chos child もう一つの結末 (神奈翔太)
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目覚めと始まり

その光景に自分は目を疑った。自分の幼馴染が自分の中で息絶えようとしている。

 

「来栖!しゃべるな!大丈夫!大丈夫だから」

 

「・・・・た・・く・・る」

 

傷口から血が滲み出してきている。僕の手からあまり出るほどに。それでも彼女はしゃべろうとする。

彼女は何かを言った。僕は必至でそれを聞き取った。

 

「・・・・・」

 

「来栖?おいっ!来栖っ!返事をしろよ!」

 

彼女は何も言わなくなり、自分の手から彼女の手がゆっくりと滑り落ちた。僕は叫んだ。

 

「うああああああ!!!!!」

 

それから凄まじい光が走った。それから先を僕は覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・ん?」

 

何か背中に感触があるな。柔らかい。だけど・・・頭が痛い。ここはどこだ?自分は今まで何を。

 

「う・・・!!」

 

途端に激しい頭痛がする。だめだ。思い出そうとすると頭が割れるような痛みがする。

 

「くっ・・・・!」

 

咄嗟に近くの棚に縋り付く。良く見るとそこは普通に人が住んでいたような一室だった。そして自分が今寝ていたところがベッドだったと気ずく。

 

「・・・・?」

 

そこでようやく自分の感覚が戻ってきた気がした。しかし体の痛覚も戻ってきたのか、体の関節全てが悲鳴を上げている。

 

「!!」

 

頭が痛みですっきりしてきた。そしてこの部屋の向こうから声が聞こえることも。

 

 

 

「何だ?」

 

初めて声が出た。自分の出した声だ。妙に声が高い。今の状況では自分がどんな姿なのかや性別も分からない。

とりあえず声が聞こえる方向に行こうと思った。

 

「鍵はかかっていないな」

 

なぜ今、そんな事を思ったのかは分からない。しかし実際に鍵はかかっていない。体中に痛みが走りながらもその扉を開けた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

え?今、見た光景がものすごく気まずいのですけど。何を見たかって?それは皆が集まって机にケーキを中央に置いて歌を歌っていたからだ。つまり誰かの誕生日を祝っていたのだろう。

しかも自分に気が付いのか、皆が皆驚きのあまり言葉を失っていた。

 

 

「・・・・・もしかして気がついたの?」

 

皆の中で人一倍大きな女子が聞いてくる。しかしどこかで見たことが・・・・

 

「ぐっ!」

 

それを思い出そうとするとすると頭痛が再びした。それを見て彼女達が慌ててこちらに来る。しかしそれすら確認することもままならずに視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

そこは暗い闇の中、誰かがどこかで何かをしている。自分はそれを見ているだけだ。

 

「どうしたの?のんちゃん」

 

一人のピンク髪の子がもう一方に聞いている。

 

「白々しいわね。本当の事を言ったらどうかしらxxxxx」

 

 

その光景に映っている少女達はどこか見覚えがあった。とても身近に思えていた。しかし心のどこかでこの光景を見たくないという気持ちがあった。

 

 

空気が変わる。

 

 

しかし続きを見る前に辺りが光って周りが再び見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

自分は再び、ベッドの上で起きた。傍らでは少女が寝ていた。見たところ中学くらいの年ごろに見える。

 

「あ、あの・・・・・」

 

どうしたものかと考えた結果、少女を起こすことにした。

 

「う・・・ん?あっ!起きたのね!乃々お姉ちゃん!!」

 

少女を起こすと自分を見た瞬間に飛び起きてどこかに行ってしまった。一体どうしたのだろうか。確かに倒れた記憶はあるがその後に何があったのだろう。

その後にどたどたと足音が響いてきた。部屋に来たのはさっき見た少女と中年の白衣を着た男だった。

 

「よかった起きたのね!!」

 

「これはたまげたな~~。乃々、下から道具を持ってきて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ。大丈夫そうだな。リハビリをしないと歩け無さそうだから乃々あとで彼女に松葉杖を頼む」

 

「自分でやりなさいよね。もうっ!」

 

どうやらここは医院らしい。医者である男性が乃々と呼ばれた少女になぜかは知らんが怒られていた。あれから診察されたがどうやらさっき歩けたのは相当な無理をしたからだと言われた。

 

「ところであなた名前は?」

 

