オバロ瓦落多箱(旧オバロ時間制限60分1本勝負) (0kcal)
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オバロどうでしょう
オバロどうでしょう1


制限時間は60分、その時間内でどこまで書けるかな。


「意外と楽しかったでありんすね、食事もおいしいし風景もいいし」

 

「そおっすねー、牧場ってのがこんなんなってるなんて知らなかったっす。知ってればもっと早く来たかったっす。ゲフー」

 

 シャルティアとルプスレギナは、早朝に突如言い渡された命令によって急遽アベリオン丘陵にある「みんなおいでよ、デミウルゴス牧場(正式名称)」の視察にやってきていた。周囲には血と鉄のにおいが漂い、うめき声がそこかしこからこだましている。先程の試食会では血液吞み放題、肉食べ放題を堪能した。

 

「しかしまあ、なんでわたくしとルプスレギナなんでありんすかねえ?」

 

「さー、至高の御方の考えることは私なんぞにはわからないっす、格が違いすぎるっす」

 

「どうかな?お2人とも楽しんでいただけたかな?」

 

 そこに、ここの牧場主であるデミウルゴスがやってくる。

 

「仕事と言うから気を張って来たでありんすが、正直に言うと途中から仕事だって忘れてましたえ、ぜひ今度エントマやソリュシャンを連れてきてあげたいでありんす」

「お!シャルティア様お優しいっすね、好感度急上昇っす。私もその時はぜひご一緒させてほしいっす」

 

「お褒めに預かり光栄だね……さて」

 

 デミウルゴスが、シャルティアに小さな正六面体を渡す。

 

「シャルティア、申し訳ないがそれを全員から見える位置に振ってくれないかね?」

「え?なんでありんすかこれ?サイコロ?」

 

「それお仕事っすか?」

「そうだねルプスレギナ。これも仕事の一環なのだよ。さあシャルティア、振ってくれたまえ」

 

 シャルティアは手に乗せたサイコロを見る。別になんの魔力も感じないただのサイコロだろう。変わったことと言えば人骨でできてることぐらい?

 

「ほいっ」

 

 サイコロが転がり6の目が出る。

 

 その時シャルティアは見た。自分がサイコロから手をはなし、サイコロがまさに地面につくギリギリのその時にデミウルゴスが背後から板を取り出したのを。

 

「6……6か、では残念だが、2人は今から聖王国へ行ってもらうことになったよ」

 

「はあ?何を言ってるでありんすか?」

 

 全く話が見えないシャルティアはデミウルゴスの持っている板を見る

 

 1:いきなり終了!転移門でナザリック大墳墓に帰還

 2:悪魔ゴンドラでアベリオン丘越え、王都まで移動

 3:馬ゴーレムでエ・ランテルまで移動

 4:徒歩で頑張れ!ダークエルフ国

 5:深夜馬車「じるくにふGO」でバハルス帝国帝都

 6:深夜馬車「どなどな号」で聖王国王都

 

 板を見てもやはりわからない。深夜馬車って単語もおかしい。

 

「……悪いけどデミウルゴス、私にもわかるように話してくれなんし」

「ふむ……では単刀直入にいうがこれは罰なのだよ、シャルティア」

 

「アインズ様からでありんすか?」

「いや、違うよシャルティア……これは守護者及びプレアデスの総意として君と、ルプスレギナに与える罰だ。無論アインズ様にご許可は頂いている」

 

「だからなんの」

 

 シャルティアはふと思った。おかしい、さっきから私しか喋ってないでありんす、これはもしや

 

「ルプスレギナ……もしかして知っていたでありんすか?」

「テヘペロっす、ごめんなさいっす。ナイムネ様には内緒にしろって言い含められていたっす」

 

「ちょっと!何ででありんす……いや、その前にナイムネ様ってなんだゴラあ!」

 

 




時間切れ
御指摘のあった箇所のみ修正


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オバロどうでしょう2

各話は関係ないと言ったな、あれは嘘だ。
すみません、ナンバリングの場合は続きって事にしてください。



「本当にすまないっす。でもナイムネ様をナイムネ様と呼ぶのも罰だから許して欲しいっす」

 

「だあからあああああああ!私にわかるようにいいい話せってんだよおおおおおおお!!」

 

 舌を出して答えるルプスレギナに、ゴスロリとヤツメウナギの中間体にまで変容したシャルティアが吠える。

 

「まあ、落ち着き給えシャルティア。私から説明しよう」

 

「ああ!?デミウルゴスがわかるように説明しないから、こおなってんでしょうが!」

 

 どうどう、となだめる手付きでシャルティアを落ち着かせるデミウルゴス。

 

「事の発端はアルベドだ」

 

 

 ☆

 

 

 ナザリック最奥玉座の間にてアインズとシャルティアを除く守護者が会議のため集結していた。シャルティアは今現在、通称ありんす便などと呼ばれている任務に従事しているため欠席である。様々な予定されていた議題や報告が上がりきり、終盤を迎えた時それは起こった。

 

「シャルティアに罰を与えるべきです!」

 

 守護者統括アルベドの急な提案にアインズはおろか、他の守護者全員が何を言ってるんだ、こいつという目で見つつシャルティアが最近何か失態したか検索し始める。

 

 

「はるか前の事になりますが、シャルティアは反逆しました!あの罰をきちんと執行しましょう!」

 

「ちょっと待ちなさい、アルベド。その件は本当にはるか前だし、シャルティアはアインズ様に罰を与えられただろう」

 

 デミウルゴスの言葉に全員がうんうん、と心の中で頷く。

 

「あれは罰とは言えません!あれは私たちの業界では御褒美です!少なくとも私はそうです!」

 

「「あー確かに」」

 

 発言したのはアウラだが、なにかその声に重なって誰かの声が聞こえたような気がしたアインズは戦慄しつつも声を上げる。

 

「待て、アルベド。あれは私がシャルティアに与えた罰、お前はそれを不服というのか?」

 

「恐れながらアインズ様、あれは御褒美です。仮に罰だったとしても、私の罪に対する罰が謹慎3日間、シャルティアの罪に対してアインズ様の椅子になるご褒美では信賞必罰をきちんと行うべし、というアインズ様のお言葉にも反します」

 

「むう……守護者達よ、アルベドの意見どう思うか」

 

「確かに、そう考えるとちょっとおかしいかもねー……です」

「あ、アインズ様のお決めになったことですから僕はそれでいいと思います」

 

「ウム、アインズ様ノ量刑ニ不満ヲ抱クノハ不敬ナレド公平デハナイカトハ感ジマシタ」

 

 アインズは守護者達の意見を聞き、確かに不公平ではあるかなと思い始めていた。しかし一度罰を与えた以上、再度罰を与えるのはなあと考えたところでデミウルゴスが発言してないことに気が付く。

 

「デミウルゴス、お前の意見が聞きたい」

 

「はっ、アインズ様が一度罪に対して、罰を与えられた。これに対して再度アインズ様が罰を与えるというのは問題かと思います。ですが」

 

「ですが?」

 

「公平性を補填するために、我々守護者が失態をしたシャルティアに罰ゲームをさせる、という呈であればよいのではないでしょうか。至高の御方々もよくやっておられたと記憶しておりますし」

 

「罰ゲーム……そうだな、罰ゲームならちょうどよいか」

 

 

 ☆

 

 

「と、言うわけなのだよ」

 

「半分はてめえのせいじゃねええええええかあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 




時間切れ、これからも多分続きます。


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オバロどうでしょう3

「私のせいとは心外だね、シャルティア。むしろ私は君に感謝してもらっていい立場だと思ってるんだがね?」

 

「何を、どこでどうしたら、今の話で感謝ができるんだよお!」

 

 怒り狂うシャルティアの前に指をぴん、と1本立ててデミウルゴスが話し始める。

 

「いいかね?これは後で根拠を話すが、アルベドは君に謹慎30日以上の罰を与えるべきだ、と進言するつもりだったのは間違いない」

 

「なっ……」

 

 謹慎30日とはなんと恐ろしい、あのBBAは血も涙もないのか。シャルティアは今までの怒りが霧散する程恐怖した。それを見てデミウルゴスが話し続ける。

 

「それを罰ゲームと銘打ってはいるが、君がナザリックのための職務を遂行できる形に落とし込んだのは私だ。理解したかい?」

 

「……わかったでありんす」

 

「それはよかった。では改めて罰ゲーム……サイコロの視察の説明をさせてもらっていいかね?」

 

「よくないけど、仕事という事なら仕方がないでありんすね」

 

 では説明しよう、とデミウルゴスが再びどこからか板を取り出す。シャルティアはそれを覗き込んだ。

 

 

 1、6つの選択肢が書かれたボードに現在地・現時点で乗車可能な、ナザリック公共交通機関優先で移動手段と視察先をリストアップ。

 

 2、どこに行くのかは運命のサイコロを振って決定。

 

 3、出た目に書かれた視察先が、たとえナザリックと逆方向であっても、そこに行かなければ次のサイコロは振れない。

 

 4、つまり、ナザリックにゴールするまでは常に視察し続けるという超過酷な罰ゲームなのだ。

 

 

 

「……ナザリックに戻れない?」

 

「そうだね」

 

「この罰ゲームとやらが終わるまで、ずっと?」

 

「そういうことになるね」

 

「ルプスレギナァ!」

 

 シャルティアが暇なのか、何かむしゃむしゃ食べ始めていたルプスレギナを呼びつける。

 

「なんすか、ナイムネ様」

 

「貴女、この事を知っていたんでありんすよね!?なんでそんなに平然としてられたんでありんすか!」

 

「やー、そうはいってもアインズ様が許可されたことっすからね、しょうがないっす」

 

 ぐぬぬ、とシャルティアは歯噛みするが、ナザリックに属する者にとってはぐうの音もでない正論だ。致し方なく怒りの矛先を変える。

 

「デミウルゴス!」

 

「なんだい?」

 

「まだ納得いかないことがあるから、質問したいんことがありんしが」

 

「ああ、シャルティア、すまない。もう時間だ」

 

 時間?とシャルティアの頭の上に?マークが浮かぶ。

 

「もうすぐ深夜馬車”どなどな号”の発車時刻だ。質問は次の視察先でお願いするよ。もしくは道中ルプスレギナに聞いてくれたまえ」

 

