ヒーロー殺しの継承者 (知ったか豆腐)
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ヒーロー殺しの継承者:プロローグ

短いです。
思いつきと勢いだけで書きました。


 世界総人口の約八割が何らかの“特異体質”である超人社会となった現在。

 かつて誰もが憧れたヒーローが現実で活躍し、一つの職業として成り立っている。

 

 でも、ボクはそんなヒーローたちに絶望していたんだ……

 

 

 

 

 ボクの名前は、胸内(ムネウチ) (サトル)。十五歳の中学三年生だ。

 “個性”は「感情察知」。

 周囲の人間の今の感情が何となく分かるという、あまり大したことのない没個性である。

 

 ――――と、周りには嘘を吐いている。

 

 ボクの本当の“個性”は「読心」。

 感情どころか周囲の心理を読み取る、それこそ集中すれば深層心理まで暴くことができる。

 ついでに言えば、恐怖心を煽ったり、特定のモノから意識を逸らしたりなど、簡単な心理誘導までできてしまう。

 ヒーローとヴィランで言えば、ヴィラン向きの個性だろうね。

 

 まぁ、そのことを抜きにしても心を自由に読んでくるヤツなんて、だれも相手にしようと思わないから秘密にしているのだけど。

 

 悪意、敵意、嫉妬、怒り、恨みetc……

 そんな少々、厄介な個性を持ってしまったボクは、小さいころから人間の醜い本心に触れてきた。

 だからこそ、幼いころは正義に満ち溢れ、清い心を持っているだろう、理想(ヒーロー)に憧れていたものだった。

 

 結局、理想はあくまで理想で、現実ではなかったわけなんだけどね。

 

 ボクの個性が出てから約十年。

 いろいろなヒーローを見てきたけれど、本当のヒーローと呼べる者には出会えなかった。

 

 地位、名声、名誉、栄光、金……

 

 彼らの誰もが表面は取り繕っても、心の中では私欲にまみれていたものだから、ボクが失望したのは当然だろ?

 

 

 “自らを顧みず他を救い、己のためではなく他人のために力を振るう”

 

 

 こんなボクの理想のヒーロー像はあっけなく粉々に砕け散ってしまったわけさ。

 

 こうして、理想のヒーローなんていやしないという社会の現実を突きつけられて以降は、諦観の思いと共に日々を過ごしてきていたわけである。

 胸の内に燻ったものを抱えながら、いつか折り合いをつけて生きていくんだろうなぁ、っと、思っていたんだ。

 

 

 彼と出会うまでは――

 

 

 

「ハァ……、どいつもこいつも贋物ばかり……まだまだ社会を正すには程遠い……」

 

 

 薄暗い路地裏に立つ、血のように赤い巻物と全身に刃物を携帯した禍々しい姿の男。

 その足元には派手なコスチュームを着たヒーローと思われる人物が血だまりを作りだしている。

 

 殺人現場だ。

 一刻も早くその場を去るか、すぐに警察を呼ぶべきなのにボクはその場から動くことができなかった。

 恐怖で動けなかったんじゃない。

 彼の思考に、いや、思想(・・)に共感して、感動したからだ。

 

 

 “贋物が蔓延るこの社会も、

 

 徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ”

 

 “英雄(ヒーロー)”を取り戻すために、誰かが血に染まらねば”

 

 “正しき社会のために!”

 

 

 彼の考えは、ボクの中で燻っていたものに火を点けるのに十分だった。

 “贋物”ばかりなら、“贋物”を排除して“理想”のヒーローだけを残せばいいんだ。

 

 この思想は衝撃的で、鮮烈にボクの心に染み渡り、浸透していく。

 

「あの、すみません!」

「ハァ……、なんだ? ここは子供が立ち入っていいところじゃない」

 

 感情が高ぶるまま、彼に声をかける。

 彼は殺気を孕んだ視線を向けてくるが、ボクはそのギラつく視線にさらに興奮してしまった。

 だって、それには彼の静かに燃えているように感じてしまったのだから。

 彼の思想に共感して、憧れてしまったのだから。

 

 だから、ボクはこう彼に告げたんだ。

 

「ボクも、あなたみたいに社会を正す人間になれますか!?」

 

 

 “現実”を“理想”に。

 

 

 これはボクが最恐のヒーロー殺しになるまでの物語だ。




ヒロアカにはまり、つい書き上げてしまいました。
ヒーローに不満を感じている人間ほどステインには共感しそうな気がします。

感想・評価等お待ちしております。


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胸内覚:オリジン

「ボクも、あなたみたいに社会を正す人間になれますか!?」

 

 

 ボクの中で燻り続けていた“ナニカ”。

 その答えを体現した彼に、思わず投げかけたその言葉に――

 

 

「なにかと思えば……ハァ……勘違いした子どもの戯言か」

 

 

 鋭い刃物の一閃。

 

 飛び散る血液。

 

 彼の返事は、明確な拒絶だった。

 

 

 

 彼の“個性”なのか、身体が動かなくなって倒れ伏す。

 視界の半分が地面で埋まる中で、彼が遠ざかっていくのを感じた。

 

 どうして?

 

 拒絶された理由を知りたくて、ボクは個性を使って彼の心を読み取った。

 

 

『俺のことがヒーローにでも見えたか……』

 

 

 違う、あなたは贋物(ヒーロー)なんかじゃない。

 

 

『ハァ……こいつみたいに、偽善と虚栄にまみれた贋物を英雄(ヒーロー)と誤る者ばかりだ……』

 

 

 知ってるんだ! ボクも世の中のヒーローが理想とかけ離れていることを!!

 

 

『この歪な社会を正さねば……英雄(ヒーロー)を取り戻すために!』

 

 

 その手伝いをボクもさせて欲しいんだ!!

 

 

 

 彼の思いに対して言いたいことはいくらでもあるはずなのに、言葉が出てこない。

 なんて言えばいい?

 どう伝えれば、このボクの気持ちは伝わるんだ?

 

 まずは、誤解を解いて……

 いや、いったい何を誤解してるのか説明できるのか?

 

 ボクの個性のことを伝えて、「あなたの思想に共感した」とでも言えばいい?

 心を読むなんて、ただ警戒されるだけになるんじゃないのか?

 

 

 そう考えているうちにも彼は少しずつ遠ざかっていく。

 あぁ、もどかしい。

 心を読めるのに、こうも自分の気持ちを伝えられないなんて……

 

 悔しさに唇をかみしめていると、彼の言葉が耳に届いた。

 

「身体はしばらくしたら……ハァ……動けるようになる。

 そうしたら、憧れのヒーローを名乗るヤツらにでも助けてもらえ……」

 

 こちらに興味なさげに言われたその一言。

 それを聞いた瞬間、ボクの心で燻っていた火が大きく燃え上がった。

 

 “憧れのヒーローに助けてもらう”だって?

 ハハッ、何を言っているんだ。

 

「憧れの……ヒーローなんて、どこにも……いないじゃないか!」

「ハァ……、なんだ?」

 

 叫ぶボクの声に彼が振り返る。

 

「金のためにヒーローやっているやつばっかりだ!

 

 名声が欲しくて、有名になりたくて、ちやほやされたくて、そんな自分のために動いているヤツらばっかりだ!

 

 表面上はきれいごと言ってても、心の中じゃ私欲にまみれた醜いヤツらばっかりだ!」

 

 

 叫ぶ。

 

 贋物(ヒーロー)たちに、ボクが感じていたことを思いのままに。

 

 

「嘘・ウソ・嘘・ウソ・嘘・ウソ・嘘・ウソ――――

 誰もかれも醜い本心を抱えていて、本当の“正義のヒーロー”なんて“幻想”で!

 

 穢されているんだ! 壊されているんだ! 歪められてるんだ!

 

 ボクの理想(ヒーロー)は! 今も!!」

 

 

 叫ぶ。

 

 理想(ヒーロー)への、ボクの焦がれるまでの思いを。

 

 

「だから、正すんだ! 直すんだ! 取り戻すんだ!

 

 ボクの……理想(ヒーロー)を!!」

 

 

 力の限り叫んだボクの顔に影が差す。

 あぁ、よかった。

 彼が戻って来てくれたんだ。

 

「ハァ……お前は、俺と同じく、この歪な社会に気が付いているようだ」

 

 動かなかった身体が動く。

 顔を上げればすぐそこに彼がいた。

 

 

「ならば、為すべきことを為せ。

 

       正しき、社会のために」

 

 そしてボクは、差し出された彼の手をしっかりとつかみ取った。

 

 

 これがボクがヒーロー殺し(師匠)の教え子としての始まりだ。




反応なんて来ないだろうと思っていたら、感想やお気に入りがちらほら出てきたので思わず続きを書きました。

ほとんどプロローグみたいなもんなんですけど。
プロットも全然作ってないので基本的にノリと思いつきです(汗)

この小説でステイン様のファンが増えると嬉しいです(笑)


ご指摘・ご感想等お待ちしております。


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弟子:パダワン

ヒーロー殺しの弟子が初仕事をします。


 時間が経つのは早いもので、師匠(マスター)のヒーロー殺し:ステインと出会って三ヶ月。

 

 ヒーロー殺しの弟子(パダワン)となってから、修行の日々で、多くのことを学んだ。

 

 戦闘・生存に適した体作りや身体操作術。

 格闘術をはじめとした殺人技術。

 刃物・鈍器・暗器・飛び道具などの各種武器の習熟と理解。

 そして、ボクの“個性”の強化と戦闘への応用――――

 

 独自に積み重ねられてきた戦闘技術と、その目でヒーローを見極めてきた観察力も合わさって、師匠(マスター)の教導は的確そのものであった。

 実際に教えられているボク自身が、成長を感じ取れるくらいなんだからすごいものである。

 

 師匠(マスター)がもし、ヒーロー科の教職に就いたらさぞ、評判の教師になるに違いない。

 ……もっとも、自分からすすんで贋物を育てようとするはずはないからありえない妄想だね。

 

 ついでに言えばかなりのスパルタだったりするんだよなぁ。

 格闘訓練は本物のナイフだったり、刀だったりを使ってたせいで切り傷が絶えなかったし……

 

『お前の個性を生かして戦う際に目指すべきは……心を読むことで相手の動きを先読みし、カウンターをきめるスタイルだ。

 ハァ……そのためには戦闘をこなしながら常に個性を自然に発動したままにできるようにならねばならない』

 

 そんなお言葉を貰って、組手をしていたんだけどね?

 

 先読みしてカウンター仕掛けたはずなのに、なんでボクの方がカウンターくらってるんだ?

 てか、動きを読めてても体が追い付かないんですが、師匠(マスター)ホントに人間なんですか!?

 というより、いちいち説教するときに個性発動させないでくださいよ!

 身体が動けない状態で刃物を首筋に当てられる恐怖は――――――思い出したくないなぁ。

 

 マジで、先端恐怖症になるかと。

 そんなこんなで、トラウマを作りつつも実力を身に着けてきた三ヶ月。

 ついに実践の場へと向かうことになる。

 

 

 ――――――関東 某県 唐鞠市(からまりし)

 人口の多い、比較的都会といえるこの街。

 それだけに犯罪者の数もヒーローの数も多く、粛清の対象には困らない場所だ。

 

 そんな多くのヒーローを抱える唐鞠市(からまりし)において、ボクに師匠(マスター)から与えられた任務(ターゲット)は、“投擲ヒーロー”「ブル=ヒット」。

 とはいうものの、ぼく自身がブル=ヒットと直接戦うというわけではない。

 

『贋物とはいえ……ハァ……お前にはまだ相手をするには早すぎる』

 

 というのが、師匠(マスター)の判断だ。

 そこで、ボクの役目は、師匠(マスター)がブル=ヒットを粛清するための下調べをして段取りをすることである。

 本来なら師匠(マスター)一人でこなしていたことではあるのだけれど、効率よくコトをなすためと、ボクに経験を積ませるための一環として任せてもらうこととなった。

 

 やり方に関しては、ヒーロー殺しの信条から外れない限りは、自由にしてよいと言われている。

 ボクの理想の実現のための、これは第一歩。

 

 失敗は……許されない。

 

 

 さて、まず最初に取り掛かるのは情報収集と状況の整理だ。

 ターゲットのブル=ヒットについて、世間に公開されている情報をまとめてみる。

 

 “個性”「ダーツ」

 指先からダーツで使うものによく似た矢を打ち出すことができる。

 連射性と精確な狙撃が特徴の、遠距離型ヒーローだ。

 

 相棒(サイドキック)は所属は五人。

 全員が近接型の個性もちで、彼らを前衛に、ブル=ヒットが狙撃で仕留めるといった連携を得意としているとのこと。

 

 となれば、課題はどうやってブル=ヒットを誘い込むかということと、いかに連携ができない環境を作るかということになる。

 

 

 表面的なデータの分析はこのくらいにしておくとして、やはり調査といえば実際に街を歩いて情報収集をすべきだろう。 

 足で稼ぐっていうのは重要である。

 

 聞くところによると、ブル=ヒットは毎日定期的にパトロールに出かけるとのことなので、様子を伺うために尾行をすることにした。

 気配の殺し方をはじめとした尾行術は、師匠(マスター)から教えられている。

 ついでに言えば、ボクの個性で周りに干渉すれば、ボクに対する認識を薄くすることもできるため、よっぽどのミスをしない限り相手に気取られるようなことはない。

 難易度はベリーイージーってとこだね。

 

 しかし、尾行術まで独学で覚えたって、師匠(マスター)って、ホント何者なんだろうか?

