ワンパンマン ~日常ショートショート~ (Jack_amano)
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夏の夜の―――

 何時もより遅い夕食前―――俺は寝っ転がってマンガを読んでいた。

 

 今日の夕食当番はジェノス。

 別にいいって言ってるのに、こいつは何もしてやれない俺なんかの為に、おはようからお休みまで『提供はライオンです』ってぐらい家事をしようとする。

 で、妥協して当番制にしてみたわけだ。

 ジェノスからしてみれば、家事なんかするくらいだったらその時間、手合わせしてくれって事なんだろうけど、キャメルクラッチ決めて、つい、首を抜いちゃって以来どうもその気にならん。

 申し訳ないが、相手がサイボーグのジェノスでよかった。普通の奴なら俺は殺人者だ。

 あんまり煩いから、ちょこっと相手してやっても、手を抜くなってうるせーし。

 なんか、俺はマジな時と力抜いた時との落差が顔に出るみたいで、すぐジェノスにバレてキレられる。

 っつーか、大体、お前が望む通り俺が本気出したら瞬殺だっつーの。

 

 そんな事を考えている横で、黙々とジェノスは出来上がった料理を運んでくる。

 あ、こいつまた俺の席、上座に作ったな。窓際はテレビが見づれぇっつのに。

 

「先生。夕食の用意が整いました。」

「おう、サンキュー」

 モヤシと青菜の巣ごもり卵、モヤシと鳥むね肉のバジル炒め、野菜の切りくずコンソメスープ、それに白米。

 月末でモヤシのエンカウント率が高いが、俺と違って洋風なのが嬉しい。

 俺一人ならぜってーバジルなんか使わねぇ。

 あ~ぁ俺も明日のモヤシ献立考えなきゃ。今月、あまりの暑さに扇風機使っちゃったし、日頃食べないアイスなんて物も買っちゃったからな~。

 

「あ」

 急にジェノスが声をあげ、遠い目をして部屋の隅、俺の背後を見つめる。

「どうした?(ゴキ)か?」

 俺の問い掛けにも、箸を揃えようとした手を止めたまま、静かに俺ではなく、俺の後ろを見ていた。

 

 ???

 

 怪訝そうな俺に気づき、ゆっくりとフリーズを解くジェノス。

 

「いえ、この部屋、たまにそちらの隅だけ温度が下がるんですよね。原因を解明しようと、色々分析してみたのですが、赤外線も電磁波も感知できなくて…… 」

「 へ? 」

 なんの話し??

 

「ネットで検索してみたのですが、事故物件ではないようですし… なんでしょうねぇ ほんとうに 」

 おま、事故物件って――― 俺はここに3年近く住んでるんだぞ?

 

「あ。こう言う話し、お嫌いでしたか?」

 何時もと同じ取り澄ました顔なのに、ジェノスはニヤリと嗤ったような気がした。

「いや、好きとか嫌いとか、そう言う問題じゃねーから!!」

 

 背後の闇が 一層濃くなったような気がした。

 

 

 でも引っ越さねーからな!!(心の声:金ねぇーし!)

 

 

 

 

 

 




昨日、シリアス書いたら心が疲れちゃって、反動で書きました。

ツッコミ師匠と天然弟子。
サイボーグだからサイタマにハリセンで突っ込まれても大丈夫(?)。

部屋の怪異は心霊現象なのか、はたまた弟子の捏造なのか?
もしかする、残念忍者のせいかもしれません。
でもまぁサイタマは気付かなかったわけですから―――――

オチが無くてすいません。


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浪漫

すいません。
~日常ショートショート2~として発表していたのですが、短編集が作れると知って切り替えました。
これからも一話完結ショートストーリーを垂れ流していくつもりなのでよろしくお願いします。




「で、どうだね。サイタマ君に師事した感想は」

 機器の操作をしながら、クセーノ博士が聞いてくる。

 俺がサイタマ先生の弟子になりたいと相談した時、博士は、俺が外の世界に目を向ける事はとても良い事だと喜んでくれた。

「そうですね。強さは体を鍛えるだけでなく、精神面を鍛える事でも強くなる事は可能だとおっしゃって下さり、自分でもまだ強くなる余地があると気付かされて感銘を受けました」

 強くなる。

 そのためにヒーローとして高みを目指して生活する。

 その気持ちを継続して持ち続け、努力する事で自分のレベルを上げていく―――  そんな事は考えた事もなかった。

「傍で観察していると、先生の言葉の一つ一つが教えに満ちていて、内弟子になってよかったと、自分は間違っていなかったと思います」

 メンテナンス中、大体いつも喋るのは俺、博士はいつも優しく相槌を打ってくれる。

「それはよかったのぅ」

 こうやって博士の定期メンテナンスを受けている時、俺は嫌でも思い知らされる。

 パーツを一つ一つ外され、頭だけになっても痛みも感じずバラバラになった自分の身体を眺めている俺は、もう人間ではないのではないか?と

 でも、そんな俺を先生は当たり前のように人として扱ってくれた。

 機械仕掛けの俺を、先生のように普通に人間として扱ってくれる人は実に稀だ。

 機械仕掛けといえば―――

「そう言えばこの間先生が―――」

 

 

「お前さ、足からジェット出て飛べるの?」

「出来ません」

「指からマシンガンは?」

「出ません」

「奥歯にスイッチは…」

「ありません。」

「Bパーツが飛んできて、合体とかは―――」

「出来ません」

「腕が飛んでロケットパーンチとか―――」

「無理です」

「ファイナルフュージョンで巨大ロボと合体とか―――」

「ありません」

 

「なんだ。本当に普通なんだな」

「 …… 」

 

 

 人として扱ってくれる割には無茶をいうなぁ先生は。とは思ったが、

 先生程の強者になると、俺と普通人の違いなどあまりないのかもしれない。

 普通の人の強さが1で俺が50だとすれば、先生は1000。それほど先生の強さは次元が違っている。

 リスザルとニホンザルが人からみたら同じサルであるようなものだろう。

 

 俺の話しを黙って聞いていたクセーノ博士が、嬉しそうに手を擦り会わせて振り向いた。

「パーツが飛んできて合体?腕が飛んでロケットパンチ?ふぉう!男のロマンじゃな」

 

  あれ?博士?

 

「ふぉう!血がたぎるのう!!」

 

  クセーノ博士??

 

 後日、俺は博士から、アームズモードという名のアタッシュケース型Bパーツを手渡された。

 空中で変形し、両腕に合体装着することによって、格段に威力を上げるというものだ。

 

  ……博士、俺は一体どこに向かうのですか?

 

 

 

 




調子に乗って第2弾。

クセーノ博士登場です。この後、博士はロケットパンチの製作に成功しました。
次は巨大ロボットか?!

ジェノスあやうし!!





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夏の夜の―――2

前作感想をくださった方、申し訳ありませんでした。
形式を作品集にしたら消えてしまいました。

これからもお付き合いのほどよろしくお願い致します。




 それは俺が夕飯の片付けをしている時だった。

 皿を洗い、次々に籠の中に入れていく。

 

 ぞくっ

 

 突然、髪の毛の逆立つような感覚。

 ハゲてても身の毛がよだつのは、ジェノスに扉の影から覗かれていた時に経験済みだ。

 何かがいる。俺の後ろに。息を潜めて、じっとこっちを伺っている。

 

 ジェノスじゃない。

 シンクがカウンター型式になっているお陰で、あいつが向こうの部屋で黙々と洗濯物を畳んでいるのが見てとれる。

 

 これはまさか―――

 

 その時、俺は見つけてしまった!

 明日の朝食用に買った、見切り品のバナナの横に奴がいる決定的な証拠を!

 

 くっ、黒い粒粉(りゅうふん)。昨日までこんなものは落ちてなかったのに。

 

 何でなんだろう、見つけたくないものに限って目に入ってしまうのは!

 しかも、よりにもよって黒!茶じゃない!飛ぶ奴だ!

 

「ジェノス!作業を中止して、直ぐ様、台所の奴を排除しろ!」

 

 台所から飛び出した俺を、ジェノスは冷ややかな目で見つめた。

「意外ですね。最強のサイタマ先生ともあろう方が台所害虫が苦手とは」

 ジェノスの言葉を聞きながらも、俺は床にあったヒーロー日報を拾い上げ、丸めて筒状にする。

「そう言えば先生は蚊にも刺されていましたね。あんなに丈夫なのに。他にどんな虫が苦手なんでしょう?」

 ジェノス。お前、表情は変わらねーけど楽しんでるな?

「相変わらず心の声がだだ漏れだなお前は」

 こいつ、マジで明日には山に行って虫を採ってきそうだ。

 ニャリとジェノスが笑ったような気がした。

「了解しました先生。直ちに焼却砲で―――」

「やめんか!家を燃す気か!!」

 片手を掲げ、焼却砲の構えをとるジェノス、俺は間髪を入れず手に持った新聞でツッコミを入れた。(勿論、手加減はしているぞ!俺が本気出したら大変な事になる!!)

 

「いいか!お前が使うのはこの新聞紙!」

「それに俺はあれが苦手なんじゃなくて、俺が叩くと家がぶっ壊れるから叩けないの! その取り敢えず燃やそうとするクセやめろ!!」

 強者故の悩み。

 余談だが、俺はバイト先であいつを退治しようとしてカウンターを叩き壊し、弁償させられた事がある。

 金を稼ぎに行って金を使う羽目になるとは… それ以来あいつはトラウマだ。

 俺は無理やり、丸めた新聞紙をジェノスに握らせた。

 あ、ヤベ~さっきのでジェノスの顔、ヒビ入ったわ。

 

「新聞紙なのにこの破壊力。流石(さすが)です先生。」

 …お前、ツッコミで怪我させられたのに、なんでそんなにいい顔してんの?

 本当、時々ワケわかんねぇよな。

 

 台所に入るジェノス。

 

 途端、

 落ちる鍋、割れる皿、吹き飛ぶ水道栓!

 台所はカオスと化した。

 

 だ~!!

 

 ジェノス!お前もか~!

「…すいません先生。」

 もういい。

 ゴキジェット買ってくる(/_;)泣き

 

 

 

 

 

 

 




しかし、何であの虫はあんなに威圧感があるんでしょう?
黒い粒粉とは、虫の糞です。そのものズバリ書きたくなかったもので。
もっとパニクらせようかと思ったんですが、家に住めなくなるのでやめました。

個人的には、幽霊よりこっちの方が嫌いです。一匹見たら、30匹いると思うと排除せずにはいられません。

虫嫌いの人、すみませんでした。


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似たもの師弟

「お~いジェノス、上がってんなら代わって。便所入りてー」

 サイタマ先生の声に、俺は髪を乾かしていた焼却砲最弱モードを止めた。

 これはサイタマ先生の内弟子になった時、クセーノ博士がわざわざ付けてくれた家電モードだ。

 必要ないとは思ったが、(ふた)を開けてみれはハゲの先生のお宅にドライヤーがある訳はなく、威力を少し上げれば食器も乾かせるとあってなかなか重宝している。

「開いてますよ。今出ます」

 サイタマ先生のお宅はワンルーム。バス、トイレ、洗面所が一緒のタイプだ。たまにこう言う事もある。

 少しボディの隙間から水が滴っているが、体内温度を上昇させて中から水分を飛ばした方が確実で乾きも早い。俺は、手早く身体の水分を拭き、扉を開けた。

 

 バスタオルを羽織り、サイタマ先生と場所を代わる。

 先生は何か一瞬、言いたそうな顔をしたが、取り敢えず緊急事項を優先した。

 生身というのも大変だな。俺は食べた物は全てエネルギーに変わるから廃棄ロスがない。

 コアの出力を徐々に上げる―――体内温度が少しずつ上昇し、胸のスリットから光と共に蒸気が発生した。これをやれば髪も一緒に乾くのだが、先に髪を乾かさないとヘンな癖がつく。

 

「お前さー。そういうことするんだったらカーテン閉めろよ」

 トイレから出てきたサイタマ先生が、俺を通り過ぎ、カーテンを勢い良く引いた。

 いつもパン(いち)でゴロゴロしているサイタマ先生とは思えないお言葉だ。

 

「あとパンツはけ」

「持ってません」

「はぁ?!」

 そんなに退()かれるとは。

「俺は、前も後ろも、猥褻(わいせつ)な物は持ってないので必要ないと思います」

「…そう言えばヒーロー認定試験の時、あれマッパ?」

「はい」

 

「…まじかよ。俺たち、全裸師弟か」

「嫌な言い方しないで下さい。先生と俺とは違います」

 大体、隠すから余計に想像力で補填(ほてん)されて猥褻(わいせつ)になるんだ。最初からないと分かっていればそんな気もおきないだろう。

 

 俺の言葉に、先生はグラフィックサイズのカラー雑誌を机の上に放り投げた。

 月刊誌『HERO』ニヤケた顔のA級ヒーローが表紙だ。確か"アマイマスク"とかいったか?アイドルとヒーローを両立するヒーロー協会の広告塔だ。

 ここのところ俺の行く先々で、特集を組ませてくれとまとわりついてくる(うざ)い出版社の本だ。

 

「この雑誌持って無人街(いえ)まで記者が来た。ジェノスの特集組みたいから金出すから師匠権限で説得してくれって」

「まさか、OKしたわけじゃないですよね?!」

「俺のこと何だと思ってるの?! そんな貧乏だと思ってるわけ?!」

「いぇそんな… そんな事は… そんなハイ そんな…     」

 つい思考がフリーズする。

 まずい、なにか話題をかえないと。

 

「もういい」

 サイタマ先生は、ため息を付きながらどっかりと座り込んだ。

「だから、どこで見てるかわかんないから気を付けろって言ってんの。いやだろ?実は家の前の高速道路にベースキャンプ張ってたりして、望遠レンズで激写されてたりしたら。食事の内容から干してる洗濯物までスクープされるかもしんねぇんだぜ」

「 …… 」

 

 ――――サイタマ先生。

 俺が弟子入り前にあなたにしてたこと、知ってましたね?

 

 

 

 

 




もっと下ネタのオチにしようと思ったのに、何故かこうなりました。

村パンのヒーロー認定試験でロッカールームのジェノスにあれ?っと思い。
アニメ版のシーンで確信にかわり、「何この子平然としてんの?!」と思ったのを覚えています。
「パンツはけよ!」(笑)


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夏の夜の―――3 宿敵

「あ、蚊だ」

 甲高(かんだか)い嫌な音と共に、一匹の蚊が俺の周りを飛び回る。

 しまった、蚊娘の怪人の時にジェノスにキンチョール爆砕されてから買ってないんだった。

 一生懸命叩こうとするが、蚊は前の時と同じ様にするりと抜けて俺を挑発した。

 

「ジェノス!そっち行ったぞ!!」

「何事ですか? あぁ」

 台所から出てきたジェノスは、蚊を認め、事態を把握(はあく)して、ゆっくり(・・・・)と両手で叩きにかかった。

 打ち合わせたジェノスの手の中に、蚊の姿が消える。

 

「やったか?!」

 十分に間をおいてから両手を広げるジェノス。

 すると―――

 

 キャッチ&リリ~ス!

 だぁ!焼却砲の中に隠れてやり過ごしていやがった!

 

 ジェノスが静かな顔でキレた。

 奴はサイボーグだから刺されこそしないが、あの事件以来蚊に容赦がない。

「焼却――――――  」

「だからやめい!下駄箱に去年の蚊取り線香あるはずだから!」

 俺の言葉に、慌てて玄関に走るジェノス。下駄箱の中から 何かを立て続けに放り出す音が続いた。

「先生!ダメです!目茶目茶湿っていて火が付きません!!それになんだか本体から蚊取り線香ではない異臭がします!!」

「………一昨年(おととし)のだったかも」

 滅多に使わないからなぁ。

 あ、蚊、どっか行った。

「だ~!見失った~」

「大丈夫です先生。蚊は活動時間まで、暗くて暖かい場所に潜むそうです。例えばテレビの裏とか――― 」

 ジェノスの言葉に、そっとテレビの裏を覗く。なるほど。テレビの後ろの壁に付いている。

 俺は、今度こそ逃すまいと思いきり手を振り上げた。

「ダメです先生!」

 その手をジェノスが掴む。

 おぉ!! お前なんかスピード上がってるじゃんか!俺の手が見えたんだな?!

 

「あれから調べたのですが、蚊は風圧に乗って逃げるそうです。つまり、先生が速く叩こうとするほど、敵も逃げるスピードが速くなる。その方法ではダメなんです」

 それって―――

「つまり、今まで俺のやってた事、ムダ?」

「はい!」

 嬉しそうに言うな! だから先刻(さっき)はゆっくり叩いていたのか。

「じゃぁ、どうしたらいいわけ?」

「風圧を感じさせないように、ゆっくりと、平らな物よりも球面の物で潰すといいようです。ネットではトイレットペーパーの曲面で押し潰していました」

 答えながら、ジェノスはトイレットペーパーを丸ごと渡してきた。

「ふぅーん」

 言われた通り、トイレットペーパーの曲面をゆっくりと、そおっと蚊に近づける。

 おぉ!本当だ、蚊は逃げる様子もない。

 そのまま、蚊にギュウ―――っと押しつけて……

 

 ガコン!

 

 大きな音を立てて、コンクリートの壁が壊れた。

 しまった… ブツがトイレットペーパーだったから油断した。こんな軽い力でも壁は抜けるのか!

 空いた穴から、次々と新参者の蚊が入ってくる。

 

 

「 …ジェノス。俺、壁を直すから―― ベープ買ってきて」

 

 

 

 




あなたはベープ派キンチョール派?どちらが多数派何でしょう?

サイタマは漫画では蚊に刺されていますが、アニメでは刺されていません。
彼の血を吸ったら怪人化しそうな気がするのですが…獣王喰ったカラスが変化してますからねぇ。
それを考えたら進化の家のたこ焼きも食べたら後々まずい事になりそうです。

地球がやばい?!




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あのお金

「ここにすんでもいいですか?」
のジェノスが持ってきたお金について書きました。




「そういえばさ」

 ヒーロー日報をめくる手を止めて、何気なくサイタマ先生が話尋ねてくる。

 俺は日記を書く手を止め、なんでしょう?と返事をした。

 

「お前、あの金どうやって工面したの?」

 あの金―――とは、俺が先生の内弟子にしてもらうため持ってきた500万の事だ。

 『金さえ出せばどうとでもなる』と思った訳ではなかったが、俺の本気を知ってもらう為、なかなか首を縦に振らない先生の退路を断つための、言わば脅迫料のつもりだった。

 結局、金を受け取ってもらい、内弟子にしてもらった訳だが… 先生の生活レベルが変わる事はなかったし、その金を使っている様子もない。

 

 一体、何故?

 疑問に思っていたら、掃除をしていた時に、辞書の中に隠してあった俺名義の貯金通帳を見つけた。

 サイタマ先生は、俺の覚悟だけ受け取って、金は受け取っていなかった訳だ。

 俺は内弟子という地位を金で手に入れ、何となく先生に勝ったような気がしていたのだが… 

 何の事はない。

 先生は、実に簡単に俺の下世話な思いを避わ(スルー)していた。

 何も考えていないように見えるが…… サイタマ先生は大人だ。

 

 黙って先生は、俺の返事を待っていた。

 戸籍上、俺はまだ未成年。

 あれを払った頃、まだヒーロー協会からの給金も出ていなかった。

 死んでしまった家族の保険金や相続した財産、賞金首の報奨金。

 ―――正直、使いきれないほど金はあるのだが…… サイタマ先生は、薄暗い出どころの金だったら突き返すつもりなのだろうか?

 

「生身だった頃の身体を臓器として売りました」

「はぁ?!」

 久々の先生のマジ顔。そんなにショックでしたか?

「うそです」

 …おもしろい。

 

「お・ま・え・は!!」

 予想外!いきなりのデコピン。

 軽く当たっただけなのに、俺は壁に吹っ飛んだ。

 壁が剥がれ落ちてパラパラと落ちる。

 今の、先生は絶対に本気じゃなかった。なのに、この威力!

