海岸の町 (アイバユウ)
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海岸の町編
第1話


 

 

「は~~~、今日も青い海にきれいな夕焼け、か」

 

 

水平線が一望できる砂浜である女性が浜辺に座り込み独り言を呟いていた

その女性は髪が腰まで伸びていて、顔も美人という部類に入るものであった

綺麗な夕日と浜辺、そして美しい女性が一人浜辺に座っている、まるで一枚に絵画のような風景

時が止まっているように見える光景がしばらく続いていたが、夕日の光が少しずつ弱くなりだすと

女性は立ち上がり、砂を払うと浜辺を後にした。

 

 

浜辺から自宅までは海沿いの道をしばらく歩いたところにあり、別に浜辺でなくても家からでもこの光景は見えたが

なぜか、私にとってはあの浜辺から見る夕日が好きだった。自分にはなにもないと思っていたときにあれを見ると

なにかあるんじゃないか。そう思える。

そうやって、今日も見終わって歩きながら帰っていると前から10歳ぐらいの子供が自転車に乗って近づいてきた

その子供は私に話しかけてきた

 

「あれ、カオリお姉ちゃん、今日も浜辺に居たの?」

 

子供は髪の毛に塩に匂いがついちゃうよと注意するように言うと、私は少し苦笑いしながら答えた

 

「でもね、綺麗な夕日を見るとね。元気になれるよ」

 

子供はそうだけど~、とやっぱりとおねえちゃんの綺麗な銀色の髪がと私の髪を気にしていた

別に自分の髪が綺麗だなんて思ったことは一度もない。これは罪の色なのだから。

自分が犯したさまざまな罪の罰なのだと

 

「早く帰らないと、お母さんとお父さんが心配するよ。ほら」

 

なかなか動かない子供に私はそういうと、その子は自転車をこいで自分に家に帰っていった

もう少しで太陽は沈み、このあたりは暗くなるだろう。

そうすれば、このあたりは一面暗くなる。2年前に起こったサードインパクト、それによってこのあたりは悲惨な光景になった。

それが復興によってようやく海岸の町を取り戻したが、まだまだ完全ではない。街灯は少なく、夜になれば真っ暗だ

夜に出歩く人は少ないし、出歩くなら懐中電灯が必要だ。私は完全に暗くなる前に自宅に着いた。

自宅は私を拾ってくれた両親が旅館をやっていて、離れの部屋を使わせてもらっている。

 

「ただいま」

 

「あら、おかえりなさい。また夕日を見に行っていたのね」

 

困った子ねと母は苦笑いしながらも、早くお風呂に入って塩分を流してきなさいと言った

本当の母親ではないが、私はこの女性が好きだ。見ず知らずの自分を引き取り、わたしを育ててくれる母親を。

私は母親の愛情を受けながらも、人を拒絶した自分がそんなことを思うのはいけないという思いがまだ時たま頭をよぎる

そのときに偽りの器で居る自分が無性にイラつく事がある。自分はあれだけのことをしながら今も生きているのだと

 

「自分の罪の証、そして・・・・」

 

私はこの髪を洗いながらそんな事を口走っていた。でも偽りではない。本当のこと。髪と瞳の色は罪の色。

瞳は彼らと同じ赤色。まるでトガビトであることを示すかのように。あのときに犯した罪、私にとって悪魔のような時間、

私以外にとって、あれ以降、喜びに満ち溢れた人も居たのであろう。でも私にとっては一生かかっても返せない罪を背負った

私はそんな事を考えながら、洗い終えるとお風呂につかろうとした。その時、お風呂と更衣場をつなぐ扉が開かれ母が入ってきた

 

「カオリ、まだいたの。今日はお客さんももう上がって今はお休みよ」

 

「いつもならもっと遅いのに今日は早いね」

 

「皆さんお疲れみたいだったから。お早めにお休みになったわ」

 

だから、私たちも早くあがれたのよと母は嬉しそうに言った。仕事が早く終われることは嬉しい事だとわかるが

ま、接客業だしいろいろと大変なんだろうねと思った。私自身がこの旅館を手伝うという事はない

引き取ってもらってから、いつもこの町をぶらぶらしているか、あの砂浜で私は夕日をただ眺めている

最初は母も心配になって後をついて来ていたらしい。

散歩コースがわかると母はあきらめたように懐中電灯を持たすようになった

もっとも、それが母なりのやさしさであるという事はわかっているが

 

「ねえ、カオリ、今度、第3新東京市の高校生がこの旅館を使う事になったの」

 

「・・・そう」

 

母が話しにくそうにそう話を切り出すが私は愛想なく返事をしてしまった。

あの事件以降、私は他人に興味を持つことは少なくなった。それが私の恐怖の現われなのかどうかは分からないが

 

「もし、あれだったら、断っても」

 

「母さん、私にそんなに気をかけなくても良いよ。私はもう大丈夫。何があっても逃げないって決めたから」

 

私はお風呂からあがると、母に言った

 

「私は、碇シンジじゃない、私は水川カオリなんだから」

 

私はそういうと、お風呂を後にし、更衣場で着替えると離れにある自分の部屋に戻っていった

 

部屋に戻った私はいつものように日記をつける。日記といっても、別に書く事はない。

今日は夕日が綺麗だったや、今日は誰と会ったなど、普通のものだしそれ以外書く事はない

自分がこの部屋に入ってからかったものはあまりない。服やちょっとした小物だけ。

このあたりで生活するにはそれぐらいで十分であった。

 

 

自分にとって本当に必要なものは何か考えるが分からない。自分というものが理解できていないのではどうにもならない

 

「今日も変わらぬ日々。そして何もない日々か」

 

私はそう漏らした。何もない日々、確かにいつものように夕日や町を見ることが私の日課であり1日の大半をそれで過ごす

この家で一日を過ごす事は少ない。さらにいえばこの家で居るのはこの辺りが暗くなった夜とお昼のご飯のときである

それでも、私を暖かく向かい入れてくれる母や父が好きだ。この家もこの町も、そしてこの世界も

 

「カオリ、少し良いか?」

 

廊下から父の声が聞こえてきた。私が扉を開けると父は深刻そうな表情をして立っていた

 

「お父さん、どうかしたの?」

 

私がそう聞くと父は言いにくそうに言った

 

「実はな。第3新東京市の高校生が林間学校でこの旅館を使うんだが、別館も一部使う事になりそうなんだ」

 

父がなぜ言いにくそうにしていたのかようやく分かった。その言葉で私がとても大事にされているのかがよくわかった

彼は私が彼らと接触したくないのではないかと思って何とか本館だけで良いように部屋割りを考えたのであろう

でも、それが無理であり、わざわざ私にそれを確認しに来たのだ

 

「いいよ。お父さんはそんなに気にしなくてもいいよ。私は父さんの娘だよ。なにがあっても」

 

私がそういうと父はそうかと少しうれしそうにしながら部屋を出て行った。

この数時間で私は父と母に本当に大事にされていると確認できた

そのことを日記に書き足しておいたのは言うまでもない。私にとって、それは最高の日になった

 

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翌日、私の部屋に朝日が差し込んできた

私は基本的には規則正しい生活を送っているので朝起きるのは早い。今日も7時ごろに起きるといつものように着替えて

部屋の中を少し片付ける。まぁ、基本的にこの部屋にいることは少ないからほとんど片付いているが。

本や服が片付いていないので今日は朝から片付ける事になった

 

「それにしても、今日もきれいな太陽さん。散歩はできそうだね」

 

私はそんな事を言いながら部屋を片付けると、朝食を食べるために食堂に向かった

この旅館は特に損傷や壊れている所もなく、廊下の脇に花壇が置かれている。

それが朝日にあったってとてもきれいに見える

そんな何気ない事にも私はまだこの世界にいるんだと思う。

 

「あら、カオリちゃん、おはよう、もう食堂でご飯をお客さんも食べてるから行ったほうが良いわよ」

 

別館から本館につくと旅館に勤めている女性が布団を運びながら私そう言った

ここで勤めている人はたいてい住み込みの人が多い。また、そういう人は別館に自分の部屋を持っていて彼女は私の隣の人だ

私がここに来たときからいろいろとお世話をしてもらっている人の一人である

 

「ありがとうございます。今から食堂に行きますから」

 

女性は今日もお散歩日和よと言うと布団を持って外の布団を干す場所に慌てて進みだした。今日はお客が多いようだ。

少ないならあんなに慌てていくはないが、人手が足りないから一人で何回かしなければならないのだろう

 

「おはようございます」

 

私が食堂に着くと厨房の人に挨拶をすると、中からおじさんが私用の全体的に量の少ない料理を出してきた

おじさんは今日もしっかり食べないと途中で倒れるぞと言うと奥に戻っていった。

あれ以降、私は食事というものが嫌いになった

あの赤い世界、何もない地獄、それを長い間見ていた所為で何も食べれない体に変わっていったのであろう。

あんなものを見れば誰でもそんな事になる

 

ましてや、心を壊され、何も考える事ができなくなった私に食事なんてする余裕はなかった。

ただ、赤い世界を見て一日を過ごす。そんな無意味な事をして過ごしてきた。なにもない。

あの赤き穢れのない世界に私は何も見出す事はできず、最終的には私は1年を過ごしたらしい。

正確な日付は私にも分からない。それを記録しているものもない。

 

 

 

私が1年と判断した理由は太陽の上がった回数を思い出せば、365回上がったと覚えている。

普通の人間なら覚える事はできないであろう

私は人ではなく、神の力を持つ『ヒト』。世界を創造しうる力をもちながらも、それをせず何もしない日々を過ごした

ある時、私はようやく自分に気づき、そして、世界を『創造』した。

 

「世界は我と共に、そして我は世界を・・・」

 

そして、世界を創った。元の世界を再びを創り出した。

その際にサードインパクト、セカンドインパクトによって死亡したはずの人がよみがえるということを起こってしまった。

さらに私は自分の性別が男性から女性に代わり、見た目も身長などが少し成長して16歳前後に変わった。

自分にとっては幸運だった。死者の戸籍を作成するために、政府は簡単な審査で戸籍作成を行っていた、

制度をうまく利用して新しい自分を作り出した。ネルフが存続した場合、自分はその調査対象から外れやすい立場における

セカンドインパクト時に亡くなった人を今から調べるすべもなく、私は申請の時にあることを記入し戸籍を作成した

 

『セカンドインパクトと呼ばれる大災害を知らない』と

 

それによって私は新しい戸籍が得られ、最初は『神名カオリ』と。

その後、このあたりをぶらぶらしているときに今の両親に引き取られ、養子縁組をし『水川カオリ』となった。

 

「あら、カオリちゃん、しっかり食べないと、道端で倒れちゃうよ」

 

また別のこの旅館で勤めている女性からそういわれてしまった。

みんな私のことを心配してくれる。本当に私のことを子供のように思ってくれる。

今、この場所で入れることが私にとって何おり幸せだと感じる。私は大丈夫ですよと返事をすると。

食べ終わった食器を調理場に持って行った

 

「今日もおいしかったよ。いつもありがとうございます」

 

そう私がお礼を言うとおじさんは少し顔を赤く染めて「そうか」とぶっきら棒にいった。

私はそのまま厨房にある通用口から外に出るといつもの散歩コースを歩き出した。

父と母は私の本当の名前も知っている。碇シンジであることも、ネルフのパイロットであった事も。

そして失われた英雄である事も、2人は私は私たちの娘だといってくれた。だれが何を言おうと私は水川カオリだと。

その言葉をはじめて聞いたとき、私は本当の家族の愛とはどういうものなのか、何か少し分かったように思った。

 

 

 

今まで私は母や父の愛など受けた事もないし、そんなものを知らなかったのに、本当に嬉しかった

娘だと、私は自分の娘だと言ってくれた二人は私は守ろう。そう決めた。

 

 

 

 

 

 



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第2話

 

 

朝の海岸の町はきれいだ。

山から太陽が少しずつ上がるのがわかり、近くの小学校や中学校に向かっている生徒も多く見れる。

私はそんな光景を見ながら海岸線に沿った道を歩いている。

海は太陽の光をきれいに反射し、まるで大きな鏡があるようだ。

 

「おっはよう~!カオリお姉ちゃん!」

 

昨日夕方に出会った子供が私に元気よく挨拶をしてきた。私もおはようと挨拶をすると子供は私の髪を見て言った

 

「お姉ちゃんの髪は太陽だね」

 

私は言われたときはその言葉の意味が分からなかったが、子供が説明してくれた。

 

「お姉ちゃんの髪はね、太陽さんの色と同じなんだよ。朝はきれいな白色、夕方はオレンジ色、僕はどっちも大好き!」

 

子供は元気よく私にそういうと嬉しそうな表情をして腰近くまである髪を触った。私は少し嫌そうな表情をしてしまった

すると、その子は、僕、何か悪い事言ったという感じで聞いてきた。

私は別にそんなつもりはなかったが子供は敏感なようだ。

私にとってこの銀色の髪は嫌いだ。多くの罪を犯したがためにこんな髪になってしまった。

それを綺麗と言われても嬉しくなかった。この子が落ち込まないように私は簡単な言い訳をした

 

「少しこの髪にいやな思い出があってね。それを少し思い出しただけなんだ。ごめんね。誤解をさせて」

 

私がそう言うと、その子はそうなんだと言い、でも、お姉ちゃんの髪はきれいだし僕は大好き!その子はそう言うと、

遅刻するからと他の友達と少し早く歩きながら学校の方向に向かった。

この海岸の町は家の軒数はそれほど多くない。町としては小規模で田舎だがのどかな光景は好きだ。

都会はみんな忙しそうに動くが、このあたりは誰もがゆっくりと過ごしている。

感じる事ができない時間がここでは大きく感じられる。

 

 

お昼ごろには八百屋や漁業で生計を立てている人がゆっくりとした午後のひとときを過ごしている。

そんな光景がみれる場所だ。この町にに林間という形で来る中学生や高校生は多い。

近くには第2東京市・第3新東京市があることから、その地域の学校の生徒がくることは珍しくない。

ただ、第3新東京市にある学校関係の生徒は基本的に外部に出る事がないのであろうか、ここに来た事は一度もない。

それが、今回はじめてくることになった。私はそんな事で両親を心配させたくなかった。

 

「たしか、今日の昼過ぎには来るんだよね」

 

私ははっきり言えば会いたくなかった。両親が見せてくれた名簿には良く知った名があったからだ。

でもその時は私は嬉しいと感じてしまった。

 

『渚カオル』『惣流アスカラングレー』『碇レイ』

 

この名前を見たとき、私は本当にそう思ってしまった。

でも、しばらくして自分の事を思うと会いたくないという感情が大きくなり、もうそんな事は思わなくなった。

今の私には関係ないもの。『水川カオリ』なのだから、

 

 

 

私はため息をつきながらいつもの散歩コースである町の外れにある海を見渡せる展望台にたどり着いた。

そこに設置されているベンチに座った。この展望台は崖ギリギリの所に設置されている。

そのため、飛び降りようと思えばできるし、下は複雑な海流をしているため落ちればまず遺体は上がらない自殺の名所だ

そんな場所だが眺めは良い。大海原が一望できるこの場所は写真家やその手が好きな人物が良く訪れる。

今日はまだ誰も来ていないがおそらく昼過ぎからは訪れるであろう。

この場所の、この町のすばらしさのあまりこの場所に家を作り住んでいる一人の男性がいるのだから

彼と会う事は良くある。夕日が綺麗な海岸、そしてこの展望台などで。

よくモデルになってくれないかといわれたが私は断った。そんな事ができるほどのヒトは良くないと。

最初はあきらめずに何度か来ていたが、今ではいつか良い返事を期待しているよと声をかけるぐらいだ。

 

 

 

今日は風が強く、私の髪が時々風に流される。

それもまたこの場所の魅力なのかもしれない。自然が生き物のように感じられるこの場所の

人はあの悪魔のような出来事によって、自然という本来お互いに共生しなければならないものを見失った。

それを感じることができる場所はもはや少なくなっている今、そんな場所が残っている場所は数えるくらいしかないだろう。

これからさらに開発が進めばさらに減るであろう。人は傲慢だ

世界を創造し、少し余裕が出てきた今だからこそ分かる世界の感情。世界はまだ悲鳴を上げている。

私はそれを感じることはできるが、それを伝える事はできない。

神がすべてを教えてはならない。人は自立しなければならない。誰かの意思に従ってはいけないのだ

 

 

 

「今日も早いね。それにしてもいつみても綺麗な光景だね。カオリちゃん」

 

私が深い深い考え事をしていると声をかけられた。

大海原に向けられていた視線を陸地側に向けるとそこにはカメラを持った、20代ぐらいの男性が立っていた

この人物こそが私がさっき話したこの場所をこよなく愛する男性である

 

「ええ」

 

私が愛想なく返事をすると、彼は私を見て珍しいねといった。私にはいったい何が珍しいのかが分からなかった。

 

「いつもは明るい表情で言葉を返すのに今日はものすごく深刻そうな表情で言葉を返してきた来たからだよ」

 

彼はベンチにカメラの機材を置き、私の横に座った。

 

「心配な事でもあるの?」

 

私は別にとまたぶっきらぼうに答えてしまった。不機嫌なときの自分はどうしてもそういう答え方しか出来ない。

もともとあの1年間、『ヒト』とのコミュニケーションなど誰もいないのできるはずもないし、

もともとの性格もあって、人とのコミュニケーションはさらにやりにくくなった。そんな私でも彼はいつも話しかけてくれる

 

「いろいろと、悩む事もあって」

 

私はもう行くねと言うと、その展望台を後にした

 

 

 

もう時間はもう少しでお昼過ぎ。

展望台からあの砂浜までの道は前半は横ががけっぷちの道、後半は砂浜が横に広がる道である

太陽さんももう少しで真上に来る時間だけあって、道路のアスファルトから熱が湧き出てくるように感じる。

今日は特にそう感じるのはやっぱりあれの所為なのだろうか

町の中心部まで後半分というところまで歩いたとき、後ろから大型バスが走ってきた。

一応この道は1車線分しかなく途中で行き違いができるように一部広い部分もあるが

砂浜が見えるところまでいかないと1車線が続く。そんなところを大型車が通ればいやでも目に付く。

私がバスに乗っている人を見るとそこには私の良く知る人物達がいた

そして、その人物達は私を見て驚きの表情をしていたように見えたが、何せ一瞬しか見れなかったので詳しい事はわからない。

 

「別に家で会うんだし。いいか」

 

私はそう言うと再び歩き出した。この暑く、家まで続いている道を

 

-------------------------------------------------------------------

 

私が家に着くと、もう中は生徒でごった返していた。大きな荷物を持った生徒が先生から説明や諸注意を受けていたが

皆、これからのことに気持ちが高ぶっているのかあまり聞いてはいなかった。

 

「あら、カオリ、おかえり」

 

お母さんが私を旅館のロビーで見つけて声をかけてきた。

私は今日は暑いし早く帰ってきたのと言うと、お母さんはそうねと温かい笑顔で私の言葉を返した

ロビーにあるイスに座りのんびりとここに設置されているテレビを見ていた。

部屋に帰っても特にすることのない私はこうやって過ごすこともよくあることだった

別に私のことを知っているのは旅館で働いている人と両親しかいない。さらにあのときの仲間とは年が違うのだから。

私はもう戸籍上18歳、身長も普通の女性より少し高めなので特に年齢が低く見られることはない

戸籍を登録した際に私の年齢が分からなかったので、年齢を高くして登録したのだ。

だから安心して過ごせるはずなのだが、今はものすごく不安である。

 

「あの、少しいいですか」

 

私が少しずつ悪いほうへ考えが進み始める直前に声をかけられて声が発せられた方向を向くと、そこにはあの3人の仲間がいた。

何とか平常心を最大限に使って冷静になると、かまいませんよと了承の言葉を出した

大丈夫、気づかれないと、必死に自分を落ち着かせようとするがとてもそんなに簡単にはいかない

 

「はじめまして、渚カオルと言います」

 

「私は碇レイです」

 

「私は惣流アスカラングレーです」

 

3人はそれぞれ自己紹介をするが私はあまり聞いていない。もうなにがなんだかわからなくなりそうであった。

どうして私に話しかけてきたのか。どうして自分の事を見るのか、もう何も考える事ができなくなりそうだった

 

「カオリ、どうかしたの?」

 

私の様子に気づいたのかお母さんが声をかけてきてくれた。

私がお母さんのほうを見ると、少し慌てた様子で私に近づき3人に言った

 

「ごめんなさい。この子、少し熱射病にでもかかったみたいだから、部屋で休ませるわ」

 

ごめんなさいねと謝ると、カウンターでいろいろと仕事をしていたお父さんを呼んだ。

私をおぶって部屋まで連れて行くように頼んでいた。

お父さんは私の顔色を見て、お母さんに簡単な昼食をもってきてもらうように頼んでいた。

私はとても申し訳ないと思っていた。3人に会っただけでこんな気分になるなんて夢にも思わなかった。

吐き気、頭痛、眩暈、まるでたちの悪い風邪にかかったような気分になった

そう考えている間に私はお父さんのおぶられて別館にある私の部屋に連れて行かれた。

お父さんが布団を引いて私を寝かせてくれた

 

「カオリ、無理はするな。まだ1年しか経っていないんだ」

 

お父さんは私に毛布をかけながらいうと、私はありがとうと返すので精一杯だった。本当に気分が悪い。

それに気づいたのか、お父さんは私をおこし、背中をさすってくれた。たったそれだけだが少しは楽になった。

 

「あなた、カオリは」

 

お母さんが簡単な昼食を持って部屋に来た。本当に心配してくれたようだった。

お父さんが大丈夫だというとお母さんは安心した表情になったが、私がまだ顔色が悪かったのか、

 

「やっぱり心配だわ。近くのお医者様に」

 

そう言ってくれたが、私はそこまでしなくても大丈夫だよと返した。

ただ彼らに会ってあのときの記憶を思い出してしまったのだから。

あの悲惨な赤い世界にいたときの記憶。幾度となく忘れようと思ったが忘れる事ができなかった記憶

その記憶を夢で見ようものならしばらくは寝付けない。怖くて仕方がないのだ。またあのときに戻るんじゃないかと。

 

「なら、しばらく私がついているわ」

 

お母さんがそういってくれたが私は大丈夫だよと言い、断った。二人にそんなに迷惑はかけたくなかった。

これは自分の犯した罪の償いのようなものだ。

それに両親を巻き込みたくなかった。だが、お母さんは譲らなかった。

 

「だめよ。あなたは私の娘なんだから、それにあの子達はこれから海に泳ぎに行くそうよ。仕事は少し時間が空くから」

 

どう言っても動きそうにもないお母さんに私はそれじゃお願いと言うと、はいとやさしく微笑みながら言った

お父さんは、お母さんにそれじゃカオリを頼むぞと言うと仕事に戻っていった。

部屋を出て行く直前に、体調管理はしっかりとなと言い戻っていった

お母さんは不器用な人ねと言うと、私はお父さんらしいよと返した

彼女は私の頭をひざに置くと子守唄を歌ってくれた。

それは私があの夢を見て寝ることができなくなった時によく歌ってくれた歌

私はこの歌が大好きだし、本当にこの歌を聴くと眠ることができ安心できる。

お母さんの温もりが近くで感じることができるからだろう。家族の温もり。

私にとって、一生で会うことはないと思っていたものだったがこの場所で初めてであった。

あの戦場のような場所であった第3新東京市ではそんな愛情はもらえなかった。ただ、使徒を倒すために生きていた。

今になって考えてみればそんな感じでいたのかもしれない。だが今は自分の時間をゆっくりと過ごしている

そんな事を考えているうちに眠気に襲われた。後は何もわかない

 

------------------------------------------------------------

 

「あらあら、本当にこの歌が好きね」

 

この子がいつも眠れないときに歌ってあげる歌。私も小さいころはこのうたで眠ったことがある

そして今、私は人類を、世界を救ってくれたこの子に、親の愛情など知らぬカオリに私は精一杯の愛情を注いだ。

この子には幸せになる権利がある。いや、どんな人間にもその権利はあるはずなのに。

この子は一番つらい事を経験し、幸せなるどころか、大きな悲しみを背負った

私たちにいろいろと話してくれたが、おそらく私たちが想像できないほどの苦しみや悲しみを経験したのであろう。

あの子がこの話をするときはものすごく悲しい目をしている。

もし、神様がいるなら、この子にどうか幸せを、世界を救ったこの子に。

私たちの娘にどうか幸せを与えてあげてほしい。たった少しの幸せでもいいから。

でもそんなものはいない。この子が一番分かっている。この世界には神様などいないということを。

そしてこの子の話を聞いた私たちも。それでも願いたいというのは私の身勝手なのか。

できれば、あの子たちにはもう会わせたくない。もうこの子が苦しむ顔は見たくない。

たとえ、自分が生んだ子でなくても、今この子は私の、いや私たちの大切な娘なのだから

 

 

 

 

 



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第3話

 

「う・・・ぅん」

 

今何時なんだろうか。自分は太陽の夕日が部屋に差し込んできたので目が覚めた

この部屋はほぼ真南に海が一望できる窓があり、そこからも夕日が良く見えるが、砂浜からの夕日のほうが美しく見える

私は完全に目が覚めると机の上においてあるお母さんのメッセージを見つけた。

そこには、目が覚めて夕日が綺麗だったら私が散歩に行くであろう事を予想してかかれたものであった

 

お母さんは抜け目なく、部屋にはきちんと懐中電灯が置いてあり、遅くならないように帰ってくるようにと書いてあった

自分の行動がもう完全に予想されている事に苦笑いをしながら、私はお母さんへのメッセージを別の紙に書いた。

それを机の上に置くとその懐中電灯を手にもち、部屋を後にした

別館の廊下を歩いていると何人かの生徒に会い、私のことを見て驚いた顔をする人などがいた。

しかし、一切気にせず旅館をでると、また海沿いの道を歩いていった。

 

 

 

海岸まで家からだいたい10分ほど、それほど遠くない。

道にはきちんと歩道が整備されていて車線は2つあるが、この時間はほとんど車の通行はないし、

誰かに会うとすれば海に遊びに行っていた生徒や自宅に帰る小学生ぐらいだ。私は誰も気にせず、ただ砂浜に歩いていく。

ちょうど良い時間なのか砂浜が一面太陽の光の色に染まり、そこは一枚の絵画を見ているようだった。

 

だれもいない、ただ時が止まった世界。

私たちすべての生物の母の海、それらが綺麗に太陽色に染まった世界、私にはその一瞬を見ることが楽しみだった。

道路から砂浜に降りると、写真家の男性がこの風景を写真におさめていた。

何かが足りないのであろうか、また撮り直していた。

私には何となくだがわかったように感じた。彼が撮っている写真に足りないものが。

でもそれが何かを言葉で表現する事はできなかった。

 

言葉では表現する事はできないこの風景の魅力、綺麗や美しいなどでは到底語ることができない風景がそこにはあるのだ。

私たちを魅了し、それを放そうとしないものが

砂浜に座り込むと、ただその光景を見るだけ。太陽が少しずつ沈んでいく光景を

少しずつ太陽の光は薄くなり一面が真っ暗になっていく。闇のカーテンが下りてきるがこの一瞬もまた好きだ。

太陽がもう少しで沈むか沈まない一瞬が。

 

 

 

太陽が完全に沈む一面真っ暗になると、私は手に持っていた懐中電灯をつけた。これでようやく少し先の視界を確保できる

砂浜の近くを走る道路には電灯はあるがその光はこちらにはあまり届かないのでどうしても暗くなる。

私は懐中電灯の光をさっき男性がカメラで写真を収めていた男性のほうへ向けると

男性も懐中電灯をつけて私のほうに歩いてきた

 

「こんばんは、カオリちゃん。早く帰らないとお母さんが心配するよ」

 

途中まで車で送っていこうかといわれたが私は歩いて帰ると言った。

たった10分の距離を車で送ってもらうのは気が引けたし彼の自宅と私の自宅は正反対の位置にある

わざわざ遠回りをして帰ることはないだろうと思って断った

 

「それじゃ、またね」

 

私はそう言うと砂浜から道路に上がるとまた来た道を戻り始めた

そこはさっきまでとは別世界だった。一面真っ黒の世界。砂浜付近は電灯があるが自宅と砂浜の間には電灯は少なく暗い

一寸先は闇といった感じだ。私はそんな道を懐中電灯の光をたよりに帰った

自宅に帰ればおそらくまた彼らと会うことになるだろうが無視しようと思った。

もう彼らのことなんてどうでも良い。私は今自分がここに居れるだけでいいのだから

 

 

 

本館から入るとそこには受け付けカウンターにお父さんしかいなかった。

おそらく他の人は今日来た生徒のご飯やいろいろと準備をしているのであろう。

私はお父さんにただいまと言うと、彼は今日は綺麗だったかとぶっきら棒に聞いた。

とっても綺麗だったよというと、お父さんはそうかと返事をした。

あとで夕飯を持って言ってやるから部屋で休んでいろと言い、受付カウンターの奥にある事務所に入っていった

お父さんの彼らに会わそうとしない心遣いに感謝しながら別館にある私の部屋に戻っていった

本館の廊下では誰にも会わず、別館でも同じだった。みんな大広間にでもいるのであろう。

この旅館に宴会をするための大広間と普段職員や静かにご飯が食べたい人のための食堂がある。

食堂からは海が一望でき、その光景も絶景だ。

そのため、風景を楽しみながら食べたいグループは食堂、騒ぎたいグループは大広間と大体決まっている

 

 

 

部屋に戻るとすぐにお父さんが夕飯を持ってきてくれていた。

食べ終わったら部屋の扉の前において置いておけと言うと仕事に戻っていった。

私は持ってきてくれた夕飯を食べると日記を書き始めた

 

「今日はいやなことが多いな」

 

私は日記を書きながらそんな事を思っていた。彼らとの再会は最悪だった。それにお父さんとお母さんにも迷惑をかけた。

 

「明日は良い事あるかな」

 

そう言うと私は布団に入り眠った。良い明日を願って

 

 

 

 

 



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第4話

 

 

翌日、今日も朝から天気は良好で私の部屋に廊下から朝日が差し込んできた。

私は昨日と同じように起きると、近くにある上着を着て部屋を出た。

今日は少し霧が出ていて白い煙が漂っているように見える。さらにそこに太陽の光が当たり幻想的に見えた。

別館を出ると別館と本館の間にある庭に出た。

別館と本館は一応屋根のある通路でつながっていて、その通路の両脇はきれいな花が植えられた庭があった

庭にでると花壇にある猫じゃらしと遊んでいるネコを見つけた。ネコに近づくと逃げると思ったが、逆に私に擦り寄ってきた。

ちなみにこのネコはお母さんが可愛がっているネコで庭の中にはまだ数匹いるだろうが、今私が見る限りこの1匹しかない

私はそのネコを抱っこすると、この子に言った

 

「一緒に朝ごはんを食べにいこうっか」

 

するとこのネコは私の言葉が分かったのか、にゃーと鳴き声で返事を返してきた。

私は他のお客さんに迷惑がないように本館を通らないで事務室の裏口に行くと、

その部屋にある棚の置いてあるキャットフードを一つとって缶きりでそれを開けた。

小皿にそれを盛り付けてネコの前に出してあげた。ネコは嬉しそうにそれを食べていた。

私はそれを事務所にあるイスに座りながらのんびりと見て、過ごしていた。

 

「こういう朝も、いいね」

 

ちょっとした朝の出来事。それは私にとって綺麗なものだった。

 

 

 

「カオリ、今日の朝食をもってきたよ」

 

私がネコばかり見ていたのでここに誰は入ってきた事に全然気づかなかった。

驚いて声のするほうに振り返ると、お母さんがお盆にここの朝食の定番メニューであるご飯に味噌汁に卵焼きがあった。

どうしてお母さんに、私がここにいるのが分かったのと聞くとここに入るのを見かけたからよと言われた。

お母さんはそれを机の上に置くと、私の額を触って熱はないわねと真剣な表情で言った

私はあまりのお母さんの心配ように少し苦笑いをしながら大丈夫だよと返した。

一方、一人食事をしているネコさんにつられたのか他のネコさんもここに集まってきた。

私はネコさんたちがえさの取り合いをしないように自分のご飯を食べる前に他のネコさんの分の朝食を用意するとお母さんが

 

「まるでお母さんね」

 

そう温かく微笑みながら言った。ネコたちは仲良くえさを食べていた。

彼らはみんな仲良し。けんかをして、時には仲が悪くなる事もあるが、最後はみんな仲直り。

それは小さな子供達と同じ。最後は結局仲直り。私にも彼らとそうありたいがもはや叶わぬこと

すでに人ではない私にそんな事はもはや叶わないし、すでに彼らとは年齢が違う。

お母さんとお父さんとこの場所が平和であり続けるならば今の私にとって他の事はどうでも良い。今この場所だけ

 

「ねぇ、お母さん」

 

「なに」

 

「もし私がこの世界の敵になったら、お母さんはどうする」

 

私がそんな突拍子もない質問をするとお母さんは驚きの表情を浮かべるが、質問に答える前に私を後ろから抱きしめた

お母さんは何も答えなかったが今の態度でどんな答えだったのか分かった。

きっと、私がどんなに世界の敵になっても、私のことを娘だと思ってくれるという答えを

 

「それじゃ、私はこれで仕事に戻るけど、カオリ、ちゃんと体調管理しないとだめよ」

 

お母さんの出て行く前の何気ない一言でも今の自分には最高の言葉に感じる

私はネコさんたちが食べた後の食器を事務所に設置されている簡易キッチンで洗って食器乾燥器に入れた。

今度は自分の食べた後の食器を持って事務所の裏口から出ると、厨房の裏口の置けて食器をおじさんに返した。

今日もいつものようにおいしかったよと言うとおじさんはまたぶっきら棒にそうかと返事をした。

さらに体調には気をつけろと私に言葉をかけてくれた。私はお辞儀をして裏口から出て行った。

 

 

 

私は砂浜には行かないで一日旅館で過ごそうと思った。

たまにはそういう日もいいだろうと言う思いもあったが、彼らに会いたくなかったという理由もあった。

 

 

 

部屋に帰っても特にすることがない自分は久々に部屋の荷物整理でもしようと思い立ち、部屋に出ている小物を整理しだした

ちなみに、私の部屋は部屋がふたつあって、旅館の部屋なので(一応)玄関から直線状に部屋は作られている

玄関から入ってすぐの部屋は少し小さいが奥の部屋はその部屋より広い部屋になっている。

さらにいえば、奥の部屋にあるベランダのような場所からは海が一望できる。

もちろん、ベランダは西向きにあるので、太陽日没時はきれいな光景が見れる。

お客さんはたいてい本館だけなのでこの別館の良さは知らない。別館の2階と1階の私の部屋は職員専用の部屋となっている。

今日は元気いっぱいの高校生が別館の大広間などにいるのでいつもよりうるさい。

私はうるさい彼らに悪態をつきながら部屋の片づけを続けると、本の束一冊のアルバムを見つけた。

これは私がここに来たときに貰ったものでここでの思い出の写真や

写真家の男性があの展望台や砂浜で撮り、私にくれた写真が収められている。

私はその写真の一枚一枚をゆっくりと見ていた。私が笑っているときに撮られた写真はあまりない。

基本的に呼ばれて振り返ったときに撮られた写真が多い

別に笑えないとかそういうことではないが、なぜか笑う気がないのだ。

だから、ここに勤めているみんなで写真をとったものも私は表情は硬い。

 

 

あるページで多くの人が集団で写っている写真があった。これを撮ったころはまだ私がここに来て間もない頃だった。

お母さんが記念撮影をしましょうと言い出したのが発端だ。

最初はお父さんは嫌がったがお母さんの勢いに負けてしぶしぶ写真に写っている。

私は写真のちょうど真ん中に写っていて、後ろから私と仲が良い仲居さんが抱き着いている

お母さんとお父さんは私の両脇に居て、あとはばらばらだが、それぞれピースをしていたり自分なりに写っている

その写真以来、この旅館を利用した人に、旅館のどこかで記念撮影をしてもらうというサービスが誕生した。

もちろん、このサービスを考えたのがお母さんであったのことは言うまでもない

部屋の片づけを中断してそのアルバムに魅入られたように見た。

しばらくアルバムをめくっていると、夕日に包まれて私が砂浜に座っている時の写真があった。

これはあの写真家の男性が私にはじめてあったときに撮ったものだ。

彼曰く、ここには世界の美しさが写っているという事だが、私は別にそんな事は思わなかった。

その隣の写真には、仲の良い仲居さんである林ユリさんと私、それと猫の親子が写っている

これはお母さんが飼っているというか旅館に住んでいる猫が子供を出産したのを記念してお母さんが撮った写真、

ちなみにお母さんと私と猫の親子が写っている写真もある。一つ一つに思い出がたくさん詰まったアルバム

それをきれいに本棚に片付けると室内に設置されている小さな冷蔵庫にあるコーヒーをとり、海を見ながら飲んだ。

 

 

 

そのコーヒーはいつもは少し苦いと思うコーヒーの味が今日はさらに苦いように感じられた。

 

 

----------------------------------------------------------------------

 

ここにはじめて来たときは、私はおびえた子ウサギのように仲居さんともあまり話さず無口な女の子だった。

ただ、一人の仲居さんが私に積極的に話してきた。彼女の名前は林ユリ。私がもっとも仲の良い仲居さんだ。

最初は無視していたがそれでも話しかけてきた。私は一度どうしてそんなに私に話しかけるのと聞いた。

すると、彼女は私はあなたと友達になりたいだけと。

どうしてそうなりたいのかと聞くと彼女は分からないけどただ友達になりたいだけだと返すだけだった。

 

少しずつ、彼女と話すようになり私は心を開いていった。信用しても大丈夫だと思ったから。

ここの人たちは優しかった。自分があれだけ無視し続けたのに私が話しかけるときちんと言葉を返してくれる。

それに元気になったねとおまけ付で。今では、楽しく会話ができるまでになり、暇なときにはよくおしゃべりをしている。

そんな過去のことを思い出しながら歩くと、すぐにロビーに着いたように感じた。

ロビーには誰も居らず皆彼らの相手に忙しいのであろう。

 

私は一人食堂に向かおうとしたとき、ロビーのソファーでゆっくりと眠っている少女を見つけた。

彼女はもう少しで食事の時間が終わるである事を知らないのであろうし、友達も呼びに来る気配はない。

私はため息をつくと、女の子に近づいた。いくら、この季節が夏だとしてもこのロビーには冷房がかかっている。

こんなところで寝ていれば風邪を引くのは目に見えている。

幸せそうに眠っている彼女を起こすのは起こすのも少々気が引けたが、肩を軽く揺さぶっておこした。

彼女はまだ眠いのか少し眠たそうな目でで私を見た。

 

どうやら、まだ自分がどうなっているのか理解していないようだったので私は彼女に晩御飯を食べそこねたようだねと言った。

するとようやく、今自分のいる状況と今の時間を大体予想しショックを受けたような顔をした。

どうやら、今日は彼女にとって嬉しい晩御飯だったみたいだ。

私は食堂で少し食べる?と聞くと彼女は頷き、彼女と食堂に向かった。

 

 

 

 

食堂にはいつものおじさんがようやく一段落したのかイスに座り新聞を読んでいた。

他の厨房の人も同じく自分達のご飯を食べている人もいればゆっくりとテレビを見ている人もいた

私が食堂に顔を出したのに気づくとおじさんは今日は上の連中とメニューは一緒だぞと言い、カウンターを指差した。

そこにはすでに料理が出されていた。私はその料理の量を見てある意味ショックを受けた。

いつもの1.5倍はある。これを全部食べさせるつもりだったのかと思うと今この少女がいたことにものすごく感謝をしている。

あんな量、小食の私が食べれる量じゃないことは彼だって十分わかってはずだ。

どうせ、多く作りすぎたからとりあえずまとめて入れたといったところであろうか。

 

とりあえず、私は女の子と席に着くとおじさんがそいつはどうしたんだと聞いてきた。

まあ、今頃上でわいわいしているはずの生徒が私と一緒にいたらここに勤めている人から見たら驚くべきことなのであろう。

他人に興味を示さないという事で通っている私が何にも知らない女の子と一緒にいるのだから。

私は、居眠りしてて食べ損ねただけよと事実をそのまま言うと女の子は顔を真っ赤に染めた

恥ずかしいのは当たり前だが、事実を言ったほうが早い。おじさんはそいつはまた珍しいなと言い新聞を再び読み始めた。

私は女の子と一緒に豪華な夕飯を食べ始めた。もちろん、このあたりのことについて聞いてくる女の子の質問を聞きながら。

いつもとは違う楽しい会話をしながらの夕飯になった

 

食べている途中で空の上にはきれいな月が丸く出ていた。私はそれをみて、普通の人では絶対に言わない呼び方をするときがある

 

『赤い月』

 

私がいた頃は月は赤かった。月のすべてが赤かったということはなかったが、赤い色のある月。だから『赤い月』

月の光がこの食堂にも入ってきていて、穏やかな海には月が映っている。

それは美しく神秘的な光景だろう。人を魅了する月。ルナティック

月が人を狂わす、西洋では月が人間を狂気に引き込むと言われた。そう言われている月も穏やかなものだ。

 

 

 

そんな事をぼんやりと思いながら食事を済ませると、彼女を旅館の部屋まで送ることにした。

もう彼女がいなくなったことには気づいているだろうし、事情を説明したほうがいいだろう。

 

「送っていくよ。みんな、心配しているだろうし」

 

私がそう言うと彼女は恥ずかしそうにありがとうございますと言った。

彼女と共に本館の廊下を歩いているとおそらく先生であろう女性が彼女の姿を見て駆け寄ってきた。

どこに行ってたの、みんな心配してるわよと少し叱るように話した。

私は女性に、1人でロビーで寝ていて晩御飯を食べ損ねたので私と一緒に食べていたんですと事情を話した。

彼女はそうなんですかと納得してくれた。女性にあとをお願いしますというとその場を離れようとしたとき女の子が言った

 

「あの、あなたのお名前は」

 

そういえば、言っていなかった事に気づき言った

 

「水川、水川カオリ、ちなみに18歳だから」

 

自分のことを名乗ると本館を後にようと別館への連絡通路の方向に歩き出した。

いつもと違って少しうるさい通路、高校生達が騒いでいたのだろう。先生が説教をしている声が聞こえた。

こんなに平和な世界もあのときには想像もつかなかった。

そして、連絡通路にもう少しというところで後ろから声をかけられた。

 

「水川さん、すこしお話をしませんか?」

 

この言葉、いや、この声の主は私が大嫌い人のものだ。私はすぐに分かった。

無視をしても良いがここで下手に疑われたくはない。了承の言葉を出すと本館と別館の間にある庭のほうに歩き出した。

別にどこでも良いが誰もいないとはっきりと分かる場所で話したかった。

どうせ、彼が聞きたいことは大体想像できた。なぜ、自分がこんな容姿をしているのか、もしかしたら・・・

私たちがその場所に着くと彼は話を切り出し始めた

 

「あなたは、どうしてそんな容姿をしているんですか?」

 

「そんな事を知らないわ。私がこんな容姿になったかなんて、海で救出されたときにはもうこんな容姿だったそうよ」

 

別にそう答えれば誰もが疑う事はなかったが、これがいろいろと知っている彼ならば話は別だ。

彼は知っているのだから、この容姿の本当の意味を

 

「そうですか」

 

「それだけなら、私はもう戻るから」

 

そう言うと私はその場から立ち去ろうとしたが彼は私に言った。碇シンジという名に何か心当たりはありませんかと。

私は振り返り、そんなに名前に聞き覚えはないわと答え私はその場を後にした

 

 

 

自分はもう『知らないのだ』

彼がいたことも、かつて使徒が存在していた事も。

自分はもうあの街の人間ではないのだから

 

 

 

 

 

 



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第5話

 

朝目を覚ますと、廊下から生徒達の声が良く聞こえてきた。

まだゆっくりしたいとか、しばらくここにいたいとか意見はさまざまだがここが気に入ったようだ。

もっとも、学生は勉強が忙しいのでそれから逃れたいという気持ちもあるのだろうけど。

私にとってはようやくうるさい生徒達といやなお客が帰ってくれるのだから言う事は特にない。

一応見送りをするため、布団から出ると外用の服を着て簡単に髪を整えると外に出た。

廊下には多くの生徒が歩いていた。荷物をたくさん持ち思い出話に花を咲かしている生徒も居る。

 

それにしても、今日も良いお天気、ここ最近雨が降っていないので水不足にならなきゃ良いけどと

ちょっと馬鹿なことを考えながら、連絡通路を渡り本館のロビーに着いた。

そこでは先生が生徒を並ばせ、遅れていない生徒が居ないか確認していた。

 

私はロビーのソファに座るとテレビのニュースを見ていた。

たまに彼らの様子を見ていたが、これから大都会に帰る事をだるいと思っている生徒が多いようだ。

 

「カオリちゃん、ようやく静かに寝れるわね」

 

見送りのために居た仲居のユリさんがうんざりした様子で言った。

どうやら、彼らがうるさくてあまり眠れなかったようだ。私は苦笑いをしながらも今日からはゆっくり眠れますよといった。

今日で団体客はしばらく予約はないので平和な日々が戻ってくる。ようやく平和な日々が戻ってくるのだから嬉しい。

さらに私の場合、あの会うのも嫌な人と離れることができる。私にとってはそれのほうが大きい。

旅館の支配人でもあるお父さんに感謝の言葉とお礼を生徒達が儀礼的に述べると旅館から出て行き始めた。

旅館の傍を走っている道路にはバスが止まっていてそれに乗り始めた

仲居さんたちは見送りのため生徒達と共にバスの傍まで行き、手を振っている。

私も彼らと同じような行動をしたが後ろのほうにいた。

 

 

 

少しずつバスが走り出し、バスが見えなくなるまで見送ると仲居さんたちにお母さんが言った

 

「さあ、片づけをしましょう。それが終わったら今日はもうお休みよ」

 

今日は予約客が入っていないため、これでお仕事は終わり。

ただ後片付けが今回のお客は大変だろうというのは大体予想していたことだが。

実際に部屋の後片付けだけで一日をつぶす事になるとはこのとき誰も予想はしていなかった。

私も布団干しを手伝っていたが、忘れ物がかなりあったので後で宅急便で届けないとお母さんが言っていた。

布団干しも楽ではなくかなりの枚数があったので干せる場所を探すのが大変なほどであった。

 

いつもは草花とネコ達の楽園も今日は布団がいっぱいあり、大人のねこたちは草花と戯れるのではなく、今日は海から吹く風で揺れる布団に背伸びして、布団を掴もうとがんばっていた。

 

草花達も布団のせいで今日は満足に太陽が当たることはないだろうが、子猫さんたちと戯れていた。

ねこじゃらしはやんちゃな子猫の相手に忙しそうだ。

子猫はなんとかして猫じゃらしを捕まえようとするが、風でゆらゆらと揺れるのを捕まえるのは難しいようだ。

あと何年かして大きくなればねこじゃらしに届くようになるだろうが

こんな和やかな雰囲気もあのときには体験できなかったものだろう。

私には使徒とエヴァと自分のことで精一杯だった。それ以外何も考えることはできなかった

それが今では、子猫と戯れたり他人の事も考えられるくらい余裕ができた。

ただ、今でもあの時、あの場所での惨劇は忘れることは永久にないだろう。

 

通路の一面にこびりついた血と死体の山。

おびただしい数の人の亡骸に自分は恐怖に陥り暴走、挙句の果てにサードインパクトをおこすという史上最大の犯罪者。

誰も真実を知る者は居ないだろう。なぜ死人が蘇ったのか。なぜサードインパクトが起こったのに、人は滅びなかったのか

そして、最近の気象観測で地軸が戻りつつあることがわかったそうだ。

セカンドインパクトによって地軸が大幅にずれ、日本は1年中夏真っ盛りになったが、来年か再来年にも季節が訪れるそうだ。

人々にとっては祝福すべき出来事。セカンドインパクトによって地軸が大幅にずれた。

日本は1年中夏であったがずれが解消することによって、作物などさまざまな面で大きな影響があるだろう。

 

そして、動物達にとっても再び住みやすい事になるだろう。

セカンドインパクトによる急激な気象変動によって多くの生物が死滅したが、

最近になって絶滅動物達が戻っているを確認したと。そういう明るいニュースが多い今年はきっと良いことがあるのだろう。

 

 

 

ただ、ひとつだけ、心配事がある

 

 

 

「それにしても、お天気続きで本当に水不足になるかも。タンクの掃除、やったほうがいいかな」

 

ここ最近天気が良い日が続きっぱなし。雨があまりというかほとんど降っていなかった。

 

「それは大丈夫でしょ。明日から天気は悪くなるって」

 

「そう、なら安全ね。早く出てきたらどうですか。ルミナさん」

 

建物の陰に隠れる場所から一人の女性が出てきた。髪は背中の中ほどまで伸ばし自分と同じように髪が白銀色で紫の瞳をしている

私と同時期に発見されたらしい。ちなみに近所にある小さな家で一人暮らしをしている。

なぜか彼女を自分は知っている気がする。どこかで彼女といたような気が。でもどこで会ったかは思い出せなかった。

彼女に聞いても彼女の答えはいつも同じ

 

『私はあなたを知っている。あなたは私を知っている。でもあなたは覚めていないからわからない』

 

そう答えるだけだ

その意味は分からない。でも彼女は言うように私は知っているのかもしれないが思い出していないのであろう

実際、あのときの事もすべてを覚えているわけではない。一部記憶が飛んでいるところもあるのも事実だ

赤い世界に失われた命、そのとき誰かが私の傍にいたように暖かかった。でもそれが誰だったのか。

そして本当にそこに誰かいたのかすら分からない

事実を知る者は私しかいないのだから誰も知らないのだ。

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

太陽はそろそろ夕暮れ時、これでようやく平和な日々が訪れる事になるだろう。

今日は予約客が居ないので仲居さんや板前さんたちと楽しくパーティーなのだが、自分は参加はしないことにした。

夜から写真家の男性と少しデート、というか近くの町まで送ってもらって買い物をすることにした。

いつもなら他にも誰か一緒に行くのだが、みんな楽しく盛り上がれるように自分だけで行く事にした。

もっとも、2人で行くのがこれが最初というわけではないので慣れている

行きは写真家の男性が運転をして、帰りは私が運転をする。私も普通免許を取得済みなので問題はない。

ちなみに行き先は第3東京市。そこで必要な日用雑貨等をまとめて買ってくるので結構な量になるし、金額にもなる。

そのため、私が今回大金をあずかることになった。はっきり言って気分は最悪である。

あの街に行くのは嫌いだが、この町から一番近いのは第3新東京市であることは事実だ

 

「そろそろ、第3に行ってくるね」

 

ロビーで一応受け付け業務をしている父に言うと、封筒を渡してくれた。

中身はお金と買ってくるもののリストである。

ちょっと今日は厚みが大きいような気がするが、今は気にしないでおこう。

封筒を受け取ると私は旅館の外に出た。空には重そうな雲が漂っていた。

どうやら、昼間にあった彼女の言うとおり雨が降るようだ

道路にはすでに写真家の彼の車が止まっていてこちらに手を振ってくれていた。

 

「今行きます」

 

私はそう言うと彼の車に駆け寄り、ドアを開けて助手席に乗込んだ。

4WDの車で4人乗りだが、乗り心地は、あえて言わないでおこう

車はゆっくりと走り出したが振動が・・・・。慣れればそうでもないが慣れていない人にはちょっときつい。

おまけに今日は雨だ。暗い中車1台で走るのは肝試しとさして変わらないだろう。

海沿いの外灯もない道を走り、しばらくすると風景は一転する。今度は山道になる。

いくつもの峠がありそれを通過するため4WDのほうがいいのだ。

また一部整備が遅れていて舗装されていないところもあり、この雨でその場所はぬかるんでいるだろう。ちょうど良かった。

 

「眠っていても良いよ。帰り、つらいよ」

 

男性が運転をしながら私を気にかけてくれた。

つらいのは分かっているが、こんな振動がきつければそう簡単には寝れないのも事実だ

外は真っ暗。これでドラマのワンシーンでよくあるような駆け落ちした二人のように見えないこともない。

ただ、今この車にはそんな甘い雰囲気はないが。

愛の逃避行なら最も明るいうちにしたいものだ。こんな暗ければ甘い空気にもなれない。

私はため息をつきイスを少し倒すと眠ろうとした。この車に何度か乗っているし寝つきはいいほうなので大丈夫だろう

 

 

 

人は忘れる事ができる便利の良い生き物。記憶を消す事はできなくても忘れる事はできる。

 

私には世界中のすべてがインチキに見えるときがある。

 

ネルフの偽装、政府の偽装、そして世界の偽装。すべてが偽りだらけの世界に真実はあるのか。

 

マスコミですら偽りの事実に翻弄され、そして世界の人々も偽りの事実に翻弄されているのだ。

 

本当の意味での偽装のない情報など、この世界には存在しないのかもしれない。

 

もしそうならこの世界は偽装された情報に翻弄されている

 

わたしもその一人なのかもしれない。

 

だって、偽りの世界の中に居るのだから

 

 

 

 

 

 



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第3新東京市(買い物編)
第6話


 

心の安息。そんなものが来るのはいつの事なのか。いまだ先が見えないこの世界に私は彷徨っている。

闇が続く世界に私の安息は程遠い。いつ襲ってくるかもしれない過去を恐れ、今だ出口の見えぬ闇。

やがてトンネルを抜けることができるだろうという光。

その交錯する世界で私は一度、区切りをつけた。忘れるという行為で。

だがそれは完全ではない。そんなものは所詮仮初めの平和に過ぎないのだ。

忘れるという行為はあくまでも時限付の安息でしかない。

いつかは取り戻すかもしれない。その記憶を。そんなものは信用にならない。

もし本当に忘れたいならそれは人として最後の手段をとるか、自分に嘘をつき続けるのどちらかを選ばなければならない。

どちらも茨の道だろう。だが、私にそんな覚悟はなかった。あくまでも一時的な安息を選んでしまった私を。

今では何と愚かだったのかという思いがある。

 

記憶に翻弄され、闇に覆われた世界で生きるのはごめんだ。生きるなら明るい世界で生きたい。

いつかその願いが叶う日が来るだろう。私が明るく本当に安息を手に入れられる日が

そんなことを考えながら私は眠りについた。

 

 

 

「・・・きて、起きてよ」

 

体を揺さぶられて眠っていた私は目が覚めた。どうやら、第三新東京市に着いたようだ。

外を見ると山ではなく、無数のビルが車の周りを覆っていた。車はどうやら第3新東京市の中心部に来ているようだ。

 

「運転、代わる?」

 

私は疲れているであろう彼にそう言葉をかけると、目的地についたら助手席で眠るからそれからで良いよと返してきた

どうやら、最後まできちんと自分で運転していくみたいだ。彼は根がまじめなので途中で捨てたりはしないだろう

車の窓を開けて外の空気を吸うと海岸の町とは違い、ここは空気が悪い。

あの町の空気は澄んでいてきれいなものだったが、この街の空気は汚く不純物の多い空気だ。

都市、それは人が寂しさを紛らわすために作った偽装された場所。

が人はそれですべてを隠せず、偽りの自分をその場所で作り出している。

私自身もそういう場所に身をおいて隠れるようにしていたときもあった。それが都市の怖さ。都市は自分の存在を隠す。

そしていつのまにか自分のことを忘れる。

 

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第三新東京市はもう少しで首都になる。

行政の多くは第三新東京市に移り、さらに経済の中心地として名が知られている。

現在、世界で数多く起こっている新たな勢力分立による戦争によって景気は良好。人通りも多い。

行き交う人々は皆不安のない表情で歩いている。そんな人々を見ていると気分が悪くなりそうだった

 

自分達には関係ないからそんな表情をしていられるのだ

 

もうすこしで、目的地の大きなショッピングセンターに着くようだ

私は車の後部座席に積んでいるカバンを出し降りる用意をはじめる。

頼まれた商品をすべて買うのにおそらく2時間ほど掛かるだろう

気が思いやられるがやらないわけにもいかないので、できるだけさっさと終わらせるに限る。

 

ただ、後ろからこの街に入ってからずっとついてきている後ろの車に乗っている人物がちょっかいをかけなければだが

 

鬱陶しいくらいずっと尾行してきている車の乗務員の一人は見覚えがある。

できれば、接触したくもないがそうもいかないだろう

 

「帰りは少し荒れるかな」

 

私は横で運転している彼に聞こえないようにそう呟いた

 

 

「着いたよ。僕はここで助手席に座って寝てるから買い物終わったら運転して帰ってね」

 

彼はそう言うと運転席から助手席に座る場所を変えた。私はすでに外に下りているので問題ない。

わかったわと私はそう言って行こうとした時、彼が突然紙袋を放り投げた。

突然の事に一瞬驚いたが、私に渡すように放り投げられた袋をキャッチできた。

袋の中身はどうやら女性には少し重い代物だがなに?と彼に聞くと頼まれたものだよと返してきた。

 

「あれね。ちゃんと準備してくれたんだ」

 

「まあね、なにせ可愛い女性のお願いには弱いから」

 

彼は全部補充してあるから気をつけてねとそう言うとイスを倒して寝始めた。

私は受け取ったものをカバンに入れてショッピングセンター内に入っていた。

後ろからついてくる誰かの気配を感じながら

 

 

------------------------

 

「にしてもあんなものをほしがるなんて、怖いね」

 

車の中から彼女を見送ると彼はそういった

あれは昔の知り合いから買い付けたが、彼女があの話を持ってきたときは驚いた。

 

1ヶ月前、夜遅くに彼女は自分の家を訪れた。

私は何の用事なのか見当もつかなかったが、玄関で話をするのもなんだろうと思い彼女を自宅に招きいれた

家の中はそれほど片付いては居ないが別に人が入れないほどの汚さというわけでもないので大丈夫だ

彼女と私がイスに座るととんでもない一言が飛び出した

 

「拳銃を売ってくれませんか」

 

その一言に私は驚いた。私は昔話を彼女に一度聞かせたことがあるがそれはもう何ヶ月も前の話だ

それに最後に冗談だよと付け加えたので、信じてはいないだろうと思ったがどうやら本当に信じてしまったようだ

 

「どうして欲しいんだい」

 

「身を守るため」

 

彼女は淡々と質問に答えるだけだった。いつもの彼女の姿はなくまるで冷たい人形がいるように私は感じた

正直言えば気味が悪かった。いつもの彼女はこんなことをしないことを知っているからなおの事だ

 

「誰から身を守るんだい」

 

私はその次の言葉を今でも鮮明に覚えている。彼女の言った言葉に私はある種の恐怖を覚えた

 

「私を害するものから守るためにいるの」

 

「だから、売って」

 

彼女は無表情でそう言い、ポケットから数万円が出てきた。

私はそれを受け取ってしまった。なぜ彼女があんなものをほしがるかに少し疑問を持ちながらも

拳銃に関しては昔の旧友に安く仕入れてもらった。用意したのは警察や軍でよく使用されているベレッタM92

装弾数は15発だ。女性には少々厳しいかと思ったが本人にいくつかの自分が持っている銃の試射をしてもらったところ

特に問題がなかったのでこれを選んだ。弾数が多いのも選択理由である。

彼女があれをどうするつもりなのか私にはわからないがあれであの子が安心して暮らせるなら安い買い物だと思った。

セカンドインパクト以降、銃は良く流れてくる商品だ。治安の悪化と共に国内でも流通し始めた。

政府も事実上黙認状態。今はそうでもないが抜け道はまだ多い。

私が銃を彼女に格安で売ったのもそれは私が彼女の魅力に引き込まれたのかもしれない

それがどういう結果になろうと私は彼女の幸せを願っている。

 

 

彼女が何をしようとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話

 

後ろのバカは、下手ね

買い物にずっとついてくる尾行が下手な男の子。こっちは銃をカバンに入れて持ち歩いているし、身の安全は問題ない

物の影に入って適当に撒くのもいいが、それで疑われるものもいやだ。

 

「無視しておこうかな」

 

別に危害が加えられる事はないが、何かあればすぐに私が誰かがすぐにばれるであろう。

彼は私にとってもっとも警戒するべき人間の一人である事に変わりはない。

使徒の力は失われたはずだ。あの旅館で再会したときもダブリスの魂は感じられなかった。

ただ、ダブリスは心に敏感であった。能力の一片が残っている可能性もあった。

 

------------------------

 

「ええ、彼女の尾行は彼がやってるわ」

 

「一応保安部員をつけてるから問題はないけれど彼女の経歴については間違いないのね」

 

カオリ達が乗ってきた車の遠くも近くもなく離れた場所に別の車が止まっており、車の中では女性が電話をしていた

 

「でも、おかしいわよ。今まで戻ってきた人物を調査してきたのに漏れがあったなんて」

 

『何万人と検査しているのよ』

 

漏れがあって当然よと電話の向こうの女性は返してきた。

ネルフは帰還者の中に使徒の力を保有しているものがいないかを検査してきた。

それは再び使徒が現れてはならないからという名目だが

実際は自ら、ネルフの力を壊されないためと今後の抑止力のための実験材料がほしかったからといったところだ

尤も、実験材料といっても別に体を分解するわけでもなくしばらく使徒の力を観察させてもらうだけだ

 

『渚君の話ではシンジ君の話も白を切った。本当に知らない可能性もあるんでしょ』

 

「ええ、少し気になるから調べてほしいって言われて調べたけどまったくの白」

 

過去の経歴など調べようがなかった。カオリの記録はサードインパクト以降に作成されたものだけ

人の記憶もそれ以降ものだけなのだ。サードインパクトの帰還者ということだけにそれ以前の資料はまったくないに等しい

過去をなくしてしまった人間。それが彼女なのだ。

仮に使徒の力に目覚めていたとしても今のところ害はないのだから、しばらく監察が付く程度で本人に不自由は掛からない

 

『まあ、何か変わった事があったら連絡しなさい』

 

「了解」

 

彼女が電話を切ると椅子を倒して横になると冷房の聞いた車内で呟いた

 

「あなたは何を望んでこの世界を創造したの?」

 

「どうしてあなたにとってつらい世界だったのに元に戻したの?」

 

「希望、それがみつかったの?」

 

「ねぇ、シンジ君」

 

その答えが分かるときは来るのだろうか。

 

 

 

その直後、彼についていた保安部員から連絡があった。

 

警護していた人物の突然の失踪と彼が尾行していた女性が消えたという連絡が

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

「ずいぶんと気持ちの悪い事をしてくれたわね」

 

カオリが女性には似つかわしくない金属製のものを手に持ち、同じ髪の色を持った少年にそれを向けていた

 

「それは、申し訳なかったね」

 

少年は謝るものの何か確信めいたものを持っていた。

 

それはようやくたどり着けた真実に確かな確証がもてたのだ

 

「碇シンジ君」

 

もはや呼ばれることはなかった名前。

 

その名前には忌むべき名前。もはや消えた名前

 

 

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「私があなたの言う碇シンジだって言う証拠は何もないわ」

 

私はその名前を聞くのもいやだといわんばかりに強い口調で言うが、一度確信を持った彼を動かす事は

容易ではないというくらい想像できた

 

「君がそれを僕に向けている時点でやましい事があるんじゃないかい」

 

「あなたが変質者のような真似事をしなければ必要はなかったわ」

 

引き金を引きそうになるとカオルは言った

 

「神様は大変かい?」

 

その一言に私はきっと顔色が青くなっていたと思う。

 

「・・・・・・死んで・・・」

 

『バンッ』

 

カオルは自分の腹部から生ぬるい液体が流れるのを感じた。

それが何かを理解する直前に誰かに首筋を叩かれて気を失った。

私は自分のやってしまったことを理解し叫びそうになるが誰かに口を押さえられて叫べなかった

誰かに見られたということよりもやってしまったことに恐怖を感じて何が何なのか分からなくなった

口を押さえているのが誰なのか見ている余裕もなかったが、耳元で知っている女性の声が聞こえた

 

「私が何とかするから少し落ち着いてくれないかしら。押さえるのも大変なのよ」

 

その声を聞き私が振り返ると空色のワンピースではなく、闇に紛れるような黒色のライダースーツを着ていたルミナさんだった

彼女は携帯電話でどこかに連絡を取り、ついてくるように言われた

私は迷子の子供のようについていった。そのとき、正常な判断能力はなかった

ショッピングセンターの裏の通路をずっと抜けていくと従業員専用の出口がありその前に黒いバンが止めてあった

運転席にはスーツを着た男性が座っていてすぐに出すから座るように言われた。私が車に乗り込み彼女も乗ると発進した

 

「これで、あなたの身は安全よ。写真家の男性もショッピングセンターから出発していて別の場所で落ち合うから大丈夫だから」

 

それとあなたの買い物も代わりにしておいたからといわれた

私が驚いた表情で彼女を見るとトランクと指差せていてそこを見ると買い物袋がぎっしりと詰まっていた

 

「なんで」

 

 

 

知っているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話

 

「カオリちゃん!」

 

写真家の男性と落ち合う場所に着くと彼は待ちきれずに私たちが乗っている車のドアを開けた

よほど心配だったのだろう。彼の顔色は悪かった

 

「外傷はないわ。ただしばらくは心の整理が大変でしょうけど」

 

ルミナは冷静に言うが、写真家の男性の表情は明らかに怒っている表情であった

 

「あなたたちは自分達を監視していたんですか」

 

そうでもなければ自分達の行動が知られるはずがない。つまり元から尾行されていた、ということになる

それは信頼していた相手に裏切られたという事を意味していた。

彼とてルミナの存在を知らぬわけはなかった。あの小さな町だ。誰かが入ってくれば噂になる

彼女の事とて噂になり耳にしていた。彼女はあの旅館の関係者を除いてもっともカオリに近きもの。

そんな彼女がカオリを裏切ったと知れば彼女は壊れてしまう。カオリが裏切られる事をひどく嫌うことはよくわかっていた

 

「私はカオリを守るのが使命なの。それをわかってほしい」

 

彼にとってそれは苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。

 

 

------------------------

 

結局その後、私は彼の運転する車であの町に帰っていった

でも、こころの中では裏切られたというよりも、彼を傷つけてしまったという気持ちのほうが大きかった。

たとえ少しでも彼のことを知っていて使徒であった彼のことも知っているからこそ、そうだったのかもしれない

あの町に着いたのはちょうどきれいな夕日が見れる時間だった

 

「どうしてここに止まったの?」

 

もう少しで私の家というところで彼は車を止めた。そこはがけの上にある展望台の前。

彼は車を降りると少し話をしようかと言い、私を誘って展望台のベンチのほうに歩き出した。

展望台からは雄大な海にゆっくりと沈もうとする太陽。

カオリはベンチに座り、その横に男性も座った。二人は黙って風景を眺めていた

が、黙り続けていた私が話し始めた。

 

「バカな男の子が一人いたの」

 

「その子は、自分がどんなに非力なのかわかっているから誰にも関わろうとしないの」

 

「でも、2人の女の子が来て、その男の子の心を溶かしたの」

 

「でも、結局男の子は二人を見捨てるしかできなかったの」

 

「自分は非力だってわかっていたから」

 

------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「バカな男の子が一人いたの」

 

「その子は、自分がどんなに非力なのかわかっているから誰にも関わろうとしないの」

 

「でも、2人の女の子が来て、その男の子の心を溶かしたの」

 

「でも、結局男の子は二人を見捨てるしかできなかったの」

 

「自分は非力だってわかっていたから」

 

それは自分の苦しみ、逃れる事のできない罪なのだ

 

「バカな男の子は二人を殺してしまった事に後悔でいっぱいだったの」

 

「苦しんで苦しみつくした彼は再びすべてを元に戻そうとしたの。まるで赤ちゃんが崩れた積み木をつみなおすかのように」

 

「でも、元には戻らなかったの・・・そうよね。自分が元の形がどんなものなのかわかっていなかったのだから」

 

「もういいよ。カオリちゃん」

 

彼はそういうが私は話をやめなかった

 

「それでも、バカな男の子はもとにもどそうと」

 

「もういいんだ!カオリ!」

 

彼は強い口調でそういうと私を抱きしめた。もう泣いている君を見たくない。彼はそう言った

私は泣いていたのだ。『バカな男の子の話』をしながら泣いていたのだ

もういいんだよカオリちゃんとやさしい口調で慰めるかのように言っていた

私は自分が泣いているという事を理解してはいなかった。いや今までの話には一切感情がこもっていなかった。

まるで機械から発せられる言葉のように単調に話していた

 

「もういいんだよ。かおりちゃん」

 

「君は君なんだよ。『水川カオリ』なんだ」

 

そのとき、少しだけ私は彼の言葉の真意を感じた

 

彼は・・・・・・私のこと・・・

 

 

 

だがそれは叶わぬこと。人と神様は違うのだ

 

 

------------------------

 

「それで、彼の容態は」

 

真っ白い部屋で一人の少年がベットで寝ていた。腕には点滴がされておりここが病院だという事がわかる

部屋の中には少年以外に2人の女性が立っていた。金髪で白衣を羽織っている女性はネルフで技術部長をしている赤木リツコ。

もう一人は先ほどベットで寝ている彼と共にいた葛城ミサトだった

 

「幸い、彼らの通報で早期発見されたから命に差し障る事はないわ」

 

「で、あいつらはなんて言ってきたの」

 

「ネルフの護衛ってそんなものなのですかという嫌味よ」

 

「監察局の連中!」

 

それはネルフという狂犬につけられた飼い主。

 

だが、それもあの子を守るために存在するのだと彼らが知るのはまだ後の話だ

 

 

 



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海岸の町(パート2)
第9話


 

 

「よろしいのですか。局長」

 

一人の青年が少々年季の入った人物に向かって言っていた。

 

「かまわんよ。我々が何も知らぬと思っている連中の事だ。それに例の子には彼女が警備任務についている。問題はなかろう」

 

「ですが今回の件で我々の行動が露見する可能性も」

 

彼はルミナが行った行動に対しても不満を持っているようだ

ここは国際連合直属ネルフ監察局。ネルフの行動を監視し、権力がきちんと履行されている事を確認するところだ

先の大戦時の行動についてネルフがすべて信用された訳ではなく、ある人物の言葉がそれをなくしてしまった。

だが、それを表に出す事を恐れたのか国連は密告者を私に保護させ新たなポストを割り当てた。

彼女は私の元で監察局所属特別監視員としてある人物の警備に当たっている。もちろん、警備対象者には内緒でだ

ところが、昨日の報告で露見したというのだ。まあ、報告を受けた時点でやむをえないものだったと処理されたが

 

「なぜ彼女に任せるのです」

 

ルミナにそれほどの重大機密をなぜ彼女一人に任せるのかと言いたいのだろう。

彼にとってルミナは正体の知れない女性でしかない。私がどれほど彼女の事を説明しようと受け容れる事はないだろう。

私が彼女から聞かされた内容を言ったとしても・・・・・・

 

「彼女自身がそう望んでいるからだよ」

 

私にはそう返すしか言葉はなかった

 

 

------------------------

 

「はい、ネルフへはそのように、」

 

海が見える丘の上の小さな家、それは海岸の町に住んでいるルミナの自宅。

私はとある相手と電話をしていた。相手は私の上司。

 

「以後気をつけます。はい、それでは」

 

『ガチャ』

 

受話器を戻すとため息をつき、ベットに座った。ベットの上におかれた2冊のファイルを取り出した

それは毎月監察局が送ってくるネルフの行動記録と彼女に関連するような行動がされていないかを記録したもの

ただ今回の事でネルフ自身が動き出すの当然だろう。明日か明後日には彼女の事情聴取か連行という可能性もある。

それはなんとしても阻止しなければならない。今のネルフに彼女を連れて行くのは愚策としかいえない

 

 

 

「私は、『彼』を守りたいの」

 

視線の先にはカオリが住んでいる旅館が見えた。この家からは良く見える位置に旅館が建っている。

 

 

 

いや、逆なのだ旅館が見える位置に家が建っているのだ。それは・・・・・

 

「主よ、あなたの望みの通りに」

 

その言葉の意味は彼女への気持ち。私を守ってくれた事への恩返し

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

もう少しであの旅館につくがあたりは真っ暗だ。たぶん彼女の両親も彼女のことを心配して待っているだろう。

彼は彼女の両親にどのように説明をしようかと悩んでいた。彼女を見れば確実に何かあったと感じるのは当然だが。

自分にはきちんとした答えは持ち合わせていないただ、もっているのは彼女だけだ。

あの夫婦なら無理には聞き出さないだろうが心配をかけることを嫌う彼女は無理に明るく振舞う可能性もある

 

どのように彼らに話そうか。私はそれだけを考えながら運転をしていた

自分は結局彼らから何かを聞かされたわけではなかった。

ただ、あなたの連れてきた子に危険が迫っていると言われただけだったが、私は彼らを信頼する事ができた

普通ならば信頼できないはずなのだが、彼らが来る直前にずっと尾行していた車が突然走り出したのを確認していたからだ

おそらく尾行していた対象者は彼女である事は明白だった。そして自分はその人物の顔に見覚えがあった。

ニュース等で見たわけではなく戦場で見たのだ。あの神の使いと謳われた二人の女性のパイロットの作戦指揮官だった女。

そして、俺達の仲間を殺した女だったのだから

 

あいつの顔は死んだって忘れはしない。

 

カオリちゃんには話さなかったが、俺は一応元ゼーレ側の人間だ。

もっとも傭兵として雇われていたが組織の最大の機密を知った事で仲間たちと反乱を起こした。

ゼーレの施設、現在のネルフドイツ支部の施設を占拠したがあの女が指揮する奴に殺されあいつ自身も参加していた。

俺はなんとか逃げる事ができたが特定の場所にずっと居らず町を転々とした

そして2016年、ゼーレが壊滅しネルフが英雄となったことをテレビで知ったときあの女が映っていた。

意気揚々とテレビでコメントしているところを見た俺は現実から離れる事にした。

日本では『帰還者』にたいして戸籍を提供していたことから、それを利用して自身を帰還者に見立て戸籍を得た

いろいろな場所に放浪したがその時にこの海がきれいに見えて自然が多く残っているここに居ついた。

ネルフが本当の英雄でない事は自分は良く知っている。ネルフのことはゼーレの機密を知ってから存在意義を知ったのだから

 

補完計画の遂行のための特務機関、そしてマルドゥック機関の真実。

それらを知っているからこそ今回彼女が遭遇した事態は何となく推測できる

彼女が銃を発砲しなければならない事態が買い物途中で発生し人を殺めたという事実が彼女を傷つけた。

ルミナさんはなぜかその場に遭遇した。おそらく彼女はカオリちゃんの護衛といったところだろうか。

そこから考えられる事はカオリちゃんがネルフになんらかに関係しそれもかなりの機密事項に当たるという事だろう

 

 

 

まあ、これは推測だが本当のことはわからないが自分はこれからも彼女の事を守っていこう。たとえ・・・・・

 

たとえ、彼女が茨の道を歩こうと自分はそれについていこう

 

それが自分にできる彼女への恩返しだ。

 

自分は彼女と出会い最高の思い出を手に入れることができた

 

ただ、いまはそれに感謝したい

 

 

 

私は運転しながらそんな事を考えた

 

 

 

 

 

 

 



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第10話

 

 

彼女の旅館の前に着いた頃にはもう夕日が落ちていた。

あたりは暗闇が降りていたが旅館の明かりがこちらを照らしていて安心できた。

彼女はまるで死んだように眠っていた。あの展望台を出てからしばらくして眠り始めた。

心の闇を私はあのときに少しだけだが理解できた。おそらく、しまいきれていないのだ。なにもかも

 

私は彼女を車の助手席に置いて旅館の受付に行くと青い顔をしたご両親がすぐに「カオリは!」と言われた

事情を話し彼女が今は眠っていることを伝えると彼女のお母さんがこう言った

 

「ごめんなさい。あなたまで巻き込んで」

 

その言葉に私は彼らが何かを知っていて、おそらく彼女のことも知っているのではないかと推測したが今はどうでも良かった

それよりもカオリちゃんを彼らに返す事を優先した。彼女を迎えに行こうとしたときドアが開き、青い顔をした彼女が立っていた

私は眠っているとばかり思っていたので驚いたが彼女は母親に抱きつくとすぐに泣き始めた

その光景は小さい子供がする行動と同じだが、一人で寂しかったのだろうか。私は彼女をやはり起こすべきだったかと後悔をした

そのまま彼女は泣きつかれたのか眠りについた。彼女の父親であるコウスケさん今日は泊まっていかないかと言ったが。

私は丁重にお断りした。母親のユミさんもあの子と一緒に居てあげてもらえないかしらと言われたが。

こういうときは家族と一緒のほうが良いですよと私は返した

 

 

 

私はいつでも彼女と会えるのだから、

 

そう心の中で思いながら

 

買い物の荷物を彼らに渡すと私は自らの自宅に車を走らせた。

もう辺りは暗闇というカーテンが下りていたがいつも通る慣れた道なので何事もなく帰った

 

 

------------------------

 

自宅は展望台の近くの丘の上にある。車を自宅の前において降りたときなぜか人の気配をした

ここの周辺は誰も住んでいないしこの辺の住人がこんな遅くに訪れる事はない。

 

「ゼーレか、ネルフか」

 

私は自分にしか聞き取れないような大きさでそう呟いた。ネルフにとってゼーレ側の人間は断罪しなければならない

だが、自分がゼーレであることは記録には残っていないはずだ。

私は周囲を警戒しながらも自宅の玄関の鍵を開けようとしたとき後ろから足音が聞こえた。

すぐに振り返ると一人の女性が立っていた。

手に黒い金属性のものを持ちそれを私に向けながら

 

「元ゼーレ特殊部隊所属」

 

「不思議な経歴の持ち主ね。写真家の相葉ユウさん」

 

 

 

そこに立っていたのは今日彼女を救ったはずのルミナさんだった

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

私は周囲を警戒しながらも自宅の玄関の鍵を開けようとしたとき後ろから足音が聞こえた。

すぐに振り返ると一人の女性が立っていた。手に黒い金属性のものを持ちそれを私に向けながら

 

「元ゼーレ特殊部隊所属」

 

「不思議な経歴の持ち主ね。写真家の相葉ユウさん」

 

そこに立っていたのは今日彼女を救ったはずのルミナさんだった

 

 

 

彼女は銃をこちらに向けながら少しずつ近づいてきた。

私は彼女がなぜ自らの過去を知っているのか、そして彼女はこれから何をするつもりなのかという事を考えていた

もし彼女がネルフの構成員だとしても彼女を助けた。その時点でそれは成立しない。

だとすれば今ネルフと仲の悪い組織は一つだけだ。

ネルフ監察局。表向きネルフの特務権限悪用を阻止するために設置された国連直属の外局。

ただ通常の外局とはまったく異なりネルフの権限を取り消す事さえ可能な強力な機関。設立当時から黒い噂が流れていた

本当はネルフと共謀しすべての事実の隠蔽工作をしているのではと、ネルフの外局などと揶揄されることもしばしば

実際は監察局は不公正な命令の取り消しを行っておりこれらの噂はネルフが流したものと考えられている

 

 

 

「あなたがなぜ彼女に接触したのかいろいろと調べたわ」

 

「あなたの目的は何?」

 

「なぜ、彼女と関わるの。元ゼーレのあなたが」

 

銃を向けながら私に言葉を発する彼女はまるで審判の代理者のように私は感じられた

かつて自分の行ったさまざまな所業。それは人として、あるまじき行為。

自分の中ではいつかは罰せられるとそういう思いがあった。

 

「僕は彼女を愛している。それとゼーレはもう嫌いだ」

 

「そんな上っ面だけの言葉を信じろって言うの。一度ゼーレに染まった人間が」

 

「苦し紛れのいいわけだが、もう組織を離れて何年も経つ。それともし彼女を殺すならもうとっくにやっている」

 

「でも信頼させるのに時間がかかった。そういう可能性もあるでしょう。ゼーレなら彼女を利用しようと考えるはず」

 

「君が彼女の何を知っているのか分からないが、僕はどんな事があろうと彼女を愛している」

 

私は彼らとはもう関係ない彼女に言うと歩き始めるために足を一歩出すと彼女はこういった

 

「何が愛しているよ。彼女を壊そうとした奴らの仲間だったのに!」

 

その直後私の足元に弾痕ができていた。

 

「世界を救いきれずに泣き続けているあの子を知らないくせに!」

 

 

 

それはこころからの彼女の悲鳴だった

私は何も知らなかったのだ。彼女の事も、

 

そして

 

この世界の事も

 

 

 

 

 

 

 



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ネルフ編
第11話


 

私は徐々に近づいてくる彼女に何もしないままずっと立っていた。まるで銅像のように。

近づいてくる彼女の姿はあのときの彼女とダブったまるで人形のように、氷のような女性。

私にはそんなように見えた。私はこのまま彼女に殺されるのかと思い始めたとき、銃をしまったのだ。

 

「家で話を、いいわよね」

 

小さな声だが強い口調で彼女は言うと私はどうぞと彼女を自宅に招きいれた

私と彼女は共に家に入った。私が先に入り彼女がその後ろから着いてくる形でだ。扉を彼女が閉めるとカギをロックをした。

中は静まり返り私と彼女の呼吸をする音だけが響いていた。まるで遊園地にある幽霊屋敷のようだ。

私はリビングの電気をつけるとお互いが向き合う形でイスに座った。

 

「私は、彼女を守るために存在するの。どんな連中からも。でも、唯一つだけ許せないのがあなたがあれを売ったこと」

 

彼女は私が売った銃をイスとイスの間にある机の上に置いた。

 

「私は彼女にこんなものをもってほしくはなかった。ただ、何も苦痛を感じずに普通にこれからも成長してほしかった」

 

それから1分だか5分だかどれほど時間が過ぎたのは分からなかったが沈黙が舞い降りた。私は意を決して彼女に聞いた

 

「彼女は・・・・何を持っているんだい?」

 

それは真実の本当の入口にノックすることであった

 

 

------------------------

 

彼がこの旅館を後にした後、私は自分の仕事を他の仲居に任せるとカオリをお父さんと一緒に部屋に連れて行った

カオリは顔色は真っ青で、少し震えていた。とても歩けるような状態ではなかったので今はお父さんの背中にいる

帰ってくる前に連絡があった。近くに住んでいるルミナさんから連絡があった。彼女の真実がネルフに暴かれるという電話が

電話を受けた私にとって彼女がなぜそれを知っているのかというよりもネルフに事がばれる事のほうが重大であった。

かつてのことは私もある程度知っている。もし真相が漏れればカオリがどうなるかは想像もつかない

ネルフ、監察局、そして国連、その騒動の中心人物になり泥沼に巻き込まれる。その結果がどうなるか。

あの子が封印し続けた真実がさらされることだけはあってはならない。

 

 

以前、私はあの子に聞いたことがあった。真実が明らかになってほしいのかと・・・・

それを望む事は今の世界の崩壊を招くこと。それに・・・私には何が悪くて何が正しいのかは分からない

ネルフもいけないことをした。良い事もした。表裏があって当然なのだと

表裏があるからこそ今の世界があるのだと。そう言ったカオリの目は悲しそうな目だった。

それ以後、私たちがあの子の真実に触れる事はなくなった

 

 

その真実の一端が彼らに知られた。

私はカオリにこれ以上の負担が掛からない事を願った

ただ、心のどこかでは叶わぬ願いだと知りながら

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

渚カオルが撃たれ、病院に搬送されたから2日が経過していた。

搬送先の病院は一度は緊急だったこともあり地上の病院での処置となったが、

チルドレンという事もあり容態が安定してからジオフロント内にあるネルフ直系の病院に移された

彼が撃たれたとの連絡の直後、私の部屋にもう一つの連絡が来た。

私はその内容に愕然とし、またすべての真実のもみ消しに謀るための行動表を作らなければならなくなった

この事件をネルフに恨みを持つ人物。またはネルフの存在をやましく思う人物の犯行に、

そのためには被害者であり、犯人を目撃した渚カオルの証言に手を入れておく必要があった。

ネルフ監察局の特権である捜査権優先事項に関する規定があったことが幸いした。

ネルフ本体に関わる事件は監察局に捜査権があるのだ。この権限によって渚カオルの事情聴取はこちらに優先権が存在する

 

 

 

彼が病院の特別病棟に着くと病棟の入口には私の部下である女性が立ち出入り規制を行っていた。

入口にはネルフ作戦部長の葛城ミサトと赤木リツコが居り言い争っていた。

 

「なんでネルフ関係者が入れないのよ!」

 

「局からも連絡が行っていますのでご確認をされてはどうですか」

 

私は部下である彼女の発言を聞きため息をつきたくなった。彼女はティア・フェイリア。

今、第1級監視対象である水川カオリの監視を行っているルミナの友人でもあり、ネルフの真実を聞いた一人でもある。

その所為なのかネルフに対して嫌味を言う事は日常茶飯事である。

おかげでいろいろと苦労するのが私なのだがそんな事知りませんと言ってくる始末だ

 

「ティア」

 

私が彼女の名を呼ぶと敬礼をして返すが遅いですよといった表情をしていた

 

「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。すぐにご退出願いますので、奥でどうぞごゆっくりとしてきてください」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

「正しき捜査がなされる事をネルフとして要求しますから!」

 

葛城ミサトが病棟内に入ろうとする言うが私はその言葉に苦笑した

正しき捜査などされるはずがないのだ。ネルフにとってもこちらにとっても、

 

そして・・・・・・・・

 

彼女に害が及ばないようにシナリオを作り、それを実行させる事が私の使命なのだから

 

 

------------------------

 

病室に着いた私は扉にノックをした。中からは返事はなかったが失礼するよと言い室内に入った。

部屋の中は白で統一され、一般の病室で言う大部屋とほぼ同じ広さだ。

もちろん部屋には窓があり、そこからは私たちの本部である監察局が良く見えた。

病室内にある一つのベットには少年が居り、起き上がり外を見ていた。

 

「監察局の局長が来るほどの事件でしょうか」

 

少年は外を見ながら私にそう言った。

この少年の言うとおり今までなら監察局内にある捜査課が担当するはずで私がここに来る事はなかった

それは今まで発生した数々の騒動事件にも同じ事が言えた。これまでにもネルフチルドレンが狙われる事件は多々あった。

がこれらに関して私自身が出る事はなく捜査課によって処理されてきた

 

「チルドレンが撃たれたにしては報道管制、情報操作がいつもより厳しい。まるで事件そのものを隠匿しているかのように」

 

「さらに僕が意識を取り戻してから誰にも会わせようともしない。僕の口から犯人の名が漏れるのを阻止するかのように」

 

「監察局は犯人が誰なのかを知っているが、なにかの事情でそれを隠匿する事にした。」

 

「違いますか。国連直属ネルフ監察局、局長の蒼崎さん」

 

私にはこれからのことが恐ろしく感じた。

世界がまた『泣く』のではないかと、そう思ってしまったから

 

 

 

 



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第12話

 

「チルドレンが撃たれたにしては報道管制、情報操作がいつもより厳しい。まるで事件そのものを隠匿しているかのように」

 

「さらに僕が意識を取り戻してから誰にも会わせようともしない。僕の口から犯人の名が漏れるのを阻止するかのように」

 

「監察局は犯人が誰なのかを知っているが、なにかの事情でそれを隠匿する事にした。」

 

「違いますか。国連直属ネルフ監察局、局長の蒼崎さん」

 

私は少年の推理力に驚きの声を上げそうになった。説得は困難だとは思っていたがこれほどとは思いもよらなかったからだ。

多少の事実は引き出されるのはやむをえないと考えていたが、そう簡単ではなかった

 

「仮に君の言うとおりこちらが隠蔽工作をしているとしたとして、いったい何の得があるのかね」

 

「事実が漏れれば、いずれ別の真相が漏れる。それを防ぐために工作を行ったのでは」

 

彼は私の言葉にまるで答えを用意しているかのようにすらすらと反論した。それもほぼ正解に近い答えで。

真相がもれることは世界の破滅を意味する。それは彼女の護衛を担当しているルミナから聞いたことがあった

なぜ漏れただけでそうなるのかと聞き返したとき、想像もできなかった言葉が帰ってきた。それを聞いたとき背筋が凍りついた。

数ヵ月後にとある事実がそれを証明したのだ。ただ、その代償はあまりにも高くついてしまった。

 

数万人という被害者を出すという結果に

それ以後、彼女には徹底的な警護がつけられ、あの町に入居、また通る車などはすべて監視されている。

 

「監察局は水川カオリがサードチルドレンであり碇シンジの生まれ変わりであることを知っている。違いますか」

 

私は彼との対話が本当の悲劇へのスタートではないかと思ってしまった

 

 

------------------------

 

私がようやく目を覚ました頃には夕日が見えていた。この時は今が何日で何時なのかは特に気にならなかった、が

いつまでもじっとしていても仕方がないので、布団から起き上がると玄関近くにある洗面所にいった。

そこにあった鏡に映った自分の顔を見た私は、本当は誰なのだろうかと、そんな思いを感じた

碇シンジとして何も残っていない自分。記憶の中にしかそれはないのだ。

私は本当に碇シンジだったのか、なぜあのときのことをきちんと覚えていないのだろう

そんないくつもの疑問がわいてきた。水川カオリとして生きてきた自分。碇シンジとして生きてきた自分。

そしてこの世界の神様として存在する自分。三人の自分が存在するなかで本当の自分はいったい誰なのだろう。

そこまで考えて私はその思考を片隅に追いやった。

 

「今はまだいいんだ。私は水川カオリなんだから」

 

そう、今はまだ自分は碇シンジでもない。世界の神様でもない。この町で生活する水川カオリである事には変わりないのだ

私は今はそう納得した。

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

カオリが旅館へ戻った翌日、テレビ・新聞の記事にはネルフチルドレン暗殺未遂の記事が飾られていた。

ニュースでも犯人についての討論がされていたが、どれもこれも他国による戦略的な価値を狙った暗殺ではないか。

ネルフに恨みを持つものの犯行などと意見を述べるものばかりだった。

どれもこれもネルフ監察局の発表を鵜呑みにしているものであった。真実のかけらもないものばかりの

カオリがロビーに来ると団体の宿泊客が出発ようで多くの人が集まっていた。

彼女はため息をつくとテレビが見えるソファーに座りつまらなさそうに番組を見ていた。

 

『やはり、戦時下のネルフの対応のまずさが出てきたのではないのでしょうか』

 

『戦死者を低く発表していたという報道もあるようですし』

 

『エヴァを独り占めしていることに反発したのでは』

 

今までもネルフを狙ったテロ、暗殺があったこともあり大衆にも今回もそうだろうという空気が流れ始めた。

人々にとってもはやネルフはそれほど重要視されるようなものではなかった

使徒という正体不明の生物が侵攻することがなくなった今においては組織は重要視されるものではない

国連でも最近になってネルフの予算の一部縮小案が提出されたが、常任理事国であるアメリカが拒否権行使により廃案になった

ただ、未だにセカンドインパクトの復興が遅れている各国にとっていまや必要とされていないネルフに予算は出せないと。

国連分担金の拠出拒否を行った国はすでに2桁を超えている

世界が未だに安定していないという事がそれによって証明されている。

 

 

 

どれほど自然が回復しようと人々がそれを壊すならばその再生に果たして意味があるのだろうか。

国家という概念だけではどうする事もできない問題を1つの国が、1つの組織が妨害することは最良の選択なのだろうか

彼女は討論番組を見ながら彼女自身は気づいていなかったのかもしれないが呟いていた

 

『世界はやがて復讐する。それに気づいたときはもう遅いのだ』

 

そう呟いていた。

 

 

------------------------

 

病室内で話し合いを行っていた私は少し疲れた表情で病院を後にした

渚カオルとの話し合いは、彼自身が彼女の重要性に関して知っていた事もあり隠蔽が完了した。

ただ、それは彼女自身の秘密を知っているものが増えたに過ぎない

そしてネルフ自身も彼女の事を知っている事を私は話し合いを知った

 

『ネルフは彼女の件を調べています。僕達が彼女のいる旅館にいく前にそういう少女がいると話を聞きましたから』

 

この情報に私は内心では焦りが出始めた。

今まで監察局の最高極秘事項として処理してきた事がネルフによって露呈しようとしている

もし彼女に何かの事態が発生した場合、その後の混乱をおそらく・・・・・

 

 

 

かつて彼女に危害が加えられた際、同時に世界各地で火山活動の活発化、地震の多発、プレートの急激の変動が確認された

現在は小康状態までに落ち着いているが、未だに各地に爪あとが残っている。

アメリカでは火山が爆発し1つの都市を飲み込んでいる。日本は地震による被害はなかったが天候悪化などの影響があった

最も被害が大きかったのはヨーロッパだ。ヨーロッパで今まで火山活動が確認されてこなかった山で、火山爆発が発生した

直接の被害者だけで10万人。間接的な被害者も含めれば100万人以上に膨れ上がる未曾有の大災害であった。

現在でも復興作業が行われ、火山は休息する事もなく未だに活動を続けていた。

爆発の可能性も残ってはいるが、月日が経ち、マグマの水位が下がり警戒レベルは引き下げられている

 

 

 

だからこそ、彼女の警備にはいくらでも出さなくてはならなくなった。

もはやあの大災害を起こすことだけはあってはならないのだ

 

 

 

 

 



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海岸の町(パート3)
第13話


 

 

昨日の天気の悪さがうそのように今日は雲ひとつない晴天であった。ただ、それは世間一般の人の考え方であった。

 

私にとっては朝起きてから最悪の報告を受けていたこともあって外の天気と気温にいらだっていた。

それから目の前で座っている女性を見てこれからしばらくの日々を想像し疲れた表情をしていた。

 

「なに、私がいたらそんなに邪魔なの」

 

顔を見てため息をつかれた本人は不機嫌そうにそういった。彼女は私の同僚でもあり友人でもあるティア・フェイリアであった

友人といってもこの護衛任務をしてからはあまり会う機会はない。

定期連絡を行う際に本部に戻ったときに会う程度であったこともあり、親しい関係ではなかった。

ただ、私が局長室で彼と話しているときに偶然聞かれてしまってからいろいろと『脅されて』話してしまった。

それからネルフに対してある意味では陰湿ないたずらをするようになった。仕事はこなしているため、クビにはできなかった

 

「まあ、戦自にこの辺の封鎖も人身移動の臨検も準備万端だからいつでもやってくれてかまわないそうよ」

 

私はその報告を聞きさらに気を落とさざるえなかった。

ある意味ではトラブルは発生するから後は任せたと取れるような行動である。

戦自による道路封鎖準備が完了しているということはこの辺の基地に出動準備命令が出ているということ

 

「それで、あなたがこちらに派遣ですか。まるで戦争準備みたいね」

 

私は席を立つとリビングからすぐ近くにある窓から外を見ていた。

そこからは海が一望でき、なおかつ『彼女』の自宅が見えた。窓に映った私の顔は怖い表情をしていた。醜く汚い顔

 

「もう、時間はないのですね・・・・・・・・」

 

私が独り言のように小さな声で言ったがティアに聞こえていたようで、私が思案していた言葉が彼女が続けた

 

「そうよ。私たちには彼女を守りきれる領域を超えてしまったのよ」

 

「だからといって、ネルフによる独自調査は承認を得なければ禁止されているはずでは」

 

「あいつらが黙ってないわよ。ネルフの捜査参加要請があったくらいだから、もうこっちに派遣されてるかも」

 

ネルフ保安諜報部、かつて保安部と諜報部は別であったが使徒戦後統一された部署である。

その能力の高さは使徒戦後に存分に発揮しているネルフを英雄のように情報操作しゼーレをすべて悪にした。

保安諜報部だけでなくMAGIの力もあったが。さらにゼーレ側の人間の大半を処理したのは保安諜報部であった。

国連や各国政府は指名手配を後にしてごく一部の人間を逮捕しただけで重要人物はネルフによって処理されていた。

その言葉を聴いて私はさらにため息をついた。もはや時間は残っているようには思えなかったからだ。

 

「守るしかないのね」

 

私はまだ決めかねていた。彼女を囮にすることに。ただ・・・・・・

ただ、破滅の時計は動き始めた。それに気づいているものは数名しかない。

まだ何も起こっていないこの世界に人々は明日も同じ日々が続くと思い込んでいるだろう。

同じ日が続くはずがないのに。人はどこかで慣れてしまう。事件でも事故でも頻繁に起こっているから慣れてしまう。

だからこそ人は過ちを犯すのだ

 

 

------------------------

 

「カオリ」

 

私は思案に耽っていたみたいで、目の前にお母さんの顔があることに始めて気づいた私は思わず驚きの声を上げてしまった

お母さんはそこまで驚くことはないのにとちょっと不機嫌そうに言う。私はごめんなさいと一言謝ると周りを見渡した。

周りにはもう宿泊客はおらず仲居さんが午後からのお客の受け入れ準備に必死に作業をしていた

またいつもの癖が出てしまったようで、お母さんが苦笑いをしていた。

 

「今日はお散歩はどうするの?」

 

「気晴らしに行くから」

 

私がそう言うとお母さんはあまり良い顔をしなかった。その意味も私は十分理解していた。

たぶん、お母さんには私の行動が大体想像ついているのだと思う。勘はよかったから

 

「行くならちゃんとお昼を食べてからいってね。倒れたりしたら1週間は外出禁止だからね。わかった?」

 

お母さんはどこまでも私を普通のこのように扱ってくれる。たとえどれほどの真実が私の中にあるのを知っていても

私がいることでお父さんやこの旅館が危ないことを知りながらずっと居させてくれる。

 

 

 

今は私はただ、感謝するだけだ。

2人と多くの思いが詰まったこの旅館とともに歩めるときを

 

 

 

 

 



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第14話

 

 

私があの展望台についたころにはもう徐々に日が落ち始めていた。きれいな色彩をしている夕陽が・・・

展望台に設置されているベンチに腰掛けると、なにもせずその光景を見続けていた。それと同時にある考えが浮かんでいた

 

『彼女』のことについてのだ

 

私自身、彼女の素性をまったく知らない。

この町に移ってきた時も私は噂でしか知らなかった。実際にあったのは本当に後の話だった

あの時もこんな時間にこの場所であったのだ。彼女があの時、何を考えていたのかはわからない。ただ悲しい目をしていた。

どこか深い闇を抱えているような。それは今の私のような目だった。

 

「あなたは、神様を信じるの?」

 

そう尋ねられた。神様、それは居るはずのない存在。人々が架空の人物であると思っている存在

私にとっては重き言葉でもあった。この言葉を否定すればある意味、自分を否定するようで嫌いであった

でも、あの時、私は肯定の言葉も出ることはなかった。

あの後のことはあまり覚えていなかった。ただ覚えていることは普通に話したことだけだ。ちょっとした世間話

 

「水川カオリさんかしら」

 

私は思考中に突然呼ばれたことに驚き声の元に振り返ったとき何もかもが凍りついた。

そこには

 

「はじめまして、私、碇レイ。よろしくね」

 

私にはもう、何もかもが壊れ始める音が聞こえてき始めた

そして、私は彼女と会ったことを後に本当に後悔している

 

---------------------------------------------------------------------------

 

私と彼女とこれからの対応を相談しあっている時、戦いの鐘をなったことを一本の電話で知った

だが、その知った時、すでに崩壊への序曲は演奏を開始し始めていた

まるで、終わることを知らぬ曲のように

 

「なぜ、そのような事を止めることが!」

 

『申し訳ないと思っている。だが、彼女が動いたことで彼らは動き始めている』

 

私はその時、はらわたが煮えくり返るような怒りを感じていた

よりにもよって、こんな時に彼女と接触するなんて!

