夫婦転生 二度目の人生を彼女と ~異世界にヲタク夫婦が兄妹で転生するらしいです~ (リムル=嵐)
しおりを挟む

プロローグ

初めまして、作者のサイト2000改めリムル=嵐です。
学生で来年受験を控えているので、更新が不定期ですが、完結はさせるつもりですのでどうか最後までお付き合いいただけると幸いです。


一か月前、白を基調とした薄暗い部屋の中で、白衣を着た見た目40代頃の女性から出された言葉を、俺はようやく受け入れられそうだ、未だ、嫌、この先ずっと納得しないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念ながら、彼女の病は末期で、転移も四か所以上見つかっています、もう、長くないでしょう。」

 

「長くて半年、抗がん剤治療はできますが、あまり効果は……」

 

「このことは、未だ彼女には言っていません、先に家族に言うようにこの病院ではしているんです、私が言うか、ご家族が言うかは選べます。」

 

「そうですか、旦那さんから…これは私見ですが、残りの時間を、長く一緒にいてあげてください、一人だと辛いでしょうから。」

 

俺の嫁に残された時間は後、半年もない。

 

このことはもう、嫁に話した。

その日、俺たち夫婦は結婚してから、嫌、出会ってから一番の喧嘩をした。

 

お互いの悪口を言って、取っ組み合いの喧嘩をして、離婚の単語もでた。

 

近所では仲の良い新婚夫婦になっていたのに、大声で喧嘩してたから近所の人が様子を見にきて。

殴り合ってたから慌てて仲裁してくれて。

 

その後、嫁が実家の孤児院に帰って、お互い頭冷やして一週間経ったころ。

嫁と仲直りして、今後のことについて話し合った。

 

結局のところ、話し合いは上手くいかなかった。

俺も嫁も余命なんて信じられなくて、でも現実は残酷で、日を増すごとに嫁は元気が無くなっていって、最近は笑っている所を見ていない。

家の空気も家主に影響されるのか、どんよりとしている。

 

そんな生活が一か月続いたある日、嫁が旅行に行きたいと言ってきた。

場所は京都、俺たちが出会った場所だった。

 

俺は、嫁が寿命を受け入れた気がして強く当たってしまった。

そんな俺を見て嫁は泣きながら叫んだ。

「こんな私を、そこまで、愛して、くれて、ありがとう、でも私、もういいの、貴方と結婚出来て!一緒に過ごせて!本当に、幸せだった、それに、未だ、時間は、あるんだから、最後に、もう一度行きたいの!、貴方と出会った場所に、だから...お願い....」

 

そんなことない!きっと治る、だから諦めないでくれ。

諦めるな、俺が助かる方法を探す!!そんな言葉が頭をよぎった。

 

言いたかったけど、彼女の何か覚悟を決めたような目を見て、何も言い返せなくて、そんな俺を見て、今度は悲しそうな目つきで抱きしめてくれて。

 

あぁ、俺は一生嫁には敵わないし、もう、嫁以外好きにならないだろうなって思って。

その嫁が決めたことに反対なんて出来なくて、だから、俺はこれから3か月、嫁との最後の思い出作りを作ろうと思った。

 

そう言うと嫁は久しぶりに笑ってくれた。

京都は最初の思い出になるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一か月後、京都、伏見稲荷神社で悲劇は起こった。

 

 

そしてそれから約一週間後、俺達夫婦は転生することになる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 




まずは謝辞をば、この度はこんな小説と言っても良いか分からないような駄文を読んでくださり、誠にありがとうございます。
何かと至らない自分ですが、前書きでも言った通り完結はさせるので、何卒、最後までご付き合い、いただけますようお願い申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 再開

「誕生日おめでとう(はじめ)、早速だが大事なお話があるんだ、麗奈(れいな)さん、会ったことあるだろ?今日から初のお母さんになるんだ。」

 

「麗奈お母さんにも子供が居てね、年は初の二つ下でまだ三歳なんだ、今日からお兄ちゃんになるけど、初なら大丈夫って、お父さん信じてるからな?」

 

俺は、今日の出会いを一生忘れないだろうと、目の前の2m近い顔に傷のある男、父親前今 隆志(ぜんこん りゅうじ)の話を聞きながら思った。

俺が何の反応も取らないから父さんが慌てたように言葉を発した。

 

「やっぱり、いきなりで怒ってるかい?サプライズの方が喜ぶと思ったんだが。」

 

父さん………そのサプライズは間違ってるよ……

 

「それで、実はこれから二人に会う予定なんだよ、家族で外食って久しぶりだね?」

 

「父さん…理由は分かったしサプライズもうれしいけど、今度から前もって話してね?」

 

「分かったよ初、時間も無いからすぐに移動しよう、女の人を待たせるのはカッコ悪いからね。」

 

この親、絶対に話聞いてないな、俺のお願いを上の空で聞き流したし、今も速く行きたいのかそわそわしてるし、どれだけ麗奈さんが好きなんだよこの人。

まぁ、俺もこれから妹になるあいつの事を考えると似たようなものだし、人の事言えないんだけどな。

 

「分かったよ父さん、僕もカッコ悪いのは嫌だから速く行こう!!」

 

そう言って父さんと一緒に身体強化魔法を使って移動しながら俺は、この世界に来る前、転生原因になった、あの時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりにここに来たな、あそこの鳥居でお前と出会ったんだっけ。」

 

「えぇ、本当に懐かしいわ、二人とも道に迷って、鳥居の前で地図を広げてたあなたに、私が声をかけたのよね。」

 

あれは京都に嫁と二人きりで旅行に来たときだった、俺と嫁は二人で伏見稲荷神社に来ていて、平日だったこともあり人が少ない境内を散策していた時だった。

 

「キャーー!?引ったくりよ、誰か捕まえて!!!」

 

いかにも金持ってますって感じのおばさんから、高そうなバッグを奪ってこっちに向かってきている引ったくりが、()()()()道の真ん中にいた嫁にぶつかろうとしてきたのを、俺が庇って、頭に強い衝撃が加わったところで、意識が途絶えた。

 

最後に見えた景色は、引ったくりに捕まえられて人質にされている嫁の泣き顔だった。

俺は引ったくりのことを殺してやりたいほど恨んだ、何で病気の事から立ち直ってこれからって時に幸せを奪うんだと。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その思いが無かったらあの時、神は動かなかったし、自分は転生することはなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くとよく解らない空間にいて、その空間の住人らしき二人のうち、雰囲気が只者ではない(もう一人も雰囲気が浮世離れしてた)中性的な顔立ちの、10歳位の美少年に話しかけられた。

 

「やぁ、君が () () () () ()君かい?初めまして、僕の名前は月詠、一応神様をやらしてもらってる、よろしくね。」

 

最初に声を聞いた時は耳を疑った、自分の名前を言ったであろう部分だけ聞こえなかったこともあるが、それ以上に、その月詠と名乗る少年の声は()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

そして妙な納得感があった、あぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()という納得感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論を言うなら俺はその後、自分のすぐ後に俺を追うように自殺した(一週間は頑張ったから誉めてほしいと言われた)嫁に再会し、喜ぶより先に自殺したことに対する怒りで、その場で説教をし。

 

その後神様に言われるがままに二人で転生特典と転生する世界やその他諸々を決め、次の世界でまた会えるようにと運命を弄ってもらい、あれよあれよという間に時間になり転生して、早5年、やっと彼女と再開出来る。

 

まぁ、特典を決める時や運命を弄る時にちょっとしたハプニングがあったりしたがそれはまた別の話。

今は彼女と再開して何を話すかで頭が一杯だ。

 

 

「初、もうすぐ着くからここで魔法を切っておこう、初?聞いているかい?」

 

「聞こえてるよ父さん、魔法を切ればいいんだよね、それでどこに店があるの?周りは住宅街だよ?」

 

考え事している間に隣町まで走ってるってやっぱり魔法って凄いって改めて思い知らされる。

 

それにしても住宅街にある店とは…何か隠れ家みたいなのを想像してテンションが上がってくるな。

 

「あぁ、近くにあるはずだ、実は父さんも来たことが無くてね、麗奈にその店が良いと言われたんだよ、住所はこのあたりのはずなんだ……っとあったあった、あの黄色い屋根の家だ、速く行こう、もう時間ギリギリだ。」

 

結構遠くにある黄色の屋根を見ながらそういうと、父さんは俺の体を抱きかかえて……って!?

 

「ちょっと待って父さん、まだ心の準備が。」

 

ちょ、ま、待て、待って、魔法発動しないで、それ空間跳躍やん、失敗すると体バラバラになる奴やん、成功しても転移者の体に掛かる衝撃で俺気絶するやん、しかもこの前、()()()()()とか言ってたやん、二割で死ぬ魔法に息子を巻き込むな!?

 

「しっかり捕まっていてね。」

 

その声が聞こえた瞬間完成した魔法の衝撃で、俺は気を失った………起きたら、一発ぶん殴ってやる。

 

 

 

 

 

「あ、気が付いたかい。」

 

気が付いたら、目の前に黒焦げになりながら正座させられている敵が、よし殴ろう。

 

「ちょっま、何でいきなり身体強化mぶベら!!?」

 

「父さん、息子を誕生日に殺そうとするなんて、酷いよ。」

 

魔法ってすげー(棒)人が吹っ飛んで部屋の壁が壊れた。

あ、壊れた壁の向こうから店員さんがこっち見てる、すんません弁償なら父さんがするんで、これでも国軍のトップだから金はありますよ。

 

今さらながらこの部屋って結構広いな、学校の教室位ある、VIPルームってやつか、日ノ本は和風って感じなのにこの部屋は前世で言う中華っぽい感じの豪華な部屋だ。

 

………今さらながら、壊した壁に対する罪悪感がやばい。

 

「まぁまぁ、私が後でお仕置きしておくから、お父さん許してあげて?」

 

そう言って部屋の壁を複合魔法で直して店員さんに感謝されているのは(俺からもありがとうございます後、壁壊してごめんなさい)、見た目10代半ばの25歳、今日から俺の母親になる麗奈さん、言っちゃ悪いが、はっきり言って年齢詐欺だ。

 

ついでに言うならこの世界(ファンタジア)、見た目と年齢が合わないのは割と普通だったりする、剣と魔法の世界なんだから、そういうのもありだろとか思ってた時期が俺にもあったりしたが、実物を見ると考えが180度がらりと変わる。

 

だってよく考えてほしい、この世界、見た目「とあるに出てくる禁◯目録(イン◯ックス)」に孫がいる。なんて事が普通にあるのだ、お祖母ちゃんと孫が姉妹に間違われるなんて、よくある光景なのだ、自分で言ってて意味わからん。

 

前世じゃ考えられない光景だ、さらに言うならこの夫婦、見た目が犯罪なのだ、二人で歩いてたら警察呼ばれるくらい(実際あったらしい)。

 

考えてみてほしい、2mに迫る身長に加えて、元々強面だった顔に瞼から頬にかけての大きな傷のある男と、見た目14、5才位の美女(美少女?)が歩いている光景を…………事案だろ?

 

「え?もう十分お仕置きはされたんじゃぁ。」

 

おう、父さん回復速いな、一応全力で殴ったんだよ?前世だったら木を真っ二つにできる自信がある。

 

今世ではどうなんだって?ハッハッハ、この世界の木は国一つ滅ぼせるんだぜ、はっきり言って魔獣なんかより木の方が脅威だ。

 

根を張って周囲一帯の水を枯らしたり(川も湖も関係なく枯らす)、光合成で光エネルギー貯めてポ◯モンよろしくソーラービーム連射して、辺り一帯焼き払ったり(半径20kmの地面ガラス状)、食獣植物が国一つ食い尽くしたり(その後討伐されていない)。

普通の木でも下手な金属より優秀だったり。

 

◯魂の坂田◯時みたいな木刀で真剣相手に大立ち回りしたりできる、というより真剣より木刀の方が、軍では普及してる(魔力の伝導率の関係で真剣より木刀の方が伝導率が高い)。

 

さらに言うなら、この世界の武器の性能は、魔力の伝導率で決まると言っても過言ではない、武器の切れ味や破壊力なんかは魔法でどうとでも出来てしまうから、どれだけ鈍らな刀でも魔力伝導率が良ければ名刀になってしまう世界なのだ。

 

「そんな事より、私たちの自己紹介が未だだわ、お誕生日おめでとう初君、私の名前は麗奈、苗字は今日からあなたと同じ前今(ぜんこん)よ、そしてこの子が、」

 

そう言ってお母さん(麗奈さん)が振り向いた先には()使()がいた。

おう、比喩だが比喩じゃないぞ(錯乱)。

 

母親に似た綺麗な黒髪を肩下のロング手前辺りまで伸ばして、これまた母親譲りの整ったあどけなあさの残る顔立ち、それなのに異質なまでに目立つ()()()()()()こちらを観察してくる眼、そして最後に、初対面なのに見た瞬間、何年も一緒に苦楽を共にしたような既視感、間違いなく天使だ(彼女だ)

 

「お誕生日おめでとうございますお兄様。初音(はつね)って言います、3歳です。これからよろしくお願いします。」

 

……………あぁ、やっと出会えた、苦節5年、やっと前世の俺の嫁であり、今世の義妹である初音にやっと出会えた、この5年間、色々あった(家を抜け出して魔獣と戦ったり、それがばれて父さんに精神攻撃されたりその他諸々)。

 

…父さん、いくら肉体がまだ子供で、物理的なお仕置きが出来ないからって、毎晩悪夢はないでしょ(4日目で親に土下座した)。

 

因みに、俺が転生者だっていうことはもう父さんに話している、この世界ではそういう事はたまにあるそうだ。

因みにこの世界では、転生者はいたずら者(プレインク)と呼ばれている。

 

何でそう呼ばれているのかはいずれ、身をもって体感するから今は内緒とのこと。

おっと、考えすぎてたお母さんがこっち見てる。

 

「ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって、俺は初、今日で5歳になる、これからよろしくな、後、二人とも祝ってくれてありがとう。」

 

「うん、二人ともやっぱり年の割に挨拶が上手ね、挨拶も終わったからご飯食べましょう、ここの麻婆豆腐は絶品なのよ♪」

 

そういって小皿にとって出された麻婆豆腐は激辛なんてこともなく確かにうまかった(子供用の甘口)、お母さんはこの世の苦痛を地獄の釜で煮込んで煉獄を体現したかのような灼熱の麻婆豆腐を、父親に笑いながら食べさせてる(お母さんには絶対に逆らわないって決めた)。

 

父親が麻婆豆腐食べてはあまりの辛さに気絶して、母親に魔法で無理やり起こされてからのエンドレス耐久レースをしているのを視界の外に追いやって飯を食べていると嫁が...初音が話しかけてきた。

 

「お兄さ「そのお兄様って堅苦しいから別の呼び方で」……じゃあ、兄さん「よっしゃ!!義妹の兄さん呼び来たこれ!!!」…初音の話、ちゃんと聞いてね?兄さん(黒笑)」

 

「ア、ハイ(恐怖)」

 

怖ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、おれの義妹が今世の母親に似て怖くなってるんだけど。

 

「それで兄さん、もしかして、いたずら者?」

 

おぅふ、相変わらず義妹は直球ですな。

ならば俺も直球で返しますぞ!!

 

「あぁ、そうだけど、君m「初音って呼んでほしいな?」……初音もいたずら者だろ?」

 

「うん、そうだよ兄さん、私、お兄ちゃんについてもっと知りたいの、教えて?(上目使い)」

 

あざとい、この義妹あざといよ!?何この可愛さ、もはや罪だろ?

良かろう、そんなに知りたいなら教えてやろう!!!

 

 

                  ~~10分後~~

 

 

「やっぱり、兄さんが私の夫だったのね……そっか、そうだよね」

 

そう言いながら初音は

何か思いつめたように顔を伏せた初音のことが気になってどうしたのか話しかけてしまった。

 

「どうかしたのか?また会えたんだ、今は再会を喜ぼう、それに一緒に暮らせるようになったんだ、もう離れ離れになんてなるつもりはないからな!!」

 

因みに今、母さんは麻婆豆腐と酒の飲みすぎで倒れた父さんを介抱するついでに、二人で外に軽い散歩だ。

母さんも結構酔ってたから、酔いを醒まして来れば良いけど。

 

「それは私も同じ気持ちよ?でも、やっと実感が持てたの。ここは異世界で、私たちは前世の記憶を持ってて、あの夢みたいな場所の出来事が本当に夢じゃなくて(多分転生するときにいたあの空間の事)。」

 

「前世とこの世界が違いすぎて、実感が持てなかったの、でも、()()()()()に逢えてやっと実感が持てたわ。」

 

そっか、そうだったんだな、確かに俺が実感が持てたのも、今世のおふくろ(生みの親)が去年死んだときだもんな、あんときは泣いたなぁぁ、葬式終わった後もずっと泣いてた。

 

その後この世界は夢なんかじゃない、本当の世界なんだって実感が持てたんだ。

 

「ありがとね、お兄ちゃん、お兄ちゃんのおかげでやっと私、この世界に来たような気がする。」

 

何かまた呼び方が変わってるけどこれは多分、実感が持てたおかげで精神と肉体が合致した結果だろう。

そのせいで義妹様の精神年齢が変わってるけど些細な問題だ。

 

「そっか、俺もお前と出会えて良かったよ、もう二度と、あの時みたいなことにはならないって誓うよ。」

 

俺はそのために力を手に入れたんだから、もうあの時の二の舞にはならない、今度こそ初音を守って見せる。

 

俺の言葉を聞いていた初音が嬉しそうに笑うと、突然無表情になり()()()()()()()()()()こちらを見てきた……何か悪寒がするんだけど。

 

「………そう言えば、お兄ちゃんって前世でも倍率高かったし今世でも……いや最初から私がいるんだから私が………」

 

何かいきなりブツブツ呟き初めて凄い怖いんだけど、何?

俺の義妹はいつの間にヤンデレにクラスチェンジしたんですかね?

 

前世ではクーデレだったはず、何かこの世界であったのかね、気になるな。

 

「なぁ、初音、俺のことは話したけど、今世でのお前の事俺話して貰って「私のことは良いの!!!」ひゃっひゃい!?」

 

やべぇ驚いて変な声でたすげぇ恥ずかしいんだけど。

 

「お兄ちゃん★、お願いがあるの、聞いてくれる?(微笑)」

 

あ、やばいこれ前世でもあったパターンだ、絶対この義妹様は何か企んでやがる、それも俺に影響を及ぼす方面で。

 

「な、何かな?(苦笑)」

 

やばい何とかしないと俺のストレスがマッハだこの年で禿とか嫌だぞ俺。

 

どうする?何か良い手はないか…うん、無いな(キッパリ)、前世で俺より頭の良かった義妹様が考えた策なんて何とかできる訳がない。

考えるべきは、どう被害を逸らすかだ、うん。

 

「お兄ちゃん、この後お食事が終わったらお兄ちゃんの家に行くことになってたんだけど知ってる?」

 

いんや、初耳ですわ、父さんめ、今日の夜は寝かさないぞ♪(悪夢で)

 

一度、あの親とは決着を付けねばなるまい、報・連・相も出来ないとは社会人失格だ。

 

「いいや、今初めて聞いたよ、というかこの食事も直前に教えられたし。」

 

「そうだったの…じゃあ、私とお母さんがこれからはお兄ちゃんの家で暮らすって事も知らな「マジッすか!!?」ええ、マジよ」

 

あの親一週間は悪夢で寝かせないからな。

それにしても最近妙に親が俺を家の外に出すことが多いと思ったらなるほど引っ越しの準備だったわけね。

 

ただの模様替え(父さんが付いた嘘)じゃなかったんだな。

 

「あの親は後で地獄(夢の中で)を見せるとして、これからは一緒に暮らすのかよろしくな?」

 

いやぁ、こんな早く義妹と一つ屋根の下一緒に暮らせるなんて、嬉しい限りだ。

もう何日か掛かると思ってたからな。

 

「うん、よろしくね!!お兄ちゃん、それでお願いなんだけど、今日は私と一緒に寝てくれない?」

 

これまた妙なお願いだ、まぁ、5年ぶり(向こうから見たら3年ぶり)の再会なんだ話したいことも山ほどあるだろう。

 

「分かった、じゃあ、二人で両親を説得しなきゃ「話は聞かせてもらった!!!」ファ!!?アイエ~~父さん、父さん何で!?というか、何時からそこに!?」

 

声をした方向に振り返ると、酔っぱらっていた父さんが、すっかり酔いが醒めた状態で個室のドアの前に立ってた。

 

父さんの後ろを見ると頭抱えた母さんが....あぁ、何時もの悪乗りか。

 

「やっぱり、お兄ちゃんが私の~~……辺りか「一番最初じゃねぇか!?」…話は聞かせてもらったぞ息子よ!」

 

頭抱えてた母親も、いつの間にか初音のことを抱きしめながら。

 

「初音、やっと好きな人が見つかったのね、本当に良かったわ」

 

とか言って泣き始めるし、あぁ、初音も親に前世のことを話してたのか。

 

「初、初音がそうなんだね」

 

父親が元のテンションで話しかけてきた、すぐに戻るなら最初からふざけるなと言いたい。

 

だけど、こちらを優しい眼差しで見ている父親に言えるはずもなく。

 

「あぁ、初音がそうなんだ。」

 

としか返せなかった、その後は店の会計を済ませ外に出た後、母親の魔法で俺の家まで文字通り飛んで帰った。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん。」

 

お母さんの魔法で空を飛んでいる時に初音が話しかけてきた。

 

「何だ?初音。」

 

いやぁ風に髪を揺らしている姿も良いね!!

 

「これからは、()()()()()だよ。」

 

……………あぁ、()()()()()()

 

 

 




一応、最終回っぽいですがこれで終わりじゃないです、はい。
まだまだ初と初音の異世界生活は始まったばっかりですのでこれからもこの作品をよろしくお願いいたしますm(__)m。

追記2017:4/8友人に文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行したりして行間開けました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 俺の母親がチートな件

ちょっとこの先の展開で変える必要がある部分が有ったので変更しました。
大筋に変更は無いので読んだことがある人は読み返さなくても結構です。


ピィィィィィィィピィィィィィィ

 

義妹が飼っている鷹の声(名前はピーちゃん、鳴き声で決めたらしい)で起きた。

 

もう、義妹が家にきて一週間になる。

あの夜、あれから義妹は俺の部屋に泊まり、夜明け近く(この世界は一応化学も中世レベルまで進歩しているから、魔法との組み合わせでクオーツ時計はある。)になるまで色んな事を話した。

 

最初はお互いのことについて(主にこの世界に来てからの事)を話した。

 

その後は、だんだんと話題がこの世界の話になっていき、結局義妹が途中で寝て(それでも3才児が4時過ぎまで起きていたんだから、やっぱり再会できた事が嬉しかったんだろう。)、いったん話し合いはおしまい。

 

 

 

以下一週間の間の記憶抜粋

 

 

「お父さんお母さん、私の荷物お兄ちゃんの部屋に置いてて良い?」

 

もう、俺の部屋に住む気満々である、異論は無いけど(あったら俺はこの世界でも一緒に生活したいなんて考えて無い)。

 

「うん、良いよ、だけど後でちゃんと二人部屋は作るから二人は部屋が完成したらそこに荷物を移すんだよ?」

 

「ありがとう、分かったよ父さん、部屋はどのくらいで完成するの?」

 

「私が魔法でパパッと造るから一週間かしら、初も初音も、凄いの造るから期待して待っててね。」

 

隣で初音(心の中だけでも、義妹は流石に失礼だと今さらながらに気づいた)が頭を抱えた後、何か大事なことを思い出したように頭を上げて母さんに質問した。

 

「あ、お母さん、私のピーちゃんってどこにいるの?」

 

「あぁ、ピーちゃんなら今日、「カランカランッ 」付いたみたいね、迎えに行きましょ?」

 

因みにこの世界ではインターホンなんて勿論存在しないので代わりに、玄関前にある紐を引っ張ると音が鳴るようなカラクリが使われている(魔法も在るにはあるが魔力消費が激しいので、あまり実用的では無い)。

 

「ピィィィィィィィィィピィィィィィィィィ」

 

玄関で見た鳥は40cm位の、この国ではもの凄く有名な鷹だった。

 

「ピーちゃんって鷹かよ!?」

 

「マジックホークって言う種族の女の子なの、可愛いでしょ?まだ赤ちゃんでね、お母さんが遠征の時に怪我してたところを助けたの!!」以下10分延々と初音がしゃべってた。

 

なお、マジックホークは個体性能が激しく変わる種族の一種で、名前の通り魔法を使える知能があって、凄く賢い。

 

さらに、雛の時の見た目の可愛らしさから、高値で取引されているとのこと(取引は基本違法)。

 

それと、ピーちゃんは中級レベルの実力があるらしい、平均は最下級なのでいくら個体差が激しく変わる種族でもメチャクチャ優秀な部類になる。

 

因みに大きさは大体10cm位の雛から成体は大きいもので全長20m近いもので小さい個体でも10mはある。

 

長寿で有名な鳥で、大体400歳位まで生きるらしい。

 

日ノ本の国鳥に認定されていて、今の女皇陛下(日ノ本の元となった国を創ったのが女性だったため、この国はこの世界では珍しい、男女平等社会の国)のペットもマジックホークだ。

 

「二人の部屋が出来たら、ピーちゃんの部屋も造ってあげないとね、ご近所さんが危険だわ。」

 

母さんの言葉は比喩では無く、中級の魔獣(マジックホークの場合、聖獣)はBランク以上の戦闘能力(軍の一兵卒位の能力)が使える小隊規模じゃないと勝てない強さの魔獣だ。

 

因みに、前世のファンタジー系で有名なドラゴン系統の魔獣はどんなに弱くても上級レベルの強さを誇る(魔獣化した木は最低でも上級より二つ上の特級か、それより上の災害レベル)。

 

「大丈夫よ、ピーちゃんはおとなしいもん。」

 

「ピィィィィィィィィィ!!」

 

「それもそうね、部屋に戻りましょ、皆でご飯食べなきゃ」

 

まぁ、初音が良いなら俺は良いんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん、この人たち誰?」

 

朝の鍛錬(と言っても体が出来上がってないから瞑想と座学のみ)が終わってリビングに行くと、知らない黒子のような服に身を包んだ人たちが、何やら惣菜やお菓子を作っていた。

 

「その子達は式紙よ、魔力を使って呼ぶの。危険はないから、お昼ご飯食べたら呼んでみる?お昼ご飯もこの子達が作ってくれてるのよ。」

 

その後、お昼ご飯(今日は和食だった)を食べた後、式紙についての座学や実践で夕飯までの時間を潰した。

 

 

 

 

 

 

 

「父さん、この大量の魔獣は何?」

 

父さんが朝早くから家の庭で何かやっているから、鍛錬だと思って庭に出たら、上級魔獣のオンパレードだったでござる。

こんなに集めて、戦争でもするつもりなのかね?

 

「麗奈のペットだよ、ここにいる魔獣、全員上級魔獣だから気をつけてね。」

 

家の母さんは動物好きだったか(錯乱)、でもこんなによく捕まえたな。

 

「よくこんなに上級魔獣を捕まえてこれたね、中級以上は店に売ってないでしょ?」

 

「麗奈のはギフトのガブリエルだからね、遠征の度に傷付いた魔獣を連れてくるんだよ、なかなかいないんだよ?天使系統のギフトは他と違って存在できる数が少ないからね。」

 

ギフトというのはこの世界の人間が持っている力のことで、基本的一人一つしか持てず、魔力で発動する。

 

生まれつき持っている先天的なものと、専用のギフトや禁術レベルの儀式魔法などで手に入れる、後天的なものの二種類がある。

 

基本的に同じギフトでも、後天的に手に入れたものより、先天的に手に入れたものの方が、魔力効率や効果が上だ。

 

だが、後天的なものは元々持っていたギフトに関係なく、何個でも持てるためそれ専用のギフトを持つ人間は、悪用されない為に国が強制的に(と言っても普通の生活はおくれるし、週に一度国の施設で健康診断とカウンセリングをするだけ)、儀式魔術による制約(洗脳や自由意志以外による能力の発動の制限を掛けるだけ)を施すという処置を取っている。

 

「父さんのルシファーの方が、魔王系統だからランクは上じゃん。」

 

父さんのルシファーはギフトのランクの上から二番目の、ロイヤル・エフェクトと呼ばれる位置にあるギフトで、ギフトのランクは、上から順にゴッズ・エフェクト、ロイヤル・エフェクト、ファンタズム・エフェクト、ミラクル・エフェクト、スペシャル・リザルト、レア・リザルト、ノーマル・リザルトの七つある。

 

エフェクトと呼ばれる四つのランクはそのギフトは、強力なものなら使い方次第で災害級(上級の一つ上の特級の最低10倍以上の戦力)を封印出来ると言われてる、そのため、上四つのギフトをまとめてレアギフト、それ以外をノーマルと呼ぶ事がある。

そんな人間が持ってはいけないレベルのギフトが何人もいるはずもなく、レアギフトの人口は0.001パーセント、この日ノ本の人口が約七億人いるのに対し、レアスキル持ちの人口はたったの約七十万人。

 

その中でも、所謂はずれギフトと呼ばれる、基本戦闘以外で使うギフトを持つ者が、五十万人いる中で我が父親は、ロイヤル・エフェクトの中でも世界に数種類、しかも同時に一人しか持てない魔王系統のギフトを持っている。

 

「そんな事ないよ麗奈は僕と違ってクリエイターだから、もう一つワイズマンのギフトを持っていてね、魔法が得意なのは麗奈の力もあるけどワイズマン持ちっていうのが理由の一つかな。」

 

クリエイターって言うのはレアギフトより珍しい存在で人口にして、0.0005パーセントらしく、持っているギフトもどちらか一つが、レアスキルの場合が多いため、選ばれし者なんて大仰な呼び方をされてる。

 

まぁ、二つともレアギフト持ちは天皇家以外で出てないらしく、母さんがそうだと分かった時は大変だったそうな。

 

「ワイズマンも伝説系のギフトじゃん、母さんってチートかよ。」

 

母さんが持ってるギフトはどちらも同時に一つしか持てないレアギフトだ、スキルのランクは、ガブリエルがファンタズム・エフェクト、ワイズマンがミラクル・エフェクト、さらに言うならギフトのランクの基準は、強さや有用性もあるがそれ以上に希少性が重視されていて、ワイズマンは能力だけなら準ロイヤル・エフェクトレベルだ。

 

「戦ったらどっちが強いの?」

 

「一応、僕の方が強いけど、まぁ、麗奈はこの国の巫女長だからね、僕と違って戦うことに特化してないから。」

 

巫女長って言うのはこの国にいる巫女のトップでよくあるファンタジーの聖女のような位置付けの人だ、巫女はシスターと同じ立ち位置。

 

戦う事に特化してないって言うけど、母さんは国内最高戦力の一人だからね、父さん。

 

「じゃあ、やっぱり父さんのギフトの方が凄いよ。」

 

「ギフトは確かに戦闘用が多いけど、戦いでギフトの強さが決まる訳じゃないよ。それに僕のギフトは、生まれつきじゃないから、天然と違って出力面では劣るよ?」

 

「国内最強が何を………父さん、初音はなんのギフト持ってるのかな?」

 

因みにこの父親はこの国の軍のトップ、元帥ってやつだで、純粋な戦力だけで言うなら、一人で国を相手に出来るこの国の最終兵器だ。

 

因みにこの国のメディアは新聞までしかなく、写真も殆ど無いので(あったとしても明治時代の時より高価な存在になっている)、まるで江戸時代の瓦版のような物(瓦版と違ってカラー版で文字は潰れていない)しかないから、顔はあまり知られていない。

 

「……ギフトを調べられるのは五歳になってからだから、初たちの部屋が完成したら皆で神社に行こう。」

 

俺の問に父さんは曖昧な答えで話題を変えた、父さんの顔は何か思いつめたような顔をしていた。

 

 

 

 

 

なんて事があったりなかったりして、毎日が割と充実してる感じだ。

 

「お兄ちゃん、おはよう~」

 

ピーちゃんに餌の魔力(マジックホークは大気中の魔力を食事とするが、雛の場合はまだ親、又は飼い主が餌をあげる必要があるのだが、大体二歳位になると自分で大気中の魔力を食べ始める)を食べさせながらそんな事考えていたら、我が妹でピーちゃんの飼い主の初音が起きてきた。

 

うむ、寝起きのパジャマ姿、まことに眼福です。

 

何?流石に見た目三才の子供にその感想は無い?

ロリコン野郎?

ちょっと待て、これには訳があるんだ。

 

転生する時、月詠が「あ、言い忘れたけど精神は肉体に引っ張られるから、精神年齢は結構低くなるよ~~~」なんて爆弾投げてきたことを今でも俺は忘れない。

 

つまり、今の俺は精神年齢が低いから、同い年位の相手に対してこの感想は間違ってない。

 

「おはよう初音、顔洗いに行こうか」

 

「うん、お兄ちゃん、連れてって」

 

だから初音がこう言うのも仕方ない、仕方ないんだ!!

 

その後は義妹をおんぶして洗面所まで行って、顔洗って歯磨きしていた時に、母さんの式紙が部屋が完成したから、今日は部屋の案内をするって念話(式紙は声帯が無いので代わりに魔力を使った念話をする)してきたから、初音のテンションの上り方が凄い。

 

なんか、スーパーハイテンションみたいになってる。

 

「早くお部屋に行こうお兄ちゃん!!、早く早く!!!」

 

「分かったから少し落ち着け、先に朝ご飯だよ」

 

「分かった、けど食べ終わったら直ぐに部屋見に行こうよ!」

 

「朝ごはん食べ終わってからだ、ちゃんと噛んで食べるんだぞ?部屋は逃げないからな。」

 

「うん、分かった!」

 

返事は良いんだけど、こうなった初音は前世からのパターンで何かやらかすんだよな……はぁ、心配だ。

 

話しながら食堂(部屋がとんでもなく広くてとてもキッチンなんて呼べない)まで移動するともう二人が座って(なぜか母さんが叱られてる。)待ってた。

 

「二人ともおはよう、今日は引っ越しの前に拡張した家の区画に案内するよ。」

 

「おはよう、お父さん」

 

「おはよう、父さん。拡張した区画って?」

 

「ごめんなさい二人とも、私、張り切り過ぎちゃったみたい。」

 

おぅふ、母さんが張り切ったって………なんとなく何やらかしたのか分かった気がする。

 

多分広く作り過ぎたんだろう、母さんのギフトのワイズマンってバカみたいな魔力効率と、魔力の底上げだからなぁ(効率は通常の二百倍位、魔力の底上げは五十倍位)。

 

「頑張ってくれたんだから謝らなくて良いんだよ麗奈(困った顔で言っても説得力がないよ父さん)。麗奈が張り切ってくれたおかげで、二人の部屋は二日目で出来てたんだけどね。魔獣の部屋とか他にも必要な部屋を造ってたらいつの間にか、広さがとんでもないことになってね。」

 

父さんがとんでもないって言うくらいだから、東京ドーム位の広さかね?

 

「部屋の中にもこだわったから魔獣と合わさってダンジョンみたいに成ってて、最初の方の区画なんかは新種の魔獣が誕生してて、家の中が凄いことになっちゃったの。」

 

うわぁぁ……やっぱり母さんチートだろ、新種の魔獣って一体何やらかしたらそんなの誕生すんだよ。

 

「お母さん、因みに広さってどのくらいあるの?」

 

「感覚で一週間広げ続けたから多分……670K㎡位かしら」

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??

 

琵琶湖並みの広さじゃねぇか!?

 

なんてもん作ってんだ、そりゃそんだけ広ければダンジョンだよ、しかも見た目普通のちょっと大きい一軒家だから尚更おかしいわ!?

 

どんだけ魔力量あんだよ、魔力お化けか!?

 

これには他の皆も、驚いて顔が固まってる。

父さんも広さは聞いてなかったみたいだ、そりゃそうだ、知ってたらなぜ止めなかったって殴ってるところだ、父さんを。

 

「そんなに広いんだ、びっくりしちゃった、お母さんってやっぱりすごいんだ~」

 

いち早く復活したと思ったらこの妹、まさかどれだけこれが凄いことか気づいてないな。

 

父さんが慌てて母さんのこと問い詰めてる横で、俺が初音に説明する。

 

「初音、まだなんとなくでしか分かってないようだから説明するよ、魔法で空間拡張があるのは知ってるな?」

 

「うん、便利魔法(ハンディマジック)の魔法だよね。」

 

うん、そこまでは知ってるんだな。

 

「じゃあ、便利魔法って言われてるけど、魔力消費が高すぎて、実用性があんまりないってことも知ってる?」

 

「?そうなんだ、普通はどれくらい拡張できるの?」

 

やっぱり知らなかったか。

 

「元の面積の10倍もいけば超一流、50倍も行けば伝説になるレベルだよ……父さんこの家って面積どれくらいだっけ。」

 

因みに俺たちが住んでる国は、地震や嵐が多く家は一階建ての平屋が多い、もちろん木造。

 

「確か、確か庭を除いて50坪だから、165㎡位だと思うよ、だから麗奈が増やした面積の……大体4061分の1位の面積だね。歴史に残ってる人間で一番の空間拡張の使い手が……確か4000倍で神に成る権利を得て神話になったから…………僕の奥さん神話になっちゃった(白目)」

 

やっぱ頭おかしいわ俺たちの母親、義妹様も今の話聞いて頭抱えてるし。

 

後、父さん計算速いな、この世界って学校が無いから計算できないやつが多いのに凄いな。

 

「取り敢えずご飯食べましょ!!せっかく作ったのに冷めちゃうから!!」

 

ごまかしたな、まぁ、母さんの(式紙の)ご飯は美味しいから良いんだけど。

 

でも、父さんの顔色がやばい、何かブツブツ呟いてるし、藤原(ふじわら)って誰?

 

まさかあの一族じゃないよね?(現実逃避)

 

「パパも先のこと気にしないで、早く食べましょ?」

 

「元凶に言われるのは何か癪だけど……ハァ、分かったよ麗奈と居るとこんなこと良くあることだし。」

 

良くあるんですか父さん、そんな事実知りたくなかったぞ。

 

流石にここまでの大事は少ないに違いない(白目)。

その後は皆で朝ごはんを食べ(メニューは米に似ている植物と味噌汁のようなものに、鮭に似ている赤身魚の塩焼き、沢庵みたいな何かに鶏みたいなやつの生卵)、そのまま一週間、拡張のために立ち入り禁止だった拡張区画に皆で向かった。

 

 

 

 

「いやぁぁ、張り切り過ぎちゃって、凄い事になってるから気をつけてね、色んな意味で。」

 

そういって区画の前の扉(なぜかもの凄く威圧感のある木造の両開き)を開け放った母さんの先にある景色は()()()()()()

 

あまりの異常さに俺と初音は驚きで地面にあった石にこけて転んだ(何で家の中に石が落ちてるんだよ)。

 

「ちょっと、初音も初も大丈夫?怪我はしてない?」

 

「僕は大丈夫だよ母さん、初音は?」

 

「私も大丈夫、それより母さん、何で家の中がこんなことになってるの?」

 

「じゃ、じゃあ案内するわね(聞こえない振りしたな)。えっと、この草原は拡張した部分の大部分を使ってて、天井を限界まで上げて、人工太陽と小山に小川も造ってるの。使ってるのはここに居る上級魔獣の魔力で、拡張スペースを維持しているのもその子達なの。」

 

何言ってるんだ母さん、やってることがオーバーテクノロジー過ぎるだろ。

 

元の世界でも人口太陽なんて創れねぇよ、しかもその維持に上級魔獣何体使ってるんだ、十数体位じゃ維持なんてできないぞ。

 

「もし、この拡張スペースで何かあってもその子達が魔力を使って直してくれるわ。」

 

もうヤダこの人……つまり魔獣が居なくならない限りこの部屋は消滅しない?

 

しかも魔獣は一体で小隊規模と戦争できる上級魔獣が何十体も、アカン、ここの戦力明らかに過剰防衛だ、お客さんに絶対見せられんぞこれ(白目)。

 

「それでねこの草原は全部の部屋と繋がってて後ろ見てみて。」

 

何か、凄い笑顔でこっちを見てるから嫌な予感がしつつ、後ろを見たら、父さんが倒れた。

………うん、分かるよその気持ち。

だってさ、予想できないだろ。普通、()()()()()()()()とは思わないだろ(唖然)。

 

家の父さん、いつかストレスで禿げるんじゃなかろうか、胃に穴空かないといいけど。

 

「……母さん、何これ、と言うかこの空間にあるもの何処から持ってきた!?」

 

最初から意味不明ですっかり忘れてたけど、こんなに色んな物資が必要な作業を、何で一週間で最初から最後まで完成出来たんだ!?

 

母さんは一体何をしたんだよ!?

 

「あぁ、これはね、初音が教えてくれたことを応用したのよ。」

 

?初音が教えたって、義妹は魔法には詳しくないはず……化学知識か!?

 

「空気中には小さな粒が沢山あって、その粒で物質が造られてるんでしょ?なら粒を集めて魔法で繋げれば物質になるじゃない、しかも話を聞いてると、その粒って魔力で代わりに出来るから、ここに居る子達と協力して久しぶりに全力で創ったのよ」

 

「言ってることは間違ってはないけど、それをするのは並大抵なことじゃないんだよ、それに魔獣と協力ってどうやってしたんだ。」

 

この空間作るよりも時間と魔力を使ったはずだ。

 

「それなら大丈夫よ、私のガブリエルはこのギフトで助けた生物に対する絶対命令権と、感覚のリンクに能力の移動、他にも色々出来ることがあってね?作るだけなら、あんまり苦労しなかったわ。」

 

…………なるほど、これがチートか、これってやっぱり転生特典持ってる俺や初音よりチートだよな絶対。

 

何か理不尽だ、しかも、そこでのびてる父さんは、純粋な戦闘力なら母さんの全力より強いから、世の中って絶対何かおかしい。

 

「そんな事より早く中に入りましょう、パパを寝かせなきゃ。何度も起こすのもかわいそうだしね。」

 

全然そんな事じゃないんだけど、この人やっぱり天然だな色んな意味で。

 

その後、母さんの案内で城の中にある部屋に父さんを寝かせた後、母さんは父さんの看病をするといって、式紙に俺たちの事を任せると部屋に戻っていった。

 

「夕食まで自由に探索して良いって言ってたけど、これからどうしようか?」

 

取り敢えず、初音の行きたい場所に行く感じで良いかな?

 

「私、早くお部屋見たい、お兄ちゃんと一緒のお部屋!!」

 

朝から言ってたもんな、そう言えば。

俺が式紙の方を向くと、話を聞いていた様子で歩き始めた。

 

「初音、式紙が案内してくれるって、行こう?」

 

「うん、お兄ちゃん!!」

 

思ったんだけど、流石に幼過ぎるきがしてきたんだけど、最初に会った時とのギャップが酷いな。

わざと演技してるとは、思いたくないんだけどなぁ。

 

まぁ、可愛いから良いか。

そんな事を考えながら歩いていると、一階の一番奥の部屋に着いた、ここが子供部屋らしい。

 

低めに取り付けられたドアノブに、ドアは可愛らしい絵が描かれている。

 

「凄い、この絵、私たちが描かれてる!?」

 

確かによく見ると描かれてる絵の中の男の子と女の子は俺たちに似ていた。

 

「確かに、俺達そっくりだな、後で母さんにお礼言わないと。」

 

「そうだね、お兄ちゃん、早く開けてみようよ?」

 

妹に催促されつつドアを開けてみると、部屋の中はとんでもなく広いというわけでもなく、20畳位の広さだった、まぁそれでも十分広いんだけど。

 

部屋は、明るい色の壁紙や窓が高い位置にあったり、家具は平均より小さい子供用が殆どだったりと(勿論、全部下手な金属より丈夫な木製)、細かい気遣いに胸が熱くなる。

 

「凄いね、お兄ちゃん」

 

「あぁ、そうだな…………初音、母さんに感謝しないとな、夕食の時にありがとうって言おう。」

 

変に物を用意するより、感謝の言葉が良いだろう。

母さんには感謝してもしたりない、初音や俺の為にここまでしてくれてるんだから。

 

「うん、お母さんには感謝してるしお父さんにもありがとうって言おう?だってさ、こんな私たちを受け入れてくれてるんだから。」

 

「そうだな、二人でありがとうって言おう、それと、良いこと思いついたから、寝る前に少し話して良いかな?」

 

「うん、分かったよお兄ちゃん、今日の夜ね。」

 

 




ストーリー上の都合によりレアギフトを若干弱くしました。
見切り発車と思い付きと深夜テンションで書かれた作品の為、これからも改稿は多くなると思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

最後までご読了ありがとうございました。


追記 ギフト関連が初投稿時のままだったので修正しておきました。
気付くのが遅れ、まことに申しわけございませんでした。

追記2017:4/8友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 新キャラ登場お母さんの誕生日

「お兄ちゃん、速く行かないと誕生日パーティに間に合わなくなるよ?」

 

「あぁ、今行くよ」

 

今日はお母さんの26歳の誕生日だ、因みに俺の誕生日が5月7日、初音の誕生日が10月6日、母さんの誕生日が8月15日、父さんの誕生日が12月20日で今日は海辺の別荘に来ている。

 

そして日頃の感謝の気持ちで動物好きの母さんに、軽いサプライズがあるんだ、両親には秘密で。

 

「お兄ちゃん、こっちは仕掛けバッチリだよ!!」

 

「よし、それじゃあ、行きますか。」

 

 

 

二人でリビングに行くと、父さんと母さんが()()()()()()親戚の人と待ってた。

 

因みに親戚の人はグルだ。

 

「あら、二人とも遅かったと思ったら、私にプレゼント?」

 

よし、早速持ってたダミーに引っかかってくれた、ここまでは順調だ。

 

「うん、そうなんだ、母さん誕生日おめでとう!!」

 

「お母さんお誕生日おめでとう!!、二人で作ったの。」

 

そう言って二人でダミーのプレゼントの魔獣の模様がついてるエプロンと魔獣の人形を渡す。

 

「まぁ!?二人ともありがとう、大事にするわね?」

 

ダミーであっても喜んでくれるのは嬉しいね、父さんも嬉しそうに笑ってる(顔が怖くて全然そうには見れない)。

 

けど母さん、嬉しそうにしてるところ悪いけど、本命はこっちだぜ?

 

贋哉(がんや)叔父さん、準備出来てる?」

 

「あぁ、準備は万端だ二人とも。」

 

こっちを見て、笑顔で答えてくれた父さんと話していたこの人は贋哉叔父さん。

母さんの弟でこの別荘のハウスキーパーで海軍の偉い人だ。

 

因みにイケメンなのに独身らしい(それを聞いてた時、初音がなぜか顔を赤くしてブツブツ呟いてた)。

 

「よし、じゃあ、始めようか。」

 

「??何を始めるんだい、今夜はここでパーティーだろう?」

 

父さんの不思議そうにしている顔が妙に面白くてにやけてしまう。

 

「ククッいいから、皆ついてきて!!」

 

さぁ、ショータイムだ。

 

 

 

 

「初、どこまで移動するの、もう砂浜まで来ちゃったわよ?」

 

「ここで少し待ってて、今三人で準備するから。」

 

「うん、お兄ちゃん。」

 

「よし、やるか。」

 

その後、三人で少し移動して母さんたちから見えない位置まで来た。

さて、早く準備しないとな。

 

……ここをこうして、そこに魔力を通して、あれに魔石を嵌めて………よし、準備できた。

 

「お兄ちゃん、こっちも準備出来たよ?」

 

「初、こっちも出来たぞ。」

 

「ありがとう、二人とも、じゃあ、母さんたちを連れてくるから、ちょっと待ってて。」

 

「はーい!!」

 

「暗いから気をつけろよ?」

 

その後は、母さんたちを準備してた位置まで連れてきた後、二人に自作の火縄ライターで火を付けた、玩具花火で合図した。

 

この火縄ライターは、魔法の練習に作ったもので、簡単な構造の金具と縄に火打石で出来る。

石の消耗が激しいのが欠点だが、外での作業なら他のライターより火が付きやすいのが利点だ、結構気に入ってる。

 

「初、それは何だい?魔法は使ってないみたいだけど、火が出てるじゃないか、危ないよ?」

 

「そうよ、でも綺麗な火ね、魔法を使ってないのに色んな色の火が出てるわ。」

 

この二人の反応で分かると思うが、この世界に花火は無い、花火は元々中国が火薬の使用とともに開発した、と言うのが前世での有力な説だが。

 

そもそも、この世界は前世の国家を参考に造られたが(女神がそう言ってた)、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり、前世で少なくとも核を軍事的に保有していたと確認できる、核拡散防止条約(通称NPT)に加盟していた五か国、アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスと軍事目的の核実験を行い、それが公になっているパキスタンとインドに北朝鮮、核保有を否定も肯定もしていないイスラエルの九か国は()()()()()()()()()()()()

 

詳しく言うなら、今現在、人類が観測できる場所に存在しない、と言った方が正しい(何で中国は存在しないのに中華料理があるのかと言う疑問は、中国原産の香辛料が魔獣化して日ノ本に流れ着いてたからだ、名前は香辛料理)。

 

俺たちが転生した世界、ファンタジアは一つの宇宙に存在するが、勿論宇宙に直接国が広がってる訳ではなく、惑星に国が創られている。

 

ただその惑星の大きさがおかしい。

転生するときに聞いたところ、直径で地球の1000倍の大きさを誇る、地球型惑星だという事、意味が解らん。

 

当時は、流石神って当時は関心したものだ(表面積も1000倍だとこの惑星は五百十兆千億K㎡程の表面積を誇る)。

 

勿論他の国も同じ惑星にある、と言うかぶっちゃけ、星間飛行の技術なんてまだどの国でも開発されて無い、というよりそもそも、大量の人間を同時に、一定以上の安定性を持たせて空に飛ばす方法も、まだ開発されていない(少なくとも公にはされていない)。

そんな訳で、別の星に行くことは不可能だ。

 

蛇足だが、この惑星の環境は空が前世と同じように確認できるし、星も見えるため、環境は地球に近い条件の星だと思う。

よくある月が二つ見えたりとかは無い、前世より少し大きく見えるだけだ(この時点で天文学上多分おかしい)。

 

『虚◯戦記』の『ラ・グー◯』並みの神が沢山いた前世で準主神級の力を持つ月詠が、太鼓判押してた女神が運営してる世界だ、何があっても不思議じゃない。

 

そしてこんなバカでかい星の為、いくら地球を真似て作ってると言っても土地が広すぎる。

 

日本を真似て作ったこの土地も日本の約100倍の面積があるのだ、1000倍じゃないのは『狩り人×狩り人』や『某食材調達美食漫画』のように世界地図の外側に未確認世界が広がっているためだ。

 

しかも、先ほど言った、元々存在していない国が前世で在った地域は、魔獣化した植物による一種の魔界のようになっている。

 

しかも、何故かそこからしか、()()()()()()()()()()となれば、人類には打つ手なしだ。

 

話を戻すと、こういう背景があり、中国のような国が無いため火薬が造られず(正確には別の国で作られたが魔法があったため直ぐに廃れた)、よって花火も開発されていない、と言うわけだ。

 

「これは花火って言って火薬って言う物を使ってるんだよ。」

 

本当の花火と違って魔法で材料とか技術をごまかしたパチモンだけどな。

 

俺が持ってる手持ち花火は前世で作ったやつのパクリで火薬を使わないタイプだ。

花火の材料は魔法で代用できたが、何分打ち上げ花火の練習なんて、下手な所でやろうものなら大騒ぎになるんで、叔父さんが来るまでは色々大変だった(まさか家の中で山登りする事になるとは)。

 

「これが前、初が言ってたあの火薬?」

 

「そういえば、初音もそんな事言ってたわね。」

 

これは火薬使ってないんだけど、燃え方は似たようなものだから良いか。

 

二人とも、俺たちの前世に興味を持ってたから、色々話したもんなぁ……多分中学生ぐらいの知識はあると思う、他にもヲタク知識を詰め込んでるからな。

 

「えっと、これから見せるのはこんな小さいのじゃなくて、もっと大きくて威力のあるやつだよ。」

 

「威力って、一体何をする気だい?一応贋哉君が付いてるから大丈夫だろうけど。」

 

ハッハッハ。父さん、そんな心配な顔しても元が凶悪だから普通に怖いぞ?

夜中廊下でバッタリ会ったらちびる位にはな。

 

そんなに心配しなくても安全性は身をもって確認済みだよ。

 

「大丈夫だよ、贋哉叔父さんには、もう見せてるし許可も貰えたから。ほら、そろそろ始まるよ、空を見上げて!!、音が大きいから気を付けてね?」

 

向こうから帰ってきた合図を見て、二人に注意を促した後、直ぐに空が明るくなり、一瞬遅れて大きな破裂音が辺り一帯に響いた。

 

「うお、何だ!?」

 

「きゃっ!?何?この音。」

 

「二人とも空を見てよ、これが俺と初音の誕生日プレゼントだよ。」

 

二人が空を見上げるとそこには、魔法で発光現象を伸ばし、空に浮かび続けるたんじょうびおめでとうの文字と、沢山の魔法によって動物の形をした花火が、浮かんでは消えていっているとこだ。

 

二人とも気に入ってくれたようで、声も出さずにお互いに寄り添って見ている。

 

打ち上げ終わってしばらくたった後、合流した二人とともに、夕食中に両親(特に母親)から感謝された後、質問された。

 

「あんな大掛かりなもの、何時から準備していたんだ?凄く時間がかかったろう。」

 

「そうよ、後、材料や他にも私たちにバレないように……雰囲気壊すようで悪いけど、お金とか大丈夫だったの?」

 

「僕たちの部屋を造ってくれた時から、初音と二人で構想は練ってて、打ち上げ台と玉の仕組みは出来てたんだ。試作の打ち上げ台を作れたのが、叔父さんに初めて会った六月で、その後は叔父さんに材料と場所に、移動手段もお願いしたんだ。」

 

「姉さんも義兄さんもお金の心配は良いよ、このパーティは姉さんを祝うためのパーティなんだから。それに材料は全部安い物ばかりだったからね、見た目程掛かってないんだよ。」

 

「ガンちゃんがそう言うなら………二人とも本っ当にありがとうね?一生の思い出になったわ♪」

 

因みに、ガンちゃんと言うのは贋哉叔父さんのことで、母さんは叔父さんが嫌がってるのを無視して、ずっとこう呼んでる。

 

「僕からもありがとね、良い思い出になったよ。」

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ。」

 

「私も、お母さんが喜んでくれて良かったわ!!」

 

その後は、皆で夕食を食べた後パーティゲームをしたり(意外にマジカルバナナが人気だった)、お風呂に入ったり(男三人で入ってるところに母娘で乱入されて大混乱)して、家族団らんしてゆったりと過ごしてる時に、事件(?)が起こった。

 

父さんが酔って、爆弾発言をしたのが事の発端である。

 

「初、あの花火ってやつ誰でも作れるのかい?」

 

思えばここで警戒すべきだった、話の内容的に家に帰ってから、真面目な雰囲気で話す内容だと。

 

「材料の配合に管理と、気を付ける所はあるけど魔法があるから、一か月も練習すれば多分ものに出来るよ。」

 

魔法は本当に便利だ。

花火作成で重要な配合から玉込めまでの過程を、半自動に出来るし、薬品の生成も、魔法で生成できるから安全で、しかも殆どお金が掛かってない。

乾燥の部分も魔法で何とかなった。

 

本当に魔法様々だ、まぁ、そのせいで技術の進歩が遅れてるんだけど。

 

「じゃあ、材料の確保はどうだい?何か特別なものが必要かな?」

 

いくら魔法が万能だからって、流石によく理解(と言っても化学式かその物質の酸化反応、還元反応、燃焼反応のどれか一つが分かればOK)していない物質の事を、分離や精製は出来ない。

 

「多分、僕たち以外に材料を作れる人は、いないと思うよ。」

 

「……もしかして前世の知識かい?」

 

「うん、そうだよって、あ!?」

 

会話に集中してたから気が付かなかった、この部屋に叔父が居たことに!!

 

「義兄さん、初音君、前世って?」

 

叔父さんにばれた!?

どうする、花火のことは上手くごまかせたつもりだけど、前世なんて確実にいたずら者(プレインク)だって思われる爆弾、ごまかしようがないぞ!?

 

家に住んでる人間以外にバレるのは非常にまずい、例え身内でも、今はいたずら者だってバレるのはアウトだ。せめて後、15年、いや10年は隠さないとダメなんだ。

 

どうする?

どうすれば良い!?

 

「贋哉君、残念だがこのことは家に住んでる人間だけの秘密なんだよ、悪いがね。」

 

おう、父さんナイス!!

これで話しを聞かれても、断る理由が出来た。

家に住もうとしても、あの家じゃうまいこと誤解してくれそうだし(拡張とか人工太陽とか)、いざとなれば拒否すれば良いんだからな。

 

「どうしてもですか?」

 

そう言って贋哉叔父さんが取り出したのは、母さんの面影のある初音によく似た幼女が()()()()()()()()()()()()()写真.....ってこれ子供の頃の母さんじゃないか!!

 

あ!!

やばい、父さんが買収される!?

 

「知りたいなら、家に住むしかないね。まぁ後ろの二人が許可すればだけど。」

 

何か父さんの顔が百面相した後、急に真顔になった。

 

どうしたんだ??

おかしい、I LOVE 麗奈 な父さんが、母さんの写真で買収されないはずがないんだが(俺も、何度かこの手を使ってる)。

 

......何で冷や汗流してるの?

 

「麗奈、言っておくが、僕は買収何かされてないからな?」

 

そう言いながら、父さんが贋哉叔父さんの後ろを見たので釣られて見ると、母さんが凄い笑顔で立ってた。

 

「あら、私は別にそんな心配してないわよ?ただ、何でガンちゃんが私の昔の写真持ってるのかって、気になったの。」

 

あ、やばい、このパターンは長くなるパターンだ。

母さんの背景が魔力で歪んでる。

 

「初音、父さんたち長くなるだろうから、僕たちは部屋でもう寝ようか?」

 

気づけばもう結構遅い時間だしな。

コドモハモウネナキャネ。

 

「ハーイ、お兄ちゃん今日も一緒に寝ても良い?」

 

「良いけど、そろそろベッド分けるからな?」

 

「えぇ~、まだ三歳なんだからもうちょっと良いじゃん、後100年位。」

 

こういう時だけ饒舌になるんだから、現金なやつめ(褒め言葉)

 

「ワガママ言うな、それにこう言うのは早めに慣れた方が」

 

「それは普通の子供の場合でしょ、私たちはいたずら者なんだから良いんじゃない?」

 

「それはそうだけど。」

 

世間体と言うものがあるのだよ、まだ世間に出てないけど。

 

「それとも、お兄ちゃんは私と寝るの嫌い?」

 

そう言って初音は手を握りしめながら上目使いしてきた。

 

はぁ、こういう時だけあざといんだから。

可愛すぎだろこんちくしょう!!!

 

「分かったよ、でも初音が七歳になるまでだぞ、これ以上は譲歩できん。」

 

そもそも俺の理性が持たん。

 

「むぅ、分かったよお兄ちゃん。確かに十歳からは確かにお兄ちゃんが大変だからね、でもこの世界ってそっちの本は...アイタッ!?何すんのお兄ちゃん!!」

 

そこまで言った初音の頭にチョップする。

 

「変な気遣いすんな、そんな先の事より考える事があるだろうが。これからは四六時中べったりって訳にもいかないんだ。」

 

今はこんなこと考えてる暇はない。

そんな事より迫ってくる問題は………

 

「確か、今の天皇(アマノスメラギ)様が考えた学校だっけ?」

 

 




追記2017:4/8友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 妹のスキルがやばそう

投稿遅くて本当に申し訳ない。
実は説明回にするつもりだったんですが、思いつかなかったので、閑話でしばらくは麗奈殿の誕生日までの話とか書こうと思います。


初音と出会った頃はまだ春の温かい日差しが、段々と肌を焼く熱波になってきた六月一日。

 

俺たちは子供部屋の近くにある瞑想室(魔法を練習するための専用の部屋、十畳位の広さで大規模の魔法の練習は出来ない小規模の魔法専用の部屋、部屋自体に魔法が掛かっており、部屋の中の生物が絶対に、死なないようになっている)で、妹に魔力制御と簡単なインスタント・マジック(魔力制御がほとんどない、魔力を殆ど使わない魔法)を教えてる。

 

俺に言われて、何かを探るように目を閉じ、うんうんうなってた初音が、あ!?、と嬉しそうに声をあげて話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん、こんな感じでいいの?何か体の中からもやもやが出てきた。」

 

初音の体の周りに、青い膜のようなものが出来て流動している(「狩り人×狩り人」の◯ーラみたいなやつ)。

 

普通は、目に見えるほど魔力の密度が高くないんだが、初音の周りだけ、蜃気楼のような感じに景色が歪んでいる。

 

魔力はそのままだと利用方法がギフトの発動コスト位(勿論、身体強化魔法等の例外はある)にしかならないが、魔力制御を覚えて、魔力で魔法式(文字や単語)や魔法陣(円以外にも色んな形がある)を書いたり、詠唱(短いのだと一言、長いとラノベ一冊位)で魔法が発動できる。

 

「良し、上手く出来てるじゃないか、そのもやもやしてるのが魔力だ、指に集められるか?」

 

そう俺が言うと初音がまたうんうんうなって魔力を移動させようとしてる。

 

この魔力の移動と言うのが、魔法発動の肝で、魔力を指に集めて文字を書いたり、声帯に集めて詠唱したり、魔法の殆どが、魔力の移動を必要としてる。

 

まーそんな事は置いておいて、やっぱり俺の妹は可愛いね!!

いやーそれにしても前世だったらお互い大人だから恥ずかしがってこんな素直な表情は見れなかっただろうけど今は精神が肉体に釣られて幼児退行してるから本当に色んな表(ry

 

 

 

 

 

~以下五分妹語り~

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん出来たよ、お兄ちゃん?」

 

おっと危ない危ない、危うく妹語りに我を忘れてしまう所だった。

 

「ごめんごめん、ちょっと考え事しててな、それにしても初めてでここまで出来るなんて凄いじゃないか、俺は指先に集めるのに一日かかったぞ?」

 

その俺でも物覚えが良い方だって言われたんだから、初音の速さはちょっと異常だぞ?

 

夕飯の時にでも母さんに相談してみるか、もしかしたら何かの重病かもしれないし。

 

魔法関係でそう言うのは、異世界系ラノベの典型だからな。

 

「私は、お兄ちゃんの妹でお母さんの子供だもの、出来て当たり前よ!!」

 

ハッハッハ良い笑顔で言うじゃないか、お兄ちゃんそんな事言われて凄い嬉しいよ、鼻血出そう。

 

………だけどプレッシャー半端ねぇな、俺はまだCランク(ド◯クエの魔法使いで言うイオを覚えたくらいのレベル)の魔法までしか使えないんだけど。

 

こうなったら初音に隠れて練習量増やすか。

 

「それよりお兄ちゃん、早く続き教えてよ。」

 

いや~、初音は勉強熱心だなぁ、お兄ちゃん嬉しいけど、そんな頑張らなくても良いんだよ?

 

妹より魔法が下手な兄貴とか兄のイゲンガガガ

 

「悪い悪い、じゃあ空中に文字書く感じで、この紙に書いてある文字を一つ書いてみてくれ。」

 

いくら覚えが速いと言っても、魔法の習得の最難関がここだ。

 

空中に文字を書くのはどんな天才でも一日は掛かる、俺も一週間掛かったし、父さんも普通は一か月かかるって、え?

 

何でもう書けてんの?

普通最初は、ヒントが無ければどうやっていいか、勝手が解らないんだけど、よしんばかけても、適当な魔力量で書かないと、文字が冬に窓に文字書いた時みたいに滲んできて、発動が出来ないはずなんだけど?

 

俺の瞳には「風」の文字を書いて涼しんでる初音の姿がくっきりと映っていた。

 

「お兄ちゃん、風気持ちいいよ、こっち来て一緒に凉しもうよ」

 

初音のこの覚えの良さは何だ?

普通じゃありえん。

 

ギフトか?

調べなきゃ、何を宿してるのかは分からないが、使えることは出来る(普通はやり方が解らないか、怖くて出来ないが)。

 

普通、魔力を操作できるのは早くとも七歳位、五歳になる前に魔法を使えた俺が規格外な訳で、でも初音も俺と同じいたずら者(プレインク)だから問題ないのか?

 

それともギフトを無意識に使っていたか、又は母さんのワイズマンみたいな常時発動型のギフトか……夕食の時に話す話題が一つ増えたな。

 

「凄いぞ初音!?、こんなに覚えが良いなんて………直ぐに俺のことを抜かすんじゃないか?」

 

取り敢えずいま俺が出来る熟語魔法(一つ文字が増えるたびに魔力消費が上がり、字が少しでも汚いと不発の可能性も高い魔法だが、安全性が高く威力が安定していて、比較的簡単な魔法)なら、知ってる限り教えても平気だろう。

 

その後は多分、今まで家の予想外に大幅な改築で、バレると面倒になるからと、隠蔽のために奔走していた父さんたち(母さんは俺たちの面倒を見ていたので、実質父さん一人)に余裕が出てきたから、近い内に今まで遅らせていた俺のギフトの鑑定をしに、神社に行くことになるだろう。

その時に多分、初音も一緒に鑑定してもらうと思う。

 

ここまで異常に(俺の魔法の才能は一応、常識の範囲内)覚えが良いと、ギフトは確実にレアギフト、それもいたずら者の事を考えるとミラクル・エフェクトとかじゃなく、ロイヤル・エフェクトやゴッズ・エフェクト並みの性能の常時発動型の可能性がある。

 

常時発動型は種類が少なく、また制御が難しいため、所謂()()()()()()が多いが、反面制御出来た場合の恩恵がバカでかいため、歴史的な偉人は常時発動型だった場合が多い。

 

例を挙げるなら、家の母さんが常時発動型のワイズマン持ちだ、あの人も歴代最高峰レベルの巫女長らしい。

 

ワイズマンは、持ち主の魔力的な成長や、種族上限(これは、例えるなら前世の普通の人間が、極限まで鍛えたとしても、生身で溶岩ダイブすれば即死、良くて重症になるのと同じ原理だ。所謂種族としての限界、RPGで言うLv100のことで、これ以上は成長しない到達点。最高峰(ハイエンド)と呼ばれる場所。普通はそんな場所に正規の手段で到達できる人なんて一世紀に一人いればいい方、種族としてのある意味完成形)の限定的な上限解除、ワイズマンは魔力総量や魔法に対する親和性(効率や開発等)等の魔力や魔法関係を上限解除している。

 

だが、このワイズマンも、常時発動型だけあって制御が難しく(ワイズマンなら、親和性が高すぎて逆に魔法が暴走する)、暴走した場合、程度によるがちょっとした町一つ位の広さなら、消し飛ばす程の威力がある。

 

そのため、常時発動型は宿した時から死と隣り合わせで(発覚するのが早期の場合が多いため、周りにも被害が及ぶ場合が多く、そのため発覚した時点で殆どが、孤児院や専門の機関に預けられる)、制御出来た場合、もの凄い恩恵があるため(ワイズマンだったら、制御出来た時点で殆どの魔法を掌握出来るレベル)、それまで煙たがっていた人たちが、手のひら返しで媚び売り始めたり、慣れ慣れしくなったり、その宿主の数奇(と言うより、ある意味悲劇的で幸運)な運命から、別名()()()()()()()()()()()()()

 

このような扱い注意なギフトなため、国も常時発動型のギフト持ちに対して政策を実施している。

 

発動の可能性がある行為があった場合、五歳未満でも鑑定してもらえるのは政策の一つだ(流石に証拠を提示する必要があるが)。

 

「ありがとうお兄ちゃん!!………お兄ちゃん、どうしたの?急に黙って、今日はなんだかいつもより変だよ?」

 

考え事をしていたら、初音がまるで不審者を見るような目でこちらを見ながら、心配してきた。

 

これが上目遣いで不安そうな顔つきだったら、俺は鼻血を出して倒れていた所だろう。

 

「一言余計だ。その言い方だと、俺はいつも変な奴になるだろ、ただ考え事をしていただけだよ。」

 

「事実じゃない、そんな事よりもっと難しい魔法無いの?簡単すぎて詰まんないよ。」

 

「はいはい、なら今度はこの紙に書いてある単語を書いてみな、今日はこの文字のところまでだからな?」

 

「はーい、明日の分が無くなっちゃうもんね、我慢するよ。」

 

初音は、そう言って未練たらたらの様子で紙を受け取った。

……この紙はさっきの紙とセットで今週の分なんだけど、普通こんな速度で習得できるとか予想できないだろ!!

 

予想できた奴はよっぽどの天才か、極度の心配性位だろ、頭痛くなってきた。

 

「どうしたのお兄ちゃん?頭抱ええて、痛いの?この紙に書いてある魔法で治そうか?」

 

ハッハッハ俺の妹は優しいなぁ、嬉しすぎて今度は腹が痛くなってきた(涙)。

 

俺たちがそうやって、和気あいあい(?)と魔法の練習をしていると、部屋にコンコンとノックの音が響いた。

 

「はーい」

 

俺がそう言ってドアを開けると、母さんの式紙(見た目は黒子姿)がドアの向こうに立っていた。

 

≪初様、初音様、夕食の支度が出来たので直ぐにリビングまで来るよう、麗奈様から伝言を預かっています。≫

 

そう言って念話(テレパシー)で話した後、お辞儀をしてリビングまで歩き出した式紙を追って、俺の横で話を聞いていた初音と一緒に、部屋の戸締りをしてリビングまで式紙を追いかけた。

 

戸締まりしないと、放し飼いにしている魔獣が部屋に入ってくるんだ。

一度部屋に入ってピーちゃんと大乱闘して部屋を滅茶苦茶にされた。

 

それにしても、この家は広すぎてまだ迷う事がある、ハッキリ言って広すぎ。

こんなん全部の部屋は使いきれないし、覚えきれないだろ。

 

「初、初音の特訓の調子はどうだい?」

 

父さん、とても順調すぎて、ちょっと問題ありです。

 

「父さん、その事なんだけど、夕飯を食べ終わったらちょっと二人に話があるんだ。」

 

そう俺が言うと、父さんは少し驚いた後、何処か思いつめたような顔をした。

何か知ってるのかな?

 

「初君、それってもしかして、初音の魔法の覚えが速いって事?」

 

そう言った母さんの顔は、何処か縋り付いているような、認めたくないような、複雑な顔をしていた。

 

「そうだけど、母さんは何か知ってるの?」

 

「それは多分、私のガブリエルの力だと思うわ。私が許可した生物の特定の成長度を一定時間上げることが出来るんだけど、どのくらいまで魔法を覚えたの?」

 

そう言った母さんの顔は、それ以外は認めたくないと言うような、だけど答えをもう知っていて、その答えに絶望しているような、そんな複雑過ぎる顔をしていた。

 

だけど、ガブリエルにそんな能力が在ったとは、流石レアギフトぶっ壊れてるな。

 

あんな速度で魔法を覚えるのが、何人も量産出来るとか、本当にふざけてる性能だ。

 

「熟語魔法の二文字までなら安定して成功するよ。」

 

ん?

二人の顔が、すっごい怖い顔になったんだけど、何か怖いんだけど、特に父さん。

それに母さんは、どちらかと言うと泣きそうな顔だ、初音の事で昔、何かあったのかな?

 

「初君、後で私の部屋に一人で来て、リュウ君は初音が私の部屋に来ないようにして。」

 

「分かったよ麗奈、初音を寝かした後に部屋に行くから。」

 

あ~....この反応を見るに、ガブリエルのブーストはそこまで効果は高くないんだな。

 

つまり初音は素であの成長速度と言う訳か、やっぱりギフトなんだろうな、母さんはなんのギフトか心当たりがあるのか?

 

「お母さんたち、こそこそ何話してるの?早くご飯食べようよ!」

 

俺たちが入り口で話している間に、席についていた初音が急かしてきた。

地面に届かない足をプラプラさせて可愛いなぁ、でも行儀悪いからやめなさい。

 

「もう、初音足をプラプラさせないの。」

 

「今、お話が終わったからね。冷めないうちにご飯食べよう、ほら、初も早く席に着きなさい。」

 

気付いたら、前にいたはずの二人が、いつの間にか笑顔で席に着いていた。

 

いや、いつの間に移動したんだよ。

 

「分かってるよ、今日の夕飯は香辛料理だっけ?」

 

「そうなのよ♪麻婆豆腐食べたくなっちゃって、他にも色々あるわよ?」

 

そう言った母さんの笑顔は、泣き叫んでいる子供のような、見ているこっちが悲痛な思いになる笑顔だった。

 

その後は、皆で夕飯を食べてデザートの杏仁豆腐を食べた後に出された、煎茶に入っていた薬(軽い睡眠薬、魔法の練習で疲れていたのか直ぐに眠った)で初音が寝た後に、三人で母さんの部屋まで移動した。

 

初音は、父さんがお姫様抱っこで、部屋まではこんだ。

俺にもっと力があれば、運べたのに、悔しい。

 

 

 

 

 

三人で初音を部屋に寝かした後(念のため母さんが魔法で眠りを深くした)に来た母さんの部屋は、八畳程の部屋で、品の良い調度品が窓際に飾られている。

 

ただ今は二人とも、深刻そうな顔で、そんな物に構う余裕は無いとばかりに、空気が張り詰めているが。

 

「それで母さん、話って何?」

 

俺がそう言うと、母さんは強張った顔で隣に座っている父さんの手を掴みながら、震えている声で言った。

 

「初音のギフトはね、初音のお父さんのギフトなの。」

 

それを聞いた父さんの顔は、真っ青を通り越して、白かった。

 

初音のお父さんって、母さんの前の旦那さんの事?