 

「…流石(さすが)です先生」

 あ、ちょっと額に(ヒビ)入ったかも。

 

「で、本当はなに?」

「物好きの金持ちに貢がせ――――

「まだ言うか!!」

 再度デコピン。

 先生、煽ったのは俺ですが、出来れば頭はやめて下さい。唯一の生身です。

 

 ラボ直行。――― こんなくだらない事で、俺は研究所送りになった。

 

 

 

 ―――クセーノ博士の研究所。

 俺の肩のジョイントを直しながら、事の顛末(てんまつ)を聞いていたクセーノ博士がため息をつく。

「お主にしては珍しい事を―― これで懲りたじゃろ。大人をからかうもんじゃないわい。」

「反応がおもしろくてつい」

 大体の大人は、機械の身体の俺を珍しい物を見るような目で見るか、そこにいなかったかのように扱うだけだ。

 俺に向かって、本気で怒ったり、心配したり、突っ込んだり。人間のように当然に扱ってくれるサイタマ先生のような人は意外に少ない。

 考えてみれば博士以外にはいなかったかも… つまり高校以来か。

「サイタマ先生の傍にいると、自分はまだ人間であるらしいと気付かされます」

 

「やれやれ… ノリツッコミも命がけじゃなぁ」

 博士がしみじみとつぶやいた。

 

 

 

 




公式でも、サイタマ先生はジェノスからもらったお金に手はつけていません。

でも、そままじゃタツマキに家を壊された時、無くなってるよな~
と思って、勿体ないから普通利息つけさせました。

うちのジェノス君は15才から精神年齢上がってない気がします。


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未知との遭遇

「腹減った~」

 玄関を開けると、我慢していた言葉がつい出てくる。

 今日も今日とて遅くなった。

 

「突然、ヒーロー協会に呼び出されて、何かと思ったら『最近怪人が多くなったから気を付けろ』だけだもんな~。そんな事ぐらいならメールで済ませろよ」

 言いながら、冷蔵庫に向かい、材料を取り出す。

 今日の夕食当番は俺だ。

「先生のように、携帯を持ってない方がいるからでしょう」

「何か?俺のせいだって言うのか?!」

「いぇ別に」

 わざと視線をそらすジェノス。

「俺は携帯の(ふた)、開けるだけでぶっ壊すから持ちたくねぇんだよ。大体、一緒にいるお前が持ってるからいいじゃねーか」

 携帯電話の着信は、いつ切れるかと思うと、慌ててしまってつい力加減を間違える。 

 一度なんか、人様の携帯を取り上げようとして握り潰した。

 あれ… ちゃんと復旧出来たかなぁ。仕事に差し障りがないと良いけど。

 お巡りさんゴメン。

 

「……手伝います」

 なんだかよくわからないけど… 少し嬉しそうな声のトーンでジェノスが言った。

 

「いいよ。時間ないから、もう肉野菜炒めとワカメの味噌汁でいいか?」

「はい!先生の料理は何時も最高です!! 特に今日は野菜炒めではなく、()野菜炒めという辺りが!」

 それ、()めてねぇから。この肉魔人が!

 

 キャベツ、モヤシ、豆腐、肉、長ネギ――― 次々とカウンターに材料を出していく。

 それを見ていたジェノスが、おもむろに使い捨てのゴム手袋を装着した。

「やっぱり手伝います。早く調理して食べましょう。9時以降はなるべく食べない方がいいとい言いますし…」

 使い捨てのゴム手、はめちゃったんじゃなぁ~

「じゃぁ、味噌汁やって」

 ジェノスの手は、焼却砲や関節部分が複雑で物が詰まるから、家事には向かない。

 悩んだ末に、奴が買ってきたのが使い捨てのラバーグローブだ。

 全く、そこまでしてやらなくたっていいのに。

「先生、ワカメはどちらに?」

 

「棚上のジャムの瓶に入ってる」

 お湯を沸かしているジェノスの鍋の横にフライパンを置き、ニンニクとショウガを絡めて片栗粉をまぶした鳥ムネ肉を放り込む。

 明日の臭いなんか気にしな~い。旨けりゃ無罪!!

 

「焼けたらひっくり返してくれ」

 肉を焼いてる間に急いで野菜を洗って刻む。あ~、キノコ欲しかったな~。

 

「せ、先生!!」

 不意にジェノスの切迫詰(せっぱつ)まった声。

「なに?」

 みると、ジェノスの目の前の鍋から、蛇花火のようにもくもくと黒い塊が湧き出している。

 わぁ!焦げてる焦げてる焦げてる!!

「ジェノス!火を止めろ!!」

 慌てて火を止めるジェノス。

 火を止めても黒い物体は鍋から溢れてくる。

 こいつは一体…………

 あ。

 

「もしかして――― 乾燥ワカメ使うの初めて?」

「はい」

「もしやと思うけど――― 全部入れちゃった?」

「はい」

 ……………………。

 

 いや、乾燥ワカメ、『ふえ~るワカメちゃん』って商品名つくのもあるぐらい、増えるから。

 どうしよう、これ。

 

 

 あ、肉こげた。

 

 

 

 

 




経験上、沸騰したお湯に40g以上入れるとやばいです。
2分でいきます。


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試験

 納得できない。

 ヒーロー協会の事務の女の態度に怒りを覚えながらも無理やり我慢して帰途に着く。

 本当なら締め上げてやりたかったが、そんな事はサイタマ先生は喜ばないだろう。

 いや、それどころか破門だと言い出すかもしれない。

 それだけは嫌だった。

 未成年だから保証人を立てろと言うので、わざわざサイタマ先生から承認をもらったのだ。

 それなのに、保証人がB級のサイタマ先生で俺の師匠だと知った途端、鼻で笑いやがった。

 

 大体、この前ヒーロー協会から出版された『ヒーロー大全』に載ってるサイタマ先生のデーターだってそうだ。

 ヒーロー名が『ハゲマント』なのは見た目から仕方ない事として、体力・持久力・瞬発力が10/10なのはいい。

 だが、知力・正義感・人気が1/10とは?

 先生の素晴らしい格闘力が?/10とはどういう事だ!

 俺から見れば先生のレベルは、知能と人気以外、10なぞとっくに振り切って15は付くぞ!

 隕石を壊した件だって、絶対に人に出来る訳がないと、証人の俺やバングの意見も信じなかったし――― 深海族の時だってそうだ。

 全く腹が立つ、勝手にC級S級だとか――― ランク付けなんて何の意味があるんだ。

 お前達に先生の何が分かる!

 

「責任者に直訴して、先生のランクを見直してもらいます」

「ごめんやめて!俺が恥ずかしいから!」

「ですが納得いきません!やはりテストの時に直ちに直訴すべきでした。体力試験は50点満点だったんですよね? 漢字10点・数学10点・一般常識10点・作文20点の配分で一体何を間違えたんですか?」

「ほんっとにゴメン、勘弁して!もう終わった事だし!」

 漢字は漢字検定5級のレベルだし、数学だって、算数のレベルだ。

 一般常識だって、上座がどうだのと怒る先生が分からない筈はない。

 

 俺は、一枚のプリント用紙を先生に差し出した。

「なにこれ?」

「俺達が受けた認定試験のテストです。ネットに過去問で載ってました。やってみて下さい」

「え~めんどくせえ~終わった事だしいいじゃん」

「俺が気になるんです」

「やだ」

 まぁ 先生ならばそう言うと思っていました。でも、今日の俺には秘密兵器があります!

 俺は、(おもむろ)にコンビニの袋からアイスを取り出した。

 コンビニ期間限定品、ハーゲンダッツ『ジャポネ<黒蜜きなこアズキ>』!

「俺の金で買ってきました。終わったらお茶にしましょう」

 

「…しょうがないなぁ」

 ふ、チョロい。

 先生は限定品や怪しい商品に弱いからな。

 

 ブツブツ言いながらプリントを埋めていく先生。

 さて、先生が書いている間に俺はお茶の用意でもしようか。

 

 

 

「終わった。アイスくれ」

「ご苦労様です。温かいお茶でよろしいですか?」

 (うなず)く先生にお茶とアイスを差し出す。どれ、先生の答えは――――――

 あれ? いくつか違ってはいるけど…

「以外に合ってますね」

「意外にとは何だ。漢字は小学校レベルだし、算数は%とか、日頃スーパーでやってる暗算と同じ事じゃねーか」

 じゃぁ、何故マイナス29なんて数字に?

 プリントを裏返してみて、俺は理由を知った。

 

 この作文――― 俺的には先生らしくてOKだけど―――

 

 作文のテーマは『ヒーローを志した理由』だった。200字詰め原稿用紙に先生は、

『なりたかったから。』と一言だけ書いていた。

 

 先生、先生はいつも俺に、20字以内で簡潔にまとめろと仰いますけど――― 

 作文は規定量の半分まで埋めなければ点数がつかないんですよ? 高校受験の時習いませんでしたか??

 もしかして、就職活動の志望動機もこうだったんじゃないでしょうね?

 

 

 

 

 




きっとサイタマ先生、作文は面倒くさかったんでしょう。苦手そうですよね。
そんな事、人に言ってなにになるんだと思ったかもしれません。

就職活動の志望動機は、きっと、例文そのまま写してると思います。
「御社の経営理念に――― 」とかそのまま書いて、面接官にそう言うのいいからとか言われてそうです。
したい仕事じゃなくて、取り敢えず会社員になろうと就職活動しているサイタマ先生はやる気のなさダダ漏れだったのでは?

ちなみに、ジェノス君はこの後、もし上手く志望動機が書けていて、先生が就職していたらヒーロー活動をしていなかった事に思い当って突っ込むのをやめました。




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アレ

「先生、すいません。ヒーロー協会の書類に印鑑を頂きたいのですが… よろしいですか?」

 夕飯後、くつろいでいると、ジェノスがヒーロー協会の印の入った封筒を持ち出して来た。

「おう、ハンコならクローゼットの中の、白鳩の絵が描いてある黄色いサブレ缶の中だ」

 クローゼットの中を覗き、ガサガサと漁るジェノス。

 でっかい長方形の缶だから分かりやすいと思うんだが… あぁ、あったみたいだな。

 缶の中には、未使用のハガキに切手、使ってない履歴書なんかが入っている。

 つまり書類入れだ。

 

 中身を整理しながら印鑑を探していたジェノスが、ふと手を止めた。

「先生、これ――― 」

 持ち出したのは使い残した履歴書用の証明写真だった。

 まだとってあったのか。でも髪型が決定的に違うからもう使えないよな。

 

「うわ~懐かしいな、3年前の俺だ」

 3年前――― つまり22才の俺。

 俺がヒーロー活動を始める前、暗い眼でやたらめったら会社を受けて、ことごとく玉砕していた頃だ。

 

「本当に髪… あったんですね」

 こいつは本当に、師を師とも思わねぇ奴だな。

 俺にだってハゲてない頃ぐらいあったわ!

「どーだジェノス、これで俺が3年前までフッサフサの頭だったって信じたか?」

 ジェノスはそれでも納得できないのか、写真と俺とを見比べている。

 そして何を思ったのか、写真の俺の頭に指をおいて髪を隠し、うなずきやがった。

 

「先生… 子供の頃に、鳥居にオシッコしたり、お地蔵様に悪さしたりしませんでしたか?」

「ほんっと失礼な奴だな!んな事する訳ねーだろ」

「でも――― 」

 でもじゃねぇ。俺のハゲは強さの代償なの!

 あぁ、って事は、やっぱ強者でいる限り髪は生えてこのねぇのかなぁ~ 俺まだ25才なのに。

 しよーがねぇとはいえ、やっぱ髪はないよりあった方がかっこいいよな~

 

「昔の方が… 顔のパーツは変わらないのに、眉毛が濃いせいか幼く見えますね」

 えっ。 今なんか聞き捨てならない事言わなかったか?

 

 ……眉毛が濃いだと?

 いや、まさか、まさかそんな―――

 

「どうしました先生?」

 動きが止まった俺に、ジェノスが顔をのぞき込んでくる。

 認めたくない。認めたくないが――――――

 

「俺… 眉毛いじった事ねぇ」

 そういえば、ヒゲも生えねぇ。考えてみたら、スネ毛もねぇ。他もなんか薄い気が――――――

 3年前ってどうだったっけ?!

 …………………

 

 まずい、まずいぞ!これは猛烈にまずい!!

 

「うおおおおおぉ!俺はこのままリトルグレイ化すんのか?! そして米軍に両脇抱えられて解剖室に連れて行かれるんだ~! 勘弁してくれ~!!」

「先生! しっかりして下さい!! 昨日見たUFO特集持ち出して混乱しないで下さい!! 先生のハゲは強さの証です!!」

「ハゲっていうなー!毛根はまだ死んじゃいねぇー!(※希望)」

 

 育毛剤買ってこよう。うん決定。でもバカ高いんだよなアレ。

 

 

 

 

 




ついに書いてしまいました自虐ネタ。

先生!先生はハゲていても素敵です!!
最近、先生のお陰でストライクゾーンが広くなりました!
ハゲ、全然オッケーです!
ハゲは頭の形が綺麗じゃないと似合わない究極のヘアースタイルなんです!
だからジェノス、先生の頭に強化繊維を埋め込もうとしないで下さい!
(ささらないと思うけど)

毛根は死んでいないと先生はおっしゃっていますが、あの頭皮のテカり具合はもうダメでしょうねぇ~

大丈夫、きっと先生にも彼女出来ますって(※希望的観測)


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待ち受け

時系列、ホントは「未知との遭遇」前ですが、読み切りなので…




「ただいまー」

 先生の声と共に玄関の扉が開く。

 入ってきた先生は――― 警察の制服を着ている! 何故?!

 

 すぐさま携帯を取り出し、カメラモードに切り替える。

 UPで一枚、ロングで一枚。よし、上手く撮れた。

 もちろん保存、消せないようにロックも掛けて―――

 

「お疲れ様です。で、どうしたんですかその恰好?」

「…お前、言ってる事とやってる事の順番逆じゃね?」

「珍しい姿だったものでつい」

 これで先生の写真がまた増えた。しかも警察の制服とは貴重だ。

「警察でー、カツ丼ゴチになったからお礼にやっつけた」

「はぁ?」

 警察でカツ丼とは――― あまりいい意味ではないような――― 何か事件でもあったのか?

 後でネット検索でもしてみよう。

 あ、もう着替えるんだ。ネクタイ姿も結構似合っていたのに。

 

「返してこないと。これ、家で洗えるかなぁ?」

 先生が脱いだ制服を拾い上げてのタグを見る。

 手洗い可。帽子の方も、ぬるま湯に漬けて、歯ブラシで軽く擦り、陰干しすればOKだ。

「大丈夫です! サイタマ先生のおかげで、無駄に上がった俺のクリーニング技術(スキル)は伊達じゃありません!!」

「ゴメン! 師匠らしい事してなくて本当にゴメン!!」

 まぁ掃除も洗濯も、自分がやりたくてやってるんですけどね。

 たまには少し言っておかないと、本当に弟子だという事を忘れられてしまいそうですから。

「悪いと思ったら手合わせの一つでもお願いします」

「ヤダよ、お前手ぇ抜くなって怒るくせにすぐ壊れるじゃん」

 それを言われるとなぁ。

 でも、あからさまな手加減はやはり腹が立つ。

 ほっぺを突かれたり、膝カックンされたり、勝負にすらなってない。まぁ先生を見切れない俺が悪いんだが―――

 いっそのこと、容量分、火力を上げきって防御を捨て、一撃にかけてみるか?

 それでも、先生の相手ではないのだろうなぁ。

 

 着替え終わった先生が、俺の入れたお茶に口をつけながら聞いてきた。

「おまえさー、よく携帯パシャパシャやってるけど何そんなに撮ってるわけ?」

「先生です」

 やはり気付かれていたか。隠し撮りの時、シャッター音を切る方法はないものだろうか?

「いや、だからこんなハゲのおっさん撮ってどうしてる訳?」

「待ち受け画面にしていて、定期的にかえてます」

「はぁ?!」

 

「常日頃から、先生の素晴らしい教えを忘れぬために、先生の肖像を傍に置き、先生に見守られながら精進に励み、先生の――― 」

「あぁ、もう簡潔に!」

「趣味です」

「え?!」

 …毎回面白いなぁ 先生の反応は。

「うそです。先生は迷子になりやすいですから、人に訪ねやすいように最新のものに代えています」

「俺、子ども扱いかよ!」

「先生も携帯持ちましょうよ。そうすればもっと連携が上手く行きますし、捜すのも楽です。料金なら俺が払いますから―――」

「いらねぇーよ!」

 先生は、拗ねて寝転んでしまった。本当に先生は見ていて飽きない。

「お茶のおかわりはいかがですか?」

 突き出された湯呑を持って、俺は、キッチンに向かった。

 

 

 そっと携帯を開いてみる。今日の待ち受けは、チラシを見ているマジ顔の先生だ。

 顔の上に時計表示が出てしまうが、それはわざと。他人に覗かれた時、判り辛くするためだ。

 

 本当は――― 不具合で俺の記憶が飛んでしまった時の為に撮ってあるんです。

 もし携帯を持っていたら、開いた時、待ち受けにするほど親しい人だと分かるじゃないですか。

 そして、ストックしてあるたくさんの写真をみれば、俺には――― 帰れる場所も、心配してくれる人もあるって思い出せるかもしれない。

 今、俺の家族と呼べる人は、クセーノ博士とサイタマ先生しかいませんから―――

 

 サイタマ先生、嘘をついて申し訳ありませんでした。

 

 

 

 

 




おかしい、もっとギャグにするつもりだったのに!
ジェノス編はどうもシリアスになりがちです。
8巻の表紙裏から思いついたのですが、サイタマの待ち受け画面の顔に時計が掛かっている理由として、

①サイタマと目が合うと恥ずかしいから。
②サイタマの顔をみると笑っちゃうから。
③人に覗かれても分からないように。
④考えもしなかった。

など考えましたが、結局、③にしました。実際のとこどうなんでしょうねぇ
④のような気もしますが…

次回はサイタマ編です。


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手紙

今回のサイタマ先生、マジです。


 今日のジェノスの戦い方はおかしかった。

 何時もに増して敵に喰らいつき、俺の手助けを(かたく)なに拒んだ。

 その理由に気付いたのは――― 負傷したジェノスを、クセーノ博士の研究所に送り届けた後だった。

 

 家で洗っておこうと持ち帰ったジェノスのパーカーのポケットに、クシャクシャになった手紙を見つけたのだ。

 他人当ての手紙なんか見る気はなかったが――― その手紙の宛名は、雑なマジックペンで『ジェノス様』ではなく、『ジェノス行』になっているのに気が付いた。

 俺によく送られてくる(たぐい)の手紙と一緒だ。

 封筒も、ファンの娘達が何時も送って来る手紙みたいに、こっぱずかしくなるような可愛らしいデザインのものじゃない。

 

 ジェノスでもこんなの送られてくるのか。

 ヒーロー人気ランキングトップ5に入るジェノスと、その手紙が結びつかなくて、俺はつい中を覗いてしまった。

 そこには太いマジックペンで、汚く、

『機械なんだから強くて当たり前!!』

 と書かれてあった。

 それを見た途端、俺は口の中が苦くなるような感覚に襲われた。

 そのまま家に帰る気になれず――― どうせ帰ってもジェノスはいない。

 河原の土手で夕方になるまで寝っ転がっていた。

 

「サイタマ君じゃないかね、今日はジェノス君と一緒じゃないのかね?」

 上から降ってきた声に、見上げると、バングが風呂敷包みをぶらさげて立っていた。

 小柄で、飄々(ひょうひょう)としたじいさんだが、流水なんちゃらとかいう拳法の使い手で、S級3位。

 かなりの実力者だ。下手したらジェノスとだって張り合えるかもしれない。

「あいつはメンテ中。じいさんこそ一人でどうしたんだ?」

「いい酒が手に入ったから、キミの家に行く途中じゃよ」

 バングは手に持った、一升瓶が2本入っていると思われる風呂敷包みを掲げて見せた。

「おー、いいなぁ」

 基本、俺は自分で酒は買わない。酒は好きだが、同じ金を払えば米が5キロ買えると思うと手が出ない。

 酒で腹は膨れないからな。

 

「どうしたんじゃ?珍しく元気がないのう」

「ん~、なんか家に帰りたくなくて」

「じゃ、うちで飲むかね?いいつまみがあるぞ。たまには月を見ながら一杯どうじゃ?」

「行こうかな。でも、勧誘の話は無しだぞ」

「きびしいのう」

 

 バングの家、兼道場は、切り立った岩山の上にある。

 長い長い、空まで届きそうな石造りの階段を上ると、町の明かりも眼下に消えて、ぽっかりと浮かぶ月を独り占めする、山水画のようなロケーションだ。

 

 縁側に座り、一升瓶から互いに酒を注ぎあい、つまみを摘まむ。

 何もしないで悪いと思ったので、料理は俺が作った。

 飲み屋でもバイトをした事があるから、これぐらいはお手の物だ。

 

「じいさんもさぁ… 悪口の手紙なんか来たことある?」

「なんじゃ、キミは自分に来た手紙を無視できても、弟子に来たのは無視できんのか?」

「ん~、だって、あいつは何もかも捨てて強くなろうと必死なのに… あんな事書かれるとなぁ」

 なりたくてサイボーグになった訳じゃない。ならずに済むんだったら、あいつは今大学生になってたはずだ。

 だったら、とか、はずだ、とか、そういう事は言うだけ無駄だとわかってる。

 けど―――

 

「ワシにだって、誹謗中傷の手紙位あったわい。ワシの場合は武道会から非難の電話がすごくてな。『面汚し』とか、『楽な業界に逃げるのか』とか。じゃが、ワシの活動が世間に認められて、武道会もいいアピールになると分かった途端、掌も返すように賞賛されたがの」

「… そんなもんかねぇ」

「そんなもんじゃよ」

 二人して酒をあおる。

 

 俺は――― 3年間の修行の結果、無敵のパワーを手に入れたが、代わりに、色々な物を失った。

 髪だけじゃない。

 痛覚も―――恐怖も―――喜びも―――怒りも―――、酒だっていくら呑んでも酔わねぇし、薬だって効かない。

 ジェノスが来て、すべてを捨ててまで強くなろうとする人間らしいジェノスを見ているうちに、こんな感覚を自分も昔、持っていたと思い出させられた。

 

 俺はいい、俺はどんな悪口を言われようと、俺は俺がそれを違うと知っている。

 でもジェノスは――― あいつは自分の強さが自分の努力のおかげもあるという事に自信が持ててない。だから、あんな手紙にも動揺するし、躰の性能に頼りすぎる戦い方をする。

 場数を踏んで手に入れたバトルセンスは、機械の体とは関係ないのに。

 いくら身体がサイボーグだからってあの戦い方じゃ限界がある。そろそろ自分でも気づく頃だと思うんだが―――

 

「ま、師匠が優秀すぎると、自分の立ち位置が分からなくなるもんじゃよ。彼なら大丈夫じゃ」

「…強くなりすぎたって、面白い事なんてなんにもないのになぁ」

「ほ、贅沢な悩みじゃな」

 俺達は月を肴に、東の空が白むまで呑み続けた。

 

 

 

 

 




ザルのバングとワクのサイタマ、2升で酒は足りたのか?