 

------------------------

 

「私に、何か用ですか」

 

彼女はかつてのように静かな女性であった。

今や世界の英雄であり、世間では守護天使と呼ばれている彼女。ただ、私は映像で見たのは数回だけであった

ネルフによる報道規制があったのもだが彼女はメディア嫌いであるとネルフ側の発表であった。

ネルフに嫌われることを恐れたメディアは彼女を報道対象から除外した

本当の真相はわからないままだが。

世界の重要人物が誰の護衛もなくこの町に居ることが私には何よりの疑問であった。

一人のチルドレンがテロと騒がれている今この状況で何の護衛もつけずに一人できた。

私には何かの罠なのか、それとも・・・・・・・

 

「カオルをやったのはあなたね」

 

かつて大戦時に見せた無表情の彼女が私に冷たく、冷静に言った。

返す言葉はなかった。あの時、何の罪もない彼を、ただ苦痛の一言を言っただけで彼の生命を脅かし、傷つけてしまった。

ただ、そのことが心を一杯にしていた。彼女が犯してしまったことは自身によって正当化されるものではなかったからだ。

自己満足のために彼を死に追いやろうとした自分が許されることは、永久にないのだから

彼女は返答のないことに苛立ちをし始めたのか、先ほどよりも強い口調で同じことを彼女に言った

 

「あなたがやったのね。水川カオリさん」

 

「いえ、碇君」

 

その言葉に私は怯えた猫のように震え、その場にしゃがみこんでしまった。

 

 

 

 

 

 

 



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第15話

 

「やめて!」

 

私はしゃがみこみ、震えながら拒絶の言葉を放った。しかし彼女は追及の手を緩めることはなかった。

 

「碇君!」

 

彼女の言葉に私は突然立ち上がった。このときには私はもう何もかもわからなくなっていた。

ただ、守りたかった。今の自分を守りたかったのだ

 

「あなたがいなかったら」

 

「あなたがいなかったら、私はまだ水川カオリで居れるのよ!」

 

私は強い口調で言い放つと彼女の首に手をやり、首を

 

『締め始めた』

 

「何で邪魔するのよ!私はこの町で普通に生きて普通に暮らしたいだけなのに。どうして、邪魔をするのよ!」

 

「やっとなのよ!やっと幸せになれるかもしれないのに!あなたたちのせいで!」

 

「みんな、みんな、嫌い!ネルフなんて大っ嫌い!」

 

彼女は必死になっても私の手を引っかいたりして、手を離させようとしたが、私は力を緩めなかった

あとになって考えてみれば、私はようやく手に入れた幸せを守るために必死になりすぎていた。

今まで築いてきたこの町での水川カオリという自分。それを壊すことは私の存在価値を壊すのに同等であった。

私にとって碇シンジであったころの自分は心のどこかで捨ててしまいたいものであった。

 

徐々に彼女の顔色が青くなり始めた時、展望台の入り口に急ブレーキで車が止まる音が聞こえた。

私は一瞬そちらの方向を見た時、先ほどまでとは逆に私が青くしていただろう。

 

「「カオリ!」」

 

そこには、いるはずのない。私にとってかけがえのない今の両親がたっていた。

ルミナさんとともに

 

----------------------------------------------------------------------

 

私はお母さんとお父さんを見た時、ようやく自分のやっていることに気づき、そして何かが崩壊する音が聞こえ始めた。

自分の秘密を守るためとはいえ私は彼女を生命の危機にさらしてしまった。

その行為をお母さんとお父さんに見られてしまった。

私はまるで凍りついたかのように動けなくなった。

私が動けないで居るとお母さんが近づき、首にかかっている手をはずし、私を抱きしめた。

一方、レイはルミナさんによって保護された。

 

「カオリ、もう大丈夫だからね」

 

私はその後、まるで劇場のカーテンが下りるかのように目の前が暗くなり意識を失ってしまった。

 

---------------------------------------------------------------------

 

私はカオリを抱きしめた直後、大事な『娘』をここまで追い詰めた彼女『碇レイ』をまるで仇を見るように睨んでしまった。

もっとも、お父さんもそうであったということは後に聞いた話だが。

昔の話を聞いて彼らを恨んでいないといえばうそになる。でもそういうことがあったからこそ私たちはカオリに出会い。

今のこの生活ができていることも事実であった。この言葉にできない気持ちが私は嫌いだった。

 

「碇レイ、あなたを一時拘束するわ。いいわね」

 

ルミナさんがそう言うと彼女は素直の指示に従いルミナさんの家のほうに歩いていった。

私たちもその後すぐに自分たちの家にカオリとともに戻っていった

これからはじまるであろう激動の日々を思いながら

 

------------------------

 

「そうです。彼女はこちらで保護しましたので」

 

ルミナが自宅に戻るとレイの監視をティアに引き続き、直属の上司であり今回の問題の対処を依頼する人物に連絡していた。

連絡を受けた側は碇レイの行動にため息をつきながらも情報操作等はこちらでと返す。

身柄は後ほど引き取りに行くと通告すると通信を終えた。

ルミナは外の星たちが輝いている風景を見ながら電話の相手を同じようにため息をついた。

ここ数年、まるで行動のなかったネルフの行動。

私はこれまでも、そして、これからも彼女がネルフに巻き込まれることもなく。

そして『本当の真実』に気づくこともなく生き続けてくれればよかった。でもそれはすでにかなわぬ願いになりそうだ。

彼女はおそらく遠くない日にその真実に気づき悲しみにくれる様子が私には想像できてしまった。

 

 

 

いつか真実に気づいたとき、この世界が彼女を守り続けることを祈るほかなかった。

私には彼女ほど力はないのだから。

世界と向き合える力は私には・・・・・・・・・・

それでも私は願う。私は彼女と同じように暮らして・・・・・・・・・・・・・同じように大人になりたかった。

彼女を見ていたあの時からそして、

 

 

 

これからもそう願い続ける。

 

 

 

 

 



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ルミナ編
第16話


 

 

「あなたは何もかも知っているのね」

 

 

 

碇レイがリビングのソファーに座りながら私にそう言った。ティアは彼女の言動に少し睨み付ける様に見ていた。

私は少し席をはずしてというと彼女はため息をつきながら奥にいるから何かあったら呼ぶのよと、リビングを出て行った

 

「それを知って、あなたたちに何の利益があるのかしら」

 

すべてを拒絶したあなたたちにそんなことを知る権利があると思っているのと続けて言うと反論せず黙り込んでしまった。

そうなのだ。ネルフ、かつての『彼』の関係者に『彼』のことを知る権利などとうの昔に失われているものだ。

そして、彼女を含めた『惣流・アスカ・ラングレー』『葛城ミサト』『赤木リツコ』『碇ゲンドウ』『碇ユイ』

私の中では抹消リスト上位にいる人物でもあった。

 

私がもっと前に自我をきちんと持っていればこんなことにならなかったのかもしれない。

だが、それは結果論でしか他ならない。そして仮定論だ。実際にそうなったかどうか保証などない。

あの方の分身であった私。かつてのあの方は今では『思い人』とよろしくやっているのかどうかは知らないが。

あの方がどうなったかさえ私にはわかるわけはなかった。魂は碇レイが持ち続けたがその魂ですら欠片の一部に過ぎない。

あの儀式の際、たしかに碇レイはあの方に成り代わった。あの方の魂自身が今の彼女を作っているのならばそれは皮肉なことだ。

彼の父に細々にされた魂が子供によってひとつに戻されたなど

その結果、すべてを失うことになることなど、

 

「ネルフは愚かで最低なことをした。それは・・・」

 

「それはあなた自身がよくわかっているはずよね。リリスの分身に近いものであったあなたなら」

 

私の言葉に、彼女はまるで恐ろしいものを見るかのように

 

「どうして」

 

彼女はリリスの子に近い立場であったことを知っていることに驚き、碇レイはそう私に質問を投げかける。

でもそんなことは別に関係ないのだ

 

「あなたに言う必要は、どこにもないのよ」

 

すべてを拒絶し、今を生き続けるあなたたちに何も知ることは必要ではないのだ

 

『人は愚かで、過去を振り返ることも知らぬ生き物である。過去がなければ生きていくことはできぬはずなのに』

 

 

 

碇レイは、その後監察局の監察官が保護していった。

ただ、その際に監察官である男性から受けた連絡に私は思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「私に戻れと」

 

それは私に対する一時帰還指示。到底受け入れられるものではなかった。

ネルフに彼女の情報漏洩の可能性が疑われる状態で帰還しろなどどうかしている。

それでも、監察官はただ機械のように私にその言葉を伝えるだけだった。何の意思もないかのように。

ため息もつきたくなったがそれを堪え、了解と私も機械的な声で返事を返した。

 

リビングに戻り私は彼女にその指示を伝えた。

彼女は満面の笑みを浮かべ私が精一杯やってあげるからしっかり暴れてきなさいという『暖かい言葉』を貰った。

思わず彼女との友人関係やその他諸々についていろいろと考えそうになったことは私だけの秘密である。

もっとも、私は彼女に1度だって勝てたことはないのだが。

結局、私はまた守れないのではないか。そう思ってしまった。あの時のように

 

 

 

世界が再び彼女を中心として動き出そうとしている。今まで何も動き始めることはなかったのに。

 

 

 



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第17話

 

彼女からの連絡に私はあえて笑顔で送り出すことを決めた。

そうでもしなければ命令無視ですら厭わないルミナならばありえないことこともない。

ならばさっさといってさっさと帰ってきなさいとこめて。私は彼女から話しを聞いたがそれは第3者の立場の言葉でしかない。

本当に彼女、いや彼があの時を実際にどう思って生きていたのか私たちには想像もできない。

本当にそれが望みだったのか。本当にそれが彼のためだったのか。ただ、その答えが見つかる日が来ることを私は願っている。

愚かな人である私たちにその結果が納得できるものであるのかわからないが

 

翌日、ルミナが本部に向かって自宅を後にすると、私は自宅の窓から旅館を見ていた。

一応監視という仕事だが、彼女の場合、監視というよりも見守っているといったほうが正しい。

旅館の電話を盗聴するわけでもなく、客に扮して潜入するわけでもない。

彼女が何人にも干渉されずに平和に暮らしているかを確認するのが実質の仕事であった。

今日もいつもの平穏に戻ったかのように暮らしている彼女だが本当にそうだろうか。

あんな事の後に普通に暮らせるものなのだろうか。表面上は普通であってもそれはあくまでも表面上でしかない。

人でもある彼女には内面があるのだ。それは他人には見えることのないこと。

そして時に自分でさえ思っていないことを深層心理の中にあることもある。

深層心理という爆弾が爆発した時、人は愚かで通常では考えられることではない行為をする。

それが人殺しであってもだ。昨日の彼女のように・・・・・・・

 

私は昨日の彼女の行為を正当化するつもりはないが同情はしてしまう。

ようやく得た平穏が何物にも代えがたいものである事は事実だ。

それがどれでだけ他人から見て当たり前の物であっても彼女にとっては大事なものなのだ。

それを守る行為を非難する必要はないだろう。ただ加減が大事なのだ。何事にも

 

私は思う。この大自然のように何もかもか共存できる環境であれば彼女のこれからの道はまた変わったものになっていただろう。

そして、ネルフが存在していなければまたそれだけで変わっていたであろう。

だが事実は変えることはできない。今この歴史を歩んでいる以上替えることができないものだ。

ならば彼女はすべてを乗り越えるしかないのだ。それは他人の力に頼るのではなく、自分の力ですべてを。

 

過去を糧にして生きている人間自身がその過去を捨てていくのに彼女にその考えを押し付けるのはいかがなものかと思うが

 

話は変わるが私達組織の中でも、彼女の扱いに関して疑念がないわけではない。

さらにたった一人のために数億円以上の予算がつけられていることに国連上層部から批判がまったくないというわけではないが。

実際に被災した国々はその極秘予算の承認にあの手この手と裏を回して結局承認されているのが実情だ。

まあ、ほかの国々もあんな大災害を2度と経験したくもないし、自国内でしてほしくないというのが本音だろう。

さらに詳しくいえば世界の中で欧米圏の国は彼女の動向に最も影響されやすい国である。

サードインパクト後、ネルフによってゼーレ協賛国であることが発覚し、国際的な立場すら失った。

特に欧州では主要国すべてが含まれていたこともあってその影響は計り知れないほどであった。

 

また話は変わるが、各ネルフ支部は各国譲渡が決まっていたがネルフによりマギに関しては本部直轄。

さらに現存している量産型はすべて本部移送という事実上の接収が行われた。

すぐにに国連内でこのことが問題になるも監察局設立までエヴァという武装の圧力により各国は黙るしかなかった。

追い討ちをかけるようにサードインパクトの影響は新たな領土問題まで引き起こした。

地軸が戻り始めたことによって北極南極で再び氷が張り始めたのだ。

おまけに南極では失われたはずの南極大陸が確認され、海底の大陸周辺に異常なまでの冷却が確認されたのだ。

それはわずか数年で南極大陸が氷の大陸に戻るという異常なものであった。

海水面が下がった際の領土問題を考える委員会が国連内で設立された。しかし、莫大な利権もあいまって委員会は紛糾。

その影響か、ネルフの問題にどうこう言っている暇がなくなってしまったのだ。自国の利益優先のおかげで。

ただ国連も馬鹿ではなかったのか、ルミナの『爆弾発言』のせいなのか、各国の利権争いにまぎれてネルフ監察局が設立された。

メンバーの大半が国際連合安全保障会議常任理事国の人間であったことは当初メンバーであった私は何の驚きもなかった。

それどころか「こんな部署、すぐにつぶされるだろう」と考えていた。

ところが開設後まもなく、本部に大きな人事異動が発生した。

開設当初に本部所属であった、所謂『ネルフよりの某国』出身者が次々と支部の監察に回されたのだ。

それは事前予告なく、抜き打ちで。当時の騒動は今も覚えている。

安保理も含めた大騒動にまで発展したがなぜか1週間ほどで収束。

それどころか、各国がこの人事に大いに賛成と表明した時の驚きは言葉にも表せないものであった。

まるで何者かの力が働いたかのような収束振りだった。その後この監察局はどことも中立で公正な組織に変わった。

組織の変貌。それによってネルフ側に対する厳しい監察の目が向けられ始めた。

 

 

 

そこから始まったのだ。私たちのネルフとの戦争は

 

そして、彼女、あの女性の保護が始まったのは

 

 

 

 



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第18話

 

組織創立当初は私は監察部にいたが、する仕事はネルフから提出された報告書をチェックするだけという簡単なものであった。

ただ、その報告書は多岐におよび膨大なものであったことは今でも鮮明に覚えている。

さらに会計書類に関してはあまりの金額に驚いたものだ。記載されていた金額は小国家の数年分の国家予算に匹敵するほど。

エヴァの運用はそれら膨大な金額によるものであったことが調査に判明するも、国連上層部内により調査対象からはずされた。

それらの資料にはチェックされることもなく戻された物もあった。

決定にネルフが関与しているのは誰の目から見ても明らかであったが、当時誰も告発などが許されることはなかった。

当時、ネルフは英雄視されていたからだ。触らぬ神にたたりなし。国連はほぼネルフの言いなりであった。

私たちの職場はする仕事が失われ始めた。

 

国連要請に基づくネルフ査察も主要施設の査察はネルフによって中止させられた。

やがて、私たちはこの仕事に価値を見出せなくなっていった。なにをしても、国連によって中止命令が出される。

これではいったいどんな仕事をすればいいのか私たちはわからなくなっていった。

そんななか、監察局に新局長と監察部に一人の女性が配属された。それが今の本部監察局長蒼崎とルミナであった。

私達監察部のメンバーにとって新人であったルミナは正直言って変わった女性であったことは今でも覚えている。

物静かで、常に冷静、無表情、話すことといったら仕事のこと。プライベートのことなど当初は知ることはなかった。

私は退屈ついでに彼女のことを調べた時、IDの記録をまず確認した。

私の役職では閲覧可能であったこともあり容易だったが、その内容はまるで疑ってくださいというものであった。

住所は本部監察局、本籍地・年齢・家族構成は不明。彼女についてわかることは名前くらいであった。

ただ、暇であったのはその時までであった。新しく赴任して来た監察局長によって組織の改革が行われた。

私達監察局のメンバーの多くも海外支部などに監察任務などに回された。

新しい監察部はネルフ感情があまりよくないメンバーで構成された。もちろん、私も役職から降格され一般職員に戻された。

新しい部長にはネルフに対して徹底的に反抗できる、国連軍法務官を務めていた『シエラ・ドーレス』が着任した。

改めて徹底的に査察が行われた。後に悪魔の数ヶ月と監察部に伝わる話になる元を作った人物だ。

そのことはまあ置いとくとして。この部長、嫌味が上手でネチネチとネルフの広報部員だけではなく上級幹部までにもぶつける。

いうまでもないが私たちにも実害が非常にあったわけだが。

仕事という聞き流すのにちょうどいい相手がいたのでさほど気にならなかった。

この査察の結果、ネルフの動きは今後大きく鈍らせることができたことは上出来であったが。

その後も抜き打ちで何度も行われたが、そのたびに私達監察部が嫌味という迷惑をこうむるのだから・・・・・

 

私自身、組織が変わった後の仕事はあの嫌味を引いても充実したものであると思っている。

以前のようにだらだらと過ごすのと比べればマシなのだ。ドーレス部長が赴任してきてから半年が経った頃。

私はようやく忙しすぎる毎日になれてきた。その日、珍しく仕事が定時である午後7時に終わった。

私は夕飯を食堂で食べて帰ろうと監察局1階にある食堂に足を運んでいたのだが、その途中でルミナを見かけた。

それは彼女がエレベーターに乗り込むところであったが、その様子は明らかにいつもの冷静沈着な彼女ではなかった。

廊下を全力で走っていたのだ。私は思わず、彼女がどこに向かったのかエレベーターが現在何階にいるのかを示す表示を見た。

そこは局長など上級職員が部屋がある階。なぜかは知らないが、私はエレベーターに乗り込むとその階のボタンを押した。

フロアに着くと、すでに幹部は帰宅済みなのか廊下は必要最低限の明かりしかついていなかった。

そんななか、エレベーターから少しはなれたところの部屋のドアが開いているのを見つけ中からも声が聞こえる。

その声の主はあのルミナであった。私はドアの隙間に立ち、その内容を聞こうと耳を澄ました

 

『だが、それが事実としてどれほどのもだと』

 

これは監察局の局長の声だった。局長の声もいつものと同じように聞こえるが少し震えているように感じられた。

 

『おそらく、あれ規模以上のものが襲うでしょう。それこそ、すべてが崩壊する可能性のものが』

 

いったい何の話をしているのか私にはわからなかったが、どこか緊迫感のある内容であったことは2人の内容から察することができたが。

普通の監察部員と組織トップの局長。2人の共通点はしいて言えば同じ時期にここに来た。

それくぐらいだけ、のはずなのだが、どうやらそれ以外にも密接にかかわりがあるようだった。

私はやばい話になる前に逃げようと思ったのだが、扉に足があたりその音が部屋の中に響いた。

2人がその音に気づきこちらに振り返った時、私は・・・・・

 

 

 

その後の話は、さまざまな手段と行動した結果その秘密を知ったのだが。

 

 

 

それが、悪魔の扉を開けることになるとはそのときは夢にも思ってはいなかった

 

 

 

 



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海岸の町(パート4)
第19話


 

私は今、本館と別館の間にある隙間の海側にいる。

そこは形だけの柵がされている断崖絶壁の場所だ。そこに立つと馬鹿なことを考え始めた

 

世界をもう一度創造することができれば、もっとうまく世界を直せたのかもしれない。

でも、それはもう叶わない夢。ここまで世界が成長すれば再び創造することは無理なのだ。

自然の摂理を守りながら徐々に改変することはできても、すべてをやり直すことは神様にもできない。

神様にも神様のルールが存在している。そのルールの中で今まで神様は何とか自然を守ってきた。

でも人々が石油石炭や、地球が今まで貯めてきた資源をどんどん食べ始めてから神様は怒ったらしい。

私もそこまで詳しく記憶を引き継いだわけではないから詳しくはわからないけど。

自然をうまく活用しながら修正をしようとしたらしい。ところが人はもっとも愚かな行為をしてしまった。

かつて神様が隠したパンドラの箱を南極で見つけたのだ。神様はそれを知り慌てた様だがもう手遅れ。

人は愚かにもその箱を開けてしまった。その箱からは大きな災いの種がまかれ、芽を出すのは待つのみとなった。

神様はあまりの愚かな行為に自暴自棄になりすべての管理をやめることにした。

まかれた種は神様の手に余るほどに成長をはじめたからだ。その後神様は私に管理権を譲るまでずっと見守り続けた。

人々がどれだけ苦しもうと。自然が壊されようと。まるでそれが自身に対する罰なのだと言わんばかりに。

 

私は彼から何も聞かされることはなかった。何の恨み言の一言さえ聞かされることはなかった。

愚かな人間である私に何の恨みを言うこともなくすべてを託してくれた。私には未だにその理由がわかることはない。

当の本人はすでにこの世界にはいない今、確かめるすべはない。私が知ることができるのは記憶からそれらの情報を知ること。

でも、記憶で彼の本当に思っていたことはわからない。記憶はそれがあったという情報でしか教えてくれないから。

 

私がこの世界を再び造り直してもおそらくこんな綺麗な星にはなれないだろう。あの赤き穢れのない世界。

誰もが傷つかない世界は人々にとってはすばらしい世界なのだろう。

それは私自身にとっても誰にも嫌われることのない世界である。

きっと私が創り直したとき、そんな世界に逆戻りになるのだろうと思う。

私が今眺めているこの美しい風景。青い海に青い空、こんな綺麗な光景になることはきっとない。それだけは確かだろう。

 

「ま~た、馬鹿なこと考えてるでしょ」

 

私は突然声をかけられ驚いて振り返るとそこにはユリさんが私服姿で立っていた。

まるでこれから出かけるかのように。いつもは見ることのない薄い水色のTシャツに青いロングスカート。

彼女は私に近づいてくるといつもお母さんがしてくれるように抱きしめてくれた。

もう自分は子供じゃないのだからやめて欲しいなと思っていながら抱きしめられることが好きだ。

人の暖かさを感じることができるから。

 

「カオリちゃん、私達旅館の人みんな親なんだから甘えていいんだよ」

 

彼女は優しい口調で私にそういってくれる。私はいつだって甘えないしわがままも言わない。

みんなの迷惑になるとわかっているからいつだってそうだ。何か頼みたくても忙しい時は誰にも言わないし相談もしない。私の所為で巻き込まれたらいけないと心のどこかで思っているから。だからいつも返す言葉は一緒だ

 

「大丈夫だよ。ユリ姉さん」

 

ユリ姉さんと呼ばれた彼女は不機嫌そうな表情を作って本当に大丈夫かなと聞いてくる。

いつもの言い訳もバレバレみたいだ。何かあったら相談しなさいねと私に言うと、買い物にいくねと出かけていった。

私はいってらっしゃいというとその場所を後にした。

 

今度はこの前布団が大量に干されていた場所に行ったが、今日は十分な太陽が当たりねこじゃらしはゆらゆらと揺れていた。

草たちは大人の猫と戯れていて、猫は捕まえたり捕まえ損ねてこけたり忙しそうに遊んでいた。

一方の子猫は子供たちで追いかけっこをしているかのように走り回っていた。

私はねこじゃらしで遊んでいた1頭の猫を抱き上げるとすぐ近くのベンチに座った。

猫をひざの上に置くそこで毛繕いを始めた。その邪魔をしないように私は体を撫でてあげた。

すると1頭だけ連れてきたのがまずかったのかほかに遊んでいた猫たちも私の足元に集まりだした。

彼らは私のほうを向き、まるで私たちも抱き上げてと言わんばかりにその視線を向けてきた。

私は仕方がないわねと言うと1頭1頭大事に抱き上げてイスの上に降ろした。

彼らは私のひざの上にいる猫と同じように毛繕いを始めた。

 

「これでベンチは満席ね」

 

私は楽しそうに言うと猫たちはまるで言葉が理解できるかのようにそうだねと言わんばかりに『にゃ~』とそれぞれ鳴いた

 

 

 

それはまだ平和な光景。

 

でも私には想像もできなかった。それが脆く儚い物であったことも

 

本当の絶望が目の前に迫っていたことも私には知る由もなかった

 

 

 

 



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ネルフ・監察局編
第20話


 

 

ジオフロント、

それは未だに世界一の軍事力と発言権を保有している特務機関ネルフの本部がある場所。

そこは難攻不落とも言われる要塞に住んでいる現代の魔物の巣というべき存在なのだろうか。

彼ら以外の人間が入ってきたのは3度目の大災害の後だ。

今まだネルフという狂犬は暴れ放題だったが、暴れすぎたため今は着けられたくもない首輪をつけている。

その首輪こそNERV監視機構、監察局だ。監察局は今はジオフロントの端に庁舎があり多くの職員が勤務している。

 

庁舎の最上階、局長室ではあの町から呼び戻された私と蒼崎局長が応接用のセットソファに座っていた。

彼はコーヒーを飲んでいたがお相手である私は険しい表情で一冊のファイルを読んでいた。

私はファイルをソファーの間にあるテーブルに置いた。

ファイルには情報漏洩と彼女の情報がどこまで漏れている可能性があるかについての報告がまとめられていた。

その中で私はあの『渚カオル』の協力に基づいて報告が書かれていると注釈がつけられている所に私は苛立ちを覚えた。

あれだけ追い詰めたのに今更になってどういうつもりか

 

「気に入らないみたいだな。彼のこと」

 

局長は私の表情を見て言った。どうやら、顔に出ていたようだ

 

「彼の証言は今の我々にとって必要なものだ。それと彼自身も協力的だ」

 

そんなことは今の情勢とこの報告書を見ればわかる。でもだ。今更になってどういうつもりなのだ。

私にはそれが彼の謝罪のつもりなのかと思っていた。あれほど追い詰めた。

局長は席を立つと部屋からジオフロントが一望できる大型窓に近づくとあのピラミッドを見ていた。

 

「納得できないのは私とて同じことだ。だが状況を見てみなさい」

 

「わかっています。ですが腑に落ちません。なぜそれほどまで彼が協力的なのです。我々と彼女に対して」

 

私も席を立つと局長が立っているすぐ横に並びあの忌まわしきピラミッド型の本部を見ていた。

 

「人は愚かな生き物・・・・それが君の口癖だったな」

 

それは私はよく口にする言葉。人は愚かな生き物。

自身の都合の良いように解釈しまわりの事などまったく考えない愚かで馬鹿な生き物。

私はそう言っていた。それは私が人間でないからなのかもしれないがそう思っている。

 

「だが、愚かな生き物は愚かな生き物なりに足掻くものだ。無論私たちもそうだが」

 

「それが他から見てどんな醜い足掻きに見えてもな」

 

彼はネルフ本部をまっすぐ見つめて私に言った。まるでこれからのことが見えているかのように

 

 

------------------------

 

 

「ああ、監察局のことはこちらで対応しよう」

 

「ですが、我々の動きがすべて筒抜けとは、さすが蒼崎局長ですな」

 

ピラミッドの上層部の広々とした空間を持つ一室では二人の男性と三人の女性が話し合っていた。

ネルフのトップ6のメンバーで、碇ゲンドウ、碇ユイ、冬月コウゾウ、赤木リツコ、葛城ミサト、加持リョウジであった。

 

「MAGIの情報検索では彼女に関するものはほとんどがサードインパクト後のものです」

 

「つまり、彼女が使徒である可能性も十分にあるわけね」

 

赤木リツコの報告に葛城ミサトが発言したが、冬月コウゾウが結論は急ぐものではないと諌めた。

ネルフにとって、最も危惧すべきことは新たな使徒の出現である。

その最有力候補である彼女だが未だにそれをはっきりと示すべき証拠がない。

さらに渚カオル殺人未遂に関しても彼女が撃ったという確証は何一つなかった。

ネルフが確認していることはすべて状況証拠に過ぎなかった。

 

「とりあえず、彼女のこと。もう少し調べてみましょう」

 

冬月と同じ副指令であるユイの言葉に皆が頷き、部屋を退室していった。

副指令であるユイも退室しようとするとゲンドウが彼女に言葉をかけた。

 

 

 

「ユイ、お前は気づいているのではないか。彼女のことを」

 

 

 

 

 

 



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海岸の町(パート5)
第21話


 

「ユイ、お前は気づいているのではないか。彼女のことを」

 

その言葉は彼女の行動をとめるのに十分な威力があった。彼の言うとおり彼女にはある予想ができていた。

その予想はあまりにも彼女自身、そしてネルフにおいて重大なことでありそれを口に出すことはなかった。

 

「彼女が、シンジの「バカな事を言わないで下さい」

 

ゲンドウのセリフを彼女はみなまで言わせることはなかった。

彼の言葉はユイの予想とほぼ一致しているものであった。彼にも少なからずだがその答えを出せるほどの情報を持っていた。

彼女ほどではなかったが。碇ユイはあの時の記憶を少しだけだが持っていた。

そのときの当事者である彼の気持ちを理解しているからこそ、彼女の考えている結論は最も当たって欲しくないものであった。

だが彼女を調べれば調べるほど、結論への答えではないが道筋が見えてきてしまう。

 

「シンジは死んだんです」

 

「私たちの自己満足のために私たちが・・・・・・・殺したんです」

 

ユイはゲンドウに振り返ることもなくその言葉を悔しそうに言うと退室した。

司令室に残ったのは部屋の主である碇ゲンドウと苦い空気であった。

 

------------------------

 

「まったく、あんなところで寝ちゃだめじゃないの」

 

猫たちと戯れていた私だがどうやらその途中でお昼寝を始めてしまい。ただいま、体調不良を発症中でした。

おかげでお父さんに抱き上げられ部屋につれて帰ってもらって、布団の中の住民だ。

お母さんの雷が私の上で鳴り響いていた。体温計が微熱を示していたことから通り雨の予定が暴風雨に様変わりしていた。

よって私がちょっとでも聞き流そうとしようものなら素晴らしいお言葉が飛んできていた

 

「ごめんなさい」

 

「・・・・・今度からはちゃんとしなさい。じゃないと本当に風邪をひくんだから」

 

気をつけなさいよと私に言うとお母さんは部屋を後にした。

お母さんは怒っているけど本当は私のことを一番心配してくれていることを私を良く知っている。

そうでなければ私のことを探しにくることはなかっただろう。

ちょっといなくなったぐらいで心配しているのは多分私の変化に気づいているからだろう。

 

碇レイの首を絞めて以降、私はお母さんたちとあまり会話をしていない。正直何を話そうかと迷ってしまう。

自分の愚かき行動を見られたことで私はまた捨てられるのでないかと思ってしまった。

でもお母さんたちはそんなことはなかった。その反対に私のやったことに一切触れることはなかった。

私を気遣うかのように。

 

 

 

だから、私は願ってしまったのだろう

 

いつかすべてのことを話せる日がくることを

 

そんな日がきてほしいと

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------

 

 

「ネルフにどうやら情報が漏れたらしい。保安諜報部が彼女の行確を申し出てきたよ」

 

行確、つまりは行動確認だ。彼らなりに言えばだ。実際は拘束と変わらない

蒼崎がピラミッドを見ながら彼女に言うと彼女は驚きの表情を浮かべ彼を見つめた。

彼女の表情をちらりと見ると再び視線を窓の外に向けため息をついた

 

「我々に残された時間はそう多くないということだ。すべては彼女しだいだよ」

 

------------------------

 

「そう。わかったわ」

 

ルミナの家では私が彼女からの連絡を聞いていた。

 

『ネルフの影は?』

 

ルミナの言葉に私は苦笑してしまった。どこへ行こうと彼女の心配事はネルフでも私たちでもない。

ただひとつ。彼女の存在について。それは彼女の真相を知ってから変わることはない。

 

「幸いなところ。連中はまだこっちには来てないわ。戦自からもそういった報告も上がっていないことだし」

 

だから今のところ大丈夫よというが、彼女は『そう』と一言をつぶやくと電話を切った。

他人から見れば愛想の悪い人と思うだろうが私にとってはそれは彼女が心配で仕方がない。

彼女の行動であることは良くわかっていた。ネルフの動きの早さ、それは私たちの想像以上のものであった。

ネルフはすでに渚カオル殺害未遂事件の容疑者として彼女を射程に捕らえている。

それは私たち監察局にとって想定外であった。

 

もし、このまま彼女の身柄がネルフに拘束される事態に及べば、この世界そのものの存在の不安材料になりかねない。

 

「何もなければ、・・・・・一番なんだけど」

 

外の光景を見ながら、私はそう呟いていた

 

------------------------

 

布団に入りゆっくりと休んでいたが、外から入ってくる夕日に私は目を覚ました。

外からは夕日色に染まった光が私の部屋に入り込んでいた。

布団から出ると、部屋の最も外側に設けられている広縁(広い縁側)にあるロッキングチェアに座った。

そこからはいつもの夕日が見えている。いつもこの部屋から見える綺麗な夕日。

ただ、私にはその時、いつも以上に綺麗に見えた。

 

なぜなのかはわからない。なぜか、いつも以上に・・・・

 

 

 

世界が再び動乱の渦に飲み込まれる前。それは嵐の前の静けさのように静まり返っていた。

 

しかし、嵐の前の静けさは唐突に終わりをつげ本当の嵐が襲ってきた。

 

その先がどうなるのか、今は誰にもわからない・・・・・・

 

 

 

 

 



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第22話

 

翌朝、私はいつものように目が覚めた。体調は昨日の夜とは違い万全の状態。

起きたと同じタイミングでお母さんがドアをノックして入ってきた。起きている私を見て安堵の表情を浮かべていた。

 

「おはよう、カオリ。体の調子は大丈夫?」

 

「大丈夫みたい。今日は散歩にいけるみたい」

 

その言葉にお母さんは不安そうな表情に変わった。私は大丈夫よと笑顔で言うと布団から出て、布団を片付けた。

よっぽど心配なのか、出かけるときは声をかけてねと言うと仕事に戻っていった。私はわかったよと返した。

 

「心配性だけど、仕方がないよね」

 

私は昨日一晩で割り切れたのか、悩みがなくなったように感じていた。でもどこかで不安も少し覚えていた。

とりあえずは不安はどこかに置いておき、部屋から出ると食堂に向かった。

食堂に行くと旅館を利用したお客さんも数多く食事を取っていた

いつもの光景なのに、なぜか貴重なものに感じられた。

私はいつもどおり食事を済ませると食堂の勝手口から外に出た

旅館の裏側をとおり、食料保管用の倉庫からネコ用カン詰めとお皿を手にしたころには私の足元に多くの猫が集まっていた

 

「もう少し待っててね」

 

私は猫を引き連れていつもの長いすがあるところにつくと、そこに持ってきたネコ用缶詰の中身を皿の上に乗せた

猫たちは待ち浴びていたかのようにご飯を食べていた。

私の今とは正反対に猫たちは精一杯生きている。私は今も暗い迷路を迷い続けている

どうしていいのかわからず、困り続けて

 

「おかわりが必要?」

 

ネコ達はおかわりが必要なのか私の足に縋ってきた。私はいくつかのネコ用缶詰を手にすると皿の上に中身を出した

彼らは最初と同じように食べていた。本当に何もかもが私とは正反対。

私は今もどうしていいかわからず、さまよい続けている。結論の出ないまま

このまま今のまま過ごせたら良いなんて思っているけど、きっとそれは無理

 

 

 

いつか答えを出さないといけないときが必ず訪れる

 

 

 

そう遠くない時期に

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------

 

お昼、私はいつもどおり食堂で昼食を済ませた。

量は少ないけど、いつもに比べれば多く食べられたと思う。

その後の予定は私はなにも決めていなかった。ひとまず自分の部屋に戻り、テレビをつけた。

特に興味も持たずお昼のワイドショーを見ていた。相変わらずメディアは渚カヲル襲撃事件の話題で持ちきり

 

「どうしたらいいの?」

 

私がやったことの大きさに戸惑いを隠せない。もう何日もたつのにこんな大騒動になるとは

あのときの私は無我夢中だった。ただもう忘れたくて仕方が無い記憶を思い出すことは苦痛以外何者でもない

それに彼らに私の事実が知られればきっと何かに利用される。そんな目にはあいたくなかった。

昔みたいにただ利用されるだけの人生ではなく、自分で選んで生きていく人生が幸せだった

それは夢のような時間だった。ようやく馴染んできたこの『世界』との関係を壊すわけには行かない

だけど、私の過去はいつまでも私に付きまとってくる

 

「カオリ」

 

振り返るとお母さんが私を呼んでていた

 

「今日は散歩はどうする?」

 

いつもどおりの心配なのだろうけど、言葉はそれ以上に不安の色が混じっているように感じた

私は今日は行ってくると言うと、ついでに砂浜近くにある魚屋に注文をお願いとメモを渡された

普段なら電話で済ませていることなのだが、たまには用事付の散歩はどうかしらと

私はわかったとメモを受け取ると自分の部屋に戻り、外に行く準備をしていった

 

靴を履き、注文用のメモを片手に家を出発した。道のりはいつもと変わらない。ただ、誰かの視線を時々感じた

それが誰なのかはわからないけど、私に敵意は感じなかった。ただ見ているだけ。そう感じた

 

「なにがどうなってるの?」

 

海岸近くまで来るとお昼と会って地元の人たちが数多くいた。私は目的の魚屋で注文を伝えると後で届けるよと返事をもらった

これでお母さんの用事は終わりだ。後は海岸の砂浜でゆっくりと過ごすだけ。でもそこにはいつもはいない人が立っていた

 

「ルミナさん、どうして」

 

私の声が聞こえたのか彼女は振り返る。その表情は何か苦悩を抱えているかのように見えた

 

「あなたを守るために来たのよ。だからお願いを聞いてほしいの」

 

その願いはあまりにも今の私には受け入れられるものではなかった

だが、少し考えさせてほしいと答えてしまった。そんな考えなど無かったのに

 

「あなたは誰なの?」

 

いつも彼女にたずねる質問、私のことをすべて知っているような気がしたときからずっと

 

「今はまだ答えれない。あなたの決意が固まれば真実は明らかになるわ」

 

 

 

 

 



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第23話

 

「どういう意味なの?」

 

「あなたの決意が決まれば真実は明らかになるわ。でもあなたにはまだ決意ができていない」

 

私の決意。それを何を指し示しているのか理解できなかった

決意が必要なこと、それはおそらく『過去』の出来事だろう

私はあの過去から決別しようとしているがそれができないでいる。

いつまでも引きづられるつづけるジレンマを抱えているのだ

 

「私の決意は決まってる。私の居場所はここ。それ以上でも、それ以外でもないわ」

 

私がそう言うとルミナさんは悲しそうな表情で答えた

 

「本当にそれで良いの?過去を忘れたまま過ごしていても」

 

『過去』、あの過去はいつまでも私を引き離そうとしない。

まるで悪魔の時間のようだったあの過去の出来事から

いったいいつになればあの過去の出来事から引き離してもらえるのか。

私には到底想像もつかなかった。

しばらくしてルミナさんは誰かが迎えに来た車に乗り込むと、その場を立ち去っていった

残された私は、ただそれを見送ることしかできなかった。

何も返事もできないまま。まだ決別することができていないのだ。あの『過去』から

 

「いったいどうしろって言うの?この私に」

 

少しいらだちまぎれに独り言をつぶやいてしまった。

だが、確かにそのとおりだ。今の自分には碇シンジは存在しない

私は水川カオリなのだから。それだけはこれまでも、そしてこれからも変わる事のない事実だ

 

「もう1度行かないといけないの?本当に決別するためには」

 

過去から逃げ出し続ける自分に本心では飽き飽きしていた。

でも、それ以外に手段が見つからない自分にも苛立ちを覚えていた。

あの忘れられない『過去』、そしてあの過去以降の私の生活は楽しいものだった。

彼らが来るまでは。そして、銃で渚カヲルを撃ったまでは

私はいろいろなことを考えながら海岸へと向かった。

そこにはいつもの美しい光景が広がっていた。青い空に白い砂浜。

本当にあるいつもの光景だ。それが何よりも貴重に感じた

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

 

私はその後、砂浜の近くの魚屋で頼まれていたお母さんから渡されたメモを渡した。

後は配達をしてもらえるので私の用事は終了した。

私は魚屋を出ると砂浜に下りた。そして、そこに座った

海から良い風が吹いてくる。

 

「今日も良い風が吹いてる」

 

「そうだね、カオリちゃん」

 

突然の声に後に振り返るとユウさんが立っていた。いつもどおりカメラを持って。

彼も普段どおりを装っていたが、何か少し違うように感じられた

ほんの少しだけだが。すこしだけ。僅かにだが雰囲気が違うように感じられた

 

「ユウさん、お願いがあるんです」

 

「なんだい?」

 

「私・・・・私をもう1度第三新東京市に連れて行ってほしいんです」

 

私は決めたのだ。もう1度あの街に行って

何もかもを決めようと。どうしてそう思ったのかは分からないが

突然やる気が出てきたのだ。人は不思議な生き物だから

そう片付けてしまえばそれまでだが。私にも目覚めるときが来たのだろう

本当に意味で目覚めるときが

 

「いいよ。君が願うなら、僕はどんなところにでも連れて行ってあげるよ」

 

彼は素直に了承してくれた。

私にとっては幸運だったのか。それともこれから始まる激動の運命の入口だったのか

それは今は分からなかった。ただ、目の前に進みたい。

それだけを考えていた。

 

「ありがとう。本当にありがとうございます」

 

「今度こそ、君を守りきるよ。必ず」

 

その言葉に私は勇気づけられた。ようやく決断できたのだ。

長い時間をかけて考えてきたことを。ようやく

その後の話は早い物だった。

ユウさんに車で旅館まで送ってもらうとお母さんに告げた

 

「私、もう1度第三新東京市に行って来ます。そして、もう1度はっきりと決めてきます」

 

「何を決めてくるの?」

 

お母さんは不思議そうではなく、何かを理解しているかのように質問をしてきた

 

 

 

「すべてを決めてくるの。ここに居る理由とこれからのことを」

 

 

 

 



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第3新東京市
第24話


 

その日の夕方、お母さんとお父さん、そして旅館の人たちと出発の挨拶をしていた。

これでお別れというわけではないが、もしかしたらそうなるかもしれない

私は決めたのだ。長い時間をかけて決めた決断だった

 

「お父さん、お母さん、みんな、私、行って来ます」

 

「必ず帰ってくるのよ」

 

お母さんが私を抱きかかえながら言った

私はうんと頷いた。私の帰る場所はここしかない。

この街が私の本当の居場所であり、帰るべき場所なのだ

それはきっと変わることのない不変的な価値。

 

「カオリちゃん。これ、お守り代わりに」

 

旅館に勤めている女性の仲居さんから折り紙で折られた鶴を渡された。

私をそれを壊さないように大事そうに受け取ると上着のポケットの中に入れた。

 

「ありがとう。必ず帰ってくるから」

 

そう、みんなのためにも私は帰ってくるのだ

 

「カオリちゃん、そろそろ行こうか」

 

ユウさんが車の運転席から手を振って合図をしてきた。

そろそろ待ちきれない様子のようだ。彼にも何か考えがあるようだが、私にはそれは分からない

 

「今行きます。それじゃ、行ってきます」

 

みんなに行ってきますを言うと私はユウさんの車の助手席に乗り込んだ

SUV車の後部座席には大型のボストンバッグが積み込まれていた

 

「ユウさん。後部座席のあのカバンは何ですか?」

 

「もしものために用意した物だよ」

 

私はその言葉でカバンの中身を瞬時に理解した。

カバンの中身はおそらく武器倉庫のように大量の武器弾薬が収められているのかもしれない

 

「良いんですか?そんな物を持ち込んで」

 

「カオリちゃんのやりたい事が何かはわからない。だから持ってきたんだよ」

 

彼は念のためにねと言った

 

 

 

「ありがとう。ユウさん。私なんかに付き合ってくれて」

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

SUV車は順調に第三新東京市に向かって走っていた。

空模様は以前に第三新東京市に向かったときと同様にどんよりとしていた。

 

「空模様はよくないね」

 

ユウさんが言ったとおりだ。いつ雨が振り出すか分からない

まるでこれから先に起こりうる嵐の前触れかのように

 

「そうですね」

 

「カオリちゃん、僕はたとえ君がどんな立場におかれようとも味方でいるつもりだから」

 

「信用しています。ユウさんのこと」

 

私は確かにユウさんのことを信用している。

彼は以前に語ってくれた過去の話。それが真実ならネルフに正義なんてものは存在しない

あるのは欺瞞に満ちた存在だけだ。平和なんて上っ面だけの

きっとルミナさんは、私が彼の過去を知っていることを知らないだろう

でも私は知っている。それでもそれを受け入れた。

どうしてなのかは分からない。理由なんて物は存在しないのかもしれない

 

「ありがとうそれと、ダッシュボードの中を見てごらん」

 

私はユウさんに言われたとおりダッシュボードの収納スペース中を見た

そこにはオレンジ色の袋に包まれた金属の塊をしたものが収められていた

 

「君に渡した物とまったく同じ物をもう1度用意しておいたよ。念のためにね」

 

ユウさんの心遣いに私は感謝した。

私はダッシュボードの収納スペースの中からとり出すと、それを眺めた

 

「また用意してくれたんですね」

 

それはベレッタM92、あの時ルミナさんに奪われたものと同じ型の拳銃だ

ユウさんはまた用意してくれた。たぶん彼も武装をしているのだろう

それはそれで心強いところだが。私にとっては不安材料にしかならない

もしどこかで検問に引っかかったら、そんな心配をしているとユウさんは言った

 

「もし検問があったら、ダッシュボードの収納スペースの中に隠して」

 

「見つかりませんか」

 

「大丈夫だよ。僕を信じて。君に不利なことはさせないから」

 

 

不安と欺瞞が入り混じった旅行となったが、これから先に波乱が待ち受けているのは間違いないことだ

 

 

 

 



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第25話

 

第三新東京市までまだ50km以上ある中、その途中のパーキングエリアで休憩を取っていた

私はトイレに行っていた。昔は苦労した事も今となっては慣れたことだ

 

「うまくいくといいけど」

 

私が考えているプランは無理無謀が付きまとう

それでも賛同してくれた相葉ユウさんには感謝の言葉しか出ない。

彼はその計画に苦言を呈するどころか、助言をしてくれた

私はトイレを済ませると車に戻った。ユウさんはまだ戻っていなかった

その隙に私は後部座席置かれたバックを覗き見た

中には大量の銃と弾薬が収められていた。

 

「心配する必要はないよ」

 

突然声をかけられたことに驚き、運転席側を見るとユウさんがドアを開けた状態で立っていた

 

「これは、その」

 

とっさに言い訳をしようとしたが、それは必要なかったようだ

 

「もしものために用意しておいた物だから心配しないで。検問に引っかかる心配もないから」

 

第三新東京市周辺は検問が必ず設置されている。

ネルフの意向でだが。目的はテロ対策だといっているが

本当のところは分からない。すべてを知っているはずの私にも分からない

 

「でも検問に引っかかったらどうしたら」

 

「そうだね。こういうときのために作っておいたんだ」

 

ユウさんはポケットからIDカードとバッジを取り出した

それは第三新東京市警察のIDカードとバッジだった。

 

「これがあれば検問も通過できるよ。心配することはないよ」

 

確かにそのとおりだ。これがあれば検問はほぼノーチェックで通過できるだろう

検問所は第三新東京市の入口に必ず設置されている

 

「でも、手荷物チェックをされたら」

 

不安そうな私の表情を見て、髪の毛をなでた

 

「大丈夫、心配しないで」

 

私をまるで子ども扱いするかのようなことだったが、決して嫌ではなかった

むしろ、その行為に幸せを感じてしまった

 

「それじゃ、そろそろ行こうか。第三新東京市に」

 

「はい」

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

『本当なの!彼女が町を出たって言うのは』

 

電話の向こうでルミナは大声を上げていた

おかげでこっちは難聴になるところだった

彼らの動向はこちらでも把握していたが、突然の彼女の決断にあわただしさを感じた

まるで今まで止まっていた時計が急に進みだしかのように

 

「今第三新東京市に向かっているところまでは確認されているわ」

 

彼らの行動は戦略自衛隊によって把握されていた。それが私達の元へと情報としてくる

そういうシステムになっていた。

だが、突然の行動に彼らも戸惑いを隠せないでいるようだ

さらに言えば、相葉ユウが大量の銃器を所有しているということ

これは極めて危険な材料に他ならない。

 

『それでそっちの状況は』

 

「彼女のお母さんとお父さんに直接話を聞いたわ。彼女は何かを決意したって言うことは間違いないわ」

 

『それってつまり、本当の両親に真実を打ち明けるつもりってことかしら』

 

ようやく平静を保ててこれたのか、声が落ち着いてきた。

 

「たぶんそうだと思うわ。ご両親も深いところまでは知らない様子だったから」

 

ルミナは心配で仕方がないのだ。第三新東京市に来ればネルフと直接対決することになる

そうなれば、無効な強引な手段をとるかもしれない

それを懸念していたのだ

 

『今は戦略自衛隊が護衛についているのよね』

 

「ええ、情報は随時送られてきてるわ。今回の2人は本気よ」

 

『第三新東京市の入口には検問所が設置されているのにどうやって侵入するつもり』

 

先も述べたとおり第三新東京市につながるすべての道路には検問所が設置されている。

簡単にはセキュリティチェックを突破することはできない

 

「相葉ユウの家に行って調べたら、地下室から第三新東京市警察のバッジが出てきたわ。たぶん試作品ね」

 

『つまり警察官に化けて入ろうってわけね。わかったわ。その件はこっちで処理するわ』

 

おそらく、第三新東京市警察に話を通しておくのだろう。

彼らを検問所で引っかからないようにするために

 

「それはいいけど。私もそっちに行くわ。そのほうが力になれそうだし」

 

『お願いするわ。私だけだと力不足なのよ』

 

「あなたからお願いだなんて怖いこともあるものね。すぐに荷造りをして出発するわ」

 

 



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第26話

 

第三新東京市まであと、50km地点までの位置に到着した。

そこのパーキングエリアに入るとパトカーが近づいてきた。

思わず私は隠れそうになったが、ユウさんがそれを止めた

 

「大丈夫だよ。心配しないで」

 

『トントン』

 

運転席を警察官がノックした。

ユウは普通に対応した。そしてバッジを見せた

 

「第三新東京市警察の相葉ユウだ。こっちは相棒の水川カオリ」

 

「そうですか。何か用事で海岸の町から来られたのですか?」

 

「休暇だよ。野暮なことは聞かないでくれないでくれ」

 

警官たちはバッジを見せると信用した。

まさか偽造されているとは思いもしなかっただろう。

警官たちは離れていった。そしてパトカーに乗り込んだ

 

「ほら、大丈夫だったでしょ」

 

確かにその通りだった

大丈夫だった。パトカーはその場から離れていった

 

「検問所まで後40km。問題はそこだね少し待っててね」

 

ユウさんは車から降りると後部座席の荷物を隠そうとしていた

しかしどこに隠そうとするのか、私は興味津々だった。

とても隠せるような場所があるとは思えなかったからだ

すると、後部座席の座席部分を開けた。

そこには物が収容できるスペースが確保されていた

カバンをそこに収容すると再び座席でふたをした

運転席に戻ると私にこれで大丈夫だよと答えてきた

 

「本当に大丈夫ですか?検問所のチェックはそんなに甘くないのでは」

 

「もしものときは強行突破するだけだよ。そんなに心配することはないよ」

 

強行突破という言葉に私は不安な表情を浮かべた

その表情を見たユウさんは大丈夫、何とかなるよと言った

 

--------------------------------------------------------------------------

 

 

ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「どうやら事態は急を要しているようだね。ルミナ」

 

「はい、局長」

 

応接セットで向かい合わせに座っている2人は片方、

つまり私は苛立ちを隠せない表情をしていた。

 

「そんなに苛立たなくても市警察には私から話を通しておいた」

 

「どのようにですか」

 

「2人は休職中の刑事であるとね。多少強引ではあったが、状況が状況だ」

 

確かにその通りだ。

今の状況は明らかに最悪の方向に向かって全力疾走しているようなものだ

これ以上、事態が悪化しないことを願うことしかできない私。

なんと無力な私なのだろう。

 

「検問所で引っかかることはないということですね」

 

「そういうことだね。それよりもネルフの動きのほうは?」

 

「保安諜報部が動きを見せ始めています」

 

確かにその通りだ。保安諜報部は動きを見せていた。

彼らが海岸の町から出たときから

 

「彼らに身辺を拘束されないように厳重に見守る必要があるね」

 

もしネルフに身体を拘束されればことは一気に大事になる

それだけは避けなければならないが彼女はそれを望まないだろう

きっと彼女は自ら悪魔の炎の中に飛び込んでいくだろう

 

「私はカオリと接触を試みます。うまくコントロール下に置ければ事態は収拾できます」

 

「そうしてくれると助かるよ。私の仕事も減る」

 

 



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第27話

 

第三新東京市に入ると中心部に位置しているホテルに偽名でツインルームを確保してくれていた

もう少しで夜が明けるところだったが、受付にはまだ人がいた

 

「予約していた皆川ユウと川水カオリです」

 

受付の女性はパソコンを操作して予約があるかどうかを確認。

確認作業を終えるとカードキーを手渡してきた

 

「皆川ユウ様と川水カオリ様ですね。予約は承っております」

 

「ありがとう」

 

受付の女性からユウさんがカードキーを受け取ると荷物を持って部屋に向かった

部屋は20階の2015号室。ベットは2つのツインルーム

 

「ここが僕たちの拠点だよ。一応5泊取っておいたよ」

 

「お金は大丈夫ですか?」

 

私はお金のほうが心配になってしまった。

何から何までお世話になっているから。

 

「カオリちゃんは心配することないよ」

 

また髪の毛をなでられた。

いつものように誤魔化されたかのように感じたが

今はもうどうでも良い。

 

「朝までは少し時間はあるから寝ることにしましょう」

 

たしかに、今の時間は午前4時ごろ。

もう少しで夜明けだが、少しは寝る時間はある

 

「そうですね。私はシャワーは使わないんですけど、ユウさんは使います?」

 

「僕も今日はこのまま寝るよ。数時間後からは忙しい日々が待っているようだし」

 

ユウさんはベットに入った。

私もベットに入ると眠ろうとするが数時間後から始まる出来事に興奮して眠れなかった

その様子を感じてがユウさんが起きてきた

 

「眠れないのかい?」

 

私は素直にはいと返事をした。

するとユウさんはベットから起き上がり車から持ってきたカバンから薬ビンを出してきた

 

「睡眠導入剤。これで少しは眠れるはずだよ」

 

「ありがとうございます」

 

わたしは薬の入ったビンを受け取るとキャップをあけて1錠飲むとユウさんに返した

 

「これで眠れるよ」

 

「はい、それじゃ、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

ユウさんはビンをカバンに戻してから再びベットに戻り眠りに付いた

私もじきに眠りにつく事ができた。これから起こるであろうさまざまな出来事を想像しながら

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

午前9時、僅か数時間の眠りだけだったが私とユウさんには十分な時間だった

ユウさんは起きて早々、カバンの中身を確かめていた。

検問所を通過するときは隠した物だ。

中には多数の武器弾薬が収められていた

その時、ドアがノックされた

ユウさんは私にベレッタM92を放り投げてきた。

私はそれを何とかキャッチすると銃のスライドを引き、弾を装填した

これで引き金を引くだけで発砲できる。

ユウさんも私と同じ銃を持ち、ドアに近づいていった

 

「どちら様ですか?」

 

『ルミナよ。開けてもらえると助かるんだけど』

 

ドア越しに聞こえてきた声はたしかにルミナさんの声だった

ユウさんは一度私のほうを見ると頷き、ドアのカギを開けた

そしてルミナさんの額に銃を突きつけた

 

「大丈夫よ。私1人できたわ。検問所を通れる手配をしたのも私。私は味方よ」

 

「それなら安心といっていいのかな」

 

「とりあえず、額に向けられている金属の塊を片付けてもらえるかしら」

 

「そうだね。他のお客に見つかったら大変だ」

 

ユウさんは銃をズボンの後腰に差し込むとルミナさんを部屋に入れた

 

「それにしても、ずいぶんと大量に武器を持ち込んだわね。ネルフと戦争でもするつもり」

 

たしかにルミナさんの言い分は確かだ。

まさに1人でちょっとした戦場に散歩できるくらいの量の爆薬と弾薬がボストンバックに納められていた

 

「一応、あなた達の身分は第三新東京市警察刑事課の刑事という肩書きを作っておいたわ」

 

ルミナさんはそう言うと私とユウさんに経歴書を手渡した。

そこには確かに第三新東京市警察に採用されたと記載されていた。

現在の職務はルミナさんが言ったとおり、刑事課の刑事。

 

「これで、少しは時間は稼げるでしょう。その間にプランを練りましょう」

 

 

 

プラン、それは私が私であり続けるための計画であり

 

 

 

私の今後の、いや、世界の人生がかかっていた

 

 

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第28話

 

午前10時、私とユウさん、そしてルミナさんを加えた3人はプランを練っていた

問題はいかにしてネルフ本部の幹部と接触するか。

私1人の力だけならば難しいことだったが、監察局の力を利用すればたやすいことだった

問題はそれまでの時間だ。ネルフにいつまでここにいる事が発覚しないですむか

発覚するのはそう遠くないうちに発覚するだろう。

問題はそのときの対応方法だ。

ここはネルフのお膝元、第三新東京市だ

いくら肩書きが第三新東京市警察の刑事だったとしても

彼らが強硬な手段を使わないとも限らない

もしかしたら、彼女のことを消す可能性も否定できない

そうなれば、世界は破滅への道を歩むことになるだろう

だが、そんな懸念をルミナさんは吹き飛ばしてくれた

 

「これを使えばばれないですむでしょ」

 

手に持っていたのは髪を染めるときに使う物だ

銀髪を黒に変えてしまえば、誰からも怪しまれることはない。

さらに目立つ心配もない。1週間程度ならば十分市販の髪染め製品で間に合わせることができる

 

「それじゃ、お風呂で髪染めをしましょうか」

 

私は特に抵抗もなく、ルミナさんの指示に従ったが。

服を脱いでいるときに慌てて着なおした

 

「ユウさん。絶対に見ないでくださいね!」

 

「大丈夫だよ。大丈夫と言うまで外を眺めているから」

 

ユウさんはベットに腰掛け、外の方向を見ていた

それに安心して服を脱ぐと、お風呂にルミナさんと一緒に入っていった

1時間後、銀髪から黒髪にチェンジした私が出てきた。

服を着用するとユウさんにもう良いですよって声をかけた

 

「見違えるくらい、よりいっそう綺麗な女性に生まれ変わったね」

 

ユウさんはそうほめてくれた。その言葉に私はうれしく感じた

 

「これでしばらくはバレないですむわ。あなた達は2日後のネルフ本部一斉査察までゆっくりとこの街を見学しておいていいわよ」

 

あと、これを渡すように頼まれたの。そういって渡したのは1枚のクレジットカードだ

 

「限度額は300万円まで当面の生活費に当てるといいわ」

 

「いいのかい。監察局がこんなことをして」

 

「私なりの便宜のつもりよ。監察局は関係ないわ」

 

「分かったよ。大切に使わせてもらうよ」

 

これからが本番だ。ネルフとの対決まであと2日。それまではゆっくりと街を見てまわろうと思った

ルミナさんは用件を済ませると2日後の午前9時に迎えに来るわとだけ伝えると部屋をあとにした

 

「ユウさん。今日はゆっくりと街を見てまわりませんか」

 

「そうだね。前回は散々だったからね」

 

そうして私達は外に外出して行った。私は武装はしなかったが、ユウさんは足首に小型のリボルバーを装着した

 

「それじゃ、行こうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 



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第29話・第30話

 

地下1階の駐車場に到着すると2人は車に乗り込み,

駐車場から出ると街へとくりだしていった

 

「さて、いったいどこに行きたい?」

 

ユウさんが聞いてきた。

私は出かける先など特に考えていなかった

 

「あの、第三新東京市立第壱中学校に行ってもらってもいいですか」

 

「かまわないけど、何かあるのかい?」

 

ユウさんは車に装備されているナビ機能を使い第壱中学校を登録した

そして、ナビの指示に従って、その方向に向かった。

その途中、懐かしいと感じてしまった私

今でも過去を引きずっていると実感した

でも、過去は捨てられない。

過去があるからこそ今の自分があるのだから

そんなことを考えているうちに第壱中学校が見えてきた

 

「懐かしいのかい」

 

「どうして知ってるんです」

 

まるで私の過去のことを知っているかのような口ぶりに

私は警戒心をむき出しにしてしまった

 

「気に触ったならごめんね。ルミナさんからある程度の事情は聞いてるよ」

 

「どこまで知ってるんですか」

 

ある程度、そのある程度が私にとっては重要だった

 

「君の過去を詮索するつもりはないから安心して」

 

そう言われても、私の不安は払拭されなかった

どこまで知っているのか。それが私にとっては重要だった

 

「君がサードチルドレンだったということまでは知ってるよ」

 

つまりすべて知っているということだ。

私はこのとき、自分の手元に銃がなくてよかったと思った

もし持っていたら、私は迷わず撃っていたかもしれない

 

「君にどんな過去であったとしても、水川カオリに違いないんだから」

 

その言葉を聞き安堵の表情を浮かべた。

彼はきっと、いつまでも私の味方でいつづけてくれる。

 

「こんなところにずっといてもあれだし、街に戻ろう」

 

「そうですね」

 

そうして、私達は再び街の中心部に戻っていった

 

---------------------------------------------------------

 

今日は日曜日ということもあり、街の中心部は人通りが多かった

 

「今日は人通りが多いね」

 

「そうですね」

 

中心部は交通量も多く、一部では渋滞も発生していた

海岸の町とは違い、多くの人がいる街。

 

「どこかで朝ごはんにしようかな?」

 

たしかに今日はまだ何も口をしていない。お腹もすいてきた。

ユウさんは近くのファーストフード店の駐車場へと入っていった

そして、2人そろって降りるとお店に入っていった。

 

「カオリちゃんはなににする?」

 

「私はハンバーガーのセットでかまいません。ドリンクはオレンジジュースで」

 

「わかったよ。先に席を確保しておいてもらえるかな」

 

「わかりました」

 

私はファーストフード店の空いている座席を探した。

そして、混雑している中、ようやく2人分の開いている座席を見つけた

本来は4人で使うスペースだが、今は仕方がないだろう

しばらく待っているとユウさんが私のハンバーガーセットを持って現れた

 

「僕のは少し時間がかかるみたいだから、先に食べていていいよ」

 

そう言われたが、何か気がとがめたため、私も一緒に待つことにした

数分後には私と同じハンバーガーセットが店員が届けてきた

 

「それじゃ、食べようか」

 

「はい」

 

私達は少し遅めの朝食を食べ始めた

私はハンバーガーセットを味わいながらゆっくりと食べる

ユウさんはなんだかせわしなさそうに食べていた

 

「ユウさん、急がなくても大丈夫だと思いますけど」

 

「気に障ったらごめんね。昔からの癖でね」

 

ゆっくりと食べるねというと私の同じペースで、ゆっくりと食事をしていた

食べ終わるとゴミをゴミ箱に捨てて、ファーストフード店を後にした

 

「さて、これからどうしようか」

 

これからどうするかはなにも考えていなかった

街をゆっくり見るのもよし、ホテルに戻ってプランを練るのもよし

でも私は心のどこかで、懐かしさを感じていた

それと同時に嫌悪な気分も感じていた

自分にとっては悪魔のような場所だった

 

「とりあえず、もう1度街を見ませんか?」

 

「そうだね。この前はあんなことがあって、ゆっくりできなかったしね」

 

そう、この前はあんなことがあって、たしかにゆっくりできなかった

私達は車に乗り込むとゆっくりと街を見物していった

遷都の話は相変わらず進んでおらず、いまだに首都は第二東京市のままだ

 

「高台からこの街を見てみようか」

 

「はい」

 

ユウさんは車の進路をこの街が一望できる展望台の方向に向けた

そこは昔、ミサトさんと一緒に街を見た場所と同じ場所だった

その場所に向かって車は走り出した

数十分後にはそこに到着した

私とユウさんは車から降りると、展望台へと向かった

そこから見える風景は多少なりとも変わっていたが、『昔』のままだった

 

「神は天にいまし、全て世は事もなしか」

 

あのときの神様が見れば、今の風景をどう感じるだろう。

それは今となっては分からないことだが。

私には懐かしさと苦しさしか出てこなかった

 

 

 

 

 

 



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第31話

 

展望台で1時間ほどゆっくりと過ごしていた。

すると警報が鳴った。あの『昔』に何度も聞いた警報を

 

『ウーン、市民の皆様は速やかに所定のシェルターに避難してください』

 

街頭放送でそう告げられ、同じように展望台にいた人々は一番近いシェルターへと避難して行った

 

「カオリちゃん。僕たちも怪しまれないように避難しよう」

 

「はい。そうですね」

 

確かにこのまま展望台で風景を眺めていたら怪しまれるだろう

ましてや、私達は『仮』の身分でこの場所にいるのだから

私とユウさんは、他の人と同じように展望台近くのシェルターに避難して行った

シェルターに着くと、そこには数多くの人々が避難していた

その中で、私は最悪の人を見かけた

 

「ユウさん、このシェルターから今すぐに出ましょう」

 

「でもカオリちゃん、今は」

 

「お願いします」

 

私の強い言葉に仕方がないといった表情で付き合ってくれた

シェルターの出入口はロックされていたが、手動で解除した

そして外に出た。すると後から慌てて後をつけてくる足音がした

私はすぐにシェルターのドアを閉めると外側からロックした

 

「すぐにどこかに逃げましょう」

 

「事情は後で説明してくれるよね」

 

「はい」

 

私とユウさんは車に乗り込むと、ユウさんは大急ぎでエンジンをかけると車を急バックさせて、さらに急発進させた

そして、展望台から降りていった。

 

「さて、これからどうしようか」

 

「一度ホテルに戻りましょう。そこで事情を説明します」

 

「わかったよ」

 

私達はホテルに戻っていった

 

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ホテルに着くと先に部屋に上がっておいていいよといわれた

フロントでカードキーを借りると20階の2015号室に戻った

しばらく部屋でのんびりしているとドアをノックされた。

私は何の警戒もせずにドアを開けるとそこにはさっき見た最悪の人物が立っていた

私はとっさにドアを閉めようとしたが、向こうが足を挟んできた

 

「少しだけ話ができないかい?」

 

「わたしとあなた、話すことがあると思う?」

 

そんな問答をしているうちにユウさんが戻ってきた

ユウさんは瞬時に状況を理解し、足首に装着しているリボルバータイプの拳銃

それをその最悪の人物の頭に突きつけた

 

「それ以上、彼女に何かしてみろ。お前の頭が吹っ飛ぶことになるぞ」

 

いつもとは違い、鋭い気配を漂わせるユウさんに私は戸惑いながらも

援護してくれたことに感謝していた。

 

「誤解をしないでもらえるとうれしいね。僕はただ彼女と話しをしたいだけだよ」

 

「その彼女が嫌がっているのに無理やり話をしようとするのが君のやり方か。俺なら一発殴ってやるところだ」

 

次の瞬間、ユウさんはそいつの首を少し強く『トン』と叩くと相手を気絶させた

そのまま彼を抱き上げると部屋内に入れた。今この場を見られれば不審者として通報されかねない

仮にも第三新東京市警察の刑事の2人がホテルで誰かと一悶着起こしているなど

通報されたら、それこそ最悪な結果になりかねない。やむをえない方法だった。

気絶させた人物、それは渚カヲルだ。

彼は私にとって最悪のジョーカーであり、もっとも会いたくない人物でもあった

ユウさんはカヲルを自分のベットに寝かせると、説明してくれるよねといった

 

「私は彼を撃ったから、今、見つかったら面倒なことに」

 

「それなら、しばらくここに彼をかくまうしかないね」

 

そう、彼からネルフに情報が漏れる可能性は限りなく100%あった

 

「とにかく、ルミナさんに連絡しておこう。話はそれから進めよう」

 

ユウさんはそう言うと携帯電話を取り出すと電話帳に登録しているのか

簡単にルミナさんの携帯電話に連絡を取っていた

 

「ルミナさん、少しトラブルが発生してね。大至急ホテルに来てくれないかな。今すぐに」

 

電話の向こうでルミナさんが何を話しているのかは聞こえなかったが

すぐに来てくれる事だけは分かった

 

 

 



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第32話

 

電話をしてから30分後、ルミナさんはあわてた様子で部屋に現れた

そして室内にいる渚カヲルを見て事情を察したようだった

 

「そういうこと。電話で詳細を話さなくて正解よ」

 

第三新東京市内では電話はすべてMAGI経由になっている

つまり盗聴されているということだ。

もっとも一般市民は知らないことだが

ユウさんはルミナさんにただホテルに来るように言っただけだった

他には一切詳しい内容は言わずに

 

「それでどうするの?」

 

「隣に部屋を借りれるかな。僕たちはそっちに避難するっていうのはどうかな?」

 

「いまさら手遅れよ。どうやら目を覚ましているようだしね。そうよね。盗み聞きが下手くそなネズミさん」

 

するとベットに横になっていた渚カヲルが起き上がった

 

「なんだい、いつから気づいていたんだい」

 

「はじめからよ。それとカオリ、彼に銃を向けるのはやめなさい」

 

私はとっさにベレッタM92を手にして渚カヲルに向けていた

無理もないことだが、やめろといわれて簡単にやめれるわけはない

 

「渚カヲルは信用できない」

 

「カオリ、彼は私達の協力者よ。だから銃をおろして」

 

ルミナさんは私は説得しようとする

でも私は到底受け入れることはできない

私は銃口を渚カヲルに向け続けた

 

「碇シンジ君「その名前で呼ばないで!私は水川カオリよ!」

 

彼の言葉を遮り大声で怒鳴るかのように叫んだ

 

「水川カオリさん、君が僕を撃った事をネルフには報告していない。それが証拠にならないかい?」

 

あのときの事件、悪夢だと思いたい出来事

確かに報告していないなら少しは信用できるかもしれない

その時ルミナさんが会話に口を私達の会話に口を挟んできた

 

「彼は味方よ。私達のね。それは保障するわ。だから銃をおろして」

 

ルミナさんが言うなら間違いないだろう。

私は銃口を渚カヲルから外して、銃にロックした。

 

 

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4人、1部屋に集まった私達。

渚カヲルはユウさんに自己紹介をした

 

「フィフスチルドレンの渚カヲルです。よろしく」

 

渚カヲルは手を差し出した。

ユウさんも手を差し出し互いに握手を交わした

その様子を私は不満げな表情で見ていた

私にとってネルフは敵だ。それも史上最悪なくらいな。

そんな相手を敵にしようとしているのに、

敵の仲間である渚カヲルとすぐに仲良くなれとは無理な話だ

ましてや、『昔』、一度裏切られていれば当然のことだ

 

「私はあなたのことなんか、だいっ嫌いだから」

 

「どうやら僕は、相当嫌われているみたいだね」

 

「相当じゃなくて、かなりよ。今すぐにでも殺したいくらいにね」

 

「それは遠慮してほしいね。僕も今は生身の人間だからね」

 

確かにそのとおりだ。昔の使徒だったら話は別だが

今は生身の人間だ。銃で撃たれれば場所によっては死に至る

 

「そうね。ちゃんとしておいてあげたからね」

 

なにをちゃんとなのかは私にしか分からないはずなのだが

渚カヲルにはそれが何かを理解したようだった

 

「その件に関して感謝してるよ」

 

「感謝される覚えなんてないわよ」

 

私はぶっきらぼうに返事をするだけだった

 

「それじゃ、彼も交えて話し合いをしましょうか」

 

「冗談ですよね?ルミナさん」

 

私はルミナさんの発言に耳を疑った

敵のど真ん中にいる人物を交えて作戦会議をするなんて

 

「彼は味方よ。私達の協力者。カオリ、それだけは信じて」

 

念押しされるかのように言われて、私は仕方なく頷いた

これから世界の運命が決めるかもしれない作戦会議の開始だ

 

 



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第33話

 

4人は作戦会議に入った。

ルミナさんがまた経歴をでっち上げてくれた

新しい経歴はネルフ監察局監察部監察官という経歴だ

その経歴書を受け取ると紙に印刷された中身は嘘ばかりの経歴だ

 

「問題はどうやって碇ゲンドウと碇ユイに会うってところね」

 

確かにそのとおりだ。

いくら監察だといっても上層部の人間が直接出てくるとは考えにくい

せいぜい出てくるのは中堅クラスの人間だろう。

それでは意味がない。私が求めているのは2人との対決なのだから

 

「手がないわけじゃないわ」

 

ルミナさんが突然切り出してきた。

そのプランはあまりにも無謀という物であった

それは渚カヲルを人質にして、2人を呼び出すということだ

しかしそれを実行するには、彼の全面協力が必要だ

 

「私は彼に銃を向けるのはどうとも思わないわ」

 

「怖いことを言わないでくれると助かるんだけどね」

 

カヲルはそう言うが、私は彼に銃を向けることをどうとも思ってない

むしろ殺したいと思っているくらいだ

 

「渚カヲルを、彼を人質にするにはそれなりに準備が必要だよ」

 

ユウさんがそう言ってきた。

確かにそのとおりだ。渚カヲルを人質にするプラン

それはもっともな有効な策だが、下手をすれば監察局にまで影響を及ぼす

ルミナはそれだけは避けなければならないのだが、

今回はそうは言っていられない

 

「あなたが持ってきた装備があれば十分対応可能なのでは?」

 

ルミナさんがユウさんが持ってきた装備を指摘した

たしかにユウさんは大量の武器弾薬を持ってきている

 

「それじゃ、そのプランで実行するのかい?」

 

渚カヲルが口を挟んできた。

次の瞬間、ユウさんは再び、渚カヲルの首を『トン』として気絶させた

 

「計画はスタートした。それでいこう」

 

「了解。私達のほうの対応は任せて」

 

そうして回り始めた時計。それが止まるとき正義がなされるのか、

それとも悪夢の結果になるのか、どちらになるかは分からない

 

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私とユウさんは、渚カヲルを大きなボストンバックに詰めると

地下駐車場に止めている車に移動した。

 

「本当にうまくいくでしょうか?」

 

「大丈夫だよ。なんとしてもうまくいかせるから」

 

駐車場に到着するとボストンバックから渚カヲルを取り出すと後部座席に寝かせた

 

「少し様子を見ていてもらえるかな。僕はもう1つのボストンバックを持ってくるから」

 

つまり武器を持ってくるということだ。

 

「念のためにこれを渡しておくよ」

 

ユウさんは私にベレッタM92をもう1丁投げてよこした

もしものためだろうが、これを使うときが来ないときを願うだけだ

15分後にはユウさんはまたボストンバックを持って戻ってきた

 

「それじゃ、作戦を始めようか」

 

作戦、渚カヲルをえさにして碇ゲンドウと碇ユイを連れ出す計画。

うまくいくかどうかはまさに運しだいだ。それも神様に祈るぐらいの確立だ

 

「成功すればいいですけど」

 

「そうだね。成功すればいいね」

 

確かにそのとおりだ。

この作戦がうまくいけば、私の運命は変わるかもしれない

もし成功すればの話だが

 

「成功させないといけない」

 

「そうだね」

 

私の運命を決めるためにも、この作戦を成功させなければならない

 

 



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第34話

 

私とユウさんは第三新東京市のはずれに位置している

古いコンクリートマンション地帯に入っていった

この場所はかつて綾波レイが住んでいた場所だ。

第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地の一角

そこを拠点とすることにしたのだ

ここならばネルフの監視装置もダウンしている

その情報はルミナさんからもたらされた物だが

 

「まさか、またここにくることになるとは思ってもみませんでした」

 

「昔、来たことがあるのかい?」

 

「私がまだ碇シンジだったころの話ですけど」

 

その頃はなにも考えずに過ごしていた日々。

悪夢のような人生だった日々

 

「苦しいのかな」

 

「分かりません。今となっては昔の記憶は、ただの記憶でしかありませんから」

 

「それでも過去は過去だ。君が以前からよく言っていたセリフを思い出すよ」

 

過去は捨てられない。過去があるから前に進むことができる

それが私の口癖だった。それを今になって言われるとは、思いもしなかった

 

「まさかユウさんにそれを言われるとは思ってもみませんでした」

 

「とりあえず、どこかの部屋を拠点にしよう。どこが良いと思う?」

 

「402号室に行って見ましょう」

 

もしかしたらまだ。

そんなささやかな希望を持って私達は第22番建設職員用団地6号棟402号室に向かった

私が武器と弾薬が入ったボストンバックを持って。

そして渚カヲルをユウさんがお姫様抱っこの状態で運んでいった

402号室に着くと部屋のドアのカギは開いていた

室内に入ると病院で使われているような簡易ベットが置かれていた

あの時のままだった。昔のまま。

 

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ユウさんはお姫様抱っこをしてきた渚カヲルは簡易ベットに寝かされた

そして渚カヲルの携帯電話をポケットから取り出すと電池を抜いた

 

「これでネルフはこの場所でロストしたことが分かるでしょ」

 

ルミナさんからの情報によると

チルドレンたちの持つ携帯電話には発信機が付けられているということだ

その発信機は携帯電話の電池によって作動している。

それがシャットアウトされた段階でネルフは動き出すだろう

その時、ユウさんの携帯電話がなった

 

「はい、相葉ユウです」

 

相手はどうやらルミナさんのようだ。

ユウさんは携帯電話をスピーカーフォンモードに切り替えると通話を再開した

 

『どうやらネルフが動き出したようよ』

 

「どんな感じかな」

 

『向こうは大慌てよ。なにせ世界で3人しかいないチルドレンの行方が途切れたんだから』

 

「こっちは準備万端だよ。ところでネルフ本部の総司令官への直通電話番号を教えてもらえるかな?」

 

『どうするつもり?』

 

「計画を実行するだけさ。僕たちの戦いさ。これがね」

 

『わかったわ。番号は01225-5854-6521よ』

 

ユウさんはそれをメモに取ると携帯電話の通話を切った

 

「それじゃ、はじめようか。僕たちの戦いを」

 

「はい」

 

これから始まる数時間が私たちの戦いだ

どんな犠牲を払おうとも

必ず成功させなければならない

 

 

 

 



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第35話・第36話

 

ユウさんはさっきルミナさんから聞いた番号に電話をかけた

もちろんスピーカーフォンモード状態にして

相手はすぐに出た

 

『誰だ』

 

「渚カヲルを預かっている者です」

 

その言葉に電話の向こうではなにやら他の声も聞こえてきた

 

『ちょっとあんた、何考えてるのよ』

 

声の主は誰だかすぐに分かった。

葛城ミサトだった。どうやらこの電話は発令所への直通電話だったようだ

 

「何考えてるって、誘拐犯ですよ。簡単に言えば」

 

ユウさんは余裕の態度を崩そうともしなかった。

ユウさんに視線を合わせると任せてといわんばかりに笑みを浮かべた

 

「そちらに碇ゲンドウさんと碇ユイさんはいらっしゃいますでしょうか」

 

『私が碇ゲンドウだ。ユイは今は外しているがかまわないか』

 

「もちろんです。ここでビジネスの話に移りましょう。そろそろ逆探知もできている頃でしょう」

 

『ああ、そちらの居場所は分かっている。何故その場所を選んだのか』

 

「理由など簡単です。ここがかつてリリスの分身たる綾波レイの住んでいた場所だったから、それだけの話です」

 

『目的は何かね』

 

「碇ゲンドウさんと碇ユイさんは2時間後にこの場所に来てください。もちろん護衛など付けずに」

 

『付けて行ったらどうなるのかね』

 

その時、ユウさんが私に何か合図をしてきた。

手で銃の形を作って。それを地面に向けて

私はベレッタM92を取り出すと地面に向かって発砲した

 

「今の音で理解していただけると思いますが、1人でも護衛らしき人物を見つけた場合、チルドレンが3人から2人になります」

 

『君たちの本当の目的は何かね』

 

「それは会えば分かります。では2時間後に第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟の402号室に」

 

『わかった。2時間後にそちらに行かせてもらうよ』

 

「お待ちしております。では失礼します」

 

ユウさんは電話を切ると大きなため息のような息を吐き出した

 

「緊張したよ」

 

その時、銃声で起きたのか渚カヲルが目を覚ました。

 

「ぅん、ここは」

 

「第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟の402号室だよ。計画は進行中だよ」

 

ユウさんがカヲルに事情を説明していたが、まだどうやら飲み込めていない様子だった

 

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あの電話から1時間後。私達は準備を着々と進めていた。

私の腰にはホルスターが装備され、そこにはベレッタM92が装備されている

ユウさんの腰には[ SIG SAUER SP2022 ]が腰のホルスターに装備されている

渚カヲルは後手錠をかけられた状態でベットに腰掛けていた

 

「ここまでやる必要があるのかい?」

 

「計画には完璧を尽くす必要があるからね」

 

玄関ドア部分には爆薬がセットされていた。

私がお願いしたのだ。もしもの場合はみんなまとめてと

ユウさんはそれに賛同してくれた。

私と一緒ならどこまでもと

 

「私はあなたのことが大嫌いだから手錠をしているのよ」

 

「そうなのかい。てっきり、そういうのが好きなのかと思ったよ」

 

カヲルのそんな冗談に私は切れて思わず、ホルスターからベレッタM92を取り出して銃口をカヲルに向けた

 

「この状況でよく冗談が言えるわね。感心するわ。その根性にね」

 

さすがの渚カヲルも私の言葉に驚きの表情を浮かべていた

もう少しでトリガーに手がかかりそうになったときにユウさんが止めにかかった

 

「カオリちゃん、今は抑えて」

 

その言葉で私は少し頭が冷えたのか、トリガーにかかりそうだった指が離れていった

 

「余計なことは言わないことをお勧めするわ。今の私はピリピリしてるの」

 

確かにそのとおりだ。今の私は内心ピリピリしていた。

これから始まるであろう決戦に向けて。

その時、ユウさんの携帯電話がなった

相手はルミナさんからだった

今度はスピーカーフォンにせずにユウさんだけが話していた

 

「それで状況は・・・・・・・・わかったよ。こっちは来客の準備は完了しているよ」

 

そういって通話を切った。

 

「どうやら敵さんは本当に2人きり来るみたいだよ。今ネルフ本部を出たところを確認したそうだよ」

 

ルミナさんからの状況報告に、いよいよ戦いが迫っていることに私は興奮していた。

なぜかは分からないが、興奮していた。

そんな私を見て、ユウさんが助言をしてきた

 

「鎮静薬も持ってきているけど、飲むかい?」

 

私は迷わずはいと返事をした。

今の興奮状態のまま、迎えたら誰がどう見ても危険だった。

私はユウさんから鎮静薬をもらうと飲み込んだ。

すると数十分後にはようやく落ち着きを取り戻した

 

 

 

 



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第37話

 

そして約束の2時間後のときを迎えた。

その時ドアがノックされた。私はホルスターからベレッタM92を取り出すとドアに照準を向けた

ユウさんもホルスターから[ SIG SAUER SP2022 ]を取り出すと同じように銃口をドアのほうに向けた

 

「それじゃ、カオリちゃん。いよいよショータイムの時間だね」

 

「そうですね」

 

さっき飲んだ鎮静薬の効果もあり、頭のほうは冷えていた

 

『トントン』

 

ドアがノックされた。

本当にいよいよショータイムの時間だ

渚カヲルにはしゃべれないように口にガムテープをしていた

 

「それじゃ、ショータイムの時間だ。ドアのカギは開いていますよ!」

 

ユウさんが大声で言うと、ドアが開いた。

ドアの向こうには確かに碇ゲンドウと碇ユイが立っていた。

 

「どうぞ中に入ってきてください」

 

「そうさせてもらおう」

 

碇ゲンドウがそう話すと2人一緒に部屋に入ってきてドアが閉じられた

いよいよ舞台は整ったわけだ。ここは完全な密室。そこでユウさんが動いた。

 

「念のためチェックさせてもらいますよ」

 

そう言うと盗聴器発見装置を2人にかざした

結果は見事に盗聴器がいくつか仕込まれていた

ユウさんはそれを排除すると、靴で踏み潰した

 

「これで4人で話ができますね」

 

「そのようね」

 

碇ユイが話した。

盗聴器の件は驚いた反応を示してたところを見ると

保安諜報部が独自に動いているのだろう

時間はそれほど残されていなかった

 

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「それじゃ、何からお話をしましょうか?」

 

ユウさんが主導的な立場に立ち話を始めた

 

「彼の解放の条件ですが、僕たちが無事に第三新東京市を抜け出すこと。それが条件です」

 

まずは逃走ルートの確保

もっともネルフがそんな約束を守るとは思えないが

今はそれを信用するしかない

 

「それに関しては飲むは。他に条件は?」

 

碇ユイが口を挟んできた。

もっとも、今回の目的は彼女が狙いだったのだから

この状況は事前の予想通りに運んでいる

 

「碇シンジをどう思っていますか」

 

今度はユウさんに変わって私が話しはじめた

私の質問に碇ユイは答えにくそうな表情を浮かべた

 

「彼から伝言を預かってきています。あなたの答え方しだいで内容は変わりますが」

 

「シンジに会えるなら、私は何だってするわ」

 

「何だってですか。それがたとえ命を投げ出すような行為だとしてもですか」

 

「もちろんよ。一目でも会えるなら、そうするでしょう」

 

私の想像を超える返答で答えてきた碇ユイ

私はとっさにどうしようかと悩み始めた

いざ敵を目の前にしてぶるってしまったのだ

 

「それでは、碇シンジの伝言を伝えます」

 

それは私からのメッセージ。それも直接的なものだ

銃口を碇ユイに合わせると

 

「死んでください。これが彼のメッセージです」

 

「カオリちゃん!」

 

『バンっ』

 

 

 



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第38話

 

銃口を碇ユイに合わせると

 

「死んでください。これが彼のメッセージです」

 

「カオリちゃん!」

 

『バンっ』

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

 

発砲をしたが的はおおはずれ、まったく別の壁に当たった

はじめから彼女を殺すつもりなんてなかった。ただ、本心を聞きたかっただけだ

その結果がこれだ。ルミナさんが聞いたら何というか

 

「今のちょっとした冗談です。でも伝言は本物です」

 

「シンジが本当にそう言ったの?」

 

碇ユイは信じられないといった表情を浮かべていた

碇ゲンドウも同じく

 

「そうです。私達は彼の代弁者です。嘘はつきません」

 

そう、私の心からの本心

あの悲劇の出来事を生み出した元凶

そんな人間を誰が喜んで歓迎するだろう

むしろ殺したと思うのは当然のことだろう

あの赤い世界では

覚えているのは惣流・アスカ・ラングレーぐらいだろう

彼女も断片しか分かっていないだろう

本当の真実を知っているのはここにいるメンバーだけだろう

 

「どうしてあんな計画を推し進めたのですか。碇ゲンドウさん」

 

「すべてはユイに会うためだった」

 

「それは息子、碇シンジを犠牲にしてもですか」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「沈黙は肯定とみなしますよ」

 

「そうだ」

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

 

「碇シンジは一時神にも等しい立場になったがそれを放棄した」

 

「その結果生まれたのは赤い海と白い砂浜の世界」

 

「あなた方にとっては理想の世界だったんでしょうけど、彼にとっては地獄のような世界だった」

 

「ずいぶんと饒舌なのね」

 

「先ほども述べましたが、私達は碇シンジの代弁者。質問があれば受け付けますよ」

 

私はぶっきらぼうにそう言った。

本心を答えてやる必要はない。

ただ、質問に答えてやれば良いだけだ

 

「シンジは今はどこにいるの?」

 

「碇シンジは死にました。だから私達が代弁者として来ているのです」

 

「どういう死に方をしたの?」

 

「あなた達には想像もつかないでしょうけど、自殺ですよ。私達はその場を偶然立会い、それを手伝っただけです」

 

その言葉に碇ユイは切れたかのように言葉を発した

 

「どうしてとめてくれなかったんです!とめてくれればもしかしたら」

 

「彼の決意が固かったからです。だから手伝った。それだけの話です」

 

他に質問はありませんかといった。

すると今度は碇ゲンドウが質問をしてきた

 

「シンジの墓はどこにあるのか?」

 

「彼の墓はありません。自殺後、火葬にして骨は大海原に撒きましたので」

 

私の中での碇シンジはもう死んだも同然だ。

嘘と真実を交えながら真実っぽく言えば、それが真実になる

たとえそれが完璧な嘘であってもだ

 

「質問は以上ですか?」

 

「1ついいかしら」

 

碇ユイが聞いてきた。

質問の内容は容易に想像が付いた

 

「あなたは何者なのかしら」

 

 



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第39話

 

「私は水川カオリ、海岸の町に住むただの小娘よ」

 

「その小娘さんがどうして、私の息子のシンジのことをよく知っているのかしら?」

 

私はその時、しゃべりすぎたと思った

その時、ユウさんの携帯電話がなった

視線で私に合図をすると電話に出た

 

「相葉ユウです・・・・・・・・・・・・そうですか、情報提供感謝します」

 

「どうかしました?ユウさんは」

 

「どうやらこちらのお2人は約束を守る気はないようですね」

 

ユウさんが近づいてきて、耳打ちで話を伝えてきた。

 

「周囲を保安諜報部が取り囲んでいるみたいだよ。どうする?」

 

「2人も人質にしましょう。あとは出たとこ勝負ということで」

 

それしか方法はなかった。

出たとこ勝負だといっても、分は明らかに悪い

 

「周囲を保安諜報部の方々が取り囲んでいるそうです。これはどういうことかご説明できますか」

 

「私達の指示ではないわ」

 

「説明になっていませんが。すぐに撤収するように指示して下さい。さもないと」

 

私は銃口を碇ユイのほうからベットに腰掛けた状態で座っている渚カヲルの頭に銃を突きつけた

 

「わかった。そちらの要求を呑もう。他に何か要求はあるかね」

 

「私達の身の保証。ここから出た瞬間、蜂の巣なんていうのは嫌ですから」

 

その要求にも2人は応じた。碇ゲンドウは携帯電話を取り出すとどこかと電話を取り始めた

 

「私だ。すぐに第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地から保安諜報部を撤収させろ。これは命令だ」

 

数十分後、再びユウさんの携帯電話がなった

1分間ほどで通話を終えると電話をポケットに片付けた

 

「どうやら本当に撤収させたようですね。さすがは碇司令だと言ったところでしょうか」

 

「君たち以外にも仲間がいるのかね」

 

「ネルフ内部にも僕たちに協力してくれる方がいらっしゃるので、そちらの情報は筒抜けです」

 

ユウさんがそう言ったが、本当はネルフ監察局だ

だが真実を話す必要はない。今大事なことはこの状況をどうやって切り抜けるかだ

 

---------------------------------------------------------------------------------------

 

 

私はユウさんに近づくと耳打ちをした

 

「3人を人質にするにはリスクが大きすぎます。人質は渚カヲルだけで十分です」

 

私の言葉にユウさんは頷いた

 

「どうやら今回の勝負はここで幕を下ろさないといけないようですね」

 

「逃げ切れると思っているのか。我々ネルフから」

 

「プランはいろいろと考えています。ひとまずお2人には後手錠をしてもらいましょうか」

 

私はベレッタM92をホルスターに戻すとボストンバックから手錠2つを取り出した。

そして碇ユイと碇ゲンドウの後ろに回ると後手錠をかけた

 

「どうするつもりだ」

 

「あなたたちにはここにいてもらう。出入口には無線式の爆弾をセットしてある」

 

ユウさんの言うとおり、出入口のドアには携帯電話で作動する爆弾をセット済み。

さらに部屋を監視するための盗撮機もセットした

逃げ出す準備は着々と進行していた。

 

「渚カヲルは私達の保険として預かるわ。私達の安全が確保されたら解放する」

 

私の言葉に2人は頷いた。

 

「もし、もう1度私達の前に現したら、そのときはどんな手段を使ってもあなた達を殺すわ」

 

これは本気だ。

私には今はもうこの2人には愛情などない

信頼関係も何もない

 

「それじゃ、僕は先に退散させてもらうよ。車で待ってる」

 

ユウさんがそう言うと渚カヲルを連れて部屋を後にした。

 

「あなたが本当の碇シンジなんでしょ」

 

碇ユイがそう言ってきた。

その言葉に私は思わずホルスターから銃を抜きそうになったが、何とか踏みとどまった

 

「碇シンジは死んだ。ただそれだけは真実」

 

「でもあなたは生きてる。あなたと一緒に話がしたいの。5分だけでもいいから」

 

「いいわ。5分だけね。何が聞きたいの?」

 

「どうして嘘をつくの?」

 

嘘、確かに私は嘘をついている。

でも、それをつき続けるしかない。

 

 



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第40話

 

「あなたはなにが言いたいの?」

 

「碇シンジはあなたのことじゃないのって事よ」

 

確かに私は碇シンジだ。でも嘘をつき続けるしかない。

嘘ではない。今の私は水川カオリだ。

 

「今の私は水川カオリ。それが真実よ。母さん」

 

思わず本音が出てしまった。計画に狂いが生じる

 

「こんなことをして誰が得をするというの。シンジ、いえカオリさん」

 

「誰も得をしない。得をするのは私だけ。ユウさんは協力者。他にも協力者はたくさんいる」

 

それは真実ではないが、今は嘘をつくしかない。

 

「その協力者を使ってあなたはなにをするつもりなの?」

 

「碇シンジが残した遺言を実行するだけ。まずはあなた達2人をどうするかは私しだい」

 

「それであの子が満足するとは思えないけど」

 

そう思っているのは彼女だけだろう。

私にとっては碇ユイは憎悪の対象でしかない

 

「彼ならきっと喜んでくれるわ。サードインパクト後の地獄を見てきた彼ならね。それじゃ、私はそろそろ退散するわ」

 

「最後に1つだけ質問してもいいかしら」

 

私はその最後の質問が何なのか、なんとなく予想できた

 

「シンジは、シンジはサードインパクト後の世界を何故再構築したの」

 

予想通りの質問だった。答えはただ1つだ

 

「すべてを元に戻したかった。たぶんそれだけでしょうね。それじゃ、お2人とも、もう会うことはないとは思いますけど」

 

さようならと告げると私は部屋を出た。

1階に着くとエンジンをかけて後部座席に渚カヲルを乗せた状態で待っていたユウさんがいた

 

「ずいぶんお別れの挨拶に時間がかかったみたいだけど、大丈夫?」

 

「ええ、これでもう大丈夫よ。あとは逃げるだけね」

 

「そうしよう」

 

私達3人は第三新東京市を後にすることにした

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

入ったときと同じ検問所を通って逃げる前に『積荷』を降ろす必要があった

検問所まであと数キロというところでルミナさんが路肩の避難帯で立って待っていた

 

「ここまでこれたってことは計画は予定通りって事かしら」

 

「そういうことです。あと積荷を引き取ってもらえますか。彼を積んだままだと検問所は通過できないので」

 

そう言って私達は渚カヲルをルミナさんに引き渡した。

彼女ならきっとうまくやってくれるだろう。

 

「それで碇ゲンドウと碇ユイはどうしたの?」

 

「第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地の402号室に放置してきたわ。出入口には携帯電話で作動する爆弾つきでね」

 

「大丈夫なの?」

 

ルミナさんが心配の表情を浮かべるが、私は大丈夫だといった

 

「爆発させるつもりはありませんから。あくまでも威嚇が狙いです」

 

そう、あの爆弾は室内に突入させないために設置した物。

私達が第三新東京市から出てしまえば無用の物となる

 

「検問所を無事に通過できたら、爆弾は解除します。もし通過できなかったらドカンですけど」

 

「あなたも怖い女の子になったわね」

 

「私だってやるときはやります。これからの将来がかかっているんですから」

 

「そう。それじゃ、私は渚カヲルを引き取っていくわ。もう口のテープは外しても良いかしら」

 

そう、まだ渚カヲルの口にはガムテープがされたままだった

 

「いいですよ。もう用は済みましたから」

 

ルミナさんは渚カヲルのガムテープを剥ぎ取ると、彼はようやく話せることに安堵したような表情を浮かべた

 

「これでお別れかい?水川カオリさん」

 

「そうよ。あと、本当の真実を話したら私はあなたを殺すからそのつもりで。それじゃ、さようなら」

 

私とユウさんは車に乗り込むと検問所へと向かった。

サイドミラーから手錠が外されルミナさんの車に乗せられる渚カヲルの姿を見ながら

 

 

 



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第41話

 

検問所は相変わらず混雑していた。

そんな中ようやく私達の順番が周ってくると、来たときと同じように第三新東京市警察のバッジを見せた

向こうは、来たときと同じようにほぼノーチェックで通過させてくれた。

そこで私はユウさんから携帯電話を借りると、あの部屋に設置された爆弾に接続されている携帯電話にかけた

かけ方しだいで爆弾の起動も解除もできる優れものの携帯電話だ。

数秒後、無事に解除されたのを確認すると後部座席からノートパソコンを取り出し、監視カメラを起動させた

すると、爆弾が解除されたと同時に踏み込んだのであろう、大勢の人物が映っていた

 

「どうやら敵さんは無事に大切な者を回収し終えたようです」

 

「そう。それにしてもよかったのかな。君にとっては」

 

「私にとっては最良の結果です。これで安全が確保されたならの話ですけど」

 

「ネルフはしつこいからね。何かあったら君の家に電話をするよ。僕にもネルフ内部に協力者はいるからね」

 

その言葉に私は驚きの表情を浮かべた

まさか本当にネルフ内部に協力者がいるとは思いもしなかったからだ

だが、これは宣戦布告に近い行動だ。

きっとネルフは何か大きな一手を打ってくるはずだ。

もっとも今の碇ゲンドウと碇ユイが本気でそこまでやる気があるかどうかは分からないが

 

「もう私にとってネルフは過去の存在です。ただカビと同じでいつまでも付きっぱなしの過去ですけど」

 

「そうだね。僕もネルフとは少し因縁があるからね。今日のゲームはなかなか楽しめたよ」

 

「ゲームですか。確かにそうかもしれませんね」

 

これからの数日、ネルフがどう出てくるのか

そしてネルフ監察局のルミナさんがどう動いてくるかで私の運命が決まる

 

「いつでも勝負は受けて立つ用意はしておきましょう」

 

「そうだね」

 

そう言いあいながら私達は海岸の町へと戻っていった

 

--------------------------------------------------------------------

 

 

海岸の町に到着した頃には夕方になっていた。

ユウさんは私を旅館の前まで連れて行ってくれた

 

「ユウさん、今日の一件。本当にお世話になりました」

 

「気にしなくてもいいよ。僕も久々の楽しいゲームだったからね。それと」

 

これは君が持っておいた方が良い

ユウさんはそう言ってベレッタM92と弾50発の入ったケースを手渡してきた。

 

「ありがとうございます」

 

私はそれを素直に受け取った。これからネルフがどんな行動を示してくるかわからない

そのための予防対策には銃しかなかった

 

「カオリ!」

 

その時、旅館に着くと同時にお母さんが出迎えてくれた。少し遅れてお父さんも出迎えてくれた

 

「どうだったの?第三新東京市は」

 

私が答えようとしたとき、ユウさんが答えてくれた

 

「しばらくはネルフの影も落ち着くでしょ。でも、どんな強硬手段に出てくるかわからないから気をつけてください」

 

確かにその通りだ。今のネルフは脅しが利いているがいつかは暴発するだろう

そのときは旅館の人まで巻き込むことになる。それだけは絶対に避けなければならないことだ

私は、この場所を守る義務があるのだから。私の唯一の居場所。世界でたった1つの居場所なんだから

私は車から降りるとお父さんとお母さんは私が銃を持っていることに驚いていたが

すぐに事情を察したようで、お母さんが布を差し出してきた

 

「これで隠して部屋まで持って帰りなさい」

 

「ありがとう、お母さん」

 

私はベレッタM92を布でくるむと旅館の中に入っていった。

後ろではお父さんとお母さんがユウさんと何か話をしていたようだが

今は特に気にしなかった。今はもう疲れて眠りたい一心なのだから

 

 

 



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第42話

 

僕はカオリちゃんが旅館の中に入ったのを確認すると、ご両親に状況説明をした

より詳しく、そして今後起こる可能性のある出来事も含めて。

それでもご両親はカオリちゃんを守りきると断言した。

僕はよっぽど愛されているのだなと実感した

話をある程度済ませると僕も自宅に戻ることにした

 

「今日はいろいろあって疲れたな」

 

確かにその通りだ。今日1日で僕の寿命は半分くらい短くなるくらいの危ない橋を渡った

 

 

------------------------

 

ネルフ監察局 局長執務室

 

局長執務室では局長である蒼崎とルミナ。

そして渚カヲルが集まって応接セットに座って話し合いをしていた

 

「今回の1件。もみ消しは困難な上、碇ゲンドウ、碇ユイまで巻き込むとはもう少しおとなしくできないのかな」

 

「水川カオリが望んだことです。遅かれ早かれ同じ結果になったはずです」

 

ルミナの言うことは確かだ。

今回の1件は遅かれ早かれ発生するケースだった

今回はそれが早かっただけだ

 

「ネルフはしばらくはおとなしくしているようです」

 

渚カヲルが話しはじめた。今回彼はネルフ内部の情報提供が目的だ

カヲルは完全にネルフを裏切っている状態なのだ

これはこれで問題があるのだが

今は仕方がない

 

「君の情報はありがたいよ。これからもそうやって情報交換ができるとうれしいね」

 

蒼崎が笑みをこぼしながらそう言った。

たしかにそうだろう。ネルフ内部に情報ルートができれば

それはネルフにとっては悪夢のような出来事だろうが

 

「僕もです。監察局と情報交換ができるなら安心して彼女に会いにいけます」

 

「やめておきなさい。次に会いに行ったときは殺されるわよ。あなた」

 

確かにその通りだ。次に行ったら、カオリによって確実に殺されるだろう

 

 

----------------------------------------------------------------------

 

 

ようやく自分の部屋に戻ってきた

自分の居場所に帰ってこれた。

それだけで感無量だった。

 

「これからしばらくは平和な日々が過ごせそうね」

 

確かにその通りだ。

私はこれからしばらくは平穏な日々が過ごせる

でも、いつまで平穏な日々を過ごせるかは分からない

ただいまは、布団を敷いて早く休みたいと思った

今日はなによりも数多くの出来事があった

 

「ひとまず布団を敷いて、お風呂に入って寝ましょう」

 

私はまず押入れから布団を取り出すと寝る準備を整えた

その時、枕の下にベレッタM92を隠した。いつ何時、襲われてもいいように

そして寝巻きの浴衣を手にすると大浴場に向かって歩いて行った

その途中でユリさんに出会った。ユリさんは私を見ると抱きついてきた

 

「無事に帰ってこれてよかったわね」

 

その言葉に私はまた喜んでしまった。まだここには私を愛してくれる人がいる

だからこそ私はこの場所を守ろうとする。それもどんな手段を使っても守ろうと決めた

 

「ちゃんと帰ってきたよ。ユリさん」

 

「そうね。私達は必ず待ってるから。いつでもね」

 

何を待っているのかは分からないが、ユリさんたちが仲間であることは認識できた。

ここには敵はいない。私達だけの平穏な世界。都会から隔絶された空間なのだ

それを大事に思いながら私は大浴場に向かった

 

 

 



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第43話

 

大浴場で体を洗い終えると、ゆっくりとこの旅館自慢の露天風呂に入った

ここからでも夕焼けを見ることができるが、夜は満天の星空が満喫できる

今日1日のハチャメチャな出来事を忘れさせてくれるときでもあった。

そんな時、お母さんが露天風呂に入ってきた

 

「あら、カオリ、今お風呂に入ってたの?」

 

「今日は疲れたから早めにお風呂に入って早く休もうと思って」

 

「そう、そういえば、新聞でネルフ本部のことが書かれていたわ」

 

その言葉に興味を引かれた

どんなないようだったのと尋ねるといつもどおりの批評よと答えた

ネルフに良いことがかかれたことは、世界が『元』に戻ったときだけだ。

それ以降はずっと批判される記事ばかりが目立っている

良い記事は私でさえ見たことがない。

 

「大丈夫よ。あなた達のことは書かれてなかったからルミナさんがうまくやってくれたんだと思うわ」

 

「そうだと良いけど。もし巻き込んだりしたら、そのときは」

 

「あなたは私達の大事な娘よ。必ず守るから心配しないで」

 

お母さんはそう言って私を抱きしめてくれた。その後、適当に世間話を済ませると露天風呂から出た

そしてお風呂から出ると、私は浴衣を着て自分の部屋に戻っていった。

部屋に戻ると何故だか、いつもの落ち着きがないように感じた

それはきっと枕の下に置かれているベレッタM92のせいだろう

ただ、じきになれるだろうとも感じた。そう思える自分が少し嫌になったが

仕方がないことだ。これが私の運命の歯車の1つに過ぎないのだから

これからどうなるかは私にも見当はつかない。すべてはネルフ次第だ。

 

「人の願いはいつもかなわず、か」

 

確かにそのとおりだ。私の願いもかなったことはない。

私の願いはただ1つだけだ。この海岸の町で平穏に過ごせること。

それだけだが、きっとその願いはまだしばらく叶うことはないだろう。

 

----------------------------------------------------------------------------

 

 

翌日の朝、空は晴天。

天気は良好だった。私は布団をたたむと普段の生活に戻った感じがした

布団をベランダの手すりに布団をかけると、浴衣から普段着のワンピースに着替えた

着替え終わると鏡で髪の毛などの状態を確認したが、私は基本的にストレートなので特に気にしたことはない

一応確認するだけだ。確認を終えると靴を履いて食堂に向かった。

その途中、別館と本館の連絡通路では私を待っているかのように猫たちが寝そべっていた

 

「私の食事よりもネコさん達の方が良いみたいだね」

 

私は連絡通路から本館の裏道を通って事務所に入っていった。

事務所の戸棚にあるネコ缶を用意すると、近くにあった皿にそれを盛った

そしてネコたちの元へと下ろした。ネコ達はそれに群がって食べ始めた

さらに複数の皿にネコ缶の中身を盛るとそれを地面に置くと今まで隠れていたネコ達も現れて大賑わいとなった

そこにお母さんが私の朝食を持って現れた

 

「やっぱりここに居たのね」

 

「ごめんなさい。ネコさんたちが待っていたから」

 

「ネコさんのことを大事に思うあなたの気持ちは分かるけど、自分のことも大事にしないといけないわよ」

 

確かにそのとおりだ。その時、お母さんが私に携帯電話を渡してきた

 

「これ、私からのあなたへのプレゼントよ。持っておいて損はないと思うわ」

 

確かにこれがあれば、何かあったときすぐに連絡が取れるだろう

お母さんは心配しているからこそ、私に携帯電話を手渡したのだろう

 

「ありがとう、お母さん」

 

私は素直に受け取ることにした。

ここで断ったらせっかくのお母さんの善意が無駄になってしまうと感じたからだ

 

「電話帳にはこの旅館とルミナさんの家と相葉ユウさんの家の番号が登録してあるから」

 

「本当にありがとう。心配してくれて。でも大丈夫だよ。私はお母さんの娘なんだから」

 

そう、この事実だけは決して変わってはいけない。私は水川カオリであり碇シンジではない。

この事実だけは不変でありつづける

 

 

 



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海岸の町(パート6)
第44話


 

私は朝食を食べ終わると、裏口から食堂のキッチンに入っていった。洗い場に食器を返すとまた裏口から出て行った。

そして、朝の散歩に出かけようとしたとき、もらったばかりの携帯電話が着信を告げていた

相手はわからなかったが、出てみた

 

「もしもし」

 

『カオリちゃん、相葉ユウだよ。これが僕の携帯電話番号だから登録しておいて』

 

電話の主はユウさんだった。

電話の通話内容通り、携帯電話番号を知らせてきたのだ

 

「わかりました。でもどうして私の携帯電話番号を知ってるんですか?」

 

『君のお母さんに聞いたんだよ。だから電話したんだよ。これでもし何かあったとき連絡が取りやすいでしょ』

 

確かにそのとおりだ。携帯電話を持っているほうがいろいろと都合が良い。

 

「わかりました。登録しておきますね。ところでネルフの動きはどうですか?」

 

今、一番気になる話題だ。今後の私の行方を左右する重要な話題だ

 

『今のところ、静かな様子だよ。僕の協力者の話によるとね』

 

「1つ聞いても良いですか?」

 

『なんだい』

 

「ユウさんの協力者って誰なんですか?」

 

『君も知っている人だと思うよ。ただ警戒だけはしないでほしいけど』

 

私が知っていて諜報関係に強い人といえば1人しかいない

 

「加持リョウジさんですか?もしかして」

 

『大当たりだよ。彼は僕達の味方だよ。いろいろと情報を流してくれる』

 

信用できるかどうかは分からないが、ユウさんがいうなら間違いないだろう

 

「そうですか。でしたら加持さんに伝えてほしいことがあるんですけど、伝えてくれますか?」

 

『かまわないよ。何を伝えてほしいんだ?』

 

「畑を守れなくてすみませんでしたとだけ伝えてもらえれば、意味は分かると思います」

 

『わかったよ。伝えておくよ。それじゃ、またね』

 

私は言われたとおりユウさんの携帯電話番号を電話帳に登録した

 

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

電話帳の登録を終えた私は朝の散歩に出かけた。海岸の砂浜に向かって歩いて行った。

その途中で何台かのバスとすれ違った。おそらくどこかの学校の林間学校なのだろう

今夜はうちの旅館は騒がしいことになりそうだ。

 

「今夜は騒がしいことになりそうね」

 

そうしていろいろと考えながら歩くと、海岸の砂浜まですぐ着いた

道路から砂浜に降りると波打ち際、ぎりぎりまで近づいていった

 

「そんなに近づくと濡れるよ。水川カオリちゃん」

 

突然懐かしい声を聞き振るかえると、そこには加持リョウジさんが立っていた。

 

「加持さん」

 

「覚えていてくれてうれしいよ。カオリちゃん」

 

「加持さんは、碇シンジって呼ばないんですね」

 

「そう呼ばれたいのかい?」

 

「いえ、今の私は水川カオリです。碇シンジはもう死にましたから」

 

私がはっきりと言うと加持さんは笑った

 

「今ははっきりとした意志を持っているみたいだね。あの時とは大違いだね」

 

あの時、それはきっと加持さんと本当の意味で語り合ったときのことを指しているのだろう

 

「あのときの私は死にましたから。今の私は今を精一杯生きることが目標なんです」

 

「そうみたいだね。それにしても碇指令拉致事件の犯人が君だったとは思わなかったよ」

 

「もともとの発案ではもっと良い方法でいくつもりだったんですけど」

 

そう、本来ならあんな強引な手段をとる計画ではなかった

もう少しおしとやかにいくつもりだったが。仕方がなかった。それよりも問題はどうしてここに加持さんがいるかだ

 

「どうしてこちらに来られたんですか?」

 

「一応、名目上は休暇ということだよ。本当の目的は君と話がしたくてね」

 

私と話。どんな話をしたいのだろう。

 

 



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第45話

 

私とどんな話をしたいのか興味を持った

 

「私とどんな話をしたいんですか」

 

「君と2人きりで何か話をしたかったんだよ」

 

「それじゃ、最近のネルフの動向はどうですか?」

 

「ズバリ来るね」

 

加持さんはおどけたようなリアクションを見せた

 

「ネルフはこの町に手を出すことを禁止しているよ。安心して暮らすと良いよ」

 

「それはうれしい言葉です」

 

確かにうれしい評価だ。ネルフがこの場所から手を引いてくれれば。今後問題はあまり発生しないだろう

 

「ただし、うちの葛城、いや、ミサトはうるさかったが俺が黙らしておいた」

 

妙な言い回しになんとなく感づいた私は率直に聞いてみた

 

「結婚したんですか。ミサトさんと」

 

「ああ、おかげで今は加持ミサトだ」

 

「そうですか。ご結婚、おめでとうございます」

 

私は率直な感想を述べた。すると苦笑いをしながら言われた

 

「そんなに嫌いかい?ミサトのことが」

 

「別にそういうわけじゃないですけど。ちょっと慣れなくて」

 

別にミサトさんに敵意はない。ただネルフにいるというだけで毛嫌いしてしまう。

私の悪い癖でもある

 

--------------------------------------------------------------------------

 

 

加持さんと海岸の砂浜で話す。彼とは何故だか信頼できるように感じられた

 

「そういえば、こちらにはどれくらいいるんですか?」

 

「一応1泊2日の旅行でね。宿泊先は君が住んでいる旅館だよ」

 

その言葉に私はドキッとしながらも平静を装いながら答えた

 

「今日は騒がしいですよ。どこかの学校の林間学校の生徒が来ているみたいですし」

 

「それぐらいは覚悟の上だよ」

 

つまり下調べはしてきたということだろう。ネルフの情報収集能力を甘く見ていたのかもしれない

 

「ネルフは今後、どのように対応を」

 

「それは今の時点では分からないよ。碇指令や碇ユイ博士は今回の事件に緘口令を強いているからね」

 

つまりネルフ内部では私達がした作戦はごく一部の限られた人物しか知らないということだ

それはそれで好都合だ。こちらにとっては。問題は、今後のネルフの動きだ。どう動くかでみんなの人生が左右される

私はしっかり生きる必要がある。かならず

 

「そうですか」

 

「ずいぶんとそっけないね。もっと驚いてくれると思ったんだけど」

 

「私にとっては想定通りです」

 

「そうかい。君は今後どう生きていくつもりだい?」

 

そんなことは聞かれなくても決まっている

 

「しっかり生きていくだけです。地面に足をつけて」

 

そう、あのときに葛城ミサトさんに言われたとおり、しっかり生きていくだけだ

 

「よかったら旅館までご案内しましょうか?」

 

私がそう言うと

 

「案内してもらおうかな。ここまでバイクで来たからね」

 

海岸の道路を指差すとスポーツタイプの大型バイクが止まっていた。私達は砂浜から道路に戻る。

私は加持さんのバイクの後部座席に座り、加持さんにつかまると加持さんはエンジンをかけた

 

「それじゃ、旅館まで行こうか」

 

「はい」

 

私達は旅館に向かった

 

 

 

 



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第46話

 

旅館までは数分でついた。

私は加持さんは駐車場にバイクを置くと、2人一緒に入っていった。

すると受付のラウンジには大勢の林間学校の生徒たちがいた

受付にいたお父さんにどこの学校の子供たちと聞くと第二東京市の中学生たちだと言った

 

「加持さん、予約はしてあるの?」

 

「あいにくと飛び込みの客なんだが、部屋は空いてるかね」

 

本当にぶらりと1人旅に出たように感じた。

私は受付にいるお父さんに掛け合って別館にある私の隣部屋が開いているからそこにお客を入れてもいいかと尋ねた

 

「お父さん、私の知り合いが飛び込みで来てるんだけど、私の隣の部屋、空いてたよね?」

 

「ああ、空いてるが、カオリの知り合いってことはあっち関係の人か」

 

あっち、それは第三新東京市のことを指し示していた。

お父さんにそうだよと伝えると大丈夫かと心配そうな表情で見られた

当然だろう、つい昨日、第三新東京市で派手なことをしてきたのに。その関係者を泊めてやって良いのかと

 

「大丈夫だよ。名前は加持リョウジさん。信頼できる人だから、昔からいろいろと相談にものってくれたし」

 

相談とはあのときのことを指し示す。使徒との戦闘中に畑に水を撒いていたときのことだ。

あのときの言葉は今も私の中で生き続けている

 

「わかった。部屋を空けるように手配しよう」

 

「ありがとう。お父さん」

 

私はラウンジで休んでいる加持さんのもとへと行くと部屋が取れたことを伝えた

 

「私の隣の部屋ですけど、部屋は取れましたのでご案内します」

 

「君じきじきのご案内か。良いね」

 

「私の体は安くないですよ。高いんですから」

 

「君をどうこうしようとは思ってないよ。そんなことをしたらミサトがうるさいからね」

 

その言葉で分かった。彼は本当に葛城、いや加持ミサトを愛しているのだろう

 

「ミサトさんのこと、愛してるんですね」

 

それは言葉の中に感じられた。それはそれで良いことだ。愛情はなによりも大切にしなければならない

 

 

---------------------------------------------------------------------------

 

 

私は加持さんを私の隣の部屋に案内すると食堂に向かった。昼食をとるためだ。食堂には数多くの中学生がいた。

林間学校で来ているのだから当然のことだが

 

「これは、すごいわね」

 

食堂には数多くの生徒たちで賑わっていた。

 

「カオリ、昼食は自分の部屋で取れ。あとで俺がもって行ってやる」

 

そう言ったのはさっきまで受付にいたお父さんだった。お父さんがそう言ってくれたので、私は自分の部屋に戻っていった

その途中で、元気にあふれる中学生の声が聞こえてきた。それが、何故だか無性に腹立たしく感じられた。

あの時に味会うことができなかったひと時。その途中でユリさんとすれ違った

 

「ユリさん、今日はにぎやかになりそうですね」

 

「そうね。また騒がしい日々が3日間も続くなんて思うと苦労しそうだけど」

 

「そうだね」

 

「それじゃ、私は仕事があるから」

 

私はユリさんと分かれると自分の部屋に戻った。

 

「騒がしい3日間か、それだけ騒がしいなら何とかなるかも」

 

「また何かたくらんでいるの?危ないことはだめよ」

 

うしろから突然声をかけられ、慌てて振り返るとお母さんが立っていた

 

「別に危ないことじゃないから安心して。ただ、もう2人ほど、けりをつけたい人がいるの」

 

それは碇レイと惣流・アスカ・ラングレーのことだ。彼女たちとの決着はまだついていない。

特に碇レイとは中途半端なままだ。このままだと自分がおかしくなりそうなくらいだ

 

「それは第三新東京市に?」

 

「はい。遅かれ早かれきっと彼らは動き出す。その前に」

 

「カオリ、今日はゆっくりと頭を冷やし。遅かれ早かれならいつでもいいでしょ。そんなに焦らない事が重要だよ」

 

「わかりました。そうします。それじゃ、自分の部屋に戻るので」

 

私はそうお母さんに言って自分の部屋に戻っていった。

 



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第47話

 

部屋に戻って数分後引き戸のドアがノックされ、お父さんが入ってきた。昼食を持って

 

「昼食、いつもどおり少なめにしておいたぞ」

 

お父さんはいつも通りのメニューで私の昼食を持ってきた。私はそれを受け取ると、お父さんにありがとうと言った。

 

「カオリ、危ないことはあんまりするな」

 

「無理だよ。過去にけりをつけるためには1つか2つは危ない橋を渡らないといけないの。だから」

 

「そうか。だが、お前の家はここだ。その事実だけは変わらない」

 

いつも言われる言葉。何か危険の前触れのときに言われる言葉だ。

きっとお父さんも心のどこかでは理解しているのだろう。

お父さんは私の頭を撫でた。まるで子供にするかのように

 

「食べ終わったら食器はいつも通り外に出しておけよ。あとで回収に来るからな」

 

「わかってるよ。お父さん」

 

軽く撫で終えるとお父さんは私の部屋から出て行った

私は持ってこられた昼食を居間のテーブルに置くと、ランチタイムに入った。

いつも通り、私用に作られた量の少ない昼食。いつもの日常が帰ってきたが、まだけりはついてはいない。

必ずつけないといけないのだ。そうじゃないと、前に進めないように感じられた

鳥でたとえるなら巣立ちを迎えることができない赤子の状態だった

昼食を食べ終えると廊下の隅に食器を出し、私は部屋で計画を練っていた

どうやってもう1度第三新東京市に潜入するか。

それは部屋の隅に置かれた第三新東京市警察のバッチが解決してくれた

あれがあれば検問所は容易に突破できる。問題はどうやって2人に接触するかだ

私が直接行ったら、向こうも怪しむだろうし。

この計画実行には加持さんの協力が必要だった。

その他にルミナさんやユウさんの協力も必要になるだろう。

3人の協力がなければこの作戦は成功しない。

3人の力があっても成功するかどうかは。

運命を信じるほかない

私は早速隣室にいる加持さんの部屋に向かった。

 

----------------------------------------------------------------

 

加持さんの部屋をノックするとすぐに返事が返ってきた

 

「今、大丈夫だよ」

 

「失礼します」

 

私はそういって部屋に入ると、加持さんは昼食を食べているところだった

 

「お食事中にすみません。お邪魔でしたか?」

 

「いや、気にしなくて良いよ。君みたいな美人なら大歓迎だよ

 

「ほめ言葉、ありがとうございます」

 

そう言って部屋に入っていった。

室内は来たばかりのせいだからか整頓されていた

 

「加持さんに相談があります」

 

「どうやら重要な相談みたいだね。少し待ってくれるかい。昼食を食べてからでもかまわないかな」

 

「かまいませんよ。急ぐ用事でもないですし」

 

確かに今すぐにというような用事ではない

むしろ加持さんの食後にゆっくりと時間をかけてプランを練りたいところだ

私は一度ベランダに行き、ベランダに置かれている木製のロッキングチェアに腰掛けた。

そこで加持さんが昼食を食べ終わるのを待っていた。しばらくして眠ってしまったのか起こされた

 

「起こしちゃって悪かったかな」

 

すでに時計の針は4時を指し示していた。

 

「いえ、起こしてくれてありがとうございます。それじゃ、相談良いですか?」

 

私は室内に入ると、今のテーブルに向かい合って

 

「相談というのは、私をもう1度、第三新東京市に入れてほしいんです」

 

そこまで言うとか持参もいつものわかっている表情から真剣な表情に変わった

 

「今度はなにをするつもりだい?」

 

「綾波、碇レイと惣流・アスカ・ラングレーに会わせてほしいんです。3人きりで」

 

「渚カヲル君のことは良いのかい」

 

「彼とはもう話は終わりました。残っているのはこの2人だけです。どこかで拉致をして監禁して3人きりで話がしたいんです」

 

そう、もう拉致しか手段は残っていない。

ネルフはこれ以上チルドレンの誘拐を阻止するために徹底的にマークしているだろう。

その間を抜き、拉致をしなければならない。これこそ、かなりグレードの高い作戦だ

 



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第48話

 

 

「かなり難しいよ。君が渚カヲルを撃ったせいで警備が強化されているからね」

 

それはそうだろう。チルドレンを撃たれて黙っている奴はいない

今回の場合で言えば、ネルフは警備の保安諜報部員の増強を図っているようである

それでも実行しなければならないのである。そうでないと私が前に進めないでいるのだ

 

「それは分かっています。それとなく加持さんのほうで誘い出してもらえませんか」

 

「君も無理なことを言うようになったね」

 

「何とかしてもらえますか?」

 

無理無謀な注文だ。

それをやってもらうことができるのは加持さんだけだった

今回の作戦で最も頼れるのは加持さんだけだった

 

「わかったよ。2日後の学校帰りにそれとなく声をかけて、連れ去って君の指定した場所に連れて行くよ」

 

それでどうだいと聞かれて私ははいと頷いた

それで作戦は大体は決まった。あとはユウさんとルミナさんの協力を取り付けるだけだ。

かなり強引な方法だけど、作戦は実行可能だ

 

「加持さん。頼るのはこれで最初で最後かもしれませんけど、よろしくお願いします」

 

「なんか怖いね。ところで連れ去る先はどこに連れ去ったらよいのかな」

 

そんなことは決まっている。あの場所だ

 

「第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟の402号室にあそこが一番良い場所なので」

 

「レイちゃんには余り好きじゃない場所だと思うけど」

 

確かにそうだろう。あのコンクリートだけの世界。

蒼のときの彼女の心を象徴する世界だが、隠れ家にするにはちょうど良い場所だ。

 

「隠れ家にもってこいなので、そこに連れてきてください」

 

「わかったよ。でも1つ条件がある」

 

「何ですか」

 

「傷つけないでやってほしいんだ。2人の心を」

 

それは保障できるわけはない。

 

「それは保障できません。これは私と彼女たちの戦いなんですから」

 

そう、これは私達3人の戦いに他ならない。傷つけあうかどうかは運命しだいだ。

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

 

私は加持さんの部屋を出ると自分の部屋に戻った。そして、携帯電話でユウさんの携帯電話に連絡を取った

 

『もしもし、カオリちゃん、どうかしたのかい?』

 

「もう1度、手を貸してもらえませんか」

 

『何か危ない匂いがすけどそういうことかな』

 

そう、ユウさんの言うとおり。まさに危ない橋をいくつも渡らないといけない。

成功するかどうかはまさに運命に任せるしかない作戦。作戦とは到底いえないが、これしか手段はない

加持さん、ユウさん、ルミナさん3人を巻き込んで行うしか

 

「そうです。その危ない橋をいくつも渡らないといけない作戦ですけど」

 

『その作戦に加持リョウジもかかわっているのかい。偶然こっちに来てるみたいだけど』

 

どうやらユウさんは加持さんの動向を把握しているようだ

 

「加持さんとはもう話をしました。協力も取り付けました。あとはユウさんとルミナさんのお2人の協力が必要なんです」

 

『以前とは違ってずいぶん積極的になってきたね。良い兆候だ。いいよ。君の作戦に協力するよ』

 

確かにそのとおりだ。以前に比べて、私は積極的に動いている

それは事実だ。でもそれは、自分の将来と『家族』を守るためだ

 

