魔法少女リリカルなのはvivid ~Strongest worst Belka emperor~ (休載) (鈴木颯手)
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第零話 プロローグ
「…ふははは、人の世とは呆気ないものだな」
城の寝室で寝込む男は力なく呟いた。
元は綺麗な赤髪であっただろう髪は黒く変色し、禍々しい色を放っている。
体も痩せ細り着ている寝巻きはブカブカであった。
たつのも困難な状態の中その男―混乱の極みにあったベルカを統一し、ベルカに存在する王を従える存在「皇帝」の地位につきベルカに安定と平和をもたらした皇帝アキシオ・エル・ベルカの瞳は輝きを失っていなかった。
「ベルカに喧嘩を売ったのが十八の時、ゆりかごのせいで死にかけたのが三十の時、ベルカを統一したのが五十の時か。俺も随分老けたものだ」
アキシオはベルカ統一までの記憶を昨日のことのように思い浮かべた。実際彼は昨日の事に思えてしょうがなかった。
「…ベレヌス、聞こえるか?」
【はい、マスター】
アキシオはベットの近くのテーブルにおかれている自信のデバイスに話しかけた。
「お前と出会ってもう五十年はたったな」
【はい】
「あの時の事は忘れられねぇよ。起動させたら魔力が暴走して全身火だるまに。そんでもって全身火傷したな」
【それは単純にマスターの使い方が悪かっただけです】
相変わらずの毒舌にアキシオは苦笑しながら言葉を続ける。
「ベルカに喧嘩を売ったときもお前と一緒だったな」
【あの時マスターがもっと穏やかに進めていれば喧嘩を売らずにすみましたけどね】
「別にいいじゃねぇか。結果を見ればすべてがうまくいったんだ」
【ご子息の事も、ですか?】
「…」
その言葉にアキシオは目をつぶる。アキシオの脳裏に浮かぶのは無茶な彼についてきた息子とその子ども。
六十すぎた彼に変わりアキシオの子どもが政治を行っているがその子どもは無能であった。
ただの無能であればよかったが彼は父親に反発しており歯止め役となっていたアキシオが死ねば国を二つに分けて争いかねなかった。無論アキシオの子どもは有能なので負けることはないだろうが今までのように統治することは不可能となるだろう。
そうなった場合。アキシオの統一の苦労は水の泡とかし、ベルカは再び乱世の時代となるであろう。
しかし、彼は首を軽く降ると目を開ける。
「んなこた考えたってどうしようもねぇよ。後の世の事は後の世の者達が考えるのだ。俺見たいな死に損ないの老いぼれが口出ししていいことじゃねぇよ」
アキシオは迷いなくそう言いきった。
【…そうですか】
「…まぁそんなことよりベレヌスは俺が死んだ後はどうするんだ?」
【今さらマスター以外に仕えるのは嫌なのでマスターが死んだら機能を封印して寝ようかと思っています】
アキシオのデバイスであるベレヌスは特殊だったため色々な人が狙うのは目に見えてわかっていた。故のこの処置であった。
「…そうか」
【あ、でもマスターが生き返ってもう一度使ってくれるなら封印を解除してもいいですよ?】
「ははは、俺に死んだあと生き返れと?無茶いうなよ」
【マスターならできないことはないと思いますよ】
「…そうか…っ!?」
アキシオは思いっきり咳き込んだ。暫くして咳が収まると口をぬぐった。ぬぐった手には血が付着しており余命幾ばくもないことを示していた。
「…俺もここまでだな」
【…ならマスターにだけ私の封印解除のパスワードを教えておきますね。そのパスワードは…】
この二日後ベルカ皇帝アキシオ・エル・ベルカは家族や家臣に見守られながら静かに息を引き取った。
そしてこれに呼応するかのごとくアキシオの孫が反旗を翻し、国を割る大戦争を起こしてしまう。
これによりベルカは再び乱世の世に戻り、末期にゆりかごを使った聖王家によって統一されるまで激動の時代となるのであった。
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第壱話
「……………やはり……………しか……………」
「いや……………だと……………だから……………」
「とりあえず…………して……………から………」
「………………だな」
…うるさい。
耳に粘りつくような声。止むことのない機械音。肌に触れる水の感触。
………水?
水と言うか液体が全身を触れている。
目を開けても視界は全面オレンジでよく見えない。辛うじて見えたのは人の輪郭のみだ。
これらの情報から割り出される結果は、
①ここは天国。今見ているものは全部幻覚。
②実は死んではおらず液体につけられて存命している。
③一番あり得ないが死んだあと生き返り液体に入れられている。
①はないだろうな。機械音が聞こえる時点で何処かの工房か研究所だと思うしな。
②の可能性は結構ある。体を見ることはできないが指一本と動かせない状態なのだ。それならば今の状態の理由が一致する。
③はないな。確かにベレヌスと話したりしたがだからといって本当になるわけがないしな。
とここまで考えときいきなり爆発音が響いた。それと同時に大音量のアラームとそれにかき消される人の声。
やがて爆発音は大きくなっていきオレンジの視界に黄色いなにかが弾けるような物が見えたと思ったらなにかに吹き飛ばされて俺の意識は途絶えた。
「…ここは?」
やがて目を覚ました俺は全身がしびれて動けない状態で仰向けに倒れていた。
服は来ていないようで直接肌に素材はわからないが冷たい床が伝わってくる。
見える天井は崩れており上の階が見えていた。
火が回っているようでなにかが焼ける臭いと炎で蠢く影が見えた。
「…一か八かやってみるか」
このままいればやがて炎によって焼き死ぬだろうしそうでなくてもこの状態でいるのは不味かった。故に俺は行動に写すことにした。
目を閉じて自身のリンカーコアの状態を確認する。それと同時に回りの炎から魔力をすいとりリンカーコアに少しずつ注いでいく。
リンカーコアを調べた結果魔力が空っぽだった。そのせいで体が動かなくなっていた。だから俺は魔力を注いだのだ。
俺は炎の魔力変換資質を持っている。魔力から炎を作れるなら逆もできるだろうと考えた結果だったがうまくできてよかった。
俺は全身に力を込める。そして指先から動かすように力を入れると思ったより簡単に動かせた。
俺は先程まで立つのも困難なほど老衰していたのに。
そう考えると他にも不自然な点はたくさん有った。
俺は力を込めて立った。液体に浸かっていた影響か上手く立てないがそれでも立てた。
俺は現在の状況を確認するために回りを見渡す。
俺が吸収した所為か火は収まっていたが液体に浸かっていた時に聞こえていた機械音はせず床には燃えかけた何かの資料やここにいた者であろう人の死骸などが散乱していた。
爆発の影響で所々に穴は空いているがここは天国ではなさそうだ。だが死ななかったわけではないみたいだ。
俺は両手を見る。そこには骨が多少浮き出た程度の若い手が合った。
体を見回しても先程までの自身の体ではなかった。
「…若返っている?」
体は痩せ細っているが老人の体ではなく青年の体であった。
「…③が正解だったのかな?」
取り合えず今やるべき事は情報を集めることだ。ここがどこかわからない以上行動の仕様がないからな。
しかし、情報になりそうな床に散らばる資料は燃えて見えなかったため仕方なくゆっくりと動かして別の部屋へと向かった。
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