亡き王女と青髪の吸血鬼 (根本)
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運命を操る程度の能力

(本文)

 

吹き抜ける砂と風。

彼方まで続く砂と岩。

砂。

乾いた砂。

この国は永遠と荒野が続く。

人々は荒野の片隅に寄り添って町々をつくりひっそりと暮らしていた。

 

黄昏刻の赤茶けた大地に、まだまだ熱を帯びながらもどこかひんやりとした風が走り抜ける。

夜が始まってしまう前にと、人々はいそいそと門戸を閉じる。

夜は人外、物の怪、異形の者達が不毛の荒野を謳歌せんと跳梁跋扈する時間である。

人間にとっては危険極まりない時間なのだ。

 

 

最近世間を騒がせている魔物がいる。怪物たちの王たる吸血鬼、その正統だ。

片手で大岩を砕く純粋な力、一瞬にして十里を駈ける機動力。

人間の血を糧とし、百の魔法を操り破壊の限りを尽くす。

霧にも数多のコウモリにもなり、そして七色の翼で自在に宙を舞い、月下を治める。

名はフランドール・スカーレット。

金髪をたなびかせ深紅のドレスを纏うその姿からついた二つ名は、紅い悪魔、スカーレットデビル。

彼女が通った後には、喰い殺された人間の無残な死体と瓦礫の山々が残るのみである。

 

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今宵の月は紅い。

辺りはすっかり暗くなり、すでに町の通りに往来はない。

その暗闇からひっそりと現れる一体の影。

フード付きの赤いコートを頭からすっぽりと被り、今にもずり落ちそうな大きめのサングラス。

フリル付きの日傘を両手でさしている。

背格好からして10歳くらいの子供だろうか。

今にも妖怪がでてきそうな暗がりをテクテク歩くその様は珍妙そのものだが、それでも近寄りがたく、鋭利な冷たさを感じるのは今が夜だからだろうか。

その子供は町の中央へと向かっていった。

 

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町の中央には酒場がある。

化物なんてクソ喰らえ、という命知らずが集まる。

 

店内には黒髪オールバックに口ひげを蓄えたマスター。

「注文の揚げにんにくだ。残さず食べろよ」

 

そばかす顔で茶髪のおさげを振り回す給仕の娘、それにちょっかいをだすカウンターに座る二人の若い男。

「今日もキレイだね」

「君に会いにきたよ」

 

娘もまんざらでもなさそうだ。

「もう、やだぁ」

 

真っ黒に日焼けした三人の男たちが丸テーブルを囲みポーカーに熱をあげている。

「ストレートフラッシュ様のお通りだ~」

「またかよ、どんな引きしてるんだよ、まったく」

「もう勘弁してくれぇ」

 

煤けた壁には剝がれかけの賞金首の張り紙。

フランドール・スカーレット。

dead or alive。6,000,000貫文。

入口のスイングドアがギィと音を立て内側に開いた。

店内は一瞬時が止まったかのように静まり返り、鋭い視線がドアの向こうに飛ぶ。

しかしそれが10歳くらいの子供と分かると、パラパラと視線を外し何事もなかったかのように元の賑わいを取り戻していた。

 

 

赤いフードを被った子供は、差していた日傘をたたみ、入口の帽子掛けにトンとかける。

カウンターの中央にヒタヒタと近づき、子供には大分高いであろう椅子に手をかけるでもなく、スゥと天井から糸で吊られているかのように、いやそうではない。

まるで宙に浮かんだかのように、静かに舞い座る。

足はまったく地面に届いておらず、切りすぎた前髪のように中途半端でなんとも落ち着かない。

両手でフードの端と端を持ち、静かに後ろにおろす。

フードの中から現れたのは、細くて白い、今にも溶けそうなバニラアイスのような、肌の少女だった。

少女は青髪をかきあげながら言った。

 

「紅茶とケーキを」

 

幼いながらも品格のある凛とした声、コントラルトドラマティコでマスターに注文する。

カウンターの隅に座っている若者二人が、「おいおいそこはミルクがお約束だろう」とチラリと視線を送る。

マスターは微動だにせず、バスの効いた声で「少し待ってな」と注文に応えた。

若者二人は、「あるのかよ」と目を丸くして見つめ合う。

そんな二人の驚きをよそに、そばかす娘が少女に近づき話しかける。

 

「お連れの方はどちらに?」

 

怪物たちが動きまわるこの夜の世界から、幼い少女が一人でやってくる訳がないのだ。

そばかす娘の質問は当然湧いて出るものである。

 

 

少女はサングラスの中で一考する。

私は夜の王たる吸血鬼だ。

連れなど必要ない。

などと答えたならば、目の前の娘の運命は大きく、とても大きく流れを変えるであろう。

すでに幾何かの変化の兆しはあるが、殊更に弄る必要はない。

 

「外で待たせている」

 

少女は嘘をついた。

悠久たる吸血鬼に待つという概念などない。

吸血鬼は待たないし待たせない。

 

嘘とは知らずそばかす娘は、まったく人の気配がない外を見て要らぬ心配をしている。

娘との間を割って入るように酒場のマスターが注文の品を持ってきた。

 

「ホットウーロン茶とクリームどら焼きだ」

 

マスターはニヤリと笑って続ける。

 

「如何せん田舎の酒場だ。そいつで勘弁してくれ」

 

 

目の前に置かれたそれを見て、少女は腕組みをしてしばらくの間固まっていた。

ほう。

オシャレな白のティーセットと、いちごの乗ったショートケーキをイメージしていたが、これはまた異なるものがでてきた。

しかし、紅茶とケーキの範疇ではある。

よろしい。

 

「ナイフとフォークを。それとナプキンもだ」

 

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少女が足をばたつかせながら、ウーロン茶とどら焼きに対してナイフとフォークで格闘している頃、後ろのポーカー卓はいよいよ白熱していた。