サイタマ先生、外では無免ライダーとおでん屋でビール。キングとは宅呑みでビールや酎ハイを呑んでいそう。
ジェノスはきっと、酒なんてどこが美味しいんだろう?と思いながらも、自分は呑ませてもらえないので釈然としない思いを持ちながらつきあっている事でしょう。

サイボーグって、酒飲めるんですかねぇ?
その辺は、ジェノスが頼めば、クセーノ博士が何とかしてくれるでしょうねきっと。

本当は、今回お笑い系のサイタマ先生を用意してあったんですが、いきなり思いついてシリアスを割り込ませました。
単に酒が飲みたかっただけかも知れませんが…
次に載せたいと思います。


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夏休み、始まりましたね。


『ジェノスの日記』より

 

7月□日(曇りのち晴れ)

   今日、サイタマ先生とキャンプ場を訪れた。

   付近の人々を震え上がらせていた巨大な化け熊の退治に成功。

   皮は猟友会に引き渡し、お礼として野菜をもらう。

   レベル:狼 程度ならば、自分だけでもノーダメージで倒せると確信。

   夕食時、残念忍者が現れたが、先生のまたもや狙ったかのような一撃で肉は死守。

   先生にレクチャーしていただき、哺乳類の急所を教わる。

 

サイタマ先生の本日の金言(きんげん):

  「いいか?どんな動物も喰える。

   左アバラ下、肝臓を叩くとめっちゃ血が出て殺しやすいけど、隣の胆嚢(たんのう)つぶすと、

   胆汁まわって苦くて喰えなくなるから気を付けろ、喰うんなら上半身を狙え。

   あと、血抜き失敗すると肉が臭くなるから心臓は最後まで止めんなよ」

 

 今日の献立:朝・バナナ、ヨーグルト(朝早く出たため、時短メニュー)

       昼・シャケ弁当(途中のコンビニで見切り品を購入)

       夜・BBQ(クマの肉は意外に旨い事が判明。先生によると、

            野生のモノより人里に出ている雑食のモノの方がイケるとのこと)

 

 

 

7月△日(晴れのち曇り)

   今日、サイタマ先生と渓流を訪れた。

   漁業協同組合の依頼で滝壺の主の大蛇を退治。

   同・組合から、お礼として遊漁証とレンタル釣り具のチケットをもらう。

   クマよりも蛇の方が行動の予測がつかず、また、場所が苦手な水辺だという事で苦戦。

   沈んでしまい、先生にサルベージされてしまう。

   後日、対策をクセーノ博士に相談する事にする。

   先生にレクチャーしていただき、爬虫類の急所を教わる。

 

サイタマ先生の本日の金言:

  「ヘビは後ろに下がれない。だから狭いところにおびき寄せて叩くとラク。

   熱源探知で追って来るから暗闇でも要注意だ。頭上とられると面倒だから気を付けろ。

   本当は泥ヌキした方がいいんだが、時間ない時は内蔵部分、多めにとって酒で良く洗え。

   皮は硬くて喰えねえねから無理すんな。なめしてベルトにでもしろ。 

   背骨が邪魔だから基本背開き、一旦蒸すと肉が柔らかくなるぞ。

   味が淡白だから濃い目の味付けをすると良いぞ。おすすめは蒲焼(かばやき)だ」

 

 今日の献立:朝・パン、ヨーグルト(朝早く出たため、時短メニュー)

       昼・山女魚(ヤマメ)岩魚(イワナ)・の塩焼き、おにぎり(途中のコンビニで見切り品を購入)

       夜・(うなぎ)(蛇)丼(思いのほか臭くなく、淡泊。鶏肉よりも鰻に近い)

 

  ※鰻のたれの作り方:

   醤油・砂糖・味醂(みりん)を1:1:1で入れて、ある程度 煮詰める。意外に簡単?

 

 

 

8月〇日(晴れ)

   今日、サイタマ先生と海水浴場を訪れた。

   群れで大量に出没した魚人どもの撃退に成功。

   数はかなり多かったが、先生と二人で難なくクリア。

   その際、焼却砲は粘液を(まと)うタイプには威力が減ると判明。

   後日、クセーノ博士に相談する事にする。

   海水浴場の管理組合に、お礼としてスイカをもらう。

   現れた残念忍者を、またもや先生が狙ったかのような一撃で倒し、スイカを切らせる。

   複雑な気分だが、先生が喜んでいたので良しとする。

   先生にレクチャーしていただき、魚類の急所を教わる。

 

サイタマ先生の本日の金言:

  「魚は鼻づらが敏感だから、そこを叩けば大抵いける。

   頭は固いけど、口から背びれにかけて骨にツナギメがあるから、

   上手くやれば簡単に二枚におろせるぞ。

   少し臭みのある白身魚はカレー粉で味付けするとベストだ!」

   

 今日の献立:朝・おにぎり(朝早く出たため、時短メニュー)

       昼・醤油ラーメン(先生(いわ)く、海の家のではこれが外せないとのこと)

       夜・シーフードカレー(人が怪人に変態したモノでない限り食べてもOKとのこと

                 先生はまさしく生態系の頂点だ。流石(さすが)です先生!)

 

   ※ついでに、飯盒(はんごう)を使ったご飯の炊き方を教わった。

    効率のいい炎の使い方など、思っていた以上に奥が深くて感動。

 

 

 ………………………

 何の気なしにジェノスが放っておいた日記を見てしまった訳だが―――

 あ~ジェノス君?

 俺が教えたの、調理の方法だから。

 まったく、こんな事までくそ真面目に書かれるとは――― 

 でも、違ってるなんて一々指摘するのもかったるい。

 ……ま、いいか。

 めんどくせーしそういうことにしとくよ。

 

 食費削減を兼ねて、フツーに十代らしい夏休みを体験させてやろーと思っただけなんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 




本当は、前回あげようした夏休みネタです。

サイタマとジェノス、交互に一人称にしていたから、もっと後にしようか迷ったのですが、夏休み終わっても困るかなと思いまして。

このサイタマ先生、サバイバル能力高すぎます。
きっと、農家の短期収穫のバイトとかで習ったんでしょう。

ちなみに、蛇は日本でも食べる風習はあったそうです。
今は簡単に美味しい肉が手に入るようになって、蛇料理はすたれてしまったんだとか。
でも、薬膳とかで食べますよね? 汁物系にも合うそうですよ。


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手合わせ

今回は、登場人物多めです。


「まさかこんな形で俺に真剣勝負を挑んでくるとはな」

 俺の目の前にいる先生からは、本気のオーラが立ち上っている。

「どんな形であろうと、先生に本気で手合わせをして頂きたい、俺の気持ちを察して頂きたい」

 負けじと身構える俺、だが俺は、先生の本気がこんなものじゃない事を知っている。

 ここはバングの道場、野外のバトルフィールドだ。

 

 昨日、俺は町中でバングに呼び止められた。

 さっくり無視して通り過ぎようとしたのだが――― 俺がメンテナンスに出ている間に、サイタマ先生と飲み明かしたと聞いて―――つい足を止めてしまった。

 バングの話では、どうやら、サイタマ先生は俺の事を心配して下さっているようだ。

 俺の前ではそんな様子など微塵(みじん)も見せていなかったので、内心驚いた。

 が、どう反応していいか分からなかったので―――

『そんな無駄な事をするくらいなら、手合わせの一つでもしてもらいたい』

 と、つい言ってしまった。

『ふむ、どんな形でも本気で相手をしてもらえればいいのかね?』

『?』

『じゃぁ、こんなのはどうかね? 舞台は提供しちゃる』

 (ささや)くように続けるバングの提案―――

 

 面白そうだ。俺はバングの計画に加担(かたん)する事にした。

 

 

 形式はバトルロイヤル、審判はバングの兄、ボンブ。旋風鉄斬拳(せんぷうてつざんけん)の達人だ。

 対戦メンバーは先生に俺、バングにバングの弟子チャランコ。

 もっとも、最後の奴は始めから相手になどしてないが―――

「ルールは三つ、一、審判の合図には必ず従う事。二、相手の体に危害は加えない事。三、敵陣地に入ったものはとらない事。以上」

 バングの声が空に響く。

 今日は月末、給料日前、我が家の食卓には(しばら)く動物性たんぱく質は並んでいない。

 このシュチュエーションは、先生の心をがっちり(つか)んだ筈だ。

 

 トングを持って、盤上(ばんじょう)の様子を眺めていたボンブの動きがピタリと止まった。

「ファイト!」

 すかさず、バングと先生の(はし)がのびる。

 今日の肉は、A5ランクの黒毛和牛。100g2500円の品物だ。

 俺だって負けていない、チャランコの箸を弾き飛ばし、いい具合に焼けたサーロインをつかみとる。

 が、(じんち)に運ぶ前に肉の姿がかき消えた?!

流水岩砕拳(りゅうすいがんさいけん)!」

 バングが流れるような動きで翻弄(ほんろう)し、横から肉をさらったのだ。そして、そのまま口へ―――!

 そっちがそう来るなら!

 

「マシンガンブロ―!」

 の、要領(ようりょう)で箸を繰り出し、先生の肉を奪いにかかる。

 盗った!

「ふっ、お前のとった肉は残像だ」

「なに?!」

 あぁっ! 捕った筈の肉がピーマンに変わっているだと?!

「好き嫌いはないと言ってるけど、お前が最後までピーマン食べないの知ってるんだからな~ 俺、師匠だし。野菜も食えよ~」

「くっ!」

 やられた! バレてないと思っていたのに!!

 

 肉は直ぐ様(すぐさま)瞬殺、野菜すら消えた鉄板を、チャランコはただ呆然と見ている。

「ヤバい…何も食えない…」

 当然だ、お前(ごと)きにやる肉はない。

 

 ボンブが次々に野菜を鉄板にのせていく。

 次の肉は――― カルビ! 絶対に取る!! 片面を焼き、ひっくり返して裏を―――

「ファイト!」

 号令と共に箸が飛ぶ! バング!年寄りの癖になんて速さだ!!

 とりあえずは、ノーマークの肉を皿にキープ。

 

 バングの方が攻略しやすい、だが俺は絶対に先生から肉を盗る!

 連続する箸の攻防戦、焼肉は列記(れっき)としたバトルだ!!

 そして――― やったか?!

 箸の先に肉の感触、俺はすぐさま皿にキープした。

 とった!今度こそ!!

 

 皿に置いた途端、先生がにやりと笑った。

「取ったんだから、ちゃんと食えよ」

 え?

 見ると―――肉で、デカいピーマンが巻いてある。

 何時の間に! あの取り合いの中、小細工してたのか?!

「別に! 俺、ピーマン喰えますし!!」

 くそぉおおっ! 俺は子ども扱いか!!

 

 肉は又もや直ちに瞬殺、野菜クズすら残らない鉄板を前に、チャランコは、ただただ立ちすくんでいる。

「見えない…何も見えない…」

「ま、これも修行じゃな」

 当然だ、弱者に食わす肉などない。

 

「ファイト!」

 ロース。

 

「ファイト!」

 牛タン。

 

「ファイト… 」

 

 ボンブが何度目かの肉を投入した時、先生は怪訝(けげん)そうに顔をしかめた。

「ヒウチ?」

 

 ? ヒウチって何ですか先生??

「希少部位じゃねーか! うわ~ダメダメ!! 火力落として! じっちゃん、色変わったのから速攻とる! 急げ、もったいねぇ!! これ、(あぶ)る程度でいいんだ!」

 ボンブが鉄板に乗せた先から、箸が見えないほどのはやさで、皆の皿に次々に肉をのせていく先生。

 

 …先生の、焼肉屋でのバイトスイッチが入ったな。

 バトルはもうお終いか。

 ま、いいか。

 面白かったし、久し振りに牛肉も食べれたしな。

 

 

 

 

 




肉を持ち込んだのは、ジェノスなのかボンブなのか?
どちらにしても高そうです。神戸和牛とかだったりして。
バングは、きっと食事に誘いたかっただけだと思います。
かなり悪乗りしましたが…
そして、冬は鍋バトルになります。


ところで―――
ヒウチは、モモ肉の一部で、牛1頭から約2kgほどしかとれない貴重な部位。
霜降りのサシが入っていて柔らかくて旨いです。
火打石の形、模様に似ているところからこう呼ばれているらしいですよ。


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攻防

最近の雨、降る時はめっちゃ降りますよね。


「先生、お願いですから、洗濯機を買う許可を下さい!」

 また、何度めかのジェノスの直談判(じかだんぱん)が始まる。

 コインランドリーに行く時に雨が降ると何時もこれだ。ここのとこ時期的に雷雨が多いので、その頻度も高くなっている。

 

「今はいい洗濯機がたくさん出ています。節水型とか、ドラムに穴が開いてないタイプとか、風呂水もリサイクル出来ますし、横型ドラムなら雨の日用にいい乾燥機能のついた機種もあります。長い眼で見れば、コインランドリーよりよっぽどお得です!」

 電気屋で集めてきたパンフレットを手に、力説するジェノス。

 何時も家事の時に着付けているピンク色のエプロンをしたまま言われると、お前は主婦か?!って突っ込みを入れたくなる。

 こいつは電化製品を買うとき、スペックを調べまくるのが大好きで、ネットで見た後、わざわざ電気屋まで出かけて実物を見に行っているのを俺は知っている。

 つまり、もう奴の中では洗濯機を買う事は決定事項なのだ。

 

 そうはいくか、お前の欲しい物はいつも最新式で値段が高過ぎる!

「でもなぁ、うちの洗面所にそんないい機能のついた洗濯機入らないって」

 空いてる隙間は45cm。

 そんな狭さじゃ、ジェノスが言うような多機能型のはムリ。シンプルな単身者用の洗濯機しか入らない。

 俺も一度洗濯機を買おうか迷った事があって、俺なりに色々検討した結果、今に至っているのだ。

 

「ですが、コインランドリーに40分ずっといる事を考えると、納得いきません。時給換算で0.5時間、約500円の損になります!」

 理詰めできたか。

「でも、水道代に電気代が浮くだろ? うち、基本アンペア低いから、ブレイカー落ちるかもしれないし… 」

 それに、Z市の無人街近くにあるコインランドリーは、夜はほとんど俺達しか使わない。何時行っても待たないので実質、自分の物みたいなもんだ。

 洗濯が上がるのを待つ時間だって、大抵、怪人退治や何やらで時間をつぶせる。

 決して只ポケっと待っている訳じゃないのだ。

「ですが、先生ほどの方がそんなつまらない事に労力を使われるのは―――せめて、俺に任せて下されば――― 」

「気にするなって。俺が行きたいから行ってるんだから。なっ? ちゃぶ台割れるぞ」

 思わず机を叩くジェノスを(たしな)める。

 奴の体重は200キロを有に越える。

 一点にその重みを集中させられていた安い合板のちゃぶ台は、イヤな(きし)み音を立てて()り反っていた。やっぱり、お安いものはお安いなりなのだ。

 このちゃぶ台は3台目なんだから、もうちょっと気を使ってほしい。

 

「大体さぁ、給料前に万単位の買い物ってありえないだろ?」

 諦めきれないジェノスに、俺は買わない最大の理由を投下した。 

「じゃあ俺が、日頃の感謝を込めてプレゼントしますから!」

「もっとダメだろ!」

 弟子に貢がせるとかあり得ねぇ! どんだけ駄目師匠なんだよ!! それに、こいつに買ってこさせたら、絶対とんでもない値段の買ってくる!

「大体、俺、感謝されるほど師匠らしい事なんて何にもしてねぇし!」

「いえ、そんな事はありません、サイタマ先生は素晴らしい方です。先生の対する俺の感謝の気持ちはこんなちっぽけな洗濯機なんかで表せるものではありません。なんならもっと――― 」

 また始まった~! 却下! 20文字にまとめろ!!

「あ~、この話はもうなし!」

「でも――― 」

 なおも食い下がろうとしたジェノスを手で制止、俺はマンガを掴んで横になった。

 

 

 数日後―――

 定期メンテナンスから帰ってきたジェノスは、爽やかな笑顔で言った。

「クセーノ博士が研究所の洗濯機を入れ換えると言うので頂いて来ました。タダですので文句はありませんよね?」

 嬉しそうに肩に(かつ)いできた戦利品を下ろすジェノス。

 

 まったく、タダなら俺が文句言わねぇと思うなんて、お前の中で俺はどんだけ貧乏なんだ?

「お前… S級のイケメンサイボーグが街中、洗濯機(かつ)いで帰ってくんなよ」

 そんな派手な事して、ツイッターとかとんでもない事になってなきゃいいけど。

「どうせなら、今日から使いたいと思いまして。これで40分はタイムロスがなくなります」

 涼しい顔でジェノスが言った。

 

 このヤロウ。ついに実力行使に出やがったか。

 俺の楽しい憩いの一時(ひととき)を奪いやがって。

 あのコインランドリーはなぁ~ 漫画雑誌が充実してたんだぞ!

 来週からのジャンプやサンデーをどうしてくれる?! 雑誌買って読むこと考えれば断然お得だったのに!

 しかし、クセーノ博士も何でまたタイムリーに洗濯機なんか―――――― まさか。

 

「おいジェノス、もしかしてお前… クセーノ博士にわざと洗濯機をプレゼントして、古いのもらってきたんじゃねぇだろうな?!」

 俺を見つめるジェノスの口元は笑っているが、目は笑っていない。

「いえいえ… そんな事は、いえ全く――― 」

 あ、やっぱりそうなんだ。お前、つくづく誤魔化すの下手だよな~

 

「でもこれで――― 俺と手合わせしていただける時間もできますよね?」

 ジェノスの黒い声に、一気に部屋の温度が下がった気がした。

 




ジェノスの持って来た洗濯機は、クセーノ博士のお手製なんでしょうか?
だとしたら、とんでもないの機能がついてそうです。

家事用の焼却砲と組み合わせると乾燥機機能が追加されたりして。
しかし、あの部屋のどこに、ジェノスの持って来たリュックの荷物が収まってるんでしょうね?





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マイヒーロー

今回、キング氏目線のお話です。





 俺には俺と違って、本当にヒーローな友人がいる。

 人類最強とか言われてる俺が、本当は弱くてどうしようもないって秘密を知っている唯一の人間だ。

 彼は、俺が手柄を横取りしてたのに、それを責めるわけでもなく、『弱いんなら、強くなればいいんじゃね?』といってくれた。

 命を救ってくれた事も何度もある、最強に強くて、最高にカッコいい、俺の本当のヒーローだ。

 

 でも、そんな彼も、俺にゲームで連敗すると切れる事がある。と、言うか、ゲームで彼が負けるのはしょっちゅうだけど。

 

「あ~ちくしょ~また負けた!」

 コントローラーを放り投げて、肩を落とすサイタマ氏。

 ここはZ市の無人街。サイタマ氏の住まい。

 今日は新作ゲームのデモンストレーションを兼ね、ゲーム機本体とソフトを何本か持参してサイタマ氏の家に遊びに来たのだ。

 

「サイタマ氏は動体視力と反射神経が良すぎて空回りしちゃってる感じだよね」

 負けて悔しいのはわかるけど、コントローラーは投げないでほしい。俺のゲーム機だから。

 それに、さっきから、サイタマ氏の鬼弟子が怖い。

 いつもなら、ちゃんとお茶を出してくれるのに、今日はものすごく不味い『あずきゼリーサイダー』なんてジュースを出してきた。

 俺も、勝ち続けて悪いと思うから何回かに一度か負けてあげるんだけど―――

 接待ゲームを続けるのにも限界がある。

 友達のいない、引きこもりの俺が、人とゲームをするのは新鮮で面白いけれど、なにぶんにも相手が弱い。

 例えば、モンハンで共同プレーをした場合、3オチしてクエスト失敗を招くのはいつもサイタマ氏だ。ゲーム大会で何度も優勝している俺と対等とは言わなくても、もうちょっと上手く戦えないものかなぁ。

 

 今、息抜きにやっているゲームは、横スクロール型のアクションシューティングだ。

 一昔前のゲームだが、以外に面白い。

 連打で結構いけるからサイタマ氏でも楽に進めると思ったんだが… サイタマ氏は連打に夢中になって、ボタンを全部押し潰した。

 もう何個目だろう?

