その手に握る刀は何のために (ユウヤ)
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プロローグ
プロローグ


「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「ゴァァァァァ!!」

 

とある密林に鬼気とした叫びが響き、重い咆哮が轟く。現在、一人のハンターと陸の女王リオレイアが戦っていた。ハンターはリオレイアの攻撃を避け続け、一瞬の隙を見切って背中の太刀を一閃する。リオレイアも黙ってはおらず尻尾を振り回し、時に噛み付き、火球を吐いてハンターが近づくのを防いでいた。

 

「その尻尾、もらった!!」

 

リオレイアが尻尾を振るのに合わせてハンターは太刀を逆回転で当てて尻尾の勢いと太刀の切れ味を利用して尻尾を切断する。

 

「グオァァァァァ!?」

 

尻尾が切れたことでリオレイアは断末魔を上げて転がりまわる。その隙をハンターが逃すわけが無かった。一気に距離を詰めて太刀に気を込め大きく振り下ろす。振り下ろすたびに太刀は赤い光を放つ。太刀使いの技、『気刃斬り』だ。

 

「ふっ、はっ、せい・・・おるぁ!!」

 

最後に太刀を腰に構え、一気に振り上げた。太刀使いでも使えるのは僅かと言われる技、『気刃放出斬り』だ。太刀に込めた気を一気に開放して気の刃で斬りつける。

 

ドパァ!!

 

放出された気刃は空気を叩き斬り、凄まじい音共に気の刃がリオレイアに迫る。

 

「ガァァァァァ!?」

 

今日一番の咆哮を上げてリオレイアは仰け反った。気刃の勢いが巨体のリオレイアを動かしたのだ。ハンターはそれ以上攻撃はせず、ただリオレイアを見ていた。

 

「ゴァァァ・・・。」

 

リオレイアは呻き声のような声を発して仰け反った体勢から地に倒れた。つまり戦いは終わったのだ。

 

シャリン・・・

 

ハンターはリオレイアが倒れたのを確認して太刀を背中の鞘に納めた。

 

「さて、剥ぎ取って帰るとするか。」

 

 

そう言ってハンターは腰に挿している剥ぎ取り用ナイフでリオレイアの骸から素材を剥ぎ取る。一抱えもある甲殻や鱗、棘を剥ぎ取ってベースキャンプに戻って船で帰りの準備を始めた。

 

所変わってメゼポルタの大衆酒場。リオレイアを討伐したハンターは現在の拠点であるメゼポルタに一日掛けて戻ってきていた。

 

「これが今回の報酬です。お疲れ様でした~。それとお手紙を預かっています。」

 

「ありがとう。」

 

今回の狩猟報告を終え、受付嬢から報酬とハンター宛の手紙を受け取る。それから別のカウンターで手ごろな料理を頼んだ。

 

「お待たせしました。こちらが氷砕サーモンの刺身と北風みかんのジュースです。」

 

少し待つと頼んでいた料理が運ばれてくる。刺身の魚も飲み物も一級品だった。他のハンターとは違い酒ではなくジュースと言う選択はあまり見ない。それはこのハンターが飲酒できない年齢だと言うことだ。名をユウヤ、年齢は18。実力は通常、着ている装備で判断できるのだがこのハンターの武具はギルドが定めた汎用防具ではない。どうやらギルドが特例を認めた名工が作った一品物らしい。一品物の武具を持っていると言う事はこのハンターの実力が歳と釣り合わないほど高いことがわかる。少し経つとハンターは食事を止めて手紙を開いた。

 

「手紙の送り主は・・・ドンドルマのギルドナイト本部か・・・。」

 

なんと送り主はギルドナイト、しかも本部からだった。送り主に驚いている様子が見えないことからどうやらギルドナイトに知己がいるようだ。

 

「やっぱりガルトさんからか・・・。『東方大陸の東部で雷狼竜の番いが目撃されたそうだ。雷狼竜の番いの出現によって周辺に住むモンスターが活発化しているらしい。付近には新米ハンターが一人しかいない小さな温泉村があり、今回はその村からの救援依頼だ。だが残念なことにその村は温泉村とは言え小さい。当然報酬金は少なくなってしまう。おかげでロックラックやタンジアの港のハンターズギルドで人を募っても報酬の少なさに手を挙げなかったそうだ。おかげで海を挟んだこちらに応援要請が来たということだ。大長老様からギルドナイトに正式に依頼が来た。すぐさまドンドルマでハンターを募ったが同じように人は来なかった。悲しいことだが報酬と難易度が彼らからすれば釣り合っていないのだろう。それで申し訳ないのだがもし君が良かったら応援に行って貰えないだろうか?』とねぇ・・・ふぅむ・・・。」

 

東方大陸の東部、その地域にはドンドルマやミナガルデでは確認されていないモンスターが多数発見されおり、現在でも断続的にモンスターが発見されるという半分未開の地だ。未開と言う言葉に惹かれてドンドルマやミナガルデから新モンスターを求めて旅立つハンターも少なくは無い。発見された雷狼竜・ジンオウガは近年メゼポルタが管理する狩場でも発見されている。一応このハンターは数回ほど経験はあった。そしてもう一つ、封筒には紙が入っていた。それを見ると初めてハンターは驚きを見せた。

 

「よりにもよって発見された場所の近くにある村が・・・ユクモ村だとはな・・・。行くしかないな。」

 

どうやらユクモ村と言うのはこのハンターにとって何かしら縁のあるところなのだろうか。名前を確認したとたんすぐに料理を食べ終えると酒場から急いで自室に帰り、手紙を書いてそれを再び酒場に戻って受付嬢に早急に返送するように言って渡し、また自室に戻って荷物をまとめ始めた。加えて自宅兼工房の炉を丁寧に崩して煉瓦にし、持ち運びができるようにした。どうやらこのハンター、狩猟だけでなく鍛冶もできるようだ。一晩寝ずに荷物をまとめ終え、竜車に荷物を積み終えて酒場に戻ってみると半日で手紙の返事が送られてきてた。内容は『依頼を引き受けてくれてありがとう』と言った感じだった。それを確認してハンターは家を売る手続きを終えると東方大陸の東部、ユクモ村を目指してドンドルマを旅立った。



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第一章
第一話 ユクモ村の小さな守り手


「せい!!やぁ!!」

 

「グルゥ・・・フォウ!!」

 

私は今この渓流に住む鳥竜種の親玉、ドスジャギィを相手取っている。先日、村の人が渓流へ筍を取りに来た時に発見して私が討伐に来ていた。既に取り巻きのジャギィ・ジャギィノスは討伐している。群れで行動させると非常に厄介だからだ。

 

「ウォッフォ!!」

 

色々と考えているとドスジャギィが身体を引いて、一気に突っ込んできた。ドスジャギィの一番危険な行動、タックル。これだけは食らってはいけない行動だ。それを右に転がることで回避する。タックルで私を通り過ぎたことでドスジャギィは私に背中を見せる。その隙を逃さず無防備な背中に向けて背中の太刀を抜刀し一気に斬りつける。

 

「フォァァァ!?」

 

「やぁぁぁ!!」

 

ドスジャギィが私の斬撃で怯んだところをさらに追撃する。太刀使いの技、気刃斬りを放つ。

 

「ふっ!!せい!!やぁぁぁ!!・・・あれ?」

 

最後の振り下ろしの前に気刃が解けてしまったのだ。まだ私はハンターになって一年ちょっと。まだ完全に気刃は習得していない。おかげで呆けた隙にドスジャギィは逃亡してしまう。

 

「しまった・・・あの方向はジャギィたちの巣だったはず・・・ちょっときついわね。」

 

文句を垂れつつ私は回復薬を飲み、武器の切れ味を戻して準備を整えてドスジャギィが逃げた巣へ向かう。すると案の定、ドスジャギィは眠っておりその周りをジャギィやジャギィノスが囲んでいた。かなり面倒だ。だが放っておけば削った体力は完治とまではならないけど回復してしまう。ここは腹を括って突っ込むしかないようだ。

 

「くっ・・・はぁぁぁ!!」

 

掛け声と共に私はジャギィの群れに突撃する。私の声に反応してジャギィたちが私に気づいて吼える。それが広がって他のジャギィたちも私に反応する。ジャギィたちの鳴き声でドスジャギィが起きる前にできるだけ数を減らす。私は背負った太刀・鉄刀の柄に手を掛けて近づいてきたジャギィに向けて抜刀し斬りつける。それだけでは倒しきれなかったが追撃で気刃できりつけて倒す。加えて連撃で近づいてきたジャギィたちを斬り払う。しかし少し遅かった。

 

「フォォォ・・・フォァァァ!!」

 

眠っていたドスジャギィが起きてしまったのだ。加えて息が荒い、怒っているのだ。おかげでほとんどの攻撃が致命傷となる可能性が大きくなったのだ。だが私は鉄刀を握り締めてドスジャギィに突撃する。逃げた時には僅かに足を引きずっていたように見えた。そして眠っていた時間は僅か。ここで一気に決める!!

 

「ふっ!!せい!!はぁぁぁ・・・!!」

 

一気に勝負を決めるべく私は握り締めた鉄刀に気を込めそれを開放する。幸運なことに一太刀目の右袈裟斬りでドスジャギィが怯んだことでさらに左袈裟斬り、そして左右の逆袈裟斬りを放ち最後に先ほどは失敗した振り下ろし時にさらに集中して気を込めて叫びと共に放つ。

 

「やぁぁぁ!!」

 

「フォァァァ!?」

 

何とか成功した気刃斬りを受けてドスジャギィは断末魔のような甲高い声を上げて倒れた。何とか討伐完了だ。親玉がやられたことでまだ生きているジャギィやジャギィノスはどこかへと逃げていった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

完全に巣が空っぽになったことを確認して私は膝をついて座り込んだ。当然息は荒い。気を使いこなせていないので疲労は余計大きくなる。少し休んで息を整えてからドスジャギィから素材を剥ぎ取ってユクモ村への帰路に着く。

 

 

 

 

 

ユクモ村に着くと村のみんなが村の中心、いつも村長が座っているところに集まっていた。集まっていた人の誰が気づいたのかはわからないが戻ってきた私を呼ぶ。私も何の集まりか気になってその集団に足を向ける。すると集まっていたみんなが流れるように私に道を作ってくれる。その道を歩くと予想通り村長と見慣れない人物の前に辿り着いた。

 

「お帰りなさい、レイナ。無事ドスジャギィは討伐できたようですね。」

 

「はい。」

 

「レイナ、こちらの方が今日付けでユクモ村に手を貸してくれることになったハンター、刀神のユウヤさんです。それでユウヤさん。こちらがレイナ。ユクモ村のハンターです。年齢は二人とも同じでしたね。」

 

「村長さん、その呼び方は勘弁してください。えぇっと、ユウヤだ。よろしく頼む。」

 

「よろしく・・・刀神ですって?」

 

「刀神の名前はロックラックで修行していたあなたでも知っているでしょう?」

 

「へ~・・・で、その刀神様(・・・)が何でこんな小さな村に?」

 

新しいハンターを募集していると言うことは知っていたけどまさか募集に応えてきたのが有名な刀神だとは思わなかった。これでは私の居る立場が消えたと宣言されたようなものだった。そんなことを思っている私のことなど知らんとばかりに刀神は口を開く。

 

「だからその呼び方は止してくれ。知り合いに頼まれたって事もあるけど、実際のところこの村にはちょっと縁があってな。まぁ、そんなところだ。」

 

私は内心思う。いくら私が修行のために数年村を空けていたとはいえその数年にコイツが村に来たなんて事は聞いたことが無い。加えて幼少からこの村に住む私の記憶にはこの人物に相当する記憶は無い。よって私はコイツに敵意を込めた視線を向ける。それに気づいたのか村長は溜息をつく。

 

「レイナ、失礼ですよ。それでレイナ、この際あなたはユウヤさんの弟子になってみてはどうでしょう?」

 

「え・・・はい!?一体何を言っているんですか、村長!!」

 

「そう声を荒らげないで。まだあなたはハンターになって日も浅い。なにより太刀使いにとって必須の気刃を使いこなせてないでしょう?それに年齢はあなたと同じですから気軽に聞けるはずです。」

 

「でも・・・。」

 

「許可ならユウヤさんは了承してくれています。後はあなた次第です。」

 

「・・・わかりました。」

 

「では話は決まりですね。それとユウヤさんの家はここを少し行くと空き家があります。あなたの仕事をするには十分でしょう。」

 

「何から何までありがとうございます。」

 

「それではレイナのこと、よろしくお願いしますよ。」

 

「え?あ、はい・・・。」

 

かの刀神と言われる奴がたじろぐ姿を見るのはいい気分ね。

 

「ではレイナ、彼を案内してあげてください。」

 

「わかりました。こっちよ、刀神サマ?」

 

嫌味、皮肉その他諸々を込めて私はコイツを呼ぶ。顔をしかめながらコイツは近くにおいてあった荷車を引いてついてくる。少し歩くコイツの家に到着する。

 

「ここがアンタの家よ。小さいけどね。」

 

ここでも私は嫌味を100%込めて言う。だが何も反応は無かった。それに苛立ちを覚えながら私は中に入るように促す。そして少し進むと私は勢いよく振り返り手刀を奴に突きつけた。

 

「・・・。」

 

「これは忠告よ。村長はアンタのことを良く思っているようだけど、私は違う。何を考えているか知らないけど、もしそれが村に害を与えることだったらその命は無いと思いなさい!!」

 

「・・・。」

 

そう言った瞬間、コイツの手刀が私の首に突きつけられていた。突きつけられるまでの動きが何も見えなかった。後悔先に立たず、まさにその言葉通り私はとんでもない奴を敵にしてしまった。



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第二話 風呂上りはやっぱり

「ふぅ・・・やっと着いた・・・。」

 

竜車に半日揺られ、次に船に半日掛けてようやくドンドルマのある西方大陸から東方大陸のタンジアの港に到着した。そしてそこからユクモ村行きの竜車に数刻揺られてようやく目的地、ユクモ村に着いた。

 

「すまないが救援依頼を受けてやって来たハンターだ。ここの村長さんに会えないだろうか?」

 

「おぉ!!こんな辺境にご足労痛み入ります。すぐに村長にお会いしてください。」

 

村の門番にギルド印の入った紙を見せて話を通すとすぐに村長に会えるようだ。門番に案内されて俺は村長の前に来た。

 

「まさかあなたが来るとは思いませんでしたよ。お久しぶりですね、ユウヤさん。」

 

「お久しぶりです、村長さん。」

 

俺は小さい頃、両親と一緒にこの村に来たことがあるのでここの村長とは面識があった。

 

「あなたの活躍はこんな遠くまで届いていますよ。昔はあんなに小さかったのに今ではハンター屈指の太刀使い・刀神まで成長するとは驚きですよ。」

 

「その呼び方は止めてください。」

 

「それであなたに頼みがあるのですが、この村唯一のハンターへの指導をお願いしたいのです。まだハンターになって日が浅いのです。今までは周辺のモンスターはおとなしかったのですが今ではこの村近くまで大なり小なり近づいてくるのです。今のあの子では良くて中型が精一杯。それ以上となると到底太刀打ちできません。どうかお願いします。」

 

「別に構いませんよ。そのハンターさんは?」

 

「今は近くに巣を作り始めたドスジャギィの討伐に赴いています。そろそろ帰ってくるでしょう。」

 

村長がそう言っていると俺と村長の前に一人の少女が来た。どうやらこの少女が村長の言う村唯一のハンターのようだ。

 

「お帰りなさい、レイナ。無事ドスジャギィは討伐できたようですね。」

 

「はい。」

 

「それで、こちらの方が今日付けでユクモ村に手を貸してくれることになったハンター、刀神ことユウヤさんです。」

 

「だから村長さん、その呼び方は勘弁してください。えぇっとユウヤだ。よろしく頼む。」

 

「・・・よろしく。刀神ですって?」

 

「刀神の名前はロックラックで修行していたあなたでも知っているでしょう?」

 

「その刀神様(・・・)が何でこんな小さな村に?」

 

いきなり敵意むき出しの目を向けられたが気にしないでおく。

 

「だからその呼び方は止してくれ。知り合いに頼まれたって事もあるけど、実際のところこの村にはちょっと縁があってな。まぁ、そんなところだ。」

 

「レイナ、失礼ですよ。それでレイナ、この際あなたはユウヤさんの弟子になってみてはどうでしょう?」

 

「え・・・はい!?一体何を言っているんですか、村長!!」

 

「そう声を荒らげないで。まだあなたはハンターになって日も浅い。なにより太刀使い必須の気刃を使いこなせてないでしょう?それに年齢はあなたと同じですから気軽に聞けるはずです。」

 

「でも・・・。」

 

「許可ならユウヤさんは了承してくれています。後はあなた次第です。」

 

「・・・わかりました。」

 

「では話は決まりですね。それとユウヤさんの家はここを少し行くと空き家があります。あなたの仕事をするには十分でしょう。」

 

「わかりました。」

 

「ではレイナ、彼を案内してあげてください。」

 

「わかりました。こっちよ、刀神サマ?」

 

やはりこの子は俺に敵意を向けてくる。まぁ、当然だろうな。自分で言うのもなんだがいきなり格上が来て弟子になれと言われたんだ。そりゃぁ敵意の一つ向けたくなるだろう。それと刀神は止めて欲しい。俺はそう思いながら荷物を積んである荷車を引いて後に続いた。石を積んでいるのでかなり重い・・・。

 

「ここがアンタの家よ。小さいけどね。」

 

促されるように中に入り少し進んだところでレイナは歩を止めてこちらに振り返る。それと同時に手刀を俺の首元に突きつけてきた。

 

 

「これは忠告よ。村長はアンタのことをよく思っているようだけど、私は違う。何を考えているか知らないけど、もしそれが村に害を与えることだったらその命は無いと思いなさい!!」

 

「・・・。」

 