 

「どうだ。ロイヤルストレートフラッシュのお通りでい。ご祝儀付きで頼むぜぃ」

 

大男は、手持ちの札をパシンとテーブルにたたきつける。

ハートの10、J、Q、K、Aが降臨する。

プレイしている残りの二人は唖然としていた。

チビ男の手札は3のワンペア。ノッポ男の手札はバラバラのブタだ。

オカシイ。全てがオカシイ。

呼吸が荒くなりプルプルと震えだす。

 

「ふ、ふざけるな。イカサマだ!」

 

「そうだ。そんな手が何度も入ってたまるか」

 

チビとノッポが大男を何度も指さしながら喚く。

 

「イカサマだぁ? とんだ言いがかりをつけられたものだ。何か証拠があって言ってるんだろうな?」

 

大男は自慢の拳を握りテーブルをドシンと叩きながら凄んだ。

二人はなんとか言葉を紡ごうと口をパクパクさせるものだから呼吸もままならない。

店内の誰もが事の成り行きを静かに見守っていた。

青髪の少女だけがまったく気にする様子もなく、両手でグラスを持ち、ホットウーロン茶をふうふうと冷ましていた。

 

 

チビの方が乱暴に立ち上がり、腰の銃を抜き大男に向けて構えた。

勢いで椅子が後ろに倒れる。

 

「こいつが証拠だ!文句あるか、このイカサマ野郎!」

 

声はかすれて裏返り、銃を持つ手は小刻みに震えている。

 

 

大男はチビを悠然と見下ろしていた。

こいつはここで撃てるようなタマじゃねぇ。

ポーカーの時だってそうだ。

あんな弱気の手筋とまったくハッタリになってねぇブラフ。

さっきまでと一緒。

腰掛けている俺よりも背の低い哀れな男。

 

チビを睨んで言い放つ。

 

「撃てよ」

 

深く冷たい一言。

チビはいよいよダメで、呼吸は荒くなる一方だ。

大男はゆっくりと腰のホルスターに手をかけ、銃を抜いた。

 

「良い手が入ったら真っ直ぐに来い。小細工するな。それが強さだ」

 

そのままチビを撃った。

銃弾は眉間を射抜き、頭蓋を貫通する。

 

「トリガーに指をかけたら迷わず撃て。脅しの道具に使うな。これが強さだ」

 

続けざまに、二射。

チビ男のすでにこの世のものではないうめき声と血肉が店内にばら撒かれた。

その苦悶の一滴が、ウーロン茶の熱さと格闘する青髪の少女の赤いコートの裾にピトリとついた。

少女は両手でもっていたグラスをコトリと置いた。

 

服を汚された。

私のコートが下賎な人間の血で汚された。

これは謝罪させる必要がある。

 

今宵の月は禍々しい程に紅い。

 

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「酒だ。マスター酒を持ってこい」

 

大男は銃を収めると、大声で注文した。

マスターはもちろん、店内にいた全ての人間が目の前の出来事を把握しきれずにいた。

大男がチビ男を撃ち殺した。

そう理解するのに暫く時間がかった。

 

再び銃声が店内に響いた。

皿が割れる音とともに連続する銃声。

一発。二発。三発。

 

一体誰が?

 

瞬きも忘れてしまっていた人々が周囲をギョロリと見やる。

青髪の少女だった。

足を肩幅に広げて立ち、顎を引き、小さな顔の前で黒い自動拳銃を両手で構えていた。

大男の方に向けた少女の銃は白煙を上げている。

 

大男に弾が当たった様子はない。

テーブルの皿に残っていた三個の揚げニンニクが一発目で宙に舞い、次の三発で正確に打ち抜かれたことには誰も気づかない。

吸血鬼はニンニクが苦手である。

 

 

大男はギロリと少女を睨んだ。

 

「おい、ガキのイタズラじゃ済まねぇぞ?」

 

少女は何も答えない。

代わりに引き金を引く。

再び銃声。

今度は大男の使用していた木製のジョッキが吹き飛んだ。

 

ノッポの男は飛び交う銃弾から逃れるため、目を瞑ってテーブルの下に隠れていた。

そんな彼の足元に壊れたジョッキが転がってきた。

薄目で確認して、やがて「ああ」と声を上げて飛びあがる。

しかしそこはテーブルの下。

頭をシコタマぶつけて、うずくまる。

 

「な、中にカードが…」

 

ノッポは頭を押さえながら擦れた声を絞り出した。

 

「それがイカサマの証拠だ」

 

少女は高らかに言い放った。

大男は手札のカードを、ジョッキの中に用意していた別のカードとすり替えていたのだ。

大男は「チッ」とテーブル下を一瞥する。

銃を再び取ろうと動いた瞬間、大男の足元で少女の撃った銃弾が跳ねた。

 

「フリーズだ」

 

銃越しに少女の眼光が大男を射抜く。

 

「イカサマをして遊ぼうが私には関係のないことだ。誰を銃で撃とうがお前の自由だ。しかし、私のコートを下賎の輩の血で汚すことは許されない。謝罪してもらおう」

 

「フリーズ? おいおいそいつぁ違うだろう。許してくださいプリーズの間違いだろ?」

 

大男はそう言い終わる前に右に飛んだ。

テーブルやらをぶっ倒して床に転がる。

少女は大男の動きに合わせて撃ったが、外れた。

弾は銀の燭台を打ち抜いた。

 

一瞬の間を空けて大男が膝に手を当てながらのっそりと立ち上がる。

体についた埃をパンパンと払いながら言った。

 

「どうした、クソガキ。早く撃てよ?」

 

ゆっくりと少女に近づいていく。

 

「撃たないのか?撃ちたくないのか?それとも、弾切れで撃てないのか?」

 

