オーバーロード 月下の神狼 (霜月 龍幻)
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第1話

このような公の場で書くのは初めてなので緊張しています、楽しんでもらえたらうれしいです。


ユグドラシル最終日。

祭の催されている町から立ち去る人影が1つ、その人影は立ち止まってコンソールを開き、届いているメールを1つずつ開く、その中の1通に世話になったギルドの名前があった。

その名はアインズ・ウール・ゴウン、最盛期には数多あるギルドの第9位にその名を刻み、1500人からなる襲撃者の一団を退け、公式チートアイテムである世界級(ワールド)アイテムを二桁所持している最凶ギルド。

そのギルド長から、『最後の時はナザリックで過ごしませんか?』と言うものだった。

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・円卓の間

 

そこには4つの影があった。その影は人間の姿ではない、その内1つは骸骨、もう1つは4枚翼の鳥人、後の2つはスライムだった。

 

「ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん、ヘロヘロさん、本当にお久しぶりです、ユグドラシルのサービス終了日とはいえ、正直本当に来てもらえるなんて思ってもいませんでしたよ」

 

「いやー、本当におひさーです、モモンガさん」

 

「モモンガさんおひさー」

 

「お久しぶりですモモンガさん」

 

各々が挨拶をし、雑談が始まった、転職した先がブラックだったとか、最近発売した中ではこのエロゲが至高だとか、声優で売れっ子になり次々仕事が入ってきて大変だとか、そんな楽しい語らいも終わりを告げる。

 

残っていた4人の内、ヘロヘロがログアウトした。

 

「ヘロヘロさん、大丈夫ですかね」

 

円卓の間に残ったスライムのもう一人、ぶくぶく茶釜が心配そうに呟く、本人が言うにはもう体がボロボロで今は1秒でも多く寝たいと言っていた、そこに自分の我儘でヘロヘロに直接『せっかくですから最後まで残っていかれませんか』とは言えなかった。

 

そんなモモンガの姿を見てペロロンチーノは言う。

 

「俺と姉ちゃんで良かったら最後まで残るよ」

 

そう告げた直後、円卓の間の外から走る足音が聞こえ、勢いよく円卓の間の扉が開かれた。

 

「遅くなりました!」

 

部屋に居た3人が開いた扉に目を向けると、そこには魔道士の格好をした小柄な犬耳の少女が立っていた。

 

「いえ大丈夫ですよ、アルフさん」

 

「モモンガさん、ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さんお久しぶりです」

 

「お久しぶりです」

 

「アルフさんおひさ」

 

「おひさー」

 

犬耳の少女・アルフが挨拶をすると部屋に居た3人も挨拶を返した、彼キャラネームはアルフィリア・ルナ・ラグナライト、ユグドラシル内で理想の嫁を作るという目的で始めたが、装備の作成や冒険に人一倍のめり込んでいた。

 

「モモンガさん、お誘いのメールありがとうございます」

 

アルフは礼をして円卓の間に入り適当な席に座り、辺りを見回して確認をとるためモモンガにとう。

 

「モモンガさん、最後まで残るのはここにいるだけですか?」

 

「残念ながら、先ほどまでヘロヘロさんが居たのですが体調不良でログアウトしました」

 

「残念です、最後に全員に挨拶したかったのですが」

 

「仕方ないですよ、皆それぞれ事情があるんですから。そろそろ時間なので玉座の間に行きませんか?」

 

そのモモンガの言葉に各々無言で了解し、円卓の間を出ることにした、部屋を出る際モモンガはギルドの象徴たるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをその手に取り円卓の間を出た。

 

玉座の間に向かう中、モモンガの案で途中にいたNPCセバス・チャンと戦闘メイドプレアデスの計7人をつれていくことになった。

 

 

 

 

玉座の間に着き、モモンガはNPC達に待機を命じて玉座につく。モモンガは玉座の横に控えるNPCアルベドの設定が気になりコンソールを開き、スクロールしていく。それを見ていた他の3人はコンソール内の文字を読める位置に移動しそれを眺めた。

 

「なっが‼」

 

それがこのアルベドの設定への第1の感想だった。長い文面を飛ばし、ようやくたどり着いた設定の最後に書かれていた文字で皆がフリーズした。

 

『ちなみにビッチである。』

 

「……え、何これ?」

 

 

この長大な設定を書いたのが設定魔であるタブラ・スマラグディナであることを皆が思いだし、「あの人ギャップ萌えだったっけ」とモモンガが呟いた。

 

「それにしても、ビッチはあんまりじゃないか?」

 

モモンガは入力用コンソールを出して『ちなみにビッチである。』という文を消し、新に『モモンガを愛している。』と入力した。

 

「モモンガさん、気持ちは分からなくもないですが……」

 

「最後くらい茶目っ気出してもいいじゃないですか!」

 

ペロロンチーノの視線に耐えられず、モモンガはすぐにコンソールを閉じ、アルフ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノは玉座の前に移動した。

 

モモンガは玉座の間に掛けられた旗を指差し、プレイヤーネームを呟く、その中にはアルフの名前はなかった、これは当然のことだ、

アルフは一応ギルドに入ってはいるが、旗を作ったりギルドでのクエストには参加していない、過去にあった出来事がトラウマになり、ギルドに深く関われないでいた。

 

「そろそろ時間ですね」

 

モモンガのその言葉で皆は腕の時計に目を向ける、刻一刻と終わりの時が近づいてくる。

 

「モモンガさん、最後にお願いします」

 

ペロロンチーノはそう促し、モモンガはそれに答えた。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ‼」

 

「「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ‼」」」

 

それと同時に時計が00:00を表示、1・2・3・4と更に時を刻んでいく。

 

 

 

 

アルフ、モモンガ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜は互いに顔を見合せ時計を見たり、辺りを見回している、強制ログアウトさせられるはずが、今もこうしてユグドラシルの世界にいる。

 

「……どういうことだ?」

 

「ユグドラシルⅡだったり」

 

「それなら何かしらアナウンスがあるでしょ、電脳誘拐の可能性も……」

 

モモンガ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜は各々の考えをのべるがどれも当てはまる気がしない、コンソールを開こうにもどうもできず、ログアウト、GMコール、強制終了と試していたが、どれも機能しない。

 

 

 

「どうかなさいましたか? モモンガ様?」

 

 

そんな混乱の中、初めて聞く女性の綺麗な声で作業が止まった。

 

その声はNPCであるアルベドから発せられていた。



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第2話

「何か問題がございましたか、モモンガ様? 至高の御方々?」

 

アルベドが問を繰り返す、予想していなかった出来事に皆が固まり、思考停止している。

 

「失礼いたします」

 

アルベドが立ち上がりモモンガのすぐそばに移動し、

 

「何かございましたか?」

 

と覗き込むようにその美しい顔をモモンガに向ける、モモンガの鼻腔を、程よく甘い香りがくすぐった、その香りがモモンガの思考を再起動させ加速させていく。

 

「いや……なんでもない……」

 

アルベドはNPCだ、NPCがこのように意思を持ち自らの口で言葉を発することは無い、それに匂いは法律でダイブゲームでは再現してはいけないとされている。

 

「……いかがされましたか?」

 

やけに近い、お互いの吐息が重なりあうほどの距離までモモンガに近づいたアルベドは、美しい顔を可愛らしく傾けてくる、間近に迫った美貌にせっかく冷静になり始めていたのに、その冷静さがどこかに飛んでいきそうだった。

 

「……GMコールが利かないようだ」

 

アルベドの潤んだ瞳に吸い込まれ、ついNPCに相談してしまう。

これまでのモモンガの人生で、これほどまで異性に迫られた事は無い。しかもこれほどまで淫靡な雰囲気を漂わせて近づかれたことは皆無だ。作り物のNPCだと知っているはずなのに、まるで生きているような自然な表情の動きが、モモンガの心を揺さぶった。

 

しかしそんな自らの感情の動きは、抑制されるように沈静化していく、モモンガは大きな起伏が起こらなくなった自分の心に一抹の不安を感じていた。

モモンガは頭を振り、アルベドの顔を見た。

 

「……お許しを、無知な私ではモモンガ様の問いであられる、GMコールというものに関してお答えできません、この失態を払拭する機会をいただけるのであれば、これに勝る喜びはございません、何なりとご命令を」

 

会話をしている、間違いない。

その事実を理解したとき、ここにいる皆が驚愕に襲われた。

 

確かにNPCに意志があり、生きている、会話も問題なく行える。だがそこでアルベドだけが特別なのだろうか?、という疑問が浮かんだ。

 

モモンガの視線はアルベドから、いまだ控えている執事と六人のメイドに移る。

 

「セバス、玉座の前に」

 

「はっ!」

 

セバスが玉座の前の皆の横に並び礼をとる。

 

「大墳墓をでて、周辺地理を確認せよ、もし知的生物がいた場合は友好的に対応しろ、行動範囲一キロに限定、戦闘行為は極力避けろ」

 

「了解いたしました、モモンガ様。直ちに行動を開始します」

 

本拠地を守るために創られたNPCが外に出られるという、ユグドラシルでは不可能なことが可能になっている。

 

モモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンから手を離す。

スタッフは宙に浮き、物理法則を完全に無視したような光景だが、これはゲームのままだ、ユグドラシルでは手を放すと空中静止するアイテムは珍しくない。

 

モモンガは腕を組み、思案しながら辺りを見回した。視線の先にはギルドメンバー3人、すぐ近く控えるアルベド、セバス、

少し離れたところにプレアデスの六人。

とりあえずは上位者として行動しておけばいいだろう、何か問題が起きた場合はギルドメンバー達と相談して決めればいい。そうと決まれば行動第一だ。

 

モモンガはスタッフを手に取り、声を張り上げた。

 

「プレアデスよ、これから九階層に上がり、八階層からの侵入者が来ないか警戒に当たれ。 直ちに行動を開始せよ」

 

「承知いたしました、我らが主よ!」

 

声が響き、セバスと戦闘メイド達は玉座に座るモモンガと、そばに居たギルドメンバーそれぞれに跪拝すると、一斉に立ち上がり歩き出す。

 

巨大な扉が開き、セバスとメイド達の姿が向こうに消え、閉まる。

 

そしてモモンガは、最後に残ったNPC、アルベドに視線を向ける。

すぐ側に控えていたアルベドは優しい笑みを浮かべ、モモンガに問いかける。

 

「ではモモンガ様、私はいかがいたしましょうか?」

 

「あ、ああ……、私の下まで来い」

 

「はい」

 

心のそこから嬉しげな声を上げて、アルベドがにじり寄っていく、モモンガ以外の者から見れば愛しい人に呼ばれ浮かれているように見える。

 

「触るぞ」

 

「あっ」

 

モモンガは手を伸ばし、アルベドの手首に触れる、

トクントクンと繰り返される鼓動、それは生物なら当たり前のものである。

 

モモンガに触れられ、アルベドの頬は紅潮し、体温が上がっていく。

 

「……」

 

モモンガは思案する、NPCに脈があり、生きている、普通の人間のように応対し、意志疎通ができる、ここである考えがモモンガの中で浮かぶ、それは『この世界が現実なのではないか』と。




やはりナザリックからスタートだと、似たり寄ったりになってしまいますね、元の話からどこをどう改編するかが難しいです。

コメントありがとうございます、こんなに早くコメントが入るとは思いませんでした。


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第3話

次の……最後の一手。これを確認すれば、すべての予感が確信に変わる、今自分達が置かれている状況、現実と非現実の狭間から、その天秤がどちらかに傾く。

だから、これはしなくてはならないことだ。

 

モモンガは意を決して口を開く。

 

「アルベド……む、胸を触っても良いか?」

 

「え?」

 

「「「はい?」」」

 

空気が凍ったようだった。

アルベドは目をぱちくりとさせ、ギルドメンバー達は「ああ」と、どこか納得したような顔をしている。

 

モモンガは言ってから、悶絶したい気分に襲われていた。

仕方無いとはいえ、女性に向かって何を言っている。自分は最低だと叫びたい気分だった。

上司としての権威を利用したセクハラなど最低で当然だ。

 

しかし仕方が無い、そう、これは必要なことなんだ!

 

自分に強く言い聞かせ、精神の安定化を試みる、上位者としての威圧を精一杯に込めて言う。

 

「構わにゃ……ないな?」

 

全然無理でした!

 

そんなモモンガの言葉に、アルベドは花が咲いたような輝きを持って、微笑みかける。

 

「もちろんです、モモンガ様、どうぞお好きにしてください」

 

アルベドがぐっと胸を張る、豊かな双胸がモモンガの前につき出された。

もし唾を飲むということが出来たなら、確実に何度も飲み込んでいただろう。

 

大きくドレスを持ち上げている胸、それを今から触る。

ギルドメンバー、アルフとペロロンチーノは挙動不審なモモンガを見てニヤニヤしており、ぶくぶく茶釜の表情は分からないが二人と同じ雰囲気がする。

 

ちらりとアルベドを窺うと、なぜか目をキラキラさせながら、さぁどうぞといわんばかりに胸を何度もつき出してくる。

 

興奮なのか、はたまた羞恥なのか、震えそうになる手を意思の力で押さえ込み、意を決し、モモンガは手を伸ばす。

 

ドレスの下には僅かに固い感触があり、その下で柔らかいものが形を変えるのがモモンガの手につたわる。

 

「ふわぁ……あ……」

 

濡れたような声がアルベドから漏れる中、モモンガは実験を終了させた。

 

ユグドラシルに限らず、全年齢対象のDMMORPGであれば18禁に触れる行為は禁止だ、下手したら15禁でもアウトだ、違反すればアカウント停止、最悪削除されかねない。

今回の行為は通常であれば警告が出てくるはずだ、だがそれが出てこない。

 

……仮想現実が現実になった。

 

受け入れ難い事ではあるが、こうなってしまっては受け入れるしかない、

よくよく考えてみると、モモンガにとってはそう悪いことでは無いように思えてくる、家族も恋人もなく、ユグドラシル以外の趣味もなく、家と会社を往復する毎日……。

 

モモンガはようやくアルベドのふくよかな胸から、力なく手を下ろす。

十分すぎる時間揉んでいたような気がするが、確かめるために仕方が無かったことだとモモンガは自らに言い聞かせる。

 

決して柔らかかったから手が離せなかった、とかいう理由ではない、……おそらく。

 

「アルベド、すまなかったな」

 

「ふわぁ……」

 

頬を完全に赤く染め、アルベドが体内の熱を感じさせるような、息を吐き出す。それからモモンガに問いかけてきた。

 

「ここで私は初めてを迎えるのですね?」

 

「……え?」

 

モモンガは言葉の意味を一瞬だけ理解できなかった。

 

「服はどういたしましょうか?」

 

アルベドが矢継ぎ早に問いかける。

 

「自分で脱いだ方がよろしいでしょうか? それともモモンガ様が?、着たままですとあの……汚れて……いえ、モモンガ様がそれが良いと仰るのであれば、私に異存はありません」

 

アルベドは完全に暴走していた。

 

「あー、うん……、僕たちは邪魔なようだから席外しますね、アルベドは初めてらしいので優しくしてあげてください」

 

「モモンガさん、設定変更した責任はとってあげてくださいね」

 

アルフとぶくぶく茶釜はそう言い残すと巨大な扉に向かって歩き始めた。

最後に残ったペロロンチーノは。

 

 

「3クリックで終わらせちゃダメですよ」

 

 

そう言いながら親指を立てた。

 

「ちょっ、まっ! よ、よすのだアルベド」

 

モモンガはあわててギルドメンバーを呼び止め、アルベドの説得を行う。

 

「は? 畏まりました」

 

「今はそのような……いや、そういうことをしている時間はない」

 

「も、申し訳ありません! 何らかの緊急事態だというのに、己が欲望を優先させてしまい」

 

ばっと飛び退くと、アルベドはひれ伏そうとする、それをモモンガは手で抑える。

 

「よい。諸悪の根源は私である、お前のすべてを許そう、アルベド。それよりは……お前に命じたいことがある」

 

「何なりとお命じください」

 

「各階層の守護者に連絡を取れ、六階層の闘技場まで来るように伝えよ。時間は今から一時間後、それとアウラとマーレには私から伝えるので必要はない。

あと、シャルティアにはペロロンチーノさんの事は伝えなくてよい、ちょっとしたサプライズだ」

 

「畏まりました、六階層守護者の二人を除き、各階層守護者に今より一時間後に六階層の闘技場まで来るように伝えます」

 

「よし、行け」

 

「はっ」

 

少し早足でアルベドは玉座の間を後にした。




忠誠の儀の後くらいか、本格的オリジナル要素を入れたいです。


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第4話

「モモンガさん、魔王ロールさまになってましたよ。

あと、とんでもないことになりましたね」

 

「アルベド、モモンガさんに完全にホの字ですねぇ、リアルでエロゲのようなことを始めようとするとは思いませんでした」

 

アルフとペロロンチーノはニヤニヤしながらそう言ってくる。

 

「あ゛あアァぁぁ……あれはつまらない冗談だったのに……こんなことになると知っていたら、あんなことはしなかった、俺は……タブラさんの作ったNPCを汚してしまったのか……」

 

モモンガは膝と手を床に突き嘆いている、そこにぶくぶく茶釜が寄り添い肩に手をかけ、

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないよ。それに、タブラさんNTR属性もあったはずだから問題ないどころか、両手を上げて喜びそうかな」

 

その言葉にモモンガは撃沈した、確かにタブラさんならあり得る、そう理解してしまう。

 

「モモンガさんいじるのはこの辺にして、いろいろ試さないといけませんね。魔法やスキル、アイテムがちゃんと使えるのかとか、発動の感覚とかゲームとの差違もですかね。

モモンガさんもそれが目的で闘技場を集合場所に決めたみたいですし」

 

ぶくぶく茶釜がモモンガの復帰を待ちながら言葉を続ける。

 

「まずはこのリングからですね」

 

アルフは自分の左手人差し指にはまっているリングを見る、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン、ギルドの紋章が刻まれた指輪、ギルドメンバーの証であり、大墳墓内、玉座の間とギルドメンバー達の部屋以外なら自由に転移することができるマジックアイテム。

 

凹んでいた状態から復帰したモモンガとペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜は頷き、リングに転移先である闘技場の通路を念じ、転移する。

 

 

 

 

 

するとナザリック地下大墳墓・第六階層 闘技場への通路にいつの間にか立っていた。

 

 

「成功ですね」

 

ぶくぶく茶釜は辺りを見回しそう告げる。

先程までの光景が一変し、周囲は薄暗い通路へと変わっている。ここは闘技場へと続く通路。

皆は歩き、光が指す方へと通路を進む。出口が近づくにつれ草木の匂いが鼻腔に入ってくる。強い青臭さと大地の匂い、 それは深い森の匂いだ。

 

通路を出て視界に映ったのは、何層にもなる客席が中央の空間を取り囲む場所、 円形闘技場があった。

 

モモンガ達は闘技場の中央に歩を進めながら、空を眺める。そこには真っ暗な夜空が広がっていた。

もし周囲に明かりが無ければ、空に浮かぶ星すらも見えたことだろう。

 

勿論、この場はナザリック地下大墳墓の第六階層、地中であり今見上げているのは偽りの空だ。

ただ凝り性なギルドメンバーによってかなりのデータを割り振っており、時間の経過と共に変化する。日光と同じ働きをする太陽すら浮かぶ。

 

モモンガ達は周囲に目をやる。ここにはぶくぶく茶釜が作り出した双子が居たはずだが。

 

「とあ!」

 

掛け声と共に貴賓席から跳躍する影、六階建ての建物に匹敵する高さから飛び降りた影は、空中で一回転し着地した。

 

「ぶい!」

 

両手にピースを作る。

飛び降りてきたのは10歳ほどの子供で、幼い子供特有の少年とも少女とも取れる可愛らしさがある。金の絹のような髪を肩口で切り揃え、耳は長く尖っており、薄黒い肌、

森妖精(エルフ)の近親種、闇妖精(ダークエルフ)と言われる人種だ。

 

「アウラか」

 

モモンガは登場した闇妖精の子供の名前を呟く。

ナザリック地下大墳墓第六階層の守護者であり、幻獣や魔獣等を使役する魔獣使い(ビーストテイマー)野伏(レンジャー)、アウラ・ベラ・フィオーラ。

 

アウラは小走りにモモンガに近づいてくる。小走りではあるが獣の全速力と同等のスピードだ。瞬時に二人の距離が近づく。

 

アウラは急ブレーキをかけ、地面を削り土煙を起こす。

そして子犬がじゃれついてくるような笑顔を浮かべ、モモンガに挨拶する。

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様。あたしの守護階層までようこそ」

 

アウラは挨拶のあとモモンガの後ろの人影が気になったのか、覗くように体を右に傾ける。

 

「あっ!!」

 

アウラは視線の先には手を振るような感じで体を変形させているぶくぶく茶釜が居た。

 

「ぶくぶく茶釜様あぁーー!!」

 

ぶくぶく茶釜を確認するとすぐさま飛び込んでいく。ぶくぶく茶釜は体をくねらせアウラを優しく受け止め、その頭を撫で始めた。

 

「久しぶりだね、アウラ。長い間留守にしてごめんね。

マーレもおいで!」

 

ぶくぶく茶釜が呼ぶと、先程の貴賓席からもう一人、履いているスカートの裾を押さえながら飛び降りた。

 

マーレ・ベロ・フィオーレ、その容姿はアウラとそっくりだが、姉より幾分大人しいようだ。

 

マーレはテッテッテという擬音が似合いそうな速度で走ってくる。当然、全力で走っているのだろうが、アウラと比べるとかなり遅い。モモンガの下に着くと、

 

「お、お待たせしました、モモンガ様……」

 

びくびくと、モモンガを窺うように上目遣いをし、モモンガの後ろにいるぶくぶく茶釜が気になるのか、ちらちらと視線がそちらに行く。

 

それを見たモモンガはマーレの頭を撫で、

 

「存分に甘えてこい」

 

そう言ってマーレをぶくぶく茶釜のもとへ行くように促す。マーレは一礼し、ぶくぶく茶釜の胸に飛び込んだ。

 

自分を創造したぶくぶく茶釜に甘えるアウラとマーレ。そのアウラとマーレを優しく包み、頭を撫でるぶくぶく茶釜。

その光景は実にほほえましかった。




忠誠の儀迄が意外に長いです

アウラとマーレ可愛いですよね。


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第5話

ひとしきりアウラとマーレを撫で回した後、ぶくぶく茶釜、アルフ、ペロロンチーノは闘技場の観客席に移動していた。移動した理由はモモンガの実験を邪魔しないためだ。

 

「モモンガさん、スタッフを自慢してますね」

 

ぶくぶく茶釜の言う通り、闘技場の中央に残るモモンガは、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げ、自慢しているようだ。

 

「確かに、あれは自慢したくなりますよね。僕を含めたギルドメンバー全員で素材集め、錬金、データクリスタルの厳選、いろいろありましたから」

 

アルフは昔を思い出すように言う。ギルドの最盛期、もっと早くトラウマを克服出来ていれば、との思いが心に巨大な楔となって今でもまだ残っている。

 

「あ、実験始まったみたいですよ」

 

ぶくぶく茶釜の言葉に、アルフは闘技場の中央へと意識を向けた。

 

モモンガが火球を放ち、放たれた火球が的に当たってはぜる。

 

「魔法は普通に使えるようでよかった」

 

ぶくぶく茶釜の言葉に同意する。もし使えなかったら僕やモモンガさんのような魔法職中心のビルドだと足手まといにしかならない。

 

モモンガは手を耳(?)に当て、何か考え込んでいるようだが、おそらく何処かしらに〈伝言(メッセージ)〉を飛ばしているのだろう。

 

伝言を終え、モモンガはスタッフを振りかざし力を発動した。

 

根源(サモン・)の火精霊召喚(プライマル・ファイヤーエレメンタル)

 

その声と共に、巨大な光球が生じ、それを中心に桁外れな炎の渦が巻き起こった。

 

巻き起こった渦は加速度的に大きくなり、直径四メートル、高さ六メートルまで膨らみ、紅蓮の煉獄が周囲に熱風を巻き起こす。

 

「根源の火精霊ですか、改めてみると迫力があるなぁ。

ん? アウラとマーレが戦うみたいだ」

 

ペロロンチーノの言葉通り、アウラが戦闘態勢に入り、マーレがおどおどしている。

 

 

 

 

戦闘はアウラとマーレのペースだ、余裕を持った攻防が続く。

 

ふとモモンガを見ると何もないはずの空間に手を入れ、ごそごそと何かを探っていた。どうやらアイテムボックスに手を突っ込んでいるようだ。

 

 

空中に溶けるように根源の火精霊の巨体が消えていく。周囲に撒き散らされていた熱気も急速に薄れていった。

 

桁外れの破壊力と耐久力を持つ根源の火精霊だったが、アウラとマーレの前では意味がなかったようだ。

 

「うちの子達はすごいでしょ」

 

ぶくぶく茶釜を見ると、我が子を自慢し、胸を張っているのだろうが、体をグニュっと曲げたようにしか見えない。

 

再び闘技場へ視線を移すと、モモンガがアウラとマーレに水を飲ませ、二人の頭を撫でていた。

 

観客席に居たアルフ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノはモモンガ達の所まで移動し、ぶくぶく茶釜が再びアウラとマーレの頭を撫で始めた。そこに声がかかる。

 

「おや、私が一番でありんすか?」

 

言葉遣いの割には若々しい声が聞えると同時に、地面から影が膨らみ、吹き上がる。その影はそのまま扉の形を取る。そんな影からゆっくりと姿を現す者がいた。

 

「……転移が阻害されてるナザリックで、わざわざ〈転移門(ゲート)〉なんか使うなっていうの。闘技場内まで普通に来たんだろうから、そのまま歩いてくればいいでしょうが、シャルティア」

 

モモンガのすぐ側から呆れたような声が聞こえる。その凍りつかんばかりの感情を含んだ声音に、先程までの子犬の雰囲気は無い。あるのは満ちすぎてこぼれだした敵意だ。

 

その横ではマーレが再び、ブルブルと震えだしている。少しずつ姉の側から離れていっているのはなかなか賢い。実際、アウラの豹変には、モモンガもちょっとばかり引いていた。

 

シャルティアはアウラを一瞥すると、すらりとした手をモモンガの首の左右から伸ばし、抱きつくかのような姿勢を取る。

 

「ああ、我が君。私が唯一支配できぬ愛しの君」

 

真っ赤な唇を割って、濡れた舌が姿を見せる。舌はまるで別の生き物のように己の唇の上を一周する。

 

妖艶な美女がやれば非常に似合っただろうが、彼女では年齢的に足りないものがあり、ちぐはぐ感が微笑ましくさえある。だいたい、身長が足りないので、伸ばした手も抱きつくというより首からぶら下がろうとしているようにしか見えない。

 

それでも女性に慣れていないモモンガには十分な妖艶さだが。

 

こんなキャラだっけ、という心中に湧きあがる思いでペロロンチーノを見ると、先程モモンガをからかっていた時と同じように親指を立てていた。

 

モモンガの視線の先が気になり、シャルティアもそちらを見る。そこには自分の創造主、ペロロンチーノが立っていた。

 

「ペロロンチーノ様、お久しゅうございます」

 

モモンガの首からぶら下がったまま言う。

 

「なんかさっきのアウラとマーレの反応と随分違くない?! もっとこう、ぎゅっと抱きついてくるとか、耳元で色っぽく囁いたりとか。

これがNTRか!NTRってやつか?!」

 

ペロロンチーノが頭を抱えてうんうん唸っている。

 

シャルティアがモモンガの首から離れ、ペロロンチーノも抱きついて、その耳元で甘い声で囁く。

 

「冗談でありんす。ペロロンチーノ様、お会いしたかったでありんす」

 

「シャルティアァーー!!」

 

ペロロンチーノはすぐさま復帰し、シャルティアを抱き締めた。




誤字脱字の指摘ありがとうごさいました。

シャルティアの説明の大部分をぶった切ましたが仕方ないです。



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第6話

「いい加減にしたら・・・・・・」

 

重く低い声に初めてシャルティアは反応し、嘲笑を浮かべながらアウラを見た。

 

「おや、チビすけ、いたんでありんすか? 視界に入ってこなかったから分かりんせんでありんした」

 

ぴきりとアウラは顔を引きつらせ、それを無視するようにシャルティアはマーレに声をかける。

 

「ぬしもたいへんでありんすね、こな頭のおかしい姉をもって。こな姉からは早く離れた方がいいでありんす。そうしないとぬしまでこなになってしまいんすよ」

 

マーレの顔色が一気に悪くなる。シャルティアが自分を出汁に姉に喧嘩を売っていると悟っているためだ。

 

だが、アウラは微笑む。そして

 

「うるさい、偽乳」

 

爆弾が投下された。

 

「・・・・・・なんでしってんのよー!」

 

「あ、キャラ崩壊」

 

モモンガはぼそりと言葉を発する。

 

素を出したシャルティアに、先程までの間違いだらけの(くるわ)言葉はどこにもない。

 

「一目瞭然でしょー。変な盛り方しちゃって。何枚重ねてるの?」

 

「うわー! うわー!」

 

発せられた言葉をかき消そうとしているのか、ばたばたと手を振るシャルティア。そこにあるのは年相応の表情だ。それにたいしてアウラは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「そんだけ盛ると・・・・・・走るたびに、胸がどっかに行くでしょ!?」

 

「くひぃ!」

 

びしっと指を突きつけられ、シャルティアが奇妙な声を上げる。

 

「図星ね! くくく! どっか行っちゃうんだー! だから〈転移門〉なんだー」

 

「黙りなさい! このちび! あんたなんか無いでしょ。わたしは少し・・・・いや、結構あるもの!」

 

シャルティアの必死の反撃。その瞬間、更に邪悪な笑みを浮かべるアウラ。シャルティアは押されるように一歩後退する。さりげなく胸をかばっているのがなんというか悲しい。

 

「・・・・・・あたしはまだ七六歳。いまだ来てない時間があるの。それに比べてアンデッドって未来が無いから大変よねー。成長しないもん」

 

シャルティアはぐっ、と呻き、さらに後退する。アウラは亀裂のような笑みをさらに吊り上げ、もう一言追撃する。

 

「今あるもので満足したら? ぷっ!」

 

「おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー!」

 

その台詞と同時、シャルティアとアウラが戦闘体勢に入る、

 

「平和だなぁ」

 

「平和ですねぇ」

 

その光景を見ていたペロロンチーノとアルフからそんな台詞がこぼれる。

 

「サワガシイナ」

 

声が飛んできた方、そこには何時からいたのか、冷気を周囲に放つ異形か立っていた。

 

二・五メートルはある巨体は二足歩行の昆虫を思わせる。 冷気がまとわり付き、ダイヤモンドダストのように煌めく、ライトブルーの硬質な外骨格は鎧のようだった。

 

それはナザリック地下大墳墓第五層の守護者であり、凍河の支配者 コキュートス。

 

「御方々ノ前デ遊ビスギダ・・・・」

 

「この小娘がわたしに無礼を働いた 」

 

「事実を 」

 

「あわわわ・・・・・・」

 

再びシャルティアとアウラがすさまじい眼光を放ちながら睨み合い、マーレが慌てる。モモンガはさすがに呆れ、意図的に低い声を作ると二人に警告を発した。

 

「・・・・・・シャルティア、アウラ。じゃれ会うのもそれくらいにしておけ」

 

びくりと、二人のからだが跳ね上がり、同時に頭を垂れた。

 

『もうしわけありません!』

 

モモンガは鷹揚に頷き謝罪を受け入れると、現れたものに向き直る。

 

「良く来たな、コキュートス」

 

「オ呼ビトアラバ即座ニ」

 

白い息がコキュートスの口器から漏れている。それに反応し、空気中の水分が凍りつくようなパキパキという音がした。

 

「オヤ、デミウルゴス、ソレニアルベドガ来タヨウデスナ」

 

コキュートスの視線を追いかけると、そこには闘技場入り口から歩いてくる人影が二つ。先に立つのはアルベドだ。その後ろに付き従うように一人の男が歩く。十分に距離が近づくと、アルベドは微笑み、モモンガに対して深くお辞儀をする。

 

男もまた優雅な礼を見せてから、口を開いた。

 

「皆さんお待たせして申し訳ありませんね」

 

身長は一・八メートルほどもあり、顔立ちは東洋系、オールバックに固められた髪は漆黒、丸眼鏡をかけており、来ているものは三つ揃えであり、ネクタイまでしっかり締めている。

後ろからは銀プレートで包んだ尻尾が伸びている。

その男こそ 炎獄の造物主 デミウルゴス。

ナザリック地下大墳墓第七階層の支配者であり、防衛時におけるNPC指揮官という設定の悪魔だ。

 

呼んだ皆が集まり、忠誠の儀が行われる。

モモンガを中心に、右にぶくぶく茶釜、左にペロロンチーノ、ペロロンチーノの少し後ろにアルフが立ち。

モモンガ達の目の前に、守護者達が並び、一人一人が名乗りを上げて臣下の礼を取り、更に口上を述べた。

 

 

「素晴らしいぞ、守護者達よ。お前達ならば私の目的を理解し、失態なくことを運べると今この瞬間、強く確信した」

 

モモンガは守護者全員の顔を見渡す。

 

「さて多少意味が不明瞭な点があるかも知れないが、心して聞いてほしい。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不測の事態に巻き込まれていると思われる」

 

守護者各員の顔は真剣で、決して微妙にも崩れたりしない。

 

その後、モモンガの説明が続く、ナザリックのあった沼地は無くなり、今は草原のど真ん中にいると、その原因に心当たりはないかと守護者達に聞くが、満足できる回答はなかった。




忠誠の儀まで意外に長いですね、

ようやっとアルフを自由に動かせそうです。

もう1話分はテンプレ内容がありますが、次々回こえた辺りから、デミウルゴスへのトラウマの内容吐露、コキュートスとの試合等オリジナル要素を増やしていく予定です。

今更ながら、主人公であるアルフの情報が
中身は男性、アバターは女性、獣人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)としか無い。


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第7話

「モモンガ様、遅くなり誠に申し訳ありません」

 

皆の回答を聞いた少し後セバスが現れ、モモンガの前まで来ると、ほかの守護者同様ゆっくりと片膝をつく。

 

「いや、構わん。それよりは周囲の状況を聞かせてくれないか?」

 

その言葉を聞き、セバスが説明を始めた。

ナザリックを中心とした一キロは沼地ではなく平凡な草原であり、人工的な建物は皆無、生息している動物の類いも戦闘力皆無だそうだ。

 

そこから先はナザリックの防衛に関する話が進められ、各階層守護者間の情報共有システムの構築、第八階層の立ち入り禁止、第九階層・第十階層へのシモベ達の立ち入りの許可、大墳墓の壁に土をかけて隠蔽することが決まっていく。

 

そして最後に、守護者達にモモンガ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノがどのような存在かを問う。

 

守護者達からの評価は異常に高いものだった。

 

「では、最後に、ここにいるアルフィリアさん、彼女についてどのように思っているか聞かせてくれないか、まずはシャルティア」

 

「ペロロンチーノ様と仲が良く、楽しそうにお話している姿をよく見るでありんすので、人当たりが良く、面倒見の良い人物と思っているでありんす」

 

「コキュートス」

 

「直接オ会イシタコトハゴザイマセンガ、至高ノ御方々ト互角以上ニ渡リ合エル者ト伺ッテオリマス、今度オ手合ワセヲオ願イシタイト思ッテオリマス」

 

コキュートスの言葉にアウラが「それってコキュートスが戦いたいだけじゃん」と呟いた。

 

「アウラ」

 

モモンガ呼び声で、姿勢をただし少し慌てた様子で答える。

 

「強くて、美しいお方です」

 

「マーレ」

 

「や、優しいお方だと思います、会うたびに頭を撫でてくれます」

 

「デミウルゴス」

 

「一度もお会いしたことがないので、判断しかねます」

 

「セバス」

 

「至高の方々と共に残ってくださった慈悲深き方かと」

 

「最後になったがアルベド」

 

「至高の方々と同格の力を持ち、我々シモベが至高の方々と同等の忠誠を捧げるにたるお方だと思います」

 

「・・・なるほど。各員の考えは十分に理解した。今後とも忠義に励め」

 

再び大きく頭を下げ、拝謁の姿勢をとった守護者達の元からモモンガ達は転移することで移動する。

 

瞬時に視界が変化し、闘技場から玉座の間の扉の前に転移した。

 

「なんかすごい忠誠心でしたね」

 

「忠誠心が高すぎてひくわぁ」

 

ぶくぶく茶釜とペロロンチーノの感想にモモンガとアルフが同意する、忠誠心は高い方が良いのだが、あれは高すぎるような気がする。

 

「そういえば。モモンガさん、僕のこと彼女って・・・・・・姿はこんなんですが、一応中身は男ですよ・・・・」

 

「すみません、1から説明すると時間がかかるのでつい・・・・・

こうして考えても仕方ない。守護者達の期待に応えられるよう対応する、ということでいいですね? では、手持ちのアイテムの確認などもあるので。ここで一時解散で」

 

モモンガの言葉に皆が頷き、各々の部屋に戻っていく。

 

 

 

同刻・第六階層 闘技場

 

「す、すごく怖かったね、お姉ちゃん」

 

「ほんと。あたし押しつぶされるかと思った」

 

「流石はモモンガ様。私達守護者にすらそのお力の効果を発揮するなんて・・・・・」

 

「至高ノ御方デアル以上、我々ヨリ強イトハ知ッテイタガ、コレホドトハ」

 

「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様なのね」

 

「ツマリハ、我々ノ忠義ニ応エ、支配者トシテノオ顔ヲ見セラレタトイウコトカ」

 

「確実でしょうね。それに、至高の方々はその力を全く受けていなかった」

 

「あたしたちと一緒にいた時も全然、オーラを発してなかったしね。すっごくモモンガ様、優しかったんだよ。喉が渇いたかって飲み物まで出してくれて」

 

アウラの発言に対して、各守護者からピリピリとした気配が立ち込める。それは嫉妬。その濃厚さは目視できる気がするほど。特に大きかったのはアルベドだ。手がプルプルと震え、爪が手袋を破りそうな気配すらある。

 

びくりと肩を震わせたマーレが若干大き目に声を発する。

 

「あ、あれがナザリック地下大墳墓の支配者として本気になったモモンガ様なんだよね。凄いよね!」

 

即座に空気が変わった。

 

「全くその通り。私達の気持ちに応えて、絶対者たる振る舞いを取っていただけるとは・・・・・・流石は我々の造物主。

至高なる四一人の中の御三方、四二人目になるかもしれない御方。そして最後までこの地に残りし、慈悲深き方々」

 

アルベドの言葉に合わせ、守護者各員が陶然とした表情を浮かべる。マーレの安堵の色が強く混じっていたが。

 

自らの造物主である至高の四一人。絶対の忠誠を尽くすべき存在の真なる態度を目にすることができ、これ以上は無いと言う喜びが全身を包み込む。

 

そんな愉悦で緩んだ空気を払拭するかのように、セバスが口を開いた。

 

「では私は先に戻ります。モモンガ様がどこにいかれたのかは不明ですが、お傍に仕えるべきでしょうし」

 

「分かりました、セバス。モモンガ様に失礼が無いように仕えなさい。それと何かあった場合はすぐに私に報告を。特にモモンガ様が私をお呼びという場合は即座に駆けつけます。他の何を放っても!」

 

聞いていたデミウルゴスが困ったものだという表情を微かに取る。

 

「ところで・・・・・・静かですね。どうかしましたか、シャルティア」

 

デミウルゴスの言葉に合わせ、全員の視線がシャルティアに向けられる。見れば、シャルティアのみがいまだ跪いている状態だ。

 

「ドウシタ、シャルティア」

 

再び声がかけられ、初めてシャルティアが顔を上げた。

 

その目はとろんと濁り、夢心地であるように締まりが無い。

 

「あ、あの凄い気配を受けてゾクゾクしてしまって。それに、アルフィリア様の美しさにあてられて・・・・・・少うし下着がまずいことになってありんすの」

 

静まり返る。

 

全員が何を言うべきか、そんな顔で互いを窺う。守護者の中でも最も歪んだ性癖を多数持つシャルティアの性癖の二つ、死体愛好癖(ネクロフィリア)両刀(バイセクシャル)を思い出した守護者各員は処置無しと手を額に当てる。

 

そんな中、アルベドの嫉妬にも酷似した感情が、その口を開かせる。

 

「このビッチ」

 

この発言の後、言い争いに発展したのだが、他の守護者は、我関せず、と各々の話を始める。

 

その話はナザリック地下大墳墓の将来の話から、至高の方々御世継ぎ問題、繁殖実験となっていく。

 

しばらくするとアルベドとシャルティアの言い合いが終わったのか、こちらに戻ってきた。どうやらモモンガに対しては一夫多妻制をとり、アルフに関しては本人が同意するするのであれば関係を持ってもよい、となったらしい。

 

「そういえば、アルベド。先程言っていたことは本気ですか? アルフィリア様を至高の方々と同等の忠義を捧げると、至高の方々の四二人目であると」

 

デミウルゴスの言葉に、アルベドは小さく頷き応えた。

 

「ええ、本気ですよ。彼女は信用にたる人物です」

 

「何を根拠に」

 

「彼女は、以前あった1500人による襲撃の情報を事前に報告しに来ました。それだけではありません、本人は気付いていないようですが、彼女の旗を至高の方々が楽しそうに話し合いながら作っていました」

 

「・・・・ですが、私は一度もお会いしたことがない方を信頼することはできません」

 

「ではデミウルゴスは、アルフィリア様がモモンガ様や我々を裏切ると?」

 

「そこまでは言いませんが・・・・」

 

「では、モモンガ様にアルフィリア様のことを聞いてみてはどう? モモンガ様の口から聞けば信頼できる方だと確信できるでしょ」

 

アルベドの言葉に頷く。

 

「分かりました、後でモモンガ様にお聞きします」

 

デミウルゴスはいい終えると、闘技場をあとにした。




ようやくアルフを動かせます。


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第8話

先程モモンガ達と別れ。現在は第九層の自室へ入り、今の自分の状況を確かめている。

 

部屋は錬金術師のアトリエ風にしてあり、机の上には木製の試験管立て、そこに淡く光る液体が入った試験管があったり、ビーカーやフラスコなどの道具、魔導書のような分厚く古い本がおかれている。

 

そして今、机の横に置かれた姿見の前に佇む少女がいる。

 

背丈は157cm程、髪は黒曜石のような光沢をもった漆黒のロングヘアー、頭部には狼の耳があり、胸はこの身長にしては大きめである。

服装は魔導師風で、肩甲骨を隠すくらいの長さしかないローブを着用し、その下には神獣の革から創られた身体にフィットする革鎧を着ており、

上半身と下半身の着ているものの間からは髪と同じ美しい毛が生えた長い尻尾が出ている。

はいているスカートには所々に宝石系の装飾品が付けられている。

 

見た目は完全に女の子である。

 

視線を目の前の姿見から自分の身体に移す、着ている革鎧を胸が押し上げ、山を作っている。

 

革鎧の間から手をいれて胸を触ってみる。確かに体温があり触られている感覚もある。

 

胸から手を放し、視線を更に下へ、股間に移す。

 

「・・・・・・」

 

今まで気にしないようにしていたが、やはりアレは無くなっているようだ。

念のためその場で数回跳ねてみるが結果は変わらなかった。

 

考えていても性別が戻るわけではない、姿見の前から移動し、大きめのベッドに腰掛け、意識を自分の中に集中させ、スキルの中の『変化』が使えるか確かめる、変化とは文字通り、顔はあまり弄れないが、性別と身長と耳や尻尾の有無を弄れるため、変化で男の姿をとろうとしたが世の中そんなに甘くないようで、

使えそうで使えない、そんな状態だった、何かしら発動に条件が追加されているのだろうか?

 

「はぁ・・・・・・」

 

ため息をつき、ベッドに横たわる。

 

「異世界転移か・・・・・・昔あったライトノベルみたいだ」

 

読んだことがあるモノの主人公達の大半は、もとの世界に戻ろうと奮闘していたが。

実際に同じことになってみると、戻りたいとは思わない。

 

元いた世界は公害、自然破壊が進み。

大気汚染、土壌汚染、水質汚染等が地球全体で起こっており、地球の全生物が死滅するのも時間の問題だと言われている。

 

あんな世界にいるよりはこちらの方が良い。セバスの話では見渡す限り大自然が広がり、空には数多の星が瞬いていたという。生まれてから一度もきれいな空や自然を生で見ていない身とすれば、これほど素晴らしい世界はない。

 

アルフは身体を起こして手を伸ばし、アイテムボックスに手を入れる。

アイテムボックスの中から目的のアイテムを引っ張り出し、まじまじと見つめた。

 

今手に持っているものは『力の木の実』というリンゴに似たアイテムだ。効果は「一定時間、少し物理攻撃力を上げる」というもの。

 

迷わず口に運び、かじりつく。

 

シャクッ、という音が響き、口の中に果汁と味が広がる。

今まで食べてきた物の中で一番美味いと思えた。

 

それもそうだ、元の世界では食材全般は合成品であっても高級品であり、一般市民では手が届かない物になっているため、最も安く手にはいる栄養補助合成食とサプリメントが主食となっている。前に興味本意で高いリンゴを買って食べたことがあるが、食べてすぐさま後悔した。

味は無いに等しく、パサパサしていた、まだ味付きの栄養補助合成食の方が味が濃く感じる、そのリンゴ一つで三日分の食費が飛んだ。

 

アイテムをかじりながら立ちあがり、ベッドの上にアイテムボックスから出した、無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を並べていく。

 

袋にはラベルが付いており、メイン装備、予備装備、消費アイテム、回復系消費アイテム、スクロール、触媒とあり、この中で多数を占めているのは素材、データクリスタルとラベルが貼られている物で、それぞれ十袋、ベッドの上は計26の袋がベッドを埋める。

 

アイテムを食べ終え、「力の種」に変わった物をアイテムボックスに仕舞う。

 

ベッドの空いている部分に腰掛け、メイン装備と書かれた袋を取り、中の物を取り出して何か異常はないか一つづつ調べていく。

 

 

メイン装備、予備装備とチェックを終えて、特に問題がないと確認した、この調子なら他の物も問題無いだろうとパッと中身を見ただけで無限の背負い袋をしまっていく。

 

 

「御父様、準備が出来ました」

 

袋をしまい終えると同時、部屋の奥の扉が開き人影が現れ一礼をしてそう告げた。

 

「ありがとう」

 

現れた人影、改め少女に歩み寄り頭を撫で、隣に浮いている小型犬サイズの竜も撫でる。一人は嬉しそう微笑み、一匹はもっと撫でてというように手にすり寄ってくる。

 

少女の方はマリアと言い、外見は白髪赤目、肌は白く、メイド服を着ているホムンクルスであり、ナザリックのシモベとして産み出されたのではなく課金ガチャで当たった物を、課金アイテムやスキルを使ってLv100にしたり外見や設定をいじったNPCだ。

 

隣の竜は西洋風の黒龍、こちらも課金ガチャで当てたものであるが、ホムンクルスと違い。Lv100で排出された大当たり枠の景品で、状況次第ではプレイヤーをも倒せる戦闘能力を有しているのだが、職業で魔獣使い(ビーストテイマー)、竜騎士をとっていないので部屋で番犬ならぬ番竜としておいており。

元の姿が大きすぎて部屋に入らないので、サイズ調整できる腕輪を付けて現在の大きさにしている。

一応テイム系の能力を付与する装備があれば乗って戦闘が出来るが、戦闘スタイルが合わないために創っていなかった。

今度手綱を作り、黒龍に乗って空を飛び回るのも面白そうだと、心の中で思う。

 

「じゃあ、錬金しようか」

 

そう告げて部屋の奥に歩を進めた。




あとがき追加、
他の人を見習って話の中では出せなさそうな設定を書いていきます。捏造等も多分に含まれます。

課金ガチャ・NPC
基本的にはギルド拠点で作るNPCとあまり変わらないが、出てきたNPCに合う種族や職業を取っていないと弄れる範囲外極端に狭い。
プレイヤーの同意無しでは所有権の移動は不可。
フィールドでテイムするモンスターと違い蘇生出来るが、プレイヤー同様のLvドレインが発生する。

課金ガチャ・ホムンクルス
種族レベル・ホムンクルスをLv5もった状態で排出されるNPC。職業に錬金術師を持っていると、NPCの外見、設定、Lv等をアイテムやスキルを使って弄れるため、無限収集している者もいる。
他のプレイヤーには大外れであるが、錬金術師に売ってユグドラシル金貨に換えたりしている、中には知り合いの錬金術師に頼んで好みの外見にしてもらう人もいるそうな。

課金ガチャ・黒龍
イベント限定で排出されているNPC、
戦闘能力が高く、ブレス系やスキルが多彩なため、多くの魔獣使いと竜騎士が狙うも、ボーナスを全て溶かすも出てこない、あまりの排出率の低さに運営のSNSが大炎上したが、排出率は変わらなかった。
アルフは他のアイテム目的でガチャを回して偶然黒龍を手にいれた。
使い道は無かったが、そのままにしておくのももったいないので番竜として部屋に置いている。


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第9話

ナザリック地下大墳墓・上空

 

そこには、二つの人影が浮いていた。

片方は漆黒の鎧を着た骸骨。もう片方は蛙のような顔をし、背に蝙蝠のような翼を生やした悪魔だ。

 

「世界征服なんて面白いかも知れないな」

 

モモンガはそう呟き、空に浮かぶ星々を見続ける。

 

「モモンガ様、アルフィリア様について御聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

 

「許可する、聞きたいこととは何だ?」

 

「はっ。アルフィリア様は、アインズ・ウール・ゴウンに所属していながら、一時期至高の方々に深く関わるのを避けていた、と数名のシモベから聞いております」

 

モモンガは顎に手を当て、どう話したものかと思案する。考えすぎかも知れないが、デミウルゴスはアルフが裏切るのでは、と考えて聞いているのだろう。

 

「彼女は昔、心に傷を負っていてな。今は克服できてはいるが、当時は皆で少し心配したものだ」

 

「その心の傷、というのは?」

 

「うむ、これはたっち・みーさんから聞いた話だが。

彼女は以前所属していた組織で親しくし、仲間と思っていた者達に裏切られ、殺されそうになっていたところ、たっち・みーさんが助けたそうだ。

詳しい話は彼女から聞くと良い、事情は話しておこう。

朝になった辺りに聞きに行くと良いだろう」

 

「質問に答えていただき、ありがとうございます」

 

そう告げると、デミウルゴスは一礼した。

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第九層 アルフの自室

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

アルフはメッセージを切り、天井を見上げて息をついた。

 

「アレの話をするのか・・・・・」

 

今は克服しているとはいえ、心の傷だ。

モモンガの話では、デミウルゴスは自分がモモンガ達を裏切るのでは、と考えているような感じ。といっていたが、トラウマを話しただけで信頼を得られるのだろうかと考えるが、それだけではダメだと思う。

深く考えすぎても仕方がない。嘘偽りなく、このギルドとギルドメンバーに対して思っていることを話そう。

 

そう結論づけ、机に視線を戻す。

 

そこには複数のアイテムが転がっている。

 

蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)万能の霊薬(エリクシル)、ヒヒイロカネ、賢者の石。

 

これらはアルフが取っている錬金術師のスキルを使い、創られた物。どれも掃いて捨てる程所持しているが、ちゃんと錬金術が使えるか試しに創ったものだ。

 

デミウルゴスはあと少しでこちらに来るらしい。

 

椅子から立ち上り、その場で伸びをする。

ぱきぱきと固まった関節がなる。

 

「説得できれば良いな。マリアはそこで待機してて」

 

「わかりました」

 

マリアの膝の上では黒龍が寝息を立てている。

 

デミウルゴスを出迎えるために錬金部屋を出て、部屋に置いてあるソファーに腰掛けたその時、

 

コンコン

 

と扉をノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

入室を許可するとデミウルゴスが部屋に入ってきた。

 

「失礼致します」

 

一礼してソファーの横に立つ。

 

「どうぞ、座って」

 

デミウルゴスに座るよう促すと、素直にソファーに座った。

 

「モモンガさんから聞いてるよ。僕のトラウマとギルドに対する思いについて聞きたい、ということであってる?」

 

「はい」

 

デミウルゴスの回答を聞き、自分の心の傷に関して語る、他の人にとってはとるに足らないことかも知れないが、自分にとっては傷となった出来ごとを。

 

 

 

僕は以前、違うギルドに所属していた。

そのギルドの長は人間種、亜人種、異形種分け隔てなく集め、弱い者達に戦いや、冒険のいろはを教えていた。

 

だけど、しばらくするとその長は忙しくなり、ギルドを後任に任せ、引退した。

 

思えばその時から変わっていったのかもしれない。

後任に変わってからギルドから異形種が減り、やがて居なくなった。

その時は他の所に移ったのだろうと思っていたけどそうじゃなかった。

 

ある日偶然、亜人種から異形種に変わったことで真実を知った。後任は異形種を中心に狩る組織と繋がっていて、仲間だった異形種を差し出していたんだ。

 

異形種に変わったことで、僕も標的になり。

ギルドを外され、信頼していた仲間達に追いかけ回された。

 

転移魔法を阻害され、MPも残りわずか。

そして、捕まってしまった。

 

かつて仲間と思っていた三人、そいつらに僕は斬られて、刺されて、焼かれて、抉られて・・・。

そいつらはわざと攻撃力の低い武器を、階位の低い魔法を使っていた。

 

その時聞いたんだ「どうしてこんな酷いことをするんだ」って。

そしたら奴らは言ったんだ「異形種を狩って何が悪い」「強い職業につくのに必要なことだから、最後に手伝ってくれよ」「異形種になったお前が悪い」・・・。

 

あと少しで殺されるって時に、たっち・みーさんが助けてくれたんだ。

 

「その後でモモンガさん達のギルドに入ったけど、その時の事が心の傷になっていた。

こちらが信頼していても裏切られるのではないかと」

 

「・・・・・・」

 

デミウルゴスはこちらを見つめ、静かに聞いている。

 

「それは杞憂だった、皆は優しくしてくれた。

でも、頭ではもう大丈夫だ、この人達は裏切らない。とわかっていても、心が拒絶していた。

それから時間はかかったけど、少しづつ心の傷を癒し。克服できた。

初めてギルドメンバー全員でクエストに挑んだときはとても楽しかった」

 

思い出しながら天井を見上げ、深呼吸する。

視線を戻し、続きを言葉にする。

 

「でも、そんな楽しい時間も終わりを迎えた。

一人、また一人と忙しくなり、ギルドから去っていった。その時後悔したんだ、もっと早くトラウマを克服できていたら、楽しい時間をもっと多く過ごせたはずだ、と」

 

デミウルゴスの眼を見つめ、自分の気持ちを正直に告げる。

 

「だからこそ、今ここにいるモモンガさん、ぶくぶく茶釜さん、ペロロンチーノさん、仲間達が造り出し、愛したシモベ達と苦楽を共にしたいと思っている、すぐに信頼してくれとは言わない」

 

話を聞き終え、デミウルゴスはソファーを立ち跪いた。

 

「心の傷を探るようなご無礼、お許しください」

 

「構わないよ。デミウルゴスはモモンガさん達が心配だったんでしょ、もし僕が裏切ったらって。

僕はモモンガさん達を裏切らないよ。裏切られる痛みはよく知ってるから、モモンガさん達には同じ思いをしてほしくない」

 

「このデミウルゴス、貴女様を四二人目の至高の御方として忠誠を捧げます」

 

「ありがとう、デミウルゴス」

 

優しくそう言い、立つように促した。




デミウルゴスがちょろい気がしますが気にしない。


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第10話

「はぁ・・・・・・」

 

来たときとは変わって、上機嫌になったデミウルゴスが部屋を出ていったと同時、アルフは深いため息を付いていた。

 

一応信頼はしてもらえたようだが、その信頼が重い気がする。

 

お腹が空いてきたので食堂に向かおうと決め、錬金部屋にいるマリアを呼ぶ。

彼女はホムンクルスで食事量倍化のマイナススキルがついている、そんな彼女を放っておくのも忍びないと思い、連れていくことにする。

 

錬金部屋を出てきたマリアの腕には、先程起きたばかりであろう黒龍が「くぁ~・・・・・」とあくびしている。

 

黒龍を抱えたマリアをつれ部屋を出て、ナザリック内を食堂に向かって歩き出す。途中一般メイド達とすれ違うとき、会釈をする。

 

しばらくして食堂にたどり着き、中を見渡すと中にはプレアデスの数名と一般メイド達がいた。

グループを作って会話しながら食事したり、プレアデスを中心にして食事したり、中には一人黙々と食事をとっている者もいる。

 

そんな中、見知った二人を見つけた。

 

「アルフさん、こっちこっち」

 

ピンク色の体をくねらせ、ぶくぶく茶釜が手招きしている。その隣では、弟であるペロロンチーノが物を口に詰め込みながら手をふっていた。

 

食堂のカウンターで料理を注文して受け取り、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノのいる席に向かう。この時黒龍はというと、マリアの頭の上でぐでっとしながら尻尾を振っている。

 

「おはようございます、ぶくぶく茶釜さん、ペロロンチーノさん」

 

「おはようございます」

 

「ふぉふぁひょふ グホッ!」

 

口に物を詰めてしゃべる弟の脇腹に、姉の肘らしきものが突き刺さる。

 

「愚弟、口に物詰めて喋るな」

 

ドスの効いた声が食堂に響く。暫しの沈黙の後、食事をとる音や話し声が戻ってきた。

 

「姉ちゃん痛い・・・・・」

 

「あんたが悪いのよ、食事マナーくらい守りなさい」

 

そのやり取りを見ながら椅子に座り、その隣にマリアも座る。

 

「その子、前見せてくれたアルフさんの秘蔵っ子?」

 

そう言い、料理を口に運ぶ。ぶくぶく茶釜が食べているのは鮭の塩焼き定食というもので、公害で食材が激減する前は朝食でよく出てきた物らしい。

ペロロンチーノが食べているのは焼きそばだ、これは祭りの出店などでよく出たものらしい。

 

らしい、というのも、元いた世界では一般市民では高級品でありなかなか食べられないものであり、資料でしか見たことないものだからだ。

 

「そうですよ、主に近接系と鍛冶職を取らせてます。マリアご挨拶」

 

「ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様、御父様がいつもお世話になってます、マリアと申します」

 

そういい、黒龍を頭に乗せたまま器用に一礼した。

ぶくぶく茶釜に眼をやると、マリアの頭に視線が釘付けになっている。

 

「あのさ、一つ聞いてもいい?」

 

「いいですよ」

 

「この子の頭に乗ってるの、あの黒龍? 魔獣使いや竜騎士達が血反吐吐きながらボーナス全額ぶち込んでも出なかった、流れ星の指輪(シューティングスター)より排出率が低い、あの黒龍?」

 

ぶくぶく茶釜は震えているその手を黒龍に伸ばす。

 

「その黒龍ですよ」

 

「まじですか‼」

 

今度は口を空にして喋るペロロンチーノも、黒龍に視線が釘付けになる。

 

その時、近づいてきたぶくぶく茶釜の手を黒龍がかじった。

そのままはむはむと甘咬みしている。

ピンク色の肉棒を甘咬みする黒龍・・・・・・。

なんとなくいけないものを見ているような気がしたので、マリアの頭から黒龍をとり、抱き寄せる。

 

「それにしても、その黒龍初めて生でみたよ。モモンガさんが見たら興奮して暴走しそう」

 

「ですね」

 

ぶくぶく茶釜の言葉に同意し、その光景を想像した。

 

食事も終わり、黒龍に調理場からもらった生肉をあげていると。食堂入り口からセバスの声が響いた。

 

「ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様、アルフィリア様、モモンガ様がお呼びです、事情は歩きながら話すので御越しください」

 

 

マリアに黒龍を任せて食堂を出たアルフ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノは廊下を歩きながら、セバスの説明を聞いていた。

なんでも遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使っていたら、どこぞの兵隊に村人が襲われているのを見つけて助けに行ったそうだ。

 

そうこうしているうちに、目的の部屋に着いた。

部屋には開かれた転移門(ゲート)があり、机の上には騎士を殺すモモンガの姿が映し出されていた。

 

「皆、今の見てどう思った?」

 

ぶくぶく茶釜はそんなことをいう。

 

「私は心が動かなかった、モモンガさんが人間を殺したのに何も感じなかった」

 

「「・・・」」

 

アルフとペロロンチーノは無言で同意していた。人間が死ぬところを見ても心が動かない、それは精神まで異形種になってしまったからだろう。

ここで考えていても無意味と思い、アルフは二人に指示を出す。

 

「ぶくぶく茶釜さんはここで待機しててください、遠隔視の鏡を使って何か変化があったら〈メッセージ〉ください」

 

「分かったわ」

 

「ペロロンチーノさんは向こうに行ったらすぐ空に上がってください」

 

「なんで!」

 

ペロロンチーノが声を荒げた、なんとなく心当たりを突いてみる。

 

「あの二人の少女に欲情してませんか?」

 

「・・・・・・」

 

無言になり、顔を反らすペロロンチーノ。そんな弟をじと目で睨む姉。

 

「今は緊急事態なので即行動してください、ことが終わったら戯れて良いですから」

 

「本当に!」

 

眼をきらきらさせながらこちらの手を握ってくる。

 

「本当ですが、今の貴方にこの言葉を送りましょう。

yesロリータnoタッチ、性的なことはせず、紳士的に振る舞ってください」

 

ペロロンチーノが強く頷き、声をあげる。

 

「いざ、幼子の元へ!」

 

その時、姉の見事なドロップキックが愚弟の脇腹にクリティカルヒットし、転移門の向こうへと消えていった・・・・・・。




ペロロンチーノさんはロリコンさんです、エンリも守備範囲に入っているかは謎ですが、多分入っていると思います。


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第11話

ぶくぶく茶釜に蹴り飛ばされたペロロンチーノを追い、アルフも転移門をくぐる。

門はくぐり終えると消滅し、目の前には下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を差し出すモモンガと完全武装したアルベド、その視線の先には妹を庇うように抱き締めた少女がいる。

その背中は大きく斬られ、血が流れている。

 

辺りにはペロロンチーノはいない、ちゃんと空に上がったみたいだ。

 

少女に近づくと、アンモニア臭がする。

 

今の状況を整理してみる。

目の前には生者を憎むと設定文にあるアンデッド、その隣には完全武装した謎の人物・・・・・・。

 

恐らく少女とその妹はモモンガとアルベドに恐怖して漏らしてしまったのだろう、と思い至る。

 

「モモンガさん、ちょっと」

 

小声でモモンガを呼び、さっき思ったことを口にする。

 

「モモンガさん、顔隠してください。ユグドラシルでは一般でしたが、あの子の反応を見るとアンデッドは設定文そのままの存在だと認識されているっぽいです」

 

モモンガは考え込むように顎にてを当てている、恐らくアンデッドの設定を思い出しているのだろう。

 

「あの子の対応は僕がやります」

 

モモンガが了承し、手に持っていたポーションが渡された。

 

アルフは少女に歩み寄り。近くで立ち止まると少女と目線を合わせるように屈みこんだ。

 

「お嬢さん、大丈夫? あそこにいる人は怖い顔してるけど優しい人だから安心して。

これは治癒のポーションだから飲んで、その傷痛むでしょ?」

 

少女はポーションを受け取り、一息でそれを飲み干す。そして驚きの表情を浮かべた。

 

「うそ・・・・・・」

 

少女の背中から大きな傷が消える。信じられないのか、何度か体をひねったり背中を触ったりしている。

 

その光景に満足し、アルフは少女に微笑みかける。

 

「痛みは無くなったな?」

 

後ろからモモンガの声が響く。

 

「は、はい」

 

ポカーンという擬音が表現として最も近い顔で頭を振る姉。

モモンガから言葉が続く。

 

「お前達は魔法というものを知っているか?」

 

「は、はい。村に時々来られる薬師の・・・・・・私の友人が魔法を使えます」

 

「・・・・・・そうか、なら話が早いな。私は魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ」

 

モモンガは魔法を唱える。

 

生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)

矢守り(ウォール・オブ・プロテ)の障壁(クションフロムアローズ)

 

姉妹を中心に半径三メートルの微光を放つドームが作り出された。

 

「生物を通さない守りの魔法と、射撃攻撃を弱める魔法をかけてやった。そこにいれば大抵は安全だ。

それと、念のためにこれをくれてやる」

 

驚く姉妹に簡単には魔法の効果を説明し、モモンガは二つの見すぼらしい角笛を取り出し、放り投げる。

 

「それは小鬼(ゴブリン)将軍の角笛と言われるアイテムで、吹けばゴブリン 小さなモンスターの軍勢がお前に従うべく姿を見せるはずだ。そいつらを使って身を守るが良い」

 

このアイテムには微妙なメリットがあり、このアイテムで召喚されたゴブリン達は一定時間が経つと消滅するのではなく、ゴブリンが死亡するまで消えない。時間稼ぎくらいにはなる。

 

モモンガは後ろにアルベドを伴って歩き出す、それに気づいてアルフもその場を離れる。しかし、数歩も行かない内に声がかかる。

 

「あ、あの た、助けてくださって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

その声にモモンガの歩みが止まる。その瞳に涙をためながら、感謝の言葉を紡ぐ二人の少女をモモンガはぐるっと振り返って眺める。それから短く返答した。

 

「・・・・・・気にするな」

 

「あ、あと、図々しいとは思います! で、でも、あなた様しか頼れる方がいないんです! どうか、どうか! お母さんとお父さんを助けてください!」

 

「了解した。生きていれば助けよう」

 

モモンガが軽く約束すると、姉が大きく目を見開く。助けるという言葉が信じられなかったような驚き。

それからすぐに我を取り戻すと、頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! 本当にありがとうございます! そ、それとお、お名前はなんとおっしゃるんですか」

 

名乗ろうとし、モモンガという名は口からこぼれなかった。

もし、他のギルドメンバーがこちらに来ているのなら、己の存在を知らせたい、俺は、俺達はここにいると。

 

知らせるなら、分かりやすい方が良いだろう。

 

 

 

「・・・・・・我が名を知るが良い。我こそが アインズ・ウール・ゴウン」




誤字脱字の指摘ありがとうございます。


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第12話

アルフは今、モモンガとは別行動をとり、周囲に伏兵がいないか調べることにした。兵を探すにあたり、ちょうど良いスキルを発動する。

 

 下位眷族召喚 ガルム×3

 

アルフのもつ特殊能力の一つ。様々な獣系モンスターを召喚する能力で、今回呼び出すガルムは戦闘能力こそ低いが索敵能力が優れ、複数呼ぶことにより広範囲をカバーできる。

 

目の前に三体の狼型モンスターが現れた。

そのモンスター達との繋がりを感じる、これなら離れていても状況把握に問題はないだろう。

 

「行って」

 

そういうと3方向に散った。

 

「さてと。〈伝言(メッセージ)〉」

 

ガルムの姿を見送り、ペロロンチーノにメッセージを飛ばす。

 

「ペロロンチーノさん、そちらはどうですか?」

 

『姉妹の聖水の香りは素晴らしかったです』

 

「・・・・・・今の台詞、御姉様に報告してもよろしいか?」

 

『ちょまっ‼、冗談ですからそれだけは!』

 

ペロロンチーノは慌てて取り繕うが、アルフはそれが冗談ではなく、彼の嘘偽りない本心だとわかっている。

 

「はぁ・・・・・・で、今どんな状況?」

 

『今はモモンガさんが作った死の騎士(デス・ナイト)が襲撃者を蹂躙中、一応生きた敵をアルフさんの〈武の見極め〉で見た方が良いですね、あまりに弱すぎる』

 

アルフの持つスキル〈武の見極め〉は、対象者のLvとステータスを看破するものだ、Lvの差が大きければそれだけ詳細に見れるが、同Lvに近付くと見れる部分も減ってくる。

 

ガルム達に意識を向ける。森の中とその周辺は問題なし、嗅覚でも異常無し、鎧に使われている錆止めのオイルの臭いはしないとのこと。

 

「ペロロンチーノさん、そろそろ合流しましょう。

あと、モモンガさんはこれからアインズ・ウール・ゴウンと名乗るそうです」

 

『ん 何でアインズ・ウール・ゴウン? あれは俺達皆での名前だろ?』

 

「何か考えあっての事とは思いますが、こういったことは皆に相談してから、そうしてほしいです」

 

『じゃあ一応姉ちゃんにさっきの件言っときます、では』

 

「では後程」

 

メッセージを切り、村の方に歩を進めながら考える。

なぜ皆に相談せず独断でアインズ・ウール・ゴウンを名乗ったのか。

 

しばらく考えるも答えは出なかった。

 

「後で聞いてみるか」

 

 

 

村につくとすでに戦闘が終わっており、アインズが村人と交渉をしているようだ。

そのアインズの顔を見て、懐かしい思い出が、よみがえる。

 

嫉妬する者たちのマスク。通称嫉妬マスク。

クリスマスイブの一九時から二二時までの間に二時間以上、ユグドラシルにいると問答無用でてにはいるアイテムだ。

この仮面を持った非リア充グループを作り、数日間マスクを被ったギルドメンバー達がナザリック内を『リア充はいねーかー』と走り回り、挙げ句の果てにマスクを持った全員でそれを被り、たっち・みーを取り囲み奇妙な踊りをするという奇行をした。その中にはもちろんアインズとペロロンチーノも入っている。

 

アインズに歩み寄る途中、アルフの横にペロロンチーノが舞い降り、並んで歩く。

 

「最終状況は?」

 

「特に異常無し・・・・・・ところで先程の件なのですが」

 

ペロロンチーノが手揉みをしながらこちらを伺って来る、多分聖水うんぬんの話だろう。

 

「言わないよ、今後なにかに使えそうだし」

 

「酷っ!」

 

そんな話をしているとアインズの横に着く。

 

「・・・・・・あの、こちらの方々は」

 

村長らしき人物が聞いてくる。

 

「こちらは私の仲間の・・・・・・」

 

「ペロロンチーノです」

 

「アルフィリアです」

 

名乗り、一礼する。

 

「では、助けた姉妹を連れてくるから少々時間をくれないかな?」

 

アインズは考える。あの二人に口止めをお願いしなくてはいけない。自分の素顔について。

村人の反応を待たずにアインズはゆっくり歩き出した。魔法による記憶操作が効果を発揮するだろうか、と思いながら。

 

 

 

アインズは今、村長と話し合いをしている。ペロロンチーノは村の広場で助けた姉妹の妹と遊んでおり、アルフは椅子に腰掛け、その光景を姉妹の姉と見ていた。

 

要は難しい話はギルド長に丸投げして、部下はのんびり遊んでいる。という情況だ。

 

「改めて。助けていただいてありがとうございます。 わたしの名前はエンリ・エモット、妹はネムと言います」

 

エンリが椅子から立ち上り、深く礼をして言葉を紡ぐ。

 

「いえ、こちらも路銀目的で助けたのですから、気にしないで、頭を上げてください。僕はアルフィリアと言います」

 

エンリに頭をあげるよう促す。彼女は素直に従い、再び椅子に座る。

 

「それに、ネムと遊んでいただいて」

 

「いえ、彼は子供が好きなので気にしないで下さい」

 

現在、アルフとエンリの視線の先には、ネムの両手を掴んで、ぐるぐると回るペロロンチーノがいる。

ネムは楽しそうに笑い、ペロロンチーノはなんともいえない邪な雰囲気をしている。

エンリは単に妹が失礼をしないか見ているだけだが、アルフはペロロンチーノが変な行動を起こさないか見張っている。

 

「いえ、お礼を言わせてください。目の前で両親が殺されて塞ぎ混んでいたネムを笑顔にしてくださいました」

 

その言葉の後、葬儀の準備が整ったのか、他の村人が姉妹を呼びに来た。

 

エンリは椅子を立ち、気にするようにアルフを見た。

 

「お気になさらず行って下さい」

 

その言葉を聞きエンリは一礼し、ネムを連れて呼びに来た村人と葬儀に向かった。

 

 

 

『アルフィリア様。今よろしいでしょうか』

 

姉妹と別れた直後、タイミングを見計らったようにデミウルゴスからメッセージが入る。

 