 

 ”深夜馬車”

 

 正式名称は魔導国立乗合馬車である。アンデッドの御者とソウル・イーターによって運行される乗合馬車で、その最大の特徴は馬車のメンテナンス以外常に運航している所にある。従来の乗合馬車は早朝出発し、街道を通って日が落ちる前に次の都市に到着する。当然夜間は運行していない。

 

 なぜか。

 

 それは単純に、夜間は街道であっても夜盗や魔物の襲撃等、大変な危険を伴うからである。その常識をあっさりと打ち破ったのが、魔導国立乗合馬車、通称”深夜馬車”なのだ。ソウル・イーターの引いている馬車を襲う頭のおかしい夜盗や、愚かな魔物がいるだろうか?正確には運行から1週間ほどはそんな馬鹿がいたが、1週間の間に全て駆逐された。これらの馬車の導入により、乗合馬車の料金は大きく値下がりし、魔導国内の移動が大変スムーズになった。これも魔導王陛下の御威光の賜物である。

 

 

 

 




時間切れ、ようやく旅の始まり


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オバロどうでしょう4

 深夜馬車「どなどな号」

 

 公的にはローブル聖王国王都から、魔導国オーク自治領首都を片道3日間で走破する馬車路線である。

 

 しかし一般的には知られていないが、実はオーク領首都を越え、ここ「みんなおいでよデミウルゴス牧場」までその路線は伸びている。なぜ、一般的にこの路線が認知されていないかと言えば、通常はこの間乗客を一切乗せないからである。この路線はオーク領にて、魔導国各地から集められた重犯罪者がを押し込めた貨物車が連結され、この牧場まで運ぶためのものなのだ。この路線の命名者がデミウルゴスであることは言うまでもない。

 

 

 

「屈辱でありんす……」

 

 深夜馬車「どなどな号」の車内にてシャルティアはいつもと比ベ、ずいぶんみすぼらしい姿で椅子に腰掛け揺られていた。髪も金髪に染められている。とはいえ、下級貴族の娘という程度の装いではあるのだが。

 

「まあまあ、これも罰の一種っすから」

 

 そういうルプスレギナもいつものメイド服ではなく、簡易な革鎧を身に着けた冒険者の様な格好をしていた。先程ルプスレギナから受けた説明によると、貧乏下級貴族の娘とその護衛という設定らしい。

 

「ナイムネ様と私が、いつもの格好で乗合馬車なんかに乗ったら大騒ぎになるっす」

 

 そう言われて用意されていた衣装に着替えさせられたのだが……やはりナザリック製でもない服を身に着けるというのは、耐え難い。

 

「そのナイムネ様って言うのは、どうにかならないでありんすか?」

 

「どうにもならないっすね。この度が終わるまではナイムネ様は下級貴族のお嬢様ナイムネ・フラット・トゥル・ペータン様、私は護衛のルプスーっす」

 

「一体誰だよ!そのムカつく名前決めた奴はぁ!」

 

「私が聞いたところによるとアウラ様っすね」

 

「あのチビがぁ!絶対許さねえ!」

 

「今は他に乗客がいないからいいっすけど……今のうち他に聞きたいことがあれば聞いておいてほしいっす」

 

 納得が全くいっていないシャルティアはルプスレギナに、それはもう質問した。今の質問を含めてわかったことは以下の通り。

 

 

 この罰ゲームの内容は、シャルティアを除く守護者がそれぞれくじ引きで決められた罰ゲームの内容に一つずつアイディアを出し、デミウルゴスがまとめ、立案したものである。各守護者の意見は以下の通り。

 

 アルベド:罰ゲーム期間

 

 自分の謹慎日数を踏まえ、30日以上。これは譲れません。

 

 アウラ :罰の内容

 

 罰ゲームの間は、あたしの考えた恥ずかしい名前で呼ばれることにしよう!

 

 マーレ :罰ゲームの形式

 

 アインズ様のお役に立つ内容なら……あ、ゲームですよね。じゃあ双六とか……止まったマスに書いてあることを順番にしていって、ゴールすれば終わりとか……?

 

 コキュートス:罰ゲームの形式

 

 身分ヲ隠シテ各地ヲ放浪シ、見分ヲ広メ精神修養ヲ行ウベキデハナイカ

 

 デミウルゴス:罰の内容

 

 魔導国内部の施設やシステムの監査をしてもらいたいかな。手が足りなくてね。

 

 ヴィクティム:罰ゲームの形式

 

 ぞうげ ときわ だいだい こくたん みずあさぎ くわぞめ うのはな たまご あおみどり ぞうげ そしょく ひ こげちゃ しんしゃ やまぶき だいだい あお ぼたん はい きみどり ときわ たまご やまぶき にゅうはく ぞうげ おうど ひ たまご ひ はだ ひと くわぞめ たまご ひ ぼたん はい だいだい あおむらさき たいしゃ (彼女一人ではかわいそうだし、不安なので誰か一人着いていく事、提案します)

 

 

「ヴィクティム……」

 

 シャルティアは各守護者の意見を聞いて、ヴィクティムの好感度を大幅に引き上げた。ヴィクティムマジ天使。アルベドとアウラ死すべし。あとマーレが地味に厳しい部分を提案しているような気がするあざとい。

 

「私とすればヴィクティム様のせいで、この罰ゲームに付き合わされるようになったわけっすが。まあ、そんでアインズ様にまとまった内容をデミやん様が提出したそうなんすね」

 

 

 ―――いや……これは罰ゲームじゃなくて、罰だろう。ゲームというなら、そうだな。こういう形でシャルティアにも定期的にチャンスを与えよ。

 

 

「そうおっしゃられて、サイコロ2回くらいに付1回ほどビッグなチャンスを設定するってことでご許可をされたそうっす。さっそく1回無駄になったっすけど」

 

「おお……さすがは慈悲深き我が愛しの、ぶべらっ!!」

 

 馬車がガタン!と1m弱振動し、流石のシャルティアも思いっきり舌を噛んでしまう。実はさっきから割とこの程度の揺れは起こっていたのだが、油断した。自分の牙なのでダメージ無効の効果が発動せず、口を押えて涙ぐむ。

 

「オーク領から先は道がそこそこ整備されてるって話っすから、そこまでの辛抱っすよ~」

 

「ほーくりょうはて、ふぁととのふらいてありんふか?」

 

 

 ルプスレギナが、シャルティアの質問に満面の笑みで答える。

 

 

「あと15時間ってとこっす!」

 

 

 



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ざ・ねすと
ざ・ねすと1


Gの話注意&G嫌いな人は題名を検索しちゃダメです


「……よかろう、許可しよう」

 

 

 ナザリック地下大墳墓玉座の間。そこに支配者たるアインズ・ウール・ゴウンが座り、そして滅多に現れない領域守護者が訪れていた。

 

「アインズ様、御温情ありがとうございます。では早速出立いたします」

 

 アインズの前で優雅に腰を曲げを礼を示しているのは。豪華な金縁の入った鮮やかな真紅のマントを羽織り、頭には黄金に輝く王冠をちょこんと乗せている約1尺ほどの蜚蠊である。片手には頭頂部に純白の宝石をはめ込んだ王杓を持ち、もう一方の手は左胸と思しき場所を抑えている。一番上部にある脚を手とするならばだが。

 

 玉座の間より退出していく階層守護者達を見て、アインズはため息をつく。アルベドが扉を開けて硬直しつつ報告した内容と、恐怖公の望みが合致してしまったため、断る事ができなかったのだ。なおアルベドはそのまま逃げるように去ったというか逃げた。

 

 

 彼の陳情の内容、それはー

 

 

「ふむ……これがナザリック大墳墓の外ですか、眷属を通して見ると自身の眼で見るとはまた違いますな」

 

 ナザリック大墳墓近隣、夜の草原を恐怖公が自分よりはるかに大きいゴキブリに乗って移動していた。るし☆ふぁー様より授かりし騎乗用ゴーレム・シルバーには及ばないが、それ以前に騎乗用として召喚していたジャイアント・アーマードモール・コックローチ”黒鎧号”である。

 

 その大きさ、実に2mにも迫ろうかという、彼の眷属でも最大級の巨体。大型眷属の標準が50~60㎝、かなり大型でも1mと聞けばいかに規格外であることかわかろうというものだろう。しかもその外皮は厚くそして固く、なまなかな金属鎧よりもはるかに強固である。当然ナザリック基準で。

 

「さて……我が眷属達が満足する獲物であればよいのですが」

 

 かつて西の魔蛇と呼ばれたナーガ、今ではトブの大森林の管理を任されているリュラリースよりの報告が上がってきたのはつい先刻の事、恐怖公がアインズにある陳情に訪れた時の事だった。 かつての東の巨人、グの親族がトブの大森林に現れたという内容で、リュラリースとその部下では手に余るので助力嘆願とのことだったが。

 

「これは我輩にとって正に僥倖。るし☆ふぁー様のご加護でしょうか」

 

 恐怖公の陳情内容は”外出許可”だった。聞けばナザリック大墳墓周辺にはトブの大森林なる豊かな森が広がっているという。よく誤解されるのだが、99%のゴキブリの住処は建造物内ではない、森なのだ。恐怖公は知能も高く、黒棺の領域守護者であるがやはりゴキブリ。森は故郷の様なもので、近くにあるのであればぜひ訪問したい。ゆえに恐怖公は陳情したのだ。しばし外に出て、森を闊歩したいと。

 

 最初、至高の御方アインズ様はずいぶんと悩まれている御様子だった。なぜかは自分でもわかる。自分は第2階層黒棺領域守護者。第一階層の転移罠の存在と合わせれば、ナザリック大墳墓の防衛最前線を守る者である。それが守護領域を留守にするというのはいささか問題だと思われたのだろう。

 

 だが、あの報告によって潮目が変わった。先だっての侵入者撃退の働きなどのねぎらいと言葉と共に許可を頂けたのは、やはりあの報告あっての事だと判断できた。

 