少女は銃を構えたまま微動だにしない。

 

「さっきのが7発目だったよな。そりゃあ撃てないわな。お前のその銃はそれで弾切れだもんな。」

 

少女は静かに銃をおろした。

大男を見上げて口をゆがませてニヤリと笑う。

 

「どうやら謝らなければいけないのはこちらのようだな」

 

「今更遅ぇよ」

 

大男の丸太のような脚が素早く動き、少女の腹部に蹴りがモロに入った。

ぶかぶかのサングラスが床に落ち、少女の体はくの字に折れ曲がり一瞬宙に止まった後、床に落ちた。

さらに右足で少女の小さな顔を勢いよく踏みつける。

二度、三度。少女の顔が床にめりこみギシィッと鳴る。

 

「フリーズとプリーズを間違えると、どエライことになるよなぁ」

 

四度、五度。

 

「すぐには殺さねぇ。お前の穴という穴によぉく教えてやるぜ。口の利き方ってもんをよぉ」

 

六度、七度。

 

「銃がなければ何もできないガキがよぉ。ふざけやがっ…」

 

八度踏みつけようとした時、男の脚が中空で止められた。

青髪の少女の細い左手が、男の足首をがっちりと掴んでいる。

足が前にも後ろにもまったく動かせない。

 

少女はゴム毬のように宙に跳ね上がり、そのまま空中に舞い止まった。

青髪に色白の肌。

そして、赤目。

少女の目は赤かった。

それは人間のものではない、怪物の王たる吸血鬼の証。

あれだけ踏まれ続けた少女の顔には傷の一つもない。

 

「すまなかったな。人間よ。お前を見くびっていた。存外にお前は強かった。銃がなければ何もできない? そうでは無いのだよ。私は手加減のつもりで銃を使ったのだ。私の力は人間の比ではないのでな。お前の強さを褒めてやりたいくらいだ」

 

青髪の吸血鬼は両の掌を上に向けて腕を大きく広げ、最高にアシンメトリーな笑顔で大男を見下ろす。

 

大男は唾を飛ばしながら叫ぶ。

 

「うるせぇ、ドブ臭ぇ化物がよぉ。お前は泣き喚きながら命乞いをするんだよ!」

 

銃を青髪の吸血鬼に向けて撃つ。

当たらない。

続けて撃つ。

まったく当たらない。

吸血鬼はフワリフワリと宙を舞い銃弾を躱していた。

 

「私の体は銃弾で傷つくことはない。ほれ撃ってみろ」

そう言って腕を後ろに組んで片目を瞑り、首をかしげる。

残りの赤目で銃身をのぞき込む。

引きつった笑顔とともに見せる犬歯が恐ろしくいやらしい。

大男は引き金を引く。

銃声とともに、吸血鬼の体が後方に仰け反り吹き飛ぶ。

いや、自ら後方に舞い、空中でくるりと後転して元の姿勢に戻る。

赤目の前で、親指と人差し指でもって銃弾を掴んで止めていた。

銃弾は白い煙を上げた後、しばらくしてきれいさっぱりと消えた。

 

「悪いな。あまりにも遅かったので止めてしまった」

 

大男はさらに銃を撃とうと、汗ばんだ手で必死に引き金を引く。

撃鉄が倒れる音だけが響いた。

銃弾は飛んでいない。

何度か虚しい音が響いた。

やがて大男はガタガタと震えだした。

ダメだ。

全くもってダメだ。

こいつと自分には、吸血鬼と人間には圧倒的な力の差がある。

この如何ともし難い差は一体なんなのだ?

 

突然吸血鬼が消えた。

瞬き一度の間すら無かった。

吸血鬼は、青髪をたなびかせ大男の背後にいた。

腕と足を後ろに組み、狂ったように白くて小さい顔を、大男の馬鹿デカい顔に近づけ耳元で囁く。

 

「どうした、人間よ。早く撃てよ?」

 

大男は震えるだけで身動きがとれない。

冷たい汗が額から垂れる。

 

「撃たないのか?撃ちたくないのか?それとも、弾切れで撃てないのか?」

もはや男には何もできることなどなかった。

吸血鬼は歌うように言葉を紡ぐ。

 

「人間よ。お前に問おう。好きなものを選べ。

1.あっさりと殺される 2.散々苦しんで殺される 3.許され生かされる

さあどれだ?」

青髪の吸血鬼の目が大きく見開かれた。

赤目が紅く染まっていく。

 

大男は必死に声を絞り出そうとするがでない。

それでも何とか捻り出す。

 

「さ、ささ、3だぁ! 許してくれぇ」

 

力の差。

命の差。

この無限に等しい差を前にして、許しを請う以外に何ができようか。

 

 

「そうか3を選ぶか」

紅目の中心、深淵が如く黒い瞳孔がゆっくりと閉じていく。

運命が操られていく。

 

「3.首をもがれて死ぬ、だったな。自分で決めた運命を受けいれよ」

 

吸血鬼は冷たく言い放った。

 

 

大男は死んだ。

吸血鬼に片手で首をもがれて、首はそのまま床に叩き潰された。

青髪の吸血鬼は浮いたままサングラスを拾い顔にかけた。

そのまま宙を飛び元の席に舞い座った。

少女が座ると同時に、大男の肉片から血が噴き出した。

片手でグラスを持ち、適温になったウーロン茶をゴクンと飲んだ。

 

「美味しい」

 

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チビ男は突然死んだ。

大男も突然死んだ。

誰も死因や原因など分からない。

青髪の少女の服は汚れてなどいない。

揚げニンニクなど誰も注文していない。

チビ男の最後の手札はフルハウスであり、大男の手札はバラバラのブタだった。

一人生き残ったノッポの手札は、スペードのロイヤルストレートフラッシュ。

そういう運命に操られた。

いや、元からそういう運命だったのだ。

 

