道化と往く珍道中 (雪夏)
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はじめに

注意事項とか。


更新履歴

06/22:初版投稿。

05/20:色々変更

05/28:投票について変更

 

タイトルこそはじめにと書いてありますが、読まなくとも何の問題もありません。

ちょっとした注意事項と拙作に関するネタバレが含まれます。閲覧の際はご注意ください。

 

 

 

 

・閲覧の際の注意事項

 拙作はGS美神とネギまのクロス作品です。

世界観はネギま世界をベースにしています。所謂、横島来訪モノです。

 

 横島たちは原作後、時間軸はネギま原作開始前で明日菜たちが中学入学した頃です。

 それに伴い、原作開始時(ネギ来訪時)には人間関係、実力など様々な相違点が生じます。オリジナル展開も当然あります。

 

 また、拙作には作者の考察を基にしたオリジナル設定が多量に含まれます。これらについては随時あとがきで“拙作内設定”として紹介しています。

 例)ネギま世界の魔力と気は霊力の一種etc.

 

その他、人物、技、AFなどについては、各設定資料を参照下さい。

 

 拙作は横島に複数のヒロインが存在します。原作と違い横島と仮契約したり、パーティ入りしたりします。また、横島と仮契約を結んだキャラについてはAFが変更となる場合があります。

 

 また、ヒロインは全部で25名を予定しておりますが、人数やキャラが変更となる場合があります。

 

 最後に、この作品はのんびりと筆の進むままに進行していきますことをご了承ください。

 

 

 

以降、ネタバレが含まれます。閲覧の際はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・記念小説について

 

 5万UA、お気に入り登録500件毎に記念小説を執筆していきたいと思います。また、記念小説については、活動報告にてシチュエーションリクエストを行う場合があります。その際はご協力の程お願い致します。

 

 以下、記念小説リスト

 

 ・横島くんと彼女たち その1(10万UA記念) 5/30投稿

   ヒロイン:真名、刹那、エヴァ、明日菜

 

 ・横島くんと彼女たち その2(お気に入り1500件記念) 6/23投稿

   ヒロイン:和美、裕奈、アキラ、木乃香

 

 ・横島くんと彼女たち その3(15万UA記念) 6/30投稿

   ヒロイン:千雨、のどか、夕映、あやか

 

 ・横島くんと彼女たち その4(仮称:20万UA記念)

   ヒロイン:タマモ、小竜姫、美砂、茶々丸

 

 

・横島ヒロイン表

 決定済ヒロインはそのまんま。決定したヒロインのことです。

 仮ヒロインもそのまんま。仮です。今後変動する可能性があるヒロインたちです。

 候補は、以前実施していた投票などで名前があがったヒロイン。仮ヒロインにあがることもあります。 

 

 以前はPT制でしたが、現在は投票は受け付けていません。

 

決定済:19名

 小竜姫

 タマモ

 長谷川千雨

 桜咲刹那

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

 雪広あやか

 宮崎のどか

 綾瀬夕映

 大河内アキラ

 神楽坂明日菜

 龍宮真名

 近衛木乃香

 朝倉和美

 明石裕奈

 柿崎美砂

 絡繰茶々丸

 和泉亜子

 釘宮円

 那波千鶴

 

--仮ヒロイン:6名

 シャークティー

 源しずな

 ネカネ

 天ヶ崎千草

 アーニャ

 超鈴音

 

--候補:9名

 月詠

 古菲

 葛葉刀子

 佐倉愛衣

 早乙女ハルナ

 高音・D・グッドマン

 鳴滝風香

 鳴滝史伽

 椎名桜子

 

・ネギパーティー 予定数5人

 

--現在の候補

 小太郎

 タカミチ

 ヒゲグラ

 ガンドル

 豪徳寺

 瀬流彦

 



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設定資料集・記念小説など
人物設定 ※ネタバレ注意 5/29UP


独自設定集。人物編。


更新履歴

04/02:初版投稿。

04/03:ヒロイン表 追加

04/18:横島、小竜姫、タマモを更新

04/19:ヒロイン表更新

04/23:ヒロイン表に攻略(?)Lv追加。

04/26:ヒロイン決定。

05/16:タマモ、小竜姫更新。

05/21:pt速報の形式を変更。

06/22:ヒロイン表、pt関連を別記事に移動。

 

人物

・横島忠夫←4/18UP

 GS資格を持つゴーストスイーパー。17歳。6/24生まれ。基礎霊力は150マイト。

見習いは最近取れたばかり。主に使用する霊能は『サイキックソーサー』『栄光の手』『文珠』。他に、韋駄天が憑依した時に全身から霊波を放出する霊能もあるが、存在を忘れている。また、横島自身はサイキックソーサーを最初の霊能と思っているが、実際は、心眼の補助を受けての霊波砲が最初。心眼が制御した為に自覚がないだけで、今も使おうと思えば使用できる。小竜姫に素質を見出され、人間では最高の潜在能力を持つとも言われる。至近距離で撃たれた銃弾を見切る目と、弾き返す反射神経を持つ。煩悩を霊力源と思っているが、実はそうではない。霊力の引き出しかたを他に知らないだけである。実際の霊力源は○○○。スケベ。

 

4/18UP

魔法世界から旧世界にある麻帆良学園へやって来た。その際、学園長から警備の仕事の他に、便利屋を薦められる。裏の意味を理解した上で受諾。タマモ、小竜姫の中等部入学と同時に、使用していなかった寮を改修した「便利屋よこっち」を開業した。

 

 

・小竜姫←4/18UP

 日本の神族の駐留地兼修行場の管理人。中級神魔に該当する。基礎霊力は5000マイト。

竜神の一族であり、神剣の使い手。外見年齢は18歳程度だが、実年齢は秘密。赤毛の美女。竜神としては若く、その名前も本名ではない。『小さな竜のお姫さま』という安直なあだ名である。実は竜神族の姫に当たる。但し、竜は多淫の象徴であるように子沢山であり、小竜姫は沢山の姫の中でも末の姫である。その為、地位はさほど高くない。横島に好意を持つ。本性は白龍。

 

4/18UP

魔法世界から旧世界に移る際に、偽名「妙神竜姫(みょうしんたつき)」と名乗る。

名前の由来は、”妙神”山と小”竜姫”から。

妙神流という流派の免許皆伝で、幼少の頃からどの門弟よりも強く、そのあまりの強さから小竜姫さまと呼ばれていた……と言う裏設定まで存在する。

これは、小竜姫と言う名を残したいという横島とタマモの配慮であると共、横島のうっかり対策である。

 

麻帆良女子中等部一年A組に在籍。出席番号は28。

寮ではなく、横島、タマモと一緒に「便利屋よこっち」の住居部に住んでいる。

 

5/16UP

小竜姫は仏教系に属しているが、戒律にとらわれているわけではない。これは仏教系の信仰を優先的に集めているだけにすぎず、仏道に帰依した神々でもそれは変わらない。ただ、小竜姫は個人として仏教の教えを大事に思っている為、ある程度は守ろうとしている。

 

仏罰とよく言うが、仏は関係ない。ただの私刑である。

 

優れた剣技を主体に近接戦を行うが、超加速や神通力も使用できるため距離を取っても安心とは言えない。

 

 

・タマモ←4/18UP

 金毛白面九尾の妖狐の転生体。殺生石に封じられていたが、強引に転生を果たした。基礎霊力は100マイト。日本三大悪妖怪とも傾国とも言われているが、本来人間と共存し、契約した相手に加護を与える存在。何度か人間に封印されており、その度に力を落としている為、天狐に至れなかった。その為、基礎霊力は高いのだが、現在は転生して間もない為、GS並の霊力しか扱えない。また、転生前の知識も保有していない。身内を大事にするが、素直に表に出さない。ツンデレとはちょっと違う。横島のことは嫌いではない。本性は狐であり、顔は白交じりの金色、体毛は艶やかな金色であり、力を失っている為か体躯は子狐のもの。本来なら、尻尾を含めて3.5メートルほどで、その半分が尻尾である。霊力源は油揚げ……ではない。狐信仰の影響で、お供え物である油揚げが妖狐全般の霊力回復に最適な食べ物となっているだけである。当然、油揚げ不足でどうこうなることはない。

 

4/18UP

魔法世界から旧世界に移る際に、偽名「葛葉(くずのは)タマモ」と名乗る。

苗字の由来は、安倍晴明の母親でキツネであったとされる葛の葉から。

 

麻帆良女子中等部一年A組に在籍。出席番号は12。

寮ではなく、横島、小竜姫と一緒に「便利屋よこっち」の住居部に住んでいる。

 

5/16UP

転生前を合わせると3000年以上生きている。その為、妖怪としては最上級に位置し、妖怪相手には上から目線となることもしばしば。

 

得意技は、狐火と幻術全般。徐々に力を取り戻している為、陰陽術も多少使える。

 

 

 



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霊能・技 ※ネタバレ注意

霊能・技編


更新履歴

04/03:独自設定集から分離

 

・サイキックソーサー

 横島忠夫最初の霊能……ではない。正しくは、横島が自身の力のみで発動させた最初の霊能である。最初に霊能は、煩悩集中による霊波砲。体に自然に纏っている防御用の霊気を収束し、六角形の盾状にしたもの。発動中は体が霊的に無防備になっていたが、横島の霊力の上昇と共に解消された。複数展開や投擲もでき、投擲後のコントロールもある程度可能。霊力を収束、圧縮したものなので、その硬度、威力は高い。

 

・栄光の手

 罪人の手で作られた呪具ではない。横島の右手に集中させた霊力で創る武具。霊波刀の一種とされる。伸ばしたり、形状を変化させることができる。主に、霊波刀として使用する。込める霊力次第では刃を巨大化させることも可能。半ば物質化している為、霊的存在以外にもダメージを与えることができる。

 

・文珠

 ビー玉程度の大きさの珠。『万能の霊具』とも『伝説の霊具』とも言われるが、その能力は『力の方向を完全にコントロール』することである。つまり、『想像』したことを実現する為に、周囲の力をコントロールし、現象として『創造』しているのである。人間では、現在は横島のみが作成できる。珠に漢字一文字の念を込めることで、その念に沿った現象を引き起こす。基本的に万能に近い能力であるが、込めるイメージに左右されたり、漢字一文字という制限があったりする。また、死者の復活など、霊力が及ばないことは不可能であり、持続時間も霊力に左右される。現在、一個の文珠を生成するのに三~四日ほどかかる。念を込めていない無地の文珠は、横島の意識化に保管されている。

 

一度込めた念は書き換えが可能であり、発動のタイミングもある程度操作できる。また、横島以外でも、念を込めたり書き換えたり出来る。但し、横島が書き換える時に霊力を不要とするのに対し、他人が念を書き換える時は霊力が必要となる。その時必要な霊力量は、文珠作成に使用した霊力の10%程度。発動させるだけなら、霊力は不要である。

 

文珠は複数の文字を組み合わせて発動させることも可能。しかし、発動時に霊力が必要となり、一個につきその必要量は跳ね上がる。これは、同時に発動させる時にイメージを伝達する必要があり、文珠同士を霊的に繋ぐ必要があるからである。また、生成者である横島は自身の霊力である為、イメージ伝達を容易にできるが、他の人間はイメージの伝達にかなり集中する必要があり、複数制御はほぼ横島にしか出来ない。

 

因みに、もとが横島の霊力である為、ある程度の遠隔操作も可能であり、その存在を横島は認識できる。修行すれば、ファン○ルのように飛ばせるかもしれない。

 

 



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用語集 ※ネタバレ注意

用語集編。作中の用語解説など。
特に記述がない箇所は原作と同様と思ってください。

New:新規追加
Up :内容追加


更新履歴

04/03:独自設定集から分離

05/07:新規項目を追加。

 

・霊力

 魂から引き出される力。霊的なものに対し干渉する。物理的なものにも有効であるが、真価を発揮するのは、やはり霊体相手である。

 

・潜在霊力

 その人が持つ潜在的な霊力。実際に使用出来るかは別である。魂の器と言い換えてもよい。成長のピークは個人差もあるが、20歳前後。以降は緩やかに成長する。

 

・基礎霊力

 通常状態での霊力。霊力とはコンディション、精神状態によって上下する為、基礎霊力は目安程度である。

 

・マイト

 霊力の強さを現す単位。

 

・妙神山

 神族の駐留地の一つ。主神は猿神(ハヌマン)の斉天大聖。管理人は小竜姫。人界の拠点としての他に、人間たちが修行に訪れる修行場。基礎の修行も行うが、実力者が行き詰まった時に最後に行く場所と伝えられている為、中々修行者が現れない。

 

魔法世界(ムンドゥス・マギクス)←New

 横島たちが転移した世界。横島たちは箱庭(誰かの実験場)と判断したが実際は……?

 

旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)←New

 魔法世界とゲートという魔法施設で繋がったもう一つの世界。横島たちが居た地球とほとんど違いはない。横島たちが旧世界に来たとき、西暦2001年。

 

・メガロメセンブリア←New

 魔法世界の都市。魔法世界最大の武力を持ち、住人のほとんどが純血の魔法使い。旧世界に至るゲート施設を所有する。

 

・ゲート←New

 旧世界と魔法世界を繋ぐ魔法施設の通称。旧世界側の13箇所と魔法世界側の13箇所を繋ぐことができるが、ゲートによって接続先は変わる。横島たちが使用したゲートは旧世界の5箇所(フランス、ペルー、ウェールズ、エジプト、オーストラリア)と繋げることが可能。但し、接続先の変更には数人の魔法使いが儀式を行う必要がある為、容易には変更できない。最大設定数は3。接続先1と接続先2を切り替えるというような設定済みゲートの切り替えは比較的容易である。また、転移させるのにも魔力を必要とする為、魔力の補填に一週間ほど費やす。

 

・気←New

 鍛え上げた肉体に宿ると言われる力。肉体の強化に向いている。他にも、気弾や分身、高速移動(縮地や瞬動、虚空瞬動など)、術の発動なども行える。霊力と力の本質は同じである。霊力に比べると出力は大きく劣るが、肉体を媒体にしている為、肉体強化率は極めて高く、気の供給が続く限り継続して強化が可能。また、肉体を媒体としている為、肉体から離れるほど威力は落ち、制御は難しくなる。遠距離より近距離に強い。

 

小竜姫の推測によれば、肉体を媒体に引き出した霊力であるらしい。肉体を鍛えることで、魂から力を引き出し易くした形である。

 

・魔力←New

 精神を媒介に引き出した力。気とは違い、誰もが魔力を持っている。しかし、魔力の大小は才能、血筋など先天的要因に大きく作用される。主に魔法と呼ばれる力を扱うのに必要とされる。精神が高揚していたりすると、普段以上の魔力を引き出せることがある。肉体の強化も可能であるが、強化に使用した魔力量によって効果時間が決まる。また、魔力での強化は筋組織、神経組織を一時的に強化するドーピングに近いものである。その為、肉体を鍛えていないと筋肉断裂、神経麻痺などに陥る可能性があり、強化に使用した魔力が切れた時に、疲労感に襲われる。

 

小竜姫の推測によれば、精神集中によって引き出した霊力。効率は霊能者が扱うそれより悪い。

 

・魔法←New

 魔力を使い行使する術。学術体系が確立されており、誰でも使用可能である。様々な魔法があり、呪文詠唱を行うことで効率よく力を行使できる。世界に満ちている精霊の力を借りて行使する。この場合の精霊とは、世界に漂う力のことであり意思はなく、小竜姫によると神魔のなりそこない。

 

魔法を行使する際、始動キーと呼ばれる呪文を詠唱する。これは個人で設定できる。役割としては、精神集中の補助である。詠唱することで、魂から力を引きずりやすくするものである。

 

また、魔法にはそれぞれ詠唱が必要とされる。これは、魔力に指向性を持たせ、精霊にイメージを伝えやすくする効果があるが、必ずしも必要というわけではない。詠唱を行わない、無詠唱と呼ばれる技術もある。但し、同じレベルの魔法使いが詠唱した魔法と、無詠唱で行使した魔法とでは威力、精度共に詠唱した魔法が上である。

 

一般的に、詠唱が長い呪文程威力が高く、制御が難しい。

 

仮契約(パクティオー)←New

 一度結ぶと解消できない正式な契約(=本契約)とは違い、何度も出来る仮の契約のことである。主従契約であり、主は後述する仮契約カードで従者へ魔力(気)を供給できる。

契約には魂が必要であり、契約魔法陣の上で粘膜交換(キス)を行うことで成立させる方法が一番お手軽である。契約が成立すると仮契約カードが出現する。

 

キスと言う契約方法が世間に広まっている為、契約を交わした主従は恋人同士に見られることが多い。戦争の絶えなかった時代はともかく、今では恋人の証のように扱われる。

 

仮契約な為、仮契約期間が存在する。更新は可能。

 

仮契約(パクティオー)カード←New

 仮契約が成立した場合出現するカード。このカードを通して主は従者へ魔力(気)を供給できる。また、カードは複製可能でオリジナルカードとコピーカード感で交信が可能。但し、額にカードを当て続けている間だけ。

 

カードには、従者の名前や姿の他に、従者の称号などが記載さている。また、主従の力によってアーティファクトを持つ場合もある。

 

主なカードの能力は

1.主から従者への魔力(気)の供給

2.従者の召喚(10km以内に従者がいる場合)

3.アーティファクトの召喚(出現しない場合もある)

4.カードの衣装の召喚(いくつか衣装は登録できる)

 

・アーティファクト←New

 仮契約をした従者に与えられることがある専用アイテム。壊れても再召喚すれば修復される。主の資質と従者本人の資質の両方で決まる。その為、主を変えて仮契約すると違うアーティファクトとなる。しかし、最期に仮契約した人物のカードのみが有効となる為、二つのアーティファクトを同時に所持することは出来ない。

 

・仮契約屋←New

 仮契約を有料で行う職業。店内で契約する場合と、契約魔法陣を販売する場合と二つある。後者の方が値段は高い。主にオコジョ妖精が経営する。

 

・オコジョ妖精←New

 オコジョの姿をした妖精。妖精なので、毛変わりはしない。人語を操り、オコジョ妖精独自の魔法や、仮契約を扱えることから、猫妖精(ケットシー)と並び古来より魔法使いの使い魔となることが多い。他の妖精種に比べ、俗っぽいものが多い。

 

・便利屋「よこっち」←New

 横島が麻帆良で経営することになった便利屋。地上3階、地下1階。かつて、寮であった。2階部分が共有スペースとなっており、談話室、食堂、風呂(一人用)などがある。3階は個室。小竜姫とタマモも一緒にすんでいる。

 

地下は元々倉庫のみであったが、その他にも異空間への入口を小竜姫の術と横島の文珠で構築中。まだ異空間はただの広い空間であり、修行スペースや大浴場にする予定である。完成後、横島の悲鳴が絶えないのは想像に難くない。

 

 



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考察、その他

考察など。疑問に対する考察など。


更新履歴

04/03:独自設定集から分離

 

・未来横島の時間移動について

 未来の横島は文珠の14個制御と言う離れ技で時間移動を行っています。文珠の複数制御には超人的霊力が必要であり、14文字制御を行うのに十年みっちり修行しても届くのか疑問が残ります。また、神魔によって時間移動は禁止され、監視されています。これらの問題がある限り、時間移動は無理だと思われます。

 

これらを解消する為に、横島は何をしたのか。

 

まず、大前提として神魔の許可があったものとします。おそらく、条件として必要以上の関与をしないこと、未来の出来事を語らないことなどが付与されたことでしょう。これで、神魔の監視はOK。

 

次に、時間移動について。時間移動自体は美神親子が、文珠の雷のエネルギーで出来たことから、時間移動自体のエネルギーは問題ないでしょう。次が時間と座標ですが、美神親子が感覚で出来るその部分は文珠で補います。その為の14文字です。文珠で指定する以上、時間座標の指針は問題ないでしょう。となると、問題は文珠発動時に必要となる霊力です。

 

未来横島は修行をしていました。その際、文珠に比重を置いて修行していた筈です。威力を高める為に、生成する際の霊力量を増減させてみたことでしょう。

そこで、複数制御する際に気づいたのです。文珠自体の霊力と、制御に必要な霊力が比例することに。

私の仮定では、複数制御に必要な霊力は、イメージ伝達のパスを張るのに必要だと考えています。丁度、紐を通す様な感じですね。穴を開けるのに、霊力が要るわけです。

当然、文珠の霊力が多ければ、穴を開けるのに必要な霊力は多くなります。逆に言うと、文珠の霊力が少なければ、穴を容易に開けられるわけです。

そして、横島は文珠の生成霊力の削減に成功します。当然、威力は小さくなりますが、大事なのは威力ではなく指針としての役割なので問題ありません。14個の内、数個を普通の文珠で発動させれば、エネルギーも問題ないでしょう。

 

この方法で発動したのです。こう仮定すると、14個という制御も現実身を帯びてきた気がしませんか?

 

・GS世界とネギま世界の神魔について

 追って更新予定。

 

・マイトについて

 追って更新予定。

 



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AF設定 ※ネタバレ注意

作中に登場するオリジナルAFの設定集です。
ネタバレ防止の為に随時追加の形をとります。
最初は歯抜け状態ですがご了承ください。

また、募集頂いたアイディアから一部採用させて頂いております。

あと、AF名や称号に関するツッコミは勘弁してください。


更新履歴

05/29:初版投稿

06/07:タマモ更新

 

葛葉タマモ

・契約者:××××

・AF名:九魂ノ宝貝《チェフェイパオペイ》

・カードの外観:扇を構え、狐の面を斜めに被ったタマモ。残りの形態も描かれている。

・称号:一途な傾国

・徳性:信仰

・方位:南

・色調:金

・星辰性:箒星

・AF説明:九つの姿をもつAF。九つのAFではなく一つのAFを形態変化させるものであり、同時には使えない。それぞれの形態で能力、制限が変わる。デフォルトの形態は扇。変化させる場合は、霊力と詠唱が基本的に必要であり、その長さはまちまちである。

詠唱は声に出す必要はないが、声に出さない場合は多量の霊力が必要となり、消費霊力は詠唱の長さに依存する。無詠唱で変化させる場合は、更に倍の霊力を必要とする。

それぞれの形態で能力発動に必要となる霊力が違う。基本的に数が大きい程、消費霊力も大きい。

以下は形態と能力。

1.狐扇(コセン):黒地に九尾が描かれている扇。黒地に九尾が描かれている。有する能力は、幻覚能力の強化。扇で対象に直接接触するか、舞を舞うことで更に強力な幻覚を対象に与えることが可能となる。また、扇に蓄えられた霊力を解放することで、更に強力な幻覚を与えることができる。蓄えられる霊力は最大九回分。使用する度に扇に描かれた九尾の尾が暗くなる。霊力を解放するには、扇の開閉が絶対条件であり、使用した霊力は一日経過するごとに一回分回復する。当然、対象の精神対抗が高いと効果は弱まる。

詠唱は『一の尾は扇、狐扇(コセン)

 

2.狐刀(コトウ):日本刀。柄、鞘が金色であり、刀身には炎を思わせる波紋がある。柄の先からは金色の飾り紐が九本ついている。能力は×××。詠唱は『二の尾は燃え盛る刀、狐刀(コトウ)

3.狐面(コメン):お面。白地に朱金で縁取りがされている。能力は×××。被らないと効果を発揮しない。詠唱は『三の尾は研ぎ澄まされた感覚、狐面(コメン)

4.×××。

5.×××。

6.×××。

7.×××。

8.×××。

9.×××。

 

・補足:

現状のタマモの力では3形態(扇、日本刀、狐面)までしか変化できない。タマモの最大保有霊力に応じて順次開放されていく。また、各能力も開放直後の霊力では最大限の効果を発揮することは出来ない。9つの形態全てを開放して初めて、全ての能力を本来の力で発揮出来るようになる。が、説明書がある訳ではない為、気づかないままという可能性も高い。

 

 

妙神竜姫(小竜姫)

・契約者:××××

・AF名:玉龍ノ勾玉《ギョクリュウノマガタマ》

・カードの外観:神剣を構えた小竜姫の姿。両手、両足に装甲が追加されており、首から勾玉の首飾りを下げている。

・称号:龍剣の神姫

・徳性:正義

・方位:西

・色調:白

・星辰性:北極星

・AF説明:首から下げた勾玉が本体であり、両手足の装甲はAFの一部にすぎない。

装甲は破損しても勾玉に霊力を込めれば即座に復元する。その能力は×××。

 

 



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記念小説 横島くんと彼女たち その1

10万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれ、ネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。下記に有と記載したものは結構なネタバレありです。閲覧時の参考にしてください。

以下内容
真名@神社
刹那@お花見
エヴァ@花火大会 ※ネタバレあり
アスナ@事務所 ※ネタバレあり

一言: ありがたや~ありがたや~。……本当にありがとうございます。


 

巫女とは?(真名@神社)

 

 

 

「真名ちゃんと巫女服って反則だよなー」

 

「いきなり何を言うんだ? 頭でも打ったか……いや、いつものことだったな」

 

「そう言われると返しようがないんだけど……」

 

ここは麻帆良都市内にある神社――龍宮神社の境内。今は朝早くから境内の掃除という依頼を受けた横島が、巫女姿の真名と二人で掃除をしている最中である。

 

「で、何が反則なんだ? 確かに私の肌の色は巫女服には違和感があると言われたことはあるが……反則と言われたことはないぞ?」

 

「ん~、普段がカッコイイ系じゃん? スカート履くこと多いのに」

 

「スカートは色々隠せるし、取り出しが便利だからな」

 

「何とも実用的なお答えで。そのくせ色気もあるから困る。うむ。完璧だ。これは是非とも、デートに誘わねば」

 

「あんみつ奢ってくれるならな。五杯で勘弁してやる」

 

その言葉に頭を抱えて悩む横島。かつてと違い、あんみつを奢る程度の余裕はあるのだが、真名とのデートと、デートが発覚した時のタマモたちへのご機嫌取りにかかる値段とを天秤にかけているのである。

 

そんな横島に、真名は先程の続きを促す。

 

「それで、結局何が反則なんだ?」

 

「ん? ああ、カッコイイ系の真名ちゃんが巫女服を着るとさ。凛々しさが増すわけよ。いっそ神々しい?」

 

「何だそれは」

 

「オレが見たことある巫女ってのが、ちょっと天然入ってる娘でさ。ふんわり癒し系? だからかな。巫女ってのは清楚なおっとりさんのイメージが強いんだ。もしくはドジっ子」

 

「それは漫画の見過ぎだな」

 

横島の主張をバッサリ切り捨てる真名。言うまでもなく、横島の巫女イメージはおキヌのものである。それも、幽霊の時の。生き返った後はしっかりして来たが、それ以前のおキヌは間違いなく天然癒し系幽霊巫女(ちょっとドジ)であった。まぁ、当時のおキヌを知らないものからしたら、漫画の登場人物と思われてもしょうがない。

 

「ま、イメージとのギャップが大きいから余計に凛々しく見えるんだよ。それに、美人さんだからな。だから、真名ちゃんと巫女服は反則」

 

「まぁ、どうでもいいんだがな」

 

「と言う訳で、真名ちゃん。デート行こう」

 

「何がと言う訳なんだか……掃除が先だ。それと、あんみつを忘れるな。五杯だからな」

 

「了解っと。じゃ、オレあっち掃いてくるわ」

 

勢いよく駆けていく横島を見送りながら、真名は我知らず微笑んでいた。それが、あんみつへの期待から来る微笑みなのか、横島とのデートに対する微笑みなのか。

 

 

――当人である真名以外は誰も知らない。

 

 

 

 

 

咲き誇る(刹那@お花見)

 

 

 

並木道を歩く二人の男女。咲いているのは満開の桜。少し視線をずらせば、まだ朝も早い時間だというのにお花見の準備をしている人々が目に入る。

 

そんな中、少女――刹那の視線は、桜などより横を歩く男性――横島が何気なく前後に揺らす手に釘付けであった。

 

(せっかく、二人きりで散歩する時間が作れたんだし……手を繋ぎたい)

 

 

横島と刹那は朝の修行後のちょっとした空き時間を使って散歩に来ていたのだ。いつもなら一緒のタマモと竜姫は、二度寝と朝食の準備で不在(どっちがどっちかは言うまでもない)。横島と二人という降って湧いた幸運に感謝した刹那であったが、イマイチその幸運を活かしきれていなかった。

 

(うう……何でこのちゃんや、のどかさんは簡単に手を繋げるんや。ウチには無理……ふふ、所詮ウチは人とは違う身。人の真似しようとしたんが間違いやったんや……)

 

自分の不甲斐なさから段々とネガティブな思考に陥っていく刹那。考え事に没頭していた刹那が気づいた時には、横島との距離が大分開いていた。その距離はそのまま、自分と横島との心の距離なのだと。そう刹那には思えた。気がつくと刹那はその場に、俯き立ち止まっていた。

 

 

「お、刹那ちゃん疲れたか?」

 

 

横島の声に顔をあげた刹那は、目の前に手を差し出す横島を見つけた。戸惑う刹那に横島は手を出すように促す。

 

「ほら、手を出して」

 

「は、はい」

 

ゆっくりと、しっかりと手を繋ぐ。そのまま、横島に引っ張られる形で歩き出す刹那。

 

(また距離を……。そうだ。この人は誰に対しても距離なんて、壁なんて作らない人。そして……無造作に距離を、壁を壊してくれる人)

 

次第に刹那の顔に笑みが浮かんでくる。何を悩んでいたのだろう。ちょっと手を伸ばせばこの人は必ず掴んでくれるというのに。何を恐れたのだろうと。

 

「そういやさ」

 

「な、何でしょう?」

 

「刹那ちゃんの苗字って“桜咲”だったよね」

 

「ええ」

 

「じゃあ、この並木道は刹那ちゃんの物だ」

 

「何故ですか?」

 

「だって……こんなにも桜が咲いてるんだ。まさに“桜咲”だろう?」

 

「……ふふっ。何ですかそれ。ダジャレですか」

 

「笑わんといてー!! 自分でもどうかと思うたんやー!! でも、言わずには……ちくしょー!!」

 

「ちょ、待って……横島さーん!!」

 

刹那の手を振りほどき走り出す横島。それを慌てて追いかける刹那。その顔には、手を振りほどかれたショックなど微塵もなかった。なぜなら、彼女の顔に浮かんでいたのは周囲の桜に負けない満面の笑顔。

 

 

――今日も桜は咲き誇る

 

 

 

 

 

(オマエ)(ワタシ)と(エヴァ@花火大会)

 

 

 

時間は午後七時まであと数分。花火が上がりはじめるまであと僅かとなっていた。

 

横島と少女――エヴァンジェリンの二人は和美が見つけた穴場に来ていた。一緒に見る予定だった面々は、見物客の多さに到着が遅れていると連絡があった。もしかしたら、一発目には間に合わないかもしれない。

 

湖に浮かぶ図書館島を囲う様に、次々と上がる総数一万発の花火は麻帆良都市の夏の風物詩である。あわせて露店も併設される為、麻帆良祭同様の混雑が予想される一大イベントである。

 

その為、集合場所と時間を決めているにも関わらず、合流は中々進んでいないのである。

 

「皆来ないなー。間に合うか?」

 

「私が知るか。ほれ、次だ」

 

「はいはい。……何か雛に餌付けしているみたいだな」

 

「失礼なヤツだな。こんな美女をつかまえておいて。次」

 

「まぁ、確かにエヴァちゃんは美少女だけどさー。なんかなー」

 

今のエヴァと横島の体勢は、階段の上に座っている横島の膝にエヴァが座り、その腕の中にすっぽりと収まっているというもの。

エヴァの小柄な体躯とその整い過ぎた容貌の為、大きなビスクドールを膝に抱え込んだ怪しい男にも見える。周囲に街灯が少ない為、怪しさは更に倍である。時折、横島が手に持っている焼きそばをエヴァに食べさせていなければ、絶対に勘違いされていたことだろう。

 

――幼女誘拐犯に間違われる可能性は否定できないが。

 

「ふふ、幸せだろう? 私を抱けるのだから」

 

「まぁ、確かにエヴァちゃん体温高いから気持ちいいけどさぁ。本当に吸血鬼?」

 

「私の体のことはお前がよく知っているだろう? いつもお前が出すものをこの体で飲んでいるのだから」

 

誰か二人に教えてやって欲しい。その一連の会話は誤解しか生まないと。幸い周囲に人影はないが、その会話は横島がお縄に着く未来へと一直戦だと。

 

――勿論、エヴァが言っているのは吸血のことである。念のため。

 

「何か誤解されそうな言い回しだなぁ。ま、人いないし気にしなくていっか」

 

「安心しろ。人払いは完璧だ」

 

「やっぱり魔法使ってたか。ま、アイツらなら問題ないか」

 

どうやら周囲に人影がなかったのは、偶然ではなかったようである。と言っても、穴場であることは本当なので、元から人が来ない可能性もある。

 

そんな中、焼きそばがなくなる。ゴミを持参したゴミ袋に入れた横島がどうしようかと考えていると、エヴァが話しかける。

 

「おい」

 

「ん? もうオレたちのはないぞ。たこ焼きはタマモたちの分担だしな。ああ、他の焼きそばもダメだからな」

 

「誰が食べ物を催促した。……少し聞いてもらいたいことがある」

 

「おお、エヴァちゃんが頼みなんて珍しい。……いや、そうでもないか? いつも命令してくるし。で、何だ?」

 

「別に何かをしろと言う訳ではない。ただ、聞いて欲しいのだ。言葉通りにな」

 

エヴァは横島を見ることなく真っ直ぐに前を見ている。命令する時も、真っ直ぐ見つめてくる綺麗な碧が見えないことは少し不満だが、此処は大人しく聞くべきかと横島も真っ直ぐ前をむく。

 

「前に言ったことがあったろ? お前は暖かいなと」

 

「ああ、言ってたっけ。あれ、体温のことかと思ってた」

 

「ふふ、確かにそうだったのかもしれん。お前に抱かれたあの時。確かに私は光を感じたのだ。そのことに感謝をしていないと思ってな」

 

「大したことしてないんだけどな~」

 

「それでも……だ。これは私のプライドの問題だ。……横島」

 

くるりと向きを変えるエヴァ。至近距離で見つめ合う形となる。そのまま、視線を合わせているとエヴァが無邪気な子供の様な満面の笑みを浮かべて口を開いた

 

(ワタシ)(オマエ)を手に入れた!! この出逢いに感謝を!!」

 

そう告げるエヴァの背後では始まりを告げる特大の花火が一輪咲いていた。

 

 

――花火の光に照らされ(エヴァ)は確かに今、光に生きている

 

 

 

 

 

眠り姫(明日菜@事務所)

 

 

 

麗らかな日差しが差し込む事務所。その所長席に少女の姿はあった。

 

彼女の名前は神楽坂明日菜。この事務所――便利屋「よこっち」のアルバイトの一人である。

 

「あ~、暇! 竜姫さんは刹那さんたちと退魔のお仕事。タマちゃんは他の皆を連れて買い物行っちゃうし……ううっ。何であそこでパーを出しちゃったんだろう」

 

どうやら留守番をジャンケンで決めたらしい。一人愚痴をこぼす明日菜は次第に机に突っ伏していく。

 

「はぁ~。本当に暇だわ。横島さんも依頼で出かけちゃうし……。な~にが“横島さんと二人きりやえ~、良かったな~”よ。大体、変だと思ったのよ。横島さんが居るのに留守番を決めるだなんて。そんなの横島さんも出かけるからに決まってるじゃない……」

 

明日菜が思い出すのはほんの数分前の出来事。横島と二人きりなら留守番も良いかなと思った一分後のこと。

 

『じゃ、留守番頼むな。大丈夫、電話は携帯に転送されるから。ただ、今日来る筈の荷物を受け取ってくれればいいから』

 

そう言って皆と一緒に出かけた横島の姿。あの時の自分は相当ひどい顔をしていたのではないだろうか。直前まで頭を撫でてくれていたのだから、尚更。

 

「ううっ……。頭を撫でてくれたのは嬉しいけどさぁ。何も皆して買い物行かなくてもいいじゃん。大体、何時もは一緒に依頼に連れて行ってくれるのにさぁ」

 

そう言うと、明日菜はふてくされたのか完全に机に身を預ける。

 

その数分後。事務所には寝息が一つ。静かに……静かに響いていた。

 

 

 

明日菜が寝入ってから一時間程したころ。静かに室内へと入る人影が。その人影は眠っている明日菜の傍へゆっくりと歩いていく。明日菜のすぐ傍まで近寄ったその人影は、彼女に向かってゆっくりと手を伸ばす。その瞬間、明日菜は小さく、だが室内に響く大きさで寝言をこぼす。

 

「……さみしいよ……置いてかないでよ……」

 

寝ている明日菜から溢れるひと雫の涙。それを指で拭った人影はそのまま明日菜の頭に手を置くとゆっくりと撫でる。

 

「……心配しなくともここにいるよ、お姫様」

 

人影――横島から聞こえる声音は限りなく優しい色。懸命に真っ直ぐ生きる彼女を思っての色。それは、今頃二階の食堂でこの少女の為にパーティーの用意を終え、彼女の登場を今か今かと待っている彼女たちもきっと同じ思いだろう。

 

「寂しくなんてないんだぞ? 明日菜ちゃんは皆に愛されている。オレたちは誰もが君と出逢えたことを幸せに思ってる。誰も置いてきやしない。だって、君を皆は――愛しているから」

 

ゆっくりと頭から手をはなすと、そこには淡く緑色に輝く珠が。刻まれた文字は『眠』。部屋を出る前に彼女の髪に仕込んだ神秘の御技。これから始まる彼女の為のパーティー。それまでの時間稼ぎに仕掛けたもの。それを回収した横島は、主役の少女を起こしにかかる。

 

 

――きっと、次に見るのは眠り姫の満面の笑顔

 

 




皆様のおかげで10万UA突破しました。ありがとうございます。
超短編を4本お届けしましたが如何でしたでしょうか。時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。

いちゃいちゃ甘めにしようとした為か、執筆中はブラックコーヒーが必須でした。自分で書くと余計にダメージでかいですね。もう一つの連載ではそうでもなかったのになぁ。
途中挫折したものもありますが……真名とか。

皆様の反応や、今後の展開によっては肉付けして本編に挿入するエピソードもあるかもしれません。

各話あとがきは……要らないですよね?

図書館島のある湖で花火があがる。
これは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。


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記念小説 横島くんと彼女たち その2

お気に入り1500件突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。
下記に有と記載したものは結構なネタバレありです。閲覧時の参考にしてください。

以下、簡易的内容
和美@取材助手
裕奈@お買い物
アキラ@お散歩
木乃香@図書館島

最後に。基本的にいちゃつき話です。

一言: ありがたいことです。ほんなこつありがたいことです。


 

 

 

 

 

 

取材宣言(和美@取材助手)

 

 

 

「ほら、次はこっちだよ。早くしないと日が暮れちゃう!」

 

「もう今日はここまででいいんじゃないか? ほら、丁度よくそこにベンチもあるし、休憩してから帰ろうぜ?」

 

「むぅ~、確かに今からじゃ狙ってた絵は取れないか。じゃ、明日もよろしくね?」

 

「ああ、いいぞ。何せオレは便利屋“よこっち”だかんな。美女、美少女の依頼は最優先でやってやるよ。それに、和美ちゃんにはいつも宣伝してもらってるからな」

 

「大したこと宣伝はしてないんだけどなー。ま、役に立ってるんならいいよ」

 

 そう言ってベンチへ腰掛ける横島と和美。彼らは、二人で麻帆良新聞へ掲載する記事の取材を行っていたのである。と言っても、横島が記事をかける筈もなく、ただの機材持ちである。

 

「しっかし、歩いたなぁー。オレは大丈夫だけど、和美ちゃんは大丈夫か? 疲れたんならおぶって帰るぞ?」

 

「大丈夫。いつも取材で歩き回ってるからね。体力にはそこそこ自信あるんだ。まぁ、普段はチャリなんだけどね」

 

「ん? じゃあ、何で今日はチャリじゃないんだ? オレがいるからか?」

 

「あー、違う違う。今回の企画については説明したでしょ? “徒歩で行く麻帆良オススメスポット”って。歩いて行くことが前提となる企画だからね。こういうのは私も実際に歩いてみないとさ」

 

「何で?」

 

「う~ん、何て言ったらいいかな。リアリティがなくなるっていうか、何処か嘘っぽくなる気がするんだよね。それに実際に歩いた方が、読者と視点を共有できる気がするし」

 

「ほー、そんなことも考えてんのか。和美ちゃんは偉いなぁ」

 

 感心した様子の横島に、和美は少し恥ずかしそうに顔を背ける。報道部員として取材を重ねてきた和美には、横島の言葉に裏がないことがよく分かるからである。

 そんな和美の様子に気がついていない横島は、言葉を続ける。

 

「それで、あといくつ取材する予定なんだ?」

 

「えっと、あと二つかな。それで、最後に世界樹広場の写真を撮って終わりかな。駅前から出発して、世界樹までってコースだからさ」

 

「じゃ、昼からでも余裕だな。明日は昼飯食ってから、駅前集合でいい?」

 

「ああ、いいよ。……何ならお昼一緒に食べる?」

 

「魅力的なお誘いだが、それはまた今度な。オレだけ外食なんてしたら、タマモたちが拗ねちまう。この前も千鶴ちゃんと二人で食事に行ったら、タマモたちが拗ねて大変だったしな」

 

 横島の言葉に拗ねるタマモたちの姿を思い浮かべる和美。外食云々よりも、横島と誰かが食事に行くことの方が、タマモたちには面白くなかったのではないだろうかと和美は思う。

いつも落ち着いた雰囲気の彼女たちだが、横島の口ぶりからして、裏では拗ねたりしているらしい。これは直撃取材をして真相を暴かなければと、和美が気合を入れていると横島がジッと前を見ていることに気づく。

 

 

 横島が見つめる先、それは沈みゆく太陽――夕日であった。

 

 

 此処ではない何処か遠くを見ている横島の姿に、しばし言葉を失う和美。気がつくと、和美は横島の手を握りしめていた。

 

「どうした?」

 

「ううん、何でもない。さ、帰ろ?」

 

「お、そうだな。日も沈んじまったし、さっさと帰るか」

 

 いつものように笑って答える横島。それに和美は何も答えず、横島と手を繋いだまま夕日に背を向け足早に帰り道を歩く。和美には夕日が、横島を自分の知らない何処か遠くに連れていくような気がしていた。

 そんな感情に戸惑いながらも、和美は横島に話しかける。

 

「夕日もいいけど、私を放ったらかしにしないでよね! 遠くの夕日より、近くの美少女を見た方が絶対いいって!」

 

「はは、そりゃそうだ。近くにこんな美少女がいるんだ。夕日を見るより、和美ちゃんをみなきゃな」

 

 いつもの調子で答える横島に安心した和美は、小さく呟く。

 

 ――いつかあんな顔をした理由を取材してやる! 私のことをどう思っているのかもね!

 

 

 

 

 

今日という日に感謝(裕奈@お買い物)

 

 

 

 麻帆良市内商業区にあるスポーツ用品店に横島は来ていた。元々は事務所で出すお茶などの補充に来ていたのだが、店を出たところで偶然出会った裕奈に付き合わされたのだ。

 

「う~ん、やっぱりこっちかにゃ~。でも、値段がな~」

 

「ほー、バッシュって高いんだな。いや、スポーツ用品が全体的に高いのか? 運動する為のもんだから、しっかり作ってある分ってことなのか」

 

「う~ん、それともこっち? でも、やっぱり値段がな~」

 

「部活が盛んなせいか凄いな~。スポーツ用品だけで四階建てって。しかも、ワンフロアが広いし」

 

「う~ん、やっぱりこっち? 値段はちょっと高いけど……」

 

「麻帆良の運動部を全てカバーしてるってのが凄いよなー。ラクロスの網? とか売っているとこ初めてみたし」

 

「う~ん、どっちにしようかにゃー。それとも他のにしよっかにゃ~」

 

「あ~、どれで迷ってんだ?」

 

 スポーツ用品店の規模に感心している横島だったが、裕奈の聞いてアピールに根負けして問いかける。聞かれた裕奈は、横島の手を取ると迷っているバッシュについて説明し始める。だが、知識のない横島には値段以外の違いはよくわからなかった。

 

「つまり、一番欲しいのは値段が高くて手持ちが足りない……と。因みにどれくらい足りないんだ?」

 

「えっと……3000円くらいかにゃ?」

 

 横島の問いかけに財布の中身を確認しながら答える裕奈。その間もチラチラと横島を横目で見ていることや、先程までの言動からしてお金を借りられないかと思っているようである。お金は借りたいが、自分から言い出すのはどうかと迷っているのが横島にはよく分かった。

 

「ま、いいかな? そういえば裕奈ちゃんって、この前のテストで成績上がったんだって?」

 

「え? う、うんちょっとだけだけど……。中間より50位くらい上がったけど……なんで?」

 

「じゃ、そのご褒美ってことでオレが3000円出してあげるよ」

 

「いいの!? あ、でも、流石にそれだけで貰うわけには……。貸してくれるだけでいいよ? あとでちゃんと返すしさ」

 

 横島の提案に一度は喜んだ裕奈であったが、すぐにそれは悪いと借金という形でいいと言う。裕奈はその後も断り続けるが、横島は笑って取り合わない。結局、欲しいバッシュが買えるのだからと裕奈が折れるのであった。

 数分後には、購入したバッシュが入った袋を胸の前で抱きしめる裕奈の姿があった。

 

「うぅ……ごめんなさい、お父さん。誘惑には勝てなかったよ……でも、嬉しっ!! ありがとね、横島さん!」

 

「うむ、それを履いて精進したまえ」

 

「ははは、なにそれ! でも、頑張るよ。目指せっ! 一回戦突破!!」

 

「え? そんなに弱いの?」

 

「……あー、何かやる気なくなったなー」

 

「ゴメン、ゴメン。お詫びにケーキでもどう?」

 

「しかたにゃいにゃー。今回はそれで手を打ってあげよう。さ、そうと決まったら早く早くっ! 美味しいお店知ってるんだ!」

 

 胸を張って言う裕奈。あれほどお金を貰うことを遠慮していたのに、そこは女の子。ケーキを奢ってもらうことは別のようである。裕奈は横島の手を掴むと駆け出す。

 走りながら、裕奈は横島に大きな声で告げるのであった。

 

――バッシュも買えたし、ケーキも食べれる。横島さんと会えて良かった!!

 

 

 

 

 

アナタと歩く(アキラ@お散歩)

 

 

 

「ありがとう、横島さん。散歩の付き合ってくれて」

 

「いいって。こんな早い時間にアキラちゃんみたいな美少女を一人には出来んしな」

 

「もう……すぐそういう事言う。お世辞でも恥ずかしいんだよ?」

 

「お世辞やないんやけどなぁ。……でも何でこんな早朝に?」

 

「……秘密」

 

 早朝の麻帆良都市内を並んで歩く横島とアキラ。

アキラは昨夜“よこっち”で開かれた勉強会に参加したあと、タマモたちの勧めるままに泊まっていた。慣れない寝具だった為か普段より早く起きたアキラは、散歩でもしようと玄関を出たところで、新聞配達の助っ人から帰ってきた横島と鉢合わせ、横島と共に散歩へ出かけたのである。

 

「それで何処まで行く? 世界樹広場まで足を伸ばしてみるか?」

 

「そうですね。横島さんが構わないのなら」

 

「じゃ、決まりだな。そうだ! 途中で朝飯買って広場で食べよう! パン屋ならこの時間でも開いてるとこあるだろうし」

 

「タマモちゃんたちが心配しませんか? 帰りに買って皆で食べた方が……」

 

「ああ、それもいいな。しかし、アキラちゃんと二人きりってのも捨てがたい。……美少女と世界樹の下で朝食。しかも、さわやかな朝がこれ以上ないほど似合うアキラちゃんと」

 

「また恥ずかしいことを……先に行きます!!」

 

 頬を染め足早に歩いていくアキラ。しばらく歩いたアキラは、立ち止まって後ろを振り返ると横島が着いて来ていることを確認する。そして、また歩きだすのだ。

そのあともある程度進んでは立ち止まり、立ち止まっては歩くという行為を繰り返すアキラ。そんなアキラの行動に横島は、飼い主を気にする犬の姿を思い浮かべるのであった。

 

 しばらくその状態が続いていたが、次第にアキラが立ち止まる時間が長くなり、ついには横島が追いつくのを待つようになる。時間が経ったことで恥ずかしさが薄れていくにつれ、恥ずかしさより横島と並んで歩きたい欲求の方が強くなったらしい。

 

「お、もう逃げないの?」

 

「もういいんだ。せっかくの横島さんとふたりきりの時間なんだし、一緒にいないなんて勿体ないよ。損だよ」

 

 素直に心情を吐露するアキラに今度は横島が照れる。アキラ自身は何を言ったのか分かっていないようで、至って平気そうな顔である。横島が照れていることにも気づいていないようで、何故黙っているのかと小首をかしげている。

 

「どうしたの? いこうよ」

「あ、ああ」

 

 再び歩き出す二人。今度は隣り合って歩く。その距離は肩が触れそうになるほど近い。そんな状態の中でアキラの視線は、歩みにあわせて揺れている横島の手を追っている。その視線に気づいた横島が、アキラの手をしっかりと掴む。

 

「あっ……!」

 

「嫌だった? 握りたそうに見てたからさ」

 

「い、嫌じゃないっ! このままがいい……」

 

 俯きながら告げるアキラに何かを刺激される横島だったが、今は黙って先へ進む。繋いだ手から伝わるぬくもりを堪能しながら……。

 

 手を引かれ歩くアキラは、口元に小さく笑みを浮かべると呟いた。

 

 

――このまま、アナタと歩いていきたい……っていうのは我が儘かな?

 

 

 

 

 

秘密の約束(木乃香@図書館島)

 

 

 

「ごめんな~ウチのせいで」

 

「気にしなくていいって。それより木乃香ちゃんが怪我しなくて良かったよ」

 

 横島と木乃香の二人がいるのは、麻帆良学園が誇る図書館島。二人は図書館探検部の面々と一緒に来たのだが、現在は罠にかかり分断されていた。

 

「でも……。ウチがぼーっとしとったせいやし。いつもは引っかからんのに」

 

「だから、気にしないでいいって。ちょっと落ちただけなんだし。皆ともこの先で合流できるんだし」

 

「まぁ、そうなんやけど……ウチ、ダメやなぁ。横島さんまで巻き込んで」

 

 自分を責め続ける木乃香。普段はポジティブな思考の持ち主だが、横島を巻き込んだことが影響していているようである。

 

「うーむ。じゃあこうしよう。今度オレにお弁当作ってくれない? それでおあいこってことで……ね?」

 

「……そんなんでええん?」

 

 横島の提案にそんな簡単なことでいいのかと問う木乃香。彼女にとって、弁当を用意することはそれこそ朝飯前のことなのだから。それに対して横島は勿論と笑顔で答える。

 

「美少女の手作り弁当だぞ? これ以上のお礼はそうそうないよ」

 

「そうなん? 横島さんがそれでええんやったら、喜んで作るけど。ホンマにそれでええん?」

 

「おう、頼むな。じゃ、そろそろ先へ行こうか。皆も向かってるだろうし」

 

「はいな!」

 

 横島の差し出した手を握ると笑顔で答える木乃香。二人はそのまま、先へと進むのであった。

 

 

「皆ゴメンなぁー。横島さんを少しの間独り占めさせてな」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「なーんも。それより、オカズのリクエストとかある?」

 

「そうだなぁー、何でも食べるけど……玉子焼にはちょっとうるさいぞ? 木乃香ちゃんにオレを満足させられるかな?」

 

「むぅ……。絶対、横島さんに美味しいって言わせたる!!」

 

「お、そりゃ楽しみだ」

 

 

 和やかに会話をしながら歩く二人。手を繋いだままはぐれた面々と合流して、羨ましがられたり、からかわれたりする十分程前のことである。

 

 

――愛情をいっぱい込めた特製お弁当。残さず食べてな?

 

 

 

 

 




皆様のおかげでお気に入り件数が1500件を突破しました。ありがとうございます。
超短編を4本お届けしましたが如何でしたでしょうか。時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。

記念小説は今後も続けて行きます。次回は15万UA。これは現在執筆中です。
大体5万UA、お気に入り500件毎にやっていきます。

基本甘めとしていますが、出来上がってみるとそうでもなかったり。
因みに今回の裏テーマは“手を繋ぐ”です。各ヒロインに手を繋がせてみました。


麻帆良のスポーツ用品店事情。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。関連記事はタイトルに【道化】とついています。


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記念小説 横島くんと彼女たち その3

15万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。


以下、簡易的内容
千雨@ハロウィン
のどか@お化け屋敷
夕映@探索
あやか@海水浴

一言: ありがたいことです。次は20万UAですかね。


 

 

 

 

衣装合わせ(千雨@ハロウィン)

 

 

 

 

 

「何で私までこんなことを……」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。似合ってるぞ?」

 

「お世辞はいいって……。大体、この格好に似合うも何もないって」

 

 不平を漏らす少女とそれを宥める男性。彼らの格好は、少女がトンガリ帽子に黒いマントを羽織り、手に箒をもった所謂魔女の仮装であり、男性は同じく黒いマントを羽織っておりお揃いに見えるが、口元に見える牙から分かるように吸血鬼の仮装である。

 彼ら――千雨と横島――は“よこっち”で開催されるハロウィンパーティーの為の衣装合わせをしている所であり、向かい合って相手の格好を確認していた。

 

「本当に似合ってるんだけどな? 特にミニスカ姿とそこから伸びる足がBeautifulだ!」

 

「何処見てんだよ!! しかも、やけに発音いいし。大体似合ってるってんなら、横島さんの方だっての。前世が吸血鬼だったんじゃねぇの?」

 

「う~ん、前世は陰陽師だったから違うぞ? まぁ、吸血鬼にされたことはあったけど、こういう如何にもな格好は初めてだな」

 

「うわ、あんのかよ。……ああ、マクダウェルにされたのか?」

 

「いや、別の奴。あの頃は霊力に目覚めてなくてなー、抵抗する間もなくやられちまったよ」

 

 過去を思い出しながら語る横島。実は用を足している途中だったので、抵抗できなかったのは永遠の秘密である。

 

「しっかし、千雨ちゃんは本当に裁縫上手だよな。自前で衣装を用意できるなんて。ここの刺繍とかも凄いし」

 

 横島が指差したのは、マントの襟元に施された刺繍。見たことがない紋様であるが、何処かの貴族の紋章と言われても不思議ではない凝ったものである。

 

「私はほとんど何もしてないぞ? その刺繍だってマクダウェルが刺繍した奴だしな。それに大半は既製品に少し手を入れただけしな」

 

「そうなの? それにしても、エヴァちゃんがねぇ。興味ないって言ってたのになぁ」

 

「そうなのか? それ作るときはかなり注文つけてきたぞ? 横島さんの仮装を吸血鬼に決めたのもそうだし、デザインしたのもほとんどマクダウェルだからな。何度やり直しさせられたことか」

 

「へー。そりゃ千雨ちゃんは災難だったな。エヴァちゃんこだわる所はこだわるタイプだし。自分の衣装の用意もあるのに、頼んで悪かったな」

 

「いや、私もやり甲斐あったし。それに、一度引き受けたからには完璧を目指さないと。……それに横島さんの衣装だしな」

 

「何か言った?」

 

「な、なんでもねぇーよ! それより、動くなよ?」

 

 横島に動かないように告げると、千雨は箒を壁に立てかけ横島の目の前まで歩み寄る。思わず動こうとする横島に再度釘をさすと、両手を横島の首の後ろにまわす千雨。その体勢は、千雨がキスを迫ろうとしているようにも見えた。

 横島が迫る千雨に釘付けになり、その背中に手を回そうか葛藤していると千雨が離れる。そのことに若干後悔している横島の耳に、千雨の言葉が聞こえてくる。

 

「よしっと。あのな、横島さん。この衣装は首周りをきちんと立てることが大事なんだ。特に後ろの方は気をつけないと、今みたいに折れちまうからな。着るときにこうピンっとなるようにだな……って、どうした?」

 

「……いや、何でもない。気をつけるよ」

 

「そうか? ならいいけど。ま、そういうことだから本番のときも気をつけてくれよ」

 

「ああ」

 

 先程まで、自分がどれほど大胆なことをしていたのか気づいていない千雨は、その後も無防備に密着しては横島を挙動不審に陥れるのであった。

 

 ――ちっくしょー!! 誘ってんのかー!! でも、此処で手を出す訳には……ちっくしょー!!

 

 ――横島さんの意気地なし!

 

 

 

 

 

怖くても(のどか@お化け屋敷)

 

 

 

 

 

「うぅ……絶対に離さないでくださいね」

 

「分かってるって。大体、本物にもあったことあるってのに何を怖がる必要が……」

 

「それとこれとは別なんです~。こういうのは人間の心理を綿密に計算してあって、最も恐怖を感じるようになってるって、ゆえゆえがぁ~。それを思い出したら急に~」

 

「そんなことまで知ってるのか夕映ちゃん。まぁ、オレも関わったことあるから知ってんだけど、確かにこう言うとこは結構考えてあるからなぁ」

 

 何処か懐かしむように語る横島と、彼の手を握り締め震えるのどかの二人。彼らが歩いているのは、所々に転がる生活用品が不気味な廃墟――ではなく、それを模した所謂お化け屋敷と呼ばれる施設である。

 彼らは麻帆良から然程遠くない距離にあるテーマパークに数人で遊びに来ており、くじで二人組を作り順番に入っているのである。横島と一緒という栄冠を勝ち取ったのどかであったが、喜びに満ちていた顔も中に入って数メートルの地点で恐怖へと変貌していた。

 

「うう……トラップとかなら問題ないのに」

 

「それはそれでどうかと思うけどなー。ほら、危険はない訳だし先へ行こう? な?」

 

「そうですけどー。うう、怖いよう……何であの時私もって言っちゃたんだろう」

 

 横島に手を引かれ進むのどか。彼女は、二人きりでお化け屋敷という遊園地デートの定番シチュエーションに誘われ、くじ引きに参加したことを心から後悔していた。遊びに行くことが決まったときから、ホラー系は避けようと決めていたというのに。これも全て横島のせいだとか、後でいっぱい甘えようなどと、恐怖から逃れようとそのようなことを考えるのどかであった。

 

 彼女は気づかない。考え込んでいる間に、既に半分ほど進んでいることを。繋いだ手と反対側の横島の手の中で光る文珠に。

 

(気を『紛』らわす作戦うまくいったな。しかし、入る時は笑顔だったから平気かと思ったんだけどなぁ。夕映ちゃんが余計なこと教えるから)

 

 夕映が知ったら怒られるようなことを考えながら横島は、のどかの手を引きながら進む。途中様々な仕掛けが二人の前に現れるが、横島にとっては驚く程のものではなく、のどかも文珠の効果で違うことに気を取られている為気づかない。

 そのまま出口まで向かうのかと思われたが、のどかがブツブツと呟いている言葉に興味を持った横島が声をかけたことで、それが為されることはなかった。

 

「……あ~んってしてもらう? いや、私がした方が……」

 

「のどかちゃん?」

 

「はい? あ、横島さん。あ~んはする方がいいです!!」

 

「うん? そりゃしてくれるなら大歓迎だけどさ」

 

「じゃあ、今度して差し上げますね?」

 

「おう、頼むな……って、その前にここから出ないとな」

 

「出る? ……あ、あのここって」

 

「うむ。まだお化け屋敷の中だ」

 

 ――あ~んが、あ~んで……。

 

 ――ちょ、のどかちゃん!? 気失わんといてー!!

 

 

 

 

 

求めるものは(夕映@探索)

 

 

 

 

 

「ここは超神水や塩水と言った水ベースのドリンクが置いてあるです。あとはコンビニにあるお水も売ってるです」

 

「へー。水専門の自販機か。超神水は分からんが、塩水は緊急時とかには良さそうだな……飲むのは勘弁だが」

 

「それは主に調理用ですね。飲めないことはないですが、他にもっと塩分控えめなライトなどもあるです。飲むのでしたらそちらを」

 

「いや、いいよ。それで、ここは何を買うんだ?」

 

「ここはいいです。私の目的はここより西のエリアですから。まだ行ったことがなかったので、どんなドリンクが待っているのか楽しみです」

 

 自販機の前で話をしているのは、横島と夕映の二人。横島は何故かリュックを背負っており、夕映は手ぶらである。

 

「しかし、本当に良いのですか? こう見えて体力はそこそこあるんで、自分が求めたものくらい持ちますが」

 

「気にしなくていいって。結構な量あるし、元々今日はそういう約束だろ?」

 

「それはそうなのですが……。お礼と言ってはなんですが、こちらをどうぞ」

 

 夕映が差し出したのは、先程まで夕映が飲んでいたジュース。その名も抹茶コーラ。

 差し出された横島は、顔を引きつらせながらも礼を言い、ストローに口をつけると一口飲む。

 

「……うん、不思議な味わいだね。うん、残りは夕映ちゃんが飲みなよ」

 

 味の感想を言った横島は、複雑な顔でジュースを夕映に返す。せっかく勧めたジュースを返却された夕映は、特に不機嫌になることもなく受け取ると再びストローを咥える。

 その顔は薄らと赤く染まっているのだが、横島は口の中に拡がる味に気をとられていた為、気づくことはなかった。

 

(間接キス……。これはちょっと嬉しいですね。心なしか美味しさが増した気がします。……少々変態チックな気がしないでもないですが)

 

 少々考え込んでいた夕映であったが、すぐに本日の目的を思い出し、未だジュースの味と戦う横島に話しかける。

 

「横島さんへのお礼は後で考えることにするです。横島さんも、何がいいか考えておいて欲しいです」

 

「オレは何でもいいんだがなー。ま、何か考えておくよ」

 

「お願いするです。それでは、行きましょうか」

 

 

 ――未知なる神秘を求めに!!

 

 ――え!? ジュースだよね!?

 

 

 

 

 

楽しいスイカ割り(あやか@海水浴)

 

 

 

 

 

「さて、質問なんだが……」

 

「何でしょう?」

 

「何故、私めは砂に埋められているのでしょうか?」

 

「ふふ、ご自分では何故だと思われますか?」

 

 問答を行う男女。男――横島は頭以外を砂に埋められており、女――あやかは横島からは見えない位置で椅子に腰掛けている。因みに、横島は縦に埋まっていることを明記しておく。

 彼らは、雪広家が所有する島にタマモたち事務所の面々と、何処からか聞きつけたクラスメイトたちと海水浴に来ていた。勿論、横島も最初から埋められていたわけではない。水着姿の少女たちと戯れ、楽しく過ごしていたのである。

 

 

 ある言葉を口にするまでは。

 

 

「横島さんが悪いのですわ。数多くの美少女に囲まれているというのに、“これでもっと大人のお姉さんがいれば……”などと仰ったそうではないですか。そんなことを言われれば、皆さん怒るに決まっているでしょう?」

 

「そ、そうは言ってもだな。ここに居るのは、中学生ばかりじゃないか。確かに、あやかちゃんや千鶴ちゃんのように、大人顔負けのスタイルの娘はいる。でも、君たちは大人じゃない。いくら、大人びていたとしてもだ」

 

「まあ、そうですわね。私たちが大人びていることと、大人であることはイコールではありません。しかし、私たちも女です。一緒にいる男性に、他の女がいいと言われれば怒るに決まっているでしょう? だから、これはお仕置きなんですわ。皆さんの気が済むまで、そこに埋まっておいてくださいな」

 

 横島に視線を向けることなく、作業をしながら告げるあやか。横島の死角にいる為、横島にはその作業の内容はうかがい知れない。

 あやかが用意しているのは、海水浴の定番、スイカ割りである。あやかは用意したスイカの中から一つを手に取ると、ゆっくりと横島へと近づいていく。

今の横島は首を自由に動かすことも出来ない為、あやかが近づいてきているのは分かるが、そこまでである。彼女がスイカを自分の頭の後ろに置いているなど、横島には知る方法がなかった。

 

そのようなことになっているとは、夢にも思っていない横島は、あやかに質問をする。

 

「あー、あやかちゃんはさっきから何やってんの? 何かを置いたり持ち上げたりしてるのは、何となくわかるんだけど。皆のとこに行って遊ばないの?」

 

「ええ、私には準備がありますし。それに、横島さんとお話するのも十分に楽しいですから」

 

「そ、そうか? で、準備って何やってんの?」

 

「スイカ割りの準備ですわ。そうですね……やはり、ここに置くことにしましょうか」

 

「え……?」

 

 横島が言葉を詰まらせる。何故なら、あやかの言葉と一緒にある物が視界に入ったからである。

 それは、紛れもなくスイカであった。横島の顔の横に、それは置かれたのである。そのことに、嫌な予感がしながらも横島は問いかける。

 

「あ、あのー。これは何でしょう? スイカのように見えるんですけど」

 

「ええ、スイカですわ。最高級の物を用意させましたの」

 

「そうですか……。それが何で私めの横に置かれているのでしょうか?」

 

「スイカ割りの為ですわ。先程もそう言ったではないですか」

 

「そ、そうですよねー。これ、間違えたらオレの頭が……」

 

「割れますわね」

 

「ですよねー。……助けてー!!」

 

 理解したくもない事態を理解した横島は、必死に助けを呼ぶ。その叫びに何人かは横島たちを見るが、あやかが口元で立てた人差し指を見ると、興味を失くしたかのように再び遊び始める。

 その様子を見た横島は、助けは望めないと気づくと自力で脱出しようと試みる。

 

「くっそー、こうなったら文珠で……」

 

「あら、ダメですわよ? 文珠なんて使ったら。それに心配せずとも、このままスイカ割りはしませんから」

 

「ホ、ホンマやろな? 嘘やったら、泣くで?」

 

「ええ。こんなとこで割ったら、砂の上に中身が飛び散ってしまいますもの」

 

「……スイカのことですよね? ね?」

 

 怯えた様子で聞いてくる横島に、あやかは笑うだけで答えない。そのことに恐怖を覚えた横島は、必死に許しを請うのであった。

 

(アナタの為に新調した水着ですのに、褒めてくださらなかったバツですわ。これくらいの悪戯くらい、いいですわよね? それに、泣いてる横島さんって可愛いんですもの。もう少し見ても……)

 

 ――シートを用意しますから、それまでお待ちくださいね? 皆さんも、それまでは割らないように

 

 ――スイカのことだよな!? 頭ちゃうよな!?

 

 

 

 

 




皆様のおかげで15万UAを突破しました。ありがとうございます。
時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。

今回は然程甘くなりませんでしたし、投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。
次は本編更新予定ですが、いつ頃お届け出来るかは未定です。

以下、各話あとがき。

千雨:頂いたお題はコスプレデートでしたが、横島はネギのように嫌がっている所を強引にっていうイメージがない為、ハロウィンイベント絡みにしてみました。しかも、デートしてないし。きっと、パーティーで横島は千雨の衣装を周囲に自慢して、恥ずかしがった千雨に怒られることでしょう。

のどか:お化け屋敷なのに、お化けが活躍しないお話。のどかのドキドキは恐怖と妄想から。最後は許容範囲をこえて気絶。この後はお姫様抱っこで脱出、膝枕、あ~んと辿ったのは別の話。

夕映:謎ドリンク探索中のひとコマ。思春期の時は気になる間接キス。高校生以上になるとそんなこと気にしない人がほとんどなので、これもまたネギまならではと言えるのではないでしょうか。この後、彼らがジュースを発見出来たのかはご想像にお任せします。

あやか:海水浴中のひとコマ。ある意味定番のネタ。横島は二つの意味でドキドキ感が、半端なかったのではないでしょうか。この後、横島が砂から出たあとにスイカ割りは実行されました。

塩水に塩分濃度が違うバージョンがある。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。関連記事はタイトルに【道化】とついています。


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記念小説 横島くんと彼女たち その4

20万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。


以下、簡易的内容
タマモ@動物園
小竜姫@修行後
美砂@カラオケ
茶々丸@ねこ

一言: ありがたいことです。次は25万UAかな。いや、30万かも。


 

 

 

 

 

Zoo(タマモ@動物園)

 

 

 

「ここが動物園って所ね! 全く、檻に囚われることを良しとするなんて、野生の誇りってのがないのかしら。ま、いいわ。今日は、その情けない姿を存分に笑ってやるわ」

 

「お前も変わらんと思うがな……。大体、動物園にいる動物の大半は、産まれたときから動物園にいるからな。野生なんて残ってないだろ」

 

「どうでもいいわ。それより、早く行きましょ!」

 

 横島とタマモの二人は、動物園に来ていた。それも珍しく二人きりである。麻帆良に来てからと言うもの、二人きりで行動することが少なくなったことを少なからず不満に思っていたタマモは、今日をとても楽しみにしていたのか珍しくはしゃいでいる。

 その姿を追う横島も、普段と違いはしゃぎ回るタマモに笑みを零している。

 

「横島~! ほら、アンタの親戚がいるわよ!」

 

「はぁ? って、猿じゃねぇーか!」

 

「あ、あっちは何がいるのかな~」

 

「ちょ、待てって!」

 

 あちこち見て回るタマモと横島の二人。やがて二人は、“日本の動物たち”というコーナーへとやってくる。言葉通り、日本に生息している動物たちを展示するコーナーである。

 

「人少ないわね。日本の動物なのに、興味ないのかしら?」

 

「う~ん、世界中の動物に比べちまうとな。国内に生息してるなら、わざわざ動物園で見なくてもって思っちまうのかもな」

 

「ふ~ん。それで、こいつらもやる気ないのかしら? そんなんだから、客も来ないのよ」

 

「関係ないんじゃないか? 野生と違って危険がないわけだし、警戒心が薄れてるんじゃないか?」

 

 このコーナーで横島たちが見た動物たちは、どの動物たちも身動きもせずじっとしていた。それをやる気がないと、タマモは批難する。普段、横島の頭に乗ってぐうたらしている自分のことは、完全に棚に上げての発言である。

 

「あら、キツネもいるじゃない。こいつらもやる気ないわね」

 

「ああ、お前そっくりだな」

 

「私はいいのよ。妖狐だし。でも、こいつらはちょっと不甲斐なさすぎるわね。人間に媚び売ってるのも癪に触るけど、人間に見向きもされないのはもっと癪に触るわ」

 

 そう言うとタマモはキツネが展示されている檻へと近づく。近づくタマモに気づいたキツネたちは、タマモを一目見るなり起き上がり逃げ出そうとする。

 薄れたとは言え、僅かに残っていた野生の本能がタマモという強者に警鐘を鳴らしているのである。

 

「いい? アンタたち。私と同じキツネが他の動物より目立たないなんて、この私が許さないわ。この動物園で一番人気の動物になりなさい。これは命令よ」

 

 タマモにそう告げられたキツネたちは、先程までのやる気のない態度から一転。木に登るもの、天高く飛び跳ねるもの、檻の中を所狭しと駆け回るものと、それぞれが必死にアピールを始める。

 時折、タマモの顔色を伺うようにタマモの方を見ては、更に必死になってアピールをする。

 

 その姿にかつての己を重ね合わせた横島は、キツネたちに客寄せの為の芸を教えるのであった。

 

 

 その後、この動物園では芸を繰り広げるキツネが話題を呼ぶことになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 ――この前のキツネたち、大人気らしいぞ?

 

 ――キツネ? 他のキツネのこと何てどうでもいいわ。そんなことより、私を撫でなさいよ。

 

 ――はいはい。

 

 

 

 

 

knee(小竜姫@修行後)

 

 

 

「し、死ぬ……」

 

「大丈夫、横島さんがこれくらいの修行で死ぬわけありません」

 

「お、オレを何だと……」

 

 

 何でも屋“よこっち”の地下にある修行場。そこに、横島は横たわっていた。その体に流れる大量の汗と、荒い息遣いが直前までの修行の激しさを物語っている。

 そんな横島の傍らに、小竜姫は涼しい顔をして立っている。その顔には、優しげな微笑みが浮かんでおり、とても先程まで横島をしごいていた人物とは思えない。

 

「やはり、横島さんは凄いです。修行の度に動きが鋭くなる。こういう時、人間の成長を羨ましいと思ってしまいますね」

 

「そりゃ、毎回命の危険に晒されれば嫌でも成長するって……。しなきゃ、本当に死ぬし」

 

「大丈夫ですよ。死なないギリギリの所でやってますから。それに、いざとなれば文珠で回復させますし」

 

「お、鬼ぃ……」

 

「竜です。あとは、私に任せて横島さんは寝てていいですよ。もう限界なんでしょ?」

 

 小竜姫の言葉を聞いた横島は、強烈な疲れからくる眠気にその身を委ねる。限界ぎりぎりまで消費した霊力を回復させるための眠りであるため、眠気に逆らうことが出来ないのである。

 そのまま、横島は深い眠りにつくのであった。

 

 

 

「……横島さ~ん。眠りました?」

 

 横島が目を閉じてからしばらくした後、横島が眠っているかを確かめる為に声をかける小竜姫。横島が何の反応も返さないことを確認すると、いそいそと横島の頭を持ち上げ膝枕の体勢へと移る。

 

「役得ってやつですね」

 

 膝に乗せた横島を見つめながら、小竜姫は呟く。

 

 小竜姫が横島と二人きりでする修行の時に、限界まで横島を追い詰めるのは、未だ成長を続ける横島を鍛えたいという思いの他に、眠った横島に膝枕をする為だとは誰にも言えない秘密である。

 

「横島さん。アナタの成長には本当に驚かされます。知ってましたか? 修行時間が倍に伸びてるんですよ? 体力、霊力ともに成長している証です。このままなら、アナタは何れ……」

 

 小竜姫の呟きに反応したのか、横島が身じろいだ為、その続きが語られることはなかった。小竜姫はくすりと笑うと、横島の頭を優しく撫でる。

 

 そして、小さく呟くのだった。

 

 

 ――愛しています、忠夫さん

 

 ――んー? 何か言った……?

 

 ――何でもありあせんよ。ほら、もう少し寝ていてください。

 

 

 

 

 

song(美砂@カラオケ)

 

 

 

「おー、美砂ちゃん結構歌上手だなー」

 

「でしょー。ほら、次は横島さんの番!」

 

「それじゃ、カラオケの忠ちゃんと呼ばれた実力をお見せしましょう」

 

「何その言い方! 似合わないって」

 

 美砂のその言葉に若干へこみながらも、横島は見事な歌声を披露する。そんな横島に、笑顔を向け、次に歌うように促しながら、美砂は内心今の状況に戸惑っていた。

 

(何でこうなってんの!?)

 

 美砂は今の状況――横島と二人きりでのカラオケ――になった経緯を思い出していた。

 

 

 

「え? くぎみーも来れないの?」

 

『くぎみー言うなっ! ま、ちょっと用事が出来てね。残念だけど、横島さんと桜子によろしく言っといて。本当、せっかく横島さんが……』

 

「何? 声が小さくて聞こえない」

 

『何でもない! とにかく、横島さんに次回はカラオケ一緒にって言っといて』

 

「OK―。じゃ、切るね」

 

 美砂は円からの電話を切るとため息を吐く。その日は、以前から約束していたカラオケの日であった。メンバーはチア三人組――桜子、美砂、円――に横島の四人。代金は横島持ちということもあり、円と桜子と共に非常に楽しみにしていたのである。

 それが、一気に二人欠けたのである。

 

「桜子も猫が病気だとかでキャンセルするし……。横島さんと二人きりとか、絶対気まずいって。密室に男女が二人きりとか、危ないって。でも、奢りだしなぁ、それに横島さんも楽しみにしてたら申し訳ないし」

 

 ぶつぶつと呟く美砂。そんな彼女に近づく二人の男。どうやら、美砂が約束をキャンセルされ暇になったと思い声をかけようとしたようである。所謂、ナンパである。

 

「そもそも、横島さんと一緒って言うのが嫌じゃないってのが問題なのよね。そりゃ、嫌いじゃない……と言うか、好きな方だけどさ。流石に、二人きりはマズイって。円に二人きりだってバレたら……」

 

「ねぇ!」

 

「何?」

 

「約束なくなったんでしょ? 暇つぶしの相手ならオレらがするよ?」

「何なら奢るよ?」

「いや、オレが奢るよ! 一緒にカラオケ行こうぜ!」

 

 ナンパ男たちに混じって聞き覚えのある声が聞こえた美砂は、その男の姿を探す。男たちも、自分たち以外の声に驚きながら、ナンパの邪魔する男の姿を探す。

 

「おい、何処だ! オレらが先に声かけてんだぞ!? 順番守れよな!」

「そうだ! ルールを守ってナンパしろよな! オレらが失敗したら、次がお前! 今はオレらの時間なの!」

 

 

「あー、その反応は予想外だった。でも、残念。順番で言ったらオレが先。ね、美砂ちゃん?」

 

 

 その声は美砂のすぐ後ろから聞こえてきた。慌てて美砂が振り返ろうとすると、背後から抱き寄せられる。感じるぬくもりに、何故か安心した美砂は体の力を抜き、そのぬくもりの主――横島に身を委ねる。そして、まるで恋人に語りかけるような、そんな口調で彼に語りかけるのであった。

 

「遅いよ、横島さん」

 

 

 

 それからナンパ男たちは、男がいることがわかるとすぐに退散した。彼らのルールでは、男つきの女に声をかけるのはNGだったようである。

 それを横島に抱き寄せられた状態で見送った美砂であったが、自分たちの態勢に気づくと、慌てて横島から離れ、他の二人が来れないことを告げると、横島の手をとりカラオケ店に入店。部屋へつくなり、一曲歌うのであった。

 

(何やってんのよ、私! 取り敢えず歌ってる間に正気に戻ったけどさ。歌ったら、すっきりしたけどさ。絶対、変に思われたって)

 

 美砂はそう思いながら、熱唱する横島を見つめる。そこには、美砂の内心に気づかずカラオケを堪能する横島の姿。少々、イラッと来たが横島は何も悪くないと思い直す。

 

(まぁ、変に思ってないみたいだからいいか。それにしても、あのときのぬくもり……何というか……)

 

 横島に抱き寄せられたときのことを思い出し、美砂は呟く。横島が歌い終わっていることに気づかずに。

 

 

 ――凄かった……。

 

 ――そうだろ? 何せ近所じゃ歌が上手いと有名だったからな!

 

 ――え? あ、うん。歌、歌のことだよ! 歌のことに決まってんじゃん!

 

 

 

 

 

with(茶々丸@ねこ)

 

 

 

「どうしてマスターにも言っていないのでしょうか……」

 

 猫と戯れたあと、自身の膝で眠る横島を眺めながら、少女――絡繰茶々丸はそっと呟いた。

 

 彼女は、エヴァンジェリンの従者として生み出されたガイノイドである。彼女にとって、マスターであるエヴァンジェリンは絶対。秘密を持つことなど有り得ない。その筈であった。

 

 しかし、彼女には、エヴァンジェリンにも他の誰にも伝えていない秘密の習慣があった。

 

 それは、横島と一緒に猫の世話をして過ごすこと。

 

 駅から猫の餌場まで並んで歩き、横島と二人で世話をする。それは、時間にすれば一時間にも満たないであろう僅かな時間。その時間のことを彼女は、誰にも伝えたことがない。

 

 一度、茶々丸が一日をどのように過ごしているのか興味を持ったエヴァンジェリンに、一日の行動を聞かれた時にも、猫の世話とだけ伝え、横島が一緒だということは伏せていた。

 

 彼女にはそんな自分の行動が分からなかった。本来なら、マスターに隠し事は禁物。それでも、それが悪いことだと思えなかった彼女は、その後も伝えることはなかった。

 

「きっと、これが二人だけの秘密と言うものなのでしょうね。本で読んだ時は、何故秘密にするのか理解出来ませんでしたが、今ならわかる気がします」

 

 茶々丸が言う本とは、恋愛という理解できない茶々丸の為にと、のどかと夕映が選んだオススメ恋愛小説のことである。

 

「そういえば、本を借りる時、早乙女さんが渡そうとしていた本は何だったのでしょうか?」

 

「ん……茶々丸ちゃん?」

 

「おはようございます、横島さん。約十分程の眠りでしたが、疲れは取れましたか?」

 

 眠りから覚めた横島が体を起こすのを手伝いながら、茶々丸が問いかける。

 

「おー、ばっちり。大体、そこまで疲れてた訳でもなかったしな」

 

 立ち上がり、背伸びをする横島に、茶々丸も立ち上がり声をかける。

 

「横島さん……」

 

 茶々丸の呼びかけに振り向いた横島に、普段は無表情な顔に微笑みを浮かべ彼女は告げる。

 

 

 

 ――秘密というのもいいものですね

 

 ――え、何のこと!? オレ、何か寝言でも言った!?