『これから君の家に行ってもいいかな?途中でルミナさんも拾っていくから』

 

拾っていく。それはあんまりな言い方だが、事実そうなのだから仕方がない

これで作戦に重要な3人はそろうだろう。あとは練ることだ。作戦を。

 

 



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第49話

 

電話から数十分後、私の部屋にユウさんとルミナさん、そして見知らぬ女性がもう1人一緒に来た

 

「その方は誰ですか」

 

私は不安になったがルミナさんが説明してくれた

 

「彼女はティア、私の友人だから安心してくれていいわ」

 

するとティアさんと紹介された人物が自己紹介をした

 

「ティア・フェイリア、ネルフ監察局監察部所属よ」

 

「私は水川カオリです。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく」

 

「自己紹介も済んだところで加持リョウジさんも入れて話し合いをしようか」

 

ユウさんは隣室に行き、加持さんを呼んできた。

加持さんは私の部屋に入ってくると、中にいるメンバーを見て一瞬驚いた表情をしたが

その後はいつもの笑顔に戻った

 

「これはこれは、ネルフ監察局のエースとも言われているティア・フェイリアさんじゃありませんか」

 

「そういうあなたこそ、ネルフで対外工作が得意といわれている加持リョウジさんじゃありませんか」

 

ティアさんと加持さん。どうやら犬猿の仲のようだ。当然だろう。片一方は世界を守るネルフ。

もう片一方はそのネルフの首輪の役割をしている機関に所属している女性。

犬猿の中になるのは当然の結果だろう。でも今回はそういうことはなしにしてほしい

 

「今回はネルフとか監察局とかは関係なく話をしましょう」

 

私がそう言うと、みんな驚いた表情を浮かべていた

何故だかは分からないが。その意味をユウさんが代弁するかのように言った

 

「君がそんなことを言うとは思わなかったよ」

 

「私もやるときはやりますからね」

 

そう、私はやるときはやる。それがたとえどんなに汚い手段だとしても

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

さっそく私達5人で作戦の相談を始めた

 

「問題はどうやってチルドレン2人を誘拐するか。そこね」

 

ティアさんの言った通りそうだ。普通の手段では今回は誘拐劇は演出できない。

 

「学校から帰るところを狙うしかないわね」

 

ルミナさんが言った。ルミナさんの言うことも一理ある。

狙うなら登校中か下校中を狙うのが一番だ。

チルドレンの動向は保安諜報部がリアルタイムで把握している

その保安諜報部の部長でもある加持さんはここにいる。

情報さえ横流しをしてもらえれば誘拐することはできる

 

「さりげなく誘拐するんじゃなくて派手に誘拐劇を演出しましょう」

 

ティアさんがそう言った。どうして派手に誘拐劇を演出する必要があるのかと聞くと。

そのほうがネルフの評価が下がり、監察局の権限が上がると言った。

その言葉に加持さんは苦笑いをしていた

 

「ずいぶんとはっきりと言ってくるね。その作戦でいくのかい」

 

「そうだね。それが一番だね。問題はいつ誘拐するかだ」

 

「狙うなら高校への登校時が良いと思います。朝なら逃走もしやすいでしょう」

 

私がそう提案すると、他の4人はそれぞれの顔を見渡し頷くと、

 

「その計画でいこう。作戦はいつ実行する?」

 

「明日には第三新東京市に入ってまたあの部屋で下準備をしてその翌日に計画を実行します」

 

私の計画にみんなは賛同してくれた。

 

「やばいことは早く片付けないとね。あなたのためにも」

 

ティアさんがそう言ってくれた。

そうやばいこと、危険なことは早めに片付けるに限る

 

「それじゃ、私達はルミナの家に戻るわ。相葉さん、送ってくれますよね」

 

少し強制するかのような言い方にユウさんはお任せください、お姫様と冗談めかして言った

私は思わずその光景を見て笑ってしまった。それを見て他の人も笑みをこぼした

そうしてみんな、それぞれの場所に戻って行った

残された私は冷蔵庫からブラックのコーヒーを飲むとその苦味が今の私にはちょうど良かった

 

 



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第50話

 

時は夕方を迎え始めた。

部屋には夕日が入ってきた。幻想的な光景

いつもいつも見ているが今日の夕日は一段と輝いているかのように感じた

それはきっと、足から始まるであろう激闘の日々だからだろう

私は隠していたベレッタM92を取り出すとユウさんに習ったとおり銃を分解し始めた

 

「これをこうして」

 

私は慎重に銃を分解しながら整備をしていった。

そして最後まで分解が終わると、もう1度組み立てなおし始めた

今度も慎重に1つずつ確実に部品を丁寧に扱いながら

 

「これで最後ね」

 

銃のマガジンを装填するとスライドを1度引いた

これで弾が薬室(チェンバー)に補充され、引き金を引くだけで発砲できる

弾の残りは渚カヲルのときに1発使ったので14発。それだけあれば十分だ。

 

「明日からまた忙しくなりそうね」

 

 

------------------------

 

私とティアは相葉ユウに送られて無事に家に着いていた

 

「ねぇ、ルミナ、お酒の一本ぐらいないの?」

 

帰ってきて早々にティアは私にそう質問をぶつけた

私は思わずあきれそうになったが、それを何とかこらえた

 

「ビールでよければ冷蔵庫に入ってるわよ。好きに飲んでいいわよ」

 

私はビールなどほとんど飲まない。あくまでも『お客様』用に用意しているだけなのだが

 

「助かるわ。1本もらうわよ」

 

ティアは冷蔵庫から一本ビールを取り出すと早速飲みはじめた

 

「飲みすぎて酔いつぶれないでよ」

 

「わかってるわよ。私はそんなにお酒には弱くないわよ。ルミナも付き合いなさいよ」

 

私はお酒が飲めるほうではないので遠慮したいところだ

 

「私はお酒は飲めないほうだから遠慮しとくわ。私はさっさとお風呂に入って寝させてもらうわ」

 

「私はどこで寝たらいいのかしら?」

 

「リビングのソファーでも使って、ソファーベットになるタイプだからそれで眠れるでしょ。それじゃ」

 

たしかに私の家のリビングにあるソファーはテーブルで対面している形を取っているが

テーブルをよければベットにすることはできるだろう。あとは知った事じゃないが

 

「ねぇルミナ」

 

私がリビングを出て行こうとしたとき声をかけられた

 

「なに?」

 

「あなたって何者」

 

「ネルフ監察局監察部特別監察官ルミナ・アカネ。ただそれだけの人よ」

 

私はそう言うとリビングをあとにした

残されたティアは大笑いをしていた

 

「確かにそのとおりね。でもね。世の中そんなにまっすぐじゃないって事、あなたが一番知ってるでしょ」

 

そう、世の中、そんなにまっすぐじゃない。

綺麗事では語れないことがこの世界には大量に存在する

 

「私はルミナ・アカネ、それだけの存在よ。それじゃ、おやすみ」

 

私はティアにそう言うとお風呂に向かった

 

 



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第51話

 

僕はルミナさんとティアさんを自宅まで送ると自分の家に帰っていった。

そして自宅の地下室に入ると、そこにはどこかの小国と戦争ができるんじゃないかって言うぐらいの武器弾薬がそろっていた

その中から1丁、[ SIG SAUER SP2022 ]を取り出すと一度完全に分解して、再度組み立てなおす作業を行った

銃の分解と組み立てを行っているときは何故だか一番落ち着く。それは戦場で今まで過ごしてきたからだろう。

銃を簡単に組み立て直され、マガジンを挿入してスライドを引くと薬室に弾が装填された

これであとは引き金を引くだけで弾が発射される。

僕は武器弾薬庫に併設されている射撃訓練施設に行き、組み立てなおしたばかりの銃で射撃訓練を行った

ここ最近は銃に触れる機会も一気に増えたので、感を取り戻しておく必要があると感じたからだ

 

「まぁまぁだな」

 

僕の言葉通り、発砲した銃弾の大部分はターゲットマークの中心部分を射抜いていた。

ただ初弾は大きく外していた。これは腕が落ちたということだ

 

「僕も腕が落ちたかな」

 

そう呟くとマガジンを抜き、マガジンに弾をこめると再び銃に装填。

新しいターゲットマークを設置すると距離をとらせて、再び発砲した

今度は全弾、ターゲットマークのど真ん中を中心に的中した

 

「今度は完璧だな」

 

確かにそのとおりだ。その時、僕の携帯電話に着信があった

相手はカオリちゃんだった

 

「カオリちゃん、どうしたんだい?」

 

『前から聞きたかったことがあったんです。でも直接聞く勇気はなくて』

 

「それで携帯電話を使ってきたのか。何が知りたいんだい?」

 

『どうしてユウさんは私にそんなに協力してくれるんですか?』

 

それは彼女がずっと聞きたかったことなのだろう。

でも聞けなかった。答えが怖くて。僕も答えるのが怖い。内心は

でも、正直に答えることにした

 

「君のことを愛しているからだよ。本当の意味で」

 

『信じて良いんですか?』

 

「僕は君のことを愛している。本当の意味でね。だからどこまでも付き合うよ。例え、行き先が危ないところでも」

 

電話の向こうで沈黙が続いたが、涙を流しながら話しているような声が聞こえてきた

 

『本当にありがとうございます。ユウさん。ネルフ関係の件が片付いたら、一緒に考えてみませんか。将来のこと』

 

「そうしよう。ネルフ関係のことが片付いたらな。それじゃ、もう夜も遅いし、おやすみ」

 

『おやすみなさい。ユウさん』

 

その言葉にかすかに愛情を感じてしまった僕は病気なのかもしれない

彼女と僕だけに感染した病気。恋の病だ。

 

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あの話し合いの翌日の朝。

私はいつも通り9時に起床した。

布団を押入れに片付けると旅行の準備を始めた。

ボストンバックを出し着替えを入れて、もちろん昨日分解して組み立てた銃も忘れずに腰のホルスターに装備した。

そして腰には第三新東京市警察のバッジをつけていく事を忘れずに。

そうしていると私の部屋のドアがノックされた

 

「はい、今は大丈夫ですよ」

 

「俺だ。入るぞ」

 

声の持ち主はお父さんだった。

お父さんは部屋に入ってくると、私がまた旅行の準備をしていることに驚きの表情を浮かべていた

 

「カオリ、またどこかに行くのか」

 

私はありのままを話した

 

「過去を清算してくるの。これで最後の過去を」

 

お父さんはそれだけで私がどこに行くのか理解したようだった

 

「第三新東京市に行って、また戦ってくるのか」

 

「うん。これですべてにけりがつくと思う。だからお母さんにも伝えておいて。必ず帰ってくるからって」

 

その言葉にお父さんは珍しく目元に涙を浮かべていた

そして私を抱きしめた

 

「必ず待ってるからな。例えどれだけ時間が経とうと」

 

「そんな大それたことにはならないから安心して、私の居場所はここ。それは絶対に変わらないから」

 

そう、私の居場所はここなのだ。

この旅館の一室であり旅館であり、海岸の町が私の居場所なのだ

それはこの先ずっと変わることはない不変なのだ

 

「お母さんにも伝えておいてね。必ず帰ってくるから」

 

「わかった。母さんには俺から伝えておく。お前はしっかりと過去と向き合って来い」

 

「はい!」

 

私は旅行用のボストンバックを持って自分の部屋から出て行った。

うしろではお父さんが泣くのをこらえているのがなんとなく分かった

 



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第52話

 

旅館を出ると駐車場にはユウさんが待っていた

 

「ユウさん、お待たせしましたか?」

 

「いや、少し前に来たところだから心配しないで。それよりもそっちは装備は完璧だね」

 

私の姿を見て言った。

私は今日は普段着ではなく、リクルートスーツを身にまとっていた

スーツの腰の部分には第三新東京市警察のバッジを見につけ、右腰にはベレッタM92が装備されている

まさに新米刑事って感じだ。一方ユウさんはベテラン刑事って言う感じだ。

歳は5つほどしか変わらないのだけど

 

「似合ってますか?」

 

「いかにも新米刑事って感じだよ。似合ってるよ」

 

その言葉に私は笑みをこぼした。

 

「ありがとうございます。荷物は後部座席に置きますね」

 

「そうしておいて。トランクには武器弾薬がどっさりと詰まっているから」

 

私がそっとトランク部分を見てしまった。

そこには確かにアサルトライフルやその弾やマガジンが収められていたボストンバックがあった

チャックの隙間から見えてしまったのだ。私はトランクを開けるとチャックを完全に閉めた

そして助手席に乗り込んだ

 

「チャックが少し開いていたので閉めておきました」

 

「ありがとう。それじゃ、行こうか」

 

「はい」

 

ユウさんはエンジンをかけると車を発進させた。

少しして私は車の振動に慣れたのか、睡魔が襲ってきた

眠っては悪いとは思いながらも、その睡魔がどんどんと襲ってきた

そこに追い討ちをかけるような一言をかけられた

 

「第三新東京市までかなり距離はあるからゆっくり眠っていると良いよ」

 

その言葉を聞き、私は睡魔に意識を手放した

 

----------------------------------------------------------------

 

 

第三新東京市まであと、50km地点までは順調に来れた

前回はここでパトカーに職務質問を受けたのだが、今回はそれはなく。

変わりにルミナさんとティアさんが待っていた

 

「やっぱり来たわね。本気なのね」

 

ルミナさんの言葉に私は強く頷いた。

これで過去を清算できる。そのために行くのだから

 

「もちろんです。これですべてにけりをつけるつもりです」

 

「けりをつけてあなたはどうするの?」

 

ルミナさんの質問に私は当然のように答えた

答えなどずっと前から決まっている

 

「あの海岸の町で暮らし続けるんです。そして見守り続けるんです。世界を」

 

そう、私にはその義務があるのだから。世界を見守り続けるための義務が

それが前の『神様』との約束であり義務なのだから

 

「そう、わかった。2人ともこれは私達からの餞別よ」

 

そう言って、ルミナさんは私とユウさんにそれぞれ1枚ずつのフォルダをくれた

中に挟まれていた書類は私のは水川カオリ名義で黒髪の私が履歴書の写真に貼られていた。

簡単に言えば第三新東京市警察の人事記録書類だ。

ユウさんのほうを覗き見れば、彼も同じような書類を受け取っていた

2枚目は銃の携帯許可書類。3枚目は第三新東京市へ行くためのフリーパスみたいな物だ

4枚目は碇レイと惣流・アスカ・ラングレーの携帯電話番号だった

 

「これだけ書類がそろっていれば、第三新東京市に行っても怪しまれないでしょう」

 

確かにそのとおりだ。これだけ書類がそろっていれば、第三新東京市には簡単に入れる

 

「これが私達からの最大限の支援よ。あとはあなた達がどうにかするしかない」

 

「ありがとうございます。2人の携帯電話番号があれば誘い出すのは簡単です」

 

そう、誘い出すのは簡単だ。碇シンジの名前を出すだけで2人は食いついてくるだろう

2人がもっとも知りたい話題を私が提供してあげる。それを私が提供してあげる。2人は必ず食いついてくる

問題はネルフの動きだけだが、それは監察局が押さえておいてくれるそうだ。

スケジュールは完璧だ。あとは実行するだけだ

 

「もし失敗したらどうするつもり?」

 

ルミナさんが聞いてきた。だが、失敗する可能性はあるだろう。でもこの作戦は実行しなければならない

 

「必ず成功させます。そうでないと、私が前に進めないんです」

 

そう、私はこの問題を解決しないと前に進めないのだ。

 

 

 



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第53話

 

ルミナさんとティアさんと別れると、今度は私が運転を変わり、第三新東京市向かった

まだ検問所までは30km以上ある。ただ、高速道路なのでそれほどの距離ではないが

 

「カオリちゃん。もし僕に何かあっても君は生き残ってね」

 

ユウさんが突然言ってきた言葉に私は真っ向から反対した。

 

「ユウさん、私とユウさんはパートナーです。必ず見捨てたりはしませんから」

 

私はそう言うと、車の運転に集中した。そう、私と彼は一心同体なのだ。必ず2人そろって帰る

そして、お母さんやお父さん、みんなに報告するのだ。私達のことを。そうじゃないと私が納得できないように感じられた

 

「ごめんね。へんなこと聞いて」

 

「いえ、いいですよ。ユウさんがそこまで私のことを思ってくれているっていうのは分かりましたから」

 

そう、確かにそのとおりだ。彼がそこまで私のことを思っていることは。

今までの会話ですべて分かっている。彼は本当に私のことを愛してくれているのだ

私はそれに全力でこたえたいと思っている。

 

「もし、この件が片付いたら、お母さんとお父さんに話そうと思ってます」

 

「何を話すんだい?」

 

ユウさんが不思議そうな表情を浮かべてきた

 

「ユウさんと私の関係です。私は特別な物だと思っていますから」

 

特別な関係、それは恋愛的なものだ。私は彼のことを愛してしまったのだ

だからこそ、私は・・・・・・・・・・・・・・

 

---------------------------------------------------------------------

 

検問所に到着した頃にはちょうどお昼の時間を示していた

検問所は相変わらず混雑をしていた。そんな中、30分後にようやく私達の順番が回ってきた

前回と同様に、第三新東京市のバッジを見せると彼らは何の警戒もなく通してくれた

 

「今回も無事に通れましたね」

 

「そうだね、それじゃ、ひとまずあの場所に行こうか」

 

「はい」

 

あの場所、それは第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟の402号室

あそこが私達の作戦本部になるわけだ。

第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟に向かっていった

第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地は第三新東京市でも端に位置するためそれなりに遠い

そこに到着したのは検問所を通過してから1時間後の話だ。

私達はそれぞれに荷物を持って6号棟の402号に向かって行った

相変わらずここには人の気配は感じられない。無人のままのようだ

 

「相変わらずここは無人のようですね」

 

「そうだね。でもおかげで僕たちにとっては好都合だ」

 

402号室につくと私は何の警戒もなくドアを開けると鍵もしまっておらず

相変わらず簡易ベットと小型の冷蔵庫があるだけの世界だった

この前着たときとまるで変わってはいない。

 

「それじゃ、作戦を練ろうか。より綿密に」

 

「はい」

 

私達2人だけで実行する作戦。計画は完璧でなけばならない

そうでなければ、失敗すれば私達の運命は決まってくる。

それだけは阻止しなければならない

 

「朝8時ごろに電話をかけましょう、2人同時に」

 

「そうだね。別々のタイミングだと怪しまれる可能性があるからね」

 

「ユウさんはどっちを担当します?レイかアスカか?」

 

「僕がレイちゃんのほうを担当するよ。君は嫌いなんだろう彼女のこと」

 

きっとルミナさんから聞いたのだろう。あの出来事のことも含めて

 

「お願いします、私はアスカさんのほうを担当します」

 

「それじゃ、作戦もおおがね決まってきた事だし、少し軽食に何か買ってくるよ。何がいいかな?」

 

ユウさんが聞いてきた。私はサンドイッチなら何でもいいですよと答えた。

 

「念のため、武器は置いていくから、何かあったら迷うことなく使ってね」

 

そう言って、ユウさんが持ってきた大型のボストンバックを指差した

私が中身を改めて確認すると、アサルトライフルから拳銃、弾も各種そろえられていた

 

「でもユウさんも危険なのでは?」

 

「そうだね。でも僕には[ SIG SAUER SP2022 ]があるから大丈夫だよ」

 

それじゃ、行って来るねというとユウさんが出て行った。

10分後の来客があるとも知らずに

 

 



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第3新東京市(パート2)
第54話・第55話


 

ユウさんが出て行ってからの10分後、突然玄関のドアがノックされた。

私はとっさに右腰のホルスターにあるベレッタM92を取り出し、銃を構えた

 

「どうぞ、開いてますよ!」

 

私が大声で言うと部屋に誰かが入ってきた

私は済みに隠れて様子をうかがっていると、入ってきた人物を見て警戒を解いた

 

「渚カヲル。もう1度私達の前に現れたら殺すって言わなかったかしら」

 

「そういわれたのは覚えているよ。でも話をしておきたいことがあってね」

 

「何かしら、返答しだいであなたの頭に穴が開くことになるけど」

 

私はベレッタM92を渚カヲルの額に照準を合わせた

 

「ネルフは今のところ僕を自由にしている。それに携帯電話は碇レイのかばんの忍ばせてきたよ」

 

つまり発覚するまでは少し時間があるということだ。

 

「それで話っていうのはなに?」

 

「君は2人に会ってどうするつもりなんだい?」

 

「そんなことを決まってるわ。碇ゲンドウと碇ユイした事と同じ事をするだけ。それが碇シンジの遺言だからよ」

 

そう、私は碇シンジの遺言を実行している遺言実行人に過ぎない。

そこに、銃を構えながら、部屋に入ってきた人物がいた。ユウさんだ

 

「大丈夫?なにもされてない」

 

「むしろ私のほうから何かするところでしたよ。それじゃ、話は終わりよ。渚カヲル、もう帰りなさい」

 

「わかったよ。そうさせてもらうよ」

 

渚カヲルが部屋から出て行こうとする寸前に私は一言告げた

 

「もし今日のこと、誰かに話したら、今度こそあなたの命を奪うからそのつもりで。それじゃ、さようなら」

 

「さようなら、水川カオリさん」

 

ユウさんはカヲルが部屋が出て行くのを最後まで確認しに行くため、1度外に出て行ったが、もう誰もいなかった

 

「よかったのかい?彼と話をして」

 

「良いんです。もし話したら殺すだけです」

 

「カオリちゃん」

 

「私の運命がかかっているんですから妥協はできません」

 

そう、この作戦には私の最後の運命がかかっている。妥協などしていたらこちらが負けてしまう

その後、昼食を食べて、2人でおしゃべりをしながら楽しいひと時を過ごしていた

夕食のときもずっとおしゃべりで時間を潰していた。私達は寝るときは、持ち込んだ寝袋で2人川の字になって寝た

 

 

---------------------------------------------------------

 

翌朝7時、いよいよ作戦実行の日だ。

私は前のときと同じように妙な興奮状態で迎えていたが

ユウさんに鎮静薬をもらって落ち着きを取り戻しつつあった

 

「それじゃ、そろそろいきましょうか?」

 

「そうだね」

 

少し早いが私はアスカの携帯電話に連絡した

 

『だれよ、こんな時間に電話してくる奴は?』

 

「相変わらずの口の悪さ。直したらどうですか、惣流・アスカ・ラングレー」

 

私はあくまでも高圧的な態度で臨むことにした。

そのほうが、得策だと考えたからだ

 

『あんた、誰よ?』

 

「碇シンジに会いたくない?私が匿っていたけど、彼もあなたと会いたいといってきたわ」

 

『それ、信じても良いのね』

 

「信じるか信じないかはあなたしだい。もしこの件をネルフや誰かにしゃべったらその時点で取引は終了」

 

『そうしたらどうなるの?』

 

「あなたは一生碇シンジに会うことはできない。どうする?」

 

向こうで数秒の沈黙の後、分かったと返事が来た。私がユウさんのほうを見ると、そちらもOKの返事をもらえたようだ

 

「それじゃ、8時に第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟の402号室に来なさい」

 

『わかったわ。すぐに向かうわ。その代わりうそだったらこっちも黙ってないから』

 

「来れば分かるわ。それじゃ、またね」

 

電話を切るタイミングは私もユウさんも同じタイミングだったようだった。

 

「これでパーティーの準備は完了したわけだ」

 

「そうですね。これからが本当の戦いですね」

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

午前8時、約束の時間だ。

最初に現れたのは碇レイだった。

 

「碇レイさん。お久しぶりね」

 

あの時とは違って今は冷静に対応できている。あの時、それは碇レイの首を絞めたときのことだ

 

「こんにちは、お誘いはあなたからでしたか」

 

「そうよ。碇シンジの真実を知っているのは今ここに居るメンバーの中ではあなたとユウさんだけ」

 

「それで碇シンジにはどうやって会わせてくれるの」

 

「私はあわせるとは言ったけど。だれも本人とは言ってないわ。ただ遺言を伝えるだけが役目なお人形なのよ」

 

かつて、アスカがレイのことをお人形と評したように、今回は私がお人形の番だ

そこに駆け足で廊下が走ってくる音が聞こえた。そして乱暴にドアを開けた

 

「バカシンジ!」

 

バカシンジと呼ぶのはただ1人、アスカだけだった。これで面子はそろった。

 

「それじゃ、お話を始めましょうか。碇シンジについて」

 

それは地獄の扉を開けるようなもの。でも、パンドラの箱でも最後に残ったのは希望だ。

その希望すらも私は壊そうというのだ。残酷な女だといわれても構わない。それが宿命なのだから

 

 

 

 



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第56話

 

「先に言っておきます。碇シンジは死にました」

 

そのことにレイは驚いた反応を示さなかったが、アスカは驚きの表情を浮かべた

 

「うそよね。シンジが死んだなんて」

 

アスカが確認するがユウさんが追い討ちをかけるかのように言った

 

「僕たちは碇シンジの遺言執行人です。だから2人を呼び出したんです」

 

「碇君の遺言は何だったの?」

 

「お2人への遺言は共に同じなのでこの場で言わさせてもらいます」

 

「何なのよ」

 

もったいぶるかのような言い方にアスカは少しイラついた口調で言った

 

「ごめんなさい。ただそれだけです」

 

「それだけなの。本当に」

 

アスカは信じられない表情を浮かべていたが、『僕』が2人に残す言葉それくらいしかなかった

私には関係のないことだが。

 

「うそよね?嘘って言ってよ」

 

アスカが引き下がろうとしないため私が追い討ちをかける一言を言った

 

「彼は自殺でした。それを見届けたのは私達ですよ」

 

その言葉にアスカだけでなく、碇レイも驚きの表情を浮かべていた

 

「これが遺言です。では、私達はそろそろ」

 

その時、外の廊下に複数の足音が聞こえた。どうやらどこかの組織のかたがたがお目見えになられたようだった

 

「2人ともこっちに」

 

私は碇レイとアスカをドアから放たれるであろう射線状から外れた位置に移動させた

私は携帯電話でルミナさんに連絡を取った。向こうはすぐに出た

 

『どうかしたの?』

 

「どうやら敵が現れたようです。今、来客の準備中です」

 

ユウさんは大型のボストンバックからアサルトライフルのH&K G36とRPG-7ランチャーを取り出した。

 

『わかったわ。すぐにこっちの部隊を向かわせるわ。場所はどこ?』

 

「第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟の402号室です。できるだけ早くお願いします」

 

『わかったわ。しばらくはそっちで耐えてね』

 

「了解」

 

私は携帯電話をポケットにしまう。

次に右腰のホルスターからベレッタM92を取り出し、ロックを解除していつでも発砲できる状態にした

ユウさんがRPG-7ランチャーを手にすると照準をドアに向けた。

私も銃をいつでも発砲できるように構えた。

 

「いくよ」

 

ユウさんの言葉に頷いた

次の瞬間RPG-7ロケットランチャーが発射され、ドアが吹っ飛んだ。

同時にドア前にいた数名も巻き込んで。私はドアが吹っ飛ぶと同時に発砲を開始した。何人の頭に弾をおみまいした

次の瞬間、外からリーダーと思われる人物の声が聞こえてきた

 

「セカンドとファーストチルドレンを渡せば攻撃はしない!」

 

それに反論するかのように、ユウさんがアサルトライフルで発砲しながら言い返した

 

「こっちは第三新東京市警察の相葉ユウ刑事と水川カオリ刑事だ。一般市民を守る義務がある!」

 

私も弾をどんどん消費するとついに弾切れとなった。するとユウさんが私のほうにアサルトライフルを投げてきた

ユウさんが投げてきたのは[ H&K G36 ]だった。弾は100発装填されているドラム式のマガジン

 

「いい加減にあきらめなさい!もうじき第三新東京市警察も来るわ!」

 

その言葉通り、パトカーのサイレンが聞こえてきた。それでもあきらめる気配はなかった。

どうやら相手はよほどの事情もちのようだ。予想はつくがあまり考えたくない良そうだ。

 

『銃を捨てないさい!あなた達は完全に包囲されているわ!』

 

拡声器から聞こえてきた声は、ルミナさんのものだった。そして、ついにあきらめたのか発砲がなくなった

 

 



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第57話

 

ルミナさんの指揮の下、第三新東京市警察の警察官が次々と逮捕されていった

その時、ティアさんが入ってきた

 

「大丈夫そうね。カオリちゃん。相葉ユウさん」

 

「何とかやってます。全員逮捕されましたか?」

 

その言葉にティアさんは頷いた。

 

「全員の狙いは2人のお嬢さんだったみたいよ。チルドレンっていうのは厄介ね」

 

「それだけのリスクは覚悟してましたから想定どおりです。私達は今後どのように」

 

「あなた達にはできれば今すぐにでも姿を消してもらう必要があるの。だからこれを着て」

 

ティアさんは私とユウさんに第三新東京市警察と後に印字されたジャンバーを渡した

 

「これがあれば不審に思われることはないわ。今は全員がそれを着用しているから」

 

つまり、その雑踏にまぎれて逃げ切れということのようだ。

 

「わかりました。それじゃ、アスカさん、レイさん、もう会うことはないでしょう。さようなら」

 

「待って」

 

アスカの待っての言葉を無視して私は外に出た。そしてユウさんと2人で雑踏にまぎれながら

1階に着くと、ユウさんの車で第三新東京市市営住宅第22番建設職員用団地6号棟をあとにした

あとは帰るだけだ。ユウさんは猛スピードで現場を離れていった

 

「ユウさん、ごめんなさい。また変な目にあわせて」

 

「これくらいのことは覚悟済みだったから大丈夫だよ。それより、カオリちゃんは怪我はない?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「それはよかった。ならさっさと検問所にいって帰ろう。僕たちの居場所に」

 

「はい!」

 

その言葉にとても温かみを感じたのは気のせいではない

本当に温かみがあったのだ

 

「カオリちゃん、帰ったら本当に今後のこと、考えようね」

 

「はい、私もそのつもりです」

 

将来のこと。今まで考えたことなどないけど、これからは考えないといけない

きっと私は最高の幸せをつかむことができるだろう。検問所に到着するといつもよりも厳しい検問がしかれていた。

おそらくチルドレンの誘拐未遂事件がらみだろう。もっとも私達にはもう関係ないが。1時間後、ようやく私達の順番が来た。

今度はユウさんが運転席にいるから、彼がバッジを見せると問題ないといって通してくれた。

たかがバッジ、されどバッジ。バッジ1つで世の中が大きく変わる

 

「無事に通過できましたね。追尾車もありませんし」

 

「そうだね。追尾車はないようだ。これで安心して海岸の町に戻れる」

 

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第58話・第59話

 

海岸の町、私の家の前に到着したのは夕方の午後5時ごろだった。

両親は私が到着したことに気づき出迎えてくれた

 

「よく帰ったわね」

 

「よく帰った」

 

2人からの温かい言葉は私にとって何よりの言葉だった

『家族』という者を知らずに育ってきた私にとっては今は重要なときだ

 

「カオリちゃん、先におくには行っておくといいよ。僕はお父さんとお母さんと話があるから」

 

何を話すかはおおよそ見当はついていた。

たぶん今日1日の出来事を知らせるのだろう

だからといって私の生活は変わらない。今までどおりだ

旅館の正面玄関から入るとユリさんが抱きついてきた

 

「お帰り、カオリちゃん」

 

その言葉にようやく力が抜けたように感じられた。

今までずっと緊張感が抜けきれなかったのがようやく抜けたように

 

「ただいま、ユリ姉さん」

 

私はようやく自由を手に入れた。

かりそめなのかもしれないが、自由には違いない

私はようやく手に入れたのだ

そのあとは旅館の仲居さんたちがみんな私を抱きしめてくれた

それでまたもう1つを実感できた

ここが私がいるべき本当の居場所。

そして、ここに居るみんなかが家族なのだと

私が自分の部屋に戻る頃にはもう夕日は沈んでいた。

でもこれからは毎日のように夕日を見ることができる

また再び、ネルフの影に怯えることもなく堂々と

それが今の私にとってはなによりも最良の結果だった

 

 

-----------------------------------------------------------

 

私は自分の部屋に向かって、歩いていた。

その途中で何人かの仲居さんと会ったが。

みんな私が帰ってきてくれたことを歓迎してくれた

私は自分の部屋に戻ると、銃などは部屋に設置されている簡易金庫に放り込んだ

 

「やっとおわったわね」

 

私はそう言うとすぐに服を着替えた

そして夕食を食べるために食堂に向かった

 

-----------------------------------------------------------

 

 

翌朝、また朝をこの旅館の私の部屋で迎えることができた。それは最高なことだ。なによりも。今の時間は午前7時。

冷蔵庫からブラックのコーヒー缶を取り出すと缶を開けた飲みはじめた。

ブラックのため苦いがその苦さがこの朝には最良に感じられた。

 

「苦い」

 

思わず口に出してしまったが、その苦さが良かった。私は布団をたたみ、外を見ると今日は良い天気だったので、

ベランダに干すことにした。女の子の私には重い布団だが仕方がない。これも干すための行動だ

布団を干し終えると、私はいつものように食堂に向かった

カウンター席に座ると料理長が私用に作られた全体的に少な目のご飯を出してくれた

 

「よく帰ったな。無事で安心した」

 

料理長はそれだけを言うと仕事に戻っていった。私はその言葉に何よりも感謝したかった

私の居場所はここだと再確認できたからだ。ずっと探していた居場所、それがここだと認められたときと同じように

また再確認できた。私をいることを心の底から喜んでくれる人がいる

 

「ありがとう、料理長さん」

 

私は彼の名前を知らない。

いつも他人に興味を持たない自分が悪いのだ

だが今はなによりも、彼に感謝したかった

ようやく手にいれた居場所

それがここだということだと

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

ネルフ監察局 局長執務室

 

蒼崎とルミナが話し合っていた

 

「この件でネルフは行動をどう動くか」

 

「ネルフは動かないでしょう。『真実』を知った以上」

 

真実、それは水川カオリが碇シンジであるということだ。

それを知った以上、碇ユイや碇ゲンドウは行動を起こそうとする可能性は否定できないだろうが

碇レイと同じように行動を起こせば、それこそ被害はさらに大きな物になる

 

「君はすべてを知っているかのようにいつも語る」

 

「私はすべてを知っているわけではありません。ただ守りたいだけです」

 

「君が初めて私と会ったとき同じ台詞だな」

 

蒼崎とルミナが初めて会った時にそう言ったのだ

そして、2人で誓った。互いのチームワークは決して乱さないと

 

「私は決してあなたとのチームワークを乱すつもりはないわ。それだけは誓える」

 

「分かっているよ。私も君のことは信じているからね」

 

 

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第60話

 

海岸の町の私の部屋

そこが唯一無二の居場所なのだ

ここが帰ってくるべき場所であり、戻ってくる場所なのだ

その事実は変わることはない。これからさきずっと

 

 

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僕は彼女の両親と話を進めていた。

話といっても第三新東京市での出来事を話すだけだが。

2人は話を聞いて何か納得したような表情を浮かべていた

 

「そうですか」

 

「カオリちゃんにこれを渡しておいてもらえますか」

 

そういって紙袋を1つ渡した。中身はベレッタM92の9mm口径の弾。

50発分が収められている。必要ないかもしれないが

渡しておいて損はない。

 

「わかりました。渡しておきます」

 

お母さんが紙袋を受け取った。

中身は察しがついているのだろう、何も聞かなかった

 

「それじゃ、僕はこの辺で。もし何かあったらすぐに電話をください」

 

「わかった。頼りにしてるぞ。相葉ユウさん」

 

今度はお父さんがいった。確かに僕は頼りにされていた。今現状で武器の調達等ができるのはこの近辺では僕だけだから

仕方がないことだが。車を発進させると自宅に向かった。自宅までも道には街灯はほとんどなく、暗い道だ。

まるでこれからの僕たちの道を示しているかのように。自宅前に付くと玄関のところにルミナさんが立っていた

 

「遅かったわね。もう少し早くこれないのかしら」

 

「ルミナさんとデートの約束はしていなかったと思うけど、何かあったのかな」

 

「一応報告をしておこうと思って寄っただけよ」

 

何を報告しようというのか。この状況下で

 

「結果から言って、私達の作戦は成功したわ。無事にね」

 

私達の作戦。それは碇ユイや碇ゲンドウ、碇レイと惣流・アスカ・ラングレーと会った時の作戦

それが無事に完遂されたということは、良いニュースだ

だが問題はこれからだ。ネルフの動向しだいで僕たちの運命は大きく変わる

 

「ネルフはどう動くんだい?」

 

「しばらくは黙っているでしょ。彼らにも時間は必要よ」

 

確かにその通りだ。だが、時間が経過すればするほどネルフの自制心はなくなっていくだろう

そうなれば次に襲ってくるのこの町だ。

 

「何かあればすぐに連絡するわ。私は当面第三新東京市で勤務することになりそうだから」

 

ルミナさんがこの地から離れていく。それはカオリちゃんにとってはショックな出来事だろう

 

「カオリちゃんには話していかないのか」

 

「話すと私の判断が鈍りそうで。あなたから話しておいて」

 

つまり今回は自ら志願して第三新東京市に移るということだ

 

「私の後任はじきに決まって来るわ。彼女とも仲良くしてあげてね」

 

ルミナさんは話し終えると同時に迎えらしき車が僕の家の前に到着した

 

「それじゃ、相葉ユウさん、彼女のこと、守ってあげてね」

 

「分かってるさ。それくらいのこと」

 

そう言い終えると、車は急発進していった

残された僕は自宅に入っていった。今後のことを考えながら

 



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第61話

 

あの出来事から1ヶ月が経過した。私は相変わらず、平穏な日々を過ごしている。

何も異常のない平穏な日々。かつて、昔『僕』ほしがっていた時間だ

今は私がそれを有効に使っている。なんとも皮肉なことなのかもしれない。

でもそれはそれで良いと思っている。私は今日も海岸の砂浜から夕日を眺めていた

いつもの光景だ。当たり前の光景がようやく戻ってきた。あの1ヶ月前の悪夢のような出来事から

 

「カオリちゃん。よかったら送っていくよ」

 

「お願いします」

 

ああ、そういえば少し変わったことがあった。ユウさんとの距離感が僅かながら近づいてきた。

それはそれで良いのかもしれない。人と接する機会が増えるのだから

私は砂浜から立ち上がり道路まで戻るとユウさんのSUV車の助手席に乗り込んだ

最近はいつもこんな感じだ。送ってもらってばかりいる。

足が鈍ってしまいそうだ。そんなことを考えながら、私は彼に最近は甘えてしまう

それが良いことなのか、悪いことなのかは、私にも判断できない。

きっと誰にも判断できないだろう。お父さんとお母さんには安心されている

今まで真っ暗な道を1人で歩いていたのに比べて車での送迎のほうが安全だからだ

 

「カオリちゃん、今度、どこかに観光に行こうか」

 

「どこかにですか」

 

「そうだよ。この街から少しはなれて、ちょっとした2人旅ってやつだよ」

 

私はそのアイデアに良い響きを感じた。

たまにはこの町から離れて、どこか放浪するのも良いだろう

そんな考えが私の脳裏をよぎっていた。

 

「良いですね。でも、ネルフのこともありますし」

 

そう、1ヶ月経ったとはいえネルフの影が完全に消えたわけではない

 

「そうだね。でもたまには思い切ったことも良いと思ってね」

 

それも確かだ。

思い切ったことをしてみることも良い事だ

でもその前に以前はルミナさんの家、今はティアさんの家に相談にいかないとと考えていた

 

 

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自宅の旅館の前に付くと助手席から車を降りた

 

「送ってくれてありがとうございます」

 

「良いよ。気にしないで。それじゃ、また明日」

 

「はい、また明日」

 

つまり明日旅行計画を練ると行くことだろう。旅行は楽しみだ

今までずっとこの町で過ごしてきたから。正面玄関の受付にはお父さんが待っていた

 

「今日も送ってもらったのか」

 

「うん、お父さんはユウさんのことは嫌い?」

 

「そういうわけじゃないが、彼が絡むとお前が危ない橋を渡ろうとするからな」

 

確かにその通りだ。ユウさんと絡んだ出来事で、安全なまとものことはなに1つなかった

心配するのは当然のことだ。

 

「大丈夫だよ。今回は危ない旅行じゃないから」

 

「旅行か、どこに行く予定なんだ」

 

お父さんは旅行という言葉に反対することはなかった

 

「まだ決めてないけど、どこか少し離れた場所に行こうかと思ってるの」

 

旅行のプランなど何も決まってはいない。でも私はまたどこか遠くにいきたいと思っていた

この世界を見てまわりたいと

 

「そうか。俺は反対はしないから母さんに話だけは通しておけよ」

 

「わかってるよ。お父さん」

 

確かにお母さんに話を通しておかなければならない話題だ。きっとお母さんもお父さんと同じように心配するだろう

でもきっと認めてくれる。そんな気がした。私は正面玄関から別館の自分の部屋に入ると、ベレッタM92の掃除を始めた

この銃を受け取ってから、もう習慣のようになっていた

 

「これじゃ、危ない18歳に見えるわね」

 

独り言を言ったが確かにその通りだ。銃を片手に旅行をしようとしている

傍から見れば、危ない少女に見えるだろう。それでも重要なのだ。この銃は

 



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海岸の町(パート7)
第62話


 

銃の手入れを終えると私はいつものように机の下に貼り付けた。いつ何時銃を取り出せるようにするためだ。

貼り付けたといっても、机の下にホルスターが装着されている。そこに挿入するだけのことだが

1日中銃を持っているわけにはいかない。もしそんなことをすればお父さんやお母さんが心配するだろうから

 

「それじゃ、夕食を食べに行きましょうか」

 

私はそう独り言を言うと食堂に向かった。途中でユリさんとすれ違ったが、忙しいのか声をかけられなかった

今日はよほど忙しいようだ。仲居さんたちの動きがいつもよりもきびきびしていた

私が食堂につくといつものカウンター席に着いた。いつもと同じように料理長が私専用に作られたメニューを出してきた

 

「ありがとうございます」

 

「気にするな。いつものことだ」

 

私は食事を済ませるとカウンターにおいて自室に戻った。そして携帯電話でティアさんのところに電話をかけた

ティアさんはすぐに電話に出てくれた

 

「ティアさん、カオリです」

 

『カオリちゃん?どうかしたの、こんな時間に』

 

「実はユウさんと旅行に行こうかって話をしていまして」

 

『旅行か、今はネルフも忙しいみたいだけど。それで目的地は決まってるの?』

 

「いえ、まだ詳細は詰めていないんですけど、先に話だけでもと思いまして」

 

『あなたのそういう律儀なところ。しっかりしてるわね。わかったわ。詳細な計画ができたら私にももらえるかしら』

 

「わかりました」

 

どの道そのつもりだったので問題はない。でも気になるのはネルフが忙しいという話題だ

 

「今ネルフは忙しいんですか?」

 

『そこに引っかかっちゃった。ごめんなさいね。詳しいことはまだ話せないの。話せる時がきたら話すわ』

 

ティアさんの分かりやすい返事に私は了解しましたとだけ伝えた

 

「それじゃ、また明日にでも会いましょうか」

 

『そうね。そうしましょう。それじゃ、また明日』

 

そうして通話は終わった。どこに行くのか楽しみで私はワクワクしていた

この海岸の町以外には第三新東京市にしか行ったことがないのだから

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

翌日の朝、私は9時に目を覚ました

少し遅めだったが、昨夜は旅行のプランをいろいろと考えていて眠れなかったのだ

これではまるで小学生と同じだが、仕方がない。まだ広い世界を見たことがないのだから

私は布団をたたむと朝食を食べるために食堂に向かった

食堂には遅い時間というのに数多くの人がいたがカウンター席は開いていた

料理長がいつも通り私専用に作られたメニューを出してくれた

 

「いただきます」

 

「よく食えよ。今日はいつもよりも少し多めにしておいたからな」

 

料理長からのアドバイスに私は少しうんざりした表情を見せたが

気にした様子はまるでなかった。いつものことだ。

私は何とか完食すると食器をそのままに食堂をあとにした。

そして自室に戻ると外に出て行く準備をした。薄めの上着を羽織った

上着の下にはベレッタM92がホルスタに収められている。

さらに念のため呼びのマガジンをポケットに突っ込むと出かける準備は完了だ

もしものための供えは大切だとユウさんによく教えられているためだ

玄関の受付にはお母さんが立っていた

 

「お母さん、ユウさんの家に行ってくるね」

 

「旅行の計画が決まったらちゃんと教えるのよ」

 

お父さんからすでに話は通っているみたいだ

私は大丈夫、わかってるよというと旅館を出発した

まだ暑い日差しが照りつける。季節的にはこれから秋を迎えるはずなのだが。

その兆しは今のところまったくない。もう少し時間がかかるようだ

地球の地軸が元に戻るには。私にもできることとできないことがあるのだから

海岸の砂浜近くに着くと、子供たちが水着を着て海水浴を楽しんでいた

今日が日曜日だからだろう。そのせいで子供が朝から海水浴を楽しんでいるのだ

 

「たのしそうね」

 

私は思わず独り言を言うと、とにかくユウさんの自宅を目指した

ユウさんの家は展望台の上に位置している。少し距離があるが

食後の運動と思えばそれほど苦にはならなかった

到着した頃には11時ごろになっていた。旅館でのんびりしすぎたのが原因だ

私はドアをノックしようとしたとき、中で言い争っている声が聞こえてきた

 

『あなたはあの子のことを何も分かってない!あの子にはこの場所はふさわしいのよ!』

 

『それは君の先入観だよ!彼女は飛び立とうとしているんだよ!これからどこかに向かって!』

 

言い争っているのはティアさんとユウさんだった。

あの子っていうのはなんとなく私だと理解した

 

『飛び立った先に未来があるの?絶望しかなかったらどうするつもりなの!』

 

『そんなことはやってみないとわからないじゃないか!挑戦は重要だよ!』

 

確かにユウさんの言うとおり挑戦は大事だ

でもそろそろ私はドアをノックしようとした

 

『トントン』

 

「ユウさん、いますか」

 

『少し待ってね』

 

さっきまでの言い争いの声から一変して普段の声に戻っていた

 

 

 

 

 



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第63話

 

玄関ドアが開かれると私はユウさんとティアさんに挨拶をした

 

「こんにちは。ティアさんはお久しぶりです」

 

ティアさんと会うのはあの『事件』以来だった。それ以降はまったく接触していなかったから

 

「もしかして、私ってタイミング悪かったですか」

 

思わず言った言葉に私はしまったと思ってしまった。これではドアの外で聞き耳をたてていたということがばれてしまうと

3人も感づいたようで、居心地悪そうな態度をしていた

 

「大丈夫ですよ。気にしてませんから」

 

私はますますどつぼにはまっていっていると感じた。これじゃ完全に話しの内容を聞いてましたと公言したに近い

 

「カオリちゃんに隠し事をしても仕方がないね。ティアさんは旅行には反対なんだって」

 

ユウさんのストレートの意見にティアさんは居心地悪そうな態度を示した。

 

「どうして反対なんですか」

 

私のストレートの質問にティアさんは迷いながらも答えてくれた

 

「今はネルフが少し動きがあってね。最新情報によるとあなたを捕まえようとしているみたいなの」

 

ティアさんの率直な答えに、私は戸惑うことはなかった

あれだけのことをしたのだ。追われているのは当然のことだろう

 

「この町にいれば私達が守れるわ。でも町から出てしまうとどうしようもないの」

 

それでも私は見てみたいのだ。生まれ変わった広い世界を

 

「どうしても行ってみたいです。生まれ変わったこの広い世界を見てみたいんです」

 

私の率直な答えにティアさんは悩み始めた

きっとティアさんは私の安全を第一に考えてくれているのだろう

 

 

----------------------------------------------------------------------

 

 

「わかったわ。許可する代わりに条件があるわ」

 

「何でも飲みます」

 

「私も随行するわ。そのほうが安全が保障されやすいし、あなたを守りやすい」

 

それは確かにその通りだ。

一緒にいるほうが守りやすいというのは当然の論理だ

 

「私はそれでもかまいません。ユウさんはどうですか」

 

「僕もかまわないよ。美人な女性2人と旅行できるなら大歓迎だよ」

 

私は美人の部類に入るのだろうか。ユウさんが言うのだからそうなのだろう

私は自分のことを美人だとは思ったことはない。罪にまみれた人間としか認識できない

人としては欠陥品なのかもしれない

 

「それじゃ、とりあえずどこに行きたいのかしら」

 

ティアさんがリーダーシップを発揮して、旅行プランを練り始めた

私は特に行きたい場所がこれといってあるわけではない

ただ、広い世界を見てみたい。それだけの願望なのだ

 

「それじゃ、第2東京市に行ってみようか。カオリちゃんも行ったことないでしょ」

 

確かに行ったことはなかった。『前』の僕のときも、今の私になってからも。

買い物はいつも第三新東京市で済ませていたから行って見たいという願望が生まれた

一応、日本の首都でもあるし、一応とつくのは、第三新東京市が将来遷都される予定となっているからだ

 

「行ってみたいです!」

 

私が元気よくそう言うと2人は笑った

いつになるかは決まってはいないが、行き先は決まった

だが1つ問題があった第2東京市に行くには必ず第三新東京市を経由していかなければならなかった

 

「その点なら大丈夫でしょ。あなた達は休職中の第三新東京市警察の刑事のままだから」

 

 

 



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第64話

 

つまり抜けることは難しくないということだ

あの街を

 

「ところで、下で試し撃ちをしてもいいですか」

 

「カトラスは持ってきてるのかい?」

 

カトラス、私の銃につけた愛称の名前だ。正式にはソードカトラス。

愛称はカトラスだ。この呼び方のほうが一般の人の前で話しても問題ない

ある漫画からつけた名前だ。ソードカトラス。少しかっこ良い

 

「持ってきています。訓練をしてもいいですか?」

 

「かまわないけど、銃の練習だなんて珍しいね」

 

「これからのことを考えて訓練をしておこうと思って」

 

「だったら、私が教えるわ。男にベタベタ触れるのは苦手でしょう」

 

ティアさんがそんなことを言ってきた。

私は別に気にしたことなどないのだが特にユウさんには絶対的な信頼を置いているためだ。

 

「私はユウさんでもかまいませんよ。銃を習うなら慣れている人が一番ですし」

 

「どうやら私は振られちゃったみたいね。相葉ユウさん。くれぐれも不謹慎なことはなさらないようにしてくださいね」

 

不謹慎なこと、それがどんなことを指し示すのか私にはよく理解できていない

というか、私にはまだ女の感性というものが良く理解できていないことが大きい

 

「喜んで引き受けるよ。下の銃器訓練室に行こうか」

 

ユウさんの地下1階には銃器訓練室がある。

ブースは3つしかないが、2人しかいないため問題ない

 

「やっぱり、私もその訓練に付き合っても良いかしら」

 

そこにティアさんも入ってきた。私は別にかまわない。他者の介入は特に気にしない

私はユウさんからソードカトラスと同型のベレッタM92Fを借りると射撃訓練用の的にめがけて発砲した

耳にはイヤープロテクトをつけて。私は的の中心部分と一部を外していたが

ティアさんとユウさんはほぼ中心部に的中していた

 

「ティアさんって銃の扱い上手いんですね」

 

私が率直に言うと、私は軍上がりの人間だからねと返事が帰ってきた

 

 

----------------------------------------------------------------

 

ティアさんは銃火器の取扱は手馴れているのだろう

彼女はユウさんが持っている銃の量を見て驚きの表情を浮かべていた

 

「すごい量ね。良くここまで持ち込めたわね」

 

「こう見えても、ルートはあるからね。何だったら、弾の補充でもしていく?」

 

「そうさせてもらおうかしら。こっちに来てから久しぶりの射撃訓練」

 

「よかったら、僕がいる間なら今後も使っても良いよ」

 

「そうさせてもらうわ」

 

私の知らない間に、ティアさんとユウさんの話は進んでいる

特に私には関係のない話なので聞き流していたのですが

 

「それにしてもカオリちゃん、銃の筋は良いわね。本気で訓練してみる気はある?」

 

振って沸いた私への質問に、私は一瞬回答に戸惑ったが遠慮することにした

別に本気で刑事を目指しているわけではない。あくまでも肩書きだけだ

休職中の刑事扱いなのだから

 

「私でもよければお願いします」

 

銃の訓練は良い事だ。ソードカトラスの訓練をしておくことで

訓練をしておくことで、本当の刑事に近づけると思った

今は書類上の刑事だけど。いつか本当の刑事になろうと考えていた

もちろん第三新東京市ではなく、この海岸の町を所管する警察署の刑事に

いつか、自分が本当に役にたつときが来ればよいと思っていた

 

「喜んで引き受けるよ」

 

「あなたのためならどんなことでも協力するわ。」

 

ルミナさん。あの事件以降、私は姿を見ることはなかった

ティアさんの話ではネルフ監査本部勤務になったということだ

私とルミナさんは手紙のやり取りをする程度だったが、今でも交流があった

わずかな小さな紐のような交流だったが。

 

「ルミナさんは最近はどうしていますか?」

 

「さぁね。今頃ネルフをいじめるのに力を出しているんじゃないのかしら」

 

確かにネルフ嫌いで有名なルミナさんならやりかねないことだ

でも、今は私には関係のない話だ。

 

 

 

 



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海岸の町(1か月後)
第65話・第66話


射撃訓練を終えると私は借りていた銃をユウさんに返した

自分のソードカトラスは自室に保管されている。大切に

あれが私の命をつなぐ重要な手がかりなのだ

 

私はその後、ティアさんの車で旅館まで送ってもらった。

その車中でティアさんは尋ねてきた

 

「これからこうどするつもり?」

 

「ネルフへの恨みは晴らしました。後はゆっくりとこの町で過ごすだけです」

 

「この海岸の町で?」

 

「はい。私が一番気に入っているこの海岸の町で過ごすのが一番楽しいんです」

 

「そう。でも刑事の経歴は残しておくわね。何かの役に立つときがくるときがあると思うから」

 

刑事の経歴、それは私の偽りの経歴だが

ティアさんの言うとおり、私の刑事としての経歴は役に立つときが来るだろう

それはまた事実だ

 

「感謝します」

 

「偽の経歴をでっち上げたかいがあったわ。あなたと相葉ユウさんは休職中の刑事ということになっているから」

 

旅館前に着くと、私は助手席から降りた

そして、また明日と言った

 

「また、明日」

 

私は旅館の正面玄関から家に帰っていった

旅館に入ると受付にはお母さんが待っていた。

 

「お帰り、カオリ」

 

「ただいま、お母さん」

 

「何か変わった匂いがするわね」

 

どうやら私の体に付着している硝煙の匂いを感じ取ったのだろう

 

「ストレス発散をしてきたの」

 

「銃を撃ってきたのね。悪い事はしたらだめよ」

 

お母さんは心配しているのだ。私がまた大胆な行動をするのではないかと

 

「大丈夫だよ。今日のは本当にただのストレス発散だから大丈夫だよ」

 

「ストレス発散なら良いのよ。無理な事はしないでほしいの」

 

私には大丈夫としか言うしかない

答えはまだ定まっていない。これからどうなるかも

 

---------------------------------------------------------

 

私は自分の部屋に戻ると、ソードカトラスを取り出した

そして1度分解して綺麗に整備をすると再び組み立てなおして弾を装填した

 

「これで完成ね」

 

そして私は再び銃を金庫に隠した。布を巻いて

これで今日のやる事はすべてやった。あとは食堂でご飯を食べて寝るだけだ。

旅行の話は明日のお母さんとお父さんの時間があるときにでもすればいいことだろう

今日は少し忙しそうだったしと私はそう判断した。結局、ネルフが忙しいという話題については聞くことができなかった

何か触ってはいけない話題に感じられたからだ。

 

「とにかく、明日、ティアさんに話をもう1度聞きにいこう」

 

私はそう独り言を言うと食堂に向かった。時間はもう夕方の午後5時になっていた

そろそろ夕食の時間だ。食堂で食べようと思い、私は自分の部屋を出ていった

その途中で何人かの高校生と見られる生徒とすれ違った。

その全員が私に視線を向けてきたがその一切を無視してきた。

 

「やっぱり珍しいのかな。私の髪は」

 

私の髪は銀髪だ。そして赤い目。誰からみてもアルビノは珍しいのだろう

だからこそ私に視線を向けてくるのだろう。そんなことを思いながら食堂に到着する。

そしていつものカウンター席に座ると私用のメニューが出てきた

 

「今日は少し肉を多めにしておいたからな」

 

料理長の言葉に私はいつものようにありがとうございますといった

料理長である彼は私の食事体質を少しずつ改善していこうとしているのだ。

それはそれでうれしいことだ。だから決して嫌がることを見せる事はしない。

 

「いただきます」

 

そう言うと夕食をとり始めた。しばらくすると林間学校で来ている高校生たちが現れてきた。

私は彼らが来る前に食事を取り終えると、食器を料理長に返すと、早々に自分の部屋に戻っていった。

お風呂は自分の部屋にもあるので、そこで済ませることができる。私は今は1人になりたいと思っていた。

服を脱いでお風呂に入ると体を洗い、湯船に入ると1日の疲れが癒される感触を得た

 

「今日は気持ち良いわね。このお風呂も」

 

普段は大浴場のほうを使っているから余計にそう感じるのだろう

これからのことは決してわからない

未来の出来事など誰も想像する事はできないのだから

『神様』となった私ですら

 

 

人は欺瞞の中で生きている。私も同じだ。欺瞞の中で生きている。

でもその中で生きているからこそ、価値があるものも存在する

それが『未来』というものだ。

 

 

未来は相手から来る物ではない。自分で作り出す物だ

それを理解したとき、私は少し成長できたのかもしれないと感じた

 

 

人はいつかは生まれ変わる物なのかもしれない

それがいつになるかは本人達にもわからないが

きっといつか、理解しあえるときが来るのかもしれない

私と『本当の家族』との関係は出会う以前からこうなる運命だったのだろう

すれ違っていたわけでもない、分かり合えなかったわけでもない

私達は誰よりもお互いを理解し、相手のことだけを見つめていた

 

 

 

 

 



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第67話

 

新しい朝を迎えた私は目が覚めると金庫から銃を取り出し

一通りの手入れをすると金庫に戻す。そして冷蔵庫からコーヒー缶を取り出した

もちろんブラックだ。目覚めの一本としては最適だ。

いつもの日常が帰ってきた。私は部屋から出ると朝食をとるために食堂に向かっていった

その途中で仲居さんたちが忙しそうに動いていた。そんな中を私は1人、食堂に向かっていた

いつもの光景になぜか安堵する私。とても不思議に思えた。今までも、そしてこれからも変わらない人生

それにすっかり慣れてしまった自分に呆れてしまっている。

 

「とりあえず朝食を食べてお散歩にでも行きましょうか」

 

私はそうつぶやくと食堂に向かった。

食堂ではすでに数多くの宿泊者の皆さんが朝食を食べていた

私はカウンター席に座ると料理長がいつものように料理を出してくれる

いつもの日常だ変わる事のない、いつもであり

平穏そのものだ。それを私は望んでいた

私は今の自分のことにとても喜んでいた

ため込んでいた不安を吹き飛ばしたのだから当然だ

今はこの場所で生涯を過ごしていくのだという事しか

考えていないのだ。今もそしてこれからも変わることにない人生だ

 

『トントン』

 

突然後ろから肩を叩かれた。

 

「カオリ、あなたのことをみんな心配しているわ。また何かあるのかもしれいないかもと」

 

声をかけてきたのはお母さんだった

お母さんは耳元でつぶやいた

 

「部屋にこれが落ちていたから回収しておいたわ」

 

それは9㎜の弾だった。片づけ忘れたらしい。私としたことが珍しいミスだった。

もし旅館の仲居さんに見つかっていたら言い訳に困っていたところだ

 

「ありがとう。お母さん」

 

弾を受け取るとポケットに入れた朝食を食べる。

お母さんに散歩に行ってきますと伝えるとお使いを頼まれた

簡単なことだ。旅館で使用されているお酒等を注文された通りあるかどうか

確認してきてほしいということだ。

 

「はい。少しはお母さんの役に立たないと」

 

「そんなことを心配しなくても私たちはあなたの事をいつでも迎えてあげるからね」

 

そういうとお母さんは食堂から出て行った

仕事の時間だ。私も旅館のお手伝いをやりに行く時間だ

 

「いつもおいしい食事。ありがとうございます」

 

料理長にそういうと食器を返した

そして私は旅館から歩いて海岸の砂浜近くにあるお酒屋さんに向かった

 

「私も少しは役に立たないとね」

 

私はお母さんから預かったメモを片手にして向かっていった

今日はお昼までに帰る予定。

お昼からは相葉ユウさんと第2新東京市への旅行プランを練る作業がある



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第68話

私はいつものようにお酒屋さんにやってきた

そこでいつも通り、おじさんにお酒の注文書を手渡すと

すぐにあとで届けるよと答えが返ってきた

私はその足で歩いてユウさんの自宅に向かおうとしたのだが砂浜に立っているのを見つけた

いつものように写真を撮っていたのだ。

何でもない、いつもの光景。最近になってようやく普通にも慣れてきた

1ヵ月前の大騒動。それを考えれば冷静に対応できる段階だ

 

「ユウさん、調子はどうですか?」

 

「カオリちゃん。元気そうだね。安心したよ」

 

「私は最近になってようやく慣れてきましたよ」

 

そんなことをしゃべりながら、私たちは海岸から見える昼間の熱い太陽を見ていた

 

「また何かお願い事かな?」

 

「いえ、今日はただの散歩です。それにユウさんとの旅行プランを練りたいと思っていましたから」

 

「それがあったね。少し待ってね。機材を片付けるから」

 

そういうとユウさんはいつものようにカメラなどの機材を片付け始めた

私も手伝う形で。あまり詳しいことは分からないけど。少しでも負担が減ればという考えでだった

出発しようとしたとき、砂浜のすぐそばにある道路からクラクションが聞こえてきた

そこにはルミナさんがいた。

 

「ルミナさん。お久しぶりです」

 

ここ1ヶ月ほどはこの町にはいなかった

その間はティアさんがいた。彼女は昨日のバスで帰っていった

第三新東京市に戻る前日は旅館のみんなとでちょっとしたパーティをした

 

 

「ルミナさん。戻ってきたんですか?」

 

「ええ、向こうでの雑務も終わったしここでのバカンスを楽しみに来たのよ」

 

どこまで本気か冗談かはわからないがトラブルはなかったという事だ

それはそれで良いニュース。私はそんなことを考えながら機材を片づける

そしてユウさんのSUV車に乗り込むととりあえず彼の自宅に向かっていった

10分ほどで山中にあるログハウスであるユウさんの自宅についた

ここは周辺が森に囲まれていて動植物にも恵まれているところだ

 

「相変わらず綺麗なところね」

 

ティアさんは到着早々そんなことを言った。

確かにここは動植物に恵まれていてきれいなところだった

そのため建物も自然と調和するようにログハウスにしたのだ

私はそう聞いている。確かに自然と調和していて、ここに立っていても違和感を

あまり感じることのない建物。

 

「失礼します」

 

私は玄関でそう言って室内に入った

室内はいつも同じように猟銃か飾られている

まるでインテリアのように。もちろん実弾が発砲できる銃である

飾っているのはわざとだと聞いたことがある

表に出している分だけ気づきにくいのだという事だ

 

「それじゃ、旅行プランを考えようか?」

 

「そうね」

 

ユウさんとルミナさん。そして私の3人で旅行プランを練ることになった

何でもないただの旅行プランだがその途中で第三新東京市を通過する必要がある

ネルフのお膝元を通るのだから事は慎重に運ばなければならなかった

 

「それじゃ、とりあえず旅行プランの基礎はこれくらいにして」

 

ルミナさんはそういうとコーヒーをもらえるかしらと言ってきた

ユウさんはすぐに用意をするよというとキッチンに向かった

用意をしている間に、ルミナさんは私かに語り掛けてきた

 

「本当に第三新東京市に行くつもりなの」

 

「正確は通過するだけですよ。もう過去は振り切りましたから」

 

ルミナさんはあの時のことを懸念している様子だった

しかし今の私にはそんな事はどうでも良い事だった

あの時の私はどうかしていたのだ。今ならば冷静に行動することができる

 

「ルミナさん、私はもう覚悟を決めましたから」

 

そういうとユウさんがコーヒーカップを2つもって現れた

 

「ブラックで良いのかな」

 

「ええ、残業続きだからブラックで構わないわよ」

 

そういうとルミナさんはコーヒーカップを受け取った

私もユウさんからコーヒーをもらうとそこにはすでにミルクが入っていた

 

「カオリちゃんはミルク少しで良かったね」

 

「はい」

 

私もカップを受け取ると少し熱いコーヒーを少し冷めるのを待つと飲み始めた

 

「ルミナさん、これは自分の私見だけどこれ以上第三新東京市とかかわるのはまずい」

 

できれば市内を迂回したコースを取りたいと言ってきた

 

「確かにリスクを減らせるけど、大きな迂回することになるわよ」

 

しかしユウさんはこう言った。リスクは極力避けたいと

 

 



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第69話

 

ユウさんの家、最近になってこの家に来るのも慣れてきた

1つの例外と言えば射撃訓練設備があるという事だ

旅行の計画がある程度計画を決めるとそこで銃の射撃訓練を受けていた

 

「良い腕だね」

 

そうですかと私は聞くとユウさんはそう答えた

確かに射撃訓練としては良い腕だろう。

でも実際に人を殺すのとはわけが違う

 

「相変わらず射撃訓練での腕はいいわね」

 

ルミナさんもそこにいた。

彼女も射撃訓練をしていたが私よりも腕は良かった

 

「ルミナさんの方が腕がいいですね」

 

「私は訓練を受けた戦士だからね当然よ」

 

「私はまだまだですね」

 

「あなたが強くなる必要なんてないわよ。ここは安全な町なんだから」

 

「見守られているからですか?」

 

ルミナさんはいつ気づいたの質問で返した

 

「ここ最近です。この街に来るのはいつも普通の人。こんな私の姿をしているのにネルフの人間は一度も来なかった」

 

私はいつからか気づいていた。

この町は少しおかしいと。

私の姿をしていたらいろいろと噂を聞き付けた人間がいるはずなのに

そんな人物はいなかった。私が今まで気づかなかったこと

それをようやく自覚したのだ

 

「あなたは守られているのよ。この町のみんなから。誰も危害を加えられることはないわ」

 

「でもどうして。どうしてそこまでするんです」

 

「それは・・・・・・私には答えられないわ」

 

「どうして答えてくれないんですか!」

 

「カオリちゃん落ち着いて」

 

ユウさんが私を止めようとしたが私はどうしても真実を知りたかった

しかし彼女は何も答えることはできないの一点張りだった

どうしてなのかわからない。私はまだ『あの時』から逃れる事ができないのかもしれない

あの時の事は今でも忘れることはできない。『神様』はこの見捨てた世界を私に託した。

どうしてなのかはわからない。それに私は何かが欠けているかのように感じていた

 

「カオリちゃん、今は落ち着いて。家まで送るから」

 

ユウさんの言葉に私は分かりましたと言うと、とりあえずその場から去ることにした

私は聞き取ることはできなかったが、ユウさんは聞いていた

ルミナさんの言葉に

 

「あなたのためなのよ」

 

そう言っていたとのちに聞いた

私はユウさんのSUV車に乗り込むと自宅である旅館まで向かっていった

 

「ユウさん。神様がいたらどう思いますか?」

 

「僕にはわからない事だよ。神様がいたらきっと今のこの世界の事を嘆き悲しむだろうね」

 

「どうしてですか?」

 

「君みたいな綺麗な人を悲しませる人がいる事を知ったらね」

 

ユウさんは私の事を茶化すかのように言った。

私の頭を軽く触り撫でた。

 

「君の事は僕は信じているから」

 

ユウさんはそう言うと自宅の旅館の前に到着するとついたよと言ってきた

私は内心では彼と離れたくないように感じたが、家に着いた以上仕方がない

 

「それじゃ、旅行のプランはまた明日にでも」

 

「今度は僕が君の家に行くよ」

 

「そこまでしてもらわなくても」

 

「今回は君が来てくれた。そのお返しだよ」

 

そう言うと私はSUV車から降りると自宅の旅館に戻っていった

 

「ただいま」

 

受付ではお母さんが待っていた

 

「また火薬のにおいがするわよ。お風呂に入ってきなさい」

 

お母さんに隠し事はできないようだ。私も詰めが甘いみたい

お母さんの言葉に私は了解ですと面白く返事をするとお母さんは私の頭を撫でた

 

「まったく。悪い子ね」

 

そう言うと受付に戻っていった。私は自分の部屋に戻るとお風呂に入った。

そして外の風景を見ながらゆったりと木でできた浴槽に浸かった

この部屋のお風呂は外から中は見えないが中から外を見ることはできる小窓がついている

そこからは夕日が見える。晴れていればだが

私はその夕日が好きだ。とても

かつての自分は私はまだ生きているという実感が得られたことがなかった

しかし今は違う。これでようやく本当に自分の、私の人生を生きていくことができる

例えそれが僕だけがいない街の話だとしても、今の私には関係のない話だ

今は僕は碇シンジではない。水野カオリなのだ

助けてくれる人も多くいる。だからこそこれだけ安堵な生活を送れるのだろう

たとえ、この先どんな苦労があろうと乗り越えることができると

そう心の中で整理していた。みんながお互いの顔を知っている町

だからこそ、私は生きていけるのだろう。

 



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第70話

いよいよ物語もネルフとの直接対決に入ろうとしています
監察局とネルフ、水川カオリとネルフ
様々な思惑が入り乱れてきます


 

お風呂から上がった私は自分の部屋に戻った

今は平和な毎日だ。少し前の騒動が嘘のように

平和な日常に戻ってきた。それだけで私は少し心のどこかで安堵していた

私は今を大切にしている。この瞬間でも世界は動いている

たとえどんな些細なことでも世界を動かしているのはネルフだ

私にとっては最大の禁忌。タブーとまで言っても過言ではない

彼等はきっと私のことを調べようとするだろう

この容姿を見れば誰だって想像がつく。ネルフ関係者ならばの話だが

だからこそ今を大切にする必要があるのだ

いつかはきっとこの町から去らなければならない時が来るかもしれない

そうなればすべてを失ってしまう。私はそれに対して恐怖を感じていた

 

「何もなければ良いけど」

 

部屋の冷蔵庫に缶コーヒーを取り出すとそれを一気に飲み干した

苦い味が今の私にはまったく良いものだった

だが歴史は変えることはできない。

全ては始まってしまったのだ

1度ネルフに狙われた以上、また攻撃を仕掛けてくるだろう

そうなれば、私はこの町にいることができるだろうか

この『海岸の町』。こここそが私の居場所だ

それは変わらないことを祈っている

例え、私が神様でも人を動かすことはできない

人を動かすのは心だ。私はそこまでコントロールすることはできない

私はもう失う事に恐怖を感じていた。これ以上ないほどに

ようやく手に入れた幸せと平和。何人にも侵されない場所

ここが戦場になってしまったら私の居場所はもうない

だからここその平和を愛しているのだ

今のところ平和で静かな日常だが。明日にはどうなっているか分からない

 

「平和だわ」

 

昔では考えられなかった。今ほど、サードチルドレンだった時と比べて平和であることには変わりない

私は自分の部屋だけに設置されているベットに腰掛けるとテレビを見始めた

そこではネルフが叩かれていた。もちろんネルフ監察局

そんな番組を見ながら私は冷蔵庫からまたコーヒー缶を出すと飲み始めた

 

『トントン』

 

「開いてますよ」

 

入ってきた人物を見て私は凍り付いた。

ネルフのマークが入った制服を身にまとった人物だった

 

「何か用件ですか?」

 

私は極力冷静に努めるように対応した

しかし、どうやら彼らは聞く耳を持たず私をこの旅館から、いや外の世界に出そうとしているようだ

それも無理やりに

 

「あなたを拘束するわ。渚カヲル殺害未遂の容疑でね」

 

そこには懐かしい、葛城ミサトの姿があった

 

「突然押しかけてきて、私の娘になんてことを言うんですか!」

 

お母さんが現れて私を守ろうとするが、ミサトさんは令状を持っていた

逮捕状だ。どうやって入手したのかわからないがそれは間違いなく逮捕令状だった

 

「あなたを第三新東京市まで連行するわ。こうして逮捕令状まで取ったのだから問題ないと思いますが」

 

「娘がいつ犯罪を起こしたというのですか!」

 

「事件直前と直後に市内と市外を出入りした人間を全員チェックして不審と思われる人物はあなただけよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。ですが何も話すつもりはありませんから」

 

こうして私は再び泥沼につかる羽目になってしまった

まさに最悪の事態だ。私にとって、ネルフは嫌な組織だ

真実を隠して権力を拡大した。ただし監察局と言う番犬がついているが

私は手錠をかけられると旅館から出ていき少し離れたところにある広場に向かったところそこにはヘリが駐機されていた

それに乗り込むと、第三新東京市に向かっていった

 

 

------------------------------

 

第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

そこでは蒼崎マモルが水川カオリの逮捕令状執行について対応に追われていた

最も焦っていたのは国連の方だった。またしても悪夢のような天才が発生するのではないかと

すでに安全保障理事会が緊急で招集されて会議の真っ最中だった

彼女がネルフ本部内部に入ってしまえばもはや救出する術は限られている

 

「大至急国連に連絡して逮捕状の棄却を」

 

『わかりました。早急に対応します』

 

 

------------------------------

 

私はヘリでの移動の中あることを考えていた

もう終わりになってしまうのではないかと。このままネルフに連れていかれて真実が明らかになったところで今サラダ

私は失うものはすべて失った。今の生活で満足している。ネルフなどに干渉されることは望んでいない

できることなら今まで通り平穏で静かに暮らしたかった

かなう事ならば、だが。こんな些細な願いさえかなう事はなかった

あの時から運命の歯車は回りだしていたのだろう

渚カヲルを撃った段階で。

 

 

------------------------------

 

ルミナはカオリの逮捕の知らせを受けて焦っていた

今の状況でももし何かあればまたしても世界が大きく動くことになる

すでに局長から連絡をもらっていてヘリの手配をしてもらっている。ネルフ本部内に入るまでに何とか食い止めたい

入られてしまえばもはや手を出すことは容易なことではない

 

「間に合えば良いけど」

 

 

------------------------------

 

 

 

 



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第71話

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部監房室

そこではカオリが収容されていた。

 

「水川カオリちゃん、いえ、碇シンジ君。どうしても「私の名前は水川カオリ!碇シンジと言う名前は遺言伝達人として聞いただけよ」

 

「そう。認めるつもりはないのね。今DNA検査をかけているわ。それですべてが分かる」

 

カオリはそんなことをしても無駄であることは分かっていった。この姿になった時にDNAや指紋を変えたからだ

そのためここにあるマギを使っても無駄な事なのだ

 

「ミサト、これ以上拘束することはできなくなったわ。安全保障理事会と監察局が口を出してきた」

 

「あのドブネズミたちが、いったいどういうつもりなの?」

 

「わからないわ。すぐに身元引受人が来るわ。到着までは3分よ」

 

そう言うとリツコは監房室から出ていった。残されたミサトはまだ言い足りないのか話をつづけた

 

「あなたのことを本当に思っている人がいるの?」

 

「私には海岸の街とあの旅館がある。小さな町が私にとって楽園。これ以上邪魔をしないでください」

 

そこに相葉ユウさんがやってきた

 

「カオリちゃん、遅くなってごめんね」

 

「ユウさん、どうしてここに来たんですか?」

 

「君の身柄を引き取るためだよ」

 

そう言うと手錠を外すようにミサトさんに言うと彼女は素直に私の後手錠を外した

その瞬間私は彼女の頬に一発殴ってしまった

 

「あなたのせいで貴重な時間を無駄にしました」

 

「それがあなたの決断かしら」

 

「1つだけ。伝言です。もう2度と『僕』達の前に現れないでください」

 

「もし約束が守られなかったら?」

 

「その時はお互い血を見ることになるでしょうね。私はもう決めたんです。あの町で過ごすと」

 

すると相葉ユウさんも応援する言葉を言ってくれた

 

「僕も君のことを守るよ。僕もネルフは嫌いだからね」

 

「それはあなたが元ゼーレの人間だからでしょ。そんな人間と一緒にいて幸せなの?」

 

「ユウさんのことはよくわかっています。たとえどんなことがあろうとも信じています」

 

「その言葉を聞けると嬉しいよ。それに僕以外にも応援が来てくれたよ。ルミナさん待っていましたよ」

 

「これが身柄引き渡し書類です。今後彼女のことについては我々監察局を通してください」

 

「もししなければ?」

 

「ネルフの権限の縮小を提案します。特に保安諜報部についてのね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。ではわたしはこれで」

 

ミサトさんはそう言うとこの場から去っていった

ルミナさんとユウさんと一緒にネルフ本部を出ると監察局に向かった

 

「これから何が」

 

「少しね。書類整理をしてからあなたを送り出すことになっているから」

 

そう言うと私とルミナさんとユウさんの3人は監察局に入っていった

そこで簡単な事情聴取とネルフの対応方法についていくつか話し終わるとヘリで送ってくれるとのことだった

私は車でも良いけどと断ったのだが早く帰りたいって顔に書いてあるわよとルミナさんに言われた

そこまで言われた仕方がない。私とルミナさんとユウさんはヘリで戻ることにした

ヘリで戻ればわずか30分ほどで到着することになった。ルミナさんの家の敷地内にある草原地帯に降り立つ

そこからはユウさんの車で私は自宅である旅館に送られていった

私が自宅につくと両親が迎えてくれた

 

「カオリ!大丈夫!」

 

「カオリ!無事だったか!」

 

お母さんとお父さんは私のことを深く抱きしめた

私もそれにこたえるように抱き着いた

 

「それじゃ僕はここで。カオリちゃん、何か悩み事があればいつでも連絡してね」

 

「はい!」

 

私は元気よく返事をするとユウさんはまたねと言って車を発進させた

私は旅館の中にある自分の部屋に戻り、小型冷蔵庫からコーヒー缶を取り出すと飲んだ

ちょうどよく渋みがあり、冷静になれた。今の私に必要なのは冷静さだ

あの状況下でよく発狂しなかったのかという疑問の考えを思う

ネルフ本部は私にとって嫌な思い出しかない。絶望した先に迎えたのは天国ではなく地獄だった

私はそれを少し修正して良き方向になるように歯車を入れ替えていった

それでなんとなると思っていたが今度は恐れていた大波が訪れてきた

まるで悪夢のような光景だった。ようやく自分自身でケリをつけることができたのに

問題なのはどうやってこれからの生活を送るかだ。1度ネルフに関わった以上、また来るだろう

どんな手段を使ってでもこの安息の土地が穢される。それだけは何としても避けなければならない

しかし、今はこの貴重な時間を過ごす事にした

 

 



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番外編ー1

 

海岸の町(番外編)

 

海が一望できる旅館の従業員用の宿舎

そこには数多くの旅館の従業員が住み込みんでいる

そんな中の1人、カオリの隣の部屋に住んでいるのは私、根川ユリです

私はカオリとかなり親密な関係を持っている

私と言うよりも親友という感じだ。年齢も近い事もそのうちの1つだろう

彼女の年齢は21歳。カオリは18歳。3しか歳が離れていなのだから

私はいつものように中庭で布団を干していた

今日は絶好の布団乾燥日和だ。天気は1日中晴天

そこに猫たちの群れを連れたカオリがやってきた

 

「カオリちゃん、今日も人気者ね」

 

「おやつがきっと欲しいんですよ。ねぇ、ネコさん」

 

その言葉を理解しているのか、猫たちは一斉に返事をした

カオリちゃんはこの旅館のアイドルだ。彼女の魅力にひかれてやってくる客がいる

主にモデルになってみる気はないかという誘いだ。彼女にはそれだけの素質があると

しかしカオリちゃんはそんなつもりは全くないと。まるでこの旅館で静養しているかのように

この町から出る事は基本的にない。写真家の水野ユウさんと第三新東京市に買い物に行くときを除けば

それ以外はこの旅館と海岸を行き来するくらいだ。私はそんな彼女の姿を見ていつも不思議でならない

まるでオーラを発しているかのような彼女の様子。それを見るだけで目の保養になると言う物だ

彼女はよく猫たちの世話をしている。元々は捨て猫だったのを彼女が拾ってきては育て始めたのだ

今は5頭の大人の猫と3頭の子猫がいる。布団を干している時は彼らにとって格好な遊び道具だ

そのため、カオリちゃんがいつも彼らを引き連れて、旅館の裏側から事務室に入り彼らのご飯を用意する

そう言う事になっていた。そうする事でお互いに問題なく生活ができる状況を作っていた

なぜかは知らないが、ネコさんたちはカオリちゃんの言う事をほぼ100%聞くことになっている

こればかりは不思議としか言いようがない。まるでネコたちがカオリちゃんの言葉を理解しているかのように

布団を干し終えると次は旅館内の清掃だ。別館もあるため旅館内の清掃はかなり時間がかかる

カオリちゃんはその間はいつも海岸に向かって歩いて行っている

なぜかは知らないが、あの海岸の浜辺が好きなようだった

私にはどこも同じように見えるが、カオリちゃんにとっては違うようだった

もう1人この町に住んでいるのはルミナさんだ。彼女も不思議で私はあまり知らないが

カオリちゃんの何かを知っているようだった。それが何かまでは不明だが

それでもカオリちゃんとは親しい間柄だ。もちろん、この旅館の女将さんとも親密だ

不思議な事で女将さんもルミナさんについてはあまり知っている事は少ないらしい

ただ分かっている事と言えばカオリちゃんの味方だという事実だけだ

彼女も同じように容姿は変わっている。白銀色の髪に紫の瞳

まるでどこかの絵画か現れたようなものだった

彼女もこの町では不思議な存在とされている

小さな町なのだからいろいろと噂は流れているが、正しいかどうかは分からない

 

「今日も忙しい1日になりそうね」

 

私はそういうと旅館内に入ると館内の清掃を始めた

今日は夕方から近隣の公立高校からの臨海学校が予定として入っている

そのため、今日中に洗濯物を片付ける必要があった

幸いな事に今日は一日中青天のためすぐに乾くだろう

館内の清掃をしているとカオリちゃんが中庭で猫たちと遊んでいる姿があった

いつもの光景だ。見慣れた光景でありネコたちは本当にカオリちゃんの言う事を聞いている

見慣れない者から見たら変わっていると思われるが、旅館の関係者からはいつものことだった

ネコたちはカオリちゃんが海岸の浜辺に向かっていった

すると子ネコたちは今度はネコじゃらしで遊び始めた。親ネコはそれを見届けていた

 

「今日もネコさんたちにとっては楽しい1日の始まりね」

 

私はそういうと旅館の仕事に戻っていった

 



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番外編ー2

 

私の名前は相葉ユウ

海岸の町で生活している人間だ。昔は武器密売や戦闘員などをしていたが

今ではこの町でかつて稼いだ金をもって真っ当な道に戻った

そして今は私は写真家となっていた。

ただし、最近ある顧客から銃器を売ってほしいと頼まれた

今でももちろんルートがないわけではないが。一度真っ当な道に戻った人間だ

しかし、その人物、正確には女性からの頼みに応じてしまった

どうやってお金を貯めたのか、その女性は私に数万円を持ってきた

最初は断ろうとしたが、どうしても欲しいと強い頼みを断れず

銃を調達した。そしてその銃の使い方を教えた

私が住んでいる家の地下には射撃訓練用の設備があった

そこで彼女は何度も射撃訓練した。さらに彼女は戦闘術も教えてほしいとなんで来た

何処で聞きつけたのかわからないが、私が武闘派であったことを知ったようだった

怪我をするからやめるように諭すが、またお金を持ってきた

私はそれには手を付けなかったが、護身術のいくつかを教えた

さらに敵を察知する事の方法についても教育した

まるでかつていた組織の上官のようだった。

彼女は呑み込みが早く、さまざまな訓練にも耐えてきた

私は彼女を1流の女性兵士に育て上げてしまった

それは自分にとって最悪な事をしてしまったと感じている

彼女には似合わないからだ。平和で静かに暮らしている事の方が彼女らしい

そのためにも私は彼女を見守り続けようと思う

この海岸の町で平和に暮らしてくことを

私は毎日海岸で写真を撮っている。

被写体はいろいろだが、平和に過ごしている住民

また海岸にユウをバックに立たずむ彼女の写真

それが最も美しく感じる

まるで女神を見ているかのような写真だ

しかし彼女はそのことを喜んでいない

彼女はいつも言っている。私にはそんな資格はないと

むしろ悲しみの表情ばかりを浮かべている

まるで何かの裁きを受けているかのように

彼女の感情を私は理解できない。当然と言えば当然だ

人は個人によって違うのだから。

彼女は私に言った

 

「私は罪の裁きを受けている」

 

そう言うと彼女は悲壮感漂う表情を浮かべながら浜辺に座っている

いつもの風景だが、彼女にはあまり感情を表すことはない

ただ、生きているという感じだ。まるでお人形のように

彼女は人として生きていても、その生き方はまるでかごの鳥のような生き方だった

私は何度か、彼女と一緒に買い出しいったが。

彼女は何の意思もなくただ私の後をついていくひな鳥のような存在だ

少しでも力を入れてしまえば壊れてしまうほど希薄のような関係だ

そこに居る事を忘れてしまいそうなくらい存在が希薄

彼女は海岸の砂浜で鳥たちと遊ぶのが大好きだ

鳥用なのかどうかわからないが。彼女は首に笛をいつもぶら下げている

それを吹いて鳥たちとコミュニケーションを取っているように見える

私は今日も海岸の砂浜に行って風景写真を取りに行くとした

 

「今日はどんな写真が取れるか楽しみだね」

 

私はそう言うと今日も自宅から車を走りださせて撮影に行った

 



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番外編ー3

 

僕の名前は渚カヲル

ネルフに所属しているエヴァのパイロットだ

僕は今まで彼の存在の事を探していた

しかしネルフに協力を得てもなかなか見つかる事は出来なかった

1年という時間を費やしてようやく見つけ出すことに成功した

海岸の町に住んでいる事が分かったのだ。

しかし1つ問題があった。彼ではなく『彼女』であった

最初は戸惑ってしまった。なぜ彼ではないのか

そして『彼女』の記録についてはすべてが抹消されていた

僕もネルフ内のデータを徹底的に調べたが彼女が『彼』であるという確証はなかった

高校の旅行で海岸の町に行ったときに僕は、いや僕たちは初めて会ったが

彼女はとぼけるだけだった。さらに彼女の家族も全てを知らないの一点張りだった

ネルフ側は僕たちに情報を提供してくれた。それでもわずかな情報だった

旅館に宿泊した時、彼女は僕たちと接する事を拒んだ

しかしその後、僕を巻き込んでの大騒動を起こしてくれた

僕を誘拐して『碇シンジの遺言』を伝えるために第三新東京市にやってきた

最悪な事をしてくれたが彼女は本気だった

彼女は頑なに碇シンジであるという事を認める事はなかった

たとえそれが事実であったとしても。あまり良い事はない

世界のバランスが崩れるからだ。ようやく得た平穏

平和な世界。それを失う事は今は許されない

僕が病院に入院している時に蒼崎さんから話を聞いた

彼はネルフを観察するネルフ監察局の局長だ

聞いた話はあまりにも驚くべき内容だった

彼はこれ以上彼女に接触する事をやめるように命令してきた

しかし簡単には諦めるわけにはいかなかった

僕にも信念がある。あのサードインパクト後の世界がどんなものだったのか

そんな興味が多くあった

 

「どうすれば見つける事が出来るのだろうね」

 

僕はそう言いながら自分の家でいつも調べごとをしていた

時にはネルフのスーパーコンピュータのマギを使って

それでも収穫になりそうなデータはなかった

彼女のデータがすべてサードインパクト後の物しかなかったからだ

まるで魔法使いが現れたかのようにデータはきれいな物だった

 

「なにもないね」

 

僕はこれ以上探りを入れるのではなく直接聞くことにした

極めて難しことだが、近いうちにやるつもりだった

 

「もう止める事はできないね」

 

僕はそう呟くと、またあの海岸の町に向かっていった

今度は1人で。すべてを知るために

そして自分の心の中の出来事を整理するために向かったのだった

道中で様々な妨害がされることは分かっていた

それでも真実を確かめたかった。本当にそうであったのだったか

妨害を避けるため僕はバスなどの公共交通機関を利用して向かう事にした

時間もかかるし、お金もかかるが。監察局の邪魔を避けるにはこれが最良の判断だったと思っている

 



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番外編-4

 

私の名前は水川レナ。

この海岸の町の旅館の経営者でもあり、カオリの母親だ

私の娘は誰からもみても美しいと思われる。それはあの髪の影響だろう

白銀色の髪の影響だろう。娘に会いたいがために旅館に泊まりに来る人もいる

娘はそんな事は一切望んでいない。むしろその反対だ。

娘は注目されることをひどく嫌っている。

娘の部屋はお客が普段は使わない別館に配置されている

そのため、静かな生活を送る事が出来ていた

しかし、最近になってその生活は大きく変わった

ネルフが絡んできているからだ。特務機関ネルフ

彼らは私の娘にとっては目の上のたんこぶでしかない

私の娘の大事な人生をぼろぼろにしている

つい最近も、ネルフとの衝突で大きなダメージがあった。

心理的な面での話だが。そのおかげで娘は大きく傷ついた

私達の旅館の従業員全員が私の娘の姉妹のような関係だ

彼らも私の娘の事を心配している。それでも娘は傷ついた。

今は私の旅館で静かに暮らしている。

娘は自分を守るために凶器に手を出した

私はそのことについては納得していないが娘がそれで安心するなら

それはそれで良いかもしれないと思った。

少し過激な意見ではあるが。

それでも助かれば私としては良いニュースだ

そしてもう1人。私はある人物と密接にかかわっている事に好意を抱いていた

相葉ユウさん。彼もまた優秀な男だ。

瞬時に状況を理解して娘のためならどんなことでもしてくれる

娘を助けるには最も必要な人でもある

私が聞いたネルフの『真実』

それを聞いた時私は驚いた

まさか世の中にそんな裏事情があるとは

それを証明したのが相葉ユウさんだ。彼が元その機関の関係者と知った時

初めは娘から遠ざけようとしたが彼の真摯な対応に

次第に距離が近づいてきた。

そして私は彼とカオリとの関係を受け入れた

世の中には理解できない関係かもしれないが

銃でつながっている関係。まるでそれは戦場にいるかのように感じる

私にとって、娘は最高の宝物だ。これ以上惜しいものがないくらいに

それを考えればネルフの事を許すことができない。

 

「平和に暮らせると良いわね」

 

私はいつも通り旅館の従業員に頑張るように言いながらもカオリの事を考えている

今日も海岸に歩いて向かっている。あと30分もすれば帰ってくるだろう

そうしたら最高のおもてなしをしてあげようと思う

今日は『カオリ』にとって特別な日だ。

あの子がこの旅館に来た日。そして水川カオリになった初めての日でもある

言ってみれば誕生日という事だ。第2の人生の

 

 



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第72話

あの悲劇から時間が経過した。ネルフの影は薄まりつつあった

私は再び心休まる日々を過ごせることが多くなってきた

ようやく忘れてきたことに心から嬉しいと思っていた。

ようやくだ。もうこれでネルフとは縁は切れただろうとこのころはまだ思っていた

しかしまだまだ続きがあるとは思ってはいなかった。

ルミナさんの家はあれから何度か訪れたが、彼女と会う事はなかった

相葉ユウさんに連絡を中継する形で取ってもらったら、監察局での問題が解決するまでは

戻ってることはないと言われてしまった。少し寂しさを感じてきたがそれはそれで仕方がない

ルミナさんも仕事なのだから。私はそう納得するしかなかった

今日も私はいつも通り朝に起きると、事務室に行って猫のえさが入っているキャットフードを手にする

いつも通り小皿に盛り付けるとそれを持って本館と別館の間にある広場に持っていった

するとそこには以前と変わりないネコさんたちの集まりがあった

その事に私はまた少し、うれしさを感じた。変わる事がないものがある

それがどれくらい重要なのかをよく理解していたからだ

私の部屋の金庫には拳銃が入っている。ユウさんがいつでも使えるようにと100発入りの弾と一緒に

もちろん、ここにいる限り使う事はないだろう。平和な町なのだから

こんな小さな町で銃を使った出来事など起きるはずがないとその時は簡単に考えていた

誰だってそうだ。ある程度エサやりを終えたとき、友達の仲居さんが声をかけてきた

 

「カオリちゃん。自分のご飯もちゃんと食べないとだめよ。最近食事量が落ちているらしいってみんなで心配しているんだから」

 

その言葉に私は思わず苦笑いをしてしまった。あの激動な日々を迎えてからというものの。

食事量は大幅に減ったことは事実だ。仕方がない。いろいろとトラブルがありすぎたのだから当然と言えば当然の結果だ

まだまだ、普通の人の半分ほどしか食事量はとっていない。

あの事件の前からもあまりとっていなかったからなおさら心配されてしまった

だから私は今日はちゃんと食べますと答えた。本当に食べられる稼働は分からなかったが

とりあえず答えを用意しておく必要はあった。そうでないとまた心配をかけてしまうのではないかと思ってしまったからだ

私はあの時から逃げないと決めたのだ。昔は逃げちゃだめだと言っておきながら逃げてしまった。

しかし今は違う。ようやく得た幸せを壊さないためにも逃げることは決してしたくない

平和に暮らすためには時には正面突破しなければならない時もある事を学んでいた

私はネコさんたちのエサやりを終えるといつものように、小皿をもって事務室に戻った

洗面台で小皿を洗うとネコさん専用のお皿置きのコーナーに戻すと食堂に向かった

 

「おじさん。今日の朝食は何ですか?」

 

「焼き鮭とみそ汁にご飯だ。多めが良いか」

 

いつものぶっきらぼうな答えだがそれでも心配してくれていることが言葉の中から分かった

私はいつも通り少な目でとお願いすると仕方がないなと言った表情でご飯の量を減らしてくれた

私はそのご飯を食べ始めた。まだ8時ごろという事もあり、食堂にはあまり人はいなかった

食堂が本格的に混雑するのは9時から10時の間が多い。今日は団体のお客さんは来ていないという事は知っていたので

私は静かな1日が過ごせそうと思った。食事をいつものように何とか食べ終えると、ロビーに向かった

受け継にいるお父さんに海岸まで行ってくるというと、いつものように旅館で使うお酒の注文を頼まれた

本当なら電話で済むことなので私に頼んでくるのは、どこかにふらついていってしまう事を心配しているのだと思っていた

本当のところはどうなのかはわからないが。私はいつもの注文のメモを預かると靴を履いて歩いて海岸まで歩いていった

 

「戦争と平和は紙一重っていうけど、本当なのかも」

 

私は砂浜まで歩きながらそんなことを考えていた。



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第73話

あの事件から時間がたち、私の生活も安定的なものになった。

ルミナさんはあれから戻ってくることはまだなかった。

どうやら心配はしているようで1日に1度は携帯電話に連絡が入る

私はいつも通り、彼女は静かに暮らしていると答えるとともに

海岸で撮った彼女の写真を電子メールで送っている

ルミナさんにとって安全が確保されていることを確認できる唯一の術であることは分かっていた

だからこそ私は毎日の様に朝から海岸に言って彼女の様子を写真に撮る

カオリちゃんはいつも、海岸に到着すると用事を済ませると海岸の砂浜に座り

どこか遠いところを見ているかのような目で海を見ている。

それが少し心配の種であるが、それでも彼女は生きようとしていた

少し前のどこか迷いのある人生ではなく、この道で行くんだと決めたような覚悟が感じられた

人生とは旅行のようなものだ。少しの気の迷いがとんでもないことを起こすこともある

私も車で自宅から海岸に向かうと空は晴天に恵まれていた

彼女は今日も毎日の様に海岸に来ていた

そしていつも通り砂浜近くにある商店で用事を済ませると昼過ぎまで海岸にいた

私は海岸の近くにある路肩駐車スペースに車を止めるとカメラをもって砂浜に降りた

 

「カオリちゃん。今日もお散歩かな」

 

「ユウさん。ユウさんも私の写真ですか?」

 

「ルミナさんが君の写真を欲しがっているからね」

 

彼女は私の写真なんてどうしてほしがるんですかと聞いてきたが私はあえて答えなかった

ルミナさんから理由については黙っているように頼まれていたからだ。

私はうまく誤魔化すと、1枚の写真を撮った。

 

「カオリちゃん。あれからもう時間が経過するけどどうかな?」

 

「平和ですよ。また訪れた平和に安心です」

 

「ルミナさんの方は少し大変みたいだね。耳に入れておいた方が良いと思うから話すけど」

 

私はルミナさんの現状を報告をした

彼女は第三新東京市で監察局の仕事を忙しくしていると伝えた

確かにその通りだ。今もネルフと監察局の対立は大きい

ネルフがこの町の行政に介入しようとしていることは戦略自衛隊にいる知人に聞いた

もちろん、今のこの町の行政機関の人間は監察局から出向しているが多いため簡単にはいかない

さらに日本政府、国連もこの町の行政には目を光らせている。

ルミナさんから私はそう聞いていた。その事はカオリちゃんの耳に入れるわけにはいかなかったが

いま最も懸念材料は再びネルフのメンバーが来ることだ。

幹部の行動は制限できても、碇レイや惣流アスカラングレーのような下々の人間まで把握はできていないとのことだった

それでも守らなければならない事がある事は事実だ

 



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第74話

第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「ルミナ。君は相変わらず問題を起こすのがうまいね」

 

「局長に言われたくありません。あなたも同じ穴の狢だと思いますが」

 

「確かに僕も同じだね。ネルフの強引さには呆れる事ばかりだからね」

 

局長室ではルミナと局長の蒼崎マモルが話し合いをしていた

議題はネルフに対する対応についてだ。彼らは強硬なまでにあの海岸の町に対する監査を要求してくる

もちろんそんなことを許すわけにはいかない。ようやく平和になった世界を再び嵐の中に持って行くことなど

どの国の政府も望んでいない。彼女のためならネルフそのものについて協議まではじめそうな勢いなのだ

しかしそれを妨害するのが保安諜報部だ。彼らの役目はネルフ内で極めて大きい

 

「それにしてもまだネルフはカオリちゃんのことについて諦めていないとはね」

 

「私も同意見です。あれだけ忠告をしておいたにもかかわらず、接触を図ろうとするとは思いもしりませんでした」

 

2人にとって頭を悩ますのはネルフがあの町の行政機関に職員を送り込もうとしている事だ

そうすることであの町を監視下に置こうとしているのだ。しかしそんなことを許すほど今の政府は甘くない

日本政府も自国内で大規模災害が起きる事は何としても避けたいと思っている

彼女の影響力は極めて大きいのだ。それだけ欧州には彼女によるダメージは大きい

今も完全復旧に至らない地域は存在する。そのため毎年のように彼女の警護に対する予算は多くても通過してしまう

戦略自衛隊もあの町の監視を強化している。国連軍も同様だ。共同で監視作業に入っている

もちろん彼らには気づかれないようにだが、勘の良い人間。つまり元ゼーレの人間だっとされる相葉ユウ。

あの男だけは気づいているであろうことは2人には察しがついていた。しかしそれが彼らにとっては安心感を与えていた

警護につけるにはもってこいの人材だからだ

 

「私としては今後も彼に情報を提供をするべきです。私が戻るまでは彼に警護を依頼しなければなりませんから」

 

「確かにそうだね。彼は有益な人材であることは変わりない」

 

局長である蒼崎マモルもルミナと同じ意見のようだ

いまあの町で水川カオリを守れるのは彼だけであることは分かっていた

 

「ようやく得た安定だ。大事にしたいね」

 

「はい」

 

------------------------------------------------------------

 

私は局長との会議を終了すると、自分の所属する部署に戻っていった

すると部署の責任者であるシエラ・ドーレス部長と出会った

 

「部長。何かお話でしょうか?」

 

話しかけると部長は1枚の紙を手渡してきた。それは再び海岸の町に戻るために必要な出向許可書だった

これであの町に戻ることができる。

 

「感謝します」

 

「気を付ける事ね。ネルフの動きが激しくなっているわ。国連にも圧力をかけ始めているけど」

 

今は監察局の力が強いから抑え込むことができているわと言ってきた

だからよく警戒するようにと伝えてくるとその場から去っていった。私は自分のデスクに戻ると荷物をまとめ始めた

すると同僚のティアが話しかけてきた

 

「戻るのね?」

 

「戻るわ。私の使命は彼女の安全を守る事だもの」

 

「気をつけなさい。ネルフの情報は私から逐一回すから」

 

ティアの援護射撃にありがとうと言うとすぐに荷物をまとめて駐車場に行くとジオフロントから

そして第三新東京市を出ていくと、海岸の町に向かっていった

 

 

 

 



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第75話

海岸線がきれいに見える砂浜に到着した私は、お父さんから頼まれたお酒の注文を酒屋さんに出すと砂浜に降りた

綺麗に見える光景の海。まるで海の色が反射しているかのように今日は空の色が一段と青かった

まさに青天だ。ユウさんが車でやってくるといつものように路肩に車を止めてカメラとサンキャンをもって砂浜に降りてきた

私はいつものようにおはようございますと挨拶をするとユウさんはルミナさんに関する情報をもたらしてきた

 

「カオリちゃん。あれからもう時間が経過するけどどうかな?」

 

「平和ですよ。また訪れた平和に安心です」

 

「ルミナさんの方は少し大変みたいだね。耳に入れておいた方が良いと思うから話すけど」

 

今日か明日には戻ってくると彼は告げた。その事に私は少し安堵を浮かべた

しかしそんな中でも少しの疑念がある。どうして私がこんなに守られているのか

それだけは私にもわからなかった。そればかりはどうしようもない。

守られるのには理由があるけどそれを聞くのが怖かった

少しの怖さだが、真実を知るのに恐怖を感じていた。だから今はまだ良いと考える事にした。

この数か月で私の人生は大きく変わった。真実を話すわけではなくネルフとの決別

そして、ようやく勝ち得たこの町での平穏な暮らし。それは私には勝利と呼べるものだった

しかしこれは嵐の前の静けさの可能性は十分にあった。それだけは何としても避けたかった

ようやく勝ち得た物だけに大事にしたいからだ。平和は戦争の前の出来事だと誰かが言っていた

でも私にとってはこの平和が永久に続くことを願っていた。どれほどそれが甘い願いだとしても

それが今一番の望みだった

 

「カオリちゃん、たまには射撃訓練に来ても良いよ。腕を鈍らせるともったいないからね」

 

「それは分かっているんですけど。お母さんとお父さんは敏感だから」

 

そう、火薬のにおいにはなぜか敏感だった。だから射撃訓練に行く事は極力避けてきた

いつも練習をすると、両親に気づかれてしまう。それで心配をかけるのではないかと思って

なかなか足がそちらに向けられることはなかった

 

「そう言えば、今度の第二東京市の旅行の話だけど、今度ルミナさんと話を詰めておくよ」

 

もう良い頃だと思うしねと彼は言った。確かにあの事件からもう時間は経過してしまった

旅行に行くにはそろそろタイミング的には良い頃合いだ。始めていく第二東京市。私にとってはそれは楽しい旅行だ。

この町から出てことがあるのは第三新東京市だけだからだ。

それも買い物だけでいつも観光名所などをめぐるようなことはしてきたことはない

だからこそだろうか。旅行に憧れがあるというのは。

 

「お願いします。わたしには第二東京市には行ったことがないので」

 

「カオリちゃんはどんなところが行きたいかな?」

 

「人々の生活しているところが見たいです。第三新東京市とは違った街だと思いますし」

 

「そうだね。第三新東京市とは違ってあそこは一応首都という扱いだから。人も多いだろうね」

 

「そういうところを見ていきたいですね」

 

分かったよとユウさんは言うとまた私の写真を取り、一緒に練習に行くかいと聞いてきた

私はすぐに良いですと言った。すこしは練習をしてくるのも良いかもと思った

私達は海岸線沿いに止めているユウさんの車に向かうと彼の家に向かった

 

「ルミナさん、ようやく戻ってくるんですね」

 

「そうみたいだね。彼女も忙しいみたいだから」

 

「ルミナさんはどうして私のことを「その事は今は話すのはやめておこうね。結果が出ない話もある」そうですか」

 

私達が乗る車は海岸線沿いの道路を走行するとすぐにユウさんの自宅についた。

家の玄関前にはルミナさんが待っていた

 

「お2人でお帰りなんてお熱いわね」

 

「ルミナさん。もしてして私達の関係を嫌っていますか?」

 

彼女はあなたが幸せなら文句をつけるつもりはないわと答えてきた

その言葉に少し安堵の心を持った。家族、つまり旅館の人以外にようやく得た友人

始めて愛してしまった相手を失う事を怖がっていた。碇レイにも言ったが、ようやく勝ち得た平穏を奪われたくなかった

 



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第76話

砂浜から少し離れた位置に存在する相葉ユウさんの家。木造の家で落ち着いた空気が漂っている

ただし地下だけは別だ。そこには多くの銃の保管スペースが確保されている

今はまだ使用されたこともない銃がほとんどだが様々な種類の銃器が保管されている

そんな中、射撃練習スペースで私も銃の射撃練習をしていた

もちろん持ってきてはいないため同じ型の物を借りての練習だった

こういう事はやっぱり経験がものをいう世界だ。わたしなんかよりもユウさんやルミナさんの方が腕は良い

私なんてまだまだ的に当てるだけで精一杯だ。それでも練習はしていこうと思っている

今後、いつ必要な状況に追い込まれるかどうかわからないからだ

備えあれば患いなしだ

 

「カオリちゃんは成長するのが早いね。この短期間で的に全弾命中させることができるんだから」

 

ユウさんは私のことをそう評価してくれた。それについては私には不明だ。

銃の腕が良いのか悪いのかは専門家でないとわからない。私はまだまだ素人なので詳しいことは分からない

ルミナさんはとなりのスペースで射撃練習をしていたが、腕はかなりの物だ

私なんかよりも断然腕は良い。ほぼ全弾的の中心部に命中していた

 

「カオリちゃん、腕は良いよ」

 

私はそれからも50発近く弾を発砲して練習するが、的の中心に命中したのは数発だけだった

撃ち終わると私とユウさんとルミナさんの3人で地下から上に上がり、リビングのソファに座ると今度の旅行の話の始めた

 

「それでどこに行くのかしら?」

 

さっそくルミナさんからの先制攻撃だ。私が答える前にユウさんが答えた

第二東京市に行く事を話し始めた。始めていくところだ。ネルフからの妨害が100%ないとは限らない

そのため、ルミナさんも一緒に行くと言い出した。

しかしその事はユウさんは計算のうちだったようでわかっているよと答えた

どうやら2人には暗黙の了解があるようだ。

私には詳しいことはわからないが、それでも計画が進めばそれで問題ないと考えていた

 

「カオリちゃん。あなたには身辺警護がついていることは分かっているわよね」

 

「はい。少しは感じています。でもどうして私に?」

 

「あなたにはそれだけの価値があるといろいろな事を考える人が多いのよ。だから私がここにいる。ここでの護衛担当は私。あなたには話したくなかったけど」

 

こうなった以上仕方がないわねと言った。もう隠蔽できる領域は超えてしまったとも

 

「これからはこの町を出る時は私か彼に護衛をお願いする事になるわ。町は戦略自衛隊と国連軍が張り付いてくれているわ」

 

あなたに迷惑が掛からない程度にねと

 

「どうしてそこまで」

 

「さっきも言ったけど、あなたにはその価値があるの。人を数字で評価するのは私の主義に反するけど、あなたはあらゆる意味で重要視されているの」

 

「それって私のことを」

 

「その事を知っているのは限られた人間だけよ。あなたの立場についてはさらに限られた人間だけしか知らない」

 

「私が「それ以上は話さない事の方が良いわ。どこ盗聴されているかわからないからね。幸いここと私の家、あとあなたの家は常にチェックされているから問題ないわ」」

 

「どうやってチェックを?」

 

私の質問にルミナさんは定期的に電気メンテナンスが来ているでしょと言った。

確かに数か月に1度電気メンテナンスの職員が来ていて

様々な地点の電磁波などを測定していた。

ただの電気メンテナンスにしては多いなとは思っていたが、まさかそんな裏事情があるとは思わなかった

だがこれでこの町が安全に保たれているなら少しは安堵をすることができる。

監視されたうえでの安全など嫌だが、平和に暮らせるなら少しは妥協するしかない

平和に暮らしたいのだ。今はこの町で。こんなささやかな願いをかなえれるなら。

生きることができるならそれだけでも幸せだ

 

 



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第77話

私は相葉ユウさんの家でルミナさんと旅行の計画について

いろいろと調整を終えると彼の車で自宅の旅館に送ってもらう事になった

まだ太陽が出ているが今日はもう夏休みを迎えているのか、砂浜には数多くの子供たちがいて海水浴を楽しんでいた

私はそんな光景を見ながらも、今後の計画について考えていた

旅行については大きな壁がいくつもあるが、護衛があるという事は大きな安全な切り札でもある

ネルフも簡単には私にはもう手を出してくることはないだろう。私は少し甘いかもしれないけどそんなことを考えていた

 

「ユウさん、ネルフは私のことを見張っているんでしょうか?」

 

運転席で運転をしているユウさんは大丈夫だよと答えた

 

「君のことは僕とルミナさんで守るから。必ずね」

 

だから心配しないでと言うと旅館に向かっていった。旅館の前に到着するとお母さんが出迎えてくれた

 

「ユウさん、いつも娘がお世話になっています」

 

「カオリちゃんとは仲良くしていますから気にしないでください。それと銃の射撃訓練をしたのですぐにお風呂に入れる事をお勧めします」

 

「わざわざありがとうございます。すぐにカオリをお風呂に入れますね」

 

お母さんは私を旅館の中に送り届けると、すぐにカオリにお風呂に入るように言った

 

「銃の火薬のにおいが残っているからお風呂に早く入りなさい」

 

「はい。分かっています。すぐに部屋に戻たらお風呂に入ります」

 

「それと無理な事はしちゃだめだからね。あなたは私の大事な娘なんだから」

 

「心配してくれてありがとう。大丈夫だから。無理な事はしないから」

 

お母さんはそれでも心配の種は尽きないのよと言って、軽く頭を撫でた

私は少し笑みをこぼすと別館の自分の部屋に向かった。

途中で仲居さんに出会ったが忙しいそうだったので声をかけるような事はしなかった

自室に入るとすぐに着替えを用意して浴室に入っていった。

そこで綺麗に体を清潔に洗うと、着替えを着用して髪の毛をドライヤーで乾かした

あとは私のすることはない。そこでまた金庫室から、拳銃を取り出して、いつものように整備を行った。

いつものように分解をして異常がないかを確認して、再度組み立てると金庫に戻していった

そして少し早いが日記帳に今日の活動日記をつける事にした。まだ昼前だが少しは日記をつけておくことにした

ある程度日記をつけているとドアがノックされた

 

「今開けます」

 

ドアを開けるとお父さんがお昼ご飯を持ってきてくれていた

 

「カオリ、今日は食堂が混雑するから部屋で食べてくれ」

 

「うん。わかったから。気にしないで」

 

私はそう言うと昼食を受け取ると、自分の部屋にあるリビングのテーブルに置くと食べ始めた

予想通りいつもよりも多めに、料理が盛り付けられていたため。食事を完食するにはいつも以上に時間がかかり

お腹がいっぱいになってしまった。ただでさえ小食の私にとっては大森のご飯並みにあった

私は食事を終えると縁側にある安楽椅子に座り外の風景を眺めていた。外は平和な光景が広がっていた。

いつも通りであり、安定した世界が広がっている。それだけで私は幸せだった

 

 



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第78話

私はいつも通り部屋のロッキングチェアに座り、外を眺めていた。

今のところ平穏な時間を過ごしていた。縁側でのんびりとした時間だ。

ようやく得られた平穏に私は幸せを感じていた。

あの地獄のような時間とは違ってゆったりと流れるこの海岸の町の時間。

 

「平和ね」

 

『トントン』

 

「は~い」

 

ドアがノックされたので私はロッキングチェアから立ち上がるとドアに向かった

するとそこにはルミナさんが立っていた。1冊のファイルを持って

 

「あなたにこれを渡しておこうと思ったの。もう真実を知るには良い機会だと思ってね」

 

