ウチの飼い猫が俺を魔法中学生にしてくれました (豚野郎)
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第一章 
1話


「……これが最後になるかもしれないな。……悪いな、巻き込んじまって」

「何言ってんだよ。お前がいなくたって、こうなってたさ」

 学校の屋上に二人で佇む。見据える先には、俺達の宿敵がこちらを目指して歩いてくる。

「………なあ、今更だけど……でかすぎねーか?いつもの十倍くらいあるよね?…正直帰りたいんだけど…」

「俺だってそうさ。こんなのやめてさっさとずらかりてーよ」

「じゃあ、二人で逃げちまわない?とか言って…」

「バカ言うなオワダ。護るって決めたんだろう?この学校を」

「そう…だったなハタケヤマ。…よし、やるか!」

「そうだ。護ってやろうじゃんか!この学校を———」

「———花粉症から!!」

 

 

 

       ☆

 

 

 

 どんよりと厚い鼠色の雲の下、俺、小和田 六矢(おわだ りくや)はお気に入りの黒い傘

をさしながら雨の滴る路上をとぼとぼと歩く。

 花粉症の身であるこの俺にとっては、三月に朝から夕方にかけての豪雨というものは

大変ありがたい物である。

「鼻と喉の調子も良いし、…今日の夕飯は少し張り切るか」

 ………………みゃあ。

「……………?」

 ま、まさか…………猫の声か………!?

 野良猫だろうか。気になって辺りを見回す。

 だがしかし、俺の大好物である猫なる動物の姿は見受けられなかった。

「…なんだ、気のせいか………………」

 はあ、と深いため息をつき、再び路上をぺたぺたと歩き始める…。

 ………………みゃあ。

「やっぱりいるじゃんかよ…………!!」

 それこそ獲物を探す猫のような目でもう一度、周りを見渡す。

 ふと、斜め後ろの電柱の根元に置かれた段ボールに目が止まる。

 ………………みゃあ。

 間違いない。あれだ。

 雨粒が道路を叩く音で自分の足音すら聞こえない中、猫の鳴き声だけが奇妙なほどにはっきりと聞こえる。

 段ボールに近寄り、ぐしょぐしょに濡れたふたを開ける。

 中には、凍えて丸くなっている虎柄の子猫がいた。

「……捨て猫かよ……」

「……みゃあ」

 子猫を持ち上げ、そっと抱きしめ、頭を優しくなでる。満月の様に丸くて美しい瞳が愛らしい。

 子猫はかたかたと寒さに震えながらこちらを見つめている。

「………うちで暖めてやるか……」

 そのとき、子猫の全身が赤く光った。それは一瞬の出来事で、すぐに光は消えてしまった。

「おっ、な………なんじゃこりゃ!?」

 今度は、俺の手が赤く光っている事に気づく。良く見れば足も、身体も。

「おっ、おい。とまらねーぞこれ!」

 ある事に気づく。

 ………………空が赤い。

「なんなんだよ一体…………」

 いつの間にか雨と身体の発光は止んでいた。路上は乾ききり、周りには何者の気配もない。

 何より、周りの景色に色彩がない。電柱も、横に並ぶ家の屋根も、全て灰色に統一されている。

 それよりも………………。

「あいつ、どこに行ったんだ……?」

 今まで抱いていた猫の姿が見受けられない。どこかに行ってしまったのだろうか?

「つーか、何処よここ」

 いる場所はさっきと変わらない。しかし、空の色と言い、周りの景色と言い、明らかに、そうまるで、アニメや漫画で良く見るパラレルワールドに来てしまったような感覚に落ち入る。

「まさか死んだなんてことはないだろうし………………とりあえず、帰るか……………」

 乾いた傘をまとめ、再び帰路をなぞる。自分でもなぜ、こうも冷静でいられるのかが良く解らない。

 自分の陰を見つめながら歩いていると、いきなり陰が巨大化した。

 それが自分の物でないと悟り、振り返る。

「………は、……え………………なんだよ…」

 そこには、極長の金槌を振りかぶった自分の身長の二倍は有ろうかと言う程の、黒マントをかぶった<骸骨>がいた。ビジュアルからしてどう見ても死神だ。

 まさか俺、本当に死んだんじゃないよな……………?