 実は彼のために、俺の家にはいつもコントローラーの予備をストックしてある。

 サイタマ氏は身体能力は高い(いや高過ぎる)んだから、何か工夫すれば高スコアも夢じゃないと思うんだが―――

 

 目だけそっと動かして隣を見ると、彼はゲーム下手な人がよく掛かる病“自機に合わせて体が踊る病”にかかっていた。

 もうこの状態になると、コントローラーのボタンの命はかなりヤバい。

 なんとかならないものかな? こう、親指に集中しきっている力を、上手くそげれば―――

 

 そうだ。

「ねぇ、サイタマ氏? スーパーが2軒あるとします。片方は500円ごとに一枚抽選券がもらえ、クジが引けます。もう一軒は500円ごとに10%割引券がもらえます。どっちに行きますか?」

「え…?」

 不意に真剣な顔になるサイタマ氏。

 きっと彼の頭の中で電卓が弾かれているんだろう。

 だるっとしたイメージの強い彼だが、真面目な顔をすると実はかなりカッコいい事を俺は知っている。その二面性がまた彼の魅力の一つだ。

 だって、強いヒーローやヒロインに二段階変身は欠かせないじゃないか。

 

 サイタマ氏の指先から徐々に力が抜けて行く―――

 彼は自分の利益や名声なんかに囚われない。

 本当に困った人を助けるボランティアの様なヒーローだから、いつも生活はカツカツらしい。

 だから、タイムセールや赤札値引きには目がないんだ。彼のポケットには大概スーパーのチラシが入っているのを俺は知っている。

 

 いい感じだ、自機と一緒に動いていたサイタマ氏の体がぴたりと止まり、ボタンを連打する音に滑らかさが出ている。

 

 うまい!

 今の攻撃をノーダメで避けきるのはかなり難易度が高い!

 これならボス戦もイケるかも?!

 

「それって、クジの方、末等の商品は何?」

 突然掛けられるサイタマ氏の声

「はぁっ?」

 

 チュドーン!!

 派手な音を立てて、サイタマ機はボスに突っ込んだ。そして画面いっぱいにに広がる"ゲームオーバー"の文字。

 

「いや、だから末等の商品。ポケットティシュ? それとも50円引き券? 50円引き券ならくじの方がお得じゃん??」

 俺を振り替える顔はまだマジモードだ。

 予想外の喰いつき… サイタマ氏、ゲームより特売の方がプライオリティ高いんだね。

「えぇっと… 」

 どう切り返そうかと思っていると、突然、静かに目の前にアイスティーを入れたグラスが置かれる。

 えぇ? いつの間に近づいたの?

 涼しげに氷を鳴らし、グラスを置いた武骨な手の持ち主は、その手に似合わないクールビューティーな顔を俺の耳元に寄せて言った。

 

「先生をこうも容易く扱うとは。流石はキング、いいものを見せてもらった。参考にさせてもらおう」

 こわ!ジェノス氏怖い! ゴメン、サイタマ氏! 俺、また余計な事しちゃった??

 

 俺の鼓動(キングエンジン)は大きな音を立ててなり続けた。

 

 

 

 

 




キング氏、結構好きです。
戦歴はサイタマのおかげかも知れませんが、皆に尊敬されるにはやっぱり、人となりがいいのでは?と思っています。
縁があったらそこらへんも書いてみたいです。

キングと無免ライダーにはずっとサイタマのいい友達でいて欲しいなぁ。

しかし、うちのジェノスは無駄にスキルアップはかってます。
今回、サラサラ髪のジェノスで想像していただけると夏にピッタリだと思います。





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価値

8巻表紙裏のアレです。





 今、俺の目の前には段ボールの壁のがある。

 配達担当になった可哀想な宅急便屋の兄ちゃんが、エレベーターもない4階の俺んちまで何往復もして運んで来たやつだ。

 どうするつもりなんだこれ?

 只でさえ狭い部屋が、大量の段ボールに圧迫されてまるで倉庫のようだ。

 一体、今日からどこで寝るつもりなんだ? 俺んちはワンルームなんだぞ。

 腕組みをしながら俺が思案にくれていると、玄関の扉が勢いよく開いた。

「先生、只今戻りました。ご所望の食パン、牛乳を見切り品で手に入れる事が出来ました。あとヒジキが特売になっていたので購入しました」

 ジェノスだ。

 パトロールの帰りに買い物行って来てって頼んだんだった。

 

「おかえり~ サンキュ。で、聞きたいんだけど、これ何?」

 段ボールの発注主は全てジェノスだ。

 こいつはたまによく解らない買い物をする。

 この前なんて、俺が飲んでみたそうだったからって理由だけで『あずきゼリーサイダー』ってジュースを一箱も買って来やがった。(しかも、飲んだら激マズだった。今もどう消費するか検討中だ)

 あぁいう際物(きわもの)は一本だけで十分なのに。キムチシェイクとか、ガリガリ君ナポリタンとか、ジンギスカンキャラメルとか、一つを誰かと分けて笑うのがいいの!

 まったく、一発の地雷で済むところをクラスター爆弾化しやがって。

 

「あぁ、届きましたか!」

 机に荷物を置き、段ボール箱を確認するジェノス。いつも通り表情は変わらないけど、声のトーンは少しばかり高くなっている。

 何を買ったんだか知らないけど、めっちゃ嬉しそうだな。

 

 中身は――― はぁ? 俺のキーホルダー??

 深海族の事件の後、何をとち狂ったかあるメーカーが売り出した俺のフィギアストラップ!

 一部の熱狂的なジェノスファンに藁人形として受けたが、大幅に売れ残って製造メーカーの経営を圧迫してるって言う―――――――

「これ、もしかしてお前がこの前、顔の印刷ずれ過ぎだってメーカーにクレーム入れてたあれ?」

「はい!」

 いや、だからなんでそんなに嬉しそうなんだよ。

「まさかとは思うけど―――もしやこの箱全部―――」

「はい! 在庫全部買いました!」

 だからなんでそんな嬉しそうなんだよ!! お前はメーカーの救世主(ヒーロー)だな!

 は~ 思わずため息が口をつく。

「だから~、なんでお前はそういう金の使い方する訳? 何でも箱買いしないの! そんなもん一つあればいいだろ!」

「いえ、最低でも使用用、予備用、永久保存用と3つはいります!」

 ドヤ顔やめろ。なら3つにしとけよ!! まったくお前は!

「定価500円が100円になってたんですよ? 1200個買っても120000円。お得です!」

「それってかなりの売れ残りって事で、全然嬉しくないから!!」

 お前の貨幣換算おかしいって!

「それに、このまま廃棄されるか、知らない奴の手に渡るかするぐらいだったら俺が大切に保管します。これから先、先生が認められてプレミアが付いても誰にも渡しません!」

 こいつマジか?マジなのか? すげ~嬉しそうなジェノス。うわ~っマジだ~!

 で、弟子の愛が重いんですけど。

 

「…じゃぁあれだな。俺は、俺達が広い家に引っ越すか、お前が出て行くまで、段ボールに囲まれて暮らす訳だな? 布団二枚引けなくなるからお前はクローゼットの中で眠るとして―――」

 ジェノスがはっとした顔になる。やっと事態に気付いたか。

 

「…わかりました。俺が家賃払うので引っ越しましょう。S級ですし簡単に審査通りますよ」

 俺、なに? どこのヒモなの?? もうやだコイツ。

「なんなら家を買ってもいいですよ? その位金はあります」

「一人で出てけ!!」

 そういう問題じゃないから! あ~もう疲れた~

 

「…あのね、俺、ここ気に入ってるから。家賃も安いし、襲撃受けたって文句言う奴はいない。騒いだって大丈夫。大体、他所で俺達が手合わせしたら死人が出るだろーが?」

「はぁ。確かに」

 もー引っ越しの話しはお終い! まさか家を買うとまで言い出すとは思わなかった。

 ずっと狭いと思ってたんだろうなぁ。でもそんな事されたら俺の師匠としての立場はどうなる?!

 まともに修行だってやってないのに、これじゃぁ本当にただのヒモじゃんか。

「では… 明日にでも博士のところに持って行きますので、今日はベランダに置かせてください。幸い、雨は降らなさそうですし」

「ん」

 やれやれ、博士も大変だな。部屋一つジェノスの倉庫になってんじゃないのか?

 ジェノスが段ボールを片付けはじめたので、俺は、ジェノスが買ってきて机に置いたままの荷物を片付ける事にした。

 

 頼んだのは朝食用の牛乳と食パン。牛乳を冷蔵庫に入れないと―――

 あれ?

 俺、確かにすぐ使うんだから味期限近くの値引き品でいいって言ったけど―――

 定価320円? わっ! こっちの食パン、定価400円!! 20%OFFになっても256円に320円!

 いつも買ってるのより断然高い!

 マジかよ――― しかも食パンは5枚切り。うちは二人だって言うのに分けられねぇじゃん。

 

 ……………………。

 やっぱり――― こいつとは分かり合えない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




彼の金銭感覚は、クセーノ博士でも直せない気がします。
めちっや高いパーツをバンバン惜しげもなく与えているクセーノ博士は、ジェノスと一緒できっと金銭感覚もぶっ飛んでいる事でしょう。

彼にお金を持たせてはいけません。

がんばれサイタマ先生!庶民はアナタの味方です!




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報復


グリズニャーの後ぐらいの話と思ってください。





「只今パトロールから戻りました」

 いつも通り玄関を開ける――――と、いつもの『お帰り』以外の声がかかる。

 

「ジェノス、ちょっとそこ座りなさい」

 めずらしい、先生の声がマジトーンだ。

 意外に思ったが、俺は先生に言われるがまま、先生の前に正座した。

 いつも穏和な―――と言えば聞こえはいいが、平熱系で表情の動かない先生が、何処となくイラついているようにみえる。

 その証拠に、先生の隣にあったスーパーのチラシが、グチャッと(しわ)になっていた。いつもはポケットに入れやすいよう、ちゃんと二つに折ってあるのに。

「どうなさいましたか?」

 先生は俺ですらなかなか見ない真剣な顔でじっと俺の目を見つめ… (おもむろ)に口を開いた。

「お前――― タンクトップ兄弟を半殺しにしたって?」

 ?

 なぜ知ってるんですか先生? 黙っていればわからないと思ったのに。

「流れ弾です。奴等が怪人の(そば)にいたので」

 俺は自分が表情の出辛いサイボーグである事に感謝しながら、なるべくフラットな声で答えた。

 つい最近、ヒーロー協会から秘密裏に駆除依頼を受けた、災害レベル:鬼"グリズニャー"と戦った時の事だ。

 なんでこんな強いレベル相手に、C級のタンクトップ兄弟(ごと)きが係っているのかと思ったら、奴らは一般市民が闘いに巻き込まれないように、バイトで道路を封鎖していたそうだ。

 

 しかし… 半殺しとは。

 くそっ、死ななかったか。俺も甘くなったものだな。

 

「ごまかしてもダメ! ヒーロー協会から保険の手続きで連絡きました。俺、一応師匠(ほごしゃ)だし」

「ちっ!」

 思わず心の声が外に出る。協会の奴らめ、余計な事を―――

 先生のお宅には固定電話はないし、携帯電話もないから連絡はないだろうと油断した!

 

「狙ったんだろ?」

「いえいえ、たまたまです。たまたま」

「…お前って本当に判りやすいよな」

 『クール』『鉄の無表情』なんて市民にコメントを書かれてる俺の心の内をこうも簡単に見破るとは――― 先生には本当に嘘が付けない。

 

 グリズニャーに『マシンガンブロー』を撃ち込んだとき、都合がいいことに二人が(そば)にいた。

 勿論、俺は奴らを合法的に抹殺出来るこのチャンスを見逃さなかった。

 確実にヒットさせたと思ったが―――

 奴らも、腐ってもヒーロー。一般市民よりは丈夫だったと言う事か。

 ゴキブリ並みのしぶとさだな。

 

「お見舞い行け」

 感慨(かんがい)にふける俺に投げかけられた、思ってもみなかった先生の言葉は、俺の神経を目茶苦茶逆なでした。

 

「はぁ?!」

 何言ってるんですか先生! 奴らは『隕石事件』の時に、アナタを吊し上げて社会的に抹殺しようとした、あの"タンクトップ兄弟"なんですよ?!

 あんな奴らを野放しにしている"タンクトップマスター"にも、師匠である先生を、俺の手柄を横取りする腰巾着扱いするヒーロー協会にも納得いきません!!

「嫌です! 奴等が先生にした事は万死に値します!」

「やっぱりわざとじゃねーかよ」

「すびばぜん」

 サイタマ先生、お願いですから俺の鼻が高いからって摘まむのはやめてください。顔に(ひび)が入りそうです。

 

「あのさー、あんな奴らの事なんかほっとけよ。師匠の俺が気にしてないんだから、弟子のお前が気にするなってぇの。協会の奴らにも、もうちょっと愛想良くしろとは言わねぇけど、せめて身内に敵は作るな」

 俺の鼻から手を放し、軽いため息をつくと、先生は先を続けた。

 

「確かに修行のため、S級10位内目指せって言ったのは俺だけどさ。お前、いっつも後先考えず特攻かけてボロボロになんだろ? あの状態だったら子供にだって簡単にお前を殺れるぜ? もし俺が近くにいなかったら、助けてくれるのは奴等なんだ」

 

 結局は――― 俺の為ですか?

 いつもそうだ。

 自分の地位よりも名誉よりも、いつもアナタは当然のように、自分を傷つけてでも人を傷つけない道を選ぶ。

 それが先生の目指すヒーローなんですか? それとも、それがアナタにとって当たり前の事なんですか?

 それが先生の進む道だというのなら、俺は口を出しません。 でも、後ろで見ているだけなんて俺には辛すぎます。

 もっとみんなに、俺の師匠は素晴らしい方だと知ってもらいたいのに――― それすらもアナタには『そういうのどうでもいい』事なんでしょうね。

 

「ま、そもそもお前がもっと油断癖直せばいいだけの話なんだけどな」

 …そう来ましたか。その通りなので何も言えません。

 先生は、話は終わったとばかりに膝をたたき、立ち上がった。

「行くぞ、ほら」

「自重します」

 

 結局、俺は先生に引き摺られて無理やりタンクトップ兄弟の見舞いに行かされた。

 どうしても納得のいかない俺は、奴等への見舞いの品に、思いを込めてサイネリア(別名シネ(死ね)ラリア)の花の鉢植え(根(寝)つくように)を選んだ。

 

 先生は勿論、その意味に気付いていない。

 

 

 

 

 




ジェノスはこのくらいの事、平気でやってそうだなと思って。

報復手段を、焼却砲じゃなくてマシンガンブロウにした辺りが彼の言うところの自分が甘くなった理由でしょうか?
あんまり変わらない気もしますが―――
しかしこのオチ、外国では通用しませんね。向こうじゃ植木の花を見まいに送るのは普通ですから。


次は誰を出そうかな~考え中です。




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銭湯―――ジェノスside

サイタマsideも書いてます。
近々上げる予定です。




 買い物行こうと町まで出かけたら、裸足(はだし)で、駆けてく、先生に出会った。

「いや、サザエさんじゃねーから」

「そこ突っ込んでません」

 よく見ると、先生の足元は怪人の血であろう、緑色の液体でぐっしょり濡れている。手に持った鼻緒の切れたサンダルも右に同じだ。

 夕刻のセールに合わせて先生と待ち合わせをしてはいたが、集合場所はこの付近ではなかったし、約束の時間よりもまだ早い。

「ブラブラしてたら怪人と出くわして、蹴り入れたらサンダルぶっ壊れた。シャワー浴びて出直したらもう夕得市のセール間に合わないかなぁ」

 今日は、お一人様一点の卵と、なかなか安くならない紙製品の特売日だ。おまけに夕刻セール時間帯なら肉も安い。このタイミングを逃すのは、先生にとって断腸の思いだろう。

 少しの遅れでも百戦錬磨・レベル神なみな主婦達相手では、流石の先生にも勝ち目はない。

 …そうだ。

「俺、丁度服とベランダ用のサンダルを買って来たんです。お貸ししますからそこの銭湯で着替えたらどうですか?」

 パンツはないですけどね。はきませんから。

「えーでもなぁ」

「いいじゃないですか、俺も久しぶりに行きたいです」

 意外そうな顔をして先生が振り向く。

「銭湯好きなの? どんなに汚れても入ってきたことないから外風呂嫌いなのかと思ってた」

「…好きとか嫌いとかじゃなくて、銭湯とかホテルとか、公共施設は一人では戦闘型サイボーグは断られる事が多いんです。信用がないんですよ。誰も兵器と同じ建物で日常生活送りたいなんて思いませんから」

「ふーん」

 壊れると、漏電する事もありますし―――そう言うと、先生は『油断癖直せよな~』と何処となくバツの悪そうな声で言った。

「じゃあ、ま、風呂行くか」

「ハイ、行きましょう!」

 

 番台の親父は、俺を見て何か言いたそうな顔をしたが、『悪いけど、任務後なんだ。風呂遣わせて』と言う先生の言葉に、ただ黙って金を受け取った。

 タオルを二本と小さい固形石鹸を一つ買う、そのまま行こうとしたら、先生に遮られた。

「あれ?シャンプーは?」

「固形石鹸でいいでしょう、家でもそうですし」

 俺は、汗もかかないし老廃物質もでない。水で流すだけで石鹸すら使わない事もある。

「イヤイヤイヤイヤ、ダメだろう!」

「いりませんよ、俺は機械ですし」

「そういう問題じゃないって!ハゲたらどうする!」

 …………………

 自虐ネタですか?

「イヤ、そんな生暖かい目すんなよ。おっちゃんシャンプーくれ、リンス入ってんの」

 先生のご厚意で、かなり割高なリンスインシャンプーを頂き、俺達は男湯の暖簾(のれん)をくぐった。

 

 外風呂は久しぶりだ。

 近頃は値段が上がり、週間ジャンプよりも100円高い値段になってしまい行く機会が余計に減ってしまった。

 よく考えれば、今日だってセール品の差額を吹き飛ばす出費だ。先生が、こう言うイベントなんだと割りきってくれるといいのだが…

 

 風呂に入るには早い時間帯のせいだか、客は俺達以外いない。

 先生は、とっとと体を洗い、つるりと頭も洗って風呂に向かった。

「ファ~っ気持ちいいぞ。ジェノスも早く来いよ」

 先生、前にも言いましたが、そのファの音はファの♯です。俺の絶対音感に間違いはありません。

 

 俺が体を真面目に洗うと、装甲のスリットやら外骨格の継ぎ目やらに手古摺って時間がかかる。先生と違って髪もあるので尚更だ。

 やっとの事で風呂に浸かると、もう先生は電気風呂に移っていた。

 ……これはやっぱり俺が浸かってはいけないやつだろう。この体はある程度耐電加工をしてあるとはいえ、危ない橋は渡りたくない。

 

「おまえさ~」

 大風呂に戻ってきた先生が、俺の隣で伸びをしながら言った。

「宿泊とかしづらいんだったら、もしあの時、俺が同居ヤダって言ってたらどうするつもりだったの?」

 あの時とは… 俺が金を積んで、先生に『ここに住んでもいいですか?』と聞いた時の事だろうか?

「そうですねぇ 俺は未成年ですし、部屋は一人では借りられません。雨風を避けるため無人街の何処かで野宿し、先生の(もと)に通ったと思います」

 正直、俺は外で寝る事に躊躇(ちゅうちょ)はなかった。

 先生と出会う前には、暴走サイボーグを追って野宿をしながらあちこちを渡り歩いたのだ。

 あの頃の俺はろくに風呂にも入らなかったし、ただがむしゃらに敵を追っていた。一般人から見れば、怪人と大差がない物だったに違いない。

 だが、Z市無人街の怪人エンカウント率は俺の予想を遥かに超えていた。

「うわ~、怖えぇ!無人街で野宿なんて、絶対ダメだろ。危なくておちおち寝てられねぇぞ」

「えぇ、先生が流されやすい方で本当に良かったです」

「…お前、ホントに俺の事尊敬してる?」

「勿論です」

 

 先生は、強い。

 先生は、負けない。

 先生は、俺が眠っている間にこの世からいなくなってしまうなんて事がない。

 

 俺はあの日、家族を失ってしまってから初めて朝まで安心して眠る事が出来た。

 あの薄い壁の安っぽいマンションの中ででも、です。

 

 だから、キリンのキーホルダーの付いた先生の部屋のスペアキーをくださった時、どんなに嬉しかった事か―――――

 先生には分からないですよね?