 無論、ナザリック大墳墓にも森は存在する。第6階層、アウラ様とマーレ様の守護階層である。あそこの大穴には同胞である餓食狐蟲王もいるので許されるのであれば毎日でも訪問したいぐらいなのだが、自分は階層守護者様方より、至高の御方の命令無くしての各階層立ち入りは禁止されているのだ。ゆえに、この任務達成後に許可された大森林での自由時間は恐怖公にとって至福の時となることが約束されていた。

 

「さあ、では急ぎますよ!黒鎧号!」

「ギイィィィィ!」

 

 恐怖公と黒鎧号が月明かりの下、草原を翔ける。

 トブの大森林へと向かって

 

 

 

 

 

第2ナザリックを管理しているアウラは(寝ていて)まだこの事を知らない

 




時間切れ


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ざ・ねすと2

引き続きGの話注意&G嫌いな人は題名を検索ダメゼッタイ


 

 かつて、西の魔蛇と呼ばれたリュラリースは目の前の蟲人――蟲小人?――を見て正直落胆していた。

 

「リュラリース殿、お初にお目にかかります。我輩は黒棺領域守護者にしてアインズ様の忠実なるシモベの一人、恐怖公。これは我輩の乗騎の黒鎧号、以後お見知りおきを」

 

「……では、恐怖公様がわしがお願いした援軍という事でよろしいのでしょうか?」

 

「そういうことになりますかな?」

 

 全長2mほどの巨大な蟲に乗った、30cmの王冠をかぶった蜚?小人が優雅に礼をしつつ、自信に満ちた声で問いに答える。リュラリースは自分の見立てが間違いであることを祈って、恐怖公に再び問いかけた。

 

「失礼ですが……恐怖公様は、その、わしの能力で見るに、わしや南の大魔獣”森の賢者”と同程度の強さかと思われるのですが……」

 

「ふむ、森の賢者という事はハムスケ殿の事ですな。確かに我輩、ハムスケ殿とは良い勝負ができると思っております。つまり貴公の見立ては間違っておりませぬぞ?」

 

「なんと……」

 

 リュラリースは肩を落としつつ、訝し気な恐怖公に説明をする。

 

「恐怖公様、今この森にやって来たのはかつてわしや南の大魔獣と争った東の巨人、グの奴めの兄弟3人とその一団なのです。グの兄弟は強い。わしの見たところその強さはグと同等、つまりわしや南の大魔獣、恐怖公様と互角の強さを持っていると思われます。一団はわしの配下で、1人はわしが抑えるとしても、残りは2人。うち1人を恐怖公様が倒されたとしても、1人残ります。これでは負けてしまいます」

 

「ふむ、それは厄介ですな」

 

 目の前の蟲小人が腕を組んで、考える姿勢をとる。見ていると実に奇妙な気分になる光景だが今はそんなことを気にしてる場合ではない。

 

「では……アウラ様に救援を求められては?いや、なぜ求められてないのですかな?」

 

 それができれば苦労はしねえ、とリュラリースは心中で毒づきながらも領域守護者と名乗った自分よりも地位の高いゴキブリに説明する。

 

「アウラ様は今お休みの時間でしてな。この時間に訪問したところ以前手ひどく叱られまして……それでプレアデス様に救援の使いを送ったのでございます」

 

「なるほど、なるほど……いや我輩も言ってから気づいたのですがご心配はいりませぬよ、リュラリース殿」

 

「それは……なぜですかな?」

 

「我輩が志願したとは言え、この判断を下されたのが至高の御方であるからですぞ?それよりも……」

 

 リュラリースが心配いらない、という言葉に僅かな希望を持った自分を呪ったその時、頭上より声が響いた。

 

 

「--見つけたぞ!蛇め!」

 

 

 リュラリースは慌てて声をした頭上を見る。そこには3mのもの巨体を誇るトロールが信じがたいことに樹上にあった。

 

「馬鹿な!こんな近くまでわしが気付かぬとは……」

 

「がはははははは!もう逃げられぬぞ!蛇ども!」

 

 トロールが口笛を吹く。その音は遠く夜の森の中に響いて行った。リュラリースは焦燥のなか、背後にいる恐怖公の声を聴き振り返る。

 

 

「……曲者が来ましたぞ?と言おうとしたのですが遅かったようですな」

 

 恐怖公は器用にも肩をすくめて、やれやれ、とポーズをとっている。

 

「――そういうことは!気が付いたら!すぐにいってくだされ!」

 

 リュラリースの悲痛な叫びも夜の森に響き渡った。




時間残して終了。こっちもなんだかんだで続きます。


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ざ・ねすと3

Gの心配はしなくていい感じです


「ふむ、確かにあのトロール、なかなかの手練れですな」

 

 事ここに及んでも、態度が変わらない蟲小人にリュラリースは本気で苛立ち始める。明らかに自分は判断を間違えた。たとえ睡眠を妨げた罰として、尻尾を持ってぶん回されることになろうとも、あの強大なるダークエルフの少女に助けを求めるべきだったのだ。こうなれば、アウラ様がいる滅びの建物まで逃げるしかない。

 

「恐怖公様!先程の通り、この戦力ではわしらが不利でございます!撤退いたしましょうぞ!」

 

「がははははは!逃がさぬと言ってるだろう!蛇!」

 

 頭上のトロールが笑い、樹上から決定的な台詞を放ってくる。

 

「お前らの後ろに兄者がいるのだ!逃げられぬわ!」

 

「な、なんじゃと?」

 

「そのトロール殿のおっしゃる通りですな、我輩たちの背後数十mにトロールの一団。あともう一団が北方より接近中ですぞ?」

 

 リュラリースは歯噛みする。先程もそうだが、このゴキブリはなぜそんな感知能力を持ちながら今の今まで自分たちにその情報を伝えないのか、なぜそんなに余裕なのか。見れば、蟲小人の言葉に部下たちも動揺し始めている。いかん、こうなればこのゴキブリも部下も置き去りにして自分だけでも不可視化で逃げるしか――と考えたところでリュラリースの脳裏にある考えが浮かび上がった。

 

 もしや、これはアインズ・ウール・ゴウン様のテストなのではないだろうか。この忌々しい蟲小人を送り込み、果たして自分がどう行動するかをどこかで見ているのではないか。

 

 リュラリースは自分の体温がざっと下がるような恐怖に襲われつつも、ありえる、と判断する。あの恐ろしい死の王はグ、をゾンビに変えた上、奴めの部下と自分の部下に人間の集落を襲わせた。だが、聞いたところによれば、それはプレアデスの御一人ルプスレギナ様へのテスト――試練だったという。あの戦いで自分の部下は半数に減ってしまったが、それでアウラ様の部下として生きながらえたのだから後悔はない。

 だが、つまりそれはアインズ・ウール・ゴウン様はたとえ被害を出してでも、そういう事をする御方だという事。それに、自分が試されているとすればこの蟲小人の先程からの態度にも合点がいく。どこかであの死の超越者が見ているとすれば、このゴキブリめの安全は保障されているのだろう。そういえば、先程言っていたではないか。ここに来たのは至高の御方の判断であると。

 

 そこまで考え、リュラリースは腹を括った。もしここで蟲小人――恐怖公様を置いて逃げ出せば、間違いなく不合格として自分は殺されるだろう。もしかすると死ぬだけでは済まないかもしれない。だが、このまま戦端を開くのは愚か者だ。そうしてる内に周囲から木々や草が薙ぎ払われ、踏みつぶされる音がして2体のトロールが姿を見せた。

 

「ぐわっはっは!久しぶりだな!蛇!」

 

「ふはははは!どうやら揃った様だな?」

 

「……久しぶりじゃな、ガ・ガラ、ゲ・グリよ」

 

 兜以外の全身鎧を身に着け大剣を背負ったトロールと、全身に様々な装飾品を付けたトロールを見てリュラリースは名を呼ぶ。長兄のガ・ガラ、4男のゲ・グリ、そして次男。

 

「お主の名も思い出したよ、ギ・ドン……それで?この儂”西の魔蛇”リュラリュース・スペニア・アイ・インダルンに何の用じゃ」

 

「がはははは!相変わらず情けない名だな、蛇!」

 

 リュラリースの問いかけに樹上よりギ・ドンが飛び降り、部下を包囲に残してガ・ガラ、ゲ・グリが動き3人で自分たちの正面に立つとガ・ガラが一歩前に出て話し始める。

 

「蛇よ!お前が小さな影とやらと手を組んでグ、を殺したという話は聞いている!」

 

「……つまり、お前さん方は敵討ちに来たというわけか」

 

「ぐわっはっはっは!違うな!グ、が死んだのは奴が弱かったからだ!弱い奴が死ぬ、これは当然のこと、だが!」

 

 ガ・ガラが笑い、大剣を抜き放つ。

 

「グ、はこの俺、ガ・ガラが倒し名を縮める筈だった!だがグ、はもういない!だからグ、を倒した貴様と小さな影を倒し名を縮める!そして南の大魔獣も倒し、俺が東と西、南と北を統べる王、ガ、となるのだ!」

 

 そこまできたら森の王でいいじゃねえか、とリュラリースは心の中だけで突っ込みつつ、このガ・ガラがグ、よりも頭が悪かったことを思い出す。チラと後ろの2人を見ると今の言葉に不快を憶えているようだ。こやつらは常に自分が一番強いと思っておった筈、ならばなんとか仲違いさせて―――

 

「失礼、よろしいかな?我輩は恐怖公と申します。御三方にお聞きしたいことがあるのですが」

 

「キョウフ・コウ!ぐわっはっはっは!マメチビの割には良い名だな!いいだろう!」

 

「先程から御三方はよく笑われてますが、あれですかな。ウォー・トロールというのは、喋るたびに笑わないと死んでしまったりするのですかな?」

 

「「「貴様ぁ!!!!」」」

 

 恐怖公の馬鹿にでもわかりそうな挑発に、リュラリースは頭を抱えた。

 




時間切れ。120分とかやってしまったせいでペースが狂った模様。

リュラリースには腕がありますよ……ありますね。修正いたしました。


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ざ・ねすと4

題名詐欺の様にGが出てきません。


「このマメチビが!叩き潰してやる!」

 

「ほっほ、あなた方に果たして可能ですかな?」

 