「大丈夫だよ、何か問題でもあった?」

 

『いえ、今朝お聞きするのを忘れてしまったので、今お伝えしようかと』

 

「で、用件は?」

 

『はい、コキュートスがアルフィリア様と試合がしたいと申しておりまして』

 

アルフは少し考え、コキュートスとの試合いを受けることにする。

 

「わかった、試合は明日の夜九時頃がいい、場所は闘技場、試合のルールはその時に伝える、守護者やシモベ達が望むなら観戦を許可するよ」

 

『承知いたしました、では』

 

その言葉を終えると、メッセージが切れた。

ふと、隣を見ると、エンリが座っていた椅子にペロロンチーノが座っていた。

 

「さっきの誰から?」

 

「ん、デミウルゴス。 コキュートスが僕と試合したいんだって」

 

そう告げて、日が傾きつつある空を見る。

視界には茜色の空が広がり、雲がゆっくり流れていく。

 

「試合中、アルフさんはコキュートスに組敷かれ、衆人環視の中、あんなことやこんなことを・・・・・・」

 

「・・・・・・このエロゲ脳は。本当にぶくぶく茶釜さんに報告しようかな」

 

その言葉をいい終えた直後、土下座をするペロロンチーノが目の前にいた。

 

「すみませんでした‼」

 

その土下座は、それはそれは見事なものだった。




ペロロンチーノの変態度が増していく。

指摘により、今後の話を繋ぐために少し改編しました。

スキル説明

下位眷族召喚
動物系モンスターを召喚できるスキル、他に中位、上位も存在する。アンデッド作成の獣版
その辺りにいる小動物を媒介にすると制限時間を過ぎても存在できるようになる。

武の見極め
アルフが取っている拳闘士の職業スキル。
対象者のレベル、ステータスを看破することができる。
レベルに差があれば職業レベルの詳細、物理攻撃力等のステータスを事細かに見れるが、同じレベルだと合計レベルとだいたいのHP、MPしかわからない。


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第13話

「頭を上げてください」

 

アルフの言葉にペロロンチーノはゆっくりと頭を上げる。

 

「怒ってないんですか?」

 

「怒ってないですよ。でも、気になっているのですが。今の僕ってペロロンチーノさんの中でどんな扱いですか?」

 

ペロロンチーノは地面に胡座をかき、腕を組んで試案する。

 

「ん~・・・・・・一応以前と変わっていないつもりですが。外見美少女、中身は男、そうであるがゆえに大変無防備である、眼福です」

 

「なっ‼」

 

ペロロンチーノの視線で何をいっているかを理解し、開いていた足を閉じてスカートを押さえた。

 

「・・・・なんか、何でこんな反応したのか自分でも分からないんだけど・・・・」

 

本当に分からない、目の前にいるのは友であり、同性のペロロンチーノだ、女の姿とはいえパンツを見られるくらいどうとも思わないはずだが・・・。

 

「もしかして、体の性別に心が引かれ始めてるのかな・・・・」

 

自分で解答を出したが、凹んでしまう。

 

「それより、あの件。ぶくぶく茶釜さんの反応はどうだった?」

 

少し気分を変えようと、話の話題を変えるアルフ。

 

「うん・・・・姉ちゃんすごく怖かった。こう、背後に仁王を召喚したような威圧感が声だけて伝わってくるような・・・・・・」

 

「・・・・・・・モモンガさん大丈夫かな」

 

ギルドメンバーにことわり無くアインズ・ウール・ゴウンを名乗ったモモンガに、どんな説教が待っているのかを想像した。

 

「・・・・あと、アルフさんに伝言。第九階層の空き部屋に弟と一緒に来い、部屋の場所は弟に知らせとく。 だそうです」

 

アルフは言葉が出なかった、恐らく自分と、目の前にいるペロロンチーノにも雷が落ちるだろうことを察し、さらに気が重くなる。

 

そんなとき

 

 

 

アオオォォォォォ・・・・

 

 

と、ガルムの遠吠えが聞こえたが・・・・。

 

おかしい、ガルムの存在出来るリミットはとうに過ぎている。他のガルムに意識を向けてみるが、他の個体は消滅している、どのような要因でそうなったのが気になるが、今はそれどころではない。

 

ガルムに意識を飛ばし、状況を確認する。

草原を馬に乗った者達がこの村に近づいており、村を襲撃してた者達とは違う錆止めの臭いがするとのこと。

 

「ペロロンチーノさん、空に上がって下さい」

 

「了解」

 

地面に座っていたペロロンチーノが立ち上がり、背の二対四枚の翼を羽ばたかせ、空高く舞い上がった。

 

ペロロンチーノは職業で射手(アーチャー)を取っており、スキルによって遠くまで見渡せる。

 

伝言(メッセージ)、ペロロンチーノさんどうですか?」

 

『確かにこちらに向かって来る一団がいる、着ている鎧は襲撃者とは違うみたい』

 

誰か居ないかと辺りを見回すと、村人とモモンガが話し合っている。

 

「ペロロンチーノさん、戻ってください」

 

そう告げてメッセージを切り、モモンガのもとに向かう。

 

 

モモンガから聞いた話はこの村に馬に乗った騎士風の者たちが近づいており、村長とモモンガで出迎え、他の者は万が一のために村長の家に避難させるそうだ。

 

話のあと、ペロロンチーノが降りてきたので、ことの詳細を話しアルフとペロロンチーノもモモンガと一緒に出迎えることになった。

 

 

やがて村の中央を走る道の先に数体の騎兵の姿が見えてきた。騎兵たちは隊列を組み、清々と広場へと進んでくる。

 

「・・・・武装に統一性が無く、各自なりのアレンジを施している・・・・。正規軍じゃないのか?」

 

騎兵たちを観察していたモモンガは、彼らの武装に違和感を覚える。

先ほどの帝国の紋章を入れていた騎士たちは完全に統一された重装備であった。それに対して今度来た騎兵たちは、確かに鎧を来てはいるが、各自使いやすいように何らかのアレンジが施されている。

 

よく言えば歴戦の戦士集団。悪く言えば武装のまとまりの無い傭兵集団だ。

 

やがて騎兵の一行は馬に乗ったまま広場に乗り込んできた。数にして20人。死の騎士(デス・ナイト)に警戒しつつ、村長とモモンガ達を前に見事な整列を見せる。その中から馬に乗ったまま、一人の男が進み出た。

 

この一行のリーダーらしく、全員の中でも最も目を引く屈強な男だ。

 

「 私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」

 

静かで深い声が広場に響き渡り、モモンガが後ろにした村長の家からもざわめきが聞こえてきた。

 

「王国戦士長・・・・・・ どのような人物で?」

 

「商人達の話では、かつて王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士達を指揮する方だとか」

 

「目の前にいる人物が本当にその・・・・・・?」

 

「・・・・分かりません。私もうわさ話でしか聞いたことが無いもので」

 

モモンガが目を凝らして見ると確かに騎士は皆、胸に同じ紋章を刻み込んでいる。

村長の話に出た王国の紋章にも見える。とはいえ、信じるには少々情報が足りない。

 

「この村の村長だな。 横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

「それには及びません。はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来た魔法詠唱者(マジック・キャスター)です。」

 

口を開きかけた村長を押し止め、モモンガは軽く一礼して自己紹介を始めた。




ガゼフさん登場


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第14話

モモンガは今にいたるまでと、現在の状況をガゼフに話し、ガゼフは疑問に思ったことをモモンガに聞く。

そんなやり取りをしているなか、一人の騎兵が広場に駆け込んできた。息は大きく乱れ、運んできた情報の重要さを感じさせる。

 

騎兵は大声で緊急事態を告げる。

 

「戦士長! 周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

 

 

先ほどの報告を聞き、モモンガと村長、ガゼフは村長の家に入っていった。

アルフとペロロンチーノは村長宅の屋根に上り、村を取り囲んでいるもの達を観察する。

 

「あれって、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だよな」

 

「うん、そう見えるね」

 

ペロロンチーノの言葉に同意する。

 

「モモンガさんはガゼフさん達に力を貸すのかな」

 

「どうですかね、僕としてはガゼフさんに力を貸してもいいと思います。20人でその倍ほどの量を相手にするのは分が悪い」

 

そんな会話をしていると、ガゼフ達が村を出て遠ざかっていく。アルフとペロロンチーノは村長の家に入り、モモンガに今後どうするのか話を聞くことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬の興奮が両足から伝わってくる。

 

たとえ軍馬として調教された馬であっても、いやそんな馬だからこそ、これから突入する死地を感じ取っているのだろう。

相手は四五名しかいないにも関わらず、村の周囲を大きく取り囲むように展開している。そのために各員の間隔は大きく開いているが、何らかの手段によって完璧な檻を構築しているはずだ。

 

つまりは確実に罠。踏み込めば致死の顎が開くはず。

 

それを把握しながら、ガゼフの取る手段は強行突破である。いや、それしか現状では手段がない。

 

 

 

 

 

 

モモンガ、アルフ、ペロロンチーノは、遠隔視の鏡でガゼフ達と敵の戦いを覗いていた。

 

戦いは一方的であり、ガゼフ達には勝ち目がないように見て取れる。

そんな中、ガゼフの戦いは凄まじかった。ユグドラシルにはなかった技を使い、六体の天使を一振りで両断し、続く攻撃で一体、二体と倒していく。

だが天使が倒されても、また次の天使が召喚される。これでは、歴戦の戦士といえど体力がもたず、いずれ殺されるだろう。

 

 

「 そろそろ交代だな」

 

 

モモンガの呟きとともに、モモンガ、アルベド、アルフ、ペロロンチーノの姿が消え。変わりに傷ついたガゼフと騎兵達がそこにあらわれた。

 

「こ、ここは・・・・・・」

 

「ここはアインズ様が魔法で防御を張られた倉庫です」

 

「そんちょうか・・・・・・ゴ、ゴウン殿達の姿は見えないようだが・・・・・・」

 

「いえ、先ほどまでここにいらっしゃったのですが、戦士長さまと入れ替わるように姿が掻き消えまして」

 

そうか。頭に響いた声の主は・・・・・・。

 

ガゼフは必死に込めていた力を体から抜く。これ以上はもはやすることはないだろう。地面に転がったガゼフに、村人達が慌てて近寄ってくる。

 

六色聖典。周辺国家の戦士としては最強であるガゼフですら勝てなかった相手。

 

しかしアインズ・ウール・ゴウンが負けるというイメージは一切浮かばなかった。

 

 

 

草原に先ほどまでの死闘の名残はない。

 

そんな草原にそれまでなかったはずの人影が四つ。

 

スレイン法国特殊工作部隊、陽光聖典隊長、ニグンはその四人に困惑の眼差しを向ける。

 

一人は魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)風の格好をした者。異様な仮面で顔を隠している。その身は非常に高価そうな漆黒のローブをまとっており、身分の高さを証明するようだった。

 

一人は漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んだ者。これまた見事な鎧であり、決してその辺りでてにはいるような鎧ではない。

 

ニグンに、いやスレイン法国にとってあとの二人の方が問題と思われた。

 

一人は獣の耳と尻尾を有した美しい少女である、その身は軽装であるが前の二人と勝るとも劣らない装備をしており、外見からして魔法詠唱者(マジック・キャスター)であることが読み取れる。

 

もう一人は黄金の鎧を見にまとい、背には二対四枚の翼が生えている、顔は鳥を模した仮面で確認できないがおそらくバードマンだろう。装備は他の三人より少し落ちるが、それでも一級品のマジックアイテムであることには変わりない。

 

亜人種、異形種はスレイン法国にとって敵であり、滅ぼさなければならない存在だ。

 

追い詰めたガゼフの代わりに姿を見せた謎の四人。逆にガゼフやその部下達の姿はない。何らかの転移魔法によるものだろうが、その魔法に心当たりがない。未知の魔法を使う、正体不明の人物。警戒は絶やせない。

 

ニグンは天使達を一旦全員引かせ、自分達を守る壁のように配置し、若干の距離を取る。そのまま油断なく出方を窺っていると、前に立つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)がさらに一歩前に出た。

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと親しみを込めて呼んでいただければ幸いです」

 

ニグンが何も言わないでいると、アインズと名乗った人物は重ねて言葉を紡いだ。

 

「そして後ろにいるのがアルベド、アルフィリア、ペロロンチーノ。まずは皆さんと取引をしたいことがあるので、少しばかりお時間をもらえないでしょうか?」




大人気の噛ませ犬、ニグンさんの登場。

所々必要でない話を飛ばし、少しおかしい所があるかも知れませんが、気にしないでいただけると助かります。


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第15話

アインズ・ウール・ゴウンという人名を、頭の中で検索しても該当するものはなく、偽名の可能性がある。とりあえずは向こうの話しにのって、ある程度情報を得た方が良い。そう判断したニグンは顎をしゃくって会話を続けるように促す。

 

「素晴らしい。・・・・・・お時間をいただけるようでありがたい。さて、まず最初に言っておかなくてはならないことはたった一つ。皆さんでは私達には勝てません」

 

ニグンは僅かに眉をひそめる。

 

「無知とは哀れなものだ。その愚かさのつけを支払うことになる」

 

「・・・・さて、それはどうでしょう? 私は全て観察していました。その私がここに来たというのは必勝という確信を得たから。もし皆さんに勝てないようだったら、あの男は見捨てたと思われませんか?」

 

正論である。

 

魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であればもっと別の手段が似合う。

 

その沈黙をどう受け止めたか。アインズは言葉を続ける。

 

連れているのは炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)か、そのモンスターは何が由来かと。

 

「独り言はそれくらいにして、こちらの質問に答えてもらおう。ストロノーフをどこにやった?」

 

「村の中に転移させました」

 

「・・・・・・何?」

 

答えるとは思っていなかったニグンは困惑の声を上げ、その理由に思い至る。

 

「愚かな。偽りを言ったところで、村を捜索すれば分か 」

 

「 偽りなど滅相もない。お聞きになったから答えたまででしたが・・・・・・実は素直に答えたのにはもう一つだけ理由があります」

 

「・・・・・・命乞いでもする気か? 私達に無駄な時間をかけさせないというのであれば、考えよう」

 

「いえいえ、違いますとも。・・・・・・実は・・・・・お前と戦士長の会話を聞いていたのだが・・・・・・本当に良い度胸をしている」

 

嘲りを含んだニグンに対し、アインズの口調と雰囲気が一気に変わった。

 

「お前達はこのアインズ・ウール・ゴウンが手間をかけてまで救った村人達を殺すと広言していたな。これほど不快なことがあるものか」

 

「・・・・・・ふ、不快とは大きく出たな、魔法詠唱者(マジック・キャスター)。で、だからどうした?」

 

僅かに威圧されながらもニグンは嘲笑を含んだ態度を変えたりはしない。

 

「先ほど取引と言ったが、内容は抵抗すること無く命を差し出せ、そうすれば痛みは無い、だ。そしてそれを拒否するなら愚劣の対価として、絶望と苦痛、それらの中で死に絶えていけ」

 

アインズが一歩踏み込む。

 

それを合図にして戦闘が始まった。

 

ニグンは部下に指示をだし二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)がその手に持つ炎の剣をアインズに突き立てる。

 

アインズは何もせずに剣に貫かれた。

 

「無様なものだ。下らんハッタリでこちらを煙に巻こうと・・・・・・」

 

そこで疑問を覚える。

 

なぜ、アインズの死体が大地に倒れない?

 

「・・・・・・何をしている、すぐに天使を下げさせろ。剣が刺さっていては倒れまい?」

 

「い、いえそう命じているのですが」

 

部下の戸惑ったような声に、ニグンは弾かれたように再びアインズに視線を送る。

 

天使の翼が強くはためいている。

二体の天使がゆっくりと左右に別れるように動いた。ただしそれは異様な動き方。誰かに無理やり動かされるように離れていく。

 

「・・・・・・言っただろ? 君たちじゃ私達にには勝てないと。人の忠告は素直に受け入れるべきだぞ?」

 

静かな声がニグンの耳に飛び込む。

視野に入る光景。それが一瞬だけ理解できなかった。

 

剣を胸部と腹部に突き刺されながらも、アインズは平然とたっている。

 

「嘘だろ・・・・・・」

 

部下の一人の呻きは、ニグンの内心を代弁していた。剣の突き刺さっている箇所や角度から推測すれば、あれは確実に致命傷だ。

にも関わらず、アインズに痛みを感じている様子は見受けられない。

 

無論、驚きはそれだけではない。

アインズの伸ばした両手の先にあるのは二体の天使たちの喉。それぞれの手でアインズは暴れる天使をつかんで離さない。

 

「ありえん・・・・・・」

 

「・・・・・・何らかのトリックに決まっている」

 

「あ、当たり前だ! 剣が体を貫いているのに無事なはずがなかろう!」

 

慌てふためき、叫び声が上がる。特殊部隊として幾つも死線や激戦を潜り抜けて来たが、そんな光景は見たことがない。ニグンたちの召喚できる天使でも、あれは無理だ。

混乱に包まれたニグンたちに、平然とした、痛みというものをを一切感じていなさそうな平坦な声が届く。

 

「上位物理無効化 データ量の少ない武器や低位のモンスターの攻撃による負傷を、完全に無効化にする常時発動型特殊技術(パッシブスキル)だよ。 さて・・・・・・この天使は邪魔だな」

 

アインズは両手にそれぞれ掴んでいた天使を、拳ごと地面にすさまじい速さで叩きつけた。ズン、という音とともに大地が振動したと思ってしまうほどの桁の違う力を込めて。

 

アインズはゆっくりと立ち上がる。

 

「さて、つまらん児戯に十分、満足したか? では取引は拒絶したと受け取らせてもらおう。次はこちらの番だ」

 

天使を屠ったアインズは姿勢を正しながら手をゆっくりと広げる。

 

気持ち悪い静けさの中、アインズの言葉はどこまでも大きく聞こえる。

 

「いくぞ? 鏖殺だ」




重要な部分はいじりにくいです。

ドミニオンはアルフが相手をする予定です。

今更ながら、アルフの容姿はこんな感じです。

【挿絵表示】

そのうちペンいれと色をいれる予定です。

絵をまともに描いたのは数年ぶりなので、変なところがあるかも知れませんが気にしないでください。


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第16話

「全天使で攻撃を仕掛けろ! 急げ!」

 

弾かれたように、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)がアインズに迫る。

 

「本当にお遊びが好きな奴らだ・・・・・・皆下がれ」

 

天使たちが襲い掛かる中、やけに冷静沈着な声がニグンの元まで届く。四方八方から飛び掛かる天使によって一分の隙間もない状況下でありながら、焦りすら感じていないようだった。

 

無数の剣によって串刺しになる、そう思ったが それより早くアインズの魔法が発動する。

 

負の爆裂(ネガティブバースト)

 

ズンと大気が震えた。

 

光を反転したような、黒い光の波動がアインズを中心に一気に周辺を飲みつくす。波動が迸った時間はまさに瞬きひとつ。ただ、その結果は歴然として残る。

 

「・・・・・・あり、ありえない・・・・・・」

 

誰かの呟きが風に乗って聞こえる。それほど信じられない光景が広がっていた。

総数四〇体を超える天使。それらが全て、黒の波動にかき消されていた。

 

ゾワリとニグンの全身が震える。脳裏を走ったのはガゼフ・ストロノーフ。王国最強の戦士の言葉。

 

『・・・・・・愚かなことだ。あの村には・・・・・・俺より強い人がいるぞ。お前たち全員でも勝てるかどうか知れないほどの底知れない・・・・・・。そんな・・・・・・そんな人が守っている村人を殺すなぞ、不可能なこと・・・・・・』

 

その言葉が眼前の光景に重なる。

 

そんなはずはない!

 

ニグンは浮かんだ言葉を追払い、必死に自分に言い聞かせる。

ニグンは懐に手を当て、そこに収められた魔法のアイテムに勇気をもらう。

これがあるなら大丈夫だと固く信じて。

 

しかしそういった心の支えがない部下達は、別の手段に出た。

 

「う、うわぁああ!」

「なんだ、そりゃ!」

「化け物が!」

 

天使が意味をなさないと知り、悲鳴のような声を上げながら、自らの信じる魔法を立て続けに詠唱し始めた。

 

人間種魅了(チャームパーソン)〉、〈正義の鉄槌(アイアンハンマー・オブ・ライチャスネス)〉、〈束縛(ホールド)〉、〈炎の雨(ファイヤーレイン)〉〉

 

その他幾つもの魔法がアインズに打ち付けられる。

 

 

 

「なぁ、アルさんや」

 

「何だい、ペロさんや」

 

「これ、俺達来た意味有るのかな」

 

今目の前で起きている光景、敵が必死に魔法を打つ中、アインズは平然と立っている。

 

「来る意味なかったですね」

 

そう会話している間も戦闘は続いている。

 

今の状況は、敵が放った鉄のスリングをアルベドがスキルを使って弾き返し、放った者の頭が弾けとび、動揺した敵が監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)をけしかけて来た所だ。

 

 

 

「やれやれ・・・・・・反撃と行こうか。〈獄炎(ヘルフレイム)〉」

 

アインズの伸ばした右手の指先から放たれた、ポツンとかすかに揺らめく、吹けば消えるような黒い炎が監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)の体に付着する。

 

ゴゥッ、と監視の権天使の全身を黒い炎が一瞬で覆い尽くす。

天すら焼こうという勢いで燃え上がる黒炎の中、天使の姿が溶けるように掻き消えた。余りにも呆気なく。

それから、対象を燃やし尽くした黒い炎もまたこの世界から消えていく。

そこには何も残っていなかった。いままでの光景 天使がいたのも黒い炎が起こったのも嘘であったかのように。

 

「ば、ばかな」

 

「一撃だと・・・・・・」

 

「ひぃっ」

 

「あ、あ、ありえるかぁああああ!」

 

無数の混乱が生じる中を、ニグンの怒鳴り声が響く。

 

「そんなはずはない! ありえない! 上位天使がたった一つの魔法で滅ぼされるはずがない! 貴様は一体何者だ! アインズ・ウール・ゴウン! そんなやつが今まで無名なはずがない! 貴様の本当の名前は何だ‼」

 

冷静な表情はもはやどこにもない。ただ認めることができないと叫んでいた。

 

「・・・・・・何故、そんなはずがないと思った? それはお前が無知なだけかな? それともそういう世界なのかな? 一つだけ答えさせていただこう」

 

返答を持って周囲が静まり返る。その中、アインズの声がやけに大きく響く。

 

「私の名前は、アインズ・ウール・ゴウン。この名前は決して偽名のなどではない」

 

 

 

敵がざわざわと騒がしくなる中、アインズの声がアルフたちに響く。

 

「私の力は十分に示した。アルフよ、ここからは貴女が力を示す番だ」

 

「はい?」

 

アインズの突然の言葉に思考が止まった。

アルフは伝言(メッセージ)を飛ばし、口に出さず抗議する。

 

『なに考えてるんですか』

 

『いやぁ、敵が弱すぎて相手するのが面倒になりまして』

 

『・・・・・・分かりました。ちょうど暇してましたし』

 

メッセージを切り、アルフは敵の前に進み、アインズが下がった。

 

「ぐっ。 なめおって・・・・・・最高位天使を召喚する!」

 

そう言い、敵が懐からクリスタルを取り出し、掲げる。

 

「ん?、魔封じの水晶か、熾天使級(セラフクラス)でも出てくるのかな?」

 

熾天使級であれば問題ない、夜でないのが少し痛いが奥の手を使えば問題はない。

左手中指に着けている指輪と、左太ももに付けたリングに意識を向ける。

 

考えている内に、クリスタルが破壊され 光が輝く。

 

それは隠れようとする太陽が、地上に出現したかのようだった。草原は爆発的に白く染め上げられ、微かな芳香が鼻腔をくすぐる。

 

ニグンが歓喜の声を上げる。伝え聞く伝説の降臨を前に。

 

「見よ! 最高位天使の尊き姿を! 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)

 

それは光が輝く翼の集合体だ。翼の塊の中から、王権の象徴である笏を持つ手こそ生えているものの、

それ以外の足や頭というものは一切ない。異様な外見ではあるが、聖なるものであるのは誰もが感じる。

 

至高善の存在。それを前に喝采が炸裂するような勢いで上がる。

部下たちが、感情を爆発させていた。



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第17話

「・・・・・・主天使(ドミニオン)、ねぇ」

 

アルフは冷めた目で敵の召喚した主天使を見据える。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの部下であるそこの獣人の小娘を消し飛ばす、そのあとは貴様の番だ」

 

ニグンはアルフの後ろに下がったアインズを指差し、宣言した。

 

「はぁ・・・・・・熾天使が出ると身構えてたけど、こんな雑魚が出てくるとは・・・・・・」

 

「ざ、雑魚だと・・・・・・どういう意味だ!」

 

ニグンが驚愕の表情で言葉はを発したアルフを見つめる。最高位天使を前にしているにも関わらず、その態度は余裕がありすぎる。

 

「最高位天使のを前に、何故そんな態度ができる!」

 

「僕を相手にするなら主天使の一つ上、最低でも座天使(ソロネ)を十体ほど呼ばないと」

 

目の前に降臨した最高位天使を前にして、態度に変化がない。

まさか、アインズ・ウール・ゴウンだけではなく、その部下ですら最高位天使を凌駕する存在なのか。

 

「いや! ありえん! ありえん! 最高位天使に勝てる存在がいるはずがない! 魔神にすら勝利した存在だぞ! はったりだ! はったりでしかない!」

 

もはやニグンに感情を抑えるすべはなかった。

 

「〈善なる極撃(ホーリースマイト)〉を放て!」

 

 

 

善なる極撃(ホーリースマイト)

 

 

魔法の発動。そして光の柱が落ちてきた。そうとしか思えなかった。

第七位階 人間では決して到達し得ない極限級の領域。

 

しかし、その少女は魔法を受けても平然としていた。

 

アルフィリアというアインズ・ウール・ゴウンの部下は、消し飛ぶこともなく、地に伏すこともなく、燃え尽きることも、何もなく、大地に両の足でたっていた。

 

爪をカリカリといじりながら、つまらなそうな声が響いてくる。

 

「一応カルマは善方向だけど、流石に少しぴりぴりするな。 で、もう終わりなの?」

 

「・・・・・・ば、ばかな。 そんなはずはない! 最高位天使の一撃を耐えるなどありえない! もう一度だ! もう一度聖なる極撃(ホーリースマイト)を!」

 

「君のターンは終わりだよ」

 

そう言い、アルフはアイテムボックスに手をいれ、一つの指輪を取り出した。

 

指輪の名前は熾天使の指輪(リング・オブ・セラフ)。効果はMPを消費し、ランダムで熾天使級モンスターを一体召喚する、使い捨てのアイテムだ。

 

その指輪を左手の親指に着けて言う。

 

「貴方に、本当の最高位天使の尊き姿を見せましょう」

 

左手を突きだし、指輪の力を発動する。

 

 

 

召喚(サモン)

 

 

 

その言葉とともに指輪が輝き、MPを吸われていく。

MPの吸引が終わり、指輪の輝きが増すと同時に空が砕け、この向こうから一体の天使が舞い降り、効果を使用した指輪が砕け散った。

 

その姿は人のようであるが、背丈は四メートル程あり、その背には三対六枚の翼、右手には黄金の炎を纏う剣、左手には美しい彫刻が彫られた盾が握られ、身に付けている鎧は銀色の淡い光をともしている。

 

至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)

 

ユグドラシルでの最高位天使の一角、敵はその神々しい姿を呆然と見つめていた。

 

「いけ、我が敵に聖なる裁きを!」

 

召喚された熾天使が動き出す。

炎を纏った剣を一閃、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は胴を横に両断され、光の粒子となって崩壊していく。

 

主天使が完全に消滅し、辺りは静寂に包まれている。

その場には至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)と、ただ呆然と立ち尽くす敵の姿があった。

 

 

「・・・・・・バカな・・・・・・お前たちは一体何者なのだ・・・・・・」

 

そんな中ニグンは声を発したが、それしか言葉に出来なかった。

 

「僕は神になったただの獣だよ」

 

そう言いアルフは魔法を発動する。

 

魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)〉、〈魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)〉、〈麻痺の霧(パラライズミスト)

 

魔法が発動し、敵が麻痺によって次々と倒れていく。

 

「ではアインズさん、僕とペロロンチーノさんは先にナザリックに戻るので後は頼みます」

 

アルフはそう言って振り返り、熾天使を送還した。

 

「うむ」

 

アインズの返事を確認し、ペロロンチーノとともに転移する。

 

その心境は、処刑台を登る罪人のように重いものだった・・・・・・。




原作であったアルベドの発狂はカット。
あの部分好きですよ?、性器をミンチにして・・・・の部分は少し引きましたが、そんなアルベド様も大好きです。


設定説明

熾天使の指輪(リング・オブ・セラフ)
MPを消費して熾天使をランダムで召喚する、一回限りの使い捨てアイテム。
便利でありレア度が高めであるが、ガチャからよく出てくる。
カルマ値が善に傾いていないと使えないため、カルマが悪に傾いているギルドメンバーが多いナザリックでは使える者が少ない、ガチャで引くと善に傾いているギルドメンバーに譲渡されるので、アルフは三桁近く保有している。

至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)
姿に関しては完全に想像です。


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第18話

アインズは陽光聖典をナザリックに送り、村での説明を終え、ナザリック地下大墳墓の地表に来ていた。

そこには一人のメイドが待機していた。

 

「モモンガ様、ぶくぶく茶釜様がお待ちです」

 

メイドが一礼し、そう告げる。

 

「確かアルフさんが調整したホムンクルス、名はマリアだったか。アルベドよ、私は用事ができた。先に玉座の間に戻っていろ」

 

「はっ!」

 

アルベドは短く返事をすると、リングの力で転位していった。

 

「では、案内を頼む」

 

「了解しました、ぶくぶく茶釜様は第九階層の空き部屋にいます」

 

「分かった、転移する」

 

アインズはマリアの肩を掴み、第九階層に転位した。

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第九階層

 

第九階層に転位したあと、マリアの案内で部屋へ向かう。その途中、ぶくぶく茶釜からの用事を聞こうとメッセージを使ってみるが、繋がらない。

 

恐らく会って直接話し合いたいことでもあるのだろう。そう理解して思考を終えると同時、マリアが歩みを止める。どうやら目的の部屋に着いたようだ。

 

「こちらでお待ちです、私は持ち場に戻ります」

 

「うむ、ご苦労だった」

 

マリアが一礼し、この場を離れていく。

 

アインズは扉に体を向け、扉を開き中に入った。

 

 

 

部屋の中にいたのはぶくぶく茶釜の他、アルフとペロロンチーノがいるのだが、二人は何故か正座させられている。

 

「いらっしゃいモモンガさん、貴方も正座してください」

 

「はい?」

 

「いいからそこに正座」

 

ぶくぶく茶釜はアルフとペロロンチーノの間を指差し、静かながらも威圧感のある声で告げる。

アインズは逆らえず、二人の間で正座する。

 

「モモンガさん、私に何か報告することはありませんか?」

 

やさしい声で告げているが、威圧感は増している。

 

「い、いえ。特には何も・・・・・・」

 

「へ~・・・・・・じゃあこう言えば分かるかな。 アインズさん、私に何か報告することはありませんか?」

 

「・・・・・・」

 

ぶくぶく茶釜の威圧感がさらに増し、質量を持った重石が上からのし掛かってくるような錯覚に陥る。

 

「何でモモンガさん一人がこの名前名乗ってるのかな、こういうことはギルドの皆で話し合って決めることじゃなかったかな? それとも、モモンガさんにとってこの名前はそれほど軽いものだったのかな? ねぇ、聞いてる?」

 

「は、はい!。聞いております! 私は決してギルドの名前を軽く思っていたわけではなく、ちゃんとした理由がありまして・・・・・・」

 

「まぁいいや、それは後で聞いてあげる。 それより」

 

ぶくぶく茶釜はアインズの両隣のアルフとペロロンチーノを睨み付ける。

 

「アルフさん、愚弟。どうしてもっと早くメッセージくれなかったのかな?」

 

そのあと暫く、ぶくぶく茶釜による説教が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・今回はこれで許してあげる」

 

ぶくぶく茶釜の気がすみ、説教が終わり、威圧感が消えた。

今回、モモンガがアインズ・ウール・ゴウンを名乗ることについて、名乗った理由。

ギルドメンバー、または他のプレイヤーがこちらに来ているのであれば、自分達はここにいると知らせるため。

というのが考慮されアルフ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノの同意のもと、名乗ることが許された。

 

「それから、アルフさん」

 

「・・・・・・はい」

 

「貴方は今回モモンガさんのすぐそばにいながら、止めずそれを黙認した」

 

「はい、すみませんでした」

 

「今回は許しますが、次あった場合・・・・・・」

 

先程消えた威圧感がアルフにのし掛かる。

 

「その時は、私の持てる凌辱系エロゲの知識を総動員して犯し尽くしてあげる、現実世界での男が感じられないほどの快楽をその体に刻んであげるから、覚悟してね」

 

「・・・・・・は、はい・・・・・・」

 

ぶくぶく茶釜の言葉を聞き、体がガタガタと震えていた。

 

 

 

ぶくぶく茶釜が立ち去り、アインズが立ち上がった。

 

「すみません、俺が勝手にギルドの名前を名乗ったせいでこんなことに・・・・・・」

 

「いえ、僕こそ。その場にいて止められたのに・・・・・・あっ!」

 

「うおっ!」

 

アルフとペロロンチーノは立ち上がろうとしたが、こけてしまった、恐らく足が痺れてうまく立てないのだろう、こけた体勢から動けないでいた。

 

「んぅ・・・・・・あ、足が」

 

「うん、なんかアルフさんが喘ぎ声あげてるみたいで良いな、それにパンツが丸見えで素晴らしい・・・・・・うおぉぉお!、やっやめっ!ごめんなさいぃ‼」

 

ペロロンチーノの台詞を聞き、アルフはペロロンチーノの足を無言でベシベシ叩いている。

 

「だ、大丈夫ですか? 状態異常無効が働かないとなると回復系は効かなそうですね」

 

アインズは心配そうに二人を見つめ、考えている。

 

「うぅ・・・・・・しばらくはこのままか。 アインズさん、貴方は長としてたくさんやることあるんですから待ってなくていいですよ」

 

「わかりました、では失礼します」

 

そう告げると、アインズは部屋を出ていった。

 

「こんなとき血の通わない体が羨ましい」

 

「ですけど食べ物は食べられないですよ」

 

ペロロンチーノの言葉にアルフが答える。

 

 

その後、玉座の間で集会が開かれたが、ペロロンチーノとアルフは足の痺れが取れず、出られなかった。

 

その集会でアインズの口から告げられた、

アルフを四二人目として忠誠を誓えと。

 

アインズ・ウール・ゴウンを名乗る事を。

 

アインズ・ウール・ゴウンと言う名を世界に轟かせ、伝説とし、神話や伝説を塗り潰せと。

 

 

「これよりお前達の指標となる方針を厳命する アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ!」

 

アインズの言葉に、その場にいたシモベ達が一斉に歓声を上げた。




原作1巻終了

アインズの宣言のあと、例の勘違いが発生しますがカットしました。


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第19話

ぶくぶく茶釜の説教から一夜明け、アルフは自室のベッドで目を覚ました。

時計に目を向けると、朝の七時を示している。

 

「ん?」

 

体を起こし掛け布団を見る、そこには二つの膨らみができており、その箇所に重みもある。

片方はフニフニと柔らかく、体温を感じるが、

もう片方はごつごつしており、少しひんやりしていて心地いい。

その膨らみをじっと見つめていると、時々もぞもぞと動いている。

 

何となく予想はつくが取り敢えず布団を捲ると、そこには腹を枕にしているマリアと、太ももの上で丸くなっている黒龍が寝息をたてて眠っていた。

 

アルフはマリアの設定を思い出す。

確か『寝ていると布団に潜り込んで来たり、えっちい悪戯をしてくることもある』と書いたような気がする。

 

考えていてもマリアは起きないので、目覚めを促す意味を込めて、頭をやさしく撫でてみる。

 

手にさらさらとした感触が伝わる、このままずっと撫でていたくなるような、そんな感じだ。

アインズがアウラやマーレの頭を撫でるのも、こういった感触や嬉しそうに撫でられているさまを楽しんでいるのかもしれない。

 

「・・・・・・んぅ?」

 

マリアは目を覚ましたようで、トロンとした目でこちらを見上げている。

 

「おはよう、マリア」

 

「おはようございます、お父様。 昨晩のお父様は素敵でした」

 

そう言いながら、頬を赤く染める。

 

「・・・・・・僕、なにもしてないよね」

 

「はい、私が一方的に楽しみました」

 

頬に両手をあて、身をよじらせていた。

 

「はぁ・・・・・・取り敢えず食堂に行こうか」

 

そんなこんなありながら身支度をし、食堂に向かうことにした。

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第九階層 食堂

 

食堂に着き中を見渡す。

座っている位置は違うものの、大体昨日と同じようにメイド達が座って食事をとっている。

そんな中、昨日と同じ場所に座っているぶくぶく茶釜とペロロンチーノを見つける。

 

食堂のカウンターで牛丼を注文して受けとる、マリアは昨日ぶくぶく茶釜が食べていた鮭定食と黒龍用の生肉を受け取っている。

 

ぶくぶく茶釜とペロロンチーノのいる席に着き、アルフは一礼し、言葉を発する。

 

「ぶくぶく茶釜様、おはようございます」

 

昨日の台詞を思い出し、体が震えている。

 

「アルフさん、もう怒ってないからそう畏まらないで」

 

「うん。 ペロロンチーノさんはどうしたんですか?」

 

ぶくぶく茶釜の横を見ると、ペロロンチーノが脇腹を押さえて苦しんでいる。

 

「ああ。またいつもみたいに馬鹿なこと言っただけだから、気にしないで」

 

「ちなみにどんなことを?」

 

「この世界にエロ系モンスターがいるか確かめに行きたい、とかほざいてたわね」

 

呆れたように肩らしき所を竦めてそう言った。

 

「ああ・・・・・・」

 

ペロロンチーノを見るといつの間にか復活しており、天丼をかき込んでいた。

 

 

 

 

 

アルフとマリアも席に着き、食事を始める。

黒龍はテーブルの上に乗り、皿に乗った生肉をかじっている。

 

「あ、そう言えばアルフさん。今日の夜、コキュートスと試合するのって本当? シモベ達の間でその話が広がってるよ」

 

食事を終えたぶくぶく茶釜が、質問し、紅茶をすする。

 

「はい。一応興味のあるシモベは観戦できるよう言ってあります」

 

「そっか、それで一般メイド達もざわついてるのね」

 

「どういうことですか?」

 

「うん、私たちプレイヤーってギルド拠点内では第6階層でしか試合しないでしょ? しかもゲームだった頃はシモベは持ち場から離れられない。

だけど今は行動できるようになった。ここまで言えば分かる?」

 

「はい、要は今まで観れなかった至高の存在であるギルドメンバーの戦闘をその目で見ることができる」

 

「そういうこと」

 

確かに、自分達が崇めている存在がどう戦うかは守護者以外でも興味は湧くだろう。そう考えながら食事を続けた。

 

 

 

食事が終わり、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノと別れ、コキュートスとの試合がある夜まで暇なので第九階層を散歩している。

マリアには自由にしていいと言ってあるので、他のメイド達と雑談でもしているのだろうか?

 

で、黒龍は自分の頭の上でぐでっとしながら尻尾を振っている。

 

「どこ行くかな・・・・・・」

 

アイテムボックスに手を突っ込みながら廊下を歩く。

 

目的のものをアイテムボックスから引っ張り出して見つめる。

龍の手綱、龍種限定ではあるが魔獣使い(ビーストテイマー)と同じことができるようになるアイテム、寝る前に作ってアイテムボックスに放り込んだものだ。

 

「第六階層でも行くか」

 

そう言いながら黒龍の頭を撫で、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動した。




誤字脱字の指摘ありがとうございます。


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第20話

ナザリック地下大墳墓・第六階層 闘技場

 

アルフは、ちゃんと転位できたか確認するために辺りを見回す。

今立っている場所は闘技場の中心、周りには観客席がある、観客席をドラゴン・キン達が箒をもって掃除しており、そのドラゴン・キン達に指示を飛ばしているアウラがいる。

 

アウラがこちらに気付き、観客席から飛び降り駆け寄って来た。

 

「アルフィリア様、おはようございます」

 

「おはよう、アウラ」

 

挨拶に答えながら、その頭をやさしく撫でる。

アウラは嬉しそうに撫でられている。

 

「で、マーレは?」

 

「マーレは家で寝てます、ぶくぶく茶釜様も一緒にいますよ。起こして呼びますか?」

 

食事が終わったあとすぐにここへ来ていたのか。

 

「いや、そのまま寝かせてあげて」

 

撫でていた手を引き、黒龍を頭から下ろし抱きかかえる。

 

「それで今日はどういったご用件で?」

 

「この子を運動させるためにちょっとね」

 

そう言いながら抱えた黒龍を揺すった。

 

「この子強そうですね、もしかしてあたし達くらい強かったりします?」

 

そう言いながら黒龍撫でるアウラ、黒龍ももっと撫でてというように、手にすり寄っている。

 

「うん、一応Lv100だよ。だけど僕はテイマー系の職業に就いてなくて、ずっと部屋の番をさせてたからね。

この機会に戦闘能力の把握を兼ねた運動と、これがちゃんと動くかのテストをしたいんだ」

 

黒龍を左腕で抱え、右手に持った手綱を見せた。

 

アウラは黒龍から手を離し、アルフの持った手綱を見つめる。

 

「龍の手綱ですね。見た感じ力も感じますし、ちゃんと動くと思いますよ」

 

「じゃあ、元の大きさに戻すから少し離れてて」

 

「分かりました」

 

そう言い、アウラが離れていく。

そんな中、視界の端で観客席にいるアインズの姿を捉える。どうやら考え事をしているようで、こちらに気付いていない。

 

ふと、頭の中に悪戯の案が浮かぶ。

心の中の悪魔がそれを実行しろと囁き、天使は面白ければ良いじゃない、と。

 

 

心の中の天使は魔に堕ちた。

 

 

アルフは黒龍の右前足に着けているサイズ調整の腕輪を取り、地面に置いて退避する。

 

少しすると黒龍の体が大きくなっていく。

 

巨大化した黒龍の大きさは、地面から頭の先までが約五メートル、鼻先から尻尾の先まで約二〇メートル、翼は片方二〇メートルくらいだろうか、これでもまだ半分の大きさだ。

黒龍は大きすぎるため、腕輪を二つ使って小さくしている、小さくても戦闘能力は変わらないが、乗るのであれば大きい方が良いだろう。

 

頭を下げてきた黒龍に、龍の手綱を装備させてその背に乗る。

握った手綱を通じて、召喚した眷族と同じような繋がりを感じる。

 

手綱を握り直し、音をたてないように歩くよう指示を出す。向かう場所はもちろんアインズのいる観客席の前。

 

黒龍が観客席の前で立ち止まる、それでもアインズは気がつく様子はない。

 

アルフは邪悪な笑みを浮かべて黒龍に指示を出す。

 

甘噛みしろ、と。

 

黒龍が口を開き、アインズの上から覆うように頭を移動させ、その口を閉じて持ち上げた。

 

『えっ?ちょ何?!牙?!』

 

黒龍がモゴモゴとアインズを食んでいる。口から飛び出してる足がじたばたと動く。

アインズには暗視能力があるので何かしらの口の中というのは理解しているっぽい。

 

「もう吐き出していいよ」

 

そう言いながら、ぽんぽんと黒龍の首を叩く。

 

吐き出されたアインズは呆然と黒龍を見上げ。視線を落とし、アルフに気付く。

 

「・・・・・・アルフさんやめてくださいよ、心臓が止まるかと思いました」

 

もちろんアインズには心臓どころか内蔵、血肉の類いが皆無なのでびっくりしてショック死することはない。

 

「すみません、こちらに気付いていないアインズさんを見たらつい」

 

笑いながらそう言った。

 

 

 

 

 

黒龍をアウラにまかせ、アルフはアインズの横に腰をおろした。

 

「で、何を考えてたんですか?」

 

「実はですね、息抜きと情報収集を兼ねて冒険者をしようと思ってまして。

冒険者として行動するにあたって誰かつれていこうかと思うのですが、なかなか決まらなくて」

 

アインズは頭をかきながらそう言った。

 

「候補は決まっているんですか」

 

「はい。出来るだけ人の姿に近いプレアデスのユリ、ナーベラル、ルプスレギナの中からつれていこうと思っているのですが」

 

「ん?、ソリュシャンは?」

 

「ソリュシャンにはセバスと一緒に他の任務を与える予定なので」

 

アインズは再び考え込む、うんうん唸っているがどうも答えがでないようだ。

 

「ならナーベラルはどうです? 彼女、見ためクールそうで何でもそつなくこなしそうですし」

 

「そうしてみます」

 

悩みごとが消えアインズの顔が明るくなった・・・・・・ような気がする。

 

「先ほどから気になっていたのですが、あれって黒龍ですよね」

 

アインズの視線の先、アウラを乗せてドシドシと駆け回る黒龍の姿がある。

 

「はい。そうですよ」

 

「魔獣使いや竜騎士が血ヘド吐きながらボーナス全額突っ込んで回しても出なかったあの?」

 

「その黒龍です」

 

アインズはその言葉を聞き目を輝かせ、身を乗り出して黒龍を見ているようだ。

 

「あげませんよ?」

 

「ぐ・・・・・・」

 

何となく釘を刺してみたが、正解だったようだ。

アインズは収集癖があり、流れ星の指輪(シューティングスター)を当てるまでガチャを回した人だ。それ以上のレア物が目の前に出てくれば食いつくのは予想できた。

 

「でも、たまになら乗っても良いですよ」

 

アインズがキラキラした笑みで振り返った・・・・・・ような気がする。

 

 

 

いつまでも黒龍やあの子、じゃあ味気ないな。

 

アルフはそう思い、何かしらの名前をつけようと考え始めた。



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第21話

アルフは顎に手をあて、

これから力になるであろう黒龍、その名前を考える。

 

「アルフさん、どうしました? 何か悩みごとですか?」

 

アインズが心配そうにこちらを見ている。

 

「いえ。ただあの黒龍の名前を考えてまして。いつまでも黒龍やあの子じゃあ味気ないと思いまして」

 

「なら俺が名前を「遠慮します」

 

「・・・・・・即答ですか、そうですか・・・・・・」

 

アインズはいじけたように膝を抱えて座り込み、地面にのの字を書いている。

 

「一応候補は二つまで絞ってあるので」

 

最もらしい嘘をつく。実際のところアインズのネーミングセンスが完全に死んでいるのだが、直接言って止めをさすのもかわいそうなのでやめておく。

 

「そうなのですか?」

 

「はい。一応竜に関する名前が良いと思いまして。

候補の一つは魔法の神と言われた黒龍、ツィルニトラ。

もう一つは竜殺しの聖者、ゲオルギウス。どちらもいい名前なので」

 

腕を組み、黒龍を見つめながら再び考え込む。

もういっそダイスロールで決めてしまおうか、と思ってしまう。

 

「ちなみにアインズさんだったらどう名付けます?」

 

「そうですね、クロスケとか?」

 

「・・・・・・やっぱ遠慮して正解だった」

 

「ひどい!」

 

再び落ち込むアインズ、それを慰めるアルフ。

機嫌を直してくれるまでしばらくその状態が続いた・・・・。

 

 

 

 

 

 

同刻・第九階層 執務室

 

そこには二つの人影が長机を挟み、向かい合ってソファに座って書類を眺めている。

その書類は昨日の捕らえたもの達から引き出した情報であり、残りの人数も記載されている。

書類によると陽光聖典のニグンと名乗る者とその部下二名はアルフィリアに忠誠を誓うと申し出ており、それ以外の者は三回質問に答えたら死んでいるようだ。

 

「デミウルゴス、貴方昨日の朝辺りからずいぶん機嫌が良いわね」

 

「ええ。アルフィリア様と話して自分の考えの愚かさを思い知らされまして」

 

デミウルゴスは眼鏡をかけ直し、書類に目を落とす。

 

「では、アルフィリア様に忠誠を誓うことに異議はないと?」

 

「ええ、アルベド。彼女の至高の方々のに対する思いは本物でした」

 

アルベドはじと目でデミウルゴスを見る。

この前から態度が変わっているのもそうだが、その声から忠誠以外の色、自分がよく知る色が感じられたからだ。

 

「貴方、今現在アルフィリア様についてどう思ってるの?」

 

アルベドの問いに、デミウルゴスはアルベドを真っ直ぐ見つめて言う。

 

「彼女には至高の方々と同等の忠誠を誓おうと思っています。そして、もし叶うのなら、彼女との間に子をもうけたいと」

 

アルベドが感じた色、デミウルゴスは恋をしているようだ。至高の御方にそのような事を思うのは不敬とは思うが、自分も同じようなものなので色恋に関しては何も言えないが、これだけは伝えた方が良いと思い、アルベドは口を開く。

 

「彼女。いえ、彼は外見こそ女性だけど中身、精神は男性らしいわ。以前玉座の間で至高の方々がそんなことを話していました。

好みのタイプは私とルプスレギナらしいわよ? やはり女性であったり種族が近い方が良いのかしら?」

 

「そうですか、たとえ中身が男性であってもこの想いは変わりません。私はあの方の在りかたに惚れました」

 

「そう」

 

アルベドとデミウルゴスは資料に視線を戻し、情報の選別を再開した。

 

 

 

 

第六階層 闘技場観客席

 

「?!」

 

「アルフさん、どうしました?」

 

「いや、なんか寒気が」

 

機嫌がもどったアインズが心配そうに聞いてくる。

アルフは自分の身を抱き、肩をさする。

 

「そういえば、昨日捕まえた人達どうなりました?」

 

「あの人達ですか。少し面白いことになってますよ」

 

何となく嫌な予感がするが、話を進めるように促す。

 

「隊長のニグンとその部下二人がアルフさんを神と崇めて忠誠を誓うと跪いてました。その時の目はナザリックの者達と同じ感じだったので本気だと思いますよ?」

 

「・・・・・・」

 

気が重くなり、目頭を押さえた。

細かいことはアインズやシモベ達にまかせれば良いと思っていたが、こればかりは自分で決定しないといけないようだ。

 

「その三人昼過ぎ辺りにここへ呼んでください、僕の部下にしても問題無いのであればそうします。ぶくぶく茶釜さんへの報告は僕からします」

 

アルフは立ち上がって伸びをしながらアインズに言う。

 

 

 

「アウラー!」

 

闘技場に出て手を振りながらアウラを呼ぶ。

 

黒龍がのしのしと近づき、アルフの前で立ち止まり首を下げる。

アルフは手を伸ばし黒龍の顎を撫でる。

 

「今から君の名はゲオルギウスだよ」

 

つい先ほど決めた名前を黒龍に告げる。

黒龍改め、ゲオルギウスは嬉しそうに頬をすり寄せてきている、どうやら気に入ってくれたようだ。

 

 

 

その後、ゲオルギウスを縮小してマリアに預け、陽光聖典を配下にすることをぶくぶく茶釜とペロロンチーノに告げ了承をえた。

 

昼食を取り終えた後、陽光聖典の者達の情報に目を通し、三人に会うため再び第六階層に転移する。

転移先にはすでに複数の人影があり、陽光聖典の他、ドラゴン・キン二体とデミウルゴスがいた。

 

「アルフィリア様、昨日は無礼を働き、まことに申し訳ありませんでした」

 

デミウルゴスの近くに行くと、陽光聖典の三人が素早く跪いてそう言った。

 

「気にしてないから別にいいよ。それより僕の配下になりたいって本気?」

 

「本気でございます」

 

「スレイン法国は僕のような亜人種や異業種を敵としているみたいだけど、その辺りは大丈夫? ここにはそういった者達がうじゃうじゃいるから」

 

「はい。その点は問題ありません、私とそこの部下二人は貴女様に仕えると決めたときに決意しました。

ですが価値観というものは一朝一夕でどうにかなるものではございません。ですので、価値観を変えるための猶予をいただきたく思います」

 

「分かりました、貴方達を配下とし。それにあたってこの指輪をつけてもらいます、手を出しなさい」

 

アイテムボックスから指輪を三つ取り出し、三人の手の上にそれを置く。

 

「これは?」

 

「それは貴方達を監視するものです、着けると外せなくなります。もし貴方達が裏切るような事があれば僕が直接手を下します」

 

「畏まりました」

 

そう言い、陽光聖典の三人は迷いなく、指輪を装備した。




最初はコメントと同じようにヴォルテールにしようかとも思いましたが、一応神話系の名前にしました。

設定説明

監視の指輪
アルフが錬金し、マリアが彫金した指輪。
効果は製作者の了解がなければ外せない。
情報系の魔法で探知しやすくなる。
行動や言動を感知し、もし裏切るような行動があった場合、製作者に即知らせる。


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第22話

ニグン達を仲間にした後、遠い地より転移して来たこと、この世界の知識が薄いこと。

今現在、周囲の情報を集めていることを話し、ニグン達にはいろいろ聞くことになると説明した。

 

ニグン達は了承し、デミウルゴスとともに闘技場をあとにした。

 

 

「はぁ、忠誠が重い・・・・・・」

 

ニグンの目は確かにナザリックのNPC達と同じものがあった。

 

「あ、忘れてた〈伝言(メッセージ)〉」

 

ふと、忘れていたことを思いだし、デミウルゴスにメッセージを飛ばす。

 

「デミウルゴス? 今夜の試合のルールだけど・・・・・・」

 

今夜行われる試合のルールについて話し、ニグン達が望むなら観戦を許可することを伝える。

 

 

『分かりました。伝えておきます』

 

メッセージを切り第六階層の空を見上げる。

いろいろしているうちに日が傾き、夜になろうとしている。

数時間後にはコキュートスとの試合だ、NPCの中でも上位の強さを誇る、油断したら負けてしまうかもしれない。

 

なら慢心せず、可能な限り全力でぶつかろう。

そう思い、アイテムボックスから杖を取り出しウォーミングアップを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第六階層 闘技場 21:00

 

そこは永続光(コンティニュアル・ライト)の光に満ち、貴賓席にはアインズ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、アウラとコキュートスを除いた各階層守護者。観客席には領域守護者、プレアデス、一般メイド達がおり、少し離れたところにニグン達もいる。

 

そして闘技場の中心にはアウラ、それを挟みアルフとコキュートスが対峙する。

 

『紳士淑女の皆々様、お待たせいたしました。これより、至高の御方 アルフィリア・ルナ・ラグナライト様対第五階層守護者 コキュートスの試合を行います!。レフェリーはこのあたし、アウラ・ベラ・フィオーラが勤めます!』

 

魔法効果で大きくなったアウラの声が闘技場に響き、シモベ達の歓声が轟く。

 

『では、今回の試合でのルール説明を行います!

ルールその1、攻撃力が極端に高いスキルは使用禁止!

その2、攻撃魔法は第五位階まで、強化魔法は制限なし!

その3、消費アイテムの使用、世界級(ワールド)アイテムの装備禁止!

その4、勝利条件は手に持った武器で一撃入れること、投擲武器はノーカウントといたします! 以上!』

 

 

 

 

 

「アインズ様、あのようなルールで大丈夫なのでしょうか? 魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるアルフィリア様には不利のように思えます」

 

「うむ、心配はいらないさ」

 

そう言い、闘技場の中心へと意識を集中させる。

 

「これから面白いものが見れるぞ」

 

 

 

 

 

『お二人とも、準備は良いですか?』

 

コキュートスは二本の刀を構え、頷き、顎を鳴らす。

 

アルフは杖の穂先を下げ、槍のように構え、コキュートスに問う。

 

「コキュートス、最初から本気を出すつもりはないのかな?」

 

「アルフィリア様コソ、試合前に強化魔法ヲ唱エナクテモヨロシイノデスカ?」

 

「前もって強化魔法かけるのは禁止されてないけど、これが僕の戦闘スタイルなんだ」

 

そう言い、アウラに準備が出来たと意思表示する。

 

『では、試合開始‼』

 

その言葉と同時アウラは跳び引き、コキュートスが突撃してくる。

 

無限増幅(アンリミテッド・ブースター)

 

アルフは魔法を唱え、コキュートスを迎え撃つ。

 

「倶利伽羅剣!」

 

コキュートスの二本の刀が上段からせまるが、金属音とともに刀が跳ね上がる。

 

「ナニ⁉」

 

コキュートスは起こった出来事に困惑している、アルフの戦い方を初めて見たものであれば誰でもそうなるだろう。

魔法詠唱者(マジック・キャスター)が戦士職のスキルを乗せた一撃を杖で弾く。そんな状況は普通ではあり得ない。

 

そんな隙をつき、アルフはコキュートスに肉薄し、腹に手を当て魔法を放つ。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズ・マジック)炸裂(バースト)〉!」

 

爆発が起こり、コキュートスが吹っ飛ぶ。

 

「グ・・・・・・」

 

コキュートスは体勢をたて直し、アルフを見据える。

 

「本気出す前に終わっても良いの?〈加速(アクセル)〉」

 

 

 

 

 

 

 

「アインズ様、今のはいったい・・・・・・」

 

アルベドが戸惑うような顔をして聞いてきた。

 

「彼女は拳闘士を5レベルほど取っていてな、職業スキル 見切りで弾いているのだ」

 

話しているうちに状況が変わり。コキュートスが飛ばされ、アルフが加速魔法を唱えた。

 

「終わったな」

 

アルベドはその言葉に再び困惑しながらも、闘技場に視線を戻す。

 

その表情は困惑から驚愕に変わる。

コキュートスが四本の腕で攻撃しているにもかかわらず、アルフはそれを杖1本で弾いている。

 

杖が刀を弾くたび、金属音が闘技場に響き渡る。

 

杖を回し、突き、振り下ろし、切りあげる。杖で棒術を使うようにこれを目にも止まらぬ速度でおこない、コキュートスの乱撃を弾いている。

 

 

 

 

 

 

 

「攻メキレナイ・・・・・・」

 

すでにコキュートスの攻撃回数は二百を超えるが、そのすべてが弾かれ、受け流されている。

 

加速(アクセル)

 

これで何度目だろうか、アルフが魔法を唱えるたび速度が上がる、あと数回唱えられたら対応できなくなるだろう。そう思い、武器を大振りして跳び引く。

 

「コキュートス、これで終わりだ〈加速(アクセル)〉」

 

〈加速、加速、加速加速加速加速加速加速〉

 

加速を何度も重ね掛けし、突っ込んでくる。

 

 

 

 

「倶利伽羅剣!」

 

迫り来るアルフに四本の刀を振り下ろす。

このタイミングなら当たる、と確信するが。

 

「ナ!」

 

振り下ろした刀は空を切り、地面を削る。

 

「ドコダ!」

 

「ここだよ」

 

コキュートスの背後から声が聞こえると同時、ゴンッと頭部に打撃音と衝撃がはしった。




戦闘描写はどうもダメですね。
今後出てくる戦闘描写を完全に削るか、悩みます。


設定説明

無限増幅(アンリミテッド・ブースター)
強化魔法による能力値上昇の天井を取り払う。
戦闘以外では使用不可

拳闘士
近接系の職業。
見切り、武の見極め等を覚えられる職業。


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第23話

コキュートスが振り向くとそこには、杖を肩に担ぎ、浮いているアルフがいた。

 

闘技場が静寂に包まれている、観客席にいる者達もコキュートスの攻撃が当たると思っていた。それが攻撃が当たる直前姿を消し、次の瞬間にはコキュートスの背後から杖で後頭部を叩いていた。

 

「アウラ、コール」

 

『え? あ、はい! 勝者・アルフィリア様!』

 

アウラが勝者の名を告げると、観客席のシモベ達が歓声を上げた。

 

「ムムム・・・・・・」

 

コキュートスは口から冷気を吐き出しながら唸っている。

 

 

「アルフさんの戦い久しぶりに見ましたが、腕は鈍ってないようですね」

 

声のする方を見るとアインズ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、階層守護者達が歩いて来ていた。

 

「いや、まだ本調子じゃないですよ」

 

「あの攻撃を捌けるなら十分ですよ」

 

ぶくぶく茶釜がそう言いながら両の手を合わせる。

 

「アインズ様、質問よろしいでしょうか?」

 

「何だアルベド、質問を許可する」

 

「はい。先ほどアルフィリア様は加速魔法をリキャストタイムを無視して使っていたようですが」

 

「うむ、あれはアルフさんの杖、アスケイオンの能力だ。あの杖には加速魔法の他、加速効率上昇、消費MP減少のデータクリスタルが主に使われている。

込められている加速はMP消費無しでも発動できるが、MPを消費して発動することによりリキャストタイムをゼロにする効果があるのだ。

アルフさんの戦い方に興味があるのなら図書館に行ってみるといい、ギルドメンバー達の試合を記録したスクロールがあるはずだ、己が創造主の戦闘を見てみるのも良いだろう」

 

そんなこんなでコキュートスとの試合は終わった。帰り際、ニグン達を見てみると、号泣しながら祈りを捧げていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第十階層 大図書館 23:00

 

アルベドとデミウルゴスは大図書館の扉の前に来ていた、本当はもっと早く来たかったのだが、情報の選別をやっていたらこんな時間になってしまった。

 

「ではいきましょうか、デミウルゴス。アインズ様の戦う姿を映像とはいえこの目で見れるとは思わなかったわ」

 

そう言いながら自分を抱き、くねくねとしている。そんなアルベドをみてため息を吐き、デミウルゴスは言葉を発する。

 

「アルベド、気持ちはわかりますが自重してください」

 

そう言いながら図書館の扉を開き中に歩を進めた。

 

 

 

図書館に入ると、まず目にはいるのが巨大な本棚だ。それが数え切れないほど図書館内に立ち並んでいる。

 

そんな中、数本のスクロールを抱えたシャルティアが横切った。

 

「シャルティア、ここで何をしているのかね?」

 

「あら、デミウルゴス。それにアルベドも来たでありんすか?」

 

「「も?」」

 

「考える事は皆同じ、と言えば分かるでありんすか?」

 

「ああ。そう言うことね」

 

「では、ついてくるでありんす。他の守護者ももう来ているでありんす」

 

そう言い、シャルティアが歩き始め、そのあとに二人が続く。

 

少しすると開けた所に出た。そこには椅子と机が複数あり、貸し出しカウンターもある。

その一角に他の守護者達がいた。

 

「あ、アルベドとデミウルゴスも来たんだ」

 

アウラが近づいてくる三人をみて、手を振ってそう言った。

 

「皆はもうスクロールは見つけたでありんすか?」

 

「このとおり」

 

守護者達が囲むテーブルの上にはスクロールが山になっている。

スクロールにはラベルが貼ってあり、対戦者の名前と撮影者の名前、ルールがかかれている。

主にアルフの物が多いが、中にはアルフの名が書かれていないものもある。

たぶん、自分の創造主の試合が気になり持ってきてしまったのだろう。

 

「にしても何でこうバラバラにあったのでありんすか?、司書は居るのでありんしょう?」

 

「あたしに聞かないでよ。でも、近々図書館のシモベ総出で整理するみたい」

 

シャルティアがスクロールを山に追加し椅子に座る。

アルベドとデミウルゴスも空いている椅子に座った。

 

「デハ、ドノスクロールカラ見ルノダ?」

 

「これにするでありんす」

 

シャルティアの持ったスクロールには武人建御雷対アルフィリア 撮影者ペロロンチーノ、とある。

ルールはコキュートスの時と同じのようだ。

 

「異論ハナイ」

 

全員が異議なしと確認し、シャルティアはスクロールを開いた。

 

 

映し出された戦闘は、コキュートスと同じような状況だった。

最初にアルフが無限増幅を唱え、加速していく。

建御雷の攻撃が次々弾かれていくが、中には見切りを突破することもあるがかわされ、アルフが跳び引き加速を唱える。

 

そんな中シャルティアが映像の妙な所に気づいた。

 

「何でローアングルが多いのでありんしょう? わたしにとっては眼福でありんすが」

 

そう、アルフが飛んだり跳ねたり、衝撃波等が起こると必ずといっていいほどアングルが下がり、アルフのスカートがアップになる。

 

「ペロロンチーノ様、下着が見たいのでありんしたら、わたしに言ってくれれば見せるでありんすのに」

 

 

 

「シャルティアよ、こういうのはただ見れれば良いというものではない、チラリズムが大切なのだ。見えそうで見えなが、時々見える下着というのが至高である、のだが、丸見え、捲し上げというのも捨てがたい!」

 

 

 

「そうでありんすか?・・・・・・ ペロロンチーノ様?!」

 

その言葉に守護者達が一斉にシャルティアの方を見た。

気がつくと、シャルティアの横にはペロロンチーノがたっていた。




22話の誤字指摘ありがとうございます。

シャルティアは取り敢えず「ありんす」をつけとけば問題ないだろうと適当になりつつあります。


設定説明

アスケイオン
アルフの装備する杖
杖には加速効率上昇と消費MP減少のクリスタルが主に使われている、加速特化の杖。
封じられている加速はMP無しでも発動できるがリキャストタイムが発生する、MPを消費して杖の加速を発動するとこでリキャストタイムがゼロになる。


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第24話

「ペロロンチーノ様、なぜここに?」

 

「ん、時間になってもシャルティア来ないから、もしかしたらここかな、と思って」

 

アルベドの問にペロロンチーノがそう答える。

 

「それにしても、いくらナザリックの中とか、映像に夢中でとか、そんな状態でも周りに気をくばった方がいいよ」

 

「畏まりました。ところで、シャルティアにはどういった御用で?」

 

「夜のお相手」

 

その答えにアルベドが満面の笑みを浮かべる。

 

「そうなの、シャルティア。ペロロンチーノ様からご寵愛を賜っているのならアインズ様は私が貰うわね」

 

「何言ってるでありんすか?アインズ様は諦めないでありんすよ」

 

「そちらこそ何をいっているのかしら。このビッチ!」

 

「この年増ぁ!」

 

アルベドとシャルティアの額が激突し、ギリギリと歯軋りが聞こえる。

 

 

 

「なぁデミウルゴス。シャルティアとアルベドっていつもこうなの?」

 

「いえ、いつもはそれほどでも無いのですが。アインズ様が絡むと殆どはこうなりますね」

 

そう言ってる間に、二人の顔が凄いことになっている。

女性がそんな顔してはいけないと思う。

 

「シャルティア。良妻というのは一人の男性を永く、それこそ永久に愛するとこだと思うの。それを貴女は二股とか、何考えているのかしら?」

 

「私にとってペロロンチーノ様はお父様、いわば家族でありんす。夜のお相手は家族のスキンシップ、異性愛とは違うものでありんす」

 

なんかとんでもないこと言ってるなぁ、とペロロンチーノは思いながら頭をかく。

 

「こうなった二人には関わらない方がいいので、次のスクロールを見ましょうか」

 

「賛成」

 

デミウルゴスの言葉にアウラとその他の守護者が同意した。

 

 

 

 

 

ペロロンチーノが来てから八本目のスクロールを見終えた。アルフの戦い方は勝敗に違いはあれど、どれも同じ展開だった。

加速をし、攻撃を弾き、受け流し、隙をついて一撃を撃つ。

 

何となくデミウルゴスの方を見ると、興味深そうに今まで見たスクロールのラベルを見る。

 

「デミウルゴス、何か気づいたみたいだね」

 

「はい、どうやらアルフィリア様は夜の方がお強いようですね。これは彼女の種族によるスキルに関係していそうです」

 

「その通り、アルフさんは人狼(ワーウルフ)のパッシブスキル〈狂乱の月〉を持っている。

普通は月夜に攻撃力と素早さを上げる変わりに一定確率で狂乱状態になるってスキルなんだが、亜人種から異形種に変わったときに昼間は弱体化するという効果が追加されたらしい。そのぶんステータスの上昇率も上がったらしいけど、そのスキルが原因で昼と夜とではステータスが全くの別物になってる」

 

「そうですか。あと気になったのは彼女の太ももですかね」

 

デミウルゴスはそう言いながら眼鏡をかけ直した。

 

「デミウルゴスは太ももフェチ?」

 

「確かにお美しいとは思いますが、私が言いたいのはリングのことです。普段は着けているのに、試合時は着けていない。これは私の推測ですが、あのリングは世界級(ワールド)アイテムでしょうか?」

 

「ご名答、あのリングは世界級アイテムだ。名前は確か・・・・グレイプニル、だったか」

 

ペロロンチーノは顎に手を当て、思い出しながら言う。聞いたのがだいぶ前なので忘れかけている。

 

「どのような能力かお聞きしてもよろしいですか?」

 

「ああ、俺も聞いたのはだいぶ前でな。

確か、全ステータスを15%マイナスする変わり、精神異常、状態異常、デバフをすべて弾く。他にも能力があった気がするけど、そこは本人に聞いた方が確実だろう」

 

「そうですか・・・・・・」

 

そう言いながら顎に手を当て、考え始めている。

 

他の守護者は暇だったのか、自分の創造主の試合が記録されたスクロールを開き、アルベドとシャルティアはいつの間にか言い合いを終えスクロールを探しに行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第九階層 アルフの自室

 

「んっ・・・・・・」

 

コキュートスとの試合から一夜明け、いつもの時間に起きる。

体にかかる重みにも慣れたようだ。

首だけで下を、自分のからだを見る。昨日と同じく膨らみがあり、時々もぞりと動いている。

 

布団を捲るとマリアがいたのだが・・・・・・その両手は乳房を掴み、顔を谷間に埋めている。体の感覚で予想はしていたが、実際に見ると精神的疲労が襲ってくるようだ。

 

「・・・・・・ていっ」

 

「ふぎゅ」

 

アルフはマリアの頭にチョップを食らわせ、両手でその頭を掴み持ち上げる。

 

「おはよう、マリア。君は何をしているのかね?」

 

「おはようございます、お父様。私はお父様のお胸を堪能しておりました」

 

「とりあえず退いてくれるかな、起きれない」

 

「失礼いたしました」

 

そう言うとマリアがベッドから降り、寝間着からメイド服に着替えるため、錬金部屋に入っていった。

 

「・・・・・・んっ」

 

伸びをして身体を起こし、食堂へ向かうため、身支度を始めた。




設定説明

狂乱の月
血の狂乱の人狼版
月夜に攻撃力と素早さを上げるが、一定確率で狂乱状態になる。
アルフの場合通常のものとは違い、昼間は全ステータスが5%下がる。
狂乱は装備で対処し、能力上昇だけにしている。

グレイプニル
アルフの持つ唯一の世界級(ワールド)アイテム。
いつもは左太ももに着けている。
効果は精神異常、状態異常、デバフをすべて弾くが全ステータスが15%下がる。
他にも能力有り


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エ・ランテル編
第25話


リ・エスティーゼ王国 城塞都市エ・ランテル

 

ここは三重の城壁に囲まれた都市である。

 

早朝、日が登り、人々が動き始める時間帯。

通りはまだ人が少ないがもう少しすると賑やかになるだろう。そんな通りを四人の人影が歩いていた。

 

「ペテル。今日はどうしますか?」

 

「そうですね、手持ちには余裕がありますし。午前は町の散策、午後は簡単な依頼を受ける。というのはどうでしょうか?」

 

「賛成である」

 

「俺も賛成」

 

「ニニャはどうです?」

 

「僕も異論はありません」

 

会話の後、広場の露店の回ったり、路地裏辺りも回る。

エ・ランテルは人の出入りが多く、露店では品揃えがよく変わり、掘り出し物が見つかったりするし、少し前まで空き家だった所に店が出来ていたりする。

 

街中を歩いていると、何かに気づいたように小柄な少年が建物に小走りで寄っていく。

 

「ペテル、あんなところに看板がありますよ」

 

「本当ですね、この間通ったときはなかったはずですが」

 

ニニャの言葉に皆が看板に集まる。

 

「見たことのない看板であるな」

 

その看板は真新しく、フラスコと剣が刻印されている。

視線を看板から店の扉に移すと、準備中の札がかかっていた。

 

「入ってみようぜ」

 

「ちょ、ルクルット。扉の札!」

 

ニニャの抗議もむなしく、ルクルットと呼ばれた青年は扉を開けて中に入っていく。

扉を開くと同時、チリンと涼しげでよく響くドアベルが鳴った。

 