 

 

 

 ブル=ヒットたちの尾行を開始して三日。

 読心も使いながら情報を集めた結果、彼らのパトロールのルートやローテーションを把握することができた。

 パトロールは、ブル=ヒットに四人のサイドキックたちで行い、一人が事務所で留守番をするのがほとんどだ。

 ただし、週に一度だけブル=ヒットが留守番を担当するときがあることを、サイドキックの心を読んで知ることができた。

 ブル=ヒットとサイドキックたちが別行動を取るのは、絶好のチャンスといえる。

 これを活かさない手はないはずだ。

 

 サイドキックの内の一人が、パトロールに対して愚痴っていたので、ちょっと深く読み込んでやったらあっさりと情報を漏らしてくれたので、ラッキーだったな。

 まぁ、週一で留守番をする理由が、たまった書類仕事を片付けるためなんていうどーでもいいこともわかったけど。

 

 書類仕事に追われるヒーロー……なんだろう。またボクの理想(ヒーロー)が壊されてしまった気がする。

 ブル=ヒット、許すまじ!

 

 ちなみに、次にブル=ヒットが留守番をするのは五日後。

 それまでに、サイドキックを足止め、もしくは無力化する方法を見つけないといけない。

 

 

 

 調査を開始してから五日目。

 二日間、街の情報を集めなおしたところ、役に立ちそうな情報を手に入れた。

 ブル=ヒットに敵対する(ヴィラン)の存在だ。

 

 その敵対ヴィランの名は『ペガッサ』

 かつて唐鞠市(からまりし)に存在していたマフィアが母体のヴィランチームの残党で、ブル=ヒットたちによって組織を壊滅させられた恨みから襲撃を仕掛けては毎回返り討ちにあうということを繰り返している。

 

 このヴィランをうまく使えば、サイドキックたちの足止めどころか抹殺も不可能ではなくなるかもしれない。

 

 

 そう思って実際に会ってみれば、慕っていたマフィアのボスの仇を討とうと考えるような、ある意味義理堅い性格をしている人間だった。

 

 正直言って、復讐心なんていう分かりやすい動機を持っている相手だったので、コロッとこちらの心理誘導に引っかかってくれたものである。

 

「あなたが、ペガッサさんですね」

「なんだァ、てめェは!」

 

 顔を見られないよう、パーカーのフードを目深にかぶって声を掛ければ、当然のごとく警戒された。

 まぁ、警戒もしないようならヴィランなんてやっていないだろう。

 そこはこちらも織り込み済みなわけで。

 

『ボクもボスにはお世話になった』

『マフィアだのやくざだの言われていたけれど、情に厚い人で懐に入れた人間は大切にしてくれた』

『そんなボスを、ブタ箱へ送り込んだブル=ヒットが許せない』

『だから、あなたに協力してブル=ヒットに一泡ふかせてやろう』

 

 などなど、ヤツの慕うボスの恩人という共通項から親近感を持たせて、味方のふりをさせてもらった。

 もちろん、ボク自身はそのボスとやらとあったこともない。

 ただ、ペガッサの記憶から人柄だとか言動をトレースして、話を合わせているだけだ。

 ボクに好印象を持たせるように微妙に干渉もしていたので、気がつけばヤツはボクのことを数年来の友人のように扱うまでになっている。

 チョロいものだね。心の中で、チョロインならぬチョロヴィンとでも呼んでやろう。

 

 こうして、“ブル=ヒットに一泡吹かせる”という考えに共感させることに成功した。

 次は、方法を提案するだけ。

 

『ブル=ヒットは確かに強いヒーローだ。まともにやり合えばタダではすまない』

 

 度重なる襲撃の失敗で、ブル=ヒットに対する恐怖心や忌避感が芽生えていたようなのでこれを利用させてもらう。

 

『だが、一泡吹かせるならば別に本人を狙う必要はない』

『ヤツより実力の劣るサイドキックどもを狙えばいいのさ』

 

 ヒーローではなく、サイドキック程度なら何とかなる。

 そう思わせれば、失っていた自信も少しは奮い立つだろう。

 

『ヒーローにとって相棒(サイドキック)を失うのは……とても、とても辛いことだろうねぇ』

 

 そして、コトを為した時の愉悦を想像させる。

 

『そのために必要な調査は終わってるし、作戦と必要な物も用意できる』

『あとは、あなた次第だ。さぁ、一緒に“ボス”の仇を摂りましょう』

 

 最後に一押ししてやれば後はもう完成。

 さぁて、材料はそろった。あとは細工を仕掛けるだけ。

 

 

 

 ――――――the X day

 

 かねてより把握していた、ブル=ヒットとサイドキックたちが別行動をとる日となった。

 ペガッサとヴィランチームの残党との協力作戦の開始である。

 

 

 荒れ果てた廃ビル。

 一つに固まりファイティングポーズをとるサイドキックの五人と、周りを取り囲むようにして武器をかまえるヴィランチーム六人。

 そしてボクは、縄で縛りあげられてペガッサに拘束されてしまっていた。

 

「く、卑怯な。人質を解放するんだ」

「はッ、寝言は寝て言ェ。クソヒーローの犬どもめ」

「た、助けて」

 

 ボクという人質を取られ、手出しが出せないサイドキックたちを楽しげに見下ろすペガッサ。

 そんな状況にボクは、不安そうに助けを求めるしかなかった。

 

 

 ――――もちろん、演技なんだけどね。

 

 作戦はいたって単純。

 サイドキックたちの目の前で、ワザとボクが人質に取られたように見せかけておびき寄せただけ。

 あとは手出しのできないサイドキックたちを、集団で嬲るだけの簡単なお仕事。

 念には念を入れて、近接型の個性を活かせないよう遠距離からの攻撃に終始する徹底ぶりである。

 

 気がつけばサイドキックたちはボロボロ。虫の息状態だ。

 サイドキックの無力化に成功。ボクの目的は達成されている。

 

 さんざん煮え湯を飲まされていた相手を、一方的に倒せたことで、ヴィランチームは歓声をあげて喜んでいる。

 

「はッはッァ! おめェのおかげでうまくいった。これでブル=ヒットの野郎に一矢報いたぜ」

「えぇ、おめでとうございます」

 

 ご機嫌な様子でボクに語りかけてくるペガッサ。

 ボクも自分に掛けられた縄をほどきながら返事をする。

 

「これでェ、次はとうとうブル=ヒットの野郎だな。おめェさん、期待してるぜ?」

「そうですね。次はブル=ヒットだ」

 

 肩を叩きながら話しかけてくるペガッサに笑みを浮かべる。

 

「ただ、その前に…………」

 

 ペガッサに秘密の話をするように体を近づける

 

 

「あなたたちには、消えてもらわないと」

「なにィ……ガッ!?」

 

 隠し持っていたナイフをペガッサの腹に突き立てた。

 そして、すぐに残りの六人のヴィランに向けてベルトから小型ナイフを投擲する。

 六人同時なので、正確な狙いが付けられず、当たった場所も手足、肩、腹などとバラバラになってしまった。

 

 それで、十分効果は発揮されるのだけど。

 

「クソ、体が動かねぇ」

「チッ、痺れ薬か」

 

 倒れて動けなくなるヴィランどもの悪態に思わず口角が吊り上る。

 正解。

 先ほどのナイフには効果の持続時間は短いが、超即効性の高い痺れ薬が塗ってある。

 軽く切りつけただけで、身体を動かせなくなるほどの強力なモノだ。

 少しでも攻撃を当てれば、相手を動けなくできる師匠(マスター)へのリスペクトだね。

 

「てめェ、これはいったいどういうつもりだ」

 

 証拠を残すのも嫌なので、ナイフを回収し出口へと向かう。

 すると、背後からペガッサの怒りのこもった声が聞こえてきた。

 

「どうもこうも、たんに“ヒーロー殺し”のためにキミたちを利用させてもらっただけの話さ」

「キッサマァ、おれたちは、同じ目的のために動いていたんじゃなかったのかよ!」

 

 痺れた身体で、怒鳴り声を上げるペガッサ。

 ハァ……なにを言っているんだ……こいつは。

 ボクは振り向いて、ペガッサの間違いを正してやる。

 

「違うよ、全然違う。

 ヒーローを殺すことは手段であって目的じゃない。

 ただ単に、ヒーローを殺せれば満足のオマエらなんかと一緒にするなよ。

 

 ボクたちの目的は、この歪んだ社会(ヒーロー飽和社会)を正すこと。

 そう、その目的のためには…………

 

 “英雄(ヒーロー)を歪ませる贋物も、徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ”

 

 だから、死ね。正しき、社会のために」

 

 

 それだけを告げて、ペガッサに背を向ける。

 サイドキックの持つ端末を回収するのも忘れない。

 これは、あとでブル=ヒットをおびき寄せるのに必要だ。

 

 十分距離を取ったところで、もともと持っていたボクの端末を操作して廃ビルの爆薬を起動させた。

 これで、生き残りはいなくなり、ボクがいた証拠も残らない。

 

 あとは、ブル=ヒットを先ほど奪った端末でおびき寄せて師匠(マスター)に任せるだけ。

 

 初仕事は……ハァ……無事終了といったところか。

 

 

 

 

 

 

 翌日、“投擲ヒーロー”ブル=ヒットが路地裏で殺害され、彼のサイドキックとヴィラン『ペガッサ』が死亡しているというニュースが流れた。




サブタイトルは、原作で土地の名前にスター・ウォーズの土地名をもじったものが使われていると知って弟子=パダワンの発想からとりました。
まぁ、ジェダイではなくてシスの弟子でしょうけれど(苦笑)

ついでに上記にならって、今回の舞台となった場所の名前もスター・ウォーズから撮ってきてます。

今回、主人公の覚の狂気というか、異常さみたいなところが描けていたらと思ってます。


ご感想・ご意見等、お待ちしております!


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His belief

とうとう、原作に突入します。


 ボクがヒーロー殺し:ステインのパダワンになってから、訓練の中で刃を向けられたことは何度もある。

 だが、本気の殺気を向けられたのは初めてだ。

 

「ハァ……お前の行動には失望させられた」

「くぅッ! 何をするんです、マスター!?」

 

 振り下ろされる刃を右手のナイフで必死に受けながし、次の攻撃に備える。

 個性で動きを読んでいるとはいえ、マスターの動きは早く、そして、多くの判断を要求してくるため、ついていくので精いっぱい。

 実力差は……歴然だ。

 

 数回の攻防の後、一瞬の隙を突かれて地面にたたき伏せられてしまった。

 

「グハッ」

「……贋物(ヒーロー)の動きを調べ上げ、俺のところまで誘導したことは褒めてやる。

 お前は技術的にはもう、一定のレベルに達していると言えるだろう」

 

 後ろ手に拘束された状態で、前回の任務の総評を聞かせられる。

 状況とは裏腹に、お褒めの言葉をいただいたわけだけれど、このままで終わるとは思えないな。

 

「だが……ハァ……お前のとった手段を認めるわけにはいかない」

「ボクの……やり方の、何が?」

 

 ボクのやり方について、怒りのこもった声で批判するマスター。

 いったい何が悪かったというのか?

 

贋物もどき(サイドキック)犯罪者(ヴィラン)どもをぶつけ合わせる……ハァ……確かに、効率的だ。

 だが、その行動のどこにおまえの信念がある?」

 

 

 ひたすら効率を求め、目的のために動いたボクのやり方が駄目だったらしい。

 とくに、サイドキックとヴィランにとどめをさすために、廃ビルを爆破したのは……論外だと。

 

「自らが血に染まらず、また、爆破という……周囲も巻き込みかねないその行動…………

 むやみやたらと社会に力を振りまく犯罪者と何が違う?」

 

 そうマスターに告げられた。

 これは、事実上の粛清対象であるという宣告と同義だ。

 あぁ、ボクは社会を正す存在に値しないということなのか……。

 

 もう、ボクの心の中は諦観で埋められてしまっている。

 絶望してしまったボクは、抵抗をやめた。

 そして、マスターの持つ刃が振り下ろされてボクの命はここで終わり。

 

 かと、思ったのだが、刃はのどもとで止まり、皮膚を薄く傷つけるだけにとどまった。

 

「マスター……なぜ、とどめを刺さないのですか?」

 

 てっきり、これで殺されると思っていたのだけれど……マスターは何を考えているのだろう?