 ガ・ガラの言葉に対し、さらなる挑発をする蟲小人にリュラリースは本気で殺意を覚えたが、自身の手で味方の戦力を削るほど愚かな行為はない。幸い、多少の距離がある上に馬鹿なトロール共は自分たちの前方に集合しているのだ。かくなる上は、危険だが自分がギリギリまで殿を務めてこやつらを抑えつつ、部下に背後の包囲を突破させアウラ様の元までたどり着くしかない。

 

 

「お前達!儂と恐怖公様で時間を稼ぐ!全力で背後の者どもを食い破り、滅びの建物までたどり着くのだ!」

 

「なるほど、そういう作戦で行くのですな。了解いたしました」

 

「蛇が!逃がさんと言っているだろう!ギ・ドン、ゲ・グリ!そいつ等を殺せ!」「おうよ!」「……おお」

 

 

 ゴキブリの全く緊迫感の無い口調に怒りが再燃するが、もはやそんなことを気にしている余裕はない。同格の戦いとなれば時間を稼ぐのだって命がけだ、この蟲小人をかばう余裕はない。だが、見捨てたのではなく共に戦った結果、この蜚蠊人が命を落としたのであれば、おそらくあの御方から命を奪われることはないだろう。リュラリースはそう判断し、己が持つ最大最強の攻撃魔法を、向かってくる2匹のトロールに向けて解き放った。

 

「この西の魔蛇を甘く見るなよ!<マキシマイズマジック・ライトニング/魔法最強化・雷撃>!」

 

「おっと!」「ぎゃわっ!?」

 

 ギ・ドンがこちらの動きを察知し、素早く飛びのいた。だが、後に続いていたゲ・グリは視界を半端に塞がれていたためか、もろにその胸板を雷撃が貫き――煙を上げて、その場に崩れ落ちる。

 

「なんじゃと!?」

 

 リュラリースは己の放った魔法の結果に戸惑う。確かに今放った<マキシマイズマジック・ライトニング/魔法最強化・雷撃>は全力を込めた魔法だが、グ、であればあの魔法一発ではとても仕留められない筈。おかしい、あまりにもあっけなさすぎる、と警戒をするがゲ・グリの姿は茂みに沈んでしまいこの距離からでは見ることができない。

 

「おお!リュラリース殿、なかなかやりますな!」

 

「ばかが!所詮弟か!蛇の魔法如きにやられるとは!」

 

 動かなかったガ・ガラが怒声を上げ、こちらに向かってくる。視線を動かすとギ・ドンは幸運なことに恐怖公を獲物と定めたようだ。距離があるうちに戦闘態勢を整えなくては。

 

<マジック・アーマー/魔法鎧>

 

 己の身を不可視の力場が包む。ガ・ガラが音を立てながらこちらと距離を詰めてくるが、遅い。あの鎧には軽量化や移動を強化する魔法はかかっておらぬようだ。

 

<クィック・マーチ/早足>

 

 己の移動速度が上昇する。ガ・ガラが走りながら背中の大剣を抜き放った、ギラリと月光に反射した刀身の輝きからマジックアイテムだと推察できる、面倒な。

 

「蛇!そこを動くな!」

 

 

 ガ・ガラの戯言にかまわず、リュラリースは魔力を練り上げ、再度己の最強魔法を発動させる。

 

 

「それで動かぬ阿呆がいるものか!<マキシマイズマジック・ライトニング/魔法最強化・雷撃>!」

 

「ぐなっ!?」

 

 馬鹿正直にまっすぐ突っ込んできたガ・ガラに雷撃が突き刺さり、声とともにその動きが一瞬だが確かに止まった。だが

 

「ぐわっはっはっは!大したことはないな!」

 

 動きが止まったのは本当に一瞬で、ガ・ガラは再びリュラリースに迫る。だが、それまでについた勢いは大きく減じていた。

 

「まあ、そうじゃろうな!」

 

 リュラリースもあの魔法でガ・ガラが倒れるとは思ってはいない。ダメージは0ではないだろうが、記憶の通りであればこのウォー・トロールの長兄は、あの兄弟で一番大きく、強靭な肉体を持っているのだ。強化した移動速度を用いて、そのわずかな間に恐怖公や部下たちからガ・ガラの視線が外れるように位置を変えると、再び魔法を放つ。

 

「こっちじゃ、ガ・ガラ!<レイ・オブ・スコーチング/灼熱の光線>!」

 

 リュラリースの左右の手から2本の真紅の光線が放たれる。一方はガ・ガラの顔、もう一方は少し遅れてガ・ガラの胸に照射される。ガ・ガラは足を止め大剣で顔を守ったが、当然胸にはもう一方の光線が突き刺さる。鎧の中心が赤熱化し、ガ・ガラの顔が歪む。

 

「ぐおお!うっとおしい!ちょこまかと逃げ回るな蛇!」

 

「だから、それで逃げるのをやめる阿呆はいないじゃろって!」

 

 リュラリースの目的は宣言の通り時間稼ぎである。ガ・ガラを倒すのに躍起になる必要はない。逆にいえばガ・ガラはリュラリースを執拗に追い回し続けることもないのだ。彼が恐怖公やリュラリースの部下の方に向かえば、リュラリースは逃げ回ることはできなくなるのだから。

 

 ガ・ガラ。ウォー・トロール兄弟の中で一番大きく、最も強靭な肉体と再生能力を持つ長兄である。その筋力は純粋な力比べであればグ、に負けることは一度としてなかったほどだ。だが、その頭脳はウォー・トロールとしてもはっきり言って悪く、兄弟で最も劣る。それでも通常のトロールと比べればましなのではあるが。

 

「阿呆と言ったか!蛇!叩ききってやる!そこを動くな!」

 

「……本当にこやつが相手で助かったかもしれぬわい」

 




時間超過。こちらもタイトル詐欺になりつつあります。


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ざ・ねすと5

作者に書く意思がある限り、エタってないってえろい人が言っていた。


(くう、まさか中弟が一撃で沈むとは)

 

 ギ・ドンは蛇の雷撃を避けた後に後ろで悲鳴が上がり、倒れ伏す音を聞いて舌打ちする。その後に音は聞こえないという事は気絶したのかもしれない。中弟は母が違う弟だが、兄者や自分よりも頭がいい。だが、反面身体は小さく、昔から軟弱だと思うことはたびたびあった。だから自分が先行したのだが、反射的に魔法を避けてしまった。死んではいないだろうが、魔法によるダメージは治りが遅いし、再生しないこともある。はやく手当てをしてやらねば。

 

「ばかが!所詮弟か!蛇の魔法如きにやられるとは!」

 

 鋭敏な耳が、ガ・ガラ兄者の怒声と足音を捉える。蛇に向かっていくようだ。位置関係を素早く把握する。蟲小人が側面に回ってきたため、蛇に向かえば背後をとられる位置だ、ならば

 

(さっさと片付けて兄者に加勢する、それが一番いい形だろう)

 

 そう判断し、樹上よりそちらに向き直ると、生意気な口を叩いた蟲小人が右手の先をくいくいと動かしているのが見えた。

 

「おっと、ウォートロールには意味がわかりませんか?かかってこい、と言う意味です」

 

「貴様!」

 

 樹上より生意気な蟲小人を睨み、弓を瞬時に構え、続けざまに三本の異なる毒矢を放つ。機械の様に正確な動きでなければ、実現不可能な技だ。蟲小人は反応できないのか棒立ちのまま。己の矢速から考えれば、今の時点で回避行動をとっていないのは致命的だ。

 

(やはり魔法詠唱者だったか、馬鹿め!)

 

 同じ種族でも魔法詠唱者であれば、大きく身体能力は下がる。僅か30センチほどしかない的だが、ギ・ドンは全ての矢が命中することを確信していた。

 

 ギ・ドンはウォー・トロール兄弟の中で一番俊敏で器用な次兄だ。そして驚くべきことに、銀級冒険者のレベルで野伏のクラスを取得している。

 

 放浪している時、魔物を倒していた人間の冒険者たちを見かけたギ・ドンは興味を持ち、その夜に捕まえて話を聞き出した。捕まえる過程でただ一人を除いて殺してしまったが、残った人間は<武技>の存在に興味を持ったギ・ドンに対し、それならば自分の持つ野伏の技術や<武技>を教えるから喰わないでほしい、と取引を持ち掛けてきたのだ。

 

 ギ・ドンは了承した。

 

 それから3年の間その人間と生活し、技術を習得する日々を送った。結果、ウォー・トロールでも抜きんでて器用なギ・ドンは優秀な野伏となったのだ。自分よりも弱かったが、全ての技術を教えたと彼に言った人間。その最後の日にギ・ドンはその人間を強き者と認め、感謝と共に己の血肉とした。

 

「殺った!」

 

 だが次の瞬間、棒立ちの蟲小人は”そのままの姿勢で真横に動き”必殺の矢を全て回避する。

 

「ほほう、頭・胸・腹にそれぞれ一本ずつですか、見事な腕です。しかし狙いが正確だと避けるのも容易いですな」

 

「馬鹿な!?俺の射を見切っただと。ならばこれはどうだ<疾風加速>、<風切>!」

 

 武技を用いて、3本の矢をほぼ同時に放つ。更に、放たれた矢はありえぬことに、空中でさらなる加速を見せた。

 

「無駄です。その程度止まって見えますな」

 

 しかし、やはり蟲小人は直前まで棒立ちのまま、矢をギリギリで回避する。

 

 昆虫は、通常の人間や動物――ここでは亜人や獣型の魔物も含む――とは根本的に構造が違う。たとえば眼。昆虫の持つ複眼は細かい数千から数万個の眼が寄り集まった器官である。その特徴として、単眼レンズである生き物に比べ視認できる距離は短くなるが、動体視力は数倍以上に達し、発射された銃弾をも視認可能なのだ。当然、ユグドラシルではそのような事は全く考慮されてはおらず、全てはステータスに従って処理されていた。だが、はたして”ここ”でもそうなのだろうか?

