青春と音楽と召喚獣 (いくや)
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第1章 1年生編
#1 注意!



 随分とお騒がせしました。

 気持ちをさっさと切り替えて新作を出しました。

 「バカとオレと彼女たち」や「バカとユウキと短編集!」や「無欲な男半兵衛」や「吉井明久の野望」を見てくださった方々、今回も読んでいただけると嬉しいです。

 初めての方。どうも、初めまして。
 今まで、バカテスの二次創作ばっかり書いています。今回もそうです。
 よろしくお願いします。

 Twitterしてます。@ikuya13hare

 本編を始める前に、この作品がどんなものかを軽く紹介します。



 

 まずこの作品は、「バカとテストと召喚獣」と「けいおん!」のクロスオーバー作品です。

 

 どうしてこんなことを思いついたかというきっかけから。

 その答えは簡単ですよ。

 

 ただ、単純に、「バカテスの二次創作書きたい」という気持ちと「けいおんの二次創作書きたい」という気持ちが同時期に起こりまして、それならばいっそのことまとめちゃえばいいんじゃない!?と思いつき、この結論が出てまいりました。

 

 原則、「バカテス」がメインですので、「バカテス」を知らない方は厳しいかと。

 しかし、「けいおん!」を知らない方の場合は、大丈夫です。

 「バカテス」の知識で当たり前のところは暗黙の了解で進むところもありますので。

 

 2つとも知っている方。学年はどうなるのかと思われるでしょう。

 主人公は、バカテス世界の方ではもちろん明久や雄二たち世代です。

 けいおん世界の方では、梓や憂・純世代です。だから、唯の世代は1つ上ということになります。

 ここ、意味が分からない方はスルーしてもらっても構いません。

 改めて本編でも紹介しますので。

 

 そして、共学ということでやはり発生するのが「恋愛」ですよね。

 バカテスの方で、今までアンチを姫路と島田にしかしていなかったが、霧島にもしてみたらどうか。 と思いまして、この話はその方向です。

 アンチ姫路・島田・霧島が無理な方はやめた方がいいかも。

 

 アンチ霧島にするということは、雄二×翔子の王道カップリングが出来ないということですので…相手は誰にしようかと考えたところ……

 作者がバカテス女性キャラで一番好きな優子にしようということに。

 そして、明久は愛子にしちゃおう!という意味不明な思考回路が完成しちゃいました。

 

 何でせっかくのけいおん!とのクロスオーバーなのにそっちとカップリングしないんだよと思うでしょう。僕自身も思いました(笑)

 しかし、こういうのは最初に思い浮かんだのがいいのです。

 秀吉・ムッツリーニのカップリングは未定。

 主人公は、梓とのカップリングにします。年上とのカップリングは難しいと思ったので。

 じゃあ、何で憂や純じゃないのか? そこは突っ込まない方向で。

 ここも「けいおん!」知らない方はどうぞスルーで。後々分かります!

 

 よって、この作品のカップリングは……「オリ×梓」「明久×愛子」「雄二×優子」です。

 

 雰囲気として……

 授業中とか休み時間や試召戦争などがあることから、普通の学校生活は「バカテス」の感じ。

 放課後は「けいおん!」の感じといったとこでしょうか。

 休みの日?それは分かりません。

 

 「若葉学園高校」の由来は、統合される前の高校2つ、「桜ヶ丘女子学園高校」(けいおん!の舞台)と「文月学園」(バカテスの舞台)の間を取りました。

 どういうこと?と思われる方。

 「桜」は3月。「文月」は7月。その間は……5月ですよね。

 5月といって、最初に思い浮かんだ単語が「若葉」だったのです!

 どうです?意外と面白くもなんともないでしょう。

 「鯉のぼり」とかよりマシだと思いますよ……

 

 オリジナルキャラについて。

 まあ、多少は出すでしょうが、レギュラークラスはおそらく主人公のみでしょう。

 →訂正。都合により、出す可能性も。

 

 後、作者は、「バカテス」は原作もアニメも網羅していますが、「けいおん!」はアニメのみです。collegueやhighschoolなどで新たな設定が出ていたとしても知りません。

ので、そこのところよろしくお願いします。

 

 いよいよ、次話から本編スタートとなります。

 時系列として、主人公達の学年が入学するところからのスタートとなります。

 

 






 オリジナル主人公やらの設定はまとめたりはしません。
 普通の小説を読んでいる感じで、先入観なしで読んで頂きたいからです。

 コメント・批評・感想・質問、
 お待ちしてます!!!


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#2 入学!


 いよいよ、本編スタートです。

 高校の入学式からです。

 では、どうぞ!!


 

 

 「とうとう高校生か。楽しみや!」

 オレは、花が散っている桜の大木の下を通り、若葉学園へと足を踏み入れた。

 周り見渡すと、新入生だろうか。顔を赤らめながら入ってきたり、親に連れられながら学校に来たりとさまざまな人がいた。

 本来ならば中学生時の友達が隣にいるはずだが、集合場所に5分経っても現れないから置いてきた。

だから、周りは見知らぬ人だらけ。これが、高校生活か。

 ふと、つけていた腕時計を見てみると、入学式5分前であった。急いで、入学式が行われる講堂へと歩みを進めた。

 

   ★

 

 「 ー 学園長の藤堂(とうどう)カヲルさね」

 入学式も始まり、学園長の言葉となった。

 式典にありがちな○○長からの式辞ってやつで最後をしめくくるのがこの人物だった。

 が、そこで予想もしないことが起こった。オレだけでない。誰もが予想しなかったであろう。

 

 『変態だ~!!!』

 講堂の後方入り口から大声が聞こえてきた。

 

 「変態!?」

 「学園長、変態なのか?」

 「まさか……」

 というざわつきの声がちらほらと。

 そんな大声で暴露せんでもいいだろうに……

 学園長のメンツ丸つぶれじゃねえか。

 

 「あたしは変態なんかじゃないさね!」

 必死に潔白を証明しようと語りかけるが、デマだとしても一度流れたら元に戻るのは難しいものだ。

 その学園長の努力を水の泡に帰する次の一声が。

 

 『誤解だあ~!!!』

 先ほどとは違った声の主。

 この話の流れだと、学園長が変態じゃないのが誤解=学園長は変態という式が成り立つ。

 学園長も大変だなと思いつつも、さっきの声に聞き覚えがあったために、声の主の顔を見た。

  ……

 間違いない。ヤツだ。

 吉井明久(よしいあきひさ)。オレが今朝一緒に登校しようとした人物。中学生からの友達。

 遅刻は仕方ない(今までさんざん見てきた)としてもこの行動は友達として恥ずかしいわ……

 この会場にいる全員が、学園長ではなくこの新たに入ってきた2名の男子に注目が集まった。

 そして、注目を浴びる中、そこへ近づく人が1名。

 

 『お前達! 入学式からいい度胸だな!!』

 先生たちが座っている席のあたりから歩いてきたため、おそらく先生であろうことが推測できた。

 何だあの体格は。教師!? そんなんじゃないだろう。格等家といっても遜色ない。

 そんな大の男が新1年生2人のもとへ近づいていくのだ。ほとんどのやつがビビるだろう。

 そして、何やら少しは口答えしたようだが、それぞれ片手ずつで連れて行かれた。

 みんなが唖然としている中、学園長が気を取り直してこう告げた。

 

 「あたしは変態でもないさね。気を取り直して、この学園の特色を高橋先生に言ってもらうよ」

 と言って、壇上から降りていった。かわりに、高橋先生と思しき人が壇上に上がり話し出した。

 

 「みなさん、ご入学おめでとうございます。この学園の教師、高橋洋子と申します。私の方から、この学園の特色を説明いたします。この学園の特色と言えば ー 」

 メガネをかけた大人な女性といった雰囲気の先生が語りだした。この学園の特色なんてものは大体はパンフレットなどで読んだから知っている。というか行く学校の特色くらい普通調べる。

 この学校は、2つの高校が統合されたというところから話が始まった。制服だが、男子は旧文月学園のブレザーをそのまま引き継いでいて、女子は旧桜ヶ丘女子学園高校の制服を引き継いでいるらしい。だから、旧文月学園の卒業生で女子のブレザーがまだある人は、レアものだということだ。

 後は、学力だけでなく、さまざまな力が要求される「試召戦争」。2年生から出来るんだよな。

 

 「後は、部活動ですが、この学園は進学校であるために無理にとは言いませんが、出来るだけ全員部活動に入るようにしてください。己の新たな一面が見えたり精神力が鍛えられたりします。それに、内申書にも関係してくるため、大学を推薦で行きたいと考える人は入ることを薦めます」

 なるほどね。部活か……中学時は野球部だったんだが、高校ではしようとは思わないんだよな。後で、部活動紹介の紙を見て、興味あるところ全部見学に行ってみるとしよう。

 

 気づくと、高橋先生は説明を終わり、壇上から姿を消していた。

 その後、騒動なんてありましたかといった感じで淡々と入学式は進んで行き終わった。

 各自、クラスに戻って自己紹介だそうだ。

 クラスメイトは大事にしないといけないな。どんなやつがいるか楽しみだ。

 

   ★

 

 「このクラスの担任をすることになった西村宗一だ」

 まさか……先ほどのあの大の男が担任になるとは!?

 暑苦しい1年になりそうだ。だが、生徒思いという雰囲気は伝わってくる。

 「廊下側の席から1人ずつ自己紹介をしていってもらおう」

 出席番号順に自己紹介をしていく。まあ、みんな高校生活1日目ということで緊張しているのだろう。かく言うオレもその一員だ。みんな立ち上がって、前に歩いていって、名前言って、出身中学校言って座る、という繰り返しが続き、微妙に眠気が襲ってきた頃、こんな自己紹介があった。

 

 「木下秀吉(きのしたひでよし)じゃ。よろしく頼むぞい。言っておくが、ワシは男じゃからな」

 性別でさえも言わなければならないほどの人であった。通称「男の娘」と言うべきか?

 小学生の頃とかはよくいたけど、高校生でもこれってある意味凄い。

 

 その後、また淡々と同じ作業の繰り返しだったが、あの男の自己紹介の出番だ。

 そう、先ほどの入学式のときにアキと共に騒いでいた人物だ。

 

 「神無月中、坂本雄二(さかもとゆうじ)だ」

 それだけ言うと、席に着いた。こいつもこいつでなかなか威厳がある男だ。不良か何かか?

 その疑問はすぐに解決した。何故ならば、この名前を聞いた後に教室がざわつき始めたからだ。

 「神無月の坂本だと?」

 「悪鬼羅刹(あっきらせつ)か」

 「同じクラスかよ……」

 神無月中の悪鬼羅刹。オレたちの学年では有名だったな。不良のリーダーと言うべきなのか。

 オレは全くそっちの方はノータッチだから分からない。

 しかし、坂本……雄二……あの赤髪?…………まさかな……

 考え事をしている間に、もう次の人が自己紹介をしていた。

 

 「シマーダ、ミナーミ、です」

 黒板に漢字で名前を書き出した。島田美“彼”と。

 それを見て、クラスの大半はくすくすと笑い出した。

 まあ、誤字だというのは分かる。おそらく“波”だろうということも。

 だが、そこまで笑わなくてもいいんじゃないか?

 顔立ちとかは日本人だが、話し方が日本語を覚えたてだったという感じじゃないか。

 それならば漢字も書けなくて当然だろうが。

 

 担任の西村先生は、コホンと一つせきをたてて言った。

 「えー島田はドイツからの帰国子女だそうだ。だからみんな助けて行ってやれ」

 なるほど帰国子女か。納得した。だがまだ笑うか。優越感にそんなに浸りたいか。悲しいやつらだ。

 アキも心底嫌そうな顔をしていたな。そういうのは流石だ。ただこのクラスもたかが知れてるな。

 本当に友達と付き合っていいのはごく僅かかもしれないな。

 そう一人で問答をしていたら、不思議な人物が現れた。

 

 「………神無月中、土屋康太(つちやこうた)。趣味はとう ー 特技はとう ー なんでもない」

 面白いやつが現れたな……ポケットからカメラや録音機材見えてるぞ。

 趣味は盗撮、特技は盗聴ってか? 犯罪じゃねえかよ。

 いろいろと心の中で突っ込みを入れていたら、いつの間にかオレの前の人が自己紹介していた。

 

 「神無月中出身の中野梓(なかのあずさ)です。よろしくお願いします」

 オレの前のツインテールの女子が自己紹介を終わり、いよいよオレの番が回ってきた。

 「え~七島弘志(ななしまひろし)、長月中出身、みんなよろしく」

 咄嗟に、面白いことを思いつかなかったので、テンプレートだ。

 最初の自己紹介から自分らしさを出せるようなヤツなんて、オレが知る限り今までで1人しかいなかった。(今回の件で覆されたけど)

 そう、出席番号最後のヤツ。吉井明久だ。

 だが明久のヤツは珍しく受けを狙いに行かず真面目に言って終わった。つまんねえ。

 結局、木下やら坂本やら島田やら土屋といったやつらの印象が強すぎて、他のやつらあんまり覚えてねえや……徐々に覚えていけばいいだろう。友達になるならないは別として。

 

 自己紹介も終わり、担任西村先生のありがたいお言葉もいただき、入学式の日の学校が終わった。

 終わると同時に、中学時代の友達と早速話しながら帰ったりまだ教室に残ったりしていた。

 その中で、やはり遠いところから来た島田は人気があった。人がどんどん集まってきて、いろいろ質問攻めにあっていた。日本語で話しかけられたら分からんだろうに、構わず話すのね。

 

 「黙りナサイ、ブタども」

 島田がこう言ったのは聞こえてきた。それは笑顔を浮かべながら言うものじゃない。おそらく勘違いして使っているのだろう。誰がこんな日本語を教えたのかは気になるところだが。周りにいた人たちはどんどん島田の周りから離れていった。こりゃ孤立してしまうぞ…

 

 「ヒロ~帰ろう」

 ヒロというのはオレのあだ名。弘志のヒロだ。オレも明久のことをアキと呼んでいる。

 「いいぜ」

 オレとアキは靴箱に向かい、赤の上靴(オレたちの学年の色らしい)を下靴と交換し外へ出た。

 歩きながら、今朝の入学式に起こった騒動の真相をアキに聞く。

 

 「アキ、あれは見ているこっち側も恥ずかしかったわ」

 「誤解だよ誤解!」

 「それしか言わねえな」

 アキから話を聞いたものの、説明が下手でいまいち要領がつかめなかったのでその話は捨てた。

 歩いて帰っていると分かれ道に。今日は金曜日。明日明後日は休みだ。

 アキに、月曜日こそ遅刻するなと念を押し、それぞれの家に帰った。

 この学校、心配だぜ……

 そんなこんなで高校生活の1日目が終わった。

 

 





 何か、最初はアンチ島田じゃないですね……
 そこは仕方ないと放っといてください。

 まずはバカテス主流のほうですね。

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#3 部活!


 普通、何処の高校もこんなに新入生を勧誘するのに必死なのか気になりながら書きました。

 ボクが通っている高校では、全くそういったことはないですね。
 固定層ですよ要するに。

 だから野球部は強い。
 文化部は弱い。
 興味があるものにしか全く……て感じです。

 では、どうぞ!!



 

 月曜日、アキが待ち合わせ場所に時間通りに来れるか心配になって、携帯に電話をしてみた。アキは珍しく起きていて既に準備が出来ているとの応答が。

 その後、2人で登校することになった。学校の近くまで来た時、学校がえらく騒がしかったのに気づいた。

 「なあアキ、学校の方やけに賑やかだな。何かあってんのか?」

 「あれじゃない? 勧誘だよ、部活の」

 それを聞いて思い出した。そういえば、金曜日に担任がそんなことを言ってたな。月曜日は運動部の勧誘が、火曜日は文化部の勧誘があるって。興味があるものには実際に足を運んで是非とも部活動をして欲しいって。

 アキの言うとおり、学校前に来ると運動部の勧誘の声が聞こえてきた。

 

 「野球部です!」

 「サッカーしませんか!?」

 「男は黙って柔道だ」

 「バスケ~バスケ一緒にしよう!」

 「バレーがいいって!」

 「テニスもどうだい!?」

 「剣道を忘れてもらっちゃ困る」

 「バドミントンもあるんだぜ」

 「日本人なら国技と言われる相撲」

 「陸上部、初心者も大歓迎!」

 「プールで遊び放題! 水泳部~」

 「ハンドボールしてみましょう!」

 

 運動部だけでこんなにあったんだ……ビラを一応全部もらいながら靴箱へ向かう。ふと隣を見てみると、アキも苦笑いをしていた。

 「びっくりしたよ……まさかこんなに新入生を部活に誘うのに必死だとは」

 「ああ。部活が多いだけ、新入生は分かれる可能性もあるからな」

 「僕には関係ないけどね」

 「ん? 高校でも部活入らないのかよ」

 そう、アキは中学の時でも部活に入ってなかった。通称:帰宅部。

 

 「まあね、高校から一人暮らしだし、大変だよ」

 「そっか。アキの両親アメリカ行くって言ってたっけ?」

 「そうだよ。僕は日本に残っておきたかったからね。それはそうと、ヒロはやっぱり野球部なの?」

 やっぱり、というのはオレは中学時代野球部に所属していたからだ。固定観念として、中学時代野球部だったヤツは高校時代も野球部に入るって言うのがどうにもあるらしい。

 

 「まだ決めてねえ。おそらく野球部には入らねえよ」

 「何で!? ヒロ野球上手かったじゃん! 絶対野球部からもスカウトされるって」

 「その噂、どんな風に聞いた?」

 「その噂?」

 「オレが野球上手いって噂だよ」

 アキの話を聞いてみると、やはり事実とは違ったことが伝わっていた。要するに美化されていたのであった。中学最後の試合長月中学vs神無月中学の組み合わせは人気が高かった。そのため、観客も大勢入っていた。そんな中、オレは普段はベンチだったのだが、その試合前に主力が数人怪我して試合に出場することになった。8番ライトだ。通称:ライパチ。今じゃこんな言い方しないけど昔ならば一番下手なやつが入るところ。

 いよいよ試合が始まった。オレたちは後攻だったから初めは守備に就いた。初球、左バッターが引っ張り、ライトへ飛んできた。試合勘というものが不足しているためフライのボールを見失った。見えた頃にはもうボールは落ちてきていた。急いで落下地点へ走りこみスライディングキャッチ。まぐれでグローブに入っていた。このプレー周りから見ると、「守備上手え!」と。そして、緊張していたために返球するとき力加減が分からなく、投げたらピシャリキャッチャーの胸元へ。「あいつレーザービーム披露したぞ!」と。あれ? いい方に勘違いしてくれた。と思っていたらその後、打球は1球も飛んでこなくなった。

 打撃面では、緊張してバットが出なかっただけのに「選球眼もいいぞ!」とか、「威圧感ある」(身長は180cm弱)とかで、フォアボール。サインミスして盗塁してしまったらキャッチャーが暴投。「足が速くて焦ってしまったぜ」とのこと。いやいや、普通にアウトのタイミングだったと思っていた試合だった。

 

 「分かったかアキ、だからオレは野球は上手くねえ」

 「(語りだしたら止まらないんだよね……長かった)ふ~ん……まあやりたくないんだね」

 「野球部入ると野球が嫌いになりそうで怖いんだ。無理やりやらされている気がして」

 「分かる。それならどの部活にするの?」

 「興味がある部活に見学行ってその後決めるさ。いいの無かったら帰宅部だ」

 こんなにたくさん部活があるんだ。オレに合うような部活あるだろう。

 そう思いながら教室に行き、今日の学校が始まった。

 

   ★

 

 放課後になって、暇人だろうアキと一緒に部活を回ろうかと思ったが、用があるとかで断られた。しゃーねえ。1人で運動部回るか。と言っても、興味ある部活はサッカーくらいか。野球とサッカーくらいしか出来ねえからなあ。よし。サッカー部見に行くか。と思って、サッカー部のグラウンドがあるほうへ歩いている途中、話しかけられた。

 

 「おい、弘志!」

 振り返ると、そこには野球のユニフォーム姿の男がいた。

 おお、こいつはオレが所属していた野球部のキャプテンじゃねえか。

 

 「何だ? 久しぶりだな」

 「ああ。お前、何処行ってるの? 野球部じゃないわけ?」

 「ん? まあな。野球部には入らないぞ」

 「分からんな……せっかくのお前の才能が」

 「誤解だろ。今年じゃなくてもいい。甲子園、期待しているぜ。絶対応援しに行く」

 「…………もう決断したのか。お前は一度決断すると頑固だから譲らないもんな。分かった。お前らを甲子園に連れて行けるように練習するわ」

 「おう。楽しみにしておく。じゃあな」

 オレはその後、サッカー部の練習を見ていたのだが、若葉学園って進学校の割にスポーツも結構優秀なんだよなと思った。要するに、サッカー強豪校だったため練習はもちろん厳しい。これはオレには合わんな。運動部には縁が無かったと言うことだな……帰るか。

 

  ~次の日~

 

 「今日は文化部の勧誘か……」

 「運動部に引けを取らずに熱心に勧誘してるね」

 「ああ」

 昨日同様、一応全部活のビラをもらいながら歩いていた。

 

 「こんにちは~軽音部で~す」

 アキと共に靴箱に向かっていると、背後から声をかけられた。

 勧誘か。一応、ビラもらうだけもらうか。と思い、振り向いたらそこには!

 

 「馬~!?」

 「ビックリした……」

 着ぐるみであった。普通に女の声だったから女の先輩がいるのかと思ったらこれだよ。

 アキもオレも思わず大声を上げてしまった。

 

 「驚かせちゃってゴメンね。ハイ、これ」

 と渡されたビラ。一瞬気が引けたが、全部活のビラをもらうって決めているからにはもらわないといけない。恐る恐るビラを受け取ると、こんな言葉がかけられた。

 「明日、放課後講堂で新入生歓迎会ライブします。是非見に来てね」

 と。それだけ言うと、着ぐるみは立ち去って行った。

 

 「明日、新歓があるのか。何の出し物があるんだろうな」

 「さあ? 軽音はするみたいでしょ。他か……普通は演劇とか吹奏楽とかじゃないの?」

 「そうだろうな」

 そんな話をしていたら、あらゆるところから『ギャーッ!』とか『ワー!』っとか聞こえてきた。ああ、着ぐるみだな。しっかし軽音部面白い部活じゃないか。あんなんじゃ新入生入ってこないと思うけど。

 

   ★

 

 今日も学校の説明やら各教科のオリエンテーションやらで放課後を迎えた。アキは今日も用があるらしく、文化部回りもオレは1人ですることになった。明日の新歓のプログラムを見てみると、演劇・吹奏楽・合唱・軽音・落語研究会が名を連ねていた。放課後にあるってことは、文化部に興味が無い人は帰ったり運動部に行ったりしていいということか。オレは新歓でその部活の様子を見るとして、今日はそれ以外の部活を回るか。

 

 えーっと……オカルト研究会?却下。何で研究しなくちゃいけないんだよ。

 他には………ジャズ研究部。か……音楽ねえ。ジャズ全く興味ないんだよな~却下。

 何があるんだ? 写真部・書道部・美術部……芸術系苦手なんで却下。

 

 ということで、今日は帰ることにした。明日の5個の部活の出し物の出来栄えでどの部活に入るか決めるぞ。どれもイマイチなら、入らない。バイトでもする。よしっ、決めた。

 それにしても腹減ったな……どっか寄り道して何か食うか。ということで、下校ラッシュ時にたまたま遭遇したため、その流れに乗っかってみる。そしたら誰かは何かの店に入るだろう。その店に行こう。

 オレの予想は的中し、数人が同じ店に入っていった。学校からそんなに離れていない、駅前の喫茶店だった。『ラ・ペディス』か。何語だろう。まあいい、ともかく入ろう。

 

 「いらっしゃいませ~お1人様ですか?」

 「はい」

 「こちらのお席へどうぞ」

 と、普通に案内された。周りを見渡してみると、若葉学園の制服を着ているのがたくさんいた。ここは若葉学園生に人気の店だったんだな。3日目でそういう情報仕入れるって結構ラッキーだな。

 そう思いながらメニュー表を見てみる。結構メニューの品が多く安価であった。その中でも、オレの目をひいたのは『抹茶パフェ』。よしコレに決めた。頼むために店員を呼ぶ。するとすぐに来てくれた。

 

 「ご注文はお決まりですか?」

 メニューを見ていたらそう問われた。声に聞き覚えがあったので思わず店員の顔を見た。縦ロールのツインテールで明るい色の髪をしているのだが、見覚えはない。どうも、オレの前の席の中野さんっていうツインテールの子に声が似てた気がしたんだけどな……気のせいか。気を取り直して、抹茶パフェを注文すると5分くらいで持ってきてくれた。上手そ!

 

 「いただっきま~す」

 ん~美味しい。抹茶最高! パフェといったら抹茶だよね~

 1人でパクパクと食い、勘定を済ませ店を出た。これはまた来ないとな。他のメニューも楽しみだ。次来るときはアキでも誘うか。

 オレは、その後はコンビニで立ち読みしたりしながら家に帰った。

 こんな感じで高校生活3日目は終わりを告げた。

 





 最後らへんに声優ネタいれました。

 分かる人にはわかる。
 分からない人は別に気にしなくていいです。

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#4 新歓!

 今回は、けいおん!8話を中心に、バカテスの要素を混ぜ合わせました。

 歌詞掲載はいけませんが、題名掲載もダメなのですかね……

 一応、題名はそのまま載せちゃいましたが。

 では、どうぞ!!



 

 

 今日は新入生歓迎会。放課後になると、帰るやつ、運動部に行くやつ、そして講堂に行くやつといた。オレはアキを誘って講堂に行こうとしたが、アキは今日も用があるって言って帰っていった。何だ、バイトでもやってんのかな……まあいいや。明日にでも聞こう。

 何だかんだ言ってもこの学校、文化部も人気あるらしく、講堂には既に大勢の新入生が入り席についていた。2・3年生もかなりの数席に座っているらしく、もう座席は空いていなかった。仕方なく一番後ろ壁際で立って見る事にする。 

 

 初めは吹奏楽の演奏だった。すげえ。やっぱり中学とは桁違いだなと思った。だけど、オレ何も楽器出来ないから入ることは出来んな。

 

 次は落語研究会の発表だった。「まんじゅうこわい」か。オチ知ってたからな~喋りもそんな上手くなかったし。 その次は演劇だった。流石は全国レベル。舞台転換なしとか凄い!オレに演技出来るか……?

 

 そして合唱。この学校凄すぎだろ。全国レベル部活の多さ! いや~男子と女子の調和がいいね~。歌うのはまあまあ好きだけど合唱か……

 

 一人で考え事をしていると、突然歓声が大きくなった。どうやら、軽音部の演奏のようだ。えらく人気が高いな。あの着ぐるみ部が。どんな演奏するんだろう……コピーバンドなのかな?とか思っていたら幕が開いて、4人による1曲目の演奏が始まった。

 

 …………何だろう、この気持ち。どこかで……

 

 あっという間に1曲目が終わって、2曲目が演奏された。

 こんな曲、聴いたこと無いだけなのかもしれないし、オリジナルなのかもしれない。

 聞き惚れたとはこのことだろうか。あんまりプロの歌とかは聞かないんだけど、こんなに歌で感動するってことは今までに無かった。

 そして、2曲目が終わる直前に、出入り口が開いて2人の女子生徒が入ってきた。オレはドアのすぐ隣にいたから自然と顔を見ることになったのだが、その2人の女子は、クラスメイトの中野さんとえっと平沢さんだっけ?がやってきていた。

 

 「うわ~お姉ちゃんボーカルなんだ~」

 と、平沢さん?がわくわくしながら言っていたのが聞こえた。

 というと、あのギターを持っている可愛い声の方かな。後一人、左利きベースの人もボーカルしているけど、こっちはクールな感じなんだよね。後は、キーボードにドラムか。

 そんな感じで思っていたら、2曲目が終わり、MCに入った。

 

 「軽音部です!新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!」

 ボーカルの先輩がMCを始めた。

 「わたし最初軽音部って軽い音楽って思ってたんですよ~それでカスタネットが出来ればいいやと思って軽い気持ちで入部しました!」

 軽い音楽=カスタネット。カスタネットに対して失礼だろうが分かる気もする。オレもちょっと前までは、軽音部ってバンドが所属しているところなんて思ってなかったからな。

 「なので、みなさんもそんな軽い気持ちで入部してください」

 どんなお気楽な部活なんだ……しかし、あの演奏の裏側を知りたいという気持ちもある。どうやったらあんな人を魅了させるような演奏に。

 

 「次の曲~『わたしの恋はホッチキス』!」

 多分オリジナルであろう(作詞した人の感性ちょっと変わってるなと思った)3曲目が演奏され始めた。演奏中、途中から入ってきた中野さんはちょっと身長が低いので必死に背伸びをして見ていた。中野さんもこのバンドが持っている魅力を感じたのだろう。

 そして、演奏はあっという間に終わり、軽音部の演奏を持って新入生歓迎会は終わりを告げた。

 

 軽音部か~オレ楽器何も出来ないしな~……でも、あのギターボーカルの先輩だって最初はカスタネットしか出来なかったと言ってたもんな。だが……あのバンド全員女子だもんなあ。他にバンドいて男子の先輩とか居たら心強いんだけど。ああ! どうしよう! 家に帰ってゆっくり考えるか。親に相談したりして。

 

  ~次の日~

 

 「結局、決められなかったよ」

 一晩迷って結局答えは見つからず。アキにも相談してみたら、こんな答えが帰って来た。

 「ヒロあの時軽音のライブ聴いててとっても感動してたもんね~」

 「あの時? お前昨日来なかっただろう?」

 「昨日? 何言ってんのさ。去年若葉学園の学園祭見に来たじゃない! その時だよ」

 そうだ思い出した。去年の学園祭。アキと一緒に中3の時、若葉学園の学園祭に来たんだった。アキはそのとき若葉学園に進学するつもりだったから見たいって言ってたんだよね。オレは何処行くか決めてなかったし暇だったのでアキについていった。

 オレは何故、この若葉学園を選んだのだろう……その去年の学園祭を見に行った後から行きたいと思い出したんだった。それも、確か軽音部の演奏を聴いて。こんな素晴らしい演奏が出来る人がいる学校なら行ってみたいと思ったんだった。

 

 「忘れてた……」

 「ヒロって案外忘れっぽいもんね。どうしても若葉学園に行きたいって言い続けてたのにね」

 「そのきっかけの方を忘れていたという、何てバカなことだ」

 そうか……あの時の感動は、去年の学園祭の時に味わった感覚だったのか。

 部活に関してはもう1日考えることにした。そんなに焦るものでもない。今月中にはという曖昧なものだから。今日はさっさと帰ってもう1悩みするか。

 

 自分の件が終わった後で、この頃アキが放課後何の用をしているか聞いてみた。

 「ああ、あれね。フランス語を調べてるんだ」

 「フランス? 旅行でも行くのか?」

 「何言ってるんだよ。帰国子女の子がフランスから来たんでしょ。ちょっと仲良くなろうかなと思って」

 アキ、そのお前の行動力は認める。だが ー 。

 

 「その帰国子女の子はフランスじゃなくて、ドイツだ」

 「…………えっ?」

 「フランス語を調べたところで分かりゃしないさ」

 「そっか! だから、話しかけても無視されてたんだ」

 「そこで気づけよ」

 「ただ、人と接するのが苦手な人なのかなと思ったりしたんだよね」

 はあ……コイツの入学して早々友達を作るという行動はものすごいと思う。

 オレなんて、まだアキとしかしゃべろうと思ってないもんな。クラスの雰囲気に慣れてから友達作ろうと思ってたのに……

 

 「ドイツ語調べてからその子に話しかけな。きっと喜ぶさ。転校してくるなんて最初の頃は物寂しいぞ」

 「そっか、ヒロは転校経験者だもんね」

 「ああ。小学校上がるまでは福岡に居て、小学3年までは別の小学校居て、小学4年で水無月小学校に転校してきて、中学のときに、長月中に来たんだ。最初はぼっちだから寂しいぞ」

 「そうだよね。僕、話しかけてみるよ!」

 「おう」

 高校に入学して1週間が経過しようとしていた。

 

  ~次の日~

 

 「ヒロ! 島田さんちょっと怒ってた雰囲気出してたよ!」

 「島田さん? ああ、ドイツからの帰国子女か。ってことは話しかけたんだな」

 「うん。僕の話術を駆使して」

 「本当にドイツ語で喋ったのか?」

 「カンペ見ながら言ったから間違いないね」

 じゃあ、照れ隠しだろうな。最初、話しかけられるの結構恥ずかしいし。でもそっから友達出来るから。

 

 「めげずに話しかければいい」

 「そのつもりだよ! そういえば、ヒロは部活動することにしたの?」

 「あ、ああ……見学と言う形で軽音部をちょっと覗こうかなと。何も知らないまま入部してついていけなくなったりとかしたら迷惑かかるからな」

 「それいいね」

 ようやく始まりつつある授業を受け、あっという間に放課後になった。

 よし。今日から軽音部を体験してみるか。まさか、あの4人だけとかじゃないだろうし。

 オレは、軽音部が配布していたビラを見てみた。

 

 “  音楽室独り占め!! 

     軽音部

  バンドやりませんか?

   お菓子もあるよ(非公認)”

 

 と書かれてあった。非公認お菓子って……釣られる人いるのかね。

 そう思いながら、芸術塔3Fの音楽準備室へと向かった。音楽室のほうは、吹奏楽と合唱がしているらしい。

 音楽準備室へと向かう階段を上っていると……

 

 『うるさ~い!!!!!!』

 と怒鳴り声が……外に居るのにちょっとビビった。結構熱血がいるのかな。

 声の雰囲気からすると先生だろうか。

 そんな風に感じながら階段を上り終え、音楽準備室のドアを開けようとしたそのとき!

 

 『そんなんじゃダメです~!!! みなさんやる気が感じられないです!!』

 『いや~新歓終わった後だったし~』

 『そんなの関係ありません! 音楽室を私物化するのはよくないと思います! ティーセットは全部撤去すべきです!』

 はは……本格的な非公認お菓子だな。

 しかしこの声……ドアのうえのほうにある窓から覗いてみると、そこにはオレの出席番号の前の人中野さんがいて怒っていた。

 

 『 ー これが落ちついてられる状況ですか!!』

 凄い勢いでキレてるなあ……先輩相手に凄い度胸だ。そんな中、1人の先輩が中野さんに後ろから抱き付いて慰めていた。そんな簡単におさまるはずが ー おさまった~……

 

 『取り乱してすいません』

 『いいよいいよ、全然気にしてないし~』

 ちょっと不安になるな……どうしようかな……入るべきか帰るべきか。

 と悩んでいたら、ドアに当たって開いてしまった。当然、注目はこちらに移るわけです。どうすればいいか分からなくなって、

 

 「あ、す、すいません! 失礼しました!!」

 とだけ言って、ドアを閉め速攻で階段を下りていった。

 はあ……こういうときに全く勇気でないんだから。

 今日は戻れそうに無いな。帰ろう。と決断したが、やけにバックの中が軽いなと思い荷物チェックをしたところ、どうやら教室に忘れ物をしていたようだった。取りに行くか。

 

   ★

 

 「今の何だったのでしょう?」

 「ウチに用があったんじゃないのかな?」

 「やり取りを聞いて、ビックリして逃げちゃったよ」

 「それもさわちゃんのせいだよ~」

 「え~私のせい?」

 わたし、中野梓が軽音部に入部して2日目のことでした。あまりのだらけっぷりにちょっと怒ってしまったところをたまたま、用があった他の人にまで迷惑をかけてしまって……

 

 「今のって1年生の男子だったよね」

 「何か心当たりある?」

 そう問われたわたしは、さっきの姿を思い出しながらこう言った。

 

 「多分、同じクラスの男子だと思います」

 「そうなの? どんな子? 軽音部に興味あるとか?」

 「え、い、いや……そういうのは全く知りませんけど……ただ、一昨日のライブは見に来ていましたよ」

 「本当!? それってもしかして、入部希望だったんじゃないの!?」

 部長がそう言い出して、他の3人の先輩や先生まで大騒ぎ。

 

 「ええっ! 新入部員?」

 「確保しなければ」

 「部員は多いほうがいいし」

 「それじゃあ、中野さん?」

 先生がわたしの名前を呼んだので、そちらを向き用を聞くと。

 

 「月曜日、その子も是非連れて来て頂戴」

 「え、ええっ!? わたしがですか?」

 「そうよ。同じクラスなんでしょ」

 「そうですけど……」

 「じゃあ決まりね」

 半ば強引に決められた。仕方ない。ええっと確かあの人は、わたしの出席番号の1つ後ろの七島君だっけ?月曜日に言うの忘れないようにしないと。

 

 





 やっと、主人公のデータが出始めましたね。

 作者自身、転校族じゃないので気持ちは分かりませんが……

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#5 仲間!


 バカテスの珍しい過去編の部分ですね。

 大して変更は無いですが……

 最後のほうは。

 では、どうぞ!!



 

   ★

 

 教室の近くに来ると、えらくドタバタギャーギャーうるさかったので陰から様子を見ることにした。

 教室内には、アキと坂本が2人いた。入学式以来のコンビだな。ただ、2人とも真剣な表情をして汗をかき、教室は見るも無残に机がバラバラになっていた。喧嘩だなと思い当たったがオレはしばらくここで様子を見ることにした。

 喧嘩って言うのは当事者同士が解決するのが一番いいと思っている。だが、どうしようもなくなったときに第三者の手を差し出すのだ。という気持ちで陰から見ていると、1人の生徒が教室へ近づいてきた。

 あれは……木下? 結局本当に男なのか謎な人物だな。まさか止めに入るつもりなのか?勇者だな。その木下が教室のドアを開けると同時に、

 

 「何をやっとるか馬鹿者が!!!」

 

 と大声で叫んだ。何が起こったのか一瞬理解できなかったが、あのちっこい体している木下が先ほどの声を出したことには間違い無さそうだ。しかも、声は担任の西村先生にそっくりだったし。

 

 「ワシは声真似が特技でな ー 」

 というようなことが聞こえてきた。声真似のレベルじゃなく、本物だと思ったぞ。

 そんな木下を無視して、再び喧嘩をしようとした2人。そこに再び木下がカツを入れた。間違いない。あいつは恐るべき人物だ。そんな中、もう1人の生徒が教室に入っていった。あれは……土屋?

 

 「………機材が壊れる」

 とのこと。機材?盗撮カメラor盗聴器、もしくはその両方といったところか。入学早々なんてものを仕掛けてるんだヤツは。

 「ちっ……興がそがれたぜ……」

 こういった声が聞こえてきたから、オレは様子を見に行くことにした。

 「お前ら何やってたんだ?」

 「ヒロ……聞いてよ。こいつが ー 」

 「俺じゃねえよ!」

 一向に話が分からんし進まん。かろうじて分かったのは、島田関係でアキが坂本に対して怒っているだろうということと、それは誤解だと坂本が言い張ってることか。

 

 「………これでチェックできる」

 と、先ほどまで教室に仕掛けられてあっただろう盗撮カメラを2人の前に差し出した。

 どうやら、この喧嘩の原因はアキの誤解から始まったようだった。たまたま1人教室に残っていた坂本が落ちている島田の教科書を拾って島田の机に入れようとしていたところにアキがたまたま教室へ入ってきた。アキはそのシーンを見て、坂本が島田の教科書にいたずらをしていると勘違いしたようだった。教科書はぐちゃぐちゃだし、坂本は不良だったこともありその誤解は誤解のままアキが理解した。そして今に至ると。その勘違いも、盗撮カメラによって無事解決した。掃除時間中に机を引きずっていたら島田の教科書も混ざって引きずってしまったためにぐちゃぐちゃな教科書が出来上がったらしい。

 

 「本当に坂本君、ゴメン!」

 アキが必死に謝る。坂本は面倒くさそうにしていたが、そうは言ってられない状況に追い込まれた。

 

 「お前らは何やっとるんだ~!!」

 本物の西村先生がやってきたのだった。

 教室を見渡してみると、机の並びがぐちゃぐちゃになってるし、服も乱れており、2人の顔は少し腫れている。この状況だけ見てみると、喧嘩だと思われても仕方が無い。

 ここはどうする。逃げるか。いや、この大の男から逃げ延びれるとは思えない。オレが考え事をしている間に、やつらは事前に相談していたように、西村先生の視界を上着で奪いそれがほどけても時間稼ぎできるように机を集めていた。逃げ延びる気か? あっという間に、アキと坂本は外へ走って出て行った。土屋もそれを追う。オレは残された木下と共に、やつらの手助けをしないといけない羽目になった。

 木下は演技が上手い。平然と嘘をついて、西村先生をミスリードしている。オレはその嘘がばれたときにフォローするくらいでいいだろう。あんまりそういった片棒を担ぐ真似はしたくないんだが。

 

   ★

 

 1時間くらい経ってから、アキと坂本は帰って来た。心なしか2人とも仲良くなってるように見えた。お互いのことを下の名前で呼ぶようになっているし。アキの手には新品の教科書が。あのぐちゃぐちゃになった教科書と全く同じものであった。どうやって手に入れたのかは知らんが、島田のために持って来たのは間違いない。

 その後、オレたち5人は仲良く説教を受ける羽目になった。だがこの事件以降、5人の仲が深まり、お互いを下の名前で呼ぶことになった。 

 

 下校時刻になりオレら5人は、一緒に帰宅することになった。

 その途中で、みんなでいろいろと話をした。

 木下は演劇部に入るということや、土屋が犯罪のエキスパートだということ。

 担任の西村先生は、趣味がトライアスロンらしいから、あだ名は「鉄人」となっていること。

 坂本は小学生の頃「神童」と呼ばれていたことはアキに聞いた。

 

 「ん?……神童? 坂本……雄二?」

 オレはそのキーワードに何か引っかかりを覚えて考え込む。

 自分のことをあまり詮索されるのが苦手なのか、雄二がオレに問うた。

 「何だ? そんなに気になるか?」

 小学生時は神童と呼ばれ、中学生時は悪鬼羅刹と呼ばれたのか。波乱万丈な人生送ってるな。

 

 「え、ああ、ちょっと聞いたことあるような気がしてな。因みに聞くが出身小学校は?」

 「水無月だ」

 「何っ!?」

 「そんなに驚くことも無いだろう。もういいか? その頃のことは思い出したくないんだ」

 面倒くさそうにさっさと歩き出した雄二。オレのもやもやが解消されたんだ。もうちょっとこの話に付き合ってもらうぜ。

 

 「オレも水無月小だぞ」

 「何!?」

 「因みに同じクラスでもあった、神童こと坂本雄二よ。久しぶりといって覚えているか?」

 「七島弘志……? すまねえ。その頃の俺はどうかしていたから全く覚えてねえ」

 「だろうな。まさかその坂本雄二が悪鬼羅刹とまで呼ばれるようになったなんて驚いた」

 「俺の過去は関係ない。放っといてくれ」

 「そうか。お前がそうなってしまったのにはいくらばかりか心当たりがあるが、言わないでおく」

 「助かる」

 その会話が終わると、誰も口を開けるものが居なかった。

 神童と呼ばれていた坂本雄二、不祥事を起こしそれがきっかけで悪鬼羅刹になった。と単純に思ったが、ヤツの表情見ているとそんな単純な話じゃないということも分かった。これはまたいつの日かたずねることにしよう。

 

 

 「坂本雄二……か」

 小学生の頃は、あんなに人を周囲に寄せ付けなかったのに……人間の変化って大きいなあ。

 今の雄二ならば仲良くなれそう。

 高校入学してから2回目の土日を迎えることになった、若葉学園1年生であった。

 

 





 バカテス原作の仲良くなった話に微妙にオリ主を融合させました。

 転校族ならではの、おったような気がするっていう悩み。

 本当にあるのか心配ですが……

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#6 見学!


 早速オリジナルキャラを出すこの作者……

 何か……将来的にまた出てきそうだから名前を一応つけました。

 今後、またオリジナルキャラ出しそうなので、ここで訂正しておきます。

 都合により、レギュラー格のオリキャラも出るかもしれないと。


 いよいよ、軽音部に接していきます。

 では、どうぞ!



 

 4月ももう下旬になって、暖かくなってきたと思いながら登校している。そろそろ半袖でもいいんじゃないかなとも思ってしまう。今日はアキが集合時間に間に合わなかったので、電話で起こしてオレは先に行った。

 靴箱で、下靴を赤がトレードマークの上靴に履き替えようとしたときに、1人の男子生徒がオレの横にきて、同様の動きをやっていた。そいつの背中にはギターが入っているであろうケースが。意を決してたずねてみることにした。

 

 「ねえ、軽音部に入ってんの?」

 「いや、入ってない」

 「じゃあ、ジャズ研?」

 「部活には入ってない」

 ……? じゃあ何で学校にギターを持ってくるのだろう? オレの疑問を察してくれたのか向こうから答えを出してくれた。

 

 「これか。俺は中学時から外バンを組んでいて、今日放課後直接スタジオに行くからだ」

 外バン? 外でバンドを組んでいるということか。なるほど。そういうことか。

 

 「そうなんだ、ありがとう。因みにそのバンド名は?」

 「よーぐるっぺ☆」

 「聞いたことあるな……」

 「そりゃそうだ。ウチのバンドのボーカルとベースは長月中学出身だからな」

 おおっ。思い出した。そうか、中学時によく聞いたバンド名だ「よーぐるっぺ☆」。結構人気高かった気が。へえ、コイツがそのギタリストか。滅茶苦茶上手いって噂の。

 

 「軽音部には入らないの?」

 「外バンで一杯」

 「そうか……男子が誰も居ないからどうしようかと思ってたんだよ」

 「音楽が好きならばそんなことは関係ないんじゃないか?」

 いきなり核心を突かれた。そうだな、確かにこいつの言うとおりだ。見た目はチャランポランしてるけど、考え方とかはしっかりしてるぜ。

 

 「ありがとな。お前、名前なんだ? オレは七島弘志ってんだ。弘志って気軽に呼んでくれ」

 「丸山晶(まるやまあきら)。晶と呼んでくれ弘志」

 「おう晶。ライブするときは見に行くから誘ってくれ」

 「分かった」

 「楽しみにしとくぜ!」

 オレはそう言い残して、先に教室に入った。

 さっきの晶の言葉に背中押されたぜ。よしっ。今日から軽音部を見学だ~!

 

   ★

 

 放課後になって、先生に呼び出され(テストの時、名前を空欄にしてたりしたとかetc...)職員室から教室に帰って来たときはほとんどの生徒が教室から姿を消していた。教室に残っていたのは1人だけ。オレの前の席の中野さんだ。ギターを隣に置いて神妙な面持ちで座っていた。オレがドアを開けて教室に入ってくると何だかそわそわしていた。

 せっかくなんで、軽音部を中野さんに案内してもらうことにしよう。ということで声をかけてみる。が、高校に入って初めて女子と喋る。緊張してきた~……

 意を決して呼びかけることにした。

 

 「「あ、あのっ!」」

 「「へ……?」」

 

 オレが呼びかけると同時に、中野さんもオレに話しかけた。ど、どうしよう……

 「え、あ、先にどうぞ」

 「あ、そちらこそ」

 と果てしなく続く譲り合い。これはどっちかが折れないと……オレが先に言うことに決めた。

 

 「な、中野さんって軽音部だよね……?」

 「え、あ、はい」

 「オレちょっと見学したいなと思ってるんだけど」

 「あ……分かりました」

 一瞬戸惑ったような表情を見せていた中野さんだったが、すぐに肯定の意を表明してくれた。

 

 「あ、中野さんが言いたかったことは?」

 「もう良いんです。解決しました」

 「というと?」

 「金曜日にちょっとだけ音楽室に姿を現しましたよね。あの時に、新入部員じゃないかってことで大騒ぎになっていて……わたしの席の後ろの人だってのはちょっと見ただけでも分かったから。それを言ったら、月曜日に連れて来てくれって言われたから」

 面はバレていたという訳か……何かちょっと悪いことしちゃったな。

 

 「わざわざありがとうね。オレ楽器何も出来ないけど、あの新歓ライブを見てすっげー感動したんだ」

 「あ……やっぱり……」

 「そう。で、あの魅力は何だろうと思って軽音部を見学したいなと思って」

 「そうなんだ……」

 心なしか、少々元気が無いようだ。

 

 「ちょっと変じゃない? 何かあんまり音楽室へ行きたくないなって感じだし」

 「えっ!? あ、それは…その……」

 「先輩達にあんなに怒っちゃったから、行くのは気が引けるんだ」

 「どうしてそれを!?」

 そのシーン見てたからね……そう思うのが普通の人間の感情ってものだよ。あんなことしたのに、平気で部活行けるっていうと、先輩として尊敬してないか自分の腕に自信があるかだろうなあ。

 

 「じゃあ、オレは顧問の先生に話を通してくるけど」

 「わたしも行きます。その先生に頼まれていたことなので。それに誰が顧問か分からないでしょう」

 「それもそうだな……あ、気になったんだけど、同級生なんだから気軽に話そうよ。敬語なんて使わなくて」

 「え、あ……うん……そだね」

 オレは荷物を持って廊下へ出た。すると後ろから中野さんが荷物とギターを抱えて廊下へ出てきた。

 荷物重そうだなあ。

 

 「荷物持とうか? 流石にギター持つのは気が引けるけど」

 「いいよ。慣れてるから」

 「そう? それならいいけど」

 2人で職員室へと向かった。その間、誰の目にも止まらなかったのは幸運だった。変な噂が広まると取り返しのつかないところまで広まりそうだったからな。オレじゃなく中野さんに申し訳ないわ。

 職員室へ入ると、中野さんは顧問の先生の下へ歩き出した。オレはその後ろについていく。

 

 「あら梓ちゃん、どうしたの? そちらの人は?」

 「先生、金曜日に頼まれていたことです。この人が ー 」

 「七島弘志です。軽音部を見学したいと思いまして」

 「見学?」

 「ええ。自分は何も楽器が出来ないけれども、去年の学園祭や新歓ライブの演奏を聴いて、何ていうんだろう。言葉で表現できないようなことがありまして ー 」

 

 「分かったわ。私も今部室へ向かうところだったの。一緒に行きましょう」

 「はい。あ、先生の名前は?」

 「言い忘れてたわね。山中さわ子(やまなかさわこ)よ。よろしくね」

 「よろしくお願いします」

 これはまたメガネ美人の先生だ。高橋先生って人もそうだったが、こちらのほうはまた違った感じの……

 そんなことを考えていると、さっさと歩き出していたので後を追う。

 

 音楽準備室前につくと、躊躇もなしに先生はドアを開けた。普通躊躇はしないか……中野さんもそれに従って入る。オレはひとまず、ドア前に待機。

 

 「みんな聞いて!」

 「さわちゃん……どったの?」

 「新入部員が来たわ!」

 『新入部員!?』

 見事に全員の声が聞こえてきた。

 先生の思わぬ発言に部屋へ入ってしまう。

 

 「先生、まだ入部するとまでは言ってませんよ! 見学って言ったじゃないですか」

 「あら、そうだっけ? 紹介するわ。1年生の ー 」

 「どうも初めまして。七島弘志と言います」

 自己紹介すると、先輩方は1人1人自己紹介をしてくださった。

 

 「部長の田井中律(たいなかりつ)だよ~ん。パートはドラム。よろしく!」

 元気一杯がモットーという感じの田井中先輩。ショートカットにカチューシャをつけおでこを出していた。パワフルな演奏だったのは覚えている。

 

 「秋山澪(あきやまみお)だ。ベースをしている。よろしくな」

 黒ロングのストレート、珍しい左利きのベースだったのは覚えている。たまにボーカルもしていた。あれ?そういえばこの先輩、去年の学園祭で ー とか思っていたら次の先輩が自己紹介していた。

 

 「キーボード担当の琴吹紬(ことぶきつむぎ)です。よろしくね」

 おっとり系のお嬢様という感じ。金髪とまでは言わないけど明るい色のロングな人。この先輩のキーボードは繊細かつ大胆だったイメージが。

 

 「平沢唯(ひらさわゆい)だよ。ギターとボーカルをしているよ。よろしくね」

 可愛いタイプの顔つきで、茶髪のセミロング。ああ、確かに平沢さん(妹)と似ているなあ。この先輩が、最初は素人で部活に入った先輩なんだよね。そうは見えなかったけどなあ。

 「わたしも……ですかね。改めて中野梓です。ギターをしているよ」

 クラスメイトの中野さん、同じ学年同じクラスということで仲良くしていきたいものだ。

 

 「それよりさあ、弘志君って何で軽音部に入ろうとしたの?」

 「何のパートを希望するの?」

 「お菓子何が好き?」

 と先輩方が矢継ぎ早に質問するので焦っていたら、秋山先輩が助け舟を出してくれた。

 

 「お前ら落ち着け。まず座ろう。そこで1個ずつ質問をしようじゃない」

 『はーい』

 奥にあるテーブルにそれぞれが座っていった。

 

       田井中先輩 平沢先輩

        テーブル  テーブル

        テーブル  テーブル

       秋山先輩   琴吹先輩

 

 先輩方はこんな感じに座った。

 中野さんが田井中先輩と秋山先輩の間のテーブルの横に座ったので、オレはその対面に陣取った。

 先生は、オレの左斜め後ろ3歩分くらいに位置とってパイプ椅子を取り出して座った。あれ? わざわざ出してきたということは、本当はこの場所先生の場所だったのかな……悪いことしたなあ……。

 というか、テーブルって言い方が悪いな。机だ机。教室にあるような机。

 

 「詳しい自己紹介をしてもらおうよ。こっちが聞きたい部分があったらこっちから質問するからさ」

 「あ、はい。分かりました」

 秋山先輩がオレにこう提案してくれたのでその通りにすることにした。

 

 「七島弘志です。残念ながら楽器は何も出来ません。ですが、去年の学園祭のライブや新歓ライブを聴いて、言葉に表せない何かがあって見学をしに来ました。絶対に邪魔はしないので、みなさんはいつもどおりのことをやっててもらって構いません。自分はじっと見ているだけです」

 一通り言い終わったら、質問が飛んできた。

 

 「楽器、何かしたいとかないの?」

 「えーっと……そこまでは……入ると決めたら、全ての楽器の基礎から学んでそこから何がしたいか決めたいです」

 「なるほどね~」

 「あ、えっとこちらから質問よろしいでしょうか?」

 「どったの? 何なに?」

 オレは一番気になったことを言った。

 

 「部員はこれだけですか?」

 それを言うと、気まずそうにみんな目をそらした。やべえまずいこと言っちゃった……

 「あ、すいません。そういったつもりじゃ……ただ、男子の先輩がいないか気になっただけで」

 「部員はこの子達だけ5人。だから男子はあなただけよ」

 と後ろから聞こえてきた。山中先生が答えてくれた。そうか。それなら仕方ないなあ……

 

 「やっぱ……男子の先輩とかいたほうが ー 」

 「あ、いやそんなことは無いですよ! ただ気になっただけですから」

 「そうなんだ~……」

 「あ、もう自分に構わないでください。いつもどおりにお願いします」

 オレがそう言うと、平沢先輩が口を開いた。

 

 「じゃあ、いつもどおりに。ムギちゃ~ん」

 「は~い。今淹れますよ~」

 と、自前のティーセットを取り出し、1人1人の前に紅茶が置かれた。そしてお菓子も出てきた。こ、これが非公認お菓子ということか。ってかもろ先生の目の前!? 先生の方を見てみると ー 普通に一緒になって食べてるし! ま、まあいいや。これが練習前の腹ごしらえというものなのだろう。

 

 「いただきま~す」

 「おいひ~い」

 オレも一口食べてみる。めっちゃ美味しい。こんなお菓子食べたこと無いぜ……

 

 「ムギちゃんはね~」

 と平沢先輩がお菓子を食べながらオレに説明してくれた。

 「お嬢様なんだよ~」

 なるほど。見た目どおりか。ってことは中野さんが金曜日に怒っていた自前のティーセットってのはこの人が。

 「家で余ったお茶やお菓子を持ってきているんですよ」

 余ったお茶やお菓子って……凄いな。

 

 「そういえば、ティーセット結局撤去しなかったのは?」

 「何でもかんでも否定するのはよくないと思いまして……」

 金曜日のことか。そりゃあ最初に来たらそう思ってしまうわ。流石にダメだろ!?と思ったけど先輩に向かって言えないよね……

 「梓ちゃんっていつギター始めたの?」

 平沢先輩がそう中野さんに尋ねた。

 「小4からです。親がジャズバンドをやっていたのでその影響で」

 「へーすごい」

 ギターってそんな小さい頃から握っている人居るんだね。そりゃ上手いだろうなあ。聞いたこと無いけど…

 

 「そうそう、私梓ちゃんにプレゼント持ってきたの」

 と、山中先生が思い出し、持参した袋からとあるものを取り出す。

 「何ですかそれ……」

 「何って“ネコ耳”よ」

 「それは知ってます。けど、これをどうすれば……」

 非常に困惑した表情を浮かべる中野さん。そして恐ろしい笑みを浮かべながら、中野さんの頭に装着させようとしている山中先生。

 

 「ダメです!」

 「もう、恥ずかしがりやさんね……」

 いや……そういうものじゃないと思う。

 

 「先輩方だって ー 」

 その考えは甘いかもしれない。あの着ぐるみを着ていた人たちだぞ。

 「躊躇無くつけてる!」

 やっぱり……ここで常識というのは通用しないのか。持ちこたえろ中野さん。オレは応援するよ。

 琴吹先輩や平沢先輩がつけた後に、とうとう中野さんに回ってきた。

 渋々といった表情で、恐る恐るネコ耳を装着している。

 

 『オオー!!』

 「似合っているよ!」

 先輩方が騒ぐのは無理は無い。確かに似合っている。この先生の眼力恐るべし。

 

 「ねえ、ニャーって言ってみて。ニャーって」

 「に、ニャー……」

 「最高っ……」

  やばいな。直視出来なくなって来た。あまりにも似合いすぎて……見ているこっちも恥ずかしくなる。

 

 「今日から、梓ちゃんのあだ名は“あずにゃん”で決定だね」

 「え……?」

 再び騒ぎ出した先輩方。大丈夫なのかな……

 その騒ぎに先生も便乗して“ネコ耳メイド”とか言って大はしゃぎ。

 思わず中野さんの口からこぼれた『練習していないのに疲れた』というのには同情できる。

 

 「それならば、弘志君も何かあだ名をつけないと ー 」

 「け、結構ですよ~」

 変なのつけられないといいけど……そうならないために先手を打つ!

 「じゃ、じゃあ、みんなからは“ヒロ”って呼ばれてるからそれでお願いします」

 「ヒロねえ……分かった!」

 ほっ……オレまで“ヒロにゃん”とかになったらどうしようかと思ったぜ……

 

 結局、今日は練習せずに部活は終了。6人で歩いて帰っているときに、

 「ねえねえ、アイス食べに行かない?」

 「いいわね。そうしましょう」

 「あずにゃんも一緒に。先輩がおごってあげる。わたしの行きつけの店」

 「は、はあ……」

 「違うよあずにゃん、返事は“ニャー”だよ。はい“ニャー”」

 「に、ニャー……」

 「おーしよしよしよし」

 手なずけられてる……

 

 「ヒロも遠慮せずについて来いよ」

 「え、ええ」

 オレと中野さんの心情は多分一致しているだろう。“この部活大丈夫なのかな……”

 いつの間にかアイス屋の前について、アイスを買い食べ始めた。甘いものが大好きという平沢先輩の行きつけの店だけあって、とっても美味しかった。ここもチェックしておかないと。

 

 オレと中野さんの前に、秋山先輩が来て話しかけてきた。

 「大丈夫? この軽音部でやっていけそう?」

 「あ、えーっと、こののんびりした空気がちょっと……あれですけど……」

 真面目だなあ。練習熱心だよ本当に。

 「大丈夫。すぐ慣れるよ」

 ていうか、慣れたくないという呟きが中野さんのほうから聞こえてきた気がした。

 

 その後、みんな分かれてオレは1人で帰っているときに、買い物中のアキに偶然遭遇した。

 「おうアキ、買い物か」

 「あ、ヒロ、そだよ。何日分かのね」

 「お前、料理自分で作ってるのか?」

 「そうじゃないと誰が作るんだよ」

 「確かにそうだな」

 アキの両親が1人暮らしをさせてるということは、そこそこは家事が出来るのだろう。

 

 「軽音部、どんな感じ?」

 「ん~まだ見学だけど、面白い部活だよ。女子しか居ないのがちょっと残念かな」

 「そうなのか~女子しか居ないってうらやましすぎると思うけどな」

 「そういうものか? まあいいや。明日は寝坊しないように早く寝ろよ」

 「善処するよ」

 あれ? 善処って善い方向に処理するって意味だよね。でも、何故だろう。今の流れからすると、全くいい方向に使われている気がしない。寝坊する確率高そう……

 その後数分話した後、それぞれの家に帰った。心に1つの疑問を抱きながら。

 

 





 このオリジナルキャラはどっか抜けている場面をところどころ出してます。

 高校生活で初めて女子と喋ったときはめっちゃ緊張しました。今でも覚えていますよ!

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#7 決断!


 なかなか先に進まないものじゃありますね。

 このままじゃ、バカテスのほうでは2年生からが本番ってのに何十話も行ってしまう気が。

 では、どうぞ!!


 

 「 ー ウチは軽音部なんだからもっと練習しないと!! だから明日から練習するの! いい!?」

 怒り出した秋山先輩。よかった~1人くらいこういった存在が居て。

 こうなったのは……今日は、新入生歓迎会だといってピクニックにやってきた。そこで1日中遊んで練習もしなかった。その帰り道、田井中先輩や平沢先輩や琴吹先輩や山中先生が次何処へ遊びに行くかを話し合っていた。そこで秋山先輩が怒り出したというわけだ。

 この秋山先輩の正論にはうなずくばかりだ。秋山先輩の隣にいた中野さんも必死にうなずいていた。そのオーラに押されたのか、言葉に押されたのか、本当にいけないと思ったのか、全員が納得したようにうなずいた。

 

  ~次の日~

 

 「今日は練習するぞ~!」

 「オオー!」

 放課後、部室へ行くと田井中先輩が珍しく部長としての役割を果たしているのを見た。

 それぞれがセッティングを始めたためオレはソファで見学することに。が、一つ疑問点が浮かび上がっていた。

 

 「唯と梓、ギターが2人になったから、音楽にも厚みが増すと思うんだ。どっちがリードギターする?」

 との提案に、平沢先輩は目を輝かせて『私がやる』オーラを前面に出していた。それを知ってか知らないでか、田井中先輩は『どちらが上手いか』で選ぼうと言った。

 まず、中野さんが弾いてみる。……上手い。あまりの上手さに、平沢先輩が苦しい言い訳を使った。

 

 「あ、学園祭で発症したぎっくり腰が……」

 「それは苦しいぞ。本音を出せ」 

 「あずにゃん、わたしにギターを教えてください!」

 「変わり身早っ!」

 突っ込みも早い。何かいよいよ軽音部って感じになってきたな。

 

 平沢先輩に中野さんが教えているところを近くで聞いてみた。

 

 「あ、そこはミュートをしたほうが、後そのフレーズはビブラートを効かせたほうが」

 「ミュート?ビブラート? 何それ?」

 「ええっ!」

 中野さんは心底驚いている様子だった。音楽用語か。何となくの意味は分かるぞ。ミュートは弦を軽く押さえて音を出さないようにするんだよな。ビブラートは音が何かなるやつでしょ。

 秋山先輩が残念そうに中野さんにこう告げた。

 

 「こんなんでも1年間やってきたんだ」

 「ミュートもビブラートも知らないでどうやって ー 」

 

  ジャーンジャジャーン

 

 「あれ? ミュート出来ている」

 「ああ、さっきのがミュートって言うんだ~」

 「唯はな、ゲーム買っても説明書読まないタイプなんだよ」

 「納得です」

 オレも納得です。オレとは真反対の性格だな。

 

 「そろそろ、お茶にしない?」

 まさかの先生が最初に言いだした。初めはみんな断っていたのだが、あまりにもしつこいため結局ブレイクタイムを入れることになった。そうなると、ミイラ取りがミイラになるわけで、秋山先輩以外の3人の先輩は一気に練習する気が見る見るうちに失せて行ってる。

 

 「は~い、梓ちゃん専用のカップよ」

 とまあ先生は用意周到なことで。

 「もちろん、こっちはヒロ君の」

 オレのもあるんですか……中野さんはネコ柄のに対し……オレは無地?

 別にお茶とか飲めればそれでいいんだけどね。

 

 結局、その日はそれ以降練習せずに終了した。

 

  ~次の日~

 

 「ヒロ~」

 「どうしたアキ」

 放課後珍しくアキがオレに話しかけてきた。

 

 「帰りゲーセン行かない? 雄二たちも行くってさ」

 「ああ……悪ぃ……部活があるからさ。すまねえな」

 「いいよ、ヒロ部活頑張ってね。結局入部することに決めた?」

 「まだ見学の段階だ。もうちょっといろいろなことをね知っておかないと」

 「そうなんだね。部活に入るってのもやっぱり大変だね」

 「それを乗り越えたら何か新しいものがあるのかもしれないな」

 「そうかもね。じゃ、応援してるよ!」

 「また誘ってくれ。今のところ土日は部活やってないから」

 「分かった」

 さて、部活行くか。どうやら中野さんは先に行ってるみたいで姿が見えなかった。

 

 部室に入ると、そこには既に4人の先輩全員が揃っていた。だが、中野さんの姿が見えない。

 

 「おーっすヒロ。梓は?」 

 「教室にはもういませんでしたよ。先にここに来ているものだと」

 「今日はまだ来てないね」

 「早く練習始めるぞ」

 『おおっ!!』

 先輩方4人の演奏をずっと聞いていた。

 

 いざ、練習始まるとスイッチが入ったというのか何と言うか。やはりあの時感じた一体感を覚えた。そんなに1人1人が上手くないのに、チームとしてまとまると掛け算の要領ですごくなる。

 やっぱりこの人たちはこのチームだからこそのメンバーなんだ。オレは素人だし、このグループに入れそうにない。でも、この人たちのお手伝いを何かしてみたいと思った。

 練習が終わって、みんな帰ろうとしたときにオレはこういった。

 

 「オレ、七島弘志は、見学じゃなく正式に入部したいと思います!」

 「本当か!?」

 「やったー!」

 「また新入部員が増えたよ!」

 「明日からも待ってるぞ。ヒロ」

 「はいっ。ありがとうございます。でも」

 いったん言葉を切ると、何かしら心配そうに先輩方がこちらを見ていた。

 

 「オレは何の楽器も出来ません。練習したところで先輩方のバンドでやれそうもありません……でも、裏方でもいいと思いました。それでもいいですか」

 オレのこの提案は困惑させるのにさほど難しいものではなかった。

 「ともかく、入って練習してそれでもダメなときはそうすればいいけど、最初からそうするのは早すぎるわよ」

 と先生が答えてくれた。

 「分かりました。先輩方、今後ともよろしくお願いします」

 『よろしく~!!』

 

 オレは名前の欄だけ書いていた入部届けに、“軽音部”と書いて山中先生に提出した。

 

 「確かに受け取ったわ。明日から頑張ってね」

 そのエールを受け取り、オレは先輩方と共に帰路を共にした。

 途中までは5人とも一緒の方向だったけど、1人また1人と違う道になっていくうちに、オレは秋山先輩と田井中先輩と一緒になった。

 

 「ヒロは家、こっちなんだな」

 「はい」

 オレはそれだけ言うと、周りの景色を見渡した。そして、2人の顔を見た。

 そして、前から思っていた疑問をもとに、ある仮説を立てた。

 

 「どうしたんだ? 私たちの顔に何かついてる?」

 あまりにもオレがジーっと見ていたのだろう。こう言われた。

 「い、いや、何かこんなことが前にあった気がすると思いまして」

 「ふ~ん…」

 その仮説が現実であったらどれだけ嬉しいと思いながら、歩いていく。

 

 「じゃ、あたし家ココだから……」

 「律また明日」

 「また明日~ ヒロも明日から待ってるぞ 」

 「あっ!!!!」

 オレは今まで確信がもてなかった自分の中の仮説があっているのを確認した。

 

 「どうしたんだ急にびっくりしたじゃないか。ほら見ろ、澪のやつだっておびえてるじゃないか……」

 「すいません……ただ、さっき言っていた前にこんなことがあった気が……っていうのを思い出し ー 」

 「そうかそれはよかったな」

 「驚かしてすいません……」

 「あたしはいいから澪をどうにかしろ」

 「すいません驚かしてしまって。もう大丈夫です」

 オレが声を掛けると立ち直った。見た目によらず怖がりだということが分かった。

 立ち上がるとすぐに田井中先輩に別れを告げ、歩き出す。オレもそれに習う。

 秋山先輩と田井中先輩は幼馴染らしく家も近所だった。すぐに秋山先輩の家に着き、オレは自分の家に帰った。そして、先ほど解いた仮説の裏づけとなるようなものを家の中で調べた。

 

 「見つけた……」

 オレは古いアルバムを手に取りその中の1枚の写真に目が行った。

 

 




 何か、終わり方がですね……
 ある程度は予想つくでしょうが、多分完全正解は居ないと思います!

 徐々に、オリ主のデータが明らかに。

 ああ、後一応注意しておきますが、FFF団はまだ存在してませんからね。そそのかそうって言ったって無理ですよ(笑)
 オリ主がハーレム状況だということは気にしない気にしない!

 コメント・質問・批評・評価、
 お待ちしています♪


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#8 親睦!


 けいおん!のメンバー、原作では男子と話すシーンほとんどなかったですから難しいですね。

 そろそろバカテスのほうの影が薄くなってきたけど……大丈夫かな。

 では、どうぞ!!




 

 「最近、あずにゃん来ないね」

 「そうだね……1週間は来てないわ」

 そう、あの日から毎日部活では練習をしているのだが、中野さんの姿が見当たらない。教室で目が合ったときも何かとオレを避けている。嫌われちゃったかな……。

 

 「ヒロ、梓は教室ではどんな?」

 「前と変わらずいたって普通ですが……」

 「もう来ないかも……」

 その会話を聞いていたか知らないけど、中野さんが部室に入ってきた。

 

   ★

 

 「あ、梓! どうして最近来なかったんだよ! ここんとこ毎日練習してたんだぞ!」

 「わー待ってたよあずにゃん!」

 わたし、梓は一週間ぶりくらいに部室を訪れた。

 

 「まさか、やめるって言いに来たのか!?」

 「それだけは勘弁してくだせえ!」

 わたしは、軽音部は練習しなさ過ぎてダメだと思ったので、この1週間は外のバンドの演奏を聴きに行っていた。やっぱり外のバンドの方が上手い。でも……でも……何故かあの時の演奏が ー ……

 

 「どうしていいか……分からなくなって……」

 『えっ?』

 「どうして軽音部に入ろうと思ったのか……どうしてあんなに新歓ライブの演奏のときに感動したのか……しばらく一緒に居てみれば分かると思って……でも……一緒にやってきたけど、やっぱりわからなくなって……」

 わたしは、涙をこらえることが出来ず、最後のほうは言葉にならなかった。

 

 「それなら、いっちょ演奏するか!」

 「あの時の気持ちを思い出せるようにさ」

 先輩方は、新歓ライブでやった曲の1つを演奏しだした。

 ……やっぱり……どうしてだろう。

 唯先輩はまるで音楽用語知らないし、律先輩のドラムも走り気味だし……

 なのに、どうしてこの4人が演奏するとこんなにいい曲になるんだろう。

 

 演奏し終わると、澪先輩がわたしのほうに歩いてきた。

 

 「梓、この前何で外バン組まないか聞いたよね」

 ……ピクニックの時に澪先輩に聞いたけど答えが聞けてなかったんだった……

 

 「やっぱりわたしはこのメンバーでバンドをするのが楽しいんだと思う。きっとみんなもそうで、だから良い演奏になるんだと思う」

 わたしはこの言葉を聴いて、今まで抱え込んでいた悩みが無くなった!

 

 「梓、一緒に演奏しよう!」

 「はい! わたしやっぱり先輩方と演奏したいです!」

 「よかった~あずにゃん~!」

 

   ★

 

 オレはこの様子を見て、この部活に、この人たちに出会えてよかったと思うと同時にうらやましくも思った。

 本当の本当にこの部の一員となれる日が来るのかな。その日はオレが楽器の何かをマスターしてみんなとの息が合うというところまで行かないとダメだ。く~中野さんうらやましすぎる。

 オレも家で何か練習しないとな……もしかしたら親に聞いたらギターやベースが眠っているかもしれない。

 

 「まあ、これからもお茶飲んだりだらだらすることもあるだろうけど、それは必要な時間ということなんだよ」

 この一言に、軽音部の特徴が集約されているような気がした。

 「はあ……そういうものなんですね」

 

 「いや~中野さんが戻ってきてくれてよかったよ。先輩方のやる気がなかなか上がってなかったんだよ~」

 「ほ~言うなヒロ。そういうお前も『梓ちゃんがいないとボク寂しい!』な~んて言ってなかったか?」

 何てことを言いやがるんだこの人は! この人が冗談言っても嘘が嘘に聞こえない!!

 

 「いいいいい言ってませんよそんなこと!! 大体田井中先輩達だって ー 」

 「おいおいヒロ、その田井中先輩ってのは今更堅苦しいぞ。下の名前で呼べ下の名前で」

 「え? 律先輩?」

 「よーしそうだ。せっかくだからみんな下の名前で呼ぶことにしよう。お互いな」

 部長が提案したことにぎゃーぎゃー言っているようだったがみんな異論は無かったみたいだった。

 

 「え~っと、律先輩・澪先輩・唯先輩・紬先輩と呼べばいいんですかね」

 「わたしは『ムギ』で良いわよ。みんなもそう呼んでいるし」

 「分かりましたムギ先輩」

 中野さんは先輩のことを前から下の名前で呼んでいたから何も変えなくて良いのか……

 

 「じゃあ、改めて軽音部がスタートするという意味を込めて下の名前で呼び合うぞ~!」

 『おおー』

 先輩方はそれだけ言うと、騒ぎ出し手がつけられなくなった。微妙に置いてかれた気がするオレと中野さんはお互い見合って苦笑していた。

 

 「先輩方元気だね、中野さん……」

 「そうだね……七島君……」

 「ちょっと待った~!! 何で君たち2人はまだ苗字で呼び合ってるんだい?」

 「そうだよ、あずにゃん・ヒロくん! みんな下の名前で呼び合うっていうのが決まりでしょ!」

 げげっ……さっきまでぎゃーぎゃー騒いでいたのに、こんなちっちゃい声の会話が聞こえるのかよ。

 

 「親睦を深めるためにも、下の名前で呼び合ったほうがいいと思うぞ」

 「そうよ2人とも~」

 澪先輩やムギ先輩まで~……

 同級生が居るのは心強いけど、出会って間もない女子を下の名前で呼ぶなんて……あえて避けていたのに。

 

 「さあさあ、梓ちゃんは“ヒロ君”って、弘志君は“梓ちゃん”って言いなさい!」

 何とココで悪ノリの女王の山中さわ子先生、通称:さわちゃん先生までやってきた~

 

 「え……それはちょっと恥ずかしいですし……」

 「そ、そうですよ。恥ずかしいです」

 お互い視線をずらし、顔を赤らめていた。どうすればいいんだ~!!

 

 「ダメよ!」

 「そうだそうだ~」

 「さわちゃんいいこと言う~」

 ……完全アウェーだ。オレと中野さんは窮地に追い込まれた。

 

 「ぐっ…………」

 このまましらばっくれたところで、この人たちは諦めるような人たちじゃない。これも仲良くなるため。軽音部でやっていけるようにするため。どうにでもなれ~!!

 

 「あ……あ…梓……さん」

 「おいおい、下の名前で呼ぶのにさん付けはないだろう。もう同じ仲間なんだぜ!」

 「そうよ! ちゃん付けか呼び捨てにしなさい!」

 ちゃ、ちゃん付け!? 呼び捨て!?

 覚悟を決めて、『梓ちゃん』と呼ぶと、向こうも恥ずかしがりながら『ヒロ君』と呼んだ。同級生の女子から君付けをされたのは初めてかもしれない。

 

 「よくやった2人とも! 褒めてつかわす」

 「これでまた1歩前進だね」

 律先輩や唯先輩はなか ー 梓ちゃんみたいな立場に立ったとしても平気で下の名前呼べるだろうなあ。

 澪先輩は確実に嫌がるだろうなあ。ムギ先輩はイマイチつかめない。

 

 「それにしても今のやり取り思ったけど。そうやって照れてる方が逆に恥ずかしくないか?」

 「そうだよ。あずにゃん・ヒロ君、今のどうみても恋人同士が恥ずかしがってる場面みたいじゃない」

 『えっ!?』

 「おい律、唯そろそろやめてやれ。この2人もう耐え切れなくなるぞ」

 な、ナイスフォローです澪先輩。軽音部のまとめ役という突っ込み役というか。この人がいなかったら、常に暴走しているような気がしてならない。

 

 「そうだな。よ~し、じゃあお茶にするか」

 「そうしましょう。私が淹れるわ」

 「わ~い、今日のお菓子は何かな~」

 ……………………

 

 展開が速すぎてついていけなくなったオレと梓の前に、澪先輩がこう言ってくれた。

 

 「2人とも大丈夫だ。これからもよろしくな!」

 『は、ハイ……』

 「それじゃあ、お茶にするみたいだから2人とも席に座って」

 『はい』

 未だに慣れないけど、この部活ならやっていけそうだなと思ったのであった。

 

   ★

 

 まさか、こんな出会って間もない男子を下の名前で呼ぶなんて恥ずかしい!

 というか、今までで男子を下の名前で呼んだことあったかな……あ~もういいや。これが軽音部。そう思おう。同じ学年の人が1人でも居てくれた方が心強いし。暴走しがちな先輩が多い中、澪先輩やなな ー ヒロ君はまともそうだし。頑張ろう。

 

 





 下の名前で呼び合う。
 これだけで一気に仲良くなったように感じるのは気のせいじゃないでしょう。

 バカテス原作、1年生次の出来事がほとんど書かれてませんから、影が薄くなっても仕方ありませんね……
 出来るだけちょこちょこ出して行きたいと思っているんだけど。

 コメント・感想・批評・評価、
 よろしくお願いします♪


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#9 会話!


 今回は、サブタイトルにもあるように、会話文が中心となっています。

 久しぶりにバカテスキャラを!

 では、どうぞ!!




 

 次の日、珍しく早起きしたアキから電話があって早めに学校行くことになった。登校中の道で、雄二が歩いているのが見えたため、アキは声を掛けた。

 

 「おーい雄二~」

 「明久に弘志か」

 「何だ朝から元気ねえな。何かあったのか?」

 普段無愛想だが、今日はいつにも増して不機嫌そうだった。

 

 「ちょっとな、朝から怒り散らしたから疲れているだけだ」

 「何があったんだよ」

 「いや、言うほどのことではない」

 言うほどでもないことなら怒り散らして疲れはせんだろう。

 

 「そうか。そりゃあ大変だったな」

 「お前にはこの苦労が分からない」

 相当苦労してるじゃないか。

 

 「どんな苦労か教えてよ雄二」

 「朝のコーヒーを飲もうとしたら、めんつゆが入っていた」

 「は?」

 結局言ってるじゃないかというツッコミよりも、オレは一瞬耳を疑った。コーヒーを飲もうとしたらめんつゆ?

 

 「意味が分からん」

 「おふくろがコーヒーと間違ってめんつゆを入れたってことだ」

 ってことだ。とか簡単に言ってるけど……は?

 

 「雄二、大変だね。その気持ち分かるよ」

 何かやけに真実味が籠っていたのは何故だろう。

 

 「そういやお前、部活入ったんだってな」

 「ん? あ、ああ。軽音部にな」

 「お前も物好きだな。俺なら部活とか面倒くさくてやりたくねえけど」

 「実にお前らしい回答だ」

 「そういえば、ちゃんと両親に許可取ったの?」

 許可……確かに親の同意がいるんだもんな。それは大丈夫だと思う……

 昨日ちゃんと話したからな。

 

  ~昨夜~

 

 「あんた、この頃帰り遅いと思ったら部活してるんだって?」

 「えっ?」

 帰ってくると同時に母親がこんなことを言いだした。

 

 「さっき吉井君がヒロはいませんか~ってウチ訪ねてきたわよ」

 「あれ……携帯に着信入ってなかった気が?」

 と、携帯を確認してみると、オレの携帯は充電が切れていた。

 

 「まだ帰ってきてないわよ。って言ったら、吉井君がじゃあまだ部活してるんですねって言ったから」

 「ははは……どの部活に入ろうか決めたら言おうと思ってたんだ」

 「父さん帰ってきているから3人で話し合いましょう」

 ウチは3人家族で、一応部活に入るには家族の同意がいるらしいので3人で話すことになった。

 

 「それで、何部に入るつもりなんだ?」

 「軽音部に入りたいと」

 「お前、楽器何も出来ないだろう」

 「やめときなさい。どうせやめる羽目になるわ」

 そういう反応するのが普通。でも、だからといってやめたいとは思わない。

 

 「絶対に入りたいんだ。楽器なら練習すれば何とかなるかもしれない。あの人たちが居る軽音部に入りたいんだ」

 と、熱く語っていたら両親も折れて、OKを出してくれた。

 

 「実を言うとなあ、俺は学生時代バンド組んでてギターボーカルをしてたんだ」

 「えっ!?」

 「私も学生時代はボーカルやってたわね」

 「えっ!?」

 高1にもなってそんな話初耳だぞ!

 一時、両親の話を聞いているとオレの楽器の話になった。

 

 「小さい頃から、キーボードで遊んでいたじゃない」

 演奏出来るとかいうレベルじゃないけど……一番慣れ親しんでいる楽器かもしれない。

 「それにアンタ、PCを毎日やっているから指は動くでしょう」

 そのキーボードに関しては結構自信ある。

 

 「ちょっと試してみよう。お前、指をこの形にしてみろ」

 「こう?」

 「違う」

 「あいた…つった……」

 「これは初心者がギターを諦める原因として一番多いコードの指だ。Fの音だ」

 基礎の音楽知識は身につけたから親父が言っている意味も分かる。

 

 「あんた歌下手だからね~」

 「下手ではないやい! 上手くは無いだけで」

 「それを下手というのよ」

 「ぐぐぐ……」

 そりゃバンドでボーカルを務めてた両親から見ると素人の歌なんて下手に聞こえるだろうけど。

 

 「もう素直にキーボードをやりなさい」

 「そうだ。ウチに楽器を新しく買う余裕などないからな」

 「は~い」

 経済状況が苦しいのは十分承知している。キーボードかあ……やってみよう。

 いざ、あのバンドに入るってなったときは……

 ドラム・ベース・ギター2・キーボード2って感じになるのか……アンバランスな気もするけど、オレが最初に好きになった歌手(バンド)もキーボード2つだからいいと思う。

 あの人たちの仲間にどうしても入りたい! 練習あるのみだな。

 

  ~戻る~

 

 「ん?あれは康太じゃない?」

 「ホントだ。あいつも早いな」

 「………いつもこのくらい」

 「聞こえてたのかよ」

 首を縦に振り肯定の意を示していた。このたいそうなバックの中に何が入ってるか知りたいものだ。

 流れ的に3人は一緒に登校することになった。

 

 「あれ?秀吉?」

 門の前辺りまで来ると、偶然秀吉に遭遇した。

 「お主たち、今朝は早いのう」

 「え、あ、うん……それより後ろの子たちは同じクラスの子だよね?」

 そう、秀吉は2人の女子と共に登校していたのだった。

 

 「同じ中学校出身で姉上と仲がよかったからのう」

 「姉?」

 「言っておらんかったかの? ワシには双子の姉がおるのじゃ」

 「そうなんだ!」

 双子の姉か。顔がそっくりだったらめっちゃ可愛いんだろうね。もしかしたら、男女間違って生まれてきていて、姉ちゃんの方は格好よかったりして……そんなわけ無いか。

 どうやらその姉の方は、学校に早めに行き予習をしているそうだ。人の模範となるべき存在だな……

 

 「軽音部、どうですか?」

 秀吉の後ろに居た1人の女子がいつの間にかオレの前まで来て質問していた。

 

 「あ、え~っと……楽しいよ」

 「そう! それはよかった! あ、私、唯の妹の憂です。お姉ちゃんから君の話聞いてたから」

 「あ、そうなんだ……え~っと平沢さん?」

 「お姉ちゃんと間違えるから、下の名前で呼んでいいよ。確かヒロ君って呼ばれてるんでしょ」

 平沢憂。唯先輩の妹、髪は短めだけどポニーテール。顔は本当にそっくりだった。

 先輩と違って、妹の方はしっかりしてそうだ。

 

 「あ……」

 「普通に、憂でいいよヒロ君」

 どうしてこんなに躊躇が無いんだ!? 姉妹揃って、大事なところは天然なのか?

 

 「分かった……う、憂ちゃん」

 「これからもよろしくね!」 

 「あ、うん」

 「ね~憂~早く行こう! 他のみんな行っちゃったよ」

 「えっ!?」

 オレもその言葉を聞いて周りを見てみるが、アキや雄二・康太や秀吉はさっさと歩いていっていた。

 

 「あいつら……」

 「急がなくていいの?」

 「別に良いんじゃない? 目的地は一緒だし」

 とひら ー 憂ちゃんがそう言った。確かにその通りだ。あいつらと話なら後でも出来る。

 

 「へ~君が新しく軽音部に入ったんだね~あ、私、鈴木純。ジャズ研でベースしてるよ」

 「あ、よろしく」

 梓ちゃんがロングでツインテールなのに対し、こっちは結構短めのツインテールだ。

 結構、お気楽タイプなのが言葉の端々に感じられる。

 

 憂ちゃんが何気なしに後ろを向いて、その後、

 「梓ちゃん、おはよう!」

 「おはよう」

 と梓を見つけていた。直感?

 

 「そっか~2人は同じ軽音部だね~仲良くしてる?」

 「まあ……」

 「それなりに」

 「梓~この学年で誰も入ってこなくて、次も入ってこなかったら、あんたたち2人きりだよ~」

 おいそこの方。何てことを言いやがるんだ。縁起でもない。

 

 「ちょ、純その言い方やめてよ!」

 「へへ~冗談だよ冗談」

 「でもそうなったらどうなるんだろう。部活って4人以上いないと廃部になるんだよね……」

 え、そなの? あんまり嫌な未来は考えたくないけど、先輩方が卒業しても部員が増えなかったら廃部?

 

 「早く、教室行こっ。人増えてきたよ」

 ちょっと暗いムードになったところを、憂がこう言ってくれたため沈まずにすんだ。

 教室に入ると、先に行ってたやつら4人が椅子に座って喋っていた。 

 オレはすぐにそこに行くと、いっせいに喋りかけられた。

 

 「うらやましいよ。あんな可愛い子3人と喋れて」

 「全く……お前って意外とやるな」

 「………うらやましいを通り越してねたましい」

 「まあ、平沢や鈴木は比較的話しやすいとしても、中野と話すってのはすごいのう。同じ部活じゃからか」

 オレは聖徳太子じゃないぞ。てめえらいっせいに喋ったって分かるか。

 

 「ってか、何でお前ら先に行ったんだよ!」

 「邪魔しちゃ悪いから」

 「何の邪魔だよ! うらやましいとか後で言うくらいなら、その場に居ろよ! 紹介できるじゃないか」

 「………いい雰囲気だった」

 寒気がした。こいつがいい雰囲気だったとか言うと、あんまりいい風に聞こえないな。

 その後、世間話をしていたら、鉄人こと西村先生が現れたので席に戻った。

 

 





 FFF団が結成されてないからといって、今から結成しようとするのはやめてくださいね(笑)

 どの部活に入っても、男女一緒に居る場合は自然と仲良くなりますよね?

 帰宅部を経験し、現在軽音部の作者は分かります。

 雄二の母親の話がちらっと出ましたね。

 原作どおりです……

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#10 秘密!


 ええ……

 今話では、頻繁にモノローグの主が変わったりします。

 ★で、変わっていますので。
 分かると思いますけど。

 では、どうぞ!!



 

 楽しく部活する日が何日も続いた。

 そんなある日。

 1年生は5時間授業だったが、2年生は6時間授業の日だった。

 おまけに、梓ちゃんは病院に行ってくる(早く終わったら部活に来るとのこと)とかで、今部室にはオレ1人だ。

 

 楽器を勝手に触るのはどうかと思ったので、椅子に座って、手帳を開いてみた。オレは今まで軽音部で気づいたことや大事なこと・予定などは全て手帳に書いてたりするのだ。几帳面な部分もあるし大雑把なところもある。その手帳を数十分見ていたら、直射日光がオレに当たったりして眠くなってきたので、眠気に負けて寝てしまった。

 

   ★

 

 「あ、せんぱ~い」

 芸術塔の階段を上っていると、4人の先輩方が見えた。ちょうど、6時間目の授業が終わったあたりだったんだ。

 

 「お、梓。1年は5時間授業じゃなかったのか?」

 「わたしは病院に行ってたんですよ…大したことじゃないんですけど。それで今帰ってきました」

 「ってことは、今部室にはヒロ君1人?」

 部室に入ると確かに、ヒロ君がいたが寝ていた。

 

 「寝てる?」

 「あまりにも暇だったのだろう。まだ演奏できないからな」

 「それもそうだね~」

 わたしたちは机の方に歩いて、いつもの場所に座った。

 授業中とか一切寝ているの見たこと無いけど……相当眠かったんだね。

 

 「あれ?手帳?」

 「ホントだ~几帳面だね~」

 「ちょっと見ちゃお」

 「やめとけ律。人の手帳を勝手に見るもんじゃない。なあ、ムギ」

 澪先輩はムギ先輩に同意を求めるも、ムギ先輩は目を輝かせて見たいというオーラを出していた。

 

 「やめといたほうが ー 」

 わたしも一応、言ってみる。でも、

 「ちょっとだけ~」

 少数派のわたしや澪先輩の意見は通らない。

 律先輩が、ヒロ君の手帳を見てみる。

 

 「ほ~字きれいだな~」

 「ほんとだ~」

 「ちゃんと日記もつけてるぞ……ん? 何か写真が張ってあるみたいだ」

 パラパラとめくっていってると1ページだけ写真が張ってあったみたいで、そこのページを開いた律先輩。

 

 「あれ? これ、りっちゃんや澪ちゃんに似てない?」

 「ホントだ~ちっちゃいころのりっちゃんや澪ちゃんじゃないの?」

 と、唯先輩やムギ先輩が言ったので気になってわたしも見ることにした。

写真を見てみると、そこには3人の小学生の写真があった。

 律先輩や澪先輩を小さくした感じの人と、あと1人の人。

 

 「た、確かに、小さい頃の私たちだが……」

 「何で、ヒロがこの写真を ー ってあれ?」

 「まさか!?」

 『ストーカー!?』

 何でそうなるんですか……もっと他の理由があるでしょう。

 

 「違う。この写真覚えてるか澪?」

 「ああ。真ん中のって……」

 「うん。澪も覚えているよな。“ヒロ”だよな」

 『ヒロ!?』

 この可愛い写真の子が、ヒロ君? 同一人物じゃないでしょ!

 知りあいだなんて一言も言ってないし、ましてや律先輩や澪先輩が2人とも気づかないわけが無い。

 

 「でも……このヒロってわたしたちと同級生じゃなかったか?」

 「ああ………訳が分からなくなってきたぞ?」

 「前のページとか次のページ見てみたら?」

 唯先輩がそういった。ただ写真だけ貼ってるわけじゃなくてそのことに関して何か書いてあるかもしれない。

 

 “部活何にしようかな~野球は高校ではしたくないな~”

 

 「これじゃないな」

 「ヒロって元野球部だったんだ」

 確かに、運動できそうだ。関係ないと分かるとすぐに次のに。

 

 “新歓ライブ……軽音部すげえ!! 軽音部に入りてえ! でも楽器出来ないし……”

 

 「こうやって見ると、嬉しいものだねえ」

 「そうだな」

 「うん」

 もう、ここらで日記を見るのをやめにしたほうがいいかもしれないけど……気になる。

 

 “軽音部入部! 楽しくやっていこう! みんなに迷惑を掛けないように。 でもまさか、再会するとは思わなかったよ。 りっちゃん・みおちゃん。2人とも全く変わってなかったからすぐに分かったけど、オレは結構変わったからなあ。分からないよなあ。オレが転校したあと1年間入院とかしなければ、同級生として出会えたかもしれないのに……まさか先輩後輩だなんてなあ。でもいいや。再会できたことに感謝しないと。向こうが気づくまではオレからは何も言わないでおく。軽音部に入れてよかった~!”

 

 「え……?」

 「あのときのヒロとここにいるヒロが同一人物ってこと?」

 律先輩は思わず手帳を落としてしまい、そのひょうしに、中に挟んでたと思われるものが出てきた。

 

 「これは保険証だよりっちゃん」

 「りっちゃん・澪ちゃん、ヒロ君の生年わたしたちと一緒だよ……」

 ムギ先輩の口から衝撃の事実がこぼれ出た。保険証を見たのだろう。

 

 「ヒロ……」

 全員の視線が、ヒロ君に向く。これは……どういうことだろう。ヒロ君は1つ年上? 本来ならば先輩ってこと? そんな風に思っていたら、ヒロ君が起きた。

 

   ★

 

 ん……あら寝てたか……どんくらい寝てたんだろう。目を覚ますと、そこには4人の先輩と梓ちゃんが居た。

 

 「あ、すいません寝てました……」

 と、体を起こし、ひとまず謝る。しまったな~まさか先輩達が来るまで寝ていたとは。あれ……おかしいな……誰も喋らない。何かあったのかな…… まずは手帳を ー ってあれ?

 

 「どこだ手帳」

 「なあ、ヒロ……」

 「はい?」

 「ちょっと話いいか?」

 やけに深刻そうな律先輩の顔。みんなの顔を見てみるとまた同様の顔をしていた。

 

 「ど、どうしたんですか?」

 「これなんだけど……」

 「あ、オレの手帳! まさか中身見たんじゃ!」

 「興味本位で……」

 げっ……人に見られちゃいけないようなのばっかりなのに。

 

 「先に謝っとく。すまん」

 「あ、いや……オレが放置して寝てたのが悪いんです」

 「でだな。コレなんだけど……」

 オレの手帳を開き、特定のページが見つかるとオレの目の前に持ってくる。そのページは、あの写真を張っているページだった。

 

 「あっ!」

 「本当に、あのときのヒロなのか……」

 「答えてくれヒロ!」

 律先輩や澪先輩。いや、りっちゃんやみおちゃんが真剣な顔をしてこちらの顔をうかがう。

 

 「その様子だと、写真だけじゃなくてオレのつぶやきまで見たみたいですね……バレちゃ仕方ありません。ええ、小学校低学年まであなたたちと遊んでいたヒロと今のオレ、同一人物です。水無月小学校に転校してすぐに、1年間入院して留年することになったんですよ。だからオレは本来の学年より1つ下。もちろん、このことは今までに友達は誰も知りません。先生くらいです。生年が1人だけ早いから分かりますからね……」

 

   ★

 

 この言葉を聴いて、わたし梓は裏切られたような気持ちになった。留年してるってことは確かに誰にも言い触らしたくないだろうけど、同じ学年ということで思っていたのになあ。そう思っていたら、律先輩が、

 

 「ヒロ!! 何で早く言ってくれなかったんだよ!」

 「そうだぞ! 今まで後輩として話していたヒロがまさかあのときのヒロと同じだなんて……」

 澪先輩まで、涙目になりながらヒロ君に抗議する。わたしや唯先輩、ムギ先輩は口出せる状況じゃなかった。

 

 「すみませんでした ー いや、すまん。オレが何か言ったところでりっちゃんや澪ちゃんは、当時のことを忘れているかもしれないと思ったから」

 「忘れてるわけ無いだろ! 3人で遊んだあの日々は……」

 「律の言うとおりだ。わたしにとっては……最初に出来た友達だぞ!」

 「まあまありっちゃん、澪ちゃん……せっかくの再会なんでしょ、落ち着きなよ」

 「今、お茶淹れますからね~」

 唯先輩とムギ先輩が何とか場を和ませてくれたけど、ここまで律先輩や澪先輩がなるなんて……

 

   ★

 

 

  『りっちゃん・澪ちゃん、大事な話があるんだ』

  『大事な話?』

  『うん。実はボク、転校することになったんだ』

  『転校!? じゃあもう遊べなくなっちゃうの!?』

  『そんなの嫌だよ』

  『ゴメン……お父さんが引っ越すからね、ついていかなくちゃいけないんだ』

  『そんな……』

  『本当の友達ならいつかまた会えるよ』

  『……ううっ……』

  『泣かないでよ澪ちゃん……笑って送り出してよ』

  『そうだな、澪』

  『ボクが居なくなっても澪ちゃんにはりっちゃんがいる。りっちゃんには澪ちゃんが居る』

  『うん』

  『じゃあ、いつか会えたら会おう!』

  『バイバイ!!』

 

 

 未だにくっきりと別れのシーンが残っていた。

 忘れることの無いような、思い出のシーン。あれ以降、女子と遊ぶなんてことは無かった。

 

 「今まで隠しててゴメン。再会できて嬉しいよ」

 「ヒロ~!!」

 澪ちゃんが泣きながら抱きついてきた。オレも自然と涙がこぼれる。

 

 「澪……お前泣きすぎだ」

 「……律だって……」

 りっちゃんは涙を我慢しながら、澪ちゃんの様子を見ていた。

 

     ★

 

 こんなことって実際にあるんだなあ……ちょっと感動しちゃった。そんな中唯先輩が声をあげた。

 

 「ねえねえ、じゃあさ、今度からなんて呼び合うの?」

 た、確かに……わたしにとって先輩と発覚した今、君付けで呼ぶのは……

 

 「今までと変わらなくていいじゃないですか? オレは1年生なんですし」

 「そういうものかしらね……りっちゃんと澪ちゃんだけは昔の呼び名で呼んであげたら?」

 「そうだぞヒロ! そっちの方がいいや!」

 「わ、わたしも」

 「そう? りっちゃん・澪ちゃん?」

 ……話が進んでいるけど……わたしはどうなるのかな?

 

 「梓ちゃんもそのままでいいよ、いくら年が違うとはいえ、同級生だもん」

 「え……?」

 「これからも1年生同士よろしくな」

 「あ、うん……」

 勝手に裏切られたとか思ってバカみたい……ヒロ君大人だよ。

 今日は、ヒロ君の秘密が一つ暴かれた日となりました。

 





 数話前の伏線を回収しました!

 結構書き直しましたね。
 このシーンは難しかったです。

 小学校の頃に、1年間入院してても進級は出来るらしいですもんね。
 希望すれば留年できるとか……どっかでそんな話を聞いたことあります。

 sideがコロコロ変わってすいません。
 こっちのほうが分かりやすいと思ったので……

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#11 携帯!


 さあ、1年の1学期をちゃっちゃと終わらせました。

 だって、みなさんも高校1年の1学期とか何したか覚えてませんよね?(笑)

 最初は高校に慣れる時間ということだったはずです(作者はそう)


 では、どうぞ!!




 

 予想していた以上に軽音部のみんなにオレの秘密がバレてしまった。が、今までと変わらずに活動していく。

 平日…学校に毎日行き授業を受け、休み時間には戯れ、放課後は部活をする。

 休日…アキとかと遊ぶ。

 とかいうのが、数ヶ月続き、何かあっという間に1学期終業式を迎えたのであった。

 

 みんな高校になって初めての通知表に一喜一憂していた。それはどうでもいいとして、この頃早く部活をしたいという気持ちが高ぶっている。さっさと終われ~HR!

 よし終わった!! すぐに行こうかな~なんて思ってたらアキが複雑な表情を浮かべながらやってきた。

 

 「どうした。そんなに通知表が悲惨だったか」

 「そ、それを言わないで!」

 「じゃあ、どうしたんだ?」

 「夏休み、何すんの? 暇だったら遊ぼうかな~なんて」

 「メールしてくれ。部活が無かったら遊ぼう」

 「うん」

 今時、スマホが流行って、情報伝達手段もメールからSNSに移り変わっている。だが、オレは未だにガラパゴス携帯。SNSそんなのは知らん。メールで良いじゃないか。

 アキは、それだけ話すと帰っていった。オレも部活行くとするかな。

 

 クラスが同じということもあって、梓ちゃんとは毎日一緒に部室へ行っている。周りからの目は、仲良いとかだけど、部室行くまでほとんど喋ってない。隣に並んではいるが、お互い視線は窓だったり教室だったり。その無言の数分の後、突然騒がしい部室へと入るのだ。

 

 「おう来たか2人とも!」

 『こんにちはっ』

 「あずにゃん・ヒロ君お茶入ってるよ~座って座って」

 『ハ~イ』

 それぞれ定位置に座る。最初に部室にやってきたときと同じ場所だ。

 

 「今日は暑いからアイスにしましょう」

 「やった~アイスアイスアイス」

 「落ち着け唯」

 「とか言っている律。お前も体が正直でガタガタうるさい」

 「だって~」

 アイスを食べながら会話を繰り広げていると突然、音が鳴った。

 

 「うわっびっくりした!」

 「律のケータイじゃない?」

 「ホントだよ。マナーモードにしてなかったけ?」

 「教室でならなくてよかったねりっちゃん」

 「ホントだよ。危なかった~」

 りっちゃんが携帯をいじりながら、一つひらめいたようにみんなに提案した。

 

 「そういやさ~みんなでメアド交換してないよな?」

 「そうだった! あずにゃんとヒロ君のメアドまだ知らない!」

 「わたしたち4人はそれぞれ知っているけど」

 「2人とも教えてくれ」

 全員、携帯を取り出した。驚いたことに、この世の中スマホが居ないのだ。

 

 「みんなガラケーなんてビックリ」

 「ああ、スマホはちょっとだるいから」

 「わたしも慣れた携帯を使いたいし」

 「わたしも ー 」

 「操作をまた覚えたくないからね」

 「この頃買ったばっかりなのでまだ買い替えれないから」

 なるほど、このスマホ主流のご時世、6人が6人ともガラケーだった。因みに、アキや雄二、康太はスマホ。秀吉はガラケーだった。

 

 「みんなガラケーってことは赤外線だな!」

 「そうだね!」

 あっという間に、それぞれのメアドを手に入れた。

 スマホには無い特権! のはず……。

 確かスマホには赤外線機能が無いって……聞いたことがある。

 

 「明日から夏休みだなあ……」

 「部活はどうするの?」

 あ、そうそうそれが聞きたかった。

 

 「う~ん……水曜日はみんな集まる日とかにして、他の日は自主練とかでいいんじゃないか? 家の用事とか他なんかいろいろあるかもしれないだろ?」

 「分かった。そうしよう」

 「了解です!」

 「分かったわ」

 なるほど。毎週水曜日が全員揃う日と。この日だけは用事入れちゃまずいな。

 

 「じゃあ、夏休み前最後の日だからいっちょ練習するか~!」

 「おおー!!」

 梓ちゃんも入って厚みが増したバンド。オレはこのメンバーの中に入っていけるか心配だった。入ったときに、バランスを崩さないかが怖い。そうならないためにも、この夏休み一杯練習しよう。

 

 夏休みに入ってから、ソッコーで宿題を片付け、キーボードの練習に明け暮れる日々。弾きたくなくなったりとかしたら、気分転換にPCしたり、アキと遊んだり、1人で外をうろついたり。

 

 夏休み何回目かの水曜日がやってきた。今までの水曜日はただ集まってあわせたりとかしていたけど、今回は全然違う話だった。

 

 「みんな、聞いてくれ! 合宿するぞ!」

 りっちゃんがみんなにこう告げた。どうやら2年生は全員知っていたみたいで特に反応が無かった。が……

 

 「合宿ですか!?」

 梓ちゃんはやる気だった。オレもめっちゃ楽しみだ。

 

 「もうさわちゃんには話を通してるからね~ でも、わたしたちだけで行くんだよ」

 「そうなんですか!? 楽しみです!」

 「ということで、今から合宿の買い物に行くぞ!!」

 今日の部活は、合宿の買い物をすることになった。あ、親にメールして合宿行くっての伝えとかなきゃ。

 

 学校から徒歩15分くらいの商店街についた。

 「ところで、合宿の買い物って何をするんですか?」

 「新しい機材とかですか?」

 「えーと……それはだな……」

 「水着だよ!」

 遊ぶ気満々……心なしか、隣の梓ちゃんとハモったような気がした。

 

 「どうせこんなことだろうと思いましたよ」

 「別にずっと遊ぶわけじゃないぞ」

 りっちゃんがそれを言っても…全然説得力無いんだけど。

 「まあ、息抜きも必要だし……」

 「そうですね!」

 澪ちゃんが言うと、一気に説得力が上がるんだなあ。

 その後、いろいろな店を回ったが、特にオレは何も買わないで終わった。

 

 「どうした、アキ?」

 夏休みも半分くらいになった頃、アキが電話をしてきた。

 

 「どうしたもこうしたもないよ……全然メールくれなかったから……」

 「あ、悪い……」

 「部活だったの?」

 「いやあんまり部活とかは無かったんだけど」

 家でキーボード練習するのに熱心になってたからアキにメールするのすっかり忘れていたよ。

 

 「もう……部活に熱心になるのはいいことだけど……」

 「すまんすまん。遊びの誘いか?」

 「あ、うん。そうだけど。練習が忙しいなら無理にとは言わないよ」

 「いや、これまでずっと練習してたからな。遊ばないとお前に悪いよ。何処に行くの?」

 「ウチに来て!」

 「了解」

 すぐに準備して、アキの家に行った。そこには既に康太や雄二がいた。

 

 「おう久しぶりだな」

 「………元気そう」

 「ああ、お前らも元気そうで何よりだ。そういえば、秀吉は?」

 「あいつは演劇部の部活だそうだ」

 「流石は全国大会レベルだけある。毎日欠かさず練習しているのか」

 「ヒロ、早速だけど!」

 「超乱闘か? やってやろうじゃないか」

 家庭用ゲーム機のVVIIの人気ゲームソフト、超乱闘。これ大勢ですると楽しいんだよな~

 

 「ソッコーで返り討ちにしてやる」

 「………同じく」

 「望むところだぜ」

 「ヒロ、この2人も意外とやるからね」

 アキがそういうのなら、注意しておこう。何てたってコイツはゲーマー。ゲームで人に負けるということを余り知らない。オレはいつもそのカモになっている感じだ……

 ゲーム画面が出てきて、オレはいつも使っている得意キャラのイケを使う。アキは全てに自信があるからランダム。雄二は見た目通りパワータイプの剣を持ってるのに剣の技が無いヤツ、康太も見た目通りスピードタイプの青いハリネズミ。ステージはもちろん終着点、アイテムなし。ストックは3。

 

 何回してもアキの1位は変わらねえ……

 2位3位4位をオレたち3人が分け合っていた。

 

 「ふふふ……まだまだだね……」

 「お前は強すぎんだろ?」

 「こいつは昔からそうなんだよ。ゲームさせると本当に敵が居ないんだ」

 「………ゲームバカ」

 1時間くらいして、飽きると今度は、マルオカートを始めた。

 だが、そこでもアキの1位は揺るがない。

 いろいろなゲームをしてもアキの1位は変わらず、オレたちは気づけば夜までゲームをし続けていた。

 

 久しぶりにアキと遊んだが、とっても楽しかった。

 





 スマホねえ……
 作者はガラケーです。もうすぐで、3年になる携帯です。
 この頃壊れかけてきて大変です。

 最後のほう、流石に実名を出すのはまずいでしょうから……
 でも、分かる人には何が言いたいか分かるはず!
 VVIIに関してはすぐ分かるでしょう。
 イケとは何か。イケをローマ字にしたら分かるかも?(笑)
 他はいいですね。

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#12 合宿!


 え~……そろそろストックがなくなってきました。

 毎日更新が厳しくなると思います。

 合宿編、どうぞ!!



 

 「去年より、大きい別荘だな!」

 「ここが去年言ってた、借りられなかった別荘なんだね!」

 「いえ、ここは違うの。その別荘も借りられなかったの」

 『これ以上があるの!?』

 ムギ先輩の別荘で合宿をすることになった、我らが若葉学園の軽音部。

 去年もムギ先輩の別荘でやったらしいのだが……ムギ先輩のお嬢様っぷりがすごい。

 

 「海だ~!!」

 「遊ぶぞ~!!」

 着いて早々、いつの間にか水着に着替えていた唯先輩やりっちゃん。

 海水浴の準備をして浜辺へ駆けて行く。

 

 「こら~!! 遊ぶのは練習してから!」

 「別に良いじゃん」

 「遊びたい!」

 合宿って言葉、オレ間違って覚えているかな……?

 澪ちゃんがストッパーとして、暴走を食い止める。

 

 「それじゃあ、多数決にしよう、練習が先」

 『遊び!』

 「わたしも練習が先が良いです」

 澪ちゃんと梓ちゃんが練習先、りっちゃんと唯先輩が遊び先。

 全員が、ムギ先輩へ視線を注ぐ。

 

 「遊びたいで~す」

 『まさかの裏切り!?』

 ムギ先輩は予想に反して、遊び先という結論を出したのであった。

 2人は、助けをオレに求めるが、そのような権限は無い。

 

 「もう遊ぶ気満々の方々を止めることは出来ないよ。必ず練習を後からするって約束を取り付ければいいんじゃないの?」

 「そうだな……律、唯、ムギ、いいか?」

 『ほーい』

 「分かりました」

 「仕方ないですね」

 ということで、合宿初日の昼は海で遊ぶことになった。

 全員水着に着替え、浜辺へと行く。りっちゃんと唯先輩はまるで小さい子どものように走り回って遊んでいる。ムギ先輩は、突然電話を取り出し、「いらないって言っておいたでしょう! 浜辺にあるもの全て片付けて! お船も要らないから!」とか言っていた。庶民の遊びを楽しみたいということなのだろうか。多分そうだろう。オレの近くにもこういったヤツが居たが、そいつは全くぼっちゃまらしくなく、庶民との関係を重視していたなあ。

 

 しばらく、りっちゃんと唯先輩が遊んでいるのをビーチパラソルの中で他の3人と見ていた。

そんな時に、メールが来た。アキからだった。

  『遊ぼ~。雄二や康太もいるから~』

 と。オレはすぐに返信した。

  『すまん。今、軽音の合宿で海に来ているから無理』

 アキたちと遊びたいのも山々なんだが、部活を優先させるべきであろう。携帯をかばんになおそうとしたら、電話がかかってきた。

 

 『合宿? 海!?』

 何だ、第一声がそれかアキ……

 「そうだが?」

 『うらやましすぎる! 女の子と一緒に海だなんて!』

 「おいおい…部活に来ているんだぞ」

 『でも、後ろから遊んでいるような声が聞こえるよ』

 ………確かに。今は遊びの時間だから…

 

 『………ころ ー ねたましい』

 「おい今殺したいって言おうとしたよな、康太」

 『ったく、海とかうらやましいもんだぜ』

 「雄二、お前らも軽音に入りゃいいじゃん」

 『じゃあ迷惑になるだろうからそろそろ切るね』

 

  プープープー

 

 電話が切れた。

 あいつらは自分が言いたいことを言って電話を切っただけだった。全くこちらの問いかけに答えてもらえなかった気がしたのはオレだけだったのだろうか。

 

 そんな折、りっちゃんと唯先輩がやってきた。

 

 「あ~ずにゃん、一緒に遊ぼ!」

 「結構です」

 「ふ~ん……さては、スポーツが出来ないんだなあ」

 「そ、そんなことありません! やってやるです」

 あ、挑発に簡単に乗った……りっちゃん乗せるの上手いもんな~

 

 「ヒロも来いよ」

 「澪ちゃんやムギ先輩は?」

 「わたしは良いから、ヒロ行って来い」

 「わたしもここで見ておくわ」

 「そう、じゃ行くか!!」

 オレも遊ぶのに参戦した。その後、スイカ割りしたり唯先輩を砂浜に埋めたり、海で遊ぶ定番のものは一通り遊びつくした。

 途中、こんな出来事があった。澪ちゃんと梓ちゃんとオレの3人がたまたま近くに居たときだ。

 

 「先輩」

 梓ちゃんが澪ちゃんに話しかけた。

 「フジツボの話って知ってますか? それで足を切った少年が ー 」

 「キャーっ!!」

 「え、先輩?」

 澪ちゃんは悲鳴を上げながら走り出した。

 その様子を遠くから見ていたりっちゃんはグーサインを出した。あーそうか……

 

 「梓ちゃん」

 「何?」

 「澪ちゃんは相当怖がりだからさ……」

 「あ~そうだったのか……ちょっと悪いことしたな~」

 澪ちゃんは、一時悲鳴を上げながら走り回っていたのであった。

 

 何よりも面白かったのは、唯先輩とりっちゃんの『無人島ごっこ』。勝手に設定を造り上げ、簡易劇をするのだ。

ここはどこ?とか、新大陸だ~とか……見ている分にはバカらしくもあり面白くもあった。

 

 梓ちゃんは、誰か分からなくなるくらい日焼けで真っ黒になっていた。結構楽しんでるじゃん。オレは日焼けしてもすぐに白くなるからいいけど、あんまり日焼けしたくないんだよね~痛いし。

 

 その後、疲れた~練習したくない~とか言っているりっちゃんや唯先輩を無理やりスタジオに連れ込んだ。この別荘にはスタジオがあるのだ。すごい……ドラム・アンプ(スピーカーみたいなの)備え付けって。

 

 みんな練習の準備をし始めた。それぞれの楽器を取り出し、準備をする。オレは見学。

 

 「あずにゃん、それ何?」

 梓ちゃんがチューニング(音を合わせる)しているときに、唯先輩が尋ねた。

 「それってチューナーですか?」

 「チューナーって言うの?」

 えっ? 唯先輩? 本当に音楽用語知らないんだな……今までチューナーなしでどうやって……

 

 「先輩チューニングどうやってしてるんですか?」

 「こうやって」

 唯先輩はある意味天才のようだ。耳でチューニングをしていた。絶対音感・相対音感の持ち主か。梓ちゃんも驚いていた。

 

 その後、全員の準備が出来、演奏を始めた。以前聞いてたのよりか格段にレベルが上がっていると思う。個々の家での練習が実を結んでいるに違いない。こりゃあ、梓ちゃんもビックリしているぞ。オレもまだまだ腕を磨いていかないと、足を引っ張るだけだ。

 

 一時練習すると、りっちゃんが「お腹空いて力でない」と某ヒーローのようなセリフをはいたので、夕食にすることになった。買い物をしてきていなかったので、買い物に行く。

 メンバーは、唯先輩にムギ先輩、梓ちゃんにオレが行くことになった。本当はオレが買ってきていたほうがよかったのだろうけど、料理できないからどんな食材買えばいいか分からなくて……

 近くのスーパーに買いに行き、今日の夕食の分と、明日の朝・昼食を買ってきた。6人分ということで結構量が多い。

 全員で、バーベキューの準備をして美味しく食べた。初めてBBQとかしたけど楽しい!

