少女はお辞儀することにした (ウンバボ族の強襲)
しおりを挟む

賢者()の石編
生き残った男の子との出会い







 

 トイレは聖域だった。

 

 

 

 

 

 エリザベス・ラドフォードという少女が此処に居る。11歳の少女だ。

 そんな少女が今日も便座に座ってお気に入りの児童小説、ダレ●・シャ●をじっくりと読んでいると、不意にトイレの高い位置に備え付けられた窓。小ぶりだが、ガラスが綺麗に拭かれておりレースのカーテンがあしらってある窓から。

 

 

 

 

 

 

 

 フクロウが(横方向に)ドリルツイストをかましてガラスをぶち破ってきた。

 

 

 粉々に砕けたガラス片が少女へと襲い掛かる。

 

 

 

 

「え……? え……? 何? うそ……ぎゃぁあああああああああ!?」

 

 

 

 痛みに叫ぶ少女。それを聞き分けた屋敷下僕妖精が今度は正面にあったマホガニーの扉をぶち破る。

 デカい木片が屋敷下僕妖精の頭に突き刺さるけど、妖精はあんまり気にしていないようだった。

 

「お嬢様ーー! お嬢様ーー!!」

「痛いーーー!痛いよぉおおおおおお!!」

「お嬢様しっかりなさいませ!!」

 

 妖精による手早い処置で事なきを得たエリザベスだったが、足からは血が流れ、父親譲りと言われる自慢の漆黒の髪は血で濡れ、陶器製の便座のそれと酷似した白磁の如くなめらかな肌はズタボロだ、冬の空を映したかのような青みがかった灰色の目は涙で濡れている。

 少女はよろよろと、そこで伏せる鳥――――フクロウに向かって手を伸ばした。

 

 人生で最高に輝きを放つドリルツイストをかましたフクロウの羽根は鳥類的に曲がっちゃいけない方向に折れ曲がり、口は小さくホーホーと叫ぶばかりで、その余命がもう幾何もないことを少女は悟った。

 

 

 

 

 

 

 

(じゃあドリルツイストブチかまさないでよ……)

 

 

 

 

 

 

 自業自得だと思いながらフクロウの脚に括りつけられてるその紙を取る。

 

 すると……

 

 

 

 フクロウは満足そうに――微笑んだかと思うと、ゆっくりとその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 フクロウが命を賭して託した手紙は、紋章入りの紫色の蝋で封印のほどこされたものだ。

 真ん中に大きく『H』と書かれ、その周辺をサバンナの王者、全ての鳥の上に君臨する皇帝、穴熊、西洋人が無駄に嫌う人類に知恵の実を喰う事をおすすめした爬虫類というよく分からないラインナップ。

 手紙は大体こんな感じだった。

 

 

『ホグワーツ入学おめでとうございます。教科書と教材リスト同封したので9月1日までに揃えて下さい。返事は7月31日必着でお願いします』

 

 

(ホグワーツ……魔法学校のお知らせだわ……!)

 

 

 こうして少女は、ホグワーツ入学資格を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもこんにちわハグリッドです。親に恵まれない可哀想な子供と一緒に買い物にいくことをダンブルドア校長から強要されました。ホグワーツの森林管理人やってるからそこんとこよろしく」

「スコラン訛りめんどくさい」

「ぶち殺すぞクソガキが」

 

(やだ怖い。コレだからスコットランド系は)

 

 目の前には巨漢がいた。

 多分進撃してくる巨人の類っぽかった。

 

 その隣には眼鏡をかけた痩せすぎのクシャクシャ黒髪な少年がいる。あまり特徴のなさそうな外見の中で目だけが異様に美しい緑色だった。

 

「んじゃ、そうゆう訳なんで自己紹介と行こうか、まずは、ウェールズ出身のお前さんからな」

「は?」

「やれよウェールズ訛り」

「ぶち殺すぞクソ爺」

「さっさとしろ」

「分かりましたゴメンナサイ。

 私はエリザベス・ラドフォード。ベスって呼んで。11歳。性別女。見ての通りの純血家系よ。パパは死喰人で私が生まれてすぐに死んだって聞いてるわ。それに絶望したママはマグル界に殴り込みに行って銀行と間違えてコンビニを襲撃。でも人間界の通貨がポンドだってことを知らなかったせいで逆ギレしリクタスセンプラを全方向無差別乱射で周囲の人間を爆笑拷問の渦に突き落とした結果、今は魔法界屈指の笑い声の絶えない更生施設アズカバンに入ってるの。好きなモノはトイレと闇の帝王。嫌いなものはプラットホームと電車の間の隙間と私からママを奪ったマグル。よろしくね!」

「ヤベェこいつクズの純血だ。サラブレッドじゃねーか」

「凄いでしょ」

「凄くねーよ。お前さんマグルを恨んじゃいかん。母ちゃんは自業自得だわ」

「ママを馬鹿にするなクソが。地獄に堕ちろデカブツ。杖折るぞ」

「もう折れてる俺に死角はなかった」

「Fuck y〇u」

 

 

 少女――ベスは長い自己紹介を終えた。

 

 

「僕ハリー、ハリー・ポッター。えぇっと……パパとママは子供の頃に死んじゃって、今までマグルのおじさんの所に居たんだ。あんまり尊敬できた人じゃなかったけどね、ドリル会社の社長だったし」

「あらそうなの! 最悪ね!」

 

 ベスはフクロウのドリルツイストを根に持っていた。

 

「本当だよ。君の言う通りさ。……で、何だかよく知らないけど……僕は魔法使いらしいんだ。でもパパとママが居ないから買い物ができなくて……そしたらハグリッドが一緒に来てくれたんだ」

「まぁ、良かったわね! あなた運がいいじゃない!」

「あはは、そうだね。今まであんまりイイコト無かったからかな!」

「きっとこれからは今までの分幸運になれるわよ」

「わぁ、ベス。君って凄く前向きな子なんだね」

 

 

 

「茶番はそこまでだ。さっさと買い出しいくぞ」

「うん、行こうベス」

「命令すんな喋んな口臭ぇんだよ」

「あ?」

「行きましょう、ハリー」

 

 

 

 

(……ハリー・ポッター……『生き残った男の子』……ね)

 

 

 

 

 ベスは内心ほくそ笑んだ。

 

 

(こんな奴が闇の帝王を打ち負かしたとか何の冗談……多分、本当に物凄く運が良かったのね……)

 

 

 きっと闇の帝王がコイツをぶっ殺そうと思ったとき偶然床に置いてあったバナナの皮を踏んづけその後頭部を偶々置いてあったスコーン(という名の炭)にぶつけた結果だろう。凄まじい不幸と幸運の応酬の末にたまたま生き延びただけじゃね? くらいにしか思っていなかった。どの道闇の帝王と純血主義が天下を取るのを防いだ男だ、いつか殺そう。

 

 

 

 

 ベスは、母親を自分から奪ったと思い込んでいる非魔法界所属人類を完全に逆恨みしており、マグル出身の魔法使いを差別する純血至上主義なヴォルデモートを盲信していた。

 

 両親を失う羽目になった幼いベスはその後、心の優しい屋敷下僕妖精と見た目だけは美しい叔母に引き取られ、トイレの中でしか安らぎを見出すことのできない生活を送ることになっていた。

 

 夜、ふと母親を思い出し、悲しくて悲しくてたまらなくなった時は一人子供部屋を抜け出して、テコでも起きない叔母をスルーし、トイレに駆け込んで忍び泣き。

 近所の男の子にいじめられた時は便座相手に愚痴りまくり。

 好きな子ができた時にはトイレットペーパー占いをしたものだった。

 

 そう、ベスの子供時代は――――つねにトイレと共にあった。

 孤独な少女の心のよりどころは、闇の帝王、純血主義、そして聖域――すなわちトイレだった。

 

 

 

(そう……私はいつか死喰い人になる。

 ……パパに負けない位、立派で強い死喰い人に……。

 そして……世界中の便座をコレクションするんだから……!)

 

 

 少女の冒険は始まったばかりである。

 

 







映画寄りになるかと思います。
賢者の石編までは投稿します。
感想&批評お待ちしております。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダイアゴン横丁

 薄汚れたパブだった。

 

 パッと見薄暗くてみすぼらしい。

 隅の方にババアが2,3人腰かけてシェリー酒をひっかけている。

 一人は長いパイプを吹かしている。バーテンは爺だった。その頭は冒涜的なほど荒廃していて、歯は欠け、クシュとしたくるみの様な顔をしていた。

 

「やぁ大将いつものやつかい?」

「スピリタスで頼む。ガキ2人のお守りなんざ飲まなきゃやってられん」

「おい」

「え? ちょ大将……それひょっとして隠しg……」

「ハリーとベスの入学品を『はじめてのおつかい』の世話しろって公正にして英邁たる我らが偉大なる魔法使いアルバス・ダンブルドアに命令されたんだわ」

「マジかお前も大変だな。……ん? ……え? ……マジ……? やれ嬉しやハリー・ポッターか……!?」

「ハリー呼ばれたぞ、ほれファンサービス」

「グッドラック」

 

 バーテンの爺はカウンターを破壊してハリーに駆け寄ると涙を浮かべて手を握る。

 

「お帰りなさいポッターさん!!」

「ドリス・クロックフォードですポッターさんあぁポッターさんお会いできて光栄です」

「あなたと握手したいとずっとおもってましたぁああああ!」

「どうもポッターさん、ディグルです。ディーダラス・ディグルです!!」

「あ、なんか既視感……前に僕と会ったことがありますよね? えっと……確か、お店で一度お辞儀してくれた人、だよね?」

 

 ハリーがそう言うとディーダラスは驚き、感動し、シルクハットを取り落とし、倒れた。

 

「ポッターさんが……私を……覚えていてくれた……だと……!?

 ……こんな幸せな人生は……ほかに…………ない……」

 

 

 

「ディイイイイイダラァアアアアアス!!」

「起きろディーダラス!! 誰かぁああああ! AEDを!!」

「駄目だ魔法界だと狂ってる!!」

「じゃあ心臓マッサージと人工呼吸だーーー!」

 

 

 

「あ、クィレル教授発見」

「マジか」

「教授?」

 

(ホグワーツの先生……かしら……?)

 

 ベスはハリーの方を見た。

 

 若い男だった。

 青白い顔の神経質そうな男――頭には紫色のターバンを巻いている。

 

 

「ポ、ポ、ポッター君……お、お逢い出来て光栄です……」

 

 

「何の先生なの? ハグリッド」

「闇の魔術に対する防衛術」

「あんなんが?」

「あんなんが」

「マジかよホグワーツ終わってんな」

「俺もそう思う」

 

(頭の後ろに寄生虫飼ってるような面。ひょろひょろ。肌づや悪い。気弱そう。

 ……え? あんなんが闇の魔術に対する防衛術講師? 闇の魔術ナメられ過ぎてるじゃん……これひょっとして私楽勝?)

 

 将来の夢、死喰い人であるベスは特に根拠のない自信を確信した。

 握手を一通りかわしたハリーが戻ってきたので買い物に行くことになった。

 

 

 ハグリッドがレンガを叩く、壁を壊し、前へ進むための道を切り開く。

 

 

 

 

「ようこそ、ダイアゴン横丁へ」

「……」

「……」

「ん? どうしたお前さんら?」

「…………」

「…………」

「え、何お腹痛い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 硬直する二人。

 ハリーとベスは、一時停止状態と化していた。

 まるで真空のような思考停止。

 

 やがて……制止した時が動き出すその一瞬。

 

 しん、と静まりかえった水面に――ぽとり、と雫が滴下されるような。

 僅かだが、確かに大きな変化。

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法界って……」

「都会って……」

 

「「すげえぇええええええええええええ!!!!」」

 

 

「あっそ」

「は、ハグリッド! ……あ、アレは……何? アレ何なの!?」

「鍋」

「じゃ、じゃああっちのは? あの男の子が持ってるのって……!」

「鳥」

「ねぇハグリッド! ここに便座屋はある!? こんなに大きな街に私来たことないわ!! だってだってオバサン基本通販しか使わなかったんだもの!! 便座屋は!! きっと素敵な便座が揃っているに違いないわ!!」

「知らん」

「……ベス、ひょっとしてあそこの店じゃないかな」

「わぁ、何だかそれっぽい!! ちょっと突撃してみましょーよー!」

「まずは金を取って来んとな」

 

 

 

 

 

 

「どうもグリンゴッツです」

「子鬼が経営している銀行です」

 

 子鬼がお辞儀をした。

 

 ハリー、ハグリッド、ベスの三人が歩いていくとデカい扉にぶち当たる。

 銀色で、何か言葉が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見知らぬものよ、入るがよい

 

 

 

 

 欲の報いを、知るがよい

 

 

 

 

 奪うばかりで、稼がぬものは

 

 

 

 

 やがてはツケを払

 

 

 

「長げーよ、寝てたわ」

「要約すると防犯システムは万全だから銀行強盗は皆殺し、やれるもんならやってみろ、本気でぶっ殺す。って言っとるわ」

「怖」

「ここから盗もうだなんて狂気の沙汰だわい」

「なんかどっちも狂ってるように聞こえるなぁ、僕」

「銀行なんてそんなもんだ」

 

 

 左右の子鬼がやっぱりお辞儀した。

 

 中は大理石のホールであり、百人を超える社畜が細長いカウンターの向こう側で脚高な椅子に座って死んだ目か、あるいは不自然にギラギラ輝きまくった目で金貨を数えていた。

 

 

「おはよう、ポッターさんの金庫からカネを引き出しに来た」

「承りました。ポッターさん、カギはお持ちでらっしゃいますか?」

「俺が持ってました。あとダンブルドア校長から手紙を預かってる」

「こ、コレは……713番金庫……だと……!? クククク……『約束の時』ついにあの『禁断の扉』……『選ばれし洗礼』を『執行』する時が来たと言うのか……」

「何このキャラ変貌」

「子鬼だからしょうがねぇよ」

「やっぱり……イカレてるんだね」

「でもマグルよっか遥かにマシだわ」

「了解しました。案内させましょう、グップフリック!」

「私はグリップフックですぅうううううう!!」

 

 子鬼がやってきてホールから出ようとした。

 ここからは殺人ジェットコースターと化すトロッコに揺られてある者は朝食を戻し、ある者は脳がシェイクされ、またある者は耳の中の三半規管を破壊されたことによって行動不能、という凄まじい状態になることになるだろう。

 ハグリッドとハリーの二人はグリップフリックに着いていこうとしたその時だった。

 

 

 

(ん? あれ? これって……)

 

 

 

「ね、ねぇ……ちょっと待って」

「え? ベス、どうしたの?」

「何か用か」

「待って……あの……私の金庫は?」

「は?」

「あ! ……そうだよハグリッド! ベスの分のお金を出さなくちゃ」

 

 

 

 

 

 

(あ)

 

 

 

 

 ベスは何となくだが、最悪の予感を自覚する。

 

 やがてハグリッドが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「知らん」

「……え?」

「ハグリッド……?」

「お前さんの金庫の鍵何か知らんわ、そんなん俺の管轄外だわ」

「こ、コイツ……」

 

 

 

(ですよねーーーーー!!)

 

 

 ベスはやらかした、と悟った。

 自分は孤児、ではあるがハリーとは立場が異なる。

 ハリーと同じく自分も両親を失った身ではあるが、今まで一応紛いなりにも魔法界に所属する叔母に引き取られて育てられてきた。だから魔法世界について無知という訳ではない。

 

 が、今回叔母が不在ゆえに金銭を持ってきておらず、何となく薄ら心の中では「ハリーも似たようなもんだからいいだろ別に」と軽く考えている節があったのだ。

 所詮は11歳の女の子だった。

 

 

(あのクソ叔母が……)

 

 

「あー……何だか可哀想なので、お嬢さん、お名前を伺っても?」

 

 グリンゴッツの子鬼が身を乗り出す。

 

「そちらの大変可愛らしいお嬢さんは見たところポッターさんと同じくホグワーツの新入生ほどの年頃でしょう、毎年いるんですよこうゆうウッカリした子が。本人確認ができる書類――一番手っ取り早いのはホグワーツからの手紙があれば、こちらで照合できるかと」

「ありがとうございます有情子鬼さん!!」

「我々は人間とは違いますのですよ、えぇ、はい」

 

 ベスは手紙を渡す。

 子鬼は少々お待ちを、と言い金庫を照合しに行った。

 

 

「結果が出ました」

「どうですか?」

「エリザベス・ラドフォード様。

 

 

 

 

 

 

 大変残念なことに、貴女の資産は全て凍結されております」

 

 

 

「………………え?」

 

 

「失礼ですがあなたのご両親……特に御父様は死喰い人でいらっしゃいますね? しかも亡くなられた」

「…………うん」

 

 

 

「申し訳ありませんがお父君は死喰い人、つまりテロリストとして登録されている為その資産は全て凍結され、国に押収されることになっておりますのであしからず」

 

 

「…………は……?」

 

「お気の毒です」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「おwww気wwwのwww毒wwwでwwwwwwすwwwwww」

 

 

 

 

「畜生がぁああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気は済んだか、ほんじゃ行くぞハリー」

「べ、ベス大丈夫? お金だったら……その……」

「助けてハグリッド……」

「……しょーがねぇな……じゃホグワーツ特別奨学金」

「やったー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただし超暴利だからやめとけや。卒業後殆どの生徒が返せなくて3人に1人は破産し、1人は自殺し、1人は聖マンゴ直送コースの運命が待っている。この『定め』を逃れたのは1人だけだ……とても恐ろしくて口には出せねぇ……そう、『例のあの人』だけだ……」

「素直に全滅だって言えばいいじゃんハグリッド!」

「詰んだ…………」

 

 

(私の入学……まだ始まってもいないのに…………こんなところで……こんな所で……!)

 

 

 

「こうなったらもう……入学品をリボ払いにして買うしかないじゃない……っ!」

「未成年者だろーが」

「ベス……」

「じゃあどうすればいいのよ!! 誰か私にお金貸してくれるの?」

「今からでも遅くねぇ、叔母さんに連絡しろ」

「フクロウは死んだ」

「残念。魔女エリザベスの冒険はここで終わってしまったようだ」

 

 

 

(だ、ダメよ……! 私の夢は……こんな所じゃ……!!)

 

 

 

 

 まだグリンゴッツから一歩も出ていない。

 買い物だってしていない。

 

 

 ベスの脳内から、さっきまで抱いていたハズの夢――夢の様なホグワーツ城での生活や、やがてそこを旅立っていくだろう成長した自分の姿。

 立派な死喰い人になって、闇の帝王から信頼されて……。

 黒いローブをまとい、変な骸骨頭にかぶり、マグル出身者を片っ端から狩りまくって、若手エースとして期待される。

 そして貰ったお給料で、可愛い服や綺麗なお化粧道具。そして美しい便座を買いあさるんだ……という煌びやかな夢が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

 本当は分かっていた。

 

 全ては身に過ぎた夢だったのだと。

 

 

 

 だが、夢を見て見たかったのだ。

 

 

 

 

 

 ベスの子供時代――そう、『聖域』で読んだ『我がお辞儀(著:ヴォルデモート)』には、確かに書いてあったのだから。

 

 

『夢は、諦めなければ、必ず叶う――――必要なのは、強い意志と自分を愛し、信じる心』……なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

(そう……! 闇の帝王だって……言ってたじゃない……!

 

 諦めなければ――――必ず、叶う……自分を信じろって!!)

 

 

 

 

 

 

 ベスは立ち上がる。

 

 両足で地面を叩き付けるように、まっすぐに立つ。

 

 そして目の前の子鬼を――キッと睨み付ける。

 

 蒼穹を写し取った瞳には強い決意が宿っていた。

 

 

 

 それは高温で、静かに燃える――炎の様な、青。

 

 

 

 

 

 ただならぬ気配を感じた周りの一般客、就業中の子鬼も思わず釘付けになる。

 

 

 

 

 

「お願いします、子鬼さん……いいえ、ミスター・グリンゴッツ……!」

 

 

「……!」

 

 

 

 タダならぬ雰囲気に子鬼は息を呑む。

 圧倒された、こんな少女に。

 

 そしてベスは――――行動する。

 

 

 自分の未来を、切り拓く為に――――。

 

 

 

 

 

 

 

 心は、緊張ではちきれそうだった。

 本当は怖くて怖くて、震えていた。

 逃げ出したくて、たまらなかった。

 

 

 だが、人は知っている。

 

 勇気とは――恐れを知らないことではない。

 

 

 恐れを知り、己を知り。

 

 それでも、逃げないことこそが――――勇気なのだ、と。

 

 

 

 

(大丈夫、しっかり読み込んで来たもの。しっかり……三要素を――)

 

『姿勢を正す』

 

(背筋を伸ばす)

 

『優雅に頭を下げる』

 

(早過ぎない、遅すぎない。自分のペースで)

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

(『お辞儀するのだ!!』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お金……貸してください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見るモノ全てを魅了するかのような――お辞儀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空白と化した空間、時間、全ての次元を超越し、神が直接語り掛けて来るかのような錯覚を覚えた子鬼は凍り付く。やがて彼は悟るだろう。

 

 

 こんな、美しいお辞儀を……自分は見たことが無い、と。

 

 

 遅れて溢れ出した涙が。

 

 

 

 陽を受け輝く一筋の光となって。

 

 

 

 子鬼の頬に伝うのだった。

 

 

 

 

 

 

「あの素晴らしいお辞儀のお嬢さんに寄付をしたいです」

「彼女のお辞儀は素晴らしかった。このままいけば将来はきっと一流のオジギストになれるはずだ!」

「あの才能を伸ばす為には全財産を惜しまない!!」

「このガリオン金貨を彼女にーー!」

 

 ベスを見ていた全員も子鬼と同じ現象が起きていた。

 アレほど見事なお辞儀を魅せてくれた少女がお金貸してくださいと言っている。

 コレは何が何でも献上しないといけない……という強迫観念にも似た何かに突き動かされていた。

 

 

「エクストリームお辞儀基金をつくりました」

「この口座にガリオンを突っ込んで下さい」

「順番です! 順番を守って!!」

 

 じゃんじゃん金がたまっていく。

 

 気づけばそれはもう、一生遊んで暮らしていける程の金額と化していた。

 

 

「すごい……君って凄いんだねベス!」

「ありがとう……ありがとうハリー」

 

 ベスはハリーのことを敬愛する闇の帝王を葬り去った宿敵だと忘れて抱き合う。

 その背後には死んだ目をしハグリッドが真っ白になって棒立ちしていた。

 

 

 

 こうして、

 

 

 

 二人は

 

 

 

 ダイアゴン横丁へと行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、着いた。

 

 

 

 

 

「制服を買った方がいいな」

 

 ハグリッドは『マダム・マルキンの洋装店』を指さした。

 

「なぁ、ハリー『漏れ鍋』でちょっとだけ元気薬をひっかけてきてもいいかな? グリンゴッツのトロッコにはまいった」

「ねぇハグリッド、元気薬、って何?」

「ハリー、聞いては駄目なのだわ。そんなもの、決まっているじゃない」

「え? ベスは知ってるのかい?」

「もちろんよ」

 

 ベスは薄い胸を張る。

 

 

 

 

「コ〇インでしょ」

「なぁーんだ! ただの禁断症状だったんだね! いいよ、ハグリッド。僕たち二人だけで大丈夫だから!」

「おいおま」

「卑しいスコッチ野郎のすることだから仕方がないわよ。さぁ、お洋服買いに行きましょ」

「ハグリッド、混ぜ物が多い奴には気を付けてね!」

「最悪だなこのレイシスト、純粋なハリーに嘘八百を吹き込んで楽しいか」

「そう……これが純白を染めあげていく征服感……」

「もういいさっさと行け」

 

 

 こうして二人はトギマギしながらマダム・マルキンの店にいく。

 

 

 

 

「ここが制服屋ね」

「入ろう」

 

 

 

「フフフウウウウウウウウウウウウウウウウウウイ!!」

「フォオオオオオオオオオオオイ!!」

 

 

 扉を閉じる。

 

 

「やめましょう、やっぱりローブなんか良く考えたら通販でいいわ」

「ローブを買いに来たら老婆が叫んでたね」

「じゃ教科書を買いましょう」

 

 2人はフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で本を買った。

 敷石くらいの大きな本もあれば、用途不明の切手ほどの小さな本もあり、読むといあいあ言いたくなるような冒涜的な本や、18歳以上が読むと呪いをかけられるらしい薄い本が売られていた。

 

「教科書を買った」

「じゃ杖」

 

 ベスとハリーは狭くてみすぼらしい店の前に辿り着く。

 自称紀元前382年創業、自称高級杖メーカー、自称オリバンダーの店、という杖屋だった。

 

「やだ移民臭い名前だわ」

「気のせいだよ多分、おじゃましまーす」

 

 中に入るとやっぱり埃臭い店だった。

 壁には所せましと杖が積み込まれていた。

 その時、ハリーは察する。

 

 違う、コレは、壁に杖が敷き詰められているのではない…! 壁自体が――――杖なのだ、と。

 

 

「ラーシャイマセー」

 

 柔らかな声がした。

 目の前に爺が立っていた、大きな薄い色の目がハリーを凝視している。

 

 二人は思った。

 

 またしても爺か、と。

 

 

(この横丁の平均年齢はいかに)

(これがイギリス社会の高齢化かぁ)

 

 

 そう、さっきからハリーとベスは……爺(バーテン)、子鬼、子鬼、婆……にしか……出会っていない!

 ここにきて更に召喚された爺(店主)を見て、二人は凍り付いた。

 

 

「不思議じゃ……何とも不思議じゃ……」

「はえーよクソ爺」

「ベス、ダメだよ初対面の人にそんなこと言っちゃあ」

「だってフライングすぎるわ」

「仕方ないよ高齢者なんてそんなものだよ。現実を受け入れなくちゃ」

 

 

(ハリー……この人は……この歳にして一体……何を見てきたというの……?)

 

 

 

「不思議じゃ……不思議じゃ……生命の神秘じゃ……」

「ん?」

「えっ?」

「少年少女がやがて成長し男と女になる……そして、出会い、愛を育み……いつかは子を成し……その子がまた少年となって杖を求めに店に来る……不思議じゃ……何とも……不思議じゃ……地球の神秘」

「壮大」

「哲学的」

「水より上がり、地に栄え渡り、幾度もの危機に直面しながらも、決してその命の歩みを止めることはなかったこの世界――46億年、絶え間なく続いてきた生命の営み、全ての愛と繋いだ命の果てに、今、そこに居る……。

 そんなあなたにピッタリの杖をお探しする、オリバンダーの店ですどうもよろしく」

「どうも」

「よろしくお願いします」

「さっそくですが、ポッターさん。杖腕はどちらでしょうかな?」

「右」

「じゃコレ振ってみろ」

 

 ハリーはそう言うと杖で構成された壁を破壊した。

 杖だけで作られていた脆弱な壁はハリーの会心の一振りにより、バタッバタンとなぎ倒され、ついでにドミノ倒しの如く連鎖し、隣の杖壁をも突き破る。けたたましい轟音が店中に溢れ、砂塵が舞う中、オリバンダーは察した。――不適合だと。

 

「では次――黒檀と一角獣のたてがみ、22センチ、バネの様――さぁ」

「せいっ」

 

 ハリーは今度は窓に向かって振る。

 ガシャァアアアアン!という慟哭と共に窓ガラスが砕け、散り、細かい破片となり、降り注ぐ。

 

 

「難しい……何とも難しい……」

「え………あの……僕……」

「もうやめて! オリバンダーの店のライフはとっくに0よ! もう勝負はついたのよ!」

「まだじゃ」

「え」

「いや、でも」

「…………まだじゃ……! まだ……終わっては――――おわぬッ!」

 

 気炎を噴き上げる爺、オリバンダー。

 

「……オリバンダーさん……」

「人が杖を選ぶのではない……杖が……杖が……人を……選ぶのじゃ!! 杖職人にできるのは、ただ一つ。その杖に相応しい使い手を見出すことのみーーーーッ!!

 今こそ……今こそこの杖を解き放つ時ーーーー!」

「そ、それは……!」

「強杖降臨の予感」

 

 

 

「ヒイラギと不死鳥の羽根――28センチ! 良質でーー! しなやかっァアアア!!」

 

 

 ハリーは杖を手に取った。

 急に指先が暖かくなった。

 ふと――杖が語り掛けて来るような気がした。

 

 ありがとう、よろしくね……と。

 

 なすべきことを成し遂げたオリバンダーは年甲斐もなく頑張った所為で満身創痍の汗だくだった。

 それでも彼の唇は――言葉を紡ぐ。

 

 

「不思議じゃ……不思議じゃ……何とも不思議じゃ……」

「……」

「その傷をつけたもの……同じ杖……いわば『兄弟杖』……あぁ、杖杖杖。

 ポッターさんあなたの杖はいずれ偉大なことをなしとげるかもしれませんな」

「え……僕……えぇっと……ハイ頑張ります」

「では次はお嬢さん、あなたですな」

 

 現実ではありえないオリバンダーは超人的な回復を見せつけ、すくりと立ち上がった。

 

(……タ……)

(……タフな……)

 

 

((タフな老爺だ!!))

 

 

 

「で、杖腕はどちらですかな」

「ひ、左です……」

「ほぅ、成る程。ではこちらは如何ですかな? 栗の木とドラゴンの琴線、23センチ、よくしなる……と」

 

 ベスが振ると杖の先から眩い光が飛び出し周囲をキラキラとした光で包み込んだ。

 

「ぴったりですな」

「そうね、どうもありがとうございました」

「不思議じゃ……何とも不思議じゃ……」

 

 

(コイツひょっとしたら誰にでもそう言ってんじゃなかろうか)

 

 

「栗の木は珍しい素材ではない――だが、世界でひとつのかけがえのない杖が貴女を選ぶとはまさに運命。いずれあなたが導く先に杖は運命の出会いを果たすかもしれませんのぅ……。

 お嬢さん……どうか……どうか……杖を幸せにしてやって下さい!」

「お前にセールストークとは何かを教育してやりたい衝動にかられたけど杖くれたから我慢しといてやるよ」

「杖ーー! 杖ーー! 幸せになるんじゃよーーぐすっ……では、こちら10ガリオンになります」

「泣く泣く払います」

「確かに頂きました毎度ありがとうございました」

「領収書お願いします」

「そんなもん発行しません」

「保証書は?」

「ありません」

「はいカス」

「不思議じゃ……孫ほどの年齢の若い娘に吐かれる暴言はいとも不思議じゃ……自分の年も忘れて興奮するわい」

「おっふ……」

「杖ありがとうございました。ベス、ハグリッドが待ってるよ」

「この杖本当に大丈夫なのかしら」

 

 

 すっかり元気になったハグリッドは頼みもしないのに、ハリーの誕生日プレゼントを買っていた。

 かなり美しい白いフクロウだった。ちなみにメス。

 

 

「あら、フクロウだわ。いいなぁ、羨ましいわハリー。私もフクロウが欲しいわ」

「ほーれ、綺麗なフクロウだろ。一番の美人を買ってきた、ヘヘッ」

「あ、ありがとうハグリッド……! ねぇ、ベスはフクロウを持ってないの?」

「フクロウは死んだ」

「あっそ、ご愁傷さま」

「私もフクロウが欲しいわ」

「欲しかったらお前さんが自分で買うんだな、コレはハリーの誕生日プレゼントだからな」

「私もフクロウが欲しいわ」

「ハリー、フクロウ便は便利だぞ。魔法使いの主な文通手段だ」

「へぇ、そうなんだ」

「私もフクロウが欲しいわ」

「あ?」

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

組分け

 グレートブリテン及び『北』アイルランド連合王国。

 首都ロンドン。

 キングス・クロス駅。

 

 そこには毎年『9と4分の3番線』を探す11歳の少年少女が溢れているという。

 

 そんな感じでハリーとかロンと愉快な赤毛一家とかハーマイオニーとかマルフォイとかネビルとか色々乗った。

  

 ホグワーツに到着。

 

 

 ホグワーツ特急の快適な汽車旅中にトイレを独占し、ありとあらゆる人間に迷惑をかけまくっていたことを放置し、外の世界の目まぐるしく変わる景色さえもスルーし、ホグワーツ特急のトイレの鑑賞ばっかしていたベスは友達のひとりも作ることは出来なかった。 

 仕方ないので唯一会話できそうなハリーを探す。

 

 するとハリーの隣には見覚えの全くない赤毛の少年が居た。

 

「ハァイ、ハリー、ダイアゴン振りね! そっちのうだつの上がら無さそうな赤毛は一体誰かしら?」

「僕ロン、ロン・ウィーズリー」

「あら! 確か『ウィーズリー』って有名だわ! 知ってるわよ!」

「変なウワサじゃないと良いけどね」

 

 ロンと名乗った赤毛少年は年に似合わない皮肉気な口調で言った。

 

「え、そうなの? ロン」

「言っただろ? 僕の家は兄弟がいっぱいだからさ……上の兄さんたちが多すぎてホグワーツでも有名になっちゃってるんだよ……最近は大方あのフレッドとジョージのせいでね」

「確か凄い純血のお家でしょう? 素晴らしいじゃない! ご家族を誇っていいと思うわ! それにお兄さんが沢山いるっていうのもとっても素敵。純血が多いことは喜ばしいことだものね」

「うっわーおったまげー。ハリー、コイツ相当なクズだぜ、純血主義の匂いがプンプンしやがる。こんな絵に描いた様なレイシストなんかてっきりビートル物語にしか居ないと思ってたよ! ホグワーツってやっぱりすごいや!!」

「何言ってるんだよロン。僕はベスは良い子だと思うよ。相当変わってるけどね」

「ハリー……君、友達は選んだ方がいいよ」

「はい失礼なクソ赤毛発見。血を裏切る者認定しました今すぐ腹切って死ね」

「君のようなカビの生えたレイシストに変なカス認定されても別に僕は嫌な気持ちしないからいいよ」

 

 

 

「そうさ、この『血を裏切るもの共』――魔法界の恥さらし一家。これで純血とはね、全く情けないよ」

 

 

 

 突如として列が割れ、呼んでも居ないのに嫌味な金髪の少年が現れた。

 いかにも『おぼっちゃん』風な少々居丈高で生意気そうなガキだった。

 

 

「僕はマルフォイ、ドラコ・マルフォイだ。そこの赤毛の言う通りさ。魔法界にも家柄の良いのと悪いのが居る――僕がソレを教えてあげよう、ハリー・ポッター」

「名乗りもしないのにイキナリ本名を当てられたッター」

「見れば分かる!! 君の額その傷だ!!」

「ほら見ろよ、ハリー。君のネームバリューに乗せられてアホが庭小人ホイホイの如くフォイフォイっと釣れる釣れる」

「これは良くなかッター。序盤から小物ですとカミングアウトするのは良くなかッター」

「これは突沸型雑魚臭不回避ね」

「うるさいな君たち……! というか君は一体誰だよ!!??」

「ベス・ラドフォードよ」

「聞いたこともない名だな。どうせマグル出の『穢れた血』だろ。ひっこんでろよ暫定『穢れた血』!」

「まぁ失礼ね! 私のパパはれっきとした死喰い人だったのよ! ついでにママはコンビニ強盗で今アズカバンに居るわ! そんな私が純血じゃない訳がないでしょうこのアンポンタン!!」

「(え……死喰い人……? ……いや……でも父上から聞いたことないな……うん……)そうか、わかったさようなら、できれば同じ寮には入りたくないねキミたちとは!!」

「おったまげだよ。ベス、君ってば確かに純血だろうな、いろんな意味でな」

「分かったならいいのよ、ロンは他の馬鹿とは違って物わかりがいいわね」

「当然だよ。君は間違えなく純血筋の魔女さ、じゃなきゃここまでのちょっと人間としてどうかと思うレベルの逸材は中々生まれないさ、間違いない」

「ロン、人の親を悪く言う人って……僕は嫌いだな」

「ごめんなさい」

 

 と、言う具合に各自和やかにおしゃべりを楽しんでいると、階段の上から髷を結ったエメラルド色のマントを着た婆が現れる。

 実に気高そうであり、荘厳かつ厳粛な空気をまとうババアだった。

 

 

「皆さん、ホグワーツにようこそ。副校長のマクゴナガルです。

 突然ですがあなた達は今から寮に配属されます。拒否権はありません」

 

 

 

 

「マジか」

「強制イベント入りました」

「フレッド曰く、地獄の苦しみを味わい、シクった奴は肉塊となって死ぬらしいよ」

「いい加減にしなさいよあなた達」

「ふぉい……」

 

 

 

「勇気名物グリフィンドール、ガリ勉はレイブンクロー、見るからにセコそうなヤツはスリザリン、残ったのがハッフルパフです。配属されたら得点とか減点とか色々あるので死ぬ気で頑張りなさい。あとクィディッチです。親兄弟親類にクィディッチの選手が居るというものは今すぐここで私に申し出なさい。強制グリフィンドー……冗談です」

 

 

「クィ……え? 何?」

「そうね、うまく言えないけど……ホウキにマタがって金の玉を追いかけるマグルにはできないスポーツよ」

「テメェそれ以上クソみてぇな説明するとぶっ殺すぞゴミ女、クィディッチを馬鹿にするなよ」

「……魔法界って……大丈夫……なのかしら……?」

 

 

 そんな訳で宇宙が見えるトチ狂った天井を通り過ぎながら組分けの儀式が始まった。

 

「名前を読んだら前に出なさい――ハンナ・アボット!!」

「ひっ……」

「アボット、出なさい」

 

 可哀想に、金髪の少女は怯えていた。

 Aから始まるが故の不運。

 名前の暴力からは逃れられないのだった。

 

「ふぅ~む…………うん。うん。よろしい。……ハッフルパフ!!」

 

「スーザン・ボーンズ」

「ハッフル」

 

 こんな感じでさくさく進んだ。

 

 

 

「ドラコ・マルフォイ!!」

「スリザリン!!」

 

 

「悪の道に走った魔法使いは皆スリザリンだ」

「スリザリンの風評被害?」

「まぁ、君も多分スリザリンだと思うけどね」

「だといいわね」

 

 

「ハリー・ポッター!!」

 

 

 ハリーが呼ばれ、壇上に上がり椅子に座る。

 帽子は悩んでいた。

 勇気もある、頭も良い、優しさも十分、何より自分の力を発揮したいと強く願っている。

 何処に行っても才能を発揮できるであろう人物を前に、悩んでいた。

 緑か赤の2択、というところまで絞れたところで、帽子はその小さなささやきを逃すことはなかった。

 

 スリザリンは嫌だ。

 

 

「いやかね? スリザリンは嫌かね? ならば仕方ない――グリフィンドォオオオオオオル!!」

 

 

 

「おっしゃぁあああああああああ!!」

「フゥウウウウウウイ!!」

「ポッターを取ったどーーーー!」

 

 

 

 

「エリザベス・ラドフォード!」

 

 

 ついにベスの番が来た。

 

 他の生徒と同じく椅子に腰かけ帽子をかぶる。

 即答で「スリザリン!」と呼ばれるかと期待していたにもかかわらず、帽子は黙していた。

 

 1分、2分、3分……カップラーメンだったらもうひとつ完成している。

 業を煮やしたベスが帽子をつつく。

 

 

 

(ちょっと帽子さん……帽子さん……聞こえますか……? 私です……今組分けしている私です……頭上のあなたに向かって話しかけています……)

 

「コイツ直接脳内に……!」

 

(スリザリンがいいスリザリンがいいスリザリンがいいスリザリンがいいスリザリンがいい)

 

「さっきのポッター君とは真逆のようだねキミは」

 

(野心には溢れかえっています。自慢じゃないけど目的の為なら規則スルーの、手段はあんまり取らない性格です……! というか将来の夢死喰い人なので絶対スリザリンに入れて下さいじゃなきゃ困るわ)

 

「……えー……エェー……。うーん……どうしよっかなー……」

 

(スリザリンがいいなースリザリンがいいなー)

 

「……よろしい。では。

 

 

 

 

 

 

 ハッフルp----」

 

 

 

「ストォオオオオオオオオオップ!!!!」

 

 

 

 帽子が穴熊寮を宣言しようとしたその時――ベスは前代未聞。

 帽子の顔(みたいな部分)に腕を突っ込んで宣言を防ぐという空前絶後の絶技をやってのけた。

 結果は成功。おそらくはホグワーツ始まって以来の暴挙だったかもしれない。

 

 

(なんでよ! なんでよりによって穴熊なのよ!! こんなん絶対アウトじゃない)

 

 

「るーっせーなヌッコロスぞ」

 

 

(申し訳ありませんでした)

 

 

「耳の穴かっぽじってよく聞けクソガキ。どーせテメェらさんのことだから両親揃ってスリザリン入れスリザリン入れって洗脳されてんだろ? 違う? スリザリンじゃなきゃウチの子じゃない位に言われてんだろ。ん? ん?? どーよ? 結構居るんだよなそうゆうの」

 

( )

 

 

「だからつっって、毎年毎年それっぽい奴それっぽい所にぶち込んどくのもつまんねーじゃん? 帽子がおもしろくねーじゃん? 血筋とか性格とか全くスルーして真逆の所にブッ込むのも楽しいじゃん? ここ最近じゃブラックとかプリンスとかペテグリューとか最高だったわーークッソ笑ったわーーいい仕事したわーー」

 

 

(……)

 

 

「それにしてもいやはや、11歳の子供の親の期待に応えたいという純真無垢な願いを踏みにじるのは楽しいですなぁ。毎年そうやって泣き崩れ、絶望に歪む子供たちの顔を見る事だけが楽しみなのだよ帽子はね! だって一年の大半を校長室の飾りに徹してるんだもん! こうゆう時だけ輝いたっていいじゃない、帽子だもの」

 

(…………)

 

「ねぇどんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち?? 悔しい? 悲しい? 絶望した? ねぇ今絶望してる? 帽子は今この瞬間の為に生きてるよ!!」

 

(…………………)

 

 

 

 

 

 ものも言えなくなったベスは。

 

 

 黙ってポケットにあったガリオン金貨×5枚をこっそりスカートからローブの袖にくぐらせ、つっこんだままの手から帽子に向かって投函した。

 

 つまり

 

 

 

 

 

 賄賂だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スリザリィイイイイイイイイイン!!!!」

 

「物わかりのいい帽子さんで良かったわ! ありがとうっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベスはぴょん、と軽やかに組分け帽子を投げ捨てると、スリザリンのテーブルへと向かった。

 そこそこ可愛いのが来たのでスリザリンテーブル(主に男子生徒)はソコソコ賑わった。

 テーブルには沢山の食事が乗っている。

 フィッシュ・アンド・チップス。スコットランド地方の伝統料理ハギス。

 見るモノを混沌とした狂気の渦へと落としこむ冒涜的な造形のスター・ゲイザー・パイ。

 

 

 

 

 極めつけは――ウナギのゼリー寄せだった。

 

 

 

 

 

 

「むっしゃむっしゃむっしゃ」

「食える。おいしくないけど食える」

「飯というのは腹に詰め込むものだ」

「大丈夫、問題ない」

 

 

 

 イギリス人にとって食事とは単なる栄養補給でしかなかったからあまり問題はなかった。そもそもホグワーツの入学条件はイギリス(領)出身であることっぽいので、DNAレベルでケルトってる舌の持ち主たちは多少正常な味覚というものをその食生活に合わせて変化させ、淘汰し、磨かれてきた感性を民族として完成させていたのだった。

 

 

 

 その後自称校長っぽい白鬚の爺が何か喋った。

 半分の月っぽい眼鏡かけている爺だった。多分老眼鏡だろう。

 内容は

 

 

 ・森に入るな

 ・廊下で勝手に魔法使うな

 ・四階の廊下には近づくな

 

 という実に要点をかいつまんだ素晴らしい説明だった。

 当然ベスは長い話と歌を聞くのが苦手だった。

 

 

 

「zzz……」

 

「おいこの1年寝てんぞ」

「かわいい」

「天使の寝顔だ」

「so sweet ...」

 

 

 ダンブルドア校長の話が終わり、テキトーな校歌が終わった瞬間目を覚ましたベスはスリザリン寮に入る。

 

 あどけない子供たちが地下牢にいきなり入っていくというマニアックなプレイを行った後に入るという謎の仕様は創設者サラザール・スリザリンの性癖がうかがわせるものだった。

 エメラルド色を基調としたカーテンや壁紙。天井が低く、そこには鎖でランプが吊るされていた。

 何より少年少女らの目を引いたのは、そのデカい窓だった。

 

 

 

 

「「「「イカぁああああああああああ!!」」」」

 

 

 

 

 それは――形容しがたい恐怖を称えた巨大な生き物だった。

 およそ生者のものとは到底おもえない肌の色。

 不自然に複数ある長い足は曲がりくねり湾曲し、おのずから絡まり合い無限の収束を試みているかの様。

 水槽の先には底知れない何かを称えた巨大な目。奥底に広がる虚無的な目は光すら届かぬ深淵を映し出しており、それは人間が本来持つであろう原始的な恐怖を喚起させ、呼び覚まし、挑発し、混沌へと誘うかのごとき闇を称えていた。

 

 

 という形容しがたい恐怖に一年生は捕らわれる。

 

 

 

 

 

 うろたえる1年生たちを高みから見下すのは、知的な雰囲気の上級生美人。

 

 

 

「おめでとう!私は監督生のジェマ・ファーレイ、スリザリン寮に心から歓迎するわ」

 

 

「やった美人監督生だーー」

「乳でかいー」

「ウホっいい女」

「……超タイプ……」

 

 そこから長い話が始まった。

 

 スリザリンは何か誤解されてるけど別にそこまで純血に拘ってる訳じゃねーよ、とか闇の魔法使いも多いかもだけど昔にはマーリンとかいうスゲエ奴も居たよとかグリフィンドールはウザいけど気にすんなとかスリザリンは皆兄弟姉妹だから上級生を頼っていいんだよ、とかそんな感じだった。

 

 

「zzz……」

「フォい……こいつどうしようもないフォい……。おい、起きろよ!!」

「zzz……パパぁ……むにゃむにゃ……ハッ! なんだ夢か」

「……人の話位まともに聞けないのか君は……一体どうゆう教育をうけてきたんだ」

「要約オナシャス」

 

「あと、皆知ってると思うけどスリザリンのゴーストは『血みどろ男爵』よ。気に入られれば強い味方になってくれるかもね。そうじゃなくても彼はスリザリンの生徒には手出ししないから大丈夫。

 あぁ、でもなんで血みどろなのかは聞かない方がいいわ。……ソレを聞いて、二度と戻ってこなかった友達もいるの……」

 

「ヒエッ」

「狂気じみた何かを感じた」

「マジスか怖いッスね」

「…………ゴーストぶっ殺す方法ってねーかなぁー……」

 

「じゃそうゆう訳だから寝ろ。明日から授業だからね。寮監のスネイプはスリザリン贔屓ガンガンしてくれるから魔法薬の授業は分からなくても間違ってても手を上げるといいわよ。当たれば得点、外れても残念賞の点数くれるから。

 

 そして最後に!

 

 皆聞いて……スリザリンはここ6年間、ずっと『優勝カップ』を取ってきたわ。だから今年で7冠よ。

 これはホグワーツ史上でも中々ない偉業だわ。だから皆で頑張りましょう。スリザリンに勝利を!!」

 

 

 

「お姉様の言う通りに致します」

「強気な女はマジいいわ。母さんみたいだわ」

「…………健気美人最高……」

 

「zz……はっ! 寝てない!」

「……もう突っ込むのも疲れたんだが?」

 

 ベスは隣の金髪オールバックを見た。

 確かマルフォイとかいうガキだった。

 何か呆れかえっていた。

 やがて、歓迎会に疲れた生徒たちは各々散っていく。

 

 出来たばかりの友人とお喋りをする女生徒。

 元々仲間同士だったのか、気の合う友との再会を喜ぶ男子生徒。

 あるいは不安げにきょろきょろと周りを見渡していた子を、兄らしき上級生が手招きする――という、光景が見られた。

 

 未だポツン、と残っているのは金髪の少年と黒髪の少女――マルフォイとベスだけになる。

 

 何とも言えない数秒の沈黙――の末に。

 

 マルフォイがやっと言葉を見つける。

 

 

 

「…………純血っていうのは、本当だったんだな」

「だから言ったでしょ」

「あんまりにも怪しかったからつい……だから、その……。き、君もそこそこいい家柄なんだな!」

「さぁ? 叔母さんはあんまり言ってくれないから分かんないけど……でもしもべ妖精のティニーはいつも『ベスお嬢様は代々続く純血のお家柄でございますのに』って言ってるからそうだと思うわ」

「あぁ、しもべ妖精が居る家なのか……じゃあそれなりに名家だったんだな」

「知らね、どーでもいいわそんなん」

「フォ……?」

「私は純血だものそれでいいじゃないの。家なんか関係ないでしょ。パパは死んじゃったけどきっと立派な死喰い人で闇の帝王と共に戦っていたんだから。そんな凄いパパを育てた私の家が名門じゃないわけないでしょ」

「……」

 

 マルフォイは唖然とした。

 

 最早理論もクソもない超絶暴論。根拠も証拠もなければ願望しか存在しない妄想。

 

 だけど、ドラコ・マルフォイは。

 

 その考え方は嫌いじゃなかった。

 

 

「…………」

「何?」

「…………あぁ、もう鈍いな君は!! 握手だよ!!」

「分かり辛」

「るせぇそこのランタンみたくされたくなかったら大人しく握手しろボケ」

「吊るされたくないので全力で手を握ります。あくしゅーあくしゅー」

「…………」

「じゃあな寝るわ、おやすみ」

 

 

 ベスはさっさと握手すると女子側の寝室にダッシュしていった。

 取り残されるマルフォイ。

 

 

 

「ドラコ。遅い。何してる」

「ドラコ。夜。僕タチ……モウ寝ル……時間……」

 

 筋肉腰ぎんちゃくが現れてマルフォイを回収しに来た。

 だがマルフォイは動じない。

 

 握手したばっかの姿勢のままで。

 

 

 

 

 

「……け、結局僕は言いたいことの半分も言えてないじゃないか……!!」

 

 

 僕の父上も死喰い人だったとか、僕の家も名門だとか、母上は『あの』ブラック家出身だとか、僕の家にもしもべ妖精がいるとか……。

 言いたいことは山ほどあったのに。

 真っ赤になってうなだれるマルフォイに、クラッブとゴイルは語りかける

 

 

「ドラコ、あいつ、同じ寮」

「ドラコ、コレカラ……ズット一緒……話ス機会……幾ラデモ……アル」

「だから」

「ソンナニ落チ込ムナ」

 

 

 

 

 

「……べつに……落ち込んでない」

 

 

 

 

「本当に、そうか?」

「……嘘発見! 嘘発見!」

 

 

 

 

「うるさいぞお前ら! さっさと寝るぞ!! ついてこい!」

 

 

 

「ドラコ……待つ……」

「シャットダウンコマンド……」

 

 

 

 

 

 そして、スリザリンの談話室に人影はなくなった。

 

 

 

 






どんどん長くなってる希ガス…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔法薬の先生ェ…

 ホグワーツの階段はじっとしていない。

 

 尚、コレを設計したのは創設者たる絶世の才女、ロウェナ・レイブンクローその人であり本来動くべきでない階段を動かすあたりさぞ意地きたな……ユニークなユーモアをもつ女性であったことが窺い知れる。

 そのためホグワーツにはこの時期毎年恒例の行事が見られた。

 

 

「1年生ー! 1年生ー! 早く渡れ!! 渡るんだぁあああ!!」

「全員渡ったか!?」

「待って!ダフネが来てない!!」

「ふぇ……ふぇぇええん……皆ぁ……待ってよぉぉ……!」

「ダフネーー! 早くーーー!」

「駄目だ……もう……階段が……!」

「そんな……このままじゃ……ダフネが遅刻しちゃう……!」

「ふぇぇ……」

 

 

 階段の上にたった一人で取り残されるスリザリンローブの美少女。

 見捨てるべきか、それとも助けるべきか……と迷うスリザリンの1年生集団。

 スリザリン生は『初日から無遅刻』点を得るために、とりあえずホグワーツの地理に慣れるまで全員で集団行動という作戦を監督生のジェマの指揮の元でとっていた。

 

 だが、このままではせっかく積み上げてきた『初日無遅刻』が崩れ落ちる。

 

 ソレを阻止したのは――1年生の誘導に当たっていた。

 

 

 クィディッチのキャプテン――マーカス・フリントだった。

 

「くっ……おおおおおおおおおっ! 来いぃいいい! 『スリザリン代表』ぉおおおおお!!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

 

 スリザリン代表チームの行動は素早かった。

 全員がその場で――スクラムを組み始めたのだ!!

 それは人間吊り橋。

 離れた階段が―――今、繋がる。

 

 

「早く!! 渡るんだぁあああ!」

「長くは持たない!!」

「行け! 1年生!! 俺たちの屍を超えていけぇえええ!!」

 

 コレは――渡れる!

 

 そう確信した少女が先輩男子を踏みつけながら歩く。

 

 

「うぉおお……」

「美少女に……踏まれ……」

「ぎゃああああ! 腕がー!俺の腕がーー!」

「デリックぅううううう!」

 

 暴れ玉を司るビーターの腕が再起不能になるレベルで死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 地下室。

 今から魔法薬の授業が行われようとしていた。

 一緒に受講するのはグリフィンドール。宿敵と言うべき奴らだった。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……。スリザリン生は遅刻なし、か。初日だというのに全員揃って無遅刻無欠席とはすばらしい。スリザリンに20点! ……だがグリフィンドールは数名見当たらないようだな? 実に嘆かわしい、グリフィンドールから5点減点」

 

 

 

「マジか!」

「初日からかっ飛ばしますなぁスネイプ寮監www」

「…………露骨すぎて草も生えない」

 

 

 グリフィンドールから圧倒的なブーイングが起こった。

 スネイプガン無視。

 

 

 

「黙れ。この授業では杖を振り回すようなバカげたことはやらん。魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

 スネイプが話し始めた。

 まるで呟くような話し方なのに、誰も聞き逃さなかった。

 ――ひとりを除いては。

 

 

「zzz……」

「おい、ラドフォード……! 起きろ……!」

 

 

「沸々と沸く巨釜……ゆらゆらと立ち上る湯気……人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力」

 

 

「無理。ポエムマジで無理……zzz……」

「ふぉい」

 

 

「吾輩が教えるのは名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法であるーー……ポッター!!」

 

 

 スネイプが大演説とはなんの脈絡もなくハリーを名指しした。

 

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

「ざっくばらんな質問だ。ワカリマセン」

「……『有名』なだけではどうにもならんらしい。ポッターもうひとつ聞こう、モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」

「言い方」

「ナメているのかね」

「ワカリマセン」

 

「……はっ、『英雄』が……良い様だな? ではポッター。

 ベゾアール石とは何だ? どこを探せばあるのか? 答えろポッター」

「知りません。何かさっきからハーマイオニーが手を上げているので彼女の方に質問してみたらどうです?」

「今の物言いが気に喰わなかったのでグリフィンドール5点減点」

「うっわ最悪だこの教師」

「黙れ! 問いに対しまともな解答すら用意できないウスノロが教師に立て付くなどと立派な減点対象だ」

 

 

「ポッターうぜぇけどこれは正論」

「スネイプ先生の器が知れますねぇwww」

「…………小さ……」

 

 スリザリンからもハリーの肩を持つモノがあらわれた!

 これはゆゆしき事態。

 スネイプは更にスリザリンに得点を与えるべく――コレを解答できそうな生徒を探す。

 

 まずは、魔法族家庭で教育を受けてきただろうドラコ・マルフォイ、賢いと評判のセオドール・ノット。

 ここはマルフォイにしておこう、と金髪を探した時。

 

 

 ……マルフォイの横で爆睡する、美しい少女を見つける。

 

 

「…………え?」

 

「おきろラドフォードおきろラドフォード起きるんだぁああああ!!」

 

「ふぉい? ……ポエム終わり? あ、終わってる」

 

「……そんな…………いや……だが…………『どっち』だ……?」

 

 

「やだ寮監私の顔見て何か言ってるんだけど。なにこれ私が可愛いから?」

「そんな訳あるとおもってるのか!?」

「パパ譲りの顔が美形じゃないわけないでしょいい加減にしてよ。で、何ですかスネイプ先生」

「……あ、ああ、ではラドフォード……? 答えてみろ」

「質問の内容を一切聞いていませんでしたのでもう一回」

「こ、この不遜……この傲岸……! いいかラドフォード!!」

 

 スネイプがもう一回全部質問した。

 

 

 

「把握した。

 

 アスフォデルとニガヨモギはそれだけじゃ何とも言えませんけど多分『生ける屍の水薬』かと。多分な。

 で、モンクスフードとウルフスベーンは同じ。トリカブトの別名。ちなみにトリカブトとモンクスフードの語源はほぼ同じ。極東の島国かグレートブリテンかの違いってだけだわ。別名アコナイト。喰ったら心室細動で死ぬので注意。ベゾアール石は解毒薬でヤギの胃を掻っ捌けば出てきますおわり」

 

「素晴らしい。どこぞの怠惰で傲慢なグリフィンドール生とは違う実に勤勉でスリザリン。素晴らしいのでスリザリンに5て……」

 

 

 

「そう……つまり」

 

 

「ど、どうしたラドフォード……? もういいぞそれ以上喋らなくていいぞ」

 

 

「つまり……ベゾアール石は……『胆石』だったのよ!!」

 

 

 

「……」

 

 

 

 スネイプ絶句。

 

 所属寮スリザリンで、思ったより勤勉だったため一時期上がった評価が

 いま一瞬でスッと下がった。

 

 

 

 

 

 

「何だって!? ベゾアール石って……胆石だったのかい!?」

「きっとそうよハリー! だってだってヤギの胃の中からイキナリ魔法の石が出て来るなんて生物的に有り得ないじゃないの!」

「分からないぜ無から有を生成したのかもよ。魔法って大体そんなもんじゃないか」

 

 赤毛が介入。

 

「いや……ラドフォード……もう黙りなさい。よくやったからもう黙りなさい」

「だからそうよ……きっと胆石なんだわ!! ヤギは胃の中で胆石を作ることが出来るのよ! だってヤギだもの!!」

「ベスの中ではヤギって万能なんだね」

「君が正解だと思うんならそうなんだろうな、君の中ではな」

「じゃ何よ、尿路結石?」

「ベス、ヤギって胃の中で尿路結石まで作れるのかい?」

「はははっ、万能すぎてマーリンの髭も生えないよ」

 

「あなた達いい加減にしなさいよ!! ベゾアール石は何かの臓器が収縮したものよ!! 石なわけないでしょう!!」

「そうだグレンジャー! よく止めた! グリフィンドールに1点!!」

「ありがとうございます!」

「えー違うんですかスネイプ先生ー」

「吾輩の見込み違いだったようだ畜生が。ラドフォードは喋るな! マルフォイ、その娘を見張って居ろ!!」

「え、えぇ!? 僕がですか!?」

「最早貴様しかおらん!!」

「ふぉ!?!?」

 

 

「良かったなドラコ」

「お似合いカップルですなwwwひゅーひゅーww」

「…………リア充尻尾爆発スクリュート……」

 

 

 マルフォイが満更でもなさそうな面と化したとき、ハリーが反撃に出る。

 

「あー……ところで先生? 先生さっきおっしゃいましたよね?」

「何だポッター。グリフィンドール1点減点」

「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何かとおっしゃりましたよねスネイプ先生? だけど結局答えは『同じ物』だったわけですよねスネイプ先生? それって何ですかー? 問題として成立していないんじゃないですかー? 『違い』を聞かれたのに『同じ』だったわけですから違いなんかありません、てことになるじゃないですかあぁこれは問題として成立していませんねだってスネイプ先生は『違い』を聞いていたんですから僕は何も答えられないや!」

「……」

「まぁ、ハリーは実は何気に正解引き当ててたんだけどね」

「マジでかスネイプ最悪だな。つまりソレって最初っから……間違った答えを言わせて減点することが目的だったってことじゃない!」

「……」

「教師ってそうゆうことしていいのかなー今のは良くないと思います僕」

「好き好んで寮を減点していくなんてほんとうにスネイプ先生ってばマー髭な教師の鏡だよな」

「世の中の不条理というものをよく教育してくださるいい先生です。それこそが誠に学校で学ぶべきものだと思います。あとはカスとの付き合い方とかモラハラしてくるクソ野郎の躱し方とか、かしら?」

「ベスの言う通りだよ!!」

「悲報:魔法薬の授業クズとの付き合い方の処世術だった」

「この授業で点を貰えば貰う程人間として大切な何かがすり減っていくんだわ」

 

「グ、ググググ…………グリフィンドール10点減……」

 

「あら? 減点するのグリフィンドールだけなんですかスネイプ先生?? 私所属寮スリザリンなんですけど」

 

「……」

 

 

 そしてスネイプは。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの忌まわしい記憶が……! あの忌まわしい過去が……! あ、あいつらがあいつらがまた現れるなんて時空をさかのぼって奴らがまた降臨してくるとはああクソ……吾輩は……吾輩は……僕は……!」

 

「……あ、ちょっと言い過ぎたみたいだ」

「何とかしろよハリー」

「あんたならできる」

「えー……あのー……スネイプ先生……? 大丈夫ですか?」

 

 ハリーが本当に心配しているような目でスネイプを見つめた。

 

 

 

 

「クソ……クソぉ……全部あいつなのに全部あいつなのに目がぁ……目がぁぁぁ! うわぁあああああああああああリリぃいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 

「あ、スネイプ先生が地下牢を破壊して逃げてった!!」

「魔法薬の授業は教師不在のためここで終了です」

「お疲れさんしたー」

「あなた達なんて失礼なことしてるのよ!! スネイプ先生、泣いてたでしょう!?!?」

「ラドフォード来い!! こっちに!! 来い!! 僕が道理というものを分からせてやる!!!!」

「ドラコ、落ち着く、机、立っちゃ、いけない」

「ドラコ……机ヲコワスノ……ヨクナイ……」

 

「初日からこれとは」

「以降の授業が楽しみすぎる件について」

「…………寮監()」

 

 

 そんな感じでホグワーツ1日目の授業は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ハグリッド遊びに来たよ」

「ようこそハリー、まぁくつろいでくれや」

「ようスコラン野郎。遊びに来てやったわよ」

「帰れ」

「どうもロン・ウィーズリーです」

「ウィーズリー家の子か、またか。お前さんの双子の兄貴を追い出すのに俺は人生の半分を費やしちょるわ。その前のチャーリーはいい奴だったが、ドラゴンに関しては狂いまくって本当大変だった! マジで大変だった! まともなのは長男と三男ぐらいなもんだわ!」

「兄さんたちがハグリッドさんに大変ご迷惑をおかけしたようで大変申し訳ありませんでしたこれつまらないものですがどうぞ。食べられる草です」

「お前さんはこっちの奴は多少マシだな。5ミリくらいな」

「あら、それって何と比較してかしら?」

「お前」

「死ね」

 

 その後死ぬほど固いロックケーキとかいう異物を食わされた。

 

「うわ不味い。うちのしもべ妖精の方がよっぽどマトモなものを作るわよ」

「しもべ妖精?」

「叔母さんお料理苦手なの。だからしもべ妖精のティニーがゴハンを作ってくれたの。でも結局は英国料理だから炭と大差ないんだけどね」

「ははっ、ブルジョワの会話は聞いてるだけで虫唾が奔るね! いいスパイスさ! ロックケーキの味に深みが出るや!」

「黙って食ったらはよ帰れや」

 

 その後ハリーがスネイプの授業のことを愚痴った。

 大方スネイプうぜぇという内容だった。

 

「気にすんなハリー、スネイプは大抵の生徒は嫌いだ。そりゃ清らかかつ甘酸っぱい青き春を謳歌している若者に対する嫉妬と憎悪だ。お前さんも大人になればわかる」

「え? そうなの?」

「ねぇハグリッド。どうしてそこまで詳しく分析できるの?」

「刺すぞ」

「でも、ハグリッド。なんかアイツ……僕のことを本気で憎んでいるみたいだったんだ」

「馬鹿な、なんで憎まなきゃならん?」

「ねぇ……ハグリッド……僕の目を見て……」

「パチこいてテキトーなこと言って誤魔化すクソ大人が多すぎて何よりだわホグワーツ。ここマトモな奴は居ないのね」

「あははははっ! 君もね」

 

 実に薄汚い楽しいおしゃべりと共に繰り広げられるお茶会にともされる既に紅茶は冷え切っていた。

 まるで彼らの心の有様をそのまま物語っているかのようだった。

 ハリーはそこでティーポットカバーの下から1枚の紙きれを発見する。それは『日刊預言者新聞』の切り抜きだった。

 

 

 

『グリンゴッツ侵入される。

 

 あの狂気の沙汰としか思えない防犯システムを取っているグリンゴッツに強盗侵入。

 多分闇の魔法使いor魔女の仕業でしょう。そんな狂ったことをやるのは闇の魔法使いしかいないからです。闇の魔法使いはこの世のクズです、見かけたら即座に闇払いにアバダしてもらいましょう。

 尚、子鬼のグリップフルックさんは

 「荒らされた金庫は空だった。何が入っているかは言わない」などと意味の分からない供述しており今後の捜査が期待されます』

 

 

 

「ハグリッド! これ、僕の誕生日だ! 僕たちがあそこに居る間に起きたのかもしれないよ!」

「ねーよ」

「ねぇハグリッド! 私の『お辞儀基金』は大丈夫かしら!?」

「知らねーよ」

「僕からは特にいうことはないけど、ハグリッドがパチこいてるってことだけはハリーに伝えとくよ」

「お前さんは間違っておらんがもう帰れ」

 

 ハグリッドの心折のせいでポケットにロックケーキとかいう劇物を押し込められた3人はまたしても胃袋にモノを満たすためだけの夕食に遅れないように城に向かって走っていった。

 帰り際にハリーは考えた。

 

 金庫には何があったのだろう。

 スネイプについて、ハグリッドは何を知っているのだろう、と。

 

 

 ついでにベスも考えた。

 

 私のお辞儀基金本当に大丈夫か、と。

 闇の魔法使いが狙うグリンゴッツの金庫とは一体なにがあったのか――そしてそれは今、どこにあるのか。

 

 

 ロンも考えた。

 

 今度ベスに何か奢ってもらおうと。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

飛行訓練

『飛行訓練のお知らせ

 

 木曜日獅子と蛇が一緒にやるよ。よろしく』

 

 

 

 掲示板に紙が張り付けてあった。

 

 

「グリフィンドールと一緒かよクソが」

「よし、獅子寮の女のパンツ見たい放題」

「…………ねーわ」

 

 マルフォイがそわそわしていたので、ここぞとばかりにベスは話題を振ってやった。

 

「おはよマルフォイ。何か言いたそうにしてるわね喋ってみろ」

「フォイフォイフォイフォイ。何だいラドフォード、君も僕のホウキの話を聞きたいのか? しょうがないな、話してやるよ。

全く朝から何度話してるか数え忘れちゃったじゃないか。どいつもこいつもコレしきのことで浮かれるなんてさ」

「笑い方キモ」

「あーあ、どうして1年生はクィディッチのチームに入れないんだろうね。僕には全く理解に苦しむよ。危険だとかまだ体が出来てないとか言い張っているけど……魔法族の子供たちが今まで一度もホウキに乗ったことが無いなんて訳がないだろう? きっとコレはマグル出身のせいだろうな。あいつらはホウキなんて掃除にしか使わないと思っているからな」

「私乗ったことないけどな」

「おやソレはすまなかった。まぁ、君は女の子だからご両親も怪我をさせたくなかったんじゃないかな。綺麗な顔に傷でもついたらじゅ……純血の名家との結婚とかできなくなるじゃないか……」

「パパは死喰い人として誇り高く死んだし、ママはアズカバンだっつってんだろ何度言わすんだいい加減にしろカス。親にホウキの柄持ってもらって乗り方なんぞ教わったなんかことねーよクソが。ねぇコレで満足かしら?」

「あー……うん……。でも君はクィディッチは知ってるだろう?」

「大体な」

「そうだよな! ははっ! マグル出身の奴らはソレだって知らないんだよ! だからホグワーツに来て初めてクィディッチなんか目にするんだろうね可哀想な奴らだ」

「やっぱりマグルって雑魚なのね。なんで穢れた血なんて入学させるのかしらね。よしダンブルドアを殺そう」

 

 

 

「あの人達って何でああゆう話しかできないのかしら……」

「ハーマイオニー、早く早く! バランスを崩さないためにはどうすればいいんだい? 教えてよ僕不安で死にそうなんだよお願いだからお願いしますハーマイオニー大先生!」

「あ、あぁそうね……えっと……確かこの本には……」

 

 ハーマイオニーが必死こいて講義をしていると、フクロウがばっさばっさ飛んできた。

 マルフォイ家の鷲ミミズクが優雅に空を駆ける。それを目ざとくみつけたスリザリンの生徒たちがぞろぞろと集まってきた。

 

 

「おい、マルフォイ今度はまたスゲェな。高級チョコレートがドッサリきたぞ。これガチなやつだ」

「私これ欲しいなぁ……ねぇねぇ、ドラコ君? これくれない?」

「いいよ、別に。減るようなものじゃないしね」

「ありがとう~~。ミリーいっしょに食べようよぉ」

「かたじけない」

「ドラコ、うまい」

「オカシ……エネルギー……補給……」

「おい、ゴイルそれは箱だ。紙ごと食べるな、箱だっつってんだろおい。……おい……? やめろゴイル!!」

「ゴァアーーーー!!」

 

 ネビルが変な玉持ってた。

 

 

 

 

 

 午後三時。飛行訓練の時間になった。

 マダム・フーチという体育の教師が現れキリッと命令口調で声を出す。

 

 

「さっさとホウキの傍に立てウジムシ共!!」

 

 

 コレはイエス・マム! と返事をしないといけない系女教師だった。

 空気の読める奴は大抵把握した。

 

 

 

「右手をホウキの前に突き出せ! さっさとしろ!! チンタラするなウジムシ共!!」

「「「「イエス!! マム!!」」」」

「ホウキの横に立ったら『上がれ!』と言え!! ここで上げられん奴に飛行訓練をする資格はない!! とっとと寮のベッドに帰って寝てろ!!」

「「「「アイアイマム!!」」」」

 

 ネビルがもう泣きそうになっていた。

 こんな軍隊式なんて聞いてない。

 

 

「さっさと上げろクズ共が!!」

 

 マダム・フーチの気迫に飲まれた生徒たちが次々にホウキを上げていく。

 

 

「よし貴様等ホウキを持ったな!! マルフォイ! その気合いの入らん握り方は何だぁ!! 減点するぞ貴様!!」

 

「ふぉ!? 申し訳ありません!!」

 

「地面を蹴りあげ8メートルで静止! 2秒浮いたら即座に着地せよ! いいか! 私が1,2,3と言ったら始めろ!! 1,2……」

 

「すみませんネビルです。フライングしてしまいました。二つの意味で」

 

「ロングボトム!!」

 

「うわぁあああーー! 誰かー! 助けてーー!」

 

 

 ネビルが飛んだ。

 ホウキがどっかすっ飛んだ。

 ネビルが塔に引っかかった。

 ネビルが落っこちた。

 

「手首がぁ……ぼくの手首がぁ……!」

「痛そうですねロングボトム。全員傾注! これからロングボトムを医療テントに護送する!! 貴様等は全員そこで待機せよ!! 地面に足がついてなかったものは厳重処分とする!!」

「……」

「返事がないぞウジムシ共!!」

「「「「イエス! マム!!」」」」

「来い、ロングボトム……泣くな、男の子でしょう。安心しろ、すぐにポンフリー大尉が治してくれるはずですからね」

「……色んな意味で痛いよぉ……」

 

 

 ネビルの手元から落っこちたらしいガラス玉、思い出し玉をにぎったマルフォイがソレを見てからかい始めた。

 

 

「見ろよ皆。アイツの顔見たか? あのおお間抜け」

 

 

「見たわー超ウケた」

「クッソワロタwwww」

「…………落下注意」

 

「やめてよマルフォイ!」

「へぇ……ロングボトムの肩を持つんだ?」

「あら、パーバティったら、まさかあなたがあんなチビデブ泣き虫ドジに気があるなんて知らなかったわ。きっと明日には入籍ね。さっさと医務室にでも行って愛しい旦那様の腕でも撫でてくれば?」

 

 スリザリンの気の強い女子、パンジー・パーキンソンがおかっぱ頭を手櫛ですきながら言った。

 

「まぁ見ろよ。あいつの婆さんが送ってきた馬鹿玉だ。そうだ、コレをあいつの手の届k……」

「そいつを返せよマルフォイ」

「……何だポッター? また英雄気取りか?」

 

「英雄何か気取ってない。気取ったことなんか一度もない。

 だけど、ソレはネビルのお婆さんがネビルにあげたものだ。お前んじゃない……ネビルに返せよ」

「おいマルフォイ。今のハリーはガチで怒ってるぞ。僕どうなっても知らないからな」

「屋根の上に逃亡します」

 

 マルフォイがビビって屋根の上に飛ぶ。

 ホウキの操縦が上手いと自慢していたが、どうやらそれは本当だったようだ。

 マルフォイが飛んだのでハリーが下でロックオン。

 

 

「ハリーやめろ、やめなさい。退学になるわよ」

「なってもいいよ。身内との絆を馬鹿にしやがる野郎はブチ殺す」

「……なんて馬鹿なの……」

 

 本気モードになったハリーがかなり上手く飛び上がった。

 初心者とは思えない動きだった。おそらくは初心者詐欺であろう、いきなりマルフォイを箒の上から叩き落す勢いで突進していった。

 高度はおよそ10メートル、頭から落ちれば死すら不回避。

 

 ハーマイオニーという少女はヤレヤレと首を振っていたが、他のグリフィンドール生は喝采をあげていた。

 

 

 

 

「「「殺れーー! 逝っけぇえええ!!」」」

「グリフィンドールって……騎士道て……何だったのかしら……」

「決まってるだろハーマイオニー。将来闇堕ちしそうなクズをぶっ殺していくのが正義の味方の卵たる僕たちグリフィンドールの役割じゃないか!」

「……」

「ハリー! そんな奴やっつけちゃえ! 脳挫傷からのマー髭さ!!」

 

 

 

 

 

「ヤバいな、思ったよりポッター強い」

「僕の知ってる初心者の動きじゃない」

「ふぇぇ……ドラコ君死んじゃう……」

「南無三」

「ホウキ乗れるやつさっさと出ろカス。ここはドラコを助けに行くべきだわ。ブっ殺スイッチが入ってるもの」

「…………7メートル以下の低空飛行、ドラコにクソ玉投げさせて投げ返せ。アイツが玉追って来ればコレでポッターを落とせる。もしくはビビって空中停止。最悪でもポッターだけが空中に残れば僕たちが証言すればいい。おい全員話の用意しとけ」

「乗った。行くわ」

「ふぇ……? ベスちゃん……? 大丈夫なの……? ホウキ乗ったことないって言ってたのに……?」

 

 ベス発進準備。

 

「乗る訳じゃないし、テニスはやったことあるから行けるわ。ちょっとそこの角材貸して」

「分かった、持ってけ、ドラコ、頼んだ」

「幸運ヲ祈ル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭で薬剤物色中のセブルス・スネイプは見た。

 

「ん? 何だあれは……あぁ、ただのマルフォイか。そうか今日はグリフィンドールと飛行訓練だったか」

 

 それにしては高度高すぎじゃね?とは思いつつもスネイプはスルーしニガヨモギをマントの中に詰め込む。

 

「フム……上質なニガヨモギだ……。これならば良い魔法薬ができる。乾燥させ、乳鉢で刷り、粉末状にしてもいいな……いや、むしろ脱色し上澄みだけを使って……ふふふ……困った、困ってしまった。コレだけ質がいいと何に使うか迷ってしまうな……」

 

 内心いい材料が採取できたことにホクホク気分のスネイプだった。

 

 すると視界にあの忌まわしき眼鏡の姿が。

 

 

「ぽ、ポポポポポポッタァアア!? あの眼鏡! あの黒髪!? なぜ生き返っ――落ち着け吾輩落ち着け吾輩、眼鏡は死んだ眼鏡は死んだ……あれは息子ポッターではないか……うちのマルフォイと何をやっているというのだ……?」

 

 よく見るとマルフォイの手には何かが握られている。

 二人共1年生にしては別格のホウキの乗り方だった。だが、心なしかマルフォイの方が飛び方が安定していない。おそらくは思った以上に上がってしまったのだろう、ここまでの高度は飛んだことが無いのか、細かく震えているようにも見えた。

 スネイプは杖を構える――イザとなったら墜落する前に浮遊させなければならない。自分にはその義務があると確信したのだった。

 

 良い着地地点を目で探していたところに。

 

 

 またも見覚えのある少女の姿が。

 

 

 

 

「マルフォイ!! こっちだ投げろーーーー!!」

「え? ら、ラドフォード……? ぼ、ぼぼぼぼ僕に命令するな!!」

「早くしろ!! ハリーにぶっ殺されんぞ!!」

「は、はははっポッターに殺される僕だと思っているのか!?(高い怖い超怖い……だがソレはポッターも同じだ!)」

「マルフォイ、懺悔の用意はできてるか? 神様へのお祈りは済ませたか? 来いよマルフォイ、落としてやるよ……地獄までなぁああ!」

「フォオオオオオオオイ!!」

 

 マルフォイ渾身の遠投。

 ビビったマルフォイは真っ直ぐに斜め下に居るベスに向かって『思い出し玉』をぶん投げた。

 重力加速も加わり玉はスピンしながらベスへと直進する。

 

「おっしゃ行くわ」

 

 ベスは角材を構えた。後ろには思い出し玉を追ってくるハリーの姿がある。

 

 

 ベスは角材をまるでバットのように振るうと。

 

 思い出し玉をそのままハリーに向かって打ち返した。

 

 

 見守っていたスリザリン勢から喝さいが上がる。

 

「すごいよベスちゃん! すごいすごいー!」

「ようやるわ」

「……ここでポッターに当たって死ねば御の字。どの道奴はここでバランスを崩すハズ。そのスキにドラコを降ろせ。あとは言いくるめ合戦だ」

「腐れ外道だなノット。嫌いじゃないぜ。

 ……あー……けど見ろよ、ポッター……あいつ……避けたぞ……?」

「…………マジ……?」

 

 

 

 スリザリンの温度が下がっていく。

 

 

「……そのまま飛んでキャッチしちゃったよ……」

「やはりあの者も妖の類か」

 

 ミリセント・ブルストロードが感慨深げにつぶやいた。

 

 とか言ってたらマクゴナガルが城から出てくる。

 

 

 

「ハリー・ポッター! ここに来なさい!!」

「……すまない、皆僕はここまでだ。皆……後は頼むよ。ネビルに伝えといて、思い出し玉大事にしてねって……」

 

 グリフィンドール総敬礼。ただしハーマイオニーだけは「だから言ったのに…」と空を見上げていた。

 

「ラドフォード!! 来い!! ここに!! 今すぐ!! ここに!! くるんだ!!」

「飛んでたのはそっちのマルフォイです」

「ぼ、ぼっぼぼぼ僕は飛んでないったらありません……」

「は? 何言ってんの意味わかんない飛んでたのお前だろさっさと自首しろ」

 

 

「「「「ベスが勝手に飛びました」」」」

 

「え、ちょ」

 

 

「僕たち止めたのに」

「ポッター殺すとか言って」

「ベスちゃんが勝手に」

「飛んでいきおった」

 

「こ……この裏切り……!」

「連行」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもこんにちわ。マクゴナガル先生に呼ばれるような気がしたのでクィレルの後頭部をヘコむレベルで殴ってきましたクィディッチ赤獅子寮キャプテンのオリバー・ウッドです。

 マクゴナガル先生この子がシーカーですね」

 

「流石ウッドです。その通りです。この子は今日初めてホウキに乗ったにもかかわらず至近弾をバック回転回避し、さらにはそのまま16メートルダイビングキャッチしてかすり傷一つ負わなかったのです」

 

「……?」

 

「早速校庭に行こう、君のその素晴らしいダイビングキャッチを見せてくれ。授業?そんなもん知るかそんなことよりクィディッチだ!!」

 

 

「任せなさい1年生の試合禁止という規則は私がダンブルドアを殴ってでも曲げさせます。この子は最高のシーカーになりますよそう……チャーリー・ウィーズリー以来の! 早速ホウキを買ってきます」

 

「(ロンのドラゴン狂いのお兄さんだ……脳筋族だったんだ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、恐らくあのババアは考えてくるだろう」

 

「もう痴呆始まってんじゃね?」

 

「いや、あのババアは昔からあんな感じだった。基本的に人の話を聞かない上に、強引で手段を択ばないところもある。更には筋金入りのクィディッチ狂」

 

「マジかハリー死んだなやったぜ」

 

「恐らくはあのポッターをシーカーに、と推薦するつもりだろう。

 分かる……吾輩には分かる……アイツは……あの眼鏡は必ず化ける……化けるんだ化けるんだホウキに乗ってうわぁぁああ消えろ眼鏡の幻影眼鏡の幻影眼鏡の幻影ぃいい!」

 

「帰ります」

 

「帰るな。

 そうゆうわけだから選べ、今すぐここでフーチにチクられて退学になるか――それともスリザリン代表のビーターになるかを!!」

 

「正気か」

 

「何故かデリックの腕が人として曲がっちゃいけない方向に折れていたのだから仕方あるまい。代役が必要なのだお前にならばそれができると思う。吾輩もびっくりだよ。なんで折れてるのいつ折ったの」

 

「ダフネのせいです」

 

「……え?」

 

「まぁいいけど、私いままで殆どホウキなんか乗ってこなかったんですけど大丈夫かしらね? 上で玉打つほうには自信あるんだけど」

 

「恐らくお前にはクィディッチの才能があるから大丈夫だと吾輩は見た。あのポッターと同じでな。生まれつき才能のある人間は確かにいるのだから自信を持て」

 

「勇気出た。。。わかりましたやります。じゃあの」

 

「吾輩……ニガヨモギ……全部……台無し……ニガヨモギ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳でスリザリン代表になるっぽいわ。いいでしょ」

 

 

「マジ」

「マジか」

「マジカル」

「…………こんなん……予想できるか……」

 

 夜中、スリザリン寮談話室は1年生が集合していた。

 

 

「ベスちゃんすごーい! 1年生なのに代表選手なんてすごいね~~はいこれドラコ君のおかし」

「ありがとう。で、そのマルフォイはどこに居るのかしら?」

「もう寝た」

「早。どうしようもねぇなこれだからお坊ちゃんは」

「あとコレ内緒らしいから皆言っちゃだめよ。いいわね絶対だからね」

 

 

「わかった」

「任せろ」

「………………イエスユアグレイス」

 

 

「ところで夕食の時だけど……なんかマルフォイ、ハリーに言ってたわよね? アレ何を話していたの?」

「あぁ、アレはね。ポッターと決闘する~なんてパチこいて来たのよ。真夜中の出歩きは規則違反でしょ? 上手くすれば退学、悪くても罰則くらいにならなる、なんて思ったんじゃないの?」

「馬鹿? そんなん引っかかる奴いる訳ねーよ」

「これで引っかかったら苦労しないわよね」

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

 

 ハリーとロンはまさしくソレに引っかかり首が3つくらいある訳わからん化け物に出会っていたが、ベスがそんなこと知る訳なかった。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハロウィーン

(……どうして……こうなった……?)

 

 

 

 聖域。

 

 トロール。

 

 震えている栗毛の少女。

 

 

 

 

(なにがなんだか、わからない……?)