そのファイルを私に渡すとルミナさんはその場から去っていった。

受け取った私はとりあえず部屋にそのファイルを持って入るとテーブルの上に置いた

そして再びロッキングチェアに座った。するとベランダに1頭の子猫が現れた。

私は窓ガラスを開けて部屋に招くと子猫は私の膝の上に乗ってきた

子猫はそのうえで日向ぼっこをするかのように丸くなってしまった。私はゆっくりと慎重に子猫の毛並みを撫でる

 

「本当に平和」

 

私は心からそう思った。何事もない平和な日常。いつもと変わりない静かな時間だ。

それがいつまで続くかはわからないができる事なら永久に続いてほしい。この静かな時間がだ

私は安楽椅子から立ち上がろうとしたが子猫が丸くなっているのを思い出し、立ち上がるのをやめて外に浮かんでいる太陽を見た

 

『ピーピーピー』

 

ポケットに入れていた携帯電話が着信を告げていた。

その音を聞いて子猫は飛び起きたようで私の膝の上から出ていったしまった

私はため息をつきながらも電話に出ると相手は知らない相手の番号だった

 

「もしもし」

 

『水川カオリさんですね。私は惣流アスカラングレーといいます。個人的にお話をしても良いでしょうか?』

 

意外な人物からの電話だった。思わず私は電話を切ろうと思ったが少しは良いだろうと心の片隅で思ってしまった

どうしてなのかはわからないが何故だか彼女なら良いかもしれないと思ってしまった

 

「お話というのは何ですか?」

 

『碇シンジという名前についてよく知っていますよね。彼の遺言が本当なのか教えてください』

 

「あの時も言ったはずです。私はただの遺言執行人に過ぎないと。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

『ですがあなたは彼のことを良く知っている。どこで知ったんですか?』

 

「くだらない話ですね。彼とどう会ったなんてどうでも良い事だと思いますが。重要なのは彼の遺志です。私はそれを尊重するだけです」

 

本当に嘘だが私はあの時に真実を言ったつもりだ。もう彼女たちとかかわりを持つつもりはない。2度と。

ようやく勝ち得た平穏なのだから、これを守り続けていきたいともうのは当たり前のことだ。

にもかかわらずそれを邪魔しようとする。私にとってはそれはただの邪魔者でしかなかった

 



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第79話

 

『バカシンジを返してよ!』

 

「結局、あなたたちは彼を人として見ていない。ただ自分たちにとって好都合なものとしてしか見ていない。違いますか?」

 

『それは・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「茶番劇はそれくらいにしましょう。どうせこの電話のことは後ろで碇ユイさんたちが聞いているのではありませんか?」

 

『察しが良いのね』

 

今度は大人っぽい女性の声が聞こえてきた

 

「そうでなければ私の携帯電話番号など知るはずがありませんから。それで何を聞きたいんですか。これでも忙しいんですよ」

 

『なぜそこまでその町にこだわるのかしら』

 

「静かだからです。私はこの町で出会った人々と平穏に暮らす。小さな幸せがあればそれで満足なんです」

 

『そのために本当の家族を捨ててもかしら』

 

「私の家族はこの旅館にいます。そして、この町の人たち全員が私にとって大切な人なんです。ネルフなんて迷惑なだけです」

 

『あなたとはもう少し話をしたいの。今度時間を作ってもらえないかしら』

 

「お断りします。たとえそれがどんな理由でもです。これ以上私の生活を壊さないでください」

 

それは心からの願いだった。今の生活を壊されることは何よりも迷惑な話だ

ようやく勝ち得た平和なのだから。たとえそれが守られた平和でも平和には違わない

静かな時間を壊されるなんて迷惑な事だ。

 

『なら強引にでも時間を作ってもらう事になるわ。こちらものんびりとしていると思ったら大間違いよ』

 

「ネルフはいつまで強権を振りかざせると思っているのでしょうか。それに私はその時はあなたたちを殺します」

 

迷いもなくと断言していった。私は間違いなくそうするだろう

今の私にとって大切なのはこの世界だ。この小さな町の世界こそが最も重要なのだ

それを守るためならば手段を選ばないことは間違いない

 

『お願い。もう1度だけ、時間を作ってもらえない?』

 

「ようやく勝ち得た平穏を手放したくはありません。あなた達のことを忘れていることが最も幸せなんですから」

 

私がはっきりとした口調で言うと相手は黙り込んでしまった

 

「私は会うつもりはありません。たとえこれが逃げだとしても私にはそれを選ぶ権利があります」

 

『では仕方がありませんね。こちらも強硬手段に出させてもらいます』

 

その言葉と同時に私は旅館に強盗が入ったとの大声の叫び声が聞こえてきた

私はとっさに金庫を開けて銃を取り出した。それを旅館の部屋の扉に向けて構えていると今度はベランダの方から侵入者が現れた

不意を突かれてしまって私は行動が止まった。その間に侵入者は私の口に何かの布を当てると私は意識を失った

 

 



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第3新東京市(パート3)
第80話


僕が連絡が受けたのはカオリちゃんのご両親からだった。旅館が襲われたと。狙いはおそらく娘だとも

自分はすぐに武装をすると車に乗り旅館に急行した。守るべき大切な人だからだ

例え過去がどうであれ、大切な人には違いない。

旅館に到着したころにはすでに警察による規制線が張られていた。

しかし僕はルミナさんと会うと特別に許可をもらって現場に入る事が許された

 

「何があったのかな?」

 

僕は冷静な態度を示していたが内心では怒りがピークに達しそうだった

 

「誘拐よ。それもネルフのね。まさかこんな直接的な行動するなんて想定外。今戦略自衛隊に協力を要請して周辺を封鎖させているわ。国連軍にもね」

 

「ネルフサイドの反応は?」

 

聞くまでもないでしょとルミナさんは言った。想像がついていた。認めるはずが無いことだからだ。

認めれば組織として大きなダメージを受けることになる。それだけは避けなければならない事だからだ

問題はどうやってこの町からカオリちゃんを連れだしたかだ。陸上ルートは監視されている。

となると海だ。カオリちゃんの部屋は海に面している。

もっとも崖になっているためそこを降りなければならないが

ルミナさんと一緒にカオリちゃんの部屋に向かうと室内には血痕が飛び散った跡があった

誰のものなのかはあまり想像したくない。もし彼女の傷でもつけられているものなら何をしでかすか

自分でも制御できるかどうか少し自信がない

 

「血痕の血液型は?」

 

「ABよ。カオリちゃんはA型。薬莢が1つ。反撃はしてくれたみたい。この血痕から特定できればこの犯行がネルフのものだと立証できるわ」

 

「そうなれば追い詰めることができるというわけか?」

 

「ええ、その通りよ」

 

ルミナさんはまるで捕まえるのを楽しみにしているかのような態度を取っていたが僕は不安でしょうがなかった。

カオリちゃんのことばかり心配していたからだ。もし彼女に何かあれば。僕はそこまで依存していたのかというのを改めて感じてしまった

 

「彼女に監視装置は?」

 

「悪いとは思っているけど髪飾りにセンサーをつけているわ。GPSで追跡。おそらく第三新東京市に行くことになるでしょう」

 

ルミナさんは戦争の始まりよと言うと一緒に行くと聞いてきた。

僕はもちろん共に行動すると答えると一緒に追いかける事にした

カオリちゃんは僕にとっては大切な人だ。今、失う事は自分を許すことではなかった

失われたものは2度と戻る事はない。それに彼女の心の傷が少しでも浅いうちに救いたい

そういう気持ちがあった。それほどまでに愛していたのだ 

たとえ、僕たちの関係がいかにいびつなものであったとしてもだ

僕は元はゼーレの側の人間だ。ネルフにいた彼女とは相反する立場だが今はどうでもいい

今はこの町の住人であり、彼女の守護者の役割を担っていると思っている

 

 

 



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第81話

 

「相変わらずの強引さですね。ネルフは」

 

私は椅子に手錠で固定されていた。目の前には碇ユイが立っていた

どうやらネルフの本部施設のどこかに監禁されているようだ。それがどこかはどうでも良いことだ

問題はどうやってこのピンチを切る抜けるか。それが最も重要な事だ

 

「あなたがもっと協力的であればここまでのことをする必要はなかったのよ」

 

「何度も申し上げたはずです。私はただの遺言執行人に過ぎないと。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

「そのために過去を捨てるの?」

 

「私にとって大事なのは過去ではありません。今あの町で生きているという現実です。それだけで十分なのです」

 

その通りだ。私にとって大切なのはあの町で平和で暮らすこと。それだけが最大の望みであり、願いでもある

それさえかなうのであればこの第三新東京市のことなどどうでも良いことだ。

今のあの町に住んでいるみんなとの関係の方が重要だ

 

「あなたが私の息子だってことは分かっているのよ。シンジ」

 

「何度同じことを言わせるつもりですか?私はそんな名前ではありません。シンジではなくカオリです。それに男ではなく女ですから」

 

あなた方は誤解をし過ぎているのではありませんかととぼけるが碇ユイは押しが強いようだ。

その時、もう1人の人物が部屋に入ってきた

 

「ユイさん。僕と話をしても良いでしょうか?」

 

「カオル君。どうしてあなたが?」

 

「うわさ話で聞いたんですよ。カオリちゃんがここにいると」

 

少しいいですかと2人は私に背を向けて話を始めた。しばらくすると彼女は部屋を出ていき、カオルと2人きりになった

 

「ルミナさんから協力を頼まれてね。マギにハッキングして監視カメラにも細工をしておいた」

 

耳元でそう呟くと彼は私の手錠を外した。さらに彼はグロック17を手渡してきた。

どれだけリスクがある事をしているのか分かっているのだろうか

そして彼はこう言った。自分を殴れと。あとは自分のIDカードを使えば施設外に出ることができるとも言った

 

「恩を売るつもり?」

 

わたしはあくまでも慎重に質問をすると恩返しだと答えた。どんな意味があるのかはわからないが

今はこの好意を素直に受け取っておくことにした。

 

「悪いけどお腹を殴らせてもらうわよ」

 

そう言うと少し強めに彼の腹を殴り気絶させた。そして部屋から出ると『昔』の記憶を頼りに出口に向かっていった

その間に保安要員に見つかったが彼らにも攻撃を仕掛けて気絶させた。殺すのが目的ではない

 

「あと少しで出口」

 

そのとき目の前に2人の女性が立ちふさがった

 

「碇君!」「バカシンジ!」

 

私はとっさに銃を抜いて壁に弾を撃ち込んだ。当てるつもりはないが脅しには十分だ

 

「あなた達に用件はないわ!」

 

わたしはそういうとすぐに銃弾に驚いた2人の間を通り抜けると出口に向かった。

ゲートでカオルのIDカードを使って出るとティアさんが待っていた

 

「お早いご到着ね。私が助ける必要もなかったみたいだけど」

 

 

 



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第82話

ティアさんは私を出迎えるとすぐに監察局の施設に連れていってくれた

休憩室でコーヒーが入ったカップを手渡された。

 

「苦労をかけたわね。ネルフにはこちらから圧力をかけておくわ」

 

「どうして守ってくれるんですか?」

 

「ルミナの言葉と同じになるけど、あなたにはそれだけの価値があるの。人を物差しみたいので測るのは私も好きじゃないけど」

 

私は手渡されたコーヒーカップに口をつけて暖かいコーヒーを飲んだ

少し緊張が和らいだ。ここまで緊張の連続だったからだ。

もし、あいつがマギをごまかしてくれていなかったら脱出は無理だっただろう

どうやったかは知らないけど私を利用するつもりかもしれない。警戒は怠らない方が良いと思った

ようやく勝ち得た平穏もあっけなく崩されてしまった。その事に私はわずかながらにショックを感じていた

 

「平和だったのに」

 

「守り切ってみせるって言ったのにごめんなさい」

 

「ティアさんが謝る事では」

 

「いえ、発言した以上責任はとらないとね。ルミナに怒られることは覚悟しているわ」

 

彼女、あなたのこととなると周りが見えていないからと少し苦笑いをしながら私に語り掛けてきた

いつも冷静沈着な彼女しか見ていない私にとってその様子を見てみたいと思ったのはその時だけだろう。

ルミナさんはいつも冷静だ。どんなに危険な時でも冷静沈着にふるまい。

危険な空気すら和やかなものに変える力を持っているように感じる

そんな彼女が私のこととなると顔色を変えるとはあまり想像はできなかった

 

『ピーピーピー』

 

ティアさんの携帯電話が着信を告げていた。相手はルミナさんだと彼女は言って電話に出た

 

「無事に保護したわ。どうやら渚カオルが協力したみたいね。何か企みがあるのかもしれないけど・・・・・・・・・・・・・ええ、安心て。監察局にいるから」

 

そう言うと通話が終わった。ティアさんは心配性ねと言うと、安全な場所に移動しましょう。

そう言って私の手を持ってオフィスに案内した

そこには拳銃を携帯した監察官が数多くいた。ここなら万が一襲ってきても対応できる。

しかし施設入り口にも警備がいるので簡単には出入りはできないが

スパイがいないとは断言できない。ここなら徹底的に身元調査がされている。

 

「ティア、彼女の保護。ご苦労様。しばらく面倒を見てあげて」

 

ティアさんの上司と思われる女性から指示を受けると彼女は了解ですと敬礼をして答えた。

私はとっさにご迷惑をおかけしてすみませんと謝罪すると彼女はこれも仕事よと言ってその場を去っていった

 

「上司はいつもの事だから気にしないで。私のデスクの椅子に座って待っていて。ルミナと相葉ユウも来るわ」

 

「ユウさんもですか?」

 

「ええ、心配性な人間が多いみたいね。あなたはかなり愛されているみたいってことね」

 

羨ましいわとティアさんは言うと少し席を外すわと言って少し離れた席にいる同僚と話をしに行った

私はその間、イスに座りながら待っていた。

 

 



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第83話

「それで状況は?」

 

『無事に保護したわ。どうやら渚カオルが協力したみたいね。何か裏があるんでしょう』

 

「あいつが協力するなんて、恩を売って何かを要求するつもりよ」

 

ティアと通信しながら私はそう断言した。私は相葉ユウさんと一緒に第三新東京市に向かっていた

無事に保護されたという話題は私達に少しの安堵感を与えてくれたが

それを協力した人物が少し問題だった

 

「それにしてもどうして渚カオルが協力したのかしら」

 

「あいつはもともとゼーレ側の人間だったからね。何か裏があると考える方が良いかもしれないね」

 

ユウさんの言うとおりだ。きっと何か裏事情があるに決まっている。

そうでなければ協力などするはずが無い。無茶な要求をしてくることは予想できた

だが今はそんなことよりも少しでも早くカオリちゃんの安全と無事を確認したかった。

そのため、車を利用するのではなく国連軍に要請してヘリを出してもらった

これなら、数時間で到着できる。空域も空けてもらっている。あとは現地に行ってからの対応だ

カオリちゃんの携帯電話の通話は悪いとは思っているけど盗聴させてもらっていた。

まさか碇ユイがこんなに早く行動を起こすとは想定外でしかない。

関わるなと直接言われたのに関わろうとしたのには何か理由があるはずだ

 

「それにしても、どうしてネルフはまたカオリちゃんに手を出してきたんだろうね」

 

「彼女をチルドレンとして登録して第三新東京市に置いておきたいんでしょ。おそらくね」

 

その予想は最も当たってほしくないものだが、正解率は高いと見ていた。

今のネルフにとってエヴァを動かせるチルドレンは重要な存在だ。戦略的に見ても。利用価値も

 

「ネルフと監察局は戦争の始まりかな」

 

「でもきっと局長が動いてくれる。それにカオリちゃんを保護するために多額の予算を国連は毎年承認しているしね」

 

あなたも知っているわよねと尋ねるともちろんだと彼は答えた。腐っても、元ゼーレ側の人間だ

情報網は今も健在だろう。それくらいのことは把握していることは分かっていたし、私の方からも種は蒔いておいた

芽吹く前に採取して自分で育て上げることぐらいのことは朝飯前だろう

 

「それで、今後の方針は?」

 

「とりあえず、局に戻って相談よ。あなたはカオリちゃんについていてあげて。あなたがいれば私も安心だわ」

 

信頼できる人間に預けるのが一番だ。ティアも信頼はしているが戦力としては少し弱い。

彼なら鍛えてきたし銃の扱いもかなり鍛錬した兵士を超えている。安心できる。

だが問題は山ほどある。本当の闘いはこれからだ

 

 

 



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第84話

 

「ユイ、なぜ今になって彼女に手を出した?」

 

「自分の子供に会いたいと思ってしまう感情を押さえられなかったんです。例え、今は違う家庭にいる子供でも」

 

「だが彼女がシンジである保証はない」

 

私だってその事はよくわかっていた。でもわずかな望みに託したかった。そしてもう1度話をしたかった

例え無茶な方法を使ってでも。それでも会いたいと思う感情を止める事はできなかった

自分が見捨てた、いや愚かな行為に走った。そしてすべてを投げ捨ててしまったことを後悔して。

どうしても会いたかったのだ。『息子』ではなくて『娘』だとしても

 

「監察局に圧力をかけてくれませんか?」

 

「もう手遅れだ。国連の安全保障理事会から正式に苦情があった。あの町には手を出すなとな」

 

「ですが!」

 

するとゲンドウさんは強い口調で今は押さえてくれと言ってきた。あの人も本当は謝りたいのかもしれない

自分がやってしまった行為に気づいているからこそ。でもそのチャンスはもうないかもしれない事も理解しているからこそ

私を制止ししたのだろう。

 

「私も謝れるものなら謝りたい。だがもはや時間が経過しすぎた」

 

「あなた」

 

誰もがサードインパクトの時に起きた奇跡。それが誰によってもたらされたのかは上層部とチルドレンだけが知っている

ようやく訪れた平和な世界。世界はより良い方向に進んでいる。だが私達はその方向に進めずにいる

 

「とにかく、彼女には手を出さないでほしい。これは夫としてのお願いだ」

 

「ゲンドウさん」

 

「時を戻せるなら戻したい。だが進んでしまったものを戻せることはあり得ないのだ」

 

私はそれを聞くと執務室を出ていき自分の部屋に戻る事にした。その途中でカオル君と出会った

 

「カオル君。あなた、なにを企んでいるの?」

 

「僕は襲われた側ですよ」

 

「あなたが協力したことは分かっているわ。彼女が本部に出る時に利用したIDカードはあなたの物」

 

そう、既に保安諜報部によって調査を受けていたがのらりくらりとかわされてしまった。

だが彼が関与したことは間違いない。彼はネルフの中でも変わり者の扱いを受けている。だがそれに甘んじている

何かを狙っているのかもしれない

 

「僕も利用されただけです。彼女に攻撃されるとは思ってもみませんでしたから」

 

では失礼しますというと彼は通り過ぎていった。私は内心ではバカにしてくれていると思った

裏で何を考えているかわからないが。きっとこちらに利益があることではない。

彼にとって利益がある事なら考えているのかもしれないが

 



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第85話

僕がユイさんに疑われることは想定の範囲だったが想定以上に疑われていた

今後は見張りがつくことになることは容易に想像がついた。ただでさえ警護がついているのだがさらに厳しくなるだろう

もっともそんなことはどうでも良い。今回は恩を売ることができた。

今後、監察局に何かお願いするときに利用できるかもしれない。もちろん、彼女が望んでいるならすぐには手を出さないが

 

「でも今後は僕の行動にも制限がつくだろうね」

 

「まったく、分かっているなら無茶な事をしない事を進めるよ」

 

「加持さん。聞いていたんですか?」

 

「君が手を貸したことは分かっているけど、その真意を聞いておきたくてね。それによっては協力しても良い」

 

「彼女のことを守るためです。今の世界には彼女は必要です。そして安定的な精神を持ってもらう事が」

 

すると加持さんはこういった。君はネルフとは一歩立場が違うみたいだねと

確かにその通りだ。僕の立場はすこし微妙だ。ネルフに所属しているが監察局にも協力している

一歩間違えればとんでもないことになる事は分かっている。それでも彼女との接点を持ち続けたい

そう願い続ける事は罪なのかもしれない。でもそうありたいと思っている

 

「君の立ち位置はかなり微妙だよ」

 

「覚悟はしています。最悪ネルフから追放されることも考慮していますので」

 

「君たちは何を企んでいるのかな」

 

「僕の願いはただ1つです。シンジ君の希望が叶う事。それがあの時に願われたことですから」

 

あの時、サードインパクトの時の望みは幸せになること。今の彼、いや彼女には平穏が一番の安らぎだ

そのためには少しは犠牲になっても構わなかった。それだけの対価を僕は彼から受け取っている。

今度は逆に僕はそれを返済をする番だ。僕は救われたが、彼女はまだその途中だ。手助けするときが来たのだ

そのためならどんなことでもやってのけるつもりだ。だから自分から犠牲になる道を選んだのだ。

それがどんなにいばらの道でも。そして、仲間から見捨てられるかもしれないという覚悟を持って取り組むと決断したのだ

 

「君が何を考えているかはわからないが。あまり無茶はしない事だ。もっとも、僕もカオリちゃんに救われた側だから」

 

ある程度は協力させてもらうよと小声でつぶやくと加持さんはその場から去っていった。

どうやらネルフにいる彼女の応援は僕だけではないようだ。信頼できる情報ではないので、どこまで信じて良いのか

その時ある人物から渡された携帯電話に連絡が入ってきた

 

「渚カオルです」

 

『君が協力してくれたおかげで彼女は無事に保護できた。協力には感謝するが君の狙いは何かな?』

 

「僕の願いは彼女の望みをかなえる事です。僕も救われたのに彼女を傷つけてばかりですから」

 

『その言葉、どこまで信じて良いのかわからないけど。今は信頼しておくよ』

 

 



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第86話

 

ネルフ監察局 局長執務室

 

「局長、カオリちゃんには相葉ユウさんをつけておきました」

 

「彼のこと、信頼しているのかな?」

 

「彼女のことではですが。それ以外では信頼はしていません」

 

私の言葉に局長は相変わらずだねと言った。確かに私の基本的なところは変わらない。

だが守るべきものがある以上、変えられない物もある

 

「私は彼女を守るために存在するのです。そのためなら悪魔にも魂を売ります」

 

確かに私はするだろう。もし彼女に影響がある事が発生したなら世界すら捨ててまで守り抜くつもりでいるのだから

そのために私は今、ここに存在している。そうでなければ意味がない

 

「ネルフはかなり強硬な意見を言ってきているけどすでに国連から圧力をかけさせておいたよ」

 

「さすが局長。素早い対応に感謝します。それで国連は?」

 

「彼らも恐れているようだよ。君が語った通りになれば再び国が亡びるという現実をね」

 

すでに経験済みなだけに特にと。そうヨーロッパ地方などは特にそうだ。

痛い目にかなり遭ってきている。だからこそ毎年のように彼女の警備にかなりの予算を出している

国がつぶれる事を考えれば金で解決したいと思うのが誰もの本音だろう

そうでなければ今のあの町が存在するわけがない。大きなお目こぼしにあんな町が

今頃ネルフの支配下に置かれているはずだ。それができていないのは彼女の影響力だ

私はそれをよく理解していたし局長も分かっていた。

 

「とにかく今は、対応を考えないとね。今後の作戦についても。まずはこの街から逃がす方法だけど」

 

そう、ネルフ監視下にあるこの街から彼女を脱出させることが今の最も優先課題だ

保安諜報部は強大な力を持っている。この街では特にだ。さらに彼女に影響を及ぼす人間が多すぎる

わずかにでも接触させれ、どうなるかは想像したくない。爆弾が爆発するようなことは絶対にダメだ

 

「局長はどう判断するつもりですか?」

 

「君がかつて語ったことにならない事を祈るばかりだよ。もし現実になれば、もう世界は耐える事はできないだろうからね」

 

私はそれだけヨーロッパ地方は打撃を受けているのですかと聞くとそうだよと返事が帰ってきた。

予想以上に被害はひどいようだ。それなりのことをしてきたのだから、当然といえば当然だが

 

「とにかく君たちをあの町に帰すよ。偽装ヘリを使うと良いよ」

 

「そんな派手な事をして後始末が大変では?」

 

局長は任せてと言うとヘリの使用許可書を渡してきた。私はそれを受け取るとカオリちゃんの元へと向かった

 

 



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第87話

休憩室で私は相葉ユウさんと話をしていた。彼は私の場所に来るとすぐに抱きしめてくれた。

それが私にとっては何よりもうれしいことだった。私は彼女にもう大丈夫ですよねと言った

 

「もう大丈夫だよ。今度こそ僕が守るから。必ずね。これからしばらくは僕も旅館に住むことにするよ」

 

「良いんですか?そんなことをしても」

 

「自宅を少し空けておいても問題ないよ。セキュリティシステムを設置しているからね。だれかが侵入したらすぐにわかる」

 

もう君の家族には話をしているよと伝えてきてくれた。私は心の底から嬉しかった

確かに今の家族と一緒に暮らせていることも何よりもうれしい事だが、ユウさんと一緒に暮らせるという事もうれしかった

愛していたのかもしれない。それが私に相応しいものではないという事が分かっていたとしても

ようやく勝ち得た平穏に私は必死になって縋り付いていた。まるで藁にもつかむ思いで

そこにルミナさんがやってきた

 

「カオリちゃん。遅くなってごめんなさいね。あなたをあの町に帰す予定ができたわ。帰りましょう。それともう2度とこの街に来ることが無いようにするわ」

 

「大丈夫なのかな?」

 

ユウさんの言葉にルミナさんはあなたという最強のボディーガードがある事だしねと言ってきた

どうやら、ユウさんは私のボディーガードを務めてくれるようだ。それはそれで心強い事だ

問題なのはお母さんやお父さん、さらに旅館の仲居さんたちにより一層の心配をかける事だ

できる事ならこれ以上家族に迷惑をかけたくない事だが、今の状況では仕方がない

今後の状況次第で、家族にすら危険性が及ぶことは覚悟いなければならない

ネルフは無茶をすることが今回の事で分かったからだ。もし、さらに迷惑をかければ私はあの家を出ていくことさえ考えていた

大事な家族で離ればなれにはなりたくないが迷惑はかけたくない

ただでさえ迷惑をかけているのだから。

 

「カオリちゃん、あの家から出ていくなんてことは考えないでね」

 

「どうしてですか?」

 

「私にとってあそこが最も守りやすい場所なの。もしあの町から離れればネルフの行動を止める事をできなくなるわ」

 

「私はかごの中の鳥ですか?」

 

「まぁそういうそういうことね。悪いとは思うけどエサになってもらうという面もあるのよ」

 

「魚のエサですか!?」

 

「悪く言えばそういう事ね。ごめんなさいね。こんな形でしか守れない私を恨んでくれて構わないから」

 

「いえ、わたしはあの町で静かに暮らせるならそれで満足です。欲張りすぎると良い事はありませんから」

 

確かにそうだ。人は欲張りだ。だからこそ悲劇を招くことになる。わたしも欲張りかもしれない

静かな生活を望みたいという。誰もが願う事が私にとってはぜいたくな事なのだろう

 

 



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第88話

あの海岸の町に戻ってきたのは夕方だった

旅館に正面玄関に入るとおかあさんが私を抱きしめてきた。もう2度と離さないと言わんばかりに

その行動に私はとても嬉しかった。お父さんも私に近づいてきてよく帰ってきたなと声をかけてきた

 

「申し訳ない。相葉ユウさん。部屋の方はもう用意している。カオリの隣の部屋を開けさせた。娘のことを頼む」

 

お父さんはユウさんに頭を下げた。ユウさんはそこまで低姿勢にならないでくださいと言った

 

「僕もカオリちゃんのことが好きですから。彼女のためなら命に代えても必ず守り抜いてみせます」

 

「ユウさん!」

 

私は自分のためにこれ以上家族や大切な人が傷つくところ見たくなかった

もう傷つくのは2度としたくないからだ。

 

「必ず生きてみせるから」

 

ユウさんは私の髪を軽く撫でるように触った。とにかく私とユウさんは別館の部屋に移動するとそれぞれ自分の部屋に入った

私は部屋が綺麗に清掃されている事に気づいた。発砲して血が飛んだはずなのにそんな痕跡が残っていなかった

きっとルミナさんの手配であることはすぐに察しがついた。どこまでも手回しの良い事だ

私の生きていく場所はこの町なのだ。その事実はこの先も一生変わる事はないだろう

静かなこの町を私は愛していた。そして、この家族のような旅館の事も

平和で何人も誰もが静かに暮らしているこの町。平和だけが取り柄と言っても過言ではないだろう

だからこそ私はこの町から出る事を極力避けていたのだろう。でも今になってその感情は少しずつ変わり始めている。

第2東京市に行こうという考えを持ち始めた時から少しずつ。止まっていた私の中の時計が少しずつ動き出したのかもしれない

私の時計はあの時から動いていないはずだった。しかしみんなのことを見続けて少しずつその針が動き出した

まるでさび付いていたかのような時計に油が刺されてまわり始めた。それがどこにたどり着くかは今は分からない。

でもどこかにたどり着くだろう

 

「静かな時間に戻れば私はそれ以上望まない」

 

そう、私の願いはそれだけだ。この町で静かに過ごしていく。何人にも邪魔されない静かな時間。

誰もが当たり前のように望む時間。だがそれは私にとってはまだ遠い存在なのかもしれない。でもそれを望んでしまう

 

 

-------------------------------

 

カオリちゃんの隣の部屋を提供されたが、室内には大きめのボストンバックが置かれていた

慎重に中身を確認するとメッセージカードが入っていた。ルミナさんからのものでこう書かれていた

あなたを少しは信じてみる事にするわと。バッグの中身は銃火器だ。主に拳銃と予備の銃弾など、

さらに1台の携帯電話が入っていた。登録されている番号は1つだけ。

電話帳にはルミナとだけ書かれていた。どうやらこれは直通ラインのようだ。

 

「どこまでも慎重なんだから」

 

彼女らしいと言えばそうだ。彼女はいつも慎重だ。それこそが身を救うのだから当たり前といえばそうだが

戦場において最も重要なのは冷静な視線だ。僕はとにかくほとんどの銃火器を金庫に隠す。

他の人に見られるわけにはいかないからだ。幸いな事にこの部屋に設置されている金庫は少し大きめだったため

銃器は全部収めることができた。これで他の人にばれる事はないだろう

この銃器を見られるわけにはいかない。当たり前のことだが

 

 

 



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海岸の町(パート8)
第89話


私が海岸の町に戻るとすぐに周囲の状況を確認した

今のところ戦略自衛隊や国連軍によって周囲の安全は確認されている

彼らにとっても、カオリちゃんのことは大きな問題だ。日本国内で大災害を起こしてほしくないというのが本音だ

そのためならどんなことでも飲むだろう。予算だろうが人員配置だろうが

国内に爆弾を抱えているのはヨーロッパ地方以上にわかっているのだから

 

「何もなければ良かったんだけど。こうなった以上すべては身を流すしかないわね」

 

何もなければ良い。それはルミナの願いだけでなく誰もが願っている事だ。ただしその願いは簡単なものではない

日本政府もネルフに情報が漏れたことが分かってかなり焦っていることは私にも伝わっていた

政府も爆弾が爆発しない事を願っているのだ。そのためなら手段を選ばない事は分かっていた

だが、どうすれば良いのかについては誰にもわかるものではない。それが分かるのは彼女だけだ

いや、『彼』だけなのかもしれない。しかし、それを伝える事は私には許されたことではない。

彼女が気づくしかないのだ。ようやく勝ち得たものであることであることも気づく必要がある。

そうでなければ意味がないからだ。

 

「平和に過ごしてほしいけど」

 

私の家から旅館は良く見える。ここから観察するしかない。見張るのではなく見守るのだ

大切な『生みの親』でもある彼女のことを守り続ける。それが私の使命なのだ。彼女に与えられた存在意義なのだ

あの時には守る事はできなかった。ただ見ている事しかできず、『彼』が苦しんでいる時もただ見ている事しかできなかった

ようやく彼女は幸せな時間を得ることができたのに、それを壊そうとする人間が多すぎる。

守ろうとしている人間はかなりの少数だ

 

「どうしてこんなことに」

 

彼女が感じるはずだった平穏は嵐に変わっていた。ただの嵐ではない。まるで台風のような嵐だ。

平穏を感じる事はできない。それはあまりにも悲しい事だ。

 

「我が主。あなたの望みのままになることを私は切に願います」

 

私はいるはずのない神様に願うかのように願掛けをした。神様など存在するわけがない事は私はよく理解していた

彼女自身が神様なのだから。神のために願うなど彼女にとっては望まれていない事だ

いかに神様が無力な存在なのかはよく分かっているからだ。神様は残極な存在でしかない。

希望を与えてくれるものだと考えられているが、実際はその逆のことでしかない。

 

「希望など存在しない事をネルフの連中は知らないのだから」

 

碇ユイや碇ゲンドウが望んでいるような結果は絶対になることはあるはずが無い。

それを望むことは彼女にはあるはずが無い。今の彼女にとっては害にしかならない存在だからだ

どんなに彼らが望んでも彼女は望まない。再会などは特にだ

 

 



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第90話

第三新東京市 ジオフロントネルフ本部 保安諜報部 部長執務室

 

「なるほどね、彼の言う通りみたいだ」

 

加持はある記録を調べていた。それはカオリに関する記録だ。彼もある人物からある程度エサを目の前に蒔かれていた

それを基に情報収集を行っていた。彼も彼女に救われた側のため、多少の協力は行おうという態度だった

そこにある人物が入ってきた。加持に呼ばれてやってきたのはカオルだ

 

「カオル君、どうやら君の言うとおりのようだね」

 

ネルフ内でも彼の取り扱いについて極めて微妙な問題とされていた。立ち位置もかなり微妙だ

エヴァのパイロットであるチルドレンでもあるが、彼は様々な真実を知る人間だ。

そのため、通常よりもアクセスできる情報はハイレベルに設定されていた

 

「分かっていただけましたようでありがたいです」

 

「監察局の動きについても俺としても把握しておきたい」

 

「だったら、あちらの蒼崎局長に連絡をすると良いです。ただし1つだけ警告します。僕はネルフにつくことはありません」

 

カオル君の言葉に彼の立ち位置がよくわかった。どうやら本気でネルフと敵対する気があるようだ

それはそれで恐ろしい事が待っている。

ネルフにとって重要な存在であるチルドレンがネルフ側ではなく監察側につくという事だ。

 

「本気みたいだな」

 

「ええ、僕も彼女に救われた立場ですから」

 

「それを言うなら俺もだね。もし救われていなかったら今頃天国で楽しくしているはずだったからね」

 

加持はあの時に死んだはずだった。にもかかわらず生き残っている。いや生き返ったのだ

それが誰なのかは生き返った時にある言葉を聞いていた。今度こそ幸せになってくださいと

そう聞いていた。それが誰なのかは分かっていたが確証は得られなかった

ところが今回の事でそれをよく理解した。だからこそ協力する事を決断したのだ

 

 

 

-----------------------------------

 

ネルフ本部総司令官執務室

 

「碇、本当に彼女に手を出さなくてもよかったのか?」

 

「国連がうるさいからな。どうやら何かを知っているようだが。我々に情報が回ってこない事から見ると彼女に関する情報をストップする人間がネルフにもいるようだ」

 

人間の敵は人間というわけだと冬月が言ってきた。確かにその通りだ。

彼女の情報が今まではいってことなかったことを考えれば理解できる

今まで何万人もの人間を調べてチルドレンに該当する子供たちを確保してきたのだから

 

「ネルフ内にそれだけのことができる人間はかなり限られる。恐らく保安諜報部の加持君だろう。彼ならいろいろと情報を制御できる立場だからな」

 

「ああ、その事は分かっている。どうやら特別な情報を持っているようだが我々に上げてこないという事は何か事情があるのだろう」

 

彼が情報を握りつぶしていることは今回の一件で確実になった。

敵が身内に2人もいることになるが何か事情があるのだろう。それも簡単には話せないような事情が

おそらく、水野カオリに関する情報を握っているのだろう。その事は私にもわかっていた

彼以外にも情報網を持っている。ネルフがあの町に触れる事が許されないという事は国連ですら彼女のことを恐怖に感じている

彼女にはそれだけの価値があるという事になる。

 

「何を考えている?国連は」

 

 



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第91話

ネルフ監察局 局長執務室

 

私にも彼女、ルミナの存在は大きなものに変わっている。初めは私の補佐のような役割だと思っていたが

実際は監察局の中枢に位置する立場におさまっている。彼女が握っているあまりにも巨大で、全世界にわたる秘密

正確にはヨーロッパ地方の各国を恐怖に陥れた。実際に被害を受けたところはあまりにも深刻なものだと理解した

そのため、毎年のように『彼女』に対する予算はあまりにも膨大だが承認され続けている

周辺には戦略自衛隊と国連軍の警備。さらにネルフに対する警戒も怠らないように厳重に保たれている

 

「彼女の存在がここまで大きくなるなんて誰も思っていなかっただろうね」

 

すると室内のソファに座っていた彼がこう言った

どれだけ残酷な事実でもそれが事実なら受けれるしかないのではありませんかと

確かにその通りだ。私も同意見である。どんなに残酷な結果でもそれを受けれなければ

それはまた同じことを繰り返すことになる。各国はそれだけは避けたいという思いで必死なのだ

これはヨーロッパ地方に限ったことではない。他の地域でも彼らのような悲劇には遭いたくないと思っている

 

「それにしてもどうして僕はそこまで信頼を?」

 

ソファに座っていたのは渚カオル。彼だった。わざわざここまで来てもらったのはいろいろと事情を聞くためだ

さらにネルフの情報も入手しておきたいと思ったからだ。彼から得られる情報は非常に大きい。

なにせネルフの中枢にいる立場なのだから。彼の元の『立ち位置』についてはよく知っている。

ルミナから聞いていたからだ。その事が彼女にとって警戒させる理由になっている。私は何とか誤魔化しているが

彼女にとっては信頼できない最大の理由でもある。彼女の警護対象の心を壊した最大の要因なのだから

 

「信頼はしていないが、君からもたらされる情報は極めて有益だからね」

 

それを聞くためにここに入るIDカードを支給している。

そうでなければ敵対しているはずのネルフ側の彼にIDカードは発給されない

発給されるはずがないのだ。敵対視しているのだから。特に彼女は彼のことを認めていない。

 

「ネルフは真実に近づいています。ただしサードインパクトの真実にはまだ気づいていない者も多いでしょう」

 

「君は良く知っているようだね」

 

「もちろんです。当事者でしたから」

 

「だから警戒されるんだよ。彼女にね」

 

「もともと好かれるとは思ってはいませんでしたから。僕と彼女の関係は。当時はまだ個性を持っていませんでしたから。サードインパクトによって生まれたものです」

 

「彼女もそう言っていたよ。自分は守るために存在するのだと」

 

そう言うと思っていましたと彼は言うと、今日はこのあたりで失礼しますと言って私の執務室を出ていった

それと入れ違いにネルフ監察の実行部隊の責任者であるシエラ・ドーレスが入ってきた

 

「局長。ネルフに動きがありました。正式にネルフから国連に介入を要請したいとの事ですが安保理常任理事国が拒否権発動」

 

「彼らもネルフの行動が活発になった事に警戒感を持っているようだね。それは良い事だよ」

 

「それにしても彼にあそこまで譲歩する必要が?」

 

確かにあそこまで譲歩する必要があるとは思えない人間は多いだろうが。それは情報を知らないからだ。

シエラも限られた情報しか知らない。ティアよりも情報が少ないのだ。

ティアはかなり核心部分まで知っているため極度のネルフ嫌いになっている

以前とは大違いだ



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第92話

私がこの旅館に戻ってきて翌日、静かな1日が始まった

平和な日常が返ってきたのだ。これからはもう邪魔されることはないだろう

助けてくれる大切な人が私の部屋の隣に住んでくれている。これからはいつでも一緒だ

たとえ彼が元ゼーレの人間だとしても今は私にとっては大切な人間だ。

私のことを守ってくれる。そして愛してくれている。本当の意味で。だからこそ嬉しいのだ 

家族以外で初めてそんな人物に出会えたから。今まで信じれるのは家族だけだったがこれからは違う

ようやくもぎ取った平和だ。大事にしたい。部屋を出るとちょうど隣の部屋のユウさんも部屋を出てきた

 

「カオリちゃん。これから朝ごはんかな?」

 

「はい。食堂で」

 

「なら僕もそうさせてもらおうかな。一緒に食事にしよう。1人よりも2人の方が楽しいと思うからね」

 

ユウさんはそう言うと私はそうですねと返事をして一緒に本館の食堂に向かった。

幸いな事にまだ食堂は人が少なかった。いつものおじさんが私用の朝食を用意してくれた。

量は少ない食事だが私にはすぐにお腹いっぱいになってしまうものだ

ユウさんも同じように食事をもらっていたが私よりも断然多かった

当然といえば当然だ。私はもともと小食なのだから。一方彼は鍛えられた戦士だ

食事はよくとらないと

 

「カオリちゃん。今日はどうするつもりかな?」

 

「たぶん午前中は海岸の砂浜に行きます。お酒の注文をしにいかないといけないですから」

 

「大変だね」

 

「外に出る時はこれぐらいしかありませんから」

 

そう、私がこの家から出かける時は、おかあさんかお父さんに用事を頼まれた時がほとんどだ

あとはあの綺麗な砂浜に座り海を見に行くときだけだ。それ以外でこの家を出ていくことはまずない

平和だからといってもまだ私は臆病なのだ。昔からの体質は簡単には変わるものではない

いつも逃げてはだめだと思っているがどうしても逃げる方を選んでしまう。

ダメな私なのだ。だけど今日からはそうはいかないと決めたのだ

もう目の前の現実から逃げるのではなく受け止めるのだと。そうでなければ前に進むことができない

 

「あの砂浜に行くなら一緒に行こうね」

 

「でもユウさんに迷惑を」

 

「僕は君を守るためにいるんだから、どこまでも付き合うよ。それが地獄でもね」

 

その言葉に私はとても嬉しかったが砂浜に行くのは1人が良いと思った。ユウさんの心遣いにとても嬉しいが

あまり束縛されるのは好きじゃないので。私はこの町でのびのびとして生きていきたいのだ

自由に小鳥が翼を広げて飛び立つかのように。私とユウさんは量は全然違うのに食事を終えるタイミングはほとんど同じだった

同じように食事を終えるといつものように裏口に言ってネコの食事である猫缶を取り出した。

いつものように皿の上に盛り付けるとそれを持って本館と別館の間の中庭に向かった

すると私が来るのが分かっていたかのようにネコさんたちが待っていた。

 

「おなかがすいたのね」

 

ネコたちの前に置くと仲良く大人のネコも子猫も一緒になって食べ始めた

私はそれをベンチに座りながら見ていると途中で食べるのを止めた子猫が私の足元に近づいてきた。

1頭を抱きかかえるとまた1頭と続いて近づいてきた。私は仕方なく近づいてきたネコさん達をベンチの上に抱き上げる

すると丸くなって眠り始めた。まだ朝だというのに。私は羨ましいわねと思いながらも今のこの平穏が嬉しかった

 

「カオリちゃんはネコにモテモテだね」

 

ユウさんが後ろから近づいてきた。

 

「きっとエサをくれるから好かれているんですよ」

 

それが本当なのかどうかはわからない。でもきっとネコさんたちは私のことを好きだと思っているのだろう

そう願いたい。



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第93話

猫にエサを与え終わると私は私はいつものようにフロントに行った

するとお父さんがいつも通りお酒の注文リストを渡してくれた。

 

「散歩のついでに頼んでくるね」

 

するとユウさんがついてきた。一緒に行こうと言って

私は良いですよと言うと一緒に旅館を出ていき、歩いて砂浜に向かっていった

 

「初めてだね。こうやって歩いてあの砂浜に行くのは」

 

「そうですね。でも私にとっては慣れた道ですけど」

 

「そういえば1つだけ聞いても良いかな?」

 

「何ですか?」

 

「君は解放されたいのかな?小鳥と同じようにいつか大空にはばたくかのように」

 

「何からですか。あの旅館からと言うならあなたは理解しないでしょう。たとえ嘘でも私を家族といったのはあそこだけ」

 

だから家族が私を捨てるまでは私はずっとおかあさんとお父さんの子供であり続けるのだと言った

そう断言できるほどだ。でもわかっている。お母さんとお父さんは絶対に捨てるとは言わない事を

だからこそ今の私があるのだ。きっとあの家がなかったら私は自暴自棄になっていただろう

家族という温かいものを知らずに生きていたはずだからだ

そんな生活をしていたら生きる意味を見出す事ができなかった。

私はそう思っている。ユウさんと一緒に砂浜近くにあるお酒屋さんまで向かっていた

 

「そういえば、カオリちゃん。銃は携帯しているのかな?」

 

「小型銃を持っています。S&W M36を携帯しています」

 

ユウさんにオートマチック拳銃は大きすぎるため小型のリボルバー銃をお願いしていたのだ。

そのため、小型のリボルバーをいつも持っているカバンに入れて持っていた

 

「それで良かったのかな?」

 

「はい。満足しています」

 

「ところで1つ聞いても良いかな?君が最も望む結果は何かな?」

 

「私の望みはただ1つだけですよ。この町で平和に暮らすだけ。それ以上は望みません」

 

私の望みはそれだけだ。それ以上望むのはぜいたくというものだ。

それにそれ以外の願いが今は分からないからだ。平和に暮らせればそれだけで十分だ

そんなことを放しながら無事に砂浜の場所に到着した。すぐに酒屋さんに行きいつも通り旅館で使うお酒を注文。

注文リストをもらっているためそれを渡すだけだ。それが終わると私はいつも通り砂浜に向かった

そして浜辺に座っていつも通り海を眺めはじめた。何でもない風景だが、私にとっては貴重な風景だ

あの赤で染まった世界に比べたらこの青色の海はまさに天国だ。あそこは地獄だった

今のこの世界はまさに楽園に感じる。数多くの動植物が活動している。でも人間は好きではない

私の家族と友人。そしてこの町の人を除けば好きではない

 

「平和だね」

 

「はい」

 

「こんな平和な時間がずっと続けばいいけど」

 

「そうだね」

 



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第94話

砂浜でカオリちゃんと一緒に過ごす時間。

それは何物にも代えることができない貴重な時間に感じた

確かに彼女が求めていたのは最も静かに暮らせる時間だ。彼女にとってはそれが簡単なものではなく

苦労の末に勝ち得た物だった。だが、ネルフがもう諦めたとは思えなかった

彼らはしつこい。まるで腐りかけの肉にかぶりつくハイエナの様に。

だからこそ警戒するべき組織なのだ。彼女にとっては

それは自分も例外ではない。ネルフがどんな危険な実験をしてきたのかはよく理解していた

そして、その真相を知っている者はネルフにとっては敵対視するだろう。

そのため、僕はネルフから危険視される可能性は十分あった。その場合僕はこの場から去ることを決めていた

狙われたら、カオリちゃんまで傷つくことになる。そんなことは僕には耐える事はできない。

僕のせいで彼女が傷つくところは見たくなかったからだ。すべては彼女のためだ

 

「カオリちゃん。君のことを愛している。だから「ユウさん。それ以上は言わないでください」んっ!」

 

僕が続きを言いかけると彼女は僕にキスをしてきた

 

「私は愛しています。あなたのことを。だから、もう別れるなんて言わないでください」

 

彼女は僕を強く抱きしめてきた。僕も抱きしめ返した。彼女の気持ちがよくわかったからだ

彼女は僕のような汚い男を愛してくれていた。ルミナさんは僕のことを信じてくれていないようだが

カオリちゃんは僕のことを信じて。いやそれ以上に愛してくれていたようだ

 

「カオリちゃん。僕がどんな人間だったかは分かっているよね?」

 

「はい。ユウさんがゼーレの人間だったとしても今は違いますよね?だったら信じます」

 

だから私を愛してくださいと

 

 

---------------------------

 

第三新東京市 第1区高等学校 屋上

 

僕が学校に登校するとすぐにすぐにアスカやレイに呼び出された。それも屋上に

 

「それでカオル。あんた、どっちの味方なの?」

 

「これはこれはアスカさん。いきなりだね。それにレイさんも」

 

「あなたが碇君の事で動いていることは聞いているわ。どうしてそんなことが許されているの?」

 

「僕は被害者だよ。撃たれたり、殴られたりされている。なのにどうして僕が加害者側にまわるのかな?」

 

どうやらレイやアスカには僕のおとぼけ具合は伝わっているようだ。厄介な事をしてくれたものだ。

どうせユイさんの差し金だろう。彼女は子供たちを使って情報収集をしようとしている

やりかたが汚いが、なりふり構っていられないのだろう

 

「僕はいつだって正直者だよ。それに彼女がシンジ君でないことは間違いないよ」

 

「そんな茶番にあたしたちが付き合うと思っているの」「そうよ」

 

「どう思うと勝手だけど、彼女はシンジ君ではない。それだけは事実だよ」

 

僕はそう言うと屋上を出ていった。残された2人がどうしたかは知らないが。

恐らくよからぬことを考えていることは容易に想像ができた

だから僕は携帯電話を取り出してあるところにかけた

 

「アスカやレイが危険な行動に走るかもしないよ」

 

そう伝えると相手は何も言わずに電話を切った

 



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第95話

第三新東京市 高等学校屋上

 

「レイ。一緒にやる気、ある?」

 

「アスカはどうなの?」

 

「私は彼女がシンジだと信じている。だから戻ってきてほしいの。そして本当の気持ちを伝えたいわ」

 

私はアスカとして、シンジにしてきた仕打ちをよくわかっている。だからあいつにちゃんと謝りたい

だからもう1度あの町に行きたいと思っている。でもネルフの力は借りる事はできない。

もし借りようとしたら絶対に止められる。それにカオルは信用できない。

あいつは必ず私達に対して妨害してくることは分かっている。

だから、私達だけで行動するしかない。

 

「私も。碇君にきちんとした気持ちを伝えたいの」

 

「レイ。彼女はシンジと直接呼ばれるのを嫌っている。だから。これからは彼女のことはカオリって呼びましょう」

 

私にもそれは分かっていた。彼女がもうシンジとして呼ばれることは嫌っている。だからもうそう呼ばない事を決めた

彼女の気持ちを最優先するべきだと判断したのだ。もうここまで来たら立ち止まるつもりはない

どんなに残酷な結果になっても、最悪な展開になっても良いから『真実』を知りたい

リスクはかなりある。だけどそれでもチャレンジするしかないのだ

 

「わかったわ。どうやってあの町まで行くの?」

 

「誰か協力者を作る必要があるわ。加持さんに頼みたいけど、頼んだらミサトに伝わるわ」

 

「そうね」

 

「なら、手段は1つ。自分の手でいくしかないわ。私はバイクを持っているから一緒に行きましょう」

 

私は高校生になってすぐにバイクの免許を取った。そして、隠れてバイクを購入して隠していた

ネルフにはばれていないと思っている。名義人は私でも誰でもない。そのバイクショップの店長の名義人にしている

もちろん金を握らせての判断だ。私達の関係者の名前にすれば発信機が付けられるからだ

だからあえて、そんなことをしたのだ

 

「いか、カオリさんが会ってくれると?」

 

「もう会ってもらうしかないわ。それともレイは諦められるの?」

 

私は無理だ。諦める事なんて。どこで間違えたのかわからないが私にはもう限界を迎えたのだ

我慢はもうできない。何としても真実を知りたい

 

「この件でネルフ関係者に一言でも漏れたら終わりよ。学校が終わったらすぐにバイク屋に行って携帯電話を捨てる」

 

「ええ、いいわ」

 

「なら、作戦決行ね」

 

私達は教室に戻るために会談に戻ろうとすると屋内に入るための階段スペースにカオルが待っていた

 

「やめておくことを進めるよ。そんなことをすれば自分たちの立場が悪くなるだけだよ」

 

「聞いていたの?あんた、最悪よ」

 

「僕はみんなのことを思っているんだよ。彼女のためにも会わない方が良い」

 

「悪いけど、あんたには言われたくないわ。私達よりも接触しているくせに」

 

私は本音をぶちまけた。カオルは私達よりも接触している。いえ、わたしだけ置いてけぼりにされている。

レイも1人であの町に行っている。私だけ単独行動をしていない。そして真実を自分の声で追及していない

だから私は行くことを決断したのだ。もうどんな結果になろうと逃げないと

 



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第96話

海岸の町の砂浜で私はのんびりと海を眺めていた

静かな時間だ。何者にも邪魔をされない。そして自然が豊かであることを示すかのように

多くの鳥たちが砂浜の上空を飛んでいる。これこそ自然が豊かな証だと言わんばかりに

まさにここは動物たちにとっては楽園だ。この町の住民は自然と共に暮らしている

自然を邪魔するわけではなく共存する道を選んだのだ

それこそが本来の人間と自然との関係のはずなのだが、実際には自然は人類が生存するために存在すると思われている

それが私にとっては残念な事だ。自然と人類は共存するためにあるはずなのだが~

 

「どうして人は、自然を壊すんでしょう」

 

「ずいぶんと哲学的な話だね。その答えはきっと誰もが論争しても結論は出ないだろうね」

 

「そうですか」

 

ユウさんの言う通りかもしれない。確かに哲学的な話だ。そしてこの話の結論は簡単には

いや、永久に出る事はないだろう。それが自然と人類の今の関係なのだ

 

「お酒の注文も終わったけどどうするのかな?」

 

「お昼前には帰ります。それまではここでのんびりと過ごすつもりです」

 

そう、私は自然と一緒に過ごすのが一番好きなのだ。人と接するのと違って、自然の動物たちには悪意を持っていない

きちんと友好的に接すれば彼らは決して嫌ったりしない。それが私が神様だからなのかもしれないが

それでも動物たちと仲良くできる事はとても嬉しい事だ。私は心から信じているのはこの町の住民だけだ

そして旅館で私を愛してくれる両親とみんなだ。私が失った時間は大きいがそれを今は大事にしている

ようやく勝ち得た幸せだからだ。だからもう手放す事はしたくなかった。この暖かい家族とみんなの心を

砂浜に座って海岸を眺めているとルミナさんが声をかけてきた。

 

「カオリちゃん、問題発生よ」

 

「何かあったんですか?」

 

「惣流・アスカ・ラングレーと碇レイがこっちに来るつもりのみたいね」

 

「またか。懲りていないようだね」

 

「ええ、あなたの言う通りよ。相葉ユウさん」

 

ユウさんも気づいたようで私の隣で座っていたのだが立ち上がって少し離れたところで話を始めた

私には聞かさない方が良いと考えたようだ。別にもう私は彼らに興味はない。

あの時にすべては終わったのだから。それにもうこの町から旅行以外で出ていくつもりはなかった

あの街とはもう関係ないのだから。

 

「カオリちゃん。これを渡しておくわ」

 

そう言って私にルミナさんはボタンがついたキーホルダーを渡してきた。ルミナさんによると緊急ボタンだという事だ

何か緊急事態が発生した時はそれを押せばすぐに駆けつけることができるというものらしい

 

「もしも困ったことがあればすぐに押してね。私がすぐに駆けつけるから。もっとも、あなたには彼という優秀な護衛がいてくれるみたいだけど」

 

「僕も精一杯守らせてもらうよ。大切な人だからね」

 

 



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第97話

私は彼女に緊急ボタンを渡すと自宅に帰った

走行中に電話がかかってきたのでハンズフリーモードで電話に出た

相手は局長だった。

 

「局長、カオリちゃんには緊急ボタンを渡しておきました」

 

『渚カオル君から連絡が入ってきたよ。どうやら2人は本気でネルフを振り切ってそっちに向かうつもりのようだよ』

 

「信用できる情報ですか?」

 

『間違いないよ。こっちでも調べたら、セカンドチルドレンが購入したバイクが保管されていることを確認したよ』

 

「面倒な事になりそうですね。そちらで止める事はできますか?」

 

『残念だけど難しいよ。ネルフが組織として動くならなんとかできるけど個人で動かれると難しいね』

 

つまり私にすべてがかかっているという事だ。これは責任重大な責任という事になる

ようやく安定した彼女の心を大きく揺さぶることになるから。これ以上傷ついてほしくなかった

幸せに生きている彼女の心を傷つけるようなことをする人間を私は許しはしない。

それに今の彼女には心強いボディーガードが存在する。

私は信用していないが、彼女は彼のことを良く信頼している。裏切るようなことはないだろう。

彼なら死ぬ気で守り切ってみせてくれる。なぜだか知らないがそう思えてならなかった

あとは彼に適切な情報を流して警戒をしてもらうだけ

 

「詳しい動きがあればすぐに連絡をください。こちらでも対応に入ります」

 

『わかったよ。それと増援を送っておいたよ。ティアをね。彼女なら信頼できると思ったからね』

 

ティアは真相を知っている数少ない人間だ。ティアなら多少の無茶は対応がきくし、私と違って軍上がりの人間だ

私よりも銃の腕と格闘術は身に着けている。心強い応援が増えたというものだ

 

「感謝します。ティアならいろいろと知っていますし。裏の事も」

 

『だから彼女を選んでおいたんだよ。ティアは優秀だし真実も知っている。君の応援にはうってつけの人物だから』

 

「お心遣い感謝します。では今後は彼女と連携して警護に入ります。到着予定は?」

 

『もう君に家で待っているはずだよ。ヘリで向かったからね』

 

「素早いですね」

 

『それが私の仕事だよ。迅速な判断に迅速な対応が』

 

そこで通話が終わった。ちょうど家に到着すると玄関前ではティアが立って待っていた

 

「ルミナ、またここに来ることになるなんてね」

 

「ティア、今回はあなたにも仕事をしてもらうわ。それも過激なね」

 

そう、今回ばかりは過激な事をしてもらうしかない。無茶な事はしたくないがカオリちゃんをまもるためだ

そのためには手段は選んでいる余裕はない。もう2度と彼女たちと対面させるわけにはいかないのだ

 

 



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第98話

第三新東京市 バイクショップ

 

私は預けているバイクを受け取りに行った。もちろんレイも一緒に

携帯電話はカオルに預けてきた。尾行も撒いてきた。誰にも邪魔をされるわけにはいかないからだ

あいつも渋々と言った表情で協力はしていたがその直後にどこかに連絡をしていた

恐らくだが監察局だろう。監察局とつながっている事は何となくだが察しがついていた

だから詳しい計画までは話すつもりはなかった。絶対に邪魔をされるからだ

問題はどうやって検問所を突破するかだがそれについても完璧だ。

MAGIを使って偽造IDを作り出した。いろいろと口実を使ってリツコの端末を使わせてもらった

苦労はしたが、これなら検問所は突破できるだろう。そしてあの町に行く

そして今度こそ決着をつけるのだ。

 

「預かっていたバイクの整備は完璧だ。いつでもいける」

 

「ありがとう」

 

「美人の頼みには弱いからな。俺は」

 

このバイクやショップのオーナーがネルフと全く関係ない事は時間をかけて調べてきた

だから安心していられるのだ。しかしそれも今回で終わりだろう。このことが発覚したらもう同じ手は使えない

これが最初で最後の抵抗だ。私はバイクに乗り込み、例は私の後ろに乗り腰に手を回してつかまった

ヘルメットをかぶると発進していった。目的地はあの海岸の町

 

 

---------------------------

 

ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「本気という事だね」

 

『はい。僕に携帯電話を預けて尾行まで撒いています。2人は本気です』

 

「君からこういった情報がもたらされることは非常に有益だよ。おかげで対応がとりやすい」

 

『僕としても彼女にこれ以上負担をかけたくないだけですから』

 

彼がどこまで本気でそう思っているのかはわからないが。今は信用するしかない

それに今回の一連の動きについて、彼の情報は恐ろしいほどに正確だった

だからこそ信用しているのだ。信頼はしていないが。守るという事は確実だろう

おかげでティアを派遣したりすることができ、今後の対策が取りやすくなっている

 

「君の情報収集活動は高く評価するよ。それと我々への協力もね」

 

『彼女のためなら何でもします』

 

私は彼がよほどの覚悟を持っているかを理解した。だが同時にリスクも感じた。

下手をすれば彼自身の立場は極めて危ういものになる。そうなれば我々にも跳ね返ってくる

それだけは避けたい

 

 

---------------------------

 

ネルフ本部 作戦部 部長室 葛城ミサトの執務室

 

「なんですって!」

 

『セカンドチルドレンとファーストチルドレンはこの街を出ていったようです。携帯電話はフィフスチルドレンが』

 

「アスカもレイも何を考えているのよ。こんな時に」

 

私はまさに悪夢だと感じた。ただでさえ緊張感が求められる時期にネルフにとって重要な存在がこの街から消えた

これはもうただ事ではない。重大な問題になることは確実だった。まずは2人を保護する事だが目的地には察しがついた

恐らくあの海岸の町。そして、ターゲットは水川カオリであることも。彼女がシンジ君であることを確かめるつもりなのだろう。

今度は自分たちの手を使って。だから私達にも黙って行動を開始した

追跡装置はすべて排除されていた。恐らく変装もしているだろう。MAGIを使って捜索するしかない

何としても市外に出る前に阻止しなければならない。

エヴァを操縦できるパイロットはあまりに貴重でそしてテロの標的になりやすい

そのためにも2重3重の警戒がとられていたがそれも無駄だったようだ。

保安諜報部に何を考えているのか苦情言ってやりたいが今はそんな場合ではない

夫である加持リョウジは彼女よりであることは分かっていた。

1度あの町に行っているからだ。私にも理由は言わなかったため詳細は分からないが

あいつが彼女に、いや監察局に何らかの形で協力している事は明らかだ

 

 



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第99話

海岸の町に繋がる道

私はレイと一緒にバイクに乗って向かっていた。今のところ気づかれたという気配は感じられない。

このままいけば良いのだがまだ検問所は1か所残っている。しかし幸運な事に入る事には厳重だが

出る事はにはあまり警戒は払われていないため、私が作成した偽造IDで通過することができていた

今のところ私の計画通りにプランは進行していた。あとは無事に通過できるかだ

街を無事に出たいが、簡単に行くとは思えない。でも私は強行してでも第三新東京市を出る気だった。

それが私の決意だった

 

「アスカ、大丈夫なの?」

 

「レイ、一応はね。警戒は怠らないで。警察無線を聞くための無線機をいただいてきたんだから」

 

そう私はネルフの保安諜報部にいる加持さんの執務室から無線機を1台『借りて』きた

もちろん加持さんには内緒だけど。これで警察無線は完全に傍受できている。

さらにネルフが使っている無線周波数も聞くことができる。

念のため無線機を分解したら予想通り発信機が組み込まれていたので取り外した

 

「警察には今のところ気づかれていないわ。ネルフの無線にも私達の情報はまだ流れていないわ」

 

「どうやら誰かの力が働いてくれているのか私達の幸運がついているのか」

 

恐らく後者だろう。まだ私達に幸運があるだけだと考えるのが妥当だ

海岸の町までは2時間ほどで到着予定だ。一応海岸の町に宿泊するためにあの旅館に予約を入れている

もちろん偽名でだが。直接対決するつもりなのだ。私ももう逃げる事はやめた

正面からぶつかって正直な言葉をぶつける。レイもそのつもりだ。だからこそこんな無茶な計画に賛同したのだ

カオルがどう行動するかはわからない。私達には表面的には協力はしていたがどこかに連絡していた

つまり表向きという事でおそらく、いや実際は監察局の犬になったのだろう

彼らに協力する事で何か見返があったと考えるのが妥当だ

 

「カオルの奴、なにを考えているのかしら」

 

「彼は私達とは敵対関係なの?」

 

「あいつは嫌な奴。自分の利益のためなら私達を犠牲にするタイプよ」

 

「カオルは何を考えているかわからないタイプね」

 

 

----------------------------

 

海岸の町 ルミナの家

 

「それでセカンドチルドレンとファーストチルドレンが第三新東京市を出たんですね」

 

『そういうことよ』

 

私は直属上司であるシエラ・ドーレス部長と連絡を取っていた

 

『偽造IDまで作って街から逃走を開始したわ。今のところ最後の検問所を通過したのを確認。あと1時間30分もすればそちらに着くわ』

 

どうして止めれなかったんですかと文句を言いたいところだが、いまさら言ったところで手後れだ

問題はどうやって処理するからだ。そして最大の問題は彼女たちが宿泊予定なのがあの旅館という事だ

いやでもあの子と向き合うことになる。精神的にようやく安定してきた彼女にはきつい再会だ

 

『ルミナ、もう覚悟するしかないわ』

 

「冗談ですよね?」

 

『もうかばいきれる段階を突破したのよ。あなたも覚悟して』

 

 

 



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第100話

私はお昼を食べるために砂浜から旅館に向かってユウさんと帰っていた

お酒はいつもあとで配達してくれるので、注文をしたら帰るだけだ

違う事といえば、いつもは1人なのにこれからユウさんと一緒という事だ

それはそれで少しうれしいのか、足が軽やかだった。やっぱり1人よりも2人の方が楽しい

おしゃべりもできるし。

 

「ところでユウさん。ネルフがらみで何か最新情報は?」

 

「今のところ何も聞いていないよ。大丈夫。彼らだってバカじゃない。国連からの圧力には負けるよ」

 

だと良いですけどと言うと、私達はその後も楽しくおしゃべりをしながら歩道を歩いていった

この思いを永遠に抱き続けることができれば、私にとっては何よりも幸せな事だが

そんなのは夢でしかないというのは分かっていた。私は『人』ではないからだ

いつかは別れを感じることになる。それを考えれば誰かの愛を感じる事に恐怖がある

耐えられるかどうかわからないけど耐えるしかないのだ。それが私に与えられた罪だからだ

罪を背負っていくしかない。それは人間も人間ではない私も同じことだ

その時、彼の携帯電話が着信を告げる音楽が聞こえてきた

 

「ルミナさんからだね。相葉ユウです・・・・・・・・・・・・・わかったよ。情報ありがとう」

 

「何かトラブルですか?」

 

「君には残酷な事だけどね」

 

その言葉を聞き、私はトラブルの内容についてなぜか理解した。恐らくネルフが動き出したのだろうという事を

 

「ネルフですか?」

 

「彼らではなくてチルドレンの方だね。正確にはセカンドチルドレンとファーストチルドレンが第三新東京市を出たと」

 

目的地はこの町だという事も教えてくれた。さらに悪夢のような言葉をかけられるとは思ってもみなかった

 

「彼女たちの宿泊地は僕たちの家。つまりあの旅館だよ。彼女たちは本気で・・・・・・・カオリちゃん!」

 

私は言葉の途中で体を震わせた。恐怖を感じたのだ。ようやく勝ち得た幸せをぶち壊す存在が来るのだから

 

「ルミナさんはすぐに旅館に来てくれるそうだよ。僕たちも急いで戻ろう。対策を練らないとね」

 

「はい」

 

私は恐怖を感じてしばらくその場を動けなかったが彼に手を引っ張られる形で歩き出した

旅館に到着するとすでにルミナさんの車が駐車場に止まっていた

正面玄関から入るとおかあさんが受付で待っていた

 

「カオリ、ルミナさんとティアさんがあなたの部屋で待っているそうよ」

 

「ありがとう。お母さん」

 

お母さんは不安そうな表情を浮かべていた。状況を理解しているようだった。

 

「ユウさん。カオリのことをよろしくお願いします」

 

「必ず守ってみせます」

 

私とユウさんはロビーを抜けると別館にある私の部屋に向かった

部屋に入るとすでに2人がお茶を飲んで待っていた

 

「カオリちゃん。勝手に部屋に入らせてもらっているけど、ごめんなさいね」

 

ティアさんが申し訳なさそうに謝罪をしてきた。私は気にしないでくださいと言った

今からが本番なのだ

 

「それで2人の足取りについては?」

 

「以前あなたが予想した通りよ。偽造IDを作って第三新東京市を出たのを確認。バイクでこっちに向かっているわ」

 

「どうしてわからなかったのかな?」

 

「バイクの名義人が彼女とは関係のない全くの他人だったからよ。免許を持っていた事は知っていたけどバイクを所持していた事は把握できていなかったわ」

 

でもこんなことは言い訳にしかならないけどとルミナさんも申し訳なさそうに言った

確かに他人名義にされたら追跡するのは容易なことではない

あの2人は今回がラストチャンスであることを分かっている事は私にもわかった

この方法は1度きりしか使えないからだ

 

「とにかく対応方法を考えましょう」

 

ルミナさんがリーダーになる形で話し合いを始める事にした

 



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第101話

もう少しであの海岸の町に到着する

私のバイクは快調に、エンジン音をルンルンとならして走っていた

整備が行き届いている証だった。バイクショップに預けておいてよかったと思っていた

到着はちょうどお昼ごろになるだろう。ようやくきちんと会うことができる

そして本当に話し合いをしたい。私はそう思っていた。レイがどう思っているかはわからないけど

同じことを考えているだろう

 

「もう少しであの町につくわ」

 

「ネルフや警察には気づかれなかったわね」

 

その時後ろからパトカーがサイレンを鳴らして近づいてきた

 

『前を走行中のバイク。速やかに停止しなさい』

 

「こんな時に」

 

私は揉めるわけにはいかないので素直に指示に従った。そしてバイクを路肩に停めて降りるとパトカーからあの女が降りてきた

 

「どういうつもり?」

 

レイがあなたはと言った。知っているようだ。私は詳しくは知らないが監察局のエースといううわさは聞いていた

 

「あなた、いつから警察になったのかしら」

 

「それは今は関係ないでしょ。ここはあなた達が居ていい場所じゃないわ。すぐに第三新東京市に帰りなさい」

 

私はお断りよと言うとあの女は私達に銃を向けてきた。そしてこう言った

命を懸けるだけの度胸があるのかしらと。私達の覚悟を確かめるような口調だったため私も答えてやった

 

「もちろんよ。そのためにいろいろと犠牲にしてきたんだから」

 

「そう。でもここから先は通行止よ。帰りなさい」

 

どうしても私達をあの町に行かせたくないようだ。でも私達も引き下がるわけにはいかない。

ここまで来た以上手ぶらでは帰れない。成果がないと

 

「私は彼女に会いたいの。どうして邪魔をするの?」

 

「あなたたちの存在はただの迷惑なものでしかないの。それをどうして自覚することができないの」

 

私はただ謝りたかった。あの時のことを。でもそれをこの女は許そうとしない

というよりも会う事すら許そうとしないのだ。

 

「あなた達を逮捕するわ。容疑は分かっているわよね。偽造IDを作ったこと」

 

それは紛れもない事実だ。そこを追及されたらもう抵抗できない。

そこで私は隠していたものを取り出してあることを実行した

 

「もう邪魔をしないで!」

 

 

----------------------------

 

海岸の町の旅館

 

私の部屋でベランダのロッキングチェアに座り缶コーヒーを飲んでいたとき

銃声のような音がしたような気がした。

でもこのあたりでは狩りのために猟銃を持っている人もいる。そんなに珍しい事ではないが。

もしこれが銃声なら猟銃とは違った音に感じた。私は椅子から立ち上がろうとしたとき、ドアがノックされた

缶コーヒーをそばにある机に置くとドアに向かっていった。ドアを開けるとユウさんがいた

 

「ルミナさんが撃たれた」

 

その言葉に私は一瞬気絶しそうになったが何とか踏みとどまり、どこに運ばれたのか聞いた。

彼は砂浜近くにある診療所に搬送されたと教えてくれた。私はすぐに室内の金庫を開けに行く。

金庫を開けて銃を取り出すと、それをカバンに隠して、彼と一緒に大急ぎで駐車場に向かった。

そして砂浜の近くにある診療所に向かった

 



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第102話

砂浜近くにある診療所に到着するとそこには多くの警察官がいた

さらにティアさんもいたが私には最も許せない人がいた

 

「アスカさん。あなた、最低です」

 

「待って!少しだけ話を」

 

「話?人殺しのくせに。あなたのせいで私の大切な人を奪おうとした。それはどんな代償を払っても代えられないわ」

 

「少しだけでも良いの!話を」

 

「私の大切な友人を殺そうとした人と話ができると思うの?ふざけるのもいい加減にして!」

 

「カオリちゃん。あまり大声を出さない方が良いよ。とにかく奥の診察室に入ろう」

 

ユウさんの誘導で私は待合室から診察室に入っていくと肩の部分に包帯がまかれているルミナさんがいた

 

「大丈夫ですか!」

 

「カオリちゃん。あなたまで巻き込みたくなかったんだけど、説得ができなくてね。ごめんなさい」

 

「ルミナさんは悪くありませんよ。悪いのは彼らですから」

 

私の大切な人を傷つけた。それは私には到底許せることではない。

それに、もう2度と会う事はないとと言ったのにこの町に来たことも許せなかった

私の平穏な生活を壊そうとしたのだから。

 

「でも大丈夫ですか?」

 

「肩を撃たれただけだし弾は貫通しているから大丈夫。それとあの2人には即刻第三新東京市に戻ってもらうわ」

 

「そうしてください。じゃないと私が2人を殺しそうです」

 

私の大切な人を殺そうとした。到底許されることではない。もし私がその場にいたなら殺していただろう

今回は彼女たちに運があったという事だ。もう2度と会うつもりはない。彼女たちとは

あの時にはっきりと言ったはずだ。にもかかわらずのこのこと現れた

もしこの時にティアさんはユウさんがいなかったら殺していただろう。

それだけの覚悟があってきたのだから

 

「もう2度と話をする事もないでしょう。この町に来ないでください」

 

「待って!お願い!少しで良いの!」

 

こんなことをしておいてまだ何か言いたことがあるとは、私は思わずカバンから銃を取り出そうとしたが

 

「カオリちゃん!それはだめだよ。君が人殺しになる必要はないから」

 

ユウさんに止められた。さっきの言葉はまるで自分が代わりにするからといわんばかりの言葉だった

私はとにかく診療室に戻りルミナさんの状況を確認した。

その間に警察があの2人を連行していった。この海岸の町には小規模だが警察署がある

そこに連行されていくのだろう。私にはもう関係のない事だが。彼女を傷つける

いや、大切な友達を傷つける人など、関わり合いを持ちたくない存在だ

 

「今連行されていったよ。僕も一緒に行って見届けてくるよ。彼らが第三新東京市に帰る事を確認するのをね」

 

その方がカオリちゃんも安心だよねと、ユウさんは言ってくれた。私はその厚意に甘える事にした

よろしくお願いしますというと私はルミナさんのそばでいる事を選んだ

 

「カオリちゃん、ごめんなさいね。あなたにまで心配をかけて」

 

ルミナさんの言葉に私は気にしないでくださいと言った。私にとっては大切な友人であり仲間だ

今、友人を失うという事に対する覚悟ができていなかった

 



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第103話

海岸の町の警察署 留置施設

私は身柄を確保されてからレイと一緒にここに放り込まれた

どうしてあんなことをしてしまったのか。今になって後悔ばかりを浮かんでいた

でもあの時はあれが正しいと思っていた。でもこんな結果になるとは思ってもみなかった

そこに1人のリクルートスーツを身にまとった女性が現れた

 

「あなた達の身柄を保護するために、ネルフ保安諜報部の加持リョウジが来るわ。それまではここにいる事ね」

 

殺されたくなかったらと彼女は私達に伝えてきた

どうやら私達は怒らしてはならない人物の怒りを買ってしまったようだ

でも、もうなりふり構っていられる状況でなかったということも事実だ

 

「なぜ私達の行動を邪魔をするの?」

 

「あなた達がいけないのよ。第三新東京市という箱庭で静かに暮らしていればよかったのに、それを壊した」

 

「ならどうしてこの町も同じように箱庭にする必要があるの?」

 

レイがそう言うと彼女は意外な言葉を返した

 

「碇レイ。あなたがサードインパクトの時にリリスとして彼女のそばにいたはずなのに絶望を与えた」

 

「どうしてあなた」

 

「私達にはすべて筒抜けよ。これ以上この町に関わる事は許さないわ」

 

レイはその言葉に黙り込んでしまった。私にはどういう意味なのか、詳しくわからなかったが。

レイにとってはアキレス腱であることはよく理解できた。

 

「私はどうしても彼女に会いたいの。1度だけで良いわ!お願い」

 

「仲間を撃ったくせに。贅沢過ぎる願いよ。私としてもできる事ならこの場であなたの肩に弾をぶち込みたいところだけど」

 

ここはあなたたちの街じゃない。ここは自然豊かで平和な町なのよと言ってきた

 

「それがどういう意味よ」

 

「あなたには一生理解できないでしょうね。ここにはあの街にはないものが存在するの」

 

それを理解するには一生かかるでしょうねというと加持さんがやってきた

 

「アスカ、やってくれたね」

 

「加持さん」

 

「監察局として、処分が下る様に国連に報告させてもらいます。覚悟する様に」

 

「特権でなにもかもない事にできないことぐらいわかっているよ。ティアさん」

 

加持さんのなれなれしい言葉に彼女は嫌悪感をあらわにするかのように言い放った

 

「ネルフも落ちたものですね。子供1人の行動すら予測できないとはね」

 

彼女はそう言うと留置施設から出ていった。それと変わるように私とレイは出された

 

「アスカ、派手な事をしたね。今回はお小言だけでは済まないよ」

 

加持さんも表情を曇らせながら言ってきたが、私にはどうしてもやるしかなかったのだ

あの状況下では。もう、それしか考えることができなかった。

 

「しばらくは第三新東京市で大人しくすることだよ」

 

加持さんに諭されるように言われてしまえば、逆らう事はできない。

私達は再び第三新東京市に戻っていった

 



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第104話

ルミナさんは治療のために第三新東京市に戻ることになった。

代わりにティアさんが駐在してくれることになった。私とユウさんは昼食を食べるために旅館に戻った

いつも通り食堂に行くと、私用の小食メニュの昼食が出された。

隣に座ったユウさんにはエネルギーがたっぷり詰まったメニュだった

私には1日分に相当するメニュだった。私達は同時に食べ始めたが、食べ終わるのも同じタイミングだった。

食事を終えると私達は部屋に戻ろうとせず、再び砂浜に向かって歩き出した。もちろん懐中電灯をお母さんに渡されたが

お母さんには夕食には帰ってくるのよと言われた。それはいつもの事なので。

ただ違う事と言えばいつもは1人だが、今日からはユウさんと一緒だ

 

「カオリちゃんはいつも同じような日常を過ごしているのかな?」

 

「はい。あの砂浜に行くのは運動不足解消です。ずっと部屋にいたら、体が鈍りますから」

 

確かに旅館から砂浜まではそれなりの距離があるため良い運動になる。

それ以外にも気分転換もある。ずっと旅館にいたら息が詰まるときがあるからだ。

それに今日は朝からいろいろとあった。砂浜でゆっくりと過ごして息抜きをするのが一番だ

いつも通り砂浜に到着すると、今日は靴を脱いで海の中に入っていった

 

「カオリちゃん!」

 

「ユウさん。死ぬつもりはありませんよ。ただ、水の冷たさを感じたいだけですから」

 

私は死ぬつもりはない。まだまだ生きていくのだ。この広い世界で。

ルミナさんには申し訳ないけど、今回の一件で、ネルフはさらにこの町に介入する事は難しくなっただろう

それだけは間違いない。ティアさんがそう言っていたからだ。監察局にとっても圧力をかける理由ができた

正確には脅しという名の圧力だが。殺人未遂の件を公表されたくなかったら、介入するなとでもいうつもりだろう

あまり好ましい方法ではないとは思うが。最も効果的な方法である。

私としては彼らが来ることがないならどんな手段を取ってもらっても構わない

私の家族と大切な友人に影響がなければ

 

「カオリちゃん。海は好きかい?」

 

「あまり好きとは言えないですね。どうしても思い出してしまうんです」

 

「詳しい事は聞かないよ。その方がカオリちゃんのためみたいだからね」

 

ありがとうございますというと私は膝下まで海水につかるまで海に入ると、そこで立って風景を楽しんだ

 

「カオリちゃん。君のことは必ず守るからね。何度も言うようだけど」

 

「信じてます。ユウさんのこと。それに」

 

「それに?」

 

「私だって精一杯生きて、自分で自分のことは守ってみたいですし!」

 

私は沖合に向けていた体を振り返ってユウさんの方向に向けて言った

 

 



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第105話

夕方まで砂浜で過ごしていたが、さすがに陽が落ちそうになると帰る事にした

今までは1人ボッチだったが今日からは違う。ユウさんと一緒だ

でも懐中電灯をつけて歩道を歩いていた。

 

「カオリちゃんは本当にきれいだね」

 

「そうですか?」

 

私にはあまり自覚がない。自分の今の姿は罪のあかしだと思っているからだ

確かに誰もが私のことを綺麗とか美しいと言うが私にはそれが分からない

それは自分が元男だからなのかもしれない。女性にはあまり関心のない男の子として育ったから

ただ、少しづつではあるが考えが変わりつつあることは自覚していた

それはユウさんと今の家族の愛情を感じているから。そうかもしれない

 

「ところでユウさん。私のことを本当に愛してくれているんですか?」

 

「そうじゃないと君のことをここまで真剣に考えないよ。君は美しいしとてもやさしい。だから好きなんだよ」

 

「優しいですか?」

 

「そうだよ。君はやさしい。彼女たちに会わないというのもこれ以上真実を知らせないようにするため」

 

違うかなと彼は言ってきた。確かにそういう面も全くなかったと言えばうそになる

自分の事は忘れて前に進んでほしいと思ったことは1度や2度はあるが

確かに過去は捨てる事はできない。でもそれを糧にして生きていくことはできる

だから『僕との記憶』を糧にして成長してほしいと思ったこともある

 

「少しくらいはありますよ。でも、今はもうそんなことは考えるつもりはありません」

 

そう、ルミナさんを撃ったのだからそんなやさしさは捨てるつもりだ。

私の大切な人を奪うなら私も奪いたいと思いたいが、もうあの街と関わるのはやめると決めたのだ

だからこの町で静かに暮らしていくのだ。平和に、この町の優しい人たちと。そして数多くの動物たちと共に

動物たちとは旅館に住み着いているネコさんたちの事だが。彼らも大事な家族だ

私にはそれだけあればもう贅沢な事は言わない。ここで静かに暮らし。

そして見守っていくのだ。この世界の歩みを。それこそが私に課せられた重大な使命なのだと考えていた

そんなことを話しながら自宅の旅館に到着すると午後5時ごろだった。少し早いが夕食の時間にすることにした。

食堂で食べようと思ったがお母さんが今日は混雑しているから部屋に持ってきてくれると言ってくれた

私はありがとうと感謝の言葉を言うとユウさんと一緒に別館の部屋に戻った

 

「良かったら一緒に食べない?」

 

ユウさんがそう言ってくれた。1人で食べるよりも楽しいと思うよとの配慮からだった

私は喜んでお願いしますと言った。しばらくするとお母さんとお父さんが私とユウさんの夕食を持ってきてくれた

初めて自分の部屋でほかの人と食べることになった



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第106話

夕食を食べ終えるとユウさんも自室に戻っていった。

私はいつも通り冷蔵庫から缶コーヒーを取り出してロッキングチェアに座り飲み始めた

ベランダからは綺麗な星空が見え始めてきていた。夜になれば静かなものだ。

ただ今夜は団体のお客さんが来ているのか本館の宴会場からはどんちゃん騒ぎが聞こえるように感じた

それを除けばいつも通りの静かな夜だ。私はロッキングチェアに座りのんびりとしていた

 

「平和ね」

 

そんなことを呟きながら、缶コーヒーを飲んでいた。いつものように苦みを感じながら

綺麗な星空だとも思いながら寝るまでの平和な時間を過ごしていた

何気もない時間も私にとっては貴重なものだ。そろそろ布団を押し入れから出そうとした時ドアがノックされた。

返事をするとティアさんの声が聞こえてきた

私は何かあったのかと思い、すぐにドアに近づいていった

 

「ティアさん。何かありましたか?」

 

「大丈夫よ。ルミナの怪我は銃弾は動脈とかをほとんど傷つけていなかったから早期復帰できるわ」

 

「それじゃ何か?」

 

「あなたには話をしておこうと思ってね。ネルフがらみの情報を」

 

「それじゃユウさんも」

 

するとティアさんはもう話ししたあとだという事だ。根回しの良い事だ

話によるとアスカとレイは当面の間、保護観察処分になるという情報を提供された

つまり、あの街から出る事はできないという事だ。それは良いニュースだ。

さらに国連からネルフに対してこの町には絶対に関わるなと厳命が下されたとも

つまりしばらくの間は安全という事だ。

 

「だからあなたは安心して暮らしてね。一応ルミナが戻るまでは私がいるから。何かあったらルミナの家に連絡して」

 

そして1枚の名刺を渡してくれた。そこにはティアさんの携帯電話番号が書かれていた

 

「困ったことがあれば即座に連絡して。すぐに駆けつけるから」

 

彼女はそれを伝えるとおやすみなさいと言ってその場から去っていった。

メモを受け取ると携帯電話を取り出して電話帳に登録した。

私は平和な夜が、さらに当面の間は何も心配する事がない事に安堵していた。

国連から圧力があったという事はアスカやレイのことが伝わったという事だろう

マスコミ発表はされなかったという事は押さえられたという事だろうが。

放送されたらネルフにとっては致命傷になたことは間違いない。

私は再びロッキングチェアに向かう。その前に缶コーヒーを取り出すと、椅子に座りながら飲み始めた

またのんびりとした時間だ。飲み始めてすぐに再びドアがノックされた。返事をするとユウさんの声が聞こえた

私はどうぞと言って入室を促した。彼は入るねと一言言ってから入ってきた。礼儀正しい人だ。

 

「ティアさんから話を聞いたみたいだね」

 

「はい。しばらくは安心ですね」

 

「そうだね。僕も安心だよ。でも君のことはここで守るからね」

 

何かあったらすぐに声をかけてねと言うと退室していった。

私は缶コーヒーを飲み終えると布団を敷いて照明を切ると寝る事にした

 



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第107話

翌朝、私はいつものように7時ごろに目を覚ました。外の天気を確認すると今日も快晴だ

朝のテレビ番組で1日中天気が快晴なの確認すると布団をベランダにある物干し棒にかける

布団を天日干しするには最適な1日になりそうだからだ。隣を見るとユウさんも同じことをしていた

 

「おはよう、カオリちゃん」

 

「おはようございます。ユウさん。ユウさんも布団干しですか?」

 

「そうだね。こんなに良い天気だからね。今日も砂浜に行くのかな」

 

「はい。もう癖になっているので」

 

そう、もう砂浜に行ってゆっくりする事は私にとっては習慣のようなものだ

だから毎日の様にあそこに行くのだ。なぜだかわからないけど、あそこに行くと幸せを感じられる

自然の息吹を感じられるからかもしれない。

布団を干して朝食まで室内にあるテレビを見ているとお母さんが朝食を持ってきてくれた

どうやら今日も食堂は多くのお客さんでいっぱいのようだ。するとユウさんも食事を持って現れた。

昨夜と同じように一緒に朝食を食べる事にしたみたいだ。

私達は一緒に食事を食べて、食べ終えると食器を持っていく。

本館と別館を繋ぐ連絡通路から1度外に出た。裏口から厨房に入っていった。

いつものように食器を返すと私は事務室に向かってネコ缶を取り出すとネコ専用のお皿に盛り付けて中庭に向かった

するとネコさんたちは今日も私の到着を待っていたようで多くのネコさんが中庭にいた。

私はエサが入った皿を置くと彼らは仲良く食べ始めた。仲睦まじい姿だ

世界の人たちがこうであれば戦いなどなくなるはずなのだが世の中そう簡単にはできていない

私は食事を与え終わると彼らが食べ終わるまで中庭にあるベンチに座って待ち始めた

これもいつもの事だ。日常が戻ってきたという事になる。

ネコさんたちが食事を食べ終わるのを確認すると、私はエサが置かれていた皿を持って事務室に戻り、お皿を洗う

今日は1度部屋に戻るとベランダに置かれているロッキングチェアに座りテレビを見始めた。静かな時間だ

 

「今日はどうしようかな」

 

海岸に行くのは決まっているが、今日は海岸で何かしようかなと考えていた。

海岸というよりも漁港付近にある防波堤で釣りでもしようかなと思っていたのだ

たまに釣りをしたりする。もっとも、大量に釣れたという経験はないのでただの暇潰しのためだが

釣りをするときはお昼に戻るようなことはせず、お弁当を持って夕方まで釣りをしている事が多い

釣りは静かな場所でのんびりとできるから好きだ。この町の漁港は小型船を使っている漁師が多いため静かなものだ

私は釣りをする事を決めると1度部屋に出て食堂に向かった。そして、食堂のおじさんにお弁当をお願いした

おじさんは釣りに行くのかと聞いてきた。たまには漁港でゆっくりしてくる事を伝えると分かったと返事をしてくれた

さらにユウさんのためのお弁当も用意してもらった

 

「30分したら来てくれ。弁当を作っておく」

 

ありがとうございますと私は言うと食堂から自室に戻り、収納スペースから釣り竿を取り出した

釣り竿は壊れていないかどうかを確認するといつものように釣り道具入れのカバンにそれを収めて出発の用意を始めた

私はもう1本の釣り竿を用意すると、その釣り竿もカバンに入れて部屋を出た

鍵を閉めると隣の部屋にいるユウさんの部屋をノックした。彼はすぐに出てきた

 

「良かったら釣りなんてどうですか?」

 

「珍しい提案だね。たまには良いかもね」

 

私とユウさんは食堂でお弁当をもらうと漁港まで歩いていった漁港は砂浜のすぐ隣にある

 



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第108話

漁港の防波堤に到着すると私とユウさんは釣り竿を取り出して釣りを始めた

 

「カオリちゃんにこんな趣味があるなんてね」

 

「たまにするだけですけど、ここは良く釣れるんです」

 

防波堤で釣りをし始めると今日は同じような町の人間が多いようだ

 

「カオリちゃん。今日はお友達と一緒なのかな」

 

50代前後の男性が話しかけてきた。彼とはここでよくあって釣りをする釣り仲間である

彼も釣り竿を取り出すと釣りを始めた。潮の香りは良い香りだ。釣りを始めて数分で1匹の魚が引っ掛かった。

私は慎重に巻き上げると釣りあげた。私は釣りはするが別にそれを家に持って帰って食べるわけではない

でも釣り上げたものを海に帰すにはもったいないのでいつも吊り上げると小さな保冷バッグに入れる

もちろんその場で血抜きなどを行って衛生面に配慮してだ。それを町の魚屋さんに持ち込んで無料で引き取ってもらう。

旅館では使う事はないからだ。私はただ釣りをするだけ。別にお金が欲しいとか思ったことはない

ただこの時間を楽しみたいだけなのだ

 

「カオリちゃん、上手だね」

 

「もう慣れていますから」

 

私はそれからも何匹か釣り上げると同じように作業を行った。

ある程度釣り終えると、漁港近くにある魚屋さんに釣り上げた魚を持っていくことにした

いつまでもためておくわけにはいかないからだ。

 

「カオリちゃん。どこかに行くのかな?」

 

「魚屋さんに釣り上げた魚を引き取ってもらいに行くんです」

 

ユウさんはお金になるのかなと聞いてきたが私は1円にもなりませんよと答えた

 

「これは趣味でやっているだけですから。お金は別に関係ないんです」

 

そう言うと私は保冷バックを持って釣り竿を1度その場において魚屋さんに持っていった

こんなところに釣り竿をおいてと思う人もいるかもしれないが。こんな小さな町で盗みをする人はいない

みんながお互いを知っているからだ。私は漁港近くにあるいつも通っている魚屋さんに行く。

お店の主であるおじさんに魚を見てもらう

 

「また新鮮な魚だな」

 

「またいつも通り、引き取ってもらえますか?」

 

「かまわないよ。今夜の我が家のおかずにはちょうどいい」

 

私はいつも通り保冷バックの中身のお魚を引き取ってもらうと再び防波堤に戻った

 

「早かったね」

 

「慣れていますから」

 

私は再び釣り竿を握り、釣りを続行した。そんな平和な釣りを何時間を続けていると腕時計がお昼を告げていた。

私とユウさんは持ってきたお弁当を食べ始めた。おじさんは自宅に帰っていったが

私達はお弁当を食べて、食べ終えると再び釣りを始めた

そしてある程度魚を釣るとまた魚屋さんに持って行くという繰り返しを続けた。

そんなことをしながら午後3時を過ぎたあたりで今日はやめる事にした

もう十分満喫した。今日はもう家に帰る事にしたのだ。すると防波堤から道路に戻るとティアさんが待っていた

何か用件があるのか手を振っていた

 

 



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第109話

ティアさんが手を振っていたので私は少し駆け足気味で近づいた

 

「何かありましたか?」

 

「ルミナからの伝言。守れなくてごめんなさいだって。あなたのことで頭がいっぱいみたいね」

 

彼女は私達を旅館まで送っていくと言ってくれた。私は別に断っても良かったのだが

今回はお誘いに乗る事にした。たまには車で帰るのも悪くないと思ったのだ

ティアさんの車はセダンタイプの車だった。清潔好きなのか車内は綺麗でいい香りがしていた

 

「ルミナさんはどうしてあんなに私を心配するのでしょうか」

 

「それは私にもわからないわ。でもルミナはあなたのことを大切に思っているのよ」

 

車内にはティアさんの趣味なのだろう。音量は低いがポップな音楽が流れていた

私は普段はテレビなどはあまり見るタイプではないので流行の音楽などには興味はない。

見る番組と言えばニュースなどの報道番組ばかりだ。それ以外に興味はない

娯楽はこの町に住んでいれば、自然と生まれるの物だ。例えば釣りなど

 

「そういえば、今度服でも買いにいかない?私がコーディネートしてあげるわよ」

 

ティアさんからの提案だが、私はワンピースなど簡単に着れる服が好みなので。この町にある服屋さんで間に合っている

流行のファッションを追いかけようとか思ったことはないので。都会に出る時も、似たような服装をしている

別に私は町と馴染んでいればそれでいいというタイプなので。

それに地元で間に合わない時は通販などで買ったりしているので

別にこの町から出ていって買う必要がない

だから私はティアさんに失礼の内容に断った

 

「あなたって、こだわりがないのね。私は流行を追いかけるタイプだけど」

 

「この町にいたら必要性は感じなくなりますよ。長くいれば」

 

この町にある小学校は各学年の生徒数は10人ほどだ。子供は少ない。

中学校も同じような生徒数だ。だから誰もが顔見知りであることが多い

この町では誰もが知り合いだ。小さな町だから。誰もがお互いを知り、平和に暮らしている。

第二東京市や第三新東京市とは大違いだ。都会は希薄過ぎる。人間関係が

私にはそんなところは耐えられるとは今は思えない。こんなに暖かい所から出るなんて

今の私には考えられないものだ。

 

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第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「今回の1件。ネルフにとっては大きなダメージだよ。安保理からも強い行動をする国も現れているからね」

 

局長である蒼崎局長のことばに私は安堵の表情を浮かべた。これでネルフはあの町に手を出すことはないだろう

すでにとんでもない実例を作り出してしまったのだから。これでもう1度手を出せばどうなるか

国連ではネルフに対してかなり強硬な意見が増え始めているが。ネルフ側の工作によって何とか抑え込まれている

しかしそれもどこまで持つか。エヴァのチルドレンが殺人未遂を行ったという事は大きな問題になる

 

「私が盾になって彼女のことを守れるなら、十分です。彼女にはあの町で静かに暮らすことが最も大切な事です」

 

もし彼女が傷つけば、地球規模の被害が出るかもしれない。それだけは避けなければならない事なのだ

 



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第110話

ティアさんの車によって私とユウさんは旅館に到着した

車から降りるともう日が暮れ始めた。夕焼けが綺麗に見える時間を迎えそうだった

今日も旅館には多くのお客さんが泊まりに来ていた

お客さんが多い事はお仕事があるという事だからいい事だけど。

私にとっては静かな空間が少なくなるという事であまりうれしくない、ちょっとした板挟みだ。

 

「カオリ、夕食はまた部屋に運ぶから。ユウさんと一緒にとって」

 

受付カウンターにいたお母さんにそう言われて私とユウさんは別館の自室に向かった

その間も今日の釣りの話で盛り上がりながら楽しく戻ることができた

部屋に戻ると私は道具を綺麗に清掃して片付けると冷蔵庫からいつものように缶コーヒーを取り出した

ロッキングチェアにすわると、またいつものように飲み始めた。夕食が届くまでには少し時間がかかる事は分かっているからだ

コーヒーを飲んでいるとユウさんが入っても良いかな声をかけてきた。私は大丈夫ですよと言うとユウさんは入ってきた

 

「また缶コーヒーを飲んでいるんだね」

 

「好きなんです。綺麗な夕日を見ながら缶コーヒーを飲むのが」

 

「そういう姿。さらに君の美しさを出しているよ」

 

ユウさんも缶コーヒーもらえるかなと聞いてきたので私は冷蔵庫に入っていると言った。

缶コーヒーには少しこだわりがあっていつも通販で注文している。そのため、ストックはかなりある

私は缶コーヒが好きだ。それもかなりのこだわりでいつも特定のメーカーの物しか飲まない

多い日で1日で3本も飲む時がある。カフェインの取り過ぎには注意をしているつもりなのだが

 

「カオリちゃんは缶コーヒーが好きなんだね。冷蔵庫にこんなにあるなんて」

 

冷蔵庫には最低でも10缶は入っている。

 

「だって缶コーヒーが好きなんです。日によってブラックとかも飲みますし」

 

するとベランダのドアから物音がした。子猫がそこにいた。白いネコでいつも私のそばに真っ先に来るネコだ

 

「しかたがないわね」

 

私はロッキングチェアから手を伸ばすとドアを開けた。するとネコは私の部屋に入り膝の上に乗ってきた

いつものの何でもない光景だ。

 

「猫は君のことが好きみたいだね」

 

「ネコさんは私のことを好きみたいだから。いつものことです」

 

1頭が入ってくるとその親猫が近づいてきた。その猫も私の部屋に入ってきた

私はその猫も抱きかかえると膝の上に乗せた。2頭のネコは丸くなって眠り始めた

静かな時間の始まりだ。ユウさんもコーヒーを飲み終えると部屋を出ていった。

 

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第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「国連が決断を下したよ。あの町を内密にだけど国連直轄の町にする。政府も了承済み。彼らも責任をすべて被るのは嫌みたいだね」

 

「ですがこれでよりあの町が守りやすくなることは間違いありません。国連の傘下に入るという事はネルフでさえ簡単には手が出せない」

 

私の理想はかなった。あの町は半永久的に静かな町であり続けることができる。

私の願いはそれだ。我が主であった彼女が求める物はそれなのだから

 



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第111話

夕食を食べ終わると私はまた眠りに着こうとした

いつもの生活に戻りつつあった。私とネルフの戦争は終了を迎えた

これでこの町は静かなものが保たれることになることは確実だろう

町は静かなままだ。平和なものになることが分かる。

あの地獄のような日々からは考えられないような状況だ。

静かな町に静かな生活。それこそが私が求めた真の生活だ

 

「今夜も平和ね」

 

私は布団で横になりながらもテレビを見ていた。

ニュース番組だったが国連でネルフに対する廃止論が出ている事が強く報道されていた

きっとルミナさんたちの行動によるものであることは分かっていた

 

「私にとってこの町さえ安全であれば他はどうなっても気にする事じゃない」

 

そう、私にとって大事なのはこの町だ。それ以上でもそれ以下でもない

平和が保たれているならこの町で過ごしていきたい。これまでも、これからも

私は布団に入って眠りについた。静かな夜に綺麗な月。平和である証だ

 

 

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ルミナさんの自宅

 

「ええ、彼女ならもう眠っているはずよ」

 

『引き続き警戒態勢を維持つつも、戦闘態勢は保ってね』

 

ティアナはルミナと電話会議をしていた。

 

「心得てるわ。もしもの場合の備えも完璧。国連軍と戦略自衛隊も警戒は厳重に行っているから心配ないわ」

 

『でも心配なのよ。もしかしたらまたネルフが手を出してこないかどうか。彼らのしぶとさはよく知っているでしょ』

 

「まぁね。とにかくあなたは今は体の回復を。こっちのことは私に任せて。すべて問題ないように処理するから」

 

『わかったわ。カオリちゃんのこと。よろしくね』

 

「了解」

 

彼女の望んだ世界が今の世界なのかどうかについては私にはわからない。

だが、ルミナは以前こんなことを漏らしていた。真実の平和では彼女は救えないと

ただ欺瞞に満ちた平和でも、平和には変わりないと。だから今のこの世界があるのだと

ようやく勝ち得た平和ですら、ルミナにとっては真実の平和とは言えないのだ

まだ欺瞞に満ちた平和だと思っているのだ。だが彼女はそれでも良いと思っていたようだ

静かな町が保たれるなら、欺瞞であろうと問題ないと。彼女が静かに暮らせるならルミナにはそれ以上何も必要ない

ルミナが願うのはただ1つだ。ルミナは彼女のためならどんな負担も背負うつもりでいる事は分かっていた

それだけの覚悟を持っていることもよく理解していた。願いはただ1つなのだ

この町の平和と彼女の安全。それさえ守れればあとはどうなっても良いと考えている人間だからだ

彼女にとって世界はどうでも良いのだ。カオリちゃんの安全さえ守ることができればそれで満足なのだ

すべては彼女のために行動をしているのだ

 

「それにしても、あなたはすべてカオリちゃんのために捧げているのね」

 

『それが私の存在理由だからよ。彼女を守るためならどんな犠牲も払うわ』

 

 



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第3新東京市(パート4)
第112話


第三新東京市 ジオフロント ネルフ本部 総司令官執務室

 

「碇、国連はかなりうるさく言ってきている。これ以上はあの町に手は出せないな」

 

冬月の言葉は言われなくても分かっていた。

国連の安全保障理事会はこちらの工作で何とかネルフ廃止論を撤回させている

 

「もう私は彼女に関わるつもりはない。ユイは別のようだが」

 

「ユイ君は答えを見つけたいんだ。仕方がない」

 

私にもその事は分かっていた。ユイは答えを探していたのだ

真実を知るのも怖いが、それでも謝りたくて仕方がないのだ

でもその機会はもう2度と訪れる事はないだろう。国連からあの町には手を出すなと

そう指示が出されてしまった。よほどの秘密を抱えているようだ。彼女には

国連ですらそれらの真実を怖がるほどの物があるのだろう

ネルフですら掴むことができないほどの秘密。彼女が使徒であるという可能性

だが、それならなぜ国連はネルフにその事を連絡しない事なのか。使徒に対する恐怖は分かっているはずだ

にもかかわらずしてこないという事はそうではないということ。だが、国連は何かを知っていることは間違いない。

それを一流ともいえる保安諜報部が探り出すことができていないという事は考えられない。

 

「加持君が情報を押さえているのだろうな」

 

「あの男は信用できない。監察局と通じている可能性がかなり高いからな。フィフスの少年も同様だが」

 

「渚カオル。シンジ君に最も関係があったからな。もし彼女が碇シンジだと知っているならすべての辻褄が合う」

 

冬月の言うとおりだ。あの少年の行動は明らかに異常だ。何か目的があって行動していると考えるのが妥当だ

それに加持リョウジもシンジとも深いつながりがあったことは確認されている。協力体制を敷いている事は計算できる

となると保安諜報部に新しい鈴をつける必要があった。鳴らない鈴に用はない。新しい鈴が必要だ

そこで彼に近い人物を当てる事にした

 

「失礼します」

 

「加持ミサト。命令に応じてます」

 

「夫を監視するのはあまり好きではないと思うが彼がネルフに危険因子であるかどうかを判断してもらいたい」

 

おまかせ下さいというというと彼女は執務室を出ていった

 

「妻が敵にまわるとはな」

 

「冬月、きれいごとは捨てろ。我々に必要なのは正確な情報だ」

 

それがなければ判断することができないからなと私は言うと以前は冬月に任せていたデスクワークを始めた

 

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ネルフ本部 通路

 

「まったく、加持の奴を監視することになるなんて思ってもみなかったわ」

 

私も今はほとんど自宅で家事などの勉強をしている事がほとんどだ

昔と違って少しは料理は上達したつもりだが。食事は夫に頼り切っているところが大きい

 

「何を考えているのかしら」

 

すると後から突然声をかけられた

 

「俺の見張り係をすることになったらしいな。ミサト」

 

「加持!」

 

「これでも保安諜報部の責任者だぜ。噂話は筒抜けだ」

 

「だったら率直に聞くわ。何を企んでいるの?」

 

「それは秘密だ」

 

まぁせいぜい頑張る事だというとその場から歩き去っていった

 

「良いじゃない。やってやるわよ。何としても尻尾を掴んでぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 



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第113話

第三新東京市 ジオフロント ネルフ本部 休憩室

 

そこでは僕と加持さんが背中を合わせながら座っていた

 

「加持さんにもマークが?」

 

「そのようだね。どうやら碇司令はかなり状況を理解しているようだよ」

 

お互い独り言を放すかのように会話を続けた。加持さんにもマークがつくとは想定内の範囲の事だ

問題はこれからの行動だ。どうやってネルフの情報を監察局に提供するか。それが僕の今の使命だ

 

「お互いまずい状況ですね」

 

「君の方がかなり危険な立場だがね」

 

「僕はまだ子供と思われていますから。それにチルドレンです。代えの利かない。利用価値があるまでは放置してくれるでしょう」

 

「カオル君。君は挑戦的だね」

 

「リスクがある事は覚悟していますから」

 

そう僕はリスクがあることを承知でこの任務を引き受けた。ネルフの情報を監察局に流すという任務を

そうでなければこんなことをやるはずが無い。すべての過ちはあの時に犯してしまったのだ

それを償う時がきたのだ。だからこら僕はネルフを裏切ったのだ

 

「すべては彼女のために」

 

 

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ネルフ監察局 局長執務室

 

「そう、2人にマークがついたわけだね」

 

『今後の連携に支障が』

 

「今は放置しておいていいよ。渚カオルが裏切る事はないからね。ルミナ」

 

『あの2人をそこまで信頼する必要があるとは思えませんが』

 

局長である蒼崎はルミナと電話で連絡を取り合っていた

加持リョウジと渚カオルにマークがついたことに対する対応協議だ

 

「今は必要だよ。ネルフの情報を得るためにはね。それに彼らは彼女たちに救われた」

 

恩を仇で返すとは思えないからねというが、僕の言葉にルミナは信頼感0ですといった声で分かりましたと答えた

彼女は現在地上の病院で療養中だ。幸いな事に、あと少しもすれば仮復帰できる

彼女には重大な任務があるから早く復帰してもらわないと困る

 

「まったく世の中ままならないものだね」

 

 

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第三新東京市地上部分 第三新東京市立総合医療センター

 

私が病室で入院をしていると嫌な来客があった。彼女を傷つける存在である碇レイだ

 

「よく私のところに顔を出せたわね。あれだけのことをしておいて」

 

「真実を教えて。どうして彼女はあの町で過ごす事が、いえ、あの町という箱庭が存在するの」

 

「あなたにはわからないでしょうね。一生かかったって理解できないわ。あの町にある真の意味はね」

 

「だったら教えて!」

 

「答える必要はないわ。あなたには特にね。サードインパクトの時に最大の絶望を与えたあなたには特にね」

 

どうして知っているのという表情を浮かべていた。あの時の事を知っている者はかなり限られる

それを知っているという事はネルフの真実も知っているという事になる。彼女はすべてを知っているのだ

ネルフも。いや。世界の真実も

 

「あなた達ネルフがした事は彼女には到底許されることではないわ。黙って引き下がる事ね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・真実を知りたいの」

 

「あなたにその価値はないわ」

 

もう話すことはないというと、上司であるシエラ・ドーレス部長が入ってきた。

 

「碇レイ。あなたは私の大切な部下を傷つけた。さっさと出ていきなさい」

 

上司の命令口調にこれ以上は無理と判断したのか出ていった。

 

「ルミナ、そろそろ私にも真実を話してくれても良いと思うけど」

 

 



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第114話

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・口は堅いですか?」

 

「局長からの承諾書をもらってきたわ。ただし、局長はこういった。私の口からは話す権利はないと。知りたければあなたに聞けと」

 

私は書類を確認した。署名欄に書かれた筆跡は局長のものであることは間違いない事が確認できた

 

「水川カオリは碇シンジ。そして私はエヴァンゲリオン初号機の生まれ変わりです。あの方によって作られた存在」

 

そう、私はサードインパクトの時に生み出された存在。彼女によって。しかし彼女はその事を忘れてしまった

あまりの悲劇を見てしまったために記憶を失ったのだ。

その時の記憶を。詳細な記憶を。サードインパクトをした事は覚えていても

詳細の内容は覚えていない。それもまた彼女が自分を守るための物だ

 

「その事、ティアは?」

 

「一部は知っていしますが。詳細までは」

 

そう、ティアには詳細な事実までは話はしていない。

彼女にまで迷惑をかけるわけにはいかないと判断したからだ

これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと。ただでさえ迷惑をかけてきたのだから

 

「あなたはすべてを背負って生きていくつもり?」

 

「それが彼女が望んだ結果ですから」

 

そう。そのために私は存在する

 

「あなたはそれで満足なの?」

 

「これが私の存在意義ですから。彼女が望むまで今の状態であの町で静かに過ごしてもらうつもりです」

 

「わかったわ。けがはあと少しもすれば治るだろうからそうしたらあの町に戻りなさい。彼女を守るのよ」

 

分かっていますと返事をすると上司は出ていった。私の願いは決まっている。

彼女が平穏に生活が遅れる事を望むことだけだ。それ以外なら私はどんな犠牲を払っても構わない

 

「主を失うわけにはいかないんです。今のこの世界の安定があるためには」

 

そう、もし彼女に何かあれば再び悲劇が繰り返されることになる。無知というのはあまりにも罪というものだ

だが知らない事が幸せという事もある。彼女にはサードインパクトの時の記憶を思い出してほしくない

できる事ならあのまま静かに暮らしてほしかった。でもその願いはもう叶うものではないという事は確実だ

これから嵐が吹き荒れることになる。それを乗り切るしかない。何としても

それがどんなに苦難な道であろうと彼女には負担を極力かけないで対処する。それが私の使命だ

 

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海岸の町 旅館 カオリの部屋

 

私は寝ていたが何故だか目が覚めた。外ではお月様が綺麗に輝いていた。でも私にはそれが好きになれない

前にも言ったがあの時の記憶を思い出してしまうからだ。でも何かが欠けているような気がしてきたのは最近の事だ

きっとルミナさんなら何かを知っているはずだが。彼女は以前言った。いづれ知ることになると

その時が来るのを待つしかないのだろうか。私はあの時の記憶を失っている

サードインパクトを起こしたことは覚えていても詳しい事は覚えていない。いや思い出せないのだ。

思い出そうとしても頭を痛めてしまう。頭痛が激しいのだ。思い出すたびに

なぜ思い出せないのかわからない。このことは誰にも相談する事はできなかった

相談すれば迷惑をかけるような気がするからだ。だから誰にも相談しない

自分で解決するしかないのだ

 

「どうしたら思い出せるのかしら」

 

 



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海岸の町(パート9)
第115話


翌朝私はいつものように起きた。またしても何でもない1日の始まりだ

今日も朝ご飯を食べようと食堂に行こうとすると、私の部屋だけに設置されている郵便ポストを見た

そこに1枚の郵便が入っていた。珍しいものだ。私に郵便なんて。私に郵便が来ることはまずないからだ

郵便で連絡を取り合うような相手がいないし、仮に連絡を取り合うとしたとしても直接この旅館に連絡するか

それかこの旅館に来て私と話をするかのどちらかを選ぶことがほとんどだ。郵便など選ぶ人などこの町にはいない

私はポストから手紙を取り出すと差出人の名前を見て嫌になった。碇ユイと書かれていた。しかし読まないわけにはいかない

私はあえて読むような事はしないで金庫に収めるといつも通り食堂に向かった

 

「お母さん、郵便が来ていたけど」

 

「どうしようかと思ったけど、一応ね。カオリ、あなたがどんな選択をしても良いからね。朝食は食堂で食べると良いわ」

 

私はありがとうと言うと食堂に向かった。すでに食堂でユウさんが食事をとっていた

 

「カオリちゃん。おはよう」

 

「ユウさん。おはようございます。早いですね」

 