その瞬間俺の何かが動いた。俺は本能に任せて手刀をレイナの首元に突きつけた。どうやらレイナは俺の動きが見えなかったのか、一瞬で手刀を自分の首に突きつけられていることに驚きを隠せないでいた。

 

「別に敵意を向けられることは構わん。それにお前が教わる気が無いなら俺も別段口を挟む気は無い。好きにしろ。」

 

俺がそう言い放つとレイナはバツが悪そうに腕を下ろす。俺もそれを確認して同じように腕を下ろす。

 

その後レイナはバツが悪そうに自分の家に帰った。俺は一人荷物を家に運び込んだ。あらかた運び込むと村長がやって来て案内したいところがあると言われてついていくと目的地は小さな川原だった。

 

「村長、ここは?」

 

「誰も使ってない場所です。あなたもこんな小さな村では色々と不便でしょうし自由に使ってくださいな。」

 

「それはありがたい。ご好意、感謝します。」

 

「それでは、がんばってください。」

 

そう言って村長は川原を後にした。俺は村長を見送るとすぐにこの場所を調べ始めた。川を見ると魚が悠々と泳いでいた。好物件すぎる。加えて畑にできそうな平地もあり何も困ることは無いだろう。それとどことなく懐かしい気がした。一応小さい頃にここを訪れたことがあるからその時にでも来たことがあるのだろう。俺は調べ終わるとさっそく家の改造に入る。

 

「まずは炉を作り直さないとな・・・。」

 

俺は他のハンターと違って一定の場所に腰を下ろすようなタイプではなく、各地を転戦するタイプだった。おかげで炉の作製・解体には慣れてしまった。一時間ほどして炉は出来上がった。長旅の疲れもあるがこれだけは一番最初に造っておきたいのだ。作業をしていると日が暮れてきた。俺は一旦作業を中断して夕飯の準備をした。準備とはいってもあらかじめ持ってきたパンと野菜とこんがり肉を出しただけだった。それを食べながら粗方完成した炉に火を入れて空焼きする。これで石材同士を接着するためのモルタルが乾く。そうしている内に時間は過ぎていく。長旅の疲れもあって眠気が凄い。俺は火が完全に落ちたのを確認すると着替えを持って外に出た。やっぱユクモと言ったら温泉だ。村自体は小さいが湯治場としての名は海を越えたドンドルマまで響いているのだ。長旅の疲れと先ほどまでの作業の汗を流すため集会浴場に向かった。

 

「ふぅぅぅぅ・・・。やっぱ懐かしいな。」

 

たまにお湯を掛けながら温泉を楽しんだ。そして温泉を出て着替えてちょっとした部屋に行くとやはり昔と同じようにドリンク屋のアイルーがドリンクを売っていた。

 

「ニャ、新しいハンターさんニャね。どうですかい?ユクモ自慢の温泉は。」

 

「昔来た時と変わってなかったから安心したよ。」

 

「それはニャンと。何時頃ですかニャ?」

 

「もう12年は前かなぁ。」

 

「それニャら先代の時ニャね。オイラは三年前に先代からこの店を引き継いだんだニャ。でも心配しニャさんニャ。品揃えは増えても減ることはニャいんだからニャ!!」

 

「それじゃぁ、ユクモミルクコーヒー一つ。」

 

「毎度ありニャ。」

 

やっぱ温泉と言ったらコーヒー牛乳だろう。

 

「あ、私もミルクコーヒー一つ。」

 

「毎度ニャ。」

 

「お?」

 

「げ・・・。」

 

「ほい、ミルクコーヒーニャ。レイナの旦那、今日もお疲れニャ。」

 

「え、えぇ・・・ありがと。」

 

「おっとハンターさん。」

 

「ん、俺か?」

 

「まだ名前を聞いてなかったニャ。オイラはモミ。よろしくニャ。」

 

「俺はユウヤだ。今後ともよろしく。」

 

そう言って俺もボンからミルクコーヒーを貰う。そして店から少し離れたところで一気飲みをする。やっぱ風呂の後はコーヒー牛乳一気飲みに限る。

 

「「プハァァァ!!」」

 

「「ん?」」

 

「「・・・。」」

 

「「ちっ・・・。」」

 

どうやら考えは同じだったらしく隣でレイナがコーヒー牛乳の一気飲みをしていた。それを見てなぜかレイナと行動がかぶったことに苛立ちを覚えた。いや、この場合は闘争心と言った方が良いか。どちらにせよ何故行動がかぶったことぐらいで闘争心を覚えたのか、それだけはわからなかった。その後少々にらみ合いをしたがキリがないのでさっさと空き瓶を返して家へ帰った。



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第三話 猛る猪と迫る影

ユクモ村に来て二日目の朝、俺は朝食と手早く済ませて昨日村長から貰った川原を整備をしていた。午前は少し身体を動かせるような広さを確保するため地ならしをした。元々平らだったので時間はかからなかった。今は少し休もうと思って川に釣り糸を垂れていた。釣り糸を垂らしながら夜までの予定を考えていた。

 

「今のところサシミウオが二匹とハリマグロ一匹か。まぁ一時間未満でこれは結構良いな。」

 

目の前の水面には多くの魚が遊泳していた。それを見て次はどいつが釣れるかなと思っていたその時だった。

 

ドボンッ

 

いきなり重い音と共に水面に波紋が立つ。おかげで撒き餌に寄ってきた魚が逃げてしまった。どうやら背後から石を投げられたようだ。犯人を見るため俺は背後を向いた。

 

「何のマネだ?」

 

石を投げ入れた犯人はレイナだった。そのレイナは挑発的な目を向けてくる。おかげで俺の機嫌は一瞬で斜めになる。

 

「別にぃ?それよりも村長が呼んでいるわ。依頼よ、依頼。着いて来なさい。」

 

俺は苛立ちを抑えつつ釣り糸を回収する。家に立ち寄り、釣ってきた三匹を氷結晶でできた保存箱に移してから村長の下に向かった。

 

「いきなりお呼びしてすみません。今朝渓流に竹を取りに行った村人の報告でファンゴの群れが山を降りてきたそうです。群れの中にはドスファンゴもいたとのこと。これでは村人は渓流に出かけることができません。ユウヤさん、レイナを連れてドスファンゴを討伐してきてもらえないでしょうか?」

 

「お前は良いのか?」

 

「すーっごく癪だけど仕方ないわ。今はアンタのほうが上だからね。すぐに準備してきなさいよ。遅かったら私一人で行くからね。」

 

「では、よろしくお願いします。」

 

集合は十分後となった。ドスファンゴなら特別これと言って準備をする必要は無いだろうと思い俺は武器箱から鬼哭斬破刀・真打を取り出して背負う。単純火力なら一瞬に終わるだろうが今回は俺は手を出さない予定だ。防具は軽装と言うことで籠手と具足を着けるだけにした。まぁ、そんなことをすれば当然・・・。

 

「何その格好。舐めてんの?」

 

「俺の装備は手入れが大変なんでな。それにどっちにしろ一人で狩るつもりだったんだろ?それなら俺は別段装備は最低限で良いだろ?」

 

当然レイナに喧嘩を売ったことになってしまう。加えてレイナの本心を当ててみるとどうやら図星だったらしく舌打ちをしていた。

 

「・・・行くわよ。」

 

「りょーかい。」

 

そう言って先行するレイナの後に続くように村を出た。

 

「さっきあんな事言ったんだから手は出さないでよね。」

 

「一々しつこいな。」

 

売り言葉に買い言葉。どうも俺とレイナは相容れぬ性格のようだ。その後も俺たちは言い争いながらドスファンゴがいそうな場所に向かった。

 

「・・・いたぞ。」

 

地図で言うとエリア7に入ると俺はドスファンゴの気配を感じ取った。遅れてレイナも気配を感じ取ったようでユクモノカサを被り直し、背中の太刀を抜き放つ。さらに進むとドスファンゴと数頭のファンゴの群れを確認できた。

 

「ドスファンゴには手は出さんが取り巻きのファンゴくらいだったら良いだろ?」

 

「好きにすれば。くれぐれも邪魔はしないでよね!!」

 

そう言い放ってレイナは群れの中心に突っ込んでいった。

 

「いくらなんでも無謀すぎる。」

 

そう思いつつ俺もファンゴ目掛けて突撃した。

 

 

 

「ふぅ・・・ファンゴは片付いたな。後は・・・。」

 

視線を狩り終えたファンゴから遠くでドスファンゴと戦っているレイナに向ける。動きは雑に見えるが理にかなっている。そう思っているとドスファンゴはレイナの攻撃で転倒した。その隙にレイナは気刃斬りを放つ。村長の言うとおり気刃を完全に習得できて無いようで最後の振り下ろしの前に気刃が解けてしまう。原因はいくつかあるが一番有力なのは集中力の持続性だろう。レイナもこれに当てはまる。

 

「っと、そろそろ終わりか・・・。」

 

最初から猛ラッシュをかけていたおかげで気刃が決まらなくともかなりのダメージを与えていたらしく、ドスファンゴは逃亡を図る。

 

「問題はあるが一番は本人次第だから・・・って、マズイ!!」

 

いきなり大きな気配を感じ取った俺は急いで逃亡するドスファンゴを追うレイナ目掛けて走った。

 

「伏せろ!!」

 

「ちょ!?何すんのさ!!キャァ!!」

 

レイナの抗議は無視で俺はレイナを巻き込んで転がり込む。その上をものすごいスピードで何者かが通過し、逃げるドスファンゴにトドメを刺す。それを見ていると腕の中にいたレイナが暴れだす。

 

「いいから放せ!!」

 

俺は突き飛ばされた。当然レイナは敵意どころか殺意を込めた視線を向けてくるが俺は気にせずある場所を指差す。一応俺たちとドスファンゴ以外に何かがいることはわかったらしくレイナは渋々その方向を向く。

 

「え・・・嘘、そんな!?」

 

俺が指差した場所を見てレイナは驚愕する。指差した場所いるソイツは得物を仕留め、さらに俺たちという新たな得物に狙いを定め地面に降り立つ。陸の女王、リオレイアのお出ましだった。

 

「そんな・・・。」

 

依然驚愕したレイナの表情はさらに悪化した。既にレイナは恐怖に支配されていた。その証拠にもう耐え切れなかったのか膝を突いて座り込んでしまう。それが合図となったのかリオレイアがこちらへ向かって突進してくる。

 

「ゴァァァ!!」

 

「ちぃ!!」

 

状況は悪いまではいかないが少なくとも良くは無い。そう思うと自然と舌打ち一つしたくなるのは仕方がないだろう。俺はリオレイアが迫っていると言うのにへたり込んでいるレイナを無理やり抱えリオレイアの突進をなんとかリオレイアの翼に潜り込むようにしてなんとか回避する。リオレイアとの距離が生まれるとレイナを地面に下ろすがまたレイナはへたり込んでしまう。すでにレイナの目からは闘志が消えていた。

 

「・・・仕方が無い。疲れるが一気に決めるしかないか。」

 

そう思うと俺はリオレイア目掛けて走り出した。リオレイアがこちらを向いた時には既に俺はリオレイアの懐にいた。

 

「ふっ!!」

 

俺は太刀を抜き放ち、一瞬で太刀に気を込める。そして右手だけで持ち、一気に気刃を開放し振り回す。

 

「ゴアァァァ!?」

 

いきなり何度も斬り付けられてリオレイアは思わず仰け反る。さらに俺は斬る速度を上げる。

 

「ゴアァ!!」

 

堪らなくなったのかリオレイアは大きく羽ばたいて俺から距離を取った。そして今度はこちらの番とばかりに突進してくる。だが生憎、それは俺にとって好都合だった。リオレイアがこちらの最適な間合いに入る直前に俺はその場で体ごと回転させる。

 

「気刃・・・顕現。」

 

半分ほど体が回転した瞬間、俺は呟くのと同時に最大限に気を鬼哭斬破刀に集中させた。それと同時に太刀を覆っていた気刃が巨大化し、回転を続けて迫るリオレイアの頭に叩きつける。

 

「ハァァァ!!」

 

叫びながら俺は渾身の一撃をリオレイアの頭に叩きつけた。己の突進の力と俺の技と向きが正反対の力がぶつかった時の威力は計り知れない。

 

「ガァァァァ!!」

 

ただリオレイアの断末魔がその衝撃の威力を物語っていた。断末魔が止むとリオレイアは地面に倒れた。

 

「ふぅ・・・。」

 

リオレイアの絶命と周囲にほかにモンスターがいないことを確認して俺は右手の鬼神斬破刀を鞘にしまう。そして今も震えているレイナのところへ向かう。

 

「大丈夫・・・ではないな。立てるか?」

 

「立て・・・っ!!」

 

リオレイアが討伐されたことで少しは威勢は戻ったようだが体の方は無理のようだった。

 

「はぁ・・・仕方が無い。ほら。」

 

「は、はぁ!?何するつもり!?」

 

俺はレイナの隣に回りレイナの脇を俺の肩に乗せて立たせる。当然いきなりのことでレイナが黙っているはずもなく抗議を始める。

 

「威勢は戻ったようだが体の方は限界だろう?」

 

「・・・。」

 

だが、図星なのか黙り込む。それを確認して俺たちは歩き出した。行きとは違って時間はかかったが無事にユクモ村に帰って来ることができた。当然俺たちの姿、特にレイナの様子を見た村人たちは驚きをあらわにする。当然依頼を出した村長も例外ではなかった。

 

「レイナ!?一体何があったのですか?」

 

「狩猟の最中にリオレイアが乱入してきてこうなった。リオレイアも依頼にあったドスファンゴも討伐してあります。」

 

「リオレイアが・・・。確かにリオレイアが住み着く時もありましたが、とにかく二人が無事に帰ってきてくれたので良かったです。お疲れのところすみませんが彼女を家まで送ってくれませんか?」

 

「も、もう一人で歩けるから!!放しなさい!!つ、疲れたからもう休む!!」

 

そう言ってレイナはふらつきながら帰っていった。

 

「大丈夫・・・なんですかね?」

 

「まぁ、大丈夫でしょう。」

 

「それじゃ、俺はドスファンゴの群れとリオレイアの回収に行ってきます。」

 

「よろしくお願いします。」

 

そう言って俺は村人さんに手伝ってもらいファンゴの群れとリオレイアを回収し、ギルドへの報告書を書いて郵便箱のところへ提出した。その後は温泉で疲れを癒し、久々の大立ち回りの疲労ですぐに寝てしまった。



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第四話 小さな守手と刀神

いきなり現れたソイツは悠々と地面に降り立った。飛龍種リオレイア。中型クラスしか見たことが無い私が恐怖するのに時間はかからなかった。膝を突いて地面に座り込んでしまう。

 

「ゴァァァ!!」

 

私が怯えている間に狙いを正確に定めたリオレイアがこちらへと突進してくる。立とうとしても足が震えてもがくこともできなかった。

 

「ちぃっ!!」

 

ユウヤの舌打ちが聞こえたときには私はユウヤに担がれていた。そして迫りくるリオレイアの突進を翼の下を潜ることで回避したのだ。信じられないと思っていると今度はリオレイアに向かってユウヤが走り出した。いくらなんでも無謀すぎる。まともな防具を身につけてないのに飛龍を相手取るなんてという私の考えは即座に砕け散る。

 

「ふっ!!」

 

一気にリオレイアの懐へ到達したユウヤは背負った太刀を右手で抜刀しそのまま片手で振り回し始めたのだ。加えて太刀が纏う光は紅、太刀使いでも実力者だけが使えると言う気刃の最高レベルの色だった。出鱈目な斬撃はリオレイアが仰け反ったことでさらに加速していく。

 

「ゴァァァ!!」

 

怒涛の連撃から逃げるようにリオレイアは大きく羽ばたいて距離を取る。そして反撃にユウヤへ向かって突進を始める。だが当のユウヤはただ太刀を構えているだけだった。またあのふざけた回避をするのかと思っているといきなり太刀を構えながら回り始めた。

 

「気刃・・・顕現。」

 

ユウヤが何か呟いたと思った瞬間、いきなりユウヤの太刀が纏っていた気刃が巨大化したのだ。いくらなんでも出鱈目にもほどがある。そしてその巨大な刃を片手でリオレイアの突進を受ける前に叩き付けた。

 

「ガァァァァ!!」

 

離れていても耳を塞いでしまいそうな断末魔を上げてリオレイアは倒れた。もう、目の前の事に頭が追いつかなくなり私の頭の中は真っ白になった。

 

「大丈夫・・・ではないな。立てるか?」

 

呆けているといつの間にかユウヤが目の前に屈んでいた。

 

「立て・・・っ!!」

 

恐怖で座り込むという失態をあろうことか一番見られたくない奴に見られてしまったことを今更ながら実感した。そしてまだ立てないというおまけもついてきた。

 

「はぁ・・・仕方が無い。ほら。」

 

「は、はぁ!?何するつもり!?」

 

呆れるような声が聞こえるといきなりユウヤは私の脇に肩を入れて無理やり立たせたのだ。

 

「威勢は戻ったようだが体の方は限界だろう?」

 

「・・・。」

 

抗議したかったが図星を突かれて何も言えなくなった。そのままユウヤは私に肩を貸して歩いてユクモ村を目指した。

 

「レイナちゃん、大丈夫かい?」

 

「どこか怪我でもしたの?」

 

当然こんな格好で村に入ればみんなが心配する。私は恥ずかしくて終始俯いていた。

 

「レイナ!?一体何があったのですか?」

 

村長も心配したのか珍しく声が大きかった。

 

「狩猟の最中にリオレイアが乱入してきてこうなった。リオレイアも依頼にあったドスファンゴも討伐してあります。」

 

「リオレイアが・・・。確かにたまにリオレイアが住み着く時もありましたが、とにかく二人が無事に帰ってきてくれたので良かったです。お疲れのところすみませんが彼女を家まで送ってくれませんか?」

 

村長とユウヤが会話している間に私はなんとか足を動かせるまでになった。

 

「も、もう一人で歩けるから!!放しなさい!!つ、疲れたからもう休む!!」

 

そしてユウヤの腕をなんとか振り払って私は逃げるように家へと帰った。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