 

「……どうやら見た目と違って、相当な強者のようだな。いいだろう、お前を強者と認めてやろう。蟲は好みじゃないが……貴様を喰ってやる」

 

「ほう、大きく出ましたな。吾輩を食べると?では……」

 

 蟲小人が、言葉と共にゆっくりと両腕を上げた。

 

 

 ザワッ

 

 

 まるで森そのものが声を発したかのように、全ての方向から音が鳴る。ギ・ドンはその時、戦慄と共にあることに気がついた、気がついてしまった。

 

「相手を食べると宣言したからには――」

 

 木々の幹が蠢き、枝から葉が離れ、地面が脈動する。地面が盛り上がり、両手を上げた蟲小人が”そのままの姿勢で”樹上にいる己と同じ高さまで持ち上がった。

 

「――食べられる覚悟がおありですな?」

 

 自分自身が無数の蟲の群れの中にあり、蟲小人がこの群れの”王”であることを。

 




題名が変わりましたので、時間は計っていません。


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バー・ナザリックにて
ちなみにビッチである


「――ちなみにビッチである」

 

「え……?何これ?」

 

 幾ら何でもひどくないか?そんな思いがモモンガに生まれた。

 

「うーむ、これはひどい、変更するか消去しよう」

 

 ギルド武器をかざし権限を行使しようとしたその時、かつての友タブラ・スマラグディナのアバターとリアルでの姿がふっとよぎった。

 

 

「……でももうすぐ終わりだしな、このままでいいか」

 

 

 ――そして終わりが来て世界が始まった。

 

 

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンは悩んでいた。アルベドの言動や行為が目に余るのだ。そしてそれを目にするたび、なぜあの時やめてしまったのかと後悔する。

 

「ああ……私はここで初めてを迎えるのですね」

 

「お風呂の前にアインズ様と一緒に汗をかきたいのですが」

 

「あれほどのお言葉を聞いて胸に炎がともっております、お腹もキュンキュン来ていますですのでアインズ様ぁ」

 

「アインズ様あああ!!(がばー)お情けを少しもらうだけです!天井のエイトエッジアサシンの数を数えてる間に終わりますから!」

 

「おぎゃー」

 

 最後は何か違う気もするが、アルベドの様々な行動が一気に思い出される。

 

「ううう……男風呂には一緒に平気で入ってこようとするし、部屋で2人になると変に迫って来たりするし……マーレが同じ部屋にいても俺を押し倒すとか絶対おかしいよ」

 

 

 しかも最近気が付いたことだが、部屋の物の位置とかが微妙に変わっていたり衣裳部屋に誰かが入ったような形跡があるのだ。自分の気のせいかもしれないが想像が当たっていたとしたら……

 

 

「あー!なんで!あの時!俺はアルベドの設定を直すか何かしなかったんだあああああー」

 

 

 

 

 場所は変わって第9階層 副料理長がマスターを務めるバー・ナザリックに数人の守護者が集まっていた。扉には貸切を示す札がかかっている。

 

 

「……あんのオバハン、いまだに廊下ですれ違うたびに嫌味を言ってくるんでありんすえ、私も当然、今でもしてはならないことをしてしまったと悔いてるでありんすが、あそこまでチクチクチクチク嫌味を言い続けられると堪えるでありんす……」

 

 既にカウンターに頭を乗っけているシャルティア。

 

「私モ似タヨウナモノダ、シャルティア。ワザワザ休日ニ私ノ階層ニキテマデ「武器ノ鍛錬モイイデスケド、兵法ノ勉強ハサレテルノカシラ?」トイイニクル……」

 

 そのシャルティアの肩を叩きつつも、自分も肩を落としているコキュートス。

 

「本当は、こういう事を言うべきではないのですが私……というよりツアレに対してアルベド様は一般的にはその……女性同士のいじめの様な行為をされてるようですな……」

 

 眉間にしわを思いっきり寄せたセバス。

 

「うーむ、私が思っていたよりも、ずいぶんひどい様だねえ。統括殿は」

 

 そして、今日ここを無礼講の慰労と言って貸切にしたデミウルゴス。

 

「ひどいとかじゃないでありんす!もう!いやでありんす!」

「確カニワレワレハ失態ヲオカシタ。ダガ、アインズ様ナラトモカク、アルベドニアソコマデ言ワレルノハ、私モタエラレン」

「私に言いたいことがあるなら、せめて私に直接言ってくださいと言いたいですな、ツアレが止めるから我慢していますが……(ぐいっ)」

「まあ、私も皆と同じ思いだよ。横から説明を持っていくとか……まあ色々されているからね。同じ守護者、しかも上位に設定されているアルベドにこんなことは言いたくないが……」

 

 

 ――本当に嫌な女だ!

 

 

 大錬金術師タブラ・スマラグディナ。ギャップ萌えとホラー映画とTRPGと各種神話をこよなく愛する蘊蓄野郎にして設定厨。彼には一つ、ギルドメンバーが知らないことがあった。秘密でも何でもないことだが、彼は仕事で日本に在住しているが日系米アーコロジー人なのであった。

 

 アメリカにおけるビッチの用法は社長の愛人になって威張り散らしたり、上司に媚び部下に辛辣に当たるお局の様な女のこと。

 

 つまり、嫌な女の事であることをアインズこと鈴木悟は知らなかった。




2分位オーバーした……ような気がする。途中でいったん席を離れたからロスタイムってことにならないだろうか。


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お見合いデミさん

今回は120分勝負です。守護者同士の恋愛とか、そういうのがアウトな方は読まないでください。


 第9階層 副料理長がマスターを務めるバー・ナザリック。そのカウンターには、ここの常連としてよく見られる2人の守護者の姿があった。

 

「コキュートス、君はエントマの事はどう思ってるのかね?」

 

「エントマ、カ」

 

 その1人、コキュートスはグラスに鋭い口吻を付け、一口飲む。

 

「幾度カプレアデスト戦闘訓練ヲシタガ、流石ハ我々ト同ジク至高ノ御方々ニ創造サレシモノダ。メイドトハ言エ、高レベルノ戦斗能力ヲ相当ナ練度デ使イコナシテイル。特ニ、エントマハ符術ト召喚ノ2ツノ技術、蜘蛛人トシテノ特殊能力ヲ組ミ合ワセタ戦術デ、非常ニ状況対応力ニ優レテイル。故ニ、エントマヲ作戦行動ニ従事サセタ判断ハ間違ッテハイナイト思ウガ、ヤハリ後衛職デアル彼女ヲ、前衛無シデ戦場ニ出スベキデハナカッタノデハナイカ?」

 

 コキュートスはつい先ごろ、デミウルゴスが指揮した人間の都で行われた大規模な収奪作戦で出撃したエントマがかなりの負傷をした、と聞いていたため、自分が思っていたことをデミウルゴスに伝える。

 

「すまない、コキュートス。そういう意味で聞いたわけではないんだ」

 

「ム?ドウイウ意味ダ?」

 

「いや……そうだね、君が子供をつくる相手として、エントマをどう思うか、という意味だったんだがね」

 

 ブッと音を立ててコキュートスの口吻から酒が逆流する。

 

「副料理長スマナイ、粗相ヲシタ……デミウルゴス!」

 

「なにかね?」

 

「……プレアデス、イヤ、プレイアデスモ、アインズ様ノ后候補ト言ウ話ダッタダロウ、ナゼソンナ話ニナルノダ」

 

 男性守護者のみでの話し合いの際に、アインズ様の后候補としてアルベド、シャルティアの他にプレイアデスも候補として考えるべきでは?と発言したのは他でもないデミウルゴスだ。

 

「その話なのだがね……あれからの状況を見るにプレイアデスと言っても候補と言えるのはナーベラル位で、可能性があったとしても、後はシズか末娘位ではないかと考えを改めてね」

 

「ム?ドウイウコトダ?」

 

「アインズ様のプレアデスに対する対応を見ていてね……ナーベラルはモモンとして活動される時にずっと連れ歩かれているだろう。我ら守護者を含めてもナザリックで最もアインズ様と共に過ごすことを許されているのはナーベラルだと言っても過言ではない。むしろ統括殿やシャルティアより、本命と考えてもよいのかもしれないと思ってるくらいだ」

 

「タシカニ……アインズ様ヲ守護スル任ニツイテイル、ナーベラルハ羨マシイ限リダ、ダガ、何故ソレデ他ノプレイアデスガ候補カラ外レルコトニナルノダ」

 

「ユリはナーベラルと同じく、外に連れ歩くには適した外見を持ってるにもかかわらず、ナザリックに詰めたきりだし、ルプスレギナも別の任務に従事させお連れになられていない。ソリュシャンも同様で、セバスのお付のままだ。それでも彼女たち個別の任務を直々に与えられたことが何度かあると聞いた。エントマに至っては一度もお連れになられていないし、直接指令を出されたという話も聞いていない」

 

「ダガソレハ……ソウダ最後ノ部分ハ、エントマダケデナク、シズ・デルタト桜花領域守護者モ同様ナノデハナイカ?」

 

「シズ・デルタはナザリック全てのギミックと解除法を網羅している最高機密の塊だ。単独任務や連れ歩くなどという事はシャルティアの一件が無くともなさらないだろうし、末娘殿はあのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの守護及びナザリック全ての転移門を管理している、ナザリックから動かすことはできないだろう。そも、これ程の重要な任務を任されていること自体がアインズ様に信頼されているという証にほかならぬと思うがね」

 

「ヌウ……」

 

 確かにデミウルゴスの話は筋が通っている。いや、そもそも自分が思いつくようなことをデミウルゴスが見逃すはずはないのだ。だがコキュートスは、何故か自分がデミウルゴスに反撃のをすべく糸口を探っていることを不思議と思わなかった。だが容赦なくデミウルゴスの話は続く。

 

「アインズ様の后候補から外れるとなれば、次に強者たる子をなせるとすれば我々守護者という事になる。マーレは幾ら何でも若すぎるとしても、君の相手のことはナザリックの未来のために早急に考えておくべきだろう」

 

「ソノ理屈デイケバ、デミウルゴス、オ主モ考エニ入レルベキデハナイカ?」

 

「いくら私でも自分のそういう事を客観的に考えるのは難しい、そうは思わないのかな?」

 

(ソノクライ、オ主ナラ容易ダロウ)

 

 即座にそう言い返したかったが、自分にできないことをお前ならできる、と他者に面と向かって言うのは武人気質のコキュートスには些かためらわれた。その躊躇いを隙とみられたのかデミウルゴスが畳みかけてくる。

 