 骸骨はげたげたと顎を鳴らしながら、無造作に金槌を振り下ろした。

 それを俺はほぼ奇跡と言って良いくらいのタイミングで身を後ろに倒し、辛うじて避ける。

 ベコリとへこんだコンクリート製の地面が、今の一撃の威力を物語っている。

 ………え?マジ?今の……当たっていたら俺、死んでいた?

 今になって恐ろしくなる。全身からどっと冷や汗が出て、脳髄がミートソースの様にぐちゃぐちゃになる感覚にとらわれる。

 恐怖で動けない俺を無慈悲にも骸骨は再度、金槌を振り上げ、俺に叩き付けようとする。

「ちょっ、まっ、……いや、無理だから無理無理。………無理ですからああああぁぁああぁぁぁぁああぁあぁあぁあーーーーーーっ!!」

 フライングを犯した我が正気を追いかけるように、骸骨に背を向け、一目散に逃げる!!

 骸骨は俺をあざ笑うかの様にかたかたと音を鳴らしながら蟹股でこちらを追いかけてくる。

「あっ、ちょっと。まってくださぁ〜い!」

「しゃべるのかよお前!!」

 それもやたらと口調が優しい!

「そりゃ喋りますよ。生きてるんですから私。なにか不都合なことでも?」

「不都合だらけだ!つか、こっち来んなよ!」

 意外にもヤツの足は遅いようだ。このまま、逃げ切れば良いんじゃ………?

 曲がり角を行った先、もう一つの陰を見つけた。

 あれは………………人!?

 女の人だ。背丈は俺より少し高い。腰まで掛かる黒い髪。

 そして何より美しく発達した太ももと豊かな胸がエロくて目のやり場に困る。

「……ひっ、ま、魔女……」

 後ろで、骸骨がブレーキを踏んだ気配を感じる。おびえているのか?