店の中はものが少なく、店としては機能していないようだ。そんな中、棚に剣が一本置かれている。

それは鉄とは違った輝きをしており、一目で業物と分かるものだった。

 

そんな時、剣を眺めている四人の耳に足音が聞こえ、皆が足音が聞こえる方を見る。

 

カウンターの奥にある扉が開き、人が入ってきた。

 

「ごめんなさい、まだ準備中なので・・・・・・」

 

その人物は小柄ではあるが美しい女性で、顔立は整っており眼鏡をかけている、美しく長い黒髪を首の後ろで、淡い桃色のリボンで束ねている。服装は白の長袖を着ており、紺色のロングスカートをはき、カーキ色のエプロンを着けている。

 

「あ、すみません、どんな店か気になったもので。私はペテル・モーク、冒険者をしています。そこにいる小柄な少年がニニャ、髭をはやした大柄な人がダイン・ウッドワンダー、で」

 

「俺の名前はルクルット・ボルブともうします」

 

そう言いながらルクルットが女性に近づいていく。

 

「冒険者の方ですか。私はアルフィリア・ルナ・ラグナライトともうします、若輩ながらこの店の店主をしております。といっても開店すらしていませんが」

 

アルフィリアは名乗り、一礼した。

 

「アルフィリアさん、今お付き合いしている人はいるのでしょうか」

 

そう言いながら、ルクルットが迫ってくる。

 

「い、いえ。今のところはいませんが・・・・・・」

 

アルフィリアはルクルットを警戒し、怯えたように一歩後退する。

 

「惚れました、一目惚れです、付き合ってください」

 

「え、えっと・・・・・・ごめんなさい」

 

「なら、お友達からでも」

 

それでも諦められないのか、まだ言い寄ってくる。

アルフィリアは困ったような顔をしてペテルに視線をおくる。

 

「はぁ・・・・・・ルクルット、彼女が困ってますよ」

 

そう言いながら、ペテルはルクルットの襟首を掴んで引っ張っていった。

 

「うちの仲間がすみません」

 

「い、いえ・・・・・・」

 

ニニャが苦笑いをしながらつれていかれたルクルットを見おくる。こなれた感じなので何回か同じことがあったのだろうか、と想像する。

 

「ところで、ここはどういった店なのでしょうか? 見たことのない看板がかかっていましたが」

 

「はい、この店は私の作ったマジックアイテムを売ったり、武器の強化、材質の変更等をする店です」

 

「マジックアイテムは分かりますが。武器の強化、材質の変更と言うのは聞かないですね」

 

「その二つは私の生まれながらの異能(タレント)魔法詠唱者(マジック・キャスター)としての力を使うものです」

 

「ちなみにどんなタレントか聞いてもよろしいですか?」

 

「はい。私タレントは物に力を付与する、というのもで、やり方によってはそこら辺に売っている普通の剣でも魔剣のような力や切れ味を持たせることができます」

 

「ほぉ、それはまた凄いタレントであるな。そこに置いてある剣はタレントによって作ったのであるか?」

 

「いえ、それは魔法詠唱者としての力を使って鉄の剣をミスリルの剣にしたものです」

 

ダインの質問に答えるアルフィリア、その答えに皆が目を丸くし、剣と彼女を交互に見つめる。

 

「あ、あの。何位階の魔法まで使えるのでしょうか?」

 

ニニャが両の手をグッと握り、真剣な顔で聞いてくる。

 

「私は第四位階まで使えます。家は代々魔力の強い家系ですので」

 

「だ、第四位階ですか!」

 

「いやはや、その年で第四位階を使えるとは。世の中は広いのである」

 

 

 

「で、オープン前ですが道具は搬入済みなので、強化なさっていきますか? 本当なら2銀貨頂くのですが、この店初のお客様なのでお代は無しにいたします」

 

アルフィリアは両の手を合せ、微笑みながらそう言った。




エ・ランテル編突入。

唐突に始まりましたが次話で回想をいれる予定です。


毎度ながら誤字脱字の指摘ありがとうございます。


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第26話

「ありがとうございました。では、宣伝の方よろしくお願いしますね」

 

アルフィリアは四人に頬笑み手を振る。

 

「わかりました。後は神話や伝承、役立つ噂や情報を持ってくれば減額する、というのも言っておけばいいんですね」

 

「はい」

 

「武器の強化、ありがとうございました。では私たちはこれで」

 

ペテルが扉を開けドアベルが鳴り、四人が店を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・疲れた」

 

アルフィリアは木製の丸椅子に座って深いため息をはき、カウンターの上に顎を乗せて先程の事を思い出す。

 

こちらが無料で武器の強化を申し出て、彼らが依頼したのはペテルの剣の強化。強化の内容は剣に火属性を追加する、というものだった。

 

強化の時に出したデータクリスタルについて聞かれたが、ニグン達の情報によりデータクリスタルはこの世界に存在しないと確認していたので、それっぽい嘘を言ってごまかし、信じてもらえた。

 

そして、強化したお礼として何かしたいと言われたので。店の宣伝と情報での減額をする、というのを広めるようにお願いした。

 

 

「アルフさん、ちゃんと女の子してましたね。演技指導したかいがありました」

 

アルフは声のした方へと視線を移す、ここにはカウンターの上に上ろうとウニョウニョしている小さなぶくぶく茶釜いた。

 

「僕としては複雑ですけどね。最近体の性別に精神が引っ張られて女の子であることになんの違和感もなくなってきてるのに。そんなところに女の子の演技、女性化に加速かけているような気がする・・・・・・」

 

「気にしても仕方ないよ。それにしても弟がいないと楽でいいわ、アイツがいるとわたしがエロい事言えないし、それに今までナザリックでお留守番だったからね」

 

カウンターの上に立ち伸びをする、その姿は雄々しく屹立するピンク色のご立派様であった。

 

 

「そういえば、アルフさんは発情期はあるの?」

 

「・・・・・・いきなりなんですか」

 

「もしあるなら、わたしが性欲解消のお手伝いしてあげようと思って。アルフさんかわいいし、いろいろモフリたいし」

 

ぶくぶく茶釜は身体をうねうねと動かしてそういう。

 

「たぶん来ないんじゃないですか? 異形種は基本不老に近い設定が多いし。子孫を残す理由が薄いので、来るとしても百年に一度とか千年に一度だと思いますよ?」

 

「ですよねー・・・・・・もし来たらいってくださいね?」

 

「・・・・・・わかりました、どうしようもなくなったらお願いします」

 

ぶくぶく茶釜の勢いに押され、了承してしまった・・・・・・。

 

「期待して待ってるよ。 それにしてもこの提案、許可でて良かったね」

 

「ですね」

 

 

昨日の朝、シャルティアが任務でしばらく外に出る。というのを聞き、今回のことを思い付いた。

 

アインズに今回の、商売をして外貨を稼ぎながら情報を集める、と言う提案をするとぶくぶく茶釜に相談したところ、彼女がそれに乗った。

セバスとソリュシャンの任務には多額の金がかかるため、アインズがやる予定の冒険者だけでは足りなくなるかもしれない、と言うことで許可がおりアルフは人に変化し、タレントを持つ魔法詠唱者として。ぶくぶく茶釜は小型化して人になつく設定のスライムとしてここにいる。

 

その時ペロロンチーノも提案をして外に出ようとしたが、内容が「エロ系モンスターがいるかの調査、及びいた場合の生態調査」とバカなものだったので却下され。遠隔視の鏡でシャルティアの仕事の見学、という名のお留守番となった。

 

「弟はいないし、行動範囲は限られるけど外にも出れるし、かわいいし妹分もいるしで申し分なし」

 

「妹って、僕一応男ですよ」

 

「今は女の子なんだから良いじゃない。弟なんていらない、かわいい妹がほしいの。これからしばらくは一緒に暮らすんだしお姉ちゃんって呼んでも良いよ?」

 

「じゃあ茶釜さんで」

 

「ぶー」

 

ぶくぶく茶釜はカウンターに寝そべり、ブーイングをするがそれを無視して品物を店頭に運んでいく。

その後、全てを終えた頃には日が暮れ、店の外は夜の色で染まっていく。

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・茶釜さんも少しは手伝ってくれても良かったんじゃないですか?」

 

アルフは椅子に座り、いまだカウンターに寝そべっているぶくぶく茶釜を見ながらそういう。

 

「えー、わたしアルフさんのペットだもん。わたしのことをお姉ちゃんって呼んでくれたら考えてあげましょう」

 

「わかりました、今度呼んであげます」

 

そう言った直後、変化して消していた獣耳と尻尾が生えた。

 

「あれ、戻っちゃいましたね。ゲームだと勝手に変化が解けることはなかったはずだけど」

 

「どうやらこちらに来たときスキルに発動条件が付いたみたいで。僕の予測では日が出ている内しか変化を維持出来ない、とみてます」

 

外を見ると完全に日が沈み、真っ暗になっている。

 

「じゃあ夜はフード付のローブを着た方が良さそうですね、法国程ではないと思いますが獣人を敵視してる人がいそうですし」

 

「そうですね。二、三着ほどアイテムボックスから出しておきます」

 

 

 

 

そんなこんなで一日が終わる。

 

明日はこの店の開店日だ。この世界には装備を後から強化する術はほとんどないらしい。ペテルたちが宣伝のしてくれたのなら一人くらいは興味を持って来てくれるだろう。そう思いながら寝床につく。

 

 

明日、とんでもないことになると知らずに・・・・・・。




回想というより説明ですね。気にしたら負けですかね。


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第27話

城塞都市エ・ランテル アルフの店 14:00

 

 

 

そこは戦場と化していた。

 

 

 

 

「店主、これはおいくらですか?」

 

そう言いながら、体格のいい男がカウンターに品物を置く。

 

「あ、はい。魔法式ランタンですね、十五金貨になります」

 

「はい、これ代金ね」

 

男から代金を受け取り、枚数を確認する。

 

「確かに。ありがとうございました」

 

「お嬢ちゃん、武器の強化はまだかね?」

 

商品の受け渡しと同時に他の者から催促の声がかかる。

 

「少々お待ちください。強化内容は武器に属性、銀と神聖の追加でよろしいですね、一金貨いただきます」

 

「はいよ」

 

お代を受け取り、武器を強化する。強化直後にまた声がかかる。

 

「店主さん、この剣はおいくらだい?」

 

「追加属性、雷と斬撃強化を付与したミスリルの剣ですね。三五金貨になります」

 

「やっぱ高いな。情報での値引きを頼めるかい?」

 

「承ります」

 

 

現在の状況、店の中は人で埋め尽くされ、外にまで溢れている。

客の言う話では、ペテル達の宣伝を聞いて来たのだが、その内容が「異国の美人が店主をしている装備を強化する店がある」との事だが、異国の美人が強調されていたという。

その宣伝のせいなのか、値段が高いからなのかここにいる五分の一はちゃんと商品を買ったり強化していったりするが、その他は店主見たさの野次馬的なところがある。

 

午前中はこれほど人は来ていなかった。午後になって来たということは、午前に来た人達がペテルの宣伝が確かだと言い回ったため、こんなことになっているようだ。

 

人が来てくれるのは良いが、こんなことになるとは思わなかった・・・・・・。

 

 

「で、どうだい?」

 

男が話したのは二百年ほど前にいた〈国堕し〉と呼ばれるヴァンパイアの話だった。国を滅ぼし、死者の都とした伝説の吸血鬼の王、十三英雄という者達に滅ぼされたとの話だが実は生きて身を潜めている、と言うのはよくある話だ。

 

「その伝説は初耳なので十五金貨値引きいたします」

 

そう言い男から代金、二十金貨を受け取り、カウンター横に貼られた紙に〈国堕し〉、とこの世界の字で追加する。

 

その紙には他にも書かれており、

 

十三英雄、フールーダ・パラダイン、死を撒く剣団

森の賢王、ガゼフ・ストロノーフ、バレアレ家

ブレイン・アングラウス、そして追加された国堕し。

 

この紙は今までどんな情報を聞いたかと、客に一目で分かるようにしたものだ。

 

「店主。武器の強化を頼む」

 

「はいー」

 

忙しい時間が続き、やがて日暮れになる。

 

 

「お客さま、今日の営業時間はもう終わりなのでまた明日来てください」

 

アルフが両手を合せ、微笑みながら言う。

それを見た客たちが惚けた顔をし、店を出ていった。

 

 

 

 

 

先程の騒がしさとは一転、静寂が店の中には訪れる。ここにいるのはアルフと、カウンターの下にいるぶくぶく茶釜だけだ。

 

アルフは扉の鍵を閉め、店の中を見回す。

店頭に並んでいた品物の殆どが売れ、空いている所が多い。

 

「いやぁ、大盛況でしたね」

 

カウンターを見ると、そこにはぶくぶく茶釜が立ち、今日の売り上げが入った無限の背負い袋を覗き込んでいる。アルフもカウンターへ行き、一緒に袋を覗き込む。

そこは金と銀の色で埋められていた、一金貨=約十万円、一銀貨=約一万円というのを考えればかなりの額になるだろう。

この店は他の店と比べて高額商品が多いのでここまで売れるとは思っていなかった。

 

「これもアルフさんの美貌のなせる技かな?」

 

ぶくぶく茶釜のいたずらっ子の雰囲気を含んだ声が耳に届く。

 

「なんか複雑な気分・・・・・・」

 

そう言いながら丸椅子に腰掛け、変化を解いて眼鏡を外し、それを見つめる。

 

識字の眼鏡

見たことない字でも読み書きできるようになるマジックアイテムだ。レア度はかなり低く、ユグドラシルでは使う機会はほとんどなかったものだがここに来て役に立つとは思わなかった。

 

「それにしても、データクリスタルけっこう使ったけど大丈夫?」

 

その言葉にアルフぶくぶく茶釜に視線を移す。

 

「大丈夫ですよ。戦闘の練習と素材集めで無限湧きさせる課金アイテム使ってモンスターを狩りまくっていた時期がありますし、サービス終了日が近いからといろいろ貰いましたし。正確な数は数えたこと無いですが合計すると兆を超えてるんじゃないですか?」

 

そう言いながら、ナザリックの自室のアイテムボックスを思い出す、あれは結構な量を入れることが出来るが、クリスタルを無限の背負い袋に入れ圧縮したが入りきらず、何度か課金して増設した。

 

「ち、兆ですか、ずいぶん溜め込んだね」

 

「ただの貧乏性です。いつか使うかも、と捨てられずにいました」

 

 

そんな会話の途中、アルフにメッセージが入った。

 

『アルフさん、ちょっといいですか?』

 

「良いですよ」

 

アインズの声に、アルフは短く答える。

 

『ニグンの事ですが、アルフさんの提案を採用して今はスレイン法国にスパイに行かせています。法国で何かあった場合は俺、アルフさん、ぶくぶく茶釜さん、ペロロンチーノさんの誰かに知らせるように指示を出しておきました』

 

「了解」

 

アルフは思うところあって、ニグンを法国へのスパイに行かせることを考えた。本人は大丈夫と言っていたが、元は異形種等を敵としていた者達だ、それに加えナザリックのシモベ達は程度に差はあれ人間を下等生物、ゴミムシ等と思っているものが多い。そんな中置いておくのはまずいと思ったのだ。

 

 

『それと今、冒険者としての仕事で漆黒の剣というチームと一緒にいるのですが。ペテルさんからいろいろ聞きましたよ?異国の美人店主さん』

 

「・・・・・・」

 

『どうしました?』

 

「い、いえ。その宣伝で今日はとんでもないことになりまして、それを思い出して疲労感が増しただけです」

 

『そうでしたか、では明日もありますしこの辺で』

 

「はい」

 

そう答えた直後、メッセージが切れた。

 

「さて、今日は品出し手伝ってくださいね、お姉ちゃん」

 

「任されよう」

 

そう言いながら、ぶくぶく茶釜が元のサイズに戻る。

 

おそらく明日も同じ状況になるだろう、それを考えて気が重くなるがしかたない。

そう思いぶくぶく茶釜と共に品出しを始めた。




指摘により少し弄りました。確かに垓は多すぎたと反省しております。

モンスター無限湧きアイテム
一定時間、周囲に常時10~20体程モンスターがいる状態が続く。
クリスタルは落とすが、アイテムの効果が続いてる間は経験値と金がてに入らなくなる。


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第28話

翌日

 

起床し、アイテムボックスにある食料を適当にひっぱり出す、手にしたのはおにぎりが四つほど入った弁当箱、これはナザリックの食堂で頼んで作ってもらったものの1つだ。

 

 

朝食を済ませ、洗面所へ行き歯を磨きながら辺りを見回す。寝室やリビングにはぶくぶく茶釜はいなかった、おそらくもう店のカウンターの下にいるのだろうと考える。

歯磨きを終え獣人から人の姿へと変化し、寝間着から普段着に着替える。白の長袖、紺のロングスカート、カーキ色のエプロンを着て髪をオレンジ色のリボンで束ね、マジックアイテムの眼鏡をかける。洗面所の鏡で変なところはないかチェックし、店への扉を開け目に入ったのは・・・・・・。

 

 

店の入口、そこに人集りができている。ここから見える人数は少ないが、耳に聞こえてくるざわめきから判断すると店の前の通りは埋まっているかもしれない。明らかに昨日の朝や昼休み後よりいる。

 

「アルフさん、おはよ」

 

「おはようございます」

 

ぶくぶく茶釜に挨拶を返す。彼女はカウンターの下に人には分からないような穴を開けたようで、そこから扉の向こうを見ている。

 

「姉者よ、今日は休んでもよろしいか?」

 

「ダメだよ、ちゃんと働かなきゃ。見た感じ銅と鉄が多いから昨日より酷くなることはないと思うよ?」

 

「はぁ、分かりました。では入口を開けてきます」

 

アルフは二度深呼吸し、入口の鍵を外し扉を開け笑顔を作った。

 

「いらっしゃいませ、今日はどういったご用件でしょうか?」

 

その後、ぶくぶく茶釜の予想通り、それほど酷くはならなかったが。それなりに忙しかった。

 

客層は主に銀プレート以上のそれなりに稼いでいる者達だ。銀や金はそれなりにいるが、白金からオリハルコンとなると人数はかなり少なくなる、昨日の金払いがよかったのは上位者が多かったからだろう。

 

その証拠に強化済み装備や魔法式ランタン等の値のはるものがあまり売れず、銀貨2から6枚ほどの強化が主だ。

遠征に出ている銀より上の冒険者はまだこの店を知らないはずなので、その冒険者達が戻ってきたらそれなりに込むだろうが、それを過ぎれば消費アイテム類を買うのが主になり、強化の仕事も減って落ち着くだろう。

 

店主見たさに集まる者達は減るとは思えないのがあれだが、仕事が暇になったときは雑談でもして一般常識系の情報を集めるのも言いだろう。

 

そう考えながら客をさばいていく。

 

 

 

時刻は昼となり、店は昼休み中の札をかけて閉め。

アルフはエ・ランテルの露店のある通りを歩いている。

ぶくぶく茶釜はあの外見なので、残念ながらお留守番だ。

 

辺りを見回すと、装飾品やちょっとしたマジックアイテム、串焼きや果物を並べた露店が何件かある。その中の一件、串焼きの屋台に立ち寄る。

 

「いらっしゃい! おや、あんたが噂の強化屋の嬢ちゃんか?店の方は良いのかい?」

 

店主の活きの言い声と共に、質問が投げ掛けられる。

 

「はい。店は昼休みにして気分転換ついでに昼食でもとろうかと思いまして」

 

「そうかい。で、なんにする?」

 

「うーん、牛串と鳥串を二本ずつと、野菜串一本お願いします」

 

「あいよ、お代は黄銅板三枚だ。嬢ちゃんはかわいいから牛串一本おまけしとくよ」

 

「ありがとうございます」

 

代金を銅貨で払い、お釣りと串焼きの入った袋を受け取る。

 

「また来てくれよな、いつでもサービスするから」

 

「はい、また来ます」

 

そう言って屋台を離れた。

 

 

屋台を離れ、近くの建物の壁に寄りかかりながら串焼きを食べる。行儀が悪いとも思ったが、回りには歩きながら食べている人がちらほらいるので、これも大丈夫だと思うことにする。

 

ぶくぶく茶釜への土産として牛串と鳥串を一本づつ残し、状態保存の魔法がかかった箱に袋ごと入れ、アイテムボックスに放り込み。屋台見学を再開する。

 

 

アルフはゆっくりと歩きながら露店を見ていく。そんなアルフを見て立ち止まり、熱い視線を送る通行人たち。その視線を受け、無意識に歩く速度が上がっていく。

 

やはりこういった視線はなれないな、そう思いながら露店巡りを中断し、店にもどることにした。

 

 

 

自分の店の近くにつくと、そこには今朝と同じくらいの人集りが出来ていた。

またこれをどうにかしないといけないのか、と気分が重くなるが、気合いを入れ直して声を発する。

 

「すみません、店を開けるので道を開けてもらえますか?」

 

その言葉を聞きアルフを確認すると同時、ザッと人が左右に分かれ店の扉までの道を作った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

この都市の冒険者はこんなにも統率がとれているのか、と少し驚きながら人の間を進み、店の扉の鍵を開けて外の客を招き入れる。

 

「いらっしゃいませ、何がご入り用ですか?」

 

 

そして閉店までの間客を相手し、日が暮れていく。



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第29話

夕刻

 

アルフは客を消化し終え、カウンターに顎を乗せて脱力していた。

 

「今日も終わった・・・・・・」

 

「今日は銀貨が多いですね」

 

声のするほうに視線を移すと、昨日と同じように無限の背負い袋を覗き込んでいる。

 

「後は入口に鍵かけて営業終了かな?」

 

そう言い、カウンターから顎を離し椅子から立ち上がり、伸びをする。

 

それと同時、店の扉が開きドアベルがなる。

 

そこには短い金髪をし、漆黒のマントを着た若い女性が立っていた。顔立ちは整っており、猫科動物を思わせる可愛らしさがあるが、肉食獣を思わせる雰囲気をまとっている。

 

「あなたが最近噂の強化屋の店主?」

 

「そうですが。あのもう閉店なのでまた明日、店の営業時間に来てもらえると助かります」

 

そう言いながら、アルフはカウンターから出た。

 

「あなたに強化してほしい宝珠があってねー。拐いに来たの」

 

女性は店の中を見回しその言葉を発した後、小さな声でなにか呟くのが聞こえた。

 

 

〈疾風走破〉

〈能力向上〉

〈能力超向上〉

 

 

それと同時、店の床を蹴りアルフに迫る。蹴られた木の床は捲れ上がり、破片が宙を舞う。

 

その手には鋭い銀の色が握られ、アルフの腹部を貫かんとそれがつき出された。

 

 

だが、それはアルフを貫くことはなかった。

店の中に響いたのは肉を貫く音ではなく、バキンッと金属の割れる音。

 

女は飛び退き、音源であるアルフの腹部と、手に持った武器を交互に見る。

スティレットは先端が砕けひび割れており。アルフの腹部の前には、何かの金属片を握った手がある、おそらく握られた金属により武器が砕かれたのだと女は理解した。

 

「チッ・・・・・・何その金属。ずいぶん硬いけど、アダマンタイト?」

 

「いいえ、あんな柔らかいのじゃないよ。 じゃあ今度はこっちの番ね」

 

金属片をエプロンのポケットにしまうと同時、床を蹴る。相手とは違い、床は割れずそのままだが速度はこちらが上回っている。

その速度のまま相手の首を右手で鷲づかみし、床に叩きつける。

 

「ガハッ‼」

 

叩きつけると同時、床が陥没し女が吐血する。

 

 

「お、おまえ・・・・・・なにもの・・・・・・」

 

掠れた声が聞こえる、あの衝撃で首は折れなかったのか、と感心していると。日が完全に落ち、変化がとける。

 

「・・・・・・人狼(ワーウルフ)。 人間じゃなかったのか・・・・・・」

 

「まぁ一応ね。 で、貴女に提案があるのだけど、僕のシモベにならない?」

 

「何言ってんだおまえ・・・・・・」

 

そう言いながら睨み付けてくる。

 

「君のことが気に入ってね。容姿もそうだけど、速度を生かした戦闘スタイルに共感したんだ。人間をやめる覚悟があるなら、更なる強さを与えられるけど。どう?」

 

「・・・・・・断ったらどうなるの?」

 

「うーん。 僕の正体知られちゃったし、このまま頭と体にはさよならしてもらおうかな?」

 

「・・・・・・分かった、その提案受けてあげる」

 

「ありがとう」

 

そう言いながら手を離す。

 

「僕の名前はアルフィリア・ルナ・ラグナライト、貴方の名前は?」

 

「クレマンティーヌ」

 

クレマンティーヌはその場で胡座をかいて座り、首を擦り拗ねたような声で名乗った。

 

「そんな簡単に私を信用して良いの? 後ろからドスッていくかもしれないよ?」

 

「まぁその時考えるよ。それに、貴女じゃ僕を殺せないし」

 

「で、私はどうすればいいの? 強さをくれるって本当?」

 

「とりあえずそのマントを脱いで。 強さに関しては貴女次第かな」

 

「もしかして私騙された?」

 

そう言いながら着ていたマントを脱ぐ。マントをの下にはビキニアーマーみたいな鱗鎧(スケイルメイル)を来ており、その鱗はよく見ると冒険者の証のプレートであり、さまざまな色がある。

 

「騙してないよ。ちゃんと強くなる方法教えてあげるから心配しないで。それと、これから僕がすることに抵抗しないでね」

 

そう言うと、アルフは座っているクレマンティーヌに抱きついた。

 

「あんたそういう趣味なの?」

 

「まぁ中身男だし、否定はしないかな」

 

「ちょと、それどういうこと?」

 

「後で話すよ」

 

そう言い、アルフはスキルを発動する。

 

〈眷属化の牙〉

 

それは対象を獣人にし眷属とするものだ、追加される種族は対象者の特性に左右され、猫や犬、狼、牛とさまざまある。

 

アルフはクレマンティーヌの首筋にその牙をたてる。

 

「んぅ」

 

クレマンティーヌの口から甘い声が漏れ、身動ぎする。この状態をもう少し楽しみたいが、首筋から口を離す。

 

そこには犬歯でつけた傷があったがすぐに消えてなくなった。それを確認し、抱きしめていたクレマンティーヌを解放する。

 

アルフは少し離れて彼女を観察する。体からは力が抜けきり、その顔は惚けて目の焦点が合っていない。

 

次の瞬間変化が起きた。

人間の耳が消え、頭部には猫耳、尻には細長い尻尾が生えた。

 

どうやらクレマンティーヌは猫科の獣人になったようだ。




クレマンティーヌに猫耳と猫尻尾を生やしたかっただけです。

最初は某AUOのように心臓抉り出して握り潰し、蘇生させて暗示かけて放流する予定でしたが面倒になり眷属に。


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第30話

「クレマンティーヌ、大丈夫?」

 

アルフはそう言いながらかがみこみ、彼女の顔の前でひらひらと手を振る。

 

「あ、うん。体がふわふわするけどだいじょーぶ」

 

人間から獣人へと体が作り変わったことで酔いが生じているようだ。

 

「それより、あそこでスクロール開いてるの何?」

 

クレマンティーヌが指差す方を見ると、カウンターの上で録画用のスクロールを開いているぶくぶく茶釜がいた。

 

「茶釜さん、何してるのかな?」

 

「ん?シャルティアへのお土産。アルフさんが百合である証拠と、おかずにでも使ってもらおうかと思って」

 

そう言いながらぶくぶく茶釜はスクロールを閉じ、アイテムボックスにしまった。

 

「はぁ・・・・・・」

 

アルフはカウンターの上にいるぶくぶく茶釜を両手で抱きかかえ、クレマンティーヌの前までもっていく。

 

「このピンク色の男性のアレみたいなスライムはぶくぶく茶釜さん、僕の仲間です」

 

「はじめまして」

 

ぶくぶく茶釜はそう言いながら右手を上げた。

 

「は、はじめまして」

 

クレマンティーヌは不思議そうにぶくぶく茶釜を見ている。

 

「それより、聞きたいことがあるんだけど。なぜ僕を拐おうとしたの? 宝珠がどうとか言ってた気がするけど」

 

「あー、あれね。少し長くなるけどいい?」

 

アルフとぶくぶく茶釜は頷き、先を促す。

 

「私、元はスレイン法国の漆黒聖典ってところにいたんだけどさ、嫌気がさして抜けることにしたんだけど、その時スレイン法国の最秘宝の一つ、叡者の額冠ってのを持ち出してズーラーノーンの死の螺旋って儀式に乗じて法国の目から逃れようとしたの。

で、その儀式の鍵の一つが死の宝珠。能力を強化してもっと派手にしてもらおうかなーって」

 

「一つ聞きたいんだけど、死の螺旋って何?」

 

「私も詳しくは知らないんだけど。アンデッドって沢山集まるとより強い個体が出てくるじゃない?その特性を使ってより強いの、さらに強いのと螺旋を描くように、より強いアンデッドが生まれる現象、それが死の螺旋。確か都市一つを死の都に変えたらしいわよ?」

 

「そんな儀式をこの都市で・・・・・・」

 

「まぁその儀式も発動まではしばらくかかるみたいだけど。ンフィーレアってのがいれば今すぐにでも始められるみたい」

 

「ンフィーレア・バレアレか」

 

彼のタレントは確かマジックアイテムを使用条件を無視して使用できる、というものだったはずだ。

おそらく使用条件の厳しいマジックアイテムを使って大量のアンデッドを召喚させるのだろう。

 

「んで、さっきも言ったけど法国の目から逃れるためにズーラーノーンにいたんだけど、かわりに匿ってくれるならいろいろ教えてあげちゃう」

 

「貴女はもう僕の眷属だし、守るのは問題ない。僕のそばにいれば探知系の魔法は阻害されるから。しばらくはここで暮らして後で僕達の本拠地に行くから」

 

「分かった。で、聞きたいんだけどさっき言ってた、あんたが男ってどういうこと?みた感じ女以外には見えないけど」

 

クレマンティーヌの疑問に、問題のない範囲で答えた。

 

何らかの魔法の事故で遠くから本拠地ごと転移してしまい。その影響で容姿と性別が変わったと。性癖や好みは変わらないが体の性別に精神が引っ張られて女性化し始めていることを。

 

「へぇ~。で、この世界で生きるのに金が必要で稼いでいる、と言うわけね。なんか六大神とかを思いだすなー」

 

「六大神?」

 

「うん。スレイン法国が崇めている六柱、地水火風生死を司る神達。確かそいつらもどこからか転移してきたって伝承があったような、なかったような」

 

そう言った直後、クレマンティーヌの腹がくぅ~、と鳴った。

 

「あはは、ごめん。お腹すいちゃった、何か食べ物ある?」

 

そう問われ、アルフは床にぶくぶく茶釜をおろしてアイテムボックスからナザリックでもらった弁当箱と指輪を一つずつ出してクレマンティーヌに渡した。

 

「はい、ちょっと量が少ないかも知れないけど食べ物と、飲食が不要になる指輪」

 

弁当箱と指輪を受け取ったクレマンティーヌは、永続光に指輪をかざし、物珍しそうに眺めている。

 

「こんな便利なものあるんだ、他の効果持った指輪とかあるの?」

 

アルフは顎に手を当て、所持している指輪の効果を思い出していく。

 

「えーっと。疲労無効、状態異常無効、時間停止無効と、行動阻害無効、精神異常無効、即死無効。他にも無効系の以外だと伝言(メッセージ)の指輪とか転移の指輪とかいろいろあるよ」

 

「うへぇ。今言ったもののほとんどが国宝とか至宝とか言われても問題ないものばっかり。もしかして王族かなにか? あ、これうまいね」

 

クレマンティーヌは指輪をポーチにしまい、弁当を食べた始めていた、弁当の中身はサンドイッチで複数種類入っている。

 

「ただの平民だよ、さっき言ったやつは自分で作ったものだよ」

 

「ふえ、ふぉふぇふぉんふぉ!」

 

「はぁ・・・・・・美味いのは分かるけど、口に物入れたまま喋らない」

 

クレマンティーヌは口をもごもごして飲み込もうとしているが、放り込んだ量が多かったのかなかなか飲み込めないでいる。

 

そんな時、止まったかと思ったら、次の瞬間には自分の胸を叩き始め、苦しそうにしている。

 

「ちょ⁉クレマンティーヌ!」

 

それをみたアルフはあわててアイテムボックスに手を突っこみ、無限の水差しとコップを出し、水をついだコップをクレマンティーヌに渡した。




英雄の領域に足を踏み入れたクレマンティーヌ、弁当のサンドイッチに殺されかける。


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第31話

「はぁ・・・・・・死ぬかと思った」

 

クレマンティーヌはのどに詰まったものを水で流し込み、ひと息ついている。

 

「よかった、眷属にして数十分で死亡とか洒落にならん。今日は家に泊まって行って良いよ、茶釜さん案内してあげて」

 

「了解、寝室はこっちよ」

 

ぶくぶく茶釜はそう言い、カウンター奥の扉を開けて進む。クレマンティーヌは立ちあがり彼女のあとを追って出ていった。

 

アルフは二人が出ていった後の店内を見回す。壁や商品棚には問題ないが、床が捲れたり陥没している・・・・・・。

 

魔法を使えばすぐにでも直るが、耐久値が下がるのでどちらにしろ張り替えなければならなくなる。

 

「しょうがないか」

 

そう言いながら魔法を使って床を直し、ポケットから金属片を取り出す。

その金属の名前はヒヒイロカネ、ユグドラシルでは丈夫な部類に入る金属。それを錬金術師の魔法を使い、溶かして床に塗布する。

 

少しもったいない気がするが、これで床が木のしなやかさがありながらも金属の耐久値をもつ物へと変わる。

 

床の修理を終え、店の戸締まりをして明かりを消し、店を出てキッチンに行くとぶくぶく茶釜が食事していた。

 

「茶釜さん、クレマンティーヌは?」

 

「あの子なら、早いけど疲れたから寝るって」

 

それを聞きながら、アルフはぶくぶく茶釜の向かいに座り、アイテムボックスから箱を取りだしテーブルに置いた。

 

「これ昼間のお土産、状態保存の箱にいれてあるから」

 

「ありがとう」

 

ぶくぶく茶釜は箱を受け取って中身を取りだし、口らしきところに入れ。それを見ながらアルフは向の椅子に座る。

 

「茶釜さん、クレマンティーヌのことどう思います?」

 

「うーん。ちょっとおかしなところはあるけどナザリックでは許容範囲内かなぁ。 そう言えば漆黒聖典ってニグンの情報にあったスレイン法国にいる強者を集めた部隊だよね。中には神の血を引きそれを覚醒させた神人ってのもいるらしい。神ってたぶんユグドラシルプレイヤーだよね」

 

「十中八九はそうですね。他にも13英雄もプレイヤーの可能性はありますね、まだまだ情報が足りないので近々王都にでも店を移しますかね」

 

「そうだね、王都の方がもっと情報が集まりそうだし、何より美味しい食べ物が沢山ありそう」

 

「じゃあ、何か大事件が起きたらそれを理由に王都に移り住むって感じでいいですかね」

 

「それでいいですよ」

 

その後今後の王都での方針を決めていくが、今の状態とあまり変わらないものとなり、明日も早いので寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「ちょっと⁉や、やめ。そんなところに入ってこないで‼」

 

 

そんな声で目が覚めた。声のする方に焦点の合わない視線を向けるとベッドにうつ伏せになっているクレマンティーヌと、彼女の体に絡み付いているぶくぶく茶釜がいた。

 

焦点の合い始めた目で現状を確認する。クレマンティーヌは鎧を脱いでおり、胸は伸縮性のある黒い布を着け、下半身はスパッツをはいている。ぶくぶく茶釜はその布の隙間から手を入れ胸をまさぐり、尻を撫で回している。その姿はまさにスライムに襲われる女戦士、エロゲのシーンを実際にこの目で見れるとは思わなかった。

 

とりあえずアイテムボックスから録画用のスクロールを出し、録画を始める。

 

「ふふふ、良いではないか、良いではないか」

 

ぶくぶく茶釜はどこぞの悪代官の台詞を言いながら、まさぐり続ける。

 

「や、やめてぇ」

 

クレマンティーヌが半泣き状態で懇願するも、

「女同士なんだから良いじゃない、それにこれは身体検査よ?」と却下される。

 

「ん・・・・・・あん、やぁ」

 

その声は艶のあるものに変わり、顔は紅く、息が荒くなって来ている。そんなとき、クレマンティーヌと目があった。

 

「あーちゃん。た、助けて」

 

「ごめん、その人には逆らえないんだ。無力な主人を許しておくれ」

 

「裏切り者ぉ、ひぐぅ!!」

 

クレマンティーヌの体がビクンと跳ねる。おそらくどこかしらに何かが入ったのだろう。

 

「わ、私じゃなくあーちゃんの方をヤればいいじゃない!」

 

「貴女は前菜、アルフさんはメインディッシュ兼デザートなの。そのうち二人まとめて可愛がってあげるから安心して」

 

「・・・・・・じゃあ、僕は朝ごはんを用意してくるよ」

 

これ以上ここにいると巻き込まれると思い離脱することにし、スクロールを録画状態で置いて寝室を出ていく。

 

「バカぁ、この薄情者!人でなしぃ!」

 

寝室の扉を閉める直前、クレマンティーヌからの罵声が聞こえた・・・・・・。

 

 

 

 

朝ごはんの入った箱を担ぎ、寝室の扉を開けて中を確認する。

 

さっきと違う点は、ぶくぶく茶釜が満足そうに撮り終えたスクロールを見ており、クレマンティーヌはベッドの上でぐったりとしていて、目に光がない・・・・・・。

 

「クレマンティーヌ・・・・・・大丈夫?」

 

「・・・・・・ぅ」

 

僅かに反応がある、一応は生きているみたいだが。寝室を離れた十数分の間に何があったのかはぶくぶく茶釜が見ているスクロールに記録されているだろう。

 

「アルフさん、これ。後でコピーしてちょうだいね」

 

ぶくぶく茶釜からスクロールを受け取り、アイテムボックスにしまった。

 

その後皆で朝食をとったのだが、クレマンティーヌはそれから昼を過ぎるまで口をきいてくれなかった。



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第32話

午前中の営業を終え、昼休み。

 

アルフとクレマンティーヌはリビングで昼食をとっており、ぶくぶく茶釜は食べ終わって「もっと体を自在に動かせるように練習してくる」と寝室に籠っている。

 

二人の間には重い沈黙があり、リビングには食器がたてる音しかない。アルフはこの沈黙に耐えかね言葉を発する。

 

「あ、あの。クレマンティーヌ、今朝のことはごめん」

 

この言葉を聞き、クレマンティーヌのフォークが止まる。

 

「私のご主人様って本当に酷い人だよね~、可愛い眷属が犯されてるのに助けずそれを記録したり、火の粉がかかりそうになったら私を見捨てて逃げるんだもん」

 

「返す言葉もございません・・・・・・」

 

「まぁ、過ぎたことだし許してあげるけど、本当に危なかったんだから、あと少しで快楽に堕ちて戻ってこられなくなるところだったんだからね」

 

「・・・・・・」

 

「今度同じ目にあうときは巻き込んであげる」

 

クレマンティーヌは満面の笑みで、語尾にハートマークが付きそうな口調でそう言った。

 

 

「そう言えばさぁ、あーちゃんの本拠地ってどんなところ?」

 

「朝から気になってたんだけど。そのあーちゃんって何?」

 

「アルフィリアだから、頭文字とってあーちゃん」

 

まぁ守護者達のような堅苦しい感じがなくていいか、と思いその呼び方を許可した。

 

「僕達が拠点にしているのはナザリック地下大墳墓って言って、結構いいところだよ。食堂は大人数入っても平気だし、大浴場はいろんな種類の風呂があるし、今度いろいろ案内するよ」

 

「へぇ、墳墓ねぇ」

 

クレマンティーヌはおそらく普通の墳墓を想像しているのだろう、ナザリックがどんなところか知ったときの反応が楽しみになってきた。

 

そして、昼休みも終わり。午後の客をさばいている。

 

「店主、このスクロールはいくらだい?」

 

「第一位階魔法のスクロール三枚で30金貨になります」

 

「はい、お代」

 

「ありがとうございました」

 

「嬢ちゃん、これ」

 

「はい、解毒薬と聖油が一本づつで15銀貨になります」

 

「金貨一枚と銀貨五枚ね」

 

「ありがとうございました」

 

やはり消費アイテムを買う客が多い。アルフはカウンター横に貼られた紙に視線を移す。

 

聞いた情報を書き込む紙。初日はそれなりに増えたが、今は伸び悩んでいる、あれから追加されたのは蒼の薔薇、魔剣キリネイラム、八本指の3つだけだ。

しかも蒼の薔薇に関してはメンバーは女性のみでかなり強い、王都リ・エスティーゼを拠点にしているとしか情報がなく、八本指にいたってはそう言った犯罪組織が暗躍しているとしか情報がない。

冒険者が出し渋っている可能性はあるがエ・ランテルではこの辺りが限界だろう。

 

王都ではどうするかを考えながら、客の相手をした。

 

 

 

 

数時間後、客足が途絶え、アルフ見たさの野次馬達も店の中にはいない。

 

少し早いが店の扉に閉店の札をかけ、戸締まりをし、伝言(メッセージ)を発動させる。

メッセージの相手は冒険者をやっているアインズ、今はどうしているかを聞くために魔法を発動させ、繋がった。

 

「アインズさん」

 

『アルフさんですか、どうしたんです?』

 

「いや、今どうしているのかと状況確認」

 

『今、ですか・・・・』

 

アインズが言いよどむ、何か厄介なことになっているのだろうか思案するが、次のアインズの言葉に思考が止まる。

 

『今、巨大なハムスターの絵を描いてます』

 

「は?」

 

アインズが言うには、モモンの名で冒険者を始め、依頼者のンフィーレアとともに行った森にいた森の賢王という巨大ハムスターを手懐け、街中をそれにのって練り歩いたと。

で、組合に登録するのにも金がいくらかいるらしく、少しでも浮かせるためにハムスターの外見を描いているとのことだ。

 

「アインズさん、ンフィーレアって薬師のですか?」

 

『そうです、タレントはマジックアイテムの無制限使用でしたね』

 

「今一緒にいますか?」

 

『いえ、こちらは魔獣の登録があるので、漆黒の剣の皆と一緒に先に店に行かせました』

 

なんか嫌な予感がする、その予感が当たらないことを願い、アインズに言う。

 

「アインズさん、今すぐンフィーレアのところに行ってください」

 

『ですが魔獣の登録が』

「費用は気にしないでください。もしかしたらンフィーレアが拐われるかも知れません」

 

『わかりました』

 

その言葉とともにメッセージが切れた。

もし、予感が当たれば、ズーラーノーンはンフィーレアを拐い死の螺旋を始めるだろう。

 

 

 

そう考えながら、数十分が経過したとき、アインズからメッセージがきた、それは予感が確定した知らせであり、この都市の危機を現すものだった。

 

『ンフィーレアが拐われました』

 

「漆黒の剣は」

 

『重症でしたがもう大丈夫です。いったい誰がこんなことを・・・・・・』

 

「アインズさん実は・・・・・・」

 

アルフはクレマンティーヌからの聞いた情報と予測を告げる。

ンフィーレアを拐ったのはズーラーノーンという組織。その組織はンフィーレアと叡者の額冠、死の宝珠を使い、アンデッドの大量召喚を行ってこの都市を死の都にしようとしていると。

 

「だけど拠点はどこだ?」

 

そう考えていると、居住スペースへの扉が開き、クレマンティーヌが入ってきた。

 

「あーちゃん、どうしたの?一人でぶつぶつしゃべって」



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第33話

アルフはクレマンティーヌに今の状況を説明し、ズーラーノーンの拠点は何処かと問うことにした。

 

「クレマンティーヌ、事情は今言った通り。だからズーラーノーンの拠点を教えてほしい」

 

「場所を移していたら分からないけど、墓地にある神殿を拠点にしてたよ」

 

クレマンティーヌの答えを聞き、繋がったままのメッセージでアインズに報告する。

 

「アインズさん、拐った奴は墓地の神殿にいるみたいです」

 

『分かりましたが、今誰と喋っていたんですか?』

 

「僕の眷属です、後で紹介するので急いでください」

 

メッセージを切り、アイテムボックスからクレマンティーヌの持っていたスティレットに近いものを二本取りだし、彼女に渡した。

 

「これは?」

 

クレマンティーヌは武器を受け取り、いろんな角度から観察している。その武器は彼女のスティレットより少し長く、柄の部分にはそれぞれ紅と黄の宝玉がはめ込まれ、その宝玉の中では同色の淡い光が揺れている。

握り具合を確かめるため柄を握ると、自分の手のサイズに合わせて変化する、これは魔法の武具の特徴だ。

 

「折れた武器の替りにそれあげる。素材はヒヒイロカネと龍の鱗を合成した物、紅い宝玉の方が第五位階の炸裂(バースト)、黄の宝玉の方には第五位階龍雷(ドラゴン・ライトニング)が込められてる。1日5回しか使えないから注意してね」

 

「えっ!?」

 

クレマンティーヌは驚いた表情で武器とアルフを交互に見つめる。それもそうだ、魔法のこもった物は高額であり、その力が強ければ強いほどその額が跳ね上がっていく。さらには聞いたことの無い素材と、最強種である龍の鱗を使われた武器だ。

この世界では第三位階を使えれば大成したとされ、それ以上となると英雄の域だ。そんな魔法の入った武器、買うとしたら白金貨の山ができるであろう武器をポンとだす自らの主人に驚きを隠せない。

 

「アルフさん、クレマンティーヌ。何してるの?」

 

そんなとき、ぶくぶく茶釜が現れた。

 

「ちょうど良かった。茶釜さん話したいことが」

 

 

 

アルフはぶくぶく茶釜に今起こっている事態を説明する。ンフィーレアと言う人物が拐われ、その人物のタレントを利用して大量のアンデッドを召喚してこの都市を死の都にしようとしていると。

 

「ずいぶんと物騒なことになってるみたいだね」

 

ぶくぶく茶釜は感想をのべる。それと同時、店の外が騒がしくなり、男がなにやら叫んでいる。

 

 

『緊急事態発生‼墓地よりアンデッドが溢れだしています‼ 一般人は退避、冒険者は直ちに武装し墓地に集合してください‼』

 

冒険者ギルドの職員だろう、手に拡声のマジックアイテムを持っている。おそらくここ以外でもギルドの職員がはしりまわっているだろう。

 

「アインズさんがいるなら今夜中には事が終息するとは思うけど、確認しに行きますか?」

 

「そうですね、アインズさんがどんな感じで戦士職をやってるのか気になりますし」

 

ぶくぶく茶釜の言葉にアルフが答える。

 

「じゃあ行こうか、集団飛行(マス・フライ)

 

魔法発動とともに、その場にいる三人の体が浮き上がり、アルフは二人の手を掴んでもう一つ魔法を発動する。

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

視界が暗転し、次の瞬間。三人は墓地の上空に転移していた。

 

 

 

「・・・・・・これが、転移魔法」

 

そうクレマンティーヌが呟いた。知識では知っていたが、この目で見て体験するのは初めてだった。

 

物珍しげに下を見回すと、そこには人影があった。

その人物は漆黒の全身鎧(フルプレート)を着用し、両の手には巨大なグレートソードが握られている、それは常人であれば両手で振るう物だが、その者は軽々と片手で振り回し、スケルトンやゾンビを切り裂き、砕き、なぎ倒している。

 

圧倒的。その言葉が相応しくあるが近接戦闘になれたもの、クレマンティーヌからみればそれはただ力任せに振り回しているようにしか見えない。

 

おそらくあれがアルフの言っていたアインズなる人物なのだろう。

 

 

 

その光景を見ているアルフの視界の端に何かをとらえ、そこに視線を向けると、そこには巨大なハムスターが浮いていた。

 

「ん?」

 

よく観察すると、巨大ハムスター自体が浮いているのではなく、何者かに支えられて浮いているのがわかった。

 

何者がそうしているのか気になり、ハムスターの前に回り込む。そこには見知った顔があった。

 

「ナーベラル、何してるの?」

 

「アルフィリア様、ぶくぶく茶釜様。これがアンデッド達に狙われるのでこうやって退避させております。それと今はナーベと名乗っております」

 

彼女が礼をしてそう答える。

 

「ああー」

 

ナーベラルの言葉に納得する。アンデッドは生者を憎む、それを反映しているのか命あるものを襲う傾向がある。まぁこちらもそれを考えて墓地の上空に転移したのだが。

 

「アルフィリア様、そちらの者は何者ですか?」

 

ナーベラルの視線の先にはクレマンティーヌがいる。

 

「彼女は元人間、現僕の眷属だよ」

 

「元下等生物など、アルフィリア様の眷属には相応しくないかと思います」

 

「・・・・・・」

 

ナーベラルは人間が嫌いなのか当りがきつい気がする。もしかしたらナザリック全体がそうなのかも知れない、今度確かめようと思いながら、ナーベラルに言う。

 

「ナーベ、僕の選んだ者に何か文句でもあるのかな、僕はナザリックのためになると思ったんだが、僕の考えが間違っていたと?」

 

実際は容姿が主な理由である、それっぽいことを言えば誤魔化せると思い口にしたが、それが思ったより効果を発揮したことに頭を抱えることになる。

 

「い、いえ!けっしてそんなことは、浅はかな考えで発言したことをお許しください」

 

ナーベラルは背筋を伸ばし、少しばかり震えているように見える。

 

「・・・・・・許す、以後気を付けてくれるなら問題はない」

 

「ありがとうございます!」

 

「はぁ・・・・・・」

 

そんなやり取りをしているうちにアインズが墓地内の神殿にたどり着き、神殿の前にいた複数の人影と対峙していた。



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第34話

アルフ達は鎧を着たアインズの横に降り立ち、ズーラーノーンと思われる人物達と対峙する。

 

「やぁ、カジッちゃん。元気にしてた?」

 

「クレマンティーヌ。貴様なぜそちらにいる」

 

「簡単なことだよ、こっちの方が魅力的だったから鞍替えしちゃった」

 

クレマンティーヌは腰のホルダーに入った黄の宝玉がはまったスティレットを引抜き、かつての仲間であった者達にその切っ先を向ける。

 

「あんた達にこんな武器ポンと渡せるの? カジット・デイル・バダンテール」

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)

 

スティレットに封じられた魔法が発動し、龍の姿をした雷がカジット達を襲う。

 

「こい!」

 

カジットが手に持った石をかかげると同時、空から降ってきた巨大な白い塊に龍雷を弾かれた。

 

「ちっ・・・・・・スケリトル・ドラゴンか」

 

降ってきた白い塊、スケリトル・ドラゴンはクレマンティーヌを睨むように顔を向けている。

 

「普通であればその武器は最強の部類に入るだろうが、魔法に絶対の耐性を持つスケリトル・ドラゴンの前では無力!さぁ行け、奴等を踏み潰せ!」

 

カジットの命令を受けスケリトル・ドラゴンが飛び上がり、急降下してくる。

 

だが、その攻撃は届かない。クレマンティーヌの前に出たアインズが、スケリトル・ドラゴンの前足による攻撃を片手で受け止める。

 

「二人で楽しく会話するのは良いが。私を忘れてもらっては困るな」

 

「何?!」

 

「そんなに驚くことか? ふん!」

 

アインズはもう片方の手に握られたグレートソードを振り、スケリトルドラゴンの腕を切り飛ばした。

 

「ぐ、戻れ!〈負の光線(レイ・オブ・ネガティブエナジー)〉」

 

スケリトル・ドラゴンが飛び退き、カジットの魔法を受けて腕を再生させる。

 

「前から思っていたが、魔法が効かないと言っておきながら魔法で回復するのは納得できないな・・・・・・ナーベラル、加減無しであれを潰せ」

 

「畏まりました」

 

ナーベラルはいつの間にか巨大ハムスターを木上に置いて、アインズの前で一礼し、装備が冒険者から戦闘メイドの物へと換わる。

 

「スケリトル・ドラゴンには魔法が効かないと思っているようなので、下等生物に知恵を得る機会を与えましょう。お代はあなたの命ということで」

 

ナーベラルの両手は帯電し、バチバチと音をたて雷がのたうち、輝いている。

 

「確かにスケリトル・ドラゴンは魔法に対する耐性を持っている。でも、それは第六位階以下の魔法の無効化という能力」

 

手を合わせると同時にバチンと雷撃が弾け、 離した両手の間には龍の形をとった雷撃が行き交い、バリバリと激しい音をたてる。

 

「つまりはそれ以上の魔法を使用できるこのナーベラル・ガンマの攻撃は無効化出来ないということ・・・・・・アインズ様の踏み台、本当にご苦労さま」

 

二重最強化(ツインマキシマイズマジック)連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

ナーベラルの両手からそれぞれ一本ずつ、のたうつ龍のごとき雷撃が打ち出される。

人間の腕よりもはるかに太い雷撃をその身に受け、スケリトル・ドラゴンの白い巨躯が打ち震える。龍が巻きつくように、スケリトル・ドラゴンの全身を覆う雷撃は、死体を動かす偽りの生命を全て焼き尽くしていく。

 

「ば、バカな!」

 

雷撃の龍はスケリトル・ドラゴンを焼いてもその威力は衰えず、その後ろにいたカジットにも襲いかかった。

 

龍雷はカジットを直撃し、声もなくその命を焼き尽くし、肉の焼ける臭いが辺り一帯に広がっていく。

 

「下等生物でも焼けると良い匂いがする・・・・・・エントマのお土産にどうかな」

 

人間を捕食する同僚の名前を出しながら、嘲りの笑みをナーベラルは浮かべた。



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第35話

「ナーベラル、奴等の遺品を回収しておけ」

 

ナーベラルは頷き、神殿の方へと歩いていった。

 

 

「アインズさん。その全身鎧(フルプレート)似合ってますよ」

 

アルフはアインズの横に立ち、その姿を見る。

 

「そうですか?馬子にも衣装とか言われるかと思いました」

 

そう言いながら、アインズは腕をあげたり振り返ったりして自分の姿を確認している。

 

「ところで。そこにいる人は先程言っていた」

 

アインズの視線の先にはクレマンティーヌがいる。

 

「そうです。この子が僕の眷属、名前はクレマンティーヌです」

 

「よろしくね」

 

そう言いながらクレマンティーヌは右手をヒラヒラと振っている。

 

「そういえばさっきからあんたの戦い見てたけど、本当に戦士? 身体能力は凄いけど動きが素人、ガキが棒を振り回すのと同じ感じ」

 

「ふむ、やはりまだまだか。私は魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)だよ。死者の大魔法使い(エルダーリッチ)より上位の存在、かな」

 

「あーちゃん、あの身体能力で魔力系とかマジですか」

 

クレマンティーヌが信じられないものを見るような目でアインズを見ている。

 

「マジですよ。貴女がこの世界で最強の部類であれば、その気になれば歩き回るだけで国を滅ぼせるよ」

 

「・・・・・・ごめんなさい、あーちゃん達がそこまで桁外れとは思わなかった」

 

「アインズ様、遺品の回収完了いたしました」

 

そんな会話をしているうちに、ナーベラルはいつの間にか戻ってきてアインズに一礼した。

 

その後、アインズ達と今後の行動を話し合った。

アインズ達はこのままエ・ランテルに残り、冒険者としての地位を高め、アルフ達はエ・ランテルを離れ、王都に店を移してそこで情報と金を集める。余裕ができればセバスとソリュシャンへの資金補充を行い、協力すると。

 

話し合いの後、アルフはアインズに今後の行動資金として金貨30枚、銀貨200枚が入った無限の背負い袋を手渡したがアインズは「なんかヒモやっている気分・・・・・・」と言い、複雑な思いでいたようだ。

 

そして、別れる直前、アインズにメッセージが入った。

メッセージはペロロンチーノからで、内容は、

 

『シャルティアの任務は成功したんだけど、冒険者に強力なヴァンパイアがいるという情報が漏れました。その件でシャルティアが凹んでバーで飲んだくれてます』

 

というものであった。シャルティアを慰めるためにペロロンチーノがユリ・アルファをあてがったが、彼女によるセクハラに耐えきれず逃げ出したそうだ。

 

アルフはアインズからそれを聞き、二人とも慰めた方が良いか思案する。

 

その後、アルフ達は先にナザリックへ戻り、ペロロンチーノから詳しい説明を聞き、アインズは冒険者組合で今回のことの顛末と事後処理を行うことになった。

 

「では、また後で」

 

「了解です、上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

アインズの言葉に答え、ナザリックの地表へと転移する。

 

 

 

視界が暗転し、次に目に入ったものは見慣れた墳墓だったが、その入り口には二人のメイドがたっていた。

 

「お帰りなさいませ。アルフィリア様、ぶくぶく茶釜様」

 

「お帰りなさいませ」

 

メイドの一人、ユリの声が聞こえ、そのあとにもう一人のメイド、CZ2128・Δ(デルタ)、略称シズ・Δの平坦な声が聞こえた。

状況としてはシャルティアのセクハラから逃げたユリをシズが慰めていたのだろうか?と考える。

 

「ユリ、弟がどこにいるか教えて」

 

「はい、ペロロンチーノ様は現在玉座の間にて状況を整理しておられます。その件で少し煮詰まっているようです」

 

ぶくぶく茶釜の問にユリはすぐに答えた。

 

「ありがとう。アルフさん」

 

「わかりました。クレマンティーヌ、もう一回転移するから」

 

クレマンティーヌの返事を待たず、リングの力で玉座の間の扉の前に転移する。

 

 

 

視界が戻ると、目の前には巨大な扉があった。

 

「うわぁ・・・・・・」

 

クレマンティーヌはその扉を呆然と眺めている。

確かに初見であればこんな反応をしてしまうだろう、アルフも初めて第十階層を見たときは同じ反応をしていた。

ぶくぶく茶釜が扉を開き、足を踏み入れる。

 

左右には計40のギルドメンバーの旗がかけられ。地面は真っ赤な絨毯が玉座へと真っ直ぐ伸びている。

そんな部屋の中ほど辺、胡座をかいてなにやら考えているバードマンが一人。

 

「愚弟、状況は?」

 

「姉ちゃん、状況はアインズさんに言った通りだよ」

 

「弟、お前の頭は空っぽか? 事の起こりとその終わりまで話せ。アインズさんに言ったのはこういう事が起こりましたって事後報告だろ?」

 

「あー・・・・ごめんなさい」

 

そしてペロロンチーノからの詳しい説明が語られる。

 

シャルティアはアインズから、『武技を使える者を盗賊や野党など、いなくなっても問題ない連中から拐ってこい、できるだけ事を大きくするな』という任務を与えられ、半ば成功したは良いが、後に着た冒険者パーティーに強力なヴァンパイアが出現したと言う状況を持ち帰られた、との事だ。

そして、その件でシャルティアはバーで飲んだくれており、その時眷属にしたブレイン・アングラウスなる人物は主人を心配して付き添っているそうな。




誤字脱字の指摘ありがとうございます。

なかなか話が進まないです。


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第36話

ナザリック地下大墳墓・第九階層 廊下

 

そこには、ゆっくりと歩く人影が二つ。

片方は美しい黒髪と尻尾を揺らして歩く人狼・アルフィリア。もう片方は短い金髪に猫耳を生やし、細く長い尻尾を振りながら歩く、猫科の獣人となったクレマンティーヌ。

 

二人は、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノにアインズへの詳細説明をまかせ、シャルティアを慰めるためにバーへと向かう。

そんな中、クレマンティーヌが声を発する。

 

 

「・・・・・・なんか、凄いって言葉しか出てこない。神話とかに出てきそうな雰囲気だけど、あーちゃん達はもしかして〈ぷれいやー〉だったりするの?」

 

「ん?そうだけど。プレイヤーのこと知ってるの?!」

 

「知ってるも何も、法国が崇める六大神と、それを殺した八欲王ってのがぷれいやーだって法国に残る文献に載ってるらしいよ。小難しいことはあんま覚えてないけど。 それにしても、あーちゃん達が神様と同格の存在かぁ・・・・・・」

 

そう言いながらクレマンティーヌは遠い目をしている。

 

六大神と八欲王がプレイヤー確定、両方とももう滅んでいるという話だが、生き残りやNPCが残っている可能性がある、やはり1ヶ所では得られる情報も限られるということか。

 

「まぁ、プレイヤーは僕を含めて4人だけしかいないけどね、他は全員シモベだよ」

 

「私もアルフィリア様って呼んだ方がいいのかな」

 

「僕は呼び方は気にしないけど、シモベ達がね・・・・・・ナザリックの外の者が嫌いと言うかなんというか・・・・・・」

 

「あー・・・・・・ナーベラルって言ったっけ? 確かに私を見るとき敵意むき出しだったね」

 

「そんなわけで、普段はあーちゃんで良いけど、シモベ達がいるときはアルフィリア様かご主人様呼びで」

 

「了解しました、ご主人様」

 

そんな話をしているうちに、バーの入っている部屋の扉の前へと着き、その扉を開けるとそこは、落ち着いた照明が室内を照らし、静な音楽が流れている。まさに大人の雰囲気というものが感じられる。

 

こういうところにはダンディーなおじ様とかが似合うのだろうが、今はバーのマスターである食堂の副料理長とシャルティアとそれに付き添う男がいる。多分あれがブレインなのだろう。

 

「ご主人様、もうそれくらいにしては・・・・・・」

 

「五月蠅い!・・・・・・ああぁ、アインズ様に叱られる、どうしたらいいのよ」

 

ブレインらしき男がオロオロとしており、シャルティアは酒の入ったボトルを片手で持ち、それを煽る。

彼女の喉からゴッゴッゴッと液体を嚥下する音が響き、ボトルを空にするとドンと音をたててカウンターに立てる。そのボトルのラベルに視線をやると、そこにはスピリタスとの表記があった・・・・・・。

 

シャルティアはアンデッドなのでアルコール度数が98あろうと関係ないが、男の方は元人間であるためか飲み過ぎを気にしているのだろう。

 

「シャルティア、その人の言う通りいくらアンデッドでも飲み過ぎは良くないよ?」

 

「アルフィリア様?」

 

シャルティアとブレインがアルフの方を見る、シャルティアの顔色はいつも通りであり酔った様子はなく、ブレインは自らの主を止めてくれる存在が来たと表情が明るくなった。

 

アルフはシャルティアの左の席に座り、彼女の頭を抱いて撫でる。

 

「アルフィリア様あぁ」

 

シャルティアはアルフの胸に顔を埋め腰に手をまわし、泣くような声をあげる。

 

「大丈夫だよ。アインズさんは優しいから許してくれるよ」

 

「本当でありんすか?あんな失敗をしてしまったのに・・・・・・」

 

胸から顔を離し、アルフを見上げながら心配そうに聞いてくる。その姿を見ていると何となく保護欲というものが湧いてくる。

 

「一応任務は成功したんだ、失望されることはないと思うよ」

 

シャルティアの顔が花が咲いたようにパッと明るくなるの同時、再び胸に顔を埋め、腰に回している手が胸に移りそれを揉み始め、息が荒くなってきている。

 

一応慰めるために来ているため、抵抗せずシャルティアの頭を撫でる。

 

 

暫くしてシャルティアは満足したのか、アルフの胸から顔と手を離す。

アルフはシャルティアにねちっこく胸を揉まれていたために顔が紅潮し、息が少し荒くなっている。

 

「ご主人様、大丈夫?」

 

「あ、うん。一応大丈夫」

 

クレマンティーヌの問に、アルフは息を整えながら答えた。

 

「アルフィリア様、そちらの者は誰でありんす?」

 

「この子は僕の眷属で名前はクレマンティーヌ」

 

シャルティアはクレマンティーヌを興味深げに観察し、途中で目の色が変わる。

 

「クレマンティーヌとやら、好きな事と趣味を教えてくんなまし?」

 

「は、はい。好きな事は人を苦しめて殺す事、趣味は拷問・・・・です」

 

「わらわと気が合いそうでありんす、このナザリックにはそういった趣味嗜好を持つものが複数人いるでありんす。ニンゲンを捕まえて皆で遊ぶというのも良いでありんすね」

 

シャルティアが嬉しそうに話している、クレマンティーヌは最初こそ正直に言って良いか迷っていたが、正直に話して良かったと安堵している。

 

「アルフィリア様、この者と共にわたしの所に泊まっていきんせんか?」

 

アルフはその誘いを受け、クレマンティーヌと一緒にシャルティアのところで一晩泊まる事にした。一応条件として性的な事はしないと付け、身の安全を確保した。




アルフの設定

アルフィリア・ルナ・ラグナライト

一人称・(ぼく)、ぶくぶく茶釜の指導により、たまに『私』が出てくる。


種族 人狼(ワーウルフ)・フェンリル種

完全異形形態あり

リアルでは男、理想の嫁を創るためにユグドラシルを始め、理想の容姿でキャラメイクする。
過去に所属していたギルドで裏切りに合い、その時にたっち・みーに救われるが、その裏切りがトラウマとなり人間不信気味に。
後に所属したアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー達により、トラウマを克服する。

転移後の世界では体の性別に精神が引っ張られていることを悩んでいるが、半分諦めている。
転移前はアルベドとルプスレギナが好みと言っており、クレマンティーヌを容姿で選んだ事から今も好みと性癖は変わらないようす。

子供っぽい部分があり、黒龍・ゲオルギウスにアインズをかじらせたり、転移前ペロロンチーノと共にナザリックの女湯に特攻をかけたこともある。その時二人でやまいこの説教を食らっている。

ペロロンチーノほど歪んではいないがエロにも寛容。

カルマ 善・+300

種族
ワーウルフLv15 ワーウルフロードLv5
神獣Lv10 ???Lv5

職業
ウィザードLv15 ハイウィザードLv15
拳闘士Lv5
錬金術師Lv15 真理の探求者Lv10
???Lv5

神獣・異形種になったきっかけ。
元は人狼・亜人種だったがこれを獲得してから異形種となった。

戦闘スタイルは加速特化の近接系マジック・キャスター
加速しながら杖で相手の物理攻撃を弾き、隙をついて攻撃する。使える攻撃魔法は火(爆発含む)、水、金属、土系統が多目。


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第37話

ナザリック地下大墳墓・第二階層 死蝋玄室

 

「さあ、着いてきてくんなまし」

 

アルフとクレマンティーヌはシャルティアの案内で、彼女の住居内を進んでいく。

そこは薄絹で出来たピンクのベールが吊られ、そこかしこから女の嬌声が聞こえ、甘いかおりも漂ってくる。

 

ここにはバッドステータスを与えるギミックがある。アルフは太股に付けたグレイプニルで、クレマンティーヌはここに来る前に渡した腕輪でそれを防いでいる。

 

シャルティアに案内され、いくつかの部屋を通るが、そこにはいろんな意味でヤバイ物が置かれていた。

 

いろんな形をした怪しげな器具、三角木馬、拘束台、荒縄、手枷足枷等々いろいろ置いてあり、

見つかれば確実にBANされるであろう物が所々見られる。今までよく消されなかったなぁ、と逆に感心してしまう。

 

「ついたでありんす」

 

ついた場所は空気に水気を含んでおり、シャルティアのむこうの部屋を覗き見るとそこには湯をはった大きな浴槽と、下半身だけ湯船に浸かっている全裸のヴァンパイア・ブライドが3人いた。

 

 

何故シャルティアが二人を風呂へ連れてきたかというと。

 

「死臭というのも魅力的でありんすが、ソープの香りをまとったアルフィリア様の方が良いでありんす」

 

と頬を染めながら言っていたからだ。何となくシャルティアが二人の裸体を見たいだけのような気がするが、転移前含めて湯に浸かるというのは初めてなので気にしないでおく。

 

 

 

 

そして今現在、アルフとクレマンティーヌは全裸になって凹の形の椅子に座っている。何故こんなものを設置したとペロロンチーノを問い詰めたいがろくな答えが帰ってこない気がする・・・・・・。

 

アルフは自分の体を見下ろす。そこには大きめの胸がある。視線を正面の鏡に移すと、美しい漆黒の髪が塗れ肌がほんのり朱に染まった自分が映っている。その自分の姿に頬を紅くし、興奮している自分がいる・・・・・・。

 

 

「ちょっ!そこはいいって、自分で洗えるからぁ‼」

 

アルフの右隣ではクレマンティーヌがヴァンパイア・ブライド達に前や後ろ、耳、尻尾、下腹部等全身洗われている。

 

 

「ではアルフィリア様、準備は良いでありんすか?」

 

「・・・・・・出来れば自分で洗いたいんだけど」

 

「アルフィリア様はお客様でありんす、私が誠心誠意おもてなししんす。では、いくでありんすよ」

 

背後にいるシャルティアの問に、拒否で答えるが。

拒否しきれずシャルティアに洗われる事になってしまった。

 

 

シャルティアは泡立てたソープを自分の体に塗り、その状態でアルフの背中に胸を押し当て上下し。手に付けた泡で肩や腕を洗っていく。

 

「後ろの次は前を洗うでありんす」

 

「いや、前は自分でやるから。シャルティアは先に湯に浸かったら?」

 

「遠慮はしなくても良いでありんす、わたしは気にしないでありんす」

 

「ちょ!僕は気にするから! そんなところに手を入れないで‼」

 

そしてアルフはシャルティアに全身、とくに胸、尻尾の付け根、下腹部を重点的に洗われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂に入り終え、今はシャルティアに案内された寝室のピンクの天蓋付きの大きなベッドに、アルフとクレマンティーヌはぐったりと寝そべっている。

 

「・・・・・・クレマンティーヌ、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない。茶釜ちゃんにされたことに比べたらあれだけど、複数人でまさぐって来るんだもん・・・・・・」

 

ペロロンチーノはヴァンパイア・ブライドにもそうするように設定を組んでいたのだろうか、後で踏もう。

 

「それよりシャルティア様のあれって・・・・・・」

 

風呂に入っているとき、目線がシャルティアの胸にいっていたので、恐らくは胸の事を言っているのだろう。

 

「クレマンティーヌ、本人の前では言わないであげて。いろいろ気にしてるみたいだから」

 

「了解」

 

「シャルティアのせいで風呂では疲れが取れなかった・・・・・・」

 

「同感」

 

そうしているうちに眠気が訪れる、こんなものは睡眠不要の装備を使えばどうとでもなるが、眠りの心地よさが好きなのでそうはしない。

そして睡眠欲にまかせ、意識を手放し深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第九階層 会議室

 

そこには各階層の守護者が揃っていた。

 

「では、これから臨時守護者会議を始めます。議題はアインズ様の方針をどう思っているかです」

 

アルベドの声が会議室に響く。

 

「アインズ様はこれから、見所のある者や他種族をナザリック外から招く方針のようです、私はそれについては異論はないけど、皆の意見を聞きたいの。まずはデミウルゴス」

 

「私は有能であればナザリックに率いれても良いと考えてます。無能でもいろいろ役に立つ者もいる可能性がある、例えば異種族どうしでも子は成せるか等の交配実験やゴーレムやスケルトンでは出来ない作物や家畜の管理ですかね」

 

「次はアウラ、マーレ」

 

「あたしは従ってくれるモンスターなら良いけど、外の者が自由にナザリックを歩き回るのはなんか嫌だな」

 

「ぼ、ぼくもお姉ちゃんと同じです」

 

「アウラ、その気持ちは皆一緒よ。アインズ様が友好的に接するよう言われているわ。外部に我々は他種族とも友好的な者というアピールとの事だけど、私は他にも狙いがあると考えているわ」

 

「アインズ様の思考は私やアルベドでも読めない時がありますからね」

 

「では次、コキュートス」

 

「私モ有能、マタハ有望デアレバ引キ入レテモ構ワナイト思ッテイル」

 

「最後にシャルティア」

 

「わたしもアインズ様の方針に異論はないでありんす。今回加わったクレマンティーヌと言う者、忠誠心は低いでありんすがなかなか良い身体をしていんした」

 

「その事だけど。あなた、そのクレマンティーヌと一緒にアルフィリア様ともお風呂に入ったそうだけど、それは本当?」

 

「本当でありんす。あの美しい黒髪、バランスのよい肢体、艶のある肌、大きめの乳房、今思い出しても興奮するでありんす」

 