「え・・・あ・・えと・・」

 

考え中にいきなり声をかけられた為に慌ててしまう。しかし冷静でも答えれはしなかった。自分は

 

「”記憶が無い”んです。名前も自分が誰なのかも」

 

「記憶喪失か。まいったね~~」

 

男性の方が声を上げながら髪をぼりぼりと掻く。

 

「じゃあ何も覚えていないの?」

 

「・・・・はい」

 

正直に言う。隠していてもしょうがない

 

「まぁ、身元も分からないししばらく家で預かることになるけどそれでいいかな?」

 

「はい。いいです」

 

それを言うと男の人はニカッと笑い自分の頭をゴシゴシと揺らした。

 

「それと自己紹介しなさい。まずは乃々から」

 

呼ばれるとさっきの彼女が出てきた。

 

「私は来栖 乃々!よろしくね!」

 

それが私と彼女との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

それから数日後

 

「御飯よーー!」

 

来栖の声が聞こえた。どうやらもうそんな時間らしい。今まで洗濯物などの家事をしているとすっかり時間になっていた。私はリハビリも兼ねながらそれらをこなしていた。

 

「よいしょっと」

 

未だに自分の記憶は戻らない。それどころか体は松葉杖を使わなけらばまともに歩けないのだ。

 

「あっ!お姉さん手伝うよ!」

 

声をかけてくれたのはここで一番幼い結人だった。彼はどうやら六年前に起きた事件で暗い所で怖い経験をしたために暗闇を極端に怖がるようになってしまったがそういう時には自分が連いていっている。それと関係しているのかは分からないが彼は自分が松葉杖を使って歩いていると必ず手伝うようになってくれた。

 

「ありがとうございます」

 

私は笑顔で答えた。結人もそれに釣られて笑う。すでにダイニングでは明かりが明いていた。

 

「さ、結人は手を洗って来てね。あなたはそこに座ってて大丈夫よ」

 

しばらくすると佐久間_父さんと結衣がやってきた。

 

「おっ!今日は上手そうだな。どれ一口味見して・・・」

 

「だめっ!手を洗ってからにしなさい!」

 

味見と言う名のつまみ食いをしようとした父さんに来栖が怒る。それに「ちぇ」と言いながらそそくさと手を洗うお父さん。

 

 

「今日のごはんは何なの?」

 

「今日はね。安い肉と野菜とカレーのルーが手に入ったからカレーライスよ」

 

おっ、カレーライスか。自分はカレーが好きであったかは分からないが来栖の料理はいつもおいしいので今回もきっとおいしいだろう。

 

 

「みんな席に着いた?」

 

「ついたよー!」

 

「じゃあ恒例の・・・・」

 

目の前には香ばしい臭いとたくさんの具が入ったカレーがある。そしていつも食事の前に言う言葉を口にする。

 

「いただきますっ!」

 

この家で自分は上手くやっていけそうだった。このままこの時が永遠に続けばいいとそんな幻想が自分の頭に広がった。

 

 

 

 

 

 

「はい、ではまた三分くらい募集をかけるんで適当によろです」

 

その言葉を言った瞬間に一気にコメントがあふれ出した。流れ具合を見てみると「ハルちゃんの熱愛報道はいつ?」というコメントでの依頼を見つけて大谷 悠馬は思わず微笑んだ。

 

狙い通りだ。

 

 

依頼の大半はイケメン俳優や女性アイドルに関する事だから視聴者の傾向を読むことは馬鹿みたいに簡単だった。

問題はどの人物の名前が挙がるかだがこればかりは運に賭けるしかない。

がハルちゃんーー確か名前はハルコと言ったかーーならば大丈夫だ。先日行きたくもないイベントに行って”直接見てきた”ばかりだ。

 

「・・・・よし」

 

大谷はそのことに満足していつものようにつまみを取ってくるために立ち上がった。

 

 

渋谷駅から徒歩八分 家賃15万 1LDKのマンション。

 

 

震災後に建てられたマンションなので全体の造りや内装などは今風だった。欲を言えばもう少し広い所が欲しいが以前住んでいた家賃四万のボロボロのワンルームに比べれば雲泥の差だった。

 

「来年にはもう少し便利な所に引っ越すか・・・・・・」

 