まだ午前8時30分だ。こんな時間に出てくるお客さんは少ないから食堂は比較的に空席が多い

私はいつものように少なめの朝食を食べる。するとユウさんが食べ終えると私の横の席に座りある事を提案してきた

よかったら、今日も釣りに行かないかなと。でも私は断った。

1日ここにいたい気分だった。それにお酒の注文は昨日しているので今日はないはずだ

今日はネコさんたちと遊びたいと思っていた

なんて平凡な願いだと思うかもしれないが私にとってはかけがえのないものだ

私はいつものように朝食を食べ終わると、事務室に行きネコのエサの缶詰と専用の皿を取り出した

それを持って中庭に向かった。するとすでにネコさん達は待っていた

いつものように缶詰の中身のネコさんたちのエサを皿に盛り付けるとそれを地面に置く。

私は近くにあるベンチに座ってその様子を見ていた。平和だなと感じる瞬間だ

今日もある程度食事を終えた子猫が私の足元で体を擦り付けつけてきた。

私は仕方なく、抱きかかえると私の膝の上に乗せた。するとすぐに丸くなって眠りだした

まったく仕方がないなと思いながら、すると他のネコさん達も近づいてきたのでベンチの上に抱き上げるとイスに乗せた

今日もまた、ベンチの上にはネコさん達と私とで満席だ。これもまたいつもの事。

幸せを感じながらも少し不安な事もあった。ネルフだ。彼らが簡単に引き下がるとは思えなかった

何らかのアクションを起こしてくるのではないかと思っていたのだ。世の中何が起こるかわからない。

 

 

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第三新東京市 ジオフロント 監察局 査察部 部長執務室

 

私は部長として改革に励んできたが、ルミナの語った真実には驚くしかなかった

なぜ国連が彼女の意見を重視するのかの理由が分かったからだ。事実上、もし今あの子にもしものことがあれば世界が滅ぶ

それだけはどの国のリーダーも避けたいのだ。だからあれだけの予算が投じられているのだという事がようやく理解できた

 

「それにしても真実は残酷ね。このことをネルフが知れば、さぞかし揉めるでしょうね」

 

それだけは私にも容易に想像ができた。国連ですら恐れるのにネルフが知ればさらなる事態悪化につながることは確実だ

 

「ルミナは必死ね。ティアも。私も頑張らないと」

 

2人を最大限バックアップする事で世界が安定するなら、それで良い事だ

 



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第116話

海岸の町 旅館の中庭

 

私はネコさん達のお相手を終えると自分の部屋に戻り掃除を始めた

掃除をある程度終えると金庫を開けて銃の手入れを行った。ユウさんに言われたのだ。

銃の手入れを怠れば死が待っていると。私は『死ぬこと』はないが、世界に影響が出る

だから自分を守るためには必要なのだ。でも私は守られているばかりだ

まるで鳥の巣から羽ばたこうとしない鳥のように親鳥に守られている。そんな風に感じる

でも、そんな私でも今は良いと思っている。間違っていたら、謝って道を変えればいい

そうして、いつかは巣立っていくのかもしれない。でも私にはまだ巣立つだけの勇気はない

今はこの海岸の町という名の鳥の巣で、居心地よくいる方が良いと思っている

 

「今日は何をしようかな」

 

私はある事をしようかなと思った。それは海の中を泳ぐスキューバダイビングだ。

もちろん私は資格も持っている。ちゃんとこの町にあるダイビング学校で学んだのだ

その時に一通りの機材をお父さんは買ってくれたので、物置きに保管してもらっている

実はこの旅館、下に降りられる階段がある。もちろん知っているのはこの旅館の関係者だけだ。

裏口を使って行かないといけないので宿泊者は知る事は無いし見る事もできない。

さらにこの旅館の下には小さな鍾乳洞があり、ダイビングスポットとしてはちょうどいい深さと長さを持っている

私は部屋で水着とスプリングタイプのウェットスーツを着用。上から服を着て隠すと部屋を出ていった

 

「今日は久しぶりに機材を点検して、良かったらやってみよう!」

 

私はお父さんがいる受付のカウンターに行くと、機材を出してもらうようにお願いした。

 

「お父さん。ダイビング用の機材、出してくれる?」

 

「久しぶりにダイビングに行くのか?下の鍾乳洞にでも」

 

「うん!少しくらいなら良いと思って。それにたまには下の鍾乳洞に潜るのが好きだから」

 

お父さんはすぐに裏口近くにある物置きに向かった。私もあとについていった。

物置きに到着すると機材を出してくれた

 

「下まで降ろしてやる。1人じゃ無理だろ」

 

その通りだ。機材だけでも何キロもあるのだ。

簡単に私1人の体力では下ろせないのでいつもお父さんに下ろしてもらっている

お願いしますというとお父さんと一緒に降りていった。下に到着するとそこにはちょうど砂浜がある。

小さな砂浜だが潜りはじめるにはちょうどいいくらいだ。

私は下ろしてもらった機材の最終チェックをして問題ない事を確認する

 

「それじゃ、潜ってくるね。1時間ほどで戻ってくるから」

 

「わかった。なら1時間後にまたここに来るからな。ちゃんと帰って来いよ」

 

「了解です!」

 

私は敬礼をして返すと、お父さんはまったくといった表情で頭を撫でる

そしてダイビング装備をすべて装着すると潜っていった。念のためこの鍾乳洞にはロープが張られている。

迷ったりしたときのことを考慮してだ。そんなことはまずないのだが、緊急時のために設置されている。

これもお父さんがしたのだ。お父さんの趣味もスキューバダイビングなのだ。

共通の趣味なのとお父さんの心配症でこのロープが張られている。

別に完全に海水に埋もれる鍾乳洞ではなく上には空気の層が残った半分海水だけに使ったものなのだが

それでも心配らしい。お父さんに愛されていると思えば嬉しい事だが。そんなことを思いながらも私は潜っていった

 



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第117話

私は鍾乳洞の中をスキューバダイビングで楽しんでいた

タンクには初めから1時間分は潜っていられるぐらいの空気が入っている。

まだまだ優雅な時間を過ごしていられる。ここは何者にも邪魔されない空間だから好きだ。ただ、魚たちとの空間。

ところどころ上から太陽の光が入ってきて綺麗な青色の海が広がっている

鍾乳洞と言っても上の天井部分に穴が開いている部分があるのだ

魚たちのエサを持ってきたためそれを途中で撒きながら泳ぐと彼らは自然と寄ってくる

魚たちとの優雅なダイビングの時間。魚たちは人と違って裏切るようなことをしない。

自然と共に生きて運命を自ら分かっている。だから好きなのだ。魚釣りも同じに

彼らは自らの運命が分かっているのかもしれない。もしそうだとしてもそれは人が考えている傲慢な考えなのかもしれない

でも今一緒に泳いでいる魚たちは自然と同じだ。何物にも代えることができない自然の生き物。

彼らと一緒にいる時間は極めて貴重だ。そして鍾乳洞の最深部の奥に向かって泳いでいく

その途中である生き物と出会った。それはイルカだ。種類は珍しく。

この界隈でしか生息していない天然記念物にも指定されている種類の物だ

彼らもこの鍾乳洞のことが好きなのかそれとも私を追ってきているのか。

もしかしたら私の本当の正体を見抜いているのかもしれない。

人には見ぬ事はできない事でも自然と共に生きている生き物である彼らにはわかるのかもしれない。

潜って10分ほどで一度浮上した。そこには大きなドームがあった。

ダイビング用の装備の酸素タンクからつながっているレギュレーターを口から外して、声を出す

すると綺麗に反響しあっている。まるで山で起きるやまびこのような現象のように

当然といえば当然なのかもしれないが

 

「ここはあいかわらず綺麗ね」

 

すこし太陽の光が入ってくる部分があるため海の海水の色が綺麗に反射していた

私は持っていた魚たち用のエサを巻くと多くの小魚が寄ってきた。

私は再びレギュレーターをくわえると潜っていった

そして鍾乳洞にある最深部にある部分に向かっていった。ここから先は少し暗いためダイビング用の懐中電灯と

ロープを頼りに潜っていった。ここから先は少しリスクがあるためお父さんもよく注意するようにといつも言われている

初めて潜った時は少しパニックを起こしてしまったことがあるくらいの難所だ

でもここを超えると綺麗な光景の部分が続いている場所に出る。

そこが最も美しい光景が見られ居るところなのだ。だから目指しているのだ。

その場所がまるで私にとってはお母さんやお父さんに囲まれている場所の次の幸せを感じれる場所なのかもしれないからだ

自然の中で生きていると幸せというのが何なのか考えさせられることがよくある

どうしてなのかは私にもわからないのだが。でも考えてしまうのだ。どうしても

 



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第118話

第三新東京市 碇家 リビング 朝食の時間

 

私ははっきり言って低血圧だから目覚めは良い方ではない

でも最近は悩み事ばかりで眠れない事が多いので睡眠薬を処方してもらっている

あの事件から私達は完全にこの街から出る事を禁止された。

どうしても知りたいのに私達にはその権利はもうないのだと。

さらに言えば最近は監察局の職員からの監視が強化されている

それほどまでにあの町には大きな秘密があるのだ。いえ、どんな秘密はもう分かっている

でもそれを守ろうとする人間が多すぎる。ネルフ内にも。私達と同じ立場にいるはずの渚カオル

彼もそのうちの1人だ。あの町の秘密をかなり知っているようだ。だからネルフからの監視が強化されている

本人もそれを自覚しているようで最近は大人しくしているが。私達の行動を監察局に報告している事は分かっている

 

「どうやら、最近僕は君に嫌われているみたいだね」

 

「事情を知っているのに説明をしてくれないから。どうしてなの?」

 

「僕には言う立場にはないからね。許可されていないから。言っておくけど拷問されても吐かないよ」

 

そう言うといつものように朝食のトーストを食べ終わるとすぐに高校に向かった

マンションで隣の部屋に住んでいるアスカも私が出るのと同時に家から出てきた

 

「レイ、あいつ。何か喋った?」

 

「いえ、秘密を抱えていることは間違いないけど」

 

「私達の知らない事を知っているくせに知らないふりなんて最低ね」

 

そう、彼女の言うとおりだ。私達は答えを求めている

その答えを持っているのは彼だ。おそらくではない。確実に答えを持っている

にもかかわらず答えてくれない。真実を知るのがそんなにいけない事なのか

ようやく平和になったこの世界で安定した世界。だから真実を知ろうとした

碇君の真実。サードインパクトの真実。そのすべてを知っているであろうあの女

それらを知ろうとすることを阻む固い壁が、まるで鉄の壁のように高くたっている

 

「どうするつもり?もうこの街からは出る事はできないわ」

 

「わかっているわよ!今手段を考えているところよ。真実を知る方法ね」

 

「カオルを徹底的に攻めてみない?強引にでも」

 

「あいつは絶対にダメ。私達の行動が監察局にすべて筒抜けになるだけよ。下手に接触したらすべて終わってしまうわ」

 

確かにアスカの言うとおりだ。すべて彼に喋ってしまえばすべて筒抜けになってしまう

そういったことはやめておきたい。これは私とアスカとの共同作戦なのだから

他に洩れる事はあってはならない事だけど、今の私達にはもうどうする事もできない。

アスカはバイクは返されたが発信機が取り付けられた為、市外には出れない

もう詰まれている状況なのだ。

 

「とにかく今は冷静に考えましょう。アスカ」

 

「そうね」

 

今は冷静に対応する事が必要だ。そうでなければまたミスをすることになることは確実だからだ

 

 



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第119話

海岸の町 旅館の下の鍾乳洞

 

海の中をスキューバダイビングで洞窟の中を進んでいた。

30分ほど潜っていくと鍾乳洞の最深部に到着する。私は引き返して、戻っていった。

その間も魚にエサを与えながら魚たちと一緒に泳いでいた。そして1時間があっという間に経過していった

そして砂浜に戻ると、お父さんが待っていてくれた。

 

「戻ってきたな」

 

「うん。楽しかったよ!」

 

「そのようだな。1時間ちょうどだ」

 

ダイビング装備を外すと、お父さんに預けた。お父さんは私にバスタオルを投げてきた。

それを受け取ると、髪の毛についた海水をふき取る。お風呂に入って塩水を流さないといけない事は分かっている

私とお父さんは一緒に元来た道を戻るように階段を上がっていった。

旅館の裏口に到着すると私は旅館の外を回る形で別館に入った

自分の部屋に戻るとすぐに室内にあるお風呂に入った。

体についた塩分を流すためだ。髪の毛がぎしぎしとするのを防ぐためだ

1時間という時間は短時間かもしれないが私にとっては最も楽しい時間だった。

私はお風呂に入り終わり、服を着用すると腰まで延びた髪の毛に付着した水をドライヤーで乾かした。

 

「やっぱり切ろうかしら?でもお母さんは長い方が美人に見えるっていうし」

 

そう、私がロングヘア―なのはお母さんがその方があなたは綺麗だからというからだ

私にとってはあまり綺麗に見られることは好きではないのだが

お母さんをがっかりさせるのは嫌だし、別に不便さを感じていないので今の状況を維持しているのだ

身だしなみを整え終えて、テレビでも見ようかなと思った時ドアがノックされた

ユウさんが声をかけてきた。私は何かなと思いながらもドアを開けた

 

「何かありました?」

 

「よかったら、これから一緒に缶コーヒーでコーヒーブレイクタイムでもしないかなと思ってね」

 

「良いですよ。私もこれから何もすることないので。のんびりとしようと思っていたので」

 

私は彼を招き入れると冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。2缶分。

1つをユウさんに渡した。

 

「ダイビングに行っていたんだね」

 

「私の趣味の1つなので」

 

ベランダにはダイビングに使ったウェットスーツが陰干しで乾燥させられていた

お父さんに海水の塩分を洗ってもらった後、外から私の部屋のベランダで乾燥をいつもお願いしているのだ

 

「海が好きなんだね」

 

「お魚さんは裏切らない。それに海は広いですし、きれいなので」

 

海は生命の宝庫だ。ただ、あの時のことを少しは思い出してしまうので

でも嫌いにならないのは、ここの海が美しい光景だからだ。

私とユウさんは缶コーヒーを飲みながら話を続けた。

ユウさんも今度良かったらダイビングを一緒にしようかなといってきた。

昔の経験でダイビングは慣れたものだと言った。工作員だったころの名残。

彼はありよあらゆる状況に対応できるように訓練を行っていたのだ。当然といえば当然だろう。

 

 



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第120話

お昼の時間を迎えて私とユウさんは食堂でランチを食べていた

のんびりとした時間だ。今日はお客さんが少ないのか、厨房も比較的余裕があった

私は鮭定食だ。ユウさんも同じメニューを食べているが量が全然違っていた。

ユウさんの方が圧倒的に多かった。私は明らかに小食用のメニューだ

いつもの昼食だ。食事もある程度終わりに近づいた時にユウさんがこんな一言を言ってきた

 

「決めるのは君だよ。誰にも強制される言われないからね」

 

「ユウさん」

 

「決断は自分が選んだベスト。これは昔馴染みから教えられた言葉だ」

 

「それって」

 

「カオリちゃん。いつまでも箱庭でいるのも良いけど、小鳥のように巣から飛び立つ勇気も必要だよ。それを忘れないように」

 

ユウさんはそう言うと食器を返して、食堂を出ていった。私も自分の分の食器を返すと、自室に戻った

そこで考えた。冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して、それを持ってロッキングチェアに腰を下ろした

コーヒーを飲みながらいろいろと考える事にしたのだ。

 

「決断は自分が選んだベスト、か」

 

その言葉は私の中でまるでぐるぐる回るかのように頭の中を回り巡っていた。

確かに今がチャンスなのかもしれない。重要な。これを逃したらもう2度と、チャンスは巡ってこないのかもしれない

 

「どうしようかしら」

 

さらに私はある本に書かれていた言葉も頭の中をめぐっていた。

何が守るに値するか、それは自分の意思で決める物だという言葉だ

確かに何が守るに値するかは自分で決める物だ。そうでなければ、意味がない事はよく理解していた

そしてユウさんの言ったもう1つの言葉。小鳥のように巣から飛び立つ勇気も必要。確かにそれも必要だ

どちらも今の私には欠けているものなのかもしれない。

 

 

-------------------------------

 

相葉ユウの部屋

 

「確かに君の助言通り。伝えておいたよ。でも良いのかい?君は箱庭の中にいてほしいと思っていたんじゃないのかな?」

 

『状況に変化が生まれれば態度も変える。当然の理屈だと思うけど』

 

僕はルミナさんと携帯電話で話をしていた。さっきの言葉は彼女に伝えるように頼まれたのだ。

あえて僕の口からという形で。彼女からの口からだと余計な詮索を入れる可能性があると思ったからだろう。

だから僕を利用した。その賭けに僕はあえて乗った。確かにこれが最後のチャンスかもしれない

本当に意味で。そしてこれを利用したら彼女がネルフという獣に怯え続ける事を防ぐことができるかもしれない。

そう考えたのだ。

 

『彼女が自由に巣から飛び立つ最後のチャンスよ。きっとね』

 

「僕も同意見だよ。これが本当に最後のチャンスだよ」

 

『珍しいわね。私とあなたの意見が一致するのは』

 

「本当だよ。僕も驚いているよ。それで君はどうするつもりだい?」

 

『すべては事の流れるままに。そして彼女が最も最良と思える判断を下せるように情報を提供する。それだけよ』

 



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第121話

私はどうするべきなのか悩んでいた。缶コーヒーを飲みながら。

決断は自分が選んだベスト。その言葉が私の頭の中を駆け巡っていた。確かにその通りなのかもしれない。

私はこの箱庭の町で暮らし続けるのも良いかもしれないが。それではいつまでも怯えたままの小鳥だ

それでは大人の鳥になる事はできない。永遠に。

 

「どうしたら良いの?」

 

そのとき、私はあの手紙を思い出した。私はそれを取り出すと少しびくつきながら内容を読み始めた

あの碇ユイからの手紙。内容はシンプルなものだった。お互いに本音で話をしましょうと。

それも第三新東京市のどこかの喫茶店で今回はネルフも抜きで個人的に。組織などを利用しないで

私はそれを読んでどうしようかと悩むことになった。選ぶ時なのかもしれない。

自分の運命を。私の未来のためにも。永遠にこの町で過ごすに

人生でたった1度きりのラストチャンス。この海岸の町で暮らし続けるための選択肢なのかもしれない

よくドラマであるような運命の選択の時。その時が迫っているのかしれない

 

『トントン』

 

私はすぐに手紙を金庫に隠すとドアを開けた。そこにはお母さんが立っていた。

 

「カオリ、あなたに会いたいって人が来ているの。私達としては追い返したいけど、あなたの意見を聞いてからにしたいの」

 

「誰がきたの?」

 

碇ユイ、あなたの血のつながった本当の家族よと私のお母さんは嫌そうに言った

お母さんも私が彼女のことを毛嫌いしている事を良く知っている。だからあんな言い方をしたのだろう

私は会うべきかどうか悩んだが、ラウンジで少しくらいなら話をしても良いと返事をした

遅かれ早かれ話をしなければならない時が来るのだ。なら今、話をした方が良いと思ったのだ

その代わりある条件を付けた。それはユウさんとティアさんの同席だ。もしもの場合に備えておいた方が良いと判断した

彼女だけで来ているという保証はどこにもない。もしかしたらまた誘拐目的で来ている可能性もある

ユウさんは同じ隣の部屋に住んでいるので、ティアさんは数分でやってきた

 

「お久しぶりですね。カオリです。碇ユイさん。またお会いできましたね」

 

「今回は私1人だけよ。護衛もなし。個人的にあなたと話をしたかったの」

 

「前回は違ったと?」

 

私の棘のある言葉に彼女は表情を硬くした。確かにその通りだ。前回と今回とでは状況が全く異なる。

前回は誘拐。今回は友好的に。まるで手のひらを返したかのような対応にやり方だ

 

「あなたはどうしてこの町にいる事を望むの?」

 

「私がそう願っているから。それは今までも変わらないしこれからも変わらない事実」

 

「箱庭でも?」

 

「箱庭でも、生きている事には変わりない。この町が私を追い出そうとするまでは永久にこの町で生き続ける」

 

箱庭でも生きているという事実は変わる事は無い。だからこそ、この町で生きているのだ

それが私の望みなのだ。この町が私を受け入れ続ける限りこの町で生き続ける

それこそが今の私の生き方だ

 

 



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第122話

海岸の町 旅館のラウンジ

 

私は今、実の母親。碇ユイと正面と向かい合って話を始めようとしていた

 

「私にとっては、この箱庭は最高の箱庭。この町で生き続ける事が私のすべて」

 

その言葉に碇ユイは表情を悲しみの物を浮かべた。

お腹を痛めて産んだ子供にこんなことを言われてしまっては悲しむのも理解できる

でもこれが真実なのだからか仕方がない。私にとってはここはすべてなのだ。今は。確かに箱庭なのかもしれないが

箱庭でも、生きている限り現実であること事には変わりない。平和な現実な世界で生き続けていることが何よりの幸せな事だ

 

「あなたにもう1度だけあってほしい人がいるの。私の夫であなたの遺伝子上の関係がある父親に」

 

「お断り。私を利用するだけ利用してすべてを押し付けた人間に会うなんて嫌」

 

そう、碇ゲンドウは私のすべてを利用して、すべての責任を押し付けようとしたのだから

そのため、あの男の事を考えるだけでも嫌なのだから。それを超えてもう1度会えなんて嫌な話だ

 

「お願い」

 

「あなたに会うのも抵抗あるのよ。あなたは自分の考えた理想のために私のすべてを台無しにした」

 

これでも譲歩しているのよと答えた。そう、碇ゲンドウと同じで彼女と会う事というのもかなり譲歩した方だ

それでも碇ユイはどうしても私にもう1度、第三新東京市に戻ってほしいといってきた

そんなことはごめんだ。もうあの街に買い物以外に近づくつもりはない。

 

「だったら、主人をここに連れてきて話をしてもらえないかしら。本音で話をしたいの。もちろん、話の場所についてはあなたの希望はすべてかなえるわ」

 

「良いお話ですけど。お断りです。もうこれ以上あの街とかかわりをするつもりはありません。もう2度と利用されるつもりはありませんから」

 

それにまた誘拐されたら困るので。いくらここの警備を強化してもネルフの強引さはよくわかっている。

そリスクは犯せなかった。それにここが私のすべてだ。この海岸の町が私のすべてなのだ

だからこそ、彼女の提案に賛成するはずが無かった

 

「どうしてもだめかしら」

 

「私は決めたんです。この町で生き続ける。平穏で人々の誰もが知っている関係のある人間関係が溢れるこの町が」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

すると今度はティアさんが話に口出してきた

 

「碇ユイさん。あなたに会うだけでもかなり譲歩したんです。これ以上を求めるなら即座に話は中断するだけです」

 

「わかったわ。さっきの話は忘れて。それじゃ、代わりにもう1度だけ私の娘。レイに会ってもらえないかしら」

 

「あなたまでそんなことを言ってくるんですか。彼女たちは私の大事な人を撃ったんですよ。許すと思うとでも」

 

「それはよくわかっているわ。でもお願い」

 

私にとってはお断りな話だ。たとえどんな財宝を積まれても二度とそんなことはしたくない

大切な人を傷つけたのだから当然だ

 

 



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第123話

海岸の町 旅館のラウンジ

 

碇ユイとの話し合いは見事に決裂した。彼女は帰っていった。私はユウさんと一緒に部屋に戻った

 

「これで良かったのかい?」

 

「すべて話をしました」

 

「君は巣立つことを決めたのかな」

 

「私は、まだ、迷っているのかもしれません。それにもう時間がない事も」

 

「君が巣立つのは今が最初で最後のチャンスだよ。きっとね。でも無理強いはしない。自分の意志で決断する」

 

それが大事だよと言うと私を部屋まで送り届けた後、ユウさんは自分の部屋に戻っていった

確かにその通りだ。すべては自分の意志で決断する事が重要なのだ。そうでなければ意味がない。

冷蔵庫から缶コーヒーを取り出すと、ロッキングチェアに座って飲み始めた

私の人生なのだから私が決断する。当たり前のことなのだが、それができないでいるのだから

まだまだ甘いと言われてしまうとそこまでの話なのかもしれない。

でもそれでも今の生活を維持したいと思ってしまうのはいけないの事なのでしょうか

それを知る事が今の私には最も重要な事なのかも

 

----------------------------

 

海岸の町からの帰り道

 

私は車を運転して第三新東京市に向かっていた

私の息子、いや。娘は予想以上に頑固だ。しかしそれは仕方がない。

私が殺してしまったようなものだ。あの子の青春時代を。だからその罪を今は私がかぶっている

そう思うしかなかった。それが現実だ。

 

「もう元の関係に戻る事はできないのね」

 

家族という関係に戻れると思っていた。しかしそれはもう2度とかなうものではないという事は決定的だった

おそらく今後、彼女は私達と会うつもりはないだろう。その決意だけは分かった。

それを私の娘であるレイとアスカちゃんに伝えるのはかなり難しいだろう

本人たちは会いたくてしょうがないのだから。でもそれを彼女は望んでいない

むしろ2度と会いたくないという意志だけははっきりとしている。

 

「残念な結果だけどしょうがないわね。私達はそれだけの罪を犯したのだから」

 

----------------------------

 

第三新東京市 ジオフロント ネルフ本部 

 

「そうか。彼女はそう望んだんだな」

 

「ああ、残念だが。私達の元に戻る事はもう2度とない。仕方がない事だがな」

 

その言葉に冬月は珍しいなといってきた

 

「どういう意味だ?」

 

「お前の物分かりの良さだ。いつもなら強引にでも話を進めるだろう」

 

「シンジにはいろいろとしてしまった。そして、私はすべてを奪った。性別すらな。だからだ」

 

「そうだな。もうシンジ君ではない。カオリさんだったな」

 

「それにだ。もう私の娘として生きるつもりはないという事はユイから聞いた」

 

それで納得するのかと冬月が聞いてきたが、納得するしかないと答えた

そうだ。もう納得するほかない。これがまぎれもない現実なのだから

 



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第124話

海岸の町 旅館 私の自室

 

私はロッキングチェアに座りながら缶コーヒーを飲んでいた

これで私の道はもう決まったも同然だ。もう変える事は許されない事は分かっている

この町で静かに暮らしくいく。そして見守っていくのだ。この世界を。

そしてこれから続くであろう。この世界のあるべき道を見続けていく。

たとえそれが孤独であろうと生きていくしかないが。今は、今を楽しむことにした

目の前の現実を見ていくことも重要だ。将来を見る事も重要ではあるが

 

私には寿命というものはないのかもしれない。神様に等しい存在だからだ

でも神様だからと言って万能ではない。私にはどこか失われた記憶があることがある事はなんとなくわかっていた

それが何かかは今まで分からなかった。でもその事がエヴァ初号機であることを少しずつ思い出しつつあった

それがあまり信じたくなかったがルミナさん関係であることを少しずつ察し始めていた

もしそうなら、彼女はずっと私のことを見守っていたことになる。それはそれで嬉しい事だ

私と同じような立場の人間がいる事が。1人というのは孤独だ。とても耐えられるものではない

人間とは弱い生き物だ。孤独では耐えることができず群れて生きていくしかない

それは神様であり、人の姿をしている私でも同じだ。孤独には耐えられない。

もし私のような存在が居なければきっと死を選んでいたのかもしれない

しかし今は違う。ルミナさんという強い味方がいる。それにユウさんもいる。

だから今は生きていくことができるのだ。

私は缶コーヒーを飲み終えると、再び冷蔵庫に向かい缶コーヒーを取り出した

そして、ロッキングチェアに座り缶コーヒーを飲み始めた。でもなぜだかいつもよりも苦い味を感じてしまった

 

「なんだか今日は苦い1日だった」

 

口で言うのは簡単だが確かにその通りだ。苦い1日だ

 

 

---------------------------

 

海岸の町 旅館 相葉ユウの部屋

 

「そう、無事にこの町を出ていったんだね」

 

『ええ、確認されたわ。これで彼女に手を出す人間はもういないでしょう』

 

僕は報告をしていた。これで彼女は当面安全は確保され

ネルフも黙っているだろう。静かな生活が保障されることは確実だ

今の彼女にとって重要なことだ。

 

『念のため言っておくけど、私の事は秘密よ。あなたを一応信用したから話したのよ』

 

「もちろん心得ているよ。それに彼女も薄々勘づいているようだからね。いづれ答えを出すだろう」

 

『そうならない事を願う事けど』

 

「1つだけ教えてもらえるかな?君はどうして彼女を守ろうとするのかな。まるで主を守る騎士のように」

 

『その問いに答える事はできないわ。特にあなたにはね』

 

そう言うと彼女は連絡を切った。どうやら彼女にも秘密があるようだ。

まだまだ厄介ごとに巻き込まれることは目に見えている。

 

「まだ彼女の人生は始まったばかりだね」

 



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第125話

翌日、私はいつも通り目が覚めた。自分の部屋で。いつものように

まるで昨日の出来事が嘘のように、感じることができた

布団を片付けると、今日は残念ながら雲が多い1日になりそうだ。そのため布団は干す事はできないだろう

とりあえず、私は食堂に行く事にした。部屋から出るとユウさんも出てきた。

 

「おはよう。カオリちゃん」

 

「おはようございます。ユウさん」

 

これから朝食かなと聞いてきたので私ははいと答えた。一緒に食べに行きましょうと答えた

廊下を歩きながら、わたしとユウさんはおしゃべりを楽しんでいった。

 

「それで、今日はどうするのかな?」

 

「この天気ですしね。今日は部屋で1日にのんびりとしています」

 

昨日の疲れもまだ残っていますしと答えた。確かにその通り。

まだ昨日の疲れが心のどこかで残っているのを感じていた。

だから今日は自室でゆっくりするつもりだった。たまにはそういう日も良い

それに今日は天気も悪いし外出するわけにもいかない。。その時私の携帯電話に着信が入ってきた

知らない番号からだったが私は出る事にした。後にそれを私は後悔することになるが

 

「はい。何ですか?」

 

『元気そうだね。カオリさん』

 

その声でせっかくの楽しい予定と気分が台無しになるのをすぐにわかった

 

「どういうつもりかしら?」

 

『君に1つ情報を届けようと思ってね。ネルフは君への手出しを禁じた。ただし聞き分けの良い人物だけではないけど』

 

「何が狙いなの?」

 

『僕はただ君に幸せになってもらいたいだけだよ。それでその筆頭がアスカやレイだよ。彼女たちは必死になっている。君に会おうとね』

 

どうやらまだあきらめていないようだ。私はもう彼女たちと関わるつもりは全くないのだが

諦めきれないのが人間のサガなのだろう。どんなに遠くに離れてしまっても近づいていたい

私はもう遠くに離れておきたいのだが。彼女たちは違うようだ

 

「ならこう伝えてください。もう、会う事は無いでしょう。でも1つだけ。昔は好きだったと。今はもう許せないけどともね」

 

『本当にそう伝えても良いのかい?ますます君に会おうとするよ。きっとね』

 

「過去は過去。今は今です。それに、私はもう碇シンジではありません。それだけは紛れもない事実として受け止めてもらうしかない」

 

そうだ。私はもう碇シンジではない。この町に住んでいる女性に過ぎない。あの頃の僕はもう存在しないのだから

私はこの町で生きていくだけなのだから。その後彼は伝えておくよと言うと通話が終了した

でもきっと、彼女たちとどこかで会うとことになることは分かっていたのかもしれない

これがその予兆であることもこの時気づいていおくべきだったのだろう

 

「カオリちゃん。何かトラブルかな?」

 

ユウさんの質問に私は大丈夫ですよと言うと一緒に食堂に向かった

 

 



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第126話

第三新東京市 早朝

 

僕は彼女に連絡を終えるといつものように朝食を食べていた。すると珍しくこんな朝早くにもかかわらず来客があった。

出迎えてみるとアスカさんとレイの2人だった

 

「あなた、彼女と関係が深いんだって聞いたわよ」

 

「相変わらず耳が早いね。どこで聞きつけたんだい?」

 

どこからか知らないが僕が彼女と接点を深く持っている事を聞きつけたようだ。

問題なのはその情報の入手源だ。どこからか探り出す必要があった。今後の対応のためにも

 

「そんなことはどうでも良い事よ。どういうことか説明してもらえないかしら?」

 

「なら、伝えておくよ。伝言を。もう、会う事は無いでしょう。でも1つだけ。昔は好きだった。でも今は許せないけどと」

 

「それで納得しろと?」

 

例は必死になって情報を引き出そうとしていたが、こちらは真実を告げるしかないのだ

 

「君たちがどう思うと勝手だけど。もう彼女は碇シンジじゃない。それを受け止める事も重要だよ」

 

「私達がそれで」

 

「納得してもらうしかない事だよ。残念だけど。僕ですら会う事を拒否されたんだから」

 

もう2度と会う事は無いとね。僕はそう言うと室外へと出ていった

僕はいつものように学校に向かおうとするとマンションの前に車が止まっていた。それも後部座席には蒼崎局長が乗っていた

 

「学校まで話は良いかな」

 

「かまいませんよ。あなた直々のお話とあれば」

 

僕は車の後部座席に乗り込むと話を始めた。内容はもちろん、彼女に関する事だ

 

「碇シンジがサードインパクトの時に行った奇跡は周知の事実。でも各国はだんまりを決め込んでいる」

 

いったいどれほどの影響があるのか。

そしてどれほど恐れているのか教えてもらえるかなと彼はやんわりと聞いてきたが僕には答えることができなかった

それを答えてしまっては世界のバランスを崩すことになるのではないかと考えたからだ。

あまりにもリスクのある言葉だ。だからこそ僕は彼にこう答えるしかなかった

 

「今は待つべき時です。いづれ真実が明らかになるでしょう。ですがその時はきっと世界に大きな影響を与えることになるでしょう。宗教すら超えて」

 

「つまり神だと?ルミナの言うとおり」

 

「僕には彼女がどういう存在なのか答える事は今もできません。おそらくですが今後一生答える事はできません」

 

それが今の僕にできる彼女のすべてですと言う。

 

「君は何を望んでいるのか教えてもらえるかな?」

 

「僕は彼女の平和を望むだけです。それ以上望みをすれば高望み過ぎるだけです」

 

確かにその通りだねと蒼崎局長は言った。彼女に必要なのは平和な時間だ。それ以上を望んでいるとは思えない

僕ももう2度と彼女と会う事は無い事は覚悟している。だからこそ、これだけのことをしているのだから

 

 



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第127話

海岸の町

 

朝食を食堂でとりおえた私はいつものようにお母さんにお酒の発注をしてくるように頼まれた

私は出ていこうとするとユウさんが車を出すよと言ってくれた。

断ろうとしたがこれも護衛の仕事だよと言われてしまっては断れない。

だから私は分かりましたと言うと外出用の服に着替えた。そしてユウさんと一緒に出掛けた

私は助手席に座って窓から見える風景を眺めていた

 

「悩みかな?」

 

「ずっと悩みは絶えないですよ。私はこの先碇シンジの過去を捨てることができないでいるんですから」

 

「過去は過去」

 

「そうは言いますけど。私には忘れられないんです。あの光景が。そして、その事実も」

 

そう私はあの時の光景を思い出してしまう事がたびたびある。あのネルフの事を考えたりしたりするときは特にだ

だからいつもは忘れたふりをしているが。それも最近は効果がなくなってきている。

関わりが増えていったからだろう。だからユウさんに依存するようになってしまったのかもしれない

それはそれで困るようなことにならなければいいと思っているのだけど。だけど今はそうでもしていないと精神的に安定しない

ルミナさんから言われた。私の安定こそ世界の安定だと。その意味を今になって実感している。

だから、相談できる相手ができたことは私にとってはとても重要な事である。

いろいろと話をしながら私達は砂浜沿いにあるいつものお酒屋さんに到着した。

私はおつかいを済ませると、いつものように砂浜に降りていった。

履いていた靴を砂浜に置くと膝下ぐらいまで海水に入り海を見た。

 

「今日も変わらずきれいだね」

 

「ユウさん。ほめてもなにも良いことないですよ。私は疫病神みたいな存在なんですから」

 

「そう思っているのはカオリちゃんだけだよ。この町の誰もが君のことを好きだと思っているんだから」

 

そんなに自分を嫌な存在だなんて思わない方が良いよと彼は言ってくれたが。私には納得できなかった

いつもそんな感じなのだからしょうがない。こればからは。昔からと言って良いのかどうかはわからないが。

私の心の中にはいまだに碇シンジだったころの気持ちが残っている。それが私のネルフへの思いを微妙なものにさせてしまっている

 

「ところで、ネルフの動きはどうですか?」

 

「君への接触を禁じているし、監察局の指示通りに動いているそうだよ。今のところ、この町にちょっかいをかけるつもりはないみたいだね」

 

私はそれを聞いて安心しましたと答えると海水から出ると靴を履いてユウさんと一緒に道路に戻った。

私達は車に乗り込むと自宅である旅館に戻ろうとしたとき、私の携帯電話が鳴った。相手は自分のことをわからせたくないのか番号非通知だった

私は戸惑いながらも電話に出る事にした。

 

「はい」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…』

 

「誰ですか?」

 

それでも電話の相手は何も喋る事もなく電話を切ってしまった。いったい誰だったのかはわからないままだった

 

「誰からなのかな?」

 

「分かりません。きっといたずら電話ですよ」

 

しかし私はこの時にこんなことを安易に判断したことを深く後悔することになる

 

「ルミナさんに頼んで逆探知をしてもらう事もできるけど」

 

「そこまでする必要はないと思います」

 

ユウさんは私がそこまで言うならと言った表情だったが。どこか不安そうな表情を浮かべていた

 



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第128話

第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局休憩室

 

「そうですか。彼女の携帯電話に電話ですか」

 

『よほど連絡を取りたいみたいだね。僕はもうやめておくけど』

 

私は渚カオルと連絡を取り合っていた。別に取り合いたいわけではないが

彼女目当ての話となると話は別だ。守るべき対象の情報は仕入れておきたい

 

「念のため引き続き見張りを。もし妙な動きを確認すればすぐに報告しなさい」

 

『それは命令ってことかな』

 

「あなたに拒否権があると思う?」

 

そう、彼に拒否権がある訳がない。すべての引き金を引いたのは彼なのだから

彼は分かったよというと探りを入れてみると答えた。拒否権がない以上こちらの言いなりだ。

それを利用するのは当然のことだ。

 

「あとは、なにを企んでいるのか知らないと動けないわね。ネルフの絡みもある事だし」

 

その時私の後ろから肩を叩かれた。とっさにホルスターから銃を抜こうとしたが相手を見てやめた

 

「部長。こういうのをやめてください」

 

「ごめんなさい。あなたのあんなに真剣な姿を見るのは久しぶりだから」

 

それて何かトラブルかしらと聞いてきた。私は今はまだと言った

確かに今はまだわからない。だがいづれ分かるだろう。その時には手遅れかもしれないが

でも今は彼に頼るしかない。それが少し辛かった

 

「ネルフは本格的に動き出すのかしら。そうなれば止める人間は私達」

 

「部長」

 

「ルミナ、あなたの使命は分かってるわよね。あの子を守る事とこの世界を守ること。それだけを最優先にしなさい」

 

部長はそう言うと休憩室を出ていった。私はありがとうございますというとあの町に戻る用意を始めた

 

 

-------------------------------

 

海岸の町 旅館

 

私はユウさんの車で戻ってくると、すぐに自室に戻った。そして横になるとテレビを見始めた

今日は特に何もする気がおこらなかった。ただのんびりと過ごしたと思った時、また携帯電話が着信を告げていた

 

「誰ですか?」

 

『碇レイです。少し、時間は良いですか?』

 

「悪いけど、せっかくのんびりとしようと思っている時にあなたとおしゃべりをして無駄な時間を使うつもりはないんだけど」

 

『お願い。少しで良いんです』

 

私は何を考えていたのかはわからないが、その時はまあ良いかと思ってしまって少しぐらいならと返事をしてしまった

 

『あの時のことは「その話を持ち出すならもう話は終わりよ。あの件は私は許すつもりはないわ。もう2度と私の大切な人に手を出さないで』わかりました」

 

そう、ルミナさんが撃たれたことは私にとって許せない事だった。当然のことだが。

彼女はすぐに話題を変えてきた。よほど私と話がしたいのだろうという事はよく理解した

 

『もう1度だけあってもらえませんか?』

 

「私はもう碇シンジじゃないわ。この町に住む普通の女性。それもあなたよりも年上のね。だからお断りよ」

 

そう、私はもう彼女と同じ歳ではない。それにもう彼女たちが知っている碇シンジではない。

もう私にとってはどうでも良いはずのことなのだが

 

『お願いします』

 

「何度頼まれても答えは同じよ。私は2度あなた達と関わるつもりはないわ」

 

さようならと言うと通話を切った

 

 



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第129話

海岸の町 旅館の自室

私は自室でさっきの嫌な電話を忘れようとテレビを見始めた

大したニュースはやっていなかったが、ある話題が持ち上がっていた。それはネルフ解体案だ

それは良いニュースだがアメリカが拒否権を発動して、安保理決議は否決されたと報道されていた

私にとってはあまり良いニュースではない。私なら解体してくれるならうれしいが。そんなことを認められる事は無いだろう

ネルフにもパワーがある。政治的圧力という名のパワーだ

 

「どうしてネルフはなくならないのかしら」

 

『コンコン』

 

「はい」

 

『カオリ。少し良いか?』

 

それはお父さんの声だった。私はテレビを消すと何か用事でもできたかもしれないと思って良いよと言ってドアのかぎを開けに行った

 

「何か用事でもできたの?」

 

ドアを開けると少し深刻そうな表情を浮かべたお父さんがいた

 

「それがな。ちょっとお前に相談したいことができた。第三新東京市の教育委員会からの研修を受け入れてくれないかと依頼があった」

 

仕事として受け入れたいがお前に何かあったら大変だからなと思って聞きに来たと。お父さんは心配性だ。

私はもう過去は振り返るつもりはないと答えた。だからお父さんの好きにしていいよと答えた。

それに大きなお客様だしネルフ関係者が混じっているという可能性は低い

だから私は気にしないで良いよと答えた。お父さんはいろいろと悪いなと言うと私の部屋を出ていった

 

「ネルフ関係者が来るのかしら。あとでルミナさんに問い合わせておこう」

 

『トントン』

 

「はい。誰ですか」

 

『カオリちゃん。話は聞いたよ。良かったら少し話せるかな?』

 

ユウさんからも話があるようだ。ここは彼からも情報を聞いておいた方が良いと私は判断したのだ

私は再びドアを開けると、靴を履いてユウさんを出迎えると彼と一緒に中庭に向かった

 

「それで話っていうのは、さっきお父さんが行っていた研修に来る人間のことですか?」

 

「そうだよ。勝手にとは思ったけど僕の方で独自に調べておいたよ。ネルフ関係者が混じっている。名前は伊吹マヤ」

 

これが経歴書だよと言って彼女の顔写真付きの経歴書を渡してきた

どうやって手に入れたのかは聞かぬが花というところだろう

 

「また関わってくると?」

 

「可能性は否定できない。また手を出してくるかも。用心はしておいた方が良いよ。それに覚悟もね」

 

手を出してきて再び誘拐される可能性があるという事だろう。そんな事態は避けたいところだ。

さらにできる事なら彼女とは揉めたくない。彼女は優しかったからだ。ネルフという非道な組織にいながら正しく生きようとしたからだ

私はそれを『記憶』として知っている。だから揉めたくなかった。

 

「研修に来たらできるだけ部屋にこもっています。もう関わりたくありませんから。ネルフとは」

 



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第130話

海岸の町 旅館の食堂

 

私はいつものように昼食を食べるために食堂にきていた。ユウさんも来ていて、一緒に食べる事にしたのだが

やっぱり食べる量はいつも彼の方が多い。私はどうしても少食だ。仕方がない事だが

私は私専用の量に調整された昼食をもらうと席に座って食べ始めた

 

「そういえばルミナさんがこっちに戻ってくるらしいよ。いろいろと忙しくなりそうだからね」

 

「それってネルフがらみですか?」

 

そこまでは僕は聞いていないけどと彼は言った

でもきっとネルフがらみであることは察しがついていた

 

「大丈夫だよ。カオリちゃんのことは僕が必ず守ってみせるから」

 

「その代わり生きてくださいね。死んでも守るってのもなしですからね」

 

分かっていると。でも怖かった。ようやく安心できる仲間ができたのにまた失うのではないかという恐怖に

私はまた1人になるのではないかと恐れているのだ。あの赤い世界で1人きりなんてとても耐えられない。

もう2度とあの世界には戻りたくない。そしてこの温かい『家族』から引き離されたくないのだ。私にとってここが我が家なのだから

私は昼食は食べ終えると、中庭に行きいつものようにベンチに座った。すると今日もネコさん達は私に近づいてきた

彼らは本能的なのかどうかはわからないが。私が決して手を出さない事を分かっているのか膝の上で丸くなるものまでいた

私よりも順応している。そんなことを思いながら空を見上げた。雲1つない晴天。研修に来るのは明日から

少し気が重くなりそうになりながらも、これも仕方がないと思っていた。

私が私であり続ける以上あの街とは切っては切れない関係にあるのだから

 

「カオリちゃん。君のお母さんからネコのエサの缶詰と皿を預かってきたけどどうするかな?」

 

ユウさんそう言うと私にそれを差し出してきた。私はそれを受け取ると缶詰の封を開けて皿に盛り付けると地面に置いた

ネコさん達はみんなそれを食べに行ったが私の膝の上で丸くなっている1頭は動こうとすることはなく。

日向ぼっこを満喫していた。のんびりとした時間だ。まるでどこにでもある光景だが私にとっては貴重な時間だ

 

「カオリちゃんはネコが好きだね」

 

「彼らが私のことを好きなんですよ。きっと」

 

「カオリちゃんは愛されているからね。この町のみんなにね」

 

「そうだと良いんですけどね」

 

私はネコさん達がエサを食べ終えるのを見届けた。彼らは食べ終えると自分たちの家に帰っていった

私も彼らが帰るのを見届けると自分の部屋に戻ろうと思った。その時携帯電話に着信が入ってきた

相手はルミナさんの番号だった

 

「ルミナさん。何かトラブルですか?」

 

『あなたの旅館に泊まる予定の人物の中にネルフ関係者が混じっている事を知らせておこうとね』

 

「もうユウさんから話は聞きました」

 

『さすがは腐っても元はゼーレ関係者ね。どこで情報を掴んでいるんだか。とにかく警戒をしておいて』

 

「わかっています。でもできれば接触しないように私の方でもしばらくは部屋で大人しくしておきます」

 

そうする事をお勧めするわと言うと彼女は通話を切った。心配してくれている事はよくわかった

あとは私の問題だ

 

 



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第131話

海岸の町 旅館 夕方

私は部屋でのんびりとロッキングチェアに座り、のんびりとしていた

夕食はあとでお父さんが私の部屋に持ってきてくれるとのことだった。今日は宿泊者が多いためだ

そのため食堂が混雑するという事でお父さんなりの配慮だった

ユウさんと一緒に食べることになっていた。彼が1人で食べるのはさみしいと思うけどと言ってくれたからだ

 

「すみません。ユウさんにまでご迷惑をかけて」

 

「気にしないで。カオリちゃんとご飯を食べれるなら大歓迎だよ」

 

そう言うと私達は夕食を食べ始めた。いろいろとお話をしながら

話と言ってもたわいもないないようだ。今日のニュースの話題などの世間話ばかりだ

別にこれと言って特別な話題がある訳ではない。ただお話をしながら食べる。

1人で無言で食べるよりかははるかに良い事だ。夕食を食べ終わると私達は静かな時間を迎えた

何でもないが、平和な時間だ。ただ夕日が海に沈んでいく時間。

これから星々がきらめく時間だ。静かにきらめていき、星々たちが輝きを取り戻す時間だ

昼間は太陽という名の光にさえぎられてしまうが、夜には輝いてくれる。

まるで私のようだ。私は夜だ。ルミナさんやお母さんやお父さんは昼だ。

私は夜の星々の下にいる事が多い。その方が平和だからだ

静かで、まるで誰もいないような孤独の時間。その時間を私が望んでいるのかしれない

 

「平和ってことかな」

 

「どういう意味ですか?」

 

「平和が一番だけど、あまり慣れすぎると勘が鈍るからね」

 

「それって実体験ですか」

 

「まぁね。だから今だって、射撃訓練をかかさずやっているんだから」

 

「極めているんですね」

 

「それはカオリちゃんも。違う?」

 

「私に極める物なんて。生きている価値すら「それは違うよ!カオリちゃん!君には生きる理由はあるはずだよ」ユウさん」

 

私には生きている価値はないと思っていた。ただ何となく生きてるだけだと思っているからだ

 

「君には生きる理由は十分あるよ。君のことを愛している家族のことをよく考えると良いよ」

 

「お母さんとお父さんたちのことですか?」

 

私には家族がいる。そうだ。ようやくわかったのかもしれない。私の生きる意味。

家族と一緒に生きる。これまでも、これからも。例え、私にとってはわずかな時間かもしれないが

でも今を楽しむ。それが大事なのだと

 

「そうですね。今はまだ家族がいますから。でも私はいつかは1人に」

 

「君を愛してくれたという事は残るよ。それにルミナさんもいる。これまでも、これからも」

 

そう、ユウさんの言うとおりだ。例え家族はいなくなるかもしれない。

けれども、ルミナさんはきっと残ってくれる。これまでも、これからも。永遠に

 



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第132話

海岸の町 旅館 私の部屋

その日の夜はなぜか寝付けなかった。だから私は寝間着から外出用の服に着替えると散歩をする事にした

ちょっとしたお出かけだ。砂浜まで行って帰ってくるだけ。それだけのことなのだが

私は中庭を抜けて玄関を通らずに脇を抜けて道路に出ると歩き始めた。

静かな夜だ。ただ、動物たちの声はする。この海岸の町の周囲には多くの動植物がいる

彼らは私を襲うような事はしない。理由は分かっているがあまり気にしない事にしている

神様なんていない方が世界のためだ。世界はそれぞれの意志で動いている。

神様がどんなに頑張ったところで、それを止める事はできないほどの強い意志もある

だから怖いのかもしれない。その意志に押しつぶされるかもしれないという恐怖に

 

「神様なんて、邪魔な肩書」

 

「あら、そんなことないと思うけど。カオリちゃん」

 

「ルミナさん!」

 

声をかけてきたのはルミナさんだ。それもバイクに乗っていた。

どうやら私は気づかなかったようだ。とんだおまぬけさんだ。

 

「ルミナさん、第三新東京市は良いんですか?」

 

「ええ、もう良いのよ。しばらくはね」

 

「それで、ネルフはどうなりますか?」

 

「そうね。しばらくはだんまりでしょう。局長も圧力をかけてくれているし、心配ないわよ。それでこんな時間にどうしたの?」

 

私は寝付けなくてとありのままを言った。私はただ、散歩をしたい気分だったのだ。

でも、プレッシャーがある。神様となる事の自覚はない。なのに目の前にはそれになれという現実がある

難しい問題だ。私にとっては、永遠に解決することない事だろう。

 

「バカね。あなたはあなた。神様なんて自覚する必要なんてないのよ。あなたはあなたのままであり続ければいいのよ」

 

「でも!」

 

「今はまだ解決できないかもしれないけど、いづれは、もしかしたら。ね?」

 

そんなことを話しながら砂浜に向かっていると目の前に大きな影が見えた

それは犬に見えたが

 

「犬じゃないわ!?」

 

ルミナさんの言うとおり、ニホンオオカミだ。もう絶滅されたとされていたが

サードインパクト後に再度生息が確認された絶滅危惧種に指定されている動物だ。

 

「動かないで!」

 

私はとっさにルミナさんの前に出た

 

「森に帰りなさい!今ならだれにも話さないわ!」

 

私が大声でそう言うと理解したのかどうかはわからないが。狼は去っていった

 

「あぶないわね。警察に報告しておくわ。人が襲われたらひとたまりもないもの」

 

「あの子にそんなつもりはないですよ。森から迷い出てきただけです」

 

「分かるのね」

 

「はい。あの子はそう言っていましたから」

 

私にはわかるのだ。動植物たちの声が。それが神様になってしまった宿命なのかもしれない。

だからできれば殺すような事はしたくない。安全に人と動物がお互い共存できればなによりなのだ

 



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第133話

海岸の町 砂浜

私とルミナさんは砂浜に到着すると砂浜に座った。

 

「ようやく勝ち得た幸せです。それに・・・・・」

 

「それに?」

 

「今度来る予定の伊吹マヤさんは潔癖症です。私の事を知っても触れないと思うんです」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「彼女はきっと、私のことを責めたりしない。追及もしない。ただ、身を任せているだけだと思うんです」

 

私は少なくともそうだと信じたい。あの時に感じた気持ちが事実ながらそうであってほしいのだ

ルミナさんは気を付けるように言うが警戒する気にはならなかった

 

「でも警戒は怠らないでね。そろそろ帰りましょう。もう8時よ。みんなが眠っている時間」

 

「もう少しだけ。見ていたいんです。ここで月を」

 

私はなぜだかわからないが。月を見てみたいと思った。あの頃は見るのも嫌だったのにどういう心情の変化なのかはわからないが

今はただ、見ておきたいのだ。月を

30分ぐらい月を見ていると私は帰りますと言った。

 

「なら送っていくわ。バイクの後部に乗って」

 

ヘルメットはもう1つ予備があるから大丈夫よと言うと道路に戻り、ヘルメットを渡されると私は着用した

そして後部に乗り込むと、ルミナさんの運転で私の家に戻っていった

家に戻るとユウさんが不安そうな表情で待っていた

 

「カオリちゃん!心配したよ」

 

「ごめんなさい」

 

私は自然と謝った。心配をかけた自覚があるという事なのだろう。お母さんとお父さんも出てきた。

とっさにユウさんの後ろに隠れてしまったが、お母さんに怒らないからもう何も言わないで出ていかないでと言われた

私はまた、ごめんなさいと謝るとユウさんと一緒に中庭を抜けて自室に向かった。

 

「カオリちゃん。君のことはみんなが愛しているから何も言わないで消えないでね。僕も君のことを」

 

「分かっています。ちょっと冒険がしたかっただけですから」

 

もう大丈夫ですと言うと私は別館の自室に入っていった。室内に入ると私は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した

ロッキングチェアに座ると月を見ながらコーヒーを飲んだ。静かな夜だ

 

「何もない。私はそう信じたいだけです」

 

缶コーヒーを飲み終えて、そろそろ寝ようかなと思った時携帯電話が鳴った

相手はまた非通知だったが仕方がなく出た。相手はだいたい想像はついていたが

 

「こんな夜に電話してくるなんてどこの誰かしら」

 

『それは申し訳なかったね。でも君にも知っておきたい情報があると思ってね』

 

電話の相手は渚カオルだった。せっかくの気分が台無しだが情報があるなら知っておきたい

 

「渚カオル。私としてはあなたの声など2度と聞きたくないけど情報があるなら聞くわ」

 

『今回の研修にはネルフは関知していないってことをね。偶然選ばれただけみたいだね』

 

「つまりネルフサイドから動きはないと?」

 

『そうだね。そう考えるのが自然というものだよ』

 

私は一応は感謝しておくわと言うと通話を切った

私はとりあえず先の情報を考えながらも布団を敷くと眠りについた

 



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第134話

海岸の町 旅館 私の部屋

 

今日はお母さんが私の部屋にユウさんと私の朝食を持ってきてくれた。私はユウさんと一緒に朝食を取り始めた

朝食は鮭定食だった。いつものように朝食を取りながらいろいろとおしゃべりをしていた

まずは今日来る予定の第三新東京市にある学校の教師による研修の話だ

 

「それで、カオリちゃんはどうするつもりなのかな?」

 

「私は変わりません。普段通りこの部屋で過ごすつもりです。お昼にはお酒の注文に行って来て帰ってくるだけ」

 

毎日と変わりませんよと言うと私は言う。

そう、彼女と接触したからと言って何かトラブルがあるとは限らない。

 

「ならそのお酒の注文には僕が同行するよ。心配だからね」

 

「ユウさん。バカな事はしませんよ。私だって」

 

「それでも心配なんだよ」

 

君のことがとユウさんは言ってくれた。心配してくれる人が増えたことが良いのか悪いのかはわからないが

私は分かりましたと言うと一緒に行く事にした。どちらにしても引き下がってくれるとは思えなかったからだ

それにそこまで心配してくれているなら、一緒のほうが良いと判断したのだ

私達はいつものように食べ終わると食器を食堂に持って行く。すると食堂は大混雑していた。

最近、この旅館も人気がお客さんが増えてきたように感じられた。以前はもっと静かな時間だったのだが

 

「人が増えたことは良い事かな?」

 

この旅館に人気が出てきたことは良いことかもしれない。経営的にはの話だが

ただ、私個人的な事を思えば、静かな旅館だった昔がのほうが良かったと思ってしまう。あの静けさが良かったのだから。

そんなことを話しながら砂浜の近くにある酒屋に到着するといつものように注文した

そして注文を終えると砂浜に向かった。そして、浜辺に座った。

 

「平和ですね」

 

「なんでもない事が最高の幸せなんだよね」

 

「はい。なんでもない事が最高の幸せです。それ以上は望みません」

 

その時、浜辺のバス停のところに1台のバスが止まった。私が振り返るとある人が降りてきた

 

「お元気そうですね。カオリさんと呼んだ方が良いの?」

 

「伊吹マヤさんですね。変わりましたね」

 

「もう私もあのころとは違うから」

 

「なら私も、もう碇シンジではありませんからそう呼んでもらえると嬉しいです」

 

話しかけてきたのは伊吹マヤさんだった。横にいたユウさんは明らかに警戒していた

私は大丈夫ですからと言って警戒態勢を緩めるように促すがそうする事は無かった

 

「どうして話しかけてきたんですか?」

 

「あなたにこれを預かってきたの。できれば早い方が良いと思って」

 

マヤさんは私に1枚の手紙を渡してきた。差出人は碇ユイとなっていた

 

「ユイさんからあなたへの手紙。あなたは嫌がるかもしれない。でも、渡してほしいって。返事はいらなくても読んでほしいそうよ」

 

「わかりました。読むだけは読んでおきますが返事をするかどうかは保証できないとお伝えください」

 

マヤさんはありがとうと言うと砂浜から道路に戻ってバスに再び乗ると、バスは旅館に向かっていった

 



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第135話

私とユウさんは砂浜にいた。預かった手紙はカバンに入れてしまった

内容を今読むことなく

 

「手紙、読まないのかな?」

 

「今ここで読んだらきっと海に流してしまうかもしれないんです」

 

「カオリちゃん。君は碇ユイさんのことをどう思っているのかな」

 

「分かりません。確かに私のことを生んでくれたことは事実ですけど」

 

そう、生んでくれたことには感謝しているが、結局私を利用するだけ利用したと思っていた

ロクに育てることをせず責任を放棄した。私はそう考えていた

 

「いまはもう、どうでも良いんです。私はこの町で生きていく。ネルフもあの街も関係ない」

 

ただ、今はもうこの町で平穏に生きていく。何者にも邪魔されず。

私はもう碇シンジではない。この町でただ住んでいるどこにでも女性なのだ

 

「ただ、平和に暮らせるだけの普通の女性だったら、幸せだったのかもしれませんね」

 

「思い出したのかな?」

 

「わかりません。あの時のことは詳しくはまだ。でも少しずつ思い出せてきています。私のした事の罪の重さも」

 

「カオリちゃんは何も悪くないよ。罪はない」

 

「そう言ってくれるのはユウさんだけですよ。他の人は違います」

 

そう、私のしたことは世界に混乱を蔓延させたこと以外に他ならない。

死者を蘇らせた。それがどれだけ危険な事なのか。当時はまだ理解していなかったが今は分かる

危険すぎる事だ。

 

「私は愚かな事をした事は事実です。それはあまりに世界に影響を与え過ぎた。その事実は代えられません」

 

「カオリちゃん」

 

「罪には代償が必要です。私はきっといつかそれを払う時が」

 

「カオリちゃん!もう良いよ!君に罪はない!それだけは僕は信じているよ」

 

「ユウさん」

 

「当時の君に何があったかまでは僕にはわかる事はできないけど。君はもう償いは十分したはずだよ」

 

だからもうそんなに自分を追い詰めないでと彼は私を抱きしめてくれた

でも私には償いをしたと言う気持ちはない。むしろ罪悪感だけが募るばかりだ

 

「いつか時間が解決してくれる。きっとね」

 

「ユウさん」

 

時間が解決してくれる。そんなことなど永遠に訪れない事は私には予想がついていた

罪は罪だからだ。時間などが解決してくれることなどはあり得ない。それも永遠に

私はこの罪から永遠に逃げる事はできない。というよりも許されないのだ

けっして。目の前の現実と向かい合い続けなければならない。それが私も宿命だ

 

「咎人なのは、一生消えない傷です。ユウさん、あなたがどんなに慰めてくれてもそれだけは」

 

「カオリちゃん」

 

「でも良いんです!気づいたんです。咎人でもそう思って生き続ける義務があると」

 

私には世界を見守る義務があると。私は靴を脱ぐと膝下までのところまで海に入ると振り返ってこう言った

 

「それが私の責任の取り方だと思っています!」

 

 



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第136話

海岸の町 旅館

 

私とユウさんは一緒に旅館に戻ると私達は部屋に戻った。私はいつものように冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した

ロッキングチェアに座ると私はカバンから手紙を取り出した。缶コーヒーはチェアのそばに置いているテーブルに置く

手紙を読み始めた。内容を読んで私はため息をついた。

内容はこうだ。あなたにはもう私のことを母親と思われない事は分かっています。

でも手紙のやりとりだけでもしてもらえないですか

母とは名乗れなくてもあなたとの関係を消すことは私にはできません。

この願い、聞き入れていただけないでしょうか

 

「どうして私にこだわるのかしら」

 

もう2度と戻れぬ遠い過去を追い続けていても人間は進歩しない。

未来を見なければ人間が進歩する事は無いのだ。それを科学者は一番理解しているはずなのに

その科学者が過去の囚われていては未来など切り開けるものだろうか

 

「私があなたと完全に敵対できればどれほど楽になれるのか。心のどころかでは」

 

そう心のどこかではまだ家族の関係を思ってしまう。

完全に切れぬ縁なのだ

 

『トントン』

 

私は手紙を折りたたむと金庫に入れた。そしてドアに向かった

 

「はい。どなたですか?」

 

『伊吹マヤです。もう少しお話、良いですか?』

 

「少し待ってください」

 

私はカバンに入っている小型リボルバーを金庫に直した。彼女に拳銃を向けるつもりはない。

そんなことをするタイプには見えなかったし、気配からしてもそんなつもりはないように感じられたからだ。

 

「どうぞ」

 

私はドアを開けるとマヤさんがいた

 

「マヤさん。何かお話って?」

 

「個人的に話をしたいの。そして謝りたいの。あなたのことを、追い詰めたことを」

 

あの時、戦略自衛隊がネルフを襲って来た時に最後に聞いたネルフ内での放送音。それは彼女の声だ

だからと言って彼女を恨む気はない。あの時彼女の声を聴いていなくても同じ結果を招いた

そう言おうとしたときユウさんが彼女の後ろに現れた。金属音のするものをさせて

 

「それ以上彼女の前でネルフのことを語るな「ユウさん。やり過ぎですよ。彼女には責任はありませんから」だけど」

 

「今は2人きりにしてください」

 

ユウさんは分かったよというと自室に戻っていった

 

「愛されているのね。彼に」

 

「そうだと嬉しいんですけど。知っていますよね?彼の事も」

 

それは元ゼーレの関係者だという事かしらと。マヤさんは知っているのだ

 

「どうしてネルフは彼のことを」

 

「マギのデータはすべて削除しておいたの。それがあなたのためだと思ったから。これがマスターデータ」

 

あとは壊したら良いだけだからといって1枚のディスクを差し出してきた

 

「マヤさん」

 

「先輩は気づいているかもしれないけど。でも、これが私にできる精一杯のこと。ごめんなさい」

 

「そんなリスクのある事をしたらあなたの立場が。私はもうあの件で傷つく人は」

 

「私の立場なんてどうでも良い事なの。私はあなたを守る。それに‥‥‥‥」

 

「それに?」

 

彼女は次にこういった。私は自分の信念を貫くと決めたと

 



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第137話

海岸の町 旅館の私の自室

 

私は缶コーヒーを飲みながら考え事をしていた。

別に大したことではないのだが、何となくあの手紙のことが頭から離れなかった

 

「どうしようかな?」

 

過去を忘れられないのは私も同じなのかもしれない

いつまでも『昔』のことにこだわっている。それは‥‥‥‥‥

 

『トントン』

 

「はい」

 

『カオリちゃん。少し良いかな』

 

ユウさんだった。私はすぐ行きますというと缶コーヒーを机の上においてドアのところに向かった

 

「何かありました?」

 

ドアを開けると少し神妙な表情をしたユウさんがたっていた

 

「ちょっとね。第三新東京市でトラブルがあったみたいでね。カオリちゃんの事で嵐が吹くかも」

 

「またですか?」

 

私は気持ちが折れそうになった。せっかく静かに暮らせると思ったのにまたトラブルだ

どうして私は静かに暮らせないのか頭が痛くなる。もう2度とあの街と関わることなどないと思っていたのに

 

「すみません。ご迷惑ばかりかけて」

 

「気にしないで。ただ警戒はしておいた方が良いから」

 

それじゃ、夕食の時にでも一緒に食べようねと彼は言うとその場を後にしていった

私がユウさんが自室に戻るところを見届けようとしたとき目の前の光景が信じられなかった

撃たれたのだ。ユウさんが。私は慌てて駆け寄るとすぐに狙撃は終わったが、肩に2発の弾丸をユウさんは受けていた

 

「う、うそですよね?ゆうさん。ユウさん!目を開けて!」

 

「か、カオリちゃん。無事、かな?」

 

「ユウさん!私は無事ですから。すぐに病院に!」

 

悲鳴を聞きつけて、お母さんとお父さんがきた。旅館の仲居さんもみんな集まってきた

 

「早く病院に!」

 

「わ、分かった。すぐ救急車を呼ぶ!」

 

お父さんは携帯電話で救急車を呼んだ。数分後すぐに駆けつけてきた救急車と救急隊によって

ユウさんは少し遠いが、隣町にある設備の整った病院に搬送されていった

 

「死なないで!」

 

「大丈夫だから。カオリちゃん」

 

ユウさんは痛みに耐えながらも私の頭を撫でてくれた。そして救急車で搬送されていった。

私はユウさんの部屋に行き、悪いとは思ったけど勝手に車のカギを持ち出すとそのあとを追いかけていった

隣町には大きな病院がある。重傷の人はそちらに搬送されるのだ。病院までは20分ほど

私にとってはものすごく長く感じられた。私は救急車の後ろをぴったりついていった。

病院につくと私は救急患者専用入り口の近くに車を止める

そして救急車から降ろされたユウさんと一緒に病院内に入っていった。

ユウさんは意識を失っていた。ストレッチャーの上で呼吸をしている事は確認できたが私の呼びかけに一切反応しなかった

そのまま手術室に運び込まれた。私は親族の待合室に通されて待たされることになった。

それから数分ぐらいしただろう。ルミナさんが慌ててやってきた

 

「カオリちゃん!無事!」

 

「ルミナさん!ユウさんが。ユウさんが死んじゃう!どうにかしてよ!」

 

私は泣きつくかのように抱き着いて訴えたがそんなことをしてもどうにもならない事は分かっていた

でも今は自分の感情をコントロールできる状態ではなかった

 

「落ち着いて。先生に状況を聞いてくるから」

 

ルミナさんは監察局のIDバッチを見せて状況を看護師さんに聞いてきた。

少し長く話した後、戻ってきた。

 

「カオリちゃん。命に別状はないから。意識を失っているのは麻酔を打ったためだって。だから大丈夫」

 

彼女は私をあやすかのように私を慰めてくれた。それからすぐにお母さんとお父さんがやってきた。

 

「ルミナさん」

 

「彼は一命は取り留めています。麻酔によって意識は失っていますが。薬が抜ければ大丈夫とのことです」

 

「そうですか」

 

お母さんとお父さんもほっとした表情を浮かべた。でも最悪だ。また私のせいだ。私のせいで大切な人が傷ついた

私にとっては何よりも耐え難いものだった。まさに悪夢だ

 

「どうしてこんなことに」

 

「その事は私が調べるから。必ず犯人を捕まえる。だから、カオリちゃんはここで彼を待っていてあげて」

 

ルミナさんはそう言うとお母さんとお父さんを連れて少し離れたところで話をした後病院を出ていった。

たぶん警察の捜査状況の確認だろうということはわかった。私はとりあえず安心した。命は無事だという事に

人の命ほどかけがえのない物はない。限りある命を大事に生きていかなければならないからだ。人は。私と違って

 



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第138話

海岸の町、旅館の現場

そこでは鑑識作業が行われていた

 

「使用された弾はライフルね」

 

私、ティアが現場の指揮を執っていた。撃たれた場所は旅館から100m離れた場所であることは分かっている

そこには薬莢が残されていた。まるで署名行為のように。素人ではない

明らかにプロの手口だ。

 

『ピーピーピー』

 

ルミナから電話がかかってきた。おそらくこちらの状況を知りたいのだろう

こちらとしても撃たれた彼の状況を知っておいた方が良い。その方が今後の対応策がとりやすい

特に彼女の方が心配だ。

 

「ルミナ、彼の容体は?」

 

『幸いな事に弾は綺麗に抜けていたから一命は取り留めたわ。ただ、彼女はかなり動揺しているわ』

 

「さっき局長から連絡があったわ。ネルフについても調べてもらっているけど今のところ動きなし」

 

『それって本当?彼女を追い詰めるために誰かさんが独断専行した可能性は?』

 

ルミナはよっぽど心配のようだ。ネルフの暴走を。だがその手の情報は今のところ確認されていない。

これは渚カオル経由で持たされた情報だが、彼らにも動揺が走っているとの情報もある

組織的に動いているとは考えにくかった。

 

『とにかく私も戻るわ』

 

「彼女についていなくて大丈夫なの?」

 

『彼女のご両親がついているから。心配ないわ』

 

「だめよ。これがデコイって可能性があるわ。この海岸の町から隣町の病院に行かせるためのね。彼女を狙っているのはネルフだけじゃないわ」

 

そう、ゼーレの生き残りがいる可能性が最近になって疑われ始めたのだ。

以前に比べてかなり勢力は弱まったがどこかで情報を掴んだ可能性は否定できない。

そういった状況下で標的対象の警護を外せば元も子もない

 

「ルミナ、あなたの最大の関心事は彼女のはずよ。それを忘れない事ね」

 

今のこの世界には彼女に危険を及ぼす存在が多すぎる

カバーできるかどうかはまさに運次第になっている

もし、彼女に何かあれば世界が動くことに。それだけは避けなければならない

そのために私達の存在なのだから。

 

「守れきれればいいけど」

 

私はそう呟くと地元警察と共に捜査には戻った

海岸の町を所管している警察署には数多くの監察局の職員が配置されている

これもすべてカオリちゃんを守るためだ。もちろん砂浜近くにある交番の警察官も監察局の人間だ

完璧だと思われた守りが破られたことは大きな問題になるだろう。すでに戦略自衛隊が部隊を動かしている。

沖合にはこの平和な海岸の町には似つかわしくもないイージスシステム搭載の護衛艦が配置されている

 

「まさに戦争状況ね」

 

国内で大災害などを起きてほしくないというのが日本政府の考えだ。

彼女に何かあればただでは済まない。感情の揺らぎですら危険をはらんでいるのだから

 

 

 



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第139話

第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「局長、今回の件でネルフに動きはありませんが。世界各国の気象観測センターから若干の問題が生じたと」

 

「彼女の危機は世界の危機ってわけだね。それを見せつけてくれたよ。もう追加予算の話が国連で話し合われている」

 

私は報告を受けていた。相葉ユウが撃たれた件について。私にとっても今回の事はあまりにも想定外のことだった

まさかこんな直接的に攻撃を仕掛けてくる人間がいるとは。査察部の責任者であるシエラ・ドーレスは査察について提案した

 

「監察局としてネルフの緊急査察をするべきでは?」

 

「ネルフが実行したという証拠もないのに動けば彼らも行動に移しかねない」

 

「ゼーレですか?」

 

「彼女の新しい敵だよ。そして、真実を知ればやがて恐ろしい結果になる」

 

そう、彼女が死ねば世界は壊れてしまう。傷ついてしまっても同様だ。

その事を身をもって知っているヨーロッパ諸国は彼女の周囲に過敏になり過ぎている。

些細な出来事ですら大事にするのだ。

 

「来月には定例査察があるからそれで厳しく査察して様子を見よう。それとゼーレについても情報を集めてもらえるかな?」

 

シエラはすぐにわかりましたと言う。そして応接セットに座っている少年を見てこういった。なぜ彼がここにいるのかと

 

「ネルフの内部事情を聞けるのは彼だけだよ。今回の場合でもネルフの動きを知っておくためにもね」

 

「それでどんな情報を?」

 

私は彼に話をするように言った

 

「ネルフはあの町への手出しを禁じていますが。あの3人は別です。碇ユイさん、碇レイ。そして惣流アスカさん」

 

「彼女にとって最大の敵ね。彼らが独自に動いたと?」

 

「ドーレス部長。僕はあくまでも可能性としていっただけですので。ただ調べてみる価値はあると思いますよ」

 

「あなたの意見に乗るのは癪だけど、調べてみましょう」

 

彼女はそう言うと失礼しますと言って執務室を出ていった

 

「ゼーレについて情報は?」

 

「ネルフもゼーレの可能性を疑って保安諜報部が捜査を開始しています。僕にも接触を。協力する気はないかと」

 

「それで?」

 

「戻ってくれば不問にすると言っていました。蒼崎局長。僕としては鈴として役割を果たそうと思っています」

 

「かつての加持リョウジのようにかな?」

 

彼がゼーレの鈴であったことは裏社会にいれば知られている事だ。

今回はこんな子供にそんな役をおわせることになるのは私でも気が引けた

 

「なぜそこまでするのか教えてもらえるかな?」

 

「これが僕の罪です。だから償いをする必要があるんです。ゼーレからの情報はいつもの経由で回しますので」

 

彼は自らの命を犠牲にしてまで彼らから情報を引き出そうというのだ

それがどれほど危険な事かは十分にわかっているはずだ。あそこにいたなら特にだ

 

「これで許されるとは思ってはいません。僕は彼女に最大の絶望を与えたのですから」

 

 



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第140話

海岸の町の隣町医療センター

 

私はユウさんの病室にいた。麻酔が効いているのか彼は眠っていた。私はずっと彼の手を握っていた

 

「ユウさん」

 

どうしてこんなことになったのか考えていた。ネルフのせいなら私もう容赦ない。

でもわからない。ゼーレにいた頃に記録はマヤさんが消してくれたはず。マスターディスクは私は破壊した

もうどこにも存在しない。ならどうして。狙われる理由が私にあるとしか思いつかなった。

私は苦しみの中にいた。私のせいで大切な人が傷つくのを見たくないからこの町で静かに暮らしているのに

この町にいても、私は大切な人を傷つけてしまっているという現実に

 

「また、1人になるしかないの?」

 

そう、孤独にどこかで誰とも接触しないで生きていくことができれば人は傷つかないかもしれない

でも実際にそんな生活ができるわけではない。たとえ私が神様でも、今の私は出来損ないの神様なのだ

完全の神様ではない私が孤独に耐えきれるかどうかなんてわからない。

それにこの温かい生活を捨てるなんて到底できるとは思えなかった

 

「カオリ、今日は病院に泊まっても良いそうよ。私達の家に帰るのも良いしここで待っていても良いから」

 

「お母さん。今日はここで泊って待っているね。ユウさんにこれ以上何かあったら私が耐えられないから」

 

「愛しているのね」

 

「これが愛とか恋愛関係ならそうかもしれないけど、私にとっては分からないの」

 

お母さんはそのうちわかるわよと言うとまた明日のお昼ごろに迎えに来るからと言って出ていった

次に看護師さんが入ってきてユウさんの私物を持ってきてくれた。私は受け取ると悪いとは思ったけど中身を見てしまった

そこには1枚の手紙があった。ものすごく悪いとは思ったけど、もしかしたら撃たれたことと関係があるかもしれないという

ばかげた話だが、そちらにしか頭を持っていくことができなかった。私は内容を読み始めて表情を凍り付かせた

私の前で撃たれなければ、私とその両親を殺害すると記載されていたからだ

それを見てショックだった。私ではなくユウさんがターゲットになった

可能性は2つしかなかった。ネルフ、もしくはゼーレ。ユウさんが私の情報を流すのを拒んで殺されかけた可能性が

私のために命を懸けてくれたのかもしれない

 

「ユウさん、ごめんなさい」

 

私はその日の夜に決めたのだ。一度この町から離れようと。

このままここに居続ければいずれお父さんとお母さんにまで危害が加えられる

人が完璧に守れるわけがない。穴は必ず存在する。やられる前に逃げてやり返すだけだ

そして椅子から立ち上がろうとしたときにルミナさんが後ろから抱き着いてきた

 

「お願いだから。バカな事は考えないで。あなたはあの町で暮らす方がその方が守りやすいから、1人になろうなんて思わないで」

 

「でも現実は違います。殺されかけたんですよ。もう1度あるかもしれない。もう1度同じことがあったら私は耐えれません」

 

そう、1度目は耐えれても2度目は無理だ。きっと苦しんでしまって死を選ぶかもしれない。世界丸ごと

 

「そうね。でもここで逃げてしまったら敵の思うつぼよ。今は動かない方が良いわ」

 

「どうしてそう断言できるんですか」

 

「今回の犯行についてネルフはからんでいないわ。それとこんな話を聞きたくはないと思うけどあの渚カオルにゼーレサイドから接触があったそうよ」

 

その事に驚いて私は振り返ると

 

「大丈夫よ。彼は寝返ったりはしないわ。でも情報は集めるために潜入すると」

 

「私はそんなこと!」

 

望んでいないと大声を出してしまった。不幸中の幸いな事にここが個室で良かった。ユウさんはまだ眠っている

 

「彼は本気みたいよ。あなたへのせめてもの償いだと思っているんでしょ」

 

「私はもう彼らと関わる気なんて」

 

ゼーレがどんな組織だったのかはあの赤い海で真実を知った。彼らは自らの欲望のために最悪の地獄の扉を開けた

自らが信じる道が正しいと思い込んで自分勝手に進めたのだ。あれのどこが幸せな世界なのか

私は問えるものなら問うてみたい。なら1人を犠牲にして大勢が幸せになって良いのかと

それも最悪の絶望を与えておいて。自らの欲望のためにあれほど愚かで汚い事をしても平気なのかと

できる事ならもう2度関わりたくはない連中だ。私はどうしてすべて元の世界に戻してしまったのだろう

彼らだけ除外すればこんなことにはならなかったのかもしれない。でも神は公平でなければならない

差別はしてはならない。だからすべて元に戻したのだが。それでも完全にとは無理だった

それでも私のできる限りのことをした。それがこんな形で帰ってくるなんて

 

「私はどうしたら良いの。ユウさん」

 

私はそのままベットにもたれかかりながら眠ってしまった

翌朝目を覚ますとユウさんが私の髪を撫でていた

 

「カオリちゃん。ごめんね。心配かけて」

 

私は思わずユウさんに抱き着いてしまった。

すると肩の傷口にあたったため買いたそうな声を出したので私はとっさにごめんなさいと言って離れた

 

「ユウさんに何かあったら私」

 

「カオリちゃん。今回の件はごめんね。でもこれは僕が残してきた過去の汚点なんだ。こういう事が起きることは想定するべきだったのに怠った僕が悪いから」

 

「ユウさん。お願いですから、死なないでください。また1人ボッチになるのは好きじゃないので。私が1人になったらきっと」

 

するとユウさんは私を見捨てる薄情者に見えるのかなと頭を撫でてくれた

私は慰めてくれているユウさんの言葉を聞いて、ユウさんが薄情者に見えたら私はとってもひどい女ですねと返した

確かにその通りだ。私はひどい女だ。あの街で散々ひどい事をしてきたのだから

 

 

 



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第141話

第三新東京市 市内にある喫茶店

 

「なぜ戻る気になった?」

 

「今のネルフは退屈だから。それ以外に理由が必要かな。それに僕は元は自由の存在。ネルフに干渉されるのは好きじゃないからね」

 

僕はもっともらしい事を言いながらゼーレの連絡員と話をしていた

これがどれだけリスクのある事かは承知の上だ。だが情報は多い方が良い。

 

「それで、ネルフでも噂になっているよ。あの町での騒動のことがね」

 

「あれは我々の仕込みによるものだ。裏切者には制裁をしなければな」

 

僕の予想通りの展開になっているようだ。裏切者には死を。それがゼーレでの掟なのだから仕方がないが

それが世界に及ぼすことを彼らは理解しているのか疑問視したいところだ

 

「なら僕も気をつけないとね」

 

「ああ、そうだな。裏切者は特にだ。だが貴様は違う。我々の任務を全うして死んだ。なぜ生きている?」

 

「今の僕には人と同等の力しかない。神様が人間にしてしまったからね」

 

「彼女のせいか。彼女が新しい神だと?」

 

「それはわからない。僕にはどういう存在なのかはね」

 

ゼーレも彼女の情報を掴んでいる事は分かっていたつもりだが。

こちらの想定以上の可能性は極めて高かった

 

「僕の最初の任務は何かな?」

 

連絡員はメモを渡してきた。受け取って中身を確認すると監視せよとのことだった。チルドレンを

 

「わかったよ」

 

僕の任務は決まってしまったようだ。僕はネルフの裏切り者になるがこれも彼女のためだ

裏切り者になったことに後悔はない。僕が犯してしまった罪の比べればこれくらいは軽すぎるものだ

謝罪をしなければならない。僕が喫茶店の座席から立ち上がろうとしたとき後ろにある気配を感じた

それは監察局の人間でネルフ内部に潜入している諜報員だ。

 

「ゼーレに協力するとは情報を得るためとはいえ無茶なことを考えたな」

 

「これも僕なりの罪の償い方です」

 

「殺されるぞ」

 

「それも覚悟の上です。これでも僕が犯した罪は消えません。大きすぎるのだから。僕の罪は」

 

リスクがあることは覚悟しているし、これくらいのことをしても僕が犯した罪は消えることはない

罪深すぎてとても償いきれるものではないということは十分自覚しているからだ

 

「局長から一言伝えるように言われている。もう後戻りはできなくなると」

 

「彼には分っていますとお伝えください」

 

僕はそういうと席から立ち上がると店を出て行った

するとすぐにネルフの保安諜報部の人間を確認することができた

こちらに接触するわけではないが遠巻きに監視をしていたようだ

彼らもわかっていたようだ。こうなることが

喫茶店から出てしばらく歩いていると加持さんから連絡が入ってきた

 

『相変わらず無茶な計画だと思うけど』

 

得られた情報は加持さん経由で回しますのでご安心をというと通話を切った

それ以上伝える必要はないし不用意な発言は問題になる

 



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第142話

 

隣町の病院 ユウさんの病室

 

私は昼までずっと病室で過ごしていた。ユウさんから離れたくなかったのだ

ユウさんは朝に少し話した後、検査のためいろいろと忙しそうだった

私もいっしょに行こうと思ったけどルミナさんに止められたのだ。

そのほうが安全だといわれて

 

「カオリ、お昼を持ってきたわよ」

 

そうやってお母さんがお昼ご飯として病院の喫茶店で買ってきたのかもしれないが

サンドイッチとコーヒーを持っていた

 

「食べる?」

 

「うん」

 

私はそれを受け取ると封を切って、サンドイッチを食べ始めた

いつもならもっと栄養価のある昼食なのだが仕方がない。それにたまにはこういうのもいいものだ

 

「お母さん、お仕事は良いの?」

 

「お父さんがしているから大丈夫よ。心配することはないからね」

 

でもお母さんは少し疲れた表情を浮かべていた

 

「何かあったの?」

 

「どうして?」

 

「だってお母さん。疲れた顔しているから。また私のせいで」

 

「違うわ。ティアさんといろいろと今後のことを相談していたの。カオリのことだからきちんとしておかないとね」

 

「それを私のせいっていうと思うんだけど」

 

「子供は気にしないの。カオリはちゃんと自分のことを優先にしないと。私たちが必ず守るから」

 

だから心配しないのとお母さんは私の髪を軽くなでてくれた。少しくすぐったいような表情をすると可愛いわねと言ってくれた

とりあえず、家のことは心配しないでいいみたいだ。本当に危険だったらお母さんはもっと切羽詰まった表情をするから

笑っていられるということはそんなに事態は悪くないということなのかもしれない

 

「みんな無事だから心配しないで。家も大丈夫だからね。ティアさんが守ってくれるって約束してくれたから」

 

「ティアさんが?」

 

「ええ。彼女がすべて手配してくれたわ。警察からその後の対応についても」

 

「報道とかは?」

 

「ティアさんが何とかしてくれたわ。あとで何かをプレゼントしておかないと」

 

私は思わず旅館の風評被害を心配したが。報道も抑え込んでくれたようだ

旅館の『傷』も治してくれたと教えてくれた

 

「あとはカオリとユウさんが戻ってきたら元通りよ。だから今はユウさんについてあげてもいいから」

 

お母さんは毎日でもこっちに来るから私に好きにするようにと言ってくれた

私はありがとうというとユウさんと相談してみると返事をした

お母さんはあなたは自分に正直になって生きていくことが大切なのよというと病室を出て行った

それと入れ違いにちょうどルミナさんが戻ってきた

 

「今回の黒幕についての情報が入ったわ。間違いなくゼーレだそうよ」

 

「そうですか」

 

「あなたを守るには盾が必要よ」

 

「そんなの。そんなの私は望んでいない!私は大切な人を盾にしてまで生きたいだなんても思ってない!そんなの嫌なだけ!」

 

「でも、そうなるしかない時もあるのよ」

 

そう。私はだれかを盾にしてまで生きたいなんて思ってない。誰かが犠牲になるのをわかっていて生きるなんて耐えられない

でもルミナさんは現実を突きつけてきた。仕方がないことなのだと

私が住んでいる町の人を巻き込むことだけはしたくない。

静かに暮らしている人に迷惑はかけたくないのだ。だが、進んでしまった時計は戻せない

 

 



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第143話

 

海岸の町 ルミナの家

 

「そうですか。わかりました」

 

私は本部からの報告を受けていた

 

『ティア、彼はかなりまずいところまで潜るつもりだから。おそらく死ぬことになるだろうね』

 

「なぜそこまで」

 

渚カオルがそこまでして守りたいならなぜ追い詰めるようなことをするのかが私には理解できない

諜報員でもなければ、そういう訓練を受けたことはない。それに彼は仮にももとはゼーレの人間だ

裏切ったものがどうなるかの末路はわかっているはずだ。そんな人間がそこまで守りたいと思うなら

 

『世界の安定のためにも彼女には幸せになってもらう必要がある。彼はそういっていたよ』

 

私には引き続きこの町の警戒をするように指示された。局長自らの指示だ

いくら世界の安定のためとはいえ、リスクがありすぎると感じるのは当然のことだ

まだ子供たちに体験させるにはあまりにも危険な世界だ

ただ、あちらサイドの情報を入手するためには適任であることもまた皮肉なことに事実だ

だから嫌に感じるのだろうか。自分たちに無力さを感じてしまうから

 

「どうして人は静かで平和な時間を壊そうとするのかわからないわね」

 

私は平和であり続ける事を望んでいるのに、世界はそれは無理だと言っている

光りある所に闇があるのだから。光りばかりで包まれている場所などこの世には存在しない

楽園があれば最高なのだが

 

「カオリさん。あなたが望む平和の世界になれることを私は切に願っています」

 

ルミナと同じように願い続ける。それがこの世界のためであり彼女のためなのだから

 

----------------------------------

 

第三新東京市 ジオフロントネルフ本部保安諜報部 加持リョウジの執務室

 

「渚カオルがゼーレと接触したのか」

 

『はい。どうしますか?』

 

「今は放置しておいていい。ただし碇司令には報告を入れておく」

 

彼の護衛を担当している保安要員からの報告に無茶な事をすると

もうさっき伝えたから覚悟の上なのだろう。昔の俺と同じだ。いくつもの草鞋を履いている状態になっている

ゼーレ、監察局、そしてルミナさん。それぞれに思惑がある。ただ彼女としてはもう2度と関わりたくないだろうが

かつて誰かが言った。一度でも動き出した時計を止める事はできないと

もちろん逆戻しにすることなどできるはずが無い。なら進むしかないのだから

 

「またあんなことをさせるわけにはいかないからな」

 

俺はそう思いながらいろいろと手配を始めた。

渚カオルがゼーレと接触したことを知れば碇司令の警戒レベルは上がる

彼の場合利用価値があるとすることも考慮に入れておかなければならない。

組織のトップである以上厳しい決断も必要だ

 

 

 



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第144話

 

隣町の病院 中庭

 

私とユウさんは病院の中庭のベンチに座って話をしていた

それはとても重要な内容だったが病室ではするのは少し嫌だった。もしかしたらという事もあって

病室が盗聴されているという可能性だ。

 

「ユウさん。偽造パスポートを作れますか?」

 

「何を考えているのかな」

 

「私もバカな事を考えているんだと思います。今の私にできる事は世界を守ること。私は確かに神様に近い存在かもしれない」

 

だから公平に裁こうと思うんですとユウさんに伝えた。つまりだ。直接彼らと接触しようというのだ

どれだけ愚かで危険な事なのかは分かっているが。何も知らずに裁く事はできない

それに彼らが本当にいるなら、私自身で決着をつけるべきだと

 

「どれだけリスクがあるかは分かっているよね?」

 

「覚悟の上です。だから頼んでいるです。ルミナさんには内緒でやるつもりです」

 

きっと彼女はこのことを知れば必ず止めようとするだろう。だけどもう迷うつもりはない

決めたのだ。もう逃げる事はしないと。

 

「少し時間をもらえるかな。軍にいる友人に頼んでみるよ。民間機を使えば必ず足がつくからね。軍用機なら搭乗客リストはないから」

 

確かにその通りだ。軍の輸送機なら荷物チェックなどはない。もちろん搭乗客リストなどあるはずが無い

調べられる可能性は極めて低い。面倒な事を頼んでいる事は分かっている。

でも、もう2度と引き返す道を選ぶことは嫌になったのだ。前に進むことを選んだ

どんなに厳しい道でも、前を見て歩いていくしかないのだとそう決めたのだ

 

「カオリちゃん。君は覚悟はできているのかな?」

 

どんなに厳しい道でも選べるのかなと

私はこう答えた。覚悟はあると。もう、誰も大切な人が傷ついてほしくない。私のせいで

だから決別するときなのだ。私の『過去』と。そして私は未来を切り開く。

過去の事実を忘れるわけではないが未来を見なければお母さんとお父さんに申し訳ないと思った

 

「もし、準備ができたら教えてください。たとえルミナさんに止められても私は歩みを止めるつもりはありません」

 

「カオリちゃん。強くなったね」

 

「覚悟を決めたら何でもできるんですよ」

 

私はそう言うとベンチから立ち上がり、中庭を出ていった。そして駐車場に行くとこちらに来る時に使った車に乗り込んだ

エンジンをかけると海岸の町にある自宅に戻っていくことにした。その時だった。連絡があったのは

 

『ピーピーピー』

 

「はい」

 

『君にとっておきの情報があるよ。ゼーレは今もドイツに存在する。本拠地の住所をメールしておくよ』

 

その声は加持さんの声だった。彼はそれだけを言い残すと電話を切った。それと同時にメールが来た

ドイツのハンブルク郊外にある所に大規模な豪邸がある。そこが拠点とのことだった。

場所は分かった。あとは向かうだけだ。問題なのはルミナさんだけではない

お父さんとお母さんになんて説明したら良いか。はっきり言って私にとっては隠し事がしたくない

家族には。本当の意味で愛してくれているから特にだ。でも話せばきっと止められる

どれだけ危険か知っているから。でも時計の針は止まらないのと同じで私の思いも止まらない

 



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第145話

隣町 病院 ユウの病室

 

僕のところにルミナさんが来ていた

 

「あなた、まさか本気でじゃないわよね?」

 

「僕としては美女の願いは叶えてあげたいからね。軍の知り合いに声をかけるつもりだよ」

 

僕のその言葉に彼女の表情はあまりにも怒っている表情になった。当然といえば当然だが

元々、ゼーレのせいでこうなったのだから。火に油を注ぐような真似をするのかと言いたいのだろう

だが彼女はきっと僕が頼みを聞かなかったらもっと無謀な手段を取ることになる

だったら、僕がその願いをかなえてセーフティーになれば良い

 

「君が言ったはずだよ。小鳥はいつか巣立つはずだと。それが彼女にとって今が最も最高のタイミングなんだよ」

 

「確かに私はそういったけど、ここまで過激な行動を望んだわけじゃないわ」

 

「でも、君の願いは叶った。彼女は飛び立つことを決めた」

 

僕はそれを支援するよと言うと早速携帯電話で軍の知り合いに連絡を取ろうとしたとき、その携帯電話を取り上げた

彼女はこういった。私もその行動にかむと。あなた達だけには任せられないといって

 

「君が協力してくれるならいろいろと便宜を図りやすいし、彼女のコントロールが行いやすい。そうだね」

 

軍の調整はやってもらえるかなと僕が言うと仕方がないわねと返事をした

 

「あなたに任せるとろくなことにならなさそうだし。こちらでした方が何かと都合が良いわ。政府への交渉も必要だし」

 

あの子をこの国から出すだけでも大問題なんだからと彼女は言った

最終的には協力してくれることは想像がついていた。わざわざ危険地帯に行かせるような真似を

それも単身でいかせるようなことをさせるはずがない事は、わかりきっていたからだ

 

「でもこれだけは約束して。仮にどんな結末を迎えようと彼女を生きて戻す事。それだけは約束してくれるわよね」

 

「僕の命に代えてもね。傷一つなく帰してみせるよ」

 

そう、僕にとっても彼女の存在は大きいのだ。今の僕があるのは彼女のおかげだ

だからここまで大それたことをしようというのだから

リスクを覚悟してまでも

 

「それで、ゼーレについてはどこまで把握しているのかな?」

 

「すでにある人物から拠点についての情報を仕入れたわ。ある豪邸にキール・ローレンツがいることが分かっているわ」

 

「なら、なぜ監察局は摘発をしないのかな?」

 

「そこに踏み込むにはいろいろと面倒なことがあって。表向きはいくわけにはいかないのよ」

 

僕はこう予想した。まだ彼らには権力を握っているという事だ。恐らく圧力をかけるくらいの物だろうが

だから監察局は動けない。下手に動けばこちらの行動が露見する可能性があるから

それだけはあってはならない。もう二度と地球規模の災害を起こすわけにはいかない

おそらくそういうことだろう

 

「1つ聞いても良いかしら?もしゼーレに戻れと言われたらどうするつもり」

 

「悪いけどあんな連中に戻る事はごめんだよ。それに今は彼女のことを愛している。それだけは変わらない。永遠にね」

 

そう、僕には長生きできても100歳までだろうが彼女は違う。もし僕の予想があっていたら、彼女はこの後寂しい人生を送る

だから、それまでにたくさんの思い出を作ってあげたい。生きている事がどれほどいいものであるかということを

 

 



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第146話

 

海岸の町 旅館の別館

 

もう決めたことを変えるつもりはない。私は未来を切り開いていく。

ゼーレと対決してすべてを思い出すのだ。たとえつらい記憶であってもすべてを思い出したい

そしてこの町で生きていくのだ。静かに暮らしていくためにもミスは許されない。

私はいつものように金庫から銃を取り出すと一度分解してきちんと整備をすると再び組み立てて金庫に戻した

私は作業を終えるとロッキングチェアに座りながら缶コーヒーを飲んでいた

平和だ。少し前までの騒動が嘘のように静かな時間が流れている

当たり前だと思っていた。平和であることが 

だけど現実は違った。平和など虚実に過ぎないという事を身をもって実感した

だからこそ戦って勝ち取ろうと思ったのかもしれない。自分の真の平和を得るために。

 

『トントン。カオリ、少し良いか?』

 

お父さんが外からドアをノックして話しかけてきた。

私はすぐにドアに向かうと開けるねと言ってからドアを開けた。お父さんはどこか心配そうな表情を浮かべていた

 

「何かあったの?」

 

「いや、カオリの方が心配でな。いろいろとあっただろう。大丈夫か?」

 

私は苦笑いをして大丈夫だよと言った。私は私だからと言って変わらないと答えた

 

「カオリは最高に自慢できる大事な1人娘だ。なにかあればいつでもな」

 

「わかっているよ。お父さん。ありがとう。でも大丈夫だから」

 

そう言うとお父さんは私の頭を撫でる。私はもう子供じゃないんだからというが

お父さんはお前はいつまでも子供だと言って仕事に戻っていった

 

「ありがとう。お父さん」

 

私は小声でそう言うと部屋に戻った

 

『ピーピーピー』

 

非通知電話からの電話だった。私はなんとなく嫌な予感をしながら電話に出た

 

「もしもし」

 

『僕の嫌な声を聞きたくないとは思うけど、情報だけでも。ゼーレは君の事に気づいている。身の回りを気を付けた方が良い』

 

「どうして?」

 

『どういう意味だい?』

 

私はそこで電話を切ってしまった。その先の言葉を言えずに

その先を言うのが怖かった。私は結局のところ、過去にまた結びを持とうとしている。

せっかく決別しようとしているのに。再び結びを持つつもりはないのに

過去を乗り越えて新しい未来を創ろうとしているのに。これではその意味がないではないかと

 

「私って、何なんだろう」

 

そんな疑問を浮かべながら、時計を見るともう午後4時だった。私はもうこんなに遅い時間なんだと思いながら食堂に向かおうとした

お客さんで混雑する前に食堂で食べようと思ったからだ。私は身だしなみを簡単に確認すると食堂に向かった

 

「こんばんわ」

 

「カオリ、大丈夫か?」

 

食堂のおじさんまで私のことを心配してくれている。それはそれで迷惑をかけて申し訳ないと思っているが

私用のメニューを出してくれるといつものようにカウンターで食事を取り始めた

まだ食堂は人が少なく静かだ。外には綺麗な夕日が見える。

まだときどき思い出してしまう。赤い月。

決して忘れないと思っていたのに。この最近の忙しさと様々な出会いで記憶が薄れて言っているのか

あそこでの記憶は忘れても問題ないものばかりだ。まさに地獄そのものだった場所の記憶など

忘れてしまいたいが、簡単にはできない

そんなことを考えながらいつものように夕食を食べ終えると食器を返して、私は自室に戻った

その途中で私は隣の部屋の前で立ち止まった。

 

「少し良いかな」

 

私の部屋の前である男性がたっていた。

 

「ネルフ監察局の蒼崎という者だけど、少し話をしたいと思ってね」

 

彼の後ろにはルミナさんがたっていた

 



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第147話

私は彼らと一緒に部屋に入った

ルミナさんが連れてきたという事は悪い人ではない事は確認されていると思ったからだ

それに、廊下でネルフがらみの話をしたくないという思いもあった

部屋に入ると私は冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、コップに注ぐと蒼崎さんという方に出した

 

「ペットボトルのお茶ですけど、すみません」

 

「かまわないよ。急に来たこちらが悪いんだから」

 

だから気にしないでくれて良いよと言ってくれた。それはそれで安心したが

 

「何か私がしましたか?」

 

「ルミナから話は聞いたよ。あの話は本気なのかな」

 

どうやらルミナさん経由で私がドイツに行きたがっている事を聞いたようだ

私は今更隠す必要もないのでそのつもりですと答えた。

 

「どんな絶望が待っていても君は大丈夫?」

 

「そうでなければこんなバカなことは言いませんよ。決めたんです。覚悟を」

 

「君にそんな覚悟をさせるぐらいに追い詰められたのかな」

 

私は自分の過去とは向き合ってこなかった。だからこそ今がチャンスなのだと答えた

再び訪れるとは思えない。こんなチャンスはめったにあるものではない

いつかは向き合わなければならないなら。今するべきだと思っていた

 

「追い詰められたのではなく決めたんです。もう過去から逃げないと」

 

「どんな嫌な過去が出てきてもかな?」

 

きっとネルフの汚い部分を知ることになるよと彼は言ってきたが私は覚悟の上ですと答えた

ネルフの汚い部分はよくわかっている。この目で見てきてからだ。思い出したくもない記憶の一つでもあるが

 

「わかったよ。君にそんなに覚悟があるならドイツ行きの手はずはこちらで整えておくよ。国連軍に根回しもしておくから」

 

私はありがとうございますと返事をした。これでドイツへの行く道筋はついたのかもしれない

残された課題は両親になんて説明したら良いのか。第三新東京市までならともかく国外に行くのだから

隠し事はしたくないので、正直に話すしかない。だって、私のことを愛してくれているから

たとえ血がつながっていなくても私の事を実の娘のように接してくれる大切な家族だ

私はお母さんとお父さんがいるであろう本館の受付の方に行った。

するとお父さんもお母さんもどちらも受付で仕事をしていた

 

「今日、お仕事が終わってからでいいから大事な話があるの。お仕事が終わってからでいいから私の部屋に来てくれる?」

 

すると2人は私のためならできるだけ早く部屋に行くと言ってくれた

私は忙しいのにごめんねと心の中で思いながらもありがとうと言って別館の自室に戻った

 



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ドイツゼーレ編
第148話


海岸の町 旅館別館 私の部屋

 

私はお母さんとお父さんに部屋に入ってもらってドイツ行きの話を言った

 

「今度、すべてを清算するためにドイツに行こうと思うの。これ以上誰も傷ついてほしくないから」

 

その言葉に2人は黙ってしまった。確かに突然の話だが、もう誰も傷ついてほしくないというのは事実だ

次に狙われるのは私の家族かもしれない。そんなことになったら私は自らのコントロールを失う。そう思ってしまった。

 

「大丈夫なのか?」

 

お父さんの質問に私はルミナさんにも協力してもらって軍の輸送機でドイツまで行くと伝えた

民間機では何かあった時対応できないから

 

「心配しないで。私の居場所はここだから。この町は私にとっては生まれ育った場所とおなじのようなものだから」

 

「カオリ」

 

お母さんは私を抱きしめた。お母さんはこういった。あなたがいつかこういう選択をする時が来るのを一番怖かったと

耐えきれりことができれば嬉しいけど、もしだめでもここに戻ってきてとも。ここには大切なものがたくさんある。

この町とこの町に住んでいるすべての人。そして家族だ。私にとってはそれは永遠に変わる事は無いだろう

 

「何かあればすぐに連絡しろ。俺達はお前がどこにいようと迎えに行ってやるから」

 

「お父さん」

 

私はとっさに嬉しくて2人に抱き着いた。お父さんもお母さんも私の事ばかり考えてくれている

あの時の家族ごっごとは違う。幸せが満ち溢れている。最高の場所だ

その後もいくつか話をしてから今日のところはここまでにしましょうとお母さんが言ってくれたので

私はおやすみなさいと言って今回の話し合いを終えた

一応布団を敷いて、すぐに寝ようと思ったのだが。なぜかすぐには寝付けなかった

きっとこれからする事に私は緊張しているのだろう。正義なんてどうでも良い。知りたいのは真実だ

誰がどうしてこうなってしまったのか。私にはそれを知る必要があった。そのうえできちんと決めるのだ

真実に蓋をして生きていくわけにはいかないという事を最近自覚してきたのだろう

いくらどんなに過酷でつらい過去でも、生きてきた証なのだから

 

『ピーピーピー』

 

携帯電話に着信が入ってきた。相手はルミナさんからだった

 

「何かありました?」

 

『ドイツ行きの切符だけどできるだけ早く用意するから心配しないでね』

 

「ルミナさん。そこであの時の真実が分かるんですか?」

 

私の心の中でどこか穴が開いているその部分、あの『儀式』の事を

そして悪夢のような光景を引き起こしてしまった私の真実を

 

『それは、思い出さない事の方をおすすめするわ。今の思い出の方が好きでしょ』

 

それはそうだが。私には罪と向かう事が必要なのではないかと思い始めた

今まで無視し続けていた過去と。ルミナさんはあなたが幸せに暮らせる事が私達にとって何よりも喜ばしい事よ

 

「いろいろとご迷惑をかけて」

 

『これだけは分かっておいてね。この町はあなたのことをずっと見守っている事を。ここが故郷なのだという事も』

 

少し大げさかもしれないけどねと言うと彼女は電話を切った

確かに大げさだと思う。でもここは私にとって故郷だ。それだけは忘れない。もう2度と手放してはいけないものなのだ

 



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第149話

海岸の町 旅館の私の部屋

 

あの騒動から1週間ほど経過した。ユウさんは無事に退院してきて今はまた私の部屋の隣で暮らしている

私はドイツに向かう。ルミナさん達の手配で国連軍の輸送機を利用するとのことだった

そうすれば搭乗者記録は残らない。荷物としていくのだから

失われた過去を見つけるために旅立つときが来た。消えていたピースをはめるために

そして、すべての真相を知るために。もうあんなことはあってはいけない。

誰もが幸せの世界を作り出せたらどれだけの人々が救えただろう

そんな世界など存在しなくても目指す意思はある。必ずどこかで見つけ出すんだ

 

「それじゃ、お父さん、お母さん。行ってくるね」

 

私はいつも通りのお酒の注文をするために向かうのと似たような表情をしているつもりだが

みんなには違って見えたようで一人ずつ私を抱きしめてくれた。

そしてみんな同じことをという。必ず生きて帰ってきてほしいと

私という存在を認めてくれている唯一の場所。ここがどんなに小さな箱舟でも私にとっては最高の世界だ

あんな世界よりも今の世界のこの町の方が綺麗だ。

ゼーレの人間がなぜあんな世界を望んだのか。私はそれが知りたいのかもしれない

 

「必ず帰ってくるから。待ってて」

 

私はそう言うと旅館の正面玄関から出て駐車場で待っているルミナさんの車に乗り込んだ

後部座席に乗り込んだのは助手席にはユウさんが乗っていたからだ

 

「ユウさん、ルミナさん。すみません。いろいろとご迷惑をおかけして」

 

「気にしないで。君のためならどんな願いでもかなえてあげるよ」

 

私は死ぬなんて許しませんからねとわざと怒ったみたいに言った

ユウさんは分かっているよと苦笑いで返してきた。冗談だという事が分かっているのかもしれない

車を発進させると、海岸の町を抜けて国連軍の基地がある町に向かった

私はその間、ずっと外を見ていた。道路は海沿いの道できれいな海の色を眺めているとなぜか心が落ち着いた

 

「1週間で用意できるなんてすごいですね」

 

「そこは彼女の力。さすがは監察局に所属しているだけのことはあるよ。表向きは僕たちの乗る便は国連軍の輸送機」

 

「中身は何なんですか?」

 

「C-5輸送機が日本の基地に貨物を移送するために偶然にも来ていて、昼過ぎにはドイツに戻るために出発予定の輸送機だよ」

 

つまり貨物をこちらに移送してきて、その帰りも輸送機にのせてもらうという事みたいらしい

 

「いよいよだね」

 

「はい」

 

私は少し緊張していた。どんな結果になるのか心のどこかでは恐れているのだろう。

でも真実を知りたいという気持ちはある。難しいところだ

すると運転席で運転しているルミナさんがユウさんに渡しておいてと言った

私には何のことなのかさっぱりわからなかったが。彼から渡されたのは国連軍の協力者を示すIDだ

もちろん、名前については偽名になっていた。

 

「カオリちゃんは美人だから悪いとは思ったけど」

 

「だから欧州出身という事にしておいたわ。今回は髪の色をごまかす時間もないしね」

 

そうだ。私の髪の色は目立ってしまう。特に日本人とした場合だ。欧州出身の人間という事にしておけば怪しまれない

 



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第150話

 

お昼を過ぎたころ、国連軍の基地に到着するとそこは物々しい警備が敷かれていた。

車から降りるとそこはまるで、要人警護をしているかのようだった。私はルミナさんに何かあるんですかと聞いた

 

「局長の手配よ。あなたを狙ってくる可能性があるから。表向きは警戒態勢の引き上げという名目でね」

 

私はすみませんと謝った。私のせいで迷惑をかけているから

できる事ならあまり迷惑をかけずに事を進めたいと思っていたが。そんなに簡単にはいかない

最大の問題として私はパスポートを持っていない。というよりは私は取れないのだ

いつまでもこの世界で見守り続けるかもしれないという現実が分かっていたのかもしれない

私という痕跡が残ればいづれはどこからか情報は漏れてしまう

人間に完璧などありえない。それは神様だって例外ではないのだという事を神様の記録で分かっていた

セカンドインパクトというパンドラの箱を誰が開けると思ってなかっただろうと

もしあの箱がなければ世界はもっと平和だったはずだ

だがそんなことを今言っていても始まらない。始まったものを止める事はできない

過去を消す事はできないのだ。私は目の前にある輸送機に乗り込む前に立ち止まってしまった

 

「私はどうしたらよかったんでしょうか?」

 

「カオリちゃん?」

 

「どうかしたの?」

 

「どこで間違いを犯したのでしょうか」

 

するとユウさんは私の手を握ってきた

 

「今更起きてしまったことを振り返っても未来は切り開けない。違うかな」

 

その言葉に私は少し勇気づけれらた

そうだ。今更起こってしまったことを後悔しても意味はない。問題はどうやって向き合うか

 

「はい!」

 

私はユウさんに少し抱き着くかのような行動をするとルミナさんがあなた達ってまるで夫婦ねと

その言葉に少し恥ずかしさを覚えてしまったが、半分同居しているのは間違いない。同じ屋根の下で寝ているのだから

一応部屋は別と言ってもだが

 

「親公認の同居ならもう半分結婚をしたようなものよ。羨ましいわね」

 

「からかうならカオリちゃん抜きでお願いしたいね。ルミナさん」

 

私はすぐに恥ずかしくなって離れたが。ユウさんはカオリちゃんならいくらでも抱き着いてくれていいよと言ってくれた

私達3人はC-5の貨物デッキではなくきちんと座席シートが整った上部フロアに移動した

機体に乗り込み着席すると機体はすぐに離陸のための準備に入っていった

飛行時間はおよそ12時間ほどであるという事を案内する放送が入ると機体は滑走路に向けて移動していった

 

「いよいよだね」

 

「はい」

 

「ゆっくりと眠っている間にドイツよ」

 

ユウさん、私、ルミナさんとそれぞれが言うと機体は滑走路に入り、加速して離陸していった

私は緊張しているのか。それともただの『強く』思い過ぎたのか眠ってしまった

 

 



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第151話

「カオリちゃんは耐えられるかな」

 

彼がカオリちゃんが眠っているのを確認してから私に話しかけてきた

私としてはこんなことはやめてほしかった。できることならあの町で静かに暮らしている事の方を望んでいた

でも彼女は選んだ。自らの道を。ならそれを尊重するのも彼女のためだと思って強引に押し切られた

各国にとってもゼーレの残党が存在することは重い課題であることは事実だ

政治、経済に深く関与していたから。闇が深すぎる

各国でも排除したいと思っているが根深いだけに簡単にはいかない

そこで局長は彼女をダシにする事で一気に制圧する事を私に提案してきた

私は猛烈に反対したが、これを逃したらもう2度とチャンスは訪れないと言った

今彼女の勇気を利用しない手はないと

 

「耐えてもらうしかないわ。この計画にはいろいろと手がかかっているのよ」

 

今更できませんでしたというわけにはいかないのだ

これは各国の駆け引きという名の微妙な条件の下で成立しているのだ

そうでもなければ成立するはずがない

カオリちゃんをあの町から出すだけでもリスクがあるのに

国外に出すとは無茶な事を考えたものだ

 

「君が賛同するとは思わなかったよ」

 

「私もよ。本来なら拒否したかったけどこういわれたのよ」

 

若い内に芽は詰んでおいた方がいいと

再びゼーレの支配が伸びる前にうまく処理できれば理想的だと

局長は最善の策を出したのだという事は分かっている

代わりに彼女が犠牲になるかもしれない事も分かっている

リスクなしの計画などないと。少しは厳しいラインを進む

 

「現実主義だね。君のところの局長さんは」

 

「まったくもってその通りよ。でもそこが怖いところなのよね」

 

だが現実を直視できなければ問題が生じる。

無視していくわけにはいかず、放置するわけにもいかない。いづれは答えを見つけ出さなければならない

それが戦場なのだから

 

----------------------------

 