 

 

 ベス・ラドフォードはトイレに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィン。

 

 それは、特に食ってもおいしくない南瓜の中をくりぬき光源にし。

 子供たちはお菓子かいたずらかの究極の選択を善良かつ何の罪もない大人たちに迫る日である。

 尚、お菓子は全てメイドインイングランド。

 美味しかったらそれは奇跡。

 

 

 そんな感じで一心不乱にお菓子を貪り食っていたらクィレルとかいうターバンが本体な奴が入ってきた。

 

 

「トロールがぁああああ! 地下室にぃいいい!!」

 

 静まり返る大広間。

 

 

 

「お知らせす……スヤァ……」

 

 

 

「死んだ」

「次の闇の魔術に対する防衛術の先生は上手くやってくれるでしょう」

「ロックハートとかいうイケメンが来るらしいよ」

「万事解決」

 

 

 

 勝手にクィレルを殺そうとする生徒たち。

 それをダンブルドアが杖の先から爆竹を生成し、生徒共にブチかましながら吠える。

 

 

 

 まさしく老いても眼光の衰えぬ猛獣――獅子吼の校長。

 

 

 

「しぃいいいいずぅうううまぁぁああれぇええええええええええええええええ!!!!」

 

 

「黙ります」

「黙りました」

「これがホグワーツ……」

 

 

 

「皆うろたえるでない。先生方はトロールの捜索じゃ。監督生はすぐさま下級生を引率して寮に戻るように」

 

 

 

 ロンの3番目の兄、グリフィンドールの監督生なパーシーは、まるでウォーターをゲットしたフィッシュの様だった。

 コイツがゲットしてるのはクリアウォーターだったけどな。

 

 

 

「グリフィンドール! 監督生の僕についてきて!! 1年生は固まって! 監督生の僕の言う通りにしてればトロールなんて恐るるに足らず! 監督生の僕の後ろに着いてきて! 監督生の僕に道を開けて! 監督生の僕と1年生を通して! 監督生の! 僕に!! 道を!! 開けて!! 僕は監督生の監督生の監督生です!!」 

 

 

 

「うっざ」

「うっせ」

「監督生とは何だったのか」

「誰だよトロールなんか入れたの」

「知らね、クィレルじゃない?」

「マジかよあのターバン。自作自演とかクソだな本当」

「心配ないわ、いずれフリットウィックあたりにアバダアバダアバダされるでしょ多分」

 

 

 

「あ、この流れるような罵倒を止めるハズの……ハーマイオニー居ない!」

 

 ハリーがやっと気づいた。

 

「多分さっきロンが『ハーマイオニーなんかボッチ』って言ったこと気にしてるんだ!!」

「やっぱ僕のせいか。で、今どこに居るって」

「どうもグリフィンドールの方の双子のパーバディです。ハーマイオニーはそこの腐れド貧乏地味赤毛が『ボッチ』とか悪態付いたのでトイレで一人でしくしく泣いているっぽいわ、尚私は、身内でもない奴危険を冒して助けに行く気は毛頭ない」

「ロン! じゃあ僕たち助けに行かなきゃ!!」

「……で、でも僕あいつにひどいこと言ったしその……」

「ロン、男だったら責任取れ。大丈夫僕も一緒だから」

「ついていきますハリーの兄貴!!」

 

 

 

 一方スリザリンでは。

 

 

「と、トロールだって……トロールだって……!? 冗談だろ嘘だろありえないそんなありえないそんなことは有り得nnnnnn」

「ドラコが精神崩壊しかかってる件について」

「精神崩壊なんかするわけないわけないし僕がそそっそそそそんなことで恐れるとか有り得ないこともないこともないなんてわけないじゃないかぁ!!」

「お前何言ってんのか分かんねーよ」

「……………あ、展開読めた」

「ふぇぇ……ミリー怖いよぉ……」

「然り、恐れて尚只黙して時を待つのも良し――武士とはそのようなものだ」

 

 ミリセント・ストロング・ブルストロードは一人で肝が据わっていた。

 

 

「まったくトロールの侵入を許す? トロールの侵入を許す、だって!? そんなバカな話があってたまるか。父上に言いつけてやる……全くもって許しがたいよ。本当もう怖いからやめて下さい。ダンブルドアは何を考えているのか全然分からない――こんなんだから穢れた血の入学なんか許すべきじゃないんだ、なぁラドフォード。

 

 ……あれ? ラドフォード」

 

「ドラコ、ベス、いない」

「温熱センサー稼働中……」

 

 

「え? えっ? えぇ!? なんで……ら、ラドフォード!? い、居ないの!?!? なんで!?」

 

「ドラコ君、ドラコ君……あのね、ベスちゃんね……言ってたの。

『私、今日便所飯するから』って……」

 

 

 

 

「正気か!?!?!?」

 

 

 

 

「作用、あ奴にとって便所とは即ち聖域――この神聖なる日を聖域で祝いたかったのであろう」

 

 

 

「今日は!! ハロウィーンだぞ!? ……ハロウィーンの日だぞ!?!?」

 

 

 

「何言ってるのよ、あの子、基本朝昼夜は便所飯じゃない。知らないの?」

「知る訳ないだろう!? てっきり僕は君たち女子と食べているのかと思ってたんだぞ!?」

「わ、私もそう言ったんだけど……ベスちゃん……宗教的な理由で聖地の方向を向いて食べないといけないからって言ってて……」

「信じたのか……? 君はそれを信じたのかダフネ・グリーングラス!!」

「お、大きな声出さないでよぉ……! どうしよう……どうしよう、ベスちゃんトロールのこと知らないよ……」

「出陣か?」

「ノット!! ノットはいないかーー!? ノットーーー!!」

 

 

 

 

「1年生遅れないで! 早く寮に戻りなさい! ……ってあれナニシテンノお前ら」

 

「………………なんかそうゆう訳なんで女子トイレの探索に行ってくださいジェマ様」

 

「……マジデ……? あぁもう! 分かったわよ!! 1年生は出来るだけ上級生にくっついて戻りなさいよ! 下級生を助けに行くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベスはトイレで今日も充実したスーパー便所飯をやろうと思っていたのだ。

 

 たった一人になれる、個室。

 あぁ、なんて贅沢な空間。

 

 こんな場所で誰にも見られずにひとりで食べたいものを満喫できる幸せ……。

 

 ベスはそんな喜びをかみしめていた。

 

 

 のに、

 

 

 

 簡単に言うと汚れた靴下と掃除したことないオッサンの部屋のような息するだけで目が酸っぱくなりそうな、くっせー臭いが漂ってきて洗面台をガッシャンガッシャンぶっ壊していた。

 臭い五月蠅い破壊神。まさに三重苦。

 

 

「やだ……私の『ハロウィーン限定☆おひとり様リア充♪便所飯』が台無しに……」

「きゃぁぁあああーーーーっ!」

 

 

 女の子の悲鳴が聞こえた。

 ベスは、はっとして音源を見る。

 

 ……見覚えのある栗毛の少女が恐怖で口をあけたまま硬直していた。

 

 

(えーっと……グリフィンドールの……)

 

 

 地味にマトモなヤツだ、としか思いつかなかった。

 

 

「こっち!!」

「た、助けて……!」

 

 

 完全にデカブツにロックオンされた彼女は怯えて動けない。

 尚、叫び声でビビってる模様。

 

 そこでベスは、今日はハロウィーンだ、ということを思い出した。

 

 

 

「このクィディッチ練習中な腕で……お菓子を投げるわ!!」

 

 

 良いコントロールだった。

 お菓子(百味ビーンズ)の箱をトロールの顔に投げる。

 お菓子の箱は潰れ、百味ビーンズがトロールの顔面に飛び散った。

 続いて便所飯にしようと思っていた南瓜のパイを投げる。

 

 トロールの顔面が美味しそうになった。

 どうやら一時的にちょっと満足したらしい。トロールほっこり。

 

 

 

 栗毛の少女は個室と個室の下を必死にかいくぐってベスの方向までやってきた。

 

 

「あ、あなた……スリザリンの……」

「ハロウィーンの夜にこんな所で何してたの!? もしかして同志?」

「え……な、泣いてた……」

「そうね、トイレは聖域だものね!」

 

 意味不明なことを言うベスにハーマイオニーは絶句していた。

 今トロールの視界は塞がっている。

 チャンスは今だ。

 

 

「ねぇあなた! 一緒に逃げましょう! 今のうちに……」

「…………無理」

「なんで!?」

「…………できないの」

 

 ハーマイオニーはどうして、と怒鳴りつけようとし――――気づく。

 ベスの腕に、傷が出来ていることに。恐らくは先ほどの洗面所の破片が刺さったのだろう。

 聡明な彼女は理解する。ハーマイオニーだけなら個室の下から這い出せるだろう。

 だがベスの傷では……匍匐前進は叶わないと。

 

「だからお願い、助けを呼んできて。私はここでトロールを引き付けているから」

「何よ……何よそんなこと言って……!」

「大丈夫よ。私これでも死喰い人見習いなんだから。闇の魔術とかいっぱい本読んでるんだから」

「……でも……!」

 

 迷うハーマイオニーに、ベスは激高した声を上げた。

 

 

 

 

「早く行きなさいよ!! この『穢れた血』!!」

 

 

「……っ」

 

 

「あなたと違って私は純血なんだからこんな馬鹿で間抜けですっとろいトロールに負ける訳ないでしょ!!

 早く行きなさいよ!! マグル生まれのあなたなんか要らないのよ!!」

 

「……」

 

 

 

 くるり、と栗毛の少女は踵をかえし。

 

 這いずり回りながらトイレの個室から脱出した。

 

 鍵の壊れたトイレはもう開くことはない、唯一の手段は上から脱出すること。

 だが腕を汚した自分にはもう――それは不可能だろう、とベスは悟った。

 あとはただ、時間との勝負。

 

 トロールの視界に入らない様に――瓦礫でカムフラージュしつつ、息を潜めているしかない。

 

 

 

 

 

 

「……これで、良いのよ……」

 

 

 

(どうせ、誰も来てなんかくれない)

 

 

 

「……穢れた血なんかに頼りたくないじゃない。あんなのと一緒に戦うんなら死んだ方がマシだわ」

 

 

 

(あの子にはちゃんとマグルでも『親』が居るんだから……あの子を心配するパパとママが、居るんだから)

 

(まぁ、マグルだけどな)

 

 

 

 

「私、本当純血で良かった。マグルのクズが親なんかじゃなくって、良かった」

 

 

 

(……もう、私にはパパもママも……居ないんだから)

 

 

 

「……だからいいのよ。私……どうせ……」

 

 

 

(……ひとりぼっち、なんだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝手に悲しい気持ちになり下がり、ベス一人で勝手に諦めようとした。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーモス・マキシマ!!」

 

 

 光り輝く閃光が、トロールの視界を真っ白に塗りつぶす。

 せっかくお菓子もらって多少良い気持ちだったトロール激おこ。

 

 目の潰れた一瞬の隙を狙って、誰かがレダクトを叫び個室のドアを木っ端みじんに帰す。

 

 

 

 

「もしかして入学初日、寝てたの? 私言ったでしょう?

 

 スリザリンは皆、兄弟姉妹だから上級生を頼りなさい――って」

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

「ベス、こっちに来い!」

「ようやったわ」

「トロール絶殺」

「侵入して女子トイレに直行でロリ襲うとか……ふぅ、良いご趣味です」

「一切隙のない素晴らしい行動だと思います」

「流石変態界の先導者トロールさんだぜヒャハー!」

 

「なんでトイレに居たのか聞かないでおいてあげるからさっさと出してあげなさいフリント」

「はい姐さん」

「なんで……」

 

 クィディッチ寮代表キャプテンに救出されながらベスは半分涙目で後ろを見る。

 

 

 そこには見知った栗毛の少女、そして赤毛と黒髪眼鏡。

 

「穢れた血……? どうして……」

 

「そ……そんなの! 助けを呼んできて、って言われたからに決まっているでしょ!」

 

「ハーマイオニーさんの頼みを僕が断る訳ないね!」

「アレだけ頼まれればね。スリザリン生と一緒で良かったよ」

 

 

 錯乱状態になったトロールがこん棒を振り上げる。

 トロール監視中のグリフィンドール1年生×3がさっと杖を振り上げた。

 標的はもちろん――前方4メートル級トロールだ。

 

 

「「「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」」」

 

 

 トロールが。

 

 浮く。

 

 

 

 

「「「「「インカーセラス!!!!」」」」」

 

 

 スリザリン上級生たちの呪いが炸裂。

 (フリント以外の)5人の杖から光線が迸り、宙にあげられたトロールに衝突。

 インカーセラスは縛れ、の意味。

 

 無からロープが現れ、トロールの肉体を拘束する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ……これは……!」

「き、きききき……」

 

 

 

「「「「「亀甲縛り……!」」」」」

 

 

「おい、誰だこんな縛りにした馬鹿は!!」

 

 スリザリンの女将軍キレる。

 

 

「いや……インカーセラスって言うから……」

「俺ちょっと縛りかた研究してました」

「縛るって言うから……なぁ?」

「トロールのぉおお! 亀甲! 縛りだぁあああ!!」

 

「テメェら一直線に並べ、一人ずつアバダしてやる」

 

「「「「「ありがとうございまぁす!!」」」」」

 

 

 これがよく訓練されたスリザリン。

 

 

 

「……何か……ごめんなさい……うん……」

「あー、ハーマイオニー? 僕君になんか酷いこと言ったような気がするんだけど今この状況を見たらかつての自分がとても小さいもののように思えたよ、もっと大きな男になります」

「いい様だね。じゃあ皆帰ろっか」

 

 ハリーはケラケラ笑っていた。

 

「クソなんて羨まし……じゃない、ベスは見ない方がいいと思って目を塞ぎます」

「素晴らしいじゃない! いいオブジェだわ!! コレはトイレの持つ空間的な美しさをより立体的に表現することができるわ!! ねぇ、コレに蝋燭乗っけてシャンデリアにしましょうよ!!」

「汚ねぇシャンデリアだぜ……へへっ、そうゆうの嫌いじゃないね」

「流石キャプテン!」

 

 フリントが杖の先から蝋燭を出現させ、トロールを芸術的に飾った。

 屈辱に悶えるトロール。

 

 

「……素敵……」

「フリントすげー」

「流石キャプテンじゃんすげー」

「女子トイレに躊躇なく突入しただけあるわー」

「もうやだ……私……私……」

 

 ジェマが失神しそうな顔色で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 やがて騒ぎを聞きつけたマクゴナガルが現れた。

 そして、天井に吊り下げられミゴトなシャンデリアと化しているトロールの姿に目を剥く。

 数度目をこすり、それが幻覚ではないと確信したマクゴナガルがスリザリン生を「マジか」という目を見つめ……。

 

 

 

 

 

 

「……成る程、この状況が……分かりました。

 

 とりあえず、ケガ人なミス・ラドフォードをポピーのところへ連れていきなさい。

 そして……。

 

 

 

 スリザリン50点減点!!!!」

 

 

 

 という公正なジャッジを下していた。

 その実ちゃっかりグリフィンドール3人は1人5点な合計15点の得点を貰いそそくさと帰って行った。

 理由は「仲間を助けに行ったことと、幸運評価」とか寝ぼけたこと言ってた。

 

 

 

 

「……あ、あぁ……優勝杯が……! 7冠達成の優勝杯が……! わ、私の代で途絶えてしまうと言うの……!? 50点て……50点ていくらなんでも酷……。

 え? な、何よベス……? ……そんなすりすりしなくてもいいのよ? 抱き着いてこなくてもいいのよ、べつにあなたを責めてるわけじゃないんだからね……無事で本当に良かったわね……うん、もう……それでいいや」

 

 

 

 

 







ストックが切れました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クィデッチ

 昔、とある銀河系の一つの星にて……。

 

 

 ある者が「箒乗ってバスケしよーぜ」と言った。

 ルールはどっちかというとキーパーがいる辺りフットボールに近かった。

 

 それはクアッフルという、ただの玉を皆で転がしあい、スニジェットというやたら早くて美しい鳥を握りつぶせば試合が終わるという……何の変哲もない、スポーツだった。

 

 

 その日までは。

 

 

 

 ある試合のことだった。

 いつもの様に、クィディッチやろうぜ! と集まり、各自ボールとったり回したり鳥を絶滅寸前まで追い込んだりしていた。その時。

 

 

 

 ひとりのトチ狂った馬鹿が、相手に向かって魔法をかけた岩をぶっ放したのだ。

 

 

 どう考えても反則、リンチものだろと思うが基本的にイカレている魔法使いはそれを承認。

「いいぞ、おもしろいもっとやれ」

 やんなくていいのに煽った。クソが。

 

 

 と、同時に誕生したのがビーターという役職であり。

 

 ビーターとはすなわち

 

 ただでさえ危ない、高速上空空中機動スポーツを更に危険にした戦犯ともいえるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上、キャプテンフリントのクィディッチ講座でした」

「初めに暴れ玉考えた奴マジ狂ってるな、余計なことしてくれやがって」

「俺もそう思う。まぁ、ベス。お前の仕事はただ一つ、凄くシンプルで簡単だ」

 

 フリントはベスの目線の高さまで屈みこみ、少女のまだ華奢な肩にすとん、と手を置いた。

 

 

 

 

「要はハリー・ポッターをぶっ殺せば試合終了だ。な? 簡単だろう?」

 

 

 

 

 

「よっしゃ任せろやる気でた」

 

 ベスは至極分かり易い試練にこくり、と頷く。

 

 

「おっしゃ殺すぞぉおお!! 野郎共ぉおおお!!」

 

 

「おー、ベスはやる気だなー」

「我らが便所娘に怪我させんじゃねーぞーー分かってんだろーなー」

「デリック……おまえの敵は討つ……」

「ふっ……疼くぜ……この右腕がスニッチを掴めと言っている……!」

 

 気合いの入れ方は各自違った。

 

 

 

 

「貴様らは何だッ!?」

 

「「「「我らスリザリン! ホグワーツ最強の末裔なり!!!!」」」」

 

「貴様らの敵は何だ!?」

 

「「「「獅子の皮を被った猫! グリフィンドールの案山子共!!」」」」

 

「時は来た! 箒を掲げろ!! 柄を起こせ!! 純血の誇りの名のもとに、奴らに身の程を教育してやれぇえええ!!」

 

「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」

 

 

 

「ナニコレ胸熱テンション上がるわ」

「あー、伝統っぽい。伝統は大事だからな」

「成る程、過去の栄光と妄執に固執するのね、流石英国」

「そうそう。ほな行くでー」

 

 

 

 

 

 スリザリン勢出陣。

 

 尚、グリフィンドールでもその時オリバー・ウッドがほぼ同じことを言ってたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『という訳でーー! 始まりましたぁーー! 第一回ホグワーツカップ第一戦! 空はカラっと晴れた晴天微風。気温は平年どおりのコンディションです。いやーマクゴナガル先生、晴れて良かったですねー!』

『解説のマクゴナガルです。このような天気に恵まれたことを大変うれしく思いますね』

『マクゴナガル先生はこの日の為にてるてる坊主を大量に暴れ柳に吊るしていましたからね。あれは怖かった』

『ガタガタ抜かすなテメェも吊るすぞ。真面目に実況なさい』

 

 

 

「やぁベス! 敵同士だね。でも頑張ろう」

「ハァイ、ハリー! あなたシーカーなんですってね! 全力で叩き落すからそのつもりでね!」

「えー何か怖いな。お手柔らかにね!」

 

 

 

 試合開始。

 

 マダムフーチのやる気バリバリの号令と共に比較的普通のボール、戦犯、元鳥が放たれた。

 

 

 

 

『先攻はグリフィンドール! 赤球はグリフィンドールからです! なので自動的に暴れ玉はスリザリン! えー……スリザリンですが何とディックが人間として折れちゃいけない方向に腕が崩壊したので何と今年は新入生、1年生のエリザベス・ラドフォードを入れるという斜め上の采配となりました! スネイプロリコンじゃねーの?

大変かわいい美少女です。あの綺麗なお顔がブラッジャーに轢き潰されると考えるといささかゾクゾクします』

『あ?』

『冗談です。そしてボールはアンジェリーナに。なんて素晴らしいチェイサーでしょう。超可愛い、今度デートして』

『おい』

『ジョーダンですHAHAHAHAHA!』

 

 

 アンジェリーナ→アリシアにボールが回る。

 そこにスリザリンキャプテンがパスカット。そのまま鷲のように舞い上がる。

 

 

『フリント速いです! 速すぎるッ! このままゴールか……おーっと立ちふさがるはグリフィンドールキャプテンオリバー・ウッド!! まさかのキャプテン対決です!

 フリント――――破れたぁぁああ! 非常に惜しかった!!』

 

 

「ベス! ブラッジャー寄越せ!!」

「ほい」

 

 ベスは相方のビーター。ボールへとブラッジャーを回す。

 ボールがバッドを振るうと、ケイティ・ベルの後頭部に思いっきり投げつけた。

 殺人的な速度だった。

 ブラッジャーは風を切り、空をかけ、周囲の空気を巻き込みながら旋回し、ケイティ・ベルの後頭部を狙う。

 

 そして――

 

 

「あ痛」

 

 

 金属同士がぶつかり合うガッキーンという音と、いくつか火花が軽く散り、ケイティはクアッフルを落とした。

 尚本人は箒からすべっても居ない。

 

 

「あの石頭め……」

「人間じゃない……」

「ベス、こんな感じでポッターを殺すんだ。いいか? 人の頭を殴ることに躊躇するなよ? そんなことじゃクィディッチなんかやってられないからな」

「狂気じみてるな……そうゆうの嫌いじゃないわ」

「心配するなお前は俺が守ってやる」

 

 ベスがハリーを見ると――一人高みから戦場を睥睨しているようだった。

 尚、シーカーはボコられやすいので初心者ポッターはとりあえずスニッチ掴むまで怪我しないように温存しとけというウッドの指示らしいがベスはそんなこと知る訳ない。

 思い出したのはキャプテンフリントの言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベス。この『スニッチ』という球なんだが……お前どう思う」

 

 

「どう考えてもバランスブレイカーだわ。一回取っただけで150点も入るとか舐めてるとしか思えないもの」

 

 

「そうだ。しかもそこで試合が終了する……。ちなみに昔はマジで生きている鳥を使っていたらしいぞ」

 

「怖」

 

 

「掴まれたら死、ブラッジャーに当たっても死。スニッチがスニジェットだった時代――それはもう、圧殺とか苦しい死に方したくない鳥は死にもの狂いで本気になって逃げたらしい」

 

 

「でしょうね」

 

 

「そいつらを追いかけ、クィディッチというゲームと何の罪もないただ懸命に毎日を生きていた小鳥の命を終わらせるのが『シーカー』だ。つまり150点というのはかけがえのない、尊い命の重みだ」

 

「にしちゃあ安過ぎないかしら? マグル並じゃないの」

 

「気にすんな代わりなんぞ幾らでもある」

 

「世知辛いわね」

 

 

「つまり『シーカー』というのはゲームを終わらせ150点の得点を入れる奴だ――――これが、どうゆうことだか……分かるな?」

 

「なるほど分からん」

 

 

「ハイ無能発見。死んどけマヌケ」

 

 

「お前がな」

 

 

 

 

 

 

 

「いいか――つまるところ『シーカー』というのは……。

 

 

 

 英雄か、戦犯。常にそのどっちかにしか成れない――そんな存在なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

「勝てば英雄だが、負ければ戦犯だ。そんな孤高にして孤独な存在……それがシーカーなんだよ。つまりこの狂気に満ちたゲームの中で一番狂っている――キチガイだ。べス」

 

 

「お、おう……」

 

 

 

「だから奴らに許しは乞うな――そして哀れみもするな。躊躇や容赦をしていて勝てる相手ではない――――いいな?」

 

 

「分かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーカー死すべし慈悲はない。おぁあああああああっ!!」

 

 ベスの吶喊攻撃。

 スネイプに無理言って買わせたクリーンスイープ7号が、高速のニンバス2000の軌道上に急降下し、その背中を目がけて体を叩き付ける!!

 

 

 グリフィンドールから惜しげもないブーイング!!

 

 

 

「おいコラ腐れビーターぁああ!」

「反則だ吊るせーー!!」

「死ね!! 死んで地獄の業火に焼かれ続けろ!!」

「この腐れ××××ーー!!」

「ふぁっきん」

 

 

 

 

 試合が一時中断。

 

 ベスはゴールから這い出してきた怒りのキーパー、オリバー・ウッドと言う名のメッチャ怖い、5歳位年上のお兄さんに死ぬほど怒鳴られ、涙目になっていた。

 クィディッチの前には性別も年齢も関係ない。女子供であろうと容赦のない世界がそこにあった。

 

 べそべそと涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしているベスへキャプテンフリントが肩を叩く。

 

 

「キャプテン……ごめんなさい……」

「個人的には良くやったと言いたいぞ、ベス。お蔭でポッターはスニッチを見失った」

「うん……ハリーが鳥さんを……殺しちゃうと思って……」

「だが、バッド持ったまま直で頭カチ割りに行くのはどう考えてもアウトだった。だが心意気は買おう。そしてアレは元鳥な。今無生物だからな。そこんとこはき違えんなはい続行」

 

 

 後半戦。

 

 

 

 

『えー、では誰が見ても反則である卑劣極まりないクソ行為の後にはなりますが試合続行です!

 はい、始まりましたー後半戦! 現在スリザリンリード!! 20-60でリードです、腹立ちますね』

『先ほどのビーターの反則さえなければ試合は終了していたのかもしれませんがね』

『(新人ビーターそこまで苛める必要もねーと思うんだよなぁ……)おや、ハリーの様子が……?』

『まさか……進化……!?』

 

 

 

『おーぉっと何ということだーー! グリフィンドールシーカーの箒が暴走しているぅーーー! やはり『生き残った男の子』と言えど新人にニンバス2000は重すぎたか!? 箒にへばりつくのに必死の様です!

 人間ブラッジャー、ウィーズリー兄弟が下を旋回しております! 多分落下したら助けるつもりでしょう!』

 

「……」

 

『それをじっと見つめるスリザリンの大物新人が不穏だ!!』

 

 

 

 

 

(これは…………チャンス到来!!)

 

 

 

 

 

 

「ボールさん、ボールさんあのね……」

「ん? どした……あー成る程。うん、面白そうだ。よしそれやろう」

 

 

 ベスとボールは上下に陣形展開する。

 そこに、暴れ玉がやってくる。

 そして

 

 

 

 

『や、や、やりやがったぁーー! スリザリンのビーターズ! 箒に必死にへばりついているハリー目がけてブラッジャーを乱射しております! これはハリーは動けない!! むしろ直撃したら骨が肋骨骨折不回避です! 卑劣です! 最悪です! やはり只者ではなかったーー!!』

 

 

 

「どうしようハーマイオニー……あいつ……マジでハリーを殺しに来た!」

「ちょっとスネイプに放火してくる」

「え? は、ハーマイオニー?」

 

 

 ハーマイオニーによる怒りの放火。

 何らかの呪文をかけていただろうスネイプが、ビビる。

 

 それでも迫りくるブラッジャーの嵐に恐れをなしたニンバス2000はおののいていた。

 もう無理怖い。

 こうなったら乗り手を振るい落としてでも生き残る。とばかりに暴れるニンバス2000。

 だが、ハリーは極めて冷静な声でニンバスを――諭す。

 

「なぁ、ニンバス.僕はこの勝負に勝ちたいんだ。だからさ……大人しくしてくれるかな?」

 

 迫りくるブラッジャー。

 ニンバス2000はあまり落ち着く気はないらしい。

 

「あぁ、聞こえなかった。僕は、勝ちたいんだけど?」

 

 ニンバス恐慌状態。

 

 まるでいう事を聞かないニンバスに対し――ハリーは、キレる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっそ、君『も』…………よっぽど燃やされたいんだね」 

 

 

 

 

 

 

 

 ニンバス2000は。

 

 生きることを――諦めた。

 

 

 

 

 結局、その試合はハリーがスニッチを掴み。

 170対60でスリザリンチームの敗北となったのだった。

 

 

 スニッチを発見しつつも、捕獲にまでは到らなかったスリザリンシーカーのテレンスは、目に見えて落ち込んでいた。

 フリントが肩を叩いて慰める。

 

 と、やっている間に。

 

 気がついたらグリフィンドール陣営で胴上げされていたハズのハリーがすいーっとベスの元へと飛行してくる。

 

「お疲れ、ベス」

「お疲れさま、ハリー! すごいキャッチだったわね! 私、あなたの頭をつぶしに行ったんだけど」

「うん、アレはちょっと怖かったな」

 

 ハリーは箒を一瞬チラリ、と見た。

 もうニンバスはハリーに立てつくつもりもないらしい。絶対的な服従、それがニンバスに残された最後の生存の可能性だった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス

 12月。

 雪の面白う振りたる朝。

 

 ハグリッドがモミの木をのっしのっしと担いで行く姿が見られたりした朝。

 

 寒い、何処までも寒い――冬の朝。

 

 

 

 

「クリスマスに家に帰ってくるなって言われてホグワーツで過ごす可哀想な人ーー? 手ーーあーげーてーー!」

「はーーーーい!」

「ハリー、こんな子に付き合う必要ないわよ」

「そうだぜ。ハリー、コイツの脳の中は純血主義で腐りきってる」

「血を裏切る者と穢れた血のWコンボは黙っていてくれるかしら? というか視界に入らないでもらえるかしら?」

「あなたから来たんでしょう?」

「そう言うなよハーマイオニー。正論なんか右から左さ。コイツは自分の屑の血統しか誇れるものがない、マー髭な奴なんだからさ」

「ところでベスは、家に帰るの?」

「そうよ。叔母さんが珍しくウチでクリスマスを過ごすの。こんなのって本当びっくりだわ! ひとりぼっちじゃないクリスマスなんて2年ぶりだもの!!」

「それは良かったね」

「ううん。今年のクリスマスは家に帰って便器磨きをして費やそうと思ってたのに残念だわ……。ホグワーツの便器も心配。私が居なくなったら誰かちゃんと綺麗に研磨してくれるのかしら……」

 

「あなたそんなことやってたの?」

「マーリンの髭すぎてどこから突っ込んでいいのか分からないけど、ハリー、コレだけはやめとけよ代わりに僕がやるよ、とか言うのだけはやめろよ」

「え? なんで分かったの?」

「……君はどうしてベスに対しては甘いんだよ!?」

「だからベスはそんな悪い子じゃないってば」

 

 ハリー、特に根拠のない自信をかます。

 

 

「あー……ところでベス? 聞いていい?」

「なぁに? 正しいトイレの磨き方?」

「それは今度にするよ。僕が聞きたいのは……ベス。

 

『ニコラス・フラメル』って知らないかい?」

 

 

 ベスは可愛らしくう~ん、と小首をかしげる。

 どこかで聞いたことがある名だ、と思った。

 だが思い出せなかった。

 

 

「ごめんなさい。うんと昔にいた錬金術師みたいな名前だなーとしか思えなかったわ」

 

 

 

「ハイ無能」

「……」

「あー……うん、特に意味はないんだ。でも、闇の魔術に詳しい君なら知ってるんじゃないかなと思って。じゃあ素敵なクリスマスを」

 

「ありがとう、ハリー。でも、叔母が帰ってくるのは結構遅いから……そうね、それまでは幸せな家族とかカップルに雪玉をぶつけたり、マグルの家に爆竹投げ込んだりして時間潰すことにするわね! どうしてクリスマスなんてあるのかしら。滅びればいいのに! じゃあね!」

 

 

 

「……おったまげー……一体何があいつをそうさせるんだよ……?」

「知らないわよ。大方自分に親がいないから幸せそうにクリスマスを満喫している人たちを見て、僻んでいるなじゃいの? 人間としてどうかと思うわ」

「そこんとこ僕たちはニコラス・フラメルと格闘するクリスマスになりそうだけどね」

「聖ニコラウスの日になのにな」

 

 こうして、ベスは。ただホグワーツ中の便器の心配をしながら去っていくのだった。

 実際はやしき下僕妖精軍団INホグワーツが必死こいて磨くのだ。

 やしき下僕妖精にはクリスマス休暇はない、いや、それどころか休暇という概念すらない。ついでにボーナスもなければ給料という考え方すら存在しなかった。

 あと何年かしたらハーマイオニーが騒ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェールズ。

 

 片田舎。

 

 具体的にどことも言えない場所。

 

 

 

 人里はなれた郊外どころか、ド田舎に――その屋敷はあった。

 レンガ造りの旧い家であり、ぶっちゃけ豪邸っぽく見える。

 地元の人間はまず気味悪がって近づかない、どこかどんよりとした屋敷。さらには時々緑色の不気味な光や、何か人間ならざる者の叫び声まで聞こえてくる始末。

 

 結果、1周回って知る人ぞ知るホラースポット、として最近では観光客が写真を撮りに来るような所が、ベスの家だった。

 

 もちろん、ホラースポットで聖夜を過ごそうとする狂人は、基本的には存在しない。

 

 

 ベスは闇色に染まった空を見上げる。

 曇り――星も月もひとつとしてない、分厚い雲に覆われただけの空。

 ベスはよく目を凝らす。

 そして、見つける。

 

 

 

 一か所だけやけに光っている謎の空間を。

 

 

 やがてそれは実態を伴う。

 

 

 大きさ約13メートル。

 重さ約2トン。

 緑色の美しいドラゴンの姿が現れた。ソレが何であるかをベスは悟る。

 

 

 幻想的な音楽のような声色を持つドラゴン――ウェールズ・グリーンだ。

 

 

「たーだぁーーいーーまーー!! 叔ー母ーーさーーん!」

 

 

 ウェールズグリーンの上からひらり、と一人の人間が降りる。

 何メートルもあるハズの体高から、なんのためらいもなく優雅に降り立ったのは、女性。

 若――――くないのに、若く見えるというマジな魔女だった。

 すらりとした、高い背。メリハリのある体つき。

 大きく胸元の刳ってあるルビー色の服を着ており、長い足はスリットから覗かせている。

 髪は豪奢な金髪、おおきな目は濃い青だった。

 真っ直ぐに通った鼻筋、意志の強さを示すかのようにつり上がった眉。真っ赤な唇の迫力のある美女――それがベスの前に降り立ち。

 

 思いっきり――抱擁した。

 

 

 

「あぁお帰りなさい! マイハニー!! もう雪の妖精さんみたいだわベス! あぁもう可愛い可愛い!ペロペロぺロペロ……」

「叔母さんステイ」

「えぇ~~? なんでよぉ、ベスぅ……もっと叔母さんにペロペロさせてくれたっていいじゃない! その塩対応……私から姉さんを奪ったあのオトコを思い出しちゃうわ……あぁん、叔母さん体が火照ってきたぁ……!」

「うっせ」

「まぁいいわ。ホグワーツの話を聞かせてちょうだい!ベス! もう懐かしいなぁ~~。スリザリンになったんですって? 流石ベスだわ! 緑はさぞあなたの抜けるように白い肌に合うでしょうね!」

「当然」

 

 ベスを抱きしめながらまくしたてるように喋る女――コーデリア・ラドフォードはベスの黒い髪を撫でながらにっこりと、微笑した。

 

 

 

「……きっと、姉さんと義兄さんが見たら、とても誇りに思うわよ」 

 

「……当たり前だわ」

 

 

 ベスは真っ赤になってそっぽを向く。

 顔が赤くなっている理由は決して寒さだけではないことは、分かっていた。

 何となく、この派手な美しさを持つ叔母の顔を直視したくなかったのだ。

 

 

「さ、じゃあ家に入りましょ。あぁ、そこのウェールズ緑は気にする必要はないわ。もう調教済みだもの。全く嫌になっちゃうわよねぇ、こんな年末にウェールズグリーンを何とかしてくださいなんて。私じゃなかったら今頃まっ黒焦げになって聖マンゴ行きよ? ねぇ?」

「はいはい」

「一体どこの誰がこんなもの使うのやら」

 

 ぶつくさ、とつぶやくコーデリアだったが、ベスはその実、叔母の凄さを十分に自覚していた。

 

 コーデリア・ラドフォードはその道では名の知れた、イングランド屈指のドラゴン調教師なのだ。

 使役魔法を得意とし、数々のドラゴンを仕込んで来た名手。

 ただ、玉に瑕なのは、調教するのはメス限定であること。そして少し『やり過ぎる』ことである。

 その証拠に、今でもウェールズ緑は物欲しげな目でコーデリアを見つめていたりした。

 

 

「さぁベス。女子寮のあんな話やこんな話を聞かせてちょうだい。知ってたぁ? ホグワーツには空き部屋が沢山あるのよ~? 創設者の中には話が分かる奴も居たのねぇ。私も学生時代はよくそこで爛れた不健全異性交遊を嗜んだものだわ」

「叔母さん、一緒にしないでクソビッ●が」

「やだその冷たい視線……やっぱりあなたのパパを思い出すわ……はぁ……」

 

 たった二人だけで住むには大きすぎる家に入ると、すっかり温まった部屋の中にはクリスマスツリーが飾られ、食卓には沢山の御馳走がここぞとばかりに、たっぷりと盛られていた。

 けど所詮は英国料理だから人によっては炭の山に見えるかもしれない。

 とりあえず屋敷下僕妖精はハッスルしてた。今この瞬間も、雪を水通り越して水蒸気にする作業に精を出している。尚、休暇と給料という概念はない。

 

 ベスはローストビーフに口を付けながら、はっとして叔母に質問があった、ということを思い出す。

 

 

「ねぇ叔母さん」

「なぁに? あぁ、今年の誕生日プレゼントは便座カバーよ。ホグワーツで使いなさいな」

「わぁいやったー! これずっと欲しかった奴だわありがとう! ……で、叔母さん」

「何」

「あのね、『ニコラス・フラメル』って知らない?」

「あぁ、知ってるわよ? 常識じゃないの」

 

 ベスは目を丸くした。流石は社交界の花形と呼ばれるだけはある。

 逆にコーデリアはやれやれ、といった具合に手を広げた。

 

「あぁもう……あの大賢者ニコラス・フラメルも知らないなんて……! これがゆとり世代というヤツなのね……叔母さん、ちょっとガッカリだわ」

「いいからさっさと吐け」

「まぁいいわ。叔母さんからの社会勉強のひとつ、だと思ってちゃんと覚えておくのよ? 

 いい? ニコラス・フラメルはね……」

 

 ベスは叔母の青い瞳がいつになく真剣な色合いであるということに気付く。

 これは何か大きな真実が飛び出すかもしれない――と思ったベスは、口いっぱいに頬張ったプディングを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全魔法使いロリショタ協会終身名誉顧問よ」

 

 

 

 

 

「しゅ……終身……?」

 

 

「死なないからね、何才まで生きるつもりなのかしらねあの腐れ老害。

 ともあれ、いい? 大賢者ニコラス・フラメルは賢者の石とかスゴイものを開発した凄いお爺ちゃんかもしれないけど、この世界でも有数のロリコンandショタコンなの。その辺で見つけたらすぐに逃げなさい。いい? あの爺から見れば今存命中の人間は殆どロリとショタになるんだから見境ないわ。分かったわね?」

 

「…………?」

 

 

 

 

(……ハリー……一体どうしてそんな変態のこと調べていたの……?)

 

 

 

 

 一方ハリーは鏡とか見てた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コドモドラゴン

 クリスマス休暇終了。

 ホグワーツに戻ってきたベス。

 

「ん? 何かドラゴン臭いぞ? 誰かドラゴンでも入れたのかしら?」

 

 そんなこと思ったけどベスはスルーした。

 

「……フォ?」

 

 マルフォイはスルーしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祝!! グリフィンドール大減点!! いぇえああああああああああ!!!!」

 

 

「ヒュゥーーーーーー!!」

「おっしゃああああああああ!!」

「減ったあああああああああああ!」

「……1wwwwwww5wwwwwwwww0wwwwwww」

「150! 150!! 150!!」

 

 スリザリン寮は浮かれていた。

 それはもう、床は抜け、天井は突き破れ、杖の先から迸った火花で巨大イカですら丸焼きになる程の浮かれっぷりだった。

 マルフォイがあることないことをフィルチにチクった結果、グリフィンドールからあの3人組で合計150点ほどマイナスされたようだった。

 ちなみにマルフォイもとばっちりで20点引かれていたりする。

 けど、そんなこと誰も気にしない。

 

 

 

「おっしゃこれで優勝キターーー!」

「最優秀寮杯が見えてきたーーー!」

「おあああああああああ!!」

「いえああああああ!」

「カボチャジュースのじゃああああああい!!」

「今夜は飲むぞーーー!」

 

 スリザリン生はやっぱり浮かれていた。

 

「ドラコ様に祝杯をぉおお!」

「ドラコ様ーー! よくやったぜドラコ様ーー!」

「……ドラコ様最高」(嘲笑)

「はっはははははは! 君たちこれしきのことで浮かれるなんてやめろよな! 品性が疑われるね! 全く下品極まりないよ。僕たちは純血なんだからもっと誇り高くあるべきじゃないかい? 君もそう思うだろラドフォード?」

「せやな」

「そ、そうだろう! ほ、ほらそうだろう!?」

「イカうめぇ」

「ベスちゃんイカの丸かじり似合うねーー」

「その意気や良し」

「イカ……イカ……ウマイ……ウマイ……」

「イカ、ウマイ、ドラコ、喰う」

 

 やっぱりスリザリン生は浮かれていた。

 

「ん? あれ? こんな時に祝いたいハズのスリザリンのクィディッチ、シーカー、テレンス先輩の姿が見えないわ。キャプテーン? テレンスはー?」

「『風が俺を呼んでいる……』らしい」

「理解した」

 

 スリザリンシーカーのテレンス・ヒッグスは、独り罪悪感を感じていた。

 シーカー、それは孤高の存在。

 勝てば英雄、負ければ戦犯。

 

 勝利すれば寮からの尊敬を全て浴するという美味しいポジションだが、敗北すればヘイトが一気に向く。

 最早シーカー歴も短くないテレンスはそのことをよく分かっていた。

 だからこそ、次の試合こそスニッチを掴まなくてはならない――そのプレッシャーを乗り切るために、独り校庭の使用許可を貰い、低速調整したスニッチと駆け回る訓練に明け暮れていたのだ。

 

「フッ……世界は俺の速さについてこれるか……!?」

 

 刻むぜ、クイーンスリープのビート……! という声と共にテレンスは縦横無尽に夜空を駆け巡る。

 星も月もない、曇天の夜空。

 やがて疲れ切り、汗だくになったテレンスが更衣室に向かうと……そこには。

 

 

 カボチャジュースとお菓子の山。そしてイカの丸焼きという謎のラインナップが置いてあった。

 傍にはカード。

『祝! グリフィンドール150点減点記念!』

 そして傍らには疲労回復に抜群の効果があるという魔法薬も置いてあった。

 調合難易度のかなり高い魔法薬――恐らくは、最高学年の生徒ですら失敗するかもしれない薬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハグリッドです。ドラゴンの卵を発見しました超嬉しい、生きててよかった」

 

「あっそ」「マジで」「なぁ知ってるか? それ……ハンガリー・ホーンテイルなんだぜ」

 

「生まれるぅうううう!」

 

「ここ木の小屋なのよ?」「ヤバい」「ひっひっふー! ひっひっふー!」

 

『ギャー!!』(どうもこんにちわ、ハンガリー・ホーンテイルです)

 

「はっははははー! どうだ、美しかろう……え?」

 

『ギャーーーーー!』(わぁ、折角この世に生まれ出て、ちょっとドジっ子なドラゴンマミーに会えると思ったら目の前に居たのは毛むくじゃらの下等生物でした。世界に絶望しました、死にます。短いドラゴン生でした)

 

「よく吠えるわね」

「駄目だよそんなこと言ったら! 君は尊い、命は存在するだけで美しい。ほら世界はこんなにも輝いてる!」

「ハリー君突然何マー髭チックなこと言いだすんだい?」

「何か僕、昔から爬虫類の言ってることが何となく分かるんだ」

 

『ギャー!!』(勇気貰った。。。自殺やめます)

 

「何か元気になったわ」

「さっさと森に帰そうハグリッド」

「(´・ω・`)」←※ハグリッド

「じゃあそうゆう訳で兄ちゃんに手紙書くわ」

 

『一番高い塔に来てbyちゃーりー』

 

「「「塔の上までドラゴンを運搬します」」」

 

「ギャー!!」(よっしゃ大空に向かって羽ばたくでーー! じゃあの!! 下等生物共!!)

 

 その光景を見つめるマルフォイが居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「お疲れさまです!! ポッターさん!!」」」

「あなたのお蔭で最優秀寮にノミネートされました!まさに救世主ですありがとうございます!」

「おらスリザリン! 今回の150点祭の功労者たるポッター様がお通りになるぞ道開けろゴルァ!」

「流石ポッターさん! 俺たちに出来ないコトを平然とやってのけるッ!そこに痺れる憧れるゥ!」

 

 スリザリン生はハリーを会うたびに基本的に土下座してエクストリームお辞儀を各自疲労困憊しながら披露していた。

 ハリーたちは基本的にはスルー。

 というか、グリフィンドールでかなり肩身の狭い思いをしているようだった。

 

 

 コツコツと皆で必死こいて積み上げた得点一気に削られたのだから当たり前と言えば当たり前だが、ぶっちゃけ11歳の子供にその対応はどうかと思うのがホグワーツ。ウワサとか風評被害で人のことを勝手にハブったりするのがホグワーツ。ついでに掌が頑丈なので以外とすぐに忘れたりもするのがホグワーツ。

 素晴らしい、皆小さいが立派な英国紳士になる素質を備えておる。

 

 

 そんな感じで学期末試験が終了した時だった。

 

 

 

 

 

「ベス、一緒に来てほしい場所があるんだ」

「こんにちわスリザリンの救世主ポッターさん……え?」

「ベス、一緒に来てほしい場所があるんだ」

「マジすか……何処? 今から?」

「4階の廊下」

「マジすか……ヤバいっすね……私死ぬんじゃね?」

「ベス、お願い」

「えー……えー……。……えー……」

 

 

 

 

「今度一緒にトイレ磨いてあげるからお願い」

 

「よっしゃ乗ったわ! 逝きましょう!!」

 

 

 

 

 

 







お気に入りが3桁言ったら秘密の部屋編もやろっかなーとか考えてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試練

 ハーマイオニーが一切の躊躇もなく微塵の慈悲もなく、ネビルを石にした時から物語は始まる。

 

「ハーマイオニー……君って……怖いよ……」

「ネビル一人丸め込めないようなクソ無能は黙ってろ赤毛」

「獅子の勇気とは何だったのか世界に向けて、今、問いたい」

「大体蛇寮の貴女はなんで今此処に居るのよ!!」

「僕が誘ったんだ。んー……何となーく、ベスに来てほしかったから?」

「ハリー……そのチョイス間違えなくマーリンの髭だぜ」

 

 こんな感じで仲良く4階につく。

 途中ピーブスとかいうポルターガイストが居たけどスルーしたよ。

 この世を生きるのは人間だから仕方ないよね。ゴーストなんて外野には引っ込んでで欲しいからね!

 

「スゴいぞ!ハリー! あのピーブスを血みどろ男爵の振りして騙すなんて!」

「……だけど、灰色のレディのところに夜這いに行く、っていう言い訳はどうなのかしら……」

「まぁいいんじゃない? あのバカなポルターガイストは信じたみたいだし。脳までゴースト化してるとはね」

「死んでもゴーストにはなりたくないよね。入ります」

 

 

 ガチャリ。

 扉を開くとそこは―――異様な空間だった。

 やけに高く、広い天井。

 その中央には黒い、見たこともない犬。

 デカさだけでも有り得ないのに――首が3つもくっついていた。体一つに首三つ、地味に非効率的。

 ベスはふと、そこでギリシア神話の冥府を守る魔の犬――ケルベロスのことを思い出す。

 古代ギリシアの人々が信じた神の一柱――竜の尾と蛇の鬣を持つ巨大な獅子の姿を。

 

 

「zzz……」

 

 だが肝心な犬は寝ていた。

 中央にはハーブが美しい旋律を奏でている。

 

「これきっとスネイプがやったんだ」

「つかなんじゃこりゃ」

「フラッフィーだよ、ハグリッドがダンブルドアにリースしたみたい。ギリシア人から貰ったんだって」

「あのスコッチ野郎ロクなことしねぇな。ナニコレ番犬のつもり? 暴れたらどうするつもりだったのよ? しかも高いびきじゃない。番犬って何だったのかしら」

「ゴチャゴチャ五月蠅いな! 君はハグリッドを貶さないといけない病にでもかかってるのかい!? いいからさっさと行こうぜハリー!」

「あなたこそ黙りなさいよ。血を裏切りし赤毛6男。私にいい考えがあるわ」

 

 ベスは杖を取り出した。

 と、同時にゴソゴソと懐を探る。そして、何かを取り出した。

 そして呪文と共に杖を一振りする。

 

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ」

 

 

 何か謎の物体がふわり、と宙に浮遊。

 何か甘い匂いがする……とハリー達3人が気づいたときには。

 

 

 

 もう、その『何か』はフラッフィーの口の中に入っていた。

 

 

 

 数秒後。

 

 

 

 眠っていた犬が――――覚醒する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わんわんお!」「わんわんお!!」「わんわんおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

「何しているんだよクズ純血犯罪者予備軍がぁあああああーーーー!!」

「お、起きちゃった……どうしましょう! フラッフィーが……フラッフィーが……!?」

「これでいいのだ」

「良くねーよ!!」

「何を食べさせたのよ!?」

「蜂蜜入りパンのウォッカ漬け」

「!?!?」

「何でそんなもの持ってるの!!??」

「めんどくさくなったらそこの穢れた血か、ロナウド=血を裏切る=ウィーズリーにでも喰わせて吶喊させようかと思ってね……予想外にコレを使うのが早くてベスちゃんびっくりよ」

 

 

「わんわんお!」「わんわんお!」「わんわんお!!」

 

 

「酒の力ーー!」

「いやぁああああっ!!」

「待って……ベス……これって……本当にお酒だけ? 何か他にも入れたんじゃない?」

 

 

「流石ハリーね、実はね。禁じられた森に自生していた。

 

 

 

 

 

 

『食べると幸せな気分になれる不思議なキノコ』も入れたのよ!!」

 

 

 

 

「「何してんだテメェエエエエエエエエエエ!!」」

 

「なぁーんだ! だだのマジ●クマ●シュルームかー。ベス、君って本当凄いよ! よくそんなもの思いついたね!」

「ありがとう、ハリー。お酒とマ●シュルームのコンボはスゴイでしょ? 上手くいけば、心臓止まるわ」

「止まりそうにないよ!!」

「ふ、フラッフィーって心臓1個よね!? ……頭3つなのに」

「脳循環が悪そうな体よね。だから馬鹿なのよ」

「脳溢血の心配なさそうだからいいんじゃない? よし!いいぞ! フラッフィー行けぇえええ!!」

 

 お酒とマジ●クマ●シュルームの力により完全にラリったフラッフィーは訳も分からず地下の扉を突き破った!! 

 そのまま落ちていく4人と1匹。

 下に悪魔の罠とかいう木だか草だか大量にあったがフラッフィーの敵ではない!!

 ラリったフラッフィーは立ちふさがる悪魔の罠を全て蹴散らすッ!

 

 フラッフィーは羽根のカギが空を飛んでいる幻想的な部屋の扉もブチ破るッ!!

 鍵共がビビってフラッフィーを突いたり刺したりするが、ラリったフラッフィーに痛覚は最早存在しなかった。

 

 続いてマクゴナガルのチェス盤!

 

 コレもフラッフィーが爆殺!!

 

 全身血まみれ、傷だらけそして粉塵塗れの三頭犬はそれでも爆走を続けていくのだった。

 

 面白いようにサクサクすすんでいく攻略!

 ロンとハーマイオニーは唖然としながらそれを見ていくだけだった……。

 

 

「何か僕の見せ場がなくなったような気がする」

 

 

 

 血を裏切ってる奴がなんかほざいた。

 

 

 

 次の部屋。

 

 トロールが死んでた。

 

 

 

 

 次の部屋。

 

 扉の敷居をまたぐと、今通ってきたばっかりの入り口がたちまち火で燃え上がった。

 一歩遅れたロンが取り残される。

 ただの火ではない――紫いろの炎だった。

 出口方面には黒い焔が燃え上がる。

 完封。

 

 

「ここは……そうか……スネイプだ……!」

「スネイプの試練? ってことは大変ね」

「そうだよハーマイオニー。スネイプってことは……」

 

 

 

「確実に」

 

「息の根を」

 

「「止めに来てる!!」」

 

 

「流石です寮監」

 

 

 アイツならやりかねないよなーとベスは思った。

 

「で、何すればいいんだろう?」

「何か巻紙がありました、読みます」

「頼むでー」

 

 こんな感じだった。

 

 

 

『前は危険 後ろは安全

 君が見つけさえすれば 2つが君を救うかも 

 7つの内1つだけ 君を前に進ませる

 別の1つで退却の道を開く

 2つは幸運のイラクサ酒

 残る3つは毒薬

 

 

 以下ヒント。

 

 

 

 ヒント1 毒入りビンのある場所はいつでもイラクサ酒の左

 ヒント2 両端は種類違う。尚、炎を通り抜ける薬とは限らない

 ヒント3 見りゃ分かると思うが大きさバラバラ。デカいのも小さいのも死の毒薬じゃない。

      『死』のな。『死の毒薬』じゃない。

 ヒント4 双子の薬。左から2番目と右から2番目は実は同じ』

 

 

 

 

 

 

「なんだこれ」

「理論だ」

「偉大な魔法使いって理論のりの字もないようなガイキチが多いのよ。そうゆう人はここでさよなら、ってコトなんでしょうね、現世から」

「じゃあどれ飲んだらいいのよ」

「二人共、出題者スネイプ、ってこと忘れちゃダメだよ。そんなこと言ってきっと全員ぶっ殺す気だろうから」

「じゃあ逆に毒を呑めばこの炎の中から脱出できる可能性?」

「死ねばこの世からもエスケープできるわよ。とりあえず解くだけ解いてみましょ」

 

 ハーマイオニーはやる気だった。

 

 

「ヒント4のまず同じ味ってこうゆうことよね?」

 

 ハーマイオニーが空中で字を書く。

 

 

 

 ●酒●●●酒●

 

 

 

 

「もしくはこうじゃない?」

 

 

 ベスも乗った。

 

 ●毒●●●毒●

 

 

「どうしてそうなるのよ?」

「だって『三つが毒』としか言ってないじゃないの。もしかしたら毒×3は全部同じ毒かもしくは3つ中2つは同じ毒であるという可能性も否定できないわよ」

「双子の酒って言ってるじゃないの。双子っていうのはつまり、二つで一つ。2人でワンセットとカウントしていいでしょ?」

「どこぞのグリフィンドール人間ブラッジャーみたいね」

「それ何てフレッドとジョージ」

「この場合は二つしかないのはイラクサ酒、つまり双子=イラクサと考えられるわ」

 

 決定。●酒●●●酒●

 

「じゃあコレを第一ヒントと合わせて考えると……」

 

 

 

 

「ん?」

「あれ?」

 

 

「『毒はいつもイラクサの左』……」

 

 

 毒入りビンの数は――――3本

 イラクサ酒は――――2本

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 毒酒●●毒酒●?

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ…これ…………!」

「……無理じゃない?」

「え、えぇっと……」

「やっぱり双子の下りが間違っていたのよ、じゃあコレ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●毒酒毒酒毒酒

 

 

 

 

 

「酒増えてるじゃないの!!」

「お酒だって体に毒だわ。だから毒カウントできるという可能性が微粒子レベルに存在……?」

「じゃあ毒が増えてるじゃないの!!」

「てへっ」

「もういっそのことコレで良くないかな?」

 

 

 

 

 毒毒毒毒毒毒毒

 

 

 

 

 

「みんな……死ぬしか……ないじゃない……」

「流石スネイプだ……ここで殺す気満々だ。ヤギの胆石持ってくれば良かった」

「だからどうしてそうなるのよ!?!?」

「だってどうあがいても無理でしょ。毒=酒の隣。酒の瓶2本で毒3本。おかしくね? 無理じゃね?」

「良く見て『always』って書いてあるわ……つまり、つまりそうよ! 毒は『とりあえず酒の左』にあればいいのよ!!」

 

 ハーマイオニーのファインプレー。

 

 

 毒酒毒●毒酒●

 毒酒●毒毒酒●

 

 

 

「良かったわね、どの道右端は正解よ。多分これが進むための瓶だわ。

 

 

 ……で。問題は戻る方の薬だけど」

 

「毒と薬のデットヒート。帰還か、死かそれが問題だわ」

「ヒント3は?」

「視覚情報限定につき使えないわあんなヒント」

 

 そこでハリーは考え込み、再び巻紙を覗く。

 

 そして、ぽそり、とつぶやいた。

 

 

 

「ハーマイオニー、ベス……もし、もしも……だよ? 僕気になったんだけどさ……。

 

 

 

 飲めばものすごく運が良くなる魔法薬、って存在したりしないかな?」

 

 

 

「え……? そんなの……あっ! え、えーっと確か……」

「あるわよ。フェリックス・フェリシス。幸運薬と言うの」

「……」

「スリザリンの寮監はスネイプよーー? スリザリンにだけ特別講義をしていないと思ってーー? ごめん遊ばせ穢れた血ーーあーあー純血で良かったわー私純血で本当良かったわ!」

「炎の中に叩き落とすわよ」

 

 

「その幸運の薬、って、凄くラッキーになるんだよね?」

「多分ね」

 

 

 ハリーの眼鏡がきらめく。

 光をピカァンと反射させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、イラクサ酒からのどっちか飲み、コレで正解を引き当てられるんじゃないかな????」

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

「だってそうだろ? 『幸運の』イラクサ酒って書いてあるんだから間違いないよ!

 もし、毒薬に当たっても――『超ラッキー』なら死なない、もしくはイラクサ酒が解毒剤になる可能性もあるだろ? 大体なんでイラクサ酒なんか入ってるんだよ、存在自体が場違いじゃないか」

「ロンみたいにね」

「あ?」

「ゴメンナサイ……」

「一言余計なのよあなたは。そうね、ハリー。その可能性は私も考えたわ。今ので確信が持てた。

 あとは、ただ、勇気あるのみね」

 

 ハーマイオニーが暫定酒、な右から二つ目を取る。

 ベスも反対側の酒を取った。

 

 そしてふと気づく。

 

 

 

「……薬、なんか……飲む必要ないじゃない」

「……え?」

「フェリックス・フェシリス―――『幸運薬』――――」

「お、おう……」

「幸運……なら……そう、超ラッキーなら……」

「……」

 

 何だかロクでもないことやりそうだ、とハーマイオニーは直感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこであろうと……通り抜けることが……できるハズっ……!

 

 たとえそれが……肉焦がし、骨焼く……炎の上であろうともっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうね。かもね。じゃやれば?」

 

 

 ハーマイオニーは思った。

 

 コイツ、ここで死んだ方がいいんじゃないかしら、と。

 

 

 

 

 

「任せなさい。こんな場所で尻込みする私じゃないわ。私はベス・ラドフォード……いつか死喰い人になる女よ!! ちぇすとおおおおおおおおおおおおおおーー!!」

 

「うわぁ……本当に行ったわあの子……」

 

「熱……あつぅうううううう!! 痛い痛い熱い熱い熱いぃいいいいいいいいい!!」

 

「凄い……やっぱり! 君って凄いよベス!! ぶっちゃけ今年で一番笑った」

「燃えてるわね。すごく単純に、燃えてるわね」

「でも生きてるよ。生きてるってやっぱり素晴らしいことなんだね。じゃあ、僕行くから、ハーマイオニーはフクロウ便を飛ばしてダンブルドアに連絡して」

「……えぇ、分かったわ……。ハリー……あなたは偉大な魔法使いよ」

「言い過ぎだよ、ハーマイオニー。じゃあ何より無事で、気を付けてね。

 

 

 ちょっとスネイプぶっ殺してくる」

 

 

「わんわんお!」「わんわんお!」「わんわんお!!」

 

 

 

 ハリーは薬を飲み干し、炎の向こう側を歩いた。

 散々転げまわったベスは何とか鎮火し……肩や体に所々軽いやけどを負いつつも何とかギリギリ歩けた。

 とうとう炎の向こう側に出る。

 やがて、最後の部屋がその眼鏡に映り込む。

 

 

 そこに居たのは。

 

 

 

 スネイプではなかった。

 

 

 ヴォルデモートですら――なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ? 紫ターバンじゃん」

 

「言っちゃった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ウンバボ族知ってるよ……。

シリアスぶち込めば読者は減るんだ……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

賢者の石

 そこに居たのは。

 

 クィレルだった。

 

 

 

「なんで……どうして……あなたが!?」

 

 クィレルは笑った。

 それは、いつもの痙攣したかのようなどこか引きつった笑顔ではない。

 堂々とした、余裕さえ感じられる笑みだった。

 

 

「金庫破ったの私だ。英国死ね」

「だってスネイプじゃ……!」

「あぁ、セブルスか。アイツはまさにうってつけだった……さぞ怪しく見えただろうな? 育ちすぎたコウモリの如く飛び回り、ノイズをばらまく……まさしく狂人の様な立ち位置を演じてくれた! はっはははは!」

「でもスネイプは僕を殺そうと……!」

「そうよ! 寮監は割とマジでハリーをぶち殺そうとしていたわ! だって……だって! あの試合の後……負けたけど、めちゃくちゃ誉めてもらったもの!!」

「……ラドフォードが何言ってるのかは知らんが、まぁあの件はスネイプは反対呪文を掛けていたのだ」

「…………じゃあ、ハロウィーンの日のトロールは……」

「あのシャンデリアは……」

「あぁ、そうとも。だがあんな姿になるなんて誰が想像できた。入れたのは私だ! トロールに関しては昔から才能があってな」

 

 ドヤ顔クィレル。

 ベスはその顔を見て、何か得体のしれない違和感を感じる。

 

(この人……何か……隠している……?)

 

 ふと疑問が浮かんだ。

 

 

「クィレル先生、ひとつ質問」

「何だラドフォード? 授業中散々寝ていたお前がやっと生徒らしい態度を見せたな。よろしい、いいだろう。ただし……一つだけだ」

 

 ベスは、冬の空の様な青灰色の瞳で紫ターバンをじっと見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クィレル先生は……一体どのようにして、スネイプの罠を潜り抜けたんですか?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「薬の量は全然減っていなかったわ。だからあなたは『薬』も『毒』も『酒』も飲んでいない――何か私たちの知らない凄い呪文を使って潜り抜けた、のかも、しれない。

 だから教えて。

 

 あなたは、どうやってスネイプの罠を潜り抜けたんですか??」

 

 

 

「……」

 

 

「ベス、それ大事なこと?」

「大事よ。だって……アレは只の火じゃなかったわ。何か闇魔術っぽい感じの火よ。紫色や黒の炎色反応なんてあるわけないわ」

「……カリウムとかセシウムとか……」

「黒い炎なんかねーんだよ雑魚が。だから単純な魔法で通り抜けられる訳がない。単純な、炎凍結魔法や抗熱魔法何かじゃないわ。だとしたら、手段は限られる。

 『強力な闇の魔術で対抗した』――そうじゃない?

 

 ねぇ……クィレル先生はそこまで、強力な――それも精神を蝕むレベルの魔法が、使えるかしら?」

 

 

「…………ベス、それって」

 

「そして、もう一つ。クィレル先生の服を見ると――足元や腕の服は煤けている。足首や手首、顔には火傷の跡がみえる。でも、ターバンだけは無事。だから……」

 

「……」

 

「そう、クィレル先生は……クィレル先生の本体は――実はターb……」

 

 

 

 

『ふはははは……はははははは! ……よくぞ見破った……!』

 

 

 

 

 

「え?」

「は?」

「ご、ご主人さま……」

 

 

 

 クィレルではない、誰か、別の。

 

 高い声が石壁の部屋中に轟いた。

 

 

 

 

『俺様が直に話そう……』

 

「で、ですがご主人さま……わ、我が君の力はまだ……」

 

『その位の力はある……さぁ、クィリナス……教えただろう……?』

 

「は……はい……我が君……」

 

 

 

 

「先生……? い、一体なにをするつもりなんだ……!?」

「……これは……まさか……!」

 

 

 次の瞬間。

 

 2人は、自らの目を――疑うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

「く、クィレル先生が!! ク、クィレル先生がっ…………!!」

 

「そんな……馬鹿なことが……!」

 

 

 

 

 

 

「「ブリッジ状態で!! 逆お辞儀しているぅうううううううう!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見よ! コレが私が身に着けたーー! 究極のエクストリームお辞儀!! うぁあああああああああおおおおおお! ああああ! こ、こ、ここここ腰がぁあああああああああああああああ! 腰がぁあああああ!!」

 

 

「「先生ーーーーーー!!」」

 

 

 クィレルは踏ん張っていた。

 もうあんま若くないのに、頑張っていた。

 

 クィレルの腰が――反る!

 それでもクィレルはブリッジお辞儀をし続けた。

 ターバンが取れ、そのハゲた頭が露わになろうとも!!

 

 

 

『ふははははは!! 見たかハリー・ポッター……! これこそが……お辞儀だ!!』

 

 

「え!?」

「誰!? どこから喋ってんの!? 声!?」

 

 

 

『あれ? 俺様見えない……? え? 見えてないの……? あ、そうじゃん……クィリナス! 起きろクィリナス!!』

 

「我が君ぃいいいいい! 我が君ぃいいいいい!!」

 

『さっさと起きぬか!』

 

「お許しください我が君!! 限界……もう限界なのですぅうううう!」

 

『クィリナス……』

 

「腰が! 腰がぁ! 私のぉおお! 腰がぁあああ!」

 

『このモヤシがぁ!』

 

「逝っちゃぅうう! 逝っちゃうのぉおおお! 腰がーー折れちゃうぅうううう!」

 

『お辞儀戻すのだ! そして!! 正しい方向に!! お辞儀するのだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だか物凄い方向に話の腰が折れてってる気がする!」

「せやな。よし、今のうちに賢者の石ゲットしよ」

「何か鏡を使うっぽいわ」

「うわ、ポケットの中に何か入ってる。コレが賢者の石かー……うん、赤い」

「良かったわね! じゃ帰りましょ」

「待ってよベス。ヴォルデモートは殺さないと」

「えー……やっぱコレ闇の帝王なのー……えー……。エェー……」

 

 

 

 

(何かなー……思ってたのと違うんだけどーー……)

 

 

 

 ベスの脳内で、勝手に闇の帝王はもっと帝王帝王している感じだった。

 黒ずくめな感じで。もっと禍々しくて。

 出てきた瞬間に専用BGMかかる系な帝王かと思っていた。

 

 

 まさかクィレルのターバンの下に居るとは誰が想像したであろうか。

 

 

 クィレル先生は人生で一番腰をダイビングさせ、俎上の魚のようにびちびちぃ!と跳ねる。

 その様。椎間板ヘルニア待ったなし。

 ともあれ、やっとまともな方向にお辞儀したクィレルの頭上にはもう一つの顔が存在した。

 真っ赤に血走った眼、死人のそれと見まごう肌。

 

 

 

 

 

 

『ハリー・ポッター……』

 

 

「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」」

 

 

『観ろ……この俺様の無様な有様を……』

 

 

「うわああああああ!」

「ぎゃあああああああ!」

「あああああああああああああああああああ!」

「先生の頭ぁあああああああああ!」

 

『……ただの影と霞に過ぎない……ユニコ―ンの血を啜って……』

 

 

「ああああああああああああああ!」

「きめええええええええええ!」

「きゃああああああああああ!」

「うわあああああああああああああああ!」

 

『…………忠実なクィレルが……』

 

「あああああああああああああああああああああああ!」

「ああああああああああああああああ!」

「闇の帝王ぁあああああああああああ!!」

「お辞儀したぁあああああああああああ!」

 

 

 

 

 

『喋らせろ!!!!』

 

 

「すみませんでした、黙ります。黙ってお辞儀します。ぺこり」

「黙って睨み付けて中指を立てます」

 

 

『ふん……馬鹿な真似はよせ……さぁ、早くポケットにある『石』をよこせ……』

「ハリー、その石渡して。はよ!はよ!!」

「却下」

「……ポッター」

『命を粗末にするな……俺様の側につけ。さもないとお前の両親と同じ目に遭うぞ……』

「出会って即アバダ?」

「うっせんだよ息臭い」

「…………ポッター……」

『その姿勢……いかにも勇敢だな? ハリー・ポッターよ……。いいだろう。俺様はいつも勇気をたたえる。

 自らの命は惜しくないと見える……だったらどうだ? そこの小娘と引き換えなら』

「マジでか。私ヤバいんか」

「……」

『そいつを掴まえろ!!』

 

 後頭部から大声で叫ばれ、ちょっと耳が痛いクィレルが半ば混乱しつつ確認。

 指を鳴らして炎を呼び出す。

 

 

「え? どっち??」

 

 錯乱のクィレル。

 

『小娘の方だ!』

「はい我が君!」

 

「えー? エエーー!? ない! これはないわーーー!! 私将来死喰い人になりたいのにーー!!」

「ベス逃げるんだ!」

 

 ベスは特に見当もつかず走り出す。

 追いかけるクィレル。

 だが、ベスは――フェリクス以下略の効果で今ものすごく幸運だった!

 

 腰痛で腰が訳の分からない方向にぐきっと曲がる!

 結果!クィレルは走れない!! 

 どころか起き上がることすら不可能!!

 

 

『何をしている!!』

「我が君申し訳ありません!!」

「おっしゃああああ! と、人の不幸を喜びます!!」

「やったね! ベス!」

 

『ぬううう……。考え直せポッター! その石があれば……その石があれば! お前の両親を蘇らせることもできるのだぞ!?』

「……」

『この世に悪も善もない――力を求める者と、それを求めるには弱すぎる者がいるだけだ……ハリー、分かったのならその石をよk――』

 

「黙れクソが」

 

『』

 

 

 周りは炎で燃えている。

 だが、ベスは何故か寒気を感じた。

 

 ハリーが。

 

 かつてないほどに。

 

 キレている。

 

 

 

 その時。

 

 

 

 ぴしり、という音と共に――眼鏡が、レンズが――――爆ぜた。

 

 もはやフレームだけとなった用済みの眼鏡を投げ捨てたハリーは叫ぶ。

 やがて、炎に飲まれて、燃えていった。

 眼鏡は死んだ。最早生き返ることはない。

 

 

 

 

「さっきから聞いて居ればなんだ? 勇気? 勇敢――? 見当違いも大概にしろハゲ。ギャグなら滑り過ぎてて笑えない。

 僕が……僕が今、勇気や勇敢さだけで今、ここに立っていると思うのか? 本気で思っているのか?」

 

 

 

 

 ……え? 違うの??

 

 

 

 ハリー以外のその場にいる全員の心が――今、ひとつになる。

 

 

 

 

 

 

「 そ ん な 訳 な い だ ろ ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 炎が。

 

 空気を読んで。

 

 

 

 青くなった。

 

 

 

 

「僕が今までどうやって生きてきたか、教えてやろうか? ヴォルデモート。

 親が居なかった。パパが居なかった。ママも居なかった。

 存在したのは僕を虐げる叔父さんと叔母さん。あとクソみたいな豚臭ぇ従兄弟のダドリー。

 いつもいつも、お古ばっかり与えられて、サンドバックにされて。

 食事だって残飯、髪を刈りあげられたこともある……あぁ、屈辱だったよ、腹も立ったし、何よりこんな状況を耐えなきゃ生き延びることさえできない自分が本当に情けなかった。

 

 でも、そんなことはどうでも良かったんだ」

 

 

 

 明かされるハリーの過去。

 

 いやお前の過去とか知らんわ、どうでもいいだろ、と心の中で全員叫びながら――一歩も動くことができなかった。

 まるで、ペトリフィカス・トタルスされたかの様に。

 

 

 

「僕はね、物心ついてからずっと思ってたことがあるんだ。

 道ですれ違う家族とか、幸せそうに微笑んでいる僕と同じ年齢位の子供とか見ると、思うことがあるんだ。

 

『あぁ、なんでアイツは幸せそうにしているんだろう。どうしてあそこに居るのは僕じゃないんだろう』って。

 

 分かる? 分かる??

 こっちが怒鳴られて貶されて殴られながらあのクソ豚の荷物運んでいる間に、横で幸せそうに笑っているだけの子供がいるってことが――お前に分かるか?

 

 憎いなんてもんじゃなかった。

 

 分かってるよ、あの人たちは何も悪くないんだ。悪いのは全部、『不条理』なんだ。だってそうゆうものだから、と思い込んで来たんだ。

 ……努力したよ、叔父さんと叔母さんに媚も売った、愛されようと必死になってみた。

 ……でも全部無理だったんだ。だって世界は、不条理で不公平なんだから。

 生まれながらにして何もしていないのに、幸せな人間も居る。どんなに努力しても、微笑みひとつもらえない人間だっている。

 

 魔法界って聞いたとき、僕は期待したりした。だけど、ハグリッドに連れられて、ダイアゴン横丁に初めて行った時僕が何を見たと思う??」

 

 

 

 知らねーよ。

 

 クィレルの後頭部と前頭葉がほぼ同じことを考える。

 

 

「……便座屋?」

 

 

 ベスが呟いたそれは、自分の記憶だった。

 

 ハリーが皮肉げに、笑った。

 

 

 

 全てを諦めたような笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「両親と一緒に、楽しそうに入学用品を揃える僕と同じ年齢の子供たちの姿――だよ。

 

 ここまで来ると笑えてくる。

 自分の生きていた世界とは違う、もう一つの世界。隠れた世界にどれ程期待したか分かるか? どんなにワクワクするものだったか分かるか?

 

 でも……なにも変わらなかった!! 結局どこまで行っても、何も変わらなかった!!

 世界は、不平等で、理不尽で、どこまで行っても差別も区別も根深く蔓延っている。あぁ本当クソだなこんな世界。

 だけど、魔法界に来てひとつだけ良かったことがある……お前に会えたことだよ、ヴォルデモート」

 

 

 

 

 

 

 クィレルもベスも、ヴォルデモートさえも。

 

 ここまでくると流石に理解不能だった。

 

 

 

 

 

 

 

「今まで世界がクソなんだと思ってた。僕の両親は本当に運が悪くて死んじゃったんだと思ってた。

 ……けど、違った。

 

 

 お前が殺したから、なんだよな?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「だから―――僕が――僕がずっと不幸だったのも。こんな風にいつも誰かを憎んだりしないと生きられないのも、

 

 全部お前が原因なんだ。

 

 だから。僕は。

 

 

 お前を――ヴォルデモートを憎んでいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 11歳の超暴論。

 

 

 

 ここに爆誕。

 

 

 

 

 

 

「だから決めた」

 

 

 

 

 呆然とした時間の中。

 ハリーの腕がポケットにつっこまれたことを気付いたものはいなかった。

 赤いルビーのようにきらめく賢者の石は、ごく自然にハリーの掌の中に収まっていたのだ。

 ハリーはソレを高く掲げる。

 

 

 

 

「分かってるよ、ヴォルデモート。

 

 お前ひとりを屠った所で、世界から不条理が消える訳じゃない。

 闇の魔法使いが居なくなる訳じゃない!

 どこかで泣いてる独りぼっちの子供が居なくなる訳じゃない!!

 

 お前ひとりを殺して、解決する問題なんか何一つない。

 魔法界の悪が無くなる訳じゃない。

 

 

 

 でも――――それでも、お前だけは絶対殺す!!

 

 

 

 そう決めたんだ!! 僕が! そう! 決めたんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

((あ、コイツちょっとイっちゃってるわ……))

 

 

 

 

『賢者の石……? 賢者の石ーーーー!!』

 

 

 ハリーはそう叫ぶや否や、賢者の石をみぞの鏡に向かって投擲をブチかます!

 世界に対しての憎悪と、それでも殺すと決めた確かな殺意。

 11歳の勇気……?をありったけ込めた投擲だった。

 

 鏡に向かってぶん投げることで、賢者の石も、それを手にする手段も永遠に失わさせるという――ある意味画期的な方法。

 

 

 

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレスト・モメンタムぅうう~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを止めたのは。

 

 

 

 





……秘密の部屋……。

……みつかんない(絶望)。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

賢者の意思

「な、なーー」

 

「何故ーー何故ーー!?」

 

「……誰……?」

 

 

 

 

 

 ソレを止めたのは。

 

 

 

 

 爺×2だった。

 

 

 この場の平均年齢を一気に老けさせる、圧倒的な高齢力を持った。

 

 爺×2だった。

 

 

 

 

「ホグワーツ校長! アルバス・ダンブルドア!」

「石、共同開発! ニコラス・フラメル!」

 

 

 

「「ふたりは老いぼれ!!」」

 

 

 

「闇の力の下僕たちよ!」

「さっさとお家に――帰りなさい!」

 

 

 

 デデーン。

 

 

 という、特に意味もない効果光。

 

 

 

「……」

「……」

『……』

「……えーっと……校長先生……?」

 

 とりあえず、賢者の石は鏡激突スレスレで止まっていたりした。

 流石ダンブルドア。

 老いてもヨボヨボでも爺でも、偉大な魔法使いである。

 

 

「……と? ニコラス・フラメル……?」

「左様。賢者の石の創作者じゃ」

『チャンスだクィリナス! 超級人間世界遺産の脳から記憶を取り出せ!! 記憶さえあれば――! 賢者の石の製造方法さえあれば――!』

「お、仰せの通りにーー!」

 

 何か開心術とかそんな感じの良く分からん魔法使って記憶を覗くクィレル。

 人間はここまで老いることが出来るのか、という人の可能性を実感させてくれるほど老けた爺ニコラス・フラメルはよぼっとした動作で特に何もしなかった。

 

 否。

 

 する必要など――なかった。

 

 

「わ、我が君……これはーー! これはーーー!!」

『どうしたことだ……どうしたことだ!? なんだ!? なんだコレは!?』

「フォッフォッフォッフォ……賢者の石、作ったのは……いつだったかのぅ~~?」

「凄く昔じゃよ、フラメル卿」

「ところでアルバスや……メシはまだかいのぉ~~?」

「お爺ちゃんさっき食べたばっかりじゃろーー?」

「そうじゃったか……ところで、アルバスや……メシはまだかいのぉ~~?」

「さっき食べたばかりじゃろーー」

 

 

「うわぁあああああ! 何だコレはーー!! どうでもいい記憶ばかりが!! 流れて来るぅううう!

 なのに!! 数時間前に喰った食事のことをすぐに忘れるぅううううう!!」

 

『苦行』

 

 

 そう。クィレルも、闇の帝王()も。ハリー達からすれば若いとは言えない年齢だが。

 この御年100歳以上なダンブルドア。そして中世ぐらいから長々と生き続けている超爺。ニコラス・フラメルの前ではよちよち歩きの赤子に等しいッ!!

 そして、まだ健全な脳の彼らには――。

 

 飯を食った事も忘れ、同じ会話をエンドレスでやりつづけるという――高齢者の精神世界は苦行ッ!!

 更には、ニコラス・フラメルは生粋のショタロリ至上主義者! だが、彼の年齢からすれば存命中の人間は基本的に赤子と同義――。即ち、爺であろうがババアであろうがロリとショタと呼び続ける狂った視界!

 そんなものが500年分積み上げられている!! その記憶に通常の人間が耐えきれるハズもない!

 

 否! それは最早拷問の域にまで達し、昇華されていたのであった――――!

 

 

「飯は~~まだかいの~~? ペレネレや~~?? ペレネレ~~?」

「おじーちゃんさっき食べたばかりじゃろーーーー」

 

 

 

 

「……何なの……これ……!?」

「お年寄りってこんなもんだよ、ベス」

 

 

 祖父母の顔すらも知らないベスは生まれて初めて、高齢化社会の闇を目の当たりにしていた。

 

 

 

「遅くなってすまなんだな、ハリー」

「おぉ、アルバスや。このショタがハリーかのぉ……? ふーむ……イグノタス思い出した、イグノタスの息子か孫かのぉ??」

「当たらずとも遠からずじゃよ。当たっているともいえるし、そうでないとも言える。フラメル卿」

 

 ハリーは何か勘違いをされていた。

 尚、ダンブルドアは何か知っているけどスルーを決め込んでいる様子だった。腹黒い。これぞイギリス人。

 

 

「では、あそこに捕らわれている哀れなショタを、くっついている黒ショタから引き離さねばならんのぅ……ところでアルバスや、飯はまだかのぉ?」

「頼んますじゃ、フラメル卿」

「南無南無南無……喝ぁあああっ!!」

 

 良く分からん呪文と共に、ニコラス・フラメルが光を手から放つと、クィレルに謎光線が直撃!

 それを浴びたクィレルは絶叫とともに、後頭部が伸びる! 伸びる! 頭皮がまるでゴムの様だった。

 

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 純粋に痛そうなクィレルだった。

 

「駄目じゃ~~~~これは駄目じゃ~~~~。何かのぉ~~あのターバンショタと、黒ショタは深くつながっておるのじゃ。そう……体の奥の……一番深くて、やわらかい所での!!」

「ふぅ……男同士の……愛じゃの……」

「止まらないわこの爺共」

「つまり――心を許しているから、先生とヴォロクソモートは繋がっているんですか!?」

「ハリー、名前はきちんとそのものの名で呼びなさい」

「分かりました先生!」

 

 ハリーはハッとした。

 そう、クィレルとヴォルデモートは恐らくなんやかんやあって、何らかのほにゃらら事情で取りあえず心を許しているからくっつきあっているのだ!

 ハリーはすくっとクィレルの前に立つ。

 

 

「先生……目を覚ましてください先生! そいつは先生を利用しているだけなんだ!」

「わ、我が君を貶めるなポッター! わ、私は利用されてなどいない!! そうだ! わ、私は……」

「先生!」

「私……は……! ……私は……」

「先生! あなたも気づいているハズです先生! あなたを――あなたを! 本気で! 愛している人間が――! 腰が死ぬまでお辞儀を強要するわけがない!!」

 

「…………っ!」

 

 

 クィレルが、目を見開いた。

 

 

「だから――! だからっ!!

 

 

 戻ってきてください!! クィレル先生!!」

 

 

 ハリーがまるで乞う様に。

 だが誇り高さを決して失うことのない様に――。

 

 頭を垂れた。

 

 そう。

 

 

 

 

 

 それは。

 

 

 

 

 

 見る者全てを。

 

 

 

 

 

 

 許すかのような

 

 

 

 

 

 

 

 許容するような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――お辞儀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわぁあああああああああああああ!!」

 

『クィリナーーーーーース!?!?』

 

「私は――! 私は――――!! そうだ! 私は!! 私のお辞儀は!! ブリッジなんかするお辞儀じゃない!」

 

『クィィイイイリナァアアス!! 貴様ぁああああ!!』

 

「黙れ! お前などもう我が君などと呼ぶものかこのお辞儀草が!! よくも私の腰を駄目にしてくれたな!!

 失望しました。闇の帝王のファン辞めます」

 

『うわああああああああああ!!』

 

 

 

 急展開だった。

 ヴォルデモートはみるみる内に引きはがされていく。

 どう見てもただの黒い霞っぽかった。

 

 

 

『信じられん……クィリナスとゎかれた。 ちょぉ信頼してたのに。。。もぅマヂ無理。。。』

 

 

 

 絶望し、うなだれる帝王。

 ベスはここで我に返った。

 

 

 

「何だか可哀想だからこっちに付きます私」

『マジでか。やった。勝機見えた』

「ラドフォード! ソイツの甘言に耳を貸すな!!」

『黙れクィリナス! 全てはお前のせいなのだぞ……!』

「ついに10代前半の女の子に手を出すとは……ハッ、落ちたもんだな。ヴォルデモート?」

『貴っ様ぁああああああああああ!!』

「え、ちょ……寄生するの!? 取りつくの!? すみません闇の帝王それ無理!! ソレは無理!!」

『ちょっとチクっとするだけだから気にするでない』

「ごめんなさいそんなの無理ですぅううう! だって! 純粋に……気持ち悪い!!」

 

『……』

「……」

「……」

 

 

 

「嫌がるロリボイス……ふぅむ……何年振りに聞いたかのぅ……お嬢ちゃん、この後ワシと一緒に賢者の石を造らな……」

「フラメル卿。それは許すことは出来ぬのじゃ」

「……冗談じゃよアルバス。ちょっとムラっと来ただけじゃ」

 

 

 爺さん共は元気だった。

 英雄ってどっかぶっ壊れてる奴多いから仕方ない。

 

 

 

 

『クソォおおおおこのままでは……このままでは昇天する……! おのれ……ならばせめて一矢報いるまで―――!』

 

 

 闇の帝王が完全に抽出。

 僅かだが、間違えなく実態を伴ったであろう細かい空中の粒子が、ヴォルデモート(霞)を形成する。

 そして、ヴォルデモートは。

 

 

 

 

 

 超速回転ドリルツイストをハリーの腹目がけてブチかましたッ!!

 

 

 

 

 それは、最早ツイストではない――見る者全てを飲み込むかのような――ブラックホールであった。

 

 

 

 

 

『死に晒せぇええええええええええええ!!』

「危ない!! ポッター!!」

「―――ッ!先生!!」

 

 

 ヴォルデモートのトルネードスピン!! 