 

 ――ふふ、秘密です。

 

 

 

 




皆様のおかげで20万UAを突破しました。ありがとうございます。
時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。


以下、各話あとがき。

タマモ:お題は動物園の他に、殺生石関連がありましたが諸事情で動物園に。狐や狸がいる動物園って数が少ないですよね。何でも、人気がないからだとか。狐かっこいいのに……。勿論、作中の動物園は架空の動物園です。それにしても、甘さの欠片もないな。

小竜姫:小竜姫様といえば修行。実は、本編あわせて二回目の膝枕。どちらかと言えば横島に甘えるタイプのキャラが多い為、小竜姫様はこういう甘えさせる系のシチュエーションが多くなるかと。まぁ、今回も甘えさせている訳ではないですが。

美砂:美砂のキャラは崩壊している可能性大。カラオケなのに、歌う描写はゼロ。

茶々丸:アナタはネコ派? イヌ派? この茶々丸のボディが換装前か後かはご想像にお任せします。


これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。関連記事はタイトルに【道化】とついています。


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記念小説 横島くんと彼女たち その5

25万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。


以下、簡易的内容
亜子@背中
円@演奏
千鶴@子供

一言: ありがたいことです。次は30UA。


気持ちよかったで(亜子@背中)

 

 

 

 可愛い水着を着てみたい。

 

 それが、和泉亜子の無数にある願いの一つであった。

 背中に大きな傷を持つ彼女は、その傷が見えないように露出の多い水着を避けてきた。海やプールなどでは、必ずシャッツを着用してきたし、そもそも水着に着替えないことの方が多かった。

 

 しかし、今の亜子はずっと避けてきた水着姿である。そう、彼女の夢が叶う日が来たのである。

 

「とは言っても、こんなんは流石に想像しとらんかったわ……」

 

 そう呟くと彼女は、ゆっくりとあたりを見渡す。まず目に入ったのは、今彼女が横たわっている横島のベッド。丁度、枕に顔を埋めるようにしている為、横島の匂いを強く感じとれる。その匂いを嗅いでも、安らぎを感じる自分はかなり毒されているんだろうなと亜子は思う。

 

 次に、顔をずらした亜子の目に入ってきたのは、何やらドロっとした液体を手に垂らしている横島の姿。そして、姿見に写っている、露出の多い水着姿で横島の前にその肢体を晒している自分の姿であった。

 

(えらい恥かしいなぁ。でも、これも傷を治すため……それに、これくらいのことは今更や)

 

 そう。今から、彼女は背中の傷の治療を行うのである。

 

 

 

「ほんまに、治せるん?」

 

「どうだろなー。一応、裏の秘薬らしいから期待していいんじゃないか? これでダメだったら、文珠使えばいいし」

 

「文珠はいいわ。文珠って、えらい高いんやろ? そりゃ、うちも治せるもんなら治したいけど、今は前ほど気にしとらんし」

 

 そう言って、リラックスするように目を閉じる亜子。背中に感じる、暖かな液体とそれを伸ばしていく横島の手の感触を感じながら、彼女はまどろみの中へと旅立っていく。

 

 

 それから数分後。打撃音で目を覚ました亜子が見たのは、うつ伏せに倒れふす横島とその背中に仁王立ちで立っているタマモの後ろ姿であった。

 

「えっと……どうしてこうなっとるん?」

 

「ん? ああ、起きたのね。横島も横島だけど、アンタもアンタよ。こんな明るい内から、ロー○ョンプレイするなんて。扉あけたらプレイ中だったから、思わず横島をボコっちゃったじゃない」

 

 色々とツッコミたい亜子であったが、未だ脳が覚醒していないのか適切な対処が思い浮かばない。何とか、覚醒していない頭で振り絞った言葉。それは……

 

「なんや、タマモちゃんも混ざりたかったん? でも、ダメや。これはうちと横島さんだけの特別な行為なんや」

 

 ……色々とダメだった。

 

 この言葉を聞いたタマモが、どう言う行動に出たのかは皆様の想像に任せるとして、次第に意識がはっきりしてきた亜子は、ふわりと微笑むと傷のことを一切気にしない大切な友達と、想い人に向かって口を開くのであった。

 

 

 ――気持ちよかったで、横島さん

 

 ――ちょ、まっ、わざと! わざと言ってる!?

 

 ――さぁ~?

 

 

 

 

 

特徴のない女の子(円@演奏)

 

 

 

 釘宮円。チアリーディング部所属。好きな音楽は洋楽。背も普通。スタイルも普通。ちょっと、声がハスキーっぽくて、ギターを少し弾けるだけの、これといった特徴のない女の子。

 

「ダメだ。何の面白みもない、普通だ」

 

「どした?」

 

「……何でもないよ。そうだ! 横島さんって、楽器とかやってなかったの?」

 

 危ない、危ない。自分のスペックを確認して、勝手に落ち込んでいたとか言える訳がない。大体、私には明日菜の馬鹿げた体力も、那波さんのような圧倒的戦闘力もないことは分かってた筈じゃん。

 

 それより、今は横島さんと二人きりという滅多にないチャンスを活かさないと。

 

「オレ? 楽器はトランペットなら自信あるぞ? 何せ、昔猛練習してたからな」

 

 へー、横島さんって、ペット吹けるんだ。ペットかー。ギターとペットでセッション? 微妙か。というか、絶対猛練習した理由って、アレだとね。

 

「モテると思ったんだけどなぁ……」

 

 やっぱり。何でトランペット選択したんだろ? モテたいなら、サックスやギターの方がいいだろうに。

 

「そりゃ、考えたさ。ただ、うちにあったのがトランペットだったからな」

 

「そうなんだ。横島さんが、ギターをやってたら色々教えてもらえたのになぁ」

 

 ここで、残念そうに横島さんを見つめる……うわっ、意識してやるとはずっ!?

 

 こんなこと平気で出来るヤツらって、凄いわ。うん。って、横島さんがこっち来る!?

 何で?

 

 

 !? 後ろから……か、抱え込まれてる!? ど、どうすんの!?

 

 え? これがEマイナー? って、違う! どうしてこんなことを?

 

 

 はぁ。つまり、さっきの落ち込んだ私の顔が可愛かったから、ギターを教えてあげようと思った? じゃ、この体勢は? 教えやすいから? いや、いやじゃない! 嫌じゃないけど!

 

「どしたー。いきなりは難しかったか?」

 

 そうじゃない! そうじゃないんだよ、横島さん! この体勢はマズイって。え、手とり足取り教えるって? 無理! 絶対に無理! 

 

「うう……そんな嫌がらんでもええやんけ。ちょっとした冗談やないか。ほれ、ギター貸してみ? 教えたるから」

 

 うう、まだ顔がああついよ……。って、うまっ!? 横島さんギターめっちゃ弾けるじゃん!

 

 しかも、弾き語りまで……いや、簡単だろって、いきなりそれは……せめてどっちかなら。

 

「じゃ、オレがギター弾くから円ちゃんはボーカルね」

 

 え、ちょっと……。

 

「ほら、早く。オレ円ちゃんの歌好きなんだから、オレの為に聞かせてよ」

 

 どうして、この人はこう私の心を……。ま、いいわ。歌ってやろうじゃないの!

 

 

 ――やっぱ、円ちゃんの歌声好きだなー

 

 ――そう? でも、ありがと。

 

 

 

 

あらあらまぁまぁ(千鶴@子供)

 

 

 

 

「すみません、手伝ってもらって」

 

「あー、いいのいいの。これも仕事だし」

 

 ここは麻帆良市内にある千鶴がボランティアで通っている保育園。いつも子供たちの笑い声が絶えない園内は、静まり返っている。別に休園だと言う訳ではなく、今がお昼寝の時間だからである。

 

 そんな子供たちが寝入った園内で、千鶴が淹れたお茶を飲んでいるのは“よこっち”の所長である横島忠夫である。彼ら以外の職員は、園児に付き添っている為、この場にはいない。

 

「でも……お疲れになったでしょう? そうだ、肩を!」

 

 そう言うと、ソファーに腰掛ける横島の背後に回り込み肩に手を添える。すると、自然と横島の後頭部には千鶴のたわわに実った果実が……

 

(おお、やーらかいものが!? くー、圧倒的ではないか!? 何でこれでちゅうがくせいなんやっ!? いや、でも千鶴ちゃんくらい大人っぽかった手を出しても? でも、子供っぽいとこもあるし……そのギャップも可愛いしなー。こう、成長中の少女? って、結局これじゃ、手出したくても出せんやないかっ!?」

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 途中から葛藤の内容を全て吐き出す横島。それを聞いた千鶴は、冷静であろうと頑張っているが、口から出るのは意味のない文字の羅列。顔も真っ赤に染まっている。

 

 千鶴は普段、大人ぶって横島のことを誘惑するこが多々ある。それらは、何だかんだ言っても横島が強引に手を出すことはないという信頼からの行動である。無論、本当に手を出されても、横島ならウェルカムなのだが。

 その為、横島には大人っぽいと思われていると思っていたところに、子供っぽいところもあると言われて、予想外に恥ずかしくなったのである。それも、普段言われ慣れていない可愛いという言葉付きであったので、その威力は倍と言ったところである。

 

 それでも、今まで培われた奉仕精神からか、肩を揉む手が止まっていないのは流石というべきだろうか。さらに胸を押し付けているように見えるのも、きっと無意識なのであろう。

 

 無意識に感触を楽しみながらも、己が正義と泥沼の戦いを繰り広げる横島と、半ば無意識に横島の頭を抱え込みながら、顔を真っ赤に染める千鶴。

 

 そんな彼らが正気に戻ったのは、それからしばらくしたあとのことであった。

 

 

 

「いや、その、ね?」

 

 正気に戻った横島は、頭部に感じる感触を気合で意識の外に追いやり、千鶴に対し何やら言い訳を考えているようである。

 

「私、そんなに子供っぽいですか?」

 

 対して、千鶴は先程までの態度が嘘であるかのように自然体に戻っていた。

 

「いや、そんなことは……普段の千鶴ちゃんは大人っぽいよ? ただ子供と遊んでるときとかで、ちょっと負けず嫌いなとことか見ると子供っぽいっていうか……可愛いなーってだけで。だから、ほら、アレだ! 千鶴ちゃんは中学生にしては大人っぽいってことで……」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「どういたしまして……?」

 

 横島の言葉を遮り、礼を言う千鶴。横島は何に礼を言われたのか分からず戸惑うが、振り向いた先で千鶴が嬉しそうに微笑んでいるのを見て、考えることをやめる。

 

(この人は……本当によく私を見てくれてる……)

 

 向かい合い笑う二人。先程まで、横島を背中から抱きしめるようにしていた為、千鶴と横島の距離は近い。そんな至近距離で、互いに憎からず思う二人が見つめっていたらどうなるか。答えは、簡単。次第に、距離が近づき……やがて、その距離はゼロに……

 

『あー!? 千鶴先生と横島がうちのパパとママみたいにくっついてる!?』

『あらー、邪魔しちゃダメよ? あ、ゴメンなさいね? 今日はもういいから、あとは二人でごゆっくり~』

 

 突如乱入してきた園児の一声に驚き、横島たちは慌てて離れると園児に向かって、何を言うべきか迷っている。すると、保育士の女性が園児を回収しに来た。その女性は全てわかっていますと言わんばかりの笑顔を浮かべながら、意味深な声かけをして去っていくのであった。

 

 時間にして一分にも満たない出来事に二人は呆気にとられる。

 

 

 ――ふふ、続き……しますか?

 

 ――今日は勘弁して……

 

 

 




皆様のおかげで25万UAを突破しました。ありがとうございます。
時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。


以下、各話あとがき。

亜子:お題はシバかれる横島。なぜこうなった。以上。

円:お題は音楽系。セッションや演奏など、音楽のイメージが先行しているようです。そして、なぜこうなったその2。以上。

千鶴:年齢ネタって、意外と難しい。なぜこうなったその3。以上。


これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。関連記事はタイトルに【道化】とついています


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0時間目:ハジマリを告げるは悲鳴?
その1 横島くん修行する


何番煎じか分からないクロス作品。更新速度は遅いです。
夢に何度も出てくるので書き上げましたが、続くのかなぁと不安ではあります。
クロスですが、クロス先の世界にはまだいきません。


 

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁあああぁあああっっっ!!!!死ぬー!!死んでまうー!!いやー!助けてー!!猿に殺されるー!!小竜姫さまー!!ヘルプ!ヘルプミー!!あああっぁああっ!!!美神さんのアホー!!!何がちょっと修行してきてね?っじゃー!!!時給上げてくれるっちゅうから来たけど、その前に死んでまうわー!!!!!!」

 

大声をあげながら逃げる青年。年のころは二十歳手前といったところである。顔は二枚目……とまではいかなくとも、十分に整っていると言えるであろう。

 

 

 

……その顔が涙に濡れ、鼻水を垂れ流してさえいなければ

 

 

 

彼は今、鬼ごっこに興じているところである。

 

彼の主観では、命懸けの逃亡劇が開始されてから一時間あまり。疲れが見えてきた彼は、鬼に振り返ると小さな珠を投げつける。

 

ビー玉程度の大きさを持つその珠は、鬼にあたることなく地面へと落ちる。その瞬間――

 

 

――鬼の足元に大きな穴が出現した。

 

 

突如出現した大穴にはまった鬼に向かい、青年は高笑いをしながら土をかけ始める。

 

 

「ふはははっ!!喰らえ!必殺――平安京エイリアンの術!!!」

 

 

そう叫びながらも、青年は必死に土をかけ続ける。鬼は穴の中で身動きが取れなくなったのか、僅かに身をよじらせるだけである。しばらくしても鬼が動かない為、青年は鬼が観念したと思ったのか、穴の中を覗き込むと声をかける。

 

 

「降参するなら今のうちだぞー。今なら、この世界一臭い缶詰の投入だけは勘弁してやる!!」

 

 

その言葉を青年が告げた瞬間。鬼の体が一際大きく揺れる。それを見た青年は、自分の優位を確信する。

 

「ふっ。流石にこれは嫌か。まぁ、臭いからな。それじゃ……

 

――ズシャーーーッッ!!!!

 

……へ?」

 

青年が最後通知を行おうとした瞬間。目の前の穴から、大量の土砂が天へと噴き上がる。

 

慌てて距離をとる青年の瞳には、土煙の奥に揺らめく影が写っていた。

 

「ははは……。怒った?」

 

……ここに命懸けの鬼ごっこは再開されるのであった。

 

 

 

 

 

鬼ごっこ再開から一時間。青年は地面に仰向けで倒れていた。その青年のもとに一人の女性と、老人が近寄る。二人とも、中華服に身を包んでおり、女性の頭部には角が生えていることから人間ではないようである。老人の方は多少毛深い所があるが、ほとんど人間と変わらぬ容姿に見える。

 

「お疲れ様です。横島さん。よく逃げ切れましたね?途中、死んだかと思いましたよ」

 

「ぜェぜェ……。そ、そう思うなら……た、助けてくださいよ……小竜姫様」

 

青年――横島――が息も絶え絶えに、女性――小竜姫――に告げる。それを聞いた小竜姫はにっこりと笑いながら告げる。

 

「修行ですから」

 

「そ、そうですけど……。これはやり過ぎ……でしょう?」

 

「……まぁ、私も予想外でしたけど……」

 

横島の言葉に小竜姫は、額に一筋の汗を垂らしながら答える。そこに黙っていた老人が声をかける。

 

「ウキッ!ウキキキッ」

 

失礼。猿が鳴いた。

 

「あ~、何て言ってんのかさっぱり分からん。小竜姫様はわかります?」

 

「それは、その……流石に私でも……猿の言葉は……ちょっと」

 

横島と小竜姫の二人が小声で会話している間も、猿はウキウキ鳴いている。なにやら話をしているようなのだが、二人には猿の言葉は理解できない為、揃って猿の独り言――独り鳴き――を黙って聞いている。その内、二人は聞くのにも飽きたのか何処からか取り出した湯呑でお茶を飲み出す。

 

「……ズズッ。ハァ……それにしても、長いですねぇ」

 

「そうですね~。しかし、さっきは本当に死ぬかと思いましたよ。鬼ごっこだって言うから、小竜姫様とキャッキャウフフって感じかと思ってたのに。まさか、本当に鬼を連れてくるとか……」

 

「そんな修行あるわけないじゃないですか。それに、私が鬼なら”超加速”状態での鬼ごっこになりますよ?逆もまた……です」

 

「ああ~。それも勘弁っすね~。いや、でも……」

 

そう言うと横島は葛藤し始める。どちらも洒落にならないのなら、見た目麗しき女性との鬼ごっこの方がマシかと悩んでいるのである。

 

そんな横島を横目に見ながら、小竜姫も先程まで追われていた鬼については伝えまいと決意する。

 

猿が声をかけた鬼は、この修行場――妙神山――の門を守る鬼門など比べるまでもない鬼なのだから。

 

(いくら横島さん(お気に入り)の修行だからって……酒呑童子に鬼役を頼むたなんて……。しかも、酒呑童子もノリノリですし……。まぁ、遊び気分だったから良かったものの……)

 

小竜姫は思い出す。横島が落とし穴にはまった酒呑童子()を挑発した時のことを。

 

(正直、アレにはゾッとしましたね。老師に止められてなかったら助けに入ってましたよ。本当、よく無事で……)

 

小竜姫は未だ葛藤している横島を見る。酒呑童子だと知っていたらどうしたのだろうかと。

 

(……何故でしょう。同じことをするような気が……)

 

小竜姫は容易に思い浮かぶその光景に頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

頭を抱える小竜姫に葛藤する横島。それに、独り鳴き続ける猿。そんな光景もやがて終わりを迎える。猿――妙神山の主、猿神(ハヌマン)斉天大聖が、自分の言葉が通じていないことに気づいたのである。

 

「ウキッ……ウキ?」

 

斉天大聖老師が取り出した棍を横に振り抜くと、空間にヒビが入る。そのヒビが空間全体へと広がると、一気に崩壊していく。

 

次の瞬間、彼らの姿は先程までのどこまでも広い空間から、時代劇に出てくるような日本家屋の一室に移動していた。

 

「ふぅ……。全く。早く言わんかい。せっかく、ありがたい言葉を告げてやったと言うに……猿の鳴き声じゃ威厳も何もないではないか」

 

「あ~。お言葉ですが、老師。あの加速空間の中ではその……猿になってますし、威厳なんて、横島さんにはどうせ通じないかと……」

 

「まぁ、そうなんじゃがのぉ。ほれ、横島。さっさと霊力を高めんか。せっかく、魂に負荷をかけ、魂の出力を高めたんじゃ。その状態で霊力が尽きるまで、最大霊力を維持せよ。そうすれば、魂がその状態に慣れ、使える霊力が増えるじゃろうて」

 

老師に小突かれて正気に戻された横島は、老師の言葉に面倒くさそうな顔をしながらも従う。ちゃっかり要求した上で。

 

「へいへい……。ブッ倒れた後は、小竜姫様が膝枕で看病してくださいよ!!……ハッ!!!」

 

横島の要求に答えず、ただ笑顔を向けた小竜姫は、老師と共に横島と距離を置く。横島の集中を妨げない為である。

 

「それにしても、本当にこれで霊力が増えるんですか?」

 

「さてのぉ。この前“てれびじょん”で見た“あにめ”に似たような修行方法があったから試しておるだけじゃしのぉ。なんでも、限界まで放出し続けるとその状態に慣れ、最大値があがるそうじゃ」

 

「“あにめ”ですか……。人界には凄いものがあるのですねぇ」

 

小竜姫もテレビは見るのだが、ワイドショーばかり見ているのでアニメの存在を知らないようで、修行方法を紹介する番組か何かと勘違いしているようである。真実をすれば、止めていたことだろう。

 

「それにしても、どうして加速空間を使ったんですか?横島さんは既に潜在能力を開花させてますから、霊力を高めるだけなら私の修行で十分ですよ?」

 

小竜姫の疑問は当然である。元々、老師が作る加速空間での修行は魂に負荷をかけ続け、一時的に魂の出力ますことで、己の潜在能力を引きずりだし易くしたもの。既にその修行を終えた横島には、小竜姫が言うように小竜姫の修行で十分なのである。

 

「なに。これが上手くいけば、横島は人間の限界を超えるじゃろうて」

 

「人間の限界ですか……?」

 

それっきり、老師は口をつぐむ。これ以上語る気がないと感じた小竜姫は、黙って横島を見守ることにするのであった。

 

やがて、霊力を放出し尽くした横島が気を失うと、小竜姫は看病の為に彼を抱え、部屋を移動するのであった。

 

 

 

 

 

「う~ん。柔らか~。ああ、このまま……「せいっ!!」……うがっ」

 

何故か痛む頭を抑えながら、横島が体を起こすとゲームをしている老師とお茶を飲んでいる小竜姫の姿が見えた。

 

「あぁー!!何で膝枕してくんなかったんですか、小竜姫さまー!!」

 

「約束してませんから」

 

目を覚ますなり、不満の声をあげる横島にすまし顔で答える小竜姫。横島は気づいていないが、その頬には朱がさしていた。横島はそのまま、膝枕を要求し小竜姫に迫るも、しつこいと小竜姫に撃墜される。

 

その様子をゲームをしながら見ていた老師は、ため息を吐く。

 

(小竜姫も素直じゃないのぉ。それに横島のヤツも間が悪いと言うか手癖が悪いと言うか……いや、アレでこそ横島じゃな)

 

 

横島は知らないことであるが、小竜姫はちゃんと膝枕をしていたのである。しかも、愛おしそうに、頭を撫でながら。

 

それが、何故目を覚ました時には離れていたのか。それは、横島が気絶から睡眠へと移ったことで、寝返りをうったからである。それだけならば、問題はなかったのであるが、そこは横島である。そのまま、小竜姫の腹部に顔を埋め、右手でお尻を撫で始めたのである。それを恥ずかしがった小竜姫が、横島の頭に肘を落とし、素早く距離を取ったのである。

 

 

 

 

 

横島と小竜姫のスキンシップと言う名の折檻を止めると、老師は横島に状態を尋ねる。

 

「それで、どうじゃ?扱える霊力は増えたか?」

 

「え?……あ、はい。そんな感じはしますね」

 

横島は自分の状態を確かめるかのように霊気を発すると、そう告げる。

 

「ふむ……。魂に負荷をかけた状態での、長時間に渡る命懸けの攻防(鬼ごっこ)。それによって、高められた霊力を扱うことで、殻を破ったようじゃな」

 

 

「は……?殻?何のことです?」

 

「ホッホッホ。気づいてないのか?……お主が発する霊力に」

 

意味が分からないという顔の横島に、横島が霊力を発した辺りから黙っていた小竜姫が震える声で告げる。

 

「よ、横島さん……。今のアナタは……下級神魔並の霊力です」

 

「……へ?またまたぁ~。そんな冗談なんて……マジ?」

 

「マジです」

 

 

 

 

 

固まった横島は元に戻るなり、「ワイの時代が来たー!!」と騒ぎ立て小竜姫に沈められるという行動を数回繰り返す。現在は、小竜姫の淹れたお茶で一息ついたところである。

 

「まぁ、オレが神魔並の霊力を持ったってのは分かりました……。信じられないけど」

 

「予想はしておったが、本当にやるとはのぉ。文珠といい本当にお前は驚かせおる」

 

「予想していたとはどう言うことですか?本来、人間が下級神魔とは言え、そのような強大な霊力など持てる筈が……そもそもチャクラを……」

 

小竜姫の言うように、本来人間一人では神魔クラスの霊力は持つことはできない。7つのチャクラを全て回して、初めて下級神魔に手が届くかというレベルなのである。現在の横島のように常時神魔クラスというのはありえないのである。

 

「横島だから、じゃ。横島には魔族の霊気構造が混じっておるじゃろ?」

 

「……ええ」

 

「それが、この結果じゃ。魔族の霊体は、当然ながら人間以上の力を扱ったことがある。それが、横島の魂に錯覚させたんじゃ。まだ、力を扱えると。それで、殻を破ったんじゃ。あとは、それに慣れればもしやと思ってな」

 

「そ、そんなことが……。横島さん。ルシオラさんは、今もアナタの力に……。横島さん?」

 

小竜姫が横島に話しかけるが、返事がない。不思議に思った小竜姫が横島に目を向けると……

 

「う~ん。美神さ~ん……おキヌちゃ~ん、シロ……タマモ~。この神魔を持つワイに任せ……。え?神魔並の霊力身につけたから、事務所をオレにくれる……?それで、美神さんたちは……?オレのものになる……?そ、それって……「せいっ!」……グフッ」

 

「いい夢を見てたようですね……?」

 

「ハッ!!夢か……そうですよね~。オレなんかが……」

 

「はぁ……いつから寝てたんですか?」

 

「え~と、チャクラがどうのこうのってあたりっすかね~」

 

どうやら、大事なところを全て聞いていなようである。小竜姫はため息をひとつ吐くと、先の内容を伝えようか悩む。そこに、老師が何気ない感じで一言告げる。

 

「ああ、そうじゃ横島。ちょっと霊体をもらうぞ?」

 

 

 

「「ハァァアアア!????」」

 

 

 

 

 




新連載。サブでの連載となりますので、更新は遅くなるかと。

未だGS勢しか出ていませんが、ちゃんとネギまとクロスします。

活動報告“新規投稿作品について”もご覧ください。
大した内容ではないですが、物語の骨子となる部分が書いてあります。


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その2 横島くん帰宅する

突然の老師の申し出に混乱する二人。老師の真意とは……?

一言:好きなGSキャラは横島です。


 

 

 

 

 

 

 

老師が語るには、魂の殻を破った横島は下級神魔並の霊力を得るとともに、魂の器が拡がっているそうである。そして、今の状態ならば、多少霊体を失っても影響はないそうなのだ。

 

「本当に大丈夫なんすか……?」

 

「うむ。問題ない。それにこの方法で得た霊体と、お主が持っておるルシオラの霊波片。これを合わせれば、ルシオラを復活させることもできるかもしれん」

 

「マジっすか!!アイツが……!!」

 

「そうですよ!足りないのは僅かな霊体ですから……。きっと!!」

 

「まぁ、やってみんと分からんがのぉ。ベスパと違って大部分を失っておるからのぉ。横島から取れる霊体次第では、魂を復活させるだけで精一杯かもしれん」

 

「それでも、確実に魂は再生するんすね?」

 

「ええ……確実にルシオラさんは転生できます」

 

「そうすっか……。ってことは、ルシオラとあ~んなことや、こんなことも……?」

 

いつものように軽い発言をする横島だが、その目の端には涙が溜まっていた。それを認めた小竜姫は、反射的に振り上げた神剣を静かに下ろす。

 

「まぁ、魂が回復して意識が戻るまで大体十年くらいか?体の再生に関しては何とも言えん……専門外じゃしな。それに魂の補填はできるが、体を再生できるほどの霊体は取れん」

 

「そ、そんなにかかるんすか……?だってベスパは……すぐに大きくなって」

 

「あやつは自分の分身である眷属を回収したから、あんなに早く再生出来たんじゃ。魂も眷属に分けておったんじゃろ?」

 

「そうですね。彼女の場合は、その為にすぐ復活することができました。その点、ルシオラさんの場合、魂の大部分は霧散していますから」

 

「そうっすか……」

 

 

「ま、そういうことで霊体を貰うぞ?少しばかり痛いじゃろうが、我慢せい」

 

「え~と……優しくしてね?」

 

横島がバカなことを言っているうちに、老師の手により霊体が削られる。その瞬間、横島は自分の体の中から消えゆくルシオラを確かに感じた。

 

「ま、こんなもんじゃろ。あとは、外に待たせているジークに任せるとしよう」

 

「……って、まだジークのやつ居るんすか?パピリオを魔界に連れて行くとかで、魔界に行くのを見送りましたよね……?」

 

「これから行くんじゃ。まぁ、次に会うのはルシオラが復活した頃かのぉ。その頃には。パピリオも多少は成長しとろうて」

 

何でもないことのように言う老師。小竜姫の方を見ると、彼女も知らなかったのか驚いている。すぐ戻ってくると思っていた弟子が、そうではないと知って驚いているのだろうと横島は思った。しかし、そうではなかった。

 

「老師……?ジークさんもパピリオも知ってたのに、私だけ知らなかったんですか?」

 

「まぁ、元々ジーク経由の提案じゃからのぉ。パピリオはついでじゃ」

 

「そ、そんな……」

 

何やら落ち込む小竜姫を慰めるべきか、ジークに礼をいいに行くべきか悩む横島をおいて、老師はルシオラの霊体を持って、外へ向かう。横島が小竜姫を立たせて、外に向かうと既にジークたちの姿はなかった。

 

「挨拶もなしに行きやがった……」

 

やや憮然とした態度で言う横島に、老師は早く魔界に行かなくてはならなかった理由を告げる。

 

「挨拶ならしたではないか。修行前に。それにここは神族の修行場。小さな霊体の状態で過ごすには向かんからの。早く魔界に行く必要があったんじゃ」

 

その説明を受けて、裸で南極にいるようなものかと納得する横島。うんうんと頷く横島に、老師はまたもやさらっと告げる。

 

「おお、そうじゃ横島。修行前よりちょっとはマシ程度に霊力は減っておるからの。もう下級神魔クラスの霊力は無理じゃ」

 

「……へ?マジっすか?」

 

「マジじゃ」

 

「どうしてくれるんじゃー!!美神さんに殺されてまうやんけー!!何も変わってないなんて言ったら……いやー!時給下げんといてー!!」

 

何を想像したのか、パニックになる横島。美神本人が聞いていたら、激怒しそうな言葉を続けざまに言い放つ。

 

 

 

 

 

横島が脳内で美神に折檻されていると、その間に立ち直った小竜姫が老師に説明を求める。一度は下級とは言え神魔クラスになった霊力が消えた理由を。もう一度、その境地にたつことはできないのかと。

 

老師は仕方ないといった態度で部屋で説明すると告げると、転げまわっていた横島を引きつり中へと入る。小竜姫も慌ててその後を追う。

 

 

 

 

 

「霊力が戻った理由は簡単じゃ。修行で拡がった魂を削ったんじゃ。魂の器が小さくなれば、霊力もそれ相応に減るのは道理じゃ」

 

「ああ、そうですよね。そうでしたね……せっかく、横島さんが神魔並の霊力を持ったのに……」

 

「どういうことっすか?さっきは霊体を削ったんであって、魂は関係ないんじゃ?」

 

納得する小竜姫と理解していない横島。小竜姫は横島にも理解しやすいように、先ほどの説明を言い換える。

 

「厳密に言うとややこしいんですが、簡単に言うとですね。魂=霊体です」

 

「また、えらい簡単になりましたね」

 

「まぁ、ざっくりと言ったらです。それとも、詳しく説明しますか?「いいえ!結構です!!」……そんなあっさりと。まぁ、いいです。それで、魂の大きさが霊力の強さに直結するってのは知ってますよね?」

 

「まぁ、大体は。つまり、修行でオレの魂は神魔並みに大きくなっていたと」

 

「そういうことです。普通はありえないんですよ?横島さんに魔族の霊体が混じっていたから出来たことです」

 

「ああ、そういうことっすか。さっきので、魔族の霊体を削ったから、元の人間並の霊力に戻ったと」

 

「はい。そういうことです。それに、先ほど魔族の霊体部分をごっそり削りましたからね。もう一度、神魔並の霊力っていうのは無理でしょうね。それほど、人間と神魔では魂の大きさが違うんです」

 

そこまで聞いた横島は、大きくため息を吐く。一度は手にした時給アップのチャンス。ルシオラの復活と天秤にかけるものではないが、惜しいと思うのは仕方ないことであろう。

 

「まぁ、そう落ち込まないでください。それでも、一度は拡がった魂です。神魔並は無理でも、大妖怪と言われるレベルは可能な筈ですから。勿論、修行したらの話ですが」

 

「大妖怪っすか……。まぁ、霊力はどうでもいいんです。いや、あんま良くはないけど……。ただ、このままじゃ美神さんに殺されちまう」

 

大量の涙を噴出させながら言う横島に、美神の苛烈さを知っている小竜姫は乾いた笑いを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

結局、美神と約束したタイムリミットが来てしまった為、妙神山を下山することになった横島。小竜姫と老師、ついでに鬼門に見送られるその姿は、何処か哀愁が漂っていた。

 

「それじゃ、小竜姫様、老師。また近いうちに顔出しますね。ルシオラのことがありますし」

 

「まぁ、一年くらいは変わらんとは思うがの。ま、修行なら歓迎するぞ?今度は儂が鬼をやってやろう」

 

「……遠慮しとく」

 

大猿となった老師に追われる自分を想像したのか、横島は引きつった顔で断りを入れる。そこに、小竜姫がお札をもって横島の前に進み出る。

 

「横島さん」

 

「小竜姫様……。大丈夫です。男、横島すぐにアナタに会いにきますよ!!」

 

いつものように、小竜姫の手を掴みカッコつける横島。微妙に様になってないのもいつも通りである。

 

ただ、この日は少々違った。小竜姫が握り返して来たのである。

 

「私考えたんです!横島さんの才能を埋めておくのは勿体ないと!!」

 

勢いよく身を乗り出してくる小竜姫に、横島は落ち着かない。この男、自分が迫るのはいいが、迫られるのはダメなのである。

 

「ちょ、落ち着いてください!」

 

「でも、妙神山は遠いですし、横島さんにも都合があります。此処に留まることも、通うことも難しいでしょう……。そこで、このお札です!!」

 

小竜姫が差し出したのは、妙神山とデカデカと書かれたお札。よく見ると、高度な術式が組まれているのだが、書かれた文字の大きさがお札の凄さを打ち消している。

 

「これは……?」

 

「はい!それはですね!何と、私の部屋にある転移陣に直接転移できるんです!!それに、その札があれば、私が妙神山から札のある場所まで転移することも可能になるんです!!あ、私が不在の時や、夜中は私の部屋に転移はできません。その場合は、鬼門の前に転移しますから」

 

「それって、最初から鬼門の前でいいんじゃ……」

 

横島の言うことも最もである。小竜姫が部屋にいる時間は、一日のうちのほんの数時間程度なのだ。その内、夜中もダメとなると部屋に転移させる意味はないと思うのもしょうがないことである。

 

そんな横島の指摘など気にしていないのか、ハイテンションで小竜姫は続ける。

 

「つまりですね!この札を使って私のところに来てください!!私も遊び……じゃなかった、用事があるときはその札を通して伺いますから!!二枚差し上げますから、一枚は横島さんの部屋の壁に貼って、もう一枚は肌身離さず持っていてくださいね!!」

 

「……はぁ。分かりました」

 

小竜姫のテンションの高さに押し切られる形となった横島。内心混乱しながらも、横島はそのまま下山していくのであった。

 

……鬼門に声をかけることなく。

 

「泣くな……右の」「お前もだ……左の」

 

 

 

 

 

「はぁ~、緊張しました。でも、これで横島さんの傍にすぐ行けますね。早速、今夜にでもテストがてら転移してみましょうか。ルシオラさん……。アナタが復活するまでの数年、その間に……横島さんと……」

 

ブツブツと呟きながら、足早に敷地内へと戻っていく小竜姫。その背中には、炎が燃え盛っているように見える。それを眺めながら、老師もゆっくりと敷地内へと戻るのであった。

 

「ルシオラが復活すると分かって、追い詰められたか……?しかし、部屋と繋げるとは小竜姫も逞しくなったのぉ。これも横島の影響かの……?いや、美神か」

 

 

 

 

 

妙神山から戻った横島は、早速部屋の壁にお札を貼り付けると、夕飯の買い出しに向かう。確かにストックしていた筈のカップ麺が、全滅していた為である。おそらく、雪之丞の仕業であろうとあたりをつけ、雪之丞への仕返しを考えながら向かう。

 

「雪之丞め。キツネうどんまで食いやがって……。切らすとタマモがうるさいってのに……フフフ、おキヌちゃん経由で弓さんにあることないこと吹き込んでやる」

 

雪之丞にとって物騒なことを考えながら、歩く横島。

 

既に日は暮れており、人通りも少なく、歩き慣れた道が何処か違って見える。立ち止まって見る景色も何処か悲しい。そんな感傷に浸りながら、横島は独り言をこぼす。

 

「あ、今のオレかっこいい?」

 

いろいろ台無しだった。

 

 

 

 

 

「いやー、キツネうどんが安くてよかった。本当」

 

スーパーでの買い物を終えた横島は、家路を急ぐ。そんな横島に、声をかける人物が。

 

「横島!」

 

「ん?タマモ……とひのめちゃん?何で外に?隊長は?」

 

振り返った先に居たのは、赤子――ひのめ――を抱きかかえた少女――タマモ――である。

 

「美智恵なら、そこのスーパーに行ったわ。私は車で待ってたけど、アンタを見かけたから」

 

「そうけ。こんばんは、ひのめちゃん。お兄ちゃんだよ~」

 

横島は二人に近づくと、ひのめを覗き込み挨拶する。ひのめは横島に笑顔を向けながら、その両手を伸ばす。タマモからひのめを受け取ると、横島はペチペチと叩いてくるひのめに笑いかけながら、タマモに尋ねる。

 

「そういや、美神さんたちはどうした?一緒じゃないのか?」

 

「美神たちは仕事で青森って言ってたわ。私は子守で残ってて、美智恵が夕飯に美味しいお稲荷さんをご馳走してくれるって……」

 

「よだれ垂れてんぞ……。ったく、こっちは今からカップ麺だっつーのに。イタタッ、ひ、ひのへひゃん、ひゃなひふぇ」

 

「ほ~ら、ひのめそんなヤツの口を引っ張ったら汚いわよ~。ほら、はなす」

 

タマモに言われたからなのか、横島の口から手を離すひのめ。しかし、横島の顔を叩くことはやめない。

 

「にぃ」

 

「本当、ひのめはアンタがお気に入りみたいね~。やっぱり、玩具って分かってるのね」

 

「おい」

 

タマモにジト目を向ける横島であったが、本人も薄々そうではないかと思っていた為言葉に力はない。そこに、スーパーから美智恵が出てくる。彼女は、横島と横島に抱かれた愛娘を見つけると、笑顔で近寄る。

 

「こんばんは、横島くん。あら~、良かったわね~ひのめ。大好きなお兄ちゃんに抱っこされて~」

 

「こんばんはっす、隊長。タマモに聞いたっすよ~今から寿司なんですって?いいですね~」

 

そう言いながら、チラチラと美智恵を伺う横島。その分かりやすい態度に美智恵は苦笑する。

 

「ふふ、まぁ、ちょっと違うんだけどね……。良かったら、横島くんも来る?タマモちゃんも構わないわよね?」

 

「ええ~。しょうがないわねぇ。言っとくけど、お稲荷さんは私のよ!!」

 

「いや、オレは関東のお稲荷さんはちょっと……うまいんやけどなぁ、中がアレやないと違和感が……」

 

「何それ?ま、いいわ。早く行きましょ!!お稲荷さんが私を待っているわ!!」

 

「よっしゃ!これで一人寂しくカップ麺を啜らんですむ!!しかも、おごり!!」

 

横島の言葉に疑問を持つが、稲荷寿司を取られないことが分かったタマモは安心する。横島も一人寂しくカップ麺をすすることがなくなり、一安心といったところである。まぁ、美智恵は横島にもご馳走するとは言っていないのだが……

 

一同はタマモに促されて車へと向かう。全員が乗り込むと、車はゆっくりと走り出す。当然ながら運転手は美智恵であり、タマモが助手席に、後部座席に横島とひのめ。勿論、ひのめはチャイルドシートであり、時折、横島があやすかのように指を差し出すとそれを掴もうと手を伸ばす姿が愛らしい。

 

「ところで、横島くんは妙神山に行ってたんじゃ……?」

 

「ええ。さっき下山したところでして。美神さんが、夜までに帰ってこいって言ってたんで。何か仕事行っちゃったみたいっすけど」

 

「ああ、急遽払いのいい仕事が入ったとか言ってたわね。それで、修行の方はどうだったの?」

 

「あ~、鬼ごっこしてました。おかげで、少しだけっすけど霊力が上がりました」

 

「へ~。良かったじゃない」

 

軽く相槌をうつ美智恵だったが、その内心では考えを巡らせている。

 

横島の霊力量――マイト――は、修行前の時点で世界最高クラスであった。その数値は――約120マイト。成人男性の平均が5マイト、国家資格であるゴーストスイーパー試験の最低合格ラインが40マイトであることからもわかるように破格の霊力量である。更に、100マイトを超えるものはGS(ゴーストスイーパー)全体でも一割に満たないのだ。

 

(本当優秀なのよね……ひのめも懐いているし……今からでもオカルトGメンに引っ張れないかしら。本当、令子の事務所は人材が豊富すぎよ!!死霊使い(ネクロマンサー)に、妖狐、人狼、文珠使い……。また、令子の脱税をネタに借りるのもいいわね……)

 

「フフフ……」

 

不気味な笑みを浮かべる美智恵にビビる一同。それは、目的地に着くまで続くのであった。

 

 

 

 

 

食事を終えた一同はお店の前で解散しようとしていた。車に乗り込んだ美智恵が、歩いて帰ると言う横島に話しかけている。

 

「本当に乗せてかなくていいの?」

 

「大丈夫っすよ。食い過ぎたっすからね。腹ごなしに歩かないと……で、なんでお前はオレの頭に乗ってる?」

 

横島の言うように、タマモはその本性である『白面金毛九尾の狐(はくめんこんもうきゅうびのきつね)』の姿で、横島の頭に寝そべっている。と言っても、彼女は転生後間もない為、子狐と変わらぬ体躯であり非常に愛らしい。その姿からは、妖狐の頂点に立つ存在であるとはとても想像できない。一言でいえば、不抜けていた。

 

「美味しかった~。人間ってどうしようもないけど、お揚げさんと娯楽だけは認めてあげてもいいわ」

 

「おい、聞けよ!!」

 

「ふふ。今日はそのまま横島君のとこで預かってくれない?令子たちは今日は帰ってこないし、事務所に一人よりはいいでしょ。家でもいいけど、ひのめがね……。今日は疲れてるでしょうし、ゆっくり休むのには向かないから」

 

「はぁ……。まぁ、この姿なら場所も取らないんでいいですけど……」

 

「じゃ、お願いね。……襲っちゃダメよ?」

 

「襲いませんって……」

 

最後に一言添えると美智恵は走り去る。残された横島は、ため息を一つ吐くと家へと歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

「ほれ、降りろタマモ。着いたぞ~」

 

「う~ん……。軽い頭を重くしてあげてるんだから、このままでいいじゃない」

 

「アホなこと言うなや。オレが寝転がれんやろが……ったく」

 

「気にしない、気にしない。……ん?ねぇ、横島?」

 

帰宅した横島が、頭に乗せたタマモに降りるよう声をかけるが、タマモは降りるつもりはないようである。横島は言っても無駄と思ったのか、買ってきたカップ麺を買い物袋から取り出そうとする。すると、何かに気づいたタマモが横島に声をかける。

 

「なんじゃい。これはオレの貴重な食料やからやらんぞ?」

 

「違うわよ……いや、お揚げさんは欲しいけど」

 

「まぁ、揚げだけなら考えんでもないが……。で、なんじゃ?」

 

「その霊符は何?凄い霊力を感じるんだけど……。あと壁のも」

 

タマモが気になっていたのは、小竜姫から貰った転移札であった。流石は、妖狐。霊符に込められた霊力を感じ取ったらしい。

 

「これか……?これを使えば、妙神山と行き来ができるんだと」

 

「へぇ~(嗅いだ事がない女の匂いがする……)」

 

自分で聞いたのに興味なさげに答えるタマモに、横島は何か文句を言う為に口を開く。しかし、横島が文句を言うことは出来なかった。横島がタマモに見せる為に手に持っていたお札――転移符――が強烈な光を発し始めたからである。

 

「「「……へ?……イダッ!!」」」

 

 

 

 

 

光が収まった時、部屋の中に横島たちの姿はなかった。後に残ったのは、普段通りの部屋と――

 

 

 

――力を失った転移符だけであった。

 

 




世界移動開始。横島たちはどうなるのか。一体何が起きたのかは、次回判明します。

当分、説明が多い回が続きますがお付き合いください。ある程度解消しておきたいので。小竜姫について、神魔について、宇宙意思についてなど。

また、考察を含めた独自設定集を投稿しております。設定集はその内、分割します。

次回、横島くん驚愕する に続きます。


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その3 小竜姫さん説明する

強烈に発光する転移符。一体何があったのか……?

一言:こんな世界転移もありじゃないかな。


 

 

「ここ……何処かわかります?」

 

「さぁ……?どこでしょうか?」

 

現在地を尋ねるのは横島。答えるのは小竜姫。彼らの眼前に広がっている光景。それは、岩肌が剥き出しになった荒れた大地と、生物の悲鳴が聞こえる鬱蒼とした森林。

 

先程までいたアパートの一室ではないことだけは確実であった。

 

 

「あ~龍が飛んでますね~。お知り合いですか?」

 

「あんな龍はしりませんね~。天界の黒龍ならほとんど知ってるんですが……。魔竜の類でもないようですが……どなたかの眷属でしょうか?それにしても、霊力が小さいですね。弱ってるのでしょうか?」

 

二人が観察しているのは、森林の上空を我が物顔で飛翔する一体の龍。翼を含めると二十メートルほどの全長であり、どこか誇らしげにその漆黒の体躯で悠々と飛翔している。

 

「あ~、確かに。アレならタイガーでも何とか勝てそうですね~。雪之丞だったら、瞬殺でしょうか?」

 

「そうですね~。タイガーさんの場合は、直接攻撃だと時間がかかるでしょうね。まぁ、龍の割に霊力が小さいですから、彼の精神感応も十分に効果が期待できますね。あとは何を見せるかによるのでは?雪之丞さんでしたら、霊波砲で一撃ですかね」

 

「ですよね~。で、あの龍にここが何処か聞きます?」

 

「それも考えましけど、眷属だと獣程度の知能しかない場合もありますし。話が通じるかどうか……」

 

「そうなんすか~。あ、また喰った」

 

二人が見ていることに気づいているのか、いないのか。黒龍は悠然と飛翔しながら、時折鳥を捕食しいている。その飛行スピードはそこらの鳥よりは速い。が、その程度である。神魔の飛行速度には到底及ばない。おそらく、眷属であろうと二人は見切りをつけ、再び周囲を観察する。

 

 

 

 

 

観察という名の現実逃避も飽きたのか、横島が気になっていたことを小竜姫に問いかける。

 

「ところで……小竜姫さま。少し小さくなってません……?」

 

横島の言うように、小竜姫の身長は僅かに小さくなっている。以前は横島の顎まであった身長が、今は肩までしかない。

 

「ああ、それは天界からの霊力供給がなくなってるからです」

 

「ええっ!?それって、マズイですよね?霊力源が無くなったってことは、あん時みたいに人形サイズになるってことじゃ……?くそっー!!その前に是非ともわたくしめに、その胸を……「せい!」……ドムッ」

 

飛びかかる横島を肘で沈める小竜姫。そのまま、何事もなかったかのように会話を続ける。

 

「まぁ、妙神山とのつながりがないですからねぇ……。受け取れないのはそのせいかと」

 

「妙神山とのつながりがないって……?だって、小竜姫さまは妙神山に括られてますよね?そんで、妙神山から遠く離れると力が弱くなって……あの色気のない角の姿に……。ハッ!!つまり、角になっちまうってことですか!!」

 

「それも大丈夫です。元々、私たち神魔は人界で活動する際、その霊力源は拠点から――私の場合は妙神山ですね。そこからの供給に頼っています。これは、人界に大きな影響を与えない為でもあります。私たち神魔は、その保有する霊力の大きさのせいで、人界では何かしらの影響を与えてしまいますから。それを避ける為、人界に派遣される神魔は大半の霊力を天界なり魔界なりに保管することで、保有霊力を下げているんです。そして、活動する際はその保管した霊力を拠点を通して、自身に供給しているんです。ここまではいいですか?」

 

「あ~、つまり、アレですか?天界が貯水タンクで、霊力が水、そんで拠点が蛇口みたいなもんですか?そんで、自分が水筒とかで、使った分だけ蛇口から水を補給するみたいな」

 

「……それでいいです。間違いってわけでもないですし。それで、以前のアシュタロスの時は、その蛇口が壊されました。その為、私たちは水を補給できなくて小さくなったわけです。私たちは、人界に居るだけで霊力を消費しますからね。補給できなければ、ああなるのは当然です」

 

「はぁ。でも、その理屈だと今もそう変わらないのでは……?」

 

横島の言うことは最もである。現在、天界とのつながりがないのなら、状況は変わっていない。むしろ、理由が不明な状態である分悪いと言える。だが、小竜姫に焦った様子は見受けられない。

 

「そうですね。そこだけ見ればそうなんですが……。そもそも、私たち神魔の霊力が何処から来るかご存知ですか?」

 

「何処からって、そりゃ魂から……」

 

「それは、半分正解ってところです。私たちは、人間やタマモちゃんのような妖狐と違い、その身を構成するのは霊体だけです。知っているでしょ?私たち神魔は死ねば何も残りません。霊波となり、世界に溶け込むんです」

 

横島はそれを間近で何度も見ている。敵対した魔族の最期。……そして、ルシオラの最期。

 

「その分、魂の力を存分に発揮できます。それが、神魔が強大な力を持っている理由の一つです。でも、それだけなら……あなた達GSがよく相手している霊と変わりません。神魔を神魔たらしめているもの。その強大な霊力を神魔に与えるもの。それは……」

 

「それは……?」

 

 

 

「信仰です」

 

 

 

「信仰……ですか?」

 

「ええ。人間の信仰――恐れでも構いません。それを、自身の力とするのが神魔です。当然、より信仰されているものが力を持ちます。老師を思い出してください。彼は、その名をよく知られているでしょう?それこそが、彼の信仰となっているんです。集められた信仰は、天界や魔界で神魔の霊力に変換されます。そして、貢献度や位階が高いほど、魂が大きいほどより多くの霊力を受け取ることが出来ます。中級から下の神魔などは、その集まった信仰のおこぼれを貰っているにすぎないんです」

 

「神魔の力の強さの秘密は分かりました。けど、それが何の関係があるんですか?」

 

「ああ、すみません。少し脱線しましたか。つまり、神魔の霊力は集められた信仰と、自身の魂から変換される霊力。この二つで構成されています。そして、今の私はその信仰が受け取れていない状態にあります」

 

「やっぱりダメじゃないっすか!!嫌ですよ、小竜姫さまが消えるなんて」

 

横島の顔は真剣である。小竜姫が消える危険があると思っているからであるが、小竜姫自身はその顔に見惚れており、何処か呑気である。

 

「……心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫といったでしょう?何故か今の私は霊力を消費していないんです。天界以外ではかかる筈の負荷が……ないんです」

 

「でも、消費しないからって……供給できないんなら一緒じゃ!?」

 

「横島さんが思っている以上に、負荷で消費する霊力は大きいんですよ?実際、天界から供給された霊力は、ほぼその負荷で消費されます。アシュタロスもそれを知っているから、供給源を絶つと言う方法を取りました。負荷がない今の状態なら、私は自身の霊力だけで十分、自分を保てます」

 

「じゃあ、大丈夫なんすね?……で、結局何で小さくなってんすか?」

 

「私自身の霊力で維持できるのがこのサイズってことです。普段の姿は、天界からの供給があるときの姿ですから」

 

「そうなんすか。知らんかった……」

 

説明を聞いた横島は何度も首を上下に振る。小竜姫はその姿に、本当に理解したのだろうかと疑問に思うが、自身に問題がないと言うことが分かってもらえればいいかと追求はしないことにした。

 

「そうか、そうか。そういう事やったんか……」

 

「ええ、そういうことです。それで、これから…「小竜姫さまは普段から盛ってたんかー!!」…せいっ!」

 

どうやら横島は、現在の小竜姫の姿が本来の姿であり、今までの姿を霊力を使用して“盛った”姿であると理解したようである。ある意味では、間違っていない……と、言うか真実その通りではあるのだが、女性に対する台詞ではない。当然のごとく、小竜姫の制裁を受けることになった横島である。

 

 

 

 

 

「どうでもいいけど、どうすんのよ。これから」

 

静観していたタマモの呟きで、正気に返る二人。タマモは、妖狐が持つ超感覚で付近の様子を探っていたのだが、分かったことは生物の臭いが全くしないと言うことであった。

 

「生物の臭いがしない……か。じゃあ、あの龍とかは全部……?」

 

「多分そういうことなんじゃない?」

 

「幻覚!!」

 

「違う!!」

 

「タマモちゃんが言いたいのは、あれらは私と同じ霊体で構成された生物ってことですよ。霊波は感じるでしょう?」

 

「まぁ、そうなんだけど……。全部、同じ臭いが混ざってるのよね。まるで、同じヤツから生まれたみたい。まぁ、微かに混ざってるだけみたいだから、大元が同じ生物ってことも考えられるけど」

 

「ふ~ん。じゃあ、ここは箱庭なのかもな。宇宙の卵みたいな。様々な生物を真似て創って、観察でもしてんじゃねぇか」

 

タマモの推測を聞いた横島が、何でもないかのように言い放つ。それを聞いた小竜姫は、疑問が解けたとばかりに語りだす。

 

「そういうことですか……。別の宇宙なら、世界法則も当然違いますからね。私に負荷がかからないという事は、神魔が存在しない宇宙なのかもしれません。あの負荷は、元々、神魔から人界を守る為に世界がかけているものですから」

 

「問題は、箱庭だとして出る方法……か。観察してるんなら、管理者が異物として放り出すだろ。それまで待つか?」

 

解決策を提示する横島。横島らしく他人任せの策である。自分たちの驚異となり得る存在がいないからこそ、出来る策でもある。それに、小竜姫が待ったをかける。

 

「それも、確実とは言えませんね。この世界がどの程度かは把握していませんが、別の宇宙を創造する力をもっているのなら。おそらく、最上級……少なくとも上級神魔程度の力を持っている筈です。その様な存在が、私たちに気づかないと言うことは……現在、この宇宙を放置している可能性は高いです」

 

「そうね……。臭いの混ざり具合から言っても、数百年は経過しているのは間違いないし……。放置中の宇宙とかなら、何時戻れるか分からないわ」

 

小竜姫の意見に、タマモが同意する。

 

「それもそうっすね。それに、ヤバイやつが創ってたら見つかった瞬間に、消しに来るかもしれないっすからね。じゃ、どうします。美神さんたちの助けは……」

 

「そうですね~。私が消えたことは、天界にも伝わるでしょうから、ヒャクメが探してくれているとは思うんですが……、あの娘もちょっと、抜けてるところがありますからね。すぐ……とは行かないでしょう」

 

あんまりな言われようであるが、誰もフォローしない。横島はヒャクメのうっかりを何度か体験しているからであり、タマモは単純に知らないからとその理由は違うのだが、フォローがないことには変わりない。

 

 

 

 

 

あれこれ、議論していた一同であるが有効な意見は一向に出る気配がない。そこで、タマモがそういえばと口を開く。

 

「そういえばさ……。知らない場所に飛ばれたから、自己紹介だけして後回しにしてたけどさ……」

 

「ん?どうした?」

 

「何で、小竜姫さまが此処に居るの?私と横島は一緒に居たからわかるんだけど」

 

その言葉に、ビクッと肩を震わせる小竜姫。そんな彼女に気づかない二人は、転移した状況を思いだし始める。

 

「ああ、そういやそうだな。大体、何で俺たち此処に転移したんだっけ……?確か、転移符が光って……何かがぶつかって来て」

 

「そうね。アレは痛かったわ。それから……?確か、転移先に出たと思っても、また転移して、何か延々と横島の部屋を転移し続けて……ループってやつ?ずっと、転移し続けて……。気づいたら、転移時空とでも言うの?何か、転移中の空間に長く留まるようになって……、それで、文珠で脱出しようとして……」

 

「ああ、そうだった!!そん時、『脱』『出』って文珠を発動しようとしたんだ!!」

 

「そう!それよ!そしたら、『転』『移』って文珠が何故か近くにあって!!」

 

「そうだ!それで、制御できなくなって……気づいたら此処に。ってオレのせいか!?すまん、タマモ。すいませんでした、小竜姫さま。……オレのせいみたいっす」

 

自分のせいで巻き込んでしまったと、落ち込む横島。そこに、小竜姫が声をかける。

 

「気にしないでください、横島さん。直接の原因は、文珠の暴発でしょうけど……その、間接的には私のせいと言うか……」

 

「どう言う事っすか?」

 

いつもの凛とした雰囲気はどこに行ったのか、口篭る小竜姫に横島が問いかける。問いかけられた小竜姫は、一つ大きく息を吐くと静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

その……。横島さんが持っていた転移符が光った時、ぶつかったのは私なんです。はい。その、転移出来るかのテスト……と、いいますか。それで、その……転移したんです。

 

横島さんが、部屋に転移符をちゃんと貼ってくれたか分からなかったんで、横島さんの霊波が近くにある方を出口になるようにして。

 

そしたらですね。その……目の前に横島さんの顔がありまして。口と口がですね……その。つまり、重なったというか……いえ、別に初めてだったのにとか、責任をとかは思ってないんですけど。その、事故。そう!事故ですし!私は事故でも嬉し……

 

……はい、今はそんなこと関係ないですよね。はい。その、あとで……

 

はい。続きを話します。はぁ、タマモちゃんも敵か……全く、横島さんは……。いえ、何でも。それで、ですね。ぶつかった衝撃で、多分壁の方にあった転移符に入っちゃたんだと。ええ、普通は発動しないんですけど……。転移する時に、横島さんに近い転移符ってだけで出口を開きまして……。壁と横島さんが近かった為に、そちらも出口が開いてたみたいで。

 

そうです。あとは、ぶつかった衝撃で宙を舞った転移符が、徐々に壁に貼った転移符に近づいて……。その二つの符の間をぐるぐると。その、超加速を使えば良かったんですけど……色々、集中できなくて。集中しなきゃって思う度に、その口づけのことを……。

 

そうしたら、タマモちゃんの尻尾だと思うんですけど……。それが、壁に貼ってあった転移符を上手いこと剥がしまして……。良かった、これで転移が終わると思ったらですね。

 

どんな偶然かは分かりませんが、その……剥がれた符と、宙を待っていた符がその……。はい。そうなんです。その、まさか……です。重なったみたいなんです。

 

 

え?文珠ですか……?アレは、美神さんが持ってきた文珠です。小判と交換してくれって。それで、私があの符に組み込んでみたんです。私の竜気を込めた文珠と、術式を併用することで創った特製の符です!!……あ、はい。すみませんでした。

 

 

 

 

 




中途半端に終わります。ようやくネギま世界に突入。突入しましたが、麻帆良ではないと。
彼らが辿り着いた場所が何処かと言うのと、これからどうするのかは次回以降。

未だ説明が多いです。申し訳ありません。小竜姫を活動させる為の措置と思って我慢頂けたら幸いです。

ここからは更新ペース落ちると思います。
あと、設定集分割しました。


頂いた意見、ご感想は今後の参考にさせていただきます。

では、次回。活動報告にてアンケート及び、お願いを掲載中です。ご協力頂けたましたら幸いです。


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その4 横島くん情報を集める

様々な要因で見知らぬ土地に転移した横島たち。彼らのこれからは……?

一言:文珠を要らないと言う人間はいるのだろうか。



 

 

 

 

 

 

 

小竜姫の説明から数日後。

 

横島たちはある村の中を、村の外へ向かい歩いていた。横島はその背に三メートルはある巨大な物体を背負っている。

 

 

「いや~、ボロい商売やったな~。角を切るだけでお金が貰えるなんて」

 

「そうね~。こっちがちょっと霊力開放すれば相手はビビって抵抗しないし、角を切ってしまえば別に殺す必要もないし。しかも、切った角は高値で売れるっていうオマケつき」

 

 

その背に背負った物体――龍の角――の重みを感じさせない軽やかな足取りの横島が、その頭上に陣取るタマモ(Ver.狐)と会話をしている。その横では、小竜姫が不満気な顔つきで歩いている。

 

「不満気っすね。どうかしたんすか?報酬がしょぼかったっすか?」

 

「いえ、ただ……。その……同じ龍の一族として、ちょっと情けないなと……。あの程度の霊波で身動きできなくなるなんて……」

 

「まぁまぁ。小竜姫さまが自分で言ってたじゃないっすか。龍にしては霊力が小さいって」

 

「そうなんですけど……」

 

「しょうがないんじゃない?あの龍は、自分には天敵はいないって感じで堂々としてたわ。きっと、自分より圧倒的に強いヤツにあったことがないのよ」

 

「タマモちゃんの言うことはわかります……。同じ龍の一族ならもう少し抵抗してくれても。あの程度で諦めるなんて」

 

小竜姫としては、人に仇なす龍を討伐に行ったのに、霊波を少し開放しただけで終わったことが気になっているようである。武人としても、同じ龍の一族としても、もう少し骨があって欲しかったという不満があるようである。

 

 

 

そのまま、一同は角を換金できる大きな街へ移動を始める。その道中で、今後についての相談をしていく。

 

「それにしても、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)ね~。本当に別の宇宙っぽいすね。これからどうしましょうか」

 

「とりあえず、この世界について情報を集めたい所ですが……」

 

「そうっすね~。幸い言葉は通じますしね。多分、この世界に掛かっている力のせいだとは思うすけど」

 

「おそらくそうでしょうね。しかし、文字が読めないのは不便ですね。それに、周りに不自然に思われるかもしれませんし」

 

「そこは何とか誤魔化しますよ。いざとなれば、文珠で『理』『解』して『共』『有』しますか?」

 

困ったときの文珠頼りと横島が提案する。小竜姫としては、そのような方法に頼るのもどうかと思うのだが、文字を覚えることを優先するのならその方法が一番早いこともわかっている。小竜姫は武人として、人を導く修行場の管理人として、どうすることが正しいのか葛藤し始める。

 

「まぁ、文字が読めるようになることも大事かもしれないけどさ。何の情報を優先して集めるの?魔法?世界?帰る方法?」

 

「オレとしては、旧世界に行く方法を優先したいな。話を聞く限り、旧世界はオレたちの知ってる地球と大差ないようだし。米を食いたい。あとは、タマモのお揚げさんもどうにかしないと」

 

「……そうですね。帰還については、私に考えがありますし。タマモちゃんの霊力回復のためにも、旧世界には早めに行きたいですね。それに、私もこっちの食事はちょっと……」

 

「そうよ。油揚げの為にも旧世界?っていうのに行くべきなのよ。それまで、アンタの頭からは動かないわよ」

 

「……お前、ただ歩きたくないだけだろ」

 

 

結局、各々の食事事情から旧世界の情報を優先して集めることに決めた一同。他の情報も勿論集めるのだが、魔法がありふれたこの世界では魔法に関する情報は勝手に入ってくるであろう。

 

 

 

 

 

「いや~。意外と簡単に情報が手に入りましたね」

 

街に着くなり、龍角を換金した横島たちは、街中で情報を集めた結果を宿で報告しあっていた。

 

「そうですね。メガロメセンブリア……そこに、ゲートと呼ばれる旧世界と魔法世界を繋ぐ装置があるということ」

 

立派な魔法使い(マギステル・マギ)という人助け集団がいる……胡散臭いわね」

 

仮契約(パクティオー)っていう魔法と魔法使いの従者(ミニステル・マギ)

 

「アリアドネーっていう学術都市がある。仮契約屋ってのがある。人間と亜人、魔獣がいて、南のヘラス帝国ってとこが亜人が多くて、北のメセンブリーナ連合ってのが旧世界出身者が多いと」

 

「あとは、20年程前に戦争があったこと。それを解決したのが紅き翼(アラルブラ)っていう英雄たち……ですか」

 

集めた情報を列挙した後、沈黙する一同。手に入れた情報をもとに、各人がこれからどうするべきかを考えているようである。

 

「う~ん。どうすっかな~。ここから近いゲートは、メガロなんちゃらってところらしいんだが……。立派な魔法使いっていう、胡散臭い奴らの本拠地みたいだしなー」

 

「人間のくせにタダ働き大好き、人助け大好き、正義の塊……なんて、嘘くさいわよねー」

 

「そうですねー。タダで働くなんて……」

 

旧世界に行く手段は判明しだのだが、場所が気になっているようである。

首都、メガロメセンブリア。まさに聖人君子というべき、立派な魔法使いの認定、旧世界への派遣、および旧世界の魔法組織をまとめているという。

横島達にとっては胡散臭いことこの上ない。

 

横島は元々そうであったが、神魔相手に高額な報酬を要求する美神という人間を見てきた小竜姫とタマモにとっても、その聖人君子ぶりは胡散臭く感じるようである。

 

 

 

 

 

「とりあえず、近くまで行ってみますか。それと、立派な魔法使いには気をつけましょう。本当に話の通りなのか疑わしいですし。まぁ、情報操作の可能性が高いとは思いますけど。道中は、引き続き情報を集めながら、お金を稼ぎましょう。メガロなんちゃらの情報と、立派な魔法使い、旧世界の魔法組織についての情報は優先的に……こんなとこですかね」

 

長い沈黙の後で横島が方針を告げる。二人も異論がないのか、黙って頷く。

 

その後しばらく、道中の計画と必要な物資について話し合う三人。しばらくは、この街を拠点としてお金を貯め、一気にメガロメセンブリアを目指すことにする。

 

「それじゃ、方針も決まったことですし。ここらで、一旦解散ということで……」

 

「それは構いませんが……。何処へ行く気ですか?」

 

「そりゃ、魔法世界の美女をナンパに……ハッ!誘導尋問!?ち、違うんです!そ、そう!!情報収集です!ええ、そのついでに綺麗なネェーちゃんとお近づきに……」

 

言い訳をしているつもりで自爆している横島を、ジト目でみる小竜姫とタマモ。二人は目で会話をすると、タマモが子狐の姿に変化する。そのまま、タマモは横島の頭上に飛び乗り、寝そべる。

 

「……確かに、情報はまだまだ不足していますから。情報収集お願いしましね?私の方でも集めてみますから。……タマモちゃん、横島さんのことお願いね?」

 

「任せて。横島がナンパしそうになったら、噛みつくわ」

 

「……マジメに情報集めてきます」

 

あんまりなタマモの言いように文句を言おうとした横島。しかし、彼は口をつぐむとそそくさと退散する。なぜなら……

 

(あの笑顔はアカン。目がかけらも笑ってなかった……。シメサバ丸を持ったおキヌちゃん並みにアカン。文句言ったらズブリって刺される……)

 

小竜姫の微笑みに恐怖を覚え横島。役立つ情報を集めないと刺されるのではと、怯えながら情報収集に励むのであった。

 

 

 

 

 

横島が怯えながら情報収集を始めたころ。旧世界――人間界――魔法組織にて二人の人物が会話をしていた。そのうち、壮年の男性が口を開く。

 

 

「メガロメセンブリアに……ですか?それは、構いませんが理由を聞いても?」

 

困惑しながら問いかける男性に、椅子に腰かけたまま、問われた老人が答える。

 

「うむ。儂が東洋呪術も使えるのは知っておるな?」

 

「ええ。でも、一つしかできないと仰ってませんでしたか?それで、西洋魔術を学ばれて、今では……」

 

「それじゃ。その一つだけできる呪術がな、占術なんじゃよ」

 

「占い……ですか?そう言えば、あの子も占いは好きでしたね」

 

「まぁ、孫のことはいいんじゃ。それで、たまに占っておるんじゃがの……。急に、未来が見えなくなったんじゃ」

 

「見えなくなった……?」

 

男性の問いかけに、どう答えるべきか考え込む老人。やがて、考えがまとまったのか口を開く。

 

「儂が占うのは近い未来、それも大きな出来事じゃなく、小さな出来事だけと決めておるんじゃ。例えば、明日の夕食のメニューとかじゃな。これは、遠い未来になればなるほど的中率が下がるというのもあるが、未来で何が起きるか知っておったら楽しくないからなんじゃが……」

 

「はぁ……」

 

老人の話を静かに聞いている男性だが、話が見えず困惑した声を漏らす。そんな男性の様子など気にも留めず、老人は話を続ける。

 

「そう決めておる儂が……じゃ。……うむ、あれを虫の知らせ、とでも言うのかのぉ。この学園の未来を占ってみたくなったんじゃ。あと、一ヶ月ほどであの子たちも中学生じゃからの」

 

「まぁ、そうですね。それで、その結果が見えなかったのですか?」

 

「うむ。正確にはちと違うが。儂が見えたのは、あの子たちのクラスに入学を予定していない二人がおったこと。その二人が、儂らとあの子たちに変化を与えるということじゃ」

 

「予定していない二人……ですか」

 

老人の言いたいことについて、聞き返しながら考えをまとめていく男性。老人はその様子を満足気に眺め、言葉を続ける。

 

「そうじゃ。そして、その二人は今から一週間後メガロに現れる。もう一人の青年と一緒にじゃ」

 

「青年?その彼も、僕たちに変化を与えるんですか……?」

 

「それが分からんのじゃ。儂が見えたのは、二人の少女があの子たちと教室に居ったことと、彼女らが儂らに変化をもたらすということ。そして、彼女らが青年とメガロに現れるとこまでなんじゃ。そこまで、占うので魔力を消費してしまってのぉ。日を改めて占ってみたら、未来が見えなくなっておったんじゃ」

 

そう言うと、老人は男性に視線を向ける。その視線に含まれた意図を感じ取った男性は、大きく頷くと力がこもった声で返事をする。

 

「わかりました。その二人、もしくは三人をこの学園に招待したいのですね?そして、僕がメガロまで迎えに行くと」

 

「そうじゃ。君には苦労を掛けるが、魔法世界(向こう)の人間を連れて戻るには、君の知名度、実力が必要なんじゃ。頼めるかのぉ」

 

「大丈夫です。ただ、迎えに行く前にあの子の所に顔を出して来てもいいですか?」

 

「迎えに行く前なら構わんよ。あとで、迎えに行く三人の特徴をまとめて物を届けさせる。相手がすんなりとこちらに来てくれるかまでは分からんし、トラブルがないとも限らん。危険を伴うこともあるじゃろうが、頼んだぞ」

 

「任せてください」

 

 

 

 

――旧世界と魔法世界。二つの世界で、運命の歯車が回り始める。

 

 

 

 




方針決定回。それと同時に、旧世界でも動きがあったようです。最後に出てきた二人は一体誰なのか。それは、本格的に登場するまで秘密です。ええ、バレバレでも秘密なんです。

因みに、時系列は原作開始前。また、先の話ですが、小竜姫とタマモは麻帆良では偽名を使います。ただ、単純な偽名なので他作品で使用されていないかが心配です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。

では次回。


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1時間目:魔法世界から旧世界へ
その1 横島くん爆発する


横島たちは一路、メガロメセンブリアを目指す。時を同じくしてメガロメセンブリアに向かう一人に男性。彼らはどのような物語を紡ぐのか……

一言: 高畑・T・タカミチのTって何でしたっけ?テスタロッサ?


 

 

 

 

 

 

 

メガロメセンブリアに向かうことを決めてから三日。横島一行は、街で路銀を稼ぐ傍ら情報収集にも励んでいた。

 

「じゃあ、次は南に遺跡があるそうなので、そこで何か金目のものを取ってきてください。そうですねー、横島さんなら一日で十分ですよね?」

 

「あのー、小竜姫さま?流石にそれは……。それに、私めに一人で行けと……?」

 

「ええ。元気が有り余ってそうですから、これくらい余裕ですよね?私たちはその間に、情報を集めておきますから」

 

横島に微笑みながら頼む小竜姫。まさに女神の微笑みである。……その瞳が笑っていれば。だが。

 

「あー、怒ってます?」

 

「そんなことないですよ?ええ、横島さんがそんな人だってことは知ってますから。情報収集に行った筈なのに、ナンパしかしていなかったとしても今更です。怒ったりしませんよ。ええ」

 

「アレ絶対怒ってるよな?な?……どないすればええと思う?」

 

「死ねば?」

 

小竜姫の怒気に腰が引けた横島は、タマモに意見を聞くがイイ笑顔で辛辣な言葉をかけられる。ナンパを繰り返す横島にうんざりしていることもあるが、何より油揚げを食べることが出来ない生活に苛立っているようである。

 

何を言ってもダメだと感じた横島は、遺跡でお宝を発掘して名誉挽回することを誓うのであった。

 

 

 

 

 

横島が“一攫千金で汚名挽回じゃー!!”と飛び出して行った後、小竜姫とタマモは宿の一階で横島について話をしていた。

 

「はぁ~。どうして、横島さんは飽きもせずナンパを……。実は、龍の因子を持ってますなんて言われても、私は驚きませんよ。ええ、龍は多淫ですし。……頑丈ですし」

 

「……ああ、納得しちゃった。美神に聞いたんだけど、父親も相当な女好きらしいしね。それに横島の霊能って、龍をモデルにしている気がするのよね」

 

「龍をモデルにですか?そんな風には思えませんけど……」

 

「サイキックソーサーが鱗。栄光の手は籠手型が爪で、霊波刀型が牙。あとは、槍型が角……かしらね。それで、文珠がアレよ。龍が持っている宝珠。アレ、人間の願いを何でも叶えるんでしょ?」

 

「文珠が龍珠……ですか?確かに龍の中でも特に力のあるものは、龍珠で何でも出来たそうですが……。あれ?言われてみれば、文珠と似たところが……。でも、そのような力を持つ龍なんて、竜神族の王とその兄弟くらいしかいませんし……。あれ?そういえば、竜神王とその兄弟が人間界に居た時期があったような……。え?本当に?」

 

話半分に聞いていた小竜姫であったが、文珠と龍珠の意外な共通点に焦り始める。冗談で言っていたことが、現実味を帯びてきたのだから当然である。

 

そんな、小竜姫の様子を見ていたタマモも慌てる。横島の霊能が龍をモデルにしてるなど色々言ったが、全てこじつけであり、真面目に考え込まれても困るのだ。

 

「ちょ、ちょっと!冗談よ、冗談!そんな真剣に考えないでよ!!……それより、ほら!横島のナンパ癖にも困ってものよね!私たちみたいな美女二人が居るってのに……。ああ、腹たってきた。帰ってきたら燃やしてやる……」

 

「……まぁ、私が美女かどうかはともかく。横島さんのナンパ癖だけは困ります。目立ちたくないと言ったのは、横島さんなのに。一番目立ってるじゃないですか。ここは一度、仏罰を与えるべきですかね」

 

横島にとって物騒なことを考えるタマモと小竜姫。憎からず思っている異性が、他の異性にばかり目を向けているのだから当然と言えば、当然の反応である。そう……彼らにとって、その程度の実力行使は日常なのである。例え、傍目には過剰な反応であったとしても。

 

 

 

 

 

そのまま、横島に対する愚痴を言いあうタマモと小竜姫。そこに、この数日で親しくなった宿の女将が話しかける。

 

「二人ともどうしたんだい?また、あの兄ちゃんがナンパでもしたかい?」

 

「女将さん……。まぁ、そうなんですが。全く、彼のナンパ癖にも困ったものです。それに、彼のあの癖が原因なのか、私たちにあんな男は放って遊びに行こうって誘う男性が増えてきて……」

 

「私たちはアイツにしか興味ないっていうのに、ウザイったらないわよ。せめて、どっちかだけでもどうにか出来ないかしら……?」

 

女将に答えている内に、別の問題を思い出したのか肩を落とす小竜姫たち。彼女たちにとって、他の男性からの誘いは迷惑以外の何ものでもない。横島以外の男性に興味がないのは事実ではあるが、問題は別にある。

 

横島に誤解されると困るから?……そうではない。その光景を見た横島が、所構わず呪をかけようとするからである。目立つ上に、危険人物としてマークされないかと心配なのである。現在は、呪をかける前に二人のどちらか――あるいは両方――が横島を止めているので、どうにか事なきを得ているが、いい加減にして欲しいと思うのは仕方がないことであろう。

 

そんな二人の気持ちを察したのかはわからないが、女将がある提案を二人にする。それは……

 

 

仮契約(パクティオー)ですか?それって、従者契約ですよね?それが何の解決になるんですか?」

 

「おや、知らないのかい?昔はただの従者契約だったんだけどね?今じゃ、パートナー=恋人同士ってのが普通なのさ。だから、仮契約してパートナーになっちまえば、世間に恋人がいますって言ってるようなもんさ」

 

 

「「恋人……」」

 

 

「アンタたちみたいな賞金稼ぎなら、尚更しといた方がいいんじゃないかい?アーティファクトも手に入るかもしれないし、念話も簡単にできる。ま、その気があるなら考えてみな。この街にはないけど、アンタたちメガロに行くんだろ?こっからメガロ方面の街には大抵、仮契約屋があるからね。」

 

 

「「仮契約屋……」」

 

 

「そ。金を払って仮契約の魔法陣を買うのさ。確か、キスでする魔法陣が一番安いって話さ。ま、恋人同士でするのが一般的だからね」

 

 

「「キ、キス……」」

 

女将の言葉を聞いた二人は黙って考え込む。その様子を見た女将は“いやー、青春だねー”と一言言うと仕事へと戻っていく。

 

残された二人はその後もしばらく考え込んでいたが、やがて日課の情報収集へと向かう。

 

 

――その顔には、確かな決意が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

その頃、横島は遺跡の最奥に位置する大広間へと辿り着いた所であった。ここまで侵入できたトレジャーハンターはいなかったのか、広間には財宝が山のように積まれている。

 

「ふはははっ!!この程度のトラップなど、数々の罠を掻い潜り覗いてきたワイにとっちゃ朝飯前ちゅーもんや!美神さんの入浴姿を覗く為、鍛えに鍛え上げたトラップ感知能力を思い知ったか!!」

 

横島の発言内容はアレだが、数々のトラップをものともせず遺跡最奥へ辿り着くあたり、その感知能力は本物のようである。能力を得た理由が理由なので、素直に賛辞出来ないのが横島らしい。

 

 

 

そのまま、しばらく勝ち誇っていた横島であったが、我に返るなり手当たり次第に財宝をリュックに詰め込み始める。

 

「ふぅ。これだけあれば十分だな。この財宝の山を見せれば、小竜姫さまもタマモもオレのことを見直して……そして。グフフ……」

 

何とも締まらない顔で歩き出す横島。どんな想像をしているのかは、時折漏れる独り言で容易に判断できるが、相変わらずロクでもないことなので割愛する。

 

 

広間の出口へ向かい軽やかに歩く横島。しかし、横島は失念していた。広間内の罠をすべて解除した訳ではないことを。そして、気が緩んだ時にこそ罠に気をつけなければならないことを。

 

 

――カチッ

 

 

「カチッ?」

 

 

自分の足元からした不穏な音に思わず足をとめる横島。その顔からは、多量の汗が吹き出していた。

 

 

「あれー。コレはマズいかなー。嫌な音がしてきたもんなー。具体的には、遺跡が崩れる音?さっさと退散しないと生き埋めってパターンかなー。

 

……ちっくっしょー!上手く行ったと思ったらこんなんかよー!!いやじゃ!どうせ埋もれるなら、美女がいいーー!!」

 

 

途中まで冷静に(?)事態を把握していた横島であったが、血相を変えて遺跡の外へと駆け出す。遺跡崩壊の音に混ざって、爆発音も聞こえてくるので必死である。

 

必死にかける横島。その背後には爆炎が迫っており、頭上からは遺跡の天井であった石が降り注いでいる。

 

「よしっ!!もうすぐ出口や!」

 

横島の目の前には、遺跡の出口が見え始めていた。残りは、十メートルといったところであろうか。このペースならば脱出は余裕だと、横島が速度を少し緩めた。その時――

 

 

横島は足元で起こった爆発により、宙へ打ち上げられるのであった。

 

 

 

 

 

 




横島一行メガロメセンブリアへの道。さてさて、小竜姫たちはこのタイミングで仮契約するのか?
それは、まだ秘密ということで。

仮契約屋についての設定は独自設定です。

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では次回。


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その2 小竜姫さん名を得る

メガロメセンブリアへ行く為、路銀と情報を集める一行。横島が遺跡で悲惨な目にあっている頃、小竜姫たちは仮契約について説明を受けるのであった。

一言:日刊ランキングに時折、拙作があがるようになりました。感謝です。



 

 

 

 

――財宝を手に入れた彼を襲ったのは、遺跡の主が仕掛けた最期の罠であった。それは、侵入者を遺跡諸共葬り去る、悪魔の所業であった。

 

しかし、彼はその最期の罠を見事突破することに成功する。そう、彼は無傷で脱出を果たしたのである。

 

そして、彼は自分を待つ美女たちの元へと帰るのであった……。

 

 

 

 

 

「ってな感じで、この不肖横島、無事に女神の元へ帰還した次第であります!!」

 

宿の一室にて、自分の武勇伝を語る横島。それを聞く女性陣の反応は冷たい。一日の成果を報告していこうとした矢先に、自慢話を延々と聞かされたからなのだが、横島本人は悦に入っていて気づいていない。

 

「まぁ、アンタの武勇伝はどうでもいいとして……。この腕輪は何で所々、焦げていたり、溶けたりしているわけ?」

 

タマモが指で摘まみ上げた腕輪。大きな宝石を中心に、見事な装飾を施された腕輪は、かなり価値があるものであろう。……所々焦げついていたり、装飾が溶けていなければ、であるが。幸い、宝石部分は無傷であるが、全体の価値が下がるのは間違いないだろう。

 

「あー、それ?多分、アレだ。リュックが焦げちまったからな。底にあったんだろ」

 

「ふ~ん。……まぁ、リュックがあれだけ焦げてりゃね~」

 

タマモの視線の先には、焦げが目立つリュック。龍のブレスにも耐えるなんて商売文句にのせられて買ったリュックであったが、こんなすぐに焦げるならその耐久性も疑わしいものである。

 

「まぁ、いいわ。この財宝の山があれば、目標金額を大幅にクリアできそうだしね」

 

タマモが言うように横島が持ち帰った財宝は、大きなリュックがパンパンになるくらいであり、まさに財宝の山という言葉が相応しい量である。

 

「そうだろ?これだけあれば、メガロセンブリャ?までは余裕だろ?と言う訳で……、僕ちゃんご褒美が欲しいかなーって。いや、何でもいいんだけどね?でも、その……メガロの手前に混浴の温泉があるらしくて……」

 

何でもいいと言いながら、露骨に要求してくる横島。そんな横島に、小竜姫とタマモは苦笑を浮かべる。

 

「そうね……。いいわ、私と小竜姫さまの二人で、アンタの喜ぶことをしてあげる」

 

タマモが了承の意を告げると、横島は何を想像したのか鼻から赤い液体を一筋垂らす。そんな横島に、はやまったかもと考えてしまうのは、仕方ないことであろう。

 

 

 

 

 

横島が落ち着くのを待って、報告会は再開された。横島の報告は、先の武勇伝で終わりとした。その内容は真実か疑わしい所が多々あったが、財宝の山がある以上、遺跡に行ったことは間違いないので問題はない。

 

次に報告を始めたのは、小竜姫であった。彼女はタマモと別れた後、武人としての興味から、主に魔法についての情報を集めていた。

 

「攻撃呪文、回復呪文、転移呪文あとは、日常で使う魔法と様々ですね。まぁ、日常で使う魔法は、攻撃魔法と同系統みたいですが……。威力を高めたのが攻撃魔法なのか、攻撃魔法の初歩が日常で使われているのか」

 

「なんかそう考えると物騒なもんですね~。日常で使えるってことは、誰でも使えるんでしょうしね」

 

「その通りです。学術体系が確立されていますし、魔法を使用するのに必要な魔力は大小はありますが、誰にでもあるそうです。ここからは私の予測でしかありません。ヒャクメがいれば、魔法を見て完全な解析できるのですが……」

 

残念そうに肩を落とす小竜姫。魔法という未知の力に興味はあったのだが、解析できずに終わるのが残念でしょうがないのであろう。

 

「おそらく、私たちが霊力を使うのと同じように魔力も魂から引き出すのでしょう。しかし、彼らの扱う魔法とは、霊能程効率よく魂から力を引き出せないのではないでしょうか。だから、精霊の力を借りているのです。この精霊は神魔のなりそこないだと思ってください。信仰によって集まった力で形を得たのが、神魔だとしたら、形を保てず世界に拡散しているのが精霊です」

 

「……難しいっすね。簡単に言うと、どういう事ですか?」

 

「つまり、魔法とは魂から引き出した魔力を引き金に、力を行使しているんです。但し、霊能力者ほど上手く引き出せないから、精霊の力で増幅して……です」

 

「あ~、神父やピートみたいな?」

 

説明を聞いて思い浮かぶのは、貧乏神父とその弟子のヴァンパイアハーフ。彼らは、聖譜を唱え、(キーやん)や精霊の力を借り、増幅して霊能を行使しているからである。

 

「近いですが、少々違います。魔法使いが、精霊たちの力を増幅するのに対し、唐巣さんたちは聖なる力――つまり、神の力を増幅しています」

 

「へ~。ま、何でもいいですけどね。要は、霊能に近いってことでしょ?」

 

「ざっくり言ってしまえばそうなんですが……。もう少し、興味を持ってくれてもいいじゃないですか」

 

全く興味を持つ様子のない横島に、肩を落とす小竜姫。横島の態度から、これ以上言っても仕方がないと、これ以上魔法について話さないことにした小竜姫。その為、彼女が本当に伝えたかったこと――魔法を使用できる可能性――については報告されることはなかった。

 

「まぁいいです。あとは、“気”と呼ばれるものがありますが、こちらは魔法とは違い、厳しい修練を得たものが行使できるようです。こちらも、魂の力でしょうね。魔法が精神を介して行使する力で、気は肉体を介して行使するようです。だから、修練で鍛えないと“気”は使えないのでしょう。……って、聞いてないですね」

 

小竜姫はため息を吐くと、タマモに報告を促す。その肩は下がりに下がり、哀愁を漂わせている。そんな小竜姫に、タマモは自分も聞いていなかったと告げたらどうなるだろうと考えるのであった。

 

 

 

 

 

「じゃ、私からね。色々情報は集まって来たけど、まずはメガロ関連の情報について話すわ。いい?大事なことだから、絶対に聞くのよ!!アンタのことよ、横島!!」

 

名指しで怒られた横島が姿勢を正すのを確認したタマモは、集めた情報を披露し始める。

 

「いい?まず、胡散臭いヤツらの話ね?メガロ元老院とか言うとこは、魔法使い絶対主義者っていう過激派と、共存を目指す穏健派がいるらしいわ。この絶対主義者ってのは、旧世界の人間や、亜人たちを見下しているみたい。大体、メガロにいるのが純血の魔法使いばっかりだって言うから、相当ね。純血ってことは、混血を差別してるってことだもの」

 

「そりゃ、マズイな。間違ってもオレたちゃ純血の魔法使いにゃ見えないしな」

 

横島の言うように、頭に角がある小竜姫、狐に変化するタマモ、回復力が化け物な横島の三人組は間違っても純血とは言えない。そもそも、魔法使いでさえない。

 

「まぁ、そこら辺は大丈夫だと思うわ。私も小竜姫さまも、人間に変化してれば問題ないし。アンタもちゃんと人間のフリしなさいよ?」

 

「おう、分かった!……って、ワイは正真正銘の人間じゃ!!」

 

憤る横島と、それを涼しい顔で流すタマモ。そんな二人を他所に、顎に手をあて考えこんでいた小竜姫が口を開く。

 

「……そうですね。タマモちゃんの言う通り、人間に変化しておけば問題はないでしょう。ただ、街中での会話は気をつけるべきでしょうね。何かをされるってことはないでしょうが、不要ないざこざを招かないようにしなければ。特に横島さんは」

 

「あのー小竜姫さま?聞いてます?オレは人間なんですよ!?人間に人間のフリをしろって、どういうことですか!!」

 

「バカね。小竜姫さまはアンタのナンパ癖のことを言ってんの!!正義の魔法使いのお膝元で騒ぎを起こすなって、アンタに釘をさしてんのよ。分かる?」

 

「気をつけろって言われてもな……。美女には声かけるのは、当然のマナーってヤツだろ?何が問題なんだ?」

 

「立派な魔法使いからしたら、アンタのナンパは犯罪よ(私たちから見ても……だけど)」

 

「くっそー!ワイのライフワークを禁じるとは、何て奴らやー!!くっそー、イケメンやないんが悪いんかー!!」

 

 

「「ああ、不安だ……」」

 

 

横島の怨嗟の声が響く中、不安に頭を抱える二人。普段から横島のナンパは問題になってはいたが、喜劇じみた横島の振る舞いから深刻な問題になったことはない。しかし、目指すメガロメセンブリアは正義主義の国なのだ。問答無用で捕まるのではないだろうかと、心配なのである。

 

 

 

 

 

気を取り直して、タマモの報告は続く。

 

「それで、上層部はきな臭いんだけど……。下っ端連中は本当に親切心の塊みたいよ?人助けが趣味みたいな集団みたい。人助けは無償だけど、他に職を持ってるから生活できてるみたい」

 

「あ~、ボランティアってヤツか。それなら、胡散臭い連中ばっかりってわけじゃなさそうだな。無償で危険なことやるって考えは、理解できんが」

 

「まぁね。旧世界の紛争地帯に行くこともあるそうよ?それもあってか、旧世界の管理者気取りのヤツもいるみたい」

 

「そういうヤツとはお近づきになりたくないな。それで?他には?」

 

横島が、更なる情報はないのかと促す。すると、その言葉を待ってましたと言わんばかりに、タマモがニヤッと口角をあげる。

 

「とっておきの情報があるわ。ゲートは大体一週間に一度の頻度で開いて、一度に大量の人と物資を転送するらしいわ。そして、次に開くのが二日後の午前と午後。午前は旧世界から魔法世界への転移で、午後が魔法世界から旧世界への転移って話だから……。明日、次の街へ行って一泊。翌日にメガロに行って、午後の転移に横島の文珠でソレに紛れてしまえば……」

 

「おおー!!ほぼメガロを素通りできるってわけか」

 

「そ!メガロまでの路銀は十分集まっているから、この財宝はこのままとっておいて、旧世界で換金すればお金も心配ないってわけ!!」

 

「いやー、でかしたぞタマモ!!これで米が食える!!」

 

「アハハハ、お稲荷さんにキツネうどん、厚揚げ!!油揚げが私を待っているわー!!」

 

笑いながらタマモを抱えあげる横島。タマモも笑いながら、なすがままにしている。もしかしたら、抱え上げられていることにも気づいていないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「さて、これで旧世界へ行く目処がたったわけだが……」

 

十分ほどタマモと喜びあっていた横島が、重々しく言葉を紡ぐ。その横島らしからぬ姿に、小竜姫とタマモはすわ偽物かと疑いを持ってしまうが、そんな訳はないとすぐに頭を振る。そんな二人の行動に疑問を持つこともなく、横島は言葉を続ける。

 

「タマモはまだいい。問題は小竜姫さま、アナタです!!」

 

「な!私の何が問題だというのです!!まさか、私が角を隠せないとでも思っているんですか!?」

 

「へ?いや、違いますけど……。タマモって名前は普通じゃないですか」

 

「まぁ、珍しい名前ですが……。全く聞かないってわけではない……ですよね?それが?」

 

「いや、オレらは小竜姫さまって呼び慣れてますけど……。普通、さま付けなんてしないっすよね?しかも、小竜姫って珍しいというか……」

 

「まず、聞かないわね」

 

「そう言うことです。人前で呼ぶには目立ちます。今までは、魔法世界ということで目立ってなかったかもしれませんが、オレたちが行くのは米や油揚げのあるところ。すなわち、日本です。日本人の前でも不自然ではない名前を考えないと……」

 

横島の発言に考え込む小竜姫。横島が言うことは、偽名を名乗れということであるが、偽名を名乗ることに異論はない。元々、小竜姫という名も老師と父がつけたあだ名であるから、抵抗もない。問題は、本名で呼ばせるかなのだが……

 

(本名……というか“真名”を告げていいのは、家族だけですし……。横島さんとタマモちゃんだけなら構わないですが、他の人はちょっと……)

 

考え込む小竜姫を他所に、横島は小竜姫の名前をタマモと考える。

 

小竜(こたつ) (ひめ)とかは?」

 

「適当すぎでしょ。そうね~。小山(こやま) 竜姫(たつひめ)?」

 

「あ~、なんか日本人ぽくなってきた。じゃあ、妙神山からとって、妙神(みょうじん) 竜姫(たつひめ)は?」

 

「う~ん、あと一歩足りない感じね。こうかゆい所に手が届かないって感じ?」

 

適当な偽名からはじまり、次々に候補をあげていく二人。考え事から復帰した小竜姫は、二人の様子に結局自分の真名を告げることをやめる。真名を二人――正確には一人――以外に名乗るつもりがない以上、偽名は必要であることにかわりないのだから、それに水を差す必要はない。

 

「……で、どうですか?小竜姫さま」

 

「へ?」

 

「聞いてなかったの?私たちはこれがいいってのがあるんだけど、やっぱり最終的には本人が決めないとね」

 

急な問いに戸惑う小竜姫に、タマモが説明をする。タマモの言葉によれば、候補を絞ったので、選んで欲しいということであった。

 

「まず、小山(こやま) 竜姫(たつひめ)ね。ちょっとひねりがないかな~って感じだけど。名前をもじって小竜姫ってあだ名になるようにしたの」

 

「それで、もう一つが妙神(みょうじん) 竜姫(たつき)っす。オレとしては、こっちっすかね。バックグランドも考えてるんすよ?妙神流っていう流派の免許皆伝で、小竜姫さまってのがあだ名っすね。流派の門弟に小さな竜姫で、小竜姫とあだ名をつけられた。それが、あまりにも強いんで、いつの間にか小竜姫さまに変わったってのはどうっすか?」

 

二人とも、今の名――小竜姫――をあだ名として残すことができるように考えているようである。小竜姫としては、二人が真実を知らない為仕方ない事なのだが、あだ名が変わらないと言うのは、何処か可笑しく感じるのであった。

 

「それで、どっちにします?他のがいいなら、また考えますが……」

 

「ふふ、その必要はありませんよ」

 

「じゃ、決めたのね?どっち?」

 

答えを催促するタマモに、小竜姫は笑って答える。

 

 

 

「今日から私の名前は――

 

 

 

 

――妙神(みょうじん) 竜姫(たつき)です!!