私は着ていた装備を脱ぎ捨ててベットに倒れこんだ。今日は散々な日だった。嫌いなアイツと一緒に狩に出かけ、いきなり大物が乱入。加えてアイツはそれを数分とかからずに倒して見せた。そう思うと悔しいにもほどがあった。そして自分が惨めに思えた。あれだけ罵詈雑言を浴びせたのにも関わらずアイツは私を助けてくれた。ただ単についでだったかもしれない。でもそのついでが私を助けたのだ。そしてリオレイアを攻撃していた時、特に最後の一撃を放ったときのアイツの背中は輝いていた。いつか私もあんな風になりたいと思った。

 

「だけど、無理だよね。あれだけ言ったんだから。」

 

そう。私はユウヤに向けてありとあらゆる暴言を吐いたのだ。そんな都合のいい話があるわけがない。

 

「でも助けてもらったお礼と二日間のことは謝らない、と・・・zzz。」

 

ベットに寝ていたせいか一気に疲労が押し寄せてきて私はそのまま寝てしまった。

 

「はっ!!・・・もう朝か・・・。」

 

次に私が言葉を発した時は既に日が昇っていた。昨日はあのまま寝てしまったので私はまず集会浴場の温泉に浸かって昨日の汗と汚れを流した。そして景気づけにコーヒー牛乳の一気飲みをする。

 

「でもやっぱ、結局はここ次第か・・・。」

 

私は胸を叩きながら呟いた。そう、私は今からいつもはやらないことをする。だからこそ、いつもやっていることをして自身を鼓舞しようと思ったのだが、そんなんで変われるわけが無い。

 

「やることは、やらないとね。」

 

そう思って私はアイツの家に向かった。だが家にユウヤはいなかった。どこへ行ったのか探しに行くことにした。まずは昨日ユウヤがいた川原に行った。そして一歩踏み出そうとした瞬間、私の足は止まった。ユウヤを見た瞬間固まったのだ。だが今からの事への恐怖ではなかった。ユウヤはほとりの中心で演舞をしていた。それに見惚れてしまったのだ。綺麗や美しいじゃ表現できないほどその舞はすごかったのだ。そして時間は経ち、演舞は終わる。そしてユウヤは私に気づき、こちらへやってくる。

 

「どうした?こんな早くに。何かあったのか?」

 

「え、えぇ・・・。その!!今までごめんなさい!!それから・・・助けてくれてありがとうございました!!」

 

「・・・何だ、そんなことか。」

 

「へ?」

 

「いやぁ、お前が真面目な顔しているからまーた無理難題、たとえば昨日の技を教えろとか言うのかと思っていたからさ。」

 

「・・・もしそうだったら?」

 

「まぁ、断る理由もないし受けていたが?」

 

「何で?」

 

「は?」

 

「何でアンタはそんなに優しいの!?私はアンタを悪者呼ばわりした!!加えて罵倒した!!それなのに!!」

 

「・・・はぁ・・・何を言っているんだ。」

 

「ふぇ?」

 

「別に俺はお前がしてきたことに別段文句を言う気は無い。村を守る者なら当然の行いだと思う。」

 

「でも・・・。」

 

「ほれ。」

 

そう言ってユウヤは私に一本の木刀を差し出す。

 

「これを握るか握らないかはお前次第だ。」

 

ユウヤの言葉の意味は『教わりたいならこの木刀を取れ』ということだろうか?私は戸惑いながら木刀にを掴もうとする。すると少しユウヤは木刀を私から遠ざけた。

 

「え?」

 

「言っとくけど、修行は甘くはないぞ?」

 

そう言ったユウヤの顔は明らかに挑発していた。それだけで私は動けた。

 

「上等!!」

 

そう言って私はユウヤから奪い取るように木刀を取った。それが私の新しい一歩だった。



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第五話 響く悲鳴

朝早く、ほとりでは木刀同士がぶつかる音が響いていた。ユウヤとレイナが打ち合っていたのだ。二人とも動き易く、最低限の甲が付いているユクモの装備を着込んでトレーニングをしていた。ただユクモノハカマは裾が大きく少し邪魔なので裾をズボンのように細い物に替えている。

 

「つぁ!!」

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「っ!!まだまだっ!!」

 

刀神の名の通り太刀使いの頂点に君臨するユウヤと新米ハンターのレイナでは天地の差があるのは新米ハンターですらわかることだ。当然、今のように軍配はユウヤに上がる。だがレイナは果敢にユウヤへ立ち向かった。そして二人がトレーニングを始めて一週間が過ぎていた。同時に狩猟へ一週間行っていなかった。正確に言えば中型種の狩猟に行っていなだけで、渓流へ小型モンスターの討伐依頼と並行してユウヤの渓流ツアーに数回行ったくらいだった。

 

「そろそろ、休憩にしよう。腹減ったしな。」

 

「あ、私も。」

 

「じゃぁ、今日も家で食ってくか?」

 

「えぇ、そうするわ。」

 

そう言って二人はユウヤの家へと向かった。家について数分で料理ができあがる。料理と言っても冷凍してある野菜を炒めて、釣った魚を捌いて刺身にするといった簡単なものだった。

 

「今日はちょっと多めにしてみた。今日はアオアシラの狩猟に行くからな。」

 

「ありがと。じゃぁ、いただくわ。」

 

「いただきます。」

 

レイナに続いてユウヤも食事を始めた。朝からトレーニングをするとなると食後は腹具合を考えると却下。だが朝の涼しい中でトレーニングをするのは気持ちがいい、ということで朝は簡単な打ち合いをしていた。当然食事前に動けば腹が減る。だがレイナは料理はあまりしないほうであり、トレーニングをするようになって毎朝というかいつの間にか毎食全てユウヤの家で食べている。まぁ、レイナ自身狩りの方に力を入れていたせいで家事能力はまったくもって無いに等しい状態だったのだ。

 

「ふ~ぅ食べた食べた。おいしかったわ。」

 

「お粗末様。」

 

食事を終えてユウヤはそのまま食器を片付けていた。そして休憩を挟むとレイナは狩りの準備をするために自宅に戻った。同じくユウヤも同様に装備を整えていた。

 

「先日の事もあるし、ちゃんとしていかないとな。」

 

先日の事とは一週間前、ドスファンゴ狩猟の途中でリオレイアの乱入を受けた事だ。よくよく考えたらこの地域はギルドの支援が無い場所だ。通常のクエストならギルドから気球の支援を受けることができる。もし不測の事態が起きた場合はすぐに知らせてくれるのだが、ユクモ村など村からのギルドを介さない直接依頼での狩猟はギルドの支援が無いのでその場の判断で動く必要がある。となれば準備は万全にしなければならない。そう思いユウヤは装備を着込み、愛刀の鬼哭斬破刀・真打を背負い、補助用の小太刀を腰に挿す。装備を着込み終えて村長の下へ向かった。数分後同じようにレイナも村長のところへ来た。

 

「ごめん、遅れ・・・た!?」

 

「ん、どうした?」

 

「な、何なのよその装備は!?タンジアの港の工房カタログでも見たことないわ!!」

 

「そう言えば最初の時は籠手と具足だけだったからな。これが俺の装備だ。」

 

「まぁ、良いわ。それじゃ村長、行って来ます。」

 

「はい、行ってらっしゃい。」

 

「二人とも、頼んだぞー。」

 

村長や村人たちの見送りを受けて二人はユクモ村を出発した。

 

「それで、アオアシラだが、俺は何度か戦ったことがあるがレイナはどうなんだ?」

 

「私は討伐が一回、撃退を数回ってくらいしか。」

 

「そうか・・・まぁ、なんとかなる。俺は渓流には詳しくないんだが、どの辺りに出るんだ?」

 

「地図で言うと1と3と4以外の全エリアを徘徊しているわ。」

 

「結構広いな。確かエリア5と9にはアオアシラの好物のハチミツが採れる大きな蜂の巣があったな。そこに当たりをつけるか。」

 

「それが良いわね。」

 

そう言って二人はベースキャンプを出て、エリア5へと移動した移動する最中、ユウヤは一つ気になったことをたずねる。

 

「そういえばユクモ村には他のハンターはいないらしいが、レイナが訓練を受けている間はどうしていたんだ?」

 

「あぁ、そのことね。私がタンジアの訓練所に行ってた間はなんとか村のみんなで集めたお金を使ってハンターを雇っていたんだけど、最近渓流のすっごく奥でジンオウガを見つけた頃からハンターが来なくなってさ、それでタンジアのギルドに頼み込んで緊急依頼を出してもらったの。まさかドンドルマまで行くとは思っていなかったけどね。」

 

「なるほどな・・・いたぞ。」

 

いきなりユウヤが止まったのに合わせてレイナも止まる。視線の先には蜂の巣の目の前に堂々と座ってハチミツを食べるアオアシラの姿があった。

 

「どう攻めるの?」

 

「見た感じ下位個体だな。俺が行ってすぐ終わらせるのもアリだが、それじゃぁダメだ。せっかく一週間トレーニングしたんだからいざ実戦って感じだ。攻め方は回避重視の挟撃撹乱、アオアシラを挟んで左右から隙を突くといった感じだな。」

 

「了解。」

 

「それじゃ、俺は配置は基本俺がレイナに合わせるから好きに動け。それから俺は小太刀で攻撃する。さすがにコイツじゃすぐに終わっちまうからな。それじゃ、切り込むぞ!!」

 

そう言ってユウヤは小太刀を抜き放ってそのままアオアシラに接近する。それを応用にレイナも駆け出す。

 

「ゴモ?ゴモァァァ!!」

 

アオアシラも接近する二人に気づいて立ち上がり威嚇をし、接近してくるユウヤを引き裂こうと腕を振り下ろすがユウヤは滑り込むように迫る腕を回避しアオアシラの後ろを取り、小太刀に気刃を纏わせて一閃する。小太刀に使っている素材は鉄刀と同じなので当然威力は小さい。だがアオアシラの気を引くには十分だった。

 

「はぁぁぁ!!」

 

アオアシラはユウヤに振り向いたおかげでレイナに背中を晒してしまい、そこをレイナが鉄刀を抜き放って斬りつけた。傷は浅いようでアオアシラは少し唸るだけだった。そして今度はレイナに反応し、両腕で掴みかかるように切り裂こうとする。

 

「っ!!」

 

だがレイナは事前に回避行動を取っていたので軽々と回避する。そして当然背中はユウヤに向けられる。

 

「はっ!!」

 

ユウヤは一瞬でアオアシラの背中に横薙ぎに一閃し、さらに返す刀で同じ場所を二度斬りつける。だが一方的に攻め立てられたアオアシラの怒りは最高潮に達する。

 

「グモァァァ!!」

 

飛龍ほどの音量ではないがアオアシラの咆哮が轟いた。だが二人はアオアシラの怒りに怯むことなく、交互に斬りつけてアオアシラを撹乱することで無駄なく、安全にダメージを蓄積していった。レイナも次第に気刃を開放してさらにダメージは増えていった。アオアシラも反撃をするが事前に回避前提で動いているので易々と回避されていき隙が生まれる。アオアシラの行動一つ一つがアオアシラ自身を追い詰めることになっていた。ついにアオアシラも命の危機を感じ、逃亡を図る。

 

「待て!!」

 

「待つのはお前だ。」

 

そう言ってユウヤはアオアシラを追撃しようとするレイナを止める。

 

「連続して気刃を使ったから息が乱れている。少し休憩を挟んだ方がいい。」

 

「わかった。」

 

少々休憩を挟んで二人はアオアシラを追った。隣のエリア6に来るとアオアシラはエリアの真ん中に待ち構えたかのように立っていた。覚悟を決めたのか、自信があるのかはわからないが二人にとっては好都合だった。

 

「相手が弱っているとはいえ何があるかはわからん。さっき同様回避重視で行くぞ。」

 

「オッケー!!」

 

返事をすると同時に今度はレイナが先陣を切った。だがユウヤの様に軽業をできるわけではないので回り込むようにして接近していった。当然アオアシラはレイナを追うように回転するので自然と背中はユウヤに向けられる。ユウヤは自分に背中が向けられた瞬間、駆け出す。

 

「ふっ!!」

 

加速をつけた袈裟斬りは易々とアオアシラの毛皮を引き裂いていく。既にアオアシラの背中は切り傷だらけで残っている毛には血が大量に染み込んでいた。

 

「グモァァァ!?」

 

だがここでアオアシラは驚きの行動を見せたのだ。ユウヤに傷をえぐられて悲鳴を上げたがそれを耐えて最初から狙っているレイナに向けて腕を振るったのだ。

 

「きゃっ!?」

 

「レイナ!!」

 

レイナは攻撃の準備をしていたのでまともに回避できなかった。真正面から受けたが、爪ではなく前腕の甲殻で掬い上げられるように当たったので吹き飛ばされるだけで済んだ。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

いきなりレイナの悲鳴が上がったのだ。ちょうどアオアシラがレイナに被っているのでユウヤには何があったかわからなかった。当然、危険を排除するために小太刀をしまい、鬼哭斬破刀・真打を抜刀し斬りかかろうとした時。

 

「こんの・・・野郎がぁ!!」

 

今度はレイナの怒声が轟いたのだ。何があったのかはわからないがかなり怒っていることは確かだった。

 

「レイナ、大丈夫か!?」

 

「えぇ、なんとか。でも、ちょっと手を出すのは待って。」

 

「ガァ!?」

 

レイナの声が聞こえたと思った瞬間、今度はアオアシラの悲鳴が聞こえた。どうやらレイナが思いっきり斬りかかったのだ。気刃も発動して、さらに怒りが上乗せされて刀身が纏う光の色は白に変化していた。アオアシラはレイナの怒涛の斬撃を受けて体勢を崩す。レイナはアオアシラの体勢が崩れたのを見るや一気に鉄刀を振り回した。レイナが鉄刀を一振りするとアオアシラの悲鳴がほとばしる。一週間ユウヤと打ち合ったことで、レイナの剣速は格段に速くなっていた。そして最後の振り下ろしも決まるとアオアシラの声は聞こえなくなっていた。アオアシラを討伐したのだ。

 

「ふぅ、一時は驚いたがなんとかなったな。おつか・・・れ。」

 

「いやぁぁぁ!!」

 

「っ!?」

 

当然レイナは座り込んで今日一番の悲鳴を上げ、ユウヤは第六感に従って全力で首を逸らした。だがそんなことでレイナは黙るわけがない。よくよく考えればすぐにわかるはずだった。先ほどレイナが発した二度目の悲鳴の原因だ。レイナはアオアシラの腕甲に当たって吹き飛ばされたのだ。アオアシラの腕甲には棘が生えているので布で作られたユクモノ装備は耐え切れない。事実、腕甲の棘はレイナの胴装備を引き裂いただろう。これがレイナの二度目の悲鳴の原因だと思う。そして、怒りに任せてアオアシラを倒したのは良いのだが、激しく動いていたのでさらにユクモノドウギの破れ目はさらに大きくなるだろう。そして先ほどまでユウヤの視界を遮っていたアオアシラは倒れる。つまり俺の推測が当たった場合・・・。

 

「こんの、変態!!見たでしょ!?」

 

「見てない!!見てない!!」

 

ユウヤは必死に否定するがレイナは止まらない。かれこれ数分言い合っていたが、さすがになれない動きをしたせいで疲労が溜まっていたレイナが折れることで一旦収まった。

 

「・・・何か覆うものある?」

 

「確か応急措置用の包帯があったはずだ・・・ほれ。」

 

ユウヤはレイナに包帯を渡す。当然レイナに背を向けてだ。レイナはなんとか包帯で大事な部分を隠してやっとユクモ村に帰れるようになった。だが事情を知らない村人は包帯を巻いているレイナを見れば当然心配してしまう。それをのらりくらりで流して村長に報告をする。

 

「それにしても・・・その装備が破れたのは残念ですね・・・。」

 

「うん・・・お母さんに貰った大切な物なのに・・・。」

 

「・・・。」

 

どうやらレイナが着ているユクモノ装備は母親から貰ったものらしい。涙を流すあたりとても大切だったのだろう。ユウヤは無言でレイナを見ていた。ふと村長はユウヤを見て何かを思いついたかのように手を叩いた。

 

「でも心配は要りませんよ。ユウヤさんが作り直してくれますよ。」

 

「えっ!?ユウヤはハンターでしょ?」

 

「ユウヤさんの刀神と言う名の意味はただ強いだけではありません。刀に関わる全てに精通しているから刀神と呼ばれているのです。それにレイナは中型のモンスターを複数体討伐していますよね?この際、その装備を元にして新しい装備に作り変えてもらってはどうでしょうか?」

 

「そんなことできるの?」

 

「素材があればできる。」

 

「じゃぁ、頼むわ。」

 

「じゃぁ、今ある素材を・・・っとその前に討伐したアオアシラを持ってこないとな。せっかく討伐したのにジャギィの餌にされるのはもったいない。」

 

レイナは普段着の和服に着替え、ユウヤはそのままでアオアシラの亡骸を回収しに行った。



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第六話 刀神の由来

「にっしても、これは派手にやってたようだな。」

 

持って帰ってきたアオアシラをほとりに持って帰り、ついでに他の人たちに今までレイナが狩ったモンスターの死骸を同じようにほとりに持ってきてもらった。そして今はユウヤがそれぞれの死骸を見て使える素材を切り出していた。だがユウヤが来る前に倒したアオアシラは異常に焼け焦げていたのだ。

 

「あ~それはね・・・かなり爆弾使ったのよ。撃退するだけじゃ変わらないって思ってさ。」

 

焦げ具合を見る限り大タル爆弾Gも使っているようだ。それほど必死だったと言うことだろう。討伐時のことをレイナと話しながらユウヤはドスジャギィ4頭とアオアシラ2頭の解体を終えた。

 

「で、できそう?」

 

いつもと違って不安そうにレイナがユウヤに結果を聞く。

 