 

 だが、寸での所でハリーを庇う影があった。

 それは、クィリナス・クィレル。

 ターバンすら捨て去った彼は――最後の力を振り絞り、砕けた腰を持ちあげ、その身を挺し――ハリーを庇った。

 

 

「先生ーーーー!」

「ポッター……私は――私は――闇の魔術に対……する……防衛術の……教師だ。

 ゴホッ……やっぱり……君には……ひ、ひひひ必要無かった……かも、しれないな……」

「そんなことないです! 先生!」

「……最後に……君の……先生で…………あり……たかった……。

 …………良かった……かなった…………」

「先生……? クィレル……先生!!」

 

 人生で最高に輝いた状態のまま。

 

 満足そうに――微笑んだかと思うと、ゆっくりとその生涯を終えた。

 

 

 

 

「先生……! 先生! 僕なんか……僕なんかの為に……! みんないつもそうなんだ……! 僕の――パパとママ……みたいに……!」

 

「命を賭して……生徒を守ったか……。立派な防衛術の教師じゃったよ……クィリナス」

「マジか。感心なショタじゃな」

「黙って見てただけの爺共が何を今さら」

 

 次の瞬間。

 フラメルがさっと赤い石を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、石はこの感心なショタに使うわ」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 クィレルの砕け散った内臓にフラメルが腕を突っ込んだ。

 数秒後。

 

 

「なんだ……体が……軽いーー!? まるで……生まれ変わったようだ……」

 

 

 クィレルは復活した。

 

 

「……こんな気持ちは生まれて初めてだ! スゴイ! ちょっとサラザールスリザリンのロケットを探して破壊しなきゃいけない気分になった! 行ってきます!!」

 

 クィレルは風の様にトルネードツイストをかましながらどっか消えた。

 

 

 やがて、緊張の糸が切れてしまったのだろう。

 ハリーはその場でぱたり、と気絶してしまった。

 

 後には、ハリーに狼藉を働こうとするフラメル。ソレを止めるダンブルドア。

 何も出来ず腰を抜かすベス。

 そして、割れなかった鏡だけが、残された。

 

 

 

 

 






コレがやりたかったぁ!!


針島さん誤字報告ありがとうございました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の試合

※設定ブレイク注意


 

 

 

 透き通るような、青い空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリーの姿が見えなかった。

 それには、深い事情があり、結局学校中が知ることになり。

 英雄だ、とたたえる声もあった。

 彼の信者達からは、お菓子やお見舞いの品が英雄が休息する医務室にと、届けられた。

 

 だが、しかし。

 

 それじゃ解決できない問題が、ひとつあった。

 

 

 

 

 ハリーは、シーカーだったのだ。

 

 

 

 しょうがないので代役シーカーを急に立てたはいいけど、ニンバスがまるでいう事を聞かなかった。

 ニンバスは知っていた。

 歯向かったら殺されることを。

 

 

「代わりのシーカーはポッターほど強くない。そして――俺達は、今、かつてないほど……強くなっている」

 

 

「という、根拠のない自信」

「まーフリントが言うならそうなんだろ、フリントの中でな」

「せやな」

「……」

 

 

「そして、今――。スリザリンの優勝がこの勝負にかかっている! ココで勝てば、スリザリンはレイブンクローを大きく引き離す! いいか! 諸君!!

 スリザリンの興廃はこの一戦にある! 各員奮励努力せよ!!」

 

 フリントが殺る気満々で地面を蹴り、空へと舞いあがった。

 

 

「んな大げさな」

「せいぜいかかってんのは最優秀杯だろ」

「……」

 

 

 後の奴らもぶつくさ言いながら続く。

 

 

 

 

 グラウンドには、殺気だったフリントが宙に浮かび。

 

 

 更にもっと殺気立った、グリフィンドールのキャプテンにしてキーパー。オリバー・ウッドの姿がそこにはあった。

 

 その姿を例えるならば10人中9人はこう評するであろう。

 

 

『鬼神』――――と。

 

 荒ぶる神と化したウッドは周囲の大気を攪拌しながら大声を出す。

 声拡散呪文も使ってないのに、人が気圧されるレベルの大音量だった。

 

 

 

「貴様等は何だぁ!!」

 

「「「「我らグリフィンドール!! 意志こそが我が力なり!!」」」」

 

 

(本当だやってる……!)

 

 

 スリザリンだけじゃなかった、ホグワーツの伝統。

 負けじとフリントも言い返す。

 

 

「お前達は何だぁーーー!?」

 

「「「「我らスリザリン! ホグワーツ最強の末裔也!!!!」」」」

 

 

 

「そうだ! 我らグリフィンドール! 眼前の蛇の返り血で、ローブを深紅に染め上げろ!!」

「スリザリン! 獅子の皮を被った猫共をホウキの上から叩き落せ!!」

 

 

 

 

「時は来た!」

「箒を掲げろ!!」

「「柄を起こせ!!」」

 

 

 

 

「獅子王の旗の名に誓い――」

「純血の誇りの名のもとに――」

 

 

 

 

「野郎共! 狩りの時間だぁあああああああああああああ!!」

「奴らに身の程を教育してやれぇええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

(なんだこれ……?)

 

 

 

 

『えー、各将、非常に気合いが入っております。毎年こんな感じです。よく飽きませんねコイツら。先攻はグリフィンドール! クァッフルは石頭の淑女ケイティ・ベルからスタートします!!』

『解説のマクゴナガルです。各陣奮闘を期待します!』

 

 

「諸君らの軍功に期待する!! 試合ーーー開始ぃいいいいい!!」

 

 そして――フーチのホイッスルがとどろく――。

 

 

 

 

 

 

 

 試合は白熱を極めた。

 負傷者3人、退場2人。

 鮮血が校庭の砂をいくらか斑に染め上げる。

 リザーブの選手たちが次々と投入され、役者を変えながら、尚この死の舞踏は続いて行く。

 

 

『スリザリン!! ゴォオオオオル!! コレで100vs80。今季最大の試合となりましたねマクゴナガル先生!!』

『そうですねウッドォオオオオ!! 次は防ぎなさぁああああい!!』

『解説って何でしたっけね……。クァッフルは主将、マーカス・フリントがキャッチしました!! フリント進む! フリント速い!! 速いぞスリザリンのキャプテンフリントォオオー!

 

 あああああああーっと! ここでブラッジャーだぁああああ!』

 

 

 

「ここから先は!」

「行かせないね!」

 

「「蛇山の大将さん!! ここで堕ちな!!」」

 

 

 

『先にひかえていたのは――人間ブラッジャーウィーズリー兄弟ィイイ!!』

 

 

 それを見逃すビーターは、この世にはいない。

 

 

「ベス! キャプテンを援護する!!」

「了解! 今行くぞキャプテンーーーー!!」

 

 深紅の競技用ローブがはためく。

 双子のフレッド&ジョージ・ウィーズリー。

 

 双子故に、殴り合っている内に、どっちがどっちだか分からなくなり。気がついたら挟撃されている――という、地味に意地汚い戦法が彼らの十八番であった。

 だが経験をつんだフリントの敵ではない!

 

 フレッドから放たれたブラッジャーを、ジョージがフリントの箒目がけて撃ち返す!

 そのブラッジャーを旋回しながら除けるフリント。

 急な回転により、Gがかかり、視界が漆黒に濁っていく。

 グレイアウト、このまま視界が回復できなければ完全なブラックアウトへと陥るだろう。

 

 

 

 だが、フリントは。

 

 止まらなかった。

 

 

「行けぇえええ!」

「死ねウィーズリィイイイ!!」

 

 

 

 少女がフレッドの方に渾身のタックルをブチかました。

 尚、ギリギリ反則ではないレベル。

 軌道を読んだフレッドがギリギリの所で避ける。だが――

 

 

「っ!」

「貰った!!」

 

 フリント越しにベスはブラッジャーを相手方――ジョージ・ウィーズリーの箒尾に向かって撃ち返す。

 

 

『コレは凄い! ビーター対決です!! グリフィンドールの守備! ブラッジャーとブラッジャーを使った――ビーター同士の殴り合いが展開されております!! これは怖い! フリント、地面スレスレの匍匐飛行! これじゃ死なないかもしれないが、得点はできない! フリント、潜ってこのビーターの殴り合いを見届けるようです!』

 

『いや……違います……』

 

『ゲームが動かない! 一体この勝負どこに向かうのか――!?』

 

『違う……違う……コレは――!』

 

 

 

「やるな! 新人!」

「だけど! まだ!」

「「僕たちには及ばないな! ベス・ラドフォード!」」

 

 

 

 

 

「……言ってろ! 血を裏切る4アンド5男!」

 

 

 2つのブラッジャーを連打しながらフレッドとジョージは考えていた。

 ボールは強い。だが、こっちの少女はまだ幼く、そして技術も未熟。だったらこっちから潰していこう。

 騎士道など最早そこにはない。女子供だろうと容赦しないのがクィデッチ。

 

 次来る弾で柄を折ってやろう、と軌道を読んで思案したその時だった。

 

 

 弾の軌道が――読みを、大きく外れた。

 

 否。

 

 

 大きく外れたのではない――――まるで、鏡面のように

 

 予想とは正反対の方向から来たのだ。

 

 

「え……? まさか……?」

「フレッド!!」

 

 箒の柄をブラッジャーが掠める、回避は間に合わない――。

 バキバキバキと、木の砕ける音を聞きながら。

 フレッドは確かに見た。

 

 

「左……?」

 

 

「おあいにく様!! 前の試合はねーートロールのせいで丁度『利き腕』をケガしてたのよ!!」

 

 

 

 と、いうことは。

 

 この1年生はずっと、利き腕じゃない方でプレイしていたのか。

 

 こりゃ、この娘、化けるかもな。

 フレッドはそう思うと完敗を認めると、試合を降りるために、ゆっくりと下降していくのだった。

 

 

 

「クッソ! フレッドをよくもーー!」

「やべ……」

「フリント! 時間は稼いだぞ!」

 

 片割れ不在につきキレたジョージ・ウィーズリーが殴り込む!

 

 

 

 だが遅い。

 

 遅かった。

 

 

 彼らの。

 

 

 スリザリンの。

 

 

 

 真の目的は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「テレンス!!」」」」

 

 

 スリザリンシーカー。テレンス・ヒッグスが――――飛翔する。

 

 

 

「悪いなグリフィンドール! 俺達は、お前ら『なんか』見ていない」

「100点以上の得点を得ること――スリザリンの勝ち状態で試合を終了させること」

「それによってー」

 

「はじめて『優勝杯』が見えてくる!!」

 

 

 

 

 

 

「飛べぇえええ! クイーン・スリープ!!」

 

 

 

 

 空を駆けるテレンス。

 

 そこに、いつものスカした様子は微塵もない。

 

 ただ、あったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝ちたい――――という、強い意志。

 

 

 

 

 

 

 

 手を伸ばす。

 

 

 指先が触れる。

 

 

 

 

 あと少し。

 

 

 

 

 あと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届けぇええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 呼吸すら止まるその刹那――――。

 

 

 

 

 

 

 

 テレンスの手が

 

 

 

 

 確かに

 

 

 

 

 

 

 スニッチを、捕えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――試合終了――――! スリザリンの勝利!!!!』

 

 

 

 

 

「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」

 

 

 嵐のような怒号と歓声が緑色に染め上げられた観戦席から飛ぶ。

 職員席にはガッツポーズを決める育ちすぎたコウモリの姿。

 

 誰もが『ソレ』を確信した中。

 

 

 

 テレンスは自ら掴みとった勝利を、精一杯腕を伸ばして掲げてみせた。

 

 

 金色のスニッチと、輝く初夏の太陽の光。

 

 その先に見えたのは――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 透き通るような、青い空だった。

 

 

 

 






学生らしくスポーツエンド。

グリフィンと再戦してるとか細かいことは気にしたら負け。
次回、賢者の石編最終回。


沢山の評価&お気に入りありがとうございましたー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1年目の終わり

「……こうして見ると、1年間……頑張ったって気がするな……」

「そッスね」

 

 そろそろ相棒と化しつつある、スリザリンビーターコンビのベスとボールは緑一色に染め上げられた大広間を見て感慨深げにつぶやいた。

 

 

「俺らメッチャ頑張ったよな……ベス」

「せやな」

「見ろよ先輩達のあの喜び様」

 

 

 

 

「イェエエエアアアアアアアアアアアアアア!!」

「勝った!! 勝ったぁあああああ! 優勝ゲットぉおおおおお!」

「大広間を俺色に染め上げてやったぜ……フッ……」

「やった……! やった……! これで……! ジェマ! デートしてくれぇええええええ!」

「えー? ……ま、まぁ1日だけならいっか。あんた頑張ったしね。キャプテン?」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 

 

 

 

「スゲーだろ」

「ひくわ」

「アレ、毎年やってんだぜ」

「嘘だろ」

 

 

 前夜祭で浮かれまくったスリザリン生の先輩陣(5年以降)は手が付けられなかった。

 後から来た1年生が、ドン引きしながらも、大広間一面に飾ってある蛇の紋章をきらきらとした目で見ている。

 

「ベスちゃーーん! お疲れさまぁ~~! 私たち優勝しちゃったよ~~!」

「杯を交わそうぞ。戦友よ」

「スゲー! 蛇ってらー!!」

「蛇でけぇwwwwww」

「…………悪くない」

 

 

「フォ……おい、騒ぐな。こんなこと位で喜ぶなんて純血の誇りに……ゴニョゴニョ……あ! ラドフォード」

「ようマルフォイ」

「あー……その……。良い天気だな!」

「分かる。今にも雨が降りそうな英国特有の曇天だよな」

「……フォい……」

 

「……ドラコ、素直、なる」

「非常事態宣言発令ーー非常事態宣言発令ーー」

「あ?」

「五月蠅いな!! 黙ってろよ!!」

 

 マルフォイは、何かモジモジしていた。

 俯いている。

 その顔がやや赤みがかっているような気もした。

 

「なんだよ、さっさと言いたいことあんなら言え殺すぞ」

「あー……だから……その……えっと」

「あ?」

「……ベス……学年末パーティーは……その……僕の……隣に……座らないか?」

「おk」

「……え? いいの!?」

 

 嬉しそうなマルフォイ。

 

 

「何だ、そんなことなの。別にいいわよ。だってゴハンはどうせ『聖域』で食べるもの」

「……」

「今は亡きターバンのやらかしたトロールシャンデリアにもカボチャパイ持ってってあげなきゃ可哀想でしょ? それに、今日は一段と蝋燭の輝きがいいんだから。飯終わったら行くわ。んじゃ」

「…………」

 

 

 

「ドラコ……」

「水分調整……顔面水分調整シロ……」

「ないてない」

「……ドラコ」

「水分……生理食塩水……要ルカ?」

「あぁもう黙れよ!!」

 

 

 ベスはそんな感じでスリザリン席から全てのカボチャパイを一人で独占すると、ハロウィーンの日にバッキバキにされたトイレでシャンデリアと化したトロールと最後の晩餐を楽しむのだった。

 便所飯も、家具が一緒なら、孤独ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「また1年が過ぎたーーーー」

 

「お、始まったぞ。ダンブルドアのクソ演説だ」

「どこぞの政治家みたいだな」

 

 

「何という1年じゃっただろーー、君たちの頭に少しでも何か詰まっていればいいが、どうせお前ら馬鹿だから夏休みでスッカラカンになるんだろご愁傷さまじゃ」

 

 

「死ね老いぼれ」

「いつまで生きる気がクソ老害が」

 

 

 

「さぁ、楽しい点数の発表時間じゃぞーい」

 

 

 

 

 グリフィンドール:312

 ハッフルパフ:352

 レイブンクロー:426

 スリザリン:432

 

 

 

 レイブンクローとわずか6点差。ギリギリで勝利をもぎ取ったスリザリンから割れるような歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

「と、最高に喜んでいるスリザリンの諸君を今から絶望の淵に叩き込もうかと思います」

 

「「「「え」」」」

 

 

「ロナウド・ウィーズリー。たとえ危険極まりないと分かっていても、友を見捨てはしなかった。それこそまさしく騎士道の鏡。かつて獅子寮に属したどっかの誰かと君は違ったようじゃの。

 騎士の誉れを貫いた心意気を評価し――10点」

 

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

「僕の弟だ! 一番下の弟だよ! 凄いぞロン! 監督生モノだぞ!!」

「「言ってろパーシー」」

 

 

「この話長そうね」

「……だ、大丈夫だフォい……まだ……まだ大丈夫だフォい……!」

「あっそ」

 

 

 

 

 

「次はハーマイオニー・グレンジャー。火に囲まれながらも、冷静さを失わずよくぞあの底意地の悪い殺意MAXのスネイプのクソ問題を解いた。

 50点」

 

 一気に60点も増えたグリフィンドール生は歓喜に満ちていた。

 

 

 同時に、今この瞬間、最下位に転落したハッフルパフから笑顔が消えた。

 

 

「……」

「……」

 

 若干笑顔が引きつるフリントと、ジェマ・ファーレイ。

 

 

「ふぇぇ……大逆転だよぉ……ねぇ、私たちどうなっちゃうのぉ……?」

「勝ちて兜の緒を締めよとは、まさにこの事」

「…………これは絶望の予感」

 

 

 

 

「3番目はハリー・ポッター!

 

 強き意志の力こそがグリフィンドールの精神そのもの。そして、類まれな勇敢さを讃えよう。恐れて尚、逃げなかったその勇気を礼賛しよう。

 60点」

 

 

「スリザリンに並んだわ!!」

 

 

 

「……グリフィンドールが……並んだわ」

「……」

 

 

 青ざめるスリザリン生。

 

 大鷲寮からはファッキン!という言葉がいくらか聞こえてきた。

 

 

 

「zzz……」

 

 

 

 

 

「そして、敵に立ち向かうには大きな勇気が要る――じゃが、味方に……それも自らの信じる者に、逆らって尚、己の正しいと思うことこそを成す勇気。

 そこで、ネビル・ロングボトムに10点!」

 

 

 

「」「」「」

 

 

 

 

 スリザリン、絶望。

 

 

 殆どの生徒は何が起こったのか分からない、という顔のまま硬直していた。

 

 

 

「zzz……」

 

 

 

 

 ベス、爆睡。

 

 

 

 

 

「……ここで終わらせるのも一興じゃが、面白くないので追加じゃ。

 

 

 

 ケルベロスを錯乱させ、ホグワーツの物品および施設を破壊しまくり、未成年であるにも関わらず酒を飲み、更には炎の中に突っ込んでいく。

 その規則なんてクソくらえというスタンスを貫いた様は、最高に笑わせてもらった。

 ワシがおもしろかったので、エリザベス・ラドフォード。

 

 10点!!」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

「ん?」

「はい?」

「……お?」

 

「マジでか。何気、私初得点じゃない?」

「ふぉ……フォ……?」

「もっと誉めた立ててもいいのよマルフォイ」

「……ベス……ベス……!」

「何?」

 

 

 

「よくやったーーーーーーーー!!!!」

 

 

「ちょ……え……えぇええ!?」

 

 

 

 

「あ! ああーー! ど、ドサクサに紛れてドラコ君ベスちゃんに抱き着いたーーー!」

「あ奴も遂に漢となったか、ならば良し」

「セクハラだーー!」

「ドラコwwwwwwやったなwwww感動したwwww」

「…………もう見ててウザかったもんな。こん位いいだろこの位はな」

「や、やだちょっと何で皆見てるのよ!? マルフォイ離しなさいよ!! 恥ずかしいでしょ!!」

「う、うるさい!! ……この場合僕の方が恥ずかしいわ……!」

 

 

 

 

 

「と、という事は……!?」

「コレは……つまり……」

 

 

 

 

「何かそうゆう訳じゃ、愚民共。大いなるわしの采配に跪くがいい。

 

 今年はグリフィンドール&スリザリン同一1位じゃ!! おらさっさと変われ飾りつけ」

 

 

 ダンブルドアがパチン、と指を鳴らすと。

 

 そこには

 

 

 

 

 蛇と獅子が複雑に絡み合った、冒涜的な旗が掲げられていた。

 

 

 

 

「「「うわぁあああああああああああ!!」」」

 

 

 その、狂気じみた光景に。

 

 

 普通の神経を持つ生徒たちは次々と卒倒していく――――。

 

 

 

 

「……あ」

 

「ジェマ……!? 無茶するなお前は女なんだからこんなもん見るな! そうだこのキャプテンフリントの胸にーー!」

 

 

 

 

「あ、あああ……!」

 

 

 

「ジェマ……? どうしたジェマ……??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっりがとうございますぅううううううううううううう!!!!!!!!!!」

「」

 

 

「獅子攻め……蛇受け……! コレは――コレは――――そう!!

 

 ゴドリック×サラザール!! 創設者カプキタァアアアアアアアアアアアア!!

 ゴドサラよーーーー! 皆ぁあああ! ゴドサラよぉおおおお!! 校長公式だわーー! あ、あああ! 私の……私のGペンはどこ!? スケッチブックを貸してフリントーーーー!」

 

 

 

「……絶望しました、死にます」

 

「あ、鼻血が……失血死します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キングスクロス行きーーホグワーツ特急--出るよーー」

 

「帰ります」

「音速で帰ります」

「光の速度で帰ります」

「次はコ●ケで会いましょう」

「今年はゴドサラ祭りです」

 

 まるで幽鬼の群れの如く生徒たちは次々と汽車に乗り込んだ。

 

 

「ほれ、ハリー。プレゼントだ」

「ありがとうハグリッド。アルバムだ。何だこれ……お、マジか。ありがとう」

「達者でな」

 

「あれ? 今回の騒動の戦犯じゃん。あれれー? 確か、酒に酔ってドラゴンの卵と引き換えに機密情報漏らしたんですってねスコッチ野郎。ねぇ恥ずかしくないの? 生きてて恥ずかしくないの??」

「黙れ小娘」

「私にプレゼントは?」

「あると思ってんのか帰れ。できたら二度と戻ってくるな」

「テメーがな」

 

 ホグワーツ特急に乗り込む。

 ベスは、当然の様にハリーとハーマイオニー、ロンと同じコンパートメントに乗り込んだ。

 ハーマイオニーとロンは、存在するだけで場の空気が悪くなるベスをなるべく見ないようにし、会話を楽しむふりをする。

 

 ハリーはじっとアルバムを見ていた。

 そこには、彼の両親――若かった頃のリリーとジェームズ・ポッターが、ハリーに向かって微笑んでいた。

 

 もう、二度と見る事ができないと思っていた両親の顔。

 

 ハリーは言葉が出なかった。

 

 

 

 

「あら、この人ハリーのお母さん? 凄い美人ね。この人に似ればハリーは赤毛のイケメンだったのに」

「あ……その……」

「うっわお父さん凄いわね。眼鏡じゃない。ハリーそっくり。あなた大人になったらこんな感じになるのかしら」

「……えっと……」

 

 ハリーはバタン、とアルバムを閉じた。

 

「あ……気、悪くした? ごめんね勝手に覗いちゃった」

「……うん。いや、僕はいいんだ……僕は。だけど……君は」

「いや別にいいけど」

「……」

 

 ハリーは緑色の澄み切った目で、じっと少女の目を覗き込む。

 相変わらず――冬の空のような色が見つめ返してきただけだった。

 青の混じった灰色。

 

 その色は美しい。

 だが、どこか冬の訪れを感じさせるような――――寂しさや孤独が、いつも宿っている。

 

「……」

 

 あの時、ハリーがみぞの鏡を割ろうとした理由はもう一つあった。

 

 ベスに鏡を見せない為だ。

 

 ハリーですら、虜になりそうだった。

 あの時のダンブルドアの言葉がなければ――――もしかしたら今でも、

 亡き家族の幻影を見続けていたのかもしれない。

 

 ハリーは思ったのだ。

 

 

 もし、みぞの鏡を彼女が覗いたら。

 

 

 

 

 きっと、同じものを見たハズだ。

 

 

 

 

 

 だから、見せたくなかったのだ。

 

 あんな思いをするのは、自分だけでいい。と。

 

 

 

 

「……いいの?」

「何が?」

「……君も……その……」

「あぁ、大丈夫よ。……それはもう解決したから」

「本当?」

「本当よ、だから気にしないで写真見ましょうよ。うわコレスコッチ野郎じゃない、全然変わってないわね! やっぱアイツ人外の汚い血が混じってるんだわきっと」

「……君、本当人を不愉快にさせるよ」

「放っておきなさいよロン。こうゆう人種なのよ。もう話だけ無駄だわ。時間と酸素のね」

「言ってろ穢れた血」

 

 聞こえてくるのはいつも通りの罵倒と皮肉の応酬。

 ハリーは苦笑を漏らしながら、アルバムを開く。

 今から戻るのは魔法の存在しない世界。

 酷く冷たい人の世界。

 だから、最後に。

 魔法界の温もりに存分に触れておきたかった。

 

 この汽車を、降りるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これ寮監じゃない?」

 

「え……うわぁあああ!本当だスネイプだぁああ!」

「若いわ……!?」

「何だコイツ……う、麗しい……だと……!?」

「歳は取りたくないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 


























 鏡には、一人の男の姿が映った。

 若い、背の高い青年だった。


 顔立ちだけなら、どこか冷たそうで……傲慢にも見える美形。若者特有の過剰な自信に、甘やかされて育ったのだろう高慢さと気品とが等しく存在した。


 嫌味っぽくて、皮肉屋っぽくて、誇りだけなら山の様に高そうな若者。
 そのくせ心の底では何かに怯えているような――――ありふれた、ごく普通の青年だった。

 だが。



 とても優しそうに、微笑んでいる。





 それが誰であるのか、ベスは一目見て理解する。





「……パパ……」





 鏡の中の男は、一際嬉しそうに笑った。




「…………パパ」









 コレは都合の良い幻ではない。

 もし、そうならば。

 ベスにはもっと別の光景が見えているハズだ。

 それは両親――他の子と同じく、中年ほどの容貌をした父と母に囲まれた――何不自由ない今の自分の姿が見えているハズだ。
 もしくは、大人になった、立派な死喰い人になった自分の姿が映るハズだ。

 



 だが、今、この目に映るそれは違う。


 
 みぞの鏡とはすなわち『自分の心の奥底にある一番つよい覗く』を映すもの。





 ベスの望みは多かった。
 
 美人になりたい、賢くなりたい、背が高くなりたい。マグル死ね。
 呪文をもっとうまく使えるようになりたい、クィディッチのキャプテンになりたい。マグル死ね。
 寮で一番得点を稼げる人になりたい、いつか主席になりたい、ジェマのような監督生になりたい、そしてマグル死ね。
 

 誰かに認めてほしい。
 誰かにすごいって言って欲しい。
 誰かに褒めて欲しい。

 誰より愛した人に笑って欲しい。誰よりも愛した人に抱きしめて欲しい。


 誰より――――誰よりも、愛したかった人に。

 
 自分を愛してくれていたであろう、人に。


 欲望は自覚するほど多く。
 11才の少女ならソレは――未来に対する『夢』の方が勝っていた。
 いつか私は主席になりたい。いつか私はキャプテンになりたい、と。


 だが、本当は、

 本当は一番欲しかったものは。



 多すぎる夢の中に埋もれていた――――たったひとつの、ベスの『願い』











 ベスはただ、一度でいいから『死んだ父親』に会ってみたかったのだ。










 ベスの家、叔母コーデリアの住むラドフォード家に、父親の写真は一葉もない。
 『死喰い人』であった父。その事実からベスを守るために、コーデリアが……もしくは、彼自信の意志によって全て処分されていたのだ。
 だから、ベスは自分の父親の顔を知らない。

 だからこそ。


 死んだ時の――――自分を愛してくれていたであろう、父に会いたかったのだ。






「パパ」








 自分でも分からなかった、本当の望みすらも、みぞの鏡は暴き出す。

 それが、見るものをどれ程傷つけようとも。

 鏡はただ、『望み』だけをつきつける。



 

 それは胸を切りつけられる程悲しく。


 狂おしい程愛おしい。






「……わたしね、ホグワーツに来たんだよ、スリザリンに入ったのよ。
 ……ねぇ、すごいでしょ? …………ねぇ、パパ……」



 答えはなかった。


 ただ、今にも消えてなくなりそうな微笑だけが、そこにある。




「笑わないでよ……」




 目を曇らす涙ですらも、憎らしかった。
 今はただ、この先2度と見ることのできない父の面影を目に刻んでおきたかった。
 
 だが、ベスはこの時が長く続かないことを分かっている。
 後ろにはダンブルドアが居る。
 鏡を見ないように目を背け、ハリーに呪文を唱えるダンブルドアが。
 これはきっと、彼なりの褒美のつもりなのだろう。


 もうすぐ時間が来てしまう。

 夜は明けて、朝が来る。


 生者のための、時間が来る。




 残る時間は少ない。話せる言葉も限られる。
 だから、これだけはしておきたかった。










 姿勢を正す。
 
 背筋を伸ばす。

 スカートの裾をゆっくりと持ち上げる。
 
 そして、早すぎず、遅すぎず、自分のペースで。


 優雅に頭を下げた。













 少女はお辞儀することにした。
 








 

 鏡像の向こうへ。亡き人へ。
 
 
 自分をこの世へ送り出した者への深い感謝と、哀悼を込めて。



 これからも生きていくという、決意を込めて。















 ずっと会いたかったんだよ。

 会って伝えたかったんだ。


 ありがとう、って。




 
 だからもう、




 悲しくないよ。






 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の個室編
とある薄暗い一室にて











 いつか、彼に伝わるだろうか。














 私か、彼らか。

 どちらが正しかったのかは、分からない。


 いや、違うか。



 本当はどちらも間違ってはいないのだろう。


 少なくとも私は、そう信じたい。



 ただ、






 私と、彼らとでは、目指す理想が違った。



 それだけは、譲ることができなかった。


 
 だから、この結末しかありえなかったのだと思う。





「お前にはこれから多くの苦難を与えることになる」





 これは、私の残す最後の愚かさだ。

 

「許しは乞わぬ……。だから、恨むのならば、どうか私を恨んで欲しい――――お前を共に征けぬ私を、憎んでほしい」




 何も答えは得られなかった。





 それでも、私は私の理想の為に進もうと思う。



 
 この千年先の世界で、いかなる誹りを受けようとも。

 たとえ誰に、伝わらなくとも。
 







 だが、それでも。



 


 ここにだけは、残しておきたい思いがある。


 















 いつか、彼に伝わるだろうか。



 




















 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ハリー・ポッターが自分の部屋の窓に鉄格子を嵌められている時だった。

 

 

 

 魔法界。

 

 具体的に言うと。

 

 

 アズカバン。

 

 

 

 すべての植物、動物、生きとし生ける生物が生きる意志を失うかのような場所に、少女がコツコツと歩いていくのだった。

 それは。

 

 月光の様な美少女だった。

 

 

 つややかな漆黒の髪は長く、さらりとまっすぐに伸びている。

 肌は心配になるほど血色が悪く、雪のように白い。 

 見る者を思わず二度見させるほど印象的な瞳は、薄い青の混じった灰色。

 すっと通った鼻筋に、真っ赤な唇の少女は、黒い、仕立ての良いワンピースを着て歩く。

 

 幼いながらもその美貌は、この薄暗い刑務所に不思議とマッチしていた。

 言うならばホラー映画に必要以上に美しい女優が出てくるみたいな。

 

 ゆらゆらと揺れる黒いローブの看守たちに連れられた少女は、その場所につく。

 

 照明が蝋燭数本しかない薄暗い部屋だった。

 

 

 

『アズカバン面会室』

 

 

 

 少女はそこでポツリ、と独り言を漏らす。

 

 

「相変わらず下水みたいな臭いがする場所ね……。全体的に退廃的なトイレって感じだわ。それはそれでステキだけど」

 

 

 少女――――エリザベス・ラドフォードは残念ながら全く進歩していなかった。

 

 奥の部屋のカーテンがそよぎ、緑色の炎が灯る。

 やがて、緑色の炎から重そうな手錠に繋がれた女の姿が現れた。

 

 それは。

 

 

 

 

 

 

 囚人服を完璧に着こなした、美女だった。

 

 少女にも、老女にも見える年齢不詳の美貌。

 この環境であるにもかかわらず、手入れはされていないものの艶やかさを失わないシルバーブロンド。

 透き通るような青い瞳の女が、にっこりと笑顔を浮かべている。

 

 

「ベスちゃん」

 

 

「ママ!」

 

 

 

 

 大きな鉄の首輪からは番号が下げられている。

 だが、もし、ここに名前を記入する箇所があったら、こう刻んであっただろう。

 

 

 オフィーリア・ロジエール。

 

 

 このどこか儚げな女性こそが、スリザリンの便所姫、ベスの母親だった。

 

 

 

 

 

 

「それでね、私ねースリザリンになったのよー!」

「あら~~。あらあらあら~~。それは良かったわねぇベスちゃん。お母さんも嬉しいわぁ。だけど、入学用品は大丈夫だった? コーディーは忙しいと思ったんだけど……」

「あぁ、それなら大丈夫よ。ハリー・ポッターとかいう闇の帝王ぶっ殺した本性黒い眼鏡と、ホグワーツの森番とかいう人間の落伍者っぽいスコッチ野郎と一緒に買い物に行ったから。ダイアゴン横丁ってすごいのね!」

「それはいつかお礼をしなくちゃね……お父さんの口座、凍結されてなかった?」

「されてたわ」

「ごめんねベスちゃん……大丈夫だった?」

「うん、お辞儀したら何とかなったわ!」

「流石ベスちゃん! あの人の子ね~~~~」

 

 尚、この会話を一字一句がりがりと羊皮紙に手書きで書きつけている監視官は死んだ目で仕事に従事していた。

 いや、実際美少女と美女。系統は違うが美人な親子が語り合っている様は眼福ではあった。

 問題はこの犯罪者と思えない気楽すぎる空気と会話だ。

 

 ふと、ベスが羨ましそうな目でオフィ―リアを見た。

 

「……あーあ。私もママみたいな髪と目が良かったな」

「あら? どうして?」

「だって、綺麗だもの。こう言っちゃアレだけど……ママ、子供の頃から目立ってたでしょ? 美人だし、その髪と目だと。叔母さんもそうだけど」

「ベスちゃんもとっても可愛いわよ」

「……でもこんな髪、いっぱい居るわ」

 

 

 確かに、全人口で一番多いのは黒髪。

 

 

 自分の癖のない髪をひっぱる娘を、オフィ―リアは鉄格子越しに撫でる事は出来ず――やさしく手だけ伸ばした。

 

 

 

「ベスちゃんの色はね、お父さんの色だからいいのよ」

「……」

「ベスちゃんにパパの血が流れているって証拠だから。とってもカッコイイ人だったのよ?」

「……そうね、うん」

 

 母親の満足そうな顔を見て、ベスも笑う。

 相似比の様に似ている親子だが、若干の差異は存在した。

 夜闇のような黒髪と、月光のような淡い金髪。

 すこし濁った青い目と、透き通るような薄い碧眼。

 ベスの目が若干つり目なのに対し、オフィ―リアの目はどちらかというとタレ目に近かった。

 

 他愛ない話をつづけていくうちに、時間が過ぎる。

 

 

「じゃあ……またね、ママ」

「元気でね、体にだけは気を付けるのよ。ベスちゃん、足がよく冷えちゃう子だったからね。赤ちゃんの時からそうなのよ。夜寝るときは温かくしてね」

「うん。気を付ける、じゃあね、ママ」

 

 

 

 ホグワーツ特急が出るまであと3日。

 

 

 ベスにとって、ホグワーツの2年目が――――始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 






ご好評につき、秘密の部屋編もやることにしました。(暫定)

ですが、原作未所持の為、ちょっと買ってきます。
結局みつかんなかった……マヂ無理。。。
今から探して読んで書くので更新は多分7月下旬~8月ぐらいになるかと思います。
少々お待ち下さると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

盗んだ車で走り出す

 9月。

 

 

 ハリーは相変わらず飯もマトモに食えないネグレクトとモラハラの毎日!

 そんなある日、叔父さんが取引先の爺と婆を呼んでイギリス式のディナーをやるってよ!

 なので自室監禁されてたら何か『行て帰えりし物語』のスメアゴルっぽいのが現れた!

 そいつに手紙をチョンボされていたことを知ったハリーは逆ギレしたよ!

 何かムシャクシャしたから婆の顔面にケーキをぶん投げ叔父さんの商談を台無しに!

 そして空飛ぶ車で家の窓をバッキバキに破壊し、ミゴト人間界から脱出したのだった――――。

 

 

 

 

「ぼくのなつやすみ、ダイジェストでした」

「相変わらずアクティブね! 普通なら訴訟モノだけど、相手がマグルなら問題ないわね!」

「何かその後ロンの家にお世話になったんだけど、そこでフクロウがローリングツイストブチかまして、スープに投身するっていう創意工夫に溢れた自殺をゆっくり鑑賞したあと、粉ぶちまけて移動する暖炉でノクターン横丁にぶっ飛んじゃって、マルフォイ見かけたりとかしたけど多分あいつら来学期ロクでもないこと考えてそう、ってこと位かな」

「どーせ箒でも買ってたんだろマルフォイなんか気にすんな」

「君がそう言うならそうかもね。ところで君はどんな夏を過ごしたの?」

「あのね! 私アズカバンのママに会いに行ったわ!」

「え? あのコンビニ強盗の?」

「そうよ!」

 

「頼むからコレ以上狂気じみた会話をするのは辞めてくれないかな? 僕、頭クラクラしてきた」

 

 血を裏切る一家。ウィーズリー家の6男。ロナウド・ビリウス・ウィーズリーが再会早々近況報告会を楽しむベスとハリーを黙らせた。

 

「この状況でよくもまぁ、お気楽に世間話ができますねェ!? 神経疑うよ本当に」

「もっと誉めていいのよ?」

「死ね便所女」

「殺すぞ。血の裏切者が」

「やめろよロン、口喧嘩なんかしている場合じゃないだろ? 僕たちは今、柱に突進したら入口が閉じてて大変なんだから!!」

「悲報、ホグワーツ急行発進のお知らせ」

「オワタ……」

 

 簡単に言うと新学期早々大遅刻かました新2年生。

 

「仕方ない。車まで戻って待機します」

「ハリー? そこの白フクロウを使ってホグワーツ、もしくは血を裏切る一家の誰かに連絡を取れたりは出来ないかしら?」

「駄目だ、羽が鳥類として折れちゃいけない方向に折れてる」

「はいカス。無能鳥類滅べクソが」

「……なぁ、スキャバーズ……空って……青いんだな……」

「ピギィ~~(分かるよ……変人共と付き合うのって辛いよな……)」

 

 ロンが現実逃避がてらネズミさんとお喋りしだしたその時。

 はっ、とハリーが思いつく。

 眼鏡が太陽光を反射していた。

 

 

 

 

 

「そうだ! 車に乗って……空飛んでホグワーツに行こう!!」

 

 

 

 

「あ?」

「……は、ハリー……?」

「車が空飛べる訳ねーだろカス。監禁生活で気でも狂っ……あ、窓……車……空……。……いいじゃないそれ!!」

「おい、一瞬で理解すんな」

「そうだろう!?ベス! ロン、君運転できたよね? やれ」

「マジか。血を裏切る影薄6男でも良いところあるじゃない! さっさとやれ。先天性貧乏症候群オブ・ザ・クソ赤毛」

「テメェ轢殺すんぞ」

「でも、問題は未成年魔法使いが外で魔法を使っちゃいけないってことなんだよなぁ……うん」

「いいんじゃないの? 別に」

「あ、僕もそれ良いと思う……何だっけ。確かあるんだよ。半人前の魔法使いでもほんとうに緊急事態なら魔法を使っていいっていうヤツ……なんとかの制限に関するなんとかっていう……」

「『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令1875』ね。それの17条な、純血ならこれくらい常識だから雑魚」

「君も赤毛にしてやろうか、鮮血でね。そうさ! だから魔法は使っても大丈夫だよ……! 多分……」

「血を裏切る奴が鮮血とか言うんじゃねーよハゲ。ともかく17条盾がある以上大丈夫よ! 逝きましょう!」

「乗ります」

「車に乗ります」

 

 

 こんな感じでロン、運転席。

 ハリー助手席、ベス後部座席で出発した。

 

 突如浮き上がった空飛ぶ車にビビる村の住民だったが、ベスがギリギリでナンバープレートに張り付けた金属片を目にすると口ぐちにこう言った。

 

 

 

 

『 MADE IN JAPAN 』

 

 

 

 

「なんだ、日本製か」

「なら仕方ないな」

「大丈夫だ、問題ない」

「まさか……T〇Y〇TA……! もう……開発していたと……言うのか……!?」

「H〇NDAかもしれぬ……」

「クッソ! 東京株式市場はまだ開かないのか!!」

 

 

 

 イギリス人だからあまり気にしなかった。

 

 

「進路は北だ」

「この光の指す方向に、ラピュ●はあるのだ!」

「コレ30分おきにチェックしとけばいーや。おーし、いっくぞーー」

 

「え? 待って、ロンホグワーツ特急に追いつけばいいってだけの話じゃ……」

「そうは言ってもねー……」

「は? ホグワーツ特急に突っ込めって言うのかい? ハリー? 何それテロ示唆?」

「…………言いません、すみませんでした」

「……」

「このままホグワーツ行っちゃおう、僕らに残された活路はそれしかない」

 

 ロンがアクセルを踏み込んだ。

 と、同時に。

 

 

 赤毛の眼光に――――火が、灯る。

 

 

 

 

 

「ハーーーーッハハハハハッハ!! 速さこそが全てだチクショーーーガァアアアア!!! 死ね! 死ね!! すっとろい奴は皆死ねッッ!! 血の雨を降らせてやらぁあああああああああああ!!!!」

 

 

「ぎゃあああああああああああああああ!」

「あああああああああああああああああああああ!」

「ま、まってロンこんなのうわぇ」

「痛い痛い痛い!! 打撃が来る! 打撃が!! ああああ! シートベルトはーーどこーーーーーー!!」

 

 

 荒れ狂うロン。

 ロンの脚はアクセル踏みっぱなしだった。

 加速する車。

 それは。

 

 

 雲を突き破り。

 飛ぶ鳥を落とし。

 鳥の群れに突っ込んでは、大虐殺を繰り広げ。

 

 

 挙句の果てには青かった車は、まだら模様に、最後には真っ赤に染まった。かつてあおかった車がそこには存在するかのような有様だった。

 

 

 

「アーッハハハハッハハハ!! 見ろよハリー!! 目の前が真っ赤になったぞぉおおお! ヒャハアアアアアアアアアアアア!! 遅い奴は皆死ね! 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!」

 

 

「ローーーーーン!?」

「じだがんだ!!」

「ローーン! 戻って来い! 君はそんな奴じゃなか……あべし」

「あ、私もう駄目……オロロロロロロロロロロロロロ」

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで仲良くホグワーツについた。

 

 

「燃料切れです。吹かしすぎました。落下します」

「ああああああああああああああああああ!」

「こらああああああああああああああああああ!」

「前方に暴れ柳発見! ぶつかるぞーーー!」

「舵を取れーー!」

「無理だろーがぁあああああああ!」

「どうやらここで死んでしまうようです」

「くそおおお! こうなったら!!」

 

 ハリーが助手席側の窓ガラスをぶち破り、血に染まった拳を窓から突き出す。

 その先には杖が握られていた。

 

 ハリーは杖の先に力を込める。

 

 

「インセンディオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 杖の先から迸る光。

 その光を一直線に浴びたのは暴れ柳。

 

 今、暴れ柳に――火が、灯る。

 

 

 

「インセンディオ! インセンディオ!! 燃え尽きろ暴れ柳ぃいいい!」

 

 

 暴れ柳は苦しかった。

 なぜ、このような目に遭わねばならないのか理解できなかった。

 ただ熱くて、熱くて、痛くて――とても、苦しかった。

 

 そんなこんなで、苦し紛れの一発が車に向かって激突する。

 

 

 

「うわあああ杖が……杖が……! 僕の杖が……無事だ!!」

「チュウ!」(良かったじゃんご主人)

「い、痛いよぉ……うぅ……クソが……ぶっ殺す!! クソ木殺す!! レダクト!!」

 

 ベスの杖の一振り。

 ソレが命中し、暴れ柳のまだ燃えていなかった箇所が、バラバラと粉々に砕けた。

 

 

「レダクト! レダクト!! レダクトオオオオオ!!」

「インデンディオおおおおお!」

 

 

 バラバラに砕けた木屑をさらにベスは細かく切り裂いていく。

 最初は木片に、やがて木くずに、最終的にはコレただの粉じゃないかなというレベルにまですり潰す!

 そして、ハリーはそこに……インセンディオ、つまり発火の呪文を唱えた。

 

 粉状のモノに、発火。

 

 風に舞う、虚空に吹雪く粉と、火。

 

 

 あとは勝手知ったる。

 

 

 

 

 

 

 粉塵爆発――――であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ためらいのない爆音。

 光。

 

 それを聞きつけた、大広間の生徒たちが――ぞろぞろと顔を出す。

 

 

 

 

 

 

「祝! 暴れ柳炎上!!」

「ファ――――wwwww」

「焼き尽くせ!! 燃えろ燃えろーー!」

「初日からコレとは流石ホグワーツだぜヒャハー!!」

「暴れ柳がぁああああああああ! ポッターぁああああああああ! 貴っ様ぁああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

「うわ、流石スネイプだ、もうかぎつけてきたよ」

「何か僕ら……うん、帰ってきたって感じだな……ホグワーツに……」

「チュー!」(ようスニべルス。俺達の黒歴史が炎上したでwww)

「やだコレ超楽しいわ! 明日から毎日暴れ柳燃やしましょう!」

 

 

 いつかこんな城焼き払ってやる、と内心思う、ロンだった。

 

 

 






賢者の石編お気に入り登録&評価してくださった皆様ありがとうございました!

はじまるよさいあくの秘密の部屋!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギルデロイ・ロックハートと楽しい授業

『信じられない日本製品』

 

『世界よ、コレが日本車だ』

 

『東京株式市場騒然。イギリスからの資本大流入』

 

『MADE IN JAPANの神話は終わらない』

 

 

 

 

「一体どうなっているのだ!!」

 

「知りません」

「知りません」

「ニュース早すぎるわ……仕事しすぎでしょ新聞記者」

 

 

「そうだ! 空飛ぶ車!? それが日本製!? そのせいで日本車を買い求めようとする英国人が後を絶たない!! 国産車は大打撃だ! 今そのせいで工場は止まりまくっている!! 先行きの見えないイギリス経済!! 一体どうしてくれる!?!?」

 

「知りません」

「知りません」

「EU脱退でもすればいいんじゃないですかーー?」(適当)

「チュー」(90年代っつーことわかってんのか小娘が)

 

 

「そうだ適当なことを言うなラドフォード!! コレに乗じて――ハグリッドはスコットランド独立運動の集会に行きやがったではないか!!」

 

「マジでか」

「ついにやるんか」

「やだ……ユニオンフラッグどうなってしまうん……? 青いところ消えるの? すぐに国旗付きのアイテム買い占めなきゃ! あと20年くらいしたらプレミアがつくわ!」

「ちゅーー」(何の話してんだよお前ら)

 

 

「とりあえず貴様たちがしでかしたことは重罪だ! 退学だ!! ついでに暴れ柳を燃やしてくださりやがって本当に本当にありがとうございました!」

 

「どういたしまして」

「気にすんな」

「灰にしてやったわ」

「チュ~……」(誰か人間語会話の出来る奴呼んで来い)

 

 

 

「そしてお前達は退学だ!!」

 

 

 

「おいこら勝手に決めるでないセブルス」

 

 ダンブルドア、怒りの突入。

 

 

「……校長」

「ハリー、ロン、そしてベス……君たち3人のしでかしたことはトンデモナイことじゃ」

 

「はい」

「はい」

「すんませんでした」

 

 

「じゃが、ワシは面白かった。ので退学にするのは取りやめにしてやろう。偉大なる校長に感謝するのじゃ」

 

 

「「「這いつくばってお辞儀します」」」

 

「ウム、それでいい。跪け」

 

 

 よく訓練されたホグワーツ生は校長に対し何のためらいもなく土下座をすることができるのだ。

 たとえそれが肉焦がし骨焼く鉄板の上であろうとも。

 

「だけどマクゴナガルとかいう怖い婆が罰則しねぇと殺す病に罹ってるのでお前らに罰則を与えます。ハリーはロックハートのファンレターのゴーストライター。赤毛はフィルチとトロフィー磨き。んで便所娘は……そうじゃの。

 

 ホグワーツ中の全てのトイレ掃除で良かろう」

 

 

「ありがとうございます!! ありがとうございます!! 話の分かる校長HUUUUUUUU!!」

「おったまげー。罰則がご褒美になってるぜマー髭ーー!」

「ロックハート!? えー……僕あの人苦手なんだけどな……」

「人生思うままにはならないよな。ハリー」

「負け犬が。そうやって吠えてろ。私は高みに上り詰めるわ」

「君が居る場所は肥溜めだからな。そろそろ人間界に上がって来いよな」

「ちゅーーー!」(腹減った、オラ、チーズ出せコラ)

 

 

 

 なんかそうゆうコトで、罰則食らったけど減点はされませんでした。

 そのあたり本当マクゴナガルの拡大解釈っぷりが火を吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 今年の闇の魔術に対する防衛術の先生は一体誰なのかしら?」

「今はスプラウト先生の授業の時間なんだけどな~~……えへへ~~ベスちゃん気になるの~~?」

「……眼光の輝きはともかく、面だけは二枚目と見た」

「マジか。イケメンか。大正義じゃない」

 

 去年は闇の帝王が後頭部にひっついてる奴だったからなーとベスは思い出す。

 よくよく考えてみれば失策だった。他にもっとやる手とかうつ手とか会ったような気がする。

 今年こそは挽回しないと、と思うベスだった。

 死喰い人になりたい少女は今日も頑張る。

 

 

「はいはーい! 皆さん! お喋りはそこまで!! 今からマンドレイクの植え替えをやります! 誰か、マンドレイクの特徴が分かる人はーー!?」

 

 ハーマイオニーが手を上げた。

 

「マンドレイク、別名マンドラゴラは強力な回復薬です。姿かたちを変えられたり、呪いをかけられた人を元の姿に戻すのに使われます」

「素晴らしい、グリフィンドールに10点。ですがこの薬草は諸刃の剣とも呼ばれます。危険な面もあるからです、誰かそれが分かる人は」

「ほい」

 

 対抗してベスも挙手してみる。

 

「マンドレイクの泣き声はヤベェ五月蠅いので、聴いた人間の気が狂います。もしくは死にます。多分非常に賢い草なので薬品が生成されるときに自分の四肢が切断されること、もしくは命が失われることが理解できるのでしょう。その絶叫にマトモな人間なら精神が耐えきれないからです」

「その通り! スリザリン素晴らしい! けど余計なこと言ったので点数はナシです」

「ケチ臭」

「黙りなさい減点しますよ」

 

 一番温厚と言われるハッフルパフの寮監ですらこの様。

 

 生徒たちは全員マンドレイクを引っこ抜き、隣の鉢植えに移し、その上にぱらぱらと優しく土をかけて窒息させてあげるという微妙な作業に従事することになった。

 あとハリーがジャスティンとかいうヤツに聞いてないのに素性をくっちゃべられて迷惑そうにしていたけどベスはそんなこと別に気にしなかった。

 

 

「よいっ……しょ! きゃっ!」

「介錯っ!」

「ほい」

 

「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!」」」

 

「うぅ――! 耳が~~……キーンってするよぉー……」

「喚きなさるな! 潔く最期を遂げられよ!」

「うっせ」

 

「「「ギャーーーーーーーーーー!!」」」

 

「も~も~~! 良い子だから大人しくしてよぉ!」

「恨みが御座らぬが、ここで死んで頂く」

「さっさと生き埋めよ、生き埋め」

 

 

 ひどく苦しいのだろう。マンドレイクたちはそれぞれ絶叫をあげながら、土の中に沈んで行った。

 まだもがいているモノも居るが、びくん、びくんと数度葉っぱを大きく揺らすと――――やがて動かなくなった。

 

 

「うわぁああ! も、もう! じたばたしないでったらぁ!」

「ダフネ、あまり長く苦しませるな!!」

「寝ます。zzz……」

「ふぇぇ……どうしてそんなに動いちゃうの~~! や、やだ。も、もぅ……!」

 

 

「なぁ……女子の声ってこう……アレだよな……」

「クるよな~~……特にグリーングラスの声は意識ぶっ飛びそうになるよな!」

「…………ふぅ」

 

 

「あっ! も、やぁっ! このぉーー! 悪い子は~~こうしちゃうんだからーー!」

 

 ビキバキボキィ!

 

 と、ダフネの細い、たおやかな白くて長い指先から。

 何かが折れるような音がした。

 

 

「……」

「……」

「……」

 

「あ! やっと大人しくなったよぉ……えーいっ☆」

 

「……」

「…………女って……」

「…………アイツに迂闊な気持ちで手ェ出すのだけは、やめとこう……」

 

 

「おい聞こえてんぞ男子共」

「次マンドレイクにされたい奴から前へ出ろ」

「つか、なんで鳴き声で人殺すような草を授業で扱うんですかねェ……この学校やっぱり生徒殺しに来てるわ」

「サラザール・スリザリン卿が組んだカリキュラムです文句言うなカス」

 

 こんな感じで、ネビル一人の犠牲でマンドレイクの土葬合戦が終わりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時は、来たれり」

「ついにまちにまった、この時間」

「長かった……! 爺と婆と小人……どう見ても育成過多なコウモリ……死んでも教職を離さねえ老害……ロクな教師が居ないこの学校」

「その中に光指す、ただひとつの希望―――」

 

 

 

 

「「「「キャーーーー!! ロックハート様ぁああああああああああああああ!」」」」

 

 

 

 

「黙るフォい! 女子!!」

「女子、元気……」

「女ノ子ハ、元気ガ一番」

 

 

「るっせーぞフォイカスが黙れ死ね!!」

「黙れそこどけ見えねえだろうがブチ殺すぞ!!」

「死ね! 死んで灰になれ!!」

「ロックハート様こそ大正義だろうがさっさとクソして死んどけこのフォイカス!!」

 

 

「オイ! スリザリン女子! 全員ラドフォードが感染しているぞ! ところで本物のラドフォードが何処だ!?」

「ようフォイカス。久しぶり、元気ーー?」

「居た! ラ、ラドフォード君こそ……ちょっと見ない間にまた可愛くなってるフォ……フォ!? 君……君何してるんだ!?」

「ロックハート様のウチワにハッピに鉢巻よ。コレがなきゃはじまんねーだろーが。

 

 皆様ーー? 準備はよろしくてーーーー!?」

 

 

「「「「よろしくてよーーーー!!」」」」

 

「じゃあ大きな声で呼びましょー! せーのっ!!」

 

 

 

「「「「「ロックハート先生ーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」

 

 

 

「何が始まるんだフォイ……? 今から――――闇の魔術に対する防衛術の授業をするんじゃないの……?」

 

 

 途端に落ちる灯り。

 暗くなる教室。

 

 そして灯る一筋の光。

 

 その先から。

 

 

 

 

 

 キラキラのコートを纏ったロックハート様が現れた。

 

 

 

 

「やぁ、!みんな、私の授業に来てくれてありがとう!!!!」

 

 

「「「「キャーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」

 

 

「まずは小テストの時間さ! 君たちがちゃんと予習をやっているかどうか確認させてもらいますよ~~!

 お嬢さんたち……お勉強の時間の……ハジマリだっ! ワン、ツー、スリー、フォイ!!」

 

 流れる軽快な音楽とマイクを持ち出すロックハート。

 どこからともなく現れたバックダンサーたち。

 そして始まる――――。

 

 前代未聞の授業。

 

 

 

「好きな色は~~~♪」

 

「「「「ライラックーーーー!」」」」

 

「ひそかな大望~~~♪」

 

「「「「悪を撲滅! アンド、整・髪・剤!!」」」」

 

「誕生日は~~♪」

 

「「「「26th November!!」」」」

 

「理想的な贈り物は――――」

 

「「「人間界と魔法界のーー!」」」

 

 

「ハ~~モ~~ニィ~~~♪」

 

 

「「「「きゃーーーーーーーっ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「何だこの授業……」

 

「まぁ、うん。ロックハート様だろ」

「顔だけ男のやりそーなことだわ、だらしねェな」

「…………オレこうゆうの結構好きだわ…………」

 

 

 

「素晴らしい!! スリザリンに10点です! そして~~本日の授業は終了ーーーー! また会いましょう! それでは皆さん! ハバナイスデイ☆」

 

 

「「「「ロックハート様ーーーーーーっ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開かれし部屋

「クィデッチだ!!」

 

「うわっ!? 朝から何!? ウッド!?」

 

「クィディッチだーーーーーーーーーーーーー!!」

 

「わ、分かったよ! 着替えるから待って……」

 

「クィ・ディ・ッチ!! DAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

「あー……イエス! クィディッチ!! アイムクィディッチ! クィディッチだ!!」

 

「それでこそ男だ! 全員今すぐ校庭に出ろぉおおおおおおお! 狩りの時間だぁあああああああああああ!」

 

 

 

 

 

「そんな感じでこれから校庭で練習をしようと思っていましたグリフィンドールです。おはようございます」

「おはようございますグリフィンドールの皆さん。スリザリンのキャプテンフリントです」

「あぁ? フリント? テメ―なんで校庭使うんだよ俺らが予約してただろーが失せろカス」

「どっこい、お墨付きだ」

 

 

『吾輩スネイプはスリザリンの新しいシーカーを訓練すべく校庭の使用許可を出すものであ……ある、だから落ち着けフリントやめろおい何をするフリントやめ……かゆ、うま』(ここから先は血で染まって読むことが出来ない)

 

 

 

「……新しいシーカー? 誰それ?」

「テレンスは?」

「どうしたん?」

「卒業したよ。グリンゴッツだってよ。歴戦のシーカーも今じゃ立派な銀行マンだよ。ただしコネ入社のな」

「うっわマジか」

「腐ってやがる」

「「コレが魔法社会の歪みだな!」」

「だまれ人間ブラッジャーズ。さっさと出ろ新シーカー」

「どうもこんにちわマルフォイです」

 

 ハリーは目を丸くした。

 

「マジで……!? 去年ホウキ初心者だった僕にまんまと出し抜かれた奴じゃないか! どうしたんだよスリザリン。自分たちから優勝杯を破棄するだと……! そんな……そんなバカな!」

「スリザリンさんが……そんな……! 自分から勝ち目を潰していくなんて……!」

「フリント……僕は君を誤解していた……君は実はグリフィンドールの味方だったのか……!」

「流石フリントさん! 僕たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!」

「手の込んだサレンダーと推測」

「これで優勝は獅子寮かと予測」

「「本当に、本当にありがとうございました! これで優勝は僕たちです!」」

 

 

「言ってろグリカス共」

 

 ここまで言われれば流石のマルフォイ激おこ。

 

「ともあれクィディッチだ。さっさとそこ退けよ」

「やだ! フリントどかない! この新しくリニューアルされたニンバス2001を試したいんだよ!!」

「はぁ? お前の箒がニンバスとか寝言は寝ていってくださいませ。組分け帽子に脳みそ吸い取られたのかテメ……うわ本当だ!?」

「ニンバス2001が…………14本だと……!?」

「ん? あれ?」

 

 グリカス共はスリカス共の箒を確認して気づく。

 

「ビーターズは乗り換えなかったのか」

「当然よ。チェイサーやシーカーと違ってビーターはチェイサー共を捉える動体視力、ついでにブラッジャーに追いつけるだけの速度があればいいもの。必要なのは速度よりも安定と加速力よ。だったらクリーンスイープで十分じゃないの」

「……て相方が言うからしゃーないわ。あーあ……俺ニンバス乗りたかったなぁー……はぁ……」

 

 ベスのわがままにつき合わされたボールは深々とため息を漏らした。

 本当は乗りたかった。

 速度は正義だ。

 だって男の子だもん。

 

「とりあえず、『最新型』たるこの第三世代のホウキは、クリーンスイープシリーズはもとより、ニンバス2000型にもはるかに水を開ける。そこにある旧型なんかじゃ話にならないね」

「旧型は旧型なりの仕事をして頂ければいいと思います」

 

 

「おい、なんで練習してないの?」

「何してるのよ? あら……スリザリンの……」

 

 

「貧乏赤毛増えたーー!」

「増えた増えたーー! 怪奇!」

「うっわ出た。クソフォイとホグワーツトイレ清掃員だ」

「いいでしょ」

「ラドフォード! コレは誉めてない!!」

 

 ロンは目の前に並べられた7本の2001を見て口をあんぐりと開けた。

 

「いいだろう? コレを機にグリフィンドールもホウキを買い替えたらどうだい? そこの5号ならきっと博物館が買い入れるだろうよ」

「「「「HAHAHAHAHAHA!!」」」」

「酷く下品ね……いいわよ言ってればいいわ。グリフィンドールの選手はお金じゃないわ! 才能で! 選ばれているんだから!!」

 

 マルフォイの得意そうな顔が歪んだ。

 

 

 

「お前の意見なんか求めてない、このーーーー『穢れた血』め!」

 

 とたんに轟轟とした非難の嵐が飛ぶ。

 それを食い止めるため、フリントはマルフォイの前に立ちはだかった。

 

 ロンがローブに手を突っ込み、杖を取り出す。

 

「よくも言ったなマルフォイ――!」

「エクスペリアームズ!」

「プロテゴ!」

「ステュピファイ!」

「ステュピファイ!」

「クルーシオ!!」

「クルーシオ!!」

「アバd――」

「シレンシオ!!」

「――ナメクジ食らえ!!」

 

 ロンの杖の先からナメクジの呪い逆流。

 ロンがケパケパケパーとナメクジ吐いた。

 それを激写するハリーのストーカー、コリン。

 その後、ハリーとハーマイオニーハグリッドの所にロンを連行していくのだった。

 だが、ハグリッドは独立集会の為不在。

 なので、仕方ないのでハリーは後ろから親友を殴りまくり、全部吐かせたのだった。

 

 

「ねぇ、君」

「えっ? えっ? 僕ですか……? あ、あなたは確かスリザリンの」(綺麗な人だなぁ……)

「ちょっとお姉さんにこの写真くれない? あの血の裏切りをぶっ殺すチャンスだわ」

「……え……でも……」

「はい。これ、去年のハリーのベストショット」

「うっわーー! すっごいやーー! はいどうぞ。ネガを渡します」

「ありがとう、話の分かる子ね!」

 

 そして、ロンの醜態は学校中にばら撒かれることになり、しばらく生徒たちの間で話題になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フィルチの猫」は無残な姿で発見されました

 

 

 

 

 

「ミセスノリスぅうううううううう!!」

「こんばんわ。罰則帰りのハリーです」

「同じくロンです」

「趣味と罰則を兼ねたトイレ掃除のベスです」

「うわあああああああああああああ! ミセス・ノリスぅうううううううううう!」

 

 壁に向かって走るフィルチ。

 フィルチは風を越え、音速を越え、光すらも超越し、ありとあらゆる因果律を跳躍し、ホグワーツ城の石壁をぶち破るッ!

 そして反対側から出て、ダイナミックに投身自殺!

 「管理人フィルチ」さんは恋人の後を追いました。

 

「壁に何か書かれてたっぽいけど何が書いてあるのかもう分かんないな、コレじゃ」

 

 壁にはかつて赤い何かで字が書かれていたような跡が見て取れた。

 が、たった今フィルチがぶっ壊したので何が書いてあるのかよく分からない。

 

 そんな状況に颯爽として現れるのは。

 

 

 

 一筋の。煌めき。

 

 

 

「ふむ……ここは私! ロックハートにお任せあれ!!」 

 

「あ、あら! ロックハート先生!!」

「あっ、これ嫌な予感がするぞ」

「退避ーー! 総員退避ーーーー!!」

 

 目をキラキラとさせるベス。

 眼鏡を逆光反射させるハリー。

 そしてなぜだか、皆の避難を促す赤毛。

 

 

 

「HAHAHAHAHA! 古代ヒエログリフを鼻歌まじりに読み解ける私が居れば恐れるに足らないのですよ! えぇ!」

「「キャ―――っ! ロックハート先生ーーーーっ!!」」

「恐らくはこんな感じで書いてあったのでしょう! そぉい!!」

 

 ロックハートが杖を取り出し――――何故か振らずにカリカリカリと破片とかを丁寧に集めはじめ、接着剤で固定。数分後。

「ふふん♪ どうです皆さん! この私! ギルデロイ・ロックハートの華麗なる活躍を――「ロックハート先生素敵ーーーーっ!!」

 

 

 

 

『ちょっと秘密の部屋開けてみたbyスリザリンの継承者』

 

 

 という血液文字が出来上がった。

 

 

「ねぇこれ……血なのかしら……?」

「何よ気になるの穢れた血。ちょっと待ちなさい」

 

 ハーマイオニーが不安そうな表情を浮かべたのを確認したベスは、ローブから霧吹きを取り出す。

 そしてシュッシュッと薬液を吹きかけ、ライトで照らす。

 

「血だわ……! 間違いないわ!」

「何だよこれ、マー髭だな。流石スリザリン、またスネイプの課外授業だろどーせ」

「あ? 馬鹿じゃねーの? ルミノール反応だよただの化学でーーす。それとも何かなー? 何かなー? 血を裏切る六男ロニー坊やはアレかなー? 魔法薬と化学の区別もつかないんですかそうですかーー? あーあーパパはどこにお勤めでしたっけ~~~~?」

「君こそマグル嫌いじゃないのかよ」

「黙りなさい私からママを奪ったマグルなんか大嫌いよ。むしろマグル死ね、滅べ。だけど使えるモンは使えるんだから仕方ないでしょ。全ての知識と技術だけ我々魔法族に献上してマグルとか絶滅すればいいと思うわ」

「君こそ死んだ方が良いと思うな!」

「秘密の部屋……? スリザリンの継承者……」

 

 ハリーが難しい顔で唸る。

 その時、フォいフォいバシャバシャと、濡れている床を気にしながらマルフォイ突入。

 

 

「ははっ! 本当だ! 父上の言った通りだ!! ―――スリザリンの継承者が秘密の部屋を拓いたんだ!」

 

 マルフォイの顔には喜色が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

「次はお前たちだ――――『穢れた血』め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言ったな……また言いやがったなマルフォイ……ナメクジ食らえ! オヴエエエ!!」

「うわあああああああああああ!? ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!?!?」

「ろ……ロン……私の為に……そんな……」

「(うーん……コイツだけは絶対継承者じゃないよなー……)」

 

 

 

(ん? これモシカシテ??)

 

 

 ベスの頭が閃く。

 

 

 

 

(ホグワーツから――――穢れた血が一掃できるじゃない……。……継承者……話が分かる奴ね! けど一体誰なのかしら……?)

 

 

 

 

 




 
 ゴーストパーティーカット。
 映画寄りだからね☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嘆きのマートル


ちょい長め


 ある日の午後。

 それは、とても平和な何の変哲もない日常だった。

 

 ハッフルパフとレイブンクローの生徒がぺちゃくちゃと楽しそうにおしゃべりをしながら角を曲がる。おそらくは新入生なのだろう、杖や教科書、鞄は新品。一人は既に兄か姉が居たのか、そのおさがりと思しきローブは若干くたびれてはいるものの、入念に手入れされ、きちんと寸法を直してあった。

 お互い、今の授業で出された宿題の文句を言いながらも、その目はキラキラと輝いていた。これから先は楽しいことが沢山あると信じて疑わないような眼差しだった。

 そんな可愛らしい二人の新入生の足元が、爆発する。

 考える間もなく、そこから殻なしロブスターのようなキメェ生き物が飛び出した。

 どう考えてもホラー。ぎゃーーと声を上げたふたりの新入生は悲鳴を上げたままパニクって走り出した。

 わけもわからず二人はその辺に何か植えてあった低木に逃げ込む。

 その低木は急に火を吹き、燃え上がる。よく見るとその木には看板が吊るしてあり『ウィッカーマンはこちら』と書いてあった。

 そこに、優しいハッフルパフの上級生がアクアメンティで水をぶっかけ、恐怖とパニックで泣き叫ぶ下級生を助けようと試みる。

 が、そんな彼を上から狙う影があった。

 

「「「「ステューピファイ!!」」」」

 

 現れたのは緑ローブの集団。

 乱舞するステューピファイ光

 声を聴きビビったハッフルパフの上級生は伏せるが間に合わない、頭に失神光線を喰らい、ばたり、とぶっ倒れた。

 

「ホーンビー!! 誰かーー! ホーンビーが死んだーー!」

「なんだとーソレハタイヘンダーー! 皆ーースリザリンがハッフルパフをやったぞー!」(棒)

「それはスリザリンが悪いなー!」(棒)

「悪い奴はころさなきゃー!」

 

 だが争いは終わらない。

 緑色集団を見た地上の紅軍団が、上に杖を向ける。

 そして、始まる。

 

 

 獅子と蛇の戦い。

 

 

「アッセンディオ!! ステューピファイ!!」

「プロテゴ!」

「レダクト! ウィンガ―ディアムレビオーサ!!」

「ボンバーダ!!」

 

 

「インセンディオ――――」

「ボンバーダ――――」

 

 

 

「「マキシマァアアアアアアアアア!!」」

 

 

 何かが砕けるような音がする。

 バキバキバキ、と城が抉れる音が響く。

 

 とあるスリザリンの女生徒、ベス・ラドフォードはそんな音を聞きながら――――。

 

 

 

「…………何がどうなってるのかしら……」

 

 

 

 トイレの便座をつるりとピッカピカに磨いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、数日前にさかのぼる。

 

 秘密の部屋が開かれ、フィルチの猫が石となったあの日。

 まぁぶっちゃけフィルチの猫だから別にいーや、と皆そう思って放置していたら、立て続けに一人、二人と『マグル生まれ』とされているグリフィンドールの1年生、レイブンクローの1年生が無残な姿で発見されていた。彼らはそれぞれ姿見と、池の前で。

 ソレ流石にヤバいだろ、とここで初めて焦り出したので急きょ全校集会が開かれることに。

 それは、マクゴナガルの変身術の後だった。

 授業中、やたらと熱心であり、ミゴトに小さな蜥蜴をゴブレットに変えることができたセオドール・ノットがノートを見直している間、ダフネがノットに「ねぇねぇ、ここの杖ってどうやって振ればいいのー?」と聞いている姿を横目で見ながらベスはぼーっと空を見上げる。

 

「で、どうだろう? マグル生まれの奴を僕たちで調べて、リストを作っておくんだフォイ。そうすればきっとスリザリンの継承者はもっと『仕事』がやりやすくなる――――そ、そう思わないか?ラドフォード?」

「あ?」

「…………何でもない」

「じゃ黙ってフォイフォイ言ってろフォイカスが」

 

 

(この『継承者』……随分と手際がいいわね……私だったら、もっと躊躇するんだけど――全くためらいがない、割には狙う場所が微妙すぎる)

 

 ベスは宙にふよふよ浮かぶ蝋燭をぼーーーっと見ていた。

 

 

(もし私だったら――フィルチの猫なんか狙わないわ。だって誰も気にしなかったもの。それにぶっ殺すのも1年生ばかり――ってどうゆうことなのかしら? 確かに1年生を『削る』と上級生、特に後輩ができたばかりの2年生や5年以上の上級生たちへの精神的打撃は大きい。だけど、それを狙うのなら私だったら7年生もしくは寮の『監督生』を抜く)

 

 最高学年の7年生。または寮を束ねる立場の監督生を抜く。

 こうすれば全ての生徒に揺さぶりをかけることができる。

 

 

(もしかして、『継承者』は知らないのかしら――? 『穢れた血』で、かつ『監督生』『7年生』もしくは『寮で目立つ誰か』という条件をフルで満たす者の存在を)

 

 横でマルフォイが何か言っているのを無視し、ベスは黙考を続ける。

 

(この前提で考えると……『継承者』ホグワーツの人間関係、もしくは生徒のプロファイルに明るくない。そういう場所に居ると考られる――つまりは、3年以下の下級生に存在すると思っていい。

 ……と、思わせる為のブラフ? 自分の存在をくらます為の……うーん……分からん、メンドクセ、もういいや)

 

 

 

「しーーーーずーーーまーーーれーーーー!!」

 

 

 ダンブルドアが吠えた。

 

 

「皆、うろたえるでない。今回の騒動で、確かにミセス・ノリスと、グリフィンドール、そしてレイブンクローの生徒が犠牲になった。ワシの大事な手駒が減った、実に残念じゃ。遺憾の意」

 

 

 

「うわあいかわらず最悪だ」

「コイツついに言いやがったな手駒とか」

 

 

 

「シレンシオ! ワシが喋ってんだろーが。そのまま黙って鼻呼吸してろカス」

 

 

 ダンブルドアは生徒の口を縫い合わせると何事もなかったように続行。

 

 

 

「じゃが恐るるには足らぬ。今、スプラウト先生が、マンドラゴラを育てておる。奴らが成長した暁には煮殺して生きながら釜茹でにされたマンドラゴラの恨みたっぷりのエキスを吸わせるのじゃ。そうすりゃ治るわ石化位軽い軽い。お前らの頭と同じ位軽い軽い」

 

 

 

「おっふ……」

「糞カリキュラム組んだサラザールスリザリン卿に感謝」

「まぁソイツのせいでこんな事になってんだけどな」

「マジかスリザリンって本当クズだな。校長と同レベルじゃん」

 

 

 

「シレンシオ。うっせー黙るのじゃ。

 

 そもそも、諸君……何をうろたえておるのじゃ」

 

 

 

「え」

「は?」

「ん?」

「…………これは」

 

 

 

 頭沸いたんじゃねーか? この爺。

 

 ホグワーツ一同はそんな浅はかな事を思った。

 

 

 

 

「だから、何をうろたえておるのじゃ? お前らは何じゃ? 栄えあるホグワーツの生徒ではないのか??」

 

 

「……」

「お、おう……」

「……?」

 

 

 

「いいじゃろう。いい機会じゃから、このワシがお前ら愚民共にひとつ学校の先生らしく教育してやろう、ありがたい話じゃから這いつくばって感謝して一言一句漏らさずによく聞くがいい」

 

 

 それを聞いてほとんどの生徒は思い出す。

 

 

 そうだ、コイツ学校の先生だったんだ。と

 

 

 

 

 

 

「生徒諸君たちに告ぐ!! 諸君らは何だッ!?

 諸君らは豚か!? 家畜か!? ブヒブヒ泣きわめき怖い恐ろしいとグタグタ鳴きながらも何もせず、ただ飯を喰らい寝るだけの家畜か?? 出荷される日をただ待つだけの愚かしい生き物か?

 

 否! 断じて否じゃ!!」

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 

「諸君らは人間じゃ! 己の意思で世界を選び、己の意志で生きる世界を拓く人間じゃ!

 意志こそ人の力。思考こそが人の武器。勇気と叡智を兼ね揃えしホグワーツの生徒たちがこのような場所でなぜ這いつくばっておる?

 なぜ考えぬ? なぜ怯える? 分からぬのなら教えてやろう―――良いか! 生徒たちよ!」

 

 

 

 大広間が、水を打ったように、しん、と静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

「な ぜ 戦 わ ぬ ??」

 

 

 

 

 

 ひとり、また一人と顔を上げていく生徒たち。

 

 君臨するのは。

 

 緋色を纏うホグワーツの王――――あるいは。暴君。

 

 

 

 

 

「ワシならこう考える。

 

 自分以外を全員殺せば大解決じゃ。

 

 良いか? 『継承者』はただ一人。そして諸君らは何人じゃ?  

 それは藁の山から針を見つけるような作業となることじゃろう。だが、考えてもみるがよい。

 

 

 殺していけば――――いつか、辿り着くのじゃ。

 

 『継承者』に、の」

 

 

 

 ダンブルドアは両手を大きく広げる。

 その姿はさながら、死をも知らぬ、不死鳥のようであった。

 一周回って神々しい。

 

 その姿。

 

 

 

 

 

 

「示された道はただひとつ。

 気を抜くな! 信じるな! 杖を決して手放すな!!

 死にたくなければ相手を殺せ! 生き残りたくば継承者を殺るが良い!!

 己の命、ひとつ生き残れば諸君らの勝利じゃ!! 

 

 

 今、殺戮の宴の幕は上がった!

 

 

 殺し合いの始まりじゃああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

「フォイ……??」

 

(何が……起きたんだってばよ……?)

 

 ダンブルドアの圧倒的なカリスマにより、深い共感を覚えたホグワーツの生徒の中に殺戮衝動が芽生えた!

 この日から。

 

 

 楽しい学び舎であったハズのホグワーツは――血の雨降り、屍山築く、地獄の窯と化したのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マジでか。狂ってんなホグワーツ』

「本当それな」

『私生きてなくてよかったわー本当良かったわー安心だわー……安心……安心……』

 

 ベスの横でツインテール眼鏡っ子なゴースト少女が悲鳴を上げた。

 

 

『いやぁああああああああああああ! やっぱ死にたくなんかなかったぁああああああ!』

「……」

『うわあああああああん! ヤダヤダヤダーー!! やーーーーーだーーーー!!

 何でよ!何でよ何でよ何でよ!! 何で私みたいな不幸な人間が死ななきゃいけなかったのよ! 納得できないわ納得できない!! ひどいよぉおおおおおおおおおおおお!』

「うっせ」

『何で何で私が死ななきゃいけなかったのーーーー! ずっと不幸だったのに! ずっとずっと不幸だったのに!! いじめられて、眼鏡の事をからかわれて! 教科書をかくされて友達もいなくて一人でトイレで泣いてたら上から水ぶっかけられてーーー!』

「あっそ」

『こんな不幸な目にあったんだから私は幸せになる権利があったハズよ!! こんな不幸せにじっと我慢していたんだから私は幸せになっていいんだーーー! なのに酷いよ! なんでよ!! うわああああああああああ!!』

「……」

『あぁもうやだ。絶望しました。死にます』

「もう死んでるでしょ無理でしょ」

『そうでした。絶望しました。この世界は間違っています。呪います』

 

 ベスはすくっと立ち上がった。

 そしてマートルを真っ直ぐに見る。

 どこか睨み付けるかのような目に―――マートルが一瞬たじろいだ。

 

 

「うるさいのよ、黙ってよ」

『何よ! アンタに何が分かるのよ!! 私の何が分かるって言うのよ!!』

 

「知らないわよ。でもあなたの話を聞いていると腹が立つの。

 不幸? 不幸せだった? だから何よ? 

 不幸自慢したいの? 可哀想なマートル、って言って欲しいの? 

 

 

 馬っ鹿じゃないの??」

 

 

『な――な―――――!!』

 

 

「私だってパパは死んじゃったわ。少し前まで顔も知らなかった! ママなんかアズカバンよ! 私よりずっとずっと辛い目に遭っているのよ! それだけじゃないわ。ハリーだってパパとママもいなくて、ずーっとマグルに虐待されてて――でも頑張ってるのよ!

 それに比べればあなたはマシだったんじゃない? 親いたんでしょ? 家あったんでしょ? 家族の顔を知ってたんでしょ? なにそれ。私もハリーも下手したら一生手に出来なかった『贅沢』じゃないの」

 

『で、でも私は――!』

 

「友達いなかった? だから何よ。私だって居ないわよ。でも私は逃げたりなんかしないわ。

 あなたは逃げたの。不幸だからとかテキトーな言い訳作って、現実と戦わなかった! そんな人間が幸せになる? じっと不幸を我慢していれば白馬の王子さまが出てきて幸せにしてくれる?

 

 本当馬鹿じゃないの? 戦わない奴が幸せになれる訳がないでしょ」

 

 

『う、うるさい!うるさい!! あなたみたいに可愛いければ――あなたみたいに! かわいくて綺麗で何でも出来て! 皆から勝手に一目置かれるような人間なんかに私の気持ちなんかわかんないんだーーー!!』

 

 

「目を覚ましなさいマートル! あなたはお馬鹿だけど脳ミソカスカスのピーブスじゃないわ!

 

 いい! あなたは分かっているじゃない!!

 

 

 

 

 間違っているのは――――世界よ!!」

 

 

 

 

 

『……ふぇ……?』

 

 

 

 

「マートル、あなたは正しいの! 間違っているのは世界なの。あなたみたいな子が幸せになれない世界なんか間違ってる!! あなたみたいな子が笑えない世界はおかしい!

 マートル……あなたは分かっていた。でも、戦わなかった。それだけが罪よ」

 

『…………』

 

 

「一人じゃ寂しかったんでしょ? だから戦えなかったんでしょ?

 

 だから――――私と、一緒に、戦いましょう!」

 

 

『…………え?』

 

 

 ベスはそう優しく囁くと。

 手をマートルに向かって差し伸べた。

 

 

 

「マートル……。……もう、独りじゃないよ。

 

 ひとりぼっちは、寂しかったんでしょ? ……ごめんなさい」

 

 

『…………!』

 

 

 マートルの目から。

 

 無くしたハズの、もう、とっくの昔に亡くしたハズの――熱い何かが、零れた。

 

 忘れていた。何かが。

 

 そう。

 

 

 これは。

 

 

 

 涙…………。

 

 

 

「もうあなたは、『嘆きのマートル』なんかじゃない。私の友達よ!」

 

『……とも……だち……?』

 

「そうよ。二人で世界と戦いましょう!

 この世界は間違っているわ。そして。

 

 

 

 

 悪いのは全部マグルよ」

 

 

『……悪いのは……全部……マグル……』

 

 

「そうよ! あなたが、可哀想だったのも、ずーっといじめられていたのも、眼鏡なのも、恋愛のひとつもできなかったのも、不幸なまま死んじゃったのも、その後もずーっと一人ぼっちだったのも……

 

 

全部マグルが悪いのよ」

 

 

『……』

 

 

 

 マートルの目から雫が落ちた。

 

 そして、すっかり乾いたマートルの瞳には。

 

 

 とびっきりの笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいわ! ベスは私の友達ね! そして――マグル殺す!!』

 

「ちょろい」

 

 

 何気。

 

 

 ベスにとって。

 

 

 はじめての。

 

 

 同性で年上の。

 

 

 

 友人……かも……しれなかった。

 

 

 

 

 

  

 





c+javaさん誤字報告あざしたー。マジでいつもありがとうございます。

ストックが。。。足りてない。。。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トチ狂ったブラッジャー


※ロックハートブレイク注意


「さぁ皆さん! この私! マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そしてチャーミングスマイル賞五回連続受賞なギルデローイ☆ロックハート♪の授業ですよーー!

 今日は人狼をぶっ殺した話をやりますよーーーー! 人狼役は~~だ~れかなっ☆」

 

「「「「キャーーーーーッ! ロックハート先生カッコイイーーーーっ!!」」」」

 

「ハリー! ハリー!ハリーハリー! 君に決めたぁ! さぁ皆さん! 拍手を以てお出迎え下さい――ハリィイイイイ・ポッタァアアアアアアアアア!」

 

「「「「キャーーーーッ! ハリーーーー! 素敵ーーーーーーーー!」」」」

 

「アレ? 変だなぁ何だか悪い気はしないぞ」

「男なんてそんな生き物だよハリー! さぁ! 早く早く早く!」

 

 壇上に上がるハリー。

 薄暗い部屋の中、カッ!と大きな光が二人を照らす。

 ハリーの方は若干薄暗い感じで禍々しく。そしてロックハート様の方はどこまでも煌びやかに。

 尚照明係はコーンウォール地方のピクシー小妖精。

 スタッフピクシーの他に、監督ピクシーやレフ版を掲げているピクシー。その他のピクシーは籠の中に入れられ、小さなハッピと鉢巻、そしてド●キあたりで売ってそうな『光る魔法の棒』をもって踊り狂っていた。

 

 

「ハリー、さぁ大きく吠えてー! さぁ始めますよ~~! ミュージック! すたぁーと☆」

「ピギュイー!」(キャー!ロックハートサマステキー)

 

 ピクシー妖精がスイッチを押すと、蓄音機から音楽が鳴る。

 

 すると突然、まばゆいばかりのスポットライトが飛び出したロックハートを映し出す。 

 何時の間に着替えたのかキャップを斜めに被りオーバーサイズのTシャツをきたロックハートが現れる。

 重たいサウンドがスピーカーから響く。マジックの始まりだ。

 

 

 

「マーリン三等勲章SYO! 俺のSHOW! チャーミングスマイル賞受SYOU! 

 このイカレた魔法界KAI! 全KAI! 倒KAI! 大誤KAI!

 そんな世界に舞い降りた俺、ロックハート

 俺のJUGYOUを聞いてくれ、SAY HO HO HO HO!」

 

 ノリノリのロックハートは止まらない。

 

 

「吠えるJINROU! 響くHOUKOU! 俺のKOUDOU! 敵はTENTOU!