 

 

 

 

 

「あ、私の苗字、葛葉(くずのは)にしたから」

 

「「え?」」

 

 




小竜姫の偽名確定。これで、小竜姫が麻帆良で生活する基礎ができたわけですね。
ただ、地の文は変わらず小竜姫です。

小竜姫の真名関係の話は独自設定です。
元ネタは、名前を呼ぶという事は、その人を霊的に支配することである為、主君または親族以外には名前を呼ばせないという考え方からです。

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では次回。


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その3 横島一行旧世界への道

旧世界への道筋を得ると共に、新しい名前を得た小竜姫とタマモ。彼らは旧世界への準備を進めるのであった。

一言:いろいろ考えましたが、続けることにしました。



 

小竜姫とタマモの二人が新しい名を得た翌日。次の街へと向かう横島一行の前に、一つの問題が浮上していた。

 

「まさか、重量制限があるとは……」

 

横島たちの前に浮上した問題。それは、飛空艇を利用する時に判明した。

 

飛空艇とは、旧世界で言う飛行機に該当する乗り物である。飛行機は持ち込む荷物に、重量制限が課せられている。これは機体の重量が重くなる程燃料を消費する為である。制限を課すことで、燃料負担を軽減する狙いがあるのである。当然、それを超過する場合は、追加料金を払うことになる。

 

飛空艇の場合でも同様の理由から、重量制限が課せられていたのだ。最も、消費するのは燃料ではなく魔力であるが。むしろ、魔力である分制限は厳しいとも言える。

 

「しかし、置いてくわけにもいかんしなー。換金したら後が困るし……。どうすっかな……」

 

「そうですねー。こういう場合、荷物を運ぶ専門の業者に頼むそうですけど……私たちの場合、滞在時間が限られてますからね。受け取りに時間を取られるわけには行きません。それに、余計なお金は払いたくないですしね」

 

横島と小竜姫がどうするべきか話し合う。既に一本飛空艇を見合わせている為、話し合いに時間をかけて、飛空艇に乗れなくなるという事態も避けたい。二人が顔を付き合わせて悩んでいると、タマモが横島に質問をする。

 

「アンタの文珠でどうにかできないの?例えば……『小』で小さくして、後で『戻』すとか」

 

「そりゃ、出来るが重さが変わるかどうかはわからんぞ?それに、文珠は出来るだけ節約したい。煩悩を刺激してくれれば、すぐに作れるかもしれんが……ん?あれ?それを名目にすれば……と、言うことで小竜姫さま!文珠の為に此処は一つ!ほら……「せいっ!」……ドムッ」

 

小竜姫に鼻息荒く迫る横島であったが、タマモと小竜姫の肘をくらい沈む。タマモは倒れた横島の頭を踏みつけながら、他にいい方法がないか考える。しばらく考えてもいい考えが浮かばなかったのか、タマモは一際強く横島を踏みつけた後、ため息まじりに口を開く。

 

「ハァ……。最悪、横島の言う通りにするしかないのかしら……?「何と!では、早速」……狐火!「……ほのぉ!」……全く。こいつが陰陽師だったら、影に収納できるのに……。私も転生前なら出来たんだろうけど、その知識はないしなー」

 

狐火で横島を燃やしながら零したその言葉に、燃えていた筈の横島が反応する。立ち上がったその姿は、火傷一つない。

 

「影か……。出来るかもしれんぞ?昔、冥子ちゃんの影に入れられたことがあるからな。イメージは完璧だ。まぁ、あとは何て文字を入れるかだが……。『影』で行けるか?」

 

「それはやめた方がいいでしょう。出来たとしても、文珠の持続時間が分かりませんし。その内、横島さんなら文珠なしでも出来るようになるとは思いますが、現段階では文珠に頼るしかありませんからね」

 

「そうね。飛空艇で効果が切れたら意味ないし」

 

横島の言葉を、小竜姫が否定しタマモもそれに続く。結局、いい答えが見つからない三人。いっそのこと、文珠で荷物を『隠』すという方法も思いついたが、それも重量が変わるわけではないので困っていた。

 

そこに、宿泊していた宿の女将が声をかけてくる。話を聞くと、見送りついでに買い出しに来たようである。

 

「それで、なんで此処にいるんだい?搭乗口はあっちだろ?」

 

困り果てていた横島たちは、女将に事情を説明する。事情を聞いた女将は、それならと箱を一つ差し出す。

 

「なんすか、これ?」

 

「これかい?これは封印箱ってヤツさ。本来はゲートとかを通る時に、武器を封印するのに使う箱さ。重量、大きさ、量まで無視して封印できる。ま、封印も開封にもそれ専用の魔法が必要だがね」

 

「へー。便利っすねー。オレたちには使えそうにないっすけど。ところで、何で女将さんはこれを持ってんすか?」

 

「私も昔は、従者として旧世界に行ったりしてたからね。そん時に、ちょっとしたコネで買ったのさ」

 

「女将さん従者だったんですか……。だから私たちに、仮契約を……」

 

「ま、今は旦那としがない宿屋をやってるオバサンさ。で、本題。これをアンタたちにやるよ」

 

そう言って小竜姫に箱を手渡す女将。小竜姫は、あまりにもあっさりと渡されたので、思わず受け取ってしまう。

 

「い、いいんですか?それに、専用の魔法が必要だって……」

 

「あー、いいのいいの。今は、食材の持ち運びにしか使ってないし。専用魔法と言っても、呪文を覚えちまえばすぐ使える魔法だしね。アンタらみたいな現役の賞金稼ぎの方が必要だろうさ」

 

「でも……。私たち魔法は……」

 

「おや、気の使い手だったかい?まぁ、賞金稼ぎだから魔法が使えるってわけでもないか。そうだね、じゃあ私の方で魔法をかけてやるよ。開封はキーワードで出来るようにしてやる。但し、これは一回限りだからね?また封印する時には、呪文が必要だから魔法使いの仲間を探すか、魔法を覚えるんだよ?」

 

「おお!ありがとうございます!」

「ありがとう、女将さん」「ありがとうございます」

 

気前のいい女将に、感謝を述べる横島たち。そんな横島たちに笑って、準備を促す女将であった。

 

「あ、そうだ。これ、お礼です」

 

横島が差し出したのは、一つの首飾り。受け取った女将も、横島たちも知らないことだが、その首飾りには呪が施されており、身につけていれば宝くじの一等は無理でも、二等から三等が当たるくらいの幸運を引き寄せるというものであった。これ以降、女将の宿は繁盛することとなる。

 

 

「おや、いいのかい?ありがたく頂くよ。それじゃ、封印するよ?」

 

女将はそう言うと、横島たちの荷物――主に財宝類――へ箱を向ける。そのまま呪文を唱えると、荷物が光に包まれる。次の瞬間には、荷物が消え封印が完了する。

 

「これで終わりさ。開封する時は、キーワードを唱えな。ちょっと待ちなよ……よし、この紙に書いたからね。無くすんじゃないよ?ちゃんと呪文も書いてあるからね」

 

そう言うと、箱と紙を差し出すと去っていく女将。女将に礼を告げると横島たちは、飛空艇の搭乗口へと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

「いや~助かったっすね~。女将さんには感謝っす」

 

飛空艇の中で一息ついた横島たち。その話題の中心は女将のことであった。

 

「そうですね。本当に助かりました。このまま、旧世界まで開封しなければいいわけですしね。ただ、折角呪文も教えて頂いたのに、魔法が使えませんからね。勿体ない気もしますが」

 

「まぁ、その内覚えて見ればいいんじゃない?横島の影が使えるようになるのが先か、魔法が先か。どっちかしらね」

 

「そりゃ……どっちだろな?」

 

横島が影を使える様になる可能性と、未知の技術である魔法を一から学び使えるようになること。前者は横島に素養があるかが鍵であり、後者は教える者がいないのがネックである。

 

「まぁ、いいか。ところで、さっき仮契約がどうこうって言ってましたけど。何だったんですか?」

 

「……え!?聞こえてましたか……?」

 

横島の問いかけに、頬を染めながら質問で返す小竜姫。隣に立つタマモもうっすらと頬が色づいている。横島はそんな二人の様子に、襲いかかりそうになるのをグッと堪える。

 

「……(我慢だ、我慢)ええ。聞こえてました」

 

「そ、そうですか。いえ、その、あのですね?次に行く街にその、仮契約屋さんがありまして。そこで、その仮契約したらって勧められましてね?」

 

「そうなんすっか」

 

横島に慌てながらも説明する小竜姫。その脳裏には、キスと言う単語がぐるぐる回っているのであろう。タマモに助けを求めようにも、顔を背けている為、小竜姫は自身でどうにかする他ない。

 

「ええ、そうなんです。何でもアーティファクトというものを召喚出来るようになるとかで」

 

「へー。便利なんですかね?あの女将さんが勧めってことは」

 

「そうみたいですよ?」

 

「それじゃ、やってみますか?役立つものが出るなら、やっといて損はないでしょうし」

 

「そうですねー。「ちょ!小竜姫さま!」……え!?」

 

「いやー、てっきり従者契約って言うから、雇用契約みたいなもんかと思ってましたが、そんな便利アイテムをくれるんすねー」

 

半分壊れていた小竜姫は、適当に返事をしていたのだが、タマモの声で我に返る。正気に戻った小竜姫の目の前には、仮契約を便利アイテムの贈与と受け取った横島の姿が。その契約の方法を教えていないのだから、妙に乗り気である。

 

いや、この男のことなので契約方法がキスだと知ったら、更に乗り気になるであろう。

 

 

 

 

 

「どうすんのよ?アイツに本当のこと言うの?と言うか、仮契約するの?」

 

横島から離れ、小声で会話をする小竜姫とタマモ。

 

「それなんですが、旧世界に思ったより早く行けそうですからね。必要ないかと。まだ魔法世界に留まるというのなら、仮契約したかもしれませんが」

 

「そうよね。元々、私たちに言い寄る男避け目的だったしね~」

 

「ええ。まぁ、そのアーティファクトってのに興味はありますが、必ずしも必要かと言われると」

 

「そうだ!仮契約屋で魔法陣だけ買うってのは?暇な時、解析してもいいし。気が変わったらすればいいだし」

 

「そうですね、それでいいのかもしれません。問題は……」

 

そこで二人は横島の方に目を向ける。そこには、ぼーっと窓の外を眺める横島の姿があった。

 

「横島さんが納得してくれるかですね。もし、契約方法がキスだなんて知られてしまったら……」

 

何を想像したのか、頬を朱く染める二人。しかし、そのすぐあとにはげんなりした顔になる。

横島とのキスを想像して頬を染めたのだが、想像の中の横島は鼻息荒く唇をタコのように突き出して迫ってきた為、げんなりしたのである。

 

「無理。アイツとのキスは不意打ちじゃない限り、笑い話になりそう」

 

「そうですねー。鼻息荒いですし、タコだし」

 

あくまで想像の中でのことなのだが、現実でもそうなると予想している二人である。なにせ、全く同じ想像をしているのだから、現実もそうなる可能性は高いであろう。

 

結局、二人は魔法陣を購入することにする。勿論、横島を置いてだが。

 

 

 

 

 

メガロメセンブリアにある旧世界と魔法世界を繋ぐ、ゲート施設内部に旧世界から転送されてきた一団の中にある男の姿があった。

 

「さて……と、予定より一日程早く着いたけど」

 

その男は、白いスーツ姿でタバコを口に咥え呟くと、懐から一枚の紙を取り出し、その内容を確認しながら外へ向かって歩き出す。

 

(目的の三人は、麻帆良に居る未来があることから、亜人ではないか、混血だろう。純血の亜人は魔法世界は出ないしね。それで、外見的特徴は……と、男が黒髪で頭に赤いバンダナを巻いてて、ジーパンにジージャン?やけに古いファッション……いや、こっちじゃそうでもないのか?それで女性の方が……)

 

「赤毛の女性と、金髪のナインテール?……ナインテールって?」

 

 

そのまま、男の姿は街の雑踏に紛れるのであった。

 

 

 

 

――横島たちがメガロメセンブリアに到着する前日のことである。

 

 




色々考えましたが、このまま続けることにしました。

次にご報告ですが、小竜姫の麻帆良での立場が決定しました。

タマモと同様に、クラスメイトとなることに相成りました。
アンケートにご協力頂きありがとうございます。

仮契約屋で魔法陣が購入できる、封印の箱(正式名称は不明。原作でネギたちの武器を封印していた箱)には専用の呪文が必要である。これらは作中内での設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。


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その4 横島一行決意する

旧世界へ行く為にメガロメセンブリアへ向かう一行。時を同じくして、ある男性の姿がメガロメセンブリアにあった。彼の来訪によって物語は加速する……

一言: 徐々にPCの予測変換が愉快なことに。


 

 

 

 

メガロメセンブリア。”メセンブリーナ連合”と呼ばれる新しき民を中心とした連合の盟主。旧世界の魔法使いには”本国”と呼ばれる国。

魔法世界の人間の大多数が所属し、世の為、人の為にその力を行使する“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”と言う名誉ある職業を目指し、日々研鑽を積む魔法使いたちの国。

 

そして、魔法世界最大の軍事力を持つ超巨大魔法都市国家。

 

そのメガロメセンブリアに横島たちの姿があった。

 

 

 

「それにしても、魔法陣だけで良かったんですか?仮契約しなくても。大体、魔法が使えないオレたちじゃ起動できないんじゃ?」

 

横島が言っているのは、昨日滞在していた街で購入した仮契約の魔法陣のことである。昨日、小竜姫が仮契約屋に魔法陣を買いにいったのである。

 

「良いんですよ。仮契約は気でもできるそうですから、霊力でも問題なく出来るでしょう。ただ、霊力のことは出来るだけ知られない方がいいと思って、魔法陣だけ購入したんですよ」

 

「あー、成程。それなら、いつでも出来ますもんね。まぁ、急いでやる必要もないですし」

 

「はい。そういうことです。しかし、この世界にも妖精や妖怪がいると分かったのは収穫ですね」

 

「そうっすね~。これで、タマモは妖狐とのハーフで通しても問題ないと分かりましたし。まぁ、事情を知らないヤツの前では、人間として振舞った方がいいのは変わりませんが。だから、お前も変化するときは気をつけろよ?」

 

「わかってるわよ。アンタもうっかり本性をださないようにね。ナンパ禁止なんだからね」

 

「……分かってるよ。だから、その背中に爪を立てるのはやめてもらえませんかね?」

 

「……チッ」

 

「舌打ちすんなや!!」

 

横島たちが妖精の存在を知ったのは、昨日の仮契約屋であった。小竜姫が店を訪れると、接客に出たのがオコジョだったのだ。

 

 

 

 

 

「ごめんください」

 

「はいはい、ようこそ!仮契約屋へ!」

 

小竜姫が声を主を探すが、姿が見えない。店の奥に居るのかと思っていると、足元からこっちですと声がする。彼女がその声に従って足元を確認すると、そこには一匹のオコジョが。

 

「お、オコジョ?」

 

「おや、お姉さんオコジョ妖精をご存知ない?猫妖精(ケットシー)と並ぶ由緒正しい妖精なんですがね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「へい。私らオコジョ妖精は元々、旧世界で生活してましてね。魔法使いの方々がこっちに来る際に、私らも半分くらいのヤツらが一緒に渡ってきたんですわ」

 

「そうなんですか。という事は、妖精種が旧世界にはいるんですね?」

 

「そうですね~。私らの他には猫妖精くらいですかね?他の妖精種は全部こっちに移ったって聞きますし。私らや猫妖精は使い魔として、魔法使いについてくことが多いんで向こうにもいますけどね。後は、妖精じゃないですけど、妖怪とかは結構いるって聞きますね」

 

「そうですか」

 

オコジョ妖精の説明に考え込む小竜姫。思わぬ所で、旧世界の情報を手に入れることが出来た。そんな小竜姫の様子を気にもとめず、オコジョ妖精は商売の話を始める。

 

「それで、お姉さんは何用で?お一人でいらしたということは、仮契約の魔法陣ですかい?」

 

「え、ええ。そうなんです。仮契約をしようかと考えてるんですが……」

 

「みなまで言いなさんな。最近は、オコジョでもキスを見られるのは……ってのが多いんですわ。お姉さんもその口でしょ?」

 

「ええ、まぁ。二人分お願いしたいんですが……」

 

「おや、二人分ですかい?まぁ、私らは儲かるんで問題ないですが。それでは、仮契約や料金とかの説明をしやすね」

 

このオコジョが言うには、一口に仮契約と言っても様々なパターンがあるそうである。

 

一つ目は、魔法使い(気の使い手)をマスターに、一般人をパートナーにする契約。

 

二つ目は、一般人をマスターに、魔法使い(気の使い手)をパートナーにする契約。

 

三つ目は、マスター、パートナーともに魔法使い(気の使い手)である

 

ここで言う一般人とは、技能がないもの以外にも、魔力(気)が少ないものも含むようである。魔力(気)が少ないからと言って弱いわけではないのだが、この場合は魔法陣に影響を与えないと言う意味で一般人と同列であるらしい。

 

「それで、お姉さんの場合はどれですかい?それによって用意する魔法陣が違いますんで。料金は、三番目が一番高くて、一番目と二番目は変わりません。それと、マスターの性別と、異性同士かを教えくだせぇ」

 

「えーと、気も関係するんですよね?それでしたら、三番目です。それと二つとも、マスターは男性で、異性での仮契約です」

 

少々顔を赤らめながら答える小竜姫。それを横目にオコジョ妖精がその小さな体で、魔法陣を巻物に書き始める。

 

「いやー、良かった。これで、同性だったらもっと細かに設定しないと、マスターとパートナーが入れ替わったりしますからね……っと、できやした」

 

作業を終えたオコジョ妖精が、巻物を巻きながら説明を再開する。

 

「これで、巻物を開けば魔法陣が待機状態になりやす。その後、魔力か気を持った人が魔法陣の中に入れば、自動的に発動しますから。あ、気をつけて欲しいのは、キスする箇所っすね。唇以外だとスカカードって言うのが出てきますから。その場合は、契約できてません」

 

「それだと、魔法陣の力は消えてしまうのですか?」

 

「発動から五分間くらいなら何度でもやり直しは利きますぜ。ただ、最初に魔法陣に入った二人以外には効果はないんで、その点も気をつけてくだせぇ」

 

「分かりました。それで、他にも何か注意することはありますか?例えば、魔法陣は何時までに使用しないといけないとか」

 

「そうですねー。期限とかは特に。巻物を開かなければ大丈夫です。開いても魔法陣の上に立たなければ、問題はないと思いますが保証はちょっとできないですね。あと、仮契約カードとかの説明はこっちの巻物に書いときやすね。カードの複製の方法とかもあるんで」

 

「ありがとうございます。それで、おいくらでしょうか」

 

「あー、今回の場合は、魔法陣作成代と巻物代合わせて3000ドラクマですね。あと、仮契約が成立した場合、私の方に連絡だけ入りますんでご了承くだせぇ。ま、成立したかしかわからないんで、そこまで気にすることはないですがね」

 

小竜姫はその後、代金と引換に巻物を二本受け取ると仮契約屋を後にするのであった。

 

このようなやり取りの結果、妖怪と妖精の存在が明らかになったのである。

 

 

 

 

 

横島たち一行は、ゲート施設の場所を確認する為にゲート施設前に来ていた。彼らが侵入を狙っているのは、午後から三回に分けて行われる転移の三回目。

 

ゲートは、魔法世界と旧世界を繋ぐ魔法である。ここメガロメセンブリアのゲートで転移出来るのは、旧世界各地にあるゲートのうち稼働中である数箇所のみ。その数箇所をローテーションして開いているのである。今回開くのは、順にエジプト、ペルー、ウェールズ。そのウェールズのゲートが開くときを狙おうというのである。何故ウェールズかと言うと、横島たちの勘である。

 

「はー、アレがゲートっすか。三回目ってことはまだ先なんすよね?」

 

「そうですね。午後から順番にって話ですから。思ったより早く着きましたから、大分時間はあるみたいですけど。一度内部を見学したい所ですが」

 

「あー、どうっすかね。ぶっつけ本番ってのもアレですけど、下手に下見ってのも」

 

「とりあえずご飯食べてから考えましょ。最後くらい名物を堪能してあげるわ」

 

タマモの提案で魔法世界名物を探すことにした一行。旧世界とのゲートがあることから、旧世界の魔法使い相手に名物を売っているのでその辺りは充実しているのである。

 

 

 

 

 

「名物を探しているのなら、僕が案内しようか?」

 

そんな一行に声をかける男性が。歳は三十前半と言ったところか。白いスーツ姿に、無精髭、咥えたタバコがくたびれた印象を与えるが、無駄のない体捌きから強者であることが一行には分かった。

 

「結構です」

 

彼からにじみ出る強者の雰囲気に、横島は即座に断りをいれる。必要以上に返答が素っ気なくなったのは、彼を見て黄色い声を上げている周囲の存在も無関係ではないだろう。

 

嫉妬じみた横島の態度に苦笑しながら、小竜姫たちも断りを入れようとするが、それは男性からの言葉で遮られることとなった。

 

「おや、警戒させてしまったかな。実は、君たちに話があってね。話だけでも聞いてくれないかな?」

 

「私たちに……ですか」

 

「そうさ。君たちに用があるんだ。ここじゃなんだから、ご飯でも食べながら……どうだい?いい店を知ってるんだ。奢るよ?」

 

その男性の言葉に、横島が反応する。

 

「貴様ー!!ワイの女をナンパするとは、いい度胸やのー!!ちょっとくらい顔がいいからって、調子に……。くっそー、男は顔やないんやー、中身なんやー!!どいつもこいつも、イケメンばかり優遇しやがって……。そんなにイケメンが好きかー!!」

 

どうやら、男性のことをナンパしに来たと思ったようである。魔法世界に来る前からのことであるが、横島が隣にいても気にせずナンパする男たちが多数いた為に生じた勘違いである。

 

その横島の言葉に、呆気に取られる男性。その内、小竜姫たちからもナンパと思われたのか、断りの言葉を告げられる。

 

「あの、こんな人ですが仮契約(パクティオー)を結ぼうと考えてる人なんです。ですから、お話はありがたいのですが」

 

「私たちこいつにしか興味ないから、ナンパなら他を当たりなさい」

 

「小竜姫さま!タマモ!それは告白と受け取っても…「「せいっ!」」…ぎゃん」

 

タマモの言葉を聞き飛びかかる横島を撃墜する二人。その後、男性に向かって微笑む二人の姿は、“しつこいとお前もこうだ”と言外に告げている。

 

その微笑みを向けられた男性は、めまぐるしく変わる光景に気後れしながらも、誤解を解くために口を開く。

 

「ご、誤解だよ!僕は、君たち三人に用があるんだ。ナンパだなんてとんでもない!」

 

「ほー。自分はモテるからナンパなんて必要ないと……?けっ!」

 

「横島さん……?」

 

悪態をつく横島に、笑顔を向ける小竜姫。その瞳は全く笑っていなかったが。小竜姫が横島を黙らせている間に、タマモが話を続ける。

 

「ナンパじゃないってのは、信じてあげる。とりあえず、場所を変えましょうか?あまり目立ちたくないのよね」

 

「分かったよ。こっちにいいところがあるから……ついて来てくれるかい?」

 

「仕方なく……ね。ほら、行くわよ!」

 

「了~解」

 

男性を先頭にその場を離れる横島たち。未だに警戒を解いてはいなかったが、人目がなければ逃げることは容易い為、大人しくついて行くことにしたようである。

 

男性の後を追いながら、横島たちは小声で相談をする。

 

「いいんですか?ついていって。私たちより弱いとは言え、今まであった人間ではダントツに強いみたいですが……。それに、罠かもしれませんよ?」

 

「そうね。こっちに知り合いのいない私たちに用事だなんて……。いざとなれば、私が幻覚を見せて……」

 

「う~ん。多分、大丈夫だろ。悪いことにはならんと思うぞ?まぁ、オレの勘だから保険は必要だろうから、文珠はいつでも使えるようにはするが」

 

その横島の言葉に、警戒を緩める小竜姫とタマモ。いざとなれば文珠があるというのもあるが、横島が悪いことにはならないと言ったことが大きい。横島の危機感知能力は非常に高いからである。まぁ、身についた理由が、美神との覗き攻防戦の結果であるのが締まらないが。

 

 

 

 

 

男性の後に続き店内に入った横島たち。席に着くと、ここは奢ると言われ注文を片っ端から頼む横島。それに呆れながらも、男性は話を切り出す。

 

「え~と、話を聞いてくれるってことでいいのかな?」

 

「こりゃ、美味いこりゃ美味い」

 

「ああ、こいつは気にしないで。私たちが聞くから」

 

運ばれて来た食事にがっつく横島はおいて話を進める男性。その顔には、やっと話を進められることへの安堵が見てとれる。

 

「まず、自己紹介をしようか。あの場ではちょっと出来なかったからね。僕は、高畑・T・タカミチ。気軽にタカミチとでも呼んでくれ」

 

「タカミチ……ね。どっかで聞いたような……」

 

「タマモちゃん、アレですよアレ。大戦の英雄、紅き翼の生き残り」

 

「ああ!噂では他のメンバーは全員死んだって言う、あの不吉な!」

 

どっかで聞いたことのある名前に考え込むタマモに、小竜姫が横から告げる。思い出したのか大きな声で言うタマモに、男性――高畑――は冷や汗を垂らしながら答える。

 

「いや、皆死んだ訳じゃ……。僕と旧世界にいる一人以外は、姿を隠してるだけで」

 

「ふ~ん。で、その英雄様がなんの用?別にまだ何もやってないわよ?」

 

「(……まだ?)その前にそちらの名前を聞いても?」

 

「ああ、そうね。私はタマモ。葛葉(くずのは)タマモ。タマモでいいわ」

 

「私は妙神(みょうじん)竜姫(たつき)です。竜姫でかまいません。彼は、横島忠夫」

 

事前に決めていた偽名を名乗る二人。何処か誇らしげに答えているのは、準備が役に立ったからであろうか。

 

二人の名を聞いた高畑は、小竜姫の名に疑問を持つ。

 

「タマモくん、竜姫くん、横島くんだね?ところで、横島くんは竜姫くんのことを小竜姫さまと呼んでた気がするんだが……?」

 

「ああ、竜姫は横島の戦いの師匠なのよ。正確には姉弟子なんだけどね?それで、竜姫の師匠が竜姫のことを“小竜姫”って呼んでて。それを横島に使わせていたら、定着したってわけ」

 

「へー。じゃあ、二人とも何か武術をおさめているのかい?」

 

「へぇ、気になるんだ?」

 

「いや、僕も武人の端くれだからね。気になって」

 

タマモの警戒するかのような返答に、高畑は自分の言葉が探りと取られかねないと思ったのか、慌てて言葉を付け足す。

 

「別に隠すことでもないのでいいですよ、タマモちゃん。私は師匠から剣術などを教わりましたが、横島さんは違います。彼は、組手ばかりで戦いの基礎は教わってません」

 

「へー、そうなのか。失礼だけど彼からは武人って感じはしないから、姉弟弟子ってとこを不思議に思ってたんだが……」

 

「ワイは痛いのは嫌いなんや」

 

高畑の言葉に、食事を続けながら横島が一言告げる。それに苦笑しながら、小竜姫は言葉を続ける。

 

「こういってますが、魔獣程度なら軽く撃退できるんですよ?あまり、やる気がないので」

 

「それで、話を戻すと……本題は何?私たちは英雄に話しかけられるようなことは……してないはずよ」

 

このままでは話が進まないと考えたのか、タマモが強引に話を戻す。若干、間が開いたのは心あたりを探したのであろう。

それを聞いた高畑が本題を語り始める。彼はこの為に、メガロメセンブリアに派遣されたのだから当然ではあるが、スラスラと説明し始める。

 

「まず、僕は関東魔法協会というところに所属している。まぁ、その傍らNGO団体に所属して、魔法使いの仕事をこなしているんだが。で、今回僕がメガロに来たのは、関東魔法協会の理事からの依頼でね」

 

「関東魔法協会?」

 

「そうさ。旧世界にある日本。ああ、日本はわかるかい?君たちの名前からして、日本出身の旧世界人の子孫だとは思うんだけど」

 

「ええ、日本はわかります」

 

無論、高畑の言うような事実はないのだが、相手の勘違いを利用することにした小竜姫。美神や横島と知り合ってから、このようなことは楽にこなせるようになっていた。

 

「そこの麻帆良というところに、本部を置く協会なんだ。そこには、日本にいる魔法使いの多くが所属している。そこの理事が占いを趣味にしていてね」

 

「はぁ」

 

「ハハハ、言いたいことは何となくわかるよ。それが何の関係がってとこだろ?」

 

「ええ、まぁ。まさか、その占いに私たちが出てきたから、会いに来たなんてことはないでしょうし」

 

小竜姫の言葉に、一層笑いを強める高畑。そんな高畑に、タマモは引き、横島は食事を続ける。

 

「そのまさかなんだ。何でも、君たちが学園に通っている光景を見たらしくてね。ああ、関東魔法協会は麻帆良学園っていう学園を経営していて、協会の理事が学園長をしているんだ」

 

「学園……ですか」

 

「ああ。何でも関係者に旧世界の常識を教えながら、魔法を教えるには学園を創るのが一番だってことから代々続いているらしい。まぁ、昔の話だから確かなことはわからないけどね」

 

「それで、私たちをスカウトに来たんですか?」

 

「まぁ、そういう事だね。向こうで学生をしてもらいながら、警備の仕事をしてもらいたいんだ」

 

「警備……?」

 

「そうさ。学園には巨大な図書館があってね。そこには、貴重な魔道書なんかも多く保管してある。勿論、一般人が入れないところにね。それが狙われたり、数箇所ある魔力溜りを狙ったりする奴らがいてね。まぁ、学園には結界も貼ってあるし、滅多にこないんだけどね」

 

「そうですか。それで私たちのメリットは?」

 

「ああ、来てもらえるのなら戸籍を用意するし、在学中の学費は免除。警備の際は、給料を支給する。あとは、仕事の斡旋や生活の援助。援助金の額や他の要望は学園長に直接交渉してくれ」

 

「住居は?」

 

「今の所、君たちには学生寮をと思っている。横島くんは使っていない寮があるから、そこを自由にしてくれて構わないと言ってたかな」

 

「私たちと横島さんの住居は別なんですか?」

 

「君たちの学生寮は女子寮だからね。なんなら、横島くんと一緒に使ってない寮にするかい?パートナーなら問題ないだろうしね」

 

「そうですね。それで、私たちが入る学園と言うのは?」

 

「麻帆良学園女子中等部の一年生に入ってもらいたい。見たところ、君たちは旧世界の中学生くらいの年格好だし、旧世界の常識を学ぶにはいいと思う」

 

「他に理由はないの?」

 

「実は……そのクラスには、所謂関係者たちを集める予定でね。それと言うのも、魔法は知らないが親が関係者だったりする子や、旧世界の有力者の子供なんてのは邪な考えを持つ者に狙われやすいからね。関係者を一箇所に集めることで、護衛しやすくしてるんだ。君たちにも護衛を兼ねて貰えないかとは思っている」

 

「そう。それで、いつからなの?」

 

「承諾が取れたらすぐにでも。今日の午後、ウェールズへのゲートが開くからその時にでも、一緒に旧世界に来てもらいたい。入学の準備に時間がかかるからね」

 

「返事は何時までに?」

 

「そうだな……。早ければ早い方がいいのは変わらないよ。遅くとも、一週間後までに連絡が欲しい。承諾してくれるなら、隣の宿に来てくれ。そこの302号室に泊まっているから」

 

「そう、わかったわ。相談するから、アナタは支払いをして先に宿に行ってなさい」

 

「ああ、わかったよ。それじゃ」

 

そう言うと、高畑は伝票を持って去っていく。彼が一度振り返った時、横島たちは早速相談を始めているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

高畑の姿が完全に見えなくなると、タマモが横島に声をかける。

 

「ご苦労さま、横島」

 

「おう」

 

返事をする横島の手には『正』『直』の文珠。横島が、会話に参加しなかった理由は、文珠を二つ連携させて発動するのに集中していた為であった。

 

「それにしても、目の前にあるメシを食えないってのは辛かったぜ。まぁ、集中しないと持続時間が短くなっちまうから、しょうがないんだが……」

 

横島たちの目の前には、料理の山が。高畑が説明をしていたとき、確かに横島が食べていた筈なのだが、運ばれてきてすぐに横島が口にした料理以外は手付かずのままであった。

 

「今から食べればいいじゃない。しかし、幻覚に見事に引っかかったわね。まぁ、食べてる姿が幻覚なんて思わないか」

 

どうやら、食事をしている横島は途中からタマモの幻覚であり、本人は文珠を発動していたようである。

 

「しかし、小竜姫さまもやりますねー。オレが見せた文珠を見ただけで、意図を汲み取ってくれるなんて」

 

「美神さんたちといたらこれくらいは……。それに、私のやったことは高畑さんが、自分から話やすいように聞き手に回ったくらいで。元々、高畑さんが説明しに来た以上、それも当然ですし」

 

「いいのよ、それで。話やすいように、上手く相槌をすることが大事なんだから。それに、さりげない疑問を告げる感じが良かったわね。文珠の効果を確認するのに、最適だったわ。アレがあったから、最後の方は大胆に聞きたいこと聞けたわけだし」

 

「そうでしょうか」

 

「そうよ。ま、タカミチってヤツも災難ね。人を騙す専門家である妖狐と、文珠のせいで話さなくてもいいことまで話すことになって。しかも、本人にその自覚はないし」

 

タマモの言う通り、本来なら説明しない筈であったことも高畑は話してしまっている。しかも、本人からすれば『正』『直』に答えただけなので、疑問に思うこともない。

 

悪い顔をしながら笑うタマモを他所に、いつの間にか料理を食べていた横島が小竜姫に問いかける。

 

「それで、どうします。オレとしては乗ってもいいかと。隠してることもありましたが、あの程度ならどうとでもなりますし。それに交渉次第ですが、安定した生活拠点を手に入れられそうですしね。何より、日本に行けて戸籍も手に入りますからね」

 

「そうですね~。私としても問題は……人間の学問を学ぶなんて面白そうですし。タマモちゃんは?」

 

「お揚げが食べられるなら、それでいいわ」

 

「じゃあ決まりっすね。メシ食い終わったら、早速宿に行きましょう」

 

「はい」「ええ」

 

 

 

 

 

麻帆良行きを決めた横島たち。この決定は彼らに何をもたらすのであろうか。それは――

 

 

 

――誰も知らない。

 

 

 

 

「あ、それ!私が食べたかったのに!!」

 

「ふっ。食事とは戦争なのだ。気を抜いたタマモ、お前がわ…「あ、それいただきますね?」…ちょ、小竜姫さまー!そりゃ、ないっすよ…「いただきっ!」…ちょ、タマモまで!?」

 

 

……知らない。

 

 

 




3000ドラクマが一体いくらかは気にしてはいけません。適当です。

オコジョ妖精や他の妖精種について。ゲートの転移先は週ごとで変わる。これらは作中内での設定です。

因みに、他のゲートの場所は、パリ、インド、中国、オーストラリアですかね。
ストーンヘンジ、ピラミッド、マチュピチュ、秦始皇帝陵、モンサンミッシェル、エアーズロック、タージマハル。此処まで考えましたが多分出てきません。

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2時間目:新生活ハジマル
その1 横島一行麻帆良に来る


英雄、高畑と出会った横島たち。彼らは高畑の求めに応じて麻帆良へ行くことに……。この決断がもたらすのは……?

一言: かっぱ巻き美味いよね



 

 

 

 

 

麻帆良行きを決めた日から数日。横島たち一行の姿は、麻帆良学園女子中等部にある学園長室にあった。

 

「いやー、魔法使いって凄いんすね。旧世界に来たと思ったら、すぐに転移させられるとは」

 

「フォフォフォ。あくまでも今回が特殊なケースなんじゃがな。普段は、魔法使いと言えど一般人と同じように飛行機などを使っておる。空を飛ぼうにも、認識阻害も絶対とは言えんからのぉ……。万が一があってはならんからのぉ」

 

「ハァ……」

 

現在、学園長室にはソファーに座る横島たちと、その向かいに座る後頭部に特徴のある老人。そして、その老人の背後に立つ高畑の五人である。

 

そんな中で横島があげた感嘆の言葉に答えたのが、後頭部が長い老人――麻帆良学園理事長兼関東魔法協会理事、近衛近右衛門(このえこのえもん)である。

 

「さて……と、話に入る前に、まずは……申し訳なかったのぉ。急な転移で驚いたじゃろ?君たちは知らないじゃろうが……本来、魔法世界の人間が旧世界に渡るには、メガロメセンブリアのチェックをパスする必要がある。そして、旧世界で所属する魔法協会をメガロの元老院が決めるんじゃ」

 

「そうなんすか……。でも、オレたちは何の審査も受けてないっすよ?」

 

「そこは、ホレ。タカミチ君のおかげじゃ。彼は上に信頼されておるからのぉ。彼がスカウトしたから審査はなしになったんじゃ。そして、彼が緊急帰還用の魔法陣を起動させて、此処に転移したと言うわけじゃ」

 

「緊急帰還用……って、また大層なものを使いましたね」

 

「まぁ、魔法陣なんてのはまた書けばいいんじゃよ。それより、君たちがいち早くこちらに来ることこそが、大事じゃわい」

 

「そんなにっすか……」

 

近衛の言葉に驚く横島たち。高畑は理由を知っているからか、驚いていはない……が、苦笑は浮かべている。

 

「そもそも飛行機は使えんのじゃ。こちらでは国から国へ移動する場合は、戸籍が必要になるからの。君たちの戸籍が出来るまで待つ時間があれば良かったのじゃが」

 

「学園長。本当のことを言ったらどうです?」

 

「本当のこと……?」

 

黙って聞いていた高畑が口を挟む。横島たちは、騙されたのかと学園長に向ける視線が鋭くなる。

 

「これこれ、そんな言い方をせんでもよかろうに。安心せい、先までのことも本当じゃ。ただ、戸籍のことだけなら魔法陣を使用せんでもよかったんじゃ。飛行場には関係者専用の出入り口があるんじゃ。そっちを利用すればよいからのぉ」

 

「それじゃ、何で魔法陣を……?」

 

「なに、君たちは儂の趣味である占いの結果、急遽来てもらうことにしたからのぉ。戸籍とかは、順次用意すればいいんじゃが、飛行機などはねじ込むことになるからのぉ。君たちは前から呼ぶつもりだったと周囲に示す為には、仕方ないんじゃ」

 

「あー、予定していた人員だと思わせたいってことっすか。まぁ、占いの結果で呼んだなんて言われたら胡散臭いっすもんねー。オレたちも自己紹介しやすいですし」

 

「そうじゃろ、そうじゃろ」

 

横島の言葉に、分かってくれるかと満足気に頷く近衛。小竜姫とタマモも、自分たちの今後の為に貴重な魔法陣を使用したのだと理解し、近衛に向けていた疑いの視線が弱まる。

 

そんな中、高畑はその顔に浮かべた苦笑を崩さない。彼は知っているのだ。近衛が言ったことも嘘ではないが、占いのことを伏せる大きな理由を。

 

(流石に言えないよなぁ。生真面目な人たちに怒られたくないからだなんて)

 

 

 

 

 

「さて、ここからが本題じゃが、まず此度は儂らの要請に答えてもらったと考えてもよいのかの?」

 

近衛が話を戻すと、先程までの和やかな雰囲気から一変、交渉の場へと変わる。近衛は交渉相手を横島と見ているようで、視線を横島から外さない。これは、小竜姫とタマモが横島のパートナー候補であると高畑から説明を受けていた為、リーダーと思われているのである。

 

「ええ。ただ、こちらからもいくつか条件を出させてもらいますが」

 

「ふむ。それは当然じゃろうて。して、そちらの条件とは?」

 

「その前に、そちらの要請を確認したいのですが。高畑さんから大体のことは聞いていますが、それが全部とは限りませんし。契約はきちんと確認しなければ、思わぬところで足元をすくわれますからね」

 

「ふむ。若いのに大したもんじゃ。どうじゃ?儂の孫の婿に?」

 

「……美人ですか?」

 

「無論。しかも、まだ若い」

 

「ほう。是非、紹介……「横島さん……?」……この話はまた」

 

ダラダラと冷や汗を流す横島。よく見ると、左右に座る小竜姫とタマモに太腿を抓られているのが分かる。そんな横島たちに、近衛は“若いのぉ”と呟くと交渉を再開させる。

 

 

「フォフォフォ。話を戻すとじゃ、儂らから要請することは、主に三つじゃ。竜姫君とタマモ君に麻帆良女子中学の一年A組に入学してもらうこと。次に、学園の警備に参加して欲しい。最後は、クラスメイトの護衛じゃ」

 

「大体聞いていた通りですね。それで待遇や仕事の内容は?」

 

「まず住居じゃが……。竜姫君とタマモ君には女子寮、横島君は近くの使っていない古い寮があるから、そこに……と思っておる。次に警備に関してじゃが、基本的には週に一回決められたルートを見回りしてもらう。これは、君たち三人とこちらで用意する一人で行ってもらう」

 

「用意する一人というのは?オレらの事情を知っている人ですか?」

 

「まずは、ここにいる高畑君と組んで仕事を覚えてもらう。その後は、こちらに所属もしくは契約している誰かと組むことになるじゃろ。賞金稼ぎをしていた君たちに比べれば、未熟かもしれんが」

 

「それは別に構わないです。それで、基本的にという事は、緊急時は?応援ってとこですか」

 

「そうじゃな。応援は支給する携帯電話で頼むことになると思う。その際は、対処をお願いしたい。あとは、儂の個人的な依頼も受けて貰えると助かる」

 

「まぁ、あまり面倒じゃなければ構いませんよ。場合によっては、断るかもしれませんが」

 

「まぁ、当然じゃな。警備に関しては、給料を支給する。また、応援や依頼についてはその都度支給じゃな。金額は後で構わんか?」

 

「ええ。そこらは最後で構わないでしょう」

 

「次に護衛についてじゃが……。これは副次的なものになる。竜姫君たちのクラスは、関係者を集めたクラスじゃ。無論、全てが関係者というわけではない。一般人も通うことになっておる。すでにクラスメイトの護衛は、そのクラスに所属予定の関係者に頼んでおる。頼みたいのは有事の際には、その者と協力して欲しいということじゃ」

 

「有事は……ですか」

 

「うむ。気を使ってもらえればそれでよい。基本的にこちらで対処するし、そもそも学園内ならば結界があるからの。そうそう大事にはならん」

 

「いいでしょう。他には?」

 

「あとは、横島君に関してじゃが。基本的に連絡が取れれば、何をしていても構わん。そうじゃ、便利屋でもしてみるかの?君に任せる寮の一階を事務所にでも、改装すれば良かろうて」

 

「便利屋……ですか?」

 

横島はこの言葉に驚く。てっきり、自分も学生になると思っていたからである。

 

「まぁ、便利屋の仕事がなくとも、生活するには困らん額を支給することになるじゃろうからな」

 

「……そういう事ですか」

 

「うむ。君はやはり鋭いのぉ」

 

近衛の意図に気づいた横島は、近衛に呆れた目を向ける。その視線を受けた近衛は、何処か嬉しそうである。言外に含ませた意図に気づく横島を、掘り出し物とでも思っているのであろう。

 

「ねぇ、何がそういうことなの?ただ、アンタが仕事しなくても、大丈夫って言ってるだけじゃない」

 

そんなやり取りに、そこまで口を挟まずに大人しくしていたタマモが、横島に質問する。反対側に座る小竜姫も疑問に思っていたのか、頷いている。

 

「いいか、タマモ。学園長は、オレを咄嗟の時に動かせる駒にしたいんだ。便利屋をしてれば、此処に来ても不思議じゃない。学園からの依頼とでもいえばいいしな。それに、学生や他の職業と違って自由がきくしな」

 

「その通りじゃ。実は、君のことは高畑君に少々調べて貰ってのぉ」

 

その言葉に、高畑に目を向ける一同。一斉に視線を受けることになった高畑は、苦笑しながら言葉を紡ぐ。

 

「言っても、噂を聞いて少々調べただけだよ。メガロにいたのは二日だけだからね。ただ、運良くメガロに来た行商の人から話を聞けてね。何でも、難攻不落の遺跡を一日で踏破し、かつ怪我もなく帰ってきた男がいたと。それで、その男の特徴が横島君にぴったりハマってたってだけさ」

 

「ま、そういうことじゃ。その遺跡は、全容も不明、生還者ゼロで有名じゃったからの。その顔を見るに知らんかったようじゃの」

 

近衛の言う通り、驚愕している横島。両隣りの小竜姫とタマモは、横島の非常識さを忘れていたと頭を抱えるのであった。出来る限り目立たないようにと、頑張っていたのは何だったのかと。

 

「それに他にも聞いてみたら、魔法使いが束になっても勝てなかった凶暴な黒龍を、ほんの一時間かそこらで退治したりしたって有名だったよ」

 

更に頭を抱える小竜姫たち。横島もそうであるが、自分たちもやらかしていたことに気づいたのだから、当然といえば当然の反応である。

 

「で、でも、あれくらいの龍なら他の方でも勝てますよね?噂になる程とは……」

 

「まぁ、確かに僕でも退治出来るとは思うけど」

 

「ほら!」

 

「何でそんなに必死なのかは知らんが……高畑君はこの関東魔法協会でも一、二を争う実力者じゃ。彼と同じことが出来るものは、数える程しかおらん」

 

「そ、そうなんですか……。あぁ、だから女将さんは封印箱を……。私たちが実力者だから、自分の装備を使って欲しいって」

 

頭を抱えて小声でブツブツ言う小竜姫。その様子は、近衛たちが大丈夫かと心配する程であった。

 

「本当に大丈夫なんじゃな?」

 

「ええ。目立たないように注意してたのが、無駄だったと分かって落ち込んでいるだけですんで」

 

「そうか。では、話を続けようかの。何処まで話たかの?」

 

「オレたちのことを調べたってとこですね」

 

「おお、そうじゃ。それで、調べた結果、あの遺跡を踏破できる横島君には、儂個人や協会からの個別依頼を主に。竜姫君たちには、有事の際の護衛と警備を主にやってもらおうと考えたんじゃ」

 

「それは分かりました。オレたちのことを知っていたから、テストなしで警備の仕事をさせるってことも」

 

「まぁ、魔法世界で賞金稼ぎをしておったんじゃから、それ相応の能力があることに疑いを持ちはせんよ。それで、こちらからは以上じゃが。そちらの条件とは?」

 

近衛の言葉に、横島は自分たちの要望を告げ始める。

 

 

 

 

 

「ふむ。まず竜姫君とタマモ君が、横島君と同じ寮で生活するのは、別に構わん。君たちの場合、パートナー候補らしいしの。次に魔法がバレた場合に関してじゃが……。君が言うように、護衛時や警備の際にバレた場合は不問としよう。日常でバレた場合も、口止めできたのなら構わん。そちらで解決できなかったり、問題が起こった場合に給料を引くくらいか。魔道書の閲覧に関しては、ある程度なら儂の方で魔道書を用意しよう。勿論、他人に見せてはならんぞ。で、最後の提案……というより、質問なんじゃが……」

 

横島の提案を次々と受け入れる近衛。しかし、最後の質問に関しては、眉をひそめた。

 

「何か問題でも?」

 

「いや、君たちが言うように“気”を使えることを隠す必要はない。魔法ではないからのぉ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「何というか……。“気”でも魔法の様な現象は起こせるんじゃ。知っておるかの、陰陽師というのを。彼らは符を使い、気で火を点けたりできる。無論、魔力でも可能なんじゃが……」

 

「ああ、線引きが難しいってことですか。“気”を使っていても、魔法に見えるようなことは避けた方がいいってことですか」

 

「そうしてくれると助かるのぉ」

 

「えー、じゃあ狐火で横島を燃やせないの?」

 

「燃やすな!!」

 

「ちっ」

 

「舌打ちもやめれ」

 

「あー、物騒なことはせんでくれよ」

 

「ああ、わかってますよ。それと、オレの技で判断に迷うのがあるんすけど」

 

横島とタマモのやり取りに冷や汗を流す近衛。そんな近衛の様子を気にせず、横島が話を続ける。

 

「それは、見てみんことには判断がつかんのぉ」

 

「それもそうっすね」

 

そう言うと、横島はサイキックソーサーを出現させる。

 

「こういうのなんすけど。気の塊っすね。見ようによっては、魔法に見えなくもないですし」

 

「ふむ……。あまり、見せない方がいいかもしれんのぉ。気を具現化出来るものは少ないしのぉ。ただ、無理して隠す程でもないのぉ」

 

「そうっすか」

 

元々、人前で見せる気がなかった横島は簡単に納得する。横島が本当に見たかったのは、近衛の反応なのである。

 

 

 

横島は魔法世界に来てから人前では霊能を使用しなかった。使う必要がなかったことも確かであるが、見られたときのことを考慮したのである。タマモが使う狐火は魔法に見えるし、小竜姫の剣技は武術なので見られても問題はない。

 

しかし、横島の場合、その霊能が魔法よりなのか、気に似た力なのか判断できなかった。これは、“気”や魔法で出来ることをよく知らなかった為である。万が一、希少な技術であった場合、目立つことを避けられない為、人前で使用しないようにしていたのである。

 

その疑問が今、近衛の評価を聞くことで解消されたのである。横島が使う霊能は気の具現化で誤魔化せる範囲であると。

 

 

 

 

 

その後、金銭面での交渉を終えた横島たちは、学園長室をあとにする。結局、学園側の要請をほぼそのまま受け入れた形である。変更して貰ったことと言えば、小竜姫とタマモの住居くらいである。

 

「ふぃー、疲れたー。もう、交渉なんてしねー」

 

学園長室を退出するなり、気の抜けた声を出す横島。その姿は、先程まで組織のトップを相手に交渉をしていた人物とはとても思えない。

 

「ふふ、お疲れ様でした。かっこよかったですよ?」

 

「それは、愛の告白と…「燃やすわよ?」…せめて最後まで言わせろや」

 

「ま、アンタにしてはよくやったんじゃない?別人かと思ったもの」

 

小竜姫とタマモの視線に照れたのか、頭を掻きながらタネ明かしをする横島。

 

「実は、これを使ってまして」

 

そう言って見せるのは文珠。刻まれた文字は『冴』。

 

「『賢』いってのも考えたんすけど、交渉なら色々『冴』えた方がいいかと思って」

 

「文珠だよりか……。まぁ、所詮は横島ってことね」

 

タマモが馬鹿にしたように言うと、それにムキになる横島。そんな二人を見ながら、小竜姫は横島の能力について考えていた。

 

(全く横島さんったら。冴えるってのは、調子がよくなることなんですよ?いくら文珠はイメージが大事だと言っても、その効果は文字に縛られます。しかも、交渉に有利そうという曖昧な理由で込めたなら尚更。つまり、あの交渉は……)

 

「横島さん、アナタの力なんですよ?」

 

それに気づかず、全て文珠のおかげであると思っている横島が、横島らしくて小竜姫は何故かおかしくなる。それに、おそらくタマモもこの事実に気づいているのに、素直に口にだせないところも。

 

タマモと横島のじゃれあいは、高畑が学園長室から出てくるまで続けられた。

 

 

 

 

 

「それじゃ、学園内を案内するよ。まぁ、玄関までの道をだけどね。……っと、その前に」

 

学園内の案内をはじめようとした高畑であったが、ふと何かを思い出したのかポケットから何かを取り出す。

 

「はい。こっちの青いのが横島くん。黄色がタマモ君で、赤が竜姫君だ」

 

差し出されたのは携帯電話。横島はともかく、あとの二人は見たこともない機械に戸惑っている。

 

「これが、携帯電話というやつだよ。離れた相手とこの機械を通して話すことができたり、文章を送ったりできるんだ。まぁ、詳しい使い方は追々。とりあえず、今はそれが連絡手段だってのが分かればいいよ」

 

「「「はぁ……」」」

 

揃って気の抜けた返事をする三人。高畑は三人の様子を可笑しく思いながらも、案内をする為に歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

「で、ここが玄関。昇降口だ。ここで、生徒は靴から上履きに履き替えるんだ。ああ、制服とか上履きは明日、買いに行く。集合場所は此処。時間は昼の一時で。勿論、横島くんも一緒に来てくれ。軽く街を案内するからね」

 

「「はーい」」「分かりました」

 

高畑に学園長室から昇降口まで案内された横島たち。タマモと小竜姫は、ここに通うことになるので、道中あたりをキョロキョロ見回していたのが可愛らしかった。

 

「それじゃ、君たちが住むことになる寮に……と、思っていたんだが、まだ準備が出来ていなくてね。事務所に改装することも考えると、当分はホテル住まいになると思うが、宜しく頼むよ」

 

続いて高畑にホテルへ案内される一行。どうやら、横島たちの住居はまだ使用できない為、当分はホテル暮らしになるとのことである。入学式までに移れるかは、半々といった所らしい。

 

「ホテルか~。ま、オレは寝られれば何処でもいいっすけど」

 

「コイツと同じ部屋?」

 

「いいや、男女別だよ。それと、朝食と夕食はホテルで食べられるから。昼食は各自調達って形だけど、竜姫君たちの入学までは色々案内することになるからね。僕が奢るよ」

 

「ゴチっす」

「ごちそうさまです」

「毎回横島に奢ったら、アンタ破産するわよ?」

 

 

「ハハハ……。大丈夫、経費で落とすから。落ちるかな……?」

 

 

横島の食欲を思い出し、青ざめる高畑。経費で落ちないかと気にするその背中は、中年男性の悲哀を感じさせるものであった。

 

 

 

 

こうして、横島たちの麻帆良での初日は過ぎて行くのであった。

 

 

 

 




ついに麻帆良へ到着しました。未だ、学園長室だけですが。次回から、生徒たちがちらほら出てくる予定。でも、彼女たちも入学前なので微妙か。

横島の便利屋は学園長の雑務が主になりそうですが、街の人々の手伝いとかもその内始める予定です。

今後の展開を作る上で気になっているのは、小竜姫とタマモの(バスト的な)戦力です。
明確な答えがないですし、タマモや小竜姫は実際どれくらいなのか。ネタにされるように貧乳なのか。気になります。


メガロメセンブりアが旧世界に渡る魔法使いの所属する魔法協会を決める。魔法使い専用出入り口が空港にある。

これらは作中設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。


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その2 横島一行出逢う

麻帆良学園に通うことになった小竜姫とタマモ。便利屋を営むことになった横島。彼らはこの麻帆良の地で何をなすのか……

一言: にんにくたっぷりの唐揚げが食べたい



 

 

 

 

 

 

 

横島一行が麻帆良にやって来た翌日。昨日の高畑との約束の通りに、横島たちは麻帆良女子中等部を訪れていた。

 

「いやー、ちょっと早く来ちまいましたかね」

 

「そうですねー。まぁ、待てばいいわけですし」

 

「それもそうですね。しっかし、こう中学生ばかりだとナンパして時間を潰すこともできんな」

 

「あら、中学生は対象範囲外なんですか?じゃあ、私たちも?」

 

「オレはロリコンじゃないっすからね。あ、小竜姫さまは別ですよ?」

 

「私は?」

 

「ガキには興味ねぇ」

 

「ハッ!言ってなさい。その内、そんな事言えなくなるようにしてやるわ」

 

「はいはい、楽しみにしてるよ」

 

タマモの宣戦布告ともとれる発言を軽く流し、タマモの頭を撫でる横島。それが癪に障ったのか、横島の膝を蹴るタマモ。その痛みにのたうちまわる横島に、タマモは嬉々として追撃する。そんな光景を微笑ましく見守っていた小竜姫が、ふと思い出したかのように呟いた。

 

「そういえば、学園長って人間じゃなかったんですね。まぁ、魔法協会の理事だから亜人でもいいんでしょうけど。それとも混血でしょうか?」

 

「私は先祖返りだと思うな。匂いが人間に近かったしね」

 

「確かにあの頭は見事だったが……。まぁ、オレたちが気にしても仕方ない。にしても、高畑さんはまだか?いい加減腹が減ってきたんだが……」

 

「アンタね……。ん?来たみたいよ?匂いが近づいてくる……けど、知らない人間が二人一緒みたい」

 

タマモが高畑を含めて三人の人間が近くに来たことを告げると、横島がジーパンの汚れを払いながら尋ねる。

 

「ふ~ん。美人なねぇーちゃんか?」

 

「さぁ?香水の匂いは一つだから、一人は大人の女性かな?」

 

「っし!ここは一発オレのナンパテクを……「横島さん?」……はい」

 

「飛びかかったら……切り落としますよ?」

 

小竜姫の言葉に、青ざめながら首を縦に振る横島。横島は悟ったのだ。自制しなければ、男として終わると。

 

その後、一分もしないうちに高畑が、二人の女性を連れて横島たちの前に現れる。高畑は、横島たちの姿を見つけると、手を上げながら近寄る。

 

「やぁ、待たせてしまったみたいだね。紹介しよう、こちらが葛葉刀子さん。そして、隣の子が桜咲刹那君だ。二人とも、この青年が横島忠夫君。その隣の赤髪の子が妙神竜姫君で、反対側にいる金髪の子が葛葉タマモ君だ」

 

高畑は合流するなり、紹介を始める。刀子と呼ばれた女性は、二十代後半くらいで腰まである長い髪をそのままにおろし、メガネをかけており凛とした雰囲気を放っている。正直、横島は飛びかかる寸前であったが、小竜姫とタマモが背中を抓る感触で何とか自制する。もうひとりの刹那と呼ばれた少女は、髪をサイドでまとめており、つり目であることもあってか凛とした雰囲気を纏っていた。

 

「はじめまして。葛葉刀子よ。麻帆良女子中等部で教師をしているわ。担当は古典」

 

「はじめまして。桜咲刹那です。この春から、女子中等部に入学することになっています。麻帆良には最近きました」

 

「妙神竜姫です。私たちも春から中等部に入学するんです。よろしくお願いしますね?」

 

「葛葉タマモよ。よろしく」

 

互いに挨拶を交わす女性陣。挨拶の順番が回ってきた横島が、ここはかっこよく決めてやると、意気込んで挨拶をしようとする。

 

「僕は横…「こいつは横島。スケベだから気をつけて」…お前はワイに何の恨みがあるんやー!!」

 

「事実でしょ?」

 

「なんやとー!!」

 

唐突に始まった言い合いに、呆気に取られる高畑たち。そんな三人に気づいた小竜姫が、笑顔で言葉を紡ぐ。

 

「ああ、気にしないでください。いつものことですから。その内、おとなしくなります」

 

その言葉が聞こえたのかは分からないが、タマモが肘を横島の鳩尾に決め大人しくさせた。

悶絶する横島とそれを見て笑うタマモを横目に、小竜姫が高畑へ問いかける。

 

「それで、お二人を連れてきた理由は?」

 

「あ、ああ。いや、それより彼は…「大丈夫です」…そうなのかい?まぁ、そういうのなら……。彼女たちは所謂関係者でね。刹那君は君たちのクラスメイトになるし、まだ麻帆良に来てから日が浅いからね。親睦を深めながら、一緒に案内しようと思ってね」

 

「そうですか。改めてよろしくお願いしますね?刹那さん」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「それで、刀子さんの方は?」

 

「私は刹那とは同じ流派でね。麻帆良に来る前からの知合いなのよ。それで、刹那を案内しようと思ってたところに今日の誘いがあったってわけ」

 

小竜姫はその言葉に、改めて二人をじっくりと眺める。無言で見つめられた二人は、その視線に居心地の悪さを感じるが、同性であることから耐える。

 

「ふむ。横島さーん、こっちに来てください!タマモちゃんも!」

 

「なんすか、小竜姫さま?」「なに?」

 

小竜姫の呼びかけにすぐ集まる横島とタマモ。悶絶していた筈の横島が、何事もなかったかの様に寄ってきたことにも驚いたが、横島の“小竜姫さま”という言葉に疑問をもつ刹那たち。

 

小竜姫は刹那たちの疑問を気にもせず、横島とタマモに話かける。

 

「この二人をどう思います?」

 

「どう……とは?」

 

漠然とした問いかけに、質問の意図が分からず聞き返す横島。

 

「二人とも関係者らしいのですが、魔法使いと気の使い手。どちらだと思いますか?」

 

「う~ん。まぁ、魔力の方が小さいですし……気の使い手ですかね?刹那ちゃんの方は魔力もそれなりみたいですけど。微かに霊力も感じますね」

 

「そうね。刹那は人間にしては気も魔力も大きいわ。霊力は混血だからかしら?」

 

「ん?でも、魔法世界であった混血の人たちは霊力なんてなかったぞ?」

 

「魔法世界にいた混血とは違う匂いだけど、間違いなく混血の筈よ。霊力は多分、魂の質が違うのよ」

 

「そうですか。学園長は先祖返りでしたけど、霊力は感じなかったですからね。私の勘違いかとも思ったんですが、お二人が言うのなら間違いではなさそうですね」

 

盛り上がる小竜姫たちとは違い、刹那たちの方は静かである。高畑と刀子は刹那の出自に気づいたのかと驚愕しており、刹那に至っては顔面蒼白である。途中、霊力という耳慣れない言葉を聞いたが、それも吹っ飛んでしまっている。

 

そんな三人に構わず横島たちは会話を続けている。

 

「しかし、よかったな~タマモ。これで、関係者にはお前のことを隠す必要は完全にないわけだ」

 

「そうね。学園長だけなら隠しておくけど、刹那がいるんだもの。大丈夫ってことよね」

 

タマモの発言に、どういうことかと問いただそうとする高畑たち。そこに、タマモ自身の口から驚愕の事実が告げられる。

 

「“妖狐”だって秘密にしなくていいのは助かるわね」

 

 

「「「ええぇぇ!!!」」」

 

 

三人の驚愕の声に、横島たちは一斉に振り向くのであった。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

驚愕の声を上げ固まっていた三人が落ち着くのを待って、タマモが問いかける。それに、一番に反応したのは刹那であった。

 

「あ、あの、その、えーっと。妖狐だって、いや、それより、私のこと」

 

「あー、落ち着きなさい。妖狐だってのは本当よ。それで、アンタが混血――ハーフだってことも分かってるわ」

 

「そ、そうですか。あ、あの、私のことは内密に。その、知られるとマズイので」

 

「あー、そうなの?こっちじゃ、ハーフとか知られちゃダメなわけ?」

 

「えーと、その、あの…「あー、私が説明するわ。いいわね?刹那」…はい。お願いします」

 

テンパっている刹那を見かねたのか、刀子が説明をする。

 

「ハーフってこと事態は知られても問題ないわ。ただ、口外しない方がいいってのも事実。魔法世界の人間の中には、妖怪やそれに類するものたちを目の敵にしている奴らもいるから。こっち――旧世界出身の魔法使いはそうでもないんだけどね」

 

「じゃあ、学園内の関係者はどっちなわけ?」

 

「どっちも。ここは魔法学校を出たばかりの子や、魔法世界から派遣されて来た人もいるし。ただ、その人たち全員がそうって訳でもないし、危害を加えるのは当然禁止だから安心はして頂戴」

 

「そう。ま、積極的にいう事でもないしいいわ。気をつける。刹那も驚かせたみたいで悪かったわね」

 

「い、いえ。魔法世界では亜人の方々も普通に生活してると聞きますし、こっちに来たばかりでは葛葉さんたちも勝手がよくわからないでしょうから」

 

「あー、タマモでいいわ。私も刹那って呼んでるし」

 

「は、はい!タマモさん!」

 

固く握手をするタマモと刹那。いろいろあったが、友情が結ばれたようである。そんな二人を微笑ましく見守っていた小竜姫が、刹那に話しかけながら手を差し出す。

 

「私が横島さんたちに尋ねたばかりに大事にしてしまったようで。申し訳ありませんでした。私のことは竜姫と呼んでくださいね」

 

「いえ。私のことも刹那と」

 

「おおー、美少女同士の友情って奴かー。あ、オレのことは“お兄さん”とでも呼んでくれ!ところで、刹那ちゃん……君」

 

「は、はい」

 

刹那の手をとり迫る横島。その迫力に押されながらも、何とか答える刹那。

 

「君におねぇーさんはいないかい!刹那ちゃんはこんなに可愛いんだから、きっと美人なお姉さまがいるに違いない!是非、紹介して…「「せいっ!!」」…ごっぐ」

 

目の前から急に消えた横島に驚く刹那に、タマモが話しかける。横島はいつ移動したのか、少し離れた場所で小竜姫に許しを請うている。

 

「アイツが言ったことは気にしなくていいからね……って、顔が赤いわよ?」

 

「あ、いえ……その、可愛いって男の人に言われたの初めてで」

 

「それは、他の男が見る目なかっただけよ(ちょっと、この娘ちょろいんですけどー!!)」

 

内心の動揺を隠しながらタマモが刹那に言う。刹那と仲良くなるのは構わないが、横島が興味を持たれるのは遠慮したいタマモである。しかし、その思いは実ることはない。

 

 

 

 

――何故なら、刹那の視線の先には横島がいるのだから。

 

 

 

 

「いやー、青春だねー。会わせて正解だったみたいだね」

 

「そうですね。お嬢様と同じクラスになるって、張り詰めてましたから。それに、此処(麻帆良)は神鳴流剣士であるあの子にとっては敵地も同然。帰る場所も既になく、かつての仲間からは裏切り者と罵られる。まぁ、それは私も同じなんですが」

 

「……これで、刹那君も少しは楽になるでしょうね。友達が二人も出来た」

 

「ええ。本当に」

 

 

 

 

 

 

色々あったが、本来の目的である街の案内を再開しようとする一同。

 

そこに、そういえばと高畑が告げる。

 

「さっき横島くんたち、学園長が先祖返りとか言ってたけど……」

 

「それがどうかしたっすか?ああ、先祖返りも不用意に言いませんから、大丈夫っす」

 

「そうじゃなくて……いや、言うのを控えてくれるのはいいんだけど」

 

「じゃあ、何すか?」

 

「学園長の家系に妖怪や亜人はいない筈だよ。あの人は純粋な人間だ……多分」

 

 

 

 

「「「ええぇぇええ!!!」」」

 

 

 

――その日、麻帆良の各地で謎の叫びが聞こえたと言う。

 

 




ネギまキャラが本格的に登場し始めました。
一番最初に出会ったクラスメイトはせっちゃんでした。予測出来た方はいるでしょうか。
いないといいなー。

個人的に、せっちゃんはちょろいと思います。出自からして、男性に免疫ないでしょうし。
とは言っても、簡単に横島に惚れたりはしません。現状では、出自を気にしない横島がちょっと気になる程度です。


ハーフとバレた刹那がすぐ様逃げ出さなかった理由は、横島たちが魔法世界からやって来たと聞いていた為です。元々、裏の人間ですから思わず逃げ出すとまでは行かなかったわけです。関係も浅いので、そこまで深刻にならなかったと言うのもありますが。それでも、顔面蒼白にはなりましたが。

刀子が女子中等部の教師である。刹那と刀子が麻帆良に来る前にあっている。刹那のことを刀子が知っている。
これらは作中設定です。

刹那、千雨がヒロイン昇格しました。

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その3 竜姫とタマモと1-A 前編

麻帆良での新生活二日目。横島たちが出会ったのは桜咲刹那という少女に、葛葉刀子という女教師。横島たちの物語は彼女たちも巻き込んで進む……

一言: ネギ美味しいよね。


 

 

 

 

 

麻帆良学園女子中等部前。本日は入学式であり、新しく始まる中学生活に胸を膨らませる新入生とその保護者、彼女らを向かい入れる在校生に学園教師。沢山の人々で溢れかえっている。

 

その中に、真新しい制服に身を包んだ小竜姫とタマモの姿があった。

 

「いやー、沢山いるわね。一学年で700人以上だっけ?」

 

「そう聞いてますね。この中から、刹那さんを探すなんて無理じゃないですか?」

 

どうやら、入学式の前に刹那と待ち合わせをしているらしい。

 

「ふふ~ん、甘いわね竜姫。私の鼻を甘く見ないで頂戴!ちょっと香水の匂いがキツイけど、刹那の匂いは特徴的だからね。ちょっと集中すれば……」

 

「あ、あの。タマモさん?」

 

「ちょっと、待ちなさい。この特徴的な匂い……刹那の匂いは近いわ…「タマモさん!!」…なによ、刹那?」

 

「分かっててやってますよね!?」

 

「ええ。アンタの匂いは特徴的だから、近くにいたらすぐわかるわ。おはよ、刹那」

 

タマモが振り向くとそこには、同じく制服に身を包んだ刹那の姿が。

 

「お、おはようございます。あ、あの匂いがどうのって、その……」

 

「ああ、別に匂いっていっても、気や魔力をそう例えているだけ。私みたいなヤツにしかわからないし、臭いってわけじゃないわよ?」

 

「そ、それでも嫌なんです!!……大体、竜姫さんも気づいてましたよね!?目が合いましたし!?」

 

「お茶目ってヤツですよ」

 

刹那の訴えに笑顔で答える小竜姫。ヒャクメにからかわれることが多かった小竜姫にとって、刹那は自分がからかうことが出来る数少ない友になったようである。

 

一通り言い終えた刹那は、改めて二人に挨拶すると周囲を見渡す。

 

「お二人ともおはようございます。……ところで、あの……横島さんは?」

 

「あー、今は……事務所の改装に付き合ってるわ。何か、ガスとかで立ち会わないといけないみたい」

 

「今はガスでしょうかね?それとも、いんたーねっとの回線工事でしょうか。まぁ、そんな訳で今日は来れません。私たちも入学と同時に、事務所に移りますからね。来たがっていましたが、準備を頼みました。……まぁ、彼の目当ては保護者のお姉さんたちなので、丁度良かったんですが」

 

「そうですか……。来ないんですか……」

 

タマモと小竜姫の言葉に、目に見えて落ち込む刹那。本人に自覚かあるかは怪しいが、横島に会いたかったようである。もしかしたら、制服姿の感想を聞きたかったのかもしれない。

 

そんな刹那の様子に、タマモと小竜姫は小声で会話をする。

 

(ね?刹那は……もう、手遅れでしょ?)

 

(そうですね。本人は何で落ち込んでいるのか、分かってないみたいですけど……時間の問題って感じですかね)

 

(はぁー。おキヌちゃんが言ってたことがよく分かるわ)

 

(何のことです?)