僕の横で眠っているカオリちゃん。実は睡眠導入剤を混ぜたお茶を飲んでもらった。

緊張するだろうから少し入れておいたのだが効果は抜群だったようだ

ドイツまでは長旅だ。少しはリラックスした時間が必要だから

ルミナさんの言っている事はもっともだ。僕ははっきり言って無謀な賭けに近いと思っていた

カオリちゃんの前では彼女のことを後押ししたが実際は違う

できる事なら彼女には2度とゼーレなどとかかわりを持ってほしくなかった

だが時が止まる事は無い。なら、向かう未来に期待するしかない

彼女が幸福に暮らせる世界を目指していくしかないのだ

 

 



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第152話

 

ドイツの国連軍基地に到着する少し前に私はユウさんに起こされた

 

「そろそろ到着するよ。一応、現地には警戒がされているけどここから先は何が起きるかわからないから防弾チョッキを」

 

そう言うと私は防弾チョッキを渡された。私は機体後部にあるお手洗いにルミナさんと一緒に行き着用しに行った

カーテンで仕切りを作ると私は上着を脱いでチョッキを装着した

さらに頭部を守るために防弾仕様の帽子を渡された

 

「ごめんなさいね。こんなものが必要ないなら私も良かったんだけど、ここは敵が多すぎるから」

 

「徹底していますね」

 

「これから先は何が起きるかわからないわ。私にもね」

 

もしかしたら輸送機から降りた瞬間に何かがあるかもしれないとも言ってきた

私と言う存在がどれほど影響を及ぼしているかがよくわかってしまった

 

「でも、あなたのことは私が全力で守るわ。彼もそのつもりで来たんだから」

 

私はありがとうございますというとルミナさんと一緒に座席に戻った

輸送機は間もなくハンブルクにある国連軍基地に到着するところまできた。

すると戦闘機が輸送機の横を平行に飛行しているのに気づいた

 

「戦闘機も護衛ですか?」

 

守備は完璧の方が良いからねと教えてくれた

そしていよいよ軍の基地に到着すると基地内の警戒レベルはかなりの物だった

日本での国連軍の基地以上の警戒ぶりだ。私はどこか心の中で恐ろしさを感じてしまった

 

「警備が多いですね」

 

「それが現実よ。あなたはそれを直視する事を決めた」

 

だからこうなったのよとルミナさんは言った

 

「ルミナさんの狙いは何ですか?」

 

「ゼーレの解体と世界の安定。そして最大の課題はあなたの安全よ」

 

『機体は無事にハンブルク基地に到着しました』

 

「私のそばから離れないでね」

 

そう言うと私はルミナさんとユウさんに挟まれる形で機体から降りるとすぐにそばにSUV車が横付けされていた

 

「この車は防弾仕様だから、大丈夫よ」

 

停車している車の周囲には犬が1頭いた。ユウさんがすぐに耳元で爆発物探知犬だと教えてくれた

 

「厳重警戒ですね」

 

「誰だって怖いことぐらいあるのよ」

 

あなたがいなくなったら何をするかわからないわとルミナさんが独り言のようにつぶやいた

私のことをそこまで思っているなんて、何か怖いものを感じてしまった

ルミナさんが運転席、ユウさんは助手席。私は後部座席に乗り込むと出発していった

 

すると近くにいた車列と合流してその車列のまま基地外に出ていった

 

「どうして他にも車両が?」

 

「教えてなくて悪いけど、これからゼーレの本部を強襲する予定なの」

 

私はユウさんに知っていましたかと聞くと僕も初耳だよと言った

どうやら裏で相当のことが動いている事は分かったけど私にはどうでも良かった。

私はただ聞きたかった。あんな世界のどこかよかったのかと。私にとっては地獄でしかなかった

どうしてそこまでこだわったのか真実が知りたかった

 



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第153話

 

車でハンブルク基地を出発してから1時間ほど経過しただろうか

私は外の風景を見てこう思った。ここもあそこと同じだと

人と人との関係が希薄に見えた。まるで仮面をかぶりあっているかのように

私はそう感じられた。そんな思いを抱きながら市街地を抜けて郊外にある1軒の豪邸の前に到着した

そこはまるで戦場だった。周囲を現地の警察機構のひとなのだろうか。それにしてはあまりにも物騒な銃火器を所持していた

 

「ここで待っててね」

 

車をあるトレーラーの横に止めると、トレーラーの荷台部分に入っていった。

窓から見えたのは中には様々な電子機器があった

 

「なにか物々しいですね」

 

「ここがゼーレの本部だからだろうね。きっと誰もが踏み込むタイミングを待っているんだよ」

 

ユウさんはそう話すとともにどこか苦々しい表情をしていた。ユウさんの過去は知っている

だから彼の気持ちが少しくらいは分かるかもしれないと思っていたが実際は違った

人の気持ちほど理解できないものはない。

 

「ユウさんはここに来たことが?」

 

「僕は実行部隊だったからね。こういうところは来ないよ。もっとひどい所だったよ」

 

そうですかと言うと私は黙ってしまった。するとユウさんは私の頭を軽く撫でた

 

「大丈夫。カオリちゃんのことは必ず守るから」

 

「ユウさん」

 

私はいつもと変わらないユウさんを見て少し安心をした

だが周りの状況は緊迫していた。ルミナさん達はホルスターから銃を抜いてスライドを引いた

いつでも発砲できる状態であるという明確な意思表示だ

 

「ルミナさん」

 

「どうしたの」

 

私は決めた。正面から向き合わないといけない時だと

 

「ドアを開けてください。私が行きます」

 

当然のことだがルミナさんは反対してきた。危険すぎる事は分かっていた。

誰もが分かり切っている事だ。門は開いているが敷地内には誰も一歩も入ろうとしていない

みんな怖いのだ

 

「危険すぎるよ。カオリちゃん」

 

「私が行けば、きっと彼らは行動を始めます」

 

「だめよ!」

 

今あなたを失うわけにはいかないのとルミナさんは止めるが私は言う事を聞くことはしなかった。

自分から後部座席のドアを開けると車から降りて正面ゲートの方に歩いていった

ルミナさんとユウさんは慌てて私の警護に入った

私はあえて正面ゲートの前に立った。撃たれるかもしれないという恐怖を抱きながら

 

「カオリちゃん。本気なのかな?」

 

「もう、恐れる事はしない。前を見て歩くんです」

 

そう言うと私は敷地内に入っていった。ルミナさんとユウさんを連れて、

他の警察機構や軍の関係者も私の後を追うかのように続いていった

私は内心では少し怯えていたが、前を見ないで生きていくことはできないと思い歩みを進めた

すると屋敷の中から数名の武装した人間が出てきた

 

「全員下がれ!ここは私有地だ!ここは誇り高きキール・ローレンツ様の屋敷だ」

 

私は意を決してこういった

 

「彼に話があるの。だから、こう伝えて。真実を話そうと」

 

 



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第154話

私の言葉に彼らが耳を貸す保証はないが。もう止める事はできない。

賭けに出てみたのだ。すると彼らはこういった。私1人なら良いと

 

「カオリちゃん。罠だよ!」

 

「そうよ!絶対にダメよ!」

 

ユウさんとルミナさんはそういうが私はもう歩みを止めるつもりはなかった

もう逃げないと決めたのだから。

 

「行きます」

 

「だめよ!」

 

「カオリちゃん!」

 

「止めないでください!私は過去と向き合うと決めたんです!」

 

私は思わず大声をあげてしまった。ゆっくりと屋敷に近づいていった。

ルミナさんとユウさんはホルスターから銃を抜いて警戒し続けていた

 

「キール・ローレンツさんはどこにいるのですか?」

 

屋敷に入るとすぐに私は問いかけると執事と思われる人物が現れてこちらですと案内してくれた

屋敷内は極めて落ち着いた雰囲気で纏められている。ただ、ところどころに美しい芸術品がある

まさに大豪邸に相応しい屋敷なのだが。人の気配がまるで感じられることがなかった

この家にいるのは多くても十数名ほどだ。ただしそれは私の感覚的な問題なのかもしれないけど

1階の最も奥の部屋の重厚な扉の前につくとこちらの室内にいらっしゃいますと言って彼はその場を去った

私は、少し手に震えを感じながら扉を開けた。そこには車いすに乗った老人が存在した。

ようやく会うことができた。すべての始まりを試みた人間と

私はポケットに入れている小型リボルバーに手をかけていた

 

「ようやく会えましたね。あなたに」

 

私は努めて冷静を保とうとした。

そうしないと、私がすぐに暴走するのではないかと思ったからだ

元々私の心を壊してまであの計画を進めた張本人だ

同情するつもりはないがきちんと話をしたかった。それも2人きりで。

 

「碇シンジ、「その名前で呼ばないでください!私は水川カオリです!」わかった」

 

「どうしてあんなことをしたのです」

 

私は話を聞くことを最優先にして冷静さを保っていた。

もしもあのまま碇シンジと言われ続けていたら、私は銃を迷わず取り出していただろう

 

「すべては我々が神になるためだった。だが結果は失敗だったな」

 

最後に神になったのはお前だったなと言われた時、私は銃を取り出してしまった

 

「あなたにとっては素晴らしい計画だったのかもしれない!でも私にとっては地獄の日々だったわ!」

 

「民を一つにまとめる事で世界は安定するはずだった」

 

「傲慢な考えですね。人はだれしも己の考えを持っている。1つの意志になることなどありえない」

 

だから平和にもなることも。そして戦争もあるのだからと私は反論した

そうだ。人が生きていくにはそういう争いごとは避ける事はできない

必ずどこかで起きてしまうのだ。それが人間というものなのだから

罪を背負って生きていくしかない。どんなに重い罪でもだ

だから人は成長する。そして改善をしようとする。だけど彼らは違う

全てを1つにしようと傲慢な考えで自ら神になる事だけを考えた



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第155話

私はキール・ローレンツに銃口を向けてこういった

 

「すべての罪を認めて自首してください」

 

「それはできない。私が自首したところで無駄な事だ」

 

何が無駄なのか。すべての真実を明らかにしたところで私の過去が変わるわけではない

でも世界に謝罪する義務はあるはずだ。これまで行ってきた罪についてきちんと謝罪が必要だ

 

「神の裁きなら受けても良いかもしれないな」

 

私に自分を撃てと言わんばかりの態度を示していた

私は神様かもしれない。でも裁きを下すのは法だ

人の罪は人が法に則り裁くものだ。私が個人の感情に振り回してしまう事は許されない

 

「裁くのは私じゃないわ」

 

すると後ろから大きな物音がしてきた。銃撃戦が展開されている様子だった

 

「裁きの時間です。法の裁きを受けてください」

 

ついに扉が開かれた。すると先頭にはルミナさんとユウさんの姿があった

 

「キール・ローレンツ。あなたを逮捕するわ」

 

ルミナさんがそういうが彼は自らの手に銃を握っていた

 

「私を裁けるのは彼女だけだ。法の裁きではなく神の裁きなら受けよう」

 

その時私は小声で思わず言ってしまった

神様なんて存在しない。そう呟いてしまった

 

「神様なんていないわ!」

 

「なぜ認めない?自らが最高の存在になった事を」

 

「私はすべてを失ったわ!あなた達のせいで!今さら神様に頼るなんて都合が良すぎる!」

 

そうだ。私はなにもかも失った。あの街でのことで過去も未来も

なにもかも失ったのに。なぜそれで最高の存在だと言えるのか

私のような存在がどれほど世界に影響を及ぼすのか

神様なんて存在が地上にあることはあってはならない。

 

「私を裁けるのは彼女だけだ」

 

「もう1度言います。法の裁きを」

 

私はそう言うと銃を下した。キール・ローレンツは私に銃口を向けた

 

「ならば君と共に。一緒に死のう」

 

ルミナさんとユウさんが私の前に立ちふさがった。

 

「相葉ユウ、久しいな。私の部下の中で最も優秀だったお前が何故そちら側についた」

 

その次の言葉に私は耳を疑った

 

「お前が碇シンジの心を壊すように仕向けたのだが。なぜその任務を果たさず逃走したのだ?」

 

「ゼーレの信念が正しいと思っていたからだ。だが世界を救うと言われたのが嘘だった。それに優しすぎる者を壊すのはできなかった」

 

だから今度は必ず守るのだと決めたんだとユウさんは言ってくれた

彼は私のことをどんなことをしても守ってくれる。私は彼のことを責めるつもりはない

 

「あなたを逮捕するわ。容疑はテロの首謀。法の裁きを受けなさい」

 

ルミナさんがそういうがキール・ローレンツは銃を側頭部に当てた

今にも発砲しようとしたときユウさんが発砲した。弾は見事にキールが持っていた銃に命中して破壊した

 

「お前だけは許せない」

 

ユウさんが小声でつぶやいた後私を抱きしめてくれた。

彼は耳元でこういった。私だけは何があっても守ると

 



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第156話

 

結局彼は逮捕された。だけど真実がすべて全容解明されることはないだろう

彼らがどんな罪を犯したのかは情報操作されている事はニュースを見ていれば知っていた

ネルフは正義でゼーレは悪。そんなのが嘘であることはよくわかっていた

ゼーレは上部組織。ネルフはゼーレの実行機関。それが真実なのに

その真実から逃れるためにネルフがした事は紛れもない隠蔽だ

だから許せないのかもしれない。ネルフも、碇ユイさんのことも

もう親でもないという認識を持てるのも

私はただ真実だけが知りたいだけなのに。それもかなわない

 

「カオリちゃん」

 

「ユウさん」

 

「もう終わったんだよ」

 

彼は私を抱きしめてくれた。これですべて終わったのだと

 

「僕が言っても説得力はないかもしれないけど、カオリちゃんは頑張った。だからもう無理はしないで」

 

優しく抱きしめながら私に語り掛けてくれた

これでゼーレとはケリがつくと思った。真実が明らかになるかどうかはわからない

きっとどこかで横やりが入る事は分かっているけど。

ネルフが黙っているとは思えない

 

「でもネルフが」

 

「彼らも監察局を敵に回したいとは思わないよ」

 

特にルミナさんは怖いからねと。

 

「どうしてルミナさんはそんなに恐れられているんですか?」

 

私には疑問だった。確かにルミナさんは真実を知っているのかもしれない

でもそれだけで影響力があるとは思えない。もし私の予想が当たっていたら彼女は私のそばにいた

あの時もずっと。だから私にやさしくしてくれるのではないかと思っていた

記憶が完全に戻ったわけではない。あの時のことを

 

「私は世界を狂わしたという事実は変わらない」

 

「でも君は世界を救った。終わってしまった世界を。死んでしまった世界を生きることができる世界に戻した」

 

それはカオリちゃんが正しい事をしたからだよとユウさんは言ってくれたが

私にはそれが正しい事だとは思えなかった。だって私は咎人だから

罪を背負っていくしかない事は分かっていても。理解できていてもまだ

その後私達は降り立った基地に戻る事になった。元々ここでの滞在は短時間で済ませる予定だったと

私はどこに行っても嫌われ者なのかもしれない

 

「そう言うわけじゃないけど、ここだとあなたを守れないの。今夜の便で帰る事が元々のプランだったのよ」

 

私とルミナさんが屋敷の外に出て再び車に乗り込むと車は基地に引き返していった

私は基地へと戻る道中で疲れていたのか緊張が解けたせいなのかどうかはわからないが眠ってしまった

私が再び目を覚めた頃にはすでに基地に到着しているころになっていた

 



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第157話

「カオリちゃんは寝たみたいだね。やっぱり無茶だったみたいだけど」

 

「でも、成果はあったわ。あとはどの程度ネルフが介入してくるか」

 

僕はカオリちゃんが眠ったのを確認してからルミナさんと話を始めた

今回の一連の動きで世界はまた大きく動くだろう。

今まで世界を支配していたゼーレと言う組織が白日の下にさらされる

そうなれば世界には政財界に大きな影響が出るだろう

実際問題としてキール・ローレンツは政財界に多くのコネを持っていた

今でも持っているかはどうかについては知らないが。ネルフはゼーレの下部組織だったことは僕は知っている

それを知られて困るのは正義の味方のふりをしている彼らだ

 

「ネルフへの対応は?」

 

「今は介入してこないみたいだけどそれも時間の問題よ。彼の身柄は国際司法裁判所で裁かれることになるけど」

 

ゼーレのトップだった者を裁く。それは最も難しいだろう。裏を知り過ぎているからだ

ネルフだって彼の口をふさぐことをしようとする可能性はないとは言えない

 

「それで君はどうするのかな?」

 

「彼女の影響が出ないようにするだけよ。ネルフがどうなろうと私には関係ないわ」

 

ルミナさんにとって重要なのはカオリちゃんの安全であってネルフなど眼中にないようだ

それは僕も同じだ。ネルフがどうなろうと関係ない。彼女が幸せに暮らせるなら

確かに小さなかごの鳥のような場所かもしれないが

それでもあそこは世界で最も綺麗な場所だ。

カオリちゃんが生きていくうえで最も重要な町だ

それは世界にも当てはまる。もし彼女の身に何かあれば大問題になる

国内問題では済まないのだ。国際問題になる

 

「ルミナさんにとっては世界より大事なのはカオリちゃんなんだね」

 

「ええ、ネルフも世界もどうでも良いわ。私にとって重要なのは彼女だけよ」

 

 

------------------------------------

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部

 

「間違いないのか!?碇」

 

「ああ、監察局がキール議長を押さえたと」

 

私が思っていた以上に彼らは情報収集能力が高かったようだ

それにしても思い切ったことをしたものだ。彼を押さえると。このまま一気に真相を明らかにするつもりなのか

 

「まずいぞ。ネルフがゼーレの下部組織だったことを最も知っている人物だ」

 

「わかっている。すでに保安諜報部に動いてもらっている」

 

「大丈夫なのか?彼は元ゼーレ側の人間だぞ」

 

「だが彼女の味方でもある。これはある意味では利用できる」

 

「それはそうだが」

 

碇の考えている事はなんとなくわかる。これでも長い付き合いだ。

それにだ。彼女に影響を及ぼすような発言をするようなら監察局が黙っているとは思えない

 

 

 

------------------------------------

 

第三新東京市ジオフロント 監察局 局長執務室

 

「そう、無事に確保したんだね」

 

局長である私は確認作業に追われていた。

ネルフの査察を担当している部署の責任者であるシエラ・ドーレスはある事を懸念していた

 

「はい。ですが今後のことですが」

 

「すでにハーグの国際司法裁判所にテロ容疑で裁判が受ける事が決まったよ」

 

「彼らがそれで納得すると?」

 

「碇ゲンドウにとって彼女の存在はかなり微妙だからね。彼女に危険を及ぼす事は無いと思っているけど必要ならなんとかするよ」

 

ネルフ監察局にとってもゼーレの存在はかなり大きなものであることは私はよくわかっていた

ゼーレがネルフを使って様々な事をしていたことはルミナから聞いている。

問題はキール・ローレンツがどこまで証言する気があるかだ

 



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第158話

 

私が目を覚ますとすでに基地に到着していた

私は少し眠たい表情を浮かべていたようで、ユウさんにぐっすり寝ていたねと言われた

思わず恥ずかしくて顔を赤くしてしまった

 

「恥ずかしいです」

 

「カオリちゃんのそういう一面も僕は好きだけどね」

 

するとルミナさんに私達がまるで夫婦のような会話をしているわよと言われてしまった

 

「ルミナさん!恥ずかしいですから!」

 

「良いじゃない。結構お似合いだと思うけど。2人が結婚式をするならぜひ招待してね」

 

私はいじられることに抗議をするかのように知りません!と言って違う方向を向いたが

内心では恥ずかしくて仕方がなかった

 

「カオリちゃん。きっと緊張をほぐしてくれているんだよ。それに、僕は疫病神だよ」

 

「それなら私も同じです」

 

ユウさんが疫病神なら私はもっとひどい神様だ。残酷で、悲劇ばかりを生み出す

私自身は望んでいないのに。でもそれは仕方がない。そういう運命を背負っているのだから

軍用輸送機の横に車を止めると私はルミナさんとユウさんに守られる形で機内に入っていった

 

「軍用機で帰るんですね」

 

「これも痕跡を残さないためよ。ネルフにこちらの動きを悟らせることを避ける目的もあるし」

 

ルミナさんの言うとおりだ。表向きは今も私はあの町にいる事になっている

もし国外に出たことが発覚すれば彼らも何らかの行動を起こす事は分かっている

あの街は私を守ってくれるが町を一歩でも出れば敵があちこちにいるのだ

輸送機は私達の到着を待っていたかのように座席に座ると機体が動きだし滑走路に向かっていった

 

「短時間の海外旅行でしたね」

 

「そうだね」

 

私にとってはあの時より前の時でも国外に出た事は無かった。

でもそれでも良い。私はあの町で暮らしていくのだから

静かに平穏に過ごせれば何物にも代える事はできないものだ

ただ、いつかは少しは巣立ちたいと思っている。

少しくらいなら出ていきたいと思っているが。

あの町から出るとまた誰かが襲われるのではないかと不安になる

私はユウさんにお茶のペットボトルともらうと私はゆっくりと飲み始めた

しばらくすると私はまた睡魔に襲われたので私は気を緩めてすぐに眠りにつくことにした

 

「ユウさん。日本についたら起こしてくださいね」

 

「わかっているよ。今回はいろいろと会っていろいろと疲れていると思うからゆっくりと休むと良いよ」

 

私はすぐに眠ってしまった。よほど疲れていたのだろうか。

 

 

----------------------------

 

僕はルミナさんと話を始めた。カオリちゃんには悪いとは思ったけど睡眠導入剤をお茶に少し混ぜておいた

 

「それで監察局はどうするのかな?」

 

本音を知っておきたかった。今のうちに

 

「私はあの町で彼女を守る事を最優先課題としているだけよ」

 

「ルミナさんのことはよくわかっているつもりだけど、監察局の蒼崎局長さんの意向はどうなのかな?」

 

もしネルフを糾弾をした時にカオリちゃんに何かあったら大変な事になる事は分かっていた

だから知りたかった。相手の出方を

 

「局長はある程度は真実を知っているから無茶はしないと思うわ。それに世界の安定を壊したいと思っていないはず」

 

「ならキール・ローレンツには口止めが必要だね」

 

あの男はいろいろと知り過ぎている。もし裁判になったらすべてを話す可能性がある

そうなればようやく安定しつつある世界が壊れる事になる

 

「日本に戻ったら協議するわ。局長とね」

 



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第159話

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部技術部長補佐執務室

 

そこが私の職場だ。でもどうしても納得できていない

シンジ、いえ。彼女ともっと話がしたかった

あの時のことを覚えていない事は分かっている。私にもわからない

でも知っている人には心当たりはある。あのルミナという女性。

彼女はどこか真相を知っているという事は夫であるゲンドウさんから聞いていた

だから監察局には接触するなと言われていた。

 

「ユイ。大丈夫?」

 

私に声をかけてきたのはアスカちゃんの母であるキョウコだった

キョウコ自身もなぜ生きているのかわからないが、サードインパクトのあと蘇った中の1人だ

 

「また悩んでいるの?いい加減にあきらめたらどうかしら。私達は多くの過ちを犯したのよ」

 

「キョウコは良いじゃない。アスカちゃんがいるから」

 

「あなたにだってレイちゃんがいるでしょ。カオリさんはもう自立した大人よ」

 

キョウコはこの世界に戻った時に必死になってアスカちゃんに謝罪していた

全てを話した。アスカちゃんはキョウコが戻ってきたことについては喜んでいた。

でも、少し納得していないところがあり初めのうちはギクシャクしていた

今でこそ、元の家族に戻っているが。

 

「私達は罪を犯した。その罪は彼女に背負わせてしまった。私達も咎人であるはずなのに彼女は救ってくれたのよ」

 

キョウコの言うとおりだ。本来なら私達も咎人として裁かれるべきだった

だがそうならないようになったのはすべて彼女のおかげだ。

でも私はすべてを奪ってしまった。

性別から将来の人生も。彼女はきっと永遠に生き続けなければならない

それを考えると確かに答えることができなかった

 

「彼女は自ら歩み出しているのだから邪魔はしないでおくべきだわ」

 

「キョウコ」

 

 

------------------------------------

 

ネルフ本部保安諜報部 部長執務室

 

「どうやらキール・ローレンツ議長が逮捕されて、他のゼーレ幹部も続々と逮捕されていっているみたいだ」

 

「キール議長以外のリーク元は僕ではありませんので」

 

僕は加持さんと話をしていた。僕は確かにキール議長に連絡を取りたいと

そのおかげで連絡先を聞き出しそれを逆探知してもらった

 

「それで、カオル君どうするのかな?」

 

「すべては流れのままに。彼女が望んだことです」

 

「監察局は公表すると思うかな?」

 

「それはないでしょう。蒼崎局長のほかに各国政府のトップは彼女に何かあればどうなるか。身を持って知っているでしょうし」

 

確かに彼女のそばにいる彼を狙撃されただけで気候変動があったのだ。そう蒼崎局長から聞いている。

彼女をどうこうすれば世界は壊れる事は分かっている。だからあの町が存在するのだ

各国のトップではこう呼ばれている。その引き継ぎ事項は永遠の誓いと呼ばれている

 

「次に狙われるのはカオル君。君だ」

 

「覚悟はできています。だからこれを」

 

僕は1枚のディスクを渡した。

 

「内容は?」

 

「真実です。あの時の。僕が分かる限りの真実を記録しています」

 

そう、あのサードインパクトの時の僕の知りうる限りの真実が記録されている

誰かに引き継いでほしいからこそだ

 

「俺にも永遠の誓いをしろと」

 

「誰かが引き継ぐべきことです。加持さん」

 

僕はそう言うと執務室を出ていった



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第160話

 

海岸の町 旅館

 

キール・ローレンツ議長が逮捕されたというニュースは私達の旅館でも生放送されていた

私の大切な娘の人生をぼろぼろにした張本人が捕まって私は少し安堵した

あの子の母親として、娘の重荷をようやく取れる事になると思っていたからだ

いや、そうなればと思っていた

 

「あなた」

 

「ああ、大丈夫だ。カオリは帰ってくる。ルミナさんに彼もついている」

 

ユウさんがどういう人なのかはよく分かっている。彼が個人的に話してくれた

彼がどこに所属していたかについて詳細に話してくれた。包み隠さずすべてありのままを打ち明けてくれた

だから信用しているのだ。娘のことを愛してくれているという事が分かったから

あの子は真剣に考えていた。1度だけ相談してくれた。結婚をしようかと思っていると

全てにケリがついたら、ネルフもゼーレもなにもかもあの子を縛るものがなくなった時に形だけでも結婚をしようと

その時のカオリの表情はよく覚えている。どこか恥ずかしそうにながらも嬉しそうに話していた

カオリもユウさんのことを愛していた。でもカオリは自分と関係すれば傷つくことと思っていた

誰かと近づきすれば自分のせいで傷つくかもしれない

だから前に進めないところもあるのだとあの子は言っていた

そんな重荷を背負わせた彼らのことを私達は許したくなかった

あの時、碇ユイさんがきた時に会わすべきかどうか真剣に考えた。

娘のすべてを奪った彼女に今さら何を言うつもりだと

全ては取り返しがつかないにもかかわらずだ

 

「そうね。ルミナさんも彼が一緒だからきっと」

 

私達の願いはただ1つだ

私達の宝物である大切な娘であるカオリが今後も幸せに暮らしていけること。

こんな小さな願いですらカオリにとっては難しいのだ

ささいなことなのに

 

 

----------------------------

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ監察局 

 

「ルミナ、今回のことはかなり各国は神経質になっているよ」

 

『どの国もゼーレの影響下にありましたから。当然の反応です』

 

僕はルミナと通信をしていた。確かにその通りだ。ヨーロッパ諸国は特にゼーレの影響下にあった

おかげで今回の逮捕劇にはかなり動揺が走っている。どの国も後ろ暗い所があるのだろう

だが彼女に傷つかれて永遠の誓いを破るような事はできない

まさに板挟みの状況なのだ

 

「君の意見は?」

 

『私は政治には「それでもだよ。ここまでのことをしたんだから」わかりました。キール・ローレンツの証言は必要でしょう』

 

彼女はこうも言った。問題はどこまで証言させるかだ。そして裁判は非公開の方が良いと

公開裁判にすればどうなるかはわかりきっている。密室でのやり取りはしたくないところだが

今回ばかりはやむ終えない

 



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ネルフと監察局
第161話


 

海岸の街の隣町。国連軍基地

 

私が眠っている間に基地に到着した。

 

「おはよう、カオリちゃん」

 

ユウさんが眠そうだねと言いながら髪を撫でてくれた

 

「恥ずかしいです!」

 

「大丈夫、ルミナさんは今はいないし機内にいるのは僕とカオリちゃんだけだから」

 

「それでもです!」

 

私はとっても恥ずかしかった。いくら見られていないとはいえ。

まだ男性との交友にどうも一歩引いてしまっている

私はきっと永遠に生き続けなければならない

もし結婚をして、子供が生まれたらと思うと怖いからだ

母親がどれほどひどい事をしたかという事を説明した時

その時私の子供は理解してくれるかどうか

きっと子供は受け入れてくれる事は無いかもしれない

そうなれば私は壊れてしまう。だから怖いのだ

というよりも私に子供を育てることができるのか心配だ

私自身が家族との協力で生活できているので

 

「それじゃあの町に帰りましょう」

 

あの海岸の町に帰りましょうというと私達は軍用輸送機から降りた。

輸送機のそばに止めているルミナさんの車に乗り込んだ

あの町こそ私の居場所であり家だ

都会とは違って静かで誰もがお互い顔見知りの町

それこそが私のもっとも求めていたものかもしれない

でもある人が言った平和とは何かの代償でしか作り出す事はできない

争いごとはどこに行っても存在する。少なくてもだ

私が住んでいる旅館でそう言う揉め事が起きる事はめったにないが

 

 

------------------------------------

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部

 

「キール・ローレンツ議長が逮捕されたというのは本当なの。あなた」

 

私は夫に確かめていた。夫はいつものように表情には出さなかった

 

「ああ、その事実は間違いない」

 

キール議長とは昔からの付き合いだった。

でも人類補完計画を進めた段階で私とは違った方向に向かってしまった

そして私は彼女からすべてを奪ってしまった

人として生きる道すらも

 

「どうするつもりですか?」

 

ゼーレの下部組織がネルフであることを知られればネルフ解体は時間の問題だ

ただ、ネルフ解体はすぐにできるものではない。それにどうなるかは今後の情勢次第で大きく変わる

 

「我々にも責任はある。いつかはこうなる運命だとわかっていた」

 

「つまり裁かれることは覚悟しておいた方が良いという事ですか?」

 

『ピーピーピー』

 

その時夫の執務机にある電話が着信を告げていた

 

「ネルフ本部司令官の碇ゲンドウだ」

 

夫はいくつか話をした後、わかったというと私に少し出てくるといって自分の執務室を出ていった



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第162話

第三新東京市ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

私は突然秘密裏に会合を行いたいと言われたので監察局に来た

初めてのことだ。内密に話をしたいと。それもトップ会談をしたいとは。

 

「今後の対応ですが。我々としては今ネルフにつぶれられては非常に困るのです」

 

私はその言葉に驚いた。監察局からネルフ擁護の話が出るとは想像もしていなかったからだ

だがここは見極める必要があると考えた。裏では何をしているからわからないからだ

 

「どういう趣向ですか」

 

「あなた方が作り出した神様。水川カオリさんを守るためなら我々はいかなる対応もします」

 

彼女の真相を知っている者がいる事は気づいていたが、まさか蒼崎局長にまで知られているとは

 

「あなた方ネルフが犯してきた罪については問うことはあるでしょう。ですが彼女の存在に関しては隠匿しなければなりません」

 

ご協力いただけますよねと彼は私に話してきた

正直なところ私にもわからない。どう対応するべきか悩むところだ

 

「1つ聞きたい。監察局がどこまで把握しているのか」

 

ネルフの機密情報がどこまで蒼崎局長に知られているのか。私には確認する必要があった

なぜそれを把握していながら黙っているのか。そしてフィフスチルドレンである渚カオルがどう絡んでいるのか

状況把握をしなければならなかった。そうでもなければ動けるはずがない

 

「ネルフがゼーレの下部組織であったこと。あなたがゼーレとは違って碇ユイを蘇らせるためにさまざまに行った非人道的行為」

 

そのすべてを把握していると言ってきた。さらにレイの存在についても状況はすべて把握していると

レイの出生の秘密は決して明らかになっては困る。

ネルフがいかに非人道的な事をしてきたかを証明するようなものだからだ

 

「つまりネルフの第1級機密はすべて把握していると。なぜそれを国連に報告しないのかお聞きしたい?」

 

それだけの情報があればネルフ監察局など立ち上げなくても我々を潰すことができたはずだ

にもかかわらずそれを行わないということは、まるであの町を守るために存在している

 

「ネルフがつぶれれば他の組織が取って代わるだけになる。それでは何の解決にもならない。あの海岸の町を守るためにも」

 

そして私に彼はこういった。

 

「あなたももうご存じのはずだが、碇シンジ君の存在、そして水川カオリさんの存在によって我々監察局が生まれた」

 

「なぜ私にそこまで内情を話すか聞いても?」

 

「もうこれ以上ネルフがあの町に関わる事を止めてもらうためです。特に彼女に関わろうとする人物の行動に注視していただきたい」

 

これ以上我々に関わるなという事は国連から指示が来ている。国連だけではない。

主要先進国ですらあの町に手を出す事を禁じている。まるで決して侵してはならない聖域のように

私もシンジ、いや彼女に対してもう手を出すつもりはない。我々が彼女からなにもかも奪い取ったのだから

だから私の返事は決まっていた

 



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第163話

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部 総司令官執務室

 

「本気で言っているのか。碇」

 

私が言った言葉に冬月は驚いていた。物分かりが良くなったことは分かっていたがそれが大きく急回転したことに

確かに私は昔は物分かりは良い方ではなかったかもしれない

だがあの子に関しては別だ。私がどれほど償いの言葉を言っても、何の意味もない

それどころか、逆に傷つけるだけだ。なら提案に乗るのも良い選択だ

 

「ああ、蒼崎局長は私にネルフの過去の罪に関しては問わないようにする代わりに2度とあの町に関わるなと」

 

「確かに国連直轄の町だ。だが、なぜそこまでネルフのことに」

 

「冬月、これは決定事項だ」

 

私はもう決めたのだ。あとはレイたちだ。あの2人が素直に約束してくれるか

レイたちは彼女のことで必死なのだ。なんとしても関わってもとの関係に戻そうとしている

そんなことは不可能にもかかわらずだ

 

「とにかくだ。ネルフ関係者はあの町には関わらない」

 

「ユイ君にその話はしたのか」

 

ユイがもう諦めている事は分かっている。表ではわかっていても内心ではもっと話をしたいと思っている

それを何とか抑えているのが今の状況なのだ

 

「ユイはもう無理であることを分かっている。あの町に行って直接話をしたからな」

 

「そうか。つらいな」

 

 

----------------------------

 

海岸の町 旅館 正面玄関

 

「お帰り、カオリ!」

 

「無事で何よりだ」

 

お母さんとお父さんは私のことを抱きしめてくれた

 

「ただいま」

 

「ユウさんもいろいろとありがとう」

 

お母さんはユウさんにもお礼を言うと彼は気にしないでくださいと言い、

 

「カオリちゃんのためならどこにでもついていきますよ」

 

私にとっては恥ずかしい言葉だ。お母さんは私に良い人に巡り会えたわねと

 

「お母さん。私がそういう事に興味ない事を知っているでしょ」

 

私が結婚とかに興味がない事は一番知っているはずなのに、私の緊張をほぐすためか進めてくる

すると私は余計に恥ずかしくなってきてしまう

 

「とりあえず、部屋に戻るね。荷物を片付けたらお昼を食べに行くから」

 

「今日も僕と一緒にどうかな?」

 

ユウさんの提案に私は良いですよと言うと別館の部屋に向かった

銃などをいろいろと片付ける必要があったからだ

それに、ニュースを見ておきたかった。どのような形で報道されているのかが気になって仕方がなかった

私とユウさんは別館の自室に帰った。私は部屋に入るとバックから銃を取り出して金庫に入れた

そしてテレビのスイッチを入れてニュースを見ると国際戦犯者が逮捕されたという報道はされていた

ただ、誰が逮捕されたかについては報道制限がかけられているのか。

一切報道されていなかった。どのメディアも。もちろん私のことなども伏せられていた

これで一安心だ。あとは芋づる式に関係者が逮捕されていくだろうが全容解明には時間がかかる

その間に関係者がどれくらい生き残っているかどうか

 

 



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第164話

 

海岸の町 旅館の食堂

 

私とユウさんは一緒に昼食を食べに来ていた。昼食の時間には少し早いようで、お客さんは比較的少なかった

私はいつものように専用メニューだった。栄養バランスが良く、なおかつ量は少なめという難しい注文のメニューだ

あのドイツでの光景が嘘のように暖かい場所だ。私にとってはここが故郷なのかもしれない

例え、違っていたとしても私はそうだと思いたい。なぜなら幸せだから

私はこの町で生きていて幸せに暮らせている

それが何物にも代えることができない貴重な宝物だ

私は罪を犯した。だからその償いのためにも私はこれから時間をかけて世界を見守る

再びあの悪夢を繰り返させないためにも平和であり続ける事を切に願う

 

「カオリちゃん。大丈夫?」

 

怖い顔になっているよとユウさんに言われ、ちょっと考え事をと答えると

 

「カオリちゃんはもう自由だから」

 

自由、ただ私にとってはこの町に住んでいる事の方が自由に暮らしているように感じられる

誰もが顔を知っている小さな町だけど、自然豊かな場所。

都会とは違ったまた別の良さに私はかなり気に入っていた

都会はどうも好きになれない。思い出すからかもしれないけど

この町で静かに暮らしていけるならもう私は別に贅沢なんて言わない

これ以上のことを願ってしまったら贅沢な注文だ

私にとって大切なものはこの町にたくさんある

お母さんとお父さんの愛情。旅館でお仕事をしている人たち

そしてユウさんやルミナさん。みんなの思いでいっぱいだ

私はこの楽園を手放したくはなかった

たとえそれが今だけの物だとわかっていても

その今を大事にして生きていきたい

私とユウさんの出会いが運命ならそれは、お互いに何かを取り戻すために出会ったのだろう

私は未来と大切な物。ユウさんは過去を振り切って新しい未来を

そうだと思っていると少しは心に余裕が生まれるかもしれない

 

---------------------------

 

あの子の母としてカオリが無事に帰ってきたことは私にとっては最高の喜びだった

あの子は私にとって、いえ、私達全員にとって大切な子。

たとえ血縁関係が無くても家族なのだから

血のつながりが家族だというのはきっと違う。

本当に愛情をもって育てているから家族だと私は思っている

これからはもっといろいろと楽しい事を経験してほしいと思っている

私達はカオリのことを縛るつもりはない

自由にのびのびと、あの子が満足できるなら私達は止める事はしない

子供の幸せを願い続けるのが親の役割だと私は思っている

 



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海岸の町(パート10)
第165話


 

僕はこの町に住んで初めて知った。

何もない事が幸せであることを

今まで血を流してきたのだからそう感じるのかもしれない

この町では平和な時間が流れている。犯罪はなく、揉め事と言えばちょっとした子供同士のけんか

まさに平和というのが絵にかいたような町だ

カオリちゃんにとっては最高の場所だろう

何人にも侵されない聖なる場所。そして最高の場所

だからかもしれない。ここの人がみんな優しいのは

誰もがお互いを知り、お互いの気持ちを思い合っている

そんな町だからこそ、彼女の箱庭として成立していた

今までは。

 

でもこれからは違う。大きな波が襲う事は容易に想像がついていた

ゼーレ、ネルフ、監察局。それぞれの意思がこの町に入ってくる

それがどんな結果を招き、悲惨な目に合うのか

誰も想像もしていないだろう。

僕はテレビを見ていた。マスコミは国際的テロリストの逮捕のニュースでもちきりだが

名前は明かされていなかった。名前が明かされたらせっかくの捜査が台無しになるというのが表向きの理由だが

実際のところはカオリちゃんを守るためだ

彼らから真実を漏れる事を避けるためだ

サードインパクト後に起きた神の奇跡。死者をよみがえらすという絶対にありえない事だ

そのため宗教界でもあの行為は神からの贈り物だというものもいる

神が新たに生まれたとして新興宗教も誕生している

警戒するべき組織が増えるばかりの状態なのが現状だ

彼女には今は静かな時間が必要だ。だが周囲はそれを許そうとしない

彼女には何の責任もないはずなのに。なのになぜ彼女にだけこれほどつらい運命を神は譲ったのか

もっと他にやる事があったのではないか。そう考えてしまう。

彼女には重すぎる十字架だからだ。僕だけではそれをおろす事はできない

 

「神様はどうして彼女を見捨てたんだろうね」

 

もし前の神様がすべてを見ていたならなぜあんな運命をカオリちゃんに与えたのか

悲劇しか生まない運命を。幸福と呼べる人生を与えられて当然のはずなのに

にもかかわらず彼女に与えられたのは地獄そのものだ。永遠に消える事のない傷

心の傷は一生かかっても治る事はできない

僕が彼女に支えになる事はできるかもしれない

でも彼女より僕の寿命は短い。永遠に生き続けるのだから

彼女にとって最大の苦しみを僕は取り除けない

もし僕にできる事があるとすれば彼女を支える事だ

僕にはそれしかできない。

カオリちゃんを見捨てることなく、生涯を過ごす

例え、どんな事になろうとも彼女のことは守り抜いてみせる

それが今の僕にできる最大限のことだ



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第166話

私はお昼を食べ終えると食器を返して事務室に向かった。

ネコさん達にお昼を食べてもらう時間だからだ。こういう時間を私は貴重に思う

何でもない事がとても貴重な時間のように感じられる

いつものようにネコさん達のご飯であるキャットフードを専用の皿に盛り付けるとそれを持って中庭に向かった

するとそれを待っていたかのようにネコさん達が集まってきた

 

「待っててね」

 

私はエサが入った皿を地面に置くと近くのベンチに座った

海風が入りとてもいい空気だ。都会とは違い、潮の香りがする良い所だ

ここは私にとって最高の場所なのだ。

誰もが静かに暮らしている世界。平和で。お互いの顔を知っている

みんなが心から愛しているこの海岸の町。

 

「今日も良い天気だね」

 

ネコさんに語り掛けるかのように話しかけると彼らは理解しているのかどうかはわからないが

私の方を向いてニャーと声を出して反応してくれた。

私はご飯を食べ終えたのか近づいてきたネコを抱きかかえると膝の上に下ろした

すると他のネコさん達も同じように求めるかのように近づいてきた

 

「もう、だめだよ」

 

私はそんなことを言いながら、ネコさん達の頭を撫でるだけにした。

いくら私でも膝の上に何頭も上げる事はできない

頑張って2頭が限界だ。するとネコさん達は私の足元で丸くなってまるで眠るかのように目を細めた

子ネコさんたちは今日は中庭に生えている猫じゃらしなどの草で遊んでいた

 

「平和だね」

 

するとユウさんがこちらに近づいてきた。

あの子たち、ネコさん達はまるで慌ててかのように私の周りからどこかに行ってしまった

 

「嫌われたかな?」

 

「そんなことないと思いますけど」

 

ユウさんの言葉に私はそう返すしかなかった

ネコさん達は別にユウさんのことを嫌っているのではないと思いたい。

一緒に暮らしているのだから

 

「それで調子はどうだい?」

 

「元気はありますけど。これからのことを思うと」

 

「そうだね。すべては始まったばかりだから。でもカオリちゃんの決断は間違っていないと思うよ」

 

ユウさんも私の横に座ると優しく抱きしめてくれた

 

「きっと願いは叶うよ」

 

ユウさんはそう言った。私の願い。それは世界が平穏であることだ

私のせいで争いを起きる事は絶対に望まない。もしそういう事態になったら私はこの町から姿を消すつもりでいた

でもずっと帰ってこないわけじゃない。ちゃんと毎週のようにお母さんとお父さんの手紙を書いて元気ですって伝える事は忘れない

お父さんとお母さんは心配性だから少しは安心できる材料になれば良いと思っている

幸せは突然になって訪れるものだ。その何かが分かればいいのだけど

 

「願いがかなったことはあんまり少ないんですけど、私は多くは望まないんです」

 

そう、私はただこの町でみんなと静かに暮らして世界を見ていく。そう決めたのだ

たとえ神様の役割を果たせないとしても私には見守っていく責任があると思っていた

いつか、誰かが引き継いでくれるまで。私は・・・・・・・



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第167話

 

私はユウさんと話を終えた後部屋に戻るとのんびりとしていた

今は何もする気にはなれなかった。ただ、ようやく私の止まっていた時計が進み始めた

そう感じられた。今までの私はどこか調子の悪い時計だったのかもしれない

それが正常に修理されてようやくまともに動くようになった

 

「幸せを大切に、か」

 

私はそう呟きながらロッキングチェアに座って外の風景を眺めはじめた

静かな時間だ。とても大切に感じれるくらいに

いつもならネコさん達が来るのだが今日は来る気配はない

まるで私の今の気持ちを理解しているかのようだ

だからなのかもしれない。どこかにさみしさを感じてしまうことは

私は咎人だ。神様の役割を果たすべきなのにそれをしようともしない

それでも良いように私の周りの人たちは私のことを守ってくれている

すこし迷惑をかけているようで申し訳ないように感じてしまう

 

『トントン』

 

ドアをノックされたので私は椅子から立ち上がるとドアの方の向かった

誰ですかと聞くとユウさんだった。ドアを開けるとユウさんが立っていた

 

「何かありました?」

 

「カオリちゃん。少し良いかな?」

 

「良いですよ」

 

私はそう言うとユウさんを招き入れた。

そして話を始めた。話と言ってもこれからどうするのかという話だ

もう私ができる事はすべてしたつもりだ。あとはすべて流れに任せようとしていた

私1人では泳ぎ切れいないかもしれないがユウさんもいるし

 

「私はこの町で静かに暮らしていこうと思います」

 

「じゃ、僕も付き合うよ。どこまでもね」

 

ただ、私はまだ彼らときちんと決別できていないように感じられていた。

確かに言葉では伝えた。でもそれは渚カオルを通してだ。

いづれ彼らは私の元に来るだろう。そうなる前にこの町には来られないようにしたい

もうこの町で争いの火種を起こしてほしくないのだ

平和で、喧嘩もないこの町で争いなどしたくない

この静かな町を邪魔されたくない。だから私はある事決めた

もう1度彼女たちに会おうと。

 

「本当にそれでいいのかな?」

 

「もう2度とこの町に触れてほしくないんです。ネルフには余計な邪魔はされたくない。私はただ静かに生きたいだけなのに」

 

「ルミナさんに話して刑事のIDを用意してもらうよ。できるだけ早くにね」

 

「その必要はありません」

 

どういう事かなと聞いてきた。私はこう答えた。正面から向き合わないと何も解決しないと

だから、目の前の現実を直視して生きていくと

刑事としての偽IDを使わないで第三新東京市にむかうのだ

当然のことながらユウさんは反対してきた。危険すぎると

 

「ユウさんじゃないです。鳥はいつかはばたくものだって。それがこの旅だってことです」

 

もう1度小鳥は巣から飛び立つ時なんです。と言った

 

「ルミナさんやティアさんにはどういうつもりかな?」

 

「きっと2人なら止めると思うんです。だから黙って行きませんか。今日の夜にも」

 

「カオリちゃんの決意がそこまでならどこまでも付き合うよ。なら早速用意をしようね」

 

 



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第168話

 

その日の夕方、私とユウさんは夜から出発する事にした

ルミナさんに止められるのを避けるためだ。これは私の問題だから

できる事なら巻き込みたくなかった。確かに私は世界に影響を及ぼす神様に近い人間かもしれない

でも目的のためには手段は選んでいられる状況ではない事は事実だ

夕方になって私とユウさんは部屋を出るといつもとは違って裏口から駐車場に出た

念のため、ユウさんの車ではなくお父さんのセダン車両を借りる事にした

ユウさんが発信機を取り付けられている可能性があると危惧したからだ

車に乗り込んで私は助手席、ユウさんは運転席に乗って出発しようとしたときお母さんが近づいてきた

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「私が帰ってくる場所はここだけだから。それに数日留守にするだけ。すぐに戻ってくるから」

 

「ルミナさんにはなんて話をしたらいいの?」

 

きっと不安になって聞きに来ると思うわよとお母さんが言ったので私は病気という事にしておいてとお願いした

今回ばかりはルミナさんの手を借りるわけにはいかない。

 

「気をつけてね。ユウさんもカオリのことをよろしく」

 

「分かっています。必ず戻ってきますので」

 

話がまとまるとユウさんは車を出した

彼は私にこういった。本当にこれで良いのかなと

 

「これが最後になると思うんです。巣から羽ばたくのに必要な事は」

 

私とユウさんが乗った車は海岸の町を離れて都会である第三新東京市に向かっていった

残された課題は1つだ。惣流アスカさんと碇レイさんをどうやって呼び出すかだが

手段は1つあった。ただ、彼に貸しを作るようで少し嫌だったが。この際選んでいられる状況ではない

 

「あなたにお願いがあるの」

 

『君からのお願いとなると断れないね』

 

「アスカさんとレイさんをある場所に誘導して。明日のお昼に。もちろん、保安諜報部に追跡されないようにうまく小細工をしてね」

 

『君がそんなことを頼むなんてよほどのことだね』

 

「手段は問わないから。私にだって覚悟はできているつもりでいるから」

 

彼は分かったよと言うとどこに集めたらいいのかと聞いてきた。

そこで第三新東京市を一望できる高台にまで来るようにと伝えた

かつて私が碇シンジだったころに初めてあの街のすべてを見た時の場所だ

 

『もし彼女たちが君のことを受け入れなかったらどうするつもり?』

 

「私はもう碇シンジじゃない。海岸の町に住むただの女性」

 

『僕達より年上だからね』

 

「私はあそこで人生を失った。生きる価値も死ぬ価値も。なにもかも』

 

私はまた追って連絡するからと言うと通話を切った



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第169話

 

私は今日は何事もないだろうと眠っていた

夕方になっていつものように疲れたので眠ろうとした時、携帯電話が着信を告げていた

 

『ルミナ!緊急事態よ』

 

ティアは慌てた様子で大声で電話をしてきた。私は落ち着いてと言うがその内容を聞いて驚いた

 

「何があったの?」

 

『カオリちゃんとユウさんが姿を消したわ』

 

その言葉に私はあまりの出来事に呆然としてしまった

どういうことなのと私は大声で返事をした

 

『こっちでもまだわからないわ。国連軍の話によると旅館から1台の車が出発したの確認したと』

 

「車の持ち主は?」

 

『彼女の両親よ。それと第三新東京市にいる渚カオルと連絡を取り合っていたことが分かったわ』

 

内容に関してはこれから会って話し合うつもりよとティアが言う。私もできる限り早く追いつけるようにするわと返事をした

私はすばやく身支度を済ませると車ではなくバイクに乗り込むと急発進して追いかけていった

 

「いったい何があったの?」

 

急に行動するなんて彼女らしくない。

ただ、このまま黙っているわけにもいかない。

早く見つけて止めないと。彼女にどんなことがあったのかを知るのはあとだ

今は彼女の身柄を保護する事だ

 

 

------------------------------------

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「僕が呼び出された理由は彼女のことですね」

 

「どういうことか説明してくれるわよね」

 

「蒼崎局長、ティアさん。僕は彼女に頼まれただけです。アスカさんたちをある場所に連れてきてほしいと」

 

僕は蒼崎局長に呼び出されて急いでこちらに向かってきた。

今更ネルフとの関係でもめる事は無いだろうという事を計算しての行動だ

碇司令は僕の利用価値を知っている。だから当面の間は放置するだろうことを

 

「それでどこなの」

 

僕は地図を取り出すと高台の場所を示した

 

「第三新東京市が一望できる展望台。そこに彼女たちだけで来させてほしいと」

 

明日は都合の良い事に日曜日。学校は休みだ。彼女との面会できるなら学校くらい簡単にすっぽかすだろうけど

僕には彼女たちの気持ちが分からないわけではない。碇シンジの頃にやってしまった様々なことを謝罪したいのだ

でもなにもかもが今更だ。もう彼女は碇シンジじゃない。

おそらく彼女はアスカさんやレイさんにもう2度会う事は無い事を直接伝えるために来たのだろうことは容易に想像がついた

 

「それでネルフの方に情報漏れは?」

 

「今のところはないようですが。碇ユイさんが動くかもしれません」

 

「カオリさんの方はルミナに今追いかけてもらっているから見つかるのは時間の問題だと思うけど、不安材料が多すぎる」

 

僕はどうやって対応を聞くと、蒼崎局長は極力接触できる人間を選別する必要があると答えが返ってきた

ゼーレの連絡員についてはすでに死亡が確認されたと僕に教えてくれた

幹部が次々と逮捕されている状況なのだから、追い詰められたという事なのかもしれない

 

「僕の方でもネルフの動きを調べておきます」

 

すると蒼崎局長は君とは長い付き合いがしたいところだからと言って退室を促した

 



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第3新東京市(決別の時)
第170話


私は必死になって彼女たちを追いかけていた。

国連軍や戦略自衛隊も彼女が持っている車ではない事から検問には引っかからなかった

そのためほとんどフリーパスの状況で通過できていた

今のところ、まだ第三新東京市にはついていないという事だが

向こうに到着されたらこっちの負けだ。もう止める事はできない

私はバイクのスロットルを全開にして猛スピードで追いかけていった

 

「どこにいるの?」

 

その時だった。路肩で止まっている車を発見

バイクのアクセルを緩めるとすぐそばに彼女の姿を見つけた。

 

「カオリちゃん。どうやらバレたみたいだね」

 

私がバイクを止めると彼も現れた

私は少し怒ったような表情で彼らに迫った

 

「いったい何を考えているの?」

 

「何って観光だよ。ちょっとした冒険付きのね」

 

「ルミナさん、これは私の問題です。ユウさんは付き合ってくれたんです」

 

カオリちゃんがどんなに言い訳をしてもこれ以上の行動を進めるわけにはいかない

私には責任がある。彼女が静かに暮らせるようにするためにあらゆる手を打つことがまかされている

必要なら軍隊も動かせる権限が与えられている。もちろん緊急時に限ってだが

 

「カオリちゃんは車の中にいて」

 

「でも」

 

「大丈夫。僕がうまく話すから」

 

そう言うと彼女は助手席に乗り込んだ。そして彼は私のところに近づいてきた

 

「どういうつもり?まさか第三新東京市に向かっているんじゃないでしょうね?」

 

「このルートを見ればわかると思うけど」

 

私には止める責任がある。ただでさえ彼女の身に何かあれば大事なのにこっちの警護もなしで行動されたら何が起きるか

そんなことは想像もしたくない

 

「戻りなさい」

 

「悪いけどそういうわけにはいかないんだよね。カオリちゃんのお願いを断ると思うかな?」

 

私は腰につけている銃のホルスターにてをやるが彼がこういった

彼女の目の前で事を起こせばどうなるかは一番分かっているはずだと思うけど

悔しいがその通りだ。彼は私を連れて少し離れたところに連れていくと不意を突く形で腹部を殴ってきた

 

「ルミナさん、今回ばかりはあなたには邪魔をしてほくないっていうのがこっちの本音だから」

 

「・・・・・・・・・覚えていなさい」

 

私はそこで意識を失ってしまった。

 

------------------------------------

 

私はユウさんが殴ったところを見て胸が痛くなったが

自分の望みをかなえるためにはもう黙ってはいられない

私は前に進むことを決めたのだ。もう後戻りはしない

 

「ルミナさんは大丈夫ですか」

 

運転席に戻ってきたユウさんに質問すると

 

「大丈夫だよ。それと緊急信号のスイッチを入れておいたから少しは時間が稼げる」

 

ユウさんはそう言うと車を走らせ始めた

目的地は第三新東京市だ



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第171話

第三新東京市ジオフロント エヴァ格納庫

私はそこで2号機を見ていた。あの時の痛みは思いだすだけでも怖かった

今はママと一緒だから幸せだ。たった1つのことを除いて

水川カオリさん、私よりも年上の女性であり、シンジの今の姿

私とレイがどんなに踏み込もうとしても必ずネルフ監察局に漏れてしまう

これもすべてあの渚カオルの仕業だろう

 

「どうやら不機嫌みたいだね」

 

「あんたの顔を見るのは嫌なんだけど。何よ。わざわざ人をこんなところに呼び出して」

 

「ここなら盗聴の心配はないからね。君とレイさんへの伝言だよ。もし会いたいなら明日の朝にある場所でなら会いましょうと」

 

その言葉に私は驚いた。もう2度と交わる事のないことだと思っていたからだ

私は代償はあるのと聞いた。何もなくこんなおいしい話が来る事はない

 

「ただし条件があるんだよ。このことはレイさん以外に誰にも話さない。そして尾行をうまく巻くことができればの話だけど」

 

「会うためなら手段を択ばない。どんな条件も飲むわ」

 

「この携帯電話を使うと良い。盗聴されない衛星回線とつながっている」

 

カオルから渡された携帯電話を受け取るととりあえず感謝するわと言って格納庫を出ていった

外に出ると加持さんが立っていた

 

「アスカ、ネルフを裏切る事になると思うが」

 

「私はきちんと話がしたいの。そのためならどんなものでも利用するだけ」

 

私はそう言うとその場から去っていった

その途中でレイと出会った

 

「あなたにも朗報よ。明日、彼女と会えることになりそうだけど、このことは一切秘密。どうするの?」

 

レイに言うには正直どうするべきか迷った。しかし同じ気持ちを持つ者同士だ

 

「協力してくれたらカオリさんと会えるわ。どうする?」

 

「会えるなら何でも協力する」

 

決まりねと私が言うと気づかれないように普段と同じ行動に努める事にした。

計画が漏れたらもう2度と彼女との面会はできない。その事はよくわかっていた

私に残されている最後のチャンスだ。

 

「ちゃんと謝らないと」

 

私達は謝りたいのだ。かつてのことをいまさら謝罪したところで何も変わらないと思うけど

それでも謝りたい。そしてもしよければ関係を少しは改善したい

 

------------------------------------

 

第三新東京市に繋がる道

 

ユウさんはあれから何も話そうとしない。私も不用意に話ができなかった

彼にすごく迷惑をかけているからだ。ルミナさんに仕方がないとはいえ、あんなことをさせたこと

 

「ユウさん」

 

「カオリちゃん。大丈夫だよ。緊急用の発信機をつけておいたからすぐに見つかるよ」

 

私は心配ばかりしていた。それにユウさんの立場を悪くすることもよく理解していた

このままいけばユウさんは絶対にルミナさん達に目の敵にされかねない事は分かっているからだ

 

「もしルミナさんが何か言ってきたら私がしてほしいって言ってくれて良いですから」

 

私のせいにすればルミナさんも攻められないと思ったうえでの言葉だがユウさんは心配しないでと言った

 

「きっといつかは理解してくれるから」

 

そうなる事を私は願っているがなかなか難しいのが現状だ

明日の朝に会えるかどうかさえも分からないのに第三新東京市に向かっているのだから

 

「人ってどうして難しいんでしょうか」

 

「生きているからだよ。人はものを考えて生きている。策を練って常に上を目指そうとする。だから人の性質は変化してしまう」

 

「そうですね」

 

 



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第172話

 

第三新東京市についたのは夜明けだった。私とユウさんはあの高台に向かっていた

しかしその途中で覆面パトカーに止められた

私とユウさんは不審に思われないように対応をする

ただ車から降りてきたのはティアさんだった

 

「カオリさん。あなたを保護するように言われているの。悪いけど、監察局まで来てくれるかしら」

 

「嫌です!」

 

「ルミナはあなたのことをかなり心配しているわ。だから協力して」

 

ティアさんは私のことを必死に説得するけど私にはそのつもりはなかった

今日で決着をつける。あの高台で。すべて終わらせる。この街との関係を

あとはあの海岸の町で過ごすだけにしたかった。静かな町で過ごす

きっとこのまま決着をつけなかったら、彼女たちはこちらに来てしまう

せっかくの平穏を崩されるくらいなら向き合ってはっきりと言う

 

「しかたがないわね。護衛があなただけだと役不足でしょ。どうしても行きたいなら私も同行させてもらうわ」

 

私は行かせてくれるならどんなことでも協力しますと答えた

 

「ついこの前までは大人しかったのに、動きが派手になったわね」

 

ティアさんは私にそう言うと覆面パトカーに戻り私とユウさんも車であの高台に向かった

私は高台の展望スペースの柵に手をかけるとそこからの光景を見ていた

あの時はもっとも嫌な光景だった。まるで地獄のような光景

この世のものとは思えない。それが今は綺麗な街並みになっている

その事に対して私どこか怒りの感情を持ってしまった

 

「平和な街なんて嘘なのに」

 

私がそこから光景を眺めている時にティアさんの携帯電話が着信を告げていた

ティアさんは電話で内容を聞くとため息をついた

 

「これも全部あなた達の手筈通りなのかしら」

 

「あの2人がロストしたってことですか?」

 

「ええ、碇レイと惣流アスカの2名が姿を消したわ。この近くでね」

 

こちらの読み通りに話は進んでいる。今のところはだが

ティアさんは彼らに会って何を話すつもりなのかしらと聞いてきた

 

「分かりません。今の私には何も。ただユウさんから言われたことを思い出したんです。決断は自分が選んだベストだって」

 

レイやアスカと会う事が最良な選択なのかはわからないけど

ここで会っておかなかったら後悔すると思った

これで最後にするのだ。本当の。過去から私を解き放つには

そして高台で待つこと10分ほど、アスカさんとレイさんが到着した

 

「私と彼とで周辺を警戒しておくわ。できるだけ手短に終わらせてね」

 

ティアさんの言葉にそれは難しいと思いますがと答えた

レイさんが私を見て今回は会ってくれてありがとうと

 

「今回で会うのは最後になるでしょうから。話したいことはこの際はっきりしておきましょう」

 

私は次のこう言った

 

「碇シンジは実在しない。もう死人だと思って暮らしてほしいの」

 

 



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第173話

私とレイが高台についた時、監察局に属する女性職員であり私達とあの町から切り離した彼女もいた

到着した私達に会いたかった相手からもう忘れてほしいと言われた

でもそんな事はできない事は分かっている

 

「あなたには謝りたいの。たくさん迷惑をかけたから」

 

レイの言葉に彼女は何がたくさん迷惑よと言った

 

「あなた達に何が分かるの!あの苦しみを!私はすべてを失ったのよ!」

 

そう、私の知っている碇シンジはもういない。壊れてしまったのだから

私はあの時、最後にシンジとの記憶を覚えている

だから、どうしても話をしたかった。たとえネルフを裏切ってでもだ

 

「アスカさん、あなたは碇シンジに最後に最悪の絶望を与えたの。でも一番罪が重いのはネルフそのもの」

 

「分かっているけど、何も話さないまま終わりたくないの」

 

「レイさん。あなたもアスカさんと同じであることをよく理解する事です。あの儀式の時にどれだけ絶望と苦しみを与えたか」

 

あの時に何が起こっていたのかを知っている者はかなり限られる

私は彼女が言っている儀式のことについては何も知らされていない

あの何を考えているかわからないカオルですら、何も語ろうとはしないのだ

どれほど罪深いものなのかは私にはわからない

 

「カオリさん、傷つけてしまったことは本当にごめんなさい。でも「傷つけた?ふざけるのもいい加減にして!」」

 

カオリさんはポケットから小型リボルバー拳銃を取り出した

 

「私は永遠に生き続けるのよ。ネルフやあの儀式のせいで。それがどれくらい残酷な運命なのかわかるの?!」

 

永遠に生きる。必ず誰かと死別する運命を

悲しいが最後には彼女には1人になるしかないのだ

 

「カオリちゃん」

 

彼女のそばにいた男性が彼女を抱きしめた。すると彼女は泣き始めた

 

「ここまでのようね」

 

監察局の女性がそう言うと上空からヘリが降下してきた。それも戦略自衛隊のヘリだ

私はどういう意味なのか分からなかった。ここは第三新東京市でネルフのお膝元なのにどうして戦略自衛隊がと

 

「もう限界ね。そこまでよ。このヘリで町に戻って。車の方は私が手配しておくから」

 

あのルミナという女性が下りてくると泣きじゃくるカオリさんと男性をすぐにヘリに乗せようとした

ところがカオリさんがこちらに振り返ってこういった

なにもかもが遅すぎたのよと泣きながら言うと、そばにいた男性に連れられてヘリに乗り込んだ

ヘリは3人を乗せると離陸していきその場から去っていった

残されたのはティアという女性と私達だけだ

 

「もう良いわね。カオリさんたちはあなたのことを恨んでいる。これ以上会う事を願うのはやめなさい」

 



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第174話

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部 保安諜報部部長室

 

僕は加持さんに呼ばれてここに来ていた

 

「そうですか。2人とも一時はロストしたけど無事に居場所は特定できたんですね」

 

「ああ。それを手助けしたのは君だろ?今回の狙いは何だったのかな」

 

「彼らにもうあの町に関わらないようにしてもらうための最後の一手というところでしょうか」

 

そう、僕としてはこれ以上あの町に干渉する事は望まない。

ゼーレの幹部たちは次々と逮捕されていて今は裁判待ちをしている人物が大勢いる

だが非公開裁判になる事であることは容易に想像することができた

内情を知っている者は誰だって地獄に繋がる口が開くことはわかっている

 

「ゼーレ幹部の裁判はどうなりそうですか?」

 

「ここだけの話だが。非公開裁判になる事は確実だ。マスコミ対応もその方が楽だとさ」

 

「監察局の蒼崎局長や各国の政治家はこれ以上世界が壊れることは避けたいのが本音でしょう」

 

各国上層部だけで知られている永遠の誓い。それを守らなければどうなるか

すでに各国は痛い目に遭っている。あの町を国連直轄の町にするくらいだ

 

「それでネルフの存続は?」

 

「蒼崎局長と碇司令が内密に会談を持った。海岸の町とカオリちゃんに手を出さない限りネルフの体制は変わらないと」

 

「それが落としどころという事ですか?」

 

僕の言葉に加持さんはそうだろうなと返答した

ネルフがあの町に関わらなければ世界の時計は歩み続ける

永遠の誓いを侵すものがいれば必ずどこかで犠牲を払う事になる

ようやくあの町が静かなところに戻る事になる。大きな代償を払う事になったが

その価値は十分にある。

 

「ゼーレの幹部裁判。どんな罪になると思いますか?」

 

「世界中の人々を犠牲にするだけのことをしたんだ。死刑は間違いないだろうが。どんな供述をするかによるな」

 

加持さんは僕にも何らかの形で裁判において召喚される可能性があるとしてきた

僕もゼーレの裏側をよく知っている。だから証言は求められることは当然のことながら予想できていた

 

「これも自分が生まれた運命ですから」

 

そう、これが僕にとっては罰なのだ。彼女の心を壊してしまったのだから

だから、証言して罰せられるなら覚悟はできている

ただ、僕にも語る事の出来ない事は多い。あの時の記憶が一部欠損しているのだ

まるで覚えない事を願っているようにあの時は感じられた

だから記憶から抜けているのではないかと

 

『ピーピーピー』

 

彼女から電話だった

 

「君から電話とはどうかしたのかな?」

 

『一応、ありがとうと伝えたかっただけよ。ただの気まぐれだってことを忘れないで』

 

「分かっているよ。もう会う事もないとは思うけど、僕の方こそありがとう」

 

『さようなら』

 

そう伝えてくると通話を終えた



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第175話

 

ヘリで海岸の町に戻っている間は私は泣きっぱなしだった

でも良かったのかもしれない

これで彼女たちは私にもう関わろうとしないだろう

そうでなければ困るのだ。それをしてもらうために私は動いたのだから

 

「無茶するわね。カオリちゃん」

 

「私だってこんなことはしたくなかったですけど。もうあの街と関わりあうのは嫌だったから」

 

そう、私の最大の目標は2度と彼らと接触することを避けるためだ

それができなければ意味がない

 

「それで満足したのかしら?」

 

「はい。私は伝えたいことは伝えました。あとは彼らの問題です」

 

そう、私はもうこれであの街との関わりがないだろうと思っていた

私はあの静かな町でこれからも過ごしていく

そして世界を見ていくのだ。

ようやく訪れるであろう平穏を嬉しく思いながらも

少し寂しさも感じる。幸せは近いようで遠くにある者なのだから

幸せに手を伸ばすには様々な苦難が待っている

それらを突破してこそ本当の幸せを得ることができる

 

「カオリちゃんは今後どうするつもりなの?」

 

「あの町で静かに暮らしていくだけです。記憶が少し欠けていても気にしない」

 

たとえ記憶が欠けていてもだ。今生きている事が重要なのだ

これからも、それは変わらない

永遠に続く物語の序章に入ったばかりなのだから

これから、様々に起こる出来事を広い視野で見ていく

それは他の人から見たら何をしているのかわからないことかもしれないけど

私にはこの世界の行く先を見届ける義務がある

たとえ人類がどんな選択をしてもだ

 

-------------------------------

 

僕はヘリに乗りながらカオリちゃんの表情を見ていた

彼女はようやくしがらみから解き放たれたような表情をしていた

これで彼女は平和に暮らせるだろう。僕はカオリちゃんを見届けるつもりだ

永遠の誓いによってあの海岸の町は聖域として扱われる。

この誓いを破る者には相当の罰が下る事になる

もしかしたら国が壊れるようなことでは済まない。

地球全体が壊れるような事になるかもしれない。

そのためにも永遠の誓いは引き継がれていくべきものだ

 

「カオリちゃん。大丈夫かな?」

 

「はい。ユウさんは平然としていますね」

 

「僕はこういうヘリの移動は慣れているからね。カオリちゃんは好きじゃないかな」

 

カオリちゃんは地面に足がついていないと不安ですと言った

ヘリでの移動は何かと恐怖があるのだろうと僕は思った

 

「カオリちゃんは海岸の町で過ごすのかな?これまでも、これからも」

 

「はい。もう第三新東京市に関わるつもりはありません。ネルフにもです」

 

彼女は静かに暮らしていくだけですと言った。あの旅館で過ごせなくなったら僕の家は借りれますかと聞いてきた

僕はいつでもいいよと答えた。避難所代わりに使ってくれて構わないからだと



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第176話

 

私達が海岸の町に戻ったころにはすでに夕方だった

ヘリはユウさんが以前から住んでいたところに着陸した

 

「今後はこういう事は控えてもらえると助かるんだけど」

 

ルミナさんの言葉に私はできるだけ頑張ってみますと答えた

 

「分かっています。それにこれで彼女たちとも会う事は無いでしょう」

 

「何か困ったことがあればすぐに連絡してね」

 

ルミナさんはもう少ししたらこの町で数台走っているタクシーが来るわと教えてくれた

今日はそれに乗って家に帰りなさいと

私は分かりましたと言うとタクシーが到着するとすぐにユウさんと一緒に後部座席に乗り込んだ

 

「カオリちゃん。久しぶりだね」

 

「おじさん。お元気でしたか」

 

この町の住民は誰もが顔見知りばかりだ。タクシーの運転手さんとは釣り仲間だ

防波堤でのよく釣りをしている。この町でタクシーは重要な公共交通だ

隣町の設備に整った病院に行くために利用する住民が多いのだ

 

「カオリちゃんは元気がないように思うが、大丈夫なのか?」

 

「少し疲れているだけですよ」

 

私はこの町の人々に心配されることが多い。

以前はよく自殺が多発していた崖の展望台に行っていたからだ

ただもう行く事は無いだろう。というよりも行く必要がないからだ

今はこの温かい町で生きていくことを決めたからだろう

 

「私は変わったのでしょうか?」

 

「カオリちゃんの未来に光が差し込んできたんだよ。きっとね」

 

ユウさんの言葉に私は嬉しかった。もしそうならこれから先、いい思い出だけを覚えておきたい

悲しい思い出をどこかに捨てて。幸せに暮らしていきたい。この町でみんなと一緒に

たとえ途中でお別れの時があろうと静かに暮らしていくのだ。

誰にも邪魔されず永遠に。世界を見守っていく

私とユウさんが乗ったタクシーはすぐに旅館の前に到着した

私は手持ちにいくらかお金を持っていたのでお支払いをしようと思ったら

おじさんに今日はサービスしておくよと言われた

 

「でもそれじゃ、おじさんのお給料が」

 

「釣り仲間だからね。それにカオリは早く家に帰って休んだ方が良いよ。私でも疲れているのがよくわかるから」

 

私はそんなに疲れた表情をしているのだろうか

とりあえず今回はおじさんの優しさを受け取る事にした

タクシーから降りるといつものように正面玄関から入りお父さんにただいまと言った

 

「無事でよかった。カオリ」

 

するとお母さんも近くにいたのですぐに私のところに近づいてきた

 

「無事だったのね?」

 

「ユウさんが守ってくれたから大丈夫だったよ」

 

私がそう言うと夕食はあとで部屋に持っていくからとお母さんは言ってくれた

私とユウさんはそれぞれ別館の自室に行くことにした

部屋に入ると少し気が抜けたように感じられた

やはり疲れていたのかもしれない。私はロッキングチェアに座りテレビを見ていた。

ニュースの話題は世界中の政財界の大物が続々と逮捕されているという話でもちきりだった

すべてはゼーレの影響なのだろう。世界は彼らの身勝手で進むのではなく多くの人々が選んだ決断で進み始めた

これで世界が少しでも平和になれば良いのだけどと願った

 

 



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第177話

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「世界は大揺れの波に乗っている」

 

「はい。政財界の大物が次々と逮捕。一部の国では政治情勢に混乱がきたしているところも」

 

ティアの報告に私は悩みの種がまた出てくるのではないかと懸念していた

ある先進国で国の政治を関わる議員の半分以上が拘束されたという報告もある

下手をすれば国がつぶれそうなくらい世論調査で批判が高まっているところも

監察局にも、もっとネルフに対して強く査察するべきではないかという検討に入っていた

私としてはどちらの組織の権限が上回っても問題になると感じていた

お互い微妙なバランスでいる事の方が都合が良いと

下手にパワーバランスが崩壊すると再び戦場になるかもしれない

戦場ぐらいならまだまともな世界だと言える。世界が終わりを迎える事を考えれば

永遠の誓いはそのために全世界の国の国家最高機密なのだ

 

「永遠の誓い。決してあの町に政治的に介入せず。争いをしないか」

 

それこそが世界の安定につながると。

神様を追い詰めれば再びセカンドインパクト以上の被害を出す

誰もが怯える事だ。ようやく安定した社会を目指しているのに

すべてが壊れてしまっては意味がない。

だからこそあの町の平和は永遠の誓いなのだ。

静かに暮らす人々であり、誰もが平等であり続ける

ひっそりとした空気。それがあの町の存在理由だ

 

「世界は永遠の誓いを守るでしょうか」

 

「ティア、誰だってハチの巣をつついたりはしないよ。今年も増額になりそうだしね」

 

「またですか?お金でしか価値をはかれないなんて」

 

確かに彼女の言うとおりだ。私も同意見だ。

お金だけでは平和にはならない。必ずどこかでほころびが生じる

でもだ。あの町に触れたいものはいない。

好き好んで地獄の口を開けたいと思う人間はいない

 

「私にとってはあの町で彼女が静かに暮らせれば世界は安定する」

 

かつてルミナの言うとおりだ。ようやく安定してきた世界を壊したいものはいない

永遠の誓いをこれから世界の各国の最高機密として。それとようやく動き出した彼女の時計

それも少しずつではあるが動き始めた。世界の時計も同じように

いづれはどこかであの町に手を出すものが現れるかもしれない

その時に止めるのが我々ネルフ監察局だ。なんとしてもあの町には手を出させない。

 

「これで彼女には良かったのかな?」

 

「選択肢を与えて、彼女は自ら選んだ道を歩み始めたんですから」

 

「箱庭でも生きているには変わりないという事になるのかな?」

 

「私にはわかりませんが、そうであるように我々は願うだけです」

 

静かな町であり続ける事が世界の平和につながるのだから

 

 



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海岸の町(パート11)
第178話


翌朝私は目を覚ますといつもの日常が戻ってきたことに感謝した

これで一通りのケリはついたからかもしれない。

 

「今日から静かに暮らせればいいけど」

 

今までにそう願っても、まともにその願いが叶ったためしがない

私が願うのはおかしいかもしれないがもし、もう1人の神様がいたら私はきっとこう願うだろう

人として歩みたいと。でもそれはかなわぬ願いだ。

神様は同じ世界に2人もいない。1人しかいないのだ

孤独に耐えて生きていくしかない。この世界を見続けるのだ

永遠に

 

『トントン』

 

ドアをノックしてきたのはユウさんだった

 

「何かありましたか?」

 

「今日は良かったら隣町まで買い物でも行かないかなと思ってね」

 

「何を買いに行くんですか?」

 

「カオリちゃんの服。少しは服の種類を増やしてはどうかなと思って」

 

私は服はワンピースかジャンパースカートを着ることが多い

 

「ルミナさんも一緒に来るって言っていたからたまにはショッピングでもして気を紛らわすのにはちょうどいいと思うけど」

 

ユウさんの言うとおりだ。

たまには隣町の大型スーパーに買い物も行くにはいいかもしれないと思った

 

「ルミナさんが服を見立ててくれるらしいかならね」

 

5分程待っててくださいというと出かける用意をした。もちろん、小型リボルバーをカバンに入れてだ

本当ならこんなものを持ちたくないけど、今は仕方がない。自分の立場はよくわかっている。

いくら未来ばかりを見ていても過去を消すことはできない。

でもそれを糧として進むしか道はないのだ。たとえどんな過去でも

私はお出かけ用の服に着替えて部屋から出ると鍵をかけた。

それと念のため、ドアの下のほうにセロハンテープを張った

もし私の外出中に誰かが入ったらすぐにわかるように

 

「カオリ、ユウさんは駐車場で待っているぞ」

 

「お父さん。少しお出かけしてくるね。隣町まで買い物に行ってくるから」

 

私の言葉にお父さんはとびっきりの美人になって帰ってこいと言ってくれた

私はできるだけ努力するけどあんまり期待しないでねと返事をすると中庭を抜けて駐車場に向かった。

そこにはすでにルミナさんとユウさんが乗った車がアイドリング状態で止まっていた

私は後部座席に乗るとシートベルトを締める

 

「それじゃ、出かけるとしよう」

 

そして私たちは隣町にあるショッピングセンターに出かけた。

ここから30分ほどにある町は私たちが住んでいる海岸の町より多くの住民が住んでる。

この海岸の町に住んでいる住人が買い出しのために出かけることが多い

そのために公共交通機関として路線バスも出ている

 

「それにしてもあなたを説得できるなんてすごいわね」

 

ルミナさんの言葉にどういう意味ですかと私が聞くと、私のことは鳥かごからあまり出ないタイプだったのにと

確かにそうだったかもしれないが、今となってはそんなことはどうでもいいことだ

 

「私だって変わるときはわかるんです。それにルミナさんだって以前に服はラフな服装でシンプルの物が好きだって」

 

「ええ、局に戻るときはスーツを着るけど。私は基本的に現場仕事だもの」

 

ルミナさんとそんなことを話しをしていた。ユウさんはそれを見て、私とルミナさんがよく似ていると

どこが似ているのだろうかと思ったのだが。あえて口には出さなかった

 



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第179話

私たちが隣町の大型ショッピング施設に到着すると最初に訪れた店は女性向きの服を売っている店だ

ルミナさんと一緒に私はその店の中に入った。その間、ユウさんはほかの店を見てくるということだった

ユウさんはきれいになった私の姿を楽しみにしているよと私に言ってくれた

その言葉を聞いて私は少し恥ずかしかった。

 

「それじゃ、服を見ていきましょう」

 

私とルミナさんは一緒に店内を見て行った。

いつも私はシンプルなワンピースなどを着ることが多い

まだ季節は夏の日が多い。いくら神様だってすべてをすぐには元に戻すことはできない

少しずつならできるかもしれない。でも私だってすべてを知っているわけではない

だからこそ人々の願いは平和のはずなのだが

世界はそれほど簡単ではないのだ

 

「カオリちゃん。今は楽しみましょう」

 

ルミナさんの言葉に私はどんな顔をしていましたと聞くとどこか不安げな表情をしていたわと言われてしまった

 

「すみません。せっかく誘ってくれたのに」

 

「良いのよ。あなたにはこれからたくさん思い出を作っていきましょう。それが大切なものになるわ」

 

私とルミナさんはいろいろなお店を見て行った。ちなみにだけど私もお小遣いもらっているが使うことがないので

それなりにお金を持っている。あの町で静かに暮らしていたらお金はほとんど必要ない

誰もが顔見知りでやさしくしてくれるあの町

都会とは違ってゆるやかに流れていく時間。

何でもないことが私にとっては最高の場所になっている

 

「これなんてどうかしら?」

 

ルミナさんは私のいつものファッションをしているのかよくわかっているみたいで

派手過ぎず、それでいて地味でもないちょうど中間の服を何着か選んでくれた

私は値段を確認するとそれほど高くない。

 

「カオリちゃんは何を着ても似合うと思うんだけどね」

 

「ルミナさん。私に派手な服とは縁がないと思いますし似合うとは思えないのですけど」

 

私は苦笑いをしながらルミナさんに言った。

私としては地味な服の方がどちらかというと好みだ

ルミナさんは私が悩んでいるのを見て、大丈夫よと声をかけてくれた

 

「カオリちゃんは何を着ても似合うわよ」

 

そういわれると少し恥ずかしかった。結局私は3着ほどの服を買うと服屋さんから出た

それを待っていたかのようにユウさんが戻ってきていた

 

「気に入った服はあったのかな?」

 

「私が選んだのよ。かなり似合っているわ」

 

ルミナさんはそういうと私はまた恥ずかしくて少し顔を赤くしてしまった

私はその後もアクセサリーの店などを見て行くが私に必要はないものだ

大型ショッピングセンターをある程度見終えると帰宅することにした

 

 

 



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第180話

 

大型ショッピングセンターからの帰り道。私は疲れてしまったのか少し眠かった

 

「カオリちゃん。疲れていたら眠っていてもいいよ。家に着いたら起こしてあげるから」

 

ユウさんの言葉に私は少しだけ眠りますねと言って眠った

ショッピングセンターから自宅の海岸の町の旅館までは30分もあれば到着できる

 

 

-----------------------------------

 

カオリちゃんはすぐに眠りについた。ルミナさんと話をしながら海岸の町に向けてアクセルを踏んだ

 

「それでどうして彼女に服を買いに行こうって提案したのかしら」

 

僕は別に裏はないよと答えた。ただ彼女には思い出を残してあげたかった

それだけだ。これから先、長い年月を生きていく彼女にとって支えとなるものを

 

「あなた、どこまで知っているの?」

 

「ルミナさん。僕にはまだまだ情報を送ってくれる仲間がいる。ネルフ内部にもね」

 

情報提供者とは加持さんだ。ネルフ内の情報を入手するためにも彼とのパイプは維持したい

 

「あなたまさかとは思うけどネルフに情報を売ったわけじゃないわよね」

 

ルミナさんの言葉に僕がそんなに信用できないのかなと言い返した。

確かにネルフとのパイプはあるが加持も彼女によって救われた

だからこそ恩を仇で返す様な真似はしないだろう

 

「心配しないでもらえると助かるよ。彼女を裏切るような真似は決してしない」

 

僕としては結婚をしたいと思っていたが、カオリちゃんがそれを望むこととは思えない

ただ、結婚という形をとらなくても同居という形で

僕はカオリちゃんには楽しい思い出を作ってあげたい

広い世界がどれほど良いものなのか。

ルミナさんは信じていいのねと聞いてきたので

 

「もちろん。それに彼もカオリちゃんに救われた1人だよ。裏切るような真似はしないよ」

 

そう彼も『よみがえった』1人だ。だからこそ、いつも情報を提供してくれるのだ

僕たちはお互いに彼女のことを支えようとしている。

この町が誰にも侵された聖なる領域として存在する

そうなり続けることを僕たちは望んでいる。争いもなく誰もが平和に暮らしていく

少し理想が高いかもしれないが、それが彼女のためなのだ

彼女のためだけではなく世界のためにも平和にしてほしいのだ

ある情報筋から噂を聞いた。彼女は神様なのかもしれないと

でも僕にはそんなことは関係ない。たとえ彼女が神様であっても今までと変わらない

ただ静かに暮していく。この町の平和な日々と共に静かにと

 

「あなた、どこまで情報をつかんでいるの?」

 

「知らないほうが良いということまでかな。でも口外するつもりもないしカオリちゃんの秘密を誰にも話すつもりはないよ」

 

それが彼女のためなのだから。普通に生きて思い出を作りながら生きていく。

時には悲しい思い出もあるかもしれないが、今は楽しい思い出を残してあげたいのだ

 



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第181話

私が眠っている間に自宅である旅館に到着した

よほど熟睡していたのか、私が気付いたら別館の私の部屋でお母さんが布団を出していた

 

「お母さん、どうやって」

 

「ユウさんが起こしたら悪いと思ったみたいでお姫様抱っこで部屋まで連れてきてくれたのよ」

 

あとでお礼を言っておきなさいとお母さんは私に教えてくれた

 

「そういえば買ってきた服は?」

 

「それならちゃんと収納スペースに片づけておいたわ。もしその服を着たときは見せてね」

 

お母さんも楽しみにして待っているからと言ってから布団を敷く

そして夕ご飯の時間になったらちゃんと食べるようにと注意するようにと

私はお母さんにちゃんと夕ご飯は食べるから心配しないでと伝えるとロッキングチェアに座った

お母さんが部屋から出ようとしたとき私に振り返ってこう言った

 

「お帰り。カオリ」

 

私はただいまというとお母さんは仕事に戻っていった

ロッキングチェアがある窓際から外の風景を眺めながら私は静かな1日が良いわと思った

ささやかな幸せなのかもしれないが。私にとってはこの旅館とこの町。

私はそれだけで満足だった。あまり多くを欲しがると贅沢だと思っていたからだ

普通の人から見たら不思議なのかもしれないけど。私にとってはそれだけ満足なのだ

 

「静かな1日が一番幸せ」

 

静けさを求めて私はここにたどり着いたのかもしれない

この町でお母さんやお父さんとの出会いはまさに奇跡だったと考えることもあった

ただ放浪しているだけの私のことなど何もわからないのに家族として迎え入れてくれた両親を

本当の意味で私は家族だと思っていた。たとえ血縁関係がなくても家族として過ごせる

温かく。そして何の見返りも求めない。

一緒に暮らしていくことだけが幸せだということを私はここで知った

 

 

-----------------------------

 

僕はルミナさんを彼女の自宅まで送った後、今住んでいる旅館の方に向かった

旅館に到着する前に僕はため息をついた。ある人物が尾行していたことをすぐにわかったからだ

尾行している人物はよく知っている人物だったため、それほど警戒していなかった

 

「元気そうね。ユウ」

 

「フィール」

 

彼女は僕の武器調達をしてくれている人間だ。彼女も元ゼーレサイドにいたが

戻るつもりはないし真実を知ってこちらに協力してくれている

今の仕事はジャーナリストで、ネルフやゼーレの情報収集をかなり行ってくれている。

ジャーナリストになったのも世界の真実を知ることを目的に。この仕事を選び国内外問わず報道活動をしていた

 

「何かあったのかな?」

 

「ええ、ちょっと問題があったから寄ったのよ。話をしても?」

 

「そうだね。ここだと誰かに聞かれているかもしれないからね」

 

僕は彼女と自分の車に乗り込んだ。フィールは助手席に座りこちらにファイルを渡してきた

そこにはここ最近のゼーレ残党に関する情報が記載されていた

 

「貴方ならこの情報を有効利用してくれるでしょう」

 

「つまり何が望みなのかな?」

 

「私は真実が知りたいだけ。あなたの大切な彼女に手を出すつもりはないわ」

 

「それを信じろと?」

 

「疑う気持ちはわかるわ。でもこれを見てくれたら納得するはず」

 

フィールはもう1つのファイルを渡してきた。そこにはゼーレの幹部についての情報が詳細に記述されていた

 

「どうしてこれを僕に?」

 

「私もあの子に救われた。あの時に私は死ぬ運命だったのに、彼女によって私はまだ生きている」

 

だから恩返しがしたいのよとフィールは言った。

彼女の目線や口調からうそを言っているということではないことは感じられた

 

「こちらで適切に処理するよ」

 

彼女にそういうと僕の車から出ていった。

 

 

-----------------------------

 

 



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第182話

海岸の町 旅館別館 相葉ユウの部屋

 

僕はフィールから預かった資料をもってこの家に帰ってきた。

すでにルミナさんには連絡していた。この情報を共有する必要があるからだ

彼女にはフィールから預かった資料という情報は伏せておいたほうが良いだろう

ゼーレ嫌いのルミナさんならこの資料について疑うだろう

 

「どういうつもりかしら?」

 

「この資料を共有しようと思ってね」

 

僕がそう言うとさっき会っていた女性からのものねと

まるであの時の様子を見ていたかのように語った

 

「まぁそうなるかな。信頼できる筋だから問題ないよ」

 

「同じゼーレの仲間だった。それだけは変わらない事実よ」

 

確かに僕たちはゼーレ側にいたのだから。ルミナさんが信じたくない気持ちは理解できるしわかっている

でもこの情報が正しいなら本筋から外れた分派が現れたことは疑える

 

「でも今はこうやってこちらサイドの協力してくれている。武器の入手から情報の入手まで」

 

彼女に頼るところは大きい。僕は資料を渡すとルミナさんは表情を曇らせた

 

「まずい情報だったかな?」

 

「いえ、これは使えるわ」

 

「それはどちらに使えるのか教えてもらえるかな?ゼーレ、それともネルフに?」

 

僕としてはこの町が騒ぎの渦中に巻き込まれる事態だけは避けておきたい

だからこそ見極めが必要なのだ。慎重に、しかし確実な情報での

ルミナさんはそれについては今この状況では話せないわねと答えると資料をコピー

それをもって自宅に向かっていった。

 

「僕も同感だよ。この情報が正確なら身近なところに脅威がある」

 

 

-------------------------------

 

海岸の町 ルミナの自宅

 

「厄介なことにならなければいいけど」

 

私は彼から預かった資料を見て頭を痛めていた。分派がいれば大規模グループとは限らない。

小グループだけの動きだとすべてを把握するのは難しい

いくら私たちとはいえすべてを把握しているわけではない。だからこそ情報というのは貴重だ

特にゼーレ関係となると特に

 

「ティアに探ってもらうしかないわね」

 

第三新東京市の監察局の同僚であるティアに協力を求めるべき事案だ

もしこの資料がすべて事実ならまた大きな問題になる。町のセキュリティについてもだ

少数精鋭で来られるとこちらの警備は簡単に突破されるかもしれない

永遠の誓いを知らぬ者が、この聖なる領域を勝手に踏みにじられたら悪夢を見ることになる

そんなことは避けなければならない。もう1つの地獄を生み出すことになるのだから

私はすぐに衛星携帯電話でティアに連絡を取った

 

「ティア、動いてほしいことがあるの」

 

 



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第183話

 

第三新東京市 ジオフロント ネルフ監察局査察部オフィススペース

 

「それは気になるわね」

 

私はそこでルミナからの連絡を受けていた。

回線が安全な衛星電話でだ。この回線を使えるのは私と局長とルミナだけだ。

暗号回線のため簡単には傍受できない。どういう仕組みかは知らないがルミナが自作したものだ

性能は極めて高い。ほとんど遅延なく会話ができる。

ネルフでも解読はできないというほどの複雑な暗号なのだということだ

おかげでこの回線はルミナといろいろと工作をするときに使っている

 

『そっちで情報は何かつかんでいないの?』

 

「ゼーレについての情報は今のところ大規模なものなら把握しているけど」

 

少数精鋭の分派となると話は別だ。すべてを把握することは難しい。

 

『できるだけ情報を集めてもらえるかしら。永遠の誓いを破らせるわけにはいかないし』

 

私はルミナにわかっているわと答えると通話を終えた

面倒なことになってきたと思いながらも、私はさっそく情報集めを開始することにした

その前に部長に話をした。するとすぐに情報収集と分析をするようにとの指示が出た

 

「最優先で調べるのよ。必要に応じて国外の支部にも問い合わせても良いわ」

 

シエラ・ドーレス部長からの言葉に重大案件を任されたことをよく理解した

通常なら海外支部への要請は手順を踏まなければならないのだが

それを無視しても良いということだ

カオリちゃんに何かあれば世界は壊れることになる

そんな事態は避けなければならない

 

 

---------------------------------

 

ネルフ本部保安諜報部 部長執務室

 

「気になる話みたいだね」

 

俺は渚カオル君からゼーレの分派の情報を聞いていた

こちらでもある程度の規模のものは把握しているが、

いくらネルフが強化された権力を持っているとしてもだ

すべてを把握することはできない。特にゼーレがらみだと余計にだ

下手に動けばまずいことになる。リスクは極めて高いといえる

 

「カオリさんにも影響が及ぶでしょう。今頃ルミナさんあたりが調整に入っていると思います」

 

「君の情報源はいったいどこからなのか教えてほしいものだよ」

 

彼はそれは秘密ですというと俺の執務室を出ていった

ゼーレの分派の問題は大きい。まだまだ彼らには影響力が残っている可能性があるからだ

 

「面倒事が増える一方だね。無事に過ごせると良いけど。カオリちゃん」

 

俺はあの海岸の町に住んでいる彼女のことを考えた。

彼女には俺は救われた。おかげで俺は幸せを手に入れることができた

彼女にすべての責任を押し付けてしまったようなものだ

だからなのだろう。俺が彼女のことを守ろうとしていることは



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第184話

私はロッキングチェアに座りながら太陽が沈んでいく様子を見ていた

いつもならネコさんが来るはずなのだが。

私の今の微妙に沈みがちな空気があるのが分かるのかもしれない

その為いつもここにきているネコさんたちは来ていなかった

缶コーヒーを飲みながらロッキングチェアでゆっくりしていたがそろそろ夕食だと思い

食堂に向かうことにした。私はユウさんの部屋をノックする

 

「カオリちゃん。夕食のお誘いかな?」

 

ユウさんはわかっていたようだった。私は良かったら一緒にどうですかと言うと

 

「カオリちゃんみたいな美人のお誘いを断るなんてもったいないからね」

 

少し待っててというと1度室内に戻って服を着替えてきたみたいだった

私とユウさんは一緒に廊下を通って食堂に向かった

 

「なにかあったのかな?」

 

「どうしてですか?」

 

沈みがち空気に気づいたのか。

ユウさんが私があまりに暗い表情をしているからと心配していた

私としては元気なつもりなのだが。

周りの人から見ると私はかなり気分が落ちた人に見えていたように感じられたのかもしれない

 

「大丈夫です。少し物事が片付いて、私の将来について考え始めたんです」

 

「何を考えているのかな?」

 

「ユウさんはこう言ってましたよね。今を生きることが大切だって」

 

それはかなり昔に言われた言葉だ

今を生きる。それは私にとってあの時は何も考えていなかった

だけど、今になって思えば私へのきっかけを作ってくれた言葉だったのかもしれない

この町で過ごすのも良いし自由に世界を見て回る。

小さな世界で生きていくのも大きな世界で生きていくのも変わらない

自分の決断が最も最善なものだと信じて歩み続ける

 

「そうだね」

 

「私は神様だったとしても出来損ないの神様なんです」

 

「カオリちゃん。君が責めを負うのは間違っているよ」

 

「でも、責めを抱えていくしかない」

 

それが私という存在意義なのかもしれないからだ

だが私だけではないということはわかっている。人は誰もが責めを負って生きているのだ。

なにも苦労をしない人間など存在しない。どこかで負の遺産を背負い続けている

そんなことを考えながら歩いていると食堂に到着した

いつも通りユウさんにはボリュームたっぷりのメニューだが私にはいつもの小食用のメニューだ

私たちはいつものように食事をする。ここでの静けさが私は大好きだ

都会とは違った平和。私にとっては贅沢など言わない

 

「平和ですね」

 

食事を食べ終えると私とユウさんは別館の部屋に戻っていった。

私たちは別館に戻るとまた明日と言ってそれぞれ部屋に入っていった

いつものように日記帳を取り出して書き始めた。書き終わった時にはもう太陽は沈んでしまっていた。

 

「それじゃ寝ようかな」

 

布団を敷くと眠りに入ることにした

 

 



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第185話

海岸の町 旅館別館 

 

私はいつものように目を覚ました。

今日は朝から雨が降っていた。これではお散歩をしようというわけにはいかない

 

「雨は好きになれない」

 

私はベランダから見える外の光景を見ながら誰かに語り掛けるかのようにしゃべった

こういう日は退屈だ。元々何もすることがない私にとっては雨の日は部屋で閉じこもっていることが多い

食事の時は例外だけど。その時間以外は部屋でゆっくりと過ごしている

私はロッキングチェアに座って文庫本を読んでいた

この町には小規模ながらも本屋さんがある。雑誌などを売っていて子供たちにとっては漫画を買える貴重な場所だ

ネット通販が当たり前の世の中でも、この町では人と人との出会いを大切にしている

文庫本を読みながら私はある事を考えていた。私には知識だけはいっぱいあった

でもそれを活用しようと思ったことはない。神様が手を出してはいけない

そう心のどこかで思っていたのだろう。人が成長するのに神様が力を貸すことはいけない

彼ら自身が成長を目指すしかないのだ

 

『トントン、カオリちゃん。これから食事でもどうかな?』

 

部屋のドアをノックしてきたのはユウさんだった

私はすぐにロッキングチェアから腰を上げて立ち上がるとドアの方に向かった

 

「ユウさん。今から行きます」

 

私はすぐに服が乱れていないか鏡で確認すると外に出た

 

「お待たせしました」

 

ユウさんは少し元気がないようだけど大丈夫かなと心配してくれた

私は今日は雨だからと言うと別館と本館をつなぐ連絡通路を通り食堂に向かった

 

「カオリちゃん。なにかあったのかな?」

 

「どうしてですか?」

 

私は何か落ち込んでいるような表情をしていたのかなと思った

ユウさんはいつもは明るいのに今日は暗いよと言ってくれた

ユウさんに言われる程、私は落ち込んでいる。ようやくすべてを片付けたのに

 

「カオリちゃんは目標を失ったのかな?」

 

「どういうことですか」

 

「生きていくには目標がいる。それがなくなってしまったから落ち込んでいるのかもしれないね」

 

確かに人は目標があるから成長する。

ただ、何も目標を見出すことができずに過ごしているなら、死んだということと同じかもしれない

 

「私、この町を離れようと思うんです。でも心配しないでくださいね。自殺とかそういう無茶をするわけではないので」

 

私はある事を考えていた。それは街で大学生として過ごしたい。

私には知識だけはある。入手問題を解くぐらいは簡単だ。ただ、ルミナさんたちは良い顔をしないと思うけど

それでも自分の道は自分で決めて歩み続ける。それが遅いか早いかの違いだ

今の日本では飛び級制度があるため、高卒資格は試験で合格点を出せば卒業とみなされる

 

「ついに箱庭から大空に向かって飛ぶのかな」

 

「そうしたいですけど、ユウさんと会えなくなるのは」

 

私はユウさんとの関係を壊したくないに事も事実だ

ユウさんは自分は大学での警備の仕事がないか探してみるよと応援するかのように言ってくれた

 



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第186話

『まさか本気で言っているの?』

 

「自ら道を選び歩いていく。それが重要なのはよくわかっていると思うけど」

 

僕はルミナさんと電話で話をしていた

カオリちゃんが大学を目指すなら僕は応援をする。

必要なら彼女のそばにいて見守っていくだけだ

幸せに生きていくのにはいろいろな方法がある

彼女が自ら選んだ道ならそれを尊重するべきだ

僕の意見にルミナさんは否定すると思っていた

彼女にとってはここで幸せに生きていたほうが良いと思っているからだ

でも旅をするのも幸せになる道になる時もある。

 

「君が言っていたように旅立つときが来たと思うよ」

 

『彼女を第三新東京市の大学に入れるなんて上層部が認めないわ』

 

神に等しい彼女が狙われたら最悪の結末を迎える

この町で静かに暮らしていくことも良いことだと思う

ただ、狭い世界だけでなく広い世界を見ていく生き方もある

僕には彼女に生まれ変わった世界を見ていくことも良いとも思っていた

 

『局長と少し相談をさせてもらうわ。いきなりすぎるしリスクもある』

 

「ネルフという影もあるけど、考え方次第では保護がしやすいという点もあると思うけど」

 

『どういう意味なの?』

 

「第三新東京市の各種センサーはネルフだけでなく監察局にも情報が提供される」

 

警護するうえで監視センサーを使って監視をするならコストや労力という意味ではやりやすくなる

 

『確かにそういう手法があるかもしれないけど。リスクはどこにだって存在する』

 

「それはこの町でもそうだよ。僕が撃たれただけでカオリちゃんは動揺した」

 

広い世界で安全に監視ができるなら使える手だと僕は後押しをした

ルミナさんは少し考えさせてというと通話を終えた

確かにルミナさんの懸念事項はよく理解している

でも思い出は悲しい物だけではさみしいものだ

少しでもいいから楽しい思い出を作ってあげる

そうすればいずれは道は開けると思うものだ

カオリちゃんにはまだこの町でしか楽しい思い出はない

この狭い町で過ごしていても楽しい思い出は作れるかもしれない

でももっと幅広い目で見ていくこともできるはずだ

 

---------------------------

 

彼から連絡を受けた私は正直なところこの町で過ごしてほしいという思い。

または羽ばたいてほしいという思いの両方があった

確かに彼の言うとおりだ。小鳥はいつか巣から飛び立つ

そして新しい広い世界に向かって旅を始める

私はそうなる事を望んでいないつもりだった。

だが彼女の最近の行動によって、そういう考えが少し変わってきたのも事実だ

あの子に広い世界を見せることは良いかもしれない

だがそうすればリスクが伴う。どうするべきか

必要なら本部から人員を出して警護をしてもらうしかない。



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第187話

 

世界は広い。私はこの海岸の町で静かに暮らしている。

これからどうするかは私は岐路に立たされているのかもしれない

この思い出がたくさん詰まった町を出て、広い世界を見に行く

そこに幸せがあるかもしれないし悲しみがあるかもしれない

どうなるかはわからない

ようやく安定に向かっている世界に私は見ていこうと思い始めた

幸せは待っているだけでは得られない

自らの足で歩み見つけるものだ。

それがどれほど時間がかかったとしても、未来は開けるだろう

大丈夫、きっと私はユウさんと一緒なら世界を見ていくことができる

平和で誰もが幸せな世界を。それを見ていこうと考えはじめた

世界の姿を見ていく。どんなに時間がかかったとしても

私にはその義務があるのかもしれない。

世界を見ていくという名の義務が

どれだけ時間がかかったとしても私には時間がたくさんある。

平和な時間は少ししかない。人は争いをするものだ。

何故なのかについては、理由はわからない。

ささいなトラブルから戦闘、紛争に発展する

そんな世界にならない事を私は願っている

平和でだれもが幸せに暮らせる世界なら良いと思っている

 

「誰もが幸せに生きてほしいと願ったのに」

 

私はすべてをセカンドインパクト前の状況に戻したら今度は国同士で小競り合いを起こしている

平和になると信じていたのに、これでは私は何のためにあれほどの努力をしたのか

私は確かに疫病神かもしれない。私がいる事で誰かが傷ついてしまう

だからまだ救いがあるうちに、もう私がいるから家族に不幸を招くことを恐れていた

ユウさんはこう言ってくれた。決断は自分が考えた最も最良な判断だと

決めるなら今しかない。私は世界を見て回ろうとしていた

自らの意思で、そして自らの足で歩んでいこうと

 

世界を見るにはそれが最も最良の判断を下せるのではないか

自分の行った行為に人々が何か幸せをもって生きているのかを

それを見届けていこうと思ったのだ

 

「ユウさんなら協力してくれるかな」

 

 

--------------------------

 

第三新東京市 地下ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

「本当にそれは安全なのかこちらとしては不安だよ」

 

『蒼崎局長。彼女を守るために我々が存在する。彼女が海岸の町という籠の鳥のようにいても今までは良かったのですが』

 

ネルフ監察局長として世界を守る必要がある

そのためにもカオリさんにはあの町で過ごしてほしいと思っている

だが、彼女は旅に出ようとしているようだ。そういった事態は避けたいのだが仕方がない

ひな鳥はいづれ飛び立ちをするものだ。新しい場所に、新天地に向かって飛び立つものだ

それがどれほど危険なことでも彼女にとっては冒険なのだ

 

「ルミナ。大学に入りたいなら検討はしてみるよ」

 

『よろしくお願いします』

 

第三新東京市にある大学なら監視も行いやすい。

同時に保護もだ。多くの場所にセンサーがあるからだ

 

「カオリさんが市内に来ればネルフには徹底的にマークされることは確実ですね」

 

局長室には私と渚カオルがいた。ルミナには話していなかった

彼が同席していることについては

 

「見張りやすい=攻撃されやすいという欠点もあります」

 

「ネルフサイドで動きそうな人材は?」

 

「レイさんとアスカさんですね。彼女たちは接触してくる可能性は極めて高いです」

 

私も同意見だった。彼らは答えを求めているのだ



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第188話

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ本部総司令官執務室

 

私はもう彼女と会うことはないと思っていた。

私が潜入させているネルフ監察局の職員から彼女が大学に行きたがっているとの情報を得た

だがもう手を出すつもりはない。彼女とは決別をしたのだ

 

「ゲンドウさん」

 

「彼女には不干渉でいこうと思っている」

 

何もかもが今更なのだ。今更家族としての関係を再構築できるはずがない

あれほどひどいことをしたのだから。だからこそ

我々は彼女からすべてを奪ってしまった

だからこそ無理に手を出さず、見守り続けることの方が重要だ

それが私にできる彼女へのせめてもの償いというものだ

 

「私は・・・・・・・・・・・・」

 

「ユイ。時計の針は元には戻らないのだ。今更後悔したところですべて終わりだ」

 

「・・・そうですね」

 

私はユイと話をしながらも彼女の近況を記録したファイルを見ていた。

これは蒼崎ネルフ監察局長が提供してくれたものだ

そこには生き生きと生活しているあの子の写真があった

私はそれでもう満足した。あの子は平和のためにすべての代償を払った

今度は我々が払う番だ

私はユイと共にハーグに向かう予定がある

人類補完計画という計画を立てた賛同者として証言を求められている

私とユイは包み隠すことなく証言することで罪には問わないという司法取引がされた

完全非公開の裁判とはいえ、マスコミは注目する。

我々だけが助かることができたのは彼女のおかげだ

またしても命を救われた。これからも償いをする

たとえそれが私の身を亡ぼす結果になったとしても

罪を押し付けたのだから

 

-----------------------------

 

第三新東京市ジオフロント ネルフ監察局 局長執務室

 

局長である僕とほかにティアがいた

 

「局長、カオリさんの写真を使って何を考えているのですか?」

 

「他意はないよ。ただ元家族として現状把握はしておいてもらわないとね。罪を忘れるなというつもりでもある」

 

そう、これは罪が残っていることを示すためのものだ

時間がかかっても忘れてはならないこと

だからこそ少し陰湿かもしれないが彼女の今の状況を送っているのだ

 

-----------------------------

 

海岸の町 旅館 私の自室

 

私は部屋でロッキングチェアに腰かけていろいろと考えていた

これからの未来のことを。ユウさんに言った通り大学に通って世界を見るのも良いかもしれない

箱庭のこの町から出ることに良い思いをしない人がいる事はわかっているけど

広い世界を見ていきたいのだ。私が救ったはずの世界

どんなふうに人々が街で暮らしているか

私の決断は正しかったのかどうかを見ていきたいのだ

 

 



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第189話

 

海岸の町 旅館 私の自室

 

私は雨が降っている外の風景をロッキングチェアに座りながら眺めていた

しとしとと雨が降る光景をロッキングチェアから眺めるのはある意味では癒される光景だ

自然があるということでという意味でだが。

ようやく勝ち得た平和。今後をどうするかは私にもわからない

このままこの町で平和に暮らすも良いかもしれないし、

世界を眺めていくことも良いかもしれない

どんな決断でも私自身にとっては平和だと思っていた。

平和な世界が戻ってくれれば私はそれで満足だった

悲しみを少しでも減らして幸福が増える世界に帰ることができたのに

私は完全にそれを実行することができなかったのかもしれない

 

「幸せってわからない」

 

私は缶コーヒーを冷蔵庫から取り出して飲みながらつぶやいた

確かにその通りだ。幸せほどわからないものはない

人の価値観によって異なるのだから。幸せの定義とは

だからこそ、私が幸せだと思っていればそうなのだろう

 

『トントン』

 

私の部屋のドアがノックされた。

 

『カオリちゃん、少し良いかな?』

 

「ユウさん。少し待ってくださいね」

 

私は姿見鏡で自分の服装を確認するとドアをゆっくりと明けた

 

「何かありましたか?」

 

「少し話しておこうと思ってね。カオリちゃんの将来について」

 

いつかはその話をしないといけないと思っていたことだ

それが少し早まっただけである。私は良いですよと言うと彼を自室に招き入れた

私は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出すとユウさんに渡した

 

「ありがとう」

 

ユウさんは私に礼をすると話を始めた

 

「もしカオリちゃんが大学に行きたいなら君の希望する大学の警備員になる手はずを整えたよ」

 

確かに私はそんなことを心にどこかで思っていたのかもしれない

この箱庭から出て外の世界を見に行きたいと。でもまだ私には決断できていない

最終的にどうすれば最良の判断なのか

そしてもう1つ。ユウさんに迷惑をかけるのではないかと

 

「カオリちゃんが行きたい場所なら僕はどこまでもついていくよ。君を1人にはしない」

 

「こんな私でもですか?」

 

「カオリちゃん、君がどんな存在なのかについては人が決める事ではなく。自分で判断するものだよ」

 

「ユウさん」

 

「君がたとえどんな存在だったとしても、今はこの旅館で住んでいる女性ということを忘れないで」

 

「私はどうしたら良いんでしょう」

 

私にも答えられないことだ。いや答えを知った時に恐怖を感じるのかもしれない

私の存在がどれほど危険なものであるかということを明確にわかった時に

結果が分かれば何かが変わるかもしれないけど、

その結果によってはいろいろの人たちに影響が出るかもしれない

影響する人たちの範囲には私のお母さんやお父さんたち

そしてこの旅館で一緒に暮らしているみんなにだ

もしそんな何の罪もない『家族』にまで被害が出るようなことになれば私は耐える事はできない

 

 

 



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第190話

 

海岸の町 旅館の自室

 

ユウさんは私との話を終えると彼は部屋を退室していった

あとの選択は自分が決めるべきだと促してくれた

口で言うのは簡単なのだが。どうするべきなのだろうか私は悩んでしまった

 

「平和が一番なんだけど」

 

私は今の平穏なこの町での生活が好きだ

誰もが知りあっている小さな町。犯罪などめったに起きない平和な町

そんな町が私をいろいろとつつんでくれているのだろう

優しさという感情を町が持っているかのように

でも少しはこの町から出て新しい世界を見てみるのもいいかもしれない

人々が忙しく生きている都会などで生活をしてみるのも新鮮さを生むかもしれない

でも私には怖いという感情はまだあるのだ

あの大都会である第三新東京市に比べればこの平穏ばかりのこの町で生きている方が好ましい

でも新しく出会いを求めるなら第三新東京市に進むことの方が良いかもしれない

結局のところ私はわからないままなのだ

人ではない私の存在はどう考えればいいのかわからない

悩みを抱えてしまうのだ

 

「旅に出るのって覚悟がいるわね」

 

私はいつものように冷蔵庫からコーヒー缶を取り出すと飲んだ

ブラックだったがいつも以上に苦いように感じられた

私は外でしとしとと降っている雨を眺めながらロッキングチェアに座りコーヒーを再び口にした

いったいどんな選択肢が私のためになるのか

私が人でないことはわかっている。では一体何なのか

それを考えると堂々巡りになってしまう

正解などない問題なのだから

どうしたらいいのかいつもわからくて困ってしまうばかりだ

 

「どうしたらいいのかな」

 

私はまるでハツカネズミのようにぐるぐると考えていた

正解などないことはわかっていたが

人生という名の旅路には答えなどない。

過去を糧にして前に進むしかないのだ

 

『ピーピーピー』

 

私の携帯電話に着信が入ってきた。

発信元はわからないように非通知設定の電話からだった

 