大谷はマイクに音が拾われない様な小さな声でポツリと言う。大谷は21歳になってようさく人生の充実感を味わっていた。小学校高学年からネットゲームに嵌って、学校に行かなくなり、次第に部屋からも出ないようになって、いつの間にかただ眠くなるだけの薬を手放せなくなってーー。

一時はただ先の見えない暗い将来に自殺を図ろうとしたときもあった。六年前の地震で部屋から出る事は出来たが既に大谷を見限っていた両親との距離は縮まることはなかった。

受験に失敗して浪生活になって渋谷で一人暮らしを始めてから親とは一度も会っていない。受験は三連敗中ということになっているが浪人生になってから一度も受験していない。

 

「ⓐちゃんにもたまには本当の事が書かれているもんだーーチーズでいいか」

 

スーパーで安く売っているチーズを丸ごと冷蔵庫から取り出す。本来大谷はこんな安物など口にはしない。

だが二コニヤ放送の内容はもちろんだがそれと同じくらいの演出をしなくてはならない。

イケメンでもましてや可愛い女子でもない大谷が話題性のある放送を継続させていくためにはーー。

 

 

 

『いかにも苦労して暮らしを成り立たせている貧乏人』と言うキャラ付けが必要だった。

 

 

 

先月では目標としていた最大視聴者数が四千人を突破した。取り立て何の肩書きもない大谷にとって、この数は異例とも言って良かった。やはり三か月前にグループ内で人気投票を行っている某アイドル集団の順位をおおまかな投票数も含めて全て事前に言い当てたのが効いたらしい。

あれからじわじわと視聴者数は増え続け、先月の終わりごろ、二コニヤ動画のトップに取り上げられてから一気に視聴率が伸びた。

現在は、四千五百を超えており、この分だと今月のには五千人を超えることも十分にあり得るだろう。

 

 

 

”自分の能力”について疑い出したのが去年の終わり頃。

はっきりと自覚を持つようになったのはⓐちゃんねるのオカルト板で盛り上がってきたとある噂。

大谷は端的に、自分が行っている放送の名前でそれを表現していた。

 

 

『俺氏、未来が見えてしまう件について』

 

 

チーズを切ろうと包丁を取り出して、妙な音が響いた。

 

「・・・・・?」

 

気のせいかと思っていると、

 

 

 

 

トン、トントン、トン

 

 

 

と変わらず音が響いてきた。ドアからだ。間違いなく自分の部屋のドアがノックされている。

 

「ん・・・・?密林か?」

 

怪しみながら応対に出ようとする大谷は壁にかけている時計を確認した。

午後11時 41分。

宅配便が訪ねてくる時間帯ではなかった。

 

「・・・・何だよ。つか、生放送中だっつうの・・・・」

 

大谷は無視を決め込もうとしていた。だが、無機質に同じ調子でノックが続いた。

まるでこちらを訪ねてくることが目的ではなく、その音を響かせることが目的だとも思えてしまった。

 

「・・・・・・・」

 

どことなく不気味な雰囲気がして、大谷は外の様子を見ようとインターホンカメラのところに行こうとしたが意味が無いことを悟って舌打ちした。カメラがついているのは一階のオートロックの部屋だけだ。五階にある大谷の部屋にはインターホンはついていてもカメラはついていない。

大谷は諦めて、

 

「くそ・・・・。つか、用ならインターホン押せよ・・・」

 

まだ音は続く。

 

「酔っ払いか・・・・?」

 

いや、それにしてはノックの音が規則正しすぎだ。開けろとわめきたてる声もしない。

 

「・・・・・・」

 

普段見慣れたドアが異質に思えてきた。とりあえずインターホンを使って外の人物の用件を知ろうと端末があるリビングに向かうおうとして。

 

 

 

『大谷さん、私です。突然すいません』

 

響いてきた声に立ち止った。

 

「・・・・?」

 

『私です。こんな遅い時間に申し訳ありません』

 

大谷は心の中で声の主を探ったがまったく身に覚えがなかった。が、声の調子と言動から変質者の類ではないことが分かった。

申し訳ありませんと断ってくる声には本当に誤っている気持ちが感じることができた。

 

「・・・・・・」

 

大谷はわずかに安どの息を吐くと自分が包丁を持ったままのことに気がついた。途端に大げさに緊張していることが馬鹿らしくなり、包丁をシンクの上に置きながら

 

「はいはい、今開けます。どちら様ですか?」

 