 

(あいつは……所謂“人外”にモテるらしいわ)

 

(ああー)

 

タマモの発言――正確にはおキヌだが――に納得する小竜姫。

 

目の前のタマモもそうであるが、人狼であるシロも横島を慕っているらしいし、ヒャクメやワルキューレ、パピリオも横島には好意的である。それに、ジークや老師も横島のことは気に入っているし、殿下――天龍童子もそうだ。本当かどうかは知らないが、韋駄天とも仲が良いと聞いたことがある。

 

成程、彼は男女に関係なく“人外”に好かれるのかもしれない。

 

 

 

 

 

小竜姫たちは密談を終えると、刹那と共にクラスに移動を始める。廊下を歩きながら、校門で貰った新入生名簿に目を通す三人。三人以外に校舎内に人の姿はない。まだ集合時間まで時間がある為、外で記念撮影に興じているようである。

 

「へー。私らのクラスだけ33人なんだ」

 

「他のクラスは30人だったり、31人だったり……。関係者を集めたからでしょうか?」

 

さっと、目を通したタマモがクラスの人数について話と、それをきっかけに会話が始まる。

 

「でも、大半の方は一般人だと聞いてます」

 

「あー、確か一般人だけど優秀なヤツも集めてんだっけ?」

 

「そう聞きましたね。所謂、“天才”と言う方たちですね。突出した才能は、時としてその人に不幸をもたらします。理解されない孤独に苛まれたり、心無い差別、嫉妬の対象になったり。後は、才能欲しさの誘拐とかですか」

 

「それを防ぐには、一纏めにした方が都合が良かったってわけね」

 

タマモの言葉に小竜姫は頷く。

 

「護衛の観点からもそうですが……。天才は天才を知る……。異常には異常を。そういう事でもあると思います」

 

「ハッ、人間って面倒な生き物ね。まぁ、だから面白いんだけどさ」

 

頭の後ろで手を組みながらタマモが言うと、小竜姫が同意しながら刹那に話しかける。

 

「そうですね。ところで、刹那さん学園長から聞いた話だと、学園長のお孫さんのように身内は関係者でも本人は知らないと言う方もいるらしいですね?」

 

「そう聞いています。ただ、お嬢様以外の方は狙われる理由がない為、他の生徒と同じ扱いです。私たちを含め、クラス内の関係者が護衛につくことはありません」

 

「学園外学校行事中の護衛……だっけ。誰が関係者で、誰が対象か刹那は聞いてる?」

 

「この“エヴァンジェリン”さんと“龍宮”は関係者ですね。護衛対象は分かりません。私はお嬢様の専任警護ですが、タマモさんたちはその都度分担されるのではないでしょうか。常時護衛対象者は、“雪広あやか”さんと“那波千鶴”さん。麻帆良と関わりの深い大企業のご令嬢です。“綾瀬夕映”さんは、祖父は有名な方らしいですが、家はそれほどでもない為、状況次第だそうです」

 

「そ。じゃあ、私たちは何かあった場合、その三人の護衛になるってこと?」

 

「そのあたりは、実際に学園外へ行くときに話すって言ってましたね。学園内では護衛は不要って言ってましたし」

 

タマモの疑問に答えたのは小竜姫であった。護衛についての説明は二人同時に受けた筈なのだが、性格からかタマモは覚えていなかったようである。

 

「ま、学園生活を楽しみながら気楽にやりましょ?」

 

 

笑顔でそう告げるタマモに、同じく笑顔で頷く小竜姫。ぎこちない笑顔の刹那。そこからは、堅苦しい話しは終わりとばかりに他愛のない会話をしていく。

 

しかし、刹那の表情はクラスに近づくにつれ固くなっていく。それに気づいたタマモが話しかける。

 

「どうかしたの?刹那。体調でも悪いの?」

 

「あ、いえ。大丈夫です」

 

「そう?……ならいいんだけど」

 

何処か腑に落ちないタマモであったが、本人が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろうと考えることにした。そのまま、教室まであと少しという所に来たとき、突然の大声が廊下に響いた。

 

 

 

「あ~!!せっちゃん!!せっちゃんやろ?うちや、木乃香や!久しぶりやな~」

 

 

 

唐突に聞こえた刹那を呼ぶ声。声の方向を向くと、そこには長く綺麗な黒髪を持つ美少女がこちらを指差している。

小竜姫とタマモが刹那に、知合いなのかを問おうと刹那の方を見るが、先程までいた場所に刹那の姿はなく、脱兎のごとく走り去ったあとであった。

 

 

「せっちゃん……」

 

突然の出来事に戸惑うタマモと小竜姫であったが、少女の悲しげな声に正気に戻る。そこに、タマモの携帯がメールの着信を告げる。

 

「えーと、こうだったかしら……?」

 

操作を思い浮かべながら、メール画面を呼び出すと刹那からの着信であった。小竜姫と一緒にその内容を確認するタマモ。

 

 

『突然すみませんでした。

わけあって、お嬢様とはしたしくできないです。

さがさないでください。せつな』

 

 

「何か理由がある……という事でしょうか?」

 

「そうなんじゃない?」

 

刹那からのメールを確認した二人は、刹那のことは放っておくことにした。探さないでと書いてあることだし。

 

タマモが了解と、たどたどしい手つきで返信を行っている間に、小竜姫が少女に話しかける。刹那のメールや本人が言っていたことから判断するに、彼女が学園長の孫である近衛木乃香なのであろう。

 

「あのー」

 

「は、はい!」

 

落ち込んでいる所に突如話しかけられた少女――木乃香は思いの他大きな声で返事する。

 

「刹那さんとは、どう言うご関係で?あ、私は妙神竜姫。一年A組です」

 

「葛葉タマモ。A組」

 

「あ、うちは近衛木乃香言います。せっちゃんとは、こっちに来る前のお友達で……。あ、うちもA組です!」

 

「そうですか。木乃香さんですね?私のことは竜姫と。ここでは何ですから、教室に向かいながらお話しましょう?刹那さんもA組ですし」

 

「せっちゃんも……?」

 

「ええ。行きましょう?」

 

「は、はい」

 

小竜姫に促され歩き始める木乃香。ようやく返信を終えたタマモも、二人から少々遅れて歩きだす。

 

 

 

 

 

 

「そうですか。京都で一緒に遊んでいたんですか」

 

「そうなんですよ。それで、竜姫さんはせっちゃんとはどう言うご関係で?」

 

「その前に敬語は不要です。同じクラスの仲間なのですから」

 

「そう?そやったら、竜姫さんも敬語いらんよ?」

 

「私はこれが癖なので。刹那さんとは麻帆良に来たときに、先生方に一緒に街を案内して貰ったんですよ。私もタマモちゃんも中学から麻帆良にきましたからね」

 

「そうなんや~。タマちゃん……あ、タマちゃんって呼んでええ?」

 

「まぁ、構わないわ。それで?」

 

「タマちゃんと竜姫さんは、前は何処におったん?」

 

「私たちは各地を転々としてましたね。長く滞在するのは、麻帆良が初めてじゃないでしょうか?」

 

「そうなるわね」

 

木乃香の人柄か、和やかに会話を進める一同。そのうちに教室へと、辿り着く。

 

 

「あ、ここやね。一年A組」

 

「刹那は……いないみたいね。ま、中で待ってればその内くるでしょ」

 

そう言ったタマモを先頭に教室の中へ入る。時間よりも大分早く着いた為か、教室内には数人の姿しかなかった。そのまま、三人は黒板に書かれた通りに、自分の席へ向かう。

 

「しっかし、見事に固まったわね。私の横が竜姫で、前が木乃香。私たちの後ろや、竜姫の前の席はまだ見たいね。通路を挟んだ席もまだ……か」

 

「時間まで大分あるから仕方ないと思いますよ?」

 

「そやそや。うちはおじいちゃんとこに行っとったからこの時間やけど……他の人はまだ掛かるんとちゃうかな。あ、うち言ってなかったんやけど…「学園長の孫でしょ?」…知っとったん?」

 

「入学手続きの時に学園長にはお会いしましたから。その時にお名前を」

 

「へー。あ、うちの席の隣な?明日菜言うねん。小学校が同じクラスで寮が同室なんや」

 

木乃香の説明にタマモが新入生名簿を開いて確認する。黒板を見れば、フルネームが書いてあるのだが、気にしてはいけない。

 

「アスナ……あ、あった。神楽坂明日菜ってヤツね?」

 

「そや。うちと明日菜に桜子、いいんちょ、柿崎は同じ小学校やね。まぁ、他にもおるかもしれんけど」

 

「ふーん。いいんちょって?」

 

「ああ、アダ名やアダ名。ホントは雪広あやかって言うんよ。学級委員をしてたんや。せやから、いいんちょ。この中等部には、うちが通ってた麻帆良初等部の他に二つの学校から生徒がくるんや。あとは、タマちゃんみたいな外部からやな」

 

木乃香に中等部の説明を受けるタマモたち。興味ないのだが、木乃香が説明している所に水を差すこともないと、相槌をうつ。

 

「そうなんだ」

 

「そうなんよ。それに、麻帆良は学校や学年の垣根を越えた部活がいくつかあんねん。有名どこで言うと、うちが所属しとる図書館探検部やな。このクラスやと、夕映にのどか、ハルナも図書館探検部やね」

 

「へ~。じゃあ、仲いいんだ」

 

「そうやね。初等部の時はグループが一緒やったし、中等部も一緒に組む約束しとんよ」

 

「仲がいいお友達がいるのはいいですね。私もタマモちゃんも、来たばかりで……」

 

小竜姫が羨ましそうに呟くと、木乃香は嬉しそうに笑う。刹那のことで落ち込んでいた時とは、打って変わったその表情に、こちらが木乃香本来の姿なのだと改めて感じる小竜姫であった。

 

 

 

 

 

「竜姫さんとタマちゃんは、寮は何号室なん?今日は入学式だけやし、遊びに行ってもええ?」

 

その木乃香の提案に顔を見合わせるタマモと小竜姫。少々迷ったが、別に秘密にすることでもないことから素直に教えることにする。

 

「私と竜姫は自宅?……アレって、自宅なの?」

 

「自宅でいいんじゃないでしょうか?」

 

「自宅?自宅から通学なん?でも、全寮制な筈や」

 

二人の言葉に疑問を持つ木乃香。当然といえば、当然である。

 

「特例ってヤツ?ま、すぐにバレるでしょうけど、騒がれるのも面倒だから当分は秘密にしといて。それで、知合いが近々開く便利屋の二階?に住むことになってるのよ」

 

「まだ私たちも入ったことはないんです。今日、入学式が終わってからそっちに移る予定で」

 

「へー。せやったら、家具とかは?今日、運ぶん?」

 

「いえ。元が使っていない寮なので、部屋に大体の家具は入ってるそうです。足りないものは、明日買いに行こうかと」

 

「あー、明日は土曜で午前中だけやもんな。ほなら、明日遊びに行ってもええ?お店案内したるよ?」

 

 

「いいの?」「いいんですか?」

 

 

「ええって。お友達を案内するんは当然や」

 

 

 

 

朗らかに笑う木乃香に、おキヌの姿を重ねるタマモと小竜姫であった。

 

 

 

 




一気に入学式当日へ。今回は木乃香回でした。

因みに、前話ラストからの案内は特にこれといった出来事はありませんでした。横島がナンパばかりしようとするので、途中から首輪をつけられたくらいです。

学園話になるので横島くんの出番は次話もありません。あっても、名前が出るくらい?

Aクラスは優秀者を集めたクラス。あやか、千鶴に護衛。中等部の生徒は三つの小学校と外部からなる。木乃香たちが同じ小学校。夕映、のどか、ハルナ、木乃香が図書館探検部に初等部から参加している。
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その4 竜姫とタマモと1-A 後編

麻帆良女子中等部の入学式へ臨むタマモたち。新たに出会ったクラスメイト、近衛木乃香と親しくなるタマモたち。

一言: ネギ美味しいよね。うどんとかにネギ沢山いれるよね?



 

 

 

 

 

 

入学式の時間が近くになるにつれ、騒がしくなる教室。大多数の生徒が教室内にいることもあるのだろうが、中学生活に期待している生徒も多いのであろう。

 

「ふふふふふ。タカミ……いや、高畑先生か。これからは、毎日一緒……!ふふ」

 

……若干、動機が不純な者もいるようであるが。

 

 

 

 

 

自分の前の席で先程から悦に入っている生徒について、木乃香に尋ねる小竜姫。隣のタマモも気になるようで、話しに入ってくる。

 

「あ、あの木乃香さん?神楽坂さんは……その」

 

「教室入って来たときからこうだけど……大丈夫なの?」

 

「あー、明日菜はな?高畑先生が絡むとこうなんや。高畑先生ってのは……ほら」

 

木乃香が新入生名簿を開くと、担任教師の名前を指差す。

 

「うちらの担任なんよ」

 

「本当ですね。気づきませんでした。担任だったんですね……」

 

「へー、タカミチが担任なんだ。あ、刀子が副担任じゃない。あのとき、そ…「アンタ、高畑先生を呼び捨てに!!」…なによ」

 

自分の世界に入っていた明日菜が、タマモの言葉に反応する。

 

「アンタ、今タカミチって」

 

「ああ、それが?」

 

「どんな関係なのよ!!」

 

「落ち着きーや、明日菜。タマちゃん教えたって?明日菜も知りたがっとるし」

 

「どんなって言っても……ね?」

 

「そうですね。こっちに来たときに、街を案内してもらったくらいです。担任だったから、案内してくれたんですね」

 

「そ、そうなの?好きだとかは……?」

 

「私が?ないない」

 

思いがけない問いかけに、顔の前で手を振るタマモ。小竜姫も苦笑している。

 

「そう……。でも、タカミチって……。やっぱり好きなんじゃ!?」

 

落ち着いたかと思われた明日菜であったが、未だ暴走状態であるようで再度問いかけてくる。呆れ顔のタマモに代わり、小竜姫が口を開く。

 

「神楽坂さん、タマモちゃんはほとんどの人を名前で呼びますから。本当に他意はないですよ?」

 

「……たい?」

 

「明日菜、明日菜。好きじゃないってことや」

 

「そ、そうなの?良かった~」

 

やっと納得したのか、机にひれ伏し安心する明日菜。その様子に、明日菜は高畑のことが好きなのだと悟る小竜姫とタマモ。そこに、木乃香が明日菜のフォローをする。

 

「ごめんな~。明日菜は高畑先生のことが好きなんやけど、そのせいでちょっと暴走とかするんや。本人を前にしたら、テンションあげるか固まるかするしな。今朝も昇降口で先生に会って、固まってもうたからウチだけ先におじいちゃんとこ行ったんよ」

 

「へー。ま、頑張りなさいな」

 

「ありがとー。あ、さっきはゴメンね?私は神楽坂明日菜。明日菜でいいわ。苗字は呼びにくいでしょ?そっちの人もね」

 

机から身を起こしながら笑顔で自己紹介をする明日菜。タマモと小竜姫は、

 

「葛葉タマモ。タマモでいいわ。よろしく」

「妙神竜姫です。竜姫で構いません。よろしくお願いしますね」

 

 

「よろしく!!」

 

 

 

 

 

自己紹介を終えると同時に、チャイムが響き教室のドアが開く。開かれたドアから現れたのはスーツ姿の高畑。彼は教室に入ると教壇にたち、生徒たちを見回す。

 

「まずは入学おめでとう。担任になる高畑だ。自己紹介はまた後でするとして、時間がないからね。早速、入学式に行こうか。廊下に並んでくれるかな。何、僕の後について講堂まで行って、入場したらA組の席に座る。式が始まったら、放送に従う。そして、式が終わったら順に退場して教室に戻ってくる。簡単だろ?じゃ、行こうか」

 

時間がないことを印象付けるかのように、すぐに教室を出る高畑。本当に時間がないのだと判断した生徒たちは、足早に廊下へ向かい並び出す。慌ただしく動くクラスメイトを眺めながら、タマモが口を開く。

 

「時間がない……?まだ式まで十分に時間あるんじゃ?」

 

「おそらく、講堂の外に何分前までに待機するとか決まっているんでしょう。しかし、教師が自ら廊下に向かうことで、生徒たちに行動を促すとは。中々やりますね、高畑さん」

 

隣で小竜姫が立ち上がりながら答える。タマモも移動しながら、会話を続ける。

 

「でも、出席も取らないってのはどうなの?」

 

「気配で人数を把握でもしたんじゃないんですか?事前に欠席の連絡があった人を除いた人数が教室に居たから、取らなかったとか」

 

「ま、どうでもいいけどね」

 

そう言うと、タマモと小竜姫の二人は列の最後尾に並ぶのであった。先頭を見れば、明日菜が木乃香を引っ張って立っているのが見えた。高畑が教室を出るのと同時に動き出しただけのことはあると、明日菜の行動力に感心する二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

人によっては退屈な入学式も終わり、現在生徒たちはそれぞれの教室に戻ってきたところである。教壇には式の前と同じく、高畑の姿があり、その横にはスーツ姿の刀子の姿もあった。

 

「あー、それではLHRを始めるよ。まず……改めて入学おめでとう。君たちの担任となる、高畑・T・タカミチだ。ミドルネームのTについては、秘密ってことにしておこうか。担当教科は英語。よろしく頼むよ」

 

そこまで言うと、隣に立つ刀子を促す高畑。それを受けて、刀子は一歩前に出ると自己紹介を始める。

 

「副担任の葛葉刀子よ。担当教科は古典。よろしく」

 

そう言って、一歩さがり元の位置に立つ刀子。その後は、生徒たちの自己紹介へと移っていく。

 

「さて、今日は軽く自己紹介をしてもらおうか。そのあとは、明日の連絡事項を伝えたら解散だ。そうだね、出身小学校と……あ、麻帆良外部から来た子は外部って言えばいいよ。あとは、趣味とかかな?それじゃ、窓側の席の……後ろの方から頼むよ」

 

その高畑の言葉で自己紹介は始まっていくのであった。

 

 

 

 

 

「龍宮真名。外部から来たが、実家は龍宮神社。趣味は、ダーツかな」

 

長身で褐色の肌の美女が自己紹介を終えると、同じく長身で長い髪をポニーテールにまとめた美女が自己紹介を始める。

 

「大河内アキラ。麻帆良女子付属から来ました。趣味というか、好きなことは泳ぐことです。よろしくお願いします」

 

その後も、順調に自己紹介は進み小竜姫の番が回ってくる。

 

「妙神竜姫です。苗字は呼びにくいでしょうから、竜姫と呼んでください。外部から麻帆良に来ました。趣味は、剣術の稽古ですかね?よろしくお願いします」

 

「これは、手合わせをお願いしたいとこでござるな」「くー、強そうアル」

 

小竜姫の言葉に反応する者が数名いたが、何事もなく次の明日菜の番になる。

 

「か、神楽、神楽坂明日菜です!!本校初等部から来ました!す、好きなものは、たか…「落ち着いて、明日菜くん」…は、はい。好きなことは、体を動かすことです」

 

高畑の前ということで緊張していた明日菜は、自己紹介を終えるなり机に突っ伏す。あまりの緊張に、余計なことまで口走りそうになったが、気のせいであると信じたい明日菜であった。

 

その後、自己紹介は折り返しとなる人物へと差し掛かる。その人物は、長い金髪をなびかせ席を立つと周囲を見回し、自信あふれる態度で自己紹介を始める。

 

「雪広あやかですわ。本校初等部からこちらへ来ました。初等部のときもクラス委員長を任されていましたから、中等部でも立派に勤め上げる所存ですわ。趣味は色々ありますが、華道が好きですわね。皆様、よろしくお願いしますわ」

 

タマモと小竜姫は自己紹介を終えた少女を見つめる。護衛対象となるかもしれないのだから、他の生徒よりも興味を持って聞いていたがお嬢様言葉を現実に使うものがいることに驚いてもいた。

 

((お嬢様言葉って漫画だけの話じゃないんだ……))

 

 

 

 

小竜姫たちが衝撃を受けている間に、木乃香の番が回ってきていた。

 

「ウチは近衛木乃香いいます。本校の初等部から来ました。趣味は占いで、中等部になったんで、占い研究会をつくろうと思ってます。興味あったら、一緒にやらへん?」

 

笑顔で勧誘を兼ねた自己紹介を終えた木乃香。やって来たチャンスを逃さない、強かさを持っているようである。

 

「葛葉タマモ。タマモでいいわ。苗字だと先生とかぶるしね。外部から来て、趣味は……食べ歩き?好物は油揚げよ」

 

タマモが自己紹介を終えるが、次の人物が中々自己紹介を始めない。それに気づいた高畑が、促すとその少女――長い髪を首のあたりで二つに結んだ、メガネをかけている――が自己紹介を始める。

 

「あ、長谷川千雨です。付属からきました。趣味は読書です」

 

そう言うと、少女――千雨――は座る。おとなしい外見とは裏腹に、その内心では嵐が吹いていた。

 

(なんだよ!このクラスはっ!お嬢様言葉のヤツはまだいい。実家が神社とかもいい。だけど、ござる口調のヤツはなんだ!!キャラつくってんじゃねーよ!!しかも、小さく“にんにん“とか言ってんじゃねーよ!!しかも、前の席は二人とも変だし!なんだよ、趣味が剣術って。剣道じゃねーのかよ!剣術って、アレだろ!実践的な!!そんなの趣味にしてる中学生なんているかー!!それに、葛葉ってヤツもだ。趣味はいい。好物も……油揚げってのは変わってるが、それだけならいい。でも、なんだよ!その髪!ナインテールって!そんな髪型みたことねーぞ!!名前がタマモで、好物油揚げで、ナインテールで金髪って!!お前はアレか!九尾の狐にでも憧れてんのか!!)

 

 

 

 

一人の少女の心にツッコミの嵐が吹いていても、自己紹介は何事もなく続けられていく。

 

「明石裕奈!付属から来ました。趣味は、お父さんのお世話です!」

 

(なんだよ!趣味が父親の世話って!!)

 

千雨の嵐はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

「桜咲刹那。京都から来ました。趣味は運動」

 

それだけ言うと、刹那は自己紹介を終えて席につく。彼女は、正直自己紹介どころではなく、他の生徒の言葉もほとんど耳に入っていない状態であった。何故なら、彼女の鋭敏な神経は、ある少女の気配を探り続けているからである。

 

(お嬢様……)

 

 

 

 

刹那から伝わる緊張の気配を気にかけていたタマモは、再びやって来た護衛対象となるかもしれない少女の自己紹介に耳を傾ける。

 

「那波千鶴です。麻帆良小学校からきました。趣味はボランティアです。よろしくお願いしますね?」

 

千鶴の中学生では中々持ち得ぬ落ち着きに関心する小竜姫。タマモはその落ち着きようから、小竜姫のように年齢を誤魔化しているのではと思ってしまう。その瞬間、悪寒が走るがすぐに霧散した為、気のせいかと思うタマモ。後日、明日菜にこの時のことを話すと、タマモと同じことを考え、その瞬間に悪寒が走っていたらしい。

 

それにしても、とタマモは思う。このクラスは美少女と世間で評されるような容姿の子が多すぎないかと。実は、優秀な者を集めたのではなくて、容姿端麗なものを集めたクラスなのではないかと疑いを持つレベルである。中には、美少女よりも美女という言葉が似合う者までいる。

 

(ここに横島が来たら何ていうのかしら?中学生って事実を嘆く?それとも、中学生でもいいやってナンパするのかしら。……上手く利用すれば、私に有利になるかも)

 

タマモが頭の中で何やら企んでいる頃、事務所のガスなどの開通工事にたちあっていた横島は悪寒を感じたという。

 

その悪寒が意味することが、横島の矜持(=ロリ否定)を守る戦いが始まることを意味するのか、守りきれずにタマモの魔の手に堕ちることを意味するのか。はたまた、別の何かによるのか。この時の彼らには、知る由もなかった。

 

 

 

 

横島が原因不明の悪寒にさらされていた頃、麻帆良女子中等部一年A組では自己紹介も終わり、連絡事項の伝達へと移ろうとしていた。

 

「えーと、エヴァンジェリン君は体調不良で保健室だから、これで自己紹介はおわりだね。明日は、プリントやらの配布物の配布、委員決め、クラス懇親会がある。懇親会と言っても、特に準備するものはないから、持ち物はカバンと筆記用具で十分だ。じゃ、解散」

 

 

 

 

高畑の言葉で解散する一同。こうして、小竜姫とタマモの麻帆良学園女子中等部での初日は幕を閉じるのであった。

 

 




入学式の描写はなし。自己紹介は一通り軽く考えましたが、ヒロインpt上位者以外はカット。エヴァ?入学式サボりました。

刀子先生が副担任。麻帆良女子初等部、麻帆良女子付属初等部、麻帆良小学校の三校から中等部に進学。各生徒たちの出身小学校。龍宮が中学から麻帆良に来た。
これらは作中オリジナルの設定です。


現在、決定しているヒロインは以下の通りです。
小竜姫、タマモ、明日菜、木乃香、あやか、刹那、千雨、真名、アキラ、エヴァ、千鶴、裕奈。
計12人です。予定しているヒロイン数の約半分相当です。

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休み時間 その1
超鈴音さん企む


これは、タマモと小竜姫が麻帆良女子中学校に入学した日のこと。彼女らが廊下で刹那と別れ、木乃香と出逢ったときのある一人の女生徒のお話。


一言: 思いつき。本編裏側……シリーズ化するかも


 

 

 

 

 

 

 

小竜姫とタマモが刹那と廊下を歩いていた頃。一年A組の教室に、その少女の姿はあった。

 

俗に言うお団子ヘアーの彼女の名前は(ちゃお)鈴音(りんしぇん)

 

 

 

 

――好きなものは世界征服と断言する、自称 マッドサイエンティストである。

 

 

 

 

 

教室に一番乗りした彼女は、クラスに入ってくる少女たちを確認しては、何やら端末を操作している。

 

(彼女たちは……釘宮円、柿崎美砂に椎名桜子。この三人は問題ないネ。……ネギ坊主が来るまで、約二年。その間に、準備を終えなくては……。その為にも、私が持つ情報の確認と、この時代で収集した情報の分析を進めないといけないネ)

 

彼女が持つ端末には、様々な情報が表示されている。その中のある箇所をタッチすると、数名のクラスメイトの顔写真が映し出される。

 

(優先して確認したいのは、ネギ坊主のパーティーとして名が知られている人たちネ。刹那サン、古、楓サンはちゃんと入学することは確認済。明日菜さんと木乃香さんもOKネ。このグループはまず間違いなくネギパーティに入る筈ネ)

 

表示した画面を元に戻し、次に “パーティIN70%”と書かれた画面を表示すると、そこには夕映とのどか、ハルナの写真と情報が。

 

(この三人は、のどかさん次第ネ。ネギ坊主がのどかさんにどう接するかで、魔法に関わるかが決まると言ってもいいネ。出来れば、のどかさんには仮契約して欲しくないネ。あのアーティファクトは計画の妨げに……。それに彼女がネギ坊主に好意を持っていたと言うのは、物語にもなった有名な話だけど……あんな“最期”になるのなら)

 

そこまで考えて頭を振る超。その眉間には深い皺が刻まれていた。気を取り直すかのように、一度大きく息を吐く。

 

(他のクラスメイトは、パーティーに入った記録はない……が、何人かは協力者として名前が残ってるネ。彼女たちが、何かのきっかけで仮契約する可能性は……否定しきれないネ。まぁ、全てはネギ坊主が来てからネ。それまでは、私が来たことによる影響の調査、それに伴う計画の修正。そして、世界樹の魔力の調査。この三つを中心に進めていくしかないネ)

 

超は端末をカバンの中にしまいながら、最近追加した二人の情報を思い出していた。

 

(“妙神竜姫”と“葛葉タマモ”……か。本来、クラスに存在しない筈の二人。私が行動した影響……)

 

最後に表示した二人の情報。その情報は、超が歴史に影響を与えたことを示していた。

 

 

 

妙神竜姫:魔法世界出身。絡繰茶々丸という新たな従者を得たエヴァンジェリンに、不安の声をあげる魔法関係者に配慮し、新たに雇い入れた少女。高畑自らスカウトしており、実力は高いと思われる。実力の調査が必要?

 

葛葉タマモ:魔法世界出身。妙神竜姫と同様に、エヴァンジェリンに対する抑え、監視の為に雇われた少女。また、妙神竜姫とコンビで賞金稼ぎをしていたとのこと。同じく、実力の調査が必要?

 

備考:エヴァに対抗する為に雇われたことから、吸血鬼に有効なAFを所持している可能性あり。戦闘タイプなので、二人とも従者である可能性も。

 

横島忠夫:妙神竜姫、葛葉タマモと同居する男性。魔法世界出身。彼女たちとパーティーを組んでいる。データによると、凄腕のトレジャーハンター。魔法先生ではなく便利屋を隠れ蓑にしていることからも、直接戦闘より情報収集に優れている可能性が高い。

便利屋は女子寮とエヴァンジェリン宅の中間にあることからも、エヴァンジェリンの動向を探っている可能性は高い。

 

備考:警備の仕事に現時点では登録されていない為、エヴァンジェリン専任の可能性あり。

 

 

 

 

 

脳裏でデータを思い浮かべていた超は、自分が確実に歴史に影響を与えていることを実感し、思わず考えていることを口に出してしまう。その顔には、目的に近づいている満足感からか、不敵な笑顔が浮かんでいた。

 

「ふふ……。未来は変えられる。私たちが茶々丸を創ったことで、警戒されてしまったエヴァンジェリンには悪いが、いい隠れ蓑になってもらうネ。まぁ、向こうから持ちかけてきたのだから、自業自得ネ。ま、そうなるように仕向けたのは私だけどネ」

 

 

 

「全ては……世界の平和の為。なんだって利用してやるネ」

 

 

 

そう呟くと、彼女は再びクラスメイトたちを観察するのであった。

 

 

 

 

 

その後、彼女が木乃香と仲良く話しながら教室に入ってきたタマモたちを目撃し、彼女たちのネギパーティー入りを検討せざるを得なくなったのは別の話である。

 

 

「一体誰ネー!!余計な二人を麻帆良に入れたのはー!!」

 

 

 




突発的裏側シリーズ(未定)。本編のあの頃を別視点で。基本短いです。
タマモたちの情報は、超が学園のデータベースをハッキングした時に判明したデータです。
横島たちが警備に加わっていることは、限られた人たちしか知りません。
また、登録されているデータは、関係者に見せる為に辻褄を合わせたデータなので、事実とは違う情報となっています。

のどかの物語は、簡単に言うと悲恋の物語です。気になる方は超に聞いてください。

超が知っているネギパーティのメンバー。のどかが物語になっている。超がクラスメイトたちを調査した。エヴァの家と女子寮の中間地点に便利屋「よこっち」がある。
これらは拙作内設定です。

ヒロイン残り数十を切りました。誰が滑り込むのか。今更ですがGS勢からヒロインって需要あるのだろうか。色々考えましたが、合流させにくいと少し後悔中。

ご意見、ご感想お待ちしております。
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3時間目:便利屋「よこっち」開業
その1 横島くんたち買い物に行く 前編


タマモと小竜姫は入学式を迎え、少女たちと出逢う。神楽坂明日菜に近衛木乃香。タマモたちと出逢ったことで彼女たちの運命は緩やかに、確かに廻り始める……


一言: 油揚げのお味噌汁が好き


 

 

 

 

 

 

入学式の翌日。旧麻帆良女子寮――現、便利屋「よこっち」の前に、タマモと小竜姫、そして複数の女性の姿があった。

 

「ほえー、ここがタマちゃんと竜姫さんのおうちなん?」

 

「ええ。ここが私たちの住む家。そして、その一階が便利屋……」

 

 

 

 

 

「「よこっち」や」

 

 

 

 

 

背後からの声に振り向く一同。そこには、両手に買い物袋を下げた男性――横島――の姿があった。

 

「よー、タマモ。竜姫もお帰り(……慣れないなー)。で、そちらのお嬢さん方はタマモたちの友達かな?ようこそ、よこっちに。所長の横島忠夫だ」

 

荷物を下げたまま、手を軽く上げ挨拶する横島。人の良い笑顔を浮かべて挨拶をするその姿は、好青年に見えるから不思議である。

 

「アンタどこ行ってたのよ。木乃香たちを連れてくるってメールしたでしょ?」

 

「まぁまぁ、タマモちゃん。でも、出かけるなら一言、連絡してくださっても良かったんじゃないですか?」

 

「ん?待たせちまったか?そりゃ、悪かった。君たちもゴメンな?いやー、ジュースでもあった方がいいかと思ってな。買い出しに行ってたんだ。ほら」

 

タマモと小竜姫の言葉に、悪いと思ったのか袋の中身を見せながら謝る横島。中にはジュースのボトルが複数。種類が全て別なあたり、この男の気遣いを感じる。

 

「そ。なら許す。……って、みんなどうしたの?」

 

「さぁ?木乃香さん?皆さん?どうかしましたか?」

 

横島との会話を終えた二人が振り返ると、固まったかのように動かないみんなの姿が。二人がどうかしたのかと不思議そうに見ていると、木乃香が我に返り横島に挨拶をする。

 

「こ、こんにちは。近衛木乃香いいます。竜姫さんとタマちゃんのクラスメイトです」

 

それに続けとばかりに、残りの少女たちも挨拶する。

 

「綾瀬夕映です。同じくクラスメイトです」

 

「み、宮崎のどかです。よろしくお願いします」

 

「おう、よろしく。それで、木乃香ちゃんが学園長のお孫さん?」

 

「そうです。おじい……祖父は学園長の近衛近右衛門です」

 

「おお、そうか。いやー、学園長には開店の準備で手伝いを色々してもらってなー。それに、開店祝いの花もくれるって言ってたし。いいおじいちゃんだな」

 

「はい!」

 

横島と木乃香が会話している間に、タマモと小竜姫に夕映とのどかが駆け寄って話しかける。

 

「く、葛葉さん!男性と同居しているなんて聞いてないです!」

 

「お、男の人はちょっと……」

 

「あれ、言ってなかったっけ?知合いと同居してるって。あ、あとタマモでいいわよ」

 

「では、タマモさんと。私のことも夕映で……って、そうじゃなくてですね!確かに同居しているとは言いましたが、男性だとは一言も!ま、まさか同棲!?」

 

「いやいや、同居!?同居だから!?」

 

突拍子もないことを言う夕映に、近くに来ていた横島が慌てて否定する。中学生と同居なんて噂が立てば、今後のナンパ生活に影響が出てしまう。

 

「あの~。中に入りませんか?」

 

小竜姫の提案で落ち着きを取り戻すと、とりあえず中へ入る一同であった。

 

 

 

 

 

中へ入った一同が目にしたのは、事務所と玄関を分ける仕切りであった。事務所への扉には“便利屋「よこっち」”と書かれており、中がその事務所なのであろう。

 

「ここに住んでるのですよね?上階へは事務所の中から上がるのですか?」

 

夕映が二階へ上がる階段などが見えないことに、疑問を持つ。三階建ての建物と聞いていたし、外観もそうであったのだから当然の疑問である。

 

「ん?ああ、そっちにもう一つ扉があるだろ?あそこから上がんだ。二人とも先に着替えてきな」

 

夕映に説明したあと、学校帰りの為未だ制服姿の小竜姫とタマモに着替えてくるように言う横島。木乃香たちはここにくる途中に寮に寄って着替えている為、既に私服姿である。

 

「ありがとうございます。それでは、皆さん少し待っていてくださいね?」

 

「手出すんじゃないわよー!!」

 

「誰が出すか!!……ったく。それじゃ、中に行こうか?」

 

タマモの軽口にツッコミを入れた横島が、木乃香たちを促し事務所スペースの扉を開ける。その後を木乃香は微笑みながら、夕映とのどかは興味深そうに周囲を見回しながらついていく。

 

「ようこそ、“よこっち“へ。いやー、君たちが初めてのお客さんだ」

 

「暇なんですか?」

 

「ゆ、ゆえ~。失礼だよ~」

 

横島の言葉に、思ったことを正直に告げる夕映。のどかが咎めているが、気にも止めていないようである。木乃香は木乃香で笑うだけである。

 

「お、キツイこと言うね~。夕映ちゃん……だっけ?のどかちゃんも気にしなくていいからね」

 

「すみません、すみません」

 

「いや、本当怒ってないから。初めてのお客さんってのは本当だしね」

 

「それで大丈夫なんですか?失礼かとは思いますが、便利屋なんて職業で中学生二人に成人男性の生活費、この建物の光熱費が稼げるとは……」

 

「う~ん、どうだろうな。なんせ、開業は来週だから客が入るかどうか。ま、収入は他にもあるから大丈夫じゃないかな?」

 

夕映の心配の言葉に軽口で返す横島。実際、十分な収入は保証されている為の言葉であるが、実情を知らない夕映たちからしたら、なんとも頼りない台詞である。

 

「まぁ、それなら……。思わず口にしてしまいましたが、部外者が口を挟んでいいことではないですし。失礼したです」

 

「あー、気にしない気にしない。ほら、座って。ジュースでも飲んで」

 

「お構いなく。私は自前のジュースがありますので」

 

そう言って取り出したのは、“不死鳥の涙 微炭酸”とラベルに書かれたパックジュース。そのネーミングに横島が驚くが、夕映は気にせずストローを咥え飲み始める。

 

「な、なぁ、木乃香ちゃん?アレって……」

 

「アレ?ああ、夕映は変わった名前のジュースを飲むのが好きなんや。何か変なジュースを求めて、街を徘徊するらしいえ?」

 

「徘徊……。ま、好きなものは、人それぞれって言うしな。のどかちゃんも好きなジュース開けて飲みな?木乃香ちゃんも」

 

「はいな」

「あ、はい。ありがとうございます。……それじゃ、これを」

 

三人がソファーに座りジュースを飲み出したのを確認すると、横島は残りのジュースを冷蔵庫にしまう。

 

 

 

 

ここで簡単に事務所の内装を説明すると、入口から見て一番奥に事務机があり、机上には“所長 横島忠夫”と書かれたプレートとパソコン、電話が置いてある。

 

事務机の右側には、書類棚が置いてあるが、中身はスカスカでファイルが二つあるだけ。事務机の左側には、小さな冷蔵庫。その横には扉があり、流し台や食器棚のあるスペースに出入りできる。事務所の中央にはテーブルがあり、それを挟むようにソファーが二つ配置されている。

 

 

 

 

 

「それにしても、殺風景な事務所ですね?観葉植物とかは置かないですか?」

 

ジュースを飲みながら周囲を見渡した夕映が言う。

 

「ああ、そこら辺は追々ってことで。今日、明日で揃えたいとこだけどな。模造刀とかあったらカッコよくないか?」

 

「どこのヤクザ事務所ですか。観葉植物とか、絵画とか……あとは、そうですね」

 

「事務所のモットーみたいなんを書いたポスターとか?“安くて早い!何でもやります”みたいな」

 

事務所を飾るものを上げていく夕映と、ポスターを提案する木乃香。横島をそれを聞きながら、成程とメモを取っていく。一応、美神不在時に事務所経営を経験しているが、あの時は箱――事務所――は完成していた。経営自体の経験はあれど、事務所を作った経験はないのである。

 

「ほー、二人ともよく知ってるなー。そうだ、のどかちゃんも何かない?」

 

「は、はい!すみません、ないです……」

 

「あー、ゴメン。驚かせちゃったか?」

 

ビクッと肩を震わせるのどかに、驚かせてしまったかと謝る横島。そんな横島の言葉に、のどかは俯き何やら小声で言っている。

 

「ゴメンなー横島さん。のどかは男の人が苦手なんや。多分、慣れれば大丈夫やと思うんやけど」

 

「そっかぁ。のどかちゃんみたいな、可愛い子に嫌われたのかと思ったよ。あ、勿論木乃香ちゃんも夕映ちゃんも可愛いぞ!」

 

「もうー、お世辞が上手なんやから」

 

お世辞に慣れているのか、木乃香が言葉を返す。どう返せばいいのか分からないのどかは更に俯き、夕映はそっぽを向いている。

 

「ホントだって!今はまだ美少女だけど、あと三年すれば文句なしの美女だ!お兄さんが保証するって」

 

「な~に、ナンパしてんのよ」

 

「なっ、タマモ!コレは違うぞ?オレが中学生をナンパするわけないやないか」

 

「ど~だか。コイツには皆も気をつけなさい」

 

いつの間にか事務所の入口にいたタマモの言葉に焦り、否定の言葉を紡ぐ横島。その言葉を流し、三人に注意を促すタマモ。その背後には、苦笑を浮かべる小竜姫の姿もある。

 

「さて、行きましょうか?横島さんも行きますよ?」

 

「へ?オレも?」

 

小竜姫の言葉に、自分の顔を指差す横島。それに、当然と言う顔をする小竜姫たち。

 

「ええ。いくら必要になるか分かりませんから。私たちが大金を持つ訳にもいきませんし。それに、事務所に必要なものや横島さんの私物も揃えないと」

 

「いや、オレの私物は別に……。それに、ほら!のどかちゃんも男が一緒だと嫌だろう?」

 

「あ、あの……。私なら大丈夫ですから……。そ、その、横島さん怖くないですし。二メートルくらい離れてれば……」

 

「二、二メートルですか……。いや、無理しなくてもいいんだぞ?ほら、嫌なら嫌って言わないと」

 

「……大丈夫です。横島さん、私が男の人苦手だって言ったら、視界に入らないようにしてましたし、私の話をちゃんと聞いてくれますし」

 

「アンタそんなことしてたの?」

 

「う~ん、まぁ、女の子を怖がらせたり泣かせるのは、さいてーやからな」

 

タマモの言葉に頬を掻きながら答える横島。少々頬が赤いのは、自分の言葉に照れているからなのだろうか。

 

「うしっ、分かった。のどかちゃんが大丈夫って言っているんだし、オレも行くか。確かに、見た目中学生のお前らが大金を持つのもなんだしな」

 

「見た目中学生って、タマちゃんたちは正真正銘の中学生やで?」

 

「あ、アハハハハ!ほら、タマモのヤツ態度がでかいから!何か中学生ってことを忘れるっていうか!」

 

「本当に?」

 

木乃香からの指摘に、焦りながら誤魔化す横島。横島の間抜けさに、額に手を当てる小竜姫とタマモ。それを脇目に、夕映がのどかに話しかけていた。

 

「よくやったです、のどか。確かに、横島さんはこちらを気にかけているようですし。それに、とても年上とは思えません。この機会に少しでもマシになれば……」

 

「うぅ~、頑張るけど……。いきなりは無理だからね……?」

 

「それで十分です。こういうのは時間をかけてやるものですから」

 

 

 

 

 

横島の誤魔化しを信じたのか、聞かない方がいいと判断したのか木乃香が追求をやめ、タマモに話しかける。

 

「そや、タマちゃん、竜姫さん。昔、寮やったからある程度揃っとるって言うとったけど、何があるん?」

 

「そうですね。寝具一式、机に椅子、あとは、箪笥に……」

 

「クローゼット、小さな冷蔵庫と食器棚。もっとも、コンロはないからカップとかを入れるんでしょうね」

 

「それでは、食事は何処で作るのですか?」

 

「ああ、二階が共有スペースみたい。ダイニングキッチンに、お風呂。洗濯機もそこね。談話室っていうの?テレビとソファーがある部屋もあったわ。あ、トイレは各部屋ね」

 

「私たちの寮もそうですが、結構揃っているのですね」

 

タマモと小竜姫の説明から、寮の設備に感心する夕映。

 

「去年まで、女性職員の独身寮だったらしいからなー。それなりに揃ってたんだと。その前は男性職員寮だったから、キッチンは共有だったらしいがな」

 

「何故、不要になったのでしょう?」

 

「あー、やっぱり各部屋にキッチンと風呂がないのが不評だったらしい。それに、新しく寮が出来たとか言ってた」

 

「そういうことですか……」

 

夕映のツッコミに答えていく横島。これまでのやり取りの中で、夕映が疑問を口にしないと気がすまない性格と知った為、慌てず一つ一つの疑問に答えていく。

 

「あ……。すみません、話を戻しましょう。それで、タマモさんたちは何を買いたいのですか?聞いた限りでは、一通りのものは揃っているようですが」

 

「まずは食器ね。私たちの分もだけど、事務所の来客用のカップとかも。あとは服に、小物類。最後に、事務所に必要なものってとこかしら?時計もないしね、この事務所」

 

「そうですね~。当面必要な家具は揃ってますしね。まずは、それらが先ですね」

 

「ほなら、行こか?」

 

「食器だったら何処がいいかな?」

「移動も考えると、街のお店より総合百貨店の方が楽ですが……」

「そやね~。時計とか、事務所用の食器はそっちで買ったがええやろな。街のお店は、可愛いのが多いけど、事務所には合わんわ」

 

木乃香の一言で事務所の外へと歩きながら、買い物のプランを立てる顔は楽しそうである。木乃香はともかく、夕映とのどかも笑顔を見せているあたり、やはり女の子。買い物が楽しいのだろう。

 

横島は先に行く三人を追いかけながら、いつの間にか近くにいたタマモと小竜姫に話しかける。

 

 

「三人ともええ子や。ええ友達が出来たみたいやな?」

 

 

その横島の言葉に二人は顔を見合わせると、笑顔で告げるのであった。

 

 

 

「当たり前よ!私の友達なんだから!」「はい!皆さん、得難き友人です!」

 

 

 

 




横島一行+図書館組-ハルナで買い物に。委員決めやクラス懇親会の様子を期待された方はすみません。
懇親会は次話かその次に触れるかと。委員はさらっと次話にでも。あと、夕映とのどかが合流している経緯も。

今更ですが、この作品のシリアス担当はまえがきです。前話の内容をシリアス風味にして、頑張っています。

不死鳥の涙 微炭酸。女子寮の近くに旧寮があった。
これらは拙作内設定です。

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その2 横島くんたち買い物に行く 後編

買い物へと出かける横島たち。おっとりした木乃香、冷静沈着な夕映、男性恐怖症ののどかの三人に案内されて、麻帆良の街へと繰り出すのであった……


一言: 豆腐のお味噌汁も好き。でも、やっぱり油揚げのお味噌汁が一番だと思う。


 

 

 

 

「タマちゃん、タマちゃん。このカップよくない?」「どれ?」

 

「竜姫さんは湯呑ですか。渋いですね」「そうですか?やっぱり日本茶は湯呑じゃないと」

 

麻帆良学園都市にあるデパートの食器売り場に横島たちの姿があった。

 

タマモは木乃香と、小竜姫は夕映と一緒に食器を見て回り、横島はのどかと一緒に来客用に使う食器を選んでいる。

 

「ゴメンな、のどかちゃん。選ぶの手伝わせて。なんだったら、タマモたちの所に行っても……」

 

「あ、いえ。大丈夫です。それに……」

 

「ん?あ、これよくないか?ほら、何処かホームズっぽいしな。帽子とキセル柄って。便利屋って探偵に似てるし」

 

「そ、それはどうなんでしょうか……?お客さんに出すのなら、絵柄が入っているものより、シンプルに無地なものがいいかも……」

 

「あ~、そうか。じゃあ、無地のヤツ見に行くか。無地のヤツは……?」

 

「あ、こっちみたいです」

 

「お、そっちか。いやー、のどかちゃんはしっかりしてんなぁ」

 

「そ、そんな」

 

何かを言いかけたのどかに気づかず、手に持ったカップを見せ意見を尋ねる横島。おどおどしながらも、きちんと意見を伝えるのどか。その後も、二人は会話を交わしながら食器を選んでいく。

 

その光景を見守っていた夕映。木乃香がタマモと食器を見に行った際に、のどかの男性恐怖症を克服する為と横島と二人きりにさせたが、心配は心配であったらしい。

 

意外と上手くやっている光景に、一安心といった様子である。

 

「ふふ。のどかさんが心配ですか?」

 

「気づいてたですか!?」

 

「あれだけ振り向いておいて、気づかない方が難しいかと。心配しなくとも大丈夫です。のどかさんに手を出したりしませんよ」

 

「そのような心配は……。いや、街中でのナンパを見てますから、完全に信用してる訳でもないのですが」

 

夕映の脳裏によぎったのは、デパートに来るまでの道中で、片っ端からナンパしてはタマモや小竜姫に止められる横島の姿。

 

何処かコントじみていたその光景は、事務所で気を配っていた横島とは別人のようで、彼も所詮ただの男かと思ったものである。

 

……何故か、木乃香とのどかは笑って、楽しい人だねと言っていたが。

 

「?それでは、何を心配なさっているのですか?」

 

考え事に集中していた夕映は、小竜姫の質問で我に返ると、自分が心配していたことを告げる。

 

「のどかは男性が少々苦手なのです。それが、横島さん相手だと多少マシな反応を見せてました。ですから、思い切って二人きりにしてみたのですが、やはり心配で」

 

「そうですか……。何故男性が苦手なんでしょうか?」

 

「のどかは基本的に恥ずかしがり屋な性格でして。最初はそれが、異性には特に強く出ているだけだったなのですが……。小学生のころに、男子生徒にからかわれた体験や、奴らの粗暴なところ、こちらを気にしない身勝手な行動などから、男性に近づくことに多少の恐怖を覚えるようになったのです。結果、徐々に苦手意識が積み重なり今にいたってます」

 

「そうなんですか。でも、横島さんが相手ならきっと大丈夫ですよ」

 

「何故ですか?」

 

言い切る小竜姫に、疑問の声をあげる夕映。それに、答える小竜姫の顔は何処か誇らしげだった。

 

「横島さんは、優しい方です。特に女性や子供には。それに……」

 

「それに?」

 

「期待には必ず答えてくれます。きっと、のどかさんのことも……」

 

 

 

 

 

そんな会話がされているとは知らないのどかと横島は、順調に食器を選んでいく。

 

「う~ん。茶請け用の皿も必要か……?それに……」

 

「あ、あの……。さっき選んだカップと同じデザインのカップが、あっちでティーセットとして売られていました。フォークとお皿もセットになっていますし、そちらの方が統一感がでていいんじゃないでしょうか?あとは、日本茶も出すなら湯呑も必要になるんじゃないでしょうか?」

 

「そうなのか?それなら、そっちを買った方が良さげだな。それに、湯呑も必要か……。本当、のどかちゃんがいて助かってるよ。ありがとな」

 

「そ、そんな。私なんか……」

 

「ダメだぞ~。君みたいな可愛いくていい()が、私なんかって言っちゃ。時として謙遜は罪になるってもんだ。イケメンがいくら自分はイケメンじゃないって言っても、それはイヤミでしかないかんな。……チクショー!顔がいいからって、余裕かましやがって!!」

 

過去の出来事を思い出しているのか、宙を見上げ叫ぶ横島。横島の突然の奇行に、怖がるより先に呆気に取られるのどか。しばし呆然としていたのどかであったが、こみ上げてくる笑いを耐えることができなかった。

 

「ふふ」

 

「お、やっぱりのどかちゃんは可愛いな~。笑ったら、更に可愛いとは」

 

「あ、あぅ……」

 

横島の言葉に顔を朱に染め俯くのどか。長い前髪で、その表情の大半を隠しているが、それでも隠しきれていない。

 

そんな分かりやすいのどかの反応に気づきもせず、横島は会話を続けていく。

 

「ああ、そう言えば聞くタイミングを逃していたんだが……。のどかちゃんと夕映ちゃんは、何で一緒に来たんだ?」

 

「え?」

 

「あ、いや。来ちゃダメだったとかじゃないぞ? ただタマモからは、木乃香ちゃんだけ連れて来るって聞いていたからさ」

 

「そ、それは……、木乃香が」

 

横島の質問に、のどかはゆっくりと自分たちが同行することになった経緯を話始める。

 

 

 

 

 

「どこ行くですか?木乃香さん」

 

「あ、夕映にのどか。ハルナは一緒やないん?」

 

寮の自室で着替えを終えた木乃香が、外出しようとエレベーターを待っていると夕映とのどかに声をかけられる。

 

「ハルナは、漫画研究会にも入るつもりらしくて……。麻帆良祭での販売枠がどうのと言って部屋に篭っているです」

 

「販売枠?」

 

「何でも漫画研究会では、研究会で認められた作品を麻帆良祭で売るみたいで……。その枠に入る為に、構想を練ってるみたい……」

 

「なんや、ハルナ考えてなかったん?」

 

「それを聞いたのが、今日漫画研究会を覗いたときらしくて……。考え事の邪魔になりそうだから、図書館島にでも行こうかって夕映と」

 

「そうなのです。これまでは、初等部の生徒は仮部員ということで、図書館探検部の発表会には参加できてましたが、地下には入れませんでしたから」

 

「あ~。ウチらも中学あがったから、地下三階までいけるんか。でも、正式に部員になれるんは部活紹介が終わってからやろ?それまでは入れんのと違うん?」

 

木乃香の指摘に顔を見合わせる夕映とのどか。どうやら、忘れていたらしい。

 

「失念していたです。……どうしましょうか、のどか?」

 

「う~ん。部屋には戻りにくいし」

 

悩み始めた夕映たちに、木乃香はそうだと手を胸の前で合わせると、二人に提案する。

 

「そや!二人もウチと来いへん?」

 

 

 

 

 

「……と、言う訳で木乃香に誘われる形で……。タマモさんと竜姫さんもいいって言ってくれたので」

 

同行することになった経緯をのどかが説明すると、納得したのか大げさに首を縦に降る横島。

 

「なるほど。せやったんか。しかし、探検部とかあるんか」

 

「図書館島を探索して、その蔵書の全てを見つけるのを目的に作られた中等部から一般までの合同サークルなんです。初等部も一応所属できるんですけど、そっちは自分たちだけでは探索できなくて、仮扱いなんです。探索の他にも年に数回ある発表会では、探索の成果を発表し発足時から毎回新発見が報告され続けているんですよ?それに、地下深くには魔道書や秘宝、世間から抹消された書類もあるとか。他にもですね……」

 

自分の好きな本の話題である為か、先程より興奮気味に言うのどか。正直、本にはそれほど(全く)興味のない横島だが、探検や秘宝という部分には男として心惹かれるものがあるようで、きちんと話を聞いている。

 

「そうか、ちょっと興味あるな……。ま、その内行ってみるか」

 

横島がそう言うと、背後から声がかけられる。

 

「そん時はウチらが案内したるよ?タマちゃんも行く?」

 

「私は興味ないわ」

 

声をかけたのは木乃香であり、その横にはタマモが。タマモの食器を選び終えたのであろう。その手には買い物かごがある。

 

「お、決まったか?こっちも……ほら。のどかちゃんのおかげで」

 

横島が差し出したかごの中を確認するタマモと木乃香。のどかは先程までの興奮した自分を思い出したのか、恥ずかしさで固まっている。

 

「ほえー。流石はのどか。シンプルで品のいいやつばっかや。これなら、お客さんに出すのにピッタリや」

 

「そうね。横島に任せたら、うけを狙って変な絵が描いてあるカップばっか買うだろうし。のどかが付いてくれて正解だったわね」

 

「お前なぁー。確かに絵柄があるのを選ぼうとしたが、その言い方はないだろ?大体、お前もアレだろ?どうせ油揚げの絵が描いてあるのを選んだんだろ?」

 

「ハッ!バッカじゃないの?油揚げは好きでも、そんなカップ選ばないわよ。私が選んだのは……コレ!」

 

そう言うと自分が選んだ食器の中からマグカップを突きつけるタマモ。横島はその勢いに押されながら、マグカップを受け取り確認する。のどかにも見える位置で持っているのが、流石である。

 

「こ……これは!?」

 

「ふふん。いいでしょ。こう、ピンっと来たのよね。私にはこれが相応しいって」

 

そのカップには、ある動物の姿が描いてあった。その動物とは……

 

「わー、可愛いキツネさんですね」

 

のどかが口にした通り、デフォルメされたキツネであった。

 

「せやろ?ウチが見つけたんよ。そしたら、タマちゃん気に入ってなー。流石にスプーンやフォークは子供っぽいからやめたけど、他の食器は全部キツネさんが描いてあるやつにしたんよ」

 

「タマモさん、キツネ好きなんですか?」

 

「ええ、まあね。キツネって頭いいし、可愛いし、もう最高の生き物ね。狼なんか目じゃないわ」

 

「(こ、こいつは……自画自賛か!!)」

 

決してこの場で口に出すことは出来ないが、横島はそうツッコミたくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

横島が何とかツッコミ衝動を抑えた頃、小竜姫と夕映も選び終わったのか合流していた。

 

「へー、竜姫はそういう感じの選んだんだ」

 

「龍やな。竜姫さんは龍が好きなん?」

 

「わ、かっこいい」

 

小竜姫が選んだ食器は、龍が描かれているものばかりである。タマモのキツネ食器と違う点は、デフォルメばかりではないというところか。

 

「ええ。名前に一字入っているからか、龍に親近感がありましてね。夕映さんに頼んで探して貰いました」

 

「竜姫さんのイメージに合うように、可愛らしいものよりかっこいいものを中心に選んだです。我ながらいい仕事かと」

 

「そやなー。この湯呑のヤツとかピッタリや。竜姫さんの凛とした雰囲気にあっとる」

 

「やるわね、夕映」

 

「(タマモはともかく、アンタもですか小竜姫さまー!!くそっ!ツッコミたいのにツッコミが出来んとは……。関西人にこの仕打ちとは……ワイを殺す気か!!)」

 

 

 

 

 

その後、フロアを移動し他の品を買うときも、タマモと小竜姫の二人はキツネと龍がデザインされたものばかりを選ぶこととなる。

 

その度に、横島はツッコミを耐えるという苦行を行うのであった。

 

(ツッコミを……ツッコミをさせてくれー!!この際、ワイやなくてもええ!!誰かこの二人にツッコミを!!頼む!!)

 

 

 

 

 




誰か横島の代わりにツッコミを。

予定外にのどかの横島への好感度が上がっていく。懇親会と委員決めは次回で。ええ、引っ張りますとも。

のどかが男性が苦手な理由。女子寮にエレベーターがある。漫画研究会が麻帆良祭で同人販売をしている。図書館探検部の初等部は、仮部員。図書館探検部は、定期的に探索結果の発表会を開いている。
これらは拙作内設定です。

ヒロイン表を最新に更新しました。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。


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その3 横島くん初めての依頼 前編

楽しく買い物をする横島たち。途中、横島は数々の誘惑に襲われる。しかし、その誘惑に耐え、横島は無事日用品を買い終えるのであった。


一言: 好感度ランキングも作成しなくては……。まだいいか。





 

 

 

 

「あー。疲れた」

 

「ダメですよ、横島さん。だらしないですし、ここはかふぇ?です。人の目があるんですよ?」

 

だらしなく声をあげ、横島が突っ伏す。それを小竜姫が注意する。

今、横島たちは日用品を買い終えた後、デパート内のカフェで休憩をしている所である。

 

 

 

 

 

「いやー、でも正直疲れますって。皆はよく疲れないなー。食器に時計を選ぶだけでオレはヘトヘトだっていうのに……。あのあと、服でどんだけ時間使ったことか」

 

「仕方ないんよ。二人とも素材がええから、選びがいがあって楽しくて。な~、のどか?」

 

「そうですね~。二人とも服に興味ないなんて、もったいないです」

 

木乃香とのどかの言葉に、頬を人差し指で掻きながらタマモが答える。

 

「どうも、そう言うのは苦手でね~(いつも変化してるから、服を選ぶってのが良く分からない……なんて言えないわよね)」

 

「私も動きやすければ別にこだわりは……(修行の邪魔になりますしね)」

 

「私は、服はその人の好みで選ぶのが一番だと言ったのですが……」

 

「まぁ、夕映ちゃんの言う通りだとは思うが、木乃香ちゃんとのどかちゃんの言うこともわかるな。タマモと竜姫はこんなに可愛いんだ。着飾ったところも見てみたくなるよな」

 

何度も頷きながら告げる横島。その言葉に、同調する木乃香とのどか。言われた二人は、横島がお世辞ではなく本心から言っていることに気づき、タマモはそっぽを向き、小竜姫は微笑む。二人に共通しているのは、微かに頬を朱に染めているところだろう。

 

 

 

そんなやりとりを目前で繰り広げられた夕映は、横島について一つの確信を得るのであった。

 

 

 

(木乃香さんは、まぁ普段が普段ですから、あまり参考になりませんが……。あの恥ずかしがり屋なのどかが、横島さんとは自然に会話できていることから見ても、横島さんは人の懐に入るのがとても上手みたいですね。私だって街中でのナンパを見たというのに、彼にのどかのことを任せてました。竜姫さんが言ってたように、期待してたのでしょうか?無意識に、この人なら……と。それとも、優しい人と感じていた……?)

 

横島のことについて考えていた筈なのに、自分の内面へと考えがズレてきたことに気づいた夕映は、頭を左右に一度振ると周囲を伺う。幸い、誰も夕映の行動に気づいていないようで、タマモとのどか、小竜姫が会話しており、横島は木乃香と笑顔で会話している。

 

(今は、私ではなく、横島さんのことです。事務所であった時の可愛いという発言。それに、先程の会話……横島さんは、自然に甘い言葉を言うタイプみたいですね。これは天性のものでしょうか?それに、年上だからかもしれませんが、包み込むような優しさを感じるのも確かです。

 

「…夕映ちゃん?どうかしたか?ボーっとして」

 

今だって、木乃香さんと会話しながら、会話に入ってこない私に話しかけて……ハッ!!)

 

 

「おーい。夕映ちゃん?大丈夫か?」

 

 

我に返った夕映が見たのは、自分の目の前で手を上下に振る横島の姿。他の面々も、会話をやめて夕映に注目しているのだが、それには気づいていないようである。

 

「ゆーえちゃん?」

 

「は、はい!夕映です!」

 

「お、帰ってきた。大丈夫か?ぼーっとしてたみたいだけど……。具合でも悪いのか?」

 

「あ、いえ。ちょっと考え事をしていまして……」

 

ぼーっとしていたのが恥ずかしかったのか、夕映は頬を染め俯く。その姿を見た木乃香が、フォローを入れる。

 

「夕映は集中力が凄いんよ。一度考えに没頭すると、いつもこうなんや」

 

「そうなんです。哲学書を読んでるときとか、いくら呼びかけても気がつかないくらいで」

 

「哲学書なんて難しい本をよく読めるなー」

 

「アンタだったら、一ページも読まないうちに寝るわね」

 

「そうそう、こう一行読んだら、グーっと夢の世界へ……って、やかましいわっ!!」

 

タマモの言葉に横島がおおげさに反応している間に、小竜姫が夕映の考えごとに興味があるのか内容を尋ねる。

 

「夕映さん。差し支えなければ、何を考えていたのか教えていただけませんか?」

 

「え……?その(横島さんについて考えてたなんて言えるわけないです!!……どうにか誤魔化さなければ)……きょ、今日のクラス懇親会のことです!」

 

 

 

 

 

夕映が“よくひねり出したです!私!”と自分を褒めていたとき、横島がその話に興味を持ってしまう。

 

「そういや、今日は懇親会があったんだっけ?後は委員決め?どんな感じだったんだ?」

 

(く、くいつかれたです……!!)

 

横島の言葉に、焦る夕映。横島が興味あるのは、先程まで夕映が考えていた内容ではなく、懇親会そのものである為、別に夕映が焦る必要はないのであが、そこまで頭が回っていないようである。

 

言葉に詰まる夕映の代わりに、木乃香が話始める。

 

「え~となぁ~。今日は教科書配ったり、プリントの配布が最初にあって、それから委員決めがあって、最後に懇親会をしたんよ」

 

「ほー。この中で委員になった子は居るのか?」

 

「ウチが書記で~、のどかが図書委員や」

 

「書記?生徒会かなんかか?」

 

木乃香が言う“書記”に疑問を持つ横島。その疑問はすぐに、木乃香に説明されることとなる。

 

「ちゃうちゃう。ほら、クラスで会議したりするやろ?そん時に、黒板に意見を書いたりするんよ」

 

「あ~、そういう事。そんで、のどかちゃんが図書委員か……」

 

「はい。あと、学園統合図書委員も兼任してます……」

 

「学園統合図書委員?」

 

「簡単に言うと、図書委員が各学校の図書室で貸出とかのお仕事をします。それで、統合委員の方は図書館島でのお仕事をします」

 

「二つもやるのかー。大変じゃない?」

 

「クラスが多いですし、図書館島は司書さんもいますから。担当が回ってくるのも月に一度程度ですし、大丈夫ですよ?それに、本好きですし」

 

「お、そうか。いやー、えらいなぁー、木乃香ちゃんものどかちゃんも」

 

そう言って笑うと、横島は隣に座っていた木乃香の頭を撫でる。撫でられた木乃香は、最初驚いていたが、嫌がる素振りもなくそのままにしている。横島の向かいに座るのどかが、何処か羨ましそうに見ているのは気のせいであろうか。

 

「で、残りは何もしないのか?」

 

ひとしきり木乃香を撫でた横島は、顔を残りの三人に向けて質問する。

 

「してないわよ」

「ええ」

「面倒です」

 

それに対する返答はごく短い言葉であった。それでも構わなかったのか、横島は懇親会の様子について話題を移す。

 

「それで、懇親会はどうだったんだ?」

 

横島の問いかけに、一同は説明を始める。

 

 

 

 

 

 

「……今日から早いとこは、部活の仮入部期間が始まるから、仮入部したい場合は、今日配った用紙に必要事項を記入しておくこと。以上で連絡事項は終わりだね。……それじゃ、懇親会を始めようか?とは言っても、何か特別なことをするってわけではないからね。みんなで好き勝手喋る時間かな。授業ってわけでもないから、好きに帰っても構わないよ」

 

そう言って高畑は教室をあとにする。それを合図に、教室内は自席の周囲の人間と話すもの、仲の良いクラスメイトに話しかけるものとに別れる。流石に、すぐに帰るものはいないようである。

 

「どうする?竜姫」

 

「そうですね~。明日菜さんは、高畑先生を追いかけて行ってしまわれましたし……」

 

……何事にも例外は存在しているようである。

 

「じゃ、木乃香と話す?それとも刹那?」

 

「昨日のことを聞きたいので、刹那さんと言いたい所……ですが」

 

「あ~、いないわね。昨日から避けられているのかしら?」

 

「私たちをってことではないみたいですけどね?ほら、木乃香さんが落ち込んでます」

 

「あ~、昨日の時と同じってこと?」

 

「おそらく。話を聞くなら学校外がいいでしょうね」

 

二人の視線の先には、刹那の席の近くで項垂れる木乃香の姿が。おそらく、刹那に話しかけようとしたが、刹那が捕まらなかったのだろう。そのまま、木乃香は自席――タマモたちの所――へ戻ってくる。

 

「う~、タマちゃん。竜姫さん。ウチ、何かせっちゃんにしたんやろか?」

 

「さぁ?きっと、そのうちどうにかなるわよ。刹那も過剰に反応してるだけだろうし」

 

「そうですよ。久しぶりに会う木乃香さんと、どんな顔で会えばいいかわからなくて思わず逃げているだけですよ」

 

「せやな。まだ、二日目やし。せっちゃん恥ずかしがり屋さんやったし、竜姫さんの言う通りかもしれんな。ウチ、せっちゃんが落ち着くまで待ってみる」

 

そう宣言すると二人に笑顔を向ける木乃香。それに、同じく笑顔を返す二人であった。

 

 

 

 

 

「そのあとすぐに買い物の約束があるからって、教室を出たわね」

 

「ええ。そのまま女子寮まで行って、帰宅してからは横島さんもご存知ですよね?」

 

「ああ、一緒やったし……って、他の生徒とは交流しとらんやないか!?」

 

横島のツッコミに顔を見合わせる木乃香、タマモ、小竜姫の三人。そして、口を揃えていうのであった。

 

「「「言われて見れば」」」

 

 

 

 

 

お約束としてズッコケた横島は、気を取り直してのどかたちに水を向ける。

 

「そっちはどうだった?楽しかったか?」

 

それに対する夕映とのどかの反応は、否定の言葉であった。

 

「いえ……」

 

「ん?楽しくなかったんか?まぁ、まだ二日目だからな、徐々に交流して…「違うんです」…どういうこと?」

 

フォローをしようとした横島の言葉を遮って、夕映が説明する。

 

「私とのどかは、ハルナ……友達に引っ張られて教室をすぐに出ていったです。ですから、交流自体してないのです」

 

「あ~、そういうこと」

 

「そういえば、ウチが寮から出ようとした時に二人にあったもんな。教室に残ってたら、あそこにおるわけないもんな」

 

「ええ。それがあったから、今此処にいることができているです」

 

つまり、今この場にいるのはクラス交流をすっぽかした面々と言う訳である。横島は、そのことに思い当たると、夕映が何故懇親会について考えていたのか分かった気がした。

 

「そうか、だから夕映ちゃんは懇親会を気にしてたんだな。自分たちが早々に抜けちゃったから」

 

「え?……あ、ああ。そうです。私たちが抜けたあと、ちゃんと懇親会が行われたのだろうかと思いまして」

 

「まぁ、皆いい子だから懇親会なんて出てなくとも、すぐにクラスに馴染めるさ」

 

とりあえす、強引に会話を締める横島であった。

 

 

 

 

 

「それで、話はもどすが……買い物は終わりか?」

 

「あー、横島はここで待ってなさい。アンタを連れて行ったら警察呼ばれるわ」

 

「はぁ?お前、何意味の分からんことを…「横島さんは此処で荷物番をしててください。そんなに時間はかかりませんから」…竜姫まで。まさか、木乃香ちゃんたちも?」

 

「待っててや」「す、すみません」「待つのがいいと思うです」

 

「チックショー!ワイだけ仲間ハズレやなんて、ヒドイやないか!!嫌だー!ワイも一緒に…「シッ!」……」

 

急に沈黙する横島。椅子に深く腰掛け俯く姿は、一見居眠りしている姿にも見えなくはない。……小竜姫の抜き手が決まってさえいなければ……だが。

 

「あらあら、横島さん。ここで待っててくださるんですか?それじゃ、皆さん行きましょうか」

 

そして、小竜姫は何事もなかったかのように、一同を促すのであった。急に沈黙した横島を不思議に思いながらも、これから向かう売り場のことを考え、好都合と判断したのか席をたつ一同。最後に、小竜姫は横島に向かって一言告げるのであった。

 

「一時間もすれば戻ってきますので。それまで、荷物番しながら飲み物でも飲んでいてください。もし、この場所から離れたら……わかってますね?」

 

 

 

 

 

小竜姫たちが立ち去ってから、数秒後横島は何事もなかったかのように顔をあげる。

 

「おー、怖え。連れてってくれないなら、ナンパでもってのバレてたな。くっそー、折角の機会だってのに……。いや、ヤルか?でも、バレたらあとが怖いしなー」

 

そこに、携帯の着信音が響く。懐から携帯を取り出した横島は、着信画面に表示された名前に一瞬眉をひそめたあと、電話にでる。

 

「はい、横島」

 

『もしもし?横島くんかのぉ?』

 

「何か用っすか、学園長?」

 

『開業前のとこ悪いが仕事の話じゃ。明日、正午過ぎに学園長室に来てくれ』

 

「タマモたちは?」

 

『君さえ来てくれれば、どちらでも。任せるわい』

 

「了解です。それじゃ、明日」

 

学園長との電話を終えた横島は、一言呟くのであった。

 

「初仕事決定……と。まだ開業前なのに、幸先がいいというべきなのか。さて、どうしたものか……」

 

今後のことについて考える姿は、中々決まっており、かっこいい。外見だけは。

 

 

 

 

(ナンパに行くべきか、それとも……。いや、やはり行くべき……ああ、どうしたら)

 

 

 

 

中身はこんなものである。

 

 

 

 

 

 

横島が電話を終え苦悩している頃、小竜姫たちはというと。

 

「流石にここに横島を連れてくるのはねー」

 

「そうですね。……下着売り場に連れてきたら、それこそ警察沙汰ですよ」

 

「不審者として通報されるわね」

 

「あ、あのー」

 

会話する小竜姫とタマモに、声をかける夕映。木乃香とのどかは売り場内を見て回っており、近くにはいないようである。

 

「恥ずかしいから、横島さんを残したのではないのですか?」

 

思いがけない言葉を聞いたかのように、顔を見合わせるタマモと小竜姫。

 

「違うわよ?アイツがここに来たら、挙動不審になって警察呼ばれるからに決まってるじゃない」

 

「ええ」

 

「そ、そうですか(横島さんって……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




冒頭は夕映パート。所謂考えすぎ状態です。
懇親会と言ったのに、ロクに交流していませんでした。当初の予定では、ここで多少の交流がある筈でした。何処で間違ったんだろう?

現状、のどかと木乃香の横島に対する意識は、友達の優しいお兄さんって所です。
夕映は分かりませんが。

クラス書記の仕事。図書委員と学園統合図書委員の仕事。懇親会の時間、内容。
これらは拙作内設定です。

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-追記-
ヒロイン決定しました。ヒロイン表を更新。ptについても更新しています。


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その4 横島くん初めての依頼 中編

出逢った少女たちと買い物を楽しむ横島の元に、学園長からの電話が。それは、日常を楽しむ横島を再び非日常の世界へと(いざな)う。


一言: 展開遅いですね?