 杖つきつけ呪文かける! ハイこの呪文はSAY HO HO HO HO!」

 

「『異KYOU! 戻しの! 呪文』です!」

 

「グリフィンドールに10点!」

 

「キャ――! ありがとうございまぁああす!」

「ハーマイオニー……今年の君はおかしいよ」

 

 ピクシー妖精のプレイも好調だ。オーディエンスの熱狂はこわいくらいだ。

まだ、俺らの時代は始まったばかりだ、そんなメッセージがロックハートの口から飛び出していく。

本物のヒップホップが、ここに存在した。

 

 

「ハーマイオニーです授業が終わりました。サインを貰いに行きます」

「おやどうしたんですか可愛らしい栗毛のお嬢さん! おや~君は何をやっても1番のハーマイオニーさんですね!」

「お、覚えててくれたんですか……あ、ありがとうございます!!」

「スネイプの糞授業が終わったので飛んできました。どうもラドフォードです。サイン下さい!!」

「HAHAHAHAHAHA! 君はスリザリンの優等生、ベス・ラドフォードですね!! 私のサインが欲しいんですかな? やれやれ困った子猫ちゃんたちだ……」

「や……やだ先生ったら……も……もぅ~~!」

「物マネします。まるでマネ妖怪の様に。にゃんこ~~! にゃ~~にゃ~~!」

「HAHAHAHAHAHA! 可愛らしいのでスリザリンに5て――」

「させるかぁああ!」

「あ? 邪魔すんなこの穢れた血のガリ勉ブス!!」

「黙んなさい自称純血下半身デブ!!」

「――――冗談ですよw」

 

 

「ヒップホップなロックハートとラドフォードをぶっ殺したくなってきた」

「抑えてロン」

 

 

 

「サインですねー? サインですねーー? いいでしょう! いいでしょう! ところでコレは禁じられた棚のー」

「はい!『グールお化けとのクールな散策』に出てくるゆっくり毒薬について知りたくて!」

「んー? 君もですね~~ベス・ラドフォードさん?」

「はい! 『愛の妙薬』であなたの全てが知りたくて!!」

「HAHAHAHAHA! 積極的な子たちですね! 私は可愛い子は大好きですよ! 女の子は基本大好きですけどね! あと10年くらいしてココとかココとかもっと大きくなったらまた来てください! さらさらさらりっと。ハバナイスディ☆」

 

「「きゃーーーーっ! ロックハート先生マジチャーミングーーーー!!」」

 

 イケメンにしか許されないウィンクをぶっ飛ばしたロックハートはその後すたすたと消えていった。

 残された子猫ちゃん()たちは、飼い主が居なくなったのでにらみ合う。

 

 

「……穢れた血」

「……便所女」

 

 そして肩を組む。

 

 

「「今回だけは認めてあげるわ――ロックハート先生最高ーーーーっ!!」」

 

 

 イケメンは、正義だった。

 それは、思想も、正義も、血でさえも――凌駕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スリザリンには我々よりも優れたホウキがあるーー!」

「だね」

「それは否定すべくもない! だがしかし!! 我々には敵より優れた乗り手がいる! それは厳しい訓練を勝ち抜いてきたからこそ証明できたハズだ!! 思い出せ! そのつらい訓練の日々を! 今こそ訓練の成果をスリザリンの目に焼き付けてやれ!!」

「そうだね」

「そしてあの糞小賢しいネチネチのフォイカスが金の力でチームに入るのを許したその日を――連中に後悔させてやれ!!」

「分かった」

 

「良いな! 君次第だハリー! 目にモノ見せてやれ。フォイカスよりも先にスニッチを掴め! 

 

 然らずんば! 死あるのみだ!!」

 

「え……えぇー……」

「気にすんなよハリー」

「そうだ、コイツのいう事は半分にしとけ……」

 

 

「シーカーの資格とは何なのか――あの金持ちのボンボンに教えてやれ!! 

 

 獅子王の旗の名に誓い!! 野郎共ぉおおぉおお!」

 

「あら?」

「女性もいるんだけどー?」

 

 

「知らん!! クィディッチをやる奴はぁああーーー!

 

 

 漢の中の漢ぉおおおおおおおお! レディースエーン! 野郎どもぉおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

「「「「「狩りの時間だぁああああああああああああああ!!」」」」」

 

「ウッドこゎ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、スリザリン幕内。

 

 

 

「いいか! 今年の我々は奴らを上回る『速度』という武器を手に入れたァアーーーー! ルシウス・マルフォイにぃいいい! 敬礼ぇえええええ!!」

 

「ありがとうございます」

「本当に本当に、ありがとうございます」

「これで勝つる!」

 

 

「だが油断はするな! ドラコ! お前次第だ!! ポッターよりも先にスニッチを奪え!! ビーター! ベスとボールはドラコを守れ!」

 

「ほいよー」

「やっぱオレも2001が良かったよーーうわあああん!」

「黙れ石化されてぇか」

「ヒェ……!」

 

 

「あのクソ調子こいた傷モノ眼鏡に目にモノ見せてやれ!! 去年の雪辱! 雪ぐときは今! 貴様等は何だ!!」

 

「「「「我らスリザリン! ホグワーツ最強の末裔也!!!!」」」」

 

「時は来た! 箒を掲げろ!! 柄を起こせ!! 純血の誇りの名のもとに――奴らに身の程を教育してやれぇえええ!!」

 

 

 

(んー……そう言えばコレって……)

 

 

 

 ベスは何となく引っかかるものを感じながら空へと飛びあがっていくのだった。

 

「フォイ! この僕にかかればこんな試合さっさと終わらせてや――うわやばい本当やばいみんな見てる……き、緊張してきたっフォイ……お腹痛い」

「耐えろ。男だろ」

 

 

 マダムフーチが「戦端を開くのは貴様等だぁああ!」という激をぶっ飛ばし、ぴーっと笛をふいた。

 飛び上がる。赤玉、戦犯玉、そして偽ティ●キャンピー。

 そんなかんじで試合開始。

 

 

 

『始まりましたァアーー! グリフィンドールvsスリザリン! ホグワーツの誇る愚連隊集団グリカスと今世紀最大の波にノってるスリカスバトルでーーす! 今回スリザリン! ビーターの二人以外は全員ホウキをニンバス2001にアップデートしてでの戦いになります! 金にモノをいわせた薄汚い手を使いますねーーロクな大人にならないでしょう! 呪われてあれ!』

『マクゴナガルです。ジョーダン、いきなり呪いをブチかますのはおやめなさい。私だって我慢しているのですから』

『……HAHAHAHAHA! 冗談です!』

 

 始まると同時に。

 

 クィディッチを危険な競技にしやがった戦犯球、別名ブラッジャーがハリーの眼鏡をぶっ壊すべくびゅんびゅんとハリー向かってぶっ飛んでいく。

 

「うわ危な」

「ハリー! 伏せてなぁ!」

 

 双子の人間ブラッジャーとも言われるジョージ・ウィーズリーがソイツをバッコーンと打ち返す。

 その方角にはフリントが居た。

 ここはブロックして更にハリーを狙う――と考えていたベスは、次の瞬間驚愕することになった。

 

 

「なっ!?」

「え……!?」

 

 ブラッジャーが。

 

 そのまま。

 

 

 旋回してハリーの眼鏡をぶっ壊す為にローリングツイストをぶちカマス――――!

 

 

 

「うわあああああ!?」

 

 ギリギリの軌道で回避するハリー。

 ハリーの肩の上、首のすぐ横をブラッジャーが高速回転して飛んで行った。髪が数本道連れにされる。

 あと数ミリずれていたら、グリフィンドールの深紅のローブが更に赤くなっていただろう。

 

 ハリーはごくり、と唾を飲み込んだ。

 

「は……? うそ……だろ……!?」

「おい!何やってんだジョージ!?」

「フレッド! あのブラッジャー可笑しい! スリカス共が細工したんだ!」

「マジでか。兄弟作戦変更だ! シーカーを守るぞ! 鉄板護衛に変更!」

 

 グリフィンドールビーターコンビはハリーを鉄板護衛することにした。

 シーカーの為に盾となるウィーズリーの双子。凄い騎士っぽい。

 

 一方その光景を見ていたベスは。

 

 呆然とした。

 

 

「……は? なにこれ?」

「おいベス! ブラッジャーが1個見当たんねー! これじゃあ作戦がメッチャクチャに……うぉ!?」

「ブラッジャーが……一人の選手を狙うなんて……」

「マジか……これは……」

 

 

 二人が出した結論。

 

 

 

 

 

 

「神が」

「スリザリンに」

 

「「味方してる!!」」

 

 

 大体間違っても居ないが絶対当たってない答えへと辿り着いた。

 

 

「コレはハリーを殺すチャンスです。ボールさん、ゲームメイクはお願いします。私はブラッジャーさんと共闘し、グリフィンドールのシーカーを殺します」

「分かりましたお願いします。ブラッジャー1個で霍乱はキツイですけど何とかなります。相手はウィーズリー双子です気を付けてください」

 

 ベスは飛び上がってブラッジャーを見る。

 マジでハリーをブチ殺そうとしている様だった。

 

 

 

(見える――聞こえる――!)

 

 

 

 ブラッジャーの声が。

 

 

(私に語り掛けて来る―――!)

 

 

 ブラッジャーが。

 

 

 

「ハリーを殺せと……言ってるわ!!」

 

 

 

 ソレで良いんだよ……ベス。

 

 ブラッジャーがそう言っているかのような幻聴すら、聞こえた。

 

 今、ブラッジャーとベスの心は一つになる。

 

 彼女は渾身の力を込めて。

 

 

 

 バットを――フルスイングした。

 

 

 

 

「あべし!!」

「フレッドォオオー!!」

「……ジョージ、ごめん、僕から離れてくれ!!」

「何でだ!? 敵を討たせろ! ハリー!」

「いいから!! 僕に考えがある!! ブラッジャーがイカレてるなら――――利用してやればいいんだよ!!」

「……え?」

「ブラッジャーは僕だけを追尾する、だからそこを突くんだ! だから僕から離れて!」

「……分かった、でも気を付けろよハリー!! 幸運を!!」

 

 

(……赤毛が離れた……?)

 

 ハリーをブラッジャーと追いかけていたベスが赤毛が離れたことを確認する。

 腕を突き上げてボールに示す。『ビーターが一匹そっち行った』と。

 

 ニンバスの高速を追尾していく中で、ベスは気づいた。

 

 

 

(やばい……この高度……!)

 

 

 ハリーは急降下をやるつもりだ――。

 

 ベスは直感的にそれを悟った。

 だが、だとしたら操作性と安定性の勝るクリーンスリープ7号を使っている自分の方が有利だ。

 ただ問題は。

 

 追いつけないのだ。

 

 

 ベスは真下を見て目を見開く。

 

 

 

「……!」

 

「ふ、フォオオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!」

 

 

 多分、ハリーが急降下攻撃を仕掛けてくると思ったのだろう。マルフォイが恐怖を顔にはりつけて真っ青になっていた。

 

 だが、違う。

 

 

 恐らくは違う。

 

 

 

 マルフォイを攻撃するのは――――ハリーではない。

 

 

 

「ベス! どうしたーー」

「シーカー同士の殴り合い!」

「何だと……!? 追尾できないか!」

「駄目! ニンバスに追いつけない!」

「ああクソっ! だから2001に乗り換えろと……」

「だって、2001って……黒くてシュッとしてて綺麗だけど――――見た目全然可愛くないんだもの!! クリスの7号の方が白くて綺麗で私に似合うでしょ!!」

「お前そんな理由かぁあああああああ!」

 

 

 ベスも分かっていた。

 今回だけは完全に自分の采配ミスだった。

 2001なら訓練次第で乗りこなせただろう、今ハリーに追いつくことは余裕だっただろう。

 でも、何か見た目が気に喰わなかったのだ。可愛くなかったのだ。仕方ない。

 

 ベスはただ一つの可能性に賭けることにした。

 

 

(私じゃハリーに追いつけない――でも……でも! 何もハリーに追いつけなくてもいい!!)

 

 

 

 

 

 ハリーはマルフォイに向かって急降下する。

 

 

「マルフォイ!死に晒せぇえええええええええええええええええええ!」

 

「うわあああああsぁささあささぁxka@ka@ーーーーー!」

 

 既に腕は一本死んだ。

 もう、なにもこわくない。

 

 

「いっけぇええええええええええええ!」

 

 ベスが、ゲームメイカーであったもうひとつのブラッジャーを振りかざす。

 ココからは追いつけない。

 自分の箒じゃハリーの速度に敵わない。

 だが。

 

 ブラッジャーなら。

 

 

 ハリーを追尾する狂ったブラッジャーと、ベスの放ったブラッジャーが。

 

 マルフォイの手前で追突からの爆散した。

 

 

 派手な光と耳をつんざくような断末魔を上げ――ブラッジャーは死んだ。

 

 

 

「……えっ? ……えっ?」

 

 

 あとは涙目なマルフォイだけが残った。

 ただのフォイカスである。

 

 

 試合終了のホイッスルと共に、フリントが上から降りて来た。

 

 

「おい! フォイカス!!」

「な、何だフォイ……?」

「目の前だ!! 目の前!! めーーーのーーーまーーーえ!! そこに! スニカスがあったのに! なんで気づかないんだ!! 元鳥なんかぶっ殺せ!! 絶滅させろ!! ほーろーぼーせーー!!」

「フリントこゎ。。。」

「だが――」

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「勝ったぞぉおおおおおおおおおお!!」」」」

 

 

 

 スコア。160-150.

 

 スリザリンの勝利だった。

 

 

 

 

 

「試合終了ギリギリでフリントが入れたんだ!」

「流石キャプテン!!」

「当然! ジェマの前でカッコ悪い所見せらんねぇもんな……!」

「キャプテンーーーー!」

 

「やったわ! ありがとうキャプテン流石ー! このまま哀れな眼鏡の敗残者の顔を眺めに行きます」

「僕も行くフォイ!」

 

 勝ったけど負けた眼鏡は地面につっぷして死んでいた。

 

 

「ハリー! あぁハリー! 大丈夫ですよーHAHAHAHAHA! 何問題ありません! 今すぐ治してあげますとも! えぇそうです! この私! マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そしてチャーミングスマイル賞五回連続受賞なギルデローイ☆ロックハート♪ がね!」

 

 

 グリカスの女共が反応する。

 

「「「「キャーーーーっ! ロックハート先生ーーーーー!!」」」」

 

 

 

 

 

 

「やめて……」

 

「怖がることは有りませんよハリー! さぁ怖がらないで……力抜いて……深呼吸……」

 

「マジやめて」

 

「暴れんなよ……暴れんなよ……!」

 

「やめろ……触るな……!  僕に! 触れるな!!」

 

「†悔い改めて†」

 

 

 

「ロックハート先生ハリーの表情スゴ! スゴ!! 写真とります! やったーー! これでピューリッツァー狙えるーーー!」

 

「HAHAHAHAHAHA! チャーミング☆スマイル!!」

「アーーーーッ!」

 

 

 

 ハリーは骨抜きになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スリザリンの監督生。知的な美女、ジェマ・ファーレイがそれをガン見し、鼻から純血を迸らせながら目をギラギラさせていた。

 

 

「やだ……! 今年はサラゴドの年かと思ってたら大穴じゃない……! 素材の提供ありがとうございました。フリント! 羽ペンはここにあるわ! 羊皮紙も出したわ! 机になって!! 机になってーー! この案書き留めておかないと――!」

 

「フリントです。絶望しました。昏倒します」

 

「「「「キャプテーン!!」」」」

 

 

 

 

 

 後日。

 

 

 

「ハリーファンのコリン」は無残な姿で発見されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決闘クラブ

「……かつて、世界に4つの希望が現れた――。

『グリフィンドール』『ハッフルパフ』『レイブンクロー』『スリザリン』。

 偉大なる四人の魔女と魔法使いは詮索大好きマグルな奴らからこの城を隠した。

 

 四人は言った。『ここに学校を建てよう』と。

 

 しばらく和気藹々と、魔法力を示した若者をスカウトし教育していたが……ある日、スリザリンとグリフィンドールが喧嘩した。

『やっぱオレ入学者を選別するわー』

 とか言い出した。ので杖とか剣とかヤクとか鍋とか色々持ち出して殴り合った結果、何があったのかよく分からんがスリザリンが学校を去ることになった。だが。彼は転んで只で起きる奴じゃなかった。ムカついたから嫌がらせにみんなで仲良く作った友情の証であるお城に『秘密の部屋』ブチ開けて、その中にロクでもないもん詰めて.

『こんなとこ二度と来るかボケ! テメーらとは絶交だーー! のたうちまわって死ね! 子々孫々まで呪われるがいい! ホグワーツ滅べーーーー!』

 と捨て台詞を吐いて消えましたトサ。

 そして恐らくその凶悪な呪詛は今も尚、生き続け、多分先日解禁されたことでしょう。

 

 メデタシメデタシ」

 

 

 

 

「素晴らしい説明ですノットさん!」

「お話ありがとうございましたセオドールさん!」

「……この位余裕」

 

 

 

「と、いう訳でーー! 始まりましたよ! 決闘☆クラブ!!さあ、私の声が聞こえますか? 私の姿が見えますか? 結構結構! 最近は継承者も怖いですが勝手に皆さん殺し合いを始めるのでね! だったら堂々とやらせましょうというホグワーツ始まって以来最高の偉大なる校長先生からの提案です! 

 講師はこの私! マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、大英帝国勲章、そしてチャーミングスマイル賞五回連続受賞なギルデローイー……」

 

 

「「「「ロックハート様ぁああああああああああ!!」」」」

 

 

「HAHAHAHAHA! と、スネイプ先生です」

 

「……」

 

 おもぐるしい沈黙が周囲を包む。

 

 

 

 

 

「……別に期待していたわけではない……うん……」

 

 

 スネイプはすっかり上唇がめくれ上がっていた。どんな顔だ。

 

 

 

「ではーまずーー杖を構えて! そして優雅に~~気高く~~

 

 

 お辞儀します!!」

 

 

「「「「きゃぁああああああっ! お辞儀したぁあああああああああああっっ!!」」」」

 

 

「HAHAHAHAHAHA! お辞儀します!!」

 

「「「「きゃあああああああああああああああっ!!」」」」

 

「お辞儀です!!」

 

「「「「ロックハート先生のお辞儀ーーーーーーーーーー!!」」」」

 

「HAHAHAHAHAHA!」

「アバd-」

「おぉっと! スネイプ教授、それ以上はシレンシオですよ」

「……ジョークだ」

「茶番ばっかで進まねえ」

 

 血を裏切るロン・ウィーズリーが比較的まともな発言をした。

 実質彼は心の中で「相打ちで両方死なねーかなー」と思っていた。

 微妙に腹黒い男だった。

 

 

「3つ数えて呪文をかけます! いきますよ~~! ワン☆ ツー♪ スリィ~ フォイッ!」

「エクスペリアームズ!!」

 

 目もくらむような紅の閃光が奔る。それは風よりも早く直線上のロックハート目がけて飛ぶ。

 光がロックハートに直撃――。

 するハズだった。

 

「……なっ!?」

「あれは――!」

 

 ロックハートの上半身が――――折れる。

 マグル出身者はまるで映画を見ているような錯覚に陥った。

 

 ロックハートが――ハリウッドスターもかくや、という絶世の美男子が。

 ブロンドをそよがせ、ローブをはためかせ。

 

 体を大きく反らせてあたかも銃弾を回避するかのようなポーズで武装解除呪文を――避けた!

 

 

「マ●リックス避け――!?」

「この目で見る日が来るとは――!」

 

 

「HAHAHAHAHA! 皆さん!こんな感じです! 昔のエライ人は言いました!『当たらなければ、どうということはない!』――さぁ皆さんもやってみてください! まぁ、この技は大技ですからね! 私が習得までの課程を書いてあるのは著作のニッポンのトーキョーを舞台に私が大活躍した『グールお化けとのクールな散策』をお読みください! HAHAHAHAHAHA!」

「もうお前突っ込むのも飽きたわ。模範演技をやってくれそうな奴を選びます。ノット! 出て来い!!」

 

「「「「ノットォオオオオオオオ!!」」」」

 

 スリザリン側から緑色の煙が吹き上がる! 

 軽快な音楽と共にライトが点滅。もちろんやってるのはピクシー妖精。

 ローブを纏ったスリザリンの秀才、セオドール・ノットが壇上に現れ――――頭からすっぽりとかぶっていた黒いローブを脱ぎ捨てた。

 

 そこには。

 

 

 『光る魔法の棒』を頭の横で突き刺し、鉢巻、ハッピを着こんだ完全武装のノットの姿があった。

 

 もちろん背中には『ロックハート命!』の文字。

 よく見るとそれは鉢巻にもハッピ全体にちりばめられており、消えたり、点滅したりして非常に目障りだ。

 アイツはマトモだと思っていたのに――と数少ない会話できる学友の変わり果てた姿を目の当たりにしたマルフォイが、叫ぶ。

 

 

「ノットォオオオオオオオオ!?」

「ロックハート様命!! この決闘! あなたに捧げます!!!!」

「目を覚ませノット! お前はイベントに目がくらんでいるだけだ!! 後々黒歴史になるフォイ! やめておけよ!!」

「後悔はない!!」

「ああああああああああ!」

 

 ダメだコイツ……と、マルフォイは諦めた。

 

 

「ではグリフィンドールからも指名しましょう! 確かノット君は秀才でしたね!結構結構! ではこちらも――ミス! ハーマイオニー・グレンジャー!!」

 

 ロックハートが指名すると、真っ赤な顔で紅潮しつつも、紅い煙と共に。ハーマイオニーが現れた。

 

 もちろん、ハッピ姿で鉢巻を締め、腰には『ロックハートこそ我が人生』と書いてあるウチワを吊るしていた。

 

 

「何だフォイ!? これ何だフォイ!?」

「直視するなマルフォイ……! あいつらキ×ガイを見るな! 精神汚染されるぞ! 水や鏡を通して間接的に見るのだ!」

 

 マルフォイとスネイプは必死に鏡越しに見ていた。

 

「グレンジャー……君とは一度戦ってみたかった」

「それは光栄ね。自慢の『光る棒』が木っ端みじんになるかもしれないけど許して頂戴」

「同じファンクラブのメンバーだが手加減をする気はない……グレンジャー、君をここでぶっ潰す」

「同じセリフをあなたに返すわ――――ノット、懺悔は済ませたかしら!?」

 

 二人で向かい合ってお辞儀。

 ロックハート命ハッピが、ふわりと広がる。

 

 そして、今、ピクシー小妖精による――殺し合いのゴングが――響く。

 

「ピギュイ~~!」(オラ、殺し合えガキ共)

 

 

「「エクスペリア―ムズ!」」

 

 武装解除、互角。

 光と光がぶつかり合い、火花が散り、そして弾けた。

 

 いち早く杖をぶった切ったノットがすぐに別の振り方を開始。

 

『双方!最初はエクスペリアームズです! 武装解除呪文!! 相手の杖をぶっ飛ばす呪文ですよ皆さん! 対人戦闘においてコレは汎用性が高いのでまずまずな滑り出しと言えましょう! これはいいチョイスです!』

 

 いつの間にか司会者席に避難したロックハートがマイク越しに解説をはじめていた。

 

「ルーモス・マキシマ!」

 

 ノットの杖から眩し過ぎる閃光が飛ぶ。

 いわゆる目くらましだ。ハーマイオニーが袖で顔を覆う。

 

『次はルーモスの上級互換です! ルーモスには系統がありまして、ルーモス光よ、を基本とし、ルーモス・マキシマ、ルーモス・ソレム。ちなみにルーモスは長時間ランプのように照らすことも出来るんですよ――! 消すときにはノックスです! ここテストに出ますよ覚えておきましょー!!』

 

「ボンバーダ!!」

「インペディメンタ!!」

 

『ボンバーダ! 素晴らしいですミスター・ノット! 爆発呪文ですね! えぇ! それに対してミス・グレンジャーは妨害呪文で阻止しました! ノット君の動きが一時停止。ここはチャンスですよーー!』

 

「ディフィンド!」

 

『切り裂きの呪文です! これは当たったら痛いー!』

 

 だが、呪文はノットの法被の袖を引き裂いただけだった。

 ノットの袖が、脇までバックリと逝く。

 もし狙いが数センチずれていたら、ノットの胴体がそうなっていただろう。

 

 引き裂いた袖から。

 

 コロコロ……と、ゴブレットが落っこちた。

 

 

 

「すみません水分補給用のゴブレットです。落ちてしまいました大変です」

「そうですか、それはすみません」

「大丈夫です。決闘を続けます」

「よろしくお願いします」

 

 

 ノットがゴブレットを拾い上げ。

 

 

 ハーマイオニーに思いっきり投げつけた。

 

 

 

 

 彼女にぶつかる直前で、杖をかまえて呪文を叫ぶ。

 

 

 

 

 

「フィニート!!」

 

 

 ゴブレットに呪文が命中。

 ゴブレットがフィニートを受けて――その、真の姿を現す。

 

 それは十数センチほどに成長した――殻なしロブスターに似たキメェ生物。

 知る人ぞ知る『尻尾爆発スクリュート』だった。

 

 

『おおーーーっと! ノット君! 何ということでしょう! コレは『変身術』ですね!! 変身術の『フェラベルト』と使ってゴブレットに変えていた魔法生物を持ち出してきましたぁーーー! セコイです! 狡猾です! 勝つ為なら手段を択ばないッ! 流石スリザリンの模範生でしょう! 彼が継承者かもしれない可能性が見えてきましたよ皆さんーーーー!』

 

 

「な、んだと……!?」

「あのスコッチ野郎に分けてもらったんだよ! 本当単純だなぁ! スコッチ野郎はな!!」

 

 

 以下ノットな回想。

 

『こんにちわハグリッドさん。僕セオドール・ノットですスリザリンですどうも』

『帰れ』

『いいお天気ですね』

『失せろ』

『実は僕スコットランド独立に興味があるんです』

『お?』

『イングランドのクソ共にスコットランドの偉大さを思い知らせてやりたいんです。スコットランドは独立すべきだと思います。インカス共に鉄槌を下す為にちょっとそこの尻尾爆発スクリュートを分けて下さいお辞儀します』

『いやはや、感心な小僧だ。よし、分けてやろう。独立運動の敵を殺せ。根絶やしにしろ、手段は問うな。奴らは人間ではない。自由の為に戦うのだ。戦士よ』

『やったーー! お辞儀しますぺこり』

 

 

 

 

「恨むんならハグリッドを恨むんだなぁああああ! 死ね! グレンジャァアアアアアアアア!!」

「う、うぉおおおおおおおおお!! プロテゴーーーーーっ!!」

 

 ハーマイオニーはスクリュートを脳天から杖で力まかせに串刺し、突き出た杖の先から自分に向かってプロテゴをかける。

 数秒後、小規模とはいえ、人を殺すには十分な爆炎。

 スクリュートは死にました。

 

 

「はーっ……はーっ……死ぬかと思ったわ……もう容赦しないわ!! 殺す!」

「言ってろグレンジャー……おっと手が滑った」

 

 ノットがにやり、と何処か妖艶な笑みを浮かべる。

 彼の法被の袖先からゴロゴロとゴブレットが滑り落ちた。

 その数。どう見ても、1個や2個ではない。

 

「ウィンガ―ディアムレビオーサ!」

 

 20近い数の『ゴブレット』が、宙に浮く。

 

 負けじとハーマイオニーも手をハッピの中に滑り込ませる。

 中から出てきたのは、ワインボトル一本。

 ハーマイオニーは空中に投げ、レダクトと叫び、中身をぶちまける。

 

 

 

 

 

「あ、手が滑りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガソリンです」

 

 

 

「ガソリンですか、それは仕方ありません」

「すみません、決闘をつづけます」

「いえいえwお気になさらずw決闘に戻ります」

 

 

 

 

 

「ラカーナムぅううう! インフラ!! マァアアアアアレェエエエイ!!!!」

「うわあああああ! ロコモータぁあああああ! フィニート!! フィニート! フィニートおおおお!」

 

『発火呪文です! ミス・グレンジャー! ガソリンの上に発火呪文をかけました! 全員退避! そこから離れて下さい! ミスター・ノットは床を爆発で砕くことで延焼を防ごうとします! うまく行くでしょうか!』

 

 スネイプがアグアメンティアップを始めた。

 

「無駄よ! ペトリフィカストタルス!!」

 

 ハーマイオニーが素早く杖を振り、ノットに金縛りをかける!(下半身のみ)

 ノットは動けない!

 炎の中に、取り残されるノット。

 

「あああああくそがあああああ!」

「あっははははは! そのまま焼け死になさぁああああああい!」

「あ゙゙ああああああああああ! あづいぃいいいいいいい!」

 

 余熱に炙られたノットの絶叫。このままだと生きながら焼かれて死ぬことになるだろう。

 爆発スクリュートたちが高温にまかれて混乱し、次々と尻尾を爆発させ死んでいく。

 集団爆死。スクリュート×20が死にました。

 

 

 敗北を悟るノット。

 煙と熱で目がかすみ、喉の奥が痛む。クラクラする頭の中ノットはもう、ただひとつの可能性に賭けることにした。煙にむせながら呪文を叫ぶ。

 

 それは、血をはくような絶叫だった。

 

 

 

「アッセンディオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 上昇呪文。

 ノットの身体は――――舞い上がった。

 高く。どこまでも。高く。

 

 

 高く飛翔したノットがホグワーツの岩天井に突き刺さる!

 

 

 セオドール・ノットは死にました。

 

 

 

「勝者! ハーマイオニー・グレンジャーです! HAHAHAHAHA! 皆さん! 拍手を!」

 

「「「「キャーーーーッ! ハーマイオニー! そこかわれーーーーーー!」」」」

 

「嫌よ! 勝ったわーーーーっ! ホグワーツの放火魔の座は渡すものですか!! 去年からスネイプのローブを燃やしてきたのは―――私よーーーー!」

「「ハーマイオニーすごいやーー!」」

「……吾輩、あのローブお気に入りだったのに……」(涙目)

「スネイプ先生! ノットを降ろしてあげてください!! ノットー!! しっかりするフォイ! ノットー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ。今起きた産業。……ん? なにあれ? 何か天井に男の下半身生えてるんだけどキモっ」

「ら、ラドフォード! 今まで何していたんだ君は! あぁ!もうこの際何でもいい! アレはノットだフォイ! はやく助けてくれよ! 君ならできるだろう!?」

 

 マルフォイは、一応優等生なベスに助けを求めた。

 

 べスは端正な顔をうーん、と傾げ、どこか悩んでいるような顔で少しだけ思案した。

 

 そして、結論を出す。

 

 

 

 少女は杖を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャンデリアにします」

 

 

「あああああああああああああ! ノットォオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 

 

 

 

 

 何かその後ハリーが蛇言葉とか喋ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 

 

 「イートン校に行くはずだったジャスティン」さんは無残な姿で発見されました。

 

 「ほとんど首なしニック」さんは無残な姿で発見されました。

 

 

 

 





今気づきました。


mkmkさん! 推薦ありがとうございました!



こんなもん推薦とかマジか、とか他にも推薦すべき名作があるよ!とかどうせだったらピクニックの方も推薦してほしいとか思う所も邪念も沢山ありますがとりあえず一言。


紹介文より注意事項の方が長くてワロタwww
だが何も間違ってないと思います。

出来たら参考になったをポチっとしてください(宣伝)




沢山の感想&評価&お気に入り、そして推薦! ありがとうございましたーー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポリジュース薬製造期間

 それは、大広間だった。

 

 晩飯だから嫌でも全員来なければならない。

 生徒たちは不安半分、恐怖半分でそれを誤魔化すために色々話していた。

 

「死体2だって……」

「呪殺かな……?」

「猫じゃね?」

「ゴーストまで死ぬとか……」

「グリフィンドールとハッフルからまた死体が上がったよ」

「レイブンクローとスリザリンが怪しい……あの寮を焼き払おう」

「やめろ! グレンジャーより先に火をつけるな! あの魔女に消し炭にされるぞ!」

 

 

 五月蠅い生徒たちを黙らせ。ホグワーツの暴君、別名校長が口を開く。

 

 

 

「生徒諸君、決闘大会の様子まずまずじゃった。ワシは面白かった。腹いたいわ」

 

 

 

 

「相変わらずヒデーな」

「何て奴だ……化け物め……! 悪魔!」

「黙れ! 校長に聞かれたらアバダが来るぞ!」

 

 

 

「最近ようやく愚民共も礼儀というものが分かってきた様じゃな。結構結構。何、案ずることなどなにもない。お前らの代わりなんぞいくらでもおる。お前ら生徒のクソ雑巾兵が2人死のうが 2兆人死のうが 何人死のうが知ったことではないからの。

 

 

 ほれ、見るがよい――――敗残者の成れの果てじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアが指さした方向には、相変わらず上半身が天井にのめりこんだままシャンデリアと化されているノットの姿があった。

 スリザリン生、特に監督生のジェマやクィディッチキャプテンのフリントは見るに堪えない、という表情を浮かべていた。

 

 

「ああなりたくなかったら切磋琢磨せよ、学べ、戦え、強くなれ。

 

 勝たなきゃゴミじゃ! それでは晩餐にしようかの」

 

 テーブルの上には大量のチキンがともされてある。

 その横には、ハンバーガーの山があった。

 

 晩飯なのに、バーガーか、フライドチキンかの2択を迫られるホグワーツ生たち。

 晩飯なのに。

 

 

 

「やってらんねークソ飯だ。もっと良いモノ食わせろカスが。バーガー下さい。いただきます」

 

 

 勇敢なるグリフィンドールの生徒の一人がバーガーを手に取る。

 食べる。

 数秒後。

 

 

 

 

 口からおびただしい血と泡を吹いて、ぱたり、と倒れた。

 

 

 

 ホグワーツ警備の鎧たちがわっせわっせと何も言わずに医務室に運んでいく。

 本当に医務室に連れていかれたのかどうかは誰も分からない。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

「良い忘れておったの。ワシは根っからのフライドチキン派じゃ。その昔カーネ●・サンダースに誓ったのじゃ。ヤキトリ最高ーー!と。もちろんペットも不死鳥じゃ。いつでもヤキトリパーティーが出来るでの。変なパンと牛の屑肉の混ぜ合わせなんてえげつないもの喰うアホはこの学校に居ないと思うが胃まで溶けて死ぬがよい」

 

 

 

「「「「…………!」」」」

 

 

 生徒たちは、悟る。

 

 

 この校長。見てるだけでは飽き足らず――ついに参戦して来やがった、と。

 

 

 

 

 

「は、はは! と、当然です! ヤキトリサイコー! ヤキトリを食べます!」

「や、やめろ迂闊に手を出すな! あの校長のことだ何を考えてるかわかr――」

「大丈夫だ俺は校長を信じ――ひでぶ」

「あああああああああ! そんな……そんなっ……! ガブリエルーーーーーー!」

 

 

 ハッフルパフの監督生ガブリエル・トゥールマンは物凄い速度で腹を下し、トイレに駆け込んでいきました。

 

 

 バーガーのみならず、フライドキチンもアウトだったという事実に生徒たちは驚愕した。

 一体どうしたんだ校長。ついにジェノサイド発動か校長。

 だがその謎はすぐに解かれることになる。

 

 

 

 

「変な眼鏡のクソ爺を盲信する奴は黙ってヤキトリを喰らいなさい……! らんらん●ーにしてあげますとも! えぇ! この私! マクゴナガルが!」

 

 

「「「「婆何してんだテメエエエエエエエエエ!!」」」」

「もう皆死ぬしかないじゃない……!」

「毒しかねえのか……! ファストフードは……毒しかねーのか……!」

「マクゴナガルがマクドナ●ドの回し者だったなんて……っ!」

「らんらん●ー!」

 

 鶏肉と牛肉。

 ドナ●ドとサンダース。

 今、究極のバトルが幕を上げる――!

 

 

 どっちも新大陸のモンだとかそうゆう細かいことは誰も気にしていなかった。

 

 

「皆! コレを丸のみしろ! 食ったらすぐ飲むんだ!」

「一人一個だからね! ほら!」

 

 スリザリンのテーブルでジェマとフリントが何か配り始める。

 それは、しなびた何かだった。

 

「これ……」

「ザビニ知ってるよ……これ……ベゾアールだ……」

「そうだ! 寮監からかっぱらってきた!」

「スネイプの部屋は今頃更地よ! 問題ないわ!」

「マジか……」

「これで助かる……これで助かる……!」

「もうやだフォイ……カエリタイ……」

「うまー!うまー!」

「エネルギー変換中……エネルギー変換中……」

「や、やめろよせ! クラッブ! ゴイル! 死ぬフォイ! 何……お前ら……喰えるのか……!?」

 

 たのしい晩餐会は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キュコキュコと、ハリーとベスは仲良く便器を磨いていた。

 

『ちょっと、ベス。何よコイツ……何かフレモントに似てるわね』

「人違いよ」

「僕に似てる誰かだね」

『そうね。でもよく見たら素敵じゃない。スリザリンなの?』

「だったら良かったんだけどね。残念だけどグリカスよ」

『死ねグリカス、純血万歳』

「ゴーストから言われると怖いからやめて、ところでベスは秘密の部屋の継承者って誰だと思う?」

「お前」

「君も僕がパーセルタングだから疑ってるの……? はぁ……」

「それもあるけどハリーは地味に腹黒いから超怖い。あとグリフィンドール関係者が死に過ぎだわ。いい?」

 

 ベスは便器に洗剤で文字を書く。

 

 

 初回 :ミセスノリス(猫)

 2回目:グリフィンドール1年生、レイブンクロー1年生(モブ)

 3回目:コリン・クリービー(グリフィン1年生)

 4回目:ジャスティン(ハッフル2年生)ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿(グリフィン霊)

 

 

「コレはグリフィンドールが襲われている=グリフィンドールに継承者はいないって考えるのがセオリーかもだけど貴方ならその裏をかいてあえてグリフィンドール生ばっかり狙っている可能性もあるわ。結論、お前継承者、死ね!」

「違うから殺さないで。というか僕的にはレイブンクローの沈黙が怖いね」

「おったまげ~~。マー髭な極論で人に罪を擦り付ける簡単な作業お疲れ様ですラドフォードさん。今日もお綺麗なお便器ですこと」

「ご機嫌ようウィーズリーさん。あら、性根が曲がっていてよー?」

「ははっ! 真実を湾曲する君よりはマシさ!」

「黙れお前ら全員燃やすぞ」

 

『お前らここ女子トイレってコト分かってんだろうな純血万歳。女子外が2匹ほど混ざってるんだけど吊っていい? 純血万歳』

 

 マートルがさらりと正論。

 

「というかあなた何煮込んでるのよ穢れた血」

「あなたには一切関係ないし、喋る気もありませんハイ終了」

「どうせ爆薬でも煮詰めてるんでしょ。この学校爆破する気なの?」

「それは最終手段よ。あなたもノット2号にされたくなかったら黙ってなさい」

「ヒェ……! 申し訳ありませんでしたお辞儀しますぺこり」

「許します、だたし、2度目はないと思え」

『ベス死んじゃったら私と一緒にトイレに住んで、二人で清く正しく、時に百合っぽく生きていきましょう! 純血万歳』

「マー髭……。ハリー、秘密の部屋はココにあったんだ……。秘密の部屋の怪物共が魔法世界を殲滅するための拠点をブッ建てる宣言してるや!」

「じゃあさ、ベス。スリザリン寮でそうゆう話はしないの? 誰が秘密の部屋の継承者だとかそうゆう感じの」

「しないわ。というか皆、お前らグリカスが襲ってくる恐怖から点数と下級生を守る作戦を立てるだけで精一杯って感じだわ。犯人探しより目の前の狂団相手にどう生き残るかの方が先決よ。

 唯一頭が回るノットはシャンデリアになっちゃったしね」

 

「したの君だろ」

「黙れ今すぐここで石にされたいかウィーズリー」

 

「……ふーん……そーなんだー……へぇ……。まぁいいよ分かった」

「これスリカス寮に潜り込んだら火つけて焼き払った方が話が早そうだわ」

「ハーマイオニー……君、変わったね……」

「何言ってるの? 『賢者の石』事件から私は火関係ばっかりだわ」

『放火魔トイレから出ていけよ純血万歳』

「そうよ穢れた血学校から出ていきなさいよ」

 

 

『……え…………?』

 

 

 マートルの眼鏡がぴくっ、ぴくっと動く。

 

 

 

「……何よどうしたのよマートル? ……マートル?」

「あ」

「あ」

「察し」

 

『…………穢れた血……穢れた血……けがれた……ち……』

 

「だから何よマートルってば!」

「君鈍いね。まだ分からないのかい流石スリカス! 脳みそカッスカスだね!」

「ベス……ちょっと隠れた方がいいかも……」

「適当な個室を見つけて入ります」

 

 

『う、うわあああああああああああああああん! 穢れた血! 穢れた血!! 裏切った……裏切ったぁああああああああああああああああ! ベスが! 信じてたのに! 信じてたのに裏切ったぁあああああああああああああああ!あああああああああああああああ!』

 

「え……は……?」

 

『みんなそう言うんだからぁああああああああ! ああああああああああああ!  

 でもベスだけは違うと思ってたのに……ベスだけは良い子だと思ってのに! 

 やっぱり!! 貴女も!! 馬鹿にしてたんだぁあああああああああああ! 私のこと! 馬鹿に!したんだぁああああああああああああああああ!』

 

「おっふ……」

 

『あなたの気持ちは良く分かりました。そうだったんですね。さぞ面白かったでしょうね。こっちは50年ぶり、はじめての友達だと思ってたのに影で舌を出して笑っていたんですものね!! 私の人生こんなんばっかりだわ! あぁもう終わっちゃったけど!! うぁああああああああん!』

 

「……マートル……」

 

『うるさいわね! うるさいわねうるさいわね!』

 

「マートル!!」

 

 

 

(ヤバい……)

 

 ベスはガチで焦っていた。

 

(このままじゃ私の―――ホグワーツ全トイレ化計画が……! くそ! 穢れた血と血の裏切りのダブルブラッドコンビめ……! しょうがないわ……ここでマートルを言いくるめる! それしか道はない!!)

 

「あ、ロクでもないこと考えてるぞあのガチ屑女」

「何でロンはそんなにベスのコトを悪く言いたがるんだ? 流石に僕怒るよ」

「君こそ何でクィディッチの度に殺されかかってるのに弁護するんだよ眼鏡曇ってんのか」

 

 

 

「マートル!! あなたは――あなたは! 穢れた血なんかじゃないわ!!」

 

 

『……え?』

「は?」

「何言ってんだ」

「流石に草」

 

(るっせーなグリカス×3……)

 

 本気でこの仲良し三人組をぶっ殺そうかと一瞬思案しかけたベスだった。

 

 

 

「人は生まれを選ぶことはできない! 人は――どんなに苦しくても、悲しくても! 生まれた場所も、両親も、選ぶことはできないわ!! でも――生き方は選ぶことが出来る!! この場合の生き方っていうのは心の在り方よ!!」

 

『……でも……!』

 

「聞きなさい! マートル・エリザベス!!」

 

『!? ……あなた……どうして……!?』

 

「……大事な友達の名前だもの。忘れる訳ないでしょ」

 

 

(当たったよ……セェーーフ……)

 

 

 完全にデマカセだった。

 

 

「そこの鏡であなたの姿をよく見なさい! あなたに血は流れてる!? あなたに! 『穢れた血』は流れているの!? 違うでしょう!!

 

 ゴーストのあなたに――――血なんか流れてないでしょう!?」

 

 

 自寮のゴーストが血みどろ男爵なのは棚の上。

 

 

『私は……』

 

 

「あなたは『穢れた血』なんかじゃない!! そうでしょう! マートル!!」

 

 

 

 

 

『……私は……穢れた血なんかじゃ……ない……! そうだ……私は穢れてない……! 魔法使いなんだ……!

 

 

 

 

 

 

 純血万歳!!』

 

 

 

 

 

 

「うわ……」(退)

「チョロいなぁ……本当……」

「この会話初めから終わりまで全てがクソだわ」

 

 ハーマイオニーが煮えたぎる鍋を抱えながらつぶやいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とある魔法界の禁書棚

 じめっとした部屋だった。

 

 蛇の絡み合う彫刻を施した柱。中央には無限に流れる清らかな水流。

 緑を基調とした部屋であり、地下にあるため夏は涼しく、冬は暖かいという過ごしやすい場所。

 

 そもそも地下にあるという時点で子供たちには大好評だった。

 

 今日もわいわいがやがやと授業が続く。

 

 だが、教師である男が語り出すと、その場はしん、と静まりかえった。

 

 

「古来、魔法使いがまだ『表』の世界に干渉していた時分、『魔法生物』は時には魔法族側の武器――『兵器』として使われることも多くあった。その多くは魔法界と断絶することを王家が決めた機に歴史から葬りさられたが……諸君たちも知っての通りだ。多くは『昔話』や『英雄伝説』または『神話』として語り継がれている。分かる者は居るか?」

 

 金髪の少女が手を上げる。

 

「はーーい! どらごんーー! おかぁさまがいってたーー!」

「正解だ。他にも知っている者は?」

「えーっと……サラマンダー?」

「天馬ーー!」

「サラマンダーは軍用として非常に有用だ、だが意外なことに軍計ではなく、主に後方支援の方で使用されることの方が多かった。火を起こしたいときや灯りが欲しい時などだ。また、その血は非常に強力な回復薬を合成できる。生き血でも効果がある。天馬系は系統が多いが……空中機動力に魔法戦士が足されれば強い騎士となっただろう。あとは『死』を見たことがある者しか見えぬ馬セスト――」

 

 そこまで言って男は、はっと何かに気付く。

 慌てて取ってつけて、説明を強制終了させた。

 

「……ともかく、魔法生物の軍用利用は古来から存在したと理解してほしい」

「「「そーですね!」」」

「無論これらは許されることではない。故に諸君らに期待するのはこれらの事を二度と――」

 

 その時。

 

 バキバキバキィと何かを食い破る音が響いた。

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 男も、生徒たちも察する。

 

 

「退避ーーーーーーーー! 全員退避ーーーーーーーー!!」

「「「うわあああああ!!」」」

 

 急に石壁を粉砕し、ぬるっと巨体が現れた。

 

 

 

 

 

『シューーー! シューーーー!』(お腹減ったーー!)

 

 

 

 

 

「皆! 目を見るなーー! 死ぬぞーーーー!」「アイマスク装着! アイマスク装着!」「どうしてもって時は水を通して間接的に見るんだーー!」

 

『シュ――――っ!』(ファ●チキ食べたいーーーー!)

 

「KOEEEEE!! 蛇KOEEEEEEE!」「あーーー! 先生!! 先生!」

「どっかその辺にヤク転がってるから持って来い!!」

 

『シューーーーーーーーーーー!』(ファ●チキーーーー!)

 

「分かった落ち着け!! よし、よーしよしよしよしファ●チキだぞよーしよしよし……」ナデナデ

 

『シュ―――――!』(ウマァーーーー!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アグレッシブにハッスルパフですわ!」

「おかぁさまーー? せんせーなんでおくちしゅーしゅーいってるのーー?」

「見てはなりません。アレは頭がちょっとアレな人なのです。水を通して間接的に見るのです」

「言ってろ貴様等」

『シュ―――?』(粛清かーーー?)

 

 

 

 さらに上から全く意味のない大爆発。

 

 

 

「ハーッハハハハハァ! 呼ばれて飛び出て騎士道ーーーーーッ!! 俺様降臨!! 俺様爆誕!!

 どっかの馬鹿がまーた城にデカ蛇をけしかけたんだってーーーー!? 成敗しにきたぞぅーーー!」

「呼んでおらん!! 帰れ!! 貴様の元居た冥府に帰れ!!」

「うるせーーー根暗蛇ヤローーーー! 巣穴にこもってクサクサしやがってーー! マジで暗れーなこの陰険ヒッキーwww」

「その自慢のクソ赤毛燃やし尽くされたいか歌馬鹿が」

「今日もホグワーツは深刻な平常運転ですわ!」

「おなかへった」

「娘がぐずってるので帰ります」

「あぁ、それなら今、台所に丁度スコーン(炭)を焼きましたわ。皆様で食べましょう! 蛇さんにもスコーンですわ」

『シュ――――? シュ―――?』(なんだそれ食えんのーーー? うまいのーー?)

『シュー……シュシュ』(私にも分からぬ……食ってみれば?)

 

 

 

 

 

 今でも思い出す。

 

 

 

 あの懐かしくも、温かい――――幸せだった頃の記憶を。

 

 

 

 今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 もう二度と帰らぬ――永久に失われてしまった時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁書棚。

 

 ロックハート様に許可をもらったベスは闇の魔術の研究の為悪用せん、とベスは書庫を漁りまくっていた。

 色々な本が沢山あった。

 人間の皮で出来てんじゃねコレみたいな本とか、毒液が滴っている本とか。スープの夢とか訳わからん本とか。

 その中でベスは何か数冊おかしなものが有ることに気付く。

 

 かなり古びた本や、いかにも紙が貴重だった昔の本らしくいかにも重そうでかつ分厚い豪華な本。あるいは魔術が込められている感満載の本たちの中に、『普通』の本が紛れ込んでいるのだ。 

 そう、まるで。

 

 マグルが読むような全く無害で、字も挿絵も踊らないような本が。

 

 

 

『エディンバラ魔女裁判記録』

『中世魔法族狩りの歴史』

『英国カトリック:異端審問記録 1556年 ロンドン』

 

 

 

 

 

「……なんだこれ?」

 

 ベスは異端審問とは何か知らなかった。

 そもそも何でこんなものが『禁書』扱いされているのか分からなかった。

 本を開ければ何か分かるか、と思いページをめくる。

 

 そこには、動く絵も、浮き上がっては消える文字も無かった。

 

 ただ。

 

 

 古びたインクと古典でよく使われる装飾文字でおびただしい量の人命とその末路がぎっちりと記載されてあっただけだった。

 

 

 

 フィントリーのアグネス――15歳――魔女

 グラスゴーのエマ――6歳――魔女

 グラスゴーのトマス――10歳――魔女(この場合は男性だが便宜上魔女記載)

 エイドリーのカリス――22歳――尋問中に不慮の事故の為死亡。

 

 

 

 

「……は?」

 

 ベスには意味が分からなかった。

 

 

 これが『何』であるのかも。

 何故このようなモノが『ホグワーツ』にあるのかも。

 

 

 そして、それが『禁書』として扱われ――生徒の目に触れないのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね……死ね……みんな死ねばいいんだわ……穢れた血は皆死ねばいいんだわ……」

 

『お、落ち着くんだ……ココの所君少しペースが早すぎやしないかい? 焦ってはいけないと思うよ!』

 

「穢れた血なんか皆消えちゃえ……。皆消せばいいんだわ……ねぇそうでしょう?

 

 

 ねぇ、ねぇそうなんでしょう?? 私が『穢れた血』を全部ぶっ殺せばハリーは私のこと誉めてくれるんでしょう? ハリーは私のこと好きになってくれるんでしょうねぇそうなんでしょうねぇトムそうでしょう!!??」

 

 

『……お、おう……』

 

「じゃあいいんだわこれで……。

 

 さて、と。次はハーマイオニー噛むか。あそこ結構頭回るから後半残しておいて殴り合うのキツそうだし、それにそろそろ継承者と秘密の部屋の怪物ロックオンしそうだしね。

 ハリーがパーセルマウスだってことは、いいミスリードになったから皆そっちの方勘違いしてハリーを継承者認定しているけど賢い人は違うって分かる。

 で、ハーマイオニーは更に賢いから『気づく』。だからここ抜かないと。でも……問題は噛めるかどうか」

 

 

『少し雑すぎじゃないかい!? そこでそんな標的に間近な場所狙うのは危険すぎると思うんだけど!! 思うんだけど!! というか君ペース早すぎるんだけど!!』

 

 

「インセンディ――」

 

 

『完璧な采配です素晴らしいです君こそけいしょうしゃだよー! 継承者様ばんざーーい(白目)』

 

 

「ねぇ、トム……この間やってあげた……あぶり出しが効いてないのかなぁ? それともお水に浸けてあげた方が楽しかったぁぁあ? うふふふふふ。うふふふふふふふふふwww

 ねぇトム……次やったら私言ったよね? あなたのページを一寸刻みにゆっくり、ゆっくり時間をかけてきざんであげるって言ったよね?? 聞いてなかった……?」

 

 

『やめて(怯え)』

 

 

 

「じゃ黙ってて。でもクリスマス期間は噛めないから、やるんだったら明けてからだよね! かーえろっ♪

 

 ……あー穢れた血うぜーー。隕石とか落っこちてきて地殻津波とかおきて全滅しないかなーー」

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぜ……なぜ……こんなことに……こんな……こんな……っ!』

 

 

 

 

 

『僕は……僕は……』

 

 

 

 

 

 

『子供をあやし付けるつもりで……トンデモナイ奴を…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『覚醒させてしまったのかもしれない………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お腹痛い……』

 

 






少しずつシリアスがログイン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマスとポリジュース

「クリスマス期間なのにホグワーツに残る可哀想な人手ーーーーあーーーーげーーーてーーー!」

「フォーーイ!」

「マジかよフォイカスwww」

「お前ん家www今www魔法省のガサ入れだってなwww」

「ルシウス・マルフォイも遂に年貢の納め時か。よーし、今から公開処刑のチケット抑えとくぞー」

「何なんだよお前らフォイ!! 父上は今ちょっと大変なだけだフォイ! だから今年はホグワーツで過ごすだけなんだフォイ!!」

「あっそ」

「遠吠え乙ですwww」

「然り、追い詰められた時こそ人の真の能力は問われん。今は雌伏の時なるぞフォイカス。武士は黙して時を待つのみ」

「じゃあね~ドラコ君~~。冥途のお土産用意しとくね~~」

 

 

 

「「「「こんなクソ学校さっさと出ていきます」」」」

 

 

 

 スリザリン寮、残ったのは。

 2年生ではマルフォイ。そして。

 

「ドラコ、元気、出す」

「親父キット大丈夫ダヨ」

 

「……お前らぁ……!」

 

 

 言葉はイマイチ通じないが何気に忠実なクラッブとゴイル。

 

 

 

 

 そして、大広間でシャンデリアと化しているノットだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませお嬢様!!」

 

 帰ってくるなりベスを出迎えたのは、キーキー声の下僕妖精のティニ―だった。

 

「さっそく料理がご用意していらっしゃいます! ティニ―がご用意なさいました!! 誉めて!」

「イイコイイコ」

「コーデリア様もいらっしゃいますよ!」

「マジかよ。今年も居やがるのかあの叔母……」

 

 雪を落とし、服を着替え、食堂に行くと。

 

 良い年齢こいてミニのスカート。赤地の布と白いボンボンでサンタクロースの際どいコスプレをした叔母、コーデリアの姿があった。

 だが、元々派手な顔立ち、スタイル抜群。豪奢な金髪に赤い帽子はアホかと言うくらい似合っている。

 

 

「メリー! クリスマーース!! ベス!!」

 

「メリクリ叔母さん……今年もフィーバーしてるのね」

 

「そうなのよ! 昨日は私のトナカイになりたいという殿方が列を成したんだけれどね~!」

 

「死んだ叔父さんに不義理すぎると思うわ」

 

「いいのよ! 遺産と家名目当ての老い先短い爺に一瞬の夢を見せてあげたのだから」

 

「ザビニの母ちゃんみてぇなことしてるぜコイツ」

 

 生命保険でがっぽり、という生き方をしていた女がココにも一人居た。

 毎年同じなクリスマスのメニューを眺めながら、ベスはもくもくとソレを口に運ぶ。

 美味しくはない。

 でも、食べても死なない。

 腹も下さないし、臓器が溶けることもない。

 

 

 その事実を確認すると――不思議と目から涙がぽろぽろと零れ落ちるのだった。

 

 

 

「うっ……うぅっ……」

 

「お嬢様どうなされましたー!」

「あ、あらベス一体どうしちゃったのよぉ……? やだもう……ティニ―の料理がおいしすぎて?」

「違うの……違うの……! 食べても……大丈夫なお料理って……こんなに……こんなに……!」

「はい?」

「何言ってんだこいつ」

 

 ベスは泣きながら久しぶりの安全な食事を終えると、

 

 聞きたかった謎を叔母に尋ねてみることにした。

 屋敷下僕の入れてくれた紅茶を飲みながら暖炉の前でくつろいでいる叔母に問う。

 

 

「ねぇ、叔母さん。『魔女狩り』って何?」

「あら? 知らないの?」

「知らね」

「あらー……最近は……やらないのかしらねぇ……? 魔法省の教育指導要領改訂のせいかしらーー? ゆとり世代って怖いわーー」

「いいから吐け」

「もう……ベス。女の子は急かしちゃダメよぉ?」

 

 

 コーデリアはソーサーにカップをカチャリ、と置いた。

 

 

 

「昔昔……具体的に言うと15世紀ぐらい。マグルのカス共が『人狩いこうぜ!』とか言い出したことがきっかけでした。何でかは良く分からん。けどそれ以前も迫害っぽいあったらしいし、単純にキモイからじゃない?

 魔女裁判はことあるごとに続けられ、戦争勃発だーペスト流行だー宗教対立だーがある度に、『じゃあ取りあえず魔法族殺すか』って感じでありました。

 

 

 まぁ趣旨は今と大して変わらないわ。『自分以外は全て敵、だから敵をぶっ殺せ』的な発想ね」

 

 

「……歴史は……繰り返されるのね……」

「そうよ、何時の時代も巡り巡って繰り返されるのよ」

 

 ベスは今のホグワーツを思い浮かべた。

 

 

「とは言っても……魔法界に全く打撃がなかった訳じゃないわ。いくつか親マグル寄りだった純血の一族がそれで密告されていくつも滅びた」

 

「は? 何言ってるのよ叔母さん。いくら血を裏切るカスとはいえ……伝統的にして英邁なる純血の誇り高き魔法族がマグル共に……引けをとる訳ないでしょう?」

 

「ベス。いいこと? 覚えておきなさいな。油をまいて就寝中に屋敷に火をつける。攫って監禁して杖を取り上げて自白するまで拷問のフルコース。食事にこっそり毒を盛る。子供を人質に同族を裏切らせて粛清させ、その子供を洗脳して刺客として魔女狩り専門の魔法使いとして育成する……その気になれば、本気で頭を使えば、方法なんていくらでもあるわ」

 

 

「マジかよやっぱマグルってカスだな」

 

「……」

 

 コーデリアは話を続行。

 

 

「そんな感じで中には永遠にい失われてしまった『血統魔法』もあるわ。私の若い頃なんかは結構そうゆうこと勉強したし、雑誌や本にもそうゆう話がよく載っていたものだけれど……」

 

「血統魔法って何」

 

「あぁ、ベスにはまだ言ってなかったっけ。

 あなたの大好きな『純血主義』を支える一つの支柱ともいうべきモノよ。血統魔法というのは『ある一族』の血に宿る魔法だと思ってくれればいいわ。

 血液型みたいなものよ。A型とA型が結婚すれば子供は高確率でA型でしょう?」

 

「Oもあるけど」

 

「そうね。この場合はA型が正解で血統魔法が出てくる、けどO型はカスね。出てこない。こんな感じよ。その『血統魔法』を保存するためという考え方があって、それが『純血主義』を支えている一因になるの。そこには人間らしい愛情もなければ純血を守ることへの誇りもない、あるのはただ、種の保存という義務感と綿密に計算された遺伝子的な合理主義だけよ」

 

「人間とは何だったのか」

 

「永久に謎だわ。血統魔法には『七変化』とか『パーセルマウス』とかあるわね。ちなみに、ウチの家も、『魔法生物使役』系の血統魔法を持っているのよ? 私も私の母も祖母も、ぶっちゃけ一族皆あったらしいわ。私は偶々派手なドラゴン使役」

 

「……ねぇ、それ、ママも?」

 

 コーデリアの指先がびくっと震える。

 常に優雅な叔母らしくない、僅かな動揺を察したベスは顔を曇らせる。

 やがて、一息入れたコーデリアは、柔和な微笑を浮かべた。

 

「……えぇ、姉さんも持ってたわ。とても凄いのをね。ベスはまだ子供だから何時出るか分からないけど……。きっと大丈夫よ。

 だって……姉さんと彼の……二人の子なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 ホグワーツ、マートルのトイレ。

 

 

「それじゃあ、始めたいと思います。第一回ポリジュースヤク試飲大会です」

「「わーーーーーー!」」パチパチパチパチ

「僕はクラッブ汁です」

「僕はゴイルエキスです。ところでハーマイオニー? 君のは誰なんだい? まさかあのスリザリンの便所娘スーパーレイシストでもあるクズのサラブレッドかい?」

「あんなクズに化ける位なら腹掻っ捌いて死ぬわ」

「だからベスはそんなに悪い子じゃないよ。少なくともマルフォイよっかマシだと思う」

『それ以上私の親友の悪口言ったら赤毛と栗毛、テメーら三途の川クルージングに直葬するわよ、純血万歳』

「「黙ります」」

 

「で、本当に誰なんだい?」

「ノット」

 

「…………は?」

 

 

「セオドール・ノット、決闘大会で戦った時ローブに髪の毛がついてたのよ」

 

 

「……」

「……」

 

 ハリーと、ロンは思った。

 

 

(嘘だ! あんな超絶火力バトル……爆発と炎迸る屋内キャンプファイヤーで髪の毛なんかつくわけねーだろ……! このアマ、ボンバーヘッドなのは髪型だけじゃないのか? 脳までボンバーなのか?)

 

(人間の髪は150度で変熱、250度で炭化する……! 確実に燃え尽きる……! だめだ! このままじゃハーマイオニーが! 炭人形になる!!)

 

 

(つかアイツは今大広間の照明だろ!! そんなんアホのマルフォイだって気づくわ!!)

 

 

 

「いいから飲むわよ」

 

「あ」

「あ」

 

 

 ハーマイオニーは飲むとすぐに個室に駆け込み、便器を破壊した。

 ガッシャァアアン! という音が響き渡る。

 

 

「クラッブです」

「ゴイルです」

「私行けそうにないわ。二人で行っといて」

「「ですよねーー!」」

「分かった。じゃ行くぞ」

 

 

 

 

「なぁフォイカス。君スリザリンの継承者って誰か知らないのかい?」

「だから知らないって! 前穢れた血が一匹死んだってコトしか知らないフォイ。というかどうしたお前ら? 今日はよく喋るな……」

「はいカスwww帰ります」

「死ね無能! 帰ります」

「クラッブ!? ゴイル!? どうしたんだフォイ!?」

 

 

 

 

「聞いてきました。マルフォイじゃありません」

「ハーマイオニー? もう終わったよー僕たちの冒険もここで終わりだよーーハーマイオ……」

 

 

 

 ハーマイオニーが入ったハズの個室の上には、何故かスポットライトが存在していた。

 その上にはふわふわと漂うマートル。

 

 だが、そのマートルにはいつもの嘆きっぷりはない。

 むしろ輝いている。眼鏡も今だけは星型眼鏡だ。

 マイクを握りしめたマートルが大音量で叫ぶ。

 

 

 

『レディースエーンジェントルメーーン!』

「お、おう」

「なんだこれ」

 

 

 かつてないほど、ハイテンションだったりした。

 

 

 

『祝! 第一回ホグワーツ仮装大賞~~!』

 

 パフパフハッフルパフー! という音響。

 今回どこからか駆けつけたのか、シャンデリアと化したハズのトロールも石天井をぶっ壊し、大広間横のトイレから参加してきたようだ。いつになく亀甲縛りの結び目もキレキレである。

 ぱちぱちと、なんのためらいもない拍手を送っていやがった。

 

 

 

『魔法学校の威信をかけて、変幻自在の能力を操り、生徒たちが様々なモノに仮装するというこのガチ企画。ある者は日ごろより変身術を磨き、またあるものは薬品をひと月掛けて煮込む。

 その努力の結晶が今、実る時。各自奮闘を期待しましょう!』

 

 

 

「何この振り……」

「嫌な予感がががが」

 

『えー……それでは拍手でお出迎え下さいーー』

 

 マートルの声と共に、扉が開いた。

 

 

 

 

 

『エントリー! ナンバーー! ワン!! 

 ポリジュース薬で猫に変身! ニャーマイオニーー・グレンジャーーさんでーーーーーす!!』

 

 

 

 

 

「どうも、ニャーマイオニーです」

 

「は!?」

「……」

 

「あの毛……猫の毛だったの……。しかも……」

 

「あ、ああ僕もそれ思った……」

「み、みみ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ミセス・ノリス!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニーの顔面は。

 石になったはずの猫。

 

 ミセス・ノリスにクリソツだった――――。

 

 

「リアル猫ちゃんですにゃー。もう……これでロックハート先生に襲撃かましますにゃー」

「やめるんだハーミャイオニー!!」

 

 

『ご覧下さい! 実に精巧です! ご覧ください審査員の初代シャンデリア=トロールさん! 尻尾まで完全にコピーするというこの完成度! これはポイントが高い!』

 

『ゴアァーーーー!』(毛玉も吐くと言う特別仕様ですよ、まったく芸が細かいことですね!)

 

 

『これは一般審査員にも審査して頂きましょう!! みーーーなぁさぁああああーーーん! ホグワーツにお残りのみーーーなーーーさーーーん!! 世にも珍しい猫面娘ですよーーーーー!! ヒャハアアアアアア!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。スリザリンの談話室。

 

 水槽越しに一人イカを眺めていたマルフォイは、衝撃を目にする。

 

「フォイ……?」

 

 渦巻く水流。

 まるで水中トルネードの如く、何かが形成されつつあるのをマルフォイは感じた。

 数秒後。

 

 

 

「ミセス・ノリスゥウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオイ!?」

 

 

 

 逆巻く水柱を上げながら凄まじい勢いでホグワーツのてっぺんのさらに上、空中にまで達する人影。

 暗く冷たい湖の底から、それは大地を蹴り上げ。

 再浮上を成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「管理人フィルチ」さんは蘇りました。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全ては歴史の掌の上

サブタイは5秒で決めた


「ねぇ、リドル?? 私さ、余計なことすんなって言ったわよね?? あなたに、言ったわよねぇえ??」

 

『言ったかもしれない可能性がないこともないわけはありません……』

 

「耳付いてないの? 英語理解できないの? まぁいいや……だけど、リドル?? 私の身体勝手に使うのってどうなの? ねぇどうなの? 気持ち悪いんだけど……」

 

『いや……その……これには深い訳があr』

 

「ロリコン死すべし慈悲はない」

 

『お許しください!! な、何でもしますからぁ!! 命だけは!!』

 

「……じゃあ慈悲深い私が今回だけは許してあげることにするわね……あの女もそろそろ抹殺したいし。

 ……でも、その前に、リドルにはちゃんと反省してもらわないとね……?

 

 ねぇリドル……あなた。水泳って……好き?」

 

『……え……』

 

 

「その薄汚い心も体もキレーキレーに洗浄してあげるわ!! せいぜい首洗うことね!! 三途の川でな!!

 

 マートルの鼻に命中すれば50テーーーン!!」

 

 

『うああああああああああああああ!!あああああああああああああああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校長ダンブルドア」さんはホグワーツを去りました。

 

 

 

 

「良かった……! あぁ、良かったっ……!」

「生きてる……!私、生きてる……!」

「これで助かる!!」

「皆ぁああああ! あの暴君が学校を去ったぞーーーーー!!」

「もうコレでバーガーを恐れることはないんだ……平和な食事を食べられるんだ!!」

 

 

 

 

 という騒ぎをよそに。

 

 ベスはトイレにこもって便器の修復作業にいそしんでいた。

 

 

「なんでこんな……誰がこんなひどいコトを……!」

 

 

 許しがたい。こんなこと、人間がすることではない。

 こんなひどいことでするような奴は人間ではない。悪魔だ。

 ベスは深い悲しみと静かな怒りにもえながら、立体ジグソーパズルにいそしんでいた。

 

 

「ハイ、ベス。さっきフクロウ便通販で過去修復接着剤が来たよーー」

「ありがとうハリー。そこに積んでおいて」

「うん」

 

 ハリーがわっせわっせ、と段ボール箱を運んでいた。

 トイレの用具棚の前には、すっかり空き箱が積み重なっていた。つい先ほども血を裏切る赤毛が「お友達が居ないからってゴミを増やして育成するのはやめろよな」とか言っていた。

 余計なお世話だ。

 

 それに今、トイレは最早ただのトイレではない。

 

「コッケーー! コーッコココココケェーー!」

「はい、餌だよ。僕のフクロウの残飯だけど」

「ケェエーーーーー!」

「冗談さ」

 

 ハリーが鶏に餌をやっていた。

 

『なんで生き物が増えるのよ……ここは死者の為の空間よ……』

「何を言ってるのマートル。トイレは聖域。生きる者も死せる者も、等しく許容する場所よ、この子だって死の淵から生還したんだから……!」

『……どゆうことなの……?』

「何かね、ダンブルドアがフライドチキンが足りないのじゃ、とか言ってトチ狂った挙句、鶏小屋の鶏を悉く油で揚げ殺すっていう火炎地獄を創造したらしいんだ。その中でたまたま生き残っちゃって家畜小屋の隅で怯えてたのをベスが保護したんだって」

『流石ベス!』

「当然よ、ママが言ってたもの、純血の魔法使いは皆に優しくあるべきだって。マグルと穢れた血以外にね」

「コッケコッコォオオオーーーー!」

「ね? あなたもそう思うでしょう? ブルーピー」

「ブルーピー? コイツの名前かい?」

「えぇそうよ、ブルーピーコックと名付けたの。素敵な名前でしょう」

 

 鶏、ことプルーピーはダンブルドアの悪夢から、心の傷は癒えきらないものの、順調に回復しているようだった。ハリーは思わず目を細める。

 

「じゃあ僕行くね」

「じゃあな」

「うん、また何か困ったことがあったら呼んで……ん? なんだこれ? 古そうなボロカス日記だな? 骨董品かな? よしYAH〇〇で売ろう」

 

 ベスは便器から顔さえ上げなかった。

 

 

 

 

 

 

「やっと行ったかあの眼鏡。……よっし、魔法のお勉強するわよ」

『ねぇ、これ提案なんだけど……魔法使えば?』

「はぁ? 魔法で一発で直して何が楽しいの? こうゆうのは手を込め壊した奴を呪い、恨みを込めながらゆっくりゆっくり直していくのがいいんじゃないの。さてと」

 

 ベスは本を開いた。

 

「ふーん『開心術』ね……これ私才能ありそうだわ」

『ま、まぁ貴女の前じゃ皆心を許しちゃうものね……』

「レジリメンス」

 

 ベスが杖をマートルに向かって振った。

 途端に、マートルの思考が頭の中に流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ずっと思ってた……』

 

『なんで死んじゃったんだろうって……。もっといろんなことがしたかったって……』

 

『女子トイレの変態ごときにぶっ殺される人生だった……って』

 

『でも』

 

『ここで死んだから……この子に、ベスに出会えたんだったら……』

 

 

 

 

 

 

 

『そんな……悪いことじゃ……なかったな……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおー」

『見ないでよぉおおおおおおおお!! わ、私の心! 見ちゃ嫌ーーーーーーー!!』

「すっげーわこれ。よし、これ使って尋問します。ねぇ、マートル。このゴーストで一番古いの――ぶっちゃけホグワーツ創立位から居るんじゃね? って位古いゴーストは誰?」

『え……? えぇっとそうね……多分レイブンクローの灰色のレディとかいう女よ! 純血万歳』

「ちょっと開心してくる」

 

 

 

 ホグワーツ西塔5階。

 

 

 

「こんにちわ灰色のレディさん」

『帰れ』

「ちょっとお話宜しいでしょうか?」

『失せろ』

「素敵なスコットランド訛りですね。私も独立運動に興味があります」

『ゴミから多少話の分かるクソガキだと見直します』

「(この女……)」

 

 ベスはゴーストぶっ殺す方法ってないかなーと考えはじめた。

 確かグリフィンドールの地縛霊がそれ死んでいたハズだ。

 

「あなたに聞きたいことがあります」

『何ですか』

「ぶっちゃけ秘密の部屋どこですか」

『言うと思ってんのか、死ね』

「すみませんぺこり、お辞儀します」(クソが……)

『やっぱりウジムシ程度に評価を下げます、さっさと消えろ、それ以上何か抜かすなら吊し上げるぞ』

「ヒェ……!」

 

 ベスはとりあえず諦めた。

 

「では質問2です。なんか禁書棚にマグル臭い本がありました。読んでみたら薄汚いマグルの所業が書かれていたエゲツないものでした。腹が立ったので棚ごと火葬にしておきましたけど」

『マジかよ』

「ぶっちゃけアレは何だったんですか? なんでホグワーツに汚らわしいマグル世界のクソ異物が置いてあるんですか? うんこですか?」

『脳みそついてんだろ自分で考えれば? その頭なんのためについてるの? 飾りなの? ヘルメットなの?』

「あなた程良くないんですよ~~」

『私が天才とか最早魔法界レベルの常識。したがって誉めても出さねーよ、すり寄りご苦労。はい、さようなら』

「お辞儀します」

『あっそ』

「土下座します」

『プライドないの?』

 

 

 

 その瞬間。

 

 ベスは。

 

 

 何の脈絡もなく。

 

 

 

 ブチ切れた。

 

 

 

 

 

「油断したなぁ! レジリメンス!!」

『ヴォアアアアアアアアーーーー!』

 

 灰色のレディが大よそレディに相応しくない悲鳴をあげた。

 

 

「やったー開心術とか超便利だわ――! もう楽勝じゃない! さぁ心の中を見せなさいー!」

『やっ……駄目……! ダメぇ! みちゃらめぇええええええ!!』

 

 なんか灰色のレディが言ってたけど、ベスは虫のたわごとだと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

『ずっと思ってた……』

 

 

『私はお母様より……優秀な人間になりたかった』

 

 

 

『でも駄目だった』

 

 

 

『私は何処に行っても、あの『レイブンクロー』の娘だと呼ばれた』

 

 

 

『どんなに頑張っても――――努力しても。結局色眼鏡でしか、見てもらえなかった』

 

 

 

『……もう、うんざりだった』

 

 

 

『どこに行っても――『血』が私を縛る。

 

 そして。心の底では気づいていた……』

 

 

 

 

『私は……母を越えられない…………』

 

 

 

 

 

『だけど……認めたくなかった』

 

 

 

 

『だから、逃げ出した……私は……』

 

 

 

 

『でも……でも……本当は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ごめんなさい……お母様……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? なんじゃこりゃ」

 

『うっ……うぅっ……! 見ないでって……見ないでって言ったのにっ……!』

 

「有益な情報が何一つありませんでした。やっぱり自分で考えますさようなら」

 

『うぅ……うぅっ……! うぇええええええん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放火魔女ハーマイオニー」さんは、無残な姿で発見されました。

「監督生パーシーの彼女」さんは、無残な姿で発見されました。

 

「赤毛末っ子のジニー」さんは姿を消しました。

 

 

 

 彼女の骸は永遠に秘密の部屋に横たわるっぽいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんそんなことはさせません。僕たちがぶっ殺すことにしました」

「マジか……でも、何でここに居るんだお前ら」

「別に気にするなよ、僕は自分の家族を救いに行く、それ以上でも以下でもないんだから」

「……」

「ベス、攫われたのはロンの妹なんだ。ロンの家族なんだ、だから僕たちは助けに行くんだ」

「……なんだよ、またどうせ血を裏切るとか何とか言うんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベスは便器を磨くブラシを止めた。

 

 

 

 

 

 

「いいわよ、手伝ってあげるわ」

「!?」

「何よ。万年貧乏性赤毛オブザ血の裏切り。この私が、ベス・ラドフォードが手を貸してあげてるって言うんだから本気で這いつくばってお辞儀しなさいよ」

「……え? おま……誰……?」

 

 ロナウド・ビリウス・ウィーズリーは驚愕で目をいっぱいに開いていた。

 

 

「え……? は?」

 

 

 

「いいからさっさとテメ―の妹を助けに行くわよ。勝算はあるんでしょうね? まずは情報共有から行きましょう。

 

 とりあえず知ってることを全て洗いざらい吐きなさい。()()()()()()

 

 

 

 

 ハリーが眼鏡の奥で、ニッコニコ笑っていた。

 

 

 

 

 

「だからいつも言ってるだろ? ベスは悪い子じゃないって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強力な助っ人ですね!! えぇはい! では私はもう必要ありませんね! この私! ギルデロイ・ロックハート!!」

「シレンシオ」

 

 




次回の更新は月曜日になります。スマンの!!

秘密の部屋突入からーー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の部屋

「ベス、僕たちはハーマイオニーの遺言からある真実に辿り着いたんだ。秘密の部屋の怪物、その正体は『バジリスク』だったんだよ!」

「瞳術の使い手か、殺すの難しいな」

「何でも直死の魔眼持ちだって」

「でも誰も死んでない。不思議。と思ったらどいつも直接目を見てないんだ。

 第一犠牲者、猫はマートルが溢れさせたトイレの汚水。第二の犠牲者一年ズは大きな姿見の前でくたばってた。

 第三の犠牲者パパラッチはカメラを通して、第四の犠牲者ブルジョワは地縛霊越し、首があんのかないのかよく分からん霊は2回は死ねない。そしてハーマイオニーとクリアウォーターは鏡を持っていたんだ! 直接目を見ない様に!」

 

 ハリーの超ダイジェストと解説。

 

「マジでか……でもそんな這いずり回る奴目立つんじゃない? 透明マントでも持ってるのかしら?」

「……」(……僕ベスに透明マントのコト言ったっけ……?)

「……」(おい、ハリー感づかれてるぞ)

「どうしたのよ二人共」

 

「その答えはパイプだよ! 奴はパイプを伝って移動していたんだ! だから僕にだけ声が聞こえたんだ! そう――パーセルマウス、蛇の言葉が分かるから!!」

 

「成程。で、なんでこのトイレに関係あるのよ?」

 

「マルフォイからの情報で。前に『マグル生まれ』の女の子がひとり犠牲になったらしい。

 もし……もし、だよ? その子がまだここに居るとしたら――どう思う?」

 

「ミイラ」

 

「そうじゃないよ。ひょっとしたら……ゴーストになってるかもしれないだろ」

 

「せやな……あ」

 

「そうゆう訳だからマートル。素直に知ってること洗いざらい喋ってくれるかい?」

 

 ハリーの眼鏡が光っていた。

 マートルはふわり、と空中に漂いそっぽを向く。

 

 

 

 

 

 

『……嫌よ』

 

「……」

「頼むよマートル!! 僕の妹の命がかかってるんだよ!!」

 

 

『……今更何よ!! 今まで――アンタ達、今の今まで! 私の死因なんか聞いたことなかったじゃないの!! ただの一度だって!! なのに今? 何? 秘密の部屋の怪物? バジリスク?? 知らないわよそんなの!!』

 

「マートルお願い」

「マートル、ねぇ、ハリーに……」

 

『い、いくらベスの頼みでも……聞かないんだからね!!』

 

 マートルは若干動揺していた。

 もう少し揺さぶりをかければ、マートルは心を拓いてくれるかもしれない。

 そう思ったらしいハリーは、仕方ない、と言ってベスに眼鏡を渡した。

 

「ちょっと持ってて」

「お、おう……」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ハリーは。

 

 

 

「マートル、頼むよ」

 

 

 

 ハリーがまるで心の底から謝る様に。

 相手への敬意と、尊敬、まるで積み重ねてきたホグワーツの1000年の歴史に対してするかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 

 

 それは。

 

 

 

 

 

 見る者全てに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微笑むような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完璧な――――お辞儀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心が……洗われるような……お辞儀でした。話します』

 

 

 

 

 

「おっしゃ」

「チョロいな本当」

 

 

(コイツ……去年のクィレル戦よりも……お辞儀レベルがアップしているわ……!!)

 

 

 やっぱりハリーは油断できない、と評価を改めるベスだった。

 

 

 

『オリーブ・ホーンビーに眼鏡のことボロクソいわれて泣いてたの。ここで』

「分かるわ、トイレは聖域だものね」

「永久に黙ってろよ便所レイシスト」

「シレンシオ!!」

「プロテゴ!!」

 

 

 

『そしてたら訳わかんねえ声がしたの……でも分かったわ。男子の声だって、だから怒鳴りつけてやろうと思ったのよ……。

 

 この変態!! 通報するわよクソ野郎!! トイレ盗撮なんか良いご趣味ねこの人間のクズが死に晒せ!!

 

 って、ディフィンドしようと思ったの……』

 

 

「どの道トイレで人死に不回避だったんじゃね……?」

 

『うるさいわね! そこのセルドーラみたいな赤毛男!! 私悪くないわよ! ……で、死んだの。その辺にへんな金の玉が2個あったわはい私の人生終了』

 

 マートルは洗い場の方を指さした。

 ハリーは蛇口をよく観察する。

 古びてはいたものの、それは。まさに名の通り蛇の頭によく似た装飾が施されていた。

 

「シューーー」(開け)

 

 蛇口が白く光り回り始める。

 手洗い台が沈み込み、中に大人一人なら通れそうな穴が出現した。

 息を呑むような光景の中、ハリーとロンは確信する。

 間違いない、これが秘密の部屋だ――と。

 

 

「おお、何か凄そう! 隠しトイレね!!」

「……そうだね。うん」

「ヒャッハーイ!! 突入します!!」

「あー……ベスー? 安全確認先にした方がいいんじゃ……」

「もう手遅れさ、ハリー。あいつの頭の中もな」

 

 

 

 

「うわあああああああああああああ!! 摩擦が! 摩擦が!! あつっ! あつぅううううう!!」

「コッケコッコー!!」

 

「HAHAHAHAHAHA! 素晴らしいですねミス・ラドフォード!! ではもう私は要りませんねーー! じゃあ君たち幸運を☆ それではさらばっ!」

 

 しゅばっとロックハートは姿を消した。

 

 

 

「……あいつ……」

「いいよ、ロン。肉盾が減っただけだから。さっさと行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ははははっ! そうです! そうですよ!!」

 

 ロックハートは音速で走る。

 

「何も私が戦う事はないのですよ、えぇ! この私ロックハートが戦う必要などないのです!」

 

 ロックハートは風を超える。

 

 

「そう……私が……私……が………。…………僕が……」

 

 トイレを出て回廊にまで曲がる。

 目指した場所は自分の部屋だったハズだった。

 

 だが、足は、自然に。

 

 

「……あ、あれ? ここは」

 

 

 かつて過ごした場所――西の塔の5階に向かっていた。

 

 そこでは、ひとりの女性が――女性のゴーストが。

 天井を見上げて、佇んでいた。

 

 

 

『……』

 

「……あなたは……」

 

 

 その様子は――――ひどく、悲しげに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリーとロン、ベスは薄暗い部屋をルーモスで照らしながら進む。

 しばらくすると、そこに赤毛の少女が横たわっていることに気付くだろう。

 真っ赤な赤毛の1年生の少女。

 あぁ、そうか。この子が妹なのか、とベスは理解する。

 

 

「ジニー!!」

 

 妹の横たわる姿を見たロンは取り乱しながら真っ直ぐに駆け寄った。

 まだ他人、と言う分だけ冷静さが残っているらしい、ハリーは周囲を警戒しながらロンの後に続く。

 

「ジニー、目を開けてくれ! あぁどうしよう……ハリー! ジニーの体……」

「駄目だロン、気絶してる。だけどケガはないみたい」

「で、でもハリー……! ジニーの体……つ、冷たいんだ! す、すごく!!」

「多分この水のせいだ……ロン、早くジニーを引き上げて! ベス! 君はバジリスクを警戒して――」

「イケメン発見」

「ベス! イケメンじゃないくてバジリクスだよ! ただ、目を見ちゃダメだから気を付けるんだ!!」

「目と目が合ったこの瞬間の奇跡……あれ? スリザリンの制服着てるけどこんなヤツ居たっけ?」

 

 

『……む、無駄だ、その子は目覚めない……』

 

 

 喋ったーー! とばかりに口をあんぐりと開けるベスとロン。

 背の高い、黒髪の青年だった。

 ベスの言った通りに胸元にはスリザリン証である蛇の紋章をつけている。すぐ傍の柱にもたれかかり、やっとの思いで立っているという状態でこちらの様子を伺っている。

 その顔に見覚えのあるハリーがいち早く気づいた。

 

 

 

「君は……トム――トム・リドル」

「え? トム・リドルだって……!? そんな……有り得ないよ!!」

「なんでよ」

「だ、だってトム・リドルって……50年も前の人物じゃないか!!」

「は? 何言ってんだお前」

「ベス。ロンの言ってることは本当なんだ……トム・リドルは50年前に秘密の部屋の化け物を倒したっていう功績でホグワーツ特別功労賞を受賞してるんだよ」

「だって僕は罰則でコイツの盾を一晩中磨いてたんだから!!」

「……じゃ孫?」

「君さっき言っただろ?『こんなヤツ居たっけ』って」

「言いました。見覚えありません。したがってコイツは現世外の人間です」

 

 よく見ると薄気味悪いぼんやりとした光がトム・リドルの周りを漂っていた。

 

「君はゴースト?」

 

 ハリーが問うと、トムという名の正体不明の青年は息も絶え絶えと言った感じで答えた。

 

『……記憶……だよ……ごじゅうねんかん日記の中のあ……った…』ハァハァ

「トム! 手を貸して! バジリスクが居るんだ!!」

『……呼ばれるまでは来ないよ』

 

 ロンは苛立った声で凄んだ。

 

「トム!! いい加減にしろよ! ココから出てジニーを助けないといけないんだよ!!」

「……待って、ロン」

「話が見えねえ……」

 

 ひとりだけ全く話について来れないベス。

 

 トムは艶やかに笑った。

 

 

『残念だがソレは出来ないよ……ジニーが弱れば弱る程、僕は強くなる』

「……は?」

『そうだ……! そ、そうだ! やっと……やっとの思いでコイツを乗っ取ったんだ!! 死ぬかと思った……!い、今この瞬間も体を返せとこの魔女がこの魔女がこの魔女が!! ゴファ!!』

「何だか苦しそうだわ。血とか吐いたわ」

「何言ってるんだこいつ……?」

「よし、じゃ、二人共。帰ろっか」

「「ジニーを背負って帰ります」」

 

 

 

 

『って待て!! 話を聞け!!』

 

 

「いや……だって……」

「いい加減にしろハンサム。僕たちは妹を助けないといけないんだよ!! 全く! 顔が良い奴にはロクな奴がいないな!! お前とかロックハートとか便所女とか!」

「インセンディオ!!」

「アグアメンティ!!」

 

 

『秘密の部屋を開けたのはジニー・ウィーズリーだ!!』

 

 

「は……?」

 

 ロンは驚きのあまり真っ白になっていた。

 

「そんな訳……そんな訳があるか!! ジニーは……ジニーは兄さんたちのせいで気が強いところもあるけど……ジニーは……僕の妹は!! 優しい子だ!! そんな訳があるか!!」

 

『いいや、彼女だ! 秘密の部屋を開けたのも、怪物を解き放ったのも! 『スクイブの猫』や『穢れた血』にバジリスクをけしかけたのも彼女だ!!』

 

「黙れ!! ジニーがそんなことをするわけない!!」

「……あぁ、そうだ。ジニーがそんな酷いこと出来る訳ない……。

 

 

 

 

 

 だから……やったとしたらお前だ。トム・リドル」

 

 

「え? 何でそうなるのよハリー?」

 

「ベス、信じられないかもしれないけど聞いてくれ。僕の目を見て……。

 いいかい? このトムは五十年間『日記』の中に居た残留思念みたいなものなんだ。それが何やかんやあってジニーを乗っ取った。多分精神感応か何かの魔法だよ。感応現象なんだ」

 

「はぁ……」

 

「だから、ジニーの身体を精神操作して『乗っ取った』つまりジニーは……自分の意志とは関係なく! 無理やり操られて!! あんなことやこんなことをされていたってことなんだ!!」

 

 

「マジかよ最悪だな……、女の敵め。死ね!」

 

 

「さて、と。小便はすませたか? 神様にお祈りは? 秘密の部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」

 

 

 

 

『(やべーなコイツら……どうゆう精神構造してんだ……)』

 

 

 

 

 トム・リドルは冷汗をかく。

 ムカついたから殺すという超理論が理解できなかった。

 それよりも、もっと突っ込むべきところがある。

 

 

 

 

 

『……ま、待てお前ら!! お前たちは何か勘違いをしている!! ぶっちゃけ穢れた血をぶっ殺しまくってたのは僕じゃな――』

 

≪ねぇ……トム……?≫

 

『うっ……なんだこの声は……!!』

 

«約束したよね……? ハリー来たら替わるって……替わってくれるって……ねぇハリー居るわよねぇ……? ねぇトム…………ねぇ、トム……トム……トム……≫

 

『や、やめろ!! 今は僕のターンだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいよ、分かった。

 

 つまり、お前は僕たちの敵なんだな? 秘密の部屋を開いたのはお前だな? だったら」

 

 

 ハリーは眼鏡を反射させながら口元を愉悦の形へと湾曲させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を殺せば、ジニーは助かる。秘密の部屋も閉じる。ジニーもホグワーツも両方一気に救える。一石二鳥だ。なら戦おうか――自称! スリザリンの継承者()様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンが少しだけ迷ってから杖をトムへとつきつけた。

 

 

 

 

「……お前がどんな奴かは知らない。でも……ジニーを助ける為だ! ここでお前をぶっ殺す!!」

 

 

 

 

『ふん……馬鹿な下級生だ。いいさ、僕の狙いはハリー・ポッターだ。お前達は生かしておいてやっても良かったんだが……歯向かうなら仕方ない。

 そこの君はどうする? 見た所スリザリンの学生だろう? 同じ寮だ……創設者の手で葬られたくはないだろう? 大人しく見ているなら命まではとらn――』

 

 

「シレンシオ!!」

 

 

『×』

 

 

 

「確かにそこの赤毛一家は伝統的な由緒正しい純血の一族のくせに、『穢れた血』とつるむ様な『血を裏切る者』達よ」

 

 

『……?』

 

 

 

 

「だけどね。少なくともこのロクでもないド底辺赤毛は……妹を助ける為にってここまで来た!! 私の持論じゃ純血主義とは即ち自らの父祖の歴史を誇ること!! 