「カオリです」

 

『渚カヲルだけど君はゼーレから狙われている。気を付ける事を進めるよ』

 

「渚カヲル。情報をくれる事は嬉しいけど。感謝はしないから」

 

そう、私にとってはネルフ関係者は嫌いな存在だ。

もう2度と接触したくないしすることもないだろう。

平和にこの町で過ごして、時には冒険をして楽しく生きていくのだと考え始めていた

 

『わかっているよ。君にはいろいろと迷惑をかけたから情報を提供するのが僕の使命だからね。それじゃ』

 

そう言うと彼は通話を切った。私はため息をついた

問題が1つ解決すれば1つ発生する



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海岸の町(パート12)
第191話


夕方になり私は食堂に向かう事にした。

そうしたらユウさんも同じタイミングで部屋から出てきた

 

「これから夕食かな?」

 

「はい」

 

私は素直に返事をすると一緒に行こうと言ってくれた

本当に些細な事なのだが私はどこか温もりを感じてしまった

私の事を守ってくれているというような感じを。

だから信じる事ができるのかもしれない。

ユウさんは私の事を裏切ることがないという事を

時には私の事を自分が傷つくことが分かっていながら守ってくれた

できればユウさんには傷ついてほしくないのだが

それでも私はユウさんと一緒に暮らせて行ける今の生活にとても満足している

私は人ではないけれど、姿は人と同じだ。

でも私は人とは違って永久に生き続けなければならない

出会いもあれば別れもある。ユウさんともいつかは別れる時が来る

孤独に生きる事になるかもしれないけど、その時はこの町で静かに暮らしていきたいと思っている

静かで、平穏なこの町。誰もが知り合いであり、時には喧嘩もあるかもしれないけどそれは一時的なもの

いつかは仲直りをしてまた平和に暮らしていく

静かで温もりがあるこの町の暮らしが私には似合っているのかもしれない

私とユウさんが一緒に食堂に着くといつものカウンター席に座った

そして私のために調理されている小食向きのメニュー。

ユウさん用の夕食はまさに活力満点といった感じのメニュー

2種類の相反する料理がそれぞれ出てくると私達はいただきますというと食事を始めた

静かな平和な食事の時間。これで私はようやく平和を勝ち得たのかもしれない

だけど本当の道はこれからだ。自分の歩む先を選ぶのはほかならぬ自分なのだ

自分が未来を切り開いていく。そんな先にどんなつらい現実があっても歩み続けるしかない

立ち止まっている暇はないのだ。人が未来を見て歩み続けるのと同じで私もそうするべきなのだろう

平和な道かもしれないし、時にはいばらの道なのかもしれないがそれでも歩んでいかなければならない

だからこそ歩みを始めようとしているのだろう。私は

先の見えない未来に向かって。立ち止まっていては何にもならないから

未来を見るために歩みを始める。私の心の中で心境が変わったのかもしれない

 

「ユウさん。大学に通いたいと言ったら支えてくれますか?」

 

「僕はカオリちゃんのためならどんなことでも叶えてあげるつもりだよ」

 

ユウさんは私の未来を見る心を支えてくれると言ってくれた

私はその言葉である覚悟ができたのかもしれない

未来を見るために。人々が平和に暮らせる社会に旅立てるように

少しでも手助けができればいいのかもしれないと

 

「少し未来を見てみたいと思うんです」

 

「カオリちゃん」

 

「ユウさんは言いましたよね?鳥はいつは飛び立つものだと。そして大人になると」

 

「そうだね」

 

「私も今、試されているんだと思います。未来を見るつもりがあるのかと」

 



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第192話

食事を食べ終わるとユウさんと一緒にそれぞれの自分の部屋に戻った

私はノートパソコンを取り出すとあるホームページを見ていた

それは第三新東京市立大学のホームページだ

私は高校卒業の資格を持っていないので高卒の資格取得が必要だ

ちなみにそんなことは簡単だ。だって私は神様と同等の存在なのだから。知識だけはたくさん持っている。

だから私は幼い子供たちに明るい未来を見せる事ができる教師になりたいとも考えていた

まさか今になって教師になる道を選ぶなんて誰も思っていないだろう

それはルミナさんも同じである事はわかっている。私は未来を見る事にした

どんなに過酷な未来だとしてもその先を見る事に価値を見出したのだ

 

「本当はどうしたら良いのかわからないわね」

 

『ピーピーピー』

 

その時私の携帯電話が着信を告げていた

相手はルミナさんだった

 

「ルミナさん。どうかしたんですか?」

 

『カオリちゃん。大学に進学しようとしているの?』

 

「私も未来を見たいと思ったんです」

 

『それが残酷な事でも?』

 

未来を見るという事は時には残酷な一面も見せている

できる事ならそんな面を見る事は避けたいところだが、

未来を見るという事はそういうところもみる事を示している

 

「はい」

 

私ははっきりとした口調で返答をした

 

『分かったわ。大学入学については手配するわ。ただし条件があるの』

 

「どんな条件ですか?」

 

私はどんな条件でも飲むつもりだった

できるだけの事をするまでだ。私は自分の幸せのために歩みを進める

そのためなら手段は択ばないと決めていた

 

『ネルフとの接触は極力避けること』

 

「それは時と状況によります」

 

『確かにそうね。100%排除する事は難しいかもしれないけど。カオリちゃんも努力してほしいの』

 

「・・・・・・・・・わかりました」

 

『少し手配には時間がかかるけど待っていてほしいの』

 

「飛び立つ時が来たんです。ルミナさんも言っていましたよね?未来を見る時には時には大きな決断も必要だと」

 

『それはそうだけど。本当に覚悟はできているのね?』

 

私はルミナさんには十分な覚悟はできていると答えた

もう迷ったりはしないと。決断は時には重要なのだ

前を見て進むことは重要なのだ。どんなにつらい現実だとしても

受け止めていくことが大切であり、もう彼らに会って何かするつもりはない

彼らの事を忘れて私自身の未来を、先を見る事は大切なのだ

私は神様なのかもしれないけど、私には見守ってくれる人がいるから

見守ってくれる人たちを大切にしていくことが重要なのだ

 

「もちろんです」

 

『あなたの警護のための準備に入るから。第三新東京市の住居については大学の寮に住んでもらうわ』

 

「ユウさんはどうします?」

 

『警備担当に着任できるように手配するわ。寮の警備も兼ねてね』

 

「ありがとうございます」

 

『つらい現実があるけど頑張って』

 

「はい」

 

 



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第193話

ルミナさんとの交渉を終えた私はとりあえず一息ついた

これで私の道は決まった。あの街に戻るのは少し抵抗があるかもしれないけど

それでも私が自分で決めたのだから

これから歩む道を自ら決めて自分でその道を切り開く

どんなに過酷な運命の道であっても私はもう迷わない

何としても進むことをやめる事はしない。前を見る事に集中するのだ

 

「これからどうなるか楽しみ」

 

これからの人生がどうなるかは私にもわからない

未来というのは自分で築いていくから楽しいのだ

どんなに楽しい未来が待っているのか、それともつらい未来を待っているのか

それを経験していくからこその人生なのだ

私は神様だとしてもこの広い世界を見ていく

この地球で生きている人々のためにも、家族のためにも。

そして私のためにも

 

「とりあえずお風呂にでも行こうかな」

 

私は旅館の本館にある大浴場に着替えを持って向かった

もう大浴場は静かであることは想像できていた

本館の大浴場に入るとお客さんは1人もいなかった

私1人の独占だ。静かな入浴タイムは気持ち良いものだ。邪魔をされないのだから。

いつもより少し長めにお風呂タイムの時間を取ったが着替えて別館の自分の部屋に戻った

 

「さてと、今日はもう寝ようかしら」

 

私は気分を切り替えて眠る事にした

もう私は碇シンジではないことは証明された

仮に第三新東京市で勉強をしたとしても彼らとは関わる事はしない

市内というよりも接触してきても無視をするだけだ。

ようやく平和になったのだから、これ以上心を揺さぶられるようなことをされたくないし

もう決めたのだ。決断はどんな選択を取っても最高の選択だ

だって自ら選んだのだから。誰かに強要されたわけではない

満足したうえでの決断なのだから

私は部屋の照明を消灯すると眠りについた

翌朝、目が覚めるといいお天気で太陽の光が良く感じる事が出来た

朝食をとるために本館の食堂に向かった。すると今日はルミナさんが来ていた

 

「カオリちゃん」

 

「ユウさん」

 

私がルミナさんがいる事に驚いているとユウさんが優しく声をかけてくれた

 

「どうかしたんですか?」

 

私がそう言うとルミナさんが朝ご飯を食べながら話をしましょうと提案してくれた

ルミナさんには鮭定食が出された

 

「カオリちゃん。あなたは本当に第三新東京市の大学に入りたいと思っているの?」

 

「私は本が好きなので第三新東京市立大学の図書館情報学に入りたいと思っているんです」

 

私は一応神様なので知識だけはいっぱいある。

高校卒業に必要な資格試験ならすぐに合格する自信がある

 

「本当に変わったわね。あなた」

 

私もそう思いますと、変わった事には自覚があるが

 

「僕は大学の警備に着けるように手配をしてもらえると助かるんだけど」

 

「あなたは警備役をしてくれるわけね」

 

ユウさんは本当に大丈夫と疑うかのように質問した



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第194話

「僕はカオリちゃんのためなら手段を選ばず守り切ってみせるよ」

 

ユウさんの言葉に私はかなり恥ずかしかった

ルミナさんは私の様子を見てまるで新婚夫婦みたいよと

その言葉に私は顔を真っ赤にして恥ずかしかった

 

「カオリちゃんが良かったら結婚しない?」

 

「ユウさん。私は咎人なんですよ。ユウさんに迷惑が」

 

「僕はカオリちゃんの事を愛しているから、カオリちゃんが結婚を認めてくれるならいつでも受け入れるよ」

 

その言葉にルミナさんはこんなところでプロポーズをするなんて場の空気を読んだ方が良いわよと

ユウさんはカオリちゃんに無理強いするつもりはないから考えてねと言うと私の頭をなでてくれた

思わず私は大人ですと少し強く声で言ってしまった

 

「本当に結婚してみたら意外と良い関係になるかもしれないわね」

 

ルミナさんまで結婚話を持ってくるのだ

私は恥ずかしくて仕方がなかった。

 

「とりあえず今度第三新東京市立大学で大学入試資格検定を受けてもらうわ。詳しい段取りは私の方でしておくから」

 

「ルミナさん。いつもすみません」

 

私はルミナさんに全責任を押し付ける事になって申し訳ない気持ちでいっぱいだった

でも外の世界で生活するのも良い事かもしれない。

この静かな海岸の町は私にとっては故郷だ。それだけは変えることができない事実である

お父さんやお母さんは私にとって大切な両親なのだ

私の事を常に心配してくれている本当の意味での両親なのだから

 

「気にしないで。前に進むことは良いかもしれないしね」

 

ルミナさんは鮭定食を食べ終わると食器を返して食堂から自宅に帰っていった

私は彼女の後姿に深くお礼をした。迷惑をかける。それはわかっている

しかもこれからはもっと頻繁に彼らに迷惑をかける事になるのだから

これは自分で決めた決断だ。誰かに強要されたものではない

だからこそ後悔はしていない

 

「ユウさん。ご迷惑をおかけしてすみません」

 

「気にしないで。カオリちゃんのためならどんなことでもやってみせるから」

 

ユウさんは私の頭をやさしくなでてくれた

少し恥ずかしかったけど私は嬉しかった

私を絶対に離さないでくれる人ができたから

私とユウさんも食事を終えると食器を返却すると別館の自分の部屋に戻った

 

「それじゃカオリちゃん。お勉強に必要な本があればすぐに教えてね」

 

隣町のショッピングセンターに買いに行こうとユウさんからのお誘いを受けた

神様みたいな存在である私なので知識だけはたくさんある。

別に本を買う必要はないのだけど、新しい知識を身に着けるためにも必要なこと

私はユウさんに考えておきますと返答した。とりあえず私は自分の部屋に戻ることにした

全ては始まったばかりなのかもしれない。この巣箱から飛び立つ小鳥のように

色々大変であることはわかっているが。時には前に進むことも重要なのだ

 



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第195話

私とユウさんは隣町のショッピングセンターに行くことにした

ちなみに大学などで必要なお金については家族にあまり迷惑をかけたくないので

奨学金を借りて通うつもりだ。お母さんとお父さんにはまだお金のことについて話をしていない

お金の事で選択肢が限られたことを知れば、さらに迷惑をかける事になるから

それに第三新東京市立大学にはある授業料免除などの制度がある

だからあまり心配することはない。ただ、私は自分の意思で第三新東京市立大学に入学するために

様々な勉強用の本を買いに行くことにしたのだ

 

「それにしてもカオリちゃんがこんなに早く判断するなんて珍しいね」

 

確かにその通りだ。私は1度迷うとハツカネズミのように簡単に答えを出すことができない

でも今回はそうではなかった。私は素早く大学入学のために勉強をすることにした

ただ、私は一応『神様』なのだから知識は豊富にある

参考書を買わなくても問題ないのだけどこれもカモフラージュの一環なのだ

だからと言っても勉強していないのに試験で高得点を取っていたら問題だから

それに知識は多くある方が良い。だって、勉強するのは好きなのだから

私とユウさんは隣町にあるショッピングセンターに到着すると駐車場に車を止めた

 

「カオリちゃんは1人で選べるかな?」

 

「私は子供じゃないんですよ」

 

「僕から見たらカオリちゃんはまだまだ子供だよ。それに特待生制度を利用するつもりなんだよね?」

 

確かに私は体はもう大人であるが精神年齢を聞かれるとかなり苦しい所がある

それと大学に通うにあたってある制度を利用しようとしていた。

第三新東京市立大学には成績優秀者の大学授業料などの免除といった制度がある

私はその制度を利用しようと思っている

 

「カオリちゃんは大学で何を専攻するつもりなのかな?」

 

「私は教師を目指そうと思うんです。子供たちに明るい未来があるという事を示してあげたいんです」

 

明るい将来を見せてあげたい。

私の願いは子供たちが元気で平和に暮らせる社会を望んでいるのだ

だから教育学部に入る事を頑張ろうとしている。

それに本も好きなので司書の資格も取得したいと思っている

 

「カオリちゃんらしいね」

 

ユウさんは私の頭を撫でてくれた。

少し恥ずかしい。人前でされると特に

ユウさんに子ども扱いされているように感じてしまうからだ

確かに子供なのかもしれない。体は大人だけど

精神年齢は子供のままなのかもしれない

否定する根拠がない事が寂しいところではあるが

それでも私は私なのだ。もう碇シンジではない

そしてこれからは神様ではなく、ただの大学生として過ごすつもりである

静かな時を歩み始める時、それがこれからなのだ

これからがすべての始まりなのだろう

行先はまだわからないけど、じっくり時間をかけて探していけばいいのかもしれない

今後の事もついてもいろいろな人の助けを借りながら、歩んでいけば良い。

 



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第196話

結局、私はたくさんの参考書を買って海岸の町の旅館に帰ってきた

かなりの量の参考書を買ってきたので部屋に運ぶのをユウさんに手伝ってもらった

本当にいろいろと迷惑をかけていると思うと少し考えてしまう

自分の選択が正しいのかと。ユウさんにまで迷惑をかけてしまうのだから

でも私はもう『碇シンジ』ではなく水川カオリなのだ

もう区切りはつけたのだ。エヴァパイロットたちと関係を持つつもりはない

むしろ逆である。彼らとの接触は避けたい。

時々ではあるが私は彼らの事が憎く感じてしまうからだ

結局のところ、『僕』は利用されていた。碇レイさんや渚カオル君に

そしてアスカさんには恨みはないけど、あの時の地獄の中で見た絶望に落とされた一言

彼女には悪意がないかもしれないけど、結局のところ私は恨んでいるのかもしれない

 

「酷い女ね。誰かの事を恨んでいなくては生きていけないなんて」

 

できる事ならこんな感情は捨ててしまいたい。

でもそんなことができない事が分かっている。

人は過去を捨てる事はできない。過去を糧にして未来を見るしかないのだから

過去に犯した罪はどこかで清算するしかない

しかしネルフの関係者は清算するどころか、さらに罪深い事を行ったに過ぎない

自らの罪を他者に押し付けて、英雄気取りをしているのだから

 

「とりあえず勉強をするとしましょう」

 

大学に通う費用については入学や編入時のテストに成績優秀者の免除に賭ける事にした

お母さんやお父さんたちに迷惑をかけるわけにはいかない

もし免除のリストに乗らなかったら、奨学金を借りるつもりでいた

誰にも迷惑をかけたくないのだ。ただでさえ私はわがままを言っているのだ

これ以上わがままを言っていたら、迷惑をかけるだけの存在でしかないのかもしれない

私は静かにこの世界を見たいのだ。大学を卒業したらこの町に戻ってきて静かに暮らす

平和であるこの町で静かに見守っていく

ネルフの事を許すわけではないけど、彼らが心を入れ替えてくれたら

正しい道を選んでくれたら、私はこれ以上彼らを攻撃するつもりはない

 

『カオリちゃん。少し良いかな?』

 

私の部屋をノックしてきたのはユウさんだった

大丈夫ですよと答えるとゆっくりドアを開けてきた。

彼は私にある者が入った袋を手渡してきた

中に入っているのは銃弾だ。9mm弾が100発も

それともう1丁の銃、ベレッタM92が入っていた

予備のマガジンが2つも一緒に

 

「備えはしておいた方が良いと思ってね」

 

ユウさんは邪魔だったかなと少し不安そうな表情を浮かべていた

私はすぐにそんなことはありませんと答えた

弾はたくさんあった方が良い。

だっていつ狙われるかわからないし、自分のことは自分で守らないと

そのためにユウさんの家で射撃訓練をしてきたのだし

銃弾を袋に隠すと、部屋にある金庫に片づけた。

念のためベレッタM92のマガジンが2つあったので

それぞれのマガジンにフル装填した。それを部屋にかけているリュックサックに片づけた

ちなみにベレッタM92もそこに隠している

いつ何があっても良いように。私はもう逃げる道を選ばないことを選択した

前を見て歩み続ける。過去を糧にして未来に向かって

道を決めたのは私だ。私の人生だから私が決める

他人に無理強いされていない。歩みを続けるのだ

 

「ここから先は私の道」

 

私は室内で横になり天井を眺めながらそう呟いた

迷いがあったとしても、いつかは解決するための道がある

それが『本当の両親』を傷つける行為だとしても、私は迷わない

 



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第三新東京市で私が目指すもの
第197話


第三新東京市立の第3新東京大学に入学を目指すために私はあの町から離れる事になった

少し寂しさを感じている。ずっと今までは大切な家族である『両親』と一緒に住んでいた

それに旅館で一緒に住んでいるたくさんの『家族』とも離れたから余計に

第三新東京市に引っ越しをした時、私はユウさんと一緒に同棲することにした

私とユウさんとの関係を知らない人から見たら私はどう見られているのか少し心配していたが

ユウさんは守るには一緒に住む方が安全だよと言われて、少し嬉しさを感じていた

私は必要とされているということに。海岸の町から離れてしまったけど

ユウさんと一緒に住んでいることで安心感を得ることができていた

 

「でも、少し家賃が高い物件だと思うのですが」

 

私は朝ごはんとして目玉焼きを作りながらそんなことを考えていた

ユウさんと一緒に住んでいるマンションは1階の正面玄関にオートロックがある

簡単に入る事はできないようになっているセキュリティが厳しいマンションだ。

ちなみに私とユウさんが一緒に住んでいるマンションの部屋の鍵は私とユウさん以外には

ルミナさんしかもっていない。もしもの場合に備えて対応しているのだ

 

「おはよう。カオリちゃん。ここの生活はどう?」

 

ユウさんは自室から出てくると私に慣れてきたかなと言った感じで質問してきた

私はまだ少し慣れていないですけど、ユウさんと一緒なので安心できますと答えた

親しい間にも礼儀ありということで、私とユウさんの寝室は別だ

ちなみに私はいつもベッドのそばに小さなリュックサックを置いている

そこにはもしも襲ってくるような人を撃退するために銃が入っている

ただルミナさんはここではそんなものは必要はないと思うけどと言っていた

ルミナさんの家は私達が住んでいる部屋の隣である

だからこの街に戻ってきたからは朝ごはんと夕食は、

私とユウさんとルミナさんの3人と食べるのが当たり前になっている

ルミナさんは私とユウさんが一緒の家に住んでいて間違いを起こしたらどうするか心配なのと

ユウさんは僕は私を襲うような人間だと思われるような行動はしてきたことはないと反論していた

私は2人の言い合いを見ながら、こんなことを思った。

ルミナさんがまるで私のこの街でのお母さんをしてくれているように感じられたから

 

「今日は目玉焼きみたいだね」

 

「嫌いでした?」

 

「そんなことはないよ。それにカオリちゃんの手料理をごちそうになれるのに文句はないよ」

 

まるで夫婦の会話をしているように感じて、ユウさんは恥ずかしくないのかと私は思ってしまった。

私は少し恥ずかしかったけど、反論はしなかった。そこに玄関のチャイムが鳴った

 

「ルミナさんが来たみたいだね」

 

ユウさんはドアを開ける必要がないことは分かっているので、

私がいるキッチンスペースに来ると食器棚からお皿を出し始めた

ルミナさんは鍵を持っているのでドアロックを解錠して入ってきた

 

「朝から2人ともまるで夫婦みたいよ」

 

一緒に朝食の用意をしている光景を見てルミナさんは率直な感想を言った

私は恥ずかしさでいっぱいだった

 

「ルミナさん!朝食を抜きますよ!」

 

思わず私は恥ずかしくて大きな声を出してしまった

ルミナさんはさらにからかうようにこう言ってきた。ますます夫婦よと。

確かにそう見えるのかもしれないけど、言われると誰だって恥ずかしい

 

「今日の朝ごはんは目玉焼きみたいね。毎日違う朝食のメニューでお出迎えしてくれるからうれしいわ」

 

私がさらに恥ずかしくて顔が赤くなりそうだった。

反論しようとした時、ユウさんがルミナさんを止めてくれた

 

「ルミナさん。カオリちゃんをからかうのはやめておいた方が良いよ」

 

 



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第198話

私は目玉焼きとウィンナーを焼き終えるとユウさんが用意してくれた食器に盛り付けた

ちなみにご飯はちゃんと炊飯器で炊いているので問題はない

私たち3人は一緒にいただきますというと朝食を食べ始めた

 

「ところでカオリちゃん。大学に入学する試験勉強ははかどっているかな」

 

ユウさんの質問に私は今のところ順調ですと答えるしかない

私は神様とほとんどが似たようなものだ。

似たようなものというのは私が自分が神様であることに対して認めたくない

だって、私が神様なら世界をもっと綺麗にするべきだから。

でも神様が直接介入するのは良いことではない。

人々は自らの進む道を選ばなければ、私が無理やり押し付けるのは生きている人々を操っているだけだ

私は誰もが個人の考えで自らの進む道を選ばなければならないと考えている

話は戻るが私には勉強をしなくてもテストの問題を解くのは簡単な事だ

だって神様に近い『人間』なのだから

でも私はそんなカンニングのような行為をするには少し抵抗感があった

だから頑張って大学入試に向けての試験勉強に励んでいた

 

「少しずつですけど、頑張っています」

 

私がそう言うとルミナさんがカンニングはしないようにねと

 

「私も不正な方法は使いたくないので」

 

「真面目ね」

 

ルミナさんはしっかりと勉強することは重要だから心配はしていないけど

何か困ったことがあったらすぐに家庭教師役をしてあげるわよと

 

「ずる賢い方法をするのは嫌なので」

 

「本当に真面目ね。でも1つ屋根の下で男女が一緒だからと言って不貞行為に走らないように」

 

その言葉に私は思わず顔を赤くしてしまった。

今の私は男性ではない。女性なのだ。それにユウさんは大人の男性

イケメンかどうかと聞かれるとかなりスタイルは良い方だと私は思う

もしかしたらちょっとした一線を越えるかもしれない。

ユウさんは魅力的な男性であることは間違いないことは誰の目から見ても明らかだ

 

「僕がカオリちゃんを食べようとする狼に見えるのかな?ルミナさん」

 

「可能性は否定できないでしょ。男女の関係ほど難しいものはないわ」

 

それにあなたはカオリと同じ家に住んでいるからいつ間違いが起きるかわからないしと

ルミナさんが釘をさすかのように発言した

懸念はわかるけど私はユウさんと恋愛するような時間は今はない

でもそれは今の話だ。大学試験に合格して時間ができると一緒に過ごす時間は多くなる

仮に私がユウさんと恋をすればルミナさんはきっとユウさんのことを許さないと思う

だってルミナさんは私の事を、『真実』を知っている

神様に近い存在である私がユウさんと恋愛をしたとしても、ユウさんは人間である

寿命がある普通の人間。でも私は神様に近い立場にいる。あの時のことはまだすべてを分かったわけではない

だから『神様』に近い存在としか表現できない。神様に近いということは寿命がないということ

ユウさんとはいつか別れる時が来る。恋は実らない。いつか別れて悲しむなら1人で過ごすべきかもしれない

でも私にはそんな孤独の生活に耐えることができるかどうかはわからない

 

「ルミナさん。私は恋はしないと決めているので」

 

「だと良いけどね」

 

 



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第199話

私はもう2度とこの第三新東京市で過ごすことになるとは思っていなかった

でもこれは私が選んだ道である。なら前に進むしかない

選んだ道を後悔する時がいつかはあるかもしれない。でも私は今は後悔していない

大学生として第三新東京市立大学で勉強をするために頑張る

まだこの街での生活は始まったばかり。

私は第三新東京市営バスにのるためにマンション近くにあるバス停に向かっていた

 

「本当に運命ってわからないものですね」

 

私は歩きながらそんなことをつぶやいていた

ルミナさんは第三新東京市の大学に入る事を止めようとしていたが

私はあえていばらの道を歩むことを決めた

逃げる事はしない。でも『彼ら』とは接触しない

もう彼らとは別れる道を選んだのだから、接点になるようなことは少ない

それにルミナさんが持っている情報によると、ネルフ側は私に触れることを禁じていると聞いていた

だったらそれで良いのだ。そこにバスが到着した。私は乗り込むと座席に座った

このバスは展望台に繋がっている路線だ。

普通は第三新東京市の郊外から市中心部に向かうバスは満席だけど

この時間に郊外に向かうバスを利用する人は少ない。

事実、乗客は数えるほどしかいないのだから

それも展望台に向かえば向かうほど乗客は降りていく

そして終点の展望台のバス停の到着すると私は運賃を支払って降車した

 

「何も変わらないのは平和な証なのかもしれない」

 

のんびりと展望台から第三新東京市を眺めていた

たまには息抜きが必要だから私は今日は勉強タイムから休憩時間もかねている。

リフレッシュをするためにここに来たのだ

 

「広い街ね」

 

私はのんびりと展望台にある飲み物の自動販売機からコーヒーを買うことにした

缶コーヒーを購入すると私は展望台から第三新東京市を見ていた

そこにバイクのエンジン音が聞こえてきた。誰なのかはすぐにわかった

このバイクのエンジン音には聞き覚えがあったからだ

バイクは私がいる展望台のところで止まると運転手はヘルメットを外した

 

「カオリちゃん。勝手に逃げ出さないでもらえないかしら」

 

そう、ルミナさんだ。私は一応発信機を持っているのでどこにいるかはすぐにわかる

もちろんこれは私が誰かから襲われたり、誘拐されたりしたら大変だから

ちなみに私はカバンに銃を持っている。簡単に相手の好き放題にされるわけはないが

必要なら私はどんなにいばらの道であっても歩むことを決めたのだから

 

「少しくらい休憩をしても良いかなって」

 

「それなら私に声をかけて。家にいないことが分かって驚いたんだから」

 

「それで発信機の位置情報を使って追いかけてきたんですか?」

 

「あなたは最重要護衛対象者なのよ。言い方は悪いけど籠の鳥にしておきたかったのに」

 

ルミナさんの言葉に私は広い世界を見るべきではないと思っているのですかと質問した

 

「そこまで言うつもりはないけど、少しは出かける時は教えて」

 

あなた何かあったら私はどんなことでもするのよとルミナさんは言った

ルミナさんが言う『どんなことでも』という言葉にかなり危険な事を感じたが口には出さなかった

 

「それにしても、あなたがここに来るなんてどういう心境の変化かしら」

 

「ルミナさん。私だって息抜きをしたい時があります」

 

私の言葉にルミナさんはそれもそうねと言う

 

「ここでの生活。本当のところはどうなの?」

 

「ルミナさん。私はもう迷わないです。前を向いて歩いていくだけ」

 

ルミナさんは本当にあなたの心境の変化には驚きよと答えた

確かにそうかもしれない。あの海岸の町でずっと過ごすはずが第三新東京市に移住

おまけに大学入試に頑張っている。私としてはずいぶん成長したのかもしれないと考えていた

ただ籠の鳥になるのではなく広い世界を見ていく。

 

「ところで銃は持っているの?」

 

「ルミナさん。私は自分がどういう立場にあるかは理解しています」

 

私はルミナさんに腰に装備している銃のホルスターを軽く見せた

そこにはベレッタM92を1丁装備している

自分を守るためには必要である



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第200話

私はいつでも自分を守るために銃を使う覚悟もできていた

それに私がいた影響を受けて他の誰かが傷つくことは認められない

だから私は自分を守るために必要なのだ

 

「カオリ。あなたはどう進むつもりなの?」

 

「私は前を見ていく。ここでの出来事をなかった事にはできない。でもそれを糧にして前に」

 

ルミナさんは私の言葉を聞いて本当に変わったわねと言った

 

「急激な変化をもたらしたのは誰が大きく影響しているのかしら?」

 

「それは分かりません。ただネルフと直接やりあうことがなくなった。それが大きいのかもしれません」

 

でもそれは表面的な事で裏で何を考えているかわからない連中もいる

特に『僕』との関係が深かった者は余計に

 

「あなたのその銃が誰かを傷つけることにならなければ良いけど」

 

私はルミナさんに同じ意見ですけど、時には非情な判断を求められる時もあると答えた

その言葉にルミナさんは同意した。時には非情な方法を取らなければならない

 

「ルミナさんは私の事をどう思っているんですか?」

 

「どういう意味かしら?」

 

「ルミナさんはあの海岸の町から私が出る事を止めようとした。なのに突然針路を変えた」

 

まるで風が吹いている向きが分かるのと同じように

彼女がどうして私の事をこんなに簡単に受け入れたのか

それが知りたかった。

 

「私はあなたを守るのが仕事だけど、あの町でずっと束縛という名の監禁されるのは嫌いでしょ?」

 

「それは否定しません」

 

「彼のことに関してある程度信頼できることが確認できたから認めたのよ」

 

本当だったら同居はさせたくなかったけどと

 

「私ってユウさんには魅力はないと思うんですけど?」

 

ユウさんとはもう海岸の町でずっと仲良くしてきた。

彼が深い関係を求める事はないことは付き合いの長さからもう理解している

 

「男と女の中はある日、突然芽生える物よ。私が同居すると言ったのに女性同士で何かあったらどうするなんて」

 

ルミナさんもユウさんも、お互い意地っ張りなのかもしれない

2人とも守ってくれるのは嬉しいけど、少しは距離を置いた方が良いかもしれない

できる事なら私は喧嘩をしてほしくない。だから私は2人にあることを提案した

第三新東京市で住むときに私とユウさんは同居。ルミナさんはすぐ近くに住む

私が1人だとルミナさんとユウさんは心配。私とルミナさんが同居だとユウさんに危険が及ぶかもしれない

ユウさんの過去を『ネタ』にいろいろと強要されるかもしれない。私と同居していればすぐに相談できる

いろいろと状況を考慮した結果がこうなった

 

「もしかしてルミナさんは私とそういう事をするのはお好みなんですか?」

 

「カオリ、私はあなたと一線を越えるつもりはないわ。あなたが求めるなら私は叶えてあげるけど」

 

でも魅力的な男性と恋をするつもりはない。ルミナさんは仕事が命なのよと

どこまで本当なのか気になるところではあるが

 

「ここに来ると昔の事を思い出すんです。私が行った事は正しいのか」

 

そう、初めて『僕』がこの街を守ったと感じられた時だ

今はあの時とは状況が全く異なる。今は大学生になるために頑張っている

ただ周囲の空気に流されていた頃とは違って、私が自分ですべてを決める人生になった



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第201話

「それであなたの今の気分はどんな感じなの?」

 

「私のですか。あの町で過ごすのも良かったですけど、広い世界を見るのも良かったのかもしれません」

 

私のその言葉にルミナさんは本当に少し前とは大きく変わったわねと言った

本当にそうである事は私も自覚している

戻ることなどないと思っていたのに、この街に戻り生活をするために頑張っている

頑張っていると言っても勉強の方にだけど

 

「時々思うんです。ネルフが自らの欲のために好き勝手にしている」

 

私はそんな事が許されないのに今も何も手を出していない

いつか責任を取らせることが必要だ。だが簡単に事を進める事はできない

『僕』が犯した罪は消えることはない。それはネルフも同じだ

だがネルフは自ら犯した罪をゼーレにすべて押し付けて自分達は英雄だと主張する

そんな事は私は許すことができない。できればいつかは彼らに正義の鉄槌を下すべきなのかもしれない

ネルフはゼーレと結託していた事は私は分かっている。今はネルフが英雄。ゼーレは犯罪組織

その構造を作り出した事は私は許せない。少しは温情を与える事を考えたりした

でもそれは叶うことはない。犯した罪の代償は払ってもらう

自らを英雄視して好き勝手にしている。

 

「カオリ。ネルフのことはどうするつもりなの?」

 

「私はまだ裁く段階ではないと思っています。それに私にはこの世界でただ1人、世界中の人間を裁く権利がある」

 

私の言葉にルミナさんは本当に怖い人ねと

確かに言葉の内容は恐ろしいものだ。でも必要な事でもある

私は守ると決めたのならどんな手段を使っても守ってみせる

昔のようにただ周りに流されるだけの人生を送るつもりはない

自らが決断して、そして行動する。すべては自分のためである

 

「ルミナさん。私はひどい女なんでしょうか?」

 

私は心のどこかでまだ不安だったのかもしれない

もしかしたらまた襲われるのかもしれない。襲われるのが私だけなら手段を選ばず行動する

でも大切な人を人質にされて何かを強要されるような事態になれば私はどうするべきか悩んでしまう

どのように判断するべきか。答えは簡単である。どんな手段を使っても私は妨害してくる人物を殺してでも取り戻す

迷っているような時間はない。とにかく迅速に行動をして私の大切な人に危害を加えるつもりなら守り切ってみせる

 

「あなたが酷い人間だというなら、私はもっとひどい女よ。あなたをあの海岸の町で閉じ込めようとしたのだから」

 

「でもそれは私を守るため。違いますか?」

 

そう、ルミナさんの行動は私を守るためだ。

でも私もルミナさんやユウさんに危険な事をしてほしくない

トラブルがないことが一番なのだけど、現実というのはそういうわけにはいかない

私は展望台に1人の男子高校生を見つけた

 

「今日は平日だと思うのだけど、学業を放棄してまで何か用事でもできたの?渚カオル君」

 

「あなたがこの街に住み始めたと聞いたので、少しお話ができればと思ったのですが」

 

いったい彼は何を考えているのか。私は事前に忠告したはずだ

次に会った時は殺されることを覚悟するようにと

 

「殺される覚悟があるの?」

 

 



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第202話

私はカバンに入っているベレッタM92を手にした

渚カオル君が何をするかわからない。

高校生で勉強の時間なのにそれを抜け出してきて何をするつもりだったのか

それに彼がここにいるということは彼をガードしている保安諜報部の職員が警護にいるはず

 

「少しお話でもどうですか?」

 

「そうね。あなたがどんな話をするのかについて次第ね。私に聞く意味がないと判断したらもう帰るから」

 

「レイさんやアスカさんにもう1度会ってもらえないかな?」

 

何を言うかと思ったら、何を今更。本当にバカげたことである

 

「私に何かメリットがあるのかしら?残念だけどあなたに利用されるつもりは嫌だから」

 

「僕としてはあなたと穏やかに話をしてほしいだけなんです」

 

アスカさんとレイさんの2人はルミナさんを殺そうとした。

本当なら犯罪として処罰されるはずなのにネルフが強権を発動してもみ消した

汚い連中だ。自分達にとって不都合な事実をすべて抹消する

ただし私も彼に銃弾をプレゼントしたので強くは言えないが

 

「私はもうネルフと関わるつもりはないのよ」

 

私がそう言うとルミナさんがいつでも腰のホルスターから銃を抜けるようにしていた

いつでも攻撃できるようにとの対応に。それでも彼は少しだけ時間を良いですかと

私は仕方がないということで話を付き合うことにした。

トラブルだらけにされて、ここでの生活が窮屈なものになるのは嫌だから

 

「ルミナさん。付きまとわれるのは嫌なので少しだけ話をします」

 

私の言葉にルミナさんは驚いていた。

渚カオル君と一緒に話をするために展望台に設置されているイスに座った

 

「それで、あなたはどうしたいの?『僕』の存在を明らかにしてネルフやゼーレに恩を売るつもりなのかしら?」

 

渚カオルは私が『碇シンジ』であることを知っている限られた人物の1人だ

彼は何を目的に話しかけてきたのか。私にはそちらの方が気になる

 

「僕にはそんなつもりはないよ。ただアスカさんやレイさんにもう1度会ってほしいだけ」

 

彼に言葉に私は正気なのかどうか疑った。なぜそこまでする必要があるのか

 

「私があなたを殺そうとしない理由は分かっているの?」

 

「どういう意味かな?」

 

知らないほうが幸せな事もある。彼らが真実を知るチャンスはもう失われている

何度も言うが彼らはすべての罪をゼーレに押し付けて自らは英雄気取り

酷いなんてものでは説明できない。おまけに『僕』まで利用とするかもしれない

そんな奴らを守る義務はない。裁きが必要なら私はどんなことを使っても良い

 

「『碇シンジ君』は正しき正義が行われることを期待していたのに、あなたたちネルフはそれを踏みにじった」

 

自らはクリーンな組織だと偽りの服を着用している。そんな連中が正義の味方だと大々的に宣伝している

碇ゲンドウは碇ユイを取り戻すために様々な事をしてきた

汚いことも。確かに時には汚れた道を歩むときが必要かもしれない

でも碇ゲンドウはやりすぎた。

碇ユイを取り戻すためにすべての人類を巻き込んだサードインパクトを起こそうとした

事実おこす寸前までは行ったが最終的には私が介入した



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第203話

私は何かを得ようと思っているわけではない

私のただ1つの願いはこれだけだ。『平和に暮らせること』

 

「もし『僕』ならあなたを許すつもりはないわ。今はわずかな時間を大切にしなさい」

 

つまりこちらはいつでも攻撃する用意ができているということを言っている、そのつもりだ

あえて直接的な言動は避けるべきだと判断しての対応だ

私は私の生活を守るためにはもうどんな方法でも使って見せる

それに私には海岸の町で出会った大切な人たち

 

「ネルフは世界を守っているのが自分達だと自慢気にしている」

 

私はそういう行為をすること事態が許さない

碇ゲンドウと碇ユイ、彼らがした事は自らの欲求のために世界を壊すだけでなく好き放題した

どれほど大きな被害が出るのかある程度は予想できていたはずなのに

私がもし『正義の審判』を下していたら彼らを生き返らせることはしないはずだった

でも彼らにもチャンスを与えた。

ルミナさんの話によるとそれなりの代償を払う覚悟はあるらしいけど

彼らが『本当の真実』を明らかにすることはないだろう

少しでもネルフの立ち位置を動かないように発言することは容易に想像できる

自分達の利益のためにそんなことをするなんて許したくない

でも現実はそうは言っていられない。もしネルフの『真実』が明らかになったら大問題だ

それだけに扱いには慎重さが求められる

 

「渚カオル君。あなた達は彼にチャンスをもらった。やり直すための」

 

でもそのチャンスを自らの利益のために利用した。

酷い連中であることは変える事のない事実だ

 

「これだけははっきりさせておくわ。私にもしも不用意に接近するなら覚悟をしてくることね」

 

必要なら私はすべてを『消す』こともためらうことはないということを

もう『碇シンジ』ではなく、水川カオリなのだ。

そして新しく生まれ変わった人生で世界を見ていく

この広い世界を。そこに加持さんが現れた

 

「加持さん。ようやく来てくれたんですか?」

 

私のその言葉に渚カオル君に頼まれてねと言ってきた

どうやら裏でいろいろと手を回していたようだ。そうでなければルミナさんがすぐに動くはずだ

彼らが動かなかったということは事は穏やかに進んでいるということだ

 

「ところで加持さん。ネルフはどう動くのかわかりますか?」

 

「君に直接触れることは禁止されているよ。まぁレイちゃんたちはその制限を守るかどうかについては微妙だけど」

 

「できれば会わないほうが幸せな事もある。そう思いませんか?」

 

私の言葉に加持さんは知らないほうが幸せがあるということかなと聞いてきた

もう彼らとの面倒は避けたい。

何度も言うが私は広い世界を見るために海岸の町からこの第三新東京市にきたのだ

たとえどれほどの時間が経過しようとレイさんやアスカさんたちと再会するつもりはない

もう、交わる事がない線でしかないのだから

 

「渚カオル君。彼女たちにこう伝えておいて。過去を振り返る事はもうやめてと」

 

私は未来を見てほしい。彼女たちが時間をかけて人生という名の道を歩いていく

どのような道を選ぶかはそれぞれ個人の選択だけど。

私と交わる事がないようにしてほしい。過去ばかりに固執するあまりに未来を見ようとしない

広い世界を見ることができる人生が得られるようになったのだから

 

 



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第204話

人生というのは長い川を流れていく旅なのだ。

私はずっと長い時間を生きていく。だって『神様』と似たような存在なのだから

だからこそ広い世界を見ていきたい。渚カオル君は加持さんと一緒に展望台から去っていった

私は自動販売機で缶コーヒーを買うと展望台にあるイスから高台から見える第三新東京市を眺めていた

 

「カオリ。あなたって意外と面倒見が良いわね」

 

ルミナさんの言葉に私はどういう意味ですと聞いた

 

「だって、ネルフと接触するつもりはないとは言っていたけど、結末ではあなたは彼らを殺そうとは思っていない」

 

本当はあなたは優しい心を持っているとルミナさんは言った

確かにそうかもしれない。私は本気で殺すつもりはない

命を奪うような事は私はできればすることはしたくない

社会的に表に出ることができないような事ならするかもしれないけど

命というのは大事なものなのだから。だからそれを奪うことはしたくない

もしそういう状況に追い込まれたら私は海岸の町に戻って過ごしていく

静かな町が好きだから。

 

「昔のことを考えているの?」

 

ルミナさんの言いたいことは分かっている。きっとあの時の自分の気持ち

今も完全に整理することができない思い出が多すぎる。

良い思い出はあまりないけど、私はあの頃の

 

「それは『僕』のことですか?」

 

「それについてあなたがどういう立場であったかはよく理解しているつもりよ」

 

私はその言葉にある確信を得ていた。ルミナさんが私を守ろうとしているのはなぜなのか

ずっとその理由を知りたかった。だからある仮説を考えていた

もしかしたらそうではないかと。でもそんなことがあるのかを立証することは今の段階ではできない

 

「ルミナさんはどうして私の事を守ってくれるのですか?」

 

「私はあなたに初めて会った時にどう答えたか覚えているわよね」

 

ルミナさんはいつもこの質問をすると『私はまだ完全ではない』というような表現で答える

どういう意味で完全なのか。神様としてなのか?

それとも人としてなのか

 

「私は人として生きているのは世界を見るためなのか」

 

もしかしたらこれが『僕』に課せられた定めなのかもしれないと呟くとルミナさんは少し笑みを浮かべた

 

「あなたは大変な人生を送ってきた。苦労ばかりを押し付けられて、最後には世界まで押し付けられた」

 

そんなあなたの事が心配よとルミナさんが答えた

『僕』の人生はあの『儀式』が行われるまで、誰かに道を決められて自分で選ぶことができなかった

でも今は全く異なる。自分の生き方は他者から影響されるものではない

私自身が選択する。未来は誰かから渡されるものではない

自らが切り開いて進み続けなければならない

 

「ルミナさんは今の世界の事をどう思っていますか?」

 

「それは誰が答えるかによって変わるものよ。人にはそれぞれ個人の意思がある」

 

ルミナさんの言う通りだ。人にはそれぞれ自らが歩む道を決断することが求められる

誰かから与えられたレールを歩むものではない

 

「私は神様に等しい存在なら、いい加減な対応をしているのではないかと思うんです」

 

神様だからと言って好き勝手に介入することは良いことではない

人には希望を見る権利がある。その希望という名の道が崩れるかもしれないけど

そういった難所を潜り抜けていくことが人生という名の旅なのだ

 

「もし私が公平性を持たないで罰しる事をしていたら、ネルフとゼーレの2つの組織の関係者を抹殺している」

 

「でもあなたはそれをしなかった。法の裁きにあなたは任せた」

 

ルミナさんの言う通りだ。人を裁くのは法律だ

私の独断と偏見で裁くのは緊急事態だけである

そういう事を避けたいのは事実だけど。

私はルミナさんにそろそろ帰りましょうかと言った時、ルミナさんはとっさに私に飛びついてきた

次に聞こえてきたのは銃声だ

 



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第205話

 

「面倒なことになりそうね」

 

ルミナさんの言葉に私もそうですねと同意した

トラブルと私はどうやらかなり縁があるようだ

それにしても第三新東京市で攻撃してくるとは根性がある

狙いは私だろう。問題襲ってきた連中。ネルフでないならおそらくゼーレだろう

だが彼らもそれなりに報復を受けて今は国際司法裁判所で裁判を待つ立場のはず

それをどうにかするために私に攻撃してきたのかもしれない

 

「カオリ。あなたは確かに神様に近いかもしれないけど、優しい人であることを忘れないで」

 

「私が優しいのかどうかは人によって変わると思いますけど」

 

私はすべての人に優しさを切り売りしているわけにはいかない

時には非情な決断が求められる時もある。私は決めようと決断する直前にヘリが接近してきた

 

「国連軍が来たようね」

 

ルミナさんの言葉にこの街はやはりネルフのお膝元なのだと実感した

ネルフは表向きは国連の管轄。でも実際は国連とネルフは同格扱いにされている

ネルフの方が強いことを彼らが良く知っているから

 

「私を守るためですか?」

 

「局長が動いたのかもね。意外と面倒見が良い人だから」

 

ルミナさんは自分が信頼できる数少ない人間の1人だからと言った

ネルフに首輪をつけるために設置された監察局。

彼らにとって私の存在は扱い方が難しいことは簡単に想像できる

ネルフの汚い過去を知っている数少ない人間であることはきっと彼らは知っているはず

ルミナさんが『僕』の過去を知っているとなると

彼女の上司であるその局長さんが知っていることは容易に想像できる

 

「でも、ルミナさん達に迷惑ばかりかけて本当にすみません」

 

「遅かれ早かれこうなることは分かっていたわ。あなたは前を向いて歩きだした時から」

 

「ルミナさん。私は後ろばっかり見ていると思っていたんですか?」

 

私の言葉にルミナさんはあなたは切り替えるのには時間はかかるけど、

スイッチが入ったら、驚くようなことをすることは分かっていたわと言った

確かにそうかもしれない。切り替えるのに私は時間がかかった

いつかは前を向いて歩かないといけない時が来るかもしれない

でもそれがいつになったらそうなるかは誰にもわかるはずがない

それは私であっても同じである。突然思ったのだから

あの海岸の町から外の世界を見てみたいと

 

「私はどこに行っても迷惑という名の負の遺産をまき散らす存在なのでしょうか」

 

ルミナさんはそれは私が悪いわけではないと

ネルフと繋がりがある人物はこういう命運になることは当然なんだからと

確かにドイツでゼーレのトップであるキールさんと会った時からこうなる事はある程度は想定していた

ゼーレを壊した人間なのだから。私は。

国連軍のヘリから次々と兵士が下りると私達を襲ってきた連中は次々と制圧されていった

私はさすがは戦闘のプロは強いと思った

 

「今日はもう帰った方が良いですね」

 

私の言葉にそれは当然のことねとルミナさんは言った



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第206話

私は展望台から自宅であるマンションにルミナさんと一緒に戻った

私とルミナさんが自宅マンションの部屋に戻るとユウさんがお昼を作っていた

ちなみにメニューはパスタだった。

 

「ユウさん。料理は上手だったんですか?」

 

「海岸の町で1人暮らしをしていたら、海を見ながらおいしい料理を食べたいのはわかるよね?」

 

確かにそうだ。1人暮らしとはいえ、いろいろな料理を食べたいと思うのは当然かもしれない

でもユウさんは男性だったから、こんなに料理が上手いなんて知らなかった

 

「そうですけど。かなり本格的ですね」

 

「もしかしてカオリちゃんは僕はお昼は簡単なもので済ましていると思っていたのかな」

 

「それは・・・」

 

私は思わず答えに詰まると後ろにいたルミナさんが女性をからかうのは良い趣味とは言えないわよと

 

「カオリちゃんがいろいろと表情を変えるから少しね」

 

意外な一面が見れて楽しいよとユウさんは言った

 

「ユウさんって意外と意地悪ですね」

 

ユウさんは誉め言葉だと思っておくよと言うとランチを食べようと言った

私とルミナさんとユウさんはイスに座るとパスタを食べる事にした

 

「お散歩はどうだったかな?」

 

「ちょっと思わぬハプニングがあったことを除けば問題ないわ」

 

ルミナさんは渚カオルの事をそう表現した

ユウさんはそれは大変だったねと答えた

 

「そういえば、あなたは第三新東京市立大学の警備部門への就職が決まったみたいね」

 

どういうコネを使ったのかぜひ知りたいわねとルミナさんはユウさんに言った

私もその情報は今、初めて知った。でもさすがユウさんだとも思った

常に2歩先を読んでいるかのように行動しているからだ

 

「素早い動きですね」

 

私の言葉にユウさんは私を守るために一緒に過ごせるようにいろいろと用意しただけだよと

 

「カオリちゃんを守るためにはいろいろと利用できるものは使わないとね」

 

その言葉に私はユウさんにすごく迷惑をかけて申し訳なかった

でもルミナさんはある事を懸念して忠告するかのような発言をした

 

「それってネルフに協力するって意味じゃないでしょうね?」

 

ユウさんが私を監視するためにネルフとチームを組んだのではないかと疑ったみたい

でもそれは真っ先にユウさんは否定した。大学の警備部門に就職手続きにある人物が絡んでいると

それはルミナさんの上司である人を通しているからだ

 

「僕はルミナさんの上司に頼んだんだよ。カオリちゃんの警備のためにも必要だと訴えて」

 

つまりユウさんはルミナさんが所属している監察局の局長に直談判したということだ

本当にすごい動きの早さである

 

「局長が?でもそんな話は私に何も」

 

「僕が口止めをしておいたんだよ。ルミナさんは事の成り行きを知ったらいろいろと邪魔してくるはずだからってね」

 

「確かにあなたが大学の警備スタッフに入る事について、すぐに認める事はできないかもしれないけど」

 

相談くらいしてくれても良いでしとルミナさんは言った

ユウさんは君が驚くような顔を見てみたいと思ってねと言った

誰もが私のために助けてくれている。迷惑をかけていると言えばそうなのかもしれない

私はユウさんにもルミナさんにも、迷惑をかける事はできれば避けたいと思っていた

だって私は疫病神のような存在なのだから。迷惑をかけるのは申し訳ないから

 



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第207話

自宅マンションでルミナさんとユウさんと昼食を食べると私は自室に戻ると受験勉強を始めた

私の存在が『神様』の様なものだから勉強しなくても試験問題を解くことぐらいは簡単ではあるが

インチキをすることは避けたいので。できるだけ自分の『本当の学力』で受験をしたかった

 

『トントン。カオリちゃん。コーヒーでもどうかな?』

 

ユウさんからお誘いに私はドアを開けますねと答える

部屋のドアを開けるためにデスクチェアから立つとドアに向かった

ドアを開けるとユウさんがコーヒーカップを持っていた。ちなみに1つではなかった

ユウさんも自分用のコーヒーカップを持っていた

 

「入っても良いかな?」

 

私はその質問にどういう意味ですかと聞いた

海岸の町の旅館にいた頃は何度か私の部屋に入ってきたことがあったから、

今更気にすることではないと思っていたからだ

 

「ユウさんやルミナさんなら大歓迎ですよ」

 

私はコーヒーカップを1つもらうとユウさんと少しお喋りをすることにした

 

「勉強の方はどうかな?」

 

「頑張っていますよ。奨学金制度を使ってお父さんやお母さんに迷惑をかけたくないので」

 

私の言葉にユウさんは本当に真面目だねと、私の頭を軽く撫でた

すぐに恥ずかしくなって私はユウさんは女性のお付き合いの仕方に慣れていますねと言った

 

「カオリちゃんは綺麗な女性だからね。ただ、鳥で例えるなら巣から巣立ちができていない小鳥って感じだけどね」

 

「私が小鳥ですか?」

 

私は少しは巣立ったつもりなのだけど、

ユウさんから見ればまだ巣立っていない小鳥と変わらないようだった

 

「少しは大きく進歩したかもしれないけど、本質的なところは変わっていない。違うかな?」

 

「それは、そうかもしれないですけど」

 

ユウさんから受け取ったコーヒーカップに注がれたコーヒーを飲んだ

味はブラックであった。おいしいコーヒーであった

 

「カオリちゃん。君はお人好しだね」

 

ユウさんの言葉にどういう意味ですと質問した

 

「君は殺すと言っておきながら、自らの手を下すことはない。君は言ったよね。ドイツで。法によって裁かれるべきだと」

 

つまり君自身の好き勝手に闇雲に殺しをしているわけではないと。

 

「それは・・・・そうかもしれないですね」

 

「カオリちゃんは法によって裁かれる事こそを求めた。正しい判断をしたと僕は思うよ」

 

「私がした判断は本当に正しかったのでしょうか?」

 

「大丈夫だよ」

 

ユウさんは私の髪をやさしく撫でてくれた

思わず私は小さな子供じゃありませんと恥ずかしくて言うと、

ユウさんは子供じゃないっていうところが子供なんだよと優しく語りかけてきた

 

「カオリちゃんは本当は優しい子供だからね」

 

ユウさんはそう言うと何か問題で分からないところがあればいつでも質問してきていいからねと

そう言うと私の部屋から退室していった

 



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第208話

勉強を頑張っていると時間の経過を忘れてしまっていたようで、

部屋の窓から見える風景は夕焼け空になっていた

私はとりあえず今日はここまでにすることで

 

「本当に変わったんですね」

 

思わず私はそんなことをつぶやいてしまった

海岸の町にいた頃はまさかもう1度第三新東京市で住む事になるなんて想像もしてなかった

世の中分からないことはたくさんあるとよく言うけど、本当に大きな変化である

これは私なりに言うと成長したということなのか、

 

「まぁ、とりあえずコーヒーを取りに行きましょう」

 

私はコーヒーカップを持って部屋を出ると

キッチンにあるコーヒーメーカーに保存されているコーヒーをカップに注いだ

 

「カオリちゃん。勉強は今日はここまでかな?」

 

ユウさんはリビングのソファでテレビを見ていた。そこまでは普通の日常なのかもしれない

ただし拳銃の整備をしているということを除けばだけど

 

「お掃除ですか?」

 

「お手入れはしっかりとしておかないと不発になったら困るからね」

 

私も部屋のデスクに置いている銃の整備をしようかと思った。

確かにユウさんの言う通りだ。いつ襲われるかわからないのだから

備えは万全にしておかなければならない

 

「良かったらカオリちゃんのもしておくけど」

 

ユウさんの優しさに私は思わずお願いしますと言いそうだったが、

自分の命を守るために必要だから所有しているのだ

自分できちんと銃のお手入れができないようではいけない

 

「大丈夫です。コーヒーを飲んで少し休んだら私自身でしておきます」

 

「本当に真面目だね。でもいい心がけだよ。確かにカオリちゃんの言う通り、自らの命を守るために必要な物だから」

 

でも困ったらいつでも相談してきてとユウさんは言う

私はその時は相談しますのでと返答した。私はカップにコーヒーを注ぐと自室に戻った

外出時にはいつも所持しているリュックサックから銃を取り出すと分解・清掃をした

そして再度組み立て直して、動作に問題がないかを確認する

 

「とりあえずこんな感じかな」

 

私はリュックサックを戻すと自室にあるロッキングチェアに座った

本当に良い思い出がない街で、再び暮らすことになるとは私も思っていなかった

前回の時と違うことは本当に信じることができる大切な人がいること。

私のためにずっとそばにいてくれると誓ってくれる人がいることは大切な事である

 

「世の中本当にわからないものね」

 

ゆっくりしていると次第に私は眠気に誘われたようで仮眠をとってしまったようだ

目を覚ますとルミナさんが私を起こしに来てくれていた

 

「彼が夕食を食べましょうって呼んでいるわよ」

 

私は眠ってしまった事に驚きながらも、イスから立ち上がるとルミナさんと一緒にリビングに向かった

テーブルには夕食としてハンバーグやポテトサラダなどのおいしそうなおかずが置かれていた

 



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第209話

私とルミナさんとユウさんは一緒に夕食を食べていた

 

「勉強は順調なの?」

 

ルミナさんの質問に私はそれなりにと返事をした

 

「やっぱり部屋を交代しない?男女の組で勉学よりも恋愛に走るかもしれないし」

 

私は思わずルミナさんの言葉にドキッとした

第三新東京市に移り住むときだけでもルミナさんとユウさんは喧嘩をしたのだ

もちろん喧嘩と言ってもどちらが私を守れるか護身術などの体力勝負で

結果は言うまでもない。今、私がユウさんと一緒に同居しているからルミナさんは負けてしまった

私はその時のルミナさんのかなり悔しそうな表情を覚えている

ルミナさんの表情を見て思わず罪悪感を感じるほどに。

 

「私は恋愛よりも勉強の道を選んだつもりなんですけど」

 

「何度も言うけど男は獣よ。愛している人物のためなら何をしてくるかわからないわ」

 

ルミナさんは今からでも変わりましょうと言うが、ユウさんも負けていなかった

 

「ルミナさんもカオリちゃんと楽しい一時を過ごすかもしれないけど」

 

「それって私とカオリと恋愛をすると言いたいの?」

 

ユウさんは可能性は0ではないと思うけどという

確かにどちらとも言い分としては当たっている。

別に私は女性同士の恋愛について否定はしない。

人というのはそれぞれの価値観があるのだ。誰が誰と恋愛しようと個人の自由だ

私は同性の恋愛だって当たり前だと思っている

 

「私がカオリを汚すことなんてありえないでしょ。そんな事をしたら海岸の町のカオリの両親に顔向けができないわ」

 

ルミナさんはあくまでも中立的な立ち位置でいるのだからとのことだ

 

「僕だって守るようにって言われているからね。それにここで襲撃しかけてくる連中は限定されてくるよ」

 

ネルフのおひざ元である第三新東京市で襲撃を仕掛けてくる連中はかなりの命知らず

確実に仕留められることは分かっているはず。

捕まれば拷問にかけられてどういう組織でどれくらいの規模があるのかをネルフは徹底的に調べるだろう

もしくは監察局が動くことも想定される

ルミナさんが私を守ってくれているということは監察局による監視が入っていることは容易に想像できた

監察局やネルフにとって私の立ち位置がどれほど微妙な物かはよく理解している

それだけに慎重な対応が必要なのだ

するとルミナさんは私の方を真剣なまなざしで見て言った

 

「カオリ。もし男に傷ものにされそうならこのボタンを押して」

 

ルミナさんは私がどこにいても位置情報が送られてくるからと

はっきり言うとかなり心配症である。私は大丈夫だと思いますけどと答える

 

「用心はしておいた方が良いわ。何があるかわからないのだから」

 

ルミナさんだけでなくユウさんも受け取っておいてもらえると安心できるよと同意するかのように話を進めた

私は2人に抵抗するのは無理であると判断した。

それにこれを持っているだけで安心できるというなら受け取ることにした

 

「キーホルダーに着けておきますね」

 

私はそう言うとこの家から外出する時に使う自宅扉の鍵が付けられているキーホルダーにつなげた



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第210話

夕食を食べ終わた私達は今日の夕食はユウさんが作ってくれたので私は洗い物をすることにした

そういう風に当番制に決めた。お互い平等が一番だから

ユウさんはリビングのソファでテレビを見ていた

 

「平和だね」

 

ユウさんはそう呟いた。私は静かな雰囲気は嫌いですかと質問した

 

「かつての事を考えるとね。違法行為をしてきた罪深き過去は消えない」

 

自分の体には多くの血という名のシミがある事実は消えないと

どこか悲しい表情をユウさんはしていた。

そんな表情を見ていると私も同じようなものだと考えてしまった

私だって完ぺきではない。どこかを探せば私も血で汚れているのだから

 

「それは私も同じですよ。ユウさん」

 

「カオリちゃんに責任はないと思うけど。それに僕たちが犯した罪の重さは一番知っているのはカオリちゃんだよ」

 

ユウさんはそういうが、それは私も同じである。

『僕』が犯した罪の重さはかなりのものになる

もっと私が利口な方法をしていればあんなことにはならなかったのかもしれない

でもそれはいまさら言ったところでどうにもならない事だ

全ては過去の出来事だ。

 

「できる事なら私も裁かれるべき存在なのかもしれませんが」

 

「カオリちゃんは裁かれる立場じゃないよ。君は助け出したのだから。そして万人に平和を促した」

 

ユウさんは私の『神』のようなメッセージを受け取ったとしても、

人々はそれを受け入れることができない者がいるのは当然であると

 

「本当に正しかったのか私はいつも疑問を浮かべてしまいます」

 

「正しいか正しくないか。それを決めるのはそれぞれの個人の考えだと思うよ。ネルフやゼーレは例外だけど」

 

「ストレートに言うんですね」

 

ユウさんは遠回しに言われるのは嫌いだと思っているからストレートに言ったつもりだけどと

私も遠回しに言われるのが好きなのか嫌いなのかと質問されたら、ストレートの方が好きです

遠回しに聞かれるといろいろと裏があるのではないかと考えてしまうから

だからこそ堂々と質問してくれた方が私としてはありがたい

 

「明日の朝から買い物に行きませんか?食料品を買いに行きたいですし」

 

「僕もそう思っていたよ。そろそろ買いに行った方が良いところだね」

 

私の提案にユウさんは迷うことなく同意してくれた

1人で買い物に行くのはどこか不安だったので、

この街に再び戻ってからは買い物はユウさんかルミナさんのどちらかと一緒に言っている

私はキッチンで洗い物を終えるとユウさんが座っているリビングのソファに近づいていった

少しイタズラをしてみようと思ったのだ。いつも私がイタズラの獲物にされているのでたまには逆襲をしてみようと

 

「ユウさん。よかったら一緒に寝ませんか?」

 

私はユウさんの横に座ってそう言うとイタズラはダメだよと言われてしまった

 

「それにカオリちゃんを傷ものにしたら僕はルミナさんからどんな目にあわされるかわからないから」

 

それとも本気で言っているのかなと逆に言われてしまって、私は思わず恥ずかしくなった

 



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第211話

私のいたずらが失敗して逆に恥ずかしくなってしまった。

 

「カオリちゃん。意外と弱いんだね。こういうイタズラは」

 

ユウさんは少し笑っていた。意外に一面が見れたことで

そこで私はユウさんにちょっとしたいじわるをした

 

「ユウさんだっていろいろありますよね?隠し事は」

 

人には誰だって隠し事はある。それは私も『僕』同じだ

私の方がもっと罪深いかもしれないことは確かだけど

罪の重さを決めるのは私ではなく法律なのだ

私の場合は少し事情が異なることは分かっている

だって私は『神様』みたいな存在なのだから

 

「僕の場合はカオリちゃんを守る事がここに住むときにカオリちゃんの両親に頼まれたことだからね」

 

私が怪我をしようものなら飛んでくるよと。

確かにお母さんとお父さんは仕事よりも私のことを優先してくることはわかっている

だって、両親は私のことを本当に心配しているから。

毎日、1日1回は携帯電話で連絡を取り合っているから、愛情を感じている

 

「それにしても平和な街ですね。かつてとは大間違いです」

 

あの使徒と戦っていた時と異なり、今のこの街は静かで平和な街である

かつてのあれだけの悲劇がまるで嘘のように

私としてはそれは良いことだと思っている

過去に囚われているだけでは未来を見る事はできない。

未来を見るためには過去を見て、それが判断材料としていくべきだ

将来の選択は強制させるものではないはず

 

「本当に静かです」

 

「カオリちゃんは静かなところが好きだからね」

 

「そうですね。仮に一緒にいるならユウさんやルミナさんのような信頼できる人でないと」

 

私の言葉にユウさんは信頼しすぎることが怖いのかなと聞いてきた

それは当たっているのかもしれない。

今もどこかで信頼しすぎることでの影響を警戒しているのかもしれない

信頼していた人に裏切られるのはもう2度と嫌であるから、なおさらだ

今度ばかりはもう嫌なのだ。負けるわけにはいかない。

もし欺かれるようなことがあるならそれを見抜いて真実を聞き出す。

それができないと私は大切な友人や家族を失うかもしれない

迷う暇はない。私の影響で大切な人が傷つけられたり殺される道は選べない

何としても守るのだ。

 

「昔、あるアニメのセリフを言っていたキャラクターに似ているよ」

 

今度ばかりは負けるわけにはいかない。逃げていたら世の中全てのインチキが正当化されてしまうと

ユウさんの言う通りだ。もう逃げるわけにはいかない

 

「そうですね」

 

「カオリちゃん。今は助けてくれる人も時間もたくさんあるからゆっくりと歩みを始めると良いと思うよ」

 

ユウさんやルミナさんという最大の防御手段がある

でも2人にもしもの事があったら私はどんな行動をするか

それはそういう時にならないと分からないだろうけど

 



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第212話

私とユウさんは一緒にリビングにあるソファに座りながらテレビ番組を見ていた

ちょうど、ニュース番組が放送されていた

今の話題はゼーレという秘密結社についての事が報道されていた

私達も巻き込まれることはある程度は覚悟していたが、

ルミナさんからの話によるとそういうことは避けるとのことだった

どう考えてもルミナさん達が動いてくれているからこういう配慮がされたことは明白である

 

「ゼーレやネルフはどうなるのでしょうか」

 

私の小さな呟きはユウさんには聞こえていたようで、

今の状況について教えてもらえることができた

 

「表向きは裁判という体裁はとっているけど、実態は国連の調査委員会によって行われるみたいだね」

 

「国連ですか?」

 

私はあまりその言葉に信用できないと感じてしまった

だってネルフを作らせたのは国連であるからだ。

もちろんゼーレという後ろ盾があったから成立したことであるが

ネルフも体裁上は国連の直轄機関だ。だが内容は国連の権限を好き勝手にしてきたのもネルフだ

そんな国連の調査委員会にまともな審理ができるはずがないと思っていた

 

「監査局が第三者の立ち位置で審理に立ち会って行うとは聞いているけど」

 

ユウさんも詳細にというか、そのあたりはまだ完全に決まっている事ではない事から、

どのような成り行きになるかは今後の展開次第にならない限りはわからないとのことだ

 

「できることなら私達に影響が出ないと良いですね」

 

「そうだね」

 

私達はそんなことを話しながらゆっくりとした食後の時間を楽しんでいた

さすがにこの時間にコーヒーというわけにはいかない

カフェインの取りすぎは良くないから。そこでユウさんが紅茶を入れてくれた

 

「ユウさんは紅茶も好きなんですか?」

 

「僕は紅茶もコーヒーも、どちらも好きだからね」

 

それに私との時間をゆっくりと過ごせるなら安心できると答えた

本当にユウさんは恥ずかしくなるようなセリフを言う

きっと女性との恋愛経験が豊富なのではないかと思うほど

以前、私が聞いたらそんなことをするような暇はなかったと

確かにユウさんはゼーレと関係があった。特に『僕』を壊すべき立ち位置にいたのだから

だから女性経験は少ないはずないと思うのだけど。

でも女性とのお付き合いはあったはずだと思う。

だって、私に対する接し方から見てそうだからだ

 

「ユウさんは女性関係はかなりあるのですか?」

 

「カオリちゃん。僕が当時はどういう立ち位置かはわかっているよね?そんな暇なんてないよ」

 

カオリちゃんに見せてはいけないようなことをしてきたのだからと優しく語りかけた

本当にユウさんは正直者である。その正直さのおかげで私はユウさんを信頼できる証である

それだけは間違いないことなのかもしれない



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第213話

私とユウさんはテレビ番組を見るのを終えると入浴する時間を迎えることにした

お互いルールを決めている。初めに私が入る。

別に私は気にする事ではないのだが、ユウさんはレディーファーストと女性の扱いに慣れている

ユウさんは私が入浴中は常に拳銃を手にしている

何時でも銃撃戦に対応できるようにしていたのだ

私は浴室でシャワーだけを使った入浴のみをしていた。

海岸の町の家にいた頃は湯船に毎日のように使っていた。

しかし、この街に来てからはいつ狙われるかわからないため、それは避けていた

いつ襲われるかわからないとなるとリスクは侵せない

 

「本当に私は神様なのでしょうか?」

 

浴室にある鏡に映し出されている私の姿を見てそう思ってしまう

神様は人々に平等な選択肢を与えるべきなのだろう。でも実態はそうではない。

誰もが平和を求めているはずなのに世界は簡単にそういう流れにならない

私がどれほど強く願っても、難しいことであることは間違いない

助けてあげたい人は大勢いる。戦場で戦う人たち

その中にはまだ幼い子供もいる。いわゆる少年兵だ

そんな事に巻き込まれることを私は少しでも減らしたい

だからこそ私は大学に入学する事を決断した。

誰もが幸せになる道を、選択肢がある事を見せてあげたい

そして幼い子供たちを戦場に送り込むような人たちを法の下で裁いてほしい

私が裁きをすることは絶対にいけない事なのだ。

だって、法律がすべてである。いくら私が『神様』のような存在だからといって

好き勝手に裁きを下していたら、それは正常な事ではない

人が犯した罪は人が裁くべきだ。

法の下で誰もがそうあるべきなのだ

 

「本当に神様なら私はいい加減な仕事をしていることになります」

 

そんな事を愚痴りながら私は入浴を終えるとお風呂から出る。

すぐに体についているお湯を拭きとるとパジャマに着替えてリビングに向かった

 

「ユウさん。お風呂は終わりました」

 

ユウさんはリビングにあるソファに座りながら銃の手入れをしていた

 

「あの~。ユウさんはいくつ持ち込んだのですか?」

 

リビングにある机の上には最低でも3つ以上の拳銃があった

リボルバーが2丁。オートマチックの銃が1丁あった。

さらにユウさんが今整備しているオートマチック銃が1丁

ここにあるだけで4丁も銃がある。これではまるで火薬庫に見えてしまった

 

「全部で5丁は持ってきているよ。ちゃんと警察には許可をもらっているから大丈夫だよ」

 

「そうですね。許可なしで持っていたら危険ですし」

 

私が持っている銃も警察には許可をもらっている

許可なしで持ち歩くのはあまりにも法的に問題が出てしまう

そうなれば楽しくなりそうなここでの生活にトラブルを持ち込んでしまう

そんな事はもう嫌だから

 



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第214話

私は今日はもう寝ますねとユウさんに伝えた

最近勉強ばかりをしているから疲れてしまう。

頭の体操には良いかもしれないけど

 

「おやすみ。カオリちゃん」

 

ユウさんはそう言うとまだする事があるようでノートパソコンで何か作業をし始めた

私は特に気にすることなく自分の部屋に戻るとベッドで横になった

 

「本当に疲れることばかりです」

 

私はそんなことを愚痴りながらも睡眠に入ろうとした。

だがその時、この家の玄関のインターフォンが押された

誰かは私が『神様』だからすぐにわかった。渚カオルだ

私はベッドから起き上がると壁にかかっているリュックサックからベレッタM92を取り出した。

自室を出るとユウさんも銃を素早く組み立てていた。

 

「カオリちゃん。念のため警戒を」

 

ユウさんがそういうので私はいつでも発砲できる状況で待機した

渚カオル以外には周囲には護衛役をしている加持さんがいた

またしても面倒なことになりそうだ

ユウさんは銃を構えながら玄関のドアを開けた

私も銃口を玄関に向けて構えていた。いつでも撃てる

ドアの向こうの廊下には渚カオルと加持さんがいた

 

「どういうことですか?」

 

「君に会いたくてね」

 

渚カオルのその言葉に私は頭痛の種が増えてきたと感じた

この街に住んでいれば少ない可能性ではあるが、

接触することが増えるかもしれないということは分かっていた

しかしだ。ここ最近の数があまりにも多すぎる

はっきり言って迷惑でしかない。もうあの頃の『僕』は存在しない

今はもう違うのだから。それにすでに2回目だ。

この街に引っ越しをしてから彼と接触するのは

 

「いったい何の用事なのですか?そもそもお子様はもう寝ているべき時間だと思いますが」

 

「それは申し訳ないね。どうしてもと頼まれてね。さすがに彼に脅されると抵抗するのは俺には難しくてね」

 

加持さんはどうやら私のこの現住所を渚カオルから聞き出すために利用されたようだ

どこまでも強引を貫く人間なのかそれとも自分勝手な人間なのかと思った

結局のところ、渚カオルも組織を利用して私と接触してこようとしている

本当の本当に迷惑な話でしかない

 

「渚カオル君。警告はしたはずよ。お互いのためにもこれ以上介入するのはやめるようにと」

 

ちなみに加持さんも責めるべきなのだが。

今後の事を考えると文句ばかりを愚痴るわけにはいかない

難しいものであることは間違いない

事を大きくする事は私としても『僕』としても望んでいない

 

「アスカさんやレイさんと再度面会しろというなら私はお断りよ。もう彼らはその資格を失っている」

 

確かにあの最後の時に私がアスカさんが眠っている病室で行った行為を正当化するつもりはない

でも彼女によってルミナさんが負傷して、私の大切な人を傷つけた

それは絶対に許される行為ではない。だからもう再会などするつもりはなかった

 



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第215話

これだけは許されない境界線である

大切な人が傷つけられたら、どんな行動でも行うだけの覚悟はある

私が次の言葉を発しようとした時に、隣の部屋に住んでいるルミナさんが出てきた

手には銃を持っていた。

 

「渚カオルに加持リョウジ。ネルフの立場にあるあなた達に会うのは今日だけで2回目よ」

 

ルミナさんは少しはこちらの迷惑も配慮してもらわないと、

ネルフへの査察で今後は厳しく対応していくわよと伝えていた

 

「ですがもう少しだけ話をしたかったので」

 

私はこれ以上このマンションで騒動を起こされるのは面倒であると考えた

 

「仕方がないですね」

 

私は渚カオルと加持さんを家にいれた。もちろんルミナさんも同行していた。

もしもの場合に備えての対応である。私はリビングに渚カオル君と一緒に向かった

ルミナさんは玄関付近で警戒。ユウさんは私の護衛役をしてくれると

渚カオル君の護衛には加持さんが担当する事に

 

「それで何を話したいのかしら?」

 

「どうしてアスカさんやレイさんと会うのを嫌がるのか教えてくれないかな」

 

「彼らは私の大切な人を傷つけた。それだけで理由は十分だと思うけど」

 

ルミナさんを傷つけたのだから、これは私なりの報復処置のつもりだ

彼らはもう一線を越えたのだ。だから私はもう彼らを許すことはないと思っている

今更、どんな謝罪をしても私は絶対にルミナさんに。

ルミナさんだけでなく、私の大切な家族を傷つけようとする人たちを許さない

 

「あなただって本当は許すつもりはなかった。『僕』を壊したのだから」

 

「それは否定できないね。申し訳ないと思っているよ」

 

「謝ったからと言ってすべて物事が解決するわけじゃない」

 

そう、今更どんなに謝罪をしても私は受け入れる気持ちは持たない。

もう会う事がないことを願っていたけど、この街ではそういうわけにはいかないのは現実である

仲良し握手すると思っている人物がいるなら、そんな連中はバカな考えだ

もし私に、私だけでなく大切な家族をも攻撃するつもりなら絶対に許さない

『神様』の権限を使ってすべてのインターネットを止めるくらいの覚悟はできている。

守るためならそれくらいのことをする

 

「ネルフがもし私や私の大切な人を傷つけるつもりなら、どんな手段をしてでもあなた達を消す」

 

私の言葉に渚カオルはそれはただの脅しかなと聞いてきた

脅しで済むわけではない。必要なら殺しだってためらわないだろう

守るために必要なら。その時は自衛権を発動する。絶対に守り抜いて見せる

 

「渚カオル君。気を付けることね。神様は気まぐれなの。もしかしたらという事を忘れないように」

 

私はあくまでも脅し文句で忠告した。

加持さんにはいろいろとお世話になっているので、

助け船が必要なら少しは協力する道を選ぶかもしれない

でも渚カオルにはその資格はもう失われたはずだ。

今後、接触しないほうがお互いのためである

 



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第216話

私はその後も渚カオルと話を進めていくが、

彼の求めているのはアスカさんとレイさんと会ってほしいという事だ

そんな身勝手な事を認めるわけにはいかない。絶対に

 

「今になって都合の良いことを言わないで。ネルフもゼーレが犯した罪をすべて背負っているのよ」

 

なのにネルフは自分達の立場が強固になるように様々な裏工作をしてきた

時には私ですら利用しようとしていた。

そんなことを『僕』が容認するわけがあるはずがない

 

「渚カオル。彼らにはこう伝えることね。次に私の前に立ちふさがるなら命はないと思うようにと」

 

私には覚悟はできている。

必要なら邪魔なバカみたいに大きな障壁であっても破壊するほどの覚悟が。全てを失う覚悟はできている。

私にとって大切なあの海岸の町を守れる保証さえ得ることができるならどんな連中とも取引する

だがその取引をした相手も殺すことも実行する。

私にとって大切な海岸の町を。そこで私と優しく触れ合ってくれる街の人たちを守るためには、

どんな邪魔者や妨害拘束してくれるような人物を排除することが必要なのだ

ルミナさんはきっと私の計画に賛同してくれると想定できていた

ユウさんもきっと賛同してくれる。だってユウさんは私のためにかなり危ない橋を渡っている

私は今の大切な『家族』を守るためにはどんな方法でも手段でも取る

 

「あなたたちは殺されても文句を言えないのに、生かされていることに感謝するべきよ」

 

私は何度も繰り返して言っているセリフで、あえて強気に出た。

これ以上の妨害工作はされたくない。私の行動1つで多くの人の人生が変わるかもしれない。

大切にしてくれている海岸の町のお父さんやお母さんを守るためには手段を問わない

 

「もう私は誰かの影響を受けて流される生き方をしたくないのよ」

 

あの頃の『僕』に戻る事は絶対にしたくない。

いえ、することは絶対に認めない。私は今のこの静かな生活を満喫している

もうネルフによって縛られている仮初な平和などに興味はない

 

「渚カオル。あなた達は神様から唯一許される道が残されていたのにそれすらも踏みにじった」

 

覚悟しておく事ねと私は強く彼に圧力をかけた

一線を越えるだけの覚悟はできているのだから。

守るものがある私はどんなことをしてでも守り切ってみせる

例えそれが大きな組織であっても単独で破壊することを実行する

大切な人はもう失いたくない。家族なのだ。仮初の家族ではなく本当に愛し愛されている家族

だから絶対に失いたくないし、失うくらいならどんな手段を使ってでも取り戻す

利用できるものをすべて利用して。必要なら私は自らの体を差し出しても良いというほどに覚悟はできている

失ったのなら奪い返して見せる。必ず。だけどそのことにネルフは絡んでいく事は嫌な話だ

彼らから恩着せがましく利用されるのは、どこかで後悔するかもしれない

それは避けるべきことである。



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第217話

私は渚カオルにそう伝えると自宅に帰るように伝えた

今さらどんなことをしても、もがき苦しんでいるほうが良いと思っている、

今の私の心はあまり良い物ではない。いろいろと問題を抱えているから何をするかわからない。

片づけることができない問題が多すぎるというのも課題である

今回編入のために受ける大学入試試験で安心した気持ちでテストに臨みたい

誰かに左右されるのではなく、自らの意思決定理論で行動を決める

あの頃とはもう違う事を明確にしなければならないのだ

 

「渚カオル君。これだけははっきりさせておくわ。次に射線上に入ったとしても私が助ける保証はない」

 

つまり仮に私が巻き込まれたトラブルであっても、

突き放されることを覚悟するようにと伝えたかったのだ

 

「もう僕の方は覚悟はできているよ」

 

「私はあなた達のせいで『僕』の人生を壊された。それに今、生きているのは私であり『僕』ではない」

 

そのことを忘れないようにと言明しておいた

つまりもう2度と『碇シンジ』の立場を欲する事もなければ求めるつもりもない

どんなことがあろうと断るということの意思表示である

 

「わかっているよ。君をもう巻き込むつもりはないから」

 

「あなた達ネルフはそう言っておいて最終的には『僕』の存在を利用するつもりっていう線もあるから」

 

「僕の方で止めておくよ。できる限りね」

 

渚カオルの言葉はどこまで信用できるかわからないが、

今はこの助け舟に相乗りする道を選ぶしかない時が来るかもしれない。

そんな助け舟に乗りたいとは考えたくないと思っているけど。

だが時には協定を締結するしかない状態に追い込まれたことはあるかもしれない

協定、それはお互いの縄張りに関して線引きをするということだ

加持さんは信頼できる。『僕』のためにかなり危険な橋を渡ってくれているから

下手をすればネルフから追い出されるかもしれないというかなり危険な橋をだ

そうなったら加持さんは殺されるかもしれない

『僕』に関わったがためにそうなったら『私』はそれを認めるわけにはいかない

結局のところ私は、誰かに守られていることは間違いないのかもしれない

私は何とか自立しようとしているのが現実はそう事が進まないことは数多く存在する

『僕』という存在が私の存在よりも重いのだ

 

「渚カオル君。彼女たちに伝えておいて。お互い再会しないことが最も幸せであると」

 

私の言葉に渚カオル君もユウさんも、いやこの場にいた全員が驚きの表情を見せた

当然である。突き放しておきながら『最後のメッセージ』を彼に託したことに

 

「カオリちゃん。君がそこまでする必要はないよ」

 

「良いんです。きっと彼女たちは私の針路を阻もうとする。なら事前に外堀を作っておいた方が」

 

私はもう関わりを持たないようにするためにはこれしか道はないと



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第218話

渚カオル君達が私達の部屋から出ていくと私はリビングでため息をついた

 

「本当に面倒です」

 

私の独り言にユウさんはカオリちゃんは本当に底抜けのお人好しだねと答えた

確かにそうかもしれない。でもその道を進まないといけない時がある

なら仕方がないが、その道を行くしかない。

 

「ユウさん。一応ですけど、私はもう彼らと関わらないと決めたんです」

 

でもユウさんは『私は最後のところで彼らを守ろうとしている』と

私にも時にはそういう時があるかもしれない。

そんな事がならないほうが良いのだが。

 

「一応決別しているつもりなんですけど」

 

「それでもカオリちゃんは優しいからね。敵に対しても殺すことを選ばないと思うけど」

 

実はユウさんとルミナさんの指導で格闘術の鍛錬を受けている

鍛えておいて損はない。銃の訓練は監察局の銃火器訓練施設を使わせてもらっている

さすがに市警察で受けるわけにはいかない。そのためネルフ監察局の施設を利用をお願いしていた

幸いなことにルミナさん達の口添えもあったので訓練設備の利用申請は簡単に通った

私には強い戦闘訓練を受けたユウさんがいたので適切に鍛えてくれていた

ルミナさんはそのことに少し嫌そうな表情をしていたが、ユウさんが説得してくれた

ちなみに私の銃の扱いは2人に厳しく教わっているので、まるで兵士のようだと評された

あまり嬉しくない表現ではあるが、それだけ慣れてきているということは良いことだ

いつ何時襲われるかわからないのだから鍛える必要はある

 

「いつも思うんです。あの時、神様のような存在になった私はどうすればよかったのか」

 

神様のような存在である私は好き勝手にできたはずだ。

ゼーレに属していた人間を処罰することができたはず。

でも私はそれをしなかった。理由は1つだ。確かに私は神様のような存在だったのかもしれない

だからと言って人が定めた法律を無視して勝手に処罰することは許されない

そう考えていた。人が犯した罪は罪なき人々が定めた法律によって裁かれるべきだからだ

神様だった私が好き勝手にすることは、ただの暴挙のようなやり方である

人が犯した罪は人が定めた法律で裁かれなければならない

 

「カオリちゃんは間違っていないよ。それに罪ばかり背負い込んでいたら重くなるだけだから」

 

ユウさんは私の頭を撫でた。子供のような扱いを受けた事に普段なら怒る所なのだけど

今はそんな気分には慣れていないし、色っぽい展開にならない

 

「とりあえず、今日は寝ましょう」

 

「そうだね」

 

私はユウさんと話を終えると寝室に入った。

とりあえず今度こそ眠ることにした。

今日はいろいろと疲れていたのですぐに睡魔に襲われた

 



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第219話

翌朝、私は自分のベッドで目を覚ました。

このマンションで私の部屋は南向きにあるので朝に入ると太陽の日が天然の目覚まし時計になる

ちなみに私はそれが大好きなのでカーテンを敷くことはしていない

着替える時はカーテンをして外から見えないようにするけど

それ以外は基本的にカーテンは開いたままだ

ユウさんもルミナさんも私のこの行動はかなりリスクがあると言っている

そんなことは分かっているけど、私はジメジメした部屋は嫌いなので

誰に文句を言われようと今の状態をやめるつもりはない

私にとって縛り付けられるような命令はもう嫌だから

私は私が決めた自らの道を選択肢を手にして動いていく

この広い世界を見るために

 

『トントン。カオリちゃん。起きているかな。朝ごはんだよ』

 

ユウさんのセリフに私は急いでパジャマから普段着に着替えるとキッチンに向かった

テーブルの上にはスクランブルエッグが置かれていた

 

「ユウさんはスクランブルエッグを作るのが上手ですね」

 

私は少し眠そうな声でユウさんに話しかけた

 

「カオリちゃんはいつもおいしく食べてくれるからね」

 

料理をしているユウさんもそういう明るい私を見て喜んでいると言った

私はユウさんの料理が好きだ。ちなみにカロリーバランスなども完璧に整っている

私とユウさんはイスに座ると朝ご飯を食べ始めた

 

「今日はどうするのかな?」

 

「とりあえず勉強をしないと。編入試験はもう少しなんです」

 

本来ならもう少し後になる予定だったのだが第三新東京市立大学に編入するための試験が待っている

難しいことではない。なぜなら僕は、私は『神様』なのだから。試験問題などは簡単である。

でも本来の私の実力で勝負をしたいので勉強に余念がないのです

自分の実力がどれだけできるかを見てみたいのだ。

 

「そういえばユウさんはいつから大学の警備に?」

 

「カオリちゃんの編入試験の日の前日からになっているよ。表向きは」

 

実際のところは私と登下校を一緒にすることでボディーガードに入ると言われた

これではまるで私はユウさんと結婚の約束をしている、

『親しい関係者』と思われるのではと思って少し恥ずかしかった

 

「迷惑じゃありませんか?」

 

「カオリちゃんに何かあったら僕がルミナさんに殺されるからね」

 

ユウさんは彼女の恨みはどこに逃げても追いかけまわされるから守り切ってみせるよと伝えてくれた

ルミナさんはもし私に何かあったらユウさんのことを許さないことは理解できた

ルミナさんにとって私は最重要護衛対象なのだから

そんな私が傷1つでもつけられたらどんな行動をするかあまり想像もしたくない

 



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第220話

私達は朝食を食べ終わると、私はベッドのシーツを洗濯に出すことにした

ユウさんは朝食で使った食器を洗っていた。私達は家事を分担している

まぁこれといって特別なルールがあるわけではないのだけど

お互いが得意な事をこなす。それだけの話ではある

私は家事は何でもできると思うけど栄養バランスの取れるメニューをいくつも知っている事ではない

ユウさんのメニューはいつも栄養バランスが整ったメニューである

私はベッドシーツを洗濯にかけると勉強に取り掛かるために自分の部屋に戻った

入学に必要と思われる勉強の中で全体の9割はすでに終わっている

あとは残り1割を追いつけるところである。

ちなみにユウさんの部屋にはトレーニング用の道具が多く存在する

時々利用させてもらっている。男性の部屋に私が入るのはどうなのかということを考えるが

『私』は以前は『僕』だったけど、ルミナさんに女性としての『大切さ』を言われている

 

「私としては別に気にしないのですが」

 

まだ『僕』という考えがあるからかもしれない

10年以上も『僕』でいたのだ。簡単に考えが急に曲がることはない

だからこそ真実を明らかにすることをしない。

世界の流れは人々が自ら選んで決めた道なのだ

『神様に近い私』が介入するのはいいこととは言えない

 

「本当ならネルフは邪魔なんだけど」

 

私は勉強を続けながら今度編入する予定の大学試験問題をいくつものパターンをチョイスして解いていった

いつものことではあるが、私は本当に意味で『インチキ』ができるような存在なのだ

テスト問題なんて簡単に満点を取ることができる

できれば私自身の実力が知りたいのだけど、簡単にはそうことは進まない

どうしても『神様のインチキ』が出てしまう。

こればかりは私にとってもどうすることもできない

 

「本当の意味で私の実力ってどういうものなのでしょう」

 

私は思わずそうつぶやくと冷蔵庫に冷やしているブラックのコーヒー缶を取りに向かった

海岸の町で私がいつも取り寄せていた同じブランドのブラックのコーヒー缶、

それをここでも通販で買いこんでいた。

私にとっては初めのころはまずい飲み物としか思わなかったが、

今は習慣化しているため、気にすることはなくなっている。

ユウさんからはカフェインに取りすぎに注意するようにと言われているけど

1度、習慣となっていることをやめるのは簡単なことではない

それに私は『神様』と同じような存在なのだ

人間と違って死ぬことはない。老いることがないのだから

別に私は気にすることは全くない。でもユウさんは違う

いつかは分かれる道を選ぶことになる。ユウさんは『人間』なのだから

 

「カオリちゃん。コーヒーかな?」

 

「よくわかりましたね」

 

冷蔵庫に入っているコーヒーが欲しいので冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した

 



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第221話

ユウさんは新聞を読んでいた

私はブラックコーヒーを飲んでテレビを見ていた

 

「ルミナさんもユウさんにも迷惑ばかりかけてしまって。ほとんど私のわがままですが」

 

私の身勝手で多く人たちを巻き込んでいる。でも今の私は『碇シンジ』ではないのだ。

水川カオリであり、1人の女性に過ぎないのだから

 

「ルミナさんはカオリちゃんのことを最優先で動いているからね」

 

同居することを伝えた時、傷物にしたら死ぬより怖い目にあわしてあげるって脅されたくらいだからと

ユウさんは苦笑いをしながら話してくれた

本当に過保護なのかもしれない。ルミナさんにとって最重要なのは私の安全なのだから

私は一応『神様に近い立場』なのかもしれないけど、

本心ではその『権限』を使うつもりはない

人が起こしたトラブルは人が解決するべきだからである

私が介入するのはどう考えてもルール違反なのかもしれない

 

「そういえば、カオリちゃんにこれを渡しておくよ」

 

ユウさんは私に小型の発信機を渡してくれた

何かあった時にすぐに発信機のボタンを押せば人工衛星や携帯電話の基地局を経由

ユウさんとルミナさんの携帯電話にその情報が伝わるとのことだった

本当に2人とも過保護なのかもしれないけど私はありがたく受け取った

何が起きるかわからないというのは正論である

少しでもトラブルを避けるためには防御策が必要だから

私が『神様』ならとんでもないことをしている

世界は誰かの犠牲の上に成り立つものだ。

誰もが救われるわけではない。必ず誰かが犠牲になってしまう

だから怖いのかもしれない。その犠牲になる人の中にユウさんが含まれているのではないかと

私は今のこの静かな時間を大切にしていきたい

鳥かごかもしれないけど、私にとっては大切な環境であることは事実である

 

「いつか。私は1人になるのかもしれないですね」

 

ルミナさんはきっと私と同じタイプの人の輪から外れた存在であることはわかっている

ただ予想が的中していたら、私はとんでもないことを言って傷つけてしまうかもしれない

それが恐ろしいから考えないふりをしている

でも1人よりも2人でいる方が安心できる

1人でずっと人間の輪から外れた存在で何十年。何百年もいるのはさみしい

せめて1人ぐらい私と『同じ存在』がいてくれたら、孤独でいるという感情は減るかもしれない

それだけでも私は少しは安心できる。それにこの地球という広い世界を見て回るというのも良いかもしれない

平和になっていくことを願って世界を見守る道を歩みたい

缶コーヒーを飲み終えると私は部屋に戻ることにした

部屋に戻ると私は勉強を再開した



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第222話

とりあえず私は編入試験のためにいろいろな参考書などを使って

『私の実力』でテストに臨みたかった

『神様の権限』を使えば簡単かもしれないけどそんなものを使って合格しても

私は絶対に後悔をするだけだと思っていた

自分の実力だけで勝負をしたい。当たり前のことが簡単ではないことに私は少し苦悩していた

とにかくいくつかの参考書をもとに勉強をしているとドアがノックされた

勉強をしていたら時間を過ぎるのを忘れていたようで

ユウさんはお昼でもどうかなと提案してくれた

 

「私もそうします」

 

そう答えるととりあえず勉強机を片付けて部屋を出るとリビングでユウさんの特製昼食を食べることにした

いただきますと答えようとしたとき、今度は玄関のインターフォンが作動した

ユウさんはもしもの備えて銃を装備してインターフォンに出た

 

「ルミナさんだよ」

 

ユウさんは私にそう伝えると玄関ドアを開けに向かった

ルミナさんはいつもとは違ってどこか緊張感を感じさせるかのような表情をしていた

 

「何かありましたか?」

 

私の質問にルミナさんは少しトラブルが発生したのよと答えた

いったいどんな不幸な知らせをもたらされるのか私も少し緊張してしまった

 

「碇ユイさんがあなたと話をしたいと。お断りの話で進めたんだけど強権を振りかざす気配があってね」

 

だから安全なうちに話をするべきかもしれないと伝えてきた

まだこだわっていることに私は正直なところ、呆れてしまった

今更な何を話すつもりなのか

あれだけのことを計画して仕組んだことを自覚していないとしか言いようがない

でも下手に断り続けるとネルフもどんな手段を行使するかわからない

すでに『前例』があるのだから。

あの時は渚カオル君の協力があったから逃げ出せたけど

地下に封印されるような真似をされるのは避けたいのは私だけでなくルミナさんやユウさんも同じ意見のようだ

 

「あなたが嫌だっていうなら強引にでも断るように圧力をかけてくれると局長は言っているけど」

 

ルミナさんはいつかは風船が膨らみすぎてはじけ飛ぶのと同じでとんでもないことになると警戒していた

それだけは避けたい。というかこれ以上、私の楽しい生活を邪魔されるのはお断りだ

妨害工作をされる前に対応するのも良いかもしれない

私はルミナさんに面会のセッティングをお願いした。その面会場所とは『僕』の墓がある場所だ

これは『僕』がもう2度とあなたたちと接触するつもりはないという

意思表示をはっきりさせるための嫌みのつもりである

 

「意外と悪趣味ね。まぁ縁を切るつもりならいい場所かもしれないけど」

 

「僕が警護につくよ。ルミナさんが表立って動くと警戒するかもしれないしね」

 

するとルミナさんは墓地の敷地の周囲の警戒の指揮を担当すると

 

「あなたに傷1つ着けさせるわけにはいかないから」

 

ルミナさんとユウさんとの話し合いが行われた

私は『母さん』との何回目になる面会で話すことについて考え始めた

ただどうして私の進路を妨害するのはいつもネルフなのかと考えてしまう



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第223話

その日の夕方。

私は碇ユイさんと会うために『僕の墓』のところに来ていた

周囲にはかなり警戒態勢が敷かれている。ルミナさんが全体の指揮命令系統を担当

ユウさんは私のそばで何があっても対応できるように防弾チョッキを着用して警戒していた

私としてはまさに悪夢のような時間を過ごすことになる

『僕の墓』で『僕の実の母親』と話をする

でも同情するつもりはない。『母さん』のせいで『僕』は地獄を見てきた

だから徹底的に言いたい放題言うつもりでいた

なりふり構わず言いたいことを

私は『僕の墓』の前で待っていると1台の車が来た

1人の護衛役として加持さんが務めていた

きっと加持さんは私のことを知っているからルミナさんが裏から手をまわしたのかもしれない

 

「あなたにはもう会わないつもりだったのですが。今回はサービスだと思ってください」

 

「もちろんわかっています。でもどうしてもあなたと話をしたかったの。私が犯した罪の重さを確認するためにも」

 

「いい心がけです。あなた達があんな事をしなかったらセカンドインパクトも起きなければサードインパクトも起きなかった」

 

すべてを壊したのはあなたたちの自己満足を満たしたいという欲望のため

私は以前のように冷たく突き放すように責め立てた

碇ユイさんがあんなことをしなければ世界は壊れるようなことはなかった

私という神様を生み出すこともなかった。すべては自己満足のために大量殺戮をしたのだ

 

「私はただ・・・・・・」

 

「人の良いところは学ぶことです。ですがそれが悪い方向に進んだ。あなたは悪い方向に進む事を承知して話を進めた」

 

大量殺戮した罪の重さを私は少し軽くするために、

セカンドインパクトで死んだはずの人々を生き返らせたのかもしれない

これは私なりの気持ちの整理のつもりなのかもしれないが

結果的に世界は少しずつ良い方向に進みつつあることは確かである

ネルフが妨害工作をしなければ良いのだが

彼らは自らの利益のために世論操作をしてきた

私はもしゼーレが実行した人類補完計画に関する裁判でネルフに利益をもたらす、

そんな方向に話を持っていくつもりなら私は許すことはない

絶対にだ。正義がなされることを私は望んでいる

 

「私たちはどんなことになろうと真実を証言するつもりです」

 

「そうされるのは良いことです。もう世界を自由に操作することなど許してはいけない」

 

ネルフもゼーレも大きな罪を犯した。何の罪もない人々を『殺した』ことには違いない

数人の科学者が地震の欲望に身を任せて大きな罪を犯した

その科学者の中に碇ユイや碇ゲンドウ。そしてアスカさんのお母さんも含まれる

アスカさんのお母さんの場合は少し事情が異なるが

それでも罪は罪だ。正義のために証言することを私は望んでいる

それこそが正義が実行されたということなのだから

 

「ネルフも人類補完計画であらゆる人々を犠牲にしてきた。だから私が望むのは裁判で証言すること」

 

私はただそれだけを望んでいる



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第224話

 

「もし碇シンジ君が生きていたらあなたたちにこう言うと思いますよ」

 

自分はただの実験道具にすぎなかったのかと私は碇ユイさんに冷たく言い放った

その言葉に碇ユイさんはそれはとこぼすだけだった

自分たちの理論を実現するためにたった1人の実の子であり『僕』を利用した

すべては自らの理論を立証するために。

自らの功績だけを見て子供はただの『道具』としてしか見ていないのではと私は碇ユイさんを責めた

私の言葉を聞きユウさんはそこまでにしておいた方がと止めようとした

でも私は知りたいのだ。自分の子供を実験材料にしたことをどう思っているのか

子供はただの自らの理論を立証するための道具でしかなかったのか

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「あなたは最低ですね。碇ユイさん。あなたは確かに優秀な科学者だと思います。でも子供を持つ親としては最低です」

 

『僕』のことをただの実験材料にしか見ていないことに私はひどく苛立ちを感じた

そんな親の子供に生まれたことそのものこそ不幸の始まりだ

子供は親の背中を見て育つとよく言うかもしれないけど、

碇ユイさん達は実験材料としてしか見ていない

そんな人が子供の親になることそのものがおかしい

子供を守るために親はどんなことでもするものだ

でも彼らは碇シンジ君に対して様々な実験材料としてのみしか見えていない

 

「シンジ君は自ら幕を引いたのはあなたたちの自らの権力乱用をしたから」

 

だから『僕』は表に出ることをやめたのだ。

もう過去に付きまとわれることは私はやめた

私は未来を見ていくことに集中した。

 

「あなたたちはあの地獄の時代だったセカンドインパクトの後の時代でも比較的裕福な立場だったはず」

 

『僕』を育てるのにはそれほど困るような立ち位置にいることはなかったはず

つらい人間の中には子供を手放すしか生き残る道しかなかった者もいたはず

その手放す原因を作り出したのは彼らだ。ゼーレや彼らの関係者

私利私欲のために世界を壊そうとした。今は私が何とか治療して平穏になっている

でも壊そうとしたことは事実でその罪の重さをわからせなければならない

 

「本当はどうしたかったのですか?あなた達は子供よりも自分たちの名誉の方が大切だった」

 

だったらあなたは子供を作ることそのものが間違っていると私は突き放すかのように言った

私利私欲のために子供を作ったのなら問題がありすぎる。

子供は実験材料にするべきではない。そんなことは許されない

だけど彼らをその犯してはならない一線を越えた

 

「私はただ未来を見たくて」

 

「碇ユイさん。未来を口にすれば何もかも解決できると思っているのですか?」

 

そんなことは許されないことである。未来を見たいなら自分の体を犠牲にしろと

いくら名声を得るためとはいえ、実験のために子供を利用するなんて許されると本気で思っているのだろうか

もしそう思っていたなら私は碇ユイさんを殺してやりたい

未来を言い訳に子供を犠牲にする。それも自分の子供を

そんなこと、絶対に生みの母親が認めるなんて子供のことをただの実験材料にしか見ていない

ばかげた話である



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第225話

 

「碇ユイさん。あなたは何を求めているのですか?ネルフにとって都合の良い真実?それとも自己保身?」

 

どちらですかと私はストレートに質問した

どちらを選んだとしても『僕』の回答は決まっている。

答えは決まっているからだ。親になることそのものが認められるはずがないと

自分の子供への愛情よりも自分の研究に集中した

どこに愛情があったのか『僕』は聞いてやりたい

仮にセカンドインパクトが起きることがわかっていたなら止めることはできたはず

それをしなかったのは大勢の人々を殺した大量殺戮者と変わらない

親としては失格だ。

 

「私はただ世界を」

 

彼女は世界を良くしているつもりだったようだが

そんな意見が当てはまるかどうかをアンケートでもしたら結果はすぐにわかる

世界を良くするどころか破壊したのだ

 

「あなたは世界をただの実験道具にしただけ。おまけに多くの人々を殺した」

 

大量殺戮行為をしたのに罪を償うどころか、自らの権力拡大のために利用した

許されることはないと私は追及していった

 

「あなたは何もわかっていない。世界の真実を暴くというきれいごとのためにどれくらいの犠牲者を出したのか」

 

ふざけるのもいい加減にしろと私は追い込みたかったが

でもユウさんがそこでストップだよと私の追及を止めた

ユウさんも言いたいことがあるのは何となく想像できている

ユイさんがゼーレと組んで行なった行為にユウさんも巻き込まれている

発言する権利はあるはずだ。でもそれをしない。ユウさんなりに考えがあるのかもしれない

 

「僕はゼーレに属していた。そして碇シンジ君を壊す役割を担当していた」

 

ユウさんは自ら産んだ子供に責任を押し付けて理論を立証するために莫大なお金と犠牲者を出したと

彼も私と同じ意見を持っているようだ

 

「僕には当時の彼に背負わされていた重い十字架がよくわかっているつもりだよ」

 

その原因の大本を作ったのはあなた達だとユウさんは『母さん』は責め立てている

できることならもっとたくさん責め立ててくれてほしいところだ

 

「碇ユイさん。子供を持つ母親としてあなたは最低です。持たずに値せず。もしまともな児童保護機関があれば」

 

あなたからシンジ君を取り上げたでしょうとユウさんは正直な意見を突き付けた

私も同意見である。持たずに値しないことは事実だ

 

「正義なんてものを言い訳にするのはあなたは奇麗な人間ではない。僕もゼーレにいたから立ち位置はわかりますが」

 

それでもあなたは最低最悪の母親だとユウさんは追い込んでいった

 



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第226話

ユウさんの言葉は正論だ。

確かにセカンドインパクトの後の世界が苦しいものであったことは認める

ただし碇ユイさんや碇ゲンドウさんには生活が困ることはなかったはず

でも計画は進められた。自らの自己満足のために多くのものを犠牲に、

踏み台にしてのし上がってきた汚い連中である

 

「薄汚い計画に参加してあなた達は世界を壊そうとした」

 

あなたは世界を守ったつもりなのかもしれないけど大量殺戮を実行した主犯であると

私はユウさんが言う前に自らの意見で突き放していった

家族だからという言い訳は彼らに通用しない

私の本当のお母さんは海岸の町の両親だけだ

碇ユイさんや碇ゲンドウを両親と思うことはあり得ない

両親どころか私を実験材料にしたということでしか認識できない

 

「碇ユイさん。あなたは何が欲しかったのですか?科学者としての名声なのか?」

 

その質問に彼女は答えることはできなかった

答えることができるはずがない。『僕』を実験材料にしたことは明確なのだから

苦しめるだけ苦しめて好き勝手に利用した。子供を持つ親としては最低ランクだ

 

「あなたにとって大切なのは何ですか?英雄としての碇シンジ?それともただ家族ごっこをしたい碇シンジ」

 

あなたはどちらが欲しかったのですかと私は追及をつづけた

 

「私はただ謝りたくて」

 

「謝る?ばかげた話ですね。碇シンジ君の墓はここです。もっとも、遺体を埋葬しているわけではないので」

 

この墓地にある碇シンジの墓標はとにかくただの嫌みのつもりであるのだ

自分たちがどれほどひどいことをしてきたことを彼らに見せつけるために存在する

そうでなければ『僕』は自らの墓を建てるわけはない

私は碇シンジではないのだ。水川カオリでありあの海岸の町にいる両親こそが真実なのだ

今更碇ユイさんや碇ゲンドウさんに本当の親だからと言って謝罪されたとしても私は気にしない

謝罪するならこの墓標にするべきだ。

この碇シンジの墓標は『僕』がもう碇シンジではないことを分からせるためのもの

 

「それは」

 

「あなたたちは何を考えているのですか。いい加減にこんな茶番劇に付き合うのは面倒なので」

 

碇ユイさんが何か面倒なことを考えているのではないかと私は疑っていた

もし私に手を出すことを考えているなら痛い目にあわせてやりたいところなのだが

現実に私に手を出してきたら、どんなことになるか分からせる必要がある

私が動かなくてもルミナさんやユウさんが動き出すことはわかっている

2人は私を守るためなら手が血に染まっても構わないと考えているのだから

 



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第227話

私と碇ユイさんとの話はこの冷たい墓地で今も行われている

彼女は少し涙を浮かべていた。でも同情などするはずがない

彼らが起こした行動で世界を壊すことになった

封印させておけば何も起きなかったのに。自らの好奇心のために全人類を殺そうとした

少なくてもかなりの人々は死んだことは疑いようのない事実だ

私は少しは再度生き残るチャンスを多くの人々にもたらした

ただし、彼らがどんな道を選ぶかは私にはすべてを把握していないことだ

 

「結局実験をしたかった。あなたは母親失格です」

 

『僕』は絶対に許すつもりはない。彼らのおかげで地獄の運命をたどった

それをいまさら謝罪だのバカげた話である

 

「あなたはただ救いが欲しいだけ。もしかしたら『僕』がいつかは許してくれると甘い希望を持っている」

 

そんなことなどこの先、永久にあり得ないと碇ユイさんにはっきりと伝えた

もう碇ユイさんを『母さん』と呼ぶことはあり得ない

彼らに協力する理由はないし、押し付けられることはお断りだ

ネルフやゼーレのメンバー達に不幸を私は届けてあげたいぐらいだ

ユウさんは例外である。ユウさんは私のために命を投げ出すこともいとわない

私のためならどんなことでもするというならむしろユウさんを私が守らなければならない

 

「あなた達ネルフは自分の名誉を上げることを優先している。いくらゼーレの裁判で証言台に立ったとしても」

 

彼らの罪が消えることなど死ぬまでないことは事実である

永久にその罪を背負って生きていかなければならない

 

「シンジ君があの儀式のときにどれほどの悲しみと辛さを感じたのか」

 

『僕』はあの儀式で苦しんだ。それでも人々に生きることを望んだ。

だから多くの人々がよみがえった。まさに神様だからできたことだ

 

「もう二度と私に関わらないでください。もうネルフやゼーレに関わるつもりはないのですから」

 

そういうと私はユウさんと一緒にその場から引き上げることにした

『僕』の墓の前から立ち去ろうとしたとき、『母さん』が私を引き止めた

 

「シンジは私のことをどう思っていたの?」

 

本当にこれで何度目の似たような質問なのだろうか

もう答えるのは面倒ではあったが、これ以上関わってほしくない

だからきっぱりと『僕』の答えを伝えた

 

「まだ幼いころの時間は良かったかもしれないですが。あなたは親としては失格です」

 

もう会わないことを願いましょうと私は答えるとユウさんと一緒に墓地から出ていった

あの墓は私なりの区切りのつもりである。碇シンジは死んだ

それだけを定めるためにあそこに墓がある

 

「それにしてもいつの間に墓を作ったのかな?」

 

「墓といってもただの名前が刻まれたプレートがあるだけです。『碇シンジ』は死んだという証のためにある」

 

それだけの話ですと私はユウさんに答える

区切りは大切である。だから何も埋葬されていない墓標があるのだ

何を調べても何も出てくることがないただの墓標である



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第228話

私はあの墓地にある『僕の墓』は区切りをつけるためにある

もう碇シンジは死んだということをしっかりと分からせるためにある

もしかしたらいらなかったかもしれないけど、私なりの一区切りなのだ

碇シンジは死んだ。だから過去ばかりを見ないで前を向いて暮らしてほしい

人の未来は人の数ほどあるのだから、過去ばかりを見ないで前を見て進んでいってくれることを願っていた

だけど現実は大きく異なることはこれではっきりした。それだけにあの墓標があることは良かったかもしれない

私は未来を見るために作ったのだから、彼らとかかわることはこれで確実に減るだろう

あとは私が未来を見ながらゆっくりと歩いていく

どんなことになるかがわからないから誰もが挑戦するのだ

私とユウさんは墓地から出るとルミナさんが完全武装の状況で待っていた

 

「殺し合いにはならなくて安心よ」

 

「ルミナさん。私はもう悲劇な光景は見たくないんです。それに私のせいで大切な人が傷つくところも」

 

私がそういうとユウさんは本当にカオリちゃんは良い子だねと言った

私はいつまでも過去にとらわれたままの人生をしてほしくない

明るい未来を見るのは誰もが許されていることなのだから

だから、もう悲劇になることを起こさせるわけにはいかない

 

「車の後部座席に乗って。マンションまで送るわ」

 

「でもルミナさんはどうするんですか?こんな完全武装な状況で歩くと危険では?」

 

私の質問にルミナさんは心配することなんてないわと答えた

 

「こう見えても私は一応第三新東京市警察の内務調査部門に所属していることになっているし」

 

「それって私たちが市警察の刑事役をしていたからですか?」

 

私とユウさんは偽名で市警察の刑事をしている経歴になっている

もしもの場合はそれで多少は強引に物事を解決するためである

 

「私はあなた達が危なくなったらどんなことでもできるようにマニュアルを作ったのよ」

 

ルミナさんは監察局長には迷惑をかけているけどと

私はこの街に来た時からある程度は覚悟はしていた

ネルフ側からかなり頻繁な接触があることは当然だが

その接触が友好的なものではなく、敵対的なものも含まれていることも当然である

彼らにとって私という存在は危険なものであることはわかっている

今後もこういう事態が続くことは想像できていた。

次に私に接触してくるのは誰なのか

こればかりは私にもわからない。わかっていたら簡単なのだが、難しいところである

運命というのは時にどのように方向にむかはわからない。それはまさに運次第である

必ず良い方向に進むとは限らないのだから

私は私の未来を築いていくことに集中していきたい

人々と同じでゆっくりと狂わされた人生をやり直す

それが今の『僕』の、私の生き方である。

過去を捨てることはできないけど多くの未来を見ることはできる

だから私はその多くの未来を時間をかけて選んでいくつもりなのだから

 