 

 

 

 

買い物に行った翌日。横島は学園長室で学園長と向き合って、ソファーに腰掛けていた。勿論、初めての依頼でコケる訳にはいかないので、『冴』の文珠でドーピング済である。

 

「わざわざ来てもらって、すまんかったのぉ」

 

「別に構わないっすよ。それで、仕事ってのは?」

 

「うむ。それなんじゃが……。木乃香に会ったそうじゃな?」

 

「ええ。それが何か関係が……?」

 

「木乃香を……どう思った?」

 

真剣な顔で尋ねる学園長に、横島は正直に思ったことを伝える。

 

「いい子でしたよ。今は可愛いらしいって言葉が似合いますが、間違いなく将来は美女ですね。大和撫子って言葉が似合うようになりますよ」

 

「そうじゃろ、そうじゃろ。どうじゃ?今のうちに……?」

 

「そりゃ、木乃香ちゃん次第でしょ?オレなんかにゃ、木乃香ちゃんは勿体ないですよ」

 

「フォフォフォ。まぁ、そう結論を焦ることでもないじゃろう。して……」

 

朗らかに笑っていた学園長であったが、再び真剣な顔を作る。すると、横島も和やかな顔から一変、真剣な顔になり口を開く。

 

「あの魔力のことっすか?それとも……」

 

「魔力も……が正解じゃな。まず、木乃香は両親ともに裏の人間じゃ。特に父親はその世界では名が通っておる。しかし、木乃香は裏の事情は一切知らん。裏と関わらずに育てたいという親の願いで……のぉ」

 

「まぁ、物騒なこともある世界ですからねぇ。まぁ、いいんじゃないっすか?親のことが広まらなければ」

 

そこで一息入れる為、お茶に手を伸ばす横島。お茶を一口飲むと、横島は話を続ける。

 

「出来れば、学園長との関係も隠した方がいいんですけどね。学園長としての表の顔だけでも十分狙われますから。ま、アナタのことだから手配はしているんでしょうが」

 

「うむ。麻帆良にいる限り、木乃香に危険がないように手配はしておる。儂の肩書きに目をつけて、木乃香を誘拐しようとする者がいないとも限らんしのぉ」

 

横島につられるように学園長もお茶に手を伸ばす。そして、何てことのないように横島に告げるのであった。

 

「ただ……、父親――娘婿殿は敵対組織の長でのぉ」

 

「ブッ!!」

 

その言葉にお茶を吹き出す横島。驚愕の表情で、学園長を見るのであった。

 

 

 

 

 

「いやいやいや!!何でそんな不思議な状態に!!」

 

「何から説明したものかのぉ……。まず、日本には二つの魔法組織がある。関東魔法協会と関西呪術協会じゃな」

 

「魔法と呪術……ですか」

 

「うむ。儂らが関東魔法協会じゃな。こっちは魔法世界の支部みたいなものじゃ。魔法世界からの留学生の受け入れや、旧世界で活動する魔法使いのサポートなんかもこれの一環じゃな」

 

「その言い方だと、関西呪術協会ってのは……」

 

「うむ。旧世界由来の魔法を使う者たちの組織じゃ。元々日本には、関西呪術協会しかなかったんじゃよ。そして、儂の実家の近衛家はのぉ。関西呪術協会の設立当時から続く名門じゃ」

 

「あー。じゃあ、学園長は……家出したんすか」

 

「簡単に言えばのぉ。ま、その頃は上手く共存出来ておったんじゃが……」

 

「あー、ナワバリでも被っちゃいました?」

 

「そういうことじゃ。関西呪術協会はその名の通り、呪術も扱う。そして、その力を日本のトップの為に、それこそ平安の時代から振るってきた。しかし、それは魔法世界出身の者にとって、看過できることではなかったんじゃ」

 

「あー、呪術の妨害にでたんすね(美神さんとエミさんみたいな関係ってことか)」

 

「そうじゃ、今でこそ表立って対立はしておらんが、一時は小競り合いが絶えんかった。今でも、東には西をよく思っておらん者たちは沢山おる。無論、西にも東を邪魔に思っておる者たちは、それこそ山のようにおるじゃろうて」

 

「対立を緩和する為に、娘婿――木乃香ちゃんの父親が長になったってことですか」

 

「そうじゃ。婿殿は魔法世界で西洋魔法使いと活動しておったこともある。つまり、東側に理解があるんじゃ。そして、東のトップである儂は西に理解があり、身内じゃからの」

 

「それなら、この状況にも納得できますが……。木乃香ちゃんがこっちにいる理由も。長の娘である木乃香ちゃんが、東に行くことで東西の融和は進んでいると示してるんすね。東からも西に派遣とかしてるでしょうし。……ついでに、木乃香ちゃんの将来を見据えてってとこですか。西を継ぐなら、東とも縁が強い後継者に木乃香ちゃんがなれるようにと」

 

成程と頷く横島に、困ったように頬を掻きながら答える学園長。

 

「いや、婿殿はそこまで考えておらん。言ったじゃろ?木乃香は裏を一切知らんと」

 

「……そういえば、言ってましたね。じゃあ、何で?」

 

疑問を告げる横島。それも仕方ないことであろう。木乃香に事情を伏せるだけならば、必ずしも麻帆良に向かわせる必要はないのだから。学園結界があれば、確かにリスクは減るだろうが、事情を知る可能性が無くなった訳ではないのだから。

 

「単純に麻帆良の方が向いておったんじゃ。此処には認識をズラす結界があるしの。それに比べて実家では、いつ事情が知れるか分かったもんじゃないからのぉ」

 

「はぁ……」

 

「まあ、婿殿も悩んだ結果じゃ。手元で木乃香を育てるには、少々危険が多いんじゃ。元々、婿殿は東――西洋魔術師びいきだと、頭が固い連中からの評判が悪くてのぉ。そういう奴らに限って、旧家で呪に長けておるんじゃ。そやつらから木乃香を守るには、骨が折れるからのぉ。そもそも、婿殿は守りには向かん」

 

「それはまた……。難しい話っすね。木乃香ちゃんに事情を知らせて、自衛の力を与えればいい話なんですけど。それは、そもそもの願いに反しますからねぇ」

 

「うむ。まぁ、大分話がそれたが此処までは理解したかのぉ?」

 

「ええ。東西と木乃香ちゃんの微妙な関係は。それで、魔力の方は?」

 

「今となっては、あまり説明する必要はないかのぉ。自衛手段がない木乃香を西におけない理由が増えるだけじゃ」

 

「そうですね~。魔力目当てに狙われる可能性が増えただけで、他に何が変わる訳でもないですし」

 

「ま、極東で一番の魔力を持っておるってのは知っておってくれ」

 

「了解です。それじゃ、木乃香ちゃんに関してはオレらも気は配っておきますよ。まぁ、専属警護の人もいるでしょうから、オレらがすることはないと思いますが」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

その言葉を合図に立ち上がる横島。そのまま、学園長室から退出しようとドアへと向かう。それを学園長も見送ろうと立ち上が時。彼はあることに気づいた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!結局、依頼について話とらんぞ!!」

 

「あ」

 

 

 

 

 

気まずい雰囲気の中、再びソファーに腰掛けて横島が口を開く。

 

「それで、依頼とは?」

 

「先までのことを、なかったことにしようとしとらんか?」

 

「や、やだなー。学園長」

 

ジト目で追求する学園長に、そんなことはないとアピールする横島。反応が露骨過ぎて、学園長はこれ以上追求することをやめ、話を続ける。

 

「まぁ、いいじゃろ。儂が脱線したのも悪かったしのぉ。それに、先までの話は全くの無関係と言う訳でもない」

 

「そ、そうですか。いやー、そりゃ良かった」

 

「調子いいのぉ……。で、改めて依頼の話なんじゃが……。君には、定期的に京都に行ってもらいたい」

 

「京都……ですか?」

 

「西の本部があるんじゃ。西と交渉するにも、根回しは必要じゃろ?」

 

「オレなんかにゃ、荷が重いっすよ」

 

「……そうでもないとは思うがのぉ。……まぁ、安心せい。基本的に儂が指定した場所に向かい、指定した相手に書を渡すだけじゃ。君は麻帆良にも最近来たばかりじゃし、西は魔法世界との繋がりは薄いからのぉ。君が東からの書を運んでおるとは思わんじゃろうて」

 

「はぁ……。そんなもんすかねぇ?」

 

学園長の言葉に猜疑的な横島。西の本部があるのは、かの有名な京都である。麻帆良のように、結界が貼ってあると考えてまず間違いないであろう。それなのに、この学園長の余裕は一体どういうことだろうと、横島は疑問に思っているのである。横島の表情からそのことを悟ったのか、学園長は話を続ける。

 

「もう一つ加えるとのぉ。西は西洋魔法には敏感じゃが、気の使い手には寛容じゃ。協力組織が気の使い手じゃからの。それに京都の結界は、魔――妖魔なんかに対してはその力を抑え、居場所も感知するようになっておる。……が、魔力や気にはそれほど作用せんのじゃ。勿論、破壊活動をすれば立ちどころに察知するがのぉ。君たちのように“霊力”を扱うものは、感知も出来んじゃろうて。なにせ、“霊力”を扱う者がその昔、魔を感知する為に創った結界をベースにしておるからのぉ」

 

「まぁ、それなら安心……“霊力“?」

 

学園長が口にした“霊力”という言葉に反応する横島。それを見た学園長は、やはりと呟くと口を開く。

 

「君たちが刹那君の正体を見破った経緯は聞いておる。そして、その時霊力と零していたことものぉ。それに以前見せてもらった君の力。あれは気より遥かに強力じゃ。それこそ、(いにしえ)の力――霊力のようにのぉ」

 

「はぁ……。オレの力が、気で誤魔化せるか確かめたのが裏目に出ましたか」

 

「何……あれは確かに気で誤魔化せる。実際、儂も気だと思っておった。君たちが口を滑らせるまでは……のぉ。なにせ、霊力の最盛期は平安の時代と言われておるからのぉ。そこからは次第に廃れていき、今は魔力や気を扱う者しかおらん。気や魔力は誰でも鍛錬すれば扱えるが、霊力は生まれ持った資質がないと扱えないと言う話じゃから仕方がないことじゃろうがのぉ。今や霊力の存在を知る者は極わずか。ほとんど御伽噺と思われておる」

 

「ま、うちの先祖は権力闘争に敗れた霊能者の集団だったそうですからね。それで魔法世界に隠れ住んだらしいです。今やその心配もなくなったので、オレたちは旧世界に来たんです。それでも要らぬ誤解を生まないようにと、隠してたんですが……」

 

自然に嘘を吐く横島。横島たちにとって、異世界人と言う事実さえ隠せれば、他はバレてもそこまで問題はないのだ。学園長の話からしても、霊力があったことは事実なのであろう。学園長が作り話までして、霊力について言及する必要はないのだから。

 

「ふむ。そうじゃったか。昔からそういう話は絶えんからのぉ。して、霊力の使い手である君が京都に入れることは分かって貰えたかのぉ?」

 

「ええ。ついでに、霊力のことはそこまで気にしなくとも問題ないということも」

 

「まぁ、大多数は気としか思わん。それに、バレたら詮索はされるじゃろうが、一族の秘術とでも言えば誤魔化せるじゃろうて」

 

「それで、京都へ行って書を渡す相手は?」

 

「うむ。西の長――

 

 

 

近衛詠春(このええいしゅん)じゃ」

 

 




今回は説明回です。男二人の会話です。


関西呪術協会が日本古来の魔法組織。近衛家が名門。京都の結界。ネギま世界の霊力が廃れている。
これらは拙作内設定です。

ヒロインは決定済です。ご協力ありがとうございました。以後のptについては、ヒロイン表下部に記載してあります。投票の前に一度ご確認をお願いします。

実家に帰省しますので感想の返信には時間がかかりますが、ご容赦ください。

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その5 横島くん初めての依頼 後編

便利屋「よこっち」初めての依頼。それは、関東魔法協会と敵対関係にある関西呪術協会へのお使いであった。さらに驚くことに相手は西の長、近衛詠春であるという。


一言: ノートPCは使いづらいですね



 

 

 

 

 

 

「西の長ですか……まさか、直接なんてことは」

 

「そのまさかじゃ。婿殿に直接手渡して貰いたい。なに、事前に連絡はするから大丈夫じゃて」

 

横島の呟きに、学園長が軽く答える。

 

「相手が長だってのにやけに軽いっすねぇー。担当する人物が変わるだけってことですか」

 

「そうじゃ。今までも、事情を知っとるだけの人間に連絡係を頼んでおった。それを君へ変更するだけじゃからの。今頃、人員の変更を伝えとる筈じゃ」

 

「オレが断ったらどうするつもりだったんですか?」

 

「おお、それは考えておらんかった。ま、引き受けてくれるんじゃろ?」

 

「ええ、まぁ受けますけどね。定期収入が増えることは嬉しいことですし」

 

「フォフォフォ。次の定期連絡は一週間後の予定じゃ。ああ、木乃香のこともよろしくのぉ」

 

朗らかに笑う学園長に“タヌキ爺”という単語が浮かんだ横島。横島に木乃香の状況を告げたのも、詠春に木乃香の置かれた危険性を横島からも説明させ、自衛の手段を持たせることについて同意させようというのだろう。

 

「それで?このことだけじゃないですよね?これだけなら今日じゃなくともよかった筈ですし」

 

横島の問いかけに、学園長はお茶を飲みながら答える。

 

「依頼はこれだけじゃよ?ただ、君と直接会って確認したいことがあったから、今日呼んだんじゃ」

 

「確認したいこと……ですか。それは“霊力”のことですか?」

 

「うむ。その通りじゃ。君たちは、途絶えて久しい“霊力”を使える可能性があった。その事実を確認したかったんじゃ。その上で、頼みたいことがあったからのぉ」

 

「頼みたいことですか?」

 

「うむ。刹那君のことじゃ。彼女は訳あって力を求めておる。同門の刀子君に師事しておるが、刀子君の話によれば刹那君は、過剰と言ってもいいほどの修行を己に課しておったそうじゃ」

 

そこまで言うと、学園長は再び湯呑に手を伸ばす。対面に座する横島は、つい先日会ったばかりの刹那の姿を思い浮かべる。

 

確かに刹那は、武を身につけていた。こんなに幼いのにと驚いたのも覚えている。しかし、それが同門から見ても過剰な鍛錬の結果だとしたら、なんと悲しいことであろうか。自分が中学生の頃と言えば、ばか騒ぎをしていたのにと思う横島であった。

 

「そこに、刹那君は霊力があるという言葉を聞いた。刹那君が本当に霊力を持っているのか、身につけることができるのかは正直どうでもいいんじゃ。儂らは、刹那君に過剰な修行を止めてもらいたいのじゃ」

 

「刹那ちゃんに霊力の修行を……ってことですか?」

 

「うむ。霊力の修行ならば、刹那君は素人。師匠の言うことを聞くじゃろうし、その修行に時間が取られれば」

 

「過剰な修行はできないだろう……と。オレらが霊力を使えなければ、ただのブレーキ役。使えるのならば、尚よしと考えたわけですか。しかし、刹那ちゃんが霊力の修行をしますかね?自分の流派の修行に集中したいとかで断るんじゃ?」

 

「それは大丈夫じゃろうて。刹那君の流派は、もともと霊力を使っておったからのぉ。霊力を身につけることは、流派の極意に近づくなり、技の威力向上に繋がるなり言えばよかろうて。事実、霊力の方が気より強いしのぉ。これなら、刹那君も素直に教えてもらう気になるじゃろうて。無論、本当に教えるかは君たちの自由じゃ。教えない場合でも、気の出力向上に繋がると言えばよい筈じゃ」

 

「……修行については相談させてください。あ、どっちにしても、刹那ちゃんの修行はしますよ。竜姫もタマモも放っておけないでしょうしね」

 

「そうか!受けてくれるか!刹那君のこと、よろしく頼むぞ(それに、刹那君も君を気に入っているようだと聞いたしのぉ。タマモ君と竜姫君もそのようじゃし、面白くなりそうじゃ)」

 

 

 

 

 

学園長室から退出した横島は、よこっちの宣伝の為にポケットティッシュを配りながら歩いていた。

 

「いやー、ナンパもせず宣伝しているオレってのも変やなー。ま、オレも一家の大黒柱や。頑張らんと……あ、お嬢さーん!便利屋“よこっち”でーす!美人、美少女の依頼ならデート一回で…「結構です」…あ、そう?君だったら初回は無料で…「結構です」…そうですか。あ、せめてティッシュだけでも……。あ、受け取ってくれるの?ありがとう。何かあったら連絡してくれれば格安で受けるから……」

 

本人はナンパせず、真面目に宣伝しているつもりであるらしい。ここからは、横島の宣伝活動(?)の一部をご覧いただこう。

 

 

 

「お嬢さん!便利屋“よこっち”をよろしく。今なら初回格安で何でもやるよー」

 

 

「あ、そこ行く美人さん!そう、あなた!私、便利屋やってまして……あ、待って!ナンパじゃないから!ただ、ちょっとデートしたいなぁって思っただけで……せ、せめてティッシュだけでも!」

 

 

「へい!そこ行くマダム!何かお困りなことはありませんか?何かあったら、便利屋“よこっち”に!あなたの様な美人なら、初回は特別価格!あなたを食事に誘う権利を私に頂ければ……って、いないっ!?」

 

 

「便利屋“よこっち”でーす。今なら開業記念サービスで、依頼料半額でお受けしまーす」

 

 

「お、君たち中学生?よかったら宣伝してくれなー。君たち可愛いから、半額でやったげるよー。え?裏に開業記念で半額って書いてあるって?あちゃー、バレたかー。でも、君たちが可愛いってのは嘘じゃないぜ?ま、よろしくなー」

 

 

「そこの頑張っているお父さん!便利屋“よこっち”をよろしく!」

 

 

「おー、部活帰りの少年!これを使って、汗を拭うんだ!ついでに、宣伝もよろしく!」

 

 

「あなたの様な綺麗な方は初めてだ。是非これを。便利屋“よこっち”あなたの為なら何でもします」

 

 

女性ばかりに宣伝(とナンパ)しているのは、横島だから仕方がないことであろう。

 

 

 

 

 

横島はティッシュを配りながら、麻帆良の街並みを一人歩く。横島は考える。麻帆良に来てから一人で目的もなく歩くことはなかったと。大抵の場合、目的地があったり、誰かが一緒であった。

 

こうして、一人でゆっくりと歩くと、街の景観がよくわかる。日本にありながら、日本ではないかのような街並み。魔法世界で見た街並みにも似ているし、ヨーロッパの街並みにも似ている。きっと、ルーツは同じなのだろう。

 

そんなとりとめのないことを考えていた横島は、気がつくと街の何処にいても見える大きな樹の下に立っていた。

 

「神木、蟠桃(ばんとう)……通称、世界樹か。でかいよなー」

 

横島が見上げる樹は、麻帆良学園都市の中央にある全長270メートルの大樹である。小竜姫やタマモの見立てでは、地下に膨大な魔力があるらしい。

 

「本当に別世界に来たんだなーってお前を見てると思うよ。例え、魔力の影響があっても此処まで成長する為には、お前も随分頑張ったんだろうなー」

 

そう言うと、巨大な幹に背中を預け、眼下に広がる街を見下ろす横島。その顔は普段お目にかかれない、真面目な顔であった。

 

「オレも世界樹(お前)に負けないように頑張るから。二人ともオレが守る必要がないってのも、オレのガラじゃないってのも分かってる。きっと、向こう(元の世界)のヤツらがこのことを知ったら笑われる。そんなのオレらしくないって。それでも、守れるように頑張る。ワイは男の子やからな。オカンもオトンも言うてた……」

 

 

 

「“男は慕ってくる人間を守るもんや。それが自分が好いた女やったら命を懸けて守らなあかん”って。

 

そのあと、せやったら全世界の女をワイが守ったるっていうたらオカンには呆れられたけど……その方がワイらしいやろ?」

 

 

 

そう言いながら笑う横島の眼には、自分へ向かい歩く少女たちの姿が。

 

横島は声には出さずに世界樹に誓う。あの少女たちを守ると。

 

それに予感もするのだ。これから先、守りたい人が増えるとも。

 

 

 

横島は少女たちへと歩き出す。そして、思うのだ。

 

 

 

力がないことを嘆くことがないように、頑張ろう。痛いのも、苦しいのも嫌いだ。それでも頑張ろう。自分なんて信用できないけど、やれることをやってみよう。

 

笑って日常を過ごす為に、美人な嫁さん(たち)と楽しく暮らす為に。……後悔を増やさない為に。

 

この見知らぬ世界で生きていく為に。残した人たちと再会する為に。あの少女たちと……

 

 

「横島ー!!」

 

「横島さーん!!」

 

 

 

「「帰りましょう!!」」

 

 

 

「おう!!」

 

 

 




前話の続きです。京都に行くのはまだ先の話です。最後の方で横島君が決意していますが、気持ちです。気持ち。ええ、たまにはシリアスで終わりたいんです。ここまでがある意味プロローグかな?

4時間目はヒロインと出会っていったり、フラグを立てていったり、京都いったり。その前に休み時間かも?その場合、横島と学園長が会っていた時のタマモたちの話ですね。
出会い方が決まっていないキャラが多いため、時間はかかるかもしれませんが、ご容赦ください。

感想返しは、次話投稿時にまとめて返します。ちゃんと見てはいますが、時間がなかなか。ptとかは計算しています。

投票について、投票前に一度ご確認をお願いします。一人三名までが有効ptです。三名以上の場合、先に記載されたキャラから三名までを有効とし、残りは無効とします。

学園長が詠春と原作前から連絡を取っている。神鳴流が霊力を使っていた。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。頂くと調子に乗って更新速度が上がります?

―追記―
感想で横島が文珠を使っているのに……というのがありましたので少々補足させていただきます。
今回文珠には『冴』と入れています。この文珠の効果は、あくまで勘が冴えるという類のものです。なので、相手の発言からその発言の裏を見抜くことはできても、自分の知識に無いことは当然知らないままです。
また、文珠の効果は横島の人格に影響を与えている訳ではありませんので、予想外のことには普通に驚きますし、混乱もします。前回カマかけに引っかかっていますが、これは交渉経験の差であり文珠は影響していません。



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休み時間 その2
タマモと竜姫の一日


横島と学園長が依頼について話し合っていた日。その日のタマモと小竜姫の一日……


一言: 今日実家から帰ってくる予定。

5/7:誤字修正及び内容微修正


 

 

 

 

 

――08:00 「よこっち」3F:個人部屋

 

 

「う~ん。ん? ……やーらけー」

 

 

差し込む朝日が眩しかったのか、スズメの鳴き声が煩わしかったのかベッドの中で寝返りをうつ人影。人影――横島は、寝返りをうった先で、手から伝わる柔らかい感触を堪能する。

 

「やーらけー。それに、いい……匂いも……?」

 

伝わる感触と香る匂いに疑問を持つ横島。この部屋に移り住んでからは、布団ではなくベッドを利用しているが、このような心地よい感触には心あたりがない。非常に心地よい感触ではあるが、その正体を確かめなくてはと横島は眼をゆっくりと開く。

 

 

最初に見えたのは、視界一杯に広がる金色。聞こえてきたのは静かな寝息。右手に感じるのは、(ぬく)もりと柔らかな感触。手を動かすたびに形を変える“ソレ”。微かに聞こえてくる、聞き覚えはあるが、今まで一度も耳にしたことのない声。

 

「ハハハ……まさか。一人で寝てたし、アイツは自分の部屋にいる筈……。大体、ワイはロリやない……」

 

「……ちょっとイタイわ。もっと優しくしなさい」

 

「す、すまん。……こうか?」

 

横島の隣、右手が触れている物体からあがる声。うまく頭が働いていない横島は、その声に従い、無意識に強く動かし続けていた手を、一度中断し今度は力の加減に気を配りながら優しく動かし始める。

 

「ん。いい感じ……」

 

「そ、そうか? ……って、ちゃうわ!! なんでここにおるんや!! タマモ!!」

 

慌てて手をどけながら叫ぶ横島。怒鳴られたタマモは、横島の声がうるさかったのか耳を押さえながらゆっくりと体を起こす。

 

「なんで……って。覚えてないの?」

 

「な、なんや! 昨日何があったって言うんや! ワイは無実じゃ、ロリちゃうんや! 覚えてないことを残念に思ってなんかない!! 本当やぞ!?」

 

タマモの言葉にますます混乱する横島。そんな横島を眺めながらタマモは言葉を続ける。

 

「(反応は上々ね。これなら……)冗談よ。竜姫に言われて起こしに来たついでにからかってみただけ」

 

「本当やな? ワイはまだ何もしとらんのやな? 知らんうちに……とかないんやな? ロリじゃないんやな?」

 

「ええ、そうよ。大体、私の格好を見なさいよ」

 

そう言われてベッドから出たタマモの姿を確認する横島。ベッドで横になっていた為、多少の着衣の乱れはあるものの、昨日購入した服をしっかりと着用していた。その姿から、何もなかったと、自分はロリに手を出す男ではなかったと安心する横島であったが、それもタマモの言葉で崩れることとなる。

 

「ま、さっきまで私の胸を揉んでたから、完全に何もなかったとは言えないけど……。ガキには興味ないって言っておきながら……」

 

そう言いながら横島の“ある部分”に視線を向けるタマモ。その視線に気づいた横島は、慌てて“ソレ”をシーツで隠す。

 

「こ、これは違うんや! あ、朝……そう、朝やからや! 決して、感触がよかったとか、意外と大きかったとか、いい匂いがしたとかやないからな!?」

 

「はいはい。そういうことにしといてあげる。早く着替えて降りてきなさいよ?(うわ~、アレって平均より……)」

 

そう告げるとタマモは部屋から出ていく。よくタマモを観察していれば、顔に朱に薄っすらと染まっていたり、声が上ずっていたことも、退出する足取りが異様に早足だったことも分ったであろう。しかし、それを確認できる唯一の存在であった横島は、先のタマモの言葉と態度に頭を抱え苦悩している最中であった。

 

「わ、ワイってやつはロリコンやったんか? いや、違う! そ、そうだ! 小竜姫さま! 彼女に反応すればワイは異常(ロリコン)やない! 正常なんや、しょ、小竜姫さまー!?」

 

この後、食堂でご飯をよそっていた小竜姫に突撃し、撃墜された横島の顔は何処か満足気であったことを記しておく。

 

 

 

 

 

――12:15 「よこっち」2F:食堂

 

早めの昼食を終え、学園長室へ向かう横島を見送った二人は食堂で一息入れていた。二人ならんで緑茶を飲む姿は様になっており、とても中学生には見えない。まぁ、実年齢は中学生ではないので当然といえるかもしれない。

 

「しかし、横島さんにも困ったものですね。いきなり、ロリコンではない証明に~なんて意味不明なことを言いながら襲いかかるなんて。つい、いつもより強く肘を入れてしまいました……」

 

小竜姫の言葉に、一筋の汗を垂らすタマモ。自分が原因であるとは言いにくいし、小竜姫に抜け駆けを責められるのも避けたいタマモであった。

 

「ま、アイツが意味不明なのはいつものことじゃない? 気にするだけ無駄よ」

 

「まぁ、そうなんですけどね? ……そう言えば、朝横島さんを起こすのに随分時間が…「そ、そんなことないわよ? 決してアイツのベッドに潜り込んだとか」…タマモちゃん?」

 

誤魔化そうとして墓穴を掘るタマモ。焦ると余計なことを口走るのは、彼女たちの(書類上の)保護者に似たのであろうか。そんなタマモを見つめる小竜姫の眼は、決して笑ってなどいなかった。

 

その眼に気圧されたのか、今朝の出来事を洗いざらい吐くタマモ。話の途中、度々小竜姫から吹き荒れる霊気(プレッシャー)に晒されたからか、話し終えたタマモは机に突っ伏していた。

 

「全く……。いくら横島さんに対する意趣返しだからってやり過ぎです!! 聞いてますか? タマモちゃん! そんな羨ま……じゃなかった。ふしだらなことをするなんて。大体なんで急にそんなことを。子供に興味がないと言われたからにしては、やりかたが……。今までだって、そんな方法は……」

 

「今、羨ましいって……。いえ、何でもないわ。だから、その霊気を抑えて……」

 

「す、すみません。つい、感情的になってしまって……。横島さんのこととなるとどうも。以前はそうでもなかったのですが……」

 

タマモの言葉に霊圧を発する小竜姫。どうやら、横島のこととなると感情を抑えるのが難しいようである。感情的になるだけならば、恋する乙女ということで微笑ましいのであるが、小竜姫の場合、漏れ出る霊圧だけでも相当なものであり、その身で受けることになったタマモにとっては迷惑以外の何物でもない。

 

ただ、小竜姫も自覚はあるようだが、改善までは至っていないようである。そのような自分を恥じるように、その身を小さくする小竜姫に対し告げる言葉を持っていないタマモは一つ溜息をつくと、小竜姫の疑問に答えるのであった。

 

 

「ま、気をつけてくれればいいわ。それで、なんでこんなやり方をしたかってことね? 確かに今までの私ならこんなやり方はしなかったと思うわ。多分なんだけど……こっちに来てから妖狐の本能が強くなってきてるんだと思う」

 

「妖狐の本能が……ですか?」

 

「そ。竜姫なら知ってると思うけど、妖狐……というか妖怪は強いものに強く惹かれるわ。それは単純に力の強さだったり、妖力の強さだったり、他にも群れをまとめる高いカリスマ性だったり、権力だったりするわね。妖狐はその中でも、高い権力に強く惹かれる傾向にある。実際、私の前世は“時の権力者”に惹かれ、その庇護を求めてたわ。覚えてはいないけど、体を使ったこともあると思う」

 

「それが今回と何の関係が……?」

 

「つまり、私の本能も横島を求めているのよ。そして、てっとり早く横島を手に入れる為に、あの行動が一番だと判断したの……無意識にね。私としては、バカ犬やおキヌちゃん、美神のこともあるし、楽しかったから、今すぐ横島を手に入れようなんて思ってなかった筈なんだけどね」

 

そう言うと溜息を吐くタマモ。彼女としては、誰が横島を手に入れるかも含めて、あっちでの生活を楽しんでいたようである。だからこそ、一番有効そうな手段をあえて取らず、からかいの延長のようにアプローチし続けていたのだ。勿論、最終的には自分が横島を手に入れるということは疑っていないようであるが。

 

「そうなんですか……。しかし、なぜ急に妖狐の本能が強まったのでしょうか」

 

「多分、こっちに来てしまったから。この世界には守ってくれていた美神も美智恵もいない。でも、横島はいる。それにほら、この世界でも横島は強者でしょ? その上、私たちの為に横島なりに頑張ってくれた。そして、トドメが……頼りになる横島の姿を見たからよ。権力者と渡り合うっていうね。それで、無意識に感じたのでしょうね。こいつに守られたい。こいつの寵愛を受けたい……こいつの心を手に入れたいって」

 

淡々と語っていくタマモ。小竜姫もタマモの言葉に同意するところがあるのか、相槌を打っている。

 

「確かに、この状況なら妖狐としては、一刻もはやく横島さん(強者)の庇護下に入りたいでしょうね。横島さん本人は自覚していませんが、間違いなく人界ではトップクラスの実力を持っていますし」

 

「ま、今度からはああいう手は使わないわ、多分。何だかんだいっても、今の姿でも十分横島の射程範囲内みたいだしね。焦る必要はないって分かったもの」

 

「そうですか……」

 

タマモの言葉になんと返せばいいのか分らない小竜姫。同じような手を使わないと断言しなかった以上、警戒を続けるべきか悩んでいるようである。そんな小竜姫の様子を見たタマモが言葉を続ける。

 

「それに、私はアイツを体を使って縛ろうだなんて思ってないわ。私はアイツの心が欲しいのよ。例え、他に何人の寵姫がいてもアイツの心の中に私がいれば、アイツの傍にいられればそれでいい。アイツが私を裏切らないのは分り切っているしね。それでも思うの。アイツが私一人に寵愛を授けてくれるなら……どれだけ幸せかって」

 

そう言って笑いかけるタマモに、小竜姫は自分がタマモを見誤っていたことに気付いた。妖狐の本能を知っていたからこそ、タマモは庇護を求めて横島の傍にいるだけだと心の何処かで彼女の想いを軽んじていた。

 

でも、違ったのだ。彼女は、庇護だけを求めているのではなかった。自分だけに愛情を注いでくれたらと彼女は言ったのだ。彼女は心から横島を求めていたのだ。――自分と同じように。

 

「……そうですか。私も、寵姫の一人でもいいんです。末席とは言え、竜神族の王族に私も名を連ねていますから、そのような形態があることも理解していますし」

 

小竜姫は決意する。タマモに宣戦布告をすることを。

 

「それでも、私はあの人の愛情を独り占めしたい。例えそれが、どれほど困難であろうと。きっと、それは心地よい筈だから。だから……」

 

タマモも小竜姫に宣戦布告をする。

 

「ええ。競争ね。どちらが先に横島の心を手に入れるか。アイツが私たちの内どちらか片方を選ぶかもは分らない。他の誰かかもしれない。それでも、私はアイツの心を手に入れて見せる」

 

「ええ、私も負けません。彼の心を手に入れて見せます」

 

 

ここに戦いの火ぶたは切っておとされた。

 

 

 

「ところでタマモちゃん……」

 

「なに?」

 

「横島さんが、二人とも選ぶといったらどうしますか? 私を排除しますか?」

 

「そんなことしないわ。アイツにより多く愛されるように頑張るだけよ。アンタ排除する気なの?」

 

「いえ、そんなことしませんよ。ただ、実際これが一番可能性高いかと思って」

 

「まぁ、そうね……」

 

「ですよね……」

 

 

 

 

 

――14:30 「よこっち」1F:事務所

 

 

 

宣戦布告をしたりしたが、険悪になるでもなく小竜姫とタマモの二人は、仲好く事務所の整理をしていた。それが一段落ついたころ、夕映、のどか、木乃香の三人が事務所を訪ねてくる。話を聞くと、夕映とのどかはハルナから逃げるため、木乃香は暇だったため誘いあって、事務所の整理の手伝いに来てくれたらしい。しかし、事務所の整理もほとんど終わってしまっていた為、現在は皆でお茶をしているところである。

 

 

 

「やはり、観葉植物とかがないと……」

 

「そうやな~。時計や食器は増えたけど、殺風景なんは変わらんし」

 

「あの中身がスカスカな書類棚が丸見えなのもちょっと……」

 

お茶を飲みながらも三人は事務所の殺風景さが気になるようである。

 

「それは開業までには間に合わないわねー。何ていったって明日だし、開業」

 

「まぁ、おいおい揃えていけばいいんじゃないですか? 横島さんも最初の一週間は宣伝と営業に費やすって言ってましたし」

 

小竜姫の言葉に、夕映が質問する。

 

「宣伝に……営業ですか?」

 

「ええ。前々から宣伝できていれば営業だけでいいとも仰ってましたが……。ねぇ、タマモちゃん?」

 

「ん? ああ、そう言ってたわ。営業ってのは、街に出てその場で依頼を受けることらしいわ。実績と宣伝を兼ねた一石二鳥の策なんだって」

 

「へ~。頭ええなぁ」

 

「確かにこういうのは知名度がものを言うです。街中で実績を上げつつ、知名度を得る。これが成功したら、かなりの効果が見込めるです。ただ……」

 

「ただ? 何か問題があるの? 夕映」

 

言葉を濁す夕映に、何か問題があるのかと問うのどか。他の三人も同様のようで夕映の答えを待っている。

 

「この作戦は、街中で依頼を受ける必要があるです。その場合、断ったり、失敗したりするとその……」

 

「……悪い噂が広がるってこと?」

 

「はいです」

 

「う~ん、それは困るな~。簡単な仕事やったらええんやけど、こればっかりはな~」

 

「……も、もし、依頼を受けれなかったら?」

 

「のどか……最初に言ったじゃないですか。宣伝を兼ねてと。その場合は宣伝をしに来たのだと割り切ればいいです。まぁ、ずっと宣伝ばかりというのも考えものですが……」

 

「じゃあ、やっぱり夕映のいうように失敗できないってのが問題なのかな……?」

 

「「「う~ん」」」

 

自分のことではないのに、真剣に考え込む三人。そんな三人を眺めていた小竜姫が何を告げればいいのかと悩む中、タマモが口を開く。

 

「大丈夫よ。横島だし」

 

「……そうですね。横島さんですし、心配するだけ無駄ですね」

 

タマモの言葉に同意する小竜姫。二人の横島に対する信頼を感じたのどかたち三人は、顔を見合わせると深く頷く。

 

「そうですね。きっと大丈夫です。なんと言っても、不思議な親しみやすさがあの人にはあるです。のどかもあの人には、普通に話せますしね。直接街中で宣伝する上で、親しみやすいということは武器になるです。それだけで宣伝効果も上がる筈です」

 

「そやな~。ウチも横島さんとは楽しくお喋りできたし。タマちゃん達が言うように、大丈夫かもしれんな~」

 

「わ、私もそんな気がしてきました……」

 

 

それから、口ぐちに横島について話をしていく少女たち。口から出るのは、どれも横島に好意的な言葉であった。横島が、さり気なくエスコートしてくれたという言葉からはじまり、話を合わせてくれた、笑顔がよかった、面白かった、よく見ると顔も中々だった、ファッションは古いがソレがよく似合ってる……etc.

 

 

そんな言葉を聞いたいたタマモと小竜姫は……

 

 

「よ、横島が女性から好意的な感情を……」

 

「……きっと、相手が子供だからですよ。ええ。そうです。そうに決まってます。彼女たちも、優しい友達のお兄さんって感じなんですよ……きっと」

 

「のどかは男性が苦手って言ってた割に、横島に普通に接していたような気がするけど、それも兄弟みたいに感じたからよね? ……買い物している時、横島とずっと一緒だったけど……それも、そういうことなのよね?」

 

「のどかさんが笑顔を見せてたような気もしますが、そういうことなんですよ……」

 

 

――現実逃避をしていた。

 

 

彼女たちは、木乃香が、昨日の買い物中横島とのどかがいい雰囲気だったとからかっているのも、それを受けて頬を薄っすらと染めるのどかの姿も見えていないふりをする。

 

昨日の木乃香を筆頭に三人とも横島と楽しそうに会話していたことも。人懐っこい木乃香はいいとして、最初は距離を置いていた夕映とのどかの二人が、気づくと横島の隣に陣取って会話していたことも。……全てを気のせいなのだと、言い聞かせている。

 

 

小竜姫とタマモの二人にとって、初対面の女性に横島が好意的に見られていることはそれほど予想外のことなのであった。

 

 

実際、タマモたちが思っているように、木乃香たちは横島のことを、“友達の優しい兄”のように認識しているのだろう。タマモや小竜姫のように、異性として意識している可能性は“まだ”低い。それは彼女たちもよく分っている。

 

 

 

 

それでも、二人の現実逃避は、木乃香たちが声をかけるまで続くのであった。

 

 

 

 

 

――16:30 麻帆良学園 世界樹広場前

 

「あ、いたわ」

 

タマモと小竜姫の二人は、横島を迎えに来ていた。別に何かがあった訳ではない。何となくそうしたかったのだ。

 

横島を見つけるのは簡単であった。横島の霊力は彼女たちには一際目立って感じられる。その上、超感覚を持つタマモがいるのだから、見つけられない訳がない。……ナンパしながらティッシュを配る男の目撃談を辿れば、すぐ見つかったことは秘密である。

 

 

 

二人が見つけた横島は、世界樹に背中を預け空を見上げていた。

 

「何をされているんでしょうか? 何か言っているようにも見えますが……」

 

「う~ん、小声で言ってるみたいだけど……風向きが悪いわね。聞こえないわ」

 

「唇を読もうにも、上を向かれては……」

 

二人とも、横島が何を言っているのかが気になっているようであるが、内容を知る術はなく、どうしたものかと顔を見合わせる。再び、横島の方を向いた二人はこちらに気づいた横島に手を振りながら呼びかける。

 

「横島ー!!」

 

「横島さーん!!」

 

タマモはいつか横島の心を手に入れると、小竜姫は横島の心からの愛情を受けるにふさわしい存在になると、それぞれ誓いながらこう告げるのであった。

 

 

 

「「帰りましょう!!」」

 

 

「おう!!」

 

 

 




横島君の初依頼の日の裏側。その頃の小竜姫とタマモ+αのお話でした。

次回からは4時間目に入ります。タマモと小竜姫と横島。それぞれが麻帆良で築く新たな人間関係。その出逢いは彼女にとって福音となるのか……。刹那の修行は……。その時、力を抑えつけられた彼女は……。

みたいな感じです。

小竜姫が王族(末席)。
これらは拙作内設定です。

それと、ptについてヒロイン表最下部に追記しました。

ご意見、ご感想お待ちしております。頂くと調子に乗って更新速度が上がります?


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4時間目:誰が為の福音
その1  竜姫とタマモと少女たち 前編


街をめぐり宣伝していく横島は、辿り着いた世界樹に誓う。自分らしく生きていくことを

一言: どんどんキャラ出してくよー。きっと。


 

 

 

 

便利屋「よこっち」の本格開業となるこの日。便利屋「よこっち」と書かれた看板を立て掛けながら横島が、登校前のタマモと小竜姫に話かけていた。

 

「これでよしっ……と。これで本格的に開業や。ま、最初は依頼なんてないやろがな。二人も今日から授業が始まるんやろ?」

 

「ええ。今日は確か、英語らしいです。担任の授業をするそうです」

 

「なんでも、初日の授業は半分交流みたいなものらしいわ。ま、何とかなるでしょ」

 

「学生は大変だぞ~。授業に宿題、テスト。成績が悪かったら補習ってのもあるしな」

 

「妖狐舐めないでよね。人間の学問なんて簡単よ」

 

勝ち誇るように言うタマモに、横島は疑惑の視線を向ける。その視線に気づいたタマモが何か言う前に横島が告げる。

 

「お前の言う人間の学問ってのはいつの時代だよ……。英語や理科のない時代だろうに。小竜……竜姫は大丈夫そうですか?」

 

名を言い直す横島に、苦笑しながら小竜姫は答える。

 

「まだ名前に慣れませんか? いざとなればアダ名と誤魔化せますが、早く慣れてくださいね? それに、敬語も要りません(ええ、より親密になる為にも敬語は……)」

 

「いやー、そう簡単には。ま、気をつけるよ」

 

「気をつけてくださいね? 普段からそう接していれば、すぐ慣れる筈です。それで、授業のことでしたっけ? 多分、大丈夫だと思いますよ? タマモちゃんは妖狐ですし、教える為の教師です。英語は全く知りませんが、分かりやすく教えてくれる筈です」

 

「いや、教師にもあたり外れが……。ま、いいか。じゃ、学校を楽しんでこい」

 

「はい!」「うん!」

 

横島に見送られて二人は学校へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

早い時間に出た為か、特に混雑に巻き込まれることなく教室へと辿り着いた二人。教室内には既に数人の生徒がおり、それぞれ会話をしたりしている。

 

「う~ん、木乃香たちはまだ見たいね。それに、ほとんどいないわ」

 

「そうですね。まだ時間が早いのでしょうか?」

 

二人が席に向かいながら時間を確認すると、時計の針は8:00。朝のHRが始まるのが8:30なので早いと言えば早い時間である。時計を見ては考え込む二人に近づく一つの影。

 

「お二人ともどうかされましたか?」

 

「へ?」

 

「時計を見て考え込まれていましたが……? その時計の時間は正確ですわよ?」

 

「そういう訳ではないんですよ。雪広さん」

 

二人に近づき話しかけて来たのは、雪広あやか。先日の委員決めで学級委員長になった少女である。二人が悩んでいるのを見て、近寄ってきたのであろう。

 

「そうそう。ただちょっと来るの早かったかなぁーって」

 

「ああ、そう言えばお二人は外部からでしたわね。麻帆良では大体の生徒が始業開始時間の10~20分前に登校が集中しますの」

 

「10~20分前? どうしてよ?」

 

「単純に電車の時間ですわ。各学校の始業開始時間に間に合うように駅に着く電車は決まってますわ。それに乗った場合、大体その時間帯に学校に着くんです」

 

「へ~。私たちもその時間帯にしようかしら」

 

「あまりオススメはしませんわ。麻帆良は生徒数が多いですから。凄く混雑しますわよ? 今の時間帯が丁度少ない時間帯ですわ。これより早いと職員の方や朝練の方たちの混雑に巻き込まれますし」

 

あやかの言葉に混雑に巻き込まれた自分を想像する二人。人ごみに好き好んで巻き込まれたくはない、と登校時間は今日と同じにすることを決めたのであった。

 

「教えてくださってありがとうございます、雪広さん」

 

「ありがとう」

 

「いえいえ、これくらい何てことありませんわ。それより、お二人共私のことはあやかと呼び捨てに。クラスメイトなのですから」

 

「じゃ、私もタマモでいいわ。よろしく、あやか」

 

「私は竜姫と。よろしくお願いしますね? あやかさん」

 

「よろしくお願いしますわ。タマモさん、竜姫さん。何かありましたら、委員長である私に相談してくださいな。それでは」

 

そう言うとあやかは、遠巻きにこちらを見ていた二人の元へ向かう。タマモと竜姫も自分の席へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

あやかの言う通り、始業の10分前から次第に教室に人が増えてきた。しかし、一向に木乃香たちは教室に現れない。遅刻かとタマモと小竜姫が話していると、教室に滑り込むかのように流れ込む複数の人影が。その影は荒い息を吐きながら、各自席へと向かう。そのうち、タマモは自分の前の席に座った影――木乃香に話しかける。

 

「大丈夫?」

 

「あ~、タマちゃん? 平気、平気。思ったよりしんどかっただけや。明日からはエア・トレック履こう……」

 

「寝坊でもしたの?」

 

「あー、明日菜がな。中々起きんかったんよ」

 

「だから、ゴメンってば。私もまさか起きれないとは思わなかったのよ」

 

「夜ふかしでもしたの? 明日菜」

 

タマモの疑問に、切らした息を整え答える明日菜。走ってきたせいか、ツインテールにした髪が乱れている。

 

「違うのよ。ちょっと訳あって、早朝のバイトを始めてね。一度帰って寝なおしたら、ね」

 

「起きれなかった……と」

 

「そういう事。走ればギリギリって電車にどうにか乗れたのが幸運だったわ。あ~、明日からは目覚まし増やそうかしら」

 

「どうやろな~。慣れるしかないんやない?」

 

木乃香の言葉に突っ伏す明日菜。そんなやり取りを横目に竜姫は後ろの席に座った夕映に話しかけていた。

 

「夕映さんとのどかさんはどうして? お二人なら余裕を持って登校しそうですが?」

 

「実は寝坊したです。私とのどか、それにそこで机に伏せているハルナが同室なのですが……」

 

竜姫の言葉に、ハルナに一度視線を向ける夕映。竜姫が夕映の視線を追うと、机に伏せた少女の姿が。確か、漫画研究会に入りたいと言っていたなと竜姫が思い出していると、夕映が続きを話しだす。

 

「それで、昨日のことです。部屋に帰った私とのどかをハルナが捕まえて、原稿を手伝わせたのです。最初は良かったんです。でも、次第にハルナのテンションが吹っ切れてしまい……」

 

夕映の脳裏には、原稿を奇声をあげながら書き進めるハルナの姿が。想像しただけで疲れるその光景に、夕映はため息を吐くと遠くを見ながら続きを話し出す。

 

「ええ。深夜まで手伝わされてしまいました。まぁ、深夜と言っても二時まではいってなかったと思います。ただ、慣れない作業とハルナのテンションに疲れていたのか、ぐっすりと眠ってしまいましてね。私とのどかが起きた時は、もうギリギリでした。その後、中々起きないハルナを叩き起こして……。間に合ったのが奇跡でした……」

 

「そ、そうですか……(原稿って何でしょうか?)」

 

小竜姫が遠い目をする夕映に、原稿とは何かを尋ねようとした時、HR開始のチャイムがなり同時に高畑が教室へと入って来た為、結局尋ねることは出来なかった。

 

 

 

 

 

HRはすぐに終わり、次の身体測定の時間となる。当然、高畑は退出しており、教室内には生徒たちと、測定を担当する刀子が残されていた。

 

「はいはい、あまり騒がないの。身体測定の流れを教えるからよく聞きなさい。まず教室で体重と身長、座高の測定。これは私と保健委員がやるから。終わったらクラス単位で移動して、順番に講堂でスリーサイズ、視聴覚室で視力と聴力の測定。そのあと、保健室で内科検診。全部終わったら、教室で講義。分かった?」

 

刀子の言葉に明るく返す面々。刀子は本当に分かっているのだろうかと、疑問に思いながらも続ける。

 

「移動の際は委員長の指示に従って行動すること。いいわね? じゃ、機材を運ぶから保健委員は手伝ってくれる? それ以外は、騒がずに待つこと。じゃ、行きましょうか」

 

退出する刀子の後を慌てて追いかける保健委員の少女。二人の足音が遠ざかると、一気に教室内は騒々しくなる。

 

聞こえてくるのは、体重がピンチやらウエストがなどの言葉。幼くとも女性という事である。

 

そんな中、タマモと小竜姫は自分に向けられる複数の視線に気づいていた。何処か期待するような視線は、先日の自己紹介で竜姫の剣術という言葉に反応した二人であろう。

 

そして、もう一つ。値踏みをするかのような、こちらを観察する視線。わざと気づかせるかのような、露骨なソレ。

 

 

 

 

その視線の主は、西洋人形の様なその容貌に不釣り合いな笑みを浮かべ、静かに二人を見続けるのであった。

 

 




身体測定の内容は飛ばすかもしれません。というかほぼ飛ばします。入れても会話を少々? 中一時の彼女たちのスタイルが想像しにくいので。

始業開始時間。登校集中時間帯。夕映、のどか、ハルナが同室。教室外での身体測定について。木乃香がエア・トレックを履いている。
これらは拙作内設定です。

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その2  竜姫とタマモと少女たち 中編

小竜姫とタマモに向けられる視線。その視線が意図するものとは……

一言: 皆様のおかげでお気に入り数が1000件を突破しました。ありがたいことです。


 

 

 

 

下着姿になり、体重と身長の測定を待っている間にタマモと小竜姫は刹那と会話をしていた。

 

「あ、あのぅ? さっきから、その、何を見ているのでしょうか?」

 

「う~ん、いや、横島の言った通りだって思って。いや~、凄いわ」

 

「よ、横島さんが? 何を言ってたんですか? というか、そんなジロジロ見ないでください!!」

 

タマモの全身を舐め回すかのような視線に、悲鳴をあげる刹那。いくら同性といっても、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。勿論、タマモが刹那を性的な目で見ている訳ではない。

 

「いや、アンタって歳の割に筋肉がついてるから。横島の言ってた通りだなぁって。……いくらアンタがハーフだからって、鍛錬のやりすぎじゃない?」

 

最後は小声で刹那に伝えるタマモ。その言葉に自覚があるのか、黙る刹那。そこに黙って見守っていた小竜姫が話しかける。

 

「鍛錬も大事ですが、何事にも適度と言うものがあります。アナタの場合、このままでは身体の成長を阻害することになります。アナタの場合は特に」

 

「そ、それでも! 私は……強くならないと」

 

「そういえば学園長から話は聞きましたか?」

 

「え? あ、はい。何でも私に修行をつけてくれるとか」

 

急な話題の転換に少々戸惑う刹那だったが、すぐに修行のことだと気づく。刹那の返答に小竜姫は頷くと、小声のまま続ける。

 

「そうです。そのことについては、刹那さんが是と言えば今日からでもと思っています。詳しく説明もしたいですしね」

 

「で、でも、今の流派の技も未熟な私が、他の流派の方の教えを受けても……。あ、別に嫌って訳ではないんですよ? その方が私の為になるって刀子さんも言ってましたし。……ただ、横島さんに会うのがちょっと恥ずかしいというか、嬉しいというか」

 

「あら、刹那は聞いてないの?(この娘、私が妖狐って忘れてるわね。その声の大きさでも聞こえてるのよ? ……しかし、バカ犬よりチョロいんじゃない?)」

 

何処か躊躇する刹那。本人は聞こえないように言ったつもりだろうが、妖狐であるタマモには全部聞こえている。竜姫に目を向けると苦笑しているので、こちらは唇を読んだのであろう。指摘して騒がれても困るので、タマモは話しを進めることにする。

 

「私たちが教えるのは、剣術じゃないわ。そもそも、私も横島も剣術は修めていないしね」

 

「そ、そうなんですか? じゃあ、一体何を……?」

 

「それはここでは。今日の放課後にでも。……それと、いつも鍛錬は何時に?」

 

「筋トレや素振りなどは時間のあるときに。技や型の鍛錬は、刀子さんと一緒に夜の九時過ぎから。刀子さんの仕事があって、一緒に鍛錬出来ない時は部屋で瞑想とかしています」

 

「そうですか……(暇があれば鍛錬しているってことですか)」

 

「本当は毎日でも技の鍛錬をしたいのですが……。幾ら認識阻害があっても、それも万全ではないですからね。人目を避けるとなると、そのような時間帯に」

 

実は麻帆良学園には、麻帆良にいる多くの魔法関係者の為に修行場がある。利用人数、時間帯などを申請して利用するもので、結界で完全に隔離されており、魔法使いが人目を気にすることなく鍛錬に励んでいる。

 

当初、刀子は刹那との鍛錬の為にこの修行場を昼間に利用しようと申請を行っていた。しかし、神鳴流剣士を快く思っていない一部の魔法使いが、昼間から魔法使いでない者が修行場を利用することに反発した為、刀子たちは昼間に修行場を利用できなくなったのだ。そこで、刀子と学園長は利用申請が少ない夜間に利用することとなったのである。

 

そのような事情を知らない刹那は、単純に人目を避ける為という刀子の言い訳を真に受けているのであった。

 

「門限とかはないのですか?」

 

「門限は八時ですね。管理人さんも関係者なので、連絡さえすればその点は融通してくれます」

 

刹那の言うように寮の管理人も関係者である。最も、事情を知っているだけで何の力も持っていないが。麻帆良には魔法生徒と呼ばれる学生たちがいる為、このような措置が取られているのである。無論、無断外泊や夜間の無断外出は禁じられている。

 

 

 

刹那の説明を聞いたタマモと小竜姫は、それならばと提案する。

 

「今、私たちの家の地下に修行場を建築中です。完成したら、そこで鍛錬をされては如何でしょうか? それまでは、事務所で教えることになると思いますが」

 

「いいんですか?」

 

「ええ。構いません。優先して作りますから……そうですね、早ければ三日後。遅くとも週末までにはできるかと」

 

「とりあえず、今日は夕飯前に来てくれればいいわ。出来れば技とかも見たかったけど、それは完成後ね。はい、決定。順番が来たから行ってくるわ」

 

「夕飯を作って待ってますね」

 

そう告げるとタマモは身長を、竜姫は体重を計測しに向かう。残された刹那は、いつの間にか夕飯を共にすることが決まっていることに戸惑っていた。その頬が若干赤いのは、何を考えていたのだろうか。

 

 

 

 

 

「竜姫」

 

「この視線ですか? 気にしないことです」

 

「でも、鬱陶しいわよ? たかが吸血鬼のくせして、私たちを観察して」

 

自分たちの測定を終え、クラスメイトの計測を待っている間、タマモが小竜姫に話しかける。朝からずっと感じている視線に、我慢出来なくなってきたようである。

 

「まぁまぁ。わざと気づかせて私たちの反応を見たいんですよ。反応しなければ、その内焦れて接触してくるか、諦めるかします」

 

「冷静ね。美神みたい」

 

「まぁ、近くであの人を見ていたら多少は身に付きますよ。横島さんもそうですしね。タマモちゃんだってそうでしょ?」

 

「そうなんだけどね。ただ、前世のせいか観察とかそういう視線が嫌いなのよね。しかも、私より格下の癖に」

 

「タマモちゃんより霊格が上なのは、それこそ神魔くらいですよ」

 

小竜姫の言うように、九尾の妖狐であるタマモに比べれば、人界のほとんどの生物は格下である。例え、転生前の力を完全には取り戻していないとは言っても、である。それでも、転生前や横島と出逢う前まで追い回されてきたタマモにとって、その手の視線は不快なものであった。

 

「あ~あ、これが横島の視線だったらなぁ」

 

「横島さんの……ですか? ……それは恥ずかしくないですか?」

 

横島にジッと見られている自分を想像した小竜姫は、恥ずかしくないのかとタマモに尋ねる。

 

「だって、視線を独り占めしてるってことは、アイツが私だけを見てるってことじゃない。それに、アイツの寵愛を受ける為に頑張っているのよ? これくらいで恥ずかしがってたら、やってられないじゃない」

 

「まぁ、そうかもしれませんけど……」

 

あっけらかんと答えるタマモと、恥ずかしがる小竜姫。そんな二人に近づく影が……

 

「それ!!」

 

「あ、ちょっと」

 

「わ、すご! 体重めちゃくちゃ軽い。いくら私より背が低いって言っても、これ軽すぎでしょ! ほら、みてアキラ」

 

「や、やめなよ裕奈。妙神さんに返しなよ」

 

その影――明石裕奈は、小竜姫が机に置いていた身体測定結果を記した表を掴みあげ、目を通すなり驚愕の声をあげる。それをアキラがとめているが、聞く耳を持たない。

 

「あの、明石さん? 返してくれませんか?」

 

「ん? あ、ごめんね。置いてあったから、つい」

 

「別に構いませんが……。他の人にはしない方がいいですよ。嫌がる人もいると思いますし」

 

「あははは……」

 

「……妙神さんでもう五人目なんだ」

 

小竜姫の言葉に乾いた笑いで答える裕奈。その理由を後ろに控えていたアキラが教える。

 

「ま、まぁこれ以上しないということで。ね? 竜姫さんでいいかな? 私も裕奈でいいしさ。あ、タマモちゃんも裕奈でいいからね? ……そんでさ、どうやったらそんなに軽くなんの?」

 

小竜姫を質問攻めにする裕奈。アキラはそんな裕奈にため息を吐くと、小竜姫の横に座っているタマモに話しかける。

 

「裕奈ったら……騒がしくてゴメンね? 私もアキラでいいから。裕奈って初等部のころからこんな感じで……」

 

「楽しくていいんじゃない? 私もタマモでいいわ。あっちは勝手に呼んでるけど」

 

「本当、ゴメン」

 

「いや、いいのよ? 気にしてないし、苗字で呼ばれるよりいいし」

 

「ありがと。タマモちゃん計測は? 終わった?」

 

「終わったわよ? ほら」

 

そう言うと自分の記録表を開いて差し出すタマモ。思わず受け取ったアキラは、記録に目を通すと小さく驚く。

 

「タマモちゃんも軽いね。それに、身長が153cm? もっとあるかと思ってた」

 

「あ~、髪型じゃない?」

 

「髪型? それもあるかも知れないけど、何かオーラっていうか、存在感っていうか……そういうのが大きく感じさせてるのかな?」

 

「オーラねぇ……(この娘も面白いわね……ま、いいか)」

 

「あ、ゴメン。返すね」

 

謝罪しながら記録表を返却するアキラ。どうやら、タマモがジッと見ているのを催促と思ったようである。

 

 

その頃、裕奈と小竜姫はというと、裕奈が喋り、小龍姫が相槌といった感じで会話が進んでいた。

 

「そうだよね! やっぱり、運動って大事だよね。私もお父さんが勧めたバスケをやってるんだけど、おかげでダイエットとは無縁だよ。ま、そのお父さんが運動をあまりしないんだけどね? だから、休みの日に運動に誘ったりさ……」

 

「良かったですね~(さっきからお父上の話ばかり……)」

 

「でさ? お父さんったら、朝だらしなくてさ。いつもモーニングコールしないと起きないんだよ? 全く、男の人ってダメだよね~」

 

「そうですね~。横島さんも私かタマモちゃんが起こさないと、起きてきませんしね~」

 

「そうそう……って。男と同居してんの!?」

 

裕奈の父親話に疲れていたのか、深く考えずに答えた小竜姫。それを聞いた裕奈が思わず大声を出すが、幸い体重計を見てあげた悲鳴に紛れ教室中に拡散することは防がれたのであった。

 

 

 

因みに、悲鳴をあげた生徒は雪広あやか。前日の社交パーティが原因であった。

 

 




徐々に構築される人間関係。そして、エヴァとの接触は未だお預け。

それと、活動報告に【道化】学校行事について【お願い】を掲載しております。ご協力いただけると幸いです。

寮の管理人、門限、規則。麻帆良での修行環境。タマモの身長。
これらは拙作内設定です。

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その3  竜姫とタマモと少女たち 後編

身体測定の最中も感じる視線。一体、何が目的なのだろうか。

一言: ちょいだししていたあの人が遂に……。


 

 

 

 

同時に大声をあげた裕奈とあやか。大半の生徒は悲鳴を上げ、項垂れたあやかに注目していた。しかし、アキラに口を抑えられている裕奈の言葉を聞いた者もいた。その人物は、目を輝かせ裕奈たちへ近づくのであった。

 

 

 

 

 

「裕奈落ち着いた?」

 

裕奈の口から手をどけながら尋ねるアキラ。

 

「まぁね。それで! 竜姫さんさっきのは……「裕奈!声が大きい!」……もう、アキラも大きいじゃんか」

 

「だ、だって……。大きな声で男の人と同居なんて……。竜姫さんが困るよ」

 

アキラの言葉にもっともだと納得したのか、頭を縦に振る裕奈。そんな二人に小竜姫が話しかける。

 

「別に無理してまで隠すことではないので……。私とタマモちゃんが寮にいないのはいずれわかるでしょうし」

 

「そうねぇ。木乃香たちも知ってるけど、別に口止めなんてしてないし」

 

 

「そうなの?」

 

「そうよ。ま、あんまり騒がれても鬱陶しいから、積極的に言うつもりはないけど」

 

「で、アンタら男と同居って本当なの?」

 

「そうよ。横島と竜姫と私の三人で住んでるわ……ところで、朝倉だっけ? アンタなんで隠れてんの?」

 

タマモが後ろを振り向きながら言うと、名を呼ばれた少女――朝倉和美がタマモたちの背後にある机の影からその身を現す。小竜姫は相変わらず微笑んでいるが、裕奈とアキラの二人は展開についていけてないのか疑問を顔に浮かべている。

 

「あちゃー、バレてた?」

 

「私から隠れようなんて……そうね、百万年早いわ」

 

「そりゃ、手厳しい。で、何で葛葉と妙神はその男と同居してんのさ? 全寮制でしょ女子中等部(ここ)

 

「それは…「タマモちゃん、待って!」…何で?」

 

理由を語ろうとしたタマモをアキラが止める。その顔は真剣であった。裕奈は止めた理由が分かっているのか、うんうんと頷いている。

 

「タマモちゃんと竜姫さんって外部組だったよね? 麻帆良には、“報道部発世界行き”って言葉があるの」

 

「何それ?」

 

「簡単に言うと、報道部が知った情報は世界中に拡がるってことかな。そういう言葉ができるくらい、報道部は色んな情報を麻帆良中に配信してるんだ。そして、影響力も大きい」

 

「ああ、それで。確か朝倉さんは報道部に入るつもりだと自己紹介で……」

 

小竜姫が和美の自己紹介の言葉を思い出し、納得する。目の前の少女は確かに報道部に入ると言っていた。大スクープがあったら教えてとも。

 

「そういうこと。報道部相手にネタになりそうな発言は控えるのが、麻帆良では基本なんだよ。騒がれたくなければ尚更」

 

「大丈夫だって。不正とかじゃない限り、本人の許可がないと報道できないし。大体、私が目指してるのは正義の記者。人に迷惑をかける報道は私のポリシーに反する」

 

「そうなの?フラレたのを報道されたとか、勝手に写真をネットに掲載されたとかって話も聞くけど」

 

「それは報道部じゃないって。個人でサイトもってる奴か、ゴシップ系を扱ってる同好会のヤツら。アイツらみたいなのがいるから、報道部も誤解されてんだ」

 

「へぇ~。知らなかった」

 

「実は、この前見学に行った時に先輩が言ってたんだけどね。で、安心してくれたかな?」

 

最期はタマモと小竜姫に向けて言う和美。それにタマモが疑問を告げる。

 

「まぁ、わかったわ。それで、何でさっき隠れてたの?」

 

「いや~、スクープの匂いがしたから、つい。初等部の頃からネタを探してたら、自然とそういうのが上達しちゃって。今は半分くらいネタを集めるのが趣味みたいになっちゃってるし。あ、安心して! さっき集めた情報を誰かに教えたり、勝手に記事にしたりはしないから」

 

「まぁ、信じてあげるわ。それに別に聞かれて困る話じゃないし」

 

「サンキュー! で、さっきの続きだけどさ……」

 

何処からか取り出したメモ帳を片手に、目を輝かせながらタマモに質問していく和美。一度はタマモの発言を遮ったアキラと裕奈であったが、やはり興味はあったのか一緒になって質問している。

 

小竜姫は説明をタマモに任せると、今も感じている視線について考える。

 

(エヴァンジェリンさんでしたか……。学園長や刹那さんから聞いた話だと関係者ということでしたが。それに警備も担当しているらしいですし……実力を図っているのでしょうか? タマモちゃんの超感覚で吸血鬼と分かりましたが……。彼女は霊力も魔力も気もほぼゼロ……)

 

視線の主の姿を思い浮かべる小竜姫。長い金髪に碧い瞳。小さな体躯と非常に可愛らしい姿の少女。強さに容姿が関係しないことはよく分かっているが、それでもこんな少女がと思わずにいられない容姿である。

 

(タマモちゃんの超感覚を誤魔化せる隠蔽術があるのなら、吸血鬼だというのも誤魔化せる筈ですし……。何かしらの制限がかけられているのでしょうか? 学園長も流石に吸血鬼を野放しには出来なかったということですかね? それとも、吸血鬼の力を抑えることで日中の行動を可能にしたのでしょうか……?)

 

小竜姫が思い浮かべたのは、元の世界の知合いであるピートであった。彼は人間と吸血鬼のハーフであった為、吸血鬼としての能力は真祖のそれに比べると弱い。その代わり、吸血鬼として受ける数々の制限も緩和されている。

 

ハーフではないエヴァンジェリンは自身の吸血鬼の力を抑え、魔力などの力を減少させる代わりに、日光や流水といった制限を緩和しているのではないかと小竜姫は考えたようである。

 

(もし、そうだとすると……。昼間はほぼ人間と変わらないということに……。ああ、だから観察はしても接触はしないんですね。万が一敵対してしまったら、昼間は不利ですからね……)

 

疑問が解けたからか、何処か清々した表情となる小竜姫。そのまま彼女は、タマモと少女たちの話に加わるのであった。

 

 

 

――この小竜姫の推測は実のところ間違いである。

 

そもそもエヴァンジェリンは、力を制限せずとも日中の行動は可能である。何故なら、彼女は日光を克服した吸血鬼――ハイ・デイライトウォーカーであり、魔力が感知できないのは学園に貼られた結界によって抑えられているだけだからである。

 

また、学園結界によって魔力の大部分を封じられているせいで、魔法はおろか吸血鬼の能力さえまともに使用はできないことは事実であるが、彼女には永き戦いの中で身に付け、研鑽してきた体術と無数の戦闘経験がある。不利な状況であろうが、そこから撤退するだけの力を持っているのである。その上、一般人が多くいるクラス内では魔法や気は使用できない為、エヴァンジェリンが接触するのに慎重になる理由はないのである。

 

では、エヴァンジェリンがタマモと小竜姫に接触せず、露骨な観察を行っているのは何故か?

 

簡単である。暇つぶしに見ているのだ。露骨に観察しているのも、反応を見る以外の理由はない。

 

あの人気づくかなぁ? どうするのかなぁ? こっち来るかなぁ?(可愛らしく翻訳しております)

 

こんな子供じみた発想のもと、観察しているのである。

 

そして、何の反応もなければ、次の観察対象(刹那)に視線を移すつもりでいたのだ。

 

 

 

 

だが、彼女は次の観察に入ることはなかった。何故なら……

 

 

アキラたちと話していたタマモが、自然な動作で一瞬、エヴァンジェリンの方を向き、唇の動きだけで伝えたのだ。

 

 

「あんまりジロジロ見てると……燃やすわよ? 吸血鬼のお嬢ちゃん?」

 

 

……と。その行動は、エヴァンジェリンと小竜姫以外には見つからなかった。タマモとエヴァンジェリンの視線があったのは、ほんの一瞬の出来事であったし、タマモは小竜姫の肩ごしにそれを行ったのだから当然である。

 

 

 

 

その視線と言葉を受けたエヴァンジェリンは、数秒固まっていたがすぐに口元に笑みを浮かべた。

 

(くくくっ……。面白い、面白いぞ“葛葉タマモ“。私の視線に気づき、尚且つ挑発までしてくるとは……。魔法世界出身のくせに、この私を……『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』と恐れられた私を、最強の魔法使いたる私を挑発してくるとは……。決めたぞ、ヤツを私の別荘に招待してやろう!! そして、誰を挑発したかその身に思い知らせてやる!!ついでだ……妙神竜姫も可愛がってやろう。くくくっ、恨むなら私を挑発した小娘を恨むのだな……)

 

「マスター、嬉しそうですね?」

 

「ふふ、そう見えるか? まぁ、いい暇つぶし相手を見つけたってところだ。それに、お前の能力を確かめるのにも、丁度いい機会だ。帰ったら連携訓練をするぞ? アレを用意しておけ」

 

「了解しました、マスター。……ところで、アレとは何でしょうか?」

 

「む?……そういえば、教えていなかったな。帰ったら教えてやる」

 

そこまで言うと、エヴァンジェリンは自分の従者であり、クラスメイトである絡繰茶々丸から、小竜姫にお小言を言われているタマモに視線を向ける。タマモは、小言を受けながらも楽しそうに、まるで先程の言葉が嘘であったかのようにクラスメイトと会話していた。

 

 

 

「さぁ、準備が整うまでの間の僅かな平和を満喫するがいい。……私と茶々丸が思い上がっている小娘に……現実を見せてやろう。何、殺しはしないさ……絶対的な力の差を、絶望をプレゼントしてやる……。ふふっ……やはり光の中は……私には無理そうだよ」

 

 

 

エヴァンジェリンが寂寥感と共に紡いだ言葉は、主の姿を見つめる彼女以外の誰に聞かれることもなく霧散する。

 

吸血鬼とガイノイド。人ならざる彼女たちは静かに、その物語を紡いでいく。

 

 

――福音を告げる物語は静かに、確かに紡がれ始めた

 

 




小竜姫は疑問に答えを出し落ち着きましたが、タマモは我慢の限界に来ていました。
エヴァから絡んでもよかったのですが、タマモから喧嘩を吹っかける形に。
タマモは気も強いですし、こういうのもいいかなぁと。同じ人外ですから挑発と受け取ったという事で。
エヴァも本能的にタマモたちが人外と悟っているので、余計にイラついています。

エヴァが戦闘準備を始めましたが、すぐに戦闘にはなりませんでした。茶々丸が起動して日が浅いので、訓練や能力の確認を終えた後に招待となるでしょう。

そういえば、エヴァは何故、結界内では牙もなくなるのでしょうか?牙というヴァンパイアの特徴まで失っているという事は、魔力だけに聞く結界ではないのでしょうか?牙に有効なら不老や不死にも効果があるのでしょうか?

”報道部発世界行き”という言葉。報道部の他に似たような同好会がある。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。また、活動報告もたまに更新しています。


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その4 妖狐と竜神と吸血鬼と……煩悩人と 前編

妖狐と竜神。吸血鬼とガイノイド。人ならざる彼女たちが紡ぐ物語とは……


一言: 主人公がタマモと小竜姫に見えてきた。何故だろう?


 

 

 

 

初日の授業を終えたタマモと小竜姫は、談笑しながら帰宅の準備を整えていた。

 

「今日から入部受付も始まるけど、タマちゃんたちどうするん?」

 

「あれ? 見学とか説明会が始まるんじゃないの?」

 

「間違ってはないです。麻帆良では多くの学校で部活、同好会の掛け持ちが認められているです。その為、見学と同時に入部ができるようになってるです。説明会も順次開催されてますが、それより先に入部も可能です。というか、先程説明があった筈ですが?」

 

「あ~、聞いてなかったわ(……お子様吸血鬼のせいで)」

 

「それで、お二人はどうするんですか?」

 

のどかの質問にタマモは小竜姫を伺う。小竜姫はお任せしますとだけ告げ、タマモに判断を任せるようである。

 

「う~ん、部活にはあまり興味ないのよね。それより、横島が気になるわ。真面目にやってるのかしら……。あれでしっかりしているとこもあるってのは知ってるんだけど、どうもね」

 

タマモの言葉に揃って苦笑を浮かべる一同。木乃香たちが横島と会ったのは、僅か一日のことであり、その短い時間で自分たちでも驚く程馴染んだが、何処か情けない印象を少なからず受けたのも確かである。

 

「最初は営業って言ってたし、成果なんてほとんどないって言ってたけど……。やっぱり気になるわね」

 

「気持ちは分かるです。何事も初日というのは気になるものです」

 

夕映がタマモの気持ちも分かると言うと、のどかたちも口々に気持ちを告げる。

 

「……何だか私も気になってきた……。大丈夫かな? 怖い人に追いかけられてないかな?」

 

「なんや、ウチも気になって来た……。横島さん女の人好きみたいやし、悪い女の人に騙されてないやろか……」

 

「……まさか……いや、あの光景を見ている身としては否定しきれないですね。成果とは違う意味で気になってきました……」

 

次第に不安になっている面々に、小竜姫がこの後どうするのかを尋ねる。横島に関してフォローの言葉がないのは、小竜姫も否定出来ないのであろうか。

 

「それで、皆さんはどうするんですか? 部活を見学に?」

 

「いえ。私たちは入りたい部活は決めてますし、説明会の日取りもチェック済みです」

 

「そんで、今日は何もないからタマちゃんたちに着いていこうかと思ってな?明日菜は高畑センセが美術部顧問って知って突貫したし、ハルナは漫研に行ったみたいやし」

 

「ハルナは会心のネームって言ってました……」

 

「でも……私たち部活に興味ないし、今日はまっすぐ帰るわよ? どうするの? 一緒に帰る?」

 

タマモの言葉に三人は顔を見合わすと、目で会話しているようである。やがて、結論が出たのか、三人は頷くとタマモと小竜姫に向かって告げる。

 

「タマモさんと竜姫さんにご一緒するです」

 

「その、横島さんも気になりますし……」

 

「アカンかな?」

 

「構いませんよ。それでは行きましょうか」

 

そう言う小竜姫は既に教室のドアの前へ移動していた。それを見たタマモたちは苦笑しながら、彼女を追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

学園を後にした一行は、女子寮の最寄り駅に到着していた。そのまま、改札を通り抜けようとした時、改札の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「お嬢さん! 何か困ったことがありましたら是非、便利屋“よこっち”にご連絡ください。迷子のペット探しに、お部屋の蛍光灯替え、バイトの代役、引越しのお手伝いも。何でもやりますよ。今なら開業記念でなんと25%OFF!! お嬢さんなら……そうだ、特別料金で半額! どう?」

 

「ふふ、楽しい方ですね。でも、困ってることは特に……。それに、そろそろ保育園のボランティアの時間なので……」

 

「その年齢でボランティアとは……。お嬢さんは偉い! オレも子供は嫌いやないけど、あのバイタリティ相手にボランティアではちょっとなぁ……。ま、人手がいるようならいって。お嬢さんからならいつでも半額でうけるよ」

 

「でも、半額というのは……」

 

「いいの、いいの。お嬢さんは特別。気にしなくてもいいから」

 

「そんな……」

 

 

聞きなれた声にタマモと小竜姫は走り出す。残された木乃香たちは慌てて後を追う。それほど距離はなかったようで、すぐに現場に着いた彼女たちが見たのは、横島の背中に飛びかかるタマモの姿であった。

 

「よ・こ・し・ま~!!」

 

「おお!! なんか背中に柔らかいものが……って、タマモじゃないか。ん? 待て! 首に腕をまわすなんじゃない! 柔らかい感触が……ち、違う! 首が絞まるって!!」

 

「問答無用! 多少のナンパには目を瞑るつもりだったけど、クラスメイトに手を出すなんて……。学校で噂が拡がったらどうするつもり!!しかも、胸の大きな子に……私のじゃ不満かー!!」

 

「ち、違……! ナンパなんてしてない!!」

 

横島の背中にしがみつき、腕を横島の首にまわすタマモと振り払おうとする横島。二人とも本音が溢れていることには気づいていないようである。

 

「タマモちゃん、言いたいことはわかりますが離れて。ここでは目立ってしまいます。那波さん……でしたか?ちょっと着いてきて頂けますか?」

 

「ええ。構いませんよ、妙神さん。」

 

横島とタマモのやりとりを、じゃれあう子供を見る目で見ていた少女――那波千鶴は小竜姫に声をかけられ返事をする。それを聞いた小竜姫は、いつの間にか首絞めからおんぶに移行していたタマモを降りるよう促しながら、状況についていけていない木乃香たちに話しかける。

 

「タマモちゃんもいい加減おりなさい。横島さんの背中が気に入ったのはわかったから。木乃香さんたちもこちらに」

 

「それはええんやけど……」

 

「横島さんは大丈夫なんですか……? 首を絞められてましたけど」

 

「それより、タマモさんの台詞の方が…「何?」…なんでもないです。確かにここから移動した方がいいようです」

 

タマモの言葉に思うところがあった夕映であったが、下校途中の生徒が多い駅前に留まるよりはと移動に賛成する。小竜姫を先頭に一行は、一路“よこっち”を目指すのであった。

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば那波さんはボランティアがあると言ってませんでしたか?」

 

”よこっち”までの道中、小竜姫が千鶴に問いかける。因みに横島は、千鶴から一番遠い位置を歩いており、その腕には監視と言わんばかりにタマモがしがみついている。また、もう片方の手は、横島が強気に出られない人物に抑えてもらおうと、タマモが頼み込んで木乃香と繋いでいたりする。

 

「千鶴で構いませんよ? 保育園に連絡したら、今日はいいと断られてしまいました。ですから、時間は気にしなくともいいですよ」

 

「そうですか。私のことも名前で。……この度はうちの人がご迷惑を」

 

「いえ。特に迷惑とは。お話を少し聞いていただけですし」

 

「本当にすみません。全く、中学生相手に商売だなんて……。そうだ、横島さんに飛びかかられたりしませんでしたか? 」

 

「いいえ。どうしてですか?」

 

「その……なかったのならいいんです(横島さんが女好きだから……何て言えませんよ)」

 

 

 

 

 

歩くこと数分、“よこっち”に到着した一行は事務所でお茶を飲んでいた。

 

「で、言い訳は?」

 

「言い訳ってもなぁ……。それより、いい加減手を開放してくれないか?」

 

「逃げるからダメ」

「ゴメンな~。そういう事やから」

 

鋭く答えるタマモと、朗らかに答える木乃香。二人は変わらず横島の手を掴んだままであった。

 

「木乃香ちゃんまで……。兎に角だ、オレはきちんと仕事をしていただけだ。千鶴ちゃんだっけ? 彼女に声をかけたのだってたまたまだし」

 

「それにしては熱心に口説いていたようだけど?特別に半額にしてあげるからって」

 

「いくらオレでも制服姿の中学生をナンパはせん。下手したら通報されるしな。それに、特別ってのは中学生料金ってことだ」

 

「そうなの? じゃあ、千鶴が私服で歩いてても声かけない?」

 

「そりゃ、デートに誘っ……誘導尋問はずるいんやないか?」

 

見事に引っかかった横島にジト目を向けるタマモ。しかし、仕方ないとばかりにため息を吐くと、横島に告げる。

 

「今回は勘違いだったみたいだけど……。アレはナンパと誤解されても仕方ないわよ? これからは気をつけてよね」

 

「そうですね。麻帆良には報道部と言う部活があるそうで、そこに報道されると都市全体に知れ渡るそうです。例え貴方が仕事の宣伝の為に声をかけていても、ナンパと思われて報道されるのは本位ではないでしょう? アナタも知っての通り、一度報道されてしまうと中々評判を回復することは出来ませんし」

 

「……はい、気をつけます。これからは宣伝方法も考えます」

 

タマモと小竜姫の言葉に重々しく返事をする横島。そこに木乃香が言葉を紡ぐ。

 

「あんな? ウチらのクラスに報道部の朝倉って子がおってな? 近いうちに横島さんのこと取材させて欲しいって言っとるんよ。宣伝やったら、そこですればええんよ。そうすれば、変に誤解されることもないし。だから、きっと大丈夫やって」

 

「……心配してくれてありがとな、木乃香ちゃん。タマモに竜姫も悪かったな。ちょっと考えが足りんかった」

 

横島の手を離して語りかける木乃香に、横島は木乃香の頭を軽く撫でながら三人に礼を言う。その光景を黙って見ていた千鶴が、横島たちに声をかける。

 

「そういえば、お三方はどういうご関係で?」

 

「一緒に住んでるのよ。此処の三階にね」

 

「まぁ、そうなの?驚いたわ」

 

「いや、全然そんな風には見えないです」

 

タマモの言葉に驚いたと告げる千鶴であったが、微笑みを浮かべたままの姿からは夕映が言うように驚いているとは思えなかった。

 

 

 

 

 

その後は、今日の出来事を聞かれた横島が、老人の荷物運びや、迷子のペットを探したりして宣伝してきたことなどを答えていく。その中で、千鶴に声をかけたのはタマモと小竜姫と一緒に帰ろうと思い立った横島が、待っている時間を有効に使おうと宣伝活動を行った結果であり、最初に声をかけたのが千鶴であったことが判明する。

 

それを聞いた一同が、タイミングが良かったのか、それとも悪かったのかを少々考え込んでしまったのは仕方がないことであろう。

 

「まぁ、相手が那波さんで良かったのでは?少なくとも、今回のことを騒ぎ立てるような方ではないようですし」

 

「そうねぇ。例え本当にナンパだったとしても、別に騒ぎ立てることでもないし……。お仕事の宣伝だったのだから尚更ね。それにタマモちゃんと竜姫さんが、横島さんと同棲しているってのも別に……。男女の関係は他人が騒ぐことじゃないもの」

 

「同棲じゃなくて、同居です。男一人に女二人って、どんな同棲ですか」

 

「あらあら。男女の愛の形なんて他人には分からないものよ? 愛があれば妾が何人いても……っていうのもアリじゃないかしら」

 

「……凄いですー」

 

「のどかも感心しないでください。……まぁ、こんな感じなので那波さんが噂することはないかと。駅前での騒ぎは麻帆良ではそう珍しくはないですし、すぐ移動しましたから大丈夫だと思います」

 

中学生になったばかりとは思えない千鶴の言動に、やや呆気にとられていた横島であったが、夕映の噂にはならないと思うとの言葉について木乃香に尋ねる。

 

「そなの?」

 

「せやなー。ウチは遭遇したことはないけど、駅前は男女の痴話喧嘩が多いらしいで? あの駅が寮の最寄りって人は多いから別れ際に揉めたり、待ち合わせ時間に遅刻したとかで」

 

「まぁ、噂にならないならそれに越したことはないか……。千鶴ちゃんも、黙ってくれるみたいだし。お礼にデートでもする?」

 

「ふふ、デート楽しみにしてますね?」

 

「横島?」「横島さん?」

 

横島にとっては冗談で言った言葉であったが、思いがけず了承されてしまい戸惑う。そこに、タマモと小竜姫がジト目を向ける。

 

「じょ、冗談だって。流石にデートはな。一回無料で依頼を受けるってのでいいかな?」

 

「あら、残念。デートでも良かったのに……。それでは何かあったら連絡しますね?」

 

「お、大人の女性って感じですー」

 

横島をからかう千鶴に大人の余裕を感じ取るのどかであった。

 

 

 

 

 

その後、お茶を飲みながら談笑していると、横島がそういえばと口を開く。

 

「そういえば、木乃香ちゃんたちにもお礼しないとね。お店とか色々助かったし。千鶴ちゃんと同じでいいかな?」

 

「ウチはそれでええよー」

「私もそれで構いません」

「わ、私も……」

 

「私はデートね?」

 

「分かった……って、お前は特に何もしとらんだろうが」

 

「ちっ、騙されなかったか」

 

便乗して来たタマモにツッコミを入れる横島。タマモは不満そうである。

 

「あ、あの……私もデートしたいです」

 

そして、小竜姫の呟きは小さすぎて誰に耳にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

「そろそろ、お暇しますか」

 

「せやなー。もう明日菜も帰っとるやろし」

 

「ハルナは……どうだろ?」

 

「あやかと夏美ちゃんは……帰ってるわね、きっと」

 

夕映の言葉をきっかけに帰り支度を始める面々。横島たちも見送るために玄関まで移動する。

 

「送ってかなくて大丈夫か?」

 

「大丈夫です。ここから寮までそんなに距離もありませんし、四人一緒ですから。大体、横島さんが女子寮まで来たら、噂になってしまいます」

 

「そっか。あ、木乃香ちゃん。ちょっといいか?」

 

横島がのどかと談笑していた木乃香に声をかける。呼ばれた木乃香は不思議そうな顔をしながら、横島の元へ向かう。

 

「なんなん? 忘れ物でもしとった?」

 

「いや、そうじゃなくて。近いうちに学園長のお使いで京都へ行くことになったんだ」

 

「そうなん? オススメのお土産屋さんでも聞きたいん?」

 

「いや違うから。で、本題なんだけど……。木乃香ちゃんのお父さんとも途中で会う予定なんだ。何か伝言とか手紙とかあったら伝えるけど……どうする?」

 

横島からの突然の提案に悩む木乃香。急に言われてもと言ったところであろうか。

 

「あ~、急に言われても困るよな。まだ、日程は決まってないし、決まったらタマモか竜姫を通して教えるから、その時でいいよ」

 

「了解や。何かないか考えとくな」

 

「おう。じゃ、皆気をつけて帰れよ?」

 

「「「はーい」」」

 

 

 

 

 

四人の姿が見えなくなるまで玄関で見送っていた三人は、中に入ろうとせずある人物が姿を現すのを待っていた。

 

「出てこないわね」

 

「何故でしょうか?」

 

「なぁ、ちゃんと約束したのか?」

 

「したわよ。ね?」

 

「ええ。ちゃんと待ってますと伝えました」

 

「う~ん、じゃあ何で出てこないんだ?」

 

「……いい加減隠れていないで出てきなさい!!」

 

中々出てこないその人物に、タマモがしびれを切らしたのか声を荒げる。やがて、観念したのかその人物――刹那は一同の前に姿を現す。

 

「……何で隠れているって分かったんですか?」

 

「妖狐舐めないでよね。まぁいいわ。ようこそ我が家へ」

 

「いらっしゃい。すぐ夕飯の準備しますね?」

 

「あ、そんな急がなくとも……」

 

「ま、詳しい話はメシの後でだな。時間はあるんだろ?」

 

「あ、はい! よ、横島さん。こ、この度はお招き頂き、あ、ありがとうございます!」

 

「そんな緊張しなくとも……。じゃ、中に行こうか?」

 

 

横島に促され、中へと入る刹那。刹那の心中は、修行に対する期待や不安、疑問。夕食を共にすることへの緊張、不安、戸惑いと様々であった。

 

その中で、一際大きく刹那の心を専有している事があった。それは一つの決意。刹那にとって大切な誓い。それを守る為の力を手に入れてみせるという固い決意であった。

 

 

(きっと、私は強くなる……今よりももっと。あの時の後悔を繰り返さない為にも……私は強くなってみせる!!)

 

 

 

 

 




いつの間にか千鶴が登場していた件について。予定ではまだ登場は先だった筈なのに。不思議です。

刹那メインのような引きですが、そんなことはありません。彼女がメインをはるのはもう少し後です。

入部関連。駅前の騒ぎ。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告もたまに更新してますので、宜しかったらご覧ください。


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その5 妖狐と竜神と吸血鬼と……煩悩人と 中編

強くなることを誓う刹那。横島たちの修行とは……?