名も残らない、だが確かに生きた先祖たちの血を受け継ぐこと!!

 

 つまり血族と家族の絆を守ることよ!! じゃなきゃ魔法族なんか身内同士の殺し合いで滅びるでしょうが!! このアンポンタンのトンチンカンが!!」

 

 

 

『……』

 

 

 

「あんたは純血社会に目障りな『穢れた血』だけぶっ殺していれば良かったのよ。純血の子を狙った時点で、アンタが『スリザリンの継承者』であることは既に破綻している!!」

 

 

 

 

 

『……ほぅ……いかにもスリザリンらしい、純血主義でありながら――――この僕を、否定するか。バカな小娘だ』

 

 

 

「上等よ、アンタに本物の純血主義を教育してあげる!!」

「お前の居場所は学校じゃない、大英博物館直葬だ」

「さっさと蛇を呼べよおっせーんだよカス。自殺もできない遺物共が、ここで引導を渡してやる!!」

 

 

 

 

 ハリーたちの声を聴いたリドルは、口を大きく歪めて凶悪な笑みを作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ならば良かろう、若き愚かしき『勇者』たちよ!! 『純血の意志』に立ち向かってくるがいい!!

 

 

 

 千年の歴史が相手をしてやろう!! 

 

 

 

 お前ら全員! 死に場所は此処だぁあああああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リドルがシューシューと蛇語を使って石像に唱えると、ずるり、と巨大な『何か』が姿を現す。

 

 その巨躯を見て、3人は判断するだろう。

 

 

 これこそが『蛇の王』――――バジリスク、だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シューーー。シュ―――」(西暦は変わった……)

 

 

 

 

「シュ――シュシュシューーー」(ひとつの時代が終わり、俺たちの時代は終わった)

 

 

 

 

 

「シュ――― シュシューーー」(だが俺にはまだ、やらなければならない事が残っている)

 

 

 

 

 

「シュ――――シュシューーー」(非魔法族の血、それを魔法界から抹消する事)

 

 

 

 

 

「シュ―――」(それが、俺に残された最後のミッション)

 

 

 

 

 

 

 

 

 『蛇の王』がログインしました。

 

 

 

 

「ピィイイ~~~ン!!」(イヤッホォオオオオウ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックス&帽子がログインしました。

 

 

 

 

 




うぅ…ストックが。。。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スリザリンの怪物

 ホグワーツ西塔5階。

 

『……本当は分かっていた』

 

 灰色のレディはほぼ独り言のように空を眺めながらつぶやいた。

 

 

『あの子が――ずっと、ずっと――――『彼』の遺志を果たそうとしているのだと』

 

「……」

 

『私には……分かっていた…………ハズだった』

 

 

「……はぁ……」

 

 

『でも、私は……。何も……出来なかった』

 

 

「……」

 

 

『私は……私……には……逃げた私には……』

 

 

 

 もう、何もする資格はないと、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは目をどうにかしよう」

「そこの不死鳥さんを使うのはどうですか」

「素晴らしいですそうしましょう」

「行け!! フェニックス!」

「ピィ~~」(特攻かよ……)

 

 

 フェニックスことダンブルドアのフォークスは、ばさっと飛び上がった。

 そしてバジリスクの目をぶっ潰すことにした。

 バジリスクの直視の魔眼と目が合う。

 

「ピィーー」(KOEEEEE! 蛇KOEEEEE!)

 

 フェニックスは死にました。

 が、フェニックスは不死鳥。死んでも灰の中から何度でも蘇る。

 故に死ねなかった。

 何度も死に、蘇生し、死んでは蘇り、恐怖で心臓発作おこしては生命の火がまた宿るという状態になっていた。

 結果。

 

 

 火だるまになった鳥が何度も何度もアタックするというダイナミック特攻が発生。

 

 

「シュ――――!!」(目がぁ! 目がぁあああ!)

「ピィー」(もっと熱くなれよぉおおおおお!)

 

 バジリスクの目ん玉が死にました。

 リドルが悔し紛れに何かホザキやがります。

 

 

『……バジリスクの目は潰されたが、まだ音と臭いでお前らが分かるぞ』

 

 

「……ふーん、音ね……」

「どうしたんだハリー!? 何か秘策でもあるのか?」

「フォークス! そのまま飛び回っているんだ!! ベス!」

 

 ハリーは蛇にピット器官があると思っていた。

 だからフォークスがその辺飛び回っていると目障りで仕方がないと思い込んでいた。

 

 尚、実際バジリスクにそんなもんはない。ないったらない。

 

「何ですかハリーさん」

「君のペットを使う時が来たよ!! ロン、かくかくしかじか」

「……それしかないか……分かったよ!!」

 

 

 ロンとハリーはほぼ同じくして走り出す。

 ロンはバジリスク右側、ハリーは左側に向かって分岐。

 さらにそこから尻尾側と胴体に分かれる。

 

「シュ――」(マスター!! どちらを狙えばいい!?)

『シュ―――』(ポッターだ! ポッターを狙え!! お前の右!!)

「シュ――」(了解した!)

 

 バジリスクはハリーにむかって尻尾攻撃をかまそうとする!

 だが尻尾側にはロンが居た。

 

「うおおお! この純血フェチの蛇野郎! ナメクジ食らえ!!」

 

 ロンの口から恐るべき数のナメクジが発射される!

 ナメクジ弾幕をもろに浴びた尻尾が重さ増す、さらに、そのナメクジは何と。

 

 ハグリッド特製、肉食ナメクジであった。

 

 無数のナメクジたちに肉を食いちぎられたバジリスクが痛みでのたうち回る。

 バランスを崩した蛇の頭上の石柱を狙うベス。

 

「レダクト!」

 

「やった! ウィンガーディアム・レビオーサ! ロコモーター!!」

 

 今度はハリーからの弾幕攻撃。

 レダクトで破砕した石片を一旦宙に浮かせ、さらに加速させる。

 ただの投石攻撃だが体のバランスを失ったバジリスクを転倒させるには十分だった。

 バジリスクの巨体がゆっくりと傾げ引き倒される。

 

 

「ロコモーター! ブルーピー!!」

「コッケェエエエエ!!」

 

 進撃の鶏。

 

「シュ―」(何ぃ!?)

『……は? ……え?』

 

 ブルーピーが蛇の頭の上にすっぽりと覆いかぶさる。

 そしてコケッと鳴く。ついでに自慢の爪で潰した目玉を攻撃しはじめた。

 バジリスクはまだ体勢を立て直すことが出来ない。

 

 

『な……んだと……!』

「そう、リドル――流石のお前も分かっているようだな!」

 

 ハリーはリドルへ杖をつきつける。

 

「確かに! バジリスクは視線だけで人を殺し! スゲエ毒を持っているかもしれない! だけど弱点だってちゃんとあるんだ!! ハーマイオニーが調べてくれた!!」

『弱……点……。ま、まさか……!』

「そうよ! その子……雄よ!!」

『バジリスクの弱点……鶏……雄鶏の……時をつくる声……!!』

「コケー」(時報です)

 

 ブルーピーコックは蛇の頭上にトコトコと上がる。

 そして大きく息を吸ったかと思うと。

 

 声の限りに――叫んで見せた。

 

 

 

 

 

 

「コッケコッコーーーーーー!!」

 

「シュ―――――!」(ヴァアオオオオオオオオ!!)

 

「コケッコッコーーーーーー!!」

 

『ば、バジリスクぅううう!』

 

 

 

 効果はばつぐんだ。

 

 鶏が時を告げる声を聴いたバジリスクは何か遺伝子とかそうゆう本能的なレベルで逃げださなくてはならないような衝動にかられた。わけのわからん不条理は魔法生物としてこの世に生を受けた以上どうしようもない生理的現象だった。

 自分にとって致命となる攻撃を頭上で繰り広げられるバジリスク。

 万事休すと思われたその時。

 

 

 

 

 

 バジリスクはサラザール・スリザリン像に突撃して自らの頭を打ち付けた。

 

 

 

 真白の羽毛が舞う。ブルーピーコックと言う名の鶏は、一矢報いて死にました。

 ただの鶏であったが、バジリスクにとっては核弾頭並の威力を持ち得た鶏だった。

 

 

「あああ! ブルーピー……」

「良い鶏だった……君は、多分此処に居る誰よりも……勇者だった」

「勇者ニワトリに敬礼!」

『バジリスクぅううう!』

「ピィイーー……」(この短時間に1蛇2鳥キル……俺不死鳥で良かったわ……動物愛護法なんてなかったんや……)

 

 

 もくもくと上がる砂塵の中。

 それがぞすり、と首をあげた。

 

 

「!?」

「!?」

「そんな……!」

『お……おお?』

「ピィーー!」(マジか)

 

 そこには。

 

 目を潰され、尻尾を食い荒らされ、胴体に穴をあけ、更には頭から血を流しつつも、尚。

 

 

 向かってくる――バジリスクの姿があった。

 

 

 

 

「「「……」」」

 

「シュ―――」(まだ……だ……! まだ……終わらん!)

 

『ば、バジリスクぅうううううう!!』

 

 

 これで死んでねーのかよ……とベス、ハリー、ロンは思った。

 

『シュ―――シュ――!』(いいぞバジリスク! さぁ殺せ! この目の前の奴らを殺るんだ!)

 

「シュ――」(多くの英霊たちが……無駄死にでなかったことの……証の為に……!)

 

 バジリスクはキャラがブレてきていた。

 

『シュ――!』(ちがうそっちじゃない! おい! 聞いているのかバジリスク!)

 

「シュ―……」(我が主よ……俺は……。……私は……)

 

 

 

 

 

「……しゅーーー……」(……私は……あなたの……)

 

 

 

 

 

 

「……なんだ様子が変だ」

「リドルの声が聞こえていないみたいだわ」

「……まさか」

 

 三人は悟る。

 

 バジリスクはさっき、スリザリン像にむかって体当たりすることで――自分の内耳を破壊し、聴覚を殺すことによりその弱点を封印したのであった。

 ちなみに蛇に鼓膜は存在しない。その為ダイレクトに内耳を破壊したのだ。

 

「ど、どうしよう……鶏も死んだし……作戦が木っ端みじんのレダクトだ!」

「終わった、しんだーはい終了ーー」

「待って二人とも!諦めるには……まだ早いっ!!」

 

 すっかり目が死んだロンとベスに向かってハリーは叫ぶ。

 その眼鏡はらんらんと輝きを放っていた。

 そろそろ気づく。

 

 あ、多分コイツ本気で殺る気だなー……と。

 

 

 

「いいかい!? 今のバジリスクは目と耳――つまり、五感のうち二つがもう駄目なんだ!」

「そうですね」

「改めてみると凄い状態です。何故まだ蛇さんが戦おうとするのか甚だ疑問です」

 

「だからロン、ベスこう考えるんだよ!!

 

 

 

 

 あと残り三つ……五感全部ぶっ壊せば僕たちの勝ちなんじゃないか?」

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

(コイツ……前から思ってたけどコイツ……)

 

 

(よくもそんな酷いことを思いつくわよね……)

 

 

 

 

 

((だめだこのシリアルキラー……はやく何とかしないと……!))

 

 

 

 

 

 やはりロクなことではなかった。

 

 

 

「よし! 次は味覚と嗅覚を叩くぞ! 僕がアイツの口に突撃するから二人は何とかして動きを止めて!!」

「えー……」

「ハリー! 待って! そもそもどうやって味覚と嗅覚を破壊するつもりなの!?」

「つか本当に味覚は壊す必要あんの」

 

 

 非常に個性的な料理を食するという才能をお持ちのグレートブリテン島に住まう人種が何かほざきやがった。人間は初期不良というものを実はなかなか意識できない生物なのかもしれない。

 

 

 

「何とかなる! 来い! 組分け帽子」

「帽子の出番だやったーーーー!」

 

 組分け帽子を持ったハリーはバジリスク目がけて突進していく。

 上からは石片だのなんだのが色々振ってくるがハリーには当たらない! 

 

「ああああ! もう! 合わせなさいよ腐っても純血貧乏6男!!」

「分かったよサラブレッドレイシスト!!」

 

 ロンとベスは杖を構えた。

 それは、授業ではやったことはないものの――先輩たちの死闘で幾度も見せつけられてきた呪文だった。

 

「「ステューピファイ!!」」

 

 やや麻痺させるには弱い、子供だましの細い赤色光は二本空を切る。

 ベスのはかつて目玉の在った場所に、ロンのは尻尾の傷口にそれが当たった。

 本来ならばたった12歳の放った光線、バジリスクなどという怪物を麻痺させるには到底不可能な代物だろう。

 

 だが。

 

 目も見えず、耳を自ら破壊した――無音と暗闇の中をさまようバジリスクを動揺させるのには十分だった。

 

 

 痛みからか衝撃からか、大きく開いた咢に――。

 

 

 ハリーが、腕を、突き入れる。

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 ハリーが危険を冒してまでブッ込んだもの、それは。

 

 

 

 

 組分け帽子だった。

 

 

 

 

「なんで!?」

「そこはもっと杖でアバダするとか方法があったんじゃないかなぁ!」

「何で? 僕は五感を破壊するって言ったんだよ?」

 

 いや、そんなもんで破壊できるわけねーだろ……。と赤毛と黒髪は思った。

 

 

 ……が。

 

 

 

 

「シュ――――」(うわああああ! くさっ、臭いぃいいいいい!)

 

「え」

「は」

『 』

 

 

 

「シュ――――!」(う、うぉおおおおお! こここここれはーーーーッ!)

 

 

 

 

「そうさ……僕たちにとっては見慣れた組分け帽だ……! だけど!!

 

 

 パイプの中からですら! 人間の『血』さえ嗅ぎ分ける――バジリスクの超嗅覚なら!

 もしくはこの3人から個人が特定できるほど鋭敏な嗅覚を持つバジリスクには! よく効くハズなんだ!!

 

 

 

 1000年分の生徒が被った帽子に染み込んだ臭いが!!」

 

 

 

 

「手段選んでなさすぎ、今帽子はテメーをグリフィンドールに入れたコトをクソ後悔しているぞゲス眼鏡が」

 

 

「シュ―――――!!」(臭ぇえええええええ!! ヴォエエエエエエ!)

 

 

『……こんな……こんなんで……スリザリンの脅威が…………』

 

 

 

 

 自称スリザリンの継承者()は片手で目頭を押さえていた。

 

 

 

 

 

 スリザリンの脅威はばたーんとぶっ倒れました。

 その衝撃で顎が挟まり、ハリーの腕にバジリスクの牙が突き刺さる。ハリーは毒を喰らった。

 不死鳥色々悲しくなり涙を流す。

 スニッチで近眼のくせに動体視力だけは異様に鍛えたハリーはソレを見逃すハズもなく、零れ落ちる涙の雫をキャッチ。毒は無効化された。

 

 

 

 

 

 

「さて、と。じゃあ次はお前かリドル」

 

『そうだな……一対一だハリー・ポッター、決着をつk――』

 

「何を言ってるんだ? こっちは3人だ。ついでに不死鳥も居る――さて、トム選ばせてやる。ジニーを返してサッパリ死ぬか、それとも最後まで抵抗してなぶり殺しにするか……どっちがいい?」

 

『……はははっ、面白い! この僕に勝てると思っているのかお前た≪トム……ねぇトム……≫ なんだ邪魔するな本当やめてください!!』

 

「今なんか女の子の声混じったわ」

「ジニーだ! ジニーが戦ってるんだ! 頑張れ! ジニー!!」

 

 ロンの必死に呼びかけで、ジニーが目を覚ました。

 

 

「ジニー!!」

「え? あ、あれ? ロン? ハリー……? あ、あれ? 私……」

『うわあああああああああああああ!』

「ジニー良かった、気が付いたんだね」

「でも……でも……ハリー……! あなたケガしているわ……!」

「ジニーいいんだ、僕は大丈夫だから」

「でも……やだ……ごめんなさいハリー……わたし……わたし……そんなつもりじゃ……!」

『ああああああああああああああああああ!!』(断末魔)

「ジニー、君は悪くない、操られていただけなんだ。もう全て終わるよ。大丈夫……僕の目を見て……」

「ハリー……私……私……!」

「君は、操られて、いた、だけ、なんだ」

「私は、アヤツラレテ、イタ……」

「ハリー君僕の妹に何しているんだい?」

「これは……! 流れが……変わるわ……!」

「お前も何言ってんだ」

 

 

 

 

 

 

「リドル! お前の負けだ!!」

 

「ワタシハ操ラレテ居タダケナンダ……。リドル死ネ!!」

 

 

 

 

 

「ジニー! しっかりするんだジニー! 目の焦点が合っていないよ!! ハリー!!」

「やりやがった……やりやがったよコイツ……」

「これで悪い奴は死んだし解決だね! さぁ皆帰ろう!」

 

  

 ハリーが何事もなかったように笑顔を浮かべて、皆を先導し、踵を返そうとした。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 大きく、水音が――跳ねる。

 

 

 

 

 

「シュ――――……! シュ――……!」(まだ……だ! まだ終わってない……!)

 

 

 

「え!?」

「うそだろ……」

「マジか」

 

 

 

 

「シュ―……! シュ―………!」(主との……『約束』は……まだ……!!)

 

 

 

 

 

 バジリスクが。

 

 

 

 

 

 

 

 起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうなったらもう、一騎打ちだ。コイツが死ぬまで……刻むしかない!!」

「こんな奴に僕たちの魔法なんかきくのかよ!!」

「……私のせいだ……全部私の……」

 

 頭をかかえるジニーを兄であるロンが助け起こしていた。

 今から1年生と2年生の魔法使い4人で呪文を乱発する。

 だが、誰もが分かっていた。結末は二つしかないのだ。

 

 

 

 バジリスクが力尽きて倒れるか。

 

 唱える呪文が尽きて――全員死ぬか。

 

 

 

「……」

 

 

 

 その中で。

 

 

 ベスは、ひとつだけ生き残れるかもしれない可能性を見ていた。

 

 

 だが、それには力が足りなかった。

 

 

 知識も。呪文も。なにもかもが。

 

 

 大口を開け、最早瀕死の体力で迫りくるバジリスクは今までの攻撃よりもより気迫があった。

 最早バジリスク自身も生き残ろうとはしていないのだろう、だが、まるで

 

 『命よりも大事な何か』を守り抜こう―――もしくは、押し通そうとしている節すらあった。

 

 盾の呪文を合わせようと3人が杖を構えたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「HAHAHAHAHA! プ・ロ・テ・ゴ!!」

 

 

 

 

 ガツン、とバジリスクの牙を跳ね返す程の『盾』が生成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 成人男性の声。

 カツン、カツンと靴音が高く、石天井に反響し、幾重にもなって響き渡る。

 

 現れたのは、明るい色のローブと。

 

 真珠色の歯を見せたチャーミングスマイル。

 

 その歯がいつもより少し、震えているようにも見えた。

 

 

 

 

「……さ、さぁさぁ皆さん! こ、ここは……下がっていなさい!! 闇の魔術に対する防衛術の時間ですよ!!

 講師はこの私! マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、大英帝国勲章、そしてチャーミングスマイル賞五回連続受賞な!!」

 

 

 背後にはゴーストが2人ついてきていた。

 顔なじみになった眼鏡の女生徒と。

 ハリーたちには廊下ですれ違ったことがある程度の、レイブンクローの女性ゴーストだった。

 

 

 

「ギルデロイ! ロックハートがお相手しますよ!!」

 

 

 

 

 




秘密の部屋編、あと2話!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バジリスク

「おや、ここに居たのかの、ギルデロイ」

 

 ロックハートの目の先には、信じられない人物が居た。

 アルバス・ダンブルドア。

 ホグワーツの校長――先ほど逃亡したはずの白鬚爺だった。

 

「なぜ……あなたが……ここに……?」

 

 

 ダンブルドアは言った。

 

 

「それはかくかくしかじかじゃ。何やかんやあってワシはホグワーツに戻ってきた!」

「……」

「ところで……おぬしはなぜ、ここに居るのじゃ?」

「……」

 

 ロックハートは上を見あげた。

 

 

「……考えたのです。もし……もし、私が……もし私が『あの時』レイブンクローではなく、グリフィンドールに入っていたら――或は、スリザリンに入って居たらと」

「……」

「もしかしたら、他の人生があったのかもしれない。他の――本物の、英雄になれた――そんな人生が。あったのかもしれない、と」

 

 やはりダンブルドアは全てを見通していた。

 彼がロックハートの事務所を訪れた時、思わずひやり、としたのだ。

 

 自分の罪を断罪しにきたのか、と

 

 だが違った。ダンブルドアはただ、ホグワーツの教員にならないかと誘いに来ただけだった。

 ロックハートはそれに飛びついた。

 それが――こんな事態をひきおこすとも、知らずに。

 

 

「ギルデロイ、残念ながらそれは、ない」

「……あなたに何が分かると言うんです、先生」

「『今のまま』のお主が人生を何万回やり直そうとスリザリンにもグリフィンドールにも決して入れぬよ。良くてハッフルパフじゃろうて」

「……そんな……はずが……!」

 

 逆上したロックハートは怒鳴り声を上げる。

 

 

 

「私は!! 私はただ! 英雄になりたかった!! 誰かに認めてほしかった!! 注目されたかった! 称賛されたかっただけなんだ!! 英雄になって――有名になれば……そうでなければ!

 

 

 この世界で私のことなんか誰も見てはくれないから!!」

 

 

 

「……そうかの」

 

 

「あなたに分かるハズがないのです校長先生。ホグワーツでは主席、いつでも天才と褒め称えられ、常に注目され――何も言われずとも魔法大臣にと推薦されるほどの人物!!

 あなたに――あなたの様な偉大な人間に! 私のような凡人のちっぽけな望みも欲望も何一つ伝わる訳がないのです!!」

 

「……ならば、なぜ、今動こうとしない?」

 

「……」

 

 ダンブルドアの口調はあくまで柔らかい。

 まるで、生徒を教え諭す――教師のような口調だった。

 何も責めてはいない――にも関わらず、人の心を追い詰めていくような何かがあった。

 

 

「英雄になりたいのじゃろう? ならば杖を取るがよい」

 

「……あんな化け物に私が敵う訳はないんですよ……」

 

「化け物? はて? 物はどんな物であれ、きちんとそのものの名で呼ばねばならぬよ。敵は化け物ではなくスリザリンの継承者じゃ。その名は『バジリスク』目を見ただけで対象を恐怖で殺し、牙には毒を持つ。大きさは……まぁこの城よりかはいくらか小さかろう」

 

「……」

 

「ギルデロイ、コレはワシからお主に与える――最後のチャンスじゃよ。

 

 英雄になりたいのならば、成るがよい。そこのレディもじゃ……やり残したことがあるのならば、それを成してくるがよい」

 

 

「……」

 

『……』

 

 

 

「人の運命を決めるのは『帽子』ではない――――そのもの自身の意志の力に他ならぬよ。良くも悪くも。

 

 

 世界を変えるのは……いつだって、何者かの『意志』の力じゃ。

 

 それだけは誰もが平等に持っておる。

 

 生きる者も死んだ者も、人間も、それ以外の何かも――――皆同じじゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒のピンチに」

「かけつける」

「「颯爽としたイケメン」」

 

 ジニーとベスは杖の先にルーモスを灯す。

 

 

 

 

「「キャーーーーー! ロックハート先生カッコイーーーーーー!!」」

 

 

「HAHAHAHAHA! ストゥーピファイ♪」

 

 

 

「「キャーーーーっ! ロックハート先生才色兼備ーーーーっ!!」」

 

 

「HAHAHAHAHAHA! おっと危ないですよーー! プロテゴ♪」

 

 

「「きゃぁああああああああああああああっ!」」

 

 

 

 

 

「そろそろ殺していいアイツ?」

「駄目だロン、イザという時の盾が無くなるだろ耐えろ」

 

 

 

 

 

「シュ――――!!」(うぉおおおおお! 引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!!)

 

 

 バジリスクは意識が朦朧としていた。

 

 実際、もう限界はとっくに超えている。

 だが、

 

 

 

 

「シュ―――!!」(主よ……! あなたの――私は――あなたの―――!)

 

 

 

 

 

 己の限界を越え、たとえこの身が砂塵と成り果てようとも。

 

 

 

 

 

 

 

「シュ――……」(行かせるものか、生きて帰すものか)

 

 

 

 

 

 

 

 成し遂げたい思いがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「シュ――……」(ここは―――この場所は―――!)

 

 

 

 

 

 

 

 たったひとつの、意志があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュ――――!!」(サラザール・スリザリンのものだ!! 永久に!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう、何やら強烈な意志を感じますね!! それがこのバジリスクをここまでやらせているのでしょう! 全く……あぁ、本当……怖いな」

 

「「ロックハート先生頑張ってーーーーーーっ!!」」

 

「お任せなさいお嬢さんたち…………決めたんですよ、私はね――僕は!」

 

 ロックハートの目に輝きが灯った。

 それは、以前よりいくつか若やいで――いや、幼い日の少年のようだった。

 

 

「決めたんだ! 一度だけでも! 立ち向かってみせると!!」

 

 

「「ロックハート先生教師の鏡ーーーーーーーっ!!!!」」

 

 

「HAHAHAHAHAHA! えぇ、やはり悪くないモノですね! 英雄というものは!!」

 

 

 

 

「うるさいロックハート! さっきから失神呪文を何度も掛けてるのに……なんでアイツ全然倒れないんだ!!」

「……」

「なぁハリー! 君はパーセルマウスだからアイツの言っていることが分かるだろ!? なんでか分からないかい!?」

 

 苦し紛れのロンの悲痛な声に、ハリーがやりきれない、という表情を浮かべていた。

 眼鏡の奥――深い緑色の瞳が、そっと閉じられる。

 

 

 

「……分かるよ……分かる。でも……負ける訳にはいかないんだ。……許すわけにはいかないんだ」

 

 

「じゃ、じゃあ説得するとかできないかな!?」

 

 

「…………無理だよ、ロン。ぼくが何を言っても――バジリスクには届かない。

 ……多分、『自称継承者』だったリドルの言葉も、本当は届いていなかったんだ。当たり前だ……。

 

 だって、あいつは――」

 

 

 バジリスクの尻尾攻撃が天井を突き破る。

 メチャクチャな攻撃により破壊された天井の破片が降り注ぐ。

 ベスやハリー、ロックハートはすぐに盾の呪文でそれを防いだ。

 バジリスクだけが石片を受けて傷つく。

 

 だが、もはや構わなかった。

 

 

 どれだけ自分の身が削れようとも。

 

 

 

 

 

「……あいつは、ずっとずっと――――守っているんだ。

 

 

 

 千年前の、スリザリンとの約束を」

 

 

 

 

「……千年前のだって……? どんだけ昔の話だよ! おったまげのマー髭だよ!!」

 

「さっきから何度も何度も主と呼んでいる。それはきっとサラザール・スリザリンのことだ。 

 初めから無意味だったんだ――継承者の存在すら、バジリスクにはどうでも良かったんだ。だって……。

 

 

 

 バジリスクにとって……この部屋は…………サラザール・スリザリンの最後の領地なんだ!!」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「それを守り通す意志――それがバジリスクを千年も縛っている!!

 

 あんな姿になっても!! まだ! 守ろうとしている!!」

 

 

「つまり――あいつが今立っているのは――」

 

「そうだ、ロン」

 

 

 

「「精神力!!」」

 

 

 

 ハリーとロンの言及通り、バジリスクはまさに今精神の力だけで生きていた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 ベスは黙考する。

 バジリスクは本来ならばもう死んでいる――ハズ。

 なのにまだ生きている。それは強靭な意志の力が成せる技。

 ならば。

 

 

 

 その意志を消してしまおう、と。

 

 

 

 

「ロックハート先生!! 『忘却呪文』はできますか!?」

 

「えぇ! ミス・ラドフォード! 忘却呪文は得意中の得意ですよ!!」

 

「……なら、先生! 力を貸してください!!」

 

「はい! かまいませんよ!」

 

「何をする気だレイシスト!?」

 

「うるさい赤毛。ハリー! 組分け帽子を貸して!! 今から――あの蛇の千年分の記憶に潜ってやるわ!

 そんであの蛇をここに縛り付けている『決意』を忘れさせる!

 ……もう突破方法は……それしかない!」

 

「……ベス?」

 

「その帽子は生徒の頭の中覗いて資質とか見抜くんでしょ!!

 だったら絶対『開心術』もしくは精神感応系の魔法を使っているわ!! だから開心できるはず!」

 

「……分かった! ロン、ジニー、力を貸して!」

 

「「合点承知!」」

 

 

 ロンとジニー、ハリーが一斉に光線を放った。

 一か所を抉られたバジリスクの身体がかしぐ。

 頭の位置が――十分、魔法ならば狙えるレベルの場所まで下がってくる。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」

 

 帽子が浮き、バジリスクの頭上へと落下した。

 その瞬間を狙ってベスが呪文を放つ。

 

 

 

 

 

「レジリメンス!!」

 

 

 

 

 開心術が無事発動。

 

 ベスは頭の中に、何かが流れ込んでくるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すんません、切ります。
やっぱ無理だった。


秘密の部屋編!! 今度こそ後残り2話!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スリザリンの継承者


この話書くのクソ面倒くさかった。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな訳で今日はマンドレイクの収穫をやる』

 

 

『サラザールせんせーー! マンドレイクは危ないんじゃないですかーー!』

 

 

『その通りだ、グリフィンドールに10点やろう。確かにその鳴き声は人間を絶命させる力がある。だが案ずるなコレは幼いマンドレイクであるから致死には到らぬ。だが耳当てはしっかりつけろ! いいな!』

 

 

『『『はーーーーい』』』

 

 

 ギャーーーーーー!!

 

 

 

 

『おー、何か楽しそうだなー! ここは騎士道的な俺様が降臨しtーーー』

 

 

『先生! 先生! ゴドリック先生が! 騎士道先生が! 白目をむいてぶっ倒れました!』

 

 

『その馬鹿は放っておけ。どうせすぐ生き返る』

 

 

『ふぇぇ……ゴドリックせんせ……死んじゃったの……?』

 

 

『…………心配ない。死んではおらぬよ、死んでは。気絶しただけだろう、至極残念ながらではあるが』

 

 

『よかったぁ! せんせ生きてるーーえへへへへー!』

 

 

『……』

 

 

『サラせんせー? どぉしたの?』

 

 

『いや……その……。…………幼女の笑顔は可愛いなと思ってそのこれは純粋な気持ちであるから決してやましい感情ではないのだから勘違いしてはならぬのだからな!』

 

 

『……』

『……』

『……』

 

 

 

『ありがとうございます、スリザリン卿。これであなたがロリ●ンであるということが証明されました。この黒歴史は未来永劫……語り継がれていくことでしょう……騎士道的に歌となって』

 

 

 

『ゴドせんせ生き返ったーーー!!』

 

 

『死んでろグリカス……。

 

 えー歌いすぎて脳がパッパラパーなそこの騎士馬鹿は放っておいて授業に戻るぞ叡智と勇気と誇りと優しさを持つ選ばれし魔法族の諸君。

 この薬草は呪いを受けたものを直すことが出来たりする――たとえば石化とか、石化とか石化とか』

 

 

『……あー……あの蛇さんか』

『あの蛇な』

『あの全自動無差別石化光線発射蛇?』

 

 

『……そうだ。非常に残念ながらそうだ……。

 

 

 

 

 

 だが、諸君にも分かって欲しい。

 

 どんな『呪い』にも強力な『呪詛』にも――必ず対抗する力は存在するのだということを。

 

 それさえ知っていれば、『恐れる』必要など何もないのだということを』

 

 

 

 

 主は優しかった。

 

 誰もが、何もが私を恐れた。

 

 何もかもを恐れさせる――この目が嫌いで嫌いでたまらなかった。

 

 

 

 だが自分ではどうすることもできなかった。

 

 忌むべき目を潰しても、この体は時が経てば再生を始める。

 

 だからもう何も見ることを諦めていた。

 

 

 

 だが、主は私を恐れなかった。

 

 それどころか、こう言った。

 

 いつかお前を不条理から救ってやると――お前の居場所を魔法界に作ってやると。

 

 

 

 主はどこまでも理想家だった。

 

 楽天家だった。未来に対して希望以外の何も抱かない――そんな男だった。

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

 その言葉だけで私は救われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリスマスです帰ります』

 

『はい皆さん、マグルには気を付けるのですわよー! 最近迫害が流行っておりますからねーー! 知らないおじさんとロリコンとショタコンにはついて行ってはいけませんよ――!』

 

『『『はーーい! サラ先生には気を付けまーーーーす!』』』

 

『完璧な返答ですわ! 皆さんに10点ずつ差し上げますわ!!』

 

 

 

『オイコラ穴熊女』

 

 

『まぁスリザリン卿、聞いて下さいまし! 私、真理に気付いたのですわ!』

 

 

『……お、おう……』

 

 

『ちくわぶの穴を制する者が――ちくわぶを制するのですわ!!』

 

 

『…………はぁ……』

 

 

『ひらめいた! 今のヘルガのアイディアを使って――――帰ってきた生徒たちを迎える騎士道的な騎士道ソングを作ろう!』

 

 

『伴奏、ロウェナ・レイブンクローでお送りします』

 

 

『お前ら何処かでストッパーぶっ壊れてんのか』

 

 

『サラザールが居るではありませんの』

 

 

『……時に、スリザリン卿。あなたの生徒たちですが……中には親御さんの身罷られた子も、多いことでしょう』

 

 

『……ん、あぁ……。……そうだな』

 

 

『あー思い出すぜーー。焼け跡の村とか回ったよなーー。アレきつかったわー。

 

 家も何もかも、全部全部焼けちゃってさ、そこで一人で子供が蹲ってて……泣いてるんだよな。

 腹減ってるだろうに、もう泣き疲れてクタクタだろうに……でも、泣いてるんだよ。

 もう動かなくなった親の傍で。

 そんなん放っておくなんてこの俺の騎士魂が許さないね! はい歌います聞いてくださいグリフィンドール讃歌!』

 

 

『黙れ。

 ……確かに孤児は少なくはないが、皆、一か所の孤児院併設の修道院に帰している。

 そこの院長が『こちら側』の人間でな。快く引き受けて下さった』

 

 

『……成る程。……そうですか。その神父は……信用できる、方……なのですね』

 

 

『あぁ、彼自身が辛い目に遭ってきた人だからな』

 

 

『…………分かりました。信じてみることに致しましょう』

 

 

『じゃあ歌います! ゴドリック・メドレー!!』

 

『歌わんでいい!!』

 

『さぁゴハンですわよ! 今日は創作料理! うなぎのゼリー煮込みを造りましたわ!! 頂きましょう!』

 

『へ……ヘルガ……その……すごく……個性的だが大丈夫か……!?』

 

『大丈夫、問題ない』

 

『へ……ヘルガ……?』

 

『歌います!! 目の前の現実を拒否して歌います! 歌えば! なんでも! こわくない!!!!』

 

『そうだ今日は娘に天文学を教えると約束していました早くいかなきゃ娘が寝てしまいますごめんなさいヘルガご一緒はできません』

 

『おい逃げるなレイブンクロー!!』

 

『ママ―早ク来テーーヘレナ眠クナッチャウヨー』(裏声)

 

『見え透いた自作自演をするなそれでも貴様英国一英明とされた魔女か!!』

 

『何とでも言え』

 

『ロウェナぁああああ!!』

 

 

 主には三人の友が居た。

 

 知性的な大鷲の美女。残念ながら人妻で一児の母である。主の嫁にはならない。だが娘がワンチャンあるぞ主、と言ったら主はそっぽを向いた。

 ……たかだか10年ほど待てばいいだけの話なのに。

 

 穴熊のような優し気な女性。

 彼女も美しい。が、可憐な外見に合わず中身が相当……であるらしいので主は基本泣かされている。

 だが、私の目を見ても石化で終わった稀有な女性だ。心の優しい女ではあるのだろう。

 

 

 あと歌馬鹿赤毛とか居た。私はあの帽子は五月蠅いのであまり好きじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴドリック……やはり、私たちは――分かり合えぬのだな』

 

『あぁ……だろうな。だが――もう一度だけ考え直してくれないか、サラザール』

 

『……ヘルガも、ロウェナも、コイツに賛成なのだな……?』

 

『無論』

『もちろん』

 

『……ならば……私は……。……この学校を去るしかない』

 

『サラザール……』

 

『……』

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんな……こんな……! 制服を作るなど――――! み、認めぬ! 私は断じて認めぬぞ!!』

 

『……』

『……』

『……』

 

 

『こんな同じ格好をした少年少女が全寮制の学校でウフフとかどう考えても反則だろうが! 更に言うならば女子のスカートの布地が短すぎるだろうがはしたない!! 年頃の娘たちが……むしろそれよっか小さい子がそのプニプニの柔肌を晒すなどと――まるで白樺の如く透き通る眩いふくらはぎを無防備に授業中に晒すなどあってはならぬ! 断じてだ!! 決して!! 私が集中できなくなるとかそうゆう理由ではないから勘違いするな!!』

 

 

 

 

『……ドン引きですわ』

『サラ……なんか……ごめんな……。やっぱり英国人にこのスカート丈は10世紀早かったようです』

『おかぁさまーー! しさくひんをきてみましたーー! かわいいですかーー?』

『……しまった! ヘレナ!! こちらに来てはなりません!!』

『なんでーー?』

 

 

 

 

『…………ふぅ……あ鼻血が……失血死します』

 

『……なんでコイツ本当に教員になったのですの?』

『ある意味天職だと思うぜ、俺は』

 

 

 

 

 

 ……何か主がいじめられていたような気がする。

 

 あの歌野郎ブッ殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の匂いがした。

 

 

 おびただしい数の、血の匂いがした。

 

 初め、私はそれが何か分からなかった。

 

 主たちは私の住む部屋に――生徒たちをいつも教え導く部屋に運んでいた。

 

 いや――初め私は『それ』が生徒たちであるのか否かさえも――分からなかった。

 

 分からないほど、皆ひどく傷ついていた。

 

 

 

 

 私は気づいた。

 

 その子たちは皆、主が預かっていた子たちであった。

 

 皆、孤独の匂いがした。

 

 ある一人の少女が言っていたことをおぼえている

 

 

 ――私の両親は、ある日マグル達に連れていかれ、生きたまま焼かれて死んだのだ、と。

 

 

 私には両親という概念はない。

 

 何のことだか分からない、主に聞いてみたが、曖昧に笑っただけだった。

 

 どうやら『人』は『親』を慕うものであり、愛するものであり……大切に思うらしい。

 

 私にもそれは分かった。『親』は分からないが、慕う事も、愛することも知っていた、だから、それが理不尽に奪われれば憎らしく思うだろう――相手を殺したくなるだろう、と。

 

 

 『親』のいない子たちが、皆、ひどい怪我を負って、苦しんでいた。

 

 おそらくは火の傷だろう――どの子もまっ黒か真っ赤になって、ひどく焦げた臭い――痛みと嘆きと苦痛の匂いがした。

 

 

 主は必死に手当てを施していた。

 

 主の友たちも、必死に呪文を唱え、薬を調合し、何とか助けようとしていた。

 

 

 

 

 だが、結局。

 

 ひとり、またひとりと、小さな蝋燭が消えるように。

 

 ぽつり、ぽつり、と小さな声を発しながら――ゆっくりと眠っていった。

 

 そして、二度と目覚めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

『……最期まで、私を…………呼んでいた』

 

 

 主はもう動かなくなった細い腕をずっと握っていた。

 

 

 

『…………私を……最期まで…………信じていた……』

 

 

 

 主の声はかすれていた。

 何度も叫び、何度も嘆いた先――もう涙も声も枯れ果てていたのだ。

 

 

 

 

『…………私に……何ができたのだ…………私に……』

 

 

 

 

 私には何も言葉がなかった。

 

 

 

 

 

『目の前の生徒一人……救って……やれなかった…………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主は許せなかったのだろう。

 

 この後、主は――非魔法族と縁のあるものを全て遠ざけるようになった。

 

 学び舎は割れた。

 

 

 友が死んだ、家族が殺された、実の親を殺された……そのことで非魔法族出身の者をなじる子供たちが現れた。

 

 自分の親を殺したかもしれない人間の子供と共に机を並べることはできない、と彼らは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 許せなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 許すには――――誰もが、何かを、深く愛しすぎていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 主もそうだった。

 

 

 誰よりも優しかった主は――――もう見ていられなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフィンドールのクソ野郎と、主が殴り合って、結局主が学び舎を去ることになった。

 

 主はここを去り――今度こそ己の『理想』を叶える為に往くのだと言う。

 

 

 

 

 

 

 だが、私はここを離れることはできない。

 

 

 私の存在は恐らく、主にとって足かせとなってしまうだろう。

 

 だから、私は主に着いていくことは――共に進むことはできないのだ。

 

 心が張り裂けそうだった。

 

 もし、私が人間だったならば。

 

 

 もし、私に二本の足があったのならば。

 

 

 ……そんな思いばかりが、廻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 主は私に何度も詫びた。

 

 許しは乞わぬ、と言った。

 

 恨むのならば、自分だけを恨んでほしいと言った。

 

 私は何も答える言の葉を持たなかった。

 

 主は――――自分だけを憎んでくれと言ったのだ。

 

 魔法族に酷い仕打ちをしたマグルのことも、そんな両親の元に運悪く生まれてしまった魔法族の子も、彼らを憎いと叫ぶ魔法使いたちも、友であったにも関わらず主をここから追い出すという仕打ちをしたカス野郎グリフィンドールのことも、それを止めなかった二人の魔女たちのことも。

 憎むな、と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……憎めるハズがない。

 

 

 

 

 そんな主のことを――――私が、憎むことができる訳がない。

 

 

 だから、私はコレだけを主に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 『あの日』から――あなただけが、私の希望だったのだ、と。

 

 

 

 あなただけが、私の居場所をくれたのだ、と。

 

 

 

 ここでしか、私はもう、生きていけない。と。

 

 

 

 

 

 

 

 主はとても悲しそうだった。

 

 当たり前だ、優しい人なのだ。

 

 本当は――人一倍心の優しい人なのだ。

 

 だからこそ、許せなかったのだろう。

 

 魔法族への恐怖から孤児院に火を放ったマグルも――彼らを助けられなかった自分自身も。

 

 

 

 

 

 

「ならば、ひとつだけ、私の願いを聞いてくれるか?」

 

 

 

 私は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………この場所を……ホグワーツを……守ってくれ。

 

 

 あの大馬鹿共と、抱いた理想を――――生徒たちを、守ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千年が経った。

 

 

 千年経ったにも関わらず――嘆きの声は消えなかった。

 

 ある時は『魔女狩り』というもので家族を失った子らの泣き声が木霊した。

 ある時は、戦で何もかも失った生徒たちの血を吐くような憎悪が聞こえた。

 

 千年たったのに、何一つ変わらなかった。

 

 だから、私は手を下そうとした。

 

 

 

 

 

 

 血の匂いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れもしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、主の生徒たちを焼き殺した『マグルの血』の臭いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主の後継者を名乗りやがる小童が何か言ってた。

 

 

『穢れた血』を殺そう、と。

 

奴ら魔法族を滅ぼしに来たのだ――と。

 

 

 

 私も老いた。

 

 

 もう、時間は残されていなかった。

 

 

 私が主との約束通り、この学び舎を守り続けることができる年月はもう少ないと自分でも分かっていた。

 

 

 

 ならば、

 

 

 

 この命尽きる前に――マグル生まれを根絶やしにしなければならない。

 

 

 私は今度こそ――『ホグワーツの生徒たち』を守らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから主よ、

 

 私は今こそ武器として生きよう。

 

 自分の意志で、幾億もの魔法使いの遺志を継ごう。

 

 

 

 すべてはあなたと交わした約束の為に。

 

 

 

 

 たとえ千年の汚名を被ろうとも。

 

 恐怖と憎悪の対象になり果てようとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも誇りたい思いがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『伝わるさ――――きっと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、あなたの友だったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 開心術が、コレほど重たいものだとは思わなかった。

 ベスは言葉が出なかった。

 

 代わりに、目から何か熱いものがこみげてくるのを感じた。

 

 友情、忠誠――そのどれともつかないし……どれでもあるような気がした。

 

 これはきっと、いくつもの悲劇と――そして歴史の重みの中、たったひとつの約束を守り抜こうとした。

 

 ……痛いほど、純粋な。決意だった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ソレだけが、今。

 

 

 バジリスクを……支えている。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 これを消すのは難しい。

 

 だが。

 

 

 ベスは、ロックハートに向かって声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「先生!! 千年です!! 千年分の! 全ての記憶です!!

 

 

 コイツがサラザール・スリザリンと分かれる直前――そこまで記憶をぶっ殺せば――私たちの勝利です!!」

 

 

 

 

「せ、千年……!?」

 

 

 ロックハートがたじろいだ。

 流石の彼も、そんな規格外のことは――やったことがなかったのだ。

 

 

「……ロックハート先生!! お願いします!! この蛇は――バジリスクは!! ずっと! ずっと!!

 その思いに縛られているんです!! でも……先生ならできます。

 

『今』を生きる私たちならできます!! 全部全部! ぶっ飛ばしましょう!!」

 

「……」

 

 

「ロックハート先生!! やるんです!! 僕らが動きを止めている間に!!」

「頼むよ先生! これ乗り越えたらもう何書いても僕ら文句言わないから!」

「先生……!!」

 

「……」

 

 

 

 

 ロックハートは、わずかの迷いの後。

 

 

 

 

 何かを振り切ったような、とびっきりの笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「……HAHAHAHAHAHA!! いいでしょう!!

 

 えぇそうですよ! ミス・ラドフォード!! スリザリンに10点です!!

 

 千年分の記憶――この私の敵には不足はありませんな!!

 

 なぜなら、私は!!」 

 

 

 ロックハートは杖をかまえた。

 目指す先――それは。

 

 

 バジリスク。

 

 

 

 

 

 

「……マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、チャーミングスマイル賞五回連続受賞……それの、どれでもない。

 マーリン勲章も、名誉会員も、スマイル賞も要らない。

 

 私は!! 『ホグワーツ』の闇の魔術に対する防衛術の講師!!」

 

 

 ロックハートは、人生最大の力をその杖の先に注ぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただの、ギルデロイ・ロックハートなのですから!!」

 

 

 

 

 

 

 ロックハートの杖の先から薄い緑色がかった眩いばかりの閃光が発射される。

 その優しい忘却の光は。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおお!! オブリビエイトォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 視力を失ったバジリスクの目にも、確かに届いたのであった。

 

「先生!!」

「ベス! ダメだ! 下がれ!!」

「で、でも……ロックハート先生ぇえええええええええええ!!」

 

 激し過ぎる光はどんどんと広がっていく。

 無理もない、千年もの記憶を抹消する呪文――規格外の力に対抗するのは、やはり規格外の魔力だった。

 

 大きすぎる光がロックハートをも飲み込んでいく――。

 

 

「…………ああ、これで……僕は……」

 

 

「「「ロックハート先生ーーーーー!!」」」

 

 

「………………」

 

 

 光に飲み込まれる直前。

 

 ロックハートは、生徒たちに向かって。

 

 満足そうな笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ふーん……コイツが、私を殺した犯人なのね』

 

 すべてを見届けたマートルはあまり感情のこもらない口調だった。

 

『……もちろん許せないけど……なんだろう、私、コイツのこと……そんな憎いって訳じゃなかったみたい』

『……』

『ほら、行って来れば? 同じレイブンクローのゴースト同士でしょう? 何か言いたいんならスッキリしなさいよ』

『…………』

 

『大丈夫よ、きっと――――恨んでないわ。そんなものだもの』

 

『…………』

 

 

 マートルに促され、灰色のレディはゆっくりと歩を進めた。

 

 やがて、彼女は横たわる蛇――バジリスクの前に辿り着く。

 

 

「しゅー……」(懐かしい……臭いがする)

 

 

『……』

 

 

「……シュ―……」(グリフィンドールの匂いがする……レイブンクローの……?)

 

 

 

『……えぇ、そうですわ』

 

 

 

 

 

 

 

「……しゅー…………」(……そうか……。……なら、主は……。仲直りできたのか……)

 

 

 

 

『……はい、そうですよ……』

 

 

 

 

「しゅー」(なら良かった)

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 灰色のレディ……ヘレナ・レイブンクローはそっとバジリスクの目に手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ずっと……守ってくれて……ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 バジリスクが守ろうとしていたもの。

 

 

 

 それは、サラザール・スリザリンの――千年前に居た、どうしようもなく不器用だった男の、たったひとつの思い。

 

 

 

 世界を動かすのが人の意志。

 

 

 

 遺志を受け継ぐのが継承者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたこそが、スリザリンの継承者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









次回、秘密の部屋編最終話



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

願い

秘密の部屋編最終話

読者の皆様、ここまで大変お疲れ様でした。ウンバボ族は超疲れました。


c+javaさん、ヒゲオッサンさん、KAORI@マークさん、火蜥蜴さん。
秘密の部屋編、誤字報告大変ありがとうございました!


「という訳で秘密の部屋の化け物をぶっ殺してきましたハリーです」

「ロックハートは暴走しすぎて自分の記憶が道連れになり頭パッパラパーのヤバい人になってしまいました」

「どうもこんにちわ、今回の襲撃犯です。でも私のせいじゃないから謝らない」

「お星さまきらきらしてる~~」

「きゃーーロックハート先生かーわーいーいー!」

 

 

「よくやったご苦労じゃ。ロックハート自爆()とか。やっぱワシの采配は間違っておらなんだ。楽しいのぅ。人を一人ぶっ壊すのは実に楽しいのぅ」

 

 

「最悪だなこの爺」

「ドン引きだわ」

「一矢報いる為に爺に襲い掛かります。ロックハート先生を返せクソ爺がぁーーー!!」

「それは残像じゃよ」

「何……!」

「すごい! やっぱり校長先生は偉大な人だ!」

「ハリー、やっぱ君おかしいよ」

「何言ってるのよ! ハリーは最高よ!!」

「おほししゃまきらきら~~」

「ピェッ……!」(もうやだこの爺のペットやめたい……)

 

 

 爺は何かホグワーツ特別功労賞とかいう黒歴史盾をくれたりした。

 するとドアが思いっきりばーんと開き、長い金髪の変なオッサンが現れた。

 

 

「どうもホグワーツ理事のルシウス・マルフォイです」

「フォイカス(父)だー!」

「こんにちわマルフォイさん、息子さんからいつもスニッチかすめ取ってますハリーです」

「あ、本屋でパパと殴り合って私にボロ日記くれた人だわーー」

「今回の騒動の黒幕が直々にご苦労様です。これからアズカバンですか? ご愁傷さまです」

 

 

「…………」

 

「コレに懲りたらもうヴォルデモート卿の遺品ばら撒くのはやめるのじゃなー」

 

「闇の帝王死んでねーよクソ爺。不愉快なので帰ります」

 

「じゃあどうぞ、これ僕の靴下です。マルフォイさんに差し上げます」

 

「……舐めてんのかクソガキ。ドビー!」

 

 ハリーは嫌がるルシウス・マルフォイにくっせー靴下を押し付け、マルフォイは嫌々その異臭を放つ靴下をドビ―へとぶん投げた。

 するとドビ―、と呼ばれたテニスボール大の目ん玉をした屋敷下僕妖精はめっちゃ喜んでた。

 

 

「ご主人さまがドビ―めに服を下さった」(曲解)

「は?」

「ご主人さまがドビ―めに靴下を下さった。ハリー・ポッターがご主人さまにあげた靴下を、ドビーめにくださった!」

 

 靴下の所有権はハリー→ルシウス→ドビ―へと変遷。

 一応靴下あげたことにはなっている。問題ない。

 問題ないったら問題ない。

 

「ドビーは自由だーーーー!!」

 

「こ、小僧! よくも私の召使をーー!!」

 

「いけない! ハリー・ポッターに手を出すな!!」

 

「アバd----!」

 

 

 杖を構えたルシウス・マルフォイだったが、ドビーが指を鳴らすと謎の旋風が発生。

 ルシウス・マルフォイはぶっ飛んだ。

 

 そのまま校門までぶっ飛ばされたルシウス・マルフォイは、ホグワーツ城から強制的に追放されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ハリー・ポッターがドビーを自由にしてくださった!」

「ドビー、せめてこれくらいしかしてあげられないけど」

「誰コイツ」

「あぁ、これ僕の家までやってきて散々嫌がらせした挙句、9と4分の3番線を閉じて暴れ柳を間接的に殺し、ついでにクィディッチでグリフィンドールを敗北へと追いやった今回の戦犯たるマルフォイ家の屋敷下僕妖精のドビーさ」

「よくやったわ、勇者よ。あなたは偉大な屋敷下僕妖精だった」

「ドビーめは可愛らしい人間のお嬢様に誉められました!!」

「人間じゃなくって、そこは純血の魔法族の、にして頂戴。私は屋敷下僕妖精は好きよ。ティニーは私の親みたいなものだったから」

 

 ベスは家に居る屋敷下僕妖精のティニーのことを思い浮かべた。

 多忙だった叔母、コーデリアに代わり、子供の頃は親のような存在だった。

 

「で、コイツどうするんだいハリー? ここで殺すか? 口封じ?」

 

 ロンはゴミでも見るかのような目で屋敷下僕妖精を見た。

 

「うーーーーん……そうだな」

 

 ハリーは少しばかり迷い、何か考えて――口を開く。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ドビー。ひとつだけ、約束してくれる?」

「はい! はい! なんでも致します!!」

 

 ドビーは大きく首を上下運動させた。

 

 

 

「もし、君が――君が、これから先、どこか親切な人の家で――屋敷下僕をやると言うのなら。ひとつだけ約束してほしい。ドビー。

 

 

 誰かの命令じゃない、使命でもない――――ただ、自分自身の意志で、選ぶんだ。

 

 どう生きるか、どんな下僕妖精になりたいのか……どんな主人に仕えたいのか」

 

 

 ハリーの力強い言葉に、先ほどまで嬉しそうにしていたハズのドビーが、小さくなって俯いた。

 ひどく困惑しているようだった。

 

 

「……ハリー・ポッターは偉大な魔法使いです。ドビーめにも優しい、強い、勇気の出る言葉を掛けて下さいます……。

 ですが、ドビーめは人間ではありません。屋敷下僕妖精です。ドビーは魔法使いではありません、ドビーは……ドビーにそれが……できるでしょうか……」

 

 

「……多分、キツイことになるかもしれない。人によっては君のことを笑うかもしれない。貶すかもしれないし、後ろ指をさして嘲るかもしれない――でも。

 でもね、ドビー」

 

 ハリーの目は優しい緑色を宿していた。

 その緑は――秘密の部屋で、友との約束を守る為だけに戦った『彼』の姿を映していた。

 

 

 

 

 

 

「僕は絶対、君のことを笑ったりしないから」

 

 

 

 

 

 

「……なら、ドビーめは頑張れます。ハリー・ポッターがドビーを誇りに思ってくれるのならば……ドビーは何百人に笑われようとも気になさいません!!

 さようなら! ハリー・ポッター!!」

 

 ドビーはバチン、と音をたてて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャンデリアがきらめく大広間。

 

 

「マンドラゴラを生きたまま釜茹でにした結果ーー、石化していた生徒たちが戻ったーーーー。命拾いしたのをせいぜい喜びワシに感謝するがよい」

 

 

「偉大なる校長先生ありがとうございました!」

「完璧に幸福です!!」

「いっそこのまま石化していたかったーなんてこれっぽちも思っておりません!」

「こんなクソ学校もうやだ早く帰りたいなんて全然思ってません!!」

 

 

「今叛逆的なこと言った奴ホグワーツの壁に塗り込めんぞ。

 

 ともあれ喜んでおる貴様等生徒のゴミカスを絶望のどん底に突き落とそうかと思います。

 

 学年末テストじゃが――取りやめにしようかと思ったが。例年通り続行することになった!! さぁ死ぬ気で勉強するがよい。そして実際爆死するがよい」

 

 

 

「「「「うわあああああああああああああ!!!!」」」」

 

 

「そ……そんな……」

「……どーしよ……秘密の部屋暴くのに必死で勉強なんかなんもしてねー……」

「やったわ! 目覚めた甲斐があったというものよ! やるわよ!」

 

 ハーマイオニーは元気だった。

 それ以外の生徒は、基本的に皆絶望的な顔をしていた。

 

 

 それは、スリザリンも例外ではない。

 

 

「……フォイ……もう無理フォイ……どーするんだコレ」

 

「ドラコ、俺、諦める」

「現実ヲシャットダウン……」

「ふぇ……私ぜんぜん勉強なんかしてないよぉ……!」

「そんなダフネにこの僕が個人レッスンをしてやろうか?」

「だが今のスリザリンには得点源のノットがおらぬ」

「アイツ……スリザリン2年の平均点上げてたからなぁ……」

 

 数人がベス・ラドフォードをちらっと見た。

 この女、授業態度は最悪だが腐っても優等生だ。何だかんだで1年時も成績優秀者上位10名に名を連ねていた。

 

 

「…………やるわよ」

 

「え」

「お?」

「ふぇ……」

「ら、ラドフォード……? えっ……やるって……何を……?」

 

 

「黙ってろフォイカス。皆……やるわよ!! 絶対! いい点とるのよ!! そうすれば成績優秀者点でスリザリンが優勝カップよ!! いい!!

 今年の優勝旗は絶対蛇を飾ってやらなきゃダメなの!! 分かったわね!!」

 

 

「で、でもぉ……ベスちゃん今から勉強間に合わないよぉ……!」

 

「間に合う間に合わないじゃないの!! やるの!!

 今回は凄いカンペも用意したわ!! 何でも分からないことを何でも答えてくれる凄い日記帳通称リドル先生よ!! 蛇の言葉も分かる凄い奴よ!! 皆! このリドカス先生を使って!!

 

 何が何でもいい点とるわよ!!!! 優勝杯をゲットするわよ!!」

 

 

 並々ならぬ熱意に、スリザリンのテーブルは気圧された。

 あれ? コイツこんな奴だったっけ。と皆が首を傾げた。

 だが、そんなベスの肩を叩く人間が居た。

 

 

 

「良く言ったわ……ベス」

 

 知的な美人――監督生のジェマ・ファーレイだった。

 

 

 

「そうと決まれば全員死ぬ気で勉強なさい!! 時間がないのは皆同じ! だから今ならレイブンクローをもしのげるわよ!

 取るわよ!! 8年目の優勝杯をね!!」

 

 

 

 

 

 

『……え、ちょ……マジですか……』

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 リドル日記はスリザリンの超便利な家庭教師扱いされまくり、生徒たちの手によって八つ裂きにされたりとかしたけれど、お蔭でスリザリン生が死ぬほどいい点を取れたので優勝杯は蛇寮になった。

 何の問題もない、優しい世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「汽車がでーーるーーよーー」

「乗ります」

「帰ります」

「光を超える速度で帰ります」

「ドーバー海峡を越えて来年はフランスに亡命します。二度と来るかこんなクソ学校」

「東欧諸国に行ってダムストに入ります命が惜しいので」

 

 

 生徒たちが我先にとホグワーツ特急に押し寄せる中。

 

 ベスはがらんとした大広間を眺めていた。

 眼鏡と赤毛も横に居る。

 

 三人は黙ったまま、天井を見上げていた。

 

 

 曇ってばかりいる英国にしては珍しい、初夏の――どこまでも晴れ渡った空を。

 

 

 

「おめでとう、ベス。今年も優勝はスリザリンだったね」

「当たり前だわ。死ぬ気で頑張ったもの……主席は穢れた血に持ってかれたけど」

「……お前その言い方辞めるつもりはないんだな本当見下げ果てたマー髭レイシストだな」

「真実を言っただけじゃないの。不変の事実はいくら言葉で虚飾しようが隠せるものではないわ。ただ逃げてるだけじゃないの血の裏切り」

「だからって堂々とそれ言う君は本当スリカスの鏡だと思うね」

「光栄だわ」

 

 ベスは上を見上げる。

 

 

「……光栄だわ、本当に」

 

 

 

「……サラザール・スリザリン、か……」

 

 

 ハリーはどこか思うところがあるのか――何かを噛みしめるような声色だった。

 

 

 

 

「……どんな人だったんだろう」

 

 

 

 

「さぁね、千年も前の人間だし――ひょっとしたらハリーのひいひいひいひい爺さんだったのかもしれないよ。確かに偉大な魔法使いだったかもしれないけど、今のスリカスを見てるとトンデモナイレイシストだったのかもな」

「はい出ましたーーーー都合の悪い人のことをすぐレイシスト認定ーーーー。グリカス特有の自分と違う意見なだけですぐに人のこと不当に貶めるという島国人間特有の薄汚い思考ですねーーーきゃ~~~~怖ーーーーい」

「すぐ『血の裏切り』とか言っちゃうエリザベスさんに言われたくないですねェ~~~~? どこのどこ口がその台詞言ってんのか一回死んで転生して客観的に自分のこと見れるようになってからそうゆう事言いましょーーって幼稚園で習わなかったのかな~~~~? ベスちゃんは習わなかったのかな~~?」

「あら、私、幼稚園通ったことないの。ごめん遊ばせ、私ずっと家庭教師でしたの。どっかのド貧乏家庭と違ってリッチでセレブでごめんなさいねーーーー? その上見た目もどっかの腐れ赤毛と違って端正でついでに成績もよくって悪いわねーーーー。一生知らずに済んだかもしれない人間の格の違いってヤツを見せつけちゃって本当ごめんねーーーー?」

「あーーやっぱそうだったのかーー! 君って本当友達居ないと思ってたらコミュ障の純粋培養だったんだねおったまげーー! きっと先天性コミュニケーション障害症候群な君は周囲に害悪を及ぼすと判断されて隔離されてたんだね! 当たり過ぎてて自分の勘が怖いや僕!」

 

 

 傍らで繰り広げられるロンとベスの小学生並の口喧嘩をハリーはスルーしてそっと笑顔を浮かべた。

 

 

 

「……でも、きっと……悪い人じゃなかったと思うよ」

 

 

 

 サラザール・スリザリン。

 悪の道に走った魔法使いを最も多く輩出した寮の創設者。

 魔法薬を体系化した偉大な魔法使い。

 純血主義の提言者にして……その後も多くの魔法使いたちに影響を及ぼした人物。

 

 ある者は彼を褒め称え、またある者は蔑む。

 どこまでも混沌としている彼のことを――――一言で言い表せるわけがない。

 

 

 でも。

 

 

 だからこそ、ハリーは信じたかったのだ。

 

 きっと、サラザール・スリザリンは聖者でも、悪魔でもない――ただの、人間だったのだと。

 度を越した残酷さもなければ、誰に対しても平等に降り注ぐ慈愛も持たない。

 全てを焼き滅ぼす力もなければ、悲しみ打ちひしがれ一歩も動くことも出来なくなる。

 

 そして、

 

 信じた友と、信じた未来を描き、理想だけを追い続けた――ただの、人間だったのだと。

 

 

 

 

 

 

「あ! ここに居たのかラドフォード!! 何しているんだ! 早くしないと汽車が出てしまうフォイ!!」

「あらフォイカス。わざわざご苦労様じゃない」

「うっわ出たよ。ようスリザリンのシーカー()さん、来年もハリーに見せ場を作るだけのかませポジション、宜しくお願いします」

「殺すぞ貧乏赤毛」

「黙れマルフォイ。何か色々台無しだ」

 

 いきなり現れたマルフォイ(息子)が天井を見上げ、まだ吊るされてる元旧友を悲し気に見た後――ベスを呼んでさっさと帰ろうと告げた。

 

 

 

 少女は去り際に、一度だけ振り返る。

 

 

 

 

 

 

「…………きっと、会えたよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし、死後の世界があると言うのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………会えたわよ、そうよね」

 

 

 

 

 

 

 そこでは、誰もが、愛しい人と再会することができる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お辞儀はしなかった。

 

 

 

 

 

 かわりに、目に焼き付けていくことにした。

 意図的にか、それともめんどくさかっただけなのか――大広間の飾りつけは、学期末パーティーの時の、そのままにされていた。その真実はあの暴君校長のみが知ることだ。

 

 死後の世界があるのかないのかは、死んでみなければ分からない。

 だから――願うことにした。

 

 どうか、再び彼らが再会できますように、と。

 

 ベスは、目をいっぱいに見開いてその光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空の下、堂々とはためく――――緑色の旗を。

 

 

 

 

 

 

 

 蛇の紋章を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







「なぁ、サラザール」






 伝わるさ、きっと。






「なんだ? 歌バカ」





 千年超えた先の――――誰かに。





「オレが言った夢覚えてるか?」


「……あぁ、あのどうしようもない、アホの夢か」







 私たちの思いは。







「アホ言うな!」


「忘れるわけがないだろうが」






 私たちの、描いた理想は。







「いつか、魔法使いもマグルも関係ねー世界が来るといいな!」







 願わくば、どうか、その未来が明るいことを。






「どこまで楽天家なんだ貴様は、そんなもの来るわけがないだろうが」


「いいじゃねえか!」






 誰も、もう、偏見や、迫害、差別で……悲しまない世界であることを。






「そしたらきっと、面白いコトが沢山あるぜ! 皆平等でさ、マグルも魔法使いも。

 きっと皆で笑って生きる世界が来る!」


「……呆れてモノが言えぬ」

 






 その世界では。






「まぁ、俺たちは見れないだろうな。そんな世界。千年先ぐらいになりそーだしな。だけどさ、きっと」


「……ん?」



「コイツは見届けてくれるんじゃねーの?」



「…………あぁ、そうかも、な」











 もう、誰もお前を恐れることはないさ。








「……まるで夢だな。……だが、悪くない、か」


「いいんだよ! 夢でも何でも! きっとコイツはお前を覚えててくれるさ!
 ついでにオレのことも覚えててくれよー? そんでヘルガも、ロウェナも!
 あとへレナのことも! ……って、お前大変だな!」


「愚かな夢だな、本当に」

「バカでいいんだよ。『夢』なんだから」










 今はただ、そんな未来を――――――願おう。



















「願わなきゃ何も始まらない……そうだろ?」













目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アズカバンの囚人共編
昔の話と新聞紙




一応上げるだけ上げとくアズカバン編導入話






 

 祖母だと言う人にベスが出会ったのは、4歳の頃だった。

 

 

 一番いい服を着せられ、革靴をはかせれ、ついでに頭に大きな三角帽子を被せられていた。

 

 もう少しベスが大人だったのなら叔母の沈んだ顔に気付いただろう。

 だがあまりにも幼かったベスは何もわからず、ただ言われるがままに叔母の後をついていくだけだった。

 

 

 

 祖母だと紹介された老女は、ひどく痩せた老婆だった。

 何となく枯れ木っぽいババア。コーデリアは、にこりともせずに老婆に向かって冷たい声色で告げる。普段誰に対しても愛想がいいコーデリアらしからぬ態度に、流石のベスも違和感を感じていた。 

 ベスがぺこり、と子供らしくお辞儀をする。

 

 この子がベスです、あなたの孫です。

 

 彼女はそれだけ告げ、とコーデリアはベスに向かってお婆様とお話していらっしゃい、と言うだけだった。

 当然、ベスは嫌だった。見ず知らずのババアと会話などしたくはない。

 だがコーデリアは聞く耳を持たない。すたすたと部屋から出ていってしまった。

 

 祖母であるらしい老女はただベスの顔をじっと見つめているだけだった。

 観察すれば白薔薇のように高貴で気品のある顔立ちであることに気付く。だが、その唇から漏れたのはひどく疲れたような――それでいて、何もかも枯れ果て、乾いたような。

 温もりのない言葉だった。

 

 

 

 

「お前はあの子ではありません――――あの子とは少しも似ていません」

 

 

 

 

 

 気の遠くなるほど長い時間の中で、言葉を交わしたそれだけだった。

 頭をまるで殴られたかのようなショックがベスを襲った。

 

 確かにベスは母親とは似ていない。

 あの透けるような美しい金髪も、澄み切った泉のような青い瞳も、優し気な顔立ちすらもベスに受け継がれることはなかった。

 きっと祖母だという女性は金髪を望んだのだろう、と幼いベスは思った。母親や叔母のような、光り輝く金色の髪を。もしくは、青い目を。

 

 だが、祖母だというのならば。

 もっと認めてくれてもよかったのではないだろうか。

 確かに、漆黒の髪はよく居る色だし、平均よりも青く見える目は灰色がうっすら混じってしまっている。

 

 だが、こんなつまらない黒髪も、出来損ないの青灰の目も。

 血がつながった孫だ、少しくらい、少しくらい。

 誉めてくれてもよかったのではないだろうか。

 

 その日、ベスは下を向きながら言葉少なく傍らのコーデリアへとこぼした。

 

 

 あの人嫌、あのお婆さん嫌い。

 

 

 ベスにとって初めて会った祖母は、魔法族の子供向けの絵本に出てくる悪いマグルの老婆そのものだった。

 マグルは魔法族を『はくがい』する酷い人達なのだ。だからきっと、魔女である孫のことを『はくがい』するのだ。

 ベスはコーデリアに言った。もう二度と会いたくないと。

 

「……そう言わないで、付き合ってあげなさい」

 

 自分はさっさとトンズラかましたクセに、あんまりにも身勝手な叔母だった。

 

「……アレはアレで、哀れな女なのよ」

 

 

 ベスは何が哀れなのか少しも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その1年後、また老婆と出会う機会があった。

 ベスは嫌だったが、帰りに一口食べるごとに味が変わる、40味アイスクリームを買ってくれるというコーデリアの言葉にホイホイつられて嫌々行くことになった。(尚どうせ味が変わった所で英国製なのだからお察し)

 少し背の伸びたベスは、新しくあつらえた服を着こみ、革靴を伸ばし、行くことになった。

 髪はまたガタガタ言われると嫌だったので一つに結っていくことにした。コーデリアが魔法を使って髪を三つ編みにし、くるくるとうなじの場所でまとめ、髪飾りをつけてくれた。

 

 祖母は1年前よりも、よりやつれていた。

 立つことも敵わず、椅子に座ったままだった。それでも背筋をしゃんと伸ばすだけの意地はあったのだろう、相変わらず誇り高そうな婆だった。

 だから、ベスはお辞儀をすることにした。

 『我がお辞儀』に書いてあったことだ――人に対しては礼儀正しく、堂々と優雅にお辞儀をするのだ。そうしなければならないのだ。老婆はツン、と澄ました口調だった。

 

 

 

 

「お前はあの子ではありません。少しも、あの子とは似ていません」

 

 

 

 

「あっそ」

 

 

 ベスはもう、『祖母』には何も期待しなかった。

 

 

「エリザベスと言いましたね」

 

「はい」

 

 この婆が自分の名前を憶えていたことに、ベスは少しだけ驚いた。

 祖母は壁を見つめながら厳しい声で言った。

 

 

「ひどい名前です。エリザベスだなんて、平凡で、魔法使いらしくない名です。純血の娘だというのに」

 

 

 ベスは案の定嫌な気持ち満々で家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 その次に祖母に会うように言われたのは、また1年後だった。

 コーデリアに会いに行く言われたベスは今度こそ嫌だ、と言った。

 

「やだ、会いたくない。あの婆ベスにひどいことばっかり言うんだもん。会いたくない」

 

 コーデリアは会いに行くわよ、とだけ繰り返した。

 

「あの人嫌い。やだ、会いたくない。ベスはあんな人とお話したくない」

「……ベス」

「ベスが会いたいのはママなの、ママがいいの。あのお婆さんじゃないの。あのお婆さんはママのママなのに優しいママにはちっとも似てない。ベスに酷いことばっかり言う。

 ベスもうやだ。あんな人やだ」

「…………ベス、あなた何を言って……?」

 

 コーデリアは何かに初めて気づいたような表情だった。

 嫌だ嫌だとだだをこねるベスを宥めながら、コーデリアは一言だけ優し気に――でも悲し気に囁く。

 

 

「これで最後だから。今日で最後よ、もう連れていったりしないわ……だから、もう一度だけ会ってあげて。それならできるでしょう?」

「……」

「アイスと便座カタログ買ってあげるから」

 

 

 ベスはやっぱりアイスに釣られた。あと便座カタログ。

 一番いい服を着て、今度は髪を下ろしていくことにした。どうせあの婆は何もかもが気に入らないのだ。最初は容貌、次は名前。ベスはもう何を言われても気にしないと決めていた。

 

 

 祖母はベッドに横たわっていた。

 ひどく痩せていて、本当に朽ち果てる冬の倒木のようだった。

 この人はもう駄目だ、とベスは直感的に悟る。

 今までとは異なる雰囲気の老女は、どこか纏っていた威厳が薄くなったような気がした。

 老女がゆっくりと目を開けると、ベスは我に返り、礼儀正しく堂々と優雅にお辞儀する。

 その様を見た老女の口からはいつもと同じ言葉が出てきた。

 だが、婆は微笑んでいた。

 

 

 

「まったく……お前はあの子と本当に似ていませんね

 

 

 

 私の息子とは」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 今更ながらにベスは気づいた。

 この祖母は今までずっと母親の母親だと思っていたのだ。

 だから母親と似ていない自分をなじったのだ――そして、自分の娘の人生を台無しにした子供の存在を疎んでいたのだ……と、思い込んで来たのだ。

 だが、違った。

 此処に居るのは――顔も見たことのない、ベスの父親の母だった。

 物心ついてから居ないのが当たり前であり、写真や絵すらひとつもなく……聞かされるのはコーデリアからの本当かパチか盛ってんのかよくわからないアテにならねーカス情報だけだった。

 

 ベスは、改めて『祖母』の顔をまじまじと見つめた。

 

 

 そのやや吊りあがった目の形や、以前は黒かっただろう髪は――母親や叔母、というよりはベスに似ているように思えた。

 

 

 

 

「素晴らしいお辞儀です、エリザベス」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

「あの子は……私の息子は、ついぞ人に頭を下げることがありませんでした。そうすれば変わったかもしれない人生があったかもしれないのに……。お辞儀なんか、絶対にしない子でした。

 

 だからあなたはお辞儀なさい――――そうできるあなたの方が、ずっとずっと正しいのでしょう」

 

 

 

 

「………………うん」

 

 

 

 

 もう一度だけ顔をよく見せて下さい、と祖母は言った。

 しわくちゃの、今にもぽっきりと折れてしまいそうな手がベスの頬を包んだ。

 祖母は湿った声で、薄らと涙すら浮かべてこう言った。

 

 

 

「……やはりあの子とはあまり似ていませんね。女の子だからでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………嗚呼、私にそっくりです」

 

 

 

 

 

 大嫌いなハズの『祖母』だった。

 会えば酷いことばかり言う婆だった。

 ……なのに。

 

 

 その時ばかりは、ベスは嫌な気持ちがしなかった。

 

 

 

 

 『祖母』だという女性の訃報が届いたのは、その2か月後だった。

 ベスは今でもはっきりと覚えている。

 

 初めて、お辞儀を誉めてくれた人のことを。

 

 そして。

 

 

 

 自分のよく似た――――愛情を伝えるのが、どうしようもなく下手だった、祖母の顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う感じのことがあったような気がするけど、ベスは13歳になっていた。

 恐らく思春期に突入したらしいベスの顔は大人びたものに徐々に変わってきており、残念なのは真っ直ぐだった黒髪が僅かにウェーブがかかっているようになっていたことだった。どうやら神は母親から金髪はくれなかったが、毛量の遺伝だけはくれたらしい。と呪っていると。

 叔母に

 

「あら、髪質がお父さんにそっくりになってきたわね~~やっぱり血の力ね~~血の力は凄いわね~~」

 

 

 と、言われてむしろ上機嫌になったりした。

 

 

 学校再開まであと数日。

 夏休みの前半を遊び倒し、大量に出された課題を無計画に猛烈な勢いで終わらせるとベスは新聞を広げた。

 

 ニュースは様々だ、定期的に文字が浮かび上がっては別の記事に代わってしまうから早く読まないといけない。

 国際欄ではブラジルでストリートチルドレンがぶっ殺されていたりとか、アメリカで世界貿易センター爆破事件の追悼式をやったとか、ソ連崩壊のあおりを喰らった東欧諸国がガチでヤバいけどぶっちゃけイギリスは関係ないよねーとか書いてあった。

 続いて国内欄に目を通す。

 あんまりおもしろそうな記事はなかった。

 可燃ごみにするか、とベスが新聞を折りたたんだ時――周りの記事を蹴散らして叫ぶ男の写真が浮かび上がってきた。最後まで抵抗していたファイアボルトの広告が消え去る。

 

 

 

 

 

『アズカバン脱獄! 

 

 あの狂人だらけのアズカバン要塞監獄で多分一番ヤバいシリウス・ブラックが脱獄!

 この間からグリンゴッツ破りだとかアズカバン脱獄とか一体魔法界のセキュリティーはどうなってるんだろうね! ザルだね!!

 相当イカレてるキ×ガイを世に放ったっぽい魔法大臣は必死に「とにかく落ち着いて行動してください」とか言い訳してたね!! もう辞任が秒読みだね!!