 

ウーロン茶をおいしそうに飲む青髪の少女に酒場のマスターは問うた。

 

「お嬢さん、お名前は?」

 

少女はぶかぶかのサングラスを直しながら答えた。

 

「私は…」

 

「私の名はレミリア。生き別れた妹を探して旅をしているの」

 

今宵の月は紅い。

青髪の吸血鬼、レミリア・スカーレットの旅は続く。

 




(あとがき)

作者はレミリアが好きです。
かっこいいレミリアが大好きです。
少しかわいい成分が入っていると、さらにGOOD。

亡き王女の為のセプテットが大好きです。
原曲もアレンジ曲も大好きです。

レミリアがガンマンとしてウェスタンな世界を旅してドンパチしたらかっこいいだろうという勝手な妄想からこの文章を練りあげました。

白状すれば、とらいがんの世界観をそのままぶち込みました。
バッシュ君も牧師もべるなるでりな二人も出てこないので、タグにはいれてませんが。

吸血鬼の設定は、ひらこーへるしんぐの主人公の旦那のイメージをそのままぶち込んでます。
以下同文。

東方projectを原作としていますが、結構原作設定を無視しています。
ごめんなさい。
東方の多彩で魅力的なキャラ達もでてきません。
キャラ同士のおもしろい掛け合いなんてものはありません。
ごめんなさい。
亡き王女もいません。
ごめんなさい。
ドンパチしたくて書き始めたのに全然ドンパチしていない。
ごめんなさい。
フランドールの二つ名がスカーレットデビルになってる。
ごめんなさい。
後のお話の都合(予定)です。

作者的に「運命を操る程度の能力」をゲーム的に解釈すると、選択肢が提示されてプレイヤーはどれかを選ぶ。
しかしその選択は無視されてレミリアの都合のいいように書き換えられる、そんな理不尽な能力と勝手に思っています。
ドラクエの「はい」を選ぶまで無限ループする質問的な。
そんなゲーム的解釈をそのままぶち込みました。
意図して変えた結果、意図してない部分も変わったりするイメージです。

レミリアの声質の説明でコントラルトドラマティコとありますが、そんな名称はないっぽいです。
一応、オペラ用語で、コンタラルトとはアルトのことです。
よりドラマチックに歌い上げる声を、ドラマティコと呼ぶようですが、それはソプラノやメゾソプラノでのお話。
コントラルト(アルト)は、細けーことはいいんだよな世界っぽいです。
要するに、cv.喜多村英梨っつーことです。
紅魔城伝説万歳。
フィギュア早く届けー。

レミリアが持っている、黒い自動拳銃は、FNブローニングM1910をイメージしています。
アニメの峰不二子の銃がコレだそうです。
他の銃はあまり知らないので自然とこれになりました。
作者の勝手な設定で、レミリアはZUN帽を被ってないと銃の命中率が大きく下がるってのがあります。(アニメの次元大介の設定ですね)
今回は被ってないので、大男に一発も当てれなかった訳です。

酒場のマスターと給仕の娘のイメージは、フリーソフト「カードワース」から。

今後の展開ですが、未定です。
なんとなくのイメージはありますが、書き溜めているものは一切合切ありません。
フランちゃんの差し金として、さくやさんやパチュさんと戦って、最後はフランちゃんと銃でドンパチする、そんな感じです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
またお会いできましたら、よろしくお願いします。
ごきげんよう。


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時間を操る程度の能力

「まさか、同じタイプの能力をもっているの!?」

 

咲夜は時を停める能力を解除して後ろに飛び間合いを取った。

 

――――――――――――

 

いつもと同じはずだった。

自身の時間を操る能力で時を停め、急所に向けて銃でズドン。

戦闘行為ではない、ただの作業。

このシンプルな行為でもって、人も、そうでないナニカもたくさん仕留めてきた。

今回も同じだと思っていた。

相手は吸血鬼の王とされてはいるが、心臓と脳天を吹っ飛ばして終わる予定だったのだが……。

全てが静止した世界で、咲夜に目を合わせた青髪の吸血鬼は悠然と挨拶をしてきたのだ。

 

「ごきげんよう」

 

――――――――――――

 

「ごきげんよう」

レミリアにとってそれは別れの挨拶のつもりだった。

 

正面から迫る銀髪の少女が、レミリアへの殺意を包み隠さずまっすぐやってくるのを十里も手前から感じていた。

これほどまでにストレートで明確な殺意が自分に向けられたのは初めてで嬉しかった。

だからこそ、この銀髪の少女を私にかしずかせたいと思った。

赤目を紅に染め、自身の運命操作の能力で、銀髪の少女の殺意を絶対服従へと変える。

殺意を抱く少女に別れの挨拶を済ませ、改めて服従の誓いをうけようとした。

そのはずだったのだが、相手が予想に反して後ろに退いたものだから驚いた。

 

「あなた、名前は?」

 

レミリアは咲夜に問うた。

 

――――――――――――

 

咲夜は混乱していた。

自身に冷静になるように心の中で呼びかける。

もう一度、もう一度時を停めて、そして仕留める。

そのつもりで時を停めるも、青髪の怪物が停まる様子はない。

 

「あなた、名前は?」

 

相手に対して自分の能力がまったく通用しない現実を受け入れる他なかった。

世界の理のことはよくわからない。

が、恐らくは自分の時を停める能力が、目の前の怪物が持つ能力と同じタイプで打ち消し合っているのだろう。

咲夜は銀の銃を構え直す。

そして悟る。

勝つことはかなわないと。

人間である自分と怪物の王たる青髪の吸血鬼には、圧倒的な力の差がある。

 

(これが人外……。格の差、命の重さの違いなのか……)

 

咲夜は膝をつき頭を垂れた。

 