『私です。覚えていませんか?』

 

だから誰だよと思いながら、大谷はドアを開けた。

 

 

 

 

 

彼が後にどんな結末を辿るかも知らずに。




不定期更新になりますがよろしくお願いします。


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情報強者は事件を追う

某日 青葉寮にて

 

「いってきま~す!」

 

来栖が元気よく青葉寮を飛び出していった。彼女は学校に行くと言った。私は元々どの学校に行っていたかも不明なままなのでここで家事をしながら留守番である。

 

「最初はあれとあれをして・・・・」

 

最初は来栖の部屋からだ。まずは部屋の家具の隙間の埃を取っていく。私は丁寧にそれを埃を綺麗に取ることが出来た。もっともこんなに早く出来たのは来栖の部屋だからだろう。ふとそんな事を思いながら来栖の部屋の机に視線を移すと

 

 

「・・・・これは?」

 

今の現状では結衣、結人、父さんもそれぞれの理由で外出している。ということは私しかいない。

彼女の視線の先には来栖の忘れ物があった。

 

 

 

 

 

 

まだ暖かさが残っているこの時期に一人の女性が渋谷の街を歩いていた。松葉杖を使いながら必死に歩いていた。

片手には何かの書類だろうか、それが入ったバッグを決して落とさないようにがっちりと固定されていた。

 

「はぁ、はぁ」

 

さすがにまだ歩きなれてはいないのでかなりつらい。やはり父さんが帰ってくるまで待っていればよかったかなと思い始めていたが何とか他の人に目的地を聞きながらその近辺まで来ていた。

 

「・・・・!」

 

必死に歩いていると角から来た女性とぶつかった。危うくこけそうになったが少し足に痛みが走っただけで済んだ。

 

「す、すいません。大丈夫ですか・・?」

 

どこか怪我していないかを彼女は聞いた。

 

「・・・・・」

 

「あ、あの・・・」

 

女性は黙ってぶつかった彼女をまるでいないかのように扱いながら、ゆっくりとした足取りで歩いて行く。

片足を悪くしているのか引きずりながら歩いている。その顔は半分が髪で覆われており確認できない。夜だったら解けてしまいそうな色のワンピースを身に着け、その上から真っ赤なガーディアンを羽織っていた。胸元も足も手も露出はほとんどなかった。

 

「・・・・・」

 

 

彼女はそのまま去って行ってしまった。彼女はそれを呆然とした気持ちで見ていたがすぐに踵を返した。

 

「一体何だったんだろう?でも彼女はどこかで見た様な・・・・」

 

 

そんなことがあったが何とか目的地に着くことが出来た。その目的地の名は・・・

 

「えーと確か碧学園ってここだったかな?」

 

しばらく確認してここが目的地だと分かると足を踏み入れた。そしてそのまま校舎に入ろうとしたところで呼び止められた。

 

「ちょっと君いいかな?どこの生徒かな?」

 

彼女が振り返ると何ともおとなしそうな顔をした男の人が立っていた。

 

「あ・・・私は・・・」

 

「うん?」

 

「あのあなたは・・・」

 

「ああ、決して怪しい者じゃないよ?ここの教師をやっているんだ。久保田だ。よろしく」

 

どうやら久保田と言う教師らしい。

 

「あの来栖に届け物が・・・」

 

「来栖って来栖 乃々くんの事?」

 

「はい。そうです」

 

どうやら来栖のことを知っているらしかった。教師だから当たり前か。

 

「今は新聞部の部室にいるはずだけど・・・・君はここの生徒じゃなさそうだし。分からないよね。私は連れていこう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

彼が案内をしてくれるみたいだ。しかもこちらが松葉杖を使って歩いていることに気をつかったのかエレベーターから上の階に上った。

 

「新聞部の部室はここからこの廊下をまっすぐ行って右に行けばあるから。そこに新聞部で書かれた部屋があるから」

 

「何から何まで・・・・」

 

自分が頭を下げようとするところを彼が手で制した。

 

「お礼何ていいよ。本当ならいっしょに行ってもいいんだけどね。何分忙しい身分でね。今は文化祭の準備で忙しくて。もし来れるんなら今度おいで」

 

そう彼は言った後にエレベーターで下の階に行ってしまった。自分は再度お礼を述べて彼が教えてくれたルートを通る。

 