 俺も足を止め、女の人を見る。

「…………………………」

 女性は無言でこちらに歩み寄ってくる。

 なんとなく道を開けてみせる。

 しかし、女性は進行方向をずらし、尚もこちらを目掛けて歩いてくる。

「…………傘を貸してください」

「え?あっ、はい……………その…俺を助けてくれるんですか?」

「勿論です」

 笑顔で言われる。

 すると女性は傘を刀を持つ様に、中段に構えた。

 俺の渡した傘が先ほども見た赤い光に包まれる………………。

 今まで女の人を警戒して、ぴくりとも動かなかった骸骨が、糸が切れたかの様に女性に突っ込む。

「畜生!魔女だろうと何だろうと、僕の邪魔をするヤツは全員葬り去ってやる!」

 骸骨が飛び上がり、金槌を大きく振りかぶる。妙に清々しい骸骨だ。

 しかし、女性の方が先に動いた。赤く光る傘を横に一振りする。

 金槌が真ん中から横に切断される。

 体勢を崩した骸骨が女の人の上を飛び越し地面に転がるが、すぐに受け身を取って起き上がり、再度飛びかかろうとする。———が、やはり見知らぬ女性の方が一枚上手だった。

 女性は骸骨よりも先に相手に飛び付いていた。

 着地に会わせた右斜め上からの撫で斬りをかます。骸骨は身を引くが、時既に遅く、あばら骨にばっくりと斜めに傷が入る。

「グ………………ィィィィギギギギギギイ………………………ッ!!」

 うめき声を上げて踞る骸骨に再び傘を振りかぶる女性。

 振り下ろす瞬間に最後の力を振り絞った骸骨が身を横に転がす。

 女性の一撃は空を斬り、その隙に骸骨は頭のついてない方の金槌のグリップを捨て、こちらに飛びかかって来た。

「…う、うわあああぁぁぁぁああああっ!!」

 情けない声を上げて両腕で顔を隠す。目を閉じる瞬間に見た骸骨のギラギラとした目がとても恐ろしかった……………。

 ばぎゃぁ、と骨の砕けた嫌な音がする。

 一瞬、自分の頭蓋が破れた音かと思った。腕の間に隙間を作り、目を開ける……。目の前には先ほど貸した傘の先端があった。

 骸骨は背骨を貫かれて、かたかたと苦しそうに顎を鳴らしている。後ろには右腕を前に突き出した女性の姿が半ば見受けられる。

 女性が傘を右に振ると、骸骨は道路に投げ出された。弱々しく点滅する赤い目が辛うじて息をしていることを物語っている。

 決着がついたと言わんばかりに、女性は再び歩み寄ってくる。

 ことの状況が理解できず、俺はなさけなく呟く。

「さっきから一体、どうなってるんだ……」

「……時が来たら、また会って、説明することになるでしょう。あなたが思っているよりもずっと早く」

 

 

 

      ☆

 

 

 

 気がついたら、俺はさっきまでいた道路に佇んでいた。

「……夢………だったのか?」

 ……寒い。足下に何故か折り畳まれたお気に入りの傘が落ちている。

 制服がぐしょぐしょに濡れている。

 でも、……さっきの出来事は……。

「夢にしちゃあ、はっきりしすぎてるよな…」

「にゃあ」

「…あっ、悪いな。寒かっただろ。今暖めてやるからな」

 腕の中の子猫が完全に凍えている。このままじゃ可哀想だ。傘をさし、早足で家を目指す。

 歩きながら、さっきのことを思い出す。

 …女の人……骸骨……赤い空……俺だけ……女の人……女の人……そして大きなおっぱい…。

「ぐはあっ……!」

 だめだ、思考があらぬ方向に転がってしまって、まともに考え事ができない……。

 それからは何も考えないことにした。考えた所で思考がおっぱいに行くか気分が悪くなるかのどっちかだからだ。

「…ただいま……って、おふくろ、今日は遅いんだっけ」

 玄関に入って真っ先に風呂場を目指す。

 バスタオルを棚から取り出す。

 それで子猫を包み、毛にまとわりつく水分を吸い出してやる。

 ドライヤーで更に水分を飛ばし終えると、棚からもう一つバスタオルを取り出し、今度は自分が制服を脱ぎ、身体を拭く。

「着替えてくるか…」

 子猫をリビングのソファーに置き、二階の自分の部屋で私服に着替える。

 再びリビングに赴く。

「腹減ってるだろ?今何か用意してやるからな」

 キッチンの炊飯器から昨日のあまりのご飯を器に載せ、冷蔵庫からこれまた夕食のあまりのマグロの刺身と鰹節を取り出す。

 それを混ぜ合わせ、床に置く。ようは簡単なねこまんまだ。




指摘、コメント等ありましたらよろしくお願いします


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2話

 

 ソファーから猫を抱き上げ、高い高いをする。

「雌か……」

 下腹部を凝視する。うん、あれがついていない。

 まあ、雄だからってどうという話でもないんだが。

 ねこまんまの器の前に猫を置く。

 猫は鼻で匂いを嗅ぎこちらを一瞥すると、素直にねこまんまを食べ始めた。

「ずいぶんお腹が減ってたんだな…」

 頭をなでてやる。

 ずいぶんと人懐っこい猫だ。段ボールから抱き上げた時もそうだったが、爪も立てなければ、こちらを警戒する声一つ上げない。

 それよりも、……どうしようかな……。

「ちょー飼いてえ」

 これは交渉の余地ありだな。

 テーブルの上から自分の携帯を取り、おふくろの美津子に是非を問うメールを送る。

 今日は遅くなるって言ってたし直接聞くにせよ、メールで返事が返ってくるにせよ、少し時間がかかることだろう。まあ、ウチのおふくろは結構おおらかな性格をしているから猫くらいは飼わせてくれるだろう。

 猫はしばらくこのままにしておいて、風呂でも沸かすか……。結構雨で濡れてしまったし、猫も洗ってやらないといけないからな。

 再び風呂場に行き、風呂の栓を抜く。水が抜けたら洗剤を内側にまんべんなく振りかけ、ブラシでごしごしと汚れを落とす。水で泡を洗い流し、お湯を入れたら今度はキッチンで昨日の洗い物を食洗機にかける。