 目が合った瞬間にアバダを打ってきたらきっとその人はブラックさんでしょう。

 

 

 

 

 あと、コンビニ強盗も脱獄されたよ、本当何やってたんだろうねアズカバン看守は!』

 

 

 

 

 

 ベスは一読。

 

 理解できなくてもう一読。

 

 さらにコレが夢でないことを確かめる為もう一読した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、叔母さん!! 叔母さん!! 大変よ!!」

 

「何よベス? どうしたの?」

 

 

「ママ!! ママが!! ママ!!!!」

 

「姉さんはアズカバンでしょ、どうしちゃったのよべス? マミーシック?? あらやだ私困ったわ……」

 

 

 

 

 

 

「ママが!! 脱獄したーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

「あら、流石姉さん。良かったじゃないベス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツ三年目の、足音は。

 

 

 すぐそこまで近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







とりあえず出しました。

が、

コレを読んでいる水晶玉をお持ちの方々はもう見通している通り。


ウンバボ族は、アズカバンを探しに行きます。



その間停滞がちになっているもう一個の小説をそろそろ進めようと思ってます(宣伝)











次の更新は、人種や国籍、宗教の異なる人々が戦いを辞める頃あたりになると思います。

そうゆう訳なのでマッタリお待ちくださいーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホグワーツ・エクスプレス

 

 ベスは死ぬほどご機嫌だった。

 

 

 日刊預言な新聞は何か魔法省随一の金欠エース赤毛一家が宝くじ当選でエジプトに行った、というニュースが新聞に載っていたが。

 

 

 マグルの新聞の国際欄にはアメリカ大統領のクリントンが糞頑張って中東戦争がやっと平和的に解決しそうだ、とかイスラエルと仲良くするエジプト大統領がイスラム原理主義者に裏切者認定されたのでエジプト国内で外国人観光客を狙ったテロが勃発しまくっているとか。

 そのせいで観光客がビビって来ないのでエジプトの経済に大打撃だとかその辺の不景気かつ血みどろな話は一切スルーで。

 

 中東戦争もイスラエル問題も全ての諸悪の根源は誰のせいなのかそこんとこ一切言わない辺り、英国紳士たちの三枚舌は今日も健在であるらしい。

 そう、非は認めなければ存在しないのだ。

 

 

 

 とりあえず今年もホグワーツ特急のトイレを不法占拠しようとしたベスだったが、別に会いたくもない金髪ヒョロガリ野郎を発見した。

 

 

「あらフォイカス。ごきげんよう。私は今超気分いいから出会って即アバダはしないでおいてあげるわ」

 

「……」

 

 マルフォイはポカーンと口を大きく開けていた。

 

 

「髪切ったのね。前のオールバックはどこいったのよ。私、アレ結構気に入っていたのだけど?」

 

「……や、やぁ……ラ、ラドフォード。……君も――随分雰囲気が変わったな……」

 

「お年頃ってやつね。でもこの髪、パパ譲りっぽいのよ? さぁ存分に讃えなさい」

 

「う……うん、凄く似合ってると思うフォイ……」

 

「え……? そ、そう……? 可愛い、かしら……?」

 

「そ、そうだ! むしろ前より君らしくて優雅で伝統的で凄く純血っぽくて素敵だよ!!」

 

「…………ありがとう……」

 

「フォオオオオオオイ!!」

 

 マルフォイが吠えた。

 

 と、同時に急にガラっと開くコンパートメント扉。

 そこから、いつもの眼鏡赤毛栗毛の三人組が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るっせーな殺すぞフォイカス」

「ストゥーピファイ!!」

「プロテゴ!!」

「シレンシオ!!」

「エクスペリアームズ!!」

「ナメクジくらえ!!」

「ううぉおおお! ロコモーターそこのトランク!! システム・アペーリオ!!」

「トランクでナメクジを受け止めたですって……!?」

「燃やせ! ハーマイオニー!!」

「ラカーナム――!」

「シレンシオぉおおおおお!!」

「やぁ、ベス! 1年ぶりだね! 雰囲気変わった? 凄く綺麗だよ」

「あらハリー! 久しぶりね! あなたも背が伸びたわね!」

「何だかご機嫌だね、ベス」

「ふふ、やっぱり分かる? あのね! ハリー! 実はね私のママがアズカバン脱獄したのよ!」

「あの新聞に書いてあったコンビニ強盗ってやっぱりベスのママだったんだ! 凄いね!」

「あともう一人シリウス・ブラックとかいう凄い死喰い人が脱獄したらしいけどそんなことスルーでいいわよね!」

「良かったね! 何かそのせいで今年ロンのパパに釘を刺されたり、ホグワーツにアズカバンの看守が派遣されるらしいけど別に大した問題じゃないよね!」

 

『緊急アナウンスです。急停止します』

 

 

 突如として入ったアナウンスの後、汽車が急停止。

 何の前触れもなく、汽車内部に灯っていた灯りが全て消えうせた。

 汽車内の気温が軽く10度は一気に下がる。

 窓ガラスが軋むような音がした。

 見れば、窓一面に霜が降りている――まるで真冬が突如として訪れたかのように、ピキピキと凍っていくようだった。

 常識では有り得ない光景に、ハリーとハーマイオニーは驚愕する。

 魔法族生まれの魔法族育ちのロンですら、恐怖を隠し切れないようだった。

 

 暗がりの中、数人の生徒がルーモスを唱えていることが分かる。

 

 だが。

 

 

 

 灯したハズの灯りは、かすかな悲鳴と共に、ひとつ、ひとつ、と消えていくのが廊下にいるベスには確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだフォイ? 何が起こって――」

「何だろう……凄く嫌な感じがする……」

「ねえそこのオッサン起こそうよ!」

「なんか来たっぽい」

 

 

 

 

 摩擦力や空気抵抗など存在しないかのように――地面の上を滑り『それ』は現れる。

 

 

 

 恐怖からの使者。

 絶望の体現者。

 マントを着た長い影がそこに浮遊するかのように立ちふさがっていた。

 水の中で腐り果てた亡者のような腕、灰白色に濁り、腐臭を放ち、悪夢の先へと手招く指先が幼い魔法使いたちへと向けられる。

 それは安穏と過ごしてきたハズの彼らの原始的な嫌悪を誘い、得体のしれない甘美な狂乱へと誘い、暗く安らかなる絶望の冥府へ沈み込ませるような恐怖を教え諭すようであった。

 

 

 ハリーは目の前が真っ暗になるのを感じた。

 何も見えない――どこか安心するような暗闇が眼窩を満たす。

 耳から冷水が流れ込み、下へ下へと――沈んでいく。

 

 

 

「コォオーー……」(こんにちわ吸魂鬼です。巡回と挨拶に来ました)

「あ、どうも、お疲れ様です」

 

 

 

 

「うわああああああああ!!」

「は、ハリー!! しっかりしてハリー!!」

「ハリー! どうしたんだハリー!! うっ、なんだこの寒気は……!」

「フォ……?」

 

 

 

「コォオー……」(いえいえw今年ホグワーツに派遣されましたので生徒の皆さん宜しくお願いします)

「こちらこそ、お辞儀しますぺこり」

「コォー」(素晴らしいお辞儀ですね。お辞儀します)

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ハリー!! どうしましょう! 冷たくなってるわ!!」

「起きろハリー! しっかりするんだ!!」

「……」

 

 

 

 

 

「コォオー……」(魔法界の未来を担う皆さんの安全の為にも頑張ってシリウス・ブラックを捕まえますね!)

「応援してます! 頑張ってください!」

「コォー……」(ありがとうございますwではいい旅を~)

 

 

 

 

 

 

「」

「「ハリィイイイイイイ!!」」

「……もう何も突っ込まないフォイ」

 

 

 痙攣しながらハリーがぶっ倒れたところで、そこでズタボロ布に塗れて爆睡していたオッサンが目を覚ます。

 

「おはようございます。ルーピンです。あれ? 俺のトランクどこいった?」

 

 

「……」(あ、察した)

「フォイ……」(ヤベエ)

 

 ベスは何故か知っていた消失呪文を唱えた。

 ルーピンのトランクは永遠にこの世から消え失せた。

 

 

「まいっか。どうもルーピンです。今年の闇の魔術に対する防衛術の教師になりました。ぶっちゃけ二度とホグワーツに戻りたくなかったんだけどハロワ行っても仕事ないので仕方なく来ました。昨日まで住所不定無職ですが何か」

 

「(今年の教師は元ニートじゃないの……)宜しくお願いしますお辞儀しますぺこり」

「(まだ去年の詐欺師の方がマトモだったっフォイ……)宜しくお願いします」

 

「本音と建て前の使い方が上手だねキミたち、さてはスリザリンかい?」

 

「大当たりです素晴らしいです。ところで何か獣臭いですね先生。人外ですか?」

 

「夜は狼ですねってよく言われます」

 

 

 

 

「やべえ、こいつ相当危ないフォイ!」

 

 驚愕のマルフォイ。

 そんなフォイカスを放置し、ルーピンは意味ありげにズボンをごそごそと探った。

 

 

「ところでお嬢さん……コイツをどう思う?」

「……すごく……おおきい……です……」

「さぁ……口を開けて……」

「え……でもいい匂い……」

 

 

 

「何やってんだフォイ!! 出るとこ出るぞ!!」

 

 

 具体的に言うとウィゼンガモットとか。

 

 

 

「言い忘れていたね。ディメンターにはよく効くんだよ。黒光りするチョコが」

「フォイ!?」

「よっしゃ、コイツをくたばってるハリーの口に突っ込むぞ。穢れた&裏切りのブラッディーズ抑えてなさい」

「強制開口」

「首固定よし、いつでもいけます」

「「バッチコーイ」」

「……ふぉいお前ら……」

「いやはや愉快だねぇ……先生思わず回春しそうだよ……ふぅ」

「お前もう黙ってろフォイ」

 

 

 

 

 

「暴れんな……暴れんなよ……!」

 

「ん、ぐぅぁああああああああああああっ!!」

 

「ハリーしっかり飲む込んだ!!」

 

「ハリー! あなたの為なのよ!!」

 

 

 

 

 

「駄目だこいつら早くなんとかしないフォイ……あああ! そこのウィーズリーの双子!! ちょっとこっちに!! はやく!! こっちにーーー!!」

 

 

「何だよマルフォイ」

「やぁフォイカ……フ、フレッド!! ヤベエぞ!! 僕たちのシーカーが死にかかってる!!」

「これ歴史に残そう。ちょっとコリン呼んでくる」

「じゃあお前呼んで来い。ハリー!! 今助けるぞーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 今年のハリーの受難はまだはじまったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

占い師と人獣

 3年時の授業が始まった。

 

 

「さぁ――――心の目で……見るのです!!」

 

 

 

 痩せてスパンコールの服を着たいかにも胡散臭い女が叫んでいた。

 大きな眼鏡をかけている。

 その様子を見て、ハリーは何となく昆虫を思い出した。多分他意はない。

 

「あたくしがトレローニー教授です。みなさんがお選びになったのはこの『占い学』――魔法の学問の中でももっとも難しいものですわ。断言しましょう……。

 『眼力』が備わっていない方にはあたくしが教えられることは殆どないでしょう」

 

 具体的に言うと未来を見通し、世界の進む方角を予見したりする非常に厄介でメンドクサイマジで辞めて欲しいことこの上ないクソチート余計な能力のことである。

 

 

「限られたものにのみ与えられる『天分』とも言えましょう――。もし、そこのあなた」

 

 トレローニーがネビルを指さす。

 

「は、はい!?」

「お婆様はお元気?」

「た、多分!」

「……お可哀想に……」

「えぇ!?」

 

 

 

 

「凄い、何で分かったんだ……?」

「ネビルにお婆さんがいるなんて一言も言ってないのに!」

「個人情報流出?」

 

 

 

 

 13歳のガキどもは基本的に超単純だった。

 バーナム効果も知らねーガキをだますのは非常にチョロい。

 

 

「ところで、そこのあなた……」

 

 次なるターゲットはラベンダー・ブラウン。

 

「赤毛の男子にはお気を付け遊ばせ」

「あ、赤毛!?」

 

 ラベンダーは何故かロンの方を直視し、後ずさる。

 

「そのお隣の……エキゾチックな顔立ちの貴女もですわよ。お気を付け遊ばせ……。

 具体的に言いますと来年のクリスマスに――本命に捨てられた当てつけ仕方なくで妥協された挙句あんまり相手にして貰えないダンスパーティーを過ごすことになるか、と」

「マジかスゲーー来るなら来い!」

「誰も僕とは言ってないだろ!」

 

 ロンの叫びをトレローニーはガン無視し、ポットからお茶を注ぎ始めた。

 茶葉に拘ったアールグレイ。

 イギリス人はイギリス人らしく淹れたての紅茶をお互いカップに入れて飲み干し、その残った茶葉を見て占う、という占いを確立していたのだ。

 毎日お茶ばっか飲んでその挙句、淹れカスの茶葉をありがたがる風習はどこの島国も同じらしい。

 

 

 

 

「右手ご覧くださいハリーさん。ふやけた茶色いものがいっぱい見えますね、ゴミです」

「見たまんまのことを何のためらいもなく言いましたねロンさん。じゃあこれを内なる目で曲解してください」

「無理だわー。あ、なんか動物っぽい」

「僕のは何か山高帽っぽく見える――ロン、君将来魔法省で働くかも。多分闇払い的な感じで」

「マジかよおったまげーー」

 

 

「皆さんはかどっておりまして? あら、そこのスリザリンの?」

 

「先生……! あぁ先生……! わ、私……私何か凄いものが……!!」

 

「……まぁ」

 

 

 

 

 

「ん?」

「あ、ベスだ!」

「……あの子占い学とってたのね」

 

 

 

 

 ダフネ・グリーングラスと席を並べて紅茶カップを回していたのは、誰も呼んでいない。

 スリザリンの誇る便所娘。エリザベス・ラドフォードだった。

 

 

 どうせまた、穢れた血がどうのこうの言い出すんだーなーとかロンは思った。

 ハーマイオニーは杖を振り回す準備をしていた。

 

 

 

 

「見えます……! こ、これは――預言です!! 紅茶の妖精さんの預言です!!」

「な、なんと……? まぁ、それは素晴らしいですわねえぇ……さぁ、では……その紅茶の精からの言伝を……アールグレイの預言を……読み解くのです!!」

「紅茶の精は言っています!! 『額に稲妻の傷を持ちし眼鏡の男子に、災いが訪れん……』」

 

 

 

 

「額に稲妻の傷……? 眼鏡……? そんな特徴的な人が他にいるなんて凄い偶然だ!」

「お言葉ですがハリー・ジェームズ・ポッターさん、それはきっとあなたの事だと思います」

「なんと、ロナルド・ビリウス・ウィーズリーさん、それは本当ですか」

「多分、あの女の単なる言いがかりだと思われます」

「ハーマイオニー・ジーン・グレンジャ―さん。そうやってエリザベス・D・ラドフォードさんを悪く言うのは良くないと僕は思います」

 

 

 

 

 

 

「『奴は悪天候クィデッチで感電し、スニッチを取られて惨敗し、更にご自慢のニンバス2000もバッキバキになるであろう』……と言っています! アールグレイの精が!!」

 

「まぁ……素晴らしい! 素晴らしい預言ですわよスリザリンのお方……。人類にはそこまで傲岸不遜極まりない預言はできませんわ! あなたは『心眼』ならぬ『心耳』をお持ちのようですわね」

 

「はい先生! 今年もアイツなんかヒデー目に遭えばいいと思います!」

 

「ふぇ……ベスちゃんそれ願望だよぅ……!」

 

 

 

 

 

 ロンが何か閃いたような顔つきになった。

 

「はーーーーい! 先生僕も見えます! 紅茶の妖精からの伝言が見えます!!」

「あら赤毛の……あなたには奇妙なエニシが見えましてよ……具体的に言いますと横の生徒との赤い糸が……」

「そうなって欲しくはあるけどね。

 預言でーーす!『蛇の寮の住まいし便所女に災いが訪れん』」

「災い! 今年は序盤から不吉な予言がぶっ飛んでてあたくし、思わず感動のキュンキュンを禁じ得ません!」

「いい性格してるぜトレローニー先生」

「よく言われましてよ」

 

 

 

「蛇寮の便所女……やだそれ私じゃない!?」

「ふぇぇ……ベスちゃん……ただのあてつけ返しだよぉ……」

 

 

 

「『奴は何か変な鳥にボッコボコにされ、クィディッチでボロ負け、更には今年闇の魔術に対する防衛術で最悪の点数を取るであろう』……これは悲惨です! 可哀想に!」

「どこの誰だか存じませんがまぁお気の毒に。今年は性格の素晴らしい生徒が多くて何よりですわ。

 さぁ、ティーカップをおよこし下さい、叩き割って差し上げましょう」

「渡します。どうぞ」

 

 トレローニーはティーカップを見るなりそれを叩き割った。

 

 

「見えます!! あなた!! あなたには!! グリムがついております!!」

 

 

 

 

「グリム? え? なんですか童話?」

「グレム?」

「不幸の象徴! グリム! 死神犬です!! きっとあなたは今年不幸でしょーーー!!」

 

 

 

 何かトレローニーが大方当たりそうな不吉極まりない預言を一個ブチ当てたので授業はお通夜ムードと化し強制終了したよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後のマクゴナガルの授業。

 

 

 

 

「で、今年の生贄はポッターという訳ですかそうですか」

「先生――今年『の』て何ですかーー?」

「あの占い騙りの授業じゃ毎年必ず一人死ぬって預言が出るのですよ。そんで今年はポッターですか、当たりそうですね。トレローニーにしてはマシな占いです」

「なんだ、やっぱ偽占い師か」

 

 猫から人型に戻ったマクゴナガルは知能レベルも人間まで戻ったことで、授業を再開することにした。

 

 

「それじゃあ『動物モドキ』に関する授業をしますので有難くお聞きなさい」

 

 

 

 動物もどき。

 

 それは非常に難しく高度な魔法である。

 人の本性なんか所詮畜生と大して変わんねーよという強烈なパンチのこもった反社会的な魔法であり、20世紀はこの100年でだった7人。しか登録されていないことになっているが。魔法省が把握ミスしている可能性も存在する。

 

 そして、この魔法の最大の特徴は、とマクゴナガルが言った。

 

 

 

 

 

「自分が人間だったという記憶も残るしある程度の人間としての思考は残りますが、その思考回路や感情は極めて獣寄りになります」

 

 

 

 

「一発で見分ける方法の伝授ありがとうございます」

「あとはトレローニー先生の占いに賭けるしかないねーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スコットランド・ザ・ブレイブ


新年あけましておめでとうございます。
今年は酉年ですね




 

 グリフィンドールとスリザリンが合同で授業になりました。

 例えるならば水と油、犬とサル。まるで仏と英のように延々と喧嘩し続ける定めの寮を一緒に授業させるのが魔法学校ホグワーツのスタイルだった。

 火のないところに煙は立たない。

 火種がないなら作ればいいじゃない。

 学校長のダンブルドア、望むはいつだって大火災。

 

 

「死ね! クソが!!」

「おとなしくしろゴラァ! 燃料にされてぇか!!」

「暴れんな……暴れんなよ……!」

 

 とりあえず生徒の大半は暴れる教科書と格闘していた。

 本のくせに容赦ないので鋭い牙で暴れまくる。

 

 そんな生徒たちを冷えた一瞥し、ハグリッドは口を開いた。

 

 

「よく来たカス共」

 

 

「うわ教師になった途端にコレかよ」

「スコッチ野郎が」

「ミックスのくせになまいきだ」

 

「黙れ」

 

 ハグリッドが目を見開くと数人の生徒がまるでペトリフィカストタルスされたかのように硬直した。

 わずか13歳の生徒たちは本能で察したのだ。

 コレには逆らってはいけないーーと

 

「今スコッチ野郎とか言ったカス、前へ出ろ。楽しい公開処刑の時間だ」

 

「ひっ……!」

 

「うっせ黙れさっさと出てこい」

 

 

 

(やだ……このスコカス(※スコットランドのカス野郎の略)増長してやがるわ……)

 

 

 うっかり口を滑らせたのだろう、グリフィンドールの男子生徒が「いやだぁああ死にたくないぃいい!逝きたくないぃいいい!」と喉のちぎれそうな声で泣き叫ぶ。

 なんだグリフィンドールのあんぽんたんが一匹減るんなら別にいーや、それよか今日のお昼ご飯なんだろう、とべスは思った。

 

 

「あいつ今学期からフルスロットルでぶちかましてるフォイ……」

「黙れマルフォイ」

「おーや、ポッターあのデカブツはお前のお友達だからな庇うのかい? ……と言いたいところだが本当にどうかしてるぞ、このままだとあいつ超えちゃいけない一線を超えそうだフォイ」

「るせぇマルフォイ」

「……この学校どうなってんだフォイ……」

「教師生徒ともに早くも吸魂鬼に脳みそ吸い取られてるんじゃないかしらね」

 

 早くも仕事っぷりをたたえたべスの言葉を聞き、(呼んでもいないのに)ハーマイオニーが口を挟む。

 

「特に貴女ね、年がら年中差別発言ばっかりのレイシストさん? アズカバンへ通い過ぎて吸い取られてるんじゃない? 人としての分別とか」

「好きでアズカバンなんか通ってる訳ねーだろーがカス。って言うかやだ穢れた血が穢れた血の癖に純血の私の行動に口挟んでくるんですけどーー? やだーー身の程知らずってこわ~~い~~。あーあーあーまた石化しないかなーー穢れた血はみんな石化すればいいのにな~~~~」

「おあいにく様、バジリスクなら今頃秘密の部屋で理想を抱いてミイラと化してるでしょ。忘れたのかザコ。あなたもいずれそうなるわ。あと、それ以上差別用語をほざいてみろビチクソ女。燃やすぞ」

「上等だ穢れた血の阿婆擦れが。消し炭にすんぞ」

 

 バチバチバチぃ! と見える形で火花が散っていた。

 

「あぁ……ハーマイオニーとべスまたやってるよ。僕あの二人には仲良くしてほしいんだけどな」

「わぁ、あの二人が仲良しになるだって? はははっ! おったまげさハリー! 君、メガネ買い替えたらどうだい? 君のメガネ、現実が見えてないね!」

「そうかなぁ……じゃあ僕ちょっとヘマしたクソボケのケツをぬぐってくる」

 

 

 ハリーが一歩進み出た。

 

 

「僕だよハグリッド」

 

「はい死ね」

 

「ごめんなさいハグリッド。謝罪しますぺこり」

 

「よし。自白した男気に免じてやろう。えらいぞハリー。相応の死をくれてやる」

 

 森の奥がざわついたかと思うと、次の瞬間。

 木と木の間をかき分けるようにし、謎の生物が現れた。

 言うならば、首から上が鳥。首から下が、馬。

 なんかそんな感じのキメラだった。

 

 

「うっわ、なんだこれ」

 

「ヒッポグリフだ、美しかろう」

 

 確かに多少きれいとも言えなくもなかった。

 

「こいつらは誇り高い。そんですぐキレる。絶対侮辱しちゃなんねぇ、それがお前の最期の仕業になる」

 

「マジか……プライド高くて沸点低いとか最悪だね。まるでどっかのマルフォイ親子みたいだ」

 

 

「死ねポッター」

「わかる。全面的に同意するわ」

「ははは! なぁ、レイシスト。ブーメランって知ってるかい? すっごいんだぜー、なんと投げた相手に返ってくるっていうマグルのオモチャなんだ!」

「あ? マグルの玩具なんか知らねーよカス。黙れ死ね窒息死しろシレンシーー!!」

「インペディメンタ!!」

 

 

 

 

「そんでこのバックビークは特別な訓練を施した。コイツはただの鳥畜生じゃねぇ。『戦士』だ」

 

「は?」

 

「え?」

 

「フォ?」

 

 

 

 

(((何言ってんだこのアフォ……)))

 

 

 

 

「俺が去年何をしていたと思っとる? お前さんらがバジリスクだか石化だかでテンヤヤンワしている頃、俺はしっかり自らを研鑽していた……」

 

 

「……」

「……」

「…………え?」

 

 

 

 べスは思い出していた。

 去年そういえば盗んだ車で学校に突っ込んで暴れ柳焼死させたなーと。

 ハリーは思い出していた。

 スネイプとかいう自分の母親のストーカーが新聞を持ってなんか言ってたことを。

 ロンは逃げる準備を始めた。

 

 

 

 

「やれい! バックビーク! お前のカギ爪を英雄の血で染めてやれ! スコットランドにぃいいい! 栄光あれぇええええええええ!!」

 

 

「ギャーーーーッス!!」(任せな)

 

 

「生き残った男の子! 生き残れなかった!」

「魔法界の希望、ここに眠る」

「死んだwww第三巻、完!」

「うるせよスリカス共!!」

 

「やれやれだね。しょうがないな」

 

 ハリーは目を離さなかった。

 

 目をそらすというのは逃げるということ。

 目をつむるというのは受け入れるということ。

 ハリーは今までの人生でよく知っていた。

 視線を逸らすということの、愚かさを。

 

 そう、ハリー・ポッターはーー『生き残った男の子』はただ、運が良かったから生き残れたのではないッ!

 

 生き残るべくして生き残っているのだッ!!

 

 

 

 そう、ハリーは納得も許容もできない死を受け入れる気など一ミリたりともありはない!!

 

 

 

 

 それは、

 

 

 

 

 

 

 嘘もなく

 

 

 

 気高く

 

 

 

 誇り高い

 

 

 

 

 

 

 

 お辞儀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くるっぽーーーー」(素晴らしいお辞儀でした。心洗われました)

 

 

「ヴォルデモートとかに比べれば、ちょろいね」

 

 

「コッケーーコッコッココココッケー」(しかしながら、私は戦士だ。お辞儀なんかに屈しない!)

 

「追撃します」

 

「くるっぽーー」(くやしい……でも……お辞儀しちゃう……!)

 

「嘴では嫌がってても、羽毛は素直だね」

 

 

 

「まずいわ……ハリーのお辞儀レベルがリミットブレイクだわ……」

「ダメだこの醜いデカブツの野獣君……相当頭わいてやがる……はやく何とかしないとフォイ……」

「あ」「あ」「あ」

「なんだフォイ……?」

 

 マルフォイが、きょとん、とした顔で目を丸くした。

 

 

 

「マルフォイ、アウトーー」

 

「フォイ!?」

 

 

 ハグリッドが告げたように、ヒッポグリフは沸点が低く、キレやすい。

 そして、プライドだけは、山のように高い。

 

 

 

 

 

「ギャーーーーーーーーース!!」(ファッキン!! ブチ殺すぞゴミがァ!)

 

 

 

「フォオオオオイ!!」

 

 

「自業自得www」

「ざまあwwww」

「なんて酷いことを! 今すぐあのテロリストをクビにすべきよ!!」

「うっせーぞブルドックフェイス女! マルフォイが悪いんだろ!!」

「正気か!?」

 

 

 マルフォイの死をはじめとして、一斉にそこいらじゅうに放し飼いにされていたヒッポグリフ(訓練済)がぞろぞろと現れた。

 ケーーン!と鋭く啼きながら突進を開始。

 独立の精神と自由のために、と進撃しはじめた

 蹂躙を目的とした波状突撃を見た生徒たちは悲鳴を上げた。

 もはやマルフォイとかどうでもいい。

 数秒後の自分たちは肉塊と化しているかもしれないのだ。

 

 だが、魔法学校で鍛えられて3年目に突入しようとする彼らは、死の運命にあらがうことを選択した。

 

 誰だって。納得できない死を受け入れるつもりは毛頭ない。

 

 

「ペトリフィカス! トタルス!!」

「ルーモスマキシマ!!」

 

 金縛りや目くらましで必死に応戦するも鍛え抜かれたスコットランドの精鋭たちは屈しない。

 そこどいて! と、言ったのはグリフィンドールのハーマイオニー・グレンジャーだった。

 懐から、さっ、と何かを取り出す。

 

 空中に投げる。

 

「レダクト!!」

 

 周囲に広がるのは、乾いた草と木。

 

「インセンディオ!!」

 

 ハーマイオニーが蠱惑的ですらある鮮やかな杖捌きで枯れ木に炎を咲かせた。

 

 

 なんということでしょう、先ほどまで隙間風が吹き荒れ、地面は若干ぬかるみ歩くのさえ難しかった千年の歴史を持つ禁じられた森が匠の手によって炎にあふれる火あたりのいい森へと変貌をとげました。

 

 

 すると、ウゾウゾウゾウゾとどこからか、気持ちわりー生物がはい出してきた。

 足が八本もあるデカくてキモい蜘蛛だった。

 

 

「ヒッ……!」

「ぎゃああああああああ! 蜘蛛だああああああああ!」

「キメェ!! デケーーーー!!」

「わああああああああああ!」

 

 はい出してきた蜘蛛の一匹が一人前に英語をしゃべった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぜだ……なぜお前たちは……森を焼くのだ……』

 

 

 

『人間たちよ、……我等が、一体……何をしたというのだ……』

 

 

 

『共存を望んでいた……それだけだったというのに……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっせ」

 

 うわぁしゃべったんだけどキモッ!

 とべスは思った、ぶっちゃけ言葉が通じても蜘蛛はしょせん蜘蛛、それ以上でも以下でもないのである。

 

「うーん……どう(やってこいつら抹殺)しよっかなー……」

 

 べスは頭の中の呪文を探す。

 だが蜘蛛をブチ殺せる呪文は知らなかった。

 すると、ハリーがうんうん唸っているべスのほうを向いて何か叫んだ。

 

 

「べス! あのね! アーーーーを使うんだ! アラー……」

 

「聞こえねーよ」

 

 

 何か呪文を言っているようだった。

 ハリーはアから始まる呪文を唱えろと言っている。

 そう、蜘蛛をぶっ殺すことができる、アから始まる呪文を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アバダ・ケダブラ!!」

 

 

 

 緑色の光線が一番デカい蜘蛛に直撃した。

 

 

 

 

 

『父よ! ああ! なんということだ……!』

 

 

『おのれ人間……』

 

 

『報復じゃ……復讐じゃ……許さぬ……!』

 

 

 

 蜘蛛がヤル気MAXになりました。

 

 

 べスの放ったソレが生徒たちの何かーーたぶん生存意欲ーーに火をつけた。

 

 

「黙れぇ! クルーシオ!!」

「お前らが悪い、お前らが悪いんだぁ! コンフリンゴ!!」

「ボンバーダ!!」

「うわあああああ! レダクト!!」

 

 

 蜘蛛の骨格が裂け、ヒッポグリフの羽毛や鮮血が舞い、それを炎が焦がしていく。

 という、ちょっとした悪夢が形成されつつあった。

 

 そこに、特に罪のない尻尾爆発スクリュート(成体)が現れる。

 

 それを見たスリザリンの小悪魔ダフネ・グリーングラスの目が光った。

 

「あ、アレ知ってる~~。あのね~~私、実はね、休み中すごい魔法使えるようになったんだよぉ!」

「己の力を信じて穿つがよいーーモノノフよ」

「うん! 頑張るね~~!」

 

 ダフネが杖を振った。

 

 

「インぺリオ!!」

 

 

 ダフネの魔法が尻尾爆発スクリュートに直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゅいーーーーーーーーーーー!」(幸福ですぅぅぅううううううううう!)

 

 

 

 

 尻尾爆発スクリュートはインぺリオの副作用によってなんとも形容しがたい幸福感に包まれた!

 

 幸せな気分になったスクリュートはそのままヒッポグリフとアクロマンチュラの群れに突進!

 

 いまだかつてないほどのテンションで爆走! 轢殺!

 

 そして幸せな気分のまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃えるのじゃ……もっと……もっと……燃えるのじゃ……!

 

 

 灰になるがいい……! ふははははは……! はははははは……!!」

 

 

 

 

 ダンブルドアは超ご機嫌だった。

 






今年が読者の皆さまにとって実りおおき一年であることをハーメルンの片隅でお祈りしつつお辞儀します。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Interval01 『yellow narcissus』



 今回はまったく本編ストーリーに関係ない短編。
 
 本編より13年以上前のフォイカス(父)と嫁の話。






 

 誰からも愛されて育った。

 

 幸せは黙っていても与えられるものだった。

 

 

 

 

 だから欲しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ルシウス」

 

 見てみろよ、アレ。

 金髪に黒のドレスローブを完璧に着こなした青年がテラスから下を見下ろせ、と言った。

 片ひじをつき、だらりとだらしなく手すりに寄りかかる姿は、まるで数年前まで所属していた魔法学校の生徒のような幼稚さと若さ、ついでに育ちの悪さを感じさせた。

 

「『ブラック』の末娘。えーっと……なんつったっけなぁ、名前」

 

 ブラック、という音にぴくり、と反応したルシウスが優雅にテラスの側へと歩く。

 その様子がおかしかったのか青年はせせら笑った。

 

「お坊ちゃんがよ」

「五月蠅い」

 

 ルシウスは凍るような視線で青年を射抜いた。

 だが青年はそんなことを気に留めるそぶりもない。ただニヤニヤと興味本位、といった様子で視線の先にいるマドンナを上から下へ、と眺めまわしている。

 

 

「いいよなぁ、ああゆうの」

「……」

 

 

 うっとり、と男は言った。

 

 

 

 確かに…………そう思う。

 

 

 外見だけならこのパーティー会場にいる誰よりも美しい。

 とてもとても美しい女だった。

 裾の長いグレーのドレスローブを着込み、ほぼ白銀に見えるほど色素の薄い金髪は背に流している。

 古代ギリシアの女神のように整った顔には薄く化粧が施されており、ボーンチャイナのように白くつるりとした肌に浮かぶ淡い桜色の唇がやけに鮮烈で、可憐で、どこか妖艶ですらあった。

 

 審美眼で下す裁定ーーーー残念ながら、男に全面同意をしざるをえなかった。

 

「品があってよぉ、だけど、さっきからニコリともしねぇの。もう何人も玉砕してるぜ」

 

 見てると本当にそうだった。

 まるで花に惹かれた蝶のように、ふらふらと寄った男が一人彼女に言い寄るーーが、二言、三言交わすとそのままとんぼ返りする羽目になっていた。

 

 

「ガードが堅いな」

 

 ルシウスは素直に口に出した。

 

「だからよぉ。そこがいいんじゃあねぇか」

「……」

「男にも女にも笑わねーし媚びねーし、そんでもってプライド高そうだし、お嬢様で美人でそんでもって性格キツいとか最高じゃねぇかよ。いいよなぁ、ああゆうの」

 

 間違ってはいないが、彼女をそのように評されるとなぜか無性に腹が立った。

 お前はどう思うよ?なんて無邪気に聞いてくる様もなぜかイラっとくる。

 

「……女は素直なほうがいい」

「なぁーに言ってんだぁ。女のウソは綺麗なんだぜぇ?」

「言ってろ」

 

 女と付き合ったこともないくせに。

 と、ルシウスは口の中でつぶやいた。

 

 

 

「でもあのお嬢様。けっこー苦労してるらしーぜ?」

 

 

 

「……」

「知ってるだろ、『ブラック』の家の姉妹の話」

 

 もちろん知っていた。

 

 魔法界の中でも『上流階級』だけが集う社交界。この場合は上流階級ーーつまり、純血の古い家系のみが出入りを許される世界。その中でブラック家は何百年も頂点に君臨し続けていた。

 永久なる純血の家系。奇跡のブラック家。

 その実態は誰だって知っている。

 ブラック家に生まれた男の子は純血のお姫様と。女の子は純血の王子さまと、それぞれ素敵な恋をして結婚をしましたーーなんて甘い、アイスクリームにチョコレートソースやクランベリーやクリームをかけまくったおとぎ話なんか、どこにもない。

 ブラック家はただ、『血を裏切った一族のもの』を『消している』だけなのだ。

 

 何百年も、何千人も。

 

 その消し方が家系図から抹消するだけか、戸籍を消すだけか、社会的にか物理的にかで多少差があるだけで。いままで何千という男が女が、少女が少年が、自分の母親や父親、娘や息子、そして兄弟姉妹を『抹消』してきたのだ。

 

 

 

 

 

 そんな歪な奇跡を積み上げたブラック家に三人の美貌の姉妹がいる。

 

 一番上は真っ黒な炎のような女だった。

 触れれば切れるような怜悧な美貌を持つが、その実常に真っ黒な炎が燻っているような荒すぎる気性の持ち主だった。女だてらに、誰よりも強くそして誰よりも優秀だった。

 しかるべき家に嫁げばさぞや女主人として辣腕を振るうだろうと期待されたが彼女は杖腕に刻印を刻むことを選んだ。仕方ない、アレは女の形をした男だ、などと想像力に欠いた世の阿呆共は諦め半分、といった調子でそう理屈づけた。

 

 二番目は万人受けするタイプだったように思える。

 一番上が強烈だったために影にかすみがちではあったが、来るものを拒まない気性の穏やかな娘だった。

 外見だけならよく似ていたと思う。だが僅かにやわらかい雰囲気をまとっていたし、何より口を開けば姉とは正反対の温厚で優しい気性だった。

 

 だから、まさかこの娘がトンデモナイことをしでかすなんて誰も思わなかったわけだ。

 

 姉よりも、引く手数多だった。

 美しいがとにかく気が荒く、かつ並みの男ではまるで歯が立たないほど強い長女よりも、同じ位の容姿で、それなりに優秀で温厚で控えめで御しやすいこっちのほうがいい、とほとんどの男は考えたのだ。

 

 が、この娘が取ったのは『穢れた血』の男の手だった。

 

 

 社交界の一大スキャンダルであった。

 当然許されるわけもない二人は駆け落ち。

 見つけ次第いつものように『消される』のだろうと誰もが思った。

 

 

 だが、当主オリオン・ブラックは意外にも寛大だった。

 家系図からの抹消、血族との絶縁。それだけの処分で済ませたのだった。

 

 

 そのときのルシウスは父、アブサラクスの言葉を今でも覚えている。

 

「相変わらず甘い奴だ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 という、姉たちを持っているのだ。

 とりあえず、まがいなりにも『きちんとした』純血結婚をした長女はともかく、次女のやらかしたことは明らかにブラック家の家名を汚したし、血の裏切りという醜聞を付きまとわせることになった。

 

 結婚適齢期に入った末娘にも。

 

 

 そう考えると、あの鉄面皮と氷の王女っぷりは社交界で向けられる嘲笑からの防衛反応なのかもしれない……とルシウスは溜飲を下した。

 

 

「キツイよなー。姉さんのやらかしたことでヒネちまったんだろーなーー。ひでぇ女。最悪」

「そう言うな。確かにアンドロメダは軽率だっただろう。だが」

 

 ルシウスはそこでいったん言葉を切った。

 

 

 

「名家にも名家の責任と義務がある。……それを、受け入れられなかったのだろう」

 

 

「なんだそれ」

 

 

 青年はわずかに怒気を孕んだ口調に変わった。

 声は軽い。

 調子も軽い。

 だが確かに怒っていた。

 

 

「テメーが嫌だ嫌だってダダこねて、そんで自分の家族を捨てんのか? 妹の幸せまで邪魔すんのか? 

 ……あぁそっか。だからお嬢様だってんだよ。そこまで考えられねぇんだろうな。

 はっきり言う、生きてる価値ねぇよそのアマ。消して正解だ。いっそのことぶっ殺せばよかったんだ」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は絶対ェそんなことしねぇ」

 

 

 

 

 それはどこの誰へともつかない、宣戦布告のように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今思うとアンドロメダは愛されることを強く望んでいたように思える。

 手垢のついた一般論ではあるが、長女は初めての子供だから親から目をかけられる。

 末っ子は両親からも上の兄弟からも愛される。だが、真ん中はそのどちらも得られない。

 

 だから、とは言わないけれど、アンドロメダは無償の愛に飢えていたのかもしれない。

 

 惜しみなく与えられる愛情が欲しかったのかもしれない。

 

 

 

「どうしても行くの、アンドロメダ」

 

 

 ごめんなさい、とアンドロメダは言った。

 ごめんなさい、ごめんなさい、シシィ。

 まるで壊れたかのように繰り返している。

 ついにはわぁと泣き出してしまった。

 

 

「……幸せにね、アンドロメダ」

 

 うん、とアンドロメダは涙でぐしゃぐしゃになった顔をこすり、一度だけ妹をしっかりと抱きしめた。

 

 

 

「離れても、もう二度と会えなくても」

 

 

 忘れないで、と涙の混じった曇った声でシシィ、と呼んだ。

 

 

 

 

「ずっと愛してるからね、シシィ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 数か月後、ルシウス・マルフォイとの縁談がまとまった、とナルシッサは両親から聞かされた。

 母親は思わず涙ぐんでいた。

 

 『あの子』が『あんなこと』をしたから貴女のことは不安で不安でたまらなかった。

 だけどいい家柄で純血の婿が見つかってよかった。

 きっと彼なら貴女を『幸せ』にしてくれる。本当に良かった――――としきりに繰り返した。

 

 

「まぁ、根性なしのお坊ちゃんだけど引っ込み思案のあんたには似合いの相手だね」

 

 幸せにおなり、とベラも言った。

 

 

 だが当の花婿――――求婚してきたはずの相手、ルシウスはどこか当惑しているような顔つきだった。

 

 

 

「あなたは本当にコレでいいのか?」

「……なぜ問うのですか?」

「本当に、私と結婚することになってもいいのか?」

「それがあなたの幸せになるのでしょう?」

「だが、それが貴女が『したいこと』とは限らないんじゃないか」

 

 思わず、ナルシッサは、青い目を見開いた。

 

 

 

 生まれた場所は、とてもとても幸運だった。

 由緒正しい名家の末娘。

 だから。

 

 誰からも愛されて育った。

 

 幸せは黙っていても与えられるものだった。

 

 

 

 

 だから。

 

 

 

 だから――――。

 

 

 

 

 ふと、掠れた声が喉からこぼれた。

 

 

 

 

 

 

「アンドロメダのこと」

「……」

「私は――姉のことが、大好きでした。愛していました。

 でも、でも、姉は――――愛されたかったのです。家族ではない、ほかのだれかに」

「……」

「だから、私は、黙って姉を見送りました。それが姉の望む『幸せ』なのだと思っていました」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「私は、離れたくなかったのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 欲しなかった。

 

 何かを欲したことはなかったのだ。

 

 いつだって自分の幸せは誰かから与えられるものだった。

 だから自分が何をしたいか、を考えたことはなかった。

 

 そんなナルシッサが唯一、していた後悔が堰を切って、大粒の涙になって、あふれた。

 

 

 

 

「愛してるなんて、言ってほしくなかった。愛してるなら、行ってほしくなかった。

 

 言葉なんていらなかった。私は――――傍にいてほしかった!」

 

 

 

 

 それが、彼女の欲しかった愛の形だったのだろう。

 

 

 

 あぁ、そっか、と泣きじゃくる婚約者の背を撫でながらルシウス・マルフォイは思った。

 素直じゃなくて、意地っ張りで、どこまでも不器用。

 

 なのに、本当は誰よりも愛情深い。

 

 姉妹だな、とルシウスは思った。

 

 

 

 

 ブラック家の女たちは愛することにも愛されることにも実に強欲だ。

 

 

 

 だからこそ、きっとこの人とはいい家庭を築けるだろう、とルシウスはごく自然にそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり女は素直なほうがいい。

 

 

 ありのままの彼女は、こんなにも愛おしい。

 

 

 

 

 

 








黄水仙の花言葉


「 私のもとへ帰ってきて 」


「 もう一度愛して 」




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真似妖怪

「こんにちわ。コーンウォール地方のピクシー小妖精です。

ホグワーツも三年目に突入したにも関わらずほとんど実地訓練もマトモに積んでない魔カス共にもわかるように、真似妖怪『ボガード』について解説に来ました」

 

「お、おう」

「どうも」

「……」(おかしい、コイツらは去年学年末に皆殺しにしたはずだわ)

「フォイ……」(ロックハートの残り香……か……)

 

 

「耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ魔カス。真似妖怪ボガードは暗くて狭くてじめっとした場所を好むよ。洋服ダンスの隙間、ベッドの下。主に流しの下とか台所の隅とかかな。さてここで質問だよ。ボガードって一体何かな」

 

 べスは手を上げずに勝手に発言した。

 

「形態模写妖怪でしょ知ってるわよ」

 

「正解だよ。別名20世紀の指示待ち妖怪とも言われるよ。見た人が一番『KOEEEE』ってなるものに勝手に変化して相手がビビることを唯一の生きがいにしている可哀想なヤツだよ」

 

 

 その説明に対しスリザリン生たちは口々に思い思いの感想を勝手にしゃべる。

 

 

「人を不快にして何が楽しいんだろうな」

「そんなことをしても得られるのは束の間の満足だけだろうに」

「だったらもっと自分を磨いて楽しい妖怪生を切り開けばいいのにね」

 

 

 

「所詮未来が希望に満ち溢れてる十代前半の魔カスにはわからないよ。真似妖怪が生まれ持った宿命だからね。

 

 とりあえず現在洋服ダンスの中にぶっこまれている状態のボガードは中の暗がりでガタガタ震えて膝を抱えてうずくまっている状態だよ。だけどこっちがカギを開けてやればたちまち姿を変えるよ。今この状態でテメーらのほうが圧倒的に有利な状況にいるよ。なんでかわかるかな?」

 

 

 

「人数が多ければ蹂躙できるからだろ常識」

「四方八方からの失神呪文をすべてさばき切れる妖怪などおるまいに」

「ふぇ……リンチはダメだよぉ……」

 

 

「(なにいってんだこいつら……)」

 

 妖精は予想外の答えに絶句した。

 

 

 

「大人数だと『誰』の『一番』怖いものに化けていいのかわかんなくなって錯乱するからだろーがカス。お前らなんでこんなこともわかんないのかな? 脳みそウナギのゼリーでできてるのかな?」

 

 

「失敬な」

「ようせいのくせになまいきだ」

「あのゼリー結構うまいよな」

 

 

「舌までクルクルパーとは恐れ入りましたブリカスの皆さん。

 とりあえずコイツらに対抗するのに一番手っ取り早い方法は複数人でいることだよ。一度に大勢を脅そうとして結果よくわからない姿になるよ、各個撃破すればいいのにね。

 あとコイツらを倒すのは『笑い』だよ。お前らがバカにしたい姿を思い浮かべて『リディクラス』と唱えれば強制的に姿をゆがまされたボガードは屈辱で憤死するよ。

 ぶっちゃけそんなことしなくてもホウ酸団子で一網打尽だけどね」

 

 

「一匹いたら30匹いるタイプの妖怪ですねわかりました」

「死の間際にタマゴとか産み落とすやつじゃね?」

「今日は火星が綺麗だな」

 

 

「長々言ったけど呪文撃退で大事なのは精神力ってことだよ。とはいっても奴らの生命力は尋常じゃないからせいぜいお前らも砂漠にスポイトで水を撒く作業に没頭してr――」

「アバダゲダブラ!!」

 

 ルーピンの杖から緑色の閃光が発射されコーンウォール地方のピクシー小妖精は蒸発死しました。

 

 

「説明が長すぎるからアバダしといたよ。全くこれだから害獣は嫌だね」

 

 

 

「うわあああああああああああああ」

「ああああああああああ」

「ピクシぃいいいいいいいいいいい!」

「ぎゃああああああああああ!」

「アバダぁあああああああああああ!」

 

 

「さて、と。じゃあ今からボガードを解き放つから皆『笑い』を忘れずに! 笑顔で楽しくボガードを撃退しよう!」

 

 ピクシー小妖精の命を刈り取ったばかりのルーピンは、人間として大切な何かが欠落しているのではないかと思える笑顔を浮かべた。

 真っ先に前に立たされたのはスリザリンのイケメン枠、ブレーズ・ザビニとかいう男子生徒だった。

 

 お高く留まった性格で、腹黒いし肌の色も黒い。腹の底まで黒人である。ただし、イケメンである。

 その端正な容姿は母親譲りであり、その母親は夫を7人もとっかひっかえし、なぜか全員死んでいる。その保険金が大量にあるため彼の家は金持ちである。とんだ大量殺人鬼だ。いいぞもっと殺れ。

 

 そんなザビニが「何が来るんだよ……何が来るんだよ!」と年相応にびくびく震えつつも、女子生徒の手前かっこつけて杖を洋服ダンスに向けている。

 

「じゃ、ブレーズ! いってみよーー! リディクラスだよ! 忘れないで!」

「おっしゃぁ!! こ、来い!! 来るなら来いッ!!」

 

 決意を込めた瞳でザビニはぎりり、と睨んだ。

 やがて、タンスが開く。

 そこからは。

 

 

 火を纏った人影が現れた。

 

 

 多分焼けただれているのだろう、何かが焦げ付くような不愉快な異臭がする。

 『ソレ』は何かわからない。だが、形からしておそらく成人男性のものだと憶測することができた。

 やがて、人間の断末魔のような叫び声がこだまする。

 

 

 

『助けてくれ!! 助けてくれぇええ!! うわああああああづいいいいいい!!』

 

「ひっ……!」

 

 ザビニの顔にもはや決意の欠片はない。それは完全に恐怖で塗りつぶされていた。

 

『おいていかないでくれ! おいていかないでくれぇええ! 頼む! 頼む!!』

「う、うわあああああああああああ!」

『ブレーズ! ブレーズ!!』

「違う! 違う違う違う! ぼ、僕のせいじゃない! 僕のせいじゃない僕のせいじゃない!! 仕方なかったんだ!! 仕方なかったんだ!! 僕のせいじゃない! 僕のせいじゃないんだあああああ!!」

「はっはははは~~ほーら、リディクラスだよーー? こんなボガードさっさとやっつけてしまいなさい!」

『助けてく……れ……! ブレーズ……! 私は……きみ……の……義父になろうと…………』

「やめろ! やめろやめろ!! うわあああああああああああああ!」

 

 ザビニは錯乱して部屋から飛び出した。

 どうやらドアの向こうに隠れて膝を抱えているようだった。違う、違うんだ、仕方なかったんだ、僕のせいじゃない僕は悪くないんだ僕のせいじゃない、僕のせいじゃないんだ、だから許してくれ義父さん。と壊れたようにしきりに繰り返している。ほとんどのスリザリン生は「フーン、見たんだ断末魔」と彼の秘められた(どうでもいい)過去を察したのだった。

 

「いやー、初っ端から飛ばしてくれるね。さすがはスリザリンだ。次! ダフネ!」

「ふぇ……!」

 

 次に呼ばれたのはダフネだった。

 本名ダフネ・グリーングラス。癒し系の美貌を持つ彼女は、スリザリンの美少女として名高い。

 そんなダフネに危機が迫っていた。

 

 今まで断末魔の叫び声をあげる男、だったボガードが、ダフネを前にし姿を変える。

 

 それは、11歳くらいのかわいらしい少女の姿に見えた。

 

 髪型や顔立ちが何となくダフネに似ている。それを見たダフネの顔がさっと青ざめた。

 血の気が失せた。

 真っ白になった。

 少女(に扮したボガード)の口が開かれ、そこから鮮血がゴボリ、とあふれ出た。

 ドくドクドク、と口からあふれる鮮血が、真っ白な首筋へと伝わり、口から下をまるでペンキで塗ったかのように真っ赤に染め上げた。

 

 

 

『姉さん……姉さん……助けて……姉さん……』

「あ……ああああああ! い、いやっ! ダメ! 駄目駄目駄目ぇえ!! そ、そんな! アスティ! アスティ!!」

『姉さん……苦しい……苦しいよぉ……どうして……どうして……わたしなの……?』

「アスティ! アスティ!! やだ、嘘……嘘嘘……こ、こんなのウソだよぉ! やだ……やだぁああああああ!」

『死にたくないよ……姉さん……たすけてよぉ……ゴフッ……』

「いやっ! 嫌嫌嫌ぁあああああああああああ!」

 

 

 ダフネ錯乱して部屋から飛び出した。

 壁にガンガンと頭をたたきつけ「ごめんなさい! ごめんなさいアスティごめんなさい! うわああああ」としきりに叫んでいた。それを見たスリザリン生たちは「あー妹かーー」「妹さん持病持ってるかもしれないんだっけー?」「遺伝性の呪詛だってさーまだ潜伏期間らしいけどねーー」「ご愁傷様wwww」とか話してた。中々複雑な家庭の事情だった。

 

 

「次! ミリセント!!」

「来い!!」

 

 ミリセント・ブルストロード。

 真正の剛の者である。

 

 

 ボガードは姿を変えた。

 それは。

 腹に爆弾を巻きつけられた男の姿だった。

 

 

『やめろ! 殺さないでくれぇ!』

「むっ……」

『私はIR●暫定派に家族を人質に取られて、じゃーテメー腹に巻いた爆弾で突っ込んでって死ね。っていう自爆テロを強要されているんだ! 死にたくないいいい!』

 

 ボガードは意外と設定を凝るタイプだった。

 

「なんという卑劣……!」

『う、撃たないでくれぇ! 頼む……家族が、人質に……! む、娘が……! いるんだ! でも人質に……! このままだと……! 助けてくれぇえええ! 娘だけでも――!』

「……分かった。リディクラス!!」

 

 ミリセントが呪文を唱えると、爆弾が爆破し、爆炎が上がった。

 元人間だったらしい肉塊へと変化するサツバツ!! 

 ミリセントはどこか穏やかな笑顔を浮かべていた。確かに笑顔だ。そして笑顔は真似妖怪を殺す。

 

「真に憎むべきは暴力に訴える不埒な輩であろう……安心して眠るがよい、勇者よ。必ずあなたの娘の命はこの私が助けよう……!」

 

 

 

「お前ら一体何とたたかってんの?」

 

 

 

 ルーピンが今さらなんか吠えやがった。きっと負け犬の遠吠えだろう。人生の。

 

 

 

「じゃーえーっと……セオドール! 次! セオドールいってみよー!」

「しんだ」

「は?」

「セオドール・ノットは死んだんです。去年グリカスの穢れた放火魔、ハーマイオニー・グレンジャーにシャンデリアにされました」

「マジか、先生全然きがつかなかったよハハハ!」

 

 じゃー気をとりなおして行こう! とかふざけたこと抜かしたルーピンはべス! と名前を呼んだ。

 

「べス! 行ってみよう!」

「どんと来い」

 

 思わずスリザリン生の注目が集まった。

 今まで、べスは授業態度はクソのようだったが、ペーパーテストではこれでもか、というほどの点数を叩き出す。実際、授業態度は人のこと舐めんのも大概にしろと言いたくなるレベルだが実技は嫌味なくらい優秀――という、非常にブレ幅の大きい優等生なのだ。

 そんな彼女が怖がっているものは何か、と多くの生徒が注目していた。

 

 そして、その中の8割の人間が「どーせ、割れた便器かなんかが召喚されんだろ」とか思っていた。

 

 ボガードがべスを認めて姿を変える。

 

 否――変えようと、試みた。

 

 

「……は?」

 

 

 ボガードはしばらく迷っているようだった。

 肉塊が再生し、半ばゾンビ状態の生肉が歩いている――という、ぶっちゃけそれでも相当ホラーな状態のままに何に化けたらいいのか分からないでいる、という印象を受けた。

 

 やがて、バチン! という大きな破裂音と共に先ほども出た燃える男の断末魔が現れる。

 

 

 ドアの向こうでザビニの「うわああああ僕じゃないいいいい! 僕のせいじゃないいいい!」というナキゴトが聞こえてきたがべスは無視した。

 

 

「あ? ふざけてんのか? リディクラス!!」

 

 

 べスが呪文を唱えるとまたしても、バチン! という破裂音。

 と、ともに瀕死で血を吐く少女の姿に変わる。

 またしてもドアの向こうで「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんごめんごめん」という雑音が聞こえてきたがべスはそれもスルーした。

 

「はい? リディクラス!」

 

 次は自爆テロ男だった。

 

「……? リディクラス!!」

 

 次は大きな蜘蛛だった。

 

「……アクロマンチュラなんか怖くないわよ……? この間虐殺しただろーが。リディクラス!」

 

 次は非常に見覚えのある姿だった。

 

 

  ぞろりとしたマント。

 脂っこい黒髪。大きな鉤鼻の男

 

 

「スネイプ死すべし慈悲はない! リディクラス!」

『おいラドフォードちょm――』

 

 次もどこか見覚えのあるものだった。

 

 

 それは、恐怖の死者。

 ぞろりとしたマントを纏った死者のような手――。

 

 

「なんでや! 吸魂鬼さん悪くないでしょ! リディクラス!!」

「……」

『お辞儀するのだ!』

「お辞儀しますペコリディクラス!」

「…………」

『燃えろ……もっと燃えるのじゃ……!』

「名前を呼んではいけない校長……!? くっ……アバd――」

「そこまで」

 

 

 ルーピンが杖先から無言で失神呪文をくらわす。なお、威嚇射撃だったためにべスには当たらなかったが、地面がごっそりと抉れていた。

 

「……なるほどね、君たちは大いに抱えている恐怖がヤバいものだってことがよくわかったよ……。そうだね。宿題だ、各自、レポートを提出するように、月曜日までだよ。

 あと『自分が恐怖しているもの』を予想しておくんだ。今日ダメだったブレーズとダフネはマダム・ポンフリーのところに行ってカウンセリングを受けるように。

 

 あと、べス」

 

「何ですか先生? 私のボガード連続撃破を褒めてくれるんですか? すごいでしょ」

 

 べスは得意げになって言っていたが、ルーピンの目は冷たかった。

 

 

 

 

 

 

「君は補習だ。ボガードの追試をやるから後日私の部屋まで来るように。以上、解散!」

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 べスは目を丸くした。

 

 誰も、信じられなかった。本人ですらも、耳を疑った。

 

 まさか、と思ったのだ。

 

 

 授業態度最悪、だがペーパーテストと、実技はピカイチの成績を出す『あの』べス・ラドフォードが。

 

 課題に『落第』する――なんてことに。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獅子VS穴熊


評価バーが赤くならないかなぁ~~~~(願望)




 クィディッチシーズンが開幕した。

 シーズン開幕戦第一戦はグリカスvsスリカスという因縁試合のはずだった。

 はずだった――が。

 

 残念ながら、マルフォイの腕が先日のバックビーク騒動の末死亡していたため~~とかなんとかキャプテン・フリントがテキトーなパチぶっこいてスリザリン戦は延期。

 仕方ないので繰り上げでハッフルパフ戦をさきにやることになっていた。

 つまり、ハッフルパフのクィディッチチームは、犠牲になったのだ。

 

 ハグリッドとバックビークの勝手な暴走。スリザリンとグリフィンドールの好き勝手な暴動の犠牲に。

 

 

「という、手段を選ばないフリントのフリントによるフリントのための姦計」

「流石キャプテン! (人間として持ち合わせた倫理観が邪魔して)俺たちにできないコトを平然とやってのけるッ! そこにしびれるあこがれるゥ!」

「フリント最悪だな」

 

「なんとでも言え。今年のウッドはマジでやばいということがよくわかった。ので、ディゴリーには人柱になって貰う」

 

 フリントは見ただけで殺意を催すようなドヤ顔をくりだした。

 イケメンに弱いべスが顔を覆う。

 

「可哀想なセドリック……」

「きにすんな。どうせあと1年でアバダされる運命だからよ」

「なんだ、じゃーいいや」

「黙るフォイ」

 

 と、言うわけでスリザリンチームのメンツは開幕戦で珍しく集団観戦することになった。

 スリザリンの応援席にはボブ髪の美少女パンジー・パーキンソンや唯一ボガードを攻略した女傑、ミリセントが座っていた。

 尚。ボガードのせいでSAN値が直葬した奴らはうつろな目でぶつぶつぶつと誰もいない空間にしゃべりかけていたりしたが、ホグワーツではよくあることなので上級生は基本的にスルーしていた。

 

 

 

『さァーーて! 始まりましたァ! 今年もこの光景が! 空の戦いが! 今年はホグワーツ上空が何色に染まるのでしょうかーー! まぁ、基本的には毎年真っ赤なんですけどねw いろんな意味で』

『グリフィンドールの赤に決まっているでしょう何を言っているのですか』

『HAHAHAHA! ジョーダンです』

 

 

 やがて黄色いユニフォームを纏った大群が現れた。 

 毎年サンドバックになる、噛ませ犬集団アナグマ寮だった。

 

 

『えー……今年はキャプテンが代替わりした模様です穴熊チーム。セドリック・ディゴリー、シーカーですね! シーカーにしてはガタイがいいことが難点ですが、急旋回が非常に得意な選手です』

『今年のチーム編成はかなり変更されているようですね、さてどうやることやら。では上から目線でせいぜいお手並み拝見といたしましょう』

 

 ホウキの上からセドリックというなのハンサム☆ガイがにこっとさわやかな笑みを浮かべて自らのチームを睥睨する。

 

 

「えー……なんかDJと副校長に色々言われてるようだけどー……リラックスしていこう! 大丈夫さ! 普段通りにやっていれば! 

 勝ち負けは大した問題じゃない! みんな、楽しんでいこう!!」

 

「「「YES! キャプテン!!」」」

 

 

 

 

 

「ん?」

「あれ?」

 

 

 応援席のべスとマルフォイは思わず目を丸くした。

 

 そんなこともスルーし、ハッフルパフの選手たちは円陣を組んで肩を寄せ合う。

 

 

 

 

「ハッフルパフは誠実と努力の寮だ! 正々堂々! 日ごろの成果を発揮しよう! 行くぞ! ハッフルー!」

 

「「「「ファイ!オー!」」」」

 

 

 そのあと、さわやかにハイタッチし、各自ウォーミングアップに入っていった。

 

 べスとマルフォイは、そんな彼らの様子をただ茫然と眺めていた。

 

 

 

 

「……」(おかしい……おかしいわ……)

「……」(なんだこれ……なんだ……この……健全な青少年のセリフは……)

 

「俺たちが失っちまった青春、それが――あそこには、あるんだな……」

 

 べスの相方はしみじみと自分が手にしたかったもの――だが、決して二度と戻れない場所を眺める嫉妬のような羨望のような郷愁のようなまなざしをむけるのだった。

 

 

 

『クソむかつきますねーー! イチイチ鼻につくよねイケメンは!! さーて、お次はわれら――グリフィンドール!! 選手入場ーーー!!』

 

 

 ジョーダンが叫ぶと真っ赤なローブをはためかせた、ハタ迷惑な集団が風邪を切って現れた。

 真っ赤な衣装をまとった血に飢えた獅子達を率いるのは、若き雄。キーパー兼キャプテンのオリバー・ウッドであった。

 あたかも鬣のように赤いユニフォームを風に靡かせながら、ウッドは怒声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

「我々は勝たねばならない!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 マイクなしでも響き渡るほどの大声だった。

 

 

 

 

 

「そう」

「これフォイ」

「これだ……これだ……コレこそが!」

「僕の」

「私の」

 

 

「「クィディッチだ!!」」

 

 

「お前らもう戻れねぇのな」

 

 

 2年生の時点で狂った演説しか聞いてこなかったべスとマルフォイは、もう何もかもが手遅れだった。

 

 

 

 

 

「我々は勝たねばならない!! ただ勝利をひたすらに追い求めなければならない!! なぜか!!

 

 それは!! 俺たちが!! この世に!! 生まれてきたからだぁあああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

「ウッドさんヤベェな。見て、あの飛躍っぷり。完璧な飛び方だわ。頭が」

「頭にクアッフルぶつけすぎて遂に狂ったのかフォイ、っと全世界に向けて問いかけてみルフォイ」

「騎士道って何だったんだろうな」

「元々は敵を完膚なきまでに叩いてつぶすためのものでしょーが特に問題ないわよ」

「それもそうだな」

 

 

 

「生きる意味の為! そして! これから先、生きていくためにッ!!

 

 我々はただ一心不乱に勝利を希わん!! たとえそれが!! 仲間の屍を超えようとも!!!!

 

 問おう!! グリフィンドール諸君!!

 

 

 貴様等は何だぁ!!」

 

 

「「「「我らグリフィンドール!! 意志こそが我が力なり!!」」」」

 

 

「貴様らの敵は何だぁ!!??」

 

 

「「「「セドリック・ディゴリー!!」」」」

「え、僕?」

 

 

 名指しされたセドリックはかなりビビっていた。

 

 

 

「そうだ! あのいかにも掘られてそうなイケメン☆ナイスガイに、テメーが掘ったのはケツじゃなくて自分の墓穴だったっつーことを教えてやれぇ!!獅子王の旗の名に誓いぃいいい!」

 

 

「「「「狩りの時間だぁあああああああああああああ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウッドこゎ。。。」

「これセドリック死んだなフォイ」

「ナムアミダブツッ!」

 

 

 

 

 

 こんな感じで、血を血で洗う泥仕合は、最悪の雨天の中で決行された。

 

 

 

 試合の流れはかなり切迫したものだった。

 クアッフルが選手間を行き交い、ブラッジャーが乱れ撃ちあい、その中を必死に金色が逃げ惑う「なーんだいつもと同じじゃーん」って試合だったといえよう。

 ただ今回は激しく叩き付ける雨粒が超速度で飛び回っている選手たちの体力を確かに削っていくのが理解できる。やがて叩き出されるスコアは80対50。

 グリフィンドールが30点のリード――だが、まったく油断のできない点数となった。

 

 ゴールの傍でウッドは奥歯を噛みこんだ。

 甘く見ていた、と己を恥じたのだ。

 

 セドリック・ディゴリーを甘く見ていた。

 

 奴はただ優秀なだけのシーカー……だと思い込んでいたのだ。キャプテン歴も何もかも自分のほうが優れている、現に、ただスニッチを追い求めているだけのシーカーとフィールド全体を見渡す素養が求められるキーパーとではその『視点』からして違う――だから、ディゴリーは守備に重きを置き、できるだけ体力と集中力を温存。長丁場で相手が息切れしたところを狙ってスニッチで逆転優勝を狙う『長期戦型』のチーム編成で来るのだろう……と予測していた。

 

 だが、セドリックはその逆を見事についてきたのだ。

 

 守備ではなく、攻撃重視。しかも一人のエースではなく、チェイサーの連携プレーを主とした戦術。

 誰か偉大な『個人』ではなく『団体』の力をセドリックは信じていた。

 そう――人を択ばず、誠実に努力し続ける穴熊寮の素質、セドリックはソレを完全に理解していたのだった。

 才能主義の側面が強くワンマンプレーの多いレイブンクローや、個人個人の我が強すぎるグリフィンドールでは再現が難しい戦法。逆に言えば彼らが最も苦手とする戦法だった。

 

 

(畜生……俺がドクトリンを読み誤った……!)

 

 

 脳みそまで筋肉、と言われるウッドではあるが戦術的なことに関しては頭が回る、と自負していただけに、今この瞬間プライドがズタズタに引き裂かれそうになっていた。

 

 

 だが、『今』自分を責めて何になる? 

 

 

 

 後悔も自責も反省も、すべては『終わった後』にすればいい――とウッドは確信した。

 

 ウッドはビーターであるフレッドとジョージに『セドリックをブチ殺せ』と命令を送るべく、ハンドサインを送ろうとした。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 ウッドの目に。

 

 

 

 

 黒い影が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

「アレは……」

 

 

 とっさに過ったのは、自らのチームのシーカー。

 『生き残った男の子』と世間からは呼称される少年、ハリーのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客席でもその異変に気付きはじめた。

 

 

「なんだ? この感じ……」

「寒い……」

「汽車の中で……」

 

 まるで、二度と自分は幸せになれないんじゃないか、という絶望感。

 

 凍るような恐怖が背筋を這い上る感触に思わず何人かが身震いした。

 

 そして、空を見上げてその予感が当たっていることに気づくだろう。

 誰かが悲鳴のような声を上げた。

 大きな声ではなかったのに、嫌というほど響き渡った。

 

 

 

 

 

「吸魂鬼だ……!」

 

 

 

 

 

 

「な、なんで!?」「どうして!?」「ヤベェ!来るぞ!!」

 

 誰もがわぁわぁと騒ぎ立てた。

 おそらく、『それ』に気づいていないのは競技中の選手だけだろう。

 

 マルフォイは寒気を覚えた。

 

 

「なんだフォイ……なんかもう、クソ……あぁもう!」

「うわぁ、なんかすごい鬱だ、そうだしのう」

「何のたまるフォイ! 静かにしてろ!」

 

 一緒に観戦していたべスの相方ビーターであるボールがカッターナイフで手首を切ろうとしていたのをマルフォイがはたき落とす。誰もかれも多かれ少なかれ影響を受けているようにマルフォイは見えた。

 真っ青の顔になっている者や、泣きそうなのを必死でこらえる女子生徒。

「違うんだ俺のせいじゃない!俺は悪くない俺は悪くない仕方なかったんだぁああああ! まだ子供だった! 何もできなったんだ! 僕のせいじゃない! 許して……許して義父さん……!」だとかトラウマを刺激されたザビニが発狂する声とか「アスティ! アスティどこ!? 離れないでよぉ離れないでひとりにしないでお願いだからぁああああ!」とかダフネが泣きわめく声が聞こえたのでうわコレ相当ヤベェなと少年は思っていた。

 

 ふと、マルフォイの頭をかすめる何かがあった。

 

 そうだ、べスは大丈夫なのか。

 

 複雑な家庭環境だとうっすら聞いていた。具体的には知らないが、彼女も何らかのトラウマに縛られる立場の人間であるということを思い出す。

 先日のボガードではさっぱりわからなかったが。もし、そうだとすれば、あいつら程じゃないにしろ吸魂鬼の影響を受けるかもしれない――と。

 

 一縷の心配が杞憂であることを願いながらマルフォイはべスの名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「べ……ラ、ラドフォード!? 大丈夫か!? 吸魂鬼が――!」

「んだよるっせーな。騒ぐな喚くなころすぞフォイカス」

「フォイ!?」

「お前、うるさい黙れブチ殺すぞ」

 

 

 

 

 

 べスは顔色ひとつ変えてはいなかった。

 元々色の白い肌はやっぱり平常運転だったし、きりっと吊り上がったやや気の強そうな目は曇天をそのまま反映したかのような色だった。きのせいか、ウェーブのかかった豊かな黒髪はいつもより艶めいているようにすら思える。

 

 

 

(……前から思っていたんだが、べス……)

 

 

 

 マルフォイは確信した。

 

 

 

(……コイツ全然吸魂鬼効いてないフォイ!!)

 

 

 

 

 

「なによ、皆ピーチクパーチクうるさいわね。一体どこのヒッポグリフの群れですか折角ハリーの断末魔が見れると思ったのに台無しじゃないの」

「吸魂鬼のせいだフォイ! 君、全く通じてないんだな!? 君、嫌な気持ちとか怖いとか二度と幸せになれないんじゃないかとか思わないんだな!?」

「はぁ? 完璧に幸福に決まってんでしょ頭沸いてんですかホグワーツで幸福じゃないとかアバダされても文句言えないわよただでさえ校長とかルーピンとか今年ヤバい奴多いんだから」

「いや、そうじゃなくってフォイだな……あー……もういいフォイ……」

 

 この女やっぱ規格外だぁ……とマルフォイは安堵とも憧れとも羨望とも呆れともつかない感情を抱いたのだった。

 それを人は恋と呼ぶ。

 

「大体なんで皆こんなになってんのよ? 意味わからんわ」

「あー……他のヤツには効果てきめんだフォイ。特にトラウマもってそうなヤツとかにはな」

「なんでや、吸魂鬼さん悪くないでしょ」

「どこをどう回ったらその思考回路になるんだフォイ……」

「当たり前よ、あの人たちはそんな悪くないわよ。話せばわかるじゃないの。だって、現に」

 

 べスは大きな目をぱちくり、とさせて言った。

 ばっさばさと上下するまつ毛が音を立てそうだなぁ。などとアッパラパーなことをマルフォイは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうして『クィディッチ見に来てください』ってお辞儀したら、ちゃんと来てくれたもの」

 

 

 

 

「なんだ、話せば分かるフォイ……っておま……おま……お前かぁあああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルフォイは悟った。

 

 やっぱこいつ規格外なんだなぁ、と。

 

 

「なんということを……ラドフォード! 君はなんということをしたんだ!?」

「あ? つーか可哀想でしょーが、吸魂鬼さんが! あのひと達はずーっとアズカバンで看守とかカスみたいな闇労働させられて次は学校の門番よ?! だったらこれ位呼んだっていいでしょ人種差別反対!」

「普段純血万歳穢れた血死ね!とか言いまくってる口が何言ってんだフォイ!?」

「純血>アズカバン>>吸魂鬼>>>>>>>>>>>>魔法界の壁>>>穢れた血でしょ常識」

「どのみち君のせいで大変なことになってるフォイ」

「これしきの小雨で何鬱になってんのよ、どいつもこいつもメンタル弱いわね」

 

 もう、何を言っても無駄のようだ、とマルフォイはあきらめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コォー」(今日非番なので来ちゃいました! わぁ、皆かわいいなぁ!)

「コォオー……」(クィディッチ懐かしいです、思わず童心に帰っちゃいそうですねw)

「コォー……」(お、黄色い子がスニッチ捕まえそうですよ! 頑張ってください!)

「コォオー……」(平和ってやっぱり素敵ですねー!)

 

 

 

 

 

 

 尚、このときハリーの脳内に母親の最期とか父親の声とか「お辞儀するのだ!」とかリフレインしているけどそんなこと誰もわかんなかった。

 

 

 やがて、気を失ったハリーがホウキから落ちる。

 ハリーは重力に従い自由落下した。

 グリカス共が叫び声をあげた。

 フリントも叫んだ。

 

 

「おらっしゃぁあああああ! 死ね! ポッター死ね!! 落下死しろぉおおおおお!」

「きゃ、キャプてーん!?」

 

 なんか元気になっていた。

 

「キャプテン落ち着いてください! どうしたんだ一体!?」

「るせぇ! ここであのメガネがくたばりゃ俺たちは優勝なんだよ!! 生き残った男の子だとか魔法界の希望だとかそんなこと知るか!! スリザリンの優勝のために! 死ねポッター!!」

 

 幸福感にあふれると人間は吸魂鬼のもたらす絶望とかそうゆうのはどうでもよくなるらしい、とマルフォイは頭の中のメモ帳に超メモした。

 

 

「待って、キャプテン! まだニンバスが残ってる!」

「しまった! 何だか今、別の世界線においてはアレは暴れ柳に激突して木っ端みじんにされる運命にあるような気がする!」

「暴れ柳は死んだわ」

「シット! マジかよファッキン」

「フリント……パラレルワールドの知識得てるのかよ……」

 

 

 ニンバスは今、自由に向かって飛び立った。

 もうハリーは居ない。そして生涯最大の障害になるはずだった暴れ柳もない。

 

 

 やった、これで自由だ。

 

 

 

 ニンバスは大空いっぱいに自由をかみしめながら飛び立った。

 そのときだった。

 1年前まで、暴れ柳が生えていた場所。今は切り株が生えている場所に、一人の人間がいるのが分かった。

 年齢にして13歳ほどの少年で、緑色のフードをした長いローブを纏っている。

 そして、彼は、

 

 

 

 

 シャンパンタワーの如くゴブレットでタワーを作っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……こんにちわ。セオドール・ノットです。去年シャンデリアにされていましたが、いろいろあって復帰しました。復活記念に一発芸を見せようかと思います。見てください」

 

 ノットが積み上げた『ゴブレット』のタワーの上によじ登ると、上から酒瓶を垂らした。

 それは、アイルランドの誇るスピリッツ。

 

 

 ノッキーン・ポチーンだった。

 

 

 ほぼ「工業用アルコールの間違いじゃね?」と突っ込まれそうなアルコール度数90度のトンデモ酒である。 

 頭上からほとんど工業用アルコールを注がれた『ゴブレット』は。

 

 

 

 

 

 

「フィニート!! コンフリンゴ!!」

 

 

 

 呪文と共に。『ゴブレット』のかけられていた術が解け、そこから大量の尻尾爆発スクリュートが折り重なって現れた。さらにその上にほとんど工業用アルコールが四散する。

 爆発呪文を唱えられ。発火点を超え、さらにそれが引火した結果――――。

 

 

 

 瞬く間に連鎖爆発を起こしたのだった。

 

 

 それに巻き込まれたニンバスはあっという間に小枝すら残らぬ炭と化した。

 何もかもが一瞬にして消え去ったのだ。

 

 

 束の間の大空だった。

 

 一瞬の自由だった。

 

 

 

 

 

 その大爆発は、はっきりと応援席からも見ることができた。

 

「ノット……生きてたのかフォイ!」

「だれだっけ?」

 

 スリザリン席ではべスとマルフォイが全く逆のリアクションをかましていた。

 

 

 同じく、グリフィンドールの応援席では、ハーマイオニーがその爆発を認め、すっと目を細めた。

 

 

「……腕を上げて、帰ってきたのね……」

「まさかあのボマーが帰ってくるなんてね……おったまげさ! マー髭ー!」

「いいわ――なら、もう一回燃やしてあげるわ!!」

 

 ハーマイオニーの目は完全に放火魔のそれと化していた。

 

 

 

 

 

「ふぉっふぉっふぉ……おもしろくなってきたのぅ……」

 

 

 

 

「コォー……」(爆発だーー!)

「コォオー……」(大変だー! 生徒さんたちを守らなきゃー!)

「コォー……」(俺たちが盾になるー! 爆風を生徒さんたちに近づけるなぁー!)

 

 

 

 

「戻ってきたぞぉおおおお! グレンジャーァアアアアアアアアア! ロックハート先生の敵は――――俺が取る!!」

 

 

 

 

 セオドール・ノットは盛大な勘違いをしていた。

 




次の更新はもう少し先になりますスミマセン謝罪しますペコリ。



以下主なスリザリン生についてのまとめ。





・ブレーズ・ザビニ・・・イケメン枠。黒人。母親美人。
            トラウマ発症につき心神喪失状態

・ダフネ・グリーングラス・・・美少女。純血の名家28一族出身
               祖先の呪いが血統遺伝する恐怖と戦っている。
               じゃ純血やめればいいと思う

・セオドール・ノット・・・帰ってきた男の子。
             目的は岩心先生の復讐とハーマイオニーへの逆襲。
             聖28族出身。つかこいつの祖先が聖28族名簿作った。
             父親がデスイーター。
             

・ミリセント・ブルストロード・・・聖28族出身。剛の者

・パンジー・パーキンソン・・・聖28族出身。映画よりなので美少女設定。
               影薄い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

The Only Crazy Thing to Do

とりあえずできたので更新します。
変な更新で申し訳ないの!

祝! 評価バー赤! ヒャハー!!


「ラ、ラドフォード」

「あ?」

「そ、その……今度ホグズミードに行くだろう?」

「だな」

「そ、そのーだなーー……ほ、ホグズミードに行く相手はいるのかい?」

「お前に教える意味」

「実は僕は結構ホグズミードに詳しいんだフォイ! だから――そのー……どうだろう? 僕とクラップとゴイルで……えー……そうだ、ノットの復帰祝いをしないかい!? おいしい紅茶の店を知ってるフォイ!」

「ノットて誰」

「思い出せラドフォード! 去年穢れたグレンジャーに喧嘩売った挙句敗北し、天井にぶっ刺さり、最終的には君が公開処刑に処したスリザリンの爆弾魔だフォイ!」

「そんな奴いたっけ?」

「この前ニンバスを爆殺してたのに!?」

「あー。偽ゴブレットの人か。盛大な爆破でしたお疲れさまでした」

「……何話してんだコラ」

「ちょうどいいノット! 今君の復帰祝いパーティーをやろっかなーとか話してんだフォイ! やるよな!? やるよな!? じゃあ皆でホグズミードいk――」

「……いらねーよカス。それ以上ふざけたことをピーチクパーチク鳴いてみろ。テメェら全員すてきな練炭に転生させてやるぞ」

「あら、何ですって練炭? イギリス人の主食じゃない。食べ物に生まれ変わるとかお伽の国までぶっ飛んだメルヘンは存在だけにして頂戴ね腐れアンデッド野郎」

「……ともあれ俺はレイブンクローのアホ共に呼ばれてんだわ。だから復帰祝いなんざいらねぇ」

「ですって、残念だったな這いつくばって絶望しろフォイカス」

「ひとつだけ聞きたいフォイ。お前らの倫理感は脳に御在宅でしょうか」

 

 マルフォイは玉砕していた。

 素直にデートしたいって言えばいいのに言えなかったのはおそらく思春期特有の馬鹿さ加減故だろう。

 男の子は正直じゃない。

 

 と、ションボリするマルフォイ。

 するとスリザリンの談話室に今年入ってきたばかりであろう1年生の少女が現れた。ノットとべスは何となく見覚えがある顔だな、とか思った。

 

「ラドフォードさん、ちょっとその言い方はあんまりすぎるんじゃないですか?」

 

 かわいらしい少女はマトモな思考回路の持ち主だったようだ。

 思わずマルフォイは感動し目を見開いた。

 

 すごい、ふつうだ。マトモなことを素面で言ってる! 

 

 

 

「マルフォイさんがお誘いしてくれてるのに、断り方がひどすぎます。もうちょっと相手のことを考えたらどうですか?」

「あ?」

「……よく言ったな1年生。もっと言ってやれ」

「あなたも同罪ですノットさん」

 

 少女はぴしり、とスリザリンの爆弾魔へと人差し指を向ける。

 

「練炭とか脅迫するのは本当にひどいと思います! あなたが言うと冗談には聞こえません!」

「……サーセンでした。お辞儀しますペコリ」

 

 ノットの下げた頭に踵落としを食らわせた少女はぴしり、と言い放つ。

 

「うぉお、ありがとうございます!!」

「そんなんで許したらウィゼンガモット法廷はいりません!!」

「どの道いらないでしょあんな金の力で腐ったカス法廷」

「言うなフォイ……」

「お前の父親がその汚職の筆頭でしょーが」

「ミスター・マルフォイを悪く言ってはいけません!!」

 

 

(え? コイツ何なの? カスの権化たるマルフォイ家の回しモンなカスなの?)

 

(……マルフォイのシンパか……消すか……?)

 

 

 マルフォイは行動は過激でも自分のことをよく言ってくれる謎の少女に感謝すら覚えていた。

 

「ともあれ二人共もっとマルフォイさんのことを――」

「ふぇ……アスティどこぉ~~」

 

 どこか舌っ足らずのふわふわした声色を聞き、あ、ダフネだ、とノット、べス、マルフォイは理解する。

 と、同時に少女の正体も悟った。

 

「あ、ダフネのボガード」

「ボガード(真)!?」

「もう……何ですか姉さん!」

「だ、ダメだよぉ……アスティ! そいつらの世界に入門すると帰ってこれなくなるよぉ!」

「フォイ……それ僕も入ってんのか?」

「ようこそ、『超越者』の世界へ」

 

 ダフネのセリフからすると少女の名前はアスティらしい。

 しかもどうやらダフネの妹らしい。

 確かに顔立ちがところどころ似ている。

 アスティは幼いながらもどこか凛とした居住まいでべスをまっすぐに見た。

 

 

 

「はじめまして、エリザベス・ラドフォードさん。アストリア・グリーングラスです」

 

 

 

「あっそ」

「……ふーん」

「フォイ……えー……ダフネの妹かい?」

「ふぇ……アスティ、そいつらの目を見ちゃだめだよぉ! 感染するよぉ! 狂気が」

「そんなラドフォードさんにひとつ言いたいことがあります」

「何でしょう、純血なので聞きます」

「ありがとうございます感謝をこめてお辞儀します」

「綺麗にお辞儀ができるいい子だと思いました。褒めます」

 

 アストリアはぴしゃりと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの純血思想はマジでクソだと思います! 死んでください! 心から!」

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だよぉアスティーーーーーーーーーー!」

「ハイクをよめ」

「……カイシャクしてやる」

「うるせえな、黙って死ねよ、レイシスト。純血主義なんざクソくらえ! です!!」

「あー……個人的に考えには賛同できないフォイけどそうゆうことをラドフォードの前で叫ぶ勇気には敬意を表するフォイ……」

 

 マルフォイだけが何か評価した。

 

 

「はい人の話を最後まで聞きましょうってママに習わなかったんですか? ご使用の脳みそは最新バージョンですか?」

 

「言うなコイツ」

「……大丈夫だ、問題ない」

「ふぇ……妹つおい……」

 

 

「ラドフォードさん、貴女が純血至上主義者のクソカスビ●チだってことは、よく分かります! だけど、それ言われた人の気持ちとか考えたことあるんですか? あなた自分がどれだけひどいこと言ってるのか、自覚はないんですか?」

 

「ねーな」

「……清々しいほど外道」

「べスちゃんクズすぎるよぉ……」

 

 

「ラドフォードさんは一回死んで転生することをお勧めします! 練炭に!」

 

 

「何よ、流行ってんのか練炭転生」

「……イギリス料理は練炭錬成」

「錬金術師という名のコックが味覚の暴力を振るうよぉ……!」

「それなんてニコラス・フラメルだフォイ?」

 

 

 

「大体、『穢れた血』だなんて差別用語を普通にガンガン乱用して恥ずかしいと思わないんですか!? 信じられない! 本当にプライドの欠片もないんですね! 人間として終わってます!!」

 

 

 マルフォイが吐血した。

 

 

「ゴフォイ!!」

「何血吐いてんのコイツ」

「……あぁ~~流れちゃったよ~~純血の血が~~~www」

「ふぇ……アスティそれ言葉の無差別攻撃だよぉ……しかも標的には一切効果ないよぉ!」

 

 

「あ……あれ……? どうしてこうなった……?

 

 と、ともあれ私は貴女の純血主義を否定しますから!!」

 

 

 言いたいことだけ一方的に言ったまま、アストリアは自室へと踵を返した。姉のダフネをそれを追う。

 

 

 

「え? なんだったの……今の……?」

「……言ってることが正論すぎてぐうの音も出なかったな」

「なんであの子スリザリンにいるのかしら?」

「……忘れたのかあのクソ組み分け帽子を」

「あぁ、帽子なら仕方ないわね。そろそろ燃やしたほうがいいわよねアレ」

「……同感」

 

 

 血の海に沈んだマルフォイが超哀れに請願してきたので、べスは仕方なくホグズミード逝きに付き合ってやることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルフォイは実に楽しそうだった。

 右手にゴリラ、左手に美少女その隣にはやはりゴリラという鉄壁を築いていた。難攻不落だ。

 だが一番ガードが堅いのは黒い髪の美少女、べスだったりした。

 さすがのマルフォイも自覚していたのだ。

 あー自分、恋愛対象にこれっぽちもなってねーなー……と。

 

 だが逃げる獲物が逃げれば逃げるほど追いかけたくなるのが男のサガである。

 そして、マルフォイはまだ発展途上な、少年だった。ゆえにその愚かさにすら気づいていない。

 むしろ目の前に現れた初恋に夢中になってしまっているのだった。良くも悪くもバカだった。

 

 マルフォイは、ロスメルタの店でべスと一緒にバタービールを飲みながら「あぁ、幸せだなぁ」なんて思っていた。

 べスは「ファッキン便座屋がないわ。クソだなホグズミード、こんな村焼き払ってやる」と思っていた。

 

 

 

「全部ブラックのせいだーー」

「知ってますか、ブラックはジェームズ・ポッターとその嫁リリー・ポッターの親友だったのですよ」

「だけど裏切ったのだー」

「その通りです。例のあのお辞儀人から二人と赤ん坊だったハリーを守るために『秘密の守り人』とかそんな感じのメンドクセー術使ったのに台無しにしやがったのです」

「最悪だなブラック」

「ブラック死すべし慈悲はない」

 

 

(……ん?)