不思議に思っていると、顔色の悪い父さんが、何かを悔やんでるように、顔を顰めた後、絞り出すようにして言った。

 

「初音のお父さんはね、麗奈が初音を身ごもって、直ぐに死んだんだよ、僕のせいで。」

 

そう言い放った父さんの顔を、俺は一生忘れはしないだろう。

 

 

 

 

 

 




次回は贋哉叔父さん登場まで行きたいですね。
後、活動報告に重要事項を載せておいたので、暇な人は確認よろしくお願いします。

追記:ゴッズ・エフェクトがゴッド・エフェクトになっていましたので改稿しました。

追記誤字報告を貰ったので該当箇所を修正しておきました、初めて誤字報告を貰ったのでこれであってるか、若干不安です。
読んで何か気付いたことや、感想など、感想は時間がある時にで良いのでしていただけると、幸いです。

追記2017:4/8友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 俺氏情報過多で混乱しそうな件

今回は色々過去話と矛盾している所をこじつけで切り抜けた文なのでいつもより駄文です過去話は暇をみて改稿しますのでご理解願いますm(__)m


その言葉を聞いた時、最初に思ったことが、何これ何てテンプレ?だった俺は、母さんに◯声と共に◯◯れても文句は言えまい。

 

「麗奈は、元々軍人だったんだよ。出世する前の、まだ中尉だった頃の部下だったんだ。」

 

ウワーナンダッテー巫女長が元軍人とか、この国大丈夫なのか?

 

巫女長は、天皇の補佐役みたいなポジションだぞ、一応。

母さん、今働いてないけど。

 

俺が疑問に思っているのに気づかなかった父さんは、そのまま話を続けた。

 

「初のお母さんも元軍人で、俺の部下だったのは知ってるな?天草 麗奈(あまくさ れいな)と麗奈の旦那、五十嵐 鏡和(いがらし きょうわ)と初のお母さんの四菱 柚子(よつびし ゆず)、そして長谷川 研多(はせがわ けんた)と妹の長谷川 鈴音(はせがわ すずね)、それに俺を含めた六人が、第92試験小隊のメンバーなんだ。」

 

色々、突っ込みたい所は多々あるが、まず言わせてもらおう。

 

「何でそんな有名人ばっか出てくんだよ!?その小隊は!」

 

五十嵐って言ったら、名家中の名家()()()()()()の一家じゃないか!!

 

長谷川 研多は有名な作家だし、妹の方は天皇付きの筆頭侍女だろ?

妹の方は異例の出世だって、新聞に載ってたぞ!?

 

それに、お袋の旧姓が一番やばいじゃん。

()()()()()()()()()()()()()()の四菱じゃないか!!!

 

「あはは、今では皆成功してるけど、当時は一緒の任務に行くと、必ず失敗するか誰かが僕らを庇って死ぬ、なんて言われるくらい弱かった、雑魚小隊だったんだよ。」

 

そう言って、予想以上の意味不明さに混乱している俺に、写真を財布から取り出して見せてくれた。

 

そこには六人の男女が映っていた、背の高い根暗そうな青年と、明るく活発そうな青年の肩位の背丈の女性。

その横で腕を組んで隣を睨んでいる、女性と同じくらいの背丈の強面なイケメン。

 

その男に睨まれてるのに、物怖じせず何かを言って羽交い締めにされてる少し背の低い青年。

青年を羽交い締めにしている、青年より少し背の高い長髪の女性。

 

最後に、写真の端っこで、気まずそうにはにかんでいる、初音によく似た女性。

 

「当時は、家の力で軍に入った、七光りの餓鬼共って良く言われててね、色々あったんだよ。」

 

「でも毎日が充実してたわ、朝から晩まで任務で、任務が終わったら皆でご飯食べて、毎日があっという間で楽しかった。」

 

そう言った二人の顔は、昔のことを惜しんで哀愁が漂っていた。

 

「父さんたちの昔の話はすっごく気になるけど、話が逸れてるよ?何で初音に実の父親、長谷川鏡和のギフトが入ってるんだ?」

 

それを聞いた瞬間、母さんが目を伏せた。

父さんは、乾いた笑みを浮かべると、詳しく説明してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、そろそろ出発だよ?」

 

翌日、俺たちは神社に行くために、母さんの上級魔獣に馬車を取り付けている父さんたちを、リビングで待って居た。

 

「分かってるって、そう急かさなくても、時間は未だあるんだから、もう少し書かせてくれ。」

 

もう少しで、昨日の出来事が日記に書き終わるんだから。

 

「そう言って、二十分も何かを書いてるじゃない!!しかも魔法で私には見えないし!?お母さんたちが呼んでるんだから速く行こうよ~」

 

そう言って、俺にヘッドロック掛けてこようとする初音を、熟語詠唱であしらいながら、日記を書くこと十数分。

 

書き終わった日記を閉じて、初音の方に目を向けると、風で乱れた髪を抑えて、涙目で抗議する初音の姿が視界に入った。

 

「むぅ~お兄ちゃんのせいで髪型がグチャグチャじゃない!今夜はピーちゃんの部屋に閉じ込めてやるっ!」

 

いやぁぁ~~涙目姿の初音も可愛いですなぁ。

 

写真関係の魔法を早急に考えないとな、今の写真技術は魔獣の素材を湯水のように使って、やっと使い捨てのインスタントカメラが完成してるような状況だからな。

 

それにしても母さんたち遅いな……もしかして。

 

「ごめんごめん、今日は一緒にお風呂入ろうか。」

 

初音なら、これで機嫌が良くなるはず。

 

「むぅ…しょうがないから許してあげる、ただし!約束だからね?忘れたら……今日は寝れなくなるからね?(黒笑)」

 

ハッハッハ、ちょっと想定外だが、間違いなく初音だな、この黒い笑みは初音しか出来ない。

しかも前に、俺が父さんにやってた、悪夢を見せる嫌がらせをやるって脅してきたし、俺の妹は強かだなぁ。

ブルッおっと寒気が。

 

だけど父さんたち、遅いな。

てっきり、母さんが初音に魔法で変化して、俺と一緒にリビングにいたから、魔獣が馬車を付けるのを渋って遅れたと思ったんだが。

 

……冗談のつもりだったけど、母さんならやりかねないな。

 

何かあったのかな?

まさか、魔獣が逃げ出す何て事は無いだろうけど...ないよな?

 

そんな事を考えていると、父さんが少し疲れた顔をして、リビングに来た。

 

「どうしたの父さん、そんなに疲れて、何かあったの?」

 

「その何かなんだけど初、狼好きかい?」

 

いきなり狼が好きかって、本当に何があったんだ?

 

初音は何か気付いて、嬉しそうに笑ってるけど、本当に何があったんだ?

 

良く分からないけど狼か、動物の中では好きな方かな。

 

「好きって言えば好きだよ、カッコ良いし仲間思いだから。」

 

それを聞いた父さんは、凄く良い笑顔で事情を話してくれた。

 

「初が狼が好きで本当に良かったよ、実はねさっき麗奈の配下の大魔狼が産気づいちゃって、今麗奈が産婆代わりになって出産中なんだ。予定だと後、一週間は先のはずだったんだけど、何かハプニングがあったみたいなんだ。しかも、六つ子らしくて時間が掛かるみたいでね。長時間の出産は母親が危険だから、麗奈がスキルをフルで使うらしいんだ。僕は邪魔だって追い出されちゃったんだけど、何か出来ることはないかと思って、産まれた子達は麗奈の配下じゃなくて、初の使い魔に出来ないかと思って聞きに来たんだよ。追い出される時、麗奈の許可も取ってるし、使い魔の登録も神社で出来るからね。後、神社に行くのは明後日に延期、幸い、僕たちは休暇は長くとってるから明後日でも問題は無いしね。」

 

朝からいきなり想定外の事が起こって、混乱しているのか、普段、あまりしゃべらない父さんが、長々と説明してくれた。

 

と言うより、家の人間は基本、あまりしゃべらないんだよね。

例外が母さんなんだけど、あの人は空気をあえて読んでない感じが……俺の母親が不思議属性な件。

 

それにしても使い魔か、しかも大魔狼って確か、老練(数千年クラス)の個体なら特級じゃなかったっけ?

幼い個体でも上級の魔獣なのに……母さんは怒らせないようにしよう。

 

その後は、三人で出産が終わるまで待機していた。

父さんから出産の話を聞いたのが8時だったのに、式紙がリビングに来て、出産が終わったと聞いたのが夕方の5時過ぎ。

 

9時間ほどの出産だったけど、魔獣でも六つ子でこの出産時間は凄く短いんだそうだ。

普通は12~20時間位は掛かるらしく、母さんのスキルで短くしたんだろうと、父さんが言ってた。

 

因みに野生の場合、その間はオスが結界を張ったり、見張りをしたりして、メスを守るらしい。

 

途中、父さんがおにぎりを作って母さんの所に持って行ってたり、母さんの式紙が昼飯作ってくれたり、俺達兄妹は全くの出番なし。

 

暇になった俺は、父さんがやりたいことが無くなり、書斎に缶詰めで仕事している間に、初音に昨日の事を話した。

 

 

 

一から全てを説明すると長くなるから、今回の事に関わる話だけ簡単に言うと、ガブリエルの力の応用で、初音を妊娠して八週間目だと解った母さんが軍を辞め、母さんがやるはずだった任務が全て、当時既にバラバラの小隊に別れた、92試験試験のメンバーの一人、五十嵐さんの隊の人間に割り振られたらしく、その任務でアクシデントが起こり五十嵐さんの隊が全滅したそうだ。

 

因みに母さんは海軍で特務大尉まで出世したらしい。

 

五十嵐さんの隊の人間は全員死亡。

当時五十嵐さんの隊は、軍でもトップレベルの強さを誇り、五十嵐さん自身も海軍大将と言う、軍では実質二番目の地位に居たため、当時はもの凄く混乱したそうだ。

 

当時既に統括元帥(元帥は三人居る)だった父さんが、五十嵐さんに言われてそうしたらしく、あの時はもっと、他にやりようがあったと嘆いてた。

 

そして母さんが、父さんのルシファーと一緒に手に入れたレアスキル、ヴェルサンディによって、おなかの中に居た初音に宿ったギフトが、五十嵐さんのものと同じギフト、アザゼルだと言うことが解る。

 

因みに母さんのヴェルサンディは秘密らしく、秘密と言っても、国の上層部は知ってるし、俺たちが自立出来たら巫女長を引退した後、公表して鑑定の仕事に就くつもりらしい。

 

鑑定は神社で行い、結果を国が、戸籍と一緒に管理する法律なので、明日にでも神社に行くと言っていたこと。

 

母さん曰く「ヴェルサンディは一回の任意発動に、最大魔力の6割を固定で消費するから、ガブリエルと併用しないと使い勝手が悪いのよ?常時発動中は最大魔力の5%を常に消費何だけどね。」だそうだ。

 

さらに言うと、初音を出産した瞬間にギフトが一つ、初音の中に入るのが解ったらしい。

 

何で出産直後にそんなこと出来たんだと母さんに聞くと、ヴェルサンディは常時発動型のギフトで、ギフトを色や形、光り方で確認できるようになるとのこと。

 

常時発動で解るのはレア度と状態、通常だったら青、暴走手前だったら赤、みたいな感じらしい。

レア度は、光り方で解るらしく、レア度が高くなればなるほど光量が上がるらしい。

 

詳しい性能や名前、他のギフトとの同時発動には、魔力を使うこと、一度魔力を使うと6時間ほど視界が変化し、使用後は、2時間程の魔力が使えない時間があると言う説明をしてくれた。

 

因みに説明が終わった後、母さんが俺の事を見ながら「いたずら者(プレインク)ってやっぱり凄いわよね」何て言ったもんだから、どう言う意味か聞こうと思ったんだが、はぐらかされた(解せぬ)。

 

正直まだ聞きたい事はあるが、これ以上は明日、初音と一緒に聞こうと思う。

 

このことを話し終わったら、初音の様子が一気に変わった。

 

話す前は、俺のギフトがどんなのか予想したり、大魔狼の赤ん坊の名前を考えたり、俺が飽きないように気遣って、色んな話題を、終始笑顔で話していた初音の表情が、何かを思案しているかと思ったら、何所か虚空に目を向けて、心此処に在らずと言った雰囲気になったり、何かブツブツ呟き始めたり。

 

傍から見て、すんごく挙動不審と言うか、何と言うか近づいちゃいけない感じの、危ない人になってしまった。

 

なまじ見た目が美幼女だから、滅茶苦茶不気味な雰囲気になってるし、雰囲気に呑まれたのか何か、初音の周りの景色が歪んで見える錯覚が…ってこれ錯覚とかじゃなくて魔力だ!?

 

慌てて初音の顔を見ると、何かを呟いてた口は「憑依!!」と言い放ち、手は胸の辺りで『定着』と『融合』の二文字が掛かれており、字から危険な雰囲気を感じた俺が、急いで解除しようとしたが既に、魔法が発動して初音が倒れた。

 

「バカ!!二文字発動が安定したからって、同時発動なんて無茶苦茶なことしやがって!大丈夫かおい!?」

 

慌てて色々と、前世の時の口調で口走りながら近づくと、ゆらりとどこか現実離れした、まるでアニメやゲームのような雰囲気で、初音が立ち上がり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おい、お前誰だ?何で初音の中に居る!!?」

 

それと同時に感じた、初音ではない雰囲気に、後ろに下がって警戒しながら()()()()()()()()()に質問すると、何かは床に胡坐を掻いて座り欠伸しながら悪態を吐いた。

 

「ハアァ、ワイは夜型だって言ってんに、いっつも昼に起こしようてからに、兄ちゃん(あんちゃん)もでかい声で喋んなや、寝起きなんよったく、しゃーないのぉ。」

 

一体何だこいつは?いきなりこけたと思ったら、悪態ついて、訛りもあべこべだし、もしかして初音のギフトか?

 

色々疑問に思い、警戒しながら頭の隅で目の前の何かについて考えを巡らせていると、何かが俺に話しかけてきた。

 

「そない警戒せんでもええやろ?ワイはただのギフトや、立ってないでこっち来て座り―や。」

 

本当になんなんだこいつは、意識があるギフト何て聞いたことないぞ?

 

しかもしゃべり方が変だし、初音の姿でその喋り方は違和感が凄いんだよ。

そんなこと考えながら何かの前に座ると、何かが笑いながら話してきた。

 

「兄ちゃんが初か、確かに隆志によく似てるのぉ?ワイの名前は『改造自立思考型:堕天使ギフト アザゼル』気軽にアザゼルって呼んでぇや。」

 

改造型?

誰かがギフトを改造したのか、自立思考型何て聞いたこと無いから、それで自立思考型になったのは予想出来たが、誰が何でそんなことを?

 

そもそも何で自立型なのに、初音に魔法で取り付いてるんだ?

それに、今まで初音が家族に言わなかったのは何でだ?

他にも聞きたい事が山ほどあるぞ、このギフトには。

 

「兄ちゃん聞きたいことが、仰山有るって顔やな?ええで、ほな全部言ってみ?」

 

 

 

 

 

 

~10分後~

 

 

 

 

 

 

初音の魔法に関することや、改造自立思考型とは何だと言う事、他にも思いついたことを片っ端から全て話すと、アザゼルは少し考えたような表情を見せると口を開いた。

 

「兄ちゃんが聞きたいことは分かった、そん中で答えられるんは今は3っつや、よお聞けよ?」

 

俺が頷くとアザゼルが溜息を一つ吐き、真剣な顔で訛りのない流暢な標準語を喋り出した。

 

「一つ目、俺を改造したのは、初音の実の父 根暗拗らせて奥さん困らせたバカ(五十嵐 鏡和)、彼奴の持つレアスキル、ロキの力で死ぬ間際に改造された。」

 

その言葉を口にしたアザゼルは、鏡和さんの最後を思い出したのだろう、口にした言葉とは裏腹に、悲痛に満ちた顔で吐き捨てるように口にした。

 

「二つ目、自立型なのに初音に乗り移っているのは、自立思考の条件が満たせていないから、他にも能力の使用には条件が付いてるものが多い、所謂ハズレスキルだよ。」

 

そう言って、自分の事を嘲笑したアザゼルの顔は、見てるこちらが辛くなるほど、酷く歪んでいた。

 

「最後、俺の喋り方はキャラ付け設定だ、こうやって普通に喋ることも出来る、お前が嫌ならこれからは普通に喋るが?」

 

「普通で頼む、さっきまでの喋り方は色々きつい。(主に作者が)」

 

その後、少し話した後アザゼルは、解除の魔法を唱えて初音との融合(憑依?)を解いた。

 

これが、この後に「史上最強の美少女(美少女限定)」や「✝漆黒の天使✝」何て呼ばれて地面を転げまわる、アザゼルとの初めての邂逅だった。




括弧が多いと言われて改稿しました、良かったら感想お願いしますm(__)m。

展開の都合上最後のアザゼルとの会話に入る最初の部分を一部変えました。

追記:妊娠に気づいた時期を二週目から八週目に変更しました、流石に気づくのが早すぎですから、気づくのが遅れてすみません。

追記2017:4/8友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 神社に行きます

今回は深夜テンションで書き継ぎしたものなので色々おかしいですが、過去話との矛盾は無いはず……多分。
自信なんて無いので、もし矛盾が見つかった場合は、報告してくれると作者が喜びます




アザゼルが魔法を解除した後、直ぐにに来た式紙との会話を終わらせ、さっきの会話を整理する。

 

色々解ってない部分が多く、整理しようにもやりようがない会話を思い出して頭を抱える、ドウシテコウナッタ(絶望)

意識を失った初音を布団に寝かせて一息ついて、しょうがないから今後の事について考えることにした。

 

目下の課題と言えば、初音のスキルについてだ。

アザゼルの事は、敵では無いのは理解できたが、初音が何のためにアザゼルと俺を会わしたのか。

 

それにもう一つのギフトも気になる。

アザゼルが自立思考型なのは分かったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アザゼルの効果が自動、もしくはアザゼル自身で発動していたのなら説明が付くが、なら何で質問したのに答えなかったんだ?わざわざ答えられるのは三つだけだと言って。

 

アザゼルの言う条件に触れる?それともあえて言わなかった?……疑問は尽きないが初音が起きた後聞けばいいか。

 

アザゼル以外の問題となると…パッと思いつくのは五つかな?今夜あたりに日記に書きだしておこう。

因みに俺が使っている日記は手作りの優れもので、俺以外が見ようとすると妨害し、俺以外が日記を開けられないようになっている優れものだ、他にも機能が幾つもある自慢の一品で、造るのに一年かけた。

 

この日記を作っといて正解だったな、誰にも見られる心配がないから(初以上の術者に解除される可能性はあるが)お蔭で何でも書き放題の、便利なノートが出来た、魔法も追加で掛けられるように作ったから俺の成長と共にノートも成長する、こういうのを作ると、自分が本当にラノベの主人公みたいに見えてくるから、テンション上がる。

 

そんな事を考えていると父さんがリビングの扉を開けてこちらに来た。

 

「あれ、初音はもう寝てるのかい?何かあったのかな。」

 

父さん、いつも思うけど結構鋭いよね、後子供の事を本当によく見てるな。

 

まだ初音と一緒に暮らして、一か月たってないんだけど、たったそれだけの時間で、初音の生活リズムを理解するとは、このちょっと気持ち悪い位の勘の鋭さは、父さんが本当に人間か疑いたくなるレベルだ(かてきょーひっとまんの超直感並)。

 

「そうなんだけど、…父さんたまに鋭いよね。いつも頼りないのに、母さんにも説明するのが面倒だし、明日神社で良いかな、初音の事もあって()()準備してるんでしょ?」

 

そう言うと父さんがまたかって顔をして呆れたように言った。

 

「その言葉、初にだけは言われたくなかったなぁ。まぁ確かに色々準備はしているけど、子供の成長が早すぎるのも何か複雑だねぇ(しみじみ)。」

 

おうふ、すげぇ釈然としねぇこと言われたんだけど。

確かに俺と初音はいたずら者(プレインク)だし成長が早いと言うか、二人とも中身が20代後半のいい大人だけど。

 

下手しなくても初音は母さんより中身は年上だしな。

 

「お兄ちゃん。今、失礼な事考えなかった?(黒笑)」

 

やばい、今初音の方向怖くて見れないわ、何か言うか殺気みたいなのが背中からヒシヒシ感じるんだけど、と言うか初音さん、いつの間に起きていたんですかねぇ?。

本当にやばいわ、何か父さんが冷や汗流してるんだけど(困惑)

 

「お兄ちゃん、何で返事しないの?こっち見てよ、ねぇ!!」

 

「落ち着け初音、俺は失礼な事は何も考えて無い。ただちょっと前世の事を……」

 

「へぇ、私の年を考えてたんだね、女の子の年を考える何て非常識だよお兄ちゃん(ニッコリ)ちょっとこっち来て。」

 

何で解った!?

いや、今はそんな事よりも、俺が気づかない内に魔法で身体強化して、俺の襟首を掴んで引きずりながらリビングを出ようとしてる初音さんを、何とかしなきゃ(切実)

 

「大丈夫だ初音、俺は一人で歩けるから手を離してく

「お兄ちゃん、お仕置きは始まったばかり何だから黙ってて!!」アッハイ(泣)」

 

その後、家中を兄を説教しながら引きずって、夜中まで徘徊した幼女を、母さんの上級魔獣の中の一匹が目撃して、初音のあだ名が『恐怖の引きずり幼女』となるのだが、本人に言うと◯されるあだ名は、果たしてあだ名なのだろうか?(遠い目)

 

蛇足だがその日、色んな疲労によって前今家の男連中は疲労困憊で(色んな意味で)、翌日になっても疲れ果てて神社に行くのがさらに一日遅れた。

 

その煽りを受けて両親の仕事場で、副官や補佐役が悲鳴を上げるのだが、これも蛇足である。

 

 

 

 

 

 

 

妹に説教されながら延々と家の中で、夜中まで引きずりまわされるという、トラウマものの出来事を一日で克服出来た俺は、誰かに褒められても良いと思う(はじめ が ほめてほしそうに こちら を みている)。

 

とまぁ、冗談は置いておいて、二日ほど元々の予定とは過ぎているが、今日ついに、神社に行って俺と初音のギフトを調べてもらう。

そのついでに、俺の使い魔予定の大魔狼の赤ん坊を連れていくのだが、いくら上級魔獣とはいえ、生まれて一週間もたっていない赤ん坊を、馬車に乗せて連れていくのは?と心配になっていた俺の気持ちは、全くの杞憂だったようである。

 

今、馬車の椅子に座ってる俺の前に居るのは、文句言いつつも、にやけているのが隠しきれていない初音と、初音に懐いて群がっている、五匹の大魔狼の赤ん坊達である。

 

「もう、お兄ちゃんとお父さんのせいで神社行くの遅れたじゃない!! ボソ(まぁ昨日は一日イチャイチャ出来たから良いけど)」

 

字づらだけ見れば文句言ってる初音も、表情のせいで全く怒っているように見えないので一安心である。

 

「それにしても、初音に全員懐いちゃって、本当に俺の使い魔で登録できるかな?心配なんだけど。」

 

「確かに、何か初音に懐いちゃって初君の事眼中に無いみたい。でも家であーちゃんと一緒に居る子は、あなたの事認めていたわよ?」

 

そう言って初音の隣に座って赤ん坊達に微笑みながら、粉ミルクを作っている母さんが言っているあーちゃんは、老練な大魔狼の一体で、最上級魔獣。

 

しかも災害級を封印したことのある()()()()()()()()の一体。

母さんや父さんと()()()()戦える、数少ない魔獣の一体でもある。

 

こうして考えると本当に家の両親はチートだ、災害級と言ったら大陸一つ滅ぼせる、文字通りの災害のはずなんだが。

 

大陸と言うより諸島だが、この世界のグレートブリテン諸島は、災害級との戦闘で沈んでるし、そんな意味不明な奴らの一体を、多勢に無勢とはいえ封印した規格外と、ガチバトル出来る家の両親は、本当に人間をヤめている。

 

こんなことを思い出したのも良い機会だから、ギフトや魔物の階級について詳しく思い出してみることにしよう。

この家の常識と外の常識は全然違うからな。

こうしてたまに思い出さないと、非常識になるからな……割とガチで(汗)

 

さて、まずはギフトの事だな。

ギフトは全部で七つの階級にに分けられていて、一番上のゴッズ・エフェクト、二番目のロイヤル・エフェクト、三番目のファンタズム・エフェクト、四番目のミラクル・エフェクト、五番目のスペシャル・リザルト、六番目のレア・リザルト、最後にノーマル・リザルト。

 

こんな風に分けられていて四番目までのエフェクト以上のギフトをレアギフトと言い、リザルト三種よりも効果が強く、汎用性が高い希少なギフトとして有名だ。

 

因みにエフェクト四種とリザルト三種の間には明確な違いがある。

それは大きく分けて三つ。

一つリザルトは自分にしか効果が無いが、エフェクトは周囲の生物にも効果があること、言うなれば出力(馬力)の違いだ。

例えるなら母さんのガブリエルが良い例だろう、自分が認めた者の成長を促し、他の生物を従え、癒し、導く、正にアニメや漫画に出てくる聖なる天使様そのものだ。

 

二つ目はギフトの質(格)と量

これは分かりにくいかもしれないが、人類が文明を創り、ギフトを研究した最初期から、明確に分かっていたことでもある。

 

なぜエフェクトがリザルトより現存数が少ないと言うと、これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これを詳しく説明するとなると長くなるから四百文字以内にると

・ギフトは一定条件(個人個人によって違う)を満たすと、進化する。

・進化したギフトは、所有者が死んでもリセットされない(例外はある)。

・一度進化したギフトでも、所有者が変われば進化できる。

 

・リセットしないせいで、延々と情報をため込んでいるため(拾捨選択は所有者がしてるか自動設定)、三回以上進化したギフトは、莫大な経験値からくる予測演算がデフォルト。

・生まれつき持っていなかったギフトでも進化できる。

 

ここまでがただのギフト、次の説明は()()()()()()()()()

 

・ギフトが七回以上進化すると、世界に登録され、文字通りその生物専用の能力になる。

・七回以上進化したギフトは、持ち主が世界から消失すると消滅し、一度も進化していない新しいギフトが、1つこの世界に増える。

 

・世界に登録されたものは、専用のレアスキルを使えば閲覧可能、死ぬ気で頑張れば復元も出来るらしいが、能力の割には使用条件が厳しすぎて、出来てもやろうとは思わない位には厳しいらしい。

・世界に登録されたギフトは、世界に対する接続端末になり、世界に接続し一定の情報を獲得することが出来る。

 

・最後に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

......あれ?四百文字越えてるじゃん、何やってんだよ◯者、ちゃんと仕事しろ(責任転嫁)!!

 

ゴトッ!!

「きゃっ!?」

 

そう思った瞬間、馬車が揺れて赤ん坊と遊んでた初音が持ってた鋼球(誤字にあらず)がこっちに飛んできた。

 

「あぶねっ!!?」

 

間一髪で顔めがけて飛んできた球を避けると、顔の横で球が低い音を出した後、床にこれまた低い音を出しながら落下した。

 

何今の、怖えよ作◯。ゴメンもう言わないから許して、五歳児に鋼球とか殺意たけぇよ。

 

「ごめんなさいお兄ちゃん!!」

 

「大丈夫?初音君、もうちゃんと持ってないとダメじゃない初音。」

 

「ごめんなさいお母さん。」

 

そう言って心配してくれてる母さんを尻目に、こっちに来ようと椅子を降りて近づこうとした初音の足元には、さっきの鋼球があって…あ、察し。

◯者は許してくれたらしいが、最後ににとんでもないのをしでかしてくれた。

前言撤回、あいつ絶対許さねぇ!!(俺は悪くねぇ>作◯)。

 

「そんな事より大丈夫?お兄ちゃん何処か怪我して!?きゃっ!!」

 

一瞬聞こえたバカの戯言を聞き流し、初音が転ばないように祈るが、やはり効果は無いようで。

見事に足元を見てなかった初音は、綺麗に、まるで仕組まれているかのように、予想通りにこちらに転んできた。

 

勿論見ているだけじゃなく受け止める。

ちゃんと魔法を使って、初音の服がしわにならないようにしながらな。

 

「うぉっと、大丈夫か?足元ちゃんと見ないとダメだろ、ったくおっちょこちょいなんだから。」

 

そんなところが良いんだがな、支え甲斐がある方が、燃えるし萌える。

 

「むぅ、ごめんなさい。」

 

「今度からは気をつけろよ?」

 

「分かってるよ!!もう子供じゃないん..子供だったわ、私。」

 

それを聞いた母さんと俺が笑いだした後、連られて初音も笑い出した。

 

その後は初音が遊び疲れて眠ってしまい、母さんは馬車を引いている牛の上級魔獣の、護森牛ことシンくんの様子を見に、父さんがいる前の席に行った。

 

因みに俺たちの乗っている馬車だが、見た目の大きさは、前世で言うハイエース位の大きさで、運転席に当たるとこがドアで遮られていて、外にむき出しの(座るところはあるにはある)良くあるファンタジー小説の、屋根付きの馬車みたいな外見の、中身は別物みたいな感じだ、空間を母さんが魔法で拡大してるから、子供部屋よりも広い、大体全部の部屋合わせて七十畳位か。

 

俺が座っているのは外の景色が見える席で、さっきまで初音が遊んでた席でもある。

この席は、マジックミラーみたいな魔法が掛けられていて、外から中の景色は見えないようになっている。

因みに初音は、赤ん坊達と一緒に、別の部屋で寝かされてる。

 

そんな訳で、俺の思考を遮るものはもう何もないので、遠慮なく思考に没頭する。

 

ええと、さっきは何処まで考えたんだっけ………ギフトの進化とかエフェクトは人間が創った者だったか。

正確には、リザルトでも一度進化したギフトなら、人間が創ったものだと言えるんだが、何でリザルトとして一纏めにされているかと言うと。

 

リザルトからリザルトへの進化は劇的な変化が無い反面、リザルトからエフェクトへの進化は、進化と言って良いのか解らない位、劇的な進化を遂げること。

 

エフェクト持ちになると、生まれつき身体能力の基本性能がリザルトよりも高いこと。

他にもあるが、一般的にはこの二つが、進化前と進化後の大きな違いだ。

 

最後の一つは効果が一つではなく、複数であること。

これがエフェクトをエフェクト足らしめている由縁でもある。

 

例えば母さんのワイズマンは魔法、魔術と言われているあらゆる分野に対しての数えるのも億通になるほどの補正と種族限界の突破、他にも補助脳の役割をしたり思考分割に平行思考、思考加速、etc、etc……

 

リザルトだったらどれか一つを低出力で実現するのがやっとなのに、エフェクトはその全てがリザルトの5~10倍の性能、はっきり言ってチートだ、こんなの勝てるわけない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それが災害級の魔獣だ。

 

そもそも魔獣(モンスター)とは、自然に生息した生物が高濃度の魔素に耐えるために順応した姿だ。

普通の生物と違うのは体内に順応石(別名:魔石)と呼ばれる器官があるのと、その魔石を使い種族魔法を使うことだ。

 

さらに言えば普通の生物より、()()()()()()能力が上がっている

 

モンスターの階級は全部で七つある

 

一番下の最下級魔獣

よくファンタジー小説で出てくるスライムやゴブリン等がこれにあたる。

目安で言えば訓練されていない成人男性と同じぐらいの戦闘力だ、ここら辺なら未だ救いがある。

 

下級魔獣

ここから一般人では勝てない、職業軍人が出てくるレベルだ。

これまたよくファンタジー小説で出てくるスライムの派生種やオーク等がこれにあたる。

ここのモンスターに勝てて初めて軍では一人前になる。

一般人が勝つにはオーク一人に10人で五分五分の勝負だ。

 

中級魔獣

ここから上はもう一般人では勝てないレベルの領域。

クトゥルフで言うショゴスがこのレベルである、ファンタジー小説で言う、オーガやゴーレムクラス。

軍の平兵士が小隊規模(この世界では一小隊6人)で挑まないと勝てないとされるレベルだ、魔法がある世界でこの強さなんだから、前世でいたらと思うとぞっとする。

 

因みにペットショップでは、このレベルの魔獣を買うことが出来るが、躾と魔術による制約が働いているので、ペットが暴走した等の事件は、滅多に起こらない。

 

ペットショップで購入する場合も、身元の確認や飼い主の実力検査等、暴走しても大事にならないように飼い主の調査も入るので、前世よりも事故は少ない。

 

さらに密売しようとすると、都市や市区町村に入る時に検査されるので、そこでまず見つかる。

検査を運良く抜けても、国中に張り巡らせている結界に阻まれてアウトだ。

 

それでも年に一度位の割合で事故は起きてしまうが。

 

上級魔獣

ここでドラゴンが出てくる(ただしワイバーンやレッサードラゴンなどの劣化種)、所謂ファンタジー小説の花形だが、この世界では絶望の塊、滅びの代名詞だ。

 

このレベルになるとリザルト持ちでは、()()()()()()

 

技術では埋められない出力の差が、純然たる壁として立ちふさがるからだ。

どれだけ人が鍛えたって、数千度のブレス何て耐えられないし、オリハルコンより硬い鱗は砕けない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ここからは数ではなく、質の世界になる。

上級魔獣が出た場合、リザルト持ちは戦場には出ずに、エフェクト持ちが対処する。

 

最上級魔獣

ここから劣化種では無い、本物のドラゴンや龍が出てくる。

このレベルより上の魔獣は、その殆どの個体が人類に興味が無い。

それが、人類にとっては唯一と言っていい救いだ。

 

簡単に言えばモンハンの古龍である、天候を操り味方につけ、遠吠え一つで雲を割る規格外の存在、それが最上級魔獣だ。

 

その殆どが、軍属のエフェクト持ちより強く、縄張りを張り、家族や群れで行動している。

 

特級魔獣

これは上級、最上級魔獣が時を経て強くなった個体、又は植物魔獣の領域だ(例外もいるが)。

 

この惑星の殆どはこのレベルより上の存在の住処であり、人間は隅っこで肩身を狭くして住処の一部を間借しているだけの害虫に過ぎない。

 

身振り一つで地形を変え、感情が周囲に影響を及ぼす、ハッキリ言って人類が触れちゃ行けない領域。

ここから魔獣は、単独行動する個体が増える。

 

災害級魔獣

最早生物ではなく一つの世界、宇宙、()()()()()()()()()

 

現在人類が確認しているだけで666体、その内の100体が人類の半数、約150億の命と引き換えに、封印又は何らかの条約を結んだ。

 

現在活動している個体は600体

封印されている個体45体

神格となった個体が11柱

条約を結んだのが55体

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

最後に、ギフトと人間の進化についてだな。

 

エフェクトは、この規格外の出る世界間違えてるような『何か』、つまり最上級魔獣以上に対しての、()()()()()()()

 

ギフトとは簡単に言えば絵具だ。

そして心とはキャンパスだ。

 

キャンパスを絵具と言う色を使って染め上げる、絵具はその人間の生き方によって色や形、タッチを変えて、キャンパスはそれを受け止める器だ。

 

その人間の魂が輝くほど、心というキャンパスに描かれている絵は洗練されていく。

そしてその絵が完成した時、描かれていた絵は()()()()()()()()

 

形は様々、本だったり、剣だったり、筆だったり。

共通しているのは全力でギフトを使うと()()()()()()()それだけだ。

 

因みにギフトが階級が七つに分かれているのはギフトの進化にあり、これは単純にギフトの進化の回数で分けられている。

 

六回進化でゴッズ・エフェクトだが、これより上に進化したギフトは、()()()()()()()

 

ただ七回進化したギフトは人には耐えられない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そのため、この七回進化したギフトを持っている人間は人ではなくなる。

 

単純な解決法だ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その結果、人間はこの世界では唯一、進化出来る存在になった。

 

今確認されている進化は

 

人間→魔人→半魔神→魔神

 

人間→聖人→半神→亜神

 

人間→仙人→菩薩→如来

 

それぞれギフトによって変わるが、どの存在も寿命と言う概念から解放される。

 

あらゆる耐性を手に入れ、中性子爆弾位の威力でやっと掠り傷レベルの、()()()()()()()()()()()

半神や菩薩に至った者は、特級レベルの身体能力を持っている。

 

悪魔系統は魔人に、天使系統は聖人に、それ以外は仙人に、それぞれ進化する。

 

因みに生殖能力は退化して、殆ど無いと言って良い、子孫を残す必要が無い程強ければ確かに必要ないだろう(勿論例外は居るが)。

 

現在この世界で()()だと言われている(噂や憶測等)のは

 

モンゴルの四大菩薩とその配下の六道衆以下六十五名

 

七海(バルト海、北海、ティレニア海、地中海、黒海、カスピ海、紅海)連合による

連合海軍特殊隊員百二十五名

 

日ノ本の陸軍海軍の准将以上の将校、又は名誉将校百名による百鬼夜行

 

同じく日ノ本の巫女連盟による七大巫女

 

最後に上記の国又は連合に所属していない国同士の世界魔獣対策連盟に所属するS級隊員三百名

 

これがこの世界の最大戦力である。

 

魔神、亜神、如来の三つはある条件を満たさないと進化できない。

進化条件はそれぞれ違い。

 

魔神は特級以上の強さを持つ生物を二十体単独で殺害する事。

 

亜神は人間の生息領域を十%上げる事。

 

如来は百人以上の仙人を誕生させること。

 

この三種族が進化すると、名無しの神に進化する、進化後、周りからの異名や二つ名、本人の能力から名前を誰かが決めるらしい(創造神の女神が決めていると一般的に考えられているが、本当かどうか解らない)。

 

その後生まれ故郷の神話に仲間入りし、ファンタジアより一つ上の位階、神住世界(ゴット・ライブ)に行く権利が貰え、そこで暮らせるらしい。

因みに拒否権は無いとのこと。

 

進化したギフトは名称が変わるが(所有者が名前を決められる)、勿論知っているのは本人だけ、だから隠す人もいるし呼びなれた名称を使う人もいる。

 

さらに言うなら進化前のギフトを条件付きで複製出来るから、基本バレない。

 

家の両親みたいにバレバレなのもいるけど、自分の子供にバレてないと思ってるのか?(ついさっき気づいた)

あれで(自分たちの事が書いてある物を隠したりギフトの名前を偽ったり等)隠しているらしいが、今度初音と二人で聞いてやる(KOMONO感)。

 

そして有史以来、七回以上進化したギフトを、複数所持出来た、()()()()()()()()()()()()

 




こんな過去最高レベルの駄文を最後まで読んでいただきありがとうございます。
矛盾点の他にも、誤字脱字の報告や普通の感想でも作者の原動力になるので、何もやる時が無い時に、もし頭に思い浮かんだなら是非感想お願いしますm(__)m。

追記:インドが無いのに、インドが最大戦力の一つになっているという(汗)、過去話を見直した時に気づきましたが、こんなことやらかすとか、酷すぎて鬱になりそうです。
インドの代わりにモンゴルを強くしました、地理的に中国とロシアの地形に囲まれている、ファンタジアで何で滅んでないのか自分でも不思議な国です、ハイ(-_-;)。
追記の追記:半神や菩薩が特級レベルの強さと書きましたが、これは素の身体能力のみの話です、能力込みだと進化ではなく劣化になりますからね、はい。
過去話に災害級の強さで特級10体以上と出していますが、あれは産まれたての災害級の強さで、歳をとった固体ならヨグ=ソトースやアザ=トース位の強さです。勿論TRPGルルブ何かのなんちゃってじゃなく、原作並のビッグバンや次元跳躍余裕の方の奴等です(白目)。
これ、初達どうやってこの先生き残るんだろ?
と言うかそんな奴等を過去の人類はどうやって封印したんだ(スットボケ)

追記2017:4/9友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。

追記:ルビ振りを忘れて放置してた部分があったので、直しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 やっと神社に着いたようです

鑑定まで持っていけませんでした。
展開が遅くて申し訳ないm(__)m
次回は鑑定まで行けるはずです、多分、きっと……(目逸らし)


改めて考えてみるとやっぱり家の親は可笑しいな、はっきり言ってチートだろ、上級以上の魔物を何十体も支配してるなんて。

 

それに父さんと母さんのギフトはシリーズギフトじゃないか、これで災害級が倒せないってどんな化け物だよ。

『fa○e』の真祖や『Dies ◯rae』の流出レベルが、倒せない位の化け物とか、本当に洒落にならん。

 

そんな事をブツブツ考えていると馬車が止まった、動く気配もないから多分神社に着いたんだろう。

 

「初音起こしに行くか」

 

そう思い席を立つと、前のドアが叩かれ父さんが顔を出した。

 

「初、父さんと母さんは神主の人と話があるから、おとなしくしててね、遠くに行かないなら馬車を出ても良いから。」

 

「分かったよ父さん。」

 

さて、早く起こしますか、起こさなかったら文句言われるだろうし。

そんなこと考えながら初音が寝ている部屋のドアを開けたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 

「……あ~えーっと、ゴメン」

 

「謝るんだったら、ノック位してよお兄ちゃん。それより片付け手伝って?この子がヤっちゃって、私シャワー浴びてくるから。」

 

そう言って初音が気怠そうに指をさしたので、その方向を見ると大魔狼の赤ん坊の一人がオネショしてて、初音の服にも少し掛かってた、あっ察し(納得)

 

アッハッハ流石に寝てる間にされたら不機嫌になるか。

まぁ、全部布団に掛かってて床まで広がってないのが、不幸中の幸いか。

 

「分かったよ、行ってらっしゃい、布団と服は洗濯しとくよ。」

 

「ありがとう、お兄ちゃん、行ってくるね。」

 

はぁ、とりあえず、洗濯した後は、この赤ん坊達のトイレを片付けないとな、ペットトイレの方も異臭が凄いことになってる。

 

取り敢えず、この子達に一番最初に教える魔法は、人化の魔法だな。

そんな事をオネショの後始末を式紙に任せて、ペットトイレの片付けをしながら考えていると、前世で飼っていたジョン(ゴールデンレトリバー)とマリー(シベリアンハスキー)の事を思い出した。

 

あの二匹は、俺たちが死ぬ一年前に死んだんだよな。

二匹とも、俺と初音の同僚から、譲り受けた犬だったんだ。

 

譲られた理由も、ありきたりな親の介護や、子供が生まれたからだったっけ?

理由はもう覚えてないけど、二匹とも長生きしたよな。

 

譲られた時に行った医者によれば十年以上は生きてるって言ってたし。

そのくせ死ぬ前日まで、元気いっぱいで走り回ってたんだから、ビックリだ。

 

死んだ時は俺達二人とも、仕事無理やり休んで夜まで泣いたっけ。

同じ日に二人とも寄り添うように死んでたんだ、犬の表情は分からないけど穏やかそうな顔で、俺たちの寝室と真逆の方向見ながら死んだんだ。

 

俺たちに死に顔見られたくないんだって勝手に思って、さらに泣いたっけ。

次の日泣きはらした顔で仕事に行ったら、皆から心配されたな、懐かしい。

 

そんなこと考えながら片付けを終えると、足元にオネショした赤ん坊が近寄ってきた、因みに性別はついてきた五匹のうち四匹がオスで、近寄ってきたこいつはメスだ家に居るのもメス。

 

「どうした?具合でも悪いのか?」

 

「くぅ~ん、くぅ~ん」

 

おぅふ、鳴きながらぺシぺシ前足で足を叩くな、可愛いなぁこん畜生!!!

 

「ちょっと待ってろ、今翻訳魔法を……『自動』…『翻訳』…『複数』…よし、発動!!」

 

魔法を使う技術の一つに遅延発動と言う物がある。

魔法の発動を数秒から数分遅らせる技術だ。

 

リスクと言うリスクは無いし、慣れれば同時発動をリスクを下げて行使出来るから、魔法使いや魔術師と呼ばれている人間には必須の技術の一つだ。

 

魔法によって声を自動翻訳して日ノ本言葉にした、対象はこの部屋に居る生物で。

結構魔力が減ったな、体感二割ぐらい。

 

「良し、これで喋れるだろ、それで何かあったのか?」

 

「……おにいちゃん、いっぴきでそとにいっちゃった、どうしよう。」

 

ファ?!!!なんですと!!?

 

急いで母さんに連絡入れないとやばい、ここは神社だぞ、前世と違ってただお参りする以外にも、神社に来る理由が山ほどあるんだから、生後二日の赤ん坊とはいえ、上級魔獣が飼い主連れずにふらつくとか、問題なんてレベルじゃないぞ、下手しなくても赤ん坊の命が危ない!!

 

俺は式紙用の紙束を取り出しながら、大事にならない事を祈った。

 

「『式紙』!!お前は初音に事情を話せ、お前も母さんたちの所に言って事情の説明、他の奴らは二手に分かれて、赤ん坊の捜索とここに居る赤ん坊の見張りだ!」

 

出てきた十数体の、子供サイズの式紙に命令しながら、馬車の外に出ると、三人の巫女さんに可愛がられている、赤ん坊の姿があり。

 

驚きのあまり、地面に躓いてこけた。

 

「グフッ、痛てて」

 

「大丈夫?ぼく、怪我してない?」

 

そう言って赤ん坊と遊んでいた巫女さんの一人が、心配そうに話しかけてくれた。

 

うずくまって顔を抑えながら大丈夫だと言って、こっそり『治癒』の魔法を唱えて痛みを軽減する。

 

式紙達に頭の中で戻ってこいと命じながら立ち上がると、遊んでいた赤ん坊が俺の足元に寄って来た。

 

「ワン!?ワン!!」

 

「はぁ、『外』、『消音』。『内』、『結界』。『自動』、『翻訳』。ったくいつの間にか居なくなってて、心配したんだぞ!?」

 

魔法を使って話が通じるようにする、ついでに周りの人に聞かれないように結界も張る。

ついカッとなって衝動的にやったけど...もう魔力半分位使っちまったぞ!?この後何かあったらどうすんだよ俺!!

 

今度から軽はずみな行動は止めよう、今回の事にしたって色々危険すぎる。

 

「ごめんなさい、はじめさま。」

 

そんな俺の反省とは違って、この赤ん坊は素直に謝った。

うなだれて悲しく鳴いている所から見るに、心の底から悲しんでいるらしい。

 

普通の動物と違って、魔獣は知性がある。

勿論魔獣の格が上がる程、知性は高い傾向にあり、上級魔獣以上の魔獣は人類より知性が高いと言われている。

 

そのため、目の前に居る上級魔獣の大魔狼の赤ん坊も、人と同じ位の知性を持っている。

因みにマジック・ホークは、格の割りに知性が高く、魔法で翻訳しなくても、完璧な意思疎通が出来る、数少ない種族だ、聖獣と言われている理由の一つでもある。

 

「反省してるなら、これからはもう勝手に一匹で出歩くなよ?危ないからな。」

 

「はーい、もうしません。」

 

「なら良いんだ、馬車に戻って兄妹と遊んでなさい。外で皆で色んな事するために、母さんたちを待ってるんだから、お前だけ抜け駆けは狡いだろ?」

 

「わかったよ、おれがちょうなんなんだから、みんなのおてほんにならなきゃな!!」

 

そう言ってこちらを見ていた(俺が魔法を使った直後から)巫女さん達に、「あそんでくれてありがとう!」と言って、式紙が開けていた馬車のドアに走っていった。

 

ったく巫女さん達の返事も聞かずに走るんだから、それにしても魔獣は早熟だなぁ、あいつら生後一日なのにもう言葉覚えてるし、これで長命って言うんだから知性が高いってのも頷けるものだ。

 

そんなこと考えながら、式紙を紙に戻して回収していると、巫女さん達の中の一人が声を掛けてきた。

 

「ボク、ちょっと良いかな?」

 

巫女さんの事を見上げると、見た目小学校高学年位の、白髪を肩甲骨辺りまで伸ばした女性が、()()()()()()()()()()()

 

「何ですか?」

 

色々質問されるだろうなぁ、しょうがないけど初音は混乱するだろう、馬車の中に俺が居ないから、置いていかれたと思って暴走しなきゃ良いけど。

 

馬車に未だ残っていた式紙に、待機命令を出して、予想できる質問に対するテンプレを、一つでも多く頭の中に思い浮かべる作業に入る。

 

「ボクの苗字ってもしかして、前今って言う名前?」

 

あ、その質問が最初ですか、確かに父さん達が出てきた馬車から子供が出てきたんだから、名前確認とかして、迷子にならないように見張るだろうけど(あんなでも二人ともこの国の重鎮だし)、もっと確認するべきことがあるんじゃ?

 

大魔狼が居たことに対することとか、いきなり魔法使ったことだとか、色々質問される覚悟していただけに、一番最初の質問が名前だったから、毒気を抜かれた気分になった、もういいや正直に答えよう。

 

この人たちが神社の人じゃなくても、俺一人なら対応可能だろう、魔力が使えなくなるとかの事態が起こらない限り、何とかなる。

 

「そうですけど…えっと、貴女達は?」

 

「私は新庄 由奈(しんじょう ゆな)、この神社の巫女見習いなの。今日は()()()()()()()()()()()()が子供のギフト鑑定に来るから、神社は貸し切りって、神主様が言ってたから。一応本人確認取らないと、バレたら怒られちゃうのよ。」

 

神社を貸切ったと言う言葉に驚いていると、巫女さんは、他の様子を窺っていた巫女さん二人を呼んで、紹介し始めた。

 

「この子は高橋 綾(たかはし あや)。」

 

そう言って、新庄さんは自分の右隣に来た、眼鏡を掛けた女性の事を紹介してくれた。

 

「高橋 綾って言うんだ、綾って呼んでくれ!!」

 

そう言って挨拶してくれた高橋さんは、文学少女のような見た目なのに中身は真逆らしく、ザ・体育系と言わんばかりの元気一杯な挨拶をしてくれた。

 

俺の返事を待たずに、次は左隣に来た人を紹介し始めた新庄さん。

新庄さんって絶対肉食系ですよね、ぐいぐい来る感じの異性って苦手な人多いらしいですよ(前世の友達が言ってた)。

 

「この子が多嘉山 美穂(たかやま みほ)。二人とも私と同期なの、年はバラバラだけどね。因みに年長は私よ。」

 

「ごめんね前今君、由奈っておしゃべりだから。私の事は、多嘉山さんでも美穂でも呼び捨てでも、呼び方は何でも良いわ。」

 

そう言って、さらっと自慢を混ぜた新庄さんに苦笑いしつつ、挨拶してくれた新庄さんは、茶髪で緩くカーブした髪をショートカットでまとめた、ボーイッシュな感じの見た目の人だった。

 

どことなく哀愁がただよっていて、何か無性に見てると同情したくなる人だった。

 

「自分は前今 初です。新庄さんに綾さんに多嘉山さんですね、家のペットがご迷惑をお掛けしました。失礼ですがお怪我はされていませんか?応急手当なら簡単な道具と魔法で()()()()()。」

 

身なりを簡単に整えて、猫かぶりをしつつ出来るだけボロを出さないように話した。

 

まぁ、最初の言葉遣いで猫かぶってるっていうのはバレているだろうけど、そこは五歳児ってことで見逃して欲しいものだ。

 

そう思いながら三人の顔を見ると、軽く驚いたような顔をして小声で何か言ってた。

 

「ブツブツ 私にもこんな弟が欲しかったわ。」

 

「ブツブツ 兄貴より礼儀正しいって……」

 

「ブツブツ、啓太と同じくらいかしら。」

 

最後しか聞き取れなかったから断定できないけど、多分俺が年齢詐欺な挨拶したのを、驚いているんだろう。

 

因みに上から新庄さん、高橋さん、多嘉山さん。

てか新庄さんが最年長だよな?多嘉山さんが、俺と同い年の子供が居ても良い年齢って、前世基準で仮定すると(この世界の結婚可能な年齢は男女共に十五歳で、最も多い出産時の母体の年齢は、十七から二十前半位と言われている)、新庄さんって、若くても二十二歳か?

 

母さん並みかそれ以上の年齢詐欺かよ。

やっぱこの世界何処かおかしいだろ!?

 

バンッ!!!

 

「あらっ?」

 

「なに?」

 

「あらあら、うふふ。」

 

久々のカルチャーショック擬きで唖然としていたら突然、馬車のドアが音を立てて開き、ゆっくり歩いてきた初音の声が、小声なのにやけに耳に響いた。

 

「お兄ちゃん、その人達誰?」

 

やばい、頭痛くなってきた。

 

「っあぁ~、この神社の巫女さんだ、赤ん坊を保護しててくれてな、お礼を言ってたところなんだ。」

 

そう言うと新庄さん達が挨拶をし始め、何故か険しかった初音の顔も、いつもの笑顔に戻っていた。

 

「ごめんなさい、私勘違いしてたみたいで、私の名前は前今 初音です。兄の使い魔を保護してくださり、ありがとうございます。」

 

そう言って丁寧に頭を下げる三歳児、……うん、奇妙過ぎるわ!!?

 

改めて思うけど、俺達いたずら者(プレインク)だってこと隠す気全くないな。

まぁ、前今家ってだけで狙われる理由としては十分だから、いたずら者ってバレても敵が少し増えるだけだからな。

 

それに完璧に隠せるものでもないから、どっちでも良いってのが俺と初音の考えだろう、多分。

そんなことを考えていると、予想通りの質問が高橋からされた。

 

「えっと、もしかして二人ともいたずら者?」

 

俺的にはおしゃべりな新庄さんだと思ってたんだけどな、意外だ。

 

「そうですけど、何か問題が?」

 

そう聞くと高橋さんが答えてくれた。

 

「問題って程でもないけど、いたずら者って珍しい存在だからな、でも最近多いんだよね、いたずら者の子供って。」

 

そんなことをさらっと喋ってくれた。

ハッハッハいたずら者の子供が多いって、どうなってんだよ。

 

あの()()()()() ()()()()()()はそんな事言ってなかったぞ?

 

この世界に何が起こってるんですかね?

意味が解らんぞ、情報が足りん。

 

「いたずら者の子供ね……共通して言ってることとか無いですか?女神だとかスキルだとか、何でも良いんですけど。」

 

そう言って初音が、難しい顔をして一番近くに居た多嘉山さんに詰め寄っていた。

 

初音は何か思いついたのかな?嫌なことじゃなきゃ良いんだけど。

 

詰め寄られた多嘉山さんが、悲しそうな表情で答えてくれた。

 

「…大戦とか侵略とか、不吉なことを言ってる子供が多いわね、皆相手にしてないけど、暴走して軍に捕まった人間もいる位よ。怪我人も出てるし、最近だと……皆いたずら者って言葉じたい禁句にしてるわね。ボソッ(家の啓太も)………」

 

そう言って多嘉山さんは、それきり口を閉ざした。

 

新庄さんや高橋さん、俺達も励まそうとしたけど上手くいかず、ゴメンと言って社務所の方に行ってしまった。

 

「えっと、二人ともごめんね。」

 

申しわけなさそうに、新庄さんが謝った。

 

「いえ、悪いのは空気読まなかった俺達ですから。」

 

「そうです!私があんな質問しなければよかったんです。」

 

俺達がそう言うと、高橋さんが口を開いた。

 

「そんな事ないよ、二人とも昔はどうだったか解らねぇけど、今は子供なんだから失敗はするって!!」

 

新庄さんも高橋さんの考えには同意らしい、本当に優しい人たちだ。

 

「そうよ、それに正直、あの件は運が悪かったとしか…」

 

その言葉に引っ掛かりを覚えたので、質問してみることにした。

 

「新庄さんも高橋さんも、ありがとうございます。」

 

「無理を承知でお伺いしたいんですけど、多嘉山さんはいたずら者とどんな関係が?」

 

初音がお礼を言った後にそう言うと、二人は小声で相談を始めた。

 

五分ぐらい待っていただろうか、相談していた二人がこちらに方を向き、神妙な表情で口を開いた。

 

 




誤字・脱字の報告や感想などしてくれると嬉しいです。
皆さんの感想が、リムル=嵐の餌になります。

追記2017:4/9友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 驚愕の(?)鑑定結果

前話と繋げて書いた作品なのに、修正していたらこんな文字数になっていました。
書ける時はすらすら書けるんですがね、代わりに理性が体からすらすら抜けて行ってしまうんですよね。


「あの件は本当は無闇に人に話すものじゃないんだけど、二人は信用出来るし、ご両親も協力してくれそうだからな。」

 

高橋さんがそう言った後、新庄さんが神妙な顔で喋り出した。

 

「美穂の子供がいたずら者(プレインク)でさ、凄く良い子何だけど、由奈の家の近所で、他のいたずら者の子供が暴動起こしちゃって、美穂の子供が何とかしたんだけど………命に別状はないんだけどね()()()()()()()()()()…それ以降、美穂いたずら者の話題になると表情が硬くなっちゃうのよ。問題起こした子の事恨んでて、家も引っ越して神社の近くに移ったんだけど…………あぁぁぁ!!やっぱこの話はおしまい!続きは今度、ご両親が揃ってからね?この話は依頼って形にしておくから、話しておいてくれる?」

 

話を聞いているうちに、段々と雰囲気が暗くなっていた俺達を気遣って、笑顔で強引に話を締めた新庄さんを見て、気持ちを切り替える。

 

「…そうですね、両親には話を通しておきます。それで、話は変わるんですが、さっき神社を貸し切りにしたって聞いたんですけど…本当ですか?(汗)」

 

気持ちを切り替えて気になったことを聞けば、隣にいた初音が驚いて新庄さんの方に顔を向ける。

質問された新庄さんは少し驚きつつも、笑顔で答えてくれた。

 

「ご両親に聞いてなかったの?今日は神社は貸し切りで人も最低限しかいないのよ?いつもは働いてる人が百人以上居るんだけど、今日は最低限の人員だけ残して宿舎で待機って言われてるから、動いてるのはお偉いさんの人達と、警備に下っ端の私たちみたいな、巫女見習いだけ。」

 

そう言って段々と、表情を暗くしていった新庄さんは、何やら、皆だけズルい!!とか今度餡蜜奢らせてやる!!とか、嫉妬だか悪口だか解らないことを言い始めた。

 

新庄さんを初音と高橋さんに任せて、俺は俺で毎度の事ながら報・連・相が出来ないバカ(お父様)激辛麻婆豆腐(日頃の感謝の印)をどうやって渡そうか悩む。

 

直接渡すのは無しで、肉まんみたいに、何かの料理に隠して渡すのは、初音が間違えて食べる可能性があるから、これも無し。………うぅ~ん、母さんに頼むか?母さん激辛麻婆豆腐好きだし、日頃の感謝の気持ちとか言って、父さんと一緒に食べるように、話を持っていけば大丈夫だろう。

 

後はどうやって激辛麻婆豆腐を手に入れるかだが、これは大丈夫だろう。

場所は分かるし、持ち帰りもやっているって、母さん言ってたし。

 

じゃあ後は父さんに見つからないように激辛「初、何をそんなに考えているんだい?」

 

「いやちょっと父さんに激辛麻婆豆腐を食わせt」

 

答えながら振り向いたら、父さんと母さんが笑顔で立っていた。

 

「あ、あははははは、これは、あの、ちょっとした悪戯で、だから、その…」

 

ヤバい!?つい考えていることが声に!!(既知感)

 

「その?」

 

父さん威圧感たっぷりで喋らないで!!

俺は慣れてるから良いけど、新庄さん達腰が抜けちゃって座り込んじゃってるから!?

見た目凄い犯罪臭だから!!

完全に事案だから!!

 

「許してほしいな~、なんて。」

 

流石に、何かしらのお仕置きはあるだろうけど、取り敢えず許しを請うてみる。

 

「……はぁ~、今回だけ特別だよ、僕にも非があるしね。」

 

まさかのお咎めなしで許してくれたんで、ちょっとだけはしゃいでみる。

 

「流石父さん!?度量が大きい!!よっ男前!」

 

「お仕置きは無いけど、明日からの修行は、大魔狼の赤ん坊との集団模擬戦だから、覚悟していくように。」

 

ファッ!!?アイエー、モギセン!!モギセンナンデ!!?

 

「父さん僕を殺す気か!?」

 

いくら激辛麻婆豆腐が嫌だからって、この仕打ちは無いだろ!?

 

いくら生まれたてとはいえ、上級魔獣複数相手に五歳児が何とか出来るとでも!?

安全対策はちゃんとできてるんだろうな?

 

「初なら大丈夫だよ、結界も張るし、僕がいつでも介入できるようにするから…ボソッ多分」

 

!?

 

「おい今多分って言ったぞこの親!?俺は嫌だからな!そんな死と隣り合わせの模擬戦なんて!!」

 

そんな風に父さんと言い合っていると、初音が話しかけえ来た。

 

「お兄ちゃん、そんな事より早く鑑定してもらいに行こうよ、新庄さん達も行っちゃったよ?」

 

そんな事ってな、こっちは命がけなんだが。

そんなことを思ってると初音が顔を近づけてきて。

 

「ボソッお父さんは何だかんだ言って優しいから、万が一何て絶対起きないって、お兄ちゃんが一番よく知ってるでしょ?」

 

何て事を言ってきた。

 

……確かにそうだけど、裏を返せば万が一以外なら、何でも起こしかねないと言う意味になることを、初音は理解しているのだろうか?

 

まぁ、本当に何でも起こるから、警戒するだけ無駄なんだけど。

 

「ぐっ分かったよ、さっさと鑑定してもらおう。」

 

初音に説得された後、俺は父さん達に案内されて。

 

馬車にいる赤ん坊を式紙に抱っこしてもらい、鑑定士が居る社務所に全員で向かった。

 

「そういえば父さん、鑑定って鑑定士の人がするんだよね?」

 

少し考えて見ると、少し疑問に思ったことが出来たので、父さんに聞いてみることにした。

 

「それはそうだけど、何かおかしいかい?」

 

「いや、ただ何で鑑定する場所が神社って限定しているのかなって。」

 

国が管理するためってのもあるけど、その理由だけで神社って言う神聖な場所に、わざわざ鑑定士を在中させて神社で行う必要性はない。

 

役所でやった方が管理しやすいし、何か神社でしなきゃいけない理由があるはず。

 

「その方が、一般の自己申告よりも管理しやすいってのも、確かに勿論あるんだけどね?一番の理由は鑑定士のギフトにあるの。」

 

「ギフトって、お母さんのヴェルサンディみたいな?」

 

そう言って初音は母さんに質問した。

鑑定士が持つギフトって、あそこまで燃費が悪いものばかりなんだろうか?

 

そこも疑問だ、この世界の日ノ本は(と言うよりもほとんどの国家が)そこまで少子高齢化社会ではない。

更に言うなら、人口減少社会でもない。

 

上級以上の魔獣と言う、明確な脅威がある中で、子供を増やさないと言う選択をする人間は、ごく少数だ。

それこそ父さん達みたいな進化した人類や、軍属のエフェクト持ちとかいう人間じゃない限り、殆どの人が成人後に直ぐに家庭を築く。

 

そんな世界だから当然、鑑定に来る人間は多いはずだ、唯でさえ前世の日本より人口が多いのに、燃費が悪いギフトで日々の業務をしのいで行けるのか?

 

「あれは例外何だよ、鑑定が本当の機能ってわけじゃなからね。」

 

ハッハッハ、十分鑑定士として職に就けるレベルでおまけ機能と言いますか、ちょっと能力の規模がおかしいんじゃないの?

 

「じゃあ、本当の能力って何さ。」

 

「それは内緒♪それよりも気にならない?何でレアギフトじゃない鑑定スキルが、他人のギフトを正確に知ることが出来るか。」

 

そんなもったいぶることなのか?

自分で質問しといてなんだけど、早く社務所に着かないかな?

 

「じゃあ、聞くけど、どうして?」

 

「それはね、神に許可を得ているからよ。それを一種の制約とみなして、ギフトの出力を上げているの。」

 

また意味の解らないことを、許可って何だよ、ギフトの制約にはそんなものもあるのか?

 

「?許可ってどうして、それにどうやっ!?そういう事ね!!」

 

何か初音は理解できたみたいだけど、今の情報でよく理解出来たな。

 

「初音は分かったのか?俺はさっぱり何だが。」

 

「お兄ちゃん、ここは神社だよ?許可何て()()()()()()()じゃない。」

 

本人からって、初音。

 

「神様ってそんなに簡単に会えるわけないだろ、いくら神社だからって、それじゃありがたみがだな?」

 

「会えるわよ?神様に。そう言えば初は未だ会ったことないのかしら?初音は私が巫女連に復帰するときに、連れて行ったから知ってると思うけど。」

 

俺が初音に持論を話している時に、さも当然のように母さんが初音の答えを肯定した。

 

…何だろうこの気持ち、穴があったら入りたい。

 

「ハッハッハ、本当に会えるなら会ってみたいね、色々文句言いたいし。」

 

俺達が生まれて三~五年で出会うのは神様による運命操作の結果だけど、それが原因でお母さんや初音の父親まで死んだ可能性がある。

 

それは契約違反のはずだ、なのに起こった、このことを神様に会えるなら確かめたい。

マグレなら諦めが付くが、神側の不手際だった場合、一発殴らないと気が済まない。

 

幸い、この世界にはその手段が沢山あるからな。

そんな物騒なことを考えていると、社務所に着き父さんが開けた引き戸を除くと、そこには見覚えのある()()を見つけた。

 

「ヤッホー、二人とも久しぶり!!」

 

そう言って、こちらに歩いて近づいてくる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「イヴッ!?久しぶりだね!元気にしてたかい?」

 

何か父さんがすんごいフランクなんだけど。

 

「イヴちゃん久しぶり~~元気にしてた!?あの後上司とどうなったの?久しぶりに聞かせてよ!」

 

母さんも、十年来の友達と会うかのような感激っぷりだ。

 

というか上司って誰だよ、月詠か?

 

「二人とも元気そうで良かったわ~、あら?この子たちはまさか…」

 

そう言ってこちらに気づいて驚いた顔をする女神…名前はイヴというらしい。

 

始まりの女性(イヴ)ってか、俺たちの正体に気づいてないなんてな……胸糞悪いな、おい。

 

「お久しぶりです、女神様。夫婦で転生した初です。」

 

そう言った途端、イヴは目を見開き驚きの声を上げた。

 

「ウッソォ~!!!!?本っっっ当に()()夫婦!!?」

 

何かすんごい失礼な事言われた気がする。

 

「あのって何だあのって!そんなにおかしかったか俺達は!?」

 

「神の目の前で何時間も奥さん説教したり、特典の半分を犠牲に制約をして、二人が再開するまでの運命の操作とか、普通しないわよ。」

 

あ………うん、そうだね(目逸らし)

 

「他にもあるわよ?転生特典が意味不明だったり、神相手にタメ口だったり、()が引く位精神的に繋がっていたり、あなた達は月詠様に言われなければ、絶対にこの世界に転生させなかったんだから。」

 

そう続けて言ったイヴは、こっちを思いっきり睨んでいた。

 

「あっあ~、愚痴は後で聞くから、そんな事より俺達これから用事があるんだよ。」

 

それを聞いたイヴは、何か言いたげにこちらを見た後、溜息を一つ吐き歩き出しながら言った。

 

「分かってるわよ、鑑定するんでしょ?私がすることになったから。さ、こっち来なさい、案内してあげる。」

 

そう言って、こちらの返答を聞く前にサクサク進んでしまうイヴに、俺と初音は唖然としていると、何事もなかったかのように後を付いていった父さんと母さんが、急かしてきた。

 

「二人とも、驚くのは分かるけど早くしなさい?この社務所は広いから迷子になるわよ?」

 

そう言って急かしてくる母さんの後に、父さんが苦笑いしながら言った言葉に、軽く鳥肌がたった。

 

「それに、これからの人生でもっと驚くことが沢山あるんだから、こんなんで驚いてたら、二人とも疲れるよ?」

 

父さん、なんて恐ろしいことを言うんだ。

俺、この展開の速さ以上に驚くことなんて想像できないよ(ガクブル)。

 

そんな感じで未来に漠然とした不安を抱きながら、大人組の後をしばらく付いていったら、個室に案内された。

 

畳張りの部屋に、中央の少し大きいちゃぶ台とその上にある茶器が、もの凄い昭和のレトロな感じの部屋に通された。

 

ナンカオモッテタノトチガウ。

そんなこと思いながら、イヴが出してくれた座布団に皆で座って、母さんの入れてくれたお茶で、一息ついたところで、イヴが話し始めた。

 

「じゃあ、これからあなた達のギフトを調べるけど、ぶっちゃけ転生させたのがあたしな訳だから、あなた達のギフトは把握してるんだけど………二人ともちょっと問題があってね。まずはそこから説明するわ。」

 

そう言って俺達を見た後、困ったように溜息を吐いた後、苦笑いしながら話し始めた。

 

「まずは奥さんの方からね、今は、確か初音って名前なのよね?」

 

そう言ってイヴが初音に聞いた後、初音が頷いたのを見て、少し考える素振りをした後に、話し始めた。

 

「初音は私が特典として渡したギフトの他に、実の父親の改造ギフトを持っているわね?そのギフト、アザゼルが原因で貴女、半分()()()()()()わよ?」

 

…………は?

 

「……覚悟はしてたわ。」

 

そう言って、何かを悟ったような表情をした初音の姿が、凄く遠くに感じられたように見えて、俺は我慢できずに初音を問い詰めていた。

 

「どういうことだよ初音!!?人間ヤめてるって!父さん達ならまだしも、何でお前が人間ヤめてるんだよ!!」

 

そんな俺を大人組がなだめる。

 

「まぁまぁ、落ち着きなさいよ、完全にヤめてる訳じゃないし、それにデメリットは()()皆無なんだから、少し落ち付きなさい。」

 

「そんなこと言われても、落ち着ける訳ないだろ!!」

 

そう言って、軽くパニックになっていた俺を父さんが()()喋り方をして無理やり落ち着かせた。

 

「初、今は黙って話を聞け、これからの人生を左右する話なんだ、初音だけじゃなくて、俺達家族のな。そうだろ、イヴ?」

 

そう言って俺を落ち着かせてらイヴに質問した父さんの質問をイヴは肯定した。

 

母さんは黙って初音を抱きしめている。

 

「ええ、だから落ち着いて聞きなさい、まずは初音のギフトね。アザゼルのほかに私が渡したギフトがあるんだけど、これが曲者でね、元々渡すはずだったギフトとアザゼルの一部が、()()()()()()結果、ギフトに機能が新しく出来ちゃってね。アザゼルが未だ麗奈のお腹の中に居た初音の中に入った後、私が渡す予定だったギフトが入って、想定外の量の力に、魂が驚いて拒絶反応出したのよ。元々レアギフト持ちはもう一つレアギフトが増えても、平気な位強力な魂を持ってるんだけど、初音の魂は、転生時に私が強化した以外は普通の魂だから。それに、アザゼルが特殊ってのもあるんだけど。結果を言えば、アザゼルが自身の能力の一部を、もう一つのギフトの管理・制御に使っているおかげで今の状態があるの。しかもアザゼルがギフトの進化を抑制してるから、アザゼルが管理・制御を辞めたら初音は進化するおまけつき、外から下手に手を加えられない状況になっちゃたのよ。」

 

あまりにバカげた話に俺達は言葉を失った。

つまり、アザゼルって言うイレギュラーがあった結果、初音が手に入れるはずだったレアギフトに、初音が耐えられず、アザゼルが頑張ってどうにかしたってとこか。

 

「…って事は結局は全部アザゼルのせいじゃねえか!!?」

 

「まぁまぁ、落ち着きなさいよ、これから具体的なギフトの能力の説明をするわ、()()()()使()()()()()()()しっかり聞きなさい。」

 

ハ?ドウイウコトダッテバヨ???

 

「初音が持っているギフトはアザゼルとゴッズ・エフェクトの大国主命(おおくにぬしのみこと)、アザゼルは指揮官や軍師のような後方支援よりなギフトよ。大国主命は万能な能力ね、農業に商業、医療の神や武神に軍神、縁結びの神としての役割もあった、滅茶苦茶スゴい神様の能力を私が調べて創ったギフトよ。正確にはノーマル・リザルト何だけど、性能的にゴッド・エフェクトだから次の進化は種族進化、この場合、仙人になるわ。ただ、アザゼルなんて前例がないギフトと一部混ざっているから、出力が安定しないし、進化する時ももしかしたら、未知の進化をする可能性があるわ。」

 

……取り敢えずとんでもない能力というのは分かった、父さん達が目を丸くしていることから良く分かる。

 

………初音は縁結びの神辺りからテンションが振り切れてた(目逸らし)。

 

進化の事は未だ置いておいて良いだろう、内容が内容だし、進化何てそんな直ぐに出来る事じゃないからな。

 

「それで、何で俺が使うことになる能力何だ?」

 

今の話からは俺が初音の能力を使うなんて、これっぽッちも想像出来ないんだけど。

 

「それはアザゼルの能力と、あなたのギフトが関係してるのよ。アザゼルは自分の能力を劣化コピーして、自分の味方に付与する能力があるのよ、その能力であなたが大国主命の能力を使える訳よ、最も、あなたの能力を使えばそんな必要ないんだけどね。」

 

そう言ってこちらを呆れたように見ているイヴ。

俺はそんなぶっ壊れ性能のギフトを持っているのだろうか?自分では全く想像出来ないんだが。

 

もしかして、『無限の剣精』とか『王の財宝』みたいなかませ犬ギフト?