「まぁ、数があるから問題は無い。ここにギルド支部が無くて正解だったな。あったらこの半分ほどギルドに持っていかれるからな。さて、素材を荷車に積んで作業開始だな。」

 

「でも、もう日が傾いているわよ?」

 

レイナの言うとおり既に夕刻、空は茜色に染まっていた。

 

「どの道お前は明日狩りに出れない。それに防具を作るとなると半日はかかる。だから早めに作っておくに限る。」

 

「わかった。でも無理はしないでよ。」

 

「もちろんだ。」

 

そう言って素材が満載の荷車をユウヤが引き、レイナが押してユウヤの工房まで運び込んだ。

 

「ふぅ・・・後は作るだけだな。レイナ、ユクモノ装備を。」

 

「よろしく頼むわ。」

 

「承った。あぁ、ハカマはそのままの形では使えないんだが・・・その、形を崩しても良いか?」

 

「うん、新しい装備に生まれ変わってくれるならユウヤのやりやすいようにして良いわ。」

 

「わかった。あぁ、レイナはもう休んでくれ。俺が防具を作っている間村を守れるのはお前だけだ。休める時に休んでいてくれ。明日の朝にはできる予定だからそん時に取りに来てくれ。」

 

「わかったわ。」

 

そう言ってレイナは自宅へ帰っていった。

 

「さて、始めるとしますか。」

 

そう言ってユウヤは作業を始めた。まずはどんな防具にするかを決めるためスケッチブックに部位ごとに分けて描いていく。今回はユクモノ装備の面影を残したまま、実戦に耐えうるようにするのが目的だ。

 

「・・・っとまぁ、こんな感じか。」

 

大体の完成予想図が描けると、防具の下地になるユクモノ装備の修繕をする。しかしよく考えたらこのユクモノ装備は本来、狩猟用防具ではない。ユクモ村では新米ハンターの装備として扱われているようだ。

 

「それにしてもこれは酷い。かなり破けているな。」

 

そう言って先の戦闘で破れた胴着を手馴れた手つきで縫っていく。酷いとは言っても破れたのは胴部分で周囲で当て布をして縫うだけですぐに完了する。

 

「まずは・・・胴だな。」

 

そう言ってアオアシラの甲殻をいくつか選別して胴当てと背当てに丁度良さそうなのを複数選ぶ。選定した甲殻の裏を平らになるように削っていく。削り終わると甲殻を小札に加工していく。幸いにもアオアシラの甲殻が曲がりやすいようになっていたので切断にはさほど苦労しなかった。切り出すと一枚一枚丁寧に紐で結んでいく。これがかなり時間がかかった。

 

「ふぅ・・・久しぶりに小札なんて作ったから時間がかかっちまったな。」

 

自分の装備にも複数の部位に小札を使っているのだが、ユクモ村に来てからは一度も新しい紐に交換ために分解していなかった。レイナの防具ができたら自分の防具もメンテナンスしないとな、と思っていると胴当てと背当てを組み合わせて胴が完成する。完成した胴組み立てて置いた防具用飾台に仮置きして次の作業に移る。

 

「次に羽織には・・・アオアシラの毛皮を使うか。」

 

羽織りにある程度毛を切って平らにしたアオアシラの毛皮を縫い直した胴着に当てながら時には裁断し、時には縫い合わせて調整していった。レイナの正確な体格は測っていないが預かったユクモノ装備の大きさで大体の体格はわかるのでさほど苦労することは無かった。

 

「飾りに襟の部分を毛で装飾っと。これで羽織は完成だな。」

 

羽織は脱着のことを考えて袖なしタイプにした。ユウヤは飾台に胴着を着せて胴を付けてその上から羽織を着せて具合を確かめる。

 

「ふむ・・・肩鎧には棘を少々削った腕甲をそのままで十分だな。案外アオアシラの腕甲は飛竜種レベルの固さがあるからな。」

 

ユクモノ装備の色に合わせてドスジャギィの皮をセンショク草・黒で染めていく。染まり終わって、さわっても色移りが無いのを確認して胴着の肩になるように縫い合わせる。肩当にも紐を通して着脱式にする。

 

「次は籠手だな。」

 

そう言ってユウヤはユクモノコテに合わせて袖を作っていく。使うのはセンショク草・黒で染めたドスジャギィの皮だ。袖を縫い終わると次は前腕を守るための甲を作る。甲にもアオアシラの甲殻を使う。何分、アオアシラの甲殻は薄いのだが小札のように加工すれば下手な飛竜防具レベルになる。

 

「ふぁぁぁぁ・・・眠いが仕方が無いからな・・・。」

 

そう言ってユクモノコテにアオアシラの甲殻でできた小札の甲を付ける。ユクモノコテを基にしたので袖を新たに作る必要が無かったので時間はそこまでかからなかった。次に腰当てを作る。

 

「コイツもユクモノオビを使うか。当て布にドスジャギィの皮を当てて、草摺りを付ければ良いかな。」

 

そう言って再び小札を作り始める。その間にユクモノオビの腰布をセンショク草・黒で染色する。合計八枚の小札ができると黒く染まったユクモノオビの腰布の上からアオアシラの小札を取り付けていくと腰当てが完成する。完成した腰当てを飾台に飾る。

 

「さて、次は足だな。」

 

そう言ってユウヤはユクモノハカマを具足の下地に縫いかえる。裏地にドスジャギィの皮を使って基礎耐久を底上げする。次に腿を守る佩楯・膝を守る立挙にはアオアシラの甲殻を、足を守る臑当にはアオアシラの腕甲と、今回の装備製作にはアオアシラの素材を大量に使用している。個人的にアオアシラの素材が好きだからと言うのもある。そう考えているうちに具足も完成する。

 

「残るは頭だけだな。流石にカサは使えないからな・・・。」

 

ユウヤはユクモノカサを離れた場所に置き、倉庫から複数の鉱石を持って工房に戻る。モンスターの素材の大半はドンドルマを立つ時に売却したが、希少なモンスターの素材や鉱石系は全て持ってきている。おかげで倉庫は素材だけで埋まっていた。その中からレイナの現在のHRに合わせた二種類の鉱石を持ってくる。鉄鉱石とマカライト鉱石だ。まずは鉄鉱石をいくつか炉に入れてひたすら鍛錬する。鉄鉱石は鉱石の中では硬度は最下位レベルだが、大量に使って鍛錬すれば話は別だ。他の鉱石は硬すぎることや入手し難いのが原因で鍛錬がし難いのだが、鉄鉱石は鍛錬しやすいので軽量かつ硬くすることができるのだ。

 

「原型はこれくらいだな。」

 

最初は20個に及ぶ数があった鉄鉱石は鍛錬が終わったときにはユウヤの手に収まるくらいになっていた。だが硬さは上位のカブレライト鋼に及び、重さはマカライト鋼よりも軽いと言うものになっていた。これに今回の装備素材の大半をしめるアオアシラの青色に合わせてマカライト鋼で額部分を装飾する。それから肌に当たる部分に当て布を忘れずにつけ、最後に額の裏から紐を通して完成する。

 

「さて・・・完成だな。」

 

最後に完成した半首を飾台に飾って一息つく。流石に無いとは思うが一応塵などが付かないように布を被せた。完成したことへの安堵なのかそのまま椅子に座って寝てしまった。



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第七話 お勘定は?

「・・・きて!!あ~もう!!起きなさい!!」

 

「・・・んあ?あぁ、もう朝か・・・。」

 

本日の目覚めはレイナの怒声だった。どうやら完成した後、そのまま工房の椅子で寝てしまっていたようだ。

 

「ったぁく・・・遅い!!っと言いたいところだけど、がんばってくれたみたいだからそれでチャラよ。まぁ、下手な物だったら容赦しないけどね。」

 

「そりゃぁ手厳しいことで・・・。」

 

「それで、私の新しい装備はこれ?」

 

レイナは布に覆われた飾台を指差して聞いてくる。

 

「あぁ、見て驚くなよ?」

 

そう言って俺は飾台の布を盛大に取り払った。

 

「・・・これが、私の・・・装備?」

 

レイナは見違えた・・・というか9割強変化した自分の装備を見て唖然としていた。

 

「感想は?」

 

そう言うとレイナはいきなり俺の襟首を掴んで揺さぶってくる。

 

「ちょ、ちょっと!!これは何!?何の素材使ったのよ!!どうみても上位レベルでしょ!!」

 

襟首を捕まれた時はほとんどユクモノ装備の面影が残っていないのでそれに対しての批判の嵐か、と思っていたが実際は違って安心した。

 

「別に変なものは使ってない。ユクモノ装備をベースにドスジャギィとアオアシラの素材と鉄鉱石とマカライト鉱石しか使ってねぇ。だからお前でも着れるよ。」

 

「本当に!?」

 

「あぁ、本当だ。」

 

「でもドスジャギィとアオアシラの素材の混合装備なんてカタログじゃ見たこと無いわよ。」

 

「ある程度ギルドに腕を認められた工匠はギルドが定めていない組み合わせで装備を作ることができるんだ。ちなみに俺もその一人だ。」

 

「はぁ・・・もういいわ。それよりも私こんな装備の着方なんて知らないわよ?・・・!?まさか、覗くために!?」

 

「んなアホなことを考えるのはお前だけだ。防具は後付型だ。まずはユクモノ装備を着てからだ。」

 

そう言って飾台から鎧下着の旧ユクモノ装備を自爆して顔を真っ赤にしているレイナに渡して着替えるように促す。もちろん別室でだ。数分後、旧ユクモノ装備を着たレイナが戻って来た。

 

「それで、どれから着けるの?」

 

「まずはこの臑当を着けろ。着け方は後ろの紐で縛ればいい。」

 

「こ、こう?」

 

「もうちょい縛った方がいい。それで、次は佩楯だが、これは腰に巻きつけるように・・・まぁそんな感じで最後に腰の紐を結べばいい。」

 

レイナはその後もぎこちない仕草で鎧を着込んでいく。

 

「ほれ、最後の半首だ。」

 

そう言ってレイナに半首を渡す。頬と額に合わせるように着けて額当ての後ろに着けてある紐を縛って着込み終わる。

 

「う~ん、結構時間かかるわね。」

 

「その分下手な装備より防御力はあるんだから我慢しろ。それで、動けるか?」

 

「着込んでいるのに軽いわね。まぁ、ユクモノ装備よりは重いから慣れないわね。」

 

「まぁ、それは慣れるしかないな。さて、どうせお前の事だ。朝飯は食べずに来たんだろ?」

 

「もっちろん!!」

 

「だろうな・・・少し待ってろ。俺が作っている間に脱着しながら着方を覚えとけ。」

 

「はーい。」

 

そう告げて俺は手早く朝食の準備に取り掛かる。今日は・・・マスターベーグルに昨日の残りのシチューと簡単なサラダで良いか。そう考えて俺は料理を作り出す。たまに工房から防具と悪戦苦闘するレイナの声に苦笑いしながら手を動かした。本日何度目かのレイナの怒声が聞こえるとテーブルには本日の朝食が並んだ。

 

「お~い、できたぞ~。」

 

「わかった、すぐに行く!!」

 

そう言ってすぐにレイナはテーブルに着く。何時ものように食べながら今後どうしていくかを大まかに話す。当面の目標は渓流の奥に巣を作った番いのジンオウガの討伐。リュウヤが単身赴いて討伐するのは無理ではないのだが、その後のことを考えたら村唯一のハンターのレイナに経験を積ませた方がいいということで保留になっている。

 

「ふぅ、食べた食べた。今日の稽古は?」

 

「そうだな、新しい防具もできたことだし、慣れる為に防具を使っての組み手をするか?」

 

「そうね、いきなり実戦で『動けないで壊れました』は嫌だからね。」

 

「それじゃ何時もの場所に行くとしようか。」

 

リュウヤの言葉で二人はそれぞれの防具を着込んで毎日トレーニングをしているほとりに向かった。

 

「相変わらず威風があるわね。」

 

「よく言われる。さて、どっからでもかかって来い!!」

 

「言われなくても!!」

 

そう言ってレイナは疾走しリュウヤの顔を狙って拳を放つ。防具を着た当初は防具の重さにぎこちなさを見せていたが既に慣れたのか、軽やかな動きを見せる。そんなレイナを見てリュウヤは少し驚く。だが顔には出さず、迫るレイナの拳をいなす。

 

「まだまだ!!」

 

初撃はいなされるがレイナは負けじと拳やら足やらを繰り出してリュウヤの防御を崩そうとする。リュウヤも負け時とギアを上げてレイナの攻撃を捌いていく。そうしている内に三十分が経った。

 

「「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」」

 

三十分の激闘の末、二人は大の字に転がって荒い息をする。レイナはともかくリュウヤもだった。いくら一人で数多のモンスターを相手取ってきたリュウヤでも対人戦闘はお門違いであるからだ。だが、それ以外にも理由はあった。レイナのトレーニングを始めて一週間、たったそれだけでレイナはリュウヤの動きに慣れていたのだ。それはレイナの実力と言うことだろう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・っにしても、一気に腕を上げたか?」

 

「そ、そりゃそうよ。と言うかアンタが腕落ちたんじゃないの?」

 

「そうかもな。それで、どうだ?防具を着てみて。」

 

二人は息を整えながら防具を外す。今は昼時、流石に熱いのだ。防具を外して二人は風に当たるため寝転がっている。

 

「流石にユクモノ装備よりは重いけど、そこまで動きにくいと言うわけではないわ。むしろ衝撃を吸収してくれるから大助かりよ。それでさ・・・。」

 

「ん?」

 

「その・・・この防具の代金はおいくらで?」

 

「朝から何を気にしていると思えば、そんなことか。」

 

「そ、そんなことじゃないわよ!!聞いた話だけどギルドが認めた名匠の装備は一つですっごい額なんでしょ?でも・・・私にはそんなお金は・・・。」

 

「あ、あぁ。別に払わなくて良い。俺の弟子ならそれ相応の装備が着たいだろ?」

 

「・・・それだけ?」

 

「それだけだ。」

 

「な~んだ、心配して損しちゃったわ。」

 

「ま、それは弟子になった記念って感じだな。まぁ、お前が新しいモンスターを狩ればその都度その装備を強くしてやるさ。」

 

「何でそこまでしてくれるのさ。」

 

「ん、そうだなぁ・・・なんでだろうねぇ。」

 

ユウヤは適当に流していたが、内心は冷や汗びっしょりだった。

 

(言えねぇ・・・昨日本当はバッチリ見ていたなんて死んでも言えない!!最低だと思うがこれしか罪滅ぼしは無いからな・・・。)

 

とまぁ、本音はマジでやばいものである・・・。



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第八話 アイルー部隊

俺がユクモ村に来てから二週間が過ぎようとしていた。レイナの防具の銘は『ユクモノ改』に決まった。安直過ぎると言いかけたら死にかけたのは余談である・・・。

 

「はっ!やぁっ!」

 

「ふっ!せいっ!」

 

今日も朝から防具同士のぶつかる甲高い音が川原に響いて時は経ち、既に空は紅くなっていた。ユウヤとレイナが防具を着ての組み手をしているのだ。結果はわかっていてもレイナは諦めずに全力でユウヤに挑んでいる。ユウヤもレイナの気持ちを理解しているので手加減は失礼と考え全力でレイナを打ちのめしていた。

 

「はぁ・・・、やっぱ勝てない~。」

 

「打ち合いはともかく組み手は勝敗は重視しなくていい。組み手の目的はフットワーク、足捌きのトレーニングだからな。まぁ、勝敗にこだわるっていうなら相手を倒すと言うよりいかに相手の攻撃を避けて反撃できるかだろうな。」

 

「そういう割には容赦無しに私を叩き伏せてるわよね?」

 

「それはお前のフットワークができてない証拠だ。」

 

「むぅ・・・。もう一回。」

 

「ユウヤさん、レイナ!!大変だ!!」

 

レイナがもう一回と言い終わった直前で村の自衛団の長、ハルさんが血相を変えて川原に走ってきた。肩を上下させるぐらいの荒い息をしていることからかなり悪いことが起きたとわかる。

 

「どうしたんですか?」

 

「ユウヤさんはこの村の近くにアイルーたちの村があることはご存知ですか?」

 

「えぇ、レイナと渓流の調査に行くときに一度だけ行ったことがあります。それよりも状況を。」

 

「その村から救援を頼まれたんだ。村に来たアイルーの話じゃいきなり無数のジャギィが村を襲ったらしい!!アイルーたちは方々に逃げようとしたらしいが無数のジャギィたちに阻まれて村の奥にある採掘場に立て篭もっているらしいんだ!!」

 

「おい、レイナ!!」

 

「わかった!!」

 

俺とレイナは急いでそれぞれの自宅に駆け出した。いきなりのことでハルさんは理解できてないようだった。

 

「どうするんだい!?」

 

「もちろん助けます!!ハルさんは速達用のガーグァの手配を!!」

 

「わかった!!」

 

俺たちは急いで武器だけを持ってガーグァ便のところに集まる。防具は着けている時間も惜しく、できるだけ軽くしたほうが移動速度は上がると考えたからだ。まさかレイナも同じ考えだとは思ってなかった。あせる気持ちを抱えながら俺たちを乗せたガーグァ便は比較的舗装された道を駆けた。

 

「・・・これは酷い・・・。」

 

「あんまりよ・・・。」

 

現場に着いた俺たちの感想はそれに尽きた。家は跡形も無く壊れ、焚き火が引火したのか辺りには煙の臭いが立ち込めていた。そしてポツポツと倒れているジャギィが見え中には虫の息で生きているのもいた。多分アイルーたちが懸命に抵抗したのだろう。以前村長から渓流には短期であれ長期であれかなり大きいジャギイの群れが来ることがあると聞いていた。

 

「っと、今は原因より解決だ。アイルーたちが立て篭もっているっつー採掘場はどこだ!?」

 

「あっちじゃない!?」

 

レイナが指差したちょっとした岩肌の見える山に一か八かで賭けてみた。そして案の定数十匹のジャギィと群れの長であろう一頭のドスジャギィが僅かに見える採掘場らしい入り口付近に集まっていた。そしてようやく俺たちに気づいたのかドスジャギィの咆哮と共にジャギィたちがこちらへ駆け出す。