シャルティアの顔が紅く染まり、その手をワキワキと動かしている・・・・・・。

そんなシャルティアに羨ましさと嫉妬の混じった視線が複数向けられる。

 

至高の御方と一緒に風呂に入るなど、ご褒美以上に価値のあるものだ。

 

「シャルティア、至高の御方に不敬な事をするのは・・・・・・」

 

「わかっているでありんす、もし本気で拒絶されたらやめるでありんす」

 

「はぁ・・・・・・皆、概ねアインズ様の方針に異論は無いようね。ではこれで会議を終わりにします」



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第38話

翌日

 

ナザリック地下大墳墓・第九階層 食堂 9:30

 

そこには遅めの朝食をとる一般メイドとアルフ、クレマンティーヌ。それを見ているぶくぶく茶釜とペロロンチーノの姿があった。

 

アルフとクレマンティーヌは昨日の精神的疲労で九時頃まで寝ており、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノはアインズからの報告をアルフへと伝えるために食堂で待っていた、という状況だった。

 

そのぶくぶく茶釜から聞いた報告は、アインズとナーベラルが昨夜の件で(カッパー)からミスリルに昇格と、昨夜出現したヴァンパイア討伐の依頼が冒険者組合から出ており、アインズがそれを受けたそうだ。

 

「で、もうしばらくしたらアインズさんが戻ってくるから。その時皆で今回どうするか決めるみたい」

 

「そうなんだ」

 

アルフは報告の内容を聞き、思案する。

一応冒険者のランクについては当人達から聞いているのでそれなりに詳しい、今回の規模の事件であればオリハルコンになっても良いはずだ。やはり実績は必用、との答えに行き着き、ヴァンパイア討伐の依頼を利用した実績作りを思いつき提案してみる。

 

「それ良いな、後はどうやって証拠を作るかだが・・・・・・」

 

「それは適当な場所を焼き払えば良いんじゃない?」

 

ペロロンチーノの言葉に、ぶくぶく茶釜が物騒な答えを返す。

 

「なら模擬戦やってその過程で焼き払えばそれっぽい痕跡が作れるな。アルフさんと守護者が全力戦闘すればちょうど良いかも」

 

「何で僕が・・・・・・それに守護者が断ったらどうするんですか」

 

「いや、俺は狙撃系だし、姉ちゃんは防御主体で殴り合うスタイルだし。アルフさんの本当の全力戦闘ならいい感じで焼けると思う」

 

「それと守護者は断らないと思うけど、だめ押しでアルフさんが何か一つ頼み事を聞いてくれるって餌で釣れば大丈夫」

 

アルフとしては適当に大地をボコボコにすればいいと思っていたが、意思に反して話が妙な方向に進んでいく。自分で提案した事なので取り下げにくい。

 

そんなこんなで、守護者がアルフと模擬戦をして勝てれば何か一つ頼みを聞いてもらえる。という話し合いの内容が一般メイドから守護者達に伝わってしまい、引くに引けない状況になっていき、帰ってきたアインズに提案を話しOKが出たことにより完全に退路を断たれてしまった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死を撒く剣団 アジト跡地近くの平原 21:00

 

そこにはアインズ、アルフ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、クレマンティーヌ、各階層守護者が揃っている。

 

ここにいる目的は、ここで模擬戦を行い、その戦闘痕をヴァンパイア討伐時に出来たものと報告するためだ。うまくいけばアインズは冒険者の頂点、アダマンタイトになる可能性が高い。

 

「では、昼間話した通り守護者の中から一人、アルフさんと全力で模擬戦をしてもらおうと思う。この模擬戦で勝利すれば彼女が一つ頼み事を聞いてくれる事になっている」

 

アインズの言葉に、アルフは納得が出来ないというような表情をしており、守護者達はアルフへ獲物を狙うような視線を向けるが、すぐにそれがなくなる。

数日前行われたコキュートスとの試合を思い出したのだろう、魔法詠唱者(マジック・キャスター)でありながら近接戦闘を得意とし、コキュートスですら対応出来ない速度まで加速する。そんな相手に明確な勝利のイメージが浮かばない。

 

そんな中、模擬戦の相手を申し出る守護者がいた。

 

「アインズ様。アルフィリア様との模擬戦相手、わたしが勤めるでありんす」

 

「うむ、他に申し出る者もいないので、アルフさんとの模擬戦の相手はシャルティアとする。シャルティアよ、アルフさんに望むことはなんだ?」

 

「はい、アルフィリア様には睦事のお相手をして欲しいでありんす」

 

シャルティアの言葉に沈黙が訪れる。

 

 

 

「・・・・・・許可する」

 

「ちょっと!アインズさんなに考えてるんですか‼」

 

アインズの言葉にアルフが詰め寄り抗議の声をあげる。

 

「良いではないか、アルフさんが勝てば問題はない」

 

「他人事だと思って・・・・・・今度数倍にして返してあげますから、楽しみにしててくださいね」

 

「で、ではこれより模擬戦を行う。両者指定の位置について準備を行え」

 

アルフの言葉と誰もが惚れそうな笑み+威圧のオーラにアインズが慌てて模擬戦の準備を促す。表情があればその顔はひきつっていただろう。

 

「では、今回の模擬戦のルールを説明する。

ルールその1、魔法は超位魔法以外なら全て使用可能。

ルールその2、装備の制限は無し。

ルールその3、消費アイテムの使用禁止。

ルールその4、どちらかのHPが残り25%を切ったら模擬戦は終了、念のため蘇生アイテムは装備すること、以上だ」

 

アインズのルール説明が終わり、アルフとシャルティアは模擬戦の準備を始めた。




誤字脱字の指摘ありがとうございます。



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第39話

模擬戦の準備を終えた二人は、十メートルほど距離をあけて平原にたっている。

 

シャルティアはその身に真紅の鎧を身に纏い、背には蝙蝠の翼、手にはスポイトランス、相手のHPを削り、その量に応じて装備者を回復させる事に特化したランスが握られている。

 

対するアルフィリアは黒曜石で創られたサークレット、ブレストプレート、籠手、グリーブを身に付けており、手足には赤黒い焔が灯され揺らめいている。

その姿は魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではなく、戦士系の職業のようである。

 

 

「アインズ様。アルフィリア様のあの装備はいったい・・・・・・」

 

「あれはアルフさんが本気の時に使う装備。本来魔法詠唱者にはそこまで物理攻撃力はない、あの装備はそれを補うものだ。

だが知っての通り、魔法詠唱者が戦士の真似事をしても攻撃スキルが無い、ゆえに同レベルの本職には敵わない、それを魔法による加速と見切りによる防御で倒すものなのだが欠点もあってな。

あれを装備すると魔法攻撃力の70%を物理攻撃力に、魔法防御と物理防御の30%を素早さに変換するため、魔法が威力を失い、防御力が薄くなる」

 

アインズの説明を聞き、この場にいる者達は改めてアルフを見る。

アルフのその手には防具と同色の無骨なナックルが装備されており、手を握ったり開いたりして具合を確かめているようだ。

 

 

「うわぁ、アルフさん本気だ。ここ攻撃範囲に入ってないよな」

 

「ギリギリ入ってないと思うけど、念のため防御用意しておく」

 

ペロロンチーノの言葉にぶくぶく茶釜が答える。転移前、アルフの魔法の攻撃範囲を読み違え、敵ごと吹っ飛ばされたギルドメンバーの事を思い出す。

 

 

 

「二人とも、模擬戦の準備は終わったようだな」

 

拡声の魔法により大きくなったアインズの声が平原に響く。

 

「問題ないでありんす」

 

「こっちも準備OK」

 

「〈生命の精髄(ライフ・エッセンス)〉。では、模擬戦始め‼」

 

アインズはHP看破の魔法を発動させ、その後の開始の声と共にシャルティアが突っ込んできた。

 

「アルフィリア様の対策はわかっているでありんす、加速前に仕掛ければ普通の魔法詠唱者(マジック・キャスター)と変わらないでありんす!」

 

その言葉と共にスポイトランスの切先が迫る。

 

「その対策をしていないとでも?」

 

紅炎の壁(ウォール・オブ・プロミネンス)

 

魔法が発動し、アルフとシャルティアの間に巨大な焔の壁が出現し、スポイトランスによる攻撃を防ぎ、上限無視の魔法を発動する。

 

無限増幅(アンリミテッド・ブースター)

 

「くっ!〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

このままでは不味いとシャルティアはアルフの背後へと転移するが。

 

「お見通しだよ」

 

「な!」

 

転移した先では、魔法の発動を準備しているアルフがシャルティアに手を向けている。

 

「装備能力カット・籠手」

 

左手のナックルのしたにある指輪〈武装制限の指輪(ウェポン・リミッター)〉を使用し籠手の魔法攻撃力を物理攻撃力に変換する能力を無効化し、魔法を発動させる。

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)銀属性付与(シルバー・エンチャント)千の刃(サウザンド・エッジ)

 

シャルティアの足元から銀属性を付与された千の刃が迫る。

 

シャルティアは不浄衝撃盾を足元に展開し、魔法による攻撃を防ぐが、半分ほどは防ぎ切れずHPが削られていく、だがシャルティアが次に発動した魔法で意味の無いモノへと変わる。

 

生命力持続回復(リジェネレート)

 

アンデッドですら徐々に体力を回復させる魔法を発動させる。

 

「ちっ、〈流星の雨(ミーティア・レイン)〉」

 

アルフは舌打ちし、新たな魔法を発動させる。

空から幾千もの隕石が降り注ぎクレーターを作っていく。

シャルティアが回避しようと飛び回るが幾つかの隕石が当たり、回復量を上回る速度でダメージが入る。

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

シャルティアは転移魔法を使い攻撃範囲から離脱する。

 

「流石は至高の御方、加速せずとも強いでありんす」

 

その言葉をいい終えると同時、シャルティアの前に、立ちはだかるように白き光が集約し、人の形をとっていく。

 

それはシャルティアの切り札、エインヘリヤル。

魔法やスキルはほとんど使えないが、能力値はシャルティアそのものだ。

 

エインヘリヤルが形を成し、アルフへと突撃する。

 

「〈加速(アクセル)〉装備制限解除」

 

アルフは加速し籠手の制限を解除する。ランスによる刺突を左手の甲で弾き、右手の爪でエインヘリヤルを斬りつけるが、入りが浅く、ダメージがあまり入らなかった。

 

「今のは完全にかわせたと思ったけどどうなっているでありんすか?」

 

「答えは簡単だよ、このナックルの下、加速杖アスケイオンと同じ能力を持った指輪を五つ着けているだけだ」

 

そう言いながら右手を前につき出す。

 

「そうでありんすか、なら。〈清浄投擲槍〉」

 

シャルティアはスキルを発動させ、三メートルを超える戦神槍を召喚する、それはMPを消費することにより、必中効果を持たせられる槍。

 

魔法三重化(トリプレットマジック)・フレア〉

 

シャルティアが槍を投げると同時、アルフは魔法を発動させ30の光球をばらまく。この魔法は攻撃力は皆無だが、必中の効果をもつ遠隔単体攻撃でも無効化することもある。

 

槍が複数の光球を貫くと同時、複数の爆発と爆煙が起り清浄投擲槍を無効化する。

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)

 

「くっ!槍は囮か!」

 

シャルティアの魔法がアルフを襲い、HPを大きく削る。

 

「やっと直撃したでありんす、このまま畳み掛けるでありんす」




設定

黒曜一式
武器はナックル

サークレット、籠手、ブレストプレート、グリーブからなる装備、その全てが黒曜石でできている。
付与されている能力は
サークレット・相手に与えた物理ダメージの60%をMPとして回復。

籠手・魔法攻撃力の70%を物理攻撃力に変換する。

ナックル・拳は打撃、爪は斬撃になる。MPを上乗せするとその分攻撃力が上がる。

ブレストプレート・空中を走ったり、跳んだり出来るようになる。

グリーブ・物理防御力と魔法防御力の30%を素早さに変換。

グリーブと籠手、ナックルにはエフェクトで赤黒い焔が揺らめいている

加速の指輪(リング・オブ・アスケイオン)
加速の杖、アスケイオンと同じ能力をもつ指輪。
右手ナックルの下に五つ装備している。

装備制限の指輪(ウェポン・リミッター)
装備しているアイテムに付与されている能力をOFFに出来る指輪。

フレア
攻撃力は皆無。
10の光球をばらまき、それにあたった投擲、射撃、打ち出す系の単体攻撃魔法を必中でも防ぐことがある。
ただし貫通系は防げる確率が下がり、範囲攻撃にはまったく意味がない。


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第40話

シャルティアとエインヘリヤルの攻撃が続く。

 

エインヘリヤルがアルフへと近接攻撃を仕掛け、シャルティアは隙を見て魔法を撃ち込む。

 

アルフの戦闘スタイルは手数の多い対多腕種との一対一と、一対多数の近接戦を主眼においているため、一対多数の近接と魔法の複合戦となると対処が難しくなる。

 

その証拠に、加速を重ねてシャルティアを狙って攻撃しても力の聖域(フォース・サンクチュアリ)を使われ、その隙にエインヘリヤルが攻撃をしてシャルティアから引き離す。

 

それを数回繰り返し、アルフのHPが少しずつ削られていく。

 

「・・・・・・HP調整が難しいな」

 

もうHPが30%ほど削られている、対するシャルティアはといえば一旦は40%近く削ったが、リジェネレートとスポイトランスの効果で10%近く回復されている。

 

「ふふ、このままいけばアルフィリア様と・・・・・・」

 

シャルティアがよからぬ妄想をしているようだ。

とりあえずこの隙に攻撃魔法を撃ち込んでみる。

 

広範囲魔法最強化(ワイデンマキシマイズマジック)彗星の一撃(コメット・ストライク)

 

魔法を発動し、上空から巨大な彗星が落ちてくる。

 

「なっ!? 〈力の聖域(フォース・サンクチュアリ)〉」

 

シャルティアは慌てて防御魔法を発動させるが、これは攻撃目的ではないので意味はない。目的は魔法の付属効果、防御魔法を無効化し一時的に使用できなくなる、というのが目的だ。

 

彗星がシャルティアに直撃し、防御魔法ごと押し潰し、地面に巨大なクレーターを作る。

 

「くっ、こんなことで。アルフィリア様との睦事は諦められないでありんす!」

 

土煙が舞うクレーターからシャルティアの声が響く。

 

「この体が男なら歓迎なんだけどね、シャルティアは女の僕が目的のようだし、女の体だとどうなるかわからないから遠慮させてもらうよ」

 

アルフはそう言いながら五つの指輪を使って十の加速を重ね、空中を蹴り、シャルティアを爪による斬撃で攻撃する。

 

空中を蹴り、すれ違う瞬間に攻撃する。それを十、二十と繰り返し、シャルティアのHPを削っていく。

 

「ぐっ、〈眷属招来〉!」

 

シャルティアはスキルを発動させ、数多の眷属を召喚し、物量でアルフを押て引き離す。

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)

 

そこにシャルティアから魔法が放たれ、眷属ごとアルフを焼く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アインズ様、アルフィリア様は大丈夫でしょうか・・・・・・」

 

「大丈夫だ。アルフさんの顔をよく見てみろ」

 

アルベドは戦闘中のアルフへ視線を移し、その顔を見る。

アルフは追い詰められているにも関わらず、その顔には笑みがある。

 

「この模擬戦はアルフさんが本気で戦えるかの実験でもあるのだ」

 

「実験ですか?」

 

「うむ、彼女の本気は凄まじくてな。本気で一撃を放てば神に叱られ、本気で加速すれば世界がその負荷に耐えきれずラグ、世界自体が遅くなってしまってな。

ちょうど頃合いか、アルベドよ彼女のHPを見てみろ」

 

アインズはそう言い、アルベドはアルフのHPを確認する。

シャルティアとの攻防で先程まで少しずつ削れていたHPが、50%になってからは全く減っていない。

 

「これはいったい」

 

「不思議だと思わなかったか? コキュートスの四つ腕による攻撃を完全に防ぎきり、隙がないとも思える連撃の隙をつき一撃を入れたアルフさんが、たかが二手同時攻撃でどうにか出来るはずもない」

 

「では、アルフィリア様はわざとダメージを負っていたと?」

 

「うむ、彼女が本気を出すには三つほど条件があってな。その一つがHPが50%以下であること、あとの二つは模擬戦後に説明しよう」

 

そうしているうちに、戦闘の状況が変り、互いににらみあっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルフィリア様、降参したらどうでありんすか?」

 

「面白い冗談言うね、本番はこれからだよ」

 

言い終えると、アルフに変化が起こった。

 

アルフの体がバキバキと音を立て、筋肉が隆起し骨格が変わっていく。

その過程で装備が体に取り込まれ、全身が漆黒の毛で覆われ、顔と腕には金のラインが入り、手足には赤黒い焔が灯される。

その姿は二足で立つ、身長二メートルの獣であった。

 

 

完全異形形態

 

一部の異形種は複数の形態をもつ。人間形態や半形態時にペナルティーを受け入れることで、完全異形形態時にボーナスが得られる。

 

変化が終ると同時、装備している世界級(ワールド)アイテム、グレイプニルに変化が起こった。

 

グレイプニルが淡く発光し、金の焔が灯される。

 

 

「ふぅ、この姿になるのも久しぶりだな」

 

「エインヘリヤル‼」

 

シャルティアはアルフが完全異形形態に変わったことに焦り、エインヘリヤルに指示をだし突撃させる。

 

エインヘリヤルが槍を突き出すが、手の甲で弾かれ。がら空きになった胸に手刀を打ち込まれてぶち抜かれ、その体が崩壊していく。

 

「そんなバカな‼」

 

エインヘリヤルはシャルティアと同等の能力を持ち、HPも70%も残っていた、それが一撃で倒されたのだ。

 

「シャルティア、降参したらどうかな?」

 

「くっ!〈眷属招来〉‼」

 

シャルティアは召喚できる残り全ての眷属を呼び出し、己の盾とする。

 

それを見たアルフはアイテムボックスから一本の大太刀を引きずり出す。

 

それは黒曜石で出来ており、長さは180cmもある鍔の無い美しい大太刀、その刀身には紅いラインが入っており、淡く発光している。

 

「攻撃範囲限定・距離、千」

 

その大太刀を握り、大上段で構え、刀に込められたスキルを発動し力一杯降り下ろす。

 

 

世界分断(ワールド・ディバイド)

 

 

大太刀が力を発動し、一直線に斬撃が飛ぶ。

その斬撃は空を裂き、地を割り、盾にした眷属が消滅していく。

 

「〈力の聖域(フォース・サンクチュアリ)‼〉」

 

シャルティアは防御魔法を発動するが、その上からダメージが入り、蘇生アイテムが役目を果たし砕けてしまった。

 

 

「そこまで、勝者・アルフさん」

 

勝者を告げる声が平原に響き、模擬戦は終了した。




設定

完全異形形態
アルフがそれになる条件は
夜であること、月が出ていること、HPが50%以下の3つ。

追加されるスキルがいくつかあり、その一つが防御魔法を無視して貫通ダメージを与える。

彗星の一撃(コメット・ストライク)
範囲攻撃魔法、攻撃力は低めだが付属効果で防御魔法を無効化し一時的に使用できなくなる。使用できなくなる時間は1分、最強化すると30秒伸びる。

黒曜石の大太刀
名前は崩界の大牙。能力は攻撃範囲と距離の強化。
世界分断(ワールド・ディバイド)
斬撃を一直線に飛ばす。
最初は技名は無かったが無言で放つのも味気ないとアルフが付けた。

グレイプニルその2
全てのステータス-15%の効果が全ステータスを5倍にするに変わる。発動条件は完全異形形態であること。


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第41話

模擬戦が終了し、アルフは辺りを見回していた。

 

平原だった場所は、隕石と彗星によるクレーターが出来、地面は焼け、千の刃が突き出し、一キロに渡って切断されている。

 

そんな切断痕の横では、シャルティアが膝と手を突き項垂れてぶつぶつと何か言っている。耳を澄ませると「アルフィリア様との睦事が、逢瀬がぁぁ」と聞こえた・・・・・・。

 

 

 

「随分派手にやりましたね」

 

アインズの声が聞こえ、声のする方へ振り向くと、アインズ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、各階層守護者、クレマンティーヌがいた。

 

「アルフさん、全力でやらなくて良かったの?」

 

「全力でやったら世界が壊れるってわかって言ってますよね」

 

ペロロンチーノの問にあきれたようにアルフが答えた。

 

そんな話をしていると、アルフの右手の甲がちょんちょんとつつかれ、そちらに目を移すと、アウラがいた。

 

「アルフィリア様、すごく綺麗な毛並みですね」

 

「そうかな」

 

アウラに言われ、腕を上げたり体をひねって自分の毛を確認する。

 

「それでですね、もしよければ触らせてもらえないでしょうか?」

 

「お、お姉ちゃん、失礼だよ」

 

アウラが頬を赤く染め、もじもじしながら言葉にし。マーレが慌てたように自らの姉を止めようとする。

 

「いいよ、触っても」

 

そう言いながら、アルフはアウラを抱き上げた。

抱き上げられたアウラはわさわさと胸や腹、腕辺りを触り、頬擦りをする。

 

「思った通り、すごく良い。フェンより触り心地良い」

 

その光景を見ていた守護者達からアウラに嫉妬の混じった視線が向けられ、それに気づいたアウラはこれ見よがしにアルフに体を寄せて頬を擦り寄せる。

 

「アウラばかりずるい、わたしもアルフさんモフる」

 

そう言ってぶくぶく茶釜が加わり、尻尾に絡み付いてくる。

 

その後、ナザリックヘ戻るのだが。アウラとぶくぶく茶釜は毛の手触りが気に入ったのか、満足するまでアルフから離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓・第九階層 アルフの自室

 

「お帰りなさいませ、お父様。そちらのかたは?」

 

自室に入ると、マリアが出迎え、アルフの後ろにいるクレマンティーヌを不思議そうに見ている。

 

「この子は僕の初めての眷属で名前はクレマンティーヌ」

 

そう言いながら振り向き彼女を見るが、ボケーっとしていて心ここに在らず、といった感じだ。

 

「クレマンティーヌ、どうしたの?大丈夫?」

 

「あ、うん。さっきの戦いが神話で読んだり聞いたりしたのより凄すぎて・・・・・・」

 

アルフはクレマンティーヌの理解が及ばない事が目の前で起き、脳が処理しきれず考えることを放棄していると理解した。

 

「まぁ、とりあえず入って、風呂に入るなりそのままベッドで寝るなり好きにして良いよ」

 

「うん、頭がこんがらがってるからそのまま寝る」

 

そう言うと、着ていた鎧を脱ぎ捨て、ベッドにうつ伏せに倒れこんでそのまま寝てしまった。

 

「うむ、なかなか刺激的だな」

 

クレマンティーヌの姿は胸には何も着けず、下は黒のピッタリとしたパンツで、尻尾があるため少し下げられている。

 

「マリア、布団かけてあげて。私は汗流してくるから」

 

「襲わなくていいんですか?」

 

「疲れてるみたいだし、そのまま寝かせてあげたいかな。明日からは大変になるかもしれないし」

 

「畏まりました」

 

その言葉を聞き、アルフは風呂場へと向かった。

 

 

「お父様の眷属、ねぇ。分類的には私の妹、になるのかしら? 姉妹でお父様を手篭めにするのも良いかもしれない、でもレベルが足りないかな・・・・・・」

 

そこには自らの父を手篭めにする計画をたてている娘がいた。

 

 

 

 

翌日

 

ナザリック地下大墳墓・第二階層 迷宮区 9:00

 

アルフとクレマンティーヌは朝食をとった後、その場所に来ていた。

アルフはそこへ来た目的をクレマンティーヌに話しておらず、彼女は疑問符を浮かべながらついてきている。

 

「あ~ちゃん、こんなところで何するの?」

 

「ん? 貴女を眷属にしたとき言ったでしょ、強くなる方法を教えるって・・・・・・着いた」

 

アルフが立ち止まり辺りを見回す、そこは少し開けたところで、広さは10㎡くらいはある。そんな広場のはしにメイドが立っていた。

 

「マリア、準備の方は終わってる?」

 

「終わっております。回復アイテムの準備とこの場所の設定は言われた通りに」

 

マリアの答えに頷くアルフ、クレマンティーヌはいまだに疑問符を浮かべている。

 

「クレマンティーヌ、貴女にはここでレベル上げと言う儀式をしてもらいます。パワーレベリングの方が効率は良いけど費用がかかるのと、戦闘経験がつめないのでやりません」

 

「れべる上げ?」

 

「まぁ、儀式と言っても出てくるモンスターをひたすら倒す簡単かつ苦行的なモノだよ。 ここはアインズさんに言ってLv30、こっちでは難度だっけ? それが90くらい、クレマンティーヌと同格のスケルトンがうようよ出来るよう設定してもらいました」

 

「は!? 本気で言ってる?」

 

クレマンティーヌの知識では、スケルトンは雑魚であり、自分と同等のスケルトンなどいない。

 

「本気だよ、じゃあまず一体目」

 

そう言うと、目の前に剣と盾を持ったスケルトンが一体湧いて出た。

 

「倒せば次が出てくるから、どんどん行ってみよー」

 

アルフの言葉を聞き、クレマンティーヌはモーニング・スターを引き抜いた。

スケルトン等には刺突武器は効果が薄く、打撃には弱いので苦手であってもこれを選んだ、普通のスケルトンであれば盾の上からであろうと、一撃で終わる。

そう思い、スケルトンに接近しモーニング・スターを振り抜く。

 

だが、スケルトンは盾で攻撃を弾き、剣で反撃を仕掛けてきた。クレマンティーヌはそれを紙一重でかわし、飛び退いた。

 

「本当に私と同じくらいの強さがあるのみたいね・・・・」

 

「あ、忘れてた。クレマンティーヌ、これ使って」

 

アルフはアイテムボックスから複数のアイテムを引き出し、クレマンティーヌに差し出す。

 

「この腕輪、アンクレット、サークレット、指輪は取得経験値増加の装備で、この武器は見た目はスティレットだけど中身は打撃武器って意味不明な物」

 

クレマンティーヌはアイテムを装備し、スティレットを見つめる。

 

「あーちゃん、なんでこんなの作ったの?」

 

「今回のための特別製、耐久値もそれなりにあるから気にせず打ち合って良いよ」

 

中身はあれだが確実に自分の使っていた物より格上だ、そんなものがポンポン出てくる状況にすでになれてしまった自分がいる。

 

クレマンティーヌはスティレットを握り締め、目の前のスケルトンとの戦闘を再開した。



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第42話

ナザリック地下大墳墓・第二階層 迷宮区 13:00

 

「あ、あーちゃん。ちょっと、休憩しない?」

 

クレマンティーヌはレベル上げを始めて約四時間、自分と同等のスケルトンを数十体休みなく倒し続け、疲労して膝に手をつき、大量の汗を流している。

 

「四時間ぶっ通しだったし、休憩にしよっか」

 

それを聞いたクレマンティーヌはドサッと仰向けに寝そべり、手に持ったスティレットを放り投げ、体に溜まった熱を吐き出すように息を吐き出した。

 

「あ~、床が冷たくて気持ちいい・・・・・・てか、これ本当に強くなれるの?」

 

「なれるよ。今のクレマンティーヌなら難度120くらいなら相手出来るはずだよ」

 

スキルを使ってクレマンティーヌを見る、種族と職業レベルが合わせて40になっている。おそらく獣人のスキルも幾つか発現しているだろう。

少し早いが、スキルで召喚する眷属と戦わせる事にする。

 

 

〈中位眷属召喚・オルトロス〉

 

 

スキルを発動し、アルフの影から這い出るように、二つの頭を持ち、尻尾が蛇になっている黒い犬が現れた。

 

「このモンスターの名はオルトロス、難度は120で火属性の魔法を二つほど使える。貴女にはこれと戦ってもらいます」

 

「スケルトンは見飽きてたからちょうど良いか」

 

そう言いながらクレマンティーヌは立ちあがり、腰のホルダーからスティレットを一本引き抜き、クラウチングスタートのような体勢をとり、複数の武技を発動する。

 

〈疾風走破〉〈超回避〉

〈能力向上〉〈能力超向上〉

 

オルトロスとクレマンティーヌが同時に床を蹴り、加速する。

オルトロスは複数の火球を吐き、クレマンティーヌは火球の間を縫うように回避し、オルトロスの下に滑り込んで思い切り蹴り上げる、浮いたオルトロスの胸にスティレットを突き立て、込められた魔法を発動した。

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)

 

龍雷がオルトロスの体内を駆け回り、肉を焼き破壊していく。

辺りには肉の焼ける匂いが漂い、オルトロスが炭化してボロボロと崩壊していく。

 

 

「どお? 難度120と戦った感想は」

 

「あ、うん。強くなったってのはわかるんだけど。なんかこう、他人事みたいな?」

 

まだ強くなった実感が薄いようだ。

 

「まぁ少しずつ理解すれば良いよ。

僕はこれからエ・ランテルの店を王都に移転する準備とかいろいろしてくるから、休み終わったらちゃんとレベル上げ再開してね」

 

そう言うと、アルフは上位転移(グレーター・テレポーテーション)を使って転移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

城塞都市エ・ランテル アルフの店 寝室

 

暗転した視界が戻ると、そこにはぶくぶく茶釜がおり、荷物をまとめている。

 

「茶釜さん、荷物はかたつきましたか?」

 

「一応居住スペースは終わってるけど。アルフさん、私ばかりにやらせないでよ」

 

ぶくぶく茶釜は頬らしき所を膨らませ、怒ったような仕草をする。

 

「すみません、クレマンティーヌのレベル上げがありまして」

 

「それって、アインズさんの実験の手伝い?」

 

「いいえ。眷属にするとき、強くなる方法を教えるって言っちゃいましたから」

 

「あぁ、確かにそんなこと言ってたね」

 

「で、まだ途中ですがクレマンティーヌのレベルが10上がりました」

 

「レベル上げが有効って情報はアインズさんの役に立ちそうですね」

 

 

「では、僕は店の方のかたつけをしてきます」

 

アルフは店に行こうと寝室のドアに手をかけるが、ぶくぶく茶釜に呼び止められた。

 

「少し前に店の様子を見たんだけど、店の外が人で溢れて凄いことになってる。原因は事件の後、突然休んだことかな?」

 

「・・・・・・」

 

ぶくぶく茶釜が言った状況、冒険者が道を塞ぐほど溢れているのを想像し、言葉が出てこなくなる

 

「人気者は大変だね」

 

「・・・・・・出ていって説明しないとダメかなぁ」

 

「あーちゃんのファン達なんだから、大切にしないとダメだよ」

 

ぶくぶく茶釜がいたずらっ子のように言う。

アルフはため息をつきながら変化し、店に出ることにした。

 

 

 

 

 

 

店に出ると、ドアの外は人で溢れ、アルフを見た冒険者達が歓声を上げる・・・・・・。

 

(何あれ、すごく怖いんだけど・・・・・・)

 

思わず後退り、顔がひきつってしまう。

 

アルフは意を決し、店のドアまで進み鍵を開けたとたん、人が一気に雪崩れ込み、カウンターまで押しやられてしまった。

 

店に入ってきた冒険者達は、「嬢ちゃん大丈夫だったか!?」「アルフィリアさんが無事で良かった!」「俺たちアルフィリアちゃんが心配で心配で!」と、アルフを心配する言葉が次々出てくる。

 

「し、心配させてごめんなさい。それと、皆さんに言わないといけないことが・・・・・・」

 

アルフはどうして休んでいたかの理由と、事件が立て続けに起き、不安で一時王都に店を移す。と言う話をした。

 

「と言う訳なので、今日は移転前セールで能力付与を一つ銀貨二枚で承ります!」

 

アルフのその言葉を聞き、冒険者達は歓声を上げ、店の中は戦場と化した。



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第43話

あの店での戦争から三日後の昼、城塞都市エ・ランテルと王都リ・エスティーゼを繋ぐ街道を行く馬車が一台。

 

馬車を牽く馬は生き物ではなく石で出来ており、一定のスピードで歩を進める、その馬車の御者台にはアルフが座り、その膝で黒龍・ゲオルギウスが丸まって寝ており、

荷台には胡座をかいて壁にもたれ掛かり、脚の上に乗っているぶくぶく茶釜を摘まんだり揉んだりしているクレマンティーヌ、それと幾つかの木箱が乗っかっている。

 

クレマンティーヌがここにいるのは、目標のレベルまで上がったからだ。今の彼女のレベルは55、ここまでレベルを上げるのに自分の持つユグドラシル金貨を少し使ったがその分早く終わり、最初は王都で合流予定だったが、昨日の夜から馬車旅に同行する事になった。

 

 

 

アルフは物珍しさから、流れていく景色を眺めている。

 

「アルフさ~ん。エ・ランテルから出てもう二日だけど、飽きないの?転移するならもう少し王都の近くでも良かったんじゃない?」

 

ぶくぶく茶釜はつまらなそうな声を上げながら、クレマンティーヌの脚の上でデロンとダレている。

 

アルフ達がエ・ランテルを出て、馬車ごと王都との中間辺りに転移し二日ほど馬車を走らせている。

 

最初は王都内に転移すると言う案が出たが、面倒ごとにならないようにと正規の方法で王都に入ることになった。そこで馬車ごと転移して移動時間を短縮する案が出て、王都との中間辺りに転移した。

 

最初の頃はぶくぶく茶釜も喜び、アルフと同じように景色を眺めていたが。同じような平原ばかりで飽きてしまったようだ。

 

「僕は楽しいよ、もとの世界じゃ見れないものばかりで飽きが来ない。それに王都近くに出て他の人に見られて面倒事にならないよう、中間に転移するのぶくぶく茶釜さんも賛成したでしょ」

 

「そうだけどさぁ、こんなに暇になるとは思わなかったんだもん」

 

「じゃあ、これでも弄っててください」

 

アルフはそう言いながら、アイテムボックスから一辺六センチの立方体を取り出し、ぶくぶく茶釜に放り投げ、彼女がそれをキャッチした。

 

それはアルフがユグドラシル内で、時間経過で進むクエストでの暇潰しにと買った物だ。

 

「それってルビクキュー?」

 

それを見たクレマンティーヌが反応する。

 

「これのこと知ってるの?」

 

「知ってるのって言うか、法国で売ってるよ。なんでも六大神が広めたとか、そんな話がある」

 

名前が変わっているが、同じものがあるらしい。

 

 

「そういえば気になってたんだけどさ、あーちゃんが首から下げてるのって冒険者のプレート?」

 

「そうだよ」

 

そう言いながら、アルフは金色のプレートを持ち上げる。

 

「なんで冒険者になったの? 店の稼ぎって相当なものでしょ、それにいきなり金プレートなのはどうして?」

 

「まぁ、理由は茶釜さんをつれ歩くためかな」

 

アルフはその経緯をクレマンティーヌに話した。

 

アルフは、店の中だけではぶくぶく茶釜が退屈するだろうといつも思っていた。だが彼女の見た目は完全にモンスター、つれ歩くには問題がある。

そこで、冒険者になりぶくぶく茶釜を使役する魔獣として登録すればアインズが連れているハムスケのように町に連れ出しても怪しまれないと考えた。

 

だが、冒険者登録の時に問題が起きた。

本来アルフのみで登録に行く予定だったが、アインズが暇になり、登録に付いていく事になった。

 

そこでアダマンタイト級冒険者となったアインズが太鼓判を押す人物であるならと所属する冒険者と手合わせをし、アルフの力を見た冒険者組合長はオリハルコンかアダマンタイトのプレートを渡そうかと言ってきた。

アルフは無用な妬みは買いたくないと、魔獣の登録が出来れば銅でもいと言ったのだが、組合長は下がらず、ならば金プレートでと懇願されたため、仕方なく金のプレートをつけている。

 

魔獣登録の時、一緒にゲオルギウスも登録したのだが。

 

ゲオルギウスが冒険者組合の待合室に飾ってあったアダマンタイトの塊を噛み砕いたり、溶かして遊んでいるのを見て、冒険者達が騒然となったり、職員が気絶したりといろいろあったが、なんとか登録して今に至る。

 

「そんなことがあったんだ」

 

「うん、この子が難度200オーバーとか言われたときは、登録出来るか心配だったけど。無事登録出来て良かったよ」

 

「そして、私は晴れて正式なアルフさんのペットになりました~。それで私は反旗を翻しアルフさんにエロ同人のような酷いことを!」

 

「しないでください‼」

 

ぶくぶく茶釜の発言にアルフは御者台から身を乗り出し、反論する。

 

「もう飛ばしますよ」

 

アルフはそう言うと、馬車に籠められた飛行(フライ)を発動させ、馬型ゴーレムに指示をだし速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、アルフ達の乗る馬車は王都リ・エスティーゼの見える位置まで来ていた。

 

「あーちゃん、なんでこんな格好しなきゃいけないの?」

 

その問いに、アルフは振り返ってクレマンティーヌを見る。

 

彼女はいつもの鱗鎧(スケイルメイル)ではなく、そこらにいるような町娘の格好をしており、自分の格好を確認している。

 

「あのプレートびっしりの鎧だと見つかったとき面倒でしょ、検問で『これは何なんだ!』『お前、冒険者殺しをしたのか!』って詰め寄られたい?」

 

アルフの言葉を聞き、クレマンティーヌはふるふると首を振る。

 

「鎧はマリアが貴女の戦闘スタイルを生かせるのを造ってるから、それが出来るまではその服で我慢して。一応デザインは前に着てたのとあまり変わらないようにって言ってあるから」

 

そう言いながら、アルフは手綱を握り直し、スピードを上げた。



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王都編
第44話


アルフ達は王都へ入り、セバスと合流する予定であったが、検問で引っ掛り、詰め所に連れてこられてから30分が経過していた・・・・・・。

 

 

 

詰所内、アルフは円椅子に座り、膝にはゲオルギウス、横にはぶくぶく茶釜がおり、目の前には兵士が一人いる。クレマンティーヌは、「取り調べ終わったら起こして」と言い馬車で寝ている。

 

 

「で、王都にモンスターを連れ込んで何するつもりだったのかな?」

 

詰所にいる警備兵は計六人、その内一人は目の前、もう一人は馬車のチェック、他の警備兵は検問を続けている。

 

「さっきも言いましたが私は冒険者で、龍とスライムは使役魔獣です」

 

「一応調べたんだけどね、王都の冒険者組合からの返答は、貴女のような冒険者は所属していないと。

それにエ・ランテルから王都までは馬にマジックアイテムを装備させ、不眠不休で走らせても7日以上かかる。

貴女の馬はゴーレムで、速力を考えれば3日で着くのはわかりますが、馬車を牽いているとなると話は別です、そんな速度で走ればすぐに壊れます」

 

ここでアルフは自分の失敗に気付いた。この世界では〈伝言(メッセージ)〉の魔法の信頼度は低く、情報のやり取りはいまだ紙で、馬で輸送している。

 

「だから、馬車には飛行の魔法が籠められていて、浮遊させて負担を無くしたんです」

 

「一応調べてはいますが、飛行の籠められた馬車と言うのは聞いたことがないものでね」

 

そう話していると、馬車を調べていた老いた警備兵が戻ってきた。

 

「うむ、確かにこの子の言う通り、馬車に飛行の魔法が籠められておるよ、あと積み荷の方は問題ない」

 

「なら」

 

「いや、まだモンスターの件がかたついていない」

 

まだ通してはもらえないようだ。アルフが冒険者として登録したと言う情報が届くのは早くても四日後だろう。使いたくはなかったが、奥の手を使うことにした。

 

「王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフさんを呼んで下さい。私は彼と面識があります」

 

アルフのその言葉を聞きいて兵士の顔色が変り、一人が慌てて詰所から出ていった。

 

 

 

 

しばらくすると、先程出ていった兵士が、ガゼフ・ストロノーフを連れて戻ってきたが、ガゼフは鎧を着ておらず私服姿、おそらく非番だったのだろう。

 

「わざわざ御足労いただいて申し訳ありません。先程モンスターを王都に持ち込もうとしたものを取り調べていたのですが、ストロノーフ様とお知り合いだと言いっておりまして」

 

ガゼフは説明している兵からアルフに視線を移すと、ゆっくりと歩いてきた。

 

「おお、貴女でしたか。ゴウン殿は元気にしておられますか?」

 

「アインズさんは元気にしてますよ。ストロノーフさんこそ元気そうで何よりです」

 

「うむ。皆よ、この者と二人きりにはしてくれないか?少し訳を聞きたい、聞かれたくない話もあるかもしれないのでな」

 

ガゼフの言葉を聞き、兵士達が詰所から出ていき、戸を閉めた。

 

「で、ラグナライト殿。何故このような状況に?」

 

「実は・・・・・・」

 

 

アルフはこれまでの事を話し、それを聞いたガゼフが謝ってきた。

 

「すまない。あの者達は職務に忠実なだけで、いいやつらなんだ」

 

「それはわかってます、私も非番なのに呼び出してすみません」

 

「いや、それは構わないとも。それより、そちらのスライム、何やら意志のようなものを感じるが、意思疎通はできるのか?」

 

ガゼフの視線がぶくぶく茶釜に向き、彼女は片手を上げ返答する。

 

「できますよ、ストロノーフさん。初めまして、私はぶくぶく茶釜と言います、ペロロンチーノとアルフさんの姉みたいなものです」

 

「これは驚いた、人語を理解するだけではなく話せるとは」

 

ぶくぶく茶釜はその反応を見て、腰に手を当て胸を張った。

 

「ところで気にはなっていたのだが。ラグナライト殿、耳と尻尾はどうなされた?」

 

アルフは変化を解き、耳と尻尾を出しだ。

 

「ちゃんとありますよ。人のいるところでは変化して隠しています。ですが完全に日が落ちると変化を維持できなくなるので、出来れば日が暮れるまでには知り合いの所に行きたいのですが・・・・・・」

 

アルフはガゼフを見るが、彼は顎に手を当てアルフを、より正確に言えばその耳と揺れている尻尾を見ている。

 

「ストロノーフさん、アルフさんの魅力的な身体に興味がおありで?」

 

ぶくぶく茶釜がいたずらっ子のような感じを出しながら言い。ガゼフは慌てたように手を振りながら言葉を発する。

 

「い、いや 決して邪なことは! ただ、その毛並みが素晴らしいと思ってな。もしよろしければさわっても良いだろうか?」

 

「良いですよ」

 

アルフはそう言うと、体の側面をガゼフに向け、尻尾を持ち上げた。ガゼフは方膝をつき、持ち上げられた尻尾に優しく触れ、なで始める。

 

「おお、これは。今まで撫でてきたどの動物より良いな。この手触り、癖になりそうだ」

 

尻尾の毛に指を通し、すくようにゆっくりと撫でる。

ふとぶくぶく茶釜を見ると、録画用のスクロールを広げていた。

 

「茶釜さん、何してるんですか?」

 

「ん?戦士長が、一部とはいえ女の子の身体をなで回しているのを録ってる」

 

その言葉を聞き、ガゼフは跳ねるようにアルフから手を離し、飛び退いた。

 

「い、いや、その決して邪なことは考えていない!」

 

「わかってますよ。茶釜さん、あまりストロノーフさんをからかわないで下さい」

 

「いやぁ、真面目な人をからかうのは楽しくてつい」

 

ぶくぶく茶釜はそう言うと、スクロールを閉じアイテムボックスにしまった。

 

「・・・・・・ゴホン、あー。ラグナライト殿、ここを通れるよう警備の者達に話をしよう」

 

「ありがとうございます」

 

そうしてアルフ達はなんとか検問を通過し、王都に入ることができた。

 

 

 

 

 

 

「戦士長、あの者達を通しても良かったので?」

 

「構わないさ、もし何かあれば私が責任をとる。おそらく後日冒険者組合からの書簡が届くだろう、心配することはない」

 

「わかりました。ですが、その時は謝罪をした方がよろしいでしょうか?」

 

「貴方は職務を忠実にこなしただけだ、ラグナライト殿もそれは理解している。もし謝る事を望むならその時は私が間に入ろう」

 

そう言いながら、ガゼフはアルフの乗る馬車を見送った。




ガゼフさん、久々の登場。


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第45話

王都リ・エスティーゼ

 

アルフは馬車をゆっくり走らせながら、待ち合わせをしている人物を探していた。

 

「地図だとだいたいこの辺りのはずなんだけど・・・・・・」

 

馬車を広場の端に停めて辺りを見回し、探していた人物、セバス・チャンを見つけた。

セバスもこちらを確認し、一礼して歩き始めた。

 

 

颯爽と歩くセバスの姿に、道行く女性達の大半が振り返り、熱い視線を送る。

そしてセバスの行く先を目にした男性達は、アルフを見て惚け、息を飲む。

リ・エスティーゼ王国の第三王女、黄金とも呼ばれる彼女と同等、もしくはそれ以上の人物がそこにいればそうなるだろう。

 

セバスは最近噂になっている、絶世の美女に仕える有能な執事であると。そして主人は金の髪をしており、性格は悪いらしい。だが、セバスの向かっている方向には、艶の有る美しい黒髪をした美少女がいる。少なくとも主人ではないはずだ。

 

通行人達がそんなことを考えている間に、二人は馬車に乗って行ってしまった。

 

 

 

 

馬車の御者台にはアルフとセバスが座り、手綱はセバスが持っている。馬車がゆっくり進むなか、二人に羨望と嫉妬の混じった視線がいくつも向けられる。

 

「セバス、久しぶり。調査の方はどんな感じ?」

 

「お久しゅうございます。調査の方は魔法と強者、どちらも順調でございます」

 

「後で報告書全部見せてもらっても良いかな? あと活動資金の補充もしておくよ」

 

「ありがとうございます、報告書の方はまだ最新のモノの部類分けが済んでいないのもございますので、少々お時間が必要になります。

話は変わりますが、荷台にぶくぶく茶釜様といる女性は誰なのでしょうか?」

 

「ん、拠点に着いたら教えるよ。敵じゃないから安心して」

 

そうして馬車は、セバスが拠点に使っている屋敷に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

王都リ・エスティーゼ 某所 会議室

 

そこには、貴族派閥と呼ばれる貴族達が集まっていた。

 

「全く、王は何を考えているのだ。たった一人の為に昼餐会を開くなど」

 

「そうですな。いくら民を救ってくれたとはいえ旅の者、どこの馬の骨とも知れぬ者を王城に招くなど正気とは思えん」

 

その言葉に、貴族達が同意を示す。

 

何故こうして集まって愚痴っているかと言うと。先程王城で行われた報告が原因だ。

それは、民と戦士長達を救ったアインズと共にいたアルフィリアと言うと女性が昼頃、この王都に入った。と言うものだ。

それを聞いた王、ランポッサ三世は民と戦士長達を救った礼として昼餐会を開くなどと言ったのだ。

 

そして派閥内の貴族の館に有る会議室を借り、話し合っている。

 

「聞いた噂によるとかなりの美女と言う話だ」

 

「だが、しょせんいなかの村娘であろう。昼餐会で粗相をするのではないかね?それに、ちゃんとした服を用意できるのか?見窄らしい農民の姿で来られてもなぁ」

 

「もし、噂通りなら妾にしてやっても良いかもな」

 

その言葉を聞き、複数の下卑た笑いが会議室に響いた。

 

 

 

 

 

 

アルフはセバスが拠点に使っている屋敷におり、今は報告書に目を通し始めて三時間ほどたっている。

 

「アルフィリア様、お茶が入りました。少し休まれてはいかがでしょうか?」

 

セバスが心配そうに言い、アルフの前にあるテーブルにお茶の入った湯呑みを置く。

 

「ありがとう、少し休むよ」

 

アルフは手に持った報告書の束をテーブルに置き、湯呑みを手に取り、お茶を啜る。

 

拠点に着いてから、クレマンティーヌを二人に紹介し、クレマンティーヌとソリュシャンは部屋の隅で拷問談義に花を咲かせている。

話の内容はアレだが、仲が良いのは良いことだ。

 

お茶を啜りながらソリュシャンに視線を向ける。

ソリュシャンはぶくぶく茶釜を抱き抱えており、ぶくぶく茶釜はその豊満な胸を頭に乗せ、満足そうにしている。正直言って羨ましい。

 

次にセバスへと視線を移す、彼の肩にはゲオルギウスがとまっており、寝ている。

この屋敷に入ってからずっとこの状態だ。

 

「ゲオルギウス重くない?」

 

「そんことはございませんよ」

 

セバスがそう言いながら、ゲオルギウスの頭を撫でる。

どうやらゲオルギウスはセバスが気に入ったようだ、同じ龍として何か通じるモノでもあるのだろうか?

 

「それなら良いけど。そう言えばさっきお願いした件はどうなってる?」

 

「はい。物件の方は準備の方はすんでおります、立地的に冒険者が多く通る場所を選んでおります」

 

「ありがとう、こんなことまで頼んでごめんね」

 

「いいえ。至高の御方の役に立つ事こそ我々の喜びですので、お気遣いなく」

 

セバスはそう言いながら、1枚の紙をテーブルの上に置く。紙には建物の位置と間取りが書かれている。

セバスに頼んでいたことは、王都で店を開くのにちょうど良い物件探しだ。

 

アルフは紙に目を通し、確認を終えた紙をセバスに渡し、アイテムボックスから無限の背負い袋を一つ取り出した。

 

「このまま契約進めていいよ。あと、これは活動資金、白金貨80枚入ってるから家の購入費はそこから出して」

 

「畏まりました、では失礼いたします」

 

セバスは袋を受取り、家を購入するため屋敷を出ていった。

 

アルフは先程見ていた報告書を一枚取り続きを読む。それは、アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇に関するモノだ。

エ・ランテルではろくな情報がなかったが、この報告書には事細かに記されている。

 

そしてアルフが気になったのは魔剣・キリネイラムと所属している忍者についてだ。

 

魔剣・キリネイラム。かつて十三英雄の一人が所持していたとされる武器。そして、忍者はLV60にならないとつけない職業だ。

この世界では30ほどが人間の天井だと思っていたが、違ったのだろうかと考え、もしかしたら前提条件を無視して職業を自由にとれるのだろうか?とも考える。

 

「うだうだ考えてても仕方ないか」

 

報告書と湯呑みを置いて伸びをし、固まっていた関節がパキパキと音を立てる。



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第46話

王都に来て二日目の早朝、アルフは店となる建物の中で木箱とアイテムボックスからアイテムを出し、店頭へと列べていく。

 

セバスが選んだ物件は、エ・ランテルで使っていた家とほぼ一緒で、間取りを覚える手間が省けて良かったとの思いが半分。もう半分は、建物の構造が似すぎていて王都に来た、と言う新鮮味がなく、味気ないと言う気持ちが半分だ。

 

「茶釜姉、そっちはどうですか?」

 

アルフは品物の陳列と、ドアベル、看板の設置を終え、居住区への扉を開けてそう言う。

 

「こっちはあと寝室に物入れるだけだから、もう少しで終わる。そっちは?」

 

ぶくぶく茶釜は寝室から顔を出してそう答えた。

 

「店の方は終わったよ。この後冒険者組合に宣伝を頼みに行くけど、茶釜姉はどうする?」

 

「寝室は後にして付いてくよ」

 

「じゃあ行きますか。ゲオルギウスおいで」

 

アルフはゲオルギウスを肩に乗せ、ぶくぶく茶釜を連れて冒険者組合へと行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

王都リ・エスティーゼ 冒険者組合 10:00

 

アルフ達は建物に入り、中を見回す。

一度しか入ったことはないが、エ・ランテルの冒険者組合より広く、内装が豪華な気がする。

 

中を見回していると、複数の視線が向けられていることに気づく、おそらくゲオルギウスとぶくぶく茶釜が気になるのだろうか、と考え気にしないことにした。

 

「茶釜さん、喋っちゃダメですよ。皆驚きますから」

 

アルフはぶくぶく茶釜にしか聴こえない程の小声でそう言い、ぶくぶく茶釜は了解の意として頷く。

 

それを確認し窓口へと行ったのだが、こちらが口を開く前に、受付嬢が先に言葉を発した。

 

「アルフィリア・ルナ・ラグナライト様ですね?」

 

「はい、そうですけど。私の情報、エ・ランテルから届いたんですか?」

 

「いいえ。情報は来ていませんが、名指しでの依頼がありましたので。依頼人から大まかな容姿は聞いております」

 

「で、依頼人と依頼内容は?」

 

「こちらになります」

 

そう言うと、受付嬢は一枚の紙をカウンターの上に出した。

 

「依頼人は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ様です」

 

アルフは眼鏡をかけ直し、依頼書に目を通す。

依頼内容は戦士達の訓練を手伝ってほしい、と言うもので、指定された時刻は依頼書確認した日の昼、確認したのが夜であれば翌日の昼、とある。

 

「あの、この依頼書が発行されたのは何時でしょうか?」

 

「発行されたのは、今朝の8時頃ですね」

 

それを聞き、アルフは安堵する。

一方的に依頼してきたとはいえ、あんな真面目な人を待たせるのは気が引けるからだ。

 

「わかりました。その依頼、受けます」

 

「畏まりました。では、こちらをお持ちください」

 

受付嬢はそう言いながら、一つのスクロールを取り出した。

アルフはそれを受取り観察する。手触りが良く、良質な羊皮紙が使われていることがわかる。

そのスクロールは赤い帯で括られ、結び目に封蝋が押してある。

 

「それは王城への入城許可書ですので、なくさないよう御注意下さい。報酬はストロノーフ様から直接お受け取りください」

 

「わかりました」

 

そう言い、アルフ達は冒険者組合を後にした。

 

 

アルフ達が冒険者組合から出ていった直後、建物内が騒がしくなる。話題は勿論アルフの事である。

 

「あの美しい少女は何者だ?戦士長自ら依頼を出すとは」

 

「情報が少ないな、モンスターを使役している冒険者となればけっこう目立つんだが・・・・・・」

 

「俺知ってるぜ。少し前までエ・ランテルに遠征に行ってたんだが、そこで武器の強化屋の店主をしていた」

 

「その話の本当か?」

 

「ああ、俺が乗ってる馬は脚が速くてな。不眠と不労のアイテム装備させてエ・ランテルから王都なら六日で着く。ちなみに、そのときは恋人とかそういった人物の影はなかった、その時は冒険者じゃなかったはずだが」

 

そして、この話は瞬く間に冒険者達に広がることになった。

 

 

 

 

 

王都リ・エスティーゼ ロ・レンテ城正門

 

アルフ達は城壁を見上げ、ため息をついた。

 

「うわぁ、すごく立派だね。なんか場違いな気がするけど、入って良いのかな・・・・・・」

 

「良いんじゃないの? ちゃんと入城許可書持ってるんだし、ストロノーフさんの依頼だし行かないとダメでしょ」

 

その言葉を聞き、アルフは意を決して入口へと向かったのだが。入城許可書を見せたら呆気なく通され、拍子抜けしてしまった。

 

 

 

そして、城門の警備をしていた兵士の一人にガゼフのいるところに案内され、野外演習場という趣の場所に通された。

 

その場所は広く、演習場を見渡すための櫓が有ったり、障害物や土を盛って作った山、塹壕等があり、そこで見覚えのある物達が訓練をしている。

ある者は木剣を打ち合い、またある者は障害物に身を隠しながら敵陣に接近する。

 

訓練の内容は見た感じでは、2チームに分れ、相手の陣にいる将を討ち取れば勝ち。と言うシンプルな物のようだ。

 

アルフ達が訓練を見ていると、演習場を見渡せる櫓の上から声が響く。

 

「そこ!Cー2の防御が甘い!Dー4!それで隠れているつもりか!もっと体勢を低くしろ‼」

 

その声に、訓練をしている戦士達が返事をする。

どうやら演習場を区分けして指示を出しているようだ。

 

声のする方を見ると、ガゼフが身をのりだし、指示を飛ばしていたがアルフ達に気付き、櫓を降りてきた。

 

「ラグナライト殿、呼び出してすまないな」

 

「いえ、一応は依頼ですので。それより指示は出さなくて良いのですか?」

 

「ああ、もうすぐ終わるのでな」

 

そういった直後、戦士達の声が響き、それを確認したガゼフが言葉を発する。

 

「各員集合‼」

 

その声を聞き、即座に戦士達がガゼフの前に集合する。

 

「今日はラグナライト殿に依頼し、我々の訓練を手伝ってもらうことにした。理由は、我々仲間内の訓練だけでは限界がある。こそで外部の強者を呼び、その者と戦うことで様々な経験を得ることにあるのだが、今は訓練直後なのでこれより一時間の休憩とする。ラグナライト殿と交流するのも良いだろう、私はクライムを呼んでくる」

 

そう言うと、ガゼフは城の方へと行ってしまった。




クレマンティーヌが出てこないのはセバスの所で預かってもらっているためです。


誤字の指摘ありがとうございます。


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第47話

アルフと戦士達は休憩の間、演習場の端で雑談している。

 

「ラグナライトさんはどういった理由で王都に?」

 

「エ・ランテルが物騒になってきたので一時的にですが、王都で稼ごうかと思いまして」

 

「ちなみにどういった職についているのですか?」

 

「マジックアイテムの販売や武器への能力付与を行ってます」

 

雑談は主に、戦士達が質問し、それにアルフが答えると言う形で行われている。

 

「ほぉ。マジックアイテムはどんな能力を持ったものがあるんだ?」

 

「不眠や不労、体力の持続回復とかですかね」

 

それを聞いた戦士達が固まった。

それを見たアルフは不思議そうに首を傾げた。

 

「ち、ちなみにいくらで売っている?」

 

「だいたい金貨70から100ですね」

 

再び戦士達が固まる。アルフが心配そうに見ていると、その中の一人が苦笑いをしながらリ・エスティーゼ王国の五宝物の事を教えてくれた。

 

そこで自らのミスに気付いた。六大神、八欲王、十三英雄と、ユグドラシルプレイヤーと思われる者が下位のアイテムを流しており、アイテムのレベルは高めだと思っていたが、まさかこれほどマジックアイテムの性能が低いとは思わなかった。

 

 

「・・・・・・あー、ラグナライトさん、正直に答えてください。貴女にとってこの国の宝物の効果どう思われます?」

 

「・・・・・・正直言って、初級から中級の者が使うものだと思ってました」

 

実際、ユグドラシルで不労は装備の一部に組み込むか、スキルでどうにかしており、HPの持続回復はダメージ量の多い上級になると効果が薄くなり、アダマンタイトは極端な話、バターみたいな物で神級の武器が相手になるとその防御力と耐久値は有って無いような物だった。

 

「売ったらダメでしたか?」

 

「ダメってわけではないですが、敵国の将に渡ると厄介ですね。一応冒険者だけに売っているんですよね」

 

「はい、いまのところ不眠と不労の装備は三人しか売れてませんが、相手は冒険者でした。次売るときは刻印打って本人以外には使用不可にしておきます」

 

「それは助かります」

 

そう話しているうちに、ガゼフが見知らぬ少年と青年のちょうど境目ぐらいの年齢の男を連れて戻ってきた。

 

 

 

「ラグナライト殿、紹介する。この者はクライム、王女付きの兵士だ。強者との戦闘経験を積ませてやろうと思ってな」

 

「初めまして、クライムと申します」

 

外見年齢のわりにしわがれた声をしていた。

 

「初めまして、私はアルフィリア・ルナ・ラグナライト、魔法詠唱者(マジック・キャスター)です。今日はよろしくお願いします」

 

そう言いながら微笑んだ。

 

 

 

 

クライムの紹介の後、しばらく雑談してこの世界でのマジックアイテムの能力の平均を学んだり、この世界の英雄譚等を聞き、休憩時間が終了した。

 

 

 

「では、これよりラグナライト殿との手合わせをおこなう。志願するものは前に出ろ」

 

ガゼフの言葉を聞き、半数程の者が前に出た。勿論クライムもそのなかに入っている。

 

「ラグナライト殿、得物はどうする?」

 

「得物はそこにある木剣を貸してもらえますか?」

 

「別に構わないが、杖でなくてよいのか?」

 

ガゼフがそう言いながら木剣を差し出し、アルフはそれを受け取った。

 

「大丈夫ですよ。私は近接戦闘ができる魔法詠唱者ですので」

 

アルフは木剣を握り、具合を確かめながら軽く振る。

 

「先ずは俺が相手をしよう」

 

その声と共に、志願した兵士の一人が前に出た。

 

 

そして、アルフは戦士達と一人づつ手合わせをした。

もちろん、一方的に倒すのではなく。数十回打ち合い、相手が疲れはじめてから一撃を入れて倒す、と言う方法をとり、相手に経験を積ませるように相手をした。

 

その結果、戦士達はなにか身になることがあったらしく、満足そうな顔をしていた。

 

 

 

「それにしてもラグナライトさんはすごいな、こちらの攻撃を全て受けきってからの一撃」

 

「ああ。あれで魔法詠唱者って言うんだから、世の中は広いな」

 

志願した戦士達との手合わせを終え、彼らはそれぞれの感想をのべていた。

 

「次はクライムだ。ラグナライト殿、休憩はしなくても大丈夫だろうか?」

 

「大丈夫ですよ、このまま続けましょう」

 

「うむ。ではクライム、相手をしてもらえ」

 

「はい!」

 

ガゼフの言葉を受け、クライムがアルフの前に立ち、木剣を下に構え、盾で隠すように半身で構えた。

 

「ラグナライト様、よろしくお願いします!」

 

クライムから、この手合わせで得られるものは全て吸収しようという気迫を感じるのだが、なんか堅すぎる印象も受ける。

 

「私は堅苦しいのは苦手なので様付けはやめてほしいな」

 

「いえ、ストロノーフ様の御客人なので」

 

その言葉で堅さの理由を、彼は真面目過ぎるのだろう、と理解し、呼び方を変えさせるのを諦め木剣を構える。

 

 

「準備は良いな。では、始め‼」

 

 

ガゼフの掛け声と共に、クライムが駆け、距離を詰めて突きを放つ。

アルフはその突きを木剣の柄で弾き、次の下段からの一撃を受け止める。

 

クライムは木剣を引き、そこから連撃を放つ。

上段、突き、左薙ぎ、袈裟斬り。アルフはその全てを弾き、盾に向かって一撃を入れる。

 

クライムは流し切れず仰け反り、体勢を崩してしまうが、アルフは攻撃を仕掛けなかった。

 

「ラグナライト様、何故攻撃を仕掛けなかったのですか」

 

クライムの責めるような声が響く。

 

「私はここに訓練の手伝いで呼ばれてるから、相手が学べるように加減しないといけないと思ったんだけど、ダメだったかな」

 

「隙があったなら攻撃していただいて構いません、一撃で倒されても学べることはございます」

 

アルフの答えに、クライムは満足しなかったようだ。

 

「なら、ここから少し本気を出すから。気を付けてね」

 

 

クライムは肌で空気が変わるのを感じた。ピリピリとした空気が辺りを支配する。

 

クライムが木剣と盾を構え直した瞬間、アルフのが目の前に迫っていた、それは転移の魔法でも使ったかのような速度で。

クライムは慌てて盾で防御するも、アルフの初撃で盾が砕け、二撃目で木剣が折られ、衝撃で仰向けに倒れたクライムの首に木剣が突き付けられた。

 

 

 

「クライムさん、大丈夫ですか?」

 

アルフはそう言いながら木剣を引き、手を差し伸べる。

 

「はい。大丈夫です」

 

クライムはその手を取り、引き上げられるように立ち上がった。

 

「ストロノーフさん、訓練用の武具壊してしまってすみません」

 

「いや、それは構わないが。それより先程の攻めは見事だった」

 

「ありがとうございます」

 

「それでラグナライト殿。私ともお手合わせ願えないだろうか?」

 

「良いですよ」

 

アルフはガゼフの申し出を受け、手合わせをすることになった。



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第48話

アルフはガゼフと対峙する。

 

ガゼフは木剣を構え、アルフは得物を木剣から身の丈程の長さがある棒へと変え、穂先を下に向けるように構える。

 

「それがラグナライト殿本来の得物か?」

 

「形は違いますが、だいたいこんな感じです」

 

ガゼフの問にアルフが答え、戦士達は驚いたような表情でアルフを見る。先程クライムとの手合わせで見せた攻撃は見事だったが、あれでも手加減をしていたという事実に息を飲む。

 

 

「そうか。では、こちらからいかせてもらう!」

 

そう言うと、ガゼフが 距離を詰め、左下段から斬りかかってきた。

 

アルフはそれを受け流し、続く袈裟斬りを弾き、突きをかわし、上段から一撃を放つが、ガゼフはそれを受け流し、カウンターで袈裟斬りを仕掛ける。

 

アルフはそれをバックステップで回避し、退避と同時に突きを放つが弾かれてしまった。

 

やはりガゼフは他の戦士とは違うようだ、連撃の流れや攻撃の威力が違う。先程まで相手をしていた戦士達であれば今の攻防で倒せたはずだ。

 

 

「なかなかやるな。ラグナライト殿、本気でやっても構わないんだぞ」

 

「そちらこそ、武技を使って私を殺すつもりで来ても構いませんよ。その前にこれを装備してください」

 

そう言い、アルフはポケットから取り出した指輪をガゼフに投げる。彼はそれを受けとり日に照らして観察する。

 

「それは疲労しなくなる効果を持った指輪です」

 

「休憩の時に聞いてはいたが、まさか本当に有るとは。ありがたく使わせてもらおう」

 

そう言いながら、ガゼフは指輪を装備して木剣を構え直し、武技を発動させる。

 

〈戦気梱封〉〈流水加速〉

 

ガゼフは一気に距離を詰め、切り上げる。

アルフはバックステップをしながらそれを流し、カウンターで突きを放とうとするが、ガゼフがもう一度行動する。

 

〈即応反射〉で攻撃後の隙をキャンセルし〈六光連斬〉を叩き込む。

 

アルフは六光連斬を弾きながら飛び退くが、棒の先が切り飛ばされてしまった。

 

「さすが王国最強と言われる戦士長ですね」

 

「そちらこそ、正面からまともに耐えられるとはさすがと言うべきか」

 

木剣を構え直し、アルフを見据える。

 

「だが、そろそろ本気を出してもらいたいのだが? クライムとの手合わせの時の力を俺に見せてくれ!」

 

ガゼフは一気に詰め寄り、四光連斬を放つ。それを弾き上げるが、すぐさま蹴りが飛んでくる。

 

アルフはそれを片手で受け止め、足首を持ってガゼフを放り投げた。

 

「なっ!?」

 

ガゼフも女性に片手で放り投げられるとは思っていなかったのか、目を見開き驚愕している。

 

ガゼフは受け身を取り、着地後すぐに体勢を立て直すが。木剣を構えた時にはすでに武器を構えたアルフが目の前に迫っていた。

 

木剣で防御しようと構えながら飛び退く。

 

アルフはさらに踏み込み、木剣に向かって突きを放つ。

突きは木剣を貫通し、そのまま穂先をガゼフに突き付けた。

 

「・・・・・・俺の負けか」

 

「そうでもないですよ」

 

アルフがそう言った直後、棒が砕け散り、穴の開いた木剣が残った。

 

「私の負けです」

 

「ラグナライト殿、まさかわざと?」

 

「さて、何のことですか?」

 

 

 

そんなやり取りをしていると、戦士達が二人を取り囲んでいた。

 

「まさか戦士長と渡り合うとは」

 

「最後の方、戦士長を片手でぶん投げたときはたまげたな」

 

戦士達はそれぞれの感想を言いながら、代わる代わるアルフの頭をわしわしと撫でていく。アルフは頭をグリグリと回され、目が回っていく。

 

 

「お、お前達、そろそろラグナライト殿を離してやれ。目を回しているぞ」

 

ガゼフの言葉を聞き、戦士達が手を離して一歩引いた。アルフは支えを失いへたりこみ、ぶくぶく茶釜とゲオルギウスが心配そうに寄ってきた。

 

『アルフさん、大丈夫?』

 

ぶくぶく茶釜からのメッセージに大丈夫と返事をし、その頭を撫で、ゲオルギウスを引き寄せて抱き上げる。

 

「部下達がすまない、立てるか?」

 

差し出された手を掴んで立ち上がった。

 

「はい。まだふらふらしますが大丈夫です」

 

「すまない、興奮してつい」

 

その戦士を皮切りに、アルフを撫で回していた戦士達が謝ってきた。

 

 

その後、ゲオルギウスにいたずらした戦士がかじられたり。馬くらいの大きさにしたゲオルギウスに戦士達が驚いたり、追い回されたりしながら時間が過ぎていく。

 

 

 

「ラグナライト殿、伝え忘れていたが。王が民と我等を救った礼として昼餐会を開きたいと仰っていてな、是非とも参加してほしいのだ」

 

「昼餐会ですか、やはりドレスを着て馬車に乗って行かないとダメなのでしょうか?」

 

「馬車を使うのは服を汚さないためというのもあるが、権力と財力の誇示と言う意味合いが大きい。ドレスを着るのは最低限のマナーと言うやつだ」

 

アルフはそれを聞き、顎に手を当て少し考える。

ドレスならナザリック自室のアイテムボックスにいくつか入っていたはずだ、良さそうな物が無ければ1から造れば良い。

後は馬だが、そう思いながら視線を上げるとゲオルギウスが目にはいる。ゲオルギウスの口の端から火が漏れ出ているのを見ると、戦士達(えもの)を追うのに夢中になって興奮しているようだ。

 

「ストロノーフさん、馬のかわりにあれに乗ってきても良いですか?」

 

ガゼフはアルフの視線を追う。

 

「龍か、馬のかわりになるのであれば大丈夫だろう。それより、あれを止めてくれないか?そろそろ部下が限界のようでな」

 

戦士達を見ると、息があがり、今にも倒れそうな者もいる。

 

「わかりました。ゲオルギウス、戻っておいで」

 

その声を聞き、戦士達を追うのをやめてかけてきた。アルフは戻ってきたゲオルギウスの頭と顎を撫でる。

 

戦士達を見ると、膝に手をつき息を整える者やその場で倒れている者もいた。



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第49話

ガゼフ達との手合わせを終えたアルフはその後、第3位階までの主要な魔法の特性や攻撃範囲を教えたり。自分のような近接戦闘ができる魔法詠唱者とは違う、純粋な魔法詠唱者のとる戦法の基礎等を教えていたのだが、気付いたときには日が沈み始めていた。

 

「すまない、つい熱が入ってしまった・・・・・・」

 

「いえ、こちらも復習できたので構いませんよ」

 

こんな時間になってしまったのはガゼフ達が原因だ、アルフが魔法の説明をし、ガゼフ達がその魔法の実演をしてくれないか、と言うので。アルフが覚えている第3位階までの魔法を片っ端からやるはめになってしまった。

 

「今日は本当に勉強になった。これは依頼の報酬だ、それとこれも返さなくてはな」

 

後ろにいた戦士が前に出て皮袋を差し出し、ガゼフは指輪を外した。

 

「ストロノーフさん、それは差し上げます」

 

アルフはそう言いながら袋を受け取り、一歩下がった。

 

「いや、しかしこんな高価なものを・・・・・・」

 

「休憩の時に戦士達から聞きましたよ。カルネ村で会ったときの装備は万全なものではなく、貴族からの横槍で五宝物を持っていけなかった、と。そこで、五宝物に匹敵する物を一つだけでも個人で所有していれば少しは安心でしょ?」

 

「それはそうだが」

 

「ではこう言うのはどうでしょうか。私はこの国民のために、貴族の妨害に負けないように、それを貴方に託します。

まぁ本音を言うと貴方の在り方は好感が持てます、たとえ殺されるとわかっていても民のためその身を挺する。そんな人が自分の利益しか考えない貴族の謀略で死ぬのは惜しい、と思いまして。こんな理由では不足ですか?」

 

「・・・・・・わかった、これはありがたく受け取っておこう」

 

ガゼフは指輪をポケットにしまったが、まだ納得しきってはいないようだ。

 

「では、私は依頼が終わったと組合への報告があるので。失礼します」

 

 

 

その後、アルフ達は冒険者組合で依頼達成の報告をし、帰路へとついたのだが。

 

「あ!」

 

「どうしたの?あーちゃん。発情期が来たの?」

 

「そんなモノは来ておりません。ただ、冒険者組合に店の宣伝頼むの忘れた・・・・・・」

 

「んー、もうそろそろ変化が解けるし、明日で良いんじゃない?」

 

ぶくぶく茶釜の言うとおり、あと少しで日が完全に沈み変化が解けてしまう。

 

「そうですね。一応明日は朝から店を開けて、昼休みに外食するついでに宣伝を頼みます」

 

 

 

そして、家に着き、リビングに行くとクレマンティーヌとペロロンチーノがいた。

 

「あーちゃん、茶釜ちゃんお帰り」

 

「ただいまぁ。で、あんたなんでここにいるの?」

 

ぶくぶく茶釜はクレマンティーヌに返事をし、弟に強く当たる。

 

「姉ちゃん酷い!久しぶりの弟だよ、もう少し優しくして」

 

「私に弟なんていない、可愛い妹ならいるけど」

 

そう言いながら、ぶくぶく茶釜はアルフに抱きついた。

 

「で、なんで私とアルフさんとクレマンティーヌの愛の巣にあんたがいるわけ?」

 

「さらっと凄いこと言うな。まぁ俺がここにいるのはクレマンティーヌの話し相手になるためだよ」

 

「だいたい三時頃だったかなぁ、あーちゃんと茶釜ちゃんがここにいないんだもん。ソリュシャンも昼頃から回らなくちゃいけないところがあるとかで出掛けちゃったし、それで暇そうなペロロンチーノ様を呼んだってわけ」

 

「暇そうって心外な。俺一応アインズさんと一緒に冒険者やってるんだけど」

 

そう言いながら、ペロロンチーノは首から下げているプレートを持ち上げる。プレートは白金(プラチナ)で、アルフの一つ上だ。

 

「あんたが冒険者ねぇ・・・・・・冒険者になった本当の理由は?」

 

「もちろん、冒険者組合で扱っている部外秘のモンスター情報でエロ系モンスターがいるかどうかを確かめること!」

 

ペロロンチーノが力説した直後、その脇腹にぶくぶく茶釜の拳が突き刺さった・・・・・・。

 

 

 

弟を沈めた後、ぶくぶく茶釜は寝る準備をするため寝室に行き、姉による一撃から復活したペロロンチーノはアインズのもとに戻った。

 

「そういえば、今日は何してたの?」

 

「ん、今日は王国戦士長から名指しの依頼が入って、王城で訓練の手伝いしたり、戦士長と手合わせしたりかな」

 

「なんで呼んでくれなかったの、私もガゼフ・ストロノーフと戦いたい!」

 

クレマンティーヌの質問に答えたのだが、彼女はテーブルに突っ伏し、駄々をこねるようなしぐさをしている。

 

「わかった、今度ストロノーフさんから依頼が入ったら呼んであげるから」

 

「本当に?」

 

「本当だから、機嫌なおして」

 

そう言いながらクレマンティーヌの頭を撫でた。

 

 

 

その後、ぶくぶく茶釜の呼ぶ声が聞こえ寝室に行ってみると、そこには三人で寝ても大丈夫なほど大きなベッドが鎮座していた。

 

エ・ランテルでは別々だったが、何故このベッドにしたか彼女に聞いてみると。

 

「私が二人と一緒に寝たいから。それにベッドは大きい方がいろいろ出来るから」

 

だそうだ・・・・・・。貞操の危機を感じるが、そこはぶくぶく茶釜を信じるしかないだろう。



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第50話

翌日

 

アルフは目を覚ますと、全裸に剥かれ、両手足を縛られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてことはなかったが、ぶくぶく茶釜は寝巻の下に潜り込み、アルフの胸に自分の体を挟んだり、揉んだりしている・・・・・・。

 

「茶釜さん、何してるんですか・・・・・・」

 

「姉と妹のスキンシップをしようかと」

 

「・・・・・・で、クレマンティーヌは何してるの?」

 

ぶくぶく茶釜は今日も通常運転だ。視線をクレマンティーヌに移すと、彼女は下着姿でアルフに身体を寄せ、上目づかいでこちらを見ている。

 

「男の人ってこうすると喜ぶんでしょ?」

 

「まぁ、正直嬉しいけど。誰にソレ聞いたの?」

 

何となく予想はできるが、一応聞いてみた。

 

「ペロロンチーノ様。他にもいろいろ聞いたけど、まずはこれかなと思って」

 

あのエロゲ脳はクレマンティーヌにナニ吹き込んでんだ・・・・・・。

 

「茶釜さん、クレマンティーヌ。とりあえず退いて、起きれない」

 

そう言いながら二人を引き剥がし、着替えと食事を済ませ、店を開けようとしたのだが、店の外には人だかりが出来ていた。

 

 

 

「なんかデジャヴるなぁ・・・・・・でも、宣伝してないのになんでこんなに?」

 

「考えても仕方ないよ、宣伝費が浮いたと思えば良いんじゃない?」

 

ぶくぶく茶釜の言葉を聞き、そう思うことにする。これから約三日間は客との戦争になるのは予想できる、改めて気を引き締め、店を開けた。

 

 

それから二日間、エ・ランテルより多くの客が来た、さすが王都と言うべきか・・・・・。

 

「いらっしゃいませ」

 

そして三日目の朝、ドアベルが鳴り一組の冒険者入ってきた。その人物を確認した冒険者達が静になり、道を開ける。入ってきた冒険者は四人組で、先頭を行く人物は白銀の鎧を身に纏い、刀身は見えないが長さが背丈ほどある大剣を帯刀している女性。

その右隣を歩くのは、スパイク付きの鎧を身に着け筋肉の塊という表現が合いそうな大男で巨大な戦鎚を携えている。

その後ろには、アサシン系の軽装をし、露出が多目の少女。

さらにその後ろ、大振りな宝石が付けられた仮面を被り、漆黒のローブに身を包んでおり、性別や容姿はわからない。

 

スキルで見たところ他の三人はレベル30前後、それはいいのだが仮面を付けた人物はレベルが50あり、種族・職業の部分が一部読めなくなっている、おそらく何かしらの阻害アイテムを装備しているのだろう。

 

その冒険者を観察しているうちに、いつの間にか店の中にいた客達がいなくなり、入り口から覗き込んでいる。

 

入ってきた四人組の冒険者は歩を進め、カウンターの前で立ち止まった。

 

「貴女が最近噂の美人店主、アルフィリア・ルナ・ラグナライトね?」

 

「美人と言うのはちょっとアレですが。それであなた達は?」

 

「私は冒険者チーム、蒼の薔薇のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラよ」

 

白銀の鎧の女性がそう名乗った。

 

「蒼の薔薇、ですか。確か女性のみで構成された五人組のチームという話ですが」

 

「一人は依頼がはいって今はいないわ」

 

「いえ、そうではなく。何故男性がいるのでしょうか?」

 

そう言いながらアルフの視線は大男に向く。

 

「俺は女だ‼」

 

その言葉に他の三人がクスクスと笑った。

 

「えーっと、それって大胸筋じゃないんですか?」

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

「やめなさい。この人はガガーラン、正真正銘女性よ、信じられないと思うけど」

 

「おなかいたい」

 

忍者の少女が笑いをこらえながら腹をおさえてる。

 

「そこで笑ってるのがティア。もう一人ティナがいるのだけど、先程も言ったとおり他の依頼でいないの。この子とは双子の姉妹だから片方の顔を覚えてもらえればいいわ」

 

「よろしく。私、一目見たとき惚れました、お嫁さんになって」

 

ティアはいつの間にかアルフの両手を握っていた。

なんかシャルティアと同じような眼差しでこちらを見ている。

 

「ごめんなさい、この子ちょっと変わってて・・・・・・」

 

ラキュースはそう言いながらティアを引き剥がした。

 

「で最後にこの子が」

 

「イビルアイだ」

 

仮面のしたから男とも女ともつかない声が聞こえる、仮面に変声の効果でも付いているのだろうか?