それとも転◯ラの大賢者みたいな、自己進化できる補助ギフト?いや、ここは転生チートあるあるの、ラーニング能力か道具作成能力と見た。

 

「旦那さんいや、初君のギフトは二つあって、一つはゴッズ・エフェクトのテューポーン、もう一つはノーマル・エフェクトの力。テューポーンはテューポーンの能力と血族の召喚と能力の使用。さらに自分の伴侶と決めた人間にエキドナの力を与える能力。勿論、エキドナにした人間の能力を行使できるわよ。これだけでぶっ壊れ性能なのに、二つ目の力の能力が自分の能力を二倍にする効果だから、元々最上級と殴り合える身体能力が、手を付けられないレベルになってるのよ。今のあなたが本気出せば、最上級魔獣までは瞬殺出来るわよ?」

 

純粋なゴリ押しでした(レベルヲアゲテブツリデナグル)。

ナニソレスゲー(白目)、まるで僕の考えた最強の主人公じゃないですかやだ~(棒)。

 

っていうことはあれか?俺はアザゼルの能力を使って、俺の能力の劣化コピーを大量生産できると?

そんなアホみたいな能力の説明を長々としてくれたイヴは、深いため息を吐いた。

 

俺もため息吐きたいわ、何この能力、どんだけぶっ壊れ何だよ、父さんが頭抱えてるじゃないか。

 

というか戦闘系のギフトを特典に願いはしたけど、こんな能力どうやって扱えばいいんだよ月詠!!?

 

そんな感じで戦慄していた俺達を、イヴは更なるギフトの説明により混沌へと叩き落した。

 

「しかも二人ともシリーズギフトの頂点だから、配下ギフトを使いたい放題じゃない、こんな能力チートよチート!!なんでよりによって、こんなチート能力を月詠様は選んだのかしら。」

 

わぁ、凄いなぁ、まだ能力があった~しかもすんごい強い能力だやった~(白目)。

 

これでゴッズ・エフェクト何だから、この世界のインフレは可笑しい(真顔)。

 

そんな感じでイヴがため息吐いてお茶飲んだ後、どこから出したのか解らん煎餅をボリボリ食べ始め、緊張していた空気が完全に弛緩してしまった。

 

「ボリボリッ麗奈~お茶~」

 

「はいはい、イヴ煎餅ちょうだい?」

 

「はいこれ(ドンッ)、最近皇都に出来た「狸屋」って店の煎餅何だけど、ちょっと高いけど美味しいのよ、つい買い過ぎちゃって、昨日も神主に怒られたわ~。」

 

「ボリボリッ本当においしいね、これ。場所教えてくれないかい?帰りに買いに行きたいな。」

 

何て会話しながら煎餅食べてグダグダしていたので、赤ん坊達を連れてくると言って、初音と一緒に部屋を抜けてきた。

 

今は社務所の中を歩いている、この建物本当に広い。東京ドーム位はあるんじゃなかろうか、かれこれ十分以上はさまよっている。

その間、会話はあったかと言えば。

 

「………」

 

「………」

 

お互いこんな感じでだんまりだ。

初音は、嘘がばれてこれから怒られる子供みたいな雰囲気だし。

 

俺は俺で、初音に怒るつもり何てなく、アザゼルと少し話したいだけ何だが。

……はぁ~~どうしたもんかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時は未だ知らなかった、今この神社がどんな状況にあり、自分たちが巻き込まれるのを。

 

「イヴ、そう言えばこの神社の周辺、やけにレアギフト持ちが多いけど、何かあったの?」

 

「それがね?最近、いたずら者の子供がやんちゃして、起こる事件が多いみたいで、原因が私の同僚との転生時の会話を、周りの人間が信じてくれないからって事らしくて、この神社にも最近、私に会いにくる子供が増えてね?これでも私、最高神だから気軽に会えない訳よ、勿論二人はこの国のお偉いさんだから会えるけど、一般人はねぇ、おかげで不満が溜まりに溜まって、緊張状態なのよ。」

 

「僕に連絡は来てないけど、そんなにひどい状態なのかい?」

 

「酷いって言うか、何か転生者が皆幼い感じなのよね、いくら精神が引っ張られるって言っても、考え方とか性格は変わらないはずなのに、何か見た目相応って言うか、見た目より幼いって言うか……まぁ、そんな奴ばっかりだから不満が直ぐに溜まっちゃって、力だけは持っているから紛争一歩手前、みたいな感じね。」

 

「そんな状況で、よく私たちを呼べたわね、準備大変だったんじゃない?」

 

「まぁ、そこらへんは神主の仕事だから、何とも言えないわね、ただ……」

 

「ただ、何だい?」

 

「この神社は、あなた達が居るから平気でしょ?なら心配することは何もないわ。それに神主も馬鹿じゃないしね、戦力はちゃんと用意してあるわ。」

 

 




追記2017:4/9友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ギフトが強いです お兄ちゃん無双の始まり

今日から5泊6日の修学旅行に行ってきます。
準備で時間が無く、突貫工事みたいな出来上がりですので、帰ったら改稿します。



「………」

 

「………」

 

人気が無く、何となく物悲しい雰囲気を出す社務所。

そんな雰囲気で初音と無言で歩いていると、出会ったばかりの頃を思い出して、何故か床を転げ回りたくなってくる。

 

……あぁぁぁぁ~~!!!!何であの時の俺はあんな恰好をしていたんだろうなぁ~~!!!?

 

高校生にもなって改造制服で中二病とかヤバイ、どれだけやばいって連載始まったばっかの『メダカ箱』の善吉君の制服の下にジャージ位ヤバイ。

 

しかもマスクに木刀装備とか、痛すぎて死にたい。

いや、実際死んでるんだけど。

 

ってか初音は、何でそんな俺に話しかけてくれたんだ?

よくよく考えたら人生最大の謎じゃないか?

そんなこと考えながら百面相していると、初音が笑いながら話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん何かおかしな顔してるよ?出会った頃の事でも思い出してたの?」

 

凄い可愛い笑顔なんだけど、何で俺の表情一つで心が読めるの?

エスパーなの?

まぁ、俺も初音に対しては、似たような者か。

 

「そうだけど、さっきまでの落ち込みようが嘘みたいな笑いっぷりだな~、そんなに俺の顔は面白かったか?」

 

さっきまでの落ち込みようが嘘のように笑ったので、ちょっと困らせてみる。

 

いやぁ家の妹は困った顔も可愛いなぁ~。

 

「むぅ~、意地悪いわないでよ。それに、お兄ちゃんの顔見てたら、悩んでたの馬鹿らしくなったの。お兄ちゃん私がアザゼルの事隠してたの怒ってないでしょ?」

 

 

「何当たり前の事言ってんだよ、初音が隠し事する時は、いつも考えた末の行動だろ?それに初音より馬鹿な俺は、初音よりいい考え何て浮かばんし。」

 

そう言ったら初音は半眼になって、文句を言ってきた。

 

「何よ~頼りないこと言わないでよ、大学の時私より良い成績だった癖にぃ。」

 

お前、未だそんな事根に持ってたのかよ。

 

「初音はバイトと施設の手伝いに忙しくて、日数で単位ギリギリだったし、それに俺の親は大学の元教授で、俺がいた頃の教授連中は、全員教え子だったって言う化け物人間なんだぞ?下手な家庭教師より、教え方上手いんだから俺の成績は当たり前だよ。それに卒業論文は俺より良かっただろうが。新発見だ何だってテレビにも出たし、特設チームも出来てお前室長だったし。」

 

結局、博士号取って、大学に勤めながら研究してたんだけど、研究中に倒れて病院に運ばれて……

 

「まさか、あの論文が信じられるなんて思わなかったわぁ~。」

 

そんな感じで、当時を顔真っ赤にして懐かしんでいる、前世で俺より年収が高く、夫の威厳を木っ端みじんにしてくれた初音に、ちょっと意地悪してみる。

 

「『地球に存在する神話と魔法又は魔法に類似する超常現象の関連性と実在したとされる根拠』だっけ?偉く長い題名と、当時未発見だった滅茶苦茶な量の証拠で話題になって、大学が流行に乗っかって専用チーム作ったら、他の分野でも活躍したって言う、学会きっての問題チーム。」

 

俺がそう言ってにやけると。

 

「やめて!!?論文の名前は言わないで~!?深夜テンションと酔った勢いで書いた論文だから!!」

 

とか言いながら床を転げまわった。

おいおい、汚いからやめなさい。

 

「俺が悪かったから立てよ、床汚いんだからな、()()()()()()()()()()?」

 

俺が初音の前世のあだ名を言うと。

 

「その名で私をよぶなぁ~~~~!!!!」

 

そう言って全力で攻撃してきた。

 

「ちょっおまっ刃物は洒落にならなっ!?」

 

魔法で小太刀を創って振り回してきた初音に、文句を言うも。

 

「うっさい!!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!!!お兄ちゃん殺して私も死んでやる!!」

 

何て言いながら、火の玉飛ばしてきたリ周りの床を凍らせたりしながら、襲い掛かってきた!?

何処のヤンデレだよ!?怖いわ!!

 

と言うか噓だろ?攻撃系の魔法は未だ教えてないぞ!!

熟語魔法は出力の効率が、他の魔法と比べて格段と悪いのに、何でその規模を起こせるんだよ!!?

 

まぁ、だから安定するって意味では、ナンバーワンなんだが。

それでも、小太刀の先で文字書くなんて離れ業、軍人でもやらんぞ!?

 

取り敢えず、初音が怪我をしないように応戦しようとする俺に対して、初音は全力で切りかかってきた。

俺は慌てて小太刀を創って受け止める(子供の身長なので小太刀でも太刀位の対比になる)。

 

「ぐぉっ!?…くっ、初音、お前今日は一緒に風呂入らないからな!!後一緒の布団でもう寝ないから!!」

 

そんなこと言って、怒ってますアピールする俺を、凄い形相で睨みながら、何度か切りかかってきた初音をいなすと、お互いにボロボロになった得物を交換し(日本刀は元々打ち合う様に出来てない)、第二ラウンドというところで、()()()初音が話しかけてきた。

 

≪お兄ちゃん大変!新庄さん達が襲われてる!!≫

 

……むぅ、判断に困るな。

油断させる罠か、それとも本当なのか。

 

…まぁ、初音は他人の生き死にに関わることで冗談は言わないし、事実なんだろうけど。

取り敢えず念話で応じてみる。

 

≪どういう状況だ?誰に襲われてる、場所と襲撃者の人数は?≫

 

そう言われた初音は、目を丸くした後、真っ直ぐこちらの目を見ながら念話で言った。

 

≪社務所の隣の宿舎で、確認した襲撃者の人数は五人!何処の所属かは分からないけど、新庄さん達はまだ無事よ、人質にもとられてない…でも多嘉山さんが怪我してる!?≫

 

ふむ、声音からして事実っぽいな……襲撃は多分転生者だろう、他の理由はこの国だと考えにくい、他国の人間の可能性もあるが、それも多分無い。

 

前世と違ってこの世界は、他国に行くのは一般的では無いからな。

自国の人間が神社を襲うなんて、それこそ旨みが無いし………今は考えなしの転生者って事で考えよう。

 

動機は?

多嘉山さんの子供が転生者で、他の転生者と小競り合いしていたのが原因か?

 

それとも『大戦』や『侵略』って言う単語が関係している?

 

……うむぅ、よく判らん、多嘉山さんが負傷してるって言ってたから多分、私怨だろうけど。

 

じゃあ、能力は?

転生者だからある程度の能力はあるだろう、現に見張り役をしていた新庄さん達を、結構な速さで追い込んでるし。

 

少なくとも、下級レアギフト並とみて良いな。

………良しやることは決まった。

 

≪初音、俺達も視られているか?≫

 

取り敢えず、未だ切り合いをしかけてきている初音に、俺達の置かれた状況を聞いてみる。

 

≪うん、だから念話で話してる。後、演技も視られてると思う、多分遠隔魔法で見られてるんだけど...多分式紙じゃないと思うんだ、アザゼルが周りに魔力反応がないって。≫

 

演技って、最初の方若干マジだったような……おっと、攻撃が激しくなってきた、余計なことは考えないようにしないと。

 

それにしても、魔力反応がない?それで監視されてるって、何とも奇妙な………っ!!?

相手は探査系のギフト持ちか!?

 

魔力は生命が必ず持ってるものだから、周りに俺たち以外の人はいない。

魔力によって動いている式紙も、居ないと思って良い、つまり魔力を探知範囲外で使って、観察しているってことになる。

 

…でも周りに()()()()()か、神社の人員も出払っている?ここから父さん達が居る場所はあまり離れていないから、まさか父さん達も移動した!?

 

厄介な、でも何で、こんな短時間で初音に見つかったんだ?

 

初音の能力的に、アザゼルが何かしていたんだと思うが、これが終わったら、とことん能力について聞いてやるからな。

取り敢えず今は…

 

≪初音、ギフトの発動方法を教えてくれ、俺もギフトを使う。≫

 

俺のギフトを使えるようにしないとな、使えないまま行っても返り討ちに会うだけだ。

今は改造ギフトとはいえ、発動経験のある初音に聞いて覚えるしかない。

 

直ぐに使えるようになれば良いんだが。

取り敢えず、今も続けている演技に、ギフトの力を混ぜてみるとこから、始めないと。

……初音はこの事を見越して、攻撃してきたのか?(冷や汗)

 

≪お兄ちゃん、分かったけどギフト操作は結構簡単よ?この能力、多分人類に対する救済措置だし。でも、だとするとこの世界………前世と違って人類は進化して誕生した訳じゃないのかも、イヴに聞きたいことが増えたわ。≫

 

……ハッハッハ(目逸らし)爆弾発言は止めてくれ、心臓がもたない。

 

≪そのことは後で考えるとして、具体的なギフトの発動方法を教えてくれ、時間がない。≫

 

≪そうね、お兄ちゃん、取り敢えず自分がギフトを使っている所をイメージして。具体的な能力は自然と思い浮かぶから、それを使って何かしている所を思い浮かべるの、ギフトの名前を反芻しながらね。≫

 

えっと、ギフトの名前を反芻しながら、俺がギフトを使っている所をイメージするっと、取り敢えず父さんを模擬戦で倒している姿を...想像出来ねぇな、じゃあ大魔狼の赤ん坊に襲われてるところを...簡単に想像出来て何か泣けてきた。

 

おっと、余計な事考えたら鉄槍が沢山飛んできた、ハッハッハ集中しなきゃな…………力、力、力、力、っとこんな感じか?

 

少し手ごたえを感じたので、力を腕に込めて、初音が鉄槍に隠れるようにして放った、野球ボールサイズの氷の塊目掛けて、鉄槍を避けながら切りかかってみた。

 

「よっと!!っ!?」

 

マーガリンみたいに氷の塊を簡単に切って、床に刺さった小太刀周辺に、亀裂が走った。

 

…力ってノーマル・リザルトだよな?それでこの威力って、しかもこの能力、魔法で強化した能力も二倍に出来てないか?これ本当にノーマル・リザルトかよ、使い勝手良すぎだろ。

 

今解ったけどこの力ってギフト、力って付いてるステータスを、無条件で二倍に出来る能力だ。

同時に三っつまでしか出来ないっぽいが、それも進化させれば解決するし、これ最終的にHSD×Dの『赤龍の籠手』みたいな感じになるんじゃないか?

スゲェな本当。

 

≪出来たみたいね、流っ石お兄ちゃん!!次はテューポーンいってみよう!≫

 

でも、発動事態は本当に簡単なんだな、何か拍子抜けだ、もっとこう、葛藤とか弱点とかを克服するイベントが、あると思ってたんだが。

 

まるで少年ジャンプや、ラノベのご都合主義みたいだが、今はありがたい。

 

次はテューポーンか…………テューポーン、テューポーン、テューポーン、良し!

 

「おりゃぁぁ!!!」

 

次は初音が放った鉄槍に向けて、()()()テューポーンの腕力で小太刀を横なぎに振るった結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……………は?、え?どういうことだよ、ていうか初音は!?

 

急いで辺りを見渡すと、初音が()()()()()()()()()()()()

 

≪はぁぁ~~!!!?何で飛んでいるんだよ!?≫

 

驚いて念話で突っ込んでしまった俺に対し、初音は思いっきり怒っていた(あ、察し)。

 

いや、でも仕方ないだろ、簡単そうに見えて、クソ難しいんだぞ飛行魔法って、飛んでるときは、常に魔法に意識を向けないと落ちるし、魔力消費も激しいし。

 

≪この惨状を造っといて最初に言う事がそれ?お兄ちゃん(黒笑)事件解決したら、覚えてなさい!!≫

 

そりゃ殺され掛ければそうなりますよね、すみません、反省してます。

 

ギフトを初めて使えて、酔ってました、ハイ(ガクブル)。

 

≪今ので敵さんが警戒しちゃったと思うから、対策される前に急いで叩きに行くわよ!!後お兄ちゃんは全力禁止!!!全力で戦ったら地形が変わっちゃうから!!下手したらこの星壊れるわよ!!!≫

 

そう言って、おそらく敵が居るであろう方向に向かって飛んで行った初音。

 

……俺、飛べないんだけど、走りっすか初音さん。

取り敢えず、初音の方向から不機嫌オーラが漂っているから走ることにする。

 

勿論強化は魔法だけ、あんなのやった後にギフトとか使えねぇよ、怖くてとてもじゃないけど、使いこなせる気がしない。

 

本当に月詠は、何で俺にこのギフトを選んだんだよ。

もっとお手頃なギフトがあっただろうに、初心者向けのやつ、危うく初音を殺しかけたぞ、今度会ったら殴るだけじゃ済まさねぇ、全身の骨折って干物みたいに干してやる!!

 

そんな文句をつらつら並べていると、前方を飛んでいた初音が止まった。

 

前方を見ると、新庄さん達が見た目十代前半の、四人の子供たちに襲われていた。

大人が子供に集団リンチにあってる、前世でも見たことのある、本来あってはならない、馬鹿げた光景に、俺と初音は足が止まって、茫然としてその光景を見た。

 

そして俺は、取り敢えずこの月詠に対するイライラを、目の前の奴らにぶつけることを決定した。

楽に死ねると思うなよ?




帰国時に活動報告しますので、無かったら失踪したと思ってください。
まぁ、どれだけ疲れようとも活動報告は出しますが、出てなかった時は……
それではここら辺で、最後までご読了ありがとうございましたノシ。

追記2017:4/9友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 お兄ちゃん無双2 そして明かされる黒歴史

今回、戦闘シーンが全く浮かばなかったorz……
今回は結構強引な話になってます。



俺達の目の前で、多勢に無勢で、新庄さんを攻撃している男四人に、激しくイラつきながら、俺と初音に気配をごまかす魔法をかけて、もう一人を探す。

 

見るからにギフトに頼り切って、探知を一人に任せている様子だから、まぁ多分平気だと思うが、今も近づいてきた俺達に、気づいていない様子だし。

屑ども、五体満足で帰れると思うなよ。

 

見るからに重症の多嘉山さんと、多嘉山さんを治療している高橋さん。

そして、二人を庇って、全ての攻撃を一人で防いでいる新庄さんの姿と、イラついた様子で、新庄さんを攻撃している四人の男。

 

黒歴史を出して全力で戦うことを、俺は決意した。

ギフトの重ね掛けは止めとこう、未だ試してないから。

 

「さっさと死ねよクソババア!!」

 

そう言って、金髪の男が何もない空間から、大量の武器を射出して、新庄さんを攻撃した。

 

「てめぇのガキのせいで、健治が牢屋行ったんだぞ!!責任とれや!!!」

 

そう言って、ガリガリの男が、見た目からはありえない、物理学を無視しているかのような、蹴った地面が捲れ上がる勢いの、圧倒的な速さで新庄さんにヤクザキックを入れた。

 

「あんたたち!!これ以上やったら手加減しないわよ!さっさと降伏しなさい!!」

 

一番の驚きは、その全ての攻撃を()()()()で防ぎ切った新庄さんの、破格の防御力だが。

 

「るっせぇぞ!!碌に反撃も出来てねぇ癖に粋がりやがって、全員ぶっ殺してやる!!」

 

そんな光景を見ているのに理解していないのか、三人目の周りにデフォルメ化されたディ◯ニー風の幽霊が現れ、新庄さんを襲う。

 

「たかが幽霊如き、私の結界を敗れると思わないことね!!」

 

新庄さんのその言葉通り、幽霊でさえも結界を超えることは出来なかった。

 

と言うかこれ、新庄さん一人で良いんじゃないかな?俺達の必要性.....

 

「クソが!!邪魔なんだよクソババア!!!!」

 

そう言って一人が体を輝かせ、文字通り一瞬で攻撃した。

 

……何か元ネタが解りやすい奴らだな、こいつ等。

何かすんごいやられ役っぽい雰囲気出してるけど、能力はスゲェな、一人目はイマイチ確信が持てないが。

 

そんな事を考えていると、初音が見当たらなかった五人目を、地面に転がしている所だった。

多分、こいつが俺たちの見張りをしていた奴だな、後、目的は私怨っと。

 

流石俺の嫁、やっぱり可愛いは最強なんすね。

 

「仲間置いて逃げるなんて最低ね、まぁ後でタップリお仕置きするとして、良くも私の友達に手ぇ出してくれたわねぇ(怒)。」

 

いつ友達になったんだよ!?…まぁ色々突っ込みどころはあるが、概ね俺の意見と同じだな。

 

そんな事を考えていると、ガキ共がこちらに気づいて怒鳴ってきた。

 

「おいテメェら!!拓弥(たくや)に何してやがる!ぶっ殺すぞ!!!」

 

そう言って武器を射出してきたので、力を使って腕力を限界まで強化して、()()()()()()()

 

その後、眼力を強化して睨みながら、口を開く。

 

「テメェら、俺の嫁のダチに手ぇ出して、どうなるか分かってんだろうな。」

 

その後魔法で一対の赤い双剣を造る。

 

その後、三歳の頃に暴れすぎて付いたあだ名(黒歴史)を出す。

 

「魔獣殺しの赤ん坊、知らねぇ訳ねぇよな?」

 

そう言った瞬間、その場に居た人間全員の思考が止まった。

 

「冗談言ってんじゃねぇぞ、魔獣殺しは死んだ!軍がそう公表しただろうが!!」

 

そう言って吠えるガキに、強化した眼力で睨みながら、ゆっくりと言ってやる。

 

「じゃあ、お前の目の前に居る、俺は何だ?」

 

「ハッタリこいてんじゃねぇぞ!!クソガキぃ!!」

 

そう言って物理学を無視して、ありえない速度を出した男が、ヤクザキックをしてきた。

 

俺はそいつをテューポーンを使って、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

手を抜いたおかげで、周りに被害は出ていない。

それにしてもテューポーン様様である、戦闘経験がギフトに溜まってたから、それを使ったギフトの予測演算がすんごい正確だ、殺人の情報までたんまりあるから、忌避感が全くないのが少し残念だけど。

 

まぁ、手を抜いたおかげでテューポーンの出力も一割も出ていないが、そこは仕方ない。

 

このギフトの元となった怪物は、神話でゼウスとタイマン出来た怪物の王だし、これでも未だ出力に反して効果が薄い。

 

元ネタは全宇宙を破壊しつくした、パニックの語源を作り出した怪物なんだから。

 

「こんなもんかよ、やっぱその能力は頭悪いと使えないんだな。」

 

武流(たける)!!?テメェぶっ殺してやる!!!」

 

今度は光を操る男が文字通り光速で飛んできたので、()()()()()()()()()()

 

こちとら無情の果実を食べて力を失っても、山脈を持ち上げた怪物なんだぞ?

光速位余裕だっての。

 

光使いの男はぶっ飛ばされて地平の彼方だ、方向的に日本海の方に飛んでったな、海に落ちれば元ネタ的にまず、助からんだろ。

 

あ、初音が魔法で回収した、足斬られた奴も大国主命で止血してるし、俺の嫁は優しいね。

 

「人間ってあんな速度で飛ぶのな、俺驚いたわ。」

 

そんなこと言ったら、幽霊使いがビビッて逃げ出した。

 

「う、うわあぁぁぁぁぁ!!?!!!!?!!?」

 

浩太(こうた)!?」

 

取り敢えず、逃げ出した奴の足に、双剣を投げつけて動けなくする。

 

「あぐあぁぁぁ!?い゙だい、いだい~~~~~!!?!!!?っ!?」

 

騒いでたのを新庄さんが魔法で眠らした、その後しっかり初音が回収してる。

 

その様子を眺めていたら、金髪から怒鳴られた、解せぬ。

 

「ば、化け物が!!?テメェ何もんだ!!!」

 

「だからさっき言っただろ、魔獣殺しの赤ん坊だよ。」

 

解り切ったこと言いやがって、さっきも説明しただろうに。

 

「馬鹿言ってるんじゃねぇ、軍が特級魔獣と戦って死んだって、公表したじゃねぇか!二年も前に!!」

 

あ゙ぁぁぁ~~もうっ何で解んねぇかなぁ!!

頼むからこの説明で理解してくれよ、俺に黒歴史を語らせるな。

 

「だから頼んだんだよ、軍の上層部に。わっかんねぇかなぁ、コネだよコネ。」

 

「そんなはずねぇ!!第一、魔獣殺しは女だろぅ!!!?」

 

金髪がそう言った瞬間頭に血が上り、次の瞬間に首を飛ばして考える。

 

初音に何て説明すっかなぁ、困った困った。

 

状況について行けなくて、パニック起こている高橋さん達を、自分も混乱しながら宥めている新庄さんを眺めながら、隣に下りてきて物凄い不機嫌オーラを出している初音に、俺は頭を抱えてため息を吐きたい気分だった。

 

「お兄ちゃん、説明してよね、お兄ちゃんが魔獣殺しってどういう事?」

 

「そんな事より、今は新庄さん達の事だろ。あと、初音のギフトで首飛ばした奴の蘇生出来ない?」

 

滅茶苦茶不機嫌な初音に釘を刺して、ダメ元で俺がついさっき殺した、金髪の蘇生を頼んでみる。

 

「魂が無事なら、出来ないことはないけど、この人は駄目ね、他の人もだけど物理攻撃で再起不能レベルの攻撃を受けると、魂が回収されるように魔術式が組まれてる、一応肉体は治療しておくけど、多分意味ないと思うわよ?」

 

出来るのかよ!?

 

「聞いた俺が言うのも何だけど、大国主命って大概のチート能力だな。医療神の他にも、軍神とかも司ってるんだろ?万能すぎやしないか?あ、後治療は頼む、何が役に立つか判らんし、恩は売っておきたい。」

 

そんな事を言ったら初音が呆れた。

 

「恩を売るって、殺した本人が言う言葉じゃないわよ。後、お兄ちゃんのテューポーンの方が壊れ性能でしょ?何あの性能、とてもさっきギフトを発動できるようになった、人間の動きじゃなかったんだけど。」

 

解った、説明するからそんな睨むな!

幼女が真顔で睨んでくるとか怖いわ!!?

 

「分かった分かった、そこも説明するから、新庄さん達もそれで良いですか?」

 

そんな感じで、ぐったりしながら、ガキを縄で縛ってる新庄さんに聞くと、もうどうにでもなれ、みたいな投げ遣りな反応が返ってきた。

 

「えぇ、お願いするわ。私、久し振りにギフト使ったから、疲れちゃった。」

 

「ウチも~、休めるなら何でも良いや。あっでも美穂は布団で寝かせないと、取り敢えず私たちの部屋行こ?」

 

 

 

 

~~五十分後~~

 

皆で歩いて五分の高橋さんの部屋(性格と真反対の、見た目通りの部屋だった)に移動した後、軽く今日の経緯と、俺の事について話した。

 

いやぁ~~黒歴史話すって、やっぱりきついね。

皆も、黒歴史の話を出したらすんごい黙るし、初音は百面相するし。

 

詳しい話は省くとして、俺が三歳の時、俺は初音以外の転生者と出会っていて、そいつと友達になったんだ。

 

その友達は俺より年上で、武術が上手かったから教えてもらってた、勿論親には内緒で。

 

当時は、両親は二人とも家を空けていることが多かったから、抜け出すのは簡単だった、まぁ、毎回最後に見つかって、友達と一緒に怒られてたんだが。

 

で、ある日いつものように家を抜け出して、そいつと、魔獣が出る危険区域の森に入ったんだ。

危険区域と言っても、中級魔獣より上は居ない、比較的安全な区域だったんだ、たまに民間人が薬草や山菜の採集で入る位には、安全だった。

 

でも運悪く、そこでアクシデントがあって…今でもアクシデントの原因は解ってないんだが、多分魔獣の乱獲が原因じゃないかって、父さんが言ってた、つまり自業自得って訳だ。

 

分かっているのは、特級魔獣が出て、その友達がギフトを暴発させて、相打ち覚悟で、足手まといの俺を逃がす時間をくれた事。

 

その後、俺が親に土下座して、森に軍を派遣してもらったら、その友達が魔獣になってたんだ。

 

話変わるけど当時、俺はその友達と二人で、魔獣を乱獲していて、この国じゃちょっと有名人だったんだよ。

 

この国は、倒した魔獣は国が買い取っててな、それを民間に販売したりして、その利益で税金安くしてるんだ。

 

それで、当時は十代前半の少女が操る、いつも血濡れの、未だ年端も行かない子供が、魔獣をしかも、中級魔獣の群れを単身で、ギフトを使わずに倒すっていう、離れ業をすれば有名にもなるんだがな。

 

種明かしするなら、その少女のギフトは『デウス・エクス・マキナ』、現実を台無しにするギフトだ。

 

能力は単純、自分を含めた周囲一帯を舞台劇場(解りやすく言えばテレビの画面の向こう)と仮定して、自分の意のままに脚本するギフト。

 

この力を使い、少女は俺の体を十全に使い、俺に武術を教えてくれた。

文字通り、体に動き方を叩き込む方法で。

 

そんなギフトを、常日頃から乱用していたからか、少女は少しずれた人間だった。

戦闘以外にも、盗みや賭博に使ってたっぽい、良くヤクザ擬きを返り討ちにしてたから。

 

まぁ、性格がおかしいのは、レアギフト持ちなら良くあることだが、少女はその中でもずれていた。

 

シミュレーション仮説、この言葉を知っているだろうか?

 

これは中二病患者の大好物な言葉の一つだ、呼び方は様々だが、誰もが一度は思春期に考える事じゃないだろうか、この世は誰かが創った仮想現実であると。

 

普通は、疑問に思っても気の迷いだと断じ、そうじゃなくても何かの拍子に違うと気づく、だが彼女は本気でこの言葉を信じた。

 

世界を意のままに出来るギフトを持っていたがために、世界を操る容易さをしり、何でもできたがゆえに、目の前の事に現実味を感じられず。

 

結果、少女は『デウス・エクス・マキナ』を使って、自分の意志で魔獣になった。

 

魔獣に身を落とさなくても、特級魔獣と身内贔屓無しで互角に戦える少女が、自分の意志で魔獣になった。

 

結局、能力の凶悪さから軍に災害級魔獣認定され、その時に見つかった、魔獣になる時に捨てた、人間の時の肉体を、魔獣殺しの赤ん坊として世に公表した。

 

これが最も若い災害級魔獣誕生の秘話、俺の宿敵の誕生譚だ。

 

軍は、初音の父親が死んで間も無く起こった事件だったため、上層部の関係者、つまり俺が関わるのを嫌がり、今まで隠していた。

 

俺が知ってる俺の話は、こんな感じだ。

 

そして俺の人生の第二目標は、少女裏松 雪奈(うらまつ ゆきな)の殺害、つまりは災害級魔獣 ドールの封印又は討伐だ。

 

勿論、宿敵云々や第二の目標何て、皆に話してないし、軍が俺を隠蔽云々も黙ったままだ、バレたら初音がまた暴走するからな。

 

こんな感じの話を、新庄さん達には正直に話し(父さんがバレたら喋って良いって言ってたからな)、全員が落ち着いた後、初音が口を開いた。

 

「お兄ちゃんが魔獣殺しの赤ん坊っだって言うのは、まぁ納得で来たけど、それとギフトをいきなりあのレベルで使えるのは別問題でしょ!!説明してよお兄ちゃん!?」

 

それはだな、

 

「ギフトに溜まってる経験値による予測演算よ、能力使用に関わる演算は全部、ギフトが自動演算してくれるでしょ?何を不思議がってるの初音ちゃん?」

 

新庄さんに全部言われちゃったな。

でもそうか、初音の大国主命は神様謹製の特注品って言ってたっけ、それじゃ初音が最初の所有者になるから、データはまるでない状態からのスタートになる訳だな。

 

多分アザゼルの指揮権能力で演算を肩代わりしてるんだろうけど......あぁ!!?これがアザゼルが外に出てこれない条件の一つか!!

 

他は多分、大国主命と繋がっている状態から、切り離した状態への移行は、初音に負担が掛かるから成長するまで出来ないとかそんなんだろ、多分。

 

そんなこと考えていたら、女子組の会話が終わったらしく、こちらに話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん、お母さんから連絡あって、鑑定した部屋に皆で来なさいって。」

 

皆で?

 

「分かった、新庄さん達も、それで良い?」

 

「私は良いけど、綾ちゃんがまだ……」

 

「私は大丈夫よ、美穂が治してくれたから。」

 

そんな顔色悪い人に言われてもな、式紙使うか。

 

「じゃあ、僕の式紙が運びますから、ちょっと待っててください。…『式紙』!」

 

取り敢えず、獅子型の式紙を出す。

人型は子供しか出せないが、動物だったら何でも出せるんだよな、多分テューポーンの、怪物の王って特性が関係してるんだろうけど。

 

「じゃあ、乗ってください、直ぐに移動しましょう、まだ残存戦力が居るかもしれないし。」

 

「そうね、私の結界張って神主に連絡したとは言え、ちょっと迂闊だったかしら?」

 

確かにちょっと迂闊だし、連絡入れたのも結界張ってたのも初耳だけど…

 

「ずっと気を張ってるのは疲れますから、これで良いと思いますよ?」

 

「ありがとね、初君。」

 

「お兄ちゃん、何か新庄さん達に優しくない?」

 

何て喋りながら、皆で移動した。

 

 

 

 




初達の前世は現実によく似た別世界です、特に神話や魔法関連、実在してたってことにしてます、ハイ。
すっかり言い忘れてましたが←おい
そこ、神様関連居たら宇宙が何個在ったって足りないって言わない、ちゃんと後片付けしてるって設定だから(壊してないとは言ってない)。
では、ご読了ありがとうございました~。

追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 愛は正義

あけましておめでとうございます!!
作者のリムル=嵐です。
堅苦しい挨拶を後書きに書いておきました、暇な人は見てやってください。

では、本編どうぞ


他愛もない話をしながら歩いて移動して鑑定の部屋に移動した。

 

そう言えばあの部屋、この人数大丈夫だっけ?……ま、まぁ大丈夫だろう、多分。

 

そんな事を考えている俺を尻目に、女子組は会話に花を咲かせている訳で、何か気まずいっす、自分。

お、もう着いたな。

 

「じゃあ開けますね コンコンッ 失礼しまーす。母さん、皆連れてきて……」

 

ノックして開けたら、そこには半裸の母さんとイヴが父さんを縛っ

 

「ふん!!!」

 

「ぐふっ!!?」

 

初は 目の前が 真っ暗に なった!!

 

 

 

 

 

~~三十分~~

 

「で、人をそれも子供呼んどいて、自分達は何してたのさ、二人とも、次いでにイヴも。」

 

あの後起きた俺は、多嘉山さんに看病されつつ、初音の説教を正座で受けている大人三人組を見ていた。

 

はぁ~、まさか父さんがラッキースケベ体質だとは、しかもよりによって、母さんが居る横でイヴにするか?

しかも、切れたイヴを宥めようとした母さんにも、ラッキースケベするとか、普通のラッキースケベ体質よりも、修羅場向けと言うかハーレム向けと言うか、はぁ~。

 

しかもあの格好のまま、ラッキースケベしないように父さん縛るって、何だかなぁ~、お前ら青春してんなこのやろう、としか感想が出てこないんだが。

 

はっきり言って、何処の少年漫画の迷惑だ!!

あ、今はスクウェアに移ったんだっけ?

まぁいいや、重要な事じゃない。

 

そんな事より今は新庄さん達を、母さん達が呼んだ理由、それを聞かなきゃいけないんだけど……初音がなぁ、何か無茶苦茶怒ってて新庄さん達も俺も、部屋の隅で大人しく嵐が過ぎ去るのを待つのみな訳で、はぁ~どうしてこうなった?

 

「三人とも、解った?今後こんなことがあったら………ニッコリ」

 

「「「もう二度としませんです、はい!!」」」

 

アレ絶対大人組楽しんでるよなぁ、子供の成長を確認した、親みたいな気持ちで、いや、実際に親何だけど。

 

イヴはイヴで面白がってるし、多分神になってから、叱って貰った事が無いから新鮮何だろ。

 

月詠はあんまり怒るって感じじゃないし、始まりの女性の名前を、誰かから(十中八九月詠から)貰ってるって事は、最初の神何だろうしな。

他の神にも敬われてただろうし…いや、最後のは違うわ、敬われる性格じゃないもんイヴ。

 

「で、母さん達は何で新庄さん達も連れてくるよう言ったの?」

 

「それがね、今回二人の訓練に丁度良いなって思ったから、イヴの能力で隠れてたんだけど。敵の方を少し探ったら仙人が居てね、まだ三人には荷が重いからって呼んだのよ。流石に菩薩レベルの子は居なかったけど、仙人レベルでも、戦闘系の能力じゃなくても、最上級魔獣と戦える位には、強いからね。」

 

もし戦闘能力に特化した俺みたいな能力だったら、特級同じかそれよりもより厄介かもしれないってか。

 

「だから、ここからは、神主さんに任せることにしたの。ここの神主さん、()()()()()如来まで至った、数少ない人の一人だから。多分何とか出来るんじゃない?」

 

「あの子はねぇ~怒りっぽくなければ良い子なんだけど。」

 

あの子って…母さんが言うには凄い人なのに、イヴが言うと近所の子供みたいな扱いになるな。

 

それにしても、軍以外で至った人が居るとか、この世界は本当に人間に対してルナティックモードだな、種族進化は本人が強く願うことが第一条件らしいのに。

 

「取り敢えず、ここから私の権能で映像を見せるから、皆でお茶飲みながらのんびりしてましょ?あの子が戦闘で動けば、万が一は無いんだから」

 

どんだけ信用してんだ、その神主ってやつに。

 

「まぁ、その万が一を絶対に書き換えるのが、()()戦いなんだけどね。麗奈お茶おかわり貰える?」

 

「はい、りゅうくん、麦茶よ」

 

「ありがと、バリッボリッ皆も煎餅食べなよ、さっき買ってきたんだ。」

 

父さんも父さんでマイペースだなぁ、あんな修羅場あった後で、普通の接し方が出来るって凄いぞ。

 

「そう言えば三人とも、初の話を聞いたんだよね?」

 

げっ、その話か、新庄さん達の方にそっと目を向けたあと直ぐに答えた。

 

因みに、今皆の位置は、ちゃぶ台の前に皆で座ってる感じです。

 

「そうだけど、バレたら話して良いって前、言ってたじゃん、平気だよね?」

 

「そこは別に良いんだよ、変に嗅ぎまわられても困るし。ただね…」

 

父さんが言い澱んだ所で、イヴが喋り出した。

 

「今回の襲撃のトップの子が、鮎川中将のお子さんらしくてね。それと調べたら高橋さんの子供が戦ったって言う子が、佐伯大佐のお子さんじゃない。さっきの子供たちも冴羽中佐と板橋中佐の子供だし。極めつけに、あの光速移動してた子は藤原の直系よ?バレた相手が悪すぎるわよ。これから貴方のお父さんが、どれだけ苦労すると…はぁ、あなた達も社交界デビューかしらね~」

 

はぁぁぁぁ!!!?

鮎川中将は親前今派だって、父さんがノートに書いてたのを見たからそこは良いとして、佐伯冴羽板橋は親藤原派の人間だぞ、どうすんだ!

 

一番まずいのはあの光速移動のDQNが藤原の直系って事だよ!!

 

藤原は前今と同じ御三家で宮廷人、つまりは、政治家を良く輩出している家系で、軍人が多い前今とは犬猿の仲。

 

実際何度も政治的、武力的な衝突をしている家だ。

 

そんな家に、軍が隠し事してました、何てネタ与えたら……ゾワッやばい、やばいやばいやばいやばい、下手しなくても、他に隠し事してないか家宅捜索位はされる。

 

そんなんであの上級魔獣の巣窟が見つかったら、父さんと、下手したら母さんも失脚するぞ!?

 

そんな事になったら、変則的とはいえレアスキル二つのクリエイターの初音と、普通のクリエイターの俺が色んな所から狙われる。

 

いたずら者(プレインク)って言う付加価値も付いて、俺らの身の危険がマッハでやばい。

何か方法は………あっ!!

 

「あの四人の魂って今どこにあるか皆分かる?」

 

「お兄ちゃん、いきなりどうしたの?私まだ状況に付いて行けてないんだけど。」

 

今だけは、初音が世情に疎い人間だった事が悔やまれる。

 

基本的に、自分の周りの人以外興味がない人間だからなぁ。

 

「あのね初音、あの子供たちの親は……」

 

お、母さんが説明を始めてくれたので、もう一度二人以外に聞く。

 

「あの四人の魂を見つけて記憶を壊すんだよ。封印じゃ解かれる可能性があるから、戦闘の時の記憶だけ破壊するんだ。」

 

その説明を聞いて、父さんが考え込んだ後、口を開いてこう言った。

 

「と言っても、四人の魂は鮎川中将の子供が持ってるから、そんなに心配する事じゃないんだよ。それよりも問題なのは……」

 

続けてイヴが言う

 

「神主に焼き殺されてないかよねぇ~」

 

個人的には、何で魂の在処を知ってるんだよと、ツッコミたいんだけど、神主が焼き殺すかもしれないって、神主どんだけ苛烈な性格してるんだよ、恐いわ←自分の事を棚に上げてる奴のセリフ。

 

「ちょっと覗いてみましょうか、よっと。」

 

そんなこと言ってイヴが取り出したのは横長の長方形のガラス板だった。

 

「麗奈~、ちょっとここ持ってて。」

 

「はいはい、このガラスで覗きするんでしょ」

 

そんな会話しながらガラスを壁に設置すると、イヴが五単語の詠唱の後ガラスに映像を映した。

 

『さっさと起きろクソガキィ、説教はまだ終わってないぞ』

 

極彩色の空間で、この事件の首謀者の鮎川 歩を尋問していた。

 

『ふざけんな!これの何処が説教なんだよ、拷問の間違いじゃねぇか!!!!?』

 

手足を縛られ、()()()()()()ボロボロの姿の十歳に届いてない位の幼い子供、鮎川歩が叫んだ。

 

.....敵ながら、おもわず同情したくなる程痛めつけられてるな。

 

『まだ自分自身の力で考える事が出来るだろう?ならまだ説教だ、そんな事よりお前の目的を言え、言った後は耳を削いでやる。』

 

……この神主、少し頭がイってる方のようだ、言ってることが滅茶苦茶だ。

 

それにしても、何か初音が鮎川を観て、不機嫌オーラが出てるんだけど、どういう事だ?

 

『ふざけんな!!言ってることが滅茶苦茶じゃねぇか!!!?』

 

おもわず鮎川の言葉に同意してしまった。

 

だが神主は、今の鮎川の言葉でイラついたようで、顔を顰めながら喋り出した。

 

『神社を、それも創世神社(イヴとの家)を襲撃したんだ、死なないだけマシだと思えよ、屑が!』

 

この神主、どうやら自分が崇めている神にご執心の模様、ある意味では襲撃なんかよりも問題では?

 

後、今の言葉聞いて、イヴが顔真っ赤にしてるんだけど、母さんと初音がからかって騒がしいんだが。

 

こっちのそんな事情もお構いなしに、凄い勢いで怒っているご様子、少し鮎川が不憫に思えてきた。

 

『……………』

 

『喋らないつもりか?なら、()()()()()()()()()

 

喋らない鮎川に嫌気が差したのか、そう言って神主が作り出したのは霊子で構成された、細い針だった。

 

そもそも霊子と魔力の違いは、魔力は物質構成の最小単位であるのに対し、霊子は非物質構成の最小単位だ。

 

魔力で構成出来ないものは、物理的な干渉が出来なく、霊子により構成されたものでしか干渉出来ない。

 

魔力と霊子の違いは大まかにそれだけであり、役割は似ているのだ。

 

そして何故今、この神主が針を取り出したかというと...

 

『があっぁぁあああああ!!!!?』

 

魂に直接突き刺すためである。

 

そもそも、何故魔力で構成された肉体で霊子で構成された針を持てるのかというと、種族進化に秘密がある。

 

元々人間は、大まかに三つの身体で構成されている。

一つは肉体、これは魔力で構成された分子の塊。

基本的に次の身体を保護するためのモノだ。

 

二つ目は魔力体、この体は物質に霊子を定着されるための、特殊な魔術式が妊娠して潜在過敏期と言われる時期に形成される。

この世界では、この段階から人間と認められ、妊娠中絶が認められない。

 

三つ目は霊力体、この体は一般的に魂と言われるものであり、ギフトが組み込まれているのもこの体だ。

 

この霊力体は、魔力的な意味でなら最強を誇るが、霊的な意味では酷く脆い、それこそ針を持つだけで簡単に破けるくらいに、この脆さを克服するのが種族進化だ。

 

進化を繰り返せばシャボン玉から鉄球位にはなる。

そして種族進化すると、魔力体と霊力体が変質して、霊子で構成されたものを触ることが出来る。

 

それが肉体で針を持ったように見えた訳だ、鮎川は一度しか進化していないから文字通り紙強度、そんな紙強度に針を刺せばどうなるか、勿論刺さる肉体に損傷はないが、それはもう痛い、神経に直接辛子を塗ってるようなもんである。

 

『さあ、早く喋ろよ、クソガキ。早くしないとお前が守っているお友達も、死んじまうぞ?』

 

『分かった、喋るから、だから、あいつらの魂に手ぇ出すな、頼む。』

 

遂に鮎川がギブアップのようです、というかこれ、どっちが悪者だろ?

 

十歳位の子供をボロボロにして、しかも友達を人質にとって脅す神主と、自業自得とはいえ仲間を守っている子供………うぅ~ん、神主が悪者に見えてきた、実際は違うけども。

 

『はぁ、解ったから、早く喋れよ』

 

『………アダム様から襲撃しろって信託が降りたんだ、そうすれば神酒の作成方法を教えてくれるって、母さんを助けられるって!!』

 

…………はぁぁぁぁ~~~!!!?

 

『…本当だな、嘘ついたらお友達事焼き払うぞ?』

 

神主も困惑してるみたいだなぁ、そりゃそうだ、神が神に攻撃を仕掛けるなんて普通思わないだろ。

 

だけど神主、その明らかにやばい温度の炎は子供に向けちゃアカンだろ。

 

オレンジ色の炎とか拷問目的でも酷いぞ、そんなん体中に着火したら火傷による水分不足じゃなくて、酸欠で死ぬぞ、何て怖いことしようとしてんねん、悪魔か!?

 

『命掛かってんのに嘘つく奴は居ねぇよ!』

 

流石鮎川、これ以上ない正論だ。

 

よく漫画とかアニメのこういう場面で嘘つく馬鹿が居るが、あれは死を理解しないで次があるなんて考える馬鹿か、よっぽどの自意識の強い奴、ぶっちゃけKYな奴だけだ、普通は正直に喋る。

 

『今ならまだ耳削ぐだけで許してやる、本当に嘘じゃないな?』

 

神主は未だ疑ってるらしい……それにしても鮎川、何か良い奴に思えてきたな。

親は父さんの派閥らしいし、あの四馬鹿+αとの関係によっては、協力関係になっても良いぞ。

 

『嘘じゃないって言ってんだろ、それとあいつらの魂に傷一つでも付けて見ろよ、全力で呪ってやるからな。』

 

ゾワッ何かヤバイ、呪う宣言した鮎川から嫌な予感が止まらない、何だこれ、冷や汗が止まんないんだけど。

 

そんな考えを頭の中でしていると、ガラスに映った映像が消えた。

皆がイヴの方を向くとイヴがため息を吐きながら喋り出した。

 

「はぁ、こりゃあの子の方が分が悪いわね、迎えに行きましょうか。アダムの事で聞きたいこともあるし、初音と初君は縛って放置してあるあの子達を運んでくれる?麗奈が式紙で隣の部屋に運んでおいたから、それを神社の入り口まで運んでほしいのよ、三人は案内役お願い。私達は三人で先に行ってるから、あの子が先走って殺さないように見張ってないと。」

 

「「「「はーい。」」」」

 

「分かったよ。」

 

こうして俺達は、神主とこの事件の首謀者と、対面することになった。

 

 

 

 

 

 

 




本編ご読了ありがとうございます。
この作品も遂に投稿から半年近く経ち、全然増えない話数や遅すぎる展開等、至らぬところが多い作品ですが、今年も暇な時、時間が余った時に少し読もうかな?何て感じの作品になれるよう努力していく次第です。
今年も、「夫婦転生 二度目の人生を彼女と ~異世界にヲタク夫婦が兄妹で転生するらしいです~」をどうぞよろしくお願いしますm(__)m。

追記:本文で魂が無い敵キャラの人数を3人にしてました、正しくは初が倒した4人です、初音が眠らした五人目は縛って放置しているだけなので魂は取られていません。

追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 同居人が増えました

どうも作者のリムル=嵐です、この話で今月最後の更新になります。
次の更新は、課題の提出期限が来月の初に迫っているので、少し遅れそうです。
二月中には2話投稿する予定なので、そこは問題ありませんです、ハイ。
では、本編どうぞ( っ・ω・)っ


俺達兄妹は俺の式紙を使って縛った五人を運んで、新庄さん達に案内してもらいながら、神社の入り口に行くと、()()()姿()()()()()()()()()()()()鮎川と、石畳に正座させられてる神主と父さんに、説教してるイヴの姿が見えた。

 

「どういう事だよ、説明求む。」

 

そんな感じで、呆れながら呟いた俺の疑問に母さんが答えてくれた。

 

「ここに来て直ぐに四人の魂を確保して、イヴに記憶の消去を頼んで私も手伝ってたんだけど、何か二人が歩ちゃんに詰問してたみたいで……死ぬかもしれない状況から解放されたと思ったら、怖い顔した大人に囲まれて威圧されながら詰問されるなんて、普通泣いちゃうわよねぇ。しかも傷の治療は後回しよ?あれは私も怒るわ。

だから一緒になって怒ってくれたイヴに説教任せて、私は泣いちゃった歩ちゃんの治療してたのよ、治すのは得意分野だからね。」

 

まぁ、片方はさっきまで自分を殺そうとしてたやつと、もう一人はもう一人で、殺人的なレベルで顔が怖い2m近い大男何だから、そりゃあ泣き出すわ、納得………()()()()()()

 

「母さん、鮎川ってもしかして、女の子?」

 

そう言うと、周りの女性陣が変なものを見る目で、俺を見た。

何故だ!?

 

「もしかしても何も、見た目通りの女の子よ?何を言ってるの、ねぇ歩ちゃん?。」

 

「グズッ俺は女だ、ヒックもう間違えんなよチビ?」

 

そう言って、泣きながら顔を上げてこちらを睨んだ鮎川は、目を焼かれボロボロになった時とは違って、たれ目の泣き黒子が特徴の、ショートカットの美少女だった。

!!?まさかの俺っ子来た~~~~~!!!(魂の叫び)

 

「ごめんもう間違えないよ、俺は前今初よろしくな。」

 

一応謝った後に、自己紹介したんだけど、お気に召さなかったみたいで、暫しの間顔を睨みつけられた後、顔を背けられた。

 

「あらあら、初君が嫌われるのは珍しいわねぇクスクス、初音、縛られてる子の魂を肉体に定着させるから、手伝ってくれる?それと高橋さんは縛ってる子が逃げ出さないように見張っててくれる?」

 

笑わないでくれ母さん、俺も結構ショックなんだよ。

見た目美幼女に嫌われるとか悲しすぎる。

 

「「はーい。」」

 

………思ったんだけど初音と、高橋さん新庄さん多嘉山さん達三人組って、息合い過ぎな気がするんだけど。

本当に今日が初対面だよな?

実は知り合いでした~とか、普通にありそうで何か嫌だぞ。

 

「多嘉山さんと初君は歩ちゃんとお話してて、歩ちゃんは逃げないようにね?私のギフトで歩ちゃんのギフト封印してるから、逃げても二人が直ぐ捕まえちゃうからニコッ。」

 

「了解。」「分かりました。」「ちぇっ分かったよ、麗奈さん。」

 

俺達の返事を聞いた後、母さんは満足そうに笑って、初音が多嘉山さんと二人で、初音の式紙から縛った五人組を下しているのを手伝いに行った。

 

…ふぅ。

その後、多嘉山さんが、鮎川と話してるのを聞き役に徹して、十分位たった頃、初音に呼ばれて多嘉山さんが居なくなり、込み入った話が出来るようになったので、鮎川に色々質問してみることにした。

 

「鮎川さん、ちょっといいかな?」

 

「何だよ、今回の事なら全部怖い二人組に喋ったから、そっちから聞いて。」

 

そっけないなぁ、まぁそれが普通か。

 

「そうじゃなくて、鮎川さんの話を聞きたいんだよ、僕も転生者だから。」

 

取り敢えずいたずら者(プレインク)何かよりも、俺達に馴染みのある言い回しで話しかけてみる。

おっ少し驚いてる、あと一押しだな。

 

「俺は地球から転生してきた、転生前は20過ぎまで生きてた、死因は…自業自得ってやつで、事故死みたいなもんだ。」

 

…あれは、俺に力が無かったのが悪かった。

もしあの時初音の手を引いて逃げていれば、もっと早く気が付けば、考えたらきりが無い程後悔して結局、最後はいつも心の中で、初音にごめんって謝るしかできない。

 

……はぁ、もうこんな嫌な思い出作りたくないなぁ、ただでさえ思い出したくない思い出が多いのに、これ以上増えたら耐えられない。

 

俺がそんな事を考えていると、鮎川が喋り出した。

 

「俺の前世は、コードカードって惑星出身の人類だ、前世は男で、元貴族の奴隷だったよ。」

 

………予想はしてた、イヴ一人で転生者や、転生のシステムを管理してるわけじゃないって、月詠も言ってたし、何よりこの世界の魂は膨大だ、地球一つで賄えるとは思えないからな……

 

でもマジかぁ、異世界人が転生者って、混ぜすぎなんだよ馬鹿野郎。

しかも元貴族の奴隷って何だよ、その前世はラノベか何かの世界だったのか?

 

何か疑問が次々に湧いてくるな、縛られてるのは地球出身で良いだろ、あんな能力考えるやつが、他の世界に居るとは思えんし、ってことは世界ごとに担当が決まってるってわけじゃなくて、人間毎に決まってる?

 

………ってことはこいつらの転生時の担当が、アダムってやつ?

 

「鮎川さん、転生時の担当は誰だった?俺はイヴ。」

 

「?俺はアダム様だ、何でそんな事を聞くんだ。あと俺のことは歩で良い、さん付けもやめろ、慣れてないんだ。」

 

首をかしげるな、可愛いだろこん畜生。

取り合えず疑問は全部解消しとこう。

 

「じゃあ鮎川、縛られてる奴の担当は誰か判るか?」

 

「俺と同じアダム様だけど、何で担当の神の事を聞くんだ?同じ人類側なのに。」

 

人類側?何だその言い方、まるで魔獣側にも神様が居るみたいな言い方だな、大戦とかの言葉に関係あるのか?

 

「大戦や戦争、終末とかそんな感じの事を神様が言ってなかったか?」

 

そう言うと鮎川は、目を見開いて信じられない事を言った。

 

「まさか、聞いてないのか?この世界は今神によって競技場に変わったんだよ、人魔戦争って名前のゲームのな。」

 

ハッハッハワロス、戦争って、まさかの神が主催者かよ。

この世界は本当に趣味が悪いな。

 

「すまん、初耳なんだ。教えてくれないか?」

 

お願いしたら快く答えてくれた。

鮎川って優しい。

 

「プレイヤーは神住世界(ゴット・ライブ)の住民全員が参加。駒はこの世界の人間と魔獣全員。ルールは簡単で、審判役以外は現界せずに、敵の戦力を開始した時点から七割以上減らすこと、時間制限なしの一本勝負。神様達は、勝てばその後次の人魔戦争まで色々な権利が貰える....まぁ、この世界の住民にも活躍すれば色々貰えるらしいけど。でも期間中は名無しの神に進化出来なくなるし、魔獣も神格になれない。」

 

…………………………ゴメン、ちょっと聞き取れない、おかしいなぁ、まだ若いつもりなんだけど「って、んな訳あるかぁ~~~~!!!!!!」

 

「るっせぇ~なぁ、いきなり叫ぶなよ、驚くのは解るけどよぉ。」

 

やめろ、涙目で耳抑えながら睨むんじゃない。

 

いちいちしぐさがかわいい奴だなぁ、この野郎。

これで言葉遣い直せば、さぞやモテるだろうに、勿体ない。

 

てか、今の話本当なの?

速くも俺の目標の一つの、初音と一緒に平和に暮らすって事が、難易度上昇してるんだけど。

ヤバい、思考がカオスだ。

 

「ちょっと待て、混乱してる、スゥーハァースゥーハァー。よし、最後に質問何だが、最近転生者が、イヴに会いにこの神社を訪れてるって聞くんだけど、何でだ?」

 

人魔戦争の事なら、自分の神に聞けば良いだろうし、何でイヴに会いに態々来るんだ?

 

「それはイヴ様が人魔戦争の審判役で、顔を覚えてもらうためにだろ。知ってる顔なら判定が緩くなるかもしれないし。まぁ、そんな考えの人間には、イヴ様は会わないって、追い出されるのがオチなんだけども、そもそも会える立場じゃ無いんだけどな。あの神様に会うためには、それこそ軍の将校以上か、副大臣位の地位がないと駄目だから。」

 

…あいつが審判役!!?

ってかよく考えなくても、イヴから人魔戦争の事聞いてないぞおい!!

 

何で俺達に黙ってたんだよイヴは!?

っていうか、イヴって本当に凄い神様だったのかよ、嘘だろ。

 

だってあいつ月詠の前じゃ憧れのアイドルに会ったJKみたいな反応しかしないんだぞ?

 

そんなのが国のトップ連中しか会えないような、凄い奴だとは思えないんだけど。

 

しかもあいつ、母さん達の会話から察するに、よく町に行って買い物とかしてそうだし、何か神主が苦労人に見えてきた、不思議。

 

「イヴ!ちょっとこっち来い!!」

 

「何~?もう少し待っててくれる?今バカどもにお灸を据えてやるってるんだけど。」

 

そんな不満げな顔にならんでください、あんたさっきまで物凄い形相で説教してたでしょ。

 

何か大人二人が真っ白になって震えてるし、あんた一体どんな説教したんだよ?態々防音結界張って怒ってたんだから、相当な声出してたんだろうけど。

 

「もう十分説教できただろ、そんなことより人魔戦争の事なんだけど、知ってたんだよな。」

 

「そりゃ勿論、私が考えたゲームだし。あ、もしかして黙ってたの怒ってる?しょうがないのよそういうルールだからね。でもちゃんとルール守るんなら答えてあげても良いわよ?」

 

俺が責める口調で言っても、ケロっとした顔であっけらかんと答えやがった…………

何ともなぁ、黙ってるだけならまだしも、発案者ときたもんだ、一度死んだ身の上としては許せない事なんだが、蘇らせて(転生させて)くれた身としては何にも言えないんだよなぁ。

 

一応恩と義理があるもんで、ハァ。

理由だけでも聞いとこう。

 

「何でそんなゲーム考えたんだ?理由が解らんと納得出来ないぞ?」

 

そう言ったらイヴは、眉間に皺を寄せて考え始めた。

 

「納得出来ないって言ったって、今の質問はルールに反するんだけど、でも私なら……いや、無理か。ハァ、ごめんなさい、今の質問は答えられないわ。私の駒になるならまだしも、二人には誓約が掛かってるし、外すのは月詠様の許可が居るし、諦めて頂戴。」

 

駒って何だ、駒って、戦争の駒にでもなれってか?

ひでぇ神様だなぁ、おい。

 

それにしても誓約が邪魔になるって、俺に掛かってる誓約は全部初音関係の誓約だぞ?

それが何で邪魔になるんだよ。

 

「誓約って初音関係の誓約しか俺は結んでないはずだぞ?」

 

「誰かと魂レベルで誓約してるってことが問題なのよ。私との駒にする契約以上に繋がっている相手が居ると、契約が中途半端になって、加護が上手く掛からないのよ。最低限には掛かるんだけど、それじゃあ他の神の駒と戦うときに大変だし、そりゃ初君なら平気だろうけど、どっちにしろ月詠様に報告しなきゃならないし、そうなると周りの神が依怙贔屓だなんだって五月蝿いし、初君を危険な目に逢わせるのは麗奈達に悪いし、それに………」

 

これはあれだな、言い訳何か自分に言い聞かせてるのか解らんが、イヴもイヴで俺の事を駒にしようと思ったんだな。

でも母さん達の事とか、初音との繋がりのせいで難しいから無理矢理諦めてるっと。

 

………うぅ~ん、俺としては平和に暮らせれば良いけど、それは人魔戦争のせいで難しいっぽいし、手っ取り早いのはさっさと戦争を終わらせること何だけど、それなら審判役のイヴの駒になって早期解決するしかないかな。

 

多分神様連中が気合い入れて駒選んだり、駒に力を与えてるんだろうけど、審判役になれば巻き込まれる事はあっても、狙われる危険は少ないだろうし。

 

第三者だと、いつ巻き込まれるのかも解らないけど、あらかじめ解っていた方が、準備も覚悟も出来るからな。

 

…よし、イヴに発破かけて俺を駒にしてもらおうか、それと鮎川達を処刑されないように配慮してもらおう。

 

「イヴ、俺を駒にしてくれ。」

 

開口一番にそう言った俺を、可哀想な子供を見る目で見てくるイヴ。

 

やめろ、そんな目で俺を見るんじゃない!!

 

「あなた、私の話聞いてなかったの?無理だって言ったじゃない、それに理由だって沢山」

 

「母さん達なら俺が説得する、って言うか母さん達も駒に出来れば解決だろ?それに他の神なんて気にするような性格じゃないし、月詠に会うことはイヴにとってむしろプラスな面だろうが、どこが理由だ。」

 

話を遮って早口で捲し立てたんだが、効果はどうだ?

お、動揺してるぞ、これは良い傾向。

もう少しで納得させられる。

 

「でも、加護が上手く掛からないのは、本当なのよ?」

 

「そんなの俺のギフトは戦闘特化だから平気だよ、いざとなったら父さんが出てきてくれるし、それに相手は魔獣だろ?ならこの国にいる間はある程度安全何だから、そんな心配する事じゃないよ。」

 

この国は天皇(あまのすめらぎ)様のギフト、高天原で守られてるんだから、結界を破れるのは特級魔獣以上の存在だけ、そんな存在、今は日ノ本に接近する時期じゃないし、来たとしても災害級は条約を結んだ個体しか来ないから平気だ。

 

まぁ、人魔戦争なんてのが起こったって事は、魔獣と何が起こっても不思議じゃないんだけど。

 

今は楽観的に考えた方が良いだろ、イヴを説得してるところなんだから。

それと出来れば鮎川達も…

 

「………ハァ~~~、あの二人の説得は私がするわ、みっともなく言い訳したお詫びよ。それと、どうせ鮎川ちゃん達も駒にしろとか言うんでしょ?ったく良いわよべつに、ハァ~ブツブツこれだから平和ボケした日本人は、ブツブツアダムどうやって説得するのよ。」

 

ハッハッハ文句は言ってるけどチャントやってくれるみたいだ、いやぁ~良い神様が担当になってくれたなぁ、運が良い!!

 

流石は月詠が薦めた神様なだけはあるわ、すんごい良い神様だ、うん。

 

「すまん、話が見えないんだが、つまりあれか?俺達五人はアダム様じゃなくてイヴ様の駒になるのか?」

 

そんな声に気付いて振り向けば、忙しなく手をあたふたさせながら鮎川が此方を見ていた。

 

おっと、そう言えば鮎川のこと放置して話してたわ。

…何か、いつの間にかすんごい胡散臭い目で見られてるんだけど?

 

「簡単に言えばそうなるな、でも鮎川以外の五人は親が敵対してるから、鮎川より待遇は悪いぞ?後基本的に全員、前今家の家の中だけで暮らしてもらうからな。あっ広さは安心しろ、滅茶苦茶広いから。」

 

そんな事説明してたら、鮎川がいきなりこっちに跳びかかって!?

ちょっうお!!危ね!?

 

何とかすんでのところで受け止めると鮎川が泣き始めた、何でさ!!!?

え、ちょ、待って、何で?嘘だろ!?

 

ど☆う☆し☆て☆こ☆う☆な☆っ☆た!!?

 

頭の中がパニックになってると、鮎川が嗚咽交じりに喋り始めた

 

「グスッ 俺、アダム様に強引にヒック言う事聞かされて ヴゥ母さん助けてほしければってヴワアァァァ、アァァァン!!!」

 

おうふ、耳元で大声で泣かないでくれ、って言うかお前の母さん病気か何かか?

さっきから聞いてると、アダムに脅迫紛いの事されてるっぽいし、本当に何なんだアダムって奴は………

 

でも、まぁ辛い時は泣くのが一番だよ、うん。

何だかんだ言って泣くのが一番気持ちに整理がつくし、スッキリするからな。

 

と言う訳でちょっと泣き止むまでこの状態を維持だな。

なぁに、いきなりで受け止めたから変な体勢で腰が痛いけど、たった2、30分の話さ…がんばろ(泣)。

 

こうして俺は、大泣きした鮎川の声に釣られた、皆の生暖かい視線(若干一名ドス黒い視線)を感じながら、約一時間程、鮎川が泣き止むまで腰を酷使したのであった(遠い目)。

 




追記:縛られている人数を間違えていました。正しくは四人ではなく、五人です。

追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 あれから〇〇後

どうも、作者です。
今月の投稿になります。
今回はすらすらかけて、驚きました。
多分今までで一番書きやすかったです。
後、少し話が離れてるので読みはじめはいわかんを覚えるで 気を付けてください


日が昇る時間が速くなり、すっかりと気温が上がり立っているだけで汗が出てくる6月中頃、俺は初音と一緒に、小川の向こうにある鮎川達が暮らしてる一軒家に行く準備をしていた。

 

「それにしても母さんも細かい所を再現したよな、まさか人工太陽の温度を、季節毎に自動調整するとか。一体どんな術式組めばそんな事出来るんだか、ハァ。」

 

態々そんな事しなくても、家の中位快適な気温で保ってくれれば良いのに。

 

「お母さんも終わってから失敗したことに気付いたみたい。直すの時間かかるから放置してるみたいだし、ハァ。」

 

俺の愚痴を聞いて、初音が一緒になってため息を吐いた。

 

母さんも、気付いたなら治してくれれば良いのに、室内で人工太陽何て、それだけでも凄いのは分かるんだけたど、いざ住むとなると何か足りないこの感じ。

 

まぁ、母さんが言うには、この自動調整も利点が有るらしいんだけど。

 

そんな事考えてる内に、鮎川達に会いに行く準備が終わったので、初音に声を掛ける。

 

「取り敢えず、此方の準備は終わったけど。初音、砲台は持って行けそうか?」

 

そう言ってから、初音が花火の打ち上げ用の砲台に、何か書いているのを見付ける。

 

「?何書いてるんだ初音、もしかして魔法か?」

 

「流石お兄ちゃん、感だけは二条さんレベル。今書いたのは軽量化の魔法よ、これで私でも持てるわ。」

 

成る程、軽くして持ち運ぶのな、てっきり式紙に運ばせるのかと思ったけど。

 

「式紙は使わないのか、初音は俺と違って魔法使えるだろ?」

 

そう言って自分の右腕に着けられた真っ白い鎖を初音に見せる。

 

この鎖は、父さんが母さんに頼んで作ってもらった、装着者の魔力制御を極端に制限する鎖だ。

 

その効果何と、母さん曰く、通常の500倍位の制御のし辛さ、五歳の子供の訓練用にはちときつ過ぎる制限。

 

ここまできつくすると、大の大人でも制御どころか魔力を暴走させることすら無理なのに、それを五歳の子供に着けさせるとか、父さんは鬼畜や。

 

「お兄ちゃんが苦労してるのに、私だけ魔法使いたい放題なんて、何かヤダ。砲台も持てない重さだから持てるようにしただけだし、私もアザゼルの自動補助機能切って練習する。」

 

白い鎖を見た後に、不機嫌そうな顔で初音が魔法の自重を口にした。

 

いやぁ~想い人にこんなこと言われるなんて、俺は幸せ者ですなぁ。

 

でも使用を制限してたら練習にならないんじゃ?

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、使わないんじゃ練習にならないぞ?」

 

あ、反論されたからさらに不機嫌に、段々と未だ高かった精神年齢が年相応になってるなこれは。

 

大人の時の記憶が在るから、言葉遣いは子供じゃないけど、これは反応が前世で遊んだ親戚の子供と一緒だ。

 

「ヤなものはヤなの!!そんな事よりお兄ちゃん、その荷物本当に持てるの?」

 

そう言ってほっぺ膨らませて初音が睨んだ先は、ギュウギュウ詰めになった子供用の、お袋特製の登山バッグだった。

 

「これは生地に術式が編み込んであってな、色々便利な機能が沢山詰まってるんだよ、布も特殊な麻布で、下手な合金何かよりも丈夫だぞ。」

 

麻布の材料は、日ノ本政府が開発した、人口の植物魔獣の一種で、強さを上級魔獣レベルまで()()()()()()あり、軍直轄の工場で管理している。

 

魔獣の強さゆえに大量生産出来ず、大半が軍の装備開発に使われているため、市場に出回る量が極端に少ない一品だ。

 

その値段、一反およそ六百万円。

因みにこの世界、日ノ本の物価は前世より高く、貧富の差は桁違いに開いている。

 

一般市民は前世で言う年収六百万、富豪…貴族は年収百億超えの大富豪。

 

ここまで極端に差が開いているのに、この国では金銭関係の表立った抗議活動は起こってない。

 

それも全部、今の天皇(あまのすめらぎ)による実力主義な政策によるものだ。

 

極端なまでに実力を重視し、権力は天皇に一極集中。

普通だったら内乱ものだが、今の天皇による政策により、国が平和なのも事実。

 

しかも、争いを起こそうとすれば直ぐに軍が出動する。

この世界は前世と違い、軍は、平時は全員が警察官相当の権力を持っているのだ、フリーの任意同行許可書付きで。

 

そんな政治をしているせいで、実力のある人間からの信頼は物凄く高い。

 

しかも、庶民もそれまでより比較的良い暮らしが出来ているから、まず天皇を悪く思うやつが少数派という事実。

 

さらにさらに、上手く暗殺が実行出来たとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()という理不尽さ。

 

未だ18なのに菩薩まで進化し、父さんの全力の拳(本気では無い⇐これ重要)を受けても無事でいられる人類は、この国に父さんを除いて母さんと天皇だけだ。

 

そんな人なのでまず暗殺は絶対に成功しない、運良くどこかに封印出来ても()()()()()()()()()()()、まず、内側から封印を解かれて封印の改善点を、次の日にレポートにして犯人宅に直接届けに行く始末。

 

魔法とギフトを封じても()()()()()()()()()()()()から、肉弾戦でまず勝ち目がない。

肉弾戦で上回ったとしても、菩薩だからまず通常の攻撃じゃ傷つかない。

 

もし暗殺を成功させるなら、同じレベルの進化をするか、菩薩レベルの肉体強度をどうにかして手に入れ、()()()()()の使い手から、魔法とギフトを封じ、同じく国内三番手を肉弾戦で上回り、身動きを関節砕いたりして封じてから、天体規模の一撃で倒さなきゃいけない。

 

因みに何で三番手かというと、一番二番は家の両親だからである。

あの二人はお互いの技能をお互いがギフトで()()()()()体に覚えさせてるから、差はギフトの出力や能力だけで技能面では互角なのだ。

 

……………何このバケモノ、イミガワカラナイヨ。

まぁ、あれだ、天皇殺そうとするなら家の両親を説得しなきゃ無理なんだけど、二人とも肩書凄いから(軍の最高元帥と日ノ本の巫女長)、まず普通の方法じゃ、暗殺何て考えてる奴は会えない訳で。

 

老衰を待とうにも種族進化で寿命なんて吹っ飛んでるおまけ付き。

 

毒は進化で、半分霊子生命体になってるから、魔力で構成されたものでは殺し切れず、時間と共に免疫能力で毒素を分解され、霊子で構成されたものは開発されていない、出来たとしても体は魔力でも構成されているから以下略だ。

 

...天皇もバケモノだったよ(遠い目)。

 

「これ凄いよお兄ちゃん!!複雑すぎてアザゼルに聞いたけど、効果が軽く二十以上あって、素材が軍でも使われてるレベルの耐久性。これ一つで軽くお城建っちゃう位凄いよ!」

 

いらぬことまで考えてたら初音が目をキラキラさせながらバックを弄りまわしてた。

 

あーっもう、折角入れた中身が全部出てるじゃん!

 

「何やってんだこら!これから何時間も歩くのに、こんなことして時間潰してたら、花火実験出来ないぞ!」

 

「はーい、すいませんでしたー。」

 

反省の色なし!!?