 寸前まで命の危機だったにも関わらず、なんだか他人事のような感想が思い浮かぶ。

 

「俺がお前と会ったとき……お前の中には強く灯る信念の炎が感じられた」

「ボクの……信念?」

 

 相変わらず刃は突きつけたまま、しかし、殺気はきれいに消え失せて静かに語りかけてくるマスター。

 

「だが……ハァ……今のおまえには、あのとき感じた理想(ヒーロー)への“想い”が消え失せている。

 

 何を成し遂げるにも、信念……想いが要る。

 それが無い者弱い者が淘汰される。

 

 たしかにおまえは、戦闘技術を学び、戦うすべを身に着けた。

 しかし……ハァ……信念を忘れてしまったおまえは、逆に淘汰される弱い者になった……」

 

 ボクの信念とはなんだ?

 相変わらず、理想(ヒーロー)足りえない贋物を消し去りたいという気持ちは変わらないが……

 それとも、ボクはなにか大切なことを忘れてしまっているんだろうか?

 

 

 駄目だ……自分の、心が読めない。

 わからない……

 

 

 

 

 

 

――――――関東 静岡県 某市

 

 ボクは電車の窓から風景を眺めている。

 

「来るんじゃねぇええ!」

 

 まぁ、普通の風景じゃなくて戦闘風景なんだけれど。

 目的地の田等院駅前で、足止めを食らったのは不幸だが、こうして犯罪者(ヴィラン)と、贋物(ヒーロー)の戦闘を見れたのは幸運だ。

 じっくり観察させてもらおう。

 

 

 マスターに信念について指摘されたあの日から、ボクに与えられた任務は贋物(ヒーロー)について調べ、情報をまとめることになった。

 ただし、一切の戦闘行為を禁止する旨を申し渡されている。

 マスター曰く、

 

『今のおまえに、刃を握る資格はない。贋物どもを見ることで、もう一度おまえの信念を……想いを見つけ出せ』

 

 とのこと。

 それからは、関東を中心に各地を回り、贋物(ヒーロー)の情報を集めてきた。

 だが、ボクの信念とやらは、まだ分からないままだ。

 

「本日、デビューと相成りました。Mt.レディと申します! 以後、お見シリおきを!」

 

 気がつけば、ヴィランは退治されていた。

 新人のヒーローが倒したみたいだけれど。

 

『うまくほかのヒーローを出し抜いて、手柄をたてられたわ。

 最高のデビューと言ってもいいわね。これが、私がビッグになるための第一歩!』

 

 心の中を見てみれば、こんなもの。

 国からの収入、人からの名声。

 うんざりするほど、私欲に満ち溢れたヒーローの心ばかり見てきた。

 

 そのたびに、贋物(ヒーロー)は粛清すべきだという気持ちは強くなる。

 これはボクの信念――――ではないらしい。

 ならば……ボクの信念とはなんだ?

 このヒーロー調査に意味はあるのだろうか?

 

 あぁ、駄目だね。本来持つべきではない、(マスター)への疑念を生じさせるとは。

 ただ、マスターにとって、このボクが上げる報告書はたいして重要ではないのは確かだ。

 ボクの調査とは関係なしに、マスターは贋物(ヒーロー)の粛清を続けているわけなのだから。

 

 いや、そもそもボクの存在自体、マスターにとって必要と言えるわけではないのだ。

 

 ……やめよう、これ以上は悪い方向にしか考えが向かない。

 いまは……ハァ……任務を済ませることだけを考えろ。それで、いいんだから。

 

 

 

 

 

 その後、動き出した電車で田等院駅に降りた。

 この街にも多くのヒーローがいるため、調査対象には事欠かない。

 まぁ、いまどきはどこもヒーローが溢れ返っているのだから当然と言えば当然だが。

 

 

 特筆することなく調査が進んで、時刻は午後三時を回ったところ。

 強いて言うならば、正午ごろに現れた強盗のヴィランを追ってオールマイトが現れたということくらいか。

 

 No.1ヒーローのその心。

 ぜひとも覗いてみたいけど、すでに別の場所に移ってしまっているだろうな。

 オールマイトともあろうものが、たかが強盗程度に後れを取るとは思えないし。

 残念だが、またの機会を待つとしよう。

 

「ん? なんだ?」

 

 遠くから爆発音が聞こえた。

 煙がもうもうと立ち上っており、かなりの爆発のようだ。

 

「また犯罪者(ヴィラン)か……この街も騒がしいなァ。

 でも、ヒーローを観察するには……もってこいだ」

 

 今日だけで少なくとも三件のヴィランの事件とは、この街もずいぶんと治安が悪いらしい。

 ボクの目的のために利用させてもらうとしよう。

 爆発の起きた方へ足を向けた。

 

 

 

「おおォオオオ! こぉんのお!!」

 

 吼えるような叫び声、そして爆発。

 

 現場に着いてみれば、ヘドロの個性を持ったヴィランが爆発系の個性を持った少年を人質にとって暴れていた。

 ボクと同じくらいかな? 人質にされている少年の抵抗がすさまじくて、静かな商店街だった場所は炎に囲まれた危険地帯に変わってしまっている。

 なるほど、これはかなり厄介な状況だ。

 

 そんな中、ヒーローたちは手も足もでないでいる。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリ~~~~~~!」

 

 論外だ。なら、なんでここに来た。

 

「爆炎系は我の苦手とするところ……! 今回は他に譲ってやろう!」

 

 譲る譲らないって、ヴィランはゲームの得点かなにかじゃないんだぞ?

 自分の得意不得意で戦う相手を選ぶのか?

 

「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ!!」

「誰か有利な“個性”が来るのを待つしかねえ!!」

 

 何故、諦めてるんだ。

 出来る出来ないじゃなくて、やらなきゃいけないことだろ。

 

「それまで被害をおさえよう。何! すぐに誰かくるさ!」

 

 何故、自分でどうにかしようとしない。

 誰かって誰だ? ヒーローを待つ?

 おまえがヒーローだろ。ヒーローが人頼みなのか。

 

「あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう!」

 

 何故、(たす)けようとしない。目の前に(たす)けを求める人がいるのに見殺しにするのか。

 あまつさえ、人質にさらに苦しみを強いることを望むなんて!

 

 あぁ……アァ、言い訳ばっかりだ。

 たとえ力及ばずとも、人質に希望を与えるような言葉を投げかけるくらいはできるはずなのに。

 口に出す言葉、全部、自己保身に満ちた言葉ばかりだ!!

 

 こんな有様で、どいつもこいつもヒーローを名乗りやがって……

 ボクは……こんなヤツらをヒーローと呼びたくはない。

 

 贋物(ヒーロー)たちの言動に憤りを隠せない。

 ――――こいつら、どうしてやろうか。

 

 そんな暗い感情に気持ちが染まりかけた時、

 

「馬鹿ヤローー!! 止まれ!! 止まれ!!!」

 

 贋物(ヒーロー)の一人が叫ぶ声が聞こえた。

 ふと、顔を上げるとヴィランに向かって走る少年の姿が。

 

 必死の形相でヴィランの懐に飛び込み、人質を救い出そうとヘドロをかき分けている。

 彼は、どうしてあんなことを?

 

 ここからでは声は聞こえない。

 ならば、ボクの“個性”で彼の心を読むだけだ。

 

『理由なんてわからない』

『足が勝手に動いてた』

『君が(たす)けを求める顔してたから』

 

 これは、これが、これこそが――――

 

 “ボクの求める理想(ヒーロー)の精神だ!”

 

 名も知らぬ、彼の行動、そしてその心にボクの理想(ヒーロー)の欠片を見た気がした。

 そして――――

 

「プロはいつだって命懸け!!!」

 

 

 DETROIT SMASH!!

 

 

 理想(ヒーロー)の体現がそこにいた。

 

 ピンチを腕の一振りでひっくり返す。

 悪をくじく、圧倒的な力。

 いや、力だけじゃない。その精神も理想(ヒーロー)そのものだった。

 

『ぐっ、限界時間が。だが、Plus Ultra!(更に、向こうへ!)

 私は、“平和の象徴”!

 恐れ知らずの笑顔で人を救ける、最高のヒーローであらねばならない』

 

 彼の心を読んで、思いもかけず知ってしまった彼の秘密。

 今までの戦いで、彼の体はもう既にボロボロだったのか。

 それを、微塵も見せることなく平和の象徴であり続けた気高い精神。

 

 あぁ、これが“本物”か……

 

 

 暴れていたヴィランは無事捕まり、人質になっていた少年もヴィランに向かっていった少年も無事だった。

 めでたしめでたし、大団円といったところ。

 

 しかし、ボクには納得できないことが一つある。

 飛び出した彼の評価。

 

 あの時、どのヒーローもしり込みした場面で躊躇なく飛び込んでいった彼の勇気を誰も褒めることなく、逆に彼を叱り飛ばしている。

 逆に、人質になっていた少年の“個性”ばかりを誉めそやす。

 

 ボクからすればナンセンスだ。

 強い“個性”を持った者がヒーローなのだろうか?

 いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……

 

 だから……そんな悲しい顔をしないでくれ。

 名も知らぬボクの理想(ヒーロー)の欠片よ。

 

 

 

 

「なぁ、ちょっと待ってくれないか」

「は、はい!? 僕ですか?」

 

 思わず追いかけて走り出していた。

 追い付いたのは住宅街の静かな交差路の前。

 ボクは彼と対峙していた。

 

「あの時、ヘドロのヴィランに向かっていったのはキミだよね?

 ボクは、どうしてもキミに一声かけたくて追いかけてきたんだ」

「え、あの、どどんなご用でしょう?」

 

 さんざん叱られた後だからか、おっかなびっくりした様子で返事をする彼。

 

「あ、いや、そんな変なことじゃないんだ。

 ただ、ボクの思ったことを伝えたいだけで……」

「えっと、なんでしょうか?」

「ああ、うん、なんていうか、あの時……

 誰もが、それこそ一般人だけでなくプロヒーローと呼ばれる者もみんな手が出せなかった場面で、迷いなく飛び込んでいったキミの姿はボクには理想(ヒーロー)に見えた……

 ただ、それを伝えたいと思ったんだ」

 

 ボクの言葉に彼は驚いたような顔をして、そして悲しそうな顔をして言う。

 

「そんな、僕は結局何かできたわけじゃなくて、何か変わったわけでもないし……」

「ボクはキミが何かを成し遂げた姿に理想(ヒーロー)の姿を重ねたんじゃないんだ。

 誰よりも、最初に救けようと飛び出していったその勇気をすごいと感じたんだよ」

 

 心を読んだからこそ分かる。

 あの時、彼の心にあったのは“人を救ける”という純粋な気持ちだけ。

 そこに、自己保身や私欲はなかった。

 あれこそ、ボクが求める理想(ヒーロー)の精神だ。

 

「でも、僕は“無個性”で、本当のヒーローになんか……なれないん、です」

 

 彼は苦しげに絞り出すような声で告げる。

 “無個性”? だからなんだというのだろう。

 

「ボクはね、救ける人や倒すべき敵を前にして、迷いなく行動できる人間を英雄(ヒーロー)と呼ぶんだと思う。

 

 あの場で真っ先に動くことができたキミは、確かにヒーローだったよ」

 

 ボクが重視するのは、その心だ。

 

「なぁ、ヒーロー。キミの名前を教えてくれないか?」

「ッ!……緑谷、緑谷出久です!」

「緑谷……出久…………覚えたよ。

 いつか、キミがヒーローとして活躍するのを楽しみにしてるから」

 

 そう言って、彼に背を向けて歩き出す。

 彼に出会えてよかった。理想(ヒーロー)に対するボクの答えを得た。

 

 

 今回の件でよく分かったことがある。

 いまの社会は、ヒーローの個性や活躍ばかりが注目されて、その精神性は誰も気にかけていない。

 

 ならば、心を読む“個性”を持ったボクがその心の是非を判断しよう。

 ――――真の理想(ヒーロー)の精神を持つ者だけがボクの英雄(ヒーロー)だ。

 

『純粋に人を救けようとする心を持った者こそが、英雄(ヒーロー)

 

 これをボクの信念としよう。

 それに沿って動くことがボクの信条だ。

 そして、理想(ヒーロー)への信仰の証でもある。

 

 この信念に従って動く限り、何者にもボクを裁くことは許さない。

 ボクを裁いていいのは……緑谷出久()のような、英雄(ヒーロー)の精神を持った者だけだ。




思ったより筆が進まなくて苦労しました。
今回は原作主人公の出久と出会い、信念を確立させました。

そんなに登場させてないのに、原作キャラの取り扱いに悩みに悩みました。
原作の出久のイメージが崩れてないといいんですが(汗)
どうなんでしょう?

