赦した訳じゃねぇって事を忘れんなよ!」

 

俺は吐き捨てる様にそう言うと阿部の返事など待たずにコイツらの事を不知火に任せて建物内へと帰って行った。

 

救うっていってもな、本人も納得してるなら俺がどうこう言うことでもねぇだろ。

 

ーそうだな、本当に納得していたのであればなー

 

あ?なんだよ武蔵。その伊東って女は自分から望んで実験を受け入れたって言ってたじゃねぇか。

 

ーうむ、そうなんだがな。やはり彼女が提督にした質問の意味が引っ掛かるのだー

 

ふーん、俺にはよく分からんがどっちにしろ奴が聞く耳を持たなければこっちだって加減してやる気は無いぜ?

 

ーああ、それは当然だ。それで仲間を守れなければ本末転倒だからなー

 

そういう事だ。だからそいつの意思がどうであろうと俺のやる事は変わらねぇ、対話が出来なきゃ全力で潰すだけだ。

 

ー充分だろう。提督とてそれ以上は高望みすまいー

 

ま、そいつの事はおいおい考えるとして……だ。

今は響と飯を食う方が先決だ。武蔵、響が今何処に居るか分かるか?

 

ーはっはっは、それでこそお前さんだよー

 

はあ?何言ってんだこいつ。

まあいい、先ずは食堂に行ってみるか。

 

食堂に居るだろうとアタリをつけた俺は食堂方面へと向きを変えて再び歩き始めたのだった。

 

 

 




んー、門長ってこんなキャラだったかな?だったはず?


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第百十四番

━━チャレンジャー海淵海底某所━━

 

 

「ミッドウェー、只今参リシマシタワ」

 

「バミューダ、来マシタ」

 

「アイアンボトムサウンド、あなた様の前へ」

 

「面を上げなさい」

 

三人の海底棲姫が傅く先から幼子の様な声が洞窟内に響き渡る。

その声の命ずるままに三人は顔を上げると大きな椅子のシルエットの先に居るであろう存在が口を開いた。

 

「貴女達に重要なお知らせがあるわ。一つは門長和大の事よ」

 

「門長ッテアノソロモン達ヲ沈メタッテイウ男ノコトデショウカ?」

 

「そうよ、私は彼をこちら側に付ける為に動いて居たのだけれど()()()に妨害されているかの様に事態は良くない方向へ向かっているの」

 

「マサカ、アナタ様ノ計画ヲ阻メル存在ガイルナンテ信ジラレナイデスワァ?」

 

「ソレ以前ニアナタ様ノ計画ニ気付ケル相手ガ居ルトハ思エナイケド」

 

「ふふ、まあ凡そ見当は付いてるからそれはこっちでどうにかしておくわ。それよりも今は世界のバランスを著しく崩しかねない存在となった門長和大達の一掃を最優先目標に設定するわ」

 

目の前の存在に再び頭を垂れる二人だったが、アイアンボトムサウンドだけはその存在に対して意見を述べた。

 

「具申致します。彼らはEN.Dを取込み既に深海棲艦の約八割を掌握しています。門長一人ならともかく周囲のそれらまで排してはそれこそ取り返しのつかない事になりかねません」

 

「それなら問題ないわ。EN.Dの軍閥吸収は妨害しているし、艦娘や人間は大淀と掌握した大本営上層部が管理している以上均衡を保つのは容易よ」

 

「そうでしたか……出過ぎたまねをしてしまい申し訳ありません」

 

そう言ってアイアンボトムサウンドは一歩下がって頭を下げた。

 

「気にしていないわ、それよりもう一つの事だけれど。ミッドウェー、貴女達が殺害した筈の阿部元帥の生存が確認されたわ」

 

「エッ?モ、申シ訳アリマセン。確カニ心臓ヲ撃チ抜イタ筈ナノデスガ……」

 

「別に責めてる訳じゃないわ、彼も今は門長和大と合流しているみたいだから次こそは生き返る余地すら与えずに消しなさい」

 

「ハイッ!必ズヤ遂行致シマスワ!」

 

「必ズヤ」

 

ミッドウェーは深く頭を下げて宣誓し、続けてバミューダも頭を下げた。

 

「期待してるわよ。それとアイアンボトム、貴女に任せた例の件はいまどうなってるかしら?」

 

「はい、今の所こちらの申し出を断った者は居りません。残りにも声を掛けますが現状でも作戦は十分に遂行出来る範囲かと」

 

「そう、それじゃあ決行日時は追って伝えるわ。解散!」

 

「「ハッ!」」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

阿部がこの島にやって来た翌日、俺は今日も何時もの様に大本営の明石から稽古を受けていた。

 

「門長さん!持ち前の体幹の良さに過信せずもっと自分で意識してください!」

 

「分かってるっつうの!」

 

くそう、頭では分かっててもどうして思う様に行かねぇんだ!

 

「…………」

 

「…………」

 

集中しなきゃ出来るもんも出来ねぇのは解ってる……けど、後ろで見学してる二人の視線がさっきから気になって仕方ねぇ。

俺は明石に待ったをかけると一言も発さずに黙って見ているサイドテールと雷に近付き声を掛けた。

 

「なぁ、見てて楽しいか?つか阿部と一緒に居なくて良いのかよ」

 

「これが武術というものなのね、興味深いわ」

 

「門長さんっ、応援してるわ!」

 

「お、おぉ。さんきゅうな」

 

サイドテールの仏頂面は兎も角隣の雷に関しては一切質問の答えになっていない。

まあ元気な少女に応援されるのは悪い気はしないが。

 

取り敢えずこの二人は阿部の事にそこまで関心が強いわけではない事はわかった。

ん?じゃあなんでこんな所までついてきたんだ?

 

気になった俺は声を掛けたついでにその事も聞いてみる事にした。

 

「なあ、お前らってどうして阿部についてきたんだ?」

 

二人は俺の問いに少し首を傾げるとそれぞれ答え出した。

 

「そうね、提督について行ったのは私にとっても都合が良かったのよ。赤城さんを失って腑抜けてしまった姿なんて五航戦の子達に見せたくは無かったから」

 

よく分かんねぇが……恐らくその赤城って奴はこいつに取って掛け替えの無い存在だったんだな。

 

「そうか、それじゃあもしかして雷も……」

 

「へ?違うわよ?」

 

「え、違うのか?」

 

「ええ!私は深海棲艦と艦娘が共存してるっていうあなた達に興味があるの、だから色々話を聞かせて欲しいわ!」

 

へぇ、海軍の常識じゃ深海棲艦は敵だっつう認識だと聞いていたが全員が偏見に凝り固まってる訳じゃねぇみてぇだな。

 

「なるほどな、まあ俺に答えられる事なら訓練が終わった後なら幾らでも聞いてくれて構わねぇぜ」

 

「ありがとう門長さん、とっても助かるわっ!」

 

…………やっぱ良いな、愛らしい少女に感謝されるのは。

 

「門長さ〜ん?感傷に浸ってる所悪いですけどまだ訓練中ですよ〜?」

 

呆れを含んだ明石の声が俺の感動を妨げる。

奴め、この俺の邪魔をするとはいい度胸だ、次こそ地べたにひれ伏さしてやる!

 

「分かってんだよ!次は負けねぇぞ明石ぃー!」

 

俺は振り返ると一足飛びで明石の元へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後、俺は定められた結果とでも言う様に既に見慣れてしまった天井を見上げながら呼吸を整えていた。

 

「それでは今日はこの位にしておきましょうか。お疲れ様です門長さん」

 

「……おう」

 

横たわる俺に一礼して訓練場を後にする明石。

その姿が見えなくなった辺りで呼吸が落ち着いてきた俺は上半身を起こして雷達の方へ向き直った。

 

「待たせたな、暇だったろう?」

 

「いえ、大変興味深かったわ」

 

「お疲れ様っ、門長さん!」

 

「ありがとう、助かる」

 

「気にしないでっ、どんどん頼っていいのよ!」

 

雷は俺を労いながら冷たい麦茶とタオルを渡してくれた。

なんつーか彼女はあれだな、つい頼ってしまいそうな不思議な魅力を感じる。

知り合って間も無い俺にも無償の愛を注いでくれる、まるで聖母の様な少女だ。

 

だが……彼女は危険だ、と。

いつの間にやら少女に膝枕をして貰っているというなんとも至福な瞬間にも関わらず何故か俺の勘は今も警鐘を鳴らしている。

 

「雷?流石にそこまでして貰わなくても大丈夫だぞ?」

 

「駄目よ!少し休んで行きなさい!」

 

「いや、そうじゃなくてな……」

 

立ち上がろうとする俺とそれを引き留める雷、そして少し離れた所から様子を眺める仏頂面の女。

そんな良く分からない状況に一人の来客が訪れる。

 

「門長?大本営の明石さんから訓練が終わったって聞いたんだけど……」

 

「あ……ひ……響……?」

 

ま、不味い……雷に引き戻されたこのタイミングで入って来るなんて。

俺は脳内をフル回転させて言い訳を考えるがいい答えは一向に浮かんでこない。

なんて事だ、響が俺を迎えに来てくれる程の仲になったと思ったらこのざまだ。

 

「これは……その……だな?」

 

「雷……加賀さん……?」

 

俺がどうにか弁明しようと口を開くが、響はそんな俺には目もくれずに俺に膝枕をしてる雷とそれを眺める仏頂面を交互に見返していた。

 

「貴女は……舞鶴第八鎮守府の響よね?」

 

「あ……響、紛らわしくてごめんね?申し訳無いけれど私達は貴女の知ってる二人じゃないわ」

 

「あ…………いや、その……ごめんなさい」

 

声を震わせながらも頭を下げる響に仏頂面の女は歩み寄って包み込むように抱き締めた。

 

「貴女はずっと頑張ってきたのね。大丈夫、もう我慢する必要は無いわ」

 

「だ、だって……姉さんも吹雪さんも頑張ってるのに……」

 

「そう、貴女は優しい子ね。ならその二人の事も私に任せてくれないかしら?」

 

「加賀さんが?」

 

顔を上げて尋ねる響に仏頂面の女は頷いた後、響に微笑みかけた。

 

「ええ、だから貴女も我慢しなくて良いのよ?」

 

「でも…………」

 

「恥じる事ないのよ。私もね、大切な人を亡くした直後は雷に沢山泣きついたのだから」

 

「加賀も足りなかったら何時でも私を頼って良いのよ?」

 

雷はそう言って自分の胸に手を当てて満面の笑みで答えた。

 

くそう……あのサイドテールめ、なんて羨ましい奴なんだ。

俺がやったら確実に響に軽蔑される様な事をやってのけるとは!

だがしかし、これで響の心の負担が少しでも軽く出来るのなら此処は見守るしかない。

 

「ありがとう雷、また今度頼むわ?」

 

「ぷふっ、頼むんだ……ははっ……へん……な……の……うう……うっ……ひぐっ……う、うああぁぁぁぁん!!」

 

サイドテール女の冗談か分からない一言に一瞬気の抜けた響はそれまで抑えていた気持ちが咳を切った様に溢れ出した。

サイドテール女はそんな響の背中を泣き止むまで優しくさすり続けていた。

 

 

 

 

 

 

やがて落ち着きを取り戻した響がサイドテール女を離し、改めて頭を下げた。

 

「加賀さん、ありがとう。おかげで少し気持ちが楽になったよ」

 

「そう、それは良かったわ。じゃあ私はこの後の予定が出来たので失礼するわ」

 

サイドテール女はそう言って響の頭を軽く撫でて訓練場を出て行った。

 

あの女、良い所を全部持っていきやがって……だが今回は許してやろう。

お陰で俺の問題のシーンは響の意識からそれてくれた様だからな。

 

「……所で門長?さっきのはどういう事か説明して貰えるかい?」

 

あのサイドテールがぁぁぁぁぁぁ!ぜってぇ赦さねぇからなぁ!!

 

「いや、あれは不可抗力というか……気付いたらなっていたっつうか……」

 

何故だ、俺は事実を述べている筈なのに言い訳くさく聞こえるぞ?

当然響も俺の説明に納得してる様子は無い。

はっ!そうか、俺が言うから言い訳がましく聞こえるんだ!

 

「雷っ、君から俺の無実を証明してくれ!」

 

「分かったわ!響、門長さんは悪くないのよ!彼がして欲しそうだったから私が勝手にやっただけなんだからっ!」

 

「……ふ〜ん?」

 

ストップ雷っ!その言い方だと根本的な問題が解決してねぇ!

 

「いや、あれだって……無理に拒んだら雷に失礼だし、へたすりゃ怪我させちまうかも知れないだろ?」

 

「ふーん、まあいいさ。良く考えたら別に門長が誰と何しようが私には関係ないもんね?」

 

そう言って訓練場を出て行こうとする響に俺は頭を床に叩き付けて叫んだ。

 

「悪かった、響っ!俺は確かに少女が好きなロリコンだ……だけどっ、心から愛してるのはお前だけなんだっ!!」

 

俺の魂の叫びは果たして彼女に届いたのか。

 

………………ばかっ

 

「あっ、響!?ちょっと待ちなさいってばぁ!」

 

響はそのまま振り向く事無く駆け足でその場を去ってしまった。

その後を追うように雷も訓練場を出て行く。

 

はぁ、最近上手く言ってたと思ったんだけどなぁ。

 

ーはっはっは、まさかあのタイミングで告白とはやるなぁ相棒ー

 

引っ込んでな武蔵、今は相手してやれるような気分じゃねぇんだ。

 

ーふむ、まああまり心配する事もないと思うがな?まあいい、今は大人しくしてやるさー

 

あ〜、せめて誤解だけでも解いておきたいが……駄目だ、まだ立ち上がれそうにねぇわ。

 

俺は立ち直るまでの間、仰向けのまま茫然と先程の響の後ろ姿を思い浮かべていたのであった。

 

 




加賀さんは優しい(`・ω・´)キリッ


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第百十六番

 雷から響の現在地を伝えられた俺は彼女に礼を言うと一目散に建物裏手の砂浜へ向かった。

 

「ひびきぃぃっ!!」

 

「と、門長!?」

 

俺に気付いた響は慌ててその場を離れようとするがその手を雷に引かれ尻もちをついてしまう。

 

「ほら、逃げないの。門長さんに伝える事があるんでしょ?」

 

「あう……」

 

「そういう事だから門長さん!後は響の事はお願いするわね!」

 

「お、おう?」

 

いまいち状況が掴めていない俺を置いて雷は意気揚々とその場を立ち去って行った。

 

えーと……と、とりあえずさっきの誤解を解かねぇとな。

 

「ひ、ひびき?さっきの事なんだが……」

 

「えっ!?あ……っと……それは……その……」

 

「俺が悪かった!」

 

「……えっ?」

 

頭を強く地面に打ち付けて謝罪を続ける。

 

「雷に抗えなかったのは僅かでも俺に浮ついた気持ちがあったからだ!響、本当にすまない!」

 

「…………ああなんだ、そっちの事か。えと、こっちこそ門長の話も聞かずに飛び出しちゃってごめんね」

 

そう言って響はしゃがみこむと俺の頭に手を置いてゆっくりと撫でながら続けた。

 

「さっきの事については雷からも改めて聞いたし、本当に気にしてないよ。だから顔を上げて?」

 

「ひび……き?」

 

言われるがままに顔を上げるとそこには少し頬を赤らめつつも慈愛の目で見つめる天使()の微笑があった。

 

「…………好きだ」

 

あまりにも神々しいその姿に思わず言葉が漏れる。

 

「…………」

 

と、不意に手が止まったかと思うと響はスッと立ち上がり背を向けてしまった。

 

「えと……ひびき?」

 

どうしたのかと訊ねてみるが響からの返答は無い。

 

も、もしかして……何かやらかしちまったか?

 

弁解しようにも何も思い付かず俺は背中に冷や汗を垂らしながら響の言葉を待った。

 

「……と、となが」

 

「うぇ、ど、どうした?」

 

「…………わ、私も……だよ」

 

「え?いま……」

 

「それじゃあ私は部屋に戻るからっ!」

 

頭の中の整理が着く前に響はさっさと走り去ってしまった。

 

え、でもまさか……?

 

頭は未だに理解が追いついていないが何故か俺の目尻からは心の汗が流れ落ちていた。

 

……そうだな、響の為にも絶対に生き抜いて見せる!