一言: 色々重かったので投稿遅れました。



 

 

 

 

 

 

”よこっち”二階にある食堂では、小竜姫の手料理が振舞われていた。

 

「……おいしい」

 

「ありがとうございます。お口にあったようで良かったです」

 

「本当、竜姫の料理は美味しいわよねぇ。味付けは薄めで、素材の味を活かしてるっていうの?」

 

「だよなー。嫁さんにしたいくらいだ……っていうか嫁に来ないか?」

 

「……私ならいつでも……」

「ちょっとは覚えた方がいいのかしら……」

「料理かぁ……。覚えたらもう少し仲良くなれるのかなぁ……」

 

横島の言葉に沈黙が訪れる。正確には、言われた小竜姫を始め小さく何かをつぶやいているのだが。

 

「ボ、ボケにはツッコミを入れてくれんとキツいんだけど……。まぁ、いいや。刹那ちゃんは何処まで二人に聞いてきたんだ?」

 

「……ふぇ?」

 

「いや、だから修行のこと」

 

「えーと、特には。剣術の修行ではないという事だけで……」

 

「じゃ、最初から話さんといかんな。ま、それもメシ食ってからだ」

 

そう告げると残りをかきこみ始める横島。刹那も再び料理に舌鼓を打つのであった。

 

 

 

 

 

「ふー、うまかったー。ご馳走様でした」

 

「ふふ、お粗末さまでした。今、お茶いれますね?」

 

勢いよく手をあわせ横島が言うと、小竜姫が全員分のお茶を用意する為に立ち上がる。それを見送った横島は、改めて刹那に修行の話を始める。

 

「さて、改めて修行についてなんだけど……。詳しい内容については、あとで話すとして……刹那ちゃん、修行を受ける気はあるかい?」

 

「……はい。私は強くなりたいんです……。最初に聞いた時は、別流派の修行を受けることで強くなるのか、中途半端にならないかとも思いました。ですが……」

 

刹那は一度言葉を止めると、決意を込めた瞳で横島を見る。そして、告げるのであった。

 

 

「私には、強くならなければならない理由があります。そうじゃないと……弱いままだと……私はあの人の傍にいる資格を失ってしまう!!私は強くないとダメなんです!!」

 

 

まだ中学生になったばかりの少女が持つには、悲しすぎる刹那の決意。傍にいる為に強くなる。それはかつて横島も経験した覚えのあるものであった。

 

「(オレも昔ワルキューレに言われったけな……。戦士だけがあの人(美神さん)と居られるって。……それで、文珠(ちから)を身につけた。刹那ちゃんがオレと同じとは言わんが……)そうか……。じゃあ、決定だ。刹那ちゃんには()()()修行を受けてもらう。二人とも、いいよな?」

 

「ええ、異論はありません。強くなろうとする者を導くのも私の役目ですし。ふふ、あの時の横島さんを少し思い出しますね」

 

「いいんじゃない? 刹那には素質があるんだし」

 

横島の言葉に同意する二人であったが、刹那には意味が分からない。修行をつけると申し出たのは、横島たちからだと聞かされていた刹那には、“本当に”という言葉が引っかかるのである。

 

「あ、あの……本当にって…「刹那ちゃん」…は、はい!」

 

「最後に聞かせて欲しい。君の言うあの人というのは……」

 

「は、はい」

 

質問しようとした刹那に横島が真剣な顔で告げる。

 

「男か!?」

 

「へ?」

 

「男なんやな! くっそー、刹那ちゃんみたいな可愛い()に此処まで想われるなんて!!」

 

「え? あの、男の人じゃない……」

 

「オレも美少女に想われたいわ!!……そうだ、呪おう。刹那ちゃんには悪いがワイの敵やもんな。ああ、でも刹那ちゃんの気持ちも分かるし……ワイはどうしたらええんやー。やっぱり、ヤるか?…「狐火!!」…ほわぁっ」

 

「落ち着かんかっ!! ……刹那の言ってるのは木乃香のことよ」

 

「……燃やしたことへの謝罪はなしか?…「ないわ」…さよけ」

 

タマモの狐火により(強制的に)落ち着く横島。そんな横島の様子を苦笑とともに見ていた小竜姫であったが、刹那の反応がないことに気づく。

 

「刹那さん? どうかしましたか?」

 

「ふぇ?」

 

「どうしました?」

 

「え、あ、その、また可愛いって言われて、嬉しくて。で、でも、気づいたら燃えてて……! きゅ、救急車!!」

 

「ああ、いつものことです。大丈夫ですから、落ち着いてください。ほら、横島さんも元気でしょう?」

 

刹那は突然燃え上がった横島に驚いてしまったらしい。慌てて立ち上がる刹那に、小竜姫が横島を指差して大丈夫だと伝えると、安心したのか崩れ落ちるように座る。慣れない人には衝撃的だったかと、小竜姫がタマモを注意するのを他人事のように眺める刹那であった。

 

 

 

 

 

「さて、脱線してしまいましたが修行について説明しますね。まず最初に質問です。刹那さんは“霊力”を知っていますか?」

 

「“霊力”……ですか? 一般人が霊視とか除霊とかをテレビでする時に言うインチキのことですか? ……あ、あの……それも気になるんですが……。よ、横島さんとタマモさんは何を……」

 

小竜姫と向かい合って説明を受けていた刹那であったが、視線はチラチラと横にそれている。その視線の先には横島とタマモがいるのだが……

 

「ああ、お仕置きだから気にしないで。ほら、横島早く」

 

「早くってなぁ……。初めてやるから文句言うなよ?」

 

「分かってるって」

 

 

 

「タマモさんが……狐になってるんですけど。しかも、横島さんの膝の上で」

 

刹那の言うようにタマモは子狐の姿で横島の膝に乗っており、横島の手によるブラッシングの最中であった。刹那には妖狐であると明かしたからこその行動であるが、尻尾の数は一本である。流石に九尾であることまでは明かさないようである。

 

「ええ。タマモちゃんの毛を整えるというお仕置きですから……羨ましい」

 

「え?」

 

「さ、説明の続きです。“霊力”についてですが……実在しています。私たちは“霊能力者”なのです。先程見ましたよね? タマモちゃんが使った“狐火”を」

 

刹那が思い浮かべたのは、横島の前に出現したオレンジ色の炎。刹那の知る陰陽術と違い、御札を使わず言霊のみで発動した炎。感じた力も、それなりに力を込めた御札を使った場合と変わらなかった。それは刹那の常識ではありえないことであった。だからこそ、呆然としたし、慌てたのだ。

 

「あれが“霊力”……?」

 

「ええ。妖狐の技を“霊力”で行ったのです。妖魔が扱う場合、妖力と置き換えますが本質は変わりません。“霊力”で出来ることは、“狐火”のような術や肉体の強化と多岐に渡りますが、人によって向き不向きがあります。これは“気”や“魔法”でも同じ筈ですよね?」

 

「はい……私もそれほど詳しい分けではありませんが、同門の中でも“気”で強化するより放出する方が得意という方もいましたし」

 

「さて。あとは何を説明すれば……?ああ、刹那さんも疑問があったら言ってください。私たちは霊力について基礎知識がある方に教えたことはありますが、何も知らない方に教えるのは初めてなんで」

 

「そうですね……。まず、“気”や“魔力”と違い、世に知られていないのは何故ですか?」

 

「“霊力”は他の二つに比べると目覚めにくいんです。……大半の霊能力者は、先天的素質に恵まれた者が、幼少から訓練することで“霊力”に目覚めます。これは他の二つの力でもあることだと思いますが、その素質が問題になります。“気”や“魔法”は鍛錬次第で誰でも使えるそうですね?」

 

「ええ、そう聞いています。素質の有無は、より大きな力が扱えるかどうかであって力自体は誰もが使えると」

 

「ですが、“霊力”を力として扱うには、最低でも一般人の約五倍の“霊力”が必要なんです。それ以下の場合、第六感が優れているとか、占いがよくあたるとか……その程度なんです。つまり、誰もが行使出来るというわけではないんです」

 

「なるほど……それで。でも、それだと私にはその資質があるってこと……ですか?」

 

「あるわ。間違いなく、ね」

 

小竜姫の言葉に納得を示した刹那は、当然の疑問を小竜姫にぶつける。その刹那の疑問に答えたのは、何処か満足気なタマモの声。ブラッシングは終えた今も子狐の姿のままであり、膝から横島の頭上に移動している。尻尾が揺れているところを見るに非常に満足したようである。

 

「妖狐の私が言うんだから、信じなさい。それで、何処まで話したの?」

 

「それが、修行に関しては全く。まずは”霊力”について知ってもらわないと」

 

「まぁ、そうよね……。簡単に言うと、“霊力”は“魂”の力。だから、生まれに大きく左右されるし、鍛錬で身につけるには向いていないわ。……まぁ、後天的に“霊力”に目覚めることがないわけではないけどね。それで、刹那の“霊力”が大きいから、私たちとの修行で目覚めさせようってわけ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。こっちに来てから出会った人たちの中でも大きい方ね。それで、刹那が“霊力”を覚えるメリットなんだけど……横島?」

 

「ん? 何だ? オレに難しいことを説明させても無駄だぞ?」

 

自分には関係ないいとばかりにお茶を飲んでいた横島だったが、タマモに話をふられ会話に加わる。

 

「説明じゃないわ。サイキックソーサーを見せて欲しいのよ。さっき、”狐火”は見せたからね。収束系の技も見せたいのよ」

 

「アレは見せたって言うのか?……まぁ、いいけどさ」

 

そう言うと、右手を掌を上に向けて前に出す横島。次の瞬間、横島の掌から五センチ程上の位置に緑色に輝く六角形の盾が出現する。

 

「ありがと(相変わらず何の予備動作もなく出すわね……)。さて、これが横島の霊能の一つ、“サイキックソーサー”よ。私の“狐火”と違って単純に“霊力”を固めた技なんだけど……どうしたの?」

 

「い、いえ(そんな……予備動作がなさすぎる!!)」

 

「そう? それで、これを見せた理由なんだけど……これ、“霊力”の扱いを覚えれば誰にでも出来る技なのよね(横島並の強度になるかは別だけどね)。ま、こういうことも出来るようになるって一例ね。そして、ここからが本当のメリットの話。まず、“霊力”に目覚めることで、勘がよくなるわ。所謂、霊感ね。次に、“気”だけを使っている時より、技の威力が向上するわ。あと、肉体強化の効率も違う。“気”の二倍……とまではいかないけど、それに近いんじゃないかしら?」

 

「そ、そんなに違うのですか?」

 

「そうですね……。感覚的なものなので、正確なところは分かりません。ただ、間違いなく今より強くなれます。ただ、他の鍛錬時間は減らしてもらいますが」

 

「何故ですか! 私は早く強くならないと…「まぁまぁ刹那ちゃん、落ち着ついて」…ですがっ! 「オレたちを信じて」…はい」

 

小竜姫の言葉に噛み付く刹那を横島がなだめる。何とか刹那が落ち着いたのを確認した小竜姫は、続きを告げる。

 

「“霊力”は先程も言いましたが魂の力です。その修行では、心身に大きな負担がかかります。修行以外での鍛錬は逆効果になりますし、危険ですから。勿論、刹那さんの流派の修行は続けてもらいます。ただ、それも刀子さんと相談してからになりますが」

 

「そ、その……素振りとか筋トレもダメなのでしょうか?」

 

「そうですね……。負担にならない程度なら構いませんが、しばらくは控えてください、ああ、こちらにはタマモちゃんがいますから隠れて鍛錬してもわかりますからね?」

 

「妖狐の超感覚を甘く見たらダメよ。疲労の度合いなんて、匂いを嗅げば一発で分かるから」

 

「美少女が美少女の匂いを嗅ぐって、何かアレな感じだな。ゆ…「それ以上言ったら噛みつくわよ」…はい」

 

「まったく、この男は……。あ、そうだ」

 

横島を脅しつけたタマモは、横島の頭から飛び降りてテーブルに着地すると、刹那の肩へ駆け上がる。突然のことに緊張する刹那の耳元で、タマモは横島に聞こえないように呟く。

 

「“霊力”に目覚めると、スタイルがよくなるわよ」

 

「ふぇ!?」

 

「まぁ、ある程度だけどね。“霊力”は魂の力。“霊力”に目覚めるってことは、魂の影響を今まで以上に受けやすくなるってこと。当然、肉体にも魂は影響するわ。男ならより力強く、女ならよりしなやかに女性らしく……って具合にね。分かる? 女性らしい肉体……つまり、スタイルがよくなるってことよ」

 

「それに、力自体も向上しますので、筋力向上に時間を費やす必要もありません。筋トレなどしなくとも、鍛錬だけで十分効果があります。成長期に筋肉をつけ過ぎると、成長の妨げになりますからね。それが解消されるのですから、必然的に今後の肉体的成長が望めます。その上、タマモちゃんが言ったように、魂の影響で女性らしく成長するので……あとは分かりますね?」

 

いつの間にか刹那の真横に移動していた小竜姫が、タマモとは反対側の耳元で囁く。その囁きに刹那は思うところがあったのか、考え込む。

 

(ウチの成長が遅いんは鍛錬のやりすぎのせいやったんか……。龍宮はあまり筋肉をつけんかったから、あんなにデカく……。ウチも龍宮みたいな体に……)

 

刹那も少女。同室の少女との差には色々考えることがあったようである。しかし、小竜姫とタマモが刹那に告げたことは嘘ではないが、確実にスタイルがよくなるということではない。あくまでも可能性の話なのであるが……。希望に顔を輝かせている刹那に、水を差すようなことは言うまいと目で会話をするタマモと小竜姫であった。

刹那のスタイルが今後どう変化するのか。それは、例え最高指導者でも予測できないだろう。

 

 

 

 

 

霊力についてある程度の話を終えた一同は、修行については修行場が完成してから説明することにして、談笑していた。

 

「そういえば、刹那はあの吸血鬼のこと何か知ってる?」

 

そんな中、タマモが刹那にエヴァンジェリンについて尋ねる。因みにタマモは人間の姿に戻っており、今はお茶請けの羊羹を摘んでいる。

 

「吸血鬼……ああ、エヴァンジェリンさんのことですか? 詳しくは聞いてませんが、今は封印状態で魔力を失っていますが、封印前は最強クラスの魔法使いだそうです。封印状態でも、そこらの魔法使いでは太刀打ち出来ないとか。あ、あと刀子さんが言うには、高畑先生にも訓練をつけたことがあるそうで、その時は魔法を使っていたそうです。他には……あ、プライドが高いから無闇に挑発しないようにと。私程度ではどうあがいても勝てないからと」

 

「ふ~ん。……ちょっと、マズったかしら。視線を感じなくなったから、ビビったのかと思ってたけど……仕掛けてくるかな?」

 

「味方なんですから、いきなり仕掛けてくることはないと思いますよ? ただ、訓練とか、実力を図るという名目で全力戦闘を仕掛けて来る可能性は否定出来ませんが。それに、最強クラスの魔法使いなら従者もいるでしょうし」

 

「そうよねー。プライドが高くて実力もあるヤツは、舞台を整えて徹底的に実力の差を分からせてやるって考えるのが普通だし。魔法使いと従者はセットって話だから、普通に従者も連れてくるでしょうね」

 

「……お前、何やったんだ?」

 

タマモと小竜姫の会話に疑問の声をあげる横島。

 

「ちょっとお子様吸血鬼に喧嘩を売っちゃった」

 

「何やっとんだ、お前は……。ま、吸血鬼相手ならにんにくパウダーで楽勝だろ」

 

「イラって来てついやっちゃったのよ。にんにくパウダーって、よくピートにやってたヤツね。でも、にんにくの匂いってキツいのよね」

 

「まぁ、お前は鼻がいいからな……。あ、お茶なくなったな……。刹那ちゃん急須とって」

 

「あ、あの、どうぞ」

 

刹那は横島に震える手で急須を渡す。その間に、タマモは携帯を手に取って席を立つ。どうやら、電話がかかってきたようである。それを見送りながら小竜姫は、困り顔で話をつづける。

 

「しかし、困りましたね。にんにくを使えば確かに簡単ですが、武人としてそのような手を認める訳には……」

 

「そ、そうですよね。正々堂々、勝負をしないと……って、エヴァンジェリンさんに喧嘩を売ったんですか!!」

 

「おお、ノリツッコミ」

 

「横島さんは黙ってください!! いいですか? エヴァンジェリンさんは吸血鬼の真祖。しかも、太陽を克服した上に、魔力を封印した状態でも相手を圧倒できる武の持ち主と言う話なんですよ!! それを……。ああ、今からでも遅くありません。謝罪して……」

 

実は先程から、話を理解するのを拒んでいた刹那であったが、タマモたちの事の重大性を理解していないとしか思えないやりとりの数々を聞くうちに我慢の限界が来たらしい。

 

そこへ電話を終えたタマモが戻ってくる。

 

「あ、タマモさん! 今からでも遅くはありません、エヴァンジェリンさんに謝罪して……」

 

「あー、手遅れみたいよ? お子様吸血鬼が訓練を申し込んできたって、学園長が」

 

「そ、そんな……」

 

自分のことのように沈み込む刹那。余程、エヴァンジェリンとは敵対するなと教えられていたようだ。

 

「大丈夫だって。訓練なんだし、刹那に被害はないから」

 

「訓練ということは、やはり身の程を教えてやるってことでしょうか? それとも衆目の前で痛めつけるのが目的? 何かルールなどは?」

 

「あー、何でもアリらしいわ。実戦形式での訓練で、私と竜姫を相手に。此処に刹那も居るって言ったら、刹那も来いって」

 

「わ、私もですか!?」

 

「そ。ま、訓練は私と竜姫だけらしいから。それで、見物人兼いざという時の制止役に学園長がやるって。時間は明日の放課後で、学園長室に集合だってさ」

 

「おー、大変だなぁ。にんにくパウダー買っとくか?」

 

気楽な顔で告げる横島。自分が参加しないことと、訓練であることに加え、今まで会った吸血鬼の真祖がアレなこともあり全く心配していない。どうやら、刹那の言った“最強クラスの魔法使い”という部分は忘れているようである。

 

「あと、横島も来るようにって。従者候補の訓練だから気になるだろうって」

 

「オレも戦うんか?」

 

「それも言われたけど、断っといたわ。アンタはサポート型だからって言ってね。アンタが戦ったら本当ににんにく使いそうだし、それは流石にね」

 

「アホか。勝つ為に相手の弱点を突く。これの何処が悪い」

 

「悪くないわよ。匂いがキツいから私が嫌なの。それに竜姫の相手もして、にんにくも何て不死でもツラいわよ」

 

「あー、そうだな。竜姫の相手をするとか災難だよな。不死だからうっかり殺しちまった……何てことがないのが救いかな」

 

タマモと横島は、刹那を慰めている小竜姫を見ながら、エヴァンジェリンに同情する。竜神であり武神でもある小竜姫が相手というだけでも同情に値する。その上、最近の彼女は体を動かす機会がないことを不満に思っていたようだから、久々に体を動かすことが出来ることが嬉しくて、うっかり力の加減を見誤るかもしれない。

 

 

ここ最近の小竜姫を見ていると冷静沈着な人物と思われるかもしれないが、本来の彼女はどちらかと言えば、感情的な人物である。特に戦闘時はその傾向が顕著であり、相手の挑発に乗りやすい。

修行においても、楽しくなったりムキになった時に、思わず本気を出すなんてこともよくあることなのだ。

 

もし、エヴァンジェリンが小竜姫相手に遠慮するなとでも言えば、様子見などしないで、いきなり超加速を使うなんてこともありえる。

 

 

「フォローを考える必要があるかもしれんな」

 

「そうね。私も何か手を考えとくわ。……刹那! アンタそろそろ帰らないと門限でしょ。横島に近くまで送らせるわ」

 

その言葉にゆっくりと立ち上がる刹那。その顔は暗い。出来るだけ関わらないようにしようと決めていたエヴァンジェリンに、急遽関わることになったからだろうか。

 

「元気出せって。刹那ちゃんが喧嘩売った訳じゃないんだし、訓練だって見学だけみたいだしさ」

 

「そうですね……。これも見取り稽古と思って、見学させてもらうことにします」

 

「前向きでいいことだ。それじゃ、刹那ちゃんを送ってくるな」

 

「ええ。また明日ですね。修行については、明後日にでも刀子さんを交えて話しましょう」

「じゃ、明日学校で」

 

「あ、あの夕飯ご馳走様でした。刀子さんには明日伝えておきます」

 

「じゃ、行くか。場所を知らんから刹那ちゃんが案内してくれ」

 

「は、はい。こ、こちらです」

 

深々と一礼すると刹那は横島を見上げる。横島はその視線に気づくと、刹那を促し歩きだす。刹那は横島と二人きりで歩くという事に思い至った為か、急に緊張しだす。

 

そんな二人を見送ったタマモは、湯呑を片付けている小竜姫にある提案を行うのであった。

 

 

 

 

 

その頃、学園長室にはエヴァンジェリンと学園長の姿があった。二人は囲碁をしながら、会話をしているようである。

 

「しかし、お主が急に此処に来た時は何事かと思ったぞ」

 

「私が事前に連絡したことがあったか?」

 

「まぁ、そうなんじゃが……。しかし、部屋に入るなり、あの二人の実力を私自ら試してやると言って来たのには驚いたぞ。しかも、すぐ電話をかけろと言うし」

 

「妙神竜姫と葛葉タマモは、私のことを知らんようだからな。今後、舐めた態度を取れないように、ちょっと驚かすだけだ。なに、心配するな。やり過ぎはせん。それにお前の同席も認めただろうが」

 

「……まぁ、儂もあの二人の実力には興味があるしのぉ。しかし、二人同時に相手するのかの?」

 

「茶々丸のテストも兼ねているからな。二対二ならフェアだろう?」

 

「よく言うわい」

 

「くくくっ……。これで舞台は整った。茶々丸との連携も上手くいってるし、別荘なら私も全力を出せる。葛葉タマモめ! 二度とお嬢ちゃんなどと舐めた口を聞けないようにしてやる!!」

 

大声で宣言するエヴァンジェリンに、学園長は冷や汗を流すのであった。

 

「ああ、儂早まったかも……」

 

 

 

 

 

 




挿絵機能が実装されたようですね。私は絵が描けないので、利用することはなさそうです。

刹那に強化+αフラグ。タマモと小竜姫の??フラグも。
タマモたちとエヴァの激突は次回の予定です。まともな勝負になるかは疑問ですが。

小竜姫が料理上手。霊力あれこれ。刀子が刹那にエヴァについて語っている。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告更新ました。アンケートですので宜しかったらご協力ください。


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その6 妖狐と竜神と吸血鬼と……煩悩人と 後編

エヴァンジェリンとの実践訓練が決定したタマモと小竜姫。妖狐と竜神と吸血鬼の勝負の行方は……?


一言: あれー? 色々あれー?



 

 

 

 

 

翌日、エヴァンジェリンが集合場所に指定した学園長室には既に横島の姿があった。横島が話があると早めに出向いたのだ。

 

「して、話とは?」

 

「三つあるんですが……。まず一つは許可ですね。木乃香ちゃんに手紙を書いてもらってるんです。親に向けての。それを京都へ行った時に渡す許可をくださいってのが一つ」

 

「うむ。それは問題ないぞ」

 

「次に提案です。木乃香ちゃんの今後についての」

 

横島の一言に学園長は一瞬で真剣な顔つきになる。可愛い孫娘のことなのだから、当然である。

 

「聞こう」

 

「まだ確証はないんですが……木乃香ちゃんも持ってるっぽいんすよ」

 

「まさか……」

 

横島の言葉に近衛は目を見開く。横島が次に告げるであろう言葉は、それほど予想外の言葉なのだ。

 

「そのまさかみたいです。木乃香ちゃんも“霊力”を持っている可能性が高いです」

 

「そうか……ん? 可能性ということは、まだはっきりとはわかっておらんのか?」

 

「ええ。木乃香ちゃんの場合、“魔力”が大きいせいかイマイチ確証がなくて。調べれば一発なんですが……可能性としては八割ってとこですかね」

 

「確証がないといった割に高いのぉ。つまり、提案と言うのは詳しく調査しないかという事かのぉ?」

 

「ちょっと違います。この機会に“霊力”の調査もですが、こちらの事情を木乃香ちゃんに伝えるかどうかについて、木乃香ちゃんのご両親を交えて話しませんかという提案です。以前、両親の方針については聞いてますし、それについては理解もできます。ただ、もう一度話し合う時が来たんじゃないかと。伝える場合も伝えない場合も、対策しないといけませんしね。ま、オレとしては木乃香ちゃんに決めてもらうのが一番だと思いますけどねー」

 

「……そうじゃのぉ。婿殿も自分の我が儘だと本当は理解しておるんじゃろうが、かつての大戦を経験しておるからのぉ。どうしても、木乃香には関わって欲しくないと考えてしまうんじゃろう。しかし、“霊力”持ちの可能性があるのなら、今後について改めて話し合うべきか」

 

「まぁ、すぐに結論が出るとは思ってませんが、“霊力”が関わっている以上、早い方がいいですからね」

 

「ん? どういうことじゃ?」

 

木乃香の父――詠春に今一度提案しようと決めた学園長であったが、横島の言葉に疑問の声をあげる。

 

「まず第一に“霊力”というのは妖魔にとって、“魔力”以上に魅力的な“餌”であるということ。妖魔が襲ってくる可能性があるってことです。事情を教えるなら、霊具も持たせやすいですしね。教えないとなった場合でも、早急に“霊力”を封印した方がいいですし」

 

「……ふむ。確かに妖魔の襲撃が増えてきたという報告は来ておる。ただ、増えたといってもまだまだ数は少ないがのぉ。それに、木乃香狙いという確証もない……が、違うという確証もないというのが現状じゃ。木乃香の安全を考えるのなら封印するにせよ、事情を知らせるにしても急いだ方がよいということか」

 

横島は黙っていたが、横島たちが“霊力”を持っているのではと疑っている人物がこの時点で木乃香の他にも数人いる。しかし、彼女らは木乃香と違い、対抗手段を持っているか、“霊力”が外に漏れていない為に此処では報告していない。前者はともかく、後者は普通に生活をしていれば“霊力”に目覚めることもないし、妖魔と近距離で接触でもしない限り感知もされないからである。

 

因みに木乃香の場合、非常に強い魔力を発している為、注目を集めやすい状態となっている。

 

そんな事とは知らない学園長は、木乃香の身辺警護をどうするかを考えていた。そこに横島がもう一つの理由を告げる。

 

「そうですね。で、もう一つの理由。これは事情を知らせて、木乃香ちゃんに“霊力”を教える場合の話ですが……っと、その前にこれから話す内容は内密にして欲しいんですが」

 

「約束しよう。こちらは霊力という失われた秘術について教わる身じゃ。それくらいのことは折込済じゃ。他言するつもりは元々ない。大きな力が恐れられると言うこともよく知っておる(エヴァのようにのぉ……)。それに、約束を違えて君たちの不興を買ってもいいことなんてないしのぉ」

 

フォフォフォと髭を撫でながら笑う学園長。横島はその姿を苦笑とともに眺めている。

 

「それならいいです。それで、早い方がいいと言った理由ですが……“霊力”の修行をするなら早い方がいいからです」

 

「フォッ?そ、それだけかのぉ?」

 

「ええ。それだけです」

 

横島の言葉にしばし呆然としていた学園長であったが、すぐに思考を巡らす。

 

「(力を鍛えるなら幼少時から行った方がいいのは普通のことじゃ。“魔法”の場合は“魔力”の扱いに慣れるまで時間がかかるし、“気”はそもそも肉体を鍛えねばならないからのぉ。……しかし、あえて彼は内密にと言った。つまり、“霊力”独自の理由がある……?)……それは何故と聞いても?」

 

「構いませんよ。えーと、“霊力”は幼少時の方が目覚めやすいんです」

 

「……それだけ?」

 

「大事なことですよ? 元服だから……大体15歳前後? それまでに目覚めないと、大抵の人は“霊力”に目覚めることなく一生を終えるそうです。勿論、目安ですから絶対に目覚めないというものではないです。あくまで、目覚めやすいってだけで。それに、何事にも例外はありますから」

 

 

その例外筆頭が横島であることは言うまでもない。横島の場合、元々資質があったところに小竜姫が影法師(シャドウ)――実体化した霊力を抜き出したことで霊力を扱う下地がつくられ、高い潜在能力と心眼の補助があった為に完全に目覚めたという経緯がある。高い潜在能力と二度に渡る小竜姫の助け。まさに例外中の例外である。

 

 

「ふむ……。木乃香が霊力を学びたいと言った時、手遅れになるかもしれんというわけじゃな?」

 

「そういうことです。刹那ちゃんの場合、元々“気”を扱っていますし、出自のこともありますから割と早く目覚めるとは思います。木乃香ちゃんは下地がゼロですからね。猶予はあるといっても、早めに取り掛かるのが一番です」

 

「しかし、秘密にする必要があるのかね?」

 

「大人では“霊力”を習得できないって話が広まると、子供を攫って教育(実験)なんてバカなことを考えるヤツがいないとも限りませんし。念には念をってヤツですよ」

 

「ふむ。ないとは言い切れんのが悲しいことじゃのぉ。……改めて内密にすると約束しよう。婿殿には……別に知らせんでもよかろう。ただ、話し合いの場は早急に用意する」

 

「そうしてください」

 

「さて、どうなることやら」

 

二人は木乃香の今後に思いを馳せる。強大な力を持つ木乃香。安寧の日々を送るのか、それとも……。

 

 

 

しばしの沈黙の後、学園長が口を開く。先程の話の内容が内容であった為か、次に何を話すのだろうかと警戒しているようにも見える。

 

「それで、話の三つ目とはなんじゃ?」

 

「あー。その、開業祝いのお花ありがとうございました。あと、色々お世話になってますから、これ。お礼です。大したものじゃないですが」

 

「おお、わざわざスマンのぉ。そんなに気にせんでもよかったのに。此方が要請して来てもらったんじゃし、便宜を図るのは当然じゃ。それに花については麻帆良内で開店、開業するところには全て贈っておるしのぉ。して、どうじゃ? 便利屋の方は? 順調かの?」

 

横島が差し出したお茶菓子詰め合わせを受け取りながら答える学園長。先までの内容と打って変わり、日常的な会話に少し安堵しているようである。

 

「まだ二日目ですからねー。何とも言えないってのが正直なとこっすね。しかも、営業は止められちゃいましたから、現状は待ちの一手ですね。あ、それとですね。タマモたちのクラスメイトが報道部らしくて、取材してくれるそうです」

 

「ほー。報道部の取材をのぉ。記事に乗ればこれ以上ない宣伝じゃの」

 

「そうみたいですねー。学生の部活動が何でそんなに影響力を持ってるのかが、オレにはよく分からんっすけど」

 

「ここは殊更学生の影響力が高いからのぉ……。そうじゃ、少し聞いてもよいかの?」

 

「何でしょう?」

 

「エヴァとタマモ君たちが訓練することになった経緯とか知っておるか? 儂も警備に就いてもらう前に実力をみられるのならと許可したが、エヴァがあそこまでヤル気になっておるのは珍しくてのぉ」

 

脳裏によぎるのは、高笑いするエヴァンジェリンの姿。あれほど感情的になるエヴァンジェリンも珍しい。

 

「あー、何か挑発合戦の結果らしいです。それにしても、訓練なんて何処でやるつもりなんでしょうね?」

 

「おそらく、エヴァが所有しておる魔法球の一つじゃろう。聞いたことはないかの? 魔法球とは主に魔法使いが訓練や実験に使うものでのぉ。基本的な機能は、内部に別空間を創るといったものじゃが、大抵の魔法使いは内部の経過時間を加速させたり、魔法を使いやすい環境にと機能を追加しておる。そこなら、エヴァも魔法を使えるし、時間を気にすることもないからのぉ」

 

「へー、便利っすね。時間を気にせず修行が出来るとか、竜姫が聞いたら喜ぶだろうなぁ」

 

横島の脳裏には、時間を忘れ修行に一人没頭する小竜姫の姿が浮かんでいた。しかし、横島は知らない。確かに彼女は修行好きではあるが、没頭する程ではないし、一人で修行するよりも誰か――特に横島――を鍛えることの方が好きだという事を。

 

神族である小竜姫は元々の力が大きい為、修行しても人間のような劇的な変化は望めない。勿論、武術を学ぶことで技を身につけたりはできるし、霊力も強くはなる。しかし、元の力が大きい為に、成長がわかりにくいのである。

だからこそ、高い才能を持つものを鍛えることが好きなのである。小竜姫はそう言う意味でも横島が好きなのである。高い潜在能力、多彩な才能、急激な成長、柔軟な思考力に意外性。横島の人間性を含めてそのすべてが愛おしいのである。

 

 

 

 

 

その後、二人は世間話を続ける。この後に控えている諸々の事から目をそらすように。

 

「高級学食なんてのもあるんすか」

 

「打ち上げに人気らしいぞ? あそこまでいくと学割が凄い店という感じじゃのぉ。君も今度行ってみたどうじゃ?」

 

「そうですねぇー。もう少し便利屋が安定した後で行ってみますよ」

 

「そうじゃ! 木乃香のことが片付いたら一緒に行かんか? 結果がどうなるにしても……じゃ」

 

「いいですね。是非」

 

「フォフォフォ。これで、あとの楽しみが出来たのぉ。後は望む結果が出るように頑張るだけじゃ」

 

「楽しみがあると思えばってやつですか」

 

「何事も楽しむことが出来れば、自ずと良い結果となると言うもんじゃ」

 

「はー、深いっすね」

 

「そうじゃろ、そうじゃろ。伊達に長く生きてはおらんよ。ま、エヴァ程ではないがの」

 

「あー、600歳でしたっけ? 吸血鬼としては若い方なんすかね?」

 

「さぁ? 儂もエヴァ以外に吸血鬼を知らんしのぉ。しかし、まだかのぉ? そろそろじゃと思うんじゃが……」

 

 

 

 

学園長が呟いたからなのか、学園長室の扉が開く。エヴァンジェリンを先頭に茶々丸、タマモ、竜姫が室内に入ってくる。そして、もう一人。

 

「お、刹那ちゃん」

 

「あ、横島さん。もう来てたんですね」

 

「ああ、ちょっとね。今日、オレたちは見学だから気楽に行こう。うん、それがいい」

 

うんうんと頷く横島にエヴァンジェリンが口を開く。

 

「貴様がこいつらのマスター候補か。……なんだ“魔力”も“気”も並ではないか。葛葉タマモ、妙神竜姫。こんなヤツがマスターでいいのか? それに覇気も感じられん。ダメダメじゃないか」

 

「お子ちゃまには横島の良さはわからないわよ(竜姫! 横島に興味を持たせちゃダメよ

!)」

 

「ダメな人ほど可愛いというじゃないですか(分かってます! 吸血鬼はピートさんという前例がありますからね! すぐに仲良くなるに決まってます!!)」

 

「そりゃないよ、竜姫~」

 

泣き崩れる横島を他所にタマモと竜姫はエヴァンジェリンを警戒する。彼女が吸血鬼――人外であることに今更危機感を覚えたようである。

睨み合う形となったタマモたちとエヴァンジェリンの背後では、刹那がこっそり横島を慰めていた。

 

「わ、私はそこまで横島さんのことを知っている訳ではありません。ですが、少なくともダメな人じゃないと信じてます! ですから、その……元気出してください!」

 

「ううっ……刹那ちゃんはええ子やなぁ。いつもなら、誰もオレのことなんか気にせんのに。……ありがと、刹那ちゃん。元気出すよ」

 

「い、いえ。お役に立てたのならそれで……」

 

珍しく人から慰められた横島は、刹那の頭を一撫ですると睨み合っているエヴァンジェリンたちに歩み寄り話しかける。背後で赤くなっている刹那に気づくことなく。

 

「君がエヴァちゃんかい? オレは横島忠夫。気軽に“忠ちゃん”でも“よこっち”とでも呼んでくれ。そっちの君も」

 

「ふんっ! 誰が呼ぶか! 大体気安く私を呼ぶでない! この…「分かりました。では、忠ちゃんさんと」…茶々丸……。そういう場合はさんはつけなくていい」

 

「そうなのですか。では、忠ちゃん様でしょうか?」

 

「いいか、茶々丸。愛称に敬称を付けることはしない。わかったか?」

 

「愛称には敬称をつけない……学習しました」

 

「うむ」

 

うんうんと満足そうに頷くエヴァンジェリン。そのやり取りを不思議そうに眺めていた横島たちだが、ひと段落したと見て再度話しかける。

 

「ええと。いいかな?」

 

「む? ああ、そうだったな。では、我が家に招待してやろう。ついてこい」

 

「マイペースだなぁ」

「周りが見えてないだけじゃない?」

「とにかく行きましょうか」

「はい」

「フォフォフォ」

 

 

 

 

 

女子中等部から一行は、木々に囲まれたログハウス――エヴァンジェリン宅へと移動していた。室内に入ると、そのままエヴァンジェリンは一行を引き連れ地下へと向かう。そこには、台座とその上に置かれたボトルが。

 

「これは我が別荘の一つだ。まぁ、私レベルの魔法使いともなればこれくらいは持っておらんとな。今回はこの中で模擬戦を行う」

 

「こちらの一時間が中での一日に相当致します。また、中で一日経過しないと外へは出られません。なお、着替え、食事についてはこちらで用意しております」

 

「分かったら行くぞ。まぁ、怖気づいたのなら来なくとも良いがな」

 

そう言うとエヴァンジェリは姿を消す。ボトルの中へと転移したようである。続いて茶々丸の姿も消える。

 

「じゃ、儂らも行くかのぉ」

 

「行くってどうやれば?」

 

「このボトルに近づけば良い。そうすうれば、転移陣が反応するわい。ああ、レジストはしないようにのぉ」

 

その言葉に従い横島を先頭にボトルに近づく一行。次の瞬間、地下室には一行の姿はなかった。

 

 

 

 

 

「ほー、こりゃ見事なもんだ」

 

横島たちが転移した場所は、四方を海に囲まれた塔の上であった。塔はかなり高く、一本の橋が伸びている。その先にある塔には広場があり、更にその奥には建物が見える。下を見下ろすと、広場のある塔からは下に降りる階段が塔の外壁に沿って作られているのが分かる。おそらく、下方に見える砂浜へと向かう階段であろう。

 

「へー、ここはいいわね。濃度が高い」

 

「ほう。わかるか。ここは魔力が外界に比べ満ちている。そのおかげで、私も存分に力を振るうことが出来ると言う訳だ。模擬戦はあそこの広場で行う。ついてこい」

 

そう言うとエヴァンジェリンは橋を渡っていく。その後ろを歩きながら、刹那はタマモに質問する。

 

「あ、あの。にんにくは結局」

 

「ああ、使わないわよ。それに試したいことも出来たしね」

 

「試したいこと……ですか?」

 

「ええ。昨日ちょっとね。竜姫も今日はそれを試すつもりよ。だから、私たちの戦い方がちょっと変かもしれないけど気にしないで。ああ、でもちゃんと見ておきなさい。私たちが使う“力”は変わらないから」

 

「はい。この目でタマモさんたちの“力”見させていただきます」

 

力強く頷く刹那に満足気に微笑むタマモ。そんな二人にエヴァンジェリンが話しかける。

 

「ほう、余裕じゃないか。私相手に試したいなどとは……いいだろう。初手は譲ってやる。それに茶々丸も参加させん。存分に試すが良い」

 

「あら、いいの? 後悔しても知らないわよ」

 

「構わん。誇り高き“悪の魔法使い”たる私に二言はない。そこまで言うからには、楽しませてくれるのだろう?」

 

「そうね。きっと、面白いことになるわ」

 

「ならよい。ああ、妙神竜姫。お前はどうする?」

 

「私はアナタの全力と戦いたいですね。どうも最近体を動かす機会がなくて。茶々丸さんも一緒で構いませんよ」

 

「ほう、いうな。まぁ、私も茶々丸との連携を確認したいので丁度いいがな。ま、あっさりやられるということだけではやめてくれよ」

 

「ふふ、ご心配には及びませんよ。きっと、楽しくなります」

 

自身満々に笑う小竜姫。その瞳はエヴァンジェリンではなく、横島を捉えていた。そのことに気づくことなくエヴァンジェリンは話を続ける。

 

「そうだといいがな。で、どちらから相手をしてくれるんだ? 何ならあの男を加えても構わんぞ」

 

「オレはやらん!!」

 

「と言う訳で、アイツはなし。ま、アイツを加えたら可哀想だしね」

 

「本当にそんなヤツがマスター候補でいいのか? どちらかと言うと、従者にしてやった方がいいんじゃないのか?」

 

タマモの言葉を横島は戦闘力がないと受け取ったエヴァンジェリンは、従者にしてアーティファクトが出ることに期待した方がいいのではないかと暗に伝える。

 

タマモはそれに笑って答えるのであった。

 

「アイツ以上なんていないし、アイツは縛れない。これが、私と竜姫の答えよ。さ、そろそろ始めましょうか?」

 

「そうか……。で、お前が相手でいいんだな? 茶々丸!! お前は見学だ。そこでジジイたちと見ておけ」

 

「分かりました。マスター」

 

優雅に一礼すると茶々丸は横島たちの元へ移動する。入れ替わりに学園長が前と進む。

 

円形に拡がる広場で、中央を挟んでエヴァンジェリンとタマモが向かい合う形で立っている。それを、学園長以外の面々が横並びで見学している。横島たちから一歩前に出た学園長が口を開く。

 

「それでは始めるとしようかのぉ。両名とも相手を死に至らしめる攻撃は禁止じゃ。ま、エヴァは不死じゃがの。危険と儂が判断した場合、割ってはいるからの。またある程度の怪我なら治療薬を持ってきておるから心配するでない。では……存分に力を示せ!!」

 

 

 

学園長の声が広場に響き渡る中、向かい合う二人に動きはない。やがて、エヴァンジェリンが口を開く。

 

「約定通り先手は譲ろう。試したいことがあるのだろう?」

 

「ええ。お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

そう言うと、タマモはポケットから一枚のカードを取り出す。そして、高らかに唱えるのであった。

 

 

 

――“来たれ(アデアット)

 

 

 




今回は模擬戦前の説明回となりました。学園長が出張ったせいです。文句は学園長に言ってください。時間がかかったのは私のせいです。でも、文句は学園長にお願いします。

皆様のおかげで10万UA突破しました。ありがとうございます。
記念小説は少々お待ちを。

木乃香が霊力を持っているかもしれない。霊力の目覚めやすい時期。横島が霊力に目覚めたのは影法師も関係している。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告もたまに更新しています。


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その7 激突??妖狐と吸血鬼

対峙するタマモとエヴァンジェリン。余裕を見せるエヴァンジェリンに対して、タマモは……

一言: 戦闘描写には期待しないでください。



 

 

 

――“来たれ(アデアット)

 

 

タマモが取り出したカードは、その力ある言葉によって変化する。それを目撃したエヴァンジェリンは、未だ悠然とした態度のまま言葉を紡ぐ。

 

「……ほう。アーティファクトか……試したいこととはそれか」

 

「ええ。昨日手に入れたばかりなの。悪いけど、アンタで使い勝手を確かめさせてもらうわ!!」

 

そう叫ぶとタマモは召喚したアーティファクト――黒地の扇を体の横で勢いよく開く。扇には九尾の狐が描かれており、エヴァにはその九つの尻尾のうち一本が他に比べ色が薄く見えた。

 

「くくくっ……、この“闇の福音(ダークエヴァンジェル)”を相手によく言った!! くるがよい……貴様の力の全てを見せてみろ!!」

 

エヴァンジェリンの言葉に呼応するかのように、勢いよく距離を詰めるタマモ。扇を持つ手とは反対の手には徐々に炎が集まっている。

エヴァンジェリンとタマモの距離が、残り二メートル程となった時、タマモはその手を前に振りかざす。

 

「“狐火”!!」

 

その言葉と共にエヴァンジェリンを襲う炎。その数は六。螺旋を描きながら向かってくる炎を、エヴァンジェリンは無造作に手を横に払うことでかき消す。

 

直後、エヴァンジェリンの背後に、“狐火”を放つと同時に回り込んでいたタマモが、閉じた扇で一閃を加える。

 

対するエヴァンジェリンはその一撃を予測していたのか、魔法障壁ではなく素手で受け止めると、そのまま扇を掴みタマモに笑いかける。

 

「中々考えてあったが……どれも軽い。囮の攻撃には、こちらを害する意思が全くない。これでは、囮だと自白しているようなものだ。まぁ、“狐火”とか言ったか? あれのコントロールは良かったぞ?」

 

「それはどうもっ!!」

 

「そう吠えるな。これでも褒めてやってるんだぞ? 所々お粗末な点はあったが、正直に突っ込んでくる馬鹿どもより何倍もマシだからな」

 

そう言うとエヴァンジェリンは、掴んでいた扇から手を離す。タマモはその行動に不思議そうな表情を一瞬浮かべるが、すぐに距離をとる。

 

「うむ。反応も中々いいじゃないか。もう少し反応が遅ければ、“魔法の射手(サギタ・マギカ)”を叩き込んでいたところだ」

 

そう言って掌をタマモに見せるエヴァンジェリン。そのまま、誰もいない中空に掌を向けると“解放(エーミッタム)”と一言呟く。すると、エヴァンジェリンの掌から氷で出来た矢が中空へと射出される。

 

「……それが無詠唱ってヤツかしら?」

 

「ちょっと違うな。今回使ったのは遅延魔法だ。キーワードを唱えることで事前に待機させていた魔法を発動できる。無論、無詠唱で叩き込むこともできたが……それだと、貴様が気づかない可能性もあるだろう? 遅延魔法なら、キーワードを唱えるという手順が必要になるからな」

 

「あら、優しいのね」

 

「簡単に終わっては楽しくないだろう? それに、貴様のアーティファクトにも興味がある。触れた感じだと、それ自体に攻撃力があるというわけではないな。それに、先程の炎……“狐火”と言ったか? そんな魔法は知らないし、陰陽師共の術は呪符を使う。と、いうことは……だ。“狐火”とやらはその(アーティファクト)の能力。違うか?」

 

「さぁ、どうかしら?」

 

冷静に分析するエヴァンジェリンに対し、扇をむけながら答えるタマモ。その先には再び炎が集まっていた。

 

「まぁいい。ここからは戦いの中で暴いていくこととしよう。……簡単に終わってくれるなよ?」

 

「それはこっちの台詞よっ! “狐火”っ!」

 

タマモの掛け声を受け、扇に集まっていた炎がエヴァンジェリンに向かって放たれる。先程と違い、真っ直ぐに進む炎はその軌跡と速度から光線のようにも見える。

 

「ふむ……“狐火”とはキーワードのようなものか? さてどうするか……そうだな。まずは“氷盾(レフレクシオー)”……ほれ、おまけだ! “氷の17矢(グラキアーリス)”!!」

 

エヴァンジェリンは迫る炎を氷の盾で遮る。炎は盾を砕くことなく、タマモに跳ね返される。更に17本の氷で出来た矢が、跳ね返された炎を追うように射出される。

 

タマモは、それらを大きく横に飛ぶことで避けると扇を再び開く。エヴァンジェリンは、扇に描かれた九尾の尾、その中の二本が揺らいでいるのをはっきりと目撃する。

 

(見間違いではなかった。先程は一番外側の一本。そして、今は外側の二本が他より色が薄い……というより暗くなったのか?……まだ情報が少ないな)

 

「避けたか……今度は少し数が多いぞ? “リク・ラク ラ・ラック ライラック 氷の精霊(セプテントリーギンタ・スピリトゥス)37柱(・グラキアーレス)集い来たりて(コエンウンテース・イニミクム)敵を切り裂け。(・コンキダント)魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の37矢(グラキアーリス)”!!」

 

放たれた矢は37本。次々と襲う矢に対し、タマモは扇を一度閉じてから再度開く。そして、先より大きな炎を手に集めると掛け声とともに迫る矢に向け振りかざす。

 

「“狐火”!!」

 

矢へと向かう炎の数は、矢と同数かそれ以上。中空で衝突する矢と炎。それによって、衝突点を中心に水蒸気が生じ、霧となってあたりを覆う。

それを確認したエヴァンジェリンは、上空に飛翔することで霧から逃れると、次の魔法を詠唱しながらタマモのアーティファクトについて考えていた。

 

(迎撃の前にわざわざ扇を開き直した……。それに、暗くなった尾の数が三本に増えていなかったか? おそらく、扇の開閉と暗い尾が関係しているのは間違いない。……が、大事なのはどう関係しているかだな。炎の威力があがったようにも見えるが……)

 

エヴァンジェリンがアーティファクトについて頭の片隅で思考している間に、次の魔法の詠唱が終わった。後は、魔法名を告げるだけ。目標(タマモ)は未だ霧の中から出てこないが、問題はない。何故ならエヴァンジェリンが詠唱していた魔法は、魔法の矢(サギタ・マギカ)よりも攻撃範囲が広く、現在霧が晴れていない範囲全てを攻撃出来るのだから。

 

「いくぞ、葛葉タマモ……“闇の吹雪(ニウィス・テンペスターズ・オブスクランス)”!!」

 

その言葉とともに強烈な吹雪と暗闇が広場を襲うのであった。

 

 

 

 

 

「ふむ。ヤツの姿はないな……まさか、下に落ちたか?」

 

エヴァンジェリンが放った魔法は、霧が覆っていた場所全てを捉えていた。魔法の衝撃で霧もはれており、エヴァンジェリンはタマモの姿を探すが地上には見当たらない。

 

一応、塔の下には衝撃を和らげる為に魔法をかけているが、それも物が落下した衝撃で壊れないようにとかけたものである。死にはしないだろうが、無傷ではないだろう。

少々やり過ぎたかと悩んでいると、上空からこの戦闘中に何度も聞いた言葉が聞こえてくる。

 

「“狐火”!!」

 

上空を見上げたエヴァンジェリンが見たもの。それは、直径三メートルはある特大の炎を自分に向かって打ち出すタマモの姿であった。

 

(でかい!! あれほどの力に何故気づかなかった!! どうする、避けるか?……冗談ではない!!)

 

「面白い!私の氷と貴様の炎どちらが上か……力比べといこうか!! “氷神の戦鎚(マレウス・アクィローニス)”!!」

 

無詠唱で巨大な氷塊を作り出すとエヴァンジェリンは、上空の炎に向かって打ち上げる。中空で衝突したそれらは、衝撃とともに再び霧を発生させる。

先程と違うのは、エヴァンジェリンが衝撃で地面に叩きつけられたこと。そして、タマモが未だ宙にあり、次の攻撃の力を蓄えていること。

 

「追い打ち……いかせてもらうわ!! “狐火”!!」

 

タマモの言葉から追撃を察したエヴァンジェリンは、体勢を立て直すことより攻撃することを選ぶ。選択した魔法は、無詠唱での魔法の矢(サギタ・マギカ)。属性は氷、矢の数は67。

 

「ちっ! “氷の67矢(グラキアーリス)”!!」

 

エヴァンジェリンは魔法の矢を広範囲に放ちながら、体勢を整えるとすぐ様その場を飛び退く。追撃の為の詠唱を開始しながら、エヴァンジェリンは霧の向こうに居る筈のタマモに気配を探る。広範囲に射出した矢で、炎とタマモの位置を割り出そうというのだ。

 

「(先程は後手にまわったが、次はそうはいかん。“これ”は魔法の矢(サギタ・マギカ)の比ではないぞ?)……見つけたぞ!」

 

エヴァンジェリンが見つけたのは、霧の中に浮かぶ炎と氷の激突。そして、それとは別の方向から伝わる“手応え”。エヴァンジェリンは迷うことなく“手応え”を感じた方向へ向かい魔法を放つ。

 

「“氷槍弾雨(ヤクラティオー・グランディニス)”!!」

 

放たれたのは多数の氷の槍。それらは霧を切り裂きながら、勢いよく目標へと向かっていく。その向かう先にはタマモの姿が。

 

「何で!?」

 

慌てて迎撃しようとするタマモであったが、焦りからか炎が上手くまとまらない。そのまま、氷の槍がタマモを貫くかと思われたそのとき、タマモは閉じて持っていた扇を開くきながらその言葉を叫ぶ。

 

「“狐火”!!」

 

その瞬間、タマモは自身の前に巨大な炎を出現し、タマモを氷の槍の脅威から守る。ぎりぎりのところでエヴァンジェリンの攻撃をやり過ごしたタマモは、エヴァンジェリンと距離を取ろうとして自身の腕に何かが絡まっていることに気づく。

 

「……糸? まさか!?」

 

「そうさ、それが貴様の位置を私に教えてくれた。貴様も魔法世界に居たんだろ? 聞いたことはないか?……“人形使い(ドールマスター)”という名を。糸を使って位置を探るなど私にとっては朝飯前ってやつだ。しかし、“氷槍弾雨(あれ)”を防がれるとは思わなかったぞ。正直、やり過ぎたと思ったくらいだ」

 

そう言いながら、糸をタマモに見せるエヴァンジェリン。その糸の先は、タマモの腕に絡まっている糸に繋がっていた。

 

「そう……陽動は無駄だったみたいね」

 

「先程後手に回ってしまったからな。本当は貴様相手に使う事態にはならはないと思っていたんだ。誇っていいぞ? 私に魔法と糸の両方を使わせたヤツはここ最近では貴様だけだ」

 

「それは、他のヤツが弱かったんじゃないの?」

 

「かもしれん。……だが、貴様が強いことは確かだ。それは認めてやろう」

 

「そう、それは光栄ね。お互い実力も分かったことだし、ここらでやめにしない?」

 

「くくくっ、馬鹿なことを言うな。ここからが楽しいんじゃないか。どちらかが倒れるまで続けようじゃないか!!」

 

「アナタ不死でしょ? そんな相手に倒れるまでなんて、私に勝ち目無いじゃない」

 

「……ふむ。そういえば決着についての取り決めをしていなかったな。では、こうするとしよう。貴様が降参と言ったら私の勝ち。貴様は……そうだな、私の首にその(アーティファクト)なり炎なりを突きつければ勝ちでどうだ?」

 

楽しそうに提案するエヴァンジェリン。その顔は、“貴様には無理だろうがな”と如実に語っている。提案を聞いたタマモは、しばし考える素振りを見せたあとに了承の言葉を口にする。

 

「……そうね。それでいいわ。アナタの首にアーティファクトを突きつけてあげる。約束破らないでよ?」

 

そう言うと、タマモは扇に描かれた絵柄をエヴァンジェリンに見せつけるかのように開きなおす。そこには、六本の尾が暗くなった九尾の狐が描かれていた。

 

「ああ、約束は守るさ。まぁ、貴様に出来るとは思わんがな……」

 

そこまで言うと、思考の半分をタマモのアーティファクトへ裂く。

 

(今が六本。霧で見失う前は暗くなっていたのは三本。それまでは、扇の開いた数と暗くなった尾の数は一緒。霧が晴れ後は二回開いた。つまり、見失った時にも一回開き直した可能性が高い。そして、“氷槍弾雨(あれ)”を相殺した炎を出す前にわざわざ開閉していたということは……開閉することで“狐火”の威力を一段階あげる、または一時的に力をブーストすると言った所か。尾が暗くなっているのは、力を使用したから。つまり、あれは全部で九回使用でき、残りは三回)

 

エヴァンジェリンはそこまで考察すると、思考の全てをタマモに向ける。その瞳には獰猛な光が。そのエヴァンジェリンの視線を受けたタマモも口角を上げて答える。

 

「それじゃ、そろそろ幕引きとしますか」

 

「ああ、来るがいい!! 我が魔法の真髄をその身に味あわせてやろう!!」

 

タマモの言葉に、両手を広げエヴァンジェリンは高らかに応え、魔法の詠唱を開始しようとしたその時。エヴァンジェリンは背後からの声を聞く。

 

「でも、残念。アナタの負け」

 

それは今も対峙しているタマモの声。間違っても背後から聞こえてくる筈がない声であり、その声はエヴァンジェリンに扇を突きつけ、彼女の負けを宣告していた。

 

「何故、貴様がそこに……?」

 

「私は狐よ? 騙すのは得意なの」

 

その言葉とともに、エヴァンジェリンが対峙していたタマモの姿が次第に薄くなっていく。やがて、完全に目の前から消える。

 

「幻覚……。まさか、この私が嵌められるとはな」

 

「長く生きてればそんなこともあるわよ。で、負けを認めるの?」

 

「ああ、認めるよ。騙されたのは気に食わんが、一度した約定を違える気はない」

 

 

 

――エヴァンジェリンとタマモの戦いは、タマモの勝利で幕を閉じるのであった。

 

 

 




タマモvsエヴァ。対決編です。色々疑問はあるでしょうが、次回で説明が入る筈なのでお待ちください。

追伸:戦闘描写は難しいですね。正直よくわかりません。

塔から落下した時の為に緩衝魔法をかけている。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
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その8 激突??妖狐と吸血鬼 その後

タマモとエヴァンジェリンの対決はタマモの勝利で幕を閉じた。次に控えるのは竜神、小竜姫。エヴァンジェリンと茶々丸はどう立ち向かうのだろうか。

一言: 間に合った


 

 

 

 タマモとエヴァンジェリンの訓練という名の戦闘は、タマモの勝利で幕を閉じた。戦いを終えた二人は、見学人たちの元へと歩き出す。

 

「しかし、この私が騙されるとはな。しかも、狐だと?」

 

「気づいてなかったの?」

 

「私は吸血鬼だぞ? 妖魔連中も恐れて私には近づかん。妖魔かどうかは推測できても、種族を判別できる程会ってわおらん。それに貴様は巧妙に隠していたからな」

 

「そこまで気合入れて隠していた訳じゃないんだけど。ま、どうでもいいわ」

 

 そう言うと、タマモは横島の元へと走っていく。途中子狐の姿に変化すると、そのまま横島の頭上に飛び乗る。そんなタマモを横島は労いの気持ちを込めて撫でる。

 

「お疲れさん」

 

「本当疲れたわ。アーティファクトを思っていた以上に使うことになっちゃったし。ま、おかげで慣れることは出来たんだけどね。流石は吸血鬼と言った所ね。抵抗力が高い高い」

 

 横島に愚痴をこぼすタマモに、小竜姫が苦笑しながら話しかける。

 

「それは最初からわかってたことじゃないですか。しかし、予想以上に攻撃魔法というのは威力がありますね」

 

「そうですね。それに数が多いし攻撃範囲も広い。オレのサイキックソーサーじゃ、防御するのは厳しいですね。良かった、オレ戦わなくて」

 

「横島さんのサイキックソーサーは防御力は高いですが、範囲が狭いですからね。あの矢を放つ魔法はともかく、広範囲攻撃となると防ぐのは難しいですね」

 

「そうね。実際に向かいあった身として言わせてもらうと、全身を防御する方法がない以上、竜姫はともかく私と横島は避けるしか方法がないと思うわ。勿論、“アレ”を使うなら話は別だけどね。それと、また敬語になってるわよ」

 

「いや、どうも慣れなくて」

 

「それでも慣れてくださいね? その方が嬉しいですし」

 

 和やかに、魔法を使用する相手との戦闘した場合について話す三人。横島の場合は戦わずに済んだことに対しての感想であるが、タマモと小竜姫は今後を見据えているようである。

 そこに追いついたエヴァンジェリンが小竜姫に話しかける。

 

「おい。妙神竜姫」

 

「はい?」

 

「貴様との訓練は後回しだ。消費した魔力分を回復させたい」

 

「私は構いませんよ。万全のエヴァンジェリンさんを相手に、()()私が何処まで出来るか知りたいですからね」

 

「ほう。大した自信だな。そういう事なら最初から全力でやってやる。感謝しろよ?」

 

 小竜姫の挑発ともとれる言葉に、エヴァンジェリンは尊大な態度で応える。最初から全力で戦うつもりだったことを微塵も表に出さないのは流石である。

 エヴァンジェリンは言いたいことは言ったとばかりに、広場から室内へと向かう。その後ろを歩いていた茶々丸が、広場に残ったままの一同を室内へと促す。

 

「皆様もこちらに。お茶を用意致しますので」

 

 

 

 

 

 一同が茶々丸に案内されたのは、最初に転移して来た塔とは建物を挟んで反対側に位置する場所。プール脇に用意されたテーブルであった。

 

「へー、凄いな。プールもあるのか」

 

「無駄よねー。下に海があるのに」

 

「貴様は馬鹿か。海は観賞用だ」

 

「そういうものなの?」

 

「イルカもいた筈だが、ここ十年は中に入っていなかったからな。増えているのか、減っているのか。一応、雌雄で何頭か入れていたが」

 

 その言葉に一同は海に目を向ける。見える範囲には、イルカはいない。そもそも、イルカがいたとしても海の表層を都合よく泳いでいるとも限らないのだが。

 しばらく海を眺めていたが、エヴァンジェリンの声でそれを中断する。

 

「ところで、葛葉タマモ。貴様、先程は何をやった?」

 

「ん? 知りたい? でも秘密~。アンタが今後敵対しないとも限らないもの」

 

「まぁ、そうだろうな。そう簡単に情報を教えるわけがないか……」

 

「そういうこと。ま、アンタたちが他者に情報を漏らさないと誓うなら考えてあげる」

 

 タマモの言葉に考え込むエヴァンジェリン。元より他者に情報を教える気は微塵もないが、誓いを持ち出されると考えてしまう。エヴァンジェリンが横目で学園長を見ると、彼も顎に手を当て考え込んでいるようである。刹那も同様である。

 

「ああ、誓いと言っても契約書を交わすわけじゃないわ。言葉で誓って貰えればそれで十分」

 

「何? それでは口約束と変わらんではないか。私たちが守るとも限らんぞ? 契約書なら、精霊の力で守らせることが出来るぞ?」

 

「そんな無駄なことはしなくていいわ。アンタたち程の力があれば、精霊の力なんてどうにでも出来るでしょ? そんな事をするより、自身の誇りに誓ってもらう方が何倍も信用できるわ」

 

 横島の頭に寝そべったまま軽い口調で告げるタマモ。言外にエヴァンジェリンたちを信用していると言っているようなものである。小竜姫も横島も、タマモの言葉に反対していない。

 エヴァンジェリンには仮に漏れたとしても問題ないという自信なのか、本当に信用しているということなのか判断がつかなかった。そうして、戸惑っている内に刹那が先に誓いを言葉にする。

 

「私は誓います。誰にも情報を漏らさないと。神鳴流剣士、桜咲刹那の名において」

 

「フォフォフォ、先を越されたのぉ。儂も誓おう。麻帆良学園学園長、そして関東魔法協会理事の名に。」

 

「私も誓ってやろうじゃないか。“闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)”、“人形使い(ドールマスター)”の二つ名に、そして“悪の魔法使い”の誇りに」

 

三名の誓いを満足そうに聞いていたタマモたちであったが、エヴァンジェリンの誓いに微妙な顔をする。

 

「あー、エヴァちゃん? 悪の魔法使いって?」

 

「エヴァちゃんと呼ぶな。貴様ら魔法世界から来た癖に知らんのか? 私が悪の魔法使いだと」

 

「いやー、てっきり、その……ね?」

 

 横島は言葉を濁し、小竜姫に視線を向ける。それを受けた小竜姫も何と言えばいいのか分からないという顔である。

 

「はっきりしない奴だな」

 

「だって……ね? てっきり、吸血鬼だから悪って言われてたのかと思ったんだけど……」

 

「さっきから何だと言うのだ! はっきり言わんか!!」

 

「自分から悪って名乗るなんて……ちょっと痛いわよ?」

 

「なっ……」

 

 横島たちが躊躇していた言葉をタマモが口にする。それに思わず頷く横島と小竜姫。正義を好む小竜姫も、流石に“悪の魔法使い”はちょっとと思っていたようである。……“闇の福音”やら“人形使い”はいいのかと言うツッコミはなしである。

 

 

 ショックを受けているエヴァンジェリンの名誉の為に説明すると、最初から彼女が好きで“悪の魔法使い”と名乗っていた訳ではない。吸血鬼である彼女を襲撃した魔法使いが侮蔑を込めて呼んだのが始まりである。襲撃者たちから“悪”を押し付けられていく内に、彼女は自分なりの“ルール”を決めていった。その内の一つが“悪の魔法使い”という名乗りである。

自分は襲撃者たち――“正義の魔法使い(自称)”とは違うのだと。決して“正義”にはならないと言う誓いからの名乗りなのである。

 

 

 

 

 

「ゴホンッ。……それで、誓ったからには教えてくれるんだろうな?」

 

咳払いをして話を戻すエヴァンジェリン。

 

――必死に自分は痛くないのだと主張していた時、次第に可哀想な子供を見るような横島たちの視線に泣きそうになっていたのは秘密である。

 

 

「ええ。それは構わないわ。ところで茶々丸は? あの娘にも誓ってもらいたいんだけど」

 

「ああ、茶々丸は今食事を用意している。それと、私に構わず話を進めてください、だとさ。何、茶々丸には許可なく近づかないようにも伝えてある。気にするな」

 

「何か仲間外れにしたみたいで、気分悪いわね」

 

茶々丸不在のまま話を進めることに、少々罪悪感のようなものを感じるタマモ。誓いをたてていない以上、茶々丸に聞かせる訳にはいかないのだが、それでも思う所があるようである。

 

「気にするな。茶々丸は定期的にメンテナンスを受けている。その時、記憶フォルダとかいうのもチェックされるそうだ。だから、自分には情報を漏らさないと言う誓いは無理だからと言っておった。これは、守れない誓いを立てたくないという茶々丸の想いなのだ」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸の想いだから気にするなとタマモに告げる。そこには、生まれたばかりの自分の従者(茶々丸)が誓いの大切さを理解していることに対する微かな喜びが見て取れた。

 実際は、エヴァンジェリンの言うような感情からの判断ではない。茶々丸の思考プログラム(AI)は守れない誓いを立てると言う矛盾――つまり詐称()を選択することが出来ないようになっているのである。

 

 

 

 

 

「それで、何を聞きたい?」

 

 タマモは、聞き手であるエヴァンジェリンたちに何から話すべきかを聞く。自分から詳細に話すより、質問に答える形式で答えることを選んだようである。

 

「そう言われると困るな。知りたいことが多すぎる……そうだな、まずはアーティファクトについてか?」

 

「ふむ。儂もアーティファクトには興味がある。観戦していたが、直接攻撃の類ではないということくらいしか分からんかったしのぉ」

 

「あの、そもそもアーティファクトと言うのは何なのでしょうか?」

 

 エヴァンジェリンと学園長がアーティファクトが気になると言えば、刹那がアーティファクト自体が分からないと言う。

それを聞いたタマモは、横島の頭からテーブルへと飛び降りると何処からか取り出した仮契約カードを尻尾で指し示す。

 

「この仮契約カードを使って召喚する魔道具のことよ」

 

「今何処から……」

 

「気にしてはダメよ。それで……“来たれ(アデアット)”。これが召喚する呪文ね」

 

タマモの言葉により、扇が出現する。それは確かに先程までタマモが使用していた扇であった。

 エヴァンジェリンはタマモの許可を得るとその扇を手に取り開く。

 

「ふむ……。やはり、尾の色が変わっているな」

 

「流石に気づいてたんだ」

 

「それくらいはな。後は、扇の開閉が関係あることくらいは推測出来たが……“狐火”。違うか……」

 

 突如狐火と呟いたエヴァンジェリンに、奇異の目を向ける一同。タマモだけは心あたりがあるのか、普段通りであったが。

 

「何をやっとるんじゃ?」

 

「何、推測が正しかったかを確かめていたところだ。まぁ、違ったのだがな。となると、このアーティファクトの能力は一体……」

 

「狐火は私自身の技よ。まぁ、さっきは開閉と同時にやってたから、誤解するのも無理ないわね」

 

「妖狐の特技か……では、このアーティファクトの能力は何なのだ?」

 

「その()の能力はね……幻覚能力の強化よ」

 

 タマモが告げた()の能力。それはタマモが得意とする幻覚能力の強化であった。それを聞き、納得したのは学園長や刹那と言った観戦組であった。

 

「そういうことでしたか。そのアーティファクト? の力でエヴァンジェリンさんに幻覚を見せていたから、あっさり背後を取れたんですね」

 

「成程のぉ。認識をずらしておったのか。それでエヴァの魔法の狙いをそれとなく逸らしたり、狐の姿で移動しても気づかれんかった訳じゃな?」

 

 タマモがやったことに対しての理解度には差があるようではあるが、二人とも疑問に思っていたことが解けたと心なしかスッキリした顔である。

 一方のエヴァンジェリンはと言うと、背後を取られた時、何らかの幻術に嵌ったのは理解していたが、それは最後だけだと思っていた。しかし、アーティファクトの能力がタマモの言う通りなら、エヴァンジェリンは戦闘中何度も幻術にかかっていたという事になる。

 吸血鬼の能力や魔力を抑えられている学園内ならともかく、力を十全に振るうことが出来る別荘内でかけられるとは容易には信じることが出来なかった。

 

「……いや、だからこそのアーティファクトという事か。そういう事なのだな、葛葉タマモ。貴様がこの吸血鬼たる私に幻術をかけられたのは」

 

「そういう事ね。()()私じゃ、それのブーストがなきゃアンタの精神防御は破れないわ。学校でのアンタならともかくね」

 

「よく言う。このアーティファクトがどれくらいブースト出来るかは知らんが、吸血鬼の精神防御を抜くなど生半可な力量では出来ん。しかも、私に全く違和感を与えなかったという事は、それほど巧妙な幻術だという事だ」

 

「ありがと、と言うべきなのかしら? それで? 私がいつ幻術を仕掛けたか分かった?」

 

「ふむ。そうだな……おそらく、ブーストしたのは六回。それは暗くなっている尾の数からして間違いないだろう。という事は……まさか、最初に扇を開いたときからか?」

 

「正確には、その前から幻術はかけ始めてたわ。それこそ、アーティファクトを召喚する前からね。ま、その時は思考誘導をほんの少ししか出来なかったわ」

 

 タマモはエヴァンジェリンに対し、何気なく対峙し会話していたその時から幻術を仕掛けていたと語る。これには、エヴァンジェリンも驚く。

 

「そうか、それで私は……」

 

「そ。多分、油断や余裕があったからでしょうけど……。私が近づいても体術でさばかなかったでしょ? 私がそうなるように誘導したの。この扇が直接相手に触れさせることで、相手との霊的繋がりを作る為にね。後は基本的に学園長の言ったように、認識をズラしてアンタの魔法が当たらないようにしてたってわけ」

 

「それだけではあるまい? あの霧も幻術なのだろう? 氷と炎で水蒸気が発生することは確かだが、あれほど拡がることはない……だろう?」

 

「そうね。あれは背後を取る為の仕込みだったんだけど……まさか糸で場所が分かるとは思わなかったわ。その後の魔法もギリギリだったし」

 

「あれはどうやったんだ? 貴様の“狐火”では防げなかったんだろ?」

 

「やったことは簡単よ。狐火を放ったのは本当。ただ、幻術で大きさを錯覚させてはいたけどね。後は、狐火と魔法が相殺するイメージと偽物の私を用意して、本物の私は子狐の状態で移動したってわけ。ただ、咄嗟のことでイメージが甘かったから観戦してた人たちには丸見えだったと思うわ」

 

 タマモの言葉に頷く学園長と横島、小竜姫の三人。刹那は何のことだか分かっていないようで、周囲が頷いていることに驚いている。

 

「あの、本当なんですか……?」

 

 確認しても答えは是。自分が未熟だから、見破れなかったのかと落ち込む刹那。それに対してフォローを入れたのは、意外にもエヴァンジェリンであった。

 

「そう気を落とすな。貴様は“気”の使い手だろう? 幻術は精神に作用するからな。肉体を通して発現する“気”では防ぎにくいのだ。まぁ、精神鍛錬を続ければ“気”でも防げるが、それでも同じ修行をした魔法使いよりは防ぎにくい」

 

「そうなんですか……。ありがとうございます、エヴァンジェリンさん。己の未熟さをまた一つ知ることが出来ました」

 

「ふふ、お優しいんですね」

「実はいいやつじゃからのぉ。普段の振る舞いのせいでわかりにくいが……」

「おお、ツンデレってやつですか? それとも困っている人をほっとけない?」

 

 

「う、うるさいっ!! 話はここまでだ! もうすぐ茶々丸が軽食を持ってくる。それを食べたら貴様だからな! 妙神竜姫!!」

 

エヴァンジェリンが照れ隠し気味に放った言葉に、小竜姫は笑顔を見せて答える。

 

 

 

 

 

「ええ、楽しみにしていますよ。久しぶりにまともに戦える……“アレ”のお披露目にもちょうどいいし。すぐに終わらせないようにしなきゃ」

 

 

 




タマモvsエヴァ戦その後。少しだけ前回の解説がありました。

今回は、都合四度の全面書き直しを経て投稿。その割に……という話になってしまいました。ああ、文才が欲しい。
AF設定更新しました。

作中で茶々丸のAIについて少々触れていますが、感情面はこれから成長していくということで。

別荘内の海には生物が生息している。ネギま世界にも契約神(エンゲージ)に相当するものがいる。茶々丸のAI設定。気では幻術を防ぎにくい。
これらは拙作内設定です。


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その9 激突!?竜神と吸血鬼

準備を整えたエヴァンジェリンが戦うのは、竜神にして武神である小竜姫。神族の力の源である信仰の力こそ失っているが、その身に宿る力は尚強大である彼女に、エヴァンジェリンはどう立ち向かうのか。
そして、小竜姫の言う“アレ”とは……?

一言: しばらく戦闘は遠慮したい


 

 

 

 茶々丸が運んできた軽食――サンドイッチを食べながらエヴァンジェリンが、小竜姫との模擬戦について口を開く。

 

「今の内にルールを決めるか。まず、参加者はこちら側が私と茶々丸の二人。そちら側は妙神竜姫……でいいのだな?」

 

「ええ。私は一人で構いません。勝敗……というか決着はどうしますか? タマモちゃんの時のようにしますか?」

 

「それでもいいが……いや、やはり変えよう。そうだな……私と貴様のどちらかが威力の大小に関わらず直撃を三回受けたら負けでどうだ?」

 

「三度の直撃ですか……少々物足りないかもしれませんが、訓練ですしそんなものでしょうね。茶々丸さんに関してはどうします?」

 

「茶々丸は三回直撃を受けた時点で、戦闘から離脱させる。勿論、以後の参加はなしだ。それと、魔法障壁はどうする? 別に障壁を突破出来なくとも直撃と判定してやってもいいぞ? 何と言っても吸血鬼の真祖()の障壁だからな。簡単に突破出来るものではない」

 

「それがどれくらい固いかは分かりませんが……多分、突破出来ると思います。なので、お気になさらず。ただ、障壁次第では力加減を間違えてエヴァンジェリンさんの腕あたりを切り飛ばすかもしれませんが」

 

 茶々丸の入れた紅茶を飲みながら小竜姫は答える。その内容は、ゆっくり紅茶を飲んでいる姿とは対照的に過激なものであった。

 それを聞くエヴァンジェリンも同じく紅茶を飲みながら答える

 

「ほう、自信満々だな。よかろう。障壁を突破できなければ直撃と認めん。それと、私の体のことは気にするな。私は不死だし、再生も出来る。腕や足、首を切り飛ばされようが、腹に穴をあけられようが問題はない。ただ、再生するのは疲れるから全力で防がせてもらうぞ?」

 

「ふふ、それは楽しみです」

 

 お互いに笑顔を向け会話する二人。その手に持つ紅茶のこともあり、非常に和やかなお茶会の一場面にも見える。会話の内容に目をつぶれば、であるが。

 

 そんな二人を他所に、横島たちはお茶を楽しんでいた。

 

「いやー、美味い。茶々丸ちゃんはお茶入れるの上手だな」

 

「私には、様々なデータがインストールされています。今回もそれに従っただけです。賛辞を受ける程のことではありません」

 

「それでも、上手だって。オレなんか知識があってもその通りには出来ないしさ」

 

「私はガイノイドですので」

 

 そのまま茶々丸と会話を続ける横島。その頭上にタマモの姿はない。紅茶が運ばれてきた為、人間の姿に変化し直した為である。そのタマモは刹那と会話していた。

 

「いい? 竜姫の戦い方をよく見ておくのよ? 私の戦い方よりは刹那の参考になる筈だから。同じ剣士だしね。ただ、ちょっと竜姫のテンションが不安だけど……。竜姫も“アレ”を試す筈だし、すぐに終わらせることはしないと思うし……うん、きっと大丈夫。まぁ、エヴァを瞬殺しちゃったらゴメンね? その時は参考に出来ないと思うから」

 

 次第に不安そうな顔になるタマモ。それを見た刹那は疑問をぶつける。

 

「あの、先程から心配の方向がその……竜姫さんの戦い方というか、エヴァンジェリンさんを瞬殺してしまうことについてのように聞こえるのですが……?」

 

「? そうだけど?」

 

「何聞いているのって顔しないでください! 普通、竜姫さんが怪我しないかとか、負けないかを心配するんじゃないんですかっ!? タマモさんは幻術がありましたけど、竜姫さんは剣士なんですよね!?」

 

「何興奮してんのよ? 紅茶でも飲んで落ち着いたら?」

 

「だから、何でそんなに落ち着いてるんですかっ! エヴァンジェリンさんの魔法は見たでしょう? 私たちのような剣士が、彼女に有効打を与えるにはあの猛攻を避け、懐に入る必要があるんですよ? 普通は詠唱の隙を突くのでしょうが、今回はそれも出来ません。つまり、竜姫さんの苦戦は必至なんですよっ!?」

 

 ゆっくり紅茶を口元へ運ぶタマモに、立ち上がって矢継ぎ早に言葉を浴びせる刹那。

タマモとエヴァンジェリンの戦いの時は、初めて目にする西洋魔法の威力に圧倒されていたのもあってタマモのことを心配していた。

しかし、途中からはエヴァァンジェリンの氷に対してタマモは炎と相性が良かったこと、魔法と術の撃ち合いが互角であったこともあり、そこまで心配せずに見ていられた。そこには、お互い術者タイプであったことも少なからず関係している。

 剣士が術者と戦う場合、先手を取り速攻を仕掛けるのが基本である。一度後手に回り距離を取られると、遠距離攻撃の嵐にあう可能性があるからである。

 

 そして、小竜姫とエヴァンジェリンの訓練は、エヴァンジェリン側で絡繰茶々丸が参加する。つまり、エヴァンジェリンは容易に距離を取ることも、詠唱の時間を稼ぐことも可能なのである。エヴァンジェリンの魔法の威力を見た刹那が心配するのも無理はないことであろう。

 

 その刹那の心配をタマモは気にも留めない。タマモは別に刹那の心配が的外れだとは思っていない。タマモ自身、先の戦いでエヴァンジェリン相手に距離を詰めることの難しさは理解している。正面から魔法を避けながら進むなんて馬鹿な方法は、無理だということも理解している。何故か、横島は理不尽に避けて距離を詰めそうな気もするが……。

 

だが、()()()に限って言えば、それは杞憂なのである。

 

「刹那が言いたいことは分かるわ。普通ならイジメみたいな状況だってことも。でも、心配いらない。竜姫はね? 単純な“力”で言えば……私たちの中で一番強いの。それも、理不尽なほどに」

 

「え?」

 

「因みに、単純な“力”なら今の(・・)私よりも横島の方が強いわよ? 私は最下位」

 

「う、うそですよね?」

 

「どっちも本当。ま、片方はすぐわかるんじゃない? 竜姫のヤル気が段々上がってきているし」

 

 タマモが刹那との会話は此処までと、再び子狐の姿になると横島の頭に飛び乗る。そのことに文句を言う横島を見ている刹那の脳裏には、先程のタマモの言葉が妙に響いていた。

 

(タマモさんより横島さんの方が“力”は上……? 冗談?)

 

 

 

 

 

そんな彼女たちを眺めている男が一人。彼はため息を一つ吐くと、小さく言葉を紡ぐ。

 

「儂、忘れられてる……?」

 

 

 

 

 

 十分な休憩をとった一同は再び広場へと来ていた。そこには先程まで、お茶を共にしていた時の和やかな雰囲気は欠片もなかった。

 

 やがて、広場の中央を挟んで対峙する人影の内、二人組――エヴァンジェリンと茶々丸が先に口を開く。

 

「ルールは先程言った通りだ。三度の直撃を受けたものは行動不能として戦線から離脱。先に相手側の全員を行動不能にしたものが勝者だ。いいな。今度は様子見なしで最初から全力だ。簡単に終わってくれるなよ?」

 

「全力でいかせて頂きます」

 

 その言葉を受けた小竜姫は、とても楽しそうな笑顔で頷くと言葉を返す。

 

「私も最初から全力でいかせてもらいます。ああ、実戦はやっぱりこうでなくちゃ」

 

 

 

 

 

 それを広場の脇で見守る横島たち。それぞれの顔には違った表情が浮かんでいる。刹那は心配、学園長は楽しみといった具合である。

 そして、横島とタマモはというと実に気の抜けた表情であった。

 

「何か竜姫のテンションが予想以上に高いんだけど……。タマモとの戦いを見て興奮したのか?」

 

「さぁ。ただ、ルールを聞いた感じだとすぐ終わる気がするわね。それにあの様子じゃ “アレ”のテストのことはすっかり忘れているわね」

 

「だよなぁ……。あの人も普段は落ち着いてるのに、一度はしゃぐと周りが見えなくなるとこがあるからなぁ。……そんな姿も可愛くていいんだけどさ」

 

「私が密着しているのに、他の女を褒めるなんて……あとで覚えてなさい。たっぷりと撫でてもらうから」

 

「密着って、頭の上に寝そべっているだけじゃないか」

 

 

 

 

 

 そのような外野のことなど関係ないとばかりに、対峙している二組の間には緊張感が高まっていた。そこに、学園長から開始の合図が告げられる。

 

 

 

 行動を起こしたのは三人ともほぼ同時であった。

 エヴァンジェリンへ向かい走り出す小竜姫に、主の詠唱時間を稼ぐ為に小竜姫に駆け出す茶々丸。そして、小竜姫を迎え撃つ為の魔法の詠唱を始めるエヴァンジェリン。

 

 

 合図と共に詠唱を開始したエヴァンジェリンは、宙へとその身を移動させながら自分の従者(茶々丸)が小竜姫に一蹴された姿を見た。

 それはまさに一瞬の出来事であった。茶々丸の反応出来ない速さで、三度の打撃を彼女に与えていたのだ。そのまま、小竜姫はエヴァンジェリンに詰め寄る。

 

「(予想以上に速い!! “氷槍弾雨(これ)”は間に合わんか)なら……“氷神の戦鎚(マレウス・アクィローニス)”!!」

 

 小竜姫の速さに詠唱が間に合わないと判断したエヴァンジェリンは、瞬時に詠唱を破棄し無詠唱で氷の塊を作り出す。迎撃する為に速さを重視した為か、先のタマモ戦の時に使った時より氷が小さい。それでも、直径三メートルを越す大きさである。

エヴァンジェリンは氷塊で小竜姫を倒せるとは微塵も思っていない。彼女が同じく無詠唱で放つことができる“魔法の射手(サギタ・マギカ)”ではなく、“氷神の戦鎚(マレウス・アクィローニス)”を選択したのは、威力ではなくその氷塊の大きさで自身の身を隠せるからである。

 

 作り出した氷塊を小竜姫へ飛ばすと、その氷塊に隠れながらエヴァンジェリンは距離を取りながら同時に“闇の吹雪(ニウィス・テンペスターズ・オブスクランス)”の詠唱を開始しようとする。詠唱速度が速く、広範囲に攻撃範囲が拡がる魔法で小竜姫を足止めし、次の魔法の詠唱時間の確保を狙うつもりなのである。

 

 

 

 しかし、エヴァンジェリンの目論見は、氷塊と共に見事に打ち砕かれることとなる。氷塊は小竜姫からエヴァンジェリンを隠すと言う役割を果たすことなく、細切れにされてしまったのである。

 

 氷塊をいつの間にか握っていた剣で、細切れにした小竜姫はそのまま勢いを殺すことなくエヴァンジェリンへと向かう。それを確認したエヴァンジェリンは、無詠唱で“魔法の射手(サギタ・マギカ)”を次々と放ちながら、体術で迎え撃つことを決める。

 

 そこには、自分の体術に対する絶対の自信があった。だからこそ、“三度攻撃を当てた方が勝ち”というルールを提案したのだ。万が一、近接戦に持ち込まれても勝利することが出来るとエヴァンジェリンは確信していたのだ。何故なら、エヴァンジェリンには、ひたすら武術の研鑽に時間を費やしていた期間があった。その期間は約百年。その結果、武術の達人と言われる人物が相手であっても負けない実力を身に付けたとエヴァンジェリンは自負している。

そして、それは純然たる事実であった。ただ唯一計算を違えていることがあった。それは、自分より長い時を武術に費やしている存在がいたということ。そして、その存在と相対しているということ。

 

 

 

「さぁ、来い!! 剣を持とうが、私の修めた体術には関係ない! 返り討ちにしてやる!!」

 

 魔法を放つことをやめ、高らかに宣言するエヴァンジェリン。小竜姫は少し笑うと黙って剣を持った右手を軽く後ろに引き、切っ先を相手に向けて構える。その体勢のまま、小竜姫は加速を続ける。

 

 エヴァンジェリンには、その構えから小竜姫の次の攻撃が分かった。それは突き。少ない予備動作で、最速の攻撃を繰り出せる攻撃方法である。優れた動体視力と反射神経がなければ、完全に防ぐことが難しい攻撃であり、同時に放った後は隙が多くなる攻撃でもある。

 

(突きかっ! 一点に力を集中して障壁の突破は狙うつもりか。こちらが防ぐには、攻撃箇所を予測した上で、妙神竜姫(ヤツ)の攻撃速度を上回らなければならないということか。仕方ない……一撃はくれてやる。だが、代わりに三度の攻撃を貴様にプレゼントしてくれるっ!!)