次回予告、
「覚がステインと一緒に保須市に行くぞ!」

次回もお楽しみを。


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UA5000&お気に入り100記念小ネタ集:ヒーロー殺しの継承者すらっしゅ

UA5000&お気に入り100記念と感謝に閑話を挿入です。

ギャグ風味の日常風景?です。
かっこいいステインのイメージが壊れる可能性があります。

『僕のヒーローアカデミアすまっしゅ』のネタをもとにしています。
独自解釈・設定ありです。


【ヒーロー殺しの資金源 その1】

 

 ヒーロー殺し:ステインに弟子入りしてしばらくのこと。

 師匠(マスター)と寝食を共にして気になったことが一つ。

 

『そういえば、活動資金ってどこからだしてるんだ?』

 

 社会を歪める贋物を粛清し、正しい社会を取り戻すという理念は素晴らしいが、残念なことに理念だけでは動けないのもまた事実。

 武器の用意に拠点の確保、移動にかかる交通費や日々の食費などなど、どうしても先立つものは必要となってくる。

 

 そんな必要経費を、現状すべてマスターが出してくれているわけなんだが……

 いったいどこからその費用を捻出しているんだろう?

 

 贋物と同時に犯罪者も嫌うマスターだから、犯罪者が集めた汚い金を奪うということはないだろう。

 なら、真っ当に稼ぐということになるのだが、コンビニのバイトみたいな普通の仕事は無理だよなぁ。

 というか、コンビニでレジを打つマスターとか想像できない。

 シュールすぎる! ありえん!!

 

 となると、あまり身元を確認されないような日雇いの仕事とか、怪しげな裏バイトとかだろうか……

 もしかして、ボクも稼ぐ必要があるのか?

 

「……マスター」

「なんだ?」

「マスターって、人生経験豊富そうですよね」

「………………ハァ……おまえはいきなり何を言ってるんだ?」

 

 考えていたことを伝えたら、個性を使われて動けなくされた後に懇々と叱られた。

 いわく、妄想もいい加減にしろ、と。

 いや、すみません。

 

 

 

【ヒーロー殺しの資金源 その2】

 

 相変わらず謎な資金源。

 気になって仕方なかったので、思い切って聞いてみたら意外とすんなり答えてくれた。

 

「両親の遺産だ……」

「あ、ご両親の……」

 

 遺産とはこれまた予想外だった。

 まぁ、マスターとて人の子。木の股から生まれたわけじゃないんだから両親がいて当然といえば当然なわけだ。

 しかし、ご両親の遺産かぁ。まさかとは思うけれど……

 

「言っておくが……勘違いはするな。

 俺が殺したなどとは思うなよ……ハァ……不愉快だ」

「いえ、その、失礼しました」

 

 わずかに怒気をはらんだ声音で告げるマスター。

 ここは素直に謝罪の言葉を口にする。

 自分の主張のために罪のないご両親を殺害するなど、マスターがするはずもない。

 正直失礼極まりない考えだった。これは反省しないと。

 

 それにしても、こうして問題なく活動できるほど遺産を残せるとは、よっぽど裕福な家庭だったんだろうか?

 

「両親が残してくれた遺産は……ハァ……世間一般的な額だろう。

 それを元手に資産運用で数年かけて、活動資金を用意した……」

「資産運用って、株とかですか?」

「ああ、そうだ……」

 

 コツさえつかめば簡単だったと、平然とのたまうマスター。

 

 この人、きっとヒーロー殺しなんかしてなかったら勝ち組人生歩めるくらいのスペック持ってるよなぁ……この、才能マンめ!

 

 

【ヒーロー殺しの履歴書】

 

 マスターの経歴。

 

 オールマイトに感銘を受けてヒーローを志し、私立のヒーロー科高校に進学。

 その際に、「教育体制から見えるヒーロー観の根本的腐敗」に失望して一年夏に中退。

 十代終盤まで「英雄回帰」を訴え街頭演説を行うも「言葉に力はない」と断念。

 以降、十年間を独学で殺人術を研究・鍛錬し、今に至る。

 

 ……なるほど。

 

「つまり、マスターって、最終学歴は高校中退ってことなるんですね!」

「…………ハァ……言い残すことはそれでいいかァ?」

 

 その日の修行は滅茶苦茶厳しかった。

 てか、死にそうだった。

 うん、口は災いのもとだね。

 

 

「ハァ……そういうおまえは高校に進学すらしてないだろうが……」

 

 ……あれ? ボクの最終学歴は中卒?

 いや、ボクが弟子入りしたの中三だから、卒業式もでてないじゃん。これって卒業扱いなってんの?

 いや、どうしよう。独学で勉強しとかないと。

 

 

【オールマイトマニア!?】

 

『寺崎秋のパン祭! 今回はオールマイトのコスチュームを模したお皿セット、またはマグカップ!! みなさん、是非応募してくださいね』

 

 適当に点けたテレビで流れた毎年恒例の有名パン食品メーカーのCM。

 

「…………」

「…………」

 

 それを食い入るように見つめるマスター。

 

「マスター、さっきの欲しいんで――――」

「要らん……」

 

 間髪入れずに答えるマスター。

 

「でも、ほんと――――」

「要らんものは、要らん……」

 

 有無を言わせぬ即答。

 

「…………」

「…………」

 

 そして、再び沈黙。

 

 …………うん、ボクは何も見ていない。“個性”も使ってない。

 

 でも、はっきり言って知ってるんですよ?

 こっそりオールマイトのグッズ集めてるの。

 

 

【それはそれ、これはこれ?】

 

「ヒーローとは自己犠牲の果てに得うるものでなくてはならない。

 つまり、ヒーローとは見返りを求めてはならないのだ……

 人気や名声?

 富や名誉?

 そんな俗物的なモノにかまけている現代のヒーローなど贋物でしかない……」

 

 そう熱く語るマスター。

 

 でも、オールマイトのグッズは買うんですよね?

 

 

 

【潜入任務ですか?】

 

「なぁ……おまえ、生徒として雄英高校に潜入できるか?」

「マスター……」

 

 

 オールマイトの授業風景が知りたいからって無茶振りはしないで!

 




ステイン様はオールマイトの大ファンに違いないと思ってます(笑)
ヒーロー殺しの思想に目覚めていなかったら出久くんとオールマイトの話で一晩語り明かしそうなイメージが……

本編は近日中に。



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英雄審判

難産でした(汗)


 ――――関東 某市 裏路地にて

 

 

 標的は三人。

 麻薬密売を行う犯罪者だ。

 人気のない裏路地で麻薬の取引とは、テンプレートすぎて笑えてくるよ。

 おかげでこちらは仕事がしやすくて助かる。

 

 粛清対象が最初から狩場にいるんだから……

 

 

「チクショウ、なんなんだァ、てめえは! いきなりやって来て仲間を()りやがって」

 

 袋小路に追い込んだ(ヴィラン)の一人が威嚇するように怒鳴り声を上げる。

 なんて健気な虚勢だろう……アァ……ボクにはその恐怖に怯えた心が丸見えだというのに。

 まぁ、開幕早々に仲間の一人がやられているのだから無理はないか。

 

「う、うおおぉ!」

「テリャーッ!」

 

 覚悟を決めて反撃に出る(ヴィラン)二人。

 

『“個性”で硬質化させた右肩でのショルダータックル』

『伸ばした腕の振り降ろし』

 

 だが、相手が動く前にこちらはすでに動きを読み切っている。

 あとは冷静に対処するだけ。

 

「フッ!」

 

 一息で懐に潜り込み、振り下ろされて勢いがつく前に右手で相手の腕をつかみ、一気に捻りあげて体勢を崩させる。

 そうして体の位置を入れ替えてもう一人の攻撃の盾として使う。

 

「ガッ……クフッ」

「アニキ! てめえ、よくもや……ゴフッ」

「駄目だね……アァ……戦闘中に分かりやすく動揺するなんて」

 

 仲間を攻撃して動揺したところを、左手首から伸びる暗器――リストブレード――で一突き。

 口から血が溢れ、呼吸ができないそいつは首を抑えながら倒れ伏した。

 助かる見込みは……ゼロだろう。

 さて、残りは一人。まだ息があるな。

 

「な、なんでだ? 俺たちがお前になにしたってんだ!? なぜこんなことをするんだよ!!」

 

 腕個性の(ヴィラン)が恐怖に歪んだ顔で問いかけてくる。

 『何故』……か?

 そんなの、もちろん決まっている。

 

「全ては、正しき社会の為に……!」

 

 ためらいなく刃を振り下ろした。

 

 ボクが自分の信念を見つけたあの日から、自分の手を血に染めることにずいぶん慣れたものだ。

 まぁ、もう一年近くも経つのだから当然といえば当然かもしれないけれど――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――約一年前、ステインアジトにて

 

 ボクはマスターと対峙し、見つけた信念を告げていた。

 

「“ヒーローの心の是非を判断する”……か。

 ……ハァ……おまえらしいといえばらしいが……随分と傲慢な考え方だな」

 

『一体、おまえは何様のつもりなのだ?』

 

 そんな想いが、マスターの言葉には込められているような気がする。

 だが、臆する必要は微塵も感じなかった。

 

「それはマスターとて、同じでしょう?

 周りの人間が何と言おうとも、己の信念に従い行動する……そうでしょう?」

「……ハァ……おまえも言うようになった」

 

 ボクの切り返しに、マスターは笑みを浮かべて言う。

 

「だが、俺とおまえの信念がもしぶつかり合ったときは……弱い方が淘汰されるわけだが……」

 

 それは分かっているのだろうな?

 

 そう、マスターの目が訴えかけてくる。

 そんなもの、言われずとも分かっているさ。

 

「ボクを裁いていいのは真のヒーローの精神を宿した英雄(ヒーロー)だけだ。

 例えマスターであろうと、ボクを裁くことは……認めない!」

 

 意思を込めて視線をぶつける。

 この点に関しては引くつもりはまったくない。

 場合によっては、マスターとの対立すら辞さないつもりだ。

 

 

「なるほど……もしそうなったときは俺も全力でお前を敵とみなそう。

 だが、その過程や認識に違いはあれど、“社会の歪みを正す”という目的は一致している。

 ならば……ハァ……おまえの力を使わせてもらうぞ」

「……どうぞ、できることならば何でもします。

 ――――――全ては、正しき社会の為に」

 

 が、その覚悟も幸いというべきか、いまのところは無駄に終わった。

 目的のためにボクの力を使うことを許してもらえたので、感謝の意味も込めて一礼をする。

 そして、顔を上げた時には、マスターが何かを取り出すところだった。

 

「……マスター、それは?」

 

 革製の20cmほどの大きさの何か。

 それをマスターは、こちらに差し出して言う。

 

「受け取れ……おまえの武器だ」

「武器? これが?」

 

 受け取ってみてみれば、籠手の一種らしく、ベルトで腕に固定して使うようだ。

 しかし、これは武器というよりは防具では?

 

 よく分からずに、観察してみると、手の内側部分に刃物が収納されていた。

 アァ……なるほど。これは隠し武器――暗器の類か。

 

 よくよく見てみれば腕の外側につけられた防御用の金属部分も、装飾が施されてちょっと変わった装身具に見えるようになっている。

 ついでに言えば、偽装用の腕時計までついている念の入れようである。

 さて、暗器なのはわかったけれど、どう使ったものだろうか?

 

「ソレは、昔どこかの暗殺者が使ったと言われているモノを、闇のサポートアイテムの開発者が独自に改造したものだそうだ。

 リングに付いた紐を引っ張ることで刃が飛び出す仕組みだ……下手をすれば指を切り落としかねないそうだが……おまえならば大丈夫だろう」

「フム。そういう仕組みですか」

 

 使い方を簡単に教わったので、さっそく装着する。

 リングはあまり邪魔にならない小指に着けて、手首を返すように引っ張る。

 瞬間、ジャキッ、という音を立てて刃が飛び出した。

 

 これならば、武器を持っていることを相手に気づかれずに済む。

 相手の意識を逸らして気配を消す使い方をすることもできるボクの個性と合わせれば、大衆の面前で暗殺も可能かもしれない。

 一通り、使い道を頭の中でシミュレートした後、もう一度手首を動かして刃を戻す。

 

「マスター、ありがとうございます」

「ハァ……武器は与えた。だが、もしその使い道を誤ったと俺が判断したときは……おまえも粛清対象だ」

 

 肝に銘じておけ。

 と、再度釘を刺すマスターに、ボクは黙礼で答えたのだった。

 

 この武器は、マスターに認められた証だ。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 周囲を警戒しながらアジトへ戻る。

 マスターへの報告だ。

 

「ただいまもどりました、マスター」

「ハァ……結果は?」

 

 刃物の手入れをして顔を上げずに尋ねるマスター。

 ぞんざいな扱いのようだが、これでしっかりと意識はこちらに向いているのだからさすがである。

 

「はい。マスターの贋物(ヒーロー)粛清をチャンスだと考えた犯罪者(バカ)どもの始末は大方終えました。

 残っているのはチンピラ程度……問題はありません」

 

 そう。最近のボクの仕事は、マスターのヒーロー殺しによって、ヒーローサイドが混乱していることに乗じて活動を激化させたヴィランの()()だ。

 何度も言うようだが、徒に“力”を振りまく犯罪者も粛清対象だ。

 理想(ヒーロー)とは正反対のヴィランに対して慈悲をくれてやる必要は全く感じない。

 やくざのような組織から単独の強盗殺人犯まで、全員粛清していった結果、街で表だって活動しようとするヴィランはいなくなっている。

 

「そうか。なら、この街での活動も終わりだ。この街の目を覚まさせるのには十分な血は流した……」

 

 ボクの報告を聞き、この街での活動を終了することを決めたマスター。

 刃物の手入れを終えて荷物をまとめ始める。

 

「では?」

「ああそうだ……ハァ……次の街へ移動する。

 おまえも準備をしろ」

「……承知しました。それで、次の目的地は?」

 

 移動用のボストンバッグに荷物を詰めながら行き先を尋ねる。

 さて、次はどこに向かう?