 

俺は気持ちを締め直し、自主練をしに一人訓練場に帰ろうとしたその時。

 

「ハァ~イ?随分ト機嫌ガ良サソウジャナイ」

 

「中枢か、どうした?」

 

突然海中から現れた中枢に内心舌打ちをしつつも、何の用事か尋ねる。

 

「ナニヨ、用ガ無イト来チャイケナイノ?」

 

「じゃあな。俺は忙しいんだ」

 

「全クモウ、冗談モ通ジナインジャ彼女ニ嫌ワレチャウワヨ?」

 

「てめぇは俺に喧嘩を売りに来たんだな?」

 

「アーコワイワーダレカタスケテー」

 

「よし、歯ァ食いしばれ!」

 

「アハッ、悪カッタワヨ。チョット冗談ガ過ギタカシラ?ソンナニ怒ラナクテモ用件ヲ伝エタラ帰ルワ」

 

ぶん殴りてぇなこいつ……。

中枢は暫くふざけ倒した後、満足したのか漸く本題を話し始めた。

 

「ソレデ今日ココニ来タ理由ダケレド。少シ前ニウチガ引キ入レタ軍閥達ニ奴ラカラノ勧誘ガアッタノ」

 

「引き抜き?奴らがそんなこっちに情報を漏らす様な事をしてんのか?」

 

「普通ナラヤラナイワネ。ケド少シ前カラ支配海域デ不穏ナ動キガアッタカラ彼ラニハ敢エテ無所属デアルヨウニ振舞ワセテタノ」

 

成程な。まだEN.Dの配下で無いと思わせれば戦力を集めようとしてるあいつらなら引き込みに来るって事か。

 

「で?そいつらから何か有益な情報でもあったのか?」

 

「エエ、奴ラガコノ基地ヲ襲撃スルタイミングト規模ガ解ッタワ」

 

「いつ襲撃が来るんだ?」

 

「作戦ノ決行ハ一応次ノ満月ノ夜ト言ッテイタワ。カナリノ数ノ軍閥ヲ引キ込ンデルラシク推定規模ハ深海棲艦ダケデEN.Dノ四割、以前私ガ此処ニ集結サセタ位ノ数ガ予想サレルワ」

 

敵の規模も楽観視出来ねぇが、奴らが主導である以上最終的に俺が海底棲姫共をどうにか出来ればいい話とも言える。

それよりも奴らの襲撃日時が凡そでも分かったのが幸いだ。

迎え撃つ準備が出来ればやれる事も増えるだろうしな。

 

「分かった、それじゃあ俺は基地の全員に今の話を伝えてくる。中枢は軍閥の引き込みは一時中断して此処に全戦力を集めてくれ」

 

「ソレハ構ワナイケレド、余計ナ横槍ヲ入レラレタクナイノナラ此方ノ戦力ヲ全テ集中サセルノハオススメシナイワァ?」

 

横槍?一体こいつは何の事を言ってるんだ。

 

ー恐らく海軍から艦娘が来る可能性の事を言っているんだろうー

 

海軍から?

 

ーそうだ、以前中枢がこの基地に大規模な戦力を集中させた際に低練度の艦隊が此処まで来ていただろ?ー

 

ああ、そういや結局俺が居ない内に長門達が鎮守府正面海域まで送ったんだったか。

つまり海軍が戦っている大半の深海棲艦がEN.D所属だからそれを集めると海軍の艦娘までやって来て面倒だって事か。

 

「言いたい事は分かった。じゃあ海軍の奴らを止めながらこっちに割ける戦力はどれくらいだ?」

 

「ソウネェ。三割……イイエ、海域ヲ治メテル姫ヤ鬼ヲ呼ブナラ二割ガ限度ッテ所ネ」

 

鬼級や姫級か……正直数だけ居てもしょうがねぇしな。

 

「よし、そしたら鬼や姫を含めて二割でいいから直ぐこっちに集めてくれ」

 

「ワカッタワ?ソレジャア伝エル事ハ伝エタシコレデオ暇サセテモラウワネェ。アァソウソウ、ルフラヲ連レテキテルカラ相談ガアレバアノ子ニ話シテネー」

 

そう言い残し、中枢は再び海中へと潜って行った。

さて、俺もこの事を伝えに行くとするか。

 

直ぐに回線を開き呉の明石へと繋ぐ。

 

「あ、門長さんどうしましたか?」

 

「重要な情報が入った。三十分後に作戦会議を始めるから会議室に来るよう全員に伝えろ、以上」

 

「え?あ、はいっ!三十分後ですね?」

 

明石からの返事を確認すると通信を切断し進行方向を会議室へ舵を切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから三十分後、全員の視線が集中するなか先ほど中枢から聞いた内容を話した。

 

「っつうわけで奴らは遅くとも次の満月を目処に俺らを潰しに来るつもりだ」

 

静寂の中、固唾を飲み込む音だけが会議室に響く。

まあ考えてみりゃそれも当然だ。

響達は前回中枢棲姫によって絶望的な事態を味わっている。

更に言えば今回はそれらが明確な殺意を以てこっちを沈めに来るってんだから冷静で居られる筈がない。

そこまで理解して俺はこれからどうするかを話し始める。

 

「だが、今回は港湾の他にも中枢の所の協力も得られている。だから深海棲艦の方はそいつらにどうにかして貰う。その代わり、皆には艦娘達の説得をして欲しい」

 

「少佐、それでは結局我々が海軍の艦娘と戦う事になるのでしょうか?」

 

不知火はそう尋ねてきた。

恐らく俺が前に艦娘同士で戦う事は考えにくいと言った事に関してだろう。

だがその時の発言を撤回する気など更々なかった。

 

「確かに向こうが撃ってくる可能性は否めないが、それは海底棲姫共にとって望まぬ事態であり奴らは必ず何かしらの手段で妨害に入るだろう。逆に言えばその妨害さえどうにかしちまえば艦娘と深海棲艦の確執を強固な物にするっつう奴らの目的の一つを崩せる訳だ」

 

「それはそうかも知れませんが……もしも海底棲姫が動き出せば我々でどうにか出来る事態では無くなります」

 

不知火の懸念は尤もだ。

奴らが動き出さない保証などないどころか寧ろその可能性の方が大きい。

 

「その時は俺が奴らを止めるからその間に不知火達には向こうの艦娘を連れて撤退して貰う」

 

奴ら自身が出張って来たり、手段を選ばないようならその時は俺がどうにか撤退するだけの時間を稼ぐ。

呉の明石が俺の記録を見た限りでは俺は改レ級の他に二体の海底棲姫を相手にしているらしい。

 

その二体も沈められていれば記憶にある限りでは後三体か……正直それ以上存在しない事を願うしかねぇのが歯痒いが、恐らくそれ以外にどうにか出来る手段はねぇ。

 

話し合いで解決……阿部の野郎にはああ言ったが実際話す隙すらあるかどうか。

奴らは本気で俺等。いや、()()()()()()()を潰そうとしていやがる。

そこにそもそも話し合いの余地など無く、万歩譲った所で俺達を生かす選択肢など存在してねぇだろう。

 

 

≪と……なが、おね……がい…………こんな世界……≫

 

 

っ!?今のは……

 

瞬間的に脳裏を過ぎった映画のワンシーンの様な映像は俺に得も言えぬ不安を煽った。

 

「門長?おい、大丈夫か門長!」

 

「ん、ああ大丈夫だ。ええと済まん、なんだったか」

 

おっと、少し考えこみ過ぎた様だ。

どうやら不知火から質問があったらしい。

 

「いえ、相手の企みを挫く目的は分かりますが……そこまでのリスクを冒してまでするべきではないかと。戦力的なメリットも大きくありませんし」

 

「確かに不知火の言う通りリスクは大きいし戦力として期待している訳でもない」

 

幾ら高練度だとしても個の戦力では鬼や姫には及ばないらしいしな。

 

「だが……先を見据えれば深海棲艦と艦娘の繋がりを強める為にもこっちの事情を知ってる海軍所属の艦娘は多いに越したことはない」

 

「深海棲艦と艦娘の繋がり……少佐は本当に実現させるつもりですか?」

 

「ああそうだ。っと、そういやまだ全員には話してなかったか?俺の目標は人間と艦娘と深海棲艦の共存、彼奴らの言う均衡なんかじゃない真の世界平和だ」

 

自分で言っててもくせぇ台詞だが俺が響と安全に暮らす為に絶対に成し遂げなければならねぇ。

今の世界じゃ俺が居るだけで響達に厄災が降り掛かっちまうからな。

 

「海底棲姫共は最悪沈めてでも俺が止めて見せる。だからお前達は身の安全を第一にやってくる艦娘に対話を持ち掛けてくれ」

 

不知火や吹雪、暁はそれぞれ顔を見合わせてそれぞれ頷くと再びこっちに向き直る。

 

「門長さん、海底棲姫は貴方に任せて良いのですね?」

 

「おう、和解出来るとは言えねぇが奴らを沈めてでもお前達に手出しはさせねぇ」

 

暁の問いに強く返す。

答えに納得した吹雪が頷くと続けて暁が人差し指をこっちに突き立てて続いた。

 

「軽率な行動で響の期待を裏切ったりなんかしたら絶対に赦さないんだからねっ!」

 

「へっ、当たり前だろ?何があろうと俺は必ず響の元に帰ってくる。だからお前らも誰一人欠けずに帰ってこいよ!」

 

暁の忠告に俺はサムズアップでそう答えた。

 

「他に質問はあるか?無いなら基本方針はこれで行く。細かい動きはそこに居る明石達と話し合ってくれ、以上!」

 

後は彼奴らに任せとけば良いだろ。

俺はあくまでも海底棲姫共に対抗するだけだ。

だから今は少しでも力を付けていかねぇとな。

 

ーそうだな、まだ明石にも勝てて居ないしなー

 

うるせぇよ、あとちょっとだっつうの!

 

一人会議を出た俺は武蔵に反論しつつ決行の日に向けて訓練場へと入って行った。

 

 



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第百十五番

 響ショックから少しばかり立ち直り始めた俺は釈明のために訓練場を出て響を探し始める。

訓練は終わってるから恐らく自分の部屋にいる筈だ。

あ、きっと電には伝わってるよなぁ…………まあ、その時はその時だ。

 

俺は起こりうる未来に目を背けながら向かっていると正面から駆けてくる不知火の姿が視界に飛び込んで来た。

 

「どうした不知火?お前は阿部と一緒だった筈じゃ……」

 

「はい、こちらを直ぐに渡すように指示を受けました」

 

そういって不知火が渡してきたのは見覚えのある黒い機械だった。

 

「これって横須賀のアイツと連絡を取ってる無線機だろ?奴と話す事なんかねぇと思うが」

 

「いえ、相手は横須賀の明石ではありません。相手は……」

 

『よっ、元気にしてっか()()()()?』

 

その声は腹立たしいあの女ではなく海軍で唯一の俺の友人であり現元帥海軍大将、西村のものであった。

 

「おう、こっちは相変わらず話のネタには事欠かねぇがなんとかやってるぜ。それよりそっちからの連絡って事は例の件でなんか進展があったのか?」

 

『ああいや、そっちの進捗はまだまだって所だな。だがその過程であまり良くない情報が入ってきてな』

 

「良くない情報?こっちに寄越すって事は俺らに関係してる事か?」

 

『絶対とは言えないが可能性は高い』

 

西村はそう答えると暫しの溜めの後、言葉を続けた。

 

『海軍所属の艦娘から多数の艦娘の個体情報が消去されているんだ』

 

「個体情報の消去……つまり解体処分されてるって事か?」

 

『通常ならそうだが、解体したにしては資材の流れが合わない。それに普通なら解体するとは思えない主力の艦娘の個体情報もかなりの数消去されている』

 

確かに自分の主力艦隊まで解体するような阿呆がそんなにいるとは考え難い……のか?

 

ーそうだな、DRCSで運営している鎮守府からそういった誤解体の報告は上がっているがー

 

は?DRCSって、艦娘の待遇が良いんじゃねぇのかよ。

 

ー待遇は兎も角、アレは基本的に向こうからの指令は一方的なものだからなー

 

ああ、つまり鎮守府の奴がどんなにおかしいと思う指示だとしても抗議出来ないから実行するしかねぇって事か。

なんだそれ?どんなに待遇が良くても顔も分からねぇような奴の間違いで解体される可能性があるってのかよ……くそだな。

 

ー……問題はあれど彼らに頼らなければ戦線を維持する事も出来ない程に現代のこの国には提督の素質を持つ人間は少ないのが現状というわけだー

 

……まあいい。それもこれも世界が平和になれば全て解決する。

 

意識を表に戻した俺は西村にDRCSの誤解体かどうかを尋ねた。

 

『あぁ、残念な事にそっちもゼロじゃない……が、資材の流れが合わないのは実際に提督が着任している鎮守府だけの話だ』

 

「そうか、それがその良くない事にどう繋がるってんだ?」

 

『実はその内の鎮守府の秘書艦から裏付けが取れてな。正体不明の女が鎮守府に訪れて多額の資金と引き換えに艦娘の受け渡しの話を持ち掛けて来たのを偶々耳にしたそうだ』

 

「艦娘の受け渡しだと?つまり高練度の艦娘を集めてる奴がいるって事か」

 

『ああ、謀反の可能性も捨てきれないがそれにしては戦力が過剰過ぎるとも俺は考えている』

 

成程、海軍に対してですら過剰な戦力の引き抜きを行った理由が反逆でないのならそれ以上の戦力と対峙する……つまり今の俺らを相手にする為の引き抜きって答えに西村は行き着いたわけだ。

 

ー実際その可能性は高いだろうなー

 

ああ、しかし不味いな。これは最悪の事態も想定せざるを得ないかも知れん。

 

ーなんだお前さんらしくも……ってそうか、例え敵であっても駆逐艦には手は出せんかー

 

そういう事だ、だからと言って響達に傷一つ付けさせやしねぇが……響を悲しませる結果は避けられねぇかもしんねぇっつう不安はある。

 

ーまぁ、大丈夫だろう。存在からして滅茶苦茶なお前さんなら敵も味方も護る位の無理は押し通せるさー

 

存在が滅茶苦茶なのはテメェもだろうが。

……だがまぁ、言われてみればそうだな。

そいつらについては沈めずに無力化すればいいだけか。

それくらいの無理を通せないで世界平和なんて夢のまた夢だ。

 

「よし、分かったぜ西村。もしそいつ等がこっちに来たら全員責任持って送り返してやるよ」

 

『ながもん……分かった、だけど絶対に死ぬなよ?世界平和の為にも、お前が本当に護りたい彼女の為にもな!』

 

「ったりめぇよ!俺はずっと響と平和な世界に生きるって決めたんだ。こんな所でくたばる訳には行かねぇんだよ!」

 

『はは、それを聞いて安心したぜ。じゃあ彼女達についてはお前に任せる、その代わり人の問題は俺が確りとやっといてやるから軍艦に乗った積もりで待ってな!それじゃあまた今度なながもん!』

 

「ああ、またな西村」

 

西村との通信が終了した直後、タイミングを見計らったかの様に不知火の後方から阿部の奴がこっちに向かってきた。

 

「やあ門長君、彼から話は聞いたかね?」

 

「ああ。で?不知火に任せたならテメェが来る必要は無ぇだろ」

 

「なに、私自身も彼の話に補足をする為に直接赴いた次第だよ」

 

阿部は飄々とした態度で答える。

胡散臭い爺だが響達を護る為には情報は多いに越した事はない。

俺は急かす様に阿部に話を促した。

 

「まあ簡単に言ってしまえば艦娘の引き抜きを行っている組織と目的についてだ」

 

「組織と目的だ?なんでテメェがそんな事知ってんだよ」

 

「不知火や明石から話を聞いているとは思うが私は一度海底棲姫と接触している。その時に彼女達の目的を聞いた。そして鎮守府に訪れた女性の特徴だが、血色の悪そうな白い肌と足首まで届きそうな長い黒髪を三つ編みにした女性だったそうだ」

 

つまり艦娘を引き抜いていたのは海底棲姫の奴らって事か。

 

「そいつらが絡んでるって事は分かった。だがあいつ等が艦娘を態々引き抜く理由が分からねぇな」

 

「そこは私も疑問に思っていたが、恐らく奴らは艦娘対深海棲艦という均衡を保つ為にお互いに恨みを募らせる構図を描いているのでは無いかと私は考えている」

 

艦娘対深海棲艦か……確かにこの構図が崩れればこの終わらせる気の無い戦争は決着を迎える可能性が出てくる。

奴らはその後の世界に平和が訪れないのだと思い込んでいる以上、それだけは絶対に阻止しなければならないと考えてる筈だ。

 

だからこそ俺達を潰すのに併せてお互いの確執をより強固なものにしようって事なんだろう。

 

「だが、それならこっちとしては都合が良い」

 

「都合が良いとはどういう事でしょうか少佐?我々は深海棲艦に海底棲姫だけでなく同胞である艦娘まで相手にしなければならないのですよ?」

 

俺は訝しげに見つめる不知火の間違いを正す。

 

「いや、こっちから仕掛けなきゃ艦娘同士で戦う事は恐らくないだろう。まあ俺は撃沈対象かもしれんが」

 

「しかし、海底棲姫と繋がっているなら我々を攻撃してくる可能性は十分に有り得ます。事実私も海軍中の敵になっています」

 

「そうだな、不知火だけなら有り得るかも知れないが、海底棲姫の奴らは艦娘同士の仲間割れを望んでいない。何故ならうちの砲雷超が言っていた通り、艦娘と深海棲艦では個体の強さに大きな開きがあるらしい。そんな艦娘同士で争いが始まれば世界の均衡は一気に崩れ人間諸共艦娘は滅びる。だから例え俺達を沈める為でも奴らはその選択は取らない」

 

まあそれ以前にEN.Dが参戦すれば奴らはこっちの艦娘なんて気に掛けてる場合じゃなくなるだろうけどな。

 

「成程、言われてみればその通りだな」

 

「…………」

 

何か得心したように頷く阿部とは反対に信じられない事態を目の当たりにしたかのように放心状態の不知火に疑問を覚えた俺は不知火の肩を叩いて如何したのか尋ねると不知火ははっと我に返りすぐさま視線を反らした。

 

「いえ、失礼しました。まさか少佐が物事をそこまで考えているなんて思わなかったもので……」

 

なぁ……流石にそこまでストレートに言われると傷つくぜ?

 

ーははは、事実なのだから仕方あるまい?ー

 

はっ倒すぞ武蔵テメェ!

 

ーおいおい、お前さんが考えて動くようになったのなんて最近だろう?ー

 

ぐっ……ムカつくが否定できねぇ。

まあいい、そんなのは今後の行動で示していけばいいだけだ。

 

ーふむ、お前さんも成長したもんだなー

 

「ふっ……今までの俺の言動を見てればそうなるな」

 

「すみません、失礼だとは思ったのですが……誤魔化すのは苦手でして」

 

「……まぁ、別に気にしちゃいねぇよ」

 

多少ショックは受けたが響に冷めた視線を向けられるのに比べれば──ってああそうだ!響の誤解を解きに行く途中だったんだ!