「十六夜咲夜です。この命、あなたに差し上げましょう」

 

――――――――――――

 

少し遅れて、対峙した少女は咲夜と名乗り、膝をついた。

私が決めた運命よりも少し違ったけど、まあいい。

 

「咲夜よ、あなたは私の忠実な僕となり仕えなさい」

 

銀髪を上から見下ろす。

王である自分には見慣れた光景。

だが……。

咲夜が顔をあげ、キッと睨んできたものだからまた驚いた。

服従を誓う、負け犬がつくる表情ではない。

まったく衰えていない敵意と殺意がそこにはあった。

 

(この子、私の運命を受け入れていない? あくまで自身の意志でひざまづいたのね。おもしろいわね)

 

レミリアはアシンメトリー顔でクククと笑いが止まらない。

 

――――――――――――

 

咲夜は怪物に命を差し出す覚悟でいた。

首を跳ねられるつもりでいたら、予想外の言葉に驚き、思わず敵意が再燃した。

しかし、それも一瞬のこと。

全てを受け入れよう。

この吸血鬼がそれを望むのであれば、潔く仕えようではないか。

 

「なんなりとご命令くださいませ、レミリア御嬢様」

 

レミリアは笑顔で応えた。




(作者の独り言)

ジョジョの第三部で、ディオが承太郎のスタンドを、同じタイプのスタンド、と評価し、
さらにそこから自身と同様の能力が使えることに気づくシーンが好きです。

そのシーンを、レミリアを咲夜の間でもやってみたかったのです。
時間操作と運命操作と、まあ、違う訳ですけれども、
まあまあまあ、大体一緒な感じの能力じゃないですかね?


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最凶 vs さいきょー

夕闇の川辺を歩く小さな影は一つだけ。

フード付きの赤いコートを頭からすっぽりと被り、今にもずり落ちそうな大きめのサングラス。

背格好からして10歳くらいの子供だろうか。

そういえば……。

どこかの噂で聞いたことがある。

殺戮と破壊の限りを尽くす、紅いドレス姿の金髪の吸血鬼、紅い悪魔フランドール・スカーレット。

迫ってくる小さい赤いコート姿を見ながら、青髪の氷精チルノはそんなことを思い出していた。

 

(まさかあいつが? な訳ないかー。しかし全身赤色でだっせーな)

 

青のワンピースに青い6枚の羽根の氷精も似たようなものだが本人は気にしたことは無い。

 

通りすがりざまに赤いコート野郎の目をみる。

黒いサングラスで目は見えないが、顔をこちらに向けていた。

一瞥するチルノに対して、赤いコート野郎はこちらをガン見している。

 

(アタイにガンとばしてくるとは気に入れねーな)

 

チルノは口から氷をペッと床に吐き出す。

今は夕刻。

昼と夜の間でうなじがチリチリして余計にイライラする。

 

どちらかでもなくお互いに歩みを止める。

 

「おいチビ! 何見てんだよ! やっちまうぞ?」

 

チルノがドスを効かせて威圧する。

吐く息は相当白い。

 

「……探しているの」

 

小さい赤いコートは囁くような声でつぶやく。

 

「なんだよ? 聞こえねーよ。デカイ声でしゃべれよ。やっちまぞ?」

 

「この辺に……冷気を操る妖精が……いると聞いて探しているの……。あなた……知らない?」

 

「そんな奴知らねーな。さっさと消えろ。アタイにぶっとばされないうちにな!」

 

チルノはプイと顔を背けて立ち去ろうとした。

 

「そいつはね!」

 

突然小さい赤いコート野郎が耳を突き刺す金切り声で叫びだす。

さすがのチルノもびくっとして動きを止める。

思わず野郎の顔を見た。

 

「そいつはね、青髪で青いワンピース姿だそうだけど、あなたは本当に何も知らないの?」

 

赤いコート野郎はチルノの顔を覗き込んでニタリと笑う。

尖った牙が糸を引く。フードの奥の金髪が揺れる。

 

「知らねーって言ってるだろーがよ!」

 

チルノはそう叫びながら、懐の銃を抜き、紅い悪魔に向けてぶっ放した。

 

(こいつはマジモンのイカレた悪魔だ。2、3発食らわしてずらかるぜ)

 

「死ねよ! ばーか!」

 

引き金をガチャガチャとひく。

銃弾が赤いドレスを貫いた、はずだった。

金髪の悪魔は銃弾一つ一つをスイスイ避けてチルノに近づく。

その勢いのままでその小さな小さな右手でチルノの頭をガッチリ掴んで、地面に叩きつける。

チルノだった「もの」は一瞬で粉々にぶっ壊された。

 

 

そんな様子を木の陰から隠れて伺うチルノ。

 

(あぶねー。とんでもねー野郎だ。あんなのとまともにやれるかよ。悪魔すぎるだろー)

 

青髪の氷精チルノは体を木に預け、ふへーと白い息を吐いた。

吐息はダイヤモンドダストとなってキラキラ輝く。

チルノは咄嗟の判断で氷像の分身に入れ替わっていたのだった。

 

(このまま隠れてやりすごしてさよならバイバイだな。ざまーみろ)

 

チルノは木の陰から再び様子を伺う。

 

(あれ? あいつどこにいきやがった……?)