 すねに何か柔らかい物が当たる。

「おっ、ようやくごちそうさまか」

「にゃあ」

 見るとねこまんまを食べ終えた猫が俺のすねに額をこすりつけている。

 あっ、ダメだこりゃ。おふくろがダメって言っても俺絶対この娘飼うわ。

「一足先に身体洗ってやるか………」

「にゃあ」

 上着とズボンの裾をまくり、三度目の風呂場突入を行う。

 桶いっぱいにお湯を注ぎ、シャンプーを少し混ぜる。人間よりも肌や毛がデリケートな猫に対しての配慮だ。

 頭に掛からない様に熱くない程度のお湯をかけてやる。

 普通は嫌がったり暴れたりする物だが、なかなかどうしてこの猫はたじろぎもせず、ゆったりとシャワーを満喫している。

 次は薄めたシャンプーを手で掬い、身体を洗う。猫はじっと、目を細めて気持ち良さそうにしている。まるで人間みたいだ。

 案外、毛も身体も清潔で、シャンプーの泡に薄黒い垢は出ない。捨て猫とは到底思えない。

 シャワーでシャンプーを落とし、風呂場から出す。

 先ほど使ったバスタオルは洗濯機の中に放り込んでしまった。

 引っ張りだして再度使用するのも気が引けるため、少々非合理的だが棚から新しいバスタオルを取り出して猫を拭く。棚を見ると残りのバスタオルがあと一つしかない。これから俺が風呂に入ることを考えると、残りの数はゼロと言って良い。

「おふくろ、怒るだろうなあ……」

 これは段取りを間違えた。帰って来てすぐに風呂に入れてやれば良かったなあ…。

 おふくろから中学生なんだからいい加減に家事くらい自分でやれ、と言われてから料理や部屋の掃除はできる様になったが、未だにこういう計画的な所ではミスをしてしまう。

 ちゃんと謝れば許してはくれると思うが、多少の御小言は覚悟しないと行けないかもしれない。

 そんなことを考えつつ、バスタオルで猫の身体を拭く。

 一通り拭き終えたら今度はドライヤーでマイ・ハn———もとい、猫の身体に蔓延る水分に止めを刺す。

「うっし、気持ち良かったか?」

「にゃあ」

 バスタオルを、ほんの少しの罪悪感と共に汚れた同類達が待つ洗濯機に突っ込む。

 作業が一段落ついたから、少し暇になる。

 部活無所属の中学二年生である俺は、受験勉強に追われることもなく学校のHRが終わったらまっすぐに家に帰って来ている。

 てな訳で、ただいまの時刻は……。

「午後四時……。飯作るのにも遅いし…何やるか…」

「お米は先に磨いで水につけておくと美味しくなりますよ」

「ん、ありがとう。そうしておくか…」

 ん……?今、俺誰としゃべった?

 …ハハハ。まさかついに俺にも見える様になったのか、ゴーストとやらが。

 おそるおそる振り向く。

 そこには———

「◎%¥&$×#△!?」

「え?ど…どうしたんですか?」

 目の前には、先ほど夢で見た女性。忘れようもない。奇麗な髪とそしてHな太ももとおっぱい……。

「ぐはあ…!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「……いつの間に…家へ……」

「いつの間にも何も、あなたが私を…って、もうこんな時間ですか」

 …訳が分からない。

 彼女は俺が家に入れたって言っているが、そもそもこんなモテるどころか女子から直視すらしてもらえないこの俺が、こんな奇麗でHなお姉さんをどうやって家に連れ込むって言うんだ………?