 

「で、ここからが本題なんだけど。貴女私達のチームに、」

「お断りします」

 

「・・・・・・ずいぶん反応が早いわね、まだ最後まで言ってないのだけど」

 

「たぶんチームの一員になれ、ですよね。私はそれなりに忙しいですし、冒険者としての等級は金です。アダマンタイト級である貴女達の足手まといにはなりたくないので」

 

「それは心配してないわ。冒険者組合でみた貴女の資料の備考欄に、実力はアダマンタイト級の可能性あり、とあったの」

 

「・・・・・・私の情報、王都に届いてたんですね」

 

エ・ランテルの組合長が余計なことを書いてくれたようだ。

 

「ええ、なんでもピンク色のスライムと難度200を超える龍を従える異国の美人店主とも書いてあったわ」

 

その言葉の後、蒼の薔薇の四人の視線がカウンターの上で丸まって寝ているゲオルギウスに向けられ、ガガーランがゲオルギウスをつつき始めた。

 

「このちっこいのが難度200ねぇ。ほれほれ、反撃してみろ」

 

ガガーランにつつき回され、ゲオルギウスが目を覚ますが、気持ちよく寝ていたところを起こされて機嫌が悪いのか、口の端しから黒煙の混じった火が漏れ出ている。

 

「ガガーラン、気を付けなさい」

 

「あ?」

 

「その子、アダマンタイトの塊を噛み砕いたそうよ」

 

その忠告は遅く、次の瞬間にはゴリッと嫌な音がし、音源を見るとガガーランの指がかじられていた。



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第51話

「この子がすみません。ゲオルギウス、あんなのかじったらお腹壊しちゃうよ?」

 

あれから、ガガーランの指をかじっていたゲオルギウスを引き剥がし、今はアルフが抱き抱えその頭を撫でている。

 

ゲオルギウスを見ると、自分の体に身を寄せ、再び寝ようとしている。

今はこうして普通を装っているが、ゲオルギウスがガガーランの指をかじったときは指を噛み千切るのではないかと内心ひやひやしていた。実際ゲオルギウスが 激怒していた場合ガガーランが消し炭になっていた可能性がある・・・・・・。

 

「こちらこそごめんなさい。ガガーラン、あまりよそ様の子にちょっかい出したゃダメよ?」

 

ガガーランを見ると、かじられた指を舐めており、その指にはクッキリと歯形が付いていた。

 

「ああ、すまねえ、俺が悪かったよ」

 

「本当にごめんなさいね。また日を改めさせてもらうわ」

 

そう言うと、蒼の薔薇は店を出ていった。

なんか精神的にどっと疲れた気がする・・・・・・。

 

少しすると、店の外に出ていた客達が戻ってきた。

 

「嬢ちゃんすごいな。あの蒼の薔薇にスカウトされるとは」

 

「ラグナライトさんは蒼の薔薇に入るのかい?」

 

「いいえ、私にはこの店がありますし。冒険者になったのもこの子を外に連れ出すためですので」

 

そう言いながら寝ているゲオルギウスを優しく撫で、カウンターの下にいるぶくぶく茶釜に視線を移す。

 

「そうか、残念な気はするが仕方ないか。まぁ、俺ら冒険者としてはありがたい」

 

その言葉を聞き、他の冒険者達が同意するように頷いている。

 

 

 

それから、午前、午後と客を捌き、閉店時間が近づき今店の中に客はいない。もうそろそろ店を閉めようかと思ったとき、ドアベルが鳴り、一人の客が入ってきた。

その客は長いローブを身に纏い、フード目深にかぶっており、外に誰かいないか仕切りに確認している。

 

ずいぶん怪しげな人物ではあるが、今朝嗅いだ匂いがする。

 

外に誰もいないことを確認した客は、フードを取りながら、カウンターへ歩いてくる。

 

フードが取られ、露になった顔は想像していた人物、蒼の薔薇リーダー、ラキュースだった。

 

「いらっしゃいませ。アインドラさん、日を改めて来るのではなかったんですか?」

 

「あれは蒼の薔薇としてよ、今は客としてここに来たの」

 

ラキュースはカウンターの前で立ち止まった。

 

「率直に言うわ、闇の力を宿した武具や、攻撃的な性格になる装備品はあるかしら?」

 

「・・・・・・なくはないですが」

 

「では、それを見せてもらえないかしら」

 

アルフはカウンターの下にある無限の背負い袋から、鞘に入った紫色の短剣と血のように赤い腕輪を取り出し、カウンターの上に出した。

 

「こちらの短剣が闇の力を付与した物です」

 

そう言いながら、短剣を鞘から引き抜く。その短剣の刀身は黒く、紫色の炎を纏い、様々な紋様が刻まれている。

 

「主な効果は聖属性のモンスターへの特攻、四分の一の確率で相手の防御力を15%ダウンさせます。

こちらの腕輪にはバーサークが込められており、五分の間攻撃力と素早さを30%上昇させる代わりに、防御力が15%ダウン、凶化して敵への物理攻撃しかできなくなります」

 

「いただくわ」

 

「350金貨になります」

 

「35白金貨でいいですね?」

 

ラキュースは懐から袋を取り出し、そこから35枚の白金貨を取り出し、カウンターに置いた。

 

「確かに」

 

アルフはそれを確認し、短剣を鞘に戻して腕輪とともにラキュースに渡すと、それを抱き抱えて店を出ていった。

 

 

「アルフさん、今のってまさか・・・・・・」

 

ぶくぶく茶釜はカウンターの上に上り、アルフと同じく店の出入口を見ている。

 

「あんまり信じたくはないですが、あの感じはねぇ・・・・」

 

闇の力を欲し、自身に二面性を持たせる。朝には気づかなかったが、彼女の指にはなんの効果も無さそうなアーマーリングが複数つけられていた。

 

「次来たらこれでもすすめてみようかと思います」

 

アルフはそう言いながらアイテムボックスから黒いアーマーリングを取り出した。

 

「それって悪ふざけで魔改造したやつですよね」

 

「はい。アインズ・ウール・ゴウンに所属する中二病患者達が産み出した黒歴史アイテムの一つ。これに食いついたら中二病の疑いが濃くなりますね」

 

最初このアーマーリングは普通だった。銀色をしていて飾り気はなく、効果は相手の弱点が見えるようになると言うもの。それをスパイクを付けたり、色を黒くしたり、最終的には効果を発動すると左目に青白い炎が灯るようにデータをいじった。

 

だが、実際にありうるのだろうかと思う。いや、魔法やマジックアイテムが実在するからこそ、そういった方向に走ったのかもしれない。

 

 

「考えてても仕方ない。今日は店を閉めてもう寝ようか」




ラキュースさん、闇の短剣とバーサークリングお買い上げ。


誤字の指摘ありがとうございます。


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第52話

「・・・・・・」

 

ラキュースが アイテムを買った翌日の夕刻。客がいなくなった店内、アルフの前にはカウンターを挟んでガガーランとティアが真剣な顔をして立っている。

 

「・・・・・・あのー、ご用件はなんでしょうか?」

 

「用件と言うほどのものじゃないんだが、ちょっと相談事かあってな・・・・・・」

 

ガガーランは深呼吸をし、言葉を発する。

 

「今朝からリーダーの様子がおかしいんだ」

 

「おかしいって、どんな感じなのですか?」

 

「どっかしらで手に入れた短剣をにやにやしながら眺めたり、鞘から抜いてブツブツと何か呟いてたり。なんか心配でよぉ。あんたマジックアイテム取り扱ってるだろ?だからそういった武器に心当たりはないかと思ってな」

 

ガガーランの隣のティアも同意しコクコクと首を縦に振る。

 

「・・・・・・」

 

アルフはばつが悪くなり、考えるふりをしながらゲオルギウスを見る。彼はガガーランが謝罪の品として持ってきた肉の塊にかぶり付き、ご満悦のようだ。

 

ラキュースに売ったアイテムは危険性はほぼ皆無で、喋ってもデメリットはなさそうなので正直に話すことにした。

 

「アインドラさんが持っていた武器ですが・・・・・・私が売ったものです。あれは私が昔使っていた物なので危険はないはずです」

 

一応嘘は言っていない、ユグドラシルでレベル20~40の頃、聖属性のモンスターばかり出る狩り場で使っていた。

 

「それなら安心なんだが。なら、あの行動は何なんだ?」

 

「・・・・・・それは、彼女は闇に関する武具に並々ならぬ関心があるようでアイテムを指定するとき、闇の力を宿した武具はないか、と言ってました」

 

「キリネイラムと特色を合わせようとしたのか?確かにそういった武具はなかなか手に入らないしなぁ・・・・・・」

 

アルフの言葉を聞き、ガガーランは顎に手を当て独り言を呟きながら考える。やがて何かに行き着いたのか懐から金貨を一枚だしてパチンとカウンターの上に置いた。

 

「迷惑かけてすまなかったな。これは相談料と迷惑料みたいなものだ、受け取ってくれ」

 

「はい・・・・・・」

 

ガガーランはアルフの返事を聞き、背を向ける。

 

「じゃあな、物が入り用になったりアイテムでの相談事があったらまた来る」

 

そう言いながら片手をあげて立ち去る姿はまさに漢、ゲオルギウスに持ってきた肉はこの辺りで手にはいる最高級品と気前がよく、些細なことでも仲間を心配してくれる、亜人種の村を守るために戦ったこともあるらしい。

冒険者の客達が言うように、兄貴と慕っているのも頷ける。

 

 

 

「アルフさん、あの人漢でしたね、今度兄貴って呼んだらどうですか?」

 

「怒られそうなのでやめときます。それにしてもアインドラさんがいろいろ手遅れな気がする・・・・・・」

 

「短剣を見ながらブツブツ言ってたのって、たぶん技名考えてたっぽいですよね。暗黒炎閃(ダークフレイム・スラッシュ)とか?」

 

「本当に末期ですねぇ・・・・・・」

 

「アルフさん、ふと思ったんですが中二病って行き着くとこまで行ったらどうなるんですかね?

元の世界では魔法はなく、現実(リアル)と言う枷があっていつかは普通になる。だけどこの世界では現実に魔法がある、ストッパーのない中二病がどうなっていくのか見てみたい」

 

ぶくぶく茶釜はそう言いながら手をワキワキと動かしている、ラキュースに中二病アイテムを与えてその究極体を見たいと言うのはわかる気がする。

 

「じゃあ今度、追加外装アイテム・黒翼も渡してみます?」

 

「それ良いですね」

 

そこには国の英雄、生きた伝説たるアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇リーダーのラキュースを堕とそうとする悪魔が二人いた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、蒼の薔薇の四人がまた来ている。

ラキュースの腰には闇の短剣、手首にはバーサークリングが付けられている。

 

「で、答えは変わったかしら?」

 

「貴女達は暇人なんですか?」

 

「そんなことない、ちゃんと半日から1日程度で終わる依頼を受けてる。私は貴女の事が気に入ったの、仲間になってくれるまで何度でも来るつもりだ」

 

ラキュースの目は本気そのものであり、本当に何度でも来るだろう。

 

「・・・・・・わかりました。蒼の薔薇に入りますよ。ただし、私は討伐や殲滅等の時間のかからないのしか受けませんからそのつもりで」

 

「わかった。ならさっそく冒険者組合に申請をしに行こう」

 

 

そしてアルフは蒼の薔薇の一員に加わり、そのまま依頼を受けることになった。

依頼の内容はトブの大森林から現れた大量のモンスターの討伐と言うものだ、今のところ被害は出ていないが近いうちに街道を行く馬車等を襲い、更には村や町を襲うだろうとの事だ。

 

蒼の薔薇は準備を整え、馬を連れていくため、冒険者組合の建物を出て拠点に戻ろうとしていた。

 

「アインドラさん、今から行く場所って馬で往復どれくらいかかりますか?」

 

「そうね、早くて4日、長くて5日はかかる。それからわ私の事はラキュースかリーダーって呼んでいい」

 

「わかりました、では足は私に任せてもらえないですか?任せてもらえるなら往復1日ですみます」

 

蒼の薔薇は驚いた表情でアルフを見る、馬を使っても4日かかる場所を1日で往復するとなればその反応も頷ける。

 

「分かりました、移動手段は貴女に任せます」

 

「では、王都を出ましょう。私の移動手段は人目につくと騒ぎになるので」

 

そしてアルフは王都の外へと向かう道を歩き始めた。



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第53話

王都外壁より離れた人目の無い平原。

そこにはアルフと蒼の薔薇の四人がいる、今回ぶくぶく茶釜とクレマンティーヌはお留守番だ。

 

「こんなところで何するつもりだ?足なんてどこにある」

 

ガガーランは辺りを見回し、そう言った。

 

「今回移動にはこの子を使います」

 

そう言いながらゲオルギウス抱き直し、その頭をゆっくりと撫でる。

 

「いっちゃ悪いが、幼龍なんぞに五人ぶら下げて飛ぶ力なんて無いぞ」

 

ゲオルギウスの本来の姿を見たことなければ、その反応も頷ける。

 

「実はこの子は成龍で、前足に着けている二つの腕輪で体を小さくしています」

 

アルフの言葉に蒼の薔薇の四人がゲオルギウスの前足に視線を向ける。ゲオルギウスはフンスと鼻から息を吐き、得意気にしている。

 

「まぁ実際に見てもらった方が早いですかね」

 

アルフはゲオルギウスの右前足に着けている腕輪に触れ、その効果を停止させ空に向かって放り投げる。

 

少しして巨大化したゲオルギウスが ズンッと音をたてて地面に着地した。

 

「・・・・・・これは、すごいわね」

 

「確かにこれを見られたら騒ぎになるな」

 

「ああ、指を噛み千切られなくてよかったぜ」

 

「一度くらい千切られてもガガーランなら大丈夫」

 

蒼の薔薇の四人は少し驚きながらもじっくりと巨大化したゲオルギウスを観察している。

子犬程の大きさの龍が、鼻先から尻尾の先まで約20メートル程の大きさになればそうなるのも仕方ないか。

 

「今から鞍つけるから、着け終わったら出発します」

 

アルフはそう言うと、魔法を発動させた。

 

道具創造(クリエイト・アイテム)

 

魔法によって創られた5つの鞍をゲオルギウスの背に着け、蒼の薔薇とアルフはそれにまたがる。

 

「では行きます、振り落とされないようにちゃんと掴まっていてください」

 

手綱をしっかりと握りしめ、ゲオルギウスに翔ぶよう指示を出す。

その指示をうけ、ゲオルギウスは軽く助走し、その大きな翼を羽ばたかせ飛翔する。

 

 

 

「おお、すごいな。王都がもうあんなに小さくなってら!」

 

「そうね、この早さなら夕方辺りには着きそうね」

 

そう言いながら、流れていく景色を眺めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻 目的地上空

 

「うわぁ、随分多いな」

 

「これを全部倒すのは骨がおれそうね」

 

上空から下を見ると森との境い目に獣系モンスターが溢れている。モンスター達は怯えるような仕草をし、森に戻るか平原に出るかで迷っているようだ。

 

「冒険者がいない、一時撤退でもしてる?」

 

ティアの指摘であらためて周辺を見回す。壊れた剣や盾、モンスターの屍体も複数ある、ティアの言う通り一時撤退して、体勢を立て直そうとしているのだろうか?

 

考えていても仕方ないのでモンスターから少し離れた平原にゲオルギウスを着地させ、背から降りてモンスターと対峙する。

 

モンスター達は唸り声をあげている。こちらを威嚇しているのだろうが逃げ腰気味だ、やはり龍が恐ろしいのか襲いかかって来る様子はない。

 

「ラキュースさん、今回の依頼はモンスターの全滅でいいんですよね」

 

「ええ。だけどこの数は多すぎる・・・・・・」

 

見た感じでも200を超えるモンスターがひしめいている、何かから逃げるように今も少しづつ増えている。

 

「ならこの子に任せて良いですか?」

 

アルフはそう言いながら頭を下げているゲオルギウスの頬を撫でる。

 

「構わないけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫です。ゲオルギウス、出来るだけ消し飛ばさないように手加減してね〈火炎雨(ブレイズ・スコール)〉」

 

アルフの言葉を聞き、ゲオルギウスは頭をあげ、敵の上に向かって口から火球を5つ放つ、それが敵の真上に来ると弾けて数十の破片となって降り注ぐ。

 

破片が当たると同時、大爆発を起こし、モンスターは消し飛び、焼かれ、破片からさらに飛散した火礫に撃ち抜かれ倒れていく。

 

 

 

 

 

「・・・・・・あれで手加減かよ」

 

「まさかあの一手で終わるなんて」

 

目の前にはモンスターの屍体が散乱している、中には体に大穴が空いてたり、半分しかなかったり、炭化したり、バラバラになっているのもある。

 

「モンスターの気配が散っていく」

 

ティアの言葉に皆が森の方を見る、森の中からがさがさと色んな音が遠ざかって行く。

 

「しかし、何だって森から出てきたんだ。こいつらは森の奥の方に住んでる奴らだ、何か強大なモンスターにでも追いやられたか?」

 

アルフはそれを聞き、一つ思い当たることがあった。

それはアウラが作っている偽ナザリック、たぶんあれが原因かもしれない、そう思うとなんだか申し訳ない気分になってくる・・・・・・。

 

「今夜は念のためここでモンスターが森から出てこないか見張るか?」

 

「そうね、夜行性のもいるし」

 

そしてアルフと蒼の薔薇はモンスターから耳や尻尾を切り取り、森から他のモンスターが出てこないかその場で一晩過ごす事になった。



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第54話

 

パチパチと音を立てる焚き火を中心に、皆はアルフが森から切出した木を輪切りにした即席の椅子に座っている。

アルフは丈の長いローブを纏い、フードを目深にかぶって耳と尻尾を隠し、小さくしたゲオルギウスを膝に乗せて牛型のモンスターから切出した肉をスライスしてあげている。

 

「アルフィリア、本当にいいの?こんないいものもらって」

 

ラキュースが膝に置いている袋を指す。

 

「ええ、まだまだありますから。それと、重量は500kgまでしか入らないのでその辺り注意してもらえれば」

 

ラキュースが指差しているのは無限の背負い袋だ。夕方に倒したモンスターの部位を切り取ったは良いが、量が多く嵩張ると困っていたのであげたものだ。

 

「わかった。だけどこんなアイテムをポンと出せる貴女って何者なの? このアイテムを上手く捌けば領地くらい買えそうだけど、もしかしてどこかの王族だったりするの?」

 

「前にも言われたことがありますが、ちょっと特殊なタレントを持っているただの魔法詠唱者(マジック・キャスター)ですよ」

 

「そう言えばそのタレントの事だけど、確か物に魔法の力を付与できるってものよね、どう言ったものなのか教えてもらっていい?」

 

「いいですよ」

 

アルフはそう言いながら、あらかじめ腰から下げていた無限の背負い袋から短剣とデータクリスタルを取り出す。

 

「私のタレントは少し不安定で付与できる能力がランダムなんです、そこで一度クリスタルに付与して能力を確定させてから武具に付与すると言うものです」

 

この説明はペテル達にしたのと同じものだ、前回もこれで誤魔化せたし今回も大丈夫と思ったが、イビルアイが真剣な視線をクリスタル向けながら、言葉を口にする。

 

「それはもしかして、でーたクリスタルか?」

 

「知ってるの?」

 

「ああ、かつての仲間がそれと似た物を使って武器を強化しているのを見たことがある」

 

「じゃあタレント持ちって言うのは・・・・・・」

 

「断定は出来ないがな。だが、クリスタルを使っていた者、リーダーは自らの事をぷれいやーと言っていた」

 

イビルアイの言葉に全員の視線がアルフに向く。

 

 

 

「・・・・・・はぁ、意外な所からメッキが剥がれたなぁ」

 

「と言うことは、貴女はぷれいやーなの?」

 

「ええ、私はプレイヤーです」

 

「じゃああの十三英雄の仲間か?」

 

ガガーランの言葉にラキュースとティアがアルフとイビルアイを交互に見る。

 

「いや、アルフィリアと言う名の者は居なかった」

 

イビルアイは小さな声で言ってはいるが、アルフの人狼としての聴覚はそれを聞き逃さなかった。

 

「私は最近こちらの世界に来たばかりなので違います、ちなみに私の他にプレイヤーは三人来てます」

 

「随分素直に教えてくれるじゃねぇか、まさか事情を知ったものを皆殺しにするってんで冥土の土産に説明してるのか?」

 

そう言いながらガガーランは自分の武器に手をかける。

 

「やめなさい。ゲオルギウスの力を見たでしょ、おそらく彼女はそれと同等かそれ以上よ」

 

「そんなデメリットしかないことしないですよ、この職業やっているのもデータクリスタルを知っているプレイヤーの関係者を探すためです」

 

それを聞いたガガーランは武器から手を離し、体勢をもとに戻した。

 

「こう素直に話しているのも貴女達を信用しての事、亜人種のために体をはって村を守ったり、異形種を仲間にしていたり。イビルアイさん、貴女はアンデッド、たぶん吸血鬼ですよね」

 

「・・・・・・何故そう思う?」

 

「中身はアレですが知合に吸血鬼が居て、その子とどこか同じ匂いがしたもので。ですが確信したのはついさっき、貴女が言った『アルフィリアと言う名の者は居なかった』と言う台詞は実際に仲間だった者にしか言えません。そうすると貴女は十三英雄のいた時代、二百年前から居ることになります」

 

「聞こえていたのか・・・・・・私は確かにアンデッドだ、かつては国堕しと呼ばれていた」

 

「ばらしていいの?」

 

「かまわないさ。アルフィリアもアンデッドに知り合いがいるみたいだし、話してしまった方が今後のためだ」

 

ラキュースの言葉に諭すように答えるイビルアイ。

こちらとしてはありがたいが、それだけの情報を貰ったからにはこちらも種族を明かした方が楽か、と考える。

 

「じゃあ私も今後のために、正体を明かすよ」

 

そう言いながら、アルフはフードを取り、獣の耳と尻尾をローブから出した。

 

「・・・・・・貴女、人狼だったのね」

 

「はい。分かっているとは思いますが、タレントの事と種族の事は他言無用でお願いします」

 

「その点は安心して、こちらも貴女ほどの戦力を失うのは惜しい」

 

「ひぅっ!!」

 

そんなことを突然尻尾をわさわさとなで回される感触に襲われた。

尻尾の方を見ると、ティアがわさわさとなで回したり頬擦りをしていた・・・・・・。

 

「もふもふ、気持ちいい。お嫁さん兼抱き枕になって」

 

「ティア。ごめんなさいね、変な子で」

 

「いえ、似たような行動をとる人を知ってますので気にしてないです」

 

そんなこんなで夜は更けていく。

自分の正体を明かすことになってしまったが今回の収穫は大きい、何より蒼の薔薇といる時は本来の姿でいいと言うのは気が楽だ。




誤字の指摘ありがとうございます。


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第55話

翌朝

 

アルフは朝日の光と尻尾の違和感で目を覚ました。

尻尾を見るとティアが枕にしており、ラキュースとイビルアイは毛並みを楽しむようにわさわさと撫でている。

 

ちなみにガガーランは離れたところで仰向けでイビキをかいて寝ている。

 

「・・・・・・三人とも何してるの?」

 

「ティアが気持ちいいと言うのでつい」

 

「サラサラふわふわしてるから枕にちょうどいいかと」

 

「私は止めたのだが、二人が離れなくてな」

 

ラキュース、ティア、イビルアイの順に言葉を発する。

 

「で、イビルアイさんもつられて撫で始めたら止められなくなったと」

 

「・・・・・・」

 

イビルアイは顔をそむけあらぬ方向を見るが、尻尾を撫でる手は離れない。

 

「・・・・・・はぁ、とりあえず朝御飯にしましょう」

 

そう言いながら変化して尻尾と耳を消し起き上がるが、尻尾を消すと同時に「あぁ・・・・・・」と名残惜しそうな声が三つ聞こえた。

 

それからガガーランを起こし、朝食にする。

朝食の内容は具材の多いスープで蒼の薔薇が用意した物だ。具材は見た感じジャガイモ、人参、キャベツ、玉葱、肉という内容、玉葱は犬にとっては毒と言う話だが、自分は人狼なのでたぶん大丈夫なはずだ、もし毒だとしてもグレイプニルが反応して打ち消すはずだ。

 

そう思いながらスープを口にする。

口の中に野菜の甘味が広がる、そのままスープを飲み込むがグレイプニルに反応はなく、体調の変化もないようだ。

 

 

朝食後

 

皆は思い思いに過ごしている。

ガガーランは少し離れた場所で腹ごなしにハンマーで素振りをしており、ラキュース、イビルアイ、ティアはアルフの近くに座りアルフに質問をしている。

 

質問の内容としては、耳と尻尾はどうやって消しているのか、実際は何位階の魔法まで使えるのか、他のプレイヤーはどんな人物かと言うもの、一応答えられる範囲で答え、まずそうな部分は誤魔化している。

 

そしてアルフからも質問する。

 

内容は、十三英雄は今現在生きているのか、生きているのならどこに居るのか、と言うものだ。

もしも友好的であれば助け合う事ができるし、敵対的であれば警戒する必要がある。

 

「・・・・・・大半は死んでしまったよ、他は散り散りになっていてな、たまに顔を見るのもいるが放浪癖があってな」

 

「・・・・・・ごめん、無神経なこと聞いたかな」

 

「いや、もう200年ほど前の話だ、気にしないでいい」

 

それから森を見張りながらしばらく過ごしたが森からモンスターが出てくる気配はなく、他の冒険者チームが来たのでその人達に引継し、王都へ戻るとこにした。

 

 

 

帰るときもゲオルギウスの背に乗り、王都外の人目につかない所に着地させ、検問を通り王都に入った。

 

 

 

「私達は冒険者組合に報告に行くけど、貴女はどうする?」

 

ラキュースは振り返りながらアルフにそう言ってきた。

 

「私は店の準備があるので帰ります、茶釜さんが少し心配ですし」

 

「わかった、報酬は明日の朝、貴女の店に持っていく。それとこれ」

 

ラキュースは懐から封書を取り出しアルフに渡す。

 

「これは?」

 

「今度行われる昼餐会の招待状よ。国王から第三王女経由で私のところに渡すように依頼が来たの」

 

「ありがとうございます。では、また明日」

 

「ああ、また明日」

 

そう言って蒼の薔薇の四人と別れて店に戻り、ぶくぶく茶釜とクレマンティーヌと一緒に昼食をとろうと寝室に入ったのだが。

 

 

「・・・・・・」

 

クレマンティーヌは目を開けていがその目は虚ろで、起きているようだがベッドの上にぐったりとしており反応がない。

 

「アルフさん、お帰り」

 

ぶくぶく茶釜はそう言いながら、映像のスクロールを見ている。

 

とりあえずクレマンティーヌの状態を確認するために近寄り、顔の前で手をヒラヒラと振ってみる。

 

「クレマンティーヌ、どうしたの?何か変なものでも食べた?」

 

話しかけてみたが反応がない。

次は揺すってみる、すると反応があったのだが。

 

「茶釜さま~、もっと~・・・・」

 

と、うわ言のように呟いている。

 

「・・・・茶釜さん、クレマンティーヌに何したんですか?」

 

「ん、いろいろ」

 

そう言いながらスクロールを放って来た。アルフはそれを受取りスクロールを再生する。

 

そこに写されていたのは、なんと言うか、簡単に言うと女戦士とスライムが絡み合うR-18な内容だった。

 

「・・・・・・茶釜さん、前から聞きたかったんですけど、今の貴女の性別ってどっちなんですか」

 

「両性。クレマンティーヌでいろいろ確かめた」

 

「確かめるなら吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)でやってくださいよ、なんでクレマンティーヌなんですか」

 

アルフは呆れたようにぶくぶく茶釜に問う。

 

「私にとって吸血鬼の花嫁はなんかそそる要素が薄いのよ。その点クレマンティーヌは出るとこ出ててるし、健康的なやわ肌とか猫耳と尻尾とかいろいろ来るものがある!」

 

力説しながら拳をグッと握り締める。そういうのは男が言うのもではないのだろうか・・・・。

 

「はぁ・・・・・・とりあえずお昼ご飯にしましょう」

 

そう言いながらアイテムボックスからアイテムを取り出す。それはポーションに似た小瓶に入っているが、中身が透き通った緑色をしている、効果は朦朧、酩酊等の異常を回復させるものだ。

 

「クレマンティーヌこれ飲んで」

 

クレマンティーヌの体を起こし、口元に小瓶を持っていくが口をつける様子がない。

このポーションはナザリックでいろいろと試したが、飲む以外では効果は発揮しなかった。

 

アルフは小瓶に口をつけて中身を口に含み、そのままクレマンティーヌに口移しで飲ませる。

 

少しするとクレマンティーヌの瞳に光が戻り、正気に戻ったようだ。

 

「クレマンティーヌ、大丈夫?」

 

「うん。茶釜ちゃんにされたことが癖になりそうだけど大丈夫」

 

クレマンティーヌの発言がなんか心配だが、とりあえず昼食をとるためにリビングに移動した。




誤字の指摘ありがとうございます。


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第56話

 

ぶくぶく茶釜とクレマンティーヌはリビングにある椅子に座り、ゲオルギウスはアルフの肩に乗り、アルフは昼飯の準備をしている。準備と言ってもナザリックの食堂と繋がっている鏡のマジックアイテムで料理を受取り、それをテーブルに並べるだけだ。

 

アルフは鏡から料理を受取り、テーブルに並べていく。そんな中、クレマンティーヌが椅子の上でモゾモゾしている。

 

「クレマンティーヌ、どうしたの?」

 

「う~、なんかまだ入ってるような気がする。茶釜ちゃんがあんなぶっといのねじ込んで来るから・・・・」

 

そう言いながらクレマンティーヌはジト目でぶくぶく茶釜を見ている。

アルフはスクロールの内容を思い出す。自身の体を変形させてクレマンティーヌを拘束し、抵抗する彼女にけっこうな太さの触手を無理矢理ねじ込んでいた。

 

「茶釜さん、そういった部分はペロロンチーノさんと行動原理がほぼ一緒ですよね、これじゃあ叱れないですよ?」

 

「まぁ私もエロスは好きだしね。エロモンスター狩りについては少人数で好き勝手やるのはいいと思うけど、それをギルドで行動するときに出すのはどうかと思う、それに弟は姉に絶対服従すべきであると私は宣言する!」

 

「・・・・・・」

 

茶釜の台詞を聞き、アルフは心の中でペロロンチーノに合掌した。

 

 

それから3人と1匹で昼食をとる。

アルフは食事を終えると風呂に入るために浴室に向かった。

風呂に入るのは昨日入っていないのと、これから客の相手をするのにこのままではダメだと思ったからだ。

 

 

 

浴室

 

アルフは自分の髪を鼻先に持っていき匂いを嗅ぐ、血と鉄と肉が焼けたような匂いが混じっている、普通の人なら気にならない程度であるが、人狼の嗅覚だとハッキリとわかる。

浴室に備え付けてある湯の出るマジックアイテムの蛇口のバルブをひねる。

 

シャワーから湯が出てアルフ肌に当たり、体をつたって流れていく。

 

「あーちゃんって本当に綺麗だよね、茶釜ちゃんが犯したいって言ってるのわかる気がする」

 

アルフは声のする方、浴槽の方に顔を向ける。浴槽は大人三人が足を伸ばして入れるほど広く、そこには湯が貯められており、クレマンティーヌが浸かっている。

 

「クレマンティーヌは何でここにいるの?」

 

「いや~、茶釜ちゃんと二人きりになると犯されそうでさぁ・・・・・・」

 

どうやらアレがトラウマ一歩手前になっているようだ。

 

「まぁ、いいか。こっちとしても目の保養になるし」

 

クレマンティーヌは浴槽内の壁にもたれ掛かり、足を肩幅程に開き、伸ばしており、湯が透明なのでクレマンティーヌの裸体がハッキリと見える。

 

「あーちゃんのえっち」

 

そう言いながらも隠す様子はないが、頬がほんのり紅くなっている。これは湯に浸かっているからか、恥ずかしいからかはわからない。

 

気にしても仕方がないので、体を洗っていく。

頭、顔、腕、胸、腹、背、下半身と上から順番に洗い、最後に体に付いた泡を流し、髪を結い上げてからクレマンティーヌと向かい合うように湯に入り浴槽の縁に頭を乗せて足を伸ばす。

 

「そう言えばあーちゃんって男に戻りたいって思わないの?」

 

「今は思わないかなぁ。もうこっちの姿がなれちゃって違和感がまったくないから」

 

「ふーん。じゃあこうしたら興奮とかするの?」

 

そう言いながらアルフの太股に跨がり、両手を首に回す。太股からクレマンティーヌの尻の柔らかい感触が伝わり、目の前には水に濡れ、淡い桜色に染まった双丘がさらけ出される。

 

「それは誰から教わったの?」

 

「茶釜ちゃんから。男は基本ケダモノだからこうすると襲ってくるかも、っていうのをいくつか教えてもらった。で、興奮する?」

 

「興奮してるよ」

 

実際、アレが健在なら戦闘体勢になってたと思うし、理性が飛んで襲ってたかもしれない。

 

「反応が薄いなぁ。でもいいや、心臓って正直だよね」

 

クレマンティーヌはそう言いながら右手を胸に持っていく。

 

「あーちゃんがちゃんと私で興奮してくれてるのを知れたのは、大収穫かなぁ。その内茶釜ちゃんみたいに襲ってくれる?」

 

「・・・・・・善処するよ」

 

 

 

 

そんなこんなで入浴を終え、体を拭いてから服を着て身嗜みを整える。

鏡で変なところが無いか確認してから店を開けた。

 

 

店を開けてから少しすると、冒険者が三人ほど入ってきた。

 

「嬢ちゃん聞いたよ。蒼の薔薇に入ったんだって?」

 

「アルフィリアちゃん、店辞めちゃうのかい?」

 

「アダマンタイト級冒険者チームの一員になったんだ、祝福してやろうぜ」

 

冒険者三人はそれぞれ言葉にする。

 

「蒼の薔薇に入ったのは成行きです。チームに入るまで何度も来るって言っていたので・・・・・・店は一応続けますが突然休んだりしますので、その事を他の冒険者達に伝えてもらえますか?」

 

「そりゃあ、それほどあんたの事がチームに欲しかったからだろ?仕方ないさ。伝言の事は任せな」

 

「ありがとうございます。では今日は何が入り用ですか?」

 

それから閉店まで、冒険者達が蒼の薔薇に入った祝いに来たり、これからアルフが冒険者の仕事で忙しくなるのを見越して買溜めをする人、奮発して高めの強化をしていく人もいた。




エロに関しては大丈夫ですかね?

夏の深夜アニメでとんでもないことヤってるのもありましたし、大丈夫ですよね?


誤字の指摘ありがとうございます。


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第57話

アルフが店で客の相手をしているのと同時刻。

 

ロ・レンテ城 ヴァランシア宮殿の一室に、二人の女性と一人の青年がいる。

 

女性の一人はアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。今は鎧ではなくドレスを着ている。

 

もう一人の女性は、この国の第三王女、黄金と呼ばれる姫、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 

最後の一人は姫の護衛、騎士であるクライム。

 

三人は丸いテーブルを挟むように座っており。ラキュースの正面にラナー、ラナーの隣にクライムといった位置で座っている。

 

「それで、アルフィリア・ルナ・ラグナライトと言う方はどうでしたか?」

 

「そうね、チームに入れてそう時間はたっていないけど信頼はできると思うわ。彼女自身の戦闘は見てないけど戦力は期待できる」

 

「そうですか。クライム、貴方が手合わせしたときはどうでしたか?」

 

「彼女は強いです、最後の盾と木剣を砕いた攻撃は凄かったです」

 

「確か戦士長と互角に戦って、負けてしまわれたと聞いていますが」

 

「いえ、それは正確ではありません。最後の一撃でガゼフ様の持つ木剣を貫いた後、ラグナライト様はわざと自らの武器を破壊したように見えました。恐らく休憩時に貴族達の対立を聞き、自ら負けを宣言したように思います」

 

「そうですか」

 

そう言ってラナーは少し考えてから言葉を発する。

 

「では、私の依頼したあの件、彼女にも手伝ってもらいましょう」

 

「いいの?こっちとしてはありがたいけど」

 

「かまいません。今度開かれる昼餐会では直接お話をしてみたいですね」

 

「なら昼餐会の時に私がアルフィリアのエスコートをして引き合わせよう」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓 第九階層 アルフの自室

 

アルフはそこで、アイテムボックスを探っていた。目的は三日後にある昼餐会で着るドレスを探すためだ。

 

「う~ん」

 

腕を組み、ベッドの上に広げた複数のドレスに目を向ける。

一応ドレスと名の付く物は全て引っ張り出したが、合計六着しかなかった。しかもその半分はアーマーとも名前がついている。

 

「なんかパッとしないね、一応似合いはするけど国王主催の昼餐会に着ていくには微妙かな」

 

声のする方に視線を向けると、ドレスの1着をアルフの体に合わせるように掲げるぶくぶく茶釜がいる。

彼女がここにいるのは、女性としての意見を聞くのと一緒にドレスを選んでもらうためだ。

 

「やっぱり1から作った方が良いですかね」

 

「その方が良いかもね。そうすると裁縫スキル持ってる子探さないと。マリアちゃんはどう?」

 

ぶくぶく茶釜の言葉に、二人の視線が部屋の端に向けられる。そこには椅子に座り、ゲオルギウスを膝に乗せて寝ているマリアがいる。

 

「残念ながらマリアがとってる製作系職業は鍛冶と彫金だけです」

 

二人して腕を組み考える。二人はナザリック所属のシモベのスキルを全て把握しているわけではなく、すぐに思い当たる者は思い付かなかった。

 

「そうだ、デミウルゴス辺りなら知ってるかも」

 

アルフは早速デミウルゴスにメッセージを発動する。

 

「デミウルゴス、ちょっといいかな」

 

『これはアルフィリア様、お久しぶりでございます』

 

「うん、久しぶり。それで聞きたいことがあるんだけど、ナザリックの中で裁縫出きる子知らない?今度国王主催の昼餐会に出ることになってドレスを作らないといけなくて」

 

『裁縫ですか。アルベドはどうでしょう、彼女は自作で抱き枕や子供服を作ったりしています』

 

「子供服?」

 

『子供服です・・・・・・』

 

妙な言葉が出てきた。アルベドが子供服を作っている、誰かと子を成すつもりなのだろうか、と思い。ふと転移前の事、〈モモンガを愛している〉と書き換えたのを思い出す。

 

『どうかいたしましたか?』

 

「いや、思い当たる節があるなぁ、と思って。とりあえずアルベドの所に行ってみるよ。ありがとうね」

 

『お役にたてたのなら幸いです』

 

その返事を聞き、メッセージを切った。

 

「アルベドの所に行くけど、茶釜さんはどうします?」

 

「留守番しててもつまんないからついてく」

 

 

 

そして二人はアルベドが自室として使っている部屋の前に立ち、扉をノックする。

 

少しすると扉が開き、中からアルベドが顔を出した。

 

「アルベド、久しぶり」

 

「お久しぶりです、アルフィリア様、ぶくぶく茶釜様」

 

「今日はアルベドに頼みたいことがあって来たんだけど、中にはいっていいかな?」

 

「どうぞ」

 

 

アルベドの案内で部屋に入る。部屋に入ってまず目についた物は、ベッドの上に複数あるアインズを模したぬいぐるみだった。

 

アルフはベッドに近寄り、ぬいぐるみアインズをひとつ手に取り、でき具合をチェックする。

縫い目が一定で乱れはなく、腕や首等の継ぎ目も丁寧に縫われている。

 

「これはアルベドが作ったの?良くできてるね」

 

「はい、それはもう一針一針愛情を込めて作りましたから」

 

くふふふふ、と怪しげに笑っている。とりあえずこの出来なら頼んでも問題ないだろう。

 

「アルベド、貴女に頼みたいことがあるの。僕にドレスを一着作ってくれないかな?今度国王主催の昼餐会に出ることになってドレスが必要になったの、材料はこっちで出すから。報酬は何がいい?」

 

アルフはそう言いながらアイテムボックスからドレスのデザイン画と、材料となる常闇の切れ端、黄昏の雫、混沌の糸、黒龍針を取り出し、アルベドに渡す。

 

「そんな、報酬だなんて。我々ナザリックに属する者は至高の御方々の役にたつ事こそ報酬でございま・・・・・・」

 

手渡したアイテムを見た瞬間アルベドが止まった。

 

「アルベド、どうかしたの?」

 

止まったアルベドをアルフとぶくぶく茶釜は心配そうに覗きこむ。

 

「あ、あの。先程あんなことを言ってしまいましたが、報酬の件頼んでもよろしいでしょうか・・・・・・」

 

アルベドが恥ずかしそうに頬を染め、何だか申し訳なさそうに聞いてくる。

 

「いいよ、もともと報酬あげるつもりだったし」

 

こちらとしてはうれしい話だ、ナザリックのシモベ達は至高の御方々に仕える事こそ幸せです。と言って報酬をなかなか受け取ろうとしないため、自ら報酬を受け取ってくれるというのは正直嬉しい。

 

「では、この常闇の切れ端と混沌の糸、黒龍針をいただけないでしょうか?」

 

何故そんなものを欲しがるのか聞いてみたところ。

今度1分の1アインズ様フィギュアを作る予定らしく、それに着せるローブを作るのに必要になったそうだ。

ようは普通の黒い布ではなく、より本物に近づけるために常闇の切れ端が欲しい、との事だ。

 

「いいよ。アインズさんのフィギュア作るときは私も手伝ってあげるから声かけてね。こっちとしてもシモベ達に頼られると言うのは嬉しいから」

 

「ありがとうございます、その時はよろしくお願いいたします。では、まずは採寸からいたしましょう」

 

そう言うとアルベドは軽い足取りで裁縫道具を取りに行った。




誤字の指摘ありがとうございます。


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第58話

ぶくぶく茶釜は手に持ったスクロールで自分の肩を叩きながらナザリック地下大墳墓 第九階層の廊下を歩いていた。目的地は弟であるペロロンチーノの部屋だ。

 

何故ぶくぶく茶釜ここにいるかと言うと、アルフの採寸とドレスの細部の指示等があり、ずっと待っていても暇なので弟をいじりに行くのだ。

 

ペロロンチーノの部屋の前につき、ノックをしてから声色を変えてペロロンチーノを呼ぶ。

 

「ペロロンチーノ様少しよろしいでしょうか」

 

声は一般メイドに似せている、今まで声優でやったことがないような声だ、いくら弟であっても聞き分けられないはずだ。

 

「はーい」

 

案の定疑いもないような声が扉の向こうから聞こえる。

少しして扉が開き、中からペロロンチーノが顔を出した。

 

「げ、姉ちゃん⁉」

 

ペロロンチーノはそう言いながら慌てて扉を閉めようとするが、閉まる前にスルリと滑り込んだ。

 

「げ、は無いでしょ愚弟」

 

「何、また理不尽な要求をしに来たの?」

 

「違うわよ。今日はあんたにも幸せを分けに来てやったのにその反応は失礼だと思うなぁ」

 

そう言いながら手に持ったスクロールをペロロンチーノに向けて放り投げる。

 

「あんたの態度次第ではもっと素晴らしい物を分けてもいい」

 

ペロロンチーノはスクロールを開き、保存されている映像を再生する。

映し出されたのは、アルフがクレマンティーヌの首筋に牙を立て、クレマンティーヌが甘い声を発する光景、クレマンティーヌを眷属にした時に撮った物だ。

 

「失礼いたしました御姉様‼」

 

そう言いながらペロロンチーノは片膝をつく。

 

「わかれば良いの」

 

そう言いながらもう一本スクロールをペロロンチーノに渡す。それを受け取り、スクロールを広げる。

 

映し出されたモノはアルフの全裸姿、シャワーを浴びたり体を洗ったりする光景だ、しかも細部までくっきりはっきりと映されている。

アルフがこの場に居れば「何時こんなもの撮ったんですか!」と怒られているだろう。

 

「御姉様、私は何をすればよろしいでしょうか?」

 

「まぁこれはお裾分けよ、何かあったときちょっと手を貸してくれるだけでいいから」

 

「御姉様の御心のままに」

 

そこには絶対なる姉とそれに服従する弟、ぶくぶく茶釜の理想の姉弟の姿があった。

 

「そういえば、アインズさんは今どこ?」

 

「自室にこもって情報のチェックと魔王ロールの練習してると思う」

 

「アインズさんも大変だよねぇ、じゃあアインズさんにも幸せのお裾分けをしてきますか」

 

そう言うと、ぶくぶく茶釜はペロロンチーノの部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

ぶくぶく茶釜はアインズの私室の扉をノックし、「お邪魔しまーす」と声をかけてから部屋に入った。

 

「・・・・・・」

 

アインズは紙の束を右手に持ち、左手を顎に当て何やら考え込んでいるようだ。

ぶくぶく茶釜はアインズの机に近寄るが、集中しているようで気付いてくれない。

 

ぶくぶく茶釜はそっとアインズに近寄り、声の具合を調整してロリ声にし、アインズの耳元で言葉を発する。

 

 

「モモンガお兄ちゃんそこはらめぇぇ‼」

 

 

「ぶふっ‼」

 

アインズは不意を突かれ書類を落としそうになるが、なんとか留まり、振り返って声の発生源であるぶくぶく茶釜見る。

 

「・・・・・・茶釜さん、驚かさないでくださいよ」

 

「アインズさんがいけないんですよ、扉ノックして声かけてから入ったのに気づかないんだもん」

 

「だからってあんな台詞で呼び掛けなくてもいいでしょう。で、何か用事ですか?」

 

「ん、アインズさんにも幸せのお裾分けです」

 

ぶくぶく茶釜はアイテムボックスからスクロールを取り出し、アインズに手渡す。

 

「幸せですか。鳳凰か麒麟でも見つけましたか?」

 

アインズはそう言いながらスクロールを広げて再生し、固まった。

映し出されたものはアルフのシャワーシーン、ペロロンチーノに渡したものと同じ物だ。

 

「ちょっ⁉何てもの撮ってるんですか‼」

 

「いいでしょ」

 

「いいでしょ。じゃなくてこれ盗撮ですよ‼」

 

「ここは現代ではない、故にこれは違法の品ではないのです。よろしければ差し上げますよ?」

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

アインズはスクロールを受けとることにした。

 

「正直が1番です。今度もっと凄いのあげますよ」

 

「う、うむ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 第九階層 会議室

 

そこにはアルベドを除く守護者達がそろっていた。

 

「皆さんそろいましたね、これより守護者会議を開きたいと思います」

 

「ねえ、デミウルゴス。アルベドの姿が見えないんどけど、呼ばなくていいの?」

 

「アルベドは今、アルフィリア様のドレスを作ると言う重要な仕事をしている。アルベド本人から今回の会議は欠席するとメッセージが来た、後で議事録を渡しておけば問題ないでしょう」

 

「ならいいや」

 

「ではこれから会議を開始します、今回の議題は我々の今後の行動についてです。今ナザリックはリザードマン制圧を行っていますが、リザードマン制圧後は王都にてアインズ様の名声を高めるのと物資補給を兼ねた作戦を行う予定です」

 

「ゲヘナ、だよね。大量の悪魔を召喚するんだっけ?」

 

「ええ、その作戦でアルフィリア様の行動次第ではより多くの成果が得られるかも知れません」

 

「ゲヘナとアルフィリア様がどう関係するでありんすか?」

 

「アルフィリア様は今度、国王主催の昼餐会に参加なされる。そこで王族と接点を持ち、ゲヘナではアインズ様とともに人間側につくでしょう。そこでアルフィリア様の行動の意を読み、それに合わせてゲヘナを進行させれば効率よく物資の回収が出きるはずです」

 

デミウルゴスは不敵な笑みを浮かべた。




黒兎詐欺様、御指摘ありがとうございます。

確かにこのままだとプレイヤー が四人いる意味がないですね。
アルフ・茶釜二人+αの異世界放浪記、とタイトル変えても違和感がないきがします。

これからは時間を飛ばす所でアインズ様やペロロンチーノ視点でも書いていこうと思います。

「さすがアインズ様‼」な展開はオーバーロードの醍醐味なので入れていきたいと思います、前にも増して変な所が増えるかもしれませんが、見逃してもらえると助かります。


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第59話

翌日

 

アルフは店の準備をしながら、隣で品出しを手伝ってくれているぶくぶく茶釜に蒼の薔薇に正体がバレた事を話した。

 

「で、何もかも喋っちゃったの?」

 

「そんなことしませんよ。ちゃんと言えないところは誤魔化したし、でもプレイヤーの情報が入ったのと蒼の薔薇だけの時なら耳と尻尾出していいっていうのは大収穫です。茶釜姉も蒼の薔薇と行動するとき喋って良いんですよ?」

 

「確かにそれは嬉しいわね、自由度が高くなるのはいいんだけど本当に私達の情報を漏らさないかが心配」

 

「大丈夫ですよ。蒼の薔薇は亜人種や異形種に理解がありますから、皆が来たら紹介しますよ」

 

そう会話しながら開店準備を終えカウンターの下の物の整理をしている時、店の扉が開き蒼の薔薇の四人が入ってきた。

 

 

 

「お早う、アルフィリア」

 

「おはようございます」

 

ラキュースに挨拶を返しながら立ち上がる。

 

「昨日の報酬を持ってきたわ」

 

そう言うと、手に持っていた布袋をカウンターの上に置いた、布袋から小さな金属音が複数聞こえる。アルフは布袋の口を開け中を確認するが、中身の多さに困惑する。

 

「あの、これ多いんじゃないでしょうか?」

 

袋に入っていた金額は依頼書に書いてあった報酬の半分を軽く超えているようにみえる。

 

「それであってるわよ。移動はゲオルギウスだし、敵の殲滅もその子がしちゃったし、だから使役している貴女に報酬のほとんどを渡すのは道理と言うものよ?」

 

そう言いながらカウンターの上で寝息をたてているゲオルギウスを見る。

 

「そう言うことなら遠慮なくいただきます。そう言えば、貴女達に紹介したい人がいるんですよ」

 

袋を受け取り、カウンターの下に置いてある無限の背負い袋に入れ、ぶくぶく茶釜を持上げてカウンターの上に置いた。

 

「私と同じプレイヤーのぶくぶく茶釜さんです」

 

「こいつがぷれいやー、ねぇ。意思疎通は出来るのか?」

 

そう言いながら、ガガーランはぶくぶく茶釜をつついている。

 

「失礼ですね、ちゃんと意思疎通できますよ」

 

ぶくぶく茶釜は腕を組み、ガガーランを見上げる。その姿はまるで男性のアレのようである。

その姿を見たガガーランは既視感があるのか何やら考え込んでいたが、思い当たる物があったらしい顔をしている。

 

その後ろにいるティアとイビルアイの反応を見ると、何に似ているかわかっているようだが、ラキュースは何の反応もなく普通に挨拶し、片手を差し出す。

 

「ぶくぶく茶釜、さん?はじめまして」

 

「はじめまして、私はアルフさんの姉のようなものです、貴女達の名前はアルフさんから聞いています。私の事は茶釜と呼んで」

 

ぶくぶく茶釜は差し出された手をとり握手する。

 

「鬼リーダーがピュア過ぎて直視できない」

 

確かにティアの言う通り、ラキュースがなんだか眩しく見える。これも心が汚れているからだろうか?

 

 

「えーっと、ティアさん」

 

「はい!茶釜義姉様‼」

 

ぶくぶく茶釜の呼び掛けに、気合いを入れて答えるティア。

 

「貴女はアルフさんの事をどう思っていますか?」

 

「美しい容姿、素晴らしい毛並、たわわに実った至高の果実、控えめな性格、その全てが愛おしく、もし叶うなら私のお嫁さんにしたいと思っております」

 

「よろしい。私もアルフさんを狙っているのであげられませんが、そんな貴女にはこれを差し上げましょう」

 

そう言うと懐(?)から数枚の紙を取り出し、ティアに差し出す。アルフは何を渡したか気になりカウンターを出てティアの後ろに回る。

 

ティアは受け取った紙を一枚一枚めくり確認していく、受け取った紙はアルフが写った写真なのだが・・・・寝ているアルフの寝巻の胸元がはだけて胸が露になっていたり、シャワーを浴びていたり、ようはアルフのエロい写真である。

 

「なっ!!」

 

アルフは慌てて取り上げようとするが、ティアはひらりとかわす。

 

「茶釜義姉様、これは家宝にさせていただきます」

 

二人は熱い握手をかわし、ティアは店の外に走り去っていった・・・・・・。

 

「茶釜さん何てもの渡してるんですかぁ‼」

 

アルフはぶくぶく茶釜の両肩を掴み前後に揺する。

 

「いやぁ、同好の士にコレクションの一部を分けただけですよ?」

 

「まだあるんですか⁉」

 

「ふふん、私のコレクションは日々増え続けているのだよ」

 

ぶくぶく茶釜は胸を張り、誇らしげに告げる。

 

「・・・・・・何で僕がこんなめに」

 

「それはアルフさんが可愛いからです」

 

その時アルフは、茶釜さんには何を言っても意味がない、もう諦めて受け入れよう。と悟りを開きかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻

 

トブの大森林の一画に開けた場所がある。そこは自然に出来た物ではなく、人工的に作られた場所、アウラが現在作っている要塞だ。

 

そこにはアインズの他、ペロロンチーノ、シャルティア、アウラ、マーレ、デミウルゴスがいる。

 

「・・・・・・なあ、デミウルゴスよ」

 

「はい、何でございましょうか?」

 

「・・・・・・これは、罰になっているのか?」

 

アインズはそう問いながら、自らが腰かけている者に視線をおとす。

そこにはよつん這いになり、顔を紅潮させ、瞳は情欲に濡れ、息を荒くして口の端から涎を垂らすシャルティアの姿があった。

 

こうなった理由は、シャルティアが以前行った武技を使えるものを捕まえろ、と言う命令を完璧にこなせなかったから罰が欲しいと懇願されたのと、デミウルゴスが用意した骨の玉座が原因だ。アレに座るくらいならシャルティアに座り、罰とした方がましか?と思ったのが間違いだった気がする。

 

「ええ、守護者に座する事は至高の御方々にしか出来ぬ事、十分罰になると思われます」

 

顔からキラキラした輝きを発し、敬意の念を向けてくるデミウルゴス。

他の守護者を見るが、同じような状態だ・・・・・・。

 

この状況を見ているペロロンチーノはと言うと。

 

「ペロロンチーノ様、ちゃんと写真と映像録れているでありんすか?」

 

「心配するなシャルティア。お前の勇姿はしかと記録している」

 

嬉々として録画のスクロールを開きながら写真を撮っている。

 

ふと以前見たネットの書き込みを思い出す、『我々の業界ではご褒美です‼』主に蔑まれたり、罵られたりしたあとに書き込まれていた物だが、今のシャルティアは書き込んだ連中と同じ感じがする。

 

「あいんずさまぁ」

 

「・・・・・・」

 

ペロロンチーノに『どんどけ変態設定つけたんだ』と問い詰めたいが、今はリザードマン制圧の終盤なのでその思いを抑え込んだ。



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第60話

蒼の薔薇から昼餐会で第三王女に引き合わせたい、と言う話と。その王女から依頼があると言う話を聞き、しばらくたつが、ぶくぶく茶釜は寝室のベッドの横に立ち、寝転がっているアルフに何度目かの声をかける。

 

「アルフさん、機嫌なおして。ね?」

 

「・・・・・・」

 

アルフに反応はなく、彼女の隣で丸くなっているゲオルギウスがあくびをする。

 

「茶釜ちゃん、あーちゃんどうしたの?喧嘩でもした?」

 

丸椅子の上で胡座をかいていたクレマンティーヌが立ち上り、ぶくぶく茶釜の横に立ってそう問うてきた。

 

「多分これが原因かな」

 

クレマンティーヌに紙の束を渡す。ティアに渡したのと同じものだ。

クレマンティーヌはそれを受け取って一枚一枚めくり、確認する。

 

「多分じゃなくてそれが原因ですよ」

 

「あーちゃん、写真くらいいいじゃない。私なんて茶釜ちゃんに前も後ろも犯されて、それを映像に撮られてるんだよ?しかもアインズさんやペロちゃんにも渡してるっぽいし、それに比べたらましじゃない?」

 

「確かにましだけどさぁ、茶釜さんの事だから今後私がクレマンティーヌと同じ事になる確率が高いんだよね・・・・・・」

 

そう言いながらゲオルギウスを抱き寄せ、遠い目をしている。

 

「・・・・・・確率が高すぎて否定できないなぁ」

 

「私としてもアルフさんと事に及びたい、それくらい可愛いんだもん」

 

「茶釜ちゃん、私にも理解できるけどさぁ、それ今言っちゃダメでしょ」

 

「まぁそれくらい好きって事で。アルフさん、機嫌直してください」

 

アルフは起き上がり、ゲオルギウスを抱き締めアヒル座りをしてぶくぶく茶釜をじっと見ている。

その姿、仕ぐさは完全に女の子であり、知っていなければ元が男であることがわからないほどだ。

 

「そんなうじうじしてたら無限連撃師(アンリミテッド・コンボマスター)の称号も泣きますよ?」

 

「それ、自分で名乗った覚えないです。私の戦闘を見たプレイヤーが面白がって付けたやつです」

 

アルフはゲオルギウスに視線を移し、撫でたりくすぐったりして遊んでいる。

 

「茶釜ちゃん、そのあんりみてっど・こんぼますたーってなに?」

 

「私達の元いた世界でのアルフさんの呼び名の一つだよ、他には〈夜戦無敗〉とか〈美女が野獣〉とか、〈凶詠唱者(バーサーク・キャスター)〉なんてのもあったっけ?」

 

他にも複数あるが主なものは今あげた四つだ、そんなことを考えていると昔の事を思い出してくる。

アルフと初めてあった時、こんな可愛いアバター作れるんだと思い、自分も可愛い外装にすれば良かったと少し後悔したり。

その後たっち・みーに助けられた経緯を聞いてギルドの皆で怒って、慰めて。

最初彼の戦闘を見た時、今ほどの精度は無かったがギルドの皆で驚いたものだ。

 

「物で釣るみたいであまりこの手は使いたくなかったけど仕方ないか」

 

そう言うと、アイテムボックスに手を入れ、腕輪を一つ取り出す。

腕輪の名前は〈溢れる奔流(ラピッド・フロー)〉、コンボを繋げると攻撃力が上がるが、カンストするとそれ以上攻撃力が上がらなくなる。この装備はそれを取り払い、攻撃を繋げる度無制限に攻撃力が上がるようになる課金ガチャの中でも〈流れ星の指輪(シューティングスター)〉と同等に排出率の低いアイテムだが、そもそもコンボをカンストさせたプレイヤーは自身が知る限りアルフしかいないため、運営が面白半分で作った物だろう。

 

「アルフさん、これあげるから機嫌直してください」

 

アルフはそれを受け取り、観察する。

 

「溢れる奔流ですか、確かに欲しかったアイテムですがこの世界では無意味ですよ?ワールドエネミーもいなさそうですし・・・・・・わかりました、このアイテムに免じて機嫌なおしますよ。茶釜さんちょっといいですか?」

 

アルフはゲオルギウスをベッドに下ろし、ぶくぶく茶釜を呼ぶ。

それに従いベッドに上りアルフに近寄ると、アルフに抱き締められた。

 

「アルフさん?」

 

アルフの身体が密着し、胸や体の柔らかさが伝わり、良い匂いがする。

いろいろしたい衝動にかられるがまた機嫌を損ねられたら嫌なので我慢する。

 

しばらくするとアルフの口から言葉が紡がれる。

 

〈耐性突破・炸裂する痺れ(バースト・パラライズ)

 

「イタタタタ‼」

 

足を中心に激しい痺れが襲う。

 

「なにこれ!、懐かしい感覚だけど凄く痛い‼」

 

「茶釜さん、少しの間私のおもちゃになってください」

 

アルフはぶくぶく茶釜を離し、ベッドに下ろし、手をうねうねと動かす。

 

「え、ちょっと。アルフさん?いったい何を?」

 

 

この後アルフにめちゃくちゃ足を揉まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、気がすみました。写真を流すのであれば一度僕に見せてください、こっちとしても心の準備があるので」

 

「はひ・・・・・」

 

アルフは何か吹っ切れたような清々しい表情をし、ぶくぶく茶釜はベッドの上でビクンビクンと痙攣している、スライムの体には筋肉はなく、どういった原理で痙攣しているか気になるが、今はアルフの機嫌が戻ったことを喜ぼう。

 

「茶釜ちゃん、大丈夫?」

 

「・・・・・・面白そうだからって途中参加してきた貴女に言われてもねぇ」

 

とりあえずアルフの写真の受け渡しは本人の見ていない所でしようと心に刻む事にした。




設定

炸裂する痺れ(バースト・パラライズ)
体の一部に麻痺を発生させて行動を阻害する。


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第61話

ナザリック地下大墳墓 第九階層 執務室

 

そこには紙をめくる音のみが響き、消えていく。

リザードマン達を配下に加えてから余裕ができたアインズは、シモベやアルフ達から上がって来る情報をまとめた書類を確認していく。

 

情報の中にはアルフがアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇に入ったことや、蒼の薔薇の中にプレイヤーと面識が有る者の情報も記載されている。

 

「アインズ様、少しよろしいでしょうか?」

 

「ん、どうした、ユリ。何か気になる情報でも見つけたか?」

 

書類から目を離し、声のする方へと視線を向ける。

そこには姿勢を正したユリの姿があった。

 

「いえ。私がアインズ様の御手伝いを始めて既に八時間が経過しております、お休みになられてはいかがでしょうか?」

 

アインズは机の上に置いてある時計を確認する。時計は朝五時を示しており、書類を読み始めて日を跨いでいるとは思わなかった。

 

「すまないな、長い間付き合わせて。皆に休みや休憩を取るように言ったが、言い出した本人がそれをおろそかにするとは。アンデッドは疲労がなく、睡眠が不用ゆえに時間感覚が狂いやすいな・・・・・・ユリよ、私は自室に戻って休む、お前も休憩をとるがよい」

 

「畏まりました」

 

「ああ、聞くのを忘れていた。アルフさん達は今何をしている?」

 

「アルフィリア様はアルベド様の部屋でドレスの最終調整を。ぶくぶく茶釜様はアルフィリア様と一緒に。ペロロンチーノ様はシャルティア様の所におられます」

 

「そうか、昼餐会とやらは明日だったな。引き止めて悪かった。行ってよい」

 

「失礼いたします」

 

ユリはそう言って一礼し、執務室を出ていった。

 

 

「休むと言っても疲労はないし、寝ることもできないからなぁ・・・・・・とりあえず茶釜さんとアルフさんの様子でも見に行ってみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓 第九階層 アルベドの私室

 

国王主催の昼餐会が明日に迫り、アルベドの作っているドレスの最終調整を行っており、アルフはドレスを着てアルベドが細かな所を縫っていく。

 

「今さらですが、私でよろしかったのでしょうか?」

 

「何が?」

 

「私の裁縫スキルは低く、見た目だけなら完璧に出来ますが、素材を十分に生かせずランクの低い物になってしまいます」

 

「その事か。今回は見た目重視だから形さえ整っていれば大丈夫だよ。錬金術でも作れないことはないけど細かい所の調整はできないんだ。それに、ナザリックで裁縫できる者は居ないかデミウルゴスに聞いたらアルベドを推してきたから」

 

「そうでしたか。あと少しで終わりますのでもう暫くお待ちください」

 

 

 

それから少ししてドレスが仕上がった。

アルフは姿見に自分の姿を映す。

 

ドレスは胸元が開いており、濃紺で膝の辺りから右裾の方へと紫、朱、オレンジと夕暮れ時のようなグラデーションがかかっている。そこに漆黒のストールを纏って完成する。

 

「んー、アルフさんに似合ってるんだけど、もっと派手でも良いんじゃない?こう、キンキラでピカピカした感じで」

 

ぶくぶく茶釜がアルフを観察しながらそう言う。確かに映画等に出てくる貴族のほとんどは成金趣味全開のキラキラしているが、アレは大袈裟に表現したものだろう、と思いたい。

 

「そう言うのは私の趣味じゃないから、このままで良いよ。後はアクセサリーを2つほど」

 

アルフはそう言いながらアイテムボックスに手を入れ、ペンダントと腕輪を取り出す。

ペンダントは紅い宝石を包むように蒼水晶とスターシルバーで細かな細工がされており、ヒヒイロカネで作られた腕輪には黒曜石の鎖が付けられ、その先に宝石が付いている。

その両方に共通しているのは見ていると引き込まれるような血のような深紅の色をし、透き通っている宝石が使われており、その宝石は脈動する淡い光が灯されている。

 