「考えても見給え、アインズ様の御子……不敬かもしれぬが仮に若様としよう」

 

「若様!」

 

「古来、主君の跡継ぎには御守役である家臣、君が爺と呼んでいるものだね、の他に」

 

「爺!」

 

 自分の台詞を途中で切られたデミウルゴスが間を計り、続ける。

 

「幼き頃から共に育ち、主君を支える近習という家臣達がいたそうだ、コキュートス、考えてみたまえ、その光景を」

 

「オオオ……」

 

 コキュートスの脳裏に鮮明な情景が次々と流れる。若様の誕生――自身の息子と共に若様を鍛える日々、仮の自身の息子の腕が6本ある事には気づいていないようだがーー成人した息子に主従としての心得を言い渡す自分――玉座に座る若様と、その横に立つ息子、それを感慨深く見る自身の姿――若様に跡目を譲った至高の御方と共に自分達の栄光の過去と、若様と息子の未来を語る自分――

 

「コキュートス、コキュートス、戻ってきてくれないか?」

 

「ハッ……スマナイ、最近休日ニモ瞑想ニ耽ル事ガ多クテナ、深度ガ深カッタヨウダ」

 

 迷走の間違いではないかい?という言葉をデミウルゴスは吞みこみ、話を続ける。

 

「素晴らしい光景を見たようだね、ではどうかな?別にすぐの話ではないが前向きに考えることは出来そうかい?」

 

「……イヤ、ヤハリ無理ダナ」

 

 デミウルゴスがその宝石の眼を意外そうに見開く。

 

「ワタシモ、確カニソノ光景ニハ心躍ッタ。ナザリックノ未来ヲ考エレバデミウルゴス、オ主ノ提案ヲ前向キニ考エルベキナノカモシレヌ。ダガ私ハ、ソウイウコトハ利益ノタメデハナク、モット感情ノ部分デ考エルベキナノデハナイカト思ウノダ。ソレニ」

 

「それに?」

 

「同ジ至高ノ御方々ニ創造サレタノダ、本来我々ハソノ意味デハ平等ノ筈。エントマニモ選ブ権利ガアル、違ウカ?」

 

 デミウルゴスがじっとこちらを無言で見つめてくる。コキュートスは自身の言葉がナザリックの利益よりも、自身の感情を優先した発言であり、その理由づけに恐れ多くも至高の御方々を引き合いに出してしまったことはわかっていた。

 このバーで話すことは基本的にはお互いの胸の内に留めるのが暗黙のルールではあるが、それは至高の御方々への不敬は当然含まれない。心中に冷や汗が流れるのを感じつつコキュートスもその視線を受け止める。2人の視線だけが交錯し、しばし時間が過ぎた。

 

「……いや、すまなかったな。私も早急に過ぎた、今の話は忘れてくれ給え」

 

「オ主ガ、ナザリックノ未来ヲ常ニ考エテイルノハ私モ理解シテイル、今ノハ私ニ非ガアル。コチラコソ、スマナカッタ」

 

 その後は2人ともその話題には触れず、いつものように至高の御方々への尊敬と女性守護者への少々の愚痴で会合は終わった。バーにはデミウルゴス1人が残っている。これは珍しい事ではなく、階層が近いデミウルゴスはいつも会合が終わったあとも少しバーに残るのが習慣だったのだ。

 

 

「……と、いうことだがエントマ、君の選ぶ権利というのはどうなのかね?」

 

 

 デミウルゴスは誰に聞かせるでもなく、そう呟くとバーから退出していった。

 

 



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余談
がんばれニグンさん 


オーバーロードアニメ4期及び某食堂2期放映を勝手に祝して


 不気味な仮面を被り闇から作られた糸で織られたのではないか、と思うような漆黒のローブを纏った魔法詠唱者と、暴力を凝縮したかのような黒い全身鎧の騎士が己を見下ろしている。魔法詠唱者が声に楽し気な響きを含みつつ、つぶやいた。

 

「ふふふ……またこんなことを言うとは思わなかったが……確かこうだったな」

 

 冷えた金属の棒が幾本も突き刺されたかのような恐怖。命乞いをしようと声を出したいのに全く声が出ない。涙が流れ、全身が震えて力が入らない。

 

「憐れだな」

 

 やめろ、やめてくれ、その先の言葉を紡がないでくれ、下さい、お願いします、私に出来ることは何でもしますから。だがその言葉を紡ぐための器官である喉も口も全く動かない。

 

「せめてもの情けだ、苦しまぬよう一撃でその身を滅ぼしてやろう」

 

 魔法詠唱者が持っていた杖を構え――――――

 

 

 

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 

 

 陽光聖典隊長であるニグン・グリッド・ルーインは、大きく声をあげ飛び起きた。荒い息を吐いた一瞬の後、左右に顔を動かしすぐさま全身の状態を確認する。四肢は自由に動く……拘束はされていない。手で顔や頭を触って確認する。顔のパーツで欠損している部分は無い様だ。

 

「い……生きてる?私はまだ生きてるのか?はっ……ははは」

 

 命を失っていないことに思わず安堵し笑みがこぼれる。ニグンは実行部隊の隊長に任命されるだけあって、比較的強い信仰と理想を持ってはいたが、同時に現実主義者である。

 

 たとえどんな能力や地位をもっていても、死ねば終わりである。人類の為に戦えるのも命あっての事。確かに法国には神官長をはじめとして、蘇生魔法を使える者が儀式魔法まで含めて幾人かはいる。

 だが蘇生の魔法には術者の他に状態が良好な死体、高価な触媒の両方が必要であり、己の任務の性質から考えれば命を落とした場合、蘇生魔法の行使が可能な確率はかなり低い。

 それゆえにニグンは常日頃から隊の鍛錬や情報収集を熱心に行い、任務の成功率を高める努力を怠らないよう努めてきた。

 

(だというのに、なぜあのような……こ、と、に)

 

 脳裏に死が顕現したとしか思えない恐ろしい魔法詠唱者と漆黒の騎士、悍ましき不死竜の姿が蘇り恐怖に身震いする。囚われの身ではあろうが最後に見た光景を考えれば、命があるだけで望外の幸運と言えるだろう。

 

「さ、さてここは一体……やはり監獄……なのか……?」

 

 恐怖を振り払うように意識して声を出し、ニグンは遅まきながら状況確認を行う。自分が居るのは薄暗く、あまり広くない部屋だ。装備は全て取り上げられているようで、青と白の縞模様の見慣れない衣服を着せられている。ただ自分の為にしつらえたとしか思えない程体になじんでいることから、何らかの魔法がかかっているマジックアイテムだと推測する。

 

 拘束されていないことと併せて考えると逃亡防止用の感知魔法、もしくは拘束用の魔法が込められている可能性は高い――そこまで考えた所でニグンは違和感を感じ、即座にその原因を突き止めた。自身が寝かされていたのは背もたれも肘掛けも無い、長椅子のような家具だ。だがよくある板張りではなく、手触りの良い布張りの中にかなりの厚みと柔らかく弾力のある詰め物がされている。まるで貴族の寝具のような……いやこちらの方が心地よいかもしれない。

 

「…………?」

 

 己が置かれているであろう立場からかけ離れた品に不信を感じつつ、注意深く部屋を見回す。天井から突き出た突起からろうそく程度の淡い光が放たれており、室内をぼんやりと照らしている。音や熱を感じないので、まず間違いなく魔法の明かりだろう。壁・床・天井の材質は不明だが、表面に目立った凹凸や汚れや痛みも――不自然な程に――なく真新しく清潔だ。そう、まるで建てられたばかりのように。

 

 違和感はますます強くなり、ニグンが室内をより詳しく確認せねば、と椅子から降りようと体の向きを変えたその時、視界の端に動くものを捕えた。先程感じていた恐怖がぶり返し、慌ててそちらに身体の向きを変え身構える。見れば暗い部屋の奥に小窓がありその向こうで、おそらくは人影が動いたのが見えた。

 

「何者か!」

 

 誰何の声が部屋に反響するが、小窓の向こうの影は動かない。ニグンは身構えたまま、相対している影に気がつかれぬよう注意しつつわずかに前進を開始する。その時、影もまたわずかに動き、ニグンは小窓の正体に思い当たる。

 

(……鏡像か?)

 

 確認のため構えた手を左右に少し動かすと同時に影が動く。それでも注意しつつ近寄ってみると、確かにそこには鏡があった。気が抜け、鏡像に怯えたという事実がニグンの口から自嘲をこぼさせた。

 

「ふっ、情けない……仮にも聖典の隊長である私が鏡像に怯えるとは……む?」

 

 ニグンは鏡をじっとみつめた後、表面を軽く指でなぞった。軽い驚きが目に現れる。そのまま指を鏡をなでるように動かすと、その驚きは深まった。鏡の表面は滑らかであり、凹凸が全くなかったのだ。歪みの少ない鏡は手鏡であっても貴族階級や商家であればともかく、都市部の中間層程度ではあまり所持していない位には高価な品である。窓並の大きさで全く歪みが見当たらない精緻な鏡ともなれば、一級の工芸品と言っていい。ニグンにもどのくらいの値が付くか判断がつかない代物だ。

 

 己が置かれているはずの境遇や、部屋の雰囲気と全く釣り合わない品物の発見でニグンは混乱する。さらなる手がかりを求めるように周囲を見回すと、鏡のすぐそばに洗い場とニグンもよく知るある装置が目に入った。

 

「蛇口……水道が引いてあるのか。まさか湧水の?いやそれは流石にないだろうが」

 

 ニグンは自らの知識にあるかつて神がもたらしたと言われる技術とマジックアイテムの名ををつぶやいた。蛇口は水道の末端につけられる開閉装置、水道は湧き水や川などの水を溝や管によって引き込み配分する仕組みだが、都市部ならともかく郊外の町や村にはまずない。

 大都市や要所である城や砦は無限の水袋(インフィニティ・ウォーターバッグ)や湧水の蛇口(フォーセット・オブ・スプリングウォーター)等を利用した水源が水道や井戸の他にも設置されているのが普通だが数は限られている。なにせマジックアイテムは高価なのだ。

 

「永続光の明かりに工芸品級の鏡と貴族の寝台、水道が引かれている個室、か」

 