 

「レイナ・・・下がっていろ。」

 

「う、うん。」

 

レイナを数歩俺の後ろに下がらせて俺は腰を落とし、愛刀の鬼哭斬破刀・真打を抜き放って水平に構える。

 

「っ!!」

 

一定量の気を練り終わると俺は地面を蹴った。走っている間に練った気を構えた愛刀に移す。愛刀は応えるように気と共に紅い光を放つ。

 

「気刃・・・突破!!」

 

俺は肉薄したジャギィに向けて疾走の勢いを乗せた渾身の突きを放った。同時に気刃を放出させ衝撃波を生み出し、ジャギィたちをまとめて吹き飛ばした。

 

「走れ、レイナ!!ドスジャギィを!!」

 

今の一撃でジャギィたちを吹き飛ばし、ドスジャギィの周りは僅かな取り巻きだけとなり俺はレイナをドスジャギィ目掛けて走らせる。

 

「はぁぁぁ!!」

 

レイナは取り巻きには目もくれず、ドスジャギィ目掛けて一心不乱に鉄刀を振り回す。途中から白い気刃が見えていた。この前のアオアシラ戦よりも発現が早いことからトレーニングの成果が出ているのだろう。

 

「せい!!」

 

レイナの掛け声と共に振り下ろされた鉄刀がドスジャギィの胴を深く切り裂いた。ドスジャギィは倒れ、動くことは無かった。群れの長が倒されたのが効いたのか生き残っていたジャギィは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 

「お疲れさん。」

 

「トレーニングした甲斐があったわ。っとそれよりも・・・。」

 

「あぁ、急ごう!!」

 

ジャギイを排除した俺たちは急いで採掘場へと向かった。

 

「大丈夫か!?」

 

「ニャッ!?」

 

「ハンター・・・さん?」

 

「助かったニャッ!!」

 

「助けが来たニャァ!!」

 

中で怯えるようにして固まっていたアイルーたちは採掘場に入ってきた俺たちを見てゆっくりと喜びと安堵の顔を見せた。幸いにも死者は出ず、怪我も噛み傷や擦り傷程度で済んだのは幸いだった。怪我をした者は俺やレイナ、元気な者で手分けしてユクモ村まで運んだ。村も酷い状況で寝る場所を確保するために全員がユクモ村に避難することになった。

 

「なんにせよ死者が出なかったのは何よりです。皆さんご心配なく、温泉で傷を癒してください。」

 

村について村長に事情を説明すると村長も快く話しを聞いてくれた。俺たちも同じように温泉で疲れを癒してそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

「っと言う訳で旦那方、よろしくニャッ!!」

 

「「へっ?」」

 

俺とレイナはいつも通りトレーニングをしようと川原に来るとアイルーが何匹か集まっていて俺たちを待っていたようだ。

 

どうやらあの後村長がこのまま村に定住してはどうかと提案したそうだ。アイルーの長は最初は悩んだそうだが村の状態を考え、定住することになったそうだ。そしてここにいるアイルーたちは元々オトモアイルーを目指していたそうで俺たちのオトモになりたいそうだ。

 

「どうする?」

 

「断る理由もないし、そっちのほうができなかったこともできるようになるからな。それじゃ、よろしく頼む。」

 

「オイラはモリー。よろしくニャ。」

 

俺たちはそれぞれアイルーと握手をし、自己紹介を行った。そしてめでたくアイルー部隊が結成された。



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第九話 現れた五人衆 渓流に響く声

最後の投稿から七年余り。覚えている方はごく少数でしょうが、この間にMHFの終了を発端に色々とありました。ですがライズに触れていこう、自分が持つ和風魂に火がついて色々と調べて再び書くことになりました。良ければ見ていってください


今日も今日とてレイナの鍛錬に付き合いつつ何か変化が村長の下を訪れたがそこには人が集まっていた。

 

「あらユウヤさん。お客人ですよ」

指された方向にはキッチリ俺の来ている防具と似た風貌の装備の類を着ているアイルー五人衆がいた。

 

「ようやく追いついたニャ。突然の引っ越しなのはわかるケド、こっちに何も言わないのはどうかと思うニャ」

 

「それについては謝るしかないな」

 

「ニャら、今後とも世話にならせてもらうニャ」

 

「世話・・・ユウヤ、たかられてるの?」

 

「失敬な。我ら五人衆はご主人が駆け出しのころより付き従う精鋭アイルーなのニャ。それよりご主人、こっちに着いて一か月も経つほどにゃ。一か月であのぶっきらぼうが女性を連れているとは」

と、アイル五人衆筆頭のアーノルドが言うや、五人がそれぞれ思いの場所、言うなれば俺の頭や肩、足などにひっついて突っつきまくり始めた。

 

「一応、書置きはしていたんだがな」

 

「そういうのは事前に渡してもらいたいニャ。『後は頼む』とあったおかげであっちに貯めていた素材なんかの保存の手間もあってようやく追いついたところだからニャー」

 

「さて、結構な荷物もあるようだし、とりあえずウチで休んでいくのはどうだ?」

 

「ありがたくお邪魔させてもらうニャ」

そう、この五人のアイルーが持っている荷物はただの旅支度などではなく、行商人が持つぐらいの大きさの荷物だった。

道すがら、ユウヤと五人ののアイルの話を聞いた。

 

「それにしても」

 

アーノルドと呼ばれるアイルーがニヤニヤとユウヤの肩に乗りながら私を見ていた。

「メゼポルタあれだけ色んなハンターから特注の武具を依頼されてほぼ全てを断っていたご主人が、オリジナルを作るとは一体どういう心境の現われか・・・」

確かにそう言われれば気になるところではある。それも数多の狩人がいるというメゼポルタで断り続けた。それが村に来て早々に防具を誂えてくれた。

 

「あぁ、それな。俺は中央の依頼とかで村を出ることだってあり得る。今村のハンターは俺らだけ。ならせめて防具ぐらい揃えとかないと大事になっては遅いからな」

 

「真っ当な意見ニャ、であれがご主人の家かニャ」

確認するやアイルーたちは中へと入り物色していた。

 

「ふむ、特に乱雑したような跡も無し。ある意味生活態度はいい方向に向かっているようニャ」

 

「え、何?荒れてたの?」

と、ちょっと悪戯過ぎただろうか?でもユウヤ本人は全くバツの悪そうな態度ではないように見えた。

 

「何分、あっちじゃ休めるときに休んどかないとなレベルだったからな。それに・・・」

ユウヤがこっちを見た瞬間、その目に狙いを定められた気がした。

 

「少しでも起きるのが遅いと朝食はまだかと乗り込んでくる奴がいてね。おちおち寝てる暇すらない。なんなら早くに起きてのんびり釣り糸垂らすくらいだ」

 

「ほっほう・・・まぁ今後はボクたちがその辺は世話するからご主人はやるべきことに全力を注いでくれニャ」

 

「いつもながら迷惑かけるな」

 

「この程度、造作もないニャ」

ユウヤのアイルーが来て一週間。今までユウヤの面倒を激戦区であるメゼポルタで世話して来たのは伊達ではなく、朝に釣った魚、昨日取れたブルファンゴやケルビの肉。そして村きっての料理人すら難しいと言われるジャギィの肉に野菜を加えたらあら不思議。豪華絢爛な朝食が目の前に現れた。

 

「す、すごい・・・」

 

「この程度、朝飯前ニャ」

 

「この腕前のアイルーとの出会いも気になるところだけど、この頃の異変について調査してほしいって村長が呼んでた」

 

「支度を整えて出るとしよう。皆も腕はなまってはいないだろう?」

 

「当然ニャ」

この頃おかしいことが続いていた。群れで行動するジャギィやジャギィノスたちが数匹で渓流に出没しているのだ。一箇所に集まっているならまだしも、渓流の広範囲に現れているのだ。群れの長であるドスジャギィは連日の調査で確認してないのでジャギィたちの独断だと考えている。一応村には近づいてこないので現状放置が俺とレイナの判断だった。

 

「今日はどうするの?」

 

「今日もまた渓流の調査だろうな。」

 

ジャギィの異常が見られてから既に10日経っていた。だが一向に原因が見つかっていない。西方大陸に生息するジャギィと同じ鳥竜種のランポス種にはこんなことは見られない。ただ単に発達の違いと言って片付けることもできるが、それにしても引っかかるのだ。

 

「じゃぁパタータ、村を頼んだ。」

 

「了解ニャ。旦那たちも気をつけて。」

 

アイルーたちが村に住み始めて二週間が経っていた。自衛団に入る者や村人を手伝う者などみんな村に馴染んでいる様だ。

 

「今日も今日とて調査か~。」

 

「しかたないだろ。不自然すぎるんだから。」

 

横で不満を言いながら歩くレイナを軽くあしらいつつ、渓流へと足を運んだ。

 

 

 

「それにしても、ドスジャギィがいないというのにこのジャギィの集まりは多すぎるな・・・。」

 

俺はそうつぶやきながら、双眼鏡を覗きながらエリア6の滝の上の茂みに隠れてジャギィの観察をしていた。

 

「・・・羽ばたきの音・・・?」

 

さっきから静かだったレイナが目を細めて上を見ていた。俺も釣られて上を見てみた。

 

「なるほど、あれが原因か・・・。」

 

それは空からゆっくりと降りてきた。

 

「あれは・・・。」

 

「彩鳥・クルペッコか・・・見落としてたな。」

 

さまざまな鳴き声を操り、他種族のモンスターまでも呼ぶ厄介なモンスターだ。現にドスジャギィの鳴き声を操って、近づいてきたジャギィを遠のかせている。

 

「どうするの?」

 

「どうもこうも、最近のジャギィの大量出没は奴の仕業だろう。」

 

「と、言うことは討伐するのね?」

 

「無論。」

 

俺の言葉を合図に俺たちは背中の鞘から太刀を抜き、左右に分かれて崖を下り、水を飲んでいるクルペッコに接近する。

 

「クゥ・・・?クェ、クェェェェ!!」

 

流石にクルペッコも気づいたようで、威嚇をし、戦闘態勢に入る。そんなことに気もかけず、二人は左右の翼に斬りかかるが、クルペッコが後ろへと飛んだため、二人の太刀は空を切った。

 

「いいな、まず狙うのは翼の火打石だ!!」

 

「わかってる!!」

 

そう、クルペッコの両翼についている火打ち石はかなりの爆炎を発生させるのだ。加えてその動作も速く、避けるのは容易ではない。

 

「せい!!」

 

しかし、ユウヤはクルペッコが飛び退いたのと同時にさらに踏み込んで左翼の火打ち石目掛けて一閃を放つ。流石に完全に破壊することはできなかったが、破片が見えるくらいには破壊できた。

 

「クェェェ!?」

 

まさか追撃があるとは思っていなかったのか、クルペッコは悲鳴を上げる。

 

「私だって」

 

「勇むな!!奴の火打石は鉱物そのものだぞ!!」

だがユウヤの助言も遅く、私の刀は火打石に弾かれて大きな隙を晒してしまった。そして襲い掛かるクルペッコの火打石。怪我の度合い、そして恐怖した。

 

「クァァァァ!?」

だがそんな心配はすぐに横合いからの小さな爆発を受けたクルペッコが大勢を崩したところで持ち直すことができた。

爆発の位置からして周囲を見渡すと、ボウガンと似て非なるような筒を背負ったアイルがいた。

 

「一体何が・・・」

 

「まずは今起きたことより次の一手を考えろ」

 

「わかってる」

とはいえ練気を使えば何とか火打石は壊せるかもしれないけど、継戦能力を考えれば出し惜しみしてしまう。そしてロックラックで学んだ通りならまだ相手には切り札がある。

 

そして当然一瞬でも恐怖を得たのなら生物種別関係なしに最善の手を打とうとする。クルペッコが胴体の鳴き袋を膨らませたのが何よりもの証拠だ。

 

「マズイ・・・何を呼ぶ気なのかはわからないけど、乱入は阻止しないと・・・」

 

「ショット、行けるな」

 

「もちろんニャ」

ショットと呼ばれたアイルーが背中のポーチから小さな小刀のような物を手に取り、そのままクルペッコの鳴き袋めがけて投擲した。

 

「ローラ、準備は万端か?」

 

「次弾装填完了済み、ぶっ放すニャ」

そういった瞬間、担いでいた筒から再び弾丸と思えるものが発射された。そしてクルペッコに着弾すると先ほど以上の爆発を見せた。爆発を受けたクルペッコは余りの出来事に地面に転がってもがいていた。

 

「さて俺たちの出番だ。手加減はするな。これが最後の攻撃だ」

 

「了解」

私は持っている刀に気を集中してこめる。そしてその証に刀は白く光り、私の練気を帯びる。

 

「やぁぁぁ!!」

そのまま肉薄して今放てる最大の一撃をクルペッコの喉元に放った。予想以上の威力に驚いたが、

当のクルペッコはそれが致命傷となったのか、弱弱しい鳴き声を発した後、身動きが止んだ。

 

「勝ったのよね?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「しかしクルペッコなんて初めてだからどこを剥ぎ取ればいいのやら・・・」

 

「着飾る趣味があるのなら翼や尻尾の膜が良いだろう。だがクルペッコの鱗はレイナのレベルで計算すればいい具合の火に対する効果が得られるだろう」

 

「なら鱗にするわ。元々着飾ることもないのだし。それに注文出せば改良してくれるんでしょ?」

 

「・・・まぁま」

とりあえず俺たちはクルペッコの剥ぎ取りを済ませて村長に報告した。原因がクルペッコであるのなら渓流の騒ぎも沈静化するだろう。

そうして俺は今日も朝から釣り糸を垂らしていた。




ご視聴ありがとうございました


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第十話 別れの意味

ユウヤ親衛アイルー五人衆が来てからの初の狩猟から数日。ユウヤ一行は川原で釣り糸を垂らしていた。

「ニャーレイナ嬢はよほど気に入られているようニャ」

とこぼしたのは筆頭アーノルドだった。

 

「・・・なんのことやら」

 

「刀神と言われ数年。声をかけて来た女性は数知れず。なのに部屋にすら入ることすら叶わぬ仕舞。だけど」

 

「部屋にあがってさらに食事を共にするとはどういった心境の変化ニャ?」

 

「・・・俺が一番知りたいくらいだ」

 

「ほほう。つまり恋「そんなんじゃないと思う」ニャ?」

 

「なんかな、ただ今を共にしないと後悔する・・・そんな気がしたんだ。両親が死んだと聞いたあの時のもっと色々なことを教えてほしかったという後悔・・・に似た何かなんだろう。全く分からないから困るばかりだ

 

「だからそれがこ、フギャ「まぁご主人の気持ちもわからなくないニャ確かにご主人は上からの指示で離れるかもしれないニャ。そうなれば今は未熟な狩人が残る。後を託す、というより放り投げるとあれば心配するのも仕方ないニャ」・・・それと、まだ探しているのニャ?」

 

「・・・何時かボヤいたのが失言だったか」

 

振り返る過去。おぼろげな記憶。ただこの両親に連れられてやってきたユクモ村で出会ったリンと名乗る少女。

『お互いハンターとして名を上げて再会しよう』今はどこで何をやっているのだろうか・・・。

正面から聞くのも今更だがこっぱずかしいからと探り探りだが全く情報が無い。

それこそ年の誓い同年代はレイナ以外にいないらしい。村を出たか、それとも・・・。

「ニャー。しかしこの川、サシミウオの産地かニャ?釣れるこちらとしてはありがたい事ニャンだけど・・・釣りすぎるのもダメだニャ?」

 

「いんや。上流はさらに数が群生している。心配はいらんだろうが、釣りすぎも良くないだろう」

 

「おや、噂をすればニャ」

 

いつの間にかレイナが来ていた。

 

「さて、どっちが取るか、賭けるニャ?」

 

「サシミウオの大身、じゃこのところ味気ないニャ」

 

「ニャらガーグアのモモはどうニャ?」

 

「おぉ、いいニャ」

 

「・・・なんか賭けが勝手に始まってるんですが、放っておいていいの?」

 

「いいだろ。賭けるってことは言いかえればお前が俺についてこれている証拠ってわけだろ?」

 

「・・・そう、なら本気も本気で行くわよ!!」

 

そうして日常とかしたユウヤとレイナの立ち合いが繰り広げられた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・なんで勝てないのよぉ・・・」

 

「そりゃ経験の差だろ。技量は追い付いてるだろ。後は経験を積んで上手く立ち回ることだな」

 

「そう涼やかに言ってくれるけど、無理難題に聞こえるんですけど?あともう一つ」

 

「なんだ?」

 

「ハンターが対人戦闘力を身に着けるのって違法じゃない?」

 

ハンターはモンスターを狩るのが生業であって人殺しなどもってのほか。なのにユウヤは立ち合いでレイナの修行を行っていた。

 

「確かに本格的な立ち合いでそれこそ人を殺めるための修行となればいずれお沙汰が出るだろう。だが俺たちがやっているのは レイナの太刀筋の確認だ。外から見るのと実際に受けるとでは感じ方が違うってもんさ」

 

「ならいいけど。それとこの後・・・」

 

「あぁ。少し汗流しに浸かりに行くか」

 

そう言って二人は川原もとい稽古場を後にした。

 

「やっぱり二人とも少なからず意識してるんじゃないかニャ?」

 

「ご主人もだけど、レイナ嬢も幼いころに両親を失ってるそうニャ。大切な人を失った痛みがあるからこそ、楽しめる今を楽しんでいるんだろうニャ。気づいて無いようだけど」

 

だが当の本人たちは当然温泉にて少なからず因縁というには穏やかな一面があった。

「「プハァァァ!!」」

 

「「ん?」」

 

「「・・・。」」

 

「なんか・・・最初のころと違って・・・」

 

「なんと言えばいいのやら・・・」

 