「アルフさん、それって龍血晶(ドラゴン・ブラッド)?」

 

「そうですよ」

 

アルフはそれを身に付け、改めて姿見を見る。

身に付けたアクセサリーは違和感がないほど馴染んでいる。

 

「こっちの世界だとそうなるんだ。私も龍血晶でアクセサリー作っとけば良かった」

 

「ならこれあげますよ」

 

そう言いながらアイテムボックスからバスケットボールくらいの大きさの紅い結晶を取り出し、ぶくぶく茶釜に手渡した。

 

「デカっ‼何これ、本当に龍血晶?」

 

ぶくぶく茶釜が驚いているのも仕方ない。龍血晶はドラゴンを狩ると稀にドロップするのだが、だいたいが手の平に収まるサイズしか落ちない。錬金術で複数の結晶をまとめるのは手間がかかるので割りに合わなかったりする。

 

「合成無しの本物ですよ。ゲオルギウスがたまに持っていることがあるので、それを貰ってるんです」

 

「え、それってゲオルギウスが龍血晶を作り出せるってこと?」

 

「はい。この世界に来て初めて血晶を作るところ見たけど、びっくりしましたよ。いきなり体をモゾモゾ動かしたと思ったらいきなり口から吐き出すんだもん」

 

「それ知ったらアインズさんが欲しがりそう」

 

「その点は大丈夫です、前にあげませんよって釘刺しましたから」

 

そんな話をしていると、部屋の扉がノックされ、外からアインズの声が聞こえる。

 

『アルベド、そこにアルフさんと茶釜さんはいるか?』

 

「はい、お二方ともおります」

 

『うむ。少し話したいことがあるので入ってもよいか』

 

「あ、アインズ様が私の部屋に・・・・・・少々お待ちください!」

 

アルベドの顔が惚けたあと、慌てて部屋を片付け始め、アインズ抱き枕やぬいぐるみをベッドの中に入れていく。その時アルベドが頬を赤く染めていたが、たぶんアインズを模した物を自分のベッドに放り込む事で、本物をそうしてみたい、と言う思いでも湧いてきたのだろう。

 

「お待たせしました。アインズ様、どうぞ御入りください」

 

アルベドが扉を開け、アインズを部屋に入れた。

 

「うむ、早い時間にすまないな」

 

「いいえアインズ様、私は何時でも大歓迎です!」

 

アルベドの瞳は情欲に濡れ、今にもアインズに襲いかかりそうな雰囲気を纏っているが、何やらこちらを見てどうしようか迷っているようだ。

こちらとしてはそのまま襲ってことに及んでも構わない、むしろその方が面白そうだが、こう言ったときには過剰な読みの深さは発揮されないのだろうか。

 

 

「・・・・・・あ、ああ、そうだ。アルフさんに話があるんだった」

 

アインズは身の危険を感じたのか少し後退り、アルフに話をふった。




誤字の指摘ありがとうございます。



【挿絵表示】

ドレスとアクセサリーのイメージはこんな感じです。
絵にもっと表現力がほしいです。


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第62話

翌日

 

あれからアインズは、少し情報交換しただけでアルベドの部屋を出ていってしまった。

後でメッセージで聞いてみたところ、アルフ達の様子を見るために来たがアルベドが発情気味だったため、即時撤退を選択したそうだ。

 

そして今は王都の家でぶくぶく茶釜とマリアにドレスの着付けを手伝ってもらっている。

 

「ねぇ、アルフさん。私も王城行っていい?」

 

「どうですかね、私は連れていきたいですけど王城の検問で引っ掛かりそうな気がします。その辺りは迎えに来るストロノーフさんに聞いてからでないと」

 

「やっぱりそうなるか。王城のパーティーで出てくる食事楽しみにしてたんだけどなぁ。着付け、終わりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

アルフは姿見に自らを映す。

 

「うん、昨日も思ったけどよくできてる。じゃあ行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロ・レンテ城 昼餐会会場

 

広さ40㎡ほどあり、所々テラスへと出られる扉がある広間、その天井からは豪華なシャンデリアが吊るされ、永続光(コンティニュアル・ライト)の光を反射して辺りを照らしている。その明かりの下では豪華な服や宝石で身を飾った貴族達が、思い思いに食事をとったり、仲の良い者同士集まって会話をしている。

 

「まったく。たかが小娘一人のために本当にこんなパーティーを開くとは。王は何を考えている」

 

「おい、あまり大声で言うと聞こえるぞ」

 

その男が視線を向けた先にはリ・エスティーゼ王国国王、ランポッサ三世が挨拶に来ている貴族達に対応している。

 

「そうだな。だが事実だろう?少なくとも貴族派のほとんどはそう思っている」

 

そう話し込んでいると城の外が騒がしくなり、テラスに出ていた貴族達も何やら下階を覗きこんでいる。

 

「ん?なんだ、外が騒がしいが」

 

「大方どこぞの大貴族が来たんだろ。にしてもラグナライトとか言う小娘はまだ来んのか、もし噂通りの美しさなら妾にしてやってもいい」

 

「ははは、前にも聞いたな。それはいいかも知れんがむりかもな。そのラグナライトと言う小娘は貴族並に資産を持っているらしい、しかも冒険者だから権力には興味なし。特定の男性はいないらしいが噂通りの美しさならそれに釣り合う者でなければ付き合うことすら不可能」

 

「それは暗に私を醜男だと言っているのか?」

 

「ははは、その台詞は顎の下の肉を落としてから言ったらどうかね?」

 

そんなやり取りをしていると、何やら広間の入口辺りが騒がしくなってきた。

 

「さっき外で騒がれてたやつか?」

 

そして、騒ぎの的となっている人物が広間に入った瞬間、彼女を見た貴族達が止まった。

 

入って来た女性の顔は整っており、銀色の縁を持った眼鏡をかけている。彼女は艶のある黒髪を軽く三つ編みで束ね、ドレスは夕暮れ時の空を切り取って作られたと錯覚するような美しい物であり、その胸元と手首には見たこともない輝きを灯した宝石が身に付けられ、右肩にはドラゴンを模して作られた大きめの装飾品が付けられている。

 

「あれは、どこの貴族の御息女だ?」

 

「もしかして、どこかの国の姫か?」

 

「誰か面識のある者はいないか」

 

そんな感じの小さな話し声が辺りから聞こえ始める。

 

 

 

「美しいな、本当に誰か面識はないのか?」

 

「いないみたいですね。それにしても蒼の薔薇がエスコートとは、かなりの要人と言うことか・・・・・・本当にどこかの国の姫かも知れませんね」

 

彼女はコツコツとヒールの音を響かせ颯爽と歩いていく。その歩く姿にはブレはなく、背に一本筋が通っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前

 

アルフはぶくぶく茶釜を膝に乗せてゲオルギウスの背に座り、王城へと続く大通りをガゼフと共に移動していた。

 

『茶釜さんも王城行けて良かったですね』

 

『ええ、まさか国王が私のこと見たいって言うとは思わなかった』

 

二人は周りに人目があるのでメッセージを使って先程のことを話している。

 

店に迎えに来たガゼフにぶくぶく茶釜を連れていっても大丈夫か聞いたところ、

「大丈夫だ、と言うより王がラグナライト殿が使役しているドラゴンとスライムも見てみたい、と言っているのでぜひ来てほしい」と言っていた。

 

『にしても、視線がすごい集まってる気がする』

 

辺りをみるとすれ違う人々や露天で買い物をしている人達の視線がアルフに集まっている。

 

『それは仕方ないですよ。アルフさんみたいな美女が、伝説や神話で強者としているえがかれるドラゴンに乗ってるんですよ?注目集めない方がおかしいですよ』

 

アルフは視線を意識しないようにし、進行方向を向く。

そこには王城への入口があり、その脇の停留所には様々な馬車が止まっており、城門には短い列ができていた。たぶん危険物の持ち込みがないか、招待状を持ってきているかをチェックしているのだろう。

 

ゲオルギウスを降りて小さくして肩に乗せ、ぶくぶく茶釜を抱え直し、アルフもその列に加わる。少しすると順番が回ってきた。

 

「招待状の御提示をお願いします」

 

アルフは招待状を取り出し、警備兵に渡す。

 

「確かに。では先に進んでください、そこで危険物を持ち込んでいないか魔法で確認いたします」

 

兵の言葉に従い先に進む。順番を待つ間暇なので後ろに着いてきているガゼフに話しかける。

 

「ストロノーフさん、検問っていつもこんな感じなんですか?訓練の時は簡単に入れてもらえたのですが」

 

「いつもと言うわけではない。今回は王主催の昼餐会、当然そこには王が来ることになる、それを狙って危険人物が紛れ込むかも知れないからな」

 

「そうですか。王城勤めって大変なんですね」

 

そんな話をしていると順番が回って来た。

 

「ここでは魔法による身体検査をおこないます。〈魔法探知(ディテクト・マジック)武器探知(ディテクト・ウェポン)〉」

 

目の前の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が魔法を発動し、何かを見つけたのか顔をじっと見てくる。

 

「失礼ですが、その眼鏡を鑑定してもよろしいでしょうか?」

 

「かまいませんよ。一応付与されているのは文字識別の魔法です」

 

「〈付与魔法探知(ディテクト・エンチャント)〉・・・・・・確かに。では先にお進みください」

 

アルフ達は門を無事通過し、王城へと入った。



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第63話

城の外壁の検問を通過すると、そこにはドレスを着たラキュースがいた。彼女は腰に装飾剣を帯刀している、たぶん護衛も任されているのだろう。

 

「こんにちは。戦士長、ここからの彼女のエスコートは

私がつとめよう」

 

「そうか、では俺は城の警備に戻る。ラグナライト殿、後程」

 

そう言うとガゼフは王城へと入っていった。

 

「アルフィリア、そのドレスすごく似合ってるわ」

 

「ありがとうございます。ラキュースさんも似合ってますよ、いつもと雰囲気が違って新鮮な感じがします」

 

「そう?」

 

ラキュースはそれを聞き、自分が着ているドレスを確認している。

 

「じゃあ行きましょう」

 

そう言いながらラキュースはアルフの前を歩いて城の中に歩を進めた。

 

 

 

城の中に入りまず目に入ったのは、豪華な衣服を身に纏い、様々な宝飾品で着飾った貴族たちだった。

 

城の一階、おそらくそこは待合室として使われているのだろう。後から来た人が談笑していた集団と合流し、広間の奥の階段を上がっていく。

 

アルフとラキュースはその中をコツコツとヒールの音を響かせてその中を歩いていく。

通りすぎたあと、先程の談笑とは違うざわざわとした話し声が聞こえる。話の内容は主にアルフに関するものだ。

「彼女はいったい誰なんだ?」「どこの貴族の御令嬢だ?」等、他にも聞こえるが思い聞こえるものはこの二つだ。

 

『アルフさんはどこに行っても人気ですね。中には劣情を催している人もいるかも知れないなぁ』

 

メッセージでぶくぶく茶釜の楽しそうな声が伝わってくる。

 

『それ言わないでくださいよ。意識しないようにしてたのに・・・・・・』

 

自身に向けられる視線は好意的なものだけじゃないのはわかっている。劣情、欲望、嫉妬、様々な感情が入り雑じった視線、なれたつもりではあったが、完全に意識の外にやるにはいたらなかったようだ。

 

そんなことを考えながら広間を通過して階段を上る。

階段を登り終えた所で抱いていたぶくぶく茶釜を降ろした。

 

「えっと、確かまずは王様に挨拶してから貴族達と交流、少ししたら王女様の所に行くんでしたっけ?」

 

「ええ。ちょうど良い頃合いで連れ出すから、それまでゆっくり食事してて良いわ」

 

そう言うとラキュースは階段を上がってすぐの所にある大きな扉を開け、軽く一礼して手を差し出した。

 

「さぁ、アルフィリア。お手をどうぞ」

 

その姿は映画で見た紳士が淑女をエスコートするすがたと被った。もしラキュースが男性でも惚れていたかもしれない。

 

アルフはラキュースの手をとり、彼女に引かれ、広間へと入った。

 

 

 

広間に入ると、皆がこちらを見てざわめき始めた。

 

ここにいる貴族達は皆豪華な服や宝飾品で着飾り、天井から降り注ぐ永続光(コンティニュアル・ライト)の光を反射し、光り輝いている。

 

アルフはその中をラキュースに手を引かれ国王の下へと歩いていく。

 

 

 

 

 

国王は一段上がった壇上に立っており、その後ろにはガゼフが控えている。

国王前に着くとラキュースは手を離し、王に一礼しアルフの後ろに下がった。

 

「国王陛下、御初にお目にかかります。私はアルフィリア・ルナ・ラグナライトと申します。この度は昼餐会への招待ありがとうございます」

 

アルフはそう言いながら、昔見た映画に出てきた深窓の令嬢を真似てスカート部分をつまみ、腰を落とすように一礼する。

 

「おお、貴女が。カルネ村の件は心から礼を言う、この国の民と戦士長達を救ってくれてありがとう」

 

そう言うと、国王は頭を下げた。

 

「頭を上げてください。誰かが困っていたら助けるのは当たり前、私を救ってくれた知人の言葉を思い出してそれを行っただけです」

 

「ありがとう。ささやかなお返しですまないが、この場には商業や流通を生業にしている貴族達もいる、そのもの達と交流を深めることは貴女にも益になると思ってな」

 

「王よ。貴族達との交流が粗方終えたらアルフィリアをラナー王女に紹介しようと思うのだがよろしいだろうか?」

 

「構わないとも。娘も同じ年頃の知合い、友が出来るのは良いことだ」

 

「では、失礼します」

 

アルフとラキュースは一礼し、国王の前を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれがアルフィリア・ルナ・ラグナライトか。噂以上の美女だな、冒険者どもが詳細を教えんわけだ」

 

視線の先では、王に挨拶を終えたアルフィリアを貴族達が取り囲み、我先にと取引を持ちかけたり、求婚する者もおり、芸術家連中もあわただしく動いている。

 

「ですな、あれほどの女性であればどこぞの貴族がかっさらって手篭めにしてもおかしくはない。そう考えるものも出てくるだろう」

 

「だが本人は金級でも相手は蒼の薔薇所属の冒険者だ、そう簡単には手出しできまい?それにしてもすばらしいドレスとアクセサリーだな。あの娘の美しさに負けず存在感を放っている」

 

「ああ、私も気になっていた。おそらくどこかの遺跡で見つけたものだろう、あれほどの物であれば神代の物だと言われても信じてしまいそうだ」

 

そう話している後ろ、壁際で彼女を下卑た目で見る人影があった・・・・・・。





【挿絵表示】


【挿絵表示】

載せるのが遅くなりましたがrenDK様が描いてくださいました。


誤字脱字の指摘ありがとうございます。




今回いろいろ考えすぎて、結局どうしようもできなかったです。

そろそろ日常回を終えて対八本指に移りたいです。


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第64話

アルフが貴族達と交流しているのと同時刻。

 

エ・ランテル 某レストラン。

アインズ、ペロロンチーノ、クレマンティーヌ、ナーベラルはそこで食事をとっている、と言ってもアインズは食事をとれないので見ているだけだ。

 

なぜクレマンティーヌがここにいるかと言うと、アルフは彼女を昼餐会に誘ったが

『私、ドレスとか柄じゃないし、堅っ苦しいの苦手だからパス。留守番も暇だからアインズさんの所で暇潰ししてる』との事で今こうしてここにいる。

 

「そー言えば、モモン様達はこれからどうするの?あー・・・・御主人様と合流するの?」

 

クレマンティーヌは動かしていた匙を止めてそう聞いてきた。途中アルフの事をあーちゃんと呼ぼうとしたがナーベラルに睨まれ、言い直している。

 

「そうだな、ここでやることは粗方終わった。もう少ししたら王都に行く予定ではあるが、アルフさんと合流するかはまだ決めていない。それと、様付けはやめてくれないか?」

 

「そうしたいのはやまやまなんだけどねぇ・・・・・・」

 

そう言いながらナーベラルを横目で見ている。

 

「私はこれでも譲歩しているのですよ?至高の御方々への口の聞き方、アルフィリア様の眷属でなければ今頃ミンチになっています」

 

「ナーベ、私達は構わないと何度も言っているだろう。それにそういった口調の方が好ましい、お前もクレマンティーヌ程とは言わないがもう少し砕けた感じで話せないか?」

 

「ですがモモンさ・・・・ん、それでは至高の御方々に失礼です」

 

忠義をつくしてくれるのは良いが、ここまで頭が固いとは。他のシモベ達にも言えることだがもう少し柔らかく考えられないものか・・・・・・。

 

「その辺りはゆっくりと考えるとして。ペロロンチーノさんはアルフさんとの合流どう考えてます?」

 

「俺は合流しても良いと思うけど。そういえば、アルフさんは今頃王城で豪華な食事を食べてるのかなぁ、俺も昼餐会出たかった」

 

「まだ言ってるんですか。今は鎧を着てるから嘴や翼、羽毛は装飾品だって誤魔化せてますが、俺とペロロンチーノさんが正装したら正体露見のリスクが高くなるんですから」

 

「デスヨネー。こんなことになるって知っていたら人間の姿をとれる種族選んどけば良かった」

 

ペロロンチーノはそう言いながら食事を進めていく。

 

彼の言うことも理解できなくもない。自身もこの世界に来ると知っていれば食事をとれる種族を選んでいただろう。仲間が食事している姿を見ているとその思いが強くなる。リアルでは今まで一人で栄養補助合成食とサプリメントをとるだけだった。

皆と一緒に食卓を囲み、一緒に食事が出来たらどれだけ楽しいか。

 

アインズはそう思いながら、これからの予定を組み立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王城 ロ・レンテ城 ヴァランシア宮殿通路

 

そこを並んで歩く女性が二人、一人はラキュース、もう一人はぶくぶく茶釜を抱えたアルフだ。

 

「それにしても、さっきは大変だったわね。私もあんなことになるとは思わなかった」

 

ラキュースは笑いながらそう言ってくる。

さっきとはあの事だろう。

 

昼餐会会場の広間でアルフは貴族達の相手をしていた。話の内容は交友を持つため、商談をするため、求婚といろいろあった。

 

貴族達と談笑し、求婚を断り、商談などを進めているとき、それは訪れた。

アルフの前に現れたのは画家をしている貴族の家系の者らしい、その人は貴族達の間でも有名らしく幾人も肖像画を頼んだりしているようだ。

 

そんな彼が話しかけてきた理由は「貴女の絵を描かせてほしい」と言うものだった。アルフはそれを了承したのだが、その後から複数人の画家が名乗りをあげ、広間で写生大会が開催され、食事をとることができなかった・・・・・・。

 

「笑い事じゃないですよ、あれのせいで料理食べられなかったんですよ?」

 

その辺りは心配していなかったりする。アルフが絵を描かれている間、ぶくぶく茶釜に頼んで料理を箱詰めにしてもらっている。

 

「ごめんなさい、今度私のおすすめの所に食事につれていってあげるから」

 

「それで、お姫様は私にどんな用事があるのでしょうか?」

 

「その辺りの詳しい話はラナーから聞いて、この件に関してはあまり口外出来ないから」

 

口振りからすると、何かしら秘密裏に進めている事があり、おそらくそのために双子の片割れを偵察に出しているのだろう。

 

「着いたわ」

 

考えているうちに目的の部屋の前に着いた。

ラキュースはノックしてから、扉を開けなかに入った。

 

「ラナー、アルフィリアを連れてきたわ」

 

ラキュースの後に続きアルフも部屋に入り、扉を閉めた。

 

部屋の中には様々な調度品が置かれ、部屋の中心には丸いテーブルと4つの椅子が置かれている。

その椅子の内二つは既にうまっており、片方には黄金の髪をした美しい女性が座り、もう片方はクライムが座っている。

テーブルの上にはティーセット一式と高級そうな茶菓子が並び、ティーカップからは湯気が立ち上っている。

 

「ラグナライト様。私はラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します」

 

ラナーは一礼した後、空いていた二つのカップに紅茶を入れるよう、部屋のすみに待機していた執事に告げ、それが終わると彼を退室させた。



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第65話

自己紹介と挨拶を終え皆が椅子に座った時、アルフの耳はちょっとした物音を捉えていた。

 

「ラナー王女殿下、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

 

「構いませんよ。それと、私のことはラキュースと同じようにラナーと呼び捨てでお呼びください、私もアルフィリアとお呼びしますので」

 

ラナーはそう言いながら無邪気な笑みを浮かべている。

 

「わかりました、ラナー・・・・」

 

「アルフィリア、ラナーのことは呼び捨てにするのね。私もさん付けで他人行儀な感じではなく親しげに呼び捨てで呼んで欲しいわ」

 

「善処します・・・・」

 

アルフとしてはラナーの雰囲気に飲まれてつい呼び捨てで呼んでしまったが、ラキュースはそれが少し気に入らなかったようだ。

 

「それで、質問とはなんでしょうか?」

 

「あ、はい。ラキュースから何か内密な話があるとお聞きしたのですが、ここでその話をするのでしょうか?」

 

「はい」

 

その返事と共に、アルフが捉えていた気配が動く感じがした。

 

「・・・・・・このままだと少し無用心なので魔法を使わせてもらいます。〈妖精達の囁き(フェアリーズ・ウィスパー)〉」

 

魔法が発動し、部屋の中が淡い光で満たされていく。

 

「この魔法は?」

 

「この魔法は認識阻害系の魔法です。効果は魔法の範囲外の者には範囲内の声がなんの意味もないモノに聞こえる、というものです。この部屋の隣で何人か聞き耳をたてている方がいるようなので使わせてもらいました」

 

「そうでしたか。これなら回りくどい言い方ではなく、直接言葉にしても問題無いですね」

 

そう言うとラナーの顔から笑みが消え、真剣な顔に変わった。

 

「アルフィリアはライラの粉末、または黒粉と呼ばれるものはご存知ですか?」

 

「確かこの国で最も出回っている麻薬ですよね」

 

「はい。この麻薬の大半を流しているのは八本指と言う犯罪組織です。

ラキュースにはその麻薬を作っている場所を潰してもらっているのですが、それを貴女に手伝ってもらいたいのです」

 

「私にそんな重要な事を頼んでもいいのですか?」

 

「ええ、貴女の事はラキュースからいろいろ聞いてます、彼女が信頼しているのなら任せても大丈夫だと判断しました。お受けしていただけますか?」

 

「・・・・・・はい、お受けいたします」

 

そんなとき、窓からスルリと入ってきた人物がいた。

クライムはそれに反応し、腰に下げている剣に手をかけるが、それが誰かわかると剣から手を離して姿勢を戻した。

 

「リーダー、偵察任務終わった」

 

「ありがとう、ティナ」

 

ラキュースはティナから報告書を受け取り、さっと目を通していく。

 

「ラキュース、その子がティナですよね」

 

「ええ。ティナこの子が新しく蒼の薔薇に加わったアルフィリアよ」

 

「リーダーとティアから話は聞いている。ティアのお嫁さん候補」

 

「・・・・・・ラキュース、この子とティアの中で私はどうなってるの?」

 

「たぶんお嫁さん候補で覚えられてるわね」

 

ラキュースはあきれたようにそう言った。

 

 

 

 

 

「それで、八本指の事だけど。私はこの地に来て日が浅いので詳しく教えて貰えますか」

 

アルフの質問に二人は答えてくれた。

 

八本指は王都を中心に活動し、奴隷売買、麻薬取引、暗殺、密輸等を生業とし、リ・エスティーゼ王国の裏社会を牛耳っているそうだ。

 

そして、組織の厄介なところは様々なところにコネを持ち、その範囲は貴族や王族にまで広がっているため下手に手出しできず、ラキュース達に秘密裏に潰してもらっているが、それもしばらくたてばほかの場所で同じ事が繰り返される。

 

他にも八本指が行っている悪事の数々が二人の口から語られた。

 

 

 

「・・・・・・」

 

「アルフィリア、大丈夫?恐い顔してるけど・・・・・・」

 

「え、うん。大丈夫」

 

無意識のうちに表情が変わっていたようだ、握り締めていた手を開くと爪が食い込んだ痕があり、血が滲んでいる。

深呼吸をして心を落ち着かせようとするが、八本指への怒りはまだ燻っている。今までの自分であれば不快に感じることはあれ、ここまで憤る事はなかったはずだ・・・・・・。

 

「手から血が出てる、手当てするから手を見せて」

 

ラキュースが心配してティナからポーションを受け取り、手を差し出してきた。

スキルを使えば傷はすぐに消えて無くなるが、ラナーの前でそれをやるのはまずいので素直にラキュースの手当てを受けることにした。

 

「ありがとう」

 

「お礼なんていらないわ、仲間じゃない」

 

ラキュースはポーションを指に付け、傷口に塗る。

塗って少しすると傷が消えて無くなった。

 

「治ったわよ。話が止まってしまったわね」

 

「私のせいですみません」

 

「謝らなくていいわ、八本指の犠牲になった人のために怒ってくれたんだもの。私はこれから作戦を練るから先に帰るわね、今夜貴女の店に行くから開けておいてね」

 

そう言うとラキュースはティナを連れて部屋から出ていった。

 

 

「クライム。アルフィリアと二人きりで話したいので席を外してもらえますか?」

 

「ラナー様、それだと警備の方が・・・・・・」

 

「それなら大丈夫です。アルフィリアがいますから」

 

「わかりました」

 

クライムはしぶしぶといった感じで、ラキュースの後を追うように部屋を出ていった。

 

 

 

 

部屋に残ったアルフとラナー、先に口を開いたのはラナーだった。

 

「単刀直入に言います。貴女は、いいえ、貴女達は十三英雄、六大神と同質の存在ですね?」

 

「・・・・なぜ、そう思われたのですか?」

 

「そうですね。幾つか要因はありますが、1番大きなモノは貴女のその強さです。

戦士達を追い詰めた集団を撃破し、200を超えるモンスターの群れを一撃のもとに壊滅させる。

それは並の人間には出来ないことです、できるとすればおとぎ話で語られるほどの強さが必要です」

 

「それで十三英雄、六大神ですか。だけどモンスターを倒したのはこの子ですよ」

 

そう言いながらアルフは肩に乗るゲオルギウス指差す。

 

「はい、それも要因の一つです。それほどの力を持つドラゴンは普通の人間には従いません」

 

「それで、ラナーは私をどうしたいのですか?」

 

ラナーはそれを聞き、小さく笑ってから言葉を発する。

 

「そう警戒しないでください。ちょっとしたお願いを聞いてほしいだけです」

 

「お願い、ですか?」

 

「はい。私はクライムが好きです、首輪を着けて鎖で繋いでおきたい程に。

ですが、私とクライムには身分と言う大きな壁があります、私はその内望まぬ結婚をさせられるでしょう。もし、クライムと添い遂げられるならこの国を捨てても構いません。ですから貴女にはいつの日か、この国から私とクライムを連れ出して欲しいのです」

 

一部おかしな部分はあるが、ラナーの純粋で真っ直ぐな思いが伝わって来るようだ。

 

「・・・・・・あー、私個人としては応援したいのですが。一国の王女様をどうこうするのはいろいろ問題があるのでしばらく保留してもいいでしょうか」

 

「はい。私も無茶な事とは思っておりますので」

 

「ありがとうございます。お詫びと言ってはなんですが、これを受け取ってください」

 

そう言いながらラナーから見えないようにアイテムボックスからブレスレットを取り出した。

それは紅く透き通った龍結晶で作られた細い鎖に黒龍の牙を付けたものだ。

 

「それは?」

 

「これは私が作ったマジックアイテムで効果は毒無効、精神支配無効です」

 

アルフはそのブレスレットを両手で包み、最近独学で学んだこの世界の魔化法で自分の魔力を追加し耐久性を上昇させる。

 

「これを貴女を連れ出すと言う約束の品としてお受け取りください」

 

「ありがとうございます。貴女の素性に関しては誰にも言いませんので、心配しないでください」

 

ラナーはブレスレットを受け取り、大事なものを抱き締めるような両の手で包み微笑んだ。




アルフにとってのラナー
真っ直ぐで正義感はあるが、妙な性癖を持つデミウルゴス系のお姫様

ラナーにとってのアルフ
新しく加わったクライムと添い遂げるために必要な強力な手駒


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第66話

昼餐会のあった日の夜更け、誰もいない真っ暗な路地裏を歩く人物がいた。

 

昼餐会でアルフに下卑た視線を向けていた男、巡回使をしているスタッファン・ヘーウィッシュ。

その男は布に巻かれたキャンバスを抱え、ある場所に向かっていた。それは自分の欲望、美しい女をぼろぼろに壊して抱くと言う性癖を満たしてくれる場所に。

 

そこで一つ疑問が出てくる。何故、たかが巡回使である彼が国王主催の昼餐会に参加できたか。それは、巷で噂の美女が昼餐会に来ると耳にし、主人である貴族に頼み込みコネで参加することができた。

貴族に払った金額を考えると頭が痛いが、あの黄金と称される姫と同等かそれ以上の美女がこの王都に居ると知れただけでもそれだけの価値はあった。

 

やがて目的の建物に着き、重そうな鉄の扉をノックする。

少しすると扉が開き、中から一人の男が顔をだした。

 

「これはこれは、ヘーウィッシュ様。今夜はどのような女をご所望で?」

 

「それは後だ、コッコドールは居るか?」

 

「はい。今は六腕と警備の打ち合わせをしていますが、すぐに終わると思います。打ち合わせが終わるまで部屋でお待ちください」

 

「わかった、案内しろ」

 

 

 

 

 

 

 

案内された部屋で待っていると、部屋の扉がノックされた。

 

「入れ」

 

その言葉を聞き、扉が開かれた。

 

「ヘーウィッシュ様、今夜はどういったご用事で?」

 

入ってきた男は八本指の奴隷部門の長をしているコッコドールだ。

 

「まずはこれを見てほしい」

 

ヘーウィッシュは持ってきていたキャンバスにかけられた布を取り、その絵をコッコドールに見せた。

 

「ずいぶんな上玉ね、こんな娘実際にいるの?」

 

「ああ、この目で実際にみた。この絵は画家達が描いた絵の中で最も似ているものを買い上げたが、これでもあの美しさを表現しきれていない。

それで頼みと言うのはこの娘を奴隷に堕してこの店で私の相手をさせてほしい」

 

「これほどの上玉ならかなり稼げるけど、一回で壊すつもり?」

 

「そんなもの、魔法でもポーションでも使えばどうとでもなる。これほどの女だ、治すのに多少かかるかも知れないがすぐに元はとれるだろう」

 

「それで、この子の情報は持ってる?」

 

「もちろん。この女は蒼の薔薇所属の冒険者だが、本人は金級の冒険者と言う話だ」

 

「蒼の薔薇ねぇ。冒険者なら一人消えても問題はないけどアダマンタイト級のチーム所属となると難しいわね」

 

「金は成功したらそれなりに払う」

 

「わかったわ。私が抱えてるミスリルと同等のワーカーを五人程当たらせるわ。それで今夜はどんな女を呼びましょうか?」

 

「いつもと同じ、美しくまともな女を」

 

「わかりました、ではツアレと言う女を呼びましょう。あの子ならまだ比較的まともよ」

 

「名前などどうでもよい、すぐにでも連れてきてくれ」

 

「わかったわ」

 

そう言うとコッコドールは女を呼びに部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の午前十時頃、アルフは肩にゲオルギウスを乗せ、クレマンティーヌを連れて街を歩いていた。

なぜ、この時間帯にこんな場所にいるかと言うと。朝、店を開けようとしたのだが店の外には冒険者ではなく、男性の貴族達が群がっていた・・・・・・。

話を聞いてみると、告白とか求婚が主だったが中には取引の話もあった。

その後告白系は断り、取引は保留にして店から逃げ出して、街を見ていたクレマンティーヌと合流して今にいたる。

 

今回ぶくぶく茶釜は偶然様子を見に来たペロロンチーノと一緒に留守番をしている、出掛ける時にお土産として食べ物を頼まれたのでいくつか買っていく予定だ。

 

「あーちゃん、あの依頼受けて良かったの?まぁ、あーちゃんなら大丈夫だと思うけどさぁ」

 

たぶん昨日の夜行われたラキュースの作戦説明を盗み聞きしていたのだろう。

 

「今回はちょっとね・・・・・・それより、串焼きでも食べよ。おじさん、串焼きください」

 

アルフは串焼きを多めに買い、一緒に食べながら露店を見て回り買い物をしていたのだが、クレマンティーヌが時々立ち止まり辺りを見回している。

 

「どうしたの?」

 

「うん。何かつけられてる、人数は五人かな?」

 

「やっぱり気のせいじゃなかったんだ」

 

しばらく前から誰かにつけられているのを耳で捉えてはいた、待ち伏せは何度かされた経験はあるが尾行された経験は無かったため判断できずにいた。こういった事に長けたクレマンティーヌが言うなら間違いないだろう。

 

「やっぱり気付いてたんだ。で、どうする?撒く?」

 

「ちょっと考えがあるから、こっち来て」

 

そう言うと、アルフは人気の無い路地裏に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルフ達を追う人影が五つ。付かず離れず、相手に気取られぬように距離を取って取り囲んで人目の無いところに行ったら拐い、上司のところへ届ける。

何度も行ってきた事だ、相手は金級冒険者だが蒼の薔薇所属だ、いつもより警戒して見張役は建物の屋根に二人配置している。

 

しばらく標的を監視しているが、冒険者らしさがない。

街の中と言うのもあるが、それでも警戒心と言うものが全く感じられない。

後から加わったあの女の方がまだ冒険者らしい。

 

そんなことを思いながら監視を続けていると、標的が人気の無い路地裏に入っていった。

 

屋根に配置している見張役を見ると、異常なし、襲撃準備と指示が出た。

 

標的は路地を進み、大通りから離れていく。誘い込まれている気はするが、見張役二人がそろってOKを出したのだ、心配することはない。

 

路地に入って少しすると見張役から指示が出た。次道を曲がったら決行。手筈としては、屋根にいる見張役が標的の前に降りて奇襲をかけ、混乱しているところに後方から挟撃を仕掛ける、というものだ。

 

 

そして、決行の時が来た。

 

標的が道を曲がり、姿が見えなくなる。それを合図に音を立てないように走り、後を追って道を曲がる。

曲がった直後、目に映ったのは奇襲が成功した仲間の剣が金髪女の心臓を貫いている光景だった。

 

こちらも奇襲で混乱している隙に、標的を羽交い締めにして仲間が薬品を染み込ませた布で鼻と口を押さえた。

最初は抵抗していたが、次第に力が抜けていき最後には気絶した。

 

 

「意外に簡単だったな」

 

「ああ。蒼の薔薇と言っても所詮は金か」

 

縛り上げた標的である黒髪の美女と、心臓を貫かれ死体となった金髪女を見下ろしながら言う。

 

「そういえば、殺したり大きな傷を付けなければ味見して良いって話だったな。少し楽しませてもらおうか」

 

そう言いながら服を裂こうとしたとき、背後から声がかけられた。

 

 

 

「女性相手に酷いことしますね」

 

 

慌てて声のする方を見ると、そこには殺したはずの金髪女と標的である黒髪の美女が立っていた。



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第67話

「なっ?!」

 

どう言うことだ、見張役は目を離すことは無かったはずだ、なぜ標的が後ろから。

確か相手は魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ、ならさっきのは幻術の類いかとも思ったが、あれには質量があった。幻術は外観はどうにか出来るが感触や質量はどうにもできない・・・・・・。

 

「不思議そうな顔をしてますね、幻術に質量が有ったのがそんなに気になりますか?なら、その種明かしをしましょう」

 

黒髪の女がそう言った直後、変化が起こった。

倒れていた二人にかけられていた幻術が解け、人の大きさの藁人形へと変わった。

 

「何が目的なのか探るために囮を使いましたが、貴方達は何度も女性を拐っているようですね」

 

辺りの空気が変わった、例えるなら目の前に強大な魔獣が現れ、命の危機が迫っている時のようだ。

脳がこの女は危険だと警告を発している。

 

「皆、逃げ‼」

「逃がしませんよ?」

 

指示を出す前に先手をうたれた。

倒れていた藁人形が立ち上り、退路を塞がれた、路地を襲撃場所に選んだのが裏目に出てしまった。

 

「くっ!たかが藁人形、まっぷたつにしてやる‼」

 

持っていた剣を振り上げ、全体重を乗せて降り下ろして藁人形を袈裟斬りにしようと切り付けたが、バキンッ!と剣が折れただけで、藁人形を両断することは出来なかった。

 

「ではこちらの番ですね、〈集団標的(マスターゲティング)全種族魅了(チャームスピーシーズ)〉」

 

魔法が発動され、黒髪の女が数年来の友だと思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、友達。最近調子はどうですか?」

 

「ああ、お前だったのか。もちろん絶好調だ」

 

魔法が上手くかかったようだ。

 

「そういえば、何故私を襲ったのですか?いくら友達でもやってはいけないことがありますよ?」

 

「すまない。依頼でお前を拐うように言われててな、何故あの時断らなかったんだろう」

 

「まぁ、何も無かったから良いよ。それより誰に頼まれたか教えてくれませんか?」

 

「ああ、本当は教えたらまずいんだがお前なら教えても構わないか。俺達は八本指の奴隷部門長にお前を拐う依頼を受けたんだ」

 

「へぇ、貴方達はワーカーでしたよね。女性を拐ったりする犯罪はよく引き受けるんですか?」

 

「冒険者としての普通の依頼より実入りが良いから、それに拐った女は味見して良いって役得がたまにあるしな。まぁ危険はそれなりにあるが冒険者辞めて正解だったよ」

 

それを聞き、自分の中で燻っている怒りが再燃しそうになるがそれを押さえ込んだ。

 

「あーちゃん、こいつらどうするの?私がバラそうか?」

 

クレマンティーヌは顔に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「その必要はないよ」

 

「え~、久しぶりに拷問したい」

 

そう言いながらブー垂れている。

 

「今回は我慢して、その内拷問し放題の場所紹介するから」

 

そう言った後、アルフは〈メッセージ〉を発動させアルベドに繋いだ。

 

「アルベド、今ナザリックいるよね」

 

『アルフィリア様。はい、今はデミウルゴスと一緒に執務室であげられてきた情報を整理しております』

 

「仕事中ごめん、今からナザリックの表層に人間を五人送るからシモベ達にあげて、拷問するなり食べるなり好きにして良いよ」

 

『ありがとうございます、シモベ達も喜びます』

 

アルフはそれを聞いたあとメッセージを切り、新たに〈転移門(ゲート)〉を発動させ、魅了を支配に切り替え命令する。

 

「ゲートの中に入れ。転移後現れた人物に従え」

 

その命令を聞き、アルフの操り人形と化したワーカー五人はのそのそとゲートをくぐり転移していった。

 

 

 

「ずいぶん手慣れてるね、こういうこと経験無さそうだから意外。それにしても、この藁人形どうなってるの?」

 

クレマンティーヌは興味深そうに2体の藁人形を眺めている。

 

「その藁人形はゴーレムだよ。感触を実物に近づけるために胴体部分に人間に近い骨骼のモンスターの胴体を入れて、重さの調整でアダマンタイトの棒を埋め込んである。ちなみにこのゴーレムは今のクレマンティーヌより難度は15ほど上だったりします」

 

「この藁人形より私が弱いって何か複雑な気分」

 

「レベル上げすれば超えられるから心配しないで」

 

「え~、またあの退屈なスケルトン退治やるの?」

 

「そんな嫌そうな顔しないの。今度は私の私財はたいて同レベル帯のモンスターと戦わせてあげるから。じゃあ露店巡りの続きをしますか」

 

そう言いながら路地から出て大通りに出て、クレマンティーヌと一緒に露店巡りを再開した。

 

 

 

 

 

 

アルフが襲撃を受けた同時刻、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノはナザリックで作られたスナック菓子をつまみながらリビングでくつろいでいた。

 

「なぁ姉ちゃん。アルフさんにデミウルゴスの計画の事言わなくて良かったの?」

 

ペロロンチーノはそう言いながら皿に手を伸ばし、菓子を掴んで口に運ぶ。

 

「ん、アルフさんはカルマ値が善寄りだからね。前デミウルゴスの牧場の事説明されたとき怒りはしなかったけど不快って思ってるのが顔に出てたし、話しても大丈夫だと思うけど王城でのあの怒りようを見たらね・・・・・・」

 

そう言いながら王城での事を思い出す。

八本指のしている事に怒り、その感情が表情が顔に出ていた、その表情は怒れる魔王を連想させるほど怒気に満ちていた。

 

「そう言えばさ。今回の食事の時もアインズさんが羨ましそうに俺達の食事眺めてたんだけど、アンデッドの食事不要の特性どうにかならないかな。一緒に食事しながらワイワイ話したい」

 

「そうね、確かに。こっちの世界は食が豊富だもんね、ナザリックの食事はうまいし、この世界の料理も美味しいものが多いからなぁ」

 

「それでさ、俺たちでなんとか出来ないかな?アイテム使って」

 

「あんたにしては良いこと考えるじゃん。でもアンデッドの食事不要を無効にする装備となると神級(ゴッツ)は必要だしね。後はデータクリスタルか、宝物殿にはその手のデータは無かったはずだし、出ても不要だから売ったりしてたから・・・・・・」

 

「それならアルフさんはどう?」

 

「そうね、あの子ゲットしたクリスタル売らずに全部持ってるって言ってたから有るかも。それに錬金とマリアちゃんの彫金が使えるから器はなんとかなる。アルフさんが任務終えたら相談してみるわ」

 

ぶくぶく茶釜はそう言いながら皿に手を伸ばし、菓子を掴んでそのまま咀嚼した。



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第68話

八本指の下っ端が襲撃してきたその日の夜、アルフは蒼の薔薇と共に行動していた。

目的はもちろん、八本指が運営している麻薬栽培所を潰すこと。

手順は蒼の薔薇が潜入し、資料や辞令書、暗号文などを持ち帰り、その後ゲオルギウスで村に火を放って栽培中の麻薬や貯蔵されているものを焼却処分し、転移してもう2ヶ所同じように潰す。

 

そして今は最後である三ヶ所目、前の二ヶ所も〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉を使って見ていたが手際が良い、皆で連携をとり迅速に行動している。

 

三ヶ所目は前の二ヶ所より規模が大きく地下に隠し倉庫がいくつかあるらしく、ラキュースは作戦の説明時に出来るのであれば地下にある麻薬も燃やして欲しいと言っていた。

 

そんなことを思い出しながら、完全不可知化を使いティアの後を付いていく。

しばらくすると、一件の家の前でティアが止り中を確認すると、家の扉の鍵を開け中に入った。

 

ティアに続き中に入ると、そこには鎖に繋がれた全裸の女性が複数人いた。ティアは女性達の鎖を切り、大きめの布を被せていく。

 

恐らく近くの村から拐われてきたのだろう、よく見ると所々に痣があり、酷い扱いを受けていたことが見てとれる。

 

その光景を見て無意識に拳を握り締め、それを家の壁に叩きつけていた。

打撃を受けた壁が吹き飛ぶと同時、ティアの視線がこちらを向いた。

 

「・・・・・・アルフィリア、いるの?」

 

ティアの問に答えるように魔法を解除し、認識できるようにした。

 

「ティア。ラキュース達に、この村消し飛ばすから2キロ以上離れてって伝えてください」

 

そう言い、転移門(ゲート)を使って転移した。

 

 

 

 

 

 

 

捕まっていた女性達をイビルアイに頼んで安全な場所に転移させた後、村から少し離れた所でラキュース達と合流し先程あったことを伝えた。

アルフィリアが捕まっていた女性達を見たこと、この村を消し飛ばす事を。

 

「前の二つの村には居なかったけど、拐われてきた娘達を見てしまったのね。あの子の王城での反応見たときから少し心配だったけど、やっぱり八本指に対して怒りを抑えきれなくなったのね」

 

「しかしよぉ、この村けっこうでかいぜ。地下倉庫が何層もあるから、こちらとしては消し飛ばしてもらっても構わないが本当に出来るのか?」

 

「アルフィリアが言うなら間違いないと思う。イビルアイ、捕まってた人達はちゃんと逃がせた?」

 

「問題ない。保護を頼んだ村はここから30キロ以上離れてる」

 

「じゃあ合図を、その後村から3キロ離れたところに転移して様子を見ましょう。ティア、花火を打ち上げて」

 

「了解」

 

ラキュースの指示を受け、懐から花火を打ち上げるための筒を出して火を付け、打ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「合図がきた。行こうかゲオルギウス」

 

アルフは手綱を握り、馬ほどの大きさにしたゲオルギウスに指示を出し、天高く舞い上がる。

念のため、ラキュース達が攻撃範囲の外にいるか千里眼を使って確認し、ゲオルギウスに指示を出す。

 

「ゲオルギウス、フルサイズ。攻撃拡散、地形破壊、オブジェクト破壊スキル使用、ドラゴンブレス用意」

 

ゲオルギウスが本来の大きさに戻り、口を大きく開いて全身の魔力を一点に集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イビルアイと共に転移した直後、暗転していた視界が戻り目に入ってきたのは、時間は真夜中のはずなのに辺りが昼のように明いと言う光景だった。

 

「おい。あれを見ろ」

 

ガガーランは光源の方を見て、呆けた顔をしている。

何を見たのか気になり、すぐにガガーランが向いている方向に視線を向ける。

 

遠目で詳細はわかりにくいが、魔方陣を帯びた白く輝く光球を作り、両翼で80メートルもありそうな翼を羽ばたかせ浮いている巨大な黒いドラゴンがいた。

 

「あれ、ゲオルギウスよね。あれが本来の大きさ・・・・・・」

 

「間違いない。頭にアルフィリアが乗っている」

 

自分の目では確認できないがイビルアイが言うのだから間違いないだろう。

 

「あれ、まずくないか?」

 

ゲオルギウスの全身に血のように紅い模様が現れ、作り出した光球を中心に小さな光球が生まれ、尾を引いて吸い込まれていく。

 

「大気中の魔力を取り込んでいる?」

 

小さな光が取り込まれるたび、光球の輝きが増していく。

 

「イビルアイ、王都に転移だ!!」

 

ガガーランの言葉に反応し、皆がイビルアイに掴まり王都に転移した。

 

 

 

 

王都の城壁の外に転移した直後見たものは、太陽の欠片が落ちた様な光景だった。

 

村があった方角が太陽に照らされたように明るくなり、ズドンッ‼と腹の底に響くような衝撃音が伝わる。

その後、ゲオルギウスの攻撃の余波と思われる空振が伝わり、王都内から建物のガラスがガタガタと鳴る音や、割れる音が聞こえてくる。

 

「ずいぶんな威力だな、あの村からここまで衝撃が伝わってくるとは」

 

「ええ、正直ここまで凄いとは思わなかった、まるで神話で語られるドラゴンね。イビルアイ、日が昇ったらあの村の状況を確かめてきて」

 

「わかった」

 

そんな時、アルフィリアからメッセージの魔法が届いた。

 

『ラキュース、今は王都ですか?』

 

「ええ、貴女はまだあの村ですか?」

 

『はい。ちょっと今回は私らしく無かったです。少し頭を冷やしながら帰ります』

 

そう言うと魔法が切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻薬工場のあった村の上空、アルフはメッセージを切った後爆心地を見下ろした。

 

そこには村の影も形もなく、スキルにより拡散したドラゴンブレスで作られた深さ50メートル程の巨大なクレーターが無数にあり、その底には融けた物がグツグツと音をたて、いまだに高温を放っている。

 

「私の八つ当たりに付き合わせてごめんね」

 

そう言いながらゲオルギウスの頭を撫でる。

それが気持ちいいのかグルルルと喉を鳴らしている。

 

「このままナザリックまでゆっくり飛んで」

 

そう言いながらゲオルギウスの額に腰をおろし、月と星が輝く空を見上げた。




ドラゴンブレス

ゲオルギウスが今回放ったのは光と火の複合属性。
スキルによる強化、拡散や収束が可能。

イメージとしては某魔砲少女のSLBです。




12月9日、我らがヒドイン、アルベド様のフィギュアが発売、一応購入予定です。ねんどろいどアインズ様はコミケ軍資金の残りと相談です。


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第69話

翌日の朝

 

アルフは頭にゲオルギウスを乗せ、王都を歩いていた。

今朝も昨日と同じく貴族達が店の前に集まっていたので、店から逃げてここにいる。

 

先程露店で買った串焼を食べながら街の中を歩いていると、所々家の窓ガラスが割れたり、ヒビが入っているところがあり、修理屋が忙しく走り回っている。

 

串焼屋のおじさんが言うには、遠くの方で大爆発があり、その衝撃でこうなったそうだ。恐らく、と言うより確実にゲオルギウスが放ったドラゴンブレスが原因なので罪悪感が・・・・・・。

 

あのときアルフは失念していた、ゲームの中ならどんなに派手な攻撃でも攻撃範囲の外には何の影響もない。だが、ここは現実の世界だ。火を起こせば煙は出るし、大爆発を起こせば衝撃で空振が起きる。

今後はその事に気をつけて魔法やドラゴンブレスを撃つようにしないと、そんなことを考えながら大通りを歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕刻、アルフは高級住宅街を歩いていた。

目的はセバスに活動資金を渡すためだ、本来であればナザリックにいるシモベに頼んでセバスに渡せば良いのだが、今回は暇潰しとセバス達の様子見で自ら出向くことにした。

 

そして目的の家に着き、扉をノックする。

少しすると扉が開かれ中からセバスが現れた。

 

「アルフィリア様、お久しぶりでございます」

 

「久しぶり。ここじゃなんだし、中に入っていいかな?」

 

「はい・・・・・」

 

家に入れてもらうとき、どことなくセバスの顔色が悪いように感じた。それに、昨夜襲撃した村で嗅いだ嫌な臭いがする、女性達が閉じ込められていたあの小屋の中の、血と鉄と生臭い嫌な臭いが混ざったモノだ。

 

そんなことを考えていると、どこからかソリュシャンが現れ一礼した。

 

「お久しぶりです。来て早々申し訳ありませんが、ご相談したいことがありまして、少しよろしいでしょうか?」

 

「いいですよ」

 

「ではこちらに。実際見てもらった方がよろしいかと思われますので」

 

 

 

 

 

ソリュシャンに案内され部屋に入ると、この家に入ったときにしていた嫌な臭いが強くなった。

その臭いの元に視線を向けると、そこには女性がベッドに寝せられていた。

顔を殴られたのかコブがいつくもできており、赤黒く変色している所もある。

 

「・・・・・・この娘は?今どんな状態なの?」

 

「はい。この人間の女はセバス様が拾ってきたものです。

この人間の状態は、梅毒にあと二種類の性病。肋骨の数本及び指にヒビ。右腕および左足の腱は切断され、前歯の上下は抜かれて、内蔵の働きも悪くなっているように思われます。裂肛もあり、何らかの薬物中毒になっている可能性があります。

アルフィリア様、この人間をどうなされますか?」

 

「・・・・・・」

 

アルフは考えていた、この王都にはこんな酷いことをする者がいるのかと、こんなことを平気で出来る所があるのかと。

人間の残酷さは歴史書を読んでそれなりに知っているし、そういった性癖があるのも知っている。

だがそう言ったものを抑え込めずに何が人間か、獣と何が違う?

 

 

 

「アルフィリア様?」

 

「・・・・ごめんね、ちょっと考え事してた。ソリュシャン、この子治せる?」

 

「・・・・はい、容易く。ですが人間ごときに巻物(スクロール)を使うべきではないと愚考します」

 

もっともな反応だ、今現在中位以上のスクロールの材料の入手は出来ていない。補充出来ないものを使っていればいつかは枯渇する。アインズもそれでスクロールに使用制限をかけている。

 

「ではこれを使いましょう」

 

そう言うと、アルフはアイテムボックスからアイテムを一つ取り出した。

それは血のような深紅の色を持つ結晶体、アイテムの名前は万能の霊薬(エリクシル)。効果は第六位階の治癒魔法の〈大治癒(ヒール)〉と同じく、病気などのバッドステータスをあらかた治療する。

回復量は素材に使ったアイテムのレベルに左右されるが、最低ランクのエリクシルでもスクロールのヒールより高額で取り引きされている、理由は誰でも使えると言う点と。一定時間持続回復効果があるからだ。

 

「これを使えばこのような行為が行われる前の状態まで治せるはずです」

 

そう言いながらエリクシルをソリュシャンに渡した。

 

「しかし、どうして人間にここまで・・・・・・」

 

「私は昔、たっち・みーさんに救われた事があるんだ。私がまだ弱かった頃、裏切りにあって殺されそうになった時、颯爽と現れ、助けられ、憧れた。

そんな彼が言ったんだ『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』って、だから少しでも近づきたいからこうしてる。そんな理由じゃだめかな?

それと、セバスがこの娘を助けたのはナザリックに所属する者としては相応しくないと思うけど、たっちさんの意思を継いでいると言う点では正しい事だからあまり責めないであげて」

 

「畏まりました」

 

「じゃあこの子を綺麗にしてあげて外だけじゃなく内側もね」

 

その言葉を聞き、ソリュシャンが意外そうな顔をした。

 

「気づいておられたのですか?」

 

「まぁ何となく匂いでね。望まない子を産むよりは最初から居ないものとしておいた方がこの子のためでもあるから」

 

「それではそのようにいたします」

 

 

 

その言葉を聞き、アルフは部屋を出てリビングに行ったのだが、そこには心配そうな顔をして椅子に座ったセバスがいた。

セバスはこちらに気付くと椅子から立ちあがって台所へ向かい、ティーセット一式を持って戻り、カップに紅茶を注いでいく。

 

紅茶をいれてもらって立っているのもなんなので椅子に座り、紅茶をすする。口の中に甘みが広がり、鼻から香りが抜ける。今回の事で荒れている心を静めてくれる、そんな感じの暖かい味だ。

 

「アルフィリア様。あの娘はどうなりましたか?」

 

セバスの顔を見ると心配しているのがよくわかる。

 

「あの娘は大丈夫ですよ。ソリュシャンには治療と体を洗うように言ってあります」

 

「そうですか」

 

アルフの言葉を聞き、セバスの纏う空気が柔らかくなった気がする。

 

「それでセバス、あの娘を拾った時の状況を聞かせてもらえますか?」

 

「畏まりました」

 

そしてセバスはあの娘を拾った時の状況を話始めた。




最近vita版マインクラフトでのナザリック建設にはまりまして、こちらそっちのけで建設してる時があります。


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番外編・ナザリックのクリスマス

ノリと勢いで書きました。
いつも以上におかしな部分があると思いますが、気にしないでいただけると助かります。


クリスマス数日前。

暗い部屋の隅の方に3つの影が集まり、何らや怪しげな事を話し込んでいた。

 

「前回はシャルティアの妨害でうまくいかなかったけど、あれが有効な事は確認が取れた。ケモ耳少女、手回しの方はどんな感じ?」

 

「それはうまくいきましたし、物の準備も終わってますけど何ですか、そのケモ耳少女って」

 

「コードネームよ、その方が雰囲気出るでしょ?」

 

「じゃあ俺は、THE・バードマン」

 

「何か安直ね、エロ魔神でいいんじゃない?」

 

「そう言う姉ちゃんはどうなのさ」

 

THE・バードマンの言葉を聞き、ピンクの粘体が声の調子を調え名乗りをあげる!

 

「性なる夜に舞い降りる、我が名は性戦士プリティー・マーラー‼守護神マーラーに代わって夜の四十八手、貴女の体に刻んであげる‼」

 

プリティー・マーラーはロリ声を響かせ決めポーズをとる。

 

「・・・・・・姉ちゃん、それいろんな意味でアウト。てかプリティー・マーラーって何よ、守護神がマーラーって時点でプリティーからかけ離れグボァ‼」

 

THE・バードマンの脇腹にプリティー・マーラーの肘が突き刺さる!

 

「以前やったエロゲのヒロインよ。OPで邪神マーラー様がピンクのリボン頭に付けて花畑スキップしてたけど別にいいじゃない。とりあえず準備は整ったってことね、これから作戦決行までアインズさんに勘づかれないように行動しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、俺の提案に乗ってくれてありがとうございます。ユグドラシルのサービス終了から数えてクリスマスの日に常日頃、我々プレイヤーにつくしてくれるシモベ達にプレゼントを贈りたい、そんな思いを共有できて嬉しいです」

 

サンタ服を着て無限の背負い袋を持ったアインズがそう告げ、皆を見渡す。

ペロロンチーノもアインズと同じ感じのサンタ服を着て、アルフはミニスカサンタ、そこまでは良いのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・茶釜さん、本当にその格好でいいんですか?」

 

「私の魅力的な体が気になるんですか?」

 

ちなみにぶくぶく茶釜の格好は、上からサンタ帽、嫉妬マスク、マイクロビキニ上、マイクロビキニ下である。

しかもマイクロビキニ下が食い込んで凄いことになっている。

 

 

「・・・・・・いや、そうではなく」

 

「と、とりあえず、今回はテストケースだからセバスと守護者達にプレゼントを渡すってことでいいんですよね」

 

「はい。プレゼントの方はアルフさんが用意したものや、ギルドメンバーが作ったアイテムを渡します。プレゼントは2手に別れて置いていきます」

 

ペロロンチーノが空気に耐えきれず質問し、アインズが答え、さらに説明を進めていく。

 

「シャルティア、アウラ、マーレにはアルフさんとペロロンチーノさん。コキュートスとデミウルゴスには俺と茶釜さん。第九階層にいるセバスとアルベドには後で合流して回ります。では、行きましょう」

 

 

 

 

 

第二階層 死蝋玄室

 

シャルティアが住居として使用している場所にペロロンチーノと一緒に忍び込む。この時間帯、シャルティアは吸血鬼の花嫁と一緒に風呂に入っているはずだ。

 

シャルティアの寝所につき、誰も居ないか確認する。耳をすますと風呂の方から喘ぎ声が聞こえてくる。

 

「俺もあっちに混ざりたい」

 

「ペロロンチーノさん、無駄話は命取りです。今度余計な事言ったらプリティー・マーラーに矯正してもらいますよ?」

 

「・・・・・・アルフさん最近俺への当り強くない?だが、エロこそが俺の正常な姿!矯正されようとエロは滅びぬ!」

 

「・・・・・・そうですか」

 

アルフはそう言いながらアイテムボックスから物を取り出す。

 

「6分の1ゴーレム式アインズさんフィギュア」

 

「いつ見てもリアルですね」

 

「まぁアルベドが作った設計図を元に作ってますから」

 

アインズフィギュアとクリスマスカードを枕元に置く。

 

「任務完了、次行きますよ」

 

そう言うと、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させ、第六階層へと転移した。

 

 

 

 

 

第五階層 大雪球(スノーボールアース)

 

コキュートスの住居兼トレーニングルーム。

アルフの調べによれば、コキュートスはリザードマンの集落に泊まっているはずだ。

 

「コキュートスへのプレゼントはやっぱりこれですかね」

 

ぶくぶく茶釜はそう言うと、アイテムボックスから一振りの刀を取り出した。

 

「建御雷六式ですか」

 

「まぁ、コキュートスが今持ってる武器よりは性能が落ちるけど、武人としてはいろんな武器が欲しいかなと思って」

 

建御雷六式を地面に突き立てる。

 

「後はこれを枕元に置いとけば完了です」

 

そう言いながらアイテムボックスから一冊の本を取り出した。

 

「茶釜さん、それは?」

 

「これはですね、この世界の昆虫のメスの写真集です」

 

ぶくぶく茶釜が本をこちらに向け、パラパラとページをめくっていく。

そこには甲虫のようなモノが仰向けにされてジタバタしている時の写真があったり、樹液を吸っている姿が写ってたり、交尾している写真もある。

 

「男にはこう言ったものは必需品でしょ?」

 

「・・・・・・否定はしませんが、あまり想像したくないのでそう言ったものはやめてください〈上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)〉」

 

魔法が発動し、ぶくぶく茶釜が手に持っている本に火が付き、灰となって消滅した。

 

「あっ‼せっかく作ったのに~・・・・・・」

 

アインズは凹んでいるぶくぶく茶釜の肩を掴んでリングを起動し、第七階層へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

第六階層 巨大樹内

 

ゆっくりと巨大樹の中を移動し、まずはアウラの寝所へと近づく。

アウラはかけ布団を掛けておらず、丸まったフェンを枕にして寝ている。

 

「一応風邪引かないようにしてあげようか」

 

アルフはベッドの端に追いやられていたかけ布団をアウラに掛け、アイテムボックスからぬいぐるみを取り出す。

ぬいぐるみはアルフの完全異形形体をデフォルメして作られており。毛は自身の尻尾から少し採取して錬金術で増やして材料として使用しているので手触りが良い。

 

「アルフさんの毛並気に入ってたし、ちょうどいいな」

 

ぬいぐるみを近くに置いて、アウラ頭を軽く撫で、マーレの寝所に移動する。

 

 

 

マーレは姉のアウラとは違い、かけ布団にくるまって寝ている。

 

「マーレにはこれを」

 

アイテムボックスから一冊の分厚い本を取り出す。

本の中身はアルフが集めたこの世界の神話や英雄譚等を翻訳してまとめた物、読書が好きらしいマーレのために作った一点物だ。

 

「でペロロンチーノさんは何を置こうとしてるのかな?」

 

「男の子の必需品。この世界の春画は微妙なのばかりだから集めるの苦労しましたよ」

 

「・・・・・・そんなの置いたら茶釜さんにミンチにされますよ」

 

「・・・・・・そうですね。じゃあ次行きましょー」

 

ペロロンチーノは本をアイテムボックスにしまい、二人で第九階層へと転移した。

 

 

 

 

 

 

第七階層 赤熱神殿

 

「いつ見ても凄いね」

 

そこにはギリシャ風の神殿の残骸があり、辺りは溶岩が流れ、そのなかではモンスターが泳いでいる。

デミウルゴスは、最近スクロール作成に必要な羊皮紙を確保するための牧場に寝泊まりをし、ここにはたまにしか帰ってきていないようだ。

 

「そうだな。デミウルゴスには何を渡そうか。ウルベルトさんが作ったアイテムはあげてしまったし・・・・・・」

 

「じゃあこれはどうでしょう」

 

ぶくぶく茶釜はアイテムボックスから6分の1アインズフィギュアを取り出して掲げた。

 

「・・・・・・それは」

 

「アルフさん制作の6分の1アインズさんフィギュアです」

 

『よくやった』

 

フィギュアからアインズの声が聞こえ、ポーズをとっている。

 

「それ喋るんですか⁉」

 

『騒々しい、静かにせよ』

 

「はい。アルフさんの説明だと100パターンあるらしいですよ?」

 

「・・・・・・」

 

魔法とは偉大なものだが、それが今自分に牙を向いている気がする。

 

「とりあえずこれ置いて次に行きましょう」

 

『期待している』

 

何か複雑な気持ちになるが、一応プレゼントなので見逃すことにし、メッセージカードと共に置いて第九階層へと転移する。

 

 

 

 

 

 

第九階層

 

そこに転移したと同時にアインズとぶくぶく茶釜が転移してきた。

 

「アインズさん。こっちはうまくいきました、そちらはどうでしたか?」

 

「・・・・・・アルフさん、後でお話があるので時間をつくってください」

 

アインズが真剣な雰囲気でアルフに言う。

 

「私、何かしました?」

 

「たぶんアインズさんフィギュアが原因かと」

 

「あー、その件はすみません。プレゼントが他に思い付かなくて。とりあえずセバス、アルベドの順で行きましょう」

 

 

 

 

 

セバスが使っている部屋をアルフが覗き込み、誰もいないことを確認してから中にはいった。

 

セバスは今、アルフの頼みで大図書館でツアレと一緒に探し物をしている。

 

「セバスへのプレゼントはどうするんですか?」

 

「ふふん、セバスにはこれを用意しております」

 

アインズの問いに、アルフはアイテムボックスから物を取り出して答える。

 

「これは」

 

「6分の1たっちさんフィギュアです」

 

アルフの両の手のひらの上に立つフィギュアは細部まで作り込まれ、今にも動き出しそうな感じがする。

 

「アルフさん、もしかしてそれ・・・・・・」

 

「ええ、喋って動きます」

 

『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』

 

フィギュアからたっち・みーの声が発せられ、ポーズをとり、真紅のマントがはためき背後に正義降臨の文字が踊る。それはまさにたっち・みーだった。

 

「他にもいろいろ決めポーズとか戦闘時のモーションも仕込んであります」

 

『ここは私が引き受ける!』

 

「あ。これ欲しいかも」

 

アインズが物欲しそうにフィギュアを見つめている。

 

「これはセバスへのプレゼントなのであげれませんが、材料を貰えれば作りますよ?」

 

「本当ですか⁉」

 

「近い近い!本当ですから離れて下さい!」

 

詰め寄ってきていたアインズが離れ、しゅんとしている。アインズの姿にはなれたが、詰め寄られるとさすがに怖い。

 

「材料はヒヒイロカネ6キロ、スターシルバー3キロ、古の蒼玉(エンシェント・サファイア)1キロ、暁の切れ端、極光の糸です」

 

「うぐ、そんなに使うんですか」

 

「クオリティにこだわりましたから。それにアインズさんフィギュアと同じくレベル65のゴーレムを耐久値と防御力重視で組むにはこれくらい必要なんです」

 

「わかりました、後日材料を渡すので作成お願いします」

 

「では、アルベドのところに行きましょう」

 

『殿は私が務めよう!』

 

たっち・みーのフィギュアをベッドの枕元に置き、部屋を出て次の部屋へ向かう。

 

 

 

アルベドの私室前

 

「ここで最後だ。アルフさん、アルベドは今部屋にはいないんですよね」

 

「はい。今は私の頼みでセバスと一緒に探し物してますから」

 

それを聞き、部屋の扉を開き誰も居ないか確認し、中に入ろうとしたその時、背を押され部屋に放り込まれた直後、ガチャリと鍵が閉まるような音がした。

 

「え?」

 

慌てて扉を開けようとするが、押しても引いても動かない。

 

そんな時、部屋に不気味な笑い声が響いた。

 

 

『くふふ、くふふふふふふ』

 

振り返り、周囲を確認するが誰もいない。

 

「アルフさん、ふざけてないでここを開けてください!」

 

『それは出来ません、今この扉はアルベドにしか開けられないようになってます』

 

「くっ、こうなったら転移して」

 

リングを起動しようとするが、反応がない。

 

『くふふ。ここはアルフィリア様のお力で転移不可能となっています』

 

また声が部屋に響く、周りを確認して居ないとなれば。

 

「上か!」

 

視線を真上に向けると、そこには天井に貼り付いたアルベドがいた。

 

「ッ!!!?!」

 

慌てて扉から飛び退き、アルベドに視線を戻す。

 

「あ、アルベド。どうしてここに、アルフさんの頼みで図書館で探し物をしているのではなかったのか⁉」

 

アルベドは天井から離れ、翼をはばたかせてゆっくりと着地する。

驚いていて気付かなかったが、アルベドの服装は真紅のリボンを体に巻き付けただけ状態であり、いろいろと食い込んだりしていて目のやり場に困る。

 

「あれは嘘です。今夜は性なる夜、愛し合う者達が思いを伝え合い、まぐわう日とお聞きしております」

 

「その誤情報誰から聞いた⁉」

 

「ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様からお聞きしました」

 

アルベドの瞳は情欲に濡れ、息が荒い。まるで獲物を追い詰めた肉食獣のような雰囲気をまとい、一歩一歩近付いてくる。

 

「あ、アルベド、よすのだ。話せばわかる!」

 

「アインズ様。私は貴方の事を深く、深く愛しております。私のこの愛、たとえアインズ様が歪められたモノであっても、今は私の思いです」

 

「アルベドよ、私もお前を愛している。だが、今のそれは父性愛のようなものが強いのだ。だから、今はお前の思いに答えることは出来ない」

 

「・・・・・・」

 

アルベドは俯き、沈黙する。その沈黙はどこか不気味で、嫌な予感がする。

 

「・・・・・・くふぅーーーー‼言質いただきました!」

 

『アルベドよ、私もお前を愛している』

 

その手には録音のマジックアイテムが握られていたが、ちょうどいい所で台詞が切られている。

 

「なっ!!事実をねじ曲げるでない!!」

 

「アインズ様が私の事を愛して、愛して愛して愛して愛してあいして愛してあいして愛して・・・・・・」

 

次の瞬間アルベドの姿が消え、視界が回転し背中が地面に叩き付けられた。

 

「ぐっ!!」

 

「ももんがさまぁ」

 

視線を自分の体に向けると蛇のように這い上がってくるアルベドの姿が映る。

 

(何故こうなった、どこで見落とした)

 

そんなときふと思い当たるものがよぎった。

アルフが用意したフィギュア、それに使われていたローブとマント。あれは実物と大差無い出来だった、あれほどの物を作るには裁縫スキルが必要。

ナザリック内で裁縫ができる者はアルベドくらいしか思い付かない。

 

「最初から仕組まれていたと言う事か!」

 

「その通りです。アインズ様を模したフィギュアをシャルティアにあげるのは複雑だけど、それで足止めが出来るなら安いものだわ」

 

アルベドはアインズの上に跨がり、身に付けているリボンをちぎり、その豊満な乳房をさらけ出してマジックアイテムを取り出した。

 

「それは!!」

 

「完全なる狂騒。アンデッドが持つ精神安定化を無効化するアイテム。アルフィリア様から10個ほどいただきました」

 

アルベドは完全なる狂騒を発動させた。

 

「さぁ、モモンガ様。私と一緒に情欲と快楽の世界へ」

 

 

 

 

アインズ、第九階層 アルベドの私室にて散る

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルベドが思いを遂げられて良かったよ、俺が用意したご立派様10㎝単装砲(Φ10㎝×35㎝)も役にたったみたいだし。で、姉ちゃん、録画の方は大丈夫?」

 

「その辺りはアルベドにも頼まれたし、大丈夫よ」

 

そう言いながらぶくぶく茶釜は胸を張る。

 

「このあとアインズさんに怒られると思うと少し憂鬱だなぁ」

 

「まぁ良いんじゃない?アルベドが愛する人と結ばれたんだから。それで、これから二人はどうするの?」

 

「俺はシャルティアの所に行くよ」

 

「私は部屋に戻ってクレマンティーヌとマリアとゲオルギウスにプレゼント渡す予定」

 

「私はアルフさんに渡したいモノがあるからついてくよ」

 

そう言い、ペロロンチーノと別れアルフの私室に向かう。

 

「茶釜姉、渡したいものって何ですか?」

 

「部屋についてからのお楽しみ」

 

 

 

 

第九階層 アルフの私室

 

扉を開け部屋に入ると、ベッドの上に裸リボン姿で縛られているクレマンティーヌがいた。

 

「んー!!」

 

「クレマンティーヌ⁉」

 

アルフはクレマンティーヌに駆け寄り、口に噛ませてあるタオルを取って手足を縛っているリボンを爪で切り、クレマンティーヌを抱き起こす。

 

「何があったの?」

 

「あーちゃん、ごめんね」

 

「え?」

 

次の瞬間、クレマンティーヌに腕を引っ張られ、うつ伏せでベッドに押さえつけられていた。

 

「クレマンティーヌ、よくやりました」

 

マリアが天井から降りてきてもう片方の腕を押さえつける。

アルフはうつ伏せの状態で両腕を押さえつけられ、尻を突きだした状態で体が固定された。

 

「マリアちゃん、クレマンティーヌ、よくやった。うん、絶景かな絶景かな」

 

アルフは尻尾で尻を隠そうとするが、ぶくぶく茶釜に持ち上げられしまった。

 

「茶釜姉何するつもりなの⁉」

 

「何って?アルフさんに女の子の快楽を教えてあげようと思って。それが私からのクリスマスプレゼントです」

 

そう言いながらぶくぶく茶釜はアルフのパンツを脱がせた。

 

「っ!!マリア、クレマンティーヌお願いだから離して!!」

 

力一杯対抗するが、拘束が解かれる気配はない。

 

「残念、マリアちゃんとクレマンティーヌには筋力強化系の装備を着けさせてるから」

 

「ごめんね。茶釜ちゃんが手伝えば混ぜてくれるって言うから」

 