 

 その後は、花火をしたり、肝試しをしたりなど、夏の風物詩ともいうべきものを思う存分楽しんだ。何故かしら、いつの間にかさわちゃん先生が現れていたことに関してはびっくりした。来ないとか聞いていたけど。

 

 「みんなを驚かせようと思ったんだけど、道に迷って ー 」

 人ん家の別荘がよく分かったよ……普通迷うよ先生。

 「澪先輩、しっかりしてください」

 澪ちゃんが、突然現れた先生に驚いて気絶をしていた。(肝試し中に出てきたからなおさら怖い)

 

 「お風呂、入りましょうか」

 「やった~お風呂♪」

 「ヒロも入るか?」

 「な、何てことを言ってるんだ律!!」

 「あ、後で入る!!」

 冗談だと分かっていても、そういうのを言われると恥ずかしくなる。

 女子 ー というか、オレ以外が全員お風呂に入って、暇になったのでスタジオに入ることにした。そこで、せっかく合宿だというのにまだ1回も楽器を触っていないと思い、今部員のみんなには密かに練習しているキーボードを触ることにした。浴場まで聞こえないように音量を下げて弾く。

 

 「お~い、ヒロ~!! お風呂上がったぞ~」

 と、遠くからりっちゃんの声が聞こえてきた。時計を見てみると既に40分が経過していた。練習していると時間が早いなあ……みんなに気づかれないように、スタジオを元の状態にして部屋を出て行った。

 

 「あ、ヒロ、みんな上がったから入って良いぞ」

 「どーも」

 ささっと風呂に入る。……風呂というサイズではなく、一温泉くらいの大きさであった。その中でポツーンと1人で入る……よし、上がろう。こんな機会めったに無いから満喫したいけど、あまりにも孤独感が。

 風呂から上がると、みんな既に布団を敷き始めていた。

 

 「もう上がってきたのかヒロは」

 澪ちゃんが布団を敷きながら、こっちに話しかけてきた。

 「うん。あの広さを1人でってのはちょっと……」

 よくよく部屋を見てみると、7枚の布団が敷いてあった。

 

 「オレもココで寝るの!?」

 「そうだぜ! ヒロ~いたずらするなよ!」

 「おいおい……オレはどっか別の部屋で寝るよ」

 「寂しくなったらいつでもおいで」

 来るか。女子6人と一緒に寝るとか想像もつかねえよ。しかもりっちゃんだけしか盛り上がってないし。

 

 「もう寝るの?」

 「眠たいから寝る!」

 「あ、おやすみ」

 りっちゃんが最初に布団に入ってすぐに寝た。みんなも徐々に寝始めたので、オレは急いで自分の分の布団を持って部屋を出た。

 さて……どこに布団を持っていくか。こんな広い別荘なんだからどこでも良いか。ということで、とある部屋で寝ることにした。

 

   ★

 

 「ふわあ~……」

 夜、なかなか寝付けなくてトイレに行こうとしたわたし、梓は途中の部屋の電気がついていることに気がついた。

 

 「あれ?ここってスタジオじゃ……」

 わたしは気になって窓から覗いてみた。するとそこには、唯先輩が居たので入ってみることにした。

 

 「あれ、あずにゃん?」

 「何してるんですか?」

 「あはは~ちょっとね……ところであずにゃん」

 「はい?」

 「練習付き合ってくれない?」

 唯先輩が自分からこうまともに言ったのは初めてかもしれない。こうやってみんなの目が見えないところでしっかりと努力しているから、あんなに上手い演奏が出来るのだろう。

 

 「いいですよ。わたしも唯先輩と一緒にもっと一緒に練習したいと思っていたんです」

 「ありがとう」

 わたしたちはギターをアンプに繋がないで練習を始めた。

 

  ★

 

 何か隣の部屋で物音がするなあと思っていたら、スタジオで唯先輩と梓ちゃんがギターの練習をしていた。2人仲睦まじそうにしていたので、窓からずっと覗くことにした。

 

 「出来た~」

 「すごいです」

 短時間で見る見るうちに上達する唯先輩。本当にすごいなあ……

 

 「あずにゃんに出会えてよかったよ!」

 「え?」

 「ありがとう!」

 といって、唯先輩は梓ちゃんに抱きついた。その様子を見てオレはさらに自分の腕を磨かなければならないなあと思うと同時に、この2人の関係が本当にうらやましいとも思った。オレは2人に見つかる前に部屋へと戻ることにした。

 

 こんな感じで、あっという間に合宿が終わったのであった。

 





 だいたい、けいおん!(1期10話)を踏襲しています。

 合宿とか行ってみたかったですね……
 もうすぐ、部活引退なのに行ってないです。

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#13 新学期!


 今までのサブタイトルを見てみたら、全て漢字2文字!

 偶然ですよ。本当に。

 けいおん! のタイトルを踏襲して、単語でタイトルをつけてるんですが……

 今回、初めて3文字に。

 そんなことはどうでもいいですね。
 
 新オリキャラ登場です。

 では、どうぞ!!



 

 夏休み何してたかな……

 宿題ちゃっちゃと終わらせて、キーボード練習して、合宿行って、アキたちと遊んで……。

 ざっとこんなものか。もう夏休みも終わっちゃったよ。久しぶりクラスメイト達と会うなあ。

 

 「あ、久しぶりヒロ君」

 「憂ちゃん、久しぶり」

 教室に入ったら、憂ちゃんが目の前に居た。結構遅く来たつもりなのに、教室はガラガラだった。

 

 「合宿、どうだった?」

 「え、え~っと……楽しかったよ」

 「そう! 梓ちゃんはもっと練習するつもりだったみたいだけど」

 「あ、確かにそれはそうかも。でも、あれがあの演奏を引き出している要因の1つなんじゃないかなって」

 「へぇ~そうなんだ~」

 ちょくちょく1学期の頃、話していたからそこまで話すのには苦労しないけど、久しぶりにしゃべると緊張する。

 

 「唯先輩、どんな感じ?」

 「う~んそうだな……家でごろごろしていたよ。暑いの苦手だし、クーラーも苦手だし」

 簡単に想像できちゃったよ。オレが次の言葉を発そうとした瞬間に、後ろから誰かに飛び掛られバランスを崩した。

 

 「うわっ……誰だよ?」

 「………」

 無言だ。降ろそうとする前に、その当の本人は自分から降りてくれた。顔を確認するために後ろを振り向いた。

 

 「よっ……久しぶりだな!」

 「は? 何でお前がここにいるんだ?」

 「何でって転校してきたからだよ、ヒロ」

 そこにいたのは、オレの母親の妹の子、要するに従兄弟にあたる、本田竜也(ほんだたつや)だ。大きな会社の本田グループの一人息子なんだが、こいつは全然おぼっちゃまらしくなく、普通に一般人のようにしている。

 

 「あ、紹介するね、憂ちゃん、オレの従兄弟の本田竜也、転校してきたんだって」

 「初めまして、平沢憂です」

 「本田竜也。よろしくね!」

 竜也は、やんちゃでかっこよくて勉強できないけど、芸術の才能はものすごい。こいつの父親はもはや跡取りとしては考えていないようだ。

 

 「というか、お前このクラスに転入するのか?」

 「いや違う」

 「じゃあ何で」

 「ヒロに報告しておこうと思ってね、クラス聞いてやってきた」

 年齢的には1歳下だが、昔からそんなものは全然気にしていなかった。中学に上がる頃までは遊んでいたのだが、その頃に母親同士が姉妹喧嘩をしてしまい、会うこともままならなかった状況だ。

 

 「じゃ、そろそろ職員室に戻らないと」 

 「おう。またな」

 「憂ちゃん、ヒロをよろしくね」

 「あ、はい」

 何がよろしくだ。初めてあった女の子に対して、よくああいった態度が取れるよ……ある意味うらやましい。

 

 「ヒロ君とは全然性格が違うみたいだね」

 「そうだね~逆に共通しているのが見当たらないくらい」

 竜也が去って、憂ちゃんと話しているときに、クラスのみんながどっとやってきた。もうすぐHRが始まるからだろう。そして、西村先生こと鉄人がやってきたために会話がそこでやめになった。

 

 「 ー 無事に新学期を迎えられてよかった」

 席が全部埋まっていることを確認したうえでこう言われた。

 

 「え~我が校では、2学期始まって1週間後に体育祭があることを知っているだろうか」

 何かそんな話聞いたことあるようなないような……明らかに嫌そうな顔をするやつ、嬉しそうな顔をするやつ、こんなに差が分かれる行事ごともないのではなかろうか。

 

 「早速だが、明日から練習が始まる。まだ暑いから体調管理には十分に気をつけておくように」

 正直、外で遊ぶ分にはいいんだけど、外でじーっとしているのが嫌なんだよなあ。

 

 あっという間に、体育祭当日。

 

 「暑い~アイス~」

 「唯~我慢しろ~今日放課後は食べに行こう」

 「そうしよう~りっちゃん」

 「お、ヒロ発見!」

 「あずにゃんもいるよ!」

 オレはグラウンドで待機をしていたら、唯先輩とりっちゃんに話しかけられた。

 

 「ん~何で、梓の後ろにいるのかな~」

 「出席番号順でしょ、そのくらい知っててりっちゃんオレに振っているでしょ!」

 「はは、バレたか~」

 「あ~ずにゃん」

 夏 ー 暦の上では秋だが ー なのに抱きつく唯先輩。見ていて暑いです……

 

 「暑いですよ唯先輩」

 「そうだね~」

 「今日は活躍期待してるぜ2人とも!」

 「まあ、そこそこは」

 「分かりました」

 2人とも2年の列に戻っていく。その後、いよいよ体育祭が始まったが、特に燃える要素がなく、不完全燃焼のまま体育祭は終わりを告げた。

 

 「ヒロ~疲れた~」

 「アキ、本気で何もやってないくせに何を言うんだ」

 「こんな暑い中、1日中いるだけで疲れるよ」

 「明久に同じだな」

 体育祭終わったあと、教室に帰りながらアキや雄二、康太・秀吉と話す。

 

 「ヒロ~!!」

 「うわっ……竜也!」

 そのままの勢いで突撃してこられそうになったため避けたら、急ブレーキを掛けた。

 

 「お前、体育祭後でよくそんな体力残っているな」

 「だって、学校来たばっかりでよく分からないから、今年の体育祭は本部でず~っと見学してた」

 うらやましい。本部ってテント内だろう。日陰だぞ!

 

 「紹介する、オレの従兄弟の本田竜也。2学期からこの学校にやってきたんだって」

 「よろしく。いつもヒロと仲良くやっているみたいで」

 お前、いつからオレの兄貴分みたいな感じになったんだよ……

 

 「中学からの友達、吉井明久だよ」

 「坂本雄二」

 「………土屋康太」

 「ワシは木下秀吉じゃ」

 4人が自己紹介を終わると、竜也はちょっと困惑の表情を浮かべていた。

 

 「どうした?」

 「秀吉?」

 「秀吉がどうした」

 「いや……クラスにそっくりな女子がいたけど気のせいかなって」

 「気のせいではなかろう。それはワシの双子の姉、木下優子じゃ」

 まだ1回も会ったことないけど、秀吉にそっくりなのかあ。

 

 「なるほど。それにしてもよく似てるね……秀吉ちゃん」

 「ワシは男じゃ!」

 秀吉に「ちゃん」をつけるのはおかしいと思わなかったのか。確かに女子と間違うかもしれないが……

 

 「お、男!?」

 「ワシは男じゃ。姉上は女じゃが」

 「見分けがつかない」

 どれだけそっくりなんだよ。

 

 「あ、そういや、憂ちゃんと一緒のクラスだったよな」

 「ああ」

 「その節はどうもありがとうと言っておいてくれないか」

 「何かあったのか?」

 どうやら、転入生に学校を紹介してあげようという学校側の配慮によるときに、学校の案内役を勤めたのが、数少ない帰宅部女子の憂ちゃんと秀吉の姉の2人だったようだ。学校に適応できているようで何よりだ。

 

 「じゃ、高橋先生に呼ばれているから」

 担任、高橋先生なのか。全科目教えることが出来る超人。複数教科を教えに来たときはびっくりしたよ。

 

 「ったく、こっちの担任は鉄人だぞ」

 「高橋先生のほうがいいよね~鉄人なんて……」

 『誰が鉄人だって~』

 後ろから鉄人こと西村先生が近寄ってきていた! アキと雄二は後ろも見らずに全力で逃亡。西村先生も後を追う。

 

 「あやつらは元気じゃのう」

 「………力が有り余っている」

 オレたちはのんびりと教室に帰ったのであった。

 

 その後、竜也に頼まれていた憂ちゃんへの伝言を済ませ、部室に行った。

 

 「疲れた~!!」

 「りっちゃん、全員揃ったよ!!」

 オレがどうやら最後だったみたいでみんなを待たせていたみたいだ。

 

 「お、揃ったか!」

 「ということで ー 」

 「練習ですか!?」

 梓ちゃん元気だな~また日焼けしているし……

 

 「アイスを食べに行こう!」

 「そのために全員が来るのを待っていたのか!!」

 りっちゃんと澪ちゃんのコンビは素晴らしい。見ていて楽しい。

 

 「今日は疲れましたし、アイス食べに行きましょう」

 ムギ先輩が一言添える。

 「よし決定! 澪、梓行くぞ!」

 仕方ないといった表情で、部室を出、学校を出る。

 

 「何処に行こうか」

 「たまには違うところ行ってみたいな~」

 「あ、それなら!」

 オレは、あの店に行くことを提案した。

 

 「着いた!」

 「ココ?」

 「こんなところがあったんだ!」

 「ココでしたか~入ったことはなかったわ~喫茶店なんて初めて!」

 駅前の店「ラ・ペディス」。意外と穴場だった。甘いもの大好きなこの部員の人がほとんど知らないなんて。そういえば、結局まだアキたちにこの店紹介してなかったんだったな。

 

 「前来た時、パフェがめっちゃ美味しかったんですよ! だからもう1回来たいなと思って」

 「よしっ! 早速入るか」

 「いらっしゃいませ~6名様ですね。こちらへどうぞ」

 前着たときにも居た、梓ちゃんに声がそっくりの縦ロールの子。

 

 「梓に声似ているな」

 「そうですか?」

 「確かにそうね」

 澪ちゃんやムギ先輩も気づいたみたいだ。りっちゃんと唯先輩は、メニューを見るのに必死であった。さて、今日は何にしようかな。

 

 「わたし、フルーツパフェ!」

 「じゃあわたしは~特大パフェ!」

 りっちゃん、食べれるのか? そう思いながら、オレはメニューの中から探し出す。

 

 「何にしようかな」

 「じゃあわたしはコレにするわ」

 「わたしはコレ」

 「先輩達早いですね……わたしは ー 」

 注文し終えると、10分も経たないうちに、パフェが運ばれてきた。

 

 「お待たせしました ー 」

 「って、何で竜也がここにいるんだよ」

 「あ、ヒロ。オレここでバイトしてるんだ」

 「お前しなくても金には余裕あるだろう」

 「1人暮らし始めたからさ。あ、もう仕事に戻らないといけないから ー 」

 オレの周りでは1人暮らしが始まってるのかな……そう思いつつもパフェをほおばる。やはり美味しい。

 ここ「ラ・ペディス」は繁盛していて忙しい。そのため従業員も多いみたいだ。

 

 「ヒロ君?」

 「どうしました、ムギ先輩」

 珍しくってか初めて? ムギ先輩に話しかけられた。

 

 「あの子知ってるの?」

 「え、ええ。オレの従兄弟ですから」 

 「そうなんですか」

 「ムギ先輩こそ知っているのですか?」

 聞いてみると、琴吹グループと本田グループは好敵手らしい。

 幼い頃から、会合とかで面識はあるらしい。

 

 「食った食った~!!」

 「美味しかった~!」

 食べ終わるの早! しかも、りっちゃんにいたっては特大パフェだったよね?

 

 「体悪くするぞ2人とも」

 「いつもこんな感じですもんね」

 澪ちゃんと梓ちゃんがあきれながら自分のペースでパフェをほおばる。みんな食べ終わると、店を出てそれぞれの家路へと途いた。

 

 





 新オリキャラ、後々カップリング予定あります。

 誰がいいかな~

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#14 暴露!


 またサブタイトル漢字2文字に……

 そこは気にしないでください。

 漢字じゃなくなるときもいつか来るでしょう。

 では、どうぞ!!




 

 

 「~♪」

 「どうした、何か機嫌が良いな梓」

 日が沈むのが早くなった今日この頃、ここ、軽音部室。部員6名、顧問さわちゃん先生がいる。

 ティータイムの時間に鼻歌交じりになっていた梓ちゃんに澪ちゃんが突っ込んだ。

 

 「もうすぐ学園祭ですから!」

 「そうか~梓は初めてだもんな」

 「はい! あ、そういえば、去年の学園祭は ー 」

 去年の学園祭の話が出てきた瞬間、澪ちゃんが口に含んでいたコーヒーを吹き出した。トラウマか……

 

 「去年澪は大活躍だったもんな~」

 「え、そうだったんですか!? 見てみたかったな~」

 「その映像、あるわよ!」

 どこからか取り出したDVDを手に取りさわちゃん先生が言う。

 

 「み、見ないほうが ー ひ、ヒロ! お前もだ!」

 「見るなって言われたら見ないけど、去年オレ学園祭その場に居たからね」

 『えっ!?』

 みんながいっせいにこっちを向く。一応、最初の自己紹介の時に言ったはずなんだけどな。

 

 「どういうこと?」

 「学園祭、一般の人も入っていいから、当時中3だったオレは友達と一緒に見に来ていたんだ」

 「いいな~ヒロ君、実際に聞きたかったよ」

 「ひ、ヒロ! 去年見に来ていたということは ー 」

 オレは無言を貫いた。何も言わないのが澪ちゃんのためであろう。りっちゃんの言う、澪ちゃんの大活躍したシーンもばっちりと見てしまったから。

 

 「あ、梓! 見るのか!」

 「見たいですもん」

 「や、やめておいたほうが ー 」

 ここまで澪ちゃんが人に見せたくないのは、演奏が下手だったとかそういうものじゃない。むしろ、演奏は上手かった。ただ、演奏が終わった後、退場するときにシールド(アンプとギター・ベースを結ぶコード)に引っかかって転倒してしまったのだ。もうお分かりですかね……そのとき制服で演奏していました。

 

 「み、見ちゃいました……」

 DVDをみながら梓ちゃんは顔を真っ赤にしていた。その後、演奏シーンからみんなで見始めた。

 

 「何かいろいろと思い出すな~わたしこのとき声ががらがらで」

 「そうだったね」

 「梓にとっては最初の学園祭でのライブだな」

 「はい! 楽しみです!」

 そろそろ、学園祭の時期か……オレも出たいなあ。

 

 「さわちゃん先生、以前から頼んでいた ー 」

 「ああ、そのことね。ちょっとこっちに来てくれるかしら」

 「?何のこと?」

 「ちょっと待ってて」

 さわちゃん先生と共に、いったん部室の外に出た。

 

   ★ 

 

 「ただいま~」

 ヒロ君が山中先生と共に帰って来た。キーボードを持って。 

 

 「ここらへんでいいかしらね」

 「ヒロ、どういうこと?」

 「みんなには黙って、キーボードの練習をしていたんだ」

 『えーっ!?』

 ヒロ君の突然の暴露に、みんな驚いた。いつのまにそんなにこっそりと!

 

 「楽器、何かしなくちゃいけないだろうなあって思ってて、家にあったのがたまたまキーボードだけで。それをずっと今まで練習し続けてたんだ。分からないことや難しいとこはちょくちょくさわちゃん先生に聞いてたんだ」

 「何で今まで黙ってたんだよ!」

 「わざわざ隠す必要ないじゃない」

 確かに今まで部室に来ても何も触らないなあと思ってたけど、家で練習していたんだあ。

 

 「素人が練習してみんなの邪魔になりたくなかったから。せめて、人前に出て披露しても恥ずかしくないレベルに仕上げてからと思ってたら、こんなに遅くなっちゃって」

 「みんな、聞いてみると良いわ。なかなか半年間しか練習してないにしては上出来よ」

 「聞きたい!」

 「唯……確かにわたしも聞きたい!」

 みんな聞きたいといったら、ヒロ君がさっき運んできたばっかりのキーボードで演奏し始めた。

 

 男の子らしい強めのタッチと勢いのある演奏。荒削りだけど、半年間でこんなに弾けるようになるものなんだ。演奏をし終わると、心配そうな顔で「どう?」ってヒロ君が聞いてきた。

 

 「ヒロ君、すごい!!」

 「びっくりした!」

 「すごいわ~わたし、負けてられない」

 「む、ムギ先輩、そんなことないです!」

 やわらかで繊細なタッチのムギ先輩のキーボードに、正反対のキーボードを演奏するヒロ君。融合したらどんな感じになるんだろう。

 

 「ヒロ君、それならわたしたちと一緒にステージに立てるよ!」

 「ホントですか唯先輩! ありがとうございます」

 「キーボードが2人になって、さらに音楽に厚みが増すな、澪!」

 「そうだな律!」

 みんな気合が入ってきた。こりゃあ負けてられないなあ。と思ったときに、軽音部に来客が。

 

   ★

 

 「盛り上がってるところ悪いんだけど ー 」

 「あ、和ちゃん!」

 赤縁眼鏡の頭よさそうな人が軽音部にやってきた。

 

 「あ、あずにゃん、ヒロ君は確か知らないよね。こちら、真鍋和ちゃん、わたしの幼馴染なんだ」

 「初めまして。真鍋和です」

 『初めまして』

 唯先輩と真逆の性格って感じだけど……意外とこういうほうが相性あったりするんだよね……例えば、澪ちゃんとりっちゃんとか。

 

 「そうそう、コレ! 講堂の使用届け。学園祭の分出してないでしょ!」

 「あ、忘れてた」

 のんきすぎるよりっちゃん。部長しっかりしてください! みんなが定位置に座って ー 。

 あ、そうそう定位置で思い出した。場所変わったんだよね~。もともとオレが座っていた席はさわちゃん先生の場所だったからそこは譲って、オレは梓ちゃんの隣になったんだよなあ。りっちゃん側の。だから ー

 

   り ゆ

 ひ テ テ さ

 あ テ テ 

   み む

 

 テ……テーブル、ひらがなはそれぞれ名前の頭文字1文字。

 

 「じゃあ、書記梓な」

 「わたし……ですか? いいですけど」

 面倒くさがりやのりっちゃんは書く作業を押し付けた。

 

 「使用者は“軽音部”、名称……名称って?」

 「バンド名とかってことじゃないの?」

 「バンド名って何なんですか?」

 一瞬全員が止まった後、みんなが別々の名前を挙げた。決まってなかったんだ……

 

 「決めてなかったね……」

 「いい機会だから決めよう!」

 う~ん……何が良いだろうか。

 

 「じゃあ、“平沢唯&ずっこけシスターズ”ってのはどうかな?」

 「あたしら何者!?」

 オレもシスターズの一員?

 

 「じゃあ、“ぴゅあぴゅあ”とかは?」

 「そういうボケはいいから真面目に ー 」

 「結構真面目なんだけど……」

 そっか、澪ちゃんの感覚は独特なんだった。今までの曲の歌詞確か全部澪ちゃんだったっけ。

 

 「よしっ。わたしが決めよう!」

 『もう少しみんなで考えます!』

 先生の提案が一蹴された。

 

 「じゃあそれ、後で生徒会室に持ってきてね」

 「悪いな和、わざわざ」

 「和ちゃん、たまにはお茶しようよ!」

 「分かった。後でメールする」

 それだけ言うと、生徒会役員であろう真鍋さんは出て行った。

 

 「よ~っし、バンド名は各自一晩考えるとして」

 「学園祭も近いことだし練習するか!」

 「はいっ!」

 「ヒロ君も新たに演奏者として加わることになったし」

 これで、本当に軽音部の一員になった感じだ。

 

 「あ、ちょっと待って。この頃わたしのギターが音の調子が悪いんだ」

 「見せてもらえますか?」

 唯先輩がギターを取り出し、梓ちゃんに見せる。

 

 「うっ……弦さびてるじゃないですか……これいつ弦を交換したんですか?」

 「え? 弦って交換するものなの?」

 『な、何?』

 マジか……ということは? 買ったときからそのままの状態ってことか。

 

 「いいギターなのに大事にしないとダメじゃないですか!」

 「大事にしてるもん! 一緒に寝たりとか服着せたりとか ー 」

 果たしてそれは大事にしてるって言えるのだろうか?

 

 「楽器店に行きましょう」

 「え?このままでいいよ~」

 「これじゃあ、練習になりませんよ。学園祭も近いのに……」

 「りっちゃんもお手入れなんかしてないよね……」

 りっちゃんをどんな目で見ているんだ唯先輩は。手入れくらいしてるでしょ。

 ということで、唯先輩の楽器の手入れをしてもらうために、楽器店に行くことになった。

 

 「じゃあ、わたしここで待ってるから」

 「え?」

 楽器店の前に着いたのに、楽器店に入らない澪ちゃん。どうしてだろう。

 

 「わたし左利きだから、右利き用の楽器見ても悲しくなるだけだから ー 」

 「澪ちゃん、レフティフェアがあってるみたいだよ」

 「え!」

 すぐに店に入っていった。レフティの楽器をこんなに見ることはそうないだろう。澪ちゃんは見とれていた。

 

 「澪ちゃん、楽しそう」

 「左利きの楽器は少ないからね」

 「唯先輩、ギター見せに行きましょう」

 オレは、梓ちゃんと唯先輩についていくことにした。

 

 「すいません。ギターのメンテナンスをしてもらいたいんですけど」

 「はい? どちらのギターですか?」

 「これです」

 あまりにも汚すぎて、年代モノのギターと間違われた。

 

 「では、終わるまで店内でお待ちください」

 「お願いします」

 梓ちゃんも大変だな……

 

 「唯先輩って、何であのギターにしたんですか? 重いし、ネックも太いし」

 「へ? 可愛いから」

 可愛い? かっこいいとかならまだ分かるけど……ほら店員さんもメンテナンスをする手が一瞬止まったじゃん。

 

 その後、店内で待っていると、ムギ先輩がさまざまな店員に呼びかけられていた。どうやら、この店は琴吹グループの店だったらしい。

 

 「お待たせしました。ギターのメンテナンスが終わりました」

 「綺麗になったね」

 「これからはこまめにメンテナンスをして ー 」

 「ギー太!!」

 ぎ、ギー太!? 名前? このギターの名前が『ギー太』なのか!

 

 「ありがとうございました!」

 「い、いえ……ああお代は¥5,000になります」

 「え……お金取るの?」

 ただじゃメンテナンスは出来ないでしょうよ……

 

 「お金持って来てない……」

 「どうしたの?」

 「あ、唯先輩がメンテナンスにお金がいること知らなくて ー 」

 「そうなの……手持ちあるかしら?」

 ムギ先輩が財布を取り出そうとしたとき、別の店員がこう言った。

 

 「つ、紬お嬢様!! お、御代のほうは結構です! サービスということで!」

 「え? それでも」

 「日ごろお嬢様にお世話になっている分ということで ー 」

 お嬢様、恐るべし。問題はあっさりと解決した。

 

 「じゃあ、そろそろ帰るか」

 「澪ちゃんは?」

 「呼んでくるわ~」

 りっちゃんがおそらくレフティモデルのところにいるであろう澪ちゃんの所に行った。が、何か心配になってついていくことにした。

 

 「澪~帰るぞ~」

 「やだ」

 「そんな子どものようなことを ー 」

 「やだ」

 りっちゃんは、力づくで澪ちゃんを連れて行こうとしたが澪ちゃんがこけた。

 

 「な~にやってんだよ澪~」

 「もういいよ! バカ律!」

 まずい……これは喧嘩になるぞ。

 

 「ま、まあまあ2人とも落ち着いて……りっちゃん乱暴すぎ。澪ちゃん帰ろう」

 ちょっと不機嫌な澪ちゃんだったが、店外に出た。

 

 「このあとどうすっか?」

 「あ、ごめん。わたし和ちゃんとお茶することになってるんだ」

 「和と? わたしも行って良い?」

 「そっか、澪ちゃん一緒のクラスだもんね。いいよ! 和ちゃんには言っておく」

 「やった。ありがとう唯」

 不機嫌さが取れ、澪ちゃんは笑顔になった。唯先輩と澪ちゃんは和ちゃんと「ラ・ペディス」で待ち合わせしたらしく、分かれた。

 

 「後つけようぜ!」

 「え?」

 「りっちゃん、どうしたんだ?」

 「別に」

 「後つけましょう! こうしてみると探偵みたいじゃない?」

 ムギ先輩……何かつかめない人だなあ。

 それにしてもりっちゃん……

 

 





 やっと、ヒロがみんなの仲間入りしました!

 でもちょっと最後のほうには不穏な空気が……

 どうなる軽音部?

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#15 動揺!


 う~ん……

 ちょっと、けいおん!11話Bパートとほとんど一緒になった気が。

 どうぞ!!



 

 

 「何でこんなことしてるんですか……」

 梓ちゃんがあきれるのも間違っていない。澪ちゃんたち3人に見つからないように、オレたち4人は探偵みたいなことしながら、後をつけ「ラ・ペディス」に入ったのだ。

 あちらは普通に注文していた。あれ……?確か唯先輩お金がなかったんじゃ……。こっちも何か頼む。

 

 「ちっ……何かいい雰囲気だなあの2人……」

 りっちゃん? まさかとは思うが、そんなしょうもないことで喧嘩してるんじゃないよね?

 

 「よし突撃!」

 「えっ?」

 「ちょ、りっちゃん! 待ちなよ!」

 オレの制止を振り切って、りっちゃんは談笑中のあちらのグループに乗り込んだ。

 

 「お2人さ~ん! 仲いいですね~!」

 っちゃ~……最悪だ。仲悪くしに行ってるようなものじゃないか。

 

 「り、律? 何でココに?」

 「ふふ~ん。ちょっとね」

 「あれりっちゃん? 1人?」

 「みんなあっちにいるよ」

 唯先輩達がこっちを見た。もうなるようになるしかないのか……

 

 「いつも、うちの澪がお世話になってます」

 「ちょ、律?」

 「何? 何かヤなの?」

 「そ、そうじゃないけど……」

 「だったらいいじゃん!」

 よくないよりっちゃん……確かにあの性格はいいときもあるけど、こういうときは裏目に出そうで怖い。

 今日のところは何もなく終わった。

 

  ~次の日、昼休み~

 

 「 ー でさ、アキがだな ー 」

 「失礼しま~す」

 「あ、お姉ちゃん」

 「憂!」

 ウチのクラスに唯先輩がやってきた。

 

 「どうしたの?」

 「いや~あずにゃんとヒロ君いる?」

 「梓ちゃん、ヒロ君!」

 「あ、唯先輩どうしたんですか?」

 オレもアキたちと喋っているのを一時中断して、唯先輩の方に行った。

 

 「あ、憂ありがとね」

 「どういたしまして」

 「どうしたんですか?」

 「今日から昼休みも練習するんだって。りっちゃんがそう言ってた」

 気合入っているな~りっちゃん。

 

 「分かりました。すぐに行きます」

 「オレもすぐに ー 」

 ひとまず、アキたちに言っておかないと。

 

 「すまん、アキ。昼休み練習が入った」

 「頑張るね~」

 「次の学園祭、出るからな。軽音部見に来てくれよ」

 「分かった! 雄二覚えてて」

 「そんくらい自分で覚えとけ」

 バカな会話を聞きながら、梓ちゃんと唯先輩と共に部室へ向かった。

 

 準備をしていると、りっちゃんが澪ちゃんを連れて来た。

 

 「いや~今年は澪は何をしてくれるのかな~」

 「練習するんだろ!」

 「す~るよ~」

 「だったら ー 」

 りっちゃんは澪ちゃんの言葉をさえぎるように、いろいろとちょっかいを出した。りっちゃんのいいところでもあるんだけど……悪いところでもあるんだよなあ。悪い方に行かないと良いけど。

 

 「あ、そうそうオススメのホラー映画持ってきたんだけど ー 」

 嫌がらせにしか聞こえない。澪ちゃんが怖がりって知ってるのに。

 

 「ちょ……もう練習しないなら教室に帰るぞ!」

 「ふ~ん、帰れば? 悪かったよ。せっかくの和との楽しい昼食を邪魔してさ」

 げっ……挑発してるんじゃないよなりっちゃん!?

 

 「そんなこと言ってないだろ!!」

 ほらキレたじゃないか……何をそんなにムキになっているのだよ。

 みんなが動揺してきたじゃないか。チームワークが売りのこのバンドでどうするつもりだよ……

 

 「な、仲良く練習しましょうにゃん」

 っ!

 梓ちゃん?

 場を和ませるためにやってくれたのか。ありがたい……若干スベった気もするけど。

 

 「そうだね、練習するか」

 「ああ。練習しよう」

 「よかった~」

 全員が演奏ポジションについて、演奏を開始!

 

 したのだが……

 

 「りっちゃん?」

 ドラムが聞こえてこないのだ。

 澪ちゃんが合図して、全員の演奏を止めた。

 

 「律?」

 「……」

 「律!」

 「ごめん……調子でないからまた放課後ね~」

 りっちゃん、本当にあんな些細なことで悩んだりしてないだろうな。

 

 今日の放課後はもちろん、次の日の放課後も来なかった。

 

 「りっちゃん来ないね……」

 「もしこのまま戻ってこないなら学園祭のライブどうなるんでしょう……」

 「練習しよう」

 「澪ちゃん……」

 「でも、律先輩呼びに行かなくていいんですか?」

 返答に困っていると、さわちゃん先生が言葉を放った。

 

 「代わりのドラムを探すとかね。万一に備えて」

 「りっちゃんの代わりなんていません!」

 「ムギ先輩!?」

 「りっちゃんが来るまで待っていようよ。きっと来るから」

 今日の部活は早めに切り上げた。

 

  ~次の日~

 

 オレはりっちゃんが学校を休んでいるとの情報を聞き、放課後すぐに、家に向かった。

 だって、学校を休むということなんて無縁だと思っていたから。

 

 りっちゃんの家に着くと、先客が居た。澪ちゃんだ。

 この頃、あの2人の仲がギクシャクしてたからなあ……それでちょっと落ち込んじゃってそっから病気になってしまったのかもしれない。『病は気から』なんていうくらいだし。

 

 「ヒロ」

 「澪ちゃん、今来たの?」

 「ああ。ヒロもお見舞いか」

 「うん……珍しいなと思って」

 お見舞いも兼ねて、どうかしてこの2人の仲を元にしたいし。

 

 「一緒に行こう」

 「うん」 

 澪ちゃんと階段上がる。

 ドアを開ける寸前に、

 

 『澪~』

 と声が聞こえてきた。澪ちゃんは構わずドアを開けこう言い放った。

 

 「超能力者か」

 「分かるよ、澪の足音くらい。あ、ヒロも来たんだ」

 幼馴染の力ってすごいなあ。

 

 「風邪どう?」

 「まだちょい熱ある」

 「学園祭の前にこうなって ー 」

 「いいから早く治しなよ。みんな待ってるからな」

 ベッドの横に座り話す。オレはその様子をちょっと離れて見ていた。

 

 「怒ってない?」

 自覚はあったんだな……怒らせているっていう。もしくは、学園祭前に体調を崩したことに怒りをということか。

 「全然」

 「澪は?」

 「当たり前だろ」

 澪ちゃんは、言葉を続けた。

 

 「律のドラムがないとちょっと寂しいかな。どんなに走っていたっても、わたしはパワフルな律のドラムが好きなんだよ」

 いい言葉だなあ……いつの間にか喧嘩していたような雰囲気もなくなっている。こうやって今まで来れたんだな。幼馴染かあ。オレも引っ越さなかったらこの2人の仲間入りしてただろうに……

 

 「風邪治った~へくちゅん」

 「治ってないじゃん。寝ときなよ」

 再びベッドに寝かされるりっちゃん。

 

 「じゃあわたし帰るからな」

 「え~寝るまで側にいてよ!」

 「仕方ないな……」

 いい2人だ。

 

 りっちゃんが寝付いた頃に、唯先輩とムギ先輩と梓ちゃんが来た。

 いつの間にか唯先輩がりっちゃんの側で寝ているのはどうしたことだろう。

 

  ~次の日~

 

 「ぜんか~い!! 学園祭に向けて頑張るぞ!」

 りっちゃんが元気よく部室に現れた。その後、続けて真鍋さんが現れた。

 

 「ちょっと!! 学園祭の講堂使用届け出さなかったの!?」

 『ああっ!!』

 りっちゃんが休んでいたから、そのままになっていたんだった!

 

 急いで生徒会室に行って懇願しにいったところ、何とか今日までは許してもらえることに。

 

 「あんた! ええ人や!」

 一緒になって頼んでくれた真鍋さんにりっちゃんは抱きつく。

 

 「これからも澪をよろしく、そしてこれからはわたしの面倒も見てください!」

 っ……やっぱり。

 さみしかったんだなりっちゃん。澪ちゃんを真鍋さんに取られた気がして。

 

 早速部室に帰って、凍結していたバンド名決めから話し合いが始まる。

 

 「にぎりこぶし!」

 「演歌か」

 「じゃあ靴の裏のガム!」

 「今日踏んだんだな」

 りっちゃんのツッコミが冴え渡っているなあ。

 

 「ムギ先輩、いいのないですか?」

 「充電期間とかどう?」

 「縁起悪!!」

 どうして全然良いネーミングが出てこないんだ……かくいうオレも全く出てこないけど。

 

 『お前ら寄越せ!!!!!』

 さ、さわちゃん先生が突然キレて、勝手にバンド名を書き出した。

 

 「こんなの適当に決めればいいのよ。よしっ」

 『わー……勝手に決められた』

 別にネーミングセンスが悪かったら変えれば良いし。

 

 さわちゃん先生が決めたネーミング。

 “放課後ティータイム”

 

 いい感じだ!

 まさにウチの軽音部って感じ。

 みんなも異論はなく決まったみたいだった。

 

 「後は学園祭に向けて練習するだけ ー 」

 「ひーっくしゅん」

 「ですね……? 唯先輩?」

 「風邪ひいた」

 前途多難だ。

 

 

 





 いよいよ、学園祭に向けて首尾よく行きたいところなんですが……

 さすがは、軽音部。

 思い通りにはなりません。

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#16 準備!


 え~作者は、リアルの方で、軽音部に所属しているんですけども、

 この頃、GO!GO!MANIACを練習しているんですよ。

 けいおんを見ていた方は分かると思いますが、相当速いです。

 えらい大変です……(汗)

 あんなにすらすら弾ける唯たちの腕がうらやましすぎる!


 では、どうぞ!!



 

 「まだお姉ちゃん熱下がらなくて ー 」

 「そうなんだ……」

 数日経っても唯先輩が部活に現れないため、りっちゃんと澪ちゃんが、放課後ウチの教室に来て憂ちゃんに聞いてみた。りっちゃんに風邪をうつされたのかと思いきや、今度のLIVEの時の衣装(浴衣)を気に入りすぎて、ちょっと寒いのに家でもずっとその格好をしていたから風邪をひいたらしい。唯先輩らしい……

 

 「梓、今日からリードの練習もしておいてくれないか?」

 「え?」

 「唯が来られない可能性もあるから」

 梓ちゃんはちょっと回答を渋った後、肯定の意を示した。今日はそれで放課後は終わった。

 

 「席に着け! HR始めるぞ!」

 次の日、西村先生がやってきてHRが始まった。

 

 「今日から学園祭まで後5日をきった。そろそろ出し物を決めないと。いつまでも後回しには出来んぞ」

 出し物か。LIVEの方にあんまり影響が出ないのが良いな。

 

 「無難に露店だろ」

 「そうだな。何の店だ?」

 「たこ焼きとか?」

 「クレープがいいと思うな!」

 教室のあちこちから上がる声。何になるのかね。

 

 「 ー それじゃあ多数決を取ろう」

 みんな自分の希望するものに手を上げた結果、ウチのクラスの出し物は「クレープ」に決まった。それもこれも、クラスに女子の割合が多いからだろう。オレとしてはクレープでも大歓迎だけど。

 

 「ということで、この後は各自どうするか相談するのだ」

 誰が作れるのかを考え、シフトを作り上げたやつがいた。こういうやつが1人でも居てくれると助かる。オレは料理が出来ないから、もちろん作るほうには参加しない。買出し担当となった。アキと秀吉は接客、雄二と康太は少し料理できるらしいからキッチンみたいだ。梓ちゃんは料理はそこまで出来ないみたいで接客、憂ちゃんは家事のほとんどを任せられているらしく、キッチンの統括をすることになった。

 

 「各自、役割をきっちりと果たし、学園祭を楽しむように! 以上!」

 帰りのHRが終わった。オレは買出しだから、前日に大量に食材を買い込まないといけないか。それはいったん頭から離そう。部活だ。

 

  部室に着くと、先輩方もテンションが少し低めであった。唯先輩がいないからだろう。ティータイムの時間、ちょっと空気が重かった。30分くらいしてから、

 

 「練習、始めようか」

 「そうだな。練習しながら唯が帰ってくるのを待とう!」

 「オオー!」

 練習を始めることになったが、オレはちょっとトイレに行った。

 

   ★

 

 ヒロ君がトイレに行っている間に、わたしたちが楽器のセッティングをしていると ー 。

 

 「やっほ~」

 「あっ! 唯!」

 唯先輩が部室に現れた。

 

 「風邪大丈夫なのか?」

 「え、風邪? あ、ケホケホ……大丈夫だよ」

 「治ってたんなら、朝から学校来いよ~」

 同じクラスの律先輩が、唯先輩に言った。

 

 「え~とそれは……そう! 授業が終わる頃に治ったから ー 」

 「要するにサボりたかった訳か」

 「早く練習しましょう! ね、唯先輩!」

 「あ、うん」

 わたしもリードの練習してたけど、やっぱりリードは唯先輩だ。

 

   ★

 

 「遅くなってゴメン ー ってあれ?」

 部室に帰ってくると、風邪をひいていたはずの ー 。

 

 「早く練習始めるよ!」

 「え、あ、うん……」

 梓ちゃんに急かされてキーボードの前に立つ。

 

 「ね、ねえ……」

 「ヒロ、準備はいいか?」

 「お、おう!」

 あれ? おかしいよね。ちょっとした疑問を感じながら演奏を始める。

 

 「完璧すぎる ー 」

 演奏を2回してみた。みんなの感想はこうだった。完璧で何が悪かったのかというと、唯先輩と演奏するときは必ず少しずれたりしている。(そのずれも良く聞こえるが)

 

 「ね、ねえみなさん?」

 「どうしたのヒロ?」

 この方々はまだ気づかないのか……

 

 「う、憂ちゃん……そろそろみんなを騙すのやめたら?」

 『憂ちゃん!?』

 「な、何の話でしょう?」

 顔とかはそっくりだったから、髪形を唯先輩っぽくしたら本当に見分けがつかなくなる。

 

 「本当に憂ちゃんなの?」

 「どうなの?」

 「嫌だなあ…紬さん律さん」

 「紬さん?」

 「律さん?」

 あ、ボロを出しちゃった……唯先輩はムギちゃんりっちゃんって言うから。

 

 「じゃあわたしのあだ名は?」

 「あ、梓2号!」

 「偽者だ!」

 ……確かにあずにゃんって言うのは唯先輩だからすぐ分かるな。

 

 「それにしても何でヒロは、唯じゃなく憂ちゃんだって分かったのだ? 全然見分けつかないだろう」

 「え、だって……顔はそっくりでも、上靴の色まではごまかせないでしょ」

 「上靴……?」

 『あっ!』

 赤の上靴はオレらの学年だ。赤の上靴が3組。オレ・梓ちゃん、後は……? トイレから帰って来たときから気づいていたんだけどな…あまりにも言う機会がなかったし。

 

 「リボンはバレない様に、借りてきたみたいだけど……」

 「本当にみなさんごめんなさい」

 いったん席に着くことになった。憂ちゃんはそのまま唯先輩の席に。

 

 「憂ちゃんってギター弾けたのね」

 ムギ先輩がこう言った。確かに……しかも唯先輩より上手かったような?

 

 「いえ、お姉ちゃんに何回か触らせてもらっていただけです……」

 平沢家は天才揃いか!?

 

 「梓ちゃんもヒロ君もゴメンね……ベッドで寝ているお姉ちゃん見てたら居ても立ってもいられなくなって」

 『ヤッホ~』

 「激しくデジャブ!」

 「唯!!」

 正真正銘の唯先輩が現れた。正直めっちゃきつそうなんですけど。

 

 「ゴメンね迷惑掛けちゃって ー 」

 「治ったのか?」

 「さっき起きたらね、気分良くなってて、少しは練習した方が ー へくちゅん」

 ……全然大丈夫そうに見えない。ギー太を見つけて歩いていったが、足取りがふらふらで見ていられなくなった。みんなが強制的に熱を測らせるとやはり高熱であり、軽音部のソファに寝かせた。

 

 「やっぱダメだったね……わたし抜きで本番がいいね。あずにゃん本番任せたよ」

 唯先輩。そんな事言っちゃ ー

 「嫌です!」

 梓ちゃん?

 

 「みんなで出来ないのなら辞退した方がマシです!」

 「そうです! 唯先輩」

 「唯、本番まで軽音部に来るな。しっかりと風邪を治すことを優先しろ! いいな?」

 「みんなで本番出ましょう! 諦めちゃダメですよ!」

 オレは唯先輩をおぶって、平沢家まで送っていった。

 

  ~学園祭前日~

 

 「ヒロ君、今日こそ唯先輩来るかな……?」

 部室で唯先輩の話に。あれ以降風邪が治らないらしく、1回も学校に来ていない。心配なのは梓ちゃんだけでなくオレもだ。しかし、この問いには答えることが出来なかった。来るよ。って言っても気休めにしかならないからだ。

 

 「わたしたちが練習していればきっと来るよね」

 「そうだな」

 何だかんだ言っても、梓ちゃんは唯先輩のことを一番心配している。

 

 「唯なら来る」

 「練習しておこう」

 「そうだな」

 「あの~すいません。オレ明日の学園祭のクラスの出し物の買出しに行かなくちゃいけないんですけど…本当にごめんなさい。役割で決まっちゃってて」

 びっくりすることに、買出しオレ1人だったのだ。1人だったら絶対に引き受けてない。こうやってLIVE前に迷惑を掛けるのが分かっているから。

 

 「マジか!?」

 「クラスの出し物なら仕方ないか」

 「失礼しま~す」

 買出しに行こうとしたときに、憂ちゃんが部室にやってきた。

 

 「あれ、憂ちゃん、どうしたの?」

 「唯の調子がよくならないとか……!?」

 「い、いえ……まあ確かによくはなってないですけど、それを伝えに来たんじゃないです」

 憂ちゃんは、オレの方を向いて言った。

 

 「ヒロ君、携帯確認した?」

 「ん? 何かあるの?」

 「吉井君からメールが来てると思う」

 「そなの?」

 携帯を確認してみると、確かにアキからメールが届いていた。内容は、急用が出来て一緒に食材の買出しに行けない。ゴメンということだった。オレは料理のことはさっぱりなので、一人暮らしを始めて半年になるアキに聞いたら分かると思って一緒に行くように頼んでたんだけど……

 

 「どうしようか」

 「それで、わたしが代わりを頼まれたから」

 「あ、そうなんだ。ありがとう。でも、唯先輩の看病しなくていいの?」

 憂ちゃんがいいって言っても、こっちがとっても心配なんだけどさ。

 

 「寝てると思うから」

 「そっか……りっちゃん・澪ちゃん・ムギ先輩・梓ちゃん、ということなのですいません」

 「おうっ!」

 「また明日、な!」

 「うん!」

 オレは、買出しをしに憂ちゃんと部室を出た。本当は練習しておきたいけど……こういうのって、前日になっても慌てているようじゃいけないのかね。別に練習休んでも大丈夫ってくらいに仕上げておくのが普通なのかな。

 

 「クレープってよく食べるけど、何から出来ているのかさっぱり知らないんだよね」

 「えっと、本当は小麦粉とかから作ったほうが良いんだけど」

 「?」

 「予算や時間の関係上、ホットケーキミックスを使うことになったんだ」

 ホットケーキミックスってホットケーキを作るためにあるんじゃないんだ。クレープも作れるなんて万能だな。確かに、生地は似ているけど。でも、卵とか牛乳とかはいるらしい。

 

 「じゃあ、具材の方は?」

 「まだメニュー決めてないから、今日買った食材によるかな」

 「ってことはオレ結構重要なこと決めれるんじゃない?」

 「まあそうだね」

 クレープの具かあ。おかずってのも別に悪くはないんだけど、あれはおやつとして食べるのがいいよね。

 

 「おやつ感覚の方で特化しようよ。どうせ、他のクラスがおかずは出しているだろうから」

 「そうだね。ということは、バナナとイチゴとチョコは絶対でしょ」

 「なるべくコスト抑えた方が良いってことは旬がいいでしょ。でも旬じゃないよね?」

 「バナナはフィリピンからの輸入があるからいいけど、イチゴはちょっと高いかもしれないね」

 イチゴの旬は、冬から春にかけてって聞いたことある。クレープにはイチゴ必須なのに……

 

 「アイスはもう寒いだろうし……」

 「もう10月も終わりに近づいてきたからね」 

 「じゃあ、今が旬の果物って何かある?」

 「りんご・ぶどう・なしは秋だよ」

 「じゃあ、バナナとイチゴとりんご、チョコと生クリームとカスタードの6個でよくない? 組み合わせはお客さんに決めてもらうとかでさ。そうしたら、バナナとイチゴ両方食べたいという人にも対応できるし、チョコ苦手なんだよって言う人にも対応できるじゃない?」

 食べ物、特に甘いものには目がないからさ、クレープなんて露店見つけたら基本買ってたからね。

 

 「分かった、そうしよう! じゃあ手分けして探す?」

 「オレ、決めるのは良いけど、どんなのがいいかとか全く分からないよ」

 「そうなんだ。じゃあ、一緒に回ろう」

 「お願いします! 荷物持ちはもちろん任せてもらいたい」

 スーパーで一気に購入したものの、一人で持ち帰るのはつらい量であった。学校におかせてもらうとはいえ、その学校までも一人でもてない量のスーパーの袋の数。ちょっと憂ちゃんには申し訳ないけど、持ってもらうことにした。

 

 「悪いね憂ちゃん。流石にこの量は無理だったから」

 「1人に任せちゃったこっちが悪いんだからそんな謝らなくても」

 「いや仕事だからね。卵とか割っちゃ申し訳ないからさ」

 「そうだね」

 学校に着く頃には、もう日も暮れ夜空が広がっていた。なるほど、寒いと思ったのはそのせいだったか。家庭科室に自分のクラスの分と分かるように、さっき買ってきた食材やら何やらを保管してもらった。

 

 「唯先輩大丈夫かな」

 「心配になってきちゃった……」

 「遅くなってゴメンね。暗いから送っていくよ」

 「わざわざいいよ、そんなこと。これもわたしの仕事のうちなんだから」

 クラスの出し物の統括をする立場なんだけど、それはそれ。女子を暗い夜道1人で帰らせるということは、オレにはとうてい出来ない。だって、帰り道に襲われたりとかしたら責任どう取ることも出来ない。だからといって、一緒に帰っているときに襲われて守れるかっていう話になると、いささか自信はないが……確率は減る。

 憂ちゃんを無事に家まで送った。唯先輩は明日こそ来てくれると家の前で祈りをした。

 風邪、治ってくれ。

 

 





 クレープのくだり、間違っていたら報告よろしくお願いします!
 何せ作者、料理が全く出来ませんから。

 いよいよ次話、学園祭ですね。
 どうなることやら……

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#17 学園祭!


 学園祭当日!

 高校ってどこでもするものと思ってたら……
 ウチの学校無かったんですよね。結構ショック大きかったです。

 では、どうぞ!!


 

 「 ー ということだから、みんな協力お願いします!」

 『ハイ』

 いよいよ学園祭当日。クラスでの出し物:クレープのことについて、憂ちゃんがみんなの前で説明した。オレが昨日提案したことについてだ。みんな簡単に納得してくれたみたいで良かった。オレはもう仕事が終わったから何もしなくて良いんだが……憂ちゃんに手伝ってもらってるから、何かしら手助けはすべきだと思う。人手が足らなくなったところの応援にでも回るか。梓ちゃんは、LIVE(13:00頃)に合わせてシフトは12:00までとなっていた。オレもその頃には抜けたいと思う。

 

 「ヒロ、今日のLIVE楽しみにしておくよ!」

 「そうか。ありがとう。お前そんなに音楽興味あったか?」

 「少なくとも、ヒロよりかは断然あったと思うけど」

 「そうか。ってかお前、シフト昼から入ってなかったか?」

 「島田さんと交代してもらったんだ。雄二と康太も須川君や横溝君とシフト交代してLIVE見に行くつもりだから。秀吉の演劇も見にね」

 島田や須川・横溝といった連中は、クラスメイトである。演劇はどうも軽音の後にあるらしい。

 期待してくれて嬉しいんだが、今日LIVE出来るのかな……憂ちゃんにもまだ何にも聞いてないけど。いや、憂ちゃんは大変だろうから何も聞かないでおこう。

 

 9:00になって、学園祭がスタートした。この学園の学園祭は一般入場もOKなので、お客さんが学生だけだとは限らない。予想通りの客足だ。多すぎず少なすぎず、一番ストレスを感じないな。

 あっという間に、12:00になった。

 

 「梓、ヒロ君、もう抜ける時間だよ」

 「え、もう?」

 「ありがと憂」

 オレたちにそれだけ伝えると、憂ちゃんは再び仕事に戻った。唯先輩の名前を一言も出さずに。

 

 「心配だ……」

 「部室に行ってみたらもう来てるかもしれないよ」

 「そうだね!」

 部室に来ても、唯先輩の姿は見当たらず、3人しかいなかった。

 

 「あ、2人とも……」

 「まだ、唯先輩来てないみたいですね……」

 「うん。絶対に間に合わせるってメールは来てたんだけどね」

 「練習しておこう」

 練習するも、やはり唯先輩抜きの演奏は、曲として成り立っていない。

 

 「もう12:30か」

 「このまま唯抜きの演奏ver.も確かめてみるか?」

 「そうだな」

 「絶対嫌です! 唯先輩抜きで演奏しても意味無いです!」

 梓ちゃん……うん。オレもそう思う。全員が揃ってこその「放課後ティータイム」だと思う。

 

 「和……」

 唯先輩の幼馴染で、生徒会役員の真鍋さんが部室にやってきた。

 

 「ステージは10分押しだけど、予定通り講堂に入って」

 「分かった」

 「軽音部メンバーは……全員居るわね。軽音部出演準備完了」

 「和?」

 唯先輩が居ないのは一目見て分かるはずだ。

 

 「あの子は、昔から一つのことをやり出したら止まらないの。今回だって風邪なんか忘れてくるわよ」

 「そう……」

 「だから ー 」

 

 軽音部の部室のドアが開いた。

 

 「ちーっす」

 「空気読め!!!」

 さわちゃん先生の登場。久しぶり見た……このタイミングで入ってくるのはどうかと思うが。

 

 「ていうか今まで何してたんだよ?」

 「こっちは大変だったんですよ!」

 「あら? 何もせずにただ過ごしていたわけじゃないのよ。あの浴衣の防寒ver.も作っていたの!」

 『そのやる気を他に回して欲しい』

 全員が見事にハモる。さわちゃん先生…………

 

 「そして、それがその衣装です!」

 えらく気合が入ってるな……ドアの方を指差していたので、みんな注目する。

 

 「失礼しま~す……」

 ゆ、唯先輩!? その防寒ver.の浴衣を着て現れた。

 

 「唯! 来てたんなら真っ先にこっちに寄れよ!」 

 「ごめんなさい……」

 「最低です。みんなこんなに心配してたのに」

 「あずにゃん?」

 梓ちゃんのほうを見てみると、少し目が潤んでいた。

 

 「梓が一番心配してたんだぞ」

 「あずにゃん……」

 「最低です。大体風邪をひいたときに ー 」

 梓ちゃんの言葉をさえぎるように、唯先輩は梓ちゃんに抱きつく。

 

 「ごめんね心配掛けて。わたし精一杯やるよ。みんなでいいLIVEにしようね」

 「特別…ですよ」

 本当によかった。LIVEぎりぎりに間に合って。

 

 「そういえば、ギー太は? ここに置いてあったよね?」

 「えっ? 憂ちゃんが家に持って帰りましたけど、持って来てないんですか?」

 「そうだった!! どうしよう……」

 「仕方ないわね。これ使いなさい」

 どこからともなくさわちゃん先生が取り出したギター。

 

 「ギー太以外弾けない……」

 唯先輩……どうするんですか。

 

   ★

 

 「これより、軽音部:放課後ティータイムによるLIVEを開始します」

 オレたちはセッティングを済ませ、幕が開くのを待った。徐々に上がる幕、大きな歓声。まさにLIVEだ。

 

 「ワン・ツー・スリー……」

 りっちゃんの合図により演奏が始まった。1曲目は「ふでぺん~ボールペン~」だ。みんなステージ衣装(防寒ver.浴衣)に着替えてのLIVE。もちろん? オレも衣装が用意されてあった(さわちゃん先生の手作りらしい……)ために、それに着替えてキーボードを演奏する。

 

 真ん中にVo.兼Ba.の澪ちゃんが位置取り、その後ろにDr.のりっちゃんが。その左右にキーボードが配置してあって、会場から見て左にムギ先輩、右にオレがいる。オレの前方、要するに澪ちゃんの右側には、Gt.の梓ちゃん。そして、左側には……

 

 

 

 

 さわちゃん先生が、演奏をしていた。

 

 

 

 唯先輩は、どうしてもギー太じゃないと弾けないということで、急いで制服に着替えて家に取り帰った。しかし、LIVEは待ってくれなく、開始時間には間に合わなかった。そのため、代理でさわちゃん先生が弾いてるのだ。

 学生の頃、ギターをしていたらしく演奏の腕は確かだ。

 

 唯先輩が来れなくなった場合の時を考えて、梓ちゃんがギターソロの部分を練習していたために、難なく曲は進んでいった。そして、アウトロのところあたりで、後ろにある入り口が開くのが見えた。

 

 

 ギターケースをからった唯先輩だ。

 

 

 どうやら、みんなその様子が見えたらしく表情が明るくなっていた。そして、1曲目「ふでぺん~ボールペン~」の演奏が終わる。唯先輩は、オレたちが立っているステージのすぐ下までやってきた。

 

 放課後ティータイムに対する拍手がなっている間に、唯先輩が制服のままでステージに上がってくる。当然、舞台は静かになる。オレたちは全員、唯先輩のもとへと集まった。

 

 「ありがとう、さわちゃん」

 「後は頑張りなさい」

 『山中先生かっこいい!』

 唯先輩の代わりを務めて下さった山中先生に賞賛の嵐が。唯先輩はその最中に、オレたちにこう言った。

 

 「みんなごめんなさい。よく考えたら、いつもいつもご迷惑を……こんな大事なときに ー 」

 「唯、みんな唯のことが大好きだよ」

 りっちゃんの言葉に、オレたちは笑顔を浮かべる。全員がいてこその放課後ティータイム。それがあるからこそのあの人を感動させることが出来る演奏。その証拠に、

 

 『頑張って ー 』

 『唯ちゃん!! ー 』

 会場のみんなからも、拍手が聞こえてくる。改めて、この一員になれて本当に幸せだ。

 

 「改めまして、放課後ティータイムです!」

 唯先輩がやってきて、さっきまでさわちゃん先生が居た場所に澪ちゃんが移って、センターを唯先輩に譲る。メインボーカルは唯先輩だから。

 あっという間に、最後の曲となった。「ふわふわ時間(タイム)」、唯先輩の声に、澪ちゃんのハモリがばっちり来る曲だ。楽しい時間はすぐに過ぎていき、曲も終わってしまったけれども、ムギ先輩の気を利かせたアドリブにみんなが乗っかり、もう少し至福のひと時を過ごしていた。

 時間も来てしまい、オレの ー いや放課後ティータイムによる初LIVEは終わりを迎えた。

 

 その後あった秀吉の演劇も見て、アンプ類などの器材を全て部室に持って帰るということをしていたら、いつのまにか、15:00も近くなっていた。

 

 「よ~しじゃあ唯!」

 「どうしたりっちゃん!」

 「クレープ食べに行こうぜ!」

 「やった! クレープ大好き♪ で、何処の?」

 りっちゃんはオレと梓ちゃんのほうを向いた。それに習ってか、澪ちゃんとムギ先輩もこちらのほうを向いた。

 

 「どうしたの?」

 「さあさあ、お2人さん、案内してくれるかな?」

 「え、何処か美味しい店知ってるんだね!」

 「そうらしいぞ唯。期待しておけ」

 どうやら、オレたちの出し物のクレープ店に連れて行けということだそうだ。何て気の利く先輩方なんだ。オレと梓ちゃんは無言でうなずき、先輩方を案内した。

 

 「こちらです」

 「ここか! 1-Dの出し物のお店だね。1-Dって、憂やあずにゃん、ヒロ君のクラスじゃん!」

 流石は唯先輩。流れからある程度察することは可能だったのだが。

 

 「いらっしゃいませ~って、お姉ちゃん!?」

 「あ、憂~」

 「律さんに澪さんに紬さんまで!」

 「あずにゃんとヒロ君に案内してもらったんだ~」

 梓ちゃんはエプロンを取りに裏に行った。

 

 「そうだったんだ~まずは席に座って座って! みなさんもどうぞ!」

 「ありがとう憂ちゃん!」

 「LIVE見ました! よかったですよ!」

 「ありがと」

 ちょっと繁盛していたらしく、憂ちゃんも大忙しだったから、話を簡単に切り上げて自分の仕事へと戻っていった。

 

 「おい、ヒロ~梓や憂ちゃんは仕事してるけどお前はしなくても良いのか?」

 「オレは、買出し担当だったからこっちのことは何にも知らないんだ」

 「じゃあ、おすすめの商品を教えてもらおうかな」

 「何があるの何があるの?」

 甘いものには目が無い唯先輩は大はしゃぎ。オレはメニューを渡しながら説明した。

 

 「バナナ・イチゴ・りんご・チョコ・生クリーム・カスタードの中から好きなように」

 「じゃあ、全部とかってやっていいの?」

 「え、ええもちろん」

 流石は唯先輩だ。何事もスケールが違う。もし注文されたって憂ちゃんなら何とかしてくれるだろう……

 

 「それじゃ、全部!」

 「唯……欲張りすぎだろ」

 「だって~」

 「じゃ、わたしも全部!」

 「おいっ!」

 唯先輩とりっちゃんは、全部ということで意見が揃ったようだ。澪ちゃんとムギ先輩は、オーソドックスに果物1つ選び、トッピングも1つ選んだ。

 

 「梓ちゃ~ん」

 「はい~」

 「注文決まったんだって~」

 「今行く~」

 まあまあ忙しいうちのクラスの出し物。ちょうどおやつ時というのもあって、混んで来ているみたいだ。

 

 「ご注文はお決まりですか?」

 「全部が2つと、イチゴクリームと、バナナチョコでお願い」

 「ぜ、全部?」

 「梓ちゃん……ゴメンけど憂ちゃんに話を持っていってもらったら理解してもらえると思う」

 「あ、はあ……分かった。ご注文を繰り返させていただきます。全部が2つとイチゴクリーム、バナナチョコでよろしかったでしょうか?」

 声だけ聞いていたら、ラ・ペディスにでも来ている雰囲気だったよ。 

 

 「おうっ! 梓似合ってるぞ!」

 「あ、ずる~いりっちゃん。わたしが先に言おうとしたのに!!」

 「こういうのは早い者勝ちだ!」

 「あずにゃん、かわいいよ!」

 梓ちゃんは、逃げるように憂ちゃんの方へ向かった。照れ隠しだろう。

 

 先輩方はその後クレープを堪能して帰っていった。オレは人が行列を作るくらいまでに増えたから接客の手伝いをすることにした。

 そして、あっという間に17:00になって、学園祭が終了した。

 

 「今日は、お疲れ様~」

 憂ちゃんがみんなをねぎらう。

 「明日も頑張ろうね」

 そう。実は若葉学園の学園祭には、1日目は文化祭で、2日目は清涼祭(せいりょうさい)という別名がついていた。その名の通り?1日目は文化部とかが発表したりする。2日目は、若葉学園のメイン:召喚獣を使った大会があるのだ。出し物に関しては、2日ともするから意外と大変である。

 買出しに関しては、昨日まとめて2日分買ったから大丈夫。

 解散となって、各自帰る人等さまざま。

 

 「憂ちゃん、ありがとう! 唯先輩たちのオーダーちょっと困惑したでしょう」

 「そこまでないかな。もしかしたらやる人がいるかもしれないと思っていたからね」

 「すごいな。あ、それにLIVE見に来てくれてありがとう!」

 「わたしからも礼を言うよ。唯先輩治って本当に良かった」

 「梓ちゃん。わたしも楽しかったよ!」

 LIVEをする側として、見てくださった方々が楽しいって気持ちになると、本当に嬉しい。

 

 「わたしも憂と見に来た! 日頃はあんななのに軽音部って凄いよね~」

 憂ちゃんの友達の純ちゃんって子か。確かジャズ研でベースしているんだったっけ?こちらののんびりムードとは違って、あちらは結構厳しいらしいから腕は上がっているって梓ちゃんが言ってたかな。

 

 「ヒロ~」

 「お前、なかなかやるじゃねえか!」

 「……短期間で凄い」

 「お前ら! ありがとな」

 アキ、雄二、康太が近くにやってきて感想を言ってくれた。

 

 「お主凄かったぞい。舞台袖から見ておった」

 「秀吉! ありがとう。あ、演劇見た。流石全国って感じだった」

 「そうかの。ありがとうなのじゃ」

 秀吉もやってきていた。やりきった感を漂わせていた。

 

 「楽器ってそんなに短期間でマスターできるもんなんだね」

 アキからの質問が来た。

 「マスターというほどのレベルじゃないけど……弾けるようにはなるんじゃない?」

 「お姉ちゃんも去年、素人から始めて学園祭で演奏したからね」

 「すごいですよ、唯先輩は。まだまだ音楽用語は覚えてないみたいだけどね」

 唯先輩と一緒にしないで欲しい……あの方はある意味天才だぞ。いくら数ヶ月しか練習してないとはいえ、暇さえあれば家ではキーボードの練習していたから多少は弾けるようになってもらわないと、悲しい。

 

 「そうだヒロ」

 「何だ?雄二」

 「明日、清涼祭で行われる召喚獣のショー見に行くか?」

 「そうだな。興味はあるな。憂ちゃん、明日手伝うことは無い?」

 仕事はないとは言え、今日の感じじゃ助っ人を入れたりしないとダメだから。

 

 「あ、行って来ていいよ! 梓ちゃんも行っておいで」

 「わたしはそんなに召喚獣には興味ないよ」

 「そうなんだ~」

 「じゃ、お言葉に甘えまして行って来ます! でも、途中で人手が足らなくなったら連絡して。携帯持ち歩くから」

 何だかんだ言って、憂ちゃんとも連絡先を交換していた。唯先輩のことやらクラスのことやらでいろいろ話すから。

 

 その後、ちょっと喋って今日は終わった。

 次の日、清涼祭。

 外を歩くときは、ともかく宣伝して回った。少しは助けになっているだろう。

 オレはアキや雄二や康太や秀吉と共に、召喚大会なるものを見に来ていた。見ていたんだが、早く自分で操作してみたいという気持ちがうずうずしてたまらなかった。

 1年生の間は、実験的に数回扱うらしいが、本格的に使えるようになるのは2年生になってからか。試召戦争なるものも楽しみだ。

 まさか、オレがこう思った数日後に、周りに居る人間の1人が、嫌でも召喚獣を使わなければならない羽目になるとは思ってもいなかった。

 

 





 そもそも、バカテス主体なんですから、召喚獣の話も出さないと!

 ちゃんと清涼祭の話忘れていませんよ。
 時期は原作と違いますけど。(春→秋)
 それに、あっさりと終わらせましたけど。

 さりげなく、クラス1-Dって書いてましたけど……
 確か、原作にも1回だけ書いてありましたよね(気のせいだったかな)

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#18 観察処分者!



 題名……

 前話の最後に出てきた流れで、分かりますね。

 では、どうぞ!!




 

 「お前、一体何ばしよっと!?」

 

 学校に来るなり、職員室に呼び出されたアキ。何だろうと思いついていった。そこで、西村先生からアキに1枚の紙切れが渡された。その中身とは、

 

  『以下のものを観察処分者(かんさつしょぶんしゃ)と認定する。1-D吉井明久』

 

 と書かれてあった。観察処分者というのは、若葉学園においてよっぽどの成績不振者か、素行が悪い人間にしか使われないものだ。オレが見ている限りでは、コイツはそこまで悪くないはずなのだが……。思わず職員室でアキを怒ってしまった。

 

 「ヒロ、方言が出てるよ」

 「オレの方言とかどげんだっちゃよかったい! お前のことを聞いとるったい!」

 「怒ると福岡の方言が出るんだね」

 「そげんかとはオレだっちゃ知っとるばい! よかけん、何でこげんなこつなったか教えんの!」

 オレは、小学校上がるまで、福岡県に住んでいたため、奥深くに福岡県の方言が染み付いている。普段は標準語で話している(つもり)だが、怒ると地が出てくる。 

 

 「七島、職員室でうるさい」

 「すいません。でも、どうして? 若葉学園史上初の出来事なんじゃないのか?」

 「どうもそうらしい」

 若葉学園の黒歴史の1ページ目に吉井明久の名が刻まれた瞬間であった。過去に類を見ないくらい、成績が悪かったのか、素行が悪かったのか……。

 

 「あれは、さかのぼればいつからの話だろう……」

 アキによる回想が始まったが、要領を得ないのはいつものことだ。

 

 今週頭に、抜き打ちの持ち物検査があったのだ。そこで、アキはゲーム類など合わせたら約3万円くらいになりそうなものを取られた。因みに雄二や康太、秀吉といった連中も取られていたようだ。オレは今日は弁当しか持ってきていないため難を逃れた。

 その日の放課後、理由は分からなかったが、島田に追いかけられたらしい。それでどこまで逃げたかというと、商店街まで逃げ延びたらしい。そこで、姫路さん(中学が一緒)という優等生を見かけ、アキは話しかけようと後を追っていったところ、ファンシーショップの店に入ったらしい。それに気づいたのが店内でだったらしく、すぐに店から出て行こうとしたところに、1人の少女が店員と言い争っていたらしい。

 

 『葉月、一生のお願いです!』

 『そうは言ってもなあ』

 『どうしたんですか?』

 

 どうも、困っている子がいると見逃せない性分らしく、話しかけたらしい。すると、この子の家族はドイツから越してきたらしく、その少女のお姉ちゃんが日本に慣れなくて落ち込んでいたから、ぬいぐるみを買ってあげたいらしい。そこで、その話を聞いて感動したアキが、その少女がぬいぐるみを買えるように手伝ったらしい。

 

 『それいくらですか?』

 『¥24,800です』

 『ふむ……半分くらいしか持ってない。じゃあ、そのぬいぐるみの半分をください』

 

 この会話を聞いたときは、オレは親友として穴があったら入りたいという気分になった。恥ずかしすぎる……。どうも、少女にまで『バカなお兄ちゃん』と言われたらしい。そりゃそうだ。

 

 店員もここまで熱心に買いたいといってるから少しの間は誰に売らないと約束してくれたらしい。その後、店を出てその少女と話をしているときに、アキは禁断の一手を思い浮かんだらしい。それは ー 。

 

 『今朝没収された商品を取り返して、売りさばいたらぬいぐるみを買える!』

 

 と。それ昨日の朝のHRに雄二たちと実行に移したらしい。確かに出席確認のときに、アキの携帯がなりだして没収したときに、雄二と不穏な会話をしていたのは雰囲気で分かった。雄二の策略を使い、その携帯を使って、没収品のありかを探し出し、秀吉の演技を以って先生を騙くらかし、康太の技術を以ってロッカーの鍵を開けと4人全員が役割を果たしての、没収品取り返し作戦だったらしい。

 そのやる気を何かに回して欲しい……

 

 「お前、言っておくが犯罪だぞ。窃盗なんだから」

 「でも ー 」

 「でもじゃない。いくらそれが正義のためだといっても、犯罪を無視することは出来ない。他に方法はあったはずだ」

 せめてオレに話す位して欲しかった。話を通していたらその計画は没にするつもりだが。

 

 「七島の言うとおりだ。吉井、観察処分者の仕事はたくさんんある。その1つが雑用だ」

 「え~雑用!?」

 「そうだ。力仕事などを任せることが多い。召喚獣を使えば、重いものでも軽々と持てるようになる」

 召喚獣、見た目ちっこいのに、力は人間の数十倍あるらしい。

 

 「先生、でも召喚獣って確か透けませんでしたっけ?」

 幽霊みたいなものとイメージすればよかったはず。

 「ああ、そうだ。だが、観察処分者になると、召喚獣で物理干渉が効くようになる」

 へ~観察処分者になるって別にデメリットだけじゃないな。

 

 「だがしかし、召喚獣がダメージを受けると、召喚者にもフィードバックするから気をつけておけ」

 重たい足かせだな……本当に自分の分身と化すような感じか……

 

 「先生! オレも召喚獣扱いたいです!」

 「来年になったらどれだけでも出来る」

 「今したいんです!」

 「観察処分者というのは特別なことが無い限り認められない」

 くそ……どうにかして、召喚獣を扱えないものか。

 

 「軽音部、荷物が重いので運ぶのが大変なんです!」

 「協力して抱えてくれ」

 「アキと一緒に居ることが多いから、オレも同じことを出来れば時間短縮も出来て便利です」

 「吉井だけで十分だ」

 西村先生、手ごわいな……ちょびっとだけアキがうらやましいよ。人より早く召喚獣使えるなんて。

 

 「七島、それよりも吉井の教育をお前にも頼むぞ」

 「常識だけはつけさせたいと思っております!」

 「よろしく頼む。俺が言うよりいいだろう」

 「はい」

 アキとオレは職員室を出た。

 

 「ホント、勘弁してくれよ」 

 「そんな深いことまで考えてなかったからさ」

 だからお前は『バカ』と呼ばれているんだろうが……一つのことに集中すると、周りのことが見えなくなる。か。

 

 「今回のことをメリットとして捉える方法も出来なくは無いぞ」

 「どういうこと?」

 「来年から試召戦争が出来るだろうが。それまでに雑用をたくさんして操作技術を磨けばいい」

 「そしたら?」

 「点数が数倍相手のほうが上でもダメージを食らわないで置けば勝てるってことだ」

 極端な話、4倍くらい点数上でも、事細かな操作をすれば、勝てるとも聞いたことがある。

 

 「どのみち、お前は来年Fクラスだろうし」

 「決め付けるんじゃない!!」

 「そう自信を持って言えるなら、来年のクラス分け楽しみにしておこう」

 「いいよ! そういうヒロはどうなのさ!? ヒロだってバカじゃないか!」

 実を言うと、そこまでバカじゃない。アキとかとつるんでいるから、クラスでもバカというイメージが先行しているが、テストの結果はすこぶるいい。本当のことはアキですら知らない。

 

 「ま、お互いAクラスに行けるよう努力しないとな」

 「望むところだ!」

 その後、数週間後に、2学期末試験があった。

 

 「……お前の点数、それはなんだ?」

 「い、いや~……新作のゲームが出ちゃって……」

 「お前、Aクラスなめてるな?」

 「そ、そういうヒロはどうなのさ」

 教えたくねえな……今までバカというイメージが浸透しているんだから、この学年ではバカというキャラで通すか。来年、みんなの度肝をぬくためにな。

 

 『お前、3点? 勝った。オレ4点』

 『何言ってんだ、お前2点だろうが』

 『俺10点すごいだろう』

 あれ……?若葉学園って一応進学校じゃなかったっけ? クラスでこんな声上がってますが大丈夫なんでしょうかね。あいつら絶対来年Fクラスだぞ……低い点数で勝負するな。

 

 「凄いよ憂~わたしなんか見てよ~」

 「あ……うん。そうだね」

 「梓はどうだったの」

 「まあまあだったかな」

 今のオレの席は、隣が梓ちゃんで、その前が純ちゃん、オレの前が憂ちゃんという場所だ。因みに、アキも隣に居る。何か凄い席だ。定期テストの度に席替えするから、今度は学年末までこの席だな。

 どうも、憂ちゃんと梓ちゃんは点数高いが、純ちゃんは低いらしい。結構イメージどおり。

 

 「今回、赤点だったものは、俺の特別補習がある」

 『何ぃーっ!!』

 クラスのあらゆるところから悲鳴が上がった。西村先生の特別補習はとても厳しいらしい。これは先輩方から伝え聞いた話だが、試召戦争において戦死してしまうと、強制特別補習になってしまうらしい。そのときに「尊敬する人物は二宮金次郎 ー 」とかいう人物に仕立て上げるのがモットーらしいから、戦死だけはしたくないとのこと。

 

 「覚悟しておくんだな」

 「危ねー!! ギリギリ赤点ライン」

 「純…もうちょい勉強しようよ」

 「そうしようと思った」

 純ちゃんも西村先生についての噂は聞いてたらしい。

 

 その後、久しぶりに部活に行ってみると……

 

 「ギリギリセーフ!!」

 「危なかったねりっちゃん」

 「律も唯も危なっかしすぎるんだ!」

 「もうちょっと余裕があったらね~」

 どうやら、りっちゃんと唯先輩もギリギリで補講を免れたらしい。澪ちゃんとムギ先輩は、Aクラスだからそれはありえないだろうが。

 

 「久しぶりの部活!」

 「やろうやろう!」

 「相当勉強が嫌だったんだな」

 「そうみたいね」

 「梓ちゃん、やろうか」

 「そうだね!」

 ブレザーがいる季節になってきて、部室も寒くなってきた。が、変わらず軽音部は活動していた。

 

 

 




 一気に冬!

 残念ながら、観察処分者は明久だけでしたね。
 弘志は召喚獣扱えなくて、それが今後影響するのだろうか?

 赤点の方は十分と罰を受けなければならないですね。
 鉄人の特別補習なんてとてもじゃないけど、受けたくはありませんよね。

 一応、作者福岡県出身なんで、方言に間違いは無いでしょうが……
 ちょっとおかしいところがあるならば、県内でも地方の違いでしょうね。

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#19 バカ!



 何かろくでもないサブタイトルに(苦笑)

 思いつかなかったものですから。

 では、どうぞ!!


 

 「重いよ、ヒロ……」

 「自業自得だ」

 終業式も間近に迫ってきた冬のある日、アキは放課後に職員室に呼び出されて雑用をしていた。アキは、召喚獣+で本人も荷物を持っているため、負荷がかかりやすい。オレも少しは手伝ったりしている。

 

 「先生、オレも召喚獣が使えたら仕事早く終わるんじゃないんですか?」

 隣に居た西村先生に言った。

 

 「もともと、手伝わせるつもりも無いからな。吉井1人がやるのが本来のものだ」

 「観察処分者とかじゃなくて良いから~」

 「そんなものはない」

 召喚獣を使いたいがために、問題行動は起こしたくないし……仕方ないのか。

 

 「よしっ。これでラストだね」

 「そうみたいだな」

 「終わった~……ヒロありがとう」

 「ったく、オレはもう部活行くからな」

 オレは教室に戻り、鞄を取った後で、部室に向かった。

 

 部室に行くと、全員が既に来ていた。しかも、ティーセットが出ているということは結構待ったらしい。

 

 「遅くなりました~」

 「どうした、ヒロ」

 「何かあったのか?」

 オレは鞄を置いて、席に座って事情を話した。

 

 「ほ~う、噂には聞いていたが、その観察処分者がまさかヒロの親友だとは」

 「面目次第もございません」

 「ヒロが謝らなくて良いだろう」

 「はい、お茶ですよ~」

 「ありがとうございます」

 以前、ムギ先輩にお茶淹れましょうかって言ったら、やんわりと断られちゃって…お茶淹れるのムギ先輩がずっとしているんだよね。

 

 「この話が出たついでに、試召戦争どんな感じなんですか?」

 「そういえば、あんまり聞きませんね」

 「オレたちももうすぐ、召喚獣を使えるかと思うと」

 「楽しみなんだ」

 何かしら聞く機会が無かったから、聞いてみることにした。

 

 「あんまりウチの学年は試召戦争してないよな」

 「そうだね~」

 「したとしても、AクラスとEクラスはあんまり巻き込まれないんだよね」

 「ちょうどみなさんのクラスじゃないですか!」

 澪ちゃん・ムギ先輩がAクラス、りっちゃん・唯先輩がEクラスである。

 

 「Aクラスに挑もうとするクラスが無くて、Eクラスは部活生ばっかりだから試召戦争にまるで興味ない人たちばっかりなの」

 「ムギの言うとおりだな。FクラスのやつらはEクラスの教室奪い取ったって意味ないと思っているみたいだし」

 「D~Bの戦いが一番活発かな」

 へ~面白そうだけど、面白く無さそう。

 

 「自分達で召喚獣使うことは?」

 「試召戦争が少なかったから、実質使ったのは数回かな」

 「やたら、演劇部とかゲーマーとかが強かった」

 「なりきるのがポイントとか、ゲームの操作方法に似ているとか」

 秀吉やアキはすぐに強くなるということだな。でも、2とも飛びぬけてバカが目立つからな~Fクラスほぼ確定だろう……オレはFクラスには行きたくない。相当教室がぼろいらしいから。

 

 「あずにゃんは来年クラスはどこに行きたいの?」

 「えっ……?出来るだけ上のほうですかね」

 「そうなんだ~ヒロ君は?」

 「オレも上のほうが良いですよ」

 オレがそう言うと、隣の梓ちゃんが驚いていた。

 

 「何でそんなに驚かれるの……?」

 「え、だってヒロ君、“バカ”なんでしょ?」

 「梓、直球過ぎる」

 「え?」

 まさか、梓ちゃんですら騙されていたとは。結構軽音部内ではまとな人間でいるつもりなんだけど。

 

 「あずにゃん、ヒロ君がバカなわけないよ~」

 「え、でも、吉井君とかとずっといるから~」

 「それはその観察処分者に対して失礼だ」

 「オレに対しては失礼じゃないの!?」

 笑い声が起こったのはいいんだけど、軽音部内でバカを確立するわけには行かない気が……。

 

 「梓ちゃん……」

 「はい?」

 「一応、澪ちゃん並みの学力は持ってるから」

 『嘘(だな)』

 あれ……?梓ちゃん以外の声も左の方から聞こえてきた。オレの左隣に陣取っているのはりっちゃんだ。

 

 「仲間だろ、ヒロ~」

 「律、今までヒロをどう見ていたんだよ」

 「本当かどうかは後で先生に聞けば良いじゃない」

 「そうだなムギ!」

 それでいいか。噂・印象って恐ろしいものだ……

 

 「そうだ! ヒロも来て全員揃ったところで、じゃ~ん」

 りっちゃんは1枚のチラシをみんなの前に出した。

 

 「わたしの中学時代の友達がさ、誘ってくれたんだ~」

 「何を?」

 「このLIVE一緒に出ない?って」

 「ライブハウスでライブするんですか!?」

 しかも日付は大晦日……カウントダウンライブとまではいかないにしろ、それに近い。

 

 「後10日も無いぞ」

 「大丈夫! わたしらは1部の方に出るから!」

 「それの何処が大丈夫なのだ?」

 大晦日の昼が1部で、夜が2部という感じらしい。2部の方は完璧カウントダウンライブだ。

 

 「出たいで~す」

 「わたしもわたしも!」

 「よ~し決まりだな」

 「ちょ、待って律。今回パスな人」

 「みなさん、ごめんなさい」 

 今回の多数決は、りっちゃん・唯先輩・ムギ先輩が出たいと、澪ちゃん・梓ちゃんがパスと。もちろん、こうなってしまった場合は、オレに結構重大なお鉢が回って来るんだよな~

 

 「ちょっと即答出来かねます。大晦日とか正月とかは毎年親と居るから、親に許可貰わないと……」

 「今すぐメールだ!」

 「わ、分かった」

 親にメールしてみたところ、数分後に電話がかかってきた。

 

 「お、親だ」

 「電話?」

 「うん、出ても良いかな?」

 「静かにしておくから」

 みんながそう言ってくれたので、ちょっと離れて電話を取る。

 

 「もしもし」

 『今のメールどういう意味?』

 「そのまんまだけど……ダメかな?」

 『部でライブということか?』

 「うんそうだけど」

 『部長に代われ』

 「え?」

 『話したいことがある』

 怖いんだけど……電話口をふさいで、りっちゃんに話しかける。

 

 「りっちゃん……親が部長に代われって」

 「えっ!?」

 「出てくれないかな」

 「み、澪代わりに出てくれ!」

 「い、嫌だよ。部長は律だろ」

 ちょっと怖がっていたが、りっちゃんが出てくれた。

 

 …………何話してるんだろう………。

 

 「ヒロ~はい電話」

 「切ったの?」

 「もうヒロに替わらなくていいからって」

 「どうだったの?」

 みんなの視線がりっちゃんに。

 

 「息子をどうぞよろしくお願いしますって」

 「何その、結婚するときの親のセリフみたいなのは!!」

 「出ていいということだったんだな」

 「他に何を聞かれたの?」

 「普段の軽音部での様子とか……結構親バカだな」

 今日は執拗にバカという言葉を聞く気がする。

 

 「じゃあ行くことに決まりだな」

 「ムギは毎年フィンランドに行ってたんじゃなかったのか?」

 「うん、そうだけど……1年の最後の日にみんなと一緒に演奏できるなんて素晴らしいじゃない」

 「ムギ先輩……」

 澪ちゃんと梓ちゃんも行くことに同意をしてくれた。

 

 「それならば、申請をしに行かないと ー 」

 「申請?」

 「そう、申請ってさわちゃん!?」

 「何の申請なの?」

 りっちゃんがあれこれと説明をして、さわちゃん先生の許可を貰った。

 

 「今から行くの?」

 「そうですよ」

 「お茶は?」

 「もうその時間は終わりました」

 「え~っ」

 ティータイムの時間って、実は先生が一番待ち遠しいのではないだろうか。

 

 「あ、さわ子先生」

 「どうしたの梓ちゃん」 

 「聞きたいことがあるんですけど」

 「あら、何かしら?」

 みんな何を聞くんだろうって目をして梓ちゃんを見る。

 

 「ヒロ君って、バカじゃないんですか!?」

 「わたしも気になる!!」

 覚えていたんだ……さっきの話。

 

 「どうしてそんな話が?」

 「いいから、バカかそうじゃないかを教えてくれよ~」

 『教えてください』

 みんな揃って、そこまで知りたいものなのかな?

 

 「噂ではバカだって聞くわよね」

 「噂じゃなくて本当のことを!!」

 「顧問だったら、部員全員の成績把握しているでしょ!」

 「ヒロ君、教えていいのかしら?」

 「オレの言葉だけじゃ信じられなかった方々です」

 オレがそう言うと、先生は持っていた鞄の中から1枚の紙を取り出した。

 

 「コレが軽音部、すなわちあなたたちの成績が書いてある紙よ」

 「どれどれ?」

 「澪はやっぱりAクラスだな。全教科300点超えてるよ!」

 「ホントだ。すごい!!」

 「わたしのじゃなくて、ヒロのだろ!!」

 若葉学園のテスト形式は、上限が100点と決まっておらず、無限にあるから、格差社会が一目瞭然だ。

 

 「ヒロのは……あった!」

 「嘘!? わたし負けてる」

 「凄いわ~」

 「ヒロ君頭いい~」

 オレは100点くらいの教科もあれば、400点を超えてる教科もあるとアンバランスであった。

 

 「このこと、誰にも話さないでくださいよ。特に、梓ちゃん、クラスのみんなには内緒で」

 「何で?」

 「バカで通ってるから。軽音部のみんなさえホントの事知っててくれたらそれでいい」

 「そうなんだ」

 唯先輩がすぐさま憂ちゃんに話したりしないかが心配だ。りっちゃんもペラペラとしゃべりそう。

 

 「まさかヒロがわたしら側じゃないなんて」

 「うすうす気づいてはいたけど……何て残酷なのりっちゃん」

 「唯……」

 また始まったよ小芝居。

 

 「律、唯、そのライブハウスに申請行くんじゃないのか?」

 「そっか、忘れてた」

 「じゃあさわちゃん先生バイバイ」

 「お茶を飲みに来たのに……」

 ろくでもない先生だ。

 

 

 「ここかな?」

 「そうみたい」

 学校を出てライブハウスの前で地図を見ながら確認をする。いざ入ると、やっぱり何か独特の雰囲気を感じた。

 

 「すいませ~ん」

 「は~い」

 りっちゃんが大声で人を呼ぶと、店員(といえばいいのかな?)がやってきた。

 

 「あの~これなんですけど、出演申し込みに来ました放課後ティータイムです」

 チラシを出し、力強く言う。

 

 「ああ、“ラブ・クライシス”のマキちゃんから聞いてるわ」

 「ラブ・クライシス! 何かかっこいい。わたしらのぽわぽわとしすぎかな?」

 「放課後ティータイム、何かかわいらしい名前ね」

 唯先輩の心配も杞憂に終わったみたいだ。

 文化祭の時に録音していたテープを持ってきて聞いてもらったところ、出演OKだそうだ。

 

 「それじゃあ、参加申込書書いてくれる?」

 「はいっ!」

 「当日出演者は13:00入りね」

 なるほど、リハをやるのか。流石に本格的だ。

 

 「15:00からミーティング、客入れが16:00、開演が17:00ね」

 「え、あ、え……?ハイ!」

 「りっちゃん、わたしが忘れても ー なんて甘い希望抱いていると痛い目に ー 」

 「みんな話聞いちゃいねえ!!」

 部長のりっちゃんとオレ以外は置いてある器材などに夢中になっていた。

 

 「じゃ、今から中を案内するわね」

 一通り、案内をしてもらった。ライブハウスってこんなに充実してるんだ。すごいな。

 

 「当日よろしくね!」

 「よろしくおねがいします!」

 ちょっとわくわくして来たな……

 

 「え、ライブに出るの?」 

 「そうなんだよ、憂。今日はその打ち合わせ」

 ライブのミーティングをすべく、平沢家にお邪魔した。以前送っていって家の前までは来たことあったけど、中に入るのは初めてだ。

 

 「すごい、お姉ちゃん!!」

 憂ちゃん、お姉ちゃん大好きなんだよね~シスコンってやつだろうか。

 

 「曲目は4曲。ホッチキスにふでぺん、カレーにふわふわでいいか」

 「そういえば、いつか聞こう聞こうって思ってて聞いてなかったことが」

 「何?」

 「作詞は大体澪ちゃんがしてるんでしょ。作曲は?」

 「だいたいわたしかな」

 ムギ先輩が作曲してるんだ~確かにりっちゃんや唯先輩は出来無さそうだし。

 

 「そうだ、憂、はいコレ」

 「何?」

 「憂と純ちゃんの分のライブのチケット、2人で見に来てね!」

 「ありがとう! でも、もったいなくて使えない」

 「使わないと入れないよ~」

 梓ちゃんの的確なツッコミが。

 

 「後は、和ちゃんとさわちゃんだね」

 「そうだな」

 「あ、憂、優子ちゃんもいるかな?」

 「高校に入って、喋る機会減ったけど……渡してみる!」

 優子ちゃん? って確か、秀吉の双子の姉? そうか、中学時代仲が良かったって聞いたことがある。

 

 「唯先輩、オレから5人渡したい人がいるから貰っても良いですか?」

 「どうぞどうぞ~そんなに見に来てくれるとは嬉しいね~」

 「学園祭も見に来てくれてましたよ!」

 「へ~」

 しばらく、平沢家でミーティングをした後に帰った。

 

 





 バカの仲間はバカ。
 それは、イメージ・先入観に過ぎないんだよ!!

 逆もまた然り。
 頭いい人と喋っているからと言って、頭いいとも限らない(笑)

 別に経験談じゃ、ありませんよ。

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#20 ライブハウス!


 人間関係が複雑になってきた気が……

 ほんの少しの出番ですが、一気に10人以上出てきますので。
 若葉学園生(1年生)が。

 では、どうぞ!!




 

 「ヒロ~」

 「お、竜也、久しぶり」

 次の日、従兄弟の竜也と学校内で久しぶりに再会した。同じ学校だけど、違うクラスなのでほとんど会わない。

 

 「学園祭のライブ見た! 楽器出来なかったヒロがあそこまで出来るとは」 

 「お前、学園祭約2ヶ月くらい前じゃないか?」 

 「仕方ねえだろ。オレだって忙しくて、学園祭以降話す機会が無かったんだから」

 「メールか電話すりゃいいじゃん」

 「お前のアドレス知らないぞ」

 そうだった。交換してないんだったな……

 

 「ったく、何をしたらお前がそんなに忙しくなるのか」

 「バイトだよバイト。オレはな、1人暮らしをしてんだ。あ、厳密に言うと2人暮らしか」

 「何でだ?」

 「家出したんだ。あんな家には居たくないって。親と喧嘩してな」

 贅沢な話だ。どんな喧嘩をしたかは知らないが、豪勢な家から飛び出すとか。

 

 「それで、オレが家出してしまったせいで、生まれたときからオレの世話をしてくれた爺やがクビになってしまったからさ……オレも責任感じるじゃん。だから一緒に住んでいるんだ」

 「ったく自由な男だ」

 「褒め言葉だな」

 「そうだ。お前に渡すものがあった」

 オレは胸ポケットから、大晦日ライブのチケットを取り出して竜也に渡した。

 

 「お前にオレたちのライブを見に来てもらいたくてな」 

 「そのチケットか?」

 「そうだ。お前の音楽センスは凄いからな……何か気づいたことがあったら言って欲しい」

 「是非とも行く」

 竜也はバカだ。どうしようもないバカなんだが、芸術才能には秀でている。絵が上手い、料理も上手い、運動神経もいい、そして極め付けが、音楽の才能がある。ドラム・ギター・ベース・キーボード全て出来る。小さい頃からしていたから腕も確かだ。

 

 「ヒロ~おはよう」

 後ろから話しかけられ振り向いてみると、そこにはアキ・雄二・秀吉・康太がいた。

 

 「お、お前らちょうどよかった」

 「何が?」

 「今度、大晦日にライブをするんだ。是非とも見に来て欲しい」

 4人にチケットを渡す。これで、ちょうど5人全員に渡した。

 

 「行く!」

 「暇だしな」 

 「ワシも大晦日は部活休みじゃ」

 「………(コクコク)」

 全員、簡単に了承してくれた。嬉しい。

 

 「あ、ヒロの従兄弟だ」

 「どうも。竜也だ」

 「そうそう。竜也も行くの?」

 「ああ、誘われたからな」

 あんまり接点が無いが、正直やつらは来年同じクラスになりそうだ。

 

 「お前ら、もうそろそろHR始まるぞ」

 「ほ~い」

 西村先生がやってきて、急いで席に着いた。

 大晦日が楽しみだ。

 

   ★

 

 ヒロからチケットを貰った後、オレ竜也はたまたま優子さん(この人だけちゃん付けするのは気が引ける)とすれ違った時に、同じチケットを持っていたので気になって聞いてみた。

 

 「そのチケット……?」

 「あ、ああこのチケットね。憂が“お姉ちゃん達ライブに出るから見に来て欲しい”って」

 「憂ちゃんが? 優子さんは行くの?」

 「え、ええ。もらったからにはね」

 憂ちゃんも優子さんも見に行くのかあ。テンションが上がってきた!

 

 「オレもそれ見に行くんだ!」

 「へ~そう」

 「楽しみだね」

 「わたしはそこまでバンドに興味はないけど、唯ちゃんたちが出るからね」

 ちょっとそっけない優子さんだったけど、当日みんなで一緒にライブを見る約束をして教室に入った。

 

   ★

 

 今日は、クリスマス・イブ~12月24日。

 オレには別に関係ないんだが、こういったイベントごとに盛り上がる方がいらっしゃるんです。

 

 「今日、クリスマスパーティーしようよ!」

 「いいな、唯!」

 唯先輩だ。

 

 「今年もウチは誰も居ないからウチでしよう!」

 「両親は?」

 「海外旅行中!」

 えらく仲が良い両親のようだった。

 

 「みんな来れるね。ヒロと梓ももちろん」

 「何、その嫌味が籠った言い方は」

 「クリスマスだよ。誰か一緒に出かける相手居るのかな?」

 「いませんよ!! りっちゃんだっていないでしょ!」

 むう……妙に劣等感をあおられるな。

 

 「何か律先輩に言われるのは悔しいです」

 「おう言うな梓~」

 「澪先輩なら仕方ありませんけど」

 「な、わたしだってそんな人はいないぞ!!」

 そんな顔を真っ赤にして怒らなくても良いじゃん。

 

 「あ、みなさんいらっしゃい」

 「憂ちゃん、今年もお世話になるよ」

 「どうぞ、ごゆっくり」

 去年もこの家でクリスマスパーティーをしたようだ。去年はプレゼント交換をしたみたいだったが、今年はそれを買う暇が無かったので、ただ鍋をみんなで食べるだけ。

 

 クリスマスもあっという間に過ぎ去って、いよいよ大晦日。

 とうとう、学外でのライブだ!!

 

 「こんにちは~」

 「よろしくお願いしま~す」

 コッチがいつもの調子で気軽にライブハウスに入ると、既にそこには他の出演バンドの人たちが。とても張り詰めた空気で、場違いなんじゃないかと思ってしまった。

 

 「こんにちは~」

 「よろしく~」

 見た目怖そうな人(ヴィジュアル系?)が気軽に話しかけてくれたため、ちょっとほっとした。

 

 「あ、りっちゃん! 澪ちゃんも久しぶり」

 「マキちゃん! みんな紹介するね。こちら今回ライブに誘ってくれたラブ・クライシスのマキちゃん」

 「よろしく」

 「こちらこそ、りっちゃんがお世話になっています!」

 唯先輩が珍しいと言っちゃ悪いけど珍しくちゃんとした言葉で。

 

 「学園祭のライブ見に行ったわよ」

 「ありがとう」

 「今度はわたしたちのライブ見に来てよ。単独ライブだから」

 「おおっ。すごい!」

 普通、他の高校の軽音部ってこんなこともしてるのかと思うと、オレたちは井の中の蛙だったと思い知らされる。

 

 「あと、これがわたしたちのCD。自分達で作ったんだけどね」

 「すご~い!!」

 「じゃ、また後でね~」

 「意気込みが違うな」

 駆けて去っていくマキちゃんと言う子を見ながらつぶやくりっちゃん。確かにそうだ。

 

 「ねえねえ、何かわたし達もロゴマーク考えない?」

 「いいねそれ!」

 「じゃあ、こんなのとか」

 唯先輩は何かを手に書いて見せてきた。

 

 「温泉か!」

 そう、温泉の地図記号まんまであった……

 

 「あ、それ下をティーカップにすればいいんじゃない?」

 「こう?」

 おおっ!すげえよくなった!

 みんなピックやらスティックやらに書いてもらう。

 

 「わたしもキーボードに」

 ムギ先輩は、キーボードを持参しているのでそれに書いてもらうみたいだ。オレはキーボードにこだわりがあんまりないため、ここに置いてあるもので演奏しようと思っていたから、キーボードに書いてもらうことは出来ない。

 

 「唯先輩、オレは今日は手に書いてください」

 その後は、何か対策を練ろう。みんな私物にロゴマーク書いてあるから。

 

 「すいませ~ん、コレ、バックステージパスです」

 「ど、どうも……」

 関係者ってことを分かるようにするためのシールか。

 周りの人のギターケースを見てみると、さまざまなシールが目に付く。歴戦の強者揃いだ。

 唯先輩はそれに習って、ギターケースにつけようとするが、りっちゃんからのツッコミが入る。

 

 「当日は、自分に貼らないと出入りできないから」

 「そうなんだ~」

 「そこに貼るか!?」

 ももに貼り付けたのであった。

 

 「無難な位置だね」

 「そりゃそうだ」

 左の二の腕にみんなつけた。

 

 「そうだ。セッティングシート書こうぜ!」

 「曲名、曲調はいいとして、照明のイメージとかだな」

 「聞いてくるよ」

 よりによって一番怖そうな人たちのところに唯先輩は聞きにいく。その繰り返しで何とかシートも埋まった。

 

 その後、リハーサルが始まって他のバンドのも見ることになった。

 

 「凄いエフェクターの数」

 「マイマイクだ」

 ライブを重ねた証といったところなのだろうか。

 

 「ねえねえ見て! お菓子も一杯あるよ。りっちゃんCDも!」

 唯先輩は全く緊張するそぶりも見せずに生き生きとしていた。

 

 「お茶にしようか~」

 「ええっ!?」

 ムギ先輩も唯先輩もある意味最強だ。

 

 「わ~良い香り」

 「一緒にどうぞ!」

 「じゃあ、お言葉に甘えて」

 出演者全員でお茶することになった。

 

 「いろんなコンテストに出ているんですね~」

 「絶対プロになりたいから」

 「ずっと音楽やって行きたいし」

 刺激になるな。こういったものは。今まで音楽を楽しんでやってきたんだけど……プロねえ。

 

 「放課後ティータイムさん、リハお願いします!」

 「あっ!」

 まったりしすぎた……

 

 「な、何からすれば?」

 「セッティングだろ!」

 「そ、そうね」

 「誰に言ってるんですか!」

 動揺しすぎて、みんながあたふたしている。

 

 「じゃあ、お願いします」

 「4曲目ふわふわ時間1コーラスいきます。ワン・ツー」

 前奏が始まって、演奏を始めるが ー 。

 唯先輩が歌うのを忘れて、動揺しているところに助けに行こうとしたみんながつまづいたりと、ぐだぐだだった。

 

 「落ち着いていこう」

 「もう1回やればいいからね~」

 他の出演者の人たちも励ましてくれた。

 これは、放課後ティータイムだけのライブじゃない。他の人に迷惑かけられない!

 

   ★

 

 「ここらへんだよね」

 「あの行列だな」

 「すごい人の多さ」

 僕吉井明久はヒロのライブを見に、雄二とかとライブハウスに来た。

 

 「お、来た来た」 

 「竜也、来てたのか」

 「ああ」

 先に来ていた、竜也と合流したんだが、周りに女子がいたので気になった。え~っと確か、平沢さんと鈴木さんは分かる。あ、あれは ー 、

 

 「秀吉!?」

 「何じゃ」

 「えっ?」

 後ろから秀吉の声が聞こえてきた。目の前にいるのは?

 

 「あれはワシの姉上じゃ。木下優子。前に言うておったじゃろ」

 「それにしてもそっくりすぎて見分けがつかない」

 「みんな言うのよね。すぐに分かるのに」

 いや、分からないです。顔が全く一緒だもん。

 

 「こんにちは、みんな若葉学園の生徒ね」

 「こ、こんにちは」

 「みんなも知ってると思うけど、生徒会長の真鍋和さん」

 ごめんなさい。知りませんでした。

 でも、何で生徒会長がこんなところに?

 

 「わたしは、唯……あのギターボーカルの子ね。その子の幼馴染だから」

 「そうなんですか」

 すごい。この人はエスパーなんだろうか。僕が考えていることが何で分かるんだ!

 

 「もう入って良いみたいね」

 僕たちは、9人で一緒にライブを見ることになった。

 

   ★

 

 「終わった~!!」

 「何か、あっという間だったな」

 本当にそうだ。あっという間に終わった。でもミスも少なく、初めてのライブハウスでのライブにしてはよかった。

 

 「お疲れ様」

 「あ、さわちゃん、待っててくれたんだ」

 オレたちはライブ終わっても、いろいろとしていて遅くなったのに……さわちゃん先生と憂ちゃん・純ちゃん・和さん、それに竜也も待っていてくれてた。

 

 「お姉ちゃんすごかったよ!! 後、優子ちゃんも喜んでた!」

 「みなさん、かっこよかったです!!」

 「ホント……みんなよかったわよ」

 少ない人数だけど、ライブを褒められるのは本当に嬉しい。

 そんなときに、ラブ・クライシスの人たちがライブハウスから出てきた。

 

 「誘ってくれてありがと~」

 「楽しかったよ~」

 「良いお年を~」

 「また誘うからね~!!」

 ちょっと遠いところでの会話だったけど、ちゃんと耳に聞こえた。

 

 「ヒロ」

 「竜也、見に来てくれてありがとうな」

 「ああ。今回のライブでよくわかったよ」

 「何が?」

 「内緒だ」

 ?何かは教えて欲しいが、全然教えてくれそうに無かったのでそのままスルーした。オレは、携帯がなったので見てみると、メールが4件も届いていた。明久たちからだ。ちゃんと見に来てくれてたんだ。よかった……

 

 「じゃあ、今日はこのままウチに」

 「おおー!」

 新年を平沢家で過ごすことになった。ちゃんと親にメールしたら許可をもらえたので良かった。純ちゃんと和さんは、家に帰らなければならなかったらしく、他のメンバーで平沢家に向かうことになった。

 

 「オレ、関係ないけど行っても良いのかな?」

 「お前の音楽についてのことをみんなに語って欲しいと思う」

 「聞きたいな。ヒロ、そんなに詳しいのか?」

 「それは、平沢家に行った後で」

 ということで、さわちゃん先生も含めて、何人だ? 年を越すことになった。

 

 「 ー だと思うんですよ」

 「す、すごいな……」

 平沢家についた後、くつろぎながら、音楽について竜也に語ってもらうことにした。今日のライブの話とか。 

 

 「何で、軽音部に入らないんだ?」

 「バイトしてますから、ちょっと忙しくて」

 「そうか~もったいないな」

 「みなさ~ん、年越しそばが出来ました~」

 憂ちゃんがさっきから見当たらないと思っていたら、そばを作ってくれていたらしい。しかも全員分。準備がいいなあ。こんなに来るとは思っていなかったはずなのに。

 

 「ゴメンね。大勢で押しかけて」

 「いえ。お姉ちゃんのあの顔が見られるだけで幸せですから」

 唯先輩が幸せそうにそばを食べていた。

 

 その後、ババ抜き(案の定、唯先輩が弱かった)やらして楽しんでいる途中、

 

 「さあ、残すところあと1分となりました」

 TVからこんな声が聞こえてきた。

 

 「澪、今年はどんな年だった?」

 「たくさん楽しいことがあったよ。みんなのおかげで、ありがとう」 

 「えっ……よせやい気持ち悪い」

 「気持ち悪い?」

 この2人は見ていていいなあ。

 

 「おおいみんなもうすぐ年明けだぞ!」

 「て、寝てるし」

 

  ゴーンゴーン……

 

 「あ、年明けた」

 みんなババ抜きしながら疲れ果てて、コタツの中で寝ていたのであった。

 

 「あけましておめでとうございます」

 TVから聞こえてくる声がちょっぴりむなしい。

 

 「肝心なときに寝てどうするんだよ!!」

 「……寝ようか」

 「そうだね」

 オレたち3人も、みんなに続いて寝ることにした。もともとみんなで年明けを過ごそうと思っていたのに……

 

 

 『みんな、起きて、起きて』

 夢の奥の方で、こんな声が聞こえてきた。これは夢じゃなく現実らしい。

 

 「今何時?」

 「初日の出見に行こう!」

 唯先輩が一人だけ元気にこう言っていた。他の放課後ティータイムのメンバー5人は眠そうに聞いていた。

 

 「眠いから良いや」

 「もう、こんなときに寝ててどうするの!」

 「いや、お前が言うか」

 12:00を寝ていた人物が ー ということだろう。結局、放課後ティータイムのメンバーで初日の出を見に行くことになった。

 

 「さわちゃん先生置いてきたけどいいかな」

 「いいだろう。憂ちゃんいるし」

 「竜也もいっか」

 唯先輩の案内で、近場の良いスポットにやってきた。

 

 「うわ~綺麗!」

 「でしょ、ここ穴場なんだ」

 「では、あけましておめでとうございます」

 『おめでとうございます』

 初日の出を見ながらの正月は初めてだ。

 

 「ところで、あずにゃんいつまでそれ着けているの?」

 「えっ?」

 梓ちゃんのほうを見てみると、ネコ耳が装着されていた。

 

 「な、何で誰も言ってくれなかったんですか~!!」

 「ゴメンゴメン、余りにも似合ってて」

 「ヒロ君も何で言ってくれないの!!」

 「違和感無かったから、唯先輩に言われるまで気づかなかった」

 「もう~!!」

 今年も楽しい1年になりそうだ。

 

 





 新年明けちゃいました。

 作者、軽音部に入ってるって以前言いましたが、未だにライブハウスでの経験は0。
 
 だから、詳しく内部の様子を描けませんでした……

 一回は演奏してみたいですね。

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第2章 2年生編
#21 新学年!



 ようやく、2年生!

 試召戦争が出来る学年に上がりました。

 これからが本番という感じなんですかね?

 主人公他が、どのクラスに在籍しているのか予想しながら読み進めてください!

 では、どうぞ!




 

 この七島弘志が、若葉学園に入学してからもう1年も経過した。高校生活はあっという間に過ぎていくとよく言われるが、本当に1年が短かった。1年前のオレは軽音部に入るなんて思ってもいなかっただろう。

 4月。始業式の日。2年生に進級したんだが、クラス分けがまだ発表されていないため楽しみだ。この若葉学園のクラス分けの方法は、「振り分け試験」なるものを受けて、そこの上から50人ずつのクラスで作っていく。噂に聞くと、いかなる理由でも当日休み等した場合は問答無用で0点扱いとなるらしいから、強制Fクラスだ。

 

 本来、今日はアキと共に登校する予定だったのだが、全く電話に出ないために1人で先に学校に来たのだ。学校の近くまで来ると、校門前に西村先生が立っているのが見えた。昨年のオレたちのクラスの担任だ。門前指導とかいうやつであろうか。どの先生が立つよりもこの先生が立つことによって効果が現れるからかな。

 

 「七島、おはよう」

 「おはようございます」

 「吉井はどうした?」

 「寝坊です」

 オレがいつもアキと登校しているのを、元担任のこの方は知っていたらしい。

 

 「まったく……ああそうそう。ほら受け取れ」

 西村先生から、封筒を渡された。

 

 「中身は?」

 「クラスが書いてある」

 「張り出したりしないんですか?」

 「学園長のこだわりだそうだ」

 ふ~ん……混雑しない分よさそうだが、西村先生1人に任せるのもどうかと思うけど……

 

 「七島、それはお前の本気か?」

 「え、ええ。まあそうですけど」

 「そうか」

 何だそれは? お前ならもっと上を狙えたんじゃないかとかそういう意味!?

 

 恐る恐る封筒を開いて。中に入っている紙を取り出す。

 そこにはでかでかとした文字で、

 

 

 

 

 

  A

 

 

 

 

 

 と書いてあった。

 

 「よっしゃAクラス」

 「去年のお前は、本気を出していなかったな?」

 「流石にあんまり上のほうにいると、オレがバカじゃないことがバレますからね」

 「何を企んでるのかは知らんが……出来れば吉井たちのバカ騒ぎを止めるのに一役買って欲しいものだ」

 先生達がてこずっているのをどうやったらオレの力で止めれるのか教えて欲しいが……ネコの手も借りたいような状況まで追い込まれているというか、アキたちがやらかしているのだろう。

 

 「オレが対処できる限り」

 「生徒がたくさん来た。もう教室に向かえ」

 「どうも」

 後ろを見ると、確かにずらずらと制服を着た連中が。ちょうど通学ラッシュ時かなあ?

 その人ごみにまぎれないようにさっさと2-Aの教室へ向かった。

 

 「何だココは!?」

 2-Aの教室に入ると同時に思わず声に出てしまった。どっかのホテルとか何かそんな感じのところかと思った。まず、教室と言って良いのかというくらいの広さ、黒板じゃなくディスプレイ、机にはノートパソコン、いすはリクライニングシート、冷蔵庫など贅沢すぎる設備だ。竜也の家みたいだ……こんな設備で勉強するんだな。

 

 「あ、ヒロ君だ!」

 「ホントだ。お~い」

 「憂ちゃん、梓ちゃん!」

 同じ教室内なのに、えらく遠く見える2人のもとへ駆け寄る。

 

 「2人ともAクラスなんだね」

 「そう」

 「ヒロ君もAクラスなんだ~びっくり」

 「唯先輩から聞いてなかったんだ。オレの成績のこと」

 「ちょっと半信半疑だったかな」

 去年のクラスでも成績優秀者だった2人はやはりAクラスに来ていた。話せる子がいるって頼りになる。オレがつるんでいた悪友共はFクラスだろうから。

 

 「優子ちゃん」

 「どうしたの憂?」

 「ヒロ君、紹介するね。こちら木下優子(きのしたゆうこ)ちゃん。大晦日のLIVE一緒に見てたんだよ」

 「はじめまして。七島弘志です。LIVE見に来てくれてありがとうございます」

 「唯ちゃん憂ちゃんの頼みだからね」

 こうやって近くで見て改めて思う。秀吉に瓜二つ。そっくりのレベルを通り越しているな。竜也が間違えた理由も分かるよ。

 

 「でも何故あなたがAクラスへ? 秀吉の話にも聞いていたけどあなたFクラスじゃないわけ?」

 「それは心外だ。勝手に秀吉たちが自分達と学力一緒だと思い込んでいるだけであって」

 「へぇ~秀吉たちとは違ってちょっとは出来るみたいね」

 「人を見た目や噂で判断するなということじゃないか」

 「そういうことかしらね」

 

 ちょびっと嫌味が籠っていたために、こちらも悪意を少しだけこめて言葉を返した。まあ、Aクラスに行くような人はプライドが高い連中ばっかりだから分からないことはないけど…勉強が出来るからどうのこうのじゃないということは、この学園のシステム「試召戦争」に現れている。そりゃ点数高い方が有利だけど、指揮官の差、操作技術の差によってどれだけでも覆せるから。そういうのを理解できる人はAクラスには少ないだろうな。勉強できないくせに……とか。木下さんはそこそこ理解しているようだった。

 

 「HRを始めます。みなさん席についてください」

 いつの間にか、先生がやってきていたために、オレは指示通り席に着いた。

 

 「みなさん席に着きましたね。今年1年間2-Aの担任を務める高橋洋子と言います。よろしくお願いします」

 あ、入学式のときにこの学園の概要を説明した先生だ。全教科教えれたからびっくりしたんだよね。

 

 「早速、自己紹介をしていってもらいたいと思います。まずは、そちらから」

 昨年と違って、出席番号順に並んでおらず、好きな席に座ってよかった。そのため、仲良い人が自然と周りに集まることになる。オレは窓際の一番後ろの席に陣取った。先生は、廊下側の一番前の人を指したので、オレの自己紹介は一番最後に行われることになる。

 

 去年同様、面白そうな人は全く見当たらなかった。というか、Aクラスに笑いのスキルを持っている人は来ないかも。淡々と48人分の紹介が終わった。危うくうとうとするところだった。

 

 「次の方 ー 」

 どうもオレらしい。1人紹介やってねえんじゃないかという疑問を抱きながら、自己紹介をする。

 

 「え~七島弘志です。よろしく」

 普通どおり、立って自己紹介をし座ろうとしたときに、拍手の替わりにこんな声が聞こえてきた。

 

 「七島? あいつバカじゃないのか?」

 「観察処分者の吉井と仲良いんだろ?」

 「他につるんでいるのって坂本とかよね?」

 「カンニングでもしてAクラス来たんじゃないかしら」

 こういったオレに対する非難の声が聞こえてきたので、終わらせようと思った自己紹介をまだ続けた。

 

 「Aクラスなのに噂に左右されて、そんな考えしか持てねえんだな。大体カンニングが出来ないことくらい自分達でも分かってるだろうに。吉井とか坂本とかとつるんでいたらそいつも同じくバカなのか? 勉強ばっかりしてないで、そういうのを学んだらどうなんだ? 学校っちゃそもそもそういうのを学ぶ場だぜ。勉強したけりゃ、家でするなり塾で勉強するなりすればいいじゃねえか。先に言っておくが、そんなんじゃ確実にAクラスの教室を明け渡すことになると思っておくと良い。予言しておく」

 

 オレは嫌味をたっぷりとこめて、Aクラスの連中に返してやった。これで理解出来ないやつは勉強バカだ。

 

 「俺たちはAクラスだぞ?」

 「他のクラスに負けるわけ無い!」

 「そうよね」

 あきれるくらい、理屈しか通用しない。融通が利かないとはこのことだろうか。

 

 「Aクラスだからなんだ? それで満足しているのか。それならばあんたたちが希望している進路に行けるわけないだろう。人を見下して優越感に浸るとかバカじゃないのか? そんなことだから、この世界から『差別』というものがなくならないんだろう? 小学生時代から学んだよな『道徳』の授業で。知識を詰め込みすぎてそんな基礎すら忘れているんだったら話にならんな。上には上が居るという意識を持ち続けないと成長しないのは自分達が一番理解しているはずだ。学年主席が誰かは知らんが、いつまで経っても追いつけるわけ無いぞ」

 

 オレがそれだけ言うと、教室は静まり返った。先生が視線で座るように促してきたためその通りにした。

 

 「では、最後は学年主席の霧島さんからです」

 「………霧島翔子(きりしましょうこ)。よろしくお願いします」

 この列の一番前の女子が立って名を告げた。ほう、学年主席は霧島翔子と言うのか。見るからに頭よさそうだなあ。日本人形みたいだ。

 

 「Aクラスの皆さん、これから1年間霧島さんを代表として協力し合い、研鑽を重ねていってください。これから始まるであろう『戦争』に負けないようにしてください」

 

 楽しみだ試召戦争。そんなに早い段階ではないだろうが、確実にAクラスは狙うだろうなあ。こんなに設備が良いんだもん。雄二がどこのクラスに在籍しているかは知らんが、やつはほぼ100%狙う。調べをつけておかないと、簡単に下克上されちまう。雄二とアキと康太と秀吉は注意しておかないとな。何だかんだ言ってオレがつるんでいた連中は、一芸に秀でているから敵に回したら怖い。雄二の臨機応変さ、アキの観察処分者の利点による操作技術の高さ、康太の情報収集能力の高さ、秀吉の演技力。どれもこれも試召戦争に必要なものばかりだ。

 

 「七島君」

 誰かに話しかけられるまで、HRが終わったことに気づかなかった。

 

 「え~っと久保だっけ?」

 「いかにも、僕は久保利光(くぼとしみつ)。肩書きは学年次席だ」

 霧島さんの次に頭がいいやつということだな。まあ、Theインテリって感じ。

 

 「その学年次席の久保利光がオレに用があるのか?」

 「まあね。先ほどの話だけど」

 「ほう」

 「なかなか面白い。君はこのAクラスの中でも異質の存在のようだ」

 褒め言葉として受け取っておこう。

 

 「以後お見知りおきを」

 「よろしく」

 学年次席の久保利光か。

 

 「やっほ~七島君」

 誰だっけ……黄緑色の髪をしたボーイッシュな女の子がオレの前に現れた。何か人気者?