 

「目的地は……ハァ……東京。

 

“保須市”だ」

 

 

 

――――――東京 保須市

 

 拠点を確保し、いつも通りヒーローの調査に向かう。

 ノーマルヒーロー「マニュアル」、原住ヒーロー「ネイティブ」、双子で活躍しているツインズヒーロー「ジェミニ」……

 それなりに都市部ということもあって、ヒーローの数も多い。

 特に、ターボヒーロー「インゲニウム」の規模は他と比べても格別。この街の大手ヒーロー事務所といえる。

 若くして65人もの相棒(サイドキック)を擁するインゲニウムは並のヒーローではないだろうが、果たして粛清対象となるのだろうか?

 

 念入りに調査すべきだろう。

 

 

 

調査も慣れたもので、表面上のデータはすぐに集まった。

『 ヒーロー「インゲニウム」

 代々ヒーローをしている一家の長男で、二十代で独立し、現在では65名もの相棒(サイドキック)が所属する事務所を東京保須市に構える。

 “エンジン”の個性を生かした機動力で、(ヴィラン)退治、災害救助と幅広く活躍。

 メディア露出は少ないものの、その硬派な印象からファンの支持は大きい。

 奉仕活動もよくしており、特に個性の関係から交通安全のボランティアとして協力していることが多い。――――――』

 

 調べた限り、まさにお手本のようなヒーロー像だな。

 表面的には何ら問題ないけれど、ボクが重視するのはその内面、その精神や信念だ。

 こればかりは、実際に接触してみるしかないな。

 

 彼のパトロールルートとスケジュールはすでに調査済みなので、巡回したところで接触するとしよう。

 

 

 

 

 ――――――PM 06:00ごろ 保須市

 

 日が落ち始める夕暮れ時にパトロールに出かけるインゲニウム。

 大通りを相棒(サイドキック)も連れずに歩いている。

 

「あの、インゲニウムさんですよね? ファンなんです。サインいただけませんか!」

「うん? おお! ありがとう。えぇっと、名前はなんて入れればいいかな?」

「はい、幸藤(さちとう) (ねむる)といいます」

 

 ファンを装い、サインをねだると、快く応じてくれるインゲニウム。

 事前の調査通り、こういったファンサービスもしっかり対応してくれるらしい。

 

「はい、どうぞ」

 

 渡された色紙には、“INGENIUM TO NEMURU SATITOU”と達筆な字が書かれていた。

 うん、なんというか、育ちの良さが現れているような字だなぁ。

 まぁ、サインなんかはどうでもいい。目的はこれじゃない。

 

「ありがとうございます。ところで、インゲニウムさんに一つ尋ねたいことがあるんですけど……」

「うーん、そんなに時間はとれないから簡単なものなら……」

「はい、では、単刀直入に……インゲニウムさんは“どうしてヒーローをやってるんですか?”」

 

 目的は、この質問をぶつけること。

 別に答えは嘘を吐かれてもごまかされても、はたまた答えてもらえなくてもいい。

 ただ、この質問をされたときにはわずかでも考えるはずだ。ヒーローを続けている理由を。

 

 ボクはそれを個性で読み取ればいい。

 

「おいおい、全然簡単な質問じゃないぞ。難しいな…………うん、そうだね。

 ヒーローを目指したのは代々ヒーローを続けている一族だからだったけど、こうして続けているのは

 

“迷子を見かけたら迷子センターへ手を引いてやれる。そういう存在が一番かっこいい”

 

 と思うからかな。

 答えになったかはわからないけれど」

 

 たとえ話みたいな返事をもらったけれど、本心で言っているらしい。

 要はこういうことか。

 

「いえ、ありがとうございます。参考になりました。

 つまり、

“困っている人を見つけたら、迷わず助けてあげられる存在でいたい”

 って、ことですよね? すごい立派だと思います」

 

 心を読んでいるので、この解釈で間違いないはず。

 現に、インゲニウムもボクの言葉を聞いてうれしそうに語りだした。

 

「そうそう、いやぁ、分かってもらえて嬉しいよ。

 昔、弟に同じ言葉を言ったら、『何故迷子センターに勤めなかったんだ?』なんて、トンチンカンな答えが返ってきてさ。

 分かりにくいたとえなんじゃないかと不安に思っていたんだよ」

「いやいや、そんなことないですよ。むしろ、弟さん、なんていうか生真面目なんですね」

 

 弟の話をすると、インゲニウムの反応が少し変わった。

 ふーん、随分と弟のことを大事にしているみたいだ。

 

「まあね。杓子定規というか、融通が利かないやつではあるなぁ……

 でも、頭もいいし運動神経も俺よりずっと優秀(うえ) なやつなんだ」

 

 誇らしげに語るインゲニウム。

 

「まぁ、そんな優秀な弟の憧れのヒーローでありたい、っていうのもヒーローを続けている理由だな」

 

 家族に誇れる自分でいたい……か。

 アァ……とても綺麗な理由だ。

 

 

 しばらく話をした後、インゲニウムに別れを告げる。

 

 この接触でよく分かった。

 ヒーロー「インゲニウム」は紛うことなき善人だ。

 ヒーローを続けている理由も立派で、家族への愛情もある、十人いれば十人が善人だと答えるような人物だろう。

 

 そう、彼は善人だ。善人な()()だ。

 

 ヒーローを続ける理由は立派なものだったけれど、ボクは彼から大きな困難に直面した際にそれを乗り越えていけると感じるほどの“信念”を感じ取ることができなかった。

 

『信念の弱い者は信念の強い者に淘汰される』

 

 常々、マスター・ステインが口にしている言葉だ。

 この言葉に従えば、“強い信念”なきヒーローは、“強い信念”を持った真の(ヴィラン)から人を救うことはできない。

 

 ヒーロー「インゲニウム」は、この強い信念が足りないと思う。

 

 もし、真に強い信念を持っているのなら、マスターと対峙して退けるくらいはできるはずだ。

 

 

 ヒーロー「インゲニウム」。さぁ……審判の時だ。




書けば書くほど、インゲニウム兄を粛清対象にする理由が分からなくなって大変でした。
まぁ、常人と違う価値観で動いているのがステインですからねぇ。よかった、自分はまだまとも見たいです(オイ

ぶっちゃけると、ステインの基準はオールマイトだと思ってます。
世の中のヒーローのいったい、どのくらいが合格できるのやら(汗)

賛否両論あると思いますが、次回も楽しんで頂けたらと思います。

次回予告
「覚がサイドキック相手に暴れたあとに、手がたくさんの人と会うぞ」


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相棒狩り

遅くなりました!


 保須市に構えたアジトへもどり、ヒーローの調査結果をマスターに報告する。

 報告書を真剣な目で読み進めるマスター。

 

 この報告書とマスターの価値・判断基準で今後の粛清対象が決まるのだ。

 

 そうしているうちに紙のめくられる音がやむ。

 どうやら、決まったようだ。

 

「……ハァ…。。この保須市を正すのに必要な最初の犠牲は……やはりこいつだろう」

「……アァ……ヒーロー『インゲニウム』、やはり彼ですか」

 

 マスターから報告書の一ページを渡されてみてみれば、記載されているのはヒーロー「インゲニウム」。

 彼ならばヒーローの資質を試すという意味でも、粛清した際の社会への影響力という意味でも妥当な相手だろう。

 

「そうだ。おまえの言うとおりやつが強い信念を持っていないならば、社会を歪めるガンだ……ハァ……それを、試す」

「えぇ、彼が真の英雄たるかどうか……英雄に足りえないのであれば、正しき社会への供物となってもらうまでです」

 

 トップヒーローと呼ばれる者ほど、社会へ与える影響力は強い。

 それだけに、その本質が本物ではなく贋物であるならば……

 

「ハァ……やつを粛清するには邪魔も多い。おまえにも働いてもらうぞ」

「……承知しました。マスター」

 

 マスターの言葉に頭を下げる。

 多くの相棒(サイドキック)が所属するインゲニウム事務所。

 マスターの邪魔になるであろう、その相棒(サイドキック)の妨害・排除がボクの役目となる。

 

「相棒65名……ことごとくを木偶人形に変えてみせましょう」

 

 

 

 

 ――――インゲニウムヒーロー事務所

 

 消防車のサイレンが鳴り響き、人々のざわめきが聞こえる。

 ヒーロー事務所前での小火騒ぎ。

 目の前となれば中にいる相棒たちも無視はできないらしく、大半が外に出払っている。

 おかげで、侵入は容易だったよ。

 

 煙幕用の発煙筒を使った囮がこうもうまくいくとは、拍子抜けだな。

 まぁ、ボクみたいにこうしてヒーロー事務所を襲撃しようなんてバカはいないだろうしねぇ。

 そのぶん、仕事がやりやすくて助かるが。

 

「う、うぅ……」

「ぐ、あぁ……」

「Zzz……」

 

 大人数の相棒を抱える事務所なので、管理・指示のためにオペレーターを用意している。

 ボクが侵入して真っ先にしたのは、このオペレーター室の占拠だ。

 いつもの麻痺毒に腕時計に仕込まれた麻酔針によって相棒と非戦闘員の事務員を無力化。

 オペレーターシステムを逆に利用させてもらっているわけだ。

 

「マスター、インゲニウムを誘い出すことに成功しました。座標を送るので、そちらに向かってください」

『了解だ。よくやった……』

 

 インゲニウムへ嘘のヴィラン出現情報を送り、キリングポイントへの誘導に成功。

 あとは、マスターが上手くやるだろう。

 なら、ボクのやるべきことをやるまでだ。

 

 相棒への嘘の情報・間違った指示を送り、現場を混乱させる。

 いるはずの無いヴィラン・要救助者。

 あるはずの無い災害・事件。

 

『どうなってる!? どこにもヴィランなどいないぞ』

『なんだこれは! 建物のあちこちにブービートラップが!!』

『本部、本部! 情報は本当に正しいのか!? 応答してくれ!!』

 

 次々と入る相棒たちの悲鳴にも似た通信を、ボクは無感動に聞き流す。

 こんなもの、想定通りどころか予定通りの状況だ。特に改めて思うことなど何もない。

 それよりも、そろそろかな。

 

「おい、オマエ! そこで何してる!!」

 

 相棒たちがオペレーター室の異常に気が付いて駆けつけるのは。

 

「アァ……やはりあなたでしたか。インゲニウムの一番の“相棒”さん」

 

 真っ先にやってきたのは、この事務所のNo.1サイドキック「ランドスピナー」

 脚部に付いたローラーの個性により、高速戦闘を得意とするヒーローだ。

 同じく高速移動を得意とするインゲニウムについていける個性を持った、真の相棒と言える存在だ。

 

「インゲニウム不在の際にリーダーシップを発揮するあなたを無力化すれば、サイドキックをまとめる者はいなくなる」

「なにぃ!? 目的は何だ!!