 こんな時間とか言ってるし、なんなんだ全く……。

「あっ、失礼しました。この姿で会うのは始めてですね。いや、あちらではもう会っていますか」

「は、はぁ……。と、とりあえず立ち話もなんなんでソファーに座ってもらえますか?———何か飲み物はいりますか?と言っても、お茶とブラックコーヒーくらいしか無いんですけど……」

「…あっ、それじゃあコーヒーを御願いします」

 見た目は年上そうだし、下手に回る。

 台所の冷蔵庫からコーヒーを取り出し、食器棚から取った二つのガラスコップに注ぐ。

 女性は妙にかしこまった感じでソファーに座る。テーブルにコヒーを置き、テーブルを挟んだ向かい側のソファーに俺も座る。

「ちょ〜っと質問良いですか?」

「どうぞ」

「あなたは……誰?」

「…トラコと申します」

「いやそういうんじゃなくて。……まあ、ややこしいから良っか。んじゃ、どうやって家に入ったんですか?」

「その……あなたに連れられて」

 これだけ聞いたら俺は危ない誘拐犯だ。

「身に覚えが無いんですが……」

「じゃあ、先ほどあなたが遭遇した戦闘については見に覚えがありますよね?」




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3話

ちょっと話を急いで進ませ過ぎてしまったので修正を加えました


「……………え?」

 ははは、何おかしな事を言ってんだこのねーちゃん。先ほどの戦闘ってあれだろ?路上で俺が変な妄想に狩られて———いやいや、待て六矢。焦って答えを出そうとするんじゃないぞ?もっと落ち着いて時間を掛けて良いから良く考えろ六矢……。

 いや、考えるより思い出した方が早いな。そうだ、思い出すんだ六矢…。よーく、よぉ〜〜〜く思い出すんだ六矢……。

 

 路上で猫を拾う→猫が光る→骸骨あらわる→Hなねーちゃんあらわる→骸骨フルボッコ→家に帰る→猫を家に入れる→さっきのHなねーちゃんあらわる

 

 すると………俺が家に入れたのは虎柄の猫だけだし、今この時、あの猫は見当たらない。

とすると彼女は……。

「マイガッ!!」

「はわわ!大丈夫ですか!?」

 自分の狂った妄想が恥ずかしくなってテーブルに額を強打する。まさか…まさかな……。

「大丈夫れす……ちゃんと覚えています…」

「れす?」

「大丈夫です」

 我ながらバカバカしいが、聞かなきゃ始まらないことに変わりはない。

 よし、覚悟を決めろ六矢。こんな非モテ道まっしぐらの俺が今更年上のねーちゃんにおかしなこと聞いてドン引きされたってどうということは無いだろ…?

「気分を悪くしましたら謝りますが…………まさかあなた、猫だったりします?」

「え?今更ですか?」

「マイガッ!!」

 再び額をテーブルに強打する。じゃあなんでちゃんと服を着ているんだ……?

「本当に大丈夫ですか……?」

「だ、大丈夫れす……。……そんなことより、何言ってるんですかお姉さん。さすがに冗談キツいですよ〜。HAHAHA」

「う………まあ、普通はそうですよね。いろいろ訳ありなので話すと長くなりますが、お時間の方は構いませんよね?」

 え?何このねーちゃん?マジであの夢のこと話すの?

 あれ?てか、このねーちゃんが夢の話をする時点であれは夢では無いんじゃないのか…………?いや、にしたって、あの出来事が現実の物とは思えないし……。

 トラコさんとやらはコーヒーを一口飲んで、もうすでに話す気満々である。

「別に構いませんけど……」

 それからトラコさんはかれこれ二時間近くにわたって俺の身に起きた出来事とこれから俺がしなければならないことについて丁寧に話してくれた。これは彼女が話してくれたことを簡単にまとめた物である。

 

 ———一週間ほど前、もともと九重 虎子(ここのえ とらこ)は人間の女子高校生で、あるとき彼女はスロックスと呼ばれる異世界の化け物の襲撃を受けた。その生態は極めて獰猛で、人を不幸にすることをなりわいとし、その時に不幸にした人間からこぼれ落ちた生命力を吸って生きながらえている。力の強い者は人に化けることも可能で、標的は子供か老人。自分たちの存在がバレることを嫌い、大人には手を出さないらしい。