 

赤い悪魔は忽然と姿を消していた。

突如チルノのうなじに冷たいモノが押し付けられた。

 

「フリーズ」

 

チルノにとっては言いなれたフレーズだったが、言われたのは初めてだなー、とチルノはやけに冷静に考えていた。

声の主は先程の金髪の紅い悪魔。

七色の翼を広げ、55口径の馬鹿でかい銃をチルノの首に突き付けていた。

戦車ですら破壊するシロモノで、軽く5トンはあるだろう。

紅い悪魔はそんな獲物を片手で軽々と構えていたのだった。

チルノはゆっくりと両手を挙げる。

 

「やっとみつけたわ、氷の妖精さん」

 

フランドール・スカーレットはニタリと笑った。



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冷気を操る程度の能力

月日は百対の過客であり、川の流れもまた旅人である。

 

しかし吸血鬼は趣を異とする。

 

永遠を統べる吸血鬼にとって、歳月は小鳥のさえずりが如き些末なことである。

一方で、豊かな水の流れは大いなる障壁だ。

吸血鬼は流れる水を渡ることができない。

甚だ不思議なことだが、世界が理を保つ上では必要な事なのであろう。

 

川面に揺れる月明かりを眺めながら、青髪の吸血鬼レミリア・スカーレットはつまらない感傷に浸っていた。

夜の川辺にすでに人の姿はなく、どこからかカエルの鳴き声が聞こえるばかりだ。

 

日が落ちて妖異の時間となれば、紅い悪魔フランドール・スカーレットが現れる。

もはや赤子ですら知っていることだ。

紅い悪魔に食い散らかされるのを恐れ、人は皆しっかりと戸締りをしてじっと息を潜める。

 

そんな弱弱しい呼吸とは少しだけ違う息遣いが一つ。

暗い茂みの蛍の光をかき分けて、やがてレミリアの背後に立つ。

冷気を放つ妖異の類だ。

 

「お前がレミリア・スカーレットか?」

 

両手を腰に当て仁王立ちした青髪の氷精チルノはレミリアに問うた。

レミリアは微動だにしない。

完全無視を決め込まれて、チルノは六枚の青い羽ををピクピクと震わせた。

 

「おい、お前がレミリアだろ? 答えろよ。やっちまうぞ?」

 

右手を握って凄んでみせる。

 

レミリアはゆっくりとた立ちあがると、スカートの裾のほこりをポンポンと払ってから、

 

「妖精風情が私の名前を気安く呼ぶな。やっちまうぞ?」

 

悠然と振り返ると静かに、そして力強く答えた。

レミリアの赤目が氷精をしっかりと捉える。

これ以上の稚気は許さない。

ロード種だけが持つ気品と殺気がそう伝えていた。

 

(秒で死ねるな。やっぱり吸血鬼は苦手だなー)

 

チルノの背筋に流れる冷たい汗が一瞬で凍り砕け散る。

それでもどうにか言葉を捻り出す。

 

「お前宛の伝言を預かっている。」

 

「ほう。そんな素敵な謀を嗜むのは誰か?」

 

レミリアは小首を傾げ逡巡する。

別命を与えた咲夜の顔が浮かんだが果たしてどうか。

 

「『私を追うな。この世界を紅に染めるまで私は止まらない』」

 

「フランドールからか!?」

 

予想外の内容にレミリアの瞳孔が一気に閉じて「能力」が無意識に発動した。

カエルの鳴き声が消え、運命が歪んだ。

 

「フランドールの様子は? まさか笑っていたか?」

 

レミリアは柄にもなく早口に言葉を紡いだ。

 

「ああ。とても嬉しそうだったなー」

 

チルノはフランの狂った笑顔を思い出してブルブルッと体を震わす。

真冬の氷よりも冷たい目をしていた。

 

「フランドールはあまのじゃく。私に追って欲しいのよ。その方がおもしろいと思っているから」

 

レミリアはフフフと笑った。

 

「吸血鬼って皆そうなのか?」

 

さすがのチルノも呆れて尋ねた。

 

「さあ?」

 

(やれやれなこった)

 

チルノは大きくため息をつく。

ため息はキラキラと輝き放ちやがて消えた。

 

「フランはどちらへ?」

 

「川を越えて、彼の国へ」

 

チルノは大河の彼方を指差して顎をしゃくった。

 

「あらあら。どうやって?」

 

レミリアは小首を傾げる。

吸血鬼は流れる水を、川を渡ることができないからだ。

 

「アタイが川を凍らせた」

 

「もう一度やりなさい。私も行くわ」

 

「断れば?」

 

「お前にそんな選択肢は存在しない。分かるだろう?」

 

レミリアの目が怪しく光る。

狂った笑顔はまさに悪魔そのもの。

言われるがままにするのは癪だがそれでも了承せざるを得なかった。

 

(これだから吸血鬼は嫌いだ……)

 

チルノは近くで聞き耳を立てていたカエルを一匹両手ですっと捕えて、パッと凍らせて、えいっと川にぶん投げた。

他のカエル達が、ひどい八つ当たりだと一斉に抗議の声をあげる。

レミリアは我関せずと、凍り始めたその川の彼方をじっとみつめていた。



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運命を操るのは彼女なのか?

吹き抜ける砂と風。

彼方まで続く砂と岩。

既に日は暮れ風は冷たい。

月の光が荒野を照らす。

周辺の岩々は影を伸ばすが、2人の影は存在しない。

それは2人が人間ではない、妖異であることを意味する。

お互いに赤いコートを身に纏い、相対峙している。

強い風が二人のフードをめくりあげる。

 

片方は青髪、もう片方は金髪の少女。

背格好はどちらも10歳くらいなのだが、鋭い爪と赤い目は明らかに人間のそれではない。

二人とも人外の王たる吸血鬼の正統だ。

青髪の吸血鬼はレミリア・スカーレット。

金髪の悪魔はフランドール・スカーレット。

 

 

紅い悪魔、フランドール・スカーレット!