 

「そろそろ出るか、特売夕得市に間に合わなくなるからな」

「はい!」

 

正直、あの鍵には、あの札束以上の価値があると俺は思っています。

 

 

 

 

 

 




あれ?これはもしや(腐)の部類になるんだろうか?
自分的には違うつもりで書いてるのだが、なんかシリアスになると曖昧になるなぁ。

ジェノサイに持ち込む気は毛頭ないんだけど、家族愛にしてもらえませんかね?
ダメ?

次回、同じシュエ―ションでサイタマ目線、噛み合わない二人をお送りする予定です。


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銭湯―――サイタマside

銭湯―――ジェノスsideの同一場面。サイタマ目線。
同じ会話をしていても、サイタマの気になる部分はやはり違うと思って。
勿論、これ単発でも話は通じます。



 ジェノスとの待ち合わせ前に本屋で立ち読みしようと思ったら、デカい昆虫みたいな怪人に出会った。

「はーっはっは! 俺は地球温暖化によって生息範囲を広げた蟲の怪人、お前たち――― 」

「うるさい」

 あ、蹴り入れたら怪人爆砕して体液まみれになった。しかもビーサン鼻緒切れた。

 やべーなぁ、この足じゃ本屋入れねーじゃん。スーパーも入店拒否られるかも。

 今から帰ってシャワー入るのもかったるいけど、ジェノスと連絡付かないからなぁ。

 俺、携帯持ってねーし、家に電話もねぇ。第一、外から電話掛け様にもあいつのTEL番覚えてねぇ。

 しゃーねぇ、取り敢えず帰って、あいつに先買ってるようパソコンからメール入れとくか。

 そう決めると、俺はサンダルを脱いで家に向かって走り出した。

 ハダシで走っても鍛えた俺の足は怪我なんてしない。でもなんだか某国民的アニメみたいでこっぱずかしい。やっぱ、100円ショップのビーサンはダメだなぁ次はもうちょい高いヤツにしよう。

 ―――なんて事を考えながら走ってたら、なんだか向うから見た事のあるヤツが歩いてきた。

 ジェノスだ。

 ショップの名前が書いてある紙袋を小脇に抱え、残念な物を見るような目で俺を見ている。

「買い物行こうと町まで出かけたら―――」

 

 裸足で、駆けてく、先生に出会った。ってか?

「いや、サザエさんじゃねーから」

「そこ突っ込んでません」

 しょーがないので、俺はサンダルを地面に投げ置き、取り敢えず足を乗せて事情を説明した。

「ブラブラしてたら怪人と出くわして、蹴り入れたらサンダルぶっ壊れた。シャワー浴びて出直したらもう夕得市のセール間に合わないかなぁ」

 今日は、お一人様一点の卵特売日だ。なかなか安くならない紙類も安い。おまけに夕得市セールなら肉も安くなる。

 20%OFFの豚肉はGETしたいなぁ。俺はそろそろ鳥胸肉以外の肉が食いたいんだけど。

 

「俺、丁度服とベランダ用のサンダルを買って来たんです。お貸ししますからそこの銭湯で着替えたらどうですか?」

 俺の様子を見ていたジェノスが嬉しそうに言った。

 前々からこいつは俺の服を見立てたがってたんだ。俺のセンスはジェノスには受け入れられないらしい。

 ま、俺は値段(やすさ)とウケが取れるかが服を選ぶポイントになってるから、ビンテージ物のジーンズや限定品のX-MENのベルトをつけてるこいつとは合うはずがない。

「えーでもなぁ」

 そう、だからジェノスの服は値段がお高い。俺のムナゲヤ店頭ワゴンセール品とは桁が違う。もし借りて戦闘になったらと思うとドキドキもんだ。

 しっかし、こいつはよくもまぁ、そんな高い服を一発の戦闘で惜し気もなく捨てれるもんだ。俺だったら縫ってでも着てるね。

 全く、奴の金銭感覚は訳判らん。

 

「いいじゃないですか、俺も久しぶりに行きたいです」

 え?

「銭湯好きなの? どんなに汚れても入ってきたことないから外風呂嫌いなのかと思ってた」

「…好きとか嫌いとかじゃなくて、公共施設は一人では戦闘型サイボーグは断られる事が多いんです。信用がないんですよ。誰も兵器と同じ建物で日常生活送りたいなんて思いませんよから」

 適当に相槌を打ちながら、俺は今まで自分がそんなことを一度も考えた事がなかった事に気が付いた。

「壊れると、漏電(ろうでん)する事もありますし――」

 確かに。シビシビしながらも奴の漏電に耐えられるのは俺だからだ。

 ……………そうか。そうなのか。サイボーグってなんだか大変だったんだな。

「じゃあ、ま、風呂行くか」

「ハイ、行きましょう!」

 

 結局、風呂代、タオル代、石鹸代と、セールより高いもん付いたがまぁいいだろう。あんな事言われて無碍(むげ)に出来るほど俺は心まで貧乏な訳じゃない。

 タオルを渡そうと振り替えると、ジェノスのワシワシした金髪が目に入った。

 あ、シャンプー買うの忘れた。

 しばらく使ってなかったから忘れてたわ。…なんか自分で言ってて虚しいが。

「固形石鹸でいいでしょう、家でもそうですし」

 え? 家でも使ってないの? いや、用意してやんなかった俺も悪いけどさ

「イヤイヤイヤイヤ、ダメだろう!」

「いりませんよ、俺は機械ですし、先生もお使いになってない物を弟子の俺が使うなんて――― 」

 機械ですしなんて言い方すんな。お前のその考え方がお前の壊れ癖につながるんだぞ。

「イヤ、そんな生暖かい目すんなよ。おっちゃんシャンプーくれ、リンス入ってんの」

 使い捨てサイズのシャンプーを受け取り、俺達は久しぶりの銭湯を楽しむ事にした。 

 

「おまえさ~」

 大風呂にいるジェノスの隣に陣取り、伸びをしながら、さっきから気になっていた事を聞いてみる。

「宿泊とかしづらいんだったら、もしあの時、俺が同居ヤダって言ってたらどうするつもりだったの?」

 あの時とは… 大金をドン!と目の前に積まれて同居したいと言われた時だ。

 少し首をかしげてから、ジェノスは口を開いた。

「そうですねぇ 俺は未成年ですし、部屋は一人では借りられません。雨風を避けるため無人街の何処かで野宿し、先生の(もと)通ったと思います」

 え?!まじかよ!

「うわ~、怖えぇ!無人街で野宿なんて、絶対ダメだろ。危なくておちおち寝てられねぇぞ」

 瓦礫の中で膝を抱えて座るジェノスが目に浮かぶ。こいつの事だ、きっと飯も食わず、風呂にも入らず、暗闇の中でサーチアイを光らせて夜が明けるのをただじっと待つんだ。

 うん、同居は正解だった。昔の俺の英断に感謝だ。敬礼!

「えぇ、先生が流されやすい方で本当に良かったです」

「…お前、ホントに俺の事尊敬してる?」

「勿論です」

 なんか釈然(しゃくぜん)としない感があるが、ジェノスの言葉尻に一々突っ込むときりがないので、俺は何時もの様にスル―する事にした。

「そろそろ出るか、夕得市に間に合わなくなるからな」

「はい!」

 ジェノスが買った服は、カーゴパンツに黒いタンクトップ。こんなシャツ一枚でも俺が着ていた服を全部足した位の値段がする。

 しかもサンダルはクロックスだ、ベランダのサンダルなんてそれこそ100円ショップでいいだろうに。

 ズボンのタグをとって足を入れる――― あ~っ、くそ、屈辱だ! 俺とジェノス、身長は大して違わないのにズボンの足が余るなんて!

 大鏡に映る俺は、前にいちゃもん付けてきたタンクトップなんちゃらみたいで、なんだか俺じゃない感がスゴい。やっぱ、ハゲって着る服選ぶな。

 

「お似合いですよ先生。これを機に少し違うタイプのデザインに挑戦してもよろしいのでは?」

 髪を乾かし終わったジェノスが俺が思っているのと正反対の事を言いながら近づいて来る。

 これ、どう見てもチンピラだろうが。 お前の目は節穴か?

 そう言い返そうと振り向く――― と、

「えっ?」

 ジェノスの髪はサラッと流れるストレートの(つや)やかな金色。…さっきまでのワシワシのクセっ毛とはまるで別人じゃねぇか。

 でも、何で何で?

 ……………もしかして――― 今まで固形石鹸で洗ってたから髪が傷んでたのか?

 

「……なんかゴメン」

「?」

 

 すまん、今度からちゃんとシャンプーとリンス用意してやるからな。

 

 

 

 

 

 

 




弟子が急にサラ髪になった理由でした。
マンガ読んでない方すいません。

先生はジェノスがシリアスな事考えてるとは夢にも思ってないだろうと思って。
ちょっと長くなっちゃいましたね。



『書きたかったけど諦めた会話』
サイタマ「パンツは?」
ジェノス「ありません。はきませんから」
サイタマ(しょーがねぇ。表3日、裏3日、って言うしな)


サイタマ「なんかこれタンクトップなんちゃらみたいじゃねぇ?」
ジェノス「……焼却します」





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平和な一日


出動要請のない一日。
こんな日もあると思うのです。




「くそっ!またか!!」

 取り出したカプセルを開け、悔しさに歯軋りをする。

 また残念忍者。

 最初のうちはいちいち焼却していたが、あまりのエンカウント率の高さに面倒臭くなって袋に突っ込む。

 後でまとめて焼却してやる。そう思いながら、革の小銭入れに手を入れ、次の百円玉を取り出す。

 300円。マシンは金を飲み込み、俺は今度こそはと祈るような気持ちでバンドルを回した。

 ガチャ。

 転がり出すカプセル。

 どうだ?

 (はや)る気持ちを抑えつつ、カプセルを掴み取る。

 武骨な機械の手は細かい作業には向かず、つるりと滑り落ちそうになった球体を慌て握った。

 危ない。危うく握り潰すところだった。

 ほっとしながら封を解くと――― くっそぉ~!また残念忍者!!

 現実だけでなく、ゲームでまで邪魔をするとは! 今度会ったら確実に排除してやる!

 そう決意しながら、俺はまた小銭を取り出した。

 念のため多目に崩してあった100円玉は、もう数えるほどしかない。

 

 何故だ。何故こんなにも欲しい物をが出ないのだ??

 これがキングの言う『物欲センサー発動中』と言うやつなのか?

 欲しい欲しいと思うアイテムは出現確率が高い筈なのに中々でないというジレンマ。

 これだけやって出ないのはもう無いのかも?と言う思いと、これだけやったのだから次こそは!と言う思いが交差し、なかなか場所を変える気になれない。

 くそっ!次こそは!

 

「おい、なにやってるんだよジェノス」

「せ、先生?!」

 思いもよらずかけられた声の振り向く―――と、パーカーとデニムパンツと言うラフな格好の先生がぬるい目で俺を見ていた。

「キングが秋葉のガチャポン専門店でお前を見たって。鬼気迫る形相で一心不乱にガチャポンやってるってツイートされてるって言うから… 」

 …キングめ覚えていろよ。

「協会の作ったヒーロー根付けのガチャポンです。先生も入っている筈なのに何故か出なくて… 」

 もう袋一つ分は金をつぎ込んだ。今持っているコンビニの袋は、見るに見かねて店員が持ってきたものだ。

 

「…また随分やったな~ でも、無免やフブキは解るとして、俺やパニックって―――」

「ソニック(笑)はプリズナーの押しで、先生は俺が師を差し置いてグッズ化などとんでもないと断ったためラインナップされたようです」

「アァ、ソウデスカ… で、こんなにやってもコンプリート出来ないの?」

「えぇ、出るのはソニック(笑)やフブキばかり。未だ先生には出会えていません」

 使うよう、保存用、予備と3つは欲しいのに、ここまでやって一つも出ないとは、全くもって腹が立つ。

 この中に先生の人形は、本当に入っているのか?

 

「へ―、んじゃ俺もやってみるかな」

 軽くそう言うと、先生は俺が回していた機械のとなりに金をいれ、ガチャリと回した。

 えっ? 先生、これ一回300円もするんですよ?

 何時もなら小出しの金にも煩い(うるさ)サイタマ先生の行動に、止める間もなく機械が回る音が響く。

 

「おーどれどれ? あ、なんか赤い服着てるな」

 えぇっ?!

 先生のての中に落とされた人形を凝視する。

 日頃よく着ている白と赤いOPPAIパーカー、眩いばかりの肌色の装甲――――――

 これって…

 

「す、凄いです先生!一発で当てるなんて!流石、全ての敵を一撃で撃破する姿は伊達じゃありませんね!!」

「いや、関係ないだろうそれ」

 困った顔をしながら、先生は掴んでいたストラップを俺の(てのひら)に落とした。

「やるから、もうやめとけ。な? ほら、特売行くぞ」

「え?! でもタダで頂く訳には――― 俺はこれだけやっても当たらなかった訳ですから、同程度の金額を――― 」

「だ~っ! 自分の人形なんていらねーんだよ! お前ぐらいだわそんなハゲのストラップ欲しがる奴は!」

 だったら、なんでやったんですか! 300円もするんですよ? もう少し出せば白菜丸ごと割引なしで買えるんですよ??

 財布から札を取り出し、渡そうとすると、先生は諦めたようにため息をついた。

「分かった。じゃぁジェノスのフィギアと交換な? これならいいだろ」

 えぇ?! 先生が俺のストラップを持って下さるんですか?

 でも――――――

「嫌です! こんな軟弱な出来のモノなど、俺は自分と認めません!」

 俺のストラップは、ピンクのエプロンを着付けて先生の為に食事を用意している姿だ。

 実際に行っている事とはいえ、可愛らしく3頭身にデフォルメされたデザインは、俺が実力がなく、弱いからだと言われているようで屈辱以外の何物でもない。

「え~何で? 上手く出来てると思うけどなぁ」

 俺のストラップをひょいと摘まみ上げ、しげしげと眺めたかと思うと、先生は無造作にポケットに()じり込み、(きびす)を返した。

 

「くっ! これも強くなれと言う精神的鍛錬ですか?」

「…お前って時々訳わかんないよな。ほら行くぞ」

 人波を掻き分けて行こうとする先生を前に、俺は慌てて後を追おうとして、腕に下げていた大きい荷物思い出した。

 袋の中身は、残念忍者に弱小女組長、C級一位に、エプロン姿の俺。

 

 邪魔だ。

 

「焼却!」

 掌から飛び出す炎と共に、プラスチックが焦げる臭いが辺りに広がる。口々に何か言いながら俺に近付いて来ようとしていた一般市民達は慌てて退いた。

「お前!何やっちゃってんの?! 有害物質出ちゃうじゃねーか!」

 往来で燃やしてんじゃねぇ! なんて言いながら、慌てて先生も戻ってくる。

「いらないものですから」

「いらないならいらないでグッズ屋に売るとかさ~」

 ぶつぶつと言い続ける先生を横に、俺はたった一つの残った先生のストラップを大切にポーチにしまった。

 先生直々に頂いた物だ。これは永久保存版にして、使用用と予備はまた明日手に入れに来よう。

 

「さぁ、行きますか先生!」

「は~っお前の金の使い方、マジ訳分かんねぇ」 

 (かぶり)を振る先生と共に、俺達は今日一番の戦場に向かった。

 

 

 

 

 

 




このジェノス、パチンコとかやったらヤバそうです。


ところで、ガチャポン。
けっこうやったのですが、その内の2/3はソニックでした。
もう究極奥義『十影葬』が出来る位ソニックがいます。
 殺!!
次がフブキで、以外にもレアが複数出ました。
でもサイタマ先生は出会えず、見かねた仲間が一発で引き当ててショックでした。
毎度毎度、『物欲センサー』をフル発動させています。

結局、先生とジェノスを交換してもらったのですが、猫に拉致られて甘噛みされてしまい、保存用の先生を手に入れようと店に行ってみればもう品はなく、泣く泣くパテ埋めしました。

あぁ、愛が空回り。

レアもサイタマ先生だったんですがね~ 私は普通のタイプの方が好きです。
バンダイさん、次は髪のあるサイタマ先生を希望します。







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KINGの苦悩

秋の番組改変期。
スペシャル番組いっぱいありますよね~!
『逃亡中』
好きだったんですが、あのスキンヘッドのハンター、サイタマ先生を思い出します。
またやらないかな~今ならもっと楽しめる!

追記:
あ、番組名『逃走中』でしたね。ご指摘ありがとうございました。



「頼むよサイタマ氏! この通りだ!」

 ピザにコーラ、チキンにポテトにポップコーンシュリンプ、サラダにダメ押しのデザート、アップルパイにアイスまで机に並べて、遊びに来た俺のただ一人の友人、兼ヒーローを拝み()す。

「あ~でもなぁ。俺、B級だし」

 ぽりぽりと指で頬を掻きつつ、若干困った顔でサイタマ氏は好物の並んだローテーブルを眺めている。

「ビールもあるよ」

 ()かさず畳み掛けると、彼の目は空を泳いだ。

「でもなぁ… S級vsA・B・C級なんだろう? 第一、悪名高い“ハゲマント”と共闘なんてキングのイメージダウンじゃねぇ?」

「そんな事ないよ! それに俺が指名すればサイタマ氏が本当に強いってみんなも認めると思うよ」

 俺が本当は弱いって知っているのはサイタマ氏だけだし、俺が安心して全てを任せられるのもサイタマ氏だけだ。彼にバディを断られたら、俺はまた"山籠りの修行"だとでも言って逃げるしかない。

 いい加減、嘘で固めた今の生活をカミングアウトしなくちゃとは思うけど、元来小心者で超ビビりな俺にはなかなか決心がつかない。

 手柄を取られて一番迷惑を被っている筈のサイタマ氏が好きにしろと言ってくれたので、ズルズルと彼の好意に甘えちゃってる自覚はある。

 

 あるんだが―――

 

 今、預言者“シババ”の『地球がヤバい』発言で強いヒーローが求められている時に、ヒーロー全体の信用を落とすフラグなんて立てられない!

 しかも、俺が悩んでいる理由がコレだ!

 

『秋の特番"ヒーロー協会提携S級3vsA・B・C級30サバイバルゲーム"勝つのはどっちだ?!』

 

 くだらない。そんな事に付き合ってられるかと一蹴(いっしゅう)したいとこだが、それがチャリティー番組で、尚且(なおか)つヒーロー協会に圧力を掛けられるアマイマスク氏が関わっているとなると断り辛い。

 

 でも、ムリムリムリ!

 

 S級とは言え、3人対A・B・C級、計30人?! しかも、こっちのボスは実は一般市民で最弱の俺、あっちのボスはS級を目の敵にしてるアマイマスク氏?! どんなムリゲーなのこれ! アマイマスク氏、S級潰す気満々でしょ!

 今回はサイタマ氏がフォローしてくれるならと思ったんだけど―――

 

「って言うかさ~特殊攻撃は使っちゃダメなんだろ? なら面子(めんつ)次第でキングでもイケるんじゃね?」

 ササササ、サイタマ氏! 何言っちゃってんの?! あっさりとそんな事言わないで~! 俺の心臓、ハジけそうだよ!!

「やめてよ! 考えただけでライフが0になる!!」

 ノミの心臓バクバク状態の俺をよそに、"いただきま~す"なんて言いながらサイタマ氏はピザを食べ始めた。

 ほほ袋一杯に好物を詰め込む彼は最強のヒーローなんて面影はなくハムスターのようで可愛らしいのだが、俺の必死のお願いはピザに負けるのかと思うと涙が出そうだ。

 

「でもよう? サバゲー経験者なんだろ? キング、エアガンたくさん持ってんじゃん」

「持ってるけどさぁ、やってたの学生の時だよ? 俺もう三十路(みそじ)だから。GUN担いで走り回るなんて無理無理!」

 短銃から長距離型連発銃まで、形から入るタイプの俺は結構マニアックに収集したが、その大半はもう何年も整備すらしてない。

「相当やり込んだんだろ? キングの事だから。遠距離から当てるくらい簡単に出来るんだろ? S級、ジェノスの他に銃の扱い上手くて接近戦にも長けてる奴、一人くらいいないの?」

 確かにサバゲーはやり込んだし、スナイパーとしては(って言うか、体力上それしか出来なかったんだけど)自信があるけど―――

 …ジェノス氏は確定なんだ?

 銃を使えるとなると、メタルナイト氏か駆動騎士氏。童帝君は子供だから労働基準法に引っ掛るかもだから除外するとして、後は―――

「ゾンビマン氏かな? 彼ならナイフも扱えるし、接近戦もイケると思う。けど―――ジェノス氏、手伝ってくれるかな?」

 不死(ムゲンコンティニュー)なんてチートな技を持ってる割に、意外と常識人なゾンビマン氏は、俺が頭を下げれば素直に参戦してくれると思う。

 けど、ジェノス氏がサイタマ氏以外の人間の命令をちゃんと聞くとは到底思えない。特に俺は目の敵にされてる気がするし―――

「それは大丈夫だろ。対人相手のゲリラ戦の演習だって俺が言えばヤル気になると思うぞ」

 …確かにサイタマ氏の師匠命令ならね。でもだからって―――――――

「現実でそんなバトルミッション、単なる引き籠りオタクの俺が出来る訳ないじゃない! ゲームじゃないんだよ?!」

「ゲームでしょ? 本当に死ぬ訳じゃないんだしさ。"バトルフィールド"とかみたいなオンラインゲームな感じ?」

 

 ――――――えっ?