 スロックスを撃退するための存在、魔法学生であるトラコは撃退に向かった。

 そもそも魔法学生と言う物は、その名の通り、魔法を使ってスロックスを倒す学生のことである。

 何故学生なのかと言うと、人間が魔力を蓄えたり使用したりするにあたって最も適している肉体状況を年齢で表すと十三歳から十九歳と、丁度日本の学生の年齢と重なっているからだ。

 その魔法学生達はスロックスを探知、撃退することで本来起こるはずの無い余計な不幸から人々を密かに護っているのだ。さらに、倒したスロックスの魔力は魔法学生の体内に吸収され、幸福の力に変わり、自分に降り掛かる不幸を追い払ってくれるのだ。

 先ほどにもあった様に、トラコもその一員である。

 そして魔法学生の宿敵たるスロックスの中にも極めて凶暴で強力な敵もいて、今回トラコが闘ったスロックスは魔法学生の間でもSSランクと呼ばれるほどの強大な物で、かなりの手だれ(自称)とやらのトラコでも返り討ちとまでは行かなかったが、完全消滅させることはできずに、不覚にも呪いを掛けられてしまった。

 その呪いという物が猫化。文字通りトラコの身体を猫にしてしまうという物だ。

 流石に聞く限り猛者のトラコに呪いを掛け切ることはできず、毎日午後四時から午前二時までと日曜日の間は人間の身体でいられる。

 トラコは母親と二人暮らし————だった。

 父親はトラコが産まれてすぐに離婚。母親は一年前にベトナムの医療関係の仕事に出ていってしまい、実質一人暮らし。生活費はバイトでやりくりしているという。

 猫の姿では当然学校やバイトにも行けず、このままでは生活が破綻してしまう。それどころかスロックスの間ではレベルの高い魔法学生は恨まれていたり賞金首になっていることが多く、どのみち襲われて殺されてしまう。それだけは避けたいため、意を決して学校に退学手続きを出し、自ら道ばたの段ボールの中に入って用心棒になってくれる魔法学生の素質のある人が拾ってくれるのを待っていたという。

 霊感などには一際敏感だと聞く猫にはどうやら人の魔力が見えるらしく、最初に魔力の強い俺を見つけ、魔力を込めた鳴き声で俺に呼びかけて接触した時に俺に自分の魔力を流し込み、魔法中学生にしようとしたらしい。

 その時、丁度低級のスロックスがトラコを襲って、魔力の伝達中だった俺も巻き添えを食らってしまったという訳だ。

 トラコは最後の力を振り絞って人間に戻り、俺を助けた。

 そして今に至る。

 

「言ってることは現実味に少し欠けますが、俺の実体験もあることですし、一応信じますが。……よくよく考えればこれって結構博打なやり方ですよね?」

「ん〜…まあ、それもそうですね」

「俺がちゃんとした家計を持っていて、今ここにおふくろがいたらどうするつもりだったんですか?」

 トラコさんの目がすうっと鋭く凶悪になる。

「やり方はいくらでもありますよ。…例えばあなたの御家族を全員暗殺して、そのあとに私の身体であなたを懐柔するなり何なりすれば、あとは死体の隠滅を済ませれば完了です。ご近所の方には海外出勤した御両親の代わりに雇われた家政婦とでも名乗っておきましょうか……」

「………………………」

 顔面蒼白な上に変な妄想を頭にちらつかせて鼻から血を垂らしている俺を見たトラコさんは何を思ったのか、顔を真っ赤にして手をあたふたとばたつかせた。

「す、すすすすいませんっ!調子に乗り過ぎちゃいました!年下だからちょっと脅かしたら面白いかなって思って……。本当にごめんなさいっ!」

「…は、はあ………」

 一体なんなんだこの人は……。胸の割にはどうやら気は小さいようだ。こんなんで良くあんなおっかない骸骨共と闘って来たものだ。




コメント、アドバイス等があればよろしく御願いしますm(_ _)m


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4話

今回は調子が悪くて短めになってしまいました。


「それで、実際の所、親父は等に離婚してウチにはお袋しか居ない訳ですけど、どうするつもりなんですか?」

「あっ………確かに……」

「えっ……。まさか、考えていなかったんですか……?」

「………………………はい」

 マジで!?嘘とは言え、あんだけ言っといて本当は何も考えていないの!?こんなんで良いの、魔法学生!?