 

 「工藤愛子(くどうあいこ)っていうんだけど、さっきの話すごくよかったよ!」

 「そうか?」

 「刺激受けた! やっぱり聞いたとおりの人だった」

 「聞いたとおり?」

 随分と肯定的な捉え方していたけど。誰から聞いたんだろう。

 

 「愛子、話せた?」

 「あ、優子! うん。仲良くなれそう!」

 「七島君、愛子3学期に転校してきたばっかりだから、そこ気をつけてね」

 「分かった」

 何故特別オレに言うのかは知らないが、憂ちゃんと仲良い木下さんと仲良い人なら別に良いか。何かややこしいな。

 

 「ヒロ君、さっきはびっくりしたよ」

 「見ていてこっちもハラハラした」

 「あ、憂ちゃん梓ちゃん。本音をぶちまけておかないと、試召戦争の時に足かせになると思ったからね」

 「確かにヒロ君が言ったことも正しかったからね」

 この2人と仲が良くて本当に良かった。いろんな意味で。

 

 





 何の異変も無く、普通のクラス分けとなりました。

 主人公はAクラス在籍。
 
 これは最初の段階から考えていたことです。以前書いていた小説では、オリ主がFクラスに所属していたため、今度はAクラス側から書いてみようと思いました。

 Aクラスに在籍しているのに、アンチAクラスになりそうで怖い(笑)

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#22 速攻!


 今回、題名考えるのに苦労しました。

 いろいろな話混ぜてしまったので。

 Fクラス側の動向は基本、今のところ原作どおりに進んでいます。

 では、どうぞ!!




 

 

 「 ー ということですから、午後から自習です」

 4時間目が終わるときに(何故か始業式の日から7時間授業)高橋先生からの伝言という形で伝えられた。4時間目の後は昼休み。やっと昼ご飯食べれる。流石に授業は無かったけど、今まで春休みだったから春休みボケと言うのか、ちょっとつらい。

 

 しかしまあ、Fクラスが始業式早々Dクラスに宣戦布告し、今日の午後から試召戦争するとはな。

 

 「こんなに早く試召戦争があるとは思わなかったね」

 「早速自習だよ」

 「試召戦争こそが、この学園の持ち味だからね。文句言っても仕方ないよ」

 近くに居る憂ちゃんと梓ちゃんが話しかけてくる。もちろん弁当を持って。

 

 「一緒にご飯食べよう!」

 「あ、工藤さん、それに木下さん」

 「ゴメンね七島君。愛子気に入っちゃってるみたいでとても話したいらしいのよ」

 「別に良いよ」

 「僕も一緒させてもらうよ」

 いつの間にかオレの周りにはグループが出来上がっていた。憂ちゃんに梓ちゃんはいつものことで、木下さん・工藤さん・久保君・それにいつの間にか霧島さんも居た。

 

 「ねえねえ、FクラスがDクラスに宣戦布告した件どう思う?」

 工藤さんがオレに問うて来た。

 

 「逸る気持ちを抑えられなかったとかじゃないの? オレだって早く召喚獣扱ってみたいし」

 「試召戦争のせいで授業が減るのは勘弁して欲しいけど」

 「それは違うよ久保君。それがあること前提でこの学園が成り立っているんだから」

 「そうかもしれないね」

 こちらから試召戦争を仕掛けることは無いだろうから、誰か仕掛けてきて欲しいものだ。

 

 「どっちが勝つと思う?」

 「僕は普通にDクラスが勝つと思うよ」

 「アタシも久保君に賛成するわ」

 「………七島は?」

 どうやら4人はDクラスが勝つというような予想を立てているらしい。

 

 「Fクラスに誰がいるかとかで変わってくるんじゃない?」

 「でも、始業式のその日だったら、クラスの差がそのまま点数の差だから厳しくない?」

 「憂の言うとおりだと思うよ、ヒロ君」

 「憂ちゃん、梓ちゃん……確かにそうだね」

 そうだけど、何かが引っかかる。この時期に勝負を仕掛けるからこその勝算があるとしか思えない。わざわざ負けに行って教室の設備を悪くするなんてこと普通はしたくないはずだ。

 

 「ちょっと、出てくる。すぐに戻ってくるよ」

 オレはそう言い残して、Fクラスへと向かった。オレの姿を見ても別に偵察に来たとか思われないだろう。

 

 「あ、ヒロだ!」

 「何っ!?」

 「お、アキに雄二じゃないか」

 Fクラスに向かう途中の廊下でばったり会った。2人の後ろにはぞろぞろと人が居た。

 

 「何だお前ら、やっぱりFクラスなのか?」

 「そうなんだよ~雄二が代表なんだ」

 「そういうお前は何クラスだ?」

 「教えるか。教える時点でコチラが不利になる」

 雄二がFクラスの代表と分かった今、出来るだけ情報を与えたくない。

 

 「俺たちは教えたのにか」

 「アキが勝手に口を滑らせただけだ。秀吉に康太、それに島田がいるのか」

 「どのクラスにいようが関係ねえ。引きずり下ろしてやるさ」

 「望むところだ」

 試召戦争を早くするためには、雄二たちの活躍を応援すれば良いんだな。

 

 「あ、ヒロ」

 「竜也、予想通りお前もFクラスか」

 「当然! ヒロAクラスどう?」

 『Aクラス!?』

 どうしてこいつがオレの所属クラスを知っている。それとも適当に言ってるだけなのか。

 

 「竜也、オレがAクラスって何処で聞いた?」

 「だって頭良いじゃん」

 「それ根拠になってない」

 『ヒロって頭良いの!?』

 だんだんと話が面倒になったので、説明を竜也に押し付けてオレはAクラスに戻った。

 

 「ただいま~」

 「おかえり」

 「何処行ってたの?」

 「先ほどの質問に答えて無かったね。それの答えの裏づけに言ってたんだよ」

 みんな疑問符を浮かべているようだったが、オレは続けた。

 

 「今回の試召戦争は、ほぼ100%Fクラスが勝つ」

 『えっ!?』

 「さっき、Fクラスの主要メンツを見てきた。あのメンツがいるならDクラスなんてどうってことない」

 「例えば?」

 みんな弁当を食べる手を止めてオレの顔を見ていた。何だか照れるな……

 

 「Fクラス代表坂本雄二。オレの1年のときの友人だ」

 「………雄二が代表」

 「霧島さん? 知ってるの?」

 「………幼馴染。というか、小学校の頃七島とわたし一緒のクラスだった」

 え………? 一瞬不穏な空気が流れた。そうだったっけ? オレそういうの忘れっぽいからなあ。霧島霧島霧島。確かに居たような気がする。大人しめな子だろう。

 

 「………雄二が代表ならFクラス侮れない」

 「そう。やつは未知数だ」

 「他は?」

 「観察処分者(バカの代名詞)吉井明久、寡黙なる性識者(ムッツリーニ)土屋康太、演劇のホープ木下秀吉」

 まずはオレの悪友共を並べて言った。雄二のことだ。やつらを主戦力にすることは間違いなかろう。みんなこいつらが何で名前を挙げられているのか分からない感じだった。説明しても多分理解不能。百聞は一見にしかず。その強さは、目の当たりにしないと分からない。

 

 「後は、姫路さんがいたな。後ろにこっそりと隠れていたようだったが」

 「姫路さん、Aクラスに見当たらないと思ったら」

 「でも何故Fクラスに!?」

 「体弱そうだし、そういうのが関係しているんじゃないかね」

 こんなものか。島田は……数学だけ気をつけておけばいいけどAクラスには到底及ばない。

 

 「Fクラス、Dクラスに勝利」

 この報を聞いたのは、放課後部室に向かう前に教室で聞いた。昼休み中ずっと試召戦争について話していたが、初日からここまで本格化するとは思わなかった。流石は読めない男が代表しているだけある。

 

 5~7時間目の自習の時間のときに、

 

  『船越先生、2-F吉井明久君が体育館裏で教師と生徒との垣根を越えた男と女の話がしたいそうです』

 

 という放送が流れたときには本当にビックリしたけど、Fクラスがやはり勝ちあがってきたか。果たして、教室交換はするのだろうか。するのならば、雄二もたいしたヤツじゃない。D教室を手に入れるためにやったまでと思う。が、交換しないのならば確実にもっと上を狙ってくる。CかBだろう。雄二といえども流石にAを一気に狙ったりはしないはずだ。まあ念のために準備はしておくけど。

 

 さて部室に向かうか。今年は珍しく入学式のほうが先にあったため、今日から新入生歓迎のビラを配ったりしないといけない。去年みたい着ぐるみだけはやめてもらいたい。後輩要らないんですかって思ってしまう。

 教室には既に梓ちゃんの姿は見えなかった。先に行った様だ。梓ちゃんは試召戦争にそこまで興味なかったからすぐに部室に行ったが、オレは結果が気になって教室で待っていた。そのため、30分くらい遅くなった。

 

 「遅くなりました~」

 ってオレが部室に入ったときには誰も居なかった。5人分のバックだけ置いてあって、みんないない。オレが遅かったから先に行ったのだろう。5人を探しに外へ出ようとした。が、途中でさわちゃん先生に捕まった。

 

 「いたいたヒロ君」

 「どうしたんですか、不敵な笑みを浮かべて」

 「5人が待ってるわよ」

 「部室にいませんでしたよ」

 「会うためには準備が必要ってことよ」

 仕方なく、再び部室にさわちゃん先生と共に戻る。

 

 「じゃ~ん、コレ来て新入生の勧誘して!」

 さわちゃん先生が持ってきたのは着ぐるみだった。

 

 「先生、去年の着ぐるみも先生のアイデアですか?」 

 「そうよ」

 「やっぱりか!! ダメですよこんなの!」

 「どうして?」

 笑いを取ろうとしていたわけじゃなくて、本当に分からないみたいだ。

 

 「後輩怖がって入ってきませんって」

 「あなたたちが入ってきたじゃない」

 「オレたちは例外ですって。何でりっちゃんたちは去年失敗したと思っているはずなのに今年も……」

 急いで止めに行かないと、もはや手遅れかもしれないけど。オレがその現場に現れたときには既にほとんどの新1年生が帰った後だった。

 

 「遅かったねヒロ君」

 「どうしたのそんなに息切らして」

 全速力で走ってきたから息が切れている。息を整えてこう言った。

 

 「まず、部室に戻りましょう。時間的に1年生帰ってます」

 「そうだな。戻ろうぜ!」

 中にいる人が誰かわかってもちょっと怖いな……

 部室に戻って着替えて、ようやくティータイムとなった。今日ばかりはティータイムがあってよかったと思う。

 

 「何で今年も着ぐるみしてるんですか…」

 「さわちゃんが今年もしたほうがいいって」

 「失敗だった手ごたえはあったでしょう」

 「他に手が思いつかなかったんだよ!」

 梓ちゃんも必死に隣でゴメンって言ってるけど。代替案が出なくて着ぐるみか……誰か出して欲しかった。

 

 「明日の新歓ライブで取り返すしかないですね」

 「そうだね」

 「このまま新入部員入らなかったら、あずにゃんとヒロ君2人きりだね」

 「さみしいな」

 「そして、そのまま ー 」

 

 「りっちゃんそこまで。妄想が過ぎる」

 「わたし何も言ってないけどなあヒロ。お前こそ何か考えてたんじゃないか?」

 「か、考えてないよ!! ねえ梓ちゃん」

 「うん、そだね」

 後輩が入ってこない現実を感じているらしかった。ちょっと空気が滞ったので話を変えた。

 

 「そういえば、先輩方はクラス分けどうなったんですか?」

 「全員、Aクラスだぜ!」

 『嘘っ!! 唯先輩は!?』

 「2人とも失礼だなあ~わたしだってやれば出来るんだよ」

 お互いに信じられなくて、お互いのほっぺたをつねってみた。夢ではないらしい。

 

 「りっちゃんも!?」

 「余裕だね」

 「2人とも虚勢を張らなくて良いぞ。春休み中教えてくれ~って言ってたじゃないか」

 「まあいいじゃないか」

 しかし、4人ともAクラスか。おそらく生徒会長和さんもAクラスだろうから、仲いい軍団で固まったな。

 

 「そっちはどうなの?」

 「2人ともAクラスですよ?」

 『本当に頭いいんだ』

 「どこまで信用してないんですか!!」

 オレとしては、2人がAクラスに入ったほうが驚きだよ。

 

 「憂も同じクラスでした」

 「流石憂~」

 「そうだ、今年の2年生、今日から試召戦争あったみたいだな」

 「ええ。FvsDです」

 りっちゃんたちの世代はあんまり試召戦争無かったらしいから、それに比べてオレたちは……

 

 「へ~Fクラスの代表も無謀なことするな~」

 「Fクラス勝ちましたけど」

 『えっ!?』

 「凄いねヒロ君、予想通りじゃない」

 談笑しながら、ティータイムを楽しむ。ふと考えてみると、部活もしながらいつ来るか分からない雄二Fクラスに対する準備も怠ってはならないのか。大変だな。

 

 「それより、明日の新歓ライブの曲順決めようぜ!」

 「これでいいんじゃない?」

 

  1.わたしの恋はホッチキス

  2.ふでペン~ボールペン~

  3.いちごパフェが止まらない

  4.ふわふわ時間

 

 

 「誰も来ないね~」

 次の日、流石に試召戦争は行われず、普通の授業だった。放課後に新入生歓迎会があった。ライブをしたんだが……だ~れも来ない。

 ちょっとトイレに立った。ドアを開けると、梓ちゃんが立っていた。

 

 「どうしたの?」

 「こ、これ……」

 「うっ……」

 軽音部のドアの前に、気持ち悪いかえるのぬいぐるみがあって、軽音部と書いてあった。

 

 『唯先輩、これ急いで片付けて!!』

 オレと梓ちゃんはすぐさま犯人を名指しで呼びつけた。こんなのがあったら、入りたくても入れないよ。

 

 「え~可愛いのに~」

 『いいから片付けてください!』

 「2人とも仲いいね」

 『そんなものはどうでもいいですから!!』

 その日は、新入部員が来るか来るかと待ちわびながらも来なかった。

 

 

 次の日の昼休み、純ちゃんがAクラスにやってきた。

 

 「あ、純ちゃん!」

 「憂~梓~会いたかった~」

 「純ちゃんは何処のクラスなの?」

 「Dクラス。まさか初日から試召戦争あるとは思って無かったよ……」

 これは出来るだけ聞いとくべきだろう。

 

 「どうだった?」

 「わたしは何にもしないまま終わっちゃったんだ」

 何だそりゃ……

 

 「でもビックリなんだ~FクラスがDクラスと教室入れ替えなくていいって」

 雄二やはりお前は狙いは上か。

 「交換条件を突きつけたんだな」

 「そうみたいだけど、わたしは知らない。代表だけしか知らない」

 Dクラスの代表は平賀源二なるものらしい。

 

 「それより梓~クラスに梓にそっくりな声を持っている人が居たんだよ~」

 「それって……」

 「梓ちゃん心当たりあるんだ」

 「あの子だな」

 オレと梓ちゃんの脳裏に1人の女子生徒の顔が出てきた。

 

 「ラ・ペディスの店員をしてるんだよ」

 「そうなんだ~」

 「そういえば、軽音部新入部員どうだったの?」

 「…………」

 言葉が出ない。仕方ない……

 

 「軽音部って人気ないのかな?」

 「そんなこと無いと思うけどな」

 「新歓ライブかっこよかったよ」

 「ホント?」

 それならばそれに見合う新入部員が入ってきてもいいと思う。

 

 「多分軽音部って6人が結束して見えて、外から入りにくいんじゃないかな」

 

 『えっ?』

 純ちゃんがものすごく嬉しいことを言ってくれた。息がぴったりだということか。嬉しいなあ。そのために、新入部員が入らないって言うのも何か複雑な気持ちだけど。

 

 「みんな仲良くて楽しそうだもんね」

 「それか、軽音部の怪しいにおいを嗅ぎ取ってるか」

 「純!?」

 「冗談冗談」

 否定できない気がする。初日から着ぐるみきてビラ配りするから。

 

 

 昼休みも終わり、5時間目の準備をしようとしたところで、こんな報せが入った。

 

 「FクラスがBクラスに試召戦争を挑んだ」

 

 雄二、焦ってるのか? それともまだ勝算があると。お手並み拝見だ。

 

 今日中にFvsBの対戦は終わらなかったみたいで、明日に持越しされることになったらしい。オレは梓ちゃんと共に軽音部に向かう。ドアを開けようとしたときに、こんな声が聞こえた。

 

 『わたし、このままでいいと思う。こうやってみんなでお茶して、練習して、演奏して、ずっと6人で』

 

 唯先輩の声だった。オレと梓ちゃんは2人で顔を見合って、一緒に部室に入った。

 

 「ご、ゴメンゴメン今すぐビラ配りに行くから」

 『ムギ先輩、オレ(わたし)、ミルクティーください』

 「あずにゃん、ヒロ君?」

 『オレ(わたし)、今年はこの6人でやりたいです』

 改めて、軽音部の結束の強さを確かめた瞬間だった。 

 

 

 





 原作1巻Bクラス戦くらいのところと、けいおん!!1話の内容をブレンドし、オリジナルを加えた感じですかね。

 純がDクラス!
 意外すぎる。
 最初の設定はEだったんですけどね。
 
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#23 試召戦争!


 初めての試召戦争のシーン。

 原作においてFクラスがBクラスと対戦しているときの、Aクラスです。

 では、どうぞ!




 

 

 「 ー だから、覚悟しておきなさいAクラス。そして木下優子!」

 次の日、Aクラス内に突然の使者が。Cクラス代表小山が直々にやってきて、さんざん木下さんの悪口を述べた挙句、Aクラスに宣戦布告をしてきたのだ。

 

 「優子、何かやった?」

 「全く心当たりが無いわ……」

 となると、どこかの策略にはまったということか。どこかってのは自ずと分かって来るんだが、何のためにこんなことを。

 

 「………みんな聞いて。早速試召戦争が始まる。わたしたちは負けることは許されない。油断は禁物」

 「よくわかっているよ」

 Cクラスとの試召戦争は午後からということになった。

 

 「………作戦を立てる。全員を3部隊に分ける。わたしが率いる本陣、後2人の部隊長は久保と優子」

 「分かったわ代表」

 「僕かい? 僕は向いていないと思うのだが」

 「………初めは素直に点数高い順で指揮官を決めておかないと不満が出る」

 「そうかい? 分かった……全力を尽くすよ」

 オレは確かこのクラスでも下のほうだったからそういうのは全く関係ないね。

 

 「………作戦は単純。押し切るのみ。まずは戦慣れをしてもらわないと」

 「了解!!」

 下手に作戦を立てても、その思い通りに行かなかったら意味が無いからか。

 

 「ヒロ君、何処の部隊?」

 「オレは木下さんの部隊だったよ」

 「一緒だ~」

 「わたしもだよ」

 どうやら、憂ちゃんと梓ちゃんも同じ部隊に所属しているようだ。流石に数人は戦死者が出るだろうが、この2人は補習室には行かせたくないものだ。もちろんオレだって行きたくないが。

 

 作戦会議の後、トイレ休憩が取られた。オレはそれを利用して教室を出る。トイレの方に歩いていってると、

 

 「Bクラス、小林が ー 」

 「同じく、伊藤が ー 」

 「こちら、森山が、Fクラス七島に試召戦争を申し込みます」

 『試獣召喚(サモン)!』

 

 突然、3人の男子生徒に囲まれ、試召戦争を申し込まれた。あれ? 開戦は午後からじゃ ー じゃなくて、やつらBクラスって言ったぞ。オレをFクラスと勘違いしているみたいだ。えっと試召戦争のルールとして、確か他のクラスのやつは干渉しちゃいけないはずだ。もししたら、すぐさま補習室行き。ということは……

 

 「補習!!」

 西村先生がものすごい勢いでやってきて、3人を担ぎ上げた。

 

 「何故!?」

 「負けてないぞ!」

 「西村先生!!」 

 「お前ら、勘違いするな。七島はFクラスの人間じゃない」

 『何ぃっ!?』

 さよなら~図らずもFクラスの連中の手伝いをしてしまった感が否めないな。そうかそうか。オレは未だにFクラスと思われているのか。これは今回の試召戦争で使えるぞ。

 

 

 午後になり、早速CクラスvsAクラスの戦いが始まった。

 霧島代表は万全を期しているみたいで、クラスの半分を本陣においていた。残りの半分で、2部隊に分けているみたいだ。周りのメンツ見てみると、Aクラスの中でも下から数えた方が早い連中ばっかりだ。どれだけ、霧島代表が安全に策をとっているか分かる。初めての試召戦争だから仕方あるまい。戦場は廊下である。

 

 Aクラスの下のほうってのは、Bクラスとほとんどかわらないくらいの能力である。しかも教科によっては、Cクラスレベルの人もいるとか。数で押され、そういった教科のバランスも悪く、押され気味で試召戦争は進んでいった。未だにオレと憂ちゃんと梓ちゃんは先陣の中でも後方に居たが、人が少なくなってきた。

 

 「Cクラスなんかに負けてられないわよ!」

 「応援が来るまで耐えるんだ!」

 木下さんと久保の声が聞こえてきたものの、

 

 「Aクラス許すまじ!」

 「木下は葬る」

 といったCクラスの勢いに圧倒されている。完全に劣勢といったところだ。この様子を聞いて、ほんの少しだけ本陣から増員するものの、大勢は変わらない。オレは1つ考えていた案を木下さんに持っていった。一応、部隊長は木下さんなのであるから、組織の中での勝手は許されないだろう。

 

 「木下さん」

 「何かしら?」

 「オレに作戦があるんだけどさ、やってきていいかな?」

 「どういった作戦かしら」

 出来るだけCクラスの連中に見つからないように、木下さんと話す。

 

 「オレ1人でやってくるから、迷惑はかけない」

 「そんな内容で認めるとでも?」

 「負けたくは無いから」

 「分かったわ。好きにしなさい。ただ、あなたが危機に陥っても誰も助けはしないわ」

 望むところだ。戦い始めていた憂ちゃんと梓ちゃんに一言告げ、作戦実行しに行く。

 

 まずは、旧校舎Fクラスの方に行きたいんだけど、新校舎から渡り廊下にかけて、F・B・C・Aの連中がうろうろしすぎて通れそうも無い。どうしようかね。ここは3階だ。飛び降りる訳にはいかない高さ。

 ここはAクラスという利点を生かして、この優れた設備を生かしてAクラスの教室に先生を呼ぼう。誰にしようかな。仮病を使えるような先生か……一番面識のある先生にしよう。

 

 「あれ?西村先生、どうなさったんですか?」

 「いや、Aクラスに来て欲しいとの連絡があったからな」

 試召戦争中はPCを通じて先生を呼び出せた。普通、試召戦争の立会い人として呼ぶのだが……

 

 「あ、西村先生。いいですか?」

 「お前が呼んだのか七島」

 「ええ。ちょっと保健室まで行きたいんですけど、あの廊下の人の多さじゃ通れなくて。それに今Aクラス試召戦争しているから勝負仕掛けられるし」

 ちょっと気分悪そうにしながら、西村先生に話した。

 

 「俺が運んで行ってやろう」

 「よろしくお願いします」

 返事した途端、突然宙に浮いた。西村先生がオレを担ぎ上げたのであった。そして、すぐさま教室を飛び出し、あの人ごみの中を簡単に突破して行った。保健室が近くなると西村先生に声を掛けた。

 

 「先生、もういいです。後は歩いていけます」 

 「そうか。無理するなよ」

 「ありがとうございます」

 西村先生は忙しいらしく、すぐに駆けて行った。よし、作戦の第一段階クリア。これで、2-Fのほうへ行くことが出来る。

 

 「あれ、七島じゃねえ?」

 「何でお前がこんなところに」

 「坂本、七島が来ているぞ」

 「すぐ行く」

 Fクラスの連中は、見てみると大半が昨年一緒のクラスだったような連中だ。すぐにオレの顔を判別し、代表の坂本雄二に声をかけた。

 

 「何やってんだ?」

 「特別何も。保健室の帰りにここを通っただけだ」

 「保健室? 何か裏がありそうだな」 

 「知るか。Bクラスに勝てるのかね」

 オレはそれだけ言い放つと新校舎のほうへ歩いていった。

 

 途中Fクラスの連中の間をすり抜け、その後Bクラスの連中に勝負を挑まれそのたびに挑んだやつが補習室行って、やっとその行列を抜けた。そしていよいよ作戦最終段階。

 

  『Fクラスからの使者だと偽って、Cクラス代表を奇襲で討ち取る』

 

 ずっとBクラスの連中に勝負を挑まれていたということから考えた作戦だ。 

 このためには、Cクラスの連中に1人でもオレがAクラスだとバレてはいけない。バレたら敵のど真ん中。囲まれて補習室行き。途中で高橋先生を見つけ、一緒についてきてもらうことにした。

 

 Cクラスの教室の近くまで行くと、やはりガードは固かった。ドアの周囲にはたくさん人がいる。

 

 「七島だ! 代表小山に話があってやってきた。是非とも対談したい」

 とCクラスの教室内に聞こえるくらいの声量で言った。オレの言葉を聞いて、1人の女子が小山の方へ向かったみたいだ。しばらくすると返事を持ってやって来た。

 

 「Fクラスのあんたが何用!?」

 だそうだ。凄いねオレの噂。十分に活用してもらうよ。

 

 「機密事項だから代表本人と話したい」

 それを言うと、向こうは許可してくれた。オレはCクラスに入っていった。奥のほうに小山の姿が見えた。やはり周囲には護衛をつけていた。当然のことだ。オレは構わず近くまで行く。

 

 「試召戦争中に他のクラスの干渉は禁止じゃなかったかしら」

 「そうだな。だから高橋先生を連れてきている」

 「どういうこと?」

 「こういうことさ」

 高橋先生のほうを一瞬だけ向いて、再び小山へ向き直った。

 

 「Aクラス七島弘志、Cクラス代表小山に試召戦争を挑む」

 「承認します」

 「試獣召喚(サモン)!」

 『何っ!?』

 オレがAクラスだと知って唖然としている。これで小山が召喚獣を出さなかったら、問答無用でオレの勝ちだ。

自分の召喚獣を出す代わりに、護衛が召喚をした。敵の数は2人。ちょっと数的不利だが、速攻で片付ける。

 立会いの先生が高橋先生なので、教科は「総合科目」となる。他の先生にもそれぞれ出せるフィールドが決まっている。担当の教科がそれにあたる。何の教科があるかというと……

 

 国語…(現代文+古典)

 数学…(Ⅰ・A+Ⅱ・B)

 英語…(筆記+リスニング)

 社会…地理・日本史・世界史・現代社会・政治経済・倫理から1科目。

 理科…化学・物理・生物・地学から1科目。

 選択…文系は社会から別のもう1科目、理系は理科から別のもう1科目分選択。

 →これらの総合点数が、「総合科目」の点数になる。

 

 単教科は他にもある。(総合科目の点数に含まれない)

 保健体育と家庭科と芸術(美術・音楽の選択)の3教科だ。

 よって、単教科が9科目+総合科目となる。

 

 総合科目のほうを見ると、センター対策だということがすぐに分かった。だが、単教科(副教科)もバカには出来ない。振り分け試験やら試召戦争などに大きく影響を及ぼすからだ。

 どうやら1教科400点以上だったら、召喚獣の腕輪の効果とやらが使えるらしい。ただし、国数英は2科目が一緒になっているから800点以上だ。総合科目では3600点以上が腕輪使用条件らしい。

 

 高橋先生を連れてきたのはAクラスに在籍しているオレだったら分が悪くならないと見込んでのことだった。案の定、敵は苦虫をつぶしたような顔になっていた。

 

 総合科目 A七島 vs C木村&福山

        2811  vs  1530&1508

 

 「何だあの点数は!?」

 「カンニングしたのか!?」

 「やつはバカなはずなのに」

 オレは速攻で殺そうと、自分の召喚獣を見る。

 

 どういうことだ。この点数で武器が「素手」とはどういうことだ。格好はAクラスとは思えないくらい軽装備。一応、戦国時代をモチーフにしてるのかね。甲冑つけてるし(もちろん軽装備)これちゃんと点数反映されてるの? 腰に刀を帯びているなら使えよ。何とか刀を抜き、臨戦態勢をとる。

 

 初めてだから使い方が分からない。そのためごり押し。力押し。点数が多いほうが勝ちだ。あんまりこういう戦いかた好きじゃないけど。

 

 「戦死者は補習 ー !」

 「嫌だ~!!」

 「鬼の補習は(略)」

 さて、とうとう代表1人に。他の連中は出払っているため全く気づいていないようだ。

 

 「試獣召喚(サモン)! 戻ってきなさいよ!!!」

 大声でCクラスの連中を呼び戻すも、時既に遅し。

 

 総合科目 A七島 vs C小山

        Win     Death

 

 「勝者、Aクラス」

 

 デスって……言葉選べよ。

 まあ、急いで救援に向かおうとしたCクラスの連中を尻目に、瞬殺したのであった。

 

 「Aクラス七島弘志、Cクラス代表小山を討ち取った!!」

 『何だと!?』

 『嘘だろ?』

 そう思うのも不思議ではない。前線は善戦していた。あれ?駄洒落っぽくなったけど違うよ。Aクラスの連中もいささか疑問に思っているヤツがいるだろう。戦後対談が行われることになった。Aクラスからは霧島代表・久保・木下さん・そして功労者である(自分で言うか?)オレ。Cクラスは小山代表1人。

 

 「まさか、七島がAクラスだなんて……」

 「何とでも言え」

 「1人に負けたわ」

 「それはどうも」

 いささか、霧島代表や久保、木下さんの機嫌が悪いみたいだがあえてスルーで。

 

 「小山さん聞きたいことがあるんだけど」

 「……何かしら木下」

 「何をもってそんなにアタシを目の敵にしてるわけ? 心当たりがないんだけども」

 「何言ってるの!? あなたがCクラスを挑発したんじゃない『豚共』とか言って」

 「そんなことしてないわよ!」

 木下さんがここまで言い張るならしていないんだろう。ただ、気になることが。それ本当に木下さんだったか?

 

 戦後対談もほどほどに終わって、Aクラス側からの4人だけで話し合うことになった。

 

 「七島、何をしたんだ」

 「Fクラスと装って、本陣に乗り込んだ」

 「………独断専行は組織の中では許されない」

 「一応、部隊長の許可は取った」

 「作戦は教えてくれなかったけどね。あなたの作戦だったら戦死するだろうと思って気にもかけてなかったけど」

 その評価、今回で変えていただけたでしょうかね。

 

 「………結果オーライかも知れないけど、報告はちゃんとして欲しい」

 「承った。ただ、今回のはあなたたちにオレの力を見せ付けたかっただけかもしれないな」

 「………十分理解した。Aクラスの中心人物として今後は認識する」 

 「奇抜な発想、それを可能にする行動力、どれをとってもAクラスとは思えないな」

 「そうね。でも、それが案外Aクラスを救う救世主になるかもしれないわね」

 ありがたいことを言ってくれる。試召戦争をした甲斐があった。

 

 「代表、どうやらFvsBの戦い、Fが勝った模様です」

 と伝令がやってきた。

 

 「………雄二…」

 「凄いわね」

 流石だ。たいした戦力も無いはずなのにBに勝てるなんて。おそらく狙いはオレたちAクラス。受けて立つぞ。4人で喋りながら、Aクラスの教室に帰った。その後、勝った後の話し合いを始めた。

 

 





 途中の教科の話、ちょっと複雑でしたかね?
 分からない方は質問してください。

 主人公の召喚獣初登場!
 今のところまだ詳しく出てませんが、今後出てくる予定です。

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#24 衝撃!



 学校でうまくやっていけるコツって何なのでしょう。

 先生や友達に嫌われたら本当におしまいだと思います……

 では、どうぞ!!




 

 「2人とも見ちゃダメ!!」

 オレは、横の席の梓ちゃんとその前の席の憂ちゃんに向けて言い放った。

 今の状況はどうなっているかというと、先ほどCクラスから帰って来た後に、オレらは梓ちゃんと憂ちゃんと3人で話していた。近くで話すため(Aクラスは1つ1つの席が離れている)に椅子を近くに持ってきて話していた。

 しばらく話していると、1人の訪問者が。

 

  『女装した、Bクラス代表根本』

 

 であった。卑怯者と名高いヤツが女装してAクラスに乗り込んできたのであった。さっき、BクラスはFクラスに負けたと聞いたので、おそらく雄二がこれをさせているのか。何とまあ酷い格好だ。雄二は心理的・精神的にまずAクラスにダメージを与えに来たか……これを見てしまったものは女子のみならず、男子ですら吐き気を催していた。オレは一瞬見たがすぐに目(視線)を切ったために大事には至らなかった。

 

 梓ちゃんと憂ちゃんはちょうど、ドアに背を向けていたために見ないで済んでいるのだが、

 

 「何があったの?」

 「みんな悲鳴上げているけど」 

 「絶対に2人とも前のほうを向いちゃダメだよ」

 『?』

 疑問符を浮かべていたが、説明は後でするから、とにかく今は現実逃避をするのが一番いい。

 

 しばらくすると、根本は帰っていった。教室のあらゆるところから安堵の溜息がこぼれたのは言うまでもない。

 

 「一体どうしたの?」

 「ヒロ君があんなにダメっていうのは」

 「確実に2人の気分を害するものが現れたから」

 『何それ?』

 しつこく聞いてきたために、仕方なく教えることにした。

 

 「女装姿の、根本恭二」

 「うえっ……想像したら気持ち悪くなった」

 「ちょっとわたしも見なくてよかったかな」

 「でしょ。それを間近で見た人は未だに倒れているみたいだけど」

 Aクラスの廊下側の前の人とか余りの衝撃に椅子から落ちていた。

 

 「そういえば、試召戦争大活躍だったね」

 「まさか代表を討ち取るとは」

 「まあね。2人はどうだった?」 

 「ちょっと苦戦してたけど、結構楽しかったよ」

 「そうだね。召喚獣も可愛かったし」

 話題は召喚獣の話になった。

 

 「ヒロ君の召喚獣、どんな感じだったの?」

 「見てみる?」

 「出せるの?」

 「実物じゃないけどね」

 オレはPCを操作し、自分の召喚獣データを探した。自分のPCにのみ自分のデータがあるらしいから。

 

 「あった。こんな感じかな」

 『オオーかっこいい』

 「軽装備だよね」

 「点数があんまり反映されていないのかもね」

 この召喚獣の基礎データを見てみた。やはり本来の武器は「素手」だったらしい。刀はあくまでも予備だそうだ。え~っと腕輪の効果……あったあった。点数を消費し、自分の望む武器を出すことが出来る。か。

 

 「腕輪の効果、結構強そうだね」

 「何なに? へ~槍・弓・鉄砲のなかから選べると。強いじゃん」

 「どうみても戦国時代に偏った召喚獣だな……」

 「状況に応じて使い分けろだってさ」

 わざわざアドバイス書いてあるんだ。少しくらい音楽の要素やらが入ってて欲しかったんだけど……

 

 「2人の召喚獣はどんな感じなの?」

 「梓ちゃんから言いなよ」

 「憂から言えって~」

 2人で譲り合いをしていると、帰りのHRが始まり、そして終わった。

 

 梓ちゃんと共に、部活に行こうとしていると、手を押さえているアキの姿が見えた。

 

 「どうしたんだアキ?」

 「あ、ヒロ。それと中野さんも。痛っ……」

 「何だその手は?」

 「ちょっとね……」

 珍しく、アキが保健室に向かおうとしてたからオレもついていく。梓ちゃんには先に部室に行っててもらうことにした。

 

 「Cクラスに勝ったみたいだね」 

 「まあな。そっちもBクラスに勝ったみたいじゃん」

 「そうなんだけど……手が痛い」

 「一体何をやらかしたんだ」

 保健室で手当てをしてもらった後、アキは職員室に行かなければならないと言いだしたので、こちらもやっぱりついていくことにした。

 

 「ついてくるの?」

 「ダメなのか…?」

 「え、あ、まあいいけど」

 「またお前やらかしたな」

 職員室に行くのは呼び出しを食らっていたということか。

 

 「失礼します」

 「吉井、こっちだ。何だ七島もついてきたのか」

 「こいつがまた悪さをしたみたいで……申し訳ないです」

 「ヒロが謝ること無いよ」

 お前が先生に迷惑ばっかりかけてるから本当に申し訳ないんだよ……

 

 「どうしてDクラスとBクラスの間に隔たっている壁を壊したんだ」

 「何だと!?」

 壁を壊した? 窓を割ったとかのレベルじゃない。アキが自分で殴って壁が壊れるわけ無い。

 

 「その手はフィードバックか」

 「うん」

 やっぱりそうだ。召喚獣の力を借りて壁を壊したのか。バカなことをしたもんだ。

 

 「どうせ勝つためにはどんな手も惜しまないと思って、その手を使ったのか」

 「うん。結果的に勝ったけどね」

 今のうちから指導しておかないと、勝つためにはどんな悪い手を使っても構わないといったような人間になってしまう。

 

 「西村先生……今回ばかりはオレの手に負えませんので、先生方どうぞご指導よろしくお願いします」

 「ああ分かった。厳しく指導しておく」

 「ありがとうございます」

 「ヒロ~なんてことを言うんだよ!!」

 アキの泣きついた表情をスルーして職員室を出て行った。さて、アキのことは先生に任せるとしてオレは部活に行くかな。

 

 「遅くなりました~」

 と言いながら部室に入っていく。みんな既にティータイムの時間だった。

 

 「おうっヒロ! まずは座れ!」

 りっちゃんが大声でそう呼びかけてきた。まあいつもどおりのことだ。

 紅茶を飲みながら、先輩方に質問攻めにあう。

 

 「今日、早速試召戦争したらしいじゃんか」

 「え、ええまあ」

 「それで大活躍だったと聞いたぞ」

 「どうなんでしょうね」

 本人達はあんまり試召戦争をしたことがないため、こういった話は聞きたいらしい。

 

 「結構召喚獣の操作って難しいんですね」

 「そうだよね~ヒロ君もそう思う!?」

 「唯先輩?」

 「わたしね、扱おうとしたんだけど全然ダメで ー 」

 「そうだったわね唯ちゃん」

 多分、唯先輩ほど下手ではないですよ。だが、Fクラスの連中には負けるだろうなあ。もう経験積んでるし。どうにかして経験を積みたいものだ。

 

 「そういえば、あずにゃんとヒロ君の召喚獣はどんな感じなの?」

 「へっわたしですか?」

 「そうだよ~」

 「わたしのは……」

 梓ちゃんが返答に困っていた。何でだろう……

 

 「そんなに見てみたいなら、見せてもらおうかしら」

 「さわちゃん!?」

 「わたしだってここの教員なのよ。承認許可します」

 「おおっ。さわちゃんが珍しくいい! 2人とも召喚してくれよ」

 さわちゃん先生が突然現れて、フィールドを出した。さわちゃん先生は担当は音楽だから、出てくるフィールドは「芸術」だな。オレは絵の才能からっきしダメだから音楽の方を選択でとってるんだけど。

 

 「じゃあ、いきます。試獣召喚(サモン)!!」

 さわちゃん先生が出しているフィールドにオレの召喚獣が出てくる。

 

 『おおっ!!!』

 「素手って……」

 「おかしいよね!? 何で最初っから刀抜かないのって話でしょ!!」

 「さっきの意味こういうことだったんだ」

 梓ちゃんが納得してるけど、Aクラスってこんなちんけな装備なのかな? 別に重装備の方が良いって訳じゃないけど、武器に関してはもうちょっと良いのがあった気がする。

 

 「ヒロ君ってAクラスよね?」

 「はい。そうですけど?」

 「この装備、Eクラス並じゃん」

 「何っ!? やはりそうだったのか!!」

 召喚獣とは、その人の本質を見極めているらしいけど……オレの本質って!?

 

 「せっかくだから、召喚獣の扱いに慣れてみよう」

 「ていうか~梓も出せよ~」

 「ええっ!? わたしもですか?」

 「そうだよ、あずにゃん~」

 梓ちゃんの召喚獣、確かに気になるが……どんな感じなんだろう。梓ちゃんが召喚獣を出し渋っていたら、

 

  『山中先生、山中先生、至急職員室まで』

 

 という放送が入った。

 

 「あら、何かしら。行って来るからゴメンけどあなたたちフィールドは消すわね」

 「ええ~っ!」

 「あずにゃんのが見たかった~」

 「至急って言われたでしょ。だから取り消し!」

 フィールドは消え、召喚獣も消えてなくなる。さわちゃん先生も走って部室から消えていった。

 

 さっきからいいタイミングで梓ちゃんの召喚獣が見れてないんだよね~

 

 「み、みなさん練習しましょ!!」

 梓ちゃんが何か隠していると思いながらも、今日は練習することになった。

 

 




 読者の皆様、プリーズヘルプ!!!

 憂と梓の召喚獣、募集します。
 何か案は無いでしょうか。
 じゃんじゃん出していただけるとありがたいです。

 結構急ぎ目でよろしくお願いしますね♪

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#25 一騎討ち!


 とうとうFクラスがAクラスに試召戦争を。

 一体どうなっちゃう!?

 では、どうぞ!!




 

 「一騎討ち?」

 「ああ、Fクラスは試召戦争として、Aクラス代表に一騎討ちを申し込む」

 2日後の朝、雄二が数名を引き連れ、Aクラスに乗り込んできた。昨日、回復試験を行ったから、点数的には大丈夫だけど……

 

 「雄二」

 「弘志か。お前らをこの座から追い落とす日が来たぜ」

 「やれるもんならやってみな」

 「Fクラスは何が狙いなの?」

 姿が見えない霧島代表に代わって、木下さんが交渉をする。オレも一応それに参加を。Aクラス中で一番雄二のことを分かっているつもりだから。ああ、霧島代表以外でな。

 

 「もちろん、Fクラスが勝利するためだ」

 「木下さん……雄二の案には基本的に乗らない方が良い」

 「分かってるわよ。だけど、試召戦争ってのは下位クラスからは断れないからね」

 「一騎討ちを断れば良い話だ」

 雄二の土俵には上がらない。上がった途端、Aクラスが不利になるのは目に見えている。野球に例えるとあれだ。ボヤキ監督として有名な名将ノ○さんとタイプは似ている。戦力としてそこまで整っていないのに、上位を打ち砕いていく。危ない危ない。

 

 「ところでCクラスとの戦争はどうなった?」

 「普通だったわよ」

 「そうか。Bクラスとやりあう気はあるか?」

 「Bクラスってあの……?」

 一昨日、女装してやってきたヤツが代表してるクラスか。

 

 「断ればBクラスとウチを戦わせるのね」

 「しかもウチはBクラスと戦いたくないって思わせている」 

 「何の話だ?」

 「シラをきるなら良い。何はともあれ、お前らと戦わざるを得ないだろうな」

 「話が早くて何よりだ」

 かといって、雄二の作戦に思いっきり賛成するはずが無い。

 

 「お前のことだ。何か策略をしこんでいるのだろう。オレには悲しいかな見破れない。だから、保険のために5人ずつ選んで、それぞれ一騎討ち。3勝した方が勝ちということにしないか? 木下さん、それでいいよね?」

 「ええ。わたしもそうするしかないと思ってたのよ。坂本君いかがかしら?」

 「…………分かった。その代わり、科目選択権はFクラスにくれ」 

 「3戦な。Aクラスが2戦いただく」

 Aクラス側からもFクラス側からも、慎重すぎるとかAクラスらしくないとかいう声が聞こえてくるが、そんなものは知らん。教室を落とされたくないからな。

 

 「承知した」

 「………こちらからも提案。負けた方は勝ったほうの言うことを聞く」

 「うわっ」

 「代表?」

 いつの間にかオレたちの背後に現れていた霧島代表。神出鬼没とはまさにこのことか。

 

 「よし。分かった」

 「雄二! 姫路さんに ー 」

 「心配するな。断じて姫路には悪いことにはならない」

 「………開戦は何時から?」

 「午後からこのクラスで。また後で来る」

 雄二たちはそれだけ言うと、Aクラスを去っていった。その後、Aクラスには沈黙のときが流れたが、霧島代表が言葉を発した。

 

 「………みんなも聞いたと思うけど、5人の代表を選ばなければならない」

 「普通に、上位5人でいいと思います」

 「優子に久保はどう思う?」

 『Fクラスを熟知している七島君に意見を聞くべきだと思う』

 2人はオレのほうを見ながら声を揃えて言った。霧島代表もその通りと言わんばかりにうなずいた。

 

 『わざわざ聞くまでも無い』

 『意味が無い』

 「………落ち着いて。Cクラス戦の時に勝利に貢献した人物の話を聞かないわけにはいかない」

 「七島があんなことしなくても勝てた」

 オレも嫌われているものだ。人間なんて誰からも好かれるわけ無いからどうでもいいけど。誰からも好かれる人間は逆におそろしい。八方美人の可能性があるから。

 

 「………七島、どう思う」

 「まず、Fクラスが5人選ぶとしたら、坂本雄二・吉井明久・土屋康太・姫路瑞希の4人は確定している」

 「………どうしてか説明を」

 「雄二は代表だから説明不要、姫路も言うまでもない、アキは操作技術に長けている、康太は保健体育のスペシャリスト。またの名を『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』と呼ばれている」

 ムッツリーニの名を聞くと、女子の方から軽く悲鳴が聞こえてきた。被害者か……

 

 「後1人は分からないのかしら?」

 「弟の秀吉が出るかもしれないし、島田美波が出るかもしれない。大穴で須川亮が出てくるかも知れない」

 「………こちらからも5人選んでおかなければならない」

 「代表同士の対決は決まっていて、vs姫路には久保を当てればいいんじゃないか」

 みんなそれが当たり前だといわんばかりの表情をしていた。

 

 「じゃあ、保健体育はボクが出るよ♪」

 「愛子?」

 「保健体育で負けるわけにはいかないからね♪」

 「………分かった。土屋には愛子を当てる」

 工藤さんって保健体育が得意だったんだ。Aクラスにしては意外な人材だ。

 

 「後は吉井君ともう1人ね」

 『本当に吉井出るのか!?』

 『観察処分者だろ?』

 「しっかりと観察処分者の意味を理解してないみたいだな。バカの代名詞だが、オレたちよりも数ヶ月前から召喚獣の操作をしてきている人間だぞ。Fクラスの中だったら出てくるだろう。ただでさえ点数低い連中なんだから」

 勉強、何それ?の連中だ。アキが出てくるのは必須だろう。

 

 「アタシが当たろうかしら」

 「いや、木下さんはあと1人の方がいいだろう。誰が出てくるか分からないならバランサーを配置しておくべきだ」

 「………それがいい。それならばvs吉井には七島を当てる」

 「オレでいいのか?」 

 「………一番吉井の性格を把握している」

 確かに。ただ、クラス中から猛反発が起きているが。

 

 「………もう決定事項。負けられない戦い。理解して」

 『負けられないならなおさらだって……』

 「ぶつぶつ言わないの! あなたも匹敵するくらいアピールしたらどうなの!?」

 『くっ……』

 木下さんの言葉は結構心にグサッと来たようだった。

 

 

 「それでは、FクラスvsAクラスの試召戦争~一騎討ち~を始めます」

 午後になって、とうとうFクラスがAクラスに挑む下克上の戦いが始まった。

 

 「第一回戦目の選手、前に」

 「秀吉、頼む!」

 「承知した」

 「アタシが行くわ」

 オレが予想している中で唯一不確かだった枠には秀吉が入ってきた。

 

 「ところでさ、秀吉」 

 「何じゃ?」

 「アンタ、Cクラスの小山さんって知ってるかしら?」

 「はて、誰じゃ?」

 あ、木下さんの後ろには少しどす黒いオーラが……あのときのことまだ忘れていなかったんだ。やっぱり犯人は秀吉だと目星をつけていたんだな。

 

 「そう。知らないなら良いわ。ちょっとこっちへ来てくれるかしら?」

 「ワシの腕を掴んで何処へ行くというのじゃ?」

 木下さんは、秀吉を連れて廊下へと出て行った。

 

 『Cクラスで何してくれたのかしら? アタシがどうしてCクラスで豚呼ばわりしたことになってるのかしら?』

 『はっはっは……それは姉上の本性をワシなりに推測 ー 痛いっ! 何をするのじゃ姉上!』

 

 「秀吉は急用が出来たから帰るって」

 木下さんは、何食わぬ顔で1人で教室に戻ってきた。怒らせたらめっちゃ怖い……

 

 「代わりの人はどうするのかしら?」

 「不戦 ー 」

 「待て」

 「竜也?」

 「オレが行こう」

 雄二は不戦敗として、捨てようとしたが、竜也がそれを許さなかった。負けるならば戦って負けるということを選択したかったのだろう。やつに深い考えなどはないと思う。こいつという選択肢はオレにも無かった。

 

 「久しぶりね。教科、選んで良いわよ」

 「ありがたく……教科は“芸術”で!」

 しまった!!! ヤツは勉強こそからきし出来ないが、芸術の才能有り余ってる!

 

 『試獣召喚(サモン)!』

 

 「木下さん」

 「どうしたのよ七島君」

 「ヤツの強さ見ても怯まないでね」

 「何を言ってるのかしら?」

 徐々に現れる召喚獣、点数が出てきたときには木下さんも驚いた顔だった。

 

 芸術 F本田 vs A木下

      489     257

 

 「何だあの点数は!?」

 「くそっ。Fにあいつがいたのはすっかり忘れていた」

 「油断したわ……」

 「遠慮なく、勝たせてもらうぜ!!」

 木下さんの善戦もむなしく、一戦目を落としてしまった。

 

 「申し訳ないわ……」

 Aクラスのみんなが待っているほうへ帰ってきてこういった。

 

 「木下さん、オレのミスだ。やつは音楽と家庭だけは昔から凄い才能の持ち主だったんだ」

 「やっぱり、七島に采配任せるのが悪かったんだ!」

 「………今のは誰が出てたとしても負けてた」

 オレたちの暗い雰囲気とは対照的にFクラス側では盛り上がっていた。

 

 『凄いよ竜也!!』

 『勉強は出来ないが、ああいうのには自信があったからな』

 『これは大きな1勝だ』

 『最初っから俺を出しておけばよかったのよ』

 こりゃずるずるといかなければいいんだが……

 

 





 さて、原作と違いまして、Aクラス1戦目落としましたね……

 今後の展開はどうなることやら。

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#26 終戦!



 FクラスvsAクラスの戦い。

 どうなることやら。

 では、どうぞ!!




 

 「次の方、どうぞ!」

 1戦目落としたAクラス。次取らないと後が厳しくなる。

 

 「明久、行って来い」

 「とうとう僕の本来の力を見せ付けるときが来たようだね」

 「ああ。誰が相手だろうと臆するな」

 アキか……ということはAクラスは。

 

 「………七島、行って来て」

 「勝って来なさいよ」

 「頑張れ~ヒロ君!」

 「負けるな~」

 ごく僅かな声援(代表・木下さん・憂ちゃん・梓ちゃん)を背中に受けながら、前に出る。

 

 「ヒロが相手か」

 「お前らの野望はオレが食い止めてやるよ」

 「それはどうかな。ヒロ、君には僕に及ばないものがある」

 「操作技術すら関係ないくらい、圧倒的な点差で勝ってやる」

 「ぐっ…」

 バレてたのかといった表情を浮かべていたが、オレがお前に指摘したんだろうが。

 

 「教科はどっちが決めるんだ?」

 「雄二、どうする?」

 「弘志に決めてもらえ」

 「だって」

 「そうか。遠慮なく勝たせてもらうぜ。“社会”で」

 オレが教科を言うと、社会のフィールドが展開された。オレとアキ共に日本史だ。負ける気はしねえ。

 

 『試獣召喚(サモン)!!』

 

 アキの召喚獣は、学ランに木刀だった。あれ? オレも装備だけ見ると結構近い気がする。やはり後ろの方から、野次が飛んできた。

 

 「何だあの装備は?」

 「本当にAクラスなのか?」

 「Aクラスの恥」

 言っておけ。お前らどうせ点数見たら驚くしか出来ん。

 

 「ヒロ、装備だけ見ると僕と大して変わらないじゃん」

 「あくまで、装備だけだ。点数がそろそろ表示されるな」

 

 社会 F吉井 vs A七島

      98     465

 

 

 『何ぃ~っ!?』

 『あれが、七島の点数だというのか!?』

 『高すぎる!』

 驚け驚け。この反応を見るために1年間バカを演じてきたんだよ。いいね~Fクラス側からもそして見方であるはずのAクラス側からもこの反応が得られるとは。

 

 「本当にヒロ君なのかな?」

 「梓ちゃん、現実逃避しないで」

 後ろからこんな声も聞こえてきたが、かまわない。

 

 「ヒロ、今まで僕を騙してきていたんだな」

 「騙してなんかいないさ。勝手に思い込んでいただけだ」

 「まさか日本史の点数がそんなに高いとは。せいぜいゲームの趣味程度かと」

 「お前じゃないんだからな」

 そろそろ始めますかね。こちらが点数勝っていたとしても、負ける可能性は十分にある。

 

 「うおっ……ヒロ卑怯だぞ! 奇襲だなんて」

 「お前をリスペクトしてる証拠だ。お前を過小評価してないからな。全力で倒しに行くさ」

 「ところでさ」

 「ん?」

 「リスペクトってどんな意味?」

 気を確かにしろオレ! アキ特有の天然バカだ。オレを貶めるためとかそんな考えは持っていないはずだ。後ろから嘲笑が聞こえてきた。

 

 「後で雄二にでも教えてもらえ」

 「そうするよ」

 戦いは再開される。アキの操作技術は確かだ。オレも刀を持ってコンパクトに戦うが避ける技術は高い高い。

 

 「何て強さだ」

 「これでもやっとだよ」

 「そろそろ腕輪の効果を使おうかな」

 「えっ!?」

 各科目400点以上だと、腕輪の効果が使える。あんまり使いたくなかったが、負けるわけにはいかない。

 

 「行け~っ!!」

 「くっ……」

 オレは掛け声と共に、アキのほうに接近させる。アキはオレの腕輪の効果を恐れて、ガードに徹する。前に集中したときに、オレはアキの召喚獣を飛び越え振り向きざまに、背中に刀を指した。

 

 「背中が~!!」

 『何か腕輪使ったか!?』

 「今のハッタリだ」

 『何!?』

 オレの腕輪の効果はそんなものじゃない。

 

 「ヒロ、図ったな」

 「もちろんさ」

 しかし、召喚獣を見てみるとまだ消えてないから、死んでいないのだろう。

 

 社会 F吉井 vs A七島

      20     416

 

 「しぶといな。背中に一刺ししたのに」

 「僕痛いんだよ!!」

 「お前の日頃の行いが悪いからだ」

 しかし、今後どうしよう。刀はアキの召喚獣にぶっさしたまんま、オレは素手になってしまった。

 

 「あれ? ヒロもしかして今素手!?」

 「ちっ……バレたらしゃーねえ」

 「これなら勝てる」

 「アキ、甘いぞ。実はその刀には毒が塗ってあって、時間経過と共に点数が減っていくんだ」

 これももちろん嘘。

 

 「えっ!?」

 「明久~!! それも弘志の嘘だ!!」

 「何だって?」

 「遅い!」

 アキが一瞬、雄二の声に気を取られた瞬間に接近して素手で攻撃をする。

 

 「しまった!」

 「これでオレの勝ちだ」

 

 社会 F吉井 vs A七島

       0     365

 

 「勝者、Aクラス」

 「ふ~危なかった……」

 「悔しい!!」

 「お前がまだ完全に召喚獣の扱いに慣れてないようでよかった」

 「少しでも油断していてくれたら」

 するわけないだろ。おそらくお前のことを買ってるのはオレとFクラスの連中くらいだ。

 

 『雄二ゴメン……』

 『気にするな。もともとお前が勝つなんて思っても無かった』

 『それはそれで酷い』

 『あそこまで良い戦いをしたんだ。ちったあ胸を張れ』

 『うんっ……っ痛…………』

 負けたというのに、Fクラスはまだまだ明るかった。大してAクラスは。

 

 「お疲れ」

 「本当に疲れた」

 「まさかあそこまで接戦に持ち込まれるなんて」

 「最初に言ったろ? アキと戦うとこうなるって」

 木下さんやら、少しオレのことを理解してくれる人はねぎらってくれたが、嫌っているやつは、

 

 『ぶざまな戦い見せて』

 『ホント……情けないよ』

 とかいった声。お前らが戦っていたらおそらく負けていたと思うぞ。あんまりifの話はしたくないけど。

 

 これで1勝1敗か。五分に持ち込んだが……まだまだ危ないな。

 

 「次の出場者は前へ」

 第三戦目。ここを取るか取らないかで大きな差が生まれる。

 

 「………俺が行こう」

 「ムッツリーニ頼んだ」

 「それじゃあ、ボクが出るよ」

 「頑張って愛子!」

 工藤さんがどれだけ保健体育できるか知らないけど、ムッツリーニという異名をとるほどのヤツに勝てるのか。

 

 「あれ、愛子ちゃん?」

 「あ、明久君だ!」

 前に出てくる工藤さんに対して、Fクラスの後ろの方から聞こえてきた声。

 

 「何だ2人とも知り合いだったのか?」

 「うん♪ 七島君のこと、明久君からよく聞いてたんだ♪」

 なるほど。だからオレという存在をいい方に捉えてくれてたんだ。

 

 「でもいつ知り合ったんだ?」

 「愛子ちゃん、転校してきたでしょ。そこで ー 」

 「明久君ストップ。別に話さなくても良い内容でしょ♪」

 「それもそうだね」

 気になるなあ。というか下の名前で呼び合えるほど仲良くなるなんて、流石は2人。

 

 『ア~キ~どういうことかしら?』

 『返答次第ではオシオキも~』

 「な、何2人とも!? 怖いオーラが出てるよ!」

 「2人とも落ち着け。試召戦争中だ」

 アキに迫り来るFクラスの女子に、雄二がストップをかけた。

 

 「教科はなんにしますか?」

 「………保健体育」

 話に参加してなかったから康太の影がめっちゃ薄かった。

 

 「土屋君、君も保健体育が得意みたいだね。でもボクもかなり得意なんだ。理論派の君と違って、実技でね」

 戦場に一筋の血しぶきがあがる。康太の鼻血であった。きれいにアーチを描くように噴出し、康太は倒れていった。

 

 「ムッツリーニ! しっかりしろ!!」

 「………まだまだ」

 ここは一体どこだ。何があっている。工藤さんの問題発言の後、介抱されている人間が1名。

 

 「お互い、そろそろ召喚してください」

 「は~い試獣召喚(サモン)♪」

 「………試獣召喚(サモン)

 いよいよ召喚獣が出てくる。康太のは忍者で、工藤さんのはセーラー服で斧を持っているか。スピードvsパワーといったところか。

 

 保健体育 F土屋 vs A工藤

         583    562

 

 「何だあの2人の点数は!?」

 「俺の総合科目並み!?」

 それは酷すぎ。

 

 「随分ハイレベルな戦いが見られそうだぜ!」

 こういった声も一瞬で終わった。

 

 2人とも何かをつぶやいて、お互いの腕輪が光りだす。

 工藤さんの斧は雷光をまとい、康太は加速をした。

 

 刹那、お互いの召喚獣が反対方向まで行った。そして、倒れた。

 

 「一体何があったんだ?」

 「俺の動体視力じゃ見えなかったぞ!」

 「もうすぐ数字が出てくるはずだ」

 みんな召喚獣の頭に出てくる数字に注目する。

 

 保健体育 F土屋 vs A工藤

          0       0 

 

 「両者、引き分け(イーブン)

 何と相討ちだったのだ。

 

 「………俺が保健体育で勝てなかっただと!?」

 「良い勝負だったよ。また戦おう」

 「………今度は俺が勝つ」

 「ボクも点数上げるから♪」

 この2人に拍手の嵐が起こった。ほんの一瞬だったが、ハイレベルな戦いであった。

 1勝1敗1分け。さあ、後2試合か。人事を尽くして天命を待つ。だな。

 

 「次の方 ー 」

 1勝1敗1分で迎えた第4戦目。ここを取るか取らないかで勝敗に関わる。

 

 「私です」

 「姫路さんか。では僕が行こう」

 Fクラスからは姫路。Aクラスからは久保。実質学年次席の争いということだ。

 

 「姫路さん、あなたと戦うならばこの科目しかありえない」

 「ええ」

 「総合科目で」

 2人ともライバル視をしているようだ。

 

 『試獣召喚(サモン)!』

 見たこともないような点数がお互い出てくるんだろうな。

 

 総合科目 F姫路 vs A久保

         3952   3586

 

 『2人とも高すぎるだろう!?』

 『姫路さんは霧島さんに匹敵するぞ!』

 3600点というのが1つの目安点。コレを超えるのはいままでに霧島翔子しかいなかったが。

 

 「姫路さん、いつの間にこんな実力を」 

 「私、Fクラスのみんなが大好きなんです。みんなのために頑張れるFクラスのことが」

 「Fクラスが好き?」

 久保にはその意味が分からなかったらしく、姫路によって瞬殺された。

 

 1勝2敗1分ということは、何が何でも霧島代表には勝ってもらわないと。勝って5分に持ち込める。その後、延長戦があるのかどうかは知らんが、勝つことが最低条件だ。

 

 「最後の方 ー 」

 「………私」

 「俺が行こう」

 クラス代表対決。または幼馴染対決。

 

 「教科はどうしますか?」

 残りの教科選択権は雄二にある。何の教科で勝負するのやら。

 

 「日本史小学生レベル、100点満点上限あり」

 『小学生レベルだと!?』

 『上限ありだって!?』

 意表を突く攻撃を仕掛けてきた。これが狙いか。ということは雄二は確実に間違える問題を知っているということか。それが出るかでないか分からないのに。

 

 「ねえ、ヒロ君、勝てるよね?」

 「雄二がここまで持ってきてるんだ。負ける可能性も否定できない」

 「嘘!?」

 「ただ……」

 勉強ってのはそんなに甘くないぞ雄二。お前の努力は知らんが。

 

 「分かりました。それでは問題を作らないとダメですね。ちょっと待っててください」

 高橋先生は、10分と経たない内に教室に帰って来た。

 

 「テストを受ける2人はこちらへ」

 別室で受験をするということだ。オレたちはAクラスで待機。2人がテストをしている風景をAクラスにある巨大ディスプレイで見ることになった。

 

 2人が席に着き、いよいよテストが始まる。テストが始まると同時に、こちらにある巨大なディスプレイにも問題が映し出される。

 

  第1問 次の出来事の年号を答えなさい。

 (  )年 関ヶ原の戦い

 (  )年 応仁の乱

 (  )年 第二次世界大戦

 

  小学生レベルね。確かに重要年号ばっかりだ。

 

 (  )年 鎌倉幕府成立

 

 (  )年 大化の改新

 

 

 『出たぁ~!!』

 『俺たちの勝利だ!!』

 『Aクラスのシステムデスクが俺たちのものに!』

 

 やけにFクラスの連中がうるさい。

 

 「どうしたんだろうね」

 「タイミング的に大化の改新という文字が出た瞬間に騒ぎ出したよね」

 「何か大化の改新に秘密が?」

 「646年に始まったとされるのがこの頃の話だけど、小学生は普通645年で覚えるけど」

 代表が646年って書くかもしれないというわずかな望みを雄二は抱いていたというのか。そうではないはずだ。

 

 その後、Fクラスがさわいでいるのをスルーしながら巨大ディスプレイをず~っと見ていた。テストは終わった。

 

 高橋先生による採点も終わったようだ。

 

 「Aクラス、霧島翔子。97点」

 『くっ……』

 『負けたか……』

 疑わしい大化の改新で間違えたのか。ただ、負けたとはまだ決まってない。

 

 「Fクラス、坂本雄二。53点」

 『はっ!?』

 空気が凍りついた。そして、Fクラスの連中の視線は当の本人へ。

 小学生の問題といえども、勉強をしてこなかったやつが点数取るのは難しいんだよ。

 

 「言い訳はしねえ。いかにもこれが俺の全力だ」

 「この阿呆が!!!」

 策略考えさせればAクラスにも劣らないヤツが、いざ自分の点数勝負ってなると弱くなった。

 

 「2勝2敗1分で、五分五分ですが、どうするのでしょう。代表同士は話し合ってください」

 延長戦か。その他の話か。

 

 「………延長戦。人を出して」

 「後2戦だな」

 後1試合で決めたくなかったのは慎重になっているからだろうか。

 

 「………分かった」

 「島田・須川! 頼んだ」

 「全力を尽くすわ!」

 「おうっ。やれるだけな」

 島田と須川ね。須川は何で挑むんだ。

 

 「では、延長戦(6試合目)です」

 「ウチから行くわ」

 「………どうしよう。優子・久保・七島」

 相談される相手として、木下さんと久保と同列に入れるのは嬉しい限りだ。

 

 「代表、vsFクラス戦は七島君に任せた方がいいと思います」

 「元クラスメイトということで、性格とか知り尽くしているだろうからね」

 「………うん。七島、誰を出す?」

 島田ってことは数学だろう。もう理系を出すっきゃないでしょ。

 

 「理系タイプの人」

 「………美穂。大丈夫?」

 「わ、わたしですか?」

 「………学年5位の実績頼りにしてる」

 「分かりました」

 佐藤美穂。ボブカットのメガネっ子。学年5位の成績を持ち、理系が得意だとか。

 

 「科目は数学で」

 「いいでしょう。数学ですね」

 

 『試獣召喚(サモン)!』

 

 島田は欧風の召喚獣だった。武器はサーベル。

 対して佐藤は、中華風の衣装に鎖鎌。

 

 「ウチは数学だけならBクラス並なんだから!」

 島田は召喚獣を直線的に突っ込ませる。

 

 「ふっ……それも所詮はBクラス並なんでしょ」

 一瞬見えなくなって、気づいたときには島田の召喚獣はずたずたにきられていた。

 

 「そんな……」

 「わたしはAクラスに在籍しているんですよ」

 「勝者Aクラス」

 まあ、そうなるよな。圧倒的だもん。

 

 「最終戦を行います。代表者は前へ」

 「須川、先に科目を言え!」

 そういえば、延長戦の科目選択権の話をしていなかった……つくづく抜け目のないやつだ。

 

 「家庭科で!!」

 「………家庭科みたい」

 家庭科か。そういえば、須川は料理を嗜む程度ではないくらい作れるらしい。こりゃ強敵だ。しかし、Aクラスにも家庭科の女王がいるじゃないですか。

 

 「家庭科といったら」

 「憂、行って来なよ」

 「え、わたし?」

 「そうだね。梓ちゃんの言うとおりだ。憂ちゃん最後は有終の美で飾って」

 「………七島からの推薦。憂、任せた」

 霧島代表は特に異論なくオレのそして梓ちゃんの考えに同意してくれた。

 

 「憂ちゃん、ちょっと」

 「何?」

 オレは作戦を一つ授けた。

 

 「では、両者ともに召喚してください」

 『試獣召喚(サモン)!』

 幾何学模様のフィールドに召喚獣が ー

 

 「は?」

 「これでよしっと」

 召喚獣が完全に姿を現す前に、須川の召喚獣は消えていった。

 

 「勝者Aクラス。よって、試召戦争の勝者はAクラス」

 『よっしゃー!!』

 『くっ……』

 憂ちゃんに授けた作戦、奇襲戦法。須川は操作技術が憂ちゃんよりかは段違いにあるはずだから、それをカバーするために先制攻撃という形を取った。当たり所が良かったらしく、一撃で死んだ。

 

 「まさか、両者の召喚獣が完全に見える前に決着つけるとは」

 「これも作戦の1つだ」

 須川が呆然としていたが、これも戦争だ。分かるはずだ。

 

 「………雄二、私の勝ち」

 「ああ、そうだな」

 「………約束」

 「約束? 何のことだ」

 負けたほうは、勝ったほうの言うことを聞くってやつだろ。

 

 「………私が勝った。だから雄二は私の言うことを聞く」

 「何でも言え」

 「………私と付き合って欲しい」

 やっぱりそうか。霧島代表は同性愛者ではないかという噂も流れていたのはオレも知っている。だが、小学生の頃の記憶を思い出してきたオレはその考えをどうにも肯定しようとは思えなかった。あの霧島代表のまなざし。雄二に対する恋心だった。普通の恋なら応援したいと思う。

 

 「やっぱりなお前諦めてなかったのか」

 「………うん。いつまででも雄二のことが好き」

 雄二もうすうすは気づいていたみたいだ。

 

 「拒否権は?」

 「………ない。だから今からデートに行く」

 「おいちょっと待て!!」

 雄二は霧島代表に連れて行かれた。雄二を引きずっていける代表の力持ちにはあきれる。

 

 「さて、Fクラス諸君。お遊びはこれまでだ」

 「あ、西村先生」

 雄二と霧島代表が出て行って空白の時間が流れていたところに、西村先生がやってきた。

 

 「お前らに嬉しい知らせを持ってきた。今日から担任が、福原先生から俺に代わるそうだ」

 『何ぃ~っ!!』

 『地獄だ~!!』

 「お前らはよくやった。だが、努力もせずに楽しようなんてそう世の中は甘くない」

 西村先生の説教がFクラスに向けて始まった。オレたちAクラスは代表がいない今、木下さんが仕切っていた。

 

 「今日は帰りましょう」

 そうしよう。部活行くか。

 

 「ヒロ君、あれでよかったかな?」

 「うん、バッチリだよ。ただ、憂ちゃんの召喚獣を見てみたかったというのもある。梓ちゃんのも」

 「わ、わたしのはいいよ」

 「また、今度の機会ね」

 見せたくないのかな……? そう思いながら、部室に向かった。

 

 





 何か、主人公が嘘つきに?
 こいつも勝てれば何でもいいって感じになってきていますな。

 法を犯さなければいいという考え方?
 かもしれないですかね。

 ここで、1つ言葉を。

 「 ー 武士の嘘を武略という」

 初めを省略しましたが、明智光秀が言ったとされる言葉です。
 主人公の考え方もコレ。戦争なんだから知略を使わないとダメということですね。

 保健体育頂上決定戦。
 イーブンでしたね。
 妥当でしょう。

 大化の改新について……
 今の解釈難しいですよね。
 中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我蝦夷・入鹿父子を滅ぼす「乙巳の変」は645年で、
 中大兄皇子が「改新の詔」を出したのが646年。
 どこからを、大化の改新というのかによって変わりますね。

 延長戦に関しては、本来頭になかったんですけどね……
 とある方の指摘を受けまして、急遽入れました。

 憂の召喚獣見れませんでしたね~
 梓も……
 いつか見れるときがきますよ。
 
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#27 整頓!


 けいおん!!を見ていた人は分かりますかね。

 2期2話の話です。

 ちょびっとイレギュラーなことがあって、それが伏線となるか。

 では、どうぞ!!




 

 「 ー ということで、大掃除をします」

 こうなった経緯は……

 

  『弘志よ』

  『あ、秀吉、久しぶり』

  『うむ。ちょっと用があるんじゃが』

  『何?』

  『以前、軽音部に貸した着ぐるみを返して欲しいのじゃが』

  

 ということがあって着ぐるみを演劇部に返すために物置を探していたら、その物置がゴミ屋敷で整頓をすることになった。

 

 「そこ、あからさまに嫌な顔しない」

 「よ~し今日は気合入れて練習するぞ!!」

 「そうだねりっちゃん!」

 りっちゃんと唯先輩は掃除と聞いて、すぐさま現実逃避を開始した。

 

 「そこまでやりたくないか……」

 「三度の飯より掃除が嫌いだ~!!」

 「意味分からん!!」

 それじゃ、三度の飯も嫌いだってことになるって……

 

 「というか、ここのそうじは音楽室掃除が ー 」

 「こんな私物だらけの部屋をですか」

 「ごもっともです」

 「だらけというか、私物しかありませんよ」

 掃除を始めていた梓ちゃんがこう言った。今の今まで、部室が綺麗な意味が分かったよ。全部物置に詰め込んでいたんだな。

 

 「さて、やりますか」

 「じゃ~片付けよっか~」

 「そうだね~」

 「って、元に戻すな!!」

 ひとまず物置を空にしないと、掃除が進まない……

 

 物置だけでなく、食器棚まで掃除の手が回った。

 

 「この食器っていくらくらいするのかな?」

 唯先輩が、ムギ先輩の私物である食器を手にしながらたずねた。

 

 「値段は分からないけれど、ベルギー王室で使っているものと同じだとか」

 「王室?」

 「危ね~っ!!」

 王室と聞いて、思わず落としてしまいそうだったが、間一髪でりっちゃんが取った。王室か。そんな高価なものを……Aクラスの設備といい、ここの部室の設備といい最高だな。逆にだらけてしまいそうで怖い。

 

 「ある程度は片付いたかな」

 物置を空にして、私物は全て人毎に分類してみた。

 「だが、私たちの私物じゃないものもあるな」

 「昔の軽音部の私物じゃないかしら?」

 古い音楽雑誌や、使えなくなったメトロノーム、ぼろぼろのカポやらが出てきた。

 

 「見てみて~!!」

 「お、高そうなケース!!」

 一番奥にしまっていたらしいハードケースが出てきた。

 

 「おお~!!」

 「結構いいギターですね」

 「あら、こんなところにあったの」

 「先生?」

 さわちゃん先生が現れた。

 

 「これ、先生のですか?」

 「そうよ、昔私が使っていたギター」

 「さわちゃん、私物はみんな持ち帰ることになったので」

 「私は弾く時間内から楽器屋さんにでも売りに行って頂戴」

 若干押し付けられている感じがしないでもないが、この見た目高そうなギターがどのくらいになるか知りたい。

 

 「もしも売れるのなら、他の誰かに使ってもらったほうがこのギターも幸せよ」

 ということで、帰り道そのギターを持って楽器店に行くことになった。

 

 「ちょっとホームセンターに寄らないか?」

 「物置に棚があったら便利ですもんね」

 いつも行っている楽器店の通り道にあるホームセンターに寄ってみた。

 

 「ここがホームセンター!? 一度来てみたかったのよ」

 ムギ先輩が感動していた。この人も竜也と似た感覚なのかもしれない。お金持ちの家育ちだが、庶民の生活を楽しみたいという。

 

 「おい、こら待て!」

 年不相応の少女に戻って、みんなホームセンターではしゃぎだした。

 

 「ったく……」

 「澪ちゃんは行かなくて良いの?」

 「わたしはいいよ。ヒロも行かなくて良いのか?」

 「昔から何故かしらホームセンターには行きなれているからね」

 親と出かけるときとかに暇つぶしに寄ったりとか。

 

 「わたしたちは棚を探そう」

 「うん」

 ほかの4人はそれぞれ自分の興味あるところに行ったが、オレと澪ちゃんは物置に置く棚を探しに行った。

 

 「これでいいんじゃないか?」

 「うん。ちょうどいいサイズだし」

 「明日の放課後学校に届けてもらうようにしよう」

 「そうだね」

 部費で購入。配達はお店の人にやってもらうことになった。

 

 「ムギ、買いすぎだろ!」

 「面白そうなのがたくさんあったから~」

 りっちゃんとムギ先輩がやってきた。

 

 「唯と梓は?」

 「どこだろうね」

 「そろそろ来るんじゃないの?」

 ほどなくして、2人が来て楽器店に向かうことになった。

 

 「 ー それでは査定させていただきます」

 「お願いします」

 ギターを店の人に預け、オレたちは店の中をうろつくことにした。

 

 10数分後、「査定お待ちのお客様 ー 」という声が聞こえてきたので、レジへと向かった。

 

 「こちらのギターなんですが、48万円で買い取らせていただきます」

 『はっ?』

 庶民の感覚じゃ味わえないような単位が出てきたのは気のせいでしょうか。

 

 「な、何て?」

 「えっ? 48万円で買い取らせていただきます」

 聞き間違いではなかった。

 

 「ありがとうございます」

 「躊躇なさすぎだ!」

 やはり、お嬢様なムギ先輩だ。

 何故、そこまで値が張るのかを尋ねてみた。

 

 「このモデルは1960年代に生まれたギターでして、フィンガーボードにハカランダという ー 」

 何言ってるんだろう……さっぱり理解できないや。周りの人を見てみても、何とか梓ちゃんが理解出来そうかなという感じで他の4人は???だった。

 

 「と、とにかく貴重なギターということです!」

 しばらく、目が点になっていた。

 

 「ありがとうございました~」

 48万円を受け取り、店から出て行く。何て凄いギターだったんだ……

 

   ★

 

 「あ、あのギターは!?」

 オレ竜也は、学校帰りに明久や雄二・康太と共に楽器店に来ていた。そこで、今まで楽器店では見たことのないようなギターをみつけた。それもまだ展示されておらず、カウンターの上に。さっきまで査定していた雰囲気だった。

 

 「すいません!」

 「どうしたんだよ竜也……」

 オレがカウンターに向かうと他の3人も着いてきた。

 

 「いらっしゃいませ。どうなさいましたか?」

 「このギターいくらですか?」

 「え、ええっと……まだ値段は決めてませんが……」

 「50万円くらいでしょうか」

 「そうですね」

 是非とも欲しい! 家出する前だったら購入できたが……

 

 「分割払いOKですか?」

 「可能です」

 「買います!」

 『即決!?』

 こいつはめったにお目にかかることが出来ないぜ。しかも年代物にしては保存状態が良すぎる。未だに一線で活躍できるギターだ。

 

 「さきほど、同じ制服の子達が売りに来たんですけどね」

 「えっ!?」

 「まさか、ヒロたちじゃない?」

 「女の子5人に、男の子1人でした」

 若葉学園軽音部に間違いないだろう。オレに何で相談してくれなかった。

 

 「欲しいです」

 「分かりました」

 「10ヶ月分割で」

 「一月5万!?」

 バイトを必死にすりゃ大丈夫。オレは軽くメンテナンスをしてもらった後、商品を受け取った。幸せだ。

 

 「そんなにそのギター高いんだ」

 「50万円なんて額聞いたことないぞ」

 「………軽音部、うらやましい」

 「そうか、やつらそれより少し安い額を手に入れてるんだろ?」

 「どのみち、山中先生の手に渡るさ。これは山中先生のだろう」

 とはいえ、もっと年代が上のギターだけど。

 

   ★

 

 「でも、本当にこれわたしたちだけでもらっていいんですか?」

 梓ちゃんがりっちゃんに問う。

 

 「ほれ、6人で割っても1人当たり8万」

 「わたし欲しいエフェクターあったんですよね~」

 梓ちゃんまでがお金の誘惑に!?

 

 「り、りっちゃん……一応さわちゃん先生にも話を通さないと」

 「大丈夫だって!」

 「8万もあれば、いいエフェクターが……」

 『ふっふっふ……』

 みんな!? ムギ先輩だけはいつもどおりだけど、他の4人がブラックだ!

 

 「へ~あのギター48万円もしたんだ~」

 『えっ?』

 「さ、さわちゃん先生!?」

 帰り道、車が横に着いたと思ったら、さわちゃん先生の運転だった。

 

 「渡しなさい。査定書とお金」

 「りっちゃん……残念だけど、仕方ないよ。そのお金からいろいろ買ってもらおう」

 「くぅ……わたしの夢が」

 「楽器の新調とかだったらしてあげるけど、個々の欲望には使わせません」

 あれ、こんなに落胆した4人の姿初めて見た。りっちゃんしぶしぶ渡す。

 

 「ぶーぶー!」 

 「仕方ないわね。1つだけ何か買ってもいいわよ」

 「1つだけか~」

 「みんなで1つだからね」

 それだけ言うと、さわちゃん先生は去っていった。

 

 「何にしようか」

 「それぞれ一晩考えてこようぜ!」

 「そうだな」 

 「明日、物置に棚を置いた後、決めよう」

 ということで、今日は解散となった。

 

 次の日、オレと梓ちゃんが用があって遅れて部室に行くと、今まではなかったものが増えていた。

 

 『何ですかコレ?』

 水槽があって、その中に亀が泳いでいた。

 

 「新入部員のトンちゃんだよ!」

 『はあっ?』

 「先生に頼んで買ってもらったの」

 ってことはまさか、1つだけ買ってもらうってやつ、この亀に?

 

 「2人の後輩だよ。よろしくね」

 『へ~……』

 空気がちょっとばかしおかしくなった。

 

 「梓がこのカメ好きだって言ったの唯だぞ」

 「だって、欲しそうにずっと見てたんだよ」

 「ずっと見ていたのは唯先輩でしょ。わたしはただ変な顔だなって見ていただけです」

 『へっ?』

 でも、なんで急に……?

 

 「2人とも、後輩が居なくてさびしいかなって思って」

 梓ちゃんはそれを聞くと、水槽のほうへ歩いていった。

 

 「こんなに早とちりで飼われたら迷惑だよね」

 うんってトンちゃんがうなずいた。なんと賢いカメなんだ。

 

 「これからはわたしがお世話するからね」

 「オレも、生き物を飼ったことないけど出来る限りは」

 「わたしもするもん!」

 「唯先輩には無理でしょ」

 軽音部。後輩が増えた。どんどん賑やかになるね。

 

 





 アニメとはちょっと変えてみました。

 あの展開になったら、主人公の立場がなくなるなと思いまして。

 トンちゃんはやっぱり登場させないとですね。

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#28 映画!


 映画ってあんまり見に行かないんですけど……

 毎年絶対見に行く映画が。

 多分読者の皆様今話を読めば、作者が何の映画を見たか分かります。

 では、どうぞ!!




 

 「お~いヒロ~」

 土曜日、軽音部は学校に来て練習をしていた。その最中、竜也がやってきた。

 

 「どうしたんだ?」

 「あ、いや……邪魔して悪かった」

 「大丈夫だ。何か用があったんだろう?」

 「まあな。練習が終わってからでいい」

 そういうのならいいけど……

 

 「お前、練習終わるまでどこいるんだ?」

 「そこの兄さんや、せっかくだから見学していかないかね」

 「いいんですか?」

 「いいともいいとも」

 りっちゃんがおかしなキャラになるときは基本、何か企んでいるとき。

 

 「君~軽音部に入ろうとは思わないのかね?」

 「バイトが忙しいので」

 「そうか~それは残念」

 前に見ただろ……

 

 「さ~て、今日は帰りにどっか寄っていくか~」

 「あ、わたしは今日ちょっと……」

 「何かあるの? 梓」

 「はい、この後に ー 」「ヒロ~この後 ー 」

 『映画に ー ってえ?』

 見事にハモったな。しかし珍しいなこの組み合わせ。梓ちゃんに竜也か。

 

 「2人とも映画に行く予定だったんだ!」

 「は、はい。わたしは憂と ー 」

 「オレはヒロを誘っていこうかななんて思ってたり ー 」

 「映画か。そろそろ見に行ってもいいだろう」

 「どういう意味?」

 オレが見たい映画は10日前から始まってるんだけど、余りの人気に最初のほうは満員で入れないから、ちょうどこの時期がいいんだよね~。

 

 「よ~っし、行こう!」

 「オー!!」

 土曜日の昼、部活が終わってみんなで映画館に行くことになった。梓ちゃんは駅前で憂ちゃんと待ち合わせしていたらしかった、確かに駅前には憂ちゃんが居た。

 

 「梓ちゃ~ん」

 「憂~こっちこっち~」

 「あ、お姉ちゃん! それにみなさんも。こんにちは~」

 「こんにちは~」

 憂ちゃん、合流! そのまま映画館に8人で歩いていくことになった。その間中、学年ごとのほうが話しやすいのか、自然とオレ・梓ちゃん・憂ちゃん・竜也の4人で話していた。

 

   ★

 

 「なあなあ、ちょっとわたしらはさ~ここで帰らない?」

 「どうしてりっちゃん!?」

 「あの4人の雰囲気を見てみろ」

 「ダブルデートみたい」 

 「あたりだムギ!」

 律とムギがこんなことを言っていたが、あの4人がダブルデート? 普段からヒロと梓は仲良いし、他の2人も仲よさそうだし ー 。

 

 「分かったよりっちゃん。影から見守ろう!」

 「そういうことだ」

 「お、お前ら ー 」

 「そうだね」

 ムギもやる気だよ。わたしは観たい映画も無かったし、このままあの4人を見てみるのも悪くは無いと思って、律たちの言うとおりにした。

 

   ★

 

 「 ー 用事を思い出した?」

 「そうなんだ、ゴメンな。4人で見てきてくれ」

 「感想よろしくね!!」

 「あ、はい……」

 映画館に着きそうになったときにりっちゃんたちがこう言って来た。用事があるなら仕方ないか。すぐに見えなくなった。

 

 「残念だね」

 「そうだな」

 「そういえば、ヒロ君たちは何見るの?」

 「名探偵ドイルの船上の探偵だよ!」

 10数年続く、このシリーズ。映画は毎年作られているけど面白いんだこれが。

 

 「わ~奇遇だね」

 「わたしたちも一緒の見るんだ」

 「ホント? そりゃすごい」

 「一緒に見よう!」

 竜也? やけに嬉しそうじゃないか。何でだろう……

 

  『隊長! どうやら同じ映画を見るらしいです!』

  『それは運命だ。じっくり観察するように』

  『了解です。りっちゃん隊長』

 

 後ろから妙な視線を感じるような気がしたが、構わず映画館に入った。

 目の前には、見慣れた男1名とその両側に女が2名いた。

 

 「明久君、この映画が見たいです!」

 「アキ、ウチも!」

 「そう……それなら2人で見てきて」

 アキと、島田と姫路さんだった。

 そして、その後、また見慣れた男女がやってきた。

 

 「明久、諦めろ。男とは無力だ」

 雄二と霧島代表だった。普通ならば、いい男と綺麗な女のいいカップルなんだが……雄二の両手には手枷がつけられていた。

 

 「雄二、コレを見る」

 「待てそれ3時間24分あるじゃねえか!」

 「2回見る」

 「1日の授業より長いじゃないか!」

 「いつも雄二と一緒に居られない、う・め・あ・わ・せ」

 「俺は帰る」

 「帰させない」

 霧島代表はどこからともなくスタンガンを取り出し雄二を気絶させ、学生2枚分のチケットを購入し劇場に入っていった。これらの出来事が一瞬で行われたため、突っ込む暇さえなかった。霧島代表への不信感が募った。本当に雄二のことが好きなのだろうか。

 

 「仲のいいカップルですね~」

 「憧れるよね~」

 島田と姫路さんがこう言っているのが聞こえた。こいつらの価値観って一体……?

 

 「ね、ねえ3人に聞くけど」 

 「ああ」

 「オレって常識間違ってる?」

 「多分、あちらが異常なだけだと思う」

 梓ちゃんがやさしく言ってくれた。そうだよな。

 

 「あれ、ヒロじゃない? それに竜也も」

 「ようっ」

 「どうしたのこんなところで」

 「映画を見に来たんだ。お前は?」

 アキはさっとコチラへ近づいて、理由を言った。なるほど。雄二がデートするということを聞いて、島田と姫路さんがそれに便乗した感じだな。確実に2人ともアキのことが好きなんだろうな。

 

 「今月の食費が……」

 「ゲームの買いすぎだ。自業自得」 

 「ヒロ~行くぞ~」

 「待て。今行く。じゃ、そういうことで」

 オレたちも劇場へ入っていった。

 

 

 「いや~面白かったな~」

 「ホントに。な、なあヒロ」 

 「何だ? 今からラ・ペディス行かないか?」

 「いいけど。今日バイト休みじゃないのか?」

 「そうだけど、行きたくなったんだ」

 普通、バイトしている店って普段からあんまり行きたがらないって聞くけど、あれはどうなんだろう。

 

 「分かった。あそこは美味しいデザートが一杯待ってるからな~梓ちゃんと憂ちゃんも来るよね」

 「え? わたしは別にいいけど」

 「わたしもまだ時間あるし」

 「っしゃ!」

 「何か言った竜也?」

 「何でもない。そうと決まれば行こう」

 駅前の喫茶店「ラ・ペディス」に行くと、相変わらずお客さんが多かった。

 

 「へ~こんなところがあったんだ~」

 「憂は初めてだっけ?」

 「そうだよ。梓ちゃんはあるの?」

 「軽音部のみんなと、ヒロ君の案内で」

 「へ~ヒロ君こんな店知ってたんだ~」

 「甘い物好きだからね」

 それに、少しばかりの竜也のためとでも思っている。

 

 「わ~美味しそう!」

 メニューを見ながら、憂ちゃんがつぶやく。

 

 「何食べる?」

 「そうだな~オレはやっぱり抹茶パフェで。2人はどうする?」

 「バナナクレープにしよう」

 「わたしは~このストロベリークレープにしようかな」

 「かしこまりました。抹茶パフェ1つ・バナナクレープ1つ・ストロベリークレープ1つですね。少々お待ちください」

 竜也? バイトモード?

 竜也は裏に消えていった。

 

 「どうしちゃったの?」

 「竜也はここでバイトしているんだ」

 「へ~そうなんだ~」

 もともと持っていた料理センスにさらに磨きがかかっているし……オレとは正反対の男だ。

 

  『いらっしゃいませ~』

 

 いろいろ話している途中、入り口からアキが入ってくるのが見えた。隣には島田と姫路さん。やつらも映画の帰りか。ちょびっとしてから ー 。

 

 「お待たせしました~ストロベリークレープです」

 「うわ~美味しそう。これ竜也君が作ったの?」

 「はいっ! 毎日料理を作っている憂ちゃんの口に合うか分からないけど……」

 2人の初対面は、竜也が転校してきたときに案内役としてついてくれたのが憂ちゃんだったっけ? その頃には既に下の名前で呼び合っていたとか。流石は竜也。いい雰囲気だ。だが……

 

 「おい、早くオレたちにも商品を渡せ」

 「あ、忘れてた。抹茶パフェです」

 オレたちを忘れてもらっちゃ困る。

 

 「バナナクレープです」

 「どうも」

 竜也は全部配ると、席に着いた、みんなが食べる様子を観察していた。

 

 「美味しい~」

 「よかった! そういってもらえて嬉しいよ」

 「料理上手だよ」

 「ありがとう」

 2人とも料理の経験値がものすごく高いからレベル高い会話になるだろうなあ。

 

 「そういえば、憂ちゃん一騎討ちの時、凄かったよ。須川を瞬殺だもん」

 「いや~竜也君があんなに音楽に優れているとは思ってなかったよ」

 「ははっ。オレは料理と音楽だけなら人に負けない自信あるからね」

 「そうなんだ~」

 瞬殺出来るくらいの戦力差だったということは、奇襲しなくても別に良かったかもしれない。と今思った。

 

 「2人とも仲良しだね」

 「そうだな」

 「いい雰囲気じゃない」

 「応援してあげよう」

 「そうだね」

 竜也って、見た目ちゃらちゃらしてるけど、今まで女性と付き合ったこと無いらしい。何でも、コクられることがあっても全て断ってるとか。そういう竜也が憂ちゃんに? 結構お似合いだし。

 

  『りっちゃん隊長!』

  『うむ。2人2人いい雰囲気だな』

  『いいなあ~4人とも』

  『な、なあ3人ともやめにしないか?』

 

 「いけません、お姉さま~!!」

 梓ちゃん ー じゃない、似た声の人が確かココでバイトしているんだった。その子が大声を上げてフォークを投げていた。

 

 「み、美春?どうしてここへ?」

 「お姉さま、お待ちしていました~」

 美春と呼ばれた子は、アキと姫路と食べていた島田めがけて突進していた。島田の妹なのかな?

 

 「ヒロ、勘違いしてるかもしれないから言っておくが、断じて美春は島田の妹じゃないからな」

 「えっ? 何でオレがそれを考えているって?」

 「顔に出てた。やつは清水美春。若葉学園Dクラスに所属している。島田の事を同性としてじゃなくて本当に好きらしい」

 「っ……そうなんだ」

 趣味は人それぞれ。人それぞれ。

 ちょびっと竜也と話している隙に、4人の姿は見えなくなっていた。

 

 「あの子、梓ちゃんに声がそっくりだね~」

 「もう、それいいよ。何回目だろう……」

 「まあまあ」

 しばらく、喫茶店で時間をつぶして各自家に帰った。

 





 名探偵ドイルの船上の探偵→パチもんくさすぎますね(笑)

 さてと……
 地道にフラグを立てていってます。

 このフラグ、誰にも邪魔できない!?
 さて、どうなる!?

 コメント・感想・評価、
 お願いします♪

 後、GW中はちょっと家族で遠出するので更新が出来ません。
 ご了承ください。
 今まで続いてきた毎日更新が途切れるのが残念でたまりません。
 4日に再開するつもりですので、よろしくお願いします♪


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#29 料理人!

 
 お久しぶりです。

 いよいよ、アンチ系が本格化?

 そこまで酷いアンチじゃないですけどね。

 では、どうぞ!!




 

 「あれ、アキなんでお前学校に来ているんだ?」

 オレがこういうのは、今日は日曜日だから学校は休みのはずっていう考えからだ。

 

 「Fクラスは補習なんだよ……そういうヒロは?」

 「部活。自主練しとこと思って」

 「そうか~」

 アキはFクラスの教室に、オレは部室に向かった。

昨日の結末を聞くのはアキのためにやめておこう。

 

 「でもな~」

 部室に着くなり、オレは考えた。

 

 「1人で部活ってのもな~」

 そう、今日は本来休み。誰も来ないのだ。トンちゃんにえさをやるくらいしかやることない。

 ひととおり練習したら、つまらなくなってきたため、2-Aの教室に行くことにした。

 

 「あれ、七島君、君も自習かい?」

 「久保か。お前は自習なんだ」

 「ああ。僕は毎日休日でも学校に来て自習さ。Aクラスの半分の人もそうみたいだ」

 久保に言われてAクラスの教室を見渡してみると、確かに勉強しているクラスメイトの姿が。

 

 「ふ~ん……Aクラスの教室にいてもな~」

 「何しに来たんだい?」

 「もともとは部活の自主練なんだが、誰も居なくてつまらねえと思ってたんだ」

 「それでAクラスの教室に」

 しかし、ここにいてもつまらなさそうだ。学校内ふらつくか。

 

 「お前は……七島?」

 ん? ふらついていると廊下で後ろから話しかけられた。

 

 「根本? こんな日に学校来るなんて意外だな」

 「そっちこそ。お前は部活か?」

 「ああ。お前は何してんだ。部活には入って無さそうだし」

 「自学だ」

 へ~根本って真面目なヤツなんだ……

 

 「そういやさ、お前と1回話したかったんだよ」

 「俺と? いいけど、何を話すんだ」

 俺は人目につかないようなところを選ぶ。屋上に決めた。

 

 「何の用だ。バカの噂と評判高かったが、実は演技だった七島よ」

 「いや……お前の噂のことだ」

 「ふん。そんなものに興味があるのか。“卑怯者”だろ?」

 「ああ。その通りだ」 

 噂では、卑怯者と名高いヤツ。しかし噂に過ぎん。一度オレの自分の目で確かめときたかった。

 

 「噂も何も真実だろ」

 「本当にそうか?」

 「な、何でそう思う?」

 「いや……お前は進んで“卑怯者”の汚名を着ている気がする。本当だったら普通は否定するはずだ。それが卑怯者本人だったらなおさら」

 大体、卑怯者という噂はカンニングした ー とか、窃盗した ー とか、若葉学園のセキュリティじゃありえないようなことだったから。

 

 「ほう………勉強だけが出来るって訳じゃないみたいだ」

 「当然だ。むしろそういうほうが分かりやすい」

 「なるほど。だが、俺は卑怯者だ」

 「お前が自分自身でそう言い張るならいいだろう。それ以上突っ込んで聞く気にもなれん」

 何かを隠しているような気がするが、証拠がない今手は出せない。

 

 「話はそれだけか」

 「ああ。お前はずっと卑怯者の汚名を着るんだな」

 「もちろんさ」

 「そうか」

 こいつが変わることが出来たら、いいやつなんだろうけどな。雄二みたいなやつだ。雄二は変わった。だから、お前も変わることが出来るはずだ。そう心に秘めながら黙っていた。あの女装のことは忘れよう。そしていつの間にか、根本は屋上から姿を消していた。

 

 『 ー ここなら誰にも邪魔されずにお弁当を食べることが出来ますね』

 『そうだね……』

 誰か屋上にやってきた。男女2人組のようだ。出るにも出られなくなった。邪魔しちゃ悪いから隠れておこう ー って、アキ!? 隣に居るのは姫路さんか。何で2人が一緒に……同じクラスだから? もしくは既に付き合ってるから!? そんなことを考えていたら、姫路さんは屋上から出て行き、代わりに雄二と秀吉・康太と竜也が現れた。

 そして、姫路さんが作ってきたと思われる弁当を、それぞれ勝手に食べ始めた。

 

 「あ、4人とも勝手に!」

 「いいじゃねえか1つくらい」

 それだけ言うと、雄二は突っ伏した。それに習うかのように他の3人とも突っ伏した。

 

 「ど、どうしよう! 何で……? まさかこのお弁当が?」

 アキがにおいを嗅いでみると、横に倒れた。

 思わず居ても立ってもいられなくなって、倒れた5体の元へ駆け寄った。

 

 「お前ら、何があったんだ」

 オレが呼びかけるとアキだけ反応があった。

 

 「あ、ヒロ……何でここに」

 「そんなのはどうでもいいから、何が」

 「姫路さんのお弁当なんだけど……」

 目の当たりにしたとはいえ、未だに信じられん。睡眠薬でも入れてきたのか?

 

 「明久よ」

 「秀吉?」

 喋れるということは、睡眠薬じゃないようだ。じゃあ、何だ?

 

 「皿を取ってくれまいか? 毒を食らわば皿までじゃ」

 「秀吉!?」

 「まずいぞ。顔色が悪すぎる。ちょっと人呼んでくる!」

 「ひ、ヒロ!?」

 オレは屋上を飛び出して保健室に向かった。

 

 「くそっ……やっぱり、開いてないか!」

 日曜だもんな……職員室にも行ったが、誰も居なかった。こうなったら、作った本人に聞くしかない。

 

 「ここにいるか!?」

 2-Fの教室を思いっきり開けて姫路さんがいるか確かめるも居なかった。一言謝りをいれてドアを閉めた。

 

 「こうなったら……」

 「廊下を走ると危ないわよ」

 「ヒロ君、そんなに急いでどうしたの?」

 「木下さん? 憂ちゃん!」

 さっきは姿が見えなかったけど、この2人も自習に来ていたんだ。ちょうどいい。ちょうどいいって言ったら失礼だけど、この2人なら何かしらのことが分かるだろう。

 

 「ゴメンけど、ちょっと2人とも着いてきてくれない!?」

 「いいよ!」

 「憂……」

 「えへへ~だって暇でしょ」

 2人とも快く承諾してくれて屋上についてきてくれた。

 

 屋上には未だに5体の人間が倒れていた。

 

 「な、何よコレ!?」

 「どうしちゃったの?」

 「3人さん、どうしたんですか?」

 倒れている人間に驚いていると、後ろから姫路さんがやってきた。

 

 「あれ? 吉井君たちは寝てしまったみたいですね」

 い、いや寝てるっていうことじゃないと思うんだが……

 

 「ひ、姫路……俺にもウーロン茶を」

 「分かりました。買って来ますね」

 屋上から再び姫路さんが姿を消した。

 

 「弘志……」 

 「雄二、大丈夫か!!」

 「秀吉も大丈夫なの!?」

 「みなさん、しっかりしてください!」

 オレと木下さんと憂ちゃんは、懸命に介抱する。

 

 「何があった!?」

 「姫路の弁当だ」

 「本人は味見していないから気づいていないだろうが」

 「あれは食べ物じゃない」

 それだけ言うと、雄二たちは再び力なく倒れた。

 オレたち3人は未だに少しだけ残っている弁当を見つめた。

 

 「これが、5人をここまでしたのね」

 「救急車呼ぶ?」

 「アキがそこまでしなくてもいいって言ってたが、心配だ」

 まさかとは思うが、姫路さんに気を使って、こんな弁当だったって言わないつもりじゃ。

 

 「緑茶を買いに行きましょう」

 「そうだね優子ちゃん」

 「了解!」

 オレたちは殺菌作用があると言われている緑茶を買ってくることにした。本人達は救急車を呼ぶことは好ましくないと。だから、仕方なくオレたちが応急手当することにした。

 

 「わたしと優子ちゃんは熱い緑茶を淹れるから、ヒロ君は下の自動販売機で冷たい緑茶を」

 「分かった」

 2人は何でも揃っているAクラスに向かい、オレは急いでしたの自販機へ向かった。

 

 「1人1本で足るかな」

 持つ量にも限界があるから、500mlのペットボトル緑茶を買ってAクラスへ行った。すると、準備完了して屋上に向かっている途中の2人を見つけた。

 

 「って、あれ? 工藤さん?」

 「やっほー……何か大変なことになってるみたいだね」

 「そうなんだけど……何故ココに?」

 「部活帰りに教室寄ったら2人の様子が険しかったからね」

 事情はある程度聞いたらしく、手伝ってくれるとのこと。オレら4人で屋上に向かった。

 

 「あれ、みんなそんなに急いでどうしたの?」

 「梓ちゃん!」

 「説明している暇はないんだ」

 「え?」

 オレたちの様子があまりにも凄かったから、結局梓ちゃんもついてきていた。

 

 「何があったの?」

 「それがかくかくしかじかで ー 」

 「憂、唯先輩に似てきた? 嘘っぽいよ」

 「嘘じゃないよ、梓ちゃん、大真面目な話なんだ」

 事情を話してこちらも手伝ってくれることになった。梓ちゃんが何で学校に来ているかは聞いていない。

 

 「急がなきゃ」

 屋上についてみると、姫路さんの姿はなし。相変わらず倒れている5人だけだった。

 

 「本当に倒れている……」

 「あ、何か紙が置いてあるよ」

 「ん?」

 姫路の直筆と思われる置手紙だった。

 

  『みなさん、起きたら午後の補習に来てくださいね。待ってます。姫路瑞希』

 

 と。本当に寝ていると勘違いしているのか!!

 

 「どうみても寝ているとは思えない顔色の悪さだね」

 「だよね。まずは冷たい緑茶で応急処置!」

 オレは1人1本緑茶を配って、それぞれに飲ませた。

 

 「ぷふぁ~生き返る~」

 「助かったぞ……」

 「姉上、弘志、他の皆もありがとうなのじゃ」

 「………緑茶が美味しい」

 「臨死体験をしたの初めてだ」

 しばらく飲ませていると、5人が復活した。本当によかった。こちらの5人も安堵の表情を浮かべる。

 

 「まさかAクラスの連中に助けてもらえるとはな」

 「人を助けるのに、クラスは関係ないでしょ」

 「そ、そうだな……」

 「流石は姉上じゃのう」

 しかし、食べ物一つで臨死体験って味わえるのか。

 

 「そう思うのなら、一度食べてみるがいい」

 「論より証拠だ」

 そんな恐ろしいことが出来るか。目の前で臨死体験したって言うやつがいるのに。

 

 「何があったのかしら……」

 「確実に姫路の弁当がもたらしたんだが……」

 「姫路さんに直接言うのも悪い気がするし」

 「そうじゃのう。あんなに嬉々とした表情を浮かべられてはのう」

 それを見るためにお前らは臨死体験をするのか。

 

 「一度言っておかないと、今後も同じ体験するだろう」

 「でもね……悲しい思いをさせるくらいなら……」

 「確かに」

 『何を言ってるの!?』

 オレがあきれて言葉を言うタイミングを逃していると、他の4人がいっせいに詰め寄った。

 

 「姉上?」

 「自分の体のほうがよっぽど重要に決まってるでしょうが!」

 「愛子ちゃん?」

 「そうだよ。もしコレで明久君たちが死んだら、そっちのほうが悲しむに決まってるじゃない」

 『2人の言うとおりだよ』

 それでもアキたちの口からいえないようだったら、オレが代わりにお前らの分まで恨みを買ってやるさ。

 

 「補習が終わったら、Aクラスに来てもらえるようにいってもらえるかしら?」

 「姫路さんにね、弁当預かってるからって」

 「お前たちは補習だろ。さっさと行って来い」

 『分かったよ』

 5人は、緑茶を数杯飲んだ後、Fクラスへと戻っていった。そして、屋上に取り残されたAクラスの5人。

 

 「でも、料理を作るだけであそこまでなるかな?」

 「素人が作ったらなるんじゃないの?」

 「多分ならないよ。みんな作ったことあるでしょ」

 憂ちゃんがそういうと、みんなあさっての方向を向いた。

 

 「あ……料理作らないんだっけ」

 「そっか。憂は家事ほとんどしてるもんね」

 「そうだよ。でも、食材の組み合わせが悪いとかでもあそこまではならないはずなんだけど」

 「憂、何も考えない。先入観がよくないよ。本人に聞くのが一番」

 「そうだね、優子ちゃん」

 オレたちは、弁当を片付けたり、毒消しに使った緑茶のペットボトルを捨てたりしたあとに、Aクラスへと戻った。

 

 「そういえば、梓ちゃんはどうして学校へ?」

 「部室に行って練習してたんだけど、ちょっと暇になって……ヒロ君のバックがあったからどっかにいるのかな~って思ってたらちょうど ー 」

 「あの現場に遭遇したわけか」

 「そ」

 いつ姫路さんが来ても良い様に、オレと梓ちゃんは部室から自分のバックを持ってきてAクラスにいた。

 

 「みんな自習してるね~」

 「流石はAクラスだよ」

 「騒ぐのは悪いから、オレも勉強するかな」

 「わたしも……」

 Aクラスに帰ってみると久保がいないな~なんて思ってたりしていた。しばらく勉強していると……

 

 「すいませ~ん」

 姫路さんが1人でやってきた。おかしいな……あいつらの性格上、ついてくると思ったんだけど。

 

 「姫路さん、こっちこっち」

 と、談合室みたいな場所に案内する。と同時に、さっきの5人組が集結した。一度関わった出来事、最後まで謎は知りたいからね。

 

 「姫路さん、アキたちは?」

 「明久君はクラスメイト達に追い掛け回されていましたよ」

 オレはこのときまだ何も知らなかった。Fクラスに妙な組織が出来上がっていたということを。

 

 「他は?」

 「帰りました」

 「そう…」

 ど思わせてどこかに忍んでいるのかな。

 

 「あ、あの弁当箱預かっててもらえたんですよね」

 「そうそう。ハイこれ」

 「ありがとうございます」

 「姫路さん、聞きたいことがあるんだけど?」

 「は、はい。何でしょう?」

 木下さんがちょっと声のトーンを落として姫路さんに話しかけた。

 

 「このお弁当の中身なんだけど」

 「み、見たんですか?」

 「片付けるときにね」

 「わたし普段料理するんだけど……食材、何を使ってるか気になって」

 憂ちゃんが代わりに話を進めてくれた。コッチのほうが自然に聞きだせる。

 

 「え? 食材ですか? 普通にスーパーで売ってるものですけど」

 「調味料は?」

 「普通にスーパーで売ってるものですけど」

 「隠し味は?」

 「秘密です!」

 そこが一番気になる。何をいれてるんだ。

 

 「そこをなんとか」

 「秘密です♪」

 「アキたちが悲しむぞ」

 「どうしてですか?」

 マジで何が原因か分かっていないらしい。

 

 「教えてくれなければ、今後アキたちに料理を食べさせないで欲しい」

 「どうして七島君にそんなことを言われなければならないのですか!」

 「それなら、隠し味教えてくれたっていいだろ? アイツら弁当食べるときの顔 ー 」

 「美味しいって言ってくれてましたから! もういいですよね。失礼します」

 姫路さんは怒って出て行った。逆ギレだよな。怒らせるようなことしてないし……

 

 「ちょ、ちょっと強引に行き過ぎたかなヒロ君」

 「そう? アタシもあのくらいでいいと思ってたけど」

 「姫路さん、警戒して逃げたじゃない」

 「だけど、何が原因か判明したね」 

 「隠し味」

 隠し味って人を傷つけるために生まれたんだっけ。料理を美味しくするために生まれたはずなんだけど。アキたちが素直に美味しくないといえばそれでおしまいだったのに。ったく、余計な気遣いのせいでみんなを傷つけてるじゃないか。

 

 「今後の対策どうする?」

 「マジで死人が出そうだし」

 「一番良いのは、明久君が直接、美味しくないって言うのだろうけどね」

 「せめて隠し味が何か教えてくれたら吉井君たちも対処できるんだろうけど」

 「さりげなく、隠し味に何が入ってるか聞き出してくれたら」

 それが一番だな。あいつらの健康の ー いや、命のためにも。

 

  『戦死者は補習 ー !』

  『いや~やめて!!』

 

 あんな西村先生とアキの声がいつかは日常の一部に加えられ、平和な日になるといいんだけどな。

 

 「はあ……吉井君可愛いな」

 こうやってつぶやきながら入って来た久保……オレの耳が練習のしすぎていかれていたと思うことにした。

 

 





 本来、サブタイトルの前には、「殺人」がつくんでしょうが、それだと内容が一発で分かってしまう上に、ブラックなものはサブタイトルからは排除しました。

 根本の登場にビックリした方もいらっしゃるでしょう。

 どっちでも取れる終わり方にしました。
 根本更正or今までどおり。
 今までどおりのほうが票多いと思いますが、気分でどっちがいいかは決めますわ。

 そして、姫路の料理初登場!
 バカテスの代名詞と化して来ているこの料理。
 登場遅いくらいでしたね。

 さあ、姫路や明久や主人公の思惑が重なるときは来るんでしょうか!?

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#30 オリエンテーリング!


 1期5話のオリエンテーリングの話です。

 ほとんど変わっていますのでお楽しみいただけるかと。

 ここで、オリジナル腕輪が登場いたします!

 誰の手に渡るかは……

 では、どうぞ!!



 

 「何だこれは」 

 PCに1通のメッセージが。宛先は学園長。どうやらAクラスのPC全てに一斉送信しているそうだ。

 

  『若葉学園主催:豪華商品争奪オリエンテーリング大会のお知らせ』

 

 何か面白そうなのが。どんな商品かチェックしようとしたときに、もう1通メッセージが。

 

 「今、みなさんのPCにグループ分けを記録してあるデータを送ったので見てください」

 とのこと。このオリエンテーリング大会は、3人1組らしい。それで、早い者勝ち。商品を持っているやつらと出会って試召戦争になって勝ったら自分のものに出来ると。楽しそうじゃん。

 

 「梓ちゃん、ヒロ君、一緒のチームだね」

 「ホントだ。よろしく」

 「よろしくね2人とも」

 パッとどんなチーム編成か見てみると、基本的に仲のいい人たちで固めてあるらしかった。そういうの見てみると、高橋先生よく生徒のことを見ているなと思う。

 

 「みなさん、商品が隠されている場所は、こちらの紙に書いてある問題を解くと分かります」

 か~Fクラスに不利だね~実力主義ってヤツか。X座標とY座標とZ座標が分からないと場所が指定できないのか。教科はいろいろあるらしいから得意なのからじゃんじゃんしておけということか。

 

 「制限時間まで頑張ってください!」

 スタートした。

 

 「どうしようか」

 「オレは日本史を解くよ」

 「憂は家庭科を解いたら?」

 「そうだね。梓ちゃんは?」 

 「どんな音楽の問題が出てるんだろう」

 一瞬だけ、ここはAクラスではないのではと錯覚してしまった。Aクラスで副教科が最も点数高いっていうのは珍しい。おそらくこの2人と、工藤さん(保健体育)だけだろう。

 

 そういや、どんな商品出てるんだろう。商品一覧を見てみた。

 

 文具セット・特別参考書・文学小説20冊セット・特別教室1日貸出券・1日生徒会長になれる券・学食1年分の食券・学食1年分のデザート食券・西村先生の1週間個別授業引換券・高橋先生の1週間個別授業引換券・遠征もOK練習試合チケット・文月学園3日間合宿OK券・硬式野球ボール30個セット・テニスラケット2本・新作ゲーム・CDアルバム引換券・MP3プレーヤー・喫茶「ラ・ペディス」の2000円無料券・洋服3着分無料引換券・フィーノインアインのストラップ・如月ハイランドパークプレミアムチケット・無料携帯機種変チケット・シークレットアイテム(数不明)

 

 「結構多いね」

 「学校側も金かけてるよ」

 さて、この商品の数々。どっから突っ込もうか。面倒くさいが、突っ込みたいのは突っ込もう。

 まず、1日生徒会長になれるって和さんの許可とったの?