 ……いや、なんでもいい。オマエをここで拘束する!!」

 

 脚部のローラーによる高速移動で攻撃を仕掛けてくるランドスピナー。

 加速・急旋回・急転換を利用してこちらを惑わすように接近してくる。

 早いな……アァ……さすが、No.1サイドキック。このスピードで大半のヴィランはやられてしまうのだろう。

 

「まぁ、読めてるんだけどね」

「なんだとッ!」

 

 猛スピードの回転蹴りを半身になるだけで回避した。

 どんなに速度があろうと、最後にどう攻撃してくるのかさえ分かっていれば避けるのは容易い。

 そもそもスピードだけの攻撃なんて怖くないんだよ。ワンアクションごとに複数の選択肢を突きつけてくるようなマスターの攻撃に比べれば、単調すぎてあくびが出る。

 そして渾身の一撃を躱され、晒した隙を逃すほどボクは甘くない。

 

「安らかに眠れ、ランドスピナー」

「……ゴフッ!」

 

 左手のリストブレードで喉を掻き切った。

 喉を押さえ倒れるランドスピナー。

 

「あ、ああ! ランドスピナーが!」

 

 振り返れば、ちょうどタイミングよく次の相棒(エモノ)が来たらしい。

 でも、もうオペレーター室(ここ)はボクの狩場。

 異変という“餌”におびき寄せられ、オペレーター室のという狩場にきた相棒(エモノ)を狩る。

 

「た、助けて」

 

 命乞いに対する返答に、鞘からナイフを引き抜く。

 

「全ては……正しき社会の為に」

 

 

 

 

 救急車とパトカーが並び、野次馬による人だかりが事務所の前にできている。

 

「おい、聞いたか? 事務所の中でランドスピナーが殺されたらしいぞ」

「いや、ランドスピナーだけじゃないらしい。死亡・重傷で30名の犠牲者になるんだとか」

「30ぅぅ! 事務所の半数近くじゃねぇか!」

「相棒といえど、ヒーローだぞ! どんな個性なんだ?」

「分からねぇ。個性は使わずに刃物で殺傷していたらしい。まさか、噂の“ヒーロー殺し”か!?」

 

 ザワザワと五月蠅い群衆を抜けて、携帯端末を操作する。

 数コールの後に電話がつながった。

 

「もしもし、こちらはうまくいきました。そちらは?」

『ハァ……インゲニウムは粛清した』

 

 マスターにより、インゲニウムは粛清されてしまったらしい。

 アァ……彼もまた真の英雄ではなかったのか。

 人としては好きだったんだけどなァ。

 

「そうですか。それで、彼はどうだったんですか?」

『やつもまた贋物……ハァ……ヒーローを歪めるガンでしかなかった。弱かった……』

「彼の信念が……ですか」

『最後の言葉が弟への謝罪の言葉だ。間違いなく善い人間・善い兄なのだろう……ヒーローでなければな』

 

 彼の人間性は好みだったけれど、理想(ヒーロー)足りえないならばこの結果は仕方のないことだ。

 マスターも完全に息の根を止めずにきたという、珍しく()()をかけたようだから何かしら感じるものはあったらしいけれど。

 

 そうしてもう一言二言話してから通話を切る。

 ふと見上げれば、ビルの大型ディスプレイがなんとなく目に入った。

 アァ、そういえば雄英体育祭の真っ最中だったな。

 幸運にも、以前に出会った緑谷くんの姿が映っていた。

 

 そうか、彼は雄英に進んでヒーローを目指しているのか。

 彼みたいな真の英雄の精神を持ったヒーローだけでいいのに、世の中は贋物が多すぎる。

 

 早く、彼のヒーローの姿を見たいなァ……

 

 

 

 

 翌日、朝にテレビに流れた、ターボヒーロー「インゲニウム」が“ヒーロー殺し”に襲われたニュース。

 そして、そのヒーロー事務所が何者かに襲われ、「ランドスピナー」をはじめとした10名が死亡。27名が重傷を負った事件。

 

 

『――――なお、警察は被害者の殺傷方法が似ていることから、犯人と“ヒーロー殺し”の関連性を疑っているとのことです。

 警察はこの犯人に対して、

 

相棒狩り(サイドキック・ハンター)

 

 の呼称をつけ、事件の情報を集めているとのことです』

 




インゲニウムの粛清まで来ました。
本当は死柄木を登場させたかったんですけど、キリが良かったのでここまでです。
結果的に、嘘次回予告になってしまい申し訳ないです。

次回、覚が次世代と遭遇するぞ! お楽しみに


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悪の勧誘、そして再会

大変遅くなりました


「ようこそ、“ヒーロー殺し”。そして、”相棒狩り”。歓迎するよ……悪名高き先輩たちだからなァ」

 

 バーのイスに腰掛け、気怠そうな様子で歓迎の言葉を告げる灰色の髪の男。

 掌を模したマスクをつけた姿も相まって、薄気味の悪い印象だった。

 

 

 インゲニウムの粛清から八日後。

 また新たに粛清したヒーローの現場を近くのビルの屋上から眺めていたところを、黒霧と名乗る男の個性で連れてこられたところだ。

 あって欲しい人物がいるとのことだったが、こいつのことだろう。

 

 さて、用件はなんだ?

 

「ハァ……それで? 俺たちを探していたようだが、おまえたちは何者だ? 何の用があってここに呼んだ?」

「おいおい、質問が多いなァ。まぁ、慌てずに一つ一つ答えていこう。

 俺は死柄木 弔。ヴィラン連合のリーダーだ。要件は、あんたたちに連合への勧誘さ」

 

 矢継ぎ早に質問するマスターに対して、返事をする死柄木という男。

 組織への勧誘が目的みたいだが、ヴィラン連合という名前はどこかで聞いたことがある。たしか――――

 

「ヴィラン連合、雄英を襲撃した犯人たちが名乗っていたと聞いたが、あなたたちが?」

「そうさ。俺たちが雄英を襲撃した本人だ。……もっとも、結果は残念だったけど。

 あんたたちと比べると恥ずかしいね。なにせヒーロー殺しが、殺害38名、再起不能55名。弟子の相棒狩りもヒーローを10名以上殺してる。こっちはヒーローの卵ですら一人も殺せていないのになァ」

「先日の襲撃の際に仲間のほとんどが捕まってしまいました。そこで、実績のあるあなた方に連合に加入していただき、戦力を整えたいのです」

 

 雄英の襲撃犯であることを認め、その結果を残念がる死柄木。

 その言葉を補足するように、黒霧が要件を告げた。

 

「なるほどなァ……おまえたちが雄英襲撃犯……。その一団に俺たちも加われと」

「ああ頼むよ。悪党の大先輩」

「…………目的は何だ?」

 

 何かを探るように尋ねるマスター。

 だが、死柄木は相変わらず気怠げな様子で返事をした。

 

「とりあえずはオールマイトをブッ殺したい。気に入らないものは全部壊したいな。

 こういう……糞餓鬼とかもさ……。全部」

 

 気に入らないから壊す。

 一言で言ってしまえば幼稚な、こどもの我儘みたいな主張だ。

 こんなやつが率いる集団に入る必要は正直感じられないな。

 

 それに、最後に差し出した写真に写っているのは緑谷出久(かれ)だ。

 ボクの理想とするヒーローの精神を持った貴重な人物を狙っているとなれば、なおさら仲間になるなど考えらえない。

 いや、むしろボクの敵だ!

 

「興味を持った俺が浅はかだった……。

 おまえは……ハァ……俺が最も嫌悪する人種だ」

「はあ?」

「子供の癇癪に付き合えと? ハ……ハァ。信念なき殺意になんの意義がある」

 

 脇のナイフを引き抜きながら、怒りを滲ませるマスター。

 死柄木(こいつ)が気に入らないのは同じらしい。

 さぁ、戦闘開始だ。

 

 

………………………………………………

 

「ハッハハハ……! いってえええ。強すぎだろ。黒霧! こいつら帰せ。早くしろ!」

 

 マスターに右肩を刺され、左の首元に刃を添えられた死柄木が焦った様子で黒霧に指示を出すが、おあいにく。

 

「動くな。何かしようと()()()瞬間に殺す」

「ぐっ、すみません。死柄木 弔。こちらも動けません」

 

 黒霧はボクが拘束させてもらっている。

 実体部分に左腕のリストブレード突きつけていつでもとどめを刺せる状態にしてある。

 ヴィラン連合とやらも大したものじゃないな。

 

 ほら、マスターのナイフがもうすぐ死柄木の首を掻き切ろうと――――

 

「――――殺すぞ」

 

 ――――瞬間、殺気が膨れ上がる。

 

「口数が多いなァ……。信念? んな仰々しいもんないね……。強いて言えばそう……オールマイトだな……」

 

 なんだこいつ。さっきまでの気怠げな様子が一変して……。

 気を取られてボクは死柄木に個性を()()()()()()()

 

「あんなゴミが祭り上げられてるこの社会を滅茶苦茶にブッ潰したいなァとは思ってるよ」

 

 “憎悪”

 

 “嫌悪”

 

 “怒り” 

 

 あいつの心を読んで見えたのはヒーローに対する強い否定を煮詰めたようなどす黒い感情。

 ボクも今のヒーローたちに対して否定の感情は持っている。その点については同じようなものかもしれない。

 だけど、向いているベクトルが逆方向だ。

 

 ボクもマスターも堕落した英雄(ヒーロー)観に対する嫌悪はあっても、ヒーローそのものには否を唱えていない。

 だが、死柄木(こいつ)は違う。

 いまのヒーロー社会どころか、ヒーローそのものを憎悪している。

 

 いったい、こいつの過去に何があったんだ?

 

「それがおまえか……」

 

 死柄木から飛びのいたマスターが告げる。

 

「おまえと俺の目的は対極にあるようだ……だが、

現在(いま)を壊す』

 この一点に於いて俺たちは共通している」

「ざけんな。帰れ。死ね。“最も嫌悪する人種”なんだろ」

「マスター、まさか!?」

 

 見逃すというのか。

 共通する点があるとはいえ目的の違う相手。しかも、死柄木という男は危険だ!

 

「真意を試した。死線を前にして人は本質を表す。

 異質だが……“想い”……歪な信念の芽がおまえに宿っている。

 おまえがどう芽吹いていくのか……始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないかもな……」

 

 ちぃ、良くも悪くも“信念”のある人間に甘いのがマスターの悪い癖だ。

 何かを為すには強い信念が必要というのがマスターの持論。だからこそ、そういった信念を持った人間を気に掛けるわけだ。

 しかし、相手は選んでほしいものだけどね。

 まぁ、ボクもそのおかげで拾ってもらったようなものだから強く文句も言えないが。

 

「了解しました。マスターの言うとおりに」

「おいおい、了解じゃないね。俺は。

 自分のことを始末するとか言ってるやつをパーティに入れるなんざありえないぜ」

「死柄木 弔。彼らが加われば大きな戦力になる。交渉は成立した!」

 

 嫌そうに声を上げる死柄木に対して、黒霧が強引に話をまとめた。

 二人の関係がなんとなく察せそうなやり取りだ。

 黒霧、なんだか苦労してそうだなぁ……。

 どちらにせよ話はまとまったので、突きつけていた刃を引っ込める。

 

「要件は済んだ! さァ“保須”へ戻せ。()()()にはまだ成すべき事が残っている」

 

 さて、保須(舞台)に戻るときがきた。

 

 

 

 ――――――東京 保須市

 

 元いたビルの屋上。

 そこの物陰にボクは身を潜めていた。

 

 数分前、死柄木たちのもとから離れたふりをして近くに戻っていた。

 去り際に、読んだ死柄木の心中に『“脳無”を暴れさせる』という言葉が気になったからだ。

 マスターには悪いが、死柄木という男を信用していない。

 あのこどものような男が、やられっぱなしですごすごと引き下がるような奴には思えないのだ。

 

 この懸念は当たっていたようで先ほどの場所から黒霧と死柄木、そして()()四匹。

 

 あの化物が“脳無”? とんだ化物だな。

 異様な姿に驚いていると、死柄木の声が聞こえてきた。

 

「大暴れ競争だ。あんたたちの面子と矜恃、潰してやるぜ大先輩」

 

 思った通りこちらへの害意を顕にした死柄木。

 マスターは見逃すつもりだったようだが、もういいだろう。

 徒に力を振りまく犯罪者、やつも粛清対象だ。

 

「そうか……ならば死ね! 死柄木!!」

「なっ、避けなさい。死柄木 弔!!」

 

 物陰から飛び出し、死柄木に刃を向けて走りだした。

 が、しかし、

 

「ポッペイホゥ!」

「ちっ、邪魔な」

 

 奇声を上げる四本腕の脳無の一体に邪魔されてしまった。

 

「ああ、いたのか。相棒狩り。ちょうどいいや。おまえのことも気に入らなかったんだよなァ……。

 その脳無に遊んでもらいなよ……殺せ、脳無」

「ポッポヘイホゥ!」

 

 目の前の脳無の攻撃を躱していくが、死柄木から離されてしまう。

 くそ、ほかの三体の脳無は街に放たれるのをただ見ていることしかできないとは。

 このことをマスターに伝えないと。だがそのために。

 

「ポッパイフゥ!」

「まずはおまえを倒してからだ!」

 

 服の下に隠してある左脇の鞘から大型ナイフを右手で引き抜き、構えを取り戦闘に突入した。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ、ハァ、これは……だいぶ遠くにまで離されてしまったか」

 

 倒れた脳無から刃を引き抜くと鮮血が飛び散り、あっという間に辺りは血の海となった。

 どんな処置をされたのか知らないけれど、思考能力をもたない脳無の相手をするのはボクの相手の心を読むという個性との相性が悪くていささか苦労した。

 まぁ、逆に言えばパワーがあるだけの単純な動きなど、見切ってしまえばそこまで敵ではなかったけれど。

 

 むしろ、問題なのはここまで来る途中で多くの人にボクが戦っているところを見られてしまったことだ。

 あまり目立つことはしたくない。なにせ、ボクにとってろくなことにならないからだ。

 