「…でも、居候させてくれないと困りますっ!私一人じゃ生活できないですし。……それに………」

「…それに、何ですか?」

「…………いろいろ、恥ずかしい所見られちゃいましたし……」

 見られちゃった?何が?………しばらく考えてようやく答えを探り当てて、同時に顔が熱くなる。

 え?恥ずかしいって、あれでしょ?この人がまだ猫の状態の時に俺が下腹部をじろじろ見ちゃった時のことでしょ?

「…あっ、あれは不可抗力だろ!」

「で、でも…………………はっ!それこそあなたのお母さんを暗殺して、あなたとSEっく———」

「それだけはやめろ!!」

 思わず彼女の脳天にグーを投下する。今の会話は早いこと忘れた方が良さそうだな…。

 頭を抑えて踞る彼女を見下ろしていると、ズボンの右ポケットに入っている俺の携帯電話からリズミカルなメロディーが流れて来た。

「お袋からだ。…少しの間、静かにしていてくれますか?」

「……………(コクコク)」

 まるで誘拐犯の台詞だな。

 段々彼女に対する俺の態度が荒くなって来ている気がするが、非は確実に向こうにあるだろう。

 どうやらげんこつが相当効いたらしく、痛さのあまり、声が出ないようだ。勿論これも、彼女の自業自得である。

「もしもし?」

『もしもし六矢?』

「うん、そうだけど。メールは見た?」

『見たわよ。別に飼っても良いけど、面倒は自分でちゃんと見るのよ?』

「わかってるよ」

『あと母さん、来週からベトナムに海外出勤することになったから、来週の火曜日からは一人で生活するのよ』

「うん、了解。お袋が居なくても、ちゃんと一人で生……か…つ———」

『あらどうしたの六矢?声が震えてるわよ?』

 バッ、っとテレビの横に立てかけてあるカレンダーを見る。

 ……来週の火曜日……。今日は金曜日だから、日数で数えると……。

「四日後じゃねえかバッキャろおおぅぅぅ!!」

『うるさいわよ!静かにしなさい!』

 目の前でトラコさんの肩が跳ね上がる。確かにうるさ過ぎたかもしれない……。良く考えれば、そこまで驚く程の物でも……、

「驚く程でもある…………!」

『ちょっと知らせるのが遅れちゃったけど、仕送りは毎月あなたの口座に振り込むから、大丈夫よね?』

「ん?まあ、一応……」

 もともとお袋は、医療関係の仕事に勤めていて毎日帰りが遅かった。だから、今更———って、確かに、本当に騒ぐ程でもなかったのかもしれない。

 ………ん?なんか見落としている様な……。

「ちょっと、お袋聞いても良い……?」

『何かしら?』

「ちなみに、海外出勤が決まったのはいつ頃の話?」

『う〜〜〜ん…………三ヶ月前、だったかしら…?』

「ダメダメじゃないかよ!!」

『こら!うるさいって言ってるでしょ!別に良いじゃない。死ぬ訳じゃないんだから』

「それのどこが良いんだッ!」

 何この人!?悪いのは自分なのに、開き直ってる上に逆ギレしてるよ!それも多分、自覚してないし!

 するとお袋が何かを思い出した様に、小さく声を上げる。……やれやれ…まだ何か忘れていたのか。

『あっ、それと六矢』

「……なんだいお袋…」

『ほらあなた、バカでアホで要領悪くて危なっかしくて頭悪い上にバカじゃない』

「今度は罵倒の嵐か!?」

 一体何がしたいんだこの人は………?ここまで俺を貶して………今更ながら俺がこの人の腹から産まれて来たことに疑問を抱く。

『もしかしたら家政婦とかが必要なんじゃないかな、って思ってね。あなた別に人見知りとかしないでしょ?学校にも通ってる訳だし、毎日家事と通学でストレスが溜まって行ったりして、そのうち所構わず女の子を襲って警察のお世話になっちゃうと困るし』

「あんたは自分でどどんな息子を産んだと思っているんだ…………!?」

『どうしようもない変態息子よ』

 今、心の底からこの家に産まれたことを後悔している。




前書きにも書いた通り、今回はかなり短くなってしまいました。

毎話、目標三千文字を目指しているこの私としたことが面目無い………!