 

 

その名を聞いた人間は皆が皆、震えあがり、恐れ慄くだろう。

 

「いたずらをする悪い子は紅い悪魔に食べられてしまうぞ」

 

そんな風に育てられた子は、血相を変えて逃げ出すに違いない。

2体の紅い悪魔は覇気とか瘴気といった類の、ここにいたくない、いられない空気のようなものを発していた。

そしてその空気をレミリア自身がヒシヒシと感じている。

 

(フランドール……。なんて恐ろしい子なのかしら)

 

吸血鬼は本来は恐怖を感じない。

食物連鎖の頂点、最も強靭であるはずの吸血鬼のそのロード種。

レミリアこそがその頂点に君臨するはずなのだが、目の前にいる妹のフランドールはそれすらも超える存在になろうとしているようだ。

 

(それとも人まねごっこを続けた結果なのか……)

 

吸血鬼がその圧倒的な力そのままに人間界で暴れまわれば、運命が大きく揺らぐ。

家を飛び出し暴れまわるフランを連れ帰るためとはいえ、不必要な運命への干渉は極力避けたかった。

それ故、吸血鬼の力を極力抑え、人間の如く銃を携えここまできた。

がしかし……、フランの圧倒的な覇気をうけてレミリアの首筋を汗が伝う。

それは冷や汗と言えるものなのだが、本来吸血鬼が流すものではない。

もはや流転する運命の終着先は誰も知るすべがないのかもしれない。

 

「ご機嫌麗しゅうございます、お姉さま」

 

睨み合ってどれだけの時間が流れたか、先に口を開いたのはフランの方だった。

フランが殺気をそのままに仰々しく頭は下げるが、赤い目はレミリアを捉えて離さない。

口を開き犬歯をむき出しにしたニタリ顔を見て、レミリアははっとした。

 

「……フランドール、元気そうね」

 

なんとか声を絞り出す。喉がカラカラだ。

ああ、血が欲しい。

ここまで血を欲するのは初めてのことかもしれない。

 

「ここで終わりにするわよ」

 

レミリアは自分に言い聞かせるように声を捻り出した。

 

「いいえ、まだまだもっともっと世界を壊すの。そしてお姉さまは私を追い続けるのよ。私の圧倒的な力にひれ伏すまでずっとずっと。ずっとよ」

 

フランは両手を広げ、月の光を一杯に浴びて踊り狂い、一層嬉しそうに白い歯をみせた。

 

「子供みたいな駄々をこねるのもいい加減になさい。ツェペシ公から始まるスカーレット家八代の血脈と時間と運命をそんな下らないことに費やすのはやめなさい!」

 

余りにも子供じみた言い分と振舞いにレミリアは思わず声を荒げた。

フランの顔が恐ろしくアシンメトリーに歪む。

 

「お姉さまはいつだってそう。わたしを子供扱いして。5歳違うだけでそんなに偉そうにして!」

 

周囲の山のような大きさの岩々がフランの怒りに同調するかのように砕けて弾け飛ぶ。

 

「正統たる証である『運命を操る力』はその長子に継承される。証とは即ち紅し(あかし)。それがスカーレットたる由縁。それは時間の長短ではない。それをフラン、あなたも知らないとは言わせないわ」

 

「どうやって!」

 

フランが、はちきれんばかりの怒声で叫ぶ。

砕けて砂と化してなお、フランに同調する岩と大地。

 

「それでどうやって決着をつけるの? レミリア!」

 

フランがあくまでも、スカーレットの正統たるレミリア・スカーレットに仇名す賊として存在を主張するらしい。

 

「銃で決着をつけましょう。ただただ暴れまわる吸血鬼を抑えるだけなら人の力で十分よ」

 

迷いの消えたレミリアは大きく腕を突き出した。

 

「弾幕ごっこって訳ね。結構よ、お相手してさしあげるわわ」

フランは55口径の大砲を2門を取り出しのそりと両手に構えた。

 

レミリアは懐から自動小銃をとりだす。

弾は能力を込めた特別性だ。

右足を前に出し、半身の右手で銃を静かに構えた。

 

もう迷いはない。

 

2体のヒトならざる吸血鬼が、初めて優劣なく対峙した。



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死せる悪魔のためのパヴァーヌ

 妖霧ただよう湖に浮かぶ小さな島。

 およそ人外の空間にたたずむ窓の少ない紅色の館。

 悪魔の住処。

 昼も夜もないこの館の地下で、スカーレットデビルは自身の背丈の倍以上ある重厚な扉の前に立っていた。

 その瞳に光はなく、扉の先にある儚い幻想を見ているかのようだった。

 どれほどの時がたったか、少女の両手ではとうてい収まらないような大きな大きな鍵をそっと取り出す。

 六曜の術式が発動し紅い光とともにガチャリと施錠音が響く。

 

"誰とてこの扉を開くこと能わず"

 

 空間に青色の文字が静かに浮かびあがり、やがて薄れて消えた。

 

--------------------

 

 不毛の荒野で二体の吸血鬼が銃を構え対峙している。

 あらゆる生命、餓鬼やイタズラ妖精の類に至るまでが、巻き込まれまいと尻尾を巻いて逃げ出していた。

 

 レミリアはニタリと笑うフランを見て、青髪をかきあげながら考えていた。

 考えも趣向も同じだったはずのなのに今や運命を違え対峙している。

 これは誰が望んだ結末なのだろう。

 私ではないはずだ。

 屋敷の地下の棺で静かに眠り時を過ごす。

 力を誇示せず、誰の運命にも世界の運命にも不干渉を貫く。

 ただただ静かに暮らす。

 それだけを望んでいたはずなのに。

 忌々しいずれたサングラスをはずし、グッと力を込めて頭にのせた。

 

 フランの楽しそうなソプラノ声が闇夜に響く。

 

「レミリア、あなたは人間の世界に出てきて何人食べたの?