「私も同じ理由です」

 

「ちなみにゲオルギウスは第六階層で寝てるから、呼んでも来ないよ」

 

この場所にはアルフに味方する者はいなかった。

 

「アルフさん、怖いのは最初だけです、すぐに気持ちよくなりますから」

 

「ちょっ!やめっ、嫌ああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

玉座の間にはアインズと、プレゼントを渡したシモベ達がそろっていた。

アインズは骨のはずだがどこかげっそりした感じがある。

 

「アインズ様、我々シモベの為にプレゼントを下さり実にありがとうございます。我々一同、よりいっそう任務に励む所存でございます」

 

「うむ。各々が好むと思われる物を置いたが、気に入ってもらえて良かった」

 

「そんな。至高の御方にいただいたものは全て宝でありんす。アインズ様を模したフィギュア、大切にするでありんす」

 

「おや、シャルティアもアインズ様フィギュアを貰ったのかね」

 

「も。と言うことはデミウルゴスもでありんすか?」

 

「ええ」

 

「あたしはアルフィリア様の完全異形形体のぬいぐるみ」

 

「ぼ、ぼくはアルフィリア様がまとめられた本をいただきました」

 

「私ハ武人建御雷様ノ使ワレテイタ武器ヲイタダイタ」

 

「私はたっち・みー様を模したフィギュアを戴きました」

 

「皆それぞれ適したものをが選ばれていますね」

 

「で、アルベドは何を貰ったでありんすか?」

 

それを聞き、アルベドは自分の下腹部を愛おしそうに撫でる。

 

「あ、アルベド。まさか!!」

 

「ええ、そのまさかよ。私はアインズ様から寵愛を戴きました」

 

「嘘よ、そ、そんな!!」

 

「嘘じゃないわ」

 

アルベドはスクロールを取り出し、シャルティアに放り投げた。

シャルティアはそれを受け取り、スクロールを開き再生する。

 

そこには横たわるアインズに跨がったり、全裸で絡み合うアインズとアルベドが映し出されていた。

 

「・・・・・・」

 

それを見たシャルティアは放心状態になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九階層 アインズの私室

 

あの後、アルベドとシャルティアによる死闘が行われたので、二人を放置し解散となり、やることもないアインズは自分の部屋で書類確認をしている。

 

書類確認をしてしばらくすると、扉をノックする音が部屋に響いた。

 

「入れ」

 

アインズが入るよう促すと、少し暗い顔をしたアルフが部屋に入ってきた。

 

「アインズさん、昨日はごめんなさい・・・・・・」

 

「元気がないようですが、どうかしました?」

 

仲間がへこんでいる様を見て、どうしてあんなことをしたのかと問う気力が失せてしまった。

 

「・・・・・・あの後私、茶釜さんとクレマンティーヌ、マリアにいろいろされまして。気が狂うと言う経験を無理矢理させられました」

 

「・・・・・・」

 

「襲われたアインズさんもこんな気持ちだったのかなって思ったらここに来てました・・・・・・本当にごめんなさい」

 

「いえ、あれはアルベドのためだったんですよね、それならもういいですよ」

 

「ありがとうございます。それとこれ、差し上げます」

 

アルフはアイテムボックスから物を取り出し、机の上に置いた。

 

『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』

 

たっち・みーのフィギュアが決めポーズをとる。

 

「あ、そうだ。茶釜さんは今どうしてます?」

 

「茶釜さんですか。今はクレマンティーヌとマリアと一緒に恐怖公の所で反省中です。あと1週間くらいは出さないつもりです」

 

アルフは満面の笑みを浮かべてそう言う。

 

「・・・・・・」

 

「じゃあ、部屋に戻りますので」

 

アルフはそう言うと部屋を出ていった。

 

 

 

 

「・・・・・・因果応報、だっけ?アルフさんは怒らせないようにしよう」

 

そう呟くアインズの手には複数のスクロールが握られていた。

 

 

 

 

その一週間後、コキュートスによって放心状態の三人が黒棺(ブラック・カプセル)から救出されたそうな。




ラスボスはプリティー・マーラー。


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第70話

セバスからの説明を聞き、アルフは顎にてを当てて考えていた。

 

セバスの話ではボロボロにされたあの娘を袋に詰めて神殿に行こうとしていたらしい男を怪しく思い、代わりに連れていくと言ったがその男は「そんなことをしたら自分が殺される」と言い、セバスは逃げる資金に白金貨十枚を渡したそうだ。

 

その話のなかでアルフが引っ掛かったのは、セバスが助けた娘が八本指が運営していると思われる娼館で働かされていた、と言う点だ。

 

「セバス、話してくれてありがとう。助けた人が近くにいた方がいいと思うからあの子のそばにいてあげて」

 

「では、失礼いたします」

 

セバスはそう言うと一礼して客間へと向かっていった。

 

 

 

 

「ソリュシャン、そこにいるんでしょ?」

 

「お気付きでしたか」

 

アルフの言葉に、背後から答える声がし、振り返るとソリュシャンがいた。

 

「私を誤魔化すなら匂いと音も遮断しないと。それより、あの娘は?」

 

「はい。言われた通りに。そろそろ睡眠系毒の効果が切れて目覚める頃です」

 

「ありがとう。少し気になることがあるからここに泊まらせてもらうから。空いている客間に案内してもらえるかな?」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

ソリュシャンに案内された部屋のベッドに座り、膝に乗せたゲオルギウスを撫でながら先程の続きを考える。

 

セバスが助けた女性、王都の裏社会を牛耳っていると言う八本指が運営していると思われる娼館で働かされていた。

物語だとこういった所から人を助けると、その組織がいちゃもんを付けてくるときがある。今まで見聞きした感じだとほぼ確実に何かしてくる。

もしもの時はこの手で潰せば問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

アルフがセバス達が使っている屋敷に泊まると決めたのと同時刻。

空が茜色から夜の色にかわる頃、アインズはモモンとしてペロロンチーノと共に王都に来ていた。とくに行くところもなく土地勘も無いため、アルフの店に来たのだが・・・・・・。

 

「何あれ・・・・・・」

 

ペロロンチーノは率直な感想を述べる。

アルフの店には明かりが無いにも関わらず、建物の前には豪華な服を着た人々が花束や指輪、ネックレス等のアクセサリーを待って群がっている。

 

「アルフさんのファン、ですかね」

 

そんな状況を見ていると背後から肩をつつかれ、振り返るとそこにはぶくぶく茶釜がいた。

 

「茶釜さん、何でこんなところに?表出てきて大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よ、ここなら視線は店の方にいくから」

 

確かにときどき通る通行人は店の前に集まっている人達に視線を向け、こちらには見向きもしない。

 

「じゃあついてきて」

 

ぶくぶく茶釜の案内で狭い路地を進み、店の裏手へまわり、裏口から建物へと入った。

 

 

 

 

 

リビングにはクレマンティーヌがおり、ソファーに寝転がって暇そうにしている。

アインズは魔法で作っていた鎧を消し、何時ものローブ姿になり、リビングにある椅子に腰かける。

ぶくぶく茶釜とペロロンチーノも椅子に座った。

 

「そう言えば、店の前にいるあの人達は何ですか?アルフさんは今どこに?」

 

「あー、あれはアルフさんに求婚したり告白したり、取り引きしたい貴族達の集よ。で、さっきアルフさんから連絡があったけど、心配事があるからしばらくセバスの所に泊まるって」

 

アインズの質問に答えながら、ぶくぶく茶釜はテーブルにグニャリと上半身を乗せる。

 

「心配事?」

 

「何でもセバスがボロボロにされた女性を助けたんだけど、その事で八本指って言う犯罪組織がちょっかいかけてくるかもって」

 

「俺たちも手伝った方が良いかな」

 

 

「アルフさんなら大丈夫でしょ、それより相手の方が心配かな。あの子ああ見えて容赦ない所あるから」

 

「ですよねー」

 

ぶくぶく茶釜の言葉で以前あった事を思い出す。

 

アルフがアインズ・ウール・ゴウンに所属して、レベルが100になってしばらくたった頃、あの人は『元いたギルドを潰してきます』といって、ギルドに夜襲をかけたことがある。

元々所属人数が十数人の小さなギルドだったが、アルフによって完全に潰されていた。

 

後日、その時の戦闘映像をみたウルベルト、るし⭐ふぁー、タブラ等の中二病組がさらに興味をもち、積極的にクエストに誘っていたのも良い思い出だ。

 

思えばあの人達が馴染みやすくしたのかもしれない。

 

 

 

「もしあれがこの世界で再現された大惨事だよなー」

 

ペロロンチーノの言葉に皆で頷く。

 

「なに、あーちゃん何かやらかしたことでもあるの?」

 

クレマンティーヌがソファーから起き上がり、興味深そうな顔でこちらを見ている。

 

「あの時は凄かったなぁ。気になるなら大図書館で探してみると良いよ、確かあそこにあるはずだから」

 

「え~、今持ってないの?」

 

ペロロンチーノの言葉にクレマンティーヌが文句を言う。

やはり、こう親しげな方が気が楽だ。

 

こうして夜が更けていく。




マインクラフトで組んでいるナザリックです。
本格的なクラフトは今回が初めての新米クラフターです。

霊廟外

【挿絵表示】

霊廟内

【挿絵表示】

第一階層入口

【挿絵表示】


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第71話

セバスが助けた娘はツアレと言う名前だそうだ。

 

ツアレを助けてから数日、彼女の生い立ちがすこしづつわかってきている。

彼女には妹がおり、両親を早くに亡くして二人で暮らしていた。

13歳で貴族に妾として拐われて6年間玩具として扱われ、その貴族が飽きると娼館に売られて今にいたる。

 

本当にこの国はどうなっているのだろうか、貴族は領民を守るの者のはずだがそれが民を拐い、弄び、飽きたら棄てる。中にはちゃんとした貴族もいるのだろうが、自分の犯した罪は権力で握り潰せばいいと思っている奴等がイメージを悪くしているのだろう。

元いた世界でも貴族のイメージが本来の意味からかけ離れていた。

 

そんなことを考えていると、屋敷の扉がノックされた。

 

アルフは誰が来たのか確認するため、部屋を出て壁に体を寄せて相手から見られないようにして玄関を見る。

 

来客にはセバスが対応しており、相手は恰幅の良い男とその後ろには王国の兵士二人、そして最後に・・・・異質な男がいた。

 

 

 

「私は巡回使のスタッファン・ヘーウィッシュである」

 

先頭に立った太り、脂ぎっている男が多少トーンのハズレた甲高い声で、自らの名を名乗る。

 

「王国には、知っていると思うが奴隷売買を禁止する法律がある。・・・・・ラナー王女が先頭に立って立案し、可決されたものなのだがね。今回はその法律にこの館の人間が違反しているのではないかと言う話が飛び込んできてね。確認のために来させてもらったのだよ」

 

アルフの予期していた事が起こったようだ。

 

ヘーウィッシュを含めた四人はセバスと少し話したあと部屋に案内されていった。

 

 

 

 

 

 

その後、アルフは玄関とセバス達が入っていった部屋の中間にある待合室の椅子に座り、本を開いて読むふりをしながら全神経を耳に集中させて、セバス達の会話を盗み聞きした。

 

やはりアイツ等はツアレをダシに金を搾り取るつもりのようだ、会話が演技がかっておりイライラする。

あげくの果てにソリュシャンを代わりに差し出せと言っている。

 

 

 

その後、会話が終わりセバスが四人をつれて待合室の前を通った時、ヘーウィッシュの足が止まり視線がこちらに向いた。

 

「ほぉ、この館にはこんなに美しい女性もいたのですか。先程の話、この女性でも構いませんよ?」

 

そう言いながら、こちらの全身をなめ回すように視線が動く、はっきり言って気分が良いものではない。

 

「いえ、この方はお嬢様と商談されるためにこられた方で・・・・・・」

 

 

セバスが少し言葉に詰まったときソリュシャンが現れ、

言葉を発する。

 

「待たせたわね、アルフィリア。こちらに来てちょうだい」

 

「はい、お嬢様」

 

アルフは本を閉じて椅子から立ち上がり、ヘーウィッシュの横を通りソリュシャンのもとへ歩を進めたのだが、

あの男からツアレの匂いと血の匂いが微かにした。

 

 

 

 

 

 

 

アルフとソリュシャンは部屋に入り、扉を閉めたとたんソリュシャンは膝片膝をついた。

 

「アルフィリア様、先程の御無礼お許しください」

 

ソリュシャンは頭を深く下げ、体が強張り、少し震えている。

 

「大丈夫、怒ってないよ」

 

そう言いながらソリュシャンの頭を優しく撫でる。

 

「それより、あのヘーウィッシュと言う奴に眼と耳を付けておいて、後であのサキュロントとの会話の報告をお願いね」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

ソリュシャンに指示を出したあと、アルフはセバスとリビングで向かい合って座っていた。

 

「アルフィリア様、私が招いた厄介事に巻き込んでしまい申し訳ありません」

 

セバスはそう言いながら深く頭を下げた。

 

「気にしなくて良いよ。遅かれ早かれアイツ等とはぶつかる予定だったんだ」

 

「しかし・・・・・・」

 

「真面目なのは良いことだけど、たまには頭を柔らかくして物事を考えないと。散歩でもして息抜きしてきたらどうですか?」

 

「畏まりました」

 

セバスはそう言うと立ち上がって玄関に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セバスが館を出ていったあと、アルフは蒼の薔薇が泊まっている部屋に来ていた。

理由は今回あったことを話すためだ、本当は今すぐにでも殴り込みをかけて潰したいが、それで蒼の薔薇に迷惑をかけてはいけないと思い、いろいろ手順をふんでから潰す方法を選んだ。

 

もちろん自分とセバスの関係はごまかし、取引先の執事さんと言うことにしてある。

 

「そんなことがあったの・・・・・・相手の名前はわかっているのかしら?」

 

「巡回使と名乗っていた男はスタッファン・ヘーウィッシュ、依頼人らしき男はサキュロントと名のっていました」

 

蒼の薔薇はサキュロントの名を聞いたとき顔を少ししかめた。

 

「その執事さんはずいぶん厄介な奴に絡まれたな」

 

「知っているんですか?」

 

「知っているもなにも、八本指警備部門・六腕の一人だ。何でも六腕はアダマンタイト級冒険者に匹敵する強さって話だ」

 

「私達も自由に動けたら良いんだけど、貴族が絡んでるとなると下手に動けないのよ」

 

「今のまま娼館潰すと国王派の貴族の首がしまる」

「派閥のパワーバランスとかいろいろ面倒」

 

この話は思った以上にめんどくさい事になりそうだ。

 

「もしもの時は貴女一人で行動してもらうかも知れない、その辺りはこっちで手を回しておくわ」

 

「ありがとうございます」




あけましておめでとうございます。

誤字脱字の指摘ありがとうございます。



マインクラフト・ナザリック

第三階層 地下聖堂外

【挿絵表示】

第三階層 地下聖堂内

【挿絵表示】

この辺りは資料が無いので想像で作ってます。
今は第四、第五階層を制作中です。


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第72話

蒼の薔薇への説明を終え、暇になったアルフは街を散歩していたのだが。

 

途中で人集りが出来ており、何やら騒がしい。

 

何があったのか気になって物見していると、知った顔が目に入ったので事情を聞いていることにした。

 

「串焼屋のおじさん、おばさん、何があったの?」

 

「おお、嬢ちゃんか。いやな、ここで子供が複数のごろつきに殴る蹴るされててな、そこに通りかかった背が高い執事の爺さんが助けたんだ」

 

「あのお爺さんはかっこよかったねぇ、あんたがアレくらいかっこよかったら・・・・・・・」

 

「悪かったな、筋肉ダルマで」

 

 

 

二人が言っていた執事は多分セバスだろう、とくにやることもないので、二人にどっちに行ったのか聞き、匂いを追ってみることにしたのだが、セバスの後を追うようにクライムの匂いが続いている。

 

匂いを追い路地に入り、しばらくするとセバスとクライムが向かい合って話しているのが見えた。

 

二人の話を盗み聞きしてみると、どうやらクライムがセバスに師事してもらっていると言う状況らしい。

 

邪魔したら悪いので立ち去ろうとしたがどこからか刺激臭が漂ってくる。臭いのする方向に視線を向けると、そこには粘度の高い液体が滴る短剣を持った男がおり、刺激臭はその男が持つ短剣から放たれていた。

 

「毒、かな」

 

標的はどちらかわからない、セバスは大丈夫だろう、クライムは毒に対処できるアイテムや耐性を持っているとは思えない。

アルフは加勢する準備をし、スキル〈気配遮断〉を使い物陰に隠れて様子を見ようとしたとき、思ったより早く男が動いた。

 

アルフは男が動くと同時に地面を蹴り、一瞬で男の背後に詰め寄り、後頭部を鷲掴みにする。

 

「え?」

 

男が間抜けな声をあげるが遅い。

そのまま力を入れて男の顔面を地面に叩きつけた。

 

 

「ラグナライト様、何故ここに?!」

 

「それは後で、まずはあいつらをかたつけないと」

 

そう言いながらセバスが相手している男達に視線を向ける。

その男達も毒を塗った短剣を手に持っている。

 

「〈集団標的(マス・ターゲティング)道具破壊(ブレイク・アイテム)〉」

 

魔法が発動し、男達が持っている短剣が砕けて砂となり、セバスは相手が驚いている隙に拳を放ち、気絶させて無力化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

襲撃者を無力化し、セバスのスキルで尋問をおこなったことで、いろいろ状況がわかってきた。

 

この襲撃者達は八本指の警備部門最強、六腕の一人に鍛え上げられた暗殺者であり、けしかけてきたのは幻魔の二つ名を持つサキュロントとのことだ。

 

彼等の目的はセバスを亡きモノとし、美貌の主人と取引相手であるアルフの二人を自分達の意のままに操るのが計画だったらしい。

 

そこまで話を聞き、クライムは寒気に襲われる。その発生源はアルフとセバスだ。

 

「そ、そういえば。ラグナライト様は何故ここに?」

 

「この人の挙動が少しおかしかったので後を追って来ました」

 

アルフはそう言いながら、自分がのした暗殺者を見下ろしたあと、セバスに問う。

 

「それでセバス様はどうなされるのですか?」

 

「決意が固まりました。とりあえず問題源となっている場所を潰して来ます。話ではサキュロントもそこにいるようですし。火の粉はさっさと払うべきでしょう」

 

その答えに、クライムは息を飲む。

 

殴り込みをかけると言うことは、アダマンタイト

人類最高峰の戦闘能力を持つ者を相手に勝てる自信があるのだろう。

 

「・・・・・・それにそこには他にも囚われている人がいるようですし、早急に行動した方が良いでしょう。

では私はこれから乗り込むつもりです。

大変申し訳ないのですが、この意思を変えるつもりはございません。お二人はこの暗殺者を詰め所まで運んでいただけますか?」

 

「セバス様、私も一緒に行きます。私もそろそろあの八本指と言う組織が鬱陶しくなってきました。どうか協力させてもらえないでしょうか?」

 

「私もです。王都の治安を守るのはラナー様の配下である私にとっても当たり前のことです」

 

「・・・・・・アルフィリア様は大丈夫だと思いますが、あなたには少し危険かも知れませんよ」

 

「危険は承知です」

 

「セバス様、クライムさんも一緒に協力させてください、もしもの時は私がフォローします」

 

「・・・・・・覚悟はしているんですね?」

 

セバスの問いかけにクライムは頭を一つ縦に振った。

 

「分かりました。ならばこれ以上言うことはないでしょう。ではお二方、力をお貸しください」




いよいよ娼館潰しです。


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第73話

アルフとクライムはセバスの案内で娼館の裏手にきていた。

 

襲撃の手筈としてはまずセバスが表から乗り込み、後からアルフとクライムが裏から挟撃をしかけ、逃げ道を潰す。

その際、相手は殺しても構わないが幹部格の者は生かして捕まえてほしいとクライムから頼まれている。

 

アルフは漆黒の柄の紅く透き通った刀身の短刀を持ち

、クライムは緊張した面持ちで剣を構え、突撃に備えている。

 

「ラグナライト様は緊張なされないのですか?」

 

「わずかながら緊張しますが、固くなりすぎてもいつもの力を発揮できないですから」

 

「そうですか。それにしてもその刀綺麗ですね、どう言った物なのでしょうか?」

 

クライムは緊張を解すためか関係のない話をふってくる。

 

「これは昔、知り合いに作ってもらった物です。柄と鞘にはドラゴンの鱗、刀身は龍血晶で作られてます」

 

これはゲオルギウスから取れた素材で試験的に作った短刀だが、とくにこれと言った特殊能力は無く、切れ味と頑強さを突き詰めて造り、自然とオブジェクト破壊効果が付与された。

 

「ドラゴンの鱗と血ですか!しかし間合いが短いですが大丈夫ですか?」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。建物内のような狭い場所で戦う時はこの方が効果的なんです」

 

そんなことを話していると、ズドンと言う衝撃音と共に娼館が揺れ、中からドタドタと複数の人間が走る足音が聞こえてくる。

 

「今のはいったい・・・・」

 

「今のはおそらくセバス様だと思います。こちらも突入しましょう」

 

アルフはそう言うと、短刀で複数回扉を切りつけた。

 

短刀は扉をバターのように切り裂き、扉がガラガラと崩れて入り口が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?なんだ?」

 

娼館の裏口の見張りをしていると、扉がバラバラと崩れ、その向こうには短刀を持った美女と、その後ろには男がいる。

 

「なんだお前。ずいぶん綺麗な嬢ちゃんじゃないか、ここで働きたいのか?」

 

男は入ってきた美女に下卑た視線を向け、ねぶるように見つめている。

 

「いや待て。こいつ、コッコドールさんが言っていたヤツじゃないか?」

 

扉が崩れる音が気になったのか、奥から次々と仲間が出てくる。

 

「確かに、確か捕まえたら壊さない程度に犯しても良いんだっけ?」

 

その言葉を聞き、仲間達の目の色が変わった。たぶん頭の中でこの女が酷いことをされているのだろう。

 

「だが、傷つけたら価値が下がるんじゃねぇか?」

 

「傷くらいはポーションでなんとかなる、悪く思うなよ嬢ちゃん!」

 

俺は剣を振り上げ、女を切りつけようと降り下ろしたのだが、

その剣は女によって、左手の親指と人差指で挟んで受け止められた。

 

「なっ!!」

 

「貴方達に質問があります。ここにサキュロントと奴隷部門の長がいると思うのですがどこにいるかご存知ですか?」

 

「し、知らねぇよ。知ってても教えるか!」

 

俺は剣を両手で持ち、思いきり力を込めるがびくともしない。

 

「そうですか。では貴方には用はありません」

 

女は指に力を込め、剣を折り砕くと同時に右手に持った短刀で右から左へと一閃した。

 

次の瞬間、顔が床に叩きつけられた。

何が起こったのか確認しようと視線を動かすと、そこには首のない自分の体があり、そこで意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を失った男の体はその断面から勢いよく血を吹き出しながら、膝から崩れ落ちた。

 

それを見ていた者達の時間が止まったように辺りが静かになった。

 

それもそうだろう、一瞬で、一撃で、今生きていた人間の命がいとも簡単に吹き消されたのだ。

 

 

 

「次は誰が来ますか?」

 

「よ、よくも!」

 

取り囲んでいた内の一人が駆け出し、剣を振り上げるが、アルフにとっては遅すぎる。

 

アルフはがら空きになっている首を鷲掴み、床に叩きつける。

 

「グハっ!!」

 

叩きつけると同時に床が陥没し、男は吐血した。

 

こうしていると、クレマンティーヌを眷属にした時の事を思い出す。

 

 

「では、貴方にも同じ質問をします。サキュロントと奴隷部門の長は何処ですか?」

 

「し、知らねぇ。知ってても教えねぇよ!」

 

「そうですか、貴方も同じですか」

 

首を掴んでいる手に徐々に力を込めていき、締め上げていく。

 

「ガっ!?・・・・グ」

 

男はアルフの手を剥がそうと手をかけるが全く動かない。

 

「いい忘れていましたが。私は貴方達のような犯罪者は大嫌いです」

 

いい終えると同時、相手の首を握力のみで握り潰し、切断した。

 

 

 

「ひっ!・・・ば、バケモノ‼」

 

男達は踵を返し逃げようとするが、そう簡単にはいかなかった。

 

集団標的(マス・ターゲティング)鎖の拘束(チェーン・バインド)

 

魔法が発動し、床や壁から鎖がのび、男達の足や腕に絡み付き拘束する。

 

男達は拘束から抜け出そうとするが、ガチャガチャと音をたてるだけで拘束が解ける気配はない。

 

「クライムさんはここで働かされている人達の解放をお願いします。私はこの人達から幹部の居場所を聞き出します」

 

クライムは呆然としており、反応がない。

 

「クライムさん!!」

 

「は、はい!!」

 

「ここは私に任せて、貴方は働かされている人達を助けて来てください」

 

「わ、わかりました!」

 

そう言うと、クライムは拘束されてい男達の間を抜け、奥へと走っていった。

 

 

 

「では、尋問を始めましょうか」

 

アルフはそう言いながら、怯える男の頭に手をかけた。




残虐シーンが上手く書けないです。


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第74話

アルフは冷たい目でへたりこんでいる男を見つめながら頭を締め上げていく。

 

時おりパキパキと骨にヒビが入るのが手から伝わってくる。

 

「や、やめてくれ!言う、言うから!」

 

男の言葉を聞き、頭を掴んでいる手の力をゆるめる。

 

「では、サキュロントと奴隷部門の長はどこにいますか?」

 

「ち、地下だ!地下に二人ともいる!」

 

セバスがツアレから聞いた働かされていた場所か。

耳をすました直後、クライムが助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

「しまった!!」

 

クライムはこちらを待たず地下へ行き、敵と遭遇したようだ。居場所を聞き出すのに時間をとりすぎた。

 

こんなことならクライムがいなくなった後、温存とか思わず支配を使って早く吐かせてしまえばよかった。

 

アルフは男の頭から手を離し、床を蹴って声のした方へと駆け出した。

 

 

 

 

 

声の元に近づくにつれ、血の匂いが濃くなっていく。

 

本気で走ろうとすると床を抜きそうで、スピードが出せなくてもどかしい。

 

 

クライムが開けたと思われる地下への階段を駆け下り、石で補強された地下通路を抜け開けた場所につくと、そこには腹部から血を流し、顔色が青を通り越して白くなってきているクライムと、対峙するように立つサキュロント、その後ろになんとも言えない人物がいる。

 

 

「クライムさん!」

 

「ラグナライト・・・・・様」

 

アルフはクライムをかばうようにサキュロントの前に立ち、短刀を構えながらクライムの傷の様子を見る。腹部を貫いたのは見ただけでも致命傷とわかるもので、ただちに治療しなければあと数分で死ぬだろう。

 

「クライムさん、少し動かないでください」

 

そういいながら、サキュロントから注意をそらさず後退り、クライムの傷に空いている左手を当ててブレスレット型のマジック・アイテムを発動する。

 

すると、クライムの傷が塞がり、顔色が少し良くなった。効力を発揮し、役目を終えたマジック・アイテムは砕けて地面に落ちた。

 

「ラグナライト様、これは」

 

「治癒のマジック・アイテムです。この二人は私が相手をします、傷は塞ぎましたが完全に治ったわけではありませんので下がっていてください」

 

アルフの言葉を聞き、クライムは入口の方へと下がった。

 

 

 

「あら?あの娘、ヘーウィッシュが欲しがっていた子ね、あのガキと一緒に捕まえられない?」

 

「情報は持っていますか?」

 

「ええ、確か最近蒼の薔薇に加入した子で金級の冒険者。今は連れていないようだけど、小さな黒いドラゴンがこの子の主力らしいわ。それと、私の子飼のワーカーを5人退けた子よ」

 

「なら、今が捕まえ時と言うことですか。料金は上乗せさせてもらいますがよろしいですね?」

 

「構わないわ」

 

 

 

「話は終わりましたか?」

 

「ええ、終わりましたよ」

 

サキュロントがそう言った瞬間、相手の姿がぶれて見えた。たぶん幻魔の由来である幻術を使ったのだろう。

 

だが、アルフには意味をなさない。

パッシブスキル〈神獣の瞳〉、視界に作用する効果、幻術はもとより閃光や暗闇も無効化する。

 

サキュロントは幻術を使い、分裂したように見せているのだろうが、こちらには分身体が透けて見えている。

 

この世界にも魔法職と戦士職をとっている者がいるとは少し意外だ、スキルで相手のとっている職業を見ると軽戦士、幻術士とある。この二つをとっている者の攻撃パターンとしては幻術を囮にして軽戦士特有の軽く早い動きで攻め立てるのが多いのだが、サキュロントの場合軽戦士に割り振られているレベルが少い。

 

そう考えていると、相手が動き出した。

 

 

サキュロントの幻は踏み込みながら剣を振りかぶり、本体が側面に回り込んで胴を薙ぐように剣を振るおうとしている。

 

アルフは幻から目を反らさず、短刀の峰で本体からの攻撃を受け止めた。

 

「なっ!!」

 

サキュロントは驚いた顔をして飛び退いた。

 

「俺の姿が見えているのか?」

 

「ええ、くっきりと。私には幻術の類いは通用しません、なのでおとなしく捕まってもらえませんか?」

 

サキュロントの顔が苦虫を噛み潰したように歪んだ。

 

「一撃防いだだけでずいぶんな物言いですね」

 

そういいながら剣を構え直し、再び踏み込ん出来る。

 

左下段からの切り上げ、袈裟斬り、突きと次々攻撃を仕掛けてくるが、全て短刀の峰で弾き攻撃を防御する。

 

動きが単純でさばきやすい、おそらく幻術に頼りすぎて剣術を蔑ろにしていたのだろう、純粋な剣の腕ならクライムの方が上に感じる。

 

「貴方の実力は見切りました」

 

アルフはそう言うと、サキュロントが持つ剣を一瞬で細切れにし、残骸がぱらぱらと地面に落ちていく。

 

「え?ゴハッ‼」

 

何が起きたかわからず、柄だけになった剣を持って呆然としているサキュロントの腹を、ぶち抜かないように加減をしながら蹴り飛ばし、サキュロントは壁に打ち付けられ、地面に崩れ落ちた。

 

 

 

「お見事です!」

 

その声にもう一つ重なって「お見事です」と言う声が聞こえた。聞こえてきたのはセバスのものであり、聞こえてきた方向はコッコドールがいた場所だった。

 

アルフがそちらに視線を向けるとセバスがおり、その足元にはコッコドールが気絶させられて転がっていた。

 

「いつの間に?」

 

アルフの問いかけに、セバスは平然と答える。

 

「つい今しがたです。皆さんの意識がサキュロントに向かっていたので、気が付かれなかったようですね」

 

「む」

 

まぁ、確かに自分のスキルでの感知は人狼の聴覚だけで、嗅覚はこちらの世界に来たとき後付けされたモノだ。しかもメニュー画面をひらかず意識一つで簡単に範囲を狭めたりオフに出来てしまう。無意識に聴覚の領域をサキュロントに絞っていたようだ、戦闘中でも広範囲を維持できるように練習しないといけないみたい。

 

「とりあえず、ここに囚われていた人は全て助けておきました。それとクライム君には申し訳ないのですが、幾人かは抵抗が激しかったため殺さざるを得ませんでした。お許しください・・・・・・という話をする前に治療をした方が良いですね」

 

セバスはクライムの元まで来ると、額に手を当てた。アイテムを使ったと言っても回復量はそれほどでもなかったため青かったクライムの顔いろが即座に健康的な状態まで戻った。

 

「体調が戻りました・・・・・・神官だったのですか?」

 

「いえ、神の力を行使したのではなく、気の力を流し込むことで治療したのです」

 

「セバス様は修行僧(モンク)なんです」

 

クライムはアルフ言葉に納得した。




設定説明
〈神獣の瞳〉種族、神獣で取得できるパッシブスキル、幻術、閃光、暗闇など視界に作用するモノを無効化し、暗視も可能。普段は暗視のみを使用している。

治癒のマジック・アイテム
対象者のHPを15%回復させ、傷口を塞ぐ効果がある使いきりのアイテム。
ユグドラシルでは宝箱に入っていることがあるが効果が微妙なため主な使用方法が売却してユグドラシル金貨に換えることになっていた不遇のアイテム。


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第75話

サキュロントとコッコドール、その他八本指の者達を役人に引き渡したあと、アルフはクライムに質問していた。

 

「クライムさん。どうしてあの時、地下への階段を見つけたときに私を呼んでくれなかったのですか?あの時サキュロントが娼館の何処かにいるのはわかっていましたよね」

 

「その事は本当にすみません。地下への階段を見つけた事で、捕まっている人達を早く助けなくてはと気持ちがはやってしまって・・・・・・」

 

「過ぎたことは仕方ないですが、今度はまた生き残れるとは限りませんよ?

今度クライムさんの気のすむまで稽古に付き合ってあげますので、日時が決まったらラキュースにでも言ってください」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

アルフの言葉を聞いたクライムは目を輝かせ、聞いてくる。

 

「本当です。では、私とセバス様は帰りますので後の事は頼みます」

 

「はい!」

 

クライムはそう言うと走って去っていった。

 

 

 

 

 

「お優しいのですね」

 

「そう言うセバス様もツアレを助けたり、クライムさんに稽古を付けたりしたではないですか」

 

「アルフィリア様、申し訳ないのですが、私の事を様付けではなく、いつものように呼び捨てで呼んでいただけないでしょうか。至高の御方に様付けで呼ばれるのはこう、むず痒いと言いますか・・・・・・」

 

セバスは上の者に様付けで呼ばれ、微妙に居心地が悪いのだろう。そんなセバスにアルフは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 

「そうはいきませんよ、セバス様。今は屋外です、何処の誰が聞いているかわかりません。こう言った演技は徹底的にやらないといけませんよ?セバス様」

 

「アルフィリア様が言われていることはわかりますが・・・・・・」

 

セバスは苦笑いを浮かべ、仕方なくといった感じで受け入れた。

 

 

 

「それで今後の事なんですけど、舘に帰ったらツアレに会わせてもらえますか?」

 

「それは構いませんが、彼女に何か・・・・・・・」

 

セバスは心配そうにこちらを見ている。たぶん彼女が粗相をしないか心配なのだろう。

 

「彼女には今後の事を聞かないといけませんから。ちょっとした意思確認です、人の世に戻るのか、私達と共に来るのかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

ロ・レンテ城 ヴァランシア宮殿

 

太陽も沈みきり、夜がおとずれた。

ヴァランシア宮殿の一室には、話し合う男女の影がある。話し合っているのはラナーとクライムであり、クライムは今回の出来事の顛末を話していた。

 

アルフィリアとセバスと言う執事と共に娼館を襲撃し、六腕の一人であるサキュロントに、奴隷売買の部門長であるコッコドールの捕縛。

 

そして、奴隷として強制労働者達の開放。

 

「そうでしたか、それは大変でしたね」

 

「はい。もし、あの時ラグナライト様が来なかったらと思うと・・・・・・自分にもっと力があれば」

 

クライムはうつむき、自分の手をじっと見つめている。

こんなとき、ぎゅっと抱き締められたら良いと思うが、立場や人目があるため自由に振る舞えないでいる。

 

「それで、アルフィリアの戦いを見てどう思われましたか?」

 

「圧倒的の一言です。鉄で補強された扉を容易く切り裂き、相手の攻撃を見切る技量。剣を指で砕き、首を握力のみで切断する力。彼女はいったい何者なのでしょうか?もしかすると十三英雄の生残り、またはその子孫なのでしょうか?」

 

クライムは目を輝かせて話してくる。彼女の事は女性としてではなく、絶対強者に対する憧れの目で見ているようだ。

 

「どうでしょう、彼女本人に聞いてみてはいかがですか?」

 

アルフィリアには正体を喋らないと言ってしまっている。クライムになら話しても問題ないとは思うが、こちらが言ったことを曲げた事で約束を反故にされる可能性がある。

 

「今度ラグナライト様に稽古を付けてもらえることになったので、その時にでも聞いてみます」

 

 

 

「少し話がそれてしまいましたね。これからの話なのですが、明日、遅くても明後日には、ラキュースが持ってきた羊皮紙に載っていた八本指の施設に対して攻撃を仕掛けます。今回の娼館襲撃で、時間が経てば経つほど警戒が厳重になると予測できますので」

 

「申し訳ありません! 私が勝手なことをしたことで!」

 

「いえ、気にしないでください。踏ん切りがついたと思うべきです。相手が王都から情報を持ち出す前に、もう一撃。明日は激動の一日になると思います。それを心してください」

 

 

 

 

 

 

クライムが部屋から出ていく。血の臭いが和らいだような気がする。

 

やはり思った通り、アルフィリアは当たり札のようだ。クライムの事も快く思っているようだし、彼の力不足を憂い技量向上を自ら買って出でてくれた。

 

他の女と親しくするのは余り良い心地はしないが、彼女であれば問題ないだろう。クライムは彼女の事を憧れの目で見ており、恋心を抱く可能性はほぼ皆無。

アルフィリアに関しては男性に恋愛対象としての興味が無いように見える。

 

この騒動でこのまま彼女の側についていれば強くなれるし、少し危険はあるが大怪我をしても今回のように無事に帰ってくる。なによりこの件でクライムが功績をあげれば、自分の望みがより磐石なモノになるだろう。

 

そんなことを考えながら、メイドを呼ぶためのハンドベルを鳴らす。

 

さて、どんな顔をして話そうか。そう思いながら鏡の前に立ち、頬を上下にもにゅもにゅと動かし、今日の当番であるメイドの事を思い出す。

 

アレはクライムに反感を覚えている、アイツはどうやって殺そう。

 

私のクライムを馬鹿にする者はみんな殺す。

 

 

 

そんなことを考えながら無邪気で愚かな姫を演じ、部屋に訪れたメイドに、情報と言う毒を流し込んでいく。





【挿絵表示】

息抜きに描いた店主服姿の悪戯っ子なアルフさん。


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第76話

日が傾き、茜色の光が窓から入り、部屋のなかを照らしている。

 

娼館を潰したあと舘に帰り、アルフは変化を解いて獣耳や尻尾を隠さず客間の椅子に腰を下し、太股にゲオルギウスをのせてその背中をゆっくりと撫でているのだが、彼はツンとした態度をとっている。

どうやら、何も言わずに置いていった事ですねているらしい。

 

とりあえずご機嫌をとるため、顎の下や角の生え際、翼の間、腹を撫でていく。

少しすると、尻尾を振りなら甘えたような声をあげ始めた。

 

うむ、意外にちょろいドラゴンである。

 

 

 

 

甘えてくるゲオルギウスを撫で回していると、部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞ」

 

入室を許可するとセバスが扉を開け、部屋に入ってきた。

 

「アルフィリア様、つれて参りました」

 

セバスの後ろには少し怯えた様子の女性がいる。

その女性の容姿は整っており、どこかで見たような顔立ちをしている。

 

「初めまして、私の名はアルフィリア・ルナ・ラグナライト。見ての通り、人間ではありません」

 

そう言いながら左手を上げ、獣化させる。

バキバキと音をたてて腕の骨格が変化し、髪と同じ艶のある黒い毛で覆われた。

 

 

「貴女の名前を教えてもらえますか?」

 

アルフの問にツアレはどうして良いかセバスに問うような視線を向け、セバスはゆっくりと頷いた。

 

「わ、わたしの・・・・・・名前は、ツアレ。ツアレニーニャ・ベイロン・・・・・・です」

 

アルフは成る程と納得した。

エ・ランテルで初めて店に来た冒険者チームの中に居たニニャを思い出した。

 

「ツアレさんに問いたいことがあります。貴女はこの先どうしたいですか?何もかも忘れて人の世に戻り普通に暮らすか。私達と共に人ではない者達と歩むか」

 

「セ、セバス様と一緒に・・・・・・居たいです」

 

少しおどおどした感じはあるが、その瞳には強い意思が感じられた。

 

「では、人の世に未練はありませんね?」

 

「はい・・・・・妹・・・・・・に会いたいという気持ちは少しあります。でももう昔を思い出したくないという気持ちの方が強いので・・・・・・」

 

6年以上の長い間玩具として弄ばれ、病気になるほと犯されていたのだ。やはり思い出したくないことが多すぎるのだろう。

 

「貴女の意思はわかりました、私の名のもとに貴女を保護いたします。もし、働きたいというのであればセバスに申し出てください。ツアレの件は私からアインズさんに報告しておきます」

 

「アルフィリア様、ありがとうございます」

 

セバスはそう言うと、ツアレを連れて部屋を出ていった。

 

 

耳を澄まし、扉の外の声を聞くと「ちくちくしました」とか「幸せなキスは初めてです」などと聞こえてくる。

こう言ったときは祝福すべきなのだろうが、心の隅ではリア充爆ぜろという思いが・・・・・・。

 

 

とりあえず、これからの予定を考えることにした。

まずはラキュース達に娼館襲撃の件を説明し、その後ツアレの事をアインズ達に説明する必要がある。

幸いアインズとペロロンチーノは王都に来ており、店にいるとぶくぶく茶釜から報告が来ている。

 

行動は早い方がいいだろう。

アルフは今日から店に戻るとセバスに伝え、舘を出る準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルフが準備をしているのと同時刻 アルフの店

 

そこのリビングでは、異形の者達がテーブルを囲んでいた。

 

ちなみにクレマンティーヌは何時ものようにぶくぶく茶釜にいろいろされて寝室でダウンしている。

 

「さっきアルフさんから連絡あったんだけど、むこうの心配事が一つ消えたからこっちに戻ってくるって。それとアインズさんに直接報告したいことがあるみたい」

 

「俺に?」

 

「うん。何でもセバスに彼女ができそうらしい、と言うかキスしたって言ってた」

 

「はい!?本当なんですか!?」

 

ぶくぶく茶釜の言葉を聞き、アインズは身を乗り出して詰め寄る。

 

「本当みたいですよ。まぁセバスからではなく、女性の方から見たいだけど」

 

「セバスもすみにおけないなぁ。で、姉ちゃんはそう言う人はいるの?」

 

「いないわよ。強いていうならアルフさんかな、調教・・・・・・もとい教育は順調だし」

 

「教育、ですか」

 

「うん。私による私のためのアルフさん完全女性化・妹化計画」

 

「そういえば、最近アルフさん自分のこと僕って言わなくなってるな。それ関係してたりするの?」

 

「もち。ぼくっ娘も良いんだけどあの容姿なら私呼びの方が合うでしょ。普段から私呼びにしておけばボロが出にくいってもっともな理由付けたり」

 

「・・・・・・あまりアルフさんで遊ばないでください。で、いつ頃戻ってくるんですか?」

 

「所属している冒険者チームの人達にも説明する事があるから夜になるみたい。あ~、早く帰ってこないかなぁ、アルフさん成分補充したい」

 

ぶくぶく茶釜はそう言いながら腕を伸ばし、うねうねと動かしている。



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第77話

アルフは娼館襲撃の報告のため、蒼の薔薇が泊まっている宿に来ていた。

 

アルフの格好は夜と言うこともあり、フード付きの丈の長いローブを纏って耳と尻尾を隠し、頭にはゲオルギウスを乗せている。

 

「はぁ・・・・・・多分怒られるよなぁ」

 

ラキュース達に相談もなしに厄介な相手にちょっかい出したのだ、それを思うと気が重くなる。

 

「うだうだしてても仕方ないか」

 

アルフは怒られる覚悟をきめ、蒼の薔薇が泊まっている部屋をノックしたのだが、怒られる心配は杞憂に終わることになる。

 

ノックをした直後扉が開かれ、ラキュースに部屋に引きずり込まれた。

 

 

「アルフィリア、大丈夫!?怪我はない!?」

 

部屋の中にはラキュース、ティア、ガガーランの3人がいる。

 

ラキュースはアルフの着ているローブをめくり上げ、怪我がないかを確認している。

 

「ちょっ!ラキュース!?」

 

「もう、ティアとティナから八本指の娼館を三人だけで襲撃したって聞いて心配したんだから」

 

「すみません、でも見ての通り怪我はありませんよ」

 

「でもじゃないわ。貴女はぷれいやーで強いかも知れないけど女の子なんだから、あまり危ないことしないで」

 

ラキュースはそう言うとアルフをぎゅっと抱き締めた。

 

そう言えばまだ中身の性別言ってなかったなぁ。

蒼の薔薇の皆なら「一応は女の子だからいいんじゃない」とか、ティアなら「中身が男なら私がお嫁さんになる」とか言いそうで話しても問題ないと思うのだが、どう切り出したものか。

 

そんなことを考えていると、ティアから思いもしない言葉が出てきた。

 

「リーダー、アルフィリアは中身男の子」

 

「そうだっけ?」

 

「そう。私がお嫁さんにするのに重要な事だから、中身が男なら女好き」

 

うん、間違ってはいないけど言い方が悪い気がする。

 

「あの。それ誰から聞きました?」

 

「茶釜からよ。貴女が数日店を空けていた時に話す機会があってね、そこで聞いたのよ。心配しないで、蒼の薔薇をやめさせたりしないから」

 

「中身が男と言う点ではガガーランも同じ、だから気にしない」

 

「おい、それどう言う意味だ?」

 

説明する手間は省けたし、懸念していた皆の反応も問題ないようだ。

 

「それより、明日からは忙しくなるわよ。今回の娼館襲撃で八本指はいろいろ動いてくると思うわ、その前に八本指の施設を叩きます。その時貴女にはクライムと一緒に行動してもらう予定よ。作戦の内容が決まったら伝えるから、早く茶釜の所に行ってあげて。貴女がいなくて寂しそうだったから」

 

「わかりました、ではまた明日」

 

アルフは転移門を発動し、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

「にしても、アルフィリアの中身が男かぁ。そんな風には見えなかったが」

 

「ガガーランにしては珍しい。茶釜義姉様から聞いた話だとアルフィリアは童貞でああなった、いつもみたいに誘わないの?」

 

「ティア、俺を何だと思ってんだよ。そりゃ童貞の男ならさそうけどよ、女の体で物が無いんじゃやりようがないだろ」

 

「ガガーラン、生えてないの?」

 

「俺は女だ!にしても、お前は嬉しそうだな」

 

「もち。いつもは可愛い女の子がいて告白しても反応はほぼ一緒、だけどアルフィリアは中身男だから恋愛対象は女、だから私にもチャンスがある」

 

「はぁ、この話はここまで。ティナとイビルアイが帰ったら明日の準備をしましょう、ラナーがクライムから話を聞いて計画を前倒し、修正しているはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルフの店

 

転移門を抜け、店の居住区にあるリビングに出るとそこにはアインズ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜がそろっていた。

 

「ただいま」

 

「アルフさん寂しかったー」

 

「え!?茶釜さん!?」

 

挨拶をした直後、ぶくぶく茶釜に抱き付かれ、押し倒された。

 

「アルフさん成分補給」

 

そう言いながら複数の手をくねらせながら、服の下に潜り込ませてくる。

 

「ちょっ!茶釜さん、やめっ!胸揉まないでくださいっ!」

 

「良いではないか、良いではないか」

 

ぶくぶく茶釜は手をくねらせてパンツを脱がそうとするが、アルフはスカートの上からそれを押さえて抵抗する。

 

「何してるんですか!」

 

「あーちゃんを直に感じようと思いまして」

 

「あまりこの手は使いたくなかったんですが、〈強制転移〉!」

 

魔法が発動すると同時、ぶくぶく茶釜の姿が消え失せた。

 

 

 

 

「アルフさん、大丈夫ですか?」

 

アインズが心配そうにこちらを見るが、すぐに顔を反らした。ペロロンチーノは顎に手を当て満足げだ。

 

二人がなぜそんな反応をしたのか気になり、自分の今の姿を見て理解した。

着ている衣服が乱れ、スカートが捲れ上り、脱げかけのパンツが見えている。

アルフは慌てて捲れたスカートを戻し、衣服を整えた。

 

 

「あー、それで茶釜さんはどこへ転移させたんですか?」

 

アインズはそう言いながら辺りを見回している。

 

「茶釜さんならそこです」

 

アルフは床を指差した。そこには床下収納があり、アインズがそこを開けると大きめのビンが一つ入っており、ゴトゴトと音をたてて動いている。

 

アインズは床下収納からビンを取り出し、テーブルの上に置いた。

ビンの中にはぶくぶく茶釜が詰められており、ビンから出ようともがいている。

 

「アルフさんこれって、スライム種捕獲用のビンですか?」

 

「そうです、スライム種には開けることも破壊することもできないよういろいろいじりましたけど。もしもの時に用意しておきました、今夜はビンの中で反省してもらいます」

 

『にぁーー!!開かない!』

 

ぶくぶく茶釜はビンを開けようともがくが、ゴトゴトと音をたてて揺れるだけだった。




ニニャとツアレは難しいところですね。
その辺りいろいろ考えます。


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第78話

翌日

 

朝食をとったあと、アルフ、ペロロンチーノ、アインズはテーブルに乗せた瓶詰めのぶくぶく茶釜を囲んでいた。

 

「茶釜さん、反省しましたか?いきなりあんな過激な事はしないでください。今度ヤったら黒棺(ブラック・カプセル)行きにしますから」

 

『・・・・・・わかりました』

 

その返事を聞き、アルフはビンの蓋の金具を外してぶくぶく茶釜を外に出した。

 

「まあ私も茶釜さんの気持ちはわからないでもないですが、いきなり胸揉んだりパンツ脱がせたりしないでください。あんな過激なのは無理ですがこういうことならして上げますから」

 

そう言いながらアルフはぶくぶく茶釜を抱き上げて膝の上に乗せ、その頭に胸を乗せた。

 

 

「やっぱり私の気持ちはわかりますよね。夜な夜なクレマンティーヌの痴態撮った写真とか見ながらベッドの中でゴソゴソしてますし、中身は男の子ですね」

 

「・・・・・・」

 

「え・・・・ちょっと待って!謝る、謝るからまたビンの中はやめて!」

 

アルフは羞恥で顔を赤くし、無言でぶくぶく茶釜をビンに押し込もうとしている。

 

「ははは、アルフさんと茶釜さんは仲が良いですね」

 

「ちょっ!アインズさん見てないで助けて!あんたも傍観してないでアルフさん止めて!」

 

「まぁ今のは姉ちゃんの自業自得でしょ」

 

温かい目で見ているアインズとペロロンチーノに助けを求めるも、それは聞き届けられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・解せぬ」

 

あの後私はビンではなく網に詰められ、天井から吊るされていた。

目が荒いのでそこから抜け出そうともしたのだが、どうやってもすり抜けられず、どうやらこれもスライム捕獲用のアイテムらしい。

 

「いろいろ仕方ないと思います。せっかく機嫌がなおったのに、俺だって同じことされたら怒りますよ」

 

「姉ちゃん。アルフさんが夜な夜なナニをどうしていたのか具体的にお願いします」

 

「具体的な事言ったら今度こそ黒棺行きにされるから言えない、あんたの想像に任せる。それよりここから出してくれない?」

 

「無理です。ちょっと鑑定してみたんですが、その網は錬金の効果で道具破壊系の魔法が効かない見たいで網を開くには専用のアイテムか物理攻撃による破壊しかないみたいです。まあ昼には帰ってくるみたいなのでそれまでの我慢してください。それに、とばっちりで黒棺行きは嫌ですから」

 

「ですヨネー、てか姉ちゃん淫獣化が進んでね?」

 

「どうなんだろ、以前より女の子にイタズラしたいって気持ちは強くなってきてるけど。それにしても、アルフさんが戻るまでこのままかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶくぶく茶釜を吊るしたあと、アルフはクレマンティーヌをつれて王都を歩いていた。

行く宛は特になく、適当に歩き回る予定だ。

 

「やっぱりあーちゃんの近くは落ち着くわー。茶釜ちゃんと二人きりだと何時何されるかわかんないもん。そう言えば機嫌悪そうだけど何かあった?」

 

クレマンティーヌはそう言いながら両手をあげて伸びをした。

 

「・・・・・ちょっと、茶釜さんがね」

 

「何、とうとう突っ込まれたの?」

 

クレマンティーヌはなぜか目を輝かせて聞いてくる、多分同じ境遇の仲間ができるかも、と喜んでいるのだろう。

 

「いや、そうじゃないんだけどちょっと言いにくいこと・・・・・」

 

「なーんだ。それよりさぁ、いつまでこの格好してなきゃいけないの?私の鎧そろそろ出来ててもいいんじゃない?」

 

そう言いながらクレマンティーヌは自分のはいているスカートを持ち上げ自分の姿を見ている。クレマンティーヌは王都に来たときと同じような村娘風の格好をしている。

 

「一応鎧とそれにあう武器は出来てるんだけど中身がまだなんだ」

 

「中身?」

 

「うん、装備の効果をクレマンティーヌの能力を伸ばす感じにしようと思うんだけど、貴女はまだ成長するからそのまま特化するのか、出来ることを増やすのか。

それによって付与する能力が変わって来るからなかなか決まらないんだ。まにあわせだけど装備の準備はしてある」

 

「へぇー、ちゃんと私の事考えてくれてるんだ」

 

「当たり前だよ。それじゃ食べ歩きを再開しようか」




誤字脱字の指摘ありがとうございます。


茶釜さんの淫獣化がマッハになりそうですが大丈夫だろうか?


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第79話

王都リ・エスティーゼ 某所 11:30

 

人目のつかない屋根の上、そこには二つの人影があった。片方はデミウルゴス、もう片方はシャドウデーモンだ。

 

『デミウルゴス様、指示されたモノの調査が終わりました』

 

そう言いながらシャドウデーモンは紙の束を渡し、デミウルゴスはそれをパラパラとめくり、満足げに頷く。

 

「ありがとう、では本来の任務に戻っていいですよ」

 

『はっ』

 

シャドウデーモンは一礼し、影に溶けるように姿を消した。

 

「あとはアウラだけですか」

 

そう言いながらアウラが調査を行っている区画に目をやると、ちょうどアウラが屋根の上を跳ねてこちらにやって来るのが見えた。

 

 

 

「デミウルゴス、こっちは調べ終わったよ」

 

「ありがとうございます。これであらかた調べ終わりましたね」

 

「そう言えばさぁ、勝手にあんなことやって良かったの?アルフィリア様自ら魔力を込めたアイテムを持っていたとはいえ、至高の御方の指示なく人間の前に現れて。他の人間に知られたらどうするの」

 

「その点は問題ありませんよ。彼女の知略は私やアルベドに匹敵しますし、彼女は我々が有益であるかぎり裏切ることは無いでしょう。それに、いろいろ情報ももらいましたしね」

 

「デミウルゴスがそう言うならいいけど。それよりさ、こんな人間の組織の情報なんてなんに使うの?」

 

「それは内緒です。さて、これからあの人間達がどうなるか楽しみですね」

 

デミウルゴスは怪しげな笑みを浮かべ、目の前にある八本指の拠点を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気晴らしの食べ歩きを終えて店に戻ってリビングにいってみると、アインズは椅子に座って本を読み、ペロロンチーノは吊るされているぶくぶく茶釜を野菜スティックでつついていた。

 

「ほーら姉ちゃん、餌ですよー」

 

野菜スティックはぶくぶく茶釜の体にめり込むだけでかじる様子はない。

ペロロンチーノの気分は鳥篭の鳥にエサを与えている感じだろうか、今まで虐げられてきた事をここではらそうとしているのも理由としてはあるのだろうが・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・小僧、ただで済むと思うなよ」

 

 

 

ぶくぶく茶釜が低音でそう言い、ペロロンチーノの体が震え始めた。

 

「・・・・・茶釜ちゃん、あんな声も出せたんだ。一瞬チビりそうになった」

 

私もクレマンティーヌと同様、ぶくぶく茶釜の声に気圧されチビりそうになっていた。

 

「あ、アルフさんおかえりなさい」

 

「うん、ただいま・・・・・・」

 

声の高さはいつもと同じだが、怒気が混ざっているのが感じ取れる。

 

「早速で悪いんだけど、これ解いてくれるかな」

 

「は、はい!」

 

「アルフさんちょっと待って!」

 

ペロロンチーノは逃げ出そうと駆け出したが、それより早く開放されたぶくぶく茶釜はペロロンチーノの頭を掴み、床に叩きつけた。

 

「ぐっ・・・・・アルフさん助け、痛ダダダァ!割れる!砕ける!」

 

ギリギリと頭を締め上げ、ミシミシと音がなる。

 

「大丈夫、死ぬ前にポーション使って何度も何度も同じこと繰り返してあげるから」

 

「お姉様、やめっ、ギヤァァァァ‼」

 

こうして、調子にのったペロロンチーノはぶくぶく茶釜による制裁を受けることになった。

 

 

そのまま平穏に今日が過ぎるのかと思ったのだが15時頃にソリュシャンからのメッセージが入った。

 

 

 

 

『アルフィリア様、少々御時間よろしいでしょうか』

 

「ソリュシャン、どうしたの?」

 

『アルフィリア様が保護されると言った人間が八本指に拐われました』

 

「・・・・・・それ、どういう事?貴女とセバスは何をしてたの?」

 

アルフの声には怒気と苛立ちが混ざり、ソリュシャンは息をのんだ。

 

『そ、その。アインズ様の命で我々が王都を去るにあたり、付き合いのあった商人や組合の人間達に挨拶をしに行ったのですが思いの外時間をとられてしまい、その間に拐われてしまったようです』

 

社会人として挨拶に行くのは間違いではないが、見張りや護衛はつけなかったらしい。その辺りまだ経験不足なのだろう。

 

「それで、相手からの要求は?」

 

『指定された場所へ時間内に来るよう置き手紙がありました』

 

それからソリュシャンから場所と時間を聞き、自分も出向く旨を伝えてメッセージを切った。

 

 

 

「あの、アルフさん。どうかしましたか?」

 

アインズが心配そうにこちらを見ている、ぶくぶく茶釜も同じような感じだ。今の心情が声や表情に出ていたらしい。

ペロロンチーノはリビングの隅で気絶している。

 

「セバスが助けた娘が拐われました。それでアインズさん、ナザリックを動かしていいですか?」

 

「デミウルゴス達の邪魔にならない範囲でなら構わないですが」

 

「ありがとうございます。クレマンティーヌ、この装備に着替えておいて」

 

そう言いながら、アイテムボックスから無限の背負い袋を一つ取り出し、テーブルの上に置いた。

クレマンティーヌは袋の口を開き、中をのぞきこむ。

 

「ん、何。私の新しい防具?」

 

「いや、私のお下がりの間に合わせ。このあと八本指相手に戦争するから、その格好で行くよりはいいでしょ?私も準備があるからまた後で」

 

そう言うと、アルフはリビングを出て寝室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、あの感じ前にもあったなぁ」

 

「ですね。八本指が悪いとは言え、怒ったアルフさんの相手はかわいそうですね」

 

「それより、クレマンティーヌは何やってんのさ」

 

視線をクレマンティーヌに移すと服を脱いで下着姿になり、防具に着替えようとしている。

 

「何って、普通に着替えだけど?」

 

「それはわかるけどさ、一応ここには男が二人ほどいるんだからアルフさんと一緒に寝室に行って着替えようよ」

 

男二人に目をやるとアインズはそっぽを向き紳士的な対応をしているが、愚弟は床を這ってクレマンティーヌに近づこうとしているので踏んづけておく。

 

「前居た所だと任務の都合上男共の前で着替える事もあったし、いまさら恥じらいとかないなぁ」

 

クレマンティーヌがそれでいいなら問題ないか、とりあえず足の下で抜け出そうともがいている愚弟は踏み抜いておいた。




オーバーロード二期製作決定!!
初っぱな新婚ごっこが見れるのでしょうか。


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第80話

王都 某所

 

私は皆の前に立ち辺りを見回す。そこには様々な者がおり、異形の者の姿もちらほらある。

 

「さて、これよりゲヘナの下準備として八本指と言う人間の組織を潰します。先程アルフィリア様からメッセージが入り八本指の殲滅の許可ももらいました、彼らに関しては奴隷にするなりシモベの食事にするなり好きにしていいと言うことなので、組織自体を乗っ取って奴隷にしたいと思います。

一般人の誘拐に関してはアインズ様には許可はいただいておりますがアルフィリア様には事後報告になるのであまり派手なことは控えてもらいたい。何か質問がある者はいますか?」

 

そう問うと、アウラが手を挙げた。

 

「ちょっと聞きたいんだけどさ、人間相手にこの戦力は過剰じゃない?」

 

そう言いながらアウラは辺りを見回す。

デミウルゴスを含め、アウラ、マーレ、シャルティアの四人の階層守護者、プレアデスからはソリュシャンとエントマ、その他にもデミウルゴスの配下の高位のシモベである魔将(イビルロード)達が複数。

レベルが最大でも30ほどしかない人間相手にこれほどの戦力をぶつけるのはもはや虐殺以外の何物でもない。

 

「アウラの言いたいことはわかりますが。あの人間達はアルフィリア様を怒らせた、と言う理由だけでは不足かね?」

 

「ん、それなら仕方ないか。それにしてもアタシまで居る必要は無いんじゃない?アインズ様から偽の拠点を作るように命令されてるんだけど」

 

「私も最初はそう思ったのですが、アルフィリア様から急な指示があったときにそれに答えなくてはいけないからね。アウラにはアルフィリア様の側に居て指示があったときはそれに従ってほしい、拐われているツアレが怪我をしていた場合も考慮してソリュシャンを。アインズ様に許可はもらっています」

 

「了解」

 

「それでは次に、アルフィリア様が八本指の拠点を一つ受け持ってくれるにあたり、マーレには他の場所を襲撃してもらう。君一人では足りないということはないだろうが、念のためエントマも同行させよう」

 

「わた・・・・・・わらわは?」

 

「シャルティアにはすまないが、今回殺してはいけない人間が六人ほどいるので待機だ、スポイトランスで吸い尽くせば問題ないとは思うが不安の芽はできるだけ摘んでおきたいからね。遊軍として遊んでいてくれたまえ」

 

それを聞いたシャルティアはしょんぼりとしている。

結果的には冒険者モモンの地位向上といういい方向に転んだが、前回血の狂乱でへまをやらかしているのでこれは仕方ないことだ。

 

「さて、これから重要事項を告げる。決して見逃したりしないように。エントマ。君は幻を作り出すことができたね?私の指示通りに幻術で作ってもらいたいものがある」

 

「了解ですぅ」

 

デミウルゴスの細かい注文を受けながら、エントマは何もない空間に六つの虚像を出現させた。

浮かび上がった幻像の出来にデミウルゴスは満足する。

 

「この人物達を殺すのは禁止だ。多少の手傷を与える事は許すが、原則禁止と覚えてほしい。特にこの五人の女性はアルフィリア様が冒険者として一緒に行動している者達だ」

 

「デミウルゴス、質問なんだけど」

 

「何かね、アウラ」

 

「その五人の中に毛色が違うのが居るけど、オーガとかトロールとかドワーフ変種の牝なの?」

 

「アルフィリア様からの情報によるとちゃんとした人間の女性のようだね。種族が違うのはこの仮面を被った魔法詠唱者(マジック・キャスター)でヴァンパイア、レベルは50ほどあるので遭遇した場合は即時撤退を推奨する」

 

それを聞いたシャルティアは興味深そうに仮面を被った少女を見つめる。アンデッドであることと少女程の背丈なのが彼女の性的な琴線に触れたようだ。

 

「シャルティア、わかっているとは思うが拐うのも禁止だ」

 

「わ、わかっているでありんす!」

 

「まあ、百年程すれば一人になるだろうし、そうなったときアルフィリア様は我々の所に来るように勧誘するだろうからそれまでの我慢だ。なに、我々にとって百年などすぐさ」

 

「そうでありんすね」

 

そう言うとシャルティアはうつむいて何やら考え始め、表情が緩んでいく。多分、彼女がナザリックに来てからどうしようかいろいろ考えているのだろう。

 

「ではこれより計画を始動する。各自持ち場についてくれたまえ」



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第81話

八本指が指定した時間の少し前、指定された場所に向かうため、アルフとセバスは不可知化したクレマンティーヌ、ソリュシャン、ゲオルギウスを頭に乗せたアウラを連れて路地を歩いていた。

 

今は夜である、アルフは耳と尻尾を隠すためフード付きの黒いロングコートを着込み、動きやすくするためいつものロングスカートからズボンにはきかえている。

 

 

今夜、八本指の拠点に行くことをラキュース達にメッセージを使って経緯と共に知らせたところ、クライム達を向かわせた所と被っていたため、ついでに援護して欲しいと頼まれ、断る理由はないので了承した。

 

「しかし、アルフィリア様までこられなくても良かったのではないでしょうか?人間の組織を潰すのであれば我々だけで」

 

ソリュシャンの言うことはもっともだ。

 

「ソリュシャン、相手は私とセバスを名指しで呼び出した。もしも私が行かなかった場合、最悪ツアレが殺される可能性がある」

 

「ですが、アルフィリア様にこれ以上不快な思いは」

 

「ソリュシャン、不快な思いはもうしている。八本指のせいであいつらの事を思い出したよ・・・・・・」

 

ソリュシャンはアルフの表情を見て息を飲んだ。その表情は冷たく、見ているだけで寒気が襲ってくるようだったが次の瞬間には普段の表情に戻っていた。

 

「早く行こう。クライム達が待ってる」

 

そう言うと、アルフは歩を早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地を進み、指定され場所の近くに隠れているクライム

とその隣に見知らぬ人物がいた、スキルで職業を見ると盗賊とある。

耳をすますと、少し離れたところから複数の呼吸音と布が摩れる音、カチャカチャと鎧の音も聞こえてくる。多分クライム達の仲間だろう。

 

「ラグナライト様、アインドラ様から話は聞いております」

 

「貴女が噂の。微力ながら手伝わせてほしい」

 

「助かります、それで状況は?」

 

「それが・・・・・・ここには八本指最強と言われる六腕の内、五人が揃っていますが・・・・・・倒せますか?」

 

クライムの質問に盗賊が眉をひそめる。その気持ちはクライムにも理解できた。六腕はアダマンタイト級冒険者に匹敵する強さを持つ、それを五人相手にして勝てるはずがないと考えているのだろう。

 

「昨日のサキュロントと同等なら10人居ようが問題ありません」

 

それを聞いた盗賊はクライムを少し離れた所につれていき、耳打ちする。

 

「・・・・・・班長、あの人物はもしかして狂人ですか?一応いろいろ噂を聞いていますが、五人相手となると・・・・・・」

 

アダマンタイト級冒険者の強さを知っているなら当然の反応だ。しかし、アルフの強さを身を持って知っているクライムにはあの言葉が真実だとわかる。

 

「違うんです。それくらいあの方は強いんです。ガゼフ様が自ら、自分と同等の力量を持った者が束になっても敵わないと、そう言っていました」

 

「えっ!?戦士長がそんなことを!?本当だとするとそれはすごい・・・・・・」

 

「それで、これからのことですが。ラグナライト様とセバス様にも六腕の話をしていただけますか?」

 

 

 

 

 

 

 

二人から情報を聞き、作戦をたてた結果。アルフとセバスが八本指の気を引き、クライムと盗賊で手薄になった建物に侵入して拐われたツアレを救出する事となった。

 

そして今、アルフとセバスは訓練所を思わせるような広々とした場所で三十人程の男に囲まれている。

 

そこに待ち構えていた複数の男達、若干名の女達がニヤニヤとした品のない笑みを浮かべている。

その中に二人に聞いた六腕がいた。

 

不死王 デイバーノック

踊る三日月刀(シミター) エドストレーム

千殺 マルムヴィスト

空間斬 ペシュリアン

 

レベルはたいした事はないが、気になるのは空間斬の二つ名を持つ男。実際空間を両断するスキルや魔法は存在しているが、あれがそこまでの領域に至っているとは思えない。

 

そんなことを考えていると、六腕から声が上がる。

 

「なぁ、爺さん。あの女そんなに大事か?」

 

ちらりと建物のある場所へ視線を向ける。それは無意識の行動なのだろう。

アルフは視線の先を〈千里眼(クレアボヤンス)〉で確認すると、そこにはツアレが居た。二人から聞いた情報では違う場所に捕らわれているはずだ。

 

「そこの女を全裸に剥いてこちらに引き渡すなら今すぐ解放してやる。そこの女は六腕の一人サキュロントを倒したからな、ズタボロになるまで凌辱してから殺す。それをあそこにいるお偉いさんに見てもらわないとな」

 

そう言いながら建物を見た。

 

要約すると、警備部の幹部がやられてメンツが潰れた。なら倒したやつを力と数でねじ伏せて信用を取り戻す、と言ったところだろう。

 

こういった手合いは面倒だ。ユグドラシルでギルド潰しをしたあと、メンツだ何だと数週間付きまとわれたことがあった。

 

「貴方達の言いたいことはそれだけですか?〈次元立方体(ディメンション・キューブ)〉」

 

アルフは魔法を発動し、半透明の立方体の中に六腕を隔離した。

 

「なっ、何だこれは!?」

 

六腕の四人は立方体の内側から攻撃するがその攻撃は通らず、金属を打ち合わせる音だけがあたりに響く。

 

「答える義理はない。お前達はそこで部下達がたった一つの魔法で全滅するさまを見ていろ」

 

アルフはそう言い終えると息を思いきり吸い込み、ゆっくりと吐き出す。その息は白く、真冬のそれを思い起こさせ。一歩踏み出すとペキペキと音をたて地面が凍り、霜が降りる。

 

 

 

絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 

 

 

魔法が発動した瞬間大気の水分が氷結し、時間以外の全てが停止した。

 

アルフ達を取り囲んでいた下っ端達は氷像と化し、キューブの内に居た六腕は呆然とその光景を眺めていた。




設定
次元立方体(ディメンション・キューブ)
一定時間範囲内のモノを次元の壁で隔離し、空間攻撃系の魔法、スキルで簡単に解除できる。
主にモンスターが大量に出てきたときに分断するために使われる。

絶対零度(アブソリュート・ゼロ)
水氷系の範囲即死魔法。即死を防げても凍結による行動阻害、被ダメージ増等のデバフをうける。


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第82話

見えない壁が消え、まず感じたのは肌を突き刺すような寒さだったが、少しするとその寒さが和らいでいく。

 

「・・・・・・いったい、なにが」

 

目の前には凍結し霜の降りた地面と、キラキラと月光を反射する氷の粒。

そして氷像と化した部下達がいた。

 

俺たちはいったい何を間違えた。俺たちはいったい何に喧嘩を売ったのだろう、相手がこんな化け物だと知っていたら何か変わっていたのだろうか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

アルフはつまらなそうにため息をつき、空を見る。

 

拍子抜けだ。敵の二つ名、空間斬に興味を持って次元立方体で隔離したのだが、空間斬の正体があんな小細工とは・・・・・・。

確かにあの武器、斬糸剣を使いこなすにはそれなりの技量が必要となる、それを考えるとこの世界では達人と言っても良かったのだろうか?

 

「うへぇ、あーちゃんずいぶん派手にやったね」

 

考え事をしているとクレマンティーヌが不可知化のローブを脱ぎ、姿を表した。

一応絶対零度を完全に防ぐアイテムを装備させており皆平然としている、セバスを見ると髭に霜が降っているが特に問題は無さそうだ。

 

「これでも地味な方だよ」

 

実際、派手な魔法は多々存在する。〈月堕し(ムーン・フォール)〉とか、以前使った〈彗星の一撃(コメット・ストライク)〉と〈流星の雨(ミーティア・レイン)〉もその部類だが、使えば周囲に甚大な被害を及ぼすため住宅が密集しているここでは使えない。

 

「それよりこれからクレマンティーヌとソリュシャンには・・・・・・と、その前に。〈集団標的(マス・ターゲティング)・強制転移〉」

 

アルフが魔法を唱えると、目の前には八本指がお偉いさんと呼んでいた者達が現れた。

強制転移させられてきた者達は自分に何が起こったのかわからない、といった風に辺りを見回している。

 

「大体わかると思うけど、二人でこの人達拷問して遊んでて良いよ。ついでに情報も聞きだしてくれると助かる、方法に関しては自由にヤっていい。あと、凍った死体は氷結牢獄に送っておいて」

 

「さっすがあーちゃん」

 

「畏まりました」

 

二人は愉しげに返事をし、クレマンティーヌはホルダーから、ソリュシャンは体から武器を引き抜いた。

 

「セバスは向こうにいるツアレを助けて即撤退、後は私達に任せて」

 

そう言いながら先程ツアレを視た場所を指差す。

 

「一シモベの為に御手間をとらせてしまい申し訳ございません」

 

「良いよ。前アルベドにも言ったけど、シモベに頼られたり頼み事されたりするのはけっこう嬉しいんだよ。皆『至高の御方々の為なら』とか言って無償の奉仕をしたがるけど、こっちとしてはもっと頼って欲しいんだ」

 

「シモベには勿体ない御言葉です」

 

「そんなことより早く行ってあげて」

 

アルフの言葉に従いセバスは一礼し、ツアレのもとへとむかっていった。

 

「さて、こちらも動くか。アウラはこのまま私に付いてきて」

 

そう言いながら訓練所を離れて建物に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物内

 

建物内には誰もおらず、アルフの足音だけが廊下に響いている。

 

アルフはあることが引っ掛かっていた。

クライムと一緒にいた盗賊が『六腕が五人いる』と言っていたが、先程の場所には四人しかいなかった。ならあと一人はどこへ行った?