 次、学食1年分無料って大赤字もいいところじゃ……

 西村先生と高橋先生の個別授業って。遠慮願いたいものだ。

 遠征やら合宿やら運動部の特権、しかも野球部以外の生徒がボール30個ももらったって嬉しくないし。

 テニスラケットも同様。後は、結構まともだけど……

 

 「シークレットアイテムって何だろう」

 「気になるな~」

 「数不明って、何を企んでいるのか」

 ともかく、問題を解かないと意味ないか。

 

 しばらく解いて、その回答通りに地図の場所を探ってみる。

 

 「商品無いね~」

 「もう取られちゃったのかも」

 「ちょっとばかし、問題解くのに集中しすぎたか」

 たくさん問題を解きすぎて、時間をロスしてしまった。

 

 「早く行こうよ~」

 「憂、待ってよ!」

 元気だねホントに。何を手に入れるか楽しみだ。

 

 「次はココだね」

 「あ、今度はあったよ」

 「何なに? ハズレ?」

 ハズレもあるのかよ。

 

 「次行こう!」

 「ちょっと待って。そういえばさ、見つけるだけじゃなくて奪い取ればいいじゃない?」

 「そういえばそうか。既に手に入れているようなやつを探そう」

 手当たり次第に歩き回って、手に入れてそうなやつを探す。

 

 「お、アキ。何か見つかったか?」

 アキ・雄二・竜也の3人か。

 

 「うん。そっちは?」

 「何も。今、見つかったといったな」

 「バカ明久! こいつらと戦ったら勝ち目は無いだろ!」

 「しまったぁ!!」

 つくづく思う、バカなんだなあ……

 

 「何を持ってるかによって、諦めてやる」

 「……何も持ってない」

 「嘘ついたな。それならば無理やり奪ってやる」

 「わ、分かった分かった! 如月ハイランドパークプレミアムチケットだよ!」

 ほう……遊園地のチケットか。隠すほどのことかね……

 

 「どうする?」

 「そこまでお宝ってほどじゃないしね~」

 「わたしもそう思うな~」

 いらないって言おうとしたら、雄二がこう叫びだした。 

 

 「明久! それを弘志たちに譲るんだ!」

 「何があったの?」

 「俺たちが持っていたら、誰かにとられるかも知れねえ」

 「そうか。この3人なら取られることは少ないね」

 一気に態度を翻してなんだこいつらは。

 

 「どんな心境の変化だ?」

 「翔子の手に渡るくらいなら、お前たちが使ってくれ」

 「代表の?」

 「ああ」

 それを聞いて、考える。雄二は怖がっているのかこのチケットを使って代表と行くのを。

 

 「なるほど……そこまで言うのなら預かっておこう」

 「助かる!」

 そのチケットをオレたちに渡して、雄二たちは去っていった。

 

 「他のも探そうよ!」

 「そうだね」

 「シークレットアイテムってのが気になるけど……」

 「どこだろう」

 出会う人出会う人、誰も持っていなかった。

 

 「結構学校中どこでも探し回ったけど……」

 「後、探してないの何処だっけ?」

 「部室は?」

 「そっか。音楽室も立派な学校の一つの設備だもんね」

 オレたちは部室こと音楽準備室へ向かった。

 

 「これは!?」

 「怪しげな箱?」

 「昨日こんなの無かったよね」

 「確かに」

 「商品なんじゃない?」

 箱を開けてみる。そこにはシークレットアイテムと書かれた紙が。

 

 「あった!!」

 「よかったね!」 

 「後でじっくり見よう。誰かに見つかるとやばいし」

 「そうだね」

 誰にも見つからない場所。ココは音楽準備室とはいえ、オレたち軽音部の部室。人目につかないような場所くらい知っている。そこに隠して、音楽準備室を出た。

 

 「あ、あなたたちは」

 「げっ……代表に木下さんに工藤さん!?」

 「その反応は何か持ってるみたいだね♪」

 「………3人に模擬試召戦争を挑む」

 「承認します!」

 しっかり先生連れてきているし!! これは誰だっけ……え~っとそう。布施先生だ。化学の先生だから、フィールドは理科!?

 

 『試獣召喚(サモン)!』

 しまった……理科(文系なので生物)は苦手なんだよ。

 

 「仕方ないね」

 「うん」

 『試獣召喚(サモン)!』

 Aクラス同士の対決。

 

 理科 A霧島&A木下&A工藤 vs A七島&A中野&A平沢

      429  380   364       190   291  332

 

 「劣勢もいいところじゃん!!」

 相手は、学年主席・学年4位・学年6位だ。こちらはAクラスでも下のほう。

 

 「七島君、理科が苦手みたいね」

 「くっ……」

 「やっぱり3人とも凄い」

 「胸を借りるつもりで勝負しよう」

 そういって模擬試召戦争が始まる。

 

 霧島代表は武者鎧に日本刀 の召喚獣、木下さんのは西洋鎧とランス の装備、そして工藤さんのはセーラー服に大斧である。

 対するコチラは、オレが申し訳程度の鎧に素手(刀も持てる)、梓ちゃんはネコ耳メイドの格好で武器はギターの形をモチーフとしたステッキ、憂ちゃんは、巫女服に薙刀だった。

 

 この2つのチームの差は何だろう……あっちは見るからに重装備。こちらは本当に戦争なんですかって言う格好。2人とも可愛さ重視のものだった。結構見る機会がなかったから今回が初めて見る。

 

 「梓ちゃんが、教えたくない理由が分かったよ」

 「ううっ……先輩方には内緒だよ!」

 「分かった分かった」

 「2人とも、集中集中!」

 『うん』

 そうは言うものの……速攻で霧島さんが使った腕輪にやられた。強すぎる……

 

 「はい。約束どおり、渡してもらおうか」

 「くっ……」

 すまない、雄二。一番当たってはいけない人物に当たったあげく、みすみす渡してしまうことになりそうだ。

 

 「どうしたの? 持ってないわけ?」

 「はい。これ」

 オレは雄二から預かった如月ハイランドパークプレミアムチケットを霧島代表の手に渡した。

 

 「………見つけた!」

 「ずっとそれ探してたんですか?」

 「………うん。雄二と行く」

 「そう。個人の自由だけど、幸せにしないといけないよ」

 「………もちろん、そのつもり」

 以前の映画の件でいささか不信感を抱いたものの、あれが霧島代表の全てってわけじゃない。こうなったら全力で2人の恋仲を応援するしかない。雄二が幸せになってないようだったら、全力で引き裂きに行く。

 

  キーンコーンカーンコーン

 

 「あ、終わった」

 もうちょっと早く鳴ってくれよ……雄二に恨まれないで済んだのに。

 

 「憂たち久しぶり~」

 影から、昨年までのクラスメイト鈴木純が現れた。

 

 「純ちゃん! 久しぶりだね」

 「純、こんなところで1人で何やってるの?」

 「他の2人のパートナーが勝手な行動をするから……」

 結構Dクラスも大変そうだな。

 

 「因みに聞くけど、その2人って?」

 「清水さんと玉野さんって子、知らないでしょ?」

 残念なことに知っているんだよ。清水さんねえ……大体は予想できる。島田を追っかけたのかな。玉野さんって子はアキの女装姿が大好きだとアキ本人の口から聞いたな。そもそもいつ女装をしたのか気になるが、そういう想像力の持ち主とだけ思っておこう。で、その玉野さんもアキを追っかけたんだろうな。

 

 「しかし、2人の召喚獣えらく可愛かったね~」

 「み、見たの!?」

 「バッチリ♪」

 「誰にもばらさないでね!」

 梓ちゃんはこう言うけど、いつかは知る羽目になると思うよ……

 

 「純はどうなのよ!」

 「見てからのお楽しみだね」

 「ずる~い純ばっかり」

 「まあまあ梓ちゃん」

 話も盛り上がった来たんだが、その様子をずっと見ていた布施先生が、教室に早く帰りなさいと言って来たので、それぞれの教室に帰る。

 

 「あとで、坂本君に謝らないとね」

 「仕方ない……」

 この件を雄二に報告すると。

 

 「お、お前何てことを……」

 「すまない」

 「でもさ雄二。あの霧島さんと遊園地だよ。うらやましい!」 

 「お前に譲る」

 そこまで霧島代表のことが嫌いなのか? ちょっと観察してみないと。

 

 「って、あれ? お前らその腕輪なんだ?」

 「あ、ああこれか。何かシークレットアイテムとかいうやつだ」

 「へ~お前らが手に入れたんだ」

 「そうなんだ。結構優れものだよ」

 「ちょうど3色。明久が白、雄二が黒、そしてオレが黄色」

 説明を聞いてみた。

 

 白金の腕輪(アキ所有)……2体召喚獣召喚可能。キーワードは「二重召喚(ダブル)

 黒金の腕輪(雄二所有)……フィールド(教科ランダム)作成可能。キーワードは「起動(アウェイクン)

 黄金の腕輪(竜也所有)……フィールドの教科を変更することが出来る。キーワードは「教科変更(チェンジ)

 

 「ったく結構いいのばっかじゃんかよ」 

 「だろう? これで次のAクラス戦は勝てる」

 「まだ戦うつもりか」

 「どうだか」

 どこまでが冗談か本気か分からないようなやつだ。それだけ言うと、やつらは帰っていった。

 

 「そういえば、忘れていたけど部室にシークレットアイテム隠してたね」

 「だけど、あの3人のもシークレットアイテムじゃ」

 「数不明って書いてあったからね」

 自分達の鞄を持って、憂ちゃんも一緒に部室に来ることになった。

 

 「あれ、憂?どうしたの?」

 「お姉ちゃん!」

 「実は、今日2年生でオリエンテーリング大会があったんですけど」

 「あ、覚えてるよそれ! わたしたち何も取れなかったんだ」

 去年も同じようにやったんだ。

 

 「それで、誰にもバレないようにってこの部室に隠してたんです」

 「おいおい、それ反則じゃねえか?」

 「ルールには書いてません。それに、もともとこの部屋にありましたから」

 「そうだったの」

 隠していた箱を取り出して、中身を見てみる。

 

 「シークレットアイテム?」

 「みたいですね」

 「そしてこの紙は説明書みたいですね」

 「え~っと何なに?」

 りっちゃんに取られてしまった。

 

 「このシークレットアイテムは1人限りです。だそうだ」

 「1人か~どんなの?」

 「これは“赤金の腕輪”といって、試召戦争時に使える」

 「へ~効果は?」

 「自分の持っている武器をレベルアップすることが出来るだとさ」

 レベルアップ? どういう意味で使われているんだろう。

 

 「それ、ヒロ君にぴったりだね」

 「そうだね。わたしたちは必要ないかも」

 「オレに譲ってくれるの!? ありがとう2人とも!!」

 試召戦争に興味があるオレにとっては嬉しいことだ。

 

 「すげえじゃん。明日教室のPCで詳しいことを調べよう」

 「いいな~ヒロはそういったものが使えて」

 次の日、調べてみた。

 

 赤金の腕輪(弘志所有)……武器レベルアップ。キーワードは「強化(レベルアップ)

 

 オレが使うとどうなるんだろう。

 

 素手→メリケンサック。刀や槍→切れ味が鋭くなる。

 弓→飛距離が伸び、精度が良くなる。鉄砲→散弾銃となり、攻撃力が上がる。

 

 すげえじゃん。腕輪使ってこそ本領発揮ってか?

 これを使う機会が楽しみだ。

 

 




 
 作者の作品を昔から見ていた方は分かると思います。

 黄金の腕輪「教科変更」

 今は無き「バカとオレと彼女たち」の勇樹が持っていた腕輪ですよ。
 オリジナル腕輪を考えるのが面倒で、もう一回使っちゃいました!

 赤金の腕輪のほうは、完全オリジナルですよ。
 
 
 そうそう。
 ようやく、梓と憂の召喚獣が!
 案を出してくださった方々、ありがとうございます。
 おそらく、全員の案がちょびっとずつ入っていると思います!
  
 梓はもうネコ耳メイドからは離れませんでしたね。
 武器を考えるのは苦労しましたが。ステッキ……直接攻撃も出来るが、効果を主にしようかなと検討中です。何かいい効果ありますかね。←はあんまり採用できないかもしれないです。
 憂は、最後の最後まで迷いました。イメージどおりのエプロン姿なのか巫女服姿にするか。
 エプロン姿にすると余りにもかぶりすぎて、憂が暴力働いているように見えてしまうと思い、普段とは違う巫女服姿にしてみました。

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 30話到達。
 1ヶ月経過しました。
 いつもご覧になっている読者の皆様方、ありがとうございます。
 今後とも応援よろしくお願いします!


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#31 バイト!


 バカテス11巻の特装版のドラマCD聴きましたか?

 突然、こんなこと言うのは、

 その内容が原作3.5巻のバイトの話だったからですよ!!

 まあ、今話がその話だからその件を持ってきました。

 結構話かわってますけどね。

 では、どうぞ!!



 オレ、本田竜也は非常に困っていた。

 バイト先である「ラ・ペディス」がつぶれそうなのだ。何でこうなったのか。

 

 「ええっ!? 無期限閉店!?」

 「すまないが、バイトの子たちは ー 」

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

 とある日普通にバイトしていて、営業時間が終わった後、店長と2人きりになったときのことだった。

 

 「妻と娘が逃げたんだよ」

 「知ってるけど ー 」

 「わたしは探しに行く」

 「この店はどうなる!?」 

 自分でもバカな質問をしたと思った。そりゃあさっき、無期限閉店と言ったんだから開くわけがない。

 

 「それなら、店長が帰ってくるまでオレが何とかする!」

 「本当かい?」

 「ここで働き出して1年弱。ここのノウハウは全てたたきこんでるつもりだから」

 「お客様たちにも迷惑かけるかもしれないから本当は閉めたくなかったんだけどね……君がそうしてくれるというのなら、頼んでもいいかね」

 奥さんと娘さんに逃げられて精神はどこにあるんだろうという感じの店長だが……

 

 「しかし、他のバイトの子たちには全て話を通してしまったから、従業員は君1人だよ」

 「緊急で、バイト募集して何とかするさ」

 「頼もしいね」

 「店長には日頃お世話になってる。このくらい当たり前」

 店長は、簡単に荷物をまとめて、店内を飛び出していった。

 さて、今までは入荷やら何まで店長が仕切っていたが、あれをオレがするとは大変だな。

 

 「明日は土日。お客さんも結構来る。今からバイト募集したって間に合わない」

 となると、知り合いにバイトを2日間バイトを要請するしかない。

 

 「ってことは……」

 オレは携帯を取り出し、明久と雄二と康太と秀吉に連絡を取る。今時便利だよな。1人1人に連絡しなくても、SNSでグループ作って、そこにメモっときゃみんな見れるんだから。

 

 オレは、バイトの手伝いをして欲しい旨を書いた。すると、数分後にはみんなからの返信が。全員OKとのことだ。4人か……後1人欲しいかな。誰にしよう。ヒロは部活だろうし。となるとオレが心当たりがあるのは。

 

 「どうしたの竜也君?」

 憂ちゃんだ。先日の映画の時にアドレス交換をしていたんだった。ヒロだけ2人とも知っていて、オレが知らないのは気に食わなかったからな。憂ちゃんと梓ちゃんの分ゲットしていたんだ。

 

 「あ、憂ちゃん? 今ちょっと話いい?」

 「うん、いいけど」

 「頼みごとがあるんだ」

 「何?」

 オレは意味もなく咳をして次の言葉を述べた。

 

 「バイトを手伝って欲しいんだ」

 「急にどうしたの?」

 「実は ー 」

 事情を説明すると、憂ちゃんは快く了承してくれた。

 

 「そういうことだったら、手伝うよ!」

 「ありがとう憂ちゃん! 場所分かるよね?」

 「うん。あの店でしょ」

 「そうだよ。じゃあ朝9:00に来てくれる? 待ってるよ」

 憂ちゃんが助っ人で入ってくれるのは心強い。男ばかりだと……ねえ。

 

 「やつらにも9:00に来いって言っとかなきゃ」

 明久に関しては寝坊するかもしれないから怖いが……信じるしかない。

 

 よしっ。店長が居ない今、この店をつぶしてはならない。オレ頑張るぞ!オー!

 

  ~次の日~

 

 オレは朝早く来て、材料の入荷などをしていた。そうこうしていたら、あっという間に9:00前になっていた。

 

 「はい、もしもし」

 電話が鳴っていたのに気づかず、出るのが遅れたが相手は切らずに待っていてくれた。

 

 「あ、竜也君? もう店の前着いたけど」

 「ホント? でも、そこは開かないから、裏に回ってくれる?」

 「分かった」

 1分くらいすると、裏から入ってきた。私服姿の憂ちゃんだ。制服のときとまた違った感じでいいな~

 

 「おはよう、竜也君」

 「おはよう憂ちゃん、今日はよろしくね」

 「こちらこそ。2人でするの?」

 「いや、一応後4人は呼んでいるんだけど」

 時間ギリギリに来るようなやつらだからな~

 

 「ほら、電話かかってきた」

 8:59に雄二から電話がかかってきた。やつらの人生ギリギリで生きてるな。

 

 「何処から入ればいい?」

 「裏に回ってくれ」

 「了解」

 店の場所はあらかじめメールで伝えておいた。9:00ジャストに4人揃って現れた。

 

 「明久、眠そうだな」

 「うん……雄二に起こされた」

 それまで寝ていたのかよ。のんきなものだ。ただ、勤務中に寝てもらっちゃこまるからしっかりして欲しい。

 

 「む? 憂ではないか」

 「あ、秀吉君。おはよう」

 「おはようなのじゃ。そなたも竜也の手伝いに?」

 「うん。人手が足りないからって」

 「そうじゃったか。そなたがいると安心じゃ」

 秀吉は中学から一緒だって言ってたな。そんなに料理に関して安心できるんだ。

 

 「あ、一騎討ちのときに家庭科で須川君を瞬殺した人だ」

 「ど、どうも……」

 「明久言葉を選べ」

 「あ、ゴメンゴメン……」

 デリカシーというものがないのか。

 

 「んじゃ、早速着替えてもらおう。そこに制服が5着あるはずだ」

 「確かに」

 「そこのウエイトレスの格好のが、憂ちゃんと秀吉」

 「待つのじゃ」

 「そして、男物の左から雄二・明久・康太だ」

 『待った!』

 「ワシはスルーかの?」

 何か問題でも?

 

 「何か問題でもみたいな顔してるが」

 「サイズがどうみてもおかしいだろう」

 「ボケたんだよ。雄二がSで明久がM、康太がエロ ー Lだって」

 「何て的確なボケを!」

 「ワシのに関してはボケを説明してくれぬのか?」

 秀吉。ねえ……男だけど、女物の方が似合うだろうし。

 

 「仕方ない。男物がある」

 「初めからそうしておれ」

 「へいへい」

 「大変だね秀吉君」

 「うむ」

 オレは予備のウエイターの衣装を持ってきた。サイズは秀吉にぴったりだった。

 

 「よし。これで文句ないな」

 「ちょっと待ってくれ」 

 「何だ?」

 「さっきから、店長の姿が見えない上に、お前が仕切っているのはどういうことだ?」

 そっか。こいつらには事情説明してなかったな。説明するのだるいなあ。

 

 「実は ー らしい」

 『そんなことが』 

 憂ちゃんが代わりに話してくれた。わざわざありがとうね……

 

 「ってことだから、さっさと着替えて来い」

 「何処で?」

 「更衣室」

 オレもまだ着替えてなかったので、一緒になって着替えることになった。

 

 「わたしはここでいいのかな?」

 「うん。1人でゴメンけど」

 もともとラ・ペディスには女性が多く働いていたので、女子更衣室は広い。その中に1人って孤独感を感じるかもしれない。それに対して男子更衣室は狭い。中には2人ずつしか入れない。

 

 「じゃ、先に着替えてくるね」

 「………俺も行く」

 「そうか。さっさと着替えろよ」

 オレは時間節約のためドアの前で着替え始める。

 

 「お前何処で着替えてるんだよ……」

 「別にいいだろ。男子なんだからよ」

 「そういう問題か」

 「ほれ着替え終わった」

 「着慣れてるな」

 そりゃそうだ。ほぼ毎日バイトしてるんだから、すぐに着替えるコツくらい分かってる。

 

 「オレは店内で待ってるから」

 「ああ」

 雄二たちに伝えた後、憂ちゃんにもドア越しで話して店内で待っていた。

 先に来たのは、憂ちゃんだった。

 

 「お待たせ~」

 「いやいや ー 」

 オレはその後の言葉をなんとしても紡ぎ出せなかった。絶句したとか言うのか、あっけに取られたというのか……両方とも悪い意味で使いそうなんだが、とにかく可愛いの一言。本当に。

 

 「似合いすぎている!」

 「そ、そうかな? 竜也君も似合ってると思うよ」 

 「ありがとう。まあ第二の制服だからね」

 思わず見とれてしまう。ウエイトレス姿の憂ちゃん。今後コレを見る機会なんて訪れないだろう。カメラを持ってこなかったのは何てミスをしてるんだオレは。

 ほどなくして、雄二たちが現れた。

 

 「しっかし、こんなの似合っているのかね」

 「雄二はいいと思うよ」

 「………お似合い」

 「みな似合ってると思うぞ」

 4人揃ってウエイターの格好で現れた。もともとが4人ともいいから、なかなか様になっている。

 

 「たつ ー ……」

 「どうした明久?」

 「………(ガチャガチャ)」

 「ムッツリーニよ、勝手に写真を撮るのは良くないと思うぞい」

 どうやら、明久と康太は憂ちゃんに見とれてしまったらしい。

 

 「可愛い……」

 「あ、ありがと」

 「島田たちにチクろうかな」

 「いいじゃないか。本能的に思ってしまったんだから」

 「………(コクコク)」

 雄二がなんとも思っていないのはタイプではないとかなのか。秀吉は分かるけど。

 

 「よしっ。いよいよ仕事内容の説明をするか」

 「大きく分けてホールと厨房か?」

 「そうだが、役割分担をしておきたいが……」

 憂ちゃんは厨房確定として、問題は雄二と康太だ。接客なんて出来そうにない。

 

  『待たせたな!』

  雄二に接客させると、お客さんに対して失礼な態度をとる気がする。

 

  『………いちごパフェ』

  そもそも康太だとお客さんとのコミュニケーションが出来ない。

 

 ってことは、2人とも厨房か。厨房って言っても、ドリンク注いだり、盛り付けしたりとかさまざまな仕事があるからいいか。

 

 「憂ちゃん、全部のメニュー覚えられないよね」

 「ちょっと厳しいかな……」

 「オレが厨房に入らなくちゃいけないのは決まってるんだよな」

 「わたしが接客しようか?」

 憂ちゃんが予想外の提案。別に憂ちゃんに料理作らせなくても良いのか。こんなに可愛いんだから、ウエイトレスとして活躍してもらった方がいいかも。

 

 「そうだね。じゃ、憂ちゃんと秀吉と明久でホール(接客)、オレと雄二と康太が厨房だな」

 『分かった!』

 「接客に関しては、普通にすればいいよ。秀吉、演技でしたことあるだろう?」 

 「多少はの。少し練習しておくかの」

 ホールの方は、多分大丈夫だろう。憂ちゃんも秀吉もいるし。明久は心配だけど。

 

 「さて、厨房だが」

 「いきなりここのメニューは作れないぞ」

 「オレが全部作る。ドリンク担当と俺のパシリ担当が1人ずつだな」

 パシリってのは、材料を取ってもらったり盛り付けをしてもらったりとか。結局、ドリンクを雄二が、パシリを康太が担当することになった。開店まで残り30分、一通りの流れを確認しておく。

 

 10:00となっていよいよ開店。流石にすぐにはお客さんは来なかったけど、昼に近くなるにつれてどんどん増えてきた。そんな忙しい時間に、秀吉が困った顔で厨房に現れた。

 

 「どうした秀吉?」

 「替えの制服はあるかの?」

 「何だその汚れは?」

 ウエイターの格好の上半身にコーヒーの跡が。

 

 「明久とぶつかってしもうての……」

 「着替えはあるが……」

 「どうしたのじゃ?」

 「ウエイトレスの格好しかないからよろしく」

 秀吉は珍しく表情を大きく変えたが、その後すぐに元に戻り着替えに行った。

 

 「秀吉のウエイトレス姿。それもなかなかいいじゃないか」

 気を取り直して料理を作り始めた。

 

 「ナポリタン1つ、ぺペロンチーノ1つ、カレー1つです」

 「は~い……憂ちゃん、ホールどんな感じ?」

 注文をとってきた憂ちゃんに問うた。

 

 「お昼時だからどんどんお客さんが増えてるね。もうすぐ満席かな」 

 「そう。やっぱ、作る人の人手が足りないわ」

 「手伝おうか?」

 「ホール大丈夫なの?」

 手伝って欲しいのは山々なんだけど、ホールが手薄にならないかな。

 

 「秀吉君に任せれば。多分対処できるだろうし」

 「それじゃあ、よろしく頼む」

 「竜也、今からホールに戻るのじゃ」

 ウエイトレス格好になった秀吉が戻ってきた。

 

 「あ、いいタイミング。憂ちゃん厨房で手伝ってもらうから、ホールは2人で頼んだ」

 「分かったのじゃ。明久にも言うておく」

 「おう」

 憂ちゃんが厨房に入ってくれたおかげで回転が速くなった。その分、明久と秀吉は大変だろうが。お昼時を過ぎると、徐々にお客さんの入りも減ってきた。

 

 「疲れた~」

 「交代でお昼ご飯を食べてくれ。オレが作る」

 「マジか! 竜也の手作りか」

 「………楽しみ」

 この店は大体、昼時と3時前後(おやつ)にピークを迎える。ちょうどその間の空白時間に自分達の昼食をとるのだ。3:00も過ぎたあたりで、再び客の入りが多くなってきた。昼時と違って、デザート中心だからそんなに作るほうも大変じゃない。どちらかというと盛り付けが大変だ。ということで、憂ちゃんには再びホールに回ってもらうことにした。

 





 こんな話の中途半端なところで切るのは初めてでは……?

 バイトの話を書いたところ通常の2倍くらいの分量になりましたので分割しました。
 残りは明日に♪

 竜也……最初の設定では、結構チャラチャラ風としていたはずなのになあ。
 難しいものですチャラチャラは。

 憂のウエイトレス格好ってどんな感じなんでしょうね。

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#32 大騒動!


 前話の続きです。

 前話と違って、Sideがかわっていますのでご注意を。

 では、どうぞ!!


 

 「今日も、あの店寄るか~!!」

 「それいいね、りっちゃん!」

 「2人ともあの店好きだな」

 「そういう澪ちゃんだってワクワクしているんじゃない?」

 「そ、そんなことないぞ」

 オレたち軽音部は午前中から昼過ぎまで練習していた。オレがみんなに紹介してからというもの、この店に来る回数が増えた。甘いもの好きが多いからだろう。おやつ時にはもってこいのお店だ。

 駅前まで歩いていき、喫茶店「ラ・ペディス」に入る。こんな時間というのに、珍しく誰も客が居なかった。

 

 「いらっしゃいませ~何名様ですか?」

 「6人です ー って、憂ちゃん!?」

 「あ、みなさんこんにちは~」

 「憂~何やってるの?」

 「お姉ちゃん! お手伝いをしてるんだよ」

 憂ちゃんがウエイトレスとして働いていた。しかもめっちゃ似合っているし。

 

 「憂、似合ってるね」

 「ありがと~梓ちゃん。こっちに座って座って」

 「は~い」 

 憂ちゃんに案内されて、オレたち6人は大きめのテーブルにつく。

 

 「ご注文お決まりになりましたら、お呼びください」

 「ねえねえ、憂~急にどうして手伝いなんて……?」

 「う~ん、言ってもいいか分からないからちょっと待ってて」

 そういうと、憂ちゃんは厨房の方に入っていった。その後、すぐに帰って来た。

 

 「軽音部、いらっしゃい!」

 「竜也! そっかお前ここで働いてたもんな」 

 「ああ。みんなは何でここで憂ちゃんが働いているか知りたかったんだよね」

 「そうそう。お前が答えてくれるんだ」

 てっきり、店長とか出てくるのかと思ったら竜也が出てきた。

 

 「実は ー (略) ー で」

 『そうだったんだ~』

 「だから、他にも助っ人として」

 「ヒロ~いらっしゃい」

 「アキ! それに雄二も康太も! そして、ひでよ ー ウエイトレス?」

 「突っ込まないでくれなのじゃ」

 竜也がすぐに手伝ってくれそうなメンツということでこの4人が選ばれたらしい。納得。

 

 「今日開店してからずっとこの6人で?」

 「そ、大変だったけどそれなりに出来た」

 「そうか……オレたちにも言っててくれたら手伝ったのに」

 「部活邪魔しちゃ悪いだろ。じゃ、ゆっくりしていきな。今日は全部オレが作るぞ」

 へ~期待できる。竜也が厨房に帰ると同じように、みんな持ち場に戻った。1日目とは思えない連帯感だ。

 

 「ココに来るとき、毎回悩むんだよな~」

 結局、抹茶パフェにしてしまうんだけどそろそろ違うのも食べないと。

 

 「抹茶パフェです」

 今日も抹茶パフェに。他のみんなも1人1つずつ注文して食べていた。ちょうど食べ終わった頃、お客さんがやってきた。

 

 「いらっしゃいませ~って、純ちゃん?」

 「憂! 何やってんのこんなとこで」

 「話せば長くなるからまずは入って入って」

 「あ、うん。分かった」 

 憂ちゃんは、純ちゃんをコチラの席の近くに連れてきた。

 

 「あ、軽音部」

 「純、1人なの?」

 「先輩と来る予定だったんだけどね、用事で来れなくなったから」

 「へ~」

 梓ちゃんの近くに座って話している。純ちゃんから、クラスが分かれてさびしいというのを感じた。

 今は、憂ちゃんがコッチの担当をしてくれているため、新規の接客をアキが担当していた。

 

 「いらっしゃいませ~」

 「明久君、やっていますか?」

 「ハロハロ~やってるみたいねアキ」

 「姫路さん、美波!」

 アキたちのクラスメイト姫路と島田がやってきた。

 

 「ほらほら、店員さん案内してくれるかな」

 「あ、はいただいま。何名様ですか?」

 「4人よ」

 「へ、4人?」

 アキが驚くのも無理はない。目の前には2人しかいないのだ。オレは1人に関しては心当たりがある。先ほどアキの死角を突いて、厨房の方へ霧島さんが行くのを見かけた。後1人は……?

 

 「霧島さんがあそこに ー 」

 「………雄二、妻への隠し事は浮気の始まり」

 「何だ!? いるはずのない翔子の声が聞こえるぞ!?」

 「なるほど。後2人は?」

 「もう少しで来るわ。木下さんと」

 遅れているというやつか。

 

 「ココで明久君たちがバイトをしているって教えてくれたの霧島さんなんですよ」

 「そうなんだ~」

 この話をしたのって、昨夜突然じゃなかったっけ? それを感じ取るってエスパー?

 

 「ここは若葉学園に人気だな」

 「確かに。この店内に居る人全てがウチの生徒だよ」

 「学校から遠くなく、リーズナブルな値段で美味しいってのが人気の秘密じゃない?」

 「そうですね」

 こちらのテーブルではこんな会話をしていた。もちろん普通のお客さんも来るのだが、こういうのは珍しい。穴場であるから、あんまりお客さんは増えて欲しくないんだけどね。

 

 「何やってるのあなたたち!!」

 若干あちらのほうがギャーギャーうるさくなってきたかなと思いつつも、しゃべっていたオレたちだったが、流石にこの大声に反応した。声の主は木下さんであった。どうしてここまでうるさかったのか現状から把握するしかないが、姫路と島田とアキの間はよくわからない三角関係のような雰囲気だった。雄二の元には霧島さんが。それぞれが普段ではお目にかかることが出来ない武器を持っていた。

 

 「スタンガンって一般人でも簡単に手に入れれるんだね……」

 「恐ろしいよ」 

 「それを平気で使っているのも恐ろしいけど」

 「すごいわね」

 「いや、凄くないぞムギ」

 どうみても他人事のように傍観している我が軽音部+純ちゃん。オレにとってはそうはいかない。友人が騒動に巻き込まれようと……いや既に巻き込まれているのだから。

 

 「全く他のお客さんも居るんだから、少しは自重を ー 」

 「姉上……?」

 「秀吉、その格好は何かしら?」

 「うむ。着替えがなかったのでの」

 「トイレは何処かしら。ちょっと案内してもらえるかしら?」

 木下さんからはものすごい覇気を感じる。秀吉を弟:要するに男として見ているからであろうか、秀吉の格好を許せないのであろう。これはオレの勝手な推測。

 

 「あ、姫路さん・代表……前言撤回するわ。気に入らないものは気に入らないものね」

 秀吉を連れてトイレに入る前に木下さんは余計な一言を言ってしまった。この言葉をきっかけに先ほどの騒動が再び始まった。

 

 「姉上、どうしたのじゃ!?」

 「あんたがそういう格好するからアタシが変な目で見られるでしょうが!!」

 大変だな木下さん……

 

 「どういうことですか明久君!」

 「待って瑞希、アキはアレだから記憶があやふやなのよ」

 何をしでかしたんだろうアキは……

 

 「………雄二、覚悟して」

 「理不尽だ!」

 後で状況を聞こう。

 

 「凄いカオスだね~」

 「こういったのもなかなか見られないよ」

 「ほんとだね~」

 「いや、お前らな……」

 止めに入りましょうかそろそろ。

 

 「遅くなってゴメ~ンって……この状況は一体何なの!?」

 工藤さんがやってきた。みんな工藤さんが疑問に思った点について、誰も答えようとはしなかった。

 

 「ちょ、ちょっとみんなひとまずやめてよ!」

 工藤さんのこんな声も、むなしく響くばかり。

 

 「ただいまただいま~ って、この騒動は何なんだ!!」

 オレがいい加減止めに入ろうとしたそのとき、中年の男性が店内に入ってきてものすごい声量で騒動をピタリと止めた。

 

 「て、店長! おかえりなさい……申し訳ありません」

 「お客様に迷惑かかるだろうが!!」

 それを聞くと、みな正しい場所に戻った。

 

 「店長、早いおかえりでしたね」

 「うむ。娘と妻に謝ったら許してくれたよ」

 「そうでしたか」

 店長が帰ってきて10秒後くらいに、2人の女性が現れた。

 

 「お父さん、私も手伝う」

 この子は以前見た、清水さんという子だ。ここの娘だったんだ。

 

 「やや! あれはわたしの愛しのスイートエンジェル:美波お姉さまではないですか!!」

 「み、美春!? ココ、あんたの家だったの!?」

 「お姉さま、わたしに会いに来てくれたんですね! 部屋を用意して待ってました!」

 「帰るわウチ!」

 「待ってくださいお姉さま!!」

 梓ちゃんの隣に座っていた純ちゃんは大きく溜息をついていた。そうか……同じクラスだったもんな。

 

 「貴様が……」

 店長の様子がおかしい?

 

 「貴様が我が娘をたぶらかす女か~!!」

 意味が分からん。娘をたぶらかす女って?

 

 「ディア・マイ・ドーター!!」

 と叫びながら、島田を追っている清水さんを追っていた店長。これをきっかけに店長の一声で静まっていた騒動が再び始まった。先ほどよりももっと酷くなっていた。

 

 「2年生凄いね」

 「珍しいものを見せてもらうよ」

 これは異常です。そんなので2年生を判断しないでいただきたい。

 

 「あら、何なのこの様子は?」

 この騒動は、1人でやってきた、若葉学園生徒会長真鍋和さんが沈めたのであった。

 

 「正直、和さんの力はものすごいものがあると思います……」

 梓ちゃんのこの言葉にうなずかざるを得なかった。和さんが来てくれなかったら、ず~っとこのままだっただろうから。その後は、みんな平和に休日のひと時を過ごしたのであった。

 





 けいおんのほうの主力、さわちゃん以外全員出しましたかね?
 しかし、この喫茶店カオス状態でしょうなあ。

 純や和も忘れずに、話に組み込めるように努力しますわ。

 あ、報告。
 ようやく、けいおんhighscoolとcollege見ました。
 どうしよう。
 そもそも、その話に行くまでにとてつもなく先は長いけど。
 
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#33 遊園地!


 大幅に変更した遊園地話。

 いよいよアンチ霧島が本格化するのかな。
 結構書いてて難しいですけど。

 では、どうぞ!!



 

 「どうした? こんな夜に」

 とある金曜日の夜遅くに、竜也から電話がかかってきたのでビックリしたが出た。

 

 「突然だが……」

 「何だ」

 「お前、彼女いるか?」

 「突然すぎるだろ」

 想像して欲しい。従兄弟が ー いや、従兄弟じゃなくて親友でもいい。何の脈絡もなく突然「彼女いる?」って聞かれてみろ。いないよこの野郎としか言えないぜ。

 

 「ああ、悪かった。いろいろと端折りすぎた」

 「自分で分かって何よりだ。それで?」

 「すぐに彼女を作って欲しい」

 「さっきからお前は何言ってるんだ」

 結構な頻度でこいつの話についていけないことがある。結論が大事なのだが、それに至るまでの道筋がまるで見当たらない。証明の問題で言うと途中がすっきり抜けて、解答の一番初めに『だから○=△である』と書いているようなものだ。何が『だから』なのか、途中の言葉を入れて欲しい。

 

 「どっから説明すればいいかな……」

 「オレが理解できるところからでよろしく」

 地道にヤツの言いたいことを聞き出していくと10分くらいかけてようやく理解できた。

 

 「まとめると、如月ハイランドパークのカップル限定チケットが手に入ったから、オレにそれをくれるから無駄にしないように誰かと一緒に行け。そういうことだな?」

 「そうだよ。そう言ってるじゃないか」

 ……突っ込むのも飽きてきたかな。

 

 「それで何組分余ってるんだ?」

 「2組分だ。オレとお前の分」

 「オレはまだ行くとは一言も行ってないぞ」 

 「遊園地だぞ。行きたいだろう?」

 確かに行きたいけどな。相手が……いないことはないけど。

 

 「お前は誰と行くんだ?」

 「オレは既に憂ちゃんと行くって決まっている」

 「憂ちゃんと!?」

 こいつマジだ。憂ちゃんにマジで惚れている。チャラチャラした雰囲気とは裏腹に一回も口説いたことが無いと言われている竜也がか。

 

 「お姉ちゃんもその日は外出するみたいだからいいよ~ってOKしてくれた」

 「そうか」

 憂ちゃんは、唯先輩を基準に物事を考える。しかし、どうでもいい男と遊園地に行くことはないだろう。多少なりとも竜也はいい男だと感じているに違いない。

 

 「ま、お前は梓ちゃんを誘うだろうがな」

 「どうしてそう言いきれる?」

 「違うのか?」

 「明日、部活で全員に聞いてみる」

 「お前って抜け目のない男だな」

 それはどういう意味かな……?

 

 「じゃ、封筒に入れてポストに入れておくから、明日部活行く前にチェックしておけ」

 「分かったよ」

 「んじゃおやすみ」

 竜也はどうしてそのチケットを手に入れたのだろうか入手ルートを知りたかったがやめにした。

 次の日、チケットを確認してみた。日付は明日だった。しかし突然だよいつもいつも。

 

 「明日、誰か暇な人は?」

 部活で、ティータイムの時間に聞いてみた。

 

 「わたしは家の用事でちょっと……」

 「すまんヒロ、明日は映画を見に行くんだ」

 「唯と澪と3人で見に行くんだ」

 「ごめんねヒロ君、明日までなんだ~この映画」

 「わたしは暇だけど……何かあるの?」

 ムギ先輩の家の用事ってえらいものを想像したんだが……

 他の3人は映画か。梓ちゃんだけが暇だったらしい。

 

 「何かするつもりだったの?」

 「昨日、竜也がこんなチケットをくれて」

 オレはチケットを取り出し、みんなに見せる。

 

 「なになに?『如月ハイランドパークカップル限定プレオープンチケット』だとさ」

 「カップル限定!?」

 「とにかく、男女のペアじゃないとダメだそうで……余らせるのももったいないということで」

 「誰かと行こうとした訳か」

 その通りで。しかしせっかくの遊園地。行ってみるに越したことはないだろう。

 

 「というわけで、梓ちゃんせっかくだから行かない?」

 「へ? わたし?」

 「そう。だって1人だけだもん。数人が暇ならどうしようか迷ってたんだけど」

 そもそもがみんな遊園地に行きたいと思っているのかすら不安だけど。

 

 「あ~ずさ行って来なよ」

 「いいな~あずにゃん、わたしも行きたかったな~」

 「え、ちょっ……」

 「あずさちゃん2人でさ」

 「感想楽しみにしてるからな」

 先輩方4人は、梓ちゃんを断れない雰囲気に持っていったんだが……何でだろう。面白いから? それともただ単に、遊園地の感想を聞きたいから? それだったら、確かに梓ちゃんが断ったらオレ行く相手いなくなるから人にやってたかもしれないしね。

 

 「わ、わかりました。行きます!」

 「ありがと、梓ちゃん」

 「別にチケットがもったいないからだからね!」

 「それはもちろん」

 女子と2人きりで、遊園地ってデートですか? 2人きりになるかどうかは竜也&憂ちゃんがいるから分からないけど。それならそれで楽しいか。

 

 「しかもプレオープンだからレアだよ~」

 「いいよね」

 「そういえばこの学園のスポンサーに如月グループも入っていたような」

 「へ~そうなんだ~」

 このときのムギ先輩の言葉に微妙な違和感を抱えながら、当日を迎えた。

 

 「ゴメ~ン待った?」

 「いや、オレも今来たとこ」

 オレたちは駅前に待ち合わせをして、そこから電車で向かうようにしていた。そこのホームでは予想通り、あの2人が居た。

 

 「あれ、梓ちゃんにヒロ君?」

 「よっヒロ。もったいないことになりそうにないみたいだな」

 お前みたいな女子に話しかけるのに何も苦を感じない人とは違うんだからな。あれを女子5人の前で話すのって結構恥ずかしいぞ。

 

 「梓ちゃんも遊園地に?」

 「そうだよって憂も?」

 「うんっ。一回行ってみたかったんだ~お姉ちゃんには悪いけど」

 唯先輩確かに行きたそうだったからな~ ちゃんと感想を伝えるか。

 

 「如月~如月」

 電車で数駅分。あっという間に目的地にたどり着いた。駅から遊園地まではすぐに着いた。

 

 「いらっしゃいませ、チケットはお持ちでしょうか?」

 「コレです」

 「拝見します。ふむ。お通りください」

 「ありがとうございます」

 先に行った竜也ペアは難なく通れたみたいだ。オレたちも構わず続く。が、その前に気になることが。係員の人がどう見ても秀吉にしか見えないのは何故だろうか。

 

 「秀吉、何やってるんだ?」

 「何のことでしょうか?」

 「ヒロ~行くぞ~」

 「分かった」

 確かに秀吉だと思うんだが、他人の空似かもしれない。それに秀吉ならば竜也だって気づくはずだ。

 

 「さて、憂ちゃん、何処に行きたい?」

 「う~ん……まずはジェットコースターかな」

 「っ!? 分かったそうしよう!」

 一瞬動揺した竜也の姿が見えたが、やつのプライドのために何も言うまい。

 

 「梓ちゃんはどうする?」

 「う~ん……どうしよう」

 「オレたちもジェットコースター行く?」

 「う、うん! 怖くない怖くなんかない!」

 怖いんだね……梓ちゃん分かりやす過ぎる。

 

 「やめとこうか?」

 「そうだ ー 」

 「先輩達に何も話せないや」

 「やっぱり行こう!!」

 遊園地=ジェットコースター・観覧車・お化け屋敷と思うのはオレだけか? 梓ちゃんのためとか思っていたら1つも行けそうにないから最初っから強行手段♪

 

 「結局お前らもジェットコースターか」 

 「悪かったな」

 「しかし、タイミングよかったみたいだな」 

 「ああ」

 隣で竜也が前の連中を見ながら舌打ちをしていたのは気にしないでおこう。因みに前の連中ってのは、男1人に女子が6人。いわゆるハーレム状態ってやつに嫉妬したのか否や。やつらの格好がものすごかった。黒髪ロングの女子と金髪ロングの女子はいいとしよう。遊園地に白衣やらメイドやらゴスロリやらシスターやらの格好をしているとはどういうことだ? ま、他人は他人。関係ないか。別にプレオープンチケットってカップル限定だけとじゃないんだと思っただけ。

 

 「次の方どうぞ~」

 と、 係員の指示が。ちょうどオレたちまでいわゆる最後尾。

 

 「楽しみだね~♪」

 「う、うんそうだね」

 やっぱり竜也のやつビビってやがるな。あいつもビビる事あるんだな。

 

 「大丈夫怖くない怖くない」

 「梓ちゃん、乗る前からそんなんで大丈夫なの?」

 「先輩達のため先輩達のため」

 ダメだこりゃ。まったく聞こえていないようだ。

 

 「それでは出発しますよ~」

 因みにオレも怖くないと言えば嘘になるが、楽しみのほうが大きい。

 ガタガタガタガタと言い出し、最初の坂をものすごくゆっくりなスピードで上りだす。

 

 「梓ちゃ~ん」

 「ひゃ、ひゃい!?」

 「緊張しすぎ」

 滅多に見られないこの反応も楽しい。そんなことを思っていると前のほうから悲鳴が。そして、時間差で突然機体が動き出した。前と後ろの差であろう。

 

 『キャーッ!!』

 周囲から悲鳴が。オレはこの流れに乗り遅れたのか、悲鳴を上げられなかった。

 

 そして気づくと、もう終わっていた。途中から視界が余りにもおかしすぎて目をつぶっていた。目をつぶると怖さは軽減するけど。

 

 「怖かったね~」

 っていう憂ちゃんが一番、楽しそうにジェットコースターを降りていた。今更ながら恐るべき人物だ。対する竜也や梓ちゃんは半ダウンの状態。返事が出来ないみたいなのでオレが。

 

 「確かに」

 その後の言葉が全然見つからない。ジェットコースターは恐ろしいな。

 

 「次何処に行こうかな♪」

 平沢憂、凄すぎ!! その後、コーヒーカップもしたのだが同じような感じだった。

 

 





 遊園地回も2話に分けることに。

 途中のジェットコースターでのくだり、分かる人は分かりますかね。
 補足をします。もうこの話以降で出てこないでしょうから。

 竜也は聖クロニカ学園という学校から転校してきました。
 それで分かる人は分かります。分からない人は別にどうでもいいです。
 大してストーリーに関わるとかはありませんので。

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#34 ドッキリ!


 遊園地も長らく行ってないから、雰囲気が全く分からないなあ。

 デートなんてやったことないし。

 想像力が試されるところってことですかね?


 では、どうぞ!!



 

 次に、定番のお化け屋敷に向かった。するとそこには見覚えのある2人が。

 

 「………雄二、ノイちゃんはうっかりさんだから」

 「うっかりで頭が前後逆になる生物がいたらそいつはすぐに自然界で淘汰されると思うぞ」

 雄二と霧島代表だった。あ、オレらがオリエンテーリングで負けたからか。

 

 『あ、明久君、頭が逆ですよ!!』

 『しまった! どうりで前が見えないはずだ!』

 『何やってるのよアキ!』

 ぬいぐるみ3体の中からものすごく聞き覚えのある声。

 

 「あいつら何やってるんだか」

 「題して『坂本翔子大作戦』だ」

 「何じゃそりゃ。お前何か知ってるのか」

 竜也が言うには、アキが学園長をも巻き込んでさまざまな人を協力者とし、雄二と霧島さんをくっつけようとしているらしい。こういうのをありがた迷惑と言うんだろうなあ。

 学園長は、如月グループの目論見(カップルを取り逃さない)というのを知っててアキの話に乗ったのか。スポンサーにいい顔しておけばいいと。流石はトップの考えることだ。

 

 「………誓約書」

 「おかしいと思っているのは俺だけなのか!?」

 「冗談」

 誓約書の内容とやらが遠くからじゃ見えないが、周りの反応からするとすごいんだろうなあ。それと、誓約書を持って来たのが、康太に見えたんだが何人のヤツを巻き込んでいるのだろう。

 

 「では、中へどうぞ」

 霧島さんが、腕を組むという行為を肘関節を極めながら中に入っていった。頭はいいが、結構常識というものを知らないのかね。オレも言える柄ではないかも知れんが。

 

 「アキ~お前何やってるんだ?」 

 「ひ、ヒロ!? どうしてココへ! って竜也も? 2人は ー ああ、平沢さんと中野さんと一緒に」

 「そういうことだ。ってことでオレたちも入るぞ~」

 「どうぞどうぞ~」

 じゃんけんによって、オレと梓ちゃんペアが先に入るようになった。梓ちゃんは微妙に入るのを戸惑っていたが、オレが1人でとことこ歩いて行っていると仕方なく着いてきた。お化け屋敷で1人になるのは怖いだろう。オレも怖い。梓ちゃんの性格ならば確実についてくるだろうなあって思ってた。なにやら、廃病院をもとに作っているらしく、えらくリアルだった。梓ちゃんは思わずオレの腕にしがみつきながら歩いていた。

 そんな中、こんな声が聞こえてきた。

 

  『姫路のほうが、翔子よりも好みだな。特に胸とか』

 

 雄二の声だ。雄二の声なんだが、どうみても無理やり繋ぎ合わされたようにしか聞こえない音声。雄二をはめるための作戦だったのだろう。現に、上から釘バットが数本降りてきたし。何て作戦を考えているんだアキは……あいつならばマジでこういうことして2人がくっつくと思っていそうで怖い。

 

 「ううっ……」

 梓ちゃんはまだ怖がっているし……後ろから2人(竜也&憂ちゃんペア)の足音も聞こえてきたし。早めに出るか。出口に近づくと、雄二が霧島さん(釘バット持ち)に追いかけられている様子が目に映った。どうやら雄二は一直線に出口を目指していたわけじゃなくいろいろと迂回していたらしい。

 

 「恐ろしい! 恐ろしいお化け屋敷だ!!」

 「………逃がさない」

 釘バットを手に後ろから襲い掛かられるお化け屋敷。恐ろしくないやつはいないだろう。ちょうど出てくるときは一緒のタイミングで外に出る。

 

 「オツカレサマデシタ~イカガデシタカ」

 出口に似非外国人係員がいた。雄二はそんなのに構う余裕もなく、逃げている。

 

 「ひ、ヒロ!? 助けてくれ!」

 「この遊園地から出て家に閉じこもればいいだろ」

 「そうする」

 釘バットの恐怖にはオレも勝てる気がしない。ごく一般論を述べたら雄二はその通りに逃げていった。霧島さんはこりずに追う。その様子を見て、似非外国人は、

 

 「オカシイデスネ。キキニオチイッタフタリハアイヲハグクムハズデスガ」

 こいつも一種のバカなのであろう。そして、他の場所に歩いていった。そのすぐ後に竜也と憂ちゃんが出てきた。

 

 「怖かった~」

 ジェットコースターの時と同じ要領で、十分満喫した顔をしてこういったセリフを。対する梓ちゃんは……

 

 「怖くない怖くない……よしっ怖くない!!」

 何だろうこの差は。言葉って恐ろしいなあ。

 

 「ヒロ、さっき中で聞こえてきた声なんだが ー 」

 「雄二だろ。あれに怖がって家に帰ったぞ」

 「明久やりすぎだったな」 

 「後できつくしかっておく」

 バカだから本当に……あいつは仲を切り裂いているんじゃないのか?

 

 「全く坂本君も酷いね~代表お弁当まで用意していたのに」

 「そうね」

 影から、工藤さんと木下さんが現れた。

 

 「2人が何で?」 

 「明久くんに頼まれたからね♪」

 「2人の仲を親密にしてもらうためにって」

 「2人ともさ、どんな仕掛けしていたのか知っているの?」

 『さあ?』

 それならばそう言っているのも納得するよ。ってか、この2人はオレたちが来ていることは既に知っていたみたいだな。それに、竜也と憂ちゃんもこの2人が来ていることを知っていたみたいだ。

 

 「後で、アキに聞くといい。オレたちは他のアトラクション楽しむか」

 「満喫しよう!」

 ハイテンションの2人に対して、疲れていた竜也と梓ちゃん。

 

 「そろそろお昼にしようぜ」

 「そうだよ。疲れたよ」

 「う~んそういえばそうだね」

 「ちょうど12:00頃だし」

 時計を見て確かに腹が空くころだと思った。

 

 「何処に食べに行く?」

 と、オレは園内の地図を取り出し食べ物屋を探す。

 

 「お前は食べに行くのか。憂ちゃん、オレ作ってきたんだけど ー 」

 「本当に!? わたしも作ってきたんだけど ー 」

 「マジ!? 食べよ食べよ~」

 しまった。この2人はそういったことが出来るんだった。くそっ……うらやましいぜ。遊園地でお互いにお弁当を作ってくるとか。

 

 「ゴメンね梓ちゃん。オレ料理とか全く出来ないからそういった発想がなかったんだ」

 「あ、うん……」

 「オレたちは食べに ー 」

 「待ってヒロ君」

 再び、園内の地図で食事が出来るところを探そうとしたところ、梓ちゃんが待ったをかけた。

 

 「わたし、お弁当作って来たんだけど」

 「へ?」

 「何回も言わせないで! お昼があるの!!」

 「マジで!?」

 女の子と2人で遊園地に行って、お昼はその女の子が作ってきたお弁当って!

 夢のようなシチュエーションだ!!

 

 「竜也~」

 「どうした?」

 「ほっぺたつねってみて」

 「夢じゃないし」

 いや~梓ちゃんがわざわざ作ってきてくれるとは思わなかったよ。

 

 「梓ちゃんって料理しないんじゃ ー 」

 「お昼を別で払うとかなると高くつくでしょ。だから作ってきたの!!」

 「ああ、そういうことか! 全く考えてなかった。そのくらいならオレがおごったのに」

 「そんな迷惑かけれないよ!」

 巻き込んでしまったのはこっちなんだし、お昼くらいはおごろうと思ってたんだけど。なんだかやられた気分。

 

 「それじゃ、4人で食べよ!」

 「うん」

 ベンチを見つけそこに座る。

 

 「何か3人ともゴメン。オレだけ作ってこないって」

 「オレは予想してたよ。お前作れないからな」

 何か人の弁当をもらうだけってのもね。後日お返ししないと。それにしても梓ちゃんのお弁当楽しみだ。その前に、隣で憂ちゃんと竜也が弁当の交換をしていたがレベルが高すぎ。梓ちゃんには悪いけどあそこまでの期待はしていない。

 

 「あの2人には負けるかもしれないけど」

 「オオー!!」

 日頃料理をしないにしては、いいと思う。自分で弁当を作ったことないから分からないが。

 

 「美味しい!」

 「ホントのこと言っていいよ。下手でしょ」

 「そんなことないよ。わざわざ作ってきてくれたんだもん」

 それにえらそうな立場で言えない。自分で料理できないんだから。

 

 「あ、梓ちゃんの美味しいよ」

 「ホントだ」

 「2人とも食べたの!?」

 隣からいつの間にか憂ちゃんと竜也も食べていた。

 

 「でも、塩をもうちょっと足したほうがいいかな」

 「そうだね。ココをこうして ー 」

 オレは料理の話が始まったためにひたすらお弁当を食べ続けた。さっぱり分からん。梓ちゃんも結構混乱しているみたいだけど……この2人から料理について指摘されたら仕方ないよね。

 

 「美味しかった~」

 全員がお弁当を食べ終わる。

 

 「何処行こうか~」

 さまざまなアトラクションを楽しんだ後、最後は観覧車に。

 

 「この観覧車は2人乗りです」

 観覧車の前まで来て、係員にそう言われた。先に、竜也と憂ちゃんが観覧車に乗った。その次のにオレと梓ちゃんも乗る。

 

 「高いのは怖くないんだ」

 「はって何? 今日何も怖がってないよ!」

 言い切るか。ある意味すごい。

 

 「今日はありがとね。一緒に来てくれて」 

 「もともとココには来てみたかったし、チケットもったいないし」

 「凄く楽しかった。2人で来れてよかったよ。お弁当も食べれたし」

 「あの2人には敵わないからもう作らない」

 料理を作るという意志さえもつぶされてしまったようだ。

 

 「ねえねえ聞きたいことがあるんだけどさ」

 「何?」

 「憂ちゃんって、誰かのこと好きなのかな?」

 「そりゃあ唯先輩でしょ」

 あ~言い方が悪かった。それはオレも分かっているわ。

 

 「そうじゃなくて、異性として誰かってこと」

 「ヒロ君、憂のこと好きなの?」

 「あ、違うよそうじゃなくて、竜也がな」

 「竜也くんがね。このこと憂には ー 」

 「もちろん内緒で」

 竜也の初恋の相手。全力で応援してやらんわけには行かない。

 

 「何もない異性の人と遊園地なんかに来ないんじゃないかな」

 「そうだよね。憂ちゃんも竜也に対して脈はあるよね」

 「うん。そうだと思う」

 「ってことは、それだと梓ちゃんもオレに気があることに?」

 「な-っ!! 何言ってるのヒロ君!!」

 「冗談だよ冗談」

 (………………)

 観覧車で話をしているとすぐに1周して終わった。ゴンドラを出るときに梓ちゃんが小声で何か言ったようだが、聞き取れなかった。出ると竜也と憂ちゃんが待っていてくれた。

 

 「帰ろうぜ~」

 「おうっ」

 夕日をバックにオレたち4人は帰路に着いた。

 

  次の日、部活にて。

 

 「昨日どうだった!?」

 「ジェットコースターはコーヒーカップはお化け屋敷は!?」

 「きゃーっ!!」

 「そっか澪はお化け屋敷は -」

 いつもの軽音部であった。結局かいつまんで話すにとどまった。

 

 





 原作とはまるで違う方向へ。
 アンチ霧島を掲げてしまったせいで……
 誰だそんなことをしたのは!!
 すいません。自分ですね……


 新鮮でこういったのも経験ですけどね。

 果たして地道にフラグは立っているのか!?

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#35 留守番!


 すいません。少し遅れました!

 ちょっと長くなってしまって。

 遅くなった分は文量で許してくださいな。

 けいおん!!5話の留守番回をモデルにしてます!

 では、どうぞ!!



 

 「今富士山の中、新幹線が見える」

 いろいろと突っ込みたいだろうが、待って欲しい。どうしてこういう状況になったのか。

 オレは教室で、梓ちゃんと憂ちゃんと話していた。そしたら、今日から修学旅行に行った唯先輩からメールが来たのだ。その文面がコレである。はしゃぎすぎということがメールの文面から見ても明らかだ。

 

 「何やってんの?」

 と、純ちゃんがコッチの教室にやってきた。

 「あ、お姉ちゃんからメールが来たんだ」

 「どれどれ?………憂のお姉ちゃんって面白いよね」

 「そうかな?」

 その証拠にと言わんばかりに純ちゃんはジャズ研の先輩から来たメールを見せてきた。後輩の世話をよろしくだそうだ。隣で梓ちゃんがちゃんとしていると言っている。

 

 「もしかして軽音部って……」

 と前置きをして純ちゃんが語りだす。

 「楽器触らずに、缶蹴りとかしてそうだね」 

 『そこまでひどくないもん!!』

 純ちゃんの酷い妄想に思わず声が。憂ちゃんまで反論してくれたのは嬉しい限りだ。

 

 「あ、もうすぐHRが始まる。戻らなきゃ……お昼パンなんだけど一緒に買いに行こう」

 「うん。いいよ」

 「それじゃまた後で」

 純ちゃんと入れ替わるようにして高橋先生が入ってきてAクラスのHRが始まった。

 

 昼休み、純ちゃんがやってきて梓ちゃんと憂ちゃんはパンを買いに行った。

 弁当を取り出し食べようとしたときに、アキがやってきた。

 

 「ヒロ~学食行こ~」

 「オレ弁当持ってきてるぞ」

 「いいじゃん。食堂で食べればいいし」

 「それもそうだが、お前が何故食堂に用が?」

 「タダでもらえる調味料をゲットしに」

 お前はどんな節約生活をしているのだ……

 

 「それに昼休み終わる5分前で弁当とか残っていたらとても安くなるからね」

 「そっちも待ってるのか」

 「うん」

 「食を侵すくらいゲームに熱中しすぎるなよ」

 「失礼な。ゲームだけじゃないんだぞ!!」

 アキの言い訳もほどほどに、共に食堂に向かった。アキの念願は叶い、調味料を調達した上に弁当を激安で手に入れていた。ホントギリギリで生きているよな。その後Aクラスの教室に帰った。

 

 「あ、帰って来たみたいだよ」

 「来て来て~」

 「? どうしたの?」

 憂ちゃんと梓ちゃんは先に帰ってきていたらしく、オレを呼んでいた。

 

 「コレコレ、知ってる?」

 憂ちゃんは袋に入ったパンの一部をオレに見せてきた。

 

 「コレは!! 幻のゴールデンチョコパンじゃないか!! あの毎日限定3個販売の!!」

 「よく知ってるね……それに見ただけで分かるんだ」

 「これ手に入れたの!? 凄いじゃん!」

 噂に聞いて数回パンを買いに行ったが、いずれも前に並んでいた先輩が購入して行ったのだった。

 

 「純ちゃんが見つけてくれたんだ」

 「コレはヒロ君にって。みんな分けてもらったんだ」

 「そうなの!? 嬉しいな! ありがたくいただくよ」 

 「どうぞ~」

 早速袋から取り出してパンを頬張る。

 

 「今まで食べれなかった分、さらに美味しさが増すわ」

 「でしょ?」

 「ほどよい甘さで最高! 後で純ちゃんにお礼言っておかないと」

 「あ、そうそう。今日わたし、ジャズ研のお手伝いをすることになったんだ」

 ジャズ研のお手伝い? 純ちゃんが頼んだのかな。

 

 「オレも行ったほうがいい?」

 「いや、ヒロ君はいいよ。だから部活どうする?」

 「どうしようかな……1人で居てもなあ。じゃあオレは帰るよ」

 「そう。明日も休みでいいよね」

 明日は休日。部活を休みにすると久しぶりに1日暇な日がやってくる。もちろんOKをした。明日はアキたちと遊ぶかな。ずっと誘われていたのにあんまり行けなかったし。

 

 授業も終わり、すぐにFクラスへと向かう。

 「あれ、ヒロどうしたの?」

 「今日明日と部活無いから遊ぼうかと思って」

 「ホント!? それじゃあウチに泊まりきなよ」

 「いいなそれ!」

 だが、一応外泊には親の許可が要るんだ。拒否されないかちょっと心配だけど大丈夫だよな。

 

 「雄二はどうする?」

 「別に構わんぞ」

 「ムッツリーニと秀吉と竜也は?」

 アキはいつものメンバーに話を振る。

 

 「………明日は忙しい」

 「すまぬの。明日は部活なのじゃ」

 「オレはOKだ」

 「それじゃ、雄二とヒロと竜也だね」

 その約束だけして、ひとまずウチに帰った。親に聞くと快諾してくれたため準備もほどほどにしてアキの家に行った。すると、既に雄二が来ていた。

 

 「早いな」 

 「特に準備するものも無いのでな」

 「そういうものか」

 しばらくすると、竜也も来て賑やかになる。

 

 「あ、3人とも夜ご飯食べてきた?」

 『いや』

 「何で食べてこなかったんだよ~ウチそんな食料無いよ」

 それならそうと先に言って欲しい。他の2人を見ても明らかにそういった表情をしていた。

 

 「何処かに食いに行くか」

 「いいなそれ」

 「何処にする?」

 「ま、待ってよ。そんなお金無いよ!」

 そうか……昼飯に困っているようなやつだもんな……

 

 「それならお前は水だ」

 「それは酷いぞ雄二!」

 「食費まで使い込むお前の自業自得だ」

 「おごってくれたっていいじゃないかケチ~」

 泊まりに誘ったのはそれが本音かアキ?

 

 「さて、竜也・ヒロ行こう」

 「ああ。明久、少しなら分けてやるよ」

 「竜也最高!」

 「早く行こうぜ」

 オレらはちょっと遠めのラーメン屋に行った。アキはそれぞれから餃子を1個ずつなど、少しだけだったがとても幸せそうであった。食べることが好きなら食費くらいは取っておこうな。

 

 「 ー 円ちょうどお預かりします。こちらはレシートと、」

 何かサービス期間だったらしく、レシートのほかに何かしらのものが見えた。

 

 「隣のバッティングセンターの3ゲーム分のコインとなります。是非お使いください。ただ本日は既に閉まっておりますので、明日以降にお寄りください」

 そんな便利なサービスが!!

 

 「ちょうど良かった。明日行こうぜ」

 「オレはスポーツ不得意なんだが……」

 「そうだったな竜也。まあいいじゃないか」

 「いいね行こう行こう!」

 芸術の方に全てを取られた竜也は運動は中の下くらいだ。他の3人は言うまでもない。しかし、アキはどうやっていくつもりなのだろう。お金も無いのに。

 

 「もちろん、そのコインは僕に使わせてくれるよね」

 「何言ってるんだ。俺たちが払った食事代の引き換えに来たんだぞ。1人1枚ずつ分けるさ」

 「酷いよ! 僕にお金が無いことを知っているくせに」

 「明久にはオレのをやるよ。オレは見ているだけで十分さ」

 ということで、明日はバッティングセンターに行くことになった。

 その翌日、大雨が降っているのだが、予定は決行だ。

 

 「よ~っし……何kmのを打とうかな~」

 「俺はココにしよう」

 と雄二が入っていったゲージは130kmだった。野球経験者ではないと到底速くて打てない。高校生の野球部が投げるスピードより少し遅いくらいだ。

 

 「雄二凄いね。僕は一回しかないから110kmのストレートと80kmのカーブのランダムで」

 いやらしいんだこの機械がまた。ストレートを待っているときにカーブが来るとタイミングが大きく外れるんだよね。逆だったら速く見えるんだ。

 

 「ヒロはどうするんだ?」

 「竜也、どこで打って欲しい?」

 「160km」

 「お前はバカか」

 プロよりか速いじゃねえか……そんなもの見えないぞ……

 

 「オレは雄二よりちょっと速い135kmでいいか。高校生の平均だろ」

 「ふ~ん」

 全員が、それぞれの機械にコインを入れ、ヘルメットをかぶり右打席に入る。

 

 「うわっ!!」

 隣からアキの声が聞こえてきた。横目で見えたんだが、ブラッシュボール(頭部付近に来るボール)だったみたいだ。たまにこうやって調整がきかないところあるから、人に近い。

 

 「久しぶり打つと気持ちいいな」

 「ああ。のびのびと打てるぜ」

 「雄二とヒロは凄いな。いい当たりばっかりだぜ」

 カキンカキンカキンカキンずっと言わせているが、ホームランと書かれた看板にだけは当てることが出来なかった。難しいな。

 

 「もう終わりか~早かったな~」

 「ヒロ、まだするか?」

 「変化球も打ちたいし」 

 「やろうぜ」

 「嫌味!? 僕は竜也とそこらへんをうろうろしているからいいもん!」

 すねた。アキはそれを有言実行し、本当に店の中をうろつき始めた。オレと雄二はコインを3枚ほど買った。

 

 「ストレートとカーブの混合は打ってみる価値あるな」

 「俺はもっと速い球にチャレンジするさ」

 そうやってお互いがしのぎを削っていると、隣から女の子の声が聞こえてきた。バッティングセンターで珍しいなと思いながらもホームランと書かれた看板めがけて打つ。(当たらないけど……)

 

 「何でバッティングセンターなの!?」

 「だってさっき見たマンガが野球マンガだったから。こんなの打てるわけ無いよ!」

 女子高生とかでよくあるのかな? 好きな野球マンガを見ていると野球したくなるって。

 

 「もういいや、飽きたからクレーンゲームしてくるね」

 「諦め早!」

 声に聞き覚えがあったので声の主を見てみたら、梓ちゃんと純ちゃんが少し向こうにいた。

 

 「憂はどうする?」

 「う~ん、ちょっと難しいな」

 隣には憂ちゃん。何でも出来る憂ちゃんでも野球は難しかったようだ。ちょっとホッとした。この1ゲームが終わるまで話しかけるのをやめよう。とにかくオレはお金を無駄にしないように打とう!

 

 「いい当たり出るんだけどな~」

 コインを使いきったんだが、あの看板に当てることは出来なかった。

 隣からはさっきまで金属音が聞こえなかったが、徐々に聞こえてきた。

 

 「こう、かな? う~んいい当たりじゃないな~」

 試行錯誤しながらバッティングをしていた憂ちゃん。その奥では梓ちゃんが四苦八苦していた。今日は、お客も少ないみたいだからゲージの中で憂ちゃんたちのバッティングフォームを観察することにした。別にいやらしい意味で言っているわけでは全く無い。

 

 「もう終わっちゃった~」

 「難しいね」

 「憂ちゃん、梓ちゃん」

 「ヒロ君! ヒロ君も来ていたんだ」

 事情を話して話が一段落ついたところで、憂ちゃんが聞いてきた。

 

 「どうやったらいい当たり打てるようになるかな」

 負けず嫌いなんだろうなあ。梓ちゃんも後ろで聞いているし。それが上達の近道だよな。

 

 「手だけで打とうとするから当たらないんだ」

 「そうなんだ」

 「左足の前らへんに壁があると思って、ボールを手元までひきつけて腰を回転させてその力で打つんだ」

 「やってみるよ」

 まず、梓ちゃんがやってみるも空振り。

 

 「最初はそんなもんって。徐々に慣れるよ」

 「こう、かな。ちょっとわたしやってみよう」

 「うん」

 

   カキーン

 

   ボン

 

   ♪♪♪

 

 

 一瞬、何が起こったか分からなかった。

 

 「憂ちゃん?」

 「当たったよ!!」

 たった数秒の解説で理解できるってどんだけだよ。しかもオレが5ゲームくらいして当たらなかったあの、ホームランって書かれた看板に一回で当てたし……

 

 「梓ちゃん当たったよ!!っていない……」

 梓ちゃんは憂ちゃんがホームランを打ったのを見ると諦めてゲージの外に出ていた。そうなる気持ちも分かる。オレと憂ちゃんはそれに習い、ゲージの外に出た。

 

 「ホント、憂って飲み込み速いよね」

 「そういうとこ唯先輩にそっくり」

 ベンチに座っていた純ちゃんと梓ちゃんの一言。確かにそのとおりだ。

 

 「ヒロ~お前がホームランに当てたのか~」

 こちらもゲージから出てきた雄二。軽くお互いに会釈をして会話を続ける。

 

 「いや……憂ちゃんだ」

 「は?」

 「オレがコツを教えたら一発で」

 「そ、そうか……」

 後ろにはアキと竜也を連れてきていた。2人とも目を輝かせていた。そりゃあオレと雄二がやってもやれなかったことだからなあ。

 

 「すごいよ憂ちゃん!」

 「あ、竜也君。ありがと」

 「ホームラン賞の商品って何なの?」

 「そういえば、まだ貰いに行ってないや」

 憂ちゃんはそういうと、カウンターの方まで行った。ほどなくして帰って来たのだが、

 

 「でかっ!!」

 「それがホームラン賞!?」

 ものすごく大きいぬいぐるみだった。

 

 「でもそんな大きいぬいぐるみ何処に置くの?」

 「え?」

 「トンちゃんの10倍は……」

 『あっ!! トンちゃん!!』

 梓ちゃんがトンちゃんの10倍はって言って思い出した!!

 

 『トンちゃん忘れてた……』

 「すごいな2人とも息ぴったりだ」

 『急いで学校行かなきゃ!』

 「本当に息ぴったりだね~」

 それはどうでもいい。ともかく、バッティングセンターもほどほどにして学校に向かわないと。梓ちゃんとオレが行くのは当たり前だが、他のみんなも雨の中わざわざ学校までついてきてくれることになった。

 

 「よかった~トンちゃん」

 えさをあげながらつぶやく梓ちゃん。因みに今、全員部室に入っている。

 

 「この子がトンちゃんか~可愛い」

 平沢家の感覚は独特だと思う。

 

 「部室でカメ買ってたんだね。知らなかった」

 「ちょっと前にな」

 アキがソファーに座ってつぶやく。そのソファーには雄二と竜也も座っている。いつもの机椅子のところには、

憂ちゃんと純ちゃんが。

 

 「暇だね~」

 「雨ひどいし」

 「セッションでもする?」

 『え?』

 セッションとは、よく分からんが、音あわせみたいなものか? 純ちゃんはジャズ研で鍛えられているからベースの腕は確からしい。が、憂ちゃんは未知数。

 

 「オレたちは見ておこう」

 「そうだな。この雨だし」

 「2人がそう言うのなら」

 竜也ら3人は見物することになった。

 

 「純~、ジャズ研に置いてあるギターとかない?」

 「あるよ! 持ってくるね」

 と言って、純ちゃんは部室を後にした。

 

 「憂は何の楽器する?」

 「う~ん。わたし楽器は出来ないけど……」

 純ちゃんや梓ちゃんはバリバリで楽器出来るんだが、憂ちゃんは出来ない。珍しい光景だ。

 

 「キーボードやってみる?」

 「ヒロ君はどうするの?」

 「軽くドラムでもするよ。多分簡単な8ビートくらいなら刻めるし」

 「そうなんだ。キーボードなら多少は出来るかも」

 「じゃ、それでいこ!」

 梓ちゃんがテンションが上がっている。このメンツでするってのも新鮮味があっていい。

 

 「持ってきたよ~」

 「ありがと~って隣にいるのは……」

 「ムッツリーニ、何やってるの!?」

 康太が純ちゃんと共に部室に現れた。珍しい組み合わせだ。

 

 「………器材のチェックしてた」

 「さっき偶然会ったからね、誘ってみたんだ」

 その前に、この2人に面識があったと言うのが意外だ。康太の器材のチェックってのは気になるが、触れない方が良いのは身のためであろう。

 

 gt.梓ちゃん  ba.純ちゃん  key.憂ちゃん  dr.オレ

 

 という構成で簡単な曲を演奏することになった。

 「むすんでひらいて」

 スピードはゆっくりめで演奏したんだが、新鮮な感じがしてとってもいい!

 

 「楽しいね~!!」

 「竜也君たちはしてみないの?」

 「そうだね。やってみる?」

 梓ちゃんたちが、竜也に話題を振る。が、竜也しか楽器経験者がいないだろう。断るかと思ったら意に反して、なかなか乗り気だった。

 

 「一回楽器やってみたいと思ってたんだよな」

 「僕も!」

 「俺はドラムかな」

 「じゃ、僕ギター」

 「………ベース」

 初心者と思われる3人はイメージどおりの楽器を選んだ。

 

 「竜也どうする?」

 「オレは別にいいよ。いつでも出来るし。それに初心者3人とセッションは出来ねえよ」

 「? 初心者じゃないんだ」

 「竜也は、ギターもベースもドラムもキーボードも出来るんだ」

 というと、純ちゃんは驚いていた。そりゃそうだ。そう簡単に出会うもんじゃない。しかし、本人曰く、ギターが一番したいものであり、本職だそうだ。

 

 雄二は思うままにたたき、明久と康太も思うままにひき、満足したようだった。

 

 「楽器楽しいね」

 「だろうが。お前も軽音部はいるか?」 

 「それはやめておくよ」

 「そうか」

 アキたちが終わる頃に、ちょうど大雨もやんで晴れてきた。そのため、片付けて帰ることにした。その前に、今日の記念にってことで純ちゃんが記念撮影をしようと言い出したので、オレたち(特にプロ並みの腕を持つ康太が)は撮ってあげる事に。

 憂ちゃんと梓ちゃんと純ちゃんの3ショット。この写真を憂ちゃんは唯先輩に送ったようだった。

 

 「じゃ、最後にみんなで」

 「いいの!?」

 「せっかくだからね」

 アキや竜也は喜んで写真撮影に参加する。雄二は後ろから何も言わずに一番端っこに位置取る。写真撮影と言ったらこのお方。

 

 「………撮影なら任せておけ。いい仕上がりにする」

 「よろしくね」

 やはり純ちゃんと康太は知り合いのようだ。康太はカメラを構えレンズ越しにこちらを覗く。

 

 「あれ、ムッツリーニは入らないの?」

 「………俺はカメラ」

 「スタンド使えば全員入れるじゃん」

 「………別にいい」

 拒否する康太を無理やり、引き込んで8人での記念撮影となった。

 

  『あ、あずにゃん? 今わたしたち迷子になっているんだ』

  『ば、バカ……梓に電話してどうするんだ』

  『そっか~』

 

  『あ、ヒロ君? 今わたしたち迷子になっているんだ』

  『だからといって、ヒロに電話してどうする』

  『そっか~』

 

 帰る間際に唯先輩から梓ちゃんとオレにかけられてきた電話。その内容が地味にすごいことだったんだが……これも唯先輩たちらしいな。

 

   ★

 

 「あ~ずにゃん、久しぶり~」

 「やめてくださいよ~」

 軽音部に先輩方が帰って来た。これでこその軽音部だ。

 

 「あ、そうそう、2人におみやげ」

 『おみやげ?』

 正直期待していなかった。楽しみすぎて忘れているかもと思ってたんだよな~。

 

 「これが、あずにゃん」

 「は、はあ……『ぶ』? これおみやげですか?」

 「そう♪」

 梓ちゃんに渡されたのは明るい緑色で『ぶ』とかたどられたキーホルダー。

 

 「これって?」

 「因みにわたしがコレ!」

 唯先輩が取り出したのは、同じ字体でピンクの『ん』をかたどったキーホルダー。

 他の3人も同じように出していく。りっちゃんが水色の『い』、澪ちゃんが紫の『お』、ムギ先輩が黄色の『け』。

 

 「コレって……!」 

 「そして、最後はヒロ君!」

 「ありがとうございます」

 唯先輩から手渡されたキーホルダー。オレのは文字じゃなくて何かのマーク。これって……

 

 「放課後ティータイムのマークですか!?」

 「そうだよ♪ キーホルダーを作る機会があったからね~おそろいでみんなのを♪」

 全員のを繋ぎ合わせると『けいおんぶ』と『放課後ティータイムのマーク』。まさしくオレら6人のことだ。

 

 『ありがとうございます!』

 こんな素晴らしいプレゼントを貰ったことは今までにないですよ。マジで……隣で梓ちゃんも目を潤わせていた。

 





 けいおん!のほうを知っている方は分かると思いますが、キーホルダーのやつ。悩みましたよ。どうしようかと。『ティータイム』で6文字になりますが、それはいかがなものかと思い、マークという手に出ました。さらに仲が深まったのではないでしょうか。

 憂ちゃん天才肌。うらやましすぎる……

 ウチの近くのラーメン店にマジでこういったシステムがあるんですよ。
 ラーメン一杯注文したら1人1枚もらえるんですよね。
 今回ちょっと使わせていただきました(笑)

 明久たちが初めて楽器に関わりましたね。
 今後どういった展開に……?

 純と康太が知り合いというまさかの展開。
 こちらもどういった関係で!?

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#36 強化合宿!


 いよいよ、強化合宿編。

 カオスになりそうな予感が。

 何話分続くかは作者にも分かりません。

 人間関係がよりはっきりと分かれだすであろう。

 では、どうぞ!!



 

 「明日からは強化合宿です。詳しいことは合宿のしおりに書いていますので、見て置いてください」

 とある平日のHR。高橋先生がAクラスのみんなにこう告げる。

 オレは今配られてきたしおりを確認する。場所は卯月高原なる場所らしい。名前からして都会ではなかろう。アクセスは……Aクラスはわざわざ送ってくれるのかよ。これはありがたい。

 

 「憂、4日も唯先輩に会えなくてだいじょ ー じゃないみたいだね」

 「わたしがいない間は、澪さんたちが泊まりに来てくれるから大丈夫……」

 「の割りに、元気ないよ」

 憂ちゃんは生粋のシスコンである。本人も姉に会えないと寂しい。姉の世話をしているのが一番いいのだ。

 

 「それにしてもAクラスは豪華だよね~」

 「格差社会の縮小化したのがこの若葉学園ってことだからね」

 「ま、Fクラスがそんなに優遇されないのは妥当だろ」

 「案外、ヒロ君もひどいことを言うね」

 梓ちゃんが言う。そうかな……?

 

 「学園長もそういうのが狙いだろ。格差社会を身に染みて味わわせて、こんな下のクラスは嫌だということで学習意欲をあげようとしている。そういう学校と知ってて勉強せずにFクラスに落ちるのが悪い。ただ、だからといってFクラスを全否定しているわけじゃない。Aクラスも調子に乗っていいわけではない。それくらいのことは一応自覚しているつもりだよ」

 オレは友達を作るときに、クラスで決めているわけじゃないことは自身がある。その人自身の持っている性格をちゃんと理解している。Aクラスにも慣れてきたけど、人間性がちょっとかけている人が多い。頭がいい人が勝ちのような考え方を持っている人間は友達になれそうにない。

 

   ★

 

 「しっかし、こんなに快適に来れるとは思ってなかったよ」

 次の日、卯月高原のとある施設の前に連れてこられたAクラスの面々。

 

 「部屋割りは今から配ります」

 当然だが、男女別々だろう。とは言うが、Aクラスの男子で仲がいいというか話せるのは久保しかいないんだが。高橋先生はどのような部屋割りにしたのかな。

 

 「みんなに行き渡りましたか?」

 「先生、オレはもらってないです」

 周りを見てみると、確かにみんなもらっているようだがオレだけ紙が回ってこなかった。

 

 「七島君はもらわなくて結構です」

 何じゃそりゃ……オレは1人部屋とか? まさか先生と寝るとかじゃないよな!?

 

 「他の皆さんは、各自その部屋へと向かって次の指示まで待機して置いてください。指示は放送でします」

 高橋先生のその指示に、他の連中は従い施設の中に入っていった。

 

 「七島君、あなたには特別な任務があります」 

 「はあ?」

 「ちょっと来て下さい」

 「分かりました」

 オレだけ先生に連れられ、Aクラスの連中とは別行動をする。一体何なんだ……

 

 「失礼します」

 とある部屋をノックして入る高橋先生。

 

 「お待ちしてました」

 そこには、元担任:鉄人の異名を持つ西村先生がいた。

 

 「七島君でしたね」

 「いかにも。高橋先生ご協力ありがとうございました」

 「さっぱり話がつかめんのだが……ってまさかオレは西村先生と相部屋に!?」

 それは全力で断る。廊下で寝るほうがまだマシだ!

 

 「笑えない冗談はよせ。七島」 

 「こっちが笑えねえよ!」

 「とにかく落ち着け。そんなわけがあるか」

 「それはよかった。それならオレに何か用が?」

 西村先生はオレと高橋先生に席に着くよう促したためその通りに従った。

 

 「お前の部屋なんだが」 

 「オレだけ特別仕様とか?」

 「ある意味そうかもな」

 もったいぶってないで早く言って欲しい。恐ろしさが際立つ。

 

 「本来Aクラスのお前には悪いんだが、寝る部屋をFクラスのやつと組み込ませた」

 「何故!?」

 「Aクラスの男子とあまり親しいわけでないお前にも好都合な話だ」

 よく観察しておられる。Fクラスのやつのほうがまだ面識はある。

 

 「お前に、監視をしてもらいたい」

 「監視?」

 「吉井と坂本と木下と土屋と本田。通称5バカをだ」

 「5バカ?」

 初めて聞く通称だ。

 

 「お前なら5バカが暴走したとしても止められると思ってな」

 オレ、いやあいつらをどんな目で ー いやそう思われても仕方ないか。

 

 「お前にとっても悪くない話のはずだ」

 「やつらと一緒の部屋で寝泊りをしろということですね」

 「そうだ。変な行動に巻き込まれないようにだけはしてほしい」

 「了解です」

 Aクラスの男子と仲良くなるチャンスだったかもしれないが、そんなのはいつでもいい。西村先生や高橋先生にオレを認めてもらっているんだからそっちの期待に応えないと。

 

 「因みに、あいつらにはまだ内緒だ」

 「それはサプライズと言う意味で?」

 「違う。昨日の職員会議で決まったからだ」

 「へぇ~」

 合宿であいつらがしそうな悪巧みを防げということか。5vs1にならないように心がけよう。

 

 「まずは荷物を置きにいこう。その後いろいろとお前に伝えておかなければならないこともあるのでな」

 「分かりました」

 「部屋を案内する」

 西村先生直々に部屋を案内してくださる。高橋先生はAクラスの担当に戻ったようだ。

 

 「ここだ」

 「一番上の一番端。要するに奥の隅の方と」

 「一番の問題児を警戒するのは当然のことだ」

 「さいですか」

 Fクラスでも先生を働かせているんだろうな……

 

 「入るぞ」

 西村先生はノックして部屋に入った。オレもそれに続く。

 

 「鉄人が何故ココに?」

 「鉄人じゃない西村先生と呼べ」

 「その西村先生がどうしたのじゃ?」

 「後ろにはヒロもいるな」

 オレは竜也が呼びかけてきたので手を振って応えた。

 

 「………一体何が?」

 「吉井はどうしたのだ?」

 「っ!? 疲れて寝ているだけです」

 「そうか。次の指示は放送が入るからそのときには起こせよ」

 部屋の真ん中に布団が敷いてあってそこを囲むように4人が座っていた。何かあったな。秀吉だけは普段どおりの表情をしていたが、他の3人は冷や汗をかいている。

 

 「そ、それで先生は何故ココに」

 「そうそう。この部屋で七島も寝泊りするから。それを言いに来た」

 『弘志が!?』

 「ああ。しっかり言うこと聞けよ」

 オレは一体どんな立場なんだよ……

 

 「七島荷物を置いて来い」

 「はい……先生、外で待っててください。ちょっとこいつらと話が」

 「そうか。そんなに待たないからな」

 「それで結構です」

 それだけ言うと、西村先生はドアを閉め、オレは部屋へと上がりこんだ。

 

 「弘志、よく来た」

 「アキは寝てるんじゃなくて、気絶してるな」

 「よく分かったな」 

 「ある程度は想像できる。姫路の料理か」

 「そうだ」

 もはや、姫路にさん付けで呼ぶ必要もないだろう。

 

 「ワシらは電車で来たのじゃが、姫路がお弁当を持ってきての」

 「明久が犠牲となった」

 「………こっちについてからずっと蘇生を試みている」

 と、康太はスタンガンか何かしらのものを見せながら言う。姫路もこの事実は知らないだろう。

 

 「4人で蘇生を続けてくれ。アキはそう簡単に死ぬタマじゃない」

 「そりゃ分かってるが、不安も大きい」

 「オレはまだ西村先生に呼ばれているから行かなければならないが……アキが回復しても部屋からは出るな」

 「分かった」

 オレはアキに心の中でエールを送りながら部屋を後にした。頼んだぞ4人とも。

 外で西村先生と合流し、歩いていく。

 

 「終わったか」 

 「はい。それで次の用件とは?」

 「Aクラスが何処にいるかってのも把握しておかなければなるまい」

 「その部屋の場所確認ですね」

 Fクラスの部屋で寝泊りするとはいえ、Aクラス所属だから行動するときはそっちが優先だ。

 

 「知っているとは思うが、この施設は若葉学園が試召戦争にも耐えれるように造り替えている」

 「その発言が出ると言うことは、試召戦争の可能性があると」

 「合宿だからな。ある程度のことは予測しておかないと」

 「確かに」

 主に男子がね……

 

 「勉強を主にするのだが、その時はAクラスとFクラスの合同自習となっているのだ」

 「何故に?」

 「お前がいるから」

 「冗談はよしてください」

 Fクラスの連中に勉強を教えないといけないんだろうな。オレはいいが、他の連中はしそうにもないけど。

 Aクラスの部屋へと近づいてきた頃に、高橋先生の姿が。

 

 「おや、どうされたのですか?」

 「いえAクラスのほうも案内しておかないとですね」

 「それもそうですね。後は学習室もですね」

 「分かりました」

 ある程度の部屋を案内された後、西村先生と高橋先生はそれぞれの部屋へと戻っていった。オレも戻るか。

 

 「ヒロ君~」

 「あれ、みんな揃ってどうしたの?」

 後ろから呼び止められたため振り返ってみると、憂ちゃん・梓ちゃん・優子さん(木下さんって呼んでいたら秀吉と混ざるから下の名前で呼んで欲しいと言われた)・愛子ちゃん(アキと仲いいから下の名前で呼べと)がいた。

 

 「そういうヒロ君は何してたの西村先生と高橋先生がいたみたいだけど」

 「部屋を案内してもらってたんだ。オレだけAクラスのところじゃないから」

 「どういうこと?」

 事情を話すと、みんなも納得した表情だった。

 

 「Aクラスは部屋で待機じゃなかったの?」

 「全クラスが揃うまで自由行動していいって」

 「そうなんだ」

 オレが部屋に言っている間に言われていたのだろう。

 

 「4人はうろついていたわけ?」

 「そうね」

 「ねえねえ弘志君、そっちの部屋行ってもいい? 何か楽しそうだし」

 愛子ちゃんがオレに提案をした。別に断る理由もないのでOKしたところみんなついて来た。

 

 





 果たして暴走するかもしれない5バカのストッパーとしての役割を果たせるのか!?

 いつの間にか、優子と愛子を下の名前で呼ぶようになってましたね。
 仲が良くなったのにいつまでもさんづけしかも苗字ってのはおかしいと思いましたので。

 さてさて、どうなることやら。

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#37 オシオキ!


 書き出してみると難しい合宿編。

 脅迫されること無い今回の話で、どう話を作るか頭の悩ませどころ。

 では、どうぞ!!




 

 「あら、あなたたち何やってるのですか?」

 「そういう清水さんはこんなところで何やってるの?」

 オレは自分の部屋に戻っている途中に清水さんに会った。オレの後ろの4人の女子は用があるからココにいるけど、女子1人でこんなところ(男子塔)にいるのはおかしい。

 

 「何でも女子更衣室でカメラが見つかったらしいですよ」

 「カメラが!?」

 誰かが盗撮するためということか?

 

 「美春はその犯人があの豚野郎では無いのかと思って」

 「豚野郎って……」

 「ですが、竜也も一緒にいるから……」

 そっか。バイト先が一緒というか清水さんとこの店でバイトしているから仲はいいはず。

 

 「竜也はそんなことはしないと思っている」

 「その通りです」

 「ま、真相を確かめるために一緒についてくるか?」 

 「分かりました。疑いをかけたままではよくありませんからね」

 正直、こんな清水さんの態度は意外だと思った。もうちょっと猪突猛進に部屋に突っ込んだりするのかと思っていたけど。竜也を信頼しているんだな。まあ、親父殿が店を任せるくらいだから。

 

 「ただいま~」

 と、自分の部屋(アキら複数と一緒)に戻ってきたんだが、

 

 「オシオキが必要ですね」

 「ホントの事話してください」

 「………雄二、ひどい」

 「どうせ、あんたたちがやったんでしょ!!」

 カオスな状況が……。アキたちが女子に虐められている。一瞬思考停止したが、すぐに回復し止めに入る。何せ拷問道具まで持ってきているようなやつらだ。

 

 「何やってるんだお前たちは!! やめろ!!」

 「一体何があったって言うのよ!!」

 後ろから優子さんも援けてくれる。

 

 「邪魔しないでください!」

 「オシオキが必要なんです!」

 「一回黙れ!!!」

 オレは久しぶりに大声を出して、やつらの行動を止める。その隙にオレの後ろにいた女子が間に入り込んで再びこんなことをしないようにする。

 

 「オネエサマ~!」

 「み、美春!? どうしてここへ?」

 「そんなことはどうでもいいんです!」

 「どうでもよくないわよ!」

 部屋には島田もいたため、清水さんが暴走しだした。話が出来ない……

 

 「美春、話がしたいから少し黙っててくれ」

 「分かりました。竜也の言うとおりにしましょう」

 「その後は自由にしてもらって構わない」

 「何言ってるのよ七島!!」

 「黙れ。お前らが今何をしたか問いただす」

 オレは今ものすごく憤怒しているのが自分で分かる。雄二たちは女子に萎縮してすぐに逃げられる体勢をとっている。

 

 「何って、オシオキしてただけじゃない!」

 「それに何故そんなことする」

 「女子更衣室からカメラが見つかったのよ」

 「犯人はこいつらなんだから!」

 「そんなことするわけ無いじゃん!!」

 「と言ってるが?」

 「そんなの嘘に決まってるじゃない」

 こいつらはどんな頭してるのだ? 決め付けかよ。姫路に島田にCクラス代表小山にEクラス代表中林にetc...

 

 「しっかりアリバイを聞いたのか」

 「そんなもの聞いてないわよ! どうせこいつらが犯人なんだから」

 「いい加減にしろ! そもそもお前らに裁く権利は無い!!」

 「悪い子にはオシオキが ー 」

 「あなたたち、大概にしておきなさい。事実を捻じ曲げて何がオシオキなの?」

 優子さんのきつ~い言葉。

 

 「大体、女子更衣室に男子が入れるようなセキュリティに先生達がするわけないね」

 「ちょっとみんな行きすぎかな」

 「調子に乗りすぎ」

 「お姉さま愛しています」

 若干1人だけ場の流れにそぐわない言葉が出てきたのは完全スルーをする。

 

 「ということだ。お前らもバカじゃないから理解できるだろ?」

 「でも ー 」

 「ってか、そもそも姫路と島田はこいつらと一緒に来たんだろ。そんな暇が無いことくらい自分達が一番分かるんじゃないのか!?」

 オレの言葉に沈黙を貫く2人。姫路はFクラス入っておかしくなったな。

 

 「代表もいい加減にしておかないと」

 「………雄二が」

 「はいはい。行きましょう代表」

 「お前らさっさと出て行け。もうこいつらと関わるな」

 「何で七島君が決めるんですか!!」

 オレはその問いに答えず、全員を無理やり部屋から追い出した。

 答えは決まってるだろ。お前らといるとこいつらにメリットも何も無いからだ。

 

 「清水さん、ご自由にどうぞ。ただし、女子塔の方へ」

 「ありがとうございます!」

 出て行った島田を追いかけ、清水さんは猛ダッシュで行った。

 

 「サンキュー竜也。お前らが来てくれなかったらどうなるか……」

 「無事で何よりだ」

 ちょっとシーンとなったあと、ドアが開いて優子さんと愛子ちゃんがやってきた。

 

 「みんなおとなしく帰ったみたいだけど……」

 「あの様子じゃねえ」

 こいつらが犯人だと言うことを諦めていないみたいだ。この部屋に10人は狭いが、話をする。

 

 「アキは復活したんだな」

 「あ、うん。おかげさまで」

 「雄二たちが蘇生をしてくれたからな」

 「蘇生って!?」

 驚く優子さんたちに説明を。すると、またかといった表情だった。

 

 「弁当で苦しめた挙句、あんな行動に出るんだね」

 「幻滅したよ」

 「アキ、もうあいつらと関わるな。雄二もみんなもだ」

 「う、うん。分かったよ」

 このままじゃこいつらの身が持たなくなる。死ぬぞ。

 

 「今から大事な話をする。この10人の中だけの話だ」

 「そんなに重要な話?」 

 「といっても、オレの予想を言うつもりだ」

 「予想?」

 何の話かさっぱりと言った感じだが……危機感を持ってもらわないと。

 

 「今さっきのあいつらの行動を見ても分かるが、お前らは今覗き魔扱いをされているな」

 「うん……」

 「この話が、2学年女子に広まったらどうなると思う?」

 「まさかと思うが、人数を増やしてさっきみたいなことをするとか!?」

 雄二がそう予想する。あながち間違ってはいない。

 

 「西村先生曰く、この施設は召喚獣使えるそうだ」

 「ってことは試召戦争が出来ると」

 「ああ。大勢で寄ってたかってお前らに勝負を挑むだろうな。何せ負けたら西村先生の補習授業」

 「そんなのおかしいじゃない」

 そのおかしいって思える人が文月学園には少ないんだ。

 

 「ってことで、女子の猛攻をかわしつつ、真犯人を見つけ出さなければお前らに未来はない」

 「深刻な問題だね」

 「でもそんなことまで ー 」

 優子さんやら憂ちゃん、梓ちゃんと愛子ちゃんの考えは一般人の考え。ココは文月学園という特殊な学校だ。

 

 「って訳で、オレはお前らの疑惑を晴らすべく隠密に捜査を開始するがいかがか?」

 「僕たちだってもちろんするよ! ヒロにばっかり迷惑をかけてられない!」

 「そうだ。元はと言えば俺らのせいなんだからよ」

 「そうじゃ。ワシらに出来ることは少ないかも知れぬが」

 「………情報収集は任せて欲しい」

 「ヒロ、オレにも出来ることがあれば言ってくれ」

 「ボクも協力する。あんな現場を見てからじゃ ー 」

 「そうね。アタシも手伝うわ」

 「協力すれば絶対見つかるよ」

 「憂はポジティブだな~」

 男子5人はおろか、女子4人とも手伝ってくれることになった。初めはこの10人からのスタート。仲間はあんまり増えないだろうが……先生達もこいつらに対して評判悪いから敵とみなしてよし。

 

 「じゃあ、女の子はその見つかったカメラに対して調べれるところまで調べてもらえる? いつ見つかったとか、どこにあったとか、誰が見つけたとか。ブツを借りれるなら借りてきて欲しい。康太がいろいろと分かるかも知れない」

 「………(コクッ)」

 「任せて♪」

 「連絡は携帯を使わずに直接話そう。立ち聞きされないように」

 「分かったわ」

 4人は部屋から出て行って捜査を開始した。頼りになるなあ。

 

 「迷惑かけてすまない」

 「僕たちのために」

 「そんなネガティブな気持ちで手伝いを申し込んだわけじゃねえよ4人とも」

 「?」

 「オレたちも出来ることをしよう」

 と言っても、この部屋から出ないほうが得策だということは言うまでもない。

 

 「次の指示があるまで待機しておこう」

 「疲れたしな。寝させてもらおう」

 精神的にみんな参っているのだろう。みんな仮眠を取り始めた。オレは防衛のためにドアから一番近い場所に体を移してじっと座ってこれからの対策を練った。

 

 

   ★

 

 「ただいま」

 「おかえり、4人揃ってきたんだ」

 4人が1時間後くらいに揃って部屋に現れた。5人はそれに気づいたのだろう。仮眠から目を覚ました。

 

 「どうやらカメラを見つけたのは、さっきこの部屋を襲撃した中の1人の小山さんらしい」

 「見つけた後に、周りに中林さんとか姫路さんとかがいて犯人はあいつらよって叫んでいたとか」

 「因みに明久くんたちに犯行は不可能だった。更衣室の前には先生が常に交代で見張っているらしい」

 「カメラは誰かが回収したみたいで、手に入れることは出来なかった」

 と、ありがたい情報を持ってきてくれた。

 

 「それと、Fクラスのメンバーが動き出した」

 「どういうこと?」

 「女子風呂を覗く! とか言いながらまとまって行っていた所をすれ違った」

 「おそらく指揮官は須川だな。流石はFFF団」

 ここにいないFクラス男子43人は女子風呂を覗きに初日から実行に移したらしい。

 

 「男子vs女子と言ったところか」

 「男子を味方に引き込んでおかないと、大量の女子に狙われる可能性があるな」

 「オレたちも覗きに参加する ー 冗談だヒロ」

 竜也がふざけたことを言い出したので視線で威圧する。

 

 「さて、どうしようか」

 「一時流れを読もう」

 「それがいいかもしれないわね」

 女子4人は自分の部屋に戻って、オレたちは休むことになった。今日は疲れた。寝る間際、Fクラスメンバー全員が補習となったことが知らされた。そりゃ、女子全員を相手取りゃ負けるよ。

 

 





 原作犯人の清水が、いきなり意表を!

 この話でも犯人なのか!?
 
 はたまた違う人間が犯人なのか。

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#38 マンツーマン!


 やはり、レギュラーメンバーをアンチ対象に入れるってきついですね。

 自分の新たな挑戦も結構難しい域です。

 徐々にフラグを建設していこうと思っています。

 では、どうぞ!!




 

 「ったく……お前らはいい加減に起きないか!!」

 安眠の時間を野太い声によって遮られた強化合宿2日目の朝。

 

 「ふぁ……おはようございます西村先生」

 真っ先にオレが起きてあいさつをする。

 

 「何のためにお前をこの部屋に配置したか分からんじゃないか。お前も揃って寝坊とは」

 「申し訳ないです。全員揃って目覚ましかけ忘れたみたいです」

 「みたいってなあ……」

 右手を頭にやってあきれたポーズをとる西村先生。目覚ましが無いとオレらはいつまででも寝れると思うんだよな。

 

 「おはようなのじゃ」

 秀吉を筆頭に、続々と目を覚ます部屋の住人。目覚まし以上の破壊力のある声で起こされるんだからな。

 

 「急げお前ら。既に全員揃っているぞ」

 「マジか!?」

 「着替えて学習室に入れ」

 「了解!」

 そういえば、今日はAクラスとFクラスの合同自習って言ってた気が。しまったな……とんだドジ踏んだ。

 

 「遅かったですね。寝坊ですか?」

 急いで着替えを済ませ、学習室に入ると高橋先生が。

 

 「すいません。全員寝坊です。申し訳ありません」

 「今度から気をつけてください」

 「分かりました」

 「みなさん、合同自習を始めていますのであなたたちも」

 合同自習っていっても……Aクラスの連中が勝手に自習して、Fクラスの連中はゲームなどしているだけ。というあまりにも見て分かる雰囲気だ。

 

 オレたちは、意図せずして姫路やら島田やらと真反対の位置に席取る。そうしたら、優子さんや梓ちゃんたちのとこらへんになった。

 

 「遅かったわね」

 「ヒロ君まで寝坊しちゃダメでしょ~」

 「ゴメンゴメン……目覚ましをかけ忘れていたんだ」

 「何処か抜けてるよね」

 オレのこの性格に関してそこまで重要に思っていない。簡単に言うと、直そうとも思っていない。

 

 「ちょうど、Fクラスが5人、Aクラスが5人いるね」

 「言われてみればそうだ」

 「マンツーマンで教えてやるか」

 「成績向上のためにね」

 あからさまにFクラス5人の顔に嫌そうな表情が映ったのだが、そんなのお構いなしだ。自衛だとも思えばいい。

 

 「康太と愛子ちゃんは絶対組ませないから。危ない話がポンポン出そう」

 「………俺を何だと思っている」

 「二つ名をムッツリーニという人間」

 あくまで客観的な意見を述べたまでだ。保健体育の王様と女王が組んだらさ……

 

 「じゃあ、ボクは明久君に教えるよ♪」

 「よろしく頼む」

 「愛子ちゃんかあ。分かった」

 「憂ちゃん、教えてください!!」

 「えっ? わたし? いいよ」

 「ありがとう!!」

 一瞬で、2組(明久&愛子ちゃん・竜也&憂ちゃん)が決まった。残り6人どうするか。

 

 「秀吉はあんまり姉に教わりたくないだろうから……オレか梓ちゃんだけどそこまで面識ないもんね。じゃあ、オレと梓ちゃんで秀吉を教えよう」

 「そしたら数が合わないよな」

 「康太は優子さんと組ませると何をするか分からないからコッチに来い」

 「………それはどういう意味だ」

 自分で分かって欲しい。こっちみたいにセットのときは手出しできないかもしれないが。マンツーマンのときはいつの間にかカメラが勉強しているときに出てくるからね。

 

 「じゃあ、わたしは坂本君に教えればいいわけね」 

 「そこまで手がかからないはずだから。真面目にさせればの話ね」

 「俺も勉強しないといけないのか」

 「当たり前だ。自衛だ自衛」

 付け焼刃だが、点数上がっていた方が無難だ。

 

 「よろしくね、坂本君」

 「ああ。頼む」

 この2人の組み合わせはあんまり見ないが、なかなか面白そうだ。

 

 「それぞれ何を勉強しようか」

 とオレは10人の得意教科・苦手教科を頭の中で打ち出した。

 保健体育などの副教科はカウント無しで、5教科の中ではじき出す。

 得意教科/苦手教科である。

 

 Aクラス                Fクラス

  木下優子…英語/特に無し   坂本雄二…数学/特になし

  工藤愛子…理科/社会      吉井明久…特になし/全部

  平沢憂……オールラウンダー  本田竜也…特になし/全部

  中野梓……国語/数学      木下秀吉…国語/他

  七島弘志…社会/理科      土屋康太…特になし/全部

 

 何か悲惨だ。アキ・竜也・康太が悲しすぎる。憂ちゃんって特別何かいいってのはなかったように記憶しているが……全てが高いんだよなあ。優子さんは、英語だけ飛びぬけてよくて他も際立って高いんだよね……雄二は何故にFクラスにいるんだって感じだ。

 

 Aクラスのメンバー(名前が出ている人)について軽く説明を。

  文系……優子・梓・弘志・久保

  理系……愛子・憂・霧島・佐藤

 基本オールラウンダーは理系に行く傾向が毎年根強い。よく言われる、理系から文系への進路変更は可能だが、文系から理系への進路変更は不可能っていう考えからだ。

 

 「数学と英語はやめておいたほうが無難でしょうね」

 「中学生時代からの積み重ねだからね。そう簡単には点数上がらないね」

 「国語って言っても、古文・漢文だけだろうなあ」

 「理科・社会は全般的にOKだね」

 女子4人がそれぞれ口を開いた。確かにもっともだ。さて、どうしよう。

 

 「じゃ、それぞれに任せよう」  

 「了解したわ」

 「OK♪」

 ということで、マンツーマン授業が始まった。後ろで目を光らせている姫路・島田・霧島(もはや代表と敬って良いのかどうかすら不安だ)を目で牽制しつつ。

 

 「秀吉と康太かあ。梓ちゃんどうする?」

 「わたしは何でもいいよ」

 「じゃあ、2人の得意教科の社会と国語を教えよう」

 「分かった」

 文系タッグで挑む。どこまで掘り下げて解説出来るかな。それに、他のところは大丈夫かな。優子さんのところは安心できるとして、愛子ちゃんの所は騒がしくなりそうだし、憂ちゃんの所は竜也がデレデレになりそうで。

 

 「じゃあ、まず社会から。日本史だ」

 「何故、過去を学ばなければならぬのじゃ」

 「………俺は常に先を見る」

 日本史が苦手な人の常套句が……康太も格好よく言っているが、現実逃避に変わりはない。

 

 「秀吉、お前演劇で古典が出てきた場合どうする?」

 「じゃから、古典を勉強しておるが」 

 「その時代背景とか詳しくなったらさらに演技に幅が出るぞ」

 「なるほど。早く教えてくれなのじゃ」

 ちょっと違う気もするが。勉強するやる気が出てきたのは何よりだ。康太もしぶしぶ勉強をすると言った形だが、初めはそれでよかろう。

 

 「何から教えるの?」

 「まずは時代の流れじゃない?」

 「それくらいは知っているでしょう」

 「あまり決め付けは良くないよ梓ちゃん」

 こいつらのバカさは尋常じゃないんだ。

 

 「縄文・平安・戦国・江戸・平成」

 「………幕末・源平・聖徳太子」

 ほら見ろ。言わんこっちゃ無い。梓ちゃんも驚き通り越して目をパチクリするだけだった。平成の前の元号を知らんとかいう以前に、時代の1つに聖徳太子ってあるってどういうことだよ。

 

 「オレが言いながらノートに書くから真似するんだ」

 そういって、順番通りに書き上げる。

 

 「旧石器・縄文・弥生・古墳・飛鳥・奈良・平安・鎌倉・室町・安土桃山・江戸・明治・大正・昭和・平成」

 戦国とか南北朝とかは正式な時代名じゃないんだよね。もちろん源平とか幕末も然り。

 

 「ただ覚えるだけじゃ味気ないから、自分なりの覚え方をするといい。歌に乗せて覚えるとか」

 「ふむ。それもそうじゃな」

 いい雰囲気で進んでいく勉強。他のグループはどうなっているのかね。

 

 「英語って言っても、言語なんだから簡単よ」

 「それは分かる人のセリフだ。分からない人のセリフは『他国の言語なんか必要ない。日本人だ』という」

 「坂本君は数学が得意みたいだからすぐに覚えられるわよ」

 「ますますもって訳分からんな」

 優子さんは得意教科の英語を教えているらしい。積み重ねだから ー とか言っていたのは優子さんだった気がするが……雄二だから何とかなるか。

 

 「英語も規則正しく公式通りにしていけば結構簡単よ」

 「ほう」

 「主語(S)の次は、動詞(V)が必ず来る」

 「それが公式か」

 ここは心配する必要も無さそうだ。愛子ちゃんたちはというと。

 

 「明久君、(ピー)で(ピー)する場所」

 「何言ってるの愛子ちゃん」

 R-18の内容と思われる(康太が異常におかしいから)内容を言っている愛子ちゃん。康太と外した意味ないし。

 

 「だから、ここが腎臓なんだよ」

 「腎臓って何?」

 生物を教えているんだが、たまにそこから発展しすぎることがあるようだ。少々心配だが、息はピッタシのようなのであえていじくる必要もあるまい。

 

 「○○教えて~」

 「ココはね、こういうことなんだよ」

 「そうなんだ~」

 ホントに分かっているかどうかが心配な竜也。ずっと憂ちゃんの方ばっかり見ているし。勉強に集中していないんじゃなかろうか……

 

 「じゃあ、ココはどういうこと?」

 「さっきのがこうだからこうじゃないの?」

 「そうだよ!」

 分かっているようだ。勉強する側に意欲が無いと成績が伸びないってのは分かる。

 

 「………きじやこあなへかむあえめたしへ」

 「旧石器、縄文、弥生……覚えれんのじゃ」

 2人はそれぞれの覚え方で覚えようとしているのだが……康太のはそれで覚えていいが、何がなんだか分からなくなる可能性大だぞ。

 

 「そういう記憶系にはよくストーリーを作ると良いって言うよね」

 「確かにそうだね梓ちゃん」

 「どういう意味じゃ?」

 「例えば、旧い石器と縄が弥生(3月)に古墳に行って飛ぶ鳥を見つけ ー とか今適当に作ったんだけど」

 なるほどね。そういう覚え方をあんまりしたことがなかったから新たな発見だ。

 

 「それならば覚えられそうじゃ!」

 「………やってみる」

 小学生に教えている気分になっているオレ。ここまで時代覚えに時間を食うとは思わなかったが、こういう地道な一歩が次につながる ー と信じたい。そうでもしないと徐々に現実逃避をしたくなる。

 

 マンツーマン授業にも熱が入って、時間の経過が分からなくなってた。

 

 「みなさん、そろそろお昼の時間です」 

 「食堂に行き、ご飯を食べて来い。1時間後にはここに集合だ」

 もうそんな時間か。やけに腹減ったと思うのはオレだけではあるまい。朝ご飯食べないってきつい。しかしみんな良く集中していた ー と思ったら、愛子ちゃんとアキは寝てるし。

 

 「いつの間にか寝てたのよね」

 「隣が静かになったと思ったらこういうことか」

 と、優子さんと雄二がそうつぶやく。そんなことを気にしていなかったということは相当勉強に身が入ったんだろう。

 

 「むにゃ……? 何?」

 「お昼だよ」

 「もうそんな時間なんだ。明久君、食べに行こう」

 「うん……」

 2人仲良く寝ていた証拠に目があんまり開いていなかった。

 

 「ねえ、ココで食べて良い?」

 「一緒に食べましょう」

 「………雄二食べよう」

 オレたちが10人で食べていたところに思わぬ邪魔が。アキと雄二は体が思わず逃走体制に入っていた。無理は無い。

 

 「やめとけ。こっちのためでもあるし、お前らのためでもある」

 「そんなことありません!」

 「それよりどうして七島君が決めるのですか!」

 「………自分のことは自分で決める」

 オレは今日1つのことわざを理解した。『恋は盲目』。恐ろしいくらいに周りが見えなくなるんだよ。Fクラスからの視線も痛いし……

 

 「ごちそうさま!」

 「先に帰ってる」

 アキと雄二は、急いでご飯を食べ終わり席を立ってその場を立ち去った。

 

 「もう、また邪魔をして!」

 「ひどいです!」

 「………めげない」

 「いい加減に分かってくれ。お前らの今の状態じゃ到底不可能だと」

 それが聞こえたか聞こえなかったのか、3人は違う場所に行って食べ始めた。

 

 「あそこまでの拒否反応が出るくらいまでのことをしでかしてるのにね」

 「気づかないものなのかな」

 「多分、照れて逃げていると思っているのかも」

 「それは無いでしょ梓ちゃん」

 いや、否定できない。というか、自分の所有物とまで思っているかもしれない。

 

 「ともかく、アタシたちも早めに食べて戻りましょ」

 「そうだね♪」

 残された8人も少し速めに箸を動かし、学習室に戻った。

 

 「あれ、いない」

 が、そこにアキと雄二の姿はおらず、西村先生だけであった。

 

 「明久と雄二の姿を見てはおらぬかの?」

 「知らんぞ。まだ帰ってきてない。部屋じゃないのか?」

 「ありがとうございます」

 西村先生の言うとおりに、部屋へと戻ったらいた。

 

 「そろそろ勉強会が再開するから戻ろうぜ」

 「ああ、そうしよう」

 「そうだね」

 ちょびっとホッとした様な感じを見せ、オレらについてくるように学習室へ向かった。

 

 「さっきのメンバーで教えあおう」

 自然とグループが出来て、早速勉強を始める。この学習意欲なら5人とも成績向上間違いなしだな。

 

 「じゃあ、今度は国語をよろしく」

 「分かった」

 今度は梓ちゃんメインで秀吉と康太に教える。途中で姫路と島田と霧島がこちらを伺っていたので、2人を梓ちゃんに任せて監視をすることにする。

 

 「言っておくけど、無理だからね」

 「まだ何も言ってないのに!」

 「一緒に勉強したいとか思っているんだろうけどね無理無理」

 「どうして私たちの邪魔ばっかりするんですか!!」

 逆にしないほうが人としてどうかと思うよ。親友が傷つけられているのに黙ってみているだけとか。

 

 「………私たちの愛は誰にも邪魔できない」

 「そうは問屋が卸さない。霧島。頼むから正常に戻ってくれ」

 秀才いや天才霧島よ。過去に何かあったのは分かるがそこまで雄二に執着して、どうして雄二をそこまで傷つける。結果的に自分から手放して行ってるじゃないか。

 姫路も島田もだ。ちょっかいを出す程度なら分かるが、やりすぎという限度が分かってない今、パートナーとなるべき人を傷つけるどころか、生死の境をさまよわせている。

 

 「おい、お前たち。立って話さないで、勉強をしなさい」

 西村先生の声が聞こえてきたため、しぶしぶ3人は空いている席へと向かっていった。

 

 





 途中の得意教科とかは完全にイメージですよ。
 優子は英語が得意ってイメージから離れないんですよね~(笑)

 梓や憂は全然分かりません(苦笑)

 愛子が理科が得意な理由は「生物」があるからです。
 保健体育とからませて覚えます。

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#39 逃走中!


 どこかの番組みたいなサブタイトルになってしまいましたが……
 (作者は一度も見たことが無いんですがね)

 今話の内容はこれがぴったりでしょう!


 では、どうぞ!!