 …確かに武器はペイント弾にゴムナイフ使用だけど――――――

 

 サイタマ氏はポテトを摘まみながらなおも続けた。

「考えても見ろよ? ジェノスがいればフィールドマップは敵のビーコン付きで手に入る。キングは戦略立てて"MGS"の大佐の立場で遠くからフォローしつつ、ソリッドスネークとネイキッドスネークに指示してゲーム攻略するようなもんじゃねの?」

 サイタマ氏の言葉に、俺の頭には一瞬にして画像が浮かんだ。

 バトルスーツを着るゾンビマン氏とジェノス氏。

 素早いジェノス氏に撹乱させ、敵を罠に誘い込み、外れた敵をゾンビマン氏に殲滅させる。それでも逃れる奴がいれば、俺が上から撃てばいい。それを何回かやれば、自意識の高いアマイマスク氏は絶対に黙ってられなくなって前線に出てくるだろう。あとは――――――

 

 そ、それは―――――― そそる!!ゲーマーとしては!

 

「サイタマ氏! 俺、なんだかイケそうな気がしてきたよ!!」

「おう、ジェノスにはメタルギアの完全攻略映像見せとくから、副賞の『焼肉・叙々苑食べ放題』よろしくな」

 

 

 

 

 




本当はS級相手の『逃走中』やりたかったんだけど、番組古いかな?と思ってやめました。
でも、無表情で爆走するハンターのサイタマ先生、書きたかったかも。
誰も彼からは逃げられませんね。


考えてみたら、S級は防御考えないからサバゲ―は向かない気がします。
ゾンビマンの不死も関係ないしね。
サイタマ先生はまるっきり防御しないし、力加減考えて攻撃遅くなって役に立たないでしょう。
キングさん、頑張ってください。

もし、本編読みたい人がいたら連絡ください。
5人くらいいたら読み切りで別に書こうかな。

感想お待ちしております。


追記:2014/04/27 別枠で続き書きました!
   『ワンパンマン バトルランナー』です。前後編で終わる予定です。




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タツマキの憂鬱

ワンパンマンアニメ第二期、おめでとうございます!!
喜びのあまり円盤を見返してしまいました!

そうしたら6巻おまけ回で気になった事が。書かずにはいられませんでした。
ネタばれゴメン。





 "過去最大級の災害である宇宙人襲来から地球を救った功労として、ヒーロー協会主催一泊温泉『祝勝会・温泉旅行』のお知らせ"

 なんて連絡がきたとき、もしかしたら私は少し舞い上がっていたのかもしれない。

 だって私は幼かった頃から強かったから、ずっと研究所にいて普通の義務教育なんて受けなかった。だから修学旅行も、家族との旅行も、今まで行った事がなかったから。

 本当は妹のフブキも一緒に行けたら良かったんだけど、残念な事にあの子はあの事件のあった時、いつもの様に"フブキ組"なんて弱っちとのお遊びに夢中でA市にはいなかった。だからフブキよりランクが低いのに、あの場に居たってだけのB級のハゲには旅行に参加する権利があって、あの子にはなかったの。

 ヒーロー協会集合、みんなで貸し切りのバスに乗って出発。

 S級に女は私しかいないけど、私を怖がらないオペレーターの女性スタッフが二人ついてきたので寂しく一人露天風呂なんてのは回避できた。でも所詮(しょせん)、私は(ひと)りだ。

 

 つまんない。やっぱりここにフブキがいればいいのに。

 

 夕食はみんなそろっての大宴会。

 宴会前恒例の、長ーいシッチの(ねぎら)いの言葉のからやっと解放され、あちこちで乾杯の声とグラスの(かわ)される音がする。

 私もグラスを合わせた方がいいのかしら? なんて思いながら隣を見ると、鬼サイボーグのグラスはもう膳に戻されていた。

 ・・・ちょっとぉ、なんで隣のB級ランクのハゲとはグラスを掲げておいて、反対側に座る私とはやらないわけ?! 私の方がヒーローランク、断然上なのよ!?

 

 だいたいねぇ、コイツ新人の癖に態度デカイのよ

 いつもいつも真っ先に前戦にシャシャリ出てきて『アグレッシブ』なんて言われてるけど、あんなの只の特攻じゃない。

 S級16位の癖にS級2位の私を差し置いて前戦に出るなんて馬鹿げてる。

 そもそも、この私が闘ってるのになんで突っ込んでくるの?

 その癖すぐぶっ壊れて、綺麗な顔が台無しじゃない。イケメン5本指とか言われちゃってるけど、そんなに簡単に壊れちゃうならもう一回C級から出直したらどうかしら?

 弱っちなお子ちゃまは強いおねーさんに守られてればいいのよ。なんて思いながら、膳を前に座る隣のガキんちょを見る。

 感情の見えない作り物の横顔は、さっきからカクテルグラスにキレイに盛られたシャンパン色の箸休めを見据えたままだ。

 ・・・もしかして、中身が判らなくて食べるのを躊躇(ちゅうちょ)してるのかしら? こいつ、金髪で外人っぽいし和食には(うと)いのかもしれないわね。

 

 声を掛けるか迷いながら持っていたままのグラスを口に運ぶ。

 ダメね。やっぱりビールは好きじゃない。こんなの美味しそうに飲む奴の気がしれないわ、さっさとグラス空けて違うの飲みたい。

「ねぇ もういい、あげる」グラスを鬼サイボーグの前に差し出す。「やっぱりお酒って苦手」

 彼はそれを手に取るでもなく、表情も変えずに固まった。

 受け取るようにそのグラスを鬼サイボーグに近づけた途端、どこからともかく飛んできたハゲが私の手からグラスを取り上げる。

「苦手ってなんだよ、大人ぶりやがってよぉ。ガキなんだから酒なんて呑んじゃダメに決まってんだろ? ガキはオレンジジュースでも飲んどけって」

「はぁ?! あんたねぇ」

 不愉快。

 なんなのかしらこのハゲ! 私の身長が低いからって私を子供だと思ってるわけ?! 言いたくないけど、こう見えても私、28歳でアンタなんかより年上なんだから!

 "戦慄のタツマキ"なんて呼ばれているこの私が怒りに身を震わせているのも気にせず、飄々(ひょうひょう)とした顔でハゲは中居さんに声を掛けた。

「いま注文してやるから。ジェノス、お前まだ未成年なんだから酒は呑むなよ? お前もジュースのお代わり頼むか?」

 は? コイツまだ二十歳じゃないの? でもサイボーグに未成年とかって関係あるのかしら? 大体、向こうじゃ子供だってワインやシードル飲んでんじゃない。

 考えている間に、ハゲは私の手から取り上げたビールを一気に飲み干した。

 

 ちょっと待って、もしかして私、ハゲと間接kiss?!

 

 やすやすとビールを飲み干したハゲは、鬼サイボーグを挟んで向こう側にある自分の卓膳にコップを置いた。

 よく見ると膳の上にも横にも、いっぱいから()いたお銚子やらグラスやらが転がっている。しかもハゲが肩に担ぎ上げた冷酒『龍ごろし』の一升瓶はもう中身が(ほとん)ど入っていなかった。

 これ・・・全部コイツ一人で空にしたっていうの? でもこのハゲ、まるっきり酔ってる様子ないじゃない!

 

 ・・・なんかムカつく・・・酒を飲めるからって大人だと思ってるんじゃないわよ。

 

 

 だいたい! 隣のこいつがさっさとグラス受け取らないからいけないんじゃない!

 その上ずっとハゲの方ばっかり見て、私はシカト?!

「あんたねぇ上座に座る先輩にお酌の一つもしないで、よくもいけしゃあしゃあと座ってられるわね」

「・・・上座だと?」

 あら、私の言葉にやっと反応したわね。自分の無礼さにようやく気付いたのかしら?

「そーよ、私はS級2位。その上あんたより上座に座ってるのよ! 少しは先輩を立てるって事を―――」

 鉄の額を床に打ち付けた音が周囲に響く。

 いきなり、S級16位のクソガキは隣に座るB級のハゲに向って勢いよく土下座をした。

「先生!申し訳ありません!知らぬ事とは言え先生を差し置いて上座に座ってしまうとは!!」

 ちょっと、

「あん? 別にいいよ。大体、何時もお前が左にいるのに慣れちまって気にも止めてなかったわ」

 ちょっと待って!

「いえ! それでは弟子として申し訳がたちません!」

 私の立場は?!

「いーから。俺、もう食い終わったし。もう一っ風呂浴びてくるわ」

「はっ! ではお供します!!」

 一升瓶を開けて立ち上がるB級を追って、鬼サイボーグは散歩に連れて行ってもらう犬の様に後に続く。私はただ一人席に取り残された。

 

 ・・・・・・・・・。

 

 む・・・無視? 無視なの?! 今回も?! この私を?!

 ム・カ・つく~

 ハゲ! タコ! ゆでたまご! 電球! アボガド! 間抜け顔! 妖怪! 虫!

 許せない・・・! ちょっと酒の量が飲めるからって、調子に乗ってるんじゃないわよ!

 ハゲの癖に!ハゲの癖に!ハゲの癖に!!

 

 いけない! こんなところで超能力(ちから)を使ったらまたシルバーファングにS級のヒーローらしくないって言われちゃう。

 落ち着くのよ、落ち着くのよワタシ。そうよ、この私は子どもじゃないのよ。私はあいつ達より年上なの、実力者なのよ。

 深呼吸、深呼吸。

 そうよ。私は大人なんだから。

「中居さん、オレンジジュースじゃなくて"龍ごろし"の一升瓶を一つちょうだい」

 ふん。私だって飲もうと思えばそのくらい飲めるんだからね!

 

 

 ・・・その後の事は、なんだかよく覚えてない。

 ただ、それから飲み会では、忘年会も新年会もお花見でさえも、私にお酒を勧める人はいなくなったし、私がグラスを持つと大慌てで童帝君がオレンジジュースを注ぎに来るようになった。

 

 

 

 

 




タツマキが荒ぶる神になったのは、先生のせいだけじゃなくて、弟子のせいも半分。
というお話し。
無自覚に執着しているタツマキちゃんです。

判り辛かったかもしれません、ぜひ⑥円盤特典『ゾンビマン殺人事件』をご覧ください。

あざとい童帝君と寝起きのカッコいい金属バット君。通常営業の師弟がとても良いです。話はまぁ題名からオチが丸見えですが・・・ 必見です!!

ところで、弟子が箸休めの料理を見つめていたのは、先生がそれを美味しいと言ったので、家で作れないかと分析していたのでは?と思うのですが・・・
彼の家事の腕はどうなんでしょうね。




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責任取ります。


ジェノス目線。
ほぼほぼ実話。余りのショックに書き飛ばしてみた。





 ヒーロー協会にボーナスはない。

 

 もともと人々の善意に基いた組織であるし、その報酬はあってないようなものだ。

 そしてそれは下級になればなるほど顕著(けんちょ)である。

 

 勿論、それに対しての救済処置はある。

 ヒーローであることを最大限に生かすその手段。

 賞金首を退治し、自ら申請してその報酬を受け取る。という物だが、サイタマ先生の様に『怪人を倒す事は当たり前の事で、わざわざ申告するほどの事ではない』と自らの行動に謙虚(けんきょ)な者には適応される筈もなく、このクソ寒い師走の時期に、先生は何時もの如く赤貧に喘いでいた。

 

 12月は税金の支払いに、寒さゆえの光熱費の高騰。クリスマスに向けた食品の値上がりに、尚且(なおか)つ、年末なので忘年会のお誘いなんてものまである。

 最近は先生の素晴らしさに気付いた人間も増え、キングやバング、無面ライダーからの誘いも重なり、今月は本当にピンチなようだ。

 だったらもっと俺を頼ってくれればいいのに… と思うのだが、金がないならないなりに暮らそうというスタンスの先生は、決して俺から金品を受け取らない。

 買い置きしていた米もとうとう尽き、さてどうしようと考えていた俺の前に先生が持ち出したのは、セール品で安くなっていた時に備蓄してあった小麦粉だった。

 

「ホットケーキしよう。テレビでやってたの旨そうだったし」

 小麦粉に続いて、ベーキングパウダー、砂糖、塩、卵、牛乳、マーガリン・バター風味のチューブをカウンターに並べていく先生は何だか少し楽しそうだ。

「一回ホットケーキミックス使わないで作ってみたかったんだよ。一袋80円の小麦粉で上手く行ったらお得じゃね? うどんにピザにパン、小麦粉は万能だよな」

 ネットで分量を調べて、計量カップでざっと量ってボールに入れる。

 うわ~っ砂糖こんなに入れんのか? 俺達、甘党じゃねぇから少し減らすか? なんて言いながら先生は片手で手際よく卵を割り入れた。

 いけない。俺は弟子だというのに、このまま行ったら俺の目の前であっという間にホットケーキが完成してしまいそうだ!

「後は俺がやります! 先生はあちらで待っていて下さい!」

 俺は慌てて先生の手からボールと泡だて器を取り上げた。

「あと、混ぜて焼くだけだぞ?」

「なら尚更です!」

「ん、じゃ任す」

 実は俺はホットケーキなんて作った事がない。

 でも大丈夫だろう。

 材料をこねて焼くだけなんて、誰だって出来る。

 先生が計ってくれた材料を全部ボールに入れ、ひたすら泡だて器で混ぜる、混ぜる!混ぜる!!

 

 ・・・こんなものか?

 何だか少し生地がネズミ色がかってしまった様な気もするが、もしボールが泡だて器で削れてしまって金属が入ってしまったとしても先生と俺なら問題ないだろう。(オオアリダヨ:サイタマ)

 フライパンに火を入れ、油を回す。

 ・・・随分とホットケーキの生地というものは固い物だな。

 上手く丸く広がらないどころか、ゴツゴツしておさまりが悪いぞ。

 

 うん、表面にプツプツ気泡が出来てきた。焼けてきたな。

 それに伴って立ち上って来る生地が焼ける香ばしい香り――――

 

 ―――――アレ?

 ?? 何だか少しホットケーキじゃない匂いな気がするぞ??

 香ばしいパンケーキの匂いじゃない。なんだろう? どこかで嗅いだことのある――――― 

 アァそうだ、先生に連れて行ってもらった夏祭りで嗅いだ出店屋台の『チヂミ』の匂いだ!

 アレ? あれあれ? でも何故だ??

 

「ジェノスぅ? 大丈夫かぁ?」

 事態に気付いて先生が声を掛けてきた。

 いや、でもこれ、何と言ったらいいのだろう?

 ホットケーキの予定だったモノは、フライ返しでひっくり返してみても全然膨らむ様子もなく、突いてみてもまるで柔らかさを感じない。ただ指先に振動吸収マットのような弾力が伝わってくるだけだ。

 これはもう誤魔化し様がない。これはもう絶対、ホットケーキではない!

 

「先生・・・申し訳ありません。大丈夫ではありませんでした」

「はぁ?!」

 慌てて飛んできた先生が、フライパンの中を覗き、ボールの中を覗き、そしてしょっぱい物を見るように俺の顔を見た。

「あ~、小麦粉を混ぜずぎてグルテン化しちゃったんだな。それと焼くのに胡麻油使っただろ?」

「はぁ、グルテンというと、小麦タンパクの一種であるグルテニンが、水分子と結合するとタンパク質同士とも結合する特性から、胚乳内の貯蔵タンパク質であるグリアジンと反応して結びついて出来た物質ですね? 家庭科で習った事はありましたが、始めて生成しました」

 まさしく、料理は深い。底が見えないほど。

「生成したって・・・それ反省してないだろ。それと20字でまとめろ」

 

 ・・・・・・

 

「まぁ、小麦粉なんだし食べれんだろ」

 結果として、出来上がったモノは、日頃食べ物に文句を言わないサイタマ先生をも黙らせる代物だった。

 体育館マットの様な硬さ、濁った配色。まだ規定道理に砂糖が入っていれば誤魔化されたかもしれないが、下手に減糖してしまったおかげで金属の味が表に出てしまい、食べられたものではない。

「おっかしいなぁ。小麦粉は万能だと思ってたのに・・・」

 首を傾げながら箸を置くサイタマ先生。なんてことだ! あのサイタマ先生が食事の途中で箸を置くなんて!!

「…すいません先生。責任取って俺が全部喰います」

 今度米が切れそうになったら、先生に気付かれる前にそっと俺が買い足しておこう。

 それに先生が倒した賞金首は、先生に変わって俺が小まめに申請しておこう。

 

 うん、そうしよう。

 俺はそう固く決心した。

 

 

 

 

 




ホットケーキミックス¥280円(いなげや価格)をケチったがための悲劇。
計量までは完ぺきだった。が、共犯者がやらかしてくれた。
安くてもボールはアルミではなくステンレスを強くお勧めする。
泣く泣く得体のしれない何かをボッシュート。飯がなくなった。

この後、どら焼きが食べたくなって自分だけで再チャレンジ。
上手く行ったが、味はホットケーキミックスに勝てなかった。

結論。買った方が旨いし安い。

そうそう、グルテン化してしまった生地は、少し寝かしておけば体育館マットの様な妙な弾力はある程度収まったらしい。
でももうクリスマスケーキは買う事に決めた。


ボーナス欲しい。





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ラストクリスマス


クリスマス師弟。

そこはかとなく腐の匂いがするが、そんな事はない。たぶん。
(自分はセーフだと思っている)

もう来年は弟子も大人だよね?という話。





 

「サイタマ氏はクリスマスどうするの?」

 屋台のおでんをつまみながらキングが聞いてきた。

 …クリスマス…クリスマスねぇ。

 俺、彼女いない歴ウン年だし、大学ん時と違ってゼミもねぇーし… 正直、俺には関係ねぇイベントだな。

 熱燗を錫チロリから注ぎながら、俺は虚しくなってそれ以上考えるのを止めた。

「クリスマス? あ~、なんだっけ? おでん食べる日だっけか?」

「またまた~サイタマ氏ったら~! フブキ氏からクリスマスのお誘い来たんでしょ?」

 あ~、フブキね。確かに来たな。偉そうに“誘ってやってるのよ”って感じで。

「来たって、あれフブキ組のクリスマスパーティーだぞ?チケット制の。金払ってまで行きたくねーし、タダでもフブキ組入れって言われるに決まってるから行きたくねーよ」

 行かんでも判る。

 喰い終わった後に、ただ飯食ったんだからフブキ組に入れって言われるに決まってる。

 プレゼント目当てだったリ、勧誘目的だったリ、ほんと俺の周りの女はロクなのいねぇなぁ。

 まぁ、いてもそんな女が俺みたいなハゲを相手にするとは思えねーけど。

「なんだそうなんだ。俺はね~ 彼女とデート」

 え? キング、彼女いたのか?!

「むふ~っ、23日がドキシスの発売日なんだよね~。前評判(レビュー)も上々だし楽しみなんだ~」

 なんだ二次元の彼女か。ちょっとビックリしたじゃねーか。何か? もしかしてこれノロケのつもりだったのか? キングも俺しかゲームの話し出来る奴いないもんなぁ。

 しかしクリスマスかぁ~。

 バングも弟子と食事会だって言ってたし、無免もクリスマスにあわせて特別警戒パトロールだって言ってたし… こういうイベント、結構みんな乗るもんなんだな。

「だから~。イブとクリスマスは遊べないからね」

 三本傷の入った強面の顔で、ニッコリ笑ってキングが言った。

 あ、ノロケじゃなくて、邪魔すんなって事だったか。新作のゲームやらせてもらおうと思ってたのバレてたな。

 俺は取り敢えず、手元のお猪口を空にした。

 

 酔っ払ったキングを送って家に着くと、もう日付が変わる頃だってのにジェノスはまだ起きて待っていた。

「先寝てて良かったのに」

「いえ、先生のお世話をするのは弟子の務めですから」

 俺は師匠らしい事なんて何もしてやれないのに、ここまでいたれりつくせりだと心が痛むよなぁ。と思いながらジェノスが用意してくれていた茶漬けを掻き込む。

 いつも思うが絶妙な温度加減だ。

 ジェノスにはサーモグラフィー機能がついていて、温度は見るだけで分かるらしい。

 焼却砲で皿を乾かしてみたり、手にピューラー仕込んでみたり、こいつが俺に師事してから上がったスキルは家事能力だけなんじゃないだろうか?

 なんかすまん、ジェノス。

 

 入れて貰ったこれまた絶妙な加減のお茶を(すす)りながら、そういやぁこいつはクリスマスどうなんだろう? と思って聞いてみた。

「お前、年末どうすんの?」

「どうするのとは、どういう意味でしょう?」

「ほら、クリスマスに正月だろ? 研究所帰ったりすんの?」

「いぇ、今までも狂サイボーグを追って放浪していたので、盆暮れ正月と別段どうのという事はありませんでした。ですが先生が帰省なさるのでしたら、俺も出ますが…」

 あん?