こ奴め、それならこうだ。

 

「へぇ~、そういう態度取るの?ならこっちにも考えがある。」

 

そう言って俺は初音の日記にあったオリジナルの曲の曲名を声に出した。

 

「『Dear to you』だっけ?日本語訳は愛しいあなt「ごめんなさい反省しました、もう許可なくバック弄りません!出したもの全部戻すから許して!!」…よろしい、それはお袋の形見みたいなもんなんだ。後で帰ってきたときに弄っても良いけど、壊さないでくれよ?特に術式が縫われてる場所はデリケートな所だから気を付けてくれ。」

 

ほれぼれする様な、綺麗な空中土下座をしてくれたので、つい調子に乗って上から目線な口調になってしまった。

 

……ありだな、何時もと立場が逆転してる感じで、新鮮だ、これからも、初音がやらかした時はこの口調でいくか。

 

初音が片付けをしている間、暇だな。

新しく手に入った初音の情報整理するか。

 

まず、初音が鎖を着けていない理由は、アザゼルの自立稼働の出力が鎖で落ちてしまう可能性があるためだ。

 

もし出力が落ちた場合、アザゼルが制御して均衡を保っていた初音の魂が、大国主命の進化によって崩れ、種族進化するらしい。

 

らしいというのは、イヴが言ったことなので確証が無いのと、こんな事をやらかしたのが、初音の父親が初めてらしいので、前例が無くイヴも確証が持てていないためだからだ。

 

イヴが言うには、大国主は初音の魂にぴったり嵌るように造られたギフトで、本来他のギフトに割けるリソースなど無いらしい。

 

それを初音の実の父親がレアギフト、ロキで無理やり割り込みを掛けたせいで、初音が産まれる時点で、初音の魂がギフトの出力に耐えられず、魔力体とのつながりが切れかかっていたと、初音が言った。

アザゼルに聞いたらしい。

 

そんな状態を、初音に入ってきたばかりのアザゼルが危惧し、大国主を制御して、出力を最低レベルまで落とし、自分も制御以外のリソースを全て最低レベルまで落とし、延命措置を図っていたと言う。

 

今、初音が鎖を着けると、最低まで落としたアザゼルの出力がさらに落ち、大国主がアザゼルの制御下から離れてしまう。

 

そうなった場合、初音の身体は、二つのレアスキルに耐えるための強い体を、本能で()()()事になり、初音は種族進化してしまう訳だ。

 

さらに問題なのが、アザゼルによれば何と、大国主命だけでなくアザゼル自身も進化条件を満たしているという。

 

ギフトの進化条件は一つ一つバラバラだが、大国主はイヴによって、他のギフトに使われる事を進化条件に、アザゼルは、初音の父親によって、進化条件を自立稼働連続時間三年にされたらしい。

 

本来、自立稼働は所有者、つまりは初音に許可を取り、一時的に体外で肉体を作り稼働する事らしいが、所有者の魂の危険が迫った場合、許可なしで対策を練り実行できる防衛機能があるとか。

 

これも、何のご都合主義か自立稼働時間に含まれるらしく、初音が未だ出産される前から稼働してたため、勿論アザゼルも条件を満たしてしまっている。

 

本来の自立稼働は、燃費はあまり良いとは言えないらしいので、初音の父親が三年の連続稼働に設定したのも何となく解る。

 

燃費の悪い自立稼働を、三年間連続で稼働するのは、普通の人間には出来ない芸当だから、それを自分の子供が達成したら、ご褒美でも与えたくなるだろう、父親からすれば初音は、未だ産まれてきていない赤ちゃんのままなんだから。

 

でも、そのおそらくの親心の結果、同時に二つのレアギフトが、種族進化を求めるという、ありえない事が初音の身体に起こってしまうという訳だ。

 

このまま進化した場合、仙人になるのか、それとも聖人になるのか(アザゼルは堕()使()ギフト)、如来や半神になる可能性もあるし、全く別の新しい進化をするかもしれない。

 

そもそも進化が上手くいくか不明だ、初音の身体は本能で進化を求めるが、進化に必要なのはその人間が強く、それこそ、魂の底から進化を望んでいる事。

 

現状、初音がどう思っているかは解らない、もし進化が上手くいかなかった場合、不発で現状のままならまだ良いが、中途半端に人から外れるとそれこそ心が耐えられるか解らない。

 

今、解決策をイヴが月詠に問い合わせてるが、何せ相手は神、時間の流れが人とは違う存在だ。

返答はいつ来るか解らない。

 

それこそ、手遅れになってから来るかもしれないし、月詠にも解決は不可能かもしれない。

 

この国で一番進化に詳しい人間は、魔神と亜神にナった父さんと母さんだが、それでも初音がどうなるのかは解らないらしい。

 

あの二人はこの件はギリギリまで、知っていても喋らない、俺に期待してるんだろう、クソッ。

 

初音は今()()()()()()()()()()()、それなのに俺は解決策を()()()()()()()()()()

 

現状の八方塞がりな状況に一周回って乾いた笑みがこぼれる。

何が死ぬほど悔しい、だ。

 

死んでも悔しいままで、何も変わらない。

何が力が欲しいだ、手に入れたのは使いこなせそうにない、部不相応な周りから狙われる口実が増えただけの、爆弾一つと、没個性の俺にふさわしい、現状役立たずなガラクタ一つ。

 

進化しようにも俺には覚悟が足りない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

裏松 雪奈

俺のせいでなりそこない、災害級魔獣ドールになった、俺の師匠。

 

今の俺より強くて、人一倍物事を冷静に視れたあの人が、出来なかった。

 

それだけで俺は戸惑ってる、なる勇気も覚悟もない、持てない、ただの負け犬…いや、戦ってすらいないから、負け犬以下の屑野郎だ。

 

…………………………………………このことについては今日はやめよう、これから出かけるのにこんな気持ちじゃな、初音に心配される。




追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 キャットファイト

今月最後の投稿です。
試験勉強で投稿が遅れました、申し訳ない。



あの後に砲台も俺が持って二時間程休憩を挟んで歩き、鮎川さん達のいる家までたどり着いた。

 

玄関前にある呼び鈴代わりの紐を引っ張る。

 

カランコローンカランコローン

ガチャッ

 

「いらっしゃ~い、二人とも待ってたわよ。さ、上がって上がって!」

 

新庄さんがドアを開けて笑顔で迎えてくれた、見た目高校生の美少女だから、アイドルに会ってる気分だ、勿論顔には出さないが。

 

「お邪魔します新庄さん、今日は肉類を多めに持ってきました。」

 

「由奈ちゃん久しぶり~!!」

 

俺は軽く会釈しただけだけど、初音は新庄さんに結構な勢いで抱き着いた!?

 

しかも下の名前で呼んでるし、何でそんなに仲良いんだよ?

 

あれか、これが若さって奴なのか?

なら俺は老けてるのか?

 

うぅむ、さっぱし解らん。

 

「よう初、久しぶり。」

 

二人のじゃれ合ってる姿見ながら考えてると、近くから声を掛けられた。

 

お、鮎川じゃん。

今日は、またえらくラフな恰好ですな、短パンにノースリーブのシャツですか、眼福眼福。

 

「久しぶり、鮎川。男連中は何処に?」

 

取り敢えず、こんな可愛い子と一つ屋根の下に居る男を一発殴りに

 

「あぁ、あいつらなら紫陽花さんが連れて行ったよ、戦い方教えるから二、三日は戻さないって。」

 

…………………うわぁ何それ、下手な地獄よりきついぞ、父さんが言ってたから間違いない。

 

紫陽花さんは大魔狼の赤ん坊達の母親で、母さんからはあーちゃんと言われている。

 

最上級魔獣の一匹だ、この狼の何が凄いって、戦闘技術面では家の両親を超えてるんだよ、信じられないけど。

 

父さんと母さんに確認したら、紫陽花さんは、魔力に秀でているはずの大魔狼の中で、何故か魔力より霊力に優れた適性を持つ特殊個体らしい。

 

そのため、魔力を使う術式は得意ではないらしく、母さんと同じかそれより少し上との事。

 

それでも母さんレベルなら十分特級魔獣の範囲何だが、国の法律で魔力量が魔獣の強さの基準らしく、紫陽花は上級魔獣の平均レベルの魔力しか持っていなかったので、技術を加味しても最上級らしい。

 

それでもドラゴンと同じ魔力量何だから、人よりは何十倍も多く持っているけど。

 

因みに母さんは特級魔獣の平均値の五倍だそうだ、やっぱり家の親は人間じゃないよね、ここまでくると、もはやホラー通りこして喜劇だよ。

 

で、その紫陽花さんはこの国の前身となった耶魔大国が出来る前、未だ日ノ本に国と言う概念が無かった時代の生まれで、齢三千を優に超える、時代の生き証人。

 

夫の夜鷹さんも同い年で、この人(?)は、製作や調理など、家事や家事の延長のことは大体できる人だ。

 

二人の子供は千匹を優に超え、中には特級に至っている個体もちらほらと、そんなもの凄い魔獣が、何で家に住んで居るかというと、十年前に王位を退いた特級魔獣、魔狼王ヴォルフと日ノ本の条約による条件の一つ、ヴォルフの両親の安全確保とお互いの技術提供。

 

これによって、ヴォルフ側から送られて来たのが、紫陽花夫婦で、日ノ本からは父さんの母親、俺の祖母と母さんの父親、初音の祖父が、ヴォルフの元に行き、今もヴォルフの治めていた国(今はヴォルフの息子が王位に就いている)、魔狼国ルプで元気に暮らしているらしい。

 

向こうで国籍まで取ってしまったため、俺達とはもう繋がりがほとんどないんだけどな、未だ会ったこと無いし。

 

両親が言うには、二人とも菩薩までなった自分たちの師匠のような人らしい。

 

こっちに残った祖父母は、二十年前の災害級魔獣エアとの総力戦に参加して殉職したらしい。

 

ヴォルフが王位を退いたのも、その時人類側として参加していたために、エアの攻撃を、部下の十二体の特級魔獣と一緒に一手に引き受け、後遺症が残ってしまったため、未だ若い王子に譲ったと言う話だ。

 

当時、魔狼国は日ノ本と条約を結んでいるが、内容は数名の技術者の交換と、数か月に一度の貿易のみで、繋がりは無いに等しかった。それなのに、王自ら身を挺して日ノ本の兵を守ってくれたばかりでなく、補給物資の提供や、細かい所では、野営の見張りまで王自ら進んでしたという。

 

その高潔な精神に、この国の人間は感激し、ヴォルフとその部下が負傷した際、当時の天皇は自身も如来だったためか、戦場で護衛は要らぬと部下を一喝し、自身の護衛を全員ヴォルフ救出に当たらせ、自身は治療のために戦場で鎧を脱ぎ捨て、白衣に着替えてヴォルフを看病していたという。

 

その美譚?は戦後も本になり唄になり劇になり、戦後復旧の資金源になっていたほどらしい。

 

劇は今でも大人気で、どこの劇団でも演目に入るほどの王道の劇になっている、因みにジャンルは恋愛ものだ。

 

今、前天皇と前国王ヴォルフはモンゴルに造ってある別宅(大使館)で仲睦まじく暮らしているらしい。

 

晴れて自由の身になった二人は、大使館を拠点に二人でモンゴル各地を旅行しているらしかったが…………何と「おめでた」らしく、今天皇家の血筋の管理をしている宮内庁と、魔狼国の王室ですんごく揉めてるらしい、昨日紫陽花さんから聞いた。

 

父さんと母さんが、軽くパニック起こす位には大事らしい、なんだかんだ言ってあの二人も、価値観の根本は年相応みたいだ、何か安心した。

 

因みに今朝、父さんが天皇に報告した時の話をしてくれたんだが、()()天皇が飲んでたお茶を噴出したらしい。

 

これは大事件である、どれくらいかって言うと「サザエさん」が、名前が変わって異能バトルハーレム系に、路線変更する位ヤバイ。

 

個人的に、国の頂点がそんな性格とか、悪夢以外のなにものでも無いんだけど。

一番の驚きは、魔獣と人が子供をつくれた事何だよな、異種族で子供つくれるって、色々間違ってる気がするんだよ、色々と。

 

「あいつら、帰ってくる頃には全員ストレスで白髪になってるんじゃないか?」

 

そんな事考えながら、俺が男連中の心配をすると、鮎川がちょっと黒い笑みを浮かべた。

 

「いや、性格が別人みたいになってるんじゃないか?」

 

仲間思いの鮎川が、仲間に対して黒い笑みを浮かべるとは……まさかあいつら、何かやらかしたのかな?

 

あいつらどうなろうと別に構わんが、家は壊さないでくれよ?

 

まぁ、こんな感じで、紫陽花さんの修行に対する評判は散々だが、その効果は高く、赤ん坊達はもう、人化の魔法を使えるようになり、今は夜鷹さんに人の常識を教えてもらってるところだ。

 

俺も一度、紫陽花さんの修行を受けようとしたが、父さんに止められた。

 

父さん曰く「初にはまだ早い。」とのこと、あいつらが受けてることから考えるに、体がまだ成長しきってないから受けられないのかな?

 

まぁ、いいか、それより荷物の受け渡しだ、新庄さんはもう初音と一緒にリビングに行ったみたいだし、俺たちも移動するか。

 

「新庄さん達行っちゃったし、俺達もリビングに行こう。」

 

「分かったよ、ほら。」

 

そう言って、鮎川が手を差し出して来た。

 

何だ、手を繋ぎたいのか?

残念だが、手を繋いだら、俺が初音にヤられる可能性が

 

「荷物、持ってやるよ、ここまで長かったろ?」

 

あ、はい。

 

何だか期待した俺が馬鹿みたいだな、反省反省。

 

「これぐらい平気だよ、預けたら修行にならないだろ?」

 

そう言って荷物を預けるのは断っておく。

 

バックの中には、花火実験用の手作りの器具と、材料が入ってるから、中身はあんまり人に見られたくないんだよ。

 

結構危険物がごちゃ混ぜになってるから、暴発でもしたら軽く命の危険何だけど、お袋のバックだし、そんな事は無いからなぁ。

 

一応危ないから、俺以外には渡さないようにしないと、まぁ鮎川は仙人だから人より頑丈なんだが、預けたら、何か負けた気分だ、うん。

 

何か鮎川がにやにやしてこっちを見てる、何故だ?

 

「そっかそっか、なら頑張れよ、男の子だもんな?」

 

………あっこいつ、まさか俺が鮎川の事を気遣ったとでも思ってるのか?

 

あながち間違ってないけど、黙ってたら言い負かされた気分になるし、無視するのが一番なんだけど、それじゃ黙ってたのと一緒だし。

 

くそっ予想以上に面倒だなぁ、こいつ、前世で男だった癖に、仕草はもう女子だし、考え方も引っ張られてないか?

 

何か姉貴面されるとムカつく。

 

こういう輩は、黙っているのがダメで、下手なこと言おうものなら、照れ隠しだ言い訳だと、勝手に脳内変換するから、こういう時は。

 

「うん、頑張るよ、か弱い女の子に、重いものは、持たせられないからな。」

 

笑顔で肯定だ、さりげなく、嫌味も入れられたらベスト。

 

おっ効果抜群、鮎川の顔が固まった。

 

「どうした鮎川、先に行ってるぞ?」

 

固まってから動かなくなった鮎川に声を掛けて、先にリビングに行くことにする。

 

多分、言い返そうとして言葉に詰まってるんだろ。

この位の年の女の子って、口では気遣われるのが嫌いな癖に、気遣わないと文句言う感じだからな。

 

前世の、親戚の女の子がそうだった………あの子ももう大学生なんだよなぁ、最後にあってから体感で十年、こっちの五年がむこうでの何年かは解らないけど、元気にやってればいいけどなぁ。

 

まぁ、鮎川の心情は親戚の女の子を参考にするなら、年下に気遣われてムカつく半面、女の子扱いされてうれしいって感じか。

 

この家に来てから、新庄さんに、そこら辺を教育されてるらしいし。

 

未だ口調は男っぽいけど、それも次第に治ってくだろ、これからは益々女の子になっていくに違いない。

 

そんな事考えながらリビングに行くと、新庄さん高橋さん多嘉山さんの三人組と、初音が談笑しているのが開けっ放しのリビングのドアから見えた。

 

「高橋さん、多嘉山さん、お久ぶりです。食料は何処に持っていけば良いですか?」

 

「ああ、それならウチも手伝うよ、地下の氷室に入れるから、こっち来て。」

 

そう言って談笑してた高橋さんが立ち上がって、地下の氷室まで案内してくれた。

 

氷室で高橋さんに手伝ってもらいながら食料をしまっていると、高橋さんが話しかけてきた。

 

「初君。」

 

「何ですか?高橋さん。」

 

「ウチらさ……外に戻れるんだよね?」

 

「高橋さん達四人は、外では死んだ扱いになっていません。前に説明した通り、人魔戦争が終わったら自由に暮らしていいですけど、それまではこの国でも安全ではありませんから。」

 

申しわけないけど、これから何が起こるかも解らないし、審判役のイヴの駒となった俺と神主の周りの人間ってだけで、人類側魔獣側どちらからも狙われる要因になるんだ、どちらにも関わりがある三人は危険だから、この家に来てもらってる訳で。

 

この家は皇居並に安全な場所だから、外に出なければ安全何だけど、神主の方は違うからな、心配なんだろう。

 

そんなこと考えていると、高橋さんが泣きそうな顔でこちらを見てきた。

 

「戦争っていつ終わるんだ?期限何て無いんだろ!?」

 

高橋さんは今にも泣きだしそうだ。

まぁ、状況は辛いからな、高橋さんにとって。

 

いきなり、スケールの大きい話題の登場人物に巻き込まれて、あれよあれよという間に、知らない空間で暮らすことになり、自分の友達を襲った人間と一緒に暮らして、そんな生活がいつ終わるかも解らない。

 

初音が言うにはまだ十八歳、前世で言う高校生。

こちらでは成人とは言え、まだ子供と言って良い年の女の子には、ちょっと刺激がきつ過ぎる。

 

「それは心配ないですよ、イヴが言うには今回、人類側が有利らしいので、大丈夫直ぐ終わります。安心してください。」

 

そう言って落ち着かせる。

高橋さんはまだ納得いってなさそうだが、この場は言及するのは止めてくれるらしい。

 

後は、新庄さん辺りが落ち着かせてくれるだろう。

その後落ち着いた高橋さんと一緒に、食料を氷室に仕舞い、一階のリビングに上がると、何やら初音と鮎川が険悪な雰囲気になってた。

 

「あなた、お兄ちゃんの事何も知らないくせに、お兄ちゃんの事弱いって、何様のつもり?」

 

ア、アカン、初音がヤバイ怒り方してる!!?

 

「お前こそ、年上に対して礼儀がなってないぞ?それに私より弱いのは事実だろう?」

 

む、確かに俺は種族進化してないから分が悪いとはいえ、五分五分だと思うぞ。

 

鮎川のギフトは、戦闘に極ぶりじゃないし。

 

というかヤバイ、この二人が本気で喧嘩したら、ここら一帯吹っ飛ぶぞ!!

 

「待て!二人とも喧嘩するなら裏山でしろ!ここでやったら被害が凄い。」

 

初音はこうなると止まらない、しょうがないから被害が少ない裏山に案内することにした。

 

二人は、裏山に移動する時も、仲が悪そうに言い合いをして、一触即発の雰囲気を出していた。

 

新庄さん達は、喧嘩するほど何とやらって言って笑ってるし、俺は今すぐにでも頭抱えて叫びたい気分だよ。

 

本当、どうしてこうなった。

山頂にある広場に着いて、俺が二人からある程度距離を置いた時、初音が喋り出した。

 

「歩、私手加減しないから。」

 

そう言って初音は笑った、すんごい口を開けて声を出さずに白い歯を見せつけるようにして。

 

………何か家の妹武闘派になってない?

いや、思い返せば前世から、そういう気質は見え隠れしてたんだけど、初音、どうやってこの喧嘩勝つつもり何だ?

 

「前今、私を呼ぶときは苗字でさん付けだ、教育してやる。」

 

何か鮎川も良い感じに怒ってるし、何なんだよ、全然ついて行けないぞ、俺。

 

そんな俺の気持ちをよそに、遂に二人は戦闘を始めた。

……………いつになったら花火の実験が出来るんだろうか。

 

今日は無理だよなぁ、二人の説教に時間が掛かる。

明らかに、喧嘩の域を超えてる攻防を繰り広げてる二人を見て、そっとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 




追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 みんなでごはん!!

投稿遅れてしまい、大変申し訳ございませんm(__)m
私情によって執筆時間が全くなく、三月は投稿出来ませんでしたが、その分四月五月はいつもよりも投稿回数を一回増やす予定です。


「大変だったねぇ、初。」

 

「本当にね、まさか俺が鮎川より強いかどうかが喧嘩の原因だったなんて、はぁ。」

 

父さんと一緒に、夕飯を作る準備をしてると、さっきの話題になり、同情された。

 

結局あの後、初音と鮎川は一時間にも及ぶ喧嘩の後、初音が半泣きになった所で母さんに俺が連絡、今は女性陣全員で、俺達の家のお風呂に入ってる所だ。

 

俺と父さんは先に入って夕ご飯の準備をしてる。

 

「まさか、鎖の非常連絡機能を、こんな使い方するとは思わなかったよ、はぁ。」

 

そう言って父さんも溜め息を吐いた。

俺もこんな使い方するなんて驚きだよ。

 

母さんなんて仕事そっちのけで、直ぐに転移してきてくれたからね。

 

二人の喧嘩なんて、俺や新庄さん達には停められないし。

紫陽花さんを呼ぼうにも、今は修行で家には居ないからなぁ。

 

多分、国外のどこかに転移してるんだろう、列島からは出てないと思うけど、分かんないなぁ。

 

それと、事情を話して二人を見た母さんの怒りっぷりは、凄かった。

 

一番怒ってた所が、服を汚してた所なのがアレだが。

そんなこんなで夕方まで、二人に説教して仲直りするまで、母さんは見守ってたらしい。

 

その時、俺は風呂に入ってたから解らん。

最終的に仕事場に連絡を入れて強引に今日の仕事を引き揚げた母さんは、今はすっかり仲直りした二人を含めた女性陣で、お風呂に入ってる所だ。

 

…………これ、巫女長だから出来る事だよな、頂点の人間じゃなきゃ、組織がもたん。

二人ともやっぱり元は仲良しだったみたいで、仲直りは直ぐにしたらしい。

 

やっぱり子供って凄いな、大人じゃこうはいかないだろうからな。

変に意地張って関係が拗れるか悪化するか、下手したら絶交もあり得るし。

 

まぁ、子供はよく喧嘩するんだけど、俺?

俺はする相手と言うのが居ないからね……ボッチとか、友達がいないとか、そんな訳じゃないんだぞ、本当だからな!?

 

……まぁ何はともあれ、嵐が過ぎ去って一安心だ。

今思い返すと軽く命の危機だったんだよな、レアギフト持ち同士の喧嘩なんだし、俺は鎖でギフト使えないし。

 

………ブルッ、今更ながら、すんごい身体震えてきたぞい。

後で母さんに鎖の外し方聞いとこ。

 

ま、まぁ取り敢えずは、あの二人が仲直り出来たんだから、今日は初音の好物でも作りますか!

 

「父さん、今日はエビチャーハンにしよ、初音の大好きな卵料理尽くしで!」

 

「良いね、じゃあ父さんはかに玉作ろう!」

 

そう言って父さんも張り切って魔力コンロに鍋や焙烙(江戸時代ごろから使われてた、日本版フライパンみたいなの)をのせて、足りない材料を、式紙に買いに行かせた。

 

そうと決まれば、全力で作らなければ。

式紙が走って卵大量に買ってきてくれたから、色々作れそうだ。

 

人数が10人近いから結構な量になるが、約半分は子供だ、思ってたよりは少くて良いだろう。

 

デザートにプリン作るか、カスタードプリンなら簡単に作れるし、いやぁ本当、日ノ本に産まれて良かったわ、調理用の魔力機械の発明が進んでるのなんのって。

 

他の国は中世並なのに、食べ物関係とか、服飾関係は前世並に進んでるからな、この国。

 

本当日本は異世界でも日本だ、特に食べ物関係での日本の力の入れようは凄いからな。

 

普通は毒入りの動植物は食べないからな、誰だよ最初にフグとか、アナゴとか食べようとしたやつ、頭おかしいだろ。

 

今使ってる卵だって、生は日本と外国では認識に致命的なまでに齟齬が在るんだよなぁ。

 

映画でロッ◯ーが強くなるために、トレーニング中に生卵を食べるシーンあったけど、あれを初めて見た外国人は「卵を生!?死んじまうぞ!!」で日本人は「せめてご飯と醤油が欲しい」らしいからな、T◯it◯erの受け売りだけど。

 

それに、そのまま食ったら毒入りのフグとかの食材の解毒方法を調べるために、一体何人死んだんだろうなぁ。

本当日本は食べ物関係だけは常軌を逸している。

 

まぁ、パンダの糞のお茶とか、ゴキブリ料理とか、外国もおかしい国は色々あるけどな。

 

おっと、考え事してる間にチャーハンは完成したけど、父さんのかに玉は未だ掛かりそうだな、プリン先に作ってるか。

 

「父さん、卵後どれくらいいる?」

 

「こっちは使うのはもう全部避けてあるから、残りは使って良いよ。」

 

「ありがと。」

 

おっ結構減ってるけど、これならアイスも作れるな、簡単な卵アイスになるけど、途中までレシピ一緒だし。

 

「じゃあ、俺デザート作るから、おかずは父さんお願い。」

 

プリンにアイスときたら果物盛ってホイップクリーム付けたら立派なプリン・ア・ラ・モードの完成だ。

 

そう言えば父さん、あんなにあった卵何に使うんだ?

全部かに玉何て事はしないだろうけど。

 

「よっと、これでゴーヤチャンプルー完成。次は卵スープ作るか、時間ないしだしは魚介系で、後は唐揚げもいけるかな?」

 

何か凄い勢いで卵料理を量産してるんだけど、何あれ、いくら台所が料理店並みに広いとはいえ、一人で魔力コンロ何台も使うとか、うちの父さんは予想以上に料理好きらしい。

 

未だお袋が生きてた頃に、前世を懐かしんで、お袋に頼んで前世の料理作ってもらってた影響で、父さんも料理好きになっちゃったからな、お袋が死ぬまでは本当に俺は我儘なガキだったから。

 

父さんの仕事が休みの日は、三人でよく夕飯作ってたっけ。

父さんの作ってる姿を見てるだけで、お腹いっぱいになりそうだな、色んな意味で、うっぷ。

 

取り敢えず、自分の料理に専念しよう、と言っても混ぜるだけなんだけど。

 

その後も男二人で、女性陣がお風呂から出てくるまでずっと料理作ってた。

 

プリンの焼き加減を確認してる時に、後ろからいきなり抱き着かれた。

 

「お兄ちゃん、上がったよ~。」

 

我らが天使のいたずらである。

あぁぁ、背中の感触が天国なんじゃ~。

 

「ん、初音か、知らせてくれてありがとな、今ご飯運ぶから、皆に食堂に来るように言ってきてくれ。」

 

「はぁ~い。」

 

「父さん、チャーハンは盛り付け終わってるから、他の料理と一緒に運んでくれない、量が多くて俺じゃ無理。」

 

「じゃあ、初は飲み物頼むよ、麦茶が冷蔵室にあるから、作り溜めした料理を運んだ後に持ってきて。」

 

「分かった。」

 

冷蔵室とは、名前の通り冷蔵庫がそのまま部屋になったようなものであり、母さんの魔法によって作られたものの1つである。

 

普通は、前世のようなタイプの、魔力式の冷蔵庫が普及しているのだが、家のは母さんが魔力にものをいわせて作った超大型で、高さ3メートル縦横15メートルの巨大冷蔵庫が台所の地下に、直通の階段付きであるのだ。

更には、当然のように冷凍室もある。

 

此方も、母さんが魔力にものをいわせて作った、オーバーテクノロジーな感じのものなんだが、驚くなかれ、冷凍室の温度は何と-77℃、吐いた息が空気中で氷る意味不明な温度だ。

 

お陰で中に入るには専用の服を着なければ行けず、中の広さは高さ20メートル、縦横150メートルの超巨大冷凍室。

 

例えるなら、中でサッカー出来る位の大きさと言えば解るだろうか?勿論ベンチ付きで。

 

母さんは一体、何を冷凍する為にこんなに巨大な冷凍室を作ったのだろうか、こんなに巨大なもの何て、そうそう無いだろうに。

 

それにしても父さん、料理作り過ぎ、もう五往復位したんだけど、未だ半分しか運べてないじゃん。

 

その後も、せっせと卵料理を運び、麦茶を食堂まで運べたのは料理を運び始めてから10分後の事だった。

 

「あ、お兄ちゃん早く、料理冷めちゃうよ?」

 

食堂に着いたら初音が急かしてくる、鮎川も初音の隣で笑ってるし、傍から見たら完全に姉妹だな、鮎川の隣に居る母さんも年の離れた姉にしか見えないし、ファンタジー万歳。

 

他の人は俺が麦茶運んでるの見て微笑ましそうに見てるし、この世界だと俺位の歳から店で働いてる奴もいるらしいから、これが普通なんだろう。

 

その後皆に麦茶を配って、空いていた初音の隣の席に座ると、父さんが開始の音頭をとってくれ、皆で食べ始める。

 

「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」

 

その後、俺達男性陣の料理の腕前に何名かが悔しがったり、若干二名が自慢げにしてたりと、楽しい食事会が終わり、デザートを食べ終わって片付けを式紙に任せ談笑してた時、初音が爆弾を投下した。

 

「む~ちゃん、今日は一緒に寝よ?」

 

いつの間にそんなに仲良くなったんだよ、あだ名で呼ぶって、つーかあだ名が個性的すぎる、そこは母親に似たのね。

 

「む~ちゃん言うな、それに勝手に決めちゃダメだろ?」

 

鮎川もこのあだ名は嫌らしく苦笑いしてる。

 

一応注意してるが、それでも保護者組に期待の目を向けてるから、一緒に寝るのには賛成らしい。

 

大人組も話がしたいらしく、母さんが微笑みながら了承する。

 

「そうね、今日は皆この家に泊まるのが良いんじゃない?寝間着とかは来客用のがあるし。」

 

そんな感じで大人組は本人たちの意見もあり、来客用のちょっと大きめの部屋に、俺達は子供部屋に別れた。

 

大人組が案内された部屋は三人で使うにはちょっと広いし、多分母さんが一緒に寝るんじゃないかな?

 

父さんは今日は夜勤で、天皇の寝殿のある皇居の警護だし、何か夜襲訓練するって言ってたけど、一体誰の訓練なんだか。

 

そんなわけで、子供組は子供部屋のリビングで布団を三つ並べて雑魚寝だ。

 

並びは左に俺真ん中に初音右に鮎川の順番。

と言っても直ぐに寝る訳ではなく、お互いの事の情報交換をした。

 

鮎川は前にも聞いたが俺らとは違う世界の元貴族の奴隷で、前世は男だったと言うてんこ盛りで濃い人生を送ってたそうだ。

 

今世でも産まれて直ぐに母親が病で倒れ、父親は治療費を稼ぐために仕事量を増やし、鮎川は家に居る住み込みの侍女に育てられたらしい。

 

しかしこの鮎川のお父さん、元々准尉だったのに奥さんが倒れてからは鬼気迫る勢いで仕事にのめりこみ、一年前に将官になったワーカーホリックとのこと。

 

海軍所属で、元々何日か家を空けることはあったらしいが、倒れてからは帰ってくることが珍しいレベル。

そんな訳で鮎川は病気の母親を見て育ったわけだ。

 

問題の鮎川の母親の病気は、病名『突発性ギフト欠陥症』という病気で、それまで普通に使えていたギフトが、ある日突然暴走すると言う物。

 

病気を発症する原因は不明で、治す方法も今のところ発見されて無く、暴走する頻度は日に日に高まると言う難病だ。

 

エリクサーは服用した人間の体組織を、一度分子レベルで分解、その後最良の状態で復元と言う荒業過ぎるやり方で、病気を治す薬だ。

 

この薬なら鮎川の母親の病気も直せるらしい、多分魔力体と肉体の関係性に問題があるんだろう。

 

母さんの鎖もいけるんじゃないかと思ったが、あれはギフトを発動できないレベルまで出力を落とすものであって、暴走できなくするものじゃない、と言う事で無理だ。

 

だがエリクサーを創れるのは、イヴやアダムと言った本当に別次元の神のみ。

 

これを創る事を商売にしてる神も居るらしいが、一度に出回る量が極端な迄に少ないこともあり、軍の将官と言えど、手に入れる事は至難の技。

 

その為今は、国営の病院の隔離病棟に入院してる状態らしい。

 

そんな時にアダムから『母親を助けたければ我に従え』みたいなこと言われれば、そりゃ何だってするだろう。

 

そんなこんなで、アダムの手となり足となり、色んな事をやらされ、まだ子供なのに仙人に至る迄になり、途中で見付けたあの五人を仲間にして、最後は神社を襲う迄になったと言う訳だ。

 

同情しか湧かない位の、不憫な人生を歩んでるなぁ。

しかも父親は、鮎川がこんなことしてたなんて、知らなかったみたいで、まぁ、知ってたら止めるだろうけど。

 

父さんが鮎川の父親を呼び出して話を聴くと、何と鮎川が何かをしてたのすら把握出来ていなかった様で、鮎川が仙人になってる事すら初耳だったそうだ。

 

それを聴いた父さんは鮎川の父親のネグレクトに激怒してしまい。

 

父さんは鮎川の父親を一発ぶん殴って、鮎川を家で一時的に引き取る事を無理矢理納得させたらしい。

 

他の男五人も、軍関係の三人を呼び出し、子供が神社襲撃の罪を負った事と、内密に死刑にならないよう処理するからと、家に匿わせる事を納得させた。

 

この話は鮎川は初耳らしく、安堵の溜め息を吐いていた。

 

父さんから、俺から言うように言われてたから、当たり前だけど。

 

父さん、初対面の時に鮎川泣かせたことを、未だ気にしているらしく、あまり鮎川に関わろうとしていないんだよな、本人は気にしてないのに。

 

まぁ、一番の問題はあのピカピカの実の能力の男だ。

あいつは前今と犬猿の仲の藤原の直系、話し合いは揉めに揉めて、話し合いに立ち会ってた天皇が止めなければ、そのまま殺しに発展してたかもしれない位だったらしい。

 

この話は母さんから聞いたが、母さんはその話し合いに、巫女長の立場で天皇の隣にいて、話を聴いていたようだ。

 

本人は「あの時のりゅう君怖かったな~。」とのこと。

 

どうでもいいが、母さんは父さんの呼び方がコロコロ変わるのは、どうしてなのだろうか結構な謎だ。

 

とまぁ、そんな揉め事が起こったけど、何とか家に匿うことは出来たと言うか、そこで一つ問題が出てしまった。

 

何とピカピカ野郎、藤原の当主から絶縁を言い渡されたらしく、行くところが無くなったしまったらしい。

 

今は家に居候扱いで居るが、戦争が終わるまでの期限つきなので、今は軍に入るべく修行とこの世界の知識を学んでいる所だ。

 

ここまでが俺と鮎川の出した情報、ここからが初音の出す情報だ。

 

初音は俺が修行してる間、母さんの職場に付いていくことがあるんだけど、そこで聞いた噂が、俺らに関わっている。

 

曰く、いたずら者(プレインク)が攫われている。

いたずら者が夜歩いていた時に襲われた。

 

等のいたずら者が被害に遭うものから、いたずら者が神社を襲撃した。

 

いたずら者が反政府組織を創っている、等の色々いたずら者が加害者の噂も結構流れていて、実際被害に遭った人がいるらしい。

 

小さな子供も被害に遭ったケースがあるらしく、俺達も外に出る時はバレないよう、気を付けなければいけなくなった。

 

まぁ、俺達三人で一番気をつけなきゃダメなのは、修行とか言って、森とかに放り出される俺な訳なんだけど。

鮎川だって、母親のお見舞いに行きたいだろうし、話し合いの結果、子供一人で家の外に出るのは止める事になった。

 

成人したいたずら者が倒されるレベルって、結構な手練れが、複数人って可能性もあるからな、用心に越したことはないだろ。

居候の、成人間近の馬鹿五人衆思い出すと、弱そうに見えるけど、成人の戦闘系のギフト持ち、それもいたずら者は滅茶苦茶強いらしいからな。

 




十日までにもう一話上げる予定です。

追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 叔父さん登場

十日迄に投稿出来ました、ハイ。



情報交換の後、俺達は眠気に負けて直ぐに眠った。

個人的な感想だが、子供の方が眠気が強い気がする。

 

大人と違い眠気に慣れていないと言うのもあるが、子供の方が寝ている時にすることが多いから、体の睡眠に対する欲求が強いんだろう。

 

三人で朝まで何の問題もなく寝た。

俺が起きたのは10時位、鮎川はもう起きてたようだ、鮎川の布団は畳まれてる。

 

隣の初音はまだ寝てる、可愛い寝顔だ、こやつめ、うりうり。

 

「うぅ~ん、お兄ちゃん、あうぅ~。」

 

寝返りうって初音は顔を背けた、やっぱかわいいのぉ。

 

「ん?初起きてたのか。」

 

初音を弄ってると後ろから声を掛けられた。

振り返ると体から湯気出して髪の毛乾かしてる鮎川が居た。

 

紫ジャージとか、お前やっぱ女のセンスじゃねえよ、干物か何かか。

 

というかセンスにも驚きだけど、サイズが合うジャージがあることに驚きだわ、この世界やっぱ凄いわ。

 

「今起きたとこ、母さんたちは?」

 

「それがな、朝早くに弟が、特級魔獣に遭遇したって言って。面白そうな顔して寝起きの旦那引っ張って、転移したんだけど。初は何か知ってるか?」

 

「兄弟が居たこと自体初耳だよ。」

 

それにしても父さん、また巻き込まれたのか。

 

初音なら何か知ってるか?

あ、そうだ。

 

「新庄さん達は?」

 

「三人なら朝初音の母さんとご飯食べた後、家に戻ってったよ。やらなきゃいけないことがあるって言ってた。私は今日は自由に行動して良いんだと。何か女性陣営が昨日話し合った結果。子供はどっちの家でも自由に過ごして良い、そっちの方が教育に良いからって話だったらしいぞ。」

 

確かに、俺も初音も同年代の友達居ないし、毎日修行か親の職場に付いていくだけじゃな、身近に少し年上の子供が居るんだから、居ない間は子供同士仲よく遊んでくれって事ね、了解。

 

「了解、鮎川は朝ごはんもう食べた?」

 

「ん?未だだけど、初音はまだ起きてないだろ?」

 

「もう起きてるよ、ほら、寝たふりして聞き耳立ててるんじゃない。」

 

そう言って初音の脇腹をくすぐる。

 

「おわ!?!?っちょっまっらめへっおにいひゃ、あ、らめっ」

 

楽しくなってきた、他の場所もくすぐろ、足の裏とか、首筋に息吹いたり、初音が大げさにリアクションしてくれるから、メッチャ愉しいわ。

 

初音が呂律が回らなくなってきたところで、流石にくすぐるのをやめておく。

 

やけに声がデカかったけど、涙目で睨む初音可愛い、いやぁこんな可愛い義理の妹がいるなんて、俺は本当に幸せ者だなぁ。

 

「ハァハァ……おにいちゃんのいぢわる!!わたひがくすぐられるのっにがてらってしってて!!」

 

ハッハッハ未だ息が上がってるのに顔真っ赤にして叫んで、可愛いなぁ本当。

 

怒りつつも、構わずじゃれてくる俺の相手をしてくれる初音に、自分は幸せだと実感する。

 

そんな事やってる、とわざとらしい咳払いが聴こえてきた。

 

「ゴホンッ、初音が起きたなら、皆でご飯食べようか!昨日初音の父さんが沢山作ってたらしいじゃないか、皆で冷蔵室に行こう。」

 

おっと、鮎川が居たのを忘れてた。

 

これは失敬、少し初音の可愛さに我を忘れていまして、お見苦しいところを所を。

 

「ハッハッハ、すまんすまん。初音が可愛くてついな。」

 

「ついで、幼女を弄ぶなよ加虐趣味め。」

 

弄ぶとは酷いことを言う。

 

「俺はただ、初音を愛でたかっただけだ!!(キリッ」

 

おう、頼むから生ゴミ見るような目で見るなや。

鮎川は本当に真面目ちゃんだなぁ。

 

そんなノリじゃ友達増えないぞ?

 

「そんなおっきい声で、恥ずかしいよ、お兄ちゃん。私、お兄ちゃんが言うなら。何されてもガマン、するよ?」

 

おう、初音がボケるんかい…………ボケだよね?

その頬を赤く染めた期待の視線は何!?!?

まさかそんなプレイが好きなのか!?

いつもはつっけんどんな態度なのに、押されると流されちゃうタイプなのか!?

迫ったら断れない系の、ギャルゲとかで真っ先に攻略されるチョロインなのか!?

 

初音の肩に手を乗せて、真剣な顔して言う。

 

「初音。お兄ちゃんな、そう言うエッチィの、駄目だと思う!(大好物です!!)。」

 

あれ?

何で鮎川は、そんな虚無を見るような目で見るんだい?

初音も頭抱えてるし、お兄ちゃん心が痛いよ。

 

おっかしいなぁ、俺ほど考えてる事と、口に出ることがかけ離れてる性格の奴は、居ないと思うんだけど。

 

「お兄ちゃん、心の声駄々漏れ、せめてむ~ちゃんの居ない時に話してよ。」

 

あ、拒否はしないんだ。

何か安心だな、初音に拒否されると俺はもう、ボケに自信を無くして、ツッコミに回るしかないからな。

 

そもそもコントをするな?

逆に考えるんだ、「会話を全てコントにしちゃっても良いさ!!」と。

 

「あの、初君。その、ちょっと、ごめんなさい。街では話し掛けないでくれる?友達と思われたくないの。」

 

「おう、唐突な女言葉でガチ拒絶ヤメェや、ショックで、引きこもるぞ俺。」

 

絶対零度の視線で、距離を取りながら、態々女言葉で拒絶の言葉を出す辺り、本気さが窺えるが、口元がにやけてる辺りで台無しだ。

 

てか、視線は本当に冷たいのに、口元がにやけてるって器用な事すんなぁ、見た目Sっけのある幼女って、何か凄い犯罪臭。

 

折角のボケだけど生憎、ツッコミ役が俺しか出来ないのが残念なところだな。

 

誰かツッコミ役出来る奴が居ないものか、鮎川は素質ありそうだけど。

 

初音?

初音は天然だから、ボケとツッコミは気分で変わるんだよ。

 

まぁ、

 

「そんなことより飯だろ?昨日父さんがハッスルした中に、確かカツ煮があったから、それでカツ丼にするか?簡単だし、洗い物少ないし。」

 

そう言った後、二人の顔を見るが、特に不満は無さそうだ。

 

それに多分

 

「お父さん、昨日の料理の量から見るに、カツだけじゃなくて、色んなのを卵とじでして種類増やしてるだろうし。朝御飯は丼もののバイキングかしら?」

 

俺が考えたこと初音に言われて、思わず思考停止。

初音は本当、俺に対してだけ超能力でもあるのだろうか?

 

今後一生隠し事が出来ないとか、それはそれで辛いものがありますな。

 

それより鮎川が早くご飯食べたくて、そわそわ忙しないくしてるから移動しよう。

 

昨日の晩御飯で味をしめたんだろうな。

鮎川昨日の晩御飯の食べ方から見るに、味濃い物好きなんだろう、後甘味。

 

一番危険なタイプと見た、このタイプは放っておくと、栄養バランスが皆無な食事ばかりとるタイプだ、ソースは俺。

 

「じゃあ、さっさと着替えて移動しますか。」

 

 

 

 

その後俺がどこで着替えるかで一悶着あったが、何とかお昼までに朝御飯改め昼御飯を食べることができ、皆でミルクセーキ飲みながらこの後の事を話していた。

 

「これから俺と初音は花火の実験に行くんだけど、鮎川も来るか?」

 

「花火って何だ?」

 

鮎川の前世には花火は無かったのか?

 

軽く花火の説明をしつつ、このことは母さんの誕生日にドッキリで使うから、皆には内緒とも言っておく。

 

「花火って言うのが何なのか分かったけど、どこで実験するつもりなんだ?」

 

「昨日初音と鮎川が喧嘩した山の抜こう側に行けばここからでも確認できないからそこでしようかなと。もし鮎川が来てくれるなら外の森に行けるんだけど。」

 

「じゃあ、帰りに寄りたい所あるんだけど、大丈夫か?」

 

あぁ、病院ね、了解。

 

「それぐらいだったら平気じゃないかな。気になることも有るし、先に病院行こうか。」

 

お、鮎川が驚いておる。

 

ハッハッハ、お前がマザコンってのは昨日の情報交換の時に散々聞かされた母親語りで知ってんだよ。

 

「それなら速く移動しましょ?結局昨日も実験出来なかったんだから。」

 

「じゃあ二人は先に準備しててくれ、俺はこれ解除しないと。」

 

そう言って鎖が巻かれてる腕を持ち上げる。

 

何か二人が驚いてるんだけど、解除出来るって言ってなかったっけ?

 

「それって解除できたのか?」

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

でもこれ解除するの方法は簡単なんだけど、滅茶苦茶疲れるんだよな。

 

昨日、大人と子供で別れる前に、母さんに聞いたんだけど、母さん曰く「初君が~、力を使って魔力強化を重ね掛けして、解除の魔法同時発動すれば解除されるわよ~。」らしい、ギフトの出力を極限まで落とされてる状態でそれしろとか、家の親は子供の事を自分基準に考えすぎだ。

 

「外せるけど、ちょっと時間かかるんだ。二人は先に準備しててよ。二人は久し振りに外に出るんだから、オシャレしないと、特に鮎川。」

 

おう、鮎川。

露骨にめんどくさそうな顔すんなよ。

 

「初音。」

 

「任せて!む~ちゃんは素材が良いんだから、オシャレしないなんてとんでもないもん!お兄ちゃんは時間かかるんでしょ?ならこっちも一時間で仕上げて見せるよ!!」

 

「えちょっまて、私はまだ」

 

「いいからいいから、速く行きましょうね~。お兄ちゃん、む~ちゃんの家行ってるから、終わったら来てね。」

 

初音が鮎川のジャージの襟掴んでリビングから出て行った。

 

あれは長くなるだろうな、俺の方を早く終わらせないと、飽きるまで着せ替え人形にするつもりだな。

 

さっさと鎖解除しないとなぁ。

よし、やるか!

 

 

~三十分後~

 

 

「くそ、全っ然解除できる気がしないんだけど。あれか?本当は解除出来ませんって落ちなのか、これ。」

 

力発動までは出来たんだけど、重ね掛けが出来ないわ。

これ無理ぽ、元々出来ないって言われたら納得できちゃうレベルだよ、これ。

 

「どうすっかな~、テューポーン発動しても能力がテューポーン並みになるだけで……これが正解じゃね?」

 

……………駄目だな、テューポーン発動しても出力が一割ない。

これじゃあ、解除は出来ない。

 

「なら、テューポーンと力の同時発動で解除、っと。」

 

くっ、同時発動の難易度馬鹿みたいに高いなおい。

やっぱり簡単にはいかないか、なら!!

 

「出来るまでやってやろうじゃないの!!」

 

 

~二十分後~

 

 

「はぁ、はぁっ…………ざまぁみろっ!俺はやってやったぞ、うおぉぉぉぉ!!!」

 

成し遂げたぜ。

もう、ゴールしても、良いよね?

……はっ!?

 

ヤバイ、疲労と達成感でテンションおかしくなってた、つかやっぱりこれ難易度おかしいでしょ。

 

どう考えてもクリアさせる気のない難易度だからな。

 

てか、今考えると力の重ね掛けの方が簡単だったんじゃ………まぁ、良いか、過ぎたことは気にしちゃダメだ、うん。

 

解除してから言うと、何か見透かされてるみたいで悔しいけど。

 

バトル漫画じゃないんだから、こういうの本当にやめてほしい。

 

俺のギフトは燃費が良いわけでも、ましてや俺の魔力量が桁違いって訳でもないんだから、こんな長時間ギフトを稼働するとか、魔力がもたない。

 

もう体感一割切りそうなんだけど。

ギフトがいくら魔法より効率がバカみたいに良いとしても、こんなんキツイすぎるわ!!

 

そうだ、急いで初音たちの所に行かないと、ぐあぁ。

身体が重い、むう、仕方ない。

 

「式紙!」

 

ゴリラ型の式紙を呼びだして、俺を運ばせる。

人形に近いほど、呼び出す魔力は少なくて良いんだ。

 

何か『怪物狩◯』のラー◯ャンみたいの出てきたけど、背に捕まる力が殆どないんだけど大丈夫なのか?

 

「俺を初音の所まで運んでくれ、頼む。」

 

 

~二時間後~

 

重たい瞼を擦りながら、意識がなかったせいで遅い、亀の歩行速度みたいな思考速度で考える。

 

何か地面が揺れてる?

いや、地面温かいし毛皮みたいなのあるし、何かの背の上か?

あれ、俺いつ寝たんだ?

 

確か皆で出かけることになって、準備するために鎖を外そうとして、思った以上に魔力を消費したから、寝ちゃったんだっけ?

 

「……んんう、ん~む。」

 

「あ、お兄ちゃんが起きた!?」

 

「初、大丈夫か?」

 

大きくあくびをして周りを見ると、俺は自分の式紙の背で寝ており、初音と鮎川が近くを歩いていた。

 

場所を確認すると街中みたいだ。

 

「おはよう二人とも。俺、何時間眠ってた?」

 

「二時間、もうすぐ病院に着くから、式紙を解除してくれ。」

 

「お兄ちゃんの分の荷物も持ってきたから、安心して!」

 

二人とも優しくて、ありがたいですなぁ。

それに朝と違って二人とも滅茶苦茶カワイイじゃないか!!

 

初音はツインテワンピとか言うマニアックな感じのスタイルやな、凄くカワイイが、一番の驚きは。

 

あの鮎川が!

 

ミニスカートとか!!

 

しかも似合ってるし!!!

 

何だこれ、二人して俺を萌え殺そうとしてるのか?

俺の家族と居候がカワイくて俺の理性がヤバイ。

 

二人が可愛すぎて、思考回路が幼児退行しそう。

 

「二時間も寝てたのか、よっと。初音、荷物ありがとな。後鮎川も、教えてくれてありがと。」

 

式紙の背中から降りて、式紙を紙に戻しながら二人に礼を言う。

 

さりげなく二人から視線は外しながら、じゃないと本当に鼻血が出る。

 

このカワイさ、殺人級だよ!!

 

よく見ると街中で遊んでる子供も、二人のこと見てるし。

 

つかおい、何か変な大人も釣れてるんだけど?

 

彼女や奥さんに脇腹抓られてる奴も居るし、あれか?

世界は変わっても、日本はロリコンの国だってか?

 

「ほら、もう見えてきたぞ!」

 

そう言って鮎川が指さした先には、前世で言う病院って印象の建物じゃなく、まるで監獄のような印象の建物だった。

 

俺と初音が呆気に取られてると、突然。

鮎川が走り出した、っておい!?

 

ミニスカで走るな!!

 

「あ、む~ちゃん待ってよ!お兄ちゃん、速く速く!!む~ちゃん走っちゃダメ~!!」

 

そう言って初音も走り出した。

 

くそっ初音もワンピ何だから走っちゃ駄目だろうに!!

ええい、テメェ等見てるんじゃねぇ!!!!

 

「スカートの中見た奴は、分かってんだろうな!!」

 

怒気全開で周りの男に対して警告しながら二人の後を追いかける。

 

こっそりギフトで強化しながら走って、やっと二人に追いつくところで、初音がこけた!?

 

三歳児の身体で全力疾走すればそりゃそうなるわ!!

 

初音も予想して無かったのか驚いてるし、何時もは転びそうになってもアザゼルが何とかすんだけど、街中で発動するのは不味い、3才なのにギフト発動できて、しかもレアギフトってバレたらいたずら者(プレイング)だってバレるかもしれない。

 

くそっ、テューポーン!!

よし、ギリギリ間に合う!

 

「大丈夫か嬢ちゃん?、ってまさか、嬢ちゃんもしかして。」

 

転びかけてる初音の横に急停止で止まって、支えようとした時、俺よりも速く初音を支えた人が居た。

 

「あ、ありがとうございます!って、叔父さん!?」

 

「叔父って、あんた誰だ!?」

 

思いがけない人物の登場に、思わず敬語とか忘れてしもた。

 

「オメェこそ誰だ、年上には敬語使え、クソガキ。」

 

こっちは5才児やねん、キレるの速くないこのオッサン?

言ってることもっともだけど、何かこのオッサンに謝るのはムカつく。

 

「二人とも、何やってんだ?」

 

これが俺と、母さんの弟であり、俺達兄妹の叔父にあたる、天草 贋哉との初の会話だった。

 

 

 

 

 

 




次は4月30日に投稿予定です。

追記2017:4/10友人に、文がキツキツで読み辛いと言われたので、改行して行間開けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 喧嘩勃発!男は女に勝てません

今月最後の更新です。



「ハァァァァ!!?このおっさんが母さんの弟ぉ!?初音、年齢が合わないだろ?」

 

あの後、この老け顔のおっさんと喧嘩になりそうな所を初音と鮎川の二人に止められ、皆で近くにある喫茶店で休憩してるところだ。

 

鮎川の母親の面会が三時からということも有り、皆で喫茶店で休憩してるところだ。

なんでこの自称母さんの弟が居るのか、さっぱし分んないんだけども。

 

つか、見た目だけなら母さんの父親で違和感ないぞ?

このおっさん。

 

「誰がおっさんだクソガキ、俺は今年23のお兄さんだ!!バカな事言ってんじゃねぇ!」

 

カッチ~ン、頭にきた!

 

「誰がクソガキだ!俺には初って名前があるんだよ、おっさん!!」

 

「るっせぇ、テメェ何かはクソガキで十分だろうが!」

 

ブチッこの野郎、何度もクソガキって言いやがって!!?

 

「さっきから聞いてりゃ、クソガキクソガキって、頭に来た!!」

 

「あ!?頭に来たから何だよ、未だ十も生きてないガキが何すんだ!?あぁ!!」

 

「上等だおっさん!喧嘩だ!!表に出ろぉ!!!」

 

俺の事クソガキって呼んで良いのは、俺を産んでくれたお袋だけだ!!

 

…………本当、お袋も見た目と性格がチグハグな人だったな。

 

「良いぜクソガキ、言葉遣いから教育してやる!!」

 

睨み合う俺達をよそに、幼女二人は頭を抱えていた。

 

「どうすんのよこれ、お兄ちゃん怒った時って、昔から手ぇ付けらんない位怒り狂うのよ?家ではお父さんが模擬戦で、気絶するまでお説教するらしいんだけど。」

 

「はぁ、いざとなったら私が止めっから、その間に初音は初音の母さんに連絡だな。ったく、これじゃあ、私たちのこと言えないだろうに。」

 

「全くよ、「はぁ~。」。」

 

喧嘩しようにも、街中じゃ迷惑が掛かるから、近くの森に移動した。

 

幸い、鮎川の母親の居る隔離病棟は、町のハズレにあり、俺達の家もこの森から三十分掛からない距離だ。

 

喧嘩の後でも十分面会には間に合う。

 

「謝るなら今のうちだぞ?クソガキ。」

 

ビキビキ、絶対ぇ許さねぇ、泣いて謝るまでボコってやる。

 

「そっちこそ、歳何だから無理すんなよ?おっさん。」

 

「テメェ、俺は23だって言ってんだろ!?大体姉さんに息子は居なかったろ?再婚したって言ったけど、お前連れ子か?前今元帥にはちっとも似てないが。本当に初音の兄貴か?」

 

………怒りで頭が真っ白になる事ってあるんだな、 もう無理だ、神社で首跳ねた時あったけど、あんなん比じゃない位に今、怒ってる。

 

流石に手加減なんて出来ないぞ?

 

「あ?テメェ今何てった!!俺が初音の兄貴じゃない!?ふざけんのも大概にしろよ!!!」

 

「思った事言っただけだろうが。それにテメェ、さっきから聞いてりゃ舐めた口のききかたしやがって、大人舐めてんじゃねぇぞ!!!」

 

あ、もう無理だわ。

殺す。

 

「オッケー、テメェは全力で殺す、嬲り殺しとかじゃなくて一瞬だ、速く俺の前から消えろ!!」

 

テューポーンと力を重ね掛けして、光速と同じ速度で殴る。

光速を超えると視界が効かなくなる。

目に頼らない戦い方は未だ教わってないから、これ以上は速度を出せない。

 

拳の衝撃波によって、周りの森が地面ごと衝撃で捲れ上がり、クレータになった地面に、俺と、()()()()()()()()()()()()、無傷で立っていた。

 

「テメェ、何だその鎧、めんどくせぇもん着やがって。」

 

「テメェもやるじゃねぇか、クソガキ、あの速さで移動してんのに、何で目が見えんだ?」

 

テューポーンの身体能力舐めんなよ?

 

光速なんて、宇宙を焼く雷撃を放つ神と身体能力だけで戦ってきた化け物だぞ?

 

目視余裕に決まってんだろ。

………………何か、戦闘の時毎回、テューポーンの自慢してる気がする。

 

「んなん、どうでも良いだろ、さっさと死ね。」

 

今度は身体強化の魔法も重ね掛けだ!!

 

速度を上げる目的じゃなく、思考速度の上昇、免疫力の上昇が主だ。

植物が出たなら、毒を警戒しなきゃいけないからな。

 

この状態は、魔力がフルでも30分維持できない、それでも一時的に、身体能力だけなら、戦闘技能持ちの仙人に並べると、自負してる。

 

ただし今の魔力じゃ、3分が限界だ。

だから、その前にこいつを殺す。

 

「っらぁぁぁぁぁ!!!!」

 

全力のラッシュだ、光速のスピードの攻撃に、衝撃波が起こり、周囲を巻き込んでいく。

 

周りはもう、爆心地みたいな様相で、つい数秒前は森なんて、信じられない光景になった。

 

「こなくそぉぉぉぉぉ!!!!」

 

俺の、父さんから習った体さばきから繰り出される、光速攻撃の数々を、おっさんは全て何処からか出した、木製の盾で防ぐ。

 

「初~、そいつ仙人級だ、気をつけろ~。」

 

ふぁ!?

嘘だろ!!

俺、格上に喧嘩売ったのかよ!?

くっそ、言うのおせぇよ鮎川!!

 

「はっ、あの嬢ちゃん、何で俺がどの位なのかが解んだよ?」

 

「俺だって、その能力、今知ったんだよ!!」

 

ちくしょう、あの盾、俺の攻撃食らってびくともしない。

多分、特級クラスの魔獣の素材の武具だ。

 

…………!?

いや、あの盾見えない様にして、大量に文字が掛かれてる!?

しかも、あの楯に使われてる部分、多分幹じゃなくて、枝の部分だ。

となるとあの魔獣は、軍の開発された魔獣!?

 

「おっさん、その盾、綿花か?」

 

この国で入手可能な植物魔獣の素材と言えば、軍が育成してる魔獣しかない。

それを持ってるってことは、軍人か、知り合いに軍関係者が居るってところ。

母さんの弟って事は、父さんと知り合いって事だろ?

なら、持ってても不思議じゃない。

 

お、おっさんの表情が変わった。

装備の情報を得る為に、戦闘しながらおっさんと、会話をする事にした。

 

「お兄さんだ!!でもよく分かったな、クソガキ。だが、分かったからって何か出来るのか?」

 

例え植物魔獣の素材が強力だとしても、巨大な綿花の枝の部分を盾にするとか、頭おかしいんじゃないか?

 

まぁ、攻略法はあるな。

 

力の能力を、脚力に2身体能力に1の割合で振る。

この力は、指定範囲が狭いほど、効率が良くなるんだ。

 

リソースが出た分を、全部身体強化の魔法に注ぎ込んで、無理矢理速度を上げる。

 

「んなもん、馬鹿正直に正面からいくかよ!」

 

後ろに回り込んで回し蹴りを入れる!!

 

「んなもん対策済みだ、大人舐めんな!!」

 

ちっ、背部の装甲が厚い!?

 

もしかしなくても、鎧全部、植物魔獣製かよ!?

成金装備かこの野郎!!

 

なら、関節の部分狙って、な!?

 

「対策済みだって言ってんだろ、おりゃ!!」

 

首に向けて放った蹴りを肩の装甲で無理やり受け止められて、そのまま投げ飛ばされた。

 

「な!?おわっ!!」

 

ギリギリのところで受け身をとって体制を立て直す。

 

「!?!?っがぁっ!!?」

 

おっさんの方を見るともう姿が無く、急いでその場から離れようとするが、後ろからの強烈な衝撃に、数百メートル、木を薙ぎ倒しながら吹っ飛ばされる。

 

「ちょっと強いギフト持ってるからって、いきがりやがって、ギフトの使い方全然なっちゃいねぇな。」

 

衝撃があったところから声がしたと思ったら、俺は空に蹴りあげられてた。

 

「!!?っかはぁっ!?!?」

 

間髪入れずに二発の強烈な衝撃に、脳が耐えきれず、一瞬視界がホワイトアウトする。

 

意識が戻った時には、背中側から声が聞こえて、規格外の魔力に大気が震える。

 

チッ、こうなったら、ギフトを暴走させて、一発だけでも!!

 

「これが正しいギフトの使い方だ。死なねぇから安心しな。」

 

魔力やギフトを全て防御力に回して、次の衝撃に備えた瞬間、後ろから頭を()()()()()()()()()()()()、おっさんの驚く声が聞こえたと思ったら、女性の声が聞こえた。

 

「なっ!?姉さん?!!?」

 

「二人とも、()()()()()()()

 

あ、これ死んだわ。

 

 

 

~1時間後~

 

あれから1時間、俺とおっさんは、女性陣三人にお説教されていた。

 

「まさか、出会ってすぐ喧嘩するなんて、私思わなかったわ。がんちゃんも初君も、次は無いからね。」

 

グフッ母さんの言葉が心に響きますなぁ。

いや、本当、この人は怒らせちゃダメ、今回身に染みて分かったわ。

 

「叔父さんも、お兄ちゃんも、今度喧嘩したら、私とむ~ちゃんで二人に制約掛けるからね!!」

 

そう言って初音がそっぽ向いた。

鮎川も異論ないようで、呆れた目で俺らを見てる。

 

誓約はマジで勘弁してください。

 

流石に二人が本気で掛けると、行動制限どころか感情制限や、思考制限まで掛かる。

それは辛いんで、マジで勘弁してください。

 

おっさんもそう思ってたのか、偶然同じ行動をとってしまった。

 

「「誠に、申し訳ございませんでした!!」」

 

俺とおっさんは声を揃えて土下座する。

声もポーズも完璧に揃ってしまった、何だ、意外と似てるのか俺、このおっさんと?

 

なんだ自分で言ってて、スゲェ釈然としないんだけど。

 

「お兄ちゃん?」

 

「絶対喧嘩しません、はい!!」

 

やっぱ、心読めてるだろ。

 

俺の妹に隠し事が出来なくて辛い。

………ラノベのタイトルかな?

 

あ、そうだ。

 

「母さん、そう言えば父さんは一緒じゃないの?」

 

「あぁ、りゅう君なら病院に行ってるわ。歩ちゃんのお母さんに未だ、説明出来て無いからって。」

 

あぁ、そういうことね。

 

「麗奈さん、私たちも病院行く予定だったんだ。麗奈さんも一緒に来てくれませんか?もしかしたら、母さんの病気、治せるかもしれないから。」

 

ううむ、確かに母さんなら何でもありだけど、治るなら鮎川の父さんが、父さんに頼み込んでるような気がする。

多分、母さんでも直せないんじゃないかな?

 

「ごめんなさい、私でも病気は治せないの、傷は治せるんだけど、貴方のお母さんの病気は、外傷じゃなくて後天的な障害だから、本当に申し訳ないけど、私じゃ力不足だわ。」

 

「そう、ですか。無理言ってごめんなさい。」

 

そう言って鮎川は押し黙った。

状況把握できてないおっさn「お兄ちゃん?」

……………………………叔父さんは、今初音に簡単に質問して、状況把握してるところだ。

 

「そう言えば二人とも、自己紹介ちゃんとしたのかしら?仲直りの印に、改めて自己紹介ね?」

 

思い出したかのように言って、俺と叔父さんの方を向いた母さん。

有無を言わせぬ無言の圧力に負けて、しぶしぶお互いの方を向いて、自己紹介をする。

 

「天草贋哉、今年23の海軍大佐のお兄さんだ。好きなものは姉ちゃんで、嫌いなものはこどゴホンッ!!自己中な人だ、同族嫌悪で嫌いだ。」

 

何だよその自己紹介、まるで意味が解らんぞ。

 

「前今初、今年で5の初音の兄貴だ。好きなものは初音で、嫌いなものは、自分の尺度で決めつける奴、同族嫌悪で嫌いだ。よろしくな叔父さん。」

 

そう言って手を出す。

叔父さんの辺りでこめかみピクピクさせてたけど、握手には全力で応じてくれた。

勿論、俺も全力で応える。

 

「よろしくな、初。」

 

ギチギチ、ビキビキ

ふん、力でフル強化した腕力に付いてくるなんて、筋肉お化けめ、流石職業軍人。

つか、痛いんで離さない?

あ、離したわ、露骨にならないように、出来るだけ自然に手を後ろに回す。

 

..........何か叔父さんも同じことしてんだけど。

はいそこ三人、こっち見てにやけない、初音と母さん何て、腹抱えて笑ってるし、鮎川が反応に困ってるからやめなさい。

 

「あ、あははははは!……プッ駄目っ、ツボ入ったっ、ちょ、まっ、あはははははははは!!」

 

「だッ駄目!無理っ、ヒッ、さっきまで喧嘩してたのが、プフッこんなシンクロするとか、クッ、あははははははは!!」

 

おう、笑い過ぎだぞ初音、母さんも笑いすぎだ、何だこれ?

さっきの説教よりぐさぐさ心に刺さってるんだけど。

 

何かすんごい虚しい気持ちになって、叔父さんの顔をみる。

叔父さんもこっちを虚しい顔で見てた、こっちみんな。

 

そんな事念じたら叔父さんが気まずそうに、二人に声を掛ける。

 

「あ、あぁ~、初音も姉さんも、そろそろ行かないか?義兄さんもいつまでも面会してないだろ。」

 

鮎川が叔父さんをキラキラした目を向けてる。

………どんだけ居づらかったんだよ。

 

そんなこと考えてたら、二人がやっと落ち着いた。

 

「はぁはぁ、二人ともシンクロし過ぎ、私の死因が笑い死になるわ。」

 

「はぁはぁ、けほっこほっ、も、もうダメ、腹筋攣っちゃった。お兄ちゃん、抱っこ。」

 

な、俺、魔力もう一気に四割近く使って、今すんごい倦怠感があるんだけど、歩くだけで精一杯だ。

 

「うへぇ、俺喧嘩で魔力使い過ぎて、今力入らないんだけど。」

 

そう言って俺が、疲れた表情で首を横に振ると、母さんが初音をおんぶしながら言った。

 

「しょうがないわねぇ、私がおんぶするわ、ガンちゃんに任せると、ポカしそうだし。」

 

そう言って、母さんは片手で初音をおんぶして、鮎川と手を繋ぎながら歩いて行った。

 

………男組がナチュラルに無視られてるんだけど、三人ともお喋りしだして、ワイワイしてるし、何これ、疎外感が凄い。

 

「俺、姉さんにだけは信用ねぇな。」

 

そんな事ぼやいて、肩を落として俺の横歩いてる叔父さんの煤けた姿に、無性に同情したくなるのをグッと堪え、俺達は移動した。

 




来月の更新ですが、諸事情があり、活動報告の方に詳細をのせますので、そちらをご覧ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話 入学式

お待たせしました、最新話です。
三話連続投稿です、はい。


四月

 

寒く厳しい冬を越え、暖かくなり、冬眠から動物たちが目覚め、野生が活気付く時期。

 

俺達兄妹は国立日ノ本総合技術学園(こくりつひのもとそうごうぎじゅつがくえん)の、軍教育学部特殊技能教育科の入学式に出ている。

 

この学校、学部ごとに敷地がわかれており、入学式も年間行事も全部別々なのだ。

そして校舎も、特定の地域に密集している訳ではなく、国中に校舎が造られている。

 

生徒は全員寮生活、下は三歳から、上は上限無しで、試験に合格できれば入学出来る。

試験と言っても、二桁の四則演算と、簡単な読み書きが出来れば、入学出来る仕組みだ。

 

学費も、学科試験の成績で上位五十に入れば、簡単な面接をして、人格に問題なしと判断されると、特待生扱いで、全額免除される仕組み。

だが、免除されると言っても上位に入れればの話。

 

実際の学費は、今まで教育に金を掛けていなかった、この国の人間からすれば高かったらしく、予想より数は集まらなかったらしい。

 

確かに、いきなり学校何てものが創られて、今まで地域の大人で教えていた事を国が教えるなんて、直ぐに信用しろという方が難しい。

 

おかげで入ってきたのは、コネを作るために入ってきた商人と富裕層の子供たち等の、学ぶ以外を求めている人達や、何らかの理由で、大人に教えを乞う事が出来ない子供等、訳ありばかりの生徒が集まった。

 

「次は特待生一組 赤羽 隆志(あかばね たかし)。」

 

お、初音のクラスの紹介が始まった。

 

今は、校長からの話とかその他諸々が終わって、体育館で生徒一人一人の名前を読み上げている所だ。

あらかじめ体育館の後ろに、一塊に生徒全員が集められており、読み上げられた生徒は、呼ばれた組の区画に居る教師の所まで行き、寮の鍵と教本を貰い、指定の教室まで行くんだ。

 

今前 初音(いままえ はつね)。」

 

特待生は学科ごとに五十人、俺と初音が入った軍教育学部特殊技能教育科も、五十人の特待生を一組十人の五組編成で、寮も他の生徒とは別になっている。

 

俺と初音はイヴからの指示で、偽名を使って学校に登録してある。

 

御三家で学校に来ているのは、俺達以外にも居るが、四菱の血も引く俺や、色々ギフト性能がヤバイ初音。

 

いたずら者(プレインク)ってだけでも問題が起きそうなのに、血筋まで問題持ってくると、イヴの眷属としても仕事が出来なくなる。

 

そのため、偽名を使えとの事らしい。

 

「次は特待生二組 今前 初(いままえ はじめ)。」

 

呼ばれたので先生の所に向かって!?

 

「神主さん!?何でここに!」

 

イヴ大好きな創世神主の神主が、教員用のジャージ着て、名簿片手に五組の場所に居た。

 

「イヴに言われたんだ、仕方ないだろ。ほれ鍵、後これ、生徒手帳と教科書。教室の場所は生徒手帳に書かれてるから、それを見てくれ。ほら、次来たから行け。」

 

「え?ちょっま!」

 

そのまま神主は俺の言葉を無視して俺の後に呼ばれた生徒と話をしてる。

 

釈然としないけど、行くしかないか、生徒手帳に書かれた地図通りに進む。

 

つか、この生徒手帳分厚くね?

三百頁位あるぞ、もう手帳じゃなくて本だろ。

 

サイズも大判の漫画位の大きさだし、持ち歩きにくいことこの上ない。

 

つか、神主が教師になるなんて聞いてないぞ。

それに、何で俺と初音が別の教室何だよ、おかしいだろ?

 

あぁ、もう、一つに不満が出ると他の事にも不満が爆発する。

考えないようにしないと。

 

そんな事考えながら校舎の廊下を歩いていると、鮎川に会った。

 

鮎川も、最近は大分女らしい口調になってきた。

母親と会える時間が伸びてきたのが、精神安定に繋がって、肉体と霊体の結びつきが強くなった結果だと俺と初音は予想してる。

 

初音も俺も、精神が肉体に引っ張られてるし、信憑性はあるだろう。

 

まぁ、単純に新庄さん達の教育の賜物ってのもあるだろうけど。

 

「あ、初か。何組になった?家だともったいぶって教えてくれ無かったし、いい加減教えてよ。」

 

「私は初音と一緒の一組、新庄さん達もいっしょだよ。」

 

そう言って鮎川は自慢げに胸を張った。

 

「俺はあの五馬鹿と一緒だ、つか特待生教室、身内多過ぎないか?」

 

教室の半分が身内って、それでいいのか国立よ。

 

「あ、あ~、それは仕方ないよ?全員試験に合格して特待生になったんだから。」

 

それはそうだけど。

 

「つか、あの五馬鹿が合格できたのが、驚きなんだけど。」

 

あんな残念な奴らなのに、頭は良いらしい。

まぁ、前世で中学までの計算が出来れば、後は歴史の暗記だけだし、覚えるだけなら、あいつらでも出来るか。

 

「それは、紫陽花さんが張り切ってたし。夜鷹さんも赤ん坊達に教えるついでにって頑張ってたから。」

 

あ、そういう事なのね。

でも、何で初音や鮎川じゃなくて、あの五馬鹿と同じ教室何だよ。

 

「でも、分け方偏り過ぎだろ?」

 

「それこそ私が知る訳ない、抗議はイヴ様か初の両親にしてよ。」

 

「何であの三人が出てくるんだよ。イヴはともかく、父さんと母さんは……まさかね。」

 

あの二人が関わってるとか、考えたくないんだけど。

今は人魔戦争のことで海外に、七大巫女と百鬼夜行から数人連れて、出張してるはずだから、こっちの事は関わってないはず。

 

この世界、特に日ノ本は周りを海に囲まれ、船か飛行魔法で移動するしかないんだけど、魔獣の住処や縄張りばかりの国外に、たった数人で旅するなんて無茶。

それこそ七大巫女や百鬼夜行クラスの猛者じゃないと、あっという間に死んでしまう。

 

「そのまさかをするのが、初の両親じゃないか。まぁ、流石に教室の分け方は不自然だと思うけども。」

 

そう言って鮎川がため息を吐いた。

はは、うちの両親が申し訳ない。

 

「まぁ、俺が抗議したところで変わんないよ。それより、そっちの教室は担任は誰なんだ?」

 

「落ち着いて聞けよ?いいな、絶対驚くなよ?」

 

鮎川が若干苦笑いしながら言った。

 

「イヴ様が変装して教師になってる。」

 

!!?