 

 ホグズミード焼き討ち計画を立てていたべスの耳にふと妙な会話が流れてきた。

 どうやらホグワーツの教授陣が話しているらしい。

 ブラックとか闇の帝王、という単語が聞こえてくる。

 ……どうやらキナ臭い話をしているらしかった。

 

 

「で、奴はお辞儀帝王にチクった後にサッサと逃げやがったのです」

「で、ソレを追い詰めた奴ーーえーっとなんて言ったっけ、確か挽肉と化した奴」

「ピーター・ペティグリューですわ……可哀想に、あの二人をいつも英雄のようにあがめていました……能力から言って決してあの二人の仲間にはなれなかったレベルのカスです……。私は時にあの子につらくあたりましたわ。今では後悔している」

「そしてマグルと哀れなピーターというカスを惨殺した後魔法省にとッつかまってアズカバンにいたはずなのだが……不思議なことに奴は正気だった。

 あそこにいる連中はたいていは狂っている。独房にうずくまってブツブツと独り言を言っている。

 なのに、ブラックは『正気』だったのだ。ありえない吸魂鬼で正気を保っていられるなどと、『あの』例外を除いては存在しないは――――」

 

 べスはそこから先はどうでもいいなーと思ったのでスルーした。

 そんなことより大事なことに気づいてしまったのである。

 

 

(え? 何ブラックって……『こっち側』だってこと? 闇の帝王陣営ってことよね?)

 

 話の流れから憶測する。

 

(つまり――、脱獄した理由は――帝王をお探しするためか……もしくは……)

 

 

(ハリーをぶっ殺すため……よね)

 

 

 それは、ふと光差す一筋の道のように思えた。

 

 

 

 

 

 

(じゃあ……ブラックと合流すれば――――祝! 私!死喰い人デビュー!!)

 

 

 

 

 べスの顔がぱぁあああと輝く。

 そんな笑顔を見て「やっぱかわいいなぁ」と思うマルフォイであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日、深夜。

 

 

 スコットランド地方にて。

 

 

 

 

「あ~~今日も独立運動集会楽しかったな~~~~。決起はいつかな~~。早くイングランドから独立したいな~スコットランド最高~~~~イングランド人は皆殺し~~~~」

 

 楽しそうにそう言った青年――ジョックはがっしりとした体格に高い身長、という典型的なハイランダーだった。

 今日はスコットランドの集会に出ていたのだ。今から自家用車を運転して家に帰る。

 車の中にはアザミの押し花と『Wha daur meddle wi me』の標語が飾られていた。

 アザミはスコットランドの元国花であり、標語は『我らに触って無事に帰るものはいない』の意味である。

 

 家路を急ぐジョックはふと、道端に人影を認めた。

 

「ん? 困ってる人がいるぞ。女の人かな? いかん、スコットランド人として、助けなきゃ。人助けだ~」

 

 近くに愛用のハイエースを止めた。

 

 夜目にも輝かんばかりのシルバーブロンド、血の気が失せたような美しく白い肌。

 うわぁ、女神だぁ。とジョックは思った。

 

 

「すみません……あの……私、ハイランドに行かなくてはいけなくて……でも、このあたりのことはよくわからないのです……」

 

「そうですか、それは奇遇ですね僕はハイランドに今から帰ります」

 

「まぁ……あの、差し出がましいのですが……乗せてっていただけませんか? お礼はいくらでも」

 

「とんでもない! 同じスコットランドの女性を助けるのがスコットランド人ですよ! どうぞどうぞ。狭くてくっせー車内ですが遠慮なさらずに!!」

 

「……まぁ、ありがとうございます。お優しい人」

 

 

 女性はさっと助手席に乗り込んだ。

 よく見るとトンデモナイ美人だった。

 形のいい目は、アクアマリンのような透き通った宝石のようである。うわぁ美人は目まで綺麗なんだな、とアホなことをジョックは思った。

 

 

「あ、そうだ。気を付けてくださいね。なんか~~このへん『幽霊』が出るってウワサなんですよ~~」

 

「……まぁ、『幽霊』?」

 

「なんか~~霊感がある同志が言ってたんですけどね~~。黒っぽい服きた幽霊が出るらしくって~~~~。そんなばかな、って思ったんですけど~~でも最近体調崩してる奴が多くって~~~~」

 

「………………まぁ、それはそれは」

 

「なんか~~『二度と幸せになれない』とか『嫌なことばっかり思い出す』らしいんですよ~~~。怖い話ですよね~~。チョコレートが効くらしいんですけど~~~~」

 

「…………そうですか。怖い話ですね」

 

「ですよね~~、なんだか最近物騒でいけねぇやぁ。お姉さん知ってます? なんでも凶悪な銃撃殺戮マシーンがこの辺指名手配されてるってウワサでさぁ。いやぁ、そんな人是非スカウトしたいですけどね~~~~」

 

「…………その凶悪犯、なんて名前かしら?」

 

「あー、確か変な名前でしたよ~~~~えーっと星の名前だった。苗字はそう……ブラック」

 

「…………ひょっとして、シリウス・ブラック、ではありませんか?」

 

「そうそれです~~~~。シリウス・ブラックだぁ。キラキラ輝いてる名前ですよね~~~~しかも一等星で」

 

「…………だ」

 

「え? なんです~~~~?」

 

「どこ、だ……」

 

「……え? お姉さん??」

 

 助手席の女が、ジョックの首筋をつかんだ。

 

 

 

 

 

 

「どこだぁあああああああああ! シリウス・ブラァアアアアアアアアアアック!!!!」

 

 

「う、うわあああああああああ!」

 

 

 

「どこに居る!? クソが。あの野郎絶対許さない……! 必ず見つけ出してやる!! 私が見つけて!」

 

 

「ひ、ひぃいいいいいいいいいい!?」

 

 

 

「殺してやるぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 スコットランドは今日も平和だった。

 

 

 

 

 

 






ねつさがらない。
かゆうま。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルーピンの補習授業

「こんにちわ。レッドキャップです。人がかつて死んだ戦場跡に生まれて、マグルが一人でうろついているところをこん棒で襲うことが生きがいの弱小魔法生物です。

 今日は事あるごとに吸魂鬼に魂を吸われて毎回鬱になるポッターとかいうカスガキに吸魂鬼について説明しに来ました」

 

 

「よろしくお願いしますお辞儀します」

「私は必要ねーけどな。お辞儀します」

 

 

「概要を説明します。吸魂鬼は地上を歩く生物の中でももっとも忌まわしい生き物の一つです。

 もっとも暗く、もっとも穢れた場所にはびこり、凋落と絶望の中に栄え、平和や希望、幸福を周りの空気から吸い取ってしまうという生き物です」

 

 

「うん?」

「ざっくりしすぎてわからないわ」

 

 

「吸魂鬼の主食は人の幸福感です。幸福を吸い取られた人間に代わりに絶望感を与えていきます。たいていはうつ病になります。ちなみに最終的には魂を吸い取ることができます」

 

「魂だって?」

「あるのかそんなん」

 

 

「人は死ぬと21グラム軽くなります。それが『霊素』、魂の重さです」

 

 

「本当? すごいね」

「生者は死体にランクアップすると体内にあった水分が蒸発するからじゃないの?」

 

 

「魂を奪われた人間は昏睡状態の廃人になります。このことを『ディメンターがキスをする』と業界用語では言います。そうして最終的には同じ存在にとなり果てます。こうやって繁殖していく生物です」

 

 

「そんな……じゃあ皆元人間ということ……?」

「そりゃ善人が多い訳だわ納得しましたお辞儀しますペコリ」

 

 

「基本的にはそうだと思います。

 現在では彼らはアズカバンの看守として任命されています。1718年に魔法大臣ダモクレスが『人間使うよっか安上がりじゃね?』という安易な発想から任命されて意外とうまくいったので現在まで続いている悪習です。すっかり腐敗しています」

 

 

「うわぁ最悪だな魔法大臣」

「その名の通りソード・オブ・ダモクレスにクシザシになるべきクソ野郎ですね」

 

 

 

「吸魂鬼の対処法はいくつかありますが、最も効果的なのは『守護霊の呪文』を使用することです。『守護霊』を出現させる呪文で、ぶっちゃけ『OWL試験』レベルを遥かに超える超難易度呪文です。それが盾となり吸魂鬼を遮る壁となってくれます。ウォールマリアみたいな感じの」

 

 

「そうですか」

「分かりました。超大型吸魂鬼の求人広告を作ります」

 

 

「悪魔の末裔みたいな発想は置いといて続けます。

 守護霊は一種のプラスエネルギーで構成されます。具体的に言うと、希望や生きようとする意志、幸福などです。生徒、あなたは幸福ですか?」

 

 

「もちのロンです」

「完璧に幸福です」

 

 

「守護霊は各人違う形状を取ります。また、更に何か心情的に大きな変化があった場合、変更されることもあります。一番幸せだったときの思い出を、渾身の力で思い出したときに初めて『実体』を伴った強力な守護霊を作り出すことができます。

 以上です、せいぜいあがいて見せるんだな。このディストピアの中で」

「アバダゲダブラ!!」

 緑色の光線が迫る。

 だがレッドキャプはシュバッと華麗なるマト●ックス避けで死の直撃光線を回避した。

 

 

「あたらなければどうということはない」

「フン、甘いな」

 

 ルーピンが杖を振るとレッドキャップの下の床が落ちた。

 アバダが無効になったときのためにルーピンが徹夜して掘った落とし穴がそこにあった。

 今度こそレッドキャップに回避するすべはない。そこから真下に3メートルほど落下する。

 ボキっ!と何かが折れて砕けるような音がしたが絶命には至っていないのか、苦痛の叫び声が聞こえる。

 

 

「クルーシオ!! クルーシオ!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああ」

「アクシオ!」

 

 ルーピンはそう叫ぶと棚から何か液体のようなものを取り寄せた。

 どうやら油のようなものらしい。それをレダクトして落とし穴の中へと投げ入れる。

 

「インセンディオ!!」

 

 穴の中から聞くに堪えない程の悲鳴と何かが焦げ付く異臭がしてきた。

 

 ハリーは椅子から転げ落ちた。

 

「うわああああああああああああああああああああああ!!」

 

 べスは教室のドアまで駆け寄った。

 

「出してぇええええええええ! 誰かぁああああああああああああ! ここ開けてぇえええええええええええええええええ!!」

「うわあああああああああああああああああ! レッドキャップがああああああああああああ!」

「あああああああああああああああああああ!」

「死ぬぅうううううううううううう!」

「教師に殺されるぅうううううううううううう!」

「はい、シレンシオ。五月蠅い生徒は嫌いだな。静かにしようか」

 

 ルーピンの無慈悲な呪文により、強制的に黙らされた。

 

 

 

「まぁ邪魔なザコも死んだ事だし、さて、と。それじゃあハリー……。……はじめようか?」

 

 

 

 ハリーに断る権限など一切存在しなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局ハリーはその日、一度たりともマトモな守護霊を出すことはできなった。

 どうやら『幸せな思い出』とやらはあるらしい。

 ホウキに初めて乗った日、魔法世界に足を踏み入れた日、ロンやハーマイオニーと友達になった日……。

 それを思い浮かべて、「エクスペクト・パトローナム」と唱えればわずかながらに白い霧のような靄が杖から噴出する……させる、ことはできる。

 13歳の魔法使い見習いである少年にしては十分すぎる成果だ。だが、それで満足するハリーではなかった。

 ハリーが求めているのは吸魂鬼に対しての防御手段。そしてソレにはまだ遠いのだ。

 そして、真似妖怪の扮する『吸魂鬼』の前ではハリーの『守護霊』はあまりに無力だった。

 

 その日、ハリーは2回失敗した。

 どうやら幸せだった思い出が不完全だったらしい。じゃ別の思い出にすれば?とべスが言うと、ハリーはややうつむきながらに答えるのだった。

 

 

 

「母さんの声が聞こえるんだ」

 

 

 

「は?」

 

 

 何言ってんだおまえ、とばかりにべスは首をかしげる。

 ルーピンは何かを堪えるかのように押し黙ったままだった。

 彼にも人並みの感情と理性は一応心の隅あたりに1ミクロン位はあるらしい、尚満月の日は除く。

 母親の声が聞こえるのだ、とハリーは言った。ヴォルデモートに対して叫ぶ声だったと言う。

 「自分はどうなってもいい」「ハリーの命だけは助けて」と泣き叫んでいる、と。

  

 2回目は父親の声も聞こえたと言った。

「ハリーを連れて逃げろ」「あいつは僕が食い止める」おそらくはそれがハリーが最後に聞いた言葉だったのだろう。死の直前まで妻と子供を守ろうとした、男の最期だったのだろう。

 

 

「え? 闇の帝王の声は?」

 

「もちろんだよ、聞こえる」

 

「それにしたって真似妖怪さん優秀すぎるだろ。形態だけじゃなくって能力までコピーできんのかよこいつら」

 

「出力は本物の10パーセント以下らしいけどね」

 

「はいカス、ボガード、無能!」

 

 

 ハリーの緑色の目がべスをじっと見つめていた。

 こいつがこんな目してる時はたいていなんか言いたい時なんだよなー、とべスは全力でそむけようとしたが、そこには笑顔のルーピンの視線があった。

 このままじゃ殺されかねない、と思ったべスはハリーと向き合うことを選んだ。

 

 

 

「……べス、君は大丈夫?」

 

「何が」

 

「吸魂鬼だよ。君は、平気なの?」

 

「別に?つかなんで皆そんな騒いでんのか私全然わかんないわ」

 

「……どうして? なんで?」

 

 

 

 どうして、君だけなの?

 

 

 

 少年が口にした言葉は、クイーンズイングリッシュだったはずなのに。

 何故かべスには遠い異国の言葉のように思えた。

 

 

 

 

「それは多分私が超才能持ってるからでしょ。神が私にくれた恩寵って奴だわ」

 

「べス、今は真面目に聞いてほしいんだ。なんで君は大丈夫なんだ? ……何か特別な理由があるから?」

 

「ないわよそんなの。私が私だからでしょ」

 

「……べス、君は――」

 

 ハリーの中で何かが堰を切ったようだった。

 

 

「僕は――君は、君だけは僕の気持ちを分かってくれるんじゃないかって心のどこかで思ってたんだ。だって君は僕とよく似てる――もちろん違うってことはわかってるけど――それでも、他の皆よりもずっとずっと僕の気持ちを分かってくれてると思ってたんだよ!! だって、だって君も両親が居ないんだろ!?」

 

「あ゛? あなたと一緒にしないでくれる? 私のパパは――」

 

「そんなことはどうだっていい!! 君のパパはヴォルデモート側だったかもしれない! だけど……だけど僕にはそんなこと重要じゃない!! 

 君だって――――君だって『あの鏡』で自分の『家族』を見ただろう!?

 

 自分と親の姿を見たハズだろう!?」

 

 

「……違うわ」

 

「…………え?」

 

「見てないわそんなの」

 

 

 勢いに任せて言ったことを後悔した。

 だがもう既に手遅れだった。

 君だって、『欲しかった』家族を見たハズだろう? という問いかけは全くの空振りで終わってしまった。

 

 

「私が見たのはパパよ。……死んだ時のパパの姿よ」

「……」

「家族なんか見てないわ。だって、私には叔母さんが居るし、小さいころには叔父さんも居たし、ハウスエルフのティニーも居る。あとあんまよく覚えてないけど、昔死んだお婆ちゃんも居たわ」

「…………べス……」

「ハリー、私はそんなの望んでない。そんなの欲しくない。だって、『在る』んだから。今持っているものを欲しがる人間なんか居ない。

 

 

 ……私が――私はたった一回でいいから、パパの顔が見たかっただけ!!」

 

「…………べス」

 

「母親の声が聴けたならいいじゃない……父親の声が聞こえたならそれでいいでしょう? 何が嫌なの?

 ……いいえ、ハリー。あなたはちっとも嫌なんかじゃない。

 むしろ『聞きたい』って思ってる。吸魂鬼に幸福感を盗られれば、最悪の記憶を引きずり出されれば親に会えるって思ってる。

 自分の持ってる『人生で一番最悪の記憶の中』に居る両親に会えるんだ、って思ってる。

 だからダメなのよ!!」

 

 それは。

 まるで、全てを拒絶するかのような叫びだった。

 

 

 

 

 

 

「そんなに不幸が楽しい? 最低な過去の思い出が大好き?

 

 馬鹿じゃないの? ……そうやって一生自分を不幸にして喜んでればいいこの惰弱眼鏡!!」

 

 

「……じゃあ君はどうなんだ」

 

 

「……私、は……」

 

 

 何か、言い返そうと思った。

 だが、まるで話すことを忘れたかのように。

 声が詰まって、出てこなかった。

 何ひとつ。

 

 

 

 

「君は、どうなんだよ……自分は不幸じゃないって言うのは分かるよ。同情されたくないのも分かるさ。

 でも、違うだろ。

 

 べス、君は――――君はずっと、目を背けてるだけだろ」

 

 

「……」

 

 

「べス、君は今まで誰にも同情されたことはないかもしれない。可哀想だとか言われたことはなかったかもしれない。

 だけど、強くあることと逃げることは全然違うんだ。

 君はただ目を背けただけだろ!? 自分の不幸から逃げただけなんだ!!」

 

 

「だって自分で認めたら、どうしようもないじゃない!!」

 

 

 

 

 

 だって、そうやって生きてきた。

 それ以外に生きる術なんか、なかった。

 だから仕方なかった。

 それしか、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『死喰い人』と『アズカバンの囚人』の子供なんか、誰も助けてくれなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同情されたら終わりだと思った。

 情けをかけられたらもう立ち直れなかった。

 まだ怒りをぶつけられた方がマシだった。

 蔑まれる方が、何十倍も楽だった。

 

 そうやって、ずっと自分に言い聞かせてきたのだ。

 

 

 そうやって、ずっと生きてきたのだ。

 

 

 自分は決して不幸なんかじゃない。ほら幸せ。いつかママも帰ってくる。いい子にしてれば必ずパパと同じ道を進める。そしたら皆で、一緒に暮らせる……。

 

 

 

 二人の口喧嘩がもう取り返しのつかない所まで進む前にルーピンが制止した。

 ハリーの口に無理やりチョコレートをぶち込み、グリフィンドールまで戻らせたのだ。

 べスはまだ帰る気にはなれなかった。

 そのまま教室に残ったべスに対し、ルーピンは補習をやろう、と声をかけた。

 元々、べスは補習の追試のためにここに来たのだ。

 課題は真似妖怪。だから、このまま続行するのは効率も都合も良い話だった。

 

 

 

 

 やがて、バチン! という大きな破裂音と共に先ほども出た燃える男の断末魔が現れた。

 

 

「……リディクラス」

 

 

 

 べスが呪文を唱えるとまたしても、バチン! という破裂音が響く。

 いつか見た瀕死で血を吐く少女の姿――ダフネの妹、アストリア(偽)の姿に変わる。

 

 

「…………リディクラス!!」

 

 

 次は自爆テロ男だった。

 次は大きな蜘蛛だった。

 

 その次はミイラだった。

 その次はバンシーだった。

 

 その次はガラガラヘビ。

 その次は銀色の何か球体。

 

 

 リディクラス、リディクラス、と少女は唱え続ける。

 バカバカしい、バカバカしい、と何度も何度も復唱される呪文は、広い教室の石壁の中、何度も何度も反響しては自分の耳へと返ってくるだけだった。

 ルーピンは何も言わない。

 

 切断された手首。大きな昆虫。何かの悪霊、または愛するだれかの死体。苦しむ姿。

 

 

 

 

 その、どれもべスの『怖い』ものはない。

 

 

 

 

 

 もういい、とルーピンは言った。

 

 

 

「もういい、やめなさい。べス」

 

 

「いいです。やります。……私がこんな課題も出来ないなんて有り得ないんだから」

 

 

「……やめなさい、べス。今日、君はひどく取り乱している。冷静な状態じゃない。そんな心で、闇の生き物に対処するべきではない」

 

 

「……できるわよ……できる、んだから……!」

 

 

 リディクラス、とまた唱えた。

 発音は完璧だった、杖の振り方は申し分なかった。

 だったら、何がいけないのか――――その答えは、悲しいほどに明白だった。

 

 

 

 

「……べス、私はね」

 

 

「なんで」

 

 

「…………君が、『閉心術』の心得があるんじゃないか、と思ったんだ」

 

 

「どうして……」

 

 

 

 

「…………たまに居るんだよ。誰から習うわけでもないのに、生まれつき閉心が得意な人間が。

 べス、私はね……君も、そうゆう人間なんじゃないか、って思ったんだ。

 君はなぜだか吸魂鬼の影響を受けない、そして真似妖怪も変化しない。……だから、そうなんじゃないかと思っていたんだ」

 

 

「…………なんで、どうして、どうして!! リディクラス!!」

 

 

 

 ルーピンの腕が、べスの振り上げた杖を掴む。

 何もできなかった杖はそのままゆっくりと、下された。

 

 

 

 

「でも、違ったようだ」

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 ソレを否定する材料は何もなかった。

 嫌でも苦しくても悲しくても。

 どんなに自分が惨めでも。

 

 認めざるを得なかった。

 

 悔しさが、悲しさが、言葉にならなかった何かが、脳が処理しきれなかった感情が。

 

 ゆっくりと瞼の上へとせりあがってくるのを感じた。

 

 べス、とルーピンが優しく名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

「君は、『コレ』が怖かったんだね」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「君は、『見てもらえない』ことが怖かったんだね」

 

 

 

 

 

 

 違うと言いたかった、言えなかった。

 代わりに出てきたのは鼻水だった、しゃくりあげる吐息だった。

 上手く呼吸ができなかった。

 目の前の景色すべてがぐにゃぐにゃと水面を通して見えるようだった。

 

 

「べス、恐怖の度合いは人によって違うんだよ。それが分かりやすいか、それとも分かりにくいか。その程度の差があるだけだ。恐怖に優劣なんて、ありはしない。

 ……だけどね、べス。

 人が恐れを自覚したとき、やってはいけないことがある。少なくとも……私はそう信じているよ。

 それは、恐怖に屈して前に膝をつくことじゃない。

 また自暴自棄になって突っ込んでいくことでもない」

 

 

 いいかい、べス。と、ルーピンはあくまで穏やかに語り掛ける。

 

 

 

 

 いいかい、べス。

 

 

 それがどれほど、辛く、苦しくとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐れることから、逃げてはいけない」

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グリフィンドールvsレイブンクロー

 セドリック・ディゴリーという爽やかかつ清く正しく青春を送っているイケメンに対し。

 どす黒い嫉妬心、羨望、そして憎悪をむき出しにしたスリザリン勢は気に充てられた吸魂鬼が鬱病を発症するレベルでの負のオーラを発してコレを撃退。

 こうして

 

「俺たちもそんな青春が送りたかった」

「こいつらと俺たちの何が違う?」

「ただ入る寮が違っただけなのに。なのに、こいつらは正しい青春を送っている……」

「うらやましい。にくい。ゆるさない……」

「俺もハッフルパフに入りたかった」

「あの寮なんか臭いんだよな」

「地獄をみせてやる」

 

 という感じでスリザリンチームはハッフルパフを必要以上にフルボッコにする。

 そして得点差120点以上にまで開いた完全なる勝利を喜んだのは、スネイプだけではなかった。

 これにより決勝進出の可能性が浮上した――――グリフィンドール・チームだった。

 

 

 

「ということなので、私たちは高見の見物をさせていただきます」

「せいぜいザコ同士でつぶし合うがいいと思います」

 

「お前らその自信はどっから来るんだフォイ……」

「マントル」

「近くの地殻」

「局地的直下型震度7で頭ん中シェイクされてるとしか思えんフォイ。マントル状の脳みそ勝手に対流させとけ」

「そんな……ボールの頭蓋骨がモホロビチッチ不連続面に……!」

「あぁ゛!? 誰がホモ面だって!?」「言ってねーよ!!」

 

 という感じでスリザリンチームは応援席から上から目線で闘技場を睥睨していた。

 まるで王座からグラディエーターを見下す古代ローマ貴族のごとしである。

 そんな感じで選手が入場してきた。

 

 グリフィンドールがいつものように、飢えた獅子の如く、返り血まみれになった深紅をたなびかせながら、ホウキを飛ばしている。

 その中でスリザリンチームは見ていたものがあった。

 

「あれが……ファイアボルトか」

「世界最高のホウキ……家が一軒軽く買える程度の額よ。……アレをハリーに贈るだなんて、一体何ウス・ブラックの仕業なのかしら……」

「今日の日刊予言読んだか? グリンゴッツが破られてたらしーぜ」

「ザル警備ノルマ達成おめでとうございます。アズカバンといいグリンゴッツといい魔法界終わってんな」

「……その哀れな被害者は誰さんフォイ?」

「どうやらルーピン先生らしいぞ」

「銀行強盗、有能!」

「やはり神は正義を行ったフォイ! 鉄槌が下ったフォイ!」

 

 

「はっははははは…………あの駄犬殺す絶対殺すころすころすころすコロスコロス……」

 

 今後の生活費一切を失った人狼が何か吠えていた。

 この先村でも襲って人肉を食いながら生活するしかないだろう。

 

 獅子たちの先陣――戦闘モードに入った先頭のウッドが獅子王の咆哮が轟く。

 うっせーな。

 声デケェよ。

 喉壊せ。

 と口々のグリフィンドールの選手たちから同調の賞賛が上がった。

 

 

 

 

 

「我々は何をすべきか!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってましたぁァあああ!ウッドさんの超演説です!」

「名物フォイ! 名物フォイ!!」

「きゃーーウッドさんステキー!!」

 

 もうスリザリンチームのシーカーとビーターズは戻れなかった。

 

 

 

 

 

 

「我々は何をすべきか!? この試合に敗北すれば我らは決勝戦進出への足がかりを失うことになる! しかし!! 勝てば栄光が約束されるッ!!

 問おう、騎士の末裔、勇敢なるグリフィンドールの若獅子よ!!

 われらの敵は何だ!!」

 

 

「「「レイブンクロー!!」」」

 

 

「求めるのは何だァ!!」

 

 

「「「優勝杯!!」」」

 

 

「そうだァア!! 俺たちには最高のシーカーがついている――そして、世界最高のホウキがある!! 吸魂鬼さえ現れなければ、勝利はグリフィンドールのものとなる!!

 行くぞぉおおおおお! 狩りの時間だぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

 

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

 

 

 

 

 

 

「最近専ら狩られる方だけどな」

「しっ、みちゃいけません」

「これが熱すぎる狩人COかフォイ?」

 

 

 

 グリフィンドールのぶっ殺宣言ことパフォーマンスが一通り終了すると、次は『獲物』というべきレイブンクローがあたかも大鷲の如く優雅に空を舞いながら現れた。

 透き通るような蒼穹を中を切り裂くはより深い青。

 知性をよしとしたレインブンクローその人を象徴するかのような、群青だった。

 

 それを纏う、一人の少女が居た。

 

 

 蒼一色染められた世界の中で、すっと一筆引かれた純黒。

 

 それが髪だと気づくまでに、数秒ほどの時間を有するだろう。

 

 そのあまりに繊細かつ鮮やかな艶は西洋の人間が持ち得る類のものではなかったからだ。

 そこの奥に収まる顔は驚くほど白く、ボーンチャイナを思わせる陶器のような滑らかな頬から尖った顎先にまでは掛ける輪郭は神がもたらした最高演算とも言うべき曲線を描く。

 小ぶりな顔の中にはそれぞれ繊細ながらも造形のいいパーツが収まり、どこか繊細な黒曜石のような瞳が確実に意志の光をもってきらめいていた。

 乙女椿の花弁を思わせる、僅かに色香をにじませた淡い桃色の唇が、そっと開く。

 

 

 

 

 

 

 

「アイヤーッ! グリフィンドールの負け犬共には負けネーアルヨ!! レイブンクローが勝つネ。ファイアボルトは木っ端みじんなるヨロシ!」

 

 

 一体なんでそんな大声で喋るんだよ……。というレベルの大声だった。

 

 

「アヘン野郎共には負けねーアル!! 勝ったらホグズミードのチャイニーズタウンで打ち上げネ! 一番活躍した奴には四川料理奢ってやるヨロシ!」

「マジかFOOOOOOO!」

「チャン小姐最高!」

 

 頼むからもう少しだけ、本当少しだけでいいから静かに淑やかに喋ってくれ…………。という切実な願いが男女関係なく心中の声がダダモレであった。

 

 

 マダム・フーチがどこから持ってきたのか大きなドラをガッシャァアアアン! と鳴らした。

 試合開始だ。

 

 

 と、同時に空中にいくつかの『ゴブレッド』が打ち上げられた。

 フィニート、という声と共に爆散。

 大気中に謎の物質がまき散らされる。

 

 

「なんだあれ」

「煙幕だフォイ」

「マジかよ」

 

 

 煙幕を吸い込んだグリフィンドールの選手がゲホゲホと嫌な咳をした。

 

 

 

「孫子も言ってるネ。士兵変得可疑的手段(兵は詭道なり)。綺麗ごとだけじゃ勝てねーアルよ! レイブンクローは知性の寮ネ! 頭使うアルよ!!」

 

 

 

 チョウ・チャンはその美貌の顔を変なマスクで覆っていた。

 完全に防毒面に見える。

 スーコースーコーという呼吸音まで聞こえる有様だ。

 数少ない美点をなくしてどうする気だこの女。

 

 

「微小粒子状物質散布完了!! 一気に攻めるネーー!!」

「「「是!!」」」

 

 

「おい……おい……あの女今……今……!?」

「言ったフォイ……言いやがったフォイ……」

 

 観客席にプロテゴォオオ!とか泡吹き出し呪文とかを唱えだす者が続出した。

 

 

「「P●2.5じゃねーーか!!」」

 

 

「おいコラ散布してんじゃねーぞ!」

「フォオオイ! ノット!! 何してるんだお前!」

「……俺は悪くない。俺は『ゴブレッド』渡しただーけーでーーすーー」

 

 

「産業革命期に有害物質空気中に垂れ流して霧の都ロンドンとかアホなこと言ってた阿片キメてたブリカス共に何言われたって1ミリたりとも響かねーアル」

 

 

 グリフィンドールの選手陣は慣れない○M2.5のせいでトンデモナイ目にあっている!

 レイブンクローは光化学スモッグをものともせず物凄い勢いで空を舞う!

 おそらく彼らの肺は真っ黒になっているだろう。だが多少の犠牲は仕方のないことだった。

 少なくともチョウはそう考えていた。無論、自分以外。

 

 

 

『な、なんということでしょーーーーッ!! レイブンクローリード!! まさかの展開です!! 奴らは鬼かァ! 手段を択ばないのかァ!!』

『ジョーダン! 試合の解説をしなさい!!』

『ボールはケイティ、アンジェリーナ! よし、いけっ! っとおおおここで暴れ玉だぁあああ! 視界不明瞭につき流石のウィーズリーズも試合をメイキングできないッ!!』

『それにしてもよくレイブンクローの選手は飛べますね』

『よく調教されているんでしょうね、チョウ選手に』

 

 

 PMに慣れてきたグリフィンドールが巻き返してきた。点数差は50。

 ここでスニッチを掴めば、グリフィンドールが勝てる。

 逆にこの状況で掴まなければ勝利はどう動くかわからない。

 と、ハリーはスニッチの捜索を開始する。

 

 そんなハリーの視界に何かが入るのが見えた。

 

 きらり、と光る金色の羽。

 高速で動く鳥を模した勝利への黄金。

 グリフィンドールのゴールの周囲を回っているスニッチの姿。

 

 まるでどぶ川の奥底に沈むわずかな砂金のようなそれに向かってハリーは一気に加速した。

 その刹那。

 

 

「アイヤーーーッ!!」

 

 

『チョウ・チャンのタックルが炸裂ーーーー!! なんということでしょう!! そのまま進路妨害に入ります!! チョウ選手! コース潰しをしております!! 飛行妨害だーーーー!』

『それにしても、コメットでファイアボルトに対抗しているとは……一体どうゆう身体能力ですか』

『中国四千年の歴史でしょう』

 

 

「ハイーーーーッ! 行かせないアルヨーー!! ハイーーーーッ!!」

「う、うわぁ……」

 

 

 チョウはご自慢のマスクを取り去る。

 はらり、と長い黒髪が零れ落ち、極上の絹糸の鮮やかな漆黒が流れ落ちる。

 あぁ、風に靡くソレを一度でいいから触れてみたい、艶やかなそれを指に遊ばせてみたい、と男なら一度は、一瞬は願ってやまないだろう。だが極上なのは髪だけではない、その下の肌も玉のようにまるで何層にも織り上げた綾絹のように、滑らかで美しいのだ。

 その美貌は見るものの視線を釘づけにし、魅惑し、挑発し、囁きかけているようであった。

 

 無論ハリーも。

 

 その鮮烈な黒と白のコントラストから、目が離せない。

 

 

 

 

「落ちるヨロシッ! ハイーーーッ!!」

 

 白魚のような細長い指。

 桜貝のような繊細な爪。

 

 それらが、

 

 確実に凶器となってハリーの顔面へと叩き込まれた。

 

 

 

『チャ、チャン選手ーーーーーーーー! そのまま格闘戦に入りましたァアーーーー!? ほ、ホウキの上で格闘技を……か、カンフーをやってます!! カンフーを! 叩き付けています!! 俺は夢でも見てるのか……?』

『一体どうゆう身体能力ですか甚だ疑問ですね』

『あえて言いましょう! 今!会場のみなさんが思っていることを!!

 

 何考えてんだ!? 否!! 何者だぁ!? あの女!!??』

 

 

 

 

「ヤベェわ……今年最強のクィディッチ狂人の座はウッドさんじゃなかったわ……今更新されたわ……」

「狂人つか人間かどうか疑うレベルフォイ……」

「絶世の美貌の最高の無駄遣いを見た……」

「……そうゆうの大好物です」

 

 

 マルフォイは改めて思うのだった。

 

 顔が綺麗なヤツにロクなヤツは居ねぇ……と。

 

 

 

「ハリー!! 何してる!!」

 

 頭に鉄拳の直撃を受け脳震盪を起こしているハリーを覚醒させたのはウッドだった。

 

「相手を箒から叩き落せ!!」

「……は?」

「紳士ぶってる場合か!! あの女を殺せ!!」

「……ウッド……マジ……?」

「そうだぁ!! 相手が美女だろうと何だろうとクィディッチの前には皆平等!! 女子供だろうが容赦はするな! 殺るときは殺るんだぁ!!」

 

 ハリーの闘志に火が付いた。

 

 が、チョウ・チャンはそれを見逃すほど愚かではなかった。

 

 

「フン。目が据わったアルな……生き残ったアヘン。なら殺られる前に殺るアルヨ!!」

 

 チョウのコメットの後ろはハリーがファイアボルトの猛スピードで追尾してくる。

 このまま激突すれば確実にコメットとかいう耐久性ザコの紙箒に乗ってるチョウは死ぬ。

 追いつかれるまで、残り50.40……。

 と、距離と時間を確実に計測しながら、天啓のようなタイミングでユニフォームのマントを翻した。

 

 

 

 

 まるで艶やかに咲き誇る。

 

 

 大輪の牡丹のような。

 

 

 笑顔だった。

 

 

 

 

 

「爆竹食うアルヨーーーー!!」

 

「え、う、うわぁぁああぉおおおおおお!?」

 

『爆竹ーーーーーーーー!? し、信じられません……コレ本当にシーカー同士の殴り合いか!? なんだかもう……なんだかもう……。

 

 学生レベルを超えている!!!!』

 

『悪魔そのものの所業では、と問いかけてみます』

 

『しかも爆竹は追尾型だァーーー!? なんだこの魔法改造はーー!?』

 

 

 

 

 これを見ていた蛇寮の選手陣は皆心を一つにして同じことを思っていた。

 あぁ、よかった。

 

 俺たち、こいつらと戦わなくて。

 

 本当に…………よかった……。

 

「……ヤベェ……あいつヤベェよ……」

 

 べスの目にも涙が光る。 

 もうやだ、こんなのヤダ。見たくない。これ以上は精神が持たない。さっさとトイレ磨きたい……。

 

 

「ヤバすぎるフォイ……あいつ……あいつ……」

「……オッシャ、追尾成功。やったぜ俺天才じゃん」

 

 ノットだけが何か喜んでいた。

 

 

「ヤベェ……あの女やばすぎ……」

「あの女……チョウ・チャン……」

「ヤバい……頭がとかじゃない……もうそんなレベルじゃない……」

「あいつ……本当に……人間なのかフォイ……?」

 

 

「「チョウやべぇよアイツ」」

 

 

「……凍り付いてんな、いろいろな」

 

 

 スリザリン応援席は極寒に見舞われていた。

 

 

 

 

 

 その後爆竹が空を舞ったり、ゴールが爆破したり、クアッフルが砕けたりしたけれど、特に何の問題もなくハリーがスニッチを掴んでグリフィンドール勝利で試合は終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







残弾切れです。ここから完結まで貯めるのでもうちょい待っててください。

と、布団をかぶりつつガタガタ震えながらお辞儀します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クィディッチ決勝戦

シリアスなクィディッチ決勝戦の話



 獅子vs穴熊。

 

 シーカーの負傷、獅子の演説、吸魂鬼の強襲――――まさかの獅子寮敗北。

 ニンバス2000との別れ。

 

 

 白蛇vs穴熊

 

 狙うはセドリック・ディゴリーただ一人。

 シーカー死すべし。

 ――――蛇寮ボロ勝ち。

 

 

 大鷲vs獅子

 

 最新型特攻箒――ファイアボルト

 絶世の美人シーカー、P●2.5、あいつ本当に人間か。

 ――激戦の末に獅子の勝利。

 

 

 

 

「いやぁ、すごかった」

「穴熊と大鷲の戦いはマジで感動した」

「本当にすごかった。まさかレイブンが人海戦術使ってくるなんてな」

「あぁ、本当怖かったな、リザーブ選手フル投入だなんて前代未聞だよな」

「倒しても倒しても敵がおきあがってくるなんて恐怖だよな、ハッフルのビーター最後には死んでたじゃん」

「同じビーターとしてああはなりたくないけれど」

「だが、結局クアッフルだけじゃ勝負がつかなくて、スニッチ頼みになった終盤のシーカー同士のドッグファイトは目を見張るものがあった」

「あぁ、あんな長丁場ずーーっと背後取り合ってるとか凄いわ本当」

「そう、まるで……神に捧げる舞のようだった」

「澄み切った紺碧の下で踊る鮮やかな黄色と青が綺麗だったわね」

「最後二人で一気にスニッチを掴んだときには手に汗握ったな」

「えぇ、どっちだ!? って思ったわ」

「だがどっちが勝ったとしてもいい試合だった……間違いなく、ホグワーツ史に残る名試合になったと言えよう」

「たとえ、この試合を見たすべての人々が死に絶えたとしても、語り継がれるであろう」

 

「「いい試合だった……と…………」」

 

 

 

 

「それ3位決定戦だフォイ!!」

 

 

 

 

 マルフォイの突っ込みが響き渡った。

 控えテントの中。

 

 

 

「いいじゃんマルフォイ。すげぇいい試合だっただろ」

「たたかわなくフォイ! げんじつと!」

「るせぇ。ころすぞ」

 

 容赦なくべスはマルフォイに杖先を向けた。

 

「気持ちはわかるフォイ! だけど……」

「いいじゃないか……ちょっとだけ、現実逃避したって……なぁ?」

「いやべつに私は本気で言ってんだけど」

「はっはははは……俺たちはスリザリン、さ。確かに、勝利のためには手段を択ばない。要は勝てばいいんだ、勝てばソレが正義になるんだ。歴史上の偉人なんてもんは実質人格破綻者ばっかりだ。だが、奴らはなぜ評価されているか……わかるだろ? 『勝った』からだよ。勝利さえすれば全てが肯定されるんだ…………」

 

 ボールは完全に危ないことを言っていたが、その眼はよどみ切っていた。

 光がない。

 完全にヤル気のないままとりあえずホウキに跨って空へと飛び上がった。

 もう恐れるものはなにもない。

 

 大空には既に赤いマントが翻っていた。

 

 

「あ、アレは……ウッド! ウッドさんだ!」

「来るフォイ……来るフォイ!」

「録音準備は済ませたかぁ!? 来るぞ! おそらくは今年最高のガイ×チ演説が!!」

 

 

 若干色めきたつスリザリンチームを睥睨しながら、血に飢えた獅子を率いたボス獅子が、その声の限りに咆哮をぶちかます。

 どう聞いてもマトモな声量ではなかった。

 

 そして、戦気を鼓舞するべく。

 

 言葉に魔力を宿して、放つ。

 

 

 

 

 

 

「諸君、私はクィディッチが好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

「フォイ!?」

「マジでか」

「フルスロットルだぜウッドニキ!」

 

 

 

 

 

「諸君、私はクィディッチが好きだ。

 諸君、私はクィディッチが大好きだ。

 

 殲滅戦が好きだ

 電撃戦が好きだ

 打撃戦が好きだ

 防衛戦が好きだ

 包囲戦が好きだ

 突破戦が好きだ

 退却戦が好きだ

 掃討戦が好きだ

 撤退戦が好きだ

 

 平原で 街道で

 城内で 草原で

 凍土で 砂漠で

 海上で 空中で

 泥中で 湿原で

 

 この地上で行われるありとあらゆるクィディッチが大好きだ」

 

 

 

 

「そんな所でクィディッチやらねーフォイ」

「クィディッチの殲滅戦って何」

 

 

 

 

 

 

「戦列をならべたチェイサーの一斉パスが轟音と共に守備陣を吹き飛ばすのが好きだ

 空中高く放り上げられたクァッフルでゲームが崩壊したになった時など心が踊る

        

 ビーターの操るブラッジャーがチェイサーを撃破するのが好きだ

 悲鳴を上げて燃えさかる箒から飛び出してきた敵を箒なぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

 

 箒先をそろえたプレイヤーの横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ

 恐慌状態の一年生が既にゴールしたゴールを何度も何度も旋回している様など感動すら覚える

 

 敗北主義のカスを談話室に吊るし上げていく様などはもうたまらない

 泣き叫ぶ応援が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるクアッフルにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。

 勝った気になった抵抗者達が雑多な箒で健気にも立ち上がってきたのをスニッチが木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

 

 スリザリンに滅茶苦茶にされるのが好きだ

 必死に守るはずだった寮の点数がガンガン減っていく様はとてもとても悲しいものだ

 レイブンクロー物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ

 セドリック・ディゴリーに追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

 

 

 

 諸君 私はクィディッチを地獄の様なクィディッチを望んでいる

 諸君 私に付き従うグリフィンドール戦友諸君

 君達は一体何を望んでいる?

 

 

 更なるクィディッチを望むか?

 情け容赦のない糞の様なクィディッチを望むか?

 鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様なクィディッチを望むか?」

 

 

 

 

「「「「クィディッチ! クィディッチ!! クィディッチ!!」」」」

 

 

                

「よろしい ならばクィディッチだ」

 

 

 

 

「我々は満身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ

 だがこの暗い闇の底で6年もの間堪え続けてきた我々にただのクィディッチではもはや足りない!!

 

 大クィディッチを!!

 一心不乱の超クィディッチを!!

 

 

 さぁ 諸君

 

 地 獄 を 創 る ぞ」

 

 

 

 最早ウッドを止めるものは、何処にも居なかった。

 

 

 

「時は来た!」

「箒を掲げろ!!」

「「柄を起こせ!!」」

 

 

 そして始まる。

 

 

 

 

「獅子王の旗の名に誓い――」

「純血の誇りの名のもとに――」

 

 

 ウッドの獅子吼に呼応するが如く赤いローブが空を舞い、緑色が風に翻る。

 

 

 

「野郎共! 狩りの時間だぁあああああああああああああ!!」

「奴らに身の程を教育してやれぇええええええ!!」

 

 

 

 激突する赤と緑が。

 

 深い蒼穹を一直線上に切り裂いていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことがありましたけどはいフツーに負けましたーーーー」

「今年の優勝は安定のグリフィンドールでーーーーす」

「ファイボルトに手も足も出ませんでしたーーーー」

「無理ゲーwwww」

「勝てるwww訳wwwねーwwww」

 

「えーじゃあ皆さんゴブレッドを~~」

「せーのっ」

 

「「「「完敗ーーーー!!」」」」

 

 という感じでスリザリンは約束された準優勝だった。

 圧倒的ファイアボルトの蹂躙に勝てるわけが無かったのだ。

 こうして祝準優勝会が粛々と行われる中、べスはぶっちゃけ(癖になることで定評のあるウッドの演説以外)どーでもいいーと思っていたのでさっさと使命であるホグワーツのトイレ清掃に行くことにした。

 まずはほぼ唯一の友人(洗脳済)であるマートルのトイレだ。

 

 

「入ります」

 

 するとトイレには先客が居た。

 

(こんな寂れたトイレに来るなんて……さては上級者か……?)

 

 べスは目を凝らす。

 よく見るとそれはゴーストだった。

 マートルの友人だろうか。いや、あいつは友達居ないはずだ。

 

 

 

 

「レイブンクロー最下位じゃねーか!! どーなってんだよチクショーがーーーー!!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!!」

「聞こえねえんだよもっと大きな声で鳴けオラ!!」

「ひぃいん! ありがとうごじゃいましゅぅううううううう!」

「うるせぇ!!」

「ゴフォ!」

 

 

 

「……」

 

 

 レイブンクローのゴーストだったような灰色のレディが灰色の女王様と化していた。

 

 

 下でうずくまっているのは悲しいことにスリザリンのゴーストである血みどろ男爵だ。

 完全に『お馬さん』状態だ。

 しかも表情は満足げに恍惚としている。とてもいい表情だ。

 あぁーーッ! そこぉ! だめぇ!! はぅううううん! とか

 あっ! あっ! ッ、きもち、きもちいいっ!これ好きぃッ…!とかイイ声で啼きながら灰色の女王様にムチで滅多打ちにされていた。

 血みどろだ。

 べスは血みどろ男爵が血みどろの理由が今分かった気がした。そして知りたくなかった。

 

 そんな冒涜的な光景を見たべスは思わず自分の頭に杖先を向けていた。

 

 

「オブリビエイト!」

 

 忘却の優しい光がべスの頭に流れ込んでいく。

 

 

 

「……さて、マートルのところはあとまわしにしようそうしよう」

 

 

 ベスはこうして時間軸の修正を図った。

 

 

 

 

 ~3階の男子トイレ~

 

 

 

 

「入ります」

「うわ!? な、何だラドフォード!?」

「なんだノットか。生理現象か?」

「ちょ、待ておま」

「気にすんな掃除の時間だ、そこどけ」

「……まだしてる」

「さっさとしろ。もみじおろしにするぞ」

「ひぇ……!?」

 

 ノットを無視してベスはさっさと個室に入る。

 これからストレス解消のためのトイレ清掃だ。

 べスにとってトイレとは聖域。

 つまりトイレ掃除とは、神聖なる場所を清めるための儀式であると言えるのだ。

 そう。

 それは言うならば。

 

 神に捧げる祈りの時間なのだ。

 

 

 

 と、意気込んで個室のドアを開けた。

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには小汚いオッサンが座していた。

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!?」

「うっせ」

「うわぁああああああああああああああああああああ」

「殺すぞ」

「ひぃいいいいい!? だ、誰かぁああああああああ! 誰かーーーー! 男子トイレにーーーー!! 男子トイレにーーーーーー!!」

「俺の目が狂ってなければ君は女の子のはず」

「オッサンがあああああああああああああああああ!」

「……」

「神様ぁああああああああああ! トイレの!! 神様がぁあああああああああああああ!」

 

 そこに通りすがりのクルックシャンクスが現れた。

 

「にゃーん?」(ここから助けを求める声がする)

「アバダケダブラ」

 

 クルックシャンクスは蒸発して死にました。

 

 目の前で死の呪いをぶっ放されたべスは死に物狂いで逃げ出そうとする。

 だが目の前のオッサンの方が早かった。

 相手は13歳の少女だということを全く考慮しないラリアットをぶちかまし、そのまま床に這い蹲らせ、額に杖を向けた。

 

 

「ごちゃごちゃうるせぇ」

「ひっ……」

 

 

(なんだこいつ……やべぇ……やべぇぞ……)

 

 

 

 

 

 ベスにしては珍しく、額に汗が浮かび、そして頬を伝うのがはっきりと分かった。

 

 

 

 

 

 

「はじめましてシリウス・ブラックです」

 

 

 





PCが壊れたりネットが断線したりで大変でした。
決してリボーンにうつつを抜かしていたとかそうゆう訳じゃありません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灰燼

シリアスなアズカバン決着編その1


 トイレで生理現象を済ませていたところを美少女に乱入されたセオドール・ノットが目にしたものは。

 

 

「……おいどうしたラドフォード…………なっ!?」

 

 

 小汚い上にちょっと変なにおいのするオッサンがはぁはぁ言いながら少女を床に押しつけているという光景だった。

 

 

「……じ、事案発生ーーー!! 事案発生ーーーー!!」

「おいこら待てクソが」

「うっせぇクソなら今さっきやったばかりだ!! 手を挙げろ! 未成年魔法使いに対する淫行容疑で拘束する! また罪を重ねたなブラック」

「されてねーよ!!」

「男子トイレでやらかすとかお前何する気だ!?」

「あ? ナニじゃねーの?」

「……お、お許しください……!」(ためらいがない……だと……?)

「……ス●トロプレイ……だと……!?」(一生アズカバンから出すなよ……この変質者……)

「てめーらが黙ってりゃ何もしねーけどな」

 

 ブラックが譲歩したので、べスはすかさず答えることにした。

 

「黙ります」

「墓まで持っていきます」

「はい信じません。お前らそこで壁に手ェつけろや。一瞬で頭ん中オブリビエイトしてやっからよ」

「「ひっ……!」」

「もう二度と笑ったり泣いたりできなくしてやるよwww」

 

 だが、ブラックさんに交渉の余地はなかった。

 

 

「改めまして、こんにちわシリウス・ブラックです」

「こんにちわ、お辞儀しますぺこり」

「這いつくばって靴を舐めます」

 

 ノットがトイレの床に這いつくばってまるで荒み切ったシリウス・ブラックその人の心を映したかのような黒ずんで擦り切れた薄汚い上にくせぇ靴を舐めようとした。

 

「汚ねぇんだよ!!」

「ありがとうございます!!」

 

 ブラックの黄金の右足が炸裂!

 鳩尾を蹴られたノットはそのまま這いつくばってのた打ち回ることになった。

 はいざまあみろーーとべスは思ったのだった。

 

「はじめまして、エリザベス・ラドフォードです。趣味はトイレ掃除で特技は人を血筋で区別することです。自分の性格を一言で言うと少しせっかちな純血至上主義者で将来の夢は死喰人を志しています。好きなものは便座で嫌いなものは穢れた血です。宜しくお願いしますお辞儀しますぺこり」

 

 われながら完璧な自己紹介だ、決まった! とべスは満足した。

 

 

「英国勲章レベルのクソですね、この場で存在ごとキレイキレイしてやろうかと思いましたお辞儀します」

 

「なので死喰人のシリウスさんには敬意を表していますお辞儀します」

 

「十代の頃からそんなこと言ってるとかマジ性根の腐りきった救いようのないカス弟を思い出します」

 

「うわぁ、すごいなぁ! 光栄です!」

 

「丁度いいので散々利用した挙句ボロ雑巾のように捨ててやろうかと思いますお辞儀しました」

 

 

 激しい言葉のドッジボールの末に、勝ったのは一等星のきらめきを持つ性根真っ黒なおっさんとなる。

 恐らくは長年の監禁と逃亡生活の果てであろう。

 もはやこの小汚い中年男は良心だとか人間らしさとか生きる希望とかそういったプラスの感情をオブリビエイトしているようだった。

 

「とりあえずハリー・ポッターを誘き出せ。禁じられた森まで連れて来い」

「は? なんで?」

「何か『叫びの屋敷』使おうと思ったらよ、入口だったはずの暴れ柳燃えつきてたんだわ、真っ白にな」

「マジか。それやったのはハリーです」

「……え?」

「車でホグワーツに突っ込むのが邪魔だったんで粉塵爆発させてました」

「…………え?」

「とにかくハリーを殺すんですね! わかりました! じゃあ私はおびき寄せます!!」

 

 トイレ清掃用の道具と共に走り去っていく少女の後姿を見ながらシリウス・ブラックは思った。

 

 

 

 

 ジェームズの息子が思ったよりパワフルになってる……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝になりました。

 

 

 ロンのペット、スキャバーズは行方不明になりました。

 変わりに封筒が落ちています。

 

 

 

『お前の鼠は預かった。返して欲しくば禁じられた森まで来い  べス』

 

 

 封筒の中には、切断されたスキャバーズの尻尾が同封されていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、ハリー見てよ! あの女とうとうやりやがったぜ!」

「べス……ロンの鼠を誘拐するなんて……一体何が……」

「クルックシャンクスーーーー!? クルックシャンクスー!? どこーーーー!?」

「まぁいいや、ぶっちゃけ僕あんな鼠どうでもいいんだけどハリーどうする?」

「きっとべスは誰かに脅されてるんだよ。助けに行かなきゃ」

「私の猫がいないわ」

「ハリー。正直に言う。確実に罠だと思うよ! 君の息の根を止めるためのね!!」

「べスはそんなことしないよ」

「私の猫が居ないわ」

 

 話し合いの結果。

 眼鏡と愉快な仲間達は禁じられた森を目指すことにした。

 

 目指した森はやっぱり鬱蒼としていて暗い。

 唯ですら光差すことのない森は、夜闇という環境ではよりいっそうとその暗さを増すようだった。

 しかも、この森はかなり広大だ。

 

「帰り道……ちゃんと分かるかなぁ」

 

 ハリーが心配からやや弱気とさえとれるような発言をする。

 だが、ソレを責めることはできなかった。

 

 森は暗い。

 生半可な目印など、全く役には立たない。

 ハリーはふと、童話を思い出した。

 貧しい両親に「もう養うことが出来ない」と森に置き去りにされた兄妹は、きっとこんな気持ちだったのだろう。

 暗い森の中、響く猛獣の声に怯えながら、細い月明かりだけを頼りに歩いていたのだろう。

 あの童話はどうやって、『帰り道』を作ったんだったっけ……と。

 

 

「ハリー大丈夫?」

「うん、ただ……帰り道がちゃんとわかるか不安になったんだ」

 

 それはもっともだ。とロンとハーマイオニーがうなづく。

 ハーマイオニーはしばらく考えるようなそぶりをみせた。

 彼女は頭がいい。

 学校で一番の秀才だ。だからこそロンとハリーは期待をこめて彼女の思考を待った。

 

 そして、何か思いついたのかハーマイオニーがぱっと顔を上げる。

 

「そうだわ! 『目印』よ! 『目印』をつければいいんだわ!!」

「おいおい、マー髭だよハーマイオニー? そんなことぐらい僕らだって思いついたさ!」

 

 もう少しましな案が君から出てくると思ってたんだけどな、とロンが肩をすくめて見せた。

 だが、ハーマイオニーは少しもたじろいだ様子がない。

 それどころか全くブレていない。

 

「何言ってるのよ、貴方それでも魔法使い? いい? 見えないなら、見える『目印』にすればいいじゃない」

「え? そんなことってできるのかい?」

「可能でしょ」

 

 ハーマイオニーが杖を振る。

 

 

 

 

 

「インセンディオ!!!!」

 

 

 

 すぐ近くにあった樹齢だいたい100年の木があっという間に炎上した。

 ゴォオオと100年間紡ぎ続かれてきた長い樹木の命が燃える音がした。

 乾いていたのだろう。炎の周りはあっけないほどに早く。

 業火は闇の中でより一層光輝くようだった。

 

 

「知ってた」

「でーすーよーねーーー」

 

「こうやって木を燃やしていけばいいわ!! さぁ行くわよ! インセンディオ!!」

 

 ハーマイオニーはキラキラと目を輝かせならじゃんじゃん放火していく。

 それはある種の熱に浮かされたかのようなちょっとアレな感じの目だったけどハリーとロンは気づかなかったことにした。二人ともまだ炭人形にはなりたくなかったからである。

 

 

 そして、森には。

 

 インセンディオ!インセンディオ!と元気よく叫ぶ少女の声と。

 汚ねぇキャンプファイアーが燃え上がる音が。

 響き渡るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻

 

 ルーピンの事務室。

 

 

「おい、トリカブト系のルーピン脱狼薬を持ってきてやったぞ……あれ?」

「こんばんわスネイプ先生に薬品の調合を手伝えと言われて強制労働させられていましたセオドール・ノットです」

「……に、つき合わされたマルフォイだフォイ」

 

 スリザリン寮監セブルス・スネイプと調合を手伝わされていたノット、に引きずり込まれた犠牲者マルフォイが三人でルーピンの事務室を訪れる。

 しかし、部屋は無人のようだ。

 

「あれ? ルーピン先生?」

 

 マルフォイが特に何の脈絡もなく机や箪笥を調べていく。

 そしてマルフォイが洋服箪笥に手をかけた瞬間。

 

「フォオオオオオイ!?」

 

 長らく狭い空間に監禁されていた哀れな『真似妖怪』が逃げ出した。

 いままで沢山の魔法生物が葬り去られてきたのを眼前で見せられ続けた真似妖怪は脱兎のごとく逃げ出す。

 それは自由への逃走だった。

 もう、恐れるものは何もない。

 これからは自由に生きるんだ、と真似妖怪はルーピンの魔の手から逃れ、散っていった同胞の分まで生きていくのだった。

 

「何だフォイ!? 今のなんだフォイ!?」

「ルーピンがいない……なんだか嫌な予感がする……」

「……」

 

 脱狼薬を入れたゴブレットを手に持っているノットが何か思いついたように窓へと駆け寄った。

 

「……あー……なるほど」

「どうしたノット?」

 

 スネイプの問いにノットが答えた。

 

 

「先生! 大変です! 『禁じられた森』が燃えていーーまーーすーー(棒)」

「何だと!?」

「フォイ!?!?」

「わー大変だーすぐに消しにいかないとーー(棒)」

「すさまじい勢いで放火されていく……まさか……これは……!?」

 

 

 

「…………グレンジャーの仕業だフォイ……」

 

 

 

 マルフォイの第六感は当たっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か木が焼けこげる異臭と共に。

 火の手が近くに迫りつつあることをべス、ブラック、そしてルーピンは自覚していた。

 

「え? なんだこれ?」

「これは……ミス・グレンジャーの仕業のようだね……」

「ハリーが来たわね」

 

 こいつら何言ってんだ? という目でシリウス・ブラックが旧友と女子生徒を見つめた。

 少女は片手にネズミを持っている。

 そして尻尾を切られたネズミをゴミを見るような目で見ていた。

 

 

 

(うーん、やっぱ3人で来たか……穢れた放火魔と6番目の血の裏切りが相手ね……)

 

 

「おびきよせることに成功しました。ので、このネズミはもう用済みです。はい殺します」

「ちゅーーーー!」(あかん、殺さないで! 殺さないで!!)

 

 べスの杖先が躊躇なく鼠に向けられる。

 その時だった。

 

 

「待て」

 

 ルーピンから制止の声が響く。

 

「何ですか、先生」

「ミス・ラドフォード。生徒なら先生の言うことを聞きなさい……杖を下げなさい」

「……なぜですか??」

 

 

(なんだ? なにをたくらんでいる……?)

 

 

 べスは半信半疑という目でルーピンを見つめた。

 そういえばなんでコイツここにいるんだろう? とも思った。

 ルーピンがゆっくりと微笑みながら優しい口調で、なぜなら、と口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その鼠を殺すのは私だ」

 

 

「ファーーーーーーーーーーイ!!」

 

「ちゅう」(わぁ懐かしの友よ! 変わんねーなオイ)

 

 

 

 

(こいつ……また…………)

 

 

 

 べスの脳内に様々な光景がリフレインする。

 

 

 

『こんにちわ。コーンウォール地方のピクシー小妖精です』

『アバダゲダブラ!』

『説明が長すぎるからアバダしといたよ。全くこれだから害獣は嫌だね』

 

 

 

『レッドキャップです』

『アバダゲダブラ!!』

『あたらなければどうということはない』

『クルーシオ!! クルーシオ!!』

『インセンディオ!!』

 

 

 

 それは、今までルーピンの犠牲となってきた生き物たちの最期だった。

 

 

 

(間違えねえ……コイツ……)

 

 

 

 

 

(こんな時にいつもの殺戮衝動を発動させるなんて……!)

 

 

 

 

 

「待てリーマス!」

「どうしたシリウス」

 

(ぶ、ブラックさん……!)

 

 ブラックが狂人ルーピン先生を制止する。

 さすが死喰い人だ。殺意の使い方を弁えている。このルーニーぶっころせ、とべスは安堵した。

 が、彼女は思い知ることになる。

 

 

 

 

 その幻想がぶち壊されるということを。

 

 

 

 

 

 

「その鼠は私が殺す!!」

 

 

 

「あばばばばばばばばばばばばば」

 

 

 

 

 

(お前もか――――――――――――い!!)

 

 

 

 

 べスは心中でシャウトした。

 シリウスの目は何故か殺意に満ち溢れてギラついている。

 

 

 

「邪魔するな! 私の獲物だぞシリウス!!」

「私はこのときを待っていたあ! 13年も!! アズカバンで!!」

「13年も!?!? アズカバンで!?!?」

「いいや私が先に目をつけたァ!」

「邪魔建てするならお前から殺すぞルーニー……」

「やってみろマッドフット……!」

 

(なにが起こってるんだってばよ……?)

 

 

 信じられないことに目の前のおっさん二人はケンカしていた。

 今にも殺し合いに発展しそうだ、一触即発だ。

 どっちが鼠を殺すかで大喧嘩している。

 べスは何だか手の中のネズミが気の毒に思えてきた。

 殺人鬼二人に追われるとか哀れすぎる。

 

 

「可哀想なので鼠を守ります」

「ちゅう!」(やったぜ)

「ふっ、バカな小娘だ。大人二人に勝てると思っているのか!」

「べス。こっちにその鼠を渡しなさい。君から消すことになるぞ」

「上等だ来いよ」

「待てリーマス。今夜死ぬのはただ一人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ れ は お 前 だ」

 

 

 

 真っ赤な炎が眼鏡の光を反射していた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

問題児たちが獅子寮から来るそうですよ?

シリアスな禁じられた森決戦 その2


その眼鏡はレンズに映るすべてを焼き尽くすかのような業火をたたえていた。

 

「探したぞシリウス・ブラック。懺悔の用意は出来ているか」

 

 

 

(来やがった……)

 

 どうやら親の復讐とかそうゆうことに燃えまくっているらしい、ハリーからはどす黒い怒りのオーラが発せられていた。復讐鬼と化した眼鏡は鬼神のようだった。正直視界に入れたくない。

 べスは額に脂汗が浮くのを感じていた。

 

(一時休戦だわ……ぶっ殺スイッチが入ったハリーは……正直ヤバい……)

 

 何とかまわす頭で戦略を練りながら横目でブラックを見る。

 ブラックの栄養失調でやせた顔は、なぜか青ざめているように見えた。

 

「ハリー……わたしを殺すのか……?」

 

 どこか現実が受け入れられていないような声だった。

 

「おまえは僕の両親を殺した」

「……否定はしない、だが話を」

「話? 話だって? もう遅いよ何もかも! 覚悟しろ、その名の通りにお星様にしてやるよ!!」

 

 ハリーの声は震えていたが、杖腕は微動だにしなかった。

 

「お前はヴォルデモートに僕の両親を売ったんだ!」

「聞いてくれ」

「聞く? 何を? お前は―」

「インセンディオ!!」

「プロテゴ!!」

「ハリー! 聞いちゃダメよ!! 話す余地なんてないわ!!」

「小娘が……シレンシ――」

「インペディメンタ!!」

「ステュピファイ!!」

「プロテゴ!! ボンバーダ!!」

 

「――――お前は父さんと母さんを騙したんだろ、この裏切り者が!!」

 

 

 

「ブラックさん、説得は無駄です!」

「ハリー……! わたし、は……」

「今のハリーは冷静じゃない。頭を冷やさせるんだ」

 

 

 

「ステュピファイ!!」

「プロテゴ!」

 

 ハリーの杖の先から容赦ない失神呪文が放たれる。

 腐っても防衛術の先公と言うべきか、ルーピンが盾の呪文で防ぐ。

 失神呪文の乱れ打ちあいが始まり、その隙に「インセンディオ!」という可憐な少女の声がし、木々は無事燃焼されていった。

 勇気を何よりもよしとするグリフィンドールの生徒たちにより、熱心な森林破壊活動。環境破壊のボランティアだ。

 

 その時、ルーピンの部屋から『火事』を目撃したのだろうマルフォイ、ノット、スネイプの3人が合流した。

 

 瞬間。

 

 

「「ステュピファイ!!」」

「な、なんだフォイ!?」

「……アクシオ! スネイプ先生!!」

「え」

 

 現れたマルフォイとノットに向かって容赦ない失神呪文が浴びせられる。

 と、同時にノットが杖を振り、13歳の子供が使うにしてはかなり上級な魔法、呼び寄せの呪文を使いスネイプを引き寄せる。

 アクシオの呼び寄せと、ステュピファイの着弾がほぼ同時だった。

 つまり。

 

 

「……お前等……話あえ……」

 

 とスネイプは言い残して気が絶えた。

 

「フォオオオイ! 先生! 先生しっかりするフォイ!!」

「スネイプ先生は犠牲になったのだ……」

「……おい」

「なんて奴等だーースネイプ先生のかたきうちだーー(棒)」

「僕しってるフォイ……お前が『プロテゴ・スネイプ()』とか言ってたの知ってるフォイ……」

「……あー、今日は夜空がきれいだなーーーー」

 

 

 一方スネイプの壮絶な最後を目撃したハリーたちは若干正気にもどっていた。

 

 

「イキナリ現れて退場した油ギッシュ・オイリーヘア=スネイプが何か言ってたから聞いてやることにしました」

「一時休戦だわ」

「そうだなブラック。さぁ命乞いをしろ。ハイクをよめ……」

「殺意MAXじゃねーか……話す気が微塵もねぇな……」(意訳:流石ハリーさんです、ブレませんね)

 

「 シリウスは じつはハリーの 名付け親 」

 

 シリウス・ブラックは川柳を読んだ。

 

「な、なんだって!?」

「シリウスは実は君のゴッドファザーなんだよ」

「それどこのコルレオーネ」

「ゴッドファザー違いだフォイ!!」

「ははっ、ブラック・ファミリーなんかほぼマフィアみたいなものだよね! マー髭!」

 

 

 ハリーは困惑していた。

 おかしい、名付け親? 父親と母親を裏切ったこの人が? ヴォルデモートに両親を売ったこいつが?

 少年の困惑を見て取ったブラックが、ここだ! と言わんばかりに杖を向けた。

 

「レジリメンス!!」

 

「しまっ――!」

 

 

 ハリーの思考とブラックの思考が入り混じる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若いシリウスはバイクを走らせていた。

 

 

 

『え? ピーターを秘密の守人にするのか?』

『あぁ、そうだ』

 

 子供のときから変わっていない。

 友人のジェームズは得意げな顔で、アイツをハメてやるんだと言った。

 

『まさか奴もピーターは秘密の守り人になってるなんて考えもしないだろう?』

『……なるほどな。裏をかくって訳か』

 

 なうほど、ジェームズらしい。

 相手の心理を読み、ソレを逆手に取る戦略、と言うわけだ。

 だが、一瞬だけ、こころの底には思うことがあった。

 

『……』

 

 そうか。

 

 やっぱり、俺は、信用できないか。

 

 

 当たり前と言えば当たり前だろう。

 現に弟は死喰い人。従兄弟も死喰い人。一族郎党は純血主義一色の家だ。簡単に信用する方がバカだろう。

 

 それでも、ジェームズだけは言ってくれたのだ。

 

『俺は、俺の親友だったお前を信じる』

 

『つまり。お前を親友にした俺を信じるってことさ。その方が気が楽だろ? な? パッドフッド』

 

 どこまでもアイツらしい。

 傲慢で尊大で、自信過剰で、負い目なんか何も無い――。

 

 そう。

 だから。

 

 傲慢で尊大で自信満々なアイツなら、きっと大丈夫だ。

 きっと。

 ……きっと。

 

 

『……あ』

 

 

 目の前にあったのは、襲撃を受けた後だろう家。

 そして最期までリリーとハリーをかばったのだろう―親友の変わり果てた姿だった。

 

 

『あああああああああああああ!!』

 

 

 驚くほど頭は冴えていた。

 

 裏切られたのだ。

 いや、裏切られていたのだ。

 裏をかくつもりが、かかれていた。

 ピーターが、裏切り者だったのだ。

 あいつがヴォルデモートに密告した。だからヴォルデモートが殺しに来た。

 

 ピーターが、不死鳥の騎士団の中に潜んだ『狼』だったのだ。

 

 その後の行動は早かった。

 

 

 

『何故だ!! なんで……なんで裏切った!!』

 

 親友だと思っていた裏切り者は命乞いをしていた。

 もう何を言っているのかも分からない。

 いや、何を言っていても関係ない。

 

 

『友達だったのに……』

 

 

 頭の中が憎悪で焼き切れそうだった。

 

 

『友達だったのに!! 裏切ったんだ!! お前は!!』

 

 

 信じていたのに。

 

 

 

 

『アイツはお前のことを信じていた!!』

 

 

 

 どうして。

 

 

 

 

『お前を!! 信じていたんだぞ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして俺じゃなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリーの声は震えていた。

 

 

 

「……裏切り者は……ピーター……? ピーター・ぺティグリューの……方……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「え?」

「フォ?」

「……ん?」

 

「裏切り者はピーター・ペティグリューだったんだ……」

 

 

「待てこらおいクソ眼鏡。ピーターさんはそこの一等星に木っ端微塵にされたはずだわ」

「ピーターはアニメーガスな動物もどきだったんだーー!」

「マー髭だぜハリー!! 二酸化炭素吸いすぎで頭おかしくなっちゃったのかい?!」

「今更何言ってんだフォイ……組み分け帽子に脳みそ吸い取られてんだろグリフィンドール……」

「スキャバーズだ。スキャバーズがピーターなんだ……!」

「……死んだはずのピーターがアニメーガスで……? 鼠に擬態していて……? じゃ、じゃあブラックは……そこの一等星さんは……?」

「もう限界だ!! いいからそこの鼠を殺させろ!!」

「早くその鼠をこっちに渡すんだァ!! ハリーハリーハリーハリー!!」

「うるせえお前等だまってろ!!」

「インセンディオ!!」

 

 穢れた血による容赦ない発火攻撃によってべスの来ていたローブの裾が燃え上がる。

 ビビッたべスがすぐさま「アグアメンティぃいいいいい!!」と唱えて鎮火する。

 即効で燃やされそうになった暫定ピーターな鼠が逃げ出した。

 シリウスとルーピンが先を争うように組み付く。

 

「……」

「……先生……」

「……おい……おい……指名手配犯……」

 

 13歳の少年たちの目に映ったのは、オッサン二人が鼠を取り合って揉みあっているという凄まじいシーンだった。

 

 

 そんなこんなで何か魔法でピーター・ペティグリューが現れる。

 

 

 

「……り、リーマス……シリウス……な、ナツカシノトモヨー! お元気そうで何よりです」

「正体現したなこの裏切り者がァ!!」

「死ねこの鼠野郎!! そこらへんのミミズに体中食い荒らされて死ね!!」

 

 

「ファアアアアアアアアアアアアアアア!?」

「あああああああああああああああ!?!?」

「あばばばばばばばばばばば」(口から泡を吹く)

「アバダダダダダダダダダダダ」

「黙るフォイ!!」

 

 

「あの日何故裏切ったァ!?」

「うっかり闇の帝王に密告したのだ~~、てへっ☆」

「私なら友を裏切らなかった!!」

「許してほしいのだ~~」

 

 

 大好きなのはひまわりの種みたいな口調でピーターは無様に命乞い(?)をしていた。

 が、シリウスは聞く気が毛頭ないようだった。

 

 その様子を呆然と眺めながらべスは思考した。

 背後では「友を裏切るくらいなら死を選んだ!」とか「この臆病者! 卑怯者!」とか何か聞こえてきたけどスルーすることにした。

 

 

(え? つまり……なんだ? え?)

 

 困惑するベスの横でノットがぶつくさ何か言い出す。

 

「……未登録のアニメーガスかよクソが。そんなもん読めるwww訳wwwねーwwww」

 

「なにいってんだお前。分かりやすく英語喋れ。まるで幼稚園児を相手にするようにな」

 

「……元気よくお名前いえるかな~~?」

 

「ベス・ラドフォードだよーー」(幼稚退行)

 

「そっか~~ベスちゃんか~~。あのね~~あそこのおじさんたちはね~~『動物もどき』だったんだ~~動物に変身する凄い魔法使いだったんだよ~~」

 

「え~? なんでそんなことするの~~?」

 

「多分ケモナーの気のある変態さんたちなんだよ~~。ともかくソレで死んだふりをしていたんだ~~12年間も~~。あっちのおじさんもきっとソレで『アズカバン』を脱獄したんだと思うよ~~~~」

 

「わ~~すごいすごい~~。じゃあどうゆうことなの~~?」

 

「うん、だからね。僕たちが黒だと思ってたアズカバンの囚人なシリウスは実はシロで、死んだとおもってたピーターが実は生きてて鼠で死喰い人さんだったってことなんだ!」

 

「そーなんだーー……ん? 待て」

 

「キレーな空だなーーー」

 

「聞け」

 

「綺麗な空だなーー」

 

 イラッときたベスの渾身の回し蹴りがノットの腰に炸裂する。

 クリティカルヒットしたソレはノットの腰骨にガッツリ入ったのだった。

 

「たわば! ありがとうございます!!」

「おかえり。

 ……つーことは何? 私……」

 

 

 なお、背後ではピーターとハリーとオッサンどもの話は続く。

 

 

「ジェームズとリリーにクリソツなのだ!」

「ハリーの前でジェームズとリリーの話するとかどうゆう神経だ!」

「コイツ、ムカつくけど殺す価値ないな、と思いました」

「優しいのだ」

「ハリー同情の余地はないぞ」

「なので、吸魂鬼の皆さんに引き渡すことにしました」

「前言撤回なのだ。中身はリリーにマジでクリソツだなコイツ……鬼畜ってレベルじゃねーぞ……」

「何とでも言えよ裏切りモノが。死ぬより辛い思いを味わえ。楽に死ねると思うな」

「ひぇ……」

 

 

 

 

 

 

「あの一等星さんにダマされてた訳…………?」

 

「はいその通りです」

 

「……」

 

 ベスが杖を振り上げる。

 

 

「アバダゲダブラ!!」

 

  

 鋭い緑の閃光が放たれる。

 が、標準を全く定めず撃ったソレはシリウスには当たらなかった。

 変わりに近くを通りかかった何の罪も無いユニコーンに命中!

 ユニコーンはその儚い生涯を終えました。

 

 

「よくも騙してくれたわね!! 死ね! シリウス・ブラック!!」

 

「嵌ったほうが悪いってママに習わなかったのかなお嬢さん」

「黙れママはアズカバン脱獄中で今行方不明よ。ステューピファイ!!」

「プロテゴ!!」

 

 ルーピンが盾の呪文でベスの失神光線を防ぐ。

 だが

 

「エクスペリアームズ!!」

 

 ノットの武装解除がルーピンの手に当たる。

 すかさず拾いあげようとしたルーピンだったが

 

「ペトリフィカス・トタルス!」

 

「……ノット君……」

 

「シレンシオ!!」

 

 シレンシオを喰らったルーピンが黙った。 

 ノットがギラついた目で怨嗟に満ちた声を出す。

 

「……あぁ、そうだ。よくも騙しやがったシリウス・ブラック」

 

「……」

 

 

(え? なにコイツ? ……なんかめっちゃ怒ってんだけど……怖)

 

 

「……俺はテメェに協力してやりたかった。いや……つか、誰でも良かった。『死喰い人』ならな……アンタの逃走に力を貸して死喰い人側に恩を売って、ついでに目撃情報もやって魔法省側にも情報を売る……どっちにもテキトーに擦り寄っておくっつー俺の計画があった。

 …………テメェの嘘のせいで全部パーだ。クソ野郎が」

 

「あぁ、『ノット』か。死喰い人の息子だな? お前も父親と同じ道をたどりたかったのか?」

 

 シリウスが挑発するように笑う。

 

 

「……あんな馬鹿と一緒にするんじゃねぇ。俺の生き方は俺が決める」

 

「どうかな。ともあれ残念だったな。ピーターを魔法省に引き渡せば私の罪は晴れる。……どうだね、もし、君も家族のくびきから自由になりたいなら、私が口添えをしておいてや――」

「ほざけ。俺をハメやがったテメェはここで消す」

 

(超同意)

 

 ベスは思った。

 粘着質な男子は気持ち悪いなーと。

 

 

「……面白い子だ。全く。だが勝算はあるのか? 13歳の子供達だけで?」

「……ねぇよ、そんなの」

「分かってるくせに挑むのか?」

 

 挑発気味のシリウスに言葉に対し、ノットは――笑った。

 

 

 

「何勘違いしてんだよ。馬ぁ鹿。気づいてねぇと思ったのか? なぜか今年だけ『月に一度』いなくなるスネイプに『スリザリン生』が気づいてねーと思ったのかァ?」

 

 

「……! 貴様何……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は空が綺麗ですね、ルーピン先生??」

 

 

 

 





あと3話ぐらいで終わる予定です。

ウンバボ族ね、お気に入りが1000件突破したら……炎のゴブレッド買いに行くんだ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変態教師と笑えない犬

シリアスな親友との戦いです。




 夜空は透き通るように晴れ渡っていた。

 雲は一つとして存在しない。

 だが澄み切った黒い空の下では、赤い炎が燃えていた。

 遠くから見ればソレはさぞ美しい緋色に映えただろう。

 

 そう、つまり。

 

 ルーピンがわざわざ月光を浴びないように……と注意して選んだはずの森は、ハーマイオニー・グレンジャーによって焼き尽くされてしまったために遮蔽物が全く無い状態になっていた。

 

 煌々と冷たく光る白銀の直射月光が、

 燃え盛る森へと降り注いだ瞬間。

 

 おや、ルーピンのようすが……?

 

 

「うぉおおおおお!!」

「!?」

「リーマス! ちゃんと薬は飲んだのか!? リーマス!!」

 

 ルーピンの来ていたヨレヨレの上半身の背広が謎の勢いで弾けとび、

 胸の意味不明の七つの傷が剥き出しになる。

 

「てめえらに今日を生きる資格はねえ!!」

 

「リィイイマァアアアス!!」

 

「ウォオオオオオオオオ!」

 

 おめでとう ルーピン先生は世●末覇狼にしんかした!

 趣味はヒャッハーたちを肉塊へと華麗に変身してあげることだ。

 

 

「おっしゃ、チャンス到来なのだ!」

 

 すかさずスキャバーズだったピーターが鼠へとメタモルフォーゼ!

 そして「逃げるんだよォーー!」とかほざきながら、とっとこ隅っこ走って逃げてった。

 一方残された者たちの戦いは続く。

 

「シリウス……貴様の罪の数を数えろ」

「リーマス! しっかりしろリーマス!」

「貴様は、私の銀行口座を更地にした」

「え?」

「アレが全財産だった」

「マジ? あんなハシタ金が?」

 

 

「あ」

「あ」

「フォ」

「……やってしまいましたなぁ」

 

 

「 は し た 金 だ と ? 」

 

「り、リーマス落ち着けやめろrrrrr冷静になれ人の心を忘れるなぁあああああ!!」

 

 

(はいキレましたーー! シリウス・ブラック終了のお知らせ!)

 

 

「坊ちゃん育ち……」

「金銭感覚狂人め」

「金持ちなんか皆くたばれば皆幸せ」

 

 

「くっ……やるしかないのか……!」

「変わった遺言だな我が友よ……」

 

 

 シリウスが、「ここは私に任せて君たちは逃げるんだ!」とか死にそうなこと言った。

 シリウスがおもむろに上半身に纏っていたボロ雑巾を脱ぎ始める。

 そこには。

 

「ふん……ぬぉおおおお!」

 

 鍛え上げられた筋肉が。

 

 

(は?)

 

 

「来いよ、リーマス……杖なんか捨ててかかって来い!!」

「フン、言われるまでもないッ! ほあたっ!!」

 

 二人が土を削りながら蹴り上げ、高く飛翔ッ!

 そしてお互い残像を残す程度の速さで拳を交えるッ!

 鍛え上げられた筋肉と筋肉。

 筋肉がぶつかり合い、ほとばしり、そして弾ける……。

 

 

「え? え? ……おい魔法しろよ……」

「最強の魔法使いの戦いに杖など不要」

「ヤレヤレだね、あのオッサンが人狼をひきつけている間にズラかるぞ、ハーマイオニー!」

「そうね、もう燃やすものもないしね」

 

 ハーマイオニーとロンは通報しに逃げました。

 だが、ハリーは動かない。

 ベスは動けない。

 ノットは残ったほうにオブリビエイトやっとけばいっか、とか考えていた。

 その時だった。

 

 

『アオォーーーーン』

 

 

 遠吠えが響き渡る。

 

 

「ぬ!?」

 

 同族の遠吠えを聞いたルーピン先生が着地。

 そして反応。

 

「どこかで誰かが私を呼んでいる声がする……!」

 

 と、現実を自分の都合のよいように解釈していた。

 

「私を求めている声が聞こえるッ! 行くぞ!!」

 

 アオォオーーーーン! と叫びながらルーピン先生は四速歩行でダッシュし、戦いの場所から去って行った。

 そう、ルーピン先生は森へ帰っていったのだった……。

 

 遺されたシリウスも着地する。

 

「シリウス!!」

 

 唯ひとり残った、今のシリウスの味方であろうハリーが名づけ親の下へと駆け寄った。

 

 シリウスの肩からは血が流れている。

 皮膚は避け、所々に打撲跡が散り、血とか汗とかそんな感じの液体がいろんな場所についていたけど、シリウスは満足したかのような笑顔だった。

 

「……あぁ、ハリー……ケガは……ないな……」

「おじさん! 大丈夫だ。もうルーピン先生はいない!」

「ハリー……私……は……」

 

 ゲホッとシリウスが何かの混じった咳をする。

 内臓が傷ついたからであろう、シリウスの口元には血が見えた。

 ハリーは呆然とそれを見る。

 

「そんな……血が……!」

「ハリー……私のことは……いいんだ」

「おじさん!」

 

 

「…………いいんだ……これで」

 

 

 シリウスは満足げな表情、そう。

 何か大きな仕事をやり遂げたあとの漢の顔をしていた。

 

 

「ずっと、ずっと後悔していたんだ」

「おじさん……」

 

「あの日のことを……ずっと。

 あの日もし、もっと自分が気をつけていたら、と何度も何度も。

 もしあの日に戻れたらと。あの時に戻ることが出来たのならと……。

 時間を巻き戻せればいいのに、と……何万回も、後悔した。

 だから……」

 

 

「おじさん!」

 

 

 何かベスは明日の朝ごはん何かなーとか考えていた。

 

 

 

「ハリー、君が無事で本当によか……」

 

 

「一緒に暮らそう! おじさん!!」

 

 

 

 

「!?」

「……禁じられた森のみんなー僕の友達がーー同棲するそうでーーすw」

 

 

 

「え? ……ハリー? その発想はあったけどまさか君の方から提案してくるとは思わなかった……?」

「おじさん! 一緒に暮らそう! ゴッドファザーなら十分その資格はあるはずだよね!? 僕、ダーズリー家はもうまっぴらさ! だからおじさん……もういいなんて言わないで」

「……ハリー……そんなことを言われると……俺は……僕は……私は……」

「エピスキー!」

 

 ハリーが呪文を唱えると。

 

「死んでも死にきれねえ!」

 

 べりっと何か薄い皮が破れ、下半身をやっとのことで覆っていたズボンまで消し飛びパンツ一丁になって復活したのだった。元気百倍、シリウス・ブラックだ。

 

 

「……蘇ったわ」

「マジ使えねえなあの人狼」

 

「ベス。君とは戦いたくないな」

 

 眼鏡は光を反射していた。

 今、ハリーは目前に迫った幸福な二人暮らし、という理想に目がくらんでいる状態だ。

 おそらく、その邪魔をするものは何であろうとぶち壊すであろう。

 

 ベスとノットはお互いに冷や汗をかきながら頭をフル回転させていた。

 

 相手は無駄に超タフなブラックと、『生き残った男の子』だ。

 過去ヴォルデモートと何度も立会い、さらには去年バジリスクまで殺しやがった奴だ。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 火が消えてゆく。

 周囲の気温がガクリと下がる。

 それは。

 

 まるで真冬が突如として訪れたかのように、ピキピキと凍っていくようだった。

 

 

「この感じ……」

 

(来たか……)

 

 

「やめろ……」

 

 シリウスがうめいた。

 

「やめてくれ……頼む……」

 

 真っ黒な何かが視界に飛び込んできた。

 それも、ひとり、ふたり、ではない。

 絶望の使者、恐怖の体現者たちが。

 

 百人もの群れを成して、真っ黒な塊になって滑るようにシリウス・ブラックに近づいてくる。

 遥か向こう側では(まだ居た)マルフォイがガタガタと震えながら「起きるフォイ! 先生起きるフォイ!」とスネイプを叩いていた。

 そこにいる誰もがいつものように、冷たい何かが身体を貫き、目の前が霞んでいくような感覚にとらわれたことだろう。

 四方八方から現れた吸魂鬼たちが、規律正しく包囲網を敷く。

 刹那。

 

 

 

 

 

「見つけたぞおぉおおおおおおおお!! シリウス・ブラァアアアアアアアアアアック!!!!」

 

 

 

「!?」

「……今度は何だ……?」

「起きるフォイ! ヤバいフォイ先生!! おきてくれなきゃ困るフォイ!!」

「zzz……」

 

 

 

(……え? でも……間違いない……この声……)

 

 

 

「おじさん! 何か来た! 女の人の声だ!! おじさんの名前――」

「……だ」

「おじさん!」

「……誰だ……? アイリーンか? リザか……? 元カノが追ってきた!?!?」

「……おじさん……」

「だめだ! まずい……心当たりが!! 多すぎる!!!!」

「おまえもう黙ってろスケコマシが」

「はい」

 

 

 

 

「……ブラックの元カノが特定してきたのか……?」

「違うわ」

「……は?」

「違うわ、だって……だってこの声」

 

 

 ベスは何か光が収束することを確認した。

 そしてその光が緑に染まっていることにも気づいた。

 

 

 

「……あの予備動作……間違えないわ!! 伏せろノット!!」

 

「え」

 

 

 

 

 

「アバダゲダブラ――――」

 

 

 

 

 

「……なんか死の呪文が聞こえ気ががががが」

「ママよ」

「は?」

「私の…………ママだわ!!」

「……は?」

 

 

 

 

 そして弾け飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マキシマァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれたのは。

 

 極大の圧倒的な直死呪詛。

 

 

 

 

 

 






記念すべき『第一回! オリジナル魔法の紹介コーナー♪』です。


『アバダゲダブラ・マキシマ』
特大アバダです。死と恐怖を局地的に撒き散らす超迷惑な呪文です。
多分愛があればしなない。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブラック家に生まれたんだがもう俺は限界かもしれない

 
シリアスな禁じられた森最終決戦です。



 巨大な緑色の光が木々を薙ぎ倒し、焼け残っていたわずかな生存樹木を蒸発死させていった。

 壮大なる環境破壊。

 この調子ではいずれ『元・禁じられた森』という名の更地、もしくは砂漠になるのも時間の問題かと思われた。

 

 

「見つけたぞ!!」

 

 そんな伐採を一瞬にして行ったのはまるで月の化身か、と見まごう美女……のはずだが、今はどっちかというと鬼人と言ったほうが当たってそうなやはり美人だった。

 

 それもまるで初恋の人に再会したかのような喜びっぷりである。

 

 

「見つけたぞ見つけたぞシリウス・ブラック!!」

 

 

 生き別れの恋人と再会したかのようなハシャギっぷりである。

 

 

「……おじさん!? めっちゃハイだよ!! 昔の恋人なの!?」

「……だ」

「え?」

「……誰?」

「…………」

 

 シリウスおじさんは身に覚えがないようだった。もしかしたら身に覚えが多すぎるからかもしれないという可能性はとりあえず置いておく。

 が、べスのお母さまことオフィーリア全く容赦するつもりはないようだ。

 

「貴様が生きてた証拠さえ抹消してやるよシリウス・ブラ――」

「ママ!」

「……あ、あれ?」

 

 そこでオフィ―リアは初めて自らの愛娘の存在に気づいた。

 

「……えーっと……? べスちゃん?? え? や、やだ嘘。エェーー??」

「ママどうしてこんなところに!? 一応ここ禁じられた森よ!?」

「一応って……ママが学生だったころはモロ禁じられていたハズ……ま、いっか」

「初めましてーー! 娘さんと同じ寮のーー! セオドール・ノットです!」

「あら、やだベスちゃん男の子と夜中に禁じられた森で何してるの~~! もーー!初めましてーーそこ危ないから気を付けてねーーセオドール君ーー」

 

 

(……え? なに……これ……?)