 

 僅かな思考時間で方針を決めたエヴァンジェリンは、神経を集中させ小竜姫の攻撃に備える。小竜姫の一撃を貰う代わりに自身の勝利を得る為に。

 

 迫る小竜姫の動きに集中していたエヴァンジェリンは、小竜姫の剣が届く範囲になった瞬間、寒気を感じた。それは、幼くして吸血鬼となったエヴァンジェリンが感じることはなかった生物としての本能。

 

 

 

――圧倒的強者と対峙したことによる怯え。

 

 

 

 それをエヴァンジェリンが理解したのは、向かい合っていた筈の小竜姫を、自分が見上げていることに気がついた時である。

 

 

 彼女は小竜姫の三度の攻撃をその身に受け、地面に仰向けに倒れていた。

 

 

 

 

 

 




エヴァと小竜姫の戦いでした。大方の予想通り、勝負は速攻で終わりました。ええ。
エヴァがルールを決めてしまったのと、小竜姫のテンションがさりげに吹っ切れていたのが全ての原因です。

小竜姫様が自重してくれなかったのでエヴァのフォローが大変なことになってしまいました。本当この後、どうしよう……。いっそ、エヴァを幼児退行させてみましょうか?

作中でも触れていますが、今のタマモよりも横島の方が“霊力”は上です。力を取り戻せば、横島より上ですが転生間もないので。

刹那が西洋魔法を初めて見た。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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その10 激突!?竜神と吸血鬼 その後

茶々丸とエヴァンジェリンの二人を下した小竜姫。

一言: お気に入り数が1500件を突破しました。ありがたいことです。


 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、アレは。巨大な竜の(あぎと)が目の前に……。それにあの時感じた寒気……ハハッ、そうか……アレが恐怖か」

 

 地面に仰向けに倒れたままエヴァンジェリンは、小竜姫が眼前に迫って来た時のことを振り返っていた。

 

 小竜姫の剣の間合いに入った彼女が感じたのは、今までに経験したことがない感覚であった。初めて襲撃された時とも、初めて重症を負った時とも違う恐怖。吸血鬼となったことで遠ざかってしまった当たり前の筈の恐怖。原初の昔から生物の本能に刻まれた恐怖。

 

 

 

 ――死への恐怖

 

 

 

 死の恐怖という未知の感覚は、エヴァンジェリンから体の自由と思考能力を奪った。それ程小竜姫から伝わってくる感覚は強烈であり、それ故に、彼女は小竜姫の攻撃を全く認識することが出来なかった。気づいたら全て終わっていたのだ。

 最も、認識出来た所で当初エヴァンジェリンが考えていた作戦――肉を切らせて骨を断つ――が成功したかは謎である。

 

 更に小竜姫の放つ闘気が尋常ではなかったことも、そのことに拍車をかけていた。

 普段なら小竜姫は闘気を外に出すことはしない。闘気は、実力差が開いている相手には威圧感を与えることが出来るが、耐性のあるものや実力が近いものには、自分の気配を相手に知らせたり、攻撃のタイミングを知らせたりするからである。

 相手を攪乱する為にわざと闘気を放出するという戦い方もあるが、それを小竜姫は修めていない。

 

 では何故小竜姫から闘気が……それも尋常ではない量のそれを放出したのか。それは、偏に小竜姫のヤル気が昂ぶっていた為である。

 訓練のルールを決めている時からその傾向はあったのだが、エヴァンジェリンが容易には破れないと自信を見せた魔法障壁を相手に力を試すことに、小竜姫の気持ちは昂揚していた。小竜姫は、自身の力が落ちていることを自覚しているし、自己鍛錬時に現状の力がどの程度であるかも確認していた。神剣は問題なく取り出せること、超加速の持続時間が短くなったこと、霊波砲の出力が落ちたこと……などである。

 

 そんな小竜姫にとって、エヴァンジェリンとの訓練。そして、その魔法障壁を破ることは、今の彼女がこちらの世界でどの程度の実力かを知る絶好の機会であった。

 だからこそ、障壁を破る為に邪魔になる茶々丸をすぐに排除したし、威力のある突きを選択したのである。

 

 その際、障壁を突破することに集中するあまり、ついうっかり闘気が漏れてしまったのだ。ここに老師がいれば、未熟と一喝されたことであろう。

 

 

 

 

 

「おーい、大丈夫か? どっか怪我したか? って、吸血鬼だから問題ないのか……」

 

 仰向けに倒れたまま動かないエヴァンジェリンの元に、頭にタマモを乗せた横島が近寄り声をかける。茶々丸の所へは学園長と刹那が向かっているようである。

 エヴァンジェリンはゆっくりと頭を動かし、横島たちを見上げる。その表情は呆然と言った感じである。…

 

「大丈夫だ。我が身に起こったことを考えていただけだ……」

 

「うん、見た感じ怪我はなさそうだな。流石は吸血鬼って所か。竜姫の突きをくらったのに、もう治癒してる」

 

 その言葉で初めてエヴァンジェリンは、無意識の内に治癒していたことに気がつく。余程、呆然としていたのか痛みを感じていなかったことにも。

 

「くくくっ、何ということだ。私としたことが何処まで呆けていたというのだ……。笑いしか出てこないというのはこのことだな……」

 

 そう言って静かに笑うエヴァンジェリンに、横島たちは軽く引いていた。

 

「あまりのショックに頭がおかしくなったか? まだ、こんなに小さいのに可哀想に……。これもタマモと竜姫が自重せんから……」

 

「わ、私は違うわよ!? 悪いのは……そ、そう、竜姫よ! 竜姫がテンション吹っ切れて、やり過ぎちゃったからこんなことになったのよ!」

 

「う~む。それは否定出来んが……この娘プライド高そうだしなぁ。二連敗したのが余程堪えたんじゃないか?」

 

「そ、それでも竜姫の秒殺に比べたらショックは小さいわよ!」

 

 エヴァンジェリンがおかしくなったのは、小竜姫がやり過ぎたせいだと必死に主張するタマモ。 そこに、問題の小竜姫が近寄り話かける。

 

「エヴァンジェリンさんは大丈夫ですか?」

 

「ああ、竜姫! アンタのせいでおかしくなったみたいよ」

 

「ええっ!?」

 

 これ幸いと責任を押し付けるタマモ。いきなり、告げられた小竜姫は驚愕する。自分のせいでおかしくなったと告げられたのだから当然である。

 しかし、その驚愕は長くは続かなかった。当のエヴァンジェリンが上半身を起こして、小竜姫に向かい口を開いたからである。

 

「私の負けだ、妙神竜姫。葛葉タマモに続いてこの様だ。“悪の魔法使い”、“闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)”と恐れられた、この私がだぞ? 最強を名乗るに相応しいと自負してきたのにだ」

 

 エヴァンジェリンの口から溢れるのは、どれもネガティブなものばかり。それを見たタマモと小竜姫は、フォーローの言葉が見つからず狼狽えている。

 

「エヴァちゃん。エヴァちゃんは何歳? 吸血鬼なんだから見た目通りじゃないんだろ?」

 

 そこに横島が問いかける。横島の意図は不明だが、ここは任せようとタマモと小竜姫は口を閉じる。

 エヴァンジェリンは自分に話しかけて来た横島に視線を向けると、素直に答える。負けたショックがあるのか、随分素直である。

 

「私か? 600歳くらいだが……それがどうした?」

 

「ん? ただ聞いて見たかっただけ。そっかぁ、ピートより100も歳下なのか」

 

「ピートとは誰だ? 長命種だというのはわかるが」

 

「オレの友達だよ。ずっと遠くにいる友達」

 

「そうか……悪かったな」

 

 横島の言葉から何やら勝手に誤解したエヴァンジェリンは謝罪する。それを疑問に思った横島だったが、エヴァンジェリンに質問することで気をそらすことに成功したと判断すると、一同を促し茶々丸の元へと向かおうとする。

 

「じゃ、とりあえず茶々丸ちゃんの所に行こうか? ん? エヴァちゃん行かないの?」

 

「いや、何故か立ち上がれん……。一体どうしたと言うのだ」

 

「腰が抜けてんじゃないの? 竜姫の攻撃を受けたんだし、不思議じゃないわよ」

 

 エヴァンジェリンはどうやら腰を抜かしてしまったようで、立ち上がることが出来ないようである。それをからかう者はこの場にはいなかった。普段なら横島とタマモはからかってもおかしくないのだが、小竜姫の攻撃を受けた後では仕方ないと思っている。

 

「んじゃ、ちょっと失礼してっと。お、軽いなぁ」

 

「お、おい! こら、離さんか!? 少しすれば歩けるように……」

 

「はいはい、暴れなーい」

 

 エヴァンジェリンに一声かけた後、横島がエヴァンジェリンを所謂お姫様抱っこの形で抱き上げる。抱き上げられたエヴァンジェリンはというと、大人しくする筈もなく離せと暴れまわる。その頬は羞恥からか朱に染まっている。

 

(あ、暖かい……。いつ以来だ? 他人の体温を感たのは……?)

 

 

 

「これってヤバイ?」

「ですね……ああ、羨ましい」

 

 

 

 

 

「フォフォフォ、お姫様抱っことは……エヴァよ、中々様になっておるぞ?」

 

「黙れ、ジジイ。そのニヤケ顔を今すぐ凍らせてやろうか」

 

 エヴァンジェリンを抱きかかえ、頭上に子狐状態のタマモを乗せた横島の姿を見た学園長がからかいの言葉を告げると、即座にエヴァンジェリンから冷たい言葉が返ってくる。

 

「それは勘弁じゃな……。それで茶々丸くん何じゃが……」

 

「どうかしたのか?」

 

「もしかしてやり過ぎてしまいましたか? 一応手加減したのですが……」

 

 言葉を濁した学園長にエヴァンジェリンと小竜姫が問いかける。特に攻撃を加えた小竜姫の方が心配そうである。

 

「安心せい。別に致命的な何かをおった訳ではない。ただ、ちょっとのぉ。システムチェックを実行しますと言った後から動かんのじゃ」

 

「それって十分一大事なんじゃ?」

 

 横島は何故か正座の姿勢で固まっている茶々丸と、その周りをオロオロしながら歩き回っている刹那という光景を眺めながら言う。刹那の姿に少し癒されてしまったのは秘密である。

 

「いや、システムチェックの前に重大なダメージはないと言っておったからのぉ。破損したデータがないかを確認しとるんじゃろうて。ただ、それがいつ終わるかが分からんのがのぉ」

 

「どうなんでしょうね? エヴァちゃん分かる?」

 

「んあ?」

 

「あー、疲れて寝ちゃってた? ゴメンなー、茶々丸ちゃんのチェックってどれくらいかかるか分かる?」

 

「んー、超か葉加瀬に聞け。ハイテクはさっぱり分からん」

 

 そう言うと横島の胸に顔を埋めるエヴァンジェリン。本人は決して認めはしないだろうが、初めて意識した死の恐怖から解放された安心感と久しく感じなかった人のぬくもり。そして、エヴァンジェリンが苦手とするハイテクの話が合わさった結果、今のエヴァンジェリンは父親に甘える幼女と化していた。

 

「あー、超とか葉加瀬って誰かわかります?」

 

 横島は急に甘えてきたエヴァンジェリンの頭を撫でながら、学園長に超たちのことを尋ねる。その顔は微妙に引きつっている。何故なら、小竜姫は横島の服の裾を掴むことで、タマモは後頭部に尻尾をペシペシと当てることで、それぞれ不満を密かに伝えてきているからである。

 

(な、ナンパやないからシバかれんのか!? くぅー、こういう可愛い嫉妬って感じの反応はどないすればええんや!? エヴァちゃん抱えとるから、飛びかかるわけにもいかんし……)

 

 横島が葛藤しているとは知らない学園長はエヴァが告げた二人について話をする。

 

「二人ともタマモくんたちのクラスメイトじゃな。葉加瀬くんも超くんも入学前から、大学の工学部に顔を出しておってのぉ。茶々丸くんの製作者でもあるのぉ。どっちにしろ、ここを出ないことには話は聞けないから意味ないのぉ」

 

「あー、それじゃこういう時どうしたらいいんでしょうね? 動かすのは……」

 

「やめた方がいいじゃろうのぉ。処理中に衝撃を与えるとか悪い予感しかせんからのぉ。かと言って、放置するのものぉ。仕方ない。儂が先の場所からテーブルと椅子を運んでこよう。横島くんたちはここで待っておれ」

 

「ありがとうございます」

 

 結局、学園長が先程休憩時に使用したテーブルと椅子を運んでくることとなった。

 横島はエヴァンジェリンが完全に寝入ってしまった為、手伝うことは出来ない。小竜姫は刹那を落ち着かせていたが、いつの間にか先の戦闘のことで質問攻めにされている。タマモはそもそも手伝うつもりがない為である。

 

 

 

 学園長がテーブル類を魔法で浮遊させて運んできた時、横島たちは地面に座りこんでいた。胡座をかき座っている横島の膝の上にはエヴァンジェリンが、頭上には変わらずタマモがおり、二人とも眠っているようであった。

 小竜姫は横島と背中合わせで座っており刹那と話をしている。傍らには、システムチェック中の茶々丸の姿もあり、遠目から見ると一家団欒の光景に見えないこともない。

 

 

 そんな光景を目撃した学園長は、平和な世とはこのような光景なのではないかと考える。

 

 人間、妖狐、吸血鬼、ハーフ、ガイノイド。

 

 互いの違いを気にすることもなく隣にいることが出来る光景。それこそが平和と言うのではないだろうかと。

 

 

 

 




戦闘後の説明会の筈。とりあえず、エヴァが目覚めてからの一話で4時間目は終了予定。本当は今回で終わる筈だったんですがね。
次回は記念小説を更新予定です。

エヴァの危険察知能力は減衰している。小竜姫の神剣は文珠のように意識下にある。学園長がある程度機械に精通している。
これらは拙作内設定です。

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活動報告更新しました。


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その11 戦いのその後

ひと時の安らぎを得たエヴァンジェリン。微睡む彼女が目覚めるまで、あと少し。

一言: お待たせしました。久しぶりの本編更新です。


 

 

 

 

 

「さて、儂から竜姫くんに質問してもよいかの?」

 

 エヴァンジェリンが目覚めた後、幼子のように寝入ったことに対して全員の記憶を消そうと暴れたり、暴れる彼女を横島が抱きしめて止めたりといった騒動があったりしたが、現在はシステムチェックを終えた茶々丸が淹れたお茶でまったりとしているところであった。その間、何処かそわそわしていた学園長が口を開く。

 

「何でしょう?」

 

「ふむ。差し支えなければで構わんのじゃが……」

 

「口篭るなジジイ。気色悪い」

 

「ダメですよ、エヴァンジェリンさん。老人は労らないと。それで?」

 

 暴言を吐くエヴァンジェリンを注意した小竜姫が促すと、それに勇気づけられたかのように学園長が再び口を開く。

 

「うむ、竜姫くんがエヴァと戦う前に言っておった“アレ”とはなんじゃったのかと思っての?」

 

「ああ、そのことですか。そういえば、“アレ”を試すつもりでしたね。すっかり忘れていました」

 

 そう言えばと答える小竜姫。それに対して、横島とタマモはやはりと得心顔であり、刹那とエヴァンジェリンは小竜姫の語る“アレ”の内容に興味津々といった顔である。

 

「そうですね……タマモちゃんの時と同様に他言無用で良いのならお教えします」

 

「ふむ。今更だな。茶々丸、この間にお前は部屋の用意をしてこい」

 

「かしこまりました、マスター。ゲストルームを用意致します。部屋割りは如何いたしましょう?」

 

 すぐに同意したエヴァンジェリンが茶々丸に指示をだす。それを受けた茶々丸は、部屋割りについて質問する。ゲストルームには、二人部屋と一人部屋がある為である。

 

「ふむ。そうだな……一人一室でいいだろう。お前たちもそれでいいな?」

 

 エヴァンジェリンの言葉に異論がないのか頷く一同。それを確認した茶々丸が、部屋の準備へ向かった後、小竜姫が口を開く。

 

「お二人も先程と同じと思ってよろしいですか?」

 

「ええ、構いません」

「無論じゃ」

 

「では、話すとしましょうか。とは言っても、大した話ではありません。“アレ”とはアーティファクトのことです。試すつもりが使うのを忘れていました」

 

「アーティファクトだと? 先程貴様が取り出した剣はアーティファクトではなかったのか? かなりの力を感じたぞ?」

 

「儂もそう思っておった。いや、仮契約カードは視認しておらんが……てっきり」

 

 小竜姫の言葉に思わず口を挟むエヴァンジェリン。直接相対した彼女としては、剣に秘められた力を嫌というほど感じたし、真祖の魔法障壁を容易く貫かれたのだからアーティファクトと誤解しても仕方ないことである。

 刹那もそう思っていたようで、首をコクコクと上下させている。

 

「剣というと、コレのことですか? これはアーティファクトとは違いますよ?」

 

 小竜姫が虚空へ手を伸ばすと、次の瞬間にはその手に剣が握られていた。

 

「す、凄い力を感じます……それに、何処から?」

 

「術の一種です。潜在意識に収納しているんですよ。タマモちゃんの服と同じようなものです」

 

「私の?」

 

「ええ。タマモちゃんが人間から狐の姿に変化しても、それまで着ていた服はその場には残らないでしょう? あれは服を自分の一部として意識下に収納しているんです。逆に人間の姿に戻る時は、着用した状態で召喚しているんです」

 

「そなの?」

「知らなかった……」

 

 小竜姫の説明を聞いた横島が、隣りに座るタマモに確認すると、そこには驚愕しているタマモの姿が。どうやら意識してやっている訳ではないようである。

 

「ふむ。そういえば、私も眷属でマントを作るが、そもそも眷属が何処から来るか気にしたことがなかったな。あれらも意識下に収納しているということなのか」

 

「多分そうですね。この術は人化する妖魔なら、無意識に使用している術ですし」

 

 小竜姫の説明に納得する刹那。

 

 刹那も普段は翼をしまっている。今まで翼を出すときに服を来ていると、抵抗を感じることから体内にしまっていると思っていたが、よくよく考えれば翼が全部体内にしまわれているとは思えない。というか、思いたくない。

 

 

 実際は、刹那の翼と小竜姫の神剣やエヴァンジェリンの眷属とでは収納の仕組みは異なる。神剣や眷属を出し入れする術とは、召喚術の一種である。自身の潜在意識に収納したものを召喚しているに過ぎない。

 

 対して、刹那の翼は変化の術の一種である。とは言っても、刹那の場合、翼がある姿が本来の姿である。彼女の場合、翼のない状態へ変化していることになる。

 

 妖魔は体の大半が霊体で構成されており、霊体部分を作り変えることで変化を行う。当然、刹那の翼も霊体でできており、収納している状態とは翼を構成する霊体を別の場所に押し込めているに過ぎない。

 

 また、人化した妖魔が本来の姿になった時、パワーアップしたように感じるのは、本来あるべきもの――刹那の場合、翼――を他の場所に押し込めるのに力を使うからである。それを止めるのだから、余分な力を使わないで済む分、力が増すのは当然のことである。

 

 

 

「ふむ、その剣を召喚したのが、竜姫くんの術だというのは分かった。して、その剣がアーティファクトではないのなら、君が試したかったアーティファクトと言うのは?」

 

 学園長が脱線しかけた話を元に戻す。彼が術や剣について詳細に聞かなかったのは、それが秘術に類するものだと判断したこともあるが、自分の立場を弁えている証拠とも言える。タマモの時は何故なら、彼らは聞かせてもらっている立場なのだから。

 

「この剣についてはいいんですか? と言っても、神剣の一種としか言うつもりはありませんが」

 

「十分じゃ。桁外れに強い剣を所有しておると知ることが出来た訳じゃしな」

 

「うむ。私としても、それが神剣の一種と言うなら納得だ」

 

「えっと、はい。大丈夫です。続けてください」

 

 若干刹那は剣について聞きたそうだが、空気を読んで続きを促す。

 

「それで、私のアーティファクトですが……“来たれ(アデアット)”」

 

 小竜姫の手元に召喚されたのは、翠色の勾玉がついた首飾り。小竜姫は召喚したアーティファクトを手に取ると、全員が見やすいように掲げる。

 

「これが私のアーティファクトです。名を玉龍ノ勾玉(ギョクリュウノマガタマ)

 

「玉龍とな?」

 

「ええ。ご存知で?」

 

 アーティファクトの名を聞いた学園長が声をあげる。玉龍を知っているようである。

 

「西遊記という物語に出てくる龍じゃ。最も、物語中ほとんど活躍せんがの」

 

「ああ、あの馬になった龍か。確か、何かの罰で馬にされたんだったか?」

 

「厳密には違うが、最終的に三蔵法師の馬となっておる」

 

 学園長の説明にエヴァンジェリンが思い出したと、言葉を挟む。横島とタマモ、刹那は全く聞き覚えがないようである。

 

「そんなパッとしないやつの勾玉か。あまり期待できそうにないな」

 

 エヴァンジェリンの言葉を聞いた横島が、小竜姫に近づき小声で話しかける。

 

「何か馬鹿にされてますけど……」

 

「まぁ、お父上……西海竜王様なんですが、その方の宝物庫に掃除しに行ったときに暗いからって火を吹いたら、宝珠を焼いちゃったとか、罰を軽減する為の仕事……ああ、三蔵法師様を運ぶっていう仕事なんですけどね? それをお腹が空いたからって、目の前に来た馬を三蔵法師様ごと食べようとしたりと少々抜けている方ですからね。まぁ、今は老師に躾けられてドジとかは減ったと聞きます」

 

「そ、それは何というか……。でも、確かこのアーティファクトって結構いい能力だったような……? 実は玉龍関係ないとか?」

 

「いいえ。先程言いましたよね? うっかり燃やした宝珠があると。それがこれです」

 

「へ? そ、そうなの?」

 

「そのものかは私にも分かりません。ただ、その焼失した宝珠と形が一緒なんです。それに、このアーティファクトの能力も似ています」

 

「おい! 何をこそこそしている。早く能力を教えんか」

 

 小竜姫と横島がこそこそ話していることに気づいたエヴァンジェリンが、早く能力を教えろと催促してくる。期待出来そうにないと言った割りに、その瞳は楽しそうである。

 

「分かりました。分かっている能力は、装着者の()の強化ですね。試せる場所がありませんでしたので、正確には分かりませんが最大で筋力は二倍くらいまで強化出来そうでした」

 

「やはり装着者を強化するタイプのアーティファクトだったか。しかし、力を二倍にする能力か。それだけだとしたら、使えるのか微妙なアーティファクトだな」

 

「何故ですか? かなり強力だと思いますが」

 

 エヴァンジェリンの微妙な評価に、刹那が疑問の声をあげる。彼女からすれば、力が二倍になるのは非常に魅力的だと思えた。

 

「お前はもう少し考えろ。確かに、力が倍になれば物理攻撃も倍になる。妙神竜姫やお前のような剣士なら、有用だろうよ。但し、相手が同じ剣士や戦士だとしたらだ」

 

「そうじゃのぉ。妖魔相手でも一撃の威力が上がる分有効じゃろう。しかし、魔法使いの様に障壁を張るような輩の場合、力だけが倍になっても通用するか怪しい。それに、避けられてしまえば意味がない。結局、アーティファクトだけでは決め手に欠けるんじゃ」

 

「それでは、外れということですか?」

 

「そうではない。妙神竜姫ほどの剣技とスピード、神剣があれば非常に強力なアーティファクトとなる。だからこそ、使えるか微妙なのだがな」

 

「人を選ぶアーティファクトと言うことですか」

 

「そういう事だ。ま、単純な()だけを強化するのならな。だが、それだけではあるまい? 力だけの強化なら、場所を取らずに検証することは可能だからな」

 

 ニヤリと笑いながら小竜姫に尋ねるエヴァンジェリン。それを受けた小竜姫は何でもないかのように言葉を返す。

 

「ええ。ですが、先程も私は嘘は言ってませんよ? 正しくこのアーティファクトは()を強化するのですから」

 

「くくくっ、確かに嘘は言ってないだろうな。しかし、そういう事ならこれは凄まじいアーティファクトだな。その分、扱いも難しそうだが」

 

「だからこそ、先程の戦闘で試して見たかったんですけどね」

 

「冗談を言うな。アーティファクトなしであの様だ。それにこのアーティファクトが加わったらと思うと、ゾッとする」

 

 何処まで本気か分からないエヴァンジェリンの言葉だが、横島はその身が震えた一瞬を見逃さなかった。

 

(分かる。分かるぞ、エヴァちゃん。強化された竜姫なんて、恐ろしくて相手に出来ないよな?)

 

 うんうんと頷く横島を横目に、刹那が学園長に説明を求めようとする。彼なら解説してくれるだろうと期待しての行動である。刹那が学園長の方向を見ると、彼は何やらブツブツと呟いていた。

 

「竜姫くんもタマモくんも予想以上の強さじゃ。それにアーティファクトが本当にそういう能力なら……これは、警備の仕事を増やしてもらうか? いや、護衛に集中してもらった方が……」

 

 その様子を見た刹那は諦めて他の人物を探す。横島に自分から話かける勇気がない。エヴァンジェリンと竜姫の間には入りたくない。後は……居た。紅茶を優雅に飲んでいる。

 

「タマモさん!」

 

「ん? アンタもいる?」

 

「いえ、紅茶が欲しいのではなくてですね……」

 

「竜姫のアーティファクトのことでしょ? 分かってるわよ。アンタは力と聞いて、筋力のことだと思ったのよね? それが間違いなの。竜姫のアーティファクトが強化出来るのは筋力だけはない。全ての力なのよ」

 

「全ての力……?」

 

「本当はアンタも分かっているんじゃない? 全ての力……つまり、肉体、五感、気や魔力に反射神経とか全部ひっくるめて強化出来るのよ」

 

 刹那はその言葉を聞くと、数秒固まり、大きく驚愕の声をあげるのであった。

 

「ええぇぇええ!!」

 

 




長らくお待たせしました。今回は事後処理その2。またの名を、説明回。
小竜姫のアーティファクトですが、当然デメリットと言うか制限があります。それはまたの機会に。

次回は事後処理その3。別荘内でのくつろいだひと時……の筈。

別荘のゲストルームについて。タマモの衣服、エヴァの眷属やマント、小竜姫の神剣について。妖魔あれこれ。小竜姫の語る玉龍について。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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その12 それぞれの決意

明かされる小竜姫のアーティファクトとその能力。刹那はその力に、衝撃を受ける。

一言: 筆が進まんなぁ……


 

 

 

 

 

 刹那の驚愕より数十分後。一行は茶々丸が作った夕食を食べていた。

 

「こりゃ美味い。茶々丸ちゃんが作ったんだろ? 凄いな」

 

「私にはありとあらゆる料理のレシピがインストールされています。それに従って作れば、これくらい造作もありません。皆さんもレシピがあれば出来ると思いますが?」

 

「……うん、それは人前で言わない方がいいな。レシピ通りに作ろうとしても出来ないって人がいるからな。そういう人たちの反感を買っちまう」

 

「? 何故、本当のことを言ってはいけないのですか?」

 

「何でも正直に言えばいいってもんじゃないんだ。茶々丸ちゃんも、いつか分かるようになるよ」

 

「そうでしょうか……?」

 

 遠い目をしながら茶々丸と会話する横島。自身の失敗を思い出しているようである。しかし、その間も横島の食事の手を止まることはない。以前のように食事に困る生活はしていないのだが、食べられる時に食べる癖がついているようである。

 そんな二人のやり取りを眺める幼……少女が一人。茶々丸のマスターであるエヴァンジェリンである。

 

(ふむ。戦闘前は気にも留めなかったが、奴は茶々丸にも普通に接するな。それに葛葉タマモと妙神竜姫のマスターだったな。あれ程強力なアーティファクトが出たと言うことは、マスターの側もかなりの力の持ち主の筈だが……)

 

 エヴァンジェリンの前で茶々丸と会話を続ける男からは、そのような気配は一切感じない。余程、隠蔽に長けているのかと思ったエヴァンジェリンは、更に注意深く横島を観察する。

 

(細身だが、しなやかでいい筋肉だ。それに奴の腕に抱かれた時、この私が暴れたというのにビクともしなかった。吸血鬼を抑えるだけの筋力が奴にはあるということか。その上、あの時感じた安らぎにも似た、暖かな感覚。アレが奴の能力か? 捕獲……いや、支援型能力者か?)

 

 何やら納得したのか、うんうんと頷くエヴァンジェリン。しかし、彼女は未だ気づかない。彼女が感じた安らぎ。それが、横島の能力などではなく、彼女の中から溢れ出た感情であることを。

 

 

 

 

 

 茶々丸が横島と会話し、エヴァンジェリンが自分の世界の入っていた頃。刹那は小竜姫たちと今後の話をしていた。

 

「さて、刹那さん。今日アナタが見た戦いで気になったことはありますか? ある程度のことなら答えますよ?」

 

「そうね。アナタが習う“力”を実戦で見せた訳だし、聞きたいことあるわよね。どう使ったかは分かるわよね?」

 

「え……? あ、はい……竜姫さんは身体強化で使った……ですよね? 完璧な瞬動……だったと思います。私では、動きが見切れませんでしたので断定出来ないですが」

 

「確かに身体強化に使いましたね。瞬動が何かはわかりませんが、スピードでしたらまだまだあがりますよ? 私の全速力に対抗出来るのは横島さんくらいじゃないでしょうか?」

 

「まぁ、私には無理ね。私も相当スピードは出せる筈なんだけど、アンタたちは可笑しいわ。特に横島」

 

 小竜姫の言葉に衝撃を受ける刹那。完璧に見えた瞬動が、手抜きと言われたのだから当然である。事前に強いとは聞いていた横島も相当だと言うのだから、尚更である。

 

 ただ、ここで訂正しておくと、小竜姫の移動技は気や魔力を推進力にして移動する瞬動とは異なり、小竜姫自身とその周囲の霊波に干渉して加速する技である。そして、小竜姫の言う“全速力”とは、一時的に周囲の時の流れを遅くする韋駄天族の奥義――超加速――のことである。

 そして、それについていける可能性を持つのはこの世界では横島の文珠だけであろう。横島は竜神の装具を用いて超加速を経験しているので、再現する可能性は低くない。そして、何より霊力に目覚める前に影法師(シャドウ)で小竜姫の超スピードに追いついた男である。文珠や竜神の装具抜きでも超加速に至るのではないかと、小竜姫は本気で思っている。

 

「まだ速くなるのですか……。そんな凄い力を私なんかが身につけられるのでしょうか……?」

 

 どこか呆然としたまま不安を口にする刹那。そんな刹那の様子に小竜姫とタマモは顔を見合わせたあと、言葉を紡ぐ。

 

「前も言ったでしょ? 私たちの力は魂の力。どのような特性を持つか、何処まで力を発揮するか。どちらも目覚めてみないと分からない。今から悩んでもしょうがない。気にせず修行に励みなさい。それに、不安がる必要はないわ。アナタの素質については私や横島、竜姫が保証するわ」

 

「心配せずとも、心の底から強く望めば自ずと魂は応えてくれます。横島さんはそうやって強くなりました。アナタもきっと出来ますよ」

 

 

「「アナタなら出来ると信じてる」」

 

 

 そう言って、タマモと小竜姫は刹那に微笑む。刹那ならきっと霊力を身につけることが出来ると言う確信を込めて。

 

「……まだ不安はあります。ですが、必ず身につけて見せます! お嬢様の為にも……タマモさんたちの信頼に応えるためにも!」

 

 刹那は決意を込めて宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、学園長は――

 

「むぅ……竜姫くんたちの力は素晴らしかったのぉ。横島くんと一緒に京都に……いやいや、平日じゃからダメじゃろ。いや、でも最近少々西が騒がしいし、念のため戦力は整えておいた方が……」

 

 ――何やらフラグめいた言葉を呟いていた。

 

 




 これにて4時間目は終了。章タイトルの福音は誰に訪れたのか。それは皆様の解釈次第です。はい。
 ノリで章タイトル付けるんじゃなかった……

 最後の学園長の言葉はフラグとなるのか!? それは誰にも分からない!

 茶々丸にレシピがインストール済。小竜姫の移動術。吸血鬼について。
 これらは拙作内設定です。

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5時間目:日常と非日常
その1 京都への道


エヴァンジェリンの別荘で一夜を明かした一行。翌日、横島は京都行きの準備を進めるのであった。

一言: 京都行ったことないです。




 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンの別荘で一夜を明かした横島たちは、昼頃までだらだらと過ごした後別荘の外へと移動していた。

 

「いやー、南国リゾートで絶品料理とか最高だったなー」

 

「そりゃ、アンタはね。私と竜姫は戦闘したり、刹那にあれこれ聞かれたりで疲れたわよ」

 

 背伸びをしながら横島が言うと、定位置に陣取るタマモが呆れた口調で告げる。横島は知らないことだが、修行が待ちきれなくなった刹那に質問攻めにされていたのである。しかも、小竜姫も妙に乗り気で、座学と称して色々話をすることになってしまった。流石に、幻術をかけてまで逃げるのもどうかと思った結果、現在のだれタマモが完成した訳である。

 

「おー、そりゃご苦労なこった。でもそういう事なら、オレにも声かけてくれれば良かったのに。ま、オレがいたって何も出来んがな! ……痛っ! 爪っ! 爪がー!」

 

 カラカラと笑う横島に、イラッときたタマモが爪を立てる。無様に痛がる横島の姿が琴線に触れたのか、タマモは非常に楽しそうである。

 

 

 

 

「奴らは何をしとるんだ?」

 

 そんな二人を呆れた目で見るエヴァンジェリンたち。小竜姫にとっては見慣れた光景だが、彼女たちにすれば異常な光景である。

 

「どうせ横島さんが余計なことを言ったのでしょう。いつものことですから、お気になさらず」

 

「あれが日常とは……奴はマスターじゃなくて玩具(ペット)なのか?」

 

 何やら頓珍漢なことを言い出すエヴァンジェリン。小竜姫には、いつものじゃれあいの延長戦に見えるそれも、エヴァンジェリンからしたら痛めつけて喜んでいるようにしか見えないのだから、仕方ないのかもしれない。

 

「まぁ、貴様らの関係に口を出すつもりはないが……何というか、程ほどにな? 若い内から特殊なプレイは関心せんぞ?」

 

「特殊……? いえ、いつものことですよ?」

 

「ああ、わからないのならいい。忘れろ」

 

 エヴァンジェリンのからかい混じりの言葉は、小竜姫には通用せず、エヴァンジェリンは肩を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 その後、エヴァンジェリンと茶々丸に見送られ別荘を後にした横島たち。妙に生暖かい視線と、次はお前だとの言葉が引っかかりを覚えながら。

 

「さて、儂と刹那くんはこっちの道じゃな。例の“おつかい”宜しく頼むぞ?」

 

「大丈夫ですよ。“おつかい”くらい心配しなくても」

 

「そうじゃな。それでは、またの」

 

「失礼します」

 

 横島に確認したあと、女子寮方面(駅もこちら)へと歩く学園長と刹那。学園長は結局、京都行きのメンバーを増員しないと決めていた。京都周辺がきな臭いのは確かだが、下手に増員してやぶ蛇になることを嫌ったのである。別荘でのタマモたちの戦闘を見て、魔法世界での噂は真実だったのだろうと確信を強めたのも一因ではある。それに、小竜姫の剣撃を見切っていたような態度だったことも。

 

「フォフォフォ。いい拾い物をしたようじゃ……」

 

「学園長?」

 

「何でもないわい。それじゃ、儂は駅に向かうからここでお別れじゃな」

 

「あ、はい。それでは失礼します」

 

 思わずこぼした言葉を刹那に聞かれたが、丁度寮と駅への分かれ道であった為誤魔化すことに成功。一礼して去っていく刹那を見る学園長の眼は、孫である木乃香に向けるそれと変わりはない。そして、小さく呟くのであった。

 

「あの子にとっても、良い出逢いじゃったようじゃしな」

 

 

 

 

 

 一方、学園長と刹那と別れた横島たちは、よこっちの前で三人の人物と合流していた。

 

「で、今日は何のようだい?」

 

「お父様への手紙書いてきたえ~、あと、遊びに来たんよ」

 

 そう言って、封筒を差し出してきたのは学園長の孫である木乃香。封筒の中身は彼女が言うように、父親へ向けての手紙なのだろう。横島はそれを受け取ると、笑顔を向けてくる木乃香の頭を撫でる。彼女との身長差は二十センチ強。横島にとって、木乃香の頭は撫でやすい位置にあるのである。

 それに加え、彼女のにこやかな笑みとほんわかした雰囲気が、自然と横島の内にある父性を刺激しそうさせるのである。

 

「もー、くすぐったいえ。それに、髪が乱れてまう」

 

 文句を言う木乃香だが、その顔は笑顔のまま。小学校から親元を離れているので、撫でるという行為に父性を感じているのかもしれない。

 

「お、悪い悪い。じゃ、中に入るか」

 

「そうね! 中に入りましょうか!」

 

 横島が木乃香の頭から手を離しながら、木乃香たちを中へと誘う。すると、タマモが自由になった横島の手を引っ張り、よこっちの中へと姿を消す。

 残された面々は、その様子に少々呆気に取られたが小竜姫に促されて、中へと歩を進めるのであった。

 

 

 

「いやー、でも丁度よかった。実は京都行きの日程がさっき決まってね。連絡しようか迷ってたとこだったんだ」

 

 よこっち二階にある談話室で、小竜姫の淹れたお茶を一口飲んだ横島がいう。横島の両隣がタマモと小竜姫。横島たちの向かいに木乃香たち三人が座っている。

 

「迷うとは? 日程が決まったら連絡すると言っていたのは、横島さんではなかったですか?」

 

 その向かいに座る三人のうちの一人、夕映が疑問を口にする。横島がそう言っていたのを、彼女たちは覚えていた。

 

「そうなんだけどさ。その京都行く日ってのが、明後日なんだわ。今日伝えて、明日までに書いて来てってのもどうかと思ってさ」

 

「私だったら、書けないかもしれないです」

 

 横島の説明に、残りの一人――のどか――が自分だったらと口にする。夕映も同感なのか、納得の表情を見せている。

 

「それに、オレは木乃香ちゃんの連絡先知らんしな。ま、タマモに聞いてもよかったんだが……」

 

「? 私も木乃香の連絡先知らないわよ?」

 

 この一言で、全員が顔を見合わせる。入学式からの数日の間、よく話しているが連絡先を一切交換していなかったことに気がついたのである。

 

「あー、うちもアドレスとか教えてなかったわ」

「私もです。何故なのでしょうか?」

「うん。会ってから数日しか経ってないって気がしないのに、連絡先交換してなかったなんて」

 

 口々に不思議がる木乃香たち。ずっと前からの知合いだったかのように、自然に接していたので余計に不思議なようである。

 

「私たちの方は、最近携帯持ったから連絡先を交換する習慣がなかったからだけど……そっちは、何故かしらね?」

 

「そんなことどうでもいいじゃないですか。それより、この機会に連絡先交換しませんか?」

 

 小竜姫の提案に、横島たちは連絡先を交換する。

 

「さて、可愛い女の子たちの連絡先もゲット出来たし、改めてお茶にしますか。確か、お茶菓子は……」

 

「ああ、私がとってきますよ。横島さんじゃ、何処にあるか分からないでしょうから」

 

 横島がお茶菓子を探しに席を立とうとすると、小竜姫がそれを制しキッチンへと向かう。そのやり取りを見た夕映が、戻って来た小竜姫に問いかける。

 

「食事とかは竜姫さんが作っているのですか? 横島さんはキッチンに何があるか把握していないような口ぶりでしたが」

 

「そうですね。基本は私でしょうか。タマモちゃんも横島さんも料理はあまり」

 

「タマちゃん、料理できへんの? 教えたろか?」

 

「大丈夫よ。竜姫が作った方が美味しいんだから、私が作らなくとも問題ないわ」

 

「いっそ、清々しいまでの人任せです」

 

 木乃香の提案を断るタマモ。その返答内容に夕映とのどかは呆れた顔をする。もう少し違う言い方はなかったのだろうかと。

 

 

 女子たちで盛り上がるのを、横島は楽しそうに眺めていた。京都もこんな感じで、楽しくなればいいと考えながら。

 

 

 

 




 5時間目「京都」開始。章タイトルそのままの話です。

 そういえば、木乃香の母親ってどうなってるのでしょうか。知っている方がいらっしゃったら教えてください


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その2 いざ京都……のその前に

短くてゴメンなさい。

一言: 今年の秋は……短い




 

 

 

 

 

 

「それで、部活の方は決まったんか?」

 

 お茶を飲む少女たちを微笑ましく見ていた横島が問うと、少女たちは談笑をやめて顔を見合わせたあと木乃香が口をひらく。

 

「今日はなー。うちらのお目当ての部活の説明会やったんや」

 

「ああ、図書館冒険部だっけ?」

 

「おしい! 図書館探検部や。そんで、説明会のあとすぐ入部届けだしたんよ。でも、部活勧誘期間が終わるまでは、活動出来んのが残念やな」

 

「仕方ないのです。図書館島は巨大な迷宮でもありますからね。入ったばかりの私たちだけでは地下へ行くのは危険という理由ですから。……本当に口惜しいですが」

 

 残念だと笑う木乃香。夕映は余程楽しみにしていたのか、本当に悔しそうである。そんな夕映の様子に苦笑しながら、横島は小竜姫とタマモに問いかける。

 

「で、お前らは? 部活どうすんだ?」

 

「言わなかった? 私たちは帰宅部ってやつ。この事務所やアンタの世話もあるしね」

 

「そりゃ、竜姫は助かるが……お前は世話される方だろ?」

 

「あら、世話させてあげているのよ。それに、アンタも私の体を楽しんでるでしょ?」

 

 タマモの言葉に、のどかと夕映は顔を真っ赤にして固まる。木乃香は変わらずニコニコ笑っている。

 

「なっ! 抜けがけしたんですかっ!?」

 

「抜けがけって言っても、竜姫より一回多いくらいよ。昨日、風呂上りの時にちょっとしただけだし。アンタも今日してもらえばいいじゃない」

 

 抜けがけがと食ってかかる小竜姫に、何でもないことのように告げるタマモ。その内容を聞いたのどかは、持ち前の豊かな想像力でナニを想像したのか、真っ赤な顔を両手で抑えソファーに沈み込んでいる。夕映も似たようなものである。

 

 因みに横島は、小竜姫がタマモに詰め寄る時に横島を吹き飛ばし為、絶賛気絶中である。

 

「そうですね……私も今夜にでもやってもらいます。でも、タマモちゃんは今夜はダメですよ? タマモちゃんだけあの心地よさを多く感じているなんて、ズルいですから」

 

「じゃあ、うちもいつかしてもらおうかなー。何や、二人の話を聞く限り気持ちよさそうやし」

 

 何故か、木乃香が自分もと主張する。夕映とのどかは、さらに想像(妄想)を掻き立てられたのか一言も言葉を発することなく、ただ震えている。

 

「木乃香さんもですか? じゃあ、早速今晩はどうですか? あ、そうだ。どうせですから、うちに泊まっていかれますか? 夕飯もご馳走しますよ?」

 

「う~ん、それも楽しそうなんやけど……明日菜がなー。あの娘のご飯作ってあげんといかんしなー」

 

 小竜姫の提案に心惹かれながらも、明日菜のことがある為、断ろうとする木乃香。そこにタマモが助け舟を出す。

 

「いっそ、明日菜も連れてきなさいよ。部屋には余裕あるし、客用の布団もあるし。ついでだし、アンタらも泊まってけば? 木乃香のついでにアンタらもやってもらいなさいよ」

 

 木乃香の発言で半ば想像の世界に飛び立っていた夕映とのどかだったが、いきなり向けられたタマモの言葉の意味を理解するなり大声で叫ぶ。

 

「無理ですぅ、男の人と……なんて! まだ、私にはそんな勇気は……」

「そうです! 大体、私たちは中学生になったばかりなのですよ! そんな破廉恥な関係は……大体、木乃香さんのついでにヤルとはどういう事ですか!?」

 

 その夕映の訴えに不思議そうな顔をするタマモたち。その様子を見て、夕映は自分たちとの意見が届いていないのかと、改めて言葉を紡ぐ。

 

「いいですか? 私とのどかは確かに横島さんを好ましいとは思っています。但し、それは人間的に見てであって、男女のそれとは違うのです。そんな相手に木乃香のついでに交わるなど、できるわけが……。大体、竜姫さんもタマモさんも、簡単に誘うなんてどうかしています。確かに、妻妾同衾という言葉もありますが……いえ、この言葉は造語らしいですから引用するのは間違いでしょうか。ともかくですね」

 

「あの、何か勘違いをされていませんか? 私たちは横島さんと、その……」

 

「残念ながら、アンタの考えているような関係じゃないわよ? 大体、そんな関係だったら、アンタらを泊めたりしないで私たちだけで楽しむわよ。私たちが言ってるのは、マッサージ。アイツうまいのよねー。風呂上がりに髪を乾かしてもらったあと、マッサージされるともう骨抜き?」

 

 タマモの言葉にしばし呆然としたあと、顔を真っ赤に染めあげる夕映。自分の勘違いに恥ずかしさ爆発と言った所であろう。密かにのどかも真っ赤になっているのは、そういうことだろう。

 

「ま、そう言う訳でアンタたちの懸念はなくなったわけだけど。どうする? 泊まってく?」

 

「え~と、先程のことは是非とも忘れて頂きたいのですが……」

 

「忘れてもいいけど、アンタら泊まりね。そして、横島のテクに溺れるがいいわ!」

 

 ふははと高らかに笑うタマモ。一体、彼女の目的は何なのだろうか。そう疑問に思う夕映とのどかだったが、ここはタマモの言葉に従った方がよいと判断する。

 

「分かりました。ただ泊まるだけなら、元々問題はなかったのです。弱みを握られた以上、泊まる事に異議はありません。いざ、お泊まり! です」

 

「ゆえゆえ、そんな言い方はダメだよ」

 

 力を込めて宣言する夕映にのどかが注意するが、恥ずかしさを隠すためか何処か興奮した様子の夕映には聞こえていないようである。

 

「事実ですから、気にしなくても構いませんよ。まぁ、安心してください。タマモちゃんも本気で言ってる訳ではないので。それで、木乃香さんはどうします? って、あら?」

 

 小竜姫はそんな二人に声をかけたあと、未だ高笑いを続けるタマモを尻目に木乃香に問いかける。しかし、そこには先程までいた筈の木乃香の姿はない。

 

 小竜姫が周囲を見渡していると、キッチンの方から木乃香と、先程まで気絶していた筈の横島が、お茶のおかわりをもって現れる。茶菓子の場所が分からない横島でも、お茶のおかわりを用意することは出来たようである。

 

「お~い、お茶のおかわり淹れた来たぞーって、どういう状況?」

 

「ホンマや。夕映とのどかはいつも通りやけど、タマちゃんが高笑いしとる。……何や、様になっとんなー」

 

 木乃香の言葉に、高笑いを続けるタマモに視線を向ける横島と小竜姫。確かに、タマモの姿は様になっている。

 

「本当。いつも偉そうだからだな、きっと」

 

「もしかしたら、美神さんの影響かもしれませんよ?」

 

「それは、嫌だなー。美神さんみたいな人は一人で十分だし」

 

「まぁ、そうですね。あの様な方が何人もいたら、地球は破滅するでしょうし」

 

 何やら物騒なことを口にした小竜姫であったが、すぐに何でもなかったかのように木乃香に話しかける。話題は勿論、お泊まり会についてである。

 

「それで、木乃香さん。お泊まりの件は……」

 

「あ、さっき横島さんにも言ったけどOKや。明日菜もいいんちょたちの部屋でお泊まりらしいから、問題なしや。ついでに、外泊届けも出してくれるって。夕映たちの分も頼んでおいたで」

 

 いつの間にか連絡していたようで、問題はないと答える木乃香。その上、夕映たちについても手配済だと告げる。その手際のよさに感心しながら、小竜姫は気になったことを尋ねる。

 

「明日菜さんといいんちょ? さんは仲がよろしいのですか?」

 

「んー、普段は犬猿の仲って感じやけど、いいんちょと明日菜は仲ええで。今日のお泊まりだって、バイトを始めて生活不安定な明日菜が無理していないか、近くで見る為やろし。今日も遅刻寸前だったのを気にしてたしな」

 

「そうなんですか。しかし、これで皆さんお泊まりということで。横島さんもいいですよね?」

 

 小竜姫が横島に確認をとる。名目上、この“よこっち”は横島の所有物であるからである。

 

「いいんじゃないか? 部屋はまだ余ってる筈だし。そうだ! 折角だから夕飯は奮発して、すき焼きでもするか!」

 

「ふふ、それじゃ買い物に行かないといけませんね。留守はタマモちゃんたちに任せて、木乃香さんも一緒に行きませんか? 着替えとかの荷物を取りに行くついでに」

 

「ええよ。ついでに、のどかたちの荷物も持ってくるなーって、聞いてないみたいやな」

 

 小竜姫に買い物に誘われた木乃香が、のどかたちに声をかけるが二人とも全く気づいていないようである。

 

 一応、タマモたちに書置きを残して、小竜姫と木乃香は横島を荷物持ちに引き連れて、買い物(と、荷物回収)へ向かうのであった。

 

 

 

 

 




 何でこうなったのでしょうか。本当は京都へささっと行く予定だったのですが。次話こそ京都に行きたい。その前にお泊まり会……はいいか。

 それと二日間はPCに触れません。SuperGTを観戦に行くので。
 ですので、感想などの返信は遅れると思います。

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その3 いざ京都……もとい、お泊まり会!

お泊まり回です。思ったより長くなりそうです。京都はもうちょっとお預けです。すみません。

一言: 昼にお寿司屋さんで鮭ハラス定食を食べました。寿司食えって? 先輩! 昼に寿司は高いっす! 千円はツライっす!


 

 

 

 

 

 よこっちを出て、木乃香の案内で女子寮へと向かう横島たち。先導する木乃香は、お泊まりが楽しみなのか軽やかな足取りである。

 そんな木乃香の元に、一通のメールが届く。確認すると、それはよこっちに置いてきた夕映からであった。

 

「え~と。ああ、そういえばそうやなぁ」

 

 メールを確認するなり何やら納得する木乃香。木乃香が返信するのを待って、小竜姫が木乃香に問いかける。

 

「何がそうなのですか?」

 

「うちら夕映たちの着替えも持ってくるって書き置きしたやんか? でも、よう考えたら何処に服がしまってあるのかも知らんし、そもそも鍵が開いてないって。それに、明日の授業の準備とかもするから夕映たちも寮に戻るって」

 

「ああ、確かに言われてみればそうですね。少々浮かれていたようです」

 

 そういう事かと納得する小竜姫。あの空間から脱出したくて、そこまで頭が回っていなかったようである。

 

「そう言う訳やから、ウチはささっと寮に行って荷物まとめてくるな? 夕映たちの分がいらんのならすぐとってこれると思うし。二人は先に商店街の方へ行っとってええよ?」

 

「そうですか? それでは、私と横島さんは商店街の入口にあるかふぇでお茶して待っていますね。それとも、買い物済ましてしまった方がいいでしょうか?」

 

 小首を傾げ尋ねる小竜姫に、木乃香は首を横に振り答える。

 

「そっちの方が効率ええんやろうけど、出来ればウチも買い物に行きたいわ。ほら、折角のお泊まりやしお菓子買うて騒ぎたいやん? 寮じゃ出来ひんし」

 

「明日も普通に学校ですから、あまり夜ふかしはいけませんよ?」

 

 そう注意をする小竜姫だったが、その顔は笑みを隠しきれていない。彼女も、学校の友達とのお泊まりという初めての出来事を楽しんでいるようである。結局、カフェで待ち合わしてから買い物に行くことにすると、木乃香は寮へと足早に向かうのであった。

 

 その後、木乃香が合流するまでの間、カフェでは横島の隣りで彼の腕に手を添え寄り添う小竜姫の姿が目撃されるのであった。

 

 

 

 

 

 時間は少々戻って、小竜姫たちがよこっちを後にして数分ほど経った頃。高笑いを続けていたタマモが我に返ると、横島たちの姿がなく書置きがあることに気がついた直後に遡る。

 書置きを見た夕映が、自分たちも寮へ戻ると木乃香に連絡し、のどかと共によこっちを後にした。

 

「で、何故タマモさんも一緒に来ているのですか……?」

 

「そりゃ、暇だからに決まってるじゃない。事務所に居て電話番とか私の柄じゃないし」

 

「でも、横島さん困りませんか? もしも、依頼の電話がきたら」

 

 タマモの無責任ともとれる言葉にのどかが尋ねると、タマモは少し考えてから口を開く。

 

「多分、大丈夫でしょ。よく分かんないけど、事務所の電話を携帯に転送するようにしてるって言ってたし」

 

「ああ、それなら大丈夫ですね」

 

 タマモの言葉に安心した二人は、そのままタマモを連れ寮へと向かう。寮に到着するまで木乃香たちに会わなかったことから、彼女たちは既に買い物に向かったのだろうと判断した夕映とのどかはタマモを引き連れ急いで自室へと向かう。

 

 

 

「ふ~ん、寮ってこんな感じなんだ。私の部屋より広いけど、三人部屋だから比較は出来ないか」

 

「あまりジロジロ見ないでください。ああ、ハルナに書置きもしないと……それと、枕を」

 

 部屋に入るなり部屋の中を見て回るタマモ。そんな彼女に注意を促しながら、バッグに着替えや本、枕を詰めていく夕映とのどか。部屋を一通り眺めたあと、タマモは二人の背後に回るとバッグの中を覗き込む。

 

「何で枕?」

 

「私ものどかもマイ枕でないと、よく寝れないのですよ。初等部の修学旅行にも持参しました」

 

「ふ~ん。人間って面倒ねー。そんなことで寝れなくなるなんて。私は横島さえいれば、どこだろうがすぐ寝れるわよ?」

 

 何気なく呟かれたタマモの言葉に、固まる二人。彼女らの脳裏には、横島の腕枕で眠るタマモの姿が。タマモからすれば、枕なんてなくても狐の姿で横島の頭の上や膝の上で眠ればいいという意味で発した言葉であるが、タマモの正体を知らぬ二人には誤解を生んだようである。最も、タマモ本人もいつかは腕枕で眠ることを想定している為、強ち間違えても言えない。

 

 しばらく、固まっていた二人は、二人が固まっている内にカバンの中を確認していたタマモの言葉で、正気に戻る。

 

「へー、夕映は紐かー。意外と大胆ね。で、のどかはワンポイントにリボンがついたやつか。こっちは想像通りね」

 

「ちょ! 何を人の下着を観察しているですか!」

 

「いいじゃない、女同士なんだしさ。あ、どうせなら今日のマッサージ下着だけでしてもらったら?」

 

「ななななな!?」

 

 真っ赤になって口をパクパク動かす夕映。のどかも気絶寸前である。そんな二人の様子を確認したタマモは、ニヤけた口元を隠すことなく更に言葉を重ねる。

 

「もしかしたら、横島も我慢出来ずに……」

 

 その言葉にますます赤くなる夕映とのどか。それを見たタマモは笑いを耐えられなくなったのか、お腹を抱え笑いだす。ひとしきり笑うと、未だ笑いながらタマモは二人に告げる。

 

 

「冗談、冗談よ! そんなことさせるわけないじゃない。はぁー、笑った笑った。……それにしても、アンタたちさっきも思ったけど、結構エロいわよね。しかも、ムッツリ」

 

 

 その後しばらく、夕映たちの部屋からタマモの笑い声と、夕映の怒る声が聞こえてきたという。

 

 

 

 




 もう開きなおりました。お泊まり編です。そこそこ続くことが予想されます。すみません。しかも、短いです。

 商店街あれこれ。
 これらは拙作内設定です。

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その4 いざ、お泊まり会!

お泊まり回です。

一言: 忘年会シーズンですねー



 

 

 

 

「さて、私は夕飯の準備をしますが……皆さんはどうしますか? 今日はすき焼きですから、夕飯の手伝いもいりませんし」

 

 よこっちに戻って来た面々に小竜姫が尋ねる。食材を切るくらいしか手伝うことがないのだが、小竜姫にかかればそれもすぐに終わってしまうからである。

 

「そうねー、取り敢えず部屋に案内するわ。そんなに準備に時間かからないでしょ?」

 

 そう言うと、木乃香たちを部屋に案内する為に立ち上がるタマモ。木乃香やのどかは小竜姫に丸投げすることに気が引けているようであったが、構わないと言う小竜姫の言葉でタマモに続き部屋へと向かうのであった。

 

 

 

「今使える部屋は三つ。どれも内装は一緒。違うのは階段からの距離くらいね」

 

 三階に上がるとタマモが、階段近くの部屋の扉を開けながら言う。そのまま部屋の中に三人を案内する。

 

「ま、テレビとかはないけど寝るには十分でしょ。ああ、部屋自体は竜姫が掃除しているから綺麗よ? シーツとかも時間があれば干してるみたいだし。で、この部屋の向かいが竜姫の部屋ね。その隣りが横島で、もう一つ奥が私の部屋。使えるのはこの部屋とその隣りの二部屋ね」

 

 部屋から廊下に出たタマモが、使える部屋を指差すとどの部屋を使うのか木乃香たちに尋ねる。尋ねられた木乃香たちは、顔を見合わせるが横並びの三部屋のどれを選んでも変わりはないと即座に決めるのであった。

 因みに、階段に近い部屋から夕映、木乃香、のどかの順となった。

 

「じゃ、荷物を整理したら各自で下に降りてきて。あとでお風呂の順番も決めないとね。ここお風呂は一人用だから、ちゃんと決めないと横島と鉢合わせることに……」

 

 からかい混じりのタマモの言葉に、ナニを想像したのか顔が赤くなる夕映とのどか。木乃香も顔色こそ変わらないが、どこか恥ずかしそうである。

 そんな三人を放置して、タマモは先に二階へと戻るのであった。

 

 

 

 数分後、木乃香たちが降りてくると横島とタマモが食器をテーブルに並べ終え、席に着くところであった。

 

「お、来たか。ちょうど準備が出来たから、呼びに行こうかと思ってたんだ」

 

「それはいいタイミングだったようですね。しかし、何の手伝いもせず申し訳ありませんでした」

 

 夕映が謝罪していると、台所から食材を運んできた小竜姫が席に座りながら告げる。

 

「気にしないでください。皆さんはお客様なのですから。それより、今はすき焼きを楽しみましょう」

 

「そうそう。折角いい肉買って来たんだし、遠慮せず食べてくれ。ほら、座った座った」

 

 横島の声かけで、席に着く木乃香たち。横島の両隣にタマモと小竜姫が、タマモの向かいに夕映、その隣に木乃香、のどかの順で席に着くと、第一回よこっちすき焼き大会が開始されるのであった。

 

 

 

 はじめは横島の食べっぷりに驚いたり、遠慮からか中々箸を付けなかった木乃香たちだったが、次第に慣れてきたのか今は楽しく食事を進めている。

 そんな中、夕映が肉を溶き卵にくぐらせながら横島に問いかける。

 

「しかし、このお肉は本当に美味しいです。竜姫さんの腕も良いのでしょうが、素材自体が良い。かなりお高いのでは?」

 

「まぁ、今回は奮発した方かな。けど、夕映ちゃんたちは金のことなんか気にしなくていいぞ? 未来の美女たちへの先行投資と思えば、安いもんだからな」

 

「そうそう、気にしなくていいわよ。大体、私たちみたいな美少女たちと一緒に食事出来るんだから、横島はもっと喜びむせび泣いて私たちに貢ぐべきだわ。具体的には、お揚げを」

 

 軽口で夕映の質問に答える横島。タマモも気にすることはないと追随すると同時に、お揚げを要求する。そんなタマモに苦笑しながら、横島がお揚げをタマモの器に取り分けていると、木乃香が自分もと器を差し出す。タマモの我が儘で入れてみたお揚げであったが、中々好評のようであった。

 

「ま、タマモみたいになれとは言わないけど、オレに遠慮なんかしなくていいから。そんな大した人間じゃないし、年もそんなに離れてないし」

 

「横島さんは何歳なのですか? 見た目は若そうですが?」

 

 横島の言葉に夕映が質問する。木乃香たちもそれは気になるようで、箸を止めて横島の言葉を待っている。

 

「オレ? 一応、17歳かな」

 

「一応?」

 

 横島の一応という言葉に引っかかりを覚えた木乃香が聞き返すと、横島は箸を咥えたまま話しだす。最も、小竜姫に行儀が悪いと注意された為、すぐに箸を咥えることはやめたが。

 

「うーん、17歳を延々と繰り返してた気がするんだよなー」

 

「延々とですか?」

 

「そ。17歳の時のバレンタイン何て三回は……」

 

「何を言っているのか分かりませんが、これ以上聞かない方がいい気がします」

 

 横島の言葉を遮り、話題を打ち切る夕映。彼女の額には、カセットコンロの熱が原因ではない汗がうっすらと浮かんでいた。

 

 

 

 その後は、木乃香たちの初等部の頃の話を聞いたりしながら、穏やかに食事を進めていく。

 楽しかった食事が終わると、木乃香たちは竜姫と一緒に後片付けを行い、横島はその間に自室で京都行きの準備を進める。準備を終えた横島が入浴を済ませ、談話室へと向かうと、パジャマ姿の可愛らしい少女たちの姿が。既に入浴した後なのか、微かに上気した顔が少女たちに色気を与えている。

 

 そんな少女たちと共に、小竜姫の淹れたお茶を飲んでいた横島だったが、彼は急に立ち上がると叫びだすのであった。

 

 

 

「いやいや、お風呂イベントは!? オレが風呂に誰かが入ってるって気づかずに中に入って、タマモか竜姫にしばかれるってのがパターンだろ!?」

 

「……アンタ憑かれてんのよ。ほら、もう寝なさい。ね?」

 

 




 すき焼き食いてー。はい、お泊まり編です。もう一話続きます。
 風呂イベントはなしの方向です。期待された方はすみませんでした。
 次回はガールズトークの筈。


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その5 お泊まり会 ガールズトーク?

お泊まり回の続きです。

一言:ネタがない……。


 

 

 

 

 

「横島さんの手……ホンマ気持ちよかったわ~」

 

「確かに気持ち良かったですが……」

 

「……あぅ」

 

 横島が自室に戻った後も、談話室で談笑する少女たちの姿があった。最初は、他愛ない噂話――麻帆良都市伝説など――であったが、次第に話題は横島が彼女たちに行ったマッサージへと移っていた。

 彼女たちは先程の心地よさを思い出しているのか、頬を上気させながら感想を呟く。そんな彼女たちに向かって、どこか勝ち誇った顔でタマモが告げる。

 

「だから言ったじゃない。横島のテクを味合うと骨抜きになるって」

 

「それはそうなのですが……正直、想像以上といいますか。竜姫さんが割と平然としていましたので、油断したといいますか……」

 

「そやな~。竜姫さんもちょっとくらいは声出しとったけど、夕映とのどかなんて気持ちよすぎて、あふんあふん言わされとったしな~」

 

「なっ!? のどかはともかく私は違うのです!」

 

 木乃香の言葉に真っ赤になり否定する夕映。槍玉に挙げられたのどかはといえば、顔を真っ赤に染め上げ、隣りに座る夕映にも聞こえない程の小さな声で何やらブツブツと呟いている。妖狐の聴力でその内容を聞き取ったタマモは、その内容の過激さにのどかに対する印象を修正するのであった。

 

 その後も、からかう木乃香とムキになる夕映、妄想の世界に入り浸るのどかにその妄想を聞くタマモと混沌とした状況がしばらく続く。そんな彼女たちが正気に戻ったのは、横島の京都行きの準備を手伝っていた小竜姫が戻って来たときであった。

 

「皆さん、如何したんですか?」

 

「ああ、竜姫さん。横島さんの手伝い終わったん?」

 

「ええ。手伝いと言っても荷物の整理くらいですから、すぐ終わりました。それで、何を話していたのですか?」

 

「マッサージ気持ち良かったな~って、皆で話とったんよ」

 

 小竜姫の問いかけに、木乃香がほがらかに答える。

 

「ああ、心地よかったでしょう?」

 

「もうホンマ最高やったわ。まぁ、ちょっと恥ずかしかったけど……でも、竜姫さんたちが勧める訳が分かったわ」

 

 木乃香たちが受けたマッサージは肩と腕のみであったが、それでも異性に触れられるのはやはり恥ずかしかったようである。特に、男性が苦手なのどかなどはマッサージをする前から羞恥で真っ赤になっており、些細な刺激にも敏感に反応しては声をあげてしまい、更に恥ずかしがるという事態になっていた。

 

 因みに、本日は木乃香たちの前と言うことで自重していたが、普段は他にも背中や足もマッサージしている。そして、太もものマッサージ中に横島が我慢できず襲いかかり、タマモか小竜姫に撃墜されるまでがワンセットとなっている。

 

「それは良かったです。本当は足や背中もマッサージしてもらうのですが……」

 

「流石にそれは遠慮するわ。腕までならともかく、足を触られるのは恥ずかしすぎやし。のどかなんて引っくり返ってしまうんとちゃうかな?」

 

「そうかもしれませんね」

 

 そう言うと、のどかと夕映に視線を向ける小竜姫。木乃香はそうでもなかったが、この二人は横島と触れ合うと言うことを意識しすぎてしまい、少しの刺激で敏感に反応してしまっていた。他人に触れられる機会が少ない足や背中だと、冗談ではなく気を失ってしまう可能性があるのではと小竜姫は考えていた。

 

「ですから、決して癖になりそうとか思っていません。ええ、横島さんに全身を委ねてみたいとか思ってないのです。そこのところは誤解のないようお願いするです」

 

「はいはい、そういう事にしていてあげる。……ま、アンタたちが溺れるのも時間の問題だと思うけどね」

 

 夕映の言葉を聞いたタマモは、小さな声で呟く。その呟きが現実となるのか。今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしますか? 横島さんはもう休むそうですが」

 

「そやったら、横島さんのこと話さへん? ほら、本人の前じゃ、話しにくいこともあるやん? ……せっかくやし、この機会にタマちゃんたちがどう思ってるのか教えてーな」

 

 ずっと真っ赤になっていたのどかが落ち着いた頃、小竜姫がどうするかを尋ねると、木乃香が横島について語ろうと提案する。まだまだ共通の話題と呼べるものが少ない為、共通の知人を話題にしようというのである。

 最も、タマモたちが横島をどう思っているのか聞きたいというのが本音であろうが。

 

「何が折角なのかは分かりませんが……私は構いませんよ?」

 

「私も別に構わないわ。その代わり、木乃香たちが横島をどう思っているのかも聞かせなさいよ?」

 

 あっさりと了承する小竜姫とタマモ。それに少々拍子抜けしながらも、木乃香も了承する。夕映とのどかはと言えば、別に恋愛感情を持っている訳でもないのでと、こちらもあっさりと了承する。

 

「じゃ、言い出しっぺの木乃香からね。大分横島に懐いてるみたいだけど、どう思ってんのよ」

 

「おもろい人やな~とは思っとるえ。あとは、兄弟みたいに思てるとこはあるかも」

 

「兄弟……ですか?」

 

 木乃香の言葉に首を傾げる小竜姫。確かに、年の近い横島を兄弟のように感じることは不思議ではない。だが、人懐っこい性格の木乃香なら横島は友達だと答えると思っていたので、そこまで横島に親近感を抱いていたとは思っていなかったのである。

 

「そやけど……何か変?」

 

「いえ、そんなことはないですよ。ただ、横島さんが弟なのか兄なのか、どっちかなと思いまして」

 

 小竜姫のこの一言で、横島は兄か弟かという話へと変わる。

 

「そりゃ、弟でしょ。横島より、私たちの方がしっかりしてるしね」

 

「ああ、それは同意です。彼は兄というにはちょっと頼りない感じがするです。まぁ、年上で既に働かれている方に言うことではないのですが」

 

「そう……ですね。アレでやるときはやる人なんですが、普段はちょっと頼りないところがありますからね。やはり、弟でしょうか。のどかさんはどちらですか?」

 

 タマモと夕映、小竜姫の三人が弟だと主張。小竜姫に話を振られたのどかは、あわあわと慌てながらも自分の意見を述べる。

 

「わ、私は、その……お兄さんかと。横島さんは、その……優しいですし、私を気遣ってくれますから……木乃香さんはどうですか?」

 

「ウチ? ウチもやっぱりお兄さんかな~。頭撫でられたときや手繋いだときとか、お父様にされたときみたいな感じがしたし」

 

「まぁ、のどかへの気遣いは素晴らしいとは思いますが、やはり兄という感じはしませんね。何処か目を離すと何かやらかしそうと言いますか、悪戯好きな弟を見ている気がすると言いますか」

 

 のどかと木乃香の言葉に、夕映がやはり横島は弟みたいだと言っている背後で、タマモと小竜姫が顔を寄せて小声で相談していた。

 

(これは……ちょっとマズイ?)

(ですね。夕映さんは問題ないとして……のどかさんは横島さんの優しさに気づいてますからね。まぁ、木乃香さんの場合は、横島さんに父性を感じているようですし、問題ないのでは?)

(そうね……のどかも男が苦手みたいだから、これ以上横島と触れ合うことはないだろうし、問題ないか)

 

 三人が横島に惚れないかと、警戒を強めたタマモと小竜姫の二人であったが、問題ないと判断するのであった。

 

 

 

 

「何か脱線したけど、夕映は横島のことどう思ってんの? ま、さっきの話を聞く限り頼りないと思ってるのは分かったけど」

 

「勘違いしないで欲しいのですが、横島さんが全く頼りにならないと思っている訳ではないのです。お仕事では、チラシ配りや営業と堅実な手を打っていますし。……ですが、駅前で那波さん相手にナンパに見えるような行動をとったり、少々迂闊なとこがあると言うか、考えが足りてないような点が所々見受けられるのです。客商売をされるのですから、もっとご自身の行動が周りにどう見えるかを気にすべきではないでしょうか」

 

「そ、そうですね……明日にでも横島さんに注意しておきます」

 

 夕映の指摘に、小竜姫とタマモが最もであると同意する。横島のナンパ癖はいつものことと軽視していたが、商売をするのであれば評判は気にして然るべきであると。そんな当たり前なことも、横島のことだからと流していたという事実に慄く二人であった。

 

 そんな二人を他所に、夕映はのどかはどう思っているのかを尋ねていた。

 

「私は……いい人だと思う。それに、他の人と違って怖くないし……私の話をちゃんと聞いてくれるし」

 

 割と好意的な答えを返すのどか。そのことに少し意外そうな顔をする夕映であったが、のどかに対する横島の接し方を思い出して納得する。

 

(基本的に、のどかは男性と話すとき言葉に詰まってしまいますからね。相手もそんなのどかに苛立って聞き返したり、急かしたり。それで、萎縮して更に言葉に詰まるという悪循環。全く、男ならもっと余裕を見せて欲しいものです。まぁ、小学生に求めてもムダでしょうが。その点、横島さんは聞き上手ですし、リアクションが大きいので話していて楽しいですからね。私も……)

 

 次第に自分の考えに集中しだす夕映。そんな彼女を元に戻したのは、タマモの発した言葉であった。

 

「しっかし、横島が好印象ってのは違和感あるわね~」

 

「まぁ、一般受けはしにくい人ですからね」

 

 苦笑しながら紡がれた小竜姫の言葉に首を傾げる夕映たちであったが、詳しく聞くことはせず次はタマモたちの番だと声をかける。その瞳が好奇心で輝いて見えるのは、気のせいではないだろう。

 

「それで、タマちゃんたちはどうなん? タマちゃんは横島さんのこと好きなんやないかな~って、ウチ思っとるんやけど」

 

 その木乃香の言葉に、夕映とのどかが頷く。それに対するタマモの答えは……

 

 

「そうだけど?」

 

 

 実にあっさりしたものであった。あまりにもあっさりと紡がれたソレに、尋ねた木乃香たちの方が戸惑っていると、そこに小竜姫が言葉を重ねる。

 

 

「私も好きですよ。横島さんのこと」

 

 

「「「……え?」」」

 

 

 

 しばらくの間、停止していた木乃香たちであったが、すぐに二人に質問を重ねるのであった。

 

「ホンマ!? いつからなん!?」

「というか、何処で出逢ったのですか? いや、いつごろ知り合ったのかを聞くべきでしょうか?」

「あ、あの、告白とかは……?」

 

「っていうか、今のって宣戦布告なん?」

「というか、好きな人と同居というのは、問題があるような気がしてきました。タマモさんは、進んで間違いを起こしそうですし」

「……二人一緒に迫るとか? ああ、初めてが同時なんて」

 

 

 

 三人に迫られたタマモと小竜姫は、苦笑を浮かべながらもこの状況をどう解決しようかと悩むのであった。

 

 

 




 かなり期間が空いてしまい申し訳ありません。迷走していました。
 今回は、ガールズトーク回です。まぁ、強制終了ましたが。
 次回は一気に京都……の筈。多分。

 麻帆良都市伝説。
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その6 お泊まり会翌日。そして、京都へ

今度こそ京都?

一言:連載開始から一年超えてました。




 

 

 

 

 

 突発的に開催されたお泊まり会であったが、特に問題が起きることもなく朝を迎える。

 

 夜中に起きた横島が誰かと鉢合わせて、そのまま二人きりでお喋りをしたり、寝ぼけて部屋を間違えた誰かが横島のベッドに入る……なんてイベントは残念ながら発生しなかった。

 

 

 何事もなく朝を迎えた“よこっち”では、小竜姫が朝食の準備に取り掛かっていた。そこに、身支度を整えた木乃香が姿を現す。

 

「おはよう~、竜姫さん。朝食の準備手伝うわ」

 

「おはようございます。木乃香さん。手伝うと言われても、後はお魚を焼くだけですので……そうだ、他の皆さんを起こしてくれませんか?」

 

「了解や!」

 

 元気よく了承すると、木乃香は早速寝坊助どもを起こしに向かう。彼女が最初に向かったのは、階段に一番近い夕映が借りている部屋である。部屋の前に立ちノックをするが、返事はない。

 

「夕映~、朝やで~。起きて学校行かな~。……聞こえてへんのかな?」

 

「木乃香さん? 何をしているんですか?」

 

「あ、のどか。おはよう」

 

「私もいるです」

 

「あ、夕映。いまな? 夕映を起こしに来たんやけど、聞こえてないみたいで起きへんのよ」

 

「それは当然です。私はすでに起きて部屋の外にいますから」

 

「何や起きとったんか。おはよう、夕映」

 

「……おはようございます」

 

 木乃香の天然な返しにツッコミを入れようとした夕映であったが、寝起きであることや木乃香の笑顔に気力を抜かれたことでツッコミを放棄するのであった。

 

 

 

「そういえば、何で二人は此処におるん? 起きたなら、下に降りてくれば良かったのに」

 

「ああ、のどかとちょっと相談してたのですよ」

 

「相談?」

 

「持ってきた荷物についてです。流石に学校に持ち込むのは気が引けますから、駅のロッカー預けるか、一度寮に置いてくるかを相談してたです」

 

「ああ、そういえばそうやな。まだ、時間も早いし一旦寮に帰る?」

 

「ふぁ~、そんなの次泊まるときの為に置いとけばいいじゃない。洗濯ならしとくわよ?」

 

 廊下で相談する木乃香たちに、部屋から出てきたタマモがあくびしながら声をかける。

 

「いや、流石にそれは……」

 

「そうですよ。私と夕映は枕も……」

 

 

「どうしたの? 口篭っちゃって。と言うか、廊下で何してんのよ?」

 

 タマモが途中で口篭った二人に対し首を傾げる中、木乃香が普段通りの口調でタマモに話しかける。最も、よく見ると木乃香の口が少々引きつっていることが分かったであろうが。

 

「タマちゃん……。今、横島さんの部屋から……ああ、起こしに来たんか」

 

「そ、そうですよね! 横島さんを起こしに来ただけであって、決して同衾していたとかでは……ええ、昨日はきちんと自分の部屋に入っていましたし」

 

 彼女たちが口篭った理由。それは、タマモが出てきた部屋が横島の部屋だったからであった。部屋から出てきたタマモがあくびをしていたことや、更には何故かタマモがパジャマの下を履いていないという事実もその一因である。

 

「ああ、横島を起こしに来たの? じゃ、さっさと起こしましょ? ほら、入って」

 

 タマモの言葉に促されるまま部屋へと入る木乃香たち。

 

(ゆえゆえ~。横島さんが壁側に寄ってるのって、寝相じゃないよね……?)