こうしちゃいられねぇ!

 

「悪ぃ不知火っ!急用があるからまたな!」

 

「えっ?あ、はい。お気を付けて」

 

大丈夫、誠心誠意込めて話せばきっと響だって分かってくれる筈だ。

待っててくれ響ぃぃぃー!!

 

俺は不知火に一声掛けるとすぐさまその場を立ち去るのであった。




響への弁明>海底棲姫達の不穏な動き


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第百十七番〜母〜

門長の奴が食堂を出ていった後、大本営の明石主導の下作戦会議が行われた。

 

「今回の作戦はお互いに大規模の戦闘が予想されます。そこで指揮系統の混乱を防ぐ為に深海棲艦・艦娘連合として総旗艦を設けたいと思います!」

 

総旗艦か……大本営の明石か、港湾とか中枢辺りが妥当だろうな。

そんな風に考えていると何故かこっちを見て笑い掛けて来た。

 

「そこで私は総指揮に摩耶を、指示役としてル級改flashipさんを任命したいと思います!」

 

「……は?」

 

「反対意見がある方は挙手願います!」

 

いや待てって、普通に考えておかしいだろ!?

そんなもん反対多数に決まって……。

 

「うむ、妥当だな」

 

「ええっ、摩耶さんになら任せられるわ!」

 

は、はぁぁっ!?何言ってんだよ!

誰も反対しないとか可笑しいだろう!?

つーかそうだ、ルフラは流石にこの采配に納得行かねぇだろ!

 

「な、なぁルフラ!幾らなんでもそりゃあねぇよな?な?」

 

「……アアソウダナ」

 

「だろ!?」

 

「私ガ指示ヲ出スヨリ摩耶ガ直接伝エタ方ガ奴ラモ士気ガ上ガルトイウモノダ」

 

んなわけねぇだろぉぉぉぉぉっ!!!

EN.Dは実力主義の組織だったんじゃねぇのかよ!?

なんなんだ皆してアタシを担ぎ上げるような事して……はっ、まさか?

 

「そんな回りくどい真似しなくても戦力外だって事はちゃんと受け止めてるさ。だから変に気ぃ遣わねぇでくれよ、な?」

 

「はぁ、まだそんな事を……良いでしょう。この際なのでハッキリと言ってあげますよ」

 

大本営の明石は先程までとは打って代わり、明らかに怒気を含ませながらアタシの前に立ち人差し指を突き付けてこう言った。

 

「この時代で半年程度しか過ごしてない小娘がこの私を愚弄する気?貴女が基地の中で一番のくそ雑魚なのは此処に居る全員が理解しているわ」

 

「お、おう……」

 

改めて口に出されるとくるものがあるな。

 

「ですが艦隊の指揮に必要なのはそんな物じゃない。そうでなければ人間の提督などそもそも必要とならないのだから」

 

「まぁ……確かに」

 

「そう、特に今回指揮する艦隊の規模は長門さんや金剛さんに管理出来る規模をゆうに超えてるの。本来優秀な提督十数人規模で管理するレベルの指揮を余り物に任せる様な愚行を私が指示すると?貴女はそう言いたいのかしら?」

 

「わ、わりぃ……」

 

こ、怖ぇ〜……いや、だけど言われてみれば確かにそうだ。

だが理解をすれば今度はその重圧に不安が込み上げてくる。

 

「……けど、尚更アタシがそんな重大な役目をこなせる器だとは思えねぇよ」

 

艦娘に出来ない事を艦娘であるアタシがやる?

そんな矛盾した事をアタシが出来る気がしねぇんだが。

そんな不安を吐露すると大本営の明石はアタシの肩に手を置いてニッと笑みを浮かべて答えた。

 

「貴女なら……いえ、貴女にしか出来ません。もちろん私も近くにいます……それに呉の明石を手伝っていた三ヶ月があればどうにかなりますよ」

 

呉の明石を手伝っていた三ヶ月か。

……ははっ、殆どアイツらと話してただけじゃねぇか!

それがどう関係するかは解んねぇが大本営の明石がこうまでハッキリと言ってくんなら信じるしかねぇよな。

 

「解った、アタシに任せてくれ。ルフラも後で変われっつっても変わってやんねぇからな?」

 

「はい、宜しくお願いしますね」

 

「ハハハ、期待サセテモラウゾ」

 

「それでは次に相手側の艦娘を説得する班と基地を防衛する班を決めましょうか」

 

そうして話し合いの上、アタシを総指揮に置いた基地防衛連合艦隊と艦娘交渉艦隊が完成した。

 

その後大まかな作戦を決めて今日は解散となった。

アタシはというと総指揮としてそれぞれの旗艦と顔合わせを行う為にルフラに連れられて海岸へ出ていた。

 

「サテ、今回作戦ニ参加シタEN.Dノ旗艦達ヲ紹介シヨウ。出テコイオ前達」

 

ルフラの合図に合わせて現れた深海棲艦達の姿にアタシは思わず息を飲んだ。

 

「なっ……!?お前達は!」

 

「フフフ、ドウシタ。知リ合ニデモ似テイタカ?」

 

「似てるも何も……全員呉の明石の所に来てた奴らじゃねぇか!」

 

驚きを隠せないアタシを見てルフラはネタばらしを始めた。

 

「直グニ気付クトハ流石ダナ。オ前ノ想像通リコイツラハ全員オ前ニ面識ノアル者達ダ。アノ桃髪ノ女ガ海底棲姫ト事ヲ構エルナラ恐ラク総力戦ニナルダロウカラト提案シテキタノダ」

 

明石……もしかしてそんな前からアタシをこの状況を想定してたっつうのかよ、信じらんねぇ。

 

「確かに上位個体とか鬼姫級がよく来るなとは思ってたけど……」

 

「マヤサンハワタシヲワタシトシテアツカッテクレルカラスキデス」

 

「そりゃ同じ姿つっても中身は一人一人違うんだから当然だろ?」

 

「フフ面白イ艦娘ダ。同一艦ナド同ジ深海棲艦デモ見分ケルノハ容易デハナイゾ?」

 

そういうもんか?まぁ確かに何処が違うか全て書き出せって言われたら困るしなぁ。

やっぱり感覚的な所もあんのかねぇ?

 

「ダガ我々ニモ自我ハアルシ、ソレヲ認メテ貰エル事ハ嬉シイモノダ。ダカラ食堂デノ私ノ言葉ハ全テ本心トシテ取ッテ貰ッテ構ワナイ」

 

ああ、アタシが直接言った方がって言ってた事か?

可笑しいなぁ、EN.Dは実力至上主義だって聞いてたのに。

だがまぁ、旗艦全員と面識があるのは良かった。

少しは気が楽になったぜ。

 

「ありがとなお前達、そして今回は宜しく頼む!」

 

「マヤサンノタメナラガンバリマスヨッ!」

 

「貴女ノ事ハ気ニ入ッタカラ助ケテ上ゲル」

 

さっきのタフラと駆逐棲姫に続いて次々と声を掛けてくれる深海棲艦達を嬉しく思い改めて頭を下げる。

そんなアタシらの様子を見ていたルフラは揶揄う様にタフラに訊ねる。

 

「オイオイ、オ前達ニ直接指示ヲ伝エルノハ私ナノダガ?私ノ言ウ事ハ聞いイテクレナイノカ、悲シイナァ」

 

「ア、イエッ!ソノヨウナコトハゴザイマセンルフラサマ!」

 

「本当カ?ボスヨリ本作戦ノEN.D側ノ全権ヲ預カッテイル私以上ニ摩耶ノ指揮ガイイト思ッテルノダロウ?」

 

「ソ、ソレハッ……ソンナ……コト……」

 

「ルフラ、ソレクライニシナサイ」

 

「ハハッ、ソウ腹ヲ立テルナ駆逐棲姫ヨ。タフラモ気ニスル必要ナイ、ソモソモ私ト摩耶デハ立場モ関ワリ方モ違ウカラナ」

 

「ハ、ハイ」

 

「ソレヨリモ、摩耶……」

 

ルフラがこっちを向いてさっきまでとは違い真面目な顔で聞いてきた。

 

「今度ノ作戦ニツイテ此奴ラモ交エテモウ少シ細カク話シタイノダガ時間ハアルカ?」

 

「ああ、アタシだけじゃ言葉が足りねぇかも知れねぇから補足は頼むぜ」

 

「分カッタ、任セロ」

 

こうして深海棲艦達との海岸での三時間に及ぶ作戦会議が行われた。

 

その後、作戦会議を終え解散したアタシは夕飯の支度を代わってくれた松達に礼を言ってから部屋へ籠ると決行日までにアタシがすべき事を紙に書き出して行くのであった。

 

後悔なんか絶対にしない為に。

 

 




三ヶ月で深海棲艦達のアイドルと化した摩耶様。


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第百十八番〜響〜

作戦会議でそれぞれ成すべき役割が決まった私達は決戦当日までの時間を各々訓練や打合せ等に使っていった。

 

私も大本営の明石さんが見てくれた訓練メニューをこなしていき遂に訪れた決戦前夜。

明日に備えて皆が早めに床に着く中、緊張からか変に目が冴えてしまっていた私は少し外を散歩しようと起き上がる。

 

「……響ちゃん?眠れないのですか?」

 

「電、ごめん。起こしちゃったかな」

 

けれど電は静かに首を横に振って答えた。

 

「私もまだ眠れなかったのです。やっぱり緊張しているのでしょうか」

 

「電もかい?実は私も……」

 

明日は今迄以上に激しい戦いになるに違いない。

そうすると深海棲艦達や私達の中から沈んでしまう人が出るかも知れない。

そんなの嫌だ……怖い……そんな辛い思いをするくらいなら戦いたくない。

 

もし私が間違えたり、上手く出来なかったせいで大切な誰かが犠牲になってしまったら……

 

考えない様にすればする程不安が溢れてくるんだ。

 

私が不安を吐き出すと電は静かに頷いてからそっと私の髪を撫でた。

 

「響ちゃんは良い子ですが、とってもぶきっちょさんなのです」

 

「わたしが……不器用?」

 

「はい。失敗なんて誰でもするもなのです。それなのに響ちゃんは皆の失敗まで自分で背負おうとしています」

 

私が皆の失敗を背負おうとしてる?

そんな事は……。

 

「チームの失敗は全員でフォローしあうものですよ?だから自分が失敗したせいで誰かが……なんて難しい事考えずに響ちゃんは響ちゃんが出来る事を精一杯やるだけで良いのです」

 

「電……ありがとう」

 

「気にしなくていいのです、それよりほっとミルクを入れてきますね?」

 

そう言って電は給湯室の方へ入って行った。

 

電の言ってる事は分からなくもないし、少しだけ気持ちは楽になった。

だけど私の悩みが解決された訳じゃなかった。

 

電は私一人で背負い込む事はないと言ってくれたけど……門長に関してはやっぱり私が決めなければならない事なんだ。

 

門長は艤装を展開せずとも勝てるように大本営の明石さんから合気道?っていうのを学んでいる。

とはいえ再びタウイタウイに来た海底棲姫を相手にした時に、勝てる確証は門長自身も無いって言っていた。

 

それでも、例え負けそうになったとしても門長は艤装を展開させようとはしないだろう。

 

()()()()()()()()……。

 

「私が言えばきっと門長は艤装を展開する……けど、その結果門長は敵味方関係なくその手に掛けてしまうかも知れない」

 

逆に願わずに門長が沈んでしまっても私達は助からない筈だ。

 

だがそれは果たして門長のせい?

 

違う。

 

ならその状況まで追い詰められた皆のせい?

 

有り得ない。

 

例えどんな状況であろうと最後の判断を下すのは私だ。

私が間違えれば全てを失ってしまう。

だから私は絶対に間違えられない。

 

「私は間違えちゃいけないんだ……私は……」

 

「何をそんなに恐れているの?」

 

「なっ!?だ、だれ!」

 

不意に掛けられた声に慌てて周囲を見渡す。

周りを確認した事でいつの間にか部屋を出ていた事に今更ながら気付くも、油断せずに警戒を続けた。

 

「お久しぶりね。私は由紀、()() ()()()よ。タウイタウイ以来だったかな?」

 

誰だろう……初めて聞く名前だけど、相手は知ってるみたいだ。

 

「ええっと、だれ?」

 

「ああ、覚えてない?これなら思い出すでしょう?」

 

「刀?あっ、ああ……」

 

目の前の存在が刀を鞘から抜くと月の光に晒された黒い刀身が鈍く輝く。

その刀を目の当たりにしてタウイタウイでの出来事がフラッシュバックを起こした。

 

「か、海底棲姫……!?そんな……と、とながっ!」

 

「待て、そこから一歩でも動けば殺す」

 

「う……わ、私達を沈めに来たのか!ここは通さない!」

 

艤装は付けていないけど私は必死に抵抗の意志を示した。

すると海底棲姫は首を傾げて答える。

 

「襲撃は明日だと伝わっている筈でしょ?今日は宣戦布告、というより降伏勧告をしに来ただけ」

 

「降伏勧告……ほ、本気なの?」

 

「えぇ、私の提示する条件を飲めればだけど」

 

条件……いや、そもそもどうしてこんなタイミングに?

それに私一人で決めるなんて出来る事じゃない。

そんな考えを察してか海底棲姫は話を続けた。

 

「考える必要も誰かに誰かに話す必要もない。貴女達は門長和大と阿部正勝を置いて明日一一〇〇までにこの島を離れなさい。そうすれば貴女達は助けて上げる」

 

門長を……確かに門長一人の方が心置き無く戦えるかもしれない。

今までの戦いを考えても私達と海底棲姫達の実力差が技術や作戦なんかで覆せるものじゃないなら、たぶん私達は邪魔にしかならない。

誰も口には出来ないけどそれこそ囮にすらならない程なのは歴然なんだ。

 

普通に考えればそれが一番助かる可能性の高い方法だ……それでも。

 

「私は逃げない!例え足手まといだって言われようとも私は門長を護ると約束したんだ!」

 

「そう……それは残念ね。その判断が間違っていたと、気付いた時に貴女は全ての責を背負う事になる」

 

「そ、それでも……それでも構わない!私は覚悟を決めたんだ!」

 

海底棲姫は私の目をしばらく見つめていたが、呆れたようにため息を吐くと背中を向けて続けた。

 

「残念ね、じゃあまた明日。今度は貴女を絶望に突き落としにくるわ」

 

「ゆ、由紀さん!明日は私も皆を護る為に戦うよ。だけど聞かせて欲しい……私達はこうやって話し合えるのに、本当に手を取り合う事は出来ないのかい?」

 

「……夢はいつか醒めるもの。貴女に現実が受け入れられるならそんな世界もあるかもね?」

 

そう言い残して由紀さんは海中に消えてしまった。

由紀さんの最後の言葉。

その意までは分からないけれど……

 

「響ちゃん!やっと見つけたのです!」

 

由紀さんの言葉を思い返していると建物の方から電の声が聞こえてきたので、私は思考を中断して声の方へ振り向いた。

 

「電っ、どうしてこんな所に?」

 

「それはこっちの台詞なのですっ!外に出るなら一声掛けて下さい!!響ちゃんに何かあったんじゃないかと思って私……私は……」

 

あ、そう言えば電に何も言わずに出て行ってしまってたんだった。

実際かなり危険な状況だった訳だし、電には心配掛けちゃったな。

 

「ごめんね電、少しだけ夜風に当たろうと思っただけなんだけど考えに耽ってたら長居しちゃったみたいなんだ」

 

「響ちゃん?何か有りました?」

 

「えっ!?別に何も無かったけどどうしてそう思ったんだい?」

 

電に不意を突かれて思わず声がうわずってしまったけど何とか誤魔化しながら質問を返す。

 

「……響ちゃんが答えを見付けられたのなら電は別に良いのです。寒くなって来ましたので早く帰りましょう響ちゃん!」

 

電は暫し疑いの眼差しを向けていたが、追及する気は無いらしく私の右腕へ自身の腕を組んで歩き始めた。

 

ふぅ、電になら話しても大丈夫だろうけど……余計な心配を掛けるだけだしこれは私一人で背負うべきものだ、もちろん覚悟も出来てる。

 

私は今日の出来事を胸に秘めて固い決意を持って明日へと臨む事にした。

 

私は由紀さんの言う現実なんかに絶対負けはしないさ!

 

 

 

 

 

 

 

 




響ちゃんも覚悟を新たにいざ最終決戦!


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第百十九番

遂に訪れた決戦の日。

これまでに奴らの襲撃は一切無かった事からも中枢が入手した情報が事実である可能性は濃厚だ。

現に不知火の報告では基地の周囲五十キロ圏内に多くの反応があるらしい。

 

「艦娘達の位置が解った。包囲3-4-1、距離四六〇〇〇だ」

 

長門が放った水偵からの報告を聞いて全員に告げた。

その言葉に全員が頷き返すと機関出力を上げていく。

その中で響はいつも以上に身を強ばらせていた。

 

「響、怖いか?」

 

「……少し、でも大丈夫。門長も長門さんも皆も居るからっ」

 

「ああ、何が来ても絶対に護ってやるからな」

 

「うん、お互いにね?」

 

「ははっ、そうだったな」

 

そうだ、俺が全力で止めなきゃならねぇのは奴らが来た時だ。

それまでは響や長門達を信じて任せる事になっている。

 

ったく、出航前に話してたっつうのに緊張してんのは俺の方じゃねぇか。

柄にもなく緊張してんじゃねぇっつうの!