最後に残っているのは確か六腕最強と言われる闘鬼ゼロ。もしクライム達に当たったら間違いなく殺される。

 

その時、耳が剣戟の音を捉えた。

 

恐らくクライムと誰かが戦っているのだろう、そんな場所にゼロが現れたらまずい。

 

アルフは床を蹴り、音のする方へと駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

音のもとに着いたとき目に入ったのは床に転がっている盗賊と頭や口の端から血を流しているクライム、それに対峙するように立っている大男とその後ろにメイド服を着たサキュロントが血を流して倒れている。

大男は盗賊から聞いていた情報から判断するに恐らくゼロだと思う。

 

状況としてはゼロが奇襲をかけて盗賊を行動不能にし、ツアレに化けたサキュロントとクライムを一騎討ちさせ、今にいたるのだろう。

 

「・・・・・・ら、ラグナライト、様」

 

クライムの息は荒く、少しふらついている。

 

「どういうことだ?六腕がお前の相手をしていたはずだ」

 

「ああ、あの弱い方々でしたら全員倒しましたよ」

 

「何だと?嘘を言うな。俺より劣るとはいえ、あいつらも六腕を名乗らせているんだ。奴らを相手に無傷でここに来られるはずがなかろう!」

 

「こんな時に嘘を言ってもなんのメリットもないですよ」

 

「ラグナライト様、ここにいたツアレさんは偽者でした・・・・・・」

 

「それなら心配ありません。ツアレさんはセバス様が救出して今頃安全なところにいますよ」

 

そう言いながらアルフは千里眼(クレアボヤンス)と、スクロールで水晶の画面(クリスタル・モニター)発動させて今現在のセバスの様子を映す。

 

セバスは毛布にくるまれたツアレをお姫様だっこして路地裏を歩いてるい、どうやらうまく救出できたようだ。ツアレは頬を赤くして恥ずかしそうにしているが満更でもなさそうだ。

 

「無事にここを出たようですね。それでは、貴方を倒してこの騒動を終わりにさせましょうか」

 

アルフはそう言いながら短刀を構えた。



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第83話

「何だと、お前が俺を倒すと?」

 

その声には怒気と苛立ちが混ざっている。

 

恐らく目の前にいる女は本当の事なのだろう、得物から判断するに昨日襲撃があった娼館の裏口を切り裂いたのはこいつだ。

見た目はどうであれ、少なくともサキュロントを一撃で倒す実力があるのは確かだ。油断して隙をつかれれば俺でも危ういかもしれん。

 

「俺はそこに転がっているサキュロントとは違うぞ!」

 

俺が持つ最強の一撃を放つため、足の(パンサー)、背中の(ファルコン)、腕の(ライノセラス)、胸の野牛(バッファロー)、頭の獅子(ライオン)を全起動させる。

 

ゼロの全身の刺青が淡く光り、筋肉が盛り上がる。

 

 

この一撃で終わらせる。

アルフは深紅の短刀を握り直し、軽く腰をおとす。

 

次の瞬間には床を蹴り、全力の一撃を打ち放つ。

 

正面から踏み込み、全力で殴りつけるという単純なものだが、様々スキルやマジックアイテムを使い極限まで強化した一撃は無敵。

小手先の技術で破れるようなものではないという絶対の自信があった。

 

拳は腹に突き刺さり、内臓の全ては破裂し、アルフの体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

本来そうなるはずだった。

 

目の前には信じられない光景があった。

アルフはその場から一歩も動いていない。それどころか切り札である最強の一撃を人差指一本で勢いを殺し、受け止めている。

 

「やはりこの程度か」

 

拳の先、目の前の女から冷めた言葉と共に異様な気配が放たれる。

 

アルフの見た目には変化はない。だがなんだ、この強大な魔獣と対峙したような感覚は。

 

「・・・・・・なんなんだ、お前は」

 

ゼロが呟き、アルフの冷たい視線が突き刺さる。

 

ヒュンッという風切り音が聞こえ、ドサッと何かが床に落ちた。

 

「・・・・・・う、腕が。俺の腕がああアァあ⁉」

 

ゼロは右肩から先を失い、大量の血を流しながら後ずさる。

 

「クライムさん、この人は生け捕りにした方が良いですか?」

 

「・・・・・・はい、出来るのであれば」

 

クライムは呆然とした様子で返事をする。

自分では手も足も出なかった相手がこうも簡単に倒された事に、理解が追い付かないのだろう。

 

アルフはゼロに魔法をかけて眠らせ、切断された腕にンフィーレアに作ってもらった青いポーションをかけて傷口をふさいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロの事と拠点の家捜しをクライムと盗賊、あとから来た兵士達に任せて建物の外に出て伸びをする。

念のためソリュシャンとクレマンティーヌがどうしているか確めるため、千里眼を使って訓練所の様子を確認する。

 

そこには凍った地面と、建物の調査する兵士がいるだけでソリュシャン、クレマンティーヌ、六腕の者達の姿がない。

二人はすでにナザリックに引きあげたようだ。

 

とりあえずこの件で六腕の壊滅、六腕最強のゼロの生け捕りという功績をクライムのいる襲撃班にあげさせる事ができた。

このあとゼロが牢屋から消えても八本指の仲間が何かしたことにできるだろう。

 

「アウラ。私が腕を切り飛ばした男、後で使うから隙を見てさらってきて」

 

「了解です!」

 

アウラからゲオルギウスを受け取り、彼女は敬礼をすると屋根の上へと飛びあがって姿を消した。

 

「ん?あれは」

 

アウラの姿を追って視線を上に向けていると、空が一分明るくなっているのに気づいた。

ゲオルギウスを頭に乗せて屋根の上にのぼると、王都の一区画が高さ三十メートルを超えるような炎の壁に包まれていた。

熱量は無く、物が焼ける臭いもしない。

 

「ゲヘナの炎・・・・・・ということはデミウルゴスが動いてるのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を少し遡り、襲撃をかける予定の館の入り口。

そこには異様な者が立っていた。

 

その者は南方の国の民族衣装とメイド服を混ぜたような服を着ており、人間の一部と思われる肉を食んでいる。

 

「よぉ、良い夜じゃねぇか」

 

「・・・・・・良い夜かなぁ。あなたにとっては全然良くない夜だと思うけどぉ?」

 

その女は可愛らしい容姿と声をしているが、顔に何か違和感を感じる。何か面を被っているような、そんな感じだ。

 

「おめぇはこんなところでなにしてんだ?」

 

「散歩ぉ」

 

「・・・・・・何を美味そうにもりもり食ってたんだ?」

 

「お肉ぅ」

 

「・・・・・・・・・・・・人間の?」

 

「そうだよぉ。人間のお肉ぅ」

 

さっきから観察しているが、喋っているときに口が動いていない、それに人を食っている事から十中八九化け物の類だ。

 

ガガーランはゆっくりと刺突戦鎚(ウォーピック)を構えた。

 

「あのさぁ。お互いにさぁ、見なかったことにしない?」

 

「・・・・・・わりいな。これでも王国でトップを張っている冒険者なんだわ。人喰いの化け物をはいそうですかって見逃すわけにはいかねぇ。人間の世界にいてもらっても困るしな」

 

「ん~、あなたには手を出すなって言われてるんだぁ」

 

「どういう事だ?」

 

 

問うてみたが返事は無い。いろいろ気になることはあるが考えても仕方ない。

地面を蹴り、刺突戦鎚を思いきり振り下ろす。

 

だが、その攻撃は何処からか現れた巨大な蟲に防がれた。




誤字脱字のご指摘ありがとうございます。


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第84話

振り下ろした刺突戦鎚(ウォーピック)は何処からか表れた巨大な蟲に防がれ、ギリギリと音をたてている。

 

攻撃を防いだ蟲をよく見ると巨大なムカデで、相手の袖から伸びている。

 

「ずいぶん硬い蟲だな、アダマンタイトで出来てるのか?」

 

「そんな柔な物じゃないよぉ」

 

ガガーランは戦鎚でムカデを払いのけながら後方に跳び、距離をとる。

直後、自分がいた場所に剣のような角を持った蟲が突き刺さった。

 

「あっぶねぇなぁ。手を出すなとか言われてるの嘘じゃねぇのか?」

 

「そんなことないよぉ」

 

視界の端で何かが動いた。武器を構えながらそちらに目線を向けると、建物の隙間からうじゃうじゃと様々な蟲がわき出している。

 

「・・・・・・多勢に無勢か。にしても気持ち悪ぃな!」

 

様々な方向から飛んでくる蟲を刺突戦鎚で潰し、弾くが数が多く、頬や鎧をかすめて切り傷が増えていく。

 

「ックソ、切りがない!」

 

 

そんな時、自分とメイドの間で爆発が起こり蟲の攻撃が止み、蟲はメイドを護るように辺りを警戒している。

 

「わりぃな、ティア。助かったぜ」

 

「ガガーランにも赤い血が流れていたんだ」

 

「・・・・・・俺の事何だと思ってんだ、てか前に俺が怪我したとこ見てんだろうが」

 

「そろそろ青い血が流れてパワーアップしているころかなと思っていた。まだならアルフィリアにその手のアイテム有るか聞いてみよう」

 

「本当に持っていそうだからやめてくれ。俺はまだ人間でいたいんだ」

 

「まだ?ゆくゆくは異形種になる予定と」

 

そう言いながらティアは何処からか出したメモ用紙に何やら書き込んでいる。

 

「言葉のあやだ、なる予定はない。で他には来てるのか?」

 

「イビルアイが上に」

 

相手から注意をそらさず上を確認するとそこにはイビルアイがおり、魔法を発動させていた。

 

結晶散弾(シャード・バックショット)!」

 

イビルアイの放った結晶散弾はメイドを護っている蟲を貫き、削っていく。

 

「ガガーラン、大丈夫か」

 

「何とかな。これで形勢逆転だな」

 

 

 

 

 

 

「おや、こんな所に居ましたか」

 

突如上から声が聞こえ、視線を上に向けるとそこには男がいた。

この辺りでは見ることのない、南方で着用されているスーツなる物を着ており、顔には仮面。

男の背には蝙蝠のような翼、腰からは尻尾が生えている。

 

「・・・・・・悪魔、か」

 

男はゆっくりと地上に降り、メイドを背に隠すように立ち塞がる。

 

「ここは私に任せて、貴女は持ち場に戻ってください」

 

そう言われるとメイドは一礼し、蟲を引き連れて建物の影に消えていった。

 

「ガガーラン、まずいことになった」

 

「あ?どういう事だ」

 

「あの悪魔の強さ、あのメイドの比ではない」

 

ガガーランの顔が険しくなり、刺突戦鎚を握り直している。

 

「何だってあんなもんがここにいるんだ?」

 

「わからん。だが、ガガーランとティアは逃げてこの事を皆に伝えろ‼」

 

「そうはいきませんよ」

 

そう言いながら悪魔は火球を放った。それは今まで見たことの無いほどの力持ち、直撃すれば跡形もなく消し飛ぶだろう。

 

だが、ただでは終わらん。せめてティアとガガーランを逃がし、この事を他者へ知らせなくては。

無駄だとわかっているが、少しでもダメージ減らすため〈水晶防壁(クリスタル・ウォール)〉を発動し、消滅を覚悟して火球の衝撃に備えた。

 

 

が、それは杞憂に終わる。

 

 

悪魔から放たれた火球は水晶防壁に当たることなく。空から降ってきた何者かに両断され、何事もなかったように消えてしまった。

 

火球を両断した者は立上がり、両手で持つような大剣を片手で持って悪魔に向ける。

 

月の光をうけて淡く輝く漆黒の鎧、夜風にたなびく燃えるような深紅のマント、その姿は最近よく吟遊詩人が語る英雄と重なった。

 

「とっさに魔法を潰してしまったが・・・・・私の敵はあれで良いのかな?」

 

「漆黒の英雄、私達は蒼の薔薇だ!同じアダマンタイト級冒険者として要請する!協力してくれ!」

 

 

「承知した」

 

そう言うと漆黒の英雄は手に持った剣を握り直し、目の前の悪魔と対峙する。

 

対峙した悪魔がゆっくりと頭を下げる。高貴な相手に従僕が頭を下げるよう深い敬意に溢れた礼だが、悪魔は漆黒の英雄に対して敬意など持っているはずがないので、これは皮肉であり、悪魔の慇懃無礼さを物語っているのだろう。

 

「これは、これは、よくぞいらっしゃいました。まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか? 私の名前はヤルダバオトと申します」

 

その名を聞き、思考を巡らせる。

過去の文献、伝承、伝説、民話、童話、自分の知るありとあらゆる物語の悪魔の名前をあげてみるが引っ掛かるモノがない。あれほどの力を持つ悪魔なら記録が残ってない方がおかしい。

 

「・・・・・・ヤルダバオトか、分かった。私はモモン。彼女が言ったようにアダマンタイト級冒険者だ」




誤字の指摘ありがとうございます。
凡ミスが多いです。

更新が遅れたのは積みゲー消化とプラモ組みが原因です、はい。


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第85話

「デ・・・・・ヤルダバオト。そちらの目的はなんだ?お前のような強大な悪魔が何故ここにいる?」

 

「私たちを召喚し、使役する強大なアイテムがこの都市に流れ込んだようです。それを回収するために参ったということになっております」

 

「それをこちらが提供すれば問題はそれで終わるのか?」

 

「いえ、無理ですね。私たちは敵同士として戦うしかありません」

 

「それが結論か? 私たちは敵同士という道しかないんだな?」

 

「はい。その通りです」

 

イビルアイはかすかな違和感を感じ、首を傾げた。

二人の会話は情報戦、というより情報交換という方がしっくりくる気がするが、その考えは即座に破棄する。

二人は敵同士、そんなはずはないだろうと思い直す。

 

「大体理解した。そういうことならば・・・・・・ここで倒させてもらおう。問題ないな?」

 

そう言いながらモモンは地面を踏みしめ、腰をおとす。

 

「困りますので、抵抗させてもらうとしましょう」

 

「 行くぞ」

 

次の瞬間、モモンの姿が消えた。いや、消えたように見えたといった方が正しい。

モモンは一瞬でヤルダバオトとの距離を詰め、激突しあう。

 

何かが起こったとしかイビルアイ達には説明できないレベルでの攻防。

剣の煌きが無数に起こり、ヤルダバオトが長く伸びた爪で弾き返している。

 

「すごい・・・・・・」

 

賛辞なら数多ある。しかし、その剣閃を目にしたイビルアイは最も単純で素直な言葉を口にした。

記憶の中にあるどんな戦士をも超える斬撃。自分を背に戦うモモンは吟遊詩人(バード)の歌に出る、姫を護り、命を賭して戦う騎士と重なり、自分が物語の姫君になったような気さえする。

 

股間の辺りから背筋を電流のようなものが走り抜け、イビルアイは小さく身を震わせる。

イビルアイの二百五十年動いていない心臓が一つ跳ねた気がした。

 

「イビルアイ、大丈夫か?」

 

「ああ・・・・・・少し惚けていた・・・・・・がんばれ、ももんさま」

 

後半の囁きのような応援はガガーランとティアには聞こえていない。

イビルアイは両手を組むと願う。

自分の騎士が、大いなる悪魔に勝利を収めることを。

 

 

二人の剣戟は激しさを増し、速度を上げていく。

 

「お見事です。あなたのような天才戦士を相手にしたというのは私の唯一の過ちかもしれませんね」

 

「お世辞はいい。お前だってまだまだ力を隠しているんだろ?」

 

それを聞いて、イビルアイは目を見開く。

 

あの攻防ですら全力でないというのはあまりに常識外すぎる。

 

「もしや・・・・・・神人、それともぷれいやーか?」

 

確かアルフィリアの話では一緒に来たぷれいやーは四人、内二人は埋まっているが残りは知らない。なら、その内の一人だろうか?

 

「手詰まりですね。なら、これならどうですか?」

 

ヤルダバオトはそういうと、イビルアイ達に向けて火球を放った。

 

「くっ!」

 

その出来事は一瞬だった。

 

モモンはイビルアイを抱き締めるように庇い、その背に火球を受ける。

鎧に魔法の減衰効果があるのか火球が爆発したにも関わらず、イビルアイの後ろにいたガガーランとティアには火の粉すら届くことはなかった。

 

「無傷で何よりだ」

 

「せ、背中が! 大丈夫ですか!」

 

モモンは平気そうにしているが背には火球によって作られた焦げはある。いくら鎧が頑強でもあれほどの火力の魔法を受けてノーダメージのはずがない。

 

「こちらは大丈夫だ。それよりも無事のようで安心した」

 

軽く笑いかけるような声。

 

どきん、と再びイビルアイは自分の体の中で心臓が一つ鳴ったのを感じ取った。顔がやたらと熱い。

 

「お見事です。彼女達を守りきるとは。このヤルダバオト、心より称賛をおくりたいと思っております」

 

「世辞はいらん。それよりヤルダバオト・・・・・・どうして距離を取るんだ?」

 

言いながらモモンの手がイビルアイに伸び、彼女はそのまま抱え込むように持ち上げられた。

 

動いていない心臓が三度跳ねる。頭の中に、バカにしていた吟遊詩人(バード)の物語が繰り返し再現される。特に騎士が姫を横抱きにしながら戦うシーンを思い出す。

 

(すまない! 世界中の吟遊詩人達よ。本当の騎士はか弱き乙女を抱きかかえ、守りながら戦うんだ。うわ、なにこれ! 恥ずかしい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イビルアイが約数百年ぶりの感情に振り回されていた少し後。

 

王都上空。アルフはゲオルギウスの頭の上に座って王都を見下ろし、現状確認をしていた。

 

 

「何がどうなってるやら」

 

見下ろしている王都の裏道を駆ける影が5つ。アインズ、ナーベラル、イビルアイ、ガガーラン、ティアの5人は王城に向かっているようだ。

 

デミウルゴスはゲヘナを発動後、モンスターに指示を出してゲヘナ内の人達を拐っている。

 

デミウルゴスがやっている事は八本指と変わらないが、ナザリックのためでもあるのでどうしたものかとモヤモヤする。

 

 

いろいろ考えていると、背後から声がかけられた。

 

「アルフさん、こんなところでどうしたんですか?」

 

その声を聞き振り返ると、そこにはペロロンチーノが飛んでいた。

 

「ペロロンチーノさんこそ、冒険者チーム漆黒の一員としてあっちに居なくて良いんですか?」

 

「それね。最初は向こうにいたんだけど、アルフさんに今一度確認したいことがありまして」

 

ペロロンチーノはゲオルギウスの上に降り、姿勢を正す。

 

「確認したいこと?」

 

「はい。イビルアイが天然物のロリババアというのは間違いないでしょうか」

 

その瞳は真っ直ぐで、キラキラとしたモノを宿している。

 

「・・・・・・まあ、本人が言うには二百は超えてるようです。良かったら紹介しましょうか?」

 

「マジですか‼」

 

ペロロンチーノはアルフの両手をとり、顔を近付ける。

 

「ペロロンチーノさん顔近いです!マジですからとりあえず王城行きましょう!」

 

アルフはゲオルギウスに王城へ向かうよう指示を出した。




またも遅れて申し訳ないです。

最近ガンプラ作りが楽しくてつい。


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第86話

「さて、エントマ。私が何を言いたいかわかるかね?」

 

デミウルゴスとエントマは屋根の上で向かい合っている。二人には身長差があるため、デミウルゴスは見下ろし、エントマは見上げるかたちになっている。

 

「あの戦闘の事ですかぁ?」

 

「そうです。作戦前に言いましたよね、蒼の薔薇の者達を見たら即時撤退。戦闘は出来るだけ避けるように、と」

 

「だってぇ」

 

「だって、ではありませんよ。蒼の薔薇の者が傷つけばアルフィリア様が怒りますし、あの吸血鬼を相手にしてエントマが傷つけばアインズ様が悲しみます。

アインズ様からお預かりした遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)のお陰で早めに気付けましたが、次はわかりません。このあとはそれに注意して蒼の薔薇を見たら即撤退してください。では、持ち場に戻って構いませんよ」

 

エントマは一礼して屋根の上を跳ねていった。

 

 

 

「それにしても、この光景は素晴らしいですね」

 

屋根の上から見下ろす王都はゲヘナの炎に照らされ赤く染まり、あちらこちらから恐怖、悲嘆、怒り等の負の感情のこもった悲鳴や叫び声が聞こえてくる。

悲鳴が聞こえるところでは召喚された悪魔達が人間を襲っているのだろう。

 

「実に心地好いですね。おや、あれは・・・・・・」

 

街を見渡していると、視界の端に屋根の上を跳び跳ねる影が入り気になってそちらに視線を移すと、見知った人物が何やら大きなものを担いでこちらに向かっている。

 

 

 

「デミウルゴス、そんな仮面かぶってこんなところで何してるの?」

 

「私はここで悪魔達の指揮をしています。アウラこそここで何しているのかね?それにその人間は?」

 

それを聞き、アウラは自慢げにそのささやかな胸をはった。

 

「ふふん、これはアルフィリア様からの頼まれ事なんだ、あとで使うんだって。たしか八本指、六腕最強とか言ってたけどアルフィリア様に手も足も出なかったんだ」

 

「六腕最強ですか・・・・・・」

 

デミウルゴスは顎に手をあて少しの間思考すると、何かに思い当たり、愉しそうに笑い始めた。

 

「ふふふ、そういうことですか。流石アルフィリア様。至高の御方々の一人ということですか」

 

「ちょっとデミウルゴス。一人で理解してないでアタシにも教えなさいよ」

 

アウラは頬を膨らませ、不機嫌そうにデミウルゴスそう言った。

 

「そうですね。まず、アルフィリア様は故意に伝えなかった我々の作戦内容を全て理解していると思われます。その人間を拐わせたのがその証拠です」

 

「でもさぁ、こんな弱いのなんに使うのさ」

 

「おそらくアルフィリア様はこの人間を使って八本指の幹部集会の場所に案内させる予定ですね。

そこで幹部をマーレに頼んだ者のように服従させ、王国の裏社会を支配するつもりなのでしょう。これから面白くなりそうです」

 

そう言いながら、デミウルゴスは王城に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

王城の一角、真夜中だというのに煌々と明かりが灯された部屋には、多数の男女が集まっていた。

 

彼らは大至急で集められた、王都内の全冒険者である。

本来であれば身分不確かな者が立ち入ることを許されない王城の奥に呼び集められた、それだけ緊急性が高い事がうかがえる。

 

 

「なぁ、アルさんや」

 

「何です、ペロさんや」

 

「あれ、どぉいうこと?」

 

アルフとペロロンチーノの視線の先にはアインズ、もとい冒険者モモンが他の冒険者にあいさつをしており、その隣にはぼーっと彼を見つめるイビルアイ。

さらにそのイビルアイを忌々しげに睨み付けるナーベラル。

 

見た感じイビルアイがモモンに惚れ、ナーベラルは主人に色目を使う不届き者を排除したいがその主人から止められていて出来ない。ということだろうか?

 

「多分惚れてるんだと思いますよ」

 

「ぐぬぬ。いったいどこで間違えた、俺の『シャルティアとイビルアイを義姉妹関係にし、そこに俺も混ざってゆくゆくはアルフさんともあれやこれやする』という壮大な計画が頓挫してしまう!どうしたらいい!」

 

そう言いながらペロロンチーノはアルフの両肩を掴む。

 

「それ、本人に言いますか。てかそんなくだらないモノはそこら辺の犬猫にでも食わせてしまえ」

 

それを聞き、肩から手を離し項垂れるペロロンチーノ。

 

「しかし何があったんだろう」

 

 

「気になる?」

 

突然声をかけられ、アルフとペロロンチーノはすぐさま声のした方を見ると、そこには忍者装束の少女がいた。

 

「ティアですか、ビックリしましたよ」

 

「嘘つき、私の存在に気づいてた。それとそこの鳥仮面の人は誰?」

 

「この人はペロロンチーノっていって私と同じような感じかな」

 

「同じって事はぷれいやー? ならあのモモンって人も?」

 

「あの人は・・・・・こっちで仲間になった人だよ」

 

「ふぅん。そういえばアルフィリアの服綺麗、お姫様みたい」

 

「そう?」

 

そう言いながらアルフは自分の服を見る。

今の服装は戦乙女をイメージした装備で純白の布で体を覆い、その上から白銀のプレートメイル、ガントレット、ヘルム等を装備している。ケモミミはヘルムのしたに、尻尾はスカート部分に隠して太股に巻き付けているのだが、毛がわさわさといろんなところを撫でるため少しくすぐったい。

 

こんな格好をしているのは襲撃時の黒服では見た目が悪いため、一度店に戻って着替えたからだ。

 

「そういえば、イビルアイがどうしてああなったか知りたいんだっけ」

 

ティアはそう言いながら懐からスクロールを取り出した。

 

「茶釜義姉様から貰った録画スクロール。本当はアルフィリアのあられもない姿を自分で録ろうと思ってたんだけど」

 

スクロールを広げ再生すると、そこに映し出されたのはイビルアイ達を護りながら雄々しく戦う冒険者モモンの姿。魔法を切り裂き、自身を盾にしてイビルアイを庇うモモン。

 

「これは惚れるね」

 

「うぐぐ。俺の計画が・・・・・」




遅れて申し訳ないです。

コミケの地図書き、FGOの種火周回、プラモ作りと忙しくなりまして。


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第87話

冒険者モモンがイビルアイを助けたスクロールを見てから少し時間が経過し、部屋の中の冒険者の人数が増えていく。

 

そして、冒険者はモモンの姿を見つけては次から次へと集まり、挨拶をしていく。

その光景は、有名人を取り囲むファンといった感じだろうか?

 

「にしても、モモンさんは人気ですね」

 

「それをいったらアルフさんも人気でしょ。見ましたよ、求婚や告白をしようと店の前に集まる貴族の群れ」

 

「うん、私も見た」

 

「あれは違うような気が・・・・・・・」

 

そんなことを話していると、見知った人物が話しかけてきた。

 

「おお、ティア殿、ラグナライト殿、それにペロロンチーノ殿か」

 

「あ、ども。ストロノーフさん」

 

「ラグナライト殿とペロロンチーノ殿がここにいると言うことはゴウン殿もここにおられるのか?」

 

「あー、アインズさんはカルネ村の近くに居を構えてそこに引き込もって魔法の研究をしてます」

 

うん、引き込もってはいないけど嘘は言っていない。

 

「そうか、カルネ村での礼を改めてしたいと思っていたのだが。それにしてもモモン殿の人気はすごいな」

 

「やっぱりそう思います?」

 

「ああ、実はモモン殿に挨拶をしたいと思っていたのだが、あの様子では無理そうだな。また次の機会にしよう、俺は王の元に戻る。では後程作戦会議で」

 

そう言うと、ガゼフは広間の奥へと歩を進めた。

 

 

 

その後、広間には王国にいるほぼ全ての冒険者がそろい、対策会議がひらかれた。

 

会議の内容はヤルダバオトのおおよその難度、何をしに王都に現れたか、どうやって討伐、ないし撃退する方法が話し合われた。

 

結論から言うと下級冒険者はゲヘナの炎から悪魔が出ないよう食い止め、中級と上級の冒険者は中心近くの悪魔を排除しつつ生き残っている人間の救出。

蒼の薔薇と漆黒のチームは二手に別れヤルダバオトの近くに侍る側近を引き付け、モモン、ペロロンチーノ、アルフで3対1の状況に持ち込み討伐ないし撃退をする事となった。

 

 

 

そして、アルフはティアと共に遊撃手としてゲヘナ内の建物の上にいるのだが。

 

「・・・・何でペロロンチーノさんがここに?」

 

「あー。告白する前に恋が終わって寂しいの」

 

「その気持ちわかる。私も告白前に何度も恋が終わってるから」

 

ペロロンチーノとティアがぎゅっと握手を交わしている。

 

「・・・・・・仲が良いのは喜ばしいんだけど、続きはこの騒動が終わってからにしてね」

 

「ん。それより、アルフィリア今武器持ってないけど大丈夫?」

 

「大丈夫、これがあるから」

 

そう言いながらアルフはポケットからアダマンタイトのインゴットを取り出す。

 

錬金武器(アルケミックウェポン)

 

魔法の効果がインゴットに現れグニャリと変形し、剣、斧、戦鎚、槍と次々形を変えていく。

 

「アルフィリア本当に万能、私達必要ない?」

 

「そうでもないよ。アルフさんは近接と投擲武器なら全部使いこなせるけど、弓やボウガンみたいな射撃武器は全く使えないんだ」

 

「なんか意外、何でも出来る完璧超人かと」

 

そう言いながら二人でこちらを見ている。

 

「う、全然使えなくないもん!」

 

ペロロンチーノの言っていることは確かに事実だ。だがそれはとっている職業が射撃武器を装備出来ないだけで、命中精度と攻撃力ががた落ちするが弓に細工をすれば使えなくはない・・・・・・。

 

こちらの心中を知ってか知らずか、二人してニヤニヤとしながらこちらを見ている。

 

「いや~、眼福ですね。可愛い女の子が頬を赤くしながら意地をはる姿は。姉ちゃんの教育の賜物だなぁ、完全に女の子です」

 

「同意」

 

そう言いながら二人して親指を立てている。

 

「うぐ・・・・・・も、もう知らないです!先に行きますよ!」

 

アルフは屋根の上を跳び跳ねて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

王都 住宅街

 

「クソッ!いったいどうなってやがる!」

 

そう言いながら目の前の悪魔、小型のガーゴイルに剣を振り下ろす。

ガーゴイルは両断され、地に落ちて息絶えた。

 

「はぁ・・・・こいつで18体目か、何が起きてるんだ?」

 

振り向くと、同じく悪魔を倒した魔法詠唱者(マジック・キャスター)野伏(レンジャー)の二人が地面に座り込んでいる。

 

俺達3人は八本指の拠点制圧で捕まえ損ねた者がいた場合の保険として雇われ、この辺りを見回りしていたのだが突如悪魔が現れ人を殺したり拐うのを目撃し、倒してまわり今現在に至る。

 

「知るか。たぶんあの炎の壁に関係あるんじゃないか?それよりあと何匹相手に出来る?」

 

野伏はそう言いながら腰にさげていた矢筒を掲げる。筒には矢が2本しか入っていない。

 

「俺は見ての通り、あと一匹が限界だ」

 

「私もあと一匹しか倒せない。もう魔力が残り少ない」

 

「俺は良くて三匹、悪ければ一匹だ。まぁこのまま悪魔どもの強さが変わらなければの話だが」

 

そう言いながら右手に持った剣を見る。

剣は所々刃こぼれし、ヒビが入っている所もある。もし先ほど倒した悪魔以上のモノが出てくれば全滅は確実だろう。

 

「おい、まずいぞ。何かでかいのが近づいてくる、しかも早い!」

 

野伏の顔が険しいものに変わり、一点を見つめながら弓矢を構える。

 

警告から数秒、通りの脇道から人間より一回りデカイモノが姿を現した。

 

「何だ、あれは・・・・」

 

その者の肌はどす黒く、背には蝙蝠のような翼、頭部には左右非対称のネジくれた角が二本生えている。

 

見るからに先程のガーゴイルより上位の存在だ、何故こんな奴がこんな所に・・・・・・。

 

『オオオオオォォオォォ!』

 

悪魔が咆哮し、ガーゴイルが集まってきている。

 

「・・・・・・ここまでか」

 

諦めたその時、後方から鈍く光る何かが飛来し、悪魔の眉間を貫いた。

 

貫いた物は、見た感じ槍ではあるが柄と石突がアダマンタイトで出来ている。おそらく刃もアダマンタイトだろう、だが有名、無名を含め冒険者で総アダマンタイトの槍を使う者に心当たりがない。

 

そう考えていると、俺達と悪魔の間に白銀の光が舞い降りた。

 

「あんたは・・・・・・」

 

服装は何時もと違うが見覚えのある顔だ。

最近蒼の薔薇に入ったアルフィリア・ルナ・ラグナライト。彼女は淡く光る純白の衣を身に纏い、白銀の軽鎧を身に付けているその姿は戦女神を彷彿とさせる。

 

「もう大丈夫です。ペロロンチーノさん!」

 

『あいよ!』

 

その直後、後方から無数の矢が飛来、この場全てのガーゴイルの眉間を撃ち抜いた。




遅くなって申し訳ないです。
86話の誤字の指摘ありがとうございます。

錬金武器(アルケミック・ウェポン)
錬金術系統の創作魔法、金属素材を様々な武器に作り変えられる。
変化回数には制限があり、使用する素材のランクによって変わる。アダマンタイトは50回、七色鉱になると3桁後半になる。


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第88話

眉間を貫かれた悪魔は息絶え、光の粒子となって消滅し、支えを失った槍が地面へと突き刺さった。

 

「ゲオルギウス」

 

アルフが空に向かって呼び掛けると、ゲオルギウスがゆっくりと肩の上に舞い降りた。

肩をちゃんと掴んだのを確認し、助けた冒険者三人に視線を向ける。

 

「お怪我は大丈夫そうですね」

 

呆然とこちら見ている三人は所々ボロボロだが命に関わるような傷、呪いの類いは受けていないようだ。

 

「あ、ああ、問題ない。そのようすだとこの事態を把握しているみたいだな。教えてくれ、王都で何が起こってるんだ」

 

「時間が無いので手短に話します。この王都に大悪魔ヤルダバオトが現れ、数多の悪魔を召喚しているようです。とりあえず皆さんはあの炎の壁に向かってください、そこならより詳しく状況が聞けます」

 

そう話していると、遠くから複数の羽音と足音が近づいて来る。先程倒した悪魔の雄叫びは、声の聞こえる範囲全ての悪魔を呼び寄せる。こうしている今も少しずつ増えている。

 

予想より速く、数が多い。

 

「ペロロンチーノさん、少し予定変更です」

 

「OK、この人達を護衛して炎の壁に、ですね」

 

「すまない、だが助かる」

 

「では行きます、離れず着いてきて下さい」

 

アルフは槍を引抜き、炎の壁に向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

アルフとティアは先頭を走り前から来る悪魔達を蹴散らし、その後ろに助けた冒険者三人、最後尾のペロロンチーノは後方から迫る悪魔達を射落としている。

 

「すごいな、これがアダマンタイト級冒険者チームの力か・・・・・・」

 

「走る事に集中してください。ゲオルギウス、集団標的(マス・ターゲティング)、ホーリー・レイ!」

 

アルフは肩のゲオルギウスに指示を飛ばす。

ゲオルギウスが魔法を発動させ、前方にいる悪魔達が無数の光の線に貫かれ消滅していく。

 

消滅した悪魔のさらに後方、まだ複数の悪魔がいる。しかも仲間を呼び寄せるヤツが少し混ざっている。

 

「きりがない。ティア、ゲオルギウスとここは任せます」

 

「了解」

 

その言葉を聞き、アルフはゲオルギウスをティアに預け、地面を踏み込み加速する。

槍を刀に変化させ、悪魔との距離を一瞬で詰め

 

「一閃!」

 

漆黒の刀は月の光を反射して銀の弧を描き、一刀のもとに5体の悪魔の胴を切り飛ばし、そのまま悪魔の間をすり抜け踏み込むのと同時に刀を斬馬刀へと変え、返す刀で残りの悪魔を細切れにする。

 

「すごい、一瞬で上位悪魔がバラバラ。しかもあんな巨大な刀を片手で」

 

「ああ、だけどあれでも遅い方だ。本気を出されると俺でも目で追うのがやっとだ」

 

アルフは斬馬刀を槍へと変え、空中にいる悪魔を一突きする。

 

 

 

 

 

 

そんな光景を、遠隔視の鏡で覗き見る人影が二つ。

 

「凄いですね。コキュートスとシャルティアとの試合の時にも思いましたがあの動きは魔法詠唱者(マジック・キャスター)とは思えません」

 

鏡が映し出す光景、アルフが悪魔との間合いと通路の広さに合わせ武器を次々と変化させ、悪魔達を屠っていく。

こうしている今も10、20と消滅している。

 

「そう言えば、アルフィリア様の戦い方はMPが無くても戦える魔法詠唱者を目指して今の形になったってぶくぶく茶釜様が言ってたなぁ」

 

「ふむ、その辺り詳しく教えてくれますか?」

 

その言葉を聞き、普段は説明する側であるデミウルゴスと逆の立場となったことにアウラは得意気になり、話始めた。

 

「ぶくぶく茶釜様が言うにはアルフィリア様は初め純粋な魔法詠唱者だったんだけど、何かがあって魔法詠唱者がMPが無くても戦えるように、そして力の差を技量で埋める事を考えた。

全ての近接武器の対応するために努力したんだって」

 

「力の差を技量で、ですか」

 

デミウルゴスは顎に手をあて少し考えた後、アウラへと視線を向ける。

 

「さて。私はこれから少し動きますが、貴女はどうしますか?」

 

「アルフィリア様から呼び出しあるまで暇だから着いていくよ」

 

 

 

 

 

 

 

アルフ達は助けた冒険者を炎の壁の外に無事送り届け、再び道中の冒険者を助けながら中心部を目指していた。

 

「さっきも思ったけど、私達いらない?」

 

目の前ではアルフが地面と壁を蹴り、乱反射するように狭い路地を飛び回り、すれ違い様に次々と悪魔達を両断していく。

 

「今はそう見えるけどね。そろそろ限界が近いかな」

 

ペロロンチーノがそう言った直後、アルフが地面を数歩歩くと膝から崩れ落ち、両の手を地面についてしまった。

 

「あ、アルフィリア!?」

 

ティアは慌ててアルフに近づくが、アルフからの反応はない。

少ししてペロロンチーノがアルフの横にしゃがみこむと、背中を撫で始めた。

 

「・・・・・・ぎぼぢわるい゙」

 

「はぁ、前も同じことになったの覚えてないんですか?短距離であんな軌道とるからですよ」

 

アルフの顔を覗き込むと顔の色は青みがかっており、今にも吐きそうになっている。

 

「あの、これは・・・・・・」

 

「ああ、これははしゃいだ反動だよ。乗り物酔いみたいな感じかな。

本来はもっと広い所でインターバルとりながらやるモノをこんな狭い路地でやるから・・・・・・、こうなったらしばらく使い物にならないからおぶってもらえるなか」

 

「是非やらせて下さい」

 

こうしてアルフはティアに背負われ移動することになった。




遅くなって申し訳ありません、ようやく書けました。

ここしばらく書いては消してを繰り返してなかなか進みませんでした。

オーバーロードⅡの放送が待ち遠しいです。


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第89話

「ふぅ、何とかぬけたなぁ。あれだけの悪魔さばくのは疲れる・・・・・・精神的に」

 

俺達は悪魔のスキル範囲外に抜け出し、見通しのいい大通りで休憩している。

 

俺は道の端に置いてある木箱に腰掛け、ティアはたったまま辺りを警戒している。

 

「ティア、アルフさん下ろして少し休んだら?」

 

「いい。アルフィリアの太ももと背に感じる体温が至福」

 

「さいですか。それでアルフさん調子はどうです?酔いは治りました?」

 

その言葉に反応し、アルフがティアの右肩から顔を出すが若干顔色が悪いが、最初よりましになっている。

 

「何とか大丈夫です。これならラキュース達と合流する頃には何とかなりそう。この酔いがバッドステータスならなぁ」

 

アルフの酔いは三半規管を揺さぶった事による酔いだ、酔いを治すアイテムはあるがそれはバッドステータスに対してはたらくものであり、ゲームではダイブ酔いには効かなかった。

現実にアイテムの効果が現れるのであれば、バッドステータス以外でも効くのだろうか?

 

そんなことを考えていると、アルフが手元に紙袋が放り込んできた。

紙袋はB5サイズほどあり、口を開いて見ると中には唐揚げと焼き鳥と、何やら悪意を感じるモノが入っている。

 

「空腹解消にどうぞ」

 

アルフの方に視線を向けるとティアに俺に渡したのと同じ物を食べさせており、ティアはアルフの手から食べさせてもらって嬉しそうである。

 

「で、この料理を選んだ真意は?」

 

「レッツ共食い!」

 

具合が悪くてもこれですか、そうですか。

まぁ食べるけど。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

「まず、ここで話しても大丈夫なのだな?」

 

「はい。ここでの会話を聞ける者はおりません」

 

どこかの一室。そこには椅子に座った鎧姿のアインズ、小さなテーブルを挟んだ対面には仮面を外したヤルダバオト・・・・デミウルゴスが座り、壁際にはアウラと遠隔視の鏡を抱えたマーレが控えている。

アウラの足元に腕を千切られたスキンヘッドの大男が倒れているが気にしたら敗けだろうか・・・・・・。

 

「なら良いが。それで、進捗状況はどうだ?」

 

「住民の誘拐と物資調達は概ね順調ですが、アルフィリア様とペロロンチーノ様の御活躍で召喚された悪魔達の減りが想定より早いのが気にかかるところです」

 

「そうか。アルフさん達がどうしているか状況は確認できるか?」

 

「マーレ、遠隔視の鏡を此方へ」

 

「は、はいっ!」

 

遠隔視の鏡をテーブルの横に置くと、アウラの隣へと戻っていった。

それを見届けたデミウルゴスは手をかざし、鏡を起動する。

 

鏡にアルフ、ペロロンチーノ、忍者の少女の3人が映し出されている。あの忍者が報告にあった双子の片割れだろう。

ユグドラシルでは忍者になるには60レベルは必要だ、それを30未満で就いていると聞く、それに確かイビルアイは天然物の吸血鬼だったか?

こういったレア物は手元に置いて色々調べたくなってくる。

 

そんな雑念をはらい、鏡に映された状況を確認する。

先ほどは忍者の少女に気をとられ気づかなかったが、背負われているアルフがぐったりしている。

 

アインズは顎に手を当て、過去の事を思い出す。

以前にも同じような事があったが、おそらく無茶な軌道をとって酔いをおこしているのだろう。

その時の事を思い出していると、

 

「アインズ様、何か気になる事でも?」

 

「いや、少し昔の事を。皆で冒険していた時の事を思い出していた」

 

そう言い、アインズはデミウルゴスに視線を移す。

 

「詳細は省くが、以前アルフさんの虫の居所が悪いときに喧嘩を売った他ギルドの阿呆が居てな」

 

「そんな不敬な輩がいるのですか。命じていただければ我ら守護者、その者を屠って」

 

「話は最後まで聞け。それにこれは昔の話だ」

 

「申し訳ありません!出すぎた真似を・・・・・・」

 

「よい、それは我ら至高の存在を思っての言動だ、咎めはしない。それで話の続きだが、アルフさんに喧嘩を売った奴の末路は今も鮮明に覚えている」

 

地面と空を蹴り飛び回るアルフに手も足も出ず、一方的に屠られていた。

まぁその後は今のように酔いでぐったりしているのをたっちさんに背負われていたが。

 

しかし、少し面倒なことになりそうだ。

アレは主にイラついている時に使う戦法だ。茶釜からの報告で嫌なモノをいろいろ見てイラついていると報告があったが、六腕とやらを潰すだけでは解消されなかったようだ・・・・・・。

 

もしこの状態のアルフと相対する事があればデミウルゴスが危ないので助言しようと少し考えこんだ。

 

「・・・・・・デミウルゴス。もしアルフさんと相対する場合、目の前から彼女が消えたら全力で後方に飛び退け」

 

「防ぐ、ではなく飛び退くのですか?」

 

デミウルゴスは変化無しであればアルフの攻撃を防げると思ったのだろう。

 

「うむ。本来彼女は攻撃する時様々なスキルを乗せる、それがなかなか厄介でな。回数制限はあるが防御の上から殴るとノックバックが発生するモノがある」

 

「なるほど。ノックバックしたら最後、その速さで追撃ですか」

 

デミウルゴスは顎に手を当て何やら考えこんでいる。

本当の脅威はそれだけではないが、今回は人前と言う制限があるので手加減してくれると信じたい・・・・・・。




遅くなってすみません、ようやく書きあがりました。

毎度誤字脱字の指摘ありがとうございます。

出来ればペースを上げていきたいです。


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第90話

「くそ、きりがない!こいつら何処から湧いて出てくるんだ?」

 

ガガーランの怒鳴り声と刺突戦鎚が悪魔を屠る打撃音が響く。

モモンがヤルダバオトと建物に突っ込んでから数分、路地や建物の屋根から悪魔達が湧くように現れてくる。

 

「ガガーラン、こいつら食べてクラスチェンジして。そうすれば戦いが楽になる」

 

「姉妹そろって同じような事言ってんじゃねぇ!」

 

ティナの言葉にガガーランが怒鳴り返す。

 

こうしてバカな会話をしている内はまだ大丈夫だ。

だが、引っ掛かる事がある。あの虫のメイドは何処に居る?それにヤルダバオトほどの悪魔ならアレと同格の僕が複数いても不思議ではない。

ここまで攻め込んで出てこないのは何かの企みか・・・・・・。

 

考えていても仕方ない。今はモモンの戦いを邪魔させないため目の前の悪魔達を足止めするしかない。

 

そんな時、モモンが戦っている建物から大音を響かせ、土煙を引きながらヤルダバオトが飛び出してきた。

ヤルダバオトの衣服の所々に刃物で切り裂いた傷があり、仮面にもヒビが入っている。

 

「なかなかやりますね。これほどの戦士が王都にいたとは」

 

「世辞はいい」

 

ヤルダバオトに続き、モモンが建物から歩み出る。

モモンの右手には氷の剣が握られ、鎧にはヤルダバオトが付けた傷が無数にあり、激しい戦いであったことが見てとれる。

 

「モモン様!」

 

「イビルアイさん、私は大丈夫です、今の戦況は?ラグナライトさんはまだ来ていませんか?」

 

「悪魔の強さはそれほどでもないが、数が多い。アルフィリアはまだ来ていないがこちらに向かっている」

 

そう言いながら空を見上げる。

夜明けが近く、白み始めた夜天には常人には見えないが小さなドラゴンが飛んでいる。

黒龍・ゲオルギウス、あのドラゴンはアルフィリア達の真上を旋回するよう指示されている。そのドラゴンがこの場所のほぼ真上に来ていると言う事は。

 

 

 

 

 

 

 

(さて、どうしたものか)

 

今回の目的はほぼ達成されている。後はあのアイテムの存在を知らせて撤退すればこの作戦は終わる。

だが、今すぐ引いてしまうとアルフィリア様と対峙する事なく終わってしまう。

コキュートス、シャルティアのように彼女の力の一端をこの身に受けてみたいと思う反面、彼女と対峙したくないと言う思いもある。

 

そんな事を考えていると、聞き覚えのある声が響き渡る。

 

 

穿つ氷柱(ピアーシング・アイシクル)

 

 

言葉が響くと同時、右方向から複数の氷礫が飛来する。

 

見たところ何も強化が乗っておらず、何もしなくても防げるがここはあえて行動を起こす。

氷礫を羽虫払うように手の甲で弾く、弾かれた魔法は砕けて消滅した。

 

「この程度の魔法では傷ひとつ付きませんか」

 

魔法が飛んできた方向に視線を向けると、予想していた人物がそこに居た。

純白の衣を纏い、白銀のヘルム、プレートメイル等の防具を身につけた、戦乙女然としたアルフ。

ただ、違和感があるとすればその手に装備された漆黒のガントレット、その存在が浮いているように感じる。

 

それは彼女が本気を出す気が無いと言う意思表示だ。

だが、その手加減がこちらに致命傷を与えないとは言い切れない。

 

「初めまして、デミ・・・・ヤルダバオト。あなたがこの件の首謀者、と言うことで間違いないですね?」

 

「そう言うことになっております」

 

「そうですか。あなたは悪魔に命令して無抵抗の女子供にまで手を下したと・・・・・・」

 

「そうなりますね」

 

「・・・・・・そうか」

 

その言葉と共にアルフの纏う空気が怒気を含むモノに変わった。

その変化に身構える、距離は50メートルほどあるがこの距離を一瞬で詰めて来るのは戦闘記録を見てよく知っている。

 

アルフは一歩、二歩とこちらに歩を進め、三歩目を踏み出そうとした瞬間、彼女の姿が煙のように消え失せた。

 

全力で地面を蹴り、後方へと退避する。

直後、目の前を業風が薙いだ。

自分がかわした事により空振りしているが、もしその場に居れば拳が急所を直撃していただろう。

 

「む・・・・・・」

 

先程まで立っていた位置から20メートル後方に着地し、アルフを見る。

 

(アインズ様の話によれば、この一撃を避ければアルフィリア様は冷静になり最悪の事態は免れる、との事でしたが・・・・・・)

 

「アレをかわすとは、なかなかやりますね。誰かに聞きましたか?」

 

アルフは突き出した拳を引戻し、拳を見ながら握ったり開いたりしている。

 

「偉大なる御方にすこしばかり」

 

アルフにしか聞こえないように囁くように言う。

 

「・・・・・・後でちゃんと話し合わないといけないかなぁ」

 

彼女の顔は笑っているが目が笑っていない、アルベドとシャルティアがアインズ様の目の前で喧嘩する時によくこんな顔をしている。

 

「まぁいいです、とりあえず貴方がしたことが許せないので2、3発殴らせて下さい」

 

「それは遠慮させていただきます」

 

言い終わると同時、アルフが目の前に迫る。

先程と違うのは攻撃が見える速度で行われている所だ。

 

アルフの攻撃を爪により迎撃する。

爪とガントレットがぶつかり合う事により、火花が激しく飛び散る。

 

両の拳による乱撃を防ぐ中、ふと違和感が込み上げる。

 

何かを見落としているようなそんな違和感・・・・・・。

 

「戦闘中の考え事はやめた方が良いよ、<地柱(アース・ピラー)>」

 

「なっ!!」

 

攻防の最中、地中から高速で突き出す土の柱により宙に放り出される。

 

 

 

「ペロロンチーノさん、ティア、今!」

 

「あいよ!」

「了解」

 

<影縫い>

<金縛りの術>

 

ペロロンチーノの矢がゲヘナの炎に照されて出来たヤルダバオトの影を射抜き動きを止め。ティアが金縛りの術でバインドを重ね掛けする。

 

「・・・・・・なるほど、そう言うことでしたか」

 

アルフが気を引いて隙を作り、支援の二人で完全に動きを止めさせる。

だが、自分には行動阻害に対して耐性を持っている。それを容易く掛けられるとなると、あのアルフとの攻防時、いつの間にか耐性を無効化させられていたらしい。

 

「悪く思わないでね」

 

身体が動かず視線のみで声のする方、上を見るといつの間にかアルフの姿がそこにある。

アルフは両の手を祈るように組んで振り上げ、全体重と落下スピードを乗せてヤルダバオトの背中へと振り下ろす。

 

「がはっ!」

 

背中を強打され地面に叩き落とされ、土煙が立ち込める。

 

「モモンさん、今です!」

 

「え?・・・・・お、おう!」

 

モモンは両の手の剣を握り締め、駆け出した。

 

「やはり、最後は貴方ですか!」

 

ヤルダバオトが土煙の中立ち上り、駆けてくるモモンを見据え身構える。

 

「ヤルダバオト、覚悟!」

 

モモンの剣がヤルダバオトを横凪ぎに一閃する。

 

しかし、ヤルダバオトは刀身を右手で受け止めた。

 

「ここまで追い詰められるとは思いませんでした。このままでは分が悪いので退かせていただきます」

 

そう言うと刀身を握り込み、黒炎を上げて溶け落ちる。

モモンは剣を手放し飛び退いた。

 

「では、ごきげんよう人間達。あのアイテムが見付からなかったのは心残りではありますが」

 

「モモン様!ここで逃がしてはいけません!」

 

イビルアイが声をあげるが、モモンは動かずヤルダバオトに視線を向けている。

 

「貴女の頭は飾りですか、なぜ私が僕を連れずここに来たと思っているのですか?」

 

そう言うと、ヤルダバオトを指を鳴らす。

直後、王都の数ヶ所で巨大な火柱が上がった。

 

「なっ!そう言うことか、王都を人質に・・・・・・」

 

「わかっていただけたようで何よりです、それでは」

 

ヤルダバオトは一礼すると翼を広げ、飛び去っていったい。




ようやくヤルダバオト戦決着しました。

王都編終わらせたいですがもう少し続きます。


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第91話

ヤルダバオトが飛び去った空を朝日が照らす中、アルフはゲオルギウスの前足に掴まりゆっくりと降りていく。

 

下方からはモモンや他の冒険者、王都兵達の勝ちどきの声が響き渡る。

 

アルフは左手でヘルムを脱ぎ、ふるふると頭を左右に動かし大きく息を吐く。

夜明けの風が頬と髪を撫で、火照った身体から熱を奪っていく。

 

「この後はこの騒動の後始末・・・・・その後はアレの片付けか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったいこの王都はどうなっている!」

 

会議室として使っている広間に男の怒鳴り声とテーブルを叩く音が響き渡る。

 

事の発端は会議室の入り口で息を切らせている六腕の部下、この部下が持ってきた情報、一人の女により六腕が全滅したと言うものだ。

更には悪魔の出現により各部門に多大な被害が出ているらしい。

 

この場には困惑と憤りが入り雑じった空気が漂っている

 

 

その時、会議室の扉をぶち抜いて何か大きな物が放り込まれた。

 

それは見知った人物、全滅した六腕の部門長ゼロだった。

 

「・・・・・ゼ、ロ?」

 

投げ込まれたゼロに気をとられるなか、壊れた扉から3つの人影が入ってきた。

 

「雰囲気作りでぶち抜いたけど、普通に入れば良かった・・・・・・」

 

先頭にいる女はそう言いながら面倒そうに瓦礫を踏みつけながら歩いてくる。

 

「貴方達が八本指の幹部、でよろしいですか?」

 

女は微笑みながら問いかけて来るが、その瞳には寒気がするほどの怒気が含まれている。

 

「あ、あの女です!あの女が六腕を!」

 

「お前は蒼の薔薇の!」

 

「答えてくれないのか、まぁ良いや〈集団標的・支配〉」

 

その言葉とともに思考は消え、操り人形と化した。

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしたものか・・・・・・」

 

こいつらを殴っても憂さ晴らしにはならないだろうし、こうして捕らえては見たもののこれといって何をするかは決まっていない。

 

「あ、そう言えば。マーレ、あんたデミウルゴスの頼みでこいつらの仲間拐ったみたいだけど、そいつどうしたの?」

 

「あの人はデミウルゴスさんの指示とぶくぶく茶釜様のアドバイスで恐怖公と餓食狐蟲王とで内と外から」

 

「す、ストップ!聞いたアタシがバカだった・・・・・・」

 

姉からの質問にマーレがおどおどしながら答えるが、その答えにアウラは顔を歪めて自分の身体をさする仕草をする。

 

今思うと、うちのギルドはとんでもない生物兵器を作っていたようだ。

 

そんなことを考えていると

 

「そうだ、アルフィリア様にお聞きしたいことがあったんだ。質問してもよろしいですか?」

 

と、こちらの顔を見上げている。

 

「いいよ」

 

「ありがとうございます。デミウルゴスが言っていたのですが、今回のこの作戦についてアルフィリア様は説明も無しに全てを知っていたのですか?」

 

「え?あ、うん」

 

実際はそんなことはない、デミウルゴスの企みは何となく察してはいるが全て知っているかと言うとそうではない。

罪もない人も捕まえたのも、用途は特に思い付かない。

 

「やっぱりアルフィリア様もアインズ様のように頭が良いんですね」

 

「う、うん。そうだと良いな」

 

アウラの透き通るような純粋な眼差しが突き刺さる・・・・。

 

「そ、そうだ。この人間達はデミウルゴスに任せるから、自由に使って良いって伝えておいて」

 

それが良い、我ながら良い案だ。アインズも同じくデミウルゴスに丸投げ気味だし、別に問題は無いよね。

 

「わかりました。この後アルフィリア様はどうするんですか?」

 

「そうだなぁ。王都の行方不明者の捜索に加わるか、今回の騒動で亡くなった人達の埋葬を手伝うことになるかな」

 

こうして王都での騒動は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

同時刻 スレイン法国某所 会議室

 

その部屋は白く、2m×10mほどの同色の長机が中央に配置されており、同じデザインの椅子が8脚用意され、その全てが埋まっている。

 

椅子に座っているのは、議長席に最高神官長が座り、その他の席には各聖典の神官長、そして漆黒聖典の番外席次が座っている。

 

「さて、朝早く皆に集まってもらったのは他でもない。数日前に起こった、リ・エスティーゼ王国のとある村で爆発があった件だ。漆黒聖典による調査が終わったので報告する」

 

その言葉に一瞬場がざわついた。

この反応も仕方ない、他国とはいえ村が1つ消し飛んだのだ、それも恐らく人為的に。

 

「まずはこれを見てもらいたい」

 

最高神官長がそう言い手を2度叩くと、会議室の入口から長さ50cmほどある黒い鏃のような板を持った神官が入ってきた。

神官は板を最高神官長の前に置くと、会議室を退出した。

 

「これは、爆心地である村の近くで発見された物だ」

 

吸い込まれそうな黒い色をした板には血管のように細かく枝分かれした深紅の線が走り、まるで生きているように淡く光り点滅している。

 

「それは、鱗でしょうか?」

 

「うむ、鑑定によると最高位のドラゴンの物のようだ。

ドワーフですら加工が不可能だそうだ」

 

「評議国の?いや、まさか破滅の竜王カタストロフ・ドラゴンロードですか!?」

 

その言葉に場がざわついた。

無理もない、世界を滅ぼす力をもつ竜が復活したとなれば・・・・・・。

 

「一度はその可能性も考えたが、どうも違うみたいなのだ。

ドラゴンにより滅ぼされた場所では黒粉の原料となる植物が栽培されていたらしい」

 

「と、言うことは人類に仇なす者では無いと?」

 

「その確証は無いが、慎重に調査を進めた方が良いだろう。相手の逆鱗に触れればここもあの村と同じことになりかねない。

調査は継続するが、気になるのはニグンが遭遇した者達の事だ。

陽光聖典を壊滅させ、最高位天使をも屠る力を持つ彼等がもし法国の者が罪もない民を殺したと知れば、我々を悪として滅ぼしに来るかもしれん」

 

「では、もしプレイヤーだとしても接触しない方がよろしいと?」

 

「うむ、法国に悪印象を持っている可能性があるうちはその方が良いだろう。

今後はプレイヤーと思われる者を発見してもしばらくは接触はせず、法国に敵意を持っていないと判明した後接触するものとする」




遅くなって申し訳ありません。
残業とイベント周回が忙しく、なかなか話が思い浮かばず期間が開いてしまいました。

誤字脱字の指摘ありがとうございます。


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第92話

大悪魔ヤルダバオトの襲撃から1週間、私はアルフィリアの店の裏口に来ていた。

 

目的はいくつかあるが主な物はアレだ。

別にガガーランの言葉が気になったとか、急所に刺さったとかではないが私の今後にかかわる事ではある。

なかなか言う勇気が出ない、ここで言わなければあの御方との中は進展せず一同業者としか見てもらえない可能性すらある、その事態は何としてでも避けたい・・・・・・。

 

私は意を決し、裏口の戸を叩く。

 

少しすると扉が開かれたのだが、出てきたのは見知らぬ人物だった。

メイド服に身を包み、白銀の長髪に深紅の瞳、アルフィリアと同じく作り物のように整った美しい容姿の少女。

 

「イビルアイ様ですね、御父様からお噂は伺っております、どうぞこちらへ」

 

そうして通されたリビングにはアルフィリアとぶくぶく茶釜がいるのだが・・・・・。

 

ソファーでくつろいでいるぶくぶく茶釜はこちらを見て手招きをしながら自分の隣をポンポンと叩いている、ここに座れと言う事だろう。

 

向かい座っているアルフィリアは何やら遠い目をしながらテーブルの上に浮いている火に向かって筒状に括ってある羊皮紙を放り込んでいる、放り込まれた羊皮紙は灰や塵すら残さず跡形もなく燃え尽きていく。

おそらくマジックアイテムか何かだろう。

 

そんなことを思っていると、羊皮紙がひとつ火を通り抜けテーブルの上に落ちた。

 

「ではイビルアイ様、こちらでおくつろぎください。いまお茶を用意いたします」

 

そう言うと、少女は台所へと行ってしまった。

 

私はぶくぶく茶釜の隣に座り、アルフィリアを観察する。

 

「なあ、ぶくぶく茶釜。アルフィリアは何をやってるんだ?」

 

「あれね、これ読んでみる?」

 

そう言って手を伸ばしアルフィリアの隣に山と積まれた羊皮紙からひとつ引き抜いてこちらに渡してきた。

 

見た目はただの封書だ。

上質な羊皮紙を使い、深紅の帯で括られ結び目には封蝋が押してある。

 

封を解き羊皮紙を開いて読むと、そこにはアルフィリアへの愛を告げる内容がこれでもかと言うぐらい書き連ねてあった。

 

「それ全部こんな内容なのか?」

 

「だいたいね。で、中にはこんなのもあったりする」

 

そう言うとテーブルの上に転がった羊皮紙を指差した。

 

「貴女はアンデッドだから精神作用系の魔法は通じないけど万が一があるといけないから鑑定魔法使ってね」

 

言われた通り鑑定魔法を使ってみる。

そうして読み取った情報に眉をひそめる。

 

「魅了のスクロールか」

 

「あの悪魔の襲撃から三日目からだったかな。

アルフさんを我が物にせんとあれやこれやと考え、直接愛を語ってみたり、文で愛を綴ってみたり、誘拐して手篭めにしようとしてみたり、そして魔法で魅了をしてみたり。貴族様は暇をもて余してるみたいで何より」

 

「で、これをどうする」

 

「んー、スクロールは送ってきた貴族を好きになるよう指向性持たせてるみたいだしそこらのオーガ(♂)か大型魔獣(♂)にでも使うかな」

 

「・・・・・・まぁ、ほどほどにな。それより、先程私を案内していたメイドは何者だ?アルフィリアの事を御父様と言っていたが」

 

「ああ、あの子は端的に言うとアルフさんの実の娘で」

 

「娘!?アルフィリアと同じ位の年に見えるが父親は!」

 

「ぶくぶく茶釜様、言葉が少なすぎます」

 

声の方へと視線を向けると、話題の人物がティーセットを乗せたトレーを持ってテーブルの横に立っていた。

 

「いやぁ、その方がいろいろ楽しめると思って」

 

メイド服の少女はため息をつきながらカップに紅茶を注ぎ、三人の前に出した。

 

「改めまして自己紹介を。私の名前はマリア、錬金術により御父様に作っていただいた最初のホムンクルス、魔法によって創られた人間ですので御父様は童貞であり処女でございます」

 

そう言い放つマリアの顔はどこか誇らしげである。

 

「・・・・・・マリア、人の性事情を他人に話さないでくれるかな?」

 

アルフィリアはいつの間にかマリアの背後に立っており、彼女の後頭部を鷲掴みギリギリと締め上げる音が聞こえてくる。

よく見るとマリアの足が床から離れている。

 

「御父様痛いです、頭が割れてしまいます」

 

抑揚の無い冷静な声からして痛くないだろうし、この様子を見ているとおそらくガガーランの刺突戦鎚の直撃を受けても潰れはしないだろう。

 

「それより、イビルアイ様。本日のご用件はなんでしょうか?」

 

アルフィリアは反省する様子の無いマリアの頭を離し、ソファーに座りため息をついた。

 

「そ、そうだったな・・・・・」

 

ついにこの時が来てしまった。

どう話していいものかと顎に手を当てて思考するがその時、気になるものが視界に入った。

リビングのすみに溶けた剣と半壊した漆黒の鎧が置いてある。

 

「あ、アルフィリア。あの剣と鎧はもしやモモン様の!」

 

「うん。一昨日修理を頼まれて預かってるんです」

 

「やっぱり気になる?」

 

気付くとぶくぶく茶釜の顔がすぐ近くに迫っていた。

彼女の纏う雰囲気はガガーランがクライムをからかう時に似ている気がする。

 

「それは気になるよね、何せピンチを救ってくれた騎士様のだもんね。もしかして、用事もそれに関連する事かな?」

 

「なっな、な、な!」

 

「何故その事を知っているかって?そりゃこれを見ればねぇ」

 

ぶくぶく茶釜の手にはスクロールがあり、中身は恐らくモモンがイビルアイを助けている場面だろう。

 

「さぁ、何もかも話してしまいなさい」

 

私はぶくぶく茶釜の圧に負け、すべてを話すことになってしまった・・・・・・。




遅くなって申し訳ありません。ようやく書けました。

祝オバマス配信。
今のところ無課金でチマチマガチャ回しながらストーリーを楽しんでおります。


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第93話

ぶくぶく茶釜がイビルアイに尋問している同刻。

 

ナザリック地下大墳墓 アインズ私室

 

「アインズ様、いかがいたしましょう」

 

「うむ」

 

アインズはアルベドの言葉を聞き手元の資料に目を通す。

そこには先の王都襲撃の報告書があり、今読んでいるのは拐った人間に関しての項目だ。

 

「ニグレドとペストーニャの頼みとはいえ、やはり人員が足りないか・・・・・」

 

資料には拐った人間の自我を持たないほど幼い子供を保護したい旨が書かれている。

 

「現在子育てが出来る者はナザリックに少なく、呼び出す者もそういった技能を持っておらず・・・・・・」

 

まぁそうだろう、基本POPするモンスターやユグドラシル金貨で呼び出すモンスターは拠点防衛目的でそんなこと一切出来ない。

ニグレドは設定に〈亡き子を求める〉とあるのでその関係で子育てが出来るのだろう。

 

「・・・・・・アイテムボックスの肥やしにするより使った方がましか」

 

そう言いながらアインズは虚空に手を入れ、アイテムボックスから5つの丸底フラスコを取り出し執務机の上に並べた。

フラスコは宙にふよふよ浮いており淡く光る薄緑色の液体で満たされ、中には胎児のようなものが浮いている。

 

「アインズ様、これは?」

 

「これはホムンクスルの素体だ、これを錬金術師が調整する事によりホムンクスルとなる」

 

いま机の上に並んでいるのはガチャで出たものだ。

ホムンクスルの素体は課金無しで手に入るアイテムからでも一応造れるが、手間と素材がかかる、消費される素材の量と時間を考えるならガチャから出た方が安上がりだったりする。

 

「出来ればアルフさんに手間を増やしたくなかったのだが仕方ないか・・・・・・」

 

「しかし、使ってもよろしいのですか?」

 

「構わない。そもそも錬金術師でなければ扱えないからな」

 

「・・・・・・アインズ様、私もアルフィリア様に少し御頼みしたいことがありますので、その時にホムンクスルの依頼も御一緒にお伝えいたしましょうか?」

 

アルベドは顎に手を当て少し思案するとそう言った。

 

「良いのか?」

 

「はい、私の用事は個人的なモノなので構いません」

 

「ふむ、では任せる。アルフさんには《種族と設定はこちらで指定する、容姿に関してはアルフさんの自由、調整に必要な素材があればこちらで出す》と伝えてくれ」

 

そう言いながら種族と設定をメモに書き込み、アルベドにホムンクスルの素体と共に手渡した。

 

(しかしアルベドがアルフさんに依頼か。これは良い傾向なのかも知れないな)

 

 

 

 

 

 

 

「なしてこうなった・・・・・・」

 

現在王都リ・エスティーゼから離れた人がめったに来ない、何もない平原に来ていた。

 

「えー、これよりアルフィリアの能力を丸裸にしたいと思います」

 

目の前ではラキュースが音頭をとりイビルアイ以外の蒼の薔薇の面々とぶくぶく茶釜がぱちぱちと拍手している。

 

あれからぶくぶく茶釜による恋バナと言う名の尋問をイビルアイが受け、イビルアイの要望でエ・ランテルにアルフが所有する建物を転移の拠点として使用する事が決まったのだが、

それが決まった直後、あれよあれよとこんな事態に・・・・・・。

 

ちなみにイビルアイは少し離れた木の下でモモンが使っていた溶けた大剣を抱えて三角座りをしている、おそらくあれで精神を安定させているのだろう。

 

まぁ仕方ないだろう、ぶくぶく茶釜による尋問、その内容をほかの蒼の薔薇のメンバーに聞かれていたんだ。

赤裸々に語られたモモンへの想いだ、精神的ダメージがでかかったのだろう。

 

「えぇ、皆が知っていると思うけど先の悪魔たちの襲撃の時、アルフィリアは徒手空拳で悪魔ヤルダバオトと対等に渡り合い、殴り飛ばしているわ。

しかもまだ余裕があると見ました」

 

ラキュースはそう言いながらこちらを見る。

 

「・・・・・・また今度と言うわけには」

 

「いかないわね、そうやって有耶無耶にするつもりでしょ?」

 

図星である。

 

まぁ、この身体や武器の平時の性能を知られるのは問題無い、私の強さは戦闘技術と手数の多さ、それに世界級(ワールド)アイテムであるグレイプニルによるところが大きい。

 

考えていても仕方ない、周りを見ても味方はいない。

 

「・・・・・・わかりました、能力テストすれば良いんでしょ」

 

こうして能力の一部を開示する事になった。

 

 

「まず最初は貴女のもつ最も重い武器を出してもらえる?、アルフィリアにだけ能力開示させるのは不公平だからこちらもね。

まぁ私達とアルフィリアとでは実力差がありすぎて釣り合いがとれるとは思えないけどね」

 

ラキュースの提案何となくわかる気がするので了承し、アルフはアイテムボックスに手を入れ戦鎚を取り出し地面に置いた。

 

戦鎚は何処ぞの邪神の頭をもぎ取って来た様な姿をしていて常時触手が蠢き黒い靄を放っており、持ち手部分は脊椎を思わせる形状をしている。じっと見ていると正気度がガリガリ削られそうである。

武器の名前は災禍の禍鎚と言うのだが、仲間内ではクトゥルフヘッドと呼ばれていたりする。

 

この戦鎚は重量をペナルティーとしてデータ容量を増やし麻痺、毒、混乱、石化、スロウ、盲目等様々なバットステータスを与える物だが代償として攻撃力が低い。

 

「「「・・・・・・」」」

 

そんな異形の戦鎚を見た蒼の薔薇の面々は沈黙している。

 

「なぁアルフィリア、それさわって平気か?呪とかかかってねぇよな?」

 

ガガーランは蒼の薔薇の内心を代表し思ったことを口にする。

 

「大丈夫ですよ、心配ならイビルアイに・・・・は無理そうだからこれ使って確認してください」

 

そう言いながらガガーランに手渡すのは上位道具鑑定が付与された 虫眼鏡だ。

ガガーランはそれを受けとると戦鎚を確認する。

 

「・・・・・・一応予想はしていたが、こいつはとんでもねぇな」

 

ガガーランの反応で気になったのか、ラキュースが後ろから覗きこむ。

 

「これは確かに、神話に出てくると言われても信じられるわね」

 

「だがこの外見だ、邪神や悪魔が使ってそうだよな」

 

そんなガガーランの台詞にここにいる皆が頷いた。




お久しぶりです、遅くなって申し訳ありません。
残業やらイベント周回でなかなかかけませんでした。

更新が終わったらFGOで種火周回とオバマスで星四ターニャを幸運80にする作業が待ってます。


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