 

「ぶっ!?まじかよ!!」

 

あいつ何やってんの!?

 

「あ、驚くなって言ったのに、餡蜜一個な。」

 

「何で奢んなきゃいけねぇんだよ、年上何だから、鮎川が奢れし。」

 

「女にたかんな、みっともない。それより、初は誰が担任なんだ?」

 

「俺は男女平等主義だ。担任は解んねぇけど、鍵貰ったのは神主からだったな。」

 

おう、その何言ってんだこいつみたいな顔やめぇや。

 

神主はイヴに言われたからとか言ってたけど、神主としての仕事とか、あるんじゃないのか?

そこらへん部下に丸投げとか、何かうちの両親見てるみたいだ。

 

この世界は上司が鬼畜らしい。

 

「本当に神主なのか?この学校の教師陣、面子おかしくないか?」

 

そう言って鮎川は顔を強張らせる。

殺されかけた相手だし、子供相手に容赦なく尋問するし、鮎川が苦手なのはすんごくわかる。

分かるだけに、神主が担任なのが残念だ、イヴが良かったんだけどなぁ。

 

まぁ、鮎川の話には同意見で、未だ二人だけど、嫌な予感がプンプンする。

こう、知り合いが教師みたいな予感が。

 

「そうなんだよな、まだまだ濃い人が居そうで怖いんだけど。」

 

「まさかな。そんな人ばっかりとか、学校として成り立たなくなりそうだから、流石にないだろ。」

 

そう言って鮎川も力なく笑う。

 

その後も、他愛ない雑談で十数分時間を潰すと、流石に教室に行かなきゃいけない時間になってきた気がするので、鮎川と別れることにする。

 

「じゃ、俺そろそろ教室行かなきゃいけないから。」

 

さっきから、同じ特待生と思わしき生徒が廊下を歩いてるし、そろそろ教室に行かないと、担任が来る。

 

「そうか。じゃ、私も教室戻るわ。」

 

「じゃな。」

 

「おう。」

 

そう言って鮎川と別れる。

 

鮎川と別れて少し廊下を生徒手帳を見ながら歩くと、扉に≪特壱・二≫と書かれた教室に着く。

 

これからこの教室に六年間お世話になる。

そう思うと緊張してきた。

 

深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから、扉を開けた。

 

そう、ここから俺は、新たな友人を見つけ、新たな生活が

 

「あ、初さんじゃないっすか、おはようございます!!」

 

「「「「おはようございます!!」」」」

 

見知った面子しかいなかった。

 

教室の大半がしってる奴とか、何故だ!!

しかも、黒板に書いてある名前見ると、俺ら六人以外は女生徒らしい、教室に華があるのは良いけど、何か嫌な予感。

 

しかし、予想してたとはいえ五馬鹿が頭下げて挨拶してる光景を見て、おもわず苦笑いしてしまう。

 

「おはよう。お前らの他に生徒来てないのか?」

 

見渡して、こいつ等以外に人が居なかったので聞いてみる。

 

「それが、初さん。」

 

五馬鹿の一人、もやしっ子みたいな見た目の冴羽が、口ごもる。

 

 

「何かあったのか?」

 

まさか、何か問題起こしてないだろうな?

そんな目で五人を見ると、見た目ロリの五馬鹿の中で最年長の板橋が、説明してくれた。

 

こいつ、見た目ロリの癖に中々に凶悪なギフト持ってんだよな。

一人称新庄さん達に矯正されてたけど、僕っ娘に見えるから放置してる。

 

「実はですね。四人とも犬神(いぬがみ)(くろがね)の知り合いでして、何か喧嘩別れしてたらしくて、二人の顔見るなり、教室飛び出していったんですよ。僕ら、二人に仲直りするように言ったんですけど。」

 

そこまで言って板橋は件の犬神と鐵に目を向ける。

犬神と鐵は孤児で、国境付近の森で仲間の孤児たちと生活してたらしい。

 

そこを鮎川に拾われたとも聞いた。

因みに、最初初音に気絶させられたのが犬神で、鐵は金髪で色んな武器を射出して攻撃してきた奴だ。

 

最初は皆口が悪かったな、俺の事を親の仇の様に睨んでくるし、正面から喧嘩売ってくることもあれば、不意討ち闇討ち上等で、奇襲してきたときもあった。

 

その度に返り討ちにして、紫陽花さんに引き渡して修行コース。

今では五人で来れば苦戦する位には、強くなってる。

 

皆、並の上級魔獣とも互角以上に戦えるようになったし、藤原や鐵何て、母さんの護森牛こと、シン君とも互角に戦えるようになった。

 

シン君は、母さんの上級魔獣の中でもトップの実力を誇る魔獣で、人型にもなれる魔獣だ。

赤ん坊達全員相手にしても、余裕のあるシン君相手に、互角の戦いが出来るレベルは、軍の中佐並みの強さだと言う。

紫陽花さんの修行の賜物だと言えるだろう。

 

俺?

俺は夜鷹さんや鮎川相手に模擬戦や、五馬鹿相手に集団戦ばっかだから、准将級らしいぞ?

それより上はハッキリ言って、種族進化してる人間じゃないと挑む資格すら貰えないから、、ここら辺が人の限界だと思う。

 

光速駆動したり、空飛べるのが人扱いなら、だけど。

 

まぁ、鐵は犬神と一緒に、居心地悪そう目を逸らしてるけども。

 

「二人とも、そうなのか?」

 

「それは、」

 

「えっと、その、」

 

歯切れの悪い言葉に、板橋の言ったことが本当だと確信する。

思わず溜息を吐いた。

 

「はぁ~。」

 

こいつら学校に行かなくても軍に入るぐらいだったら、余裕なのに、皆が行くって言ったら、俺達にも行かせてくださいって言ってさ。

 

最初は皆軍に行くと思ってたんだけど、『自分達は常識を知らない、礼儀も分からない。戦う力ばかり磨ていた。だから、学ぶ機会を下さい』って五人で言ってきた時は、紫陽花さんや新庄さんが、感涙してしまった位の衝撃だった。

 

人は認めることで成長するって聞いたことあるけど、まさにその通りだと思った瞬間だったな。

 

「喧嘩別れしたのは事実なら、謝ってこい。謝るまで、家の鍵渡さないからな。一人で無理なら、鮎川に頭下げて付き添ってもらえよ?」

 

こいつ等は合鍵持ってないので、俺の持ってる鍵を使って軽い脅しをしとく。

ついでに初音に念話して、女性陣にも話を通しておいた。

 

嘘は魔法使えば分かるし、鍵は女性陣に話したから俺以外に貸してもらうことは無理だ。

国境付近の森は、喧嘩別れしたため、そっちに戻ることも出来ないだろう。

 

これで謝る以外の選択肢は無いわけだ。

二人もそれが分かったらしく、顔を青くして、口を開けてる。

 

あれか、その四人はそんなに怖いのか?

それとも、謝っても許してくれないとか、話を聞かないタイプとか、そういうのか?

 

「は、初さん、お願いです、付き添いしてください!」

 

犬神がそう言ってその場で頭を下げる、放っておくと土下座しそうな勢いだから、慌てて止める。

 

「おいおい、俺より鮎川の方が良いんじゃないか?それに、何で俺なんだ。」

 

「初さん、自分も、付き添いしてください!」

 

俺が犬神に困惑してると、鐵が犬神と同じ様に頭を下げた。

 

一体何なんだよ!?

 

驚いてる俺を余所に、鐵が説明を始める

 

「実は、喧嘩別れしたのは、俺達の姉貴分や妹分でして、鮎川さんが俺達を誘ってくれた時、反対した人達なんです。俺達が当時、皆の中でも弱い方だって事は、知ってたし、それでも頑張った結果が、今のギフトなんです。鮎川さんは俺達の救いの神なんですよ。だけど姉貴達は、俺達を危険な事に巻き込んだ鮎川さんを嫌ってて、ロクに話すらさせて貰えないまま襲い掛かる事も有ったんです。だから、鮎川さんは巻き込めません。けど、俺たちだけじゃあの四人には勝てないんです。絶対に、模擬戦とか実力を見せろとか言ってきて、多分戦うことになるんです。初音さんは無関係なんで、巻き込みたくないんですよ。だから、お願いします!!」

 

途中、つっかえそうになりながらも、最後まで言って俺に頭を下げた鐵に、仕方ないとため息吐いて、覚悟を決める。

 

「はぁ、分かったよ。付き添ってやる。」

 

俺の言葉に驚いて、喜んでる五人がおかしくて、つい苦笑いしてしまった。

 




来月は十五日から投稿になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話 自己紹介

「それで、二人はいつ謝るつもりなんだ?」

 

俺がそう言うと二人は話し込んで、二人してあーでもないこーでもないと、話し合い始めた。

 

他の連中はもう自分の席に着いて、配られた教科書に自分の名前を書き始めてるし。

 

「話し終わったら、言ってくれよ。」

 

そう言って俺も自分の席を探して、教科書の確認と、名前を入れる作業に入る。

 

筆記用具も一緒に配られたので、それで書いていく。

筆記用具は、羽ペンみたいな先が堅いものに、毛質のものの二種類、二本ずつ配られている。

インクは机に備え付けの瓶があった。

 

何かここだけ無駄に時代感じるな。

服も料理も近代なのに、それ以外は中世なちぐはぐな世界、これもいたずら者(プレインク)のせいなんだろう。

魔獣が生態系に組み込まれてることも、関係してるかもしれない。

 

名前書き終わって、学生手帳読みながらそんな事考えていると、教室のドアが開かれて、神主と知らない女性が四人入ってきた。

 

神主はそのまま供託に向かい、女子は空いてる席に座った。

この人達が、鐵や犬神の姉貴分や妹分らしい。

 

皆、前世基準で美少女や美幼女だな、出来るだけ関わらない方向で、教室では俺、大人しくしてた方が良いかな。

 

「諸君、入学おめでとう。俺は担任の一条 京谷(いちじょう きょうや)、これから六年間、この特待生組のギフト制御と実践魔術の授業を担当する。」

 

黒板に字を書いた後、そう自己紹介を始めた神主こと、一条先生。

皆、体育館で一度会っているためか、驚きは少ない。

 

五馬鹿は、一条先生が鮎川に一度勝っているのを、鮎川本人から知らされたからか、緊張しているっぽいが、真面目に授業受けてくれるなら、俺はそれで良いんで、気にしない方向で。

 

この学校の授業科目は、学科ごとに異なるが、ここでは、歴史、総合文章作成、算術、戦闘理論、ギフト制御、実践魔術、大規模魔術、魔術理論、採取・調理、自然調査、人物調査、の十一科目に分かれている。

 

これを四年間かけて基礎を学び、残りの二年を実戦形式で身体に覚えさせる形で、教育していくらしい。

イヴが言ってた。

 

「それでは全員簡単な自己紹介から行こう。最初はそうだな、今前、お前だ。その後は後ろに流れてく感じの順番でな。」

 

!?

 

「あ、はい。」

 

いきなり呼ばれてびっくりしたぞ、ったく、ここは名前順だろ、犬神と板橋が居るのに何で俺が最初なんだよ。

 

あれか、席が一番右上だからなのか?

そこから始まる掟か何かあんのか?

 

「今前 初です。年は来月で六になります。これからよろしく。」

 

突然言われても、思いつかねぇから、取り敢えず立って、名前だけの自己紹介。

 

我ながら、つまらない自己紹介になってしまった、まぁ、これなら無害判定で女子からは気にされることは無いだろう、多分。

 

「あ、言い忘れてたな。ギフトも話せ、どうせこの組の人間には直ぐにバレる。」

 

おうふ、自分の弱点や、隠し玉話せと申すか。

一条先生鬼畜や。

 

「………ギフトはノーマル・リザルトの力です。」

 

そう言って席に着く、先生は何も言わない、俺は嘘は吐いてないし、先生は俺のギフトを知らないと思う。

 

なら、これで大丈夫なはず。

 

そう考えてると、後ろの席に座ってた女の子が、立った。

 

鐵 綾女(くろがね あやめ)です。年は十二で、ギフトはノーマル・リザルトで、魔って言います。後、お兄さまの義妹(あいじん)です。六年間宜しくお願いします。」

 

女の子はメッチャ可愛い笑顔で爆弾発言した後、直ぐに席に座った。

 

女の子の言葉聞いた瞬間、教室の空気が凍った。

 

途端に溢れる殺意の波動。

鐵は妹分に自分の名字を与えて、愛人扱いしてるらしい。

 

しかも愛人って事は正妻が居るわけで、他の五馬鹿連中が殺意の波動に目覚めても仕方ないな、綾女さん、美少女だし。

 

これには一条先生も困り顔、男連中は俺も含めて混乱の最中にある。

 

この中、関係なく立ち上がった女性が一人、俺の隣の席の人だ。

 

犬神 楓(いぬがみ かえで)。年は十五、ギフトはミラクル・エフェクトの延長。拓也(たくや)の妻。」

 

そして何事も無いように座った。

 

またしても爆弾発言。

この教室の女性は、男連中を過労と混乱で困らせたいのか?

 

犬神と鐵が、胃の辺りと頭を抱えて蹲る。

 

この二人は、これから苦労するんだろうなぁ。

 

主に、他の連中の僻みと嫉妬による圧力で。

 

俺は義妹で嫁な四才児(はつね)がいる手前、何も言えない。

 

でも、楓さんは無表情キャラなのかな?

さっきから無表情の無言で犬神のこと、ずっと見てるんだけど。

 

そう思ってると、覚悟を決めたのか、楓さんの後ろの板橋が立った。

 

板橋 浩太(いたばし こうた)って言います。年は十五で、ギフトはファンタズム・エフェクトの内面操作です。六年間宜しくね。」

 

そう言って、恥ずかしそうに笑うが、見た目は男装してるJC、女性陣には効果が無いようだ。

 

がっくしして、席に着いた板橋を、先生が生暖かい眼で見守ってた。

 

こいつ等のギフトの名前は鮎川と初音が一緒になって考えたって言ってたな。

元ネタまるわかりの名前だったから、わざわざ新しいの考えたらしい。

 

初音が手伝ってるからか、無駄に漢字ばっかになってるわ。

 

「俺は冴羽 武流(さえば たける)。年は十四で、ギフトはミラクル・エフェクトの力操作。六年間宜しく頼む。」

 

猫背の冴羽が、珍しく背筋を伸ばして挨拶した。

 

お前らどんだけ彼女欲しいんだよ、必死過ぎやろ。

 

頑張ってんのに、女性陣は無反応、これは悲しいなぁ。

 

冴羽も板橋みたいになるんじゃ?

 

あ、ほらやっぱり、冴羽が席に座って落ち込んでるよ。

 

つか、この流れだと残りの二人も鐵と犬神のこと好きなんじゃ。

 

何だこの世界、リア充しか居ないのかね?

 

あ、非リア居たわ、板橋と冴羽リア充じゃない。

 

「俺の名前は鐵 銅次(くろがね どうじ)、全員俺の事は知ってるけど、年は十五。ギフトはロイヤル・エフェクトの亜空間操作。六年間宜しく頼む。」

 

鐵が、席を立って話してる間、綾女さんともう一人の女性の圧力がヤバイ、俺は関係ないはずなのに冷や汗が少し出た。

 

この人達恐い、絶対関わりたく無いわ。

 

鐵何て席に座った後、顔を青くして、頭抱えてるし。

 

どうすっかなぁ、仲直り、謝るだけなら良いんだけど。

何か戦うことになるって言ってたし、物理特化の男に女の子の相手させるなっての。

サポートに徹する事にしよう、力だけならサポした方が良いしな。

 

「俺は前原 哲矢(まえばら てつや)、年は十四だ。ギフトはロイヤル・エフェクトの光力化、よろしく頼む。」

 

藤原は、絶縁を言い渡されて苗字を名乗れないから、新しく皆で考えた苗字に改名したんだ。

なぁに、天皇も知ってるから、戸籍関係も変更簡単だったらしい。

 

権力集中してる政治形態は、こういうのが簡単だから、異世界転生モノとかで、人気なんだなぁって思いました。

 

藤原は特に女子を気にすることも無く自己紹介を終わらせた。

 

「自分の名前は犬神 拓也(いぬがみ たくや)、馴染みの連中ばっかで、何か実感わかないけど、これからよろしく。年は十四でギフトは、ファンタズム・エフェクトの獣身化、改めて、これから六年間よろしく。」

 

犬神の奴、左前の席の女の子から滅茶苦茶睨まれてんだけど、大丈夫かね?

何か吐きそうになってんぞ、おい。

本当に大丈夫か?

 

犬神 瀬良(いぬがみ せら)、そこに居る兄さんの妹です。年は十三。ギフトはゴッズ・エフェクトのベヒモス、六年間よろしくです。」

 

そう言って犬神の事を睨みながら瀬良さんは座った。

 

あ、犬神の顔色が青通りこして白だ、後で解毒魔法でも使ってあげようかな?

 

でも、この子、ゴッズ・エフェクト持ちか、これ、俺がサポしても勝てないかもな、どうすっか。

 

戦う場所も考えないと、下手な場所で戦うと大変なことになるぞ、俺が叔父さんと戦った場所なんて、今じゃ森じゃなくて、荒野扱い何だし。

 

鐵 咲(くろがね さき)って言います。年は十六、一応最年長って事になるかな?ギフトはガルダ、仙人です。皆これからよろしくね?」

 

アカン、これ絶対勝てない。

 

前世のインフレ神話筆頭ことインド神話で、主神のインドラ率いる神様連合の攻撃受けて、無傷の化け物相手するとか、百鬼夜行級の人でも勝てないだろ、勝つなら父さんや、紫陽花さん級の化け物じゃないと。

 

その前に仙人ってだけで勝つことが出来ないんだけどね、ギフトの出力問題で。

 

つか、この教室、個性的すぎない?

 

五馬鹿は前世持ちだから、生徒の半分以上がいたずら者(プレインク)、教室に居る人間の半分以上がレアギフト持ちで、教師含めて二人が種族進化してる。

 

………この教室の人間だけで、軍の大隊、連隊程度だったら戦えそうだぞ?

 

他の女の子も、絶対隠し玉持ってるだろ。

 

俺もテューポーン隠してるとはいえ、鐵が勝てないって断言する位何だから、少なくとも俺と同じレベルか、それ以上か………無理ゲーじゃない?

 

流石元国外暮らし、逞し過ぎる日常を送っていたに違いない。

 

よく考えると、何で国外の人間が国立の学校に来れてるんだ?

 

あれ?

 

何か厄介ごとの予感なんだけど。

 

つか今考えると、これから寮生活何だから、家の鍵で脅しても意味ない?

 

あれ、俺凄いヘマしてね?

 

ドヤ顔しながら間抜けな事言ってたんじゃね?

 

あぁ、鬱だ、多分初音も気づいててオッケー出したんだろうな。

 

何か、最近意地悪だし、俺は何もやってないんだがなぁ、これが倦怠期か。

 

「あ、あ~。皆知り合いばっかりらしいな。新鮮さが皆無な教室になったようだ。全員嘘をついて無さそうだし、俺もギフトを教えよう。」

 

全員の自己紹介が終わってから、先生がギフトを教えてくれるらしい。

 

鮎川を倒したギフト、気になります。

 

鮎川は未だに勝てないからな、模擬戦の参考になるようなギフトだったら良いんだけど。

 

「俺のギフトは別天津神(ことあまつかみ)と、イヴ様からの加護を受けて進化させた、ゴッズ・エフェクトの須佐之男命(すさのおのみこと)の二つ、今は如来だ。改めて六年間よろしく。」

 

全然参考になりません先生。

 

日本神話でイザナミイザナギより先に生まれて、世界創造した神とか、日本神話の主神姉弟の三貴子とか、参考に出来る訳ないだろうが!!

 

何これ、何で先生最強戦力の一人じゃないんだよ、どう考えてもぶっ壊れだろ?

 

この人より強いって言われてるあの三人(父さん母さん天皇)が解らない。

 

しかもそれでやっと国内最強、世界が広すぎる。

 

何でそんな世界で、人類対魔獣で総力戦しないといけないんだよ、こんなの巻き込まれたら即死確定じゃないか、イヴの眷属(中立の立場)で良かったわ、本当に。

 

「全員、配られた教科書の確認はしたか?項抜けや違う教科書が入ってた場合は、直ぐに報告するように。今週中なら、教科書の取り換えが出来るが、それ以降となると実費で買うことになる、確認は早めにするように。それと」

 

先生が注意事項を話してる。

 

まぁ、基本学生手帳に書かれてることばかりだけども。

 

しかし、本当に女性陣四人相手どうすっかなぁ、テューポーン使っても勝てないぞ?

 

特に咲さんが問題だ、ガルダは本当にヤバイ。

あれは同じ、神話体系の敵キャラ最強枠のテューポーンでも勝てない。

 

神話の主人公こと、神様陣営相手に単体で挑んで殆ど無傷とか、ふざけんのも大概にしろ。

 

しかも、普通の神話なら最高神が一柱しか居ないのに、何故か複数いて、簡単に世界滅ぼせる力持ってる最高神でも弱点付かないと倒せない敵がいて、異形の神ばっかしいるとか、ここまで特殊な神話見たこと無いぞ?

 

あの神話は、武神でもない商業神が下手な神話の武神より強かったり、ラスボス枠でもない蛇が無敵属性持ってたりする神話だ。

 

拝火教より怖いぞ、アンリ・マユとか、全然怖くないレベルだ。

 

あらゆる悪や害毒を創造する主神の次に強い、世界最古の悪神だろうが、関係なくぶっ殺してくれるだろうな、インド神話は頼もし過ぎる。

 

ギリシャ神話も主神が全宇宙焼き尽くす位強かったりするけど、無敵属性持ってる敵倒したことないし、回復系統の能力持ってる神が少なかったりで、インド神話には勝てないんだよなぁ、

 

勝てるとしたら、世界創造できるレベルの神が複数いて、主神が引き籠るだけで、人間が飢えと寒さで死ぬ、日本神話とか、そもそも輪廻の輪から外れて、死の概念を克服した仏教位だな、多分。

 

キリスト教とか、戦える存在自体少ないし、北欧神話は神殺しのフェンリルが居るとはいえ、戦闘能力自体はそんなに高くない。

 

何しろラグナロクまでずっと縛られてたぐらいだし、そもそも主神とそれ以外の神で、まともに意思疎通すら出来て無いし。

 

マジでどうすっかなぁ、ガルダ相手に勝つなんて…………?

 

そう言えば、ガルダって無傷の所が強調されてて、攻撃力はどのぐらいか聞いたことないな、大きさは馬鹿げてるのは聞いたことあるけど、でもギフトなら、大きさは関係ないし、これはもしかしたら何とかなるかもしれないな。

 

よし、なら鐵と犬神呼んで、三人で作戦会議だな。

 

他の女子のギフト内容も知りたいし。

 

あ、その前に、入学祝の打ち上げ場所、先生に良いところないか聞いとかないと。

 

父さんに小遣い、多めにねだっといて良かったわ。




犬神君の名前が違ったので、直しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話 入学祝いの宴

「えっと、皆のギフトの効果ですか、初さん。」

 

犬神が困惑した顔でこっちを見ている。

 

今居るのは、学校の近くにある定食屋『止まり木』。

 

雰囲気がのんびりした良い所で、五馬鹿達と、入学祝に夕食に来ていた。

 

この店は元々、一条先生が言ってた店で、学校帰りに先生に教えてもらった場所だ。

 

よくお忍びでイヴが来る店らしい。

 

先生お勧めのメニューは、『特選:止まり木定食』と言われる定食で、内地が多い関東地方で、基本的に物価が高い生魚を、贅沢に使ったお刺身と、二日酔いの味方シジミの味噌汁、おかわり自由のご飯に、追加料金で卵も付いてくる。

 

お値段八百五十円

普通だったら千五百円は超えてるお値段、その訳とは。

 

「おう、止まり木定食二つ、お待ち。」

 

「あ、ありがとう、おやっさん。」

 

俺の言葉に笑って、台所に戻って新しい料理を持ってきたこのおやっさん、玉木 竜牙(たまき りゅうが)は、百鬼夜行の一人。

 

元海軍中将で、今は名誉中将、趣味で店を出してる人だ。

 

百鬼夜行は、軍属と元軍属の准将から父さんの統括元帥までの、百名で構成されていて、一人一人が単独で特級魔獣複数体と互角の、文字通りの人外集団。

 

そんな人が毎朝、産地まで自分の足で走って行ってるから、わざわざ行商や大手の市場で割高のモノを買わないで済むし、趣味だから店員は玉木さん一人、人件費も最低限だ。

 

全部、先生からの受け売りだけどな。

 

料理の腕は抜群だし、入り組んでる所にあるから、込んでることも少なそうだ。

 

イヴが入り浸るのも分かる気がする。

 

「はい、海鮮丼にちらし寿司、それと寿司・梅な。」

 

うわ、高いのばっか頼みやがって、寿司・梅何て二千円もすんじゃねぇか、父さんから小遣いで毎月、結構貰ってるから良いものの、そんなに余裕ある訳じゃないんだぞ?

 

「おっちゃん、ありがとう。」

 

「ありがと、おっちゃん。」

 

五馬鹿がお礼言ってる間にちらっと伝票を確認。

 

しようと思ったらおっちゃんが、割烹着のポッケに突っ込んだ?

 

「今日は入学式だったんだろ?前今元帥から自慢話散々聞かされてたからな。今日は俺の奢りにすっから、好きなもん頼んで良いぞ。」

 

!?

マジで!!

 

「「「「「いよっしゃー!!」」」」」

 

「ありがとおやっさん!!」

 

作戦会議何て後だ後!

 

今は上手い飯を食うのだ!!

 

 

 

~一時間後~

 

「「「「「「ご馳走様でした!」」」」」」

 

「お粗末様。」

 

そう言っておやっさんが、乾いた笑みを浮かべた。

.....やっぱり、食い過ぎたかね?

 

「ふぅ、食った食った。」

 

「こんなに食ったの、咲の手料理以来だな」

 

「今日だけで一週間分は食った気分だ。」

 

「もう、入んねぇ。」

 

「僕、食べ過ぎでお腹キツイ。」

 

「お前ら、遠慮ないな。俺もだけど、うっぷ。」

 

俺らの机の上には、空になった皿が漫画みたいな積み方で、積まれていた。

 

いやぁ、途中からギフト使って消化能力強化して、滅茶苦茶詰め込んだからな。

 

それにしても、俺達いくら位食ってたんだ?

 

玉木のおやっさん、呆れてるんだけど。

 

「ハハハ、良い食べっぷりだったなボソッ店の売上一月分飛んでしもた。」

 

聞こえちゃった、何かすんません。

 

「あ、そうだ、初さん。おやっさんにも相談できませんかね?」

 

あ、その手があったな。

 

「良いな、おやっさん相談があるんだけど、良い?」

 

百鬼夜行の意見聴けるなんて、貴重な機会、逃す手は無いだろ、うん。

 

「ん、何だ?料理でも教えてほしいのか?」

 

いや、料理も興味はあるけど。

 

「実は.........」

 

 

~説明中~

 

「ふむ、仙人級一人にレアギフト級四人、お前ら軍に喧嘩でも売ったのか?」

 

おやっさんが呆れて、お茶飲んで溜息吐いてる。

 

あぁ、やっぱり、普通そう思うよね、この戦力は。

 

「この二人の家族なんだよ、国外に住んでた孤児のまとめ役。」

 

「国外の孤児のまとめ役なぁ。そいつ、ちょっとヤバイ奴かもしれんな、名前は何て言ってた?」

 

おやっさんが深刻そうな顔して、名前を聞くだと!?

 

本当に、何者なんだ、この鐵の姉貴は!!

 

「鐵 咲です。俺の姉貴分の名前は。見た目は」

 

鐵が、咲さんの説明していると、段々と空気が重くなっていき。

 

あ、おやっさんの目の色変わった。

 

何か最近、こんなのばっかしだなぁ。

 

()()()若造と良い勝負した、ガルダの嬢ちゃんか!?」

 

いや、本当、咲さんは一体どうやって百鬼夜行に名前知られたんだろ。

 

「良い勝負したって、咲さんは何やらかしたんです?」

 

「その鐵の嬢ちゃんはな、うちの...百鬼夜行の新入りの天草 贋哉(あまくさ がんや)海軍准将と、引き分けたんだよ。」

 

!?

 

叔父さんいつの間に百鬼夜行入りしたんだよ!?

 

「えっと、俺の叔父さんで合ってますよね、その人。本当に引き分けたんですか?」

 

つか、そうなると、その戦闘、そんなに日にちが経ってない出来事なんじゃ。

 

最近の出来事か、一体何やって叔父さんと戦闘したんだよ。

 

「情けない話、贋哉はウチの戦闘要員で一番火力が無くてなぁ。まぁ、あいつは能力付与の後方支援型だから、火力は要らんけどなぁ。防御面は堅いし、搦め手や補助が得意なんだが。お互い千日手になってな、引き分けだ、本当情けない話やけども。」

 

いや、あの戦闘力で後方支援?

 

軍は化け物集団か何かなのか?

 

つか、聞いてれば知り合いばっか出てきやがって、世間が狭すぎるだろ、ハードモードの癖に知り合いで溢れてる世界とか、バッドエンド不可避だろ、最悪やん。

 

「俺も前、叔父さんとは喧嘩したことあるんですけど、手も足も出ませんでしたよ。本当に後方支援型なんですか?」

 

「あいつのギフトは、能力付与に特化しておるからな。それに、種族進化もしてへん奴に、負けるような馬鹿はウチにはいねぇよ。」

 

そうおやっさんは言い切った、本当にそんな奴は居ないと信じ切ってる感じだ。

 

やっぱり、種族進化はそれだけ絶対なのか。

 

これ、勝つの無理なんじゃねぇの、勝たないで仲直りさせる方法でいくしかないのかな、結局。

 

「ま、お前らも中々の粒ぞろいやし、何とかなるかもしれんの、相手のギフト、知ってる奴だけで良いから、教えてみ。お前らのギフトもな、安心せい、無闇矢鱈に話すことはせんよ。」

 

おやっさんがそう言うなら、大丈夫かね?

 

一応、百鬼夜行なんだし、強敵対策は慣れてるんだろうな。

 

「瀬良はゴッズ・エフェクトのベヒモス、楓はミラクル・エフェクトの延長です。」

 

犬神が二人のギフトの名前を言うと、鐵が続いてもう、二人の名前を言った。

 

「綾女は、自己紹介の時のは嘘で、ファンタズム・エフェクトの魔法使い、咲は仙人でガルダ。」

 

「前衛のベヒモスに壁役のガルダ、後衛の魔法使いに邪魔役の延長。綺麗に役目が分かれてるな。お前たちのは?」

 

そっすよねぇ、バランス良すぎっすよねぇ、勇者パーティかよ、理不尽!!

 

そう考えると俺らはさながら、悪の大魔王とか、そんなんか?

 

実態はただの五歳児何だけど。

 

「俺はテューポーンと、力。鐵が亜空間操作、転移や、拡張とかのギフトです、視界内に居る人間を、認識している場所に転移させたり、印をつけた場所に転移したり、逆に手元に転移させることも可能です。」

 

最初戦った時に射出してたように見えたのは、鐵の特技の罠作成で、ボウガンみたいに武器を射出出来る装置を、遠隔操作してたから、らしい。

 

それも、二十ヶ所全てに仕掛けた仕組みで、頑張ってたとの事。

 

鐵君、因みに鍛冶も出来るらしく、前世は某企業の刀鍛冶だったとのこと。

 

若くして刀鍛冶と研師の資格を持ってた、結構な有望株だったっぽい。

 

前世の死因は、タタラの資格取得試験の時に、暴発事故が起きて死亡。

 

そんな事故る仕組みしてないと思うんだけど.....まぁ、素人が口出す領域じゃないからな。

 

「これまた汎用性の高いギフトやな、印の数は?」

 

「鐵」「国内の距離なら、二十までなら余裕です。一つの印で半径百mまでなら、範囲内です。」

 

流石、レアギフトは格が違う。

 

俺の力の何倍の出力が有れば、そんな事出来るんだか。

 

「犬神は、獣身化、身体能力を一時的に、自分の知ってる魔獣と同じ性能に出来ます。」

 

「変化出来る魔獣は?」

 

「中級までなら何でも、上級は未だ、護森牛と大魔狼しか試してません。どっちも二時間までなら、完全に能力コピーできます。」

 

俺はテューポーンのギフト、フルで使ったら一時間しか持たないのに、この燃費の良さよ、理不尽。

 

え?

特級と殴り合えるギフトと比べんなって?

良いんだよ、気持ちの問題だ(キリッ

 

「どっちも優秀なギフトだな、前衛は前今で、犬神が補助、鐵が後衛か。数が足りないな、そっちの三人はどうした?」

 

それを聞いて三人が喋ろうとするのを、鐵が遮る。

 

「こいつらは関係ないです、おやっさん。これは俺と犬神の不始末だ、初さんには頭下げて頼んだけど、ダチに迷惑は掛けたくない。」

 

困ったな、三人も戦力に数えてたんだけど、ダメか、どうすっかなぁ。

 

「何水臭いこと言ってんだよ、ダチだろ?」

 

お、ナイス前原、良く言った。

 

そうだそうだ、水臭いこと言ってないで、頭下げて手伝ってもらえよ、友達だろ?

 

「前原、お前、高橋さんの部屋によく行くよな。」

 

犬神にそう言われた瞬間、前原の表情が固まる。

 

「な、何関係ないこと言ってんだよ、今はお前たちの問題を解決するのが一番だろ!」

 

雲行が怪しくなったのか、板橋が話題を戻そうとする。

 

だが、そう上手くは行かなかったらしい。

 

鐵が笑いながら喋る。

 

「板橋、お前、最近部屋に俺達入れなくなったよな。女性陣とも仲良さげだし、何か隠してるのか?」

 

そう言われた板橋の表情が、恐怖に固まる。

 

な、流れが完全に変わった!?

 

そのまま流れに身を任せて二人して、板橋に耳打ちした。

 

「「なぁ、夜中お前の部屋からたまに聞こえる声。俺達、隣の部屋だから、聞こえちゃってさ。ニタァ」」

 

あかん、見た目JCを脅迫してる男子高校生だ。

 

じ、事案だ!!

 

「わ、分かった!!僕達は関わらない、だからばらすな!」

 

一体何を聞いたんだ!?

 

怖ぇよ、この二人。

 

何でそこまでするし、どんだけ関わってほしくなかったんだよ!!

 

何で俺は巻き込むのに躊躇いなかったのに、こいつ等が関わるのは嫌なんだよ!?

 

「「と言う訳で、俺達と初さんの三人で攻略します、おやっさん。」」

 

「お、おう、わかった。」

 

おやっさんもたじろぐレベルかよ、恐ろしい。

 

「でも、攻略って言っても、向こうは四人、こっちは三人。しかも仙人が相手なんだぞ?どうやって攻略すんだよ。戦う場所も決まってないのに。」

 

「戦う場所は、俺が見つけちゃる。決まったら鐵の坊主に印を付けさせるから、安心せい。」

 

「分かったよおやっさん。」

 

「ありがと、おやっさん。」

 

「戦闘はどうする?役目的に瀬良さんと咲さんは、俺が受け持つのかな?」

 

テューポーンに力の重ね掛け、魔法強化もして、この前母さんに習って作った、強化が掛かるミサンガ付けて、どうすっかなぁ、未だ足りなそう。

 

でも、流石にこれ以上の強化は出来ないし。

 

「その二人相手はキツイやろ、ガルダは防御特化のギフトや、攻撃力はさしてねぇから、ベヒモスに集中せい。ベヒモスは確認されてる進化方法で、リヴァイアサンとバハムートを通って進化するのが正常進化や、種族進化せずに特級と殴り合える能力だからな。それにバハムートの電気、リヴァイアサンの流体の操作能力も持ってる。油断できんぞ。」

 

なにそれ、俺のテューポーンより強くね?

 

いや、こっちもケルベロスとか、キマイラの能力は使えるけど、テューポーンの劣化版過ぎて、使い道がね。

 

あぁ、ヒュドラの能力の毒は強かったな、ヘラクレスの死因だし、ギリシャ神話最強の毒だし。

 

でも、今回の戦闘では使わないからなぁ、解毒方法も良く判んねぇし、使う事じたい無いだろ、多分。

 

「分かりました、努力はしますよ。」

 

「犬神は楓って子を狙え、鐵は綾女って子や。二人とも、相性自体はそんなに悪くないはずや、気張れよ。」

 

「「はい。」」

 

二人とも気合入ってるねぇ、俺は何とも憂鬱だよ、本当。

 

初音が知ったら何て言うかねぇ、また巻き込まれたのかって呆れられそうだけど。

 

「?お兄ちゃんたちも、このお店に来てたの!?」

 

「ああ、今は皆で作戦かい....初音!?」

 

声がした方を見ると、初音と鮎川に、新庄さん達の何時もの面子六人に、知らない顔五人が店の中に居た。

 

何でここに!?

 

「あぁ、すいません、気付かないで。今席に案内しますんで。」

 

おやっさんがそう言って席を立って、初音達を案内してる。

 

おやっさんは向こうも只にするつもりらしく、初音達の席で歓声があがってる。

 

おやっさんはこれから忙しくなりそうだし、人数的にあの中にイヴが混じってそうだし、俺達はもう寮に帰らないとな。

 

「おやっさん、俺達もう行くよ。ご馳走様、美味しかったよ、また来る。」

 

「「「「「ご馳走様でした!」」」」」

 

「おう、おまけ付けっから、またいつでも来い!」

 

結構長い間店に居たから、外は真っ暗だ。

 

「板橋、今何時?」

 

「午後の八時回ったとこですね、どうします?寄り道しますか?」

 

え、何お前ら、未だ食い足りないの?

俺もう腹いっぱいなんだけど。

 

「真っ直ぐ帰ろう、未だ荷解きもちゃんと済んでないだろ。」

 

「それもそうですね、僕、二〇一号室だったんですけど、初さん何処でした?」

 

マジか。

 

「俺も二〇一号室だ、これからよろしくな。」

 

そんな事言ってると、鐵たちも部屋番号を教えてくれた。

 

「俺と犬神は二〇二号室です。」

 

「俺と冴羽は二〇三ですね、皆二階みたいだ。」

 

移動が楽そうで安心だな。

 

寮は男女で分れていないから、階ごとに分かれてんだろうな。

 

それにしても、部屋の事なんて考えてすらいなかったなぁ、咲さん達の対策考えてるだけで精一杯だったわ。

 




6/24誤字修正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話 僕っ娘 板橋きゅん♪

電車の中から投稿です。
板橋の見た目は、自分はパパ聞きの空ちゃんの、胸無しで想像してます。



カキカキカキカキカキカキカキカキカキ

 

「ふぅ、今日の分はもう良いかな。」

 

今は取り敢えず荷解きをひと段落させて、日記を書いてる所だ。

 

「初さん、お風呂沸きましたよ!」

 

お?

 

「ありがとうな、板橋、風呂沸かすの任せて。」

 

いやぁ、見た目だけでも可愛い子と一緒に六年間同じ部屋とか、学校入って良かったなぁ。

 

最近、鮎川が俺に対してぞんざいな扱いだし、初音は大魔狼の赤ん坊…………カイト達の世話を、家の管理維持に忙しい紫陽花さんや、夜鷹さんの代わりにしてるから、あんましかまってくれないし。

 

見た目美少女に敬われて、しかも同じ部屋で過ごすとか、癒し過ぎる。

 

因みに寮は特待生寮と、一般の男子寮女子寮の三つに分かれていて、特待生寮は二人で一部屋。

 

部屋は風呂トイレキッチン付いた1LDK、寝室は二つあるし、台所と居間は一緒になってて、前世で言う、ダイニングキッチンみたいになってる。

 

床は寝室が畳、風呂が石で、それ以外が木製、扉は玄関以外全部引き戸になってて、狭さを感じないような工夫がされてる。

 

「良いですよ、これくらい。それより、この部屋のお風呂、シャワーの取り外し場所が高くて、初さんの背じゃ届きませんから、お背中流しますよ。」

 

いや、それは、絵面がお前……アウトだ。

 

つか、下が三歳から入学可能なのに、そんな設備で大丈夫なのかよ、初音も手が届かなそうだけど、あいつも同じ部屋の人と入ってるのかな?

 

まぁ、同じ部屋になった女性同士、親睦でも深めれば良いんじゃないかな?

 

………嫉妬何かしてない、してないんだ。

 

あぁでも、特待生寮に小さな子供が入ることを想定してなかったのかも、そんな特殊な奴いる方が稀だし。

 

いや、いたずら者(プレインク)が居る世界で、それは無いか、流石に想定してると思うんだが。

 

うぅむ、取り敢えず今は何とかして一緒に入るのを、阻止しなければ。

 

「いや、そこまでは流石に。」

 

シャワー使いにくいなら、魔術使えば良いし、それに板橋お前、

 

「別に良いじゃないですか、男同士何ですし。」

 

お前は見た目がロリだと言う事を自覚しろ!!

 

しかも超が付く美少女っぷりだ!!

 

「いや、だから、大丈夫だって。」

 

お前と入るとガチで初音が怖いんだよ。

 

「良いから、速く行きましょう、お風呂冷めちゃいますよ~。」

 

ちょっ!?

 

手を掴まれて、引っ張られた時に、嗅いだ匂いに驚いて、そのままついて行ってしまった。

 

くそっ、こいつ男の癖に、何だこの甘ったる匂い、本当にこいつ女なんじゃねぇの!?

 

「ほら、速く服脱いで下さいね、先入ってますから。」

 

むぅ、こいつ、俺が驚いてるうちにいつのまにか裸になってやがる。

 

「あ、あぁ。分かった。」

 

つか、身体にタオル巻いてんじゃねぇ!!

 

女子か!

女子だろお前!!

 

くそっ、どうしてこうなった。

 

こんなとこ、初音に見つかったらヤバ、男同士だからセーフ?

 

…………ハッ、何言ってんだ俺、絵面アウトだろうが、姉ショタものじゃないんだから、いや、男同士だから兄弟もの?

 

そうだ、男同士何だから、何も問題は無いじゃないか。

 

男同士だからセーフ、男同士だからセーフ、男同士だからセーフ、男同士だからセーフ、男同士だからセーフ。

 

…………ハッ!?

 

一体何考えてんだ、落ち着け俺!!!!

 

深呼吸するんだ俺よ、頭が混乱してる。

 

スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー

 

あぁ、なんだか甘い匂いが頭ん中を支配して……………………………………………ハッ、ヤバイ意識が一瞬飛んでた。

 

あぁ、何だかもう、どうでも良いや、五歳児の身体で良かった、本当。

 

これが前世の身体だったら、絶対反応して……………首吊り自殺ものだ、うん。

 

そうじゃなくても初音に死ぬより怖い折檻されるな。

 

一度死んでる奴が言うんだ、本当に死ぬより怖いぞ?

 

考えるだけでも震えと吐き気が止まらん。オェッ

 

「どうしたんですか初さん?」

 

げっ

板橋が不思議がってる、速くしないともう、時間が無いぞ!?

 

「!?、何でもない!直ぐに入るよ。」

 

「?そうですか、準備して待ってますね。」

 

準備って何だよ!!?

 

……………はぁ、仕方ない、ごちゃごちゃ考えて現実逃避してないで、入るか。

 

いざ、死地へ参らん!

 

ガラガラ

 

「あ、やっと来たんですね、ほら、椅子があるから座って下さい、頭から洗いますよ~。」

 

そこには輝かしい笑顔を浮かべたタオル一枚のロリの姿が、母性増し増しで、石鹸を泡立てていて、って

 

「板橋、ちょっと待て、一人で洗えるからな?俺は。だから、家から持ってきた頭髪石鹸泡立てんな!!」

 

無駄に妄想が沸き上がるような事、すんじゃねぇ!!

 

「何言ってんですか、初音さんが言ってましたよ、二人で入る時は洗いっこしてるって。良いじゃないですか、裸の付き合いですよ。」

 

その見た目で裸の付き合いとか、言うんじゃねぇ!!?

 

くそっ、仕方ないか、初音との事引き合いに出されたら、大人しくするしかない。

 

言う事聞かなかったら、有る事無い事言われそうだし、これが初音にバレたら大変だ。

 

「分かったけど、初音には黙っとけよ?(じゃないと俺が死ぬ)」

 

「二人だけの秘密ですね、分かりました!(初さんとの秘密だやった~!)」

 

くそ、絶対勘違いしてんな、良い笑顔しやがって、こんなのが前世で居たら、ガチで理性がもたなかったかもしれん、恐ろしい奴や。

 

落ち着け、俺。

 

何、男同士体洗い合うだけ、前世でも小学校の頃、校外学習やお泊りで、ふざけ半分でやった事じゃないか。

 

大丈夫だ、これは普通の事なんだ、落ち着け。

 

「じゃ、洗いますよ~。目瞑ってて下さいね。」

 

そう言って、俺の髪を洗い始めた板橋の手が、うおっ何これ、母さんにされるのと同じ位気持ち良いぞ!?

 

つか、手が全体的にちっちゃくて柔らかい、まるでじゃなくてこれ、絶対女子の手だよな!?

 

いや、未だ第二次性徴真っ只中の歳、こういう子も居るのか?

分からん、分からんぞ、お前は一体どっちなんだ、板橋!!

 

「流しますよ~。」

 

「あ、あぁ。」

 

何だこれ、気持ち良すぎる、あぁ、このまま寝れるわ、俺。

 

今ならカイト達に突撃されても目覚めない自信あるぞ。

 

「じゃあ、次は体洗いますよ~。」

 

!!?

 

何言ってんだこいつ、眠気が吹き飛んだじゃねぇか!!

 

「いや、体は自分で洗える大丈夫だ!」

 

そう言って、少し強引に板橋の石鹸奪って、持ってるタオルで泡立てる。

 

「ありゃ?そう、ですか。なら僕、頭洗ってますね!」

 

くそっ、そのしょぼくれた顔をやめろ、罪悪感が凄いんだよ!

 

と、取り敢えず急いで洗って速く風呂場から出ないと、さっきから石鹸の匂いと板橋の甘ったるい匂いで、この空間がヤバイ。

 

ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ

 

よ、よし、洗い終わった、後は石鹸を流すだけだ、うん。

 

「初さん、シャワー取ってくれません?目が見えなくて。」

 

「!?!?」

 

洗い流そうとしてた時に後ろから声がして、ビックリしてそっちに目を向けると。

 

石鹸が目に入ったのか、目の周りを赤くした板橋が、目を瞑ってこっちに手を伸ばしていた。

 

「わ、分かった!」

 

急いでシャワーを取ろうとするが、くそっ、身長のせいで取れん。

 

板橋め、使い終わったらしっかり元の場所に戻すとか、マメな奴だ。

 

「ちょっと、待ってろ、直ぐに取るから。」

 

「あ、はい、分かりました。」

 

くそ、涙目ではにかむな、可愛いだろうが!

 

ええい、背を伸ばしても届かん、こうなりゃ多少危なくても跳んで取るしか。

 

「せりゃ、取っ!?うお!」「きゃっ!」

 

ドタッ!!

 

「ごめん!大丈夫か板橋。」

 

「いてて、大丈夫ですよ~、初さん。」

 

むにゅん

 

「ひうっ!」

 

「うわっ、ゴメン!!?」

 

って何で焦ってんだよ俺、相手は男だろ!

 

板橋も変な声あげんなよ、つか、こいつ本当に体柔らかいなおい。

 

そんな事考えながら、転んだ時に乗っかった、板橋の身体の上から、そそくさと退く。

 

「初さん。シャワー下さい、目に石鹸入っちゃって。」

 

「ご、ごめん、これ。直ぐにお湯出すから!」

 

板橋に言われて慌てて、シャワーをわたす。

 

その後、急いで()()()()が付いてる蛇口を捻った。

 

「きゃっ!?冷たいですよ!」

 

あ!?

 

「ごめん捻る蛇口間違え!?」

 

驚いた拍子にシャワーから手を離したのか、シャワーがこっちに向かって水を放ってくる!

 

「うおっ!?冷た!!」

 

身体が未だ石鹸付けたままだったのが、災いしたのかまたもや転倒。

 

「あ、初さん!」

 

するところに板橋が気づいて、慌てて俺の手を掴むも石鹸で滑って、手が離れる。

 

ゴスッ!!

 

「初さん?初さん!?初さーん!!」

 

最後に聞こえたのは、板橋の焦った声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ちゃ………いちゃん……兄ちゃん!…お兄ちゃん!!」

 

は!?

 

「…………初音?」

 

「やっと気づいた、お兄ちゃん、もう朝だよ?」

 

!???

何で初音がここに居るんだ?

 

「ほら、速く着替えないと、遅刻しちゃうよ?」

 

「あ、あぁ、起こしてくれてありがと。板橋は?」

 

着替えた覚えのない寝間着から、学校の制服に着替えながら話す。

 

「制服に着替えてるって、お弁当も作ってくれたんだよ?後でお礼言っといてね。」

 

そう言って、青色の布に包まれた曲げわっぱ…………竹と木で作られた丈夫な弁当箱を渡してくれた。

 

マジかよ、料理も出来るとか、あいつ、下手な女子よりモテそうだな、おい。

 

冴羽や藤原が、やらかさないか心配だな、血迷わなきゃ良いんだけど。

 

「はい、鞄。教科書は学校に置きっぱなしなんでしょ、どうせ。」

 

いやまぁ、その通りです、はい。

 

「毎日あの量持って帰るのは、きついだろうが。その日の授業の分だけ、持って帰って復習で十分だろ。」

 

着替え終わって洗面台で歯磨きしながら話す。

 

初音も歯磨きしてた、初音も寝起きだったのかね?

 

居間に入った途端、思いっきり抱き着かれた。

 

「初さん!!」

 

ギュム!!

 

ぐふっ、いっ息が!?

 

「こうちゃん、ストップストップ!お兄ちゃん息できてない。」

 

「あ、ごめんなさい!?」

 

謝るのは良いから、速く離せ、死ぬ。

 

「プハッ、はぁ、はぁ、おはよう、板橋。」

 

「すいませんでした!!」

 

何で土下座してるんです?

 

「えぇっとね、お兄ちゃん。実は、」

 

~幼女説明中~

 

モグモグ

この玉子焼きうめぇ、甘めに味付けして有るのが子供舌にドストライク、何個でもいけるわ。

 

こっちの唐揚げも、朝から作るには手が込んでるし、味付けの仕方が違うから、多分板橋が作ったんだろ?

 

ガチで、女子力高いなおい。

 

「そういう訳なんだよ、お兄ちゃん。聞いてる?モグモグ、グピグピ。はぁ、やっぱ、ご飯に合う飲み物は麦茶よねぇ。」

 

初音が朝ごはん食べながら説明してくれたんで、麦茶飲みながら、頭の中で整理する。

 

ゴキュゴキュ。

 

ええと、

 

「つまり、俺は昨日、風呂で頭を打って気絶して。それに慌てた板橋が、初音に連絡して、初音は入学祝いを途中で抜けて飛んで来たと。それで手当てしたのは良いけど、もう時間が遅くなって、消灯時間過ぎたから、俺の部屋で寝ちゃったと。」

 

「そう言うことです。初さん、本当にごめんなさい!僕がもっと気を付けてれば、いや、一緒に入ろうなんて言わなきゃ、こんなことには!ボソッそれに、二人だけの秘密、やぶっちゃって、僕。」

 

あぁ、もう。

 

表情がいちいち乙女臭いんだよ、板橋は!!

 

「分かった分かった。ならこれから毎日弁当作ってくれ、それでチャラだ。」

 

板橋の飯旨いし、俺の身体じゃ飯作るのも一苦労だから、毎日弁当作ってもらうのは、色々都合が良い、と言う訳で弁当係に任命する。

 

そして、声を大にして言おう、可愛い子のお弁当毎日食べられる俺は、勝ち組だ!!

 

フハハハハ、五馬鹿とは違うのだよ、五馬鹿とは!

 

「え~!?私もお弁当作りたい!!」

 

確かに初音の手料理は食べたいけど。

 

「未だ三歳だろうが、その身体で料理は許可出来ません。」

 

あえて後半事務的に言って、拒絶感を出していく。

 

「むぅ、なら、こうちゃんが一緒なら良いでしょ?」

 

そりゃ、監視役がいるなら、オッケーだけど。

 

「朝、めちゃくちゃ弱いくせに、初音の部屋からここまで来るの大変だろ?諦めろよ。」

 

「ブ~ブ~。私に黙って、こうちゃんとお風呂入ってた癖に!!」

 

おう、駄々こねるの止めろや。

 

「こいつ~。ムニュ」

 

イラッと来たから、初音のほっぺた摘まんでいじくり回す事にした。

 

いやぁ、やわらけぇ。

何これ、マジでマシュマロみたいだわ、これは中毒になりますのぉ。

 

「ちょっろ、お兄ひゃん、やめれ、ご飯食べられない。」

 

未だ食うのかよ、時間は………もう、七時半になってるじゃん。

 

始業の時間が八時丁度だから、そろそろ行かないと、間に合わないぞ?

 

「未だ食うのかよ、もう良い時間だぞ?」

 

「えぇ?もうそんな時間!?」

 

時計を見た初音が悲鳴をあげてる。

 

ちゃっかり自分の分を片付けていた板橋が、俺達のも運んでくれた。

 

「残りは、冷蔵庫に入れときますので、夕食に食べましょう。」

 

唐揚げ旨かったし、夕食に出るのなら、今日の楽しみが一つ出来たな。

 

「じゃあ、行こっか。行ってきます!!」

 

玄関で、誰も居ない部屋にあいさつした俺を、初音が不思議そうに見てくる。

 

「もう、お兄ちゃん。部屋に誰も残らないのに、何言ってんの?」

 

良いだろ別に。

 

「気分だ気分。それに居なくても挨拶はしたいんだよ。」

 

「何それ?変なの。お兄ちゃん、やっぱり面白いなぁ!!」

 

ぐぉ、いきなり抱き付くな、転ぶだろうが!!

 

「お二人とも、速くしないと遅刻しますよ~?」

 

いつの間にか鍵を閉めて、寮の廊下の階段辺りまで歩いてた板橋に気付いて、二人で慌てて走る。

 

「板橋、いつのまにそっちに行ったんだよ!?」

 

板橋め、身長差で追い付いても俺ら小走りで走らないと駄目じゃないか。

 

「歩くの速いよこうくん!」

 

「二人とも、走ると危ないですよ?」

 

そんなこと笑いながら言う板橋に二人でツッコミ入れる。

 

「「だったら速度落としてよ!」」

 

まぁ、何だ、こんな日常も、悪くないな。

 

 




次の投稿は30日になります。

サブタイトル間違ってたので、改稿しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話 部活決め!

お待たせです
やっと書き溜めが少し出来たので投稿です。



初音と別れて板橋と一緒に教室に入る。

 

まぁ、分かれるって言っても、教室は隣なんだけども。

 

「皆おはよう。」

 

俺の挨拶に板橋も続いた。

 

「おはよう皆。」

 

「「「「おはようございます!初さん。」」」」

 

お前らは、いつも通りだな。

 

こっちは、昨日からアクシデントばっかだってのに。

 

「あ、後板橋もな。」

 

前原のついでみたいな言い方に板橋が苦笑い、これは仕方ないな。

 

「おはよう板橋。」 「おはよう。」 「おはようさん。」

 

皆もそれに続く形で挨拶していった。

 

「僕はついでかよ。おはよう皆。」

 

「おはよう今前君。」

 

教室の入り口で話してたら、咲さんが話しかけてきた。

 

鐵のことは、勿論無視だったが。

鐵がショボくれてる、咲さん達女性陣はやはり、謝ってくるまでは無視って感じかね?

 

なら、自己紹介の時、何であんな事言ってたんだか、二人に発破かけるため?

 

何だかんだ言って、やっぱり二人の事心配なのかね?

 

色々予想するも、全然解んないから取り敢えず、保留にする。

 

「おはようございます。鐵さん。」

 

「咲で良いよ、鐵って三人も居るから分かり難いでしょ?」

 

笑顔素敵ですなぁ、俺も速く、成長した初音の笑顔が見体でござる。

 

「あぁ、そうですね、ありがとうございます、咲さん。」

 

「気にしなくて良いよ、それより、学校終わったら話があるんだけど、少し良いかな?」

 

ハッハッハ、デートのお誘いですかな?

 

…………あぁ、寒気がしてきた、初音にバレてんな、これ。

 

くそ、まぁ、事情は知ってるから、大丈夫だろ、やましいことはこの体じゃ出来ないし、平気平気。

 

「構いませんよ。板橋、お前は先に荷物整理終わらせとけ、終わったら自由にしてて良いから。」

 

「じゃあ、荷物整理終わったら、買い出し行きたいんですけど、良いですか?」

 

買い出しか、足りない家具とかあったのかな?

 

まぁ、単純に食材の買い出しなんだろうけど。

 

「お金は金庫に入ってるから、自由に使って構わないぞ。後、鍵の場所は解るよな?」

 

「勿論、大丈夫ですとも!」

 

流石紫陽花さんの教育、ベタな鍵の場所喋っちゃうなんてことも無い何て、分かってるじゃないか。

 

もう、余計なイベントは懲り懲りなんだよ、頼むから、問題は起こすなよ?

 

カラカラカラカラ、カラカラカラカラ。

 

そんな事考えてたら、一条先生が教室に来た。

 

時計を見ると、もう八時だ、あっという間に時が過ぎるなぁ、俺達五十分には教室に着いてたんだけど。

 

「皆席に着いてくれ、授業前に出席と連絡事項の報告だ。」

 

先生、HRこの学校だと何て言うんですか?

俺サッパシわかんないよ。

 

「後でね、今前君。」

 

そう言って笑いかけてきた咲さんが、アイドル過ぎて思わず苦笑い。

 

「あ、はい。」

 

前世でこんな感じのアイドルいなかったっけ、一途で健気な感じのキャラで売ってたな、確か。

 

プライベート酷過ぎんのがバレて、直ぐに人気落ちたけど。

 

俺あの子面白かったから、結構好きだったんだけどなぁ。

 

何て考えながら席に座る。

 

「全員居るな、今日の連絡事項だ、今日は授業はせずに校内案内と、君たちが入る部活動の説明だ。今日中に決めてくれ。」

 

???

部活何てあんのか?

 

下は三歳から入れる部活とか、運動系は避けてる感じか?

 

「部活は運動部文芸部の二系統八種、運動部は十四歳から、文芸部は下限なしで入部可能だ。種族進化している学生は、下限無視して良いぞ。」

 

そう言って先生が紙を配る。

 

渡された紙を後ろに一枚回してから、確認する。

 

紙には、確かに運動部四種、文芸部四種の、八種部活の名前が書かれていた。

 

運動部

 

陸上

探検

救命救助

軍事体験

 

文芸部

 

医療

軍事理論研究

菜園

魔術研究

 

まともな部活が陸上と菜園しか無い件について。

 

軍事関係の学部の学校だから、何とか理解出来るのは、あるにはある。

 

だけど探検は理解出来ねぇよ!?

一体何やんの!?

 

くそ、年齢制限のせいで入部出来ないのが、とてつもなく悔しい。

探検とか、ぜってぇ面白いじゃん、凄く入りたい!!

 

「部活の紹介は、プリントに書いてある教室でやっている。興味のある部活に、全員が必ず入部すること。部活に入らないのは認めてないからな。」

 

「今日は校内案内と言っても、部活の事もある。基本的に各自で自由に学校を見て回ってくれ。」

 

「十二時半になったら、一回この教室に集まって、入部届けの紙を回収して、今日は解散だ。」

 

成る程ね、自由なら初音と一緒に回れるな。

 

あ、そういえば入部届けの紙どこで

 

「先生、入部届けの紙はどこで貰えるんですか?」

 

咲さんがさきに質問してくれたようだ、ありがたい。

 

「すまん、言い忘れてたな。入部届けは各部活紹介の教室で貰える。では、報告は以上だ。」

 

そう言って一条先生が教室を出ると、女性陣の、楓さんと咲さんが、鐵と犬神に話しかけていた。

 

「二人とも、一緒に菜園部見に行かない?」

 

「話がある、一緒に来てくれる?拓也。」

 

へぇ、楓さんは犬神のこと、呼び捨てなのね。

 

って、そうじゃなくて、女性陣は謝るまで無視じゃないのか?

 

てっきりそうだと思ってたけど、もしかして、あんまり怒ってない?

 

戦わなくても大丈夫?

 

「………分かった、拓也お前も来い。初さん、俺達は咲姉達と行ってきます。」

 

咲さんの事は、姉呼びなのね、そう言う所は年相応か。

 

って、そうじゃなくて、この流れならバトルしなくていいかんじか?

 

何だよ、鐵のやつ、戦うの確定みたいな事言いやがって、平気そうじゃないか。

 

そんな事考えていると、犬神が耳打ちしてきた。

 

「………戻ったら、何があったかは話します。出来るだけ穏便に、済ませるんで、何かあったら念話で連絡しますよ。」

 

え、なんか犬神の奴、死にに行くような顔してるんだけど、え?

何これ、なんでそんな決死の覚悟してんの、姉貴分に呼ばれただけでしょ?

 

「分かった、俺は初音と部活紹介周ってるから、十二時に教室近くの便所集合な、そこで教えてくれ。」

 

「了解です。」

 

………この調子じゃやっぱり、戦うことになりそうだな、はぁ。

 

玉木のおやっさんと考えた作戦擬きはあるけど、俺の相手がなぁ。

テューポーンは隠せないよなぁ、絶対。

 

紫陽花さんに相談すると特訓コースだし、夜鷹さんは家事と子守りで忙しいし。

 

初音は巻き込めないし、鮎川は向こうの女性陣の地雷っぽいし、贋哉叔父さんや一条先生も巻き込めないしなぁ。

 

うぅむ、八方塞がり、どうすっかなぁ。

 

戦闘であの四人に勝つのは無理そうだし、戦闘以外で認めさせれば最高なんだけど、それこそ思いつかないんだけど。

 

こんなん無理やろ、どうすりゃ良いねん。

 

カラカラカラカラ

 

「あ、お兄ちゃん発見!」

 

ん?

 

初音か、何でこの教室に来たんだ?

 

「ほら、お兄ちゃん、速く部活紹介見に行こうよ、む~ちゃんも一緒だよ。」

 

鮎川も?

あ、教室の引き戸の所に鮎川が居た、教室の中の様子窺ってるんだけど、やっぱりあの四人警戒してんのかな、何か襲われたとか言ってたし、襲った人間の一人は自分と同じ仙人級、そりゃ警戒するかね。

 

「初、行くなら速く、あいつらが来る前に速く。」

 

鮎川がそう言って急かしてきた。

まぁ、その四人は五馬鹿連行して菜園の方に行ったんだけどな。

 

てっきり、鐵と犬神の二人かと思ったら、五馬鹿全員連行だからな。

 

まぁ二人以外の三人は、警戒何てせずについていったけど。

 

二人が死地に特攻する雰囲気だったのに、他三人は気づかないし、綾女さんと瀬良さんはピリピリした雰囲気だったし、何か凄く混沌とした空気だったな。

 

でも、ふぅむ、昨日から同じことばっか考えてたし、ちょうど良い息抜きになりそうだな。

 

それに、気になる部活も有るし、皆で行ってみるか。

 

いやぁ、魔術研究部ってどんな事するんやろ、気になるわぁ。

 

「鮎川、あの四人なら五馬鹿つれて菜園部の方に行ったから、警戒しなくて良いぞ。」

 

「あの四人って?もしかして、また女の人?」

 

初音、怖いからそんな殺気を出さないでくれ、冷や汗が止まんないから、な?

 

「いや、あの四人は油断できないの、特に咲はね。」

 

お、おう。

 

神妙な雰囲気で言われても、そんなのこっちも知ってんだ、だから殺気立ってる初音を止めてくれ!

 

「は、初音、あの四人は鐵と犬神にゾッコン何だ、だから俺は関係ない、本当だ、何もしてないからな!?」

 

「むぅ、そんな事言って、いつの間にかむ~ちゃんもだし、シュネとリツも狙って、」

 

???

何でここで大魔狼の赤ん坊の名前が出てくるんだ?

 

「初音!?私は別に狙ってないからな!!勘違いすんなよ!?それに私は元男だよ!!」

 

「でも今は女の子だし、この前む~ちゃんがお母さんと一緒に買い物行ったとき、お兄ちゃんの好」

 

「わぁ~~~~~~~~~!!!!!!」

 

「私はむ~ちゃんだったら百歩譲って、二番目枠ってことで我慢出来るけど、それ以上は許さないからね?」

 

???????

 

え、何、どうなってんの?

何でこんな話になってんの?

つか、え、鮎川が?

どう言う事?

え?

 

「あ、あ~、そこの年齢詐欺三人、学校で騒ぐな。それと、部活紹介の教室は結構距離が離れてる、時間が勿体ないから速く行け。」

 

は!?

 

一条先生、いつの間に教室に、さっき出て行ったばっかじゃないか。

 

「!?!!?い、一条先生!!」

 

「ご、ごめんなさい。ほらお兄ちゃん、速く行こ。」

 

!?

ちょっまっ、未だ俺混乱して!?

 

くそ、一条先生その、お前も苦労してんだなみたいな顔やめろや!!

 

ええい、この二人が揃って来る時点で、俺の胃にダメージが来る事を忘れていた。

 

こんなんじゃ全然気分転換になんねえよ!?

 

そんな事考えながら初音に手を引っ張られて移動してると、鮎川が話しかけてきた。

 

「さっきのは、あれね、初音の冗だ「本当の事だからね?嘘は良くないよむ~ちゃん。」ぐっ、その、初には世話になってるから、お礼を考えてただけで、決してそう言う意味が、あった訳じゃ無くて、だから」

 

弁解しようと頑張ってドツボにはまってるなこれ、何か無償に頭撫でたくなるな、可愛い。

 

つか、初音もそこは冗談で終わらせれば良いのに、さては初音も鮎川の慌ててる所見て、楽しんでるな?

 

「分かってるって、鮎川は下じゃなくて上好きだっ「せい!!」!?っっっあぶな!!いきなり定規で頭狙うんじゃねぇ!!」

 

人がせっかくフォローしてあげたのに、定規で後頭部を狙うなんて酷いなぁ、そんなんだからいつまでたっても

 

「そのっ!ことはっ!!記憶から消すわ!!!」

 

!?

こいつ、頭を執拗に狙いやがって!!?

 

「ええい、未だやるか!!」

 

しかも今度は鳩尾とか、一々狙う所が急所何だよ、鮎川の力で叩かれたら、俺運が良くて気絶だろうが!

 

流石に俺も、当たり所が悪いと死ぬぞ!?

 

「二人とも、静かにしなよ、さっき怒られたばっかしじゃないの。」

 

だけどな初音、俺は今、軽く命の危機にあったんだが?

 

そこら辺、鮎川を注意しても良いんじゃないかな?

 

「チッ、はーい。あ、初音、今日のお昼どうする?また昨日の所に行く?」

 

鮎川め、何事もなく定規をしまって、話題を反らしやがって、後で何か奢らせてやる、お茶かなんかで良いや。

 

無駄に高いやつにしよう、学食が有るらしいから、そっちに行くか。

 

「学食行きましょうよ、私香辛蕎麦食べたい!」

 

初音も同じこと考えてたらしい。

 

それにしても香辛蕎麦か、前世で言う、ラーメンに似た食べ物だけど、出汁は基本動物系と野菜系の二種類を組み合わせたりするもので、魚介系は保存が難しいから、海辺近くの場所じゃないと食べれないんだ。

 

保存技術はあっても、運ぶ人間が限られてるから、魚介系は内陸の人間にとっては贅沢品だ。

 

学食では、朝昼晩三食出してくれるらしいけど、値段が滅茶苦茶安いって訳でも無いし、魚介系以外なら、自炊した方が良いかもな。

 

刺身や寿司は、玉木のおやっさんの所が安いし。

 

「良いけど、お前財布どうした?」

 

「あ…………む~ちゃん。」

 

あ、こいつ今まで、金関係の事忘れてたな。

 

安いって言っても、只じゃ無いんだけどな、まったく。

 

まぁ、三才児がある程度溜まったお金を持ってるのも怖いけど。

 

「はぁ、分かったよ、そのかわり、今度ヴァイスを一日貸し「それは駄目」………なら、今日の洗濯当番代わって。」

 

??

何でここでヴァイスの名前が?

 

あいつらは今、紫陽花さんと夜鷹さんと一緒に家に居るはずだろ、何で鮎川がヴァイスと会いたがってるんだ?

 

「それなら、お昼は三人で学食行きましょ、む~ちゃんの奢りで。」

 

「鮎川、ゴチな。」

 

「ちょっと待って、何で初の分まで、」

 

そんな事話していると軍事理論研究の教室に着いた。

 

教室の前に立ってた教員が…って、

 

「あ、もしかして叔父さん?って言うことは」

 

「ハッハッハ、そういう事だ。戦闘理論担当教員で、特待生五組担任。軍事理論研究部顧問の、天草贋哉叔父さんだ。」

 

あ、目が死んでる。

これはあれだ、父さん達に無茶振りされてここに飛ばされたな、絶対そうだ。

 

「えっとその、うん。贋哉叔父さん、きっと良いことあるよ、元気出して!」

 

初音が元気付けてるけど、あんまり効果無いな、まぁ幼女に元気付けられて復活する三十代のイケメンとか、何かやばいもんな。

 

「まぁ、何だ。中でもう一人の顧問が説明してくれるから、中で説明聞いてくれよ、うん。」

 

「贋哉さん、お疲れ様です。」

 

鮎川も不憫に思ったのか、励ましてるし。

 

「ありがとな、嬢ちゃん。」

 

叔父さんも、これ以上情けない所見せたくないのか、話しながら俺達を教室の中に入れた。

 

「失礼しまーす。」

 

そんな事しなくても、もう十分情けないんだけどね。

 

そんな事考えながら教室の中に入った。




次は月末になりそうです。

犬神君の名前が違ったから、直しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話 天皇様のいぢわる!

やっと仕上がりました。



「失礼しまーす。」

 

叔父さんに開けてもらった扉の先を見ると、大量の資料に埋った人を発見した。

抜け出せないのか、埋まっていなかった左腕を、助けを求めるように動かしている。

 

「う~ん、う~~ん。」

 

何か怖いのでその場で観察してみる。

 

「誰かー、居ないの~?」

 

くぐもってるけど、声からして女の人かな?

 

「ねぇ、居るんでしょ~、扉開いたの気づいてるのよぉ。速く助けて~。」

 

むぅ、聞いたことのない声。

 

また新キャラか、最近多いよね、キャラ出すのは良いけど、直ぐにキャラが空気になる小説。

 

そんな事考えていると、初音が鮎川と一緒に女の人を引き上げていた。

 

「い、痛い痛い、ちょ、強く引っ張り過ぎ。イタタタ。」

 

引き上がってきたのは、うん、普通の人やね。

 

あからさまに年齢詐欺とか、外人とかそう言うんじゃなく、普通の丸眼鏡掛けた女の人やね、うん。

 

「ケホッケホッ。ありがとね、助けてくれて。あなたたちはこの部活の見学よね?」

 

「ええ、ここは軍事理論研究部で良いんですよね。」

 

そう言った鮎川の質問が気になって、回りを見渡す。

 

ふむ、特に異常は無いな、俺達以外()()()()()教室だけど……………!?

 

俺達が入学した学部って、()()()()()()()だったよな?

 

「ええ、そうよ。ここの学部に入る人間なら、人気になってても良い部活何だけどね。」

 

そう言って、女の人が教室を見回したのに釣られて初音も教室を見て、おかしい事に気付いたみたいだ。

 

「それにしては、何か、人が少ないような気がするんですけど。」

 

「こっちは座学が基本で、冒険部がある運動系とか魔術研究とかに人が流れちゃってね。ここでする事って勉強の延長だから、人が来ないのよねぇ。贋哉先生が入り口で見張っているのもあるんだけど。」

 

そう言った後、せき込んで若干涙目になってる女の人が自己紹介してくれた。

 

「私の名前は五十嵐 美波(いがらし みなみ)って言うの、この部活の主任顧問よ、よろしくね。」

 

「よろしくです。」

 

初音は元気があって良いなぁ。

 

俺、何かもう厄介ごとの空気で逃げたいんだけど。

 

「ところで先生、ここって具体的にはどんな事するんですか?」

 

くっ、鮎川もこの空気は感じ取れないか!!

 

大体、扉開けた瞬間に人が資料に埋まってるとか、普通ありえないだろ!?

 

「俺達、実を言うと天草先生と知り合いで、何となくで入っただけなので、その。」

 

俺が申し訳なさそうな顔をして言うと、五十嵐さんはめっちゃ悲しそうな目で見てきた。

 

「そうだったの、もしかしてだけど、魔術理論の所に行く予定だったでしょ?」

 

「それは、まぁ、はい。」

 

う、何でこの世界の人達って分かりやすい人ばっかなのかなぁ!!?

 

罪悪感が、ウゴゴ。

 

「良いじゃん、見てこうよお兄ちゃん。時間はあるんだし、いろんなところ見た方が良いって。」

 

いや、だがな初音よ、この部活は地雷臭いんだけ「初、私は入るところ決まってないから、ここ見たいんだけど、ダメ?」

 

鮎川まで…………………………………………

 

「もしよかったら、三十分で良いから、時間くれない?」

 

グヌヌええい、何でこう、俺が悪役みたいな、俺は間違ってないだろ!!