最初こそ同じ動作で風呂上りの一杯を目の前で飲み合って、そのまま一触即発の雰囲気であったが、いつの間にか別の意味でなんとも言えない空気であった。

だが当人たちからすれば嫌な気分の反対の、安。、今日も生きていたという一時の安堵を確かめる一杯に変わりつつあった。

 

しかし平穏は続かない。

 

「巨大なドスファンゴ?」

 

「えぇ。実物を見た方は通常のドスファンゴを見たことがあると言っていました。その方が異常と票数ほどの巨体。群れをなしているかは不明ですが、そのドスファンゴとジャギイなどが縄張り争いをすれば渓流の幸を得ることは難しくなるでしょう」

 

「しかし異常に巨大化したドスファンゴ・・・何か心当たりはない?」

 

「メゼポルタでの記憶でなら一つ例がある。老齢、もしくは群れをはぐれた末、幾重にも苦難を乗り越え異常なまでに発達した肉体を得た個体。まぁ特異な個体を特異個体と分類されるな」

 

「対処法は?」

 

「巨大な図体から繰り出される突進。これがかなりの地響きを起こすんでな、ヤツが突進の態勢に入ってから対処するのはほぼ間に合わん。だからこちらは機動力を持って相手するしかない」

 

「わかりました。では討伐は私たちが引き受けます」

 

「・・・特異個体。少々早いでしょうが、これも常駐ハンターを心がけるとなれば仕方のない事。ですが無理はしないこと。よいですね?」

 

「はい!!」

 

ガーグアで移動する最中、レイナは色々と考えていた。ユウヤがいれば何とかなる。だけど、いなくなった後、異常事態が起きたら残されているのは私だけ。だからこそ、学べるときに学び、力をつけなければならない。

 

「そう眉間にしわを寄せるな」

 

「・・・でも」

 

「未来のことなんて何もわからない。まずは今起きていることを片付けるのが最優先事項だ」

 

「わかっては、いるんだけど・・・」

 

「ともかく、狩猟開始だ」

 

キャンプからでて見た渓流は一段と静かだった。水場をうろつくガーグアも、巣に近いジャギィも以上に大人しかった。

 

「これが、特異個体・・・」

 

「デカいな。足痕からして森の中に進んだか」

 

ユウヤを先頭に森を進むとその先には普段の二回り以上の体格を持ったドスファンゴがいた。

 

「あれが・・・本当にドスファンゴ?」

 

頭部の体毛は赤く染まり、通常よりも巨大化した一対の牙。そして並みの建物ほどの高さを持った巨体が目の前にいた。

 

「よし、往くぞ!!」

ユウヤの号令の下、一気に私たちは仕掛けた。アイルーたちが投げナイフや爆投砲を使い狙いをあやふやにしたところで私とユウヤの一閃が効いた。当然、最初の狙いは巨大な牙。

少し練気が操れるようになってから私の刀の鋭さも冴えを見せていた。

 

だが牙を折られたドスファンゴは何も気にしないのか、そのままノータイムでその巨体をぶつけ私たちを弾き飛ばした。

 

「問題ないか?」

 

「えぇ、鈍いのを貰ったけど、まだ戦える」

 

「なら次は足だ」

 

「機動力ね」

 

ドスファンゴは体格と比べれば足は細いほうだ。だが目の前のドスファンゴは体格に見合った足を持っている。

私はここ数か月で学んだ足さばきを活用して一瞬で間合いを詰めた。ドスファンゴは突進すべく準備に入っていたのが幸いしてか、前足を切断とまではいかないけどダメージは与えられた。

 

だが突然、ドスファンゴは逃げるようにして足を引きずりながら移動し始めた。

 

「ローラ、準備は?」

 

「既に仕掛けてあるニャ」

ドスファンゴが逃げた先には無数の罠があった。シビレ罠に周囲の木々を利用した紐による束縛。

そして私がトドメに動けなくなったドスファンゴの首を落とした。

 

こうして初の特異個体との狩りが終わった。デカイ図体なだけあって村には運びこまれたらすぐに村を上げての祭りとなった。そんな中、一人寂しげに座っているヤツがいた。

 

「混ざらないの?」

 

「何時かはわかれることになるだろう。離別、死別・・・馴染みすぎるとと思ったらな」

 

「と、とにかく今は楽しむべきよ!!」

 

そう、変なところで根暗なアイツを引っ張って私は祭りの中心地に躍り出たのであった・




連続投稿、いけるかな?


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第十一話 揺れる衝動と悩める感情

特異個体と呼ばれるドスファンゴの狩猟と小さな祭りが終わった夜。

私は自室で悩んでいた。

恐らくは同年代と思われるハンター、ユウヤについてだった。

 

『ユウ』という単語について私個人として縁があるわけだけど、『ユウ』すなわち『英雄・勇気』と『ユウ』という発音は地域、大陸を超えても共通する不思議な単語である。

 

タンジアのハンター養成のギルドでも『ユウ』という単語が付いた名前を目にすることはあった。

でも、その時は何も感じなかった。

 

だけど、村にユウヤが来てからは私の行動は何かがおかしいのだ。理性?感情?そんなことよりまず行動に出てしまう。抑えきれない謎の衝動。

最初の時は突然の来訪、それも実力のある人物としてユウヤは来た。

当時の私としては今まで目指していた村の守り人としての地位が奪われるのではないかと警戒し、失礼なことばかりした。

 

その後紆余曲折あったものの、打ち解けるとまではわからないが、私はアイツといるとなぜか安心してしまう。

養成ギルドにいた同年代の子女たちはハンターになるというよりハンターを目指す男子を捕まえてなんちゃらと考えている数が多かった。

 

だから日々素振りをして汗臭く、鍛錬に励む私は鼻つまみ者だった。別段他の人のことや外聞なんてことにとやかく言うつもりはない。せいぜい生まれ育った故郷が守れればそれでいい。だからそのために励み、一歩踏み出せた。

 

だからこそ、恋なんぞにうつつを抜かす暇など無い。だからこそ、私の気持ちがわからないのだ。

 

特に、付き合ってもらっている修行終わりに温泉に浸かった後、何の運命かほぼほぼラフな姿で鉢合わせてそのままドリンクを飲む。それも同じミルクコーヒー。飲む動作も似ていて、だから最初は気味が悪いと思ったけど・・・

 

「なんで今はそれが楽しいと思うんだろ・・・」

 

両親を失い、その両親が守ってきた村を守るべく修行してきた毎日。何かを楽しむ、なんて余裕はなかった。だからこそ・・・

 

「楽しい今を守りたい・・・でもそれって・・・」

 

楽しい=アイツの隣で何でもいいから何かをするということ・・・

 

「わからなzzz・・・」

 

そこまで考えていたけど、眠ってしまった。だから次の日の朝。相談に乗ってくれる番頭さんにちょっとぼかして聞いてみた。

 

「ニャニャ、ニャるほど。ようやく、レイナさんにも余裕ができたってことだニャ」

 

「余裕・・・」

 

「ふーむ、となると原因はユウヤさんかニャ?」

 

「ななっ」

 

「ニャーこればっかりは言い表すのは難しいニャ。だけど今の村の状況はわかってるニャ?」

 

「わかってる。渓流の奥にジンオウガが住み着いて、アイツはそれに対処するべくやってきた。だから、全てが終わったら・・・帰っちゃう・・・」

 

そう言い、最後の言葉は震えていた。

 

「ニャー今のままだとそうなるだろうニャ」

 

「今のまま?だったら・・・変えられるの!?」

 

「確かにユウヤさんが活躍していたのは遠いメゼポルタの町」

 

「行ったことが無いからわかんないけど、すごく遠いってことか」

 

「でも、そんなところから称号持ちなんて人を呼ぶくらいなら、同じ額で大人数を雇った方が良いとは思わないかニャ?」

 

「まぁ・・・そうだけど」

 

「と、いうことはユウヤさん、ニャーんか怪しいと思わないかニャ?」

 

「怪しいって・・・そんなまさか」

 

「危険って意味じゃないニャ。人を探しているって聞いたことはあるけど、誰かはわかんないニャ」

 

「人を探している?」

 

「ユウヤさん自身、どんな過去があるかはわからニャいし今更変えることはできない」

 

「・・・」

 

「だけど、全てが片付いた後、何かしらユクモ村にとどまる理由ができたとすれば?」

 

「・・・それって」

 

「引き続き村の守りを依頼するにしろ、修行をつけてもらうにしろ理由はいくらでも用意できるニャ」

 

「なら・・・」

 

「だけど、それは一時しのぎニャ。ここに来たのも大方ギルドの要請。またギルドで何かあればユウヤさんはそれに従うニャ」

 

「結局・・・」

 

「・・・用は番になってここを二人の帰るべき場所にすればいいわけニャ。まぁ、それは当人たち次第だけどニャ」

 

「つが・・・そっ」

 

「否定よりも照れだ多めニャ。後はユウヤさん次第ニャね~」

 

既に未来の妄想に染まっているレイナを他所に焚きつけた番頭さんは笑っていた。



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第十二話 遠吠え

特異個体ドスファンゴの毛皮。とくに発達した頭の毛皮使いレイナの防具を改造することになった。

それに大きさもあって冬、もしくはいずれ行くかもしれない寒冷地での狩猟の時に機動性を確保しつつ保温機能を持つ外套も作ることにした。

 

「とはいっても、やはり特異個体の毛は固いな」

 

過酷な環境、そして取れた肉からしてかなりの高齢種。毛が生え変わるうちに硬質していったのだろう。

毛皮を切り分けるだけでもかなりの時間を要した。昼から始めた作業がいつの間にか窓の外は暗い夜だった。

何があるかわかない。それも命を狩猟に賭しているのならなおの事。備えれるうちに備えなければならない。

 

「アイツの唯一の防具を預かった以上、早く済ませないとな・・・」

 

防具はハンターの生命線。だからこそ早く、されど手を抜くこともなく夜通しで作業を進めた。

 

 

――――――――――

 

「おーい、起きてるー?」

 

私はユウヤの工房に入った。いつもは寝ぼけた顔で家の方にいるのが大半。

・・・今思えば『いつもは』と言えるほど通っているということで番頭さんから言われた事も反響して顔が赤くなる。

顔を振って気持ちを切り替えて私は工房に顔を出した。そしたら案の定、椅子で眠りこけているユウヤ。そして隣には胴体に当て布のように新しくドスファンゴの毛皮を付けられた私の防具。それに加えて、外套まで作ってあった。だから私は起こさず、静かに工房を出ようとした。

 

「・・・リン」

 

「え?」

 

『りん』アイツは確かにそう言った。問い詰めたいが今は頭の中を整理したかったから私は急いで自分の家に戻った。

 

まだ両親が生きていた頃の話。その時ユクモ村に強大なモンスターが現れたと聞いた。そして外部から一組のハンターがやってきた。ついでに男の子が一人。どうやらやってきたハンターの子供らしく、その両親から暇があれば『遊んでやってくれ』と頼まれていた。

 

当時同年代の子供、というか近い年の子供は私だけだったから必然的に二人で遊ぶことになった。

 

だけどその子供は遊ぶ・・・何も遊びを知らなかったのだ。なら普段は何をやっているかと聞いたら本を読むか、親が討伐したモンスターの素材を観察する。もしくは素振りなどの稽古をやっていると言った。

 

恥ずかしながら当時の私は村の人からすれば子供なのに腕が立つと褒められて有頂天だった。だから遊んでやろうと川原に連れて行って勝負をした。

 

結果は勝負がつかなかった。私もそうだがその男の子の腕も良く、剣技では決着がつかないと思った私は、卑怯だが身体ごと辺りに行って、押し倒し組付けた。そっからが問題だった。男の子も負けじと抵抗し、私たちは泥に汚れることなんか気にせず、ただ上を取って取られての見苦しい争いを続けた。

 

最終的に体力が尽きて結果もお流れ。最初こそ私の剣を受け止められる度に悔しいと思っていた気持ちもいつの間にか解放感に変わっていた。言ってはなんだが、いつも訓練を付けてくれる人は手心を加えてくれていたのか、必死に食らいつくという結果になることは無かった。

 

だからこそ、必死になって闘ったという闘争心が芽生えた。隣に寝転がっていた男の子も多分同じ気持ち、だったと願いたい。だから私たちは遊ぶことより、独自に剣の腕を磨くことに専念した。

 

そんなことをしている間に強大なモンスターは私の両親と男の子の両親四人に討伐されて家族ともども帰ることになった。だから最後に約束をした。

 

『お互いにハンターになって名を残そう。そして今度こそ決着を付けよう』

 

そんな約束だった。だけど、一つ問題があった。

私は当時リオレイアに似ていたレイナという名前を嫌っていた。だから自ら『リン』と名乗っていたのだ。

だからその男の子も私の事を『リン』と呼び、私は男の子の両親が呼ぶように『ユウ』と呼んでいた。

 

だけど、さっきユウヤが寝言にしろ『りん』とつぶやいた。そして番頭さん曰くユウヤは人を探している。

全ての事を都合よく合わせれば納得はいくし説明もできる。だけど、今アイツの顔を見ようと思っただけで顔が熱くなるのは・・・

 

「これが・・・恋?」

 

だけどそんな時間も長くは続かなかった。

 

『オォォォォォォォォン!!』

 

小さく、だけど響く雄たけびが響いた。私も、というか村の人全員が外に出ていた。当然、ユウヤもいたと思う。

 

「そんな・・・まだガーグアの繁殖期じゃないぞ・・・」

 

そう、渓流の奥のさらに深奥にジンオウガの巣があると言われている。巣の近くにも何かしらの餌になるモンスターがいるため滅多にそこから離れることは無いというのがユクモ村の言い伝えである。

だが、ユウヤが来る前、というかユウヤが来た理由が渓流の奥深く。珍しい結晶などが採れるという山中でジンオウガらしき姿が確認された。

 

ユクモ村のジンオウガの言い伝えには他のこともある。

『ガーグアが大量に渓流に現れたのならば追ってジンオウガも降りてくる』と

ただガーグアの今年の繫殖期はまだ遠い。だからこそ、誰も予想していないこの時にジンオウガと思われる雄たけびが響く距離にまでジンオウガが降りてきているのだ。

 

ともかく私は急いでユウヤの工房に入った。

 

「お」

 

「あっ・・・」

 

そしてほぼ装備万端のユウヤと鉢合わせてしまった。私の防具がここにあるのだから仕方のないことだが 何分さっきのこともあってすぐに目をそらしてしまった。

 

とりあえず、私も急いで防具を装備することにした。いつの間にか作られた(作らせた)衝立を挟んでユウヤと会話する。

 

「ユウヤは・・・ジンオウガと戦ったことある?」

 

「あるが・・・住んでいる環境が違えば種は同じでも動きに差がある。久しぶりだが備えておくに越したことは無いだろう」

 

「ユウヤの太刀ってさ、斬破刀の系統でしょ?私が言うのもアレだと思うけど相性大丈夫?」

 

「確かにな。鋭さだけで見れば通用するかもしれんが、ヤツと太刀が生む雷同士が反発して思うように斬れないだろう。だから別のを使う」

 

「あー、ココ(工房)に立ててあるやつのどれか?」

 

「勝手に覗いてやがって・・・まぁ、そうだな」

 

「ニャ、ご主人、準備完了ニャ」

 

そこへユウヤのアイルーたちが準備を整えてやってきた。

 

「あぁ、そっちはどうだ?」

 

「こっちも完了」

 

私の方もようやく準備が整った。

 

「レイナは里を頼む」

 

「え?」

 

「実力がわからない以上、連れて行くわけにはいかん。最悪俺たちが倒れたらそれこそ村が危険だ。だから残れ」

 

「・・・」

 

何も、言い返せなかった。ただ、一回だけ、似た雰囲気に覚えがあった。忘れるわけがない。

両親が最後に発ったあの時の雰囲気に今のユウヤが纏う雰囲気が似ていた。だからこそ、手を伸ばそうにも、私の手が届く前にユウヤは動いた。ユウヤは以前住処を失ってユクモ村に拠点を移したアイルーたちのまとめ役、パタータやモリーに指示を出していた。

 

「・・・イナ、レイナ!!」

 

「あ、ごめん・・・聞いてなかった」

 

「とりあえず村の入り口は桟道や細道。唯一温泉のあるところは崖でジンオウガも登れるだろうが温泉もあるから選択肢としてないだろう。守りを固めれば抵抗できる。そうすればジンオウガも諦めるだろう」

 

私はただユウヤの指示通りに動くしかなかった。そうして、準備が整ったときには、ユウヤは既に村を発っていた。ただ私は過去を思い出して怖くて仕方がなかった。両親、そして今度は・・・



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第十三話 恐怖そして遭遇

轟いたというべきジンオウガの物と思われる雄たけび。餌を得た喜びか、それとも・・・。

 

ともかく俺は装備を整えていつものとは違う太刀を背負った。今でこそ『鬼哭斬破刀・真打』を好んで使っている。雷属性の性質上、龍種への有効打を持つからだ。だけど今日背負うのは『祈刀・凛然』。完全に自作の太刀。俺が最初に打った太刀でもある。あの約束以降、ハンターの技術だけでなく、鍛冶の技術も学んだ。

今度会う時に一太刀入るかはわからない。だからこそ、負けたときの言い訳用に語呂合わせで一太刀喰らわせてやると卑怯くさく打ったのだが、何故か切れ味が良く、いつの間にか雷属性に強い相手に担ぐようになり、

そこから打ち直していき完全に実践用の一振りと化していた。

 

静まり返った渓流を俺とアーノルドたちと進む。

「こうも静かだと不気味ニャ」

「よほど・・・!!」

 

会話の最中に頭上からの視線を感じた。その瞬間俺たちは上を見た。そしてヤツがいた。

「ジンオウガ・・・」

 

「・・・なんだ?」

 

「角ニャね」

 

そう、ジンオウガの象徴と言える角が異様だった。通常は一対の角が綺麗に生えているのだが、目の前のジンオウガの角は片方が短く歪に生えていた。

 

「折れた?縄張り争いに負けたのかニャ?」

 