そうだ……大丈夫だ。

俺も響達もやるべき事をやると覚悟を決めてきたんだからよ。

それを忘れなきゃ何も問題はねぇ。

 

「長門さん、相手が三十キロ圏内に入ったよ」

 

「そうか……これから砲撃が激しくなるだろう!皆の者、心して掛かれぇっ!」

 

「「了解っ!!」」

 

目的は戦闘じゃなく交渉だ。

だから今回は機動力を重視した班だと聞いている。

旗艦長門、そして随伴艦に響、電、吹雪、暁、卯月、夕月。

響と電以外は何れも高練度で航行速度も優れる艦隊で、響と電に関しても長門や暁達なら充分にフォロー出来る。

それに深海棲艦に関しては港湾と中枢の所の奴らが対応してくれる事になってる。

だからこそ俺は俺にしか対抗出来ない奴らの出現に備えて力を温存しておかなければならねぇ。

 

「長門、響達を絶対に守れよ」

 

「当然だ。貴様の方こそ相手は奴らだからな、抜かるなよ?」

 

「ったりめぇだ」

 

さあ何時でも来やがれ、俺が返り討ちにしてやる。

その直後、前方から一つの艦影が現れやがった。

 

「敵影発見!距離四五〇〇、数は一つ!」

 

早速出やがったか、だが向こうの艦娘達も気付いたらしいな。

砲撃の幾つかが奴の所に流れて行ってやがる。

 

「よし、奴らが自分の意思で深海棲艦に与してない事が解った!俺があいつを止めてくっから響達は迂回しながら交渉に向かってくれ!」

 

「門長っ!」

 

「どうした響?」

 

「えと……帰って、来てね」

 

「響……ああ、絶対帰ってくる」

 

響と約束を交わした後、俺は前を向き直り再び海底棲姫の所へ突き進んだ。

相手は一人か……さて、どいつが来たのやら。

 

程なくして奴の背部に取り付けられた六つの滑走路から放たれる無数の艦載機が奴を空母型である事を伝えて来た。

 

「空母か……面倒だな」

 

「陸上型の可能性もあるが、まあお前さんには関係ないか」

 

陸上型だか海上型だか知んねぇが艦載機が厄介なのは事実だ。

 

「兎に角注意を向こうに逸らさせない為に全速力で突っ込むぞ!」

 

「はは、つまりいつも通りという事だな」

 

「あ?なんか文句あっかよ」

 

「いや、非常にお前さんらしいし恐らくそれが最善だろうな。だが伏兵には気を付けろよ?」

 

「当然だ、奴らが潜んでる可能性くらいは考えてる」

 

「そうか、ならいい」

 

武蔵もこれ以上意見がねぇようだしやる事は決まった。

兎に角突っ込んで敵を無力化する、あいつの言う様にいつも通りやるだけだ。

 

擦れ違い様に艦載機へ三式弾をお見舞いしてから全速力で直進しておよそ二分、海底棲姫の姿が目前へと迫った所で奴の方から声を掛けて来やがった。

 

「オ久シブリネ、門長?」

 

「ああ、やっぱお前も吹雪達と相対してた時に居た一人だな?」

 

「覚エテイテクレテ光栄ダワ?私ハミッドウェー、知ッテルト思ウケレド海底棲姫ノ一人ヨォ」

 

「互いに知ってんならさっさと本題に入るぞ。俺は響の為にこの戦争を終わらせて艦娘も人類も深海棲艦も誰もが共存出来る世界を作る。お前らが協力するなら戦う必要はねぇが、もし立ち塞がるなら障害として排除するだけだ」

 

俺は左手に持った五十一センチ連装砲をミッドウェーに向けて訊ねた。

だが奴は何が可笑しいのか、腹を抑えて笑いを堪え始めた。

 

「何笑ってんだ、似合わねぇなんて事は自覚してんだよ。んな事よりてめぇらはどうすっかって聞いてんだよ」

 

「フフッ……違ウワヨ。貴方、自分デ矛盾シタコト言ッテルノニ気付イテ無イノ?」

 

「矛盾だぁ?なんの事を行ってやがる!」

 

「誰モガ共存出来ル?自分ノ意ニソグワナイモノハ排除スル事ガ本当ニ共存ダト思ッテルノナラ随分トオメデタイ頭ネ?」

 

「門長っ!奴に耳を貸すな!門長!」

 

「…………」

 

確かに此奴の言ってる事は事実だ。

例えば人類全てが深海棲艦との共存を拒み敵対するなら俺は排除してただろう。

そうなってしまえばそれは既に共存ではなく、粛清、殲滅、そういった類のものになる。

 

「ミッドウェー、確かにお前の言う様にこれでは共存とは言えねぇな」

 

「おいっ!何を言ってるんだ!?」

 

「デショウ?共存ナンテ所詮机上ノ空論ニ過ギナイノヨ。ダカラ私達ハ全テノ種族ガ滅ビナイ様ニ均衡ヲ管理シテイルノヨ」

 

「そうか……お前らの考えは解った」

 

先程ミッドウェーが発艦させた艦載機のエンジン音が戻って来ている。

ミッドウェーは口角を吊り上げて三日月の様な笑みを浮かべて俺に告げる。

 

「ダガラネ……均衡ヲ守ル為ニ貴方ニハ死ンデ貰ウワ!」

 

「門長っ!避けろぉ!!」

 

武蔵が叫び声を上げると同時に背後から大型爆撃機から落とされ続ける大型爆弾が的確に俺の身体に飛び込み周囲を覆い包む黒煙を巻き上げていった。

 

「アハハハハハッ!ソノ姿ノ貴方ジャヒトタマリモナイデショウ?」

 

「ああそうだな、直撃してればひとたまりも無かったな」

 

「ナッ!?アレダケノグランドスラムヲ一体ドウヤッテ耐エタトイウノ!魚雷ナンカトハ炸薬量モ重量モ桁違イナノヨ!?」

 

確かにあれは全て受ければ俺であろうとも沈んでいたに違いない。

だから俺は明石から学んだ力を流す技術を応用する事で着弾地点を逸らしてどうにか直撃を避けた。

それでもかなりの被害は出ているし両手に持った主砲はもう使えそうにない。

つってもそんな事を此奴に説明してやる義理は無いがな。

 

俺は黒煙の中から飛び出しミッドウェーの左腕を捕まえる。

 

「さて、さっきのお前の言葉に対する答えだがな……正直共存だとか違うとかそんな事俺にはどうだっていい。響が幸せなら一つの種族を滅ぼすのも響以外全てを滅ぼすのも大した差じゃねぇ!」

 

「フゥン、イッソ清々シイ位ノエゴイズムネ。平和トカ共存トカイウカラアノ阿部トカイウ男ト同類カト思ッテイタケド。意外ト好感ノ持テル男ジャナイ?」

 

「あんな爺と一緒にすんな。それに幾ら煽てた所でてめぇの死はもう決まってんだよ」

 

「命乞イナンテソンナ弱者ノ手ヲ私達ガ使ウト思ッテイルノカシラ?」

 

強がりを宣うミッドウェーの首を左手で掴み締め上げる。

 

「強がった所でテメェに助かる道はねぇ。さっさと斃れ海底棲姫!」

 

「ウ……グゥ……今ノママデハソロモンニスラ勝テナイ癖ニ……調子ニ乗ルンジャナイワヨ!」

 

ミッドウェーが背部の滑走路の内一つをアームから無理に引き剥がすと、それを俺の腹部に押し当てた。

 

「何をする気か知らねぇがその前に殺すっ!」

 

奴の首をへし折ろうと全力で力を込めるも、想像以上に堅牢な奴の身体は悲鳴を上げながらもしぶとく耐えやがる。

 

「イキナサイ……ランカ……スター」

 

とミッドウェーが口にするや否や押し付けて来た滑走路から先程と同じ大型爆撃機が発艦しようとしていた。

 

「ちっ、テメェら妖精が乗って無いからって好き勝手しやがって……だがんな事すれば互いに只じゃ済まねぇぞ」

 

「ウフフ……グッ……我慢比ベモ悪クナイデショ?」

 

「ちっ、つくづく面倒な奴だ」

 

奴が自爆覚悟で突っ込んで来ない確証はない。

無論数発程度なら耐えられるが、後々の事を考えると被弾覚悟で仕留めるのは愚策でしかねぇ。

当然だが響に戻ってくると約束した以上艤装の展開は論外だ。

 

仕方なく仕留められる機会を手放そうとしたその時。

 

「その手を離すなよ相棒」

 

武蔵がそう口にすると突然肩の上に現れた。

 

「何をする気だ?」

 

ー お前さんの艤装から離れてあの爆撃機を動かしてくる ー

 

艤装から離れるだぁ?んな事したら暴走すんだろうが!

 

ー 艤装を格納してる空間は取り敢えず治ってるはずだ。それに今のお前さんなら……まぁ多分大丈夫だろう。もし次に感情に任せて艤装を展開すればどうなるか分からんがな ー

 

まて、そんな危険な賭けをやんねぇでも此奴を沈めるくらい━━

 

ー 本当にそうか?勝算があったのか他に目的があったのかは解らんがたまたま奴が近付いて来たからこそ今の状況が出来ているが、今手を離せば奴に距離を離されお前はあの爆撃機や攻撃機に一方的にやられるだけだと思うぜ ー

 

……確かにな、奴の方が早ければ追い付けねぇだろう。

だからと言ってお前が離れる必要はねぇ。

 

ー 少なくともあと二体は残っているのにここでこれ以上損傷を増やせば身に付けた技術すら使う余裕が無くなるぞ。そうなればお前さんは艤装を展開するしか無くなるだろうな ー

 

くそっ、他に手はねぇのかよ!

 

ー 手が無いかは知らんが悩んでる時間は無いぜ? ー

 

…………そうだな。武蔵、任せる。

だが、妖精は死なねぇんだろ?

だったらさっさと艤装を抑えに戻って来いよ。

 

ー ははっ、それまでにどうにかして欲しいものだ。まあどうなるか解らんが、帰って来れればそうしよう ー

 

武蔵は軽く返すと滑走路へ飛び移り、そのまま爆撃機の中に入って行く。

その直後、今にも発艦しようとしていた爆撃機のエンジンが止まった。

 

「ナッ……!?マサ……爆撃機ガ……クソッ!」

 

爆撃機の特攻に失敗したミッドウェーは腹に当てていた滑走路を振りかざして叩き付けようとしてきた。

 

俺は直ぐ様左腕に掴んだ奴の首を海面に叩き付けて姿勢を崩し、右腕も奴の首へと向けて両腕で更に力を込める。

 

「グガ……セ……セメテ……一撃……カハッ……!?」

 

ミッドウェーは最期の力を振り絞り滑走路を俺の頭に叩き付けるが、中の大型爆弾を暴発させるには至らず滑走路の先が折れただけに留まった。

 

「はぁ……くっそ……漸くか……」

 

今出せる全力を以てミッドウェーな首を圧し折った事で奴は力無く腕を放り出し、やがて俺の手をすり抜けて海面に溶けて行った。

 

「武蔵……」

 

ミッドウェーが滑走路を振り上げた時に出ていた爆撃機は奴の後方へ飛んでいき大きな爆発を上げていた。

途中で脱出していれば戻ってくるだろうが……。

 

「いや、奴は大丈夫……それよりも今は響達だ」

 

気持ちを切り替え電探で響達が直にあっちの艦娘と邂逅するであろう事を確認した俺は合流する為に進み始めた。

 




戦闘が思ったよりあっさり終わってしまった……


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第百二十番

門長とミッドウェーの決戦と時同じくして中部前線基地ではもう一つの脅威が姿を現していた。

 

「ソコカ……ターゲット」

 

頭上に三角形のオブジェを浮かべる銀髪セミロングの人型の深海棲艦、バミューダは阿部が居る基地に視線を向けて直進していた。

その直後、水面下に無数の雷跡が浮かび上がった。

 

「フン、コンナモノ……」

 

それをバミューダは一瞥もする事なく両指の機関砲で魚雷を易々と撃ち抜き、続け様に急降下してくる爆撃機も両肩の対空ミサイルで次々と撃墜していく。

 

「クダラナイ、ソノ程度ノ知恵デ私ヲ倒セルトモ?」

 

「モチロォン、ソンナ訳ナイジャナ〜イ。ココカラガ本番ヨォ?」

 

水飛沫と爆煙でバミューダの視界が遮られた所に海中から出てきたのは中枢棲姫であった。

 

「愚カナ姫……己ガ役目ヲ真ッ当シテイレバ生キ長ラエタモノヲ」

 

「ゴ忠告ドウモ。デモゴ安心ヲ、私ハ勝テナイ相手ニハ喧嘩ヲ売ラナイ主義ナノ……ヨッ!」

 

中枢棲姫は言い終えるや否や海中から滑走路を伸ばしバミューダを空中へと打ち上げた。

 

「ハァ、タッタ一人デ私シニ勝テルト思ッテルナンテ……組織ト一緒ニ自尊心マデ肥大化シテシマッタノネ。可哀想ニ」

 

「アハハハハッ!私ガイツ一人デ戦ウッテイッタカシラ?」

 

『今ダッ!水上打撃部隊、撃テェッ!!』

 

次の瞬間、海を覆い尽くす程の戦艦、鬼、姫の艦隊は宙に放り出されたバミューダの着点へ全砲門を向けると間髪入れずに撃ち放ったのだ。

 

「マダヨ、潜水艦隊ハ魚雷を斉射ナサイ!」

 

『リョウカイ。センスイブタイ、ライゲキヨーイ!ハッシャ!』

 

その数瞬後、海面を叩く音が響き渡る。

それに合わせて到着した百を越える潜水艦が放った魚雷。

だが、その魚雷が捉えたのはバミューダ本体では無く切り離された魚雷発射管だけであった。

 

『姫様ッ!奴ハ爆煙ヲ使ッテ行方ヲ眩マセタヨウデス、周囲ノ警戒ヲ!』

 

「ワカッテルワ、既ニ背後ヲ取ラレテイルモノ。フフッ……船舶ガ空中デ動ケルナンテ洒落ニナラナイワネ」

 

中枢の背後で魚雷を構えたバミューダは右腕を失いながらも気にすること無く語りかける。

 

「アンナモノ爆風ニ乗ッタニ過ギナイ。人型ナラヤッテヤレナイ事ハ無イ。ソレヨリ……深海棲艦ヲ動カシテルノハオ前ジャナイナ?」

 

「アラァ、異ナ事ヲ言ウノネェ。私ガEN.Dノボスダトイウノハ知ッテル筈デショ?」

 

「ダカラコソ。オ前ナラコンナマドロッコシイ指揮ハシナイデ成果ヲ優先サセルハズ」

 

「ナルホドネェ……デ?ダッタラナンダッテ言ウノカシラ」

 

「……ナンテコトハナイ。指揮シテル奴モアソコニイルダロウシ、マトメテ消スダケ」

 

「生キテ此処ヲ通レルト思ッテ?」

 

「オ前ヲ沈メテ向カウ、ソレダケ。ソレジャアサヨナラ」

 

バミューダは一方的に話を終わらせて

中枢へと魚雷を放つ。

だが、その魚雷は中枢に届くこと無く突如爆破したのだった。

 

「……メンドクサイ、マタカ」

 

バミューダは伏兵をまだ忍ばせていたのだと直ぐに理解し海面に注意を向けて対潜魚雷を装填させる。

しかし、それが放たれるよりも早く一隻の深海棲艦が海面から飛び出して来た。

 

「オマエガ……オマエラガアノコヲ……ユルサナイワ……ゼッタイニコロスッ!!」

 

「海面カラアシヲ……!?チッ、離セ雑魚ガ……ッ!」

 

「ハナスワケナイデショ……オマエタチ、リトウノカタキヨ……イケッ!!」

 

「ハイッ!リトウサマトシズンデイッタミンナノカタキデスッ!」

 

「ワタシタチノムネン、オモイシレェ!」

 

バミューダの両足に掴みかかったリ級改flagshipに続き、リ級の配下で戦闘には加われなかった補給艦のワ級達が次々とまとわりついていく。

 

バミューダは鬱陶しげに彼女達を振り払おうと力を込めるが、そこで恐るべき事実に気付いてしまう。

 

「ナッ……!オ前達……一体何ヲ満載シテルトイウノ?」

 

「フフフ……イマサラキヅイテモオソイワッ!ワタシタチハゼンインギョライヲマンサイシテルワ」

 

「バ……バカッ。捨テ身ノ特攻ナンテバカナ人間ノヤル事ダゾ」

 

ここに来て漸くバミューダの顔色に焦りが見え始める。

それも当然である、なぜなら補給艦であるワ級の積載量は通常個体ですら一万トンを超えており少なく見積っても魚雷三千発分は積載出来るのだ。

それが四隻に同じく魚雷を満載したリ級、合わせて一万三千発以上の魚雷がバミューダの身体にしがみついている事になる。

下手に暴れる事も出来なくなったバミューダは武装を解除して降伏の意志を見せた。

 

「クッ……解ッタ、ココハ引ク。ダカラ馬鹿ナコトヲスル必要ハナイワ?」

 

だが、バミューダは知らない。

怒りや憎しみに取り憑かれた者に常識など通用しない事を。

そう言った感情を滅多に出さない彼女には想像し得なかったのだ……その恐ろしさを。

 

「バカハオマエヨ、アノコノイナイセカイニナニモミレンナンテアルワケナイジャナイ」

 

「リトウサマ、ソシテリキュウサントトモニッ!」

 

「ドコマデモオトモシマスッ!」

 

「ハ?チョット……本気ナ──」

 

バミューダが言い終える前に五隻はそれぞれ手に持った魚雷を振り下ろしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがっ!アタシが力不足のせいでアイツらが犠牲に……ちくしょう」