 

 

「ダメ、かしら?」

 

…………あぁ、うん。

もう、どうにでもなれ、うん。

 

「まぁ、少しで良いなら、お邪魔させてもらいます、はい。」

 

くそう、三人して喜びやがって。

 

でも、直ぐに教室を出たら叔父さんが悲しむからな、仕方ないのだ、うん。

 

その後、初音が気に入っちゃって三十分の予定が一時間まで伸びたのは余談である。

 

 

 

 

~その日のお昼~

 

「はぁ、結局魔術理論とか菜園とか行ったけど、どこも知ってる奴らばっかで、内容も紫陽花さんや夜鷹さんに聞けばわかる事そうだし、医療は専門用語多すぎて、ついて行けん。」

 

あの後、他の部活も見て回ったのは良いけど、結局軍事理論研究部に初音と二人で入ることになった。

 

鮎川は何と、医療に入るらしい。

 

まぁ、部内の成績最優等生に『エリクサーの酒造をしている少彦名の神社に酒造見学に行ける』なんて出されたら、そりゃ入部するだろうよ、うん。

 

おかげで他にもエリクサー目当ての人間が入部して、医療部はエリクサーを取り合う奴らによる阿鼻叫喚の地獄絵図。

 

まぁ、俺には関係ないから、良いんだけど。

 

「でも、む~ちゃんは良かったんじゃない?もしかしたら来年には、お母さん病気治せるかもしれないんだし。」

 

そう言って香辛蕎麦を食べる初音。

 

今俺達は学食に居る。

 

学食は寮ではなく校舎の西側を、一階から三階までをぶち抜いており、西側を大きな透明のガラスで光を取り入れる形になっている。

 

三階までぶち抜いてるから、席は結構な余裕があるので混雑はないだろう、値段は普通だけど。

 

つか、あのガラスどうやって作ったんだ?

繋ぎ目があるから、一枚ではないんだろうけど、それでもあんな大きさで、ピッタリ大きさが合うように、大量に同じ大きさのガラスを製造するとか、前世並かそれ以上だぞ?

何かそっち系統のギフトでも居るんだろうか?

 

「だけど、流石にあの人数で最優等生になるなんて、難しいと思うわよ?」

 

「それでも、アイツならやれると思いますよ。執念だけは日ノ本でも最強格ですしね、咲さん。」

 

そう言って石狩鍋食べてる咲さんの方を見る。

 

もう、寒くない季節なのに石狩鍋とか、一人前なのは良いけど、見てるだけで熱いわ。

 

因みに俺はオムライス、普通に旨いっす。

 

味は普通とは言えこの学食、値段はともかく料理の種類が凄いぞ、お品書きが分厚いんだけど。

 

いや本当に、こんな分厚いお品書き見たことないぞ?

しかも前世と違って写真が滅茶苦茶高価だから、料理名と値段しか書いてないのにこの分厚さ、食材の保存も前世程良いって訳じゃないんだけどな、冷蔵庫擬きとかがあるだけだし。

 

日ノ本の食に対するこの貪欲さは一体ウゴゴ

 

「そう言えば、何で咲さんがお兄ちゃんに興味持ってるの?」

 

初音、それは今更過ぎる疑問だろ。

 

「あぁ、それはだって、私たちの想い人が舎弟みたいになってるんだもの、気になるに決まってるでしょ?」

 

いや、あいつらは舎弟じゃなくて友達何だけど。

 

向こうがなぜかこっちの事を立てまくるだけで。

 

「それはまぁ、理解できるけど、でも私何も相談されてないんだけど…………お兄ちゃん?」

 

「えっとだな、」

 

忘れてた何て言えないだろ。

いや、どうせバレる位なら正直に話すか?

 

何で話忘れた一時間前の俺よ、恨むぞ?

出来るだけ、初音を怒らせないように説明しながら一時間前の事を思い出した。

 

 

 

~一時間前~

 

 

 

「時間だ、全員入部届を提出してくれ。提出した生徒から帰って良いぞ。」

 

その言葉に皆が教卓に入部届を置きに動く。

 

皆もう大体の部活を周り、自分が行きたい所を決めたらしい。

 

「拓也、来て。」

 

「銅次兄、私たちも行こ、先生待ってるよ。」

 

「じゃあ今前君、私達も行こっか?」

 

女性陣の言葉に大人しく動くしかない、俺を含めた男共、何かなぁ。

 

「あ、お兄ちゃん、一緒にお昼……………………その人誰?」

 

ゲッ!?

 

「えっとだな、この人は」

 

「私は鐵咲、今前君と同じ組で、銅次のお姉ちゃんなの、貴女は?」

 

説明しようと思ったら、咲さんに先越されてしまったでゴザル。

初音も今の咲さんの言葉に納得したのか、自己紹介をしている。

 

「そうだったんですか。私は、」

 

はぁ、良かった。

鐵…………銅次の姉って聞いて納得してくれたみたいだ。

 

二人が話している所に話しかける。

取り敢えず、廊下で立ち話もあれだから食堂にでも移動しよう。

ちょっと距離あるけど、昼飯の時間だしな。

 

………昼と言えば、鮎川は来るんだろうか、奢ってもらう約束してたようn?

 

うん?

何か俺の足元に紙切れが。

 

えっと何々、《咲がいるとか聞いてない。私先に帰るから、初音に言っといて》?

 

「…………………あいつ、逃げたな。」

 

これはあれだ、お茶とか言ってたが、絶対に高いの奢らせるからな。

この国だと魚系が一番高いな、刺身にするか?

いや、寿司にしよう、そっちの方が高そうだし、値段の割に量が少ないから沢山頼めるぞい!

 

クックック、逃げた事後悔させてやる。

 

どうせあいつ、鮎川中将からたんまりお小遣い貰ってるんだし。

 

中将はお手伝いさん経由でお小遣いをずっと渡してたみたいだ。

いくら忙しいからってそれぐらい手渡し出来たろうに、どんだけ切羽詰まってたか分かるな。

 

まぁ、鮎川はその金で玩具じゃなく、鐵の鍛冶設備だったり、四人の隠れ家だったりを工面してたそうだけど。

 

……………自分より年下の幼女に生活の面倒見てもらうとか、今度からあいつらの修行は手加減要らないな、今まではテューポーンだけだったけど、力も追加でやってみるか。

 

あいつら結構強くなってるし、そろそろ上げる頃合いだし、ここら辺でちょっと一回地獄を見せ

 

「ちょっと……ちゃん。お兄…!お兄ちゃん!?」

 

ん?

 

「何だ初音、何かあったか?」

 

考えすぎていたみたいだな、二人とも打ち解けてるし、結局廊下で話してたな。

 

「お腹空いたから食堂行こうよ、咲さんが奢ってくれるって。」

 

「え!?いや、咲さんに悪いだろ。」

 

昨日、自己紹介で初めて知ったような人に奢ってもらうなんて、申し訳なさすぎるだろ。

 

つか、初音は今会ったばっかなのに、こんなに歯に着せぬ感じで良いのかね?

 

我が妹ながら厚かましいと言うか、何と言うか、自由な御人である方で。

 

「良いのよ、こっちも訳ありでお金なら有るし。それに二人とも外見年齢考えて?払わないと私が居た堪れないわ。」

 

む、外見年齢を出されると何も言えなくなるんだけど、こっちは五歳と四歳だし、咲さんは十六歳だもんな。

 

ううむ、この国だと成人してる歳だし、大人と子供な訳だしな、顔を立てるって意味でも、でも申し訳ないしなぁ。

 

「そんな申し訳ないなら、私のお願い聞いてくれる代わりに、奢りでどう?」

 

………………むぅ。

 

「それなら、ありがとうございます。」

 

未だちょっと申し訳ないけど、この後の展開予想出来るしなぁ。

滅茶苦茶疲れるだろうし、何で俺が狙われてんだってなるけど、納得できないことはないし。

 

《腹が減っては戦は出来ぬ》って言うし、腹ごしらえに食堂行きますか!

 

 

 

~現在~

 

「と言う訳なんだ、だから忘れた訳では無くて、鮎川の前で名前を出すのはちょっとな、念話だと鮎川に気付かれるし、出来なかったんだよ、本当にごめん。」

 

ってな事があったんだよな、初音に話すこと全然考えてなかったわ、いやぁ、失敗失敗。

 

「お兄ちゃん、今日は私の部屋ね。」

 

「は?あのな、それは同じ部屋の人に迷わ「む~ちゃんだから大丈夫。」お前なぁ。」

 

こっちの部屋なら未だしも、何で俺が女子のエリアに、他の人間に見つかったらアウト何だけど。

ここは何としても断らなければ。

 

「返事は?」

 

「あ、ハイ。」

 

怖くて断る選択肢がないんですけど、コワイ。

 

「アハハ、二人とも仲が良いわね。兄妹仲が良いのは良い事なのよ?」

 

咲さん笑ってる場合ではないですよ、止めてくれなきゃ、男が女子寮エリアに行っちゃったら駄目でしょう?

 

「そんな、おしどり夫婦だなんて、照れちゃう♪」

 

あぁ、初音が変なスイッチ入っちゃったよ、この状態になると手に負えないんだよなぁ、人の話聞かないって意味で。

 

いや、何時も手に負えないっちゃ手に負えないけども。

 

「初君、朝言ったことなんだけどね?本当は模擬戦だったんだけど………ちょっと予定変更して、私たちの話することにしました!」

 

「???どうしたんですかいきなり。」

 

どういう事だ?

もしかして戦闘回避できる?

 

いよっしゃぁ~~~!!!

 

「元々は、銅次が下手に出てる子供だから、ちょっと実力確かめようって考えてたんだけど...貴方の妹を見て考えが変わったわ。初音ちゃん、凄い歪な魂してるわね?しかも貴方との間に誓約が凄い数在るじゃない。」

 

!!!?!?

ッッッッッな!?

 

「ちょっと待て!?何でむぐっ!!?」

 

!?

初音よ、何で俺の口塞ぐんだよ!!

 

思わず初音の方に視線を向けるが、初音が無表情で魔力解放してたから、取り敢えず黙る。

 

いい加減切れると魔力が駄々洩れになる癖、直した方が良いだろ、初音の周りの景色が歪んでる。

 

「まぁまぁ、落ち着いてよお兄ちゃん。焦っても仕方ないよ。咲さん、何で私たちの事知ってるの?もしかしてそう言うギフト?」

 

何て言う説得力のない言葉、お前が落ち着けよ、いや、行っても無駄だから言わないけど。

 

「違うわよ、ギフトじゃないわ。私のギフトはガルダだけよ?順を追って話すから、殺気立たないで落ち着きなさい。」

 

そう言って俺達三人の周りに結界を張り、「ここから先は内緒よ?」と言って話し始めた。

 

「私たちは、天皇様に雇われたのよ、非公式組織としてね。」

 

「それと私達の素性を知ってるの、何の関係があるの?」

 

初音、未だ殺気だってるよ、いや、俺もまたいきなりの展開で追い付いて無いんだけどね?

 

去年は誕生日にドッキリの後、神社で厄介事に巻き込まれるなんて目にあったけど、今年は入学まで平和だったんだぞ?

 

あれか、転生前に月詠に少しだけ刺激が欲しい何て言ったのがいけなかったのか?

 

でも、あれやぞ、転生後の世界がこんな世紀末とか聴いてなかったからな、前世と同じくらいの世界って言ってたからな?

 

俺は悪くねぇ!!

 

「非公式組織の目的は、あなた達イヴ様の眷属の監視よ、審判役がどんな人間か、見極める人間が必要だったの。」

 

えっと、つまりイヴの眷属がどんな人間か解らないから、ある程度基準を越えた人間を雇ったと。

 

……………………………………………………

 

「審判役は並大抵の存在じゃないから、最低でも種族進化してる人。それも貴方達の両親から横やりの入らない人。軍属でも無くて、巫女連からも距離を取ってる種族進化してる人なんて、国の外に居る人位よ。」

 

…………………成る程、嘘だな。

 

いや、咲さんが嘘吐いてるんじゃなくて、天皇が嘘吐いてるって事。

 

だって俺、天皇と会った事あるし、鮎川もイヴの眷属で二番目に年長者、一条先生と一緒に眷属の事と人魔戦争の事話すために城に一度登城してる。

 

初音は母さんの職場復帰の時に連れてかれて、天皇が遊んでくれたって言ってたし、俺達の人となりは知ってる筈だ。

 

つまり、人となりを見るって理由で咲さん達を騙してまで俺達を見張る理由が有ったと。

 

これで父さん達の過保護だったら笑い話何だけど、どうなんだろ。

 

「私達の事詳しく知ってる理由にはならないんだけど。」

 

初音も天皇の真意を考えてるな。

 

まだ、俺達の誓約の事聴いてないし。

 

あれは、それこそ種族進化してるような奴でも、見える事も触れる事も無い、この世界からすれば、認識することすら出来ないレベルの上位神の能力の筈だ。

 

分かるとすれば、イヴと同じレベルの神格、それも()()()()()特化の神じゃなきゃ分からないって、月詠が言ってた筈だから。

 

じゃあ、一体誰だ?

イヴが教えたか?

それとも新しい神?

 

「私があなた達の事詳しく知ってるのは、天皇様が詳しい資料作ってたからよ。私達に求められてるのは、性格とかじゃなくて能力調査よ。それは私達も対象に含まれてる。」

 

あぁ、イヴか。

イヴは今の天皇の事溺愛してるからなぁ、お願いされたら多分、何でもするぞあの女神。

 

「あなた達の能力は誰が調査するのかしら?」

 

「この学校の先生よ、私たちのは学校の成績で判断するんですって。」

 

イヴめまた面倒な事に巻き込みやがって。

 

何でまた天皇に乗せられてるんだよ!

初音も呆れた表情になってるし。

 

「じゃあ、私達も学校の成績で判断すれば良いんじゃない?」

 

確かにそっちの方が面倒はないんだけど、あの天皇は遊ぶ時はそういう所も手を抜いて、面倒を楽しむタイプ何だよ。

 

「天皇様の考え何て知らないわよ、私は言われたことをしてるだけ。そうすれば、報酬で森に居る皆に楽させてあげられるから。」

 

あ、なるほど、報酬はそういうふうに使う予定なのね、納得。

自分以外に躊躇いもなく報酬を使えるなんて、優しいお姉さんだなぁ。

 

「そういう事だったんだな、じゃあ、銅次達をしつこく狙ってたのは?恋愛感情だけか?」

 

恋愛感情だけなら、鮎川を不意討ちなんて暗殺染みた真似しないだろ、問答無用とか、ちょっと怖いぞ。

ヤンデレだったら、嫌われたくないって理由で、銅次達にばれないようにするだろうしな。

 

銅次達が言ってる、自分たちを危険な目に遭わせたくないって理由なら、まず銅次達の説得から始めるべきなんだけど、多分その段階は超えてるんだろうな~。

 

「それもあるけど、銅次達を危険な目に遭わせたくない、それだけよ。銅次達は納得してないけどね。」

 

やっぱり、でも咲さんと鮎川がやり合ったら、周りの被害が凄いだろ。

ガルダの伝承は物理防御特化、鮎川のギフトとの相性は悪いはずだし。

 

やり合ったら最後、辺り一帯不毛地帯で立ち入るだけで呪われる土地になるぞ?

 

「私達の森は下級ばかりで中級魔獣でも珍しいレベルの、安全な森よ!魔獣とも、ある程度の交流は有るし、共存も出来てる。あの森は安全なの、なのにアイツが!」

 

何か、咲さんがヒートアップしてきた、落ち着て欲しいんだけど。

 

咲さんが暴走したら、穏便に止められる人は一条先生とイヴだけなんだから、頼むから落ち着いてくれ!!

 

「じゃあ貴女は知ってるの?む~ちゃん達が頑張ってた理由。」

 

ハハハ、初音さんは関係なく煽りますなぁ、ヤバイ、咲さんが魔力漏れし始めてる、暴走秒読みやん!?

 

何かもう、話が脇道逸れて、関係ない事で二人が盛り上がってるんだけど。

 

つまり、咲さん達を学校に送り出したのは天皇で、目的は俺達の能力調査と、ううむ……………………

 

「勿論よ、だから私は、私達は反対したのよ!銅次が危険な目に遭うのは許せない。例えそれが、周りからどんな目で見られても、止めるのが私達よ!!」

 

良く良く考えると可笑しいんだよ、天皇が俺達を警戒するとか、脅威にすらなれない奴らに、監視何て付けないだろ、普通。

 

調査をするなら藤原のやつらを使えば…あ、俺と初音が居るから無理か。

 

でも、咲さんが言うには、咲さん達にも調査の手が届いてるらしい。

 

ならこれは咲さん達に対する試練かね、俺達は当て馬だろう。

 

「それで恨まれても良いの?」

 

何かどんどん雲行が怪しくなってきてるんだけど、どういう事だ!?

 

「…………良いわよ、弟が間違ってたら、危ないことしてたら!…止めるのが、姉でしょ?」

 

二人とも、真剣なのは良いんだけど、頼むから、魔力漏れ何とかして下さい。

もう二人の周辺だけじゃなく、二人を中心に周りのテーブルも巻き込んでるんだよ!?

 

食堂の人も怒りたいけど、二人の魔力に当てられて近づけないし、ちょっとは自重して下さいよ!

 

シリアス過ぎて一触即発な空気に耐えられん、腹痛い。

 

そうやって俺が腹抱えてたら、急に咲さんが張った防音結界が解除された。

 

「お前ら、問題起こさないと生きていけないのか!?」

 

驚いて解除された方向に目を向けると、鬼の形相で怒鳴っているの一条先生の姿が見えた。

俺は過労で気を失った。




次回は十五日に投稿(したい)予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話 鮎川がヒロインし過ぎて、俺の心労がヤバイ

今月初めの投稿です。


キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

 

月は六月の終わり、段々と熱気が出てきて、半袖で過ごす日が増える今日この頃、週一日の休みがあるこの学校で、俺たちは今日最後の授業を受けていた。

 

アレから、一条先生に思いっきり説教され、咲さんと初音がそれでも自重を学んでくれなかった事以外、何事もない平和な毎日を過ごした俺は、もう六歳で初音も四歳だ。

 

俺はこの平和な学校生活を楽しんでいた!!

 

「今日の授業はこれで終了だが、大事な連絡事項が一つ、七月から、もしかしたら長期休暇があるかもしれん。」

 

それに、咲さんが質問する。

 

「どういう事です?何か問題でも起こりました?」

 

「まぁ、それもあるな。ここの組の人間は全員、災害魔獣の恐ろしさは知っていると思う。」

 

な、何で今災害魔獣の話を、まさか?

 

「実は、災害魔獣の一体五神エアの治める国、霊鳥國オルニスが、少しキナ臭くてな。少ししたら全国に向けて、宮廷から緊急の通達があると思う。」

 

嘘だろ、五神って災害魔獣の中でも、特に力の強い五体の事だぞ!?

 

オルニスって言ったら、朝鮮半島辺りの国じゃないか!?

 

父さん達が居るモンゴル仏国より近いぞ!!

 

クソッ、父さん達は今何やってるんだ!!?

もうモンゴル仏国との人魔戦争についての会談は終わったはずだろ!!

 

そう言えば、先皇のおめでたでご祝儀に行ってましたね!!

天皇様も妹に会いに行くとか言ってたな!!

 

……………………この国、ホント何で成り立ってんだろ。

国のトップ三人がアレって、無駄に優秀で誰も文句言えないのが、また腹立たしい。

 

「その話し、嘘じゃないですよね?」

 

「俺が、こんな下らん嘘吐いてどうするんだ。事実だバカもん。」

 

だとしたら軍事力が世界最高峰のモンゴル仏国は全然平気でも、この国はヤバイだろ、国内の最大戦力が、二人とも居ないんだぞ!?

 

天皇は何でこんな采配をしたんだ!

 

「後、この学校には冷房設備が未だ完全に取り付けられて無くてな、特に寮や研究・実験室等は問題無いんだが、普通教室や体育館が酷くてな、改修工事があるのも理由だな。」

 

後から取って付けたように、そんな事言われても、頭に入らないわ。

 

思わず一条先生を凝視すると、一条先生は伝えることは伝えたと言わんばかりに、教室を出た。

 

あの教師、質問攻めが面倒臭くて逃げたな?

 

「初君、明後日の休日、空いてるかしら?」

 

俺が、そんな事考えて現実逃避していたら、咲さんがHR終わって直ぐに話しかけてきた。

 

あんな話があったのに、まるで普通通りで恐いな。

いや、天皇経由で話は聞いてたのか?

 

何だかニコニコしてて、裏がありそうで疑いたくなるけど、咲さんがこの学校に来た理由は分かってるし、心配する理由も無いからな。

 

ここは今後の親交のためにも、予定開けるべきかな?

 

カラカラ

 

「お兄ちゃん!一緒に帰ろ!」

 

猛突進して抱きついてきた天使に驚く。

 

週末は初音と鮎川の三人で、部屋に置く小物を探す予定何だけどなぁ、鮎川には後で謝るとして、初音は連れて来ても大丈夫かね?

 

「ぐわっぷ!?学校で抱きつくなって言ったろ!すみません咲さん。それで、何の用事で?」

 

そう言って抱き付いてる初音を引き剥がす。

何かブーブー言ってるけど、可愛いからむしろご褒美やな。

 

「夏に皆で毎年合宿するんだけど、合宿場所の安全確保しなくちゃいけなくてね、手伝ってくれるとありがたいのよ。勿論、お礼はするわよ?」

 

「咲さん、合宿って何処でするの?」

 

「私達が住んでる森『月の出森林』の近くの『出多摩樹海』の、浅い地域に、川が流れてるの。『荒魂川』に繋がってる川で、近くの山から流れてきたものなのよ。周辺に居る魔獣も、上級が殆んどでね。何時もは私と楓で手分けして、話の分かる魔獣にお願いしに行くんだけど……………………」

 

あ、やばい、段々と咲さんの笑顔が無表情に変わってく、いつの間にか教室に居るの俺達三人だけだし......これは、マズいのでは?

 

「今は楓が拓弥君にベタついてるし!妹達は話もせずに魔獣を殲滅するから!!周辺の地域一帯焼け野原になるのよ!?一人だと時間が掛かるしグスンッ……………だからぁ、魔獣との話が出来るぅ、初君に手伝ってもらえるとぉ、私ぃ!嬉しいなぁ!!」

 

あまりの迫力に、思わず仰け反る。

聞いた初音も地雷踏んだのが分かったのか、たじろいでいる。

 

何か咲さんも若干涙目だし、どうすりゃええの?

 

「あ、うん、そうなんだ。私はお兄ちゃんのお手伝いしても、良いの?」

 

あ、初音が折れた、前世では頑固な人間だったのに、今世では丸くなったなぁ。

 

「もちろん!初音ちゃんも!!大歓迎よ!!!」

 

そう言って咲さんが、初音を抱き締めてグルグル回り始めた。

 

はぁ、鮎川に何て言って断るかなぁ。

 

ううむ、絶対ごねるなぁ、直ぐに想像できた。

「私が咲のこと苦手だって分かってるのに、私より咲を優先するのか!?」って、掴みかかって来るのが目に浮かぶわ。

 

どうすっかなぁ、はぁ。

 

「ちょ!咲さん痛い!!」

 

「咲さん、初音が痛がってるよ。」

 

初音が痛がってるので、一回咲さんを止める。

 

「あ、初音ちゃんごめんなさい!怪我はない?。」

 

咲さんも我に帰って初音をおろす。

 

「だ、大丈夫です。それより、待ち合わせどこにします?」

 

初音が聞いたことに、少し考えるそぶりを見せて、咲さんは言った。

 

「そうね、なら朝九時に、特待生寮の前で待ち合わせしましょう。」

 

「お昼はどうします?」

 

あ、また考えてる。

この人、実は考えてるようで何も考えてない人じゃ?

 

「お昼はこっちで用意するわ。遅くなるだろうから、夕飯は三人で外食ね。」

 

「分かりました。」

 

ふむ、そうなると夕飯で鮎川を釣れないな。

板橋にお願いして鮎川の好物でも作ってもらうか?

 

そうなると板橋にも何かしなきゃならんな、却下。

 

はぁ、寮に帰ったら考えるか、板橋に相談しよ。

 

 

 

~部活~

 

 

 

「えと、私も詳しい事は分からないけど、この学校って、教師陣なの半分が軍属って事でね、私も偏りすぎだとは思うんどけど、非常事態となるとやっぱり、軍の活動しないと駄目みたいで、学校の仕事が出来なくなってね、そのせいで長期休暇って事みたい。」

 

今更ながら、本当に偏ってるよな、此処の教師陣。

いくら前世と違って、軍の仕事が多い影響で軍属が多いとはいえ、学校教師の半分が軍属とか、よく藤原辺りが学校創設に協力したもんだ。

 

あの宮廷人一族が協力しないと、国の機関を一つ増やす何て真似、出来ないのになぁ。

 

「先生、ここの補給線倒せないよ~!」

 

俺が先生と話してると、初音が頭を抱えた。

初音が地図の上にばら撒かれた小物を見ながら言う。

 

小物は軍隊を表していて、俺達兄妹は自分の操る軍を使って先生が出した問題を、積み将棋よろしく積ませるのが部活動だ。

 

今初音がやってるのは中級者位の問題、その上に上級最上級、特級災害と続いてくらしい。

大体最上級まで合格すれば、軍の作戦立案部の平兵士並らしい。

 

ここの部活は、他の部活と比べて人数が少なく、俺達兄妹と咲さんの三人だけ、運動系と魔術理論、医療の方に、この学校の生徒の大部分が流れたため、他の部活は人数が少ない、どこも十人居ない少数部活だ。

 

こんなんで部活になるのかと思ったけど、意外と面白いからやってみるもんだ。

前世と違って、娯楽も何もあったもんじゃない世界だから、こういう頭使う娯楽擬きは、結構ハマるものがある。

 

「ここはね、こうしてこうすると情報が得られるでしょ?だから、」

 

「えっと、ちょっと待って、書くから。」

 

まぁ、俺も初音も楽しくてやってるけど、軍師の才能はなさそうだな。

 

「ここの補給線貰ったぁ!!」

 

「ふふん、残念、伏兵だ。」

 

咲さんは簡単に合格もぎ取っていって、今では贋哉叔父さんとサシで勝負する位には強い。

 

「うぐぅ、また負けた、天草先生強すぎ。少しは手加減してくださいよ。」

 

まだ勝ち星は少ないみたいだけどね。

 

「手加減したら負けるから嫌だ。」

 

「けち!」

 

「るっさい、それより鐵、お前は毎回伏兵を警戒するのを忘れ過ぎだ。ちょっとは搦め手を学べ。」

 

「むぅ、はぁい分かりましたぁ。」

 

ハハハ、咲さんがむくれてら、珍しいな。

 

「やった、解けた!!」

 

「良かったじゃない、おめでとう初音ちゃん。」

 

お、初音が解けたみたいだな。

 

「先生、長期休暇って、どれくらいなんですかね?」

 

「分かんないけど、教室の空調設備が整うまでだから、二か月位かしら?空調設備も魔力を結構使うし、手入れが頻繁に入るから、私達教師がある程度そこらへん学ばないと駄目なのよねぇ、お掃除の仕方とか、大変なのよ。」

 

そう言って手に持ってる分厚い説明書を見せられる。

 

うわ、何これ、部品一つ一つの説明から、何処の場所で何の働きをしてるかとか、これ完全に修理屋の仕事の部分だろ、そんな所まで載ってるのかよ。

専門用語も多いし、これ二か月とか大変やな。

 

「ご愁傷さまです、先生。」

 

「お給金は良いんだけどねぇ、はぁ。」

 

そう言ってため息吐いた先生が、ひどく哀愁漂ってるように見えて、そっと目を逸らした。

 

そういえば、鮎川の説得どうするか、何も決めてないや。

 

 

 

~その日の夕方~

 

 

 

「と言う訳なんだよ、何か良い案ないかね、板橋ぃ。」

 

種を取ったスモモを、切り分けて鍋に入れながら言う。

 

「ううん、そうですね、未だ週末まで時間はありますし、歩さんも未だ子供ですし、物で釣るのもありかもしれませんね。」

 

そう言いながらスモモを切り分ける板橋に、初音が反論する。

 

「女の子を、物で釣るのはダメですぅ!誠心誠意謝って、来週末にまた約束すれば良いじゃない。ねぇ?」

 

そう言って初音は目の前の人物に言った。

 

目の前の女の子は、方をプルプル震わせて、遂に耐えきれなくなったのか叫んだ後、砂糖を鍋に入れた。

 

「……………………お前ら、そういう話は!!本人の居ない所でしろ!!!」

 

「もう、大声出しちゃだめだよ、む~ちゃん。」

 

「そうですよ、折角皆で話してるんですから、歩さんも何か意見言ってくださいよ。」

 

「何で私が考えなきゃダメなんだよ!!?」

 

あ、鮎川がいじけて俺の部屋に行った。

 

「ったく、二人ともよぉ、そんな事言ったから鮎川いじけたじゃん。」

 

「最初に話しふったのお兄ちゃんでしょ?」

 

「そうですよぉ、初さん、慰めてきてくださいよぉ。ボク達、夕飯の仕度もしてますから。」

 

こ、こいつら!?

何で面倒事俺に投げるし!

はぁ、ったく仕方ない、俺もふざけ過ぎたか。

 

頭掻きながら、俺の部屋に入る前にノックをする。

 

コンコンッ

 

「……………………何だよ。」

 

完全に不貞腐れてるなぁ、はぁ。

 

「入るぞ。」

 

カラカラカラカラッ、カラカラカラカラ。

 

真っ暗な部屋の隅に、体育座りしてる鮎川を見て、思わず溜め息が出た。

 

「はぁ、なぁ鮎川、そんなにいじけるなよ。」

 

「るっさい、そんなの私の勝ってだろ!」

 

あぁ、もう、そんないじけるなや、お前の方が年上だろ?

 

「あっちの二人も悪かったと思ってるし、俺も悪かった、ふざけ過ぎたよ。だから、機嫌直してくれよ。」

 

「そんなんで直るかよ、約束破ったクセに。」

 

うぐ、それもそうだけどよ。

あぁ、仕方ない!!

 

「それも、悪かった。この通りだ。」

 

そう言って、俺は土下座した。

 

「!?わ、分かったから、そんな事すんな!!」

 

ハッハッハ鮎川、土下座は腰の低い脅しだって知らないだろ?

 

土下座の体制のままで、鮎川にダメ押しする。

 

「じゃあ、許してくれるか?」

 

相手から言質取るまでが土下座です!

 

「許す、ゆるすから!!」

 

良し!

上手くいったぜ!!

 

「ありがとな、鮎川。ッ!?」

 

そう言って頭を上げたら、鮎川が思いのほか近くに居て驚く。

 

な、何で近寄ってきてんだよ!?

つか、その四つん這いの体勢やめろや!!

 

ふ、服が、むっ胸元、み、見えて!?

 

「.....なぁ、初。許すからさ、お願い一つ聞いてよ。」

 

お、お願い!?

 

唐突に言われて驚き、そっちに意識を移す。

胸元とか、見えないように鮎川の顔だけを見て……………ダメだわ、気恥ずかし過ぎる。

 

顔を鮎川から逸らしながら考える。

御願いね、無理難題吹っ掛けられたら無理だけど。

 

…ううむ、まぁ大丈夫だろ、うん。

 

「ん、無理難題じゃなければな、一つだぞ。」

 

「うん、分かってる。初、私の事、これからは名前で呼んで。」

 

う、下の名前呼びは、初音が過剰反応するんだけど、咲さんの時も、寮に帰った後、小言言われたし。

あんまり下の名前呼びはしたくないんだけどなぁ。

 

そんな俺の気持ちが顔に出てきたのが、不安そうな顔になった鮎川。

 

「なぁ、ダメ?」

 

あぁ、もう!

そんな悲しそうにするんじゃねぇ!!

 

分かった、分かったよ!!

呼べば良いんだろ!!?

 

「分かったよ歩、これで良いか?」

 

「うん!」

 

…………………何でこんな、可愛い表情出来るかなぁ、俺は初音一筋なんだけどなぁ。

 

そんな事考えてると、扉の向こうから声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃん、ジャム用の瓶の消毒手伝って~。む~ちゃんも、手伝ってくれないと明日の当番、む~ちゃんだからね!」

 

はぁ、あいつタイミング良過ぎんよ、後で何処から聞いてたのかお話やな。

 

そう思って鮎川の方を見ると、目が合って、おもわず二人して笑っちまった。

 

「ふふふっ」「あははっ」

 

「いこ、初。」

 

「おう。」

 

そう言って手を差し出す、目元がちょっと赤い鮎川に、心の中でもう一回謝って俺は、手を握りかえした。

 




自分で書いといてアレだけど、この国ホント良く滅んでないな。
何で滅んでないのか、コレガワカラナイ(殿下風)

次は月末の30日投稿です。

追記報告遅れすいません、実はリアルでの事情があり、活動報告に詳しい話を書いたので、できればそちらを確認していただければ、ありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話 厄介事の気配

遅くなってすいません。
未だ全然書き溜め出来て無いんですけど、落ち着かないんで投稿します。


汗が止まらなくなってきた七月の始め、俺達兄妹は咲さんの手伝いでここ、『出多摩樹海(でたまじゅかい)』に来ていた。

 

「ふむ、汝等の話は分かった。この里のモノにも、話はしておこう、土産も旨そうだしな。」

 

そう言って上機嫌に笑ったこの御方は、特級魔獣である天竜の魅華月(みかづき)さん。

咲さんが言うには、ここ『出多摩樹海』に居る魔獣と、人との仲介役だそうで、竜の里『安土(あづち)』の里長だ。

 

基本的に常識のある魔獣で、話してみた感じ、人の常識を無視する事が多い魔獣の中でも、特に良心的な人なのだ。

 

お土産の御菓子も気に入ってくれた様で、これならここら辺一体の安全は確保したも同然。

 

里長だけあって、魅華月さんはこの森でも屈指の実力派だから、この里の近くの廃墟を宿に使う俺達の安全も大丈夫そうだし、これで魔獣関係は問題無いだろう。

 

「ありがとうございます、これで安心して友人を連れてこれます。」

 

「ガハハハハ、さっきも言ったがそんな畏まる必要は無いぞ、この里は細かい事は気にせん、もっと楽にせい。」

 

「は、はぁ、分かりました。」

 

良い人なんだけど、でも何か調子狂うんだよな、この人と話してると。

 

何だろう、見た目が英国紳士なのに、中身はガテン系みたいなこの違和感、滅茶苦茶もやもやするんだけど。

 

「本当にありがとうございます、魅華月さん。私達の友達、喧嘩っ早い子が多くて、厄介事が少なくなるのは助かります。」

 

そう言って初音が苦笑い。

 

ホントネー、何故か喧嘩っ速い人が多いんだよねぇ、特に女の子。

男は鮎川と新庄さん達が頑張ってくれて、お陰で直ぐに手を出す様な事は無いんだけど。

 

五馬鹿は元々、直ぐに手を出す感じじゃなかったみたいだし、神社の時は、友達が刑務所送りにされた元凶の親が居たから、はっちゃけたみたいだし。

あの五馬鹿も、当時の状況調べずに決め付けてたみたいだし、何ともなぁ。

 

当時と言えば多嘉山さんの子供、何か多嘉山さんが家に引っ越す時に揉めに揉めて、鮎川の父親が仲裁に入って今は、何故か鮎川の家に住んでるんだけど、多嘉山さんも、なら私もって言ってたけど、子供の方が拒絶したって言ってたっけ。

 

子供の方の考えがさっぱり分かんないんだけど、どうして鮎川の家に行ったのかとか、何で母親を拒絶したのかとか、俺は踏み込めないんだよなぁ。

 

これは父さん達、大人の問題だからなぁ。

子供の俺がしゃしゃり出ても、迷惑にしかならんのよ、この話題は。

ままならないな、本当。

 

「そうかそうか、そんなに元気が良いなら、今度の催し物に参加してみんか?ちょうど時期が被るんでな。」

 

「催し物、ですか?祭でもするんですか?」

 

にんまり笑って、こっちを試すような笑みを浮かべる魅華月さんに、ちょっと初音が引き気味に話を合わせる。

 

「おう、樹海の中は存外平和でな、皆刺激を求めてるんだなぁ多分。毎年何かやってるんだが、今年は武道会になってな。」

 

あ、嫌な予感してきた。

初音も笑顔のはずの顔が引き攣る。

 

「会場はもう、この里の近くに造った。後は参加者を決めるだけなんだがな、何分武道会は初でよ、皆観戦側にまわって、参加者が少なくてなぁ?」

 

魅華月さんは言いながら、俺達を意味深に見つめる。

……………こんな子供が参加しても平気なのか?

 

「あの、自分達は未だ子供で、そんな大きな大会には、すいませんが。」

 

そう言った俺に声を被せる様に魅華月さんが言った。

 

「ガハハ、何安心せい!!子供の部がある!そっちの方が集まりが悪くて困ってたんだ。お前達と友達で十人居れば御の字だが、どうだ?勿論参加費は無料で優勝すれば賞品が出るぞ?」

 

何それ、都合良すぎない!?

 

つか、初めてなのに子供の部と大人の部で二つもやるなんて、準備不足からの中途半端が、目に見えてる様なもんだろ、大丈夫なのか?

 

「何、子供の部は一日で終わるし、出店も出る。商店街でも大会にあわせて、祭り市を開くらしいからな、里に来るだけでも楽しめるぞ。大会の出場は当日の昼前までなら間に合うからな。場所は会場裏手の選手用入口からだ。」

 

ま、祭り市ね、それなら戦わせちゃダメな女子はそっちに誘導するしか無いな。

 

「そう言うことなら、友達と相談してみます。当日は友達も連れて里に来ますので、その時に何人かは参加してくれるかもしれません。」

 

特に犬神と鐵の妹二人、あの二人は絶対ダメだ、大会に出る他の子供が死ぬ。

 

手加減なんてあの二人は未だ無理だ、今迄は模擬戦何て身内の壊れ性能としか、していないって言うし。

 

「優勝賞品って、もう決まってるんですか?」

 

俺が考え事してる間にも二人は話を続けている。

 

「今度、十月に神成り祭が日ノ本で有るだろう?」

 

「ええ、有りますけど。神成り祭で何か有るんですか?」

 

さて、女性陣には祭り市を楽しんでもらわないと困る。

その間に道ずゴホン、生にん゛ん゛、男には俺と一緒に大会に出てもらおう。

 

祭りで女性陣と行動するとか、地獄そのものだからな、ただでさえ厄介事多いのに、これも全部転生する時に変な縁を付けた月詠のせいだ。

 

「その神成り祭に出る来賓にな、この国に居る間の、子供の遊び相手が欲しいってことを、ちょっとした知り合いだから頼まれてな、それが優勝賞品だな。」

 

個人的な頼み事を、賞品にして良いんだろうか?

 

「えっと、その来賓って一体?」

 

「災害級魔獣シーダ、俺の親代わりになってくれた人だ。」

 

!?!?

……………………()()()()()()()()

 

「それって、災害級魔獣の子供の遊び相手って事ですよね、失礼なんですけど、安全なんですか?」

 

ナイス初音!!

 

「普通はそう思うよな、人間は。まぁ、大丈夫だ、シーダさんはこの島最古の生物で、魔獣の穏健派筆頭。人との融和を目指してる御方でもある、子供相手に手荒な事はしないさ。期間は一週間だが、俺も手助けはする、安心してくれ。」

 

実質、災害級魔獣との繋がりが優勝賞品か、強さが重要視されてるこの世界にしては、大盤振る舞いな気はするけど、戦争関連での話を聴けるかもな。

俺は中立の立場だし、大会に出るのも良いかもしれん。

 

でもな、そんなに良い条件なら、

 

「それだけ良い条件なら、参加者が殺到すると思うんですけど、何かあったんですか?」

 

お、初音がもう思い付いてたみたいだな、さっきからずっと二人で会話してるから俺が空気だなぁ。

 

「実はな、この里で結構有名な悪ガキっつうか、いたずらっ子が参加するってなってな。この里は基本竜とかが住んでる、この樹海でも結構な強者が多い里何だが、その里でも手に負えない悪ガキというと、他の樹海の連中が尻込みしちまってなぁ。」

 

あぁ、なるほど、あそこで手に負えない奴が出るなら俺達に勝ち目なんて無いだろって思考回路なのね、納得。

 

「えっと、その悪ガキって、結構な強さ何ですか?」

 

俺が聞くと、魅華月さんは気不味そうに目を逸らす。

 

思わず二人して睨むと、魅華月さんは苦笑いしながら答えた。

 

「滅茶苦茶強いぞ。まだ十一だが、最上級位にはなってるな。」

 

うげ、五馬鹿と同じ位か、俺は問題無いけど、あいつらは少し鍛えれば大丈夫かね。

 

格上との戦闘だけじゃなくて、同格との戦闘も想定しないとダメか。

 

当面は模擬戦をやらせるとして、仕上げは妹組との試合か、負けたら飯抜きとか言えば、頑張るだろ、うん。

 

「お気遣い有り難うございます。その位なら、参加できる友人に心当たりがあります。」

 

「お?本当か!?子供の部は五歳以上十四歳以下の条件だぞ?」

 

う、その条件だと五馬鹿は無理だ、あいつら今年成人だったな、そう言えば。

 

そうなると妹組が出られるけど、これは論外。

手加減出来ない人間に、格下を相手させられるかよ。

 

となると俺が出ることになるわな、しゃあないな。

 

「ええ、一人だけ、滅茶苦茶強い人くるんで、期待してください。」

 

そう言って俺が笑うと、魅華月さんは驚いた後にニンマリ笑った。

 

「そうかそうか、あの悪ガキに灸を据えることが出来るのか、それは良かった。」

 

そう言って、深く何度も頷いてる魅華月さんに、その悪ガキについて気になったから、聞いてみる。

 

「その悪ガキって、そんなにいたずらしてるんですか?」

 

「はぁ。最初は些細な事だったんだがな。段々と酷くなってきて、この前怪我人が出たんだよ。」

 

疲れた顔して、溜め息を吐きながら喋る魅華月さんは、酷く、哀愁漂った雰囲気を醸し出している。

 

「えっと、親御さんとかは、止めなかったんです?」

 

ちょっ、初音!?

何聞き辛い事ズバッと聞いてんの!!

 

ほら、魅華月さんも困った顔してんじゃん!

 

「えっとだな、その、俺の姉貴何だ。」

 

ちょ、何言い淀んでんの?

まさか、あれか、姉や兄貴に強く言えない人なのか、身内には遠慮する人か?

 

………………………分かる、分かってしまう!!

前世で嫌と言うほど経験した!

 

姉や兄貴に限らず、親戚の年上の人とか、怖くて何も言えないんだよな、うん。

 

「それなら仕方無いですね、身内なら言えませんよ、はい。」

 

まぁ、それでも里長としては、甥っ子のことを止めないと、ダメなんだろうな。

実際に実害が出てる位何だから、本当は姉に止めるよう言わないと、駄目なんだろうけど。

 

「ガハハハハそう言ってくれるか、ありがとよぉ坊主。」

 

俺が励まそうとしてると思ったのか、魅華月さんは笑いながら俺の頭を荒っぽく撫でる。

 

ぐお、結構痛いよ、手加減してくれてるんだろうけど、六歳児にはまだ足りないぞ!?

 

「えっと、私達これから宿の掃除なので、ここら辺でそろそろ失礼させていただたいです、すいません。」

 

流石初音、良い所で助け船出してくれたぜ!

頭を撫でられて首がかなり痛い、視界がメッチャ揺れて、少し酔いそうだ。

 

「おお、そうかそうか、大会の事は、期待してるからな?合宿頑張れよ。」

 

そう言って魅華月さんは、部屋にある事務机で作業をし始める。

 

「ありがとうございます。失礼しました。」

 

「失礼しました。」

 

二人して挨拶をした後に、部屋を出る。

 

里の役場を出て暫く、雑談をしながら里の出口を出たところで、二人揃って立ち止まる。

 

 

「「スゥーハァー」」

 

「「どうしてこうなった(のよ)!!!?!?」」

 

兄妹の気持ちが一つになった瞬間だった。

 

「お兄ちゃんのバカ!!何で安請け合いするの!?」

 

唐突に妹に怒られる理不尽。

 

「仕方無いだろ!特級魔獣のお願いとか、無下に出来るわけ無いだろうが!!」

 

しかも、こっちがお願いしてる立場なんだぞ?

ある程度は、相手の希望も持たないとダメだろ。

 

「だからって、何でお兄ちゃんしか出れないような大会に出るのよ!それじゃ合宿の意味無いじゃない!!」

 

ぐっ、仕方無いだろ、それが一番波風立たない解決案何だから。

 

「ぐぅ、なら皆にも参加してもらうか?男連中だけでも、大人の部に。」

 

「私は応援に徹するんですね、分かります。」

 

そう言って初音は、不機嫌そうにそっぽ向いて歩きだした。

 

ええい、初音め、自分が参加出来ないのが不満なのか!?

 

「分かった分かった、今回は俺が悪かった!」

 

「串団子、御手洗と餡子、一ダースずつ。」

 

どんだけ食べんだよ!?

この甘食魔人が!!

 

「そんなに食べたら夕食入んな「何か言った?」直ぐに買ってくる!!」

 

ええい、初音め、此れ見よがしに甘いもん要求して、そんなんじゃ直ぐに太rサクッ

 

「ぬおっ!?危なっ!!」

 

急に足下に飛んできた苦無に驚いて、初音の方に顔を向けると、笑顔でこっちを見てた。

 

笑顔なのに目が笑ってない、俺の妹は器用だなぁ~。

 

「変な事考えてない、お兄ちゃん?」

 

「何も考えて無い!考えて無いから!!」

 

「そっか、なら良かった。あ、胡麻も追加でお願いね?」

 

うぅ、お金が、小遣いが!

 

「返事は?」

 

「了解であります!!」

 

くそっ、こんなんじゃ、今月の食費が直ぐに無くなるぞ、今月は母さんの誕生日だから、貯金したかったのに!!

 

初音に急かされて、急いで里に戻って団子屋を探してると、近くの通りで悲鳴が聴こえた。

 

無視して通行人に団子屋の場所を聞くと、悲鳴のあった方向にあると言われ、渋々行くことに。

 

「はぁ、何でこんなお使いしなきゃならんのだ。晩飯は絶体割り勘か、咲さんに奢ってもらお。」

 

そんなこと呟きながら、急いで通りを抜けようとした時、丁度大通りの道の真ん中辺りで、横から思いっきり誰かがぶつかってきた。

 

「ぐっ!?痛てぇなおい!目ぇ付いてんのかうすのろ!!」

 

向こうの方が体格が良かったらしく、景気良く跳ね飛ばされる。

それでも向こうは癪に触ったらしく、こっちに思いっきり罵声を浴びせてきた。

 

こっちは妹のパシリにさせられて、気分悪いっつうに、テメェこの野郎、しまいにはキレるぞ?

八つ当たりで、海まで光速で殴り飛ばしてやろうか、あ!?

 

そんな感じで、ちょっとだけキレ気味になって、ぶつかってきた相手を見ると、俺より四、五歳位上の、元気の良い野性味溢れる感じの坊主が、ぶつかった腕をさすりながら、こっちに向かって怒りの視線を向けてくる。

 

ほうほう、年下にそんな怒声浴びせて、あまつさえ殺気まで漏れ出てるとか、これは駄目だ、我慢出来ん。

 

一回意識飛ばした後、縛って説教だな。

その後は役場に引き渡そう、でもまぁ、その前に少しだけ。

 

「テメェの方こそちゃんと前向けや!その目は飾りか?あ!?」

 

俺が怒鳴ったら、相手の堪忍袋がキレたらしい。

 

顔真っ赤になって、魔力を撒き散らしてる。

 

ありゃ、最上級位の魔力あるな、周囲の景色が歪み始めてる。

テューポーン使うか、出力は三割弱で、一回様子見だな、力は未だ使わなくて良いだろう。

 

「死ねや!!!」

 

む、音速超過してるな、避けてから声が聴こえてきた。

こいつ念話使えないな?

 

音速以上は念話必須なのに、こりゃ能力をもて余してるお子ちゃまだ、これなら音速超過を視認出来る二割で充分。

 

「ッ!?………ッ!!ッ…………!!?!?」

 

ほれ、軌道が素直だな、すいすい避けられる。

この感じは、こいつ苦戦したことない人種だな?

アマちゃんめ、こちとら三歳の時から中級上級相手に、木の枝一本で渡り合ってた男だぞ、経験が違うのだよ経験が。

 

どれどけ動きたくても、自分の意思で動けずに全て自動操作される気持ちが分かるか?

戦場だと地獄も生温い位の、恐怖訓練だよ、一歩間違えなくても廃人確定のな。

 

そんなこと考えながらもはい、腕掴んで間接捻って、後ろ向きにして裸絞め。

 

「ッ!!!カハッ!?!!?」

 

お、落ちた落ちた。

未だ未だ鍛練あるのみだな、落とすのに二十秒は長すぎる。

こいつが魔獣ってこともあるけど、やっぱ五秒以内を目指さないとな。

 

「はい、終了。」

 

ドサッ!!

 

気を失った坊主を地面に寝かして、周りに被害がないかを見る……………うむ、特に無いな、あるとすれば俺たちの動きで出来た風で、少し砂ぼこりが舞ってるだけかね?

 

「朱司!?」

 

辺りを見回してる、俺の後ろの方の道から、デカイ女性の声が聴こえてきたから振り返ると、何か既視感を感じる女性が、こちらを驚いた顔で見てた。

 

…………………あ、ご家族の方ですか?

 

 




次は来月ですかね、書き溜めが出来てないので、すいません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十二話 不安定な日常

遅ばせながら、明けましておめでとうございます。
毎度のごとく更新が遅くてすいません。
今年最初は、別視点からの話にしてみました、始めての試みなので、ちょっと不安ですが…………それでは本編どうぞ


~一方その頃~

 

 

初が一人、里に戻っている頃、初音は鐵咲と合流していた。

 

「ねぇアザゼル、これで良かったの?」

 

初音が誰も居ない場所に向かって呟く。

 

『あぁ、これで初は悪ガキと出会う。時間稼ぎには充分だ。』

 

「そっか、なら良かった。」

 

話があると言ってっきり、独り言をつぶやいている初音に、咲が訝しんだ目で言う。

 

「初音ちゃん、さっきから何独り言ぶつぶつ言ってるの?」

 

「あ、ゴメンね咲さん。」

 

その言葉に、アザゼルが他人には見えない状態なのを、初音は思い出した。

 

「それで、話って何?態々初君から離れて二人っきりて、何かあったの?」

 

「えっとね、咲さん。()()()()()()()()()()()()()ってある?」

 

それを聞いて、咲は思った、「今度は何に巻き込まれたのよ!!」と。

咲が確認しているだけでも、入学してから、()()()()()()()()厄介事に巻き込まれているこの兄妹に、最早同情より先に批難の眼差しを向けてしまうのは、仕方のない事なのかもしれない。

 

「今度は何したの?」

 

「今度はって、私とお兄ちゃんは何もしてないんだけど。」

 

まるで自分たちのせいで問題が起きたような言い方に、初音が頬を膨らませて抗議する。

 

「はいはい、向こうからやってきて、初君がまた動いちゃったんでしょ?で、今度は何に巻き込まれたの?それとも安請け合い?」

 

その言葉に初音は、言い返せなくて気まずそうに眼を逸らす。

 

「その、安請け合い。今度の武道会に出るって、里長と。」

 

それを聞いて、今回はまだ簡単かもしれないことに、安堵する咲。

 

「はぁ、年齢と見た目を誤魔化すってのは?」

 

「子供の部の出場条件が、五歳から十四歳までで、私も出たいから。」

 

それを聞いた瞬間に咲は即答する。

 

「却下よ。妹たちが駄々言って武道会に出たいって言ってるなら、大人の部に混ぜるけど、貴女はその状態で出られるわけないじゃない。」

 

「う、やっぱりだめなの?」

 

そう言って、諦められずに質問してくる初音に、咲は初音の魂の状態を説明する。

 

「貴方の魂はね、そっち方面に詳しく無くても、ある程度の強度の生物なら、どんなに()()()()()()分かるのよ、自覚してるでしょ?」

 

その事を言われた初音は、悲しい顔をして、顔を沈める。

 

「貴方はいつ種族進化するか解らない、今進化していないのはハッキリ言ってアザゼルのおかげよ。そのアザゼルも、今の状態を後、()()()()()()()()()()()()って状態なの。それ以上は、ギフトの成長に貴女の肉体が追いつかない。」

 

そう言われた初音は、ぽつりと一言呟く。

 

「別に、種族進化は、してもしなくても良いの。お兄ちゃんも進化してくれれば。」

 

「え?」

 

その言葉に込められた思いの強さに咲は、一瞬驚きで思考が止まる。

その一瞬で初音は、()()()()()()()()()()()()()()

 

「だって、お兄ちゃんが進化しないと、私、()()お兄ちゃんと離れなきゃダメなんでしょ!?いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!」

 

余りの魔力量の高さに、初音の周囲が暗くなり、地面がまるで、そこにトンでもない重さの物体があるかのように凹む。

 

周りの木々等の、生物が、軋みを上げる。

軽い石や、木葉が初音の方に向かって飛んでは、見えない何かに押し潰されていく。

 

「!?マズい!!」

 

焦った咲は、急いで初音を止めようと近づく。

ガルダを使って向上した防御力で、無理やり魔力の壁とも言うべき、高密度の空間を超え、初音を押し倒して、()()()()()()

 

初音も錯乱状態になっているため抵抗するが、咲は無理矢理、口をふさいで薬を飲みこませる。

ガルダを発動した時に背中から生えた羽で、自分ごと初音と周囲の空間を包み込み、外に影響が出ないように抑え込む。

 

「落ち着いて、初音ちゃん。大丈夫、初君は貴女を置いていくなんてしないわ。大丈夫だから。」

 

暫く経って、初音が落ち着いてきたのか、初音の周囲の魔力が収まっていく。

 

それとともに、初音に向かっていた小石や木葉も、ひとりでに地面に落ちる。

 

「咲、さん?」

 

焦点が合ってない目で、初音が咲を見つめる。

 

「落ち着いた?」

 

その言葉に自分が何をしていたのか分かった初音は、咲に顔を見られたくないのか、目を伏せて謝る。

 

「はい、ごめんなさい。私、()()。」

 

「魂がそんな状態じゃ、精神面が不安定になっても仕方ないわよ。やんちゃな年下の世話は慣れてるから、気にしなくて良いわ。」

 

慣れた様子で、薬の入った瓶をしまう咲に、初音は顔を伏せたまま言う。

 

実際、魂と精神は密接な関係にあり、ギフトの出力でさえも、精神と関わりがある。

ギフトの進化条件の多くは、精神的な成長が必要な場合も多い。

 

そういう面ではやはり、初音は魂に精神が引っ張られる形で、不安定になっている。

 

「ありがとうございます。咲さん。」

 

お礼を言った後、何か言いたげに言葉を切った初音に、咲は続きを促した。

 

「ん、何?」

 

「私、武道会に出るの止めます。」

 

「それが良いわ。どうせなら男全員出場させて、女の子は男の応援でもしてましょう?」

 

そう言って、初音の頭を撫でる咲に、初音は気まずそうに笑った。

 

「はい、皆で応援します。優勝賞品も豪華ですし。」

 

その初音の言葉に、咲が食い付いた。

 

「優勝賞品?何それ、何が出るの!?」

 

思いの外食い付いてきた咲に、初音が戸惑い気味に話す。

 

「えっと、私も詳しく聞いてないんですけど、優勝したら、災害魔獣シーダの子供と、繋がりが持てるらしいですよ?」

 

「それ、ホントに?詳しく調べないと、里に初君迎えに行きましょう!!」

 

そう言って、直ぐさま駆け出そうとする咲に、初音が待ったをかけた。

 

「ちょっと待ってください。今、お兄ちゃんはお使いに行ってるんです。だから、行き違いになると面倒何です。」

 

「む、それもそうね。仕方無い、廃虚で待ちますか。因みに何を頼んだの?」

 

迎えに行くのを諦めて、廃虚に向かおうとする咲に着いていく初音。

その光景は、まるで歳の離れた姉妹の様だ。

 

「お団子、みたらしと餡子に胡麻を、十二本ずつです。」

 

「結構頼んだわね、お金大丈夫かしら?」

 

初音の言葉に驚きつつ、初音が歩きやすい様に道を魔法でならす咲。

 

「お父さんに生活費以外でも、沢山貰ってるから、大丈夫だと思います。魔獣の素材を取引して、稼いでたみたいですし。」

 

まだ少し、ふらついてる初音を見て、咲は強引に手を繋ぎながら会話を続ける。

 

「なら大丈夫かしら、計算出来るから、無理して買おうとしないだろうし、ちょっと速めのおやつね。飲み物は井戸が廃虚近くにあるから、そこで汲んできましょ。魔獣がよく使ってる安全なやつだから。暫くは私たちの貸し切りだけどね。」

 

鬱蒼としている樹海を、利き手で空中に魔法発動の文字を書きながら、初音の歩く速さにあわせつつ、会話をするという、器用な事をする咲に、初音はその凄さが全く分かっていない様子で、てくてくと後を付いていく。

 

二人が暫く歩いている頃、里の方から、大きな魔力同士のぶつかり合いが起こっていた。

初が喧嘩し始めたのだ、初音は気付かずに、咲は長年森で生活していた事もあり気付いたが、初なら平気だと無関心を決め込んだ。

 

雑談しながら樹海を歩き続け、里から二十分程の距離で廃虚にたどり着く。

里までは、咲が道をならしたお陰で、街道と同じとは言えないものの、歩きやすい道が出来ている。

 

「里との道はこれでよし、ちょっと休憩して、お掃除再開しましょうか!」

 

そう言って廃虚を見つめる咲。

咲が見つめる廃虚は、ちょっとしたお屋敷位の大きさの、とても一日で掃除が終わる大きさではないのだが、初音はやる気充分らしい。

 

「重たいものは全部お兄ちゃんに任せるとして。私、お兄ちゃんと二人で魔獣と交渉してたんで、何処から掃除するのかとか、分かんないよ?」

 

「この廃虚は、二階建てなんだけど、二階の掃除はもう終わったから、大丈夫よ。後は一階なんどけど、一階が一番大変なのよね。」

 

「一階?部屋数とかが多いの?」

 

なんとも的外れな事を言う初音に、咲は笑いながら答える。

 

「いや、部屋数は二階より少ないのよ。ただお風呂場とか台所とか、水場が多くてね。」

 

それを聞いた瞬間初音の顔が歪む。

まるで、明日は休みだと勘違いして、翌日の朝、遅刻ギリギリに気付いたような顔だ。

 

「そんな嫌な顔しないでよ、私だって進んでやりたい事じゃないんだから、一緒に頑張りましょ、ね?」

 

そう苦笑いしながら言って、咲は初音の頭を優しく撫でる。

 

それでも渋る初音に、咲は膝を折って、目線を合わせて喋る。

 

「このお掃除が終わったら、明後日から皆でここで合宿なのよ?当日はまた皆でお掃除するけど、事前にある程度やっておかないと、当日大変なの。皆で楽しく過ごす為だから、ね?終わったら初君と三人で、今日はここで一泊しても大丈夫なのよ?鮎川さんと板橋君には話してあるから。」

 

その言葉にやっとやる気が出てきたのか、初音は渋々といった感じで、女性ものの可愛らしい見た目の鞄から、人形の紙束を取り出す。

 

「私、今日はお兄ちゃんとお風呂入る。」

 

そう言って式神を大量に呼び出す初音に、クスクス笑いながら咲が言う。

 

「ここのお風呂広いから、お掃除大変よ?」

 

試すように聞いてくる咲に、更に大量に式神を呼び出す事で答える初音。

 

「何事も数よ、数があれば何とかなるの!」

 

そう言って初音は、およそ種族進化していない、純粋な人間が出せるほぼ最高数の式神を出して、一気に掃除を始めた。

 

一気に大量の魔力を使い果たし、フラフラしている初音を、咲は優しく抱き止める。

 

「流石、巫女長の愛娘なだけは有るわね。暴走して魔力を半分以上使って直ぐに、これだけの量の式神呼べるなんて、天皇様も素直に褒める訳だわ。」

 

初音は魔力の酷使で疲れてしまい、寝てしまったが、呼び出された式神は魔力不足で帰る事もなく、延々と掃除を続ける。

 

それを見ながら咲は、近くの倒木を魔法で切り、形を整えた後に初音を抱っこして座る、初音は膝枕だ。

 

「初君の方はボロボロに言ってたのに、妹の方はべた褒めなんだもの、天皇様も厳しい人よねぇ。ま、私は眼中にすら入ってなかったみたいだけど。」

 

そう呟いて咲は、寝ている初音の事を起こさないように、頭を優しくそっと撫でる。

 

「それにしても、この量の式神を魔力の自然回復力のみで賄えるとか、才能に溢れ過ぎじゃないかしら?」

 

咲は改めて口に出すと、初音のやっている事がどれだけおかしい事か理解し、末恐ろしくなり思わず表情が堅くなった。

 

「下手しなくてももう、仙人の領域に手を掛けてるわ。初君の方も、特化してる所は下手すればそれ以上………本人達に力量と自覚が無いだけで、ここまで違うものなのね。はぁ。」

 

堅い表情で独り言を呟いた後に、溜め息を吐いて仕事を続ける式神を見る咲。

 

圧倒的物量によって、一階を掃除した式神は、序でとばかりに二階や屋根、廃虚の周りを掃除し始める。

 

「働き者な式神ねぇ。式神は元になる性格とか人物とかがいる場合が多いけど、こんな働き者な性格の人とか、天皇様が暇潰しに作った人物相関図に、あったかしら?」

 

あっと言う間に屋敷の掃除を終わらせる式神を尻目に、咲は手持ち無沙汰になっていた。

 

 

「ま、でもいたずら者(プレインク)だしね、前世の記憶ってやつかしら?ホント、凄い子達よね、時間軸って概念の外に居る神様から、選ばれた存在何だもの。一つの星どころか、鮎川さんはこの子達とは別の星の産まれだそうだし、無限に近い中から選ばれる、それだけでも英雄って人種よね、後は神子かしら。」

 

「大概、そういう神に選ばれたって人間は、この世界だと、ろくな人生歩んで無いんだけど、この子達はどうかしらねぇ。それにしても、」

 

そこで区切って、咲は大きな欠伸をした。

朝から掃除をした後に、暴走した初音を止めたのだ、流石に仙人でも疲れたのだろう。

 

「私も、眠くなってきたわ、少しお昼寝しましょうかしら。ちょっとそこの式神、私と膝枕交代してくれる?」

 

屋敷の周りを、掃き掃除していた式神の内の一体を、咲は呼び止めて初音の膝枕役を交代させる。

 

「さてと、この木も長椅子にしちゃいましょうか、それ!」

 

両手で複数の文字を書き、無音かつ、震動も風も殆んど起こさずに、倒木を簡素な長椅子に仕上げる。

 

「ふふん、どんなもんよ、日曜大工は得意なのよね~」

 

等と呟きながら、長椅子に寝っ転がって、スヤスヤと寝息を立てる。

この間僅か一分、速攻の寝落ちと言えるだろう。

 

「そう言えば、何で私に薬を渡したのかしら、鮎川の考えは分かんないわ」

 

眠る直前、そう呟いたのを、聞き取れる者は居なかった。

 

 




今年も去年と変わらなく、亀にも抜かされる遅速更新ですが、皆さまの退屈しのぎになれるような、そんな作品を目指していきますので、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

追記:誤字報告ありがとうございます!!最初見たとき「あ、疲れてんだな自分」とか思いましたが、確認して本当だと気付いたときメッチャテンション上がりました!!いや、誤字があることを反省しないと駄目なんですけど、読者様を一番実感出来るのは、感想や誤字報告なので、もらえると嬉しいんです、はい。
これからは誤字脱字無いよう気を付けますが、何分、駄文 稚拙 意味不明 と三拍子そろってる作品ですので、バンバン誤字報告してくれると助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十三話 ツンデレ系ライバルの気配

お待たせしました。最新話です。


ふう、喧嘩するなら、せめて相手の体捌きから、どれくらいの相手なのか、見極められるようになってから、だな。

 

じゃないとこうなるんだ、下手すれば死ぬぞ?

 

「朱司!?」

 

あ、ご家族の方ですか?

 

それにしても、どうも見たことある人だな、魔力量はこのクソガキと同じ位かな?

親にしては少ないな。

 

まぁ、子供の方が魔力量多い事は、よくある事だけど。

 

「大丈夫、朱司!朱司!!」

 

何か既視感を覚える女性が、凄い慌てようでクソガキに駆け寄って、身体を揺する。

 

な、何か俺が悪役みたいな感じだな、居心地がすこぶる悪い。

 

「えっと、気絶してるだけです。暫くすれば起きますよ。」

 

一応、気絶させた側としては、何か後味悪いから、クソガキが気絶してて他は問題ない事を言う。

 

「子供に何が分かるのよ!直ぐにお医者さんに見せなきゃ、朱司ぃ。」

 

あ、うん。

普通はそうなるよね。

分かってたよ、うん。

 

そんな感じに納得して、黙って少しずつ距離をとってると、周りの人の目線が段々と怪しくなってきた。

 

あ、何か女性が泣き出しそうになってるんだけど、周りも心なしか、目線で俺の事を責めてきてる気が。

 

え?

マジで?

俺正当防衛やん、外傷ゼロだよ?

怪我させずに無力化したんだよ?

 

何で責められるん!?

 

こんなん、泣きたくなってくるのは、こっちだチクショウ!!

 

はぁ、今日は厄日だ、速く団子買ってきて、初音に甘えよう、そうしよう。

 

取り合えず、団子屋に移動す「待ちなさい、貴方も来てもらいます。」

 

団子屋に移動しようと歩きだしたら、女性に引き留められた。

 

えぇ、何でそんなこと、喧嘩吹っ掛けてきたのはそこでのびてるクソガキだぞ?

 

「俺はお使いの途中何で、急がないといけないので無「良いから、来なさい!」!?」

 

な!?

この人躊躇無く魔術使って来やがった、頭おかしいんじゃねぇの!!?

 

「くそっ、やだよ、そいつは気絶してるだけだ!俺は襲われた側だぞ!!」

 

ええい、さっきから魔術をバンバン何の躊躇いも無く使いやがって、しかも殆ど、失神か捕縛の魔術じゃねぇか!?

 

これがホントに大人のやることかよ!

周りも飛び火が嫌で、逃げ出してるぞ!!

 

「過剰防衛よ!!気絶なんて子供の喧嘩で有り得ないわよ!!」

 

確かにそうだけどよ!?

怪我するよりは何倍もいいだろ!

 

そこのガキは殺気まで出してたんだぞ、俺は悪くねぇ!!

 

「こっちにだって事情があるんだよ!そいつは殺気まで出してたんだぞ!!気絶だけで外傷無し何だから、俺は悪くねぇだろ!!?」

 

「なら、尚更来なさい。この子は里の子供の中でも、強い方なのよ。手加減してお互い無傷で倒せるなんて、貴方の素性が分からないもの。」

 

くそっ、墓穴掘ったか。

何でこう、やることなすこと、裏目に出ていくかなぁ。

 

「俺の素性なら里長が知ってる!前今 初って言えば分かる筈だ!!」

 

「魅華月に簡単に会える訳無いでしょ、嘘を吐くにしてももっとマシな嘘を吐きなさい。」

 

ええい、取り付く島も無いか。

 

.....ん?

ちょっと待て、今この人里長の事を呼び捨てで言ったよな、後クソガキがそれなりに戦える奴だとも。

 

この人達もしかして、魅華月さんの姉と甥なのでは?

となると俺、武道会に出る前に、問題児を倒した事になるのでは?

 

え?

何この盛大に、何も始まらないみたいなオチ。

まさかの、あれだけ厄介事に巻き込まれそうな雰囲気で、実は武道会始まる前に全部終わったぜ、とかふざけんなよ!?

 

え?

嘘でしょ?

俺武道会に出る意味無いの?

こんなのが原因で初音と言い合いしたの?

 

..........納得いかねぇ!!

 

こんだけ散々振り回しておいて、こんな程度が元凶とか、納得いかねぇ!!

 

「分かりました、付いていきます。だから魔術は止めて下さい。」

 

「そう、始めからそう言いなさいよ。付いてきて、飛ばすわよ。」

 

そう言ってクソガキを背負って、女性が結構な速度で走り出す。

 

後を追うために、力の出力を全開にして走る。

 

納得いかねぇ!!

ちょっと頭にきた、この程度のクソガキが問題起こして周り巻き込むとか、腹立つぅ。

 

せめてもう少し実力付けろや!

 

決めたぞ、今度の合宿、クソガキと五馬鹿を特級魔獣と互角まで鍛えてやる。

 

クソガキはついでに人格矯正だ、人助け大好きな好少年に矯正だ。

二度と年下に暴力を振るえない身体にしてやるからなぁ!!

 

俺が怒りに任せて、クソガキと五馬鹿に地獄も生温い、トラウマ必至の特訓を考えていると、女性が足を止めた。

 

「ここの二階よ、貴方は一階の受付で待ってなさい。」

 

建物は木造の二階建てで、普通の民家に見えるが、入り口横に看板で『心月診療所(しんげつしんりょうしょ)』と書かれていた。

 

何とも古めかしくて、暫く走っていた為か、里外れの位置にあるらしく、診療所の周りは空き地で、雑草が生い茂っていて、何とも言えない胡散臭げな気配が漂っている。

 

心なしか、昼間なのに周りの景色が薄暗く見える。

こんなって言うのは失礼だけど、ちょっと怪しくないかね、この診療所。

 

女性は俺の返事を待たずに、建物の中に入っていたらしい。

 

慌てて中に入ると、女性は馴れた手つきで受付に話を通して、二階に上がっていった。

 

「待ってろって、逃げるって心配はしないのか?」

 

さっきの魔術を躊躇わずに使っていた時と、随分俺の扱いが違うな、何かあるのか?

 

「貴方が里長の甥っ子()した坊や?」

 

ん?

 

「貴女は?」

 

急に声を掛けられて、ちょっと驚きつつ返答する。

声を掛けてきたのは、受付に座って居る女性みたいだ。

 

「質問を質問で返しちゃダメでしょう?貴方が朱司を倒したの?」

 

丸眼鏡に白衣って、胡散臭過ぎるなこの人、髪の毛ボサボサだし、ここって本当に診療所?

 

「ねぇ、どうなの?」

 

胡散臭い女性が若干気怠げに聞いてくる。

そんなに気になんの?

あのクソガキって、そこまで強くはないと思うんだけどなぁ。

 

「そうですけど、貴女は?」

 

「そうなんだ、貴方が朱司を倒した男の子なんだぁ。うんうん、晦日(つごもり)さんが連れてきたって言ってたから、一応確認はしたんだけど。そっかぁ、貴方人みたいだから、ちょっと疑っちゃった。」

 

何この人怖い。

後、あの推定クソガキこと朱司の母親の名前が、晦日って言うのが判明した。

 

ってか、この人本当に怖いわぁ、受付の席からこっちの患者の待ち合いまで来るし、白衣のあちこちに、何で付いたか分からない、複数の色で出来てる謎の染みがあったりするし..........ここ本当に診療所だよな?

怪しい研究員の実験施設とかじゃないよな?

 

「あの貴女の名前は何て「貴方の事もっと知りたいんだけど、ちょっとだけ実験に付き合ってくれる?」嫌です!!」

 

思わず全力で距離をとって、出口を背にして叫んだ。

 

仕方無いだろ、何か命の危険を感じたんだから。

つか本当に何なんだこの人!?

 

普通初対面のやつ相手にして、実験台になれとか言わねぇぞ!!?

 

「実験手伝ってくれたら、お礼、するよ?」

 

そう言って、着ているダボダボのシャツの胸元をはだける、名前も分からない女性。

 

まだそっち方面の誘惑は、身体の都合上効かないんだけど、あれだよね、こういう手口で実験台にした後、罠に嵌まった人、生きて無いよね、絶対。

 

つか、そういうこと初対面相手にやる人に、ろくな奴居ないから!!

 

「絶対嫌です!お断りします!!」

 

「むう、釣れない事言うねぇ。その歳だと未だ未だお母さんに甘えたい盛りでしょ?お姉さんが甘やかしてあげるよ?」

 

甘ったるい声で、はだけた胸元を強調しながら言うな!

 

そういうのはお断りなの!!

もしそんなのしたって初音にバレたら、診療所もろとも一瞬で消されるわ!!!

 

その後、ちゃっかり俺の魂をギフトで回収して、人形か何かに封じ込めて、一生手離さない初音が目に浮かぶ『うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、お兄ちゃん、ずっと一緒だからね♪』ヤバい鳥肌立ってきた。

 

目の明かりが消えてる初音とか、ガチもんのホラーだからな!?

 

「流石に坊やには、まだ早かったかぁ。じゃあ、好きなもの買ってあげるよ、お菓子が良い?それとも玩具?」

 

「平気ですから!!」

 

ええい、さっさと諦めてくれよ!

晦日さんは未だか!!?

 

「なにガキ誘惑してんのよ淫乱ウサギ!」

 

あ、白衣の女性が吹っ飛んだ。

入り口突き破って、外まで行っちゃったよ、大丈夫か?

 

「あなた、本当に気絶だけで、朱司を倒したのね、信じられないわ。」

 

あ、晦日さんが吹き飛ばしたのか、外から怒鳴り声聞こえるし、あの女の人は無事そうだな。

 

つか今飛ばされた女の人、ウサギって呼ばれてた?