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第229話

私とユウさんとルミナさんは一緒にマンションに戻ってきた

平和な日常に今後進む事を私は願っている

もうネルフと関わることはしたくない。仮に関係することがあったとしても最小限にしたい

 

「やっと帰ってこれましたね」

 

私の言葉にユウさんは本当によかったねと答えた

もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれないと思っていたけど問題がなかったことは良かった

ネルフの強引な手法は『僕』がよく知っている

『あの時代』の時に嫌なくらい押し付けてきたのだから

もうあんなことに遭遇するのは嫌な話である

 

「2人は少し待っていてもらえる?もしかしたら危険物がセットされているかもしれないから」

 

ルミナさんは私たちが外出中に爆弾があるかもしれないと危惧していた

そんなことはないだろうが万が一に備えて対応しなければならない

問題が解決するまではマンションの部屋に入るわけにはいかない

ルミナさんはマンションの管理室に入ると私たちが外出していた間の時間、

その時に記録されていた監視カメラ映像の確認を始めた

ルミナさんに私たちも手伝いますよというと管理室にも仕掛けがあるかもしれないからと、

 

「それじゃ、近くの喫茶店に行ってコーヒーでも飲んでこようかな?」

 

ユウさんの提案に私はそれは良い時間つぶしになりますねと答えた

何もしないで車で待つのは退屈であるここから歩いて数分の場所に喫茶店がある

安全性は常に確認されている。

なぜ安全なのかというとここを経営しているのは監察局の職員だからである

安全が確保されているならそこにいる方がまだ良い選択である

ルミナさんにそのことを伝えるとそれの方が安全ねと答えてくれた

私とユウさんは一緒に喫茶店に向かった

ちなみに何度も通ったことがある店なので店員さんの顔は覚えている

 

「相変わらず仲良しね。結婚を誓っているのかしら?」

 

この喫茶店の店長をしている女性の方にはよく言われるセリフだ。

どうやら私たちは結婚を誓い合っている男女に見えるらしい

まぁ当然と言えばそうかもしれない。

頻繁にここでユウさんと一緒にコーヒーブレイクをしているから

いつも同じ場所だと飽きてくるのでたまには息抜きにはぴったりである

それとルミナさんが念のため身元調査をしてくれていた

前歴どころか、第2東京市から引っ越しをしてきて店を開いたことを確認してくれていた

ルミナさんにはいろいろと迷惑をかけているようで申し訳ない

でももしもの場合もあるのでユウさんが先に確認を依頼していたのだ

私や親しい友人に攻撃をしてくるかもしれないからだ

ちなみに私たちが住んでいるマンションの周辺住民についてもすべて調べ上げてくれていた

結果は問題なしであった。私とユウさんはいつも通りコーヒーを注文をして休憩をしていた

ユウさんは時々携帯情報端末を使って何か情報を確認していた

 

「ユウさん。何かありましたか?」

 

「常に最新の情報を手に入れておかないと危険だからね。国連軍の友人に依頼していろいろと調査をね」

 

その言葉に私はルミナさんが知ったら起こりますよと苦笑いをしながら答えた

するとユウさんはルミナさんも安心できるだけの材料を完ぺきに持っているわけじゃないからと

確かにプロはプロ同士の中で情報共有をした方が良いかもしれない

 



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第230話

「ずいぶんと仲がいいわね」

 

点検作業を終えたルミナさんが喫茶店に入ってくると私とユウさんが座っているところに近づいてきた

 

「ルミナさん。僕たちって夫婦にみたいだよ」

 

「ユウさん!」

 

私は思わず顔を赤くしてしまった。ユウさんとはそういう関係にはならないとは思っているが

人間関係ほどわからないものはない。何がきっかけでどうなるか。

こればかりは神様である私にもわからないものだ。運が試されるようなものなのだから

 

「そういえばどうだったのかな?」

 

ユウさんがルミナさんに聞くといろいろと確認したけど盗聴器もなければ危険物もない

つまり安全であることが確認されたということだ

ネルフ側から何かしらのアクションがあるかもしれないと思っていたが

そういうことにはならなかったことは少し安心できた

これ以上ネルフに振り回されることは嫌な話だ

ネルフはこれで何とかなったかもしれないけどゼーレとなると話は別だ

彼らは今も地下で潜って動いていることは考えられる

ゼーレの主要メンバーは非公開裁判にかけられることになっている

当然ネルフからも証人としていろいろと呼び出されることになることはわかっている

今後の動きは私にも全く想像もつかない

 

「ネルフは簡単にあなたの言うことを聞くとは限らないから警戒はしないといけないわ」

 

ルミナさんの言うとおりである。ネルフが何か仕掛けてくることは容易に想像できる

ゼーレからも何かのアクションを起こしてくることは可能性としては疑われる

できれば私としてはそんなことになりたくはないが、問題は解決するまで長い時間が必要になる

だから私は私ができる範囲で世界を見守っていくのは当然である

 

「どうやって対応するべきか悩むところだね」

 

「ユウさんはどういう道を選ぶのは正しいと思います?」

 

私の質問にユウさんは未来なんてものは誰も想像できないことになるものだよと返答した

今後どうなるかは私にもわからない。だから人々は明るい未来を望んでいこうとしている

でもネルフやゼーレの暗躍で多くの人々が犠牲になった

彼らの影響は多くの人々に出ている

もう私の影響で犠牲者が出るようなことは嫌な話だから

私にだって守りたいものがある。海岸の町に住んでいる多くの温かい人たちは守りたい

誰もが顔見知りで平和に過ごしている。だから守ろうとしている

私にとって海岸の町は故郷なのだ。大切な町であり、住んでいる人たちと今後も共に歩もうとしている

平和な町であり続けるなら私はどんな努力でも行うつもりである

『僕』のせいで犠牲者が出るようなことは絶対にダメなのだ

守ることを私は誓っている。海岸の町に住んでいる人たちを



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第231話

私とユウさんはとりあえずマンションの部屋に戻るとユウさんはコーヒーでも飲むかなと質問してきた

たまには違う銘柄のコーヒーを飲むのも良いと思ってお願いしますと答えた

リビングのソファに座ると私はテレビを見始めた

ネルフサイドが報道管制をしている影響で情報漏れはほとんど確認されていない

彼らにとっても私の存在が漏れることを危険視するネルフの職員がいるのだろう

例えば伊吹マヤさんとか。ユウさんの情報を『MAGI』から抹消してくれたのだ

だから少しは手助けはしてくれるかもしれないけど、こちらから直接接触すると極めて危険である

マヤさんを追い詰めるようなことはしたくない。

 

「悩み事が多いです」

 

私の独り言にユウさんは何か悩み事でもできたのかなと聞いてきた

真実を話すのは限られた人物であることの方がいい

ユウさんは信頼も信用もできるが、大きな陰謀に巻き込むようなことはしたくない

ネルフ内で限られた私の『協力者』であるからだ

もちろん直接的な接触をすればマヤさんが疑われてしまう

私との接触は極力避ける方が安全である。

私の影響で彼女まで巻き込むようなことは避けたい

 

「私にとって信頼できる人はルミナさんとユウさんと海岸の町の人たち。それ以外は敵だと思っていました」

 

その限られたメンバーの中に加持さんと伊吹マヤさん、

2人はそれなりに味方になってくれる人のリストに掲載されている

マヤさんは自ら行ったことがスパイ行為に近いことを知りながら協力してくれた

ユウさんの記録をすべて抹消するためにかなりの危険な道を選んでくれた

だからそれなりには信頼できる。加持さんもいろいろと協力してくれている

問題があるとすれば渚カオルだ。彼は協力していると言ってもどこまで信頼できるかわからない

難しい境界線の上を歩いていることは事実ではあるが

 

「信用できる人って難しいですね」

 

「それが人間の生き方だからね」

 

ユウさんは暖かいコーヒーが注がれたカップを渡しながら話した

でもユウさんの言うとおりである。人の人生はどこで路線が変わるかわからない

私も同じだ。海岸の町でずっと過ごす予定が第三新東京市に移住した

世の中分からないことだらけといっても過言ではない

 

「ユウさんはどう見てます?今のこの世界を」

 

「ずいぶんと哲学的な話だね。僕は世の中きれいごとだけでは生活できないことは事実だと評価するよ」

 

「それってゼーレにいたからですか?ネルフは元々はゼーレの下部組織だったから」

 

「ゼーレは自分たちの言う事を聞く組織が欲しかった。だからネルフを作り出した」

 

「それは当たっていますね」

 

「今はネルフが世界の中心にある状況。監察局を除けばだけどね」

 

ルミナさんたちが属している監察局によってネルフは好き勝手に行動することは難しい

ネルフの活動を監視することが彼らの仕事なのだから

狂犬に首輪をつけて抑え込んでいるのが現状なのだ

ネルフの真実はおそらくこの先一生明らかになることはない。

もしネルフがつぶれると世界情勢が大きく変わってしまう

そんなことはルミナさんたちが属している監察局もわかっている

だから深く突っ込んだことをすればリスクが高まる。

ぎりぎりの境界線で活動しているのが現状なのだ



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第232話

私とユウさんとでコーヒーを飲んでいるとドアがノックされた

インターフォンで確認するとルミナさんであった

私がソファから立ち上がろうとするとユウさんが僕の方で話をしてくるよと言って玄関に向かった

 

「誰なのか教えてもらえるかな?」

 

玄関のドアを開けないで質問をするとルミナさんの声が聞こえてきた

ユウさんはドアロックを開錠するとルミナさんが入ってきた

 

「調子はどんな感じ?」

 

ルミナさんが今回の『親子』会議はどうだったのか質問してきた

あれで決着するかどうかは確証は持てていない

 

「とりあえずはあの墓で区切りはつける人は多いと思いますけど」

 

私のセリフにルミナさんはそれはどうかしらと反論をしてきた

すべての人があの墓標で納得するとは思えない

中には強硬な態度をとるような人物がいるかもしれない

すでにもう何度もネルフ側から強硬的な態度をしてくる人物は多い

はっきり言ってしまうと私には迷惑な話だけである

 

「よかったらこれからレストランに行かない?おいしいお店があるの。もちろんあなたも一緒よ」

 

「ルミナさんは冷たいお誘いが上手だから慣れているよ」

 

ルミナさんはユウさんを誘うのは仕方がないけどといった感じだ

ユウさんもルミナさんから冷たくされるのは慣れているよと冷静な対応をしていた

 

「それじゃ、一緒に行きましょう」

 

私とユウさんとルミナさんの3人で1階の駐車場に止めているセダン車に向かった

車はルミナさんの所有物だ。ユウさんの車も止めているが、ルミナさんの方がまだ安全なのかもしれない

わざわざネルフ監察局の車を攻撃してくる人物は限られてくる

私たちは車に乗り込むと近くにあるレストランに向かった

 

「平和ですね」

 

私は思わず車窓を眺めながらそう思った。

確かに平和であることは疑いようのない事実だ

でもいつ運命が変わるかはわからない。

人の運命というのはどこでどう変わるかは『神様に近い私』でもわからない

もしわかるとすれば結末に近いところまで進まなければ見極めるのは難しい

 

「この街は平和よ。ネルフのおひざ元だから。ただし最近は危険な空気が流れてきていることは事実だけど」

 

ルミナさんの言う危険な空気とはゼーレのことであることは想像できる

ゼーレの本部はすでに多くの警察組織や国連によって捜査が行われている

今後の動向についてはただの人間に過ぎない私にはわからない

何が起きるかどうかはまさに運命の分かれ道だ

私が証言台に立つことはない。というかそうなることはルミナさんたちは許さない

もし私が証言台に立つということは彼らと関係があることを示しているのと同じである

いろいろとマスコミに私の、そして『僕』の経歴についても調べられることも十分にあり得る

そんなことを考えながら車窓を見ている間にレストランに到着した

ルミナさんの次に私が。最後にユウさんが入店した。

完ぺきに私を守るための護衛体制をとっていた

ルミナさんは窓のそばのテーブルは避けて安全なポジションを選んだ

 

「さすがはルミナさんだね。護衛に関するテキスト通りに従っている」

 

ユウさんはそう評価していた。私は一番安全な場所のテーブルに座った



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第233話

レストランでは私たちは楽しく食事ができた。本当に楽しい時間だった

いつもこの街に来てから考えていた。私はどうしたら幸せになれるのかどうかを

先が見えないから頑張ろうとするのだというのはわかっていても

私がどういう運命をたどるかどうかは私にもわからない

未来というのは決まったものなどはない

数多くの分かれ道があるため、どんなことになるかは私にも想像もつかない

 

「カオリちゃん。何か悩み事なら相談に乗るよ」

 

ユウさんが私の少しの表情の変化に気が付いたようで私に質問してきた

私は未来ってわからないですねと答えた

 

「そうだね。未来はどこでどういう道になるかがわからないから頑張れるってことだから」

 

ユウさんの言うとおりだ。未来はどんな道の選択もできる

だからこそ人は努力するのだ。少しでも明るい未来を目指すために

中には悪事をたくらむ連中も存在する。そういった人物は警察などによって摘発される

だがすべてを摘発できるわけではない。時には包囲網を突破されるケースもある

私はそんな人物や組織をつぶすつもりだ。

子供達には明るい未来を見てほしい。妨害する奴らは邪魔な存在である

その妨害する奴らの中にはネルフやゼーレの関係者も含まれている

甘い対応で乗り切るつもりはない。やるからには徹底的につぶすしか私たちには道はない

 

「一応聞いておくけど、カオリは襲われていないわよね?。一緒に同棲しているのは男なのだから」

 

手を出されているならいつでも申告してねとルミナさんはどこか不気味な笑みを浮かべて話した

もしここで私が色仕掛けを受けていますと返答すればどんな結果になったかは簡単に想像できた

きっとルミナさんはユウさんを死ぬよりも怖い目にあわされることは確実だ

 

「ルミナさん。ユウさんが私をおいしく頂かれそうになったら大声で悲鳴を上げますよ」

 

ただし私にその気があれば話は別ですけどというとルミナさんはユウさんのことをにらんだ

 

「僕がカオリちゃんを襲ったら海岸の町にいるご両親に顔向けができないよ。襲うなんてとんでもない話だから」

 

「人間ってそう簡単に言っておいて、いざってときにはどんなチャンスでも利用するから心配しているのよ」

 

ルミナさんの予想は当たっている。人間は突然何をするかわからない

でもユウさんに限ってそれはあり得ない。もう長い付き合いだし、私のために多くのものを犠牲にしてきた

だから信頼性は確実である。保証できるくらいに

 

「もし襲われたら報告すること。良いわね。それとあなたもそんなことをするつもりがあるなら覚悟しておきなさい」

 

私がどこまで逃げようと追いかけまわして傷物にした罪の重さをたっぷりと時間をかけてわからせてあげるわと

どこまでが本気なのかと聞きたいところだけど、ルミナさんは必ずそれを実行する

怒らせると怖い人ランキングで上位に入っているのだから

 

「カオリちゃんを餌食にしたら殺されることくらいはわかっているよ。心配しなくてもそんなつもりはないから」

 

ユウさんは少し冷や汗をかいている。

ルミナさんの口調がかなり深刻なものだったから当然と言えばそうかもしれないけど



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第234話

レストランで食事を終えた私たちはマンションに戻った

今日はこれでもう寝るだけだ。まだ少し寝るには早いけどいろいろと疲れたので

 

「今後は静かな時間が持てるといいけど」

 

私はそんなことをつぶやきながらベッドで眠りについた

今日はいろいろあったので私はすぐに眠りについたのだ

それにしても私が第三新東京市に住居を移してからは少しずつ動きが見せ始めた

ネルフはもちろんではあるが、ゼーレも同じである

どちらにしても私の歩む道を妨害しようとしてくる

その妨害にルミナさんやユウさんを巻き込むわけにはいかない。

ルミナさんにとってユウさんは元ゼーレの戦闘員だったことから信用できないのかもしれないけど、

私は海岸の町の家族と旅館の人と同じで最も信頼できる人である。

何としても犠牲にするわけにはいかないのだ

守ることを決めた以上、私は絶対に大切な人にけがをしてほしくない

私は第三新東京市に移住したときに気晴らしということでゲームセンターで、

かわいい犬のぬいぐるみをユウさんからプレゼントされた

私はその時も少し恥ずかしさを感じながら受け取った

寝るときはいつもその犬のぬいぐるみを抱きしめながら眠っている

この犬のぬいぐるみを抱きしめながら眠ることが日常的である

もしかしたらどこかでお父さんとお母さんと離れていることを考えているのかもしれない

今日はもう眠ることにした

 

翌朝、私が目を覚ますと朝ご飯を作っている音が聞こえてきた。

パジャマから着替えると寝室を出てキッチンに向かった

いつものようにユウさんが朝ご飯を作っていた

 

「今日の朝ご飯は何ですか?」

 

「今日はトーストだよ。ルミナさんも一緒に食べるから少し待っていてね」

 

私はわかりましたと返答するとリビングのソファに腰かけてテレビの電源を入れた

朝の報道番組は世界中で国境線の境界線について国連でもめていると報道されていた

今まで海だったところが陸地になったのだ。各国が自らの領地であると主張するのは当然だ

誰だって権益は欲しがるものである。権力者はお金が大好きなのだから

 

「マスコミは大騒ぎだね。僕たちに関係するかもしれないから銃を調達してもらわないといけないね」

 

「ユウさんの部屋はまさに武器庫のような感じになっていると思いますけど」

 

そう。ユウさんの部屋には拳銃からアサルトライフル。おまけに狙撃銃も持っている

これ以上、必要になるとはとても思えないのだけど

 

「僕の銃は入手は簡単だけど1度使うともう破壊するしかないからね」

 

足取りを追われるような真似をすることは避けたいと言いたいのだろう

確かに足取りを追跡されてしまうとネルフやゼーレにも影響が出る

それがこちらにまで影響が出るとかなり問題になる

 

「そういえば、今度監察局で銃の射撃訓練でもしていかないかな?」

 

ストレス発散にちょうど良いよとユウさんはまるで遊びに行くみたいに気軽に提案してくれた

確かに射撃訓練は重要である。でも私が直接『地下』に降りるのはいろいろと面倒がと思っていた

ネルフからどんな横やりが入れられるかわからないからだ

 



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第235話

ルミナさんが私たちの部屋に来ると3人で朝食をとった

お母さんとお父さんはいないがこの街でも幸せな時間を過ごすことができる

ルミナさんとユウさんという強い味方がいるから

 

「今日は射撃訓練に行く予定だと朝になって聞いたけど、本気なの?」

 

「監察局の施設を借りれるように話をつけておいたから問題ないよ」

 

ユウさんのセリフにルミナさんは私は何も聞いていないわよと少し不機嫌そうな表情を浮かべた

 

「私に言わないつもりだったの?」

 

「ルミナさんには朝食を食べるときでも良いと思ってね。君の上司にも話はつけているからトラブルにはならないよ」

 

ユウさんは監察局長に施設利用の許可を打診して、すでに許可を得ていることにルミナさんは驚いていた

まぁ当然かもしれないけど。ルミナさんはユウさんにかなり手回しは良いわねと少し嫌味を言うかのように発言した

ルミナさんの気持ちも少しはわかる。自分のことは外されて裏でこっそりと物事が動いている

気持ちとしては納得していないことはかなり理解できる

 

「ルミナさん。良いじゃないですか。ユウさんは仕事熱心ですし」

 

私が少し明るく言うとあなたまで彼の見方をするなんてお姉さんはさみしいわとわざとらしい演技っぽい態度だった

 

「ルミナさん。たまにはこういうことがあっても良いと思いますよ」

 

「カオリがそういうなら仕方がないわね。でも次に仲間外れにしたらわかっているわよね」

 

ルミナさんは腰に装備しているホルスターの銃を見せた。

ユウさんはもちろん今後はないように気を付けるよと苦笑いをしながら答えた

その後はテレビを見ながら朝食のトーストを食べる。

食べ終わると私は食器を洗うことにした

いつものことなので気にすることでもない。ユウさんはテーブルの上を拭いたりしていた

 

「本当に夫婦みたいな関係ね。カオリに手を出したら、どこまでも追いかけまわすからそのつもりでしていることね」

 

ルミナさんの冗談な口調ではないことは私でもすぐにわかっていた

ユウさんは何度も言うけど無理やりに関係を迫ることなんてありえないよと

苦笑いをしながらルミナさんに返答した

 

「それってつまり、カオリが許可でもしたら男女の関係になるってことなの?」

 

無理に迫るつもりなら今からでもあなたのことを抹殺してあげても良いのよと、

ルミナさんはかなり本気といった声で発言した

ユウさんは私との関係を強引に迫るなんてありえないから安全だよと苦笑いをしながら話した

ルミナさんは1度自分の部屋に戻ると言って退室した。

私とユウさんは一緒に護身用に所持している銃を腰のホルスターに装備した

ユウさんは拳銃だけでなく、アサルトライフルの分類に入るH&KG36が入ったゴルフバックを持っていた

 

「重装備ですね」

 

「もしもに備えておかないとね。よかったらカオリちゃんも撃ってみる?」

 

私は拳銃だけでいいですと返答した。

ベレッタM92を1丁、念のため銃のお手入れをした

もし使おうとしてトラブルになったら私は自分を守ることができない

だから一通りの動作確認を行うと問題はなかった

 

「カオリちゃんはもう大丈夫?」

 

「はい。それにしてもユウさんはまるでゴルフに行くみたいですね。中身が銃でなければの話ですけど」

 

「備えあれば患いなし。何事も対策が必要だからね」

 



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第236話

私とユウさんは一緒に玄関から出ると外ではルミナさんが待っていた

 

「ずいぶんと仲が良いわね?本当に恋愛関係になるときは相談しなさい。あなたもいろいろと抱えているのだから」

 

ルミナさんはユウさんの過去を知っているから助言をしてくれているのだろう

私とユウさんが一緒にいるということはかなり危険なことになることが想定される

必要なら常に防弾チョッキの着用が必要になるかもしれない

私は一応『神様』だからそんなものは必要ではないが感情は抑えられない

ユウさんにもしも何かあれば私は傷つけた人をどんな方法を使って見つけ出して苦しめて見せる

もう大切な人を失うことなんて、私にはできない。

私のためにユウさんは自らの命を懸けて守ってくれている。

だから私もユウさんを守る。お互いがある意味ではパートナーなのだから

私は自宅玄関のドアキーをロックするとルミナさんとユウさんと一緒に1階の駐車場に向かった

そこにはユウさんの車が止めている。ルミナさんもバイクとセダンタイプの車の2台を止めている

臨機応変に対応できるようにだ。私たちは階段で1階に下りて行った

エレベーターで移動するとどんな危険があるかわからないからだ

私たちは1階の駐車場に止めている車に乗り込む前にあることを行うことがある

この駐車場には常に監察局から警備員が配置されている

不審な人物がいればルミナさんとユウさんの携帯電話に連絡が入る

ルミナさんは先に警備スタッフをしている監察局員に確認した

駐車スペースで不審な動きをしたものがいないかをチェックするのが日常的なのだ

 

「問題はない。念のため監視カメラでもリアルタイムで監視をしていたが問題はない」

 

このマンションの通路やマンションがある近隣には監視カメラが設置されているので、

小さなトラブルがあればすぐに第三新東京市警察や監察局に警報が出る

安全確認を終えたルミナさんは今日は私の車で行きましょうというとルミナさんは運転席

ユウさんは助手席。私は後部座席に座った。

私たちはマンションの駐車場から出発するとジオフロントと地上を結んでいる場所に向かった

今日は平和である。いつものことではあるが

 

「それにしても、あなた達をジオフロントに行くなんて久し振りなんじゃない?特にカオリは」

 

「『僕』はもう死んだ身ですので、今の私の記録では公式なものはあまりないと思いますが」

 

私の記録はほとんど存在しない。

海岸の町でお母さんとお父さんと出会ってからの記録が大部分を示している

それだけに詳しい情報が集まるはずがない。何もないのに探しても無駄なことである

知りたくても何もなければどれほど調べても意味はないのだから

 

「よかったらもう少し公式の住民記録を作るべきだと思うけど」

 

「細かい記録があればどこまでも探り出そうとしたらいつかはもれますけど」

 

詳しい記録がないというなら調べても無駄だと思って諦めますよと私はルミナさんに伝えた

存在しないものをいくら深くまで探ったとしても何も見つかることはあり得ない

 



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第237話

私たちは第三新東京市の道を車で移動しているときになる視線を感じた

 

「尾行されていませんか?」

 

私の質問にルミナさんはそうみたいねと答えた。

ルミナさんは助手席に監察局のメインコンピュータとつながっている携帯情報端末があるからといった

ユウさんは携帯情報端末を取り出すと次いでのつもりのようでホルスターから銃を取り出した。

ユウさんは尾行している車両ナンバーを携帯情報端末に入力してデータベースで照会した

 

『ピッ』

 

「ちょっと危険なお客のようだよ。ネルフじゃないから。国連が指名手配しているゼーレのフロント企業名義だよ」

 

「どうやら迷惑なお客のようね。どうやって仕返しをしようかしら」

 

ユウさんとルミナさんは私のことをとりあえず放置するかのように今後の対応方法について話し合っていた。

まさかこんな街中で派手な騒動を起こそうとすることはないだろう

でもそれはあくまでも想定である。何が起きるかわからないのが世の中なのだから

 

「携帯電話で監察局に連絡してみるわ」

 

ルミナさんはそういうと交差点で赤信号で停車中に携帯電話を取り出すと圏外になっていた

電波妨害までしてくるとは連中は本気みたいねとルミナさんは話していた

こちらが対応できないような状況下に追い込むことで私の身柄を抑えようとしていることはすぐに察した

 

「カオリ。銃の安全装置は解除しておいて。いつでも反撃できるように」

 

「どうするつもりですか?」

 

「あなたを守るために奥の手を使うのよ。しっかり体を固定して!」

 

ルミナさんはそういうとアクセルを一気に踏み込んだ。

そして今度は急ブレーキを踏み込んだ。すると尾行車両は見事に私たちが乗っている車に衝突

回避する暇などはない。私は少し状況に戸惑っていたけど、ルミナさんとユウさんはすぐに車から降車。

尾行していた車に乗っている人物の身柄を拘束した。さすがはといった感じに見えてしまった。

すぐにパトカーが駆けつけてきた。警察官も同じように。ユウさんは警察バッジで周囲の封鎖を依頼していた

偽造したときに使った警察バッジなのにと思ったけど。

私は背後で誰かが裏工作をしたことは明白であることをすぐに理解した

偽装のための警察バッジだったはず。そのつもりが今もここで通用するということは、

ルミナさんたちが裏で手回しをしたことは間違いない

 

「カオリちゃんしばらく車内で待っていてね」

 

私はわかりましたと返答するとあの警察バッチは本物になっているのですかと聞いた

いろいろと苦労はしたけど監察局の局長さんに半ば強引に話を進めて、

私とユウさんは警察官という形をとっているとのことだ

銃を持つためにはそれなりに根拠がなければ難しい。当然のことである

私たちの身にはどんな災いが降ってくるかわからないから銃を携帯しておく方が安全だ

そのためにも銃の所有許可のために第三新東京市警察の警察官という形をとっているらしいです

 



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第238話

ユウさんとルミナさんたちは駆けつけてきた警察官と話をしていた。

私は車に隠れていた。市警察と主な対応をしていたのはルミナさんで、

ユウさんは私のそばから離れることはなかった

私が再度襲われる可能性があるからだとすぐに理解した。

 

「迷惑ばかりかけてしまって申し訳ないです」

 

本当に私はある意味では面倒なことを乱発させる人間と言える

私は後部座席のサイドウィンドウを少し開けてユウさんに伝えた

 

「カオリちゃんは気にしないで。これも君を守るためだと思ったら全力で頑張るから気にしないで」

 

ユウさんは笑顔で話してくれた。

ルミナさんは監察局から派遣された職員に尾行していた車に乗っていた人物を引き渡した

 

「やっぱりゼーレ関係ですか?」

 

私の質問にルミナさんは今の段階では詳細な情報がないから難しいと答えた

仮にゼーレサイドの人間だとしても簡単に自供するはずがない

もしゼーレの関係者であるという事実が露見したら国際司法裁判所に送られる

今はゼーレ関係者はセカンドインパクトや様々な罪状で世界中で警察が捜索している

 

「私がここにいるせいでしょうか?」

 

「カオリのせいじゃないわ。悪いのはあそこまで事態を悪化させた彼らよ」

 

ルミナさんは私に責任はないからと慰めるかのようにやさしく話しかけてくれた

でも時々思うのだ。私に責任が全くないとは言えないのではと

だって私は『神様』としてはいい加減なことをしたことは事実なのだから

世界中はインチキで成り立っていたとしても大本が私であることは事実だ

2人は車内に戻ってくるとジオフロントに向かった

 

「それにしてもネルフのおひざ元で派手な動きをしてきたわね」

 

ルミナさんの言葉にユウさんはこちらで探りを入れておくよと話した

 

「言っておくけどカオリを泣かせるようなことをしたらどんな目にあわすか覚悟はできているでしょうね?」

 

「心配しないでもらえるかな。ゼーレの内情を知って反ゼーレ側で活動している知り合いが多いから」

 

「だからと言っても信用しすぎるのも注意しなさい。いくら調教された犬でも飼い主の手を噛むことがあるから」

 

ルミナさんの言葉にユウさんはもちろんわかっているよと答える

私たちはとりあえずジオフロントに向かった。

 

「ルミナさん。私たちのあの偽造バッジは」

 

「局長がうまくしてくれたわ。一応2人は第三新東京市警察の刑事となっているの」

 

その言葉に私は本当に迷惑ばかりをかけていると申し訳なかった

 

「それとダッシュボードの中に2人の市警察の身分証が入っているから持っておくように」

 

ユウさんがダッシュボードを開けるとそこには2つの市警察のバッジが入っていた

市警察の職員なら銃の所有許可を合法的に処理しようというみたいである

少し強引かもしれないけど

 



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第239話

私たちはジオフロントの監察局に今度こそ無事に到着した

ここまで来たら狙われることはないはずだけど、万が一に備えておく必要がある

 

「まさかここで射撃訓練をするなんて」

 

私の言葉にルミナさんは懐かしさを感じているのと質問をしてきた

確かに少しはなつかしさを感じているかもしれないけど、何が起きるかはわかるものはいない

ここでも危険性があることは間違いない

 

「ここには良い思い出はそれほどないです」

 

ネルフ保安諜報部の加持さんとはある意味では約束を果たせなかったことについては後悔している

あそこは加持さんにとっては大切な場所だったはず

でも今はもう何もかもが違うのだ。『碇シンジ』は死んだ

それだけははっきりとした事実である。今はもうあの頃に戻るつもりはない

私たちは監察局内の通路を歩いて射撃訓練室に向かった

その道中に多くの人からまるで客寄せのように見物されていた

 

「カオリちゃんは美人な女性に見られているようだね」

 

「ユウさん。怒りますよ。私が美人って言われて喜ぶタイプと思っているのですか」

 

むしろ逆である。私は美人と言われることそのものが好きではない

今の私は罪にまみれた咎人のような人間だと感じてしまうから

だから褒められることは好きなことではないのだ

射撃訓練室に入ると私たちはそれぞれ防音ヘッドフォンを着用。

射撃用の的に向かって発砲する射撃訓練を開始した

ユウさんとルミナさんの2人を見てみると的の中心部分を見事に当てていた

 

「さすがはプロは腕が違いますね」

 

私とは全く腕が違う。だって私は素人なのだから

知識としてあったとしても身体能力では差が出るのは当たり前である

ユウさんは海岸の町の自宅にある射撃訓練場で定期的に腕を磨得ていることはわかっている

 

「僕は戦闘訓練を今も毎日しているからね」

 

「私もよ。こんなオオカミのような男にあなたを任せるわけにはいかないのだから」

 

ルミナさんの言葉に私は思わず苦笑いをするところだった。

私の銃の腕はユウさんから見るともっと鍛えないといけないと評価されるかもしれないけど

ユウさんやルミナさんがそんなことを認めるはずがない。

ルミナさんは私が銃を持つことに良い感情を持っていない

でも武器がなければ問題になる。私は私を守るためには必要なのだから

 

「そういえばカオリに格闘術を教えておかないとね」

 

「ルミナさん。今日ですか?」

 

私は今から訓練があるのではと思った

できればすぐにそんなことはしたくない。

 

「あなたに銃を持たすことに同意したくないけど、あなたのそばにはおいしい物を食べるかもしれないオオカミがいるから」

 

ルミナさんの言葉に私は苦笑いをした。オオカミがユウさんを示していることはすでに分かっている

ユウさんがそんなことをしないことはわかっている。ちなみに私はユウさんを信頼しているし、同じ家で同居している

もし私のことを『食べる』ようなことを考えただけでもルミナさんは私を守るために動いてくる

 

「一応ネルフの情報で何か不審な動きがあればすぐに連絡するわ」

 

ルミナさんは私を必ず守るようにとユウさんにしっかりと、ある意味では命令口調で話した

 

「どんな手段を使ってでもカオリちゃんを守り切ってみせるよ」

 



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第240話

ルミナさんとユウさんと一緒に射撃訓練を終えると私たちは地上に戻ることにした

今日は自宅に帰る前にスーパーで食料品を買って帰るつもりである

ちなみに私よりユウさんの方が料理はかなり上手で、私はどちらかというと下手な部類に入る

ジオフロントから地上に戻ると自宅マンションの近くにあるスーパーによって食料品や日用品を買い物していった

 

「今日はカレーにしてみる?」

 

ユウさんは今日の夕ご飯のメニューを考えながら買い物をしていった

私は特に好き嫌いはないけど、お金を少しでも節約するために今日の特売商品を見てから考えませんかと提案した

この街で暮らしていくための生活費はお母さんとお父さんが仕送りをしてくれている。

だから贅沢をしないようにしていた。お母さんとお父さんに迷惑をかけるわけにはいかないのだから

 

「良いですね。ユウさんはカレーは好きなんですか?」

 

「僕は特に好き嫌いはないからね。お肉は大丈夫かな」

 

私はユウさんと一緒で好き嫌いはないですから

美味しいならどんな料理でも大歓迎ですと返答した

ルミナさんは私たちを後ろから警護するかのように周囲の警戒をしていた

ちなみにユウさんとルミナさんは人々からは腰のホルスターに装備している銃は見えないようにしていた

もしここで拳銃を持っていることになれば騒動になるからである

いくら私たちが市警察のバッジを持っていても騒動になるのは嫌な話である

だからここは穏やかに過ごしたい

 

「お肉はどうします?」

 

「鶏むね肉でいいよ」

 

私とユウさんは仲良く夕食の買い物をしているとルミナさんは本当に夫婦に見えるわよと声をかけてきた

ユウさんはルミナさんが認めてくれたら結婚をしてみるかなと冗談交じりに提案してきた

 

「もしカオリを傷物にしたらわかっているわよね?どこに逃げようと苦しめて殺してあげるわ」

 

ルミナさんは小声でユウさんに話した

ユウさんは心配しなくてもカオリちゃんを傷物になんてしないよと

 

「僕もカオリちゃんをそんな目に合わせるような人間がいたらどんな手段を使ってでも処罰するから」

 

だから心配する必要はないよとユウさんは返答した

でもルミナさんは男と女の関係ほど何が起きるかわからないものよ

特に同居しているとなると警戒するのは当たり前でしょと。

確かに私とユウさんは同じ家に住んでいる。

ルミナさんも同じマンションに住んでいるが玄関で閉ざされている

いつ何が起きるかわからないのなら警戒するのは当たり前なのかもしれない

私たちは買い物を終えるとレジで支払いをした。ちなみに買い物代はユウさんにお世話になっている

もちろん私もお母さんとお父さんから生活費をもらっているので払えるのだけど

ユウさんは女性にお金を払わせるなんて失礼だからねといつもそう言われてしまう

確かに女性に払わせるのは男としては少し問題があるとユウさんは考えているのかもしれない

 



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第241話

買い物を終えると私たちは自宅マンションに向かった

ルミナさんが運転する車で。助手席ではユウさんが私が少し疲れた様子を感じたのか

疲れたのかなと聞いてきた。私はジオフロントに向かう時に起きたトラブルで少し悩んでいた

 

「本当に今日も静かですね。襲撃事案を別にすると」

 

私の言葉にユウさんはそうだねと答えた。

ルミナさんはバスでの銃撃さえなければ問題ない普通の1日だけどと

それは事実である。私が襲われたことを除外すると普通の日常である

まったく迷惑なことではあるが、この街に来た時にこういうことに巻き込まれることは覚悟できていた

大きな街なのだから、必ず危険な目に合うことは想像できていた

だって私は『・・・・・』なのだから

 

「でも大学の登下校はカオリを1人にさせるわけにはいかないから」

 

ユウさんと一緒に大学に通学するようにとルミナさんが言った

確かに私が1人になったところを襲ってくる可能性はかなり高い

 

「あなた。わかっていると思うけど、必要ならどんな手段を使ってでも守りなさい」

 

ルミナさんは多少の越権行為に関してはこちらで処理するからと

越権行為の行使を認めるということは少しの無茶でも情報操作を行うということかもしれない

 

「そんなことにならないと良いのですが」

 

「あなたはいろいろと狙われているかもしれないから常に銃の携帯はしておくように」

 

ルミナさんは少しは自分で自分の身を守れるように対策をしておくようにとのことだ

私はわかりましたと返答した。自分のことは自分で守るつもりでいる

できる事なら私の影響を受ける人たちは最小限にしたい

大切な人に迷惑をかけたくないのだから

私たちは車で無事にマンションに到着すると駐車場に車を駐車。

今日は3人で一緒に夕食を食べることにしたのだ

私はユウさんと一緒に住んでいるマンションの部屋に入ると思わずリビングにあるソファで横になった

なんとなくそうしてみたかっただけ。別に深い理由などがあるわけではない。

ただリラックスというか、ただ単純に横になりたかっただけ

 

「カオリちゃん。ソファに横になるのは良いけど部屋で着替えた方が良いよ」

 

ユウさんの言葉に分かりましたと答えて自室に向かうと部屋着に着替えることにした

部屋着と言っても特別な服があるわけではない。自宅で過ごすのに問題がない服です

私が部屋から出るとユウさんがスーパーで買ってきた野菜や調味料をキッチンで片づけていた

 

「私も手伝います」

 

私もキッチンに行くと冷蔵庫に必要なものを入れていった

ユウさんは私よりも家庭的なのかもしれないと言えるぐらいに

 

「カオリちゃんはゆっくり休んで良いよ。買い物で疲れていると思うからね」

 

それと襲われたことも考えるとゆっくりとしておいた方が良いよと

相変わらずユウさんは心配性なのだ。でもその気持ちはわかる

だから私は抵抗するつもりはなかった。

お任せしますねと言うとリビングのソファに腰かけてテレビを見始めた



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第242話

本当に静かな生活である。

海岸の町のお母さんとお父さんが一緒に暮らしていた旅館のころと少し違うのはあの町から離れただけ

寂しさを感じてしまうけどユウさんとルミナさんと仲良く過ごしているので少しは安心できている

 

「本当に平和ですね」

 

私はソファに座りながらテレビを見ていた。ここではネルフが情報操作を行っている。

私という存在がいることで大切な人に迷惑をかけてしまう

もしくは大切な人が傷つくことになるかもしれない

悲しい思いはしたくない。誰かが苦しむ姿を見たくて話を進めるつもりはない

ただしネルフやゼーレの関係者との接触はこの対象には入らないけど

海岸の町に住んでいる人たちやルミナさんやユウさんも傷ついてほしくない

ルミナさんはネルフが私に接触することはほぼないと言ってくれたけど

心のどこかで不安心を持っていた。絶対に安全ということはあり得ない

必ずどこかでとんでもないことが起きるものである

時には人には想像もできないような大騒動が起きてしまってよくない結末を迎えることに

 

「ここが私にとっては唯一安心できる場所ですね」

 

私は思わずそう独り言をつぶやいてしまった

ここが今の私にとって安息な場所であることは事実だから

 

「カオリちゃん。もし眠たいなら今日はもうベッドで睡眠をとった方が良いよ」

 

ユウさんの言葉に私はそんなに眠そうな顔をしていますかと質問した

 

「疲れていることは当たっていると思うよ。晩御飯ができたら起こしに行くから休んできて」

 

私はわかりましたとユウさんに伝えると自室のベッドで仮眠をとることにした

確かに疲れているのかもしれない。今日の夕食はカレーと決まっている

ユウさんの料理はとても上手だから心配することはない。私が作ると少し味に問題が

私は知識だけならたくさんあるのだけど、実際に料理をするとなると難しいこともある

 

「私って本当はどう思っているのかな」

 

私はそんなことを考えながら仮眠に入っていった

 

 

-------------------------------

 

「本当にカオリちゃんは大変だね」

 

僕はそんなことを思いながら今日の夕食のカレーを作る用意に入った

まずは具材のカットや調味料の準備を行いながら今後のことも考えていた

カオリちゃんはどこにいても狙われることは今日のことで立証された

第三新東京市はネルフのおひざ元だ。

そんなところであっても狙ってくる人物がいることはかなり危険である

そういうことを考えるとカオリちゃんの警護は厳重にしないといけない

 

『トントン』

 

玄関ドアがノックされたので僕はインターフォンで誰なのかを確認するとルミナさんだった

ドアロックを開錠するために玄関に向かった。玄関に到着してドアロックを開錠するとルミナさんがいた

何か深刻そうな表情をしていた。

 

「何かあったのかな?」

 

「カオリは起きているの?」

 

今は仮眠中であることを伝えるとルミナさんは1枚の封筒を渡してきた

慎重に封筒の中を確認すると100万円も入っていた

 

「これはどういう意味かな?」

 

「あなたに危険なことで仕事をさせたらカオリが狙われるからよ」

 



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第243話

 

ルミナさんは僕がアルバイトをして敵に狙われる可能性ができることを阻止するためにお金を渡してきたらしい

生活費はしっかりとカオリちゃんの両親から仕送りをもらっていたので改善しないとは考えていたけど

まさか外堀を埋めるようなことをしてくるとは想定していなかった

 

「ルミナさんから生活費をもらうことになるなんて想像してなかったよ」

 

「私としてはあなたにはカオリを守ってもらわないといけないのよ」

 

変なところでアルバイトをされて、そのすきを狙って強襲してくるリスクが出ることは好ましくないと。

正論である。もちろん僕はカオリちゃんを守ることが最優先事項である

もちろん僕にもかなりの金額の貯金があるので、少しずつ使えば生活には支障は出ない

カオリちゃんの護衛のために僕は一緒に暮らしているのだから行動を可能な限り同行するために策は練っている

カオリちゃんが入学予定の大学の警備部門に話をつけて専属のボディーガードができるように準備はできている

 

「ルミナさんに迷惑をかけるつもりはないんだけど」

 

もしこのことをカオリちゃんが知ったら怒るかもしれない

カオリちゃんは自分の影響で親しい人を巻き込むことを嫌っている

優しすぎることは間違いない。

カオリちゃんは自らのために誰かが影響を受けることを避けようとする

そのことはルミナさんも十分わかっているからこそ、お金を渡してきたのだろう

 

「あなたは言ってみれば番犬役を務めてもらわないと。大学警備は名目だけ。身辺警護を最優先で対応してもらわないと」

 

私も心配であなただけに任せるわけにはいかないのよとルミナさんはかなり懸念していた

確かにそうかもしれない。いくら大学の警備担当をしているからとしても、

べったりとしたカオリちゃんの警備をしているわけにはいかない

他のことについても対応しなければならない場合も想定される

だからこそなるべく『カオリちゃんの警備というアルバイト』だけで生活費を稼げるかは難しいところだ

トラブルになる前に問題解決に尽力しなければいけない

大学でカオリちゃんを狙うために陽動作戦を仕掛けてくる危険な組織、

『ゼーレ』の分派がいるかもしれないのだ。

時にはいろいろなところから最新の情報を入手しなければならない

 

「一応聞いておくけど、大学にはどれくらいの警備態勢を敷いているのかな?」

 

僕はルミナさんがどれほどの手回しをしているかを確認することにした

あとで聞いて穴がったら大変だからだ。少しでもトンネルのようなものがあればカオリちゃんの命にかかわってくる

それに他の大学生にも影響が出てくるのだから、警備体制の確認は当然である

 

「こちらから10人の監視役を送り込んで警戒させているわ。もちろん銃を持っているし国連軍で戦闘に慣れたプロよ」

 

「そこだけを聞く範囲では警備は厳重に見えるけど、穴があったらルミナさんにすぐに報告するよ」

 

僕は小さな穴が開いたらすぐに封鎖をすることが必要なことぐらいわかっている

 

「とにかくカオリを傷物にしたらわかっているわよね?あなたには悪いけど命で対価を払ってもらうつもりだから」

 

僕はもちろん覚悟はできているよと返答する。

あとは頑張ってもらうわよと言ってルミナさんは隣の部屋に入っていった

 



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第244話

ルミナさんが自分のマンションの部屋に戻るのを確認すると僕は玄関の扉を閉じた

 

「それにしてもルミナさんは本当に心配性だね。僕はどんな手段を使ってでもカオリちゃんを守るつもりなんだけど」

 

僕には多くの貯金がある。ルミナさんに迷惑をかけることはないほどに

なのでカオリちゃんの警護についても、この街での生活費の心配をする必要はない

もちろん投資ファンドに一部の資金の運用を任せている。おかげで毎年かなりの収入がある

カオリちゃんは完全に寝ているようだ。さすがに女性の部屋に入るのはやめておきたい

せっかく眠りについたのに起こすというのは良いことではない

それに急ぐ用事でもないからだ

 

「とりあえず、僕もお風呂に入ろうかな」

 

僕は着替えを持ってお風呂に入浴することにした

ちなみにお風呂には銃を持ち込むわけにはいかないけど着替えが置いてある洗面台の近くに銃を隠している

たとえどんな状況であろうと守るためには必要なことなのだから

 

「カオリちゃんは静かに寝ているみたいだね。ルミナさんが来たから起きると思っていたけど」

 

もしかしたら何か危険なことがあるのではとカオリちゃんが感じて飛び起きてくるかと思っていた

でもそんな感じはしないし静かである。

 

「カオリちゃんも少しは休まないとね」

 

僕が入浴を終えて眠る前に銃のお手入れをした

いかなる時であっても銃がしっかりと機能するかを確認するためには必要である

整備をしていないと僕だけではなくてカオリちゃんの安全にもかかわってくる

だからこそしっかりとした整備と確認が重要になるのだ。

ミスをすることは許されない。それはゼーレで汚い仕事をしてきた時から十分に理解している

カオリちゃんは僕のような『汚れた人間』であっても信頼してくれている

だから僕はしっかりと彼女が静かに平和に暮らせるように最大限のサポートをするのだ

彼女は静かに暮らすことを望んでいる。誰にも命令されることなど望んでいない

自分の道は自分で判断することを誓っている

ネルフにいた頃に『彼』がどれほどつらい立場に追い込まれていたかは僕にはわからない

でも今も『碇シンジだったころの過去』に苛まれていることは事実である

『カオリ』として静かに生きようとしていたのにネルフが妨害してきた

苦しい立場に追い込まれていることは疑いようのないことだ

 

「本当に大変なのはこれからだね」

 

過去は捨てることはできない。過去があるからこそ明日という未来を見ることができる

カオリちゃんは苦しい苦難の道であっても、明るい未来があることを信じている

そうでもなければ僕たちから離れてどこかで他人が一切いないような場所で生活している

その道を選んでいないのはまだ未来を見てみたいと思っているからだろうと僕は考えていた

過去にはつらい思い出がだくさんあることはわかっている。

でも未来には少しでも一筋の明かりがあることを信じて歩もうとしている

未来を照らす一筋の明るさを感じていないなら、カオリちゃんは孤独な道を選んでいるはずだ



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第245話

朝になると今日は天気が良いようで窓から太陽の光が入ってきていた

私は今日も静かな1日を過ごせると良いですと思いながら、ベッドから起きた。

起床すると室内でパジャマから普段着に着替えた

部屋を出る前にドアの向こうからユウさんが朝食を作ってくれているようで良い匂いがしていた

 

「おはようございます。ユウさん」

 

私がそう言うとキッチンで朝食を作っているユウさんもおはようと言ってくれた

静かな朝の始まりに私は少し喜びを感じていた

 

「カオリちゃんは今日も勉強かな?」

 

ユウさんの言葉に私は平和が一番ですからと返事をした

私にとって重要なのは何事もない平和な生活だ。

誰に強制されることのない、本当に静かな時間を私が自ら選択して過ごすこと

 

「そういえばカオリちゃんは銃はどうするのかな?大学生になった時は小型の銃の方が良いと思うけど」

 

確かにユウさんの言う通りだ。

オートマチックの拳銃となると隠すのは難しい

それに周りに拳銃を持っていることを知られないようにするには小型リボルバーの方が良い

もちろん大学に入学したらそれほど出番はないとは私は考えているけど、

何が起きるか予想することはできない。

ユウさんも常に私にぴったりと張り付いて護衛をするのは難しい

 

「そういえば、カオリちゃんは将来はどうするつもりなのかな?」

 

「私の将来ですか?それは・・・・わかりません。今は大学に入ることしか考えていないです」

 

もし希望があるなら。それはあの海岸の町で小学校で教師をするという道もいいかもしれない。

でもまだ何も正確な夢というのは持っていない。今はこの街で楽しんで暮らしたいと思っているだけである

もちろん大学に入学できれば、しっかりと勉学を頑張るつもりですけど

 

「カオリちゃんは本当に美人だからおおかみさんには気を付けないとね」

 

ユウさんの言葉に私はそれって私がおいしく食べられるお肉に見えるのですかと質問した

もしそうだとしたら、いろいろと対応方法を考えないといけない

お肉というのがネルフやゼーレの関係者に好き勝手に利用されるという意味なのか、

それともただの男女の関係だけのセリフ七日によって回答は変わってくるものであるが

いろいろと予防線を作っておかないと危険なのかもしれない

 

「もしおおかみさんに食べられそうになったらいつでも呼んでくれていいよ。僕が一番先に助けに行くから」

 

ユウさんは本当に心配している様子だ。私の影響で大切な『家族や友人』を傷つけられるなら、

絶対にそう言う影響を受けそうな人を助けに行く。

それとしっかりとお返しをプレゼントすることで断固として抗議するつもりでいる



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第246話

私はその後もユウさんと話をしていた。

久し振りに一緒に部屋の掃除をするための用意をしながらではあるが

 

「そういえば、カオリちゃんは教師になるのが夢なんだよね?」

 

私は子供たちに明るい未来があることを知ってほしい

『僕』は戦場で過ごしてきたから、今の私の大きな夢は子供たちに自由な未来を見せてあげたい

誰にも強制されることのない明るい未来。それを見つけてほしいのだ

できる事ならかつての『僕』のような人生を歩んでほしくない

ゆっくりとじっくりと子供たちが誰かに強制された未来ではなく明るい未来を見て歩み続けてほしいのだ

それが私の将来の職業選択で教師を選ん理由でもあるのだ

少しの障害物を超えることができれば、明るい未来があるかもしれない

もちろん苦難の道を歩む幼い子供もいることもあるけど、それで将来を捨てるようなことはしてほしくないのだ

私は幼い子供たちが少しでも自ら道を切り開いて、自らの選択で未来に向かって

 

「カオリちゃんはネルフとの付き合いはどうするのかな?」

 

ユウさんの質問に私は自らの歩む道を妨げる様なことがない限りは何もするつもりはないですと回答した

今さら過去を蒸し返すつもりなどない。私の進路を妨害されない限りの話ではあるが

幼い子供たちが自由に未来を選ぶのと同じである

私は私自らが選んだ道を妨害されない限りは放置するつもりである

しかし、もし妨害されてきたら徹底的に反撃する。

 

「ユウさんはどう思います?世界を敵に回すような私の存在のことを。それとも『僕』の存在を」

 

「カオリちゃん。僕が言うのはおかしいかもしれないけど、『彼』の存在が君の成長を妨げるようなことはないよ」

 

ユウさんは私が広い世界で自由に生きることは誰にも妨げられることはないから心配することはないよと

『僕』にとってはネルフは大きな邪魔な存在であることは事実である

内心では私は破壊したと何度も思ったけど、いつもこう考えることにしている

歴史というのは長い年月が経つことでその時代の人たちの行動が正しいことであったかを

だからその時の判断が正しかったのかは今は誰にも分らないことなのだと

 

「僕はカオリちゃんはたくさん甘えて良いと思っているよ。なぜなら君は1人じゃない」

 

時間をかけてその答えを見つけるために歩みだしているのだとユウさんは話してくれた

あの海岸の町では私の時計は止まっていた

しかし今は状況が大きく変わった。時計の針が少しずつ動き始めたのかもしれない

だからじっくりとその時間を大切にしながら歩みだすのは誰にも妨げられることがない私の権利だと

ユウさんは私の頭を撫でてくれた。いつもあの町でお母さんに頻繁にそうやって優しく包み込んでくれたのと同じように

ユウさんも優しく接してくれた。私はそれが少し恥ずかしいと思いながらも本当に私のために人生を繋げてくれている

 

「ユウさんは『僕』のことをどう思います?」

 

その質問をするのはもう何回目になるだろう

いつも気になってしまうのだ。『私』になる前の『僕』存在がどのようなものだったのか

気になってしまって、拒絶されることを恐れているから同じようなことを何度も質問してしまう

でもユウさんはあの海岸の町にいた頃と同じ回答をしてくれる

それは『僕』が悪いわけではないと。あの時は世界がおかしかったと

狂ってしまった地球の歴史をとりあえず『正常化』したことは正しいし、私の存在価値を否定することもしない

全ては歴史が悪かった。一部の人や組織が世界をおかしくした

『僕』はそれを少しでも良い方向に向かわせたと。



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第247話

私とユウさんは掃除を終えると思わず私はソファで横になってしまった

疲れていたのかもしれない。私だって万能というわけではない

確かに『僕』はこの世界を再生させたのかもしれないけど、それが正しいことだったのかはまだわからない。

全ては歴史が決める事であり、その答えが出るかどうかはわからない。

いつかはわかることかもしれない。

でもそれは長い歴史を未来の人が遡って古書を読み返すように時間をかけて読まないとわからないことでもある

長い年月によって答えが出ることは珍しいことではない

だから私がすぐに答えを見出すかどうかはわからないのだ

 

「本当に世界は正しいのかどうかわからないものですね」

 

私は思わずつぶやくとユウさんは歴史というものは未来になってそれを古書を読み返すのと同じだよと

少し前に私が思っていたことを言い当てるかのように答えてくれた

歴史でそれが正しいのかどうかを決めるのは長い時間を経過した後に、

簡単に言ってしまうと時代が進んで当時の歴史が良かったのかどうかを決めるかはそこの判断次第である

今のことを今現在で評価することなどできるはずがない

遠い未来で歩んでいる人が今の出来事を何かの形で見極めることで正しかったのかを決めることができる

だから今の出来事が正しいかなど決めるのは遠い未来で生きている人々が決定する

もちろん歴史の評価というのはどれが正解だったのかは個人によって異なる見解を持つ

 

「未来なんて遠いですね」

 

「こればかりは今すぐに決まることではないから仕方がないよ」

 

私はユウさんにそうですねと伝えるとベランダの窓ガラス越しに外を眺めた

ちなみに私とユウさんが住んでいるこのマンションの窓ガラスは防弾仕様だ

個人的に言うなら少し申し訳ないと思っていた。

私がここにいるから私とユウさんが住んでいる部屋の窓ガラスは狙撃されてもガラスを貫通しないように、

対物ライフルであっても数発は持ちこたえる可なりの強度を持つ窓ガラスなのだから

ルミナさんは本当に心配性である。もちろんそれはユウさんも同じだ

だから私には話してくれていない。でも窓ガラスを軽くノックした時に分厚さに気が付いたのだ

明らかにかなり強力な防弾仕様の窓ガラスであることを

 

「ユウさんとルミナさんは本当に心配性ですね」

 

「窓ガラスが防弾仕様のことってわかってくれるなんてさすがだね。カオリちゃんを守るにはこれくらいはしないと」

 

ユウさんはいつ狙撃されるかわからないからねと私に心配そうな声で話してくれた

確かに狙撃される可能性が全くないということではない

海岸の町にいた頃よりもここの方が危険であることは事実なのだから

あの旅館の部屋の窓は防弾仕様ではない。

なぜなら外から狙うとしても船を使って海から狙撃しないといけないからである

いくら優秀なスナイパーだとしても船から正確に仕留めるのはほぼ不可能

でもここ第三新東京市なら話は大きく変わってくる

ビルが多いのだから狙撃をするつもりなら簡単に位置取りはしやすい

つまり狙いやすいことを示している

 



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第248話

私とユウさんはとりあえず休憩を取っていた。

別に私たちに出かけるような用事はないし、外出すればリスクが発生する

それを最小限にするためにはさまざまなことに警戒しなければいけないことは私にもわかっている

でも私は神様のような存在だから、『殺される』ようなことはない。

常に最悪の事態を想定して行動しなければ大切なものを奪われてしまう

今度ばかりは負けるわけにはいかない。

私は『僕』が行った行為によって得た幸せを十分に理解することが大切なのだから

 

「カオリちゃんは本当にやさしいね。僕ならたっぷりと復讐をするところだけど」

 

いろいろとあらゆる方法を使ってだけどとユウさんは言った

それは確かに私も少しはあった。でもそれをしないのは私の大切な人たちに傷をつけていないから

もし私の大切な人を攻撃されてけがなどの負傷をさせた時には、

本気で『僕』を傷つけてくれたネルフに復讐をしたいと思うけど

私の今の立ち位置と進路を妨害しない限りは手を出すつもりはない

今のところはそう決めている。『僕』の『過去』を探るようなものが現れた時は穏やかに片付けることはできない

私は必要なら地獄をたっぷりと味合わせて、接触したらどうなるかを分からせるつもりでいる

触れるとやけどどころではないということ。しっかりと見せつけることが重要である

危険すぎて触れるととんでもないことになることを分からせないと守れない

もちろん、私から先制攻撃をするつもりはないけど。

 

「私は穏やかな日常を過ごしたいだけですから」

 

「でも穏やかな日は数分前までという言葉はわかっているよね?」

 

そう穏やかな日常というのは突如変わることになる

ずっと平和な時間が続くことなどありえない。障害物競走と同じで通り抜けるのが難しいところがある

そんなことは十分すぎるほどに理解しているし、覚悟もできている

必要なら最悪のシナリオに沿って行動票を作ることが極めて重要になる

 

「時にスコールのように突発的に大雨が降る」

 

私はその言葉の意味をよく理解している。

スコールの雨とは雨水ではなく災いという意味ならよく理解している

だから私はこのマンションの外では常に警戒しないと多くの大切な人を巻き込んでしまう

大切な家族や友人を失うくらいなら私はたとえ誰かにやめてと言われても障害物を破壊する

それだけの覚悟はしっかりと持っているつもりだ

でも実際にそのようなことになることはあまりないだろう

理由は簡単だ。ルミナさんやユウさんが私のことを守ってくれるから

だから私も大切な家族や友人を守るためなら汚れ仕事であっても実行する覚悟はできている

一瞬の迷いが『大切な家族』の生命にかかわってくるかもしれないのだから

 

「私にも覚悟はできています」

 

 



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第249話

私とユウさんはそんな話をしているとユウさんが突然私を押し倒してきた

その直後にベランダと室内を仕切る窓ガラスに銃弾がめり込んだ

分厚い防弾ガラスに私はある意味では守備は徹底していると思ってしまった

 

「防弾ガラスでよかったよ。でもガラスは特別仕様だから対物ライフルを使っているのかもしれないね」

 

ユウさんの判断能力の高さに私はとても驚いた

仮に防弾ガラスではなかったらどうなっていたかは想像したくない

問題は誰がこんなことを仕掛けてきたかが重要だから

ネルフということはないので、おそらくゼーレの分派だと私は思った

でも窓から見える位置にいるのは危険と判断してユウさんは安全な場所に私と一緒に移動した

 

「ガラス代が高くつくけど、お金をかけておいてよかったみたいだよ」

 

防弾ガラスはいろいろと高価である事や製造に時間が必要になる

それでも命が無事なら文句を言うつもりはない

私とユウさんは姿勢を低く保ち少しは壁がある場所に陣取った

これで相手は狙撃はできない。私が狙いなのか?それともユウさんか

今のこの状況だけでは判断できないことはすぐに理解した

 

「どうします?」

 

私の質問に心配することはないよと答えてくれた。

すぐにルミナさんが入ってきてくれたのだ。ちなみにルミナさんは狙撃銃を持っている

それもかなり大きな狙撃銃だった。狙撃銃というよりも対物ライフルで使用されるバレットM82だ

人にその銃から発砲された弾を食らうとおそらく死ぬことは間違いない

もちろんルミナさんもユウさんと同じでここでこんな行動をしてくる連中はいないと思っていたのかもしれない。

だが現実はそれほど甘いものではない。発砲してきた犯人はできれば生かして身柄拘束したい。

それが無理なら状況次第で困難なら仕方がないと考えているのではないかと私は少し怖い恐怖を感じた

だからなのかもしれないけど私はユウさんに思わず抱きしめてしまった。

本当は不安だったのだからこればかりは仕方がない。

私は『僕』の影響を受けてだれか大切な人に傷でもつけられたときは殺す覚悟はできている

大切な人を守るときには私は使うことができるありとあらゆる方法を試していく。

警察などの法執行機関が被疑者死亡で送検するしかない。それで納得してくれるとは私も思っていないけど

こちらの情報を持っていかれることを考えたら、リスク管理を考えると殺さなければならない時もある

 

「カオリ。あなたはそこに隠れているのよ」

 

ルミナさんは私に小さな声で声をかけられた。私は頷いて何も話さなかった

もしかしたら盗聴されているかもしれない。少しでも喋ったら殺された演技は成立しない

 

「それにしても対物ライフルを持ってくるなんて。さすがはルミナさんだね」

 

ユウさんの言葉に私は困るようなことにならないと良いのですがという態度を示す表情をした

とりあえず芝居は続けた方が良いかと思ったので一切話すことはしなかった



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第250話

とりあえずパトカーのサイレン音が接近してからは防弾ガラスに弾を撃ち込まれなくなった。

この後始末はかなり大変になるのは間違いない。幸いなことに室内には銃弾は貫通していない

防弾ガラスですべて防御はされたが今後どうなるかは全く予想できない

事態が悪化する前に対応するには私は演技をした方が良いかもしれないと考えた

そこで私はすぐにキッチンから未開封のケチャップを取ってきた

防弾ガラスだから弾は貫通していないが少しは演技をしてみることにした

どれ程の効果があるかは私には今はわからないし、どのような敵対勢力の連中が動くかもわからない

しかし今は何もしないよりもパフォーマンスは極めて重要であると考えた

その私の行動を見てルミナさんはすぐに手伝ってくれた。

ケチャップを服につけることで弾が当たった演技をすることをユウさんもわかってくれた

すぐに私が即興で考えた演技を手伝ってくれた

盗聴はされていないとは思うが私は苦しむ声を出した

ユウさんとルミナさんは私の演技を見て少し苦笑いをしながらもわざと切迫した声で会話をしていた

 

「カオリちゃん!」

 

これはユウさんの声。声の演技はかなり上手である

 

「しっかりして!カオリ!」

 

これはルミナさんの声。ルミナさんもかなり演技は上手である

声優になれるかもしれないと言えるぐらいに。

私はさらにかすれるような小さな声で『助けて』というセリフを出した

正直なところは演技はかなり上手にできているのか疑問を持った。

でも今は完ぺきな演技が必要である。そのためのセリフとしては良い感じで進んでいる

 

「救急車をすぐにこっちに手配して!」

 

ルミナさんの演技力はなかなかなものである。

本当に私が死にかけているかというような演技力で無線通信をしている

これで少しは時間を稼ぐことはできるはず。むしろそうしなければいろいろと問題ではあるが

今後のことを考えると今は素人気味ではあるけど、私は死にかけの演技が求められる

ユウさんは本当に素晴らしい演技力を発揮している

これで一時的では少しは安心できるかもしれない。

私はできればそうなってほしいと思っていたけど、現実は都合よく進む事はない

今は遠距離からの狙撃で終わっている。それも防弾ガラスであったことも

貫通はしていないが、演技をして対応すれば今後のプランを練る時間は稼げることをしているつもりだ

ちなみにユウさんもルミナさんもかなり演技が上手である

私の行動に何も言うことなく付き合ってくれている。まさに阿吽の呼吸が成立している

その間にも救急車やパトカーのサイレン音が近づいてきた。

ルミナさんは私の耳の近くで演技が上手いわよと褒めてくれた

本当に小さな声だったので聞かれることはないだろう

ユウさんも私にだけ少しだけ『大丈夫だよ』とこ小声で言ってくれた

私は少しは演技が本当に楽しいと思ってしまった

救急隊が私たちがいる部屋の外にいるがわかった。

ただルミナさんたちは万が一彼らも敵の可能性を考慮に入れていたようだった。

2人は銃をしっかりと持ち、いつでも発砲できるようにしていた

 



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第251話

救急車とパトカーが近づいてきたのはサイレンの音で分かっている

それでもルミナさんとユウさんはもしかしたら偽物の救急隊員や警察官ではないかと危惧しているみたいだった

私は2人の準備の良さにすごいと思いながらも少し痛みで苦しんでいるような演技をしていた

 

「カオリ!」

 

ルミナさんは私が演技をしていることを分かっている

ユウさんも同じである。だからこそ私にしか聞こえないような小声で頑張ってと

私は小さく頷きながらルミナさんとユウさんが次に何を行うか

それを考えながら、とにかくけが人の演技を続けていた

幸いなことにここに駆けつけてきた救急隊員と警察官は本物だったようで、

ルミナさんとユウさんに守られながら私は救急車に乗せられると第三新東京市立病院に搬送されていった

私たちが乗った救急車がマンションから病院に向かってしばらく奏功したところでルミナさんにもう大丈夫よと言われた

 

「どうでした?私の演技は?」

 

「かなり良い感じね。女優になれるかもしれないわよ」

 

わたしの質問にルミナさんはそう回答した。

ユウさんもなかなか演技が上手だったよと褒めてくれた

 

「カオリちゃんなら良い女優さんになれるよ。名演技だったからね」

 

ユウさんの言葉に私はあまり多くの人に知られるわけにはいかない

『特別な事情』があるから本当に女優になるのは難しいけどとも話してくれた

彼の言う通りで私は本当に『特別な事情』がある

できるだけマスコミに巻き込まれるようなことになれば、今後の生活にいろいろと影響が出てしまう

私は穏やかにゆっくりと暮らしていきたいのだから

 

「これでも演技は得意なので」

 

いろいろな方法で強襲されることを想定して頭の中で考えていた

だからあの手の演技は私の頭の中でできれば使うことがないことを願っていたが、

必要になるようなことがあっても良いように演技力を高めるために動いていた

 

「そういえば、この車の救急隊員は大丈夫ですか?」

 

私は念のために確認するとルミナさんは監察局から私を守るために配置されている

簡単に言ってしまえば、ルミナさんの同僚なのだ

だから信頼できているようだった。私はこれほど簡単に話が進む理由を察した。

ルミナさんが監察局の局員を救急隊員ということで自宅近くの消防署に配置。

いつでも私に何かトラブルが発生しても対応できるように、待機させているということだ

 

「準備が良いですね」

 

「それだけルミナさんは僕を信頼してくれていないからかもね」

 

ユウさんの辛口コメントにルミナさんはあなたを信頼するには慎重にしないといけないわと

ルミナさんは相変わらずのことではあるけど、私のことを心配している。

私はルミナさんにユウさんは信頼できることを分かっている。

信頼関係が濃厚な状態でベッドは別でも同じ家に住んでいる



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第252話

私たちは無事に第三新東京市総合医療センターに搬送されて、個室の病室に移された

私は一緒にこの個室病室にいるユウさんに金銭面で迷惑をかけていないかを確認した

 

「治療費とかってどうします?」

 

私は一応救急で搬送された急患扱いなっている

個室タイプの病室には常にルミナさんやユウさん。

2人以外にも私のことを守るために監察局から職員が回されているとのことだ

小さなトラブルであっても、私のことを狙ってくる組織やその組織構成員に襲撃させないための配慮である

もしなにか私に問題が発生したら大きなことになることを分かっているといった感じだ

個人的に言ってしまえば私としては面倒に巻き込まれているのが私以外にもあることに少し申し訳なかった

こんなことになる前に対応できていたら良かったのだけど、今はこれが必要なことである

ネルフの保安諜報部がひそかにこの医療センターへ潜入されていることはルミナさんから知らせを受けていた

 

「ルミナさんが出してくれるらしいよ。窓の修繕費に関してもね」

 

ただし防弾ガラスはもう少し分厚いのを用意するとのことだ

常に3手先を呼んでいる。ルミナさんは私にトラブルが降り注ぐことを避けるために活発に動いている

ユウさんはそのように教えてくれた

 

「防弾ガラスはかなり高いと思うのですが」

 

防弾ガラスは作れと言われて簡単に生産できるものではない

何度も強度検査をするため、お値段が高いことは私にもわかる

お金の面でルミナさんとユウさんに迷惑をかけたくない

それに私の影響で大切な人が傷つくところなんて見たくない

もしそんなことが起きるなら私は誰にも気づかれないところに逃げるつもりでいた

でもユウさんはそんなことを私が考えていることを察したのか心配しないでと言ってくれた

私は甘えていることや迷惑をかけていることに本当に申し訳ない気持ちがある

今後のことを考えるとなおさら。これが何かの序章なのかもしれない

次に待っているのは本格的な誰も想像できないような驚く手段に出るかもしれない

そんなことになる前に対応しなければいけない

 

「カオリちゃん。今はゆっくり休んでいて。何かあったらこのボタンを押して。僕はすぐに戻るから」

 

ユウさんはそう言うと病室から出ていった

外では2人の人がいた。ユウさんが少し話していた

そして離れていったようだ。それにしても本当に嫌な話ではある

またしても知らない天井。海岸の町にいた頃とは少しずつ変わっている

どういう道になるかは全く予測できない。これから時間をかけて状況を判断しないといけない

誤った判断をしたら、私にとって大切な人が傷つけられる

 

--------------------------

 

第三新東京市総合医療センター 警備室

 

「カオリちゃんをいつまでここで入院扱いにするつもりかな?」

 

警備室に行くとルミナさんが電話で誰かと話をしていた

とりあえず質問だけをして彼女の電話が終わるまで待つことにした。

今後のことを考えて話し合いをする必要がある

カオリちゃんは自由に生きていこうとしているのに過去の亡霊が邪魔をしてくる

もちろん僕にそんなことを言える立場ではないが、今は組織から抜けた身である

可能な限りカオリちゃんを病院から退院させて静かな時間を過ごしてほしいと思っている

 

「ネルフが行確に入りたいそうよ。厄介な話にならなければ良いけど」

 

ルミナさんの言葉に僕は状況的にはかなり厳しいことを理解した

行確というのは言ってみれば監視を行うことを示している。

それはそれで大きな問題になる。カオリちゃんも安心して生活ができなくなってしまう。

カオリちゃんはネルフにとってはかなり微妙な立ち位置にいる

それらを考慮すると警戒するのはゼーレやその分派だけでは済まない

ネルフからもマークされたらカオリちゃんは良い心情を持たないことはわかっている

 

「面倒になってきたわ。ネルフの上層部はだんまりのようだけど、問題は彼女の身柄の扱いに関してよ」

 

ルミナさんの言葉に僕はカオリちゃんはいろいろな意味で、

状況を大きく変化させる存在であることを理解している。

それにカオリちゃんに何かトラブルが発生するとどのような結果になるか、

そのあたりはある程度の範囲であるが、把握をしている

 

 



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第253話

私は監察局長との情報共有を終えるとため息をついた

とりあえず落ち着いて、今の状況を冷静に考えていた

私には重大な任務があるのだ。カオリを守り抜くこと。

できる事なら死者は出したくないが守るために必要に迫られたら私はあらゆる行動を実行する

彼女を狙う組織や人物がいるとわかったら、素早く雑草を刈り取るように排除する

しかし、今の状況ははっきり言ってしまえば好ましいと言えない。

状況はかなり危険なところにあるから。

 

「状況はかなり危険との判断よ。このまま続けば大きな問題に発展するかもしれないし」

 

ネルフの保安諜報部の諜報員が配置されるとの情報を入手した。

この情報は正直な感想を言うと嫌な筋から手に入れたものだが。

それでも何も情報が無いより、ネルフ側の行動を把握できることにメリットがあることは頭の中で理解はしていても

心の中ではあの少年は信頼に値しない人間である

できるなら頼るようなことはしたくなかった

だが今は情報を知っておけばいいことだ

 

 

--------------------------

 

「カオリちゃんの入院中の警備体制についてどうするつもりかな?」

 

僕は当面の間は第三新東京市警察の警察官として護衛に入ることも考えていた

せっかくルミナさんが僕たちのために書類上は存在している警察官として情報を登録してくれている

言い方としては少し適切ではないのだが、

今は作ってくれた立場を理由にすることでカオリちゃんの警護担当として護衛任務に入ることができる

カオリちゃんを守るために必要なのだから。

 

「私は市警察の担当と話をするわ。本当ならあなたに頼るなんて認めたくないけど」

 

ルミナさんは僕が今もカオリちゃんにとって悪影響になる人物だと思っているのだろう

それについて言い訳はしない。確かにカオリちゃんの人生を変えたゼーレの関係者だった

だからどれほどルミナさんに責められても仕方がないことを理解している

今の僕はカオリちゃんが小鳥が広い世界を自由に飛び回れるように動く。

その行動をカオリちゃんが知ったら傷つくことになるなら、

彼女に知られる前にカオリちゃんの自由を奪われないように先手を打つ。

どんな手段を使ってでも問題解決するのだ。

僕はカオリちゃんを自由に生活できるように最大限動き回る

彼女が誰にも妨害されないように自由な空を取りが飛び立つことができるまで

見守り続けることが自分の使命なのだと思っている

カオリちゃんは本当ならこんな精神的に不安になるようなことはあの海岸の町ではなかった

だけどそれはルミナさんたちが様々な方法を使ってネルフに圧力をかけてうまく隠してくれていた

渚カオルに対する事案によって情勢は全く変わってしまったことは事実だ

彼女が渚カオルに対して恨みを持っていることはわかっている

僕もネルフのバックの組織であるゼーレの関係者だった

だからこそ、それなりの情報は持っているができるだけそれは話すつもりはない

 



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第254話

私は病室でのんびりとしていた。

一応、私は救急患者扱いだから。それに私の立場は微妙であることはわかっている。

できればこんなひどいことになるのは避けたかった。でも巻き込んでしまって私の影響で大切な友人

ルミナさんとユウさんに迷惑をかけている。そのことに私はため息をついてしまった

結局のところ、私は誰もに迷惑をかけることなく生活をしたい。

ただそれだけの願いをしても結局のところは災いが返ってくる

同じようなことをずっと考えてしまう。

 

『カオリちゃん。大丈夫かな?』

 

声からすぐにユウさんであることが分かった

声を聞かなくても私にはユウさんであることはわかっている

だってそれは『私』が『僕』である証であるからだ

『僕』には『神様』のような力がある。もちろんそれは私利私欲に使いたくない

でも私やユウさんやルミナさん。海岸の町に住んでいる大切な人たちを守るためなら

私はどんなに汚い行為であっても行うだけの覚悟ができている

そんなことはできればしたくないことはわかっている。

でも守らなければ『私』は『私の家族』を守ることができない

『僕の家族』などはどうでも良い。今頃になって彼らと家族という名のダンスを踊るつもりはない

私にとって大切な『家族』はあの海岸の町で過ごしていた時にできた本当に守りたい人たち

『僕』の『本当の両親』にはもう見切りをつけている

彼らと語り合いをするなどあるはずがない

ユウさんは私に部屋に入っても良いかなと、入室許可を求めていた

私は大丈夫ですと伝えるとユウさんは紙袋を持ってきていた

 

「それは何ですか?」

 

「僕も警護につくけど、もしかしたらッていうかなり危険な状況になるかもしれないと思ってね」

 

ユウさんは紙袋を渡してくれた。その袋の中身はリボルバーの銃であった

かなり警戒することが必要になるかもしれない証でもあった

今後のことを考えると必要になることは簡単に予想できる

ユウさんは警察官の証であるバッジを持っていた。

私のためにユウさんはリスクを背負うことになるかもしれない

できればそんなことにならないことを願っている。

しかし現実的に考えると危険な状況が続くことは十分あり得る

 

「できれば穏やかに過ごすのが病院なんですけどね」

 

私のセリフにユウさんは苦笑いで仕方がないよと

確かにこのトラブルが解消しない限りはマンションに戻るのは危険すぎる

安全確保の観点で行くと今のこの選択は最も安全なものなのかもしれない

何の罪もない多くの人を巻き込みたくはないのだから

私はただ静かにゆっくりと生活をしたいだけ。

トラブルに巻き込まれることはお断りだし、そんなトラブルを持ち込んでくる組織があるなら潰す

徹底的につぶしまくるしか道はないのだ。できなければまたしても誰かが傷つくことになる

 

 



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第255話

とりあえず今日は病院のベッドで過ごすことになるなんて

 

「幸運の神様からは私は見放されているのかもしれませんね」

 

私の言葉にユウさんは少し苦笑いをしていた

 

「カオリちゃんは何も悪くないよ。僕なんかが言っても説得力はないけど」

 

ユウさんは以前はゼーレ側にいた。でも今は私を守るために命をささげようとしている

私にとってユウさんは大切な人。『僕』の過去を知っているけど『私』のために援護をしてくれる

こんな不幸という名の荷物を背負っている私に関わってきても良いことは何もない。

ユウさんもそのことを分かっているけど、きっとどこまでも付き合ってくれるだろうことはわかっているはずなのに

それでも協力してくれるし助けてくれる。ルミナさんや海岸の町にいる私の両親や一緒に過ごしていたみんなと

大切な人が犠牲になるかもと知ればどんな方法を選択しても抹殺する

『家族』を守ることは当然のことであり、私の義務である

何が何でも守るしかない。それだけ『家族』が私にとって大切だから

 

「カオリちゃん、今日はここで過ごしてもらうことになりそうだよ」

 

ユウさんの言葉に私はわかっていますと回答した

防弾ガラスを取り換えてもらわなければいけないのだから

被弾してしまったのだから当たり前のことだ。

防弾ガラスの交換に関するお金についてユウさんに質問しようとした

でもユウさんは私が何を考えているかに気が付いているのかもしれなかった

 

「ガラスは今日中に交換するように手配するそうだよ。ルミナさんに任せることにしたよ」

 

面倒な横やりが入ることを防ぐために動いてくれているらしい

ルミナさんにもいろいろと迷惑をかけている

もちろんユウさんにもいろいろと迷惑をかけて本当に私は申し訳なかった

だけど状況がこのまま穏やかに進むとはとても思えない。

何か大きな動きになるかもしれないからだ。今後のことを考えるとなおさらだ

私だけのトラブルにユウさんやルミナさんを巻き込みたくはなかった

だって私は神様なのかもしれないけど、少しお仕事をしない怠け者の神様だから

私のことだけを優先的に考えて行動している。

正義の味方何て存在しないことも私はよく理解している

ネルフも言ってみれば悪党と言っても過言ではない。

ゼーレの下部組織だったのだから。『僕の父』は『僕の母』を取り戻すためにあらゆる人間を利用した

私はそんなことはしない。もし海岸の町に住んでいる大切な人たちを守るためなら、

どれ程汚れた方法を使って、そしてありとあらゆる手段を選ぶことに迷いはない

もう失うわけにはいかないから。私の大切な人たちを守るために

 

「それにしてもどこが攻撃してきたのかを調べるのは大変だね」

 

そう。ユウさんの言う通りで私を狙う人間はかなり限定されている

確かにゼーレの関係者から狙われるならわかる。

だとしてもこのネルフのおひざ元である第三新東京市で事を起こすのはリスクがありすぎる。

いったい何をするつもりなのかを早急に調べなければいけない

その捜査を行うにはネルフに介入されないように対応することが重要だ

彼らに邪魔されたら捜査は進まない。下手をすれば彼らが独自に捜査を行って真実を葬るかもしれない

それはそれでいいこともあると思うけど、私的にはあまりよろしくない状況に追い込まれるかもしれない

問題をできるだけ大きなことにしない

 

「ところでカオリちゃん。気を付けた方が良いよ。今回のことでよくわかったから」

 

ユウさんの言葉にそれは私に言っているのですかと少し笑いながら答えた

私の方はまだ『特別な存在』だから。ユウさんの方が巻き込まれたらどうなるかは想像したくない

事実、私は人という領域から少し外れている。でもユウさんは人間なのだ。

私は怪我をしてもそれほど影響は出ないけど、ユウさんは人間。

少しの隙によっては死んでしまうこともある。

だから私は自分がけがをするだけでユウさんを守れるならいつでも対抗措置に踏み切る

 

 



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第256話

私はとりあえず病室でユウさんと一緒にいた時、ある気配を感じた

ユウさんも同じで誰かまで予測できていたみたいで、どう対応するかを質問してきた

 

「とりあえずルミナさんを呼ぼうかな?」

 

ユウさんの言葉に私はルミナさんがその接近してくる人物を殺す可能性があったのでそれは無しでと。

 

『少し話だけでもいいかな?』

 

「できればあなたに会いたくはないけど、情報をくれるなら話をしても良いわ」

 

では失礼するよと言って彼は入ってくる

 

「ユウさん。少し2人にしてください」

 

私の言葉に大丈夫なのかなと質問してきた。

ドアの前で待っていてもらえますかと私はユウさんに伝える

この病室に入ってきたのは渚カオル。何を考えているのか気になるところではある

 

「それで今度はあなたから私にお返しでもしたいのかしら?」

 

必要ならあなたも死んでもらうことになるけどと伝えた

もちろんウソ偽りなどはない。本気で殺すつもりはある

それぐらいのことをしないとこちらがどういう立場なのかを分からせることが重要だから

 

「残念だけど、君を攻撃すると怖い人が待っているからね」

 

渚カオルがユウさんの過去を知っている可能性はある。

もしそれを取引材料にするつもりなら私はどんな方法を使っても口をふさぐために動く

守るためには時には必要なのだ。強行的な手段を取らなければいけないこと

私はそのことをよく理解している。問題が発生してから対処してたら後手に回る

チェスや将棋と同じで先を見据えて行動計画を作らなければ大切な人が傷ついてしまう

そうならないようにするために私は徹底抗戦の構えでいるのだ

 

「実はね。ネルフ側で君の立場について議論が進んでいるそうだよ。特に碇指令やユイさんは」

 

「今更親の顔をするなんてバカな連中よ。今さら仲良く家族ごっこでもしたいなら、そんなことは私が許すと思う?」

 

「君ならそう言うと思っていたよ。それに君の存在は難しいからね。僕は君の秘密を知っている」

 

そう、渚カオルは真実を大筋でつかんでいる。でも詳細なことは話すつもりはない

問題がこじれた時に彼は私から向けられる報復を警戒している

 

「私としてはあなたを殺してあげるべきだった。あなたは自分の存在した理由を知っていたのだから」

 

そう、渚カオルはゼーレの中枢にいる立場の人間だ。

そんな人物を信用できるはずなどあるわけない。

 

「君を狙ったらどうなるかはわかっているつもりだけど。それは僕だけの話で彼女たちは違う」

 

渚カオルが言いたいのはあの2人だ。

『ファーストチルドレン』と『セカンドチルドレン』で、今も『僕』のことを追っていることは間違いない

もう『僕』などは存在しない。ただの自己満足を得るために『私』に接近してくることはわかる

だけでそれならこちらも手を抜くつもりはない

 



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第257話

 

「1つだけ質問をするわ。なぜ私に協力するのか教えてもらえる?」

 

私がかなり気になっていたことで、渚カオルが何の見返りもない無謀な立場に追い込むようなことはないだろう

だがそれだけに何を仕掛けてくるかはわからないのは問題である。

私に大量に恩を売りつけて何か利益を得るためかもしれない

損得勘定の内容を知っておくことは重要だ

 

「僕は君に助けられた。本来なら僕は存在することはあり得ない存在なのに」

 

特にゼーレに近いはずだった立場だったことや使徒出会ったことを考えるとねと渚カオルは言っ

 

「もしかしたら『僕』を利用するつもりかしら?そんなことを考えているなら鉛球をプレゼントするわよ」

 

「僕を信じてと言える立場ではないけど、ネルフの情報を提供。君を守るために用意する楯を厳重にするために」

 

渚カオルはこれからも君のためにはどんな無茶なことであっても守るために行動すると、

そう言っているが、渚カオルの言葉を信用できるはずがない

彼もゼーレの立ち位置にいたのだ。何を仕掛けてくるかを考えなければいけないことは当たり前である

 

「それで今度は私にどんな驚きの新しい情報を教えてくれるの?」

 

「君は狙われている。でもゼーレ幹部全員と直接の関係はなかった組織。言っている意味は分かるかな?」

 

ゼーレの幹部全員ではなく、その下に存在していた組織。ネルフの上である組織。

それは『マルドゥック』という組織を意味していることに気が付いて大きなため息をついた。

まだしぶとく生き残っている連中がいるとは予想していなかった

 

「それにしてもこの街に関わり始めてから私はまたあの時に戻されるのか心配なだけよ」

 

「第三新東京市はネルフのおひざ元だから、直接攻撃はしてこないと思うけど。狙撃とかは例外だけどね」

 

つまり遠距離射殺などを使って『僕』を利用するために動いている残党がいることは確かなようである

もちろん、私はある意味では『僕』とは異なる『存在』である。

だけどすべてを守ることなどできるはずがない。問題解消のためにはあらゆる対応をしていくしかない

私にとって大切なのは海岸の町で旅館で一緒に生活している『家族』。それにルミナさんとユウさん。

少しでも『僕』を利用するために動くのであれば何が何でも手段を問わないで防御策を実行する

 

「彼らにこう伝えなさい。知らない方が幸せなことはたくさんあるとね」

 

「それは僕が君のことを話しても良いと?」

 

「知ったところで今さらよ。ファーストもセカンドも同じ考えしか持っていない」

 

私は彼らが謝罪するれ場少しはいい方向に向かうと彼らが考えていることくらいわかっている

でもそんなことはあり得ない話であり、時計の針が戻らないのと同じ。

謝ったところで何もできないことはわかっている

 

「バカな連中ね。今さら仲良しになれるなんてありえないのに」

 

そう、すべてはもう過去の話だ。彼らと接触することは私の方からお断りである

 

 



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第258話

その後はいくつか渚カオルと話をした後、彼は病室から退室した

ユウさんは座り心地が良いとは言えないイスを持って入ってきた

それが何を意味しているかは察しはついていた

 

「すみません。ユウさん。迷惑ばかりをかけてしまって」

 

「カオリちゃんは僕の守りたいランキングでナンバー1だからね」

 

ユウさんは必要ならどんなことをしてでも守り抜いてみせると答えてくれた。

私にとって本当に信頼できる人は海岸の町の人たちや旅館で一緒に過ごしてきたみんな

それに私を引き取ってくれたお母さんとお父さんも大事である

ユウさんと同じで守るためなら体が血まみれになろうと守り抜く

大切な『家族』なのだから。これは当たり前の行動である

 

「そういえばユウさんの銃はどうしているんですか?」

 

「自分のものは持っているよ。それとこれはカオリちゃんのために用意したよ」

 

ライフルマークは未登録の物だから追跡される心配はないとのことだ

ライフルマーク。つまり銃の発砲時に銃弾にできる線条痕を過去に何かの事件で使用されたものだと、

市警察やネルフに銃弾のデータベースで照合されると面倒になる

それを避けるためにも新品の銃の方が良いに決まっている

 

「いつも本当にすみません」

 

私はユウさんに迷惑をかけているばかりだ。

こちらもできれば武装はしたくない。でも必要になることはわかっている

必要なら攻撃してきた敵勢力の血まみれになろうと守る

私が迷惑をかけているのに、何もかも他人任せにするのは良いはずがない

決着は私自らが始末をつける。どんな方法であっても利用する

 

「カオリちゃんを守ることは両親から頼まれているから気にしないでいいよ」

 

お母さんとお父さんは本当に私のことを心配していることはよくわかっている

本当に私はユウさんに迷惑をかけているのだから、申し訳ない気持ちがたくさんあった

こんな状況にならなければ、病院のベッドで入院することはなかった

 

「君に何かあるとルミナさんに殺されるから、何が何でも守り切らないといけない」

 

ユウさんは私の安全を守るために一緒に行動を共にしていると話してくれた

その言葉に思わず顔を赤くしそうになった

 

「ユウさん。この部屋に耳はありますか?」

 

耳というのは盗聴器のことであり、それがこの個室にあるかを知るために誤魔化す形で話した

もしかしたらネルフが盗聴している可能性があるから

知られるのはいろいろと危険になる。ただでさえ私は棺桶に足を突っ込んでいるような状況なのだ

警戒のために言葉を選ぶのは当然のこと

 

「大丈夫だよ。ルミナさんが事前に調べてすべて破壊してくれているから」

 

ユウさんは少し苦笑いをしながら教えてくれた

彼から見てもかなり乱暴なことをしてきたのだろう

 

 



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第259話

ルミナさんがこの個室を確認していることとユウさんが苦笑いをしていたことを考えると、

私を監視するために、そして利用するために盗聴器の類があったのかもしれない。

ユウさんが苦笑いをするということはかなりひどいお返しをしたのだろう。

私としては派手なトラブルになっていないのであれば良いのだけど、

 

「1つ質問をしても良いですか?」

 

私はあることを質問した。私のその問いに対してユウさんは今更隠すつもりはないようで、

率直に回答してくれた。もちろんウソがあるかどうかについてはわからない。

でも今までにおいてユウさんは私に隠し事をしたことはない。いつもすぐに答えてくれる

それに私のために自らの命を投げ出すくらいで行動してくれる

私が安心してこの街でいることができるのはユウさんがいるからだ

 

「僕はカオリちゃんを守るためにいるからね。カオリちゃんに傷を1つでもさせたら怖い人がバックに控えているから」

 

怖い人というのはルミナさんのことだとすぐに分かった

ルミナさんはいつも私のことを心配してくれている。

本音で言ってしまうとかなり迷惑をかけてしまって申し訳ないです。

問題が発生した際の対応もルミナさんが前面に出て対応、

私の存在が表に出ないように情報操作をしている。

そういったことはしてほしくないのは思っているけど、ネルフにこちらの情報が漏れることは好ましいと言えない

最悪の事態に備えて裏口を開けておくことは極めて重要である事はわかっていても

いつもルミナさんやユウさんに迷惑をかけていることに私は少し気持ちは下降気味だ

 

「でも今回の攻撃は間違いなく私が狙いですね」

 

「そうだね。カオリちゃんを傷つけるために、そして利用するために動いていることは間違いないよ」

 

そうでなければわざわざ第三新東京市で狙うはずがない

この街は何度も言うがネルフのおひざ元だから。

変な行動を起こすと確実につかまることはわかっているはず

そんなリスクがある場所で私に攻撃を仕掛けてきた。

つまりどんな手段を使っても私や大切な人たちに傷をつけるつもりであることはわかっている

 

「ユウさん。お願いしたいことがあります」

 

私がユウさんにお願いをしたらかなり驚きの表情をしていた

 

「本気でやっても良いのかな?カオリちゃんの存在が表に出ることは覚悟しないといけなくなるよ」

 

今まではルミナさんたちが私を守ってくれていた。

これ以上黙っているとさらなる攻撃を仕掛けてくる可能性は極めて高い

『ネルフ関係者』がどうなろうと私には興味のない。

でも私にとって『大切な人』を守るために必要なら手段を選んでいる余裕はない

 

「僕の方からルミナさんに話しをしておくよ」

 

でも私のこの提案をルミナさんが聞いたら驚くだけの騒ぎでは済まない

絶対に反対してくることはわかっている。それでも命を懸けてまで守らなければいけないことが今の『私』にある

『海岸の町の人たち』や『一緒に私と住んでいた旅館で一緒に暮らしている大切な人』を守るためなら、

私は断固たる意志を見せつけることが重要になってくる

 



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第260話

僕はとりあえずカオリちゃんに何か飲み物を買ってくるねというと個室を退室した。

外にはルミナさんが立っていた

 

「カオリちゃんと少し話してみないのかな?」

 

「あなたたちの会話を聞いていただけよ。分かっていると思うけどあなたも気を付ける事ね」

 

僕も狙われていることはわかっている。

カオリちゃんが『碇シンジ』であったことを知っている数少ない秘密を背負っている。

 

「カオリはあなたのことを本当に大切にしている。私から見たら敵対する立場だけど」

 

ルミナさんはゼーレを恨んでいる。ゼーレだけでなくネルフも恨んでいる

だから僕のような存在を認めるはずがない。

それでもカオリちゃんの存在があるからこそ、今も生きていることができている

恩を感じているのは当たり前の話である。カオリちゃんがいなければ世界も、そして自分も生きているはずがない

 

「言っておくけど、カオリに傷一つでもつけたらどうなるかはわかっているわよね?」

 

ルミナさんの言葉でカオリちゃんのことを本気で心配していることは明白。

おまけにカオリちゃんが僕にとってトラブルを招くような存在になった瞬間には殺しに来ることは間違いない

 

「カオリちゃんを守るためならどんなことをしてでも守るから心配しないで」

 

「あなただからできることがあるから、カオリのことはある程度は任せるけど。気を付ける事ね」

 

ルミナさんはそう言うと病院の正面玄関に向かった

おそらく監察局に戻り情報収集をするつもりであることは予測できる

ネルフとゼーレの情報を集めるためにはルミナさんの情報がまさに必要である

ルミナさんの協力がなければカオリちゃんの命を守ることはできない

 

「本当に大変だね」

 

僕はルミナさんの後姿を見ながらそうつぶやいた

 

『ピーピーピー』

 

携帯電話に着信が入ってきた。相手はある知り合いからだ。

電話をしてきた相手はこちらの『過去』を知っている

 

「君からコールとは珍しいね」

 

『あなたは射程に入っているそうよ。気を付ける事ね』

 

そう言うと通話は終了した。

射程に入っているということはこちらに何かを仕掛けてくるために動いている組織がいる

そんな組織は1つしかない。『ゼーレ』関係の組織だろう。あるいは分派かもしれない

 

「トラブルが増えるみたいだね」

 

思わずつぶやいてしまったが、これは現実にあり得る話だ

警戒することは当然の行動である。狙いはわかっている

カオリちゃんを利用してゼーレの復権。そしてカオリちゃんを言いなりにするためにこちらへ攻撃だ

大切な友人と言っても良いのかどうかはわからないが、抵抗すれば僕の命を絶つことで要求してくる

それは間違いない現実になる。それだけははっきりとしている

 

 

 



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第261話

カオリちゃんは僕を助けるためなら血まみれの戦場を生み出してまで助けてくれるだろう

でもそれはカオリちゃんのことを考えると避けたい道である

 

「カオリちゃんの護衛は最重要課題だね」

 

状況は好転しているとは言えない。現段階では何が起きるか想像することも難しい

何が何でも問題解決しなければ極めて危険であることはわかっている

問題解決ができなければ意味がない。必要なら『古い友人』に探りを入れてもらうことも必要に

 

「悪いけど、君が持っている情報が重要だからね」

 

『あなたにはいろいろと借りがあるからすぐに調べる。でも気をつけなさい。彼女は狙われている』

 

そんなことはこちらはわかっている。だからこそ何が何でも守らなければいけない

利用できるならどんな汚い方法を使っても集めてカオリちゃんを守る

 

「念のために確認するけど、もし僕やカオリちゃんに何かをしてくるつもりなら」

 

その時は覚悟はできているねと聞くと電話の相手はあなた達を敵に回すつもりはない

それにあなた達にこちらはいろいろと助けてもらっているから心配しないでと

 

『彼女の存在がどういうものなのかは私もすべてはわからないけどあなたがそこまで入れ込んでいるのに』

 

妨害工作をしたら僕に殺されると。

こちらの立ち位置をよく理解しているからの発言だ

 

「念のために聞いておくけど、彼女に手を出したらどうなるかはわかっているだろうね?」

 

『あなたに恨まれるようなことはしないわ。私も彼女に救われた。本当なら生きることは認められない』

 

僕の電話の相手はゼーレに属していた頃の友人。

正確には恋人だった。だけど彼女と僕の間には『過去の汚点』があった

だから、結婚という関係にはならなかった

友人からもたらされる情報は極めて重要になっている

カオリちゃんを守るためにも、彼女が血まみれの道を歩く前に僕が対応する

彼女にはもう傷ついてほしくない。僕は彼女の両親から頼まれている。

カオリちゃんとは本当の血縁はないだとしてもそれは血のつながりだけだ

家族というのはそれぞれの価値観によって大きく変わる

たとえ血のつながりがあるから両親に戻れるなんて考えるようなのは親とは言えない

血のつながりは無くても実の子のことを考えているなら、『両親』と言える

家族というのは互いに信頼関係があり、お互いが本当に仲良く過ごしているから成り立つ

そういうものであると僕は考えていた。

だからこそ時には厳しい状況にあったとしてもカオリちゃんを守る

これが僕にできる『彼』であり『彼女』への恩返し。

カオリちゃんがいなければ、ルミナさんに殺されていたことは間違いない

今もルミナさんは僕がカオリちゃんに何か危害を加えるような行動をすれば殺されている

ゼーレ側にいた僕を助けてくれたのがカオリちゃんである

僕の今の役割はカオリちゃんが幸せに暮らす道を確保するだけである



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第262話

ユウさんが私がいる病室を出ると、『嫌な過去』ばかりを私は考えてしまう

『あの時』は頻繁に病室で辛い思いをした。『僕』はその過去を消すことはできない。

『僕』が彼女にしたことは本当に申し訳ないとは思っている

『僕』も『彼女達』もネルフやゼーレに利用されるただの駒であった

だからとしても今になって仲良しになりましょうなんて私が容認できるはずがない

もう決別する道を選んだのだ。今後、彼らと会う時があるかもしれないけど私はこだわるつもりはない

すでに彼らとの話で決着は『僕』の中ではついている

 

「本当に嫌な過去ばかりね」

 

いつも考えてしまうことだ。今の『私』も『僕』もどうやら病院とは関係が密着したものになっている

もちろんそんなものは私は望んでいないし、だれが好きで病院にいたいと思うものか

『私』は『海岸の町』も好きだけど、広い世界を見ていくことも望んでいる

でも、物事は簡単に進まないことは十分に理解している

ただ広い世界を見たいだけなのに、『僕の過去』が『私が望む未来』を見たいということを容認してくれない

必ず邪魔が入ってしまうならいっそのこと殺せばよかった

仮に『僕』が『神様のような存在』であっても、今の『私』には関係がない

それに人の罪を裁くのは人々が定めた法という名の番人だ

いくら私情があっても、『僕』やエヴァパイロットに与えた『罪』、

それを今の『私』が独断で裁くことはあってはならない

私が、『僕』が神と同じような存在でも裁くのは人々が定めた法律でなければならない

『神様とほぼ同じ』である『僕』が裁くことはいけない

人の罪は人が定めた法律によって裁かれなければならないのだ

私利私欲で好き勝手に『僕』が裁くなんて、今さら『私』することではない

 

「権力なんて問題の種を植え付ける事しか価値はないかもしれない」

 

権力は『甘い蜜』と同じだ

その『甘い蜜』を味わってしまうと逃げることはできない

再び手に入れようとすることは当たり前のことである

ネルフは自らの罪を『ゼーレ』に押し付けて自分たちは『英雄』気取りだ

はっきり言わせてもらうなら、すべての責任をゼーレに押し付けてネルフは甘い蜜だけをなめ続けている

それは今後も続くことは簡単に予測できる

でも今は監察局が存在する。ネルフの行動を常に監視している

ルミナさんやユウさんは『僕』と『私』のために警備がつけられていることもわかっている

2人には迷惑をかけたくないけど、こればかりは身動きができない状況だ

下手に動くと多くの関係者を巻き込んで、私の大切な人が傷つくかもしれない

大切な人を守るためなら『僕』はいろいろな人を巻き込むことはわかっていても、

守ることは絶対にしなければならない。『僕』が『私』であるためには必要だから

 

「人はどうして平和を愛することができないの?」

 

私は本当に思っていることである

平和をもたらしたつもりであったけど、現実はそうはいかないことは間違いない

世界中の政府は権力を得るために、甘い蜜を得るためにかなり必死に動いている

そのことについて私がどうこう言う立場ではないかもしれないけど、

多くの罪なき人々の犠牲が無いことを願いたい

 



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第263話

私はカオリのことは彼に任せることにした。

今は彼が最後の防波堤であることはわかっている

それにカオリが彼のことを信頼している。カオリは彼と一緒にいることで『世界が安定』することができている

失ったらカオリは復讐するためにあらゆることをするだろう

すでにゼーレの元締めであるキールを国際裁判にかける段階まで話を進めている

動き出したら止まらない時計の針と同じでカオリは大切な人を傷つける人間は許さない

徹底抗戦の構えで行動を行うことは容易に想像することはできる

 

「今は見張りをつけるしかないわね」

 

私はそんなことを呟きながら病院の廊下を歩いていると1人の男性を見つけた

 

「加持リョウジ、今回の一件はネルフが絡んでいるの?」

 

彼と少し話をすることにした。私たちは微妙な立場である

下手に接触している様子をネルフ側に知られると問題になりかねない

できる限り偶然接触したということにすれば少しは言い訳はできる

どこまでその効果があるかは全くわからないが。影響が出る範囲は抑え込むためなら仕方がない

何もしないというのでは問題になることは誰の目から見ても明らかだから

 

「カオリちゃんのことで少し話をしようと思っただけだ。彼女に俺は助けられてばかり」

 

恩を仇で返すつもりはないと言ったがどこまで信用できるかはわからない

この男もゼーレの立場にいたことはわかっている。おまけにネルフの機密情報も扱っている。

信用するかしないかを判断するのは簡単なことではない

人間は自ら利益を得るためならどんなことをしてでも手に入れようとする

例えば誰かを殺しても。その人物や組織に利益があるなら何でも行うものだ

 

「ゼーレの分派が動き出していることはネルフでもつかんでいるよ」

 

その話を聞いて私は大きなため息をついた。

この状況が続くことはかなり好ましくない。影響がカオリにまで出ると大問題になる

碇ゲンドウと碇ユイたちが何か仕掛けてくるかもしれない。できるだけそういうリスクは避けておきたい

仮に問題が発生しても被害を最小限にするために動くことが求められる

 

「彼らのターゲットは彼女であることは間違いない」

 

加持リョウジの話に私はため息をついた

さっさと捕まえてくれると助かるのだが

おそらくゼーレの関係者を確保するために監視だけにしていることは想定できる

できる限り時間はかけるわけにはいかないが、

背後関係を調査してから身柄確保をするつもりであることはすぐに分かった

証拠を消されたら、他の敵対勢力の情報が得ることができない

一気に根絶やしをするために泳がしているのはわかるが、私としては急いで確保してほしいところだ

 



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第264話

俺は『彼』に助けられた。本当なら生きているはずなどありえないのに

全ては世界中の誰もが、死んだはずの人間が生きていることを『奇跡』だと考えているはず

でも現実はそういうことではない。『彼女』が俺たちにチャンスを与えてくれた

だからこそ『死者』にならず、今も生きていることは『彼女』がいたから

助けてもらったのならお礼をしなければいけない

 

「カオリちゃんは本当に大変だね」

 

俺はあの倉庫で死ぬはずだったのに今も生きている

生きることの幸せを分かったのだから恩返しは当たり前だ

俺はカオリちゃんの見張りを信頼できる人物に任されていることは知っているので、

すぐに病院から離れることはできる。

だがこちらの情報を提供することも大切だ。

ルミナさんにネルフの内部情報を漏らすのは危険すぎるが、

彼女に提供しないとカオリちゃんへの恩返しにならない

カオリちゃんの立場を考えるとできるだけ密かにこちらから監視されることを知らせることが必要になる

俺は『彼』に助けられたのだから、『彼女』の安全のためにはできるだけのことをする

1度は死んだ人間だからこそ、『彼女』を守る。

『彼』が俺を生きていられる道を与えてくれたのだから

だったら今度は俺が『彼女』を守る。恩返しをしなければいかない

 

「今の状況が続くとかなり危険になりそうでね」

 

俺の話に彼女は『面倒ばかりを起こしてくれるのはネルフもゼーレも変わらないわね』と発言した

確かにその通りである。問題は大きく複雑になっている。

今後の対応に関してはかなり危険になることが想定される

 

「カオリが再度狙われる可能性はあるの?」

 

「ネルフでも情報収集のために動いているけど、どんな結果になるかはまだわからない」

 

俺としてはさっさと捕まえて、いろいろと取り調べたいのだが連中もバカではない

彼らが最大のターゲットにしている『彼』を守るためには一網打尽にすることが求められる

小規模の集団を捕まえてもモグラたたきとかわらない

すぐに新しい芽が出てくる。摘発するのは簡単なことではない

 

「まさか、またカオリを利用するつもりじゃないでしょうね?」

 

ルミナさんが懸念しているのはカオリちゃんをデコイにしてうまく利用するのではないか

俺としてもそんなことはしたくない。したくないのではなくしてはならないのだ

カオリちゃんを守るためなら俺が必要に応じて権力乱用を行うつもりでもいる

最悪の状況になった場合、どういう展開になるかは予測できないが巻き込むわけにはいかない

そうなる前に連中を仕留めていくしかないことは俺でもよくわかっている

ネルフのトップである碇司令はどう考えているかはわからないが、

碇司令もカオリちゃんが起こした『奇跡』によって救われた

それを考慮するとそんなことになる前に摘発することはできるはずだが、

確かな確証があるわけではないことも事実であることは疑いようがない

 

「カオリちゃんを利用することを考えているのは限られた人物だよ」

 

俺の言葉にルミナさんは一部でその状況を好ましくないと考える者がいるようねと俺に伝えた

問題はミサトが黙っていることはないことを分かっているようだ

 

「あなた達は本当にトラブルを起こす天才ね」

 

「俺は彼女を守るために動いている。あの時死んだはずなのに今も生きているのは彼女のおかげだから」

 

俺は繰り返して言うようだが、時にはネルフよりも彼女の安全確保のために動く

俺の発言にルミナさんは信頼はあまりしていないけどといいながらも、少しは期待しているわと回答した

 

 



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第265話

私は監察局に戻っていた

するとすぐに内線電話で青崎局長に呼ばれた

私はジオフロントにある監察局の廊下を少し小走りのような状態で局長室に向かった

監察局長室のドアの前に着くと深呼吸をしてドアをノックした

蒼崎局長は入室を認めてくれたので局長室に入った

 

「ネルフが組織を動かして彼女に手を出すことは止めているよ」

 

局長のセリフに私は局長が圧力をかけてくれていることを察した

どんなネタで脅したかどうかについてまで追求するつもりはない

しかしカオリを守るためには状況把握は最も必要なことである。

カオリの周辺人物に関する情報を得るには局長と話し合いをして内容の共有が重要である

 

「今回の一件についてのマスコミ対応のシナリオを用意したよ」

 

局長から私はファイルを受け取った。

マスコミには表向きは反ネルフの武装組織が的を外して一般人にけがをさせたというものだった

カオリを守るには報道管制がある程度必要になってくることはわかっている

最大の課題はどこまでなら報道を認めるか

 

「彼女の警護は今まで君に任せてきたけど、状況は変わったよ」

 

局長の言葉に私はネルフの一握りの幹部がカオリのことを。

あの儀式の真実を暴くために、暴れる可能性があるとすぐに理解した

 

「カオリの真実を知っているのは限られたメンバーだけです。ネルフ側でそれを知っているのは」

 

『彼女』が『彼』であることを知っているのは渚カオルと碇レイと惣流アスカ。

そしてネルフの上層部の人間。それも碇ユイと碇ゲンドウなどだ

渚カオルに関しては多少は譲歩しても良い。

問題があるとするならエヴァのパイロットの碇レイと惣流アスカだ

幼い人間はどんな行動をしてくるか想像できない

 

「ネルフからの監視についてはこちらの脅しが今は効いているけど、子供たちまでそれが機能するかはわからない」

 

そういう事ですねと局長に確認するとその通りだよと回答をくれた

問題はここから先だ。カオリが入院していることがネルフ側に漏れている

もちろん知っているメンツはかなり限定されているはずだ。

だけどカオリのことを利用価値があると判断してとんでもないことを仕掛けてくるかもしれない。

複雑に絡み合っている思惑を考えるとこちらもマニュアル作成が極めて重要になってくる

 

「ところで彼は大丈夫かな?」

 

「局長。今のカオリにとって彼は大切な人です。仕方がないから耐えるしかないことを覚えました」

 

相葉ユウ。カオリにとって彼は大切な存在だ。

永久に生きることはできないが、今の状況では相葉ユウの存在は大きな価値がある

私としてはそんなことを認めるのは苦渋な決断でしかない

彼はカオリにとって『海岸の町』の人の中で『両親』と同じくらいに大切に考えているくらいわかっている

だから仕方がないと判断するしかない

 



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第266話

 

「誰が今回のことを仕掛けてきたかだな」

 

カオリちゃんを狙う人物はかなりの数になることはわかっている

ゼーレの分派が存在していることはこちらにも情報が入っている

もちろんゼーレの幹部のほとんどが逮捕されて裁判にかけられることは間違いない

カオリちゃんを狙っているのはゼーレの分派や過激派であることは想定できている

真相を知るにはかなり危険な行動をしなければいけないが、

そのようなことを今の僕で行えばまたカオリちゃんにどれほどの危険な行動をされるか

 

「本当に困ってしまうね」

 

僕はカオリちゃんを必ず守り続ける

たとえその防衛行動が法的に問題が発生するような事であってもだ

『過去』で『俺』は守らなければいけない『一線という名のライン』を踏み越えている

警察に捕まったとしてもルミナさんが何とかしてくれることはあるかもしれない

ルミナさんもカオリちゃんを守るためには『手段』を問わないで行動してくれるだろう

問題があるとするなら僕の方だ

カオリちゃんは大切な人が傷ついたことを知れば自らを追い詰めることになる

そんなことにならないようにカオリちゃんには気が付かれないように対応することが必要になる

彼女を守るためなら僕は自らのコネと人脈を利用して情報収集を行う

 

「カオリちゃんは知らない方が良い世界があるから、真相を知らないで生きてけるように手助けをしないとね」

 

カオリちゃんに負担にならないように何とかすることが求められることは多い

それにこんな言葉がある。『知らない方が幸せ』という言葉がある

真相を知らなければ狙われることは少ないはずだが、

カオリちゃんにそれが適用されるかどうかについて考えた場合ではそうなることは考えにくい

ネルフやゼーレの『真実』を知っている。それも深いほどの関係があったことは間違いない

その影響をまともに受けることになった。僕はカオリちゃんを何が何でも守らなければならない

『彼女』、いや『彼』に僕は救われた

本来なら裁判を受けて刑務所で終身刑か死刑判決を受けることになっていたけど

カオリちゃんがそれを止めてくれている。恩返しをするのは義務であると考えていた

僕が救われたなら今度は彼女を救う

 

「とりあえず、カオリちゃんと話でもしようかな」

 

カオリちゃんも少しは落ち着くことができるかもしれない

できることなら、カオリちゃんが歩む人生を穏やかな道にするにはやらなければいけないことがある。

それはゼーレがすべて掃討できない限りはカオリちゃんの安全を守ることはできない

自宅と近所との付き合いについては僕ができるだけ担当する

今はまだ落ち着いた人生を味わってほしい。海岸の町でゆっくりと暮らしていたのだから

その時のように、ここでも同じように暮らしてほしいけど簡単に進む事はない

 

「カオリちゃん。今いいかな?」

 

病室のドアをノックした時、違和感を感じた

室内に人がいる気配がない。それと窓が開いているのか風の音が聞こえる

ホルスターから銃を抜いて一気に突入したら、病室にいるはずのカオリちゃんは消えていた

カオリちゃんがさっきまでいたとされるベッドを触るとまだぬくもりがある

つまり、一瞬の隙ができた時間を狙った犯行だろう

 

「カオリちゃん」

 

これで決まりだ。カオリちゃんは誘拐された。

それがどれだけ危険なことなのかを瞬時に理解した



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