 

バミューダとの戦闘の一部始終をルフラより聞かされた摩耶は自分を責めるように机に力いっぱい拳を叩き付けていた。

 

「アレガリ級達ノ意思デソレヲ姫様ガ汲ンデアゲタダケダ。摩耶ガ責任ヲ感ジル事ジャナイサ」

 

「そんなこと言ったって……門長の奴ならどうにか出来た筈だし、そうでなくてももっと他に……!」

 

「オイオイ、コレダケノ規模ノ艦隊戦デ轟沈者ガアイツラシカ出テナイッテノガ既ニ有リ得ナイ状態ナンダゾ?」

 

「それは……解ってる……解ってるけどよ」

 

ルフラの言い分が正しい事は摩耶自身理解はしている。

それでも誰かを犠牲にしての勝利を喜べる筈が無かった。

 

「摩耶、一先ずの脅威は去ったわ。暫くは引き継ぐから少し休んでらっしゃい」

 

「明石……いや、大丈夫だ。あいつらがまだ頑張ってんのにアタシが下がったら士気に関わるだろ?」

 

「…………そうね。けど無理は駄目よ?」

 

「へへっ、解ってるよ。あっちの明石や松達に叱られちまうからな」

 

そう言って摩耶が軽く笑い、大きく深呼吸をしてから無線機に手を掛けた。

 

「離島の所のリ級達と中枢達の活躍により海底棲姫の一角の撃破に成功した!だが敵はまだ残ってる。疲労は溜まってるだろうが決して諦めんじゃねぇぞ!生きろ!!」

 

『『ウォーッッッ!!!』』

 

摩耶が全体に向けて檄を飛ばすのを一歩後ろで見守っていた明石だったが、不意に聞こえてきた足音に気付き即座に振り向いた。

 

「あ、貴女は……一体何処から!?」

 

「全く……私一人気付けないとはとんだ期待はずれだ」

 

呆れた様子で刀を鞘から抜いていく床に付くほどの長髪で色白の女。

門長の戦闘記録を観ていた明石は直ぐに思い当たる。

 

「刀の……海底棲……姫っ!?」

 

海底棲姫ことアイアンボトムサウンドは明石の言葉に応える事無く刀を構えた。

 

「此処は私が食い止めますっ!皆さんは早く──」

 

明石も即座に臨戦態勢に入り摩耶達に避難するように伝えようとするが……明石がその言葉を最後まで言い切ることも、摩耶達がそれを実行する事も叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第百二十一番〜響〜

響視点、時系列的には第百十九番の最後からになります。


相手の艦娘達からの攻撃は激しかったけど、吹雪さん達がフォローしてくれたお陰で私達はあまり損傷を受けずに近付く事が出来たんだ。

それに門長からもこっちに向かうとの通信があった。

直前の通信では摩耶さん達の方も今の所は作戦通りに進んでいるらしい。

 

だからこそ私達もこの説得を確り成功させなきゃね。

 

「む、通信か。こちらは中部前線基地所属の長門だ、貴艦の所属と名前を教えてくれ」

 

『初めまして……いえ、お久しぶりですね長門さん?横須賀第一鎮守府秘書艦、大淀です』

 

オープン回線で繋いできたのは大淀と名乗る女性だった。

 

「長門さん、大淀さんって……」

 

「ああ、海軍の艦娘を使うのであれば権力的にも指揮能力的にもヤツ以上の適任は居ないだろうな」

 

『理解が早くて助かります。ついでに自沈して頂けるともっと助かるのですが如何です?』

 

「こんな所で命を捨てる気は無いさ。それにお前達も我々と戦う理由はないと思うが?」

 

「そ、そうだよっ。艦娘同士で争う事にメリットは無いんでしょ?」

 

「えぇ、確かにあの方々の意向には合わないでしょう。ですが私とあの方々との繋がりを知っている貴女達は国の叛逆者として消しておかなければ国が立ちいかなくなるのですよ」

 

「私達は海軍に話すつもりなんて……」

 

『可能性はゼロにしておいた方が安心でしょう?』

 

どうしよう……どうすれば大淀さんを説得出来るんだろう。

 

『……ですが、条件によっては貴女達を見逃して上げても良いですよ』

 

「条件……なんだい?」

 

『私の独断である以上門長と敵対する事になってもあの方からの支援は望めないですし、不要となれば直ぐにでも消されるでしょう。ですが私とて命は惜しいのです』

 

「私に門長を止めて欲しいって事なら攻撃しなければ門長だって!」

 

『分かってませんね。私はそもそもあの方……いえ、海底棲姫なんかの下で終わる気はないんですよ。ですから彼女達に対抗しうる力を持つ門長を意のままに動かす為に……響、貴女の身柄をこちらで押さえたいのです』

 

「貴様っ!そんな話が通ると思っているのか!」

 

「バッカじゃないの!そんな事認めるわけないでしょ!」

 

「話になりませんね。普通は言葉の通じる方を交渉に出すべきでしょうに」

 

『あら、これ以上無いくらいの提案だと思いますがね?私達は門長の居ない貴女達位なら全て滅ぼして力ずくで響を捕らえる事だって出来るのですから』

 

「くっ……外道がっ」

 

長門さんも姉さん達も論じる事無く突っぱねた。

確かに私があっちに行くのは危険かもしれないし、大淀さんが嘘を吐いてる可能性もある。

 

それでも相手は長門さんや姉さん達と同じかそれ以上の実力者揃いの艦娘達で数も二十倍近くの開きがある……だけどもし私が向こうに行く事で皆が守れるのなら。

 

「大淀さん……信じて良いんだよね?私がそっちに行けば皆には手を出さないって」

 

『ええ、約束しましょう。私達は彼女達に手を出さないと』

 

「響ちゃん……」

 

「大丈夫さ。電も言っていただろう?皆が信じ合えば平和になるって」

 

「それは…………」

 

「だから私は大淀さんも門長も皆を信じる」

 

不安そうに見つめる電に笑顔で返した後、一人艦隊を離れ大淀さんの下へ向かった。

 

「良く来ましたね。霧島、彼女を頼みますよ」

 

「了解しましたっ」

 

大淀さんの隣に控えていた霧島さんが私の手を取って元の場所に戻る。

その時、丁度長門さん達と合流したらしい門長の声が通信越しに聞こえて来た。

 

『おい、響はどうした?』

 

「丁度良いタイミングですね門長さん」

 

『ああ?誰だ!テメェが響を攫ったのか!』

 

「攫った何てとんでもない。私は彼女と取引をしたのですよ。まぁ貴女が私に反抗する様なら無事は保証致しかねますがね?」

 

『テメェも俺を怒らせてそんなに死にてぇ様だな?』

 

「どうぞ?貴女がこちらに近付いた瞬間に彼女は海に還る事になりますが」

 

『……ちっ、要求はなんだ。話だけは聞いてやる』

 

「簡単ですよ、私の為に力を貸しなさい。貴方が協力的である限りは彼女の安全は保証しましょう」

 

『何をする気か知らねぇが、てめぇに力を貸すぐらいしてやるよ』

 

「それは結構、ですが言葉だけでは信用出来ませんので行動で示して貰いましょう。門長、先ずはそこの艦娘達を沈めなさい」

 

『は?』

 

「なっ!?」

 

いや……まだ大丈夫だ。

私だって考えて無かった訳じゃない。

 

「大淀さん、話が違うよ」

 

「そうでしたか?私達は手を出してませんよ。門長さんに全てやって貰いますからねぇ?」

 

そんなのは詭弁だ。

だけどそれなら私にだって手はある。

 

「そうかい、それなら私が自沈しようと何も問題はないね?」

 

『なっ!?何いってんだよ響!!』

 

雷管から一本の魚雷を引き抜き自身の胸に突き立てる。

 

私が自沈すれば門長は鎖から放たれる。

その結果どうなるかは賭けだけど、少なくとも大淀達ではどうにもならない事態になる事は明白だ。

 

「私と駆け引きをしようだなんて愚かな駆逐艦ね。そんな事をすれば門長は暴走するだけ。貴女は大切な仲間を全て巻き添えに出来るの?」

 

「解ってるよ、でもこのままじゃいずれにしろ皆は助からない。だったら1%でも確率のある方を選ぶのは当然だろ?」

 

大淀さんは私の顔をじっと見つめる。

私も負けじと真っ直ぐ見返すと大淀さんは不敵な笑みを浮かべて顔を上げた。

 

「霧島」

 

「はっ!」

 

「うぐぅ!?……う……くる……し」

 

手を掴んでいた霧島さんが突如私を持ち上げると右腕を首に巻き付けて締め上げて来た。

 

『テメェは殺す!絶対に殺すっ!!』

 

「うぐ……と……なが……」

 

駄目だ、こっちに来たら……皆が……。

 

「大淀よ、悪いがこれ以上お前さんの指揮にはついて行けんな」

 

「っつう……は、離しなさいっ!」

 

「うっ……げほっ……げほっ……」

 

「……今なんと言いましたか?()()()()

 

武……蔵、さん?

私を助けてくれた……けどどうして?

 

「門長よっ!あの時は済まなかったな!今回の件で艦娘とか深海棲艦とか考えていた自分が馬鹿だったと思い知ったよ」

 

『武蔵……?あいつじゃねぇな……誰だ?』

 

「ん?分からんか、まあいい。なら一方的に借りを返させて貰うぞ」

 

「私を裏切るつもりですか?残念です……皆さん、裏切り者には粛清を」

 

大淀さんが振り返って艦隊に号令を掛けるも誰一人動く者は居なかった。

 

「なにを……なにをしてるんですかっ!裏切り者を粛清しなさい!」

 

「残念だったなぁ大淀よ、既に我々の工作は済んでいる。お前さんの慎重さには随分手を焼かされたが、ここに来て欲をかいたな!」

 

「なんですって!?一体何をっ!」

 

有り得ないといった風の大淀さんに対して武蔵さんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「お前は響を引き入れた時点で大人しく引くべきだった。そうすれば我々の工作は無駄に終わっていたからな」

 

「工作っ!?馬鹿な!私が気付かない筈がありません!いつそんな事が出来たというの!」

 

「そりゃあ気付かないだろうさ。なんせ本格的に行動を起こしたのはこの作戦が始まってからだしな?」

 

「そんな短時間で寝返るはずがない!何をした!」

 

大淀は日向さんに拘束されながら納得が行かないと言った様子で取り乱していた。

だけどこんな状況にも関わらず誰も動こうとしない事が事実だと証明している。

 

「嘘で固めた信用などヒビが入ってしまえば脆いものさ」

 

「くそぅ……私が……私の野望がァァッ!!」

 

「日向、こいつらを捕縛するぞ。作戦は終了だ!全艦各々の鎮守府に帰投するぞ!」

 

「「了解っ!!」」

 

良かった……これで私達は戦わなくて済むんだ。

傷付け合わずに済むんだね。

 

「武蔵さん、日向さん。ありがとう」

 

「なに、こっちこそ礼を言わねばならん。お前さんが取引に応じてくれなければここまでスムーズに事は運ばなかっただろう」

 

「そう……かな?」

 

「ああそうさ、だから……む、日向避けろっ!」

 

「んなっ──!?」

 

武蔵さんが日向さんに警告した直後、一発の砲弾が私を横切って大淀の胸部を撃ち抜いたんだ。

 

「ぐ……かはっ……!?あ……そ、んな……」

 

「日向っ!大丈夫か!」

 

「うむ、中破はしたがな……それよりも大淀の方が不味いな」

 

「くっ、誰かダメコンは装備していないかっ!」

 

武蔵さんが皆に声をかけるけど誰も装備していないのか返事は帰ってこなかった。

 

このままじゃ大淀さんは沈んでしまう。

けど、どうすれば助けられるんだろう……いや、明石さんならっ!

 

「明石さんっ!聞こえるかい!?響だよ、直ぐにこっちに来て欲しいんだ!」

 

私は通信機に何度も呼び掛けるけど向こうからの声はいつまで経っても返って来ない。

一瞬頭に不安が過ぎるけどそれを振り払って必死に呼び掛けた。

 

「明石さん!聞こえる!?明石さっ!」

 

『…………ひ、びき……ちゃん?』

 

「明石さん!どうしたんだい!?何か……」

 

『に……げて……すぐ……』

 

逃げて?一体基地で何が……摩耶さんや松達は大丈夫なのだろうか。

私は直ぐに門長に通信を繋いで基地の異常事態を伝える。

 

「門長っ!明石さん達に何かあったみたいだ!直ぐに基地に戻ろう!」

 

門長ならきっと戻ってくれる筈だ。

だが、門長からの返事は私の予想だにしなかったものだった。

 

『響……そこの武蔵達の世話になれ。絶対に戻ってくんなよ』

 

え……?な、何を言ってるんだい?

私は門長と一緒に居ると約束したんだ。

それなのに約束を破らせるなんて……。

 

「なに、を……門長は私が護るんだから一緒に居なきゃ護れないよ」

 

『…………足手まといだから来んなっつってんだ。武蔵、こっちの邪魔にならねぇ様にそいつを一緒に連れてけ』

 

「と……なが……」

 

門長はそれだけ言うと通信を切ってしまった。

 

胸が苦しい……気を抜けば足から崩れてしまいそうだ。

だけど…………私はもうあの時の私じゃないっ!

門長が私をどうしても遠ざけたい状況だと言う事は解る、けど!

 

「武蔵さん、私は大丈夫だから皆で直ぐに此処を離れて」

 

「おい、響っ!?」

 

こんな状況で逃げ出す位ならあんな約束は初めからしないさ!

 

「門長……私が護るから」

 

私は武蔵さん達に別れを告げると最大戦速で門長達の下へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第百二十二番

大淀っていう黒髪眼鏡女が捕らえられ艦娘対艦娘の争いが避けられたと安心したのも束の間、後方から通り抜ける高速で飛翔する砲弾が寸分の狂いもなくその女の心臓を穿いた。

 

「今のは……っ!」

 

「我々に反旗を翻すつもりならもっと上手くやるのだったな」

 

砲弾が飛んできた方に振り返ると、そこにはこの僅かな時間で切り伏せられた長門達とリ級の部隊を壊滅させ俺の右腕を易々と切り飛ばした海底棲姫、アイアンボトムサウンドの姿があった。

 

「てめぇ……っ!」

 

いや、よく見れば電ちゃん達の傷は浅い。奴を倒して入渠させれば全然間に合う。

はぁ〜……ふぅ、落ち着け。ただでさえまともにやって勝てるような相手じゃないんだ。

とにかく今は冷静に対処するんだ、特にこの状況を響にみられる訳には行かねぇ。

 

「……アイアンボトム。いや、伊東由紀つったか?」

 

「あの元帥から聞いたのかそれとも……まあいい。私達は敵同士、であればする事は1つだろう?」

 

まあ当然だが引く気はねぇわな。

だがまだ響をこっちに来させないようにする方法が浮かばねぇ。もう少し引き伸ばさねぇと……っとそうだ。

 

「ああ、だがひとつだけ聞かせろ。てめぇはその実験に納得して受けたのか?」

 

俺の質問に対して伊東由紀は暫く黙ったままだったが、やがて口許を緩めてこう答えた。

 

「ああ、文句無しの結果だ」

 

「……そうかよ」

 

納得してんなら説得は無理か……。

 

その時、響から通信が入って来た。

未だ名案は浮かんで来ねぇが通信に出ないのも不自然か。

俺は深く息を吐いてから響へ無線を繋ぐ。

 

『門長っ!明石さん達に何かあったみたいだ!直ぐに基地に戻ろう!』

 

明石達も既にやられてるか、となると少し不味いな。

電達と同じ位ならまだしももし手遅れになってるなら……最悪響だけでも助けねぇと。

 

「響……そこの武蔵達の世話になれ。絶対に戻って来んなよ」

 

『なに、を……門長は私が護るんだから一緒に居なきゃ護れないよ!』

 

「…………足手まといだから来んなっつってんだよ。武蔵、こっちの邪魔にならねぇ様にそいつを一緒に連れてけ」

 

『と……なが……』

 

響との通信を一方的に切った後、自分に対する強い怒りを覚えていた。

 

「クソっ!失敗した……」

 

武蔵が止めてくれれば良いが……恐らく響はこっちに来るだろう。

だが、響にこの惨状を見せちゃならねぇと俺の頭が激しく警鐘を鳴らしている。

ならせめて響が来る前にコイツを……。

 

「時間がネェ……サッサと殺らせてもらうゼ」

 

「悪くない殺気だが、そのままでは私を殺す事など不可能だ。早く艤装を展開しろ」

 

「ちっ、何処まで知ってんのかシらねェが少し黙れ」

 

時間はねぇ、急げ……急いでコイツをコロさねぇと。

 

「落ち着くんだ門長……何の為に明石となに、を……特訓をしたのか……思い……出せ」

 

「長門……」

 

焦りから目の前の標的へと殺意を高める俺へ腹を切られ海面に伏せる長門が息もたえだえにそう伝えてきた。

 

……大丈夫だ長門、響との約束も含めて何も忘れちゃいねぇよ。

俺は艤装を展開しない為に、暴走しない様に奴らと戦える技を身に付けて来たんだ。

 

俺は溢れそうになる衝動を理性で抑えつつ目の前の女を睨みつける。

 

「まだ艤装を展開せずともどうにかなると思っているのか?」

 

「ああ、俺にはこの二本の腕と足があるからなっ!」

 

俺はアイアンボトムサウンドへ全速力で突っ込む。

奴はそれを軽く躱しカウンターに蹴りをかましてきやがった。

 

「ぐふっ……いまだっ!」

 

「……っ!」

 

だがその奴の足を受け止め、蹴りの力を利用して海面へと勢い良く叩き付けると同時にのしかかって動きを封じた。

 

「へっ、このままてめぇの足をへし折ってやるよ」

 

「ふん、下らん。此処を何処だと思っている」

 

奴はその身を海中に潜らせる事で拘束から逃れやがった。

 

「ちっ、逃げられたか」

 

簡単にはいかねぇか。

だが明石から教わったこの技なら奴にも通じる。

それに奴は何故か俺に艤装を使わせようと手を抜いている。

その証拠に先程から俺に対しては一度も刀を振っていないのだ。

 

俺が今のままで奴を倒すにはその隙を突くしかねぇ!