 

「えっと、俺は何で呼ばれたんです?」

 

そこなんだよな、この人の狙いが分からないのは。

 

推定息子を倒した犯人を、何で連れ回してるのか、本当に分からない。

 

メリットとデメリットが釣り合って無いんだよな、俺を連れ回してる理由が、思い浮かばない。

 

「あなたを逃がさないためよ、名前と住んでいる場所。信用できる保護者の名前を言いなさい。嘘言っても無駄だから、正直に言いなさい。」

 

晦日さん、俺を逃がさないって、ここで黙るのも手の一つだけど、時間が掛かると初音が待ってるし、話しとくか。

もう結構時間が経ってるし、速くしないとおやつの時間に間に合わないしな。

 

「はぁ、分かりました。名前は今前 初(いままえ はじめ)です。今は日ノ本の、国立日ノ本総合技術学園(こくりつひのもとそうごうぎじゅつがくえん)の軍教育学部特殊技能教育科の特待生寮で、暮らしています。両親は居ません」

 

この名前の両親は居ないからな、偽名だし……本当の両親の名前出しても、信じられないだろうし。

 

「……そう、あなた日ノ本の人間だったのね。強いのも納得だわ。あそこは強さの上下があり得ない位、開いてるし。」

 

あ、納得してくれたみたいだな。

 

「えっと、俺もう行っても良いですか?妹待たせてるんですよ。」

 

「ええ~、私はもっとぉ、聞きたい事ぉ、一杯あるんだけどなぁ。」

 

言うと同時に、後ろから抱き締められて驚く。

 

!?

いつの間に!!?

気配全然感じなかったぞ!?

 

こ、このウサギって人、俺の気配察知すり抜けるとか、………怖すぎる……………少なくとも同格か格上、油断してると直ぐに殺されるぞ、恐ろしい。

 

「あら?怖がらなくて良いのよ?あなた位の人は一杯居るんだし。これも経験なの。あなたが良いなら、もっと良いこと経験させてあ「ふんっ」ぶべらっっっ!?」

 

俺を誘惑してきたウサギって人を、また晦日さんが蹴り飛ばした。

 

つか、ロングでもスカート何だから、そんな蹴りかたすると見えるんだけど……いや、何かもう疲れてるから、一々反応しないけどさ。

 

「女性はじろじろ見ないの、礼儀よ礼儀。あなたに聞きたい事は終わったから、もう良いとは思うけど………上でお医者さんが待ってるわ、行きなさい。」

 

は?

 

「何不思議そうな顔してるの?かすり傷でもついてたりしたら、ウチの子のせいになるんだから、私が責任持つのは当然でしょ、まだあの子十歳よ?」

 

いや、そうじゃなくて、俺は無傷であいつをのしたんだけど?

 

「俺は大丈夫ですよ、一発もカスって無いですから。」

 

あ、地雷踏んだ、何か不機嫌になってる!?

くそ、本当に訳分かんねぇ。

朱司ってやつ、本当にろくな縁持ってきて無いな、疫病神過ぎるだろ!!

 

「念のためなの、私も本当はしたくないけど。こっちが仕掛けた側みたいだし、それぐらいはするわ。ほら、速くしなさい!」

 

ぬお!?

晦日さんが怖くなってきたから、急いで二階に上がる。

 

「分かりましたぁ!」

 

急いで二階に上がると、二階は全面木造で、廊下には簡易的な長椅子が並んで二つ、壁沿いに設置してあって、そこにあのクソガキこと、疫病神の朱司が座ってた。

 

もう気絶から目を醒ましてたのかよ、将来有望か?

コワイコワイ、鍛えると直ぐに追い付かれそうだ。

 

「…………何だよ。」

 

こっち見て気不味そうに、少し睨んだ後、視線を外す疫病神。

やっぱり性格は矯正しないとダメやな、ちょっとばかし仕置きしないとな。

 

「年下に負けて悔しいのか?」

 

煽って、口でも負かして、その後意固地になったこいつをどうするかだな。

 

無駄に自分に自信持ってて、やんちゃな性格が、止める人が居ないから暴走してるって感じだろ。

 

魅華月さんや、疫病神に晦日さん……後ウサギって人が言ってた、こいつの事を考えると、そう思えるんだけど…………うーん、これは典型的な男ツンデレだな、しかも主人公の好敵手(ライバル)型のツンデレ。

 

「な!?テメェ!!」

 

うむ、面白い位釣れるな、これなら、簡単かもしれん。

 

「否定しないんだな、どうした?()()やるのか?」

 

「っっっっっ!!!?殺す、テメェは絶対殺してやる!!」

 

そう叫んで、こっちを殺気全開で睨んでくる疫病神………魔力が最初程出てないな、才能溢れてて凄いわこいつ、五馬鹿より才能あるな。

 

「年下に負ける位弱いくせに、あんな意気がってたんだろ?」

 

「……………クソが!!ギリッ」

 

ハハハハハ、威勢良くても飛び掛かって来ないか、策無しじゃあ勝てないことが分かってるな?

 

良いぞ良いぞ、丁度良い強さの、丁度良い才能の、良い感じに俺を敵視してる奴。

…………………うむ、ゼウス役にピッタリだな。

いや、俺負けるつもりも殺されるつもりも無いんだけどね?

 

「お前より強いやつは沢山いる、お前より若くてお前より強いのも、沢山いる。お前は天才でも、最強でも無い。お前は平凡だ、没個性で平均的だ。主人公でも、勇者でも魔王でもない、ただの脇役その一だ。弱いんだよ、お前h「うるせぇ!!!!」…………………ふん。」

 

うおっ、やれば出来るじゃねぇか、良い殺気出すなぁ、これは不機嫌な時に怒らせた歩並みの殺気だぞ?

仙人級の殺気…………ククク、ヤバイ、武者震いしてきた!

 

「認めたくないなら、それで良い。もしお前が本気で俺を殺したいなら、ここに書いてある事に従ってみろ。」

 

「誰がテメェの言うこと聞くかよ!!ぶっ殺すぞ!!!」

 

啖呵切って殺気全開で睨む朱司、それでも魔力は未だ目で見えない位か、下に気付かれたくないんだな?

 

うんうん、良いよ良いよ、その調子だ。

ブチ切れて頭真っ白になっても、どこかで冷静さがある喧嘩馴れしてる感じ、こりゃ化けるぞぉ!!

 

「……………………」

 

取り合えずここは意味深な沈黙して、値踏みするような目で朱司を軽く見た後、診察室に入る。

 

「……………………………チッ!!」

 

背後で何か聞こえたけど、実害無しだろうしオケオケ。

どうせ全力でも音速超過、亜光速位速度ないと、俺は不意討ち出来ないぞ?

 

…………まぁ、ウサギって人みたいに、俺が認識出来ない位の気配遮断出来れば、話しは別だけども。

 

「随分好戦的な人間だね、君は。」

 

中に居る人に話し掛けられた。

 

「普段は違います。あの疫病神……朱司ってやつだけです。」

 

そう言葉を返す俺を、興味深そうにこっちを観察してくる、無精髭生やした白衣の男に、俺は疲れた顔で溜め息を吐く。

 

………ハハハハハ、また濃いのが出た。

 




誤字報告をいつもしてくれている方、本当にありがとうございます!!
モチベに直につながるので、報告をもらえるだけでうれしいのなんのって………………………………………誤字は、減らせるように頑張ります、ハイ。迷惑かけてすいません・゜・(つД`)・゜・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十四話 魔法の薬です

ども、作者です。
お待たせしました最新話


白衣を着た人物に、思わずため息を吐いたのは、無意識に近かった。

 

「君が息子に勝ったっていう、少年か。名前は?」

 

…………がぁぁぁぁ!!!

今度は父親かよ!?

 

何時になったら俺は団子を買いに行けるんだよ!!

初音が待っているんだぞ!

お腹を空かせてなぁ!!

 

「今前初、妹との約束があるので、速くして欲しいんです。」

 

「初君か、すまないね、傷が無いか確認させてくれ。かすり傷でも、息子は毒持ちだから油断出来ないんだよ。」

 

な!?

そんなの初耳だぞ、何で晦日さんは言ってくれなかったんだ!

 

「初耳何ですが、竜って毒持ってるんですか?」

 

この人が魔術を使って、俺の身体を確認してる。

別に確認するのは良いんだけど、この後どうなるんだ?

 

うちの親は今海外だから、親御さんに連絡とか、謝罪とか言われても、紫陽花さんしか呼べないし、紫陽花さんに知られたら……………身体が出来て無いのに修行とか言いそうだなぁ、嫌だなぁ、謎理論で出来た時空間ねじ曲がった場所に放り投げられたり、明らかにヤバイ位強い魔獣とガチンコ勝負させられたり、霊力を鍛えるとか言って、霊力をガンガン使って模擬戦してきたりとか、特に最後は全部避けないと、下手すりゃ気絶じゃすまないのがなぁ。

 

霊力を使ってくるから、魔術も物理も壁にならないのが一番辛い………………この世界、霊力を使えると滅茶苦茶有利になる世界何だよな。

種族進化すれば耐久力が上がるとはいえ、種族進化した存在何て全体から見てとんでもない位貴重な存在、戦うのを想定するのが間違ってるんだけども。

 

魔獣は人よりも頑丈らしいけど、それも種族進化を重ねた人類よりは効くらしいし、そもそも個体差が激しいから、あんま参考にならないんだよな、種族別なら未だ少し、参考になるのかもしれないけど。

 

「いや朱司はまだ竜じゃないよ。蛇だよ、まだね。」

 

は?

魅華月さんって、竜だよな、この里の人達も、竜が大半って咲さんに聞いたぞ?

 

魔獣って片親の種族になるのか?

 

ならこの人が蛇の種族?

 

 

「まだって、蛇から竜に成るんですか?」

 

「あぁ、うん。特定の種族はなれるよ、他にも蜥蜴とかからなる種族もある。」

 

何と、どういう事だってばよ、意味が分からない。

 

「人も、ギフトの進化で、種族が変わる事があるだろう?あれは厳密には種族が変わるって訳じゃなくて、例えるならそうだな…………蛹から成虫に進化が、一番分かりやすいかな?」

 

なぜ虫に例えたし、分かりやすいけど、何か複雑だ。

 

「何となく分かりましたけど、虫で例えないで下さい。」

 

「あ、ゴメンね、そういうつもりじゃないんだが。まぁ、その進化は魔獣にも言える事で、歳を重ねることで、種族が変わる種も有るんだ。」

 

「朱司はその種族と?」

 

「そうだよ、妻と同じ種族だからね、強くなるよぉ朱司は、魅華月と同じ天竜だ……………ん、傷は無いみたいだね、本当に無傷で抑えたのか、スゴいな。」

 

こりゃ良いこと聞いたな、種族的にも強くなる種族か、才能溢れてて良いねぇ、紫陽花さんの所に放り込むのも考えとくか。

 

「もう終わりですよね、一つ良いですか?」

 

あいつを武道会に参加させないと、ダメなんだし、武道会に参加させるのを、頼んでみるか。

 

「実は魅華月さんから、武道会で自分の甥を倒すように言われてまして、朱司を武道会に参加させてくれないでしょうか。」

 

「魅華月さんからなら、武道会に参加するよう説得してみるけど、妻が良いって言うかな?今回の事で、変に過保護になるかもしれないし。」

 

うげ、面倒くさ。

自分の奥さんなんだから、説得お願いしますよぉ、本当。

 

俺が初音に云々って言われると、言葉に詰まるけども。

お互い尻に敷かれてるんだなって、悲しくなるわ。

 

ま、それで良いとも思ってるけどさ、俺結構暴走癖あるみたいだから。

 

「お願いします。魅華月さんには、こちらからの話しを通してもらっているので、魅華月さんの頼まれ事は、出来るだけ応えたいんです。」

 

魅華月さん良い人だったから、出来るだけ期待には応えたいんだよ、頼むよ白衣の人!

 

「分かったよ、出来るだけ頑張ってみよう。ただ、約束は出来ないからね、そこは分かってくれ。」

 

うぅん、旦那に言われれば、晦日さんも折れるだろう多分。

後は、あいつに渡した紙の事だな。

 

「ありがとうございます。もう一つだけ、良いですか?これで最後なので。」

 

「ん、言ってみなよ、言うなら只だからね。」

 

「朱司が、武道会前の数日、居なくなるかもしれないんですが、その時は、俺たちの宿泊場所に居ると思います。あいつに、強くなりたいなら数日前に来るように、紙に書いたものを渡したんです。」

 

言った後、白衣の人が頭押さえて深い溜息をする。

あ、うん、親からすればそうなりますよね、はい。

 

でも本人の為にもなるし、最後はアイツの自由意思、俺は選択肢を提案しただけなので、そこは分かって欲しいです。

 

「……………はぁ、分かっているのかい?朱司が行方不明になった場合、最初に疑われるのは君たちになるよ?それでも良いのかい?」

 

行方不明なら、初音の式神と魔術の人海戦術で解決するだろう。

俺も式神なら、結構出せるし。

式神が使えると、本当に便利だからな、本人の適正によるところが多いらしいけど。

 

俺は獣型の式神に適正があって、人型は無いに等しいが、初音はその逆。

人型に規格外の適正があって、それ以外はまるで無いみたいだ。

猫の式神出そうとして、何度も失敗してるのを見たからな。

それでも、人型に対する適正が規格外だから、あんまり困んないだろうけど、俺は獣型以外は魔力消費が割に会わないから、使えないし。

 

「良くないです。でも、あいつが腐ると魅華月さんが困ると思うんです。」

 

こっちを少し怒気を込めて見てくる白衣の人に、まっすぐ視線を合わせながら言う。

 

見ず知らずの人間に頼むほど、本人は困ってたわけだし。

そんなに甥の事を考えるなら、甥が腐ったら悲しむんじゃない?

 

いや、里長として考えてたら、この考え自体意味無いんだろうけど、話した限りだと、情にほだされやすい人だと思うし。

里長から見ても、朱司の伸び代は無視出来ないはず、自分と同じ実力になれる可能性があるんだから、手綱を握れれば、強力な戦力になりえる。

 

実力が高い者が尊ばれるこの世界なら、今の時点で暗躍して、亡き者とするのは里の人達の支持を逃す。

今の時点でも、結構上の方らしいし、きっと将来の事を考えて、朱司を恐れた臆病者って言われる。

 

正面から挑んで来るなら殺害はもっと悪手。

そんなことしたら前述の問題もあるし、相手は姉の子供だ。

里の人達じゃなくて、家族から狙われる事になる。

 

腐るともっと厄介だ。

可能性があるのに、腐ったせいで伸び代は期待出来ない。

 

それでもそれなりに使えるだろうけど、やっぱりそれなり止り、里長の家族としては、前評判通りに強くなって欲しいのに、本人は腐ってる。

 

これじゃあ周りが…………特に母親が何するか分からん。

朱司以外の同年代の奴らを消して、朱司を同年代で一位にするか、はたまたさらに黒い事をして、腐ってる朱司を、里の中枢に起きたがるか。

 

どっちにしろ、今まで朱司の暴走を止めなかった人だし、ろくな事にならない。

あの様子と実力を見るに、朱司よりは断然強い筈だし、止めようとすれば止められたはずなのに、止めなかった訳だ。

子供を溺愛してるって言うか、子供に甘過ぎるって言うか、何ともなぁ。

 

白衣の人が、諦めたように首を振って、椅子から立つ。

 

「はぁ、息子と年が近い子に、こんな子が居たとはなぁ。こりゃ息子の教育サボり過ぎたかな。日ノ本は皆君みたいな子なのかい?」

 

「いや、俺はちょっと特殊でして、朱司が普通だと思いますよ。実力はちょっと高過ぎる気もしますが。」

 

そう言うと白衣の人は苦笑いして、部屋の奥の棚から、小瓶を取り出して、俺に渡してきた。

 

「君はその高過ぎる息子を、無傷で気絶させたんだろう?」

 

「いや、その……………えっと、これは?」

 

言い辛い事言われて、咄嗟に話題を変える。

さらっとこう言うこと言える人って、何か頭良いなって思うよなぁ。

身近だと、初音とか咲さんとか……………何か途端に頭良く無い気がしてきた、二人とも頭良いのに、何故だ!?

 

「それは、今回の件のお詫びだよ。ここの薬は僕が調合してるからね。それは呼吸によって体内に取り込まれる魔力の量を、整える成分の薬だよ。一日二回朝と夜に、一錠飲むんだ。飲めば少しの間………五時間位かな?魔力の自然回復力を整えて、回復力を向上させる事が出来る。精神安定剤の効果も有るからね。興奮した時とか、眠れなくなった時に飲むのも良いよ~。」

 

ん?

意外とスゴい薬では?

魔力の自然回復力が上がって、精神安定剤効果も有るんだろ?

睡眠前に飲んで、眠りやすくする効果もあると…………………修行後に飲んで睡眠をとれば、直ぐに魔力が回復するな、この薬なら、ちょっと無理した修行も出来るかもな、女性陣と五馬鹿に朱司を模擬戦って言って突っ込ませたりとか。

 

「この薬、凄く高いんじゃないですか?俺、そこまでされること、してないつもりなんですけど。」

 

そんな凄い薬なだけに、何で俺にくれるのか分からないんだけど。

 

「お詫びだって言ったろう?息子に殺気まで向けられて、息子を許して殺さないでいてくれたんだ、仕掛けたのはこちら側だって本人が言ってたしね。本当は直ぐにでも、保護者さん辺りに謝りにいかないと駄目なんだけど……………君、親御さんにこの事言いたくないんだろう?」

 

うへぇ、こっちの事お見通しですか、俺って初対面相手にここまで分かりやすい人間だったっけ?

これからは気を付けよう、何かあってからだと、遅いだろうし。

 

「妹さんと約束があるんだろう?妻には行っておくから早く行きなさい。お互い女性には苦労しそうだしね。」

 

何この人メッチャ良い人じゃん!!

特に女性に苦労してるところが良い!!!!

 

何だろう、同族意識っていうか、仲間がいるってうか、とにかく安心するわぁ。

 

「ありがとうございます。」

 

お礼の言葉を言って、直ぐに部屋から飛び出す。

廊下にはもう誰もいなくて、窓が半開きの状態になってた。

 

一々下まで降りて、晦日さんとかに反応するのが面倒くさいから、窓から失礼することにする。

 

窓枠を壊さないように、力を一回だけ使って脚力を強化、空中で動体視力と視力をさらに強化、着地寸前でテューポーンを一瞬使って着地、その後は脚力の三倍掛けに変えて、全力疾走。

 

後ろから何か声が聞こえてきたけど、無視して走る。

白衣の人が何とかしてくれるだろう、話すって言ってたし。

 

朱司と兎って人は知らん、そこはもう運に任せる、考えるのが面倒くさい。

 

しばらく走って、息が切れてきて、速度が落ちてきた辺りで、やっと団子屋についた。

 

はぁ、はぁ………長かった、長かったぞここまで!!

 

「いらっしゃい。」

 

中に入ると暇そうに時計を見てる若い女の人が一人だけ、硝子棚には団子が三角に積まれてる。

 

店の中はボロいし、女の人以外に店員が見えない。

店間違えたなぁ、何て思うけど、今は速さ優先だから、注文して待つことに………値段は安いんだな、学食の団子の六割位か、量は見た目変わらないっぽいな。

 

「御手洗と餡子に胡麻、十二本ずつ下さい。」

 

「はいはい。御手洗七百二十、餡子七百二十、胡麻六百、全部で二千四十だよ」

 

硝子棚から出した団子を、おっきい葉っぱで小分けにくるんで、紙袋に入れながら、ぶっきらぼうに言う女の人。

 

何か気不味いなぁ、何て思いながら、財布からお金を出して渡す。

 

「三千からね。はいお釣りの九百六十、ありがとうございました~」

 

お釣りをもらって直ぐに店を出る。

あの店、団子不味かったら安くても絶対にいかねぇ。

雰囲気が苦手だ、疎外感とか、そういうのが感じた。

何て考えながら初音と別れた所に行くと、初音がいない。

 

「ありゃ、長かったしもう、咲さんの所に行ってるのかね?取り合えず廃墟の方に行きますか」

 

最近一人言多いな俺、ん?

ここら辺道が均されてる、咲さんの仕業かな?

あの人午前中は、掃除に回るって言ってたから。

 

時間的にそろそろお昼過ぎだから、もう昼御飯食べてるかねぇ。

いやはや、まさか昼御飯抜きになるとか、そんな事になったら悲しすぎる。

そろそろ廃墟が見えるけど、頼むから昼御飯残っててくれよ?

初音が未だ怒ってたら、俺の分食べられてそうなんだけど。

 

「…………何だこれ」

 

廃墟の周りをせっせと掃除する大量の式神に、初音を膝枕してる式神、木の長椅子に横になって爆睡してる咲さん、何これどういう事だ。

 

 

 

 

その後、昼御飯が玉木のおやっさんのお弁当で、皆で旨すぎて無言でひたすら食べたり、俺が団子屋に行く時に喧嘩して、それにひたすら説教されて日が暮れたり、結局廃墟に泊まる事になって、初音が風呂場に乱入してきたり、団子がメチャクチャ旨くて初音が気に入っちゃって、次の日また団子屋に帰り道寄ることになったり。

 

そんなこんなで、慌ただしく休日を過ごした俺らが、学校で聞いたのは戦時下における非常事態宣言、それに伴う夏期長期休暇と、学校の要塞化だった。

 

 

 




サブタイトルに話数入って無かったので、入れておきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十五話 ご飯と未来

お久し振りで、ございます。
リムル=嵐で、ございます。
…………………はい、すいません。息抜き作品に浮気してました。はい。本当に申し訳ないです!!( ノ;_ _)ノ
最新話は、箸休め回です、どうぞ…………………話進まなくてごめんなさい。後書き鬱陶しいので、読まなくても大丈夫です。


あの後、何とか魔獣達に話をつけて、掃除を終わらせた後、学校で長期休暇………夏休みをすると話され、生徒は早くも飽き始めていた学校生活からの解放に、大盛り上がり。

 

その後聞かされた開戦の話で、一気に空気が凍ったけどな。

この国はいったいどうなるんだか、先生が言うには、霊鳥國オルニス…………災害級の中でも危険な、五神の一角エアが治める国との戦争になったって、言ってたっけ?

 

放課後になってから、寮監を兼任してるイヴの部屋に突撃して、根掘り葉掘り聞いたけど、この戦争は、人魔戦争とはあんま関係無さそうって言ってたな。

 

『人魔戦争は、神々の代理戦争なの、だから駒じゃない生物同士の争いは、神は干渉しない。勿論、神の駒もよ、あなたたち二人と一条先生に鮎川ちゃんは、この戦争に関わってはダメなのよ。ま、私の駒は動かないのが一番なんだけどね、審判役だから、戦いを見ることはあっても、戦いに参加はしてはいけないから。それをするときは相手が不正をした時だけだもの。相手もそれが分かってるはずだから、向こうから仕掛けてくる事は無いはずよ』

 

何て言ってたから、俺と初音、歩は無事なんだろうけど、他の面子が心配だ。

 

そもそも俺達兄妹も鮎川も、親が軍属でしかも上級将校、この戦争に関わりを持たない方が難しい。

そんな事をイヴに言ったら、『ならいっそのこと、行方不明扱いにしちゃいましょう』何て言い出して、天皇に直談判。

 

話を聞いてる天皇の機嫌が、どんどん悪くなっていくのを、イヴの後で恐怖するしか無かったわけだけど、天皇が溜め息を何度も吐いて、『朕は………あぁ、面倒くさい!私が何でも出来ると思うなバカイヴ!!ここの所ずっと徹夜何だよバカァ!!!!』何て言い出した時は、俺死ぬんじゃねぇかな?何て思っても仕方無いと思う。

 

公的な場では朕で統一してる一人称を、イヴの前だと平気で崩して、普通の姉妹と変わらないやり取りしてる訳だからね、これ普通に国家機密相当のやり取りだよ。

 

やっぱイヴって、肩書きはスゴいんだな、肩書きは。

いや、肩書きに負けない位実力も強いんだろうけど、何か実感沸かないんだよなぁ。

 

親戚のお姉さんが、実はテレビに出てる有名人どころか、ノーベル賞取ってる偉人でしたとか言われても、『え、何それ?』ってなるわけで。

 

あまりにも突拍子もない位、とんでもない事をされても、現実感も何も無いからなぁ。

 

そもそも霊鳥國オルニスとは、休戦状態だったのが開戦になったって話で、大人は皆走り回ってるけど、子供は不安がるしか無い。

 

話を聞けば、休戦になったのは二十年前って言うし、今の子供の世代は戦争がどういうものか分からない。戦争の体験を覚えているのは三十路や四十、殆どの人が前線を退いて、後方部隊の人間だ。

 

戦場の基本速度が、音速を超えた肉体戦が多いこの国では、三十過ぎてからの衰えが顕著になる、そのため三十過ぎてからも前線を戦える人は少ない。

皆三十過ぎると老化を理由に、後方部隊に入るからだ。

後方部隊って言っても、前線よりもやることも多い。

 

この国は、農林水産関連と科学開発に魔術開発を、軍管理下に統合してるため、そもそも戦闘訓練をしたことが無い軍人とか、沢山居る。

勿論戦時下はそういう人達は、一般人と殆ど変わらない扱いだし、他にも警察組織の代わりや、災害救助とかの兵科もある。

 

父さんが統合元帥になってるのは、休戦状態になっても起こっている国境線の海での小競合いで、多大な功績を上げたからだ。

 

父さんの部隊は試験小隊で、色々な兵器や作戦とかの、実験をするための部隊何だけど、この世界ではそういう部隊は捨て駒扱いが定石、当たり前のように前線に送られる存在で、陸では小康状態が続いていた当時、そう言う捨て駒部隊は海に送られて、前線に出たんだ。

 

(移動手段)とか、大型火器が魔術があるがゆえに必要なく、個人兵装が攻城兵器並の威力の世界で、小競合いは有り得ない規模の戦闘になる。

 

そんな小競合いの中、当時の日ノ本と霊鳥國オルニスの間の海に棲んでいた、はぐれ………所謂どこにも属していない存在の特級魔獣による襲撃、どちらの軍も小競合いの中横っ面から叩かれて、大きな打撃を受けて撤退している中、父さんの部隊が殿(しんがり)をすることになった。

 

何故か、当時の事は父さんも母さんも話さないし、未だお袋が生きてた頃に、調べようと色んな所で聞いて回ったけど、どこも不発で終わったんだよな。

 

分かったことは、全員無事に帰還っていう本来の殿なら有り得ないような幸運だけじゃなく、さらに問題の特級魔獣の討伐と、敵部隊の追撃をして、捕虜を大量に獲得何て事をやらかしたみたいだ。

 

政府は捕虜を盾に、霊鳥國オルニスに結構なやりたい放題したらしく、それを切っ掛けにもう小競合いは起きていない。

 

その戦功を讃えて、父さんと父さんの小隊、所謂英雄になった人達は、出世街道まっしぐら。

 

反発は結構あったんだけど、父さんの能力が()()()圧倒的だったのと、それより大きな問題、新しい天皇の即位が父さんが統合元帥になった二年後、天皇が八歳の時に起こったために、父さんに対する反発は少なくなっていった。

 

父さんの翌年、母さんが巫女長になったのも話題を呼んだために、当時の日ノ本は荒れに荒れたと、玉木のおやっさんが言ってたな。

 

しかもそこから数年後、新たな災害級の誕生と大将である英雄の一人、五十嵐鏡和(初音の親父)の戦死、そして四菱柚子、俺のお袋の病死でさらに国は混乱した。

 

『休戦状態の時の戦争の英雄って言うのはな、その国の精神的主柱であり、急所の一つでもある。解るだろう坊主、未だ休戦してから十年と少ししか経ってない、戦争の恐怖がやっと国民から忘れられてきた時に、英雄の死亡と新たな災害級の誕生だ、国は揺れない筈がねえ。今の天皇様は凄いぜ、未だ二十にもなってねえのに、即位仕立ての時からこんな混乱の国をずっと纏めてるんだからな。だから今回の開戦が不可解だ。ま、俺を軍属に戻せるのは統括元帥だけだ、呼ばれるまでは(趣味)を止めるつもりはねえな』

 

玉木のおやっさんの言葉だ。

 

新聞には、《激動の十年 十年目にして最悪の事態に》何て書かれる始末。

いやはや、未だに戻らない父さんと母さんは、この事態を知っているのだろうか?

 

予定ではそろそろ戻ってくるはずなんだけど、地形的に、霊鳥國オルニスが間に入ってくるせいで、期間が遅れてるのかね?

 

オルニスには災害級であるエアが居るんだから、父さんと母さんだけじゃまず勝てない。

この国の総軍をぶつけて、ようやく掠り傷って存在なのに、戦争なんかしてどうするんだよ、前回勝てたからって、今回エアが来たら負けるに決まってるのに、天皇には秘策でもあるのか?

 

「お兄ちゃん、のぼせちゃうよ?」

 

「ん、あぁ、ゴメン。上がろうか。」

 

特待生寮の寮監である、イヴの部屋に戦争について聞きに来てた俺達兄妹は、夜も遅いからって理由で、イヴの部屋に泊まることになった。

歩と板橋には念話で話しておいたから、泊まるのに支障はない。

 

昼もイヴの奢りで玉木のおやっさんの店で食べたし、イヴって結構面倒見がいいよな、何だかんだ言って周りの人間に甘いし、ダメ人間製造機の匂いがする。

 

着替えて居間にいくと、イヴが料理を並べてた所だった。

 

「随分長湯だったわね。あ、初君ほら、こっち来て。」

 

「ん?何かあるっわぷ!?」

 

着替えた後持ってきた布を取られて、頭をわしゃわしゃされる。

 

「ちゃんと乾かしきれて無いじゃない。ほら、初音ちゃんもこっち来て。二人とも髪乾かす魔術、今度教えたげるから、次からは魔術使いなさいよ?」

 

じゃあ何でわしゃわしゃしたし、布で乾かす意味無かったやん。

 

「まるでイヴがお母さんみたい。」

 

「どっちかって言うと、親戚の叔母さッッッいっつ!?」

 

はたかれた頭を押さえてイヴを睨む。

 

「お姉さんよ。減らず口叩いてないで、ご飯食べるわよ、ほら座った座った。素麺延びるわよ?」

 

「うぇーい」

 

返事をしてイヴの前に胡座をかいて座る。

卓袱台(ちゃぶだい)の上には、麦茶に素麺、かき揚げに味噌キュウリと、夏の定番になる面子が勢揃いの食卓、ここにミョウガがあれば言うこと無い位何だが、これはこれで旨い組合わせで結構好きだ。

 

「お兄ちゃん、返事ははいでしょ。」

 

「はいはい。」

 

「それじゃ食べましょうか」

 

「「「いただきます」」」

 

皆で手を合わせてから、晩飯を食べる。

そういえば麺汁(めんつゆ)とか、市販されてる所みたこと無いんだけど、まさか手作りか!?

 

「お、このかき揚げ旨い」

 

「この時期に珍しい、良い桜えびがあったから、昨日奮発したのよ。」

 

「この味噌美味しい、いつも家で使ってるのと違うけど」

 

「それ、鎌鍋屋の豆味噌なの、あそこ一度に売る量が少ないから、結構希少なのよ?」

 

去年の時の煎餅から、今日のこの料理、イヴって以外と食道楽っていうか、食に対して拘る人間(?)何だな。

 

「イヴ料理上手いなぁ、かき揚げサクサクだし、素麺でモソモソしてないし。」

 

「ふふん、人間の頃はこれでも、仲間内じゃ食事係りだったもの。男連中が脳筋だったのもあるけど、マリアと二人してあれこれ考えて、大変だったんだから。家事何て皆、全く出来なかったんだもの。」

 

そう言って素麺を食べるイヴ。

 

イヴの人間の頃って、この世界の人類最初期の話だろ?

何千年前の話だよ、少なくとも日ノ本が出来る前の話だから、三千年弱位昔の話になるのか、とてつもない話だなぁ。

 

そこまで昔の話になると、今と文明が違うだろうし、料理とかどんなのがあったんだろ。

 

「イヴが人間の頃って、どのくらいの文明だったんだ?」

 

俺の言葉に、イヴがニヤニヤしだす。

初音も俺の言葉が気になったのか、イヴの事を見る。

 

「私が人間の頃の文明はね、今と同じ位か、もっと進んでた国もあったわよ。」

 

は?

 

「ここから先は、上の世界(神住世界)に来られたら教えてあげる。」

 

つまり、未だ知る資格が、俺らに無いと言うか。

 

くそう、メッチャ気になる、今の日ノ本と同じ位の文明ってどういう事だ?

そもそも転生前に見た、地形が地球とそっくりなのも気になるし、謎が多すぎる。

 

「ねえイヴ、本当に教えてくれるの!?」

 

あ、ヤバイ、初音が気にし始めた、助教授になって(大学に残って)論文出すくらいには、歴史オタクの初音が、興味を持ったら止まらない初音が、興味を持ったぞ!?

 

「上に来るのは大変よ?文字通り()()()()()()()憶でも未だ足りない位、少ない確率よ?」

 

ハハハハハ、初音がやる気を出したら、それくらいじゃ止まらんがな、本当に文字通り死に物狂いになるからな?

 

前世で、徹夜と栄養不足が理由で入院してるからな、()()()()()()()

 

集中してる時の爆発力は右に出るものは無い、しかも自分が興味を持った事柄に対しては、神懸かり的なまでの領域に居るからな。

 

「それが例え不可思議より多くても、虚空程の可能性が無くても、私はやって見せるよ!!燃えてきたぁ!!!!」

 

あ、あかん、今の初音が上の世界に行く方法を知ったら、確実に種族進化を始める。

 

何とかして月詠からの返答まで粘らないと、何が起こるか分かんないのに!!

 

「そ、それはそれとしてだ!イヴ、月詠からは未だ返事は来ないのか?」

 

「それなんだけど、何度もお願いしてるんだけど、『問題ないよ、僕が関わる程の事じゃないしね』の一点張りで、教えてくれないのよ。」

 

な!?

 

「嘘だろ、それじゃあ手掛かりは無しって事かよ、クソッ!!」

 

これじゃあ振り出しだ、しかも手掛かりは無い、前より状況が悪化してるじゃねえか。

 

前より初音が進化に前向きになったから、失敗の可能性は減ったけど、成功になってもどうなるか前例が無いんじゃ、安全か分かんないのに!!

 

「一応、似たような事は起きた事があるのよ。スッゴい昔に一度だけね。」

 

はぁ!!!?

 

「何でそれを先に言わないんだよ!!!!」

 

思わず卓袱台を両手で叩く。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「ッッッ!!!………ゴメン」

 

初音に怒られて渋々謝る俺にイヴが話す。

 

「似てるって言っても、状況が全く違うし、前例に含めても大丈夫か、確信が持てないのよ。それでも聞きたい?」

 

言うのを躊躇ってた理由はそれか。

でも、手掛かりはもう、その確信が持てない話だけだし、聞くしかないだろ。

 

「話してくれ、頼む。」

 

「私の仲間の一人にギフトを二つ、種族進化させたやつが居るの。そいつは災害級の魔獣になって、封印されたわ。神武天皇、この世界で単独で災害級を殺害した、唯一の元人類よ。」

 

 




はい、最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!
以下小説内容と全く関係無い言い訳なので、無理な人はここでバック推奨。






はい、投稿の事です、はい(自分の投稿作品から目逸らし)。
この作品の書き溜めは、出来てるんです!ただ、月二回は、辛いんですorz。
息抜き作品はですね、自分の性分でして、ずっと同じ事が出来ないんです。すぐに煮詰まるタイプでして、頭の中を切り替えるために、似たことで別のことが必要なんです。言い訳ですね、ごめんなさい。
取り合えず結論を言うと、月一投稿は変わりません。不定期になることも増えることも無いです。そこは明言しておきます。
ただ、別の小説を書くのを、許していただきたいです。モチベ維持に必要なので。
それでは五月にまた会いましょうノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十六話 お泊まり会、しょだいてんのうさま

お久しぶりです、作者です。
毎度お馴染み説明会です、この小説の八割位、説明な気がする( ̄▽ ̄;)
まぁ、説明会苦手な人は多分ここまで見てないでしょうし、では本編どうぞ( ゚∀゚)つ


「神武天皇って、()()()()様じゃないか!!」

 

歴史の授業でも中々習わない位昔の人だぞ!?

 

「えっと、人型の異形になり、以後祀られ続けてるって、話だっけ?確か、男性って聞いたよ。」

 

初音が思い出すように、うんうん唸りながら言う。

 

「前身である弥魔大国(やまたいこく)、建国したのは女性だけど、この国を建国したのは男性よ。前身と言っても、弥魔大国は二十年しかもたなかった国だから、法制度も引き継ぎが多かったし、実質変わって無いのと同じ状態だったのよね、当時は。」

 

二十年?

それは初耳だな、詳しい話は聞いてないんだよな。

 

当時の話で知ってるのは、初代天皇が男って事と、確か武術に優れてたって話だ。

 

「神武天皇が災害級になったのは建国前、封印されたのは子供が三十路の時だから、更に二十年後の話ね。私は当時、神住世界(ゴッド・ライブ)に住み始めたばかりで、こっちの事を気に掛けてる余裕無かったの。神武天皇が封印される半年前に、ちょっと話しただけだから、詳しくは分からないのよ?」

 

麦茶を飲みながら言うイヴに、初音が急かすように言う。

 

「前置きは良いから、早く教えてよ!天皇様はどんな人だったの?今でも語られる武の存在だったって本当!?」

 

本当に突っ走る性格だ、自重をどこかに置き忘れたような所がある。

 

前世でも苦労したもんだよ。

最初は友達との話題作りの為のゲームが、いつの間にか熱中して、病院に搬送されるまでになったんだから。

 

「一言で言うなら陰険ね、超が付く陰険よ。そのせいで、当時からギナーク………仲間の一人とは、よく衝突してたわ。ギナークは脳筋だったから。神武天皇、秋道とは馬が合わなかったのよ。最後まで喧嘩してたわ」

 

そこまで言って麦茶を飲んで、懐かしそうにしてるイヴ。

 

ほへぇ、陰険ねぇ、頭脳派っていうか、頭脳労働担当だったのかね?

 

その割りに、後世では神武何て呼ばれてるけど、どっちかと言うと天賦じゃないのか?

 

「それで、ギフトはどんなのだったの!?名前は?能力は!?」

 

「特別な能力じゃなくて、純粋な能力強化だったわ。肉体強化、特に思考速度を強化するギフトと、細胞分裂とか、体内麻薬とか、回復力を強化するギフトだったわね」

 

単純ゆえに強い効果ってことか、母さんのギフトもそうだし、効果範囲が限られるから、その分複雑な効果より出力を上げられるのかね、そう単純なモノなのか分からないけど。

 

「それで、どうやって災害級魔獣になったの?」

 

「えっと、あくまでマリア………もう一人の仲間から聞いたことなんだけど。元々回復力を上げる方のギフトで、亜神になってたのを、思考速度を強化するギフトの進化で、更に強化されて、根本的な所……魂の機能は人間だけど、他は災害魔獣と変わらない性能になったのよ」

 

つまり、本質的には人と変わらない?

同時進化じゃないから、初音の場合とは違うと思うが、それでも魂の機能は人と変わらないのか………よし、光明が見えてきた気がするぞ。

 

「それで、魂以外の部分は?完全に人を止めちゃったの?それとも人の部分は残ってた?どれくらい!後精神にどのくらムグッッッ!?」

 

興奮してる初音を、口にきゅうり突っ込んで黙らせる。興奮し過ぎると、身体に悪いんだから、一回落ち着け、そう思うって初音を見ると、渋々口に突っ込まれたきゅうりを食べ始めた。

落ち着いた様で何より、話しはイヴから未だ聞くけど、頭に血が昇ってたら、初音の頭の良さが意味なくなるからな。

 

「落ち着いたみたいね、続き話すわよ?」

 

麦茶を飲んで続きを促す。

 

「性格や精神、内面の部分は殆んど変わらないわ。魂の機能は変わらないから、そこは問題なかったのよ。問題なのは出力。」

 

そこで区切って、麦茶を飲むイヴ。

初音がうずうずしてきてるから、さっさと話して欲しい、俺も続きが気になるし。

 

「うぅん、そうねぇ、良い例えが思い付かないわ…………薬缶(やかん)あるわよね?」

 

「薬缶がなんだ?」

 

「水入れてお湯を沸かす道具なんだけど。薬缶をギフト、中身が人間、お湯を沸かす為の熱をギフトの出力と考えて」

 

薬缶でたとえるのか?

薬缶がギフト、中身が人間、沸かす為の熱はギフトの出力ねぇ。

 

「薬缶っていうギフトで、中身の人間()進化(沸騰)させる。これが進化の構造なのよ、進化すれば薬缶や熱が…………例えば熱がマッチからコンロに変わったりして、効率や出力が上がるの。中身の水はそのままでね。」

 

……………それ、とんでもなく危険じゃないか、水ってことは、()()するんじゃ?

 

いや、例えだから違うかもしれないし、()()()()って事も、出来るかも知れない。

考えても仕方無い、今はイヴの話だ。

 

「それが、神武天皇の進化になんの関係がある?」

 

話したそうな顔してる初音を、初音の皿にかき揚げを置いて牽制しておく。

 

「鈍いわね、薬缶と熱が、とんでもなく効率性の高い物に変わって、過剰って言える位規模が上がったのよ。一リットルの水を沸かすのに、火力発電所のエネルギーと寸胴鍋何て、過剰も良いところでしょ?下手しなくても、ギフトも人間も耐えられないわよ」

 

え?

いや、でも最初の説明だと、その天皇今封印されてるんだろ?

性能が災害魔獣と変わらない奴がそんな事になるとか、暴走でもしたら下手しなくても大事件だよな、歴史の教科書に載る出来事だろ、何で学校で習わなかった?

ギフト制御の座学で、習いそうだが………未だ範囲外なのか?

 

「ねね、イヴ!?」

 

俺が考えてると、しびれを切らした初音が、イヴと話し出した。

 

「何かしら?」

 

「エネルギー過剰って事は、身体が耐えられないって事でしょ?」

 

「ま、そうねぇ。」

 

イヴが曖昧に答えると、初音が俺の方を見て嬉しそうに笑った。

 

「やったよお兄ちゃん!!神武天皇は、私とおんなじ症状の人なんだよ!!」

 

は?

 

「いや、でも同時に進化してないんだろ?なら別に同じって訳じゃ「進化した後が大事なの!!!!」」

 

進化した後?

 

「ギフトの出力に耐え切れないって、()()()()()()()()()()()()!!」

 

!?!!?!!!!

 

………そうか、ギフトの過剰な出力や効率を、何とかする方法があるのか!!!!

 

 

「あまりあてにしちゃダメよ?秋道は種族進化した存在だし、元々の身体能力が違うわ。初音ちゃんの場合、耐えられるかじゃなくて、正常な進化が出来るかの問題なの」

 

イヴにそう言われて、今世の師匠兼姉代わりだった、裏松雪奈(ドール)の事を思い出した。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

俺が考え込んでいると、初音が不思議そうにこっちを見てきた。

 

「ん、ちょっとな。どっちにしろ神武天皇と会うためには、封印を解く必要がありそうだ。」

 

残ってた素麺を、全部めんつゆに突っ込んで掻き込む。

 

「あぁ!?未だ食べてたのに!!」

 

「かき揚げ一人で殆んど食ってたんだ、良いだろ。」

 

口の中がめんつゆで塩辛いことになってるから、麦茶飲みつつ初音の文句を聞き流す。

 

イヴが苦笑いして、自分の分を初音に渡す。

 

「ぶぅ~。」

 

「ほら、そんな膨れないの、私のあげるから。」

 

「やったー!ありがとイヴ!!」

 

調子良いなぁ、もう。

こっちに来てから、何か天然だよなぁ、初音。

前世()はクールな感じだったのに、まぁ根は一緒だから可愛いし、どんな初音でも愛してるんだけどネ?

 

「成長期何だし、沢山食べなさい、おかわりは未だあるから。すぐに作れるから遠慮なんていいのよ?」

 

そう言って台所に行くイヴ。

あぁ、イヴが母性に溢れてる、本当に面倒見がいい神様だ。

 

日本神話の神々に、爪の垢を煎じて飲ませたい位だよ本当に。

 

「それにしても、封印されてる神武天皇と同じ症状ねぇ、封印って解いたら不味いよなぁ、絶対。」

 

「どうかしらねぇ、そこは天皇に聞けば分かるかもしれないわ。秋道の性格なら。遺言の一つや二つ、遺してるでしょうし。」

 

遺言ねぇ、封印は解くなとか、国の一大事になったら起こせとか、そういう類いのかね?

 

個人的には後者の方が、手っとり早くていいんだけど、今は国全体が開戦の雰囲気だ、相手は災害級、封印を解くには都合が良いんだよなぁ。

 

「夏休みの間に、何とか方法を見付けられればいいんだがなぁ。…………………あ」

 

もしかして、天皇の考えって

 

「どうかしたのお兄ちゃん?」

 

「天皇様が戦争に強気な理由って、もしかして………。」

 

神武天皇をエアにぶつけることで、向こうの切り札をこっちの切り札で潰せる事か?

 

「いや、流石にそれは…………え、でも、……なら……………そっか、なら可能性は高いかもね、災害級には災害級ぶつけるのが、一番だし。」

 

俺の言葉に、初音が唸ってる、一人言が出てる辺りアザゼルとも話してるのか、自分の中にもう一人人格が居るって、どういう感覚なんだろうか。

 

「エアはそんな簡単に倒せる存在じゃないわよ、今この惑星でもっとも神に近い個体の一柱よ?秋道でも無理よ、魂の規模が違うわ」

 

イヴが難しそうな顔で唸るように言う。

 

「五神はそこまで、他の災害級と離れてるのか?」

 

「そうじゃなかったら五神何て呼ばれてないわ。五神は単純な能力なら、他と変わらないかもしれないのも居る、でもそれを技能と経験で上回って、圧倒的なまでの質量で捩じ伏せるのが、五神なのよ。」

 

圧倒的な質量ねぇ、身体がでかいのか?

ただでかいだけじゃなくて、とんでもなく速いとか、嫌だなぁおい、移動するだけで地形が消し飛ぶとか、災害級なら普通なのがまたなぁ。

 

「質量って、そんなにおっきいの?」

 

「魂の質量よ、この世界は基本魂の純度と質量で、強さが決まるの、あなた達は未だ未だ中の下。上には沢山イカれた先輩がいるわよ。」

 

ギフトの性能とかじゃないのか?

何とも、新しい発見が多い世界だ、こりゃそのうち物理法則とかイカれるのも、時間の問だ………もうイカれてたな、そういえば。

 

光速で動いてあの被害しか出してないんだから、この世界はおかしいわ。

 

重力が螺曲(ねじま)がってるとか言われても納得するな。

 

「イヴ、なら魂を鍛える方法が有るんだろう?」

 

「人間の基本は、やっぱりギフトを鍛えることね。ギフトは魂の力を、使いやすく()()する役目だから。そういう意味だと、霊力を使った術式とは、根本的にはあんまり変わらないのよね。」

 

はぁ、つまりは、ヤカンと熱を使って、中の水を熱湯に変える役割と。

 

霊力術式は、それを自力でする技能と。

車のマニュアルとオートマチックかね?

 

なら魔術は何になるんだ?

 

「なら、魔術はどういう扱いになるの?」

 

「便利技能よ、過程すっ飛ばして結果だけ導くの。」

 

こんな風にね、って言って、食器を魔術を使って台所まで運ぶイヴ。

 

あれは何の力で運んでるんだ?

重力、風?

ガラス製の物を運ぶとか、ちょっと落ちた時考えると怖いんだけど、良くできるな。

 

「じゃあ、過程が複雑になるほど、難易度が上がるのか?」

 

「基本はそうだけど、やっぱり規模も関わってくるわね、一概に過程だけで難易度が変わるって、言えないわ」

 

「ふーん…………ふぁぁ。」

 

さっきまでバクバク食べて、お腹一杯になったのか、初音があくびをして目を擦ってる。

今日も沢山動いたし、初音は興奮しやすいから、すぐにバテるんだよな。

未だ四歳ってのが一番なんだろうけどさ。

 

「そろそろ寝ましょっか、二人の分の布団出すから、歯磨きしてきなさい。使ってないのが洗面台の棚に入ってるから。」

 

歯磨きはいたずら者(プレインク)が作った物の一つだっけ?

服とか料理とか、生活に関係するものは、特に多いんだよな。

お陰で電化製品以外は、粗方揃ってるし、電化製品も魔術で再現出来るから、本当に便利な生活させてもらってるよな、先輩のいたずら者達に感謝だ。

 

「うぅ、いつやってもなれない、口の中しょっぱいよ。」

 

流石に、歯みがき粉の再現は出来なかったみたいだ、お陰で塩を使って磨くんだけど、これがまたしょっぱいのなんのって、終わった後二人して口の中の塩をとるために、ずっとうがいする。

 

流石に歯みがき粉の成分何て覚えてないから、誰かが作ってくれるまでは、このしょっぱい歯磨きになる。

本当に、誰か作ってくれねぇかなぁ、塩分過多で病気になりそうだ。

 

「なれるまでが辛いけど、それまでは頑張って習慣付けなさい。種族進化すれと、虫歯にならないからってしない奴も出てくるけど、臭いと見た目で最悪になるから、進化しても続けるのよ?」

 

イヴがまたお節介で、俺らの口の中確認して、ちゃんと磨けたか見てくる。

 

本当に母親みたいな事をするなぁ、子煩悩なのか?

最初の印象女子高生なのに、ここまで面倒見が良くて、家事も出来るとか、月詠(つくよみ)には勿体無い位じゃないか、もう別の人探せよ、一条先生とかさ?

 

「イヴがおかんしてる」

 

「イヴって、独り身なのにお母さんみたい」

 

「独り身は余計よ!」

 

その後、独り身の言葉に反応したイヴから、長々と布団に入っても、月詠に対する愚痴と惚気を聞かされて藪蛇だと気付くも、時既に遅し。

イヴのよく通る声で、惚気話を延々と聞かされ、眠気で意識が飛ぶまで、ずっとイヴは話続けていた。

 

イヴに独り身は禁句、俺覚えた。

 




もうそろそろ大会が近くなってきました、後二、三話書いたら、大会ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十七話 デート?

今月の投稿です、遅くなりお待たせしました。




イヴの部屋で三人で寝た次の日、いよいよ合宿まで今日一日。

 

出発は明日、もう持ってく物の準備は終わってるし、今日は歩と二人っきりで出掛ける予定になってる。

 

今は待ち合わせ場所の公園で、一人ボーッとしてる。

前世の学生の長期の休みと言えば、大量の宿題が出てくるのがお約束。

 

今世でも、長期の休みで宿題が出たけど、その日の内に特待生皆で学校の図書館で終わらせた。

図書館が便利何だよな、国立だけあって広いし、本の状態を保つ為に、空調がガンガン効いてるから、快適だし。

 

宿題は復習の部分しか出ないから、俺達特待生組みはすぐに終わらせられた。

妹組みが若干怪しかったけど、咲さんと銅次と拓弥(兄貴分)にぶん投げて、俺は初音と二人で得意科目分担して、ごり押しで終わらせた。

 

その後は、意外な事に皆で好きな本を見付けての、読書だった。

 

印刷技術はあるから、本は娯楽の一つ。

体育会系の脳筋も、有名な英雄譚とか、知ってるやつ多いし、この国の人達は文字を読める人たちが多い。

 

そもそも国外に居たのに、特待生になれるレアギフト姉妹組は、あれ多分咲さんの影響だよな。

あの人本当に十六か分かんない位博識な時あるし、いたずら者(プレインク)じゃないのは、イヴから聞いたから、間違いは無さそうだけど………そもそも国外で生活出来てるのに驚きなんだよ。

 

日本列島は何万メートル級の山々が連なり、平地がほとんど無くて、八割以上が森という名の危険地帯に覆われてるって話なんだ、そんな過酷な環境に、子供だけで生き残るって事がまず有り得ない。

 

例え日ノ本の近くだろうと、国境の外と内は天と地ほどの差がある。

天皇のギフトの一つ高天原(たかまがはら)、その機能の一つ、結界による識別防御が、国外に居ると発動しないからだ。

 

これがあるから、中級以下の魔獣しか、許可なく結界に侵入することは出来ず、中級以下なら国境付近に在中している軍隊に、討伐される。

 

つまり、中は余程の事がない限り、壁が無い原っぱでも、夜も寝ずの番なんて要らない位、安全性が高いのに、外は寝ずの番してても、運が悪けりゃ死ねる。

 

安全面では雲泥の差があるんだけど、一体どうやって暮らしてるんだ?

 

俺が、あーでもないこーでもないと、ぶつぶつ呟きながら考えてると、肩を叩かれて、そっちを見ると、歩が珍しく、機能性より見た目重視の格好で、恥ずかしそうにこっちを見てきていた。

 

膝上のちょっと短めのスカートに、ノースリーブのシンプルなワンポイントのシャツ、上から薄いジャケットを羽織ってる。

 

「えっと、待った?」

 

俺が驚いて何も言わないと、歩がちょっと棒読み気味に、王道染みた台詞を言う。

 

「いや、全然待ってない。それより今日はおしゃれだな、いつもより気合い入ってる?」

 

後半、ちょっとにやけながら言うと、歩は恥ずかしそうに目を逸らした。

 

「別に、いつもこんなんでしょ?それより、今日はどこに行くの?」

 

照れ隠しなのか、話題を逸らしてきた歩。

 

え?

そっちが決めてたんじゃないのか?

誘ってきたの、そっちだし、俺はてっきり買い物の荷物持ちだと、思ってたんだけど?

 

「いや、俺今日荷物持ちだと思ってたんだが?」

 

「約束破った埋め合わせなのに…………………何も決めてないんだ、へぇ。」

 

俺が考え無しだって分かると、歩が冷めた目で見てきた。

なんだその目は、まるで『デートなのにノープランで誘ってきたダメ男』見るような目で見てきやがって。

 

良いだろう、その目は俺への挑戦と受けとるぞ、前世で散々初音と出掛けてるんだ、プランの一つや二つ、即興で作ってやろうじゃないの!

 

「あ~、じゃあなんか要望とかあるか?」

 

俺が聞くと、歩が即答してきた。

つか少し声被ってた、速すぎだろどんだけ行きたいんだよ。

 

「初音と一緒に行った事の無い場所。」

 

つかなぜそんな条件?

ううむ、歩の考えがよくわからんなぁ。

 

まぁ、でもその条件なら何ヵ所かあるぞ。

 

「なら、何ヵ所かあるな、運動と静かにゆっくり出来る所、どっちが良い?」

 

「運動だな、昨日は一日部屋に居たから、身体動かしたいんだ。」

 

なら、あそこで簡単なの一つ受ければ良いか。確か、害虫駆除のなら、常に出てたしな。

 

「よし、なら良い所があるぞ。」

 

そう言って歩き出した俺の後を、歩がついてくる。

 

二十分位歩いただろうか、武家屋敷みたいな、大きな屋敷の門の隣に、安っぽい立て看板で『営業中』の文字が、達筆で書かれた目的地に着く。

 

「………なぁ、初、ここってもしかして。」

 

「ん?万事屋(よろずや)だけど?」

 

あ、もしかして来たことある?

国外に行くことがあるなら、登録ぐらいしてるか、ここの登録出来れば、中級魔獣位なら、対処出来る証明になるからな。

そこからは、努力次第になるけど。

 

「ボソッ二人っきりで来る所じゃ無いじゃん。」

 

「何か言ったか?」

 

「いや、確かにここには、初音は連れて来ないだろうなって。」

 

あ~、うん、ここの奴等は、色々癖が強い奴多いからな、国外に出られるって事は、それだけ強いって事だし、この世界、強い奴等程、個性もキツくなるからなぁ。

 

「ここは、初音には刺激が強すぎると思う。せめて成人してからだな、それでも不安だけど。」

 

せめて幼女趣味の奴等の、射程圏内からは外さないと、死人が出るぞ、誰のせいでとは言わないが。

 

「私は良いの?」

 

「お前は男との方が取っつきやすいだろ、それに歩が巻き込まれるなら、先に俺が巻き込まれてる。」

 

俺は初音曰く、面倒事が向こうから走ってくるような人種らしいからな。

 

「それもそっか、何か良い依頼でもあるの?」

 

「いや、適当に良さそうなの無いかと思ってな。俺ら二人なら、一日護衛とか、家庭教師とか」

 

それを聞いた歩が、露骨に嫌そうな顔をする。

いや、分かってるよ?

家庭教師って事は、同年代に教えることになるし、一日護衛とかは、俺達より身分の低いやつの護衛になるし、完全にあべこべな構図になる事はさ?

 

でも、運動出来る所で、一日時間潰すってなると、こうなるよなぁ。

 

「せめて、護衛にしてよ、それか魔獣の討伐とか。」

 

「あれ死体の処理大変で、やりたくないんだけどなぁ。」

 

歩の嫌そうな言葉を聞いて、昔の苦労を思い出す。

 

ヘトヘトになるまで魔獣と殺し会いして、殺した後はクタクタになりながら、皮と肉とかの素材を別けて、残りを埋めるか焼くとかして、処理する必要がある。

 

魔獣の討伐は、旨味はデカイけど、その分死ぬ可能性も高くて、討伐専門にしてる人間じゃないと、危険過ぎる。

 

世の中、絶対は無いんだ、だからこんな無理しなくていい時は、安全第一で動こう。

 

そう考えながら、門を潜って屋敷の中に入ると、玄関前で見知ったおっさんが、あくびしながら掃き掃除をしてた。

 

「暇そうだなおっさん。」

 

俺が声を掛けると、おっさんが物珍しそうにこっちを見てきた。

 

あ、これ気付かれて無いな。

 

「んあ?ここはガキが来る所じゃねぇよ。ほれ、飴玉でもやるから、外で遊んでろや。」

 

「ほれ、歩。」

 

「ふあ!?…………ん、いきなりするの止めろ。」

 

飴玉を歩の口に放り込んで、呆れた目でおっさんを見る。

 

「俺だよ俺、雪姉の後ろをいつも歩いてた。」

 

「うぅん?………………ああ!!お前か坊主!?大きくなったなぁ!!!」

 

俺の言葉に数秒固まった後、気付いたみたいで驚いた表情で、頭を乱暴に撫でながら笑うおっさん。

 

「相変わらず撫でんのが下手だなおい。」

 

「お前は口が達者になったな!」

 

お互い笑いながら、軽口を叩く。

その後、軽くお互いの近況を報告する。

 

おっさん、未だ近所の子供に怖がられてるんだな。

子供好きなのに、ギフトのせいで怖がられてるとか、悲しいなぁ。

 

「お、おい初?」

 

その言葉で、歩が置いてきぼりになってた事に気付く。

歩が置いてかれてるから、そろそろおっさんを紹介しないとな。

 

「そういや、そっちの嬢ちゃんは?またえらく別嬪(べっぴん)さんじゃないの。雪嬢といい、良い女とよくつるむ奴だなぁ。」

 

「私は、鮎川 歩。今は訳有って、初の家の世話になってる。」

 

「俺は千奉(せんぶ)、ただの千奉だ。好きに呼んでくれ。一応、この万事屋の大家をやってる。店長は別だ。」

 

おっさんこと、千奉はこの武家屋敷の管理人みたいな人で、武家屋敷の一部を万事屋に貸し出してる人だ。

万事屋は、国営施設の『魔獣案件対処部門兼職業斡旋所』……………ハローワークとRPG(ロールプレイングゲーム)とかでよくある、冒険者の酒場を組み合わせたような施設の派出所で、仕事だったら何でも引き受けるって言うのを、指針に掲げてる場所だ。

日雇いの派遣社員も、近いかもしれないな。

 

昔は毎日のように、通ってた場所だった。

 

「それで、今日は二人して依頼か?」

 

「いや、仕事探しに来たんだよ、護衛とか、身体を動かす仕事がしたいんだ。」

 

おっさんがそれを聞いて唸る。

俺の実力はしってても、歩の力は分からないだろうからなぁ、悩むのは仕方無いか。

 

「身体を動かす仕事ねぇ、討伐の仕事は、ここ最近は多いが?」

 

「討伐は、今日は準備してないから無理だ。」

 

「そうかぁ、奥でちょっと待ってろ、店長と仕事連れてくるからよ。」

 

おっさんが箒を玄関横に立て掛けて、屋敷の中に入る。

 

俺らも屋敷の中に入って、奥の部屋に向かう。

 

廊下の奥には、巨大な両扉があり、中に入ると畳張りの大広間に出た。

 

中にはもう既に飲んで、出来上がってる大人や、真面目そうに算盤弾いてる青年等、ざっと見て十人ちょいの人が、各々好き勝手に過ごしていた。

空いてた卓袱台に座って、卓袱台の上にあった水差しと湯呑みで、歩と自分の分の水を注いで一気に飲み干す。

 

「ふぅ、ほら、歩も飲めよ。」

 

「ん、ありがと。」

 

水差しの中の氷が、良い仕事してるお陰で旨い。

 

水差しから湯呑みに水を注いでると、歩が話し掛けてきた。

 

「なぁ、さっきの雪姉って、誰の事だ?」

 

あぁ、そう言えば、説明してなかったか。

 

「俺の昔の知り合いだ、半年だけ、稽古付けてもらった事がある。師匠みたいな人、かな。」

 

話ながら、雪姉こと、裏松雪奈の事を思い出す。

 

あの人は正常な種族進化をしないで、魔獣になったんだ。

 

確かあの人の話だと、デウス・エクス・マキナ(あの人のギフト)はロイヤル・エフェクト、種族進化には後一段階進化が必要だ。

それなのに何故進化出来たのか、実はゴッド・エフェクトって言われても、納得の強さだった。

 

でも、事実として国にはロイヤル・エフェクトで認識されていたし、本人もそうだって言ってた………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

戦闘向きなギフトではない機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)で、特級魔獣相手に真正面から互角以上に戦えていた。

 

相性次第で、複数体相手でも平気だった。

 

なのに、()()()()()俺の師だと、俺の事を手の掛かる弟だと、言ってくれたのに。

 

雪姉は俺を置いて消えた。

 

あの人は、いつも俺の失敗を笑い飛ばして、お気に入りの出店のたい焼きを食べるのが日課で、何でもかんでも新しさを求めてきて、ワサビ苦手なのに強がって寿司をワサビ入り食べて、涙目になって、年相応に騒げるのに、その癖妙に達観してたり、いたずら者(プレインク)でも無いのに精神年齢高くて、言動に若干中二病入ってて、いつも何かしらつまらなそうにしてた人だった。

 

あの日、俺が助けを呼びに行ってる間、何かあったのは確実なんだ。

相手は確かに特級魔獣だった、俺らがいつも利用してた森にはいない種族だった。

 

見たことない魔獣だったし、特徴的だったから、あの後調べたんだ。

女帝蜂、外来種の魔獣だ。

この島、日本列島の本島にはいない種族、特級(強さ)の割りに知能は低く、言語を用いない種族。

 

「待たせたな、仕事の件なんだが」

 

おっさんが、分厚い書類を抱えた青年を背後に連れてきてた。

 

書類を卓袱台に置いて、俺達の対面に、二人は座った。

店長と会うのも久しぶりだなぁ。

 

「初君、久しぶり、元気にしてたかい?」

 

「のんびりはしてたよ、俺は。店長はどうだ?」

 

「そうか、僕の方は忙しくてね、最近はずっとここで寝泊まりしてる位だ。仕事の話なんだが、要望は討伐は無しと、それでいて肉体労働か、駆除と捕獲、後は撃退の任務は沢山あるよ」

 

あのなぁ!

 

「それ全部魔獣関係じゃないか!今日はそっちの依頼は無理だ。」

 

「まぁまぁ。最近魔獣関係の依頼が増えててね。特に高難易度の依頼は、請けられる人間が少ないんだ。」

 

悪びれもなく言いやがって、こちとらデートだっちゅうに。

 

「だからってなぁ!」

 

「そちらのお嬢さん、登録証は持ってるかい?初めてなら作る事になるけど。」

 

人の話聞けやぁ!!

 

「忘れました。今日は元々来る予定じゃなかったので。」

 

「おいこら店長!」

 

「落ち着け坊主。」

 

むう、店長が強引なのはいつもの事だけどよ、一人ならまだしも、今日は歩とのデートだし………いや、歩の方が強いんだがな?

 

やっぱり男的には、なんつうかこう、リードしたいっつうか、優位に立ちたいっつうか、カッケェ所見せたいっつうか。

 

……………今更ながらこれ、初音にバレたら怒られるのでは?

いや、今日の事は知ってるし、初音は歩に何故かこっち方面で黙認状態だし、平気平気。

怒ってたら素直に土下座だな!

 

「それなら、登録した万事屋と名前を、ここに書いてくれるかい?借り発行した証明書を出すから、代金は依頼金から引いとくよ。」

 

そう言って出してきた書類に、すらすらと書いていく歩。

 

国外に出るだけなら、同行者が登録証を持ってれば良いんだけど、依頼となると、身元確認の為に必要だから、忘れた人間は書くことになってるんだよな。

 

因みに依頼を請けるのが一人の時は、トンボ返りして取りに戻るか、新しく登録証を作るしか無い。

 

「店長、魔獣関係以外の依頼は?」

 

「間に合ってるよ、どの依頼も緊急性が無いし、人手はあるからね。」

 

こいつ、依頼書出す気無いな?

ええい、こうなったら今日はどこか別の所で暇を潰せれば……………

 

「私は魔獣関係で大丈夫だ。」

 

は?

いや、ちょ、歩お前なぁ!

 

「そうかそうか、今はある種族が大量発生しててなぁ、レアギフト持ちじゃないと対処出来ねぇから、困ってたんだ。」

 

おっさんも()()だったのか!!

くそう、信じてたのによぉ!!!

 

「報酬は?」

 

「初君の実力なら、君の力添えも含めて、一体五千の歩合制の依頼はどうだい?群れの長を討伐で更に三万だ。」

 

そう言って書類の束から出してきた依頼内容に、仕方無く目を通す。

 

何々、ここから二時間の所にある森に、大量発生してる昆虫型の兵隊蜂、更にそれを率いる女帝蜂の討伐。

 

()()()

 

「なにこれ、難易度に報酬が釣り合ってない。」

 

歩が呆れて言う。

 

俺はそんなことより、この魔獣が気になる。

 

「陸軍国境防衛隊、北西部隊大隊長、跡部中佐?」

 

「未だ二十代の若手なんだけどね、軍隊指揮の才能がずば抜けてるってことで、上に行けた人だよ。」

 

「あそこら辺は、前の戦争でレアギフト持ちが少ねぇから、少人数じゃなくて、基本的に中規模の行動が多いからなぁ、他の所で少人数の指揮に慣れてる奴等じゃ、かえって邪魔だからな。」

 

女帝蜂って、本当に?

 

いや、でもそんなはず無いだろ、だって……この種は……………()()()だ。

 

「なんか怪しくないか?この依頼。……………初?」

 

!?

 

「どうした?」

 

「いや、この依頼怪しくないか?って、どうしたんだ?考え込んで。」

 

俺が喋ろうとしたら、先に店長が話し出した。

 

「あ、そういえば!魔獣殺しの最後の獲物って、確か…ッッッ!?」

 

俺が出した殺気に、店長が身構える。

 

無意識で出てた殺気を抑えて、軽く深呼吸してから店長に謝る。

 

「すまん店長、その話題出すと()()な。」

 

「ついで軍人でもビビるような殺気を出すか普通!寿命が縮むわバカ坊主!!」

 

おっさんに頭叩かれて、もう一回頭を下げる。

 

すまんすまん、もう条件反射の域なんだよ。

 

「初、その話気になる。」

 

げ、歩が食い付いた、でも外で話したくないし、仕方無い、この依頼請けるか。

 

魅華月さんの里は、この国の通貨を使ってるから、お土産ように少し稼ぎときたかったし、丁度良いと思おう。

 

「この依頼、請けるからよ、さっきの話、もうすんなよ?」

 

俺の目の前でされると、条件反射で殺気飛ばすからな、その度にビビられても困るし。

 

「分かったよ、もうしないからさ、その代わり、場所が近いし獲物も同じだから、この依頼達も請けてってよ。」

 

そう言って目の前に二~四枚の依頼書が置かれる。

 

これ全部で多分、日が暮れるぞ?

簡単な依頼一つのつもりだったんだけど。

 

「最初から、辺り一帯の奴等は討伐するから良いよ………そうだよね?初。」

 

…………………はぁ、今日はお前の機嫌取りが目的だし、文句は無いがな?

 

「お前虫大丈夫だっけ?」

 

「触れなきゃ平気平気、多分。」

 

自分で聞いといてあれだけどな?それで良いのか元男よ。

 

最初は男らしかった歩が、もうすっかり女の子やってて、なんとも言えない気分になりつつ、今回の獲物の情報を思い出す。

 

あれは因縁深い魔獣だから、直ぐに思い出せた。

 

女帝蜂

 

名前と違い両性で、一体だけで卵を作る事が出来る。

女帝蜂から産まれた蜂は、兵隊蜂と言い、一体一体が上級魔獣程の能力を持つが知能は文字通り虫並。

 

本来は地中に巨大な巣を造り上げ、中でひたすら卵を産み、そして成長した兵隊蜂を()()()()魔獣だ。

 

原理は良く解らないが、女帝蜂は成長した兵隊蜂を捕食する事によって、強くなる。

そして一定以上の強さを得ると、女帝は兵隊蜂とは別の卵を産む。

 

卵から産まれた蜂は、兵隊蜂を捕食して育ち、新たな女帝蜂として、巣を旅立つ。

 

繁殖方法はゲテモノの一言だ、だけど寿命は更にゲテモノ、確認された個体の中だと、実に数百年生きた固体もあるらしい。

 

この世界で、基本的に永くても百年程の虫の中では、一、二を争う長命種だ。

 

つかこれ以上は、種族じゃなく特異個体の領域になる。

 

災害級は、特異個体ばかりだから、寿命とかの衰弱死なんて、期待出来ないのが辛いわ。

 

で、そんな長命な女帝蜂は、その生涯の殆どを、産卵と捕食に割り振る。

 

機械的に卵を産み出して、義務的に兵隊蜂を捕食する、そうであることが決められた、何かの装置のように。

 

ま、虫なんてどれもそんなもんだろうけど、意思の欠片もないのは、正直気持ち悪い。

 

「請けてくれるみたいで良かったよ、必要な物はこの際だ、千奉に言えば用意してくれるから、遠慮なく言ってくれ。」

 

「何勝手に押し付けてやがる。別に良いけどよ…………無茶な物じゃなきゃ、用意してやるよ。」

 

じゃあと、遠慮なく必要な物を言ったら、皆が引いてた。

 

何故だ、解せぬ。

 

 




来月は下旬を予定してます。

それでは一ヶ月後にまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十八話 魔獣退治

どうも、今月分の投稿です、遅くなりましたすいません。


「やって来た、国外!!」

 

元気にはしゃいで、兵隊蜂相手に魔術で創造したクナイやら何やらを投げて攻撃してる歩を、死体から討伐証明扱いの触角を抜きながら、呆れる。

 

「元気だなぁ。……………それにしても、ここら辺来るの久し振りだ、兵隊蜂のせいで、生態系が大分狂ってるって話だが。」

 

「そうだとしても、数が多くない?もう三百は殺ったよ?」

 

ちょっとウザったそうに言う歩。

なんだ、もう飽きたのか?

 

「一つの巣につき、兵隊蜂は千匹は居るぞ、未だ未だだ、そろそろ女帝蜂が来るかも知れんけどな。」

 

本当に、流れ作業みたいに殺すなぁ。

 

俺が兵隊蜂がよく狙う小動物の入った籠を、複数設置して誘き寄せてるのも、あるんだろうがな、それでもこれは多過ぎる。

 

「歩、ここら辺巣が密集してる、長丁場になるぞ!」

 

「メンドくさ!!」

 

俺の言葉に、歩がキレて魔力を大量の拳大の球状に圧縮して、音速で動く兵隊蜂達を、亜光速の速さでバラバラの死骸に変える。

 

「こっちから行く!!」

 

そういって飛び出そうとする歩を、肩を叩いて止める。

 

「まぁ待て、先に罠に使った小動物の保護だ。あいつらを隠すぞ。」

 

千奉のおっさんが用意した奴等だし、放置して死んでるのは目覚め悪いからな。

 

「む、なら近くの砦に預けてくる、ちょっと待ってて。」

 

歩が、籠同士を魔力で固定して、ついでに小動物を保護した後に、音を置き去りにして移動した。

 

あの速さは、もう瞬間移動の領域だよな、種族進化してるか、肉体を強化してないと、即死なんだけども。

 

死骸から触角を抜き終わって、何ヵ所かに別けて埋めてる時に、歩が帰ってきた。

 

こいつら、40㎝近くあるからな、お陰で運ぶのも一苦労だ。式紙を使って手分けしてやってるけど、埋めるのに一時間位掛かった気がする。倒すのは一瞬なのに、後片付けが大変なのが嫌なんだよな、本当に。

 

それにしても歩、随分遅かったな、ん?

何でまた籠を抱えてるんだ?

 

「初ぇ~、私達の名前出したら、砦から救援要請が………どうしよう。」

 

あぁ、砦もこいつらの縄張り近くか、成る程な。

 

依頼はなるべくダブりたくないんだけどなぁ。

 

「しゃあなし、行くぞ、状況はどうなってるか分かるか?」

 

「もう二割位、砦の機能が停まってるって、前線で戦ってる人で、一人二人飛び抜けたのが居たから、多分砦の上位陣総出じゃないかな。」

 

ここら辺は、元々中級までしか出没しないような地域だから、上級以上に対する対処が出来ないのか、それなら何処かから応援呼べばいい話で……………………今は天皇の非常事態宣言で、どこも戦争準備で忙しいか。

それに統括元帥(父さん)居ないんだった、それじゃあ人事異動の速度が落ちるなぁ。

 

確か臨時だと、中将以上の人間で、三人以上の同意だっけ?