次回以降、この様なことが無いよう、より一層励んで書いて行こうと思います!

コメント、感想等があったらよろしく御願しますm(_ _)m


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5話

『で、家政婦は必要なの?』

「…え?ああ……う〜ん、まあ、雇ってくれるなら欲しいかな」

『じゃあ、どんな人が良い?』

「へ?そんなの選べるの?」

『ええ。やっぱし六矢好みの若くてHな家政婦が良いかしら?』

「…なっ、何言ってんだよお袋……!」

 知らなかった………。今時雇う家政婦まで選べるのか……。…って、当たり前か。お袋はそういうことに顔が利くらしいし、書類にあれやこれやと張られている写真と情報の中から俺好みのHな————もとい、家政婦として熟練した人を選ぶだけで良いんだよな…。

 ———……ん?ちょっと、待てよ……。

 暇を持て余してか、俺の方をずっと凝視しているトラコさんを一瞥する。

 この人は今、独り身。…そしてお袋は来週から海外出勤で家を離れる。………とすると……これって、すげータイミングが良いんじゃないのか?日頃家事を一人でやっているトラコさんが家に居れば面倒な家事は少なくなるし、今まで考えるのを避けていたが、スロックスとの戦闘になった時にそばにいてもらえると助かるだろう。

 まあ、名乗れば嘘にはならない訳だし、彼女がやってくれるなら別に雇わないでも良っか。

「…あのさ、お袋」

『何かしら?』

「家政婦を雇うのは良いんだけど、俺がこっちで選んじゃダメかな……?」

『え?…あなたがHな家政婦を選ぶの?』

「一言余計だっ」

 そこまで俺を変態にしたいのかこの人は!?

「とにかくだっ。ちゃんと自分で選びたいから、人を探すのは任せて。料金とかはあとで通知するから」

 誘拐犯の次は探偵かと言いたくなる台詞だ。何気ない会話をしているだけで、なんでこう、特殊な台詞が次々と出るんだ………。それだけ俺の周りに特殊な人間が居るってことなのか?

『あらそう?なら良いんだけど……。あなた、まだ未成年なんだから、間違いだけは犯さないでよ。ベトナムからそっち行くの面倒くさいし』

「あんまりだッ!言われなくても犯すもんか!もう用は済んだね!じゃあ切るから!!」

 乱暴に携帯を閉じる。全く、頭に来るなぁ!最初から最後まで俺を変態扱いしやがって!こんな忌々しい母親も来週から居なくなるんだから、スカッとするぜ!

 とりあえず事情は話しておいた方が良いよな。

「とりあえず、家政婦としてなら、家に居て良いことになったから。別に構わないよね?」

 もはや敬語を使う気すら起きない。えっ、なんでそんなに驚いてるのトラコさん?こうなった理由はアンタが一番知ってるでしょ?

「そうですか……。居候させてもらう以上、えり好みはできないですね。私トラコ。家政婦として小和田家で精一杯、勤めさせて頂きますっ!」

 別にそこまで張り切らなくても良いんだけどな……。

「……あの…やっぱり……」

「ん?何?」

 どうしたのか、何故か凄く恥ずかしそうにトラコさんが俺に話しかけてくる。一体どうしたのだろう?

「衣装とか、こだわった方が良いのでしょうか………?———裸エプロンとか……」

「はいぃぃぃぃっっ!?」

 いきなり何を言い出すんだこの人は!?

「い、いいい、いきなり、どうしてそんなことをっ?」




また、だいぶ短くなってしまいました。本当に申し訳ありませんm(_ _)m

大変身勝手ですが、更新スピードなどの問題を考え、今回を期にこの作品を一時御休みさせて頂くことになりました。

半年位したらまた投稿を始めようと思います。

本当に申し訳ありません………。


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