「何で俺がいなかったらお前が家出る事になんの?」

「家主を差し置いて、店子(たなこ)がのさばるわけにはいかないでしょう」

「いやいや、ここお前の家だろ? 家賃払ってるんだし」

「 …… 」

 ジェノスは何に感動したのか、ノートを取り出して勢い良く書きなぐり始めた。

 しかし――― そうか~15歳から今まで、ジェノスにはクリスマスも正月もなかってことか。

 大人からのプレゼントもお年玉も、もう今年で子供が優遇されるイベントは終わりだってのに。

 

「…だったら俺達だけでクリスマスするか?」

 俺の言葉に、ジェノスの目が少しだけ大きくなった。

「し、しかし、今月はお金がないのでは?」

 どもんなよ… ホント毎度思うけど、俺、こいつにどんだけ貧乏だと思われてるんだろ?

「正月用にセーブしてたんだよ。そのぐらいはあるって」

「でも… 俺のいたところではここと違い、クリスマスは社会奉仕活動をして教会に行く日でして、狂サイボーグに襲われたあの日から、この世に神も仏もあるもんかと思って生きていましたから、ぶちゃけ盛り上がれないかと―――――― 」

 おいおい、随分ヘビーなとこ付いてきたな。

「いいんじゃね?信じてなくても。俺もクリスマスに一人じゃないってのが久しぶりだからいいかなぁなんて思っただけだし。こういう時しかケーキなんて食わねぇだろ?」

「はぁ」

「ケーキ用意して、チキン食って、ちょっとご馳走用意して――――二人だから色々食べれるな」

 誰かと一緒にまったりと家で過ごすクリスマスも、以外といいかも知れない。

「 …いいですね。ご馳走は何を作りましょうか?」

「鍋――――じゃ何時もと同じだから、おでんでもすっか」

「はい!!」

 どうせだからミニツリーも買うか。出費は痛いけどまぁいいや。緊急時用のコブタの貯金箱はこう言う時に使う為にあったんだろう。

 俺がこいつにしてやれる事なんてホント何もないしな。

 

 

 クリスマスの朝、俺からのプレゼントを開けてみたジェノスは、速攻、キャッシュディスペンサーに駆けつけ、炬燵(こたつ)の上に大量の札束を積み上げてこう言った。

「このチケット、いくら出せば追加購入出来ますか?!」

「ジェノス、ごめん、本当にゴメン!」

 師弟なら当たり前な筈の事なのに、なんかすげぇー居たたまれない!

 この札束の量、引き出し限度額、絶対超えてんだろ! 朝から銀行梯子したんか?!

 

 中身は手合わせ回数券。

 

 小学生の肩叩き券じゃねーけど、これなら確実と思ったんだが――――

 こいつ、俺の予想の斜め上いきやがった。

 

 これからはもうちょっとちゃんと手合わせしてやろう。うんたぶん。

 あ~ぁ 正月は違う手考えなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジェノスが成人する前に子ども扱いしてやりたいなと思って。

元ネタは去年のセブンイレブン限定カバー(単行本)です。
カバーの師弟はケーキもチキンもおでんもセブンイレブンのでしょうね多分。
でも、うちの師弟はケーキ(前回で懲りたので)以外は手作りかと。

時事ネタだったので先に入れました。

・・・これ、腐じゃないですよね?






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謹賀新年

明けましておめでとうございます。
師弟の正月風景を書いてみました。

今年もよろしくお願いします。




「明けましておめでとうございます。本年もご指導のほど宜しくお願い致します」

「おう」

 床に三つ指をつき、ネットで調べた新年の挨拶を完璧に再現する。と、先生は困ったように挨拶を返してくれた。

 

 掃除の行き届いた玄関ドアには正月飾り、テレビの前にはバングのところで手伝った餅つきで手に入れた鏡餅。コタツの上には重箱に詰まったお節料理、餅入りの雑煮は二人分、ミカンだって積んである。どこをどう見ても完璧な正月風景だ。

 先生がお節を用意すると言い出した時は驚いたが、夏祭りの時と言い、クリスマスの時と言い、先生は存外イベント事がお好きなのかもしれない。

 

「ご所望(しょもう)の通り雑煮は醤油ベースにしてみました。お餅は二つでいいですか?」

「サンキュー」

 紅白のかまぼこ、昆布のにしん巻、黒豆の煮物、田作りにエビの旨煮。この地域の正月料理はどれもこれも縁担ぎとダジャレで出来ている。

 俺達は顔を合わせると、いただきますの挨拶をして箸をとった。

 雑煮をすすってほっとしたような先生の顔を見る限り、味は及第点らしい。

 

「しかし、玄関の門松で年神をおびき寄せ、しめ縄飾りで家に引き込み、鏡餅で捕獲する。この地域の神とはまるで怪人のようですね」

「またネットで妙な知恵つけてきやがったな。お前、神様が聞いてたらぜってー怒るぞそれ」

 これまた出世魚という縁起物の(ぶり)の照り焼きに(かじ)り付きながら、先生はお神酒(みき)に手を付ける。

 口に含むと… 先生の眉が微妙に角度を変えた。やっぱり美味しくないらしい。

 それはそうだ。薬草を加えた味醂(みりん)なんてモノが美味しいはずはない。

「まぁ八百万(やおろず)の神なんて元は(たた)り神が主だし言いえて妙だな。でも正月に外で言うのはやめとけ」

「はぁ」

 神のように強い先生が、お金を掛けてまでして年神を(まつ)る意味もわからないし、ゲンを担ぐ意味も分からない。今日びは正月でも店は営業しているというのに、高いばかりのお節料理なんて保存食を作りたがる意味もまるで判らない。

 年の瀬が近くなってからの食品の高騰ぶりは、見ていて馬鹿々々しくなるほどだ。

 

「菊ナマスは良い話が聞けるように、勝栗は戦いで勝てるように、黒豆はマメ(けんこう)でいられますように。どれもお前に必要だからちゃんと食っとけよ」

 そう言いながら、先生が小皿に取ってくれる料理の意味を考えて、俺はこれが俺の為に作られた事に気が付いた。差し詰め、金がなく彼女もいない先生ならば、金運アップの栗きんとんに、子孫繫栄の数の子というところだろうか?

 …そう言えば数の子は重箱に入ってないな。俺が用意して差し上げるべきだった。

 

「…先生はいつもこの様に正月を過ごしてらっしゃるのですか?」

「いや全然?いつもは師走(しわす)にカップ麺喰って、正月番組ゴロ見して、あるモン喰って終わり。まぁ今年はお前もいるし、命かけた仕事してんだから縁起担いどくか?と思って」

 サイタマ先生と命のやり取りが出来るような敵などいない。いたらとっくの昔にこの世は滅んでいるだろう。

 …やっぱりこの料理は俺の為か。

 ゲンを担ぎたいぐらい俺の戦いぶりは目に余るという事だろうか?

 しかし、狂サイボーグの情報が聴けるように、闘いに勝てるように…は判るとして、俺はサイボーグなのだから病気もしないし、いくら壊れても替えがきくというのに… 健康と言われてもなぁ。

 そう思いながらお茶を差し出すと先生は小さく礼を言って受け取った。

 

 食事の片付けを終え、お茶を入れ直そうかと先生を伺う。と、俺と視線のあった先生が目を泳がせた。

 どうしたのだろう?何か至らぬ事があったのだろうか?一年の計は元旦にありというのに、こんな事では今年の精進にかかわるというものだ。

 

「どうかしましたか?」

「あ~、ジェノス君ちょっとこっち来て」

「はい、なんでしょう?」

 先生の前に正座すると、先生は小さなポチ袋を取り出した。

「お前、今度成人だろ?お年玉もらえるのも最後かと思って… 」

「つっ!いけません!貯金残高3ケタの先生から金品を受け取るなんて!そんな鬼畜な所業を俺にさせる気ですか?!」

「おい。事実だけどもっとオブラートに包め」

「大体この年始年末、幾ら使ったんですか?!本来ならば年始のご挨拶として百万ほどお渡ししたいくらいですから!給料だって俺の方が断然高いのに、お年玉なんていただけません!!」

 

「 …この俺にこんなにダメージ与えられんのお前くらいだよ」

 がっくりと肩を落とした先生は、気を取り直して、手に持っていた封筒を押し込んできた。

 

「お年玉だけどお年玉じゃねぇから。お前に小銭渡したってチリみたいなもんだし」

 開けてみ。

 先生の言葉に訝しみながらも封を開けると、中に入っていたのは――― 一枚の古銭?

 

「これは…?」

「五銭玉だよ。四銭(死線)を越えて五銭ってな。俺が免許取った時、爺さんがくれたんだ。戦地にお守りとして持ってってちゃんと帰ってこれたからお前にやるって。だから俺もお前にやる」

 

 先生―――――!(免許持ってたんですね?全く気づきませんでした)

 

「自爆癖治せ。自分が無事に生き残ってこそが勝者だかんな」

「 ………先生。ありがとうございます!コアにでも埋め込んで一生大事にします!!」

「いや、そういうのいいって。埋め込んでも弾丸止めたりとかぜってー出来ねぇから。さぁ、パトロールがてら初詣でも行こうぜ」

 

 縁担ぎのダジャレは好きではないが、人の思いのこもった物は存外悪くないかも知れない。

 先生からもらったならば尚更だ。

 晴れ渡る青空の下、俺達は連れ立って新年最初のパトロールに出かけた。

 

 

 

 

 

 




10代最後の正月で、弟子にお年玉をやりたかったサイタマと、季節イベントなるものをすっかり失念していたジェノス。

一万やそこいらやってもジェノスには響かないと思ったから付加価値の付いた玉をやってみた。
古銭価値としては100円くらい?(笑)

サイタマが本当に免許を持ってるかは不明。
でも、レンタルビデオの会員になっているから持っているのでは?
年金とか保険とか月々払えてるとは思えないし。

絶対走った方が早いから、持ってても乗らないと思う。


ちなみに、ジェノスが言っていた門松や鏡餅の使用方法は大まかな意味で実は真実。

今年もチマチマ書いていきますのでよろしくお願いします。
Jack_amano





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暴走サイボーグ

 
今回、登場人物てんこ盛りです。




 

 

 新春顔合わせ、ヒーロー協会新年会。

 

 ヒーロー協会大宴会場で行われた飲み会は、毎年恒例の物らしい。

 ジェノスはS級、俺はB級と会場は別れてしまい、ジェノスは文句タラタラだったが

 “よかったじゃねーかビンゴの当たる確率上がって! 賞品取ってこいよ!”

 という俺の言葉にしぶしぶ自分の席に戻って行った。

 これを期に少しは他の連中と上手くやってほしい。狂サイボーグの行方を本当に掴みたかったら、奴はもっと人脈を拡げるべきだ。

 そんな事を思いながら、俺は俺で無面ライダーと酒を楽しんでいた。

 …今考えれば、少しばかり軽率だったかもしれない。

 俺はジェノスを含め、S級がくせ者揃いの事を知っていたし、形だけとはいい、師匠となったからにはもう少し奴に気を付けてやるべきだった。

 こうして――――― 取り返しのつかない悲劇は幕を開けたのだ。

 

 宴もたけなわ、皆ほどよく酔いも回り、潰れる奴も出始める。

 俺はと言えば、饒舌(じょうぜつ)になった無免ライダーに相槌を打ちながら、酔っぱらって(から)んでくるフブキに苦労しつつ、ここぞとばかりに酒を堪能(たんのう)していた。

 この会はヒーロー協会主催。ただ酒は正義だ。

 

「だから~フブキ組に入りなさいっていうのよ~ 今なら幹部待遇よぉ? それにバレンタインには私からチョコだってもらえるんだから~」

 なんだそれ、テレビの通販じゃねーんだから。

「だから入らねぇって。第一それ義理チョコだろ。おいフブキ組、この酔っぱらい何とかしろ!」

「はっはっ! サイタマ君はモテるんだねぇ♪」

「いや無免、違うから」

 どこをどうとったらそうなるんだ、明らかに組織勧誘だろこれ?

 もう帰っちまおうかな。腹も一杯になったし。

 面倒(めんどう)くさくなって酒を取りに行くフリをしながら立ち上がると、入口の所でキョロキョロ辺りを見回しているキングと目が合った。

「サイタマ氏!」

 あ、俺を探してたのか。

 同じヒーローでも、引きこもりのキングに出会うのは難しい。C級B級のヒーロー達にとっては(あこが)れの人の登場に会場が沸いた。そして同時に、キングが息を切らして駈け寄ってきた俺に非難の目が向けられる。

 俺、ジェノスを(だま)して手下にしてると思われてるし… キングも騙してるって思われてるのか。

 あぁめんどくせぇ。

「助けてサイタマ氏!!」

 キングに腕を掴まれるのと、会場に小さな振動が走るのはほぼ同時だった。

 

 ――――――――――爆音?!

 

 『なに?!爆発!?』『なんだ?!怪人か?!』『テロか?!』

 

 下位とは言え、酔っぱらってもヒーローだ。口々に現状を問いながら、爆音のした方に向かって走っていこうとする―――――― それをキングの一声が引き留めた。

(しず)まれ! もうS級が対処に当たっている!」

 流石(さすが)キング! こういう時の威圧感は半端ねぇな。ホントは超ビビりだけど。

「早くサイタマ氏!」

 キングは俺の手を掴んで走り出した。

「なんだよキング、怪人か?」

「違うよ!」

 

 何だか聞いたことのある連続した破壊音が聞こえる。S級に守られて避難してくる幹部達に逆行して先に進むと、被害が広がらないようにバリアを張る緑のチビっ()が浮いていた。

 え、こいつでも倒せないくらい強い奴なのか?

 手応えのある敵を期待して思わず薄く笑みが()れる。と、そんな俺の顔を見たチビっ娘が眉をひそめた。

「違うわよ! 殺せないから困ってるんじゃない!! あたしが怖いのは世論と賠償金よ!」

 なんだそりゃ?

「アンタも師匠だったらサッサと何とかしなさいよ!!」

 はぁ?

 そう言えば、さっきのどっかで聞いたことのある連続音 ――――――まさか!!

 

 ダッシュで現場に向かい、扉を開ける。反動で扉が抜けたが緊急だから関係ねぇ。

 

 

 

「コロス!」

 身体中から蒸気を上げ、眼をギラつかせているジェノスが、正拳突きを床から引き抜いた。

 足元にはジェノスのマシンガンブローから逃げ失せたであろう、全裸の(!)マッチョな・超濃いい・オネエの囚人が転がっている。

 すげぇな。こいつ生身でジェノスのマシンガンブロー受けて生きてるんだ。流石S級、何だっけ? プリプリ何とかってヒーローだったよな。

「コロス、コロス、コロス・コロス・コロス・コロスコロスコロス・・・ 」

 やべぇ、ジェノス、呪いの人形みたいになってやがる。

 焼却砲のスロットを上げ、一斉砲火(いっせいほうか)の構えを見せるジェノスに、俺は慌てて背後をとった。

「しっかりしろジェノス! ヒーローがいうセリフじゃねぇぞ」

 コアを光らせて、なおも暴れようとするジェノスを羽交(はが)()めにする。と、ジェノスの腕が嫌な音をたてて(きし)しみを上げた。

 やべぇ確実にヒビいった。あ、チビっ小娘の言ってた賠償金ってこれか。

「ジェノス、何があった?」

 

「せん…せい?」

 ジェノスの瞳から光量が落ち、身体から力が抜けていくのが分かった。が、それでも俺は押さえる力を緩めなかった。ジェノスは熱くなりやすいがバカじゃない。こんな事になった原因を突き止めないときちんと対処できない。

「なにがあった?」

「くっ!!」

 唇をかみ、(うつむ)くジェノスを見かねて、重役達の避難から戻ってきたバングが重い口を開いた。

 

「申し訳ないサイタマ君、ワシらも迂闊(うかつ)じゃった。あの男の危険性は重々承知しておったんじゃが、もう知っておるかと思って誰も注意をせなんだ」

 あん? あの男って床に転がってるそいつだよな。

「ぷりぷりプリズナーは酔うと所構わず脱ぐんじゃよ。その上――――――キス魔でな。毎回気に入った新人を襲うんじゃ。しかもチョー濃ゆいディープキスじゃ」

 げ~っ! こんな濃いいマッチョでオネエのオッサンがか?!

 えっ? じゃぁ何?? ジェノス、やられちゃったの?

 な、なんて言って慰めればいいんだ? しかも、ディープ!! 舌まで入れられちゃったの?!

 

「…味覚機能がアダになりました…」

 うん、ごめんジェノス。なんか生々しすぎる。まさかこんな事になろうとは…

「で、でも、ファーストキスって訳じゃないんでしょう?!」

 ナイスフォローだチビっ娘! 顔の良いこいつなら、きっと経験済みなはず!

 

『 これがファーストキスだったらなんだというんだ?! 』

「「「「「 えぇ~~~っ!!! 」」」」」

 

 はい、詰んだ~! 塩塗った~!!

 生身失って、その上ファーストキスがこれかよ?!

 どうすればいいんだ! 俺の少ない人生経験じゃもう太刀打ちできねぇ~よ!

 

 思わず床に手を付きたいほどの精神的ダメージを負った俺は、床に転がっているプリズナーが黙って俺を見つめている事に気が付いた。

 …おめぇのせいだぞ。この超くそ真面目な青少年の一生モノの心の傷、どうしてくれるんだ!!

 

「・・・起きろよオッサン――――――   」

 平熱モードかなぐり捨てて、地の底から上がるような声を掛ける。

 取り敢えずコイツは土下座(どげざ)確定だ。後はどうしてくれようか。

 

 起き上がったプリズナーは、ためらいもなく俺の上腕二頭筋に手を置き、あまつさえ揉みながらこう言った。

「相変わらずいい体だなサイタマちゃん♡ ヒーロー認定試験でのパンツ1ちょの映像をみて、スキンヘッドも悪くないと気付かされたぞ!」

 

 げっ! こいつマジかっ?!

 

 思わず、ジェノスを押える手を緩めてしまった俺は悪くない。 うん。 きっと。

 

「キ・サ・マ~! 俺だけでなく、先生にまで不埒(ふらち)な目を向けるとは! 許さん!!」

 ジェノスの肩・及び上腕・掌の装甲が一斉に砲門を開く―――――――――――――

 

 

 この日―――――ヒーロー協会大広間宴会場は壊滅的なダメージをおった。

 後日、ヒーロー協会は公式発表として、原因はガス爆発。被害はS級ヒーローの重傷者一名のみと公表した。

 

 本当の事は、俺とS級ヒーロー達だけが知っている。

 

 

 

 

 

 




突発的に書きなぐった。題名『Gの悲劇』と迷ったけど『暴走サイボーグ』に決定。
愛の狩人、ぷりぷりプリズナーさん登場です。
彼に命があったのはタツマキのおかげでしょう。
先生まで暴走しなくてよかった。最強(狂)セコムはイっちゃったけど。

ちょっと長くなってしまいましたが、色んな人を書けて楽しかったです。
無免との飲み会はまた書きたいなぁ。

さて、フブキはサイタマの事が好きなのか否か?
誰かジェノスの唇、上書きしてやってクダサイ。

誰がいいでしょうね~?






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運命の人


フブキ組、三節棍のリリー目線。
リリー&オリジナル怪人登場。捏造モリモリです。




『サイタマ先生は御不在中だ。接見を賜りたければ出直してこい!』

 最近売り出し中のS級ヒーロー、“鬼サイボーグ”の人を見下すような対応を思い出して、思わず(ほほ)が引きつる。

 あんな奴がヒーロー人気ランキングでフブキ様より上だなんて絶対ありえない!

 しかも私は鬼サイボーグに会う為に、こんな怪人エンカウント率の異常に高い無人街にまで一人でノコノコやって来た訳じゃない!

 全てはあの男が―――――― "ハゲマント"が悪いんだ!

 

 

 

『サバンナの王者はライオンじゃないんだ! キリンが一番強いんだ~!』

 なんて叫ぶ、自称、怪人“キリン男”の"首アタック"を避けながら、私は足場のいい場所を探し求めて走った。

 逃げ切れるなら走り続けた方がいいのだろうけど… 相手は背の高いキリンの怪物なだけあって一歩がやたらと大きい。ハイヒールなんて()いている私では逃れようがなかった。

 

 確かに、某テレビ番組『ダーウ〇ンが来た!』で言ってた通り、キリンの攻撃力は半端ない!

 (はた)から見たら、お菓子の“じゃがりこ”キャラクターみたいな怪人なのに、キリン男の繰り出す首アタックは易々(やすやす)とブロック塀に大きな穴を開けていた。

 しかも、当てた本人は全くダメージを負ってない。そんなに頭振り回してるんだから脳震盪(のうしんとう)くらい起こせばいいのに!

 

『サバンナの王者はキリンだぜ~ 人間なんて目じゃねぇよ~』

 あぁ、もうしつっこい!!

 道も悪いし、身を潜めるほどの間も取れない。もう、こうなったら直接対決しかない!