 

 「わたしたちはあなたたちに模擬試召戦争を申し込むわ。覚悟しなさい」

 自習が終わり、自由時間になって部屋へと戻ろうとしたときに、後ろから女子の声が聞こえてきた。思わずオレたちは振り向くと、そこには見知らぬ女子が10人くらいいた。しまったな。女子4人と別れてきてしまったためにコッチは6人しかいないぞ。

 

 「え~っと……誰?」

 「女子風呂を覗こうとした人を成敗する正義の味方よ」

 中二病? 自分で正義の味方って言ったら世話ねえな。横で咳こんでいるじゃないか。ってしかも、それ冤罪だし……

 

 「オレたちはあんたたちに用はないんだけど」

 「こっちにはあるのよ。あなたたちを成敗しなければならないっていうね」

 「何処のクラスの人間だ」

 「Cクラスよ」

 なかなか言わないリーダー格にしびれを切らしたのか、半歩下がったところにいる女子が代わりに応えてくれた。なるほどCクラスか。あの小山とかいうところの下ね。そういう行動に出るわけだ。オレらはアイコンタクト(したこともなかったけど)で会話をかわし、次の行動をとる。

 

 「先生」

 「はいなんでしょう?」

 「ちょっとあそこに……」

 と女子の背後のほうを指差して注意を向ける。先生だけでなく女子まで引っかかってくれた。その隙に、オレたちは逃げる。ただひたすら逃げる。全員が同じことを思っていたらしく、誰1人出遅れることは無かった。

 

 「何が ー って、みなさん!?」

 「逃げたわね!! 敵前逃亡よ!」

 「残念ながら、先生は承認します! って言ってないからな」

 と言い残し、逃げるも追いかけられる。運動能力に劣る竜也であっても運動部じゃない女子に後れを取ることは無い。他の5人は言わずもがな。

 

 「図られたわね。部屋まで追うわよ」

 という女子の声が聞こえてきたために、オレたちは目的地を急遽変更することにした。今のオレたちでやつらに勝つことは厳しい。点数が不利な上に、人数でも劣っている。オレ1人高くてもほぼ無意味。

 

 「何処に逃げ込もう」

 アキが走りながらみんなに問いかける。竜也は息がきつそうになってきて、そう長くは走れないみたいだ。

 

 「女子塔に行ったところで敵は増える一方」

 「男子塔で逃げるにも限界が!」

 「となると、男子トイレに隠れるか?」

 「………隠れるのはやめたほうがいい。すぐに逃げ出せない」

 康太の言うとおりだ。もしそのまま入ってこれるような女子が追っ手にいたら万事休す。

 

 「こうなったらさっきいた学習室に戻り、先生がたくさんいるところに行こう」

 「干渉を駆使して試召戦争させないわけか!」

 「ずるいかもしれんが、時間稼ぎにはなるだろう」

 「で、結局何処に!?」

 「学習室だ!」

 といっても、男子塔から学習室に向かう道は一本道。どこかでさっきの追っ手と鉢合うことになるのだが… 

 

 「見つけたわよ!!」

 学習室にちょっと遠いところで、追っ手に見つかる。相手も人数を割いて探していたらしく、メンバーは5人に減っていた。

 

 「今度は逃がさないわよ! 遠藤先生、召喚許可を」

 「承認します!」

 『試獣召喚!!』

 Cクラスの女子と自称していた彼女らは召喚獣を出してきた。こうなったら召喚しないと負け確定だ。

 

 「雄二よ」 

 「何だ」

 「オレ、今いい案思いついたんだが」

 「奇遇だな。俺もだ……だが……」

 「任せろ。後は頼む」

 「いいのか? それじゃあ」

 雄二は他の全員にアイコンタクトをして、オレが召喚するのを見届けてフィールド外に出る。1vs5の形だ。1人でも出しておけば、敵前逃亡にならないから、今雄二たちは自由の身だ。

 

 「者ども逃げるぞ!」

 「しょうち ー ってええ!?」

 「いいから! 後のことは弘志に任せろ!」

 「そんな……」

 アキがオレを心配してくれるのか、立ち止まったりしていたけどさっさと行って欲しい。雄二とオレの考える案が一緒ならいいんだが。あいつを信じよう。

 

 「逃げたわね」

 「行かせないけど。オレを倒してから行くんだな」

 「1vs5でよくそんなこと言えるわね」

 「それに、増援を呼んだわ」

 二手に分かれたと見られる女子の追っ手も合流すると1vs10という悲惨なことに。その前にケリをつけたいんだが……教科が英語か。

 

 英語  A七島 vs Cモブ×5

       231    平均168

 

 文系教科の中でもちょっと苦手な英語。1人ずつだったら倒せるが、そう簡単には殺らしてくれない。

 

 「5人で囲んでいっせいに殺すわよ」

 「分かりました!」

 リーダー格がオレが一番嫌がる戦法をとる。オレは刀1つで立ち向かう。まあ、死中に生ありだ!

 

 「行けえっ!!」

 「…………っ!!!」

 5人揃っての大小さまざまな武器を一息でかわす。オレの目的は時間稼ぎ。先に逃がした雄二が頼りだ。

 

 「ちょこまかと!」

 「時間稼ぎが目的なんでね」

 「何言ってるの? 吉井たちは完全に逃がしてしまったから、わたしたちの目標はまずあなたを補習室送りにすること。一番面倒だからね。それに、時間があれば増援が期待できるのはコッチよ」

 さっき分かれた5人の増援なら怖くも無い。ただ、本当に違うところから援軍が来るなら怖い。

 

 「いい加減に早くくたばることね」

 「そう簡単にはいくかよ」

 実は、召喚獣を使うのは3回目ではないオレ。たまに高橋先生に頼んで操作技術の向上に努めていた。今回は結構それが役立っている。

 

 「今度はコッチの番だな」

 程よいくらいで反撃もする。そういう構えを見せておかないと。

 

 『何なんだお前たちは』

 『コッチに来てください!』

 『一度明久とはケリをつけねばならんと思ってですね』

 『ここらへんでいいです。試召戦争の許可を!』

 と、後ろからアキと雄二の声が聞こえる。戻ってきたみたいだ。

 

 『承認する!』

 と、背後で西村先生の声が聞こえた瞬間に、今までオレたちの召喚獣が出ていたのが一瞬に消えた。

 

 「何が!?」

 一瞬状況がつかめていない女子を尻目にオレは逃げ出す。そう、いわゆる『干渉』だ。

 

 「ナイスだ雄二!!」

 「おうよ! 助かった弘志」 

 「逃げようヒロ!!」

 雄二と案が一緒でよかった。干渉を多用する、ということだ。

 

 「そこまでよ」

 逃げようとした矢先に、第二の追っ手が目の前から現れた。要するに挟み撃ちというやつか。

 

 「ちっ……ぬかったな」

 「遠藤先生、取り消してください」

 「はい。承認取り消し!」

 こう言うと、西村先生のフィールドが残り召喚獣を喚びだせるようになる。オレたちは隙を見て逃げ出そうとしたものの、相手は機を制して先に召喚獣を出した。こちらは3人。相手は10人。劣勢もいいところ。

 

 「雄二」

 「何だ」

 「残りはどうした」

 「見ていたら分かる」

 雄二の言うとおりにしてみることにする。召喚獣を出してすぐに後ろからこんな声が聞こえてきた。

 

 『高橋先生、模擬試召戦争をするのじゃ』

 『かかってこい秀吉!』

 『承認します!』

 まさかの二段構え。再び干渉によってフィールドが消される。その隙にやはりオレたち3人は2人と合流して逃げ出す。

 

 「また同じ作戦を取る気!?」

 「そっちはもう逃げ場は無いはずよ!」

 そう。オレたちが逃げ込んでいるのは学習室。学習室の先は女子塔。要するに、学習室を中央に男子塔と女子塔がある。この女子も女子塔に行けば仲間が増えると思い込んでいるのであろう。

 

 「雄二、康太がいないみたいだが」

 「分かってて言うな」

 なるほど。三段構えの残り1人のキーは康太か。もう干渉は通用しないだろうが……

 

 「もう追い詰めたわ」

 学習室に入って、対峙するオレたち。何故だろう。負ける気がしない。その理由は後ろのオーラであった。

 

 「………雄二。間に合った」

 「ああ、サンキュー」

 どんな作戦を取ったのか。気になって背後を見てみると。

 

 「助けに来たよ♪」

 「全く……懲りない人たちもいるようね」

 「わたしたちはヒロ君たちの味方だから!」

 「要するに、あなたたちの敵」

 1人康太は女子塔に行き、オレたちの唯一の助っ人である、女子を連れてきてくれた。コレに勝る助っ人はもうオレたちの手札には存在しない。一瞬でこれら全てを指示出した雄二の頭の回転の速さはすごい。オレは干渉の件しか考えられなかったが……

 

 「Aクラスの木下に工藤……」

 「何故あなた達がこいつらに味方を……?」

 憂ちゃんと梓ちゃんが抜かされたのは突っ込んであげるべきなのだろうか。それを考えていると優子さんが答えていた。

 

 「何言ってるのかしら? 助けを求められれば手を差し伸べるのがAクラスの役割なのよ」

 そんな役割があるとは初めて耳にした。それがAクラスがAクラスたる所以なのであろう。

 

 「こんな犯罪者に手を貸すなんて馬鹿馬鹿しいと思わないのかしら?」

 「早く勝負しなよ。そっちも10人、こっちも10人。互角じゃないの♪」

 愛子ちゃんが挑発する。互角なわけが無い。Fクラスが混じっているとはいえ、一度試召戦争で対戦しその強さを体感しているAクラス生5人もCクラス10人は敵にしないといけない。

 

 「そこの男子共は、女子なんかに手を借りて恥ずかしいと思わないの?」

 「何を言ってるんだ」

 プライド? そんなものこの状況であってたまるか。

 

 「捕まって冤罪を造り上げられることの方がよっぽど嫌だな」

 「まだ言って……」

 「で、どうするんだ。やるのかやらないのか」

 「くっ……覚えていなさい!」

 どこかで聞いたことのあるような捨て台詞を吐いて、Cクラスの女子は退散して行った。最大の目的、戦わずして勝つ(相手を追い払う)が達成された。その功労者は何といってもこの女子4人。もちろん作戦を立てた雄二も素晴らしい。

 

 「あの様子じゃ、数十人を相手しないといけないかもしれないわね」

 「そうなったら、いくらボクたちとはいえ勝ち目がない」

 オレたちが作戦会議をしている中で後ろから西村先生と高橋先生がやってきた。先ほどはすいませんね。干渉のお手伝いをしていただいて……

 

 「先ほどの女子だが、お前らを指して犯罪者と言っていたが何の話だ?」

 「身に覚えがありませんね」

 「そうか。それよりあまり先生を使うな。先ほどの干渉連発は驚いた」

 「あれも作戦のうちです。弱者が強者に勝つには何だってしないと」

 自分で自分を弱者とみなすことによって、いろいろな作戦が浮かぶ。強者とみなしてしまうと奇襲に弱い。

 

 「そろそろ飯・風呂の時間だ」 

 時計を見てみると確かにそんな時間だ。オレたちは残り今日をゆっくり過ごすことができた。途中、FクラスがEクラスとDクラスの男子を巻き込んで覗きに参加した。という報が入ったが気にせず床につく事にした。

 





 悪知恵を出させれば若葉学園において右に出るものはいない雄二。

 大活躍です。

 しかし、2日目でコレなら残りの日どうなることやら……

 女子は大変ですな。
 覗かれながら、明久たちを倒すと言う使命にも追われているなんて。

 途中の「死中に生あり」と言う言葉、上杉謙信が発した言葉として有名です。
 「死中に生あり、生中に生無し」意味は文から予想してください。


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#40 浴衣!


 う~ん……
 
 ちょっと原作に近いかな?
 メンバーは大分変わっていますが。

 サブタイトルからある程度の予測はつくであろう。


 では、どうぞ!!




 

 「………む……」

 朝になったのだろうか。少し目が覚めたみたいで、オレは目を開く。そこには……

 

 「くー……ぐー……」

 秀吉の寝顔が10cm前にあった。男子の雑魚寝とはいえ、秀吉の顔が突然現れるとちょっとドキドキする。これは男として正常なことだと信じよう。

 

 「最悪だ~!!」 

 オレたちの1日は、アキのこの大声によってスタートしたといっても過言ではあるまい。セルフ目覚ましだ。

 

 「何があったんだ」

 と言いながらオレは起き上がりアキに問う。

 

 「目を覚ましたら目の前には雄二の寝顔だよ。チクショウ」

 「そういうな」

 「ヒロは目の前が秀吉だったからいいんだ!!」

 「それはどうも」

 確かに、男子にアンケートをとってみてもアキが言っている結果みたいになるだろう。

  『目を覚ましたらそこにはとある寝顔が。雄二・秀吉どっちがいい?』

 ほとんどの男子が秀吉と答えるに違いない。雄二と答える人間は、ちょっとコッチ系の人ですかと疑いたくなる。

 

 「ったく朝からうるせえな」

 「お前のせいだよ!」

 みんなアキの大声で完全に目が覚めたらしく、それぞれが起き上がった。

 3日目が始まる。学習室に向かう前に、須川が突然部屋にやってきた。

 

 「お前らに話がある」

 「珍しいな須川。いったい何があった」

 「頼む。俺たちと共に女子風呂覗きに参加してくれ!!」 

 思わぬ言葉に一同口を開けていた。何て直球勝負なんだ…須川はさらに続けた。

 

 「下位クラスで参加してないのはお前たちだけだ! 今日からは上位クラスも誘おうとしている」

 須川の行動力は尋常じゃないな。ただ、そんな頼みに答えるわけにも行かないが……

 

 「お前たちは女子に追われていると聞く。それならこっちが追えばよい話なのではないか?」

 結構痛いところをつかれる。雄二も顔をしかませ、最善策を考える。

 

 「考えておく」

 「いい返事を楽しみにしている」

 という、逃げの姿勢で須川を部屋から追い出した。

 

 「さて、須川の言う通りなんだが……」

 「言い方は悪いが、利用させてもらおうか」

 「カモフラージュってわけじゃな」

 「女子の追っ手も減る。やつらも覗きがしやすくなる。お互いのメリットは重なっているんだ」

 ただ、やつらの取る行動が犯罪行為ではなければ二の足を踏むことは無かっただろう。

 

 「ま、それはオレと雄二が何かいい案を考えておこう」 

 「俺も含まれるのがビックリしたが、他の連中よりかは幾分マシだろう」

 「その通り。4人は勉強に集中してもらおう。短期集中型で少しでも点数を上げてほしいからな」

 あからさまに嫌そうな顔をするも、自分達の身に危険が及んでいるのを分かっているためにしぶしぶ承諾した。

 

 「おはよう~」

 学習室に行き、女子4人と合流。再びマンツーマン学習を始める。オレの所は梓ちゃんにちょっと任せるとして、監視兼考え事をする。

 

 ふむ。覗きに男子が勢力つぎ込むと女子はそっちの防衛に徹しないといけないから、こちらに差し向ける戦力が減る。か。ということは必然的に(間接的に)やつらの覗きに参加しないといけないと言うわけか。上位クラスに交渉するのは須川出来るのかね……だがしかしオレが表立って手を貸すことは出来ない。さらにオレたちがカメラを設置していたという状況証拠の後押しになりかねない。

 

 「考えてくれたか?」

 昼休み、須川が再びやってくる。オレはこう返した。

 

 「CBAクラスが参加するならやってやろうじゃないか」

 「そのクラスとの交渉を手伝ってくれ」

 「却下だ」

 オレは心の中でこう思った。裏から手を引くくらいならやろうと。こちらの身の安全を守るために。

 

 「雄二」

 「んあ?」

 「ちょっといいか?」

 「何だ?」

 ちょっと離れたところに雄二を呼び出して、作戦を聞かせる。

 

 「 ー ってことなんだが」 

 「ほう……それは女子次第だな」

 「もちろんそうだ。却下すればオレも素直に手を引く」

 「分かった。それならばヒロが頼んでくれな」

 言いだしっぺとはいえ、こういうの言うのはちょっと気が引ける。

 

 自習が終わった後に、意を決して女子4人に頼み込む。

 

 「お願いがあるんだけどさ、お風呂入ってご飯も食べた後に、コッチの部屋に来てくれない?」

 「え、いいよ♪」

 「大事な話があるんだろうし」

 案外簡単に話に乗ってくれた。狙いは部屋に来てもらってから話すことにしよう。

 

 ご飯食べたあとに、女子4人が来てくれる。

 

 「お邪魔しま~す」

 「いらっしゃい」

 オレらは浴衣姿で、女子を出迎えた。

 

 「先生いなかった?」

 「いたけど、普通に通してくれたよ」

 「そうか~」

 「それより話なんなの?」

 オレは男子全員に目配せをし、シナリオどおりに進めることにした。

 

 「お願いがあるんだ」

 「どうしたの明久君」

 「みんなに浴衣を着てもらいたい」

 『は?』

 「オレからも頼む!!」

 アキと竜也という女子殺しの異名を持つであろう(willね)2人を武器に挑む。

 

 「何で突然?」 

 それを聞かれると非常に困る。素直に言うべきか……

 

 「ただ、趣味で見てみたいわけじゃないでしょ。何か目的があって……」

 男子はオレに視線を向ける。なるほど。後は言いだしっぺが処理を行えと。

 

 「ちょっと考えたことがあるんだけど、それだと4人を傷つけてしまうかもしれないんだ」 

 「何よそれ?」

 「4人を売るような考えじゃないかって思うんだけど、それが最善の策なんだ」

 「ますます話が分からないわね。言ってみなさいよ」

 女子4人は顔をあわせて首をかしげていた。

 

 「4人の浴衣姿をカメラに撮って現像する。それをCBAクラスの男子に回すんだ。そうしてやつらに覗き参加を暗に後押しするんだ。これをすることによって、女子はその対応に人員を割かねばならないから、今後増えるであろうオレたちへの攻撃も幾分か弱体化すると考えたんだ。ホントにこんな考えして申し訳ない!」

 コレが成功する確率は分からないが、効果はあるに違いない。

 

 「本当にボクたちでそんなことなるかな?」

 「そこまでならないと思うけどなあ」

 「何言ってるんだよ! みんななら必ずなる!!」

 女子4人とも自分をそこまで下に見ないでいいと思う。竜也が力説しているけど。

 

 「そこまでいうなら、みんなのためにね♪ 浴衣姿はちょっと恥ずかしいけどいいよ♪」

 「愛子!?」

 「そうだね。わたしたちが被写体になるだけでいいんなら喜んで。ちょっと恥ずかしいけど」

 「憂まで!?」

 愛子ちゃんと憂ちゃんはOKを出してくれた。何て心が広いんだ。

 

 「でも、その写真出回るんでしょ……」

 「恥ずかしいよ……」

 この反応があるもんねえ。しかも売ってるように見えるから本当に申し訳ない。

 

 「みんなが見た後は確実に俺たちの元へ返却させるし、コピーもさせないようにする」

 雄二がフォローを入れた。確かに坂本雄二の名を出したら、若葉学園で知らぬものはいない。誰も逆らうことは出来ないだろう(悪鬼羅刹という異名を知っている人に限るが)

 

 「それなら…」

 「うん。約束できるなら」

 「4人ともお願いします」

 みんな正座をして頼み込む。いわゆる土下座というものであろうが、卑屈な態度ではない。

 

 「仕方ないわね。今回だけよ」

 「ありがとう優子さん!!」

 「今回の件終わったら、絶対にデータ消してね!!」

 「分かったよ梓ちゃん」

 みんなが了承してくれたおかげで、作戦が上手く行きそうな気がしてきた。オレたちは予備の浴衣を4人に差し出し、オレたち6人揃って4人が見えない位置に移動する。外に出ると先生がいる、中にいると女子が着替えているという動けない状態だ。康太は既にカメラの準備を始めていた。やつのこういうセンスはピカイチだ。

 

 「着替え終わったよ♪」

 愛子ちゃんと憂ちゃんの声が聞こえてきたために、部屋に再び入る。

 

 「おおお!!!!」

 そこには、美しい女子が4人立っていた。

 

 「ちょっと、似合わないかもしれないけど……」

 「結構、恥ずかしいな」

 愛子ちゃんと憂ちゃんがちょっと顔を赤くしながらオレたちにこう言った。いや、最高です!その証拠に、隣の竜也とアキがうるさいですもん。

 

 「いや、もう最高だね!」

 「そうだなアキ。オレらは幸せだ」

 「あなたたちの個人的欲望にしているわけじゃないんだからね」

 それは分かっているんだが……あんまりこういったときに雄二は反応しないんだが、やっぱりやつも興味はあるらしかった。秀吉もそれなりに。ってか秀吉もこの4人と並んでいても違和感は無い。

 

 「ちょ、ちょっとじっくり見ないでよね!!」

 「そんなこと言われてもね……似合っているんだし可愛いしついつい見ちゃうよね」

 みんなうんうんとうなずいていた。優子さんと梓ちゃんが見たこと無いくらいに顔が赤くなっていっているのが分かる。康太は早速カメラを取り出し、鼻血と格闘しながら被写体を撮影する。たまに秀吉が混ざっているのは突っ込むべきなのだろうか。しばらく撮影会をしていたら随分撮ったみたいで(途中から随分と危ないアングルからの撮影もあったが)こんなんだったらAクラスといえども動きそうなのばっかりだった。

 正直、写真見せたから即覗きに発展するってのは短絡的な考えだが。もともとそういう気持ちが無いと、覗きなんて実行しないからね。あくまでこの写真は過程に過ぎない。その人の本心を表すための道具。

 

 『お~い、お前たちうるさいぞ! もう消灯時間だ! 出歩くなよ。すぐに就寝しなさい』

 突然、ドア外から西村先生の声が聞こえてきた。部屋に入ってこないところを見ると最低限度のマナーはある。

 

 「どうするアタシたち?」

 「今更帰られないよ」

 「一緒に寝ようか♪」

 「な、何言ってるの愛子ちゃん!」

 衝撃発言に康太がギブアップしました。鼻血を布団の上で散らさないで本当に良かった。危険を感じてヤツは部屋の風呂場に行っていたから。秀吉とアキはいつものごとく血液パックを用意し、輸血していた。こいつらにとっては日常の1コマなのであろう。なんら違和感なくそれらの仕事をやってのけた。

 

 「オレたちが迷惑かけたんだし、布団を4枚譲るよ」

 「そんないいのに……」

 「いやいや。あそこまでのことをやったんだからね」

 布団が6枚しかないのに、10人で寝る。しかも4人は女子。どういう形で寝るべきか。

 流石に男女で添い寝とかは無理だから……電気を消して、寝ようとするが、そうはいかない。

 

 「男の子と女の子が一つ屋根の下で一緒に寝れるって素敵だね」

 愛子ちゃんがR-18に突入しそうな勢いでコソコソ話をする。康太は何とか耐えているみたいだ。今日はこういう形だったためにあんまり寝ることが出来なかった。

 





 このことがFFF団に知れ渡ったら、どうなるんでしょう……

 若葉学園内で味方がいなくなる気が。

 この後、夜どんな話があったのかはご想像にお任せします♪

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#41 作戦開始!


 高校3年1学期中間テストまで、もう1週間切っているのに更新を続けるボク。

 大丈夫なんでしょうかね(笑)

 ホントにやばいと感じたら、更新をストップさせます故。

 危機感を感じない自分に危機感を覚えますよ。

 そんなことは、どうでもいいとして……

 では、どうぞ!!



 

   ピリリリリリ

 

 「ん?」

 どうやら目覚ましがなったようで、オレは手を伸ばして止める。早いなあ…もう朝か。そう思いつつ目を開けると、そこには浴衣姿の女子が目に入った。そういえばとオレは昨夜のことを思い出す。梓ちゃんとかが帰る部屋無くなって一緒に寝たんだった。しかし、男女が一緒に寝るってどうよ。しかも今の状況、結構危ない気がする。寝ぼけてまだはっきり目が開いてないだけかもしれないが、数人の浴衣が微妙にはだけてみえる。

 

 「ふわ~……おはよう」

 「おはよう、梓ちゃん」

 男子の性というものか、ついついはだけている胸元の方へ視線が ー 。

 

 「何見て ー って、ヒロ君!?」

 梓ちゃんがオレの視線に気づき、後ろを振り返った。

 「見たの!?」

 「つい……っていや、大丈夫! 中までは見てないから!」

 「サイテー」

 あれ、軽蔑のまなざしで……男子諸君。問おう。女子のはだけた浴衣を目の前にしたときの視線はどこに。

 

 「おはようみんな」

 「あ、おはよう憂ちゃん」

 「う、憂、浴衣浴衣!」

 「え? あ、ホントだ」

 竜也がこっそり見ていたのは憂ちゃんの目に映っていなかったと信じておこう。

 

 「ムッツリーニが今日は無反応だな」

 「確かに。こういうときって真っ先に反応しそうなんだけどね」

 雄二とアキが起きながらそう言った。やつらも微妙に愛子ちゃんやら木下さんの表情を見る限り、さっきのオレのようなことがあったらしい。

 

 「ムッツリーニならほれ」

 秀吉が布団をめくり、康太の居場所を指さす。

 

 「そりゃ反応しないよね」

 アキが言うのは、今の康太の格好を見れば分かる。目隠しをして耳栓をして鼻にティッシュを詰めて寝ていたのだ。一体何があったんだ……

 

 「起きろムッツリーニ! 朝だぞ」

 と叩き起こす雄二にやっと気づいた康太は、自分で目隠しを外しだした。

 

 「何やってるんだ」

 「………おはよう」

 「ワンテンポずれてるなお前」

 「………何が?」

 雄二の何やってるんだという言葉は聞こえてなかったらしい。もう一度同じ問いをするとこう返って来た。

 

 「………俺はまだ遣り残したことがある」

 意味深な発言だな。その真相はどういう?

 「………自己防衛だ」

 なんとなく意味が分かる。想像力が人一倍豊かな康太のことだ。女子と同じ部屋で寝ているという現実自体で危ない可能性がある。おまけに昨日の寝る前の愛子ちゃんの発言だ。そういった対策を採ってしかるべきであろう。

 

 と、康太を起こしていたら、ドアがドンドンとなって、入るぞ~という声が聞こえてきた。

 

 「やばっ! 女子はちょっと布団に」

 「分かった」

 そのノックの主が部屋に入る前に、何とか女子4人は隠れきった。オレは誰が入ってきたかノックの主を伺うと、須川だった。

 

 「須川か。おはよう」

 「ああ、おはよう。今日も相談なんだが」

 「昨日言ったろ - 」

 「皆まで言うな。今ABCクラスの一部の人が参戦してくれている」

 なるほど。それで条件が揃ったと言いたい訳だな。

 

 「もちろん、全員っていうことだぞ」

 オレは昨日の夜の件を思い出して、今日の夜には全員になりそうだなあと思いつつそう言う。

 

 「お前らは男子じゃないのか!?」

 「どういう意味だ」

 「ホモという疑いをかけられてもしかたないぞ」

 「要するに?」

 「覗きをしなければ男じゃない!」

 どこまで男は変態なんだ。全男をそう取るな。

 

 「いいからこっちはこっちの考えで動く」

 「そうか。お前らの参戦に期待する」

 「早く出て行け」

 「どうした今日は。やけに冷たいじゃないか。部屋の雰囲気も女子と一緒に寝ていたという感じだし」

 オレらの内心は全員ギクッという擬音語出てきたであろう。

 

 「まさかとは思うが、お前ら女子を連れ込んでるんじゃ ー ? それなら覗きをしないのも納得が出来る!」

 「何を言ってるんだ。バカなことあるか。なあ秀吉」

 「そうじゃな。須川はまだ寝ぼけておるのかの?」

 話をふっても一番ブレが無さそうな秀吉に話を振ってごまかす。

 

 「そうだろうな。そんなことをしていようもんなら、即座に異端審問会にかけるつもりだったからな」

 あの奇妙な集団による私刑執行ね。

 

 「というわけで、お前らの参戦を期待する」

 と言いつつ部屋を出て行く。オレたちは揃って溜息をついた。

 

 「須川君鋭すぎるよね……」

 「久しぶりに焦ったぞ」

 「………危うく表情に出るところだった」

 「秀吉は流石だな」

 確かに。流石は演劇部。全国大会レベルではある。

 

 「ボクたちもひやひやしたよ」

 「カンが鋭いわね」

 「見つかっちゃったかと思った」

 「それにしてもよくごまかしたね」

 とっさの機転に自分でも驚いているよ。

 

 「どうしようか」

 「さっきの件か? ま、今日次第だな」

 オレは女子4人のほうを見ながらそう言う。すると、みんな微笑みで返事をしてくれた。

 

 「ムッツリーニのセンスだね」

 「CBAの男子の連中は乗るだろうか」

 「………傑作」

 康太がそこまで言うのは珍しい。現像したものをオレたちに見せる。

 

 『おおおおっ!!!!』

 男子から歓声が上がる。ベストショットというのか、それぞれの女子の魅力が引き出されている。

 

 (ムッツリーニ、憂ちゃんのを後でくれ)

 (………500円)

 (買った)

 (………まいど)

 後ろで闇取引が行われていることは突っ込むべきだろうが、スルーをした。

 

 「やっぱり恥ずかしい!」 

 「そ、そうだよ!!」

 男子は笑顔でその意見を却下した。

 

 「よし。作戦開始だな。雄二を筆頭に男子はこの写真をCBA男子に回し、悪用されること無く返ってくるように。女子は分かっているね」

 

 『了解!!』

 4日目が始まった。

 

   ★

 

 「どうだった?」

 「結構いい感じだったぞ」

 「こっちも準備は上々よ」

 夕方、自習が終わる頃に作戦会議を行った。男子の方も好感触だ。

 

 「さて、テストを受けますか」

 「テスト?」

 「せっかく、この4日間マンツーマン授業をやったんだ。勉強の成果がいかほどかというものをな。そこまでは期待してないから大丈夫だ」

 それに、試召戦争になったときのために少しでも点数を上げておくべきだ。

 

 「高橋先生、テストを受けます」

 「はい、分かりました。教科は」

 「えーっと1人1人違います ー 」

 1人1人受験する教科を告げ、オレらはテストを受ける。オレは英語を受けることにした。

 

 テストが終わって採点をしてもらう。その間に出来を聞く。

 

 「アキ、どうだった?」

 「勉強って疲れるね」

 会話になってないような。

 

 「お前は徹底的に生物を教わったんだっけな?」

 「そうだよ。愛子ちゃんの熱血指導でね。おかげで結構分かった気がするけど」

 暗記科目だから、比較的点数は取れやすいはず。後は好きか嫌いか。

 

 「坂本君、英語はどうだったかしら?」

 「簡単なところを取りこぼさなかったというべきか」

 「そうね。それが一番重要よ。難しいところまではまだ無理でしょうから、単語とか日頃の積み重ねが重要な教科だし。この調子で勉強していくといいわよ」

 「今回は助かった」

 今まで接点がほとんど無かった2人だったが、仲は深まったようだった。

 

 「憂ちゃんありがとね~随分と分かったよ!!」

 「ホント? それは竜也君が努力したからだよ」

 「教え方が上手かったからね」

 「照れるな~」

 こちらもまたいい雰囲気。竜也が5教科までバランスよく点数が取れるようになると、落とすところが無いという最強ポジションに!(副教科の強さが異常だから)

 

 「さて、こちらの2人は……」

 「そこそこなのじゃ」

 「………まあまあ」

 「なんかしっくり来ない返事だね」

 2対2の勉強で、教科を社会・国語と頻繁に変えてたから、それぞれがあんまり上がってないかも。

 

 「採点が終わりました。みなさん、少しですがこの合宿で取り組んだ成果が出たようです。この調子で、勉強を続けてください」

 「ほう、高橋先生、そんなにこいつらは点数が上がってましたか」

 西村先生が部屋に入ってきて、答案用紙を見る。

 

 「まだまだだが、お前らが努力した証拠がよくわかる。Aクラスの連中、手間をかけた。頼みがあるんだが、今後ともこいつらの勉強の面倒を見てやってくれ。俺が教えようとしても断固拒否されるからお前たちが教えた方がためになるみたいだ」

 西村先生が生徒思いのホントにいい先生って分かるけど、流石にマンツーマンで授業は受けたくはありませんな。Fクラスの連中はみんなちょっと渋い顔をしたが、オレたちは承諾する。

 

 「こいつらも真面目に勉強すればAクラス入りが出来るはずなんですがね」

 「来年の目標はここにいるみんながAクラスだな」

 「そんな無茶な!」

 「全員の目標にします」

 「ヒロ~」

 そのほうがオレもクラスが楽しくなっていいしな。

 

 「お前たち、そろそろ風呂の時間だ。あ~お前たちはしてないと思うが、覗きだ。初日から毎日連中はやってくる。くれぐれも気をつけてくれ」

 「分かりました」

 そういって、部屋を退出する。そして、学習室を出る頃に、須川に出会いこんなことを言われた。

 

 「おいお前ら!! 約束を果たすときだ。全員参加するぞ!!」

 「何っ!?」

 「男同士で交わした約束、忘れるな」

 そう言って走り去っていった。あの写真大作戦は成功に終わったようだ。ちゃんと、写真は返還されている。しっかりと「この写真をコピーなどした場合、坂本雄二の名で私刑を執行する」と写真の裏に書いてあるから、みんな手が出せなかった。しかし女子の目の前でよく言えたもんだ。4人の女子が、作戦とはいえちょっと男子連中に疑いの目(本当に覗きをしないか)を向けるように……後ろの女子からの視線がちょっと痛くなってきたので会話をする。

 

 「梓ちゃん……」

 「もちろん、そんなことしないと信じているから」

 「それよりさ、そちらの準備はOKなの?」

 「いいわよ。今日実行するわけ?」

 「そのつもり」

 オレはいよいよ作戦が実行されるときが来てちょっと浮ついている。

 

 「いったん、わたしたちは部屋に帰るね」

 「オレらも部屋に帰るわ」

 「また後で合流しましょ」

 そう言って分かれた。オレらは自分の部屋に戻ることにした。

 着替えなどをとって、浴場に向かう途中に集団と遭遇した。

 

 





 最後の集団、ある程度はそうぞうつくでしょうが……

 そろそろ合宿編クライマックスですかね。

 続きの構成を練らないと。

 一番、決まっていないのは秀吉のカップリングなんですよね~
 秀吉は「秀吉」ですから、誰とカップリングをさせようか(苦笑)

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#42 決着!


 数話続いてきた合宿編もとうとうクライマックス。

 幾度と無く地味に出てきた伏線を一気に回収!

 真犯人は一体誰なのか!?

 では、どうぞ!!




 

 

 「ようやく……このときが来たようね」

 「アキ、覚悟しておきなさい」

 「明久君、楽しい時間ですよ」

 「………雄二」

 姫路や島田、霧島や小山、そのほかにも後ろに中林など数人がいた。

 

 「こう来ると思ってたよ」

 「その割に随分と無用心ね」

 「そちらこそ女子風呂は大丈夫なのか? 男子全員が覗きに加担したらしいぞ。高得点者がこっちにいていいのかね?」

 「先生たちもいるから大丈夫よ。それよりわたしたちはあなたたちに用件があるの」

 相手側は先生を1人連れてきているため、試召戦争でオレたちを補習室に送る気満々のようだ。

 

 「今までさんざんわたしたちのことコケにしてくれたわね」

 したっけ?

 

 「もういいわ。この決着は試召戦争でつけましょう。遠藤先生、召喚許可を」

 「承認します!」

 『試獣召喚!!』

 なるほど。遠藤先生か。優しそうだから本当は覗きの阻止をしないといけないはずなのについつい小山たちに連れてこられたんだな。西村先生や高橋先生など主力の先生達はみんなあちらに出払っているのであろう。

 

 「これで最後にしよう。もうお互い異論はなしだ」

 「いいでしょう」

 『試獣召喚(サモン)!!』

 

 英語 A七島・F坂本・F吉井・F土屋・F木下・F本田

     269  ・ 142 ・ 36 ・ 28 ・ 67 ・ 54

 

 見るに耐えない数字だ。雄二は優子さんに教えてもらった甲斐があったみたいだ。

 

   A霧島・F姫路・C小山・E中林・F島田・他数人

    421 ・ 418 ・ 169 ・ 118 ・ 48 ……

 

 圧倒的に不利だ。相手に霧島や姫路がいるというとてつもない不利な展開を謀で勝るように取り計らう。

 

 「竜也!」

 「おう、『教科変更(チェンジ)!』

 竜也は黄金の腕輪を取り出して、腕輪の効果を使う。別に黒金の腕輪で干渉してもいいんだが、結局のところ、いつかはこいつらと決着はつけないといけないので。

 

 「何になったんだ?」

 

 A七島

 149

 

 「数学かよ!!」

 よりにもよって、数学に教科変更。こちらには雄二だけが頼りなんだが、島田でさえ高いんだからさらに不利な状況になる。だが、これ以上の教科変更は不可能であろう……

 

 「ありがたいわ~ウチ、数学得意なのよね」

 「これは神様がわたしたちにくれたチャンスなのでは?」

 「そうかもしれないわね」

 ふざけたことをぬかさないで欲しい。それよりこいつらはまだ大事なことを忘れている。オレらにはまだ助っ人を温存し、最後の作戦としてカードをまだ切っていないのだ。

 

 「ホント、いい加減にして欲しいわね」

 「全く成長して欲しいものだよね」

 そう、優子さん以下4人の助っ人だ。これが最後の切り札って訳じゃなく……

 

 「あなたたち……」

 小山の歯軋りする音が聞こえてきた。すっかり姿が見えなかったので油断していたらしい。

 

 「梓ちゃん、憂ちゃん証拠は見つかった?」

 「バッチリ」

 「ちゃんとレコーダーにも録音してあるから」

 「何のこと?」

 そう、コレがオレが密かに女子と企んでいた最後の切り札だ。

 

 「お前、オレたちが覗き魔扱いされていたの忘れてんのか?」

 「忘れてないけど」

 「お前たちには言ってないが、その犯人を内密に調べていたんだ」

 「何言ってるのかしら、その犯人があなたたちでしょ」

 小山が何か言ってるが、こちらとしては既に証拠が挙がっているんだ。

 

 「まずは、この女子風呂で見つかったカメラだが」

 「何故あなたが持っているのかしら?」

 「心優しい人が貸してくれて。それでコレの指紋検査をしたところ、とある人の指紋が出てきたんだ」

 「っ!? わ、わたしの指紋はついてるでしょう。最初に見つけたんだから!」

 小山が明らかに動揺している。

 

 「お前たちにもオレたちの無実を証明するべく、一緒にこのレコーダーの内容を聞いてみようかね」

 「好きにすればいいじゃない!」 

 「そうさせてもらうよ」

 オレが合図をすると、愛子ちゃんが持っていたレコーダーに録音されているのが流れてきた。

 

 『 ー これでいいんでしょ』

 『ああ。これで目障りな吉井や坂本と言った連中もおしまいだな』

 『流石。素敵よ恭二』

 

 「 ー っ!!!」

 小山が声にならない悲鳴を上げていたが続ける。

 

 『もう一度おさらいを。友香が最初に見つかりやすいところにカメラを設置し、わざと発見させる。その後、みんなの目の前でそれを発見して、吉井たちが犯人だとわめく。で、数人を連れて吉井たちのもとへいくのだ。天誅ということかな。あいつらはそれをきっかけに本当に覗きに走る。そのときには返り討ちにしてあいつらの評判を地に落とすのだ』

 『しっかり覚えておくわ。恭二』

 

 「どうだ小山友香よ。これに心当たりは?」

 「あ、あるわけ無いじゃないの!!」

 「ほう。まだシラをきるつもりか」

 「もう当の本人はゲロっちゃったよ」

 と、愛子ちゃんが小山に告げる。小山がビックリして愛子ちゃんたちのほうを見ると、そこには力なくうずくまった根本の姿が。

 

 「目撃証言も出ているぞ。突然カメラを取り出して、犯人は吉井だ坂本だとわめいている小山の姿があったと」

 「っ……」

 「さて、どう弁明してくれるのかな。オレたちに濡れ衣を着せて」

 「小山さんどういうことですか、説明していただけますか」

 遠藤先生は召喚許可を取り消して、小山に迫った。

 それと時を同じくして、

 

 「オネエサマ~!! あの豚野郎共は、退治しました!! 美春と一緒にお風呂に入りましょう!!」

 「み、美春!?」

 清水美春がやってきた。どんどん場を乱してくれ。

 

 「先ほどの話を詳しく聞かせてもらいたい」

 と、西村先生までいつの間にかやってきた。思ったより覗きの勢力が弱かったのであろうか。

 

 「小山・根本、補習室に来てじっくり話を聞く」

 と、2人を連れて補習室へ行った。

 

 「もうあななたちもお風呂に入るように」

 遠藤先生は、そういい残して歩いていった。

 

 「さて、どうしてくれるのかね」

 オレはいろいろな意味を込めて、霧島たちに問う。

 

 「で、でもアキたち女子風呂覗こうとしてたじゃない!!」

 「そうですよ! さっきお風呂の方に向かってましたし!」

 「………悪い子たちにはオシオキが必要」

 あくまでアキや雄二を道具としてみているようだ。これはもう取り返しがつかなくなる。さっぱりと縁を切るべきであろう。

 

 「代表、幻滅しましたよ」

 「坂本君をどうしてそこまでに」

 「霧島よ。オレはある程度予測できる。ただ、雄二がもうダメなんだ」

 いろんな意味で。無意識的な部分から避けているように見える。

 

 「だから、霧島。雄二のことを思っているのなら、潔く距離を置け」

 「………そんなこと出来るわけない!!」

 「雄二は特定の所有物じゃないんだ。そんなことを分からない霧島ではないだろう!」

 「………小学校の頃からの私の夢!」

 それをつぶしたのは自分の行動だ。それを理解しろといっている。

 

 「姫路・島田。お前たちもだ。もう取り返しがつかないことをしている」

 「どんなことですか!!」

 「そんなのしてないわよ!」

 「だから、アキのことを大切に思っているなら、縁を切った方がいい」

 オレもまた嫌な役割を背負っているもんだ。変にかばったりするからこうやって後々大変なんだよ。そういうのを身に染みて分かったかなアキも雄二も。

 

 「そんなこと出来るわけ無いじゃないですか!!」 

 「そうよ! アンタにそんなのを決める権限はない!」

 「姫路さん、島田さん。あなたたちFクラスに馴染みすぎたんじゃないかしら?」

 「わたしもそう思う。しっかりしなよ。普通に考えたら分かることじゃん」

 憂ちゃんによる痛烈な批判も混じって口撃する。気づいたら、中林以下モブがいなくなっていた。

 

 「………それでも!」

 「ちょっと待った。康太・竜也、アキと雄二を部屋に連れて行け。部屋から出るな」

 「分かった。しっかりとケリをつけてきてくれ」

 「………承知した」

 これ以上、口論をアキや雄二に聞かせるのは酷というもの。ただ、案の定3人はそれを追いにかかる。

 

 「待てよ。行かせるわけ無いじゃん。オレたちと話してケリをつけるんだ」

 秀吉や、女子4人で進路をふさぐ。

 

 「どうして邪魔ばっかりするんですか!!」

 「あんたたちさえいなければ!!」

 「………雄二」

 島田と姫路はキレ、霧島は姿が見えなくなった雄二をずっと見ていた。

 

 「3人に最後通牒を。今まで自分がやってきた行動を思い返せ。何か反省する点があるならば、オレやこの5人に話を通せ。直接話すのは不可能だ。あいつらの精神的に。が、それでも何も分からないと言うのなら、アキや雄二に近づくな」

 「3人とも、ココまでヒロ君が丁寧に説明しているのをありがたいと思わないと」

 正直、こんなこと言って元に戻るようだったら今までにそのチャンスは数回あった。ほとんど無駄だと思うが、一応形だけは。

 

 「今の状態では嫌われたまま卒業、そのまま別れるわね」

 「それが嫌なら、さっきの弘志君の忠告を聞くことだよ」

 「ダメだと思っているのに、最後の手を差し伸べているんだからね。有効に使わないともったいないよ」

 「ワシらはこれにて失礼する」

 それぞれ一言ずつ残して、オレらは部屋へと戻る。女子4人もこちらについてきてくれた。一回だけオレは後ろを振り向いたが、3人は依然として立ち止まったままだった。

 

 「オネエサマ~!」

 清水は意外と常識人だということがわかった。今の深刻な話中に1回も口を挟まずに後ろで待機していてくれた。島田にはもったいない人間かもしれないな。オレらが去った後に再び島田のもとへ。

 

   ★

 

 「お帰り」

 「………どうだった?」

 「何とも言えんな。一応釘を刺した。近寄るなとは。それでも変わらないようだったらオレらで ー 」

 「ありがとね、みんな。そこまでしてくれて」

 「情けねえよな俺とした事が。恐怖で足が動かねえなんて『悪鬼羅刹』の俺になってからは初めてだ」

 お前らは被害者だ。そうなるのが普通の人間だ。よく今まで我慢していたよ。

 

 「今日はもうこの部屋から出たくないか」

 みんな疲れきっている顔をしていたので、風呂は部屋のを使うことにした。

 

 「じゃあ、わたしたちは部屋に戻るね」

 「ありがとう。今回は本当に助かった」

 「あんなのを見せ付けられているのに無視するなんて気分悪いからね」

 みんなお礼を言って、女子が去るのを名残惜しんだ。

 

 「本当に助かったな。持つべき友人はああいう人だな」

 「オレこっちに転校してきてよかったよ」

 「お前、そういえば聖クロニカ学園から転校してきたといったな。何でだ?」

 「いろいろとあったんだよ」

 とお茶を濁すような回答だった。問い詰めると、いろいろなことがわかった。

 

 そこの理事長の娘と同じクラスだったらしいが、とんでもないお嬢様タイプだったらしい。男子を人として見ている雰囲気じゃなかったらしく、奴隷扱いだったそうだ。他の男子は理事長の娘だからとかルックスがいいとかで媚売っていたが、自分だけは絶対に服従するのは嫌ということで反抗していたら、徐々にクラスどころか、学校中で浮いてきたらしい。それでいじめられるようになってから、こんな学校を勧めた親にも反発して家出をし、前々から興味があった若葉学園に通うことにしたそうだ。

 

 みんな一人一人にさまざまな悩みを抱えていると分かった強化合宿だった。

 





 犯人意外でしたか?
 まあ、結構分かりやすかったかもしれませんが。

 根本結局、悪の方に戻しました。
 良根本の印象がパッと来なかったもので。

 清水が美化されていっているような。
 声優つながりで大事にしないとですね(笑)

 最後の竜也の転校話。
 そんなに大したことじゃなく、伏線と言うわけでもありません。
 
 さて、次の話は何だと思います?

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#43 ファンクラブ!



 昨日、ハーメルンに接続出来なかったので投稿出来ませんでした。

 ちょっと長めです。

 では、どうぞ!!





 

 

 「ココまで人口密度が小さい学校も初めてなんじゃないかな」

 「男子は俺たち以外全員停学だからな」

 「寂しい気もするけどね」

 「………だからこうやってAクラスに来て授業を受けている」

 先週の合宿で、男子がオレら以外全員覗きに加担したから、停学となっている。そのため、Fクラスにほとんど人がいなくなるため、雄二たちはAクラスで共に授業を受けることになるらしい。ついていけるとかいけないとかは論点じゃない。因みに、姫路と島田は特別補習授業ということで、西村先生の授業を受けているらしい。大変だね。

 

 「そういえば、小山さんと根本君は停学期間が長いみたいだね」

 「そうなんだね~」

 「他の人より罪が重いもの。それは当然でしょ」

 休み時間に仲良くなったメンバーで集まって話す。少々Aクラスの他の女子からの視線を感じるが、気にしないのが得策であろう。

 

 「席についてください」

 と、次の授業の担当の先生がやってきたので、オレらは自分の席へ戻り、勉強をすることになった。

 

    ★

 

 「久しぶり部活だね」

 「先輩方何してたんだろうね」

 「気になるよ。珍しく唯先輩が合宿中何もメールしてこなかったから」

 「澪ちゃんあたりが、合宿は大変だからと気を使ってくれたのかもしれないね」

 オレたちは約1週間ぶりとなる部室に足を踏み入れた。

 

 「あっ! 久しぶり~あずにゃん、ヒロ君!」

 「やっと帰って来たか」

 定位置の席から声が聞こえてきた。懐かしい。

 

 「ただいまです」

 「おかえりなさい。今からお茶淹れるわね」

 「ありがとうございます」

 ムギ先輩がわざわざお茶を淹れてくれることに。というか毎日そうなんだけど……

 

 「合宿どうだった?」

 『疲れました』

 「お~2人がかぶるくらいつらい合宿だったんだな」

 まさか、覗き騒動1つが2学年を揺るがす大騒動になっているとは夢にも思っていない3年生。

 

 「お茶どうぞ~」

 『ありがとうございます』

 ムギ先輩の凝ったお茶を飲みくつろぐティータイムの時間。

 

 「そういえば、今日2年生男子が少なかったけど ー 」

 「唯、それは朝HRで言われただろ。合宿中の不祥事でほとんどの2年生男子が停学だって」

 「そうだっけ? そういやわたし朝寝てたや」

 「しっかりしろ唯」

 1週間もするとこの雰囲気を忘れかかっていた。こののんびりムード。合宿中がちょっと働きすぎた。

 

 「ヒロがその騒動に巻き込まれてないみたいで良かった」

 「そうも言ってはおられない状況だったんですよ!」

 「どういうこと?」

 「説明が長くなりそうなのでいいですか……」

 肉体的負担より精神がけずられている。

 

 「出来れば教えてもらいたいものね」

 『和先輩!? いつからここに!』

 「あなたたちが入ってきたときには既に部屋にいたわよ。相当疲れているのね」

 『面目ないです……』

 生徒会長和さんに気づかなかった。申し訳ないです。

 

 「後輩の合宿中に何があったか知っておくのも会長としての役割だと思うから」

 「そこまで言うのなら」

 と、オレは合宿中にあった出来事を全て話した。

 

 「本当に申し訳ないわ。ごめんなさい」

 「って、何で和さんが謝るんですか?」

 「生徒会長として、治安を守れないようじゃ失格ね」

 「そんなことないですよ! だって会長その時場にいなかったじゃないですか!」

 責任感が強すぎると思う。そんなことまで背負われちゃこっちの立場が無い。

 

 「前から思っていたけど、2年生って何か楽しそうだよな」

 「律、不謹慎だぞ」

 「りっちゃん、そういうのは心で思っていても口に出さないのが礼儀だよ」

 「唯ちゃん、その発言でどう思っていたかバレバレよ」

 ナチュラルでボケツッコミが。相性抜群だね。

 

 「それより、何で和さんがココに?」

 「生徒会室を整理していたら、こんなものが出てきたのよ」

 和さんが出した1枚のカード。そこにはこう書いてあった。

 

  『澪ちゃんファンクラブ No.1 真鍋和』

 

 「和さんがそんなものを!?」

 「それに澪ちゃんファンクラブなんてあったんですか!?」

 「事の発端は、2年前。あなたたちが入ってくる前のことね」

 恥ずかしがり顔が真っ赤になっている澪ちゃんを横目に、和さんはその経緯を話してくれた。

 

 「唯たちの最初の学園祭ライブのときの事件を知っているかしら」

 「ええ」

 「あれがきっかけで、澪ちゃんファンクラブが結成されたのよ。その初代会長が、曽我部先輩って言うわたしの生徒会の先輩だった人なのよ」

 へ~すごいつながりだ。

 

 「あれは、曽我部先輩が卒業する間際のことだった」

 とりっちゃんが話を引き継ぐ。

 

 「ストーカーをされていると澪ちゃんが生徒会室に相談しに行ったんだよね」

 「そのときに偶然、曽我部先輩がやってきて」 

 「ボロを出しちゃったんだよな~」

 いかにも見たように3人とも言ってるけど、その現場にいたのは和さんと澪ちゃんだけじゃないのかね。

 

 「ついつい焦って、澪ちゃんファンクラブの会員No.1のカードを落としてしまったのよね~」

 「それを拾った澪ちゃんは冗談交じりで『先輩がストーカーだったんですね』というと」

 「意外な反応が返って来た。『そうよ』と言いながら泣き出したのよね」

 また隠し撮りでもしていたかのような発言だな。でも、そんなことがあるなんてね。

 

 「それで、私たちがサプライズをしたんだよ!」

 「あの時は私もびっくりしたわ。曽我部先輩と共に講堂に向かったら、軽音部がいたもの」

 「というと、その曽我部先輩のために、講堂で演奏したんですか?」

 「そうよ」

 すごい。澪ちゃんファンクラブの力恐るべし!

 

 「そんなことがあって、その後に曽我部先輩にこう言われたのよ。

  『ファンクラブの会長の方も引き継ぎよろしくね』と。断ったんだけどね」

 断りきれなくて、引き継いだんだ。

 

 「それから1年以上が経過したんだけど、私会長としての責務を何一つ果たしてないのよ」

 無理やりさせられた役職もしっかりとこなすというなんていい人なんだ。

 

 「だから今日はみんなにお願いに来たのよ。ファンクラブの子達のためにお茶会を開いてくれないかしら」

 「お茶会?」

 「そう。このままじゃ先輩にも申し訳なくて……」

 唯先輩とムギ先輩とりっちゃんは目を合わせて、そしてこう言い放った。

 

 「「「私たちも協力するよ!」」」

 すんごい勝手だな。澪ちゃんファンクラブなんだから、澪ちゃんが嫌ならそれでおしまいじゃん。

 

 「それじゃあ、お言葉に甘えて内容は任せていいかしら。わたしは会場を押さえたり告知をしたりするから」

 結局、押し切った形でお茶会をすることになった。

 

 「そういえばさ~合宿の件だけど」

 またそこに話を戻した……いらないのに。オレはお茶を飲み干すためにコップを手に取って飲む。

 

 「合宿ってことは、やっぱり~男女一緒に寝るのが筋だよな~」

 「なるほどりっちゃん! ってことは、あずにゃんとヒロ君も一緒に寝たのかな?」

 『ゲホッゲホッゲホッ……何言い出すんですか急に!!』

 ちょうど口に入っていたお茶が気管に詰まりそうになって大変だった。

 

 「そういえば、合宿の前より息が合っている気がするわね」

 『そんなの知りませんよ!』

 「ということは、一緒に寝たんだな」

 「どこが“ということは”なんですか!!」

 「おやおや~否定しないところを見ると本当に一緒に寝たんだな~一つ屋根の下で男女が共に寝る。女子高生にとって羨ましいことですな~」

 りっちゃんが調子に乗り出した。本来ストッパーとなるべき澪ちゃんまでが興味津々だからどうすることも出来ない。

 

 「律先輩いい加減にしてください!」

 「あずにゃん怖いよ~まるで一緒に寝ていることがバレてしまったような感じだよ~」

 「~っ!!///」

 「本当にそんなことがあったのか!」

 梓ちゃん否定してくれよ! 好奇心の塊であるこの人たちには多少の嘘は必要でしょ。

 

 「その話詳しく聞かせてもらいたいわね」

 「和さん!? おかしいですよみなさん!!」

 「否定しないのがいけないんだ」

 「否定します。そうします!」

 「そういうところがますます怪しい。コレは美味しいネタだから言うまで帰させない」

 もう逃げ道は閉ざされた。こうなったら仕方があるまい。本当のことを話さないとこの人たちはいつまでもしつこいからね……

 

 「ヒロ君……」

 そんな上目遣いでオレに助けを乞うてもどうすることも出来ないです。

 

 「最初にいろいろと騒動があった事を言いましたよね」

 「ヒロ君言っちゃうの!?」

 「その発言からもう結末はバレバレだからどっちにしても一緒だよ。それなら、真実を伝えてすっきりした方がいいと思うよ」

 「それもそうだね……」

 唯先輩やムギ先輩・りっちゃんまでは分かるとして、和さんや澪ちゃんまでが目を輝かせているので話がし辛かったんだが……

 

 「簡潔に言いますよ。その騒動でオレたちも身を守るために作戦を講じていたんです。その場所がオレたちの部屋で。そしたら、西村先生がそれを忘れていて『もう部屋から出るな』と言われたので仕方なく」

 誤解の無いように伝えたつもりだった。

 

 「へ~同じ布団で寝たんだね」

 「うらやましい!」

 が、まともに取ってくれるとは思ってはいない。

 

 「先輩、分かってて言ってますよね?」

 「あずにゃん、そのオーラは何!?」

 「分かってるから! 落ち着いて梓!」

 「もうっ……いちいち大げさなんですから」

 本当に怒った梓ちゃんは初めてかな? 隣にいてものすごく威圧感があったよ。

 

 「西村先生らしからぬ行為だったわね」

 「それだけ2年生に振り回されていたことなんじゃないかしら」

 「大変だったね~」

 そりゃもう。ここまで人間の欲求にそのまま従っていた学年も珍しいだろう。

 その後質問攻めにあうが、軽く流して今日の部活は終わった。

 ってあれ? 練習してないが大丈夫なんだろうか……

 

    ★

 

 「だんだん本格的になってきたわね」

 数日後、それぞれが澪ちゃんファンクラブのために用意した道具を持ち寄る。

 

 「澪ちゃんファンのために大盤振る舞い! 澪ちゃん鉛筆・澪ちゃんティッシュ・澪ちゃん消しゴムに澪ちゃんチョコ ー 」

 「作りすぎだろ!」

 「全部安物に、澪ちゃんシール貼っただけ!」

 いいのかそれ? ちょっと詐欺ってる気もするけど。

 

 「憂がクッキー焼いてくれたわ」

 おおっ! 憂ちゃんまで協力してくれてんだ。

 

 「そういえば、肝心の曽我部先輩は来れるのか?」

 「それが、ちょうどその日はサークルの旅行の日とかぶって ー 」

 「それじゃあ意味無いですね」

 「わざわざ告知したんだったら日程ずらす必要ないって。私に構わず、ファンクラブが盛り上がってくれればそれでいいって曽我部先輩から言われたわ」

 大人な発言だ。大学生にもなるとそうなるものなのかね。

 

 「はい。当日の進行表。司会は唯ちゃんとりっちゃんね」

 『了解しました!』

 ムギ先輩からプログラムの書いた紙を渡された2人。この人選で大丈夫なのかは不安だが。

 軽い下準備などをしていたら、あっという間に当日を迎えたのであった。

 

 「え~本日は、第1回秋山澪ファンクラブお茶会にお集まりいただき誠にありがとうございます」

 「本日の司会は、わたし平沢唯と」

 「田井中律でお送りさせていただきます」

 『よろしくお願いしま~す』

 拍手が巻き起こった。意外だなあ~結構まともに進んでいるよ。でもまだ分からない。どこでぶっこんでくるか分からないからな。

 

 「人一杯集まりましたね~」

 「ちらほらと知った顔も見えるし」

 ファンクラブ盛り上がってるな~リボンやネクタイの色が3色バランスよく見えるのはほどよく澪ちゃんファンが点在している証拠だろう。

 

 「本日の主役、秋山澪の登場です!!」

 唯先輩が言うと、後ろのドアが開き澪ちゃんが入ってきた。何か思いつめたような顔 ー いや、緊張しているのか。歩いてくる澪ちゃんに、拍手が鳴り止まない。センターのポジションにつき、マイクの前に立つ。それと同時に拍手が鳴り止む。

 

 「本日は、お集まりいたが」

 『噛んだ』

 『でもそこがまた』

 『かわい~い』

 ポイント急上昇中。

 

 「それでは、スピーチはこの辺にして ー 」

 って、短っ! あれはスピーチしたと言えるのか!?

 

 「ケーキ入刀に移ります」

 と、唯先輩が言うと、裏からケーキが運ばれてくる ー ってでかすぎ!!

 ケーキはムギ先輩が用意するって言ったけど……すごいな。

 5段タワーケーキ……ウェディングケーキと言われるものかね。

 

 「澪ちゃんにとって初めての共同作業!」

 「誰との!?」

 「あずにゃんがお手伝いします!」

 「ええ~!?」

 どうやら、アドリブのようだ。散々ぶち込んでくるのだろうな。

 カメラのフラッシュが部屋中にチカチカする中、澪ちゃんと梓ちゃんは(唯先輩曰く)初めての共同作業をやってのけた。

 

 「それでは、ケーキとお茶のサービスです」

 ようやくオレらの出番だ。さきほど、2人が切ったケーキをそれぞれに運んでいく。お茶を淹れるのはプロ:ムギ先輩。

 

 「及び、秋山澪本人によるキャンドルサービスです」

 澪ちゃんはチャッカマン?を手にし、テーブルごとに置いてあるキャンドルに点火していく。

 全員にケーキとお茶がいきわたり、テーブル全てのキャンドルに点火されたところで部屋の電気を消す。

 

 「それでは、特別企画に移りたいと思います! 題して秋山澪への100の質問コーナー!」

 パフパフという効果音が微妙にむなしいが、りっちゃんは続ける。

 

 「因みに、質問に1つ答えるたびにテーブルの上のキャンドルの火を消していってください」

 全てあわせてもどう見ても100には満たない。言葉のあやだろうか。

 

 「じゃ、まず1つめの質問! これまでに聞いた中で一番怖かった話は!?」

 「第2問、その次に怖かった話は!」

 「え、えええっ!?」

 おいこらアドリブ! 質問をこちらからしてどうするんだよ。ファンクラブの子達がするんじゃないの!?

 

 「それでは、みなさんも質問したい人はどうぞ!」

 『はいはいはいはい!!』

 それが最初だよな普通。

 

 『お風呂に入ったときに最初に洗うところはどこですか!』

 お~い男子もいるぞ~

 

 「シャワーヘッドかな」

 「お風呂掃除!?」

 隣から梓ちゃんのナイスツッコミが。すごい返し方だな……

 ファンクラブの子達からの質問に斜め上の答えを続けていく澪ちゃん。全部キャンドルの火が消えた辺りではもう澪ちゃんは疲れ切っていた。

 

 「それでは次のプログラムに移りま~す」

 「こうやって立派に育った澪ちゃんをスライドショーと共に振り返りたいと思います!」

 まさかこんなに早い段階で過去を振り返るなんて思ってもいないことだろう。

 BackGroundMusicが流れ出し、スライドショーが始まる。

 

 数枚過ぎた辺りから、

 『かわいい!』

 『大きく育ったのね』

 など聞こえてきた。因みに、男女比は半々である。

 

 「なんか、澪先輩が主役じゃなくて、律先輩が主役っぽいですよ」

 「仕方ないだろう。あの写真は全部ウチから持ってきたんだから」

 なるほど。だからりっちゃんが中央に写ってるのが多かったんだ。

 

 「ってりっちゃん!?」

 「どうしたヒロ?」

 「何でオレまで写っているのを持って来るんだよ!」

 「いいじゃん、かわいいんだし」

 かわいいはマジやめて。

 

 「全然小さいときと違うよね~男らしくなったっていうか~」

 「それは本当に嬉しい言葉だよ梓ちゃん」

 「当時はここまで立派な男になると思ってなかったな」

 それはどういう意味だ……

 

 「いよいよ、お茶会も終わりに近づいて参りました!」

 スライドショーが高校生編まで行き終わり、りっちゃんが司会を再開する。

 

 「それでは、フィナーレは放課後 ー 」

 「待って!」

 「?」

 「あの、みなさんに聞いて欲しいものがあります!」

 サプライズ!! 澪ちゃんがアドリブを! もしかしたらずっと考えていたのかも。

 

 「口じゃ上手くこの気持ちを伝えられそうに無いから、詩にしてきました。聞いてください」

 ポケットから紙を取り出し、書いてきた詩を朗読する。

 

 「ときめきシュガー」

 ……そうか。澪ちゃんだもんな……その後も独特の世界観をかもし出している詩を聞いていたが……

 

 「流石にファンクラブの子達も澪の境地にはたどり着けなかった!」

 このりっちゃんの言葉でも分かるが、みんなきょとんとしていた。

 

 「それではココで放課後ティータイムによる演奏です!」

 「わたしたちの新曲、ぴゅあぴゅあはーとです!」

 この新曲、オレたちが合宿行っている間に、ムギ先輩が作曲し澪ちゃんが作詞していたらしい。このお茶会があるって決まった後に、みんなで一生懸命練習してファンクラブの子達に一番最初に聞いてもらえるようにしたんだ。ミスもあまりなく曲が終わると、大歓声が巻き起こった。

 その後、写真撮影になったんだが(集合写真)澪ちゃんの引きつった笑顔が……あまり作り笑顔に得意ではないみたいだった。オレたちはファンクラブの子達にその写真をあげるために、各自で持ってきたカメラでオレたちが撮影するのであった。

 

 「大成功ね。本当にあなたたちには感謝するわ」

 「和さんにはいつもお世話になっていますからね」

 「曽我部先輩もこれで喜んでくれてると思うわ」

 「和さん! この写真、曽我部先輩に送ってあげてください。喜ぶと思います」

 「そうね……そうするわ」

 和さんもカメラを取り出し、写真を撮る。とてもいいお茶会になりました。と言葉も添えて。

 






 短編という感じですかね。
 けいおん!! のお茶会の話ですね。

 次からは数話に渡って何かの話になると思います。
 
 が、作者がテスト勉強をしなければならないということで少々のお別れを。
 1週間もしないうちに帰ってきますので。

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#44 暴走!


 お久しぶりです。

 今日3日間によるテストが終わりました。

 結局そこまで勉強できませんでしたが。

 どうしてテスト期間中って、アニメがすすむんでしょうかね(笑)

 では、どうぞ!!




 

 「来てくれたみたいだね」

 試召戦争も無く、中間テストや強化合宿も終わり、期末テストにはまだ時間がある今日この頃。オレは他の複数の人間と共に学園長に呼ばれた。

 

 「一体何ですか!」

 こう言うのはアキ。他のメンツを見てみても雄二・秀吉・康太・竜也といったFクラスの連中に梓ちゃん・憂ちゃん・優子さん・愛子ちゃんといったAクラスのメンバー、計10人が学園長室に呼ばれている。だからなのか、学園長室には学園長他、F担任:西村先生とA担任:高橋先生がいらっしゃった。

 

 「アンタたちを見込んでちょっと頼みがあるんだけどね」

 これほどまでに学園長を見たのは初めてだが、嫌味が籠った言い方でちょっとね。

 

 「今、試験召喚システムがおかしくなっているんだがね、それの修復を手伝ってもらいたい」

 「試験召喚システムがおかしくなっている?」

 「それの修復?」

 考えても分からん。そんなものをオレたちに頼んだところで出来るものなのか。

 

 「あのセキリュティ万全のサーバールーム内に誰か侵入しておかしくしているんだよ」

 「システムのコアに近い教師用の召喚獣は完全に使えないようになっているんだ」

 「それに、生徒用の召喚獣も操作不能=暴走状態にあります」

 「そんなのを一体どうやって!?」

 オレらに頼んでも何も始まらない気が!?

 

 「おまけに、サーバールームの防犯システムにアクセスできない。これじゃ修理に入ることも出来ない」

 「壁を壊して侵入しようにも、明日はスポンサーにこのシステムの説明をしないといけないから」

 「なるべく、隠密にことを進めたいのです」

 「だからといって何で僕たちに頼むんですか!?」

 アキが代表してオレたちが疑問に思っていたことを言った。

 

 「観察処分者の召喚獣は別領域で動いているからそれで中に侵入してもらって修理してもらおうと思ってね。それに、腕輪所有者の召喚獣も別領域で動いているからね。そこの吉井明久と七島弘志に本田竜也にちょいと働いてもらおうかと思ってね」

 「俺も黒金の腕輪を持っているが」

 「教師がフィールド作成を出来ないんだ。ということはそれでフィールド作成するしかないさね」

 「なるほどな」

 だからこのメンバーを選んだわけか。

 

 「それにしても、それだけならばその4人でいいはずでは?」

 「アンタたちを買っているんだよ。強化合宿での行動をね。信頼しているよ」

 「お前たちの協力する姿勢や、正義感あふれる行動を買ってこの10人を選抜された」

 「その期待に皆さん応えてください」

 へ~口は悪いけどちゃんと見るところ見ているんだねこの学園長は。

 

 「召喚獣でサーバールームに入ってケーブルを繋いでくれ。そしたらアタシが端末から防犯システムを切って扉を開ける」

 「なるほど。物理干渉が利く明久ならではの作戦か」

 「でも、壁とかをすり抜けられないよ」

 「ちゃんと通気孔があるから安心しな」

 相手はこちらのことを買ってるかもしれないが、こっちは学園長のことを何も知らない。

 

 「通気孔の中だと、見えないから操作できないんじゃない?」

 「………これ、ビデオカメラと送信機」

 「OK、いつも持ち歩いている謎はあえて聞かないよ」

 先生達も、仕方なく今回は黙認しているようだ。

 

 「黒金の腕輪の範囲は狭い。サーバールームの目の前で使ってくれ。誘導はこちらからする」

 「大型ディスプレイがあるAクラスでしますか?」

 「いや、一般生徒には迷惑をかけたくない。ここにも小型だが、ディスプレイがある」

 といって、とあるリモコンを使ってスイッチを押すと学園長室の1つの壁の上からスクリーンが降りてきた。

 

 「簡易スクリーンだよ。これでいいさね」

 「分かりました」

 「頼んだよ」

 何か、若葉学園の存続を託された気がしたが、出来ることをやるしかない。

 

 「すまんがオレ、テストの点数ものすごく低い。多分0に近い」

 「今頃言う?」

 「言い出すタイミングが無かった」

 「仕方ないですね。急いでテストを受験しましょう」

 竜也はテストを受けるため、オレとアキ・雄二でサーバールームの方へ向かうことにする。

 

 「頑張ってね!」

 と、みんなに後押しをされながら、学園長室を出た。

 

 「しかしムッツリーニも最新式の機材をよく持っているなあ」

 「今回はそれが学園の存続のために役に立っているな」

 先生達も、本当に康太に感謝するべきである。こんなことを言うのは、全てが終わった後にしよう。

 

 「着きましたよ」

 無線で繋がっている学園長に話しかける。

 

 『早速、展開し召喚してくれ』

 「2人とも準備はいいか?」

 雄二がオレとアキに問う。目を合わせてうなずく。

 

 「起動(アウェイクン)!!」

 「「試獣召喚(サモン)!!」」

 オレらの召喚獣が通気孔を通って、中の(迷路になっているらしい)道を進む。

 

 『聞こえるかの2人とも』

 「バッチリだよ秀吉」

 『そのまま直進じゃ』

 『………3m先を右折』

 「了解!」

 秀吉と康太の指示通りにオレたちは進む。が、曲がった途端トラップが。

 

 「痛っ!! 痛いよこれなに!?」

 『毒の沼地さね。セキュリティの一種さね』

 「お、おい! フィードバックがオレにも来るのは何故だ!?」

 『それは厄介さね。今アタシが研究しているのに少し関係するが、話は長くなるから後にするさね』

 どんな研究だ!! くっ……アキはよくこんなフィードバックを耐えれるな。

 

 『迂回するわよ。そこで左折して』

 「了解!」

 『すぐに右折!』

 「OK!」

 次々に出てくる指示通りに進む。案外順調かと思われたその時。

 

 「召喚獣が!?」

 「これがいわゆる暴走召喚獣か!」

 「しかも、秀吉とムッツリーニじゃないか!!」

 『すまぬ! 操作が出来ぬ。オートで動いているようじゃ』

 『………気をつけろ。今フィールドは保健体育だ』

 「「何だって!?」」 

 保健体育の王様に平民のオレたち2人が挑むのか!

 

 「アキどうする!?」

 「って言ってる側から!!!」

 『避けろ!!!』

 「「ぐわあっ!!!!」」

 痛いと思うより先に、オレは目の前が真っ暗になった。

 

 「明久ぁ~!! 弘志ぃ~!! おい、戦死したのか!?」

 『みたい』

 「この2人気絶している。俺は急いで保健室に運ぶからどうにかしろ!!」

 

   ★

 

 「……っ! ココは?」

 「起きた~良かった」

 「? みんな? あれオレそういえばサーバールームに……」

 「ヒロも起きた?」

 「アキか……って“も”?」

 オレは記憶をたどることにした。どうもみんなと会話が成り立たない。

 確か、秀吉とムッツリーニの暴走召喚獣と出会ったあたりから記憶がないんだよね。

 

 「………あの後、俺の暴走召喚獣が2人を一撃で仕留めた」

 「コンピューターが操作しているだけあって的確な場所を突き止めていた」

 「お前らフィードバックは大丈夫なのか?」

 「全然問題ないよ」

 「何でオレらが保健室に運び込まれているかが謎だな」

 あまりの衝撃に痛みすら飛んで行ったらしい。痛みを感じることすら出来なかったと言っていい。

 

 「隣にいるのに、何もしてやれない俺が不甲斐ないぜ」

 「仕方ないよ。雄二はフィールドを展開するのが仕事だから」

 「2人とも、まだ続けることは出来ますか?」

 「「はいっ」」

 オレたちは保健体育のテストだけを受けなおして再チャレンジすることになった。因みに竜也はほぼ全教科受けなおしているから未だに合流できないらしい。

 

 「試獣召喚!!」

 再び、1からのスタートだ! ただ一つ心配なのが、黒金の腕輪はランダムで教科が出てくるからまた保健体育とかで康太と当たると二の舞になりかねない。

 

 「今度のフィールドは?」

 『数学だよ!』

 「ありがとう梓ちゃん!」

 『気をつけて』

 スピーカー越しでも聞こえるみんなの声援を無駄にはしたくない。正直、ココまで期待してもらえるのは嬉しい。

 

 「出たな秀吉とムッツリーニ!」

 「5教科のときならお前らに勝ち目は無いぜ!!」

 「行くぞっ!!」

 アキが相手を引きつけオレが点数差を生かし相手をつぶす。

 

 「どうやら、倒したみたいだな。お前ら」

 「ありがとう雄二!」

 『戦死者は補習~!』

 『理不尽じゃ!』

 『………勝手に召喚獣が勝負挑んで負けただけ』

 『問答無用!』

 スピーカーの奥からこんな声が聞こえてきたが……

 

 「ゴメン2人とも!」

 「お前らの犠牲を無駄にはするものか!」

 立ち止まってるわけにはいかないんだ。

 

 「おっ! 光が射している場所があるぞ」

 「そこがサーバールームじゃねえのか?」

 『そうさね。そこまで一直線』

 「「痛たたたたたたっ!!」」

 『だが、トラップはもちろんあるさね』

 「「それを先に言えっ!!!」」

 学園長の指示はあんまり当てに出来ないらしい。優子さんを中心としたAクラス女子の指示を頼りに。

 

 『どうやら、一直線で行くのは不可能みたいね』

 「学園長の嘘つき!!」

 『仕方ないさね。アタシだって見間違えることくらいはあるさね』

 「そんな呑気な!」

 『迂回しよう。次を左折して、すぐに右折だよ』

 「了解!」

 憂ちゃんの声が聞こえてきてその通りにする。あちらの画面がどんなものかは知らないが、迷路をやっているようなものなのか。それとも……?

 

 「お前ら、一応用心しとけ。いつ敵が襲ってくるかわからな ー って危ない」

 「雄二、僕たちの反射神経をなめているのかい?」

 「伊達に召喚獣を扱っているわけじゃねえからな」

 『暴走召喚獣出現! 須川率いるFFF団数名』

 お前らは邪魔しかしないのか。

 

 「FFF団なら容赦はいらねえ! 思いっきりぶっ潰して来い!!」

 「言われるまでも無いよ!」

 「圧倒的な点差を見せ付けてやる」

 数で劣ろうとも、点数合わせたってオレに劣るんだから負けるわけがない。

 

 「よしっ。光がもうすぐそこに」

 『それがサーバールームさね』

 「入ろう!」

 「おそらく、ココにたくさんの敵が待ち構えているだろう」

 オレたちに小出しで当たらせて最後はボスが待っているんだろう。優子さんあたりが出てくるとちょっときつい。

 

 「って、お前ら3人かよ!!」

 「2vs3な上に圧倒的不利な点数差じゃないか!」

 『やっぱり、重要な拠点には重要な人材を置いているものね』

 聞こえてくる優子さんの声。そう、その3人とは……

 

 「くっ……霧島に姫路に島田か。おまけに教科が数学だと?」

 「ひ、ヒロ……どうすれば?」

 点差な上に、精神的にこちらが不利。アキの戦う気力が大幅に減っている。雄二も隣でガタガタ震えているようだ。仕方あるまい。強化合宿のあの事件があれば。

 

 「やるしかあるまい!」

 そうオレは格好よくアキに言い放つものの、圧倒的劣勢を覆すことが出来ず。

 

 「痛いよ!!」

 「くっ……このフィードバックはきつすぎる!」

 「お前らしっかりしろ! もうフィールド消すか!?」

 「そんなこと出来るわけ無いじゃないか! みんなが応援してくれてるんだ」 

 「いつにも増して暴力がきつい! 反撃の機会すら許してくれねえ!!」

 そしてオレらは負けた。

 

 





 バカテス1期8話の話です。
 
 これは長編になりそうになかったですが、1話にも収まらなかったので2話に。

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#45 補完計画!


 2話に分けた部分の後半部分です。
 
 やっぱり雄二はかっこいい!(と思うのはボクだけでしょうか?)

 地味にフラグを建設?

 では、どうぞ!!





 

 

   ★

 

 「2人とも、すまない。俺がお前らの反対を押し切ってフィールドを……」

 隣で2人の痛みに苦しむ顔を見ておきながら、どうしてもやつらの言った言葉が頭に引っかかって行動に移せなかった。

 

 「フィードバック強すぎるだろ」

 俺は気絶している2人を抱えて保健室に飛び込んだ。すぐその後に、ババア以下全員が駆けつけてくれた。このまま続けることが出来るのかコレは……精神的なダメージの方が強すぎるぞ。

 

 「最悪な戦死の仕方ね」

 「ああ」

 木下姉がそうつぶやいた。確かに言うとおりだ。俺はあの戦場に立ってすらないのにおびえていた。あの翔子らが暴力を振るう姿があのときの姿と被って……何てチキンなヤツなんだ。何が悪鬼羅刹だ。どうしてあいつらを救うことすら出来なかった。

 

 「坂本君がそう自責の念に悩まされること無いのよ」

 「そうだよ。元はと言えばあんなことをした3人が悪いんだからさ」

 そうは言うけどな。俺はフィードバックとやらの強さを知らない。が、比較的頑丈なこいつら2人が気絶するくらいなんだ。おまけにあのシーンだ。とめてやるのが筋ってもんだろ。

 

 「ふむ。早く起きてもらわないとねえ」

 ババアの野郎がこんなことを言いやがった。流石に俺もぶちきれた。

 

 「てめえ今何て言った? こいつらの苦労も知らないで早々に再開するつもりでいるのか!?」

 「当たり前じゃないか。そうしてもらわないと学園がボロボロさね」

 「あんたはそれでも教育者か! 学園の前に、この2人がボロボロになるのが分からないのか!!」

 「坂本落ち着け。相手は学園長だ。手でも出したらただじゃ済まされない」

 鉄人が俺を力づくで止めたが納得できねえ。生徒が傷つくようなシステムなんか糞くらえだ。

 

 「くそっ!」

 「むしゃくしゃするのも分かるわ坂本君」

 「ああ?」

 「でもね。怒っても何も解決できないのよ」

 木下姉の言う通りかも知れねえが……理性ではそう分かっていても感情の部分がどうすることも出来ないんだよ。寝ている2人に迷惑がかかるからと俺は木下姉に連れられて保健室の外へと向かった。

 廊下に出て目の前の窓を開け、頭を冷やしながら会話する。

 

 「なあ、俺は間違った行動を取ったのか?」

 「いいえ。あの時あなたがそういう行動をしたのならそれが最善の策よ」

 「あいつらの意見を尊重したばっかりにあいつらを気絶させるなんてな」

 「あなたにしか分からない相当なジレンマがあるでしょう。アタシには分からない。でもねコレだけは言える。あの2人はあなたにそんなこと思って欲しくないということだけは分かるわよ」

 っ!?

 

 「今はただ、あの2人が無事に回復するのを待ちましょう」

 「…………ああ、そうだな」 

 心が少し落ち着いた。木下姉はよく人の心を読んでいるな。

 

 「って、あなたたち何勝手に保健室に入ろうとしてるの!?」

 俺は木下姉がそう言ったから、後ろを振り向いてみると、そこには2人をあんなふうにさせた張本人3人がいた。

 

 「明久君たちが保健室に運び込まれたところを見たから心配になって駆けつけたんですよ!」

 「瑞希からこう聞いたからね、見舞いに行かないといけないじゃないの!」 

 「………そう」

 「言ったでしょ。関わらないで欲しいって!」

 「今どんな状況か分からないくせにそんなことを言うな!」

 心を奮い立たせて恐怖心を出来るだけ隅っこに追いやって3人に立ち向かう。(そうは言っても、翔子からは一番遠いポジションに位置取る)今のあいつらを守れるのは俺しかいないんだ。

 

 「坂本君、あなた1人で背負い込みすぎなのよ。今も自分だけで守ってやるんだって思ってたでしょ」

 「なっ!?」

 「バレバレよ。アタシもいるから忘れないで頂戴」

 「ああ」

 この薄い壁一枚隔てているところにやつらは寝ているが、断固として近づかせない。あいつらのためでもあるし、俺の精神の問題でもある。

 

 「どうして、あなたたちに決められなきゃいけないのよ!」

 「………雄二、ひどい。何でそんなことするの」

 「いいからそこをどいてください!!」

 女子だからという理由で手を出さないで置いたが、危うく手が出るところだった。その危険な行動を止めてくれたのは、鉄人だった。鉄人が俺たちがドアの前で騒いでうるさかったからドアを開けて出てきた。

 

 「うるさい。静かにしろ」

 「2人が通してくれないんですよ!」

 「吉井の見舞いか?」

 「はい!」

 鉄人も流石に苦い表情をして少し考えていた。鉄人がドアを開けたままにしているため、中の様子が見えたが既に弘志は起きているようだ。明久に比べたら精神的ダメージが小さい上、召喚獣本体の防御力も明久とは比べ物にならないくらい高いはずだからな。

 

 「? ココは……ああ、そうか僕また気絶しちゃったんだね」

 「大丈夫?」

 「あ、愛子ちゃん、それにみんなありがとね。大丈夫だよ」

 「まだ起き上がっちゃダメって」

 「いいよいいよ ー ひっ!!」

 明久はようやく回復して起き上がろうとしたが、偶然こちらのほうを向いてしまったために再び布団の中へともぐりこんでいった。取り返しのつかないレベルのトラウマだな。かく言う俺も翔子とはもう目を合わせることすら無理だ。虚勢のみでこの場に立っているといっても過言ではない。

 

 「見たか。今どうみてもお前らの顔を見て怖がったよな」

 「あなたたちがここにいると返って明久君のためにならないから何処か行ってくれるかしら?」

 「何を ー 」

 「2人の言うとおりだ。3人とも頼むからこの場を離れてくれ」

 鉄人が助け舟を出す。3人とも鉄人には勝てないのでこちらをにらみながら帰った。

 

 「ふぅー……」

 「よく我慢したわね。あなたも代表にトラウマがあるんじゃなかったかしら?」

 「ああ。最大限まで我慢したさ。だが、ここで折れるともう坂本雄二でいられなくなるような気がしてな」

 「そこまで立派なものかしらね」

 「何?」

 「あなたが友達思いなのは十分分かったわ。アタシたちも見舞いに行きましょ」

 たまに木下姉の言うことは分からなくなるような気がする。

 

   ★

 

 「ちっ……何なんだあいつらは」

 「追っ払った。安心しな」

 「雄二、優子さん助かった。ほら、アキ。もう帰ったから布団から出てきていいぞ」

 「うん……」

 完全にトラウマものだな。

 

 「2人とも回復したことだし、再び試験を受けて突入してもらおうかね」

 どれだけ酷使するんだ……オレらしかいないからしかたないにしても、もうちょっとねぎらっていただきたい。アキだって微妙に体を震わせたじゃないか。

 

 「ひ、ヒロ……みんなのために行かないとダメだよね」

 「強がらなくてもいいんだぞ。オレは行くさ ー って痛たたた」

 体をちょっと動かしたら痛みが出てきた。

 

 「無理しないでよ」

 「もうちょっと安静にしていたら?」

 「そういうわけには行かないさ」

 「それじゃあ僕も行くしかないじゃないか!」

 アキは精神的に強いと思う。あそこまでのことをされておきながらまだ前に進めるんだから。

 その後、保健室で数学の回復試験を受けたあとに、3度目の突入となった。

 

 「もうこれで最後にしよう。成功しても失敗しても」

 「どうした雄二。突然」

 「お前たちの気絶する姿をこれ以上みんなに見せるな」

 「うん。そうだね。これで絶対成功させて見せるよ」

 「頼んだ……起動(アウェイクン)!!」

 「「試獣召喚(サモン)!!」」

 所々に出てくる雑魚共は全て一蹴して、あっという間に先ほど負けたあの舞台、サーバールームにやってきた。

 

 「出てきたぞやつら」

 「今度は負けるわけには行かないんだ!!」

 芸術という中途半端な教科が選択されたようだ。霧島たちの芸術の点数はよくは分からんが、相手有利なのは変わらんだろう。

 

 「ひとまず相手の攻撃パターンを読め!」

 「分かった雄二」

 「避けに徹して、たまに反撃する形を取ろう」

 「了解!」

 流石は優秀なのが相手。攻撃速度も速く、何回か避けられないことがあった。その上、反撃する余地もない。

 さらに一瞬の隙を突かれ、召喚獣が縛についた。

 

 「ぐうっ……」

 「この縄外れない」

 『しっかりして2人とも!!』

 まさに拷問だ。強化合宿でのやつらの行動がフラッシュバックしてくる。

 

 「た、助けて……」

 「アキ。ぐうっ!!」

 アキが声にならないような助けを求めている。どうにかならないのか。

 

 『何この音は!?』

 『あ、あれだよ!!』

 「お姉さま~!!」

 清水美春の召喚獣が登場した。それに気を取られた島田の召喚獣は動きが停止、他の2体の召喚獣も一瞬だけ動きが止まった。オレらはその隙を逃さない。姫路の振るう大剣をジャンプして避ける。すると、島田と清水の召喚獣にジャスト。戦死した。ラッキー清水助かったぜ。その上、流れはコッチに来たみたいだ。

 

 「え? 純ちゃん?」

 そう、純ちゃんの召喚獣みたいなのが、清水を追っかけてきた。どうやら、純ちゃんは清水のお世話係みたいになっているようだ。当然、カオスになった分、こちらが有利になる。その上、

 

 「おいおい、オレを忘れてもらっては困るぜ」

 「竜也!?」

 「やっとテスト終わらせたのか!」

 「ああ。急いでお前らの後を追ってきた。憂ちゃんありがとな~」

 『2人を絶対に戦死させないでね!』

 「任せときな!」

 竜也がようやく合流。ピンチが一瞬にして消え去った。それもそのはず、音楽といえばこいつ。保健体育で言う康太のようなものだ。すぐにその他の2体の召喚獣が目の前から姿を現した。

 

 「お前格好よすぎるだろ」

 「美味しいところ持っていくね~」

 「まあな。でもお前らが粘っててくれたおかげさ」

 「おい、談笑してないでさっさと行こうぜ」

 フルメンバー揃ったところで、さあケーブルとやらを繋ぎに行こうか。まあ、その前にたくさんの敵が現れるのは百も承知だが。

 

 『ヒロ君、私たちの召喚獣!』

 『まずいわよ!』

 『4人、全員いる!』

 『どうにかして』

 最後の最後というときに、優子さん・愛子ちゃん・梓ちゃん・憂ちゃんという最強メンバーが顔を揃えた。

 

 「芸術だからまだ勝ち目はあるか」

 「とはいっても、梓ちゃんの音楽も高いからなあ」

 「勝てばいいんだよ!!」

 「アキの言うとおりだな」

 だが、防戦一方とまでは言わないが結構押されている展開だ。

 

 『ヒロ君!!』

 『みんな大丈夫!?』

 「くそっ。ココまで来たと言うのに最後には負けるのかよ」

 「まだ諦めてたまるか」

 『ダメ! 最後に大技でしとめようとしている!!』

 愛子ちゃんがそう叫ぶ。確かに、斧に電気をまとっているみたいだ。

 

 「そうだ! 4人とも今すぐ試験を受けて!!」

 『はあっ!?』

 「そうか明久。いいことを思いついた! 回復試験だ」

 『何を言って ー そういうことね!』

 『ふっ……』

 アキの考えた作戦は間に合うのか!! 学園長がようやくその考えにたどり着いたかと言わんばかりに鼻を鳴らしていたのが気に食わないが……自分達でやれるところまでやれということか。

 

 『テスト受けます!』

 『いいのですか? これ以上テストを受けたら3人に勝ち目はありませんよ』

 高橋先生はまだ気づいていない。時間が大事ってのに……

 

 『いいから早く!』

 『どういうことなの優子ちゃん』

 『こういうことよ!』

 『へっ? 白紙?』

 『そうか! 0点になるから、わたしたちが戦死扱いとなって消えるんだよ!!』

 『なるほど。高橋先生テストを!』

 

 

 「アキ、竜也、最後に一太刀浴びせよう」

 せめてものオレたちの活躍だ。やらしてもらおうじゃないか!!

 

 「「「いっけえ~!!!」」」

 

 『木下優子・工藤愛子・中野梓・平沢憂、0点』

 

 「よかった。これで無事に終わる。明久最後はお前の仕事だ。ケーブルをつなげ」

 「了解!」

 『システム異常回復しました!』

 『これでひとまず終わったさね』 

 やっと終わった。長かった……

 

 「終わった~!」

 「よくやった3人とも」

 『みんな~お疲れ~』

 仕事が終わって休んでいると、みんながサーバールーム前までやってきてねぎらってくれた。これで何とかこの学園も続くのだな。

 

 「最後にいいか」

 「どうしたの雄二」

 「どうしても腑に落ちない点が1点あるんだ」

 「犯人が誰かって話ね」

 「そうだ」

 なるほど。雄二の言うとおりだ。修復の方に集中しすぎてそっちの方にまで頭が回らなかったな。

 

 「学園長、あなた恨みを誰かから買われてませんか?」

 「心当たりがありすぎるさね」

 「じゃあ、内部には」

 「教頭がアタシのポストを狙っているみたいさね」

 「それが黒幕かもな」

 「どういうことだ坂本」

 「学園の不祥事を喜び、なおかつ学園内部の人間の犯行としか考えようが無いんだよ」

 「セキュリティがここまで凄いのに、あんなところまで入るということを加味するとね」

 雄二と優子さんのコンビは素晴らしいな。よくそこまで想像できるよ。

 

 「でも証拠がないよね」

 「そのとおりだ」 

 「誰だっ!!」

 「どうしたの?」

 「そこの影から逃げていく人が」

 「黒幕だ! もしくは黒幕の手下か。追うぞ!」

 「3人は休んでなよ」

 そうは言ってられない。オレたちを間接的にこんな目に合わせたヤツをとっつかまえるまではな。

 

 「待てぇ~」

 西村先生ももちろん参加。これは怖い。いつの間にか外にまで走って逃げているらしかった。

 

 『すいませ~ん取ってください』

 と、オレの前に転がってきた野球ボール。もう部活が始まるような時間なのか。ん? 野球ボール?

 

 「一か八かだが……食らいやがれ!!」

 中学時代強肩で鳴らしたオレの球を受けてみろ。

 

 ただ、意に反して結構なコントロールミスが。ああ、キャッチボールしないとダメだな。そう思ったときだった。サッカーボールがたくさん入っているかごにジャストミートし、かごが横転、ボールが転がりだした。逃亡者はそれに足を取られて転倒。その隙に趣味はトライアスロンの鉄人こと西村先生が追いつき捕獲した。

 オレの意図した形とは違ったが、やつらをとっ捕まえることに成功した。

 

 





 清水いいところで活躍!

 雄二の苦悩と優子の的確な助言。
 未だに、名前呼びとは程遠いですが、徐々に近づいていってますね。

 優子が目立ちすぎて、他の3人(愛子や梓・憂)が目立たなかった気がする。
 ちょっと課題ですね。

 次からは本当の本当に長編に入ると思います。
 今回のは順番を逆にしたんです。予定では、次やる長編の後にしようと思ってたんですが、先に持ってきました。

 もしかしたら、次話まではこの話の流れを引っ張るかも。

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#46 疲労!


 結局、前2話の話を持ってきてしまいました。

 意外な名前が。

 では、どうぞ!!




 

 

 「疲れた~」

 「そりゃそうだよ」

 「ゆっくり休みなよ」

 全てが終わった後に、先ほどの10人でAクラスで休憩する。西村先生は今とっ捕まえた2人を尋問している。何を吐くのか見ものだ。

 

 「お前ら、今日は本当にお疲れさん。助かったぞ」

 「あ、西村先生。尋問終わったんですか?」

 「ああ。お前らには伝えておこうと思ってな」

 西村先生がわざわざAクラスにまで来て説明してくださった。

 

 「捕まえた2人は3ーAの常村と夏川というやつらだ」 

 「常夏?」

 「まとめるな」 

 「その2人の言うところによると、やはり教頭の差し金だったみたいだ」

 あくどいな。竹原とか言う名前だったかな。

 

 「証拠が無いのでどうしようか迷っているんだ」

 「強行家宅捜索でしょ。何か見つかるんじゃないっすか?」

 「見つからなかったときの学園長の立場を考えてみろ」

 「それは難しいですね」

 教頭は自分が見つかってもいいようにしっかりと逃げ道を確保しているに違いない。

 

 「に、西村先生!」

 「どうされました高橋先生」

 「教頭室の窓が割られました!」

 「どういうことでしょう」

 「打球が偶然にも当たって、ガラスが割れたそうです」

 普通耐久ガラスなのにね。悪いことはするもんじゃないな。

 

 「これで教頭室に入り込む口実が出来たんじゃないのか?」

 「坂本、いいことを言った。早速学園長に言おう」

 西村先生は高橋先生を連れて、Aクラスを出て行った。

 

 数十分くらいAクラスで休憩していたんだが、その間に教頭の陰謀によるものと分かる証拠を見つけたので、更迭することに決まったそうだ。悪は滅するものなんだな。

 

 「明久君、大丈夫!?」

 「あ、ちょっとふらっとしただけ」

 「ダメだよ。今日は働きすぎたんだから休んでないと」

 「で、でも」

 「いいからいいから」

 愛子ちゃんは拒否するアキの手を握り、Aクラスから出て行った。まあ任せておいて大丈夫だろう。多分、保健室か何かに連れて行ったのだろうから。

 

 「俺も帰ろうかな」

 「アタシもそろそろ帰るわ」

 「オレも今日はバイトないが早めに帰らせてもらうわ」

 雄二や優子さん・竜也も帰るそうだ。

 

 「ワシは部活に行くぞい」

 秀吉は演劇部へ。結局Aクラスに残ったのは、梓ちゃんと憂ちゃんと康太とオレ。ちょっとばかし疲れが取れないため、もう少しAクラスで休憩していたら、思わぬ客人が。

 

 「あれ? 梓に憂、それにヒロ君と康太君じゃん」

 「純!? 久しぶりだね」

 「なんでココに?」

 「この頃全然会う機会が無いな~と思ってさ」

 確かに。先輩方が修学旅行に行ってて部室でセッションしたとき以来かな?合宿でも結局忙しすぎて一回も顔あわせること無かったしな~。

 

 「さっき、突然西村先生がやってきて『戦死者は補習~』とか言いだして、補習室に連れられたんだけど」

 「「「あっ……」

 心当たりがものすごくある。暴走召喚獣のときに、純ちゃんのもまとめて倒してしまったんだった。

 

 「実はこういった事情で」

 憂ちゃんが代わりに今日あったことを話してくれた。

 

 「そんなことがあったんだ~みんな活躍してるじゃん」

 「そんなことないよ~」

 純ちゃんがうらやましそうにオレたちを見ていた。

 

 「強化合宿の時大変だったよね」

 「そうそう。男子がほぼ全員で女子風呂を覗くんだもんね」

 「純も、撃退するのに参加してたの?」

 「まさか。面倒くさいじゃん。部屋にいたよ」

 助けに行こうとまでは流石に思わないか。

 

 「でも、ヒロ君たちも大活躍だったみたいじゃん」

 「そうなんだ~」

 「憂ちゃんや梓ちゃんが手伝ってくれたおかげだけどね」

 お世辞などではなく、本心でそう思っている。とっても助けられた。ってか助けてもらってばっかり?

 

 「梓たちが元気そうでよかった。また暇が会ったらこっちに遊び来る。じゃ部活行くね」

 「バイバ~イ」

 「………俺もそろそろ帰る」

 「おっ。じゃあな」

 純ちゃんと康太は共にAクラスを出て行った。

 

 「さて、オレたちも部活に行かないとね」

 「そうだね」

 「ヒロ君もう大丈夫なの?」

 「大分戻ってきたよ」

 「そういえば、今日お姉ちゃん達インターンシップのはずだけど」

 インターンシップって職場体験のことか。そうか今日校舎内に3年生がいないのはそういった訳か。だから学園長も3年生の腕輪保持者(いるかしらないけど)じゃなくて、オレたちを選抜したのか。

 

 「でも、そろそろ帰って来ているんじゃない? もう5:30だし」

 「そうだね。じゃ、無理しないようにね~」

 「ありがと~」

 オレらは部室へと向かった。

 

 「遅かったな」

 部室に着くと、既に先輩方は全員いた。インターンシップから帰って来ていたみたいだ。

 

 「すいません……いろいろありまして」

 「みたいだな。2人の顔をみても分かる。相当疲れているぞ」

 「そうですか? そうかもしれませんね」

 「何があったんだ?」

 疲れているオレをかばってか、梓ちゃんが事の顛末を全て話してくれた。

 

 「そんなことが!」

 「とてつもない大役だったな」

 「疲れたでしょ~」

 「わたしたちの学校を守ってくれてありがとう!!」

 唯先輩の何気ない一言でも、今日は本当に嬉しい。やりきった感に満ち溢れている。

 

 「あっ! すいません」

 オレはコップを倒してしまい、お茶をこぼしてしまった。

 

 「ヒロ君、今日は帰ったほうがいいんじゃないの? 自分でも分からないくらいの疲労がたまってるんじゃ」

 「いや、いいよ ー あ、すいませんムギ先輩。ありがとうございます」

 すぐにテーブル拭きを持ってきてくれて拭いてくれた。おかしいな。自分の体が自分じゃないみたいだ。フィードバックによる疲れと精神的な疲れは両方とも目には見えないから恐ろしいな。

 

 「しかし、教頭先生がそんな人とはな」

 「ああいう人間に限って表では偽善者ぶっているってことよ」

 「そうなってくると、どの先生を信じていいか分からなくなりますね~」

 「そうだよ。どうすれば……」 

 今思い出したんだが、そういえばこの話他言無用じゃなかったっけ。やばいな。急いで口封じをしておかないとね。

 

 「あら、みんな来てたのね」

 「さわちゃん先生!」

 「ヒロ君・梓ちゃんお疲れ様」

 「「???」」

 「召喚獣の件よ」

 「「あ~ありがとうございます」」

 緊急職員会議で今日のことが話されたらしい。名前まで挙げられるとはちょっと照れるな。

 

 「よくぞこの学園を守ってくれたわ」

 「そんな……いいですって」

 「その分、結構ダメージも大きかったですけどね」

 「そうみたいね。疲れ切っている顔してるわ」

 そんなに分かりやすいのだろうか。

 

 「そういえば、あなたたちはインターンシップから帰って来たのね」

 「はいっ!」

 「別に学校に帰って来なくても現地解散でよかったんだけどね」

 「部活に来たんですよ」

 「冗談よ」

 さわちゃん先生は当然のようにムギ先輩を遣ってお茶を淹れさせる。

 

 「どんな雰囲気だったかしら?」

 「というか、それよりみなさん何処に行ったんですか?」

 高校の職場体験ってどんなところに行くんだろう。

 

 「わたしと唯は保育園だったな」

 「うんっ!」

 「わたしと澪ちゃんが、ハンバーガー店だったの」

 「そう」

 へえ。ちょっと想像してみよう。

 

  ………

 

 唯先輩は果たしてちゃんと世話できたのだろうか。逆に世話されてないよね!?

 りっちゃんははっちゃけ過ぎてないか心配だ。

 ムギ先輩が庶民のお店に。似合わないなあ。

 澪ちゃんは人見知りだけど接客できたのかね。

 

 「みんなのその表情を見てみると散々だったようね」

 「楽しめましたよ。ねえ澪ちゃん」

 「えっ!? あ、ま、まあ……そう……かな?」

 

 「わたしたちはどうだろうな唯?」

 「どうなんだろうね~」

 「よかったんじゃねえのか?」

 「どうかな~」

 「さっきから曖昧な返事ばっかりだな!」

 「そうかな~」

 ナチュラルボケ。来年の参考にさせてもらおう。職場体験は結構辛いみたいだ。中学時代と違って、高校生はちゃんと大人に見られるから厳しいとか。それもそうか。もうすぐ社会に飛び立つんだから。

 

 「あなたたち、今日は練習せずに早く帰ってゆっくりしなさい。みんな顔に出てるわよ。そんなんで練習したって何も残りはしないわ」

 さわちゃん先生が珍しく先生らしいことを言ったので、先生を立ててみんなその通りにした。

 

 





 常夏名前だけの登場ですが……
 この話でも悪役に徹してもらいましょう(笑)

 次話こそは、長編に入りたいです。

 準レギュラークラスの人もじゃんじゃん使っていきたいです。
 ex.)純・和・美春・FFF団など。

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#47 姉!


 題名から分かると思いますが……

 期末テスト編突入!

 さらにカオスに(泣)

 では、どうぞ!!




 

 「 ー 明日から、期末テスト10日前になります。Aクラスの皆さんは普段どおりにして大丈夫でしょう」

 普段から勉強を欠かさずやっているAクラスのメンバーにいつも以上に勉強しましょうなどと言わなくてもいい。Fクラスなどは、先生が言ったところで何も変わらない気もするが。

 

  『3年A組、田井中律さん・平沢唯さん、急いで職員室に来なさい』

 

 HRも終わり、部活に向かおうとしたところでこんな放送が聞こえてきた。さわちゃん先生の声での呼び出しだ。どうしたんだろう2人とも……

 

 「本当にAクラスなのかたまに疑ってしまうよね」

 「それは2人に失礼だよ梓ちゃん」

 「お姉ちゃんだってやれば出来るんだよ~」

 それは分かっているが……ねえ。

 

 「じゃあ、憂わたしたちは部活に行って来るから」

 「うん。いってらっしゃい」 

 「行ってきま~す」

 教室を出て、部室に向かう途中にテンション低めのアキとその他諸々のFクラスメンバーがいた。

 

 「どうしたんだ?」

 「雄二たちが無理やりウチに押しかけようとするんだよ」

 「いつものこと?」

 「違うよ!! 本当に来て欲しくないんだよ!!」

 普段はアキが家に来て欲しいとか言って家で遊ぶことが多いんだが。

 

 「今日、明久の言動にやたらとおかしい部分があったのでのう」

 「………自宅訪問」

 「面白いものが見つかるかも!」

 「そうか。4人で?」

 「そのつもりだが」

 オレも行きたいけど、まだ部活中止期間に入っているわけじゃないし。

 

 「え、何なに? 明久君の家に遊びに行くの? 今日暇だからボクも行っていいかな?」

 「え、ええ? 愛子ちゃん!?」

 「ボクはいけないの?」

 「い、いや……そういうわけではないんだけど……」

 ふむ。秀吉の言うとおり確実に何か隠している。それを見つけるのはこの人たちに任せるか。

 

 「じゃあ、行くよ♪」

 (ヒロ~助けてくれ~)

 アキは他のみんなに聞こえないくらいの声量でオレに助けを求めてきたが……

 オレはアキを雄二たちに任せて梓ちゃんと共に部室に行った。

 

   ★

 

 「お疲れ様です」

 「2人とも来たか」

 部室には、澪ちゃんとムギ先輩が。やはりあの2人はいなかった。

 

 「2人とも放送で呼び出されてましたけど」 

 「あれは本人が悪い」

 「どうしてですか?」

 「実はな ー 」

 と、澪ちゃんがそれにわたるまでの経緯を語ってくれた。

 3年生は、進路希望調査書を先生に提出しないといけなかったらしいんだが、唯先輩は未提出、りっちゃんは進路希望にでかでかと「未定」と書いたらしい。多分、それで呼び出されたんだろうって。この時期に進路が決まっていなくて大丈夫なのかな……

 

 「ただいま~」

 「おおっ! 噂をすれば何とやら」

 「何なに? わたしたちの噂してたの!?」

 「ああ。お前らのバカな噂を」

 「ひどいよ澪ちゃん!」

 隣で梓ちゃんが溜息つきながらお茶を飲んでいたので、オレもそれに倣った。

 

 「で、さわちゃんったらひどいんだぜ。自分も全然決めてなかったくせに!」

 どういうわけか、学生時代のさわちゃん先生の話も聞きだしていたらしい。

 

 「3年生になると大変ですね」

 「そうだぞ~2人ともこうならないように今のうちから進路を決めておいたほうがいいかもしれないな」

 「そうですね」

 「全然はっきりとしませんけど」

 何処大学に行く、とか何処の専門学校行く、とか何になりたいとか漠然としたものですら見当たらない。

 

 「それはそうと、明日からテスト休みだな」

 「わたしたちには大会が無いからな、その期間に部活をすることは出来ない」

 「それだけ若葉学園が勉強の方に重点を置いてるということでしょ」

 ここらあたりでは進学校として名高い。部活で有名な部はごく僅か。

 

 「梓とヒロは別に大丈夫だろうが、赤点を取ると大変なことになるからな」

 「流石にそれは無いです」

 「一応、軽音部って全員Aクラスですよね」

 一応、“一応”ってのを強調した。

 

 「唯と律はコッチで面倒見るから心配要らないぞ」

 「何だ~澪、スパルタするのか!?」 

 「澪ちゃん、お手柔らかにね~」

 「お前たちが普段から勉強していると楽なんだがな」

 「「普段から勉強してるよ」」

 「「「「何ぃっ!?」」」」 

 大声と共に場の空気が凍りついた。

 

 「一応、最低限のことをやらないと授業についていけないからな」

 「みんなにまた迷惑かけたくないからね」

 「2人ともちゃんと考えてたのか」

 「疑ってゴメンね~」

 想像つかないな。隣の梓ちゃん見てもそんな感じをしていた。

 

 「じゃあ、今度会うときはテスト後かな」

 「あずにゃ~ん心配だよ~」

 「私のほうが心配ですよ」

 いつもの雰囲気を味わって、テスト前部活が終わった。これからちょっと長いなあ部活再開まで。2週間くらいあるよな~。

 

   ★

 

 「おっ! アキ……昨日はどうだった」

 校門前でとぼとぼ歩いているアキを発見。

 

 「………あ? ヒロ。おはよう」

 「元気ねえな。何があった」

 「雄二たちに僕の秘密がばれた」

 どんな秘密かは分からんが、遅かれ早かれ見つかるものじゃないのか。

 

 「実は、僕姉さんがいるんだ」

 「アメリカにいたんじゃなかったっけ?」

 「帰って来たんだよ! これがまた母さんより恐ろしいんだ」

 「ご愁傷様です」

 アキの母親はパワフルな母親だったと記憶している。姉さんもそんな感じか。

 

 「2人ともおはようさん」

 「おう雄二。こいつの姉どうだった?」

 「え、あ~それはだな……うん。大変だな」

 「お前が歯切れが悪いのは珍しいな。そんなに凄い姉か」

 「苦労する家族を持つと大変ってことだ」

 雄二のこの言葉には実感がこもっていたが自分も何か経験しているのかな。

 

 「詳しく言うと?」

 「ゲームは1日30分」

 「まあよく聞くものだな」

 「不純異性交遊の厳禁」

 「はあ?」

 アキがそんなことはしないだろ。

 

 「内容聞いてみると、“異性交遊の厳禁”だな」

 「というと?」

 「女の子と話すの禁止・家に連れてくるなどもってのほか」

 「なんだそりゃ……ってか昨日、愛子ちゃんも連れて行ったんじゃ……」

 「そのことについては本人から聞け。ああ、あと“不純同性交遊”は許可するそうだ」

 「おい! 吉井家は常識乱れているのか!!」

 「因みにハーバード大教育学部卒だそうだ」

 ゆがんでやがる。勉強のことに脳が使われすぎて常識という人間にとって要の部分が無い気が!

 

 「そういえば、学園長が言ってたが期末テスト終わるまで試召戦争禁止だってな」

 「それに、そのテストの点数で装備が進化するかもしれないんだよね」

 「よく知ってやがる」

 「だから今回はちょっと真面目に勉強しようと思ってね」

 そんな程度で勉強する柄だったかな……まあ勉強する意欲が出たのはいいことだからいいや。

 

 「じゃ」

 「おう」

 アキと雄二はFクラスのほうに行った。オレはAクラスのほうに行く。途中で愛子ちゃんを見かけたので昨日のことについても問う。

 

 「おはよ~」

 「あ、ヒロ君おはよう」

 「昨日はどうだった?」

 「え……あ……うん。ビックリした」

 愛子ちゃんまでが言葉を濁すのかよ。

 

 「聞いたところによると、アキは“不純異性交遊の禁止”だったらしいな」 

 「全然不純じゃないんだけどね」

 「アキ姉にかかると、意味が無いらしいね」

 「明久君、これまでと変わらない付き合いできるかな?」

 「アキがそんなことで変わる人間か」

 「そうだね♪(これまでと変わらないどころかそれ以上を……)」

 

 「じゃ、アキをよろしく」

 「えっ!? あ、うん」

 「勉強教えてやらないと ー 」

 「あ! そうだった! 何か中間テストよりも高い点数取らないと姉さんが家に住み着くから嫌だから勉強教えて欲しいって言われてたんだった」

 そんな姉さんと一緒に住むのは嫌だろうな。オレも協力しないとな。

 

 「必要になったらオレも呼んでくれ。愛子ちゃん、アキのこと任せたよ!」

 「あ、ありがと!!」

 期末テストまで残り僅か。カウントダウンが始まっていた。

 

 





 『3年5組ユウキ(仮)さん、職員室まで来てください』

 金曜日にこの放送が。
 呼び出しの内容は……
 まさに、この話の頭にあった唯と律が呼び出された理由と一緒です。

 進路希望調査票に未定(出来れば4年生大学希望)と書いたらこのザマです。
 一応、目標とする大学を書きなさいと言われましたが。
 何にも決まってません。将来の夢?ありませんよ。
 大学金高ぇし。そもそも行けるのかすら(金の問題で)奨学金利用しても無理かも。

 
 目標もないのに高い点数取り続けるとかいう勉強のモチベーションも上がりませんし。
 悪循環ですわ。

 この小説書いてる時間が本当に楽しいですよ。
 あ~どうなるんだろ!

 みなさんどうやって乗り越えてこられましたかね。
 感想と共に、一緒に書いて下さったら嬉しいです。

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#48 天然!


 あの方登場!

 純もレギュラークラスに昇格できるように努力中です。

 では、どうぞ!!



 

 「ヒロ~手伝ってくれ~」

 放課後、アキが数人を引き連れAクラスにやってきた。姉を見返すという意味で今回のテストではいい点数を取らないといけないんだっけ。

 

 「勉強か?」

 「そうなんだ。減点が既に300だからさ」

 「というと?」

 「あ~中間より300点以上取らないとダメってことだ」

 アキの説明じゃちょっと不足していたから雄二が教えてくれた。300点以上のupか……つらいな。

 

 「お前、中間どのくらい取ったんだ?」

 「覚えてない」

 「自分の点数くらい把握しておけ」

 「ともかく、高い点数を取ればいいじゃない♪」

 愛子ちゃんが後ろからやってきてきた。確かにその通りだ。

 

 「雄二、今日は雄二の家でいいよね?」

 「ああ構わん。今日はおふくろが旅行で誰もいないから気兼ねなく勉強できるさ」

 「そうなんだ」

 「アキ、勉強するメンツは?」

 「雄二・秀吉・ムッツリーニ・竜也・ヒロ・愛子ちゃん ー 」

 「に憂ちゃんも入るみたいだな」

 Aクラスに竜也が入ってきたときには、既に憂ちゃんの方へ駆け寄り今日の件を話していたらしい。竜也のあの喜びようを見ると憂ちゃんはOK出してくれたんだろう。

 

 「明らかにバカばっかりだな」

 「何だよその言い草は!」

 「点数を効率よく上げたいならもうちょっと教えてもらう人を要請するか」

 「優子さんお願いできるかな」

 「………別にいいわよ。西村先生や高橋先生にも頼まれているわけだからね」

 

 「後は……梓ちゃんも今日は大丈夫?」

 「え、ええ。わたしは別に用は ー でも……」

 「純ちゃん来てたんだ」

 梓ちゃんが視線を移した先には純ちゃんがいた。一緒に勉強しようとかだったら誘えばいいんだけど。

 

 「一緒に勉強しようかと思って」

 「何たる偶然!」

 「どうしたの?」

 「実は(略)ってことで」

 「ふ~ん。憂や梓が行くならわたしも行きたい」

 「いいんじゃねえの? 雄二、たくさん人増えたぞ」

 「あんまり増えてもウチに入るかどうか分からんぞ」

 滅茶苦茶増えたような。F…アキ・雄二・康太・秀吉・竜也、A…オレ・優子さん・憂ちゃん・梓ちゃん・愛子ちゃん。それ+純ちゃんだから11人か。

 

 「まあ、ともかく行こう」

 「そうだね」

 合宿のときのあのメンバーに純ちゃんが加わって、さらに活発になったな。

 

   ★

 

 「入ってくれ」

 雄二の家の前に着いて、自宅訪問。もしかしたらこれが初めてかな。出会って1年以上経つというのに。

 

 『お邪魔しま~す』

 オレたちは大人数で雄二の家におしかけた。雄二はオレたちの先を行き、リビングであろう場所のドアを開ける。そこには、一心不乱にプチプチをつぶしていた女の姿が。

 

 「   」

 何も言わずにドアを閉める雄二。

 

 「雄二? 今のは……?」

 「赤の他人だ」

 「えっ? 母親よね?」

 「おそらく、精神に疾患のある患者が何らかの手段でこの家に侵入したに違いない。何せ、俺のお袋は温泉旅行に行っているはずだからな」

 苦しすぎる。その言い訳は雄二らしくない。そんな中、雄二曰く赤の他人の声が聞こえてきた。

 

 「あら、さっき雄二を送ったと思ったのに ー 」

 は!? ってことは、オレたちが学校で授業を受けている間中プチプチをつぶしていたの!?