「ここを右に曲がると・・・・あった!」

 

思わず大きな声になってしまったがようやく来栖に忘れ物を届けることが出来る。しかも来栖の声がこの部屋から聞こえてくるから間違いはなさそうだ。

 

「し、失礼します」

 

なぜか言ってしまったがまぁ、問題はないだろう。中に入ると来栖が同じ制服を着た男子二人に何やら怒っていた。

 

「もうこんな時に一体誰----ってあなたは!?」

 

 

来栖は不機嫌な表情でこちらを見たがこちらの顔を確認したからだろうか驚きの表情に変わった。そのまま詰め寄ってくる。

 

「どうしてここに!?無理しちゃいけないっていったでしょ!?」

 

かなり近い。自分は何とか狭いスペースから書類を取り出し、彼女の鼻先から見せた。

 

「これを忘れていたので・・・・」

 

「うん?これは文化祭の・・・・わざわざ届けに・・・?」

 

その質問にこくこくと答える。それに困った笑みを見せる来栖。

 

「ごめんなさい。私のせいだわ。これを届けてくれたのは嬉しいけど大変だったんでしょう?もう無理はしないこと。分かった?」

 

「はい・・・」

 

さすがにここまで言われると反論の余地はない。実際体中が痛い中で来たのだ。少し椅子に座って休憩がしたい。

 

「このまま帰らすのもいけないし、そうだ拓也、この子をここで帰るまで留まらすのはいけないかしら?」

 

来栖が男子生徒に話かける。

 

「別にいいけど・・・」

 

「それよりも副部長!?誰だよそのかわいい子!?」

 

もう一人は何やらこちらを指さしながら叫んでいた。あまりの事に来栖に助けてと目線を送る。

 

「こら。伊藤君彼女が迷惑がっているでしょ!」

 

伊藤?この男子生徒は伊藤というらしい。

 

「だけど来栖。この子はウチの学校の制服は来ていないみたいだけど・・・・」

 

「拓也。あなたは見たことがあるでしょ。拓也が起きた後もずっと眠っていた」

 

来栖に指摘されて少し考えた拓也と呼ばれた男子生徒はあっと言った。どうやら心辺りがあったようだ。

 

「あの時の!?」

 

「そう。数日前にようやく起きたんだけど・・・・」

 

来栖は私の現状を言った。

 

「なるほど記憶喪失ねぇ、まぁ、ありえない話じゃないだろうしな」

 

「そうだな・・・・」

 

どうやら納得してくれたみたいだ。ということで来栖の部活が終わるまでここで部活を見学することになった。

 

「とにかく事件を調べるのはやめないからな」

 

何やらさっきの来栖が怒っていたことの答えなのだろう。拓也が答えた。そして彼はコルクボードに張られた地図に向かっていった。するとさっきから聞こえていたプリンターの独特な電子音も消えた。それから出た写真を撮ると説明を始めた。

 

「と、とにかく今、僕たちが追っている事件は二つ。まず一つは目は今月の七月に起きた、二コニヤ生放送公開自殺事件、通称「こっちみんな」・・・・場所はここ神南」

 

あれ?何か想像していたのと違うぞ。

 

「事件の内容は、名前の通り、二コニヤ生放送をしていた男が、放送中に突然自殺した。厳密には完全な自殺と決まったわけじゃないけど死んだときの状況からそう言われている。名前は大谷 悠馬。21歳。『俺氏、未来が見えてしまう件について』っていう預言者モドキな放送をして結構アクセス数を稼いでいた二コニヤ主」

 

彼の口から被害者と思われる情報がスラスラと出てくる。

 

「で、その状況だけど・・・・。まず、大谷氏はコメントを設ける時間を取って一旦カメラから姿を消す。その後にドアがノックされて誰かが来た音を僅かながらにカメラのマイクが拾っている。そして彼が戻ってくると彼の右腕が切断されていて、自分が持ってきた皿に乗っていたんだ。そしてそれを食べた。まるで痛みを感じていないみたいに」

 

「・・・・・・」

 

来栖が顔を青くしている。自分だって想像したら気分が悪くなる。

 

「それから突然苦しみだして死亡した。死因は失血性ショック死だった」

 

訳が分からない。

 

「何らかの理由で精神が錯乱した上での自殺という線が濃厚だけど、警察は自殺する前に訪ねてきた人物をさがしているらしい」

 