 監獄とばかり思っていたが、部屋に備え付けられている設備は装飾は皆無だがマジックアイテムを含め高価な品ばかりだ。あらためて意識すると何らかの魔法が働いているのか、室内は適温に保たれており実に快適で、ここが実は貴人の部屋と言われても納得できる程だ。ニグンの頭にもしや自分は思っているよりはるかに良い状況にあるのではないか?と言う甘い期待が芽生えかけた。

 

「……いや」

 

 その考えを振り払うと室内の探索を再開する。最初に居た長椅子から見えない位置に扉がひとつあったが、開けるとごく狭い小部屋の中央に穴が空いた椅子があるのみであった。これは明らかに不浄場、となるとこの部屋には外部に繋がる扉は無い事になる。ならばやはりここは監獄で部下たちも同様に捕らえられていると考えるべき。そう判断し伝言や感知などの魔法を発動させるか逡巡していると、どこからか突然声がした。

 

「目覚めていましたか」

 

「!?」

 

 ニグンは声のした方向から咄嗟に距離をとり、振り返る。先ほどまで壁であったはずの場所に格子が出現しており、その向こうに美しい女が見えた。今まで見た中では最も美しいと言ってもいいかもしれない。思考がその女の容姿に持っていかれそうになるが、ニグンの冷静な部分が警告を鳴らす。いつ壁は格子に変わった?さらに言えば女の足音はおろか、気配も何も感じ取れなかった、と。

 

「初めましてボk……私はユリ・アルファ。至高の御方アインズ様に仕える戦闘メイド、プレアデスの1人です。貴方の様子を確認するよう申しつかりました。以後お見知りおきを」

 

 

「ア、アインズ・ウール・ゴウン!……様!のメイドとおっしゃられたな、ユリ・アルファ殿。よろしければ私の境遇をお教え願えないでしょうか?」

 

 魔法詠唱者の名前をうっかり呼び捨てにした瞬間、女からあの漆黒の騎士と同質の殺気が噴出したことに威圧され慌てて敬称をつけ、その後敬語になってしまったのが今さらもう恥でもなんでもない。戦闘メイドなどという不可解な単語に疑問は残ったが、現状確認のための情報収集と何より己が身の安全が第一だ。

 

「簡潔に申し上げますと貴方は至高の御方のお慈悲により、命を奪われること無く生かされております。まずはその事実に心から感謝をして頂きたく思います。そこで大人しくしている限りは新たなご命令までは身の安全は保障されるとのお言葉です。逃走、もしくは外部に連絡を取る目的で魔法を行使する事はおすすめ致しません」

 

「よ、よくわかっ……りました、ご忠告感謝いたします」

 

 危なかった、魔法を行使していたらどうなっていたかはわからない。女の言いまわしから魔法を使った途端になんらかの仕掛けが働くことは容易に想像できた。

 

「食事は日に2回運ばれます。蛇口から出る水は飲用可能ですので、渇きに耐えられなければ飲まれると良いかと。他に質問はございますか?」

 

「・・・・・・部下達はどのような扱いを受けているのでしょうか。私と同じような処遇でしょうか」

 

「いえ、貴方は死なせぬように注意して管理せよと命じられておりますので特別です」

 

 なんだそれは、部下達は死なせてもかまわない扱いをしていると言っているのと同じではないか。ニグンの心に反射的に反発する気持ちが沸き上がる。自分の命が保障されているという安堵もあり気が緩んだのかもしれない。

 

「部下たちにも捕虜として、しかるべき待遇をお願いした」

 

「・・・・・・何か勘違いをしているようですが」

 

 思わず上げた声は殺気による威圧と共に、途中で言葉でさえぎられた。

 

「貴方達は、いと気高き至高の41人の統率者であらせられるアインズ様に逆らった塵です。本来ならば即贖罪のための拷問の後に資材としてばらすのが妥当なのですが、至高の御方が有効に活用せよ、とおっしゃられたゆえ処分されていないだけ。捕虜等と言う上等な身分ではないとわきまえなさい」

 

「なっ」

 

 あの魔法詠唱者の他に40人、あの黒騎士もそうだとしても後39人もあんな化け物がいるのかという驚愕。法国の情報網に一切そんな存在が引っかからなかったと言う恐怖。今話しかけてきている女も外見こそ見目麗しいが、あれらの化け物と同様の存在であり自分たちの命等なんとも思っていないという事実にニグンは声を詰まらせた。

 

「理解できたようで何よりです。では、最初の食事をお持ちします。これも至高の御方のお慈悲ですので、感謝を捧げることを忘れぬように」

 

 ニグンが絶句していると、ユリと名乗った女は格子ごと壁に埋まるように消えた。慌てて壁に駆け寄って触り、押し、叩いてみるが幻の類ではなく確かに実体として壁があった。

 

「一体なんなんだ……魔法の監獄とでもいうのか?」

 

 

 

 

 

 

「食事です、受け取りなさい」

 

 少しの時を置いて部屋に声が響いた。ニグンは先程から格子

 

 

 先ほど女の顔があった場所にゆっくりと食事が乗ったトレーが降りてきて格子があいた。震える手で格子の向こうに手を差し入れ、トレーをつかむ前に手を動かす。床、左右、奥には確かに壁がある。だが上には空間が広がっていた。

 ではあの女は、やはり。ぞっとしつつ震える手でトレーを受け取る。先ほどまで座っていた長いすの横から板が飛び出していたので、これがテーブル代わりなのかと考え

 トレーを置き、長いすの端に腰かけて与えられた食事をまじまじと見る。

 

「これはまた・・・・・・ずいぶんと品数が多いな」

 

 パンと水はわかる。法国でも囚人や捕虜に出しているからだ。なぜかと言えば神の教えに罪人にパンと水を与えよ、と伝えられているからだが、実の所理由は判明していない。

 もっともそれも定められた七日に一回の割合で、殆どの食事は泥粥鍋と部下たちも揶揄するあのマジックアイテムから湧き出す食事になる。だが最初の食事だけは、神の教えの通り必ずパンと水を与えられる。

 もしやあのアインズ・ウール・ゴウンは法国・・・・・・あるいは六大神の教えに連なるものなのか?確かに名前は法国式だ。しかしウール、と言う洗礼名は聞いた事が無かったため除外していた。だが共通点が2つとなれば……

 その時鼻腔に良い香りが流れこみ、思考が中断したため、改めて食事を見る。

 

 パンと水の他に何色かの具材が入ってると思われる白い汁のようなもの、豆らしきものを煮たような何か、切り分けた果実のような形をしたもの、そしてやや黄色のスライムのような何かと、最後に白い液体・・・・おそらくは動物の乳だろう。

 トレイには大小のスプーンが併せて2つ、フォークが1つ。これで食べろと言うことか。ニグンは毒物や薬品を警戒しようとして・・・・・・やめた。魔法を行使しなければ判別は不可能だし、そんな気があればとっくに注入されているだろう。

 ニグンは食事の前の祈りの姿勢をとり、自分の使える神に感謝の祈りをささげる。あの女は魔法詠唱者に感謝をささげよと言っていたが、自分の心の中までは読むような事はしていないだろう。

 

「さて」

 

 祈りを済ませたニグンは、まず一番量の多い白い汁を見る。橙、緑の野菜とおぼしきものの他に、数種類の具が入っているようだ。大きいスプーンを差し込むと掬い上げ、慎重に口に運ぶ。

 

「!?・・・・・・うまい」

 

 口の中に広がる、ほのかな甘み。よく煮込まれているのか、口を動かすだけで崩れるほどに柔らかい具材、うまみをしっかりと吸ったそれらがニグンの口中でハーモニーを奏でた。

 

(このうまみは・・・・・・溶け出した野菜だけではない。動物の乳と、麦か?それに、これは塩漬けの肉?)

 

 動物の乳の風味と野菜の風味が溶け合った中で、柔らかく、だが確かな歯応えで存在感を主張する塩漬け肉。だがこの新たな風味はなんだ?ニグンは塩漬け肉を汁から探し出すと、スプーンに乗せて観察する。

 

(一部が飴色になっている・・・・・・これは燻製か?)

 

 塩漬け肉の燻製。豚を多く飼育する地域ではいつの頃からか、作られるようになったと聞くが、あまり出回っている物ではない。だが、これは間違いなくうまい。

 もうひとつ具材があった。それはある意味慣れ親しんだ味であるキノコ。だが汁の旨味をたっぷりと含んだそれは、任務中に野伏の技を修めた部下が集めたものよりも遥かに良い香りと、味を持っている物だと確信した。

 そしてニグンは最後の具材を発見する。透き通るまで炒められたと思われる、強い風味と甘みを持つ野菜は、この料理の肝とも言えるだろう。この具材がなんなのか、ニグンに心からの欲求が沸き起こる。その間にも手は止まらない。様々な野菜と塩漬け肉の燻製、そしてキノコの味を存分に含んだ、動物の乳汁。一口含むごとに味わい深いその料理は、ニグンが今まで食して来たものはなんだったのかという思いを抱くに十分であった。

 

 気が付くと椀の中身は殆ど空になっており、ニグンはああ、もうこれだけしかないと言う思いが胸中に沸いた事、たった一つの料理に自身が没頭していた事に驚愕した。

 

「まさか他の料理も?」

 

 ニグンは、他の料理にも手を伸ばす。魔法詠唱者と退治していた時とは全く別の種類の恐怖が襲ってきた気がするが、目の前の料理の誘惑に抗えなかった。

 

 豆を煮た料理は、意外な事に、力強い風味と酸味と伴う味だった。強い風味はおそらく強壮効果があると言われる植物の物、だがその中にワインの風味がわずかに漂うのはおそらく果実酢、おそらくこれも高級品を使用しているのだ。さっぱりとしているのに、食べる程に体に力が漲るというのはずいぶん不思議な感覚だ。豆の持つ素朴な味が、風味と酸味でここまでうまくなるというのは驚嘆するしかない。もうひとつ、何かが隠れているとニグンは食べながら考える。

 

(甘み・・・・そして力強い風味に負けない程のコク・・・・・これは・・・・・油か!油を和えているのか)

 