 

 「おふくろ! 一体何やってるんだ!!」

 耐え切れず、雄二はリビングのドアを開けて入っていった。

 

 「あら雄二。おかえりなさい」

 「おかえりじゃねえよ! 何で家にいるんだ!? 今日は泊まりで温泉旅行だろ?」

 「それがね。日付を間違えちゃったの。7月と10月って似てるじゃない?」

 「何処をどうみたら間違えるのだ!!」

 ドがつくほどの天然母親か。雄二を生んだとは思えない若さだ。

 

 「みなさん、いつも雄二がお世話になっています。どうぞ入って入って」

 「もういいよ! また出かけてくるから!」

 「あら、せっかく飲み物くらいは出そうと思ったのに」

 「何故、めんつゆを持ってくる!?」

 「あら、似ているから気づかなかったわ」

 「せめてラベルで気づいてくれ……」

 雄二が力抜けていく様子が目に見えて分かる。みんなあっけに取られていた。

 

 「みんな、すまんがウチで勉強会は無理だ。違う場所を探そう」 

 そういって、ひとまず雄二の家を出た。

 

 「そういえばさ、雄二の母親の声と純ちゃんの声似てない?」

 「そうか?」

 「全然気づかないけど」

 「分かる気もするけど……」

 気のせいか。少し似ていると思ったんだけどな~

 

 「仕方ないわね。ウチで勉強する?」

 「姉上!? いいのかの?」

 「両親は遅くまでいないんだし別にいいでしょ」

 「そうじゃな。みなどうかの?」

 「秀吉の家!? さんせ~い!!」

 瞬く間にその案は可決され、(アキ曰く2人の女の子がいる=秀吉・優子さん)木下家に向かうことになった。

 

 「どうぞ。入って。ただし、2階は立ち入り禁止。1階のリビングだけね」

 「そうじゃな。特に姉上は、人に見られてはいけ ー 」

 「何かしら秀吉」

 「なんでもないのじゃ」

 何か姉弟喧嘩が起こりそうな雰囲気だったが、簡単に収まり家の中へ。

 

 「おお~綺麗!」

 このアキの言葉通りに部屋の中は豪華ではないが、シンプルで清潔感あふれる家である。そこそこ広いため、11人はリビングに楽に収容できた。

 

 「初めからこっちにしておけばよかったかもな」

 「姉上が怒ると思って言い出せなかったのじゃ」 

 「坂本君の家で出来るならそれに越したことはなかったでしょうけど、不測の事態が起こったものね」

 「さて、明久君勉強やろ♪」

 「憂ちゃん、今日もよろしく!」

 「分かった」

 愛子ちゃんがアキに猛アタック中。いつかこの二人の馴れ初めを聞く機会があったら聞こう。それに、竜也も憂ちゃんにアタック。いつカップルになるのか楽しみだな。今のところ憂ちゃんにそこまでの気持ちはあるのかは外から見る上では分からないけどな。

 

 「基本的に、合宿のときのメンバーでいいか?」

 「慣れてるしそっちの方がいいかもな」

 「純ちゃんはオレたちのところに入れるわ」

 「分かった」

 ということで、マンツーマン(オレたちグループだけ全く違う)授業がスタートした。

 

 「純ちゃん、オレたちはこのメンバーでする」

 「え~っと、ヒロ君に梓・康太君と秀吉君か。よろしくね」

 「純ちゃんって勉強出来るの?」

 「さあ? Dクラス所属ってことがその証拠かな」

 平均くらい。何ともいえないと言えないってことかな。

 

 「まあいいや。分かるところは教えて、分からないところは聞いて」

 「了解しました!」

 何を教えようか梓ちゃんと相談して始める。

 

   ★

 

 いつの間にか数時間が経過していた。外を見るともう暗くなっていた。

 

 「もうこんな時間か。そろそろお暇しないとな」

 「あら。夕食くらい食べていけば良いのに」

 「夕食?」

 「何か出前取ろうかしら?」

 それは申し訳ない気がするから……

 

 「そこまでしてもらわなくてもいいさ。なあ明久」

 「え、うん。優子さん何か材料ある?」

 「あるんじゃないかしら?」

 「それ使っていいかな? 僕が料理するよ」

 なるほど。勉強教えてもらったお礼にっていうことかな。

 

 「明久、俺も手伝う」

 「………俺も」

 「じゃ、オレも」

 「「「竜也は今回はパスで」」」 

 「何でだよ~!!」

 確かにいつもこいつの料理を食べている羽目になっている気がするから、たまには他の人の料理も食べてみたい気がする。

 

 「ヒロ君は作らないの?」

 「えっ?」

 「だって、今男子が結構立候補しているからさ」

 「申し訳ない……料理は全く出来ないからさ」

 「そうなんだ」

 「わたしも手伝おうか?」

 「いや、いいよ。今日はこの3人で作るからさ」

 「そう?」

 ということで、キッチンではアキ・雄二・康太による料理が始まった。

 

 「任せたのはいいけど、大丈夫なのかしら」

 「優子さん。見かけによらないとはあいつらのことだ」

 「そうじゃ。姉上。あの3人は料理が上手いんじゃ」

 「竜也にはそりゃ負けるかも知れんが、味の品質は保証する」

 「楽しみだな~♪」

 「ええ。そうね」

 オレたちが雑談していると、数十分後に料理が運ばれてきた。

 

 「「「オオーーー!!」」」

 歓声が上がる。まあ確かに簡単に作ったにしては手の込んだ料理をしているみたいだ。

 

 「えっと……ちょっと下手かもしれないけど。食べてください。勉強教えてくれてありがとう!」

 「いつも助けてもらっているから、少しくらいは恩返ししていかないとな」

 「………男としてのプライドが廃る」

 「みんな……」

 オレも何か作れないなりに作ればよかったかな。

 

 「「「「いただきま~す」」」」

 みんなおいしそうに食べる。いや、事実美味しいんだって。

 

 「これ本当に明久君が作ったの!?」

 「え、そうだけど?」

 「坂本君本当?」

 「そうだが……」

 「「美味すぎる……」」

 梓ちゃんと純ちゃんがハモってこうつぶやいた。女子(憂ちゃんを除く)はちょっと暗いムードになって食べだしたのであった。あ、そうか。男子の方が料理が上手いって女子のプライドが傷つくってやつか。

 

 「「「「ごちそうさまでした~」」」」

 あっという間に食べ終わってしまった。時計を見ると既に8:00を回っていた。

 

 「そろそろ帰らないとな」

 「本当にありがとう~」

 「ワシもためになったし、楽しかったぞい」

 木下家を出て、家が同じ方向の人と帰ることになった。

 校区が木下家と同じの平沢家(憂ちゃん)はすぐに別れた。竜也はちょっと残念そうに見送っていた。

 梓ちゃんを家まで送り届けた後、オレは雄二たちと別れ1人で帰路についた。久しぶりの夜帰り、細い道は意外と不気味だった。

 

 





 声優ネタ。
 純ちゃんと雪乃(雄二の母親)が一緒って知ってましたか!?
 全然知らなかったんですよ。
 偶然、とあることをきっかけに知ってしまったんですけど。
 声優って凄いですわ。

 原作どおり、明久たちは料理が上手です。
 竜也の影に隠れますが…主夫になれる人って多すぎません?
 秀吉とヒロは何をやってるんだか(苦笑)

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#49 勉強会!


 オリジナルキャラ登場!


 まあ、名前も出てこないですが、今話と次話では活躍しますよ。



 では、どうぞ!!
 


 

 「あ、ムギ先輩おはようございます」

 「ヒロ君、おはよう~」

 朝、校門前で偶然ムギ先輩に会った。出会って1年以上なるけど初めてだな。

 

 「その後、先輩達は勉強はかどってますか?」

 「バッチシ! ヒロ君や梓ちゃんのほうも大丈夫かしら?」 

 「ええ。ご心配なく。他のみなさんにオレも梓ちゃんも元気にやってますと言ってください」

 「分かったわ。じゃあまたね」

 「はい。また」

 短い会話だったが、やっぱり軽音部のメンバーと話すのはいいと思った瞬間だった。

 

 「おっはよ~ヒロ君!」

 「わっ! ビックリしたな愛子ちゃんか~」

 「そんなに驚かれたらこっちだって傷つくよ」

 「ゴメンゴメン」

 突然、背後から大声で言われるんだもん。

 

 「ねえねえ。今日から土日暇?」

 「どうしたの?」

 「ウチで勉強会するつもりなんだけど」

 「アキと2人きりじゃなかったの?」

 「ひ、ヒロ君/// ちょっと恥ずかしいからさ」

 「愛子ちゃんにもそういった感情があるってのは驚きだな」

 「む~ひどいな~ボクだって乙女だよ」

 「分かってるよ。でも、オレ誘うってことは他の数人にも声かけるんでしょ」

 「そうだよ。あのときのメンバーでいいかなって思ってるんだ」

 「Fクラスのほうはアキが声掛けてくれる様に言ってるのかな」

 「うん。そうだよ」

 「じゃ、後は純ちゃんやAクラスのメンバー?」

 「優子にはボクから言っておくから、後の人よろしく♪」

 「分かった」

 それだけ言うと、非常にテンションが上がっているのだろう。さっさと教室の方へ向かっていった。

 

   ★

 

 「大きいな……」

 「豪邸とまでは言わないけど」

 「普通の家よりかは断然大きいね」

 放課後、家に帰って準備をした後、梓ちゃんや憂ちゃん・竜也と合流して愛子ちゃんの家に向かったんだが。

 

 「ともかく、インターホン押そうよ」

 「そうだな」

 竜也が代表してインターホン押すと、自動で門が開いた。玄関にカメラか何かあってコッチの様子が見えていたに違いない。

 

 「いらっしゃい!」

 家のドアが開き、愛子ちゃんが出てくる。その後ろにはアキもいた。

 

 「あっ……純に連絡してないけどいいかな」

 「大丈夫だと思うよ。ココから家近いし」

 「そうなんだ。って何で知ってるの?」

 「帰る方向一緒だからね。たまに会うんだよ」

 なるほどね。だから大丈夫ってことか。

 

 「お~い」

 背後から大声が聞こえてきたため振り返ってみると、雄二たちが門の外に立っていた。また同じように門の扉が開き、雄二を先頭に玄関のほうへ向かってくる。

 

 「よっ」

 「おう。さっきそこら辺でみんなと遭遇した」

 「なるほど。これで全員か」

 そう。雄二の後ろには、純ちゃんと康太・秀吉・優子さんがいた。

 

 「ま、玄関で立ち話もアレだから早く中に入ってよ」

 「お邪魔しま~す」

 まだこの家には1年と住んでいないという計算か。清潔感あふれる家だな~

 

 「あらあら、こんなにたくさんいらっしゃい。愛ちゃんをよろしくねみなさん」

 「ちょ、ママ愛ちゃんはやめてよ!」

 「いいじゃないの。こんなに友達を連れてきたことはなかったんだからママ嬉しいのよ」

 「もう~いいから戻って戻って」

 穏やかなお母さんだった。愛子ちゃんはお母さん似だと言うことがすぐに分かった。

 

 「さ~早く勉強やろうやろう!」

 「どうしたのじゃ明久? 少し前とは別人じゃのう」

 「そうも言ってられない事情が出来たのはみんな知ってるでしょ」

 「出来れば、姉さんがいないときからそのやる気を出してくれていたらよかったろうに」

 「???」

 何言ってるのコイツみたいな目をされても……

 

 (アキ、最初にここに1人で来ていたみたいだが、愛子ちゃんとは何か話したか?)

 (え、ええっ!? 特にこれといった話は……)

 (愛子ちゃんの私服(部屋着)はどうだ?)

 (………………)

 (顔を真っ赤にして答えることも出来ないか)

 「何話してんの?」

 「い、いやいやいやいやなんでもないよ。早く勉強始めよう!」

 「?」

 ごまかした? まあ少なからずアキは愛子ちゃんを意識していると言うのは分かった。精神的に傷ついている今、愛子ちゃんのような人が側にいるだけで癒されると言うか、楽になるだろう。愛子ちゃんもアキのことをとっても好きみたいだし。

 

 (で、お前はいつものように憂ちゃんの私服にベタぼれか)

 (悪いかよ! 本当に可愛い!!)

 (その思い本人に伝えたのか?)

 (いいかヒロ、物事には順序と言うものがあってだな)

 (お前にそんなものを諭される時が来ようとは思ってなかったわ)

 (うるせえ。対するお前、梓ちゃんの私服どうなんだよ)

 (なっ!?)

 (ほら動揺した。お前も梓ちゃんを気にしているのはバレバレなんだよ)

 (こ、これはだな ー そ、そう部活の仲間として ー )

 (表面を取り繕わなくていいぞ弘志)

 (何で雄二まで入って来るんだよ、そういうお前は優子さんどうなんだよ!)

 (な、何!? 何で俺が木下姉のことを?)

 (なるほど。お前も少なからず動揺すると)

 「ほら、そこ3人。早く勉強始めようよ」

 「「「お、おう分かった!」」」 

 思春期男子の会話をした後に、勉強をすることになった。当然の流れと言うべきか、先ほどの会話をした流れ上、女子に意識が行って集中できないわけですよ。

 

 「どうしたのみんな? なんかそわそわしてるけど」

 「………不自然」

 純ちゃんと康太が突っ込みを入れてきた。

 

 「そうかな? 別にそうは思ってなかったが」

 「だよな。俺もそう思う」

 「気のせいじゃないの?」

 「気にしすぎだって」

 男子4人はすぐさま自己弁護に入る。康太があちら側につくのはちょっとおかしいと思うが。

 

 「分かったのじゃ。みな、目の前におる女子を意識しすぎて集中できないのじゃな」

 「「「「なっ!? 何を言うんだ秀吉!!」」」」

 「あまりにもシンクロしすぎて驚いたのじゃ」

 「でも、その反応は……」

 「………秀吉が言ったとおり、全員気にしているだろう」 

 何てことを言うんだこの3人は!

 

 「あ、明久君、ボクなにか変かな?」

 「いいいいい嫌全然変じゃないでございますよ!!」

 「言葉もおかしくなっているけど?」

 「気にしないで!! うん。そうして!」

 

 「坂本君、アタシがどうかした?」

 「あいつらの妄言を真に受けなくていい」

 「そうかな。アタシもちょっとおかしいかなと思っていたんだけど」

 「っ!? だ、大丈夫だ。続けよう」

 

 「竜也君、気分悪いの?」

 「全然元気元気!!」

 「そう、それならいいけど」

 「うんそうだよ」

 

 「ヒロ君、わたし見て何か変なこと考えてないよね?」

 「何の話だよ!」

 「冗談冗談。でも、いつもと何か違うかもしれないって言うのはわたしも感じてたからさ」

 「っ!! 」

 

 4人とも上手く逃げれたのかな……危なかったわ。だが、受難のときは続く。

 

 「あらあら、みなさん良い雰囲気で。邪魔しちゃ悪かったようね」

 「ママ! いらないことは言わなくていいから!!」

 「そうかしら? お茶を持ってきたから、今までどおり勉強続けてください」

 「早く出て行って!!」

 「そんなに急かさなくても出て行くわ。みなさんお幸せに」

 そういって、部屋のドアを閉めたのだが、お幸せにって!

 

 「全く……ママったら」

 ちょっと空気が変な感じになったが、勉強を再開する。

 

    ★

 

 「みんな~そろそろ夕食出来たわよ~」

 2時間くらい勉強に集中していると、ドアの外から愛子ママの声が聞こえてきた。

 

 「もうそんな時間なんだね。みんな行こう」

 「愛子ママ手作りの料理?」

 「そうだよ♪ ママとっても料理美味しいんだから」

 「楽しみ~」

 オレの軽い情報統計データを出してみよう。親が料理上手いところとかは基本、子どもって料理作れないような気がする。オレの周りの料理できるのって、基本親がいないとか自分で作らないといけないような状況に追い込まれている人だもんなあ。それ考えてみると、ウチは幸せだよ。親が毎日作ってくれるからさ。

 

 「うわ~すご~い」

 「本当だ!!」

 広いリビングに、テーブルをいくつか持ってきてあって、そこにたくさんの料理があった。

 

 「愛子の友達かね。よく来てくれた」

 「お父さんですか。いつも愛子ちゃんにはお世話になっています」

 「いや~こちらこそいつも愛子が楽しく学校に行ってるみたいで本当に良かった」

 「愛子ちゃんといるといつも楽しいですよ」

 「あ、明久君///」

 間接的に告白まで行かないようにしてくれよ。

 

 「さあさあ、召し上がってくれたまえ」

 「いただきま~す」

 いや~美味しい。この頃、美味しい料理を食べてばっかりだ。最後にまずい料理を食べたのが思い出せ ー あのことは忘れよう。うん。おいしい!!

 

   ★

 

 「お風呂入ろっか……でも流石にこの人数じゃ一緒に入れないから」

 「男女で分けようよ」

 「お前少しは頭使え。分けても一緒には入れそうにないから言ってるんじゃないか」

 「そういう意味だったのか!」

 お前は混浴をしたかったのか?

 

 「別に、明久君が最初に言った意味で言ったつもりなんだけど」

 「愛子~」

 「ゴメンゴメン冗談だって。優子怖いよ」

 「ホント面白くない冗談言うからさ」

 割と愛子ちゃん真面目モードだったよね今。今の短いやり取りで愛子ちゃんの後ろにいた梓ちゃんやら憂ちゃんや純ちゃんがあたふたしているのがまた何ともいえなかった。

 

 「じゃあ、女子から入らせていただきますね~」

 「どうぞ~それまでちょっとくつろいでおくよ」

 「分かった~」

 女子が風呂に入った後に部屋に戻ろうとしたら、愛子ちゃんの父親に呼び止められた。

 

 「ちょっといいかね」 

 「何でしょう?」

 リビングに入っていったために、オレらもそれについていくことになる。

 

 「愛子はいじめられておらんかね?」

 「いじめ?」

 「そんなものはないですよ! 昔の学校じゃないから大丈夫です!!」

 「「は?」」

 「ほう君は愛子から既に事情を聞いているみたいだな」

 オレたちはアキの言葉の意味が分からなかったが、父親の言ったことで理解できた。

 

 「ええ。本人に聞きました。前の学校でいじめられてそれが嫌で転校してきたって」

 「そうだったんだ!」

 アキ以外のオレたちは相当ビックリしていた。だって、あの愛子ちゃんがでしょう。考えられない。

 

 「愛子は大人しめな子だった」

 「全然想像できない」

 「転校したときに、またいじめられるのだけはよそうと、イメチェンをしたのだよ。髪も長かったのをバッサリ切って染めて、性格も明るく元気にするように自分で考えてしたんだ」

 その話を聞いて、オレたちは何も言葉を発せなかった。全然気づかなかった。愛子ちゃんにも心に影を背負っている部分があったんだ。

 

 「愛子ちゃんはもう大丈夫ですよ。僕たちがいるから」

 「そうかね」

 「ええ。工藤愛子は僕たちが守りますから」

 「頼もしいじゃないか」

 父親はえらく上機嫌になって、オレンジジュースを飲み干したってオレンジジュース!? 意外と可愛い飲み物だ。普通に酒飲んでいるイメージなんだけど。

 

 「君たちのことをもっとよく知りたい。というわけで」

 父親はとあるところから物を運び出してきた。

 

 「一局打たないかね」

 取り出したのは、麻雀であった。この父親、未成年にそんなものすすめて大丈夫なのかね。

 

 「今時の高校生は麻雀は知らないかね」 

 「僕は全くしたことないですね」

 「ワシも無いのじゃ」

 (………PCの脱衣麻雀だけ)

 康太の方から何か言葉が聞こえてきたのだが、はっきりとは聞き取れなかった。オレの本能が是非ともスルーすべきだというから、それに従おう。

 

 「俺は少しは」

 「ヒロやろうぜ」

 「ああ。久しぶりだな」

 実を言うと、小さい頃から麻雀を打っていたりする。竜也と遊ぶときに、今は懐かしきドンジャラをやっていたんだが、その後麻雀を一時していたんだ。

 

 「お前ら経験者かよ」

 「結構前だがな」

 「よし、やろうじゃないか」

 何故か、麻雀を打つ流れになったので、女子が風呂から上がってくるまでやることにする。アキ・康太・秀吉は初心者なのでオレたちの後ろで観察だ。

 

 「さて、親は私からやらせてもらう」

 父親はサイを握ると表情がいっぺん勝負師の顔になった。

 

 「5か。もう一度私だ」

 次、3の目を出し、牌を取り出していく。テンポよく進む局だ。

 

 「ポン」

 「チー……チー……チー」

 「お前、チーチーうるせえな」

 「ロン。700点」

 「何!? 鳴きイッツーのみだと!?」

 「ほう。なかなかやるみたいだ。私の親を安い上がりで流すとは」

 竜也、地味にむかつく。鳴き虫だ。

 

 「次は俺か。7だ」

 東風戦南家親。

 

 「リーチ」

 「早いですね」

 父親、4巡目でリーチという早い展開に。

 

 「ポン」

 「リーチ」

 「ポン……ポン」

 「今度は、トイトイか竜也」

 「さあな」

 「よっしゃ、来た! リーチ!」

 「ロン。白のみ1000点」

 「くぅ~むかつく!! 鳴いたやつ全て関係ねえのかよ!!」

 「甘いねヒロは」

 「なかなかこの子は強いな」

 次はオレが親だ。竜也を上がらせないようにしたいんだが……

 

 「リーチ」

 先ほどと同じく、父親は早い展開に。

 

 「カン……リーチ」

 雄二は、意外と慎重路線。あまり鳴かない。誰かさんとは大違いだ。

 

 「ポン……ポン………カン………カン………チー………」

 いい加減に鳴きすぎにもほどがある。

 

 「カン」

 「ロン」

 「ええっ!?」

 「リーチ・ピンフ・チャンカン・ドラ6。倍満だよ」

 「何だって!?」

 調子に乗りすぎるからだ。バカめ。

 

 「お~いあがったよ~お風呂入っていいよ~」

 そういいながら、愛子ちゃんたちはリビングに入ってきた。

 

 「って、麻雀……」

 「出来るんだね」

 「親父くさい」 

 放っといて欲しい。趣味は多彩な方が、老化防止にはいいらしい。

 

 「もうパパ……麻雀のメンツをそこまでして集めなくても」

 「いや、この子達なかなかの腕だったぞ」

 「全く……いくらボクたちが出来ないからって」

 愛子ちゃんは若干あきれていた。後ろにいる女子のみなさまがたもあまり麻雀には詳しいほうじゃないらしく、首をかしげていた。

 

 「じゃあ、お言葉に甘えましてお風呂に入っていいかな」

 「どうぞどうぞ!」

 「って、秀吉も一緒に入るの!?」

 「ワシも男じゃからな」

 「いいいいやそれはちょっとやめたほうがいいんじゃないかな」

 「どうしてじゃ!」

 康太が危ないんだな。アキがまだ秀吉を女としてみているのかと思った。

 

 「むう。仕方あるまい」

 「助かるよ」

 男子の風呂は短い。さっさと上がってきた。そして秀吉に風呂を譲る。

 

 「あがった~」

 「早いね男子は」

 「そりゃあもちろん」

 数十分後に、秀吉も上がってきて全員揃い部屋へと戻る。

 

 「さて、ちょっと提案があります!」

 「どうしたの?」

 「明日、夕方にテストしてみない?」

 「「「テスト?」」」

 まあ、明日も泊まるんだからそれはいいとして、テスト?

 

 「どこまで今出来るかという到達確認テストみたいな。5教科を全部したいんだけど」

 「流石にそれはきついわよね」

 「だから、全部問題量を半分くらいにする」

 「アタシは全然いいわよ」

 Aクラスの面々に異論は無いんだが、Fクラスの皆さん方は顔をしかめていた。

 

 「じゃあさ、点数高い人からご褒美ってどうかな?」

 「純……のりのりだね」

 「それいい考えかも!」

 「ご褒美の内容は?」

 「秘密が面白いんじゃない?(もう決めてたりするけどね)」

 「じゃあ、頑張ろう!」

 結局、Fクラスの面々も純ちゃんに乗せられた感じで勉強を始める。

 

 





 愛子両親が登場です。
 書きやすい性格にしました。
 麻雀の件は……完全に自分の趣味です(笑)
 この頃してないなあ。中学時代あんなにしてたのに!
 あれ、おかしいですかね。

 お勉強会(お泊り会)ならではの独特な雰囲気。
 書くのは難しいです。
 
 愛子のちょっと暗めの過去が暴かれましたね。
 実は隠し設定として、愛子も聖クロニカ学園から転校してきた設定で(笑)
 
 さてさて、純が考えているご褒美の内容とは一体!?

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#50 成果!


 とうとう、この話も50話に。
 早いです。
 みなさん、見てくださってありがとうございますね♪
 どこまで続くか分かりませんが、これからもよろしくお願いします!!

 前回の続き。
 
 今回はうまく書けたかな……

 では、どうぞ!!




 

   ★

 

 「はっ……ついつい寝ていた!」 

 勉強しながらうとうとしていると、机に突っ伏して寝ていた。周りを見渡すと全員がその状態に。只今の時刻、朝の7時。このままみんなで同じ部屋で寝ていたのか……

 

 「みんな~そろそろ起きたら~」

 ドアの外から聞こえてくる母親の声。

 

 「ふわぁ~……ってわたしそのまま寝ていたんだ」

 「こんな格好で!!」

 「おはよ~」

 みんな続々と起きる。しかし、女子が起きたときの反応はちょっと恥じらいがあった。そりゃあ、図らずして同じ部屋で寝ていることになったんだからな。

 

 「まさか全員寝てしまうとはね」

 「疲れてたんだよきっと」

 「みんな寝顔可愛かったわよ。そろそろ寝なさいって言いに言ったときには既にみんな寝ていたもの。本当は別に部屋を用意していたんだけどね。ちょっとあまりにもみんな気持ちよさそうに寝ていたから ー 」

 流石に恥ずかしいけど、寝てしまったのはしょうがない。しかもこのメンツなら一度経験あるからもういいんじゃないかと思い始めてきている。ダメだなこりゃ。

 

 「朝ごはん出来ているから、早く顔を洗ってきなさい」

 みんなぞろぞろと同じ行動を取る。11人もいるとなかなか進まないですな。

 

    ★

 

 「それでは、テストの点数を発表します!」

 夕方から確認テストをみんなで受け、純ちゃんが採点をする。一番中立な立場だから買って出てくれた。でも、さっきから表情見ていると、何かもう一つ裏がありそうだな。

 

 「ちょっと待って、純ちゃん、ご褒美って何?」

 「それは……1位の人から、一緒に寝る人を決める!!です♪」

 「「「はあぁぁ~!?」」」

 「ちゃんと、お母さんにも許可を取ったから~」

 「みんな青春ね~」

 問題発言問題発言。純ちゃんが企んでいたのはこういうことだったのか! 昨日の夕方のみんなの反応見て思いついたんだろうなあ~

 

 「純! 悪ふざけもいい加減にしなさい!」 

 「え~優子のケチ~悪ふざけじゃないんだよ」

 平沢姉妹と木下姉弟と純ちゃんは同じ中学校出身だったっけ。だから仲いいんだ。

 

 「普通に、男女別れて寝るでいいじゃない」

 「別に姉上、誰か男子を選べばよいではないか」

 「秀吉、後で覚えておきなさい」

 「何故じゃ!?」

 秀吉は、純ちゃんの意見に比較的賛成らしく、フォローをしていたんだが……

 

 「それでそれで1位は誰なの?」

 「愛子もそれに乗らない!!」

 「ええっ? 面白そうじゃん♪」

 「さ、流石に2人きりとかはやめましょうよ!!」

 梓ちゃんもマジで止めに入る。オレたち男子は何の反応もしない。だって、結局は男女別で寝ることになるのは分かっているからだ。それに、どっちの味方しても自分に不利益を被る。愛子ちゃんの味方したら、他の女子からエロい目線で見られるし、梓ちゃんの味方したら、母親や純ちゃんから男らしくないと言われるかもしれないし。

 

 「まず、テストの点数発表したら? それから決めればいいし」

 「そうだね」

 憂ちゃんが純ちゃんに言うと、純ちゃんはテストの点数と共に順位を発表していく。

 1.優子さん

 2.愛子ちゃん

 3.オレ

 4.憂ちゃん

 5.梓ちゃん

 6.雄二

 7.アキ

 8.竜也

 9.秀吉

 10.康太

 

 普通に予想通りの順位だな。

 

 「というわけで、優子から誰と一緒に寝る? 異性だよ!」 

 「だからまだそんなコト言ってるの!?」

 「せっかく、別々の部屋に2枚ずつ布団を敷いたんだからね」

 愛子ちゃんの母親も準備がいいことで。これじゃあ、まさかだけどそっちの雰囲気にいきそう?

 

 「そんなこといってるけど、愛子は決めてるの!?」

 「うん。ボクは明久君がいいかな~」

 「ぼぼぼ僕!?」

 「ダメかな?」

 「いいいいや全然、OKです」

 あれ、本当にこれ2人きりで寝る羽目になりそうなんだけど!

 

 「さ、流石に男女別で寝たほうがいいんじゃない?」

 とオレが言うと、竜也やらアキやらからきつ~い視線が。雄二は仏頂面して話を傍観している。

 

 「そ、そうだよねヒロ君! わたしもそう思う!!」

 「梓、何でそんなに焦ってるの?」 

 「焦ってなんか無いよ!!」

 「そんなにヒロ君と寝るのが嫌なわけ?」

 「そんなことない ー じゃなくて!! 何で、ヒロ君って決まってるのよ!!」

 「梓ちゃん、本音が出てるよ」

 「憂も何か言ってやってよ!」

 「別に、みんながそれがいいって言うならわたしは反対しないよ」

 「ええっ!?」

 憂ちゃんがココに来てまさかの発言!!

 

 「じゃ、決めないならこっちで部屋を割り振っちゃおう!」

 「愛ちゃんそうしてあげて」 

 「な!! ー 何言ってるの愛子!!」

 「そうだよ。これ以上したら取り返しが ー 」

 つかなくなるよね。いろんな意味で。

 

 「愛子ちゃんと明久君は決定したでしょ、後はヒロ君と梓、竜也君と憂、雄二君と優子って感じでどう?」

 「純は!?」

 「わ、わたしは ー 1人で寝る」

 「卑怯だぞ!純!!」

 「わたしは中立の立場だったんだから別にいいじゃないか!!」

 「康太君が余ってるじゃない!!」 

 「な、何で康太君!? ってかやられる方になって嫌になってきた」

 「マイペース過ぎ!!」

 「仕方ない。純ちゃん。またいつの機会にかしよう」

 「「「そんな機会は二度とない!!」」」

 「残念ね~せっかく布団を敷いたのに」

 「ママ、せっかくだからさ。一緒に寝た初めての記念日がウチじゃなくて、それぞれの家の方がいいと思わない?」

 「あら愛ちゃんいいこと言うわね」

 「でしょ♪」

 あまりにも暴走振りに誰も手をつけることが出来なかった。赤くなっている人、あたふたしている人、それぞれ反応はさまざまだった。

 

    ★

 

 「結局、最後はこうだな」

 「ああ。まさかあそこまで議論が白熱するとは思わなかったぜ」

 紆余曲折ありまして、男女別で寝ることが決定した。ココは男子部屋。

 

 「でも、愛子ちゃんが僕を選んでくれたのは嬉しかったな~」

 「そんなもの最初っから分かってただろ」

 「え?」

 「え?じゃねえだろ」

 お互い両思いのはずなのに。

 

 「ワシとしてもちょっと残念じゃのう。お主らが2人きりで寝ている様子を見てみたかったのにのう」

 「秀吉はどうするつもりだったの?」

 「ワシはカメラを持ってそれぞれの部屋の撮影をするつもりじゃった。ムッツリーニはもちろん純とじゃな」

 「………俺も中立の立場だったはず!!」

 「せっかく純がいるのじゃ。一緒に寝たほうがよかったじゃろう」

 秀吉は全面的にカップルになるよう推し進めているみたいだ。って、オレと梓ちゃんも!? カップルね~想像したことも無かったよ。一緒にいて楽しいし心がほっとするけどさ。

 

 「でも、何故俺が木下姉だ? 確かに一番世話になっている人間だが」

 「姉上も雄二のことを一番目に掛けているみたいじゃぞ。ワシ以上に」

 結構悲しそうに言うけど、姉弟仲はあんまりよくはないのかな。

 

 「そうか」

 「そろそろお主らは下の名前で呼び合うべきじゃ」

 「そんなこと考えてすらなかったな」 

 「何なら斡旋してやるぞい」

 秀吉が生き生きしているのは何だ? 姉の相手には一番雄二があっていると思っているのだろうか。

 

 「いや、そこまでしてもらわなくていい」

 「そうかの……」

 「それよりだ ー 」

 これ以降もず~っとこういった話が続くのであった。

 

 

    ★

 

 「あ~あ残念だな~結局、男女別なんだ~」

 「純が生き生きしていると思ったらそんな企みがあったんだね」

 「だって面白そうだったんだもん」

 「でも、最後に反撃されたね」

 「予想外だったよ」

 ここ女子部屋。仲良くみんなで布団の中でおしゃべり中。

 

 「まあ、愛子と明久君の仲は周知の事実として」

 「えっ?」

 「何で付き合わないのかな?」

 「ええっ!?」

 端から見ても両思いなはずなのに。

 

 「明久君のどういったとこがいいの?」

 「やさしいとこ。ボクが転校してきて、ちょっと浮いていたときに明久君が学校案内のときにとっても優しかったんだ。それからかな」

 「一目ぼれに近いじゃん」

 「それから仲良くなっていくにつれて、やっぱり優しいなあって思うからさ」

 いざとなったら自分を犠牲にしてまでかばうあの姿はいいと思う。

 

 「次は、梓とヒロ君だね」

 「ええっ!? 何でヒロ君!?」

 「逆に、何でヒロ君じゃないのかをわたしたちに教えて欲しいわ」

 「へ?」

 「い、いや…あんなにお互いいい雰囲気なのに」

 「全然そんなつもりじゃなかった」

 「無自覚ならなおさらすごい」

 れ、恋愛対象としてヒロ君をか。いい人だと思っていたんだけどそんなこと今まで考えたこと無かったな~

 

 「それを言うなら、憂と竜也君でしょ~」

 「あ~確かに」

 「わたし? 竜也君?」

 「そう。竜也君」

 「確かに結構仲いいけど……わたしも恋愛対象とかそういったのは全く気にしたことなかったな~」

 「あそこまで猛アプローチされて気づかない憂はすごいな」

 「へ?」

 結局のところ、憂も天然なんだろう。そういったところは唯先輩に似ているな。

 

 「ボクは優子が一番気になるな」

 「あああアタシ?」

 「何そんなに動揺してるの? まさか来るとは思ってなかったわけ?」

 優子さんと雄二君は結構お似合いかも。雄二君も中学時代からガラっと変わったな~

 

 「坂本君いいと思うんだけどね」

 「お互いそういった感じで関わってないわよ」

 「そうかな~?」

 「でも、勉強のときは熱心に教えていたじゃない」

 「あれは、坂本君が吸収早いから教え甲斐があるのよ」

 流石は元神童ってところなのかな。中学時代は荒れていたけどさ。

 

 「みんなどうなるんだろう。楽しみだな~」

 「そういう、純だって康太君が」

 「な、何で康太君?」

 「なかなかいいと思うんだけどな~」

 女子はこんな話して夜を過ごしていた。

 

   ★

 

 「眠い」

 アキの言葉はみんなに当てはまっていた。昨夜ず~っと話していたから睡眠時間が短いんだよ。女子も同じ感じみたいだけど。

 

 「もう少しで期末テストか」

 「明久の一人暮らしを掛けた戦いが始まるんだな」

 「本当にそうだよ」

 「大丈夫♪ 今までどおり、ボクが教えたのを思い出せば大丈夫だって!」

 「そう? ありがと!」

 その後、昼まで工藤家に滞在し、各自家に帰った。

 

   ★

 

 「やっと終わった~」

 「これで部活に行けるね」

 数日に渡って行われたテストも最終日。ようやく部活が再開できる。梓ちゃんと共に部室に向かおうとしたら、アキらFクラスの面々に出会った。

 

 「おうっテストの出来はどうだ?」

 「勉強の甲斐があったよ」

 「同じく」

 「ワシもじゃ」

 「まあまあの手ごたえだ」

 「完璧!」

 若干1名心配なのがいるが、効果がある教科もあるだろう。もちろん、効果が薄い教科もある。数日で高得点が取れるほど、若葉学園のテストは簡単じゃない。

 

 「テストの点数楽しみだな」

 「ちょっとドキドキしてきたけど、やれることはやった!」

 「そうかそれならいい」

 「ヒロ君、部活行こう」

 「そうだね。じゃ、そういうわけで」

 部室に向かうことにした。部室には既に先輩方がいた。

 

 「お久しぶりです」

 「おっ! 久しぶり~やっとテスト終わったな~」

 「はい」

 ムギ先輩以外は会うのは2週間ぶりくらいかな。懐かしい。

 

 「唯先輩、テストどうでしたか?」

 「うんっ! 出来たよ! あずにゃん!」

 「そうですか!! もちろん、ギターの練習も怠ってないですよね」

 「えーっと……うーんっと……うん。大丈夫(だと思うよ)♪」

 唯先輩は、一つのことに集中するとほかの事をすっかり忘れるらしい。だから、一回勉強に集中しすぎて、コードを忘れたってことがあったため、梓ちゃんは念を押した。

 

 「じゃ、早速練習しましょう!!」

 唯先輩が腕が鈍っていなくてほっとした。その後も練習を続けるのであった。

 

   ★

 

 「これで全教科返ってきましたね」 

 期末テストが全教科返って来たが、現状維持といったところだった。まあそれで十分だろう。

 

 「愛子ちゃん!!」

 「あ、明久君」

 「テスト400点も上がったよ♪」

 「すごいじゃん!」

 「ありがとねいろいろと!!」

 アキのあの喜び方からして減点は400点も行ってなかったんだろう。

 

 「雄二は浮かない顔しているが……」

 「あんまり点数に結びつかなかった」

 「そんなに落ち込むことは無いわ。英語なんて積み重ねだからそんなに簡単に点数上がらないわよ」

 「そういってもらえてありがたい(木下姉から教わっているから点数に結び付けたかったんだけどな)」

 雄二のプライドからしたら、ちょっと許せないだろうな。

 

 「憂ちゃんとっても上がったよ♪ ありがと!!」

 「どういたしまして」

 コイツの場合は、上がり幅がまだ残っている分上がったと考えられないことも無い。

 

 「ヒロ、今日帰って姉さんに報告してくるから!!」

 「1人暮らしするのに命掛けてるな」

 「もちろん!」

 それだけ言うと、アキは帰っていった。30分後にメールが来た。

 

  『姉さんひどい。減点分以上は点数上がりましたが、まだまだ勉強不足です。だから私は日本に居座ります。だってさ。最初っからこっちに居座るつもりだったんだよ~』

 

 ドンマイ。オレに愚痴るくらいなら反論しろと言いたいんだが、無理なんだろうなあ。

 一回、アキ姉に会ってみたいものだ。

 

 





 期末テスト編も案外早く片付きました。

 次、何にしましょう。

 けいおんのほうの話も混ぜたりしないとですね。
 やっぱりクロスオーバー難しいですわ。

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#51 ロック!


 閑話みたいな感じで……

 1話完結します。

 けいおん!! 10話の話です。

 では、どうぞ!




 

 「まずは朝はHRでしょ。その次は1時間目から3時間目まで授業 ー 」

 7月に入ってちょっと経ったある日。さわちゃん先生が軽音部に愚痴りに来ていた。足を冷や水につけて超リラックス状態だ。

 

 「1日中立ちっぱなしですもんね」

 それが、先生という職業ではないか。

 

 「健康サンダル履いたら?」

 「無理よ。1年生にもおしとやかな先生としているんだから」

 確かに、この姿を見たらそのイメージもがらりと変わってくるだろう。

 

 「いっそのこと軽音部時代のことをぶっちゃけちゃえば?」

 とりっちゃんが取り出したのは、さわちゃん先生の学生時代の写真。ばりばりのロックな格好をしている。

 

 「ダメよ。分かってないわね。教育ってのはちょっとの隙が命取りなのよ」

 先生の話はたまに飛躍しすぎていると思うが、分からんでもない。特に、若葉学園2-Fに関しては隙が無かろうと行動を起こすからさ。

 

 「あら電話。ちょっと失礼」

 と、さわちゃん先生に掛かってきた電話。相当軽音部はリラックス出来ている証拠だろう。気兼ねなく電話に出た。

 

 「な、何よこんなとこにまで電話してきて!」

 “もしもし”の言葉に継ぐ言葉がこれだったからみんなびっくりした。

 

 「ちょっと失礼」

 と先生は、部室の外に出て行った。

 

 「怪しいね」

 と唯先輩が言う。確かに怪しい。

 

 「あ、そういえば、今朝駅前で先生を見かけたのよ」

 「え?」

 「送ってもらった後に、何か言い争ってたみたいだったけど」

 「学校に車で送ってもらって、喧嘩する」

 「まさか」

 「電話の相手は?」

 「お母さん?」

 「唯先輩はもういいです」

 梓ちゃんがあきれたような感じで唯先輩に突っ込む。会話から察するに、さわちゃん先生にしつこく迫ってくる男性からの電話かなと思うの妥当かな。先生美人だし、(普段は)おしとやかだし、男性から人気あると思うんだよなあ。

 

   ★

 

 「しかし、さわちゃんどうしたんだろうなあ。あの後部室に戻ってこなかったし」

 「そうだね~喧嘩がよっぽどすごかったんじゃないかな」

 部活後、みんなと一緒のところまで一緒に帰る。

 

 「おっ。噂をすれば」

 すると、前方にさわちゃん先生が腕時計を気にしながらまわりを確認していた。

 

 「やはり怪しい」

 「尾けよう」

 「いいんですか!?」

 「左に曲がったわ」

 「ムギ先輩が一番気合入ってる~」

 この個性派揃いの先輩方の突っ込みを一身に引き受けてくれる梓ちゃん感謝。オレも手助けはするけど。

 

 「 ー ムギは気づかれないように細心の注意を払え」

 「了解!」

 「張り込みか」

 「はい、澪ちゃんコレ~」

 「本格的!」

 そういったのも、唯先輩が取り出したのはアンパンである。張り込みの基本中の基本!(?)

 

 「しかし、誰を待っているんだろうなあ」

 「彼氏とか?」

 「でも、ずっと一人身で寂しいって言ってた気が」

 「先生にもいろいろあるんだろう」

 「いろいろ?」

 「わ、私は何も無いぞ!!」

 「澪ちゃん美人だから男子にも人気があるもんね~」

 「なっ/// そんなのは知らん!!」

 澪ちゃん、いじられ中。いじられやすいもんな~美人だというのは本当にそうだと思う。逆に彼氏がいないのがおかしいと思う。

 

 「ていうか、今の私は軽音が恋人のようなものだから」

 「「「「オオ~~~~」」」」

 出ました名言。流石は澪ちゃんです。今頃恥ずかしくなっても遅いですよ~取り返しがつきません。

 

 「あ、悪い遅れて」

 こちらで話が進んでいる間に、さわちゃん先生の待ち人が現れたようだ。相手は女性。その後2人は歩いていき、とあるファミレスの前にたどり着いた。

 

 「こんなところもあったのね」

 「なかなかこっちには来ないから分からないよね」

 「店内に入っていくわよ」

 やっぱりムギ先輩が一番ノリノリである。

 

 「ろ、6名様ですか?」

 「は、はい……」

 店内まで尾いてきてしまったのに、影から観察していた。そしたら店員が話しかけてきた。当たり前っちゃ当たり前。

 

 「あっちの席に座ります」

 店員が案内する前に、唯先輩が勝手に席を選び確保した。確かにここからならば2人の会話は聞こえないかも知れないが見えるからいい。

 ただ、問題は普通ファミレスってテーブル1台につき、4人しか座れない。残り2人はどうするかだ。

 

 「じゃ、わたしコッチの席に座りますね」

 「オレも。先輩方は先生の観察をよろしく頼みますね」

 梓ちゃんとオレは隣のテーブルに座る。が、肝心の先生が見えないのが残念だ。

 結局何回か見つかりそうになるものの、陰に隠れたりして何とかバレなくて済んだ。

 

 「結局誰だか分からなかったね」

 「あの人知ってるよ」

 「ええっ!?」

 店の外に出ながら、唯先輩が言う。

 

 「学生時代のさわちゃん先生と一緒に写真に写ってた人じゃん」

 「え……?」

 「DEATH DEVIL の?」

 「クリスティーナだ!!」

 「「「ひっ!!」」」

 突然、後ろから声を出されてびっくりする。コチラの話を全部聞いていたみたいだった。

 

 「あなたたち、若葉高軽音部の子よね」

 「え、ええ……」

 「軽音部OGとして話があるんだけど、部長は誰?」

 「えっ!? み、澪です」

 「逃げないでください」

 りっちゃんはあまりの雰囲気の怖さについ、澪ちゃんを部長に仕立て上げてしまった。確かにOGから部長に話があるとか言われたら、絶対説教と思うって。

 それが違った。そのクリスティーナさんはオレたちをおでんの屋台へと連れて行ってくれた。

 

 「遠慮しないで注文してよ。おじさんこの子達にジュース追加ね」

 「はいよ、のりちゃん」

 「のりちゃん?」

 「わたし紀美っていうのよ」

 「えっ!? 外国の方じゃなかったんですか!」

 確かに髪の毛は金髪だけど、顔立ちとかは日本人じゃん唯先輩。

 

 「あの、話っていうのは?」

 「大したことじゃないんだけどね」

 いよいよ本題。

 

 「実はさわ子……結婚することになったんだ」

 ………………

 

 「「「「えええええええええええっ!!!!!」」」」

 

 「っていうのは冗談で」

 性質の悪い冗談だ。

 

 「軽音部で同期だった子が結婚することになってね。二次会で私たちに演奏して欲しいって言うの」

 「そうなんですか。おめでとうございます!」

 「ありがとう。でもね、さわ子が乗り気じゃないのよ」

 「軽音部にいたことは封印された過去だからな」

 「というわけで、協力して欲しいのよ」

 と、言ってクリスティーナこと紀美さんに言われたことは。

 

   ★

 

 「なんだこれは……」

 数日後、オレたちはとある場所で、ロックなメイク、ロックな格好をしていた。

 なぜかというと、紀美さんに、

 

 「二次会でさわ子の代わりに演奏して欲しいのよ」 

 といわれていたからである。DEATH DEVILは、放課後ティータイムと違って、ロックだから、全然ジャンルが違う。未体験のゾーンだ。曲も耳コピ。成功するかな……

 

 「ムギちゃん怖い~」

 「気に入ってるんだけど」

 みんなメイクをお互いに批評するんだけど、まあ普段とは全く違うイメージだね。

 

 「 - バンドによる演奏です」

 と、ナレーションのの声が聞こえてきたため、オレたちは恥ずかしいながらも人前に出てくる。学校でするのと違って、相手は大人。

 

 「てめえら今日は飛ばしていくぜ~!!」

 「オオー!!」

 準備が出来ると、紀美さんいや、クリスティーナさんがみんなを乗せる。

 

 「あ、間違っちゃった」

 唯先輩が派手にやらかす。

 

 「もう一回お願いします」

 まるでリハーサルのように緊張していない唯先輩。これは天性のものか。

 

 「頑張れ~」

 「DEATH DEAVILっていうからどんなバンドかと思ったけど」

 「意外と可愛いじゃない」

 逆に好感度UP? いや、DEATH DEVIL的にはDOWNか。

 

 「あれ。どうしたの?」

 突然の停電。ざわつく会場。そんななか、1人の女性がステージに近づく。そして、ステージに上がった瞬間に電気がつく。この主こそが、わざとブラックアウトさせていたのだと理解した。

 その女性とは……

 

 「さわちゃん!」

 このステージには参加しないといっていたさわちゃん先生だった。そして、唯先輩からギターを借りるとテクを見せる。うめえ……ここまで上手いなんて……

 

 「てめえらDEATH DEVILはこんななまっちょろい音楽じゃねえ!!」

 さわちゃん先生の性格崩壊! というか、原点回帰!? オレたちは横にはけ、そこで本物を見ることにする。

さわちゃん先生のギタボ。ジャンルはともかくとして、本当に上手いことが分かる。

 

 「キャサリ~ン!」

 高校時代の呼び名のようだ。とても人気があったに違いない。

 

  ジャ~ンとかっこよく終わって、少しの間の沈黙。そして、

 

 「やっちゃった~!!」

 「「「やらせちゃった~……」」」

 さわちゃん先生の悲鳴に、オレたちのつぶやき。お互い、悔いが残る。

 

 数日後、さわちゃん先生から聞いた話によると、今までとは違った形だが人気があるらしかった。

 





 さわちゃん覚醒!
 だからといって、そんなに関係ない気がしますが。

 次からは、オカルト召喚獣=肝試しに入って行きたいと思います。

 そこで、読者の皆様にアンケートを。
 オカルト召喚獣の案をお願いします。
 七島弘志・本田竜也・中野梓・平沢憂……2年勢
 平沢唯・秋山澪・田井中律・琴吹紬・真鍋和……3年勢。

 案が出なかったら、出さないかも(苦笑)
 ま、それでも出すときはありますが。

 期限は、6月2日(日)の12:00までとします。
 作者が、土曜日に全国マーク模試がありますので、忙しくて執筆できません。
 2日もテストですが、午前で終わるので、午後執筆する予定です。
 それまでに、案をどしどし送ってください!
 
 1キャラだけでもいいですし、全員分送ってくださっても構いません!

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#52 肝試し!


 全国マーク模試やってきましたよ……
 
 自己採点しましたが結果は悲惨ですね。
 日頃勉強していないのがこういうので分かります(泣)

 というのに、勉強せずに更新をします(笑)
 予告していた通り、肝試し編!

 まだまだ、オカルトは出ないですかね?

 では、どうぞ!!




 

 激動の1学期も終わり、夏休みに入った。だが、夏休みといえども課外があるAクラス。

 とある日、みんなが帰りだしたので、オレも部活に行こうと思ったときだった。

 

 「ヒロ~!」

 アキが雄二たちを連れて、Aクラスに乗り込んできた。

 

 「どうした?」

 「見て欲しいものがあるんだ」

 「見て欲しいもの?」

 「雄二お願い」

 「おう。起動(アウェイクン)!」

 雄二は何故か突然フィールドを展開した。

 

 「何をするつもりだ?」

 「試獣召喚(サモン)!」

 アキがいつもどおりに召喚すると、等身大の召喚獣が出てきた。

 

 「何だこの大きさは!?」

 「大きさだけじゃないよ。ねえ秀吉」

 「何故ワシに振るのじゃ……」

 「早く召喚してよ。ほらいつの間にかムッツリーニも召喚してるじゃん」

 康太の召喚獣も等身大だ。いったいどうなっているんだ?

 

 「仕方あるまい……試獣召喚(サモン)!」 

 「秀吉!?」

 「かわいいでしょ!」

 「秀吉、それどうしたのかしら?」

 優子さんがちょっとピリピリしている。召喚獣相手でも女っぽい(っていうか女性)が出てくるからな。

 

 「説明してくれよ」

 「ん? あ、ああ。コレは『オカルト召喚獣』と言われるものらしい」

 『オカルト召喚獣!?』

 Aクラスの残っていた連中っていっても、いつもの5人しかいないけど。……っていつの間にか純ちゃんも居て、一緒に驚いていたし。オレとしては突然現れた純ちゃんのほうが驚きだよ。

 オカルトということで、アキはデュラハン・康太は吸血鬼・秀吉は猫又らしい。どうやらその人の本質を召喚獣の形となって表すらしいが……突っ込まないで置こう。

 

 「システムが調子悪くて、こうなってしまったらしい」

 「その代わりといって、僕たちこれで肝試しが出来るんだよ!!」

 「肝試し!?」

 「そ。楽しみでしょ♪」

 肝試しと聞いて、梓ちゃん以外のAクラスの連中はみんなテンションが上がる。

 

 「あ、梓ちゃん?」

 「き、肝試しなんか嫌いじゃないもん! うん。大丈夫」

 「よく分かったよ。苦手だって」

 「ちちち違う! ただ、この世に無いのが見えるのが怖いだけ!!」

 肝試しがさらに楽しみになった。いつもとは違う梓ちゃんを見れるかもしれない。

 

 「「「お前らうるせえんだよ!!!!」」」

 オレたちがわいわい話していると、突然ドアが開き怒鳴り声が聞こえてきた。

 その方向を見ると、生徒のようだった。それも上靴の色から察するに1つ上の先輩方数名。流石に先輩には礼儀正しくしておかないといけないので、アキを中心にみんな謝ろうとしたけど……

 

 「それは言いがかりじゃねえか?」

 雄二が言葉で待ったを掛けた。

 

 「どういうことだ?」

 「ここは新校舎だ。試召戦争があること前提に作られているこの校舎、防音設備は整っているんだが……それがどうして3年生のところに聞こえてくるんだろうな」

 「知るかよ。お前たちがうるさいからだろ!」 

 「補習や課外が嫌で抜け出してきて学校をうろついていたら、俺たちがうるさかったからやつあたりでもしにきたんだろ」 

 見事なまでに雄二は先輩方に啖呵をきっていた。先輩も気まずそうに目そらしているし。

 

 「四の五の言ってんじゃねえ!!」

 「こうなったら先輩が強いってところを見せ付けるしかねえな」

 「ああ。試召戦争だ」

 「あんたたち、やめにしないかい」

 先輩方が召喚しそうになったそのとき、Aクラスに来客が。学園長である。

 

 「全く……あんたたちも常夏風情を気にしなくて良いのに」

 「「誰が常夏だ!! 一緒にするなババア!!」」

 「学園長に向かってババアとは失礼さね」

 何ともいえない口喧嘩が始まった。

 

  閑話休題。

 

 「というわけで、肝試しは補講・課外に参加している3年vs2年でするさね」

 「何が狙いだ?」 

 「それは学力アップのためさね。盛大にやってくれて構わないさね。ああ、物を壊すのは勘弁」

 「ってことは、一般公開でもするのか」

 雄二がそういうと、痛いところをつかれたといわんばかりにそっぽを向いた。

 

 「常夏を中心に学園の評判を下げる人間がいるからね~」

 「何を言ってるんだか」

 「もういい。こいつらのようなバカを相手にしている暇はねえ。帰ろう」

 それだけ言うと、先輩方は帰ろうとした。

 

 「ちょっと待ちな。学年対抗でするんだから、どちらが脅かすほうとか決めておきな」

 「もちろん俺たちだよな」

 「ああ。ルールはどうする?」

 「チェックポイントを作ってそこで試召戦争とかがいいんじゃねえか?」

 「他には?」

 「2人組セット。1人で辿り着いても試召戦争できない」

 「ほう」

 「ある程度の悲鳴を出したら2人とも失格」

 「どのくらいだ」

 「ムッツリーニ、出来るか」

 「………もちろん。カメラもバッチリ」

 「というわけで、音声の部分が赤のメーターに入ったら失格だな」

 「いいだろう。それで、賭けはどうするんだ?」

 「賭け?」

 「当たり前だ。何をする」

 「負けた方は体育祭の準備でいいだろ」

 「随分ヌルいじゃねえか」

 「勝手に決めているんだ。あまりにもきついのじゃダメだろ」

 「そうか。お前ら、個人的に待ってるぜ」

 「望むところだ」

 雄二は、誰か分からない先輩と舌戦を繰り広げた後、勝手にいろいろと決めていた。それを聞いて満足した先輩方は帰っていった。

 

 「よく何から何まで思いつくね」

 「ルールはある程度ババアと話し合って決めていたさ。賭けの部分以外はな」

 「常夏は、あの暴走召喚獣のときの実行犯さね。別に乗らなくてもよかったさね」

 「だからこそ、勝負をつけておかないと、俺たちに恨みを持っているのはバレバレだったからな」

 「そうかい。じゃあアタシは楽しみにしてるよ」

 といって、学園長も出て行った。さてさて肝試しか。

 

 「面倒くさい肝試しの準備も引き受けてくれる3年ってえらいな」

 「どうするのさ雄二」

 「何が?」

 「負けたら体育祭の準備だよ」

 「別にそのくらいいいじゃねえか。肝試しは楽しもうぜ。3年も本気になってかかってくると信じてな」

 「そうだね」

 課外最終日が肝試し。それを楽しみにまだ頑張っていくか。というわけで部活に行く。

 

 「おっ。2年生も課外が終わったみたいだな」

 部室に行くと、既に3年生は来ていた。

 

 「こんにちは~」

 「あれ、唯先輩は?」

 「風邪で休みだそうだ」

 「風邪!? 唯先輩が!?」

 「そうだ」

 珍しいな……あとで連絡しておこう。

 

 「先輩方、課外最終日に肝試しがあるって聞きました?」

 「何それ!? 初耳!!」

 「肝試しだってさ~澪」

 「聞こえない聞こえない聞こえない」

 「どうして突然?」

 りっちゃんと澪ちゃんの騒がしいのをよそにムギ先輩が聞いてきた。

 

 「実は ー 」

 と、あらかた話すと、

 

 「そっか。召喚獣はオカルトになってたって聞いたけど、それを肝試しに使うのね」

 「あれ? 召喚獣のことは知ってたんですね」

 「3年生は全員言われたからね」

 「そうなんですか」

 何故に2年生には言われなかったんだろう。

 

 「しかし、私たちのクラスのメンバーが世話を掛けたみたいですまんな」

 「えっ? 常夏先輩ってAクラス!?」

 「常夏、じゃなくて、常村と夏川な」

 「そうだったんだ!!」

 なるほど。だから雄二の挑発にあんなに簡単に乗ってきたのか!

 

 「それで、3年生が脅かす役らしいので、お手柔らかに」

 「よかったじゃん澪。自分がこっち側ならまだ大丈夫なんじゃない?」

 「う、うん………」

 「梓は、今日はちょっと元気ないな。もしかして肝試しが怖いのか?」

 「なっ!? 全然怖くなんかないですよ!!」

 「本当か? じゃあ、梓見つけたらわたしたち本気で行こうかな」

 「そ、それはちょっと……」

 りっちゃんこういうの得意そうだから怖いんだよな。

 

   ★

 

 そんなこんなで、あっという間に課外最終日=肝試しの日。

 

 「ってことで、ルールは分かったか?」

 一応、雄二司令官である。学園長とずっと交渉していたから適任だ。

 ルールとして、男女2人で入ること。だそうだ。梓ちゃんに頼もうかな。

 それと、チェックポイントは4箇所か。新校舎にあるA~Dクラスに1つずつ。教科は保体と理科と社会と総合科目だそうだ。2年と3年で2つずつ取り合ったらしい。こちらが保体選んだのは分かるな。

 

 「ヒロ君」

 「どうしたの梓ちゃん」 

 「肝試しのペア、なってくれない?」

 「えっ!? いいよ。オレでいいの?」

 「だって他に気兼ねなく話せる男子いないし」

 「ありがと。オレも梓ちゃん誘おうとしてたんだ♪」

 これはいい。幸先がいい。流れがいいぞ!

 

 「憂ちゃんよろしくね」

 「うん♪」

 簡単に、竜也・憂ペアは決まったらしい。

 

 「明久~ペアになって~」

 「あ、愛子ちゃん、いいよ」

 「やった~」

 『明久君ひどいです』

 『ウチたちを除け者にして……』

 アキも簡単に愛子ちゃんに決まったようだ。

 

 「みんなペア決めているみたいね……秀吉、アンタでいいわ」

 「ワシでいいのか?」 

 「どういうことよ」

 「いや……なんでもないのじゃ。分かった」

 木下姉弟ペアが確定。

 

 「お姉さま~!! 美春と一緒にペアに!」

 「どうしてよ美春!! ウチは女子よ! 男女ペアって言われたでしょ!!」 

 「そんな決まり、合っても無くても愛さえあれば関係ありません!!」

 「もういや~!!」

 清水が島田に猛アタック。そのペアならば雄二とて許すであろう。

 

 「あれ~憂も梓も簡単に決まっちゃたみたいだな~どうしよう」 

 「………純、余ってる」

 「康太も余ってんの? じゃ、ペアでいいね」

 「………分かった」

 純・康太ペア。いつかこの2人がどうやって知り合ったか聞こうと思ってたんだけど、すっかり忘れているな。

 

 「あれ、雄二はペア決めないの?」

 「オレは実行委員みたいなものだから別にいいだろ」

 「そういうものか?」

 「ああ。そういうものだ。そろそろ時間みたいだな。よし。1組目行ってもらおう!」

 いよいよ肝試しが始まった!

 





 常夏と2年生の関係が、原作と大分違うのでちょっと難しかったですね。

 しかしまあ、ペアは決まったんですが、優子のペアが意外でしたかね?
 秀吉とだなんて。

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 6月2日ですか。
 自分が歴史上の日付で一番最初に覚えた日付ですね。
 1582年6月2日未明。
 京:本能寺。1人の英雄が火の渦へと消えて行った。
 いわゆる「本能寺の変」です。 
 これは未だに謎ですよね~伝説ですよ本当に。
 戦国史ファンからすると一番ワクワクするものです!


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#53 本気!


 少し遅れてすいません。

 書いてたらとても長くなってしまって……
 2話に分けました。
 
 では、どうぞ!!




 

 「3年生、本気だな……」

 ディスプレイを見ながらつぶやく雄二。

 一つ目の曲がり角を曲がるだけで、失格者多数続出している。

 

 「どうする雄二?」

 「特別何かやろうってこともない」

 「このままやられるのを黙ってみているの!?」

 「落ち着け明久。俺だって勝負事負けるのは好きじゃねえ」

 雄二はいったん教室を見渡して、次のペアを発表した。

 

 「久保。頼めるか」

 「僕かい? 構わないけど」

 「おう、久保頼んだ!」

 「久保君、よろしくねっ!」

 「よ、吉井君!? 分かった! 必ずやよい報告を持って帰ってこよう」

 久保は顔を少々赤らめながら、眼鏡を上げる仕草をして、佐藤と共に向かっていった。佐藤と久保のペアなら、試召戦争には勝てるだろうがその前に悲鳴を上げないのだろうか。別段この2人が怖いものに得意とかは聞いたことは無いんだが……

 

 「これでいいかい、吉井君!?」

 数分もすると、久保と佐藤はチェックポイントに辿り着き、既に倒していた。どれだけ行動早いんだよ。

 

 「うんっ! ありがとね久保君!」

 「よよよ吉井君!? ぼぼぼ僕なんかに……」

 「久保君どうしました? ちょっとみなさんすいません、久保君が倒れたのでリタイヤということで」

 「何かもったいねえな。素直にありがたいけど」

 発狂したとでも言うのか。佐藤は近くに居た先生と共に久保を保健室へと送りに行ったそうだ。

 

 「さて、次のクラスか」

 「最初であんなに手が込んでいたら、後々どうなるんだろう」

 「ネタ切れとかあるんじゃないか?」

 「それはあまり期待しない方がいいかもな」

 本気を出しているのが嫌でも分かる。負ける気なんてさらさらありませんって感じ。

 

 「「「「「ギャーッ!!!」」」」」

 

 作戦を立てていたら、ディスプレイのほうから大きな悲鳴が。カメラの奥だけでなく、こちらの教室(画像だけ)からも悲鳴が上がったようだ。

 

 「何があった!?」

 「絵面が……」

 「死ぬ」

 「助けて~」

 相当衝撃があったのか? オレたちも恐る恐るみんなが目をそらしているディスプレイに目を向けた。

 

 「「「「ギャーッ!!!!!」」」」

 「汚ねぇ!! 驚かせるやり方も汚ねえが絵面も汚ねえ!!」

 「最悪だこれ……」

 「見てしまったわ」

 「リバースしそう」

 「一時食べ物が口から入らないよ」

 時間差でオレたちもダメージを受ける。まあ本当にお茶の間にはお見せできないですね。

 

 「仕方あるまい……ムッツリーニ!」

 「………コレに」

 「ヤツの駆除を頼む」

 「………承知した。準備は上々」

 「よしっ。行ってこい」

 康太は無言でうなずき、純ちゃんと合流して何か1つ物を持って肝試しに出かけた。

 コチラとしては、康太に全てを任せるつもりだから、他の全員はコチラにいる。こういう相手には康太が一番出来るだろうとみんな思っている。かくいうオレもそう。

 

 『先輩方結構本気だね~こうやって歩くと分かるよ』

 『………ああ』

 『どうしてそんなに返事が淡白?』

 『………俺はアイツへの復讐の計画を頭の中で復習している』

 『上手くまとめたつもり?』

 『………』

 こういった会話が聞こえてくるが、みんなの体勢は変わらない。手を組んで顔の前に持ってきているお祈りのポーズだ。よほど腹に据えかねたのだろう。

 

 『ちょっと、不気味だね』

 『………お化けを怖がるとは意外だ』

 『わ、わたしだって女の子だ ー っビックリした~!!』

 『………面白い』

 意外な純ちゃんの一面が見れて確かに面白かった。

 

 『アレそろそろなんじゃない?』

 『………見たくないものは見なくても構わない』

 康太は純ちゃんに言ってるようでもあり、オレたち全員に警告しているようにも聞こえた。

 

 「来る!!」

 アキが予測したとおり、真っ暗だった部屋が突然ライトアップされ、1人の姿が映された。

 常夏の片割れが、ゴスロリの格好をしていた。

 

 康太は、それに対して、等身大の鏡を持っていた。それをそいつに向ける。すると、当の本人がリバースしていた。どれだけ効果があるか自分で身に染みて感じたか!

 

 『こんな恐ろしかったのか……』

 『………(カシャカシャ)』

 『何故に写真を撮る!?』

 『海外のモノホンサイトにうpする』

 『そんなのになってたまるか!!』

 ハゲ先輩は逃走していった。康太の完全勝利といったところ。

 

 『グロいこと考えるね』

 『………それなりの代償は支払ってもらわなければ』

 『ふ~ん。じゃあ、さっさと行こうか』

 『………ああ。この先はチェックポイント』

 しかも、保健体育。案の定、康太が1人で勝った。そりゃあ匹敵するのは先生くらいだろう。愛子ちゃんもついていってるんだが、康太の境地には辿り着いていない。

 

 『引き続き、クラス侵略しちゃっても構わない?』

 「ああ、どんどん行っちゃってくれ」

 雄二は純ちゃんの問いに返答すると同時に、作戦を再び練った。

 

 「頑張れムッツリーニ!!!」

 『ブシャアアアァァ』

 「土屋康太、失格! 画面及び音声メーター赤!」

 何があったんだ……雄二とオレは顔を見合わせてそう言い合っていた。

 

 『康太君!? しっかりして!!』

 『死してなおいっぺんの悔いあらず』

 『そんなかっこいいこと言わなくていいから!!』

 画面の奥からこんな言葉が聞こえてきた。

 

 「明久、何があったんだ」

 「ひどいんだよ。美人の先輩が出てきて、最初に着物姿で出てきたんだ」

 「ムッツリーニ大丈夫じゃないだろ……」

 「その上、その着物を脱ぎだして競泳水着を……」

 「皆まで言うな。やつは華々しく散っていった。弔うしかオレたちには出来ない」

 合掌をした後、教室中を見渡したら、Fクラスの連中がごっそりいなくなった。

 

 「ムッツリーニの敵を!!」

 「着物を!」

 「水着を!!」

 「行くぞ!!」

 「オオー!!」

 突入と同時に大声を上げていたため全員失格。バカばっか。

 

 「女子には女子で対抗だ! 木下姉!!」

 「その言い方だと秀吉まで女みたいに聞こえるけど、まあいいわ。行きましょ」

 「了解じゃ」

 木下姉弟出動。

 

 「あら、女の子同士でやってきたのですか。それならば私は無意味ですね。お先へどうぞ」

 と、なんら抵抗無くこの先輩は通してくれた。そのままの勢いで、2人はお化け等々に引っかかることなく突き進み、第3チェックポイントに辿り着こうとしたときだった。

 再び真っ暗な状態からライトアップが。嫌な思いがよぎったが、今度は普通の男子生徒だった。

 

 「木下秀吉。お前に話がある」

 「何じゃ、手短に済ませてなのじゃ」

 どうやら、常夏の片割れ。仮にモヒカン先輩とおかしていただこう。

 改まった表情をして、モヒカン先輩は秀吉に告げる。

 

 「木下秀吉。お前のことが好きだ!!」

 

     ★

 

 「何なんだあれは……」

 「近くで聞いていたアタシもびっくりしたわ。アタシじゃなくて秀吉に告白したってのも癪だけど」

 秀吉は告白された瞬間、意識が飛んでいったのか倒れた。ペアじゃないと通過できないため、優子さんは秀吉を連れてこちらに帰ってきた。

 

 「坂本君! いいですか」

 「っ……姫路か。何だ?」

 「私たちが行きます!」

 「………撃破してくる」

 「それに、美波ちゃんも清水さんと共に行っています!!」

 「………必ず倒してくる。楽しみにしておいて」

 「あ、ああ……。行きたいなら行って来い」

 特に興味も示さずに雄二は承諾した。1ペアや2ペア消費したって何の問題も無いと思ってるのだろうか。このペアは実質学年主席次席ペアだからあんまり簡単に遣いたくは無いけど、性格に難ありだし、いざこざあったし、捨て駒でいいかという考えだ。

 

 『オネエサマ~!!』

 『美春怖い!!』

 突入と同時にやっぱり失格になっているのが居るけど。

 

 『翔子ちゃん行きましょう』

 『………私たちを取り戻すべく』

 2人は何か相談して意を決してこの肝試しに向かっているようだ。それがアキや雄二に何もないと別に構わないんだがな……

 

 『これでおしまいです!!』

 2年学年1・2コンビはあっさりと第3チェックポイントを突破したらしい。意外と簡単に最終戦へいけるんじゃないか?

 

 「ねえ、気づいたらこんなに脱落者出ていたんだ」

 「ん? そうみたいだな」

 「どれどれ?」

 確認してみると、オレ梓ペア、竜也憂ペア、アキ愛子ペアくらいしか残っていない。

 

 「いや、もう一つ残っている」

 「ん? まだいたか?」

 「お前と優子さんだ。未だ意識が戻らない秀吉は戦闘不能だが、優子さんは失格になっていない。それに雄二は参加しないとは言ってないからお前も残っている」

 というわけで4組か。

 

 『げっ……こいつらここまで来たぜ』

 『誰だ道路を作り変えるのに失敗したやつは…』

 なるほど。最後のステージは道路を自由自在に作りかえれるのか。

 といっても、この2人がまとめて始末してくれるだろうし。ちょっと残念だな。肝試しやってみたかったのに。

 

 「よかった……あの2人なら勝てる」

 「梓ちゃん、今地味に喜んだよね。お化け屋敷に入るの」

 「へ!? 何の話!?」

 「ふ~ん、じゃあ今からでも遅くないから行こうか」

 「な何で!? 別にここで見守ってるだけでいいじゃん!!」

 あんまりお化けが嫌いと認めたくないらしい。

 

 「ちっ……もしかしたら全員出動しないといけないかもな」

 「どうして?」

 「負けるぞ。あいつら」

 なんと、教科は理科なんだが、常夏コンビは400点オーバーの超高得点。点数で見るとあまり変わらないんだが、操作技術の面があるため圧倒的不利だ。

 

 『……どうして……』

 『何で私たちが負けるの』

 『よかったぜ。こいつら意外に弱かったな』

 『2年の主席と次席っていってもこんなものか』

 どうやら、負けたらしい。これでオレたち4組の出番が回ってくる。

 

 「さて、先にヒロと竜也のペアに行って貰おうかな」

 「あくまで自分は最後なんだな」

 「それはもちろん」

 「分かった。行って来る」

 予想通り、引きつった顔をした梓ちゃんを連れて肝試し会場に。

 

 「憂ちゃん行こ!」

 「…………」

 「憂ちゃん?」

 「…………」

 「お~い憂ちゃん!!」

 「へっ? あ、はい!?」

 「オレたちの出番だから行こう」

 「あ、そなの。分かった」

 憂ちゃんはちょっとぼーっとしていた。先ほど聞いた話によると、憂ちゃんはつい先日まで風邪をひいていた唯先輩の看病をつきっきりでしていたらしい。もしかしたらそれが原因で自分が体を壊しているかもしれない。大事にしてもらわないと……2人とも。そう思いながらさっさと入っていく。

 

 「おお……確かに雰囲気あるな」

 「怖い ー 怖くなんか無い怖くなんか無い」

 「梓ちゃん、口でそうは言っても体は正直みたいだよ」

 オレの腕を思いっきりつかんで結構痛いんだ。まあ、楽しいからいいけど。それに梓ちゃんに腕を握られるなんてことそうそうない。この状況を楽しまないとね。

 

 「あれ? あの後姿は」

 「さわ子先生?」

 「何か、問題でもあったのかな?」 

 「みたいだね」

 オレと梓ちゃん、そしてちょっと後ろに居た竜也と憂ちゃんも近寄っていく。

 

 「さわ子先生」

 「うらめしや~」

 さわちゃん先生もまさかお化け役だったとは……予想外だ。あやうく、声が外に漏れるのをとめた。竜也もそんな感じがする。女子2人の声が上がらないのは……?

 

 「梓ちゃん!?」 

 気絶していた。突然現れたメイクしたさわちゃん先生の顔。もしかしたらあのハゲ先輩のよりかは軽音部にとってはダメージがある。普段からさわちゃん先生と会っているから。

 

 「さわちゃん……言っただろ?」

 「絶対あずにゃんこうなるって」 

 「竜也は何とか悲鳴をあげなかったみたいだが」 

 「明らかに動揺していたぞ」

 影から、軽音部先輩方登場。この様子を見ていたそうだ。グルか。

 

 「憂ちゃん!?」

 「何かあったの?」

 「憂ちゃんが突然倒れて……」

 「憂が!!」

 唯先輩が真っ先に駆けつけ、憂先輩の容態を見る。

 

 「この頃ずっと私の看病をしてくれたから憂に迷惑を……」

 「病気とかじゃないのか……それはよかった」

 「寝不足だったんだよ。私のために……」

 「保健室に連れて行きます」

 「わたしも ー 」

 「ダメだ唯。憂ちゃんはこの子に任せな」

 「ええ~ …… 分かった。憂を頼むよ」

 「分かりました」

 竜也は憂ちゃんをおぶって戦場の外に出る。

 

 「さてと……さわちゃんの予想だにしなかった攻撃にやられた梓だが」

 「オレが背負って帰りますよ。先輩方は引き続きお化けの役を」

 「お~もうそこまでの仲か」

 「どこまでですか……全く。そういうりっちゃんはどうなんだよ」 

 「へっ? わたし?」

 「そ。先輩方4人ともですよ。オレたちをいじってないでですね……もういいや。梓ちゃんが心配だ。それでは失礼しま~す」

 何も問い返されないように、梓ちゃんを背負って戦場を出た。その出口に雄二たちが居たので話をする。

 

 「すまねえ。離脱だ。後はお前ら2組に任せた」

 「分かった。お前らはその子たちが元気になるまで側についてあげておけ」

 「ふん。言われなくてもそのつもりだ」

 「じゃあヒロ行って来るね」

 「やっとボクたちの出番だね明久君」

 「坂本君行きましょうか。いろいろな借りを返しに」

 最後のメンバーによるお化け退治が始まった。

 

 





 精神攻撃を繰り返してくる3年生側。
 
 とうとうダウンしてしまった梓や憂。

 ストックが少ない2年生。
 いったいどうなる!?

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#54 雄姿!


 さてさて、このたびは特に言うこと無いですね。

 うん。

 では、どうぞ!!




 

 

    ★

 

 「あれ、ここは……」

 「あ、梓ちゃん起きた?」

 「ヒロ君……何で保健室?」

 「肝試しで驚いて気絶したんだよ」

 「そ、そうだっけ?」

 ちょっと動揺が隠せない梓ちゃん。まあ、怖がりを我慢していたのはえらいとする。

 

 「あれ、隣は憂だよね」

 「そ、ちょっと過労で倒れたんだって」

 「過労って憂いくつ……」

 「唯先輩の看病をしていたんだって」

 「そっか……結構前から風邪長引いてたからね……」

 話していると、憂ちゃんが起きた。

 

 「あ、あれ?」

 「元気になった? 憂ちゃん」

 「竜也君? 何で私保健室に?」

 「過労で倒れたんだよ」

 「か、過労?」

 「唯先輩の看病のし過ぎみたいだよ」

 「そっか……わたし肝試しの途中で倒れちゃったんだ」

 ちょっと残念そうな顔をする憂ちゃん。

 

 「それより、竜也君がここまで運んでくれたの?」 

 「え、あ、そうだけど」

 「ありがとね」

 「う、うん/// 憂ちゃんが元気になってくれればそれでいいよ!」

 めっちゃ照れてるし。顔赤いぞ竜也。

 

 「ひ、ヒロ君。わたしも言うの忘れてた。運んでくれてありがとね」

 「ととと突然ビックリするなもう!!」

 「運んでくれただけじゃなくて起きるまで居てくれた。ありがとね」

 「別に気にしなくていいよ///」

 「お前も照れてるじゃねえかヒロ!」

 「うるせえ黙ってろ!!」

 お礼の言葉を面と向かって言われると照れるよ。

 

 「肝試しどうなったんだろうね」

 「2人が元気になったんなら見に行く?」

 「いいよ!」

 「最後、愛子ちゃんや優子ちゃんがどう活躍しているか見たいし!!」

 「まだ出歩くのはダメよ! 安静にしておきなさい」

 「そんな~」

 「ただし、そこの男の子がちゃんと2人を背負って2人に負担を掛けずに行くっていうのなら話しは別」

 保健室の先生がこういった。

 

 「見に行きたいね」

 「また負ぶってもらおっか」

 「恥ずかしくない?」

 「大丈夫だと思うよ」

 「しっかり面倒見てあげなさいよ。まだ完治してないんだからね」

 オレは梓ちゃんを、竜也は憂ちゃんを背負って保健室を出た。

 

 「怖くない?」

 「大丈夫だよ!」

 「これでみんなの前に現れるの!? やっぱり恥ずかしい! 降ろして!!」

 「無理な注文を……保健室の先生からの忠告は守らないとね」

 「ヒロ君~///」

 「そろそろ教室か。FFF団だけは気をつけておかないと」

 「そうだな」

 そして、肝試しの様子が分かる部屋へ。入ると同時に、結構な視線を浴びたけど無視してディスプレイの方へ。そこには秀吉がいた。

 

 「あれ、復活した?」

 「おかげさまで……それよりどうしたのじゃ?」

 「保健室の先生からの言いつけで背負ってないとダメって言われたからさ」

 「そうなんじゃな」

 「それより、アキや雄二はどうなってる?」 

 秀吉は画面を見ながら簡単に説明してくれた。

 

 「道路を作り変えられて、明久雄二・工藤姉上のコンビになってしまったのじゃ」

 「というと、大変な女子2人を怖がらせて失格に追い込もうとしてるんだな」

 「じゃろうが、無理じゃろう。工藤もあの性格上あんまりお化けの類を苦手としてるようではない。その上、姉上なぞ全く持って興味を示さぬ」

 「何か秘策があるのかね」

 竜也がそうは言ってるけど、何も思いつかない。オレと竜也はいすに梓ちゃんと憂ちゃんを座らせ、オレたちはその背後でアキたちの様子を見た。

 

   ★

 

 『なに!? 何故にこっちがチェックポイントに来ているんだ!?』

 愛子優子ペアがチェックポイントに辿り着いた。再びあちらに手違いが生まれたらしい。

 

 『関係ねえ! オレたちは2年の主席と次席を倒したんだ。その下なんざ屁でもないわ』

 『それより、お前らもともとのペアなんであのバカどもなんだ?』

 聞き捨てならないねえ。

 

 『この学園始まって最初の観察処分者に悪鬼羅刹の異名をもつ人間か』

 『ま、この2人もそれにふさわしいじゃねえか。転校生にハズレってな』

 再び聞き捨てなら無い言葉が聞こえてきたね。冷静に怒っている自分がある意味恐ろしいよ。

 

 『誰がハズレですって?』

 『お前らのことだよ。あんな屑共とコンビを組まされたお前らだ』

 『明久たちは屑なんかじゃない!!!!!』

 耳に響き渡るような声で愛子ちゃんが叫ぶ。今まで聞いたことも無い音量だ。

 

 『突然大声出して何だ?』

 『あなた達の方がよっぽど屑ですよ』

 『ていうか、さっきの大声でお前ら失格だよな。さっさと出ていきな』

 『言われるまでも無い。愛子行くよ』

 『うん……』

 こっちまで分かるような涙声だ。悔しい。それはオレだって一緒だ。優子さんの何処がハズレだ。愛子ちゃんの転校っていう種族の何処がいけないんだ。お前らなんかのような屑と一緒にするなボケ。

 

 「明久君は屑じゃない」

 「………雄二も屑じゃない!」

 「そうやって素直に応援する気持ちがあるなら、どうしてああいう行動に出るかな」

 「もはや関係修復は困難だからな」

 「オレたちの前で高感度上げようと思ったって無理だぞ。あいつら自身の問題だからな。ただ一つだけいえるのは、そうやって素直に2人のことを応援できるのなら、何故に最初っからそうしない。自分達で自分の好きな人生を閉ざしてしまったじゃないか。これはオレのアドバイスだ。自然とそういう行動が出来、心の底からあいつらのことを思えるようになるならば、どうにかなるんじゃないか。それがどういう行動となって現れるかはその人次第だが。ちゃんとあいつらのことを考えろ。自分のことばっかりじゃなくて」

 ついつい説教口調になったな……どうしてもこの2人は悪者には見えないんだよ。どうにかして元通りに戻って欲しいけど。きっかけがつかめるといいな。

 

 「………分かった。私とみんなとの愛の差はどれくらいか確かめる」

 「何が違うのか。見せてもらいます」

 好きにするがいい。竜也や梓ちゃんたちはオレに交渉を全面的に任せるらしく、関わろうともしなかった。

 

 『雄二……』

 『明久、お前の役割だ』

 『任せて』

 『『これからは本気だボケ野郎!!』』

 今までにないくらいアキたちが憤怒の表情を浮かべて進んでいく。

 

 「ごめんなさい。つい大声を出してしまって」

 「愛子は悪くない。やつらがおかしいだけ」 

 優子さんと愛子ちゃんが帰ってきた。

 

 「ちょうどよかった。2人とも、あいつらの雄姿を見てみな。もうすぐチェックポイントだから」

 「分かった」

 「ここに姫路さんと代表が居る謎は聞かないで置くわ」

 「オレの独断と偏見だ。気にしないでくれ」

 会話していると、アキと雄二が常夏のもとへ辿り着いた。

 

 『ようやく来たか本命』

 『さて、個人的な賭けだ』

 『単純に、負けた方は勝った方の言うことを聞くだな』

 『いいだろう』

 先輩方は、早速召喚する。が、召喚獣が出てこない。

 

 『あれ、フィールドがおかしいみたいですね。どうやら理科のフィールドがおかしいみたいですね。念のために別の教科の先生を呼んでおきましたのでそちらでやりましょう』

 『貴様……!』

 『教科が変わる代わりに、俺は召喚できねえ。いいハンデだろ?』

 雄二はどうやら白金の腕輪を使って、干渉を起こしていたらしい。

 

 『試獣召喚(サモン)!!』

 『仕方ねえ。試獣召喚(サモン)!』

 

 家庭科 F吉井 vs A常夏

        386   平均196

 

 『何ぃっ!?』

 『すいませんね。さっさとやっつけちゃいます』

 アキは宣言どおり、簡単にやっつけるのだった。

 

 『そんなバカな……』

 『あんたらはな。俺たちを怒らせた時点で勝負はついていたんだよ!!』

 『で、何をやらそうってか』

 『とりあえず、愛子ちゃんと優子さんに謝れ!!』

 アキはそう言い放った。これにより、肝試し大会は終了した。

 

 「どうだ姫路・霧島。何か分かったか」

 「分かりません。愛の大きさならば私たちのほうが大きいはずです!!」

 「愛が大きい小さいじゃねえんだ」

 「………どういうこと?」

 「一方的に押し付ける愛なんざ愛じゃねえってことだ。ま、一回も彼女を作ったことの無い人間が言うセリフじゃないと思うんだけどな~」

 オレは姫路たちにそう言い残して、教室を出た。アキや雄二と合流するためである。

 

 「さっきの言葉かっこよかったよ」

 「え?」

 梓ちゃんがオレの後を追っかけてきていたらしく、話しかけてきた。

 

 「一回見放したはずの姫路さんと霧島さんにもあそこまで話すなんて」

 「あの時は流石にキレたけど、話せば分かってくれると思うんだよな。だからアキや雄二もここまで付き合ってきたんだろ」

 「確かにそうかもね。わたしならば無理かな。あそこまで話すのは」

 「そう?」

 余計なおせっかいかも知れないけどさ。あんまり敵を作りたくないんだよね(苦笑)

 

 「おっ、弘志!」

 「勝ったよ~!!」

 「流石だな。あのお前たちの啖呵の切り方もかっこよかった」

 「流石にアレばっかりは俺だろうともぶち切れたな。あそこまで努力した人間をあんな屑共に否定されるとは」

 「そうだよ。そもそもあの2人はこの学園に居るだけでキセキなのに」

 確かに。学園転覆計画に加担していたくらいだからな。

 

 「それより、お前たちの仲は進んだか?」

 「もう告白しちゃったかなヒロ?」

 「ななな何言ってるんだ!?」

 「その様子だとまだまだか。梓ちゃん、ヒロのことよろしくね~」

 「え、あ、うん」

 「それじゃあまた~」

 「おいこら待て!!」 

 妙な捨て台詞を残して逃げていった2人。

 

 「こここ告白?」

 「いいいいいいいいや気にしなくていいから。うん。マジで」

 「そう? それより、みんなのところに行かないと」

 「そだね。行こうか」

 今はまだ早い。この気持ちを伝えるには……

 

 





 残念ながらまだまだでした。
 
 時を待っているというのでしょうか。
 それを失するとただ、想っているだけになってしまうかもしれませんが。

 一体、どうなる。

 というか、彼らのオカルト召喚獣出てきませんでしたね……
 ストーリー上、これが一番しっくり来たんで。
 案を出してくださった方ありがとうございました!!
 使えなくて申し訳ないです。

 ですが、肝試し編これで終わりと思いました?
 まだいろいろと残ってますよね!(多分)

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#55 密室!

 
 甘いとまでは言わないですけど、
 比較的甘系かと。

 梓のキャラが変わってきているような。

 多分、気のせいだと思いたい。

 では、どうぞ!!




 

 

 「貴様らをFFF団の名において成敗してくれよう!」

 と、廊下を歩いていたら突然こんな声が。アキや雄二などがFFF団から逃げてこっち側に来ているのが見えた。オレも防衛反応が働いた。

 

 「梓ちゃん、ゴメンけど逃げよう!!」

 「へ?」

 「ちょっとゴメンよ!!」

 「わっ!」

 乱暴だったかもしれないが、手を引っ張って追っ手から逃走する。

 

 「雄二! ヒロ! どうするんだよ!!」

 「ってか、何でアタシたちも一緒に逃げているわけ!?」

 「でもこれはこれで面白そうじゃん♪」

 アキや雄二と共に、愛子ちゃんや優子さんも一緒に逃走。もちろん、竜也や憂ちゃん、康太や純ちゃんといったメンツも同様。

 

 「何でわたしまで逃げているんだろう……」

 「………仕方あるまい」

 純ちゃんは、あまりFFF団の存在を知らないらしく、怖さを知っていなかった。

 

 「このまま一緒に逃げても、全員が挟まれておしまいだ!!」

 「雄二が言いたいのは、全員バラバラに散れということだな!!」 

 「そうしたら、追っ手の数も必然的に少なくなる。単純計算でも5分の1だ」

 「分かった。みんな聞いたな!」

 ということで、広い場所に出た瞬間みんな別方向に逃げ出す。アキと愛子ちゃんは一緒のほうに。オレと梓ちゃんも一緒のほうに。同様に他も。

 

 「すまない、木下姉!! 迷惑掛けて!!」

 「仕方ないわよ……坂本君が悪いわけじゃなく、やつらが頭がおかしいだけだから」

 

 「やっぱり楽しいね明久君♪」

 「愛子ちゃんはもうちょっと緊張感を持とうよ」

 

 「Fクラスの連中っていつもこうだ!!」

 「そうだね……大変だね」

 「体は大丈夫?」

 「うん。多分ね!」

 「よし。保健室行こう。ある意味安全じゃないかな」

 

 「何処に逃げようか……」

 「やっぱり一番安全なのは、部室じゃないかな」

 「多分、相手も読んでるね。オレが軽音部ってのは知ってるから」

 「どうすれば……」

 というか、何で追いかけられてるんだろう。おそらく、肝試しの件か。肝試しで女子とペアになれなかった(男女比の関係で男子同士とか)FFF団に恨みをもたれているとしか考えられないな。

 

 「とにかくまこう……」

 「そだね」

 女子の中ではそこそこ体力のある梓ちゃん。だが、男子にはいくらなんでも負けてしまう。持久戦に持ち込まれたら負けだ。というか、FFF団は持久力だけが持ち味だからな……ただし、嫉妬関連。

 

 「あそこに逃げよう!」

 「どこ梓ちゃん?」

 「あの前のところ」

 「ええっ!? 体育倉庫?!」

 とは言ってもオレたちには選ぶ時間はない。梓ちゃんの言うとおりに、体育倉庫に入った。

 

 「ふう……これで大丈夫かな……」

 「まだ油断は出来ないけどね」

 中から鍵が閉まるタイプでないために、入ってこられたら一巻の終わりである。

 

 「疲れた~」

 「巻き込んじゃってゴメンね。FFF団ってああなんだ」

 「うん。分かってる」

 「それにしても倉庫って真っ暗だよね」

 隣に居る梓ちゃんが見えるか見えないかくらい。徐々に暗闇に慣れてきているとはいえあまり見えない。

 

 「逃げ込む場所失敗しちゃったかも」

 「というと?」

 「なんでもない!!」

 「暗闇が苦手と」

 「なんでもない!!」

 「怖いのが苦手と」

 「なんでもない!!」

 と言葉では否定しても、逆にそう思っていると思わせてしまう。言葉って恐ろしいものだ。

 

 「ふ~ん……」

 「え? へ? 何処行くの!?」

 「………」

 「何か話してよ!!」

 「梓ちゃん、別に暗いところで怖いところでも平気らしいから、オレは離れておいた方がいいと思って」

 あまりに近かったら、男子の理性というものにも限界が来る。

 

 「そ、そんな~」

 「だって大丈夫なんでしょ」

 「で、でも、一緒に居た方が安全じゃ ー 」

 「ちょっと今日は疲れたから仮眠取るね。おやすみ」

 「ちょ、ちょっとヒロ君!?」 

 オレは梓ちゃんの真後ろに位置取り、相手からは見えないがコチラからは見えるような場所から様子を伺うことにした。

 

 「ううっ……1人ってさびしいよ……ヒロ君起きてよ」

 「………………」

 そんなに簡単には返事しない。たまたま近くに居たときに、誰かが入ってきて誤解を生みたくないからね。

 

 「そうだ。電話しよう。そしたら何処にいるか分かる!」

 「………………」

 若干ずるいと思ったが、梓ちゃんも必死なのであろう。梓ちゃんが電話を掛ける前にオレは携帯を取り出し、床を滑らせて梓ちゃんの横に携帯を置く形にした。

 

  Prrrr Prrrr

 

 「えっ?」

 案外近くから聞こえたことにちょっと嬉しがるも、その正体を知ってものすごく落ち込む。

 

 「携帯だけここに置いて隠れて寝ているなんて……別に一緒に居て誤解されても良いのに……」

 梓ちゃん面白い反応するなあ。何か呟いたみたいだけど、くしゃみを我慢するのに必死でよく聞こえなかった。

 

 「ううっ……怖い……ヒロ君!! もう起きてよ~わたしが悪かったから。怖いこと認めるから、隣に居てよ」

 梓ちゃんの初めて聞く弱音にちょっと……ん~……何て言うのかな……こう ー えっと何て言うんだろう。とにかく、まああれだよ。言葉が出てこない。

 それはともかくとして、オレは梓ちゃんの願いを聞き入れることにした。ここまで時間経ってもこの体育倉庫にFFF団が現れないということは、まいたのだろう。それならば、別に近くに居ても問題はない。じゃあ、外に出ろよと思うが、今出てもまだFFF団はやる気が溢れているから、見つかった場合また隠れる場所を探さないといけない。そんな面倒で疲れることは御免だ。

 

 「………………」

 「きゃあっ!! 誰!?」

 「そんなびっくりする? ここには2人だけしか居ないはずだよ」

 オレは自分でその言葉を言って気づく。2人だけ? 体育倉庫? 何のフラグだよ……出るに出れない状況? 何を望んでやがる。成り行きに任せよう。

 

 「びっくりした~……ひどいよヒロ君!」

 「オレにもいろいろ考えがあるんだよ」

 理性崩壊の危険性とか、捕縛される危険性とか、殺される危険性とかetc...

 

 「もう何処にも行かないで!!」

 「それはあまりにも……」

 制服のシャツどころか、腕ごと抱きしめる梓ちゃん。流石に恥ずかしい。

 

 「ダメ! 離したらまた逃げるもん」

 「そ、それにしたとしても……」

 オレはFFF団に捕まる前に、警察に捕まるかどうかの心配をしたほうがよさそうだ。

 

 「何かお話しよっ」

 「何も話題無いけど……」

 「それでもいいから何か話しようよ!」

 どれだけ怖いのが苦手なんだよ。意外と梓ちゃんも澪ちゃんと大差ないかな? それとも、さっきの肝試しの影響もあるのかな……散々暗がりで怖いものを見てきたから、それを思い出して。

 

 「それじゃあさ。そろそろ手を離してくれない? いろいろとやばいんだ」

 もちろん、この願いは却下された。ますます力が強くなった。

 

 「他の連中逃げ延びたかな」

 「憂が心配だな。いつもならば大丈夫だけど」

 「今日は倒れたからね……竜也も保健室に逃げ込むようだったし大丈夫じゃない?」

 「そだね」 

 「アキや雄二、愛子ちゃんや優子さんは別に構わないとして、純ちゃんは大丈夫なのかな?」

 「あっ……心配になってきた」

 「そうか。そこまで運動は出来ないんだね。康太が上手くリードできるかな」

 「あの2人に何の接点があるんだろうね」

 「全然予想つかないよね」

 男子だけで見ると、逃げのスペシャリストが揃っているから安心できる。が……ね。

 そういや、秀吉は何してるんだろ。裏でオレたちの逃走を隠れてサポートとかしてくれてたら嬉しいな。

 FFF団と一番交渉できるからさ。

 

 「もういいんじゃない?」

 「何が?」

 手だよ。手。そろそろメーターが危ないですよ。オレにどうしろっていうんだろう。

 

 『何じゃ? 体育部はまたしても鍵を閉めておらぬか。何度言えば分かるか(カチャ)』

 

 ん?

 

 「「カチャ?」」

 オレと梓ちゃんは顔を見合って、お互いに最悪の展開を予測する。

 

 「まさか!」 

 急いでドアの方に向かって2人とも走り、ドアを開けようとするがロックがかかっているみたいで開けれない。

 

 「警備員さん!! 中入ってますって!!」 

 「出してくださいよ!!」

 とオレたちが叫んでも、60後半の爺様が警備員しているんだ。聞こえない。

 

 「ど、どうしよう……」

 「誰かと連絡取り合おう!」

 「誰に?」

 「アキたちはまだ逃走中の可能性あるからたぶん意味ない」

 「先輩方は?」

 「もしもHR中とかだったら失礼だよね……」

 「じゃあ、メールしておかない?」

 「そだね。オレがメールしておくわ」

 オレはりっちゃんにメールをした。体育倉庫の鍵を開けてくれといったメールだ。何分後に来てくれるかね。

 

 

 

 「全然来ないね」

 「うん……」

 メールしてから何分経っただろうか。携帯の充電がお互いに切れ時間の確認も出来なくなった今、詳しい時間は分からないが、感覚でも30分は過ぎたような気がする。

 

 「まさか持ってきていないんじゃ!!」

 「それだったらオレらは、りっちゃんが家に帰ってメールを読むまで気づかれないってことか」

 今日は体育部は遠征などでいないから、この体育倉庫も開けられることは無い。

 

 「それは勘弁して欲しい……」

 「全員に一斉メールで送っておけばよかった」

 「今更ながらの後悔じゃん」

 「ま、別にオレはこのままでもいいけどね!」

 「あっ!! 逃げるなヒロ君!!」

 ちょっと梓ちゃんが油断した隙に腕の拘束から脱出し、暗闇の中で隠れる。危なかった~そろそろ満タンになりそうなところだったからさ。

 

 「だから1人にしないでって~!!」

 「いつからそんなに怖がりに?」

 「肝試しの後だから!!」

 「言い訳?」

 「そんなんじゃない!!」

 「あ、そうなんだ。じゃあオレからは見える範囲に居るから、それでいいでしょ」

 なかなかの折衷案を出したと我ながら自負している。

 

 「ダメ」

 だが、当然却下されるというのは目に見えていた。このまま逆に隠れてばっかりだと暗闇恐怖症とかいうトラウマになりそうだしな~この賭け引きが重要だな。ってか、それもこれも早く救助されれば何の問題も起きないんだからさ。早くりっちゃん!!

 

 「捕まえた!」

 「しまった」

 「もう逃がさない」

 力がマジだ。オレはそのまま連行されて梓ちゃんの隣に。

 

 「逃げないって言ったのに何で逃げるの!!」

 「いろいろと問題がありまして」

 「ふぁ~……どんな問題が~ふぁ~……」

 口に出して言えるかっての。ってかあくびってどれだけ疲れているんだ……

 

 「くーくーくー……」

 「って、寝てるし!! 寝付き良すぎ!!」

 腕を枕代わりにされてこっちに重心を掛けて眠る梓ちゃん。顔がはっきり見える範囲だから可愛くてしょうがない。このままではすぐにとあるメーターが満タンになってしまうため、オレは一切の思考を停止し、自分も寝ることにした。

 

 





 うん。気のせい。
 梓は肝試しのせいでああなっているんだ!!

 申し送れましたが、1時間遅くなって申し訳ないです。
 
 
 次話はどんな展開が待っているでしょう!!

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#56 告白!


 サブタイトルで、この1話ネタバレした気が(汗)

 まあ、楽しみながら読んでいただけると嬉しいです。

 では、どうぞ!!




 

 「遅いね~あずにゃんとヒロ君」

 「まさか駆け落ち!」

 「なんてドラマチック!」

 「そんなわけあるか!」

 「あいたっ!」

 軽音部ではいつものようにティータイムを過ごしていた。

 

 「失礼します。 ヒロ ー 七島弘志いますか?」

 「え、まだ来てないけど……」

 明久以下数名は弘志と梓を探しているようだが、見当たらない。

 

 「ここにもいないのかあ」

 「どうしたの?」

 「逃げ回っていたんですけど、そろそろ大丈夫なのでヒロたちと合流しようかと思ってるんですが」

 「見つからないんだ」

 「事件です!!」

 ムギちゃんが一番最初に話をおかしくし、

 

 「名づけて駆け落ち事件だ!」

 りっちゃんが引っ掻き回し、

 

 「みんな捜査開始!」

 唯が修復不可能なところまで話を持っていく。

 

 「いい加減落ち着きなさい」

 この澪の修復能力を持ってしないとダメである。

 

 「それで、何処を探したわけ?」

 「教室以外はまだ……ココに居ると思ったんですが」

 「ココ以外の心当たりはあんまりないのか……」

 「僕や雄二とかのメール見ても何も入ってないし」

 「ちょっと待ってね。わたしたちのにメールが来ていないか見るから」

 と、軽音メンバー4人は携帯を取り出し、メールを確認する。

 

 「ないわね」

 「わたしも」

 「律は?」

 「来てた」 

 「どんな内容?」

 

  『急いで体育倉庫に。詳しいことは後で』

 

 「やつらから逃げているときに、体育倉庫に隠れたけれども、警備員が閉めてしまったのか」

 「ヒロらしくないな」

 「まあ、目的地は分かったんだし行こうよ!」

 「せっかくだし全員で行こう!」

 ということで、軽音部メンバー4人と2年9人……ってあれ秀吉いつ合流した。

 まあ、そいつらが体育倉庫に向かって進みだした。

 

 「それ体育倉庫の鍵?」 

 「そう、警備員の人に借りてきた」

 「あんなところに追い詰められるってどんな状況なのかしら……」

 FFF団に追われたら何処にだって逃げると思う。

 

 「早速、開けるか」

 律が鍵を開け、中に入る。

 

 「お~い、助けに ー 」

 「えっ?」

 「しっ! 静かに!!」

 律は咄嗟の判断で、(後でネタにする材料として)みんなを黙らせた。

 

 「あ、あずにゃんとヒロ君。2人仲良く寝てるよ」

 「相当肝試しやらで疲れていたんだな」

 「多分、FFF団がそれに追い討ちを掛けたな」

 「せっかくだから記念に写真を」

 と言い出し、みんな携帯を取り出しカメラ機能で写真を撮る。

 

 

   ★

 

 ん……?

 何か明るい気が……それにちょっと騒がしい。誰か来たのか?

 

 「げっ!? 何だこの人数!?」

 目を覚ますと、そこにはりっちゃんたちだけじゃなく、アキたちもいた。それにみんなの手には携帯が。

 

 「はっ!! しまった! まさか撮った!?」

 「いや~上手く撮れてるぞ」

 「いいカップルの写真だ」

 「………最高」

 言葉を発することが出来なかった。どうやっても言葉を紡ぎ出せなかった。一言で表すなら、やっちまったとでも言えばいいか。何のため見つからないようにここに逃げ込んで、何のために1人にしかメールを送らなかったか分からない。それが寝てしまったせいでパーだ。

 

 「……ん……む……ヒロ君?」

 「……………………」

 オレはかすかに目を開けた梓ちゃんに何も返答をしてやれなかった。下手に言葉にするより自分の目で確かめて欲しい。百聞は一見に如かずだ。

 

 「え? な、なに!? この人数!?」

 梓ちゃんはほぼ反射的にオレの腕の拘束を解かし、距離を置いた。

 

 「閉じ込められたのを助けに来てくれたらしいんだけどさ……」

 「まさか、結構裏目に出た感じが ー 」

 「多分、100%裏目だね。完全にさっきの梓ちゃん見られてたからさ」

 「ううっ……恥ずかしい」

 「だから言わんこっちゃない」

 お化けの幻に怖がっている梓ちゃんがどうやっても腕を解いてくれなかったから、下手にこいつらにネタを与えてしまったじゃないか……

 

 「ところでアキたちがいるってことは、FFF団のやつらは?」

 「とっくに帰ったよ」

 「そうか」

 「それじゃあ、ココで話もなんだし、さっさと部室に戻るか」

 「先輩、僕たちもお供していいですか?」

 「もちろんだとも」

 悪い気しかしない……隣の梓ちゃん見てもやっちゃったって顔をしてるし。

 

   ★

 

 「さてさて、七島君・中野さん、今日のことですが」

 と、りっちゃんは突然変な口調になって話し出した。

 部室に戻った後、誰も抜けようとはせず、面白半分(というか面白全部)で軽音部室に残る。もちろん、そんなに机や椅子があるわけでないから、全員床に座る。総勢何人だ?15人か? 多すぎだろ……

 

 「ねえねえ、もう告白まで言ったの?」

 「「ええっ!?」」

 突然何を?

 

 「バカ唯!! それじゃ徐々に追い詰めていくプランが台無しだろ!」

 「そうなの? ゴメ~ン」

 「ったく……」

 「まさか、ヒロが腕を組んで寝ているとはね~(ニヤニヤ)」

 「仲睦まじい光景だったぞ(ニヤニヤ)」

 「………うらやましい(ニヤニヤ)」

 「ヒロのくせに(ニヤニヤ)」

 「応援しておるぞい(ニヤニヤ)」

 ニヤニヤニヤニヤしやがってうざい。後ろに居る女性陣の方々はほほえましい顔で見ないで!

 

 「まさかあそこまで2人の仲が進展しておろうとは」

 「ちょっとわたしたちも配慮が足りなかったかしらね」

 「梓、ヒロならいい男だ。信頼できる」

 「あずにゃんとヒロ君ならバッチリだね」

 「先輩、勝手に話を進めないでください」

 調子に乗ってきた先輩方を軽く梓ちゃんが抑える。

 

 「ほ~う梓。そんな口利いてて良いのかな?」

 「どういう意味ですか?」

 「コレを見てみるといい」

 と、りっちゃんは携帯を取り出し、梓ちゃんに見せる。

 

 「なっ/// いつの間にこんなものを!!」

 「へへ~ん、2人が寝ている間にこっそりとな」

 先ほど撮った写真のようだった。ただ問題があるのが、

 

 「消してくださいよ!!」

 「わたしだけ消しても、みんな撮ってるから意味ないと思うぞ」

 「えっ!?」

 そう。この場に居る13人全てが携帯に画像として収めていたのだ。このままじゃ、流通を防ぐのすら危ぶまれる。

 

 「みんな消して!!」

 「それは無理な注文だな。なあ明久」

 「そうだよ。これほどの画像消せるものか。ねえムッツリーニ」

 「………サービスショット」

 ダメだ。どうやってもオレたちの劣勢は覆りそうにない。

 

 「どうすれば消してくれるんだよ!!」

 「そうだよ。それじゃ理不尽じゃん!」

 オレたち側としても諦めるわけには行かない。何とか交換条件を持ちかける。

 

 「そりゃあね」

 「まあ決まっているな」 

 「「「2人が付き合う瞬間に立ち合わせて欲しい」」」

 「「「要するに、この場で告白したらOK」」」

 ……………………………は?

 オレの顔を客観的に見たらさぞかし変な顔になっていただろうな。今思考回路が完全にショートしていたからな。何なに? 整理をさせてくれ。それは交換条件じゃなくて、新たなネタの仕入れじゃないか?

 

 「「な、何を言ってる(の)!?」」

 脅しってこうやって蔓延っているんだろうな。一生縦の関係が終わりそうに無い。

 

 「ここまでしておいて、お互いがお互い好きじゃないとかありえないし」

 「楽しみ♪」

 「梓から告っちゃえば?」

 「な、何言ってるの純!!」

 「まあ、後は俺たちは何も言わねえよ。後はお好きにどうぞ」

 ぐっ…………不退転の決意を固めなければならないそうだ。一世一代こんなのは後にも先にも無いだろう。

 

 「ってか、そもそもこの賭けはおかしいでしょ!!」

 「ココに来てそれかよ」 

 「情けないな~」

 「違う!! 公開処刑じゃないか! 告白をみんなに見られるなんて!」

 「ほ~う。ヒロはどうやら梓に告白するらしいぞ」

 「その言葉を待っていたのよね」

 しまった! こいつら何とあくどい!

 

 「あずにゃん、頑張ってね」

 「へ……?」

 「わたしたちは外にいるから終わったら呼んでね」

 「は……?」

 「俺たちもそうするわ。せっかくの告白タイムを邪魔しちゃ悪い」

 さっきと言ってることが真逆な気がする。気がつけば、13人は全て出払っていた。

 

 「ちょ、ちょっと何かドアのところで聞き耳立てている気がするから」

 と梓ちゃんは確認しに行った。

 その間に頭を整理する。

 

 

 

 果たしてオレは梓ちゃんのことが好きなのだろうか。場の流れでこうなったから告白しようとかいうことを考えていないだろうか。もし、そんなきっかけが無かったとしても梓ちゃんに告白していただろうか。

 

 さっき優子さんが言ってたけど、好きじゃないならあんな感じで寝ないって。言われてみればそうだ。確かにオレも梓ちゃん以外の女子だったとしたら……そもそも腕を組むのでさえ拒否していたかもしれない。

 

 そもそもオレは梓ちゃんの何処が好きになったんだろう。音楽に対する姿勢、好きなものに熱中できるとかなのかな。それならば音楽から離れてしまったら、その関係は終わりになるだろう。じゃあ、どうして。

 

 人を好きになるという気持ちは今までに一回も無かったから分からないが、言葉に上手く表せない何かというものを今回信じる気持ちになった。何処と言われても上手く伝えることが出来ない。『中野梓』という女子の全体を好きになってしまったということか。

 

 いい加減自分の気持ちに嘘をつくのはやめよう。梓ちゃんがどう思ってくれているのかは知らない。知る余地も無い。ただ一つだけ言えるのは、悪い印象をもたれてはいないということだ。そうでないと、どんな状況下であれあんな感じにならないだろう。

 

 オレは人生初めての告白をする決意を固めた。どんな言葉を言えばいいか全く分からなかったが、ありのままを話そうと思う。

 

 

 

 「ゴメンね。みんないなかったよ……」

 「そうなんだ……何かこんな形になってしまったけど、いつかは言おうとしてたんだ」

 「うん」

 「オレは梓ちゃん ー 『中野梓』のことが大好きです」

 とうとう言ってしまった! もう後戻りは出来ない。考えることも出来ずにただ思うがままに口が動く。

 

 「オレこういったの初めてで全然分からないけど、言葉で何も表現できないんだ。とにかく、梓ちゃんのことが好き。いつまでも傍にいたいって思った。コレがオレの気持ち。ど、どうかな?///」

 我ながら下手糞な告白だが、仕方あるまい。しっかりと梓ちゃんの返事を聴くことにする。

 

 「ありがとうヒロ君/// わたしもヒロ君のことが好きだよ」

 「梓ちゃん!」

 「友達思いで優しいし、いろいろなことに真面目に取り組むヒロ君。とってもかっこいい!」

 「な、何か恥ずかしいな///」

 「これからもよろしくねヒロ君♪」

 「うん! よろしく梓ちゃん♪」

 これは果たして現実なのだろうか。告白に成功したというものなのか。気持ちがふわふわして舞い上がっているってこんな感じなのだろう。

 

 「えっ?」

 突然、梓ちゃんがオレに抱きついてきた。オレはどうしていいか分からず、多分おもむろに手を梓ちゃんの背後に回して抱きしめ返したような気がする。

 

 「ヒロ君、もうちょっとだけこうやっていさせて」

 「う、うん。いいよ」

 「わたし1人っ子で、しっかりしててって感じで人に甘えるってコトをあんまり知らないの」

 「オレも1人っ子だけど……いいよ。梓ちゃんの気の済むまでいるといいさ」

 オレは甘やかされて育っているという気もするが、心のどこかで寂しい感じは残っている。これでお互い、少しは心の隙間を埋めることが出来るのかな。

 

  ガチャ

 

 「「えっ!?」」

 突然、ドアが開き、先ほど居たメンツが戻ってくる。

 

 「な、こっちから呼びに行くまで帰ってこないんじゃ!?」

 梓ちゃんが反射でオレから離れ大声でそう言う。

 

 「とはいっても、このままじゃわたしたち忘れられそうだったし」

 「大丈夫っ♪ 話の一部始終を聞いていたから」

 「「へっ!?」」

 確かに梓ちゃんが立ち聞きしていないか確認していたはずだよね。今の梓ちゃんの驚きからして、どう見てもそういった雰囲気じゃなかった。

 

 「ヒロ、こっちにはスペシャリストがいることを忘れていないかい?」

 「スペシャリスト?」

 「………バッチリ。映像・音声と共にしっかり記録されている」

 「ムッツリーニ!!! 今すぐにそれを取り消せ!!」

 今まで康太のことをムッツリーニと呼んだことが無かったが今回はあえて呼ばせてもらう。

 

 「何言ってるんだよ。2人の大事な場面じゃないか」

 「そうそう。後から見るために記念にするといい」

 「これは大事に軽音部で保管しておくね」

 「新たなネタをつかまれた気が……」

 「多分その通りだと思う」

 康太はおそろしい。軽音部の部室内にいつカメラをしかけたんだ……

 

 「………そんなもの1分もかからずに設置できる」

 ということは、こうなる展開を予測して、ベストポジションであろう場所にカメラをしかけておいたのか!?

 

 「………俺が1つのアングルで納得するとでも?」

 そう、複数箇所にカメラを仕掛けていたのだ。

 

 「ってことはわたしの恥ずかしい言葉も!?」

 「………当然」

 「今すぐ消して!!」

 「ダメだよあずにゃん。せっかくの2人の記念だから大事に取って置くよ」

 「唯先輩~それは許してください」

 完全にやつらの手のひらの上で踊らされたな。場所を代えるなりすればよかった。そんな頭が回らないくらい没頭していたんだろうな。

 

 





 1カップル成立!

 まさか、このカップルが最初になるなんて……
 最初とは随分と予定が変わりました。

 次は一体誰かな?
 気になるかと思いますが。
 次話どうなるかはわかりません!

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#57 謎!


 あの方々の兄が登場!

 少しずつ謎が明らかに。

 では、どうぞ!!




 

 「まあ、肝試しってのは恐ろしいほどの効力を発揮するものだ」

 「どういうことりっちゃん?」

 アキたちはみんな部室から出て行き、軽音部での話が始まった。

 

 「さっき2年生のペア同士を見たが、お互いの距離が近くなっていると思う」

 「それはわたしも気づいた。梓とヒロだけじゃなく他の人たちも」

 「というと?」

 「確かに! あの吉井君って子と、黄緑色のボーイッシュな感じの子はもうカップルって感じだったわね」

 「そうだね! わたしでもそれは分かったよ!」

 ふ~ん。それは気づかなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだったからな。いつか、それなりに話を聞いてみよう。今日のお返しに。

 

 「まあ、竜也と憂ちゃんは周知の事実として」

 「ただ、憂ちゃんは今でも唯のほうが重要だろうからな」 

 「竜也君もかわいそうね」

 「3人とも何言ってるの?」

 唯先輩は全然この話が分からなかったようだ。憂ちゃんのことを一番見てるようで一番分かっていない気が。

 

 「あの、赤い髪のツンツン頭と可愛い優等生って感じの子も意外とあいそうだったし」

 「へえ。雄二と優子さんがねえ」

 「合宿のとき以来、少しずつだけどお互いの差が縮まってるんじゃないかな?」

 「多分そうだろうね」

 霧島がこの事実を知ったら烈火のごとく怒りそうだが、少なくとも当事者同士は全然そんなことを考えていないと思う。

 

 「一番意外だったのが、ジャズ研の純ちゃんって子とあのものすごい人」

 「ムッツリーニ君だっけ?」

 ドンマイ康太。先輩方にもあだ名のほうで覚えられてしまったようだぞ。

 

 「全然そんな雰囲気無かったのに、今日見たらあれ?って思った」

 「そういえば、あの2人どうやって知り合ったのかとか全く聞いていないなあ」

 「わたしも。純何も言っていなかったような……」

 「というか、オレたちのことはいいですから、先輩方はどうなんですか!?」

 「「「「えっ!?」」」」 

 まさか、こういった切り返しが待っているとは思っていなかったようで、明らかに動揺している。

 

 「わ、わたし ー はそんなのはないかな」

 「そ、そうね。何も無いよ」

 「わたしだって恋人は軽音部だし」

 「そんなの作れないよ~だってわたし達受験生なんだよ」

 「「「お前がそれを言うか!」」」

 「えへへ~」

 忘れていたが、そういや唯先輩たちって3年生。受験が待ち構えているのか。

 

 「ま、そういうわけでわたしたちは梓とヒロの仲を応援するわ」

 「そうね。そうしましょう」

 「ヒロ、梓を大事に扱えよ」

 「あずにゃん、ヒロ君のことちゃんと大事にしないとダメだよ」

 「「は~い」」

 もう時間も遅いこともあり、今日は練習出来ずに帰ることになった。

 

   ★

 

 「あ、アキおはよう」

 「ヒロ、おはよう!」

 学校に来ると、珍しくアキがオレより先に来ていた。

 

 「時間もあるのでお前に聞きたいことがある」

 「何?」

 オレらは人目のつかないところに歩いていく。

 

 「率直に聞くが、お前は愛子ちゃんとの関係はどうなっているんだ?」

 「えっ? 愛ちゃんとの関係? どうなんだろう……」

 「愛ちゃんって呼んでるのか?」 

 「そうだよ。愛ちゃんも僕のこと『アッキー』って呼ぶよ」

 いつの間にやら……これは付き合っているうちに入らないのかね。

 

 「とはいっても、お互いに告白とかしたりしていないから付き合ってないと思うよ」

 「そうか。ま、愛子ちゃんのこと大事にしろよ」

 「もちろん! ヒロもそうだよ」

 「分かってるさ」

 何か突っ込んで聞きたいことが聞けなかったような感じだが、これ以上の回答はもらえないだろう。アキは教室へと戻って行った。

 

   ★

 

 「あ、愛子ちゃん」

 「お、ヒロ君おはよう!」

 「聞きたいことがあるんだけどさ」

 「じゃんじゃん聞いて!」 

 「アキのこと、呼び方変えたんだって?」

 「そうなんだ~今は『アッキー』って呼んでる」

 「2人って付き合ってるの?」

 「えっ? どうなんだろうね。お互いにそんなことしてないし、お互いにこのままのこういう楽しい関係にいられるのがいいんじゃないかな。別に告白したからどう変わるとかないし」

 「そういうものかもしれないね」

 オレも告白したからといって梓ちゃんとの付き合い方が変わるというわけでもあるまい。

 

 「じゃ、わたし先にAクラス行ってるよ」

 「うん」

 オレは走っていった愛子ちゃんの後ろを行くように、歩いていった。

 

 

    ★

 

 

 「ねえねえ、ヒロ君」

 「どうしたの、梓ちゃん?」

 教室に戻ると梓ちゃんがいて、オレに話しかけてきた。

 

 「どうやら今日、純が康太君と一緒に帰るんだってさ」

 「えっ?」

 「ちょっと憂が立ち聞きしたみたいでさ、2人の謎暴かない?」

 「それいいね!」

 「多分、純も部活が終わってから一緒に帰ると思うから、部活の心配はしなくていいかな」

 「そうだね。いざとなったら憂ちゃんに連絡してもらおう」

 「そうしよう!」

 憂ちゃんや竜也と話をし、今日、純康太謎解読作戦! を決行することになった。

 

 そして、あっという間に放課後。

 憂ちゃんには純ちゃん、竜也には康太の見張りをしてもらうことになり、オレたちは部室に向かうことになった。

 

 「こんにちは~」

 「おうっ! 来たか」 

 「どう? 新婚2日目の様子は?」

 「結婚してませんよ!!」

 「そんなにいままでと変わりませんよ」

 特に変える必要も無いと思う。あえて言うなれば、土日部活がない日、梓ちゃんと出かけるかもしれないというだけか。

 

 「今日のお菓子は、梓ちゃんとヒロ君のために、いいものを持ってきたわ」

 「サンキュームギ!!」

 「ムギちゃんいいことするよ!!」

 オレたちより、完全にりっちゃんや唯先輩のほうが喜んでいる。

 

 

   ★

 

 

 「こっちこっち」

 「憂~ありがとうね」

 「気になってたんだよこの2人は」

 部活が終わり、憂ちゃん・竜也と合流して、純ちゃんと康太のストーカーをする。犯罪? 多分違う。オレたちはあくまで3人で帰っているのだ。その前方にたまたま2人がいるだけである。

 

 「ちょっと待って、誰か分からないけど、大人の男性2人があの2人に近づいていっているよ」 

 「まさか脅し!?」

 「それは飛躍しすぎだと思う。様子見よう」

 オレは2人を確認するために出来るだけ近くに寄った。

 

 『2人とも一緒に帰ってきたのか』

 『あっちゃんも陽太君と一緒じゃない』

 『ははっ。今からバンドの練習だ』

 『康太、純ちゃんを家まで送っていかないとダメだぞ』

 『………当然。陽兄もバンド頑張って』

 『ああ』

 

 「あ~あっちゃんくらいベース上手くなりたいな~」

 「………十分純も上手いと思うぞ」

 「まだまだなんだよ~このままじゃ憧れの澪先輩に追いつけない」

 へ~純ちゃんって憧れ澪ちゃんなんだ。確かに凄いよね……

 じゃなくて、さっきの会話の謎。

 

 「よし。突撃!」

 「そうしよう!」

 「ちょっと2人とも!?」

 いつのまにか傍からいなくなって、あの2人の元へ直行。

 

 「何やってんの?」

 「わっ! びっくりした~梓と憂とヒロ君か~」

 「………何でこんなところに!?」

 「それより、さっきの大学生らしき2人の人物と、2人が知り合いな理由は関係するみたいだね」

 オレがそういうと、2人は黙った。明らかにバレたかという表情をしていた。

 

 「さっきのは、わたし達の兄。2人とも同学年でバンド組んでるんだ」

 「………純の兄の淳司(あつし)で、俺の兄の陽太(ようた)

 「へ~そうだったんだ。そのつながりで2人とも知り合いだったわけね」

 「そっ! そのほかにも、康太にはべー 」

 「………それ以上は言わなくてもいい」

 何を言おうとしたんだろ……

 

 「そう? それならいいや。ということだから、もうこれでいいでしょ」

 「自分のこととなるとそう弱くなる」

 「これで純と康太君の謎が解けたね」

 「しかし、もうちょっと深い付き合いがあると思ったんだけどな~」

 「深い付き合い!?」

 「ま、いいや。それさえ知れれば今日は十分だし」 

 「もう二度と嗅ぎまわらないでよ!」

 「そうは行かないよ純。昨日わたし達に何をやったか覚えてるよね」

 「心の底からごめんなさい」

 「康太も分かってるよな」

 「………いい迷惑」

 こちらもいい迷惑だった。

 

 その後は、2人に別れを告げ、憂ちゃんを送り届けるのは竜也に任せ、オレは梓ちゃんを家まで送って帰った。

 

 





 けいおんhighscoolだと、あっちゃんこと鈴木淳司は出てきます。
 オリジナルではありませんので。

 陽太はもちろん、知ってますね。
 確か大学生だったはず。
 颯太とどちらか迷ったんですが……

 別にどっちでも良かったんですけどね。

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 あ、今日の夜から大阪に出発します。
 日曜の朝に帰ってくるので、明日の更新は出来ません。
 申し訳ありません!