 私達は吸血鬼の正統。

 形あるものないもの全てを統べる頂きよ。

 力で抑えつけ、破壊して、食い尽くす。

 私達にはその力と権利がある。

 そういう運命にあるのよ」

 

 レミリアはコントラルトドラマティコの声で静かに言葉を返す。

 

「不必要な殺生、干渉は調和を乱し運命が乱れるわ。

 私達は強い。

 しかし人間は群れて知恵をつければ十分な脅威となる」

 

 レミリアは右手の銃をチラリと見やった。

 銃は非力な人間でも怪物と対峙でき得る武器となりうる。

 そう確信していた。

 人間を無闇に刺激するのは愚策だ。

 

「運命が乱れる? あなたは怖いだけよ、レミリア。

 あなたは何人食べたの?

 食べてないんでしょ?

 運命を口実にしてつまらない安寧にあぐらをかいて‥

 あなたは何かが変わるが怖いのよ。

 だから私を押さえつけてその言い訳にしてる。

 本当はあなたが閉じこもっていたいだけでしょ。

 一人で好きなだけ閉じこもってなさいよ!

 頂点に立つ王は常に一体。

 私を壊したければ力を使いなさい、レミリア」

 

 フランの怒気が周囲の空気をピリッと弾いた。

 

「力の行使によってどれだけ世界が歪むのか身をもって知るべきよ、フランドール」

 

 レミリアは震える腕を鎮め、未知の運命と向き合う覚悟を決める。

 呼吸を整え、フランに狙いを定めた銃の引き金を力をこめて引いた。

 同時に能力を発動。

 フランドールの力も体も存在しない運命にする。

 レミリアの瞳孔が閉じ、その瞳は紅く染まっていく。

 美しい青髪が逆立ち、爪が針のように尖り、牙は鋭さを増していく。

 場の空気が収縮し空間が、そして運命が歪む。

 

 フランは左手一つでそれらを軽く払いのけた。

 あまりにもあっさりといなされて、さすがのレミリアもとまどい次の動作が遅れた。

 フランは好機とみるや、体を捻り右手の砲をレミリアにむけ、最大限の力を込めてぶっ放した。

 レミリアの全てを破壊しつくす。

 その肉体も、存在も、運命とやらも。

 今までで使ったことがないくらいのめいいっぱいの力を込めた。

 フランの瞳は一瞬で紅に染まり、恐ろしい能力の反動で体ごと後ろに吹っ飛んだ。

 放たれた砲弾は空気を切り裂き、時空も運命も切り裂きレミリアを襲う。

 自然の摂理を逸脱した一撃は、風と雷と氷をまといほとばしる。

 

 回避不能!

 レミリアはその紅い瞳で、迫り来る砲弾を惚けた顔でただただ見ていた。

 人間の一瞬の時間で永遠を得るのが吸血鬼である。

 その吸血鬼の一瞬とは刹那の中の刹那。

 レミリアはまったく動けなかった。

 

 一瞬、時が停まった。

 

 フランの放った能力がレミリアを襲う。

 禍々しい悪魔のような光がレミリアを包みこみ、より強く光りだす。

 そして、レミリアの存在に対してフランの破壊の力が及ばんとするまさにその時、光がはじけて、その力ごと忽然と消え失せた。

 

 同じタイプの能力は対消滅する…

 この道理により、フランが発動した能力は消滅した。

 

 竜の顎のような砂煙が舞い、二体の悪魔を分かつ。

 静寂があたりを覆い、やがて荒野に吹く風がそれらを吹き流す。

 再び姿を現した二体の悪魔たち。

 極限の力を使い果たし膝をつくフラン。

 その呼吸は激しい。

 正眼に銃を構えフランを冷たく狙うレミリア。

 

 「コンティニューは出来ないわよ」

 

 そう言ってレミリアは静かに引き金を引いた。

 放たれた弾丸がフランの眉間を貫く…、いや、貫きはしない。

 鉄の弾では吸血鬼を傷つけることはできない。

 しかしその弾丸は、レミリアのがあらかじめ能力を込めておいた特別性。

 やがて悪魔の体に異変が起こった。

 スカーレットデビルは禍々しい光に包まれる。

 

 フランの人間界での行いとその報いを、レミリアが身代わりとなって全て受けいれ、フランドールには永遠の安寧をもたらすという運命の大変換。

 空間軸と時間軸が大きく歪んでいく。

 

 信じられないという驚きでめいいっぱい開かれたフランの瞳は、レミリアの後方彼方にたたずむ、銀髪の瀟洒な少女の姿を捉えていた。

 

--------------------

 

 記憶の中のレミリアが低い声で言う。

「もしも私がフランドールと対峙して彼女の力が先に発動した時は、あなたの力を使いなさい。

 我ら姉妹と同じタイプのその力を‥」

 

(本当にこれでよかったのですか、お嬢様‥)

 

 紅魔館の地下で感傷に浸っていた十六夜咲夜は、無意識に流れ出た涙にふと我に返った。

 

"誰とてこの扉を開くこと能わず"

 

 空間に青色の文字が静かに浮かびあがり、やがて薄れて消えた。

 

 咲夜は思う。

 「彼女」は「閉じ込めた」のか、それとも自ら「閉じこもった」のか。

 おそらく内と外の定義でどちらともなるだろう。

 そして私がお仕えしている「彼女」は、果たしてレミリア・スカーレットなのだろうか、それともフランドール・スカーレットなのだろうか。

 

「不定ね」

 

 咲夜の心の問いに答えたのは妙に高い声だった。

 咲夜は首を振って雑念を振り払い、メイド長としての職務を思い出す。

 踵を返し地上へと戻る主の後ろにつき従う。

 長く暗い石造りの階段の途中で、咲夜は一度だけ振り返った。

 

 地下通路に侍る妖精メイドたちの羽が、か細くたゆたうロウソクの火を受け紅く揺れていた。

 それは亡き王女のためのパヴァーヌが如く儚げであった。

 

 

 

Turn to the Embodiment of Scarlet Devil.

 



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