「これは、キミが倒したのかい? いったい、キミは……」

「待て、左腕のリストブレード……こいつ、“相棒狩り”だ!」

 

 駆けつけた二人組のヒーローがボクに気が付いて声を掛けてくる。

 

 だから嫌なんだよな目立つのは。こうやって、ヒーローと出くわす羽目になったりするから。

 

 しかし、未熟だな。

 戦場と化したこの場で呆けている余裕があるとは。

 

「遊びにでも来たつもり? 対応が遅いぞ」

「痛ッ!」「ぐああ!」

 

 振り向きざまに投げナイフを投擲。二人の腕と足にそれぞれ当たり、即効性の麻痺毒が体の自由を奪う。

 他愛なし。これでプロだというのだから笑わせてくれるよ。

 状況が状況だから命まではとらないけれど、しばらく眠っていてもらおう。

 

 そう思って意識を刈り取るべく近づこうとした瞬間、

 

「やめろ! なにしてるんだ!」

 

 叫び声をあげて殴りかかってきた人物がいた。

 

 ラインの入った緑のジャンプスーツに白いグローブ。肘と膝を守るプロテクターと口元を守るマスクにフードがついたコスチューム。

 そして緑がかった癖毛と同じ緑の瞳が、ボクのことを映し出していた。

 

「そんな……あなたは!?」

 

 驚愕に目を見開く彼。

 

「嬉しいなァ。覚えていてくれたんだね……。

 

 久しぶり、緑谷 出久」

 

 混沌とした場で、あの時と立場を違えてボクは“理想()”と再会した。




今回投稿が遅れたわけ。
1.台詞がまるまるコピペになりかねず、調整に苦労した。
2.時系列が把握に時間がかかった。
雄英体育祭当日にインゲニウム粛清⇒二日間休み⇒ヒーローネーム仮決定&職場体験指名⇒「先週の授業後」相澤「今週末までに提出」瀬呂「あと二日しかない」
といった具合に、インゲニウム粛清から時間が経っている。
しかし、ステインが黒霧と接触したのはいつなのか不明。描写としてはインゲニウムのすぐ後のように書かれているが……だとすると、保須市に戻って来た日にちがががが
そのほか、脳無貸し出しの交渉を死柄木が先生といつしていたのかなどなど。
もう、わけわかんね(泣)

とりあえず、難産でした。

この作品も、もう2話ほどで完結予定です。それまでお付き合いください。
一応、次回作の案もあったりはするんですが、それは完結させてからということで。

次回予告
緑谷くんが覚の精神にダイレクトアタックを仕掛けるぞ。


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敗北の運命

 最後に会ったのは今から一年ほど前。

 あのときは学生服で頼りない印象の強かった彼が、今はヒーローの戦闘服(コスチューム)を身につけた姿で対面している。

 

 ボクの理想(ヒーロー)が着実に力をつけていっているようで嬉しいかぎりだよ。

 

「その左手のリストブレード……まさか、あなたが『相棒狩り』!?」

 

 ボクの武器を見て驚いたように声を上げる出久くん。

 驚きながらも、油断なく、むしろ警戒心を引き上げるところなんか、よりヒーローらしくなってきたなァ。

 

「相棒狩り……そうだね。最近じゃ、ボクもそんなふうに呼ばれるようになったなァ」

「…ッ! 認めるんですね。いったい何の目的でこんなことを? あのとき僕のことをヒーローだと言ってくれたあなたが、真剣な顔でヒーローを語っていたあなたがこんなことをするなんて」

 

 信じられない。

 何故? どうして?

 そんな気持ちが個性を使わなくても彼から伝わって来る。

 

 そうか、ボクの言葉はそんなに彼の中に残っていたのか。嬉しいなァ。

 ならば、包み隠さず話をすることが意図せず影響を与えたボクの誠意というものだろう。

 

「ボクの目的は一つ。この歪んでしまったヒーロー社会を正すことさ」

「ヒーロー社会を…正す?」

「そう。キミもあのとき見ただろう? 人質が苦しんでいるにも関わらず解決できる“誰か”待っているプロヒーローを。

 あの姿を見てボクは彼らをヒーローだと認めることはできない。

 あの場でヒーローと呼べたのはオールマイトとキミくらいのものだった」

「そんな……でも、そのことがどうしてヒーローを殺すことに繋がるんだ!?」

 

 理解できないとでも言うように叫ぶ出久くん。

 

「ヒーローっていうのは人々の理想だ。その理想たり得ないヒーローなんて贋物……理想を汚すゴミ。

 その贋物を排除することで、真のヒーローだけがいる、正しき社会を作り上げる」

「そんな理由で、ヒーローを襲っていたなんて。そんなの間違ってる!」

 

 頑張ってボクの考えを主張してみたけれど、共感は得られなかったみたいだ。

 ならば仕方ない。ボクとマスターの邪魔をしないよう、しばらく眠ってもらっていることにしよう。

 殺さずに無力化してかつ、大きな傷が残らないようにするとなると武器は使えないな。マスターならともかく、ボクの腕では下手すれば殺してしまうかもしれないし。

 

「残念だよ。ボクの理想のヒーローの精神を持っているキミが賛同してくれればよかったのだけれど」

「どんな理由があったって僕は人殺しに賛同なんかしない。それにあなたに構っている暇なんてない。友達がヒーロー殺しと戦っているかもしれないんだ。

あなたを捕まえてすぐに向かわないと」

 

 そう言って拳を構える彼に合わせてこちらも構えをとる。

 

「ならますます放っておけないな。マスターの邪魔はさせない」

「噂通り、ヒーロー殺しと相棒狩りは関係があったのか......いや、いまはそんなこと関係ない。あなたを、倒します!」

「ッと、早い!」

 

 猛スピードでこちらに向かってくる彼に牽制のローキックを放つが、飛び上がるようにして避けられてしまう。

 思ったより早いし、トリッキーな動きだ。

 この間の体育祭ではこんな動きはしていなかったはずだ。

 短期間でこれだけ成長するなんて、さすが雄英のヒーロー科といったところだろうか。

 

 彼の跳躍により背後をとられたボクが振り返るときには、彼が拳を振り上げている姿が目に映った。

 

「5%DETROIT SMASH!!」

 

  拳が風を切り、その数瞬後に鈍い肉を打つ音が響き渡る。

 

「ガッ......」

「悪いね。キミの動きは読めてるんだ」

 

 彼の右腕とボクの左腕が交差する。

 しかし、届いたのはボクの攻撃だけだった。

 

 いくら出久くんのスピードがマスター・ステイン以上といえども、ボクの個性による先読みがあればクロスカウンターを決めるのくらいは簡単なモノさ。

 

「くっ、まだだ!」

「さすがに、これくらいじゃ倒れないか」

 

 まともに一撃をくらったにもかかわらずすぐに体勢を立て直すところは流石ヒーローの卵といったところ。

 スピードに対応されたところから、警戒を強める判断も良い。ただ……

 

「友達のことを考えながら相手できるほどボクは甘くないよ。キミ、さっきの一撃で終わったと思ってたろ?」

「つ、強い!」

 

 まだ終わっていないのに次のことを考えていたのはマイナスだね。

 

「動きを読まれた……感知系の個性? いや、動きだけじゃない。僕の考えも読まれた?」

「……すこし、しゃべりすぎたかな?」

 

 彼の真価は分析力だったか。与えたほんのわずかな情報からボクの個性に迫るとは驚きだよ。

 

「察しの通り、ボクの個性は相手の心を読むことができる個性さ。羨ましいと思うかい? そうだろうね。“無個性”だったキミからしたら」

「そんなことまで! まさか!?」

「アァ、安心してくれていい。オールマイトの秘密は誰にも言わないさ。むしろボクはあんな体になっても戦い続けたそのあり方こそ、“本物のヒーロー”だと思っているからね」

 

 あの自己犠牲の精神こそヒーローにふさわしい。他の凡百のヒーローを名乗る輩なんぞとは違うね。

 そして、その精神だけでなく個性すら受け継いだのが、目の前にいる“緑谷 出久”だ。

 テンションが上がらないわけがない。そのせいか、多少饒舌ぎみである。

 

「なんで本物のヒーローにこだわるか疑問かい? それは、皮肉なことにボクの個性が原因さ。

 知らないだろう?

 個性が発現した四歳のころから人の醜い生の感情を聞き続けることになった苦痛が。

 分からないだろう?

 正義の心を持っているはずのヒーローに期待して裏切られたときの気持ちが。

 憧れたヒーローの心ですら理想でないのなら救われないんだよ! だから要らないんだ。本物のヒーロー以外は、本物のヒーローの精神をもたない贋物は!」

 

 思わず吐露したボクの気持ちに、出久くんは顔をゆがめる。

 完全には理解できなくとも、同情はしてくれたらしい。

 

 それでも、彼は曲がることはないみたいだ。

 

「……正直言って、僕はあなたの気持ちは全部理解できない。少なくとも個性のせいでヒーローを信じられなくなったのは分かる。

 それでも、やっぱりあなたのやっていることは認められません」

 

 思いつめたかのように拳を握り、はっきりと告げる。

 

「あなたが思う“本当のヒーロー”がいないとしても、どうして殺して、排除なんて手段をとったんだ!」

「それ以外の手段がどこにあるんだ! 言葉で伝えたところで、ボクの気持ちなど誰も理解できなどしない!」

 

 皮肉なことに、相手の気持ちを理解できる個性を持ったボクが誰にも理解されない気持ちを抱えてしまった。

 そして ボクが理想だとした彼の口から出る言葉は、否応なくボクに届く。

 

「言葉だけでは伝わらないと思ったなら、その姿で魅せれば良かったんだ。理想(ヒーロー)がいないと思うなら、なんで自分が理想(ヒーロー)になろうとしなかったんだ!」

「なにを言ってる!? ボクが理想(ヒーロー)に!?」

理想(ユメ)は自分で叶えなくちゃ――――“どこかの誰か”じゃなくて、あなた“自身”が!」

 

 考えたことなかった。

 自分がヒーローになって理想のヒーローのあり方を魅せるなんて。

 ボクが理想のヒーローに憧れたように、他の誰かの憧れになる。

 それは、正しくて、美しくて、まさしくヒーローらしい考えなんだろう。

 

『ボクを裁いていいのは、ヒーローの精神を持った者だけだ』

 

 前にそうマスターに告げたこの言葉。

 この言葉に偽りはない。

 

 だからこの結果も必然だったんだろう。

 ボクが理想のヒーローの精神を持っていると認めた、緑谷 出久に敗北するのは。

 

 ボクは彼の(裁き)を受け入れた。




遅くなりました。

次回、完結予定です。
まぁ、オリ主が原作主人公に勝てるわけないよね!


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ヒーロー殺しの継承者

 ――――痛い。

 

 頬に突き刺さった彼の拳の重みが。

 

 ――――痛い。

 

 彼の、ボクを否定する言葉が。

 

 思った以上に心が揺らぐ。

 

「あなたに構っている暇はない。僕は行きます」

 

 そう言って立ち去る彼を追う気力もなく、ただ茫然と見過ごした。

 

理想(ユメ)は自分で叶えなきゃ』

 

 ボクの理想(ユメ)……か。ボクの理想(ユメ)はいつから思い描いていたんだっけ?