 

「さっさと沈めてやるよこのクソアマがっ!」

 

「そうか……あくまでも艤装を展開しないというのか。ならば仕方ない、そこの駆逐艦には死んで貰う」

 

「てめぇ……させるかよっ!」

 

向きを変える奴に対して俺は今出せる最大推力を足裏に込めて全速力で暁の前に立ちはだかる。

だが奴は不意に足を止めるとこれ以上近付こうとはせずにあらぬ方向を見つめながら薄く笑ったのだ。

 

「なにしてやがる……なっ!その方角はまさか!?」

 

「ふっ、役者が揃ったな」

 

いやな予感が的中してしまったと同時に俺は思い切り叫んでいた。

 

「見るなひびきぃぃぃぃっ!!!」

 

「そん、な……姉……さん……それに吹雪さん達まで……」

 

俺の懇願虚しく響は絶望的な光景を目の当たりにしてしまった。

そしてそんな彼女の表情を見ていつか見た夢がフラッシュバックする。

間に合わなかった……いや、まだだ!まだ諦めるな!

 

「だ、大丈夫だ響!暁達はまだ生きてる。だから直ぐにそいつを倒して──」

 

「駆逐艦響、これがお前の選択した結果だ。お前の仲間は貴様のせいで直に死ぬ事になる」

 

俺の言葉を遮るようにアイアンボトムサウンドは響に惑わしの言葉をかけてきた。

 

「響のせいだって?寝言は寝て言いやがれ!」

 

「事実だ、更に言えばお前らが残ったせいで門長は艤装を展開出来ないでいる。貴様が幾ら理想を語った所でこれが現実なのだ」

 

「そ……んな……姉さんも……吹雪さんも……長門さんも私のせいで……」

 

「違うっ!お前のせいじゃない!おいっ、訳わかんねぇ事言って響を惑わせるんじゃねぇ!」

 

俺はアイアンボトムサウンドに飛び掛るが、奴は刀の鞘で軽くあしらいながら響へ話を続けやがる。

 

「貴様にも夢の終わりが来たのだ。受け入れろ、現実を」

 

不味い……このままじゃ絶対に駄目だ!

あの日見た悪夢が蘇り響が言葉にしようとしてる言葉が分かってしまった。

だがそれは絶対に言わせてはならない……どうすれば、どうすれば響を落ち着かせる事が出来る?

 

「い、嫌だ……嫌だよ……」

 

俺に何が出来るか分からない。

それでも何か言うんだ!

考えるな!気持ちのままに叫べ!

 

「お、俺を信じろぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

 

「と……な……が?」

 

「響っ……!都合が良いのは解ってる。だから今だけで良い!俺を信じてくれっ!!」

 

滅茶苦茶な事を言ってる自覚はあるが関係なく俺は叫んだ。

 

「……なんだよそれ、今だけでもなんて虫が良すぎるよ馬鹿…………でも、解った……私は門長を信じる。だから門長も私と自分自身を信じて?」

 

自分自身をか……そうだな。

響が信じてくれるなら俺は何だって出来る。

 

「ああ、信じる。響の事も、自分の事もな」

 

「ありがとう。じゃあ私からのお願い……門長」

 

 

 

──艤装を展開して、皆を守って──

 

 

 

「響……それって」

 

「大丈夫。私達ならやれるさ」

 

「…………そうだな!」

 

大丈夫だ、響が居れば絶対に戻ってこれる!

二人なら不可能なんてねぇって事を証明してやっからよぉっ!!

 

「漸くか……」

 

「由紀さん、私は自分の選択を受け入れる。だけどそれでも私は諦めない。だから由紀さんもまた後で話し合おうよ」

 

「……機会があればね」

 

「アイアンボトム……てめぇが何を考えてるか知らねぇがお望み通り艤装を展開してヤルよ、精々後悔スルンだナ!」

 

視界の半分が紅く染まっていく。

思考がドス黒いナニカに侵食されて行く。

響達ヲ護る為ニこいつヲ沈めテヤル。

 

コロス……コワセ……イキトシイケルモノヲ……!

 

……チガう、守ル為に力を使ウんダ。

 

「ウぐッ……ググ……」

 

そう……衝動にマカせるんじゃない。

響達を護るっつう俺の意思で力を振るうんだ。

 

「響ヲ……あいツらを……護るっ!」

 

「来い、その意志が本物か見極めてやる」

 

奴は遂に抜き身の刀を俺に向けて構える。

ここからが本番という訳だ。

俺は深海棲艦の様に黒く変色した右腕を突き出し、左腕を腰に構えて距離を詰める。

 

明石曰くこの技術は守りの時にこそ真価を発揮するらしい。

俺向きの技術じゃねぇ事はあいつも解っていた筈だ。

それでもこれを教えたのはそれ以外に対抗する手段が無かったから……いや、()()()()()()()()()()()()()と判断したからだろう。

そしてそれは間違いじゃないと今は俺自身が確信を得ている。

 

ならば俺が目指す所はただ一つ、後手必殺だ!

 

「艤装を展開した割には随分と慎重だな?攻めてきたらどうだ」

 

「へっ、ソんな事言っててめぇガ近づクのが怖いだけダロ?」

 

「そうか……解った。その構えにそこまで自信があるのなら、その誘い……乗ってやろう!」

 

アイアンボトムサウンドは刀を頭の横まで持ち上げて水平に構えると、激しい水飛沫をあげて真っ直ぐに突っ込んで来た。

 

その速度は並の魚雷を凌駕する速度だったが、艤装を展開した俺の性能を以てすれば充分に反応出来るものだった。

 

「……っ!」

 

刀の柄の部分を右手で下に捌き相手のバランスを崩す。

 

「シャァオラァッ!」

 

「舐めるなっ!」

 

そして前のめりになった無防備な顔面に蹴りを振り上げるも、すんでのところで奴は咄嗟に刀から離した右手で蹴りを受け止めた。

衝撃は殺しきれず奴は吹き飛んで行くが刀は確りと持ったまま易々と海面に着地してみせた。

 

「チッ、動きは同じ位カ」

 

「ふん……強がりを言っても無駄だ」

 

奴も気付いてやがるか。

飛ばされる寸前に刀を取った俺の手を払い除けた上で奴は自分の勢いも乗せて飛び退きやがった。

俺に同じ真似が出来るかと聞かれれば無理と答えるだろう。

それ程までにタイミングは完璧だったと自負している。

 

……何て奴だ、あの時から感じては居たがやはり奴は他の海底棲姫とは明らかに次元が違う。

だが、当てる事さえ出来れば奴を倒せる。

 

「強がりカどうかは……身を持っテ確かめナァッ!」

 

俺は構え直して、先程より速度を上げてアイアンボトムサウンドへと突っ込んだのだった。

 

 



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第百二十三番

毅然とした態度で刀を構えるアイアンボトムサウンドにさっきまでの油断は見られねぇ。

くそっ、これじゃあ後の先も取れそうにねぇぜ。

艤装まで展開したっつうのにまだ奴には届かねぇのかよ。

 

「何時まで構えてるつもりだ?自身を押さえつけながら勝てる相手じゃないと既に理解しているだろうに」

 

「へっ……ダレがテメェの言葉なんか真にウケルかよ」

 

「愚か……」

 

奴は呆れた様にそう呟くと同時に俺の視線から消えやがった。

辛うじて初動は見えたが、反応する間もなく奴の刀は俺の脇腹を切り抜けて行った。

 

「ぐっ……がぁ……っ!」

 

「私を倒したければ捨てろ。貴様のそれは理性を持って扱えるようなものではない」

 

「……ル、せェ。てめぇノ尺度で測る……んジャ……ねェ!」

 

くそっ……理性を保て……響が俺を信じてんだ!

ここ一番で情けねぇ姿晒してんじゃねぇぞ!

 

「マダだ……まだ負けちゃいねぇ……」

 

「その強がりが何時まで続くか……」

 

落ち着け……取り乱すな……。

 

奴はわざとらしく隙を見せながらゆっくりと俺に近づいてきやがる。

今にも溢れ出さんとするこの破壊衝動に身を委ねれば奴を仕留める事が出来るだろう……だが、それこそが奴の思う壺だ。

だから俺はこの衝動を押さえつけつつ己の意思で右腕を振りかぶった。

 

「遅いっ」

 

「うぐっ……ぅ……」

 

しかし、奴はその腕を難なく切り捨て空振る俺の顔面を蹴り上げた。

 

「う……あ……ま、まだ……だ!」

 

「期待外れね……もういい」

 

「期待……?由紀さん……それって……」

 

「ちっ……まだ居たのか?奴の底が知れた以上貴様などもはや不要。ここで死んで貰う」

 

「え……?」

 

なっ!?アイアンボトムてめぇ!響に何する気だ!

くそがぁ!動け!響に手出しはさせねぇぞ!!

 

おい……やめろ……マジで……そっちに行くんじゃねぇ……こっちだ…………俺が相手だ……だから……

 

──力ニ身ヲ委ネレバ良イ──

 

……巫山戯んな、そんな事したら元も子もねぇだろ!

 

──響ヲ救エルトシテモカ?──

 

…………救えるのか?

 

──無論──

 

しかし…………

 

──解ッテルダロ?今動ケナケレバオ前モ響モ死ヌダケダト──

 

クソがっ……ああ、テメェの口車に乗ってやるよ。

だがな、ぜってぇにテメェの思い通りにはさせねぇからなっ!

 

 

 

 

 

 

──ソレデ良イ、使エルチカラヲ使ワヌホド愚カナ事ハナイ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

私の喉元に切っ先を突き付けた海底棲姫こと由紀さんはその無表情の中に何処か落胆した空気を漂わせていた。

 

期待外れ……それは相手に期待をしなければ出てこない言葉だ。

そう言えば最初から彼女の行動は何処かおかしかった。

夜に私に言ってきたことも門長が艤装を展開出来る状況を作りたかった様にも思えるし、艤装を使いこなそうと……いや、抑えようとする門長にも納得していなかった。

 

 

「ゆ、由紀……さん。もしかして、門長なら自分に勝ってくれるって……そう、期待してたんじゃ」

 

「……それが事実だとしても、これから死にゆく貴女には関係ない話よ。安心なさい、あの男も直ぐに屠ってあげるから」

 

どうしよう……門長を護るって約束したのに。

やっぱり私じゃ力になれないのかな。

 

【俺と響が一緒に居りゃあ不可能なんてねぇぜ!】

 

門長……うん、そうだよね。

私と門長なら出来ないことなんて無いんだ!

 

「大丈夫だよ由紀さん。門長は期待外れなんかじゃない」

 

「そう、なら……愚かな幻想を抱いたまま死ね」

 

由紀さんはそう言い終えるや否や刀を振り上げると、私の首へと目にも止まらない速さで振りかぶる。

 

だけど私には恐怖はない。

門長が絶対に護ってくれるから!

 

「……なっ!?」

 

直後、由紀さんは目の前で起こった出来事に驚きの声を漏らした。

刀は確かに振り抜かれた、だけどその刀身は半分以上無くなり私の眼前を空振ったのだ。

 

「お前……」

 

「門長っ!」

 

由紀さんの視線の先を追うとそこにはさっきよりも黒い装甲に覆われた門長が奪い取った刀身を白く染まった手で砕き海へ捨てていた。

 

「グルル……コロ……ス……邪魔……スル奴……全テッ!」

 

「とな……が……?」

 

「ふふふ、確かに貴様の言う通りだったようだ。そしてやはりトリガーは響、貴様だったか」

 

門長の様子がおかしい。

それにさっきまで紅い気焔を放っていた右目が黄金に輝いている……で、でも大丈夫さ!()()()だってちゃんと目を覚ましてくれたんだ。

 

だから…………

 

「何を考えてるか知らんが変な期待せずにさっさと逃げた方が良い。まぁ、逃げきれればの話だが」

 

それだけ言い残すと由紀さんは六基十八門もの大きな三連装砲を展開して門長の方へ飛び出して行った。

 

二人の激しい攻防に割って入る事など出来ない私は、姉さん達が巻き込まれないように避難させてから二人の無事を祈りながら見守り続けた。

 




少し短いですが一旦切ります。


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第百二十四番

今回も短いです。



たった一つの意志を遺して全てを失くした門長であった()()は艤装を展開し吶喊してくるアイアンボトムサウンドを咆哮を以て迎えた。

 

「グオォォォォッッッ!!!」

 

「ハハハハハッ!!ソウダ!我々ヲ動カスノハ破壊衝動ノミ。理性ナド人デアッタ頃ノ残留物ダ!」

 

アイアンボトムサウンドは門長と距離を詰めながら六基十八門の20inch三連装砲を一点に向けて一斉射する。

だが門長はその砲弾を装甲を纏った手の甲で次々と受け流していった。

 

「マダソンナ付ケ焼キ刃ニ頼ルカ……シズメェェェ!」

 

「グルル……」

 

既に短刀程の長さとなった刀を水平に構えたアイアンボトムサウンドは門長の心臓部を貫こうと更に速度を上げる。

その速度は並の魚雷を遥かに凌駕し、他の海底棲姫でさえ避けきる事は容易ではない。

しかしそれだけの速度を以てしても……否、それだけの速度があったからこそ門長は理性無きその身で獰猛な笑みを浮かべたのだ。

 

「……ッ!?」

 

その笑みに気付き止まろうとするも時すでに遅し、門長に腕を取られたアイアンボトムサウンドは殺しきれなかった勢いを乗せて空中へと蹴り上げられていた。

 

「グッ……コノ程度ッ!」

 

空中でどうにか体勢を整えるアイアンボトムサウンドへ向けて門長は両肩に載せられた大口径の連装砲を放つ。

 

空中での回避は困難、だがアイアンボトムサウンドは射出成形から着弾までのコンマ数秒の間に刀の柄を一発の砲弾にあてがう事で直撃を避けつつその勢いを利用して一気に距離を離す事に成功させた。

 

「フゥ……ハァ……成程、ソレモ含メテ貴様ノ力ト言イタイノカ」

 

「グガ……コ……ロス……」

 

「オモシロイ、貴様ノ力ガ理外ノ存在ニ届キウルカ見セテミロッ!!」

 

そう言い放つアイアンボトムサウンドが刀を海中に沈めた時、直感的に危険を感じ取った門長は反射的に後ろに飛び退く。

その判断は正しく、次の瞬間には元いた場所には無数の鋼の板が突き出していた。

 

「マダマダァッッ!!」

 

無数に突き出した鋼板からはミッドウェーが発艦させていたものより更に一回りも大型の爆撃機が無数に飛び立っていく。

 

「ガァァァァッッッ!!!」

 

四方八方から落とされる爆撃に門長は極めて鬱陶しそうに睨み付けると艤装の機銃を全て稼働させる。

その激しい弾幕は爆撃機も爆弾も等しく蜂の巣にして行った。

だが、真に気を付けるべきは海中から飛び出す降板でも無尽蔵に発艦される爆撃機の規模でもない。

 

「クラエッ!」

 

爆撃の雨を目くらましに門長の死角を縫う様に駆け抜けたアイアンボトムサウンドは、門長の背後へと回り込み欠けた刃その首筋へと振り下ろした。

 

「……ッ!アハハハハハッ!」

 

確かに門長の首を捉えたはずの一閃はまるで鋼鉄を叩いた様な音を響かせた。

しかし、既に侵食が進んでいる門長の皮膚は既に生身の部分の方が少なくなってきている。

その為普段ならアイアンボトムサウンドの装甲を貫く事など叶うはず無かったその右手はいとも簡単に彼女の腹部を貫いていたのだ。

 

「ウグッ……本……当ニ……素晴ラシイ……ワ」

 

「コワ……ス……コワス壊ス壊ス壊ス壊レロォォォォッ!!」

 

門長は彼女の腹部を貫いた腕を先程までとは打って変わって力任せに叩き付ける。

為す術なく叩き付けられたアイアンボトムサウンドは二、三跳ねながら海面を転がって行った。

 

アイアンボトムサウンドは既に瀕死の重症を負いながらもどうにか立ち上がり全主砲を門長へと向ける。

そして門長も同様に主砲を彼女へと向けた。

 

「ハァ……っはぁ……コレなら……もしかシたラ……」

 

この一撃を受ければ自分は間違いなく沈むと彼女は解っていた。

だがそれでも彼女の目的は果たされたのだ。

その先をこの目で見る事が出来ない事を悔やみつつも、伊東由紀は満足そうに呟いた。

 

暫しの膠着の後、幕を告げる砲声が放たれる。

だが、それと同時に一人の少女が叫び声を上げて二人の間に割って入って来たのだ。

 

Урааааааааааааа(ウラァァァァァーーーッ)!」

 

「なっ、なんで!?」

 

駆逐艦の身で戦艦すら容易く沈める門長を主砲を受ければどうなるかなど考えるまでもない。

 

「う、ぐぅ……っ!間に合って……!」

 