 作者が一番最初に好きになったアーティスト、GARNET CROWのLastLiveですから、見逃すわけにはいきません。最初で最後のLive堪能してきます。
 


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#58 ホール!


 「夢みたあとで」

 これには不覚にも涙が……
 いろいろな思いが詰まった涙だと。
 本当に13年間もお疲れ様と言いたいです。

 
 はい。
 話のほうは、数十話前の伏線を回収しに入ります。
 こんな話あったかなと思われるかもしれませんが(苦笑)
 本当に最初の方にありますよ。
 入れるタイミングをすっかり失ってしまっていて、ここがいいやと思い入れました。

 では、どうぞ!!



 

 

 「ようっ。弘志」

 オレは商店街で突然後ろから声を掛けられた。何で1人で商店街にいたのかというのは割愛。

 その声に聞き覚えが無かったために、誰だろうと思いつつ振り向く。そこには、ギターを背負った小柄な男がいた。

 

 「………ああ!! 思い出した!! お前は丸山晶!!」

 そう。1年生の頃に軽音部と間違えて話しかけた相手だ。ここ1年、全然見かけなかったが外バンが忙しかったのだろうか。

 

 「覚えててくれたか。お前も軽音部に入って1年。あっという間に成長したようだな」

 「って、オレたちのこと見てたのかよ?」

 「もちろん。学内ライブするときは毎回聞きに行ってたさ」

 嬉しい限りだ。中学生時代から地元じゃ名を上げていたこの男が毎回聞いていたなんて。

 

 「あのときの話覚えているか?」

 「話?」

 「その様子じゃあまり覚えてないみたいだな。まあ、1年もすりゃ忘れるか。1回会ったきりじゃあな。その間にいろいろと活躍してくれたみたいでさ。合宿のときは俺も仰天したな」

 ああ。そっか。覗きのほうに参加してたんだっけ?

 

 「流れについて行ったら停学だもんな」

 「ははは………そういえば、話って?」

 危うく話が逸れるところだった。

 

 「ああ。そうそう。ライブあるときは見に来いって誘っただろ? それなのに、一回も誘えなかったからさ。たまたまお前を見つけて、今回がチャンスだと思ってな」

 「ライブ!?」

 「ああ。単独ライブ。ホール貸切1時間半」

 「凄すぎ!!」

 本当にお前タメか?

 

 「ってことで、来るか?」

 「行く行く!! いつあんの?」

 「明日」

 「話が急だな」

 「すまない……チケットは俺が手配する」

 「マジか!? 頼みがあるんだけど」

 「何?」

 「それ何枚まで出来る?」

 「軽音部のメンバーも連れてくるのか?」

 「ダメかな?」

 「構わん。毎回俺もメンバー連れて放課後ティータイムの演奏を聞いてるんだ。俺らのバンドとは対極にあるかもしれんが、刺激を受けるな」

 それは光栄です。よーぐるっぺ☆。

 

 「あ、梓ちゃん」

 「ヒロ君」

 視線の前の方に梓ちゃんが見えた。オレが晶と話していたからか、そこで立ち止まっててくれていたけど。ちょうどこういった話のときだ。一緒に参加してもらおう。

 因みに、今日商店街にやってきたというのも、梓ちゃんの買い物に付き合うということであった。いわゆるでえとの一種 ー 失礼。デートなのだろうか。

 

 「あ、ギターの子」

 「初めまして」

 「梓ちゃん、“よーぐるっぺ☆”ってバンド知ってる?」

 「知ってるよ! 中学のときから人気だもん。一回もライブ見に行けてないんだよね~」

 凄い人気っぷりだな~学内だけのオレたちとは全然違うな。

 

 「見に行く?」

 「えっ!? 急に突然何が!?」

 「目の前にいるこいつ、よーぐるっぺ☆のギタリストだ」

 「ええっ!?」

 「どうも。ちょうど今、弘志にライブ見に来ないかと誘っていたところだ」

 「行きたいです!!」

 「2人の分と、他の軽音部のメンバーの分取って置く」

 「ありがとう!」

 「ありがとうございます!!」

 近隣に名を轟かせているよーぐるっぺ☆の演奏を聞けるとは楽しみだ。

 

 「会場はあそこのホール。時間は16時から。その30分くらい前に来てくれるといい」

 「分かった」

 「受付の人には話通しておくから、丸山晶からの誘いですって言えば通してくれると思うから」

 「すご……」

 受付って(苦笑) まず、この市内のホールを借りれるってのが凄い。

 

 「じゃ、俺たちも楽しみに待ってるわ」

 「ありがと~」

 丸山晶は、ちっこいながらもオーラを出して商店街を後にした。

 

 「まさか、よーぐるっぺ☆のギタリストと知り合いとはね~」

 「中学のときには、ボーカルとベーシストとも知り合いだったよ」

 「なんと贅沢な!」

 「その頃は音楽とかさっぱりだったから……ちょっともったいなかったな~と今では思う」

 結構仲が良かったから、野外ライブとか誘ってくれてたんだけどね。

 

 「わたしたちも、いつかはああやってホール借りて演奏できるのかな?」

 「もちろん、やってみたいよね」

 「うん。唯先輩の夢は武道館! だからね。通過点にいいかもね」

 「夢は高い方がいいね。でも、現実は学内止まり」

 「そうだね。でも、放課後ティータイムとして音楽やっている時間ってとっても楽しいよね」

 「そうでなくちゃ、放課後ティータイムとしてやっている意味が無いもん」

 「誰にも負けないこの強さをいろいろな人に体感してもらいたいな」

 学内でも人気は高い(らしい)んだが、軽音部に入ろうとか言う人は未だ現れなかった。

 

 「そうだ。何か、買いたいものがあったんでしょ」

 「そうそう! 弦をそろそろ張り替えようかと思って」

 「ギターってそういうの大変そう……」

 「キーボードは手入れしないの?」

 「そういったのはよく分からないから、さわちゃん先生に全て任せている」

 一応、学校の備品。よく考えてみれば、全員自分の楽器を使っている。ムギ先輩のキーボードも家から持参してあった。部活がある間は置いているけど。

 

 「じゃ、行こっ!」

 「分かった」

 商店街の中にある、楽器店に向かうことになった。この楽器店はもはや軽音部お馴染みの店だ。唯先輩が初めてギターを買ったのもこの店らしい。

 

   ★

 

 「そろそろ教えてくれてもいいだろ?」

 次の日、昼に軽音部で集合してもらった。こんな暑い中 ー と言わんばかりのりっちゃん。

 

 「そういえば、先輩方、夏期講習はどうしてるんですか?」

 「今日は朝までだったよ」

 「そうでしたか」

 高校3年の夏休みって大変そうだな……オレも来年こんな感じなのかな。

 

 「それで?」

 「というと?」

 「もう帰るぞ」

 「あ、それは勘弁を。もったいなくなるから」

 「もったいない?」

 「16時からライブがあるんですけど、見に行きましょう。既に席はあるみたいです!」 

 「何ていうバンドのライブ?」

 「よーぐるっぺ☆」

 「「何ぃっ!?」」

 澪ちゃんとりっちゃんが過剰な反応を示したのに対し、唯先輩とムギ先輩は?マークを浮かべていた。

 

 「あの伝説的!」

 「ああ!!」

 いつの間にやら伝説にまでなっているらしい。

 

 「平均身長160cm高校生男子のバンドか?」

 「それが伝説かよ!!」

 むなしいなおい。確かに小柄だけどそこは突っ込まない方向で。

 

 「冗談冗談。しかし、その名前久しぶり聞いたな」

 「中学以来か」

 「何故にヒロがそのチケットを?」

 「チケットかどうかは知らないけど、そのバンドメンバーと知り合いでね。昨日偶然会ったらライブ誘われたんだ」

 「「何ぃっ!?」」

 「そんなに凄いバンドなのかしら?」

 「当時は中学生離れしていた演奏だったな」

 「今も高校生とは思えない演奏だろう」

 「りっちゃんと澪ちゃんがそれほど言うのなら見に行きたいな~」

 「だから行きましょう」

 やっと話がまとまった。逸れ出すととことんまで逸れていく。

 

 

    ★

 

 

 『 ー はい。晶さんのご紹介ですね。話は伺っております。どうぞこちらへ』

 会場に着いて、受付の人に話を通すとこれだ。他の人はチケット入場で指定席。もちろん案内は無い。だがどうだオレたちは。ただ話をするだけで、案内がついて……

 

 「しかも一番前!?」

 そう。目の前がステージだった。どれだけ晶が権力あるんだってツッコミを入れそうになった。

 

 「ようっ! 来てくれたな」

 「どれだけ権力あるんだよ!」

 あれ? 突っ込んでしまった。ご本人様登場だ……

 

 「今日は楽しんでいってくれ。放課後ティータイムの皆様。いつもそっちの演奏を聞いているから今度は俺たちが演奏する番だ」

 それだけ言うと、奥に引っ込んでいった。

 

 「ねえヒロ、いつもわたしたちの演奏を聞いてくれているって?」

 「学内ライブがあっているときは毎回見に来てくれているらしい」

 「それって?」

 「あれ、言ってなかったっけ? あいつオレの同級生。普通に若葉学園生」

 あれ、そこまで驚くことだっけ。そっか。りっちゃんと澪ちゃんはよーぐるっぺ☆の凄さを知っているのか。

 

 「あれ? 何でお前たちがいるんだよ」

 「竜也!?」

 「来てたのか~」

 「何だこの集まりは」

 そういうのも無理はない。いつものメンバーが全員来ていた。

 

 「オレ、ここのバンド、最初のライブから見に来ているからさ。今度はこいつらも誘ってみたってこと」

 「お姉ちゃんもココに!」

 「憂~びっくりするね」

 しかも、竜也たちも席は一番前。一番前って言うのはコネが無いと座れないみたいだ。

 

 「お前たちもこういうのに興味あるんだな」

 アキや雄二に話を振る。

 

 「まあね。一応が ー 」

 「俺たちも音楽は好きだからな」

 「そ、そうなんだ」

 「そういうこと……」

 アキの態度がちょっと変だったけど、別に突っ込むほどのことでもない。

 

 「純も来たんだ」

 「誘われちゃったからね~ もちろん、このバンド気になっていたんだ~」 

 「そうだよね。人気だもの……って純怒ってる?」

 「別に~わたしも誘ってくれなかったこと怒ってなんかいないけど」

 「怒ってるじゃん。それはちょっと仕方が無くて ー 」

 「はいはい。もうすぐ演奏始まるみたいだよ」

 純ちゃんの言うとおり、ライトが消えた。そして、すぐに明転!

 

 と同時に、1曲目が流れ出す。

 ドラム・ベースのかっこいいイントロから入り、ギターがそれにのっかる。そして、ボーカルが歌いだす。高校生が演奏しているとは思えない上に、全て作詞作曲は自分達で手がけているとは思えないほどのクオリティの高さだった。こりゃ凄い……オレたちとは随分桁違いだ。

 

 とか思っていると、結構時間は経ったみたいだ。

 1時間半フルに演奏するわけでもなく、ちゃんとMCも入れて曲紹介とかもしていた。しっかりと手が込んでいる。規模は小さいかもしれないけど、普通にテレビカメラとか入っててもおかしくない。

 

 「ここで、改めてメンバー紹介をしたいと思います!」

 と、ボーカル兼MCのヤツが言う。一応、中学時代の知り合いだ。

 

 「Drums! ー 」

 パートと名前を言うと、4小節間のアドリブソロが入る。本当にアドリブなのか怪しいくらい上手いが。

 それが、ベース・ギター・ボーカルも同じように進んでいった。正直ちょっと残念なのが、このバンドにキーボードがないことだ。キーボード担当としては悲しい限りだ。

 

 「さて、ところで晶」 

 「何だ?」

 「俺たちもこういうホールでようやく出来るな」

 「今まで野外ライブとかがほとんどだったが、こうやってホール借り切っての単独ライブだもんな」

 「それもこれも、みなさんが応援してくださってるおかげです」

 と、学校では滅多に見せない礼儀正しい姿を見せてくれた。

 

 「後、15分くらいしかないからラストスパートやな」

 『ええっ!!』

 「ありがとな~晶、何かあるか?」

 「俺に振るか。あれ、やっちゃっていいのか?」

 「このタイミングでするか。別に構わんぞ」

 観客も何をするかわくわくしている。アレだのこのだの言って微妙にシークレットにしちゃって。

 

 「応援してくださってる方にちょっと紹介したい人たちがいます」

 と、言い出したのであった。晶はそれを言うとオレたちのほうに視線を向けてこう言った。

 

 「俺は若葉学園に所属しているんだが、そこの軽音部の子たちが見に来てくれてるんだ」

 「マジか?」

 「お前には話を通しただろ」

 「いや、話を進ませるにはこういった役割も必要だろ」

 「それはそうだ。 ー で、ちょっとステージまで上がってきてくれるかな」

 と、いきなりのステージ上がって来い命令。オレたち6人みんなパニくる。何がなんだか分からない。

 

 「御呼ばれだぞ。行って来い」

 と、横の方から竜也の声が聞こえてきた気がしたが……

 

 「早く早く。弘志。みんなを連れてきて」

 しかも名指し。オレは行かざるを得なくなった。目の前にステージがあるからそこを登りステージに立つ。

 その景色がまあ凄いんだ。小規模とはいえ、立派なホールだ。こんなところで演奏していたのか。緊張してきた~

 

 「じゃあ、みなさん紹介します。『放課後ティータイム』のみなさんです!!」

 拍手やら起こるけど、当の本人達はあたふたとするのみ。唯一、唯先輩だけがのほほんとしていた。

 

 「何でこの人たちを紹介したの?」

 「こいつらの演奏聞いてるとな。音楽って凄いと思うんだよ」 

 「辛口評価で有名な晶をもうならせているのか!?」

 「辛口って訳じゃないけど……まあ、オレたちとは対極なバンドだけど、いいバンドなんだ」

 「へ~」

 「みんなこの人たちの顔覚えていてな。次のライブでは放課後ティータイムと共同ライブだ!」

 はっ? オレたちだけじゃなく、よーぐるっぺ☆の他のメンバーも凍り付いていた。どうやらこれまでは話が行ってなかったらしい。

 

 「今決めたんだけどな。一回はこの人たちの演奏を聞いてもらいたいものだ。俺たちと同じく、音楽を愛する人たちにとってな」

 「あ、ああ……」

 「それでだ。時間的にラストになるんだが、放課後ティータイムのみんなにお願いが」

 「な、何かな?」

 唯一緊張の度合いがマックスに辿り着いていない唯先輩が受け答えをする。

 

 「最後の曲、放課後ティータイムの曲を俺たちアレンジしたんだが、演奏したいんだが」

 「「「ええっ!?」」」

 まさか、自分達で作った曲をカバーリングされるとは思ってなかった。澪先輩に関しては立ったまま失神しているようだ。ムギ先輩とりっちゃんが隣で支えてあげている。

 

 「ダメか? せっかくの機会だし」

 「いいよ♪ みんなで一緒に歌おう!」

 「了解が出たぜみんな!」

 「おうっ! じゃあラストソング行くぞ~!! 『ふわふわ時間』!!」

 さらに、ロック風にアレンジされた『ふわふわ時間』が、他の曲に聞こえて新鮮だった。唯先輩は(こんな非常事態でも)楽しく歌っていたし……

 

    ★

 

 「どうもありがと~!!」

 ふわふわ時間の演奏が終わり、ライブも終わった。オレたちはあまりの緊張のしすぎで、ステージから一時動けなくなっていた。

 

 「は、はは……」

 「緊張したみたいだな」

 観客にいたはずなのに、演奏者と同じほうにはけるオレたち。

 裏に行ってからというもの。

 

 「さっきの俺のあの言葉は結構マジだから」

 「共同ライブ?」

 「ああ。対極な音楽だが、音楽を愛するという面に関しては一緒のはずだ。さらに多くの人に音楽を知ってもらうためにはいいと思うんだが」

 「本当に音楽好きだな」

 そういうと、当たり前だといわんばかりにきびすを返して、立ち去っていった。

 

 「今後ともお互い頑張ろうぜ!」

 去り際にこう遺していった。なんとかっこいい男なのだ。

 オレたちはスタッフさんに連れられ、出口の方へ向かった。出口にはやつらが全員きちんと待っていた。別に頼んだ覚えは無いけど。

 

 「まさか、あんなことになろうとはな」

 「こっちだってびっくりしたわ。多分、晶は昨日誘ったときからこう決めていたな」

 「緊張で足がえらく震えていたぞみんな」

 逆に震えない強心臓はほとんどいないだろう。唯先輩はごくごく例外だ。

 

 「お~い忘れていた」

 と、晶が後ろから声掛けてきた。

 

 「どうしたんだ?」

 「お前ら夏フェスって知ってる?」

 「夏フェス?」

 「パンフレットやるから、どうするかは相談してくれ。じゃあまたな」

 それだけ言うと、パンフレットをオレに押し付けて再びホール内へと戻っていった。

 

 「夏フェスな。もうそんな時期だよな」

 「竜也は知ってるのか」

 「当たり前だろ。ココ何年か行ってる。せっかくだから行った方がいいぞ」

 どうやら、夏フェスとは夏フェスティバルの略で、音楽の祭典とも言われているらしい。いろいろなプロアマバンドが集結して、2日くらい大騒ぎするんだってさ。

 

 「もちろん、オレも行く。こいつらも暇だったら一緒に行く」

 「へ~相談するか」

 帰りにファーストフード店に寄って、いろいろと相談するのであった。

 

 





 この「よーぐるっぺ☆」に関して、半分以上が実話です。
 作者の地域の中高生の間では結構有名。
 もう解散しましたけど(苦笑)

 中学の時音楽に興味が無かったっていう弘志の考えと作者がリンクしています。
 軽音部に所属している今、ちょっともったいないことしてましたね。

 地味に初デート回。
 流石は音楽(笑)


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#59 夏フェス!


 すいません……
 昨日、チャリがパンクするなどしてごたごたで、執筆できませんでした。


 けいおん!!12話の内容です!
 絵とか無いから、楽器を弾いているシーンとかは書きづらいですね。

 では、どうぞ!



 


 

 「みんな何とか集まったみたいだな」

 駅前に集合。今日は夏フェスの日。チケットを竜也が手配してくれた。やつの旧い音楽友人からとかで、一気に毎年15枚くらい来るそうだ。

 唯先輩とアキという遅刻常習犯が間に合ったから大丈夫だった。えっと、軽音部6人のほかには、竜也・アキ・雄二・康太・秀吉・憂ちゃん・愛子ちゃん・優子さん・純ちゃんである。ちょうど15人か?

 

 「こんなに大量にいいのか?」

 「いいんだよ。毎年余らせてるんだから今年が初めてだ。全部チケットをもれなく使えるのは」

 「へ~みんなありがたくいただこう」

 竜也がちょびっとだけえらそうに見えた。

 

 「バスが来たみたいだよ!」

 唯先輩が大声を上げていう。因みに現在時刻朝日が昇り始めた6時。駅前からシャトルバスが出ているのである。

 

 「酔った……」

 バスに乗って10数分後、唯先輩の口からこんな言葉が。本当に世話のかかる……ちゃんと隣の憂ちゃんがしっかりと介抱をやっている。因みに、憂ちゃんの隣に座れなかった竜也は秀吉の隣。オレと梓ちゃんはみんなの取り計らい(というか、ただネタが欲しいだけという気もするが)で、隣同士。他はどうなんだろう。

 

 「雄二暑苦しい」

 「コッチのセリフだ」

 アキと雄二が隣であった。その横には、愛子ちゃんと優子さんが隣同士である。

 

 「結局こうなるんだね」

 「………お互い余り物だからな」

 と、ふて腐れている?(嬉しさの照れ隠し?)純ちゃんと康太であった。

 

 「この子達見てて本当に楽しいわね」

 「ヒロや梓もいい友達持ってるな」

 「それに比べてウチのクラスの男子ったら、どうしてあんなに変なやつしかいないのかしら」

 「常村君と夏川君のこと?」

 「それもあるけど、主席もよっぽどの変人だな」

 3年生3人での話である。

 

 「楽しみだね~」 

 「ちゃんと日焼け止め塗った?」

 こちらはオレと梓ちゃんの会話。

 

 「塗ったよ~大変だもん」 

 「着いてからもう一回塗ったほうがいいかもね」

 「もちろんそのつもり」

 オレがココまで言うのも、梓ちゃんは日焼け止めなど関係なくすぐに日焼けするのだ。このような夏晴れの中、2日間もいたら確実に真っ黒になるに違いない。

 

 「何を聞く?」

 「梓ちゃんが決めていいよ。オレはあんまりバンド知らないんだ」

 音楽に興味を持ち始めたのが、軽音部の演奏を聞いてからだから、まだ1年と半年も経っていない。好きなバンドってのもまだ出来ていないのだ。せいぜい歌手どまり?

 

 「そっか。というか、これはみんな別行動になるのかな?」

 「15人もまとまって行動したら大変だよ……」

 「そうだよね」

 「多分、そこらへんは澪ちゃんやりっちゃんが考えているから」

 澪ちゃんはともかく、りっちゃんは意外とちゃんとしているから安心だ。

 

 

    ★

 

 「着いた!!」

 何時間バスに揺られただろうか。半分は寝ていた気がする。高速に乗るから余りにも景色が同じすぎてつまらなくなった。

 

 「ん~!! 山は気持ちいい!」

 「お姉ちゃん元気になったみたいだね」

 唯先輩の乗り物酔いは、乗り物に乗ってる間だけに限定されるようだ。地上に降りてきたらすぐに回復!

 

 「じゃあ、まずは入場して、寝る場所の確保からだな」

 この中では、ベテランの竜也がまず仕切る。ココにはホテルも旅館も無いから、テントで寝泊りだ。そのテント設営のための場所取りから勝負は始まっているといっても過言ではないらしい。

 

 「流石に平地はもう無いか。少々の坂はどうにかしてくれ」

 と、竜也が残念そうにテント設営に取り掛かる。みんなそれを参考に竜也を手伝う。

 

 「出来た~!!」

 そして出来たテントが3つ分。15÷3で、1つあたり5人か。

 

 「先にテント割り決めとこ。どうする?」

 竜也がみんなに聞くも、誰も口を開か ー 。

 

 「はいはいはい!!」

 唯先輩が口を出す。

 

 「あずにゃんとヒロ君だけ、別のテントを使ったほうがいいと思います!」

 「さんせ~い」

 「右に同じ」

 「同意する」

 あれ? 反対意見は無いのか?

 

 「ちょ、ちょっと待とうよ。残りの2つのテントに13人も入らないでしょ」

 「そうかな? じゃあ仕方ないか~」

 どれだけ考えなしに言ってるのだ……

 

 「どうやら、案が出ないようだからわたし達が決めよう!」

 「そうだな。そのほうが公平に出来るかもしれない!」

 と、澪ちゃんとりっちゃんがテント割りを考えてくれることになった。

 

 「これでどうだ?」

 と、簡単にメモ書きした紙にはこう書いてあった。

 

 1.軽音部

 2.吉井・坂本・工藤・木下姉弟

 3.土屋・本田・鈴木・憂

 

 「異議あり」

 「どうしたヒロ? 何か文句あるのか?」

 コレで無いのかよ。逆に。 

 

 「オレは肩身が狭くないか? 女子5人にオレって」

 「何か不都合な点が?」

 会話にならねえ。微妙に背後から感じる視線はまず置いておいて、この問題を解決しよう。

 

 「何故、6・5・4の人数に?」

 「成り行き」

 答えになってねえ!! テント全て一緒の大きさなのに何故!?

 しかもそうだったら、オレはただでさえ狭いテントの中で、女子5人と共に寝るのかよ!!

 

 「なあ先輩、他のメンバーの割り振りはどうやって?」

 雄二がりっちゃんに話しかける。もうオレの問題は終わったと言わんばかりだな。

 

 「わたしらなりに仲がよさそうな組み合わせにしたけど」

 正直、他のメンバーの決め方に関しては度肝を抜かれましたよ。よく見ていらっしゃる。オレも軽音部以外の9人を振り分けろって言われたらコレにしてるもん。

 

 「何で素直に男女で分けなかったんですか?」

 優子さんの声だ。正論を言うので、いろいろと会話が成り立ちやすい。

 

 「だって、せっかくの機会だからね。学校の行事ごとじゃ絶対男女バラバラでしょ」

 「律がコレばっかり言うからな……」

 澪ちゃんなら結構猛反対しそうな内容なのに、自分にはあんまり関係ないということか。オレは別にどうだっていいということなのか!?

 

 「ということで、異論はないね!?」

 「オレのはスルー!?」

 「だって、一緒に寝泊りしたことあるのにそんなに嫌がらなくても」

 「ま、待て!! それはそれで危ない発言だ!!」

 言わんこっちゃない。アキや康太などがものすごいオーラを出してるじゃないか。これにFFF団とかいてみろ。即座に異端審問会にかけられ、即刻私刑が言い渡されるところじゃないか。

 

 「何だ? それなら梓と2人きりがよかったか?」

 「そ、そういうわけじゃ ー 」

 「すまないな~そういった心遣いが出来なくて、悪ぃ。わたしたち4人は端で固まって寝るからそれで勘弁」

 そういうことを言ってるわけじゃない……

 

 「別にいいじゃんヒロ君。女子がいるからって何もしないでしょ」

 「それはそうかもしれないけどね。一応、念のためって言うのがあるでしょ」

 「大丈夫。それはないと信じているから」

 それはきついお言葉で。野性の心に火がつかないように理性をしっかりと保っておかなければな。

 

 「じゃ、決まったようだし、早速見に行こう!!」

 「わたしこのバンド聞きたかったんだ!!」

 「え~わたしはこっちだよ」

 「そうなるだろうから、各自別行動をとろう。数人のグループ作って」

 竜也えらいぞ。それがいい。音楽の趣味も人によって合う合わないがあるからな。

 

 

    ★

 

 「……………………梓ちゃん」

 「…………うん……」

 「結局、こうなっちゃったか」

 「…………うん……何で毎回こうなっちゃうんだろ~」

 オレに泣きながら聞かれても。梓ちゃんは見覚えのある日焼け姿になっていた。最初この姿を見たときは結構驚いたものだ。誰?って感じになるから。

 

 「お~梓、やっぱり今回もこんがり焼けたな~」

 「………はい……日焼け止め意味無かったです」 

 相当塗ってたはずなのにね。多分、肌がちょっと弱いんじゃないかな。

 

 「みんな疲れているようだな。これからが本番だというのに」

 そりゃ疲れるわ。朝から夜までずっと立ちっぱなしで、走り回って音楽聞いてたからな。

 

 「夜中だろうと夏フェスは1日中あってるからな」

 確かに、夜も7時を回っているというのに、あらゆるところから曲が聞こえてくる。

 近所迷惑じゃないのか。そっか。そのために人里離れた山奥でやってるのか。

 その後、各自で夜ご飯を食べることになった。

 

    ★

 

 「楽しかったね~」

 「ヒロ君」

 梓ちゃんが1人で丘の上から夜空を眺めていたため、話しかけることにした。

 

 「バンドってすごいね。何か言葉では上手く表現できないけど」

 「でしょ。人を惹きつける魅力って言うか」

 「そうそう」

 オレたちがこうやって話していると、

 

 「その点に関してはわたしたちも負けてないと思うよ!」 

 唯先輩の声が聞こえてきたために後ろを振り向くと、軽音部が勢ぞろいしていた。

 

 「唯のこの自信はどこから来るのかは知らないけど……まあそうだな」 

 「技術はともかくとして、音楽で人を楽しませるという点は負けてないと思う!」

 「今度はわたしたちが夏フェスに出る番だな!」

 「おおっ!」

 先輩方のこのやる気にオレたちも乗せられ、

 

 「そうですね!頑張りましょう!」

 「オレも負けてられない!」

 いっそう、軽音部の仲が深まった瞬間であった。

 

 「じゃ、2人はまだココでお話していなさい」

 「わたしたちはもうテントの中にいるから」

 と言って帰っていった。結局オレたちは2人残された形となったんだが、特に……ねえ。

 テントに戻ろうとしたら、

 

 「もう終わり? まだ見たかったのになあ」

 「話ないなら作れよ!」

 野次馬共が観察をしていたらしかった。しつこいな……いつか覚えていろよ。

 

 「まあまだ初心者だしね~」

 「仕方ないか~」

 うぜえ。何処から目線なんだお前たちは。人のこと気にせず、お前たちもそれぞれの仲を深めろよ。

 こうして、夜は更けていく……

 

 





 さわちゃん先生には今回学校待機という特別任務についてもらうことに(笑)
 この人数に入れたら、カオスになるからですね。

 ほんのりと、微妙に甘い話とやらを続けていきたいですね。

 もちろん、他のカップリングも成立させながら。
 
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#60 夏!


 ちょっと文化発表会が近づいてきて、執筆する暇が激減です……

 終わったらペースを元に戻したいですが。
 期末も近づいてくる(泣)

 しばらくは、2日1話更新になるかと。
 申し訳ないです。

 では、どうぞ!!



 

 「暑いよね~」

 「夏早く終わらないかな」

 たくさんの収穫があった夏フェスから帰って来て、課外もない夏休みを満喫していたとある日。梓ちゃんと待ち合わせして、街へと繰り出していった。

 

 「ん、メール? ちょっとゴメンね」

 梓ちゃんに断りを入れて、携帯をチェックする。アキからだった。

 

  宿題手伝って~

 

 「ところで梓ちゃん」

 「あれ、メール返信しなくて良いの?」

 「しょうもない、ただのメールだから気にしなくていいよ」

 「そう?」

 夏休みも終わりに近づいてきてから毎年こんなメールを送ってくるのはやめてほしい。今は梓ちゃんとの時間を満喫する。

 

 「宿題終わらせた?」

 「もちろん。夏フェスから帰って来て、すぐに終わらせたよ」

 「そうだよね~」

 もちろん、オレも終わっている。面倒ごとを後に溜めたくないタイプだからな。

 

 「ひ、ヒロ君!」

 「どうしたの急に」

 「ちょっとこの店寄っていいかな?」

 「洋服か~いいよ♪」

 そろそろ新しい私服でも手に入れたいのだろうか。オレはそこまでファッションに金を掛けているとか、詳しいわけではないから……あんまり気にしないし。お下がりや中古でも十分。

 

 「うわ~かわいい~」

 年相応の笑顔を見せながら洋服を見る梓ちゃん。それを見て暑さなんて吹き飛ぶ癒し。最高。店のクーラーのおかげだなんて認めたくない。

 って今気づいたけど、本当に女物の服しかないのねこの店。完全に浮いてるもんオレ。いいのかね。

 

 「ねえねえこれどう思う?」

 と服を自分に重ね、オレに見せてくる。が、なにぶんファンションはあんまり重要視していないからオレは評価をすることが出来ない。

 

 「いいと思うよ。こんな抽象的なことしかいえないけど」

 いいか悪いか。これで十分だよ。似合っているか似合ってないか。

 

 「それでいいよ! ヒロ君が気に入ってくれたら!」

 「そなの……それは照れる。何か1着買ってあげようか?」

 「ええっ!? それは悪いよ!」

 「いやいや。いいよ。記念にね。流石に毎回は買えないからさ」

 「う、うん。じゃあお言葉に甘えて」

 「そうしてそうして。何か好きなの選んでいいよ」

 何を選ぶんだろう。基本的に制服姿しか見ないんだが、たまに夏フェスみたいに外に行くと私服も必要だからね~どんなのが似合うのかな。制服はとっても似合ってると思うんだ。あ~変な意味じゃなくて。

 

 「いつもお母さんと一緒に決めてるからな~分からないや」

 「オレが決めたってわかんないよ」

 「む~どうしよ……」

 「何かお困りですか?」

 と、困った顔を見せていたらしいオレら2人のもとへ、店員がやってきた。20代半ばといったあたりか。結構、話しやすそうな人だった。

 

 「何か買おうと思ってるんですけど」

 「そうですね~どのうようなのをお求めですか?」

 「えっ……?」

 「オレに答えを求められても……夏に合う物とかは?」

 「夏ですか。いくつかお持ちしますね」

 と、ちょっとの間側を離れて、いくつか洋服を持ってきた。

 1つはワンピースとかいうのだろうか、他には短パン(女子目線での言い方が分からない)と半袖の組み合わせとか、スカートにシャツとか……もうとにかく訳のわからんくらい持ってきた。

 

 「1つずつ試着してみます?」

 「あ、はい。お願いします」

 というと、梓ちゃんは店員に連れられ、試着室の方へ向かった。この間オレは何をすれば良いのだろう。店内をふらつくにも女性ものしかないから変な目で見られるしなあ。

 

 

    ★

 

 「ありがとうヒロ君」

 「どういたしまして。似合ってるよ」

 「ホントに!? 嬉しい!」

 結局、パッと見て一番似合っていそうなものをオレが指摘するとそれを購入した。ファッションに関心がないと、こういったときに大変になるのが分かった。

 

 「あれ……あれって、純と康太君?」

 「そうだな。楽器店から出てきたみたいだが……」 

 前方に、2人を発見。隣に並んで、仲良く話しているみたいだった。

 

 「ヒロ君、あれ見てよ」

 梓ちゃんが指差す方を向いてみると、そこには……

 

 「竜也と憂ちゃん」

 「すごい偶然だね」

 「しかもお互いがお互いを気づいていない」

 料理の買い物をしているであろう竜也と憂ちゃん。この3グループはすぐ近くにいるというのに気づいてもいなかった。

 

 「どうしようか……」

 「どうする?」

 オレは頭の中に選択肢を描いた。

 

 1.そのままにしておく

 2.話しかける

 

 ふむ。1を選ぶと、後々モヤモヤ感が残る。2を選ぶと、梓ちゃんとの時間が減る。

 

 「話しかけようよ!」

 梓ちゃんは迷わず2を選んだ。別に構わないけどね。そんなに会えない仲でもないから。

 

 

    ★

 

 「ゴメンね付き合ってもらって」

 「………気にするな。俺も陽兄からシールド買って来いって言われてたから」

 「そうなんだ」

 こちらは、純と康太。どうやら楽器店に来たのは、純が新しい弦を買うためだったようだ。康太もたまたま楽器店に用があったから、たまたま一緒に行ったらしい。たまたま、ね。

 

 「もう帰る?」

 「………別に俺はどっちでも構わん」

 「そう。じゃ、ゲーセン寄ってく?」

 「………暇だから構わない」

 商店街の中にある、大規模のゲーセンに向かって歩いていった。

 

 

    ★

 

 

 「へ~……『ラ・ペディス』の仕入れを見てみるとなんだか凄いね」

 「絶対ためになるよ」

 料理得意な2人。竜也が仕入れしているのを横から憂ちゃんが見学。どのような食材などを買っているのかを参考にしているそうだ。家庭的でいい子だね。

 

 「ま、これでもう終わりだけどどうする? 何か予定ある?」

 「えっ……? 特に無いけど」

 「じゃあ、憂ちゃん、一回ゲーセンに行ってみない?」

 「ゲーセンかあ。いいよ!」

 こちらも同じくゲーセンに向かうことになったらしい。

 

 

    ★

 

 「気のせいかな?」

 「いや。気のせいじゃない」

 「そうだよね。どうみても同じ方向に歩いていってるよね」

 「お互い気づいてるんじゃないの?」

 2組のカップルは同じ店のほうへ歩いていっていた。オレらもそれに倣って行く。どうやら目的地はゲーセンのようだ。

 

 『あっ!』

 『あっ!』

 もちろん、ゲーセンに入るときには2組、鉢合わせになった。お互い、何でココにいるの的な表情をしたけど、偶然だったんだ。

 

 「本当に偶然っておそろしいね」

 「全くだよ」

 オレたちもその集団に向かって歩いていく。さらに驚いた顔をしていた。

 

 「何故……?」

 「偶然だね」 

 「ともかく入ろう」

 と、純ちゃんが言い出し、6人でゲーセンに入る。

 

 「「「……………………」」」

 

 オレたちが絶句したのも無理はない。自動ドアを入ってすぐの入り口付近の、太鼓の仙人があるんだが、そこで4人対戦プレイをしている人間に見覚えがあったからだ。

 

 「何故に、アキや雄二たちがいるんだ」

 「愛子ちゃんと優子ちゃん……」

 勢ぞろいもいいところだ。ここにいないのは……秀吉だけか。何かちょっとハミっているみたいで申し訳ない。多分、部活だろう。演劇部は全国レベル。それは当たり前かもしれない。練習量が尋常じゃない。

 

 「「「「何でみんながココにいる!?」」」」

 

 おそらく、それはここにいる10人の気持ちである。

 

   ★

 

 「みんな偶然なんておそろしいな……」

 いったんゲーセンを出て、ちょっと広いところで会話をする。

 

 「おい、アキ。あんなメール寄越しといてゲーセンかよ」

 「あっ! そうそう! 今日はゲームしに来たんじゃなかった!!」

 「忘れてたのかよ」

 「覚えていたなら教えてくれよ!!」

 「一番楽しんでたじゃない」 

 どうやら、一緒に勉強するためにどこかに向かう途中にアキがゲーセンに寄ろうと言い出して今に至るらしい。

 

 「まあ、みんなはどんな予定だったかはある程度予想つくが……」

 こういうとき、雄二の洞察力はうざい。

 

 「そんなのはどうでもいいんだよ! みんな宿題一緒にやろう!!」

 「お前、やってないとでも思ってんのか?」

 「そうよ。この時期は終わらせておかないと」

 「そうだね♪ 夏休みを満喫できないよ」

 Aクラスの面々に雄二を加えたオレらの言葉に、面食ってるFクラスメンバー。

 

 「………みんな終わってるのか!?」

 「ありえねえ!」

 「多分、その3人だけだね」

 意外や意外。純ちゃんは終わっていたらしい。

 

 『オネエサマ~!!』

 『何でこんなところにまで着いてくるのよ!!』

 『美春とお姉さまとの愛は距離をも - !』

 

 遠くでこんな声が聞こえてきたが、見て見ぬふりならぬ、聞いて聞かぬふり。

 

 「アキ、何処で勉強するつもりなのか?」

 「何処だっけ雄二?」

 「知るかボケ。お前が歩き回っていただけだろうが!」

 「それはひどいよ~!!」

 隣に、雄二や優子さん・愛子ちゃんがいるのに、そんな感じだったのか……

 

 「明久。お前の家だ」

 「え~こんなに人数入らないよ~」

 「入るだろうが。嘘をつくな」

 ということで、半ば雄二の強制力を持ってアキの家に向かうことになった。

 

 

    ★

 

 「ただいま~」

 アキがドアを開けても誰も中から出てこない。姉はいないらしかった。

 

 「お邪魔しま~す」

 「邪魔するなら帰って~」

 「失礼しま~す」

 「ちょ、冗談だって! そんなに揃いも揃ってみんな帰らないで!!」

 お前が帰ってって言ったんだろ。

 

 「ムッツリーニと竜也を残してみんな帰っちゃったら意味無いじゃないか!」

 「ったく……しつこいやつだな」

 「まずは入ってよ!」

 「はいはい……」

 みんな揃って、リビングの方へ向かう。

 

 (康太、明久君の部屋何処か知ってる?)

 (………確かこのドアだ)

 (入れても大丈夫かな?)

 (………それはどういう意味だ?)

 

 「何2人でコソコソしてるの?」

 「あ、いやなんでもないよ(ホラ康太君、部屋貸してくれるように聞いて)」

 「………明久。お前の部屋ちょっと入っていいか?」

 「どうしたの? 新作のゲームとかはまだ入ってないよ」

 「………そういうわけではない」

 「まあ別に見られちゃいけないものとかは入ってないし。何か用があるんならいいよ。でも、すぐに帰って来てね。勉強始めるよ!」

 「………了解」

 その返事を聞くと真っ先に純ちゃんが行動を起こした。

 

 「ちょっと、ヒロ君、入ってみて!」

 「どうした急に。オレは何回も入ったことあるぞ」

 「だから先に入って」

 「オレは実験台か」

 「いいからいいから」

 何か不適切なものがないかのチェックをオレがするらしい。

 オレはドアを開けてアキの部屋に入った。

 

 『梓~ちょっと来て~』

 『どうしたの?』

 『いいからいいから』

 リビングの方から何か声が聞こえてきたが……まあ、この部屋のチェックをさっさと終わらせて戻るか。

 

 「純、何かあったの?」

 「この部屋入ってみてよ」 

 「変なこと考えてないよね?」

 「心配しなくていいから!」

 「本当に……?」

 と後ろで声がしてきた。そのすぐ後に梓ちゃんが入ってきた。

 

 「それじゃ、2人とも仲良く。わたしたちは勉強するから」

 「あ、ちょっと!!」

 「純~! どういうこと!?」

 『わたしたちが勉強終わるまで、そこで2人の時間を過ごしてね~邪魔はしないから』

 外から何かでロックを掛けているらしく、ドアが開かない。計画的犯行か。

 

 『何やってるの?』

 『2人のための時間を作ってあげたの』

 『そうなんだ~その時間奪って悪かったからな~僕としてはありがたいや』

 「おいこらアキ! お前、勉強教えてって言ってたじゃないか!」

 『そうだっけ? 愛子ちゃんや雄二に教えてもらうから十分だよ』

 「都合のいいヤツだ……」

 『じゃ、バイバイ!』

 どうやら、部屋の前から立ち去ったようだ。意外とアキの部屋とリビングは離れているから、ドアや壁をドンドンしても聞こえない。大声出したところでリビングにまで声は届かない。窓はあるが、人間が脱出できる広さじゃない。というわけで、オレたち2人はアキの部屋に軟禁された形になってしまった。

 

 「完全に純にやられたね」

 「そういうのは頭働くみたいだね……」

 「余計なところに知恵がいってるんじゃないかな」

 「さて、何をしよう」

 話の話題っていっても突然だし何もない。何かひまつぶしが出来るものを部屋で探すものの、漫画くらいしか見当たらなかった。アキの読むマンガは大体オレも読むが、梓ちゃんは読まなさそう。これじゃダメだ。

 

 「どうしたの梓ちゃん?」

 「ふぇ……? い、いや何でもないよ」

 「いや今上の空だったからさ」

 「そ、そう?」

 「こんな変な形になるとは思っていなかったな」

 (隣にいてくれるならそれでいいんだけどね)

 「ちょ、突然どうしちゃったの」

 アキのベッドに腰掛けていると、隣に梓ちゃんが座ってオレにもたれかかった。

 

 「しばらくこのままでいさせて……」 

 あの無理やり告白させられたシーンの時もそうだったが、たまに梓ちゃんはものすごい寂しさに襲われているときがあるのだろうと思う。オレだってそれはある。だが、女の子の方がそれは一層感じるのではないか。だからオレは梓ちゃんの思うとおりにさせてあげた。

 

 

    ★

 

 「ヒロ~そろそろ終わりだ……って邪魔してゴメン!」

 「ちょ、アキ!!」

 アキは終了の知らせを伝えに来てくれたのだが、すぐにドアを閉めやがった。アキがそんなに驚いたのはオレたちの今の状況を見てだろうか。

 まず、梓ちゃんはベッドに寝そべっている。(すぐに寝付いたので横に寝かせた)ただ、梓ちゃんは寝てもオレを離さなかったので、横にそのまま寝転がる形に。ちょうど体勢を変えようと体を起こしたときにアキは現れた。

 端から見たら、オレが梓ちゃんに ー (略) ということになっているのではないか。

 

 「誤解だアキ! みんなもいそいそと帰らないでくれ!」

 玄関のほうからお邪魔しました~とか言う声が聞こえてくるために全力で引き止めるも無意味。

 

 「じゃ、じゃあ今日は泊まる? 僕はリビングで寝るから」

 「だから誤解だって言ってるだろ! そして康太は窓から盗撮をするな!」

 「…………む……ん……どうしたの? 何かうるさいけど」

 「梓ちゃん、起きた。よかった……」

 「???」

 あなたが寝ている間にとてつもない誤解を生み、かつオレが社会的に危なくなるところでした。

 

 「みんな帰ったらしいよ」

 「え、うそっ!? ってかわたしいつの間にか寝ちゃってた?」

 「うん」 

 「人の家で……ごめんなさい!」

 「梓ちゃんは悪くない。悪いのは閉じ込めたやつらだ」

 そうだ。何もすることがないと眠くなるのは当たり前だ。

 

 「そうそう、ヒロ~」

 「どうしたんだ」

 「みんなには伝えたんだけど、明後日から海に行くんだけど来る?」

 「海!?」

 「そ。姉さんがね。海に行こうって言い出してきて、友達を誘っていいって言われたから」

 姉さん。ね。

 

 「みんなは承諾したのか」

 「全員快諾!」

 「宿題が終わってないというのにのんきなものだ」

 「終わったからね」

 意外だ。オレたちはそんなに長い間軟禁されていたのか。

 

 「なるほど。梓ちゃんも来て良いの?」

 「もちろん」

 「どうする?」

 「親に聞いてみないとわからないかな」

 「そうだよね。じゃあ、アキ夜またメールする」

 「分かった!」

 ということで、別れを告げてアキの家を出た。途中梓ちゃんを送り、海に行けるか聞いて帰った。アキにメール。オレ・梓ちゃん、海行く。よろしく!と。

 

 





 詳しい時期は書いてませんが、お盆明けくらいでしょうかね?

 太鼓の○人ならぬ、太鼓の仙人。
 我ながらネーミングセンスがありません(笑)

 しかも、4人対戦OKとかいいですよね!

 
 どうでもいいとして、次は海話。
 
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#61 海!


 文化発表会終わりました。
 それと同時に、部活動引退です。
 もう終わりか……ちょっと涙出ましたね。
 軽音部の最後の演奏の時には。
 あのホールに立ちたかったな~
 
 でも、期末テストも近づいてきているので、更新が毎日出来ないかもです。
 するときはするけど……
 よろしくお願いします。
 
 海話。
 では、どうぞ!!




 

 

 「ね、姉さん。これ運転できるの?」

 「免許を取っていますからね。大丈夫ですよ」

 オレたち10数名は海に行くために、アキの家の前に来ていた。

 そこで見かけたのは、マイクロバスである。どうやら、アキの姉の玲さんが運転手らしい。

 

 「ちょっと姉さんの運転というのが怖いけど」

 「ペーパーではありませんよ」

 (そういう意味で言ってるわけではないんだけどね)

 なるほど。少々運転が荒いということか。そこは覚悟しておこう。

 

 「しかし、アキ君がいつもお世話になっています」

 「「「「こちらこそ……」」」」

 丁寧にお辞儀をされた。一緒に海に行く人がココまで多いとは思わなかったんだろう。

 オレ・梓ちゃん・雄二・優子さん・秀吉・愛子ちゃん・竜也・憂ちゃん・康太・純ちゃん……多いな。

 

 「でもヒロ~どうして先輩方呼ばなかったの? 面識ないわけじゃないんだからさ」

 「ん? メールしたけど、夏期講習で来れないだとさ」

 「それは残念」

 「誘ってくれてありがとうとは言っていたぞ」

 「そう?」

 とっても行きたがっていた。しかし、高校3年生。夏期講習のほうが大事なのである。

 

 「アキ君、みんなお揃いですか?」

 「うん。ばっちり。用意もバッチリみたいだよ!」

 オレたちの荷物を見てから言うアキ。確かに楽しみにしていたのは間違いない。

 

 「では、行きましょうか。みなさん乗ってください」

 「「「「お願いしま~す」」」」

 1泊2日の海への旅行。出発!

 

 

 

    ★

 

 

 「なあ明久、お前今から行く海に行ったことあるんだろ?」

 雄二が15秒メシを食べ(飲み?)ながら言う。

 

 「そうだな~あれは何処だっけ……?」

 「覚えてないのか?」

 「覚えてるんだけど。いつだっけ……?」

 「それも覚えてないのか?」

 「え~っと……」

 「結局、何一つ覚えてないんだな」

 「まあ、そのほうが僕も楽しみだね」 

 最初からそう言えよ。

 

 「ん? 姉さん、この荷物の多さは何?」

 「アッキー、女性はたくさん荷物があるものだよ」

 「? そうなの?」 

 「うん」

 それには賛同するが、この玲さんの荷物の量といったらどういうことだろう。

 

 「アキ君は女の子にアッキーと呼ばれてるんですか?」

 「……………………………………………………………………………………………え?」

 「何でもありません」

 (姉さん未だに不純異性交遊について何とか言うのか……どうにかしてヒロ)

 (どうにもなるか。なるようになるさ)

 (そんな~)

 いざというときは助けるが、それまでは自力で切り抜けろよ。

 

 「何か明久君のお姉さんってちょっと変わってるよね」

 隣に座っている梓ちゃんが小声で話しかけてきた。

 

 「ま、まあ確かに……アキはよく耐えていると思う」

 オレだったら無理だ。

 

 「去年は海って言ったら、ムギ先輩の別荘で合宿だったね」

 「そうだね。あの時はまだみんなに楽器を練習しているって言ってなかったっけ」

 「そうそう。びっくりしたよ楽器を密かに練習していたって聞いたときは」

 「いいサプライズだったでしょ」

 「ドッキリかと思った」

 足手まといにならないレベルまで到達したときに言い出したんだよね。

 

 「もうあれから1年も経つのか~」

 「早いね。梓ちゃんは真っ黒になってびっくりした」

 「む~どうして日焼け止め塗っているのに真っ黒になるんだろ」

 「オレに聞かれても……何とも言えないじゃないか」

 夏の暑い日差しのもとではすぐに真っ黒になるんだよね。日頃が結構白い方だからなおさら。

 

 「憂~どうにかして~」

 「へっ? わたし? 何が?」

 「日焼けしない方法だよ~」

 後ろに座っている憂ちゃんに対処法を求めるも、

 

 「わたしだって教えて欲しいくらいだよ」

 「憂のは日焼けって言わないじゃない!」

 「そうでもないよ~あ、でも梓ちゃんには負けるね」

 いい返答はなかった。

 

 「そういえば憂、唯先輩大丈夫だったの?」

 横にいた純ちゃんが、憂ちゃんに話しかける。確かにそれは思う。憂ちゃん離れが出来てないからな~というか、憂ちゃんも構いすぎて唯先輩離れ出来ていない?

 

 「え~っとね……律さんや澪さんやムギさんが泊まりに来てくれるらしいから、憂は海で楽しんで来てって言われちゃった」

 「ちょっと寂しい顔しない」

 「もうお姉ちゃんも……」

 何を言いたいかは察しはつくが……

 

 「ワシはみなから置いてけぼりにされているような気がするんじゃが……」

 「どうしたの秀吉?」 

 「何でもないのじゃ」

 「そう?」

 (付き合っているのはヒロと梓じゃろ。明久と工藤や竜也と平沢はもう周知の事実。ムッツリーニと鈴木も時間の問題じゃろう。雄二と姉上は分からぬが…お似合いと思うんじゃが。そう思うと、ワシは1人となるの。友達として楽しいのじゃが、そうなってくると1人ぼっちということになるの…………ワシも誰か探した方がよいのかの~告白してくるのが未だに男しかいないというのは腑に落ちぬが……)

 

 秀吉は1人で悩んでいるらしいが、大丈夫なのだろうか。海で気分を晴らして欲しいものだ。

 

 

 「秀吉、さっきからぶつぶついってうるさいわよ」

 「何でもないのじゃ姉上」

 「隣でうるさいから言ってるんじゃない」

 「すまぬ。というか何故ワシの隣に座っておるのじゃ?」

 「それってどういう意味かしら?」

 「何故雄二の横に座らぬのか聞いておるのじゃ」

 「っ…何で坂本君?」

 「姉上は本当に……」

 「何か言った?」

 「何も言っておらぬ」

 「い~や何か隠している。人に言えないこと?」 

 「ワシはいいが、姉上が言い辛いであろう」

 「?意味が分からないけど、そこまで言うのならちょっとみんなから離れましょう」

 「…………分かったのじゃ」

 車が信号で止まると、マイクロバスの前の方に固まって座っていたのだが、大事な話があるとかで、優子さんと秀吉が最後尾に座った。何を話すんだろ……家であんまり話しないのかな。

 

 

 

    ★

 

 

 

 「で、話ってなによ」

 「姉上がこちらに連れてきたんじゃろ」

 「さっき口ごもったでしょうが。包み隠さず喋りなさいよ」

 「姉上が答えにくい質問じゃ。それでもいいのかの?」

 「何よ。さっさといいなさいよ!」

 ワシは仕方なく、姉上に言われるがまま思うとおりに言った。

 

 「建前なぞいらぬ。ワシと姉上しか聞いておらぬ」

 「だから早く言いなさい」

 「姉上は実際のところ雄二をどう思っているのじゃ」

 「っ!? 坂本君?」

 「ほう。姉上が少しなりともワシの前で動揺を見せるとはのう」

 「何をえらそうに!」

 アイアンクローをされているのじゃが、怒っているというよりは照れ隠しでムキになっている感じじゃな。

 

 「あやつ……雄二は。強いぞい。喧嘩という意味ではなくの」

 「分かってるわよ。あそこまで精神的に傷つけられているのに立ち直っているもの」

 「心の中では立ち直っていないのかも知れぬが、明久同様みんなにその面を見せてはおらぬな」

 「暴走召喚獣のときや合宿のとき。坂本君の精神はボロボロだったでしょう」

 「じゃが、期末テストの折、姉上は何をしたのじゃ」

 「何って勉強を教えたでしょ」

 「そうじゃな。雄二は前に進んでいる。姉上はその心のゆとりではないのかの?」

 「はぁ? そんなたいそうなこと……」

 「そう思うかの? 雄二は確実に姉上が側にいることで変わったと思うぞい」

 ワシは昨年から一緒のクラスじゃから良く分かる。姉上は思案顔になり、再び言葉を発した。

 

 「代表に傷つけられた精神をアタシが少しなりとも和らげようとしたのは事実だけど」

 「けどじゃないじゃろう。十分に効果が出ているではないか」

 「アタシが側にいることで?」

 「うむ。明久と工藤を見るのじゃ。お互い心に影を持ちながらも何一つ周りに見せようとはしておらぬ」

 「あの2人も強い。2人はお互いに心に抱えている影を光に変えてくれる存在なのね」

 「その通りじゃ。姉上の心に抱えている影を雄二が光に変えてくれるかは分からぬが……」

 確実に姉上は雄二の心の影を光に変えているのじゃ。なくてはならない存在となっておる。じゃが、雄二自身それを自覚しておらぬかも知れぬ。今はの。

 

 「それに、姉上、雄二のことまんざらでもないじゃろう」

 「なっ!?」

 「ワシは他の誰よりも姉上のことを見ておるぞい。そのくらい分かるに決まっておろう」

 そっぽを向いた姉上。照れているときの行動じゃな。

 

 「未だに苗字同士でしか会話しておらぬ。この海できっかけをつかむがよい」

 「うるさいわね! どうして秀吉はそこまで肩入れしているわけ!」

 「お互いに幸せになって欲しいからじゃ」

 「~っ!? 秀吉の口からそんな言葉が」

 「悪いかの。雄二にも話をするつもりじゃ」

 「えっ!?」

 いい加減、お互い素直になるのじゃ。ワシがせぬとダメみたいじゃからのう。

 

 「話はしまいじゃ。みなのもとへ戻るぞい」

 「………………」

 「お~い姉上~」

 「……はっ! 分かった。元の席に戻るのね」

 ふむ。心ここにあらずじゃったな。楽しむために誘ってもらった海じゃが、利用させてもらうぞい。2人のために。ワシはその後じゃ。

 

 

 

    ★

 

 

 「あ、戻ってきた~秀吉!」

 「ちょいと長話になってしもうたの」

 「どんな話していたの?」

 「姉弟話じゃ」

 「かわいそうに秀吉。心中お察しいたします」

 「何を考えておるかは知らぬが、思っていることと違うからの! 普通に姉上と話しをしただけじゃ」

 「こぶしを使って?」

 「お主はどういった環境なのじゃ……」

 横で聞いていたが、結構バカらしい会話だった。

 

 「どれだけ明久君、お姉ちゃんからすごい扱い受けているんだろう」

 「これはすごいな。力関係がすぐに分かる」

 それはそれでいいんだが、わざわざこんなときに話す姉弟の話って何やってたんだろう……

 

 「そろそろ着きますよ~」

 「おっ! 海が見える!!」

 「綺麗~!!」

 「人多いね~」

 バスに揺られること数時間。ようやく海に着いたらしかった。さあ楽しむぞ~(夏嫌いだけど)

 

 

 

 

 





 秀吉が暗躍します。
 
 未だにカップリング未定。
 
 その間は全力で他の方々のサポートに入ってもらいますよ。

 一番ネックなこの2人を秀吉はどうするのだろうか!

 
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#62 水着!


 ちょっと遅れた上に、短い。
 申し訳ないです。

 文化発表会終わって気が抜けて、熱を出すって言う。
 バカなことをやってのけました。
 すぐ回復しましたけど。

 では、どうぞ!!




 

 「海が近いね」

 「ああ。そうだな」

 泊まる旅館は、目の前が海岸となっており、走って30秒弱の距離に海がある場所にある。

 

 「あ~ヒロ、ゴメンね」

 「突然何が?」

 「梓ちゃんと一緒の部屋じゃなくて」

 「おい。普通に男女別々って分かってたさ」

 「えっ? それはそれで梓ちゃん可哀想じゃない?」

 「いやお前、アキ姉がいる時点でそれは無いだろ」

 「………………だろうね」

 アキ姉の方針は、不純異性交遊の厳禁だろ。他人はOKという形にしたら、アキが何か言うのは目に見えているからな。しかし、どうなんだろう。大人目線で男女の付き合いは大学からにしたほうがいいと言っているのか。

 

 「ムッツリーニよ。先に着替えてはどうかの?」

 因みに秀吉も同じ部屋。この頃、アキも秀吉を男子として見ているから大丈夫。

 

 「………準備している」

 「カメラは後でよかろうに」

 「………念入りに準備を」

 「純を撮るのは分かったからの、女子を待たせぬようにの」

 「………誰も純と言ってない。女子を待たせないのは分かっている」

 つくづく、行動と言動が一致しないやつだ。そわそわしているじゃないかよ。

 

 「竜也、こいつら放っといて先に行くか?」

 「だな。早く憂ちゃんの水着姿もお目にかかりたいし」

 「はいはい。じゃ俺ら先行っておくぞ」

 「雄二も姉上の見たいであろう?」 

 「んあ? 秀吉の姉?」

 「後で追いつくから先に行っておれ」

 「分かった」

 オレらもさっさと着替えて、雄二たちを追いかける。そして、海岸へ。

 

 

   ★

 

 「玲さん胸大きい~」 

 「うらやましい~」

 「どうやったらそんなに」

 「神様は何て不公平なの?」

 「ちょっと失礼しま~す」

 愛子ちゃんが突然玲さんの胸をもみだした。わたしたちってまだ成長するよね。成長するよね!?信じていいんだよね! 何かしら5人の結束が強くなったようだよ。

 

 「みなさん、どうしたのですか?」

 本気でこの人は言っているのだろうか。うう……胸なんて……

 

 「早く着替えましょうよ。男子は既に海岸で待っていると思いますよ」

 「よ~っし、水着かあ~お披露目タ~イムだね♪」

 「愛子は卑怯よ。着慣れているじゃない」

 そっか。愛子ちゃんは水泳部だっけ? でも、競泳水着は流石に持ってきていないよね。

 

 「じゃ~ん!!」

 「おおっ!! 着替えるの早い!!」

 「そこなの!? 水着どうなの?」

 「似合ってるじゃん」 

 とか言い合いながら、全員着替える。みんな冒険したものはおらず、普通にワンピースかセパレートかだった。

 

 

    ★

 

 

 「 ー どうしてなのじゃ!!」

 「とにかく着て下さい!!」

 まさか海というのでこんな障害があるとは思わなかった。秀吉が女子と間違えられて海の監視員に上を着る様に引き止められているのだ。

 

 「秀吉、オレたちがどんなにこう言ったところでこの人の意見変わりそうにないぞ」

 そう。仕事柄? 頑固であるらしく、妥協は許さないのだ。

 

 「むう……仕方あるまい。上に何か着るしかないのじゃな」

 「途中で脱いだとしても飛んできますからね!!」

 どこまでのご執心? ま、まあ確かに初めて見た人に秀吉を男性と分からせるのは困難かもしれない。

 

 「お~い、遅くなってゴメン!」

 秀吉が上を着たころに、女性陣が登場した。おおっ! 可愛い!

 

 「水泳部はやっぱり水着似合う!」

 「嬉しい!」

 「アキ君?」

 「ね、姉さんも似合ってる。とっても似合ってるよ!!」

 「そうですか。それはよかったです。あ、アキ君。1つ聞きたいのですが?」

 「どうしたの姉さん」

 「何故、みなさんは『スクール水着』を着てないのですか?」

 

 

   …………………………………………………………………………

 

 

 「「「「「「「はっ?」」」」」」」

 

 「みなさんは学生ですよね?」

 「ちょ、ちょっと待とうか姉さん、まさかとは思うけど、アメリカで水着を着るときスク水じゃないよね?」

 「何を言ってるんですか。当たり前じゃないですか。School水着ですよ。大学はUniversity(College)ですよ。アキ君英語の勉強してませんね」

 「いや、姉さん。姉さんは常識の勉強をしようよ」

 同意する。この人の常識はどうなっているんだ? Schoolに通っていたらスク水を着ないとダメとか?

 

 「ね、姉さん。僕は恥を忍んでみんなの前で言うから覚悟して」

 「どういう意味でしょう」

 「学生だからといって、常日頃水着が必要なときにスク水を着るって訳じゃないからね」

 「???」

 「要するに、スク水は学校指定ってだけで、学校の授業では着ないとダメだけど、それ以外なら別に個人の自由ってわけ。だから男子は海パンとかなの」

 「そうでしたか。なるほどですね。やっと謎が解けました」

 確か、ハーバード大学卒だよな。泥塗ってないよね。

 

 「康太、さっきからオレらのうしろで何をしているんだ」

 「………何も」

 「カメラを堂々と構えてよくそんな嘘を言えるものだ」

 「………カメラは持っているだけ」 

 「フィルム確認するか?」

 「………このカメラは高級だから、触らせない」

 そんなものを海に持ってくるなよ。どんな不測事態が起こるかわからないぞ。

 

 「ねえ純ちゃん」

 「どうしたの?」

 「康太が水着可愛いって」

 「そ、そう? 何で自分が言わないの」

 「………そんなこと言ってない」

 「お前の行動が全てを物語っているんだ。写真純ちゃんのだろうが」

 「ええっ!?」

 「………気のせい」

 康太に素直になれといっても無理だろうが……照れ隠しもいいところだ。嘘つくの下手なくせに。

 

 「憂ちゃん、とっても似合うよ!」

 「あ、ありがと。これ、梓ちゃんと一緒にお互い選んだんだ」

 「そうなんだ~だってよヒロ」

 「へっ? あ、うん。梓ちゃん ー 」

 「何で言葉に詰まるの!! 何か変!?」

 「落ち着いて梓ちゃん。多分、言葉が見当たらないのよ」

 「それってどういう ー 」 

 「多分、梓ちゃんが相当可愛いってことだよ」

 勝手に人の気持ちを代弁するんじゃねえ。まあ確かにその通りなんだけど。可愛いって言葉だけじゃ物足りなくて。

 

 「そ、そうなの///ありがと」

 「あ、うん……」

 何か空気が……ま。いいや。

 

 「秀吉~そのシャツどうしたの? 見たこと無いけど」

 「先ほどかくかくしかじかで」

 「アンタも進歩しないのね……」

 「うるさいのじゃ。ワシもそれは思っておる。それより、姉上は雄二に水着を見せぬのか?」

 「へっ?」

 「雄二~姉上の水着姿どうじゃ? 客観的に評価してくれなのじゃ」

 「ん? 評価? そんなたいそうなこと出来るか。まあ似合ってると思うぞ」

 「よかったのう姉上」

 「うるさいわねアンタ!」

 秀吉は、距離が一番ありそうな優子さんと雄二の間に立って会話をしていた。

 

 「みんな! 行こう!!」

 「おい、待て!」

 「憂ちゃんも行こ!」

 「梓ちゃんも行く?」

 アキの呼びかけに雄二がすぐについていき、オレと竜也も梓ちゃんと憂ちゃんを連れて行こうとしたが、泳ぎはしないと言われたから2人で行くことにした。康太は相変わらずカメラを持っているだけ。

 

 「冷た~!!」

 「ちょうどいいじゃねえか。こんな暑い日には」

 夏は嫌いだが、海は嫌いではない。冷たい気持ちいい。

 

 『あの子らは楽しそうに遊びますね』

 『子どもみたいです』

 『アッキー!!』

 『あ、愛子も行った。水泳部の性は隠せないか』

 『康太は行かないの?』

 『………気が向いたら』

 『ふ~ん。じゃ先に行っておくね』

 『………自由に』

 『姉上は行かんでよいのかの?』 

 『別にいいわよ。ここからでも十分海は満喫できるし』

 『……そうかの』

 『アンタはいかないの?』

 『行って来るぞい』

 少し遅れて、愛子ちゃんと純ちゃんと秀吉がやってきた。他の連中はビーチパラソルの中で休んでいた。

 





 水着回!
 女子の水着についてほとんど知らないので、大雑把に書きました。
 その後はご想像で。
 誰がどんな水着を着ているとかは個人の妄想次第で(略)

 秀吉の話はもちろん。
 玲の非常識はいれています。

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#63 お祭り!


 お祭りといえば、もうすぐ地元のお祭りが始まるなあ。

 年々人が減ってきているという感じがする。

 結構寂しいな。

 そんなウチの地元とは違って、大盛況であろうこのお祭り。

 では、どうぞ!!



 

 「疲れた~」

 「アキ君、みなさん。この後、近くの神社でお祭りがあるみたいですから行きましょう」

 「お祭り!? やった~!! 行こ行こ!!」

 「楽しそうだね~!!」

 疲れた体だが、お祭りとなりゃ話は別だ。十分に楽しむぞ~

 

 「じゃあ、着替えて1階のロビーで待機しておいてください。女子はしばらく時間がかかるので」

 「分かった!」

 ということで、オレたちは旅館に帰り、服に着替えすぐにロビーに行った。

 もちろん、長い時間待っておかなければならなかった。

 1時間とまでは言わないが、数十分待っていると女性陣がやってきた。

 

 「お待たせ~」

 「っ!? 浴衣!!」

 「おお~!!」

 「ムッツリーニよ焦るでない。逃げるわけでもあるまい」

 「いやはや、華やかだ」

 女子全員が浴衣でやってきたのであった。

 

 「浴衣なんて、誰が?」

 「私が人数分全員のを持ってきていたんですよ」

 「なるほど。玲さんが。すげ~!!」

 「なんか僕たち幸せだね」

 「同意する」

 「一気に美少女の浴衣姿を拝めるんだからな」

 それについては否定しない。というか、むしろ大賛成する。

 

 「ヒロ君、あんまり見ないで……恥ずかしい」

 「ええっ!? どうして。梓ちゃんがそういうのならそうするけど、とっても似合ってるよ」

 「うそっ! ダメダメでしょ。憂たちがうらやましい」

 「そんなことない。梓ちゃんだって ー あ~言葉が上手くでねえ。今まで女子を褒めるなんてあんまりしてこなかったから……どう言えばいいんだろ………まあとにかく、このままでいて欲しい!」

 「ふぇっ? ひ、ヒロ君?」

 オレってこんなに口下手だったっけ……対女子に関して褒めることとかあんまりないから(といっても男子もなかなか褒めないと思うけど)

 

 「き、気にしないで。ほ、ホラ。隣でも竜也が憂ちゃんに」

 「確かに……前から思ってるんだけど、もうそろそろ憂も気づくはずなんだけどね」

 「気づいてるんじゃないかな。でも、今は友達以上恋人未満の距離でいたいと思ってるとか」

 「あ~そうかも。唯先輩がいるからね~憂にも」

 「竜也もある意味不憫だ」

 唯先輩がいる限り、憂ちゃんを本格的に竜也の方に振り向かせるのは難しいと。

 

 「康太、素直に似合わないなら似合わないって言って。そっちのほうがすっきりするから」

 「………(パシャパシャ)」

 「何も言わないからって、勝手に写真を撮らない!」

 「………ダメなのか」

 「え、えっ!? だ、ダメ ー って勝手にはそりゃダメでしょ」

 「………じゃあ、撮る」

 「そういう問題じゃない!!」

 「………???」

 本気で分からない感じだが……まあ康太も似合わないものを被写体に選ぶわけがない。こいつの写真能力では既にアマチュアのトップレベルに達していると思う。もしかしたら将来プロカメラマンとして名を馳せているかもしれない。

 

 「アキ君。どうでしょうか」

 「姉さんありがと! みんな凄い似合っていると思う!」

 「私もですか?」

 「もちろん! 愛ちゃんも似合ってるよ!!」 

 「あ、ありがとアッキー!」

 「アキ君?」

 「ちょ、姉さん怖いよ!! 今からお祭りに行くんでしょ!!」

 「そうでしたねアキ君」

 「だからそのオーラをしまって!」

 アキも苦労しているようだ。あの姉さんをどうにかしないといけないのだろうが。厳しいな。

 

 「ん? 秀吉は浴衣を着ないのか?」

 「雄二よ。お主わざと言っておるじゃろう」

 「ははは……」

 「代わりと言っては何じゃが、姉上が浴衣を着ておるではないか」

 瓜二つなんだから、秀吉が浴衣を着ても優子さんが浴衣を着ても一緒ということであろうか。

 

 「な、何よその言い方は秀吉!」

 「いや~うん。制服のときと全然違うな。新鮮でいいぞ」

 「へっ? な、何言って ー 」

 「姉上。素直に褒め言葉は受け取るものじゃ」

 「そ、そそんなことないわよ! 別に……みんな似合ってるって意味じゃないの」

 「そうかもしれぬが、姉上が言われたんじゃ。みなを代表してお礼を言うべきであろう」

 「そ、そうね。あ、ああありがと坂本君///」

 「お、おう…………んじゃ、みんな揃ったことだし行こうじゃないか。そのお祭りとやらに」

 雄二。お前……まあいいや。お祭りを楽しむとするか。

 

 「車? 姉さん、そんなに離れてるの?」

 「そこまで離れてませんが、一応念のためですよ」

 「ふ~ん。そうなの……」

 浴衣みたいな歩きにくい服装だから、気を遣っているのかな。

 

 「では、行きましょう」

 「は~い」

 車に乗り、10分もしないうちに辿り着いた。確かに近場であった。

 

 「おお~お祭りだね~」 

 「屋台がたくさんだ!」

 「何処行く何処行く!?」

 「姉さん、この人数で集団行動するの?」

 「確かに、12人で行動するのは結構厳しいものがあるかもしれないですね」

 「じゃ、じゃあ?」

 「20:30に再集合するとして、それまで個人個人でということにしましょう」

 「分かった」

 「ただし、女の子を1人にさせてはダメですよ」

 「ね、姉さん?」

 珍しい。不純異性交遊の厳禁ではなかったのか。他人には適用されないとか?

 

 「もちろん、アキ君は姉さんと一緒です」

 「そんなバカなあああああ!!!」

 ドンマイアキ。冥福を祈る。

 

 「じゃ、憂ちゃん早速行こう!」

 「いいよ、何処行くの?」

 「憂ちゃんはどこがいい?」

 

 「このままじゃ、わたしは置いてけぼりだね康太」

 「………遠まわしな言い方だな純」

 「こんなことレディーに言わせる気?」

 「………お前にそんなものがあったとはビックリだ」

 「ひどい! もういいから早く行こう!!」

 「………初めからそういえばいいのに」

 

 「あはは……じゃあ梓ちゃん行こうか」

 「そだね」

 「雄二はどうする気だろう」

 「優子さんと行くんじゃないの?」

 「お互い素を隠しているからなあ。ま、秀吉が何とかしてくれるか」

 「間に立って上手くしてくれるだろうね。ところで明久君の心配はしないの?」

 「オレらの体が持たないぞ」

 「……そうだね。じゃあ、行こうよ」

 「何処行く?」

 というわけで、オレと梓ちゃんは数人を残して屋台をふらつきまわる。

 

    ★

 

 「女子を1人にさせぬようにとは……明久の姉上もなかなかじゃのう」

 「うるさいわね秀吉。アンタ行くわよ!」

 「何ということを! 何故ワシなのじゃ!?」

 「いいでしょアンタ相手いないし」

 そういう問題ではないのじゃ。雄二はどうするというのじゃ。姉上もむごいことを考える。

 

 「雄二よ。いささかワシと姉上だけじゃ心配ゆえ、ついてきてもらえぬか?」

 「ん? 確かにそうだな。女子の双子が歩いていると思われても不思議ではない」

 「それはワシをからかっておるのかの?」

 「冗談だ。まあ、俺に喧嘩を売るヤツはそういないだろう。安心しな」

 雄二は180cm強で筋肉もしっかりついている。何か格闘技をしているかラグビーなどの球技をやっていると思われても不思議じゃない。これ以上ない護衛だろうがの。

 ワシの考えはそこではないのじゃ。

 

 「よかったの姉上。これで安心じゃな」

 ワシにとっては2重の安心じゃ。護衛の件はもちろんじゃが、雄二と姉上が一緒の時を楽しめるということは、お互いがよい時間を過ごせるためにワシとしても安心なのじゃ。

 

 「そ、そうね。坂本君、アタシたち行くわ」

 「分かった。俺に構わず進んで行ってくれ」

 因みに頃合いを見てワシは離脱する予定じゃ。これは明久にも話を通しておるから上手くいくであろう。

 

 「愛ちゃん何処に行く?」

 「えっ? ボクが決めて良いの?」 

 「もちろん。姉さんは保護者だから」

 「それはどういう意味ですかアキ君。私にはお祭りを楽しむ権利がないということですか」

 「そ、そういう意味で言ったわけじゃないけど……」

 明久。お互い姉を持つと大変じゃのう……忘れるでないぞ。先ほどの件をの。

 

 





 雄二と優子の所が一番書いてて楽しいです。

 なかなかくっつけないこの2人の距離。

 秀吉がそれを必死に埋めに入る。

 そして、明久は未だに姉の恐怖から脱出できない。

 愛子が可哀想。

 はたして、どうなるのだろう。

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#64 進展!


 む……

 難しい。

 この2人難しいぞ!

 秀吉~お前だけが頼りだ!!

 では、どうぞ!




 

 「じゃあ、まず何処に行く?」

 「何があるかな?」

 結構大きな祭りのようだから、大体露店は揃っているだろう。

 

 「う~ん……金魚すくいにカキ氷に焼き鳥に……いっぱいあるよ」

 「じゃ、じゃあまずはあれで!」

 梓ちゃんが指をさしたほうを見ると、りんご飴があった。

 

 「りんご飴か~食べたいの?」

 「う、うん」

 「分かった。オレがお金出すよ」

 「え、ええっ!? そんなのいいよ!!」

 「ん? 気にしないで。流石に食べたいの全部とかは無理だけど、1つくらいならね」

 梓ちゃんはがめついわけじゃないからいいけど、ここからここまでとか言われたり、露店のメニュー端から食べつくそうとか言われたら困るわけだ。

 

 「ありがと……」

 「どれが良いの?」

 オレは小さい頃からお祭りには来ているが、りんご飴とは無縁だ。何故かは分からないけど。見るところによると、りんご飴と銘打っておきながら、イチゴ飴やブドウ飴なるものもある。どれがいいんだろう。

 

 「りんご飴の小さいものがいいな」

 「大きいのじゃなくて良いの?」

 「うん。そんなにたくさんは食べられないからね」

 「そうなの。おじさん、これ1つね」

 『はいよ。200円ね』

 「ほい」

 『ありがとさん。いいねえお若いの。ラブラブじゃないか』

 「え!? そ、それはどうも……」

 いかにも露店のおじさんといった(白のタンクトップに頭にタオルで鉢巻)人がこういった。

 

 「ちょ、ちょっと恥ずかしいね」

 「う、うん……お祭りって定番じゃないのかな?」

 「どうなんだろうね」

 年齢層関係なく見当たるんだけどなあ。まああのおじさんがベテランだと思っておこう。客引きのために気分のいいことを言っているとか。

 

 「だがしかし多いよな~人が」

 「何か今日イベントがあるのかな?」

 「どうなんだろうね。あったとしても、玲さん何も言ってなかったし」

 「そうだね。他に回ろうよ!」

 「そうしよう。あ、あれは……?」

 オレは視線の先に『射的』なるものを見つけた。

 

 「は、初めて見つけた射的!」

 「そうなの?」

 「どのお祭りに行っても見当たらなかったんだよね~」

 「珍しいね」

 「ちょっとやってみてもいいかな」

 「いいよ。わたしは見てるから」

 りんご飴をなめながら、オレの射的を見守ってくれることになった梓ちゃん。

 

 「意外と遠いもんだな」

 そして、意外と銃も重い。何処に飛んでいくかはさっぱり当たらない。持ち弾は5個らしい。

 

 「よしっ。いっちょやったるか」

 と意気込むも1発目は外す。難しいものだ。

 

 「頑張ってヒロ君」

 「ありがと梓ちゃん」

 後ろでエールを送ってくれる梓ちゃんのためにも。

 

 「く~……今かすったのかよ」 

 「おしいおしい。ちょっと当たったよ」

 確かに。あんな大きい的なのに当たりにくいんだな。

 

 「ちょっと狙いを小さいのに変えたほうが良いのかな」

 「大きいのは当たるけど、倒れないんだよね」

 「だから、小さいのに変えてみようと思う」

 ここで狙いをシフトチェンジ。小さめの何かしらの物を狙う。

 

 「おっ! 当たった!!」

 「流石だね」

 「これは……キャラメルか。取っておこう。あと2発あるし……」

 何かいいものを当てたいものである。

 

 「今ジャストミートしたのに!!」

 「ほんの少しだけ勢いが足りなかったのかな」

 「く~最後にアレ倒してやる」

 と意気込むものの力が入りすぎて、最後の弾は何処に行ったか分からない。

 

 「気負いすぎだよ」

 「む~悔しい」

 「楽しかった?」

 「うん。ありがと。梓ちゃん次何処に行く?」

 オレが射的を楽しみ終わった後は、梓ちゃんが希望するところを歩き回る。

 

 

   ★

 

 

 「まずは………これ、かしらね」

 「姉上も好きじゃのう。クレープ」

 「いいじゃないの。昔からだから」

 姉上が何故か最初にクレープの店を選び買った。クレープは普通終わり際に食べるものではないのかのう。

 

 「それにしても、人多いわね」

 「花火でも上がるのかも知れんな」

 「そんな話は聞いておらぬが」

 「玲さんなら何か知っているでしょうけど」

 「ま、そんなことは後ででもいい。今はとにかく好きなところに行くがいいさ」

 雄二がこう言った故、姉上は久しぶりのお祭りを楽しんでおる。もちろんワシも楽しい。

 

 「あそこにいるのは、竜也と憂ではないかの?」

 「確かに。幸せそうね竜也君」

 「ああ。平沢も結構楽しいといった表情じゃないか」

 「あの2人なら心配はいらぬだろう」

 「何が?」

 「それに比べ……」

 「どうした秀吉。俺たちの顔を見て」

 少々、竜也憂や弘志梓を見習ってもらいたいものじゃ。お互いを信頼してるならば、ゴールはもうすぐじゃろうに。

 

 「何でもないのじゃ。あれは焼き鳥の店じゃな」

 「おっ。ちょっと買ってきてもいいか?」

 「いいわよ。好きなの?」

 「ああ。祭りの時は豚バラだって相場は決まってる」

 「そうなのじゃな。ワシらはここで待っておる」

 混雑しておるから、あまりそこには入っていきたくないために、待つという選択肢をとった。

 

 「秀吉~!!」

 「ん? 明久? どうしたのじゃ?」

 「姉さんが秀吉を呼んでいるんだ。ちょっと来てくれない?」

 「い、今かの?」

 「うん。急いでって」

 タイミング悪いのう明久よ。何故雄二がいるときにその作戦を実行しないのじゃ。仕方ない故ワシは口裏を合わせるが……

 

 「どうしたのであろう……」

 「呼ばれてるんだったら早く行きなさい秀吉」

 「じゃ、じゃが姉上が1人に……」

 「心配要らないわよ。すぐに坂本君帰ってくるだろうし。あんたもそんなにかからないでしょう」

 「多分そうだと思うよ。秀吉」

 「分かったのじゃ。姉上、よろしくなのじゃ」

 「はいはい。玲さんに迷惑を掛けないようにするのよ」

 多少は雄二がびっくりするじゃろうが、まあいいじゃろう。

 

 

   ★

 

 

 『お、かわいいねえ』

 『ねえねえお嬢ちゃん、ボクたちと一緒に遊ばない?』

 何かと思えばナンパか。いわゆる。ホントだるい。こういうのしか出来ないのかしら。で、でも前に秀吉とお祭りに来た時は秀吉だけしかナンパされなかったし……アタシって……い、いや。ナンパはロクな男がいないから断らないと。

 

 「遠慮しておきます」

 『そんなこと言わないで』

 『どうせ1人でいるんだろ?』

 「い、いえ」

 どうして早く戻ってこないのよ!! って、アレは……坂本君。こいつらどうにかして……

 

 って、こっちに焼き鳥食べながら歩いてきているけど、アタシが困っていることに気づいていない? もしかして、知り合いと話しているように見えるとか!?

 し、仕方ないわね。ちょっと強引かもしれないけど……秀吉が言ってたわね。こういった男を困らせるには ー って、何で秀吉の方がそういうの詳しいのかはいささか疑問に思うけど、多分演劇でこういうシーンをやったことがあるとかよね。ってか、それでも秀吉は女役なの!? ちょっと許せないわね……

 こんなこと迷っている段じゃない。え、え~っとカップルらしくしていればいいのよね確か。か、カップル? こ、これはこいつらを退治するための作戦なんだから!(ここまで5秒)

 

 「あ、さか ー 」

 って、ふ、普通カップルって名前同士じゃないといけないじゃなかったかしら……ってことは、ゆ、雄二って呼ばないといけないのね。死ぬほど恥ずかしいけど、アタシにだって秀吉譲りの演技力はあるはず。それに雄二だって後で事情話したら分かってくれるはず。ってか、助けに来なさいよ。(これで3秒)

 

 「ゆ、雄二! やっと来た~!! 待ったんだからね~」

 な、何言ってるのかしらアタシ!! こんなのアタシじゃない!! 死ぬほど恥ずかしい! 秀吉っていつもこんなことを! く~ココまで来たからには腹をくくるしかないわね(2秒)

 

 「ど、どうしたきの ー 」

 (いいから話合わせなさいよ!! 下の名前で呼ぶこと!!)

 「あ、ああ……」

 『ちっ。男持ちかよ』

 『こんなブスが相手とはな』

 ブス? 雄二が? こいつら目ん玉腐ってるんじゃないでしょうね?

 

 「何言ってるのかしら。雄二の何処がブスかしら。アンタたちのほうがよっぽどひどいわよ」

 『けっ……とんだ面食いだぜ』

 『男を見る目がないこいつも大した女じゃないな。あばよブスども』

 「おい、ちょい待ち」

 アタシが腸煮え繰り返って、手を出そうとしたら、雄二が言葉でとめた。

 

 『何だよ』

 「俺をいくらでも侮辱するのはいいが、こいつを侮辱するのだけはいただけねえな」

 『事実を言ったまでだ』

 「ふん。喧嘩売ってるのか。いいだろう。『悪鬼羅刹』の名に掛けてな」

 『あ、悪鬼羅刹だと!?』

 『かなわねえ! 逃げるぞ!!』

 逃げていった……『悪鬼羅刹』って確か雄二の中学時代のあだ名……こんなところにまで来てそれが。

 

 「すまんな迷惑掛けて」

 「べ、別に……助かったわ。ありがとう」 

 「当たり前のことをやったまでだ。しかしまだ『悪鬼羅刹』の名を使えるとはな。つまらねえものを見せたな」

 「頼りになるのね。中学時代悪さをしていたというのも」

 小学生時代は神童と呼ばれた男が、中学生時代に一転して悪鬼羅刹の名を近隣に轟かせていた。この変化には何が起こったかはある程度は予測できるけど……今は穏やかになったわよね。

 

 「そうだな。ところで、秀吉はどうしたのだ?」

 「明久君がやってきて、玲さんが呼んでいるからって連れて行かれたわ」

 「ふ~ん。そうか」

 「メールが着たわ秀吉から」

 

 ちょっと長くなりそうだから、雄二と回って欲しい

 

 「仕方ないわね……」

 「秀吉帰ってこれないみたいか」

 「ええ。じゃあ秀吉の言うとおり回りましょう、雄二」

 「な、なあ優子。その雄二って言い方~」

 し、しまった!! さっきの癖というかなんというかまだ残っていた!!

 

 「き、きき気にしないで!! あれはさっきの男達を追っ払うために ー っていうか、あなたも今優子って呼んだじゃないの!」

 「そ、それはだな。さっき話を合わせろ~とかの件で ー 」

 「まあいいわ………せっかくだし、このままで」

 「それでいいのかよ」

 「仲良くなったんだし。いいんじゃないの?」

 それに、やっぱり頼りになるし。って何考えてるのかしらアタシ!!

 

 「そ、そうか。分かった優子」

 「よろしくね雄二」

 「な、何かむずがゆいな」

 「いいの! じゃあ次何処に行く?」

 

  『どうやら大成功のようじゃな。2人とも頑張るのじゃ』

 

 「ん?」

 「どうかしたか?」

 「何か視線を感じたのよ」

 「そりゃあ、かわいいから目立つのだろうな」

 「か、可愛い!?」

 「き、気にするな。早く行くぞ!」

 いつも秀吉ばかりに注目があったから、素直に嬉しい。何か変な感じだわ。

 

 





 りんご飴、食べたことないんですよね~
 何故か。
 後、射的を見たことがないってのも実話です。
 一回も見たことがないです。
 「くじびき」ならどこにでもあるのに……

 サブタイトルのように、2人の仲は進展しました。

 ようやくスタートラインに立った所なのか。
 
 どうなのか。

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#65 王様ゲーム!


 65話目にして、総合評価、5000pt超え!
 みなさん、ご愛読ありがとうございます。

 今後ともよろしくお願いしますね♪

 少々長め。
 そして甘め。
 最後はバカテスらしく。

 では、どうぞ!



 

 「さっきから何やってるの?」

 「………今日のイベント確認」

 「あ~人が多いからね」

 「………む。コレは」

 逃すわけにはいかない、最高のイベントではないか。後で玲さんに話を通しておくとしよう。

 

 「そろそろ合流する?」

 「………もう堪能したのか?」

 「ある程度はね。人が多すぎて疲れてきた」

 「………そうか」

 もうちょっと回るのかとも思ったが、純がそれでいいと言うのなら別に回る必要性もない。というわけで、明久たちと合流することにした。

 

 「愛子ちゃん、玲さんがずっと一緒にいるからちょっと居心地悪そうだね」

 「………仕方あるまい。明久とセットなんだから」

 「かわいそうに」

 「………ん? 何で秀吉もいるのだろう」

 4人で集まっていたので、俺たちはそこに合流する。

 

 「あら、もう2人ともよろしいのですか?」

 「もう十分です」

 「………秀吉はどうして?」

 「雄二と姉上を2人にさせるためじゃ」

 「………なるほど」

 秀吉もよく考えるものだ。なかなかあの2人は2人きりにならないからな。

 

 「………玲さん、今夜のイベントの件ですが」

 「はい。どうかしましたか?」

 「………是非とも見に行きたいのですが」

 「もとよりそのつもりですよ」

 「………本当ですか」

 「それに、そのために浴衣を全員分用意したのですから」

 この人は、連れてきた女子を全員参加させる気だったのか。それならそれで美味しい。だが、さっき背中に走った妙な悪寒は一体?

 

 「へ~そんなイベントがあるんだ。楽しみだな」

 「ええ。私も楽しみです」

 あまり深くは考えないようにしよう。

 

 

    ★

 

 

 「さて、そろそろ集合時間だな」

 「あれじゃない?」

 「ホントだ。もうみんな揃っているみたいじゃん」

 「急がないと」

 その集団もオレたちの姿を捉えているらしく、慌てる要素はなかった。

 

 「全員揃いましたね」

 「うん」

 「では、いったん車に戻りましょうか」

 「どうして?」

 「今日のイベントのためです」

 イベントがあるのは間違いじゃなかったのか。何のイベントなんだろうな。

 

 「ここからならそこまで離れてませんし」

 「それもそうだね」

 若干の不安を抱えながら、玲さんの言うとおりにする。

 

 「あ、あのさ姉さん。今日のイベントと何か関係が?」

 車に戻ってきたときに明久がオレたちの疑問を代表して投げかけた。

 

 「ええ。もちろん。今日は浴衣コンテストがあるそうですから」

 「それならばみんな着ているじゃない」

 「っていうか、アタシたちの意見なく出場するのは決定なの!?」

 「ええ。みなさんかわいいですからご心配なく」

 「そういう問題じゃなくて!!」

 優子さんの言うとおりだと思う。隣で梓ちゃんも思いっきり肯定しているし。

 

 「そうですね。女の子だけを出場させるわけには行きませんものね」

 

  ……………………は?

 

 「ですから、祭りに来る前から言ってたじゃないですか。浴衣は全員分(、、、)持ってきているって」

 「ね、姉さん話が読めないんですけど」

 「アキ君はやっぱりバカですね」

 「多分、それは姉さんの方だと思う」

 「アキ君のために説明しましょう。今からここにいる全員で浴衣コンテストに出ます」

 「「「「はあっ!?」」」」

 

 何を言ってるんだこの人は!! 隣で康太が、「先ほど走った悪寒の正体はこれか…」などとつぶやいてるが。

 

 「ちょっちょっと待ってください。今日って女装コンテストじゃないでしょう」

 「大丈夫ですよ。みなさんなら」

 「何が大丈夫なのかはさっぱりだ!!」

 「ですが、女子の皆様方は案外乗り気みたいですよ」

 「「「「はあっ!? そんなわけがあ ー 」」」」

 

 オレたちは一様に後ろを振り返ってみると、目を輝かせている女子が。おかしい。何でだろう。

 

 (ふふふ……これはいいものが見れそうだわ。雄二が攻めとなると ー )

 (アッキーの女装姿可愛いだろうな~)

 (竜也君の女装姿似合うんじゃないかな)

 (滅多にこういう機会ないから、見てみたい気も……)

 (確実に康太は合うよね~)

 

 「お、おい……」

 「そろそろ諦めるのじゃ皆」

 「秀吉、お前までそちらの味方か!!」

 「一度くらい女装する気持ちを味わうのも悪くないぞい」

 「そうかもね…姉さんにいつもさせられるこの気持ち、みんなも道連れだ!」

 「「「俺たち何も悪いことしてないぞ!! 何の罰ゲームだ!!」」」

 

 もはや反対派は雄二と竜也とオレしかいなくなった今、断固として認めてはならない。秀吉、本当にすいません。反省します。だからといってオレたちを女装に巻き込むな! で、アキ。お前のは完全に私利私欲じゃんか。

それと康太! お前はカメラを準備して何をする気だ。自分も女装するのだぞ!?

 

 「あ、あら……雨ですか?」

 オレたちの強い願望が天に叶ったのか、天の恵みが降ってきた。

 

 「しかも結構強くなってきますよ!!」

 「まずは車に入りましょう」

 「はい」

 「コッチに来てよかったな」

 ひとまず、雨宿りをする。というかオレら3人は『ひとまず』などという気持ちは毛頭ない。さっさと雨天中止になれとしか思っていない。早く帰ろうと。

 

 「何とか雨がやんで欲しいものですね」

 「そうじゃないとみんなのいい姿が見られない」

 「………シャッターチャンスが」

 「運営部。頼むぞ」

 「マジで。即刻雨天中止の令を出すのだ」

 「何がそんなに嫌なの?」

 逆に、普通の男子高校生で女装するのが嫌じゃないヤツに何で嫌じゃないのか聞きたいものだ。

 

 「何が悲しくて女装だ」

 「罰ゲームもいいところだ」

 「そうだそうだ」

 オレらが断固として自分の意見を曲げなかったのが、よかったのか。

 

  『本日開催予定の浴衣コンテストは雨のため中止といたします ー 』

 

 「「「キタ~!!!」」」

 アナウンス最高! ここまでホッとしたこともないぞ。

 

 「残念です」

 「見たかったのにな~」

 「何故だ!?」

 「って、憂ちゃんも梓ちゃんもなの?」

 「せっかくの機会だし」

 「見てみるのも悪くないかな~なんて」

 こういう機会は人生二度と訪れなくていいと思います。

 

 「本当に残念ですが……旅館に戻りましょう」

 若干この方の感性は狂ってるなと思いながら、車に揺られ旅館についた。

 

    ★

 

 「時間が余りましたね……何をしましょう」

 「そうだな……」

 「みなさんで何か遊んでてください。私はその間にちょっとしたいことがありますので」

 「姉さん?」

 「では、ごゆっくり」

 といって、玲さんは退出なさった。オレたちは11人部屋に取り残された。

 

 「何しようか?」

 「アッキーこういうときの定番って!」

 「肝試し?」

 「違う違う。雨の日じゃ出来ないって」

 「バーベキュー?」

 「わざと言ってる?」 

 「冗談だよ。で、何をするの?」

 「王様ゲームだよ!」

 場が途端に静まりかえった。王様ゲーム……ねえ。やったことないけど結構悲惨なんでしょ。

 

 「反対の人~!! 反対の人は代替案つきで」

 ………突然言われても代替案までは思いつかないぞ。

 

 「じゃ決定!」

 愛子ちゃんの思惑通りか。まあ、悲惨なことにならないように願っておくとしよう。

 

 

    ★

 

 「王様ゲーム!!」

 「「イエーイ!!」」

 「ルールはいたって普通。分かってると思うけど、王様の命令は ー 」

 「「「絶対!!」」」

 愛子ちゃんちょっと怖いよ。何が目的なんだ?

 

 「じゃあ早速……せーの」

 「「「王様だーれだ」」」

 ………オレじゃない!

 

 「え? 僕?」

 「アッキーか~!」

 アキなら特に困った命令はしないだろう。

 

 「1~10まであるんだよね」

 「そうだよ」

 「ひとまず、8番の人がジュース買ってきて」

 「へ?」

 「アッキーそれはあまりに簡単すぎる命令じゃ……」

 「早速買ってくるのじゃ」

 秀吉か。第一号の犠牲者とまでは言えない簡単な命令だった。みんながこの調子だといいんだけどな。

 

 「アッキー知らないよ~後でそんな簡単な命令じゃないのにすればよかったとか言っても」

 「愛子ちゃんはどんなのをする気!?」

 「例えば ー いや、ここでいうと面白くないな。そのときのお楽しみ♪」

 「ええっ!?」

 おそらく、座のほとんどの人が、愛子ちゃんにだけは王様になってほしくないと思ったことであろう。

 

 「明久、買ってきたぞい」

 「はやっ!」

 「部屋を出て10秒もしないところに自販機があったからのう」

 こんな感じで王様ゲームが終わるといいんだけど。

 

 「じゃ、次やろっ! せーの」

 「王様だーれだ」

 「わたしか」 

 「純ちゃんか~!!」

 意外性抜群。何を言うか分からないこの緊張感。

 

 「2番と6番はキスしちゃおっ!」

 「いいよ純ちゃん! そういう命令!」

 

 …………………………誰だ?

 

 「わ、わたし……?」

 「憂ちゃんなのっ!」

 「竜也と憂じゃな」

 「2人とも早く早く!」

 「憂ちゃん……」

 「竜也君仕方ないよ」

 この2人は思い切りがよく、すぐにキスをした。マウストゥーマウスで。すげえ。

 

 「いいよっ2人とも」

 「最高じゃん!」

 「………カメラ撮れないのが残念」

 初めに、康太のカメラ撮影は禁じていたからこれはよかった。

 

 「恥ずかしい///」

 「う、うん///」

 「じゃあ、次、行きますか!」

 「王様だーれだ」

 「わたしだ」

 憂ちゃんか。普通だったら軽めの命令になりそうなんだけど、さっきの自分の件があるからな。

 

 「じゃあ、4番と5番がハグを」

 「ほどよい命令だね!」

 刺激的でもなく、つまらなくもない。バランスのとれたものだ。

 

 「俺か……」

 「ほれ姉上。すぐに分かるんじゃぞ」

 「ゆ、優子!?」

 「し、しかたないでしょ! ひいてしまったんだから! 早く終わらせましょ雄二」

 「あ、ああ」

 その言葉どおり、2人は抱きあってすぐに終わった。ただ、1つ心残りが。

 

 「2人ともいいですな~」

 「ホントに~」 

 「「いつの間にか名前で呼び合っちゃって」

 愛子ちゃんと純ちゃんが2人を茶化す。確かにいつの間にだろう。さっきの自由行動の時間か。秀吉もよくやったものだ。

 

 「も、もう!! そんなことはいいから次やるわよ!」

 「王様だーれだ」

 「ワシじゃな」

 微妙だ。どっちに転ぶか。

 

 「簡単なのがよかろう。1番が3番で膝枕をするでどうじゃ?」

 「膝枕!?」

 「アッキーなの?」

 「え。うん」

 「よかった♪」

 アキの膝枕で愛子ちゃんが横になる。随分と幸せそうだ。

 

 「愛子~そろそろいいじゃないかしら?」

 「え、そう?」

 「せーの!」

 「王様だーれだ」

 「俺か。やっとだな」

 雄二きた。女子の前だから比較的簡単にしてくれるかも。

 

 「じゃあ、1番と10番がだな」

 雄二がためると、つばを飲み込む音がした。緊張してる。

 

 「撮影会といきますか」

 「………もちろん俺がカメラマン」

 「って、康太何番!?」

 「………1」

 「って、わたしだけが被写体なの!?」

 「いいな~純(棒読み)」

 「うらやましい~(棒読み)」

 「代われるなら代わってあげたいわ!」

 「結構。今までの恨みじゃないの?」

 「く~……恥ずかしい」

 「じゃあ、康太好きにしていいぞ」

 「………了解!!」

 えらく乗り気だ。ようやく自分の腕前を披露できることにか? 純ちゃんを撮ることにか?

 

 5分くらいのミニ撮影会だったが、純ちゃんが徐々に顔を赤らめて「勘弁して!」と言うので雄二が康太を止めさせた。いいカメラマンになるぞ。

 

 「やろっか!」 

 「せーの!」

 「王様だーれだ!」

 「ボクだね! やっときたよ」

 愛子ちゃんが名乗りを上げた瞬間、全員の首筋に冷や汗が……

 

 「せっかくだし、スペシャルバージョンで」

 「ほどほどにね愛子」

 「ふふふ……1番と5番はキス!」

 

 ……………………………………?

 

 「で、1番と5番は?」

 「表情で誰か分かるんだよ2人とも」

 そんなに苦悶の表情を浮かべているのだろうかオレは。この5番を持った手が震えたりしているのだろうか。

 

 「ほ~ら梓、ヒロ君とチューだよ」

 「「ええっ!? 何でオレ(わたし)が5(1)番だって分かったの!?」」

 「息ピッタリだな……」

 「みんな表情見て分かったと思うよ。そんなことはいいから早く!」

 こいつらの目の前で恥ずかしいことしないといけないの多すぎだろ!

 

 「ほらほら~ヒロ君からするの? 梓からするの?」

 「あ、愛子ちゃんもちろん、ディープだよね」

 「それいいね! せっかくだからそうしよう!」

 「「純(ちゃん)!! 何てことを言う!!」」

 「あはは!! 息ピッタリで面白い!」

 これが愛子ちゃんがしたかった命令か……なんと刺激の強い。

 

 「ひ、ヒロ君……」

 「ごめん」

 「謝らなくても」

 いろいろとごめん。何かファーストがみんなの前とか。

 

 「早くやりなよ」

 意を決して、オレは梓ちゃんの唇の側に顔を近づけた。梓ちゃんは目をつぶって待っている。

 

 「っ! やっぱディープなんて無理!!」

 軽くキスをしただけで、顔を離してしまった。

 

 「な~に言ってるのかなヒロ君。王様の命令は絶対だぞ」

 「さっきの恨み晴らす!」

 純ちゃん。何かそれはおかしい。

 

 「っ……」

 もう観念したかのように梓ちゃんはそのままで待っていた。少しくらい抵抗していいんだよ。本当に。さっきのがファーストなんだよな~オレは。梓ちゃんは知らないけど。まあ、理屈をこねるなら、今回はセカンドだよね。ディープがファーストじゃないよね。うん。誰に弁護してるんだが……

 

 心の中で梓ちゃんに謝りつつ、唇を重ねる。何秒すればいいかってのは、愛子ちゃんの気が済むまでらしい。

 

 「2人ともよく出来ました~!!」

 今、何秒経った? 長いよね愛子ちゃん。

 

 「よかったね梓ちゃん」

 「う、憂……憂までそっちの味方?」

 「ううん。今回のが初めてだったんでしょ。ヒロ君に2回もしてもらえてよかったじゃない」

 「な、なっ! 何を///」

 めっちゃ恥ずかしい!! あ~恥ずかしくて死にそう!!

 

 「2人とも熱いな」

 「うらやましいよ」

 う~この~人の気も知らないで。オレがリベンジを誓ったときに、ノックの音が聞こえ、人が入ってきた。

 

 「みなさ~ん」

 「姉さん。どうしたの?」

 「食べ物を持ってきました」

 「「「おおっ!!」」」 

 「早速食べよう!」

 リベンジは果たせぬまま、王様ゲームは自然消滅したらしい。もう王様ゲームはこりごりだ……

 

 「いっただっきま~す」

 「ところで、姉さん、こんなのどこに?」

 「今、作ってきました」

 あれ……意識が遠のく。この感じは…………

 最後に聞こえてきたのは、アキの「しまった。姉さんの手作り料理か!」という声だった。

 

 

    ★

 

 玲さんが、食べ物を持ってきてくれたのはいいんだけど、真っ先に食べた男子はことごとく倒れていった。

 

 「ひ、秀吉……」

 「何じゃ明久」

 「ね、姉さんを部屋から出して」

 「分かったのじゃ」 

 明久君はそれっきり畳に突っ伏した。ヒロ君や坂本君、竜也君や土屋君も同様に。

 

 「あ、玲さん」

 「どうしました?」

 「少々、台所を拝見したいのですが」

 「構いませんよ。こちらです」

 明久君の遺言どおり、秀吉君が姉さんを外に出した。

 

 「みなのもの。頼んだ。これはおそらく、あの姫路のときと同じじゃ」

 去り際に秀吉君がこう残して出て行った。あの弁当のときと一緒か……経験者は見ただけで分かるんだね。偶然秀吉君だけまだ食べてなかったんだ。こうしてる場合じゃない。助けないと。

 

 「ど、どうしよう!」

 「緑茶を飲ませよう! それしか思いつかない!」

 「ど、どうやって!?」

 「ううっ! 今度は王様ゲームとかじゃなくて、実際に口移しでお茶をあげないとやばいかも!!」

 「「「ええっ!!!」」」

 愛子ちゃん本当に?

 

 「早くしないと!!」

 「う、うん。分かった」

 決断したときの憂の速さはうらやましい。憂もこれが初めてだろうに。純も嫌々ながらすぐにしていた。わたしも急いでしないと。まさか初めての日に1日3回もキスをするなんて思ってもなかったな。

 

 「あ、アタシが雄二とき、キス!?」

 「いいから優子! 早くしないと大変なことに!」

 「わ、分かってるわよ!! これは仕方なくするんだからね」

 優子ちゃんも決心して、口移しを始めた。

 

   ★

 

 「ん?」

 「「「「「あ、助かったみたいだ!!」」」」」

 オレたちはどうやら寝ていたというよりは、意識を失っていたようだ。ああ、玲さんの持ってきた食べ物を食べてからだな。同時に5人目を覚ましたらしく、周りを見てもそんな感じの顔をしていた。

 すぐに、女子のみんながオレたちから目をそらし背中を向いた。愛子ちゃんだけがそのままでこういった。

 

 「みんな感謝しないとダメだよ。助けるために口移しで緑茶をあげたんだからね」

 『『『『なっ!?///』』』』

 「ふふふ~」

 

 「あ、梓ちゃん///」

 「た、助かってよかったよ本当に」  

 「ありがとう。洒落にならなかったよ……」

 

 「ゆ、優子?」

 「助けてあげたんだから、か感謝くらいしなさい!」

 「お、おう……ありがとな。でも、口移しって悪かったな」

 「そそそそれはいいの!! まずは命が助かるのが先!」

 「優子初めてだもんね~」

 「余計な事言わなくていいの愛子!!」

 「そ、そうか……すまなかったな俺なんかで。俺も初めてだったが」

 「っ! も、もうそれはいいから!!」

 

 「………ありがとう」

 「恥ずかしかったんだからね!」

 「………ああ。俺意識がなかったから逆に良かったかも」

 「まあ助かってよかったわ」

 

 「憂ちゃんありがとう」

 「よかったよ本当に~突然倒れるんだもん」

 「あの食べ物は本当に……」

 「みんな倒れたからね」

 

 「愛子ちゃんありがと……でも口移し!?」

 「ね、姉さんがいなかったから出来たんだけどね」

 「そりゃもちろんだよ。あ、みんな姉さんが迷惑掛けてごめんね」

 みんな、ちょっと口ごもる。本当に迷惑がかかったからだ。

 

 「姉さん、料理のセンスが全くないんだ……姫路さん並み」

 「それはひどい」

 何かと思い出に残る、海だった。

 梓ちゃんの唇やわ ー ああっ!! 何でもない何でもない。

 





 みなさん、心配だった「女装コンテスト」
 あったけど、雨天中止。ラッキーでしたか?

 王様ゲームに関しては、女装コンテストが早く終わりすぎたため急遽付け加えました。
 そしたら、結構長くなりました(苦笑)

 玲さんといったら、姫路並みの殺人料理ですからね。
 今後、どういった影響を与えるのでしょう。

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#66 2学期!


 さて、いよいよ2学期。
 
 原作では、体育祭、vs2-C戦、vs2-A戦、vs3年戦と続きますが……

 こちらでは、どうなることでしょう。

 意外な展開も。

 では、どうぞ!!



 

 「突然、この3人を呼び出して何の用でしょう」

 楽しかった夏休みも終わり、2学期になった。始業式から数日経ったある日、オレは高橋先生に『学園長室に行きなさい』と言われたために学園長室に来ているのだが……

 

 「この夏休みは調整に必死でしたか」

 「さぞご苦労なことで」

 何故、雄二とアキまでいるのだ? こいつらも鉄人こと西村先生にオレと同様のことを言われたらしい。

 

 「早速本題に入るよ」

 「どうぞ」

 「今年の体育祭さね」

 そう。そろそろこんな時期。とにかく暑くて暑くて仕方が無い。体育祭が何かしたのだろうか。

 

 「今年は、召喚獣野球大会をしようと思うさね」

 「なるほど。調整に成功したのか」

 「ってことは、イメージアップのためだね」

 「そんな裏話はいいさね」

 どうも図星らしい。確かに召喚獣で野球とかなると、相当調整に成功してないと出来ないことだ。

 

 「それがどうかしたのかな?」

 「それのルールを大まかに決めておいたから、何か文句があるところはあるかい?」

 「何故僕たちに?」

 「アンタたちが一番生徒の中でアタシと交流があるからさね」

 なんて人望のない学園長だ。オレたちもそこまでないぞ……

 

 「パッと見てみたが、9回は長すぎるだろ。1日じゃ終わらない」

 「ふむ。半分の5回にしようかい」

 「それと召喚獣使うなら、教科は偏りがでないように1イニング1教科にするとか」

 「いいアイデアさね」

 雄二も的確にいい答えだすなあ。オレとアキは何だ?

 

 「教師も出るのか!」

 「決勝戦に勝ったチームが戦えるさね」

 「要するに決勝戦は事実上準決勝ってことだな」

 決勝までシードはうらやましい。

 

 「教師に勝ったときは?」

 「何か望むのかい?」

 「もちろんだ。ただクラス対抗じゃおもしろくないだろ。それにボスが教師ならなおさらだ」

 「ふむ。アンタたちのその顔を見る限りじゃ、どうも昨日の抜き打ち持ち物検査で取られたものを取り返して欲しいようだね」

 そう。昨日抜き打ちで持ち物検査があって、とても厳しい基準だったのだ。オレは軽音部だから音楽機器は必須なのに、授業には関係ないとして取られたのであった。

 

 「どうやら先生の中でもあれは厳しすぎるとか反感買ってたんじゃねえか?」

 「学校に必要ないものを持ってくるのが悪いさね」

 「ひどすぎでしょ!」

 「…………まあ、いいさね。教師に勝ったクラスは返還ということにしようかね」 

 「俄然やる気が出たぜ」

 確かに。モチベーションは嫌が応にも上がる。特にFクラスの連中は取られまくったらしいから、ものすごく危険だ。

 

 「じゃあ、教師以下各クラスにも話を通すさね」

 「へいへい」

 「先生たちも知らないことを僕たちが先に知れるって何かすごいね」

 「まあ。それだけ学校に貢献してるってことだ」 

 「嫌味が籠ってるさね。真実だから何も言い返せないさね」

 まあ、相当感謝してもらってるらしい。もちろん、罪悪感も多少は残ってる(と信じたい)

 

 「じゃ、俺たちはこれで」

 「失礼します」

 おそらく、この話は今日のHRでみんなに伝わることだろう。雄二たちも本気で優勝を狙いに来るはずだ。Fクラスまでとは言わないが、モチベーションはAクラスといえども上がると思う。勝ちを取りに行かないとね。

 

 

     ★

 

 

 「 ー ということなのですが、何か質問がありますか?」

 案外乗り気じゃねえ!! 取られたやつほとんどいなかったもんな~ でも、最高クラスなら勝ちが当然じゃないのか!?