 私は覚悟を決めると… 腰から三節棍(さんせつこん)を取り出し、水平に構えた。

 

「フブキ組、“三節棍のリリー” 征きます!!」

 フブキ組には緊急連絡済み、後はGPSを見て皆が来てくれるまで粘れれば―――――――

 

 粘れれば―――― なんて、ハナから勝てる気がなかった私が上手く事を運べる筈もない。

 渾身(こんしん)の三節棍での攻撃は(ことごと)(はじ)かれ、苦し紛れに放った回し蹴りは足を掴まれる。逃れようと慌てて身を(よじ)れば、足首からぐぐもった音がした。

 痛みをこらて三節棍を振り上げる―――――― と、足を掴んでぶら提げられていたせいで、それは上手いこと怪人の鼻面にヒットした!

 牛の様な悲鳴を上げたキリン男は、反射的に私を空高く放り出す!!

 

 うそぉ! まずい! 死んじゃうかも?!

 

 どうしてこうなったんだろう? いっつもフブキ様の勧誘を(ないがし)ろにして、バレンタインのお返しもしないあの男に、文句を言いたかっただけなのに!

 凄い勢いで地面が近付いてくる。

 その先には買い物袋を下げた、そのハゲた男がいた。

 

「どいてどいて~~~!!」

 男と目が合ったと思った次の瞬間、私はB級ヒーロー、ハゲマントに抱きかかえられていた。

 

 えっ? 助けてくれたの??

 

「どっから降ってきた? まぁいいや、ケガねぇか? 」

 "ケガねぇか?" のところで、肌色の頭がキランと光る。

 笑っちゃいけないわよね? 仮にも助けてもらったんだから。

 私は空から降ってきて―――――― 絶体絶命のピンチを救ってもらい、その上お姫様だっこ。

 バッチリ、少女マンガの胸きゅんシーンなのに、その相手はこのハゲマント…

 …なんか心中フクザツなんですけど。

 

「お前、フブキんとこの娘か。アイツもいるのか?」

「私一人です!」

 牛の鳴き声と破壊音とが近付いて来ている。えぇっ? キリン男がもう追いついちゃったの!?

 どうしよう、フブキ様が強さを認めた人と言っても、たった二人じゃどうにもなんない!

「逃げて! 逃げて! どうでもいいから超~逃げて!!」

 キリン男の拳がブロック塀を叩き割る。その場所は先刻まで私達がいた場所だ!

 

 えっ? 避けた? あの攻撃を避けたの?? 私を抱えたままで?

 

「なんだこいつ? カ〇ビーのマスコットか?」

「敵です敵! 怪人!!」

 私もそう思いましたけどね!

「なんだ敵か」

 やる気のない顔のまま、ハゲマントは首アタックを避けて宙に舞った。まさしく宙! 背が高い筈のキリン男の頭は遥か下にある。勿論、私を抱いたまま!!

 白いマントが(ひるがえ)る、そしてそのままで――――――― 踵落(かかとお)とし!

 

 うえぇぇぇぇえっ!

 

 ウソ! これは夢よ! 絶対に夢!! こんな軽い動きで、あんな強かった怪人が水風船みたいに弾け飛んじゃうハズないわ!!

 

「やれやれ、クソつまんねぇ戦いだったな」

 クソつまんねぇって、あれ、どうみても災害レベル鬼クラスの怪人だったんですけど!?

 どうしてこんな奴に熱心な勧誘なんて… と思ってたけど、フブキ様の言う通り、この人は本当にB級で一番強いのかもしれない!

 

 

「立てるか?」

 そっと地面に降ろされ、痛めた方の足を地面に着くと、鈍い痛みに思わず声が漏れる。

「見せてみ。あ~、けっこう腫れてるな」

 瓦礫の上に座らされ、足首を確認される。あ~、またストッキング伝線しちゃったなぁなんて考えていたら、ハゲマントは(おもむろ)に自分の白いマントの(はし)を裂き始めた。

「固定するから、ちょっと足出せ」

「えっ? マント破っちゃうんですか?!」

「おう、便利だろーこれ? 包帯にも担架(タンカ)にもなんだぞ。ま、空は飛べないけどな」

 いやいやいや、あの滞空時間、飛んでると言ってもいいくらいだと思うんですけど?! 

 言いながらもハゲマントは手際よく足首を固定していく――――――

 …なんかこんなシュチュエーションも見たことある気がする。あれだ。夏祭りで浴衣デート、鼻緒が切れて彼氏に直してもらう的な。

 あ~っ でも相手はハゲマントなんだよね~。

 黄色いツナギに白いマント、その上、長ネギが差してあるスーパーの買い物袋を持った。

 この人、買い物行くのもこのヒーロースーツなんだ。フブキ組チームカラーの黒服ならまだハゲててもイケるのに。まぁマフィアみたいになっちゃうかもしれませんけど。

 

「お前、三節棍使いか~ 近接攻撃系ならこんな靴やめとけ。それともフブキにヒール履けって言われてんの?」

「違います! 私がフブキ様みたいにしたかっただけです!」

 フブキ様は私の憧れ、私の正義! 私はフブキ様みたいなカッコイイ大人の女性になりたかった。だからせめて格好だけでも大人っぽくしようと思って履いてたのに。

「ならもっと動きやすいのにしとけ。フブキの足引っ張るのやだろ?」

 確かに… フブキ組は基本、集団戦闘。

 市街戦が主だからやっていけてたけど、こんなんじゃフブキ様のお役に立てないかも。正論だけど… 悪名高いハゲマントに言われたくなかったかなぁ。

 

「よし終わり、立ってみ」

「・・アリガトウゴザイマス」

 そろそろと立ち上がると… マズいな~ 相当キてる。ヒビいってないといいけど。

 一歩足を出そうとして、あまりの痛みに膝から力が抜け落ちる。

 

 あ、ヤバ!!

 バランスを崩した私を止めようとして、ハゲマントの手がフォローしようと飛び出した。

 その手は軽く壁を突く。それも私の顔のすぐ横の壁を!!

 

「やべっ」

 ハゲマントの声と共に吹き飛ぶコンクリートの壁! 

 なんで? なんで今、壁が爆砕したの?! あれよ、きっと怪人のせいで弱くなってたのよ! うん、きっとそうよ!!

 支えてくれようとしたその腕にとっさにつかまり、ハッとする。

 ナニコレ?? 壁ドン?! 物理的威力の超~高い壁ドンだったの??

 

「あ~、よかった。腕つかんでたらとれてたかも」

「なにサラッと怖いこと言ってるんですか!!」

 本気? 本気なの?! 何なのこの人!?

 

「歩けそうもねぇなぁ。フブキに連絡取れるか? ゲートまで連れてってやるから」

「・・オネガイシマス」

 私は子供の様に抱き上げられたまま、無人街の外れまで連れて行ってもらう事になった。

 

 

 

「リリー!」

 ゲートの前で待つこと(しば)し。駆けつけたフブキ様は、私を見ると慌てて車から駆け降りた。

「フブキ様、申し訳ありませんでした」

 立ち上がった私の足を見て、フブキ様は眉間に皺を寄せる。あぁ本当に、こんな顔しててもフブキ様は素敵だなぁ。

「なんでこんなところに一人で来たの?! 来るならせめて誰かに同伴を頼みなさい!」

「すいません。住人もいるので大丈夫かと―――― 」

「あいつ等を人間扱いしちゃダメ!! ハゲとポンコツは規格外なんだからね?!」

「おい、さり気なく俺を(おとし)めるな」

 ハゲマントは兎も角、鬼サイボーグもフブキ様にとってそんな扱いなんだ。うん、玄関でのあの対応は確かにポンコツだった。

 

「大体、こんなところに何の用事があったの?!」

「それは――――――― 」

 言えない! フブキ様のために、ハゲマント文句を言いに行こうと家まで押しかけてたなんて言える筈がないじゃない!!

「おい、フブキ」

「私にも言えない事なの?!」

「えぇっとぉ・・・」

 ヤバいヤバい、どうしよう?! 知ったらフブキ様、怒ると思ったから黙って出たのに!

 

「おいフブキ!」

 突然、何処からか目の前にアメの袋が投げ入れられる。

「これでも喰って、取り敢えず落ち着け」

 ハゲマントだ。

「こんな無人街に、女の子が用もなく一人で来るわけねーだろ。何だか知らねぇが察してやれ」

 あー、察してくださってアリガトウゴザイマス。理由はアナタなんですけどね?

 

 サイコキネシスでアメを受け止めたフブキ様は、まじまじとその袋を見つめた。

「・・・サイタマ。私、バレンタインのお返しは前後6カ月間、随時受付中って言ったわよね? これはそういう事でいいのかしら?」

「はぁ? それノド飴だぞ?」

「貴方みたいな貧乏人に、3倍返しなんてハナから望んじゃいないわよ」

 アレ? 何だかフブキ様のご様子がおかしくないですか??

 ツンデレ? 格好いい大人の女性がツンデレですか??

 いいんですか? 高級チョコにそんなノドアメのお返しで?! 高級品(ブランド)はフブキ様のステータスじゃなかったんですか??

 

「ふ~ん、まぁお前がいいならいいけど。週末、俺んちでキングやバングと鍋すっけど、お前も来るんだったら何か材料持って来いよ?」

 えっ? 食事、しかもパーソナルスペースの狭くなる鍋にご招待?! ハゲマントさん、それ、深い意味ありますか??

 しかも、S級のキングとバングって、アナタの友人関係、どうなってるんですか?! もしかして、S級鬼サイボーグの師匠ってのも本当なんですか??

 

「ケチ臭いわねぇ 一度くらい(おご)るって言えないの?」

「俺は貧乏人だからな。んじゃな」

 あ~。この人、絶対にホワイトデーのお返しでアメあげる意味知らないわ~

 お座なりに手を振ると―――― 振り返りもしないで、ハゲマントは無人街に消えて行った。

 

 

「で・・・リリー。結局なにがあったの?」

 このまま終わるかと思ったのに―――― 追及はなかった事にならなかったみたい。

 どうしよう?

 

「えぇ~と・・怪人との闘いで絶体絶命。空から降って来たところを抱き止めてもらい、お姫様だっこのまま敵を倒してもらって、裂いたマントでケガの手当てをしてもらい、不可抗力で壁ドンされて、抱えられたままここまで運んでもらいました」

 

 少女漫画的、“運命の人”フラグ乱立オンパレード。

 これで遅刻しそうになって走ってたら、曲がり角でパンくわえたままぶつかったり、バラの花束抱えて告白されたりしたら鼻血出して死ねますよ、私。

 

「・・・・・・帰るわよ」

 事態を思い浮かべてみたのだろう。遠い目をした後――――――― それだけ言うと、フブキ様は踵を返した。

 あ~、これ想像したら、頭痛くなりますよね? 他の事がどうでもよくなるくらい。

 でもあんな場面に遭遇しても、ドキドキしたっていうよりは、規格外すぎてびっくりしたって方が強いかなぁ。これがA級ヒーローの"アマイマスク"とかだったら違うかもしれないけど。

 うん、見た目って本当に大事。

 

 フブキ様に続いて車に乗り込む―――― 運転席にいるB級2位のマツゲさんに病院に向かうよう指示を出すと、フブキ様はさり気なくこう付け加えた。

 

「・・週末使うから、すき焼き用牛肉を5人分用意してちょうだい。最高級のをね?」

 

 えぇっ!? 最高級の牛肉って――――――

 餌付けですかフブキ様!! 勧誘は建前で、あのハゲに本気なんですか?!

 まさか、フブキ様もフラグ建設され済みですか?

 

 ノドアメの袋を見つめるフブキ様の目は…… 何だか少し嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




三節棍のリリーを書いてみたかったんだけど、思っていた以上に難しかった~

リリーはフブキ様にとって、サイタマのジェノスみたいな感じかなぁと、
考えてみたら、彼女、セリフまるでないよね。

あと、漫画でフブキ様は、サイタマ先生と敵対してたのに、身を挺してソニックとジェノスのとばっちり攻撃から庇ってもらうと言うフラグ建設済み。

タツマキちゃんとも気になるし、果たしてフラグは回収されるのか??
サイタマ先生、スルーしちゃいそうだよなぁ・・・

※バレンタインのお返しの意味:アメ=「あなたが好きです」
 こんなの男で知ってるやつはまずいないと思うけどね。




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無人街



ジェノスが掃除に勤しむ理由。もちろん捏造。






 なんとなく恒例になってしまった、俺んちでのみんなで具材持ち寄り鍋の会も終わり… キングとフブキを送って帰ってくると、もう夜中近くだった。

 

 俺んちはZ市―――――― ゲートで隔離された無人街の一角にある。

 無人街と言うくらいだから、基本、人なんて住んでない。

 長いこと趣味でヒーロー活動をしていた俺は、収入が不安定だった事と、身元保証人が立てられなかった事から不動産屋に相手にされず… ライフラインが生きているのに、怪人の発生率が異常に高くて遺棄された、この街に勝手に住み着いたのだ。

 これだけ聞けば、建造物侵入罪でしょっ引かれそうな感じだが… 宿主の方にもメリットがあると俺は思っている。

 だってパトロールは欠かさないし、使っている部屋のメンテナンスもちゃんとしている。俺の住んでる周辺は小まめに怪人退治をしてるから、かえって外より安全なくらいだ。

 だが――――― 夜になって灯りが付いているのは… 俺とジェノスが住んでるあの部屋だけ。

 街燈だって、切れたら切れっぱなし。道端にある自動販売機の電源すら入っていない。

 目の良い俺とジェノスだから夜でも歩けるが、普通の人間だったら戸惑うだろう。

 高速道路は通っているが通行止め。バイクの音も、車の音も、生活音のせの字もしない。まさに陸の孤島の様な場所に俺は住んでいた。

 

 ジェノスがムリヤリ俺んち居候するようになってから―――――― 俺んちは変わった。

 今まで寝ても一人、起きても一人だったのに… ジェノスが来てからという物、バングが酒持ってやって来たり、キングがゲーム持って遊びに来たり、フブキが差し入れと言う名の勧誘に来たり… 残念忍者が襲撃を掛けてきたり―――― と、いつの間にか人がやって来るようになった。

 人がやって来ると、煩いとは思うがそれなりに楽しい。

 だけど皆が帰った後―――――― 何だかやたらに静けさが身に染みる。ジェノスまでメンテでいないと特に。 …今までそんなふうに思った事なかったんだけどなぁ。

 

 俺の住むマンションに続く角を曲がる――――― と本当はエントランスの蛍光灯が明るく光っている筈だった。だったんだが―――――

 

 でも―――――――― 今は真っ暗だ。

 

 ? 電灯切れたか? 出る時は点いてたと思ったんだけどな。

 

 階段は墨を流した様に真っ暗。ご近所の生活灯がないとこうも暗くなるのかと驚くほどだ。俺は目がいいから大丈夫だけど、こりゃあキングだったら確実にコケてるな。

 ジェノスが小まめに掃除している共同階段を上る―――― 電気は二階も三階も点いていない。

 これは蛍光灯のせいじゃないな。配線か? それとも暗くなると自動で点くタイプだったから、センサーがイカれたのか? どっちにしろ見るのは明日だな。

 

 玄関のドアノブに手を掛ける。

 ジェノスが部屋にいる筈だったから、俺は躊躇(ためら)わずノブを引いた。

 

 パキン!

 

 予想外の金属が弾ける様な音に、俺は慌ててドアを見直した。何か壊したか? いま鍵掛かってなかったよな??

 よくよく見ると、チェーンが切れている。ジェノスの奴、ドアチェーン掛けてたんだな。珍しい事もあるもんだ。しかしまぁドアの方が壊れなくてよかった。

 

「なんだよなぁ~ジェノス、ドアチェ-ンするんだったら鍵もしとけよ~」

 

 部屋の中も真っ暗。

 バスルームの扉のスリットから漏れる光だけが、微かに廊下を照らしている。

 ザーザー流れるシャワーの音から、ジェノスは風呂を洗っているのか、シャワーを浴びているのか… 返事もないところをみると、よっぽど集中しているんだろう。そうでなければ、もしかしたら少し怒っているのかもしれない。キング達が来ると、ジェノスの機嫌は目に見えて悪くなる。

 もっとも、そう感じるのは俺だけで、他の奴等には不機嫌なジェノスの方がデフォルトらしい。

 あいつ、結構抜けてるとこがあるし、天然かましてて面白いんだけどなぁ。まぁ… 人の話を聞かないとこが難点だけど。

 

 部屋の電気をつける。

 

 薄ぼんやりしたライトに照らされた部屋はきれいさっぱり片付き、使っていた卓上型カセットコンロもしまわれて、さっきまで皆でこの部屋でだべっていたのがウソみたいだ。

 拭き掃除までしたのかな? 廊下も玄関も塵一つない。

 

 なんつーか… もっときれいに靴を脱げばよかったかも。

 

 なんにもない三和土(たたき)に転がっている俺のスニーカーだけが、妙に自己主張している。

 まったく… ここまでキレイにしなくてもいいのになぁ。

 いっつもそうだ。俺は汚れたら掃除する派だけど、ジェノスは汚れる前に掃除する派だから、掃除は大抵ジェノスがする事になる。トイレなんて俺しか使わないんだからほっときゃぁいいのに。

 あれだな、ジェノスはきっと夏休みの宿題は最初に終わらせる子供だったに違いない。俺は最後にまとめてやる子供だったけど。

 

 まだシャワーは止まる気配がない。

 一体、何処をそんなに掃除してるんだ? 何時もお前がキレイにしてるだろうに。

 

 やれやれ。

 

 俺は部屋の隅に畳んであった布団に背中を預け、目をつぶった。

 なんかうっすらと肌寒い。鍋やった後だし、人が5人もいた後なんだから、もっと部屋が温まっててもいいと思うんだけど―――――――― 

 

 

 扉の開く音がした。

 水の音も止まったらしい。 

 

 床鳴りがして… 廊下をゆっくりと歩いて来るのが判る。

 

 気配が俺の近くで止まった。

 

 視線が痛い。

 目を閉じてるから寝てるとでも思ってるのか? 俺、今、めっちゃ見られてる。 

 あれだ! 同居当初、どこに強さの秘密が隠れてるか分からないからって一晩中ずっと凝視されてたあの時みたいだ。おいやめろよ! あん時だって散々怒られただろうに!!

 

 瞼の裏が暗くなっていく―――――― 影がゆっくりと覆いかぶさって来るのが判った。

 

 気配が俺のすぐ顔の上にいる。何だか近い! 近い! 近すぎる!!

 

 ぶわっと背筋に氷を押し付けられたような寒さを覚え、身の毛がよだつ。と言っても、俺には頭に毛がないけどな!!

 相手がどんな顔で俺を見ているのかと思うと、怖くて目が明けられない。振り払おうにも、手も動かない。やべぇ!? 寒さで腕がつったのか?!

 

 俺の顔に… ぽたぽたと水滴が垂れた――――――――――――――――

 

 

 

「 先生!! 只今帰りました! 」

 

 

 

 勢い良く玄関のドアが開く音とともに、部屋の灯りが強くなる。

 深く息を吐くと… もう目も腕も、自由に動く事に気が付いた。

 

 

「お前・・・風呂場にいたんじゃなかったのか?」

「いませんよ? 明日の朝、鍋の出汁(だし)で雑炊にしようと思ったら卵がない事に気付いてコンビニに行ってました」

 ジェノスは履いていたコンバットブーツを脱ぎ、風呂場に入って洗面台で手を洗うと… 何事もなく、何時ものように買ってきた物を冷蔵庫に移し始めた。

 

 何事もなく――――――― 何事もなくってなんだよ。

 いつもと変わらないその様子にほっとしながら、今更ながらの事に気付く。そう言えば… 俺が帰った時、玄関にジェノスの靴はなかった。

 

「 ? どうされましたか? 」

「いや、床でうたた寝したら躰が冷えたみたいで・・・妙な夢見た」

 やべぇ… 久しぶりに心臓バクバクしたぞ、キングエンジン全開だ。

 しかし、夢で良かった。

 あの時、目を開けていたら… 一体、何が見えてたんだろう? とか考えると、起こしてくれたジェノス様々だ。

 

 ジェノスは台所に入り、布巾(ふきん)を取り出すと… 廊下に身をかがめた。

 そのまま(おもむろ)にゴシゴシと床を擦りながら、部屋の中に入って来る。

 

 

 俺は… ただ、黙ってそれを見ていた。

 

 

「ところで――――――― 先生」

 四つん這いになっていた状態から身を起こし――――――― ぐしょぐしょに水分を吸った布巾を畳み直しながらジェノスは俺に向き直った。

 

 

「先生は・・・ 幽霊は存在すると思いますか?」

「 ・・・・・・・・ 」

 

 

 

 ここは無人街。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやぁ~やっぱり無人街ですから。

サイタマ年生のSAN値削れるのは物理で対抗できないモノじゃないかなぁと思って。
すいません、たまにこういうのが書きたくなるんです。


初めて太字とか大文字使ってみました。漫画みたいでおもしろいですね。
ガラ携帯でみたらどうなるんでしょう? ちょっと心配です。
でも使ってみたかったんだもん!






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