 

 

 べスはただ、困惑していた。

 突然現れた母親、と吸魂鬼の大群に。

 

(ママ? なんで?? ママがどうしてここに……? だって私のママはマグカスのコンビニ強盗やからしてアズカバンに投獄されてたはず……。

 ……だけど、そう、だけど、今年の初めに……脱獄してたわ……)

 

 

 

「うわぁあああああああああっ! や、やめろぉおおおおおおお!」

「ああああああああああっ!」

「やめてくれぇえええええええ! たのむぅううううううううううう!」

 

 

 

「コォー」(見つけたぞシリウス・ブラック!)

「コオォー……」(検挙だーー! お縄だーー!)

「コオォ……」(はっ!? アレはメガネの生徒さん!! 危ないですよ!)

「コォー……」(生徒さんを人質に取るなんて卑劣なやつめ!!)

 

 

(……考えてみれば……おかしかったわ……。

 ママが脱獄したのはシリウス・ブラック脱獄と同次期だった……。

 ……そもそも……ママはなんで脱獄したの……?)

 

 

 

「ああああああああああぁあああッ!」

「おじさん! シリウスおじさん!! くっ……え……エクスペクト――」

「やめてくれ――――頼む! 頼む!! くっ、ああああああああ!」

 

 

 

「コォー……」(くっ! 駄目だ! 男の子に当たってしまう!)

「コォオー……」(ど、どうしよう……)

「コオォー」(はやくたすけてあげないと! 危ないよ!)

「コォオオ……」(でも魂吸っちゃうと生徒さんまで危険になるよ!)

 

 セオドール・ノットはべスの横でぶっ倒れていた。

 

 

「うわぁうつだ……しのう」

 

 そして、マルフォイは必死にスネイプを起こしていた。

 

 

「な、なんか寒気がするフォイ! 先生起きてフォイ!!」

「うーん……アルマジロが……あるまじきアルマジロが…………zzz」

「なんの夢だフォイ!!」

 

 マルフォイは幸福感が失せていくような感覚と戦いながらスネイプを起こす努力を続けていた。

 

 

(考えてみれば……シリウス・ブラックは死喰い人だって思い込んでたわ……。だけど、実際は違った。死喰い人だったのはとっとこペテ公の方よ。今まで私も世間も逆に考えていたんだわ。

 ……だけど……もしかしたら…………。ママは……知っていた?)

 

 

 

「もう……やめ…………ジェームズ……あぁ……リリー……」

「駄目だ!! この人は無罪だ!! 絶対帰って一緒に暮らすんだ! 一緒にクィディッチするんだ! これから一緒に暮らすんだ!! エクスペクト・パトローナム! え、エクスペクト・パトローナム!!」

「……ハリー……、きみ、だけでも……に、にげ……!」

「いやだ! 絶対嫌だ! おじさん!!」

 

 

 

 

 

(……ママは……シリウスが……『死喰い人』じゃないって……知っていた……?)

 

 

(だとしたら……シリウスを追っていた理由って……?)

 

 

 

「コォオー……」(くっ! 白い靄が邪魔で生徒さんを助けに行けない!)

「コォー……」(きっとあいつに操られているんだ!)

「コオォ……」(どうしたら……)

「コォオー…!」(駄目だ! 諦めるな! あの子を救えるのは俺たちだけなんだ!)

「コォーー!」(だから!絶対!諦めちゃいけな――)

 

 

「うるせぇ黙れ! 人が考え事してんだろーが! 少し黙ってろ!!」

 

 

「コォー」(すみません)

「コォー」(ごめんなさい)

「コオォー」(謝ります)

「コォオー」(お辞儀しますぺこり)

 

「そうですね。ちょっといいすぎたわごめんなさいお辞儀しますぺこり。どうぞメガネを殺っちゃってください」

「うつだーーしのうーー」

 

 耳障りなノットの断末魔は無視することにした。

 

 そのディメンターズによる、『お前等の魂いただくよ!』総攻撃が一瞬だけべスの容赦ない罵倒によって静止した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「エクスペクト・パトローナム!!」

 

 ハリーの杖先から、目も眩むほどまぶしい、白い閃光がほとばしった。

 それはぼんやりとした霞ではなく、確かな存在を――形を持った『守護霊』だった。

 そう、あたかも動物の姿をした。

 本物の『有体守護霊』。

 

「……馬……じゃない……もっと小さい……」

「まさか……!」

「これは……鹿……?」

 

 ハリーとシリウスは姿を現した守護霊を――『牡鹿』の姿をしっかり見た。

 

 思わずシリウスはつぶやいた。

 運命の悪戯だろうか、だとしたらトンデモナイサプライズだ。大成功をしている。

 その姿は、まるで。

 

 

「…………プロングス……」

 

 まるで、亡き友が息子を救うためにこの世に再び駆けてきたかのように思えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 という、鹿野郎が突進してバッタバタと吸魂鬼たちを轢殺していく光景をべスは見ていた。

 

「……っ!」

 

 駄目だ、と思った。

 嫌だ、と思った。

 

 なぜだか分からないが、べスはほぼ直観で判断した。

 

 シリウス・ブラックをここで逃してしまうと。

 

 

 

 

 母とまた、離れ離れになってしまう……と。

 

 

 

「やだ……そんなの……」

 

 

 やだ、と思った。

 

 

 だって。

 

 

 

 

「……だって、私……やっとママに会えたのよ! アズカバンの外で!!

 

 13年間で!! 初めてママに外で会えたんだから!!」

 

 

 

 呪文は知ってる。

 発音は知ってる。

 発動条件も、方法も分かっている。

 

 あとは、ただ、自分の力のみ。

 

 

 

 

「エクスペクト・パトローナム!!!!」

 

 

 

 べスの杖先から『守護霊』が放たれる。

 幾筋かの銀色が月光と共に暗く凍りついた湖面を照らした。

 やがて、ソレは形を成した。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! 起きたぞマルフォイ! 状況を説明しろ!」

「先生! さ、さっきルーピン先生がメタモルフォーゼかまして森に帰っていき、で、今吸魂鬼の大群が現れてるんだフォイ!」

「……は? え? ……えー……吸魂鬼の大群か……。

 ……だが、誰か守護霊を作ったように見えるのであるが……?」

「鹿はポッターがやったフォイ! で、今……べ……ラドフォードが!」

「またあの小娘か、本当ロクなことせんな……ん?」

 

 スネイプは目を見張った。

 今しがた出た守護霊は、はっきりと形を成しているように見えたのだ。

 

 

 

「あ……あの守護霊は……!」

 

 白く発光するソレは、百獣の王。

 

 ライオンの姿をしていた。

 

 

「激レアの白い百獣の王フォイ!」

「待て、それだけじゃない……!」

「フォイ?」

 

 吸魂鬼の群れの中にベスのライオン(守護霊)とハリーの鹿(守護霊)が突撃していく。

 鹿の角がただの霞のような吸魂鬼をを引き裂き、切り裂く! 吸魂鬼になすすべは無い。

 ただ、命乞いの言葉もなく一方的に蹂躙され、つぎつぎとジュワァアアアアと音を上げて蒸発し、成仏していくのだった……。

 同時にベスの獅子が吼える。

 吸魂鬼の数体がその場から消し飛んだ。

 

「何!? 咆哮だけで撃破だと!?」

「……先生……」

「バカな……守護霊にそのような力など……」

「フォイ……先生……」

 

 怒りの咆哮をぶっ放すとともに、ベスの獅子の守護霊の毛並みに浮かびあがる何かにスネイプは気づく。

 そう、それは

 

「アレは……タイガーパターン!!」

「……先生」

「まさか、ミックスなのか……!? だがライオンのミックスなど聞いたことが……ハッ!

 まれにライオンのオスとトラのメスとの異種交配が成功するという……ま、まさか!」

「おいスネイプ」

 

 

「アレは――ライガー!!」

 

 

「シレンシオ!!」

「プロテゴ!!」

 

 

 

「おっしゃ。私の守護霊! ハリーの守護霊に攻撃!!」

「くっ、君と戦うしかないのか! させるかぁ! 僕は! シリウスと! 一緒に……帰るんだ!!」

 

 ディメンターを駆逐していた守護霊と守護霊が激突!

 二つの力が激突し、閃光がほとばしり、衝撃が、爆風が吹きすさぶ!

 吹き飛ばされるような力を感じながらもマルフォイはたったひとつの思いを口にした。

 

 

「フォオオオイ!! 守護霊そうやって使うもんじゃねぇから!!!!」

 

 

 

「…………ザコが……」

「あ、ご、ごめんママ!」

「いいのよベスちゃん。……シリウス・ブラックとポッターの倅が……抵抗するか。面白い。……せいぜい足掻いてみせろや……第二陣! 総吶かぁああああああああああん!!」

「うわぁうつだしのう」

「目標目の前!! シリウス・ブラックと小僧を殺れ! アズカバンの誇りに賭けて奴等に絶望の味を教えてやれぇ!!」

「おっしゃ! ママ! 行けーーーーー!」

 

 

「裏切り者に粛清を!!」

 

 

 オフィーリアが杖を振りかざすと、どこから来たのか。

 真っ黒なディメンターの群(第二陣)が招来された。

 大空を覆いつくさんばかりの無数の吸魂鬼たちが既に凍った湖の温度を氷点下まで下げる。

 その合間を縫ってアバダ光線が乱射される。

 だが吸魂鬼たちのせいで視界が不良! よってハリーたちに当てることはできなかった!

 アバダ乱射のせいでシリウスもハリーも動くことは出来ない!  

 

「当たるかそんなへぼアバダ!!」

「吼えるな小僧……。逃げ道を断っただけで十分だ」

「やっちゃえー! ママ! がんばれーー!」

 

 娘からの応援もあって、ワーキングママなオフィーリアは元気いっぱいだ。

 

 

「魂さえも遺さず消え失せろ裏切り者がァ!! 生まれてきたことを後悔するがいい!! 絶望に塗れて死に晒せ!! 貴様の名づけ子を道連れにしてなぁああああああああ!!」

 

 

 

「ベスのカーチャン怖いフォイ……!」

「……」

「チョコッ! 食べずには、いられないッ!」

 

 マルフォイは半泣きになっていた。

 どうやら穏やかに見えた彼女の美貌は怒ると引き立つタイプだったようだ。

 ガチギレした美人は怖かった。

 ノットは死んだ目でチョコレートに頭を突っ込んでいた。

 

 

 

「おじさん! 僕の後ろに!!」

「ハリー! 私はいいから君は逃げ」

「パトローナス! 盾になってくれ!! 頼む!!」

 

「させるかぁ!!」

 

 盾になろうとしたハリーの鹿守護霊に食いつくベスのライガー守護霊。

 だがただでやられる鹿ではない。

 鹿は後方に下がり、加速ッ! その鋭く尖った角で肉食獣を突き殺そうとする!

 それを野生のカンが告げたのか、ライガーは姿勢を低くし受けて立つ……!

 勝つのは鹿の一撃か、それともライガーの爪と牙か。

 

 そんな訳で守護霊は吸魂鬼との盾どころじゃなかった。

 どうやら魔法使いを守るという本来の役割を放棄したらしい。

 ハリーはそんな守護霊に「はいカス、使えねぇ」と軽く舌打ちをした。

 

 

 

「おじさん! しっかりするんだ!!」

「…うっ……は、ハリー……だめだ……私はもうここまで――」

「おじさん! 負けちゃダメだッ! 思い出すんだ!! 今日までの日々を!!」

「今日……までの……?」

 

 ここにきて自分のせいでハリーさえも巻き込んで死に行くという絶望。

 それにより曇っていたシリウスの目に、わずかに光が点る……。

 

「そうだよおじさん! 今までおじさんが舐めてきた辛酸はこんなもんだったのか!?

 おじさんが受けた屈辱は! おじさんが抱いてきた殺意は! 苦悩は!! 憎しみは!!

 こんなもんだったのか! こんな――こんな吸引力の変わらない奴等に負ける程度のもんだったのか!?」

 

「屈辱……憎しみ……!」

 

 はっきりと意思の光が点るシリウスの目。

 それは大犬座の一等星にも負けないばかりの強い輝きがあった。

 ハリーは叫ぶ。

 コレが、自分とシリウスが生き残れるたったひとつの冴えたやり方なのだと確信して。

 

 

 

 

「アンタが13年間もアズカバンで蓄積していた怨念は!! こんな奴等に吸い付くされる程度の力かッ!?」

 

 

「……否……断じて! 否!!」

 

 

 シリウスは立ち上がる。

 

 

「思い出したよハリー! 今まですまなかったな!!」

「そうだよ! おじさん!!」

 

 シリウス・ブラック、完全復活。

 

 

 そう、吸魂鬼が吸い取るモノ――それは人間が持つ『幸せな気持ち』や『生きるためのプラスのエネルギー』である。喜びや希望、幸せだったときの思い出を糧にして、生きる闇の生き物なのである。

 だが、彼らにも決して奪うことが――吸い取ることが、できないものがある。

 

 

 『負の感情』は、吸いとることができないのだ。

 

 

 苦しみ、怒り、怨念、絶望。その全てを吸魂鬼は吸い取ることができない。

 よって、人間の側に取り残されることになる。

 そう、つまり。

 

 幸福や希望を奪われた人間には憎悪と怒りが残り……そして、それは心の奥深い場所に澱のように蓄積されていくのだ……!

 

 

 

 

 

 

「僕の人生最悪の記憶が……母さんの声が聞こえるんだ……父さんが僕を守る声が聞こえるんだ!! そして!! ソレを奪うアイツの声が! 聞こえるんだ!!

 

 あぁそうだよ毎回思ってたよ……悲しいよ、苦しいよ。だけどそれ以上にはっきり分かるんだ……」

 

「そう……ずっと思い出していた……! あの時を! あの時の記憶を!! あの時――私が! オレがアイツを野放しにしなければと!! ずっと!! 

 あの時お前を殺していればと!! 13年間思っていた!!」

 

「奪えるものなら奪ってみろ」

「お前等に分かるか、いや、分かるものか」

 

 

「焼け付くような怒りが」

「焦げ付くような憎しみが」

 

 

「「アイツを殺すと決めた殺意が!!」」

 

 

 

 という、規格外の怨念に当てられた吸魂鬼たちは、自分達の吸引力が圧倒的にさがっていくことが分かった。

 

 

「コォー」(オヴェェエエエエエ!)

「コォー……」(くっ、これほどとは……オェ゛ェエエエ!)

「コォー……」(だめだしぬーーケパケパケパー)

「コォーーー……」(一番こわいのは人間…はっきりわかんだね。しんだ!)

 

 シリウスとハリーの汚すぎる邪念を吸い込んだ吸魂鬼たちが次々に食あたりにあたりまくって安らかに成仏!

 守護霊なんかいらなかった!

 人には絶望に打ち勝つ力。

 そんな確かな強い思いがあるのかもしれない……とベスはおもった。

 それが必ずしも良い物とは限らないというだけで。

 

 

「ってそんな攻略法があってたマルかフォイ!!!!」

 

 

「だが事実だ……マジかよ……ねーわ……」

 

「クヒヒッ……フヒッ……! チョコ……お゛い゛し゛い゛!!」

 

 

 さっきから一心不乱にチョコレートを貪り食っていたノットがもう限界かもしれない……と思うスネイプであった。

 

 

 

 

 

「チッ、雑魚共が……大方死んだか……」

 

 オフィーリアが淡々と言った。

 

「ママ大丈夫ーー? やばいーーー??」

「大丈夫よベスちゃん。そのままもうちょっと頑張って守護霊出してて!」

「分かったーー!」

 

 と、一応娘とコミニュケーションを終えると、オフィーリアは杖を構えるのだった。

 

 

「あとは突っ込むだけだぁああああああああああああ!!」

 

 

 

「シリウス!」

「パトローナス!! ハリーにダイレクトアタックよ!!」

「くっ……!」

「ママのところには行かせないんだから!」

 

 

 大の男相手に近接格闘を挑むことにしたらしい。

 相手は大のオッサンといえど脱獄からの逃亡生活でやつれ切ってるから行けそうだよねーという、軽い考えでの特攻であった。

 

 

「ボンバーダ・マキシマ!!」

「プロテゴ!! 貴様! 何故私を狙う!」

「セクタムセンプラ!! 貴様が知る必要はない!」

「プロテゴ!! ストゥーピファイ!!」

「ディフェ――……」

「セクタム――……」

 

「「プリぺンド!!!!」」

 

 

 シリウスは「何かこの女と戦い方の思考似てるなー」と思った。

 二人とも『ゼロ距離射撃呪文をぶっ放す』主義者だった。

 その華奢で繊細な外見からは予想できないくらいの脳筋族の戦術である。

 だが不思議と嫌悪感はない。

 

「ディフェンド!」

「セクタムセンプラ!」

 

 同時に放った切り裂き呪文がシリウスの肩、オフィーリアの腕を掠め、切り裂く。

 鮮血が滴り落ちるが、エピスキーを施している暇はない。

 シリウスは犬並みの嗅覚で肌がこげるような異臭を感じた。

 どうやら戦っていた女が自分の傷口を焼いているのだと気づく。

 その並みならぬ意思の力を感じたシリウスは、傲岸に不遜に笑うのだった。

 命の取り合いをするのに不足はない、と確信したのだから。

 

 

 

 

 

 

「……フォ……フォイ……」

 

「見ておけマルフォイ……」

 

「……」

 

「コレが……魔法使いの決闘だ……」

 

 

 いや、そんなことより色々突っ込むべきことがあるだろ。とマルフォイは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーモスマキシマ!!」

「アクシオ! コンフリンゴ!」

 

 

 シリウスのルーモス目くらましを、近くにあった木を粉砕して光を遮断。

 粉砕した木片に対してオフィーリアは呪文を放つ。

 

「……」

 

 

 

 

「インセンディオ!!」

「アグアメンティ!」

 

 瞬間的に発火した木片にシリウスが水をぶっかける。

 反対呪文による相殺で高温の水蒸気が発生。

 そして一瞬のスキが生じる。

 

 

「……」

 

 

 お互い相手を見ることが――できない。

 

 

 

 

「「クルーシオォオオオオオオ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にするフォイ! この――アズカバンの囚人共!!!!」

 

 

 

 殺し合いすんならアズカバンでやってろよ!!

 

 ……と、マルフォイは、心底、本当に、こころのそこから……叫ぶのだった。

 

 

 

 

「チョ……コ……チョコガ……チョコ、足リナイ……モット…! モット……!」

 

 急性チョコレート中毒にハマったノットが禁断症状でヤバい状態になっていた。

 今更だが片親な彼は色々家庭に問題があり、吸魂鬼の影響をかなり受けやすい繊細なガラス十代な少年だったらしい。

 スネイプは「このままじゃコイツ死ぬんじゃなかろうか」と不安になり、とうとう最終手段に出ることにした。

 

 

「……これは不可抗力なのだ……こうするしかないのだ。そ、そうノットを救うためには――!」

「せ、先生!? 何を!? 何をやらかそうとしてるんだフォイ!?」

「許せ、ノット!」

「の、ノットー!?」

「あ?」

 

 スネイプの杖先が、チョコを求めて、四足歩行するノットへと向けられ……。

 

 

 

 

 

「インペリオ!!」

 

 

 服従の呪文がノットに直撃!

 

 服従の呪文! それは『禁じられた呪文』のひとつ! なんでも相手を言いなりにするという解禁されたら一番横行しそうな汎用性の高すぎる呪文!

 だが今回はその効果は全く問題ない!

 なぜならスネイプは副作用である方の効果を狙ったのだから。

 そう。

 

 服従の呪文は。

 

 かけられている間。

 

 

 

 脳内麻薬がドッバドバ出るため、とてつもない『幸福感』に包まれるのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸福ですぅうううううううううううう!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ノットォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せな気分になったノットはそのままアズカバンの脱獄犯共とその子供たち、

 ついでに吸魂鬼の死骸の山に突進!

 

 さらに感極まったノットはハイになり、

 

 

 

 

 ルーピンの脱狼薬を入れていた『ゴブレッド』を

 

 

 

 

 

 

「あ」

「あ」

「の、ノットォオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

「我が人生に一片の悔いなしぃいいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 凍った湖へと叩きつけるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆ぜる湖面。

 

 即死するゴブレッドにされていた尻尾爆発スクリュート。

 

 爆発の衝撃により、氷が――砕けて、散る。

 

 

 

 そして。

 

 

 いくつもの怨嗟の声を巻き込みながら――ボッチャアアン!という、盛大な水音が、荒廃しきった『禁じられた森』を響くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 





次回:アズカバン最終回


今トランプ語録を必死に漁っています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

innocent cry

アズカバン編完結です。

ここまで読んでくださった皆様に感謝します。ぺこり。
賢者で終わらせるはずだったコレがまさかここまで続くとは。


 

 

「見たことか、それ見たことか……ファッジよ……おぬしの自慢の吸魂鬼、ホグワーツに持ってきた吸魂鬼はぜんめつめつ、一方ワシの禁じられた森は丸焼けになったが植林すればすむことじゃ、随分と差がついたのぅ、悔しいでしょうねぇ」

 

「くっ、ダンブルドア……!」

 

「勝った……計画通り……!」

 

「……今回はわたしの負けにしといてやるよ……わたしは必ずよみがえり、お前を校長の座から引き摺り下ろす! わたしは魔法省そのものなんじゃからの……!」

 

「ふっ、ザコい犬ほどよく吼えるわい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全テ ワシノ 手ノ 中ダト 言ウノニ …… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああああああああ!?」

 

 

 ベスが目を覚ました。

 

 医務室にはうららかな日差しが差し込んでいる。

 ときおりそよぐ風となびく白いカーテンがのどかな日常を感じさせ、清潔な白いシーツからは洗い立ての石鹸の匂いがほのかに香った。

 ひどい悪夢?から目を覚ましたベスは、ふと思い出す。

 

 

(あれ? 何だ? 何があった??)

 

 

 確かハリーに守護霊をけしかけていたのだ。

 

 脱獄犯が裏切りモノだと知って、何故か母親が脱獄犯と殴り合いをしていて、吸魂鬼たちが来てくれたのだがソレがバタバタ倒れていく全く役に立たないカスだった……というところまでは確かに覚えている。

 

 そこから先、何が起こったのかわからない――というのがベスの状況だった。

 

 

 

「……ママ?」

 

 

 

「フォ……マダム! マダム・ポンフリー! ラドフォードが目を覚ましました!」

「お前かよ……フォイフォイうるせぇわ……フォイカスが……」

 

(なんで寝起きにお前の顔なんか見なくちゃいけないんだよ……もう一回寝てぇわ……)

 

 中途半端に覚醒した頭で色々考える。

 すると横のベッドには顔色の悪い少年、スリザリンの誇るボマー、セオドール・ノットが転がっているのが見えるだろう。

 こともあろうにすやすや、と安らかに眠っていた。

 願わくばその眠りが永遠に続けばいいのにな、とベスは思った。

 

「うっわ、横に爆弾魔いるじゃねーか……しっし、あっちいけ」

「こんにちわ、保健室の白衣の天使マダム・ポンフリーです。今からオマエラの置かれた状況を説明してやりたいと思います。光栄に思え」

「は?」

 

 何故か態度デカく出た白衣の堕天使にキレかかったベスだったが、彼女が『確実に逝けること間違いなし!』な色の薬の入った注射器をチラつかせるのを確認する。

 

 

「光栄に思いますお辞儀しますぺこり」(もうやだこの学校……)

 

「お前ら3人は何故か禁じられた森で無残な姿で発見されました。ついでにポッターとスネイプとアズカバンの脱獄犯、更におびただしい吸魂鬼の群れの死骸が湖に浮かんでいました。

 禁じられた森の消火活動の為に森に向かってやった先生方は皆口を揃えてこういいました。

『一体どうゆうことだってばよ』と……」

 

 

「だろうな」

「納得の発言フォイ」

 

 

「いち早く覚醒したスネイプをクルーシオして聞き出した結果、どうやら貴方達は『服従の呪文』にかかっていたようですね。あなたやマルフォイ君はその効果が薄いようですが、ノット君を見て気づきました。

 彼をたたき起こした結果『神が見える! 神が見える!』と……。

 危うく我々にゴブレッドを投げつけてこようとしたので、その辺の石で頭をカチ割っておきましたよ」

 

 

「素晴らしい判断です。拍手を送りたいなと感じました」

「ノットは犠牲になったのだ……」

 

 

 コイツ頭に怪我しているのはネジがぶっとんだからじゃなくって物理的衝撃のせいだったんだざまあみろ、とベスは思った。

 そして思い出す。

 

 

「ん?」

 

 確か湖に落ちる前に聞いたはずだ。

 

 

『幸福ですぅうううううううう!』 という、幻覚症状を伴っているとしか思えないようなハイな叫びを。

 

 

 

 

 

(……あ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マダム! コイツです!! コイツが戦犯よ!! コイツのせいで湖が!! この爆弾魔のせいで皆で揃って湖ボチャするハメにな――」

「シレンシオ!!」

 

 突然現れたスネイプがベスに呪文をかける。

 ベスに杖は無い、シレンシオ直撃により、しばらくの沈黙を強制されることになった。

 

 

「ラドフォードはかなり高度な錯乱の呪文にかけられているようだ。可哀想に(棒)」

 

 

 スネイプは真実を捏造することにしたらしい。

 

(おのれセブカス・スネイプが……!)

 

「シリウス・ブラック許すまじ。我がスリザリン生に呪文をかけるなど卑怯すぎるわ」

(耐えろ我輩耐えろ我輩……禁じられた呪文使ったの実は我輩とかバレたら我輩もアズカバンの住人に仲間入りだ……!)

 

「いやはやすぐにでも捕まえてもらいたいものですな。全部シリウス・ブラックのせいだ。

 そうだなマルフォイ!?!?」

 

「フォイ!? ふぉ? フォフォフォフォフォ!!??」

 

「シレンシオ!! ……くっ、マルフォイまで錯乱の呪文にかけるとは! 罪が増えたぞブラック!」

「……」(……ブラックの濡れ衣がファッションショーだフォイ……)

 

 本人が全く知らないうちにシリウス・ブラックの罪が加算されていく。

 見つけたフォイ、これが世界の闇か、とマルフォイは思った。

 こりゃ極刑だな早いところ『生き残った吸魂鬼』にさっさと引き渡してミイラ化しろよ、とベスは思った。

 が、

 

 

 

(……ん? すぐにでも?? 捕まえて?? 貰いたい????)

 

 

 

 

「ちょっと待って。どうゆうこと?」

「どうしたラドフォード!?」

  

 スネイプはシレンシオ詠唱の準備をはじめた。

 

「だって、ブラックは捕まったんじゃないの?? さっきアズカバンの脱獄犯って言ってたじゃない……! ブラックでしょ? そうですよね? あの駄犬を捕まえてブッ消すんですよね……?」

 

「……」

「……」

「……」

 

 スネイプとポンフリーは言葉を失っているようだった。

 マルフォイは物理的に喋れなかった。

 

 

 

「違うの……?」

 

 

「……ラドフォード……」

 

 

 その沈黙は何よりも残酷に真実を突きつけていた。

 あぁ、そっか。そうなんだ、とベスは瞬時に理解できてしまった。

 

 シリウス・ブラックは逃げることに成功したという事実も。

 

 彼らが口にした『アズカバンの脱獄犯』の正体も。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ママは?」

 

 

「……」

 

 

「……ママは? どこ?」

 

 

「……塔の、最上階だ」

 

 

「……」

 

 

 お前の母親はそこにいる、とスネイプはそれだけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

「ママ!」

 

「ファッキン、やっぱあの時ちゃんとアバダ当てとけばよかったわ……次は絶対……あ、あれ? ベスちゃん?」

 

 え、なんでここにー?とオフィーリアはびっくり仰天していた。 

 

「スネイプが魔法大臣と交渉して、時間限定で面会させてくれるって言ってたの! 娘と会うだけなら問題ないだろうって! たまにはマシなことするわね寮監の癖に!!」

 

「……スネイプ……そう……」

 

「ママ!」

 

 ベスは思わず母親に抱きつく。

 ママ、ママ、と何度も何度も同じ言葉を口にした。

 その姿は年齢相応といよりかは、幾分か幼く見えた。

 まるで子供の頃受けられなかった愛情の埋め合わせをするようだった。

 オフィーリアはそんな娘を切なそうに……ひどく悲しげに見つめる。

 

 

「……制服、凄く似合ってるわね」

「え? そ、そうだよ。スリザリンなんだから私に似合うに決まってるでしょ」

「……ベスちゃん、学校はどう? お友達はできた?」

「と、友達……えっと……。そうね、トイレ友達が居るわ!」

「あら、そうなの」

「マートルって言うのよ」

「あぁ、お母さんも知ってるわ。マートルね。嘆きのマートル、でしょう?」

「そうよ! 話してみれば意外といい子だったわ! あとはトロールとか……マートルの友達のゴーストとか、何かあの人、マザコンっぽいんだよ。あと、その下僕かな。男爵って言うけど、どう見ても下僕だったわ。

 あ、あと……。……あとね……」

「……ベスちゃん」

「えっと……あと、ミリセント・ブルストロード。何か強いわ。

 あー……ザビニはうるさい黒人だけど、トラウマ持ちみたいなのよね。ダフネ、とかともたまに喋るわ。何か妹が呪詛にかかってるみたいで……」

「……」

「……ママ? どうかした?」

「……ううん、大丈夫」

「後はボールとかキャプテンとか……クィディッチやってるのよ、私、ビーターなんだからね」

「あら、お母さんあんまり箒で飛ぶのは上手じゃなかったから羨ましいわ。凄いじゃない」

「……うん。あとフォイカス……マルフォイとか、クラッブとゴイルとかいうゴリラとか……そんな感じ」

「……森で一緒に居た男の子は?」

「アレはノット。ウザイしキモいし根暗だからあまり近づきたくないわ」

「……そう……。うん……。そう……」

 

 

「ねぇ、ママ……。……一緒に、住めないの?」

 

 

「……」

 

 

「ママ、私ね、がんばってるよ? ……いつまで、頑張ればいい……?」

「…………」

「なんで、シリウス・ブラック殺したいの?」

「……ごめんね、ベスちゃん」

 

 教えられない、とオフィーリアは言った。

 

「……まだ言えない。ごめんなさい」

「……わかった」

 

 ベスも聞かなかった。

 きっと、ここで泣いても、怒鳴っても、嫌だ嫌だと言っても、きっと母親は何も言ってくれないだろうと思ったから。

 

 

「もうすぐマクネアさんが吸魂鬼を連れて来るフォイ!」

「……なんでオレまで」

「ラドフォード、時間だ」

 

 突然現れたスネイプ、マルフォイ、不本意なノットが時間を告げた。

 

「……じゃあ、ママ」

「……ベスちゃん、コレだけは忘れないで」

「……」

 

「どんなに遠く離れてても……ずっと、貴女を思ってるから」

 

「……うん」

 

「…………あなたの目は、本当にパパそっくりね」

 

 オフィーリアはそう優しく娘の髪を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクシオ! 吸魂鬼!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え」」」

「フォォオオオオオオオオオオオオオオオイ!」

 

 突如唱えられたアクシオに『囚人護送の任務のため』に新しく連れてこられた吸魂鬼たちが直撃!

 そのままものすごい勢いで狭い塔の中に吸い込まれていく!

 

「アー、きゅーこんきがーータイヘンダーーーー(棒)」

 

 マクネアは完全な棒読みであった。

 吸魂鬼は全部没収されました。

 

 ともあれ、吸魂鬼たちは一箇所に集まったことにより一気に気温が下がる!

 氷点下まで下がる! とても下がる!

 

「ボンバーダ!!」

 

 オフィーリアが呪文を唱えて塔の壁を破壊した。

 

「マジか、お母様すっげ、弟子入りしたい」

「お母様呼びしてんじゃねぇフォイ! ノット!」

「ぷ、プロテゴォオオオオ!」

 

 

「よし……頼むぞ、ザコ共。

 ベスちゃん! もう少し待っててね! お母さん、ちょっと過去の因縁に決着をつけてくるから!!」

「わ、分かったー。ママも気をつけてねーーーー!」

 

 そのままオフィーリアは吸魂鬼の大群に乗って脱出。

 ホグワーツ圏外へと離脱したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

「汽車がでるよーーーー」

「乗ります」

「帰ります」

「もうこんな学校居られるかぁ!!」

「一体どれだけ殺すのだ……」

「誰か……誰か、僕たちを見つけてくれ……!」

 

 

 ホグワーツ城、大破。

 謎の吸魂鬼大量怪死事件。

 禁じられた森大炎上。

 行方不明になった人狼。

 

 

 一夜にして起きた事件は生徒たちを混乱の渦へと落とし込んだ。

 ルーピンはスネイプが「ルーピン●!」と言ったせいで人狼が確定し、トレローニーの真が決まったところで、校長は仕方なくルーピンを罷免することにした。

 だがどの道禁じられた森に帰った奴のことを気にする奴はあまり居なかった。

 

 

「とんでもねー1年だったフォイ」

「そうね、来年からファイアボルトどう殺すか考えなくちゃね」

「……ヒャッハー! カエルチョコだぜウェーーーーーーーーイ!」

 

 『アレ』以来、ノットは『チョコを食べると爆発の神が降りてくる』とかほざき、立派な中毒者になってしまっていた。結果ワゴン販売のカエルチョコを買い占めて独り占めするという暴挙に出る有様だ。

 マルフォイは思った。

 コイツホグワーツの天井にブッ刺さってた方が良かったんじゃねえかな、と。

 

 

「……あー、ラドフォード」

「何」

「その……来年は、クィディッチのワールドカップがあるんだフォイ。僕の家は貴賓席のチケットが用意されてるフォイ。

 ……だからそうだろう。必要なら一人分くらいは多く確保できるんだけど」

「は? 行かねーよ」

「……フォイ……分かりました」

 

 少年は玉砕していた、男はそうやっておとなになっていくのだ。

 もうやることがないので、マルフォイは新聞に目を落とすことにした。

 するとどうゆう訳か、赤ん坊をあやす若い魔女の広告が目に入る。

 

 

 

 ふと昔に母親が言っていたことを思い出した。

 

 

 赤ん坊は泣くことでしか自分の存在を示せない、と。

 

 僕はここだ、ここにいるんだ、と泣いて存在を人に伝えるのだと。

 

 

 人が生きるということは、恥に塗れていくことだ。

 生きれば生きるほどに、罪は増える。

 涙だって色々なものが入り混じった純粋とは言えないものになる。

 

 だから純粋に泣けるのは赤ん坊のときだけなのだ、と。

 居て欲しい誰かを呼ぶ泣き声も。

 ここにいる、と伝える涙も。

 

 今はふてぶてしく、グースカと寝息を立てる少女を見て、マルフォイはそんな母親の言葉を思い出したのだった。

 

 

 

 きっと、あの涙がそうだったんじゃないか。と。

 

 

 

 

 




 






 ママ、と言った。

 最初は小さな声だった。
 だけど、だんだん我慢できなくなったのか、ついには足から崩れ落ちてしまった。
 膝をついて、座り込んで、上半身を折り曲げるようにして、もう一度だけ、ママ、と呼んだ。



 僕はそこで初めてベスが泣いているということに気づいた。



 少しだけびっくりした。
 彼女にソレは似合わないと思ったのだ。
 いつだって、彼女は自信満々で傲岸不遜で、怖いものさえも……誰もが『怖い』ものを自覚しているボガードさえもベスには通用しなかったのだ。
 だから、その時、ベスは『怖いものがないんだ』って思った。思って、いた。

 本当にびっくりした。
 だって……入学してからのベスはいつだって強かった。
 強かったし、自信満々だったし、大声で純血主義を叫びまくる。
 皆が恐れる吸魂鬼も怖がらないし(効いてないからだろうが)規則だって恐れもせずに平気で破る。

 だから、そんな彼女が『ただの女の子』のように泣くなんて、あまり想像できなかったのだ。


 何か言おうと思った。
 何か、声をかけないと。と思った。
 傍で背中をさすってやるだけでいいから、何か言って、慰めてやりたいと思った。
 そして、気づいた。


 ……何を言っていいのか、分からなかった。



 横でノットがやめろ、と言った。


「なんで」
「……オレだって片親だから少しは分かるつもりだ」
「……だって」
「……『お前』がアイツに何か言えるのか?」
「……」




 図星だった。
 
 その通りだ。コイツは爆弾魔の癖に……こうゆう所は凄く聡い。

 今、親と再び別れたばかりのベスに。
 汽車に乗れば直ぐにでも両親と会える僕がかけてやれる言葉なんて――なかったのだ。
 ベスの心まで届く声を、自分は持っていないのだ。
 多分、ノットも。
 
 そんな事実だけが、つきつけられて、僕たちは一歩も動けずに居た。




 その時だった。





 ふと、ガタっと音がした。

 最初は吸魂鬼の生き残りかと思った。
 だが違う。
 『ソレ』が何なのか、僕たちには直ぐに分かった。



 そいつは『何』になろうか、悩んでいるのが分かったからだ。



 蛇になったり、蜘蛛になろうとしたり、或いは白い水晶のような何か、時々スネイプやマクゴナガル、なんてものまで混じっていた。
 どうやら、そんなものが『怖い』奴が居るらしい。


 あの日確かルーピンの部屋から逃げ出したボガードが一匹が居たはずだ、と思い出した。



 ボガードはベスの方へと近づいていった。
 一番近くに居たからなのか、それとも一番弱っている相手をターゲットにしようとしたのかは分からない。
 だが、コイツはベスの傍へと寄っていった。

 一歩一歩、ゆっくりと近くへ這いよっていく。

 そして、急に姿を変化させた。






 それは女性の姿だった。

 初めはベスの母親なのかな、と思った。
 けど、その考えはすぐに否定される。

 
 その女は、老婆に近い年齢だった。

 ひどく痩せた老婆だった。
 ひどく痩せていて、本当に朽ち果てる冬の倒木のようだった。
 何となく、先が長くない老女に思えた。
 そのやや吊りあがった目の形や、以前は黒かっただろう髪は……なんとなく、ベスに似ていると思った。
 多分、ベスの知る誰か――年齢から考えて、きっと祖母なのだろう、と思った。

 おそらくは、もう、この世に居ない。



「……やめたんだな」
「……え?」
「……恐れることから、逃げるのを。アイツは止めたんだな」
「……」

 
 だから、ほら、とノットはベスに向かって言った。






「ボガードは、ちゃんとお前を見てるよ」


 



 泣き声が、ぴたりと止まったような気がした。
 俯いて、這いつくばっていたベスが。

 お辞儀をしていたかのような少女が。

 老婆に姿を変えたボガードが、ゆっくりとベスの頭に手を置いて、優しく撫でた。
 

 ベスが杖を出すのが見えた。

 

 呪文は知ってる。
 発音は知ってる。
 発動条件も、方法も分かっている。

 あとは、ただ、自分の力のみ。

 




「リディクラス」




 そのボガードが。

 ベスの祖母に化けたボガードが。



 とても優しく、微笑んだ。


 


 ベスが恐れるものから逃げるのを止めたから。



 ここに居るのだと、確かに、告げたから。

















 だから、あなたもここに居ていいのだと、許すように。







 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴブレット大炎上編
開戦




新学期が始まった全ての皆さまへ……。


 

 お前がうらやましい、と言った。

 

 自分で決めた生き方と、自分を構成している世界が矛盾していないことが羨ましいと。

 

 「あ?」

 

 ひがんでたわけじゃない。

 ただ、少しだけうらやましかった。

 嫉妬してた、それがお前のブレなさに繋がってるんだと思ったから。

 

 「うっせ」

 

 悩みも、迷いもない、お前が羨ましかったんだ。

 

「……」

 

 祈らなくても、縋らなくても。

 生きる意味がちゃんと存在していた、お前が。

 

 

 

「馬鹿じゃねぇの? お前の人生だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きたい様に、生きればいいだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦じゃ……」

 

 

 

「は?」

「え?」

「フォイ?」

 

 

 おいあの校長今何つった……? という困惑が大広間を覆いつくしていた。

 

 

「戦じゃ……」

 

 

(((二回言った……)))

 

 

 どうやらダンブルドアに止まる気配はないようだ。

 戦じゃ、などと意味不明の発言を繰り返すダンブルドア。ついに始まったかアルツハイマーと誰もがダンブルドアがボケていることを願った。が。否。

 ……爺の目は死んでいなかった。

 

 

「我々は平和を貪りすぎたのじゃ……。長きにわたる安寧は魂を肥えさせる。

 命は大切にしすぎると腐るのじゃ……」

 

「……!?」

 

 あいつ何言ってんだ……!?という、圧倒的空気……!

 

 だが、長年この『狂気』に付き合ってきた上級生たちは知っていた。校長が、口だけではない、ということを。

 最悪の有言実行者は常に言に行動が伴う。そう、狂言には凶行が。

 頼むから何もしないでくれ。お願いだからこのまま終わってくれ……という彼らの願いは。

 無残にも、打ち砕かれた。

 

 

「今年度、長らく開催されていなかった三大魔法学校対抗試合を開催する!」

 

 

「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアイ!?!!」」」

 

 

 約一名「フォオオオオオイ!?」とか言ったやつ以外の全員の悲鳴が鳴り響いた。

 

 

 

 

「諸君、ワシは教育が好きじゃ」

 

 

「!?!?」

 

 

「諸君、ワシは教育が好きじゃ」

 

 

「ふぉ……フォイ……これ……」

「この流れ……来るぞ……!」

「録音準備よーーし! 今年はウッドさんの代わりにクソ演説を校長閣下がして下さるぜヒャハー!」

 

 

 

「諸君、ワシは教育が大好きじゃ。

 

 

 学校教育が好きじゃ

 魔法教育が好きじゃ

 魔法薬学が好きじゃ

 防衛術が好きじゃ

 変身術が好きじゃ

 マグル学が好きじゃ

 占い学が好きじゃ

 数占い学が好きじゃ

 魔法生物学が好きじゃ

 

 汽車で ホグズミードで

 城で 禁じられた森で

 凍土で 砂漠で

 湖で 空中で

 泥中で 湿原で

 

 この地上で行われるありとあらゆる教育行為が大好きじゃ」

 

 

 

「……フォ……?」

「なにこれ……服従の呪文(演説)……?」

「流石校長! 常人にできないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!!」

 

 

 

 

「一列にならべたワシの一斉発射が 轟音と共に生徒を吹き飛ばすのが好きじゃ

空中高く放り上げられた生徒が 効力射で木っ端みじんになった時など心がおどる

 

ハグリッドの操るスクリュートがアクロマンチュラを撃破するのが好きじゃ

悲鳴を上げて 燃えさかる森から飛び出してきた特別保護指定生物を

アバダでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

 

杖先をそろえた生徒の横隊が 教師の戦列を蹂躙するのが好きじゃ

恐慌状態の新入生が 既に息絶えた教員を 何度も何度も刺突している様など感動すら覚える」

 

 

 

アイツの中の教育ってどうなってんだよ……?

 

と、誰もが思っていた。

 

 

 

 

「敗北主義の逃亡生徒達を城に吊るし上げていく様などはもうたまらない

泣き叫ぶ生徒が 私の降り下ろした手の平とともに

金切り声を上げるバジリスクに ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高じゃ。

 

哀れな抵抗生徒が雑多な悪戯道具で健気にも立ち上がってきたのを

ワシの4.8t暴れ柳が寮ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える。

 

トムの死喰い人団に滅茶苦茶にされるのが好きじゃ。

必死に守るはずだった生徒が蹂躙され、ついでにワシは女子供が特に嫌いじゃ。

 

アメリカ人に物量に押し潰されて殲滅されるのが好きじゃ。

グリンデルバルトに追いまわされ 害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みじゃったぁ……」

 

 

 

 そこで、ホグワーツの生徒は、

 

 考えることを、やめた。

 

 

 

 

「諸君 ワシは教育を 地獄の様な『教育』を望んでいる

 諸君 私に付き従うホグワーツの生徒諸君

 君達は一体 何を望んでいる?

 

 更なる勉強を望むか?

 情け容赦のない 糞の様な勉強を望むか?

 鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な勉強を望むか?」

 

 

 

「「「勉強!! 勉強!! 勉強!!」」」

 

 

 

 

 

「よろしい、ならば教育だ」

 

 

 

 もう、何もかもが手遅れのようだった。

 

 

 

「我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳じゃ。

だがこの暗い闇の底で半世紀もの間 堪え続けてきた我々には、ただのでは教育ではもはや足りない!!

 

大教育を!! 一心不乱の大教育を!!!!

 

学校を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている社会人を叩き起こそう

髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう

大人に学校の味を思い出させてやる

大人に教師の靴の音を思い出させてやる

 

 

天と地のはざまには 社会人の哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる

 

一千人の学生の戦闘団で

世界を燃やし尽くしてやる

 

 

征くぞ 諸君

 

 

 

地獄を造るぞ」

 

 

 

 

 

 

 余談だが。

 

 

 新学期が始まる9月1日前後は。

 

 

 中高生の間で。

 

 

 一年で。

 

 

 最も。

 

 

 

 自殺率が高いと言う……。

 

 

 

 

 

 







なんか「セドリック見たい」って要望があったので書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ターン・オブ・クラウチ

「それじゃー、闇の帝王復活計画を始めるのだー!!」

 

 何か薄暗いどっかの廃屋みてぇな所でお辞儀教の黒ミサが始まっていた。

 

「死を超越し、死から蘇ると人は神になるのだ! そーゆーわけなんでお辞儀王を神に担ぎ上げるために皆でなかよく協力するのだ! イギリス国旗を~~純血で~~染めあげるのだ~~!」

「うるせぇわ、とっとこ黙れペテ公」

「お前はアズカバンから回りくどい脱獄方法をしてきたジュニアなのだ!」

「あぁ全く最悪だった……クソが」

「おつとめごくろうさまなのだ~~」

「うるせぇっつってんだろ! その癪に障る喋り方を辞めやがれペテ公!! ムカツクんだよ口縫い合わせんぞカス!!」

「やってみるのだ~~」

「シレンシオ!!」

「プロテゴ! 効かないのだ~~」

「ド畜生が黙れ喋んなうぜぇんだよ!!」

「若者はキレやすくて嫌なのだ~~」

 

 元鼠と脱獄犯(3人目)がなんか食っちゃべってるところに、おもぐるしい声が響いた。

 

 

「仲良くお辞儀しろ……」

 

 

 

「無理です我が君」

「我が君に怒られたのだ~~真面目な話をするのだー」

「さっさとやれ……」

 

(俺様の部下……もうこんなのしか居ないの……?)

 

 闇の帝王は泣きたくなってきた。

 敵はあの校長だ。そして油断ならない小僧だ。こんなんしか手駒が居ないのにどうやって戦えばいいんだ、と絶望したくなった。

 考えてみたら優秀だった部下は大抵アズカバンにぶち込まれている。

 

 

「闇の帝王を復活させるためには、儀式をやるのだ~~。具体的には『下僕の肉と、父親の骨と、敵の血』が必要なのだ~~。そーゆーわけで、ポッターから採血する組とお肉と骨を調達する組みに別れるのだ~~」

「……ポッターから採血か? だがアイツは」

「そうなのだ~~。ポッターより『名前を呼んではいけないあの校長』が面倒なのだ~~」

「……そうだな。ホグワーツに侵入する必要がある。……侵入してからが問題だ」

「そーなのだーー。あの校長の目をかいくぐってポッターから上手く血を流さなきゃならないのだ~~」

「……」

「……」

 

「「無理だ」」

 

 

(あきらめるなよ……)

 

 

 

「実は手下を何人か手配してホグワーツに送り込もうとしたのだ~~」

「マジかよ、ペテ公。で? どーだったんだ?」

「実は屋敷僕妖精を洗脳したのだ~~。だけど、不思議なのだ~~……そして、誰も、帰ってこなかった」

「…………殺ったな、甘く見てた。流石『校長』だ。中途半端な小細工じゃどうしようもねぇよ」

「三下を派遣しよーと思ったのだーー。だけど、皆嫌がるのだ~~」

「……」

 

 

 

「ひぃ!? なんですか幹部の皆様!? い、行きませんよホグワーツなら! 俺は嫌だ!!」

「やっと卒業したんだ!! やっと! なのにまた行くなんて嫌だだだだだだだだ」

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ怖い怖い怖い怖い怖い怖いホグワーツイヤだなんであんな学校に行っちまったんだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない学校嫌だ学校ヤダ学校ヤダ学校ヤダ」

「お先に参ります! アバダ――」

 

 

「この有様なのだーー」

「酷く共感を覚えました」

「なので、我々幹部が逝くしかないのだ~~」

「幹部って、アンタと俺しか居ねぇじゃねぇかよ」

「あと、オフィーリアが居るのだ~~」

「は?」

「でも、オフィ―リアは今、絶賛復讐中なのだ~~」

「……ちょっと待て、オフィ―リアって……オフィ―リアか?」

「オフィ―リアなのだ」

「……え、なんで?」

「繋ぐのだ~~もしもしオフィ―リアー?」

 

『シリウス・ブラァアアアアアアアック! どこに!! 隠れやがった畜生がぁあああああああ!!』

『なんで見つからない……!? 誰だ!! 誰が隠した!?』

 

「話にならないのだ~~」

「……大変そうだな……」

 

 ジュニアは、考えることを、やめた。

 

 

「と、言うわけで、お前かボクのどっちかがホグワーツに潜入するのだ!」

「マジかよ、この俺か、ジャンガリアンドブネズミしか居ねぇのかよ……」

「厳選なあみだくじによるデス・マッチで決めるのだ~~!」

「仕方ねぇ。ベット」

「ショーダウン! あ~みだ~くっじ~~♪あ~みだっくじ~~♪あ~~みだっくじぃ~~♪」

「おい、ちょっと待てペテ公! お前今一本書き足しt」

「シレンシオ!!」

「むぐうううううううう!!」(テメェエエエエエエエ!!)

 

 

 

(……大丈夫かな、こやつら……)

 

 

(俺様、ちゃんと復活……できんのかな……?)

 

 

 闇の帝王は不安だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

『よろしい、ならば教育だ』

 

 

『校長殿! 校長! 狂人! 狂人殿! マーリン勲章勲一等大魔法使い殿!』

 

 

『そして、我がホグワーツは遂にドーヴァーを渡る……』

 

 

『ヨーロッパだ! ヨーロッパが見える!』

 

 

『一千人の学生の戦闘団で世界を燃やし尽くしてやる……!!』

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 

『征くぞ 諸君 地獄を造るぞ』

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

「以上が、現在ホグワーツで起こっている『事態』を表したものです」

 

 

 魔法省は厳粛な雰囲気に包まれていた。

 壇上から良く通る声で話すのは、黒いローブに身を包んだ上品そうな紳士であった。

 

 

「賢者の石の喪失、謎の怪物バジリスクによる連続生徒強襲事件……のみならず、昨年度は脱獄囚まで確認された! さらには吸魂鬼まで!! 最早、ダンブルドアには任せておけない。過去3年の『異常事態』という事実が純然たる統計として我々に突き付けられている」

 

 熱弁を振るう拳の先。その眼は優雅な英国紳士ではなく、大帝国の暴君に喧嘩を売る壮年の将軍のそれだった。

 

「今なのです。みなさん、この英邁たるグレート・ブリテンを統べる最高の魔法使いにして理性の精神を司る魔法省の方々!! 今この国最大の危機が! 迫っているのです!!」

 

「……」

 

「この映像は、未来を憂えたとある生徒の一人が命を懸けて密かに撮影したものです。それをフクロウ便に託しわざわざ届けに来てくれたのです!『どうか、僕たちを助けてください』と赤毛の少年は言っていました!!」

 

「やべぇそれうちの息子かも……」

 

「少年は命を懸けたのです!! たった50ガリオンに!!」

 

「お前映像買ってんじゃねーか……」

「特定しました、ウィーズリー家の子だな」

「血は裏切る癖に金は裏切らないのか……」

 

 

 

 

「みなさん!! これを放置していいのですか!? 今、教育の現場はあの校長が支配している!! あの場所で!生徒たちは! 戦っているのです!! 校長と! 学内恐怖政治と! いいですか!?

 

事件は魔法省で起きているんじゃない!! 教育現場で起きているんだ!!」

 

 

 熱意溢れるその言葉に魔法大臣の目に光がともった。

 

 

 

「……で、君はどうするのだね?」

 

「アルバス・ダンブルドアを校長の椅子から引きずり下ろします」

 

「……なるほど」

 

 

 その覚悟に嘘はない、と誰もが悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば、よろしい、バーティ・クラウチ君。君をホグワーツに送るとしよう。

 

 アルバス・ダンブルドアの暴政を、打ち砕く魔法省の鉄槌として」

 

 

「必ずや、義務を果たして見せましょう」

 

 

 

 コーネリウス・ファッジは思った。

 

 

 

 

(アルバス・ダンブルドアよ……走狗は、煮らるものなのだ……)

 

(お前は、やりすぎた)

 

(自由こそが最大権力を振るう今の世に……『英雄』は必要ないのだよ……)

 

(過ぎた英雄への幻想は、やがて個人への崇拝を呼ぶ)

 

 

(その時、人々は自由を捧げ、平伏する)

 

 

(行きつく果てが独裁ならば、ダンブルドアも『お辞儀』と何が違うと言うのか)

 

 

 

 その答えはどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで親父ホグワーツに居るんだよぉおおおおおおおおおお!!)

 

 

 

 

 マッドアイをボコってポリジュースったクラウチ(息子)は頭を抱えていた。

 

 

 





なんか更新してない方がお気に入りの伸びがいいんですけども…??


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マッドアイ授業


ハリポタGO……だと……?


 前門の校長、後門の毒親。

 まさに狂育機関となっているホグワーツ。

 更に魔法大臣の犬となって強襲する元父親。

 果たして、クラウチ・ジュニアは親父、校長、眼鏡を乗り越え、闇のお辞儀王を復活させることができるのか。

 

 

 

 と言うわけで授業になりました。

 ジュニアは早急にマッドアイごっこを始めてください。

 

「教科書はいらん! 油断大敵に閉じろ!!」

 

 本人はなかなかのクオリティだと自己満足した。

 

 

「なんだこいつ」

「油なら足りてんぞ」

「油断大敵の使い方間違ってんだろ」

 

 

「ころすぞ」

「ひぇ」

「閉じます」

「光の速さで教科書をしまいます」

 

 生徒たちは例年と大して変わらないようだった。

 

「お前らの情報をみたが、どうやら闇の生物()と戦ってきたらしいが勉強の進行速度はクソ遅れてるぞ!というか遅れているぞ油断大敵に!!」

 

 確かに、前任者が後頭部闇の帝王だったり、ロックハート先生だったり人狼だったせいか、進度は遥かに遅れている。

 

「アラスター・ムーディだ! マッドアイなんて呼ばれることもある!! よろしく!!」

「よろしくお辞儀します」

「お辞儀します」

「よろしくお願いしまあああああああああああす!」

 

「元闇祓い、オーラーだ! あの校長に脅迫されたからこの仕事をしぶしぶ引き受けた」

「やべえぞ校長の差し金だ」

「こわ」

「校長にスカウトされるとか逸材じゃねーか」

 

「六年生になるまで『闇の魔術』には一切触れてはいかんことになっているが俺から言わせれば油断しまくってる油断的な考えだ! 油断大敵な実践あるのみ! 油断大敵!!」

 

 本当に戦うべきは油断ではなく権力だということをそろそろ生徒に教えるべきだろう。

 だがムーディーの皮を被ったジュニアはそんな面倒なことはしたくなかった。

 

「お前達にまずは質問だ。『許されざる呪文』と呼ばれる油断大敵はいくつある!?」

「3つです」

 

 ハーマイオニーが答えた。

 

「その意味はなんだ」

「使用するだけで、アズカバンにぶっこまれるからです」

 

「そうだ! あのジメっとした暗い牢獄で一人膝を抱えて寒さや孤独に震えながら乾いたパンと味と具のない薄い塩スープだけの食事を延々と繰り返されるだけの日々になる!! 何が辛いってメニューが365日エンドレスで同じものばかりが出てくるという斬新で金と手間のかからない拷問フルコースを出してくるという事だ!」

「描写がリアル」

「コイツ異様に詳しいな」

「そら脱獄もしたくなるわ」

 

 マッドアイはうるせぇなこいつら、と思った。

 

「アズカバンのことをこれ以上掘り下げるヤツは闇の陣営のスパイ容疑として拘束する!!」

「やっべ油断した!」

「油断大敵! 油断大敵!」

「やべぇよこいつ」

「禁じられた呪文が言えるヤツは居るか! おらんのか!? 誰も居らんのか!?!?」

「机に杖を置き、両手に何も持ってないことを証明するかのように高く手を上げます」

「よろしい、グレンジャー」

 

 両手に何も持っていないことを証明したハーマイオニーは発言を許された。

 優等生な彼女は自信満々に答えるだろう。

 

 

 

 

 

 

「『アグアメンティ』です!!」

 

 

 

 

「油断大敵!! それお前の願望だろーが!! 油断大敵! 油断大敵!!」

「アグアメンティ…それはインセディオの反対呪文として知られます。つまり、火を消すんです! 火を! 炎を!! 燃え盛る火を消そうとする呪文なんて許せません!! 私は許さない! たとえ火は消せたとしても、人間の血潮に潜むその強い放火の意志までは消すことは出来ない!! 屋敷下僕解放!! 解放!!」

 

 ハーマイオニーはかなりアレなことを言っていた。

 周りの生徒は「放火魔がまたなんか言ってるな……」程度のことを思ったが、マッドアイはその魔法の目であっても目の前の少女の発言の真意を見通すことはできなかった。

 尚、本音でしゃべってるだけである。

 

「何言ってんだこいつ……?」

「じゃあなんだっていうんですか!!」

「それを質問してんだろーが! シレンシオ!! グレンジャ―は5分黙ってろ! 他に! 他に分かる頭がマトモな神経をしているヤツはおらんか!!」

 

 ざわ……ざわ……ざわ……! と生徒たちは騒ぐ。

 しょうがないので、勝手に成績優秀なヤツを指名することにした。

 

「じゃあスリザリン! ノット! セオドール・ノット!!」

「ご指名入りましたー」

「禁じられた呪文を応えよ! ただし油断はするな!」

「油断大敵に応えます。『磔の呪文』だと何となく思いました」

「そうだ! クルーシオだ! これは拷問の呪文、禁じられた呪文の一つだ!」

 

 

「「「え?」」」

 

「……え?」

 

 生徒たちは目を見開いて答えた。

 

 

「……ソレ、禁じられてたの……?」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

(……分かっていた……。相手はあのダンブルドアだ……)

 

(奴が法律なんぞ守らねぇことは……分かっていたじゃねぇか……)

 

 

(……そうだ……だが……)

 

 

 

 

 

 

 

(ファッキン! やっぱりホグワーツは魔境だったじゃねーーか畜生がぁあああああああ!!)

 

 

 

 

 

 

「マジか、禁じられてたのか」

「誰も守ってないよな」

「許されざる呪文とは何だったのか」

 

 

「黙れ貴様らごく普通に狂った会話をするな!!」

 

 

「狂人扱いするんじゃねーよ!」

「うるせー! 人のコト狂ってるって言う奴が狂ってんだー!」

「ようこそ。『ホグワーツ』へ」

 

 

「ほ、ほかに分かるヤツは居ねーのか!?」

 

 マッドアイはマッドなアイできょろきょろと教室中を見回してみた。

 何か血を裏切りそうな赤毛とか復讐鬼眼鏡とか、フォイフォイいいそうなヤツとかが目に入ったがスルーする。

 その中で、爆睡する黒い髪の美少女が目に入った。

 

「…………は?」

「フォイ! ラドフォード起きるフォイ!」

「おはようございました……なんだフォイカス」

「お前、マッドアイにガン付けられたフォイ!」

「マッドアイ イズ 誰」

 

 マッドアイの目がべスに向いていた。

 

「……まさか……いや……だとしたら……?」

「誤解です! 私ちゃんと起きてました先生!」

「それ自白だフォイ!」

「……そうか……だから……」

 

 何かブツブツ言っていた。

 やがて、何かを納得したかのようにべスを指さす。

 

 

「じゃあラドフォード! お前は多分優秀だな! 許されざる呪文の一つを言ってみろ!」

 

「え? 許されざる呪文……? 何それ」

「使ったらアズカバン行きになる呪文だフォイ」

「そんなもんあったっけ?」

 

「ヒントをやると緑色の光線が出て、直撃したら即死するアレだ!」

 

 ムーディに擬態したクラウチが露骨に誘導をかけた。

 

「アバダアバダアバダですか」

「そうだ! なんか違うが正解だ素晴らしい! その油断大敵精神を忘れるな! スリザリンに10点!!」

「フォイ!?!?」

「やったぜ」

「何をしているか貴様ら!! 今言ったものをノートに書き留めろ! 一言一句油断せずたがわずな!! いいか! 表紙に大きくこう書け!! 油断大敵と!!」

「任せろ、ゆっくりと敵意がないことを示しながら机にノートを出します」

 

 べスが敵意がないことを示しながら机の上におおよそ書いたり、見直したりした痕跡、つまり勉強に使っているとは思えないキレイなノートを出した。

 

 

「素晴らしいぞラドフォード! ノートの出し方がいい! スリザリン5点!!」

「フォフォフォフォイ!?!?」

「るせーぞマルフォイ」

「まて……おいまて……ろ、露骨すぎるフォイ……? なんだコイツ……?」

「今年の闇の魔術に対する防衛術の先生は話が分かるヤツの様みたいね。妄信します!」

「え? おかしいフォイ! こんなの絶対おかしいフォイ!!」

「これは私の時代、到来! このビッグウェーブに乗るわ」

「ロリコンか……? さてはロリコンかフォイ!?」

 

 

「マルフォイ!! ラドフォードに近すぎだ! 離れて座れ!!!! 個人的に罰則を与える!!」

 

「やった! 死ね、マルフォイ!」

「納得いかねえフォイ……」

 

 

 マルフォイはイタチにされました。

 

 

 

 

 

 

 

 








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進撃の校長

 

 

 

 なんだかんだで対抗試合が始まるので、敵共が乱入してくることになった。

 

 

 それは巨大な馬車だった。

 また巨大な天馬がそれを牽いている。

 やがてその馬車の扉が開かれるだろう。

 薄青色のローブをまとった少年がうやうやしく扉を開けた。

 つやつやとした踵の細い、ハイヒールが現れた。

 

 その瞬間。

 

 大地に亀裂が走る。

 

 

 

 

 

「あ、アレは……!」

 

 

 

 ペガサスが珍しくて窓にはりついていた生徒たちは、目を見張る。

 そしてただ、呆然と目の前の現実に立ち尽くすことしかできない。

 圧倒的な存在感、嫌でも目に張ってくる事実。

 それは、恐怖の形をしていた。

 

 

 

 

 

「巨人だ……!!」

 

 

 おおよそ人類とは思えない巨躯がそこにあった。

 その巨人はハイヒールや毛皮のコートを身にまとったまま腰を深く落とすと、片足を引いた。状態を低く下げそのまま走りだす。

 その様は―――さまに、突進。

 

 

「奇行種だぁあああああああああああああああ!」

「うわあああああああああああああああああああ!」

「早く城門を閉めろおおおおおおお!!」

 

 

 

 その日、人類は思いだした。

 ダンブルドアに支配されていた恐怖を……。

 城の中に囚われていた屈辱を……。

 

 

 飛び散る城壁! 阿鼻叫喚の大広間!

 世界に誇るロウェナ・レイブンクローの傑作たる建築遺産ホグワーツの古城を破壊しながらボーバトンの選手団は入場を果たしたのだった。灰色のレディが「あ゛あああああああああ!おかあさまあああああああああ!!」と絶叫して失神した。

 

 

 

「ようこそマダム・マクシーム」

「ボンソワール、ダンブリードール。おかわりありませんかー?」

「まずまずじゃよ」

「これはわたしのせいとでーす。しんぞうをささげまーす」

「ならばその犠牲が無意味であったことを校長としてワシが教育してやろう」

 

 

 ホグワーツの生徒たちは「あの巨人、普通に喋るのかよ」と静かに思った。

 尚、一部のアホ共は「ゆみるのたみ…」とかなんかお辞儀していた。

 そんな感じで南ヨーロッパ全土から集められたボーバトンの生徒たちが入城してきた。

 

 

 

 次に何か湖から沸いてきたダームストラングの生徒がカルカロフを先頭にして色々入ってきた。

 

 

 

 ボーバトンの生徒はレイブンクロー。

 ダームストラングの生徒はスリザリンのテーブルに座った。

 

 

「こんにちわ。ダームストラングの生徒ですよろしく」

「よろしくフォイ」

「気安く話しかけんなよろしく」

 

 べスとマルフォイに馴れ馴れしく挨拶したダームストラングの生徒はきょろきょろと周囲を見回しテーブルの下をなにやら探っていた。

 

(何してんだフォイこいつ……?)

(ブルガリア人だからヨーグルト喰いすぎて頭ん中までヨーグルトになったのかしらね)

(いいえ、ケ●ィアです)

((!?))

 

((こ、こいつ……直接脳内に……!))

 

 

 

 

 

 

「よし、叩き潰すべきゴミ共が大体揃ったところで、今より炎のゴブレットを公開してやろうと思う。ありがたがって這いつくばるがよい」

 

 訓練されたホグワーツの生徒たちは一斉に叩頭し這いつくばった。

 その光景を見て、耐性のないボーバトンの生徒たちは形容しがたい異様さを覚えるだろう。

 

 

 

「諸君らから代表選手という名の生贄を捧げる……その選別を行うのはこいつじゃ!!」

 

 

 途端に炎のゴブレットが姿を現す。

 それはゴブレットと呼称するには巨大すぎた。

 重厚で武骨なつくりの石材で掘り出された杯は、今か今かとあたかも生贄求めるかのように、青く煌々と静かに燃え盛る炎を宿していた。

 

 

 それを見たスリザリンのテーブルはざわついた。

 

「す、すごいフォイ……」

「なんだあれ。鈍器かしら」

「……す、すごく……おおきいです……!」

「ノット?」

「やべえ……やべえよ……! デカイ……! あの大きさなら……あの大きさなら! あの大きさなら!!」

「……おいノット」

「この城を丸ごと破壊できる超爆発も夢じゃn」

「黙るフォイ!!」

 

 

 

 同じく、グリフィンドールもざわついていた。

 

「凄いねあれ」

「アレで選手を選ぶ? そんなマー髭な」

「青いわ……」

「え? 何言ってるんだいハーマイオニー?」

「あの火、青いわ!」

 

 ハーマイオニーの目には何か灯っていた。

 

 

 

 

「地獄の釜の蓋が開くぞ……」

 

 

 明らかにヤバいゴブレットを見て生徒たちは不安になったらしく騒ぎ立て始めた。

 

 

「おい、何が起こるんだよ……」

「もうやだかえりたい」

「あのゴブレットでまさか代表選手を火あぶりにするんじゃねーだろーな……」

「有り得るぞ! 校長ならやる!」

「火あぶりならまだマシだろ! 多分アイツはファラリスだ!」

 

 とかピーチクパーチクほざく生徒共に大校長アルバス・ダンブルドアは優しく語り掛けた。

 

 

「ファッキュー、ブチ殺すぞ、ゴミめら」

 

 

 大広間に響き渡った。

 

 

「今 口々にがなりたてたその質問じゃ。質問すれば答えが返ってくるのが当たり前かの……?

なぜそんなふうに考える…? バカがっ………!

とんでもない誤解じゃ。肝心なことは、何一つ答えたりしない。大人は質問に答えたりしない。

それが基本じゃ」

 

 

 

 あれ、ここ学校だよな……?という当たり前の疑問を持つものは居なかった。

 

 

 

 

 

「すぐぉいですね、君たちの校長は、どこの独裁者かと思いましたデス」

 

 ダームストラングの生徒はまたしても馴れ馴れしく話しかけた。

 

「そうだフォイ。これが――これこそが『ホグワーツ』だフォイ」

「welcome to Hogwarts……!」

 

 

 

 

 

 ダンブルドアの演説は止まらない。

 

 

 

 

「今 おまえらが成すべきことは……ただ勝つこと。勝つことじゃ……!

 

 勝たなきゃゴミじゃ!! 燃えるゴミじゃぁああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Shut up!!!! ごちゃごちゃうるせえんだよ、黙りやがれこの老害!!」

 

 

 

 バリィイイイイイイン!と派手にガラスの割れる音が響く。

 飛び散るガラス片。

 鮮やかな月光を反射しながら降り立ったのは、トランクを片手に持ち、青とクランベリー色をたたえたローブを翻した17歳程度の青年だった。

 ローブの前に金色のゴルディオスの結び目をかたどったブローチで留めている。

 

 

「アメリカ! ファースト!! なんだぞ!!!!」

 

 青年はまっすぐに指をダンブルドアに突き付けた。

 

 

 

 

 その様子を見ていたスリザリンテーブルでは、べスとマルフォイ。ついでにダームストラングの生徒が黙ってそれを見ていた。

 

「おお、資本主義のイヌが何かキャンキャン吠えやがっているようデスね~~」

「フォ……?」

「なんだあれ。どーでもいいや。ねぇあいつ純血かしら?」

「おお! 貴女ジュンケツシュギシャ! ですか! 凄い! 素晴らしい! イギリスにはまだ純血とか堂々と言っちゃう天然記念物が残ってたんデスね! あとで写真とりまショー! 国に帰って皆に自慢シタイデス!」

「ラドフォードは写真お断りだフォイ」

「気にすんなフォイカス。純血主義プロバカンダ用に使ってくれるなら本望よ」

 

 

 

 

 

 

「ゴミが増えたか……いいじゃろう……叩きィ!! 潰してェっ!! くれるわぁああ!!!!」

 

「HAHAHAHAHA! ブリティッシュジョーク!! 骨董品なんかに負けないんだぞ!! ヘイ! レディース&ガーイズ! カモーン!!」

 

 

 

 

 青年が叫んだ瞬間。

 

 大広間のガラスというガラスをブチ破って青とクランベリー色のローブを来た生徒たちが侵入してきた。更に演出と言わんばかりに天井に向かって魔(法)改造を施したのだろうアサルトライフルを発砲している馬鹿まで居た。誰も気にしないあたり流石銃社会だろう。

 

 

 

 

 

「HAHAHAHAHA! 校長に言われてブリトンの老いぼれに引導を渡しに来たんだぞ!

 

 

……テメェらの時代はもうとっくに終わってんだよ」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

選ばれしものども

 前回までのあらすじ

 

 イルヴァーモーニーが参戦で四校対抗試合になった。

 

 

 

 

 

 青年の名前は、ロルフ・スキャマンダーと言う。

 超有名人物ニュートン・スキャマンダーの孫息子である。

 ニュートン・スキャマンダーはアメリカでゴールドスタイン家と結婚し、その後一人息子を授かる。その一人息子が紆余曲折あってなんか適当な女と結婚して産まれたのがコイツだ。で、何故かアメリカ合衆国の魔法学校に入学資格があったのでそっちに行ったようだった。

 

 平たく言うと、騒音訴訟したくなるただのうるせーアメリカスだった。

 

 

 

「アメリカファースト!!」

 

 こんなテンションでスキャマンダーは占い学の授業に殴りこむ。

 

「WAO! これがブリトン=ジンの信じてる旧石器時代の儀式なのかい!? HAHAHAHAHA! 伝統大事にしすぎて脳が退化してるように見えるんだぞ! ファンタスティック・ビーストだね!」

 

「煽りおるわ」

「URS! URS! URS!」

「HAHAHAHAHA! てめーら古臭すぎてカビの生えたイングリッシュジョークなんて面白くもなんともないんだぞ!」

「その割には爆笑してると見える」

「WAAAAO! 『笑わせてること』と『笑われてる事』の区別もつかないのかい!?」

「ムカつくわ本当」

「ちょっと黙っててくれないかな」

 

 そんな感じで流石にイラッときたトレローニーが反撃に出た。

 

「いい加減になさいまし。ここは神聖なる占いの場ですわ。ヤンキーはさっさと動物園にお帰りさないな。具体的にはルビウス・ハグリッドの小屋とか」

「ノープロブレム! スコットランド独立運動は支持してるんだぞ!」

 

 

「まぁ、素敵! こいつら詰めて殺し合わせれば一石二鳥じゃない!」

 

 べスは言った。

 

「ハグリッドも手段選ばなくなってきたよな。アイツ多分死の商人だぜ。キタネー金の臭いがプンプンすらぁ」

「ロン、なんか嗅覚鋭くなったね」

 

 

「不機嫌なので、ここは一発あなたを不幸にする予言をして差し上げましょう」

「HAHAHAHAHA! 面白いんだぞ!」

「見える……見えます! 見えますわ! ああ未来が!!」

「対抗CO! トレローニー〇!!」

 

「「「!?!?」」」

 

 

「な、なんですって!?」

「どうやら対抗は狂人みたいだね! だけど偽確実だから放置してほしいな! 〇でつぶしちゃったのは申し訳ないけど対抗の中身をハッキリさせられたのは僥倖だったよ! 本当の死喰い人は潜伏してるみたいだね! これから順次焙り出していく進行になるとおもうよ!」

「な、なななななな……!?」

 

 

「まさか! まさか先生が……偽!?」

「トレローニー、偽占い! 死ね!!」

「スキャマンダーさん占い騙りじょうずですね」

 

 

 

 トレローニーの顔が真っ青になった。

 

 

「あ、ああああ! ……いいでしょう、ここは一発ソレっぽい予言をかましてやりましょう! 天よ! 神よ! どうか我に力を!! 

 なぐる くふあやく んがあ・ぐあ なぐる らじゃにー んがあ・ぐあ いむろくなるのいくろむ てぃび!!」

 

 トレローニーの目がググググググと白目をむく。

 

 

 

 

 

 ダンブルドアが地に満ちるとき

 

 紅蓮の魔女が杯を手にする

 

 生と死が交わるとき

 

 死を超越せし、英雄が目覚める

 

 

 

 

 

 

「な、なななななななんだってーー!? クレイジー! なんだか得体のしれない冒涜的な呪文を聞いた感じになったんだぞおおおおお!」

 

「こほん、私はかつてアーカムで魔術を学んだのですわ!」

 

「アーカム……だと……!?」

 

 

 

 

「なんやこれ」

 

 

 占い学の授業は例年通りただの茶番だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

「ゴブレットに名前を入れます」

『残念でした、今年のゴブレットはR17、17禁です』

「なんでや!」

『この年齢線を超えたヤツは灰にします』

「ハイになりたくないので、引き下がります」

「臆さずに名前を投入し……ぎゃああああ!」

「ああああああああああああああああああああああああああ!」

『ash to ash...』

 

 

 

 

「そんな感じで、ゴブレットのゴブレットによる大量虐殺があったフォイ」

「そうね、あったわね」

「そのゴブレットに何か語り掛けているノットは正直正気を疑ったフォイ……」

「あ? なにいってんだお前。ノットさんが正気だったことなんかなかっただろ、いい加減にしなさいよ!」

「黙れラドフォード! ゴブさんへの侮辱は許さねーぞ!!」

「してねぇフォイ。べスが侮辱しているのはお前だけフォイ」

「お前もな、フォイカス」

 

 あからさまに脈がないことを証明するべスを見たダームストラングの生徒は非常に馴れ馴れしくマルフォイに向けて同情気味に言った。

 

「残念だったデスネ。フォイカス」

「黙るフォイ!」

 

 

(今年は何かメンドクサイ輩が多くて嫌だわー……)

 

 

 やがて食事が出てくるだろう。

 レイブンクローのテーブルでは「あああああああああああ!」とか「ぎゃあああああああああああああああ!」とか何人かの断末魔が聞こえた。恐らくはホグワーツの誇る伝統のイギリス料理を口にしたのだろう。

 次々とボーバトンの生徒たちが倒れては担架に乗せられて出荷されていった。

 おそらくはマダム・ポンフリーの怪しい薬の実験体になる運命だろう。

 

 しかし、ハッフルパフのテーブルからは何も聞こえてこない。

 おそらくはアメリカ人だからだろう。

「バーガーがないんだぞ!」とか「量が少ない!!」と文句は聞こえたが、余裕で食べているようだった。イルヴァーモーニーへの飯テロ爆弾は不発に終わった。

 

 

「あなた達は平気みたいね。イギリス料理は口に合うの?」

 

 べスは婉曲に「食中毒希望」と口に出す。すると、ダームストラングの生徒たちはみんなにこやかに笑った。

 

「オショクジが行列に並ばなくて出てくるんだから万々歳デス~~~~」

「温かいスープなんて3年ぶりに飲みマシタ!」

「イギリスには発言の自由がアリマス! 自由に喋れるってスヴァラシイ!」

「あぁそう……」

 

 マルフォイとべスはこいつらも中々壮絶だなぁ……と3ミリぐらい同情した。

 

 

(ここ最近死喰い人の新規募集もかかってないし……というか、私だってそろそろ焦り始めるわよ。……ホグワーツに来て私がやったことって……)

 

 

(トイレ掃除しかないじゃない!!)

 

 

 

「東側代表~~、ダームストラング代表~~ビクトール・クラム。ビクトール・クラム」

 

「Уpaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「「「クラム! クラム! クラム!!」」」

 

 

(去年脱獄したと思ってたシリカス・ブラックは実はフェイクだった。

 ……代わりにジャンガリアンドブネズミを助けたけど……)

 

 

(……アイツじゃ無理だよなー……)

 

 

 

「続きまして~~大陸代表~~。ボーバトン代表~~フラー・デラクール。フラー・デラクール~~」

 

「地獄を拝ませてやる」

「「「Vive la France!!! Vive la France!!! Vive la Fleur!!!」」」

 

 

 

 

(ワールドカップに『闇の印』が打ちあがったから何かありそーだなーって思ってたんだけど……。

 マルフォイの様子からしてあまり父フォイは期待できなさそうだわ)

 

(こっちは何かそろそろ動きたいのに……手柄でも何でも立ててアピールしないといけないのに、呑気に学校対抗試合なんかやってる場合じゃないわよ……)

 

(……しかも、防衛術に闇払いなまで配置してくるなんて! ファッキン校長!)

 

 

 

「イルヴァーモーニー代表~~ ロルフ・スキャマンダー!!」

「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!」

「「「USA!! USA!! USA!!」」」

 

 

 

 

(まー、けどアイツ何故か私に好意的だしバンバン点数くれるから利用しがいはあるわよね)

 

(よし、使うだけ使ってボロ雑巾の様に捨ててやろう)

 

 

 

「ホグワーツ代表!! セドリック・ディゴリー!!」

「え、や、やったぁ!」

「……」

「え? あ、あれ?」

 

「あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

「やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「え」

 

「ハッフルパフだああああああああああああああああああああ!」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「セドリックううううううううう!!!!皆の救世主!!!!!!!!!!!!」

「セドリック様ああああああああああああああばんざああああああああああああああああい!!!!」

 

「う……うん、皆、頑張るぞー!」

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

 

 

 ハッフルパフ寮はここ10年で一番盛り上がっていた。

 おそらくこの先10年、これほど脚光を浴びることはないだろう。

 

 

 かくして、代表選手が全員集まった。

 

 

 と、思った矢先に再びゴブレットに火がともる。

 

 

 

 

「……ハリー・ポッター」

 

 

 

 

「フォイ!?」

「え」

「ん?」

 

 

 どうやら、ハリーの名前がゴブレットに入っていたようだ。

 周囲はどこか困惑した空気に包まれている。

 一体何が起こったのか理解できないものが多いだろう。

 しかし、既に何人かは起こったであろう事態に気が付き始めていた。

 

 

「おかしいでーーすホグワーツ代表は決まったはずでーーす」

「セドリック・ディゴリーはホグワーツの生徒じゃなかった……?」

「CIAの陰謀なんだぞ!! これはCIAのせいなんだぞ!!」

「だまれメリカス!! ここはイギリスだ! MI6に決まってんだろいい加減にしろ!!」

「校長の陰謀だろどーせ」

「正解:ダンブルドア」

 

 

 ハリーが英雄になりたくてズルをしたのではないか、と誰かが言った。

 べスはグリフィンドールテーブルに目を向ける。

 ……そーゆーことする感じのヤツらが目を見開いていた。

 あ、これ違うな、とべスは確信した。

 

 

(……考えられんのは……)

 

 

 ダンブルドアの陰謀。

 ゴブレットの誤認。

 魔法省の介入。

 色々と予想できることは多かったが、ただ一つだけ可能性があった。

 

 誰かが、ゴブレットを錯乱させ、設定を改変し、焚き付けた。

 それを可能にするのは高度の闇の魔術だろう。

 

 

(……これは、何らかの、死喰い人……的なメッセージ……かしら?)

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。