もっともそれが怪しい人物だろう。警察の判断は間違ってはいないようだ。

 

「・・・・・」

 

皆が黙って聞いている。しかしこれだけでも異常な事件はもう一つあるようだ。

 

「二つ目の事件は19日に起きた事件。死体の状況から「音漏れたん」と呼ばれている。場所はここ神泉」

 

これが最新の事件らしい。確かニュースにもなっていたはずだ。

 

「名前は高柳 桃寐。20歳。二コニヤ放送の歌ってみたの歌い手で、最近ネットで有名になっていて、アニメソングのコピーバンドのボーカルで復興祭でも歌うことが決まっていた」

 

どうやら今度は歌手らしい復興祭というものは来栖から聞いたがそれを聞けなくなることは残念だ。

 

「バンドの派手な衣装を着たまま一人でストリートライブをしていて、晴れた日は毎日決まった場所、決まった時間にで演奏していたらしい。だけど、何か様子がおかしかった。声が小さくて、いつもの感じじゃなかったらしい。そして結局、ライブの最中に__」

 

やはり・・・

 

「死んだ。こちらも失血死。ライブを始める前から、お腹を刺傷していた」

 

大谷氏と似ている点が多いな。どうやった手段で死亡したのかも気になる。

 

「妙なのが遺体の状況で・・・・伊藤再生してくれ」

 

伊藤さんがパソコンを操作して音声を流した。

 

「きゃー!いやぁーっ!」

 

「は、マジで!?マジで!?」

 

「死んでるって!マジで死んでるって!」

 

「救急車呼べって!」

 

「・・・・とう。ゆっ・・・して・・・・」

 

?最後の部分が聞き取れなかった。来栖もそうらしく首を傾げている。

 

「あーそっちじゃなくて、渋谷にうずが音声いじってくれたやつ」

 

そうすると伊藤さんは分かった顔で

 

「ああ。そっちね。えーと」

 

すると、またパソコンをいじってもう一つの音声が再生された。最後の部分が違った。

 

「ありがとう。ゆっくりしていってね。ありがとう。ゆっくりしていってね。ありがとう。ゆっくりしていってね」

 

まるで再生されるように言葉が繰り替えされている。

 

「「ありがとう。ゆっくりしていってね」常連によると彼女はこの言葉を言ってからストリートライブをしていたみたいだ」

 

「二コ動ユーザーだからな。歌ってみたの歌い手の中では彼女が一番だって評判だったらしいぞ」

 

拓也さんの言葉を伊藤さんが補足する。しかし来栖と私はどうしてもさっきの言葉が引っかかった。

 

「今のは・・・・?」

 

来栖が聞いた。私もそれは気になっていた。

 

「悲鳴は、お客さんのもの。たまたま動画で撮っていた人がいたんだ。で、今のが高柳さんの声で___」

 

またしても自分は耳を疑った。

 

「彼女のお腹に埋め込まれたスピーカーから聞こえていたんだ」

 

「・・・・・・?」

 

よく分からない顔をする来栖に伊藤さんが答えた。

 

「つまりライブは始っから録画されたものだったんだ」

 

衝撃だった。奇妙だが気味が悪い。そんな事件だった。

 

「最初は、録画した自分の声に合わせてギターを弾いたらしいんだけど、途中から歌だけになった。それから俯きむちしっぱなしだったから既に死亡すていたんじゃないかな。それを妙だと思いながらも気ずかずにずっと聴き続けて___」

 

それからあの状況になったと。

 

「とにかく、さっきに音声がリピート再生されるまで死んでいるとは気ずかなかった」

 

話終わり拓也さんは興奮していることがこっちでも分かった。

 

「な?すごいだろ」

 

そして彼自身の結論を出した。

 

「僕はこの事件はまだ続くと思う」

 

皆からしても相当に衝撃的な事件だ。個人的にはかなり衝撃で起きてほしくないと思う。

 

「共通点は単に異常ではない。実は事件の現場だけじゃない」

 

そして事件の事でこれに気ずいているのは彼だけとこれを言われた時に思った。

 

「日ずけだ。二つの事件はニュージェネレーションの事件と日ずけが一致する。そして三つ目の事件が起きた日が」

 

 

 

 

 

「今日だ」

 

彼と彼女は知らない。これがこの”くそったれなゲーム”の始まりだった。



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