「そうなら折れた、もしくは断面が見えるはず。あんな形になるとなると、折れてからかなり時間が経っていることになる」

 

「となると大物と見てた方がいいニャ?」

 

「油断して損はないしな」

 

全員が緊迫して武器を取る中、ジンオウガはスルリと頭上の崖から降りて来た。

 

「じゃぁ、いつも通りだ!!」

 

合言葉のような俺の言葉で戦闘は始まった。俺がジンオウガに肉薄し、その間にアーノルドたちが分析しながら立ち位置を見極める。それが俺たちの戦闘スタイルだ。

 

「ふっ!!」

 

最初から油断なしの赤の気刃を纏わせて切りかかるが、どうにも躱されてしまう。もしくはメゼポルタでみた個体以上に固い前足に意図して阻まれる。

 

「こちらの太刀を理解している、わけでもないか」

 

ジンオウガ同士の戦いは前足が基本になる。よって前足の使い方は老齢になるほど機敏に、そして予測がつかなくなる。真正面からとなると前足が邪魔になる。

 

「なら・・・」

 

今度は切りかかるのではなく、意図してジンオウガの前足に太刀ではなく身体を寄せた。その動きを理解しきれなかったのか、それとも太刀への備えなのか前足をこちらへ出しただけだった。

 

「まず一歩!!」

 

その前足を足場に俺は跳躍し狙いずらいジンオウガの弱点、背中を狙った。

 

「オォォォォ!?」

 

その一太刀は成功。深くジンオウガの背中を斬ることができた。だがその束の間、ジンオウガの本領、帯電状態を通り越した超帯電状態と化した。その余波の雷撃を受けて一瞬、手が痺れた。

 

「ちぃ・・・」

 

だが俺が受け身を取る間にアーノルドたちの遠隔攻撃が功を奏して追撃は無かった。だがさらに違和感が増した。何かが違う。だがその何かがわからないからこそ不安が掻き立てられた。

 

超帯電状態になったジンオウガは言わば本気で攻撃してくるわけで、防御よりも攻撃を優先すると経験上学んでいる。こっちの種もそうなのかはわからないから慎重に進める。

 

「グオァ!!」

 

雷撃を纏った前足による一撃。だがそれで終わりじゃなかった。

 

「なっ!?」

 

老齢の個体なら前足の衝撃に加えて纏っていた雷撃が行き場を失い弾けることが多い。だがそれにとどまらず、前足の衝撃は地面を割り、そしてそのまま前足を伝って雷撃の波があふれ出たのだ。それはどれだけ老齢の個体でも()()()ならありえないことなのだ。

 

「まさか・・・コイツ・・・」

 

そう、メゼポルタに近くにも姿を見せ始めたジンオウガ。その中で極めて強大な種がいたのだ。

それを裏付けるように、目の前のジンオウガの前足の黄色い甲殻割れて青白い光が見え始め、体の緑色の鱗も剥がれ落ち、白い鱗が混ざった斑模様と化した。

 

「極み吼えるジンオウガ・・・」

 

誰がそう呼んだか、ただ二つ名が付いたように何人ものハンターが重症を負った。到底四人パーティの固定概念に囚われていたギルドもその考えを捨てるほど強大なジンオウガ。対策として取られたのが四人パーティはそのまま、負傷したら別のハンター投入を繰り返す消耗戦だった。そのジンオウガとて生物であると信じた結果、なんとか討伐に成功した。そしてその戦いで唯一最初から最後まで戦ったのが・・・

 

「俺、だったな」

 

そのこともあって太刀使いの最上級の称号の『刀神』を得ることができたのだ。だがそれも大勢のハンターの協力あってのもの。討伐という結果もそうだ。だが今戦えるハンターは俺だけである。だからこそ、最善の手を打たなければならない。

 

「アーノルド!!」

 

俺の煙玉を最初にいくつもの煙玉、そして肉食系のモンスターの嗅覚を騙せる臭いを詰めた煙玉も多数展開し一旦撤退した。

 

「ど、どうするニャ?まさかあれが噂の・・・」

 

「恐らく。そしてアレが敗れるほどのジンオウガがまだいるということだ。雄同士の縄張り争いでも最低一頭。そして番の雌が不特定数。お前たちは急いで村に帰ってそのままギルドに報告しろ。いくら何でもメゼポルタ討伐戦の規模を揃えるのにも時間も覚悟も必要だ」

 

「ご、ご主人は・・・」

 

「知れたこと」

 

「・・・」

 

その言葉でアーノルドたちは俯く。だがジンオウガは待ってはくれない。逃がした俺たちをおびき寄せるためか遠吠えが聞こえる。

 

「行くんだ!!」

 

俺の怒声とともにアーノルドたちは村へと走った。

 

生きているかすらわからない、リンとの約束を。果たせなかったとしてもリンが生まれ育ったユクモ村を守るために俺は命を賭した覚悟でジンオウガの下へ太刀を構えて走った。



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第十四話 退かぬ決意 進む覚悟

村長が驚愕の余りに倒れた。これだけで一大事という言葉でくくれないほどのことが起きたということだけが分かった。呼吸も置いて走ってきたユウヤたちのアイルー。その話によると現れたジンオウガはギルドが総力を挙げて行った消耗戦でギリギリ討伐できたというほど強大な個体だという。その個体は一時期噂になったジンオウガだろう。遠く離れたタンジアの港にまで届くほどの強大さ。強大であるがゆえに伝えられるごとに噂は大きくなるが、それでも老齢の古龍ですら圧倒すると言われるほど。どれだけの人数を投入したかもわからない消耗戦。正直どうすればいいのかはわからない。ただ村長が一言言った。

 

「逃げる、しかありません」

 

いつも非難するときは必ず村長の説明が入る。だがそれすらなしにただ『逃げるしかない』と村長が言った。

未曾有の事態に大慌てで逃亡準備が始まった。そんな中異様な光景が繰り広げられていた。

 

 

「「「「「じゃーんけん・・・ぽん」」」」」

 

ユウヤのアイルーたちが呑気にじゃんけんをしていたのだ。

 

「ニャァ・・・負けたニャ」

 

「こればっかりは運のツキ・・・どっちが良いか魔では判別付かないけど、後はよろしくニャ」

 

そう言ってアーノルド・ショット・ローラ・ボンドが再び渓流へと走っていった。そしてマギーが残ってユウヤの工房に走っていった。私はとりあえず近いマギーを追った。

 

「・・・何をしているの?」

 

「見ての通り手紙ニャ。オイラの話だけじゃすぐにギルドの連中は動かないニャ。だから『刀神』の印を押して手紙を書けばギルドの連中も重い腰がなんて言ってる場合じゃなくなるのニャ」

 

「・・・さっきのじゃけんってもしかして・・・」

 

「全員がご主人のところに戻っても事態を正確に、より遠くへ救援を乞うことはできないニャ。だから貧乏くじを誰かが引くしかニャい。それがオイラというわけニャ」

 

そんな絶望溢れるマギーを見て私は二歩、下がるしかなかった。だけど、後ろ、やや下から押された。

 

「いいのかニャ?」

 

「番頭さん・・・」

 

「レイナさんは、どうするニャ?」

 

「どうするって・・・噂じゃ古龍の何倍も強いって・・・」

 

「うん、噂ではそうニャ。並みのハンターが何十人と戦ってやっと倒せた相手。それを今はユウヤさん一人が相手にしているニャ」

 

「アイツは私の何倍も・・・何十倍も強い!!だけど・・・私は・・・」

 

「・・・気持ちは、どうなのニャ?」

 

「・・・行きたい!!でも、足で纏いに・・・」

 

「それで、思い人を失って、村を捨てて、この先、どうするのニャ」

 

「っ!!でも、私のランクじゃ到底・・・」

 

「・・・元々の依頼、討伐対象はジンオウガ。()()()()()()()()。それに今は村は大慌てで逃げ支度。村長もあまりの事態に全部は見られない。だからちょっと一人応援に行ったってバレないニャ」

 

「!!」

 

「例え足手まといでも、死ぬかもしれなくても、置いていってほしくないのなら、わかるニャ?」

 

「・・・うん!!」

 

私は急いで家に戻って飾ってあった一振りの太刀を背負う。私がハンターの免許皆伝でもらった太刀とは別。母さんが使っていた太刀。そして両親の唯一の遺品。それを背負って私は村を飛び出した。

 

―――――――――

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・」

 

アーノルドたちを送り出して少し。一瞬で趨勢は決していた。まず勝てない。どれだけ閃を放ってもあの前足に攻撃が防がれる。攻撃も行い、さらに防御まで重厚。勝ち筋が見えなかった。

そして一瞬、息を整えようとした矢先、目の前にジンオウガの前足が迫っていた。

 

「こんな・・・終わりか・・・」

 

だが振り上げられた前足は降りてくることなく、ジンオウガは一瞬で体勢を直して飛びのいた。その直後、俺の目の前が爆発した。

 

「・・・なんで!!」

 

そこには、見送ったはずのアーノルドたちがいた。だが、マギーだけいなかった。

 

「どうして・・・」

 

「マギーには貧乏くじを引かせたニャ。ご主人は一人で戦うつもりらしいなら、ボクらはボクらで勝手にやらせてもらうニャ」

 

そのアーノルドの言葉の直後、ジンオウガの頭上及び背中が爆発し煙とは違う白い霧に包まれた。

だがすぐにジンオウガが霧を突っ切って襲ってきた。それを俺とアーノルドはギリギリで避けた。

 

「あの霧・・・氷結爆弾・・・それも大型・・・」

 

「ニャー鈍るくらいは期待していたけどそううまくはいかないようニャ。なら後は・・・」

 

そのアーノルドのことは通りにローラ、ショット、ボンドがそれぞれの武器を取って俺とジンオウガの間に立った。

 

「「「「まだこんなところじゃ終われないニャ!!」」」」

 

「・・・言ってくれる、っ!!」

 

俺もその後ろで構えて、総員で戦う姿勢を見せる。その姿を見てか、一層ジンオウガの纏う電気が激しさを増した。

 

「っ!!」

 

それを合図に俺とアーノルドが駆け出し、それを迎え撃とうとジンオウガが前足を上げた。

 

「ふっ!!」

 

俺の渾身の一太刀は事前に振り上げられた前足に防がれる。だが、俺の背中を伝ってさらにアーノルドが跳躍する。

 

「足蹴に御免、されど頭を頂戴ニャ!!」

 

アーノルドが一閃しようとするも、ジンオウガが雷を放出して強引にアーノルドの身体ごと消し飛ばして攻撃自体を防ごうとした。

 

「させないニャ!!」

 

事前にアーノルドの身体に巻き付けていたロープをボンドが持ち味の腕力を活かして強引にアーノルドを引き上げた。俺は俺で何とか雷撃解放から脱出した。

 

「なんつー器用な」

 

「助かったニャ」

 

「用意しといて正解ニャ」

 

その間にショットとローラが遠隔武器で攻撃。頭を狙うも、ジンオウガは身をかがめて回避する。だが言ってしまえば弱点の頭であれアイルーの武器など強靭な甲殻で弾けるはず。そのことに違和感があった。

 

「ボンド。さっき氷結爆弾を落とす前、ヤツの上半身に違和感はなかったか?」

 

「うーん・・・なんか、背中・うなじ・頭の一つ線で電気が見えたようニャ・・・」

 

「うなじ・・・髄・・・っ!!」

 

よく見てみるとジンオウガの角が著しく帯電していた。素材に通じているならわかるが、角は帯電するような材質ではなく、余剰の電気を吐き出す噴出孔に似ているのだ。そもそも超帯電状態、つまり雷を纏うなど生物としての機能はジンオウガ自体にはほぼ無い。自身で発生した電気で雷光虫を活性化させることによって莫大な電気を纏うと言われている。そしてその電気を何らかの方法で身体能力に変えているが原理は不明。

 

というか今は関係ない。目の前のジンオウガは通常種よりもさらに膨大な電力が無理に宿っている状態の可能性が高い。実際に戦闘になるまでは普通のジンオウガと差異が無かったのも材料の一つ。仮に縄張り争いで角が折れ、巣から追い出された後、極限まで電力を貯めた末に渓流に現れ、最初に放ったのが最初に見せた前足からの雷撃で変化が起きたとすれば強引だが説明がつく。

 

年月による変化が唐突に蓄積した電気によって引き起こされ、変質したとなれば寿命、活動時間は少ない、もしくは稀に見る激昂したラージャンのように防ぐ器官が無い可能性もある。持久戦に引っ張れば勝ちの目は見えるが、それでもこちらが持つ可能性は低い。

 

「だが、論より実行だ!!」

 

どれだけ理屈を並べようとも、それが崩されたら意味が無い。戦えるだけ戦うしかどの道勝ち筋は無いのである。

 

「さすがに前足にも触れられないか・・・」

 

太刀を当てる程度なら感電しないが、直接防具の手で触れると纏った電気に感電する可能性もある。だから最初の前足を踏みつけることは無理だろう。相手も本能的に角を守りたいのか、ショットとローラの攻撃は避けている。

 

「元々絶縁体の鱗があるとはいえ頭部分は薄い。そこに過剰な電気が流れれば暴発の危険を本能で察知しているのか?」

 

「どの道、時間を稼げば村のみんなが逃げれるニャ」

 

「そうだなっ!!」

 

さらに駆け出して一閃しようとするも前足に阻まれる。そしてジンオウガの纏う電気がさらに激しさを増し、ついには纏う電気によってショットとローラの攻撃が撃ち落される、無効化され始めた。

 

「くそっ・・・」

 

攻撃が効かないと見るや、ジンオウガは最大級に電気を纏い、俺目掛けて駆け出した。止めようとショットとローラが攻撃しようとするもあふれ出る雷撃が離れている二人にも牙をむき、攻撃できずにいた。

 

「くっ!!」

 

咄嗟にアーノルドとボンドを抱えてそのまま遠くへ投げた。どの道狙いは俺だ。全く目を放してくれないからな。

 

「・・・っ」

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

再び死を覚悟した矢先、聞こえるはずがない声が響き、そのまま鋭い一閃が無防備なジンオウガの真横から放たれた。



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第十五話 双撃

一瞬で距離を詰めたレイナが死角であろう横合いからジンオウガの角めがけて太刀を振り下ろした。そして太刀が纏っている気刃の色は赤だった。

 

「れ・・・レイナ・・・」

 

「おれ・・・折れろぉぉぉぉぉ!!」

 

上から振り下ろした太刀にレイナはそのまま峰へ片腕を叩きつけた。体重、腕力が極度にかかり、超帯電状態で柔らかくなったと思われる角はその渾身の一手で折れた。

 

「ゴァァァァァァ!?」

 

突如としてジンオウガの頭部分で莫大な電気を纏った爆発を起こし、ジンオウガすらのけぞりそして転がりまわっていた。

 

「痛てて・・・ちょっと痺れた程度か」

 

「レイナ、大丈夫か!!つーかなんで来たんだ!!」

 

「う、うっさい!!こっちだって事情があるの!!」

 

「だからって、普通のジンオウガにすら「うっさい!!」っ」

 

「ここで逃げたとしてもまた戦うことになる。なら、手負いの今、なんとしてでも仕留めないと。そうでしょ?」

 

「だが・・・」

 

「アンタ、リンって奴を探してんでしょ」

 

「んなっ・・・なぜそれを・・・」

 

「一つ質問。アンタは『ユクモ村のリン』を実際に見たことがあるの?伝え聞いたの?どっち?」

 

「・・・見た。つーか会って話した。だけどそれは今関係「なら話は早いわ」?」

 

「・・・お母さん。少しの間だけでいい。母さんが守ってくれた村と私。そして私が守りたい物を・・・もう一度だけ守って」

 

その瞬間、レイナの持つ刀が再び赤色の気刃を纏った。

 

「長くは持たない。だから、いっきに決着をつけるわよ」

 

「っ!!後からきていいとこだけ持っていきやがって。わかった。終わったら知ってること全部話せ」

 

 

「「シッ」」

 

合わせなくてもわかる息の合ったタイミングでの突貫。目指すは何とか立ち直ったジンオウガの頭。

 

「っらぁ!!」

 

まず俺が一手早く太刀を振り込んでジンオウガの防御を誘う。そしてそれは上手く引っかかった。

 

「せい!!」

 

そしてレイナの二ノ太刀がジンオウガの頭を捕えた。

 

「グァ!!」

 

だがジンオウガも抵抗を見せ、折れた方の角で強引に頭をレイナの太刀から守り、カウンターの電気放出をするが片角が折れて放出が上手くいかないのか再び電気の爆発を起こした。だが今度はのけぞるほどではなかった。こちらは電気放出前に距離を取る。

 

「どうすればいい?」

 

「恐らく電気放出自体で寿命自体に直接ダメージがあるはず。だがどれだけ必要かわからない以上、まだ残っている方の角を狙う。そうすればさらに機能不全を起こしてダメージを与えられるはずだ」

 

「なら今度は私が先ね」

 

「防御に回るとはいえ、かなり腕力があるから気を付けろよ」

 

「「ッ」」

 

そして再び同時に突貫。今度は宣言通りレイナが先に防御を誘う一太刀を放ちジンオウガが引っかかる。

 

だがその間に俺はさらに踏み込みジンオウガの側面にまで進んでから太刀を振るった。

 

「これなら反対の角も使えんぞ!!」

 

言葉通り、ジンオウガは頭をひねってでも残りの角を守ろうとするも俺の太刀の方が早く、残りの歪な方の角を切断した。そしてさらに角が電気を放出し暴発する。

 

「グァァァァァ!!」

 

恐らく制御器官の角を両方欠損し、残る背中の帯電殻だけでは足りないのだろう。既にジンオウガの足は震えているように見えた。だが、その目の闘志は消えるどころかさらに燃えているように見えた。

 

「ガァァァァァ!!」

 

ジンオウガは両前足を叩きつけるように前に出し、おそらく最大限電気を放出し始めた。

 

「な、なにをするつもりなの・・・?」

 