此処で彼女を喪う訳には行かない。

由紀は響を下がらせようと慌てて手を伸ばすが、迫り来る砲弾に対して余りにも鈍重な身体ではどう足掻いても間に合わないだろう。

それでも諦めずに手を伸ばした彼女だったが、その想いも空しく響の姿は爆炎へと呑み込まれて行った。




クライマックスなのにどうして短くなるのか……。


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第百二十五番

回想


私、アイアンボトムサウンドこと伊東由紀の人生は決して恵まれたものでは無かったと思う。

父親は私が産まれてから1度も私の前に姿を見せず、母親は私が15の時に流行病で死んでしまった。

遺された私は父親を探す為に日本海軍に入隊した。

 

─父さんは私達を護る為に海軍で頑張ってるんだよ─

 

幼い頃から母にそう言い聞かせられて来た私は、父に会うために海軍に入ろうと決めていた。

そのために以前から勉強してきていたのと引き取ってくれたおじいちゃんに厳しく育てられたのも功を奏し無事士官学校に入るにまで至った。

だが、まさかそこで探していた父に会えるとは思ってもみなかった。

 

その姿は多少皺が増えていたけど嘗て母が見せてくれた写真の人物で間違いなかった。

 

その男の名前は……そう、阿部忠勝だ。

 

あの時の教官だった彼こそが私の父親だったのだ。

私は全てを話し、そして彼がどうして私に一切会いに来なかったのかを聞こうと思っていた。

だけどその機会が訪れる前に私の士官候補生としての生活は終わりを告げた。

 

人の身で艦娘が扱う電探を扱えた事によって実験体となった私は阿部教官の監視の下、実験の日を迎えることとなった。

当然その間に伝えるタイミングは幾らでもあったが、私は話す事はしなかった。

 

別に彼を軽蔑してた訳じゃない。

寧ろ私が娘だと知らないにも関わらず上からの命令より私の意思を優先しようとしてくれた彼に好感さえ抱いていた。

だからそんな彼に甘える訳には行かなかった。

 

命令違反は海軍では大罪であり、教官程度首が飛ぶくらいならまだ良い方で、貴重なサンプルである私を逃がしたとなれば最悪銃殺刑すら有り得る。

だから私は素直に実験に従い、そして気付いた時には近くにいた科学者達は私の手によって跡形もなく消え去っていた。

 

そんな人ならざる存在と化した私を待ち受けていたのは一人の妖精。

彼女は父の身の安全と引き換えに私にこの戦争の恒久化を手伝う様に持ち掛けてきた。

表面上取引とは言っていたがその実私が裏切れば彼を殺すと言う脅しに他ならない。

だから私は今日まで彼女に従いつつ彼女を考えを変えさせる為に動いてきた。

 

確かに共通の敵が存在し続ければ人類は協力し続けるかも知れない。

だけどそれは政治家や戦争家の考えであり、一般市民達に我慢を強い続けるやり方だ。

私はそれをどうにかしたかったが、人類とも深海棲艦とも相容れない存在となった私には私には妖精の考えを改めさせる手立ては無く半ば諦めかけていた。

 

そんな時、妖精から人類が新たな厄災を生み出したとの報せを受けた。

それは彼女が艦娘や深海棲艦の亡骸から生み出したソロモンやミッドウェーの様なただの規格外の深海棲艦ではなく、人類の業が生み出した私と同じ最悪の兵器であると妖精は言った。

妖精は私と同じようにこちら側へ引き込むと言っていたが、私はこれを最期のチャンスだと確信していた。

そのため、私は表面上従順に動きつつも裏では悟られないよう慎重に門長を誘導していった。

 

西村という男を元帥の位置に立たせた事やタウイタウイでリ級改flagshipに止めを刺さなかった事、呉の潜入調査の手引きをしたのも全ては今日という日を迎える為だ。

 

だが最後の最後で私は見誤った。

口では何と言おうとも我々海底棲姫が奴らにした事を考えれば仇である筈だった。

だから彼女が私を護ろうと飛び出して来るなど予想していなかったのだ。

 

「……ヒ……ビキ?あ……嘘……だろ?」

 

響の突然の介入によって門長の意識が浮かび上がってきた。

だがそれも時間の問題だろう。

あの砲撃を受けてただの駆逐艦が生き残れる筈がない。

煙が晴れてしまえば最後、門長を繋ぎ止める鎖は呆気なく解き放たれてしまうだろう。

 

そうなれば何もかもお終いだ。

奴は最悪な厄災となってこの世界に致命的な傷痕を残す事になるだろう。

運が悪ければ人類も艦娘も深海棲艦も全てが地上から姿を消す事になる。

私が望んだ願いとは正反対の最低な結末(バッドエンド)だ。

 

そんな終焉を告げる合図とばかりに彼女を包んでいた煙が晴れていく。

ありもしない可能性に縋ろうとする私に現実は無情にも見せ付けてくる。

煙の晴れたその場所には衝撃によって追いやられた海水が元に戻ろうとしているだけだった。

 

「俺が……俺が……?嘘だ……そんな筈ねぇ……だって俺は響と……約束……した……んだ」

 

響をその手に掛けたという事実に激しく動揺を見せる門長に対して私が出来る事などない。

それどころか余計な一言が引き金を引きかねない状況だ。

 

今の私が出来る事は最早限られている。

門長が暴走する前に一刻も早く沈めなければならない。

私は震える足に喝を入れ門長へと一気に踏み込みその首筋へ欠けた刀を振り抜いた。

 

「ごめんなさい門長、恨んでくれていい……」

 

その刀身は確実に門長の首から上を切り離した……だが。

 

「なっ!?馬鹿なっ!」

 

「オレじゃナイ……オレは……オレハワルくないっ!」

 

奴の頭部は身体から落ちること無く己が居場所で今も留まり続けて居る。

 

有り得ない。

私も詳しく知ってる訳じゃないが、艦娘や深海棲艦は艤装を外しても活動出来るのはその魂の核が頭部にあるからと言われている。

つまり首を落とされれば死ぬのだ。

なのに奴は……

 

「不死身だとでも言うの……?」

 

「当然首を落とされれば死にますよ?その事実があればですけど」

 

その時、私が洩らした言葉に答える声は聞き間違えようが無い位に知っている声だ。

 

「……そうか、貴女の力か。はじまりの妖精」

 

突如目の前に降り立ったその妖精は艦娘を生み出し、私を生み出すのに結城に手を貸した存在であり、そして私達海底棲姫を従えていたこの世界の真の支配者とも言える存在。

そんなはじまりの妖精は何処からか連れてきた猫を吊るしながら言い返してきた。

 

「はじまりの妖精だなんて厨二臭いわねぇ?人間が付けた奴ならこっちの方で呼んでくれない?()()()()ってね」

 

「そんな事はどうでもいい。それよりそんな状態の門長を生かしてどうするつもり?人類も艦娘も深海棲艦も全てが滅びるわよ」

 

「まぁそれはそれで私は一向に構わないんですけど、取り敢えずは貴女と彼が積み上げてきたものを全て彼自身に崩して貰おうかと思いましてね」

 

はじまりの妖精……エラー娘は門長を使って門長に影響を受けた者を全て葬るつもりらしい。

もしそうなってしまえばこの世界は終戦の日を迎える事は無くなってしまう。

それだけは避けなければならないのだ!

 

私はエラー娘を捕らえようと手を伸ばすが、その手は妖精をすり抜けるように空を切っただけだった。

 

「あは?無駄ですよ。あなた達とは文字通り次元が違いますからね、触れる事すら叶いませんよ」

 

「ぐっ……どう……すれば……」

 

このまま門長が暴走すれば奴の思い通りになってしまう。

だが門長を殺せずエラー娘に触れられない以上、私に出来る事はもう残されていない。

 

 

「さあ門長さん、砲雷長である私の声に集中して下さい」

 

「砲……雷……長……?」

 

「そうです、貴方は悪くありません。悪いのは貴方に関わろうととする艦娘や深海棲艦達です。彼女達が居なければ響ちゃんが沈む事も無かったんですら」

 

「ソウカ……ソノ通リダ。アイツらガ居なければ響ハ……」

 

「違う……奴の言葉に耳を貸すな……っ!」

 

「あっははは!無駄ですよ。元々敵同士である貴女と彼を助けてきた私とじゃどっちが信用されるかなんて考えるまでもないわ!」

 

奴の言う通りだ、門長からすれば私は散々敵対してきた海底棲姫の一人。

そんな私が幾ら呼び掛けた所で門長に届く筈がない。

今の彼に届くがあるとすれば……だが、それは最早叶わない。

 

そう諦念を抱いていた私に砲声と共に奇跡が聞こえてきた。

 

Урааааааааааааа!(ウラァァァァーッ)

 

「ナッ……!?」

 

「何が……?」

 

その場にいた全員が一様に声のする方へ視線を移す。

そこには先程私を庇って黒煙に消えていった筈の少女、響が門長へと砲塔を向けて立っていた。

 

「門長、今助けるから」

 

彼女は一言呟いてから躊躇うことなく主砲を放ったのだった。

 



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第百二十六番

響……ヒビキが……生きてる?

 

「と、門長さん!貴方、騙されてますよ!貴方の知ってる響ちゃんは沈んだんです!それとも駆逐艦響なら誰でもいいんですか!?」

 

砲雷長のイウ通リだ……響は沈んだ、じゃあ俺に砲を向けてくる彼奴はニセモノ?

 

「そうですよっ!本物の響ちゃんなら貴女に砲を向けたりしません!」

 

ソウダ……ホントにソウカ?

ワカラナイ……ケド……敵意を感ジナイ……何故?

 

「門長、今助けるから」

 

「ヒ……ビ……キ……?」

 

「門長さん!撃ってきましたよ!さぁ反撃ですよ!」

 

撃ってキタ……けど俺を倒す弾ジャナイ……あれは……俺を……?

 

「コレ……ハ?」

 

「ふふふ、何をするかと思えば……偽物なら偽物らしくもっと愛想でも振りまいておけば時間稼ぎ位にはなったでしょうに。さあ門長さん!あんな目障りな偽物さっさと沈めてしまいましょう!!」

 

何もオキナイ……だが、ナンだろうな。

さっきまでヨリ意識がハッキリしてる。

 

「何をボサっとしてるんですか!貴女の大切な存在を騙る偽物が現れたんですよ!」

 

「砲雷長……ウルセェ、集中出来ねぇダロ」

 

「なっ……!?」

 

で、今の状況ダガ……確かにコイツの言う通り目の前の響は俺の知ってる響とは限らナイ。

 

「……違ウ、馬鹿かオレハ!」

 

こんな禍々シイ異形を身に纏うオレにあんな慈愛に満ちた目を向けられる存在が他にイルカヨッ!

 

「門長さん!私の声を聞いて居れば貴方は救われる!偽物に惑わされては駄目ですよ!」

 

「黙レって言ってんダロ!」

 

「くっ……駆逐艦風情が……何をしたっ!」

 

「なに、特殊な電磁波を発生させる演習に使う弾頭を使っただけだよ。あれくらいじゃ門長自身には何ら影響は無いけど、頭に当てれば通信にノイズを混じらせる位は出来るらしいね」

 

ノイズ?言われてみれば音が少しダケ聞こえずらくなってイル。

 

「貴様……一体何処でそれを」

 

「私を救ってくれた親切な妖精さんが教えてくれたんだよ。そんなことより……門長、心配掛けてごめんね」

 

「チ、チガ……ウッ……!」

 

響が謝ル理由ナンテナイ!

俺が響の信頼を裏切ってマタ……。

なのに……ドウして、どうシテ響が謝るんダ。

 

「違わないよ、門長を守るって言っておきながら私は……彼女が居なければ取り返しの付かない事をしてしまった。由紀さんを庇った事を後悔するつもりは無いけど、咄嗟に動いてしまったのは確かだ」

 

「ソレデモ……オレハ……俺は……っ!」

 

こうして目の前に響がいるとはいえ俺が響を沈めてしまった事実は変わらない

 

「響……」

 

「ごめん……全く怖くないとは言えないけど、それでも私は今でもちゃんと門長を信じてるよ」

 

恐怖など抱いて当然だし、拒絶されても可笑しくない仕打ちをした。

それでも響は恐れに震える身体で優しく、それでいて確りと俯く俺を抱き締めてくれた。

 

「ありがとう……ありがとうな、ひびきぃ……」

 

хорошо поработали(お疲れ様)、後は私達に任せて」

 

その心地良い響きを聞きながら限界を迎えた俺の意識は徐々に白んで行く。

 

「ああ……あと……は……頼……む」

 

「うん。お休み門長」

 

響に許された俺はその安心感と共に気付けば深い眠りに付いていた。

 

 

 

 

「さて、やりますか」

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

気を失った門長を比較的動ける状態の不知火さんに任せて私は門長と共にいた妖精の前に立った。

 

「砲雷長さん、それともエラー娘さんって呼んだら良いかな」

 

「どっちでもいいわ、そんな事より私の計画を台無しにしてくれちゃって覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

「覚悟するのはそっちだよ。その計画とやらの為に門長にやらせようとしてた事も、門長の気持ちを利用した事も決して許さない」

 

「はぁ?艦娘如きが生みの親である私達妖精に反抗しようだなんて調子に乗るんじゃないわよ!私が命ずる、来なさい深海棲艦達っ!」

 

妖精が声を張り上げた直後、付近で戦闘していた深海棲艦達が一斉にこっちへ進み始め、ものの数分で私達の周りは囲まれてしまった。

 

「さあ、お前達が如何に絶望的状況が解っただろう?さっさとその男をこっちに寄越しなさい!そうすれば苦しまずに終わらせてあげるわ!」

 

360度敵だらけの絶望的な状況だ。

それでも門長に託されたんだ、私は絶対に諦めない!

 

「Урааааааааааааа!」

 

「馬鹿な駆逐艦ね、本当の絶望を教えてあげるわ!」

 

妖精の号令と共に深海棲艦達は次々と鉛の雨を降らすが、私はそれらを一切気に留めずただひたすらに突き進む。

それでも段々と精度が上がって行く砲弾が私の身体に傷を増やして行った。

 

「まだ……まだなんだ……!」

 

「諦めなさい駆逐艦っ、次の斉射は貴女には避けられないわ!」

 

その宣言通りに放たれた砲弾は私の進む先に落ちようとしていた。

今の私には彼女の加護はない。

つまり弾雨に飲まれれば今度こそ助からないと言う事だ。

 

それでも……それでも突き進むしか無いんだ!

 

「今だ、電ぁぁぁっ!!」

 

私は大声を張り上げながら足に力を入れて前方に勢いよく飛び込んだ。

 

「なに!?まさか私の探知を抜けて──!?」

 

妖精は慌てて周囲を見渡しているけど電を見つけられ無いみたいだ。

だがそれも当然さ。

 

「誰を探してるんだい?私なら此処だよ」

 

電は初めからこっちには来てないんだからね。

 

「ちっ、護られてるだけのガキのくせに小賢しこと」

 

「そんな事は私が一番分かってるさ。だからこそ私は門長の為ならもう手段は選ばない。全てを使ってでも門長を護ってみせるよ」

 

「ふ、ふん!私に触れる事すら出来ない癖にどうしようと言うのかしらね!」

 

そう言いながらも妖精は私の一挙一動を見逃さない様に注意深く観察している。

それは裏を返せば捉えられる可能性を危惧してるに他ならない。

ならば仕上げと行こうじゃないか。

 

「そうかい?だったら試して見ようか」

 

そう言って私はシルクグローブを装着し、目の前の妖精に掴みかかる。

私の手が妖精に触れようとしたその時、一発の砲弾が私の腹部を穿った。

 

「油断したわね駆逐艦、アイアンボトムサウンドを沈めなかったお前の負けよ」

 

「なっ……響っ!うそ……そんな……どうして……!?」

 

私が振り向くと信じられないといった表情の由紀さんが私の姿を見て涙を浮かべてくれていた。

 

「あっははは!私にここまでやらせた事は褒めてあげるわ!でも所詮艦娘、この世界を変える事なんて出来ないのよ」

 

「う……ふぅ……っ……ま、まだ……生きてる」

 

「そうね、その身体で何が出来る事もないでしょうけど?」

 

そう……それは……どうかな?

瀕死でも……注意を向ける事は出来る。

私は口角を三日月の如く吊り上げた。

 

「……っ!?」

 

そんな私の異質な様子に妖精が僅かに身体を硬直させた次の瞬間。

 

「にひひっ、捕まえたのっ♪」

 

妖精の背後から音もなく浮上した一隻の潜水艦。

イクさんは悪戯を成功させた子供のように無垢な笑顔で妖精を両手で捕まえたのだ。

 

「なっ!何者……!?」

 

「初めましてっ……じゃないのね!潜水艦伊19よ。うん、イクっ!」

 

イクさんに捕らえられた妖精は彼女の存在を思い出すのに少し時間が掛かっていた。

申し訳ない事に私も電から紹介されるまでは忘れてしまっていた。

こんなにも個性的なのに意識していないと何故か覚えていられない不思議なひとだが、今回はそれが役に立った。

元々私達に対してあまり警戒してなかった妖精が記憶にない潜水艦を警戒なんてする可能性は低いと踏んだ。

とはいえただそれだけでは浮上時に気付かれてしまうので、私が敢えて致命傷を受ける事で勝利を確信させ油断を誘った。

 

その結果が今の状況を創り出したんだ。

私は遠のきそうな意識を確りと保ち、私の拙い策を見事に成し遂げてくれた()()にお礼を述べる。

 

「ありがとうイクさん。()()()()さん」

 

私の言葉に訝しげな表情を浮かべる妖精だったが、直後イクさんの頭の上から降りてきた赤み掛かったツインテールの妖精の姿に苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。

 

「お久しぶりですね、エラー娘さん……いや、()()()()()()()()?」

 

「……ちっ、やはりお前が一枚噛んでいたか土下座娘。中立派のあんたがあんなのを生み出してまで何をする気だったのかしら?」

 

チュートリアル娘と呼ばれた妖精は忌々しげにそう言い返す。

だが赤髪の彼女はそんな視線を軽く受け流しつつ淡々と答えた。

 

「そうですね、貴女が従えていた海底棲姫……でしたか?世界の歪みを直す修正力としての役割を彼に持たせました」

 

「はっ、その結果新たな歪みを生み出してちゃ世話ないわね」

 

「もちろん後のことは考えてありますよ。まぁ、周囲への影響力がありすぎたのは誤算でしたが……結果的にあなたの手駒は全て失いました」

 

「ふん、これで勝ったと思わない事ね。あれくらいなら私と()()が居れば幾らでも造り出せるわ」

 

エラー娘さん改めチュートリアル娘さんはまだ何かを企んでいるかのように不敵な笑みを浮かべていた。

その視線の先には由紀さんが……ってまさか!