多忙な上の人間が、集まるのでさえ一苦労だぞ、こりゃダメか。

 

「それなら、少しは持つな、俺と歩で掃討して、怪我人の手当て優先だ、作戦はいのちだいじにで。」

 

「うん、早く行かないと。」

 

テュポーンで肉体を強化して、歩に引っ張られる。

 

こっちの方が速いんだ。

 

砦の前に着くと、辺り一面がまるで爆撃うけたみたいに凸凹になってる。

 

歩じゃわざわざこんな事する必要無いし、する時間も無かっただろうから、これは砦のレアギフト持ちの仕業か?

 

「歩、凹凸で窪んでる所に、籠設置してくれ、俺がしばらく引き付けるから、その間にお前は砦の怪我人の保護だ。」

 

テューポーンを全力で掛けて、歩に一言言ってから、兵隊蜂を思いっきり殴る。

 

同族が一瞬でバラバラになったのを見て、周りの兵隊蜂がこっちに狙いを付ける。

 

「こいよ虫ケラ、人間様をナメんなよ?」

 

挑発するように、嘲る様に言う。

 

所詮虫だから、言っても無駄か………ん?

俺の言葉に反応したのか、激昂したように何体かの個体が、隊列を組んで突撃してくる。

 

「虫ケラが、色々杜撰だ、役割分担すら出来んのか。」

 

一匹落ちた時の隊列の編成も、相手に対する注意力も、状況判断もまるで出来てない、所詮は虫ケラだな。

 

さてと…………………………最初に突撃してきた奴等を皮切りに、どんどん無造作に突撃を繰り返してくる兵隊蜂。

 

連携もクソもない、ただの突撃に、テューポーンによるごり押しで平等に殴ってバラす。

 

俺がそうやって蜂を引き付けて駆除してる間、歩が籠を凹凸のある場所に設置して、地面と固定する。

 

「私、砦に行ってここの場所に蜂を誘導するように言ってくる!」

 

「ついでに怪我人の確認と、ここら辺の巣の情報貰ってこい!」

 

さっきからひっきりなしに突撃してくる蜂を、平等パンチで潰してるけど、やっぱりこいつら数が多いな、ちょっと異常な数だぞ?

 

俺が暫くの間、囮になって蜂の山を作ってると、遠くから、まるで波の音みたいな、ザザーンって聞こえてきそうな音が、複数重なりあってる音が、こちらに迫ってきた。

 

重苦しい音が、津波のように押し寄せてきているのに、蜂を殴りながらそっちに眼を向ける。

 

なんだ、一体?

 

今日は雲一つ無い晴れの筈なのに、視線の先は、まるで暗雲のような()()()()()()()()()

 

おいおい、上級があの数って、これかなり不味いんじゃ?

 

「げっ!?鮎!!早くしてくれぇ!!」

 

あまりの数の多さに、ちょっと引いてここにいない鮎に思わず助けを求める。

 

あの数、下手しなくてもこの砦だけじゃもたないぞ?

こいつら上級だけあって、結構強く殴らないとダメなのに、あの数かよ。

 

ちくしょう、今日は一日鮎とイチャつくだけの、それだけの予定だったのに……………見た目だけは美少女と、二人きりで遊ぶチャンスだったのに!!

 

「初今変なこと考えた!!?」

 

ギクッ

 

俺に襲い掛かろうとしてきた蜂を、いつの間にか来て、魔力塊で薙ぎはらった歩に、ちょっと驚く。

 

「なんも考えてねぇよ、それよりこの数だ、巣はいくつ確認できた?」

 

「五つ!特別おっきいのと、それを囲う様に四ヶ所!!」

 

ふむ、この蜂の生体からして、そのデカイ巣から産まれた女帝蜂が、周りに巣を造ったって感じか。

 

「場所は?」

 

「一番近いので、ここから二キロ先。」

 

それなら、俺が行って来るのが良いか?

位置的に、俺らが依頼で請けた巣も、そこら辺の位置だし。

巣って事はこいつらの幼虫もごまんと居るだろう、歩がそれに耐えられるとは思わんから、仕方無いか。

 

「歩、砦の防衛は任せて良いか?」

 

「ちゃんと、討伐証明集めて来てよ?」

 

「ここら辺の奴等から引き抜けば、もう十分貰えるだろ?」

 

一匹五千をもう今までで千近く倒してるんだから、十分過ぎるだろ。

 

「それもそっか~、砦の防衛とか、御礼貰えるかな?」

 

「飯代くらいは出てくるだろ、多分。」

 

歩から、巣の位置を確認して、そこまで走る。

 

巣の近くはやっぱりとんでもない量の蜂が居て、仕方無いからテューポーンでの光速攻撃で、余波を狙って蜂を蹴散らす。

 

巣は地面に掘られてて、ちょっとしたほら穴みたいな大きさの穴から、大量の蜂が湧き出てた。

 

「こいつを穴の中に入れてっと。」

 

穴に準備してもらった、蜂の嫌がる貪欲蛙の人形を、持ってきた鞄から出して設置する。

 

暫くして穴から蜂が出てこなくなったのを確認して、ちょっと必殺技の準備をする。

 

「そういやこれ、実戦初投入か。」

 

魔力塊をひたすら大きく掌の上に展開する。

球状にして、ある程度まで密度を高める。

 

俺の背丈より大きくなった魔力塊を、ほら穴に光速でぶん投げる。

 

人形を巻き込んで中に突っ込んだ魔力塊の余波で、通った後の大地が捲れ上がって、ほら穴の入り口は爆発四散、地面を光速で滅茶苦茶にしてるせいで、結構デカイ揺れが、地上を襲う。

 

中で魔力塊を止めて、一気に魔力塊を圧縮して、ゴルフ球位の大きさにしてから圧力を解いて爆発させる。

 

「どうよ、癇癪玉の威力は、これなら当たれば最上級も一撃で殺れる自信あるぞ。」

 

地面深くで爆発した影響で、地震みたいな揺れが起こる、さっきの光速移動してる時の余波よりは、未だマシだけど、これだけやればもう壊滅してるだろう。

 

蓋をしてた部分がぶっ飛んで、クレーターみたいな痕になった巣の跡地をみて、蜂が出てこないのを確認してから、直ぐに別の巣の場所へ移動する。

 

同じ様な流れで四つの巣を壊滅させて、残りの中央、一際巨大な巣に挑む。

 

空中を飛び回って、どこを見てもいるような蜂の大群は、巣の壊滅と、俺の進撃の余波で、今では見る影もなく、滅茶苦茶にした巣の跡地と合間って、静まり返った森は、爆心地みたいな空気を出してる。

 

これが一番手っとり早いからやったけど、やり過ぎたかねぇ、俺が通った後も巣の跡地も地形が変わってるし、そろそろ一回戻って、歩と交代するか?

魔力を一度に使いすぎたな、癇癪玉は燃費が悪いのが弱点だからなぁ。

 

でもあれが一番速くて楽だし…………四つも壊滅させたんだし、残り一つは軍に任せても大丈夫かね?

 

仕事奪っちゃうのもアレだからな、うん、そうしよう。

 

それじゃあ、引き返して砦に戻り………………何かブンブン五月蝿いな、嫌な予感がする。

 

「げ、まさかそっちから来るのかよ。」

 

音の原因を探そうと周りを見渡すと、こっちに近づいてくる一回り大きい兵隊蜂と、兵隊蜂に囲まれて、ゆっくりと翔ぶ紫の外骨格に覆われた、厳つい見た目の蜂がいた。

 

精鋭部隊と女帝蜂本体か、あんな巨大な蜂って、聞いてねぇぞ?

 

クソッ、こりゃ魔力損耗してる時に、とんでもないのが来たな。

 

式紙の札を、袖の中で千切って、後ろ手にバレないように呼び出す。

 

ネズミ型の小さい式紙を呼んで、念話で歩の所に言って救援を出すように指示する。

 

上手く下草に隠れながら行った式紙に、早く来てくれと念じて、蜂共を睨む。

 

俺が周りの巣を壊滅させた奴と分かってたのか、俺の前方に陣取って、油断なく俺を見ている。

精鋭部隊は手馴れた様に隊列を組み、瞬きの間に別の隊列に変化し続けている。

 

女帝蜂はギチギチと顎を鳴らして、油断なくこちらを見ていた。

 

おいおい、知性は虫並みじゃなかったのか?

明らかに賢いぞこいつら、面倒臭ぇな。

ネズミの足で一体いつになるか、俺の式紙は性能良いとはいえ、五分十分じゃ来ないだろうしなぁ。

 

力で身体能力を現界まで強化、力だけなら暫く持つ、ここからは鬼ごっこだな。

 

「スゥー…ハァー………来い虫ケラ、格の違い教えてやる!」

 

足に魔力を集中させて、走り出すタイミングで、足の裏から瞬間的に放出。

 

瞬間的な加速で、一目散に逃げる。

 

あんな奴等に殺されてたまるかっての、この方法なら、音速近い速度出せるし、小回りも効くから、逃げ切ってやる。

歩は式紙でこっちの居場所が分かるから、兎に角今は全力で逃げる。

 

目指すは砦…………砦からくる歩だ。

 

「ッッッ!?っ危ねぇな!!」

 

走ってる俺の顔に、ゴン太の針が横切って、冷や汗が流れる。

 

ええい、あんなの食らったら一発で御陀仏だぞ!?

チクショウ、これが終わったらあいつら一匹残らず粉々にしてやるからな、歩が!!

 

「一か八か……………ッッッ!!」

 

なけなしの魔力を使って、テューポーンを体感一分だけ、発動する。

 

体から魔力がごっそり減る感覚に、頭がクラっとするのを、気合いで押さえて身体を反転、精鋭部隊に突撃する。

 

三十秒、亜光速の動きで蜂を相手に立ち回って、普通なら数百に上る数の蜂を倒せる動きで、精鋭部隊で削れたのはたったの十匹。

 

こいつら、一匹一匹が強過ぎる、それに連携も上手い、これは上級じゃねぇな。

単体でも最上級、群で考えるなら、最上級でも上、下手すりゃ特級に片足突っ込んでる位の強さ。

 

こりゃ残りの時間は、全力で移動だな。

戦って分かった、こいつら明らかに頭が良い、人並みには頭が回るだろ、多分。

 

さっきまでの逃走劇は全部こいつらの()()()()

明らかに手加減されてた…………俺のテューポーンの動きに付いてこれるなら、音速位捕まえるのもいたぶるのも朝飯前だった筈だ。

 

何で手を抜いた?

砦への道を、大きく迂回して、森を爆走しながら考える。今も後ろから放たれる針を、テューポーンの察知能力で避けて、後ろに引き離す。

 

さっき戦闘の速度から見るに、亜光速とまでは行かなくても、それ並みの速さは出てた、ただ外骨格に結構負担が掛かるみたいだな、戦闘時の蜂の体勢が、身体に負担が掛から無いよう、一応に丸くなってた。

 

それと女帝蜂の動きが無いのも不気味だ。

自分から手を出さずに、兵隊蜂に戦闘を全て任せてる、ってか今女帝蜂が兵隊蜂から離れてるな、単独行動?

 

まさか、兵隊蜂の死体でも漁ってるのか?

疑問に思った俺はその場で軽く跳んで、上空からさっきの戦闘のあった場所に目を向ける。

 

うわぁ、もう森が半壊してるな、木が無事でも、地面ごと捲れ上がってたり、あちこちにクレーターが出来てたりで、爆撃跡地みたいになってら。

 

戦闘の惨状に、思わずやり過ぎたかなと反省してると、紫の何かを見付けた。

っと、あそこか、紫の外骨格とか、迷彩も何もあったもんじゃないな……………………うわぁ、本当に食べてるよ、バリバリと頭から、うぇっぷ気持ち悪。

同族、それも自分の子供を食らうとか、ガチで嫌だわ。

 

そろそろらっかだなっッッッ!?

下から大量の針が飛んできて、慌てて先頭の針を掴んで全部弾く。

 

危な!!?

 

曲がってボロボロの針をこっちに飛んできた蜂の一匹に頭からぶっ刺す。

 

そろそろ、テューポーンの能力キレそうだな。

着地から三秒位か、それだけあれば十分!

 

着地前に、残りの魔力を気絶ギリギリまで使って、魔力感知を最大まで広げる、戦闘跡地に女帝蜂、近くに兵隊蜂の群れ、少し離れた所に俺に向かって式紙と一緒に一つの反応、歩だな。

よし、そっちに向かって走ろう、三秒あればお釣りがくるぜ。

 

「あばよ蜂共!」

 

着地と同時に一歩踏み込む、音速超過の速度に、二歩目で亜光速、三歩目で減速、最後の魔力を放出して自転車位の速度まで減速、意識を失う直前、歩に抱き締められた。

 

「ちょっと初!?どうしたの!!?」

 

……………すまん………………後………任せた……………………………

 

「ちょっと?ねぇ大丈夫!?初!!?」

 

 




次の話でデートは終わりですかねぇ、早く武道会したいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十九話 光明

ぎりぎりですが今月の投稿です。未だ日付け変わってないのでセーフですセーフ。


温かい何かに乗っかって、揺られてるのに気付いて、目が覚める。

 

「やっと起きた?」

 

どうやら誰か大人の人に背負われてたらしい、視線が高い。

 

声に釣られてそっちに目をやると、でっかい袋を両手で持って、横を歩く歩がいた。

 

「もう少しで砦に着く、降りるのはもう少し休んでからでも良いよ。」

 

俺を背負ってくれてる人が誰か気になって、名前を聞いた。会話しようにも名前分かんなきゃ続かないし。

 

「あなたは?」

 

「陸軍国境防衛隊北西部隊所属、跡部陸軍中佐です。女帝蜂の大量討伐と、巣の破壊、お疲れ様です。」

 

跡部?

どっかで聞いた事あるような無いような。

 

俺が悩んでると、鮎川が助け船を出してくれた。

 

「中佐は何で今回の依頼を出したんですか?ここは中佐の管轄と離れてますけど………」

 

あぁ!!

今回の依頼主の一人か!!

 

「自分の故郷が、ここら辺の国境付近でね、自分は仕事があるから万事屋に依頼をしたんだ。」

 

うん?

仕事あるなら何でここに?

 

「今日は休暇でね、いつまでたっても依頼の話が進まないから、万事屋に話に言った時に、丁度君達が依頼を受けた後だったみたいでね、自分も子供二人が受けたって聞いて、心配だから来たんだよ。」

 

そうだったのか。

 

「不甲斐ない所、迷惑掛けてすみません。」

 

「君達二人が揃っていれば、簡単な依頼だったろう?不甲斐ないのは砦の連中さ。あそこは手練れが少ないとはいえ、兵隊蜂に遅れをとる様な連中ばかりだと…………先行きが不安だねぇ。」

 

溜め息を吐きながら言う跡部中佐に、俺も同意する。

少なくとも、霊鳥國オルニスとの戦争が始まれば、上級魔獣の軍隊が攻めてくる。人並みの知性が宿るのは、大体上級からが殆んどだからだ。ここは沿岸沿いでもオルニス方面でも無いけど、一部の防御が薄いと、やっぱり不安になるな。

 

オルニス方面や海沿いの場所は、今どうなってることやら。人員の増員や移動、建築物の補強や増設。その為の物資のやりとりや、戦時の補給線の構築。賑わってるんだろうな、戦争が原因のため、良いか悪いかは判断に困るが。

 

そんな事考えてると、砦が見えてきた。跡部中佐に下りることを伝えて背中から下りる。慣れない体勢で寝てたからか、体がちょっと固まって痛い。

 

「俺達は砦の責任者に顔見せたら、そのまま帰ります。明日早いんで。」

 

「そうか、自分の管轄じゃ無いから、少し休んでくれなんて、言えないからね。気を付けて帰るんだよ?今は魔獣の動きが不規則で読めないから、女帝蜂以外にも大物がいるかもしれない。」

 

跡部中佐の心配してくれる言葉に、それってフラグじゃ?なんて思った。まぁ、現実でそうフラグ回収なんて無いから、大丈夫だろ、うん。

 

後、こういう時の休んでくれは、休みにならないんで遠慮する。どうせ飯時とかに色々やらされるんだろうし。

 

「その時は私が倒すから、未だ全然暴れ足りないし。」

 

歩が不敵に笑って親指を立てるが、幼女がしてもちぐはぐで、なんとも微笑ましい。

 

「それじゃ、自分は復旧作業手伝ってくるからここで、良かったらまた会おう。」

 

「はい、楽しみに待ってます。」

 

別れる跡部中佐と握手して、砦の入り口辺りで別れる。

 

さて、責任者はどこに居るんだか。一言、俺達の事は気にするなって声掛けてからじゃないと、家の方に押し掛けられても困るからな。軍隊はそこら辺しつこいし、歩俺達の名前出しちゃったし。

 

「事後処理の書類とか作ってるだろうし、責任者の部屋か何か分かれば良いんだがなぁ。」

 

「魔力探知で一番強い奴に会いに行こう。」

 

お前はどこの戦闘種族だ。

脳筋丸出しな提案に、思わず半眼で歩を見る。

 

ただ、歩の出した案しか無いのが現状だ。この国は、階級が高いほど強い奴が多い傾向にあるから、あながち間違っても居ないんだよな。魔力探知で得られる情報は魔力の大まかな量だけだが、魔力量と強さは直結してると思っていいからな。

 

ギフトを発動するのも魔術を使うにも、魔力がなきゃ出来ないのは共通だ。魔力が多ければその分継続して戦えるし、ギフトと魔術の同時発動だって平気だ。魔力量は訓練や実戦で伸ばせるから、強い人ほど魔力量が多いのは常識と言っていいだろう。

 

「仕方無いか、じゃあ行くぞ。」

 

魔力が一番強いのが、跡部中佐になりませんように。

 

探知を使うと一番大きい魔力量が、結構離れた距離にいるのが分かる。跡部中佐歩いてたし距離的に多分跡部中佐じゃないな、良し。

位置が高かったから上の階だろう、さっさと言って話まとめよう。

 

砦三階の右最奥、両開きの扉に『司令室』と書かれた、いかにもな雰囲気の部屋の扉を軽く叩く。

 

「誰だ?」

 

「今前初と鮎川歩です、話があって来ました。」

 

中から聞こえた声に、歩が少し大きな声で返事をする。いかにも分厚そうな扉で、結構声を張らないと扉の向こうまで声が届かないだろう。

 

「………中へどうぞ」

 

中から少しの間沈黙が続いて、扉が内側から開く。

扉の前には山みたいにデカイ印象の、図体の良い巨漢がこちらを無表情で見ていた。

 

俺と歩が中に入ると、数人の人間が中央の円卓に座っていて、俺から見て正面に座っている一人が、部下らしき人からお茶をもらって飲んでいた。

多分こいつが司令官、ここの責任者だろう。

 

「遠慮せず座ってくれ………そこの君、お茶を淹れてあげてくれ。」

 

司令官の位置から見て、正面に並んで二つのイスがあったので、二人で座ると、さっきの無表情の男がゴツい手でお茶を淹れてくれた。

 

「改めて、私はこの砦の司令官をしている木端軍人だ。適当に司令とでも呼んでくれ。今回の助力、本当に感謝している。」

 

そう言って司令は席を立って俺達に頭を下げた。最敬礼まで下げた頭は、俺らが何か言うまで上げない気らしい。

 

名前言わないとか、こいつ人としてどうなんだよ?とか思ったけど………前世だと未だ小学生位の相手に、真面目な顔して頭を下げられるのは、素直にスゴいと思ったんで、突っ込むのはやめる。名前はギフトか何かの制約にでも引っ掛かるのかね。

 

「俺達が好きでやったことです、どうか気にしないでください。」

 

「戦闘に入る前に預けたものがあるんですけど、無事ですか?」

 

「籠に入った動物なら、こちらで預かっている。直ぐに連絡しよう。………………君達二人に何もせずに帰す事は、私の様な小心者には出来ないんだ。せめて感謝状と何か追加で用意させてくれ。欲しい物とか無いかね?」

 

司令の言葉に反応して、強面の男が部屋から出ていく、多分歩が預けた荷物を、取りに行ってくれたんだろう。

欲しい物ねぇ、何か有ったかなぁ?

 

俺としては、飯代位の金くれりゃ良いんだけど。それじゃあ向こうが納得しないよなぁ。命救ってもらった対価が、たったの一食分とか、俺だったら思考停止するわ。

 

「あ、それじゃ一つ良いですか?」

 

俺が考えてる間に、歩が目輝かせてた。歩の欲しい物って一体、まさか()()じゃ?軍事施設だし有るだろうけど、歩のお父さんはそれをすると横領になるからダメで頑張ってたんじゃ………………報酬とかでなら、横領にはならないな。確かに狙うなら今か?

 

個人で買うとなると、例え将校だろうと大臣だろうと、バカみたいに高い値段で売るからな。予備を余裕持って管理してるのは、軍と天皇と宮廷の二ヶ所と一人だけって歩から聞いた。軍と宮廷は備品とか貴重品扱いで、私用で使うと厳しい罰則があるとも、連座制で三親等までの懲役だったかな。歩が父さんに質問して、父さんの答えに項垂れてたのを思い出した。

 

「エリクサーを分けて下さい。一回分、小瓶に半分で良いですから。」

 

やっぱり、現状で歩のお母さんを助けるには、それしか無いからなぁ。

 

「………………………エリクサーか。うぅむ、今直ぐには無理だが、それでも大丈夫かね?」

 

「どれくらいで準備できますか?」

 

「今は微妙な時期だ。エリクサーは五条天神社を筆頭に、少名毘古那(スクナビコナ)神を祭る神社で急造しているが、それでも時間の掛かる薬だ、うちのような前線予定地から離れた場所には、届くのは立冬辺りまで掛かるだろう。」

 

二、三ヶ月か、結構掛かるな。

 

「それでも大丈夫です、お願いします!」

 

ま、これで部活で主席狙う必要が無くなったから、歩は嬉しそうだけど。歩のお母さんの病気は、暴走したギフトの対処が出来れば、他は普通の人と変わり無い。問題なのは一日中いつ暴走するか本人にも直前まで分からない事なんだけど、病院なら対処が出来るし後二、三ヶ月位なら平気だろ、うん。

 

「分かった、手配しておこう。連絡先をここに書いてくれるかな、仕入れ次第直ぐに連絡しよう。………それで、今前君は決まったかな?」

 

俺なぁ、欲しい物とか思い付かないんだよな、困ったもんだ。金も今回の依頼で貯まったから、欲しいって訳じゃ無いし。金はあって困るもんじゃ無いけど、有り過ぎても困る、金銭感覚ずれるからな。

 

物は有るし金もある。住む場所に困ってる訳でも食う物に困ってる訳でも無い。娯楽も部活でやってるのがある。人間関係も友達が少ないとか、そういうのは無いし。

 

う~む、何か無いかね?……………………………あったわ一つだけ。

 

「情報を一つ、欲しいものがあります。」

 

「情報、何か知りたい事があるのかい?」

 

歩がエリクサーだったからか、また高い値段の物を言われると思ってたのか、司令は拍子抜けした様な顔をする。

 

「初代天皇様、神武天皇の封印について知りたいです、出来れば封印場所も。」

 

「初代天皇………そうか、分かった。今すぐかな?資料庫から探そう。」

 

今すぐって言って、情報の漏れあってもやだしな、これは初音を連れてくるべきだろ、多分。

 

「いや、後日妹を連れて来ますから、紙に情報をまとめてくれると助かります。」

 

一度言葉を区切って、イスから立つ。

 

「お願いします、どんな些細な情報でも良いんです。出来るだけ多くの、神武天皇の情報を頼みます。」

 

司令に向かって誠意を示す為に頭を下げた。

 

「分かった。未だ復旧が全て終わった訳では無いし、人員の補充も未だだから…………一週間は欲しいが、それでも大丈夫かい?」

 

神武天皇の記述は、少ない割りに眉唾が多くてとにかく精査に時間が掛かる。それでも今は取り合えず、情報量が欲しいんだ、情報が少な過ぎるから。

 

学校の図書館は蔵書数は多いんだが、如何せん新しい物ばかりで、古い物は保存の為に中々閲覧出来ないんだ。

イヴに掛け合ったから、夏休み明けに許可が下りる様にはなったけど、それでも早く手に入るならそれに越した事は無いからな。

 

「分かった、時間は掛かるが全力で探そう。」

 

「ありがとうございます。」

 

子供じゃ限界あるからな、イヴも場所を知らない位だ、天皇家の秘密とかになってなければ良いんだが。

 

「今日はもう直ぐ夕暮れだから、泊まって行くかい?部屋と食事は出せるが。」

 

「いえ、明日も早いので、帰らせてもらいます。」

 

歩がそう言ってイスから立ち上がると、司令は残念そうな表情をした。

 

「そうか、護衛はかえって足手まといだな、砦前まではせめて見送りさせてくれ」

 

立ってた俺も司令と三人で部屋を出る。

 

強面の男が、扉脇の壁沿いに荷物を置いてた。未だ出てってから時間経ってないだけど、近くの部屋にでも置いてたのか、それともギフトか何かなのか、どちらにしろ速いのはありがたい。こいつらを置いていくと報酬から減額されるからな。店長の飼ってる動物みたいだし。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「………いえ、仕事ですから。」

 

扉脇の壁沿いに荷物を置いていた強面の男に、お礼を言って荷物を持つ。司令と強面の男も少し荷物を持ってくれた。

 

ネズミとかが多いけど、籠の重さとか考えるとやっぱり、ギフト無しじゃちょっと辛いな。………歩は種族進化してるから軽々持ってるけど。

 

初対面の大人相手に気軽に話せるほど、たくましいコミュ力が無い俺と歩は、無言で先頭を歩く司令についていく。

 

砦の入り口、戦闘後で酷く荒れてる場所で、荷物を司令と強面の男からお礼を言って受け取る。

 

受け取る時に司令の指が歪んでるのに気付いた、特に人差し指の腹の部分、妙に凹凸が出来て瘡蓋やら火傷跡が出来てた。あれもギフトの能力の影響なのか?

司令のギフトが気になるな。

 

「荷物、ありがとうございます。」

 

「今はこれしか出来ないがね、用意が出来たら直ぐに連絡する。」

 

「お願いします。出来るだけ早く欲しいんです。」

 

歩が司令にもう一度頭を下げた後、俺が象の式紙を呼んで、背中に荷物を乗せて紐で固定する。

 

「今日は本当にありがとう、君達のお陰でこの砦の人間は命を救われた。」

 

「自分のしたいことしただけで、偶然です。お互い運が良かった。」

 

そう言って、歩が式紙に乗ったのを確認して、歩く様に指示をする。

 

森の中だろうが山だろうが、こいつなら踏破出来る、歩く速さはそれほどでも無いけど、ここから国境まで一キロも離れて無い目と鼻の先だし、そこからは孤児を荷物運びに雇う。

 

国境付近は捨て子が多いせいで、孤児院や収用出来なかった孤児が結構いる。職人連中や商人の独身なんかはそういう孤児と、魔術契約して面倒を見る代わりに弟子や部下にするんだ。理不尽な魔術契約も、魔術契約を外見から判断出来るように作られてるから、結構少ない。弟子や部下に子供を選べる人間なんて、結構成功してる人間だから、バレた時の信用問題とかあるんだろう。

 

で、そういう契約して、路上生活から脱却した奴等と同じ様に、上に行くのを目指してる奴等が、格安で何でも屋みたいに仕事をしてくれる。中には万事屋と契約して専属の運び屋とかになってる人間もいる。俺らが雇うのはそういう奴。

 

俺の式紙じゃ動物しか出せないから荷物持たせて走らせるのは不安だし、何より町中だと周りに迷惑だからなぁ。歩の式紙はおどろおどろしい悪鬼とか、ゾンビとかみたいな奴だから、俺と同じで以下略。

 

式紙はその人間の適正の奴しか呼び出せないからね、仕方無いか。

あ~あ、頼むから条件の良い荷物運び見付けられますように~

 

うん?

何かポッケに何か入ってる。ここに物入れた覚え無いんだが………

 

中に入っていた紙切れを開いて見ると、血文字で何か書かれていた。

 

「日ノ本義人伝の原典に、答えがある……………?」

 

日ノ本義人伝って一体、そもそもこれは誰から?

もしかして司令か?あの指先は頻繁に血文字を書いているからか?何でこんな手段で………………うぅむ、分からん。

 

取り合えず、手掛かりが増えたな。

イヴに日ノ本義人伝について聞いてみよう。




来月もぎりぎりになりそうです、すみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十話 合宿当日

どうも、お久しぶりです。最新話です


朝からずっと食べずに動き回って、夜になってドカ食いして、準備が未だ終わってない事を思い出して、準備に追われててんやわんやな一日を過ごした翌日、俺達は朝から出発して、昼前頃に合宿用の廃虚に着いた。

 

廃虚と言っても天井に穴とか、壁がボロボロとかって訳じゃなく、毎年咲さん達が使ってるだけあって掃除する前でも、ある程度整備されてたし、屋根の瓦の一部や壁紙の交換とか、後は水道の整備くらいで、他は空家と何ら変わらなかった。部屋数も多いし、これなら快適に過ごせるな~とか思ってたら、玄関の方が騒がしくて見に行くと、ちっちゃい子供達が身体にあわない大きなカバンを持って、玄関でわいわい騒いでいた。

 

「あら~、もう皆来れたのね!ちゃんと戸締りはしてきた?」

 

咲さんもリビングから出てきて、子供達を見付けると近所のオバチャンが子供に飴あげるみたいなノリで、子供達に近寄って抱き締めてる。

 

「咲ねぇちゃんだ!!」

 

一人が声を出すと、皆騒ぎだして止まらなくなるのを、どうしていいか解らず見ていると、他の面子が玄関に集まってきて、更に訳が分からなくなってきた。

 

「お姉ちゃん久しぶり!!」「あ、瀬良ねぇと綾女ねぇもいる!!「げ、兄ちゃん達も居るぞ……」「拓兄、外のお話聞かせて?」「私楓さんにお料理教えてもらうの」「銅次兄さん、まだあの女の所にいるの?」「そうだ、兄ちゃん達いつ戻って来てくれるんだ!?」「そうだそうだ!」

 

「もうちょっと待っててな、こっちでお前達が住める場所探してるんだ。」

 

「後数年は、無理かもなぁ。」

 

「そんな~」「すむ場所なんてどうでもいいじゃん!」「そうだそうだ!!」「拓兄ちゃん、アタシたちのことキライになったの?」「姉ちゃんたちよりアイツにホレたのかよ!!」「本当なの拓兄!?」「見損なったぞ銅次兄ちゃん!!」

 

「何バカ言ってんだ!!」

 

「いて!?」「兄ちゃん達がキレた!!皆逃げろ~!!!」

 

からかわれて怒った二人が、主犯の十歳位の男子二人の頭を軽く叩くと、蜘蛛の子散らすように子供が玄関から外に飛び出したのを見て、二人は溜め息吐いて、いかにも怒ってるぞって感じの演技をしながら外に飛び出した。

 

「悪い子はいねぇかぁ!!」「食っちまうぞぉ!!」

 

なんとも子供騙しな演技だなおい、ひっきりなしに聞こえる騒ぎ声から、外で仲良く遊んでるのが分かったから、咲さんが俺といつの間にか隣にいた初音に、済まなそうに謝ってきた。

 

「二人とも置いてけぼりでごめんなさいね、あの子達元気だけが取り柄みたいなもんだから。」

 

「慣れてます、それよりあの子達は一体?」

 

「もしかして、国外に住んでた時に?」

 

「ええ、皆私の妹と弟よ。今は週末に交代で、私と楓と瀬良が、様子を見に行ってるの。」

 

そう言ってリビングに入っていく咲さんに、皆でついていく。

楓さんは子供達が置いていった荷物を、二階の大部屋に運ぶようだ。

 

「大人は?」

 

「居ないわ、今は一番上の朱里(あかり)が、皆の面倒見てくれてるの」

 

「朱里、まだ十一なのに兄さんに色目使って、今日のお風呂で女の怖さってものを教えて………いたッッッ!?」

 

そんな感じにぶつぶつ呟いて怖い雰囲気になる瀬良さんを、咲さんがデコピンした。

 

「何バカ言ってんの、貴女が妹いじめるなんてゆるさないわよ?」

 

「妹が拓に惚れたなら、悪い虫に騙される心配がなくなったと言うこと、素直に喜ぶべき。」

 

いつの間にか椅子に座ってお茶を飲んでる楓さんに驚いてると、お茶を勧めてきたので受けとる。

 

「緑茶あなた達も飲む。」

 

唐突に渡されてそのまま受け取った俺達を放置して、今しがた部屋に入ってきた、前原、冴羽、板橋の三人にもお茶を無表情で配る楓さん。

この三人、さっきのドタバタしてる間も二階にこもってて、一体何してたんだ?

二、三時間歩いてただけで、疲れるような鍛え方なんて紫陽花さんがしてるはずないだろう、多分。素の身体能力だけじゃなくて、魔術による能力の強化も学んでるはずだし。

 

それにしても、妙に三人ともそわそわしてるし、何かみられたくない事でもしてたのか?

板橋なんて顔赤いし、何か服の裾を引っ張ってズボン隠してるんだけど、お前今日短パンなんだから止めてくれ、それすると下履いてないように見えてヤバイ。ラフなYシャツで裾引っ張ってて、何か絵面が裸Yシャツみたいでヤバイ、主に楓さんと初音からの雰囲気が。

 

「どうも。」「ありがとうございます。」「………ッコク」

 

緑茶を三人も接点があまり無いからか、何となく余所余所しい。それと板橋、せめて一言は喋ろう、頭下げるだけとかコミュ障じゃねぇんだから。

 

そういえば何か、三人組を見る楓さんの態度がおかしい、まるで腫れ物に触るような雰囲気を感じる。あくまで雰囲気だけだが。

 

「瀬良も、お茶飲んでいったん落ち着くべき。」

 

「…………むぅ、分かった。」

 

渋々お茶を飲む瀬良さんを尻目に、楓さんは自分のカバンからお茶請けの煎餅を出して、ボリボリと食べ始めた。この人、何か雰囲気が独特というか、電波だよな、性格って言うか個性が。

 

「これからどうしようかしら、外で子供達が遊んでいる間、夕飯の支度はするとして……………」

 

皆咲さんの言葉に何か意見する素振りがない、この場は咲さんが仕切るので決まりみたいだ。俺はそもそも何かを決めるとか苦手だから、楓さんが無言で差し出してきた煎餅をかじる。

 

「そうね、里の方に顔を出して貰えるかしら、私と初音ちゃんで夕飯の支度するから、楓と瀬良に初君の三人でお願い出来る?この家を維持してくれてるの、里長の魅華月さんだから、挨拶しなきゃ失礼だから。」

 

あぁ。煎餅が旨いなぁ。

…………って、今咲さん何て言った?

 

まさかそんな、ほぼ知らない相手と…………例えるならファミレスの客と店員位、余所余所しい会話しかしたことのない間柄の二人と、何時間も仲介役が居ない中行動しろと?

 

「俺らはどうしましょうか?」

 

そんな混乱してる俺をほっといて、どんどん話は進んでいく。

 

「残りの男子は、森で食糧調達でもお願いしようかしら。」

 

え、本当に楓さんと瀬良さんと三人?

冗談キツいぜ咲さん、コミュ力が竜球の○ル編のヤム○ャ位しかない俺に、ギ○ューに挑めと言うのか。え、微妙なキャラ選やめろ?………知らん、そんなことは俺の管轄外だ。せめて男から一人は道連れにしなきゃ割りが合わん。

 

「僕たちは構わないですよ。」「兎でも捕まえてきますか。」「久し振りの狩りだなぁ。」

 

三人はやる気十分で、肉を獲ってくる気満々みたいだ。これ、誰か一人こっちに来いって言える空気じゃねぇな、この森の危険度からして、二人だと不安だし、三人には頼れないか、チクセウ。

 

後、狩りは女の子多いから、どっちかと言うと果物の方がよろこびそうなんだけどな、そこら辺は咲さんが何とかするかね。

 

「私、お兄ちゃんと一緒に行きたい。」

 

「初君に手料理食べてもらうきか「精一杯お手伝いします!!」………………ボソッ扱い易くて少し心配ね。」

 

あ、初音が買収された、何か前世よりチョロくなってる様な気がする。

 

「それじゃ、お使いお願い出来る?」

 

「私は平気。」「私も、大丈夫だけど…………」

 

二人がこっちを見てくるので、俺も頷く。

 

「俺も大丈夫です、俺だけ手持ち無沙汰は嫌ですから。」

 

「なら、よろしくね。」

 

その言葉が切っ掛けに、俺らは各々別れて行動を始めた。

 

里に顔出しねぇ、となると里長の魅華月さんの所に挨拶だろうから、どうするかねぇ。

 

「手ぶらで行けませんよね、多分。」

 

「あの人は、確か甘党でしたし、お菓子が良いかもしれませんね。」

 

俺が溢した独り言に、律儀に反応してくれた瀬良さん。この人、拓也が関わらなかったら、真面目な子っぽいんだよなぁ。

 

「適当に、ここら辺に自生してる果物じゃダメ?」

 

あいも変わらず、電波な発言をする楓さんに、思わず力が抜けそうになる。

 

「楓姉さん、それは流石に論外です。」

 

「瀬良が辛辣、初君は私の味方?」

 

「俺も、今の意見はちょっと……」

 

俺の言葉に、心外だと言うような表情で外に出た楓さんを、瀬良さんが呆れたように見る。

 

「楓姉さんは自由人過ぎますよ、全く。」

 

「これから、どうします?」

 

「楓姉さんは放っておきましょう。私達は里に行きますよ、あまり遅くても迷惑ですし。」

 

「そうですね、甘いものは里で手にいれましょう。」

 

その後、一時間程瀬良さんと二人で里に向かって歩いてたんだが、瀬良さんがマジメで中々話が膨れない。少し続いても「そうですか」「はい」「すみません、よくわからないです」で止まるのだ、辛い。

 

「魅華月さんって、もう里長をして長いんですか?」

 

「さぁ、私がこの里を知った時から、里長みたいでしたけど、最低でも六年以上ですかね。里長の任期は終身までみたいですから、私達が種族進化しない限り、多分里長が変わることは無いと思いますよ。基本的に竜は、無病息災と長寿が特徴の種族ですから、下手な植物魔獣よりも長生きな存在もいるみたいですし。」

 

ぬおっ、いきなり饒舌になったなぁ、早口でまぁよく喋り始めたよ。何、竜が好きなの?

 

その後も続く、瀬良さんの里に関する話題に、適当に相槌を打ってると、里の入り口の門が見えてきた。この入り口から里長の所まで後三十分程、里の中心よりも、門よりの場所に役場は立っている。

 

「随分詳しいですね、竜が好きなんですか?」

 

「あ、いえ…………少し前に、この里で暮らしてた事があったので。」

 

そう言って瀬良さんは、感慨深そうな表情で里を見渡した。

 

つか、その歳で少し前って、この人本当にいたずら者(プレインク)じゃ無いんだよな?

そんな事を瀬良さんの隣で考えていると、離れた場所から突如として吹き出した魔力に、力で危機管理能力を底上げして警戒する。

 

直ぐにこちらに向かってきた存在に、テューポーン一割で殴る。

取り合えず殴っとけば良いだろ、こういう登場の仕方は基本的に敵だし。

 

殴り飛ばされた奴は周りに被害が行かないよう打ち上げるように殴ったので、遥か上空まで空の旅だ。

 

「死ねぇぇぇぇ!!!!!」

 

殴り飛ばされた奴の声が遅れて聞こえてくる。

この声、里長の息子の朱司じゃ?

魔力の節約の為に、テューポーンを解除して、力で視力を強化して打ち上げた奴を見ると、気絶せずに未だ未だ元気な様子で俺を憤怒の形相で睨む疫病神こと、ライバル候補の朱司がいた。

 

あ、あいつ竜のくせに空飛べないのか、悔しそうに俺を睨んでるだけだ、そりゃ雲より高く打ち上げたからな、戻ってくるのも一苦労だ。そういえば今はヘビだっけか?

 

「えっと、あの人は?」

 

「俺のこと、なんか気にくわないみたいで、会う度に殺気を向けられるんですよ。」

 

気にくわない理由は分かってるし、会ったのはこれ含めて片手で数えられる位しか無いけど、嘘は言っていない。

 

「うーん、ちゃちゃと意識落として、親御さんに引き渡しましょっか?」

 

楓さんが魔力を高めながら言う。

ちゃちゃっと気絶って、そんな事出来んの?

あいつ未だ空の上なんだけど、俺あそこまで飛べる程力加減出来る自信無いんだけど。

 

「俺はあいつが落ちてきたら出来ますよ。」

 

「じゃあ、私が気絶させますから、落ちてきたのを受け止めて下さいね。」

 

そう言って楓さんが朱司を睨むと、朱司から感じていた殺気と敵意が消えた。睨むだけで気絶とか、どんな能力だよ。

 

「リヴァイアサンの能力で、血液中の酸素濃度とこの子の周辺の空気の酸素濃度を下げたんです。酸欠で気絶してもらいました。」

 

「スゴい能力ですね、殆んど無敵じゃないですか。」

 

テューポーンを発動すれば、呼吸の必要が無くなる俺とかみたいな、特殊な能力持ち以外相手なら、格上相手でも勝ち筋があるってスゴいな。

 

「こんな手品、ゴッド・エフェクト持ちには基本効きませんし、強いって訳じゃ無いですよ。」

 

楓さんに相槌を打ちつつ、落ちてきた朱司を受け止めて、俺が殴った場所を確認すると、アザになっているだけで、大事には至って無さそうだ。

 

「これは、アザになってますね、寝かせて下さい、手当てします。」

 

え、こいつを手当てすんの!?

驚いて楓さんを見ると、持ってきてたカバンからタオルケットを出して地面に敷くと、空気中の水分を氷に変換して、革の水筒を取り出して氷嚢をつくってた。

準備早いな、本当にこの子未だ子供なのか?

 

「早く、親御さんに説明する時に、手当もしてないじゃあ、話にならないでしょ?」

 

「あ、はい!」

 

急かされたから、タオルケットの上に朱司を寝かせる。

 

「道具を持ってきてて良かったです。まさかこんな事になるなんて…………初君、これからは襲われそうな原因を知ってるなら、ちゃんと教えてくださいよ?」

 

「う、すみません、気を付けます。でも、そいつ襲ってきたんですよ?」

 

手当てなんて、そいつの親医者っぽいし、丸投げしても良いんじゃね?

 

慣れた手付きで患部を包帯で圧迫して、上から氷嚢を包帯で固定して、処置を終わらせる楓さん。

 

「何言ってるんですか、腹部は重要器官が多い場所何です、大事には至って居ませんけど、手当てはしないとダメですよ。それに未だこの子は子供じゃないですか、あなたはいたずら者でしょう?歳上とか関係なく、子供は子供ですからね!」

 

ビシッと俺に指を指しながら言う楓さん。

楓さんといい咲さんといい、本当にいたずら者じゃないんですよね?

何で十と少しの子供がここまで精神的に成熟してるんだよ…………俺と初音とか、周りのいたずら者達が一気に子供っぽくなったぞ。

 

「それで、この子の親御さんに心当たりあります?」

 

「えっと、里長の甥なんです、こいつは。」

 

それを聞いた楓さんの慌てっぷりがヤバかった、それはもう慌ててた、年相応にどうしようどうしようって頭抱えて涙目になってた。そりゃまぁ、前世で言うなら市長とか区長の家族に、手をあげたって事になるからなぁ。

 

何とか宥めて、当初の目的に従って里長の所まで行くことになった俺達は、朱司を式紙に運ばせて役場まで歩いた。途中で団子屋で団子を手土産に買って、町役場を目指す。

 

役場の入り口に人込みが出来ていて、あの中を行くのかとげんなりしてると、人込みが割れて人込みの中が見えた。

 

「朱司!?」

 

「二人とも、遅い。」

 

「まぁ、あんな形相で行けばそうなるよねぇ。」

 

「俺の甥が迷惑をかけて、二人ともすまない。」

 

これ、俺達どうすりゃええのん?




来月も月末投稿です、月一で遅くてすみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十一話 朱司の受難

お久し振りです。
やっとこさ続きが書けたので、投稿です、毎回毎回待たせて申し訳ありません。


「初の坊主がくると、騒がしくなる決まりでもあるのか?」

 

案の定、朱司の母親の晦日さんが、朱司を見てパニックになったので、旦那が落ち着かせてる。

 

魅華月さんも魅華月さんで、俺にあらぬ疑いを掛けるし。

 

前回は騒がしくしなかったのに、何でそんなこと言うんだよ………………まさか朱司との喧嘩見られてた?

いや、晦日さんが聞いたのか。俺の事魅華月さんは知ってるって言ったから、確認取られたんだろ、多分。

 

「お久し振りです、里長。」

 

「大きくなったなぁ、瀬良。そっちに行っても、元気そうで何よりだ。」

 

「里長や里の皆に、未だ恩を返せていないですから。これ、お土産の団子です、沢山買ってきましたから、ご家族でどうぞ。」

 

「おお、ありがとうな、あそこの団子は家の奴ら皆好きで、喜ぶよ。」

 

すっかり二人の世界に入って会話を続ける魅華月さんと、瀬良さん。本当に過去に何があったんだか。

 

「初君、瀬良に変なことしなかった?………意外。」

 

突然耳元で言われて驚いて後ろを向くと、楓さんが不思議そうな顔で俺を見てた。

 

「初君は手が早いと思ってたのに、意外と奥手?」

 

「俺は初音一筋です!!」

 

いきなり失礼な、こんなに一途なのに、そんなにチャラくみられてたのか、俺は。

 

「……………それ、本気で言ってる?」

 

「本気も本気、俺が恋して、恋愛してるのは初音一人です。」

 

「あの女……鮎川と後、板橋君。他にもいるんでしょう?」

 

え、は?

いやいや、何言ってるんだこの人は。

 

「歩のあれは友情ですよ、それにそもそも板橋は男です。他にって言われても分かんないですし。」

 

「………朴念仁。」

 

朴念仁!?

なぜそんな事言われなきゃダメなのか、コレガワカラナイ。

納得いかねぇ、少なくとも俺はそんな、ラブコメとかラノベの主人公みたいな補正はねぇよ!

 

俺が否定しようと口を開いた時、俺達を呼ぶ声がして反射的に中断する。

 

「立ち話はなんだ、応接室で茶でも淹れさせるから、ちょっと休んでけ。」

 

そう言って頭をポンポンと撫でてくる魅華月さんに連れられて、役場の応接室に案内される。

 

俺ら三人が最後みたいで、中には出迎えてくれた人達が揃ってた………朱司がこっちを睨んでるから、朱司に笑顔で威圧する。

 

「さて、武道会の話なんだが。」

 

「こちらは俺一人が出ます。武道会の日程って、明後日でしたよね。」

 

「あぁ、ただな、大会に出る前にもう朱司に釘指したようだし、無理して出なくても大丈夫だぞ?」

 

あぁ、うん。

俺としても子供相手に闘うってのは気が引けるんだけど、正直優勝の景品が魅力的なのと、初音に出るって行ったし、格好良い所見せたいからね、仕方無いね。

 

「いや、出ますよ、期待してくれてる人が居るので。」

 

ニヤッと魅華月さんが笑って俺に一枚の紙を渡してくれた。

 

「そうか、これが申込用紙だ、手続きはこっちでやるから、名前だけ書いといてくれ。渾名とか通り名でも良いぞ。」

 

茶化してお茶を飲む魅華月さんに渡された紙にちゃちゃっと名前を書いてすぐに返す。

 

「そんなのありませんよ、今日はこれから暫く、里近くの空き家に合宿するんで、その挨拶だけだったので。」

 

「おい、待てよ。もう一回だ。」

 

俺がそのまま席を立とうとすると、朱司がこっちを睨んだまま言った。

 

「無理無理、何度やろうと今の朱司じゃ無理だよ。」

 

そのまま掴みかかりそうな勢いの朱司を、父親である白衣の人が引き留める。

 

「俺は未だ負けてねぇ!!」

 

一回目も二回目も、俺は一発も食らって無いんだけどな、その自信は一体どこからくるんだか。

 

…………まぁ、好都合だし負けん気強いのは男として良いとは思うが。

 

「お前も出るんだろ、武道会。なら決着はその時、観客の前で、白黒ハッキリとつけよう。」

 

そう俺が言っても、親の仇でも見るように睨んでくる朱司に、俺は溜め息吐いて続ける。

 

「強くなりたいんだろ?明日から空き家で特訓するんだよ、紙にも書いたけど、強くなりたいなら来い。ボロボロになるまで鍛えてやるよ。」

 

「何でお前に強くしてもらわなきゃ………ッ!」

 

「良いかもしれない。拓也の良い模擬戦相手になる。」

 

お、楓さんも味方になってくれた、朱司も言うほど拒絶してないからな、事前に紙に書いて渡したのが効果あったみたいだ。

 

この里で強くなるのは、朱司からすりゃ難しいからな。

下手な大人より強いってことは、それだけ教えられる人間がいないってことだ。

この里もこの世界の例に漏れず、強いやつが上の立場になるのは仕方無いとはいえ、それだと普通の人間は強い人に教えてもらえ無くなるんだよ。

 

朱司は普通じゃない、だけど無条件で教えを貰えるほど、特別でも無い。

 

朱司に足りていないのは経験。

ギフトが無い魔獣の朱司は、経験というモノに対して、年相応のモノしか持ち合わせていない。

だから、朱司を溺愛してる両親が、朱司を鍛えるなんて事は無理だ。

普通の説教すら出来ない親が、体罰にすらなりかねない、事故で致命傷の可能性もある実戦経験の特訓なんて無理だ。

 

「僕も賛成だね。この里だともう、朱司を鍛えられるような人はいないからね。」

 

「私は、朱司が納得するなら良いけど………」

 

「俺は納得してねぇか「面倒。」ッッッ!?」

 

楓さんの言葉と同時に、朱司がもがくように苦しみ始めた。

 

「朱司!?」

 

唐突に始まった朱司のもがき苦しむ姿に、晦日さんが慌てる、朱司の父親が症状を確認しようとした時には、朱司は気を失っていた。

 

「………酸欠による気絶だね、もう少し穏便にして欲しいんだけど。」

 

軽く症状を確認した後、何とも言えない顔で楓さんを見ながら言う朱司の父親。

 

「私のギフトだと、これが一番穏便、私達は行くけど、これはもう連行してく?後から来るなら見張り役に一人連れてきて。」

 

椅子から立ち上がりながら言うと、返事も聞かずに部屋を出ていく楓さん、あの人は何故あそこまでマイペースを貫けるんだ。

 

つか、延長でどうやって気絶させたんだろ、酸素が脳に送られる時間を延長、それとも呼吸の合間の時間を延長?

どちらにしろ、汎用性高いなぁ、殆んど万能な能力だな、羨ましい。

 

「はぁ、また気絶………朱司はこれでも里の子供の中では最強なんだけどなぁ。下手な大人より強いのに、日ノ本は魔境だね。」

 

出ていった楓さんに溜め息吐いて、朱司の父親が倒れた朱司を抱き上げる。

 

「朱司が気絶に癖がついただけですよ、それと日ノ本はそんな魔境じゃありません。異常なのが少し混じってるだけで他は普通ですから。」

 

瀬良さんが訂正するが、朱司の父親は苦笑いして魅華月さんに視線を向ける。

 

「頼常、仮眠室に連れていってくれ、姉貴も一緒にな。」

 

「………分かったわ。そこの貴方……朱司の事、くれぐれもよろしくね。」

 

万が一なんて事があったら、末代まで呪うとまで言ってきそうな目で俺を見ながら、晦日さんが頼常と呼ばれた朱司の父親と一緒に部屋を出た。

 

「初、少し良いか?」

 

俺がそれにうなずくと、瀬良さんが魅華月さんに聞く。

 

「私は、席を外した方が?」

 

「……いや、お前も関わるだろう、聞いてくれ。」

 

少し考えた後、魅華月さんがそう言って話し出す。

 

「今回の武道会、景品が災害級魔獣の子供との繋りって言ったよな?」

 

「ええ、そう聞いてます。」

 

「それなんだが、今回の武道会に、その災害級魔獣の子供が出場したいと言ってな、向こうの親………シーダが子供の結婚相手をこの際決めようって考えやがって、止めたんだが………娘と息子、一人ずつ連れてくるらしい。」

 

はぁ、つまり……………どういう事だ?

 

思考が予想外のことで停止してる俺を余所に、瀬良さんが頭を抱えてる、うん、だからどういう事だってばよ?

 

「それ、一体どう収集つけるんですか?」

 

「向こうも、別にこれで本気で決めるつもりは無いらしい。ただ災害級の子供となると、繋りが欲しくて近付いてくる(やから)が多いらしくてな、息子はともかく、娘の方が実力が無くて、一人の所を狙われる可能性が高いから、護衛と男避けに許嫁にしようって感じだな。」

 

あわよくば…………とも考えてるんだろうなぁ。

 

「本来一週間だけの関係が、一生続くかもしれない関係になると?」

 

「まぁ、そうだな。武道会で優勝すれば、一週間の間息子の遊び相手に指名される。武道会でシーダの目に留まった男は軽く調べられて、問題なければ許嫁だ。」

 

おうふ、流石災害級、穏健だ何だと言われても、結局はやりたい放題かい。

 

「それで、私達にどうしろと?」

 

「武道会で優勝して欲しい、あわよくば許嫁も引き受けてくれると助かる。」

 

「それ、運営側が言っていい台詞(せりふ)何ですか?」

 

「やむを得ん。元々息子一人の筈が、娘まで連れてくるとか、しかも息子が武道会に出たいとか、シーダの婆さんやり過ぎだ、いつも無茶振りしやがって」

 

ぶつぶつと恨み辛みを言っていく魅華月さんを見つつ、お茶を飲みながら考える。

 

災害級魔獣の子供との許嫁ねぇ……強さ正義の世界で、竜の治める里での武道会なら確かに、強い奴は集まるだろうし、その優勝者なら許嫁としても強さの合格には達してるってか?

 

息子が参加するなら、息子の強さを基準に出来る訳だし、性格も武道会って銘打ってるなら、終わるまで選手を会場に拘束してるだろうから、直ぐに確認できるだろうし、保護者との会話も簡単だろう。登録用紙に保護者名の欄がちゃんとあったし。

 

完全にお見合いとして機能するな、これ。

 

「俺、もう心に決めてる人が居るんですけど。」

 

「早熟だなおい。まぁ、シーダがお前を選ぶ可能性は低いだろう、娘の年齢は十二だと聞いたからな。」

 

それだけ離れてるなら、まぁ大丈夫か。シーダがどんな存在か分からないが、流石に半分の歳の奴を選ばんだろう。

 

「十二………可能性はあるわね。魅華月さん、それ大人の部からも選びます?」

 

「あぁ勿論、シーダは二十までなら範疇に入れてるからな。」

 

二十って、娘の方が可哀想だろ………いや、前世の戦国時代とか酷かったけどよ、それでもその娘が可哀想だな、許嫁なんて親の都合だろうに。

 

「写真とかってあります?」

 

「広告用に一枚預かってる、これだ。」

 

魅華月さんの懐から出てきた写真には、緑色の髪を肩の辺りで切り揃えた、大人しそうな女の子が写ってた、控え目に言って超が付く美少女である。歩と良い勝負だな、こっちの方が歳上だけど、背景との遠近から見てこの娘は140㎝位か。前世の時代なら歳を考えても小柄の部類だな。

 

「スゴイ可愛い、これは男避け必要ね。」

 

瀬良さんが写真を一目見て呟くと、食い入る用に写真を見始めた。

 

「正直参加者で息子の方とマトモに戦える奴は何人かいる、朱司もその一人だ。ただ性格を含めると、娘の方を任せられるのは初、お前くらいでなぁ。」

 

いやぁ、俺も多分選ばれたのは身体が反応しないからだけで…………多分、いや絶対初音以外には反応しないだろうけど、俺の周りが信用ならん。

 

板橋と冴羽を思い出して、彼奴等ならやりかねんと思うと、乗り気になれない。

 

「シーダがどんな性格か分からないけど、可能性はあるわね、素性だけなら、超が付く有料物件だし。」

 

俺自身の事はその素性に含まれてるんですかね?

確実に血筋とギフトで判定されてるだろう素性に、ちょっと辟易する。

 

「俺個人としては、坊主が十二になるまでは男避けになってくれると助かる。その位時間があれば、本人も納得のいく相手が見つかるだろう。」

 

今俺が六だから、後六年か。少なくとも学校を卒業するまでは、男避けになる必要があると。

 

「でも、俺年齢的に男避けになれませんよ、見た目顔付きの悪いガキですよ?」

 

「そこは強いから無問題、問題なのはシーダが誰を選ぶか分からないことだ。もし朱司が選ばれたら、姉さん卒倒するぞ。」

 

あぁ、うん………これは受けるしか無いのか、よくよく考えるとシーダは日ノ本にも来るんだし、機嫌損ねると色々言われそうだ、イヴとか天皇とかに。

 

「つまり、俺よりも信用できる人間が要れば良いんですよね?」

 

「言っとくが、シーダは子供が十八になるまでは男女の仲を作るのを認めないってのが基本方針だ。今回は娘が虚弱だから例外ってだけで、子供が異性と手を繋ぐのも嫌な顔する人だからな?」

 

なんつう保守的な親、十五で成人の国があって、人よりも早熟な魔獣でそれとか、子供が可哀想だろ。

 

いや、でもそれなら尚更、あいつに頼むしか無いか…………はぁ。

 

「知り合いにレアギフト持ちで特級魔獣と互角位の名家の血筋の男がいますよ。年齢的に大人の部ですが、そいつなら信頼できます。」

 

すまん前原、俺の為に犠牲になってくれ。

将来は左官が約束されたような奴だし、五馬鹿で一番異性関係で任せられる人間だし………他が酷いとか考えてはいけない。

 

「そいつは本当に大丈夫なのか?」

 

「心配なら魅華月さんも大会で確かめて下さい、人格に問題はない好青年ですよ、実力も朱司と同じ位です。」

 

「なら、そいつに大会に出るよう言ってくれないか。大人の部の賞品は円で五百万用意してる、それとシーダ婆さんの古枝で造る特注の武器だ。」

 

登録用紙と大会のチラシを俺に数枚渡して、魅華月さんが期待するような目で見てくる。

 

「説得は出来る限りします、出てくれると思いますよ。」

 

「そうか、良かった良かった!あぁ、瀬良も、興味がある奴が居たら誘ってくれないか。今の所、予選する人数もいないからな、多い方が良いんだ。」

 

瀬良さんにも登録用紙を渡して頼んでくるのを見て、魅華月さんが本気で困ってるのが分かって、前原を絶対に大会に参加させようと思った。

 

いや、何か他人事に感じないんだよね、苦労人な所が周りの大人にそっくりで。

 

「声は掛けます、参加するかは確約出来ません。」

 

瀬良さんがそう言って席を立ったから、俺も続いて席を立つ。

 

「それでも良い、何もやらないよりずっとマシだ。」

 

魅華月さんが見送りしてくれるみたいで、先導してくれた。

 

役場前まで見送りしてくれた魅華月さんに礼を言って、里を歩く。

途中瀬良さんが寄りたい所が有るらしくて、別れて行動することになった。

 

団子屋でお土産用の団子を買って廃墟に戻ると、子供達と冴羽と前原が、大量の野菜を井戸水で洗っているところだった。

 

俺も手伝うか、前原に話もあるしな!!




サブタイトル間違ってましたすみません(一ヶ月も気付かないとかorz)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十二話 合宿って、行く前が一番楽しいよね?

ども、お久しぶりです、私です。
最近この挨拶が板についてきた気がする、すみません遅くて、話の流れも遅いんです、すみません。
後少しで大会に行くんで、本当にすみません。


「えっと、つまり俺が大会に出て、そのシーダって奴の娘の許嫁に選ばれれば良いんですか?」

 

野菜を洗い終わって、ちびっこ達に台所まで運ぶようにお願いした後、前原達の部屋で前原に大会について話しをした。

 

「そうだ、強さなら最近の前原なら大丈夫だろうし、お前らの中でそういうの任せられるの、前原だけでな。」

 

俺がそう言って、頭を下げると前原が慌てて頭を上げるように言った。

 

「ちょ、そんなことしないでください、初さんは俺達の恩人なんだ。それくらいの話ならいくらでも力になりますよ!」

 

その言葉に慌てて前原に詰め寄る。

 

「いや、それくらいって、結構俺無茶言ってると思ってるぞ?この子と六年は許嫁になるんだから!」

 

写真を指差しながら言うと、前原が笑いながら言う。

 

「たったの六年ですよ。それくらい、命の恩人の頼みなら大した事じゃ無いです。」

 

たったの六年ってお前、普通の人間なら六十まで生きれば良い方って言われてるこの世界で、六年は重たいだろう。

 

「それに、この子も許嫁を勝手に選ばれて可哀相ですし、俺なんかが同情するなんて、とは思いますけどね。写真を見て、何かほっとけない感じがしたんです。」

 

んん???

前原が言った言葉に、違和感がして思考が止まってると、前原が遠い目をし始めた。

まさかこいつ、一目惚れしたんじゃ……………早まったことをしちゃったかと考えた俺に、前原が話しを続けた。

 

「なんて言うんですかね………聞いた話だとこの子、親がスゴい身体が強いのに、虚弱体質でしかも本人は大人しい性格なんですよね?引きニートの気配がして他人事に思えなくて。」

 

苦々しそうに言う前原に、思わず目が点になる。

そう言えばこいつ、前世で引きニートって言ってたっけか、これは、あれか?

似た境遇の奴のことほっとけないだけか?

 

「そ、そうか。お前が乗り気なら俺は良かったよ、うん。」

 

面倒にならなそうで一先ず安心する。

こいつが一目惚れしたなんて言ったら、俺は今後こいつとシーダの娘の事を見張らなきゃならなかったからな。主に前原が暴走しないかの見張り。

 

「じゃあこれが登録用紙だから、後で書いて持ってきてくれ。」

 

「あ、はい、夕飯後に部屋に持っていきますね。」

 

それに答えて、部屋を後にする。とにかく、問題が片付いたなら良かった。後は朱司の話しを咲さんに言うだけだな。

 

「その話なら、さっき楓と帰ってきた瀬良に聞いたわ。もう向こうが乗り気だから仕方無いけど………今度からはちゃんと相談してね?」

 

う、それを言われると返す言葉も無いです。

思わず縮こまって頷く俺をみて溜め息を吐く咲さん。ぐうの音も出ないとはこの事か。

 

「はぁ、あなたも初音ちゃんも、揃ってお人好しの無鉄砲なんだから。」

 

「すみません、以後気を付けます。」

 

「当たり前よ。それよりも、今度やる武道大会は大人の部の優勝の景品が五百万円って、本当なのね?」

 

あぁそっか、咲さんちびっこ達に仕送りしてるから、お金のことになると面倒なんだった。

 

「……はい、でも事情がありまして。」

 

咲さんにシーダの事を話すと、頭を抱えて空を仰いだ。

まぁ、最初聞けばそうなるよな、うん。

 

「拓と銅次も参加させたかったのに、これは無理か。」

 

あぁなるほど、あの二人のどちらかが許嫁になんてなれば、修羅場確定だからなぁ。

 

「初君は朱司君との事があるから仕方無いけど、もし許嫁になんてなったら…………初音ちゃんの暴走、過去一番にヤバいことになるわね。」

 

俺が選ばれる可能性がある?

いや、それはないでしょ、俺は今六歳ですよ?許嫁にしても六つも歳の差あるんだぞ、それなら未だ前原の方が歳の差少ないし、実力的にも問題ないだろうし。

 

あいつ最近は俺とタイマンでも、俺が力をテューポーンと同時に発動しなきゃ、結構持つようになってきたし。

 

「大丈夫だと思いますよ、俺も大会では本気出さないようにしますし。」

 

「なら良いんだけど………とにかく、これは夜もう一回皆で話し合わないとね。」

 

その日の夜、初音がキレて暴走したり、俺が安請け合いした罰で床に正座したり、鐵が乗り気で他の男からロリコン扱いされたり、色々あったが何とか話はまとまった。

 

次の日、朝御飯を食べ終わって、皆して食堂でわいわいしてると、来客を知らせる鐘の音が鳴った。

 

咲さんが来客を連れて食堂に来ると、ちびっこが来客をみてざわつく。

 

「はい、今日から少しの間皆と一緒に暮らすことになりました、ウサギさんに朱司君です。少しの間だけど、全員仲良くするように。」

 

「…………………」

 

「ウサギって言いまーす!これから武道大会までの間、皆さんよろしくで~す!!」

 

全員が居間代わりの食堂に集まって、うさぎさんと朱司の事を見てた。

 

昨日の夜のうちに皆には話してあるから、たいして混乱はないが朱司の態度が問題ありだな。

 

俺に対しての敵意や殺気は今まで通りだが、他の人間に対してもあんな険呑な雰囲気で接して、見てて危なっかしい。

 

「にしし、よろしくな!」「うさぎさんうさぎさん、『かんごふ』さんって何するの?」「朱司って蛇なんだろ?何の蛇何だ?」「なぁなぁ、皆で外で遊ぼうぜ!」

 

ちびっこ達は、他にも色々言いながら、朱司とウサギさんに絡んでいく。

 

「誰がテメ「朱司?」………悪いが俺は修行しに来たんだ、そんな暇はねぇ。」

 

「落ち着きなさい。」

 

朱司が舌打ちしそうな位機嫌悪そうな返答をしようとすると、ウサギさんが底冷えするような低い声で名前を呼んだ。

あまりの怖さに一瞬、俺と五馬鹿は戦闘体勢に入ろうとしたけど、咲さんに言われて自然体に戻る。前原とか板橋は、未だ少し警戒してるな、俺も初対面の時に実験台にされそうになってるから、戦闘体勢は解いても、警戒はしてるな。

 

「じゃあ俺らと『もぎせん』しようぜ、こうみえても俺ら強いんだからな!!」「私は良いや、ウサギさんに、おはなししてもらうの」「私もそうする!」「男は全員戦うぞ!!」

 

「お前らが相手になんのかよ、俺は最上級魔獣でも強い方なんだぞ?」

 

あぁ、それね、多分問題ないんだよな、うん。

 

「ここに居る男は皆レアギフト持ちだぜ?」

 

ちびっこの一人がそう言って、魔力を身体から溢れさせる。なんとも強キャラ臭の漂う行動である。

 

「なに?」

 

ちびっこが言った言葉を聞いて、咲さんに確認するように視線を送る朱司。

 

「………はぁ。」

 

面倒臭そうに頷く咲さんに、どや顔して胸を張るちびっこ。まぁ、その後見事に楓さんに頭叩かれてたけど。

 

「いてっ、何すんだよ楓姉!!」

 

「手加減もマトモに出来ないのに、お客さんと戦わせるなんて出来ない。」

 

「なんだ、その程度か。」

 

「手加減出来ないだけで、強さは折り紙付き、あなたの修行相手は私と瀬良。」

 

「はぁ!?」

 

見下すように言う朱司に、ちびっこが言い返す前に楓さんが反論する。

因みに修行相手云々は楓さんの思い付きで、俺達に何の相談もないその場の勢いである。

 

お陰で瀬良さんが嫌そうな顔してるけど、咲さんがゴーサインの合図をしてたから、不服そうな顔して黙る。

 

「なら、今すぐにでもやろうぜ。」

 

「ん、近くに良い場所があるから二人とも、付いてくる。ウサギさんはのんびりしてると良い。」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて。怪我や病気の治療は、ここにいる間は私に任せて下さいね。」

 

「ん、頼りにしてる。」

 

「お昼には一度帰って来なさい。」

 

「了解。」

 

食堂を出る前にそう言って、楓さんは出掛けた。後を追って瀬良さんと朱司も居なくなる。

なんとも言えない空気の中、咲さんが手を叩いて皆の視線を集めると、全体に向かって話始めた。

 

「さぁ、それじゃ皆、今日のお仕事を言うわよ~。」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱司が来てからもうすぐ三時間程、そろそろお昼の時間かなという時間帯。

 

朱司と犬神姉妹は、仲良くとは言わないが、それなりに打ち解けてる監事で、修行してた。

 

「攻めが甘い。」

 

「がぁッッ!?」

 

おー、やってるなぁ。

空家近くの広場で、楓さんに吹き飛ばされる朱司を、洗濯物を干しながら見てる。あ、瀬良さんに受け止められて反省点を言われてる。

 

洗濯と言っても外に干してるのは基本男物で、女物は部屋干しで、初音とちびっこの女の子達で干してる所だ。男は例えちびっこでも入れない徹底っぷり、本当女の人はそこら辺スゴいと思うわ。

 

「初さん、こっち終わりました~。」

 

「こっちももうすぐ終わる、これが終わったらなんだっけ?」

 

板橋が空になった洗濯籠を持って俺を見てきた、こっちは台がないと手が届かないんだよ、ちょっと待っててくれ。

 

「えっと、僕達は森にちびっこを連れて山菜取りですね」

 

「そっか、俺は昼飯でも手伝うかな?」

 

「初さん料理好きですよね、御夕飯とかよく手伝ってくれますし。鐵とか前原とか、全然手伝ってくれないんですよ?冴羽はたまにやってくれるんですけど。」

 

俺の呟きで何か地雷踏んだのか、板橋が愚痴り始める。

そういえば、こいつら歩ともう一人含めて六人で暮らしてたんだっけ?

 

「じゃあ僕は皆を呼んで森に行ってきます。」

 

「おう、ちびっこ達に怪我させないようにな。」

 

洗濯籠を置いて、板橋はちびっこを集めて空家の反対側で作業をしてる前原達の所に行った。

ま、後で聞けば良いか、ここの風呂デカイし、男で風呂に入りながらでもいいだろ。

 

そう考えて家の中に入って、台所で大量の野菜相手に奮闘してる咲さんと綾女さんに話し掛ける。

 

「洗濯物、干し終わりましたよ。板橋は他の男と一緒に、ちびっこ連れて森に食料調達に行きました。」

 

「そう、ありがとうね。それじゃあ、ウサギさんの相手してもらってて良いかしら。今は食堂で暇そうに煎餅かじってると思うから。」

 

「うい、分かりました。」

 

朱司の付き添いで来た、いかにも怪しそうな言動の恐い女性を思い出す。

あの人も、前世では考えられない位濃い人だよなぁ。この世界、濃い性格の人多過ぎ。

 

「あ、ちょっと待って…………はい、これ味見してくれない?」

 

咲さんに返事をして、お茶を急須に入れて湯飲みと一緒に持っていこうとすると、綾女さんに匙で掬ったものをつき出されたから、そのまま口に入れる。

手が塞がってたし、これくらいノーカンノーカン。

 

ふむ、野菜に鶏ガラのスープか、塩が少しキツめだけど胡椒が加わってる事で良い塩梅になってて、そこに全てをぶち壊す大量の砂糖ガガガガガ。

 

「!!?!?!?」

 

「ど、どう?お兄さまの好きな味になってる?」

 

綾女さん、これはヤバい、砂糖が全てを壊してるっつうか、どれどけ砂糖を入れたんだあんた。

 

「甘過ぎです、砂糖がヤバい。」

 

入れたばかりの急須からお茶を注いで飲む。

うぅ、未だ甘い。お茶請けに梅干しでも持ってくか。

 

「え、本当ですか!?」

 

自分でも改めて匙で一口味見する綾女さん。

顔が真っ青になってるから、多分気付いたんだろう。

 

「あ、甘過ぎる。私またやらかした…………」

 

「今からでも何とかなるわよ、ちょっと調整すれば大丈夫よ大丈夫。」

 

落ち込んでる綾女さんの横で、味見した後にそう言って励ます咲さん、やっぱり咲さんは苦労人だなぁ。

後綾女さんはドジッ子ね、覚えたぞ。

 

「お、俺はこれで。」

 

「ゴメンね初君、今度御詫びはするから。」

 

「いや、気にしないでください、失礼しました~。」

 

申し訳無さそうにしてる綾女さんには悪いけど、冗談じゃない、ドジッ子にその手のことは鬼門だって、俺でも分かるぞ。

 

「あら?初君はお手伝いしなくて良いの?」

 

どうかこの合宿中にでかいやらかしをしませんように、なんて俺が神様(イヴ辺り)に願ってると、ウサギさんが笑い掛けてくる。

見た目美人だから絵にはなるけど、性格を知ってると恐怖しか感じないのは何故だろう。

 

「ウサギさんを見張ってろって言われました。」

 

「あら、随分警戒されてるわね。」

 

残念そうに呟くウサギさんを、呆れた目で見ながら言う。

 

「初対面の子供相手に、いきなり実験しようとしたりするからです。」

 

「ちゃんと本人に同意は求めたわよ?」

 

「あれをそう言える精神がスゴいですね。」

 

「意地悪はやめて。それよりも、もっと別のお話ししましょうよ。」

 

分が悪いと思ったのか、話題を露骨に変えるウサギさんを、白けた目で見る。

 

「何です?」

 

「シーダの情報、欲しくない?」

 

ウサギさんはゾッとするような妖艶な笑みを浮かべて、俺達がこれから関わる災害級魔獣の情報という、下手しなくても喉から手が出る程に重要な情報を、俺にちらつかせてきた。

 

この人は一体、俺に何を要求するつもりなのか、実験台とかでは無いことを、強く願った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。