「恐らく、俺たちを近づけさせないつもりだ。例え自身の方が先に倒れることになろうとも」

 

「・・・っ」

 

「どれだけ持つかはわからん。だからと言って逃げては意味が無い。ここで、仕留める!!」

 

俺は手に持つ『祈刀・凛然』に一気に気刃を集中させる。こんな機会、それこそメゼポルタで本当の極限個体を討伐した時以来だ。事前に防具に仕込んであるモンスターの増幅器官。それが俺の気刃に反応して防具が展開されて一気に気刃増幅の手助けとなる。

 

「ちょっ!?なんなのその姿!!」

 

レイナからすれば俺もプチジンオウガじみてるだろう。そして俺は刺突の構えを取る。近寄れないならこの距離で放てる技に全てをかける。が、何故かレイナも同じ構えを取った。

 

「・・・ひと時の赤の気刃と言えど、教えていない俺独自の技を見様見真似で放てるわけねーぞ」

 

「そりゃやってみないとわからないでしょ。で、コツは?」

 

「・・・とりあえず気刃を太刀と体にに纏わせる時の感覚を最大限太刀だけに集中させろ」

 

「ぬ・・・おぉ?ちょっ、抑えきれない、タスケ」

 

「・・・マジでやりやがったが、そうなるよな。とりあえず二人分あるなら威力は十分だ。一気に突き出せ!!」

 

俺とレイナの二人揃っての気刃突破。レイナの方は不安定ながらもそれなりの衝撃波を発生させた。

そして甲殻同士の間隔を開いて最大限電気を放出しているジンオウガはほぼ無防備。

そこに俺たちの気刃突破が迫る。

 

「グルアァァァァァ!?」

 

予想していない攻撃。すり減った肉体と精神への耐えきれない双撃。そして制御できない電気放出がさらに手を付けられなくなった刹那。ジンオウガからここ一番で全周囲に衝撃波が出るほどの電気放出が起こる。

 

「ぬぅ・・・」

 

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

だが電気放出が止むとジンオウガは力尽きたのか倒れた。元々いたであろう雷光虫は途中の変化を感じて逃げてしまったのか、雷光虫霧散での討伐確認ができずにいた。

 

「倒したの・・・?」

 

「多分、な・・・」

 

衝撃波に備えて低くしていた姿勢を戻して背後から近寄り、トドメの一撃をジンオウガの首に放ち、両断した。いくら何でも首なしで動かないだろ?動かないでくれ・・・。

 

「ふぅ・・・あれ・・・」

 

それと同時にレイナの張っていた気が解けたのか気刃も消え、そして倒れそうになる。

 

「しまっ・・・!!」

 

「・・・ふん!!」

 

全力で駆け出して倒れるのを防ごうと手を伸ばす前にレイナはさらに横に足を出して自力で踏ん張りやがった。

 

「・・・無理、しなくていいぞ」

 

「大丈夫。歩けるから」

 

「そうか」

 

お互いの無事を確認して太刀を仕舞う。が、

 

「「「「ニャー!!」」」」

 

「おわっ!?」

 

突然の裏切り、もとい四人のアイルーによる突撃を受けて倒れてしまう。

 

「お前らなぁ・・・」

 

「心配したニャ!!」

 

「・・・すまんな」

 

「まぁ、無事で何よりニャ。それよりも、マギーが発つ前に村に戻るニャ」

 

「・・・そうだな」

 

とりあえず、言われた通り全員がフラフラとしながら村を目指した。




ここまで書きましたが、何か相違点、感想等ありましたら一言でも書いていただければ今後のエネルギーにできます。よろしくお願いいたします


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第十六話 あの日と同じあの場所で

「ほ、本当ですか!?」

 

何とかマギーが発つギリギリ前で村にたどり着き、這う這うの体で村長にジンオウガを討伐したことを報告した。安堵したのか、いつも毅然としてた村長が倒れこむほどであった。

だがそれを見て確信したのか、先代の番頭さんが逃げ支度を中断していた村の人たち全員に分かるほど大きくガッツポーズをした。その瞬間。響くような歓声が沸き上がった。安堵、喜び。その感情が爆発したのだろう。

 

「す、すごいわね・・・」

 

「あぁ、そうだな。そしていい人たちばかりだ」

 

逃げ支度はほぼ完了しているはず。なのに完全に逃げている人はいないように見えた。それだけ、レイナが信頼されているということなのだろう。

 

「・・・一応、応援に行くこと、村長さんに言ったんだよな?」

 

「・・・さぁ?」

 

「・・・は?」

 

はい、手のひら返します。レイナへの信頼ではなく、どうやら村長が毅然と座っていたから誰も逃げようとはしなかったのだろう。さっきのレイナへの賞賛と感動を返せ。と、目線で訴えるもどこ吹く風。

 

「そういえばさっき知ってること話すって」

 

「あ、なんか呼ばれてるよ。おそらく祭り・・・というか捨てていく荷物でなんかやるってさ。準備が整うまで休憩していいってさ。じゃ、後で」

 

そう言ってそそくさとレイナは逃げるようにして離れていった。

 

「・・・騙された?」

 

口にしておいてなんだが、そんなことは無いだろうと俺も自分の家に戻って寝ることにした。昼すぎに出発してもう空は夕暮れに差し掛かっていた。祭りはいつやるのだろうかと思いつつもすぐに寝てしまった。

 

――――――――――

 

そしてポンポン、と太鼓や楽器の音が耳に入って目が覚めた。完全とはいかないが疲労はほぼ無いに等しい。夕暮れ時に寝て今は夜。たった少し寝たとはいえ我ながらかなりの回復力だ。

 

「さしずめ俺もまだまだいけると思ってそうだけど、残念。ご主人は一日寝てたニャ」

 

唐突にどん底に落とされるような、というか見透かされて結構恥ずかしい。何せガッツポーズまでしてたのを見られていたのだろう。というかすぐとこに布団を敷いて五人が揃ってこっちを見て寝ころんでいたのだから・・・。

 

「いい人ばかりにゃ。流石に当日は疲れているだろうと。ニャら荷ほどきと準備を一日かけてやってやろうってニャったんだと」

 

「お、おぉ・・・」

 

「で、レイナさんは先に復活して待ってるニャ」

 

「さいで」

 

俺もアイルーたちと一緒に家を出た。するとそこには小さな村ながら立派な屋台が数件と祭り櫓まで作られていた。

 

「すげーな。規模こそ違えど建築の速さで言えばドンドルマレベルだぞ」

 

「そりゃどうも」

 

と、横からレイナがやってきた。

 

「さぁ、主賓の到着よー!!みんなー!!楽しんでー!!」

 

何故か手を掴まれそのまま上に掲げさせられた。そしてそれを合図に集まっていた村の人一同が各々の行きたいところに歩き始めた。

 

「じゃ、ユクモ村の祭りは初めてだろうから私自ら案内してあげる」

 

「おい、それよりも・・・おぉい!?」

 

何故か話題を進めさてもらえないが、これはこれで悪くは無いのだろうと思うも、やはり俺はレイナの手を強引に払ってしまった。

 

「あ・・・すまん」

 

でもなぜかレイナの顔は驚きよりもにやけた顔だった。

 

「な、なんだよ・・・」

 

「そんなに気になって、義理立てというか、そういう事なんだ。ま、そっちの方が嬉しいわけなんだけど、じゃ、さっさと済ませましょ」

 

そう言ってまた腕を掴まれて今度は川原に連れてこられた。

 

「で、ようやく話してくれるのか?」

 

だがその返答は木刀が投げられてきた。

 

「どういうつもりだ?」

 

「こっちで話した方が早いんじゃない?」

 

「・・・俺たちはハンター。狩りが生業なので会ってひたすら武技を磨く武芸者じゃないから剣で語り合うなんて・・・おわっ!?」

 

「先手必勝!!」

 

問答の余地なしで何度も切りかかってくるレイナ。仕方ないから経験の差で黙らせようかと思うが・・・

 

「おろ・・・?」

 

何故かレイナの剣閃を完全に捌ききれない。疲れがまだあるのか・・・感覚がつかめないでいた。

 

「ふふっ。何考えているか当ててあげようか?『どうして裁けないんだ』でしょ?」

 

「っ!?」

 

「そりゃそうでしょうね。修行してた時だけが私の剣を振ってる時間なわけないでしょ。私は小さいころからずっと、いつか来るかもしれない今日のこの機会のために剣を練習したんだから!!」

 

いつも受けていた感覚が通用しない・・・。ならば!!

 

「うっ・・・いつもの勘から本来の勘に切り替えたわね。そうこなくっちゃ!!」

 

ただのじゃれ合いで済ませるはずが、何故か本気のぶつかり合いに発展していた。

勘だが今降参したら何もつかめず終わるだろう。その前に降参するのが何故か悔しい思いでいっぱいである。

 

「・・・懐かしい感じだ」

 

その言葉を区切りに一瞬レイナは笑ったように見えたがすぐに本気の顔に戻ってさらに剣閃が鋭くなる。

だが、何とか一撃を完全に弾くことができ、さらに追撃、トドメが届く。

 

「届く?残念!!」

 

だが、俺の木刀が届く前に俺の視界は一気に回転した。その上頭部に衝撃を受けた。レイナのタックルを受けて二人もろとも倒れたらしい。

 

「これも・・・覚えている・・・?」

 

「んな・・・まさか・・・」

 

「アンタが知っているリンていう女の子、実は私の事って言ったら信じてくれる?」

 

レイナが起き上がるのに合わせて俺も起き上がるが、ちょっと顔を合わせずらかった。頭の整理も追い付いていない。

 

「その・・・本当なんだよな?」

 

「・・・うん」

 

「当人から託されて真似してる、わけじゃないんだな?」

 

「うん」

 

「じゃぁ、リンってどうして名乗ってたんだ?」

 

「その・・・さ、レイナって、リオレイアに似ていてなんかやだなって。まるで狩りの対象みたいでさ。だから・・・その」

 

「いつ、その、俺に気が付いたんだ?」

 

「その・・・昨日さ、私の防具の様子を見にアンタの工房に入ったとき、アンタが寝言で『リン』って呼んだのよ。それにアンタが『ユウ』ならさらに説明がつくわけで。最後にジンオウガに挑む前に確かめたってわけ」

 

「そういうことか・・・はぁ・・・」

 

「ちょ、大丈夫?もしかしてさっきの頭痛かった!?」

 

「いんや。世界は広いようで実際はとっても狭いんだなって」

 

「何さ。哲学?」

 

俺が寝ころんだのを見て大丈夫だと思ったのか、リン、いいやレイナも横に寝転んだ。

 

「最初からここに来ておけばと思ったが、すぐに来てもまた文字通りの泥仕合になりそうだな」

 

「そうね・・・ねぇ、もしかして・・・」

 

「あぁ、俺の両親ももういない」

 

「そう・・・」

 

「忘れるなんてできないけど、今はその・・・再会の喜びに浸っていいか?」

 

「うん、私も・・・そうする」

 

どっちから手を寄せたなんてわかんない。

 

だけど俺たちは同じタイミングで手を握った。

 

「夜空、綺麗でしょ?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「ねぇ・・・村に近づいたジンオウガは討伐。つまりユウの依頼は完全に終わったのよね?」

 

「・・・そうだな」

 

「・・・もう、出ていくの・・・?」

 

「正直に言っていいか?」

 

「・・・うん」

 

「俺さ、メゼポルタに作ってた工房の設備もほとんど売り払って、鍛冶を教わった師匠直伝の炉用の石と武具だけ持って村に来たんだよな。当然素材はギルド倉庫にあるからまぁ、いいんだが・・・。そのさ、拒絶されない限り骨をここに埋める覚悟で来たんだよ」

 

「・・・へ?」

 

「いやさ、ハンターっていつ死ぬかすらわからないんだ。だからもし、リン・・・レイナが死んでいたら俺が代わりに村を守るって勝手に覚悟決めてたから・・・その・・・」

 

「・・・そう。なら、好きなだけいれば?」

 

「いいのか?」

 

「だけどその代わり」

 

唐突に顔を強引にレイナの方に向けられてレイナもこっちを見てた。

 

「絶対に、離れないで・・・置いていかないで」

 

そういったレイナの手は震えていた。俺はその手を握って向き合う。

 

「あぁ、離れないし、離さない。そっちこそ、勝手に置いていくようなこと、しないでくれよ?」

 

「うん・・・うん!!」

 

そのまま二人で笑顔を浮かべていたわけだけど・・・

 

なーぜかいつの間にか剣呑な雰囲気になってしまった

 

「まだ?」

 

「は?顔向けて来たの、そっちだろ」

 

無言の見つめ合い。

 

「臆病野郎」

 

「後出しずる女」

 

悪口こそ言い合うも

 

自然と顔は近づいていた

 

――確かに唇に暖かい感触が残ったのは覚えている――

 

その後どれだけ呆然としていたかわからない

 

だが突然打ちあがった花火で余韻は消え去った

 

とりあえずお互い恥ずかしそうに起き上がるもしっかりと手を握って村の明かりに向かって歩き出した




二人の過去については中盤でやろうかと思いましたが、開けていた間隔でかなりのモンスターも増えたので中盤にたくさん小話を差す前に先に決着に変更しました。
今後はユクモ村を中心に本当は出現しないモンスターも生態系に合わせて出しながら
本当の敵に向けさせようと思います。今後ともよろしくお願いいたします


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第十七話 私の仇と二人の決意

「レイナさん。お話があります」

 

ジンオウガ討伐後の祭りの終わった次の日。私は村長に呼ばれた。ただ村長の顔はあんまり見たことが無い様子であった。

 

「それでお・・・話って?」

 

「先ほど先日討伐されたジンオウガの検分をさせていただいたのですが・・・。今まであなたのご両親が亡くなったときの依頼対象を放したことがありませんでしたね」

 

「・・・」

 

その言葉を聞いて一瞬、相席してもらっていたユウヤの雰囲気が変化した。

 

「先に結果を話します。あなたのご両親が亡くなられたときの討伐対象はジンオウガでした」

 

「ジンオウガ・・・まさか!?」

 

「おそらく、今回討伐されたジンオウガがあなたの仇でほぼ間違いありません」

 

「でも、ユウヤの話じゃ片方の角の歪な成長は縄張り争いだって・・・」

 

すると村長は複数の紙、資料を取り出して見せてくれた。

 

「当時の記録、狩りの前にご両親が行った偵察記録によるとそのジンオウガの角は生えそろっていたと。ただしおびただしいほどの電気をため込んでいたともあります」

 

筆跡は間違いなく両親のもので間違いない。ただ走り書きのように見えるということは相当急いで書いたのだろう。書き直した部分も多々あった。そして村長は一つの欠片を、見せてくれた。

 

「今まで隠していましたが・・・あなたのお母さんが使われていた太刀が唯一見つかった遺品と教えていましたが、その太刀の近くにこれも落ちていました」

 

その破片を村長はユウヤに見せた。

 

「・・・ジンオウガの角の破片」

 

「おそらく、一矢報いてジンオウガの角を折ったのでしょう」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

「元々復讐などという悲しき人生の目標を背負わせようなどと思っていません。ですが、このような形で叶ったとなれば・・・」

 

「・・・そう、ですね」

 

少し、というかかなり視界がぼやける。あふれ出るほどの涙。ただ確かなのはユウヤが手を握ってくれていた。

 

「・・・それからユウヤさん。渓流の奥に、此度と同種のジンオウガがいる可能性があるとおっしゃっていましたが・・・今回の依頼は既に達成されています。今後はどうされるのですか?」

 

一瞬、握ってくれていたユウヤの手に力が入った。

 

「依頼は達成されました。数日後にギルドからも返信が届くでしょう。戻ってこいと言われるでしょうが、生憎メゼポルタを発つときにここに骨を埋める覚悟で来ました。そしてこれからはレイナとともに村を守らせてもらいたいと思います」

 

「ユウヤ・・・」

 

「そう・・・お互いの事を思い出した、気づいたということですね」

 

「・・・村長は最初から気づいていたんですよね?」

 

「まぁ・・・その・・・まさか恋焦がれるほど思っていたとは想像していませんでしたので・・・。ですが、そうですね。レイナは人より言葉が強いですが、人としては立派です。親代わりの私が言うのもなんですが、レイナを、村を守ってくださいますか?」

 

「そのつもりです」

 

・・・なんか、話がそれている気がする・・・

 

「してレイナ。今後はどちらの家に住むのですか?」

 

「ゔぇ!?えぇっと・・・そのぉ・・・保留で・・・」

 

「まぁ、焦る必要はないですが、何が起こるかもわかりません。後悔が無いようにね?」

 

「・・・はい」

 

「では、湿っぽい話はこれまでにして、私はこれからいろいろと忙しくなるので、お二人はゆっくりとしていてくださいな」

 

そう言われて話は終わりとなって私たちは村長の家を出た

 

「・・・なんか、蚊帳の外、って感じなんだが」

 

「うん・・・あってると思う」

 

「・・・先急ぎすぎたか?」

 

「うーん」

 

ちょっと口元が緩む気がしたが、仕方がない。

 

「なーんかありそうだけど、その前に聞きたいことがあるなー?って・・・」

 

「・・・そうだな。レイナ。レイナは絶対に俺が守るだから、離れないで、置いてかないでくれよ?」

 

「うん。まだ追い付けないでいるけど、ユウヤは私が守る。だから、置いてかないで」

 

握っていた手を絡めるようにして、私たちは川原でちょっと火照った体を涼めることにした。

 

――――――――――――――

 

二日後、私たちが察知する前に結婚式の準備が完了していた。最初こそ村のしきたり通りに進んだが、いざ食事となったときに飲みなれていないお酒を飲んだ。何せユクモ村の酒は外じゃ強いと言われるほど。それを一杯飲んだだけで私もユウヤも酔いつぶれていた。だからその後の記憶が無い。

 

ただ起きたとき、隣にユウヤがいて、起きるタイミングも一緒だったせいで、少し顔を見るのが恥ずかしかったのは余談である。



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