 しかもかなり上質、いや間違いなく今まで自分が触れた中で、最高の油が使われているだろう。ニグンは戦慄した。一見豆の煮た物にしか見えぬ料理に、これ程の材と技巧が凝らされていることに。だが流れる思考と関係なく、両手は夢中で次の料理に取り掛かっていた。

 

 切り分けた果実のようなものに、フォークがざくっと音を建てて突き刺さる。スプーンで掬うにはやや大きいと察して持ち替えたが、正解のようだ。

 急ぎ口に運ぶと、ざくっとした食感と共にふわっとした塩味の初撃を受け、すぐさまじゅわっと香ばしい油の風味と味の追撃を受ける。流れるように口の中で崩れる実の感触と、甘みがニグンに襲い掛かった。

 これは・・・・・・・芋。しかもこの固さは焼いて、いや油で揚げてある。単純な料理でありながら、完璧な足運びの連撃に似た味の構成はニグンに無骨な戦士との戦いを思い起こさせた。この戦士とは是非酒を呑み明かしたい。だが残念ながら、流石に酒までは供されていない。

 

 口中の塩味に、無意識に口直しの意味でコップに入った水を飲んだニグンの目が大きく見開かれた。喉を通る清涼な感触が、即座に全身にいきわたり、生命力が回復したかのような不思議な感触がひろがっていく。

 

「これが……水、ただの水……なのか?」

 

 今まで口に運んだものは”料理”贅を尽くし技巧を凝らしたもの。だが、ただの水が自身の体に吸い込まれていき、快感と活力を与えてくれるとなると――ニグンの目が、自然にパンに流れる。震える手でちぎり、口に運んだ。顔が自然と天を仰ぐ。

 

「これが、パンか……本当に、今まで私が食してきたものは何だったのか」

 

 パンがこれ程柔く、これほど甘く、香ばしい香りを放つとは法国の誰が知るだろうか。ニグンはなぜ罪人にパンと水を与えよと神がおっしゃられたのか、わかった気がした。普段食べているパン。だからこそ、今までで最大の衝撃を受けた。生命とは、生きることとはなんなのか、自らに問いかけてしまう程に。

 

 たっぷりと時間をかけてパンを食したのち、ニグンの目は最後の料理に吸い寄せられた。わざわざ「最後に食すように」とメモが挟まれている、その料理に。

 

 パンと水に神を感じた。対してこの最後に残った、琥珀色のソースがかかった黄色くぷるぷると振動で震える料理から、何かそら恐ろしい物を感じるのだ。

 

 自らの予感に逡巡するが、ニグンは選択した。小さなスプーンを手に取って、掬い、ゆっくりと口に運ぶ。

 

 

「おお……おお!!」

 

 

 滂沱の涙を流したニグン・グリッド・ルーイン、陽光聖典の隊長であった神の使徒の心は

 

 

 神と悪魔の合作である至高の甘味、ナザリック・プリンの前に完全に敗北した。

 

 

 

 

 

 

 数日ぶりにナザリック大墳墓に戻ったアインズは、供を連れず単独で第六階層の端に作った観察小屋と呼ばれている施設に向かっていた。小屋といいつつもその実態は石造りの塔であり物理的に脱出不可能な複数の牢屋が設置されている。だが、今現在は捕えた陽光聖典の隊長であるニグンと、なんとなく気になった隊員1人を監禁してあるのみだ。

 

「さて……ユリが仕事を気に入ってくれているとよいのだが」

 

 アインズがそこの管理をユリ・アルファに命じたのは、彼女が人間の飼育観察に適性があるからとかそういう理由ではない。

 後々、ユリには魔導国建国の暁にエ・ランテルで孤児院を経営させることになる。だが、それは殆ど仕事がなく、ため息をついて日々を過ごしていた彼女を見かねたルプスレギナとナーベラルより彼女に仕事を与えてほしい、と嘆願されるに至った結果である事を覚えていたからだ。

 

 (ルプスレギナはカルネ村の管理を行い、ナーベラルはモモンの相棒として俺に同行。ソリュシャンはセバスと共に情報収集を行っている、と彼女にしてみればやりがいのある大役を妹たちが任されているのを羨ましがってた……だっけか。エントマもリザードマンの戦いでコキュートスに同行させたしな)

 

 アインズにしてみればメイドの統括を行っている執事長であり、プレアデスのリーダーであるセバスをナザリック外に出すのだから、副リーダーであるユリがセバスが留守の間代理を務めるだろうと判断したのは正しい事だとは思っている。

 

 それゆえ、アインズはユリにはナザリック外での仕事を与えなかったのだが、実態は執事長の代理は執事助手兼副執事長である直立歩行するイワトビペンギン、エクレア・エクレール・エイクレアーとメイド長である直立歩行するシェットランド・シープドッグ、ペストーニャ・ショートケーキ・ワンコによって全て処理されていたのだという。

 

 となれば残るはプレアデスの副リーダーとしての仕事だ。これもプレアデスの半分がナザリック外に居り、出動もないとなると交代で詰めるログハウスでの歩哨任務の他は、自分達の部屋掃除以外に仕事が無かったと聞いた。

 

「窓際族……だったかな。そんな状況に置いてしまっていたとは・・・・・知らぬ事とはいえ悪い事をした」

 

 窓際族。遥か昔・・・・・まだ企業が容易には従業員を強制退職させることが出来なかった時代、対象者を窓際の席に配置し出社した対象者に何の仕事も与えぬまま日々を過ごさせることで、自発的な離職を促したといわれる企業戦術だ。

 

 毎日早朝出勤、そしてくたくたになるまで働かされ、上司に対し不満を表面に出そうものなら雀の涙の補償だけで放り出される時代の会社員であった鈴木悟としては、9時に出社5時に退社。その間何も仕事をせずともクビにもならず、給与がもらえるなどと言う状況はこの世の天国なのではないか、と思わなくもないが……実際にその状況に置かれたことがないのに、そんな事を思うのは筋違いであろう。

 

 それにかつては「社長を含む重役なんぞ何の仕事をしてるのかわからないのに高給をもらって偉そうにしている」等と考えていたが、ナザリックの絶対支配者として過ごすようになり、その考えは誤りであったことに気がついたように、同じ立場にならなければわからない苦しみがあるのは間違いない。

 

 (それになあ、仕事中毒というか……仕事を減らされ休みをもらうことが苦痛です、なんて真顔で訴えるナザリックのNPCの立場で考えると……うん、拷問だわ。それもかなりの)

 

 鈴木悟に無理やり当てはめれば、全ての就業時間を不得意な分野での強制労働に就かされる様な状況のではないだろうか。想像しただけで死ねる……今のアインズは睡眠も食事も不要であり、疲労というバッドステータス無効、なによりアンデッドであるから身体的に死ぬ事は出来ないだろうが、間違いなく何らかの意味で死ぬ。ここまで考えた所で、背骨が凍るような嫌な感触が襲ってきたので、頭を振って思考を浮上させた。

 

 そのため、今現在の自分の状況がまさに”全ての就業時間を不得意な分野での強制労働に就かされる様な状況”であることにアインズが気がつかなかったのは、ある意味幸運だったといえるだろう。

 

(ただ・・・・・解せぬのは、ユリとほぼ同じ境遇であったはずのシズはあまり不満を持っていなかった、という点だな。やはり創造主の性格に影響されるのかなあ……やまいこさん、プレイスタイルは脳筋だけど真面目だったもんな)

 

 かつてのギルドメンバーのこと思い出し、アインズの歩みが停まる。そこに、ちょうど巡回を終えたユリ・アルファが塔の門より現れた。

 

「こ、これはアインズ様」

 

 アインズの姿を見るなり膝をつこうとする彼女を片手で制し声をかける。

 

「その必要は無い、ユリ・アルファよ。あの男達の様子と実験の結果はどうだ?」

 

「はい、アインズ様。お命じになられた通りナザリックの料理を与えて飼育し確認したところ、料理によるバフはこの世界の者たちにも完全な形で発揮されております。効果時間延長の食事効果までも発揮されました」

 

「おお、期待通りの結果が出るというのは嬉しいものではあるな。他に気がついたことはあるか?」

 

「その」

 

「ほう、なんだ?」

 

「あの人間の男達ですが、2日目より食事前に信奉する神の名と共に、アインズ様に感謝の言葉を捧げております」

 

「どゆこと!?……いや、それは本当か?己の立場を考えての保身のための行動とも考えられるが……そうではないのか?」」

 

「いえ、嘘看破によって確認致しました。偽装魔法の発動も感知されておりません。真実の感謝の言葉であることは検証済みでございます」

 

「そのような効果付与の指示をした覚えはないのだが……食事は一般メイドたちのビュッフェから出た廃棄……余った料理に手を加えて与えていたのだったか?元の材料である一般メイドの食事には、忠誠心を上昇させる効果等は無い筈だな?」

 

「もちろんです。そんな事をせずとも彼女達、いえナザリック全ての存在の忠誠は至高の御身に」

 

「ふむ、ではこの世界の者たちを使役する際にナザリックの料理を振舞えば能力は向上し、さらに懐柔も狙えるという事か。では飼育を続けよ。あの男達は、その内使う時が来る。それまでしっかりと飼育してほしい」

 

 この言葉は真実とは言い難い。先日の事件によってニグンより地位が高く、レベルが高い法国の人間を数多く入手したからだ。しかし、状況が変わったことをわざわざ伝えて、やる気を削ぐ意味はどこにもない。

 

「はっ、では体重の著しい増加が確認されておりますので、魔法的拘束を施したうえで適度に運動をさせることとします」

 

「そうだな……バランスの良い食事と適切な運動によって、身体だけでなく精神にも良い影響がある、筈だ。まかせたぞ」

 

 

 職務として予定されていた質問を全て終えたアインズは、少し逡巡したのちに口を開く。

 

「んんっ……ユリ・アルファよ、最後に尋ねる。この仕事は……いや違うな」

 

 ここに居るのは、ユリ・アルファだけだ。支配者ロールをする必要は無い。

 

「ユリ、日々は充実しているか?」

 

 ユリ・アルファの顔がわずかに――本当にわずかに――緩んだ後、力強くアインズの言葉に答えた。

 

「はい、日々が充実しております!アインズ様」

 

「そうか、それは……本当に良かった」

 

 

 

 



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