 

「イクさん避けて!」

 

私がイクさんに呼び掛けるのと操られた由紀さんが引き金を引いたのはほぼ同時だった。

 

「えっ、き、急速潜航なのね!」

 

「手遅れよ、死になさい潜水艦!」

 

私は反射的にイクさんと砲弾の前に割って入っていた。

今の損傷でもう一撃喰らえばきっと助からない。

そんな事は分かっていたけど私にはやっぱり誰かを見捨てるなんて出来ない。

駆逐艦響としても私としても……あんな想いは二度としたくない。

だからごめん、門長……調子のいい事を言おうとしてるのは分かってるど……もうこれしか方法はないから……

 

 

信じさせて。

 

 

「とながぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

私が叫んだ直後、周囲は激しい爆煙に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第百二十七番

響が爆煙包まれるのを見て砲雷長ことチュートリアル娘は勝利を確信し、不気味に口角を吊り上げる。

 

「あっはっはっは!!馬鹿なガキがっ!戦場で一時の感情に動かされて自己犠牲とは……くくっ、なんて愚かなんでしょう!」

 

「響ちゃん!?響ちゃん!返事をして欲しいのね!」

 

響に最も近くにいた伊19は必死に響を呼びかけるが未だ返事は帰ってこない。

その姿を見てチュートリアル娘は更に上機嫌になって語り始める。

 

「無駄無駄っ、瀕死の駆逐艦風情がアレの主砲を受けて生きてられるわけないわ!そして響が死んだ今、門長和大を止める手段は存在しないのよ?それがどういうことか分かるわよねぇ」

 

チュートリアル娘は自信満々に話していくがまだ気付いてない。

先程まで長門に曳航されていた一隻の艦艇の姿が消えていたことを。

 

「さあ、そろそろ煙が晴れますよ。1番に門長さんに見て貰いたいですね。って、いない……!?ま、まさか……」

 

チュートリアル娘はようやく門長の姿が見当たらない事に気付き途端に焦りを見せはじめた。

 

「いや、ありえない!直前まで奴は動いていなかった……門長からあのガキの所まで十キロ近くあるはず。着弾までの数秒で間に合うはずが……」

 

「響が俺を信じて呼んだんだ。間に合わねぇはずがねぇだろ」

 

「門長……いつから目覚めていたの……いや、それはどうでもいい。今のは海上で出せる速度ではない、一体どうやった!」

 

門長は受け止めた砲弾を後方に放り投げつつチュートリアル娘を睨みつける。

 

「てめぇに答える義理はねぇ。と言いたいとこだが、今までの協力の礼と……冥土への土産に答えてやる。簡単な話だ。艤装と船体が繋がる事で排水量が増えんならその艤装を外せばいい、つまり、こう言うこった」

 

そう言って門長は無理に剥がしたであろう艤装の付け根を指す。

 

「まさか、ありえない……自分で無理矢理艤装を外す事で艦艇との繋がりを切ったとでもいうの!?」

 

そこで門長の姿を改めたチュートリアル娘は彼の艤装が力ずくで引きちぎられている事に漸く気が付いた。

 

海上に立つ艦娘にとって艤装はなくてはならない存在であり、それを壊せば艦娘は海上に立てなくなるのは常識だ。

にも関わらず門長は今も海上に立っている。

それはチュートリアル娘をしてもありえない現象だった。

 

「ありえない……繋がりが切れた艦娘が海上を立ってられるはずがないわ!」

 

「知るかよ、現に出来てんだろうが」

 

「チュートリアル娘さん、門長に常識を求めるなんて……まだまだ分かってないね」

 

「響さんや、それじゃあ俺が非常識みたいにならんだろうか?」

 

「えっ、門長は自分を常識人だと思ってるの?」

 

「あー……うん、思わねぇな」

 

「ふ……ふ、ふざけるなぁっ!艤装も無いくせにいきがってんじゃないわよこのポンコツがぁ!!」

 

突然始まった門長と響の呑気な掛け合いに苛立ちを隠しきれないチュートリアル娘は声を荒らげる。

しかしその直後、門長の雰囲気は一変した。

 

「ふざけるなだと?それはこっちのセリフだクソ妖精……これまでてめぇが好き勝手やってくれやがったおかげでどれだけ響を苦しめたと思ってやがる!どれほど響を傷付けたと思ってやがんだああっ!?」

 

「ふんっ、だからなんだっていうの?駆逐艦一匹助けようがどんなに凄もうが貴方に私を殺す事など出来ないわ!」

 

「チュートリアル娘、私はさっき世界の歪みを直す修正力としての役割を彼に与えたと言ったはずです。貴女の存在を知っている私がそこを考えてないとでもお思いで?」

 

「は?い、いやまさか……ま、待ちなさい!私が消えたらDRCSは維持できなくなるわよ?そうなれば多くの鎮守府が機能しなくなるわよ!」

 

「必要ありませんよ……()()()()()()()()()()?」

 

「くっ……クソがァ……!」

 

エラー娘の説明を聞いたチュートリアル娘は次第に焦り出した。

必死に抜け出そうとするが伊19はしっかりと掴んでいるため逃れることは出来ない。

 

「では門長さん、彼女を倒して貴方の望む未来を掴みましょう」

 

「…………」

 

「(不味いわ、この男相手じゃ幾ら深海棲艦を動かそうが意味が……ん?)」

 

だがその時、チュートリアル娘は門長の動きがおかしい事に気付く。

そう、1歩1歩進む門長の上体がかなりふらついていたのだ。

 

「(ふ、ふふっ……やはり艤装を無理に外して問題が起きない筈がないわ!これなら勝てる!)」

 

立ってるのもやっとな門長の姿にチュートリアル娘は再び勝ちの目を見出す。

彼女自身は伊19に掴まれ身動きの取れない状況で最大戦力であったアイアンボトムサウンドも瀕死の重体の中無理矢理撃たされた為、既に動ける状態ではない。

それでもこの海域にはまだ数千数万という深海棲艦が存在している。

それらを総動員すれば今の門長なら容易く沈められると考えたのだ。

 

「さあ行きなさい深海棲艦共よ!あの男をガキ諸共海の藻屑にしてあげなさい!」

 

「くっ……来ますよ門長さん、急いで下さい!」

 

「「…………」」

 

焦りを見せるエラー娘だったが、その予想に反して深海棲艦達が仕掛けて来る事はなかった。

 

「な、何が起きてる深海棲艦……早くあの男を消してしまいなさい!どうした、私の言う通りにしろぉっ!!」

 

その不測の事態に一転して余裕の表情を崩したチュートリアル娘の耳に入ってきた声は彼女が一切警戒していなかった艦娘のものであった。

 

『お前達にも1人1人自分の気持ちがあんだろ。それを深海棲艦と一括りにするような奴の言いなりになってて良いのか!自分でどうしたいか考えるんだ!』

 

『ワタシハ……モウタタカイタクナイ。タタカッテモムナシイダケダカラ』

 

『ジユウニイキラレレバソレデイイ。シバラレルノハイヤダ』

 

『お前達を駒か何かと勘違いしてるバカの言葉なんぞ海に捨てちまえ!あいつの声なんかに負けんじゃねぇぞ、生き方っつうのは自分で決めるもんだっ!そうだろ!!』

 

『『ウォォォォォォォォッ!!!』』

 

「この声は摩耶っ!艦娘が深海棲艦共を操れるなんて……あなた、まさか凡才を装い自らが特異個体である事を隠してたと言うのか!」

 

『はっ、特異個体ねぇ……だとすればそれはアタシだけじゃない、全ての人も艦娘もお前が操ろうとしてたあいつら深海棲艦だって1人1人が特別で1人1人違う想いを持ってる。それをひとまとめにして操ろうってのがそもそも間違いなんだよ!』

 

「1人1人が特別……そう……ふ、ふふ、あはははははっ!」

 

切り札すら摩耶によって封じられ打つ手が無くなったかに思われたチュートリアル娘は突然声高々と笑いだした。

 

「ほんと、してやられたわね……いいわ、今回は私の負けを認めてあげる。だけどこの戦争を終わらせたことを人類は何れ後悔することになるわ!その時にあなた達の立場は逆転する、戦争を終わらせた英雄から地獄を生み出した大罪人へとね!」

 

『な、なに言ってやがる!そんなことっ──』

 

「起こるわ、この戦争を終わらせた先に人間同士の艦娘や深海棲艦を巻き込んだ勧善懲悪たり得ない欲と欲の醜い争いがね!それまでの束の間の平和をせいぜい堪能する事ね、あはははははは────」

 

直後、嘲笑うチュートリアル娘を門長の拳が消し飛ばした。

 

「下らねぇ、それならまたどうにかすれば良いだけだろうが」

 

「門長……」

 

門長は心配そうに見上げる響を撫でながらにっと笑みを浮かべて答える。

 

「大丈夫だ響、俺たちには西村や港湾に中枢の奴だっているんだ。それに俺と響が居れば不可能なんてない、そうだろ?」

 

「うん……そうだね!私と門長が居れば不可能なんてない、それに長門さんや皆もいるんだから……絶対に後悔なんかしないさ!」

 

響はそう答えて自身を撫でる門長の手を取ると力強く握った。

門長もそれに応えるように手を握り返し微笑む。

 

「あ、そうだ門長。ちゃんと皆に伝えないとね」

 

「皆に……ああそうか!」

 

響の言いたいことを暫く考えていた門長だったが、漸く思い至ったのか回線をオープンにして全員に聞こえるように宣誓した。

 

「門長和大!この度はめでたく響と結ばれる事となりましたぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「な、ななななっ……!?バ、バカとながぁっ!そうじゃないだろ!戦いが終わったことをいわにゃ、いわないとダメじゃないかぁぁぁぁ!!」

 

突然の暴挙に響は顔を真っ赤にして門長の胸板をポカポカと叩く。

 

「くぅ〜ついにこの時が来たんだなぁ〜……涙で前が見えねぇぜ」

 

「何を言ってるんだよ!まだ何もしてないのになに感慨に耽ってるのさ!」

 

響は動揺のあまりうっかり滑らした口を門長は聞き逃さなかった。

 

「ん……?まだ、何も?そ、それはつまりこれからそういう事が可能性として!?」

 

「あ……ち、ちがっ……いや……それは…………なくは…………ない……けど

 

自分の失態に気付いた響は顔を更に真っ赤にしながら尻すぼみした声で呟く。

それでも門長は一字一句聞き漏らさず耳に焼き付けた。

 

「あ……それは……ええとつまり……そういうこと……だよな?」

 

「…………」

 

響は門長の問いにもじもじしながらも無言で頷く。

 

「ひ……びき……ひびきぃぃぃ──ぐはぁっ!?」

 

感動のあまり響に抱きつこうと飛び出した門長だったが直後、見覚えのある錨が腰に巻き付き引き止められてしまった。

 

「いつつ……はっ!こ、これは!?」

 

「門長さん?ご無事で何よりなのです。まだ生きていたいならそこで大人しくしてるのです」

 

「……はい」

 

門長は背後からやってきた黒いオーラを纏ってそうな電の登場にその場で小さくなった。

電はその様子を一瞥すると直ぐに響へ真剣な表情を向け進み出す。

 

「電っ!?な……にを……」

 

「響ちゃん、一先ずは無事で良かったのです」

 

「電こそ……って手放しで喜べる状況では無いけどね」

 

「くすっ、そうだね。ねぇ、響ちゃん……それが響ちゃんが見つけた答え、なのですね?」

 

「電……うん、そうだね。後悔はないよ」

 

昔の響が知れば有り得ないと驚愕するだろうが、今の彼女にはそうある事が当然だと思えた。

電もそれが響の本心である事を理解している。

だからこそ電は自分の気持ちに整理を付けるために……

 

「そっか、なら電は応援するだけなのです。だけど……せめて……んっ」

 

「んむっ!?」

 

響の首に手を回し、自分の口唇を響の口唇にそっと重ね合わせた。

 

「ん…………っぷはぁ……ごめんね響ちゃん、好きだよ」

 

「っはぁ……はぁ……い、いなづま……わたしはっ」

 

「しーっ……返事を聞くつもりは無いのです」

 

電は悪戯な笑みを浮かべながら響の唇に人差し指を当て、続く言葉を遮る。

 

「じゃあ私は深海棲艦の方達と一緒に島に戻ってるね。あ、そうなのです。門長さんの鎖を確りと持っといてあげて欲しいのです」

 

「あ……うん」

 

響の言葉に満足そうに頷くと電は錨の持ち手を渡して軽巡チ級の元まで向かい曳航されつつ島に戻っていった。

 

「電さん……なんて大胆なんだ……羨ましいぜ」

 

そう口にするのは現在進行形で沈み始めてる門長である。

 

「…………って、門長!?沈んでる!沈んでるよ門長ぁ!」

 

「うぇ?あ、そっか。そりゃそうだよなぁ、艤装がなきゃ普通は水の上にたてねぇわな」

 

「呑気に感心してる場合じゃないよ!引っぱってくから錨に掴まってて!」

 

「お、おぉ分かった」

 

響は門長に巻きついた錨の鎖を引きながらそのあまりの抵抗の無さに息を飲む。

 

「……軽くなったね」

 

「ん……?あぁそういう事か。まあレフラでも引っ張れなかった時に比べればな」

 

「門長、辛くはないかい?」

 

響は門長の腕を肩に回しながら訊ねる。

それは今の状況に対する気遣いの言葉でもあり、そして力を無くした門長に対する問いかけでもあった。

その言葉に門長は暫し首を捻って考えた後、邪気のない笑顔で答えた。

 

「おうっ、問題ねぇ!」

 

「……本当に?」

 

「あぁ、そもそも阿部の奴が勝手にやった事だしな。ま、響に逢えた事には感謝するが未練はねぇよ」

 

「そっか……でも力が無くて守りたい相手を守れないのは辛い事だよ」

 

「まぁな、だが今の俺は一人じゃない。自惚れかも知んねぇがそう思ってる。だからやっぱりあの力はもう必要ない」

 

水平線の向こうを見つめながら真面目な顔を見せる門長に、響は顔が赤くなるのを誤魔化すように速度を上げる。

 

「か、変わったよね。最初の頃からしたら考えられないくらいに……」

 

「まぁ、否定はしない。それでもなんだかんだ言って着いてきてくれたアイツらには感謝してんだ。柄じゃねぇし照れくせぇから直接は言わねぇけどな」

 

「駄目だよ、感謝は確りと伝えないと。戻ったらちゃんと言おうね?」

 

「え、いや……それはだな……」

 

「それとも、私が話してあげようか?」

 

「うぐっ……わ、わかった!戻ったらちゃんと伝えるから!流石に男としてそれは情けなさすぎる!」

 

「ふふ、言質は取ったからね?」

 

「はぁ〜……」

 

悪戯っぽく微笑みかける響の言葉に門長は肩をガックリ落とした。

 

「ふふふ……っと、そうだ」

 

と、その時。ふと何かを思い出した響は門長へと向き直るとその頬に手を当て自分の方へ振り向かせる。

 

「うっ、ええと響さん?なんでしょう?」

 

「感謝は伝えないと、だからね……門長」

 

「へ……?え、何も見えねぇんですが、これは一体どういうむぐっ──!?」

 

唐突に手で視界を遮られた事を疑問を口にしようとする門長だったが、その続きは響の柔らかな口唇によって遮られた。

 

「ちゅ……んっ………ふ………ぷはっ」

 

「んへぁ……あ……な、なな、なぁぁっ……!?」

 

「ずっと私を想い続けてくれてありがとう。そして──」

 

 

 

──愛してるよ、門長──

 

 

 

響はゆっくりと口唇を離すと静かに微笑みそう呟いた。

その顔は二人を照らす夕日の様に真っ赤であったが、今の門長にはそれに気付ける程の余裕は持ちえていない。

その様子を見てくすりと笑うと響はそのまま振り返り、放心状態の門長を背負うと仲間が待つ島へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




一先ずは以上で完結となります。
第一話投稿から凡そ4年半、投稿間隔は酷すぎる程不定期でしたがそれでもここまで来れたのはずっと読んでて下さった方々、感想や評価を下さった方々、そんな本作をこれまで暖かく見守って下さった皆々様のおかげです!
本当にありがとうございました!!



さて、本編は終わりです……が!
流石に中途半端かなって気もするので現在後日談を書こうかなと悩んでおります。

ただし新作や現在更新停止中の作品もあるのでどうするかは…………アンケートで決めたいと思います!(そういやアンケート機能って実装されてから初めて使うなぁ)

詳細は後ほど!



それではここまで読んで下さった皆様!
長らくご愛読頂き誠に有難う御座いましたぁ!!
また別の作品でお会いしましょう!


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