 アァ、なんだかわけがわからなくなってきた。頭が、重い。

 

 

 

============================================

 

 ボクが四歳の誕生日を迎えてからしばらくしたころ。

 待ちに待った“個性”がようやく発現した。だけれど、それは決して思い描いていたような楽しいことではなかったんだ。

 

 個性『読心』

 人の心を読む個性は発現したばかりでは制御が上手くいかず、ふとした拍子に、いや、悪い時には四六時中周りの人の心を見てしまうこととなった。

 この時不幸だったのは、この個性が皮肉にも“強力”なものであったこと。

 目をつぶろうと、耳をふさごうと、一定の範囲内に入ってくる人の心を“見て”、“聞いて”、五感で感じとる以上に“理解”してしまう個性だった。

 幼いボクに耐えられるはずもなく、しかしながら、拙い言葉では親にも伝えきることができなかったため、塞ぎ込み、引きこもりになるのは当然の帰結だったと思う。

 そんなボクが希望を抱いたのは、今は名前も思い出せないが、地元密着を謳うヒーローの存在だった。

 よく地元住民との交流会を開いていた、そのヒーローはボクにとってのNo.1ヒーロー。当時のボクの心のなかで理想の存在だったんだ。

 

 引きこもっていたボクは、たまたまつけたテレビに映ったそのヒーローを見て、希望を抱いたよ。

 

『ヒーローなら、心の底から暖かい言葉をかけてくれる』

 

 もはや人間不信に陥っていたボクが、前向きになるための希望をそのヒーローに見出したわけだね。

 すぐさま母親に頼んで、そのヒーローの交流会に参加できるようにしてもらったよ。

 母親も、塞ぎがちだった息子が元気になるんだったら、喜んで手続きをしてくれた。一緒に申し込みはがきを書いてポストに出しに行くときなんか、久々に笑ったものさ。

 個性のせいで、母親の心配する気持ちも分かってしまっていたから、これで元気になればもう心配させずに済むなんて思ってもいたしね。

 

 そうして参加した交流会。

 いつも通り、住民に笑顔を振りまき、一人ひとりに声を掛けていくヒーロー。

 周りの人の心が雑音のようにうるさかったけれど、ヒーローに会えると思って我慢して待っていたんだ。

 そうやって、待ちに待った自分の番。

 でもそれは、幼いボクが望んでいたような救いにはならなかった。

 

「最近、息子が個性を発現してから落ち込んでいて……大好きなヒーローに元気づけてもらおうと思ってきたんです。そうよね? サトル」

「そうですか。坊や、個性が上手く使えなくて悩んでいるのかい? 大丈夫! しばらくすれば、ちゃんと使えるようになるよ。安心して」

(チッ、面倒だな。人気取りのためとはいえ、個性発現したばっかりのガキの機嫌までみなきゃならねえとは。まぁ、これも仕事だ)

 

 笑顔で語られる暖かい言葉、それと裏腹に心の声はひどく利己的で、ボクの期待はいとも簡単に裏切られてしまった。

 当時としては、心を閉ざしてしまってもおかしくない位のショックを受けたものだけど、皮肉なことに心を閉ざそうとしたことが個性を制御できるようになるきっかけになった。

 

「……ありがとう。だいじょうぶ。ひーろーのこえを聞けてげんきがでたよ」

 

 短い期間に多くの人の心に触れたせいで、嘘を吐くことを覚えたボクは、その場を笑顔でごまかした。

 交流会が終わって、親にも嘘を吐き続けた。

 ボクの個性の本当の能力は、知られたら拙いというのは感覚で分かっていたから。

 

 その日、ボクは理想(ヒーロー)なんていない。綺麗な心だけの人間はいないってことを知った。

 これが、齢四歳にして知った最初にして、原初の絶望(オリジン)だ。

 

============================================

 

 どうやら夢を見ていたみたいだ。

 気絶が原因だったせいか、なんともクソッタレな夢だ。自分の最悪の過去を第三者みたいに傍観している夢なんて。

 でもまぁ、おかげで整理はついた。ぐちゃぐちゃに絡まっていた心の糸がようやくほどけたみたいな。

 

 そう、ボクは救いを求めていた。無心の正義の心を持ったヒーローの心に触れることで、意図せず見てしまった人の醜い心で傷ついた自分を救ってもらえることを。

 見なければ、聞かなければよいのに、ヒーローと出くわすたびにそのヒーローの心に触れ、そのたびに『理想と違う』と絶望する。そんなバカなことを繰り返してきたのは、いつかそんな存在に出会えることを夢見ていたからだ。

 いや、いまでも救いを求めているんだろう。だから彼が言ったような“自分が理想(ヒーロー)になるなんて発想は出てこなかったわけだけれど。

 どうして、“救われたい”と思っている存在が、“救う”存在になろうなんて思えるだろうか。

 

 そして、ボクは自分が理想(ヒーロー)になって、理想(ヒーロー)のあり方を周りに魅せるなんて悠長なやり方にきっと満足できない。

 昔の自分が最初にあったのがオールマイトだったら、もしくは緑谷 出久だったら、それで満足して、今みたいなヒーロー殺しの手伝いなんてしていなかっただろう。

 でも、もうボクは満足できない。

 一部のヒーローだけでなく、すべてのヒーローが理想の、自己犠牲的で、見返りを求めぬ無私の精神を持った者であることを望む。

 

 そのやり方を示してくれた存在にボクは出会ってしまったのだから……

 

 

 

「あの男はまさかの……ヒーロー殺し――――!!」

「待て、轟!!」

 

 響く声にハッと顔を上げる。

 無意識のうちにマスターのもとへ向かっていたようで、そこにはヒーローたちとマスター、そして死体となった脳無がいた。

 

「贋物……」

「正さねば――――……誰かが……血に染まらねば……!」

「“英雄(ヒーロー)”を取り戻さねば!!」

 

 ボロボロの体で、歩みを進めるマスター。

 その気迫に、後ろ姿に気圧される感覚がした。

 

「来い、来てみろ贋物ども! 俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!!」

 

 多くのヒーローに相対し、多勢に無勢の状況で気迫だけで圧倒するマスター。まさに信念の強さが目に見える形になったようだ。

 

「……チッ、おい、何を呆けている! 早くやつを確保するんだ」

「「「ハ、ハイ!!」」」

 

 呆然としていたのも束の間、さすがNo.2ヒーローというべきか、すぐに指示をだすエンデヴァー。

 まずい、マスターが捕まってしまう。

 

「マスターはやらせません!」

「ムムゥ、なんだコイツは!」

「気を付けてください! 彼は“相棒狩り”です! ステインの仲間です!!」

 

 とっさに前に飛び出し、ナイフをかまえて臨戦態勢を取る。

 緑谷くんが後ろにいるけれど、挟み撃ちになる前に何とかせねば。

 ここは先手必勝、相手の中に飛び込んで場を乱すか?

 そう思って、前傾姿勢になった瞬間、背に庇っていたマスターが動くのを感じた。

 

「粛清してやる! 贋物ども!!」

「なんだと、まだ動けたのか!?」

 

 ヒーローの集団に飛び込み、頼りない小型のナイフを振るうマスター。

 ボクの背後から抜き去る時に、マスターの心が読みとれた。

 

『さっさと行け……馬鹿弟子が』

 

 ボクを逃がすために身を挺してくれたマスター。

 マスターの気持ちを無駄にするわけにはいかない。マスターの信念をここで潰えさせるわけにはいかない。

 

 マスターに背を向け、足を進める。

 その時、倒れている緑谷くんと目があった。

 

「緑谷くん、マスター・ステインはここで捕まる。でも、終わりじゃない。

 

 ステインの思想はボクが継ぐ。ボクは“ヒーロー殺し”の弟子、『ヒーロー殺しの継承者』だ――――!」

 

 そう告げて走り出す。

 彼がが言うとおり、ボクがやろうとしていることは社会の正義に反しているんだろう。

 だが、ボクはもう止まらない。例え悪と言われてもこの信念を貫き通すと決めたのだから。

 

 

 

===========================================

『エピローグ』

 

 

――“ヒーロー殺し”ステイン逮捕より数日後。

 東京都 とある喫茶店にて。

 

 コーヒーのカップを傾けながら、タブレットのニュースサイトを流し読みする。

 マスター・ステインが逮捕された話題はいまだ絶えず。

 皮肉にも、マスターが逮捕されたことによって、その思想が広まることとなった。

 いま見ているページにもマスターの来歴と思想が載せられている。聞けば、こうしたメディアの報道によって、ヒーロー殺しの思想に共感し始めたものも出てきているという。

 

「おまえが“ヒーロー殺しの継承者”か?」

「アァ。あなたは?」

「……俺は荼毘。いまはその名で通している。ヒーロー殺しの意思を全うするのは俺だと考えている者だ」

 

 そう、今、目の前にいる彼のようなシンパが。

 

「それで? ボクを訪ねてきた要件は?」

「おまえの大義を確かめに来た。それに、巷で話題になっている『(ヴィラン)連合』とやらが本当にヒーロー殺しと組んでいたのか疑問に感じた。

 だから、事情を知るだろうおまえに話を聞きに来た」

「なるほど。そうだね――――――」

 

 荼毘と名乗る青年に、(ヴィラン)連合との関係について話す。

 ヴィラン連合とヒーロー殺し側がすべて納得のいく関係でなかったこと、そして、相手の首魁の死柄木が信用ならないことを告げた。

 

「そうか。いまの状況はヒーロー殺しの名がヴィラン連合に利用されている状況か」

「その通り。彼らはボクたちの思想・信念に共感したわけではなく、一時的な利害関係から休戦協定を結んだような関係さ。それが、逮捕されて本人がいないことをいいことに、勢力拡大の道具にされているわけだ」

「なら、ヴィラン連合に入っても、彼の意思を全うすることは叶わないな。 それで? おまえはどうするつもりだ?」

 

 このまま手をこまねいてみているのか?

 そう目で尋ねる荼毘。

 

「残念ながら、ボクもまた修行中の身だからね。一人でできることには限りがある。

 ……だから、仲間を集める。幸いにして思想は広まりつつあるから、組織を作り、より粛清を加速させる」

「なるほどな。だったら、俺もそこに参加させてもらおう。ヒーロー殺しの意思を継ぐ者の一人として。で、なんて名前の組織にするんだ?」

 

 組織の立ち上げに賛同した荼毘が組織名を聞いてきた。

 そうだな。まだ決めていなかったけれど……

 

「マスター・ステインによって、ヒーロー殺しの思想はこの社会の染み(ステイン)として跡を残した。ならボクたちの手で、社会をその思想に塗り替える……彼の信念に従って動く教団。“リペイント教団”なんてどうだろうか?」

「重要なのは大義があるかどうかだ。名前は適当でいい」

 

 なら、聞くなよ。そうツッコミたいのを我慢して席を立つ。

 

 

「フッ、まあいいよ。じゃあ始めようか。すべては、正しき社会の為に」




これにて本編完結です。
気がつけば始めてから4か月。なかなか更新できなくてお待たせしたこともしばしばでした。
まともなプロットもなく始めたため、最後はグドグドになった感じも否めませんが、なんとか完結までできました。

とりあえず、ここまで読んでくださりありがとうございました。


良ければ活動報告も目を通していただけると幸いです。

『ヒーロー殺しの継承者』完結と次回作
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=130789&uid=28246


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小ネタ:ヒーロー殺しの継承者すらっしゅ2

【武器調達その1】

 いざという時に備えて、武器の手入れは欠かせない。

 マスターと向かい合わせで、ナイフを研いでいるとふと、疑問が一つ。

 

『そういえば、マスターは武器の調達はどうやってるんだろう?』

 

 思いきって尋ねてみると、マスターは開きっぱなしになっているパソコンの画面を示した。

 画面にはブラウザが開かれ、Webページが表示されている。

 

 多くの種類の商品が、安い値段で売られている。

 このサイトは……amazonだ!?

 

「アマゾンは……ハァ…何でもあってすぐ届く」

 

 いいのか? ヒーロー殺しの武器調達が通販って、本当にいいのか!?

 

 

【武器調達その2】

 キーボードを打ち込み、マウスをクリックして検索。

 ふむ、さすがにアマゾンといえども、本物の刀は売って無いよなぁ。

 じゃあ、マスターが使っているあの刀はどこで手に入れたんだろう?

 

「ハァ……この刀もそろそろ変え時だな」

 

 タイミング良く、マスターが刀を変えるようなので、後をつけてみることにした。

 

 部屋にこもったと思ったら、出てきたときにはなぜか作務衣姿になっていたマスター。

 な、なんでこの格好に? いや、まさか!?

 

「良質な鉄だ……ハァ、これは良い業物ができそうだ」

『手作りですか!? マスター!!』

 

 

 うちの師匠は多芸なお方です。

 

 

【武器調達その3】

「ということもあったのさ」

「なるほど。社会を正すための技術を習得するのに余念がなかったんだな。ヒーロー殺しは」

 

 仲間になった荼毘がマスターについて教えてほしいというのでエピソードを紹介してみた。

 消耗品のナイフは通販で済ませるくせに、メインウェポンの刀は自作するんだから、変なところで凝り性だよなァ。

 

 そうボクが呟くと、荼毘は呆れたようにため息を吐く。

 厶、なんだよ?

 

「凝り性なのは、おまえも同じだろう。麻痺毒の作成に煙幕玉や爆弾まで自作してるおまえも大概だ」

 

 似た者師弟であった。

 

 

【師匠の残したモノ】

 

 捜査の手が伸びるかもしれないので、保須市のアジトを引き払う段取りを進める。

 この作業は何度かやっているので、マスターがいなくてもスムーズに進んでいたのだが、一つ問題が起きた。

 マスターの荷物をどうしようか?

 だいたい必要なものと、不要なものの判断はできるのだけれど、判断に迷うものが……

 

『マスターのオールマイトグッズコレクション』

 

 正直、今後の活動には不必要なのは間違いない。

 でもなァ、勝手に処分するときっと殺されるよね。ボク。

 

 ……いっそのこと、マスターのいる留置所にでも送りつけてやろうかね。

 うーん、オールマイトグッズを大事にしてくれそうな人といえば誰がいるだろうか?

 

 

=========================================

 

「出久ー、荷物が届いてるわよ~」

「ありがとう、母さん。それにしても誰からだろう?」

 

 ――――緑谷 出久 さま

  恩人のオールマイトグッズです。

  しばらく預かってください。

              ――――相棒殺しより

 

 

「ヘっ!? なんで!?」




筆が乗ったので、おまけの小ネタを投稿です。


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