 

(考えてはダメです、のどか。ここは寝相ということにしておきましょ)

 

 部屋に入ってすぐに夕映とのどかが小声で話し出す。彼女たちは、ベッドで寝ている横島が不自然に壁側に寄っていることに気がついたのである。まるでもう一人そこにいたかのような、不自然なスペースに。

 

 

 

 そんな二人のことを気にせず、タマモは横島へと近づいていく。そして、どこからか取り出したハリセンをゆっくりと振りかぶる。タマモは、そのまま横島のだらしない寝顔へとそれを振り下ろす。

 

「お・き・ろー!」

 

「なんとー!?」

 

 タマモから漏れる殺気でも感じたのか、身を起こすことでハリセンを回避する横島。その一連の流れを見ていた木乃香たちは、あまりにも乱暴な起こし方に驚いているのか声も出ないようである。

 

「ったく、その起こし方はやめろって言ってんだろうが」

 

「あら、今日は見物人がいるからハリセンで勘弁してあげたのよ? いつもに比べたら大分マシじゃない」

 

「確かに普段よりはマシだが、ハリセンならいいって訳じゃないからな?」

 

 余談ではあるが、普段タマモが横島を起こすときは狐火を使っている。小竜姫の場合は、その時々ではあるが神剣や、霊力を込めた拳または出力を抑えた霊波砲などを使って起こしている。これらは、無防備な状態でも敵意に瞬時に反応出来るようにする特訓として、小竜姫により提案されたものである。

 

 更に余談ではあるが、彼女らはそうやって横島を起こす前に、本当に寝ているかどうかを確認する為に布団に潜りこんだり、頬をつついたりと色々悪戯をしていたりする。

 

 そして、今日のタマモの悪戯は横島のパジャマのボタンを外し、(あらわ)になった胸元に頬を寄せて横島が目覚めるまで添い寝をするというものであった。どうやら、昨日のガールズトークで多少危機感を覚えたらしく、大胆な行動に出たようである。

 しかし、タマモはこの悪戯を完遂出来なかった。横島の布団に入ったところで、部屋の外で話す木乃香たちに気づいた為である。最も、添い寝が出来なかっただけであり、横島のパジャマのボタンは全て外されていたのだが。

 

 そんなタマモの悪戯に気づいていない横島は、何故か固まっている夕映とのどか、頬に手をあて顔を横に振っている木乃香へと声をかける。

 

「三人とも起こしに来てくれたのか。ありがとな。それと、おはよう」

 

「私には挨拶なし? それと、アンタ前を留めなさい。具体的には、のどかたちがその貧相な肉体に悲鳴をあげる前に」

 

 その言葉に、横島が顔を下に向けると上体を起こしたことで、胸元から腹筋あたりまでが露になっていた。幸い、朝の生理現象はめくれた布団がいい具合に誤魔化してくれている。

 

「おお、いつの間に。しっかし、筋肉つかねぇな~」

 

 そう言いながら、ボタンを留めていく横島。本人は、筋肉がつかないことを気にしているが、横島の肉体には余分な脂肪は一切なく、かなり引き締まった肉体である。それは、初心な女子中学生たちに、男の色気を感じさせるには十分であった。

 

 

 

 

 その後、上の空のまま朝食を終え横島に見送られて登校したのどかと夕映が、完全に再起動を果たしたのは、学校についてからであった。

 

「ハッ!? いつの間に学校に?」

 

「いつの間にって……ウチらと一緒に登校したやん? 竜姫さんが作った朝食も普通に食べてたし、夕映なんておかわりまでしとったで?」

 

「……おかわり? いえ、そんな筈は。私は確か、横島さんの部屋で……」

 

「ああ、そういえばそのあたりから、二人とも上の空だったわね。木乃香はそうでもなかったけど」

 

 因みに、木乃香が正気に戻ったのは横島の部屋を出てすぐである。

 

 木乃香と夕映たちの間で、正気に戻るまでの時間に差があるのは、夕映とのどかの二人が横島の肉体に見惚れたのに加え、横島とタマモがナニをしたのではと邪推したことに関係があることは言うまでもないことであろう。

 

 この日、夕映とのどかはこのことでタマモにからかわれ続けるのであった。

 

 

 

 

 

「じゃ、行ってくるな。夕飯前には帰れると思うが……」

 

 お泊まり会の翌日。最寄りの駅へと向かいながら話す横島たちの姿があった。まだ、登校には早い時間ではあったが、京都へ向かう横島の見送りも兼ねて一緒に駅へ向かっているのである。

 

「夕飯前に帰れない場合は、連絡してください。それと、くれぐれも問題は起こさないように。ナンパもそうですが、京都では不用意に“力”を使わないようにしてくださいね?」

 

「分かってるって」

 

「ナンパについては言うだけ無駄よ、竜姫。まぁ、京都でナンパしても、こっちに影響はないからいいじゃない。でも、本当に“力”については気をつけなさいよ。陰陽師は、すぐ呪いをかけてくるから」

 

 横島に対し、ナンパもそうだが、力――霊力――を使わないようにと言い聞かせる小竜姫とタマモ。特に、タマモは前世で陰陽師に追われた経験があるだけに、陰陽師に対していい印象がないらしく、不用意に霊力を使用し、目をつけられることがないようにと強く念を押している。

 

「心配しすぎだって。いざとなれば、文珠があるし」

 

 二人の心配を軽く流す横島。そんな横島の様子に、これ以上言っても無駄だろうと二人はため息を吐くのであった。

 

 その後、駅に着くとタマモたちと別れ、横島は東京方面行きの電車に乗り込むのであった。

 

 

 

 

 

 麻帆良を出発してから数時間後。横島は指定された茶店で、相手が来るのを静かに待っていた。

 

「え~と、ここでいいんだよな。しかし、京都は美人が多いな。さっきの店員さんも美人やったし。仕事じゃなけりゃ、ナンパしたんだがなぁ。さっさと終わらせて、ナンパに繰り出したいもんだ」

 

 ブツブツと独り言を呟く横島の前に、一人の男性が声をかける。

 

「相席してもいいかな? 窓が近い席は落ち着かなくてね」

 

「横の席じゃダメなんですか? まぁ、ただ相席するだけだし、構いませんが」

 

「それは助かるよ。この席、去年の春からのお気に入りなんだよ」

 

 そう言うと、男は横島の前の席に座り、紙を取り出すとテーブルの中央に置く。横島も、同じく紙を取り出すと、先に男が置いた紙に重ねる。

 その瞬間、二つの紙から認識阻害の術式が発生する。そして、初めて二人は視線を合わせて言葉を交わすのであった。

 

「初めまして。横島忠夫です」

 

「初めまして。木乃香の父。近衛詠春です」

 

 

「「よろしくお願いします」」

 

 

 

 




 最近、仕事が暇なときと修羅場が交互にやってきます。そんな日々だと、モチベーション上がりませんよね。はい、言い訳です。更新遅くて申し訳ないです。
 連載も一年すぎていたので、その内またアンケかリクエストをとると思います。その時は、宜しくお願いします。

 ようやく、横島くんは京都入り。まぁ、すぐ(二話くらい?)麻帆良に帰るのですが。

 タマモの陰陽師に対する感情。分割符。
 これらは拙作内設定です。

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その7 横島くんin京都

横島くんin京都。説明回。

一言:お待たせしました。


 

 

 

 

 

 学園長の依頼で京都を訪れている横島は、目の前に座り親書に目を落としている男――近衛詠春――をそれとなく観察していた。

 

(この人が関西呪術協会の長で、木乃香ちゃんの親父さんか。見た目は人のいいおっさんって感じだな。ちょっと、顔色悪いけど。……そんで、紅き翼のメンバーだっけ)

 

 詠春の見た目や現在の肩書き(関西呪術協会長)から考えると術者タイプのように思えるが、実際はサムライマスターの異名を持つ最強クラスの剣士である。その為、魔法世界で情報収集に励んでいた頃、小竜姫が興味を持ち詠春の情報は他のメンバーに比べると多く集まっていた。

 

(最強クラスの剣士って言うから、マッチョなおっさんが来るかとビビってたんだが……。気で強化するタイプなんだろうな。大体、何で剣士が呪術協会の長なんかやってんだ? 人が良さそうだし、押し付けられたんか?)

 

 

 

 そのように横島が詠春を観察する中、詠春も横島のことを観察していた。

 

(彼が新しく東の伝達役として選ばれた男……。連絡によれば、魔法世界出身の傭兵とのことだが……)

 

 詠春は、麻帆良側から事前に通達された情報を思い出す。

 

(麻帆良に来て間もないというのに、伝達役として起用される。余程信用を得ているのか、これを機に見極めるつもりなのか……まぁ、いいでしょう。現状では、実績作りが主な目的ですからね。あと一年もすれば、少しは変わるのでしょうが……)

 

 現在、東――関東魔法協会――と西――関西呪術協会――の二つの協会は水面下で融和に向かって協議を進めている。その中で、お互いに数名の連絡員を常駐させ、融和の一助としようと言う意見があるのだが、現状では今回のように親書のやり取りが精一杯なのである。

 

 そんな詠春たちの苦労など知ったことではない横島は、軽い態度で詠春に話しかける。

 

「じゃ、早速……これが学園長からの親書です」

 

「あ、はい。確かに」

 

 親書を受け取ると、詠春はすぐに中身を取り出し目を通し始める。その内容は、横島が伝達役に就くこと、木乃香のことで早急に相談したいことがあると言う二点であった。木乃香の件については、直接会って相談したいので調整して欲しいと言うことも書かれていた。

 

(早急に……ですか。進路相談……な訳ないですね。もう少し、猶予があると思っていましたが……こんなにも早く覚悟を決めることになろうとは)

 

「あ、それとこっちが、木乃香ちゃんからのお手紙です。連絡はとっているでしょうけど、たまには手紙ってのも良いかと思って書いてもらったんですよ」

 

「ほう……木乃香から。木乃香とはどう言う関係で?」

 

 木乃香のことを考えている時に告げられた横島の言葉に、詠春は嬉しさを感じると共につい探りを入れてしまう。

 そんな詠春の態度を気にすることもなく、横島は質問に答える。

 

「うちで預かっている娘が木乃香ちゃんと同じクラスでして。うちに遊びに来たときに提案して書いてもらいました。木乃香ちゃんには感謝していますよ。知っているでしょうけど、オレたちは最近こっちに来たんで、アイツ等が学校に馴染めるか心配してたんすよ。それも、木乃香ちゃんのおかげでどうにかなってますから」

 

「そうですか……。こっちは戻ってから家内と読むことにします。本当は、もう少しアナタと話をしたかったのですが……生憎と協議しなくてはならないことが発生しまして。すみませんが……」

 

「ああ、構わないっすよ。こっちは適当に観光してから帰りますから。ま、日帰りなんで夜の京都を満喫出来ないってのがツラいですけどね。あ、何かオススメの土産物屋とかあります?」

 

 明るく告げる横島に、詠春は幾つかの土産物屋を告げると横島の分も会計を済ませて店を出る。

 

(横島忠夫……もう少し話をしてみたかったですね。私相手に必要以上に緊張した様子もなかったですし、こういう事に慣れているのでしょうね。ま、次がありますか。それより先に木乃香の件で、麻帆良へ行くことになりそうですが……)

 

 

 

 

 

 一方、麻帆良学園では学園長――近衛近右衛門とエヴァンジェリンが囲碁を打っていた。

 

「そう言えば、そろそろ大停電じゃが……お主はどうするんじゃ? 今年も警備に参加せんのか?」

 

「当たり前だ。誰が好き好んでそんな面倒なことをすると言うんだ。大体、私がいなくとも警備に問題はないだろ。今年はアイツ等もいるしな」

 

 そう言いながらエヴァンジェリンは一手進める。それは近右衛門の予想外の手であったらしく、眉をひそめている。次の一手を考えながら、近右衛門はエヴァンジェリンとの会話を続ける。

 

「まぁ、警備自体は従来の戦力で問題はないじゃろう。横島くんたちはタカミチと組ませる予定じゃが、いざとなれば別にすればいいしのぉ。戦力的にはどっちかと言うと余裕はある方じゃ。じゃが……」

 

「何だ、心配事でもあるのか? 詠春から西の連中が怪しい動きをしていると知らせでも入ったか?」

 

「いや、そういった情報は入っておらん。まぁ、血気盛んな者が襲撃してくる可能性はあるが、それは大停電の時に限った話ではないからのぉ」

 

 そう言いながら、一手打つ近右衛門。余程自信のある手だったのか、微かに満足そうである。それに対し、エヴァンジェリンは余裕の表情で手を進める。近右衛門の一手は予想の範囲内であったらしい。

 

「さっきも言ったように、襲撃については問題ないんじゃ。ただ、今年も威勢のいい生徒が入ってきたからのぉ。お主も心当たりあるじゃろ?」

 

「ああ、自主的にパトロールをしているヤツらか。一度、見かけたよ」

 

「彼女らはジョンソン魔法学校から来たのじゃが……中々、優秀な子たちじゃよ。ただ、目立ちたがりと言うか、正義感が強くてのぉ。警備シフトから外されているのに、自主パトロールをしとるんじゃよ」

 

「別に参加させてやればいいじゃないか」

 

「気軽に言うのぉ。流石に、こちらに来たばかりの子に警備は任せられんよ。フォローしてくれる者がおれば別じゃが……。生憎と彼女たちのフォローに回せる人員もおらんしのぉ。それとも、エヴァがフォローに回ってくれるのかのぉ?」

 

「寝言は寝て言え。……で、随分と時間を稼いでいたようだが、逆転の一手は見つかったか?」

 

「……本当、困ったもんじゃのぉ。大人しくするよう命令しても、どれほどの効果があるか。いっそ、横島くんたちに押し付けるかのぉ。それで、邪魔にならんとこをパトロールさせれば……」

 

 盤面から目をそらし呟く近右衛門。数分後、起死回生の一手が見つからず投了する近右衛門の姿が学園長室にあった。

 

 

 

 

 

 おまけ:横島ナンパin京都(抜粋)

 

 その1:舞妓

「そこ行く舞妓姿のお姉さま! ボクと一緒にお茶でも……」

「ウチ、一見さんお断りなんで」

「そ、そんな」

「紹介状持って出直しなはれ」

「く、くっそー」

 

 その2:着物美人

「そこ行く着物姿が似合う彼女! いや、京美人という言葉はアナタの為にある! 是非、ボクと……」

「私、福岡出身なんで」

「何と、博多美人でしたか! 着物がよく似合っていたので、てっきり」

「実は、北海道出身です」

「え?」

「もしかしたら、沖縄かもしれまへんな。ほな、さいなら」

「え?」

 

 

 その3:眼鏡美女

「美人なお姉さま! その眼鏡お似合いですね! ボクと遊びませんか」

「……」

「な、なんでしょう? そんなに見つめられると」

「67点。微妙。却下」

「え、何が? って、行かないで!」

 

 その4:修学旅行生

「ボク、横島! 修学旅行? どっから来たの? ちょっと、遊んで」

「先生! 不審者が!」

「ちょ! 待って! あ、あの先公通報しやがった! せ、戦略的撤退―!」

 

 その5:眼鏡少女

「お兄さん。人生に悲観してはるんやったら、ウチに斬られてみません?」

「え?」

「大丈夫、痛いことあらしません。サクッと現世とお別れ出来ますよって」

「そんな、冗談……」

「あ、ここじゃ人目が多いんで、あっちの路地裏で待っとります」

「あ、行っちゃた。……うん、無視しよ」

 

 その6:眼鏡美女

「何やったんやろ、さっきの子。さ、気を取り直してナンパの続きや! そこの美人なお嬢さん!」

「何や、ウチのことかいな?」

「そうそう、眼鏡がよく似合うアナタ! ボクと一緒に……ん?」

「一緒に何や?」

「あ、やっぱ遠慮しときます。じゃ!」

「何やったんや?」

 

 

「あっぶねー。あの人、魔力あったし多分西の人や。問題起こしたら、給料貰えんからな。ちょっと勿体なかったけど。ま、他の京美人を探しますか」

 

 

 




 お待たせしました。横島くんin京都。但し、すぐ帰ります。
 次話は返る話です。

 東西協会の融和について水面下で調整をはじめている。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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その8 横島くんin京都……の裏

一方その頃。

一言:忘れられた頃に更新!


 

 

 

 

 

 横島が京都でナンパに励んでいた頃。タマモと小竜姫の二人は刹那とエヴァンジェリンの二人を自宅である”よこっち”に招待していた。

 

「それで? この私に見てもらいたいというのは?」

 

「もう少し待って。今、竜姫が調整しているとこだから。そう言えば、茶々丸は一緒じゃなかったの?」

 

「ああ、アイツはメンテナンスとかで超のところだ。暫くは週に何度か必要らしい」

 

「ふ~ん。面倒なことしてるわね~」

 

 エヴァの説明を軽く流すタマモ。聞きはしたが、然程興味はなかったらしい。

 そんな二人のやり取りを黙って聞いていた刹那は、教室で竜姫に誘われた時のことを思い出していた。

 

 

 

「今日……ですか?」

 

「ええ。以前言っていたアレがもうすぐ完成予定なので。一度見てみませんか? 何でしたら刹那さんの要望も取り入れますよ?」

 

「あ、はい。って、別に私の意見はどうでもいいと思うのですが……」

 

 竜姫の提案に困惑する刹那。アレと言うのが以前言っていた修行場と言うのは理解できたが、修行を受ける自分の要望を取り入れる理由が分からなかったのである。

 

「そうですか? 私は刹那さんの流派の修行に必要なものとかわかりませんから、本人に聞いた方がよろしいかと」

 

「特に必要としているものはないと思いますよ。基本的に道場で行っていましたし……麻帆良で刀子さんと修行する時も特には……。それでも何か挙げるとしたら、打ち込み用の巻藁とかでしょうか。他は滝行用に滝なんて……流石に無理ですよね」

 

「あら、それいいですね! 横島さんには精神修行が必要だと常々思っていたんですよ。うん、滝行……いいじゃないですか」

 

「え、あの……」

 

「では、六時に家に来てくださいね。それでは、私はやることが出来ましたので!」

 

 刹那が冗談で口にして滝行に乗り気な竜姫。そのまま、刹那を放ってどうやって滝を設置するかに考えを巡らせ始める。その内、考えがまとまったのか刹那に時間を告げるとすぐに教室を出ていくのであった。

 

 

 

「お待たせしました! さ、こちらへ」

 

 ようやく部屋にやって来た竜姫に促されてやって来たのは、よこっちの事務所として使用している一階の部屋。そのまま本棚が二つ並んでいる所まで進むと、エヴァと刹那に今日呼んだ理由について話し出す。

 

「刹那さんには少し話していましたが、こちらへ移り住んでから私たちは修行場所を()っていました。それが、一応完成しましたのでお二人に見ていただきたいのです」

 

「ま、ほとんど竜姫がやったんだけどね。刹那は中を見て回って、足りないものや、追加で欲しいものがないかを確認して。エヴァも頼むわ。但し、エヴァは魔法使いの観点で確認すること」

 

「ふむ。それくらい構わないが、貴様ら魔法の修行も始めるというのか? あれほどの実力があれば、今更魔法を覚えても意味がないだろうに。ああ、あの男が魔法使いなのか?」

 

 そう言えばサポートタイプだったな、と納得するエヴァ。竜姫たちと仮契約を結んでいることもあり、横島の為だと勘違いをしているのである。

 しかしながら、横島は魔法使いではない為、この考えはハズレである。幾つか魔法を覚えてみようかという提案はあったが、今のところ彼女たちに他の修行の時間を割いてまで覚えるつまりはない。

 では、何故魔法使いであるエヴァの意見を必要としているかと言うと、様々な力の使い手が修行出来るような修行場を作りたいという竜姫の思いからである。

 

 

「じゃ、早速行きましょうか。この本棚をスライドさせると……ほら、地下への階段が!」

 

「その仕掛けは元からでしょうが。ちょっとテンションが変になってるわよ。まぁ、アンタが一番熱心に創っていたから仕方ないのかもしれないけど」

 

「そ、そうでしょうか? 自分では普段と変わりないと……。まぁ、そんなことはどうでもいいことです。では、皆さん参りましょうか。修行場は地下にありますので」

 

 気を取り直し先導する竜姫に、苦笑しながら続くタマモ。タマモと横島の二人は修行場の構築に必要な霊力やアイディアなどは提供したが、それだけであり構築は全て竜姫一人で行っていたのである。その成果を披露するとあって、ここ最近では珍しく浮かれ気味なのであった。

 

 

 

「あの……タマモさん? ここが修行場……ですか」

 

 何処か当惑した表情で尋ねる刹那。彼女の目の前には旅館のロビーのような空間が広がっていた。

 

「そうよ。ま、ここは食事をしたり休憩したりするところなんだけどね」

 

「他にも宿泊の為の部屋や道具を保管したりする倉庫、汗を流す為の温泉もありますよ」

 

 主な効能は疲労回復です、と語る竜姫。そんな彼女に何とも言えない表情をする刹那。

 

「で、あっちがアンタや刀子の為に創った剣道場に続く扉。その横が竜姫が向こうで修行していた場所をモデルにした修行場。それで、その左が……何だっけ?」

 

 タマモが指差した扉には、『自』という言葉が記されており、剣道場と説明した扉には『剣』、修行場には『修』の文字が同じく記されていた。

 

「そっちは滝とか自然物の空間ですね。今のところ滝行や瞑想するくらいしか使い道はないのですが。ああ、野営訓練とかにも使えそうですね」

 

 食べられる植物も色々突っ込みましたから、と語る竜姫に意外と大雑把なのではないだろうかと疑問を持つ刹那。同じ疑問をエヴァも持ったようだが、例えそうでも自分には関係ないとすぐにその考えを捨て、修行場に関して意見を述べる。

 

「私の別荘以上に魔力に満ちているな。これなら外より魔法は発動しやすいだろう。他もこれと同じくらいの濃さなら、初心者(・・・)が魔法の修行をするには適しているのではないか」

 

「そうですか。それは良かったです。では、早速剣道場の方から見て回りましょうか」

 

 そう告げると竜姫は『剣』と刻まれた扉を開くのであった。

 

 

 

 

 

「で、どうでしたか? 刹那さんたちが利用する空間は全て見てもらいましたが、何か不足していたものはありましたか?」

 

「あ、はい。麻帆良にある修行場より、かなり充実していましたし特に足りない物はなかったかと。かなり威力のある技の修行も出来そうですし」

 

「ふむ。攻撃魔法は上位になるほど、効果範囲が広くなるからな。あそこならそれらを放っても問題ないだろう……と言うか、実際に問題無かったしな。いくら全力ではないとは言え、千の雷(キーリプル・アストラペー)でも問題ないと言うことは、大抵の呪文は問題ないだろう」

 

 何処か呆れた様子で語るエヴァ。彼女は、剣道場(他の空間からも移動可)から続く模擬戦(または高威力の技の練習)用の空間で、竜姫に頼まれ雷系最強呪文を試し打ちをしていたのである。

 刹那には壁に向かって斬空閃と雷鳴剣を放ってもらったが、どちらも修行空間には何の影響もなく、刹那はその強度に関心するばかりであった。

 

「まぁ、減衰や吸引の術式を使っていますからね。取り敢えず、魔法も気も問題なさそうですね」

 

 ホッとため息を吐く竜姫。事前に、自身の霊波砲などで強度の確認をしていたが、魔力と気が霊力と同じ術式で軽減出来るかは不安があったらしい。

 

「んじゃ、さっさと戻ってご飯とお風呂の準備をしましょ。早くしないと横島が帰ってくるわよ? 横島を準備万端で迎えるってのやりたかったんでしょ?」

 

 タマモの言葉に慌てる竜姫。麻帆良にやって来てから、横島の帰宅を竜姫たちが待つと言うシチュエーションは、今回が初めてなのである。その為、この機会に竜姫は夫の帰りを待つ新妻よろしく夕飯と風呂の準備をして、横島の帰宅を待つと決めていたのである。

 

 

 無論、出迎えの言葉は定番のあの言葉……は竜姫の性格的に無理なので、無難にお帰りなさいである。

 

 

 慌てて夕飯の買い出しに向かう竜姫を追いかけながら、タマモはエヴァと刹那に話しかける。

 

「あ、アンタたちも夕飯食べていきなさいね。今日のお礼ってことで」

 

「いえ、そんなお礼されるようなことは……。どちらかと言う、こちらの方がお礼をしないと……修行場を提供して頂く訳ですし。でも、折角……」

 

「折角だ。ご馳走になるとしよう。但し、招待する以上は私を満足させろよ?」

 

 迷う刹那に対し、即決した上に上から目線で注文をつけるエヴァ。対象的な二人に苦笑しながら、タマモは先を行く竜姫に夕飯の人数の追加を伝えに行くのであった。

 

 

 

 

 




 忘れられた頃に更新~。
 今回は横島が京都に行っている間の出来事でした。以降、修行場を使って修行とかが始まることになります。

 一年生の時、茶々丸のメンテナンスが頻繁に行われていた。霊力用の術式が魔法と気にも有効。
 これらは拙作内設定です。

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 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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休み時間 その3
超鈴音さん叫ぶ


幕間的お話。短いです。


 

 

 

 

 

「さて、茶々丸のメンテナンスが何事もなく終わって良かったネ。後はこのデータを確認して終わりネ」

 

 横島が京都から戻って来た頃、超は茶々丸の定期メンテナンスの後も一人研究室に居残り、蓄積された茶々丸の経験(データ)を確認していた。

 葉加瀬は一緒に残ると言っていたが、ここ数日茶々丸とは別のロボットの制作で徹夜続きだった彼女がこれ以上残ることを、超が許さなかったのである。

 

 

 

「分かっていたとは言え……何人かには思いっきり引かれているネ」

 

 茶々丸視点での自分の自己紹介の時の映像を見た感想である。目的の為、世界征服を企むマッドサイエンティストと称したが、比較的常識的な数人には引かれてしまっていたようである。

 

「うーむ、日本語の怪しい中国人キャラは不要だったかもネ。余計変に思われてる気がする……。ま、いいネ。全ては世界平和の為。些細なことは気にしない、気にしない」

 

 何処かぎこちない笑顔を浮かべながら映像の続きを確認していく超。基本的に主であるエヴァンジェリンと行動を共にする茶々丸の記録である為、エヴァンジェリンの姿や声が多いが、様々な人、物について観察し学習をしていることが超には分かった。

 

「ふむ、学習AIは上手く機能しているようネ。ただ、エヴァンジェリンの寝ている姿が、猫と同じフォルダに格納されているのは意外だったネ。おそらく、どちらも可愛い生き物と判断したからだとは思うけど、普段のエヴァンジェリンは主と認識しているようなのに……」

 

 時折、予想していなかった方向に学習していることに驚きながらも、続きを確認していく超。そうしていると、茶々丸が竜姫と勝負した日の記録が再生され始める。

 

「これは……早速、イレギュラーとの接触。不確定要素のデータが増えるのはいい事ネ」

 

 

 

 

 

「葛葉タマモ……アーティファクトを持っているという事は、マスターは横島忠夫か妙神竜姫のどちらかである可能性が高い。アーティファクトの扇は、狐が描かれていて、狐火と言うキーワードで火を出現させる。そして、狐に変化することから、妖狐の能力を得るアーティファクトの可能性が高い……」

 

 タマモとエヴァンジェリンの戦いを見た直後、超は映像の確認を一時停止しタマモとタマモのアーティファクトについて考察していく。

 

「能力を得るタイプのアーティファクトは、初見だと厄介だから助かったネ。しかし、妖狐とはまた面倒なアーティファクトネ。しかも、絵柄を見る限り九尾。瑞獣としてなのか、悪狐としてなのかは分からないけど……まだ隠している能力はありそうネ」

 

 ブツブツと呟きながら、映像を繰り返し確認していく超。敵対するとは決まっていないが、少しでも多くの情報を頭に入れようとしているのである。

 

「アーティファクトも厄介だけど、タマモさん自身も厄介ネ。エヴァンジェリンも本気ではないが、それに対し常に先手を取っている……これではエヴァンジェリンが自由に動けないかもしれないネ」

 

 やがて麻帆良にやってくるであろうご先祖様と、エヴァンジェリンの対決を画策している超としては想定以上にタマモが厄介に思えてきていた。

 

「幸い全てではないとは言え、手の内を早期に確認出来た。計画まで二年ちょっと。その間にどれだけ情報を得られるだろうか……」

 

 少々弱気になっていると、超は両手で頬を叩き気合いを入れる。全ては計画の為と自分に言い聞かせ、映像を先に進める。

 その数分後、防音処理が施されている研究室の内部に、映像を確認し終えた超の魂の叫びが木霊するのであった。

 

 

 

「一体誰ネー!! このデタラメな女を麻帆良に入れたのはー!!」

 

 

 

 

 




 裏話的お話。超さんも大変なんです。

 一年生の時、茶々丸のメンテナンスが頻繁に行われていた。
 これらは作中設定です、

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和美のネタ帳 その1

こっそり拝借しました。


 

 

 

 

 

 

・崩れた全寮制度 ←イマイチ。没。

 

 全寮制なのに、例外として自宅からの通学が認められている生徒について調査。

 1-A在籍者で、寮に部屋がないのは次の4名。

  ・相坂さよ(名簿に名前はあるが、本人を見たことがない。調査候補)

  ・葛葉タマモ(妙神竜姫と男と同居)

  ・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(病弱な為、自宅から通学)

  ・妙神竜姫(葛葉タマモと男と同居)

 

 また、絡繰茶々丸については長谷川千雨と同室ではあるが、一度も使用していないと思われる。本人に取材した結果、“マスターと暮らしている”と回答。マスターについては、普段の言動からエヴァンジェリンと思われる。

 

 相坂さよ → 入院中(証言:高畑先生)

 妙神竜姫、葛葉タマモ

  →本人が男と同居していると証言。詳細は別途。

 

 

・今話題のネットアイドル ← 継続調査。特集でも面白い?

 

 最近、ネット界でじわじわと人気が上がってきているネットアイドルを調査。

 →“ちうのホームページ” の“ちう”

  コスプレとキャラが受けているらしい。ちょっと、長谷川に似ている?

  → ブログに書かれる情報から、麻帆良の学生の可能性あり。

 

 話題とは言え、ネットアイドルを取り上げるにはインパクトが不足?

 → ランキング上位に入ったら本格的に調査。

 

・1-A No.1は誰だ! ← 数値の発表はなし。

 

 身長にバストサイズについて調査、ランキング。

ウエストについては、後々揉める可能性がある為断念。

 成長期の為、随時更新するべし。

 

 身長

 1位:龍宮真名

 2位:長瀬楓

 3位:絡繰茶々丸

 →私:8位。まだ伸びる可能性は十分にあるが、上位並は無理?

 

 バストサイズ

 1位:龍宮真名

 2位:長瀬楓

 3位:那波千鶴

 →私:7位。成長期!

 

 

・男と同居!? ← ネタ元との約束により、記事にはしない。

 

 妙神竜姫と葛葉タマモの二人は、男と同居している。(本人証言)

 男と二人(葛葉、妙神)の関係 ← 葛葉の言葉は攪乱の為? 要調査!

 ・家族以上恋人未満(葛葉談)

 ・飼い主とペット(葛葉談)

 ・主と奴隷(葛葉談)

 ・兄弟弟子(妙神談)

 ・兄と妹(葛葉、宮崎談)

 ・親しい友人(綾瀬談)

 

 男の名前は、横島忠夫。

 何でも屋をやっているらしい。

 お決まりのハプニングは起きていないらしい。← ツマラナイ

 

 以下、聞き出した印象、スペックなど(ほぼ葛葉から)

 ・体力バカ

 ・勉強は出来ない

 ・頭の回転は早い

 ・黙っていれば二枚目?

 ・やっぱり三枚目

 ・体重は見た目より重い

 ・やさしい

 ・動物には好かれる

 ・スケベ

 ・耳がいい

 ・逃げ足がはやい

 ・出来る男には見えない

 ・しぶとい

 ・面白い

 ・大食い

 ・意外と思慮深いかもしれない

 ・色々な意味で逞しい

 ・背は170前後?

 ・軟派なところがある

 ・女、子供には優しい

 ・イケメンは目の敵にする

 ・頼りないお兄さん

 ・手のかかる弟

 ・世話をやきたくなる

 ・車の免許とかは持っていない

 

・よこっち

 明日突撃取材!!

 

 

 

 




 ネタ帳形式。その1とありますが、シリーズ化するかは気分次第。
 横島のスペックは誰がどれを言ったかは、想像にお任せします。

 和美ネタ帳の中身。
 これらは作中設定です、

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6時間目:麻帆良探索
その1 麻帆良探索 はじまり


お待たせしました。今回は導入的お話。短いです。


 

 

 

 

 

 横島たちが麻帆良にやって来て十日が経過しようとしていた。

 

 その間に裏の仕事として夜間の警備が一度あったが、高畑と一緒に見回るだけで特に何かが起こるようなことはなかった。高畑曰く、警備と言っても外部からの侵入者と遭遇することはほとんどないとのことであった。一昔前までは、西との関係が悪く小競り合いが頻発していたが、現在は関係が改善されつつあることと、学園都市の電力を源とした大規模結界が設置されたことで減少傾向にあるらしい。

 その分、結界のメンテナンスを行う大停電を狙われる可能性がある為、その際は特別シフトを組んで対応に当たる。主に侵入者を排除するチームと、出歩いている生徒たちを取り締まるチームの二つに分かれており、横島たちは侵入者対策チームに割り振られているとのことであった。

 

 裏の仕事以外ではよこっちにくる依頼に精を出していた横島であったが、都合よく依頼が舞い込んで来るわけでもなく、依頼があったとしてもタマモたちが学校に行っている間に片付くような簡単のものしかなかった。

 つまり、どういうことかと言うと……

 

「ただいまー。あ、また暇してる」

 

「こんにちはー。今日も仕事なかったん?」

 

「またですか。一体、いつ働いてるですか」

 

「ゆえゆえ、失礼だよー」

 

「あはは」

 

 木乃香たちに暇人認定されているのであった。

 

 

 

「いや、ちゃんと依頼来てるし、今日も仕事したからな?」

 

「それで今日は何をしたのですか?」

 

「ああ、ペットの猫探し。猫が集まる公園は知ってるからな。そこ行ったら一発だった。これ報酬のシュークリームな」

 

 そういって、シュークリームの箱を差し出す横島。それを受け取った小竜姫がお茶を淹れてくるとキッチンに向かうと、木乃香とのどかの二人が手伝いに走る。それを見送った夕映が視線を戻すと、ソファーにぐでーんと寝そべっていたタマモが身を起こすところであった。

 

「それにしても、最近の依頼はペット探しばかりじゃない? 前はマドレーヌが報酬だったし、あんたお婆ちゃんに餌付けされてんじゃない?」

 

 タマモの言葉に一理あると納得する夕映。既にお得意様と言っても過言ではない老婦人は、毎度猫探しを依頼してくる。そして、報酬にお手製のお菓子をくれるのである。これは、横島が現金収入が他にもあることから現金以外も報酬として扱っている為である。

 

(タマモさんの言うとおりですね。猫もすぐ見つかるようなところにいるそうですし話し相手にもなっているようですからね。完全に孫扱いです。まぁ、ご相伴にあずかっている身としては、なんとも言えませんが)

 

 そこに、小竜姫たちが戻ってくる。どうやら、元パティシエの老婦人お手製のお菓子で、今日も午後のティータイムが開始されるようである。

 

 

 

 楽しいティータイムが終わると、木乃香が今日来た本題について口を開く。

 

「図書館島に一緒に?」

 

「そや。うちらが図書館探検部なんは知っとるやろ? そんで、大人の人が一緒やったらうちらが行けるとこよりも深いとこに行けるんや」

 

「(深い……?)そうなの?」

 

 木乃香の言う深いという言葉に疑問を抱きつつ、のどかに確認する横島。急に話題を振られたのどかは慌てたが、どうにか話を続ける。

 

「えっと、正確には図書館探検部の外部部員の人です。この場合の外部部員と言うのは、探検部のOBの方や、大学教授、麻帆良在住の人で図書館探検部に入部している人のことです。横島さんの場合は、在住ってだけなので一緒に行っても私たちと同じとこまでしか行けません」

 

「え~、そうなん?」

 

 どうやら木乃香は知らなかったようで、折角のアイディアがと落ち込んでいた。そんな彼女の様子に、探検部に入部しようかと考える横島であったが、そんな考えが分かったかのように木乃香がそれなら別にいいという。

 

「せやったら仕方ないな。でも、ちょうどええと思ったんやけどな~」

 

「ちょうどいいって?」

 

「ほら、前に横島さんが言うとったやん? 一回無料で依頼受けるて」

 

「ああ、あれですか」

 

 木乃香が言っているのは、以前お礼にと持ちかけた一件である。結局、今日に至るまでここにはいない千鶴も含め誰一人使用していないのである。

 

「何時までも保留というのもあれですし、私も何かないか考えて見ますか。のどかはどうします?」

 

「私は……」

 

 それっきり黙るのどか。深く考え込んでいるようだが、何も思いつかないようである。

 

「私なら、お稲荷さんでも奢って貰うわね」

 

「別に構わんが、それは依頼と言うのか? のどかちゃんもそこまで深く考えなくていいから。依頼だとか難しく考えないで、何かこれして欲しいとかでいいんだって」

 

「そうですよ。深く考えずに、して欲しいことを言えばいいんですよ。意外とこの人万能ですから、大抵のことは叶えてくれると思いますよ?」

 

 いまだ悩むのどかに、小竜姫が笑顔でフォローする。ちなみに小竜姫が横島にお願いしたいことは、一緒に修行(実戦形式)である。

 そんなことは知らないのどかが悩み続けていると、のどかを見ていた木乃香がポンッと手を合わせ満面の笑顔で告げる。

 

「あ、うち決めた!」

 

「お、決めたか。で、何にするんだ?」

 

「あんな~、横島さんにデートして欲しいんよ。――のどかと!」

 

 木乃香の言葉に時間が止まったかのように静まりかえった後、よこっちに横島たちの声が響くのであった。

 

 

 

 

 

 




 と言うわけで、麻帆良探索編のはじまりです。
 新しいPCになってから、思うように一発変換されずイライラします。木乃香や夕映、小竜姫は辞書登録したんで大丈夫なんですが。ま、慣れるしかないですね。
 
 西の侵入者が減少傾向。図書館探検部関連。
 これらは作中設定です。

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その2 麻帆良探索 のどかと一緒

のどかデート編開始です。



 

 

 

 

 

「じゃ、行って来るな」

 

「襲うんじゃないわよ」

 

「誰が襲うかっ!」

 

 何時もとは違い小竜姫たちに見送られる横島。本日は横島とのどかのデート(Produce by 木乃香+夕映)なのである。

 最初は難色を示していたタマモと小竜姫も、木乃香の『のどかが珍しく拒否感を示さない横島と麻帆良を案内(デート)することにより、男性に対する苦手意識の軽減を図ると共に、自分たちの時の参考にする為、二人のデートを観察する』という説明と、自分たちも後日横島とデートをすることを条件に同意したのである。

 ちなみに、横島とのどかにはデートとは言葉のあやであり、のどかの苦手を軽減する為、のどか一人で横島に麻帆良を案内すると説明している。

 

「行ったわね。さ、木乃香たちと合流しましょ」

 

「ええ、事前調査は大事ですからね」

 

 横島の姿が街角に消えたのを確認した二人は、木乃香と夕映+αとの合流地点へと足早に移動するのであった。

 

 

 

 

 

 一方、横島と待ち合わせしているのどかは、約束の時間より三十分早く待ち合わせ場所である世界樹前の広場に到着していた。

 

「どうしよう、三十分も早く着いちゃった……。待ち合わせって、早く着きすぎてもダメだって言うし、もう少し遅く来れば良かった……。でも、あまり遅く来て横島さんを待たせたら失礼だし……」

 

 うじうじと考え事をしていると、遠くから大停電についての放送が聞こえてくる。

 

「今日が大停電で良かったかも……。何時間も私と一緒とか横島さんも嫌だろうし、竜姫さんたちにも悪いもんね」

 

 麻帆良で行われる大停電は、期間中医療施設を除く全ての場所で電気が使えなくなるという大掛かりなものである。停電は20時から24時の四時間なのだが、その前に店を閉めて帰宅する必要がある為、17時ごろから麻帆良の街並みから人が消え始め、19時には完全に出歩く人がいなくなるのが常である。

 その為、本日の案内(デート)も14時から17時までの三時間を予定している。

 

 改めて時計を見ても、待ち合わせまでにまだ二十分ほど時間があることを確認したのどかは、本日の予定を記したメモを確認する。

 

「えっと、最初に商店街を抜けて噴水公園、次が図書館島か……。途中、雑貨屋さんとかあるから、事務所に置く物がないか見てみようかな。でも、横島さんなら図書館島の探索の方が興味あるかも……」

 

 どうするか悩むのどかであったが、待ち合わせ時間まで残り十分ほどになってきたので、慌てて最後の予定を確認する。

 

「最後が、竜姫さんたちを別ルートで案内してきた夕映たちと駅前で合流。横島さんたちはそれから用事があるって言ってたけど、大停電の日に何のようだろう? お店は開いてないし……」

 

「それはね……出歩く不良学生を取り締まる為さ」

 

「そうなんですか……大変ですね」

 

「うん、大変なんだよ」

 

「取り締まりってことは、学園から依頼があったんだ……出歩く人って結構いるのかな?」

 

 そのまま数秒経過するが、のどかは考えに夢中で途中で割り込んだ人物に気づいていない。びっくりさせるつもりだったその人物は仕方ないと、のどかの前に回り込んで改めて話しかける。

 

「お待たせ、のどかちゃん」

 

「あ、横島さん。いえ、全然待っていないですから」

 

 ようやく横島に気づいたのどかは、三十分前から待っていたことなど微塵も感じさせない微笑みで横島を迎える。普段下ろしている前髪を出掛けに木乃香がピンで留めた為、普段隠れている瞳もよく見えており、それに気づいた横島が話しかける。

 

「今日は前髪留めてるんだな。うん、いつも可愛いけどこっちの方が更に可愛いぞ! 倍は可愛い!」

 

「いや、その、あの……ありがとうございます」

 

 横島の褒め言葉に顔を真っ赤にしてうつむくのどか。こうして、二人のデートは始まるのであった。

 

 

 

 

「ここが麻帆良商店街です。横島さんも来たことはありますよね?」

 

「ああ、あるぞ。ま、前はビラ配りのときだからよく見てなかったけど」

 

 二人はあれから商店街に来ていた。この商店街を通り抜けてしばらくすれば噴水公園なのだが、二人の歩みは遅々として進んでいなかった。

 

「お、にいちゃん。今日はナンパしないのか?」

 

「今日はデートなんすよ。羨ましいでしょ?」

 

「あー、ロリコンだったか」

 

「ちゃうわ!!」

 

 その理由は、以前ナンパのついでにビラ配りしたときのことを覚えていた商店街の人々に、横島が話しかけられるからであった。麻帆良に住む人たちは細かいことを気にしないノリの良い人たちが多いのだが、その中でも商店街の人々は一番ではないだろうかと横島は思う。何せ、ナンパをネタに話しかけてくる人が先ほどので、十人目なのだから。デートという返しに最初は慌てていたのどかも、すっかり慣れてしまっている。

 

「あ、横島さん。あのお店が前に言ってた雑貨屋さんです。日用雑貨の他に、可愛い小物とかも置いてるんです」

 

「へ~。のどかちゃんも買ったりするの?」

 

「私は特には。欲しいと思うときもありますが、それよりも本を買っちゃいますから。夕映もそうですね」

 

「ふ~ん。オレも少しは本を読むべきなのかね」

 

「それでしたら、後で図書館島に行ったときに、何か借りてみてはどうでしょうか。色んなジャンルの本があるから横島さん好みの本もきっとありますよ」

 

 好みの本はえっちぃ本ですとは流石に言えない横島。それくらいの分別はあるのである。ちなみに、二人は知らないことだが、図書館島には古今東西の官能小説が存在していたりする。無論、大学生以上しか入れないフロアにあるのだが、中には資料的価値が高い本も存在するのだから侮れない。

 

 

 そんな図書館島の秘密はさておき、二人は商店街を抜け、噴水広場へとやってきていた。

 

「うーん、風が気持ちいいな! のどかちゃんもこっちにおいで。気持ちいいぞ!」

 

 噴水の近くに駆け寄った横島がのどかに声をかける。少し前までは、商店街でのやりとりに辟易していたのに今は少年のように笑う横島を、本当にころころと表情が変わる人だとのどかは思った。子供の時もあれば、紳士のように振舞う時もある。でも、結局はそれもすぐに崩れ、また子供に戻る。頼りがいにあるお兄さんの一面もあれば、放っておけない弟のような一面もある。そんな横島を不思議と微笑ましく思い、同時に短い期間でこれだけの顔を見せる横島の更に奥を知りたくなるのどか。彼女には、横島が物語りの登場人物のように思えていた。

 

(色んな顔を持っている人だなぁ。竜姫さんたちはこの多面性に惹かれてるのかな。……これで、実は勇敢だったり、武術の達人とかだったりしたら物語の主人公にでもなれそうだよね)

 

 あとは特殊な能力とか? と考え込むのどかであったが、横島の自分を呼ぶ声に我に返ると横島の元へと早足で向かうのであった。

 

 

 




 のどかデート編です。次は図書館島探索+αの予定。 
 ここ数日、咳が酷くて中々眠れません。眠気が来ても、咳で起きたりします。まぁ、そのおかげで執筆作業できているのですが。
 皆様も風邪等にはお気をつけください。

 商店街関連。図書館島関連。
 これらは作中設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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その3 麻帆良探索 図書館島探索

のどかデート編後半です。


 

 

 

 

 

「へー、本当に島になってるんだ」

 

 図書館島を眺めた横島の感想である。今、彼らは図書館島が見える高台に来ていた。のどかが折角なので、全貌が分かる場所をと探してくれていたのである。

 

「図書館島は最初は今見える建物だけだったそうです。それでも世界最大規模だったんですけど、第一次、二次世界大戦の際に戦火を逃れる為に各地から本を集めたそうで、一気に蔵書が増加。それにともない、地下へと増築を繰り返した結果、次第に迷宮と化し今ではその全容を知るものはいません」

 

「それって、図書館として問題なんじゃ?」

 

 疑問を抱く横島だったが、夢中になって図書館島について語るのどかはそれに気づかない。

 

「その現状を憂いた麻帆良大学の有志が、立ち上げたのが図書館探検部の原型です。未だ全体の数パーセントしか解明されていないとも言われる、超巨大ダンジョン。それが図書館島のもう一つの姿なのです。あ、すみません。つい、熱く……」

 

「いや、気にしてないよ。好きなことを語っているのどかちゃんも可愛かったし」

 

 夢中になれるものがあるっていいなーと頷く横島に、恥ずかしさから顔を真っ赤にして俯くのどか。内気少女代表とも言えるのどかにとって、饒舌に語る姿を見られるのはかなり羞恥心を刺激することであったようである。

 そんなのどかに気がついていない横島が、更に言葉を重ねようとした時、横島の頭にスコーンと飛来物が当たる。それは、ジュースの紙パックだったのだが周辺に人影がない為、横島は風で飛ばされたのだろうと、紙パックを拾い上げると近くのゴミ箱へと捨てるのであった。

 その間に正気に戻ったのどかは横島に話しかけると、図書館島へと案内するのであった。

 

「そういえば、何をしていたんですか?」

 

「ちょっと、ごみを捨てにね。そうだ、トマトミルクってジュース知ってる?」

 

「あ、はい。夕映が飲んでました。それがどうかしましたか?」

 

「いや、それが落ちてたからさ。おいしいのかなって」

 

「どうでしょう……?」

 

 

 

 図書館島の中へと入った横島は、ズラッと並ぶ本の量に圧倒されて言葉も出ないようで立ち尽くしている。そんな横島に、悪戯が成功したような気持ちを抱くのどか。

 

「どうですか、図書館島は?」

 

「いや、凄い。凄いよ、これは。うん、凄いとしか言いようがない」

 

「地下はもっと凄いんですよ。私はまだ入部したばかりなので、今日は案内できませんけど麻帆良祭の時などには一般公開されるんで、そのとき行きましょうね?」

 

「おう!」

 

 地下にある滝を見たらどんな反応をみせるだろうかと、想像して楽しくなるのどかは自然と次の約束をする。その瞬間、遠くから本が落ちる音がするがある意味日常のことなので、本は大事にして欲しいと思いながらものどかはその音の元を探ることはしない。

 

「じゃ、案内の方よろしく」

 

「はい。まずは、一階からですね。主に、児童文学書や絵本などの子供向けの本があります。あとは貸し出しカウンターもこの階ですね。司書さんの部屋や地下への階段、勉強スペースも多くあるので、広さの割りに本は少ないですね」

 

 まずは一階からと案内を開始するのどか。常とは違い饒舌で表情豊かな彼女に、横島は本が好きなんだなと感心するのであった。

 

 

 

「いやー、凄かった。あれだけ多いってのに、地下はもっと多いんだろ? そりゃ、探検部が出来るわけだ。見てみたいもんだ」

 

「喜んでもらえてよかったです」

 

 図書館島から出た二人は、合流地点である駅前広場へと向かい歩いている。横島の手には図書館島で借りた『これでキミも経営魔法の使い手だ! 魔法使いが教える経営学』と言う本が。目を引くタイトルだったので思わず手に取った横島に、のどかが『魔法使いが教えるシリーズ』の一つであり、図書館島に寄贈されているシリーズだと教えてくれた。

 のどか曰く、麻帆良内で自費出版する人の中には図書館島に寄贈する人も珍しくはないらしく、文芸部の作品なども寄贈されているらしい。

 

「さてと、タマモたちは……あ、あそこだな」

 

 横島たちが駅前広場に着くと、タマモと小竜姫、木乃香、夕映の四人がベンチで待っていた。そこに手を振りながら近づくと、タマモが一早く気づき応じる。他の三人も気づいてようで、木乃香は大きく、小竜姫と夕映は控えめに手を振っている。

 合流すると、横島がタマモたちはどうだったのかと尋ねる。

 

「お待たせ。そっちはどうだった?」

 

「いろいろ見て回ったわ。そっちは?」

 

「こっちもいろいろだな。図書館島は凄かったぞ?」

 

「そう。麻帆良祭の時は、私たちも一緒に見て回るから」

 

「おう」

 

 軽く答える横島。のどかは一瞬、自分たちの会話を聞いていたのかと考えるが、よく考えれば夕映と木乃香も図書館探検部なので、彼女たちから聞いたのだろうと納得する。

 そんなのどかに夕映が、横島の案内はちゃんとできたのかを尋ねる。

 

「それで、ちゃんと役目は果たせたのですか? のどか」

 

「うん。大成功じゃないかな。横島さん、どこを案内しても大げさに反応してくれるから、案内している私も楽しかったよ。また、図書館島行く約束もしたし。横島さんも図書館島に興味を持ってくれたみたい」

 

「そ、そうですか……予想以上というか……」

 

「何か言った?」

 

 夕映の言葉が一部聞き取れなかったのどかが聞き返すが、夕映は何でもないと答える。その顔が若干引きつっているようにも見えたが、木乃香に話しかけられた為追求することはしなかった。

 

(いやいや、男に対する苦手克服と木乃香さんは言っていましたが……効果あるにもほどがあるです! 見た感じ大丈夫だろうとは思っていましたが、のどかの反応は予想外です!)

 

 横島とのことを語るのどかの笑みに、今になって今回のデートを承諾して良かったのだろうかと言う思いが湧き上がる夕映。

 そんな葛藤をする夕映を横目にのどかとの話を終えた木乃香が、横島に一つの質問をする。

 

「横島さん、この後警備のお仕事なんやろ?」

 

「おう。まぁ、大停電の間だけだから、日付が変わるまでだな」

 

「じゃあ、またお泊りしてもええよね? その間、タマちゃんと竜姫さんだけやと危ないやろし」

 

「え゛?」

 

 思ってもいない木乃香の言葉に固まる横島。木乃香はと言えば、今度は明日菜も一緒やえ~と呑気にタマモに笑いかけている。助けを求めるように、小竜姫へと視線を送ると彼女は横島と視線を合わせようとしない。明日が休日と言うこともあり、断る理由が思いつかないのである。どうしようもないと判断した横島は、あまり夜更かしをしないことを告げて許可を出すと、近右衛門に相談しようと決めるのであった。

 

「あ、じゃあ私とのどかもお願いするです。ハルナの手伝いで休日を潰したくないので」

 

「……もう好きにして」

 

 

 

 




 図書館島探索+αでした。 まぁ、図書館島は今後も出番があるのでさらっと流しましたが。


 図書館島関連。横島が借りた本とシリーズ。
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その4 麻帆良探索 裏側

のどかデートの裏側+α。



 

 

 

 

 

「こっちや~」

 

 時間はタマモたちが横島を見送った直後まで遡る。横島を見送った後、木乃香と夕映の二人と合流していた。

 

「さて、ここからは先回りするわよ。のどかは何時ごろ寮を出たの?」

 

「大分早く出ましたからね。あの時間だと待ち合わせの三十分前には着いてるです」

 

「ちょい早いけど落ち着きなかったし、あのまま寮に居るよりかは良かったとは思うで?」

 

「それは……横島さんをもう少し早く出させれば良かったですかね?」

 

 喋りながら横島たちが待ち合わせをしている場所へ向かうタマモたち。彼女たちはこれからのどかと横島のデートを監視する(見守る)為に集まったのであった。

 

 

 

 横島とのどかが合流したのを見守った四人は、商店街を歩く二人を尾行していた。

 

「ここに来て間もないというのに、横島さんに慣れているというか」

 

「凄いな~」

 

 横島に対する街の人々の対応に驚く木乃香と夕映。これも横島の特性だと理解している小竜姫とタマモの二人は、途切れることなく会話を続けているのどかの様子に思った以上の危機感を覚えていた。

 

「ちょっと、これは……」

 

「ええ……」

 

 それは、噴水公園で横島に駆け寄るのどかを見て確信へと変わる。

 

「まずいわよね?」

 

「そうですね。嵌りかけ……でしょうか。経験があるので分かります」

 

 

 

 次に二人が危機感を覚えたのは、図書館島が見える高台で赤面するのどかに尚も言葉を紡ごうとしている横島に向かって夕映が紙パックを投げたときである。

 

「ああん、いいとこやったのに何で邪魔したん?」

 

「いや、放っておくとのどかが爆発しそうでしたので。それより、先ほどからお二人とも様子が可笑しいですがどうかしましたか?」

 

「え、いや、何でもないわよ?」

 

「そ、そうですよ?」

 

 何故疑問系と思いながらも、夕映はそれ以上問い掛けることはしない。それよりも気になったことがあるからである。

 

「ならいいですが。それより、横島さんの用事とは何なのですか?」

 

「そや、それも気になっとったんよ。今日は大停電やから、大抵のお仕事は早上がりなのに、何で横島さんが仕事に行くん?」

 

 この質問は予想出来ていた為、当初の打ち合わせ通り警備の仕事との台詞を二人に告げるタマモ。

 

「ならタマモさんたちはあの事務所に二人きりなのですか?」

 

「そうよ」

 

 実際はタマモたちも警備に出る予定の為、よこっちには誰もいないのだがそれを言う訳にはいかない為肯定する。

 

「ちゃんと準備はしたん? ろうそくとか」

 

「そこは大丈夫です。自家用発電機がありますので。四時間くらいなら問題なく動きます」

 

「それはええな~」

 

「確かに。私たちの寮にはありませんからね。規模が大きいのに何故でしょうか? それさえあれば、ろうそくの明かりで読書をせずに済むというのに」

 

「さぁ? 大型になると維持費とか大変になるからじゃない?」

 

 夕映の疑問にどうでも良さそうに答えるタマモ。事実彼女にとって、そんな疑問よりのどかの様子を伺う方が大事なのだから仕方ない。

 だから、次の木乃香の言葉に適当に相槌をうってしまったのも仕方がないことなのである。

 

「じゃ、うちらお泊りしてええ」

 

「ええ、いいわよ」

 

「ちょ、タマモちゃん!」

 

「え?」

 

「やったー! 丁度、見逃した映画のレンタルが始まってるんよ。皆で見よな? あ、明日菜も呼んでええ?」

 

 手で額を抑える小竜姫に、歓喜する木乃香。それを見たタマモは自分がやらかしたことを悟るのであった。

 

 

 

 取りあえず、問題を先送りにしたタマモはのどかと横島の二人を追い抜き図書館島の内部へと来ていた。

 

「はぁー、凄い量の本ねー。これだけあるのに、地下にもあるってんだから、どれだけ集めれば満足するのかしらね。人間って本当に謎よね」

 

「そうですねー。人間の欲深さの一端を見た気がします」

 

「お二人も人間ですよ」

 

 タマモと小竜姫の言葉に突っ込む夕映。夕映やのどかほど本好きではない木乃香が、二人の言葉に同意するところもあるなぁと思っていると、入り口にのどかたちの姿を見つける。幸い、身を隠す場所が多く、それなりに利用者もいるのですぐに見つかることはなさそうだが、ここに立ったままでは何れ見つかるのには変わりない。木乃香に促されて、タマモたちは身を隠すのであった。

 

 

 

 横島たちが本を借りにカウンターに向かっている間に、タマモたちは図書館島を後にし合流地点である駅前広場にやって来ていた。

 予想以上に楽しそうだったのどかの様子に、木乃香と夕映はナイスな企画だったと考えているようだが、タマモと小竜姫の二人はライバルを増やしただけなのではと後悔していた。

 

「のどかは本を選ぶのに夢中だったんでしょうけど、横島に触れていたわよね?」

 

「そうですね。本棚を移動するときとか手を引いてましたから」

 

「次の約束もしてたんだけど」

 

「タマモちゃんほど聴覚は優れていませんが、私にも聞こえました」

 

 力なく危機感を覚えた箇所をあげていく二人。二人の中では、のどかは既に手遅れだと認定されていた。

 

「あの笑みはダメよね。本人は無自覚だろうけど、相当気を許してるわよ。匂いも安らいでいたし」

 

「現状、自覚しても気になる人程度でしょうけど……横島さんですからねぇ。気になりだしたら、一気に引きずり込まれて手遅れになりますよ。経験者は語るって奴です」

 

 一応、現時点で対処する方法は存在している。それはこれ以上横島とのどかを接触させないという方法である。しかし、それはするのは流石に戸惑われる。結局、のどかは自覚しても内気で奥手だろうということ、幼い容姿で横島の対象外だろうから大丈夫だろうと前向きに考え始める二人であった。

 

 その後、横島たちと合流した四人は、木乃香のお泊り発言を認めた横島により、女子寮経由でよこっちへと向かうことになる。その際、木乃香の提案でメンバーに加わった明日菜は、木乃香に急かされるまま泊りの用意を進め、半ば強引に連れさられることになり怒っていたが。

 そんな彼女を宥めながら、彼女たちは二度目(明日菜は初めて)のよこっちでのお泊りが始まるのであった。

 

 

 ――その頃、横島くん――

 

「のぉおおおおおおーーー」

 

 数多の怪物に追っかけられる横島。彼は高畑と一緒に大停電に備えて待機していたのだが、シフトに入っていないにも関わらず見回りに出た魔法生徒の対応に高畑が抜けたところで無数の光とともに召喚が行われたのである。

 事前に配られた無線は、他の箇所でも同様のことがあったとの通達があった後沈黙している。どうやら、妨害電波も発生しているようである。

 

「一人でどうにかしろってのかー!!」

 

『悪いのぉ、兄ちゃん。ワシらも陽動しろっ言われとるんで、派手にやらせてもらうわ』

 

「あのー、陽動でしたら私めはここでおとなしくしてますので、見逃しては……?」

 

 下手に出る横島に、怪物たちは考える素振りをするが、やがてないないと手を横に振る。

 

「やっぱりかー! くっそー、一体一体は大したことないけど数が多いってーの! 文珠で『爆』を使おうにも、目立つし木に火がつくし……取りあえずっ!」

 

 怪物たちに追いつかれそうになった横島は、一瞬振り向くと両手に霊力を纏わせて叩きつける。瞬間、強烈な光が霊波と共に辺りを照らす。“サイキック猫だまし”横島がそう呼ぶ技である。

 

「よーし、今のうちに身を隠して……って、減ってる? ま、減る分にはいいか」

 

 そう呟くと横島は木の陰に身を隠し、サイキックソーサーで静かに一体ずつ倒していくのであった。

 

 

 

 




 のどかデートの裏側とお泊り前まで。あと、横島君のお話でした。 
 次回はお泊り編とその頃横島の続きです。

 図書館島関連。
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その5 麻帆良探索 始まるお泊り会

お泊り編?


 

 

 

 

 

「さてと……先にDVDだっけ? それを見る?」

 

 よこっちの二階、共有スペースに移動したタマモたちは小竜姫が淹れたお茶で一息いれていた。そこにタマモが今後の予定を尋ねると、意外にもすぐに見ると言うと思われた木乃香が悩んでいた。

 

「う~ん、どないしようか? 明日菜は今すぐ見たい?」

 

「私!? いや、どっちでもいいって言うか。何で、本屋ちゃんたちとタマモたちの家に泊まりに来てるのか分からないし」

 

「ああ、それは今日のどかがうちの横島とデートしたから、そのついでね」

 

「ああ、本屋ちゃん今日デートだったんだ……って、デート!?」

 

 一人何も知らずにいた明日菜が驚愕する。そういえば、言っていなかったなと木乃香たちが考えていると、明日菜がのどかに対し興味津々と言った表情で質問する。

 

「で、デートってどんな感じなの? というか、横島? って人どんな人!?」

 

「そう言えば、アンタには説明したことなかったわね」

 

「そうですね。学校では一緒ですけど、放課後は美術部やらバイトやらで忙しそうでしたからね。横島さんに紹介するような時間はなかったですね」

 

 入学してからの明日菜は、憧れの高畑の近くにいたい一身で美術部に入部し、バイトの時間以外は美術部に篭っていた。その為、横島のことは全くといっていいほど知らなかった。これには、木乃香たちが横島と会うのは放課後なので、横島のことを話題に出すのが決まって放課後、つまり明日菜が美術部に特攻したあとだったということが原因の一つとしてあげられる。

 

 そんな明日菜に横島のことを説明していくタマモたち。彼女たちの主観で語っているので、説明が進むにつれて明日菜の中の横島像が二転三転する。

 結局、明日菜が理解したのは横島がタマモと小竜姫の保護者であり、生活を共にしていることと、便利屋を営んでいることだった。性格についても説明はあったのだが、落ち着いているという意見もあれば、落ち着きがないという意見もあり実際に会わなければ分からないと明日菜は判断していた。

 

「はぁ~、保護者ってことは、私と高畑先生みたいな関係ってことか」

 

「そうやね~。明日菜と一緒で、タマちゃんも竜姫さんも横島さんのこと好きやし」

 

 その木乃香の言葉に、二人の顔を凝視する明日菜。二人は明日菜の視線に若干引きながらも、頷くことで木乃香の言葉を肯定する。

 それを確認した明日菜は、二人の手を取るとぶんぶんと音がなるほど上下に動かす。

 

「頑張りましょう、二人とも! 私も協力するから、私と高畑先生のことも協力して!」

 

「あー、ありがとう?」

 

「が、頑張りましょうね?」

 

 明日菜の勢いに押されて頷く二人。そんな三人の様子を見ていた夕映は、のどかに小声で話しかける。

 

「タマモさんと竜姫さんが同じ人を好きなのに、どうするつもりなのですかね?」

 

「あははは、平等に応援するんだよ。きっと……」

 

 困った反応をしていたのどかだが、その後、明日菜がのどかが横島とデートをしたことを思い出し、友達がライバル!? と騒ぎ始めることを知る由もなかった。

 

 とにかく、第二回お泊り会はこのように騒々しく始まるのであった。

 

 

 

 ――その頃、横島くん――

 

「ふぃー。やった全部還したか? 普段の除霊に比べれば、数が多いだけだったなぁ」

 

 木の根元に腰を下ろし、一つため息を吐く横島。時間にすれば十数分の出来事であったが、闇に紛れて怪物たちにサイキックソーサーを命中させていくのは疲れたようである。尤も、怪物たちの方は横島が時間稼ぎに作った罠に気をとられ、気がつくと静かに一体ずつ還されていく状況に、阿鼻叫喚といった状況だったのだが。

 

 ともあれ、無事に陽動連中の撃退に成功した横島は、周囲の状況を知るために無線に集中する。

 

『……くん! 横島くん! 大丈夫かい? ……こちらは』

 

「お、無線が復活したか? こちら横島、陽動の奴らは全部倒しました」

 

『……良かった。ボクの方はちょっとトラブルがあってね。ここから離れられそうにないんだ。襲撃犯の捕縛には成功したから……だから、……くんはここで待機……いや、他のところに応援なんて行かなくていいから……』

 

 何やら、高畑は近くにいる人物と話をしているらしく、無線に途切れ途切れに会話が聞こえてくる。その声が女性であったことから、殺意が沸いてくる横島であったが、彼女が高畑が持ち場を離れた原因らしいことから、じゃじゃ馬な性格だと判断する。横島はこちらは一人で大丈夫だからと高畑に連絡するのであった。

 

「はぁ~、術者が捕まったってことは今日の襲撃は終わりかなぁ。にしても、こっちはこんな森の中に一人だってのに、高畑さん女と一緒とかいいよなぁ。いや、今のオレにじゃじゃ馬の相手する気力はないけど」

 

 高畑との連絡を終えて呟く横島。普段の横島なら、是が非でも合流を促すのだが女性の容姿が分からないことで幾分理性的に判断したようである。尤も、横島の勘は声の主が美少女だと囁いていたのを、仕事中だからと無理やりに諦めたともいえる。

 

「しっかし、こっちに来てから戦うのは竜姫たちに任せてたからなぁ。あの程度の奴らを相手に無駄に霊力を使っちまった気がする。文珠もストックはあるけど、逆に威力がありすぎて、使う文字を考えないとダメってのがなぁ」

 

 美神の所にいた時は、除霊時の物損を気にせず使っていたが、こちらでは秘匿されている為、なるべく人工物や自然に影響を与えないようにと竜姫に注意されている横島。その為、先ほども『爆』の文珠の使用を控え、静かに狩る方を選択したのだが予想以上に霊力を使ってしまったようである。

 まぁ、戦闘は竜姫たちに任せれば問題ないかと軽く考える横島だったが、後日この時のことを竜姫に聞かれた横島が正直に答え、特訓と言う名の地獄を見ることになるとは思いもしなかった。

 

「っくし。うー、春とは言え夜は冷えるなぁ。早く交代の時間にならんかなぁ」

 

 




 お泊り編とその頃横島の続きでした。といっても、この後お泊りも横島の方も大きな動きはない為、次回は明日菜も加えて麻帆良探索に戻ります。

 図書館島関連。
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その6 麻帆良探索 探索終了

探索編終了です。


 

 

 

 

 明日菜の暴走気味な行動が治まり、木乃香が選んだDVDを全員で観賞した後は、各自思い思いに過ごしていた。木乃香は小竜姫とDVDの感想を言い合い、のどかと夕映は持参した本に目を通していた。明日菜は既に就寝していている。土日はバイトが休みの為、早く就寝する必要はないのだが、既に習慣になっているのかDVDを見終わると早々に割り当てられた部屋に引っ込み床に就いたのである。

 

 そんな中、タマモは一人大停電で明かり一つない麻帆良の街並みを窓から眺めていた。

 

(大停電が始まってから、街を囲むように妖怪の匂いがする……。妖怪一体一体の霊力は弱いし、これは陽動ね。まぁ、横島はタカミチと一緒だし問題ないか)

 

「タマモさん、どうかしましたか?」

 

「何でもないわ。ただ、本当に全部停電しているんだなって」

 

 そんなタマモに本を読み終わった夕映が話しかける。タマモは窓から離れると、夕映に何でもないと返す。

 

「まぁ、それが大停電ですからね。病院なんかは自家発電してますが、他はなし。女子寮なんかは自家発電装置を置いてもいいのではと、たびたび要望が出ますが女子寮全体をカバーするには大型の発電機が必要となります。たった四時間の為に設置するには、予算がかかりすぎるとのことで却下されていますが」

 

 夕映の言葉にそうなんだと相槌をうちながら、タマモはテーブルに置いてあったクッキーに手を伸ばす。見るからに適当な相槌なのだが、それに構わず夕映は話を続ける。

 

「だからこそ、元々寮であるこの事務所に発電機があることは珍しいことなのです。元病院ならわかるのですが……」

 

「まぁ、横島がどっかから拾ってきたからね。案外、元病院からだったりして」

 

「そんなことあるとは思えないですが」

 

 そこまで話すと夕映は次の本へと没頭する。どうやら、本を読む合間に話しかけただけのようである。

 

(ま、実際は美神の所にも自家発電装置があったからって理由で手に入れたんだけど。それに動力源も文珠の『電』気だし)

 

 これは口に出せないなとタマモはクッキーを食べながら思う。そうしている内に、木乃香と小竜姫にDVDの感想を聞かれるのであった。

 

 

 

「あー、疲れた。ただいまーって、もう寝てるか。良い子は寝てる時間だもんな。タマモが良い子かどうかは置いといて」

 

「起きてるです。あと、タマモさんに伝えておきます」

 

「私も起きてます……すみません。あ、おかえりなさい」

 

「た、ただいま」

 

 帰宅した横島を迎えたのは、パジャマ姿の夕映とのどかの二人。予想外の出迎えに、横島が驚いていると、夕映が理由を口にする。

 

「まぁ、私とのどかは普段から夜行性ですからね。良い子ではないのです。今日は事務所に忘れ物を取りに来ただけですが」

 

「私もです」

 

「忘れ物?」

 

 横島の問いに二人は持っていたものを見せる。

 

「本……?」

 

「そうです。夕飯前に事務所で読んでいたんです。でも、二階に上がったときに忘れたみたいで」

 

「私としたことが、迂闊でした」

 

 のどかの説明に心の底から悔やんでいる様子の夕映。横島からすれば不思議でならないが、本好きというものはそういうものなのだろうと納得する。横島は、他がどうしているかを尋ねる。

 

「それは、どんまいってやつだな。それで、二人は分かったがタマモたちは? まだ起きてるのか?」

 

「いえ。木乃香さんとタマモさん、明日菜さんはもう休んでいます」

 

「竜姫さんは発電機を止めに行きました。停電が回復しているのかを確認するって」

 

「そっか。じゃ、オレも見てくるかな」

 

 夕映の言葉に発電機を見に行くかと横島が告げると、一瞬電気が消え再び点灯する。

 

「どうやら、無事に切り替わったみたいだな。ってことは、すぐ戻ってくるか」

 

 横島の言葉通り、数分もせず竜姫が横島たちのところへ歩いてくる。その間、夕映たちは横島と話をしていた。

 

「あ、横島さん。おかえりなさい。どうでした、お仕事の方は」

 

「ただいま。今、夕映ちゃんたちにも話をしてたけど、大変だったよ。暗いし、森の中まで行かされるし。一緒に組んでた高畑さんは途中で抜けるし」

 

「抜けたんですか? 高畑さんが?」

 

「そう。持ち場の近くで抜け出した生徒を見つけてさ。その生徒を指導しにいって、中々戻って来なくてさ。結局、一人で見回る羽目になったよ」

 

 そういってため息を吐く横島を、大変でしたねとのどかと小竜姫の二人が慰める。そんな横島に、夕映が話しかける。

 

「それは災難でしたね。高畑先生が出向いて時間がかかると言うことは、出歩いていたのは女子でしょうか。注意の後、寮まで送ったのかもしれませんね」

 

「最終的にはそうしたみたいだな。まぁ、中々言うことを聞いてくれないって、困ってたみたいだけど」

 

「それは何と言うか。おそらく外部から来た生徒でしょうね。高畑先生は学園広域指導員として有名ですから、それを知っている人間は早々逆らわないでしょうし」

 

「学園広域指導員……ですか?」

 

 首を傾げる小竜姫に、夕映が説明する。

 

「ええ。その名の通り学園の広域――麻帆良全域で学生を指導する指導員です。一介の教師でありながら、どの学校の生徒に対しても絶大な権限を持っています。中でも高畑先生は、暴力的な生徒を無力化する実力を持っていると有名で、”デスメガネ”という二つ名もあるです」

 

 デスメガネ? と首を傾げる横島と小竜姫。横島たちからすれば、優しげに微笑む姿しか見ていない高畑にそんな物騒な異名があるとは想像できない。

 

「そんな訳で、以前から麻帆良にいる生徒なら広域指導員に逆らう真似は早々しないのです」

 

 夕映の説明を聞いた横島がそうなもんかと頷いていると、のどかが小さくあくびをする。あくびを見られたのどかは顔を赤くするが、横島は時間を確認すると三人に休むように告げる。

 

「おっと、そういやこんな時間だったな。ほら、三人は早く眠らないと。オレも風呂入ってから寝るから」

 

「そうですね。こんな時間ですし、私たちも休みましょう。では、おやすみなさい横島さん」

 

「おやすみなさいです」

 

「お、おやすみなさい」

 

 就寝の挨拶をすると、三人はそれぞれの部屋に向かい横島は一度自分の部屋で着替えを用意してから、風呂へと向かうのであった。

 

 

 

「おはよう」

 

 翌朝、明日菜が共有スペースに顔を出すとタマモと小竜姫の二人がお茶を飲んでいた。

 

「あら、おはよう。起きるの早いわね」

 

「おはようございます、明日菜さん。お茶いかがですか?」

 

「ありがと。バイトないからゆっくり寝れると思ったんだけどね……。まぁ、何時もよりは寝てるからいいわ」

 

 小竜姫が淹れたお茶を飲みながら、タマモに答える明日菜。木乃香はまだ部屋で寝ていたし、夕映とのどかの姿も寝ているのだろう。姿が見えない。

 

「木乃香はまだ寝てたけど、夕映ちゃんと本屋ちゃんもまだ?」

 

「お二人は昨日、遅くまで起きてましたからまだですよ。このまま朝食の準備をしている時まで起きなかったら、明日菜さんとタマモちゃんで起こしに行ってくれますか?」

 

 微笑みながら言われた言葉に頷く明日菜。その後、三人で雑談をしていたら、木乃香が降りてくる。彼女は挨拶をすますと、朝食の手伝いを買って出る。それを快諾した小竜姫が木乃香と料理をはじめ、ある程度準備を終えた時、夕映とのどかが降りてくる。

 

「おはようです」

 

「おはようございます」

 

「おはよう。ああ、横島は起きてた?」

 

「何故それを私たちに聞くのか分かりませんが、降りてくるまでに会っていないので、まだではないでしょうか」

 

 タマモの質問に答える夕映。横にいるのどかも頷いている。それに対し、そっかと呟いたタマモは小竜姫と向かい合う。そして、おもむろにじゃんけんを始める。

 

「何のじゃんけんですか?」

 

「そりゃ、横島をどっちが起こすかよ。普段は交代でやってるんだけど、日曜はじゃんけんで勝った方が行くのよ。あ、負けた」

 

「勝ちましたね。では、もう少ししたら起こしに行きますか。木乃香さんも行きますか?」

 

「うち?」

 

「ええ。以前も起こしにいったんですよね?」

 

 その言葉に横島を起こしに行ったときのことを思い出す木乃香たち。木乃香はそうでもなかったが、想像力が逞しすぎる夕映とのどかの二人は、起こしたときに目にした光景のせいで暫く固まっていたものである。今もその時のことを思い出したせいで若干頬が赤い夕映とのどか。

 そんな三人の様子に首を傾げる明日菜であったが、自分が高畑を起こす光景を想像して、くねくねしだす。

 

「まぁ、ええけど。ほな一緒に行こか」

 

「じゃ、木乃香にこれを貸してあげるわ」

 

 そう言って何処からかハリセンを取り出すタマモ。ハリセンには、横島専用と書かれている。それに対し、木乃香も何処からかトンカチを取り出す。

 

「うちにはこれがあるけど……流石にこれで起こすんは可哀想やね。ありがたく借りるとするわ」

 

 普段祖父をトンカチで叩いているが、横島相手には可哀想だと思ったようである。木乃香はハリセンを受け取ると、二度振って感触を確かめる。

 

「うん。いい感じやな。じゃ、行って来るわ」

 

「お皿は並べておいてくださいね?」

 

 木乃香と小竜姫の二人が横島の部屋へと向かっていく。その後暫くして、横島の驚愕の声が聞こえてきたが、タマモは気にせず出来上がっていた料理をテーブルに並べていく。

 

 

 

「おはようー」

 

 暫くすると横島を先頭に三人が姿を現す。朝から驚愕する羽目になった横島は若干疲れていたが、残りの二人は笑顔である。そんな中、何やら固まっている明日菜に横島が話しかける。

 

「お、君が明日菜ちゃんか。木乃香ちゃんから話は聞いてるよ」

 

「え、あ、おはようございます」

 

 戸惑いながら挨拶する明日菜に、改めておはようと告げると自分の席に座る横島。たまたま急須の近くにいたのどかが横島にお茶を注いだり、夕映と挨拶を交わしたりとのほほんとしている横島を他所に、明日菜は急いでタマモの元へ行き小声で話しかける。

 

「タマモちゃん! 横島さんって若いんだけど!?」

 

「そうね。まだ、十代だし若いけど……それがどうかした?」

 

「どうかしたって、タマモちゃんたちって渋いおじ様が好きじゃなかったの!?」

 

「はぁ?」

 

 タマモたちの保護者と聞いていたので、明日菜は横島のことを高畑と同じかそれ以上の年齢だと思っていたようである。

 

「うぅ……同じ趣味の仲間が出来たと思ったのに……」

 

 頭を抱えた明日菜の呟きに呆れた表情を見せたタマモであったが、小竜姫たちの用意した朝食を前にそんなことは何処かへといってしまった。

 

「なぁ、木乃香ちゃん」

 

「はいな」

 

「明日菜ちゃんは何で頭を抱えてんだ? オレ何かした?」

 

「さぁ? まぁ、明日菜のことやし、すぐ元に戻ると思うわ。それより、この玉子焼きうちが作ったんよ。実家の味付けやから、気に入ってくれるかは分からんけど」

 

「おー、綺麗に出来てんな」

 

 木乃香が作ったという玉子焼きを褒める横島。その様子に嬉しそうな表情を見せる木乃香であったが、食べてから褒めてくれと告げると準備の為にキッチンへと戻っていく。

 暫くして、全ての品がテーブルに並ぶと全員が席につき食事を始める。勢い良く料理をかきこみ、美味いと感想を告げていく横島に、作った二人は嬉しそうである。

 

「そういや、今日はどうすんだ?」

 

「それなんですが、昨日皆さんと話をした結果お花見に行こうかと」

 

「そういや、桜がまだ咲いてたな」

 

 街のあちらこちらで咲いていた桜を思い出す横島。そんな横島に木乃香が話しかける。

 

「麻帆良の桜は、長いこと咲いてるんで花見のシーズンが長いんや。有名何は桜通りやけど、あそこは道やから本当に桜を見るだけやな。屋台とかあるんは、公園とかの方や」

 

「へー。で、どっち行くんだ?」

 

「桜通りを通って、公園で屋台巡りや!」

 

「そりゃ、楽しそうだ」

 

 ビシッと人差し指を立てて宣言する木乃香に、笑って楽しそうだと告げる横島。それに周囲も笑顔を浮かべる。

 

「じゃ、メシを食ったら準備して出かけるか!」

 

「「「おおー」」」

 

 横島の宣言に元気よく手を突き上げる木乃香と明日菜、タマモ。夕映はのんびり食後のジュースを楽しみ、のどかは小さく手をあげている。小竜姫はそんな光景を微笑みながら見つめ、今日という一日が楽しくなるだろうと確信するのであった。

 

 

 

 




 麻帆良探索編も一先ず終わり。次回は幕間的お話を挟んで、刹那たちとの修行編かな。
 あと関係ないですが、たまに方言なのか標準語なのかが分からなくなりません?

 明日菜のバイトの休み。麻帆良の桜。
 これらは作中設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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休み時間 その4
超鈴音さん見る


超から見た大停電。


 

 

 

 

 麻帆良某所にある超の隠しラボ。大停電を数分後に控えた時間にも関わらず、そこで超は作業をしていた。

 

「さてと、準備完了といったところネ。これで、麻帆良のあらゆる場所を記録できる。記録によれば、今夜暴走した旧家の分家筋の人物が麻帆良に侵攻をしかけてくる筈。誰が何処の防衛についたのかまでは記録されていないが、数年ぶりに大規模な召喚がなされた戦いとして記録に残っている。つまり、威力偵察の絶好の機会ネ」

 

 超の眼前には複数のモニターが配置されており、それぞれ麻帆良で警備を担当している人物を捉えていた。

 

「しかし、タマモさんたちが不参加になったのは想定外ネ。集団戦闘のデータも欲しかったのだが……ま、今夜は横島忠夫のデータが取れるだけよしとするネ」

 

 超がメインとなる画面に表示したのは、横島と高畑が担当する地区の監視映像。監視されていることを知らない横島たちは、呑気に会話をしている。

 

「さて、そろそろ仕込んでいた魔法生徒が見つかる頃ネ。彼女たちの対応に高畑先生が追われれば、必然的に横島忠夫が召喚された妖怪たちの相手をすることになる。さてさて、サポートタイプと思われる彼はどう切り抜けるか見物ネ」

 

 超が呟いている間に、画面から高畑が消える。仕掛けが上手く作動したのを確認した超は、思惑通りにことが進んでいることにほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

「何というデタラメな男ネ……。気でスタングレネードを再現するとは」

 

 横島が”サイキック猫だまし”と呼ぶ技を繰り出した直後の呟きである。横島を監視していたカメラは閃光が走った瞬間から映っておらず、カメラは完全に横島を見失っていた。

 

「横島忠夫は見失ったが、妖怪たちは数を減らしているが健在。ここは慌てず、妖怪たちを中心に全体を俯瞰するネ。妖怪たちを倒す際に攻撃方向を推測すれば見つけることも出来る筈ネ」

 

 冷静に対処しながら記録を続ける超は、横島の技について考えを巡らす。

 

「目くらましとして使っていたようだが、本質は気を拡散させることで広範囲にダメージを与える技と見たネ。低級な妖怪程度ならそれだけで送還可能か。名前が和風なこととあわせて考えると、旧世界の神道系の術者と見たネ」

 

 超の脳裏に浮かんだのは、拍手(かしわで)。神社の参拝時に行う両手を音が鳴るように打ち合わせる行為である。拍手は邪気払いの儀式としても行われる為、横島のサイキック猫だましで低級妖怪が退いたことで、超は横島が神道系の術者であると推測したようである。

 そんな中、画面では異変が生じていた。

 

「あれ、妖怪の数が減っているネ。攻撃の瞬間を見逃したか?」

 

 画面では次々と姿を消していく妖怪たちが逃げ惑う姿が映っている。倒れる姿から攻撃が来た方向を推測するが、攻撃の軌道を操作しているのか常に移動しているのか横島の居場所を特定できない。

 

「単純なサポートタイプではないのか? しかし、正面から戦闘をしないということは防御に難があるのか。一撃で倒しているから、火力は十分な筈だし……。戦闘スタイルはアサシンって感じなのかもしれないネ。この移動力と完璧な隠遁術でサポートに徹したら、相当に厄介ネ。しかも、攻撃もある程度以上の威力がある……タマモさんや竜姫さんと組まれたら……」

 

 以前見た二人の戦闘スタイルを思い出し、相当に厄介なことになると確信する超。真正面から敵を攻撃する小竜姫に、変身を駆使し搦め手を使うタマモ。それらを影からサポートし、時に攻撃を行う横島。

 

「流石は向こうで傭兵を行っていただけのことはあるネ。三人揃えば本気のエヴァンジェリン相手でも優位に戦えるかもしれないネ」

 

 考え込んでいた超が画面に視線を戻すと、妖怪が倒されるところであった。

 

「今のは……魔法の矢ではないネ。知らない魔法……気ということも考えられるネ。盾みたいなものに見えたけど、もしかして護符? いや、単純に神道系の術者と言う訳でもないのか? タマモさんといい、この男といい中々手の内を明かしてくれないネ」

 

 タマモが以前見せたのはアーティファクトを用いた戦闘のみ。横島が使ったのも神道由来と思われる拍手の強化版に、盾のような何かを飛ばす技の二つのみ。しかも、横島に至っては画面に映らないという状態である。ちなみに小竜姫に関しては、手の内を知ってもどうしようもないというレベルである。

 

「あ、最後の一体が……。低級とはいえ、短時間にあの数を一掃するとは……。他の警備員たちより早いネ。あ、刀子さん所はもうすぐ終わるネ」

 

 横島の戦闘が終わったことで、その他の地点を確認する超。横島以外では刀子と神多羅木のペアが残りが少なく、首謀者と思われる男についても高畑と遭遇した為、今夜の侵攻が鎮圧されるのは時間の問題であろう。

 

「やはり、歴史に名を残す実力者は強いネ。それ以外も、順調に敵を倒している。流石は、麻帆良の警備を担当する人物たちといったところか。特に応援が派遣されることもなかったということは、この程度の侵攻は問題ないということ。大規模な召喚がされたとはいえ、低級妖怪のばら撒き程度では、おおまかな実力を測るのが精一杯か」

 

 後は記録した映像をゆっくりと分析することにした超は、自らの目的の為に用意する最低限の戦力を上方修正しながら、就寝する為にラボをあとにするのであった。

 

 

 




 幕間的お話。次話からは刹那との修行とかです。

 超の行動。
 これらは作中設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。


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