 

 「では、作戦等を話し合ってください。霧島さん」

 「………はい」

 霧島。夏休みの間全く見なかったが……まだ気持ちは変わってないのかね。まあ、それとこれとは話は別。

 

 「………まず、野球経験者は?」

 周りを見渡すと誰も手が上がっていなかった。要するに、オレだけだ。

 

 「………七島」

 「何か?」

 「………今回も任せる。私野球分からない」

 「それでいいのか?」

 「………構わない。最高クラスとして恥ずかしくないように」

 「了解。本気で勝ちを狙いに行く」

 オレは霧島に促されるように全員の前に行き、話す。

 

 「先ほど霧島代表が言ったように、最高クラスとして恥ずかしくないように。それと昨日あった抜き打ち持ち検で、没収されたヤツはほとんどいないだろうが、他のクラスは結構没収されている」

 『それがどうかしたか?』

 「優勝したクラスはそれが返却されることになる。だから、どのクラスもモチベーション高い」

 オレがこう言うと、ざわめきが起こった。優等生のかたがたは下々の考えや学園長の考えを分からないらしい。学校に持ってきてはいけないものを取られているのに何故返却? とか、没収されてて当然とか。学園長は甘いのではないかとか……よく考えようよ。決勝は教師チームだぞ。学園長も負けるはずは無いとふんでそのくらいの条件(エサ)を出してるだろ。真面目ぶりやがって……何か優等生は融通が利かなくてあわんな。

 

 「まあ、そんなに没収されて当然と思うなら、Aクラスとして教師代理として他のクラスをぶっつぶせばいい」

 『なるほど』

 『Aクラスとして責任があるな』

 おっ。この手の話には乗るのか。まあAクラスとか教師代理とかいかにもって感じだし。

 

 「先に言っておくが、オレらが罰を加えるからといって油断はするな。確実に足元をすくわれる」

 『Aクラスをなめるな』

 『点数の差があるだろ』

 「野球経験者がオレしかいないだけでまず不利だ。野球だぞ。スポーツだぞ」

 オレがこういうと微妙に教室が静まり返った。確かにと言わんばかりに。頭がいい人間が野球上手くなるなら、今頃プロ野球選手は全員優等生だ。それに、点数を体に置き換えてみても分かる。プロ選手は必ずしも全員がでかいわけではない。

 

 「それと、3年も出場するから、操作技術において不利だ」

 『1年の差は大きいものな』

 3-Aは最強に違いない。何かの拍子に負けるといいんだけど……

 

 「というわけで、まあ……他の競技と並行して大変だが、確実に上を目指そう」

 オレの〆で、HRは終わった。

 

 さて……まず、ナイン誰を選ぶか。見たところ運動出来そうなやつもあまりいないしな……こうなれば、仕方ない。上から順番と、相性を考えよう。意外に野球もチームプレー。チームに和を乱すやつがいるとまとまらない。

 

 ってことは、霧島・久保・優子さん・愛子ちゃん・佐藤さんは確定させるとして……後3人。

 どうしようか……

 

 「………七島。ちょっといい?」

 「なに?」

 「………メンバー決めは後ででいいから、私と話をして欲しい」

 「重要ごとのようだな」

 「………そう」

 このまま仲違いしておくわけにもいかないので、話には乗る。体育祭・学園祭と続いてくこの2学期、仲直りは必須条件だろう。

 

 「………ついてきて」

 と、休み時間に空き教室に呼び出された。そこには、優子さんと愛子ちゃん・梓ちゃんと憂ちゃんがいた。

 

 「えっ?」

 オレは一瞬事情がつかめなかった。だが、そこにいるメンツと霧島。接点といったらあの事件しかない。1学期の暴走召喚獣事件。全員の表情を見る限り真剣だから、その関連の話かもしれない。

 

 「………みんな集まってくれてありがとう」

 「用件は何なの代表?」

 「………私、夏休みの間ずっと考えていた。自分のこと。雄二のこと」

 「それで?」

 「………私、随分ひどいことをした。前に七島が言った取り返しのつかないといった理由が分かった」

 現に取り返しがつかなくなっている。

 

 「………ずっと自分で自分を責めていた。何であんなことしたんだろうって」

 「反省をしてたということか。上辺だけ?本心から?」

 「本心からに決まってる! だから……雄二と元通りに戻りたい」

 「自分が一番分かってるよね。もう元には戻れないって」

 「それはもちろん! でも……でも…………どうしても諦め切れなくて……」

 ようやく、年相応の恋する乙女となったか。今まで何に取り憑かれていたのだ。それによって自分だけでなく周りの人まで巻き込んでるぞ。

 

 「その想いが強すぎたから雄二をあそこまでにするくらいに追い詰めたんじゃないの?」

 「そうね。客観的に見て判断することがなかった。夏休みはそのいい機会だったんじゃない」

 みんな、霧島への不信感を徐々に薄め、霧島を更正させようと一役買おうとしている。

 

 「………だから、雄二と話したいの。元通りとまでは言わない。でも、せめて話せるくらいにはなりたい!」

 「その協力をアタシたちに仰いだわけね」

 「そう! お願い。今までみんなに迷惑掛けたのは謝る。だから ー 」

 「そこ。一番迷惑だったのは雄二よ。何かと幼馴染で付き合い長い分、つらかったでしょうね」

 「優子……?」

 「自分が信じている人からここまでされるって人間不信に陥りかねなかったわよ」

 「………雄二……ごめんなさい」

 「雄二はそれでも前を向いている。強いわよ。代表が惚れるのも分かるわ。でも」

 「でも?」

 「それに甘えすぎていたのよね。周りが見えなくなっているから止まることも出来ない」

 「………どうして……どうして優子はそこまで分かるの?」

 「アタシはもともと第三者の立場にいたからかな。仲良くなってからも客観的に見ることが出来る。だから、雄二がどんな心境なのか、とかも少しは分かる気もするの」

 「代表はそこを見落としていたんだよ。だから、今からはそのアドバイスを素直に受け止めて」

 「………うん。ありがと。みんな……でも、優子」

 「なに?」

 「………いつから雄二を下の名前で?」

 「な、なっ!? い、いつからかしらね」

 「代表、嫉妬しちゃダメですよ。また周りが見えなくなります!」

 「………うん。分かってる。アドバイス聞いた」

 「それでいいです」

 「………優子が羨ましい」

 「道を誤っただけで、ゴールにはまだ辿り着けますよ」

 「………うん。まずは、雄二と話せるようになる。みんなも協力お願い」

 「分かったわ」

 随分と長い会話だったけど、オレが口を挟めそうな雰囲気ではなかったな。女子同士のほうが、こういうのは分かり合えるだろう。しかし、よかったよ。猛省して、おそらく元通りの無垢な霧島に戻って。これからクラス行事が増えるから、いいことだ。

 

 さて雄二よ。お前はどうする。まだ無意識のうちに避けてしまうか。そうだろうな。オレら周りの人間から見たら比べ物にならないくらいの深い傷を負っているもんな。だが、その傷をそのままにしておくのもどうか。オレたちが全力でサポートするから、どうにかして立ち直ってみようぜ。協力する。

 

 




 
 一発目は体育祭。 
 でも、そんな雰囲気じゃないですね……

 霧島改心!
 どうも、アンチ霧島になりきれなかったようです。
 でも、失った部分は大きい。
 これから、Aクラスのみんなや雄二のまわりの人の支えを受けてどこまで進歩するのか。

 姫路・島田は一体どうなるのか!?

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#67 野球!


 さっさと、行事ごとを進めて行きます。

 早速本番。

 どうなることやら。

 では、どうぞ!!




 

 「早いな~体育祭」

 「そうだね。唯先輩たち、野球大会出ないって言ってたよ」

 「そうかあ……3-Aには温存できるくらいの力があるんだな」

 「みたいだね。どうも学年主席を中心に文武両道の人が多いみたいだし」

 教室から、運動場に歩いていくときに梓ちゃんと話す。体育祭は、普通の競技と野球大会と大きく2つに分かれている。

 

 「最初の相手は2-Bみたいだよ」

 「あ、憂。おはよう」

 「おはよ~」

 霧島さんや優子さん・愛子ちゃんと話していた憂ちゃんが情報を持ってきてくれた。

 

 「2-Bというと、根本か」

 「だね」

 「勝てるの?」

 「よっぽど2-Aが運動出来ない人が多くない限り大丈夫だろう」

 「それじゃあ、ちょっと危ないってことだね」

 憂ちゃんの懸念もごもっとも。ウチのクラス、運動できない人多すぎるんだ。

 

 「………何とかして勝つ」

 「霧島さん」

 「そういうことよ」

 「優子ちゃん」

 「ま、ヒロ君に全て任せるんだけどね~」

 「愛子ちゃん」

 後ろから追いついてきた彼女らが、威勢のいいことを言う。モチベーションが問題ともなるかもしれないから、ポジティブに考えていこう。

 

 「………そろそろ試合」

 「早いね」

 「学園長が面倒くさがりやでこういうとき助かる」

 開会式も存在しないこの学園。ある意味大丈夫か?

 

 「急ごう!」

 「うん」

 少々小走りになり、試合会場に着く。そこにはずらっと5人の先生が並んでいた。

 

 「急いでください」

 「はい」

 この先生方は、審判兼フィールド作成。オレたちの少し遅れて、残りのAクラスのメンバーと2-Bのメンバーが来たんだが……

 

 

    ★

 

 

 「くっ……強すぎるだろ」

 「怖がりすぎだろ」 

 あっさりと勝ってしまった。2-Bの連中、ウチを怖がりすぎて、フォアボールの連発。満塁になったとこで、4番オレ。あ、何かかっこいい。ま、いいとして。満塁だとストライクにどうしてもいれないといけないから、ど真ん中に程よいスピードで来たから打ったら入っちゃった。タイミングさえよければ、点数が高いとホームランになるな。

 こんな感じであっさりと……何か物足りない。

 

 「七島1人にやられた……」

 「何だお前。乱打戦を目論んでいたか。Aクラスにも運動神経いいやつがいないと読んで」

 「ああ。打ち合いで、勝てる可能性もあるからな」

 「残念だったな」

 ピッチャーがボールを制球出来る出来ないは本当に大きい。

 

 「どうやら、第二会場では2-Fが勝ったらしいぞ」

 という声が聞こえてきた。まあ、2-Eはソフトボール部や野球部に所属している人間が多いから心配していたが、操作技術と得点で上回ったみたいだな。どこかで当たるまで楽しみにしておこう。

 

 

    ★

 

 「そっちでも競技頑張ってるみたいだね」

 「そこそこね。でも、Eクラスには叶わないよ」 

 Eクラス、通称運動部クラス。ほとんどの人間が運動部に所属している。まあ、体育祭なんだし、そこが勝って当たり前といった下馬評がある。

 

 「おい、七島!」

 「どうした?」

 「2-F快進撃だ」

 「ふ~ん」

 「興味無さそうだな」

 「勝ち上がるのは当然だろ」

 「ま、一応報告しておくが、準決勝進出だ」

 「ほ~」

 準決勝? ってことは、3-Eも倒して、3-Cも倒したのかよ。

 

 「強いなやつら」

 「でも、予想してたんでしょ」

 「当たり前だ。雄二がいて、今のFクラスならそこまでいけるさ」

 「そうだよね」

 「それに、おそらくまだせこい手を使っていない」

 雄二には最終兵器が残っている。悪知恵。

 

 「ヒロ君たちも勝ったら準決勝なんでしょ」

 「ってことは、勝ったらFクラスとだね」

 「そういうこと。でも、相手は3-A。最強クラス」

 「そうなんだ……頑張ってね。わたしたちも競技頑張ってくるから」

 昼休みの会話であった。

 

 

    ★

 

 

 「………七島、遅い」

 「申し訳ねえ。いろいろとしてた」 

 「遅いぞヒロ!」

 「って、りっちゃん!? どうして?」

 梓ちゃんの話によると、軽音部のメンバーはでないんじゃ……?

 

 「いや~高城やら葵やらが競技のほうに出ないといけないらしくてさ」

 「学園長に無理やり競技に参加しろって言われたらしくて」

 「ってことで、私たちが出ることになったの」

 「お手柔らかにね、ヒロ君♪」

 ははは……こりゃなおさら負けられないじゃないですか。学年主席とその補佐がいない3Aクラスに。

 

 「………さっきと同じ感じでいいの?」

 「まあね。よし。戦うか」

 ピッチャーオレ。キャッチャーは点数も高くて運動神経のいい優子さん。ファーストに霧島代表(運動神経もいいからね重要)。セカンドに佐藤さん。サードに久保君。ショートに愛子ちゃん。これだけ内野陣固めてりゃいいさ。そう簡単には外野にはボールを飛ばさせない。

 

 「サインはさっきと同じで良いのかしら?」

 「構わない。さっきよりも厳しく行くから覚悟してね」

 「誰に向かって言ってるのかしら」

 「言ったね。優子さん。頼んだよ」

 「任せておきなさい」

 普通、女の子にキャッチャーはさせられないけど。いかんせんウチのクラスの男子オレ以外誰も運動できないんだ……久保はマシだが、優子さんに劣る。バッテリーだけで勝負を決めたいところ。

 

 「プレイボール!」

 と、竹中先生の声がかかった。竹中先生といえば、国語だな。苦手教科ではない。大丈夫だろう。

 

 「さ~って、ヒロをぶっ飛ばしますか!」

 「最初っからりっちゃんかよ!」

 「核弾頭と呼んでくれたまえ」

 「自分のチームを爆発させないように……」

 3-Aは情報によると、2-Aと同じく運動部が少ないと。高城・小暮には気をつけろとのことだが、幸運にも2人は不在。鬼の居ぬ間にではないが、勝たせてもらう。2-Fと戦いたいもので。

 

 「ストラックアウト!」

 「手加減しろよヒロ!」

 「無理に決まってるじゃないですか。パーフェクト目指してるんですから」

 「ケチ~!」

 微妙にAクラスの方々のプライドをゆすってみた。挑発に乗るかな。スポーツは挑発に乗ったら負け。オレの目論見どおり、軽音部以外の3Aクラスの方々は熱くなってきたようだ。柄にもなく、熱くなったら本当にやばいと思うよ。

 

 「ストラックアウト」

 「ストラックアウト。チェンジ!」

 3者連続3球三振。

 

 「コチラが本気かしら?」

 「さあてな」

 「まだまだいけるならどんどんいいわよ」

 「いいね」

 優子さんは本当に安心できる。心置きなくピッチングに集中できるものだ。

 

 「よっしゃ~さっさと抑えて攻撃だ!」

 「お~!」

 クラス一の元気者(らしい)りっちゃんがピッチャーだ。澪ちゃんがキャッチャー。まあこのコンビは妥当か。唯先輩ムギ先輩は、運動が得意ではないらしく、レフト・ライトにいた。

 

 「ストラックアウト!」

 ……同じようなものなのか……1・2番と続けて凡退した。りっちゃんは元気よく投げているも、コントロールには結構気を遣っているらしく、フォアボールがない。

 

 「さて、アタシの出番のようね」

 「優子さん出塁頼んだよ」

 「任せなさい」

 非常に頼りになる優子さん。1球でセンター前にはじき返した。2アウトランナー一塁。

 

 「りっちゃん、勝負しようか」

 「え~ヒロと~」

 「すまないがヒロよ」

 「どうしたの澪ちゃん」

 打席に入る前に澪ちゃんが謝ったが……その謎はすぐに分かった。

 

 『敬遠!?』

 「いや~悪いねえ。こちとら負けてられないんだ」

 「最大の得点源は封じさせてもらうよ」

 「へえ。おもしろいじゃん」

 敬遠で一塁に歩かされるオレ。ネクストバッターズサークルにいた霧島代表がちょびっとばかし怒っている雰囲気が見えた。そりゃそうだろう。学年主席の前で敬遠されるのだから。

 

 「………田井中さん。あなたの負け」

 「ふふ。いいね2年の学年主席。これはこちらの代表からの言伝だから仕方ないんだよ」

 「………早く投げて」

 「おおっ! 闘志全開だね」

 りっちゃんが、代表との口論に夢中になっている隙に、オレと優子さんはサインを送りあった。

 

 「でも、打たせないよ!」

 「っ! しまった盗塁!?」

 「………残念」

 オレと優子さんのダブルスチール+霧島代表のヒッティング。要するに2アウトランナー1・2塁からのヒットエンドランであった。綺麗に1・2塁間を抜け、ライト前ヒット。優子さんは悠々とホームに還る。

 

 「ゴメンねムギ先輩!」

 「む、ムギ! ホーム!」

 「ヒロがランナーだとこういうのもあるか!!」

 「残念だね」

 とにかく守備陣が穴ならば、次の塁を狙うのは当たり前。オレはボールが転がった瞬間にホームを狙っていた。単打であろうと関係ない。送球がずれれば、3塁どころかホームまで狙える。

 

 「くそ~っ! 悔しい!!」

 「2-Aをバカにしたら困るよりっちゃん」

 「バカにはしてない!」 

 「こちらとて、運動できない集まりなのだ……」

 ホームで立ち尽くしていた澪ちゃんの呟き。それはとてもとても重たい言葉であった。

 次の愛子ちゃんはりっちゃんの好反射でピッチャーライナーに終わったものの、初回の2点は大きい。

 

 それが、改めて分かるのが最終回である5回。1回の裏以外スコアボードに0が並ぶ。3-Aはこれで2以上の数字をスコアボードに刻まなければ負けとなる。因みに、「H」のところの数字も0である。要するにオレは後3人で完全試合がかかっている。

 

 「最終回。自然に緊張するでしょうけど、落ち着きなさいね」

 「分かってるよ。人前には慣れているさ」

 「もう緊張してる? 人前とこれは関係ないでしょ」

 「そ、そうだね」

 いくら下手糞とはいえ、当たると飛ぶバッターが9人も並んでいる打線を相手にするのは心臓に悪い。

 

 「わたし…からですね」

 「ムギ先輩かあ。容赦なく行きますよ」

 「怖くないです怖くないです!」

 オレは目を疑った。ムギ先輩目をつぶってバットを振ったのであった。あまりにもテキトーだが、当たってしまう。

 

 「………びっくりした」

 「おおっ! ナイスキャッチ霧島さん」

 1・2塁間のライナーを飛びついてとる(あくまで、これは召喚獣の野球=召喚獣が飛びつく)

 

 「よかった~まだまだだ」

 「みなさん、当たりますよ!」

 「そうだね、ムギちゃんだって当たったんだもの!」

 「よ~っし、次行くのは僕だね」

 勝手に盛り上がってるところ申し訳ないが、勝つのはオレたちだ。

 

 「ストラックアウト!」

 ボールに当たることさえさせないさ。

 

 「さらにピッチ上げてきたよ」  

 「さっきのムギちゃんのあたりを見てびっくりしたんでしょうね」

 「あのファーストじゃなかったら……」

 諦めムードに入ったんなら、遠慮なく勝たせてもらいますよ。

 

 「そうはいかないよヒロ君!」

 「最後は唯先輩かよ」 

 「わたしには必殺技がある!」

 「それは?」

 「この大人の魅力?」

 聞かなかったことにしよう。よっし。気を取り直して。さっさと決着つけるか。

 

 「ちょっと無視はひどいよ~ヒロ君!」

 「周りを見てくださいよ……」

 「え?」

 オレがこういったのも、3年生側に頭に手を当ててる人がほとんどだったからだ。

 

 「行きますよ!」

 「ひどい! よそ見しているときに!」

 今までのストレートと違い、唯先輩に考慮して超スローボールを投げる。

 

 「ん? お、え、とりゃ!」

 まあ、タイミングが合わないわけです。チェンジオブペースということだ。

 

 「全部それで投げてよ!」

 「全力で断ります!」

 それじゃ、チェンジオブペースの意味が無い。ストレートの中にたまに混ぜるから効果がある。

 

 「よ~っし次来い!」

 「っ!!」

 オレは、裏をかいて、もう1球同じ球を続けた。

 

 「来た!!」 

 「何っ!?」

 ボールは遙か彼方に飛んでいく。唯先輩はこの球にヤマを張っていたらしい。しくじった……

 

 「ファール」

 「ええっ? ホームランじゃないの?」

 「よかった……」

 ギリギリでポール外にきれたからよかったけど……最後の1人でホームラン打たれるところだった……

 

 「ということで、ヒロ君もう1球よろしく」

 「絶対に投げない」 

 もう投げるものか。唯先輩が単純すぎて危ない。

 オレは優子さんとのサイン交換で球種を決めた。最後に投げた球は!!





 つまらない試合はカットしました。

 果たして、2Aと3Aの試合はどうなる!?

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#68 決戦!


 続きは、すぐに終わります。

 そして、野球大会もおもしろくなってきます。

 対する競技のほうは、そこまで……

 では、どうぞ!!



 

 「悔しい~!!」

 「ヒロのほうが一枚上手だったか~」

 「へっへっへ……」

 結果は2Aの勝利。最後の1球は本当に危なかった。

 

 「流石にヒロ君はストレート投げてくるかな~と思って唯に指示出したんだけど」

 「まさか、3連続アレとは恐れ入った」

 ってか、澪ちゃんやりっちゃんがベンチから指示出している時点でなんとなく予想ついてたさ。それに、よくよく考えてみれば、唯先輩にホームラン打たれても2-1でそのまま勝ってたんだし……そこまで怖がらなくて良かったか。

 

 「おめでとう完全試合!」

 「あれ、梓ちゃん! いつから?」

 「さっき。でもまさか、先輩方がいるとは思ってなかったです!」

 梓ちゃんが応援に駆けつけてくれていた。隣には憂ちゃんも。そして、遠くにはFクラスの連中も。情報を早速集めに入っていたのか……しまったな。見られているならもうちょい手の内隠しておけば……

 

 「敗者はおとなしく去るよ」

 「律先輩が何かかっこいい!」

 「見栄を張るな。高城代表に報告に行くんだろうが」

 「てへっ」

 負けの報告を聞いた高城代表がどうなるかは別にどうでもいい。オレらは次に控えている2-F戦に集中だ。

 

 

    ★

 

 

 「いよいよ、このときが来たか。決勝戦。いや準決勝戦」

 「これに勝った方が、教師と戦えるんだな」

 「楽しみだぜ」

 2Fと2Aの戦いが今スタート(プレイボール!!)

 

 「オレたちは今度は先攻か」

 「………前2戦と何も変わらない?」

 「どうこうしてどうなる相手でもあるまい。今のままで」

 「………分かった」

 2Fのバッテリー。アキがピッチャー、雄二がキャッチャー。竜也がファーストでセカンドが須川、サードに島田、ショートに秀吉。センターに康太か。レフトに姫路。ライトは誰だったっけか?

 

 「明久、Aクラスは野球経験者は少ない。だが、一発が怖いからな」

 「うん。コントロール重視だね」

 「ああ。しっかりこい」

 まあ、スポーツでFクラスにはかなわない。あっという間に三者凡退。

 

 「オレも負けてられないけどな」

 お返しとばかりに三者凡退に切ってとる。

 

 「やるな」

 「お互い様だ」

 ベンチに帰るときに、雄二とすれ違ってこんな会話があった。次はオレの打順だ。

 

 「ヒロか……」

 「明久。作戦通りだ」

 「OK!」

 敬遠とまでははっきりしたものじゃなかったが、明らかに勝負を避けていた。こいつらもプライドにこだわらずに全力で勝ちを狙いに来ている。

 

 「フォアボール」

 またしてもフォアボールでの出塁。だが、盗塁は出来ないとみた。アキの警戒、雄二の肩の強さ。尋常じゃない。バッターは霧島代表だ。こっちのバットにかけてもいい。

 

 「………しまった」

 最悪の4-6-3のダブルプレー。オレがリードが小さいのもあって、ゲッツー崩しも出来なかった。

 

 「注文どおりだな」

 「流石は雄二。このまま愛子ちゃんも抑えるさ」

 「ほう」

 「狙うはホームラン。さ~ってアッキーはどうする!?」

 アキは普通に、愛子ちゃんを三振に切ってとった。

 

 「え~まったく当たらないよ! 手加減は無しなんだね」

 「それは当たり前だよ。みんなに失礼じゃないか」

 「ボクたちもそのつもりだから」 

 あっという間に、2回の表の攻撃が終了した。

 

 「オレたちも打たせる気は無いぜ秀吉」

 「ワシとて負けられんぞい」

 何故か4番に秀吉。雄二は何を考えているのだろう。

 

 「くっ……すまぬ雄二」

 手加減はなしでいくといった。秀吉だろうが本気でアウトを取りに行く。

 続いて、打席に立ったのは康太。何でだ?

 

 「………甘い」

 「どちらがだ」

 1球目からセーフティーバントを仕掛ける康太。オレは康太なら当たり前と思い、投げてすぐに、バント処理に入る。そこに死んでる打球が転がってくるんだからアウト1つもうけた。

 

 「でも、バントは絶妙よね」

 「確かに」

 ド○ベンの殿○みたいに、○線上の ー だったぞ。

 

 「流石はヒロ。元野球部だけあるよ」

 「6番はアキか」

 「何で6番なのかは分からないんだけどね」

 「今までの試合は違ったんだな」

 「うん。毎回バラバラ」

 一応、念入りに作戦は立てているのだろう。ちょっと待てよ。この回4番が先頭打者だったよな。秀吉・康太・アキ。そして、ネクストには雄二。なるほど。最初らへん全部が三者凡退に抑えられたとしたら、5回はちょうど秀吉からの打順。普通に考えると1番からの攻撃に見えるってわけか。雄二は最終回に掛けている……最終回は保健体育。なるほど。理にかなってやがる。それならオレたちはそれまでに決着をつけておかないと。敗北必至。雄二らが、別に最初の方は三者凡退でいいならばありがたくアウトカウントをもらおう。

 

 「よし打て!」

 「くっ……」

 予想通り。ちょっと甘目をカットした。雄二からは1順目はオレの球筋に慣れろとでも言われたのかな。それならば手の内は見せないぞ。ストレートでおしまいだ。

 

 「久保君!」

 久保君の前に打球が転がった。しかし、久保君は落球。アキは一塁でセーフになった。

 

 「も、申し訳ない七島。断じて吉井君だから ー などと考えてはいないよ」

 「まあ、打たせたオレが悪いんだし」

 アキだからなんだって言うんだ。まあいい。相手の方も予定が狂ったんだからいいだろう。

 

 「さて、弘志勝負だ」

 「ほう。雄二か。でも、お前との勝負は少々後回しにさせてもらうぜ」

 「何?」

 『アウト』

 オレの左の方からアウトのコールが聞こえてきた。

 

 「ゆ、雄二……」

 「隠し球かよ。やるな」

 「ふん。ランナー溜めた状態でお前と戦いたくないだけだ」

 「さよか。まあ、予定には変わりない」

 「ほう。その余裕がいつまで続くかな」

 雄二はカットをとにかくして、ほどよいころにアキをディレードスティールさせるつもりだったんだろうな。出来るだけ球筋を見るために。それにはひっかからないぞ。

 

 「明久。ヒロが上手なだけだ。気にするな。それより無失点に抑える努力だ」

 「分かった」

 こちらとしても負けて入られない。んだが……3回も三者凡退……こちら層薄すぎるだろ……

 

 「休む暇も無いだろ」

 「そんなものいらねえわ」

 雄二が改めてバッターボックスに入ってくる。早く終わらせたいんだが、手を抜くと一発が出る。なんとも厄介な相手だ。

 

 「タイム」

 「何だ?」

 「優子さん、ちょっといいかな」 

 「どうしたのよ?」

 オレはバッテリーを組んでいる優子さんにマウンドに来てもらった。

 

 「ささやき戦術をしてもらいたい」

 「はあ?」

 「雄二にしか聞こえないくらいのささやき戦術。ボヤキで有名なあの人の現役時代の得意技だよ」

 「何で今のタイミングなの?」

 「雄二にしか通用しないと思って」

 「アタシは雄二にだけは通用しないと思ってたんだけど……」

 何言ってるの……優子さんなら雄二には成功するよ。

 

 「まあ、いいわ。何か手は打ってみましょう」

 「よろしく」

 少し思案顔のままホームに戻っていった。

 

 「何か作戦か?」

 「ええ。あなたに有効な作戦をね」

 「ほう。面白い」

 「ところで ー 」

 よし。優子さんはサインを出しながらも雄二に何かささやいているようだ。

 

 「ふっ!!」

 「ファール」

 「こんなものか……」

 「まだまだ!」

 「ファール」

 2球連続、バックネットに打球が。タイミングがバッチリな証拠。何投げるか悩みどころだ。

 

 「ささやき戦術なのか優子?」

 「えっ?」

 「真剣に勝負して来い」

 ばれたみたいだ。流石は雄二。こんなことじゃ集中力は切れないか。

 

 「しまった!」

 「デッドボール!」

 「すまん雄二」

 「気にするな。召喚獣だ。痛くないさ」

 オレのほうが動揺してしまったじゃないか……すまない優子さん。

 

 「さ~ってオレの出番だな!」

 「お前か竜也」

 「お前とは失礼だな。ヒロ」

 いや、運動神経がそこまでよくないお前だったらいいわ。

 

 「相手がオレだけだと思ったら大間違いだよ」

 「誰が相手お前だけと言った?」 

 「え?」

 『走った!』

 投げた直後に内野からこんな声が。ファーストランナー雄二が初球盗塁を仕掛けたようだ。

 

 「甘いわよ雄二!」

 オレは優子さんのサインで、ウエストをしていた。優子さんの思惑通り、セカンドでタッチアウト。

 

 「よっしゃ!」

 「ふう……上手くいったわ」

 上手い上手すぎる優子さん。野球かソフトボール経験者か?

 

 「ちっ……読まれてたか」

 「雄二の考えることくらい簡単よ」

 「………私でも分かった」

 微妙に代表も張り合ってるし。まあ、オレでも気づいた。別にアウトになっても構わないという考えだったのだろうか。まあ、その考えは分かる。だって、今の打者、竜也だもん。

 

 「ストラックアウト!」

 簡単に三振取ったし。

 

 「くそ~手加減しろ!」

 「お前はスポーツダメダメだろうが」

 「そこまで悪くないやい!」

 黙って引っ込んでろ。何なに。次はモブか。誰だっけかコイツ。覚えてねえな。

 

 「ストラックアウト! チェンジ!」

 まあ、余裕ですけど。康太・アキ・雄二以外のやつには打たせる気はねえよ。あいつらは特別に運動神経に優れているから。怖い。そもそもオレは本職ピッチャーではない。

 

 「………4回」

 「そろそろ点数取っておかないとね」

 「そうなんだよ」

 5回に猛攻しかけられる前にね。

 

 「 ー ツーアウト」

 えっ? 早すぎない? もう1・2番アウトになったの?

 

 「とにかく出塁だけはするわ」

 「頼む!」

 2アウトランナーなしで優子さん。1人でも出たら、オレ、代表と繋がる。

 

 「優子さん、負けるものか!」

 「その球待ってたわ」

 「何っ!?」

 完全な読み打ち。雄二がアウトコース低めのストレートを要求すると読んでいたみたいだ。綺麗にライト前ヒット。

 

 「よし。ランナー出たし。1点は取っておかないと」 

 「ちょっとまずいな」

 「敬遠するにしても得点圏で翔子か……怖いな。(二重の意味で)」

 雄二がちょびっと動揺している。確かに、怖いよな霧島。でも、それを乗り越えれるかな。その前にオレとの対戦も待っているぞ。

 

 「いけっ!」

 「ぬわ!!」

 ブラッシュボール。避けなかったら頭。今のはわざとだな。

 

 「ここだ!」

 「くっ……」

 綺麗にアウトロー一杯。さっきの残像でボールに見えた。

 

 「全力で抑えさせてもらうぜ」

 「1-1か。打ち時だな」

 オレはある球を読んだ。変化球を未だ投げていないアキは、ここで使ってくるとふんだ。

 

 「これでどうかな!!」

 「予想通り!」

 デッドボールコースから曲がるスライダー。見逃してもボールだが、オレは体を開いて無理に打った。

 

 「何!?」

 ボールは左中間に転がる。

 

 「まずい!!」

 「姫路、ホームだ!!」

 仲違いしているとはいえ、1つのチームとしてまとまってないといけないのはこいつらも分かっているらしく、素直に指示を出していた。姫路も素直にその指示を聞いて、圧倒的な点数を生かし、強肩を見せた。

 

 「危ないわね」

 「優子さん、突っ込まなくて正解だよ」

 姫路の好返球で、点数が入らなかったオレたちは2アウトランナー2・3塁。

 

 「………私の番」

 「ちっ……どうするべきか。敬遠したとしてもアキには相性が悪い工藤」

 「雄二。もちろん勝負しよう! 満塁策なんてめんどくさい!」

 「っ……そうだな」

 オレたちとしてもありがたい。愛子ちゃんだったら何か策を持ってそうだが、それよりも霧島代表の方が確実性がある。

 

 「………雄二」

 「っ!?」

 「………ゴメンね。今まで。ひどいことして」

 「!?」

 「………今までの罪を完全に償うことは出来ないかもしれない。でも、雄二私は今でも雄二のことが好き」

 「っ!!」

 「私語は慎みなさい」

 「………すいません」

 何か、バッターボックスのところで霧島が雄二に対して言っていたみたいだが。後で内容を聞くか。それにしても雄二はよく耐えたな。まだトラウマ残ってるだろうに。悪鬼羅刹の頃の意地か。

 

 「負けるわけには!」

 「………私だって!」

 ボールはセンター前にふらふらっと上がる。オレはそれをポテンヒットと確信してホームに還ってきた。

 

 「アウト!」

 なんだと?

 

 「七島、大丈夫だ。2点は入っている。ただ、バッターランナーがセカンドでアウトということだ」

 「そういうことか」

 後ろを振り返ってみると、康太がダイビングキャッチした感じだからノーバンで取られたかと。ただ、試みたけど、失敗してそれを見た霧島がセカンドに突っ込んだけど、秀吉のカバーが上手くてアウトだったと。

 

 「………ごめん」

 「2点は入ったんだ。さあ、4回裏ココを抑えよう!」

 「………うん」

 詳しい話は試合後だ。雄二にも聞こう。だが、今は試合に集中!

 

 4回裏、須川・島田・姫路を三者凡退に切ってとると、5回表、アキがこちらの打線を三者凡退に抑えた。

 

 「マジで4回に点数とっておいてよかった……」

 「まだ勝ってないわよ。油断大敵」

 「そりゃ分かってるさ。相手がこの回に勝負掛けてきたのは分かってること」

 秀吉・康太・アキ・雄二と続く打線な上、教科は保健体育。100%以上の力を出すつもりで行かないと。

 

 「さ~て、本番じゃな」

 「やっぱりこの回に勝負掛けてきてたのね」 

 「何じゃ。お見通しじゃったか。流石は姉上」

 「そりゃ分かるわよ。ウチのピッチャー誰だと思ってるのかしら」

 「そうじゃな……分かってたとしても、ワシらが勝つぞい!」

 おそらく、秀吉はカットマン。野球選手に対してはあまり使わないと思うが。1番打者の役割として、ボールをたくさん投げさせる。っていうのがある。さまざまなボールの球筋を見る仕事だ。器用な秀吉にはいいかもしれない。

 

 「いい加減にくたばれよ!」

 「そう簡単には参らぬ!」

 10球以上投げさせられたが、何とか三振に取った。

 

 「これで、ムッツリーニや明久も打ちやすくなるであろう」

 「なかなかの策士ね」

 「………俺が相手だ」

 保健体育で、康太を相手するだと。何処に投げても怖いな。

 

 「落ち着きなさい。分かってたことでしょう」

 「そうだな。ホームランでも1点しか入らないしな」

 さっきの3A戦と同じ状況だ。今度は落ち着く。だが、さっきと違うのは、ヒットを打たれるのも怖いということ。康太が足が速い上、アキ・雄二と続くということだ。恐ろしい作戦を考えるものだ。

 

 「ここでどうだ!」

 今日初めて投げるカーブ。だが、康太は反応した。

 

 「………抜けろ!」

 康太の打球は右中間にポテンと落ちた。ランニングホームランだけは阻止しないと!

 

 「おい、オレに投げろ!」

 自分で中継に入る。すまないが、愛子ちゃんやら佐藤さんには荷が重いから。

 

 「取られてたまるかよ!」

 「………危ない危ない」

 康太は3塁でストップ。1アウト3塁か……やばいな。

 

 「雄二の言うとおりの展開だ」

 「ここでゲッツー取れれば最高だな」

 「ヒロ、なめてる?」

 「いや。あくまで尊重してるさ」

 1点を確実に取りにくるか。つなぐか。前者ならばスクイズという手がある。だが、2点差の今それは可能性として低いだろう。

 

 「思いっきり投げなさい!」

 「任せろ」

 オレは、ストレートをコース一杯に!!

 

 「しまった!!」

 康太が走っているではないか! ホームスチールなわけが無い! アキもバントの構えだ。オレはそれに気づいた頃には既にリリースした後だった。運悪くコースはストライク。こうなったら、全力でダッシュしてホームでさすしかない。

 

 「よっしゃ!」

 アキは上手くボールを転がした。オレはそれをすぐにとり、グラブトスでホームに。

 

 

 ………………

 

 

 「あれ?」

 「まんまと図られたわよ」

 「康太はおとりか!」

 「そのとおりだ。1アウト1・3塁という一番やっかいな展開で、迎えるバッターは俺だ」

 最悪だ。あいつは試合開始のときから、この展開を予想してやがったか。

 

 「ゲッツーにとれば試合終了よ」

 「そうだよ。ヒロ君! ボクのところ任せて!」

 『お前なら抑えれるぞ!』

 まあ、声援が良く聞こえること。ありがたい。

 

 「人気者だな弘志」

 「お互い様だ」

 オレがこういうのも、2Fベンチからものすごい歓声が飛んでいたからであった。

 

 「そろそろ全部の変化球を解禁しないとな」

 「まだ持ってやがったか」

 もちろん。嘘。ピッチャーじゃないやつがそんなにたくさんの変化球を持ってるわけが無い。

 

 「これで勝負決める!」

 「俺らの勝ちだ!」

 オレが投じた1球は雄二のバットに当たった。

 白球よ何処へ……

 

 





 2Fと2Aの対決。
 その勝敗やいかに。
 雄二と弘志の手にゆだねられています。

 雄二と翔子の関係、一体どうなる!?

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#69 仲直り!


 数話にまたがった体育祭も今話で終了。

 ちょびっとした伏線を回収いたしますよ。

 では、どうぞ!




 

 

 「ゲームセット!」

 「ありがとうございました」

 終わった……この試合も。今年の体育祭も。サヨナラ負けにて幕を閉じた。

 

 「ナイスボールだったわよ」

 「ありがとう。優子さん。だが、結果は負けだ」

 雄二の打球は打った瞬間ホームランと分かる打球だった。派手に打たれて散った。準決勝敗退。

 

 「気持ちいいぜ!」

 「お前には負けた。あんな特大ホームランで終わらせるなんてこっちもすっきりする」

 「最高のボールをあんな綺麗に打ち返すものね。脱帽だわ」

 「褒めてもらえて何よりだ。まあそのまえにちゃんと任務を果たしたこいつらのおかげだな」

 確かに。秀吉の粘り強さに、康太の俊足、アキの意外性で、最後は雄二がボーンと。

 

 「ヒロ、しっかり先生達に勝ってくるから!」 

 「オレたちを倒したんだ自信持っていいぞ」

 「そうじゃな。では、ワシらは最後の決戦の場へ乗り込もうではないか」

 「………了解」

 会話もほどほどにFクラス連中は去っていった。

 

 「……………」

 「……………」

 「……………」

 霧島と姫路と島田。お互いに顔を見合わせて、無言で立ち去っていった。心の中で会話でもしたのだろうか。

 

 「ドンマイ! おしかったね~」 

 「よくこの戦力で勝ちあがってきたわよ」

 「………ほとんど七島と優子の活躍」

 「そりゃ申し訳ない……打たせても良かったが、エラーされたりするとむかつくからそれが嫌で」

 「構わないよ。僕だってエラーしてしまった」

 「勝ちたかったな」 

 誰かが言った一言。みんなちょっと気落ちした。結構マジで勝利取りにいったからな。客観的に見たらよくぞこの戦力でと思うが……まあ。終わったことだ。Fクラスを応援するか。

 

 「………まだ、体育祭の本戦終わってない」

 「ってことは?」

 「………今からそちらに合流する」

 「Fクラス戦は?」

 「当然見ることが出来ないわね」

 そんな……重労働にもほどがあるよ。

 

 

     ★

 

 

 「おしかったみたいだね。ヒロ君」

 「後1人ってとこで、雄二に負けた」

 「流石ってことかな」

 「悔しい。思い出すだけで悔しい。競技に出て鬱憤はらす!」

 何の競技があるかはよく知らんが、とにかく出てやる!

 

 「………七島大丈夫?」 

 「大丈夫だと思うよ。人一倍負けず嫌いなだけだから」

 「アタシも悔しいわ……雄二には負けたくなかったのに」

 「………優子……終わったことを糧にして次のことを」

 「代表~そうね。アタシも何に出ようかしら」

 Aクラスの男女の運動神経がいい人間が野球大会から帰ってきたから本戦にも活気付いたらしい。

 

 

   ★

 

 「 ー 流石に、体育祭じゃトップとれないか~」

 「疲れたわね」

 「お疲れ様。はい、これどうぞ」 

 「アク○リじゃん。どうしたの?」

 「ご褒美に」

 「ありがと!」

 500mlを一気飲みする。プファー……いい汗かいたな~

 

 「ところで、Fクラスはどうなったんだろう」

 「そろそろ終わるんじゃないかな?」

 「あれはFクラスのみんなじゃないかな」

 「ホントだ♪ アッキーを先頭に帰って来ているよ」

 「あの様子だと、教師にまで勝った様ね」

 みんな明るい表情をして、ワイワイ喋りながら帰ってきた。

 

 「みんな~僕たち先生倒してきたよ~!!」

 「すげえ!」

 「おめでとう!」

 「まさか先生にまで勝つとは」

 「言ったろ。優勝するってさ」

 雄二のすげえところは、この有言実行だよ。

 

 「これでお宝が返ってくるぜ!」

 「ヒャッホー!」

 「お宝お宝」

 Fの野郎らがうるさすぎる。

 

 「ヒロ、何か持ち検で取られた?」 

 「ああ。音楽機器を」

 「分かった。僕のということで返してもらうよ」

 「何?」

 「優勝クラスは持ち検で没収されたものの返却じゃん」

 「そうだったな。オレのも一緒に引き取ってくれるのか?」

 「うん」

 「ありがとな。オレ以外のやつ何にも取られてないからさ」

 「そうなのか?」

 「ああ」

 「よく、それでモチベーションを保てたな。俺たちと互角だったのが信じられねえ」

 オレも信じられねえよ。それだけ、Aクラスというのにプライドを持っているというわけだ。

 

 「じゃ、また放課後に会おう」

 「おう」

 体育祭は終了した。疲れた。本当に疲れた。長い一日だったぜ……

 

   ★

 

 「ヒロ~」

 「アキか。終わったのか?」

 「うん。それで、没収されてたもの家に郵送するんだって」

 「そうか。迷惑掛けるな」

 「ううん全然」

 ありがたいな。Fが勝ってよかったのかもしれない。

 

 「他の野郎共は悲惨なことになっていたぞ」

 「やつらは何を没収されてたんだ」

 「まあ、Zのシールをつけていいようなものだ」

 「随分とオブラートに包んだな。意味は分かったが」

 要するに、エロ本とかを家に郵送されるんだろ。かわいそうに……

 

 「あれ、他の連中は?」

 「もう少しして来るだろ」

 他の連中というのは、秀吉や康太・竜也だ。

 

 「雄二、ちょっと話いいか?」

 「ん? 別に構わんが……ココじゃダメなんだな」

 「ん? まあ、そうだな。ちょっと離れたところがいい」

 オレが雄二を連れ、教室の端の方に行く。アキの相手は愛子ちゃんがしてくれているみたいだ。優子さんはオレが何の話をしたいか分かったらしく、霧島さんと話をし続けてくれている。梓ちゃんと憂ちゃんも気を遣って少し遠い場所に陣取ってくれた。

 

 「で?」

 「ああ。今日の対戦で、霧島に何か言われただろ」

 「っ!!」

 「まあ、責めるつもりはさらさらない。何て言われたのか。どう思ったのかを聞きたかっただけだ」

 「聞いてどうする?」

 「別にどうもこうもない」

 「嘘付け」

 「とにかく教えてくれ。その後にオレが知っている情報を教える」

 「俺に有益な情報なのか」

 「それは保障する」

 雄二は少し考えると、オレの話に乗ってくれた。

 

 「まあ、簡単な話今までの行いを反省しているといった内容だった」

 「やっぱりか」

 「やっぱり?」

 「ああ。2学期始まって早々、呼び出されたんだよ霧島に」

 「……」

 「お前が言われた内容とほぼ一緒だろう。雄二と話したいそうだ」

 「っ……」

 「お前が無意識のうちに避けてしまうってのはオレでもわかる。だが、霧島はどうしてもとオレたちに頼み込んだ」

 雄二としても今までの行いを許すって訳にも行かないだろう。それだけのことを霧島はやってしまっている。だが、何か方法は無いか。元の関係に戻れずとも、普通に喋る関係くらいにまでは戻れないか。

 

 「答えはな。今お前が言っただろ。俺は自然と翔子を避けてしまうんだ。話すことはおろか、目を合わせるのすら困難だ」

 「よく、試合では我慢したな」

 「体が震えていたさ。だがな、それ以上にクラスを勝たせるという使命を帯びていたからな」

 責任感の強い男だ。自分がつぶれてもってことか?

 

 「そうか。オレから一言いいか?」

 「何だ」

 「雄二。お前は霧島をまだ幼馴染として見れているのか。そうでなくば、もう赤の他人の存在か」

 「幼馴染さ。ただ、もうその関係には戻れない」

 「お前にまだその気持ちがあって助かった」

 「というと?」

 「赤の他人とはっきり言い切るなら、霧島に雄二のことは諦めるように言うつもりだった」

 「でも、話しかけられても俺は対応に困る。翔子を今まで以上に傷つけることになる」 

 「ココまで来ても霧島の心配を出来るのか……見上げた男だ」

 散々に体を痛めつけられた相手だぞ。いくら反省したからといえ許せるものなのか。

 

 「元はといえば、俺がはっきりと翔子に拒絶しないのが悪いんだ。それから翔子が羽目を外しすぎてしまったんだ。あいつの本性は素直だ。人に暴力を振るうヤツなんかじゃねえ」 

 「そこまで信用してるんだな。分かった。霧島にも何かと伝えておく」 

 「お、おい」

 「心配するな。徐々に。徐々に、話せる関係にまで戻ろう」

 「何故そこまでしてくれる?」

 「不器用なお前の行き方見てると放っておけないからだ」

 「嘘付け」

 「まあ、半分冗談。半分本気。ということで、霧島に話しかけられて嫌なときははっきりとそこで拒絶しろ」

 「分かった。そちらのほうが、翔子を傷つけなくて済むんだな」

 オレは雄二との話を終え、霧島のほうへ向かった。優子さんはオレと入れ替わるように雄二の元へ向かった。

 

 「久しぶり雄二に話しかけてどうだった?」

 「………雄二は何も変わってない。私が好きなまま」

 「だよな。完全に霧島が悪かった」

 「………うん。反省してる。好きな人を傷つけた私には罰が待っている」 

 「自分で言うか……まあ、その罰ってのが、好きな人と話すことが出来ないってことだな」

 トラウマを植えつけてしまってるんだから、何回も言うけど、復活は難しい。

 

 「さっき雄二と話してきた。まだお前のことを幼馴染と思っててくれたぞ」

 「………ホント?」

 「ああ。だが、体がどうしても拒絶するそうだ」

 「………私のせい」

 「その通りだな。で、オレは話を通してきた」

 「???」

 「話しかけられて嫌だったらはっきりと拒絶するから、その時は潔く霧島身を引け」

 「………七島、ありがとう。優子にも助かってる」

 「この言いつけ守ってくれよ」

 「………分かってる。何より、雄二のため」

 ここまでお互いのことを気遣いできるのに、どこでその歯車がかみ合わなくなったんだ。一度ずれると元には戻らないのか……優子さんはそのずれた歯車に何を助言しているのか気になるが。女子目線じゃないと分からないこともあるだろうから、ここは任せよう。適任だ。

 

 

    ★

 

 

 「雄二」

 「…今度は優子か」

 「悪かったわね。アタシで」

 「で、何のようだ?」

 「さっき代表と話したのよ」 

 そう告げながらアタシは雄二の顔色を伺う。

 

 「それで?」

 思いつめたような顔になって、返答した。

 

 「やっぱり話したいらしい」

 「さっきも弘志に言ったが、もう体が拒絶するんだ」

 「分かってるわ。でも、お互いが話せる関係に戻るのが一番いいじゃない」

 「それは分かってる」

 「もう、いいわ。あなたの傷を掘りかえそうなんて思ってないから」

 「?」

 「何かあったら、アタシか弘志に聞くこと。アタシたちが全力でサポートするから」

 「優子も弘志もだが、何故そこまでしてくれるんだ?」

 雄二のこの返答にアタシは詰まった。何でなんだろう。もともとのきっかけは代表との仲直りのはず。それがどうしてここまで発展したのかな。代表の苦しんでいる姿も、雄二の苦しんでいる姿もどちらも見たくないからなのかな?

 

 「分からないわ」

 結局、自分の中で答えは出なかった。

 

 「そうか。まあ、頼りになる。ありがとな」

 「っ!? ま、まあ当然のことよ。ええ」

 代表と雄二の仲直りをさせようとしているのに、アタシが雄二に惚れてしまったらその計画ごと破綻してしまうじゃないの! ダメよアタシ!

 

 

    ★

 

 「………聞きたいことがある」

 「何だ?」

 今度は逆に霧島から質問が。

 

 「………優子は雄二のことをどう思っていると思う?」

 「さあな。お互いに信頼しあえる関係とでもいうのか」

 「………お互いに信頼?」

 「オレの個人的な見解だがな。雄二も優子さんのことを信頼している」

 「………確かに優子は信頼できる」

 「お互いに信頼できているって、ものすごく強い絆だと思わないか?」

 「………???」

 「だって、不安なとき危険なときはそいつが隣にいるだけで安心できるんだぜ」

 「………うん」

 「これはお互いが好きっていう感情以上にすごく強い結びつきだぞ」

 「………優子になら、雄二を任せてもいいかも」

 任せるって、親かと言いたくなるが。それだけ、昔から雄二のことを見てきたということだな。

 

 「諦めるのか?」

 「………諦めはしないけど、優子なら仕方ないと思える」

 「何故だ?」

 「………雄二が最も安心できる場所・幸せになれる場所に居て欲しい。それが私の側じゃなくても」

 「その考えに辿り着いたか」

 コレは霧島だけでなく、姫路や島田にも持ってもらいたい考えだ。こういう考えを持つことが出来れば、間違っても暴力なんて行動には出ない。

 

 「………雄二が優子の側で一番安心できるならそこに居て欲しい。私は話せたらそれでいい」

 「随分と欲がなくなったもんだな」

 「………夏休みの間いろいろと考えた」

 これで霧島も脱皮したな。人間的に大きく成長したと思うぞ。

 

 「そうか。優子さんが聞いたらどんな反応するかな」

 「………優子はまだ雄二にその気持ち話してないの?」

 「お互いがお互い信頼しあっているというのはお互いが理解しているけど」

 「………何か難しい」

 そりゃそうだ。人間関係ってどんな攻略本でも攻略できないものだからな。

 

 「友達でもいいか。……その考えならば雄二と話せるようになるのを全力で応援しないとな」

 「………助かる」

 「オレは因みに、結構前から秀吉やアキと共に優子さんと雄二が仲良くなるようにしていた」

 「………怒らない。数ヶ月雄二を安心させていたのは優子なんだから当然」

 本当に変わったな。ここまで大人になれるものか。霧島も長い片思いだったろうに。

 

 

    ★

 

 「何かあの2人俺たちの話してると思うのは気のせいか」

 「気のせいじゃないわよ。でも、悪い噂ではないと思うわよ」

 そりゃそうだ。でも、何か企んでいる感じはした。

 

 「みんなのもとへ戻るわよ」

 「あ、ああ。散々迷惑掛けたな」

 「め、迷惑だ何て思ってないわよ」

 翔子からの攻撃で精神的に病んでいたのを救ってくれた優子。期末テストの折、成績upに貢献してくれた優子。いろいろと返しきれない恩は受けている。

 

 俺は優子が側にいると、安心できるんだよな。今後もずっと側にいて欲しいものだ。

 





 さあさあさあさあ!
 今後、雄二はどうなっていくの!?

 秀吉がまだまだ暗躍する時がくるのか。 
 はたまた、もうすぐゴールインするのか。

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#70 二元論!


 久しぶりのけいおん!回。
 2期の部室がない!の話です。

 そろそろ、学園祭という時期になってきました。

 では、どうぞ!




 

 「どうしたんですか先輩」

 体育祭が終わって数日後、オレと梓ちゃんが2人で部室に向かうと、先輩方が部室の外に居た。

 

 「ああ、梓・ヒロ」

 「とんちゃん!」

 梓ちゃんがちゃんと世話しているスッポンモドキの名前だ。

 

 「部室がね水道工事で使えないんだって」

 「予定だと工事は10日間だそうよ」

 「その間部室では練習できないのか」

 さわちゃん先生が用紙を見ながら教えてくれた。学園祭まで1ヶ月くらいしかないのに……大丈夫なのかな。

 

 「いろいろと当たってみたんだけど、無理だったわ」

 学校で練習は当分出来ないということか。

 

 「仕方ない。今日は帰って何かいい案が無いか考えないとな」

 「そうしましょう」

 さわちゃん先生に別れを告げ、オレたちは6人で帰途についた。

 

 「ちょっと寄ってこうぜ!」

 「律、落ち着けよ」

 「だって~期間限定のハンバーガーがあるんだぞ~!」

 「ホントに!? そりゃ食べてみたい」

 女子高生の話だが、オレもその話には大いに賛同する。

 

 店に入って、注文して席に着く。

 

 「そういえば、澪歌詞出来たのか?」

 りっちゃんがポテトをくわえながら聞く。そうそう。この軽音部の作詞担当は澪ちゃんだからな。

 

 「出来てるのは出来てるんだけど、律が却下って言うんだ」

 「そうなんですか?」

 「あれは澪が不調になったときに書くようなものだ」

 「というと?」

 「動物シリーズ」

 ちょびっと意味が分からないが、澪ちゃんが書いた歌詞だということで納得した。

 

 「じゃあ、みんなで歌詞を考えてこない?」

 「いいねそれ!」

 「わたしの歌詞はボツ?」

 「候補の一つってこと」

 オレも考えなくちゃいけないのか……新たな感覚だ。演奏するだけでなく自分で詞を書くのか。

 

 「じゃあ、各自作って明日発表な」

 「ラジャー!」

 「わたしも書くんですか?」

 「梓ちゃんの楽しみ~」

 楽しみなのには間違いないが、自分でも作詞をしないといけないというのは……

 

 「どんなタイトルがいいかな?」

 「タイトルから考えるんですか!?」

 「どきどき分度器とか?」

 「カバンのバカーンとか?」

 大真面目に考えているのだろうか。りっちゃんと唯先輩。

 

 「でも、よくよく考えてみると部室のありがたさが分かるよね」

 唯先輩?

 

 「いつも行っているとありがたみが分からないけど……」

 みんなが黙り込む。確かに唯先輩の言うとおりだ。

 たまにこういうこと言うんだもんな~……

 

 

 

 

 

   ~数日後~

 

 「帰ってきた~!!」

 10日の予定だった水道工事が早めに終わった。久しぶりの部室だ。

 

 「ここで練習できるなんてありがたいよね」

 「改めて実感するな」

 「もううろうろしなくていいのね」

 「毎日ココに来ていいんだよ。いいんだよ」

 いいんです! っていうどこかで聞いたことのあるフレーズに似ていたが、そのままにする。

 しかし、こういう機会がないと本当に大切なものが大切だと感じないものなんだな。こういうの何て言うんだっけ。そう、「二元論」だ。人間はモノの本当の価値は「一元論」では分からない。

 よく言われる、無くなってから初めてその大切さが分かるってやつ。

 

 「1曲練習しよう!」

 「そうだな」

 久しぶりにあわせる曲は何かさらなる一体感を生み出したように感じた。

 

 

 

 

   ~次の日~

 

 「な~んも思いつかん」

 「案外歌詞を考えるって難しいものですね」

 以前、公表したときにみんなの歌詞がイマイチだったからもう一回考え直してるのだが……どうにもいいのが思いつかない。

 

 「唯は余裕だな」

 「うん。もう3つ書いたからね」

 すげえ。みかん食べながらそう告げる唯先輩。一体何が?

 

 「憂にちょこーっとだけ手伝ってもらったんだ」

 絶対に半分以上憂ちゃんだな。しかし、唯先輩随分と眠そうだ。徹夜したのかな。

 

 「おいおい、去年みたいに風邪ひくなよ」

 「大丈夫。そのためにずっとみかん食べてるから!」

 なるほど。予防のためのみかんだったか。去年はいろいろと慌てたものな~

 

 

 

 

 

     ★

 

 「風邪ひいた~」

 「なっ!?」

 その日の夜、家に帰ってくるなり、携帯に電話が入った。唯先輩からだった。さっきの今だぞ。たった数時間前までのんきにみかん食べてた人が風邪ひくのかよ! オレは梓ちゃんに連絡を取ると、梓ちゃんは唯先輩の家に行くらしいからオレも行くことにした。

 

  

 

 

 

  

    ★

 

 『えっ? 風邪ひいたのは憂ちゃん?』

 平沢家につくなり、先輩方と合流。家にお邪魔すると、元気な姿の唯先輩が玄関に。そこから告げられたのは妹の憂ちゃんが風邪ひいたということであった。ほっとしたけど、憂ちゃんが心配だ。

 

 「焦らせるなよ~てっきり唯が風邪ひいたのかと思ったじゃないか~」

 「はは。ごめんごめん」

 全員に同じような電話をしていたらしい。主語が無いから勘違いするのも無理はない。

 

 「憂ちゃんが風邪ひいても大問題か」

 「わたしどうすれば……」

 普段、憂ちゃんが家事全般しているらしかったから、その苦労は計り知れない。

 

 「み、みなさん……いらっしゃい……」

 と、キッチンの方から声がして、お茶を持ってくる憂ちゃんの姿が。

 

 「な、なにやってるの憂!!」

 「わたしたちのことは構わなくていいから大事にしてないと!」

 風邪ひいているのにもかかわらず、オレたちのほうの世話を。唯先輩何をやっているんだ!

 

 「ほら、ちゃんと横になってなきゃ」

 「ごめんね梓ちゃん」

 憂ちゃんを部屋まで送り届け、梓ちゃんがしっかりと寝かせる。

 

 「熱はそんなに高くないみたいだわ」

 体温計を持っていたムギ先輩がそう告げる。

 

 「それじゃあ、そろそろ帰るな唯」

 「早いよ~みんな」

 「憂ちゃんがゆっくり休めないだろ~」

 「うん! そうだね。わたし頑張る!」

 「大丈夫ですみな…さん。わたしがいるから」

 「憂は看病される側でしょ!!」

 憂ちゃん。しっかりと自分の体も休めてください。唯先輩を甘やかしすぎ。お大事に。

 

 「何かあったらすぐに電話してね」

 「いつでも来るから」

 玄関まで見送りに来ようとした憂ちゃんを全力でベッドにひきとめ、オレたちは帰途につく。

 

 

 

 

    ★

 

 「おはよ~」

 「憂!?」

 「大丈夫なの憂ちゃん!」

 次の日、平然とした顔で学校にやってきた憂ちゃん。顔色を見ても無理している感じではない。

 

 「ごめんね心配掛けちゃって」

 「ううん。よかった」

 竜也にこの話は通さないでよかった。知ったら怒るだろうけど……

 

 

 

 

 

    ★

 

 「というわけで、投票の結果、唯の詞に決まりました~」

 「どうも~」

 「凄いわ唯ちゃん、わたし感動しちゃった!」

 今日の部活で、唯先輩が歌詞を書いてきたといったのでみんなで見てみる。

 題名は『U&I』

 オレも感動した。気取らない、唯先輩の本心だろう。それがいい歌詞を作り上げた。

 

 「いなくなって初めて大切なものが分かるって」

 部室のときと一緒だな。二元論の最たるもの。

 

 「部室と憂ちゃんがつくらせた歌詞だな」

 よくよく考えると、『U&I』って、『あなたとわたし』って意味と『UI=憂』って意味もあるんじゃないか? そこまで考えているとしたら、唯先輩本当に才能が開花したのかも……!

 

 

 

 

     ★

 

 

 「………ということで、学園祭のクラスの出し物を決める」

 次の日、HRで霧島がこんなことを言った。そうか。クラスの出し物ってのもあったな。去年はクレープだっけか。随分と憂ちゃん使ったもんな~申し訳なかった。

 

 「………何かいい案ある?」

 霧島がこう言い出して、いろいろと案が出た。オレは特に希望はない。今のところ軽音部最優先。

 

 「………じゃあ、メイド・執事喫茶に決まり」

 はあっ!? Aクラスなのにそんな案が出たのかよ!!

 

 「………私たちAクラスは学園の名に恥じないものをつくりあげないといけない」

 「やるからには全力でやります!」 

 「そうだな」

 霧島に頼み込んで、激務は勘弁してもらいたい意志を伝えないとな。

 

 「………店の名前は何にする?」

 そこまで本格的にするのかよ! 2-Aメイド・執事喫茶でよくないの?

 とオレが思っていると、やはりそこから活発に意見が出る。どうやらAクラスの連中、勉強ばかりしているのではなくたまには息抜きが必要と感じているらしかった。ただ、その息抜きを運動に使おうとは思ってもいないらしいが。

 

 「………『ご主人さまとお呼び』に決まった」

 ネーミングセンスのかけらもない。意味が分からないぞ……

 

 「………出すメニュー」

 もう勝手にしてくれ。オレは極力関与しない。

 

 「………キッチン担当」

 料理できる人間はAクラスには多そうだった。

 

 「………メイド」 

 ふむ。憂ちゃんはキッチンに専念するらしい。

 

 「………執事」

 「七島」

 「あ、それいいね」

 一ついいか。いつの間に指名制度になったんだ。

 

 「異議あり」

 「………どうした?」

 「素でどうした? 何て返すな! 立候補だったよな!?」

 「………みんなのお墨付き」

 「そういう問題じゃねえ!! オレの意志は無視か?」

 だが、霧島の権力に勝てるわけも無く、オレは屈してしまった。執事なんてやってる暇あるかな。

 

 「………みんな一致団結して頑張ろう」

 執事服もしっかりと用意するらしい。流石は霧島財閥。

 

 「ヒロ君の執事姿か~」

 「もちろん、梓ちゃんもメイド姿だもんね」

 「ええっ!?」

 「霧島に話通しておくから」

 「ひどいよ!」

 「ここは2人で痛み分け」

 「それ、理屈にかなってない!」

 軽音部のメンバーが2人で仕事分ければ何とかなるだろう。それに、梓ちゃんのメイド姿はとても見たい。

 

 「まさか途中から指名制に変わるとは……」

 「あ、優子さんも被害者?」

 「ええ。愛子が余計なことしてくれたわ」

 「だって~もったいないじゃん!」

 自分が立候補した上、優子さんを道連れにしたらしい。なんと非道な。

 

 「霧島さん、もう大体いいですかね?」

 「………はい。高橋先生」

 今までの様子をずっと端っこの方で見ていた高橋先生が再び中央へ。

 

 「学園祭と平行して、召喚獣の大会があることはご存知ですね」

 そう。トーナメント方式で2人組みの試召戦争があるんだったな。

 

 「希望する人は早めにわたしのもとへ」

 希望者だけらしい。オレは今回はパスだな。

 

 「優勝者には、試召戦争で使えるオリジナル腕輪と、如月ハイランドパークのペアチケットがあるそうです」

 腕輪か~オレも持ってるけど未だかつて使用してないんだよな。雄二とアキと竜也のは使用済みだけど。

 

 「では、今日のHRはここまでにします」

 ちょびっと執事ってのは面倒くさいな~と思ったけど、やるからにはしっかりやらないとな。

 





 正直、『U&I』を初めて聞いたときは涙がこぼれそうでした。
 是非是非聞いてみてください♪

 原作では春にあった学園祭。
 こちらでは秋に移しました。
 ようやくこの時期です。
 さて、どうなることやら……

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#71 メイド服!


 ちゃっちゃか進みます。

 けいおん2期の19話と、バカテスOVA(原作2巻)の融合ですね。

 Aクラス側から見る、学園祭ってまた何か違いますね。

 では、どうぞ!!




 

 「へ~クラスの出し物は劇をやることになったんですね」

 「そうなの」

 「だから、澪先輩があんな感じに……」

 梓ちゃんと部室に行くと、澪ちゃんが黄昏ていたので、ムギ先輩に話を聞いたところ、3-Aは劇をやることになったらしい。「ロミオとジュリエット」。脚本をムギ先輩がするらしい。ロミオが澪ちゃん、ジュリエットがりっちゃん。

 

 「それにしても、律先輩がジュリエットだなんて……ぷっ……」

 「笑いたきゃ笑えばいいだろ~!」

 「いや~別に笑ってなんかいないですよ。ただ……ぷっ……」

 「中野~!!」

 よく分からんが、そんなに不似合いなのか。後でストーリーくらいは聞いておくとしよう。

 

 「あれ、それじゃあ、唯先輩は?」

 「木、Gだよ!」

 「木ってそんなに必要なんですか?」

 「じっとしてなきゃいけないって何て難しいんだ」

 実に同感である。というか、木くらいならセットでどうにかならなかったのだろうか。

 

 「じゃあセリフのチェックがあるから先に教室に戻ってるね」

 「澪、行くぞ」

 「行きたくない~!」

 駄々をこねる澪ちゃんだったが、むりやり運ばれていった。結局、オレと梓ちゃんの2人だけ。

 

 「ちょっとわたし忘れないでよね!!」

 と思ったが、木の役になりきっていた唯先輩が居た。

 

 「梓ちゃん、そんなにりっちゃんってジュリエットに合わないの?」 

 「知らないの?『ロミオとジュリエット』。澪先輩がやったほうがあってるかもね」

 「へ~ロミオは?」

 「そっちは、律先輩の方がイメージつくな~」

 2人逆になればいいじゃん……役が決まったんなら仕方ないけど。

 

     ★

 

 「日曜日予定ある?」

 「いえ、わたしは無いですけど」

 「オレも今のところは」

 「じゃあ、予定空けておいてね」

 教室で劇の練習を終わらせてきたムギ先輩が、オレたちに予定を聞いた。何かあるのだろうか……

 

  ~来る日曜日~

 

 「大きい!」

 オレたちはムギ先輩の知り合いのお店でバイトをすることになったんだが……これがまた規模が違う。高級な香り漂う喫茶店 ー というか、外から見たら結婚式場。まあ、とにかくそんなところでバイトをすることになった。

 どうやら、澪ちゃんの恥ずかしがり屋を治すために、接客で力をつけようということらしい。オレと梓ちゃんも出し物が出し物だけに、練習になると思う。

 

 「早速行きましょう!」

 若干行きたくないオーラを漂わせている澪ちゃんをみんなが連れて行く。早速、着替えをするんだがオレに1人別の部屋が与えられるわけでもなく、ひとまず待機であった。

 

 「先に、今日の説明をしておきましょう」 

 「よろしくお願いします」

 「初めの方は慣れないと思いますが、一番大事なのは、お客様を大事にする心と笑顔です」

 執事の方が、オレに説明をしてくださった。女子5人にはオレが着替えているときに説明するらしい。

 そこまで説明は難しくなかった……んだが、執事か~慣れないな。

 そう思っているうちに女子の皆様が着替えを終え出てきた。

 

 「おまたせ~」

 「どう、ヒロ君似合ってる?」

 真っ先に唯先輩とムギ先輩が出てきて、メイド服をお披露目。眼福ですな~

 

 「あ~ずにゃん」 

 「ふぇ?」

 「早くヒロ君にお披露目しなよ」

 「え、ちょ、待ってください唯先輩!」

 梓ちゃんが断る間もなく、一番前に出てきた。

 

 「は、恥ずかしいじゃないですか……」

 「どうどう? ヒロ君、感想の方は?」

 「                       」

 「言葉が出てないわよ」

 「見とれてるよ~あずにゃん。うらやましいな~」

 「ゆ、唯先輩!」

 唯先輩がネコ耳をつけたがる理由が分かったような気がした。

 

 「ほ~ら澪、早く来い」

 「い~や~だ~」

 奥のほうに、既に着替えたと見られる2人も見えたが、相変わらず澪ちゃんが駄々こねているらしい。そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うんだけどな~まあ、確かに恥ずかしいけど。

 

 「ヒロ~お前、着替えないと」

 「そうだった」

 「澪を部屋に入れないためにも早く」

 「そういうこと……」

 今にも部屋の中に立てこもりそうな澪ちゃんを横目にオレは着替えるために部屋に入った。

 

 

    ★

 

 オレはこのバイトで衝撃の事実を発見してしまった。部室で何気なしに飲んでいるお茶。ムギ先輩が淹れてくれるんだが、そのお茶この店からもらっているらしいんだが……高すぎだろ! と思わず口に出しそうに。

 

 「澪ちゃん大丈夫かな……」

 「1人だからね~」

 「気にするなって。追い詰められないと力が発揮できないのは澪なんだから」

 あまりにも人が多いと澪ちゃんの特訓にならないからって、休憩時間は澪ちゃん以外が一気に休みを取る。その分、澪ちゃんに6人分の働きが求められる。

  

 「そろそろ休憩時間終わりそうだし、戻る?」

 「澪の様子もそろそろ確かめたいしな」

 お店のほうに戻ると、澪ちゃんが接客している声が聞こえた。

 

 「お~い澪~!」

 「澪ちゃん!」

 店内のお客様全員を見送りに出たところで、澪ちゃんは立ち止まっていた。

 近くに行ってみると、立ち止まったわけではなく、立ったまま気絶していた。

 

 「澪~わたしが悪かった!!」

 気絶から立ち直っても、澪ちゃんは笑顔満点であった。

 

 「笑顔完璧じゃないですか」

 「さっきから固まって動かないんだ」

 「そんなにつらかったのか……」

 「そこまで練習したなら、演技も笑顔完璧ですね」

 「いや……演技と接客は別物だ」

 そういうものかね。秀吉は接客するとき、演技に幅が出ると言っていたが、やはり上級者の次元だったか。

 

 クラスでは、メイド・執事喫茶の準備を手伝い、部活ではほとんど音合わせも無いまま、学園祭1日目を迎えてしまった。

 

    ★

 

 「………Aクラスの誇りに掛けて、精一杯頑張る」

 霧島の発言にAクラスは盛り上がった。意外と求心力あるらしい。言葉数少なめだけど、リーダーシップはある。もしかしたら、Aクラスのみんなは真面目だから一番頭いい人に従うのが普通とでも思ってるのかも。

 

 「………じゃあ、開店する」

 オレのローテは、今日の正午前後。一番客の入りが入りそうなときになってしまった。同じ時間帯の人は、梓ちゃん(軽音部は固めておいた方が練習とかあるときに都合がいいということで)・憂ちゃん(軽音部のLIVE実に来てくれるらしいから)・霧島代表・優子さん・愛子ちゃん(以下同)である。連携が取れていたほうが言いということで、普段から仲がいい人を組まれたというのもあるらしかった。何でこんな他人事かというと、コレを決めるとき、オレは居眠りをしていて、起きたときには既に決まったあとだった。

 

 「朝方は、ちょっと暇だね」

 「そうだね。どっか行く?」

 「他のクラスがどんなか回ろうよ」

 因みに、先輩方の「ロミオとジュリエット」は今日の夕方から。しっかりここの時間は空けている。

 

 「大きい!!」

 オレたちは外で屋台をやっているクラスから回ることになったが、最初に見つけた店が『マンモスの肉』だそうだ。これまた大きいお肉である。

 

 『知ってた? ここの衣装って山中先生が作ったんだって』

 『知ってる知ってる。あそこのヴァンパイアの服もでしょ』

 『すごいよね~そういえば、ロミオとジュリエットも山中先生が全て服作ったんだって』

 『見に行こうかな?』

 

 という声が聞こえてきたんだが……

 

 「先生、手を広めすぎでしょ」

 隣から聞こえてきたツッコミが至極妥当だと思った。

 

 「そういえば、Fクラスは何してるんだろうね」

 「あまりにも忙しくて、話す機会すらなかったな」

 「ちょっと行ってみる?」

 「そうしよう」

 自分たちのシフトに入る前に最後に2ーFの教室に向かう。どうやら、2-Fは中華喫茶のようだ。

 

 「ここ、みたいだね」

 「確かに……」

 相変わらず見た目がみすぼらしい2-F教室。店名「中華喫茶『ヨーロピアン』」だそうだが……オレの感覚が人とずれているのだろうか。それならばいち早く教えてもらいたい。どう考えても、この若葉学園にネーミングセンスがおかしい人が多いと思う。

 

 『あの~バカなお兄ちゃん知りません?』

 「「えっ??」」

 背後から、女の子の声が聞こえてきたため、オレたちは振り向く。

 





 メイド服♪

 他に何も言うことは無いですかね。

 最後に、ようやくこの子登場。

 もう誰だかわかりますよね!

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#72 ロミジュリ!


 題名パクリですが……

 けいおん2期19話ですね。

 ですが、バカテスサイドメインとなります。

 ついにあの子が登場!

 一体どうなる!?

 では、どうぞ!




 

 『バカなお兄ちゃんここにはいないですか?』

 どうやら、オレたちに質問をしているようだ。その質問の主はと見てみると、目線がえらく下だった。おそらく小学生であろうか……

 

 「お兄ちゃんって名前は?」

 「あぅ……分からないです」

 「分からない? 家族の兄じゃないの?」

 「そうです。でも、バカなお兄ちゃんでした!」

 オレと梓ちゃんは頭をひねる。だって、ここの教室、2-Fだよ。バカって腐るほど居るんだが……

 

 「ゴメンね。それだけじゃ分からないから、このお店に入ってみようか」

 「分かったです!」

 オレは梓ちゃんと共に、この子を連れて店に入る。

 

 「いらっしゃいませ~ってヒロ! それに梓ちゃんも! どうぞ中に……?」

 竜也が迎えてくれたのはいいが、疑問系になるな疑問系に。というか、お前はキッチンじゃないのか。

 

 「もうそんな子どもが出来ていたのか、その報告に上がってくれたんだな」

 「おい雄二。つまらない冗談はよせ」

 「それにしてもその子は誰なのじゃ?」

 それが分からないから、この教室につれてきた。

 

 「葉月はバカなお兄ちゃんを探しに来たです!」

 「バカなお兄ちゃん?」

 「あ、いたです! バカなお兄ちゃ~ん!」

 「えっ? 僕?」

 葉月と自ら名乗った子はアキの方に突進していく。

 

 「お兄ちゃん忘れちゃったんですか? 葉月はバカなお兄ちゃんいませんかってずっと探してたのに」

 「え~っと……?」

 「あれ、何してるの葉月?」

 そうこうしていると、島田と姫路が帰ってきた。あ、若干冷戦状態なんだから会いたくはなかったな。

 

 「お姉ちゃん! 遊びに来たです!」

 「ああっ! 思い出した! あのぬいぐるみの子か!」

 「ぬいぐるみの子じゃないです! 葉月です!」

 「大きくなったね葉月ちゃん」

 「はいです!」

 ちっとも話が読めんのだが……というような、みんなの視線を感じていないアキである。

 

 「あれ、アキ、知り合いなの!?」

 「ひっ…………あ、ああ島田さんこそ知り合い?」

 トラウマが抜けきっていないから怖がっているアキ。大丈夫かな……

 

 「知り合いも何もウチの妹よ」

 『『『ええっ!!!!!』』』

 島田の妹? こんな可愛い子が? すぐに暴力は振るわなさそうだ。

 

 「アンタこそ知り合いなの?」

 「…………怖い」

 「何か言った!?」

 「いいいいいいえ、何も……」

 「おい、島田、明久が怖がっている。そこまでにしておけ」

 「このバカなお兄ちゃんとはファーストキスをしました!」

 えっ? みんな同時にそう思った。そこで生まれた一瞬の隙に、姫路と島田は暴力を加えようとした。

 

 「何ですって!?」

 「どういうことか話してください!」

 「ちょい待ちお前ら! 何の権限があってアキと喋ってるんだよ」

 いい加減、こいつがお前らを怖がっているのに気づけ。

 

 「お姉ちゃん、どうしたんですか?」

 「い、いやなんでもないのよ葉月」

 その優しさをアキにも与えたらどうだ? ええ!? 妹を持つ姉よ。

 

 「けんかしてるですか? お姉ちゃん、バカなお兄ちゃんと!」

 「そ、そんなことないのよ葉月、ちょっと事情があってね」

 「何をしたですか!」

 問い詰める葉月ちゃん。いいぞ。妹の口からドンドン言ってやれ。その間にオレはアキにこの子を何故知っているか聞いてみた。

 

 「あ、あの何ていえばいいかな。観察処分者になるきっかけの」

 「そんな話してたな。その当事者の子がこの子か」

 「そういうこと」

 ってことは、話で聞いたお姉ちゃんってのは島田なんだろ。島田はアキに恩を感じこそすれ、恨みを持つことは無いだろ。何で恩をあだで返すようなことしてるんだ。

 

 「ところで、オレたちは何しに来たんだっけ?」

 「一応、ここの店を訪れたんだよね」

 「そうだったな。何があるんだ?」

 「ゴマ団子だよ」

 「もらおうかな」

 オレと梓ちゃんは席に着く。その間も葉月ちゃんは姉を質問攻めにしていた。その隣で姫路も話を聞いている。アキや雄二は持ち場に帰っていた。竜也はキッチンに戻ったようだ。なるほど、客のあまりの少なさに自分が接客しようと考えたのか。

 

 「何だってんだい、この客の少なさは?」

 「それを聞くか……」

 「気になるだろ。いくらFクラスとはいえ、閑古鳥が鳴いているではないか」

 オレは雄二に聞いていると、背後から声が聞こえてきた。

 

 『葉月、ここに来る前にいろいろ聞いたですよ』

 葉月ちゃんの声だ。そんなにうろついていたんだね。

 

 「何を聞いたのかな葉月ちゃん」 

 姉にはトラウマがあるけど、葉月ちゃんには話せるアキ。

 

 「えっと、2-Fの中華喫茶は汚いから行かないほうがいいって」

 ものすごい悪評……何をやらかしたんだ。

 

 「例の連中の仕業か」

 何か問題ごとに巻き込まれているのかよ。

 

 「そうみたいだね。ちょっと殺意が沸いてきたよ」

 「因みにそれ、何処で聞いたのかな?」

 「メイドさんと執事さんがいっぱいいましたです!」

 それってオレたちのクラスじゃねえか。

 

 「わたしたちのクラスだよね」

 「確かに。んじゃ、そろそろシフトだし戻ろうか」

 「え、でも、ゴマ団子は……?」

 「いつでも貰いに来れるさ」

 「そうだね」

 オレらがいなくなったことで、再びキッチンが暇になる。それに、2-Aに行くと聞いて、竜也が真っ先に教室を飛び出した。憂ちゃん目的だな。Fクラスからは他に、雄二とアキが来ている。

 

 「お姉ちゃんは葉月の話を聞くです!」

 「ちょ、葉月、落ち着きなさい」

 こんな声が出て行く前に聞こえてきたがスルーだ。秀吉を教室待機役としておいてきたようだ。

 

 

    ★

 

 「「おかえりなさいませ、ご主人様」」

 教室に戻ると、優子さんと憂ちゃんが出迎えた。

 

 「あら、お2人。帰ってきたの?」

 「そろそろシフトだもんね」

 「後ろは?」

 いつものように、やつらが出てくるとにっこりとして席を案内する優子さん・憂ちゃん。その間、竜也の頬が緩みっぱなしなのと、雄二が興味ないといった顔をしながら、優子さんの方を見ているといった表情がたまらなかった。霧島代表も話に参加したそうだが、自重している。本当に精神的に強くなったよ。

 

 「着替えようか」

 「そうだね」

 オレと梓ちゃんはそれぞれ着替える。もちろん、別の場所で。

 梓ちゃんのメイド服、あのバイトのときに見たけど、あれとはまた違っていいなあ~後ろからこっそりネコ耳を装着してみよっと。

 

 「にゃ…?」

 「それいいね。唯先輩がはまる理由が分かるよ!」

 「ひ、ヒロ君なんてことを!」

 「いいじゃん。とっても可愛いし似合ってるよ!」

 「か、可愛い……///」

 「っ!? もうみんなと合流しようよ」

 「そ、そうだね」

 結局、梓ちゃんはネコ耳メイドでみんなの前へ。

 

 「あ、来た来た」

 「おお~2人とも似合ってる」

 「ね、ネコ耳?」

 「どうしたの梓ちゃん?」

 「ヒロ君がつけていけって言うから」

 「似合ってるよ~」

 「憂も仲間だ~」

 「ちょ、やめなよ梓ちゃん」

 自分のつけていたネコ耳を憂ちゃんにつけようとする梓ちゃん。そのシーンを見て、顔の表情が緩みすぎている竜也。どうしようもない。

 

 「ほらほら、お客様の前よ」

 「は~い」

 優子さんがびしっと締める。

 

 「それで?」

 何か話があってたようだ。

 

 「この教室にそういうやつは来てないかと思ってな」

 ああ、さっきの話の続きね。悪評を広めるたのはここって葉月ちゃんが言ってたからな。

 

 「そこにいるじゃない。さっきから長居しているわよ」

 「なるほど。やはりやつらか……」

 「常夏コンビ!」

 「正直、こっちも迷惑なんだよね~」

 滅多に悪口を言わない憂ちゃんですら、この感じ。相当悪いんだろうな態度が。

 

 「でも、一応客だから出て行ってくださいとは言えないし」

 「オレが行こうか?」

 「ごたごた起きるよ」

 それはそうだが、このまま黙ってみているわけにもいくまい……

 

 「あの、お客様?」

 「アァ!?」

 「そろそろお引取り願えませんでしょうか? 次のお客様もお待ちくださっていることですし」

 「俺たちはオ・キャ・ク・サ・マだぞ?」

 「そうだ。俺たちの勝手だろうが」

 危うくこぶしを繰り出しそうになったが、みんなの前でそういうことをするわけにはいかない。

 

 「周りのお客様の迷惑になりますので」

 「関係ねえな」

 「別にいいぞ。俺は帰っても。だが、この後このクラスには客がめっきり来なくなるだろうがな」

 『野郎! ふざけるな!』

 オレよりも沸点が低かったバカ(アキ)がいまにも殴りかかりそうだったが、雄二たちに引き止められていた。

 

 「そうですか。それでは、今までの悪口を全て録音しておりましたが、こちらを西村先生や学園長のほうに渡してもよろしいでしょうか?」

 「へっそんなものがどこにあるっていうんだ」

 「何を言っておられるのでしょう。ここはAクラスですよ。Aクラスならば資金は潤沢。そのことを一番分かっているのはあなた方ではないでしょうか?3年A組、常夏さん」

 「「一まとめにするんじゃねえ!!」」

 え? そういえば、こいつらの頭文字を1文字ずつ取っていたんだったっけ。

 

 「もちろん、証人はここにいるほかのお客様全員です」

 『先輩のすることかしら?』

 『随分とひどいわね』

 『同じAクラスというのに違いすぎるわ』

 想像もしてなかった援護射撃。これで、精神的にやられるだろう。

 

 「くっ……まあいい。もう用は済んだ」

 「帰るぞ」

 「待て。俺たちFクラスに泥を塗ったままか?」

 「逃げるぞ!」

 「こら、待て!!」

 常夏コンビが逃げると、雄二とアキは追って行った。

 

 「ふう……みなさまお見苦しいところをお見せいたしました」

 『追い払ってくれてありがたい』

 『後で、Fクラスにもちゃんと行くぞ!』

 「ありがとうございます。教室の設備から言ってAクラスには劣りますが、彼らもAクラスに負けないような出し物です。是非ともお帰りの際はそちらにもお寄りください。どうぞごゆっくり」

 ここまで敬語を使い続けるのも久しぶりではなかろうか。オレはそう思いながら、先ほどのテーブルに戻る。

 

 「流石ヒロ君!」

 「梓ちゃんね、さっきのヒロ君見ながらずっとカッコイイって言ってたよ!」

 「こら憂! 余計なことまで言わなくて良いの!」

 「えへへ」

 何か照れるな~ごくごく当たり前のこと。むかつくやつは追い払うって方向で。

 

 「………七島助かった」

 「マナーがなってないやつにはどうも厳しくいくな」

 「それが当たり前よ。よくやってくれたわ」

 ここまで褒められることだろうか。それまでのやつらの行動を見てないから出来たのかもしれない。

 

 「ところでさ」

 「???」

 「いつまで康太はそこにいる気?」

 「「「は?」」」

 みんな何言ってるのこいつ見たいな目したけど……オレたちが入ってきたときにはいたよ。

 

 「そうなんだよね♪ みんな気づいてなかったの?」

 今まで様子を見ていた愛子ちゃんがやってきて、みんなに告げる。

 

 「………どうして分かった」

 「「「きゃあっ!!」」」 

 彼女らが座っているテーブルの横の壁と同化していた。

 

 「ボクの作戦いいと思ったんだけどな~」

 「愛子が不自然に立っていると思ったらそういうことだったの」

 「最初、ずっとカメラ持ってて不審な動きしてたからね~」

 Aクラスに悪評が出ないように何とか愛子ちゃんが知恵を振り絞っていたらしい。

 

 「………因みに、録音はいるのか?」

 「流石だな」

 「………アレは俺に気づいたからカマをかけていたのか?」

 「別に無かったところで支障はなかったさ。多分康太なら一部始終撮っているとも思ってたけど」

 「すごいね♪ ま、ボクのおかげかな」

 どうやら、オレが突入するとなったとき、陰で康太に指示を出していたらしい。

 

 「………俺はそろそろ戻る」

 「おうっ。暇になったらFクラスに行くわ」

 「よろしくな」

 康太と共に竜也も帰っていく。

 

 「………じゃあ、仕事再開しよう」

 「はい」

 霧島の号令で、オレたちは再び自分の仕事に就いた。

 

     ★

 

 『ただいまより、3年A組の“ロミオとジュリエット”です』

 「あ、間に合ったみたいだよ」

 オレと梓ちゃんはシフトの後、急いで講堂に向かうとこのアナウンスが聞こえてきた。ギリギリセーフ……

 因みに……オレと梓ちゃんを通じて知り合ったアキたちも全員来ている。

 Aクラス・Fクラス共に、他のメンバーに任せてきたらしい。

 

 「最後のほうは先輩達練習来てくれなかったけど……ライブなんてどうでもいいのかな……」

 「梓ちゃん、それは絶対に言っちゃダメだよ」

 「え?」

 「そんなこと思ってるわけ無いじゃないか……あの先輩達が。まずは劇を見よう」

 「そうだね。先輩達にとっては今年が最後の学園祭だもん」

 それだけじゃないよ梓ちゃん。あんな演奏が出来る4人が、少しでも音楽を出来るこの場=軽音部の存在を忘れるわけ無いじゃないか……そう思いながら席のほうへ向かうと、やけに空席があった。

 

 「こっちこっち」

 10数名もよくぞ席を取ってくれてた純ちゃん。さわちゃん先生に清水さんも手伝ってくれてたみたいだ。

 

 

     ★

 

 「うう~……」

 「そ、そんなに感動したの……?」

 号泣する梓ちゃんを見た純ちゃんが一言。

 

 「ヒロ、目が潤っているよ」

 「あ…………ああ。そうか」

 オレもなかなか声を発せないでいた。学園祭でやるような演劇の質か。ものすごく感動した。

 

 「何故、演劇部に入らなかったのじゃろう」

 秀吉も太鼓判の演技力らしい。ものすごくリアルだった。

 

 「お姉ちゃんすっごくよかった~」

 「木2役が!?」

 純ちゃんの鋭い突っ込み。天然ボケの憂ちゃんにはこの返し。久しぶり見た気が。

 

 「じゃあ、教室戻ろうぜ」

 「あ、わたしトイレ」

 「わたしも~」

 梓ちゃん、憂ちゃん、優子さん、愛子ちゃん、霧島代表、純ちゃんとトイレに行ってくるらしい。オレたちは先に教室に戻っておくと伝え……あれ、今思った。Aクラス女子率高い。まあいいや。Fクラスの面々はそのままFクラスに戻るらしい。こっちは男子ばっかじゃん……オレは1人でAクラスに戻るのもアレなんで、Fクラスへ向かう。

 

 「む……ワシは少々、演劇部の小道具を取ってまいる」

 「分かった」

 秀吉も離脱。見慣れた5人でFクラスへ戻ることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「………大変!!」

 「みなの衆大変じゃ!」

 「ん?」

 Fクラスでみんなを待っていたら、霧島と秀吉が血相を変えて教室にやってきた。 

 この2人がここまでになるというのは一体?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「5人がさらわれたのじゃ!」

 「………見知らぬ男がやってきて連れ去って行った! 私のせいで……」

 とんでもない情報を伝えてきたのであった。

 





 葉月登場!
 さて、今後島田姉妹と明久の関係はどうなっていくのか!?

 そして、最後には危ない事件が!

 軽音部ライブの前のさらなる危機!

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#73 誘拐!


 作者の手がけた最初の小説
 「バカとオレと彼女たち」を見てくださったことのある方は、
 少々懐かしい感じがするかもしれません。

 でも、話はちゃんと変えてます。
 
 では、どうぞ!!

 


 

 「梓ちゃん・憂ちゃん・優子さん・愛子ちゃん・純ちゃんがさらわれた」

 という報を聞いたオレたちは、目撃者である霧島代表と秀吉に話を聞いていた。

 

 霧島がトイレから出たときに、出口で待ち伏せていたと思われる男が5人をさらっていったそうだ。

 そのシーンをたまたま通りがかった秀吉も見ていたらしい。

 

 「坂本~アンタに手紙よ。誰か知らない男から渡されたけど」

 と、島田姫路がそう言いながら教室に入ってきた。雄二は急いでその手紙を確認する。

 

  『大人しくしてないと5人がどうなってもしらない。召喚大会で負けろ』

 

 「くそっ! やつら俺たちに直接攻撃が無理と見るやあいつらに手を……」

 「非道だね。どうする雄二」

 「せめて行き先さえ分かれば」

 「ちょ、何の話よ」

 「いや、なんでもない。お前ら行くぞ!」

 雄二はこの話を広めたくないという意志で、教室を出るがこのままでは気になって島田たちもついてくるだろう。

 

 「島田・姫路はこのままココにいてくれ。店を閉めるわけにもいくまい」

 「後、霧島代表、Aクラスには戻らないでFクラスで待機していて、秀吉留守番頼む!」

 「任せておくのじゃ。頼りにしておるからの」

 「ああ。霧島も絶対に動くな」

 「………私のせいで……」 

 「秀吉、目を離すな」

 オレたちはソッコーで教室を飛び出し、廊下に出た。

 

 「携帯で連絡とってみる?」

 「いや、拘束されているとしたら、無駄にやつらを警戒させるだけだ」

 「………携帯電話のGPS機能を使えば何処にいるか分かる」

 「そうか。早速確認してくれ」 

 「………了解。まずはコッチに来い」

 こういうときの康太は非常に頼りになる。康太は早速調べ始めた。

  

 「………ココは!?」

 「何だどうした?」

 「………場所を見てみろ」

 「ちきしょう。そこは盲点ってか。なめやがって」

 康太が純ちゃんの持っている携帯のGPS機能で場所を確認したところ、校内に居ることが分かった。

 

 「体育館だね」

 「野郎……傷一つでも負わせてたら承知しねえぞ」

 「………同じく」 

 「悪鬼羅刹とまた言われる日々も近いかもな」

 「行くぞ」

 体育館は何もイベントがあっておらず、灯台下暗しである。だが、やつらの失敗は携帯にはGPS機能があることを忘れている。それさえなければ、分からなかっただろうが。

 

 「どうしたお前ら、様子が変だぞ」

 と、前方から歩いてくる西村先生に気づかなかった。

 

 「説明は後だ。せっかくだからついてきてもらおう」

 「どういうことだ?」

 「説明は後と言った」

 雄二は西村先生にそう言うと、すたすた歩いていく。

 

 

     ★

 

 「おめえらうるせえんだよ!」

 「お前らには人質になってもらうんだ」

 「坂本やら吉井やら七島やらが俺たちの邪魔をするからな!」

 トイレから出てきたら突然、見知らぬ男達に誘拐されてしまった。わたしは一生懸命拘束を解こうとするが、全然その気配は無い。わたしたち5人は同じところに固められ、座らされている。

 

 このままじゃ…………明日のLIVEが……助けに来てくれるよねヒロ君!?

 他の4人だってみんなそう思っているよ。雄二君・明久君・竜也君・康太君………気づいてくれるよね。

 まだ気づいている様子は無いよ。みんな携帯持ってるはずなのに誰の携帯も鳴らないんだもん。どこかに寄り道しているとか思われているのかな……

 

 

 『『『『『死ねえええええええええええ!!!!!!!!!』』』』』

 

 

 

 突然、わたしたちが閉じ込められている体育館に怒号と共に足音が聞こえてきた。

 ヒロ君たちだ! 気づいていたんだね!!

 

 

 「くっ……」

 「お、お前ら人質がどうなってもいいのか!」

 

 『『『『『その前にそんなことしたおめえらが許せねえよ!!!』』』』』

 

 「脅しがきかない、だと?」

 「やばい、攻撃に備えろ!」

 「敵は悪鬼羅刹率いる5人だ注意しろ!」

 「数で押せ数で!」

 圧倒的に不利だよ……ヒロ君たち……この人たち強いよ。どうしてもっと助けを呼ばなかったの。

 

 ヒロ君たちは、なぐりかかるそぶりだけ見せて、何もせず横を通り過ぎていく。攻撃と思っていた前衛陣は、守備に熱が入りすぎて真横を通り抜けるヒロ君たちに何も出来なかった。

 

 『『『『『おおおおおおおおおおおおりゃああああああ!!!!!!』』』』』

 

 この5人の怒号と共に、わたしたちのまわりで脅していた誘拐犯のうめき声があがった。前衛など気にせずに真っ先にこいつらを倒してくれたんだね。

 

 「大丈夫か!」

 「無事!?」

 「しっかりしてね」

 次々と掛けられる言葉にわたしたちが涙が……でも、敵はまだそれだけじゃ……って気づいているんだね。後ろからの攻撃にもちゃんと見切って反撃しているよ。

 

 「ちっこんなときに電話 ー って、秀吉か!」

 ヒロ君が突然携帯を取り出し、電話をとる。

 

 「どうした!? うん、え、マジか!? 鉄人が先生率いて体育館に来てくれるのか!」

 『なんだって!?』

 『おい、鉄人はやばいぞ』

 『ここは仕方ねえ』

 『引き上げるぞ!』

 全員一発ずつ打撃を食らって倒れていたところに精神的にダメージが。すぐに体育館から出て行った。

 

 『お前らいい度胸だな。覚悟しているな!』

 『『『『鉄人!?』』』』

 『『『『ぎゃあああああああ!!!!!』』』』

 出口のほうから、悲鳴が聞こえてきた。

 

 「これでよし……」

 「それよりみんなを助けないと」 

 「おう、そうだな」

 「もう大丈夫だよ」

 と、1人1人拘束を解いてくれる。

 

    ★

 

 「もう大丈夫だからね」

 たかだか2発でやつらを追い払った後、梓ちゃんたちの拘束具を解く。

 

 「ふえぇん……遅いよヒロ君!!」

 「ゴメンゴメン。もう大丈夫だからね」

 梓ちゃんがこんなに泣くのも見たことが無い。誘拐だもんなあ。

 

 「アッキー! よかった来てくれて~来てくれるって信じていたよ!」

 「う、うん。無事でなによりだよ」

 愛子ちゃんは涙を押し殺して明るく振舞い、

 

 「遅かったじゃない」

 「ああすまない。だがこれで精一杯だ」

 「よく助けに来てくれたわね」

 優子さんは涙どころか、嬉しさすら押し殺していた。強いなあ……

 

 「康太がここの場所見つけたんでしょ」

 「………お前の携帯のGPSでな」

 「そうしてくれるって思ってたよ」

 純ちゃんは全面的に康太のことを信用していた。

 

 「怖かった~」

 「もう大丈夫だよ憂ちゃん」

 「ありがと竜也君」

 竜也は、泣きそうな憂ちゃんを抱きしめていた。

 

 「あんな嘘よく信じたな」

 「鉄人様様だな」

 「やつらもまさか出たところに鉄人が待っているとは思わないだろうからな」

 西村先生には体育館の外で待ってもらい、逃げてくる男共を捕まえてくれるように頼んでおいた。ちゃんと、突入する前にあらかた伝えておいたので、後でやつらはこっぴどく鉄人にやられるだろう。

 

 「みんなもう大丈夫?」

 「歩ける?」 

 「大丈夫よ。そんなにヤワじゃないわ」

 「そうだよ♪ どうなるかと思ったけど、必ず助けは来るって思ってたからね」

 と言う割に、涙を流していたのは気のせいだっただろうか。

 

 「教室戻る前に、ババアの元へ行くぞ」

 「そうだね。一言伝えておかないと気がすまない」

 どうしてババアの元なのかはさっぱりだが、雄二たちが行くんだ。オレたちも全員行くさ。

 

 

     ★

 

 「なんだい、そんなぞろぞろ連れてきて」

 学園長室に入るなり、中からこんな声が聞こえてきた。

 

 「一言言いたい」

 「その人数必要なのかい?」

 「当たり前です。彼女らは被害者ですよ」

 「被害者?」

 「誘拐未遂 ー いや、誘拐されてたんだ。たった今助け出してきた」

 「そんなことまでやってきたかい……そりゃあすまなかったね」

 ババアが謝るのは何故だ? 治安の悪さか?

 

 「お前らには話してなかったな。今回、バックでいろいろと動いていたんだ」

 「というと、あの営業妨害もその一種?」

 「そういうこと」

 「アタシから説明するさね」

 学園の長としての責任があるのか、語りだした。要約すると、

 ・今回の召喚戦争での優勝商品のオリジナル腕輪に欠陥が見つかった。

 ・それを回収するために雄二とアキのペアに優勝してもらうように頼んだ。

 ・どうやらそれを阻止=不祥事を公にして、学園の評判を下げるようにした黒幕が居た。

 

 「だから、召喚戦争で負けろとか言ってたわけか」

 「それにしてもひどいことする」 

 「学園長の座を狙っている内部の人間だな」

 「実行犯は3年生みたいだったけど」

 そう、オレらは上靴の色で学年が違う。さっきの誘拐犯は青だったから一個上だ。

 

 「おそらく、大学にコネを使って入れてやるから協力しろと頼んだとふんでるさね」

 「ったく……どうにかしてくれよな」

 「ますます、あんたらには召喚戦争で勝ってもらわないといけないさね」

 「決勝の相手は常夏か」

 「確実に負けられないね」

 どうやら負けたらこの学園長はおしまいらしい。自分の進路のためにこいつらは犯罪を犯すんだからな。おそろしいマナーの悪さだ。

 

 「本当にあんたらには怖い思いをさせたね。でも、このジャリ共が守ってくれるさね。坂本・吉井、明日は頼んだよ」

 感謝しているのかしていないのかわからないな。

 

 「まさか裏でそんな大きなことが動いているとわね……」

 「このことを教えてくれなかったのはちょっと残念だな」 

 「すまないな。ババアに誰にも話すなと念を押されてたもんでな。どこで相手に漏れるか分からないから」

 「そうだけどね……」

 「まあ、まずはFクラスに来い。竜也、ゴマ団子作ってくれるな」

 「もちろんだ」

 「御代はいらねえ。ゆっくり休んでいくがいい」

 「意外と優しいのね」

 「1人分だけだからな。おかわりは自費だ」 

 あ、照れ隠しした雄二。優子さんに相変わらず本心伝えれて無いんだな~

 

 「おかえりなのじゃ。無事みたいじゃな」

 「………よかった~本当に良かった。雄二ありがと」

 「お、え、あ、おう………」

 「………あ、ごめんね雄二。すぐに離れるから」

 霧島はうん。よくやってるよ。それを見習って欲しいものだ、姫路と島田。

 

 「ここでゆっくりしていけ」

 雄二はそれだけ言うと、Fクラスの連中連れて仕事に戻っていった。オレらはその後、ゴマ団子をおいしくいただき、各クラスに戻っていった。

 

 





 書いてて自分でも懐かしく感じました。

 体育館で誘拐犯と格闘だなんて。

 確か、あれは主人公がぶちのめすのに疲れ果てて気絶するんだったような……

 今回はそれとかぶらないようにするのが難しかったです。

 
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#74 またまた学園祭!


 いよいよ、学園祭もエンドを迎えます。

 けいおん2期20話。
 最高に泣けました。

 その話です。
 
 では、どうぞ!




 

 「………本当にありがとう七島」

 「そんなにずっと礼を言わなくていいから」

 ずっと自分のせいで、クラスメイトが誘拐されたと思い込んでいる霧島がオレに礼を言っている。

 

 「代表は悪くないわよ」

 「捕まってしまったのはわたしたち」

 「わたしたちも自己防衛を怠っていたということね」

 「ある意味、体験できてよかったのかな」

 う~ん……この人たちの考えは計り知れないな。普通ならまだ引きずるだろうに…もう立ち直っているよ。

 

 「………みんなは今日シフト入っていないから、もうおしまい。家でゆっくり休んで」

 「ありがとうございます代表」

 「遠慮なく、帰るね」

 「梓ちゃんとヒロ君はどうするの?」

 「う~ん…最近練習してないから、夜遅くまで時間の許す限り練習すると思うよ」

 「今日、先輩達も劇終わったし」

 「じゃあ、わたしおにぎりかなにかを持ってくるね。みんなの分作って!」

 「え、そんな悪いよ…」

 「そうそう。そこまでしなくても」

 憂ちゃんのこの発言に、みんな目を輝かせていたのは、企みがあってのことだろうか。無関係であって欲しい。

 

 「憂、いいんじゃないの? 2人が断っているんだし」

 「そうそう。それより、早く2人を練習に行かせてあげなよ」

 「え~……そうだね! 分かった。頑張ってね2人とも♪」

 「うん。明日は楽しみにしておいてね」

 「じゃあね~」

 オレと梓ちゃんは自分の荷物を持ってすぐに部室へと向かった。

 

 

    ★

 

 「それで、2人は何を考えているのかな?」

 「流石憂。気づいていたんだね」

 「そりゃあきづくよ」

 「せっかくだから、ボクたち全員で持っていこうかな~なんてね」

 「………愛子、さっき早く帰って休みなさいって言った」

 「代表~」

 「………でも、私もそのつもりだった」

 「代表!」

 「………私が認める。軽音部に差し入れをしよう」

 「「「了解!!」」」

 2人が去った後の4人での会話であった。

 

 「お~い!」

 明久が4人の方へ走ってきた。

 

 「あれ、アッキーだ。どうしたの?」

 「ヒロたちは?」

 「もう部活行ったよ」

 「今日、遅くまで練習するのかな?」

 「そうみたいだよ」

 「何か雄二や竜也たちと話して、差し入れしようかな~なんて考えていたんだけどさ~」

 「アッキーたちもそういうこと考えていたんだ!」

 「も?」

 「うん。今この4人でその話をしていたんだ」

 「そうだったんだ! じゃあ、そのつもりで雄二たちに話伝えてくるね」

 「分かった! 準備終わったら、Aクラスに来て♪ みんなで行こう」

 「そうだね。じゃあまた後で!」

 明久はすぐにFクラスのほうへと戻っていった。どれだけ軽音部の演奏を楽しみにしているかがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 

 「お~いし~!」

 「これ、全部みんなが作ったの!?」

 「凄いな!」

 「お店に行けなかったからよかったわ~」

 あの後、ずっと練習していて、夜も遅くなってきたときに突然大人数でおしかけてきた集団が。

 

 「憂も諦めたのかと思ったら」

 「まさか人数増やしてくるとはね」

 「ありがとうみんな」

 「下手な演奏は出来ないぞ」

 いつものメンバーがそれぞれのクラスでの出し物を持ってきてくれた。先輩方4人はとても喜んでいる。オレらは一回食べたことあるから ー でも、美味しい。差し入れに持ってきてくれるのはまた別だな。優しさが含まれている。あれ? これ言うと、店のほうでは優しさが含まれていないみたいになるな~

 

 「それで、ヒロたち今後どうするの?」

 「ここで泊まるらしい」

 「「「泊まる!?」」」

 オレも最初聞いたときはびっくりしたさ。そんなのもありかとな。だが、先輩達はいたって本気だった。

 

 「既に山中先生から寝袋も調達しているんだ」

 「こういうときって、テンションおかしくなって次の日体調崩すんだよね~」

 「気をつけてくださいよみなさん!」

 気をつけるが、完璧とまではいいきれない不安がある。

 

 「じゃあ、俺たちはそろそろ邪魔するとするか」

 「練習の迷惑になるからね~」

 「澪先輩! 明日楽しみにしています!」

 「あ、ああ……」

 最後に純ちゃんが澪ちゃんにこういった。同じベーシストとして憧れを抱いているらしい。

 

 「こんなにあったら、頑張れそうだね!」

 「そうだな。みんなの期待に応えるためにもな!」

 「よ~っし練習するか」

 「さんせ~」

 その後、9時くらいまで練習をした。流石に近所迷惑になるからといって、それ以降は音を出すことは出来ずに親睦会になった。案外、みんな早く寝ることになり、気づいたら次の日の朝を迎えていた。

 

 

 

 「起きてよ~流石に何か反応して~」

 朝は、こういったさわちゃん先生の声で起床した。

 

 「さわちゃん?」

 「あなたたちの今日のLIVEの衣装を作ったのよ!」

 「あ~そうですか~」

 オレたちは疲れているらしく、誰一人先生のほうを見て反応しようとはしない。ただ、先生のLIVE衣装ってのが、今まで真面目なのがなかったから見ても一緒とも思っている。

 

 「うわっ! これすごいよみんな!!」

 誰も起きなかったが、オレはいったん目が覚めると二度寝が出来ないタイプなので、体を起こして先生がせっかく作ってくださった衣装を見てみた。すると、今までの奇抜な衣装とはうって変わってシンプルなTシャツであった。しかも、真ん中には『HTT』の文字が。

 

   『HoukagoTeaTime』

 

 普通、英語にすると『AfterschoolTeaTime』となるのだが、唯先輩のこだわりで、『放課後ティータイム』は全世界何処に行っても『HoukagoTeaTime』だよ! ということで。それに関しては全員が納得した。

 

 「すご~い!!」

 「流石さわちゃん!」

 「ありがとうございます山中先生♪」

 「これよこれ~! 頑張った甲斐があったわ~」

 数クラス分の衣装手作りプラスのこのステージ衣装。どれだけの労力がかかっているか分からない。山中先生、ありがとうございます。そして、お疲れ様です。

 

 「後は、さわちゃん、私たちの出番だね♪」

 「そうよ。しっかりとステージで演奏してきなさい!」

 「ありがとうございます!」

 「じゃあ、わたしは少し寝るわ。ここ数日衣装を作っていたから寝てないのよ。LIVEには来るから」

 「おやすみなさ~い!」

 さわちゃん先生は部室を後にした。

 

 「さわちゃんの初めての普通の衣装」

 「だが、わたしたちのことをよく考えてある」

 「本当にありがたいねさわちゃん」

 「この恩は、わたしたちの演奏でね」

 「そうですよ。本番まであと何時間かありますから」

 「おさらいしましょう♪」

 オレたちは、講堂入りするまで、軽くおさらいをした。その後、もちろん制服をさわちゃん先生が作ったTシャツに着替えて、楽器を講堂まで運ぶ。そしてすぐに出番となった。

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 「よし、準備万端だな」

 セッティングも終わらせ、りっちゃんが一言。気持ちの整理をする。

 

 「ねえねえ、これで学園祭ライブ3回目じゃない?」

 「そうだな~2年前は初めてですっごく緊張したっけ」

 「2年前……」

 澪ちゃん、忘れられない黒歴史。思い出したくも無かっただろう。

 

 「あ~澪、そういう意味じゃないからな! あ~ほら、でも去年は!」

 「わたしがギー太を忘れちゃったんだよね」

 りっちゃんフォローに失敗し、墓穴を掘る。確かに大変だったけど……

 

  『さあ、みなさんお待ちかね。学園祭目玉イベントの軽音部放課後ティータイムの演奏です!』

 

 目玉って!

 和さん大丈夫なんですか? ここ一応、若葉学園だから召喚大会とかにそれは ー

 って思っているときにもう幕が上がり始めた!

 

 「「「「「「………………えっ?」」」」」」

 

 ステージの6人は一様に同じ反応をした。

 幕が全部開き、会場が全て見渡せるようになって分かったこと。

 

 

 

 「みんなわたしたちと同じ服を着てる」 

 

 

 そう、この6人だけの服ではなくて、観客全員着ていたのであった。

 オレたちはこの状況に圧倒された。

 

 『放課後ティータイム~!』

 『ヒューヒュー!!』

 拍手と歓声が講堂中になりひびいてやまない。なんなんだこの感覚。

 

 「さあ、みなさん盛大な拍手を」

 「和ちゃん!?」

 和さんが出てきて、さらに後押し。そして一言。

 

 「このTシャツ、全部山中先生が用意してくださって、みんなが準備しているときに全員に配ったのよ」

 っ!!

 

 「さわちゃんありがとう!」

 「ありがとうございます!!」

 ライブ前に感動して涙が出てきそうだよ……どこまで軽音部ことを思ってくれているんだ。最高の顧問。

 

 「放課後ティータイムです……」

 いよいよ、唯先輩のMCからのスタート。唯先輩涙ぐみながらMCを。そりゃああんなことされたあとはたまったものじゃない。

 

 「唯~頑張れ~」

 「ありがとうございます……なんか、わたしたちのほうがみんなにいろいろしてもらって……」

 唯先輩はいったん間を開けて……

 

 「わたしたちの演奏を聞いてください! 1曲目いきます! 『ごはんはおかず』!」

 「なんだそれ~」

 新曲だ。実は作詞唯先輩。あの歌詞を書いてきてと集まったときに書いてきた唯先輩の歌詞。歌詞はあれだけど、なんだかテンションが上がる曲。観客も一体となれる部分もあって、1曲目には最高の曲である。

 途中、唯先輩のアドリブでのマイクパフォーマンスで、観客全員も楽しめただろう。その時気づいたんだが、アキたち全員一番前で見ていてくれている。逆に緊張するな……

 

 「改めまして、放課後ティータイムです」

 「キャーキャー!!」

 「わたしたち3年生は全員同じクラスなんですけど、昨日は演劇をやっていて大変でした」

 と、昨日の話を始めた。見ている限り気づかなかった裏話などいろいろしていて大好評だった。

 

 「それと、2年生が2人。この2人がわたしたちの後輩なんですけど、かわいいんですよ~」

 「唯も可愛い~」

 「ありがと~この2人も一緒のクラスなんだよ。それであずにゃんたちのクラスは出し物なんだっけ?」

 「え……メイド・執事喫茶です」

 「お~いいね~みなさん、この後にどうぞお立ち寄りください!」

 「唯、商売上手!」

 ささやかな唯先輩の後押しに感謝。

 

 「それでは次の曲!」

 唯先輩はそれだけ言うと、あたりをきょろきょろしだした。どうしたんだろう。

 

 「次ってどの曲だっけ?」

 おい。メモしてなかったんかい……着替えたから忘れたのかもしれない。

 

 「先輩、ふわふわですよ」

 「あ、そっか。では、行きます!『ふわふわ時間』!」

 この曲は、オレたちがこのバンドに入る前、そう唯先輩たちが1年生のときから続けられてきた、いわゆる『放課後ティータイムの1曲目』とでも言うべき曲だ。澪ちゃんが作詞をし、ムギ先輩が作曲をする、今となっては王道パターンも最初はこの曲でスタートした。オレが最初にこの曲に出会ったのは、中3つまり2年前の学園祭で、初めて唯先輩たちがこの曲をLIVEで披露したときだ。たまたま、アキに連れられて来たこの学園祭で、たまたま鑑賞したこのバンドのライブ。当時は自分がそのバンドの一員になるなんて考えてもいなかった。これも何かの縁なのであろう。その当時聞いたときより、2年分の深みがつまった曲となった。

 

 「キャーキャー!!」

 「ありがとうございます。このあたりでメンバー紹介行きたいと思います」

 2曲が終わると唯先輩はそれぞれのメンバー紹介を。

 

 「まずは、顧問の山中先生です!」

 唯先輩すごい! そこで一番最初に持ってくる辺りが流石だ。

 

 「山中先生は、いつも優しくて温かく見守って応援してくれています!」

 「みんな輝いてるわよ~!」

 「ありがとうございます!」

 後ろで鑑賞していたさわちゃん先生にもスポットライトが当てられた。

 

 「続いて、ベースの澪ちゃん」

 「キャーキャー澪先輩!」

 「こ、こんにちは。今日はわたしたちの演奏を聞いてくれてありがとうございます。わたし、ここにいるメンバーでバンドやれて、最高です!」  

 「あ、澪ちゃんはファンクラブもあるんです。入りたい人はそこの和ちゃんに言ってね」

 そこのって……一応、この学園の生徒会長ですよ。みんな知ってるでしょう……

 

 「和ちゃんはわたしの幼馴染なんだけど ー 」

 と、昔のことから和さんに対する感謝の気持ちを表していた。

 

 「じゃあ、次はキーボードのムギちゃんです」

 「みなさん、こんにちは! 本当にいつも楽しく演奏できて楽しいです!」

 「ムギちゃん落ち着いて……あ、ムギちゃんの淹れてくれるお茶は本当に美味しいんですよ」

 「飲みた~い」

 「いつでも、部室にどうぞ」

 自然に勧誘してるよ……お茶でつられる人はあんまりいないと思うけど。

 

 「部室にはトンちゃんもいるので遊びに来てください!」

 スッポンモドキを見に軽音部の部室にはやってこんだろう。

 

 「そして、部長でドラムのりっちゃん!」

 「どうも~」

 なんかいつものりっちゃんじゃない。小声で早くしないと和に怒られるぞと言っているようだ。なるほど、大分押しているらしい。

 

 「早くしろよ」

 「え~……まあいいや、2年生2人を紹介します」

 「中野梓です」

 「かわい~!」

 「あ、ありがとうございます……」

 「実はね……あずにゃん、このヒロ君とカップルなんだよね~」 

 「「なっ!? 唯先輩!?」」

 「ヒューヒュー!」

 「いいぞ~」

 「お似合いだ~」

 「わたしたちはそれを暖かく見守っていますよ~」

 どうしてそういうことを大勢の前で言うかな……緊張の度が半端じゃないよ。恥ずかしい……しかもこの流れでオレが自己紹介!?

 

 「ど、どうも……七島弘志です……キーボードをやっていますが、高校から始めました。先輩達の演奏に聞き惚れて軽音部に入ったんです」

 「ハーレムうらやまし~」

 「リア充~!」

 「え、あ……その……とにかく、みんなと一緒に演奏できて幸せです! ゆ、唯先輩お返しします!」

 心臓バクバクだよ…………も~唯先輩ひどいや。

 

 「さ~て、かわいい後輩2人の紹介も終わったところで、次の曲に行きます」 

 「唯~自分の紹介は?」

 「最後に、ギターの唯ちゃんです」

 代わりにムギ先輩が紹介をする。やっぱりぬけているんだよな~

 

 「唯は、見た目のままでのんびりでずっとぼけているけど」

 「いつも全力で一生懸命で」

 「周りのみんなにもエネルギーをくれて」

 「楽しくさせてくれる」

 「とっても頼りになる先輩です」

 

 「な、何? みんなどうしたの?」

 唯先輩が驚くのは無理はない。だが、オレたちとて打ち合わせなしでこれをした。みんながそれぞれアイコンタクトをし、りっちゃんが始めたこのパスをムギ先輩・澪ちゃん・オレ・梓ちゃんへと繋ぐ。このくらい、この軽音部なら出来る!

 

 「お姉ちゃ~ん」

 「あ、憂~」

 「お姉ちゃ~ん」

 最前列からものすごく大きな声で、憂ちゃんが呼びかける。

 

 「唯~」

 「放課後ティータイム~」

 「放課後ティータイム!!」

 さらに歓声があがった。涙を誘うな~……

 

 「そろそろ時間が来ます。これで最後の曲です!」

 「え~! もっと聴きたい!」

 「放課後ティータイム~!」

 こんなにみんなに愛されるバンドって凄いな。自分もその一員として誇りに思うよ。

 

 「山中先生ありがと~!」

 「和ちゃんいつもありがと~!」

 「憂もみんなもありがと~」

 「トンちゃんありがと~」

 「部室ありがと~」

 「ギー太ありがと~」

 「みんなみんなありがと~」

 唯先輩が次々と感謝の言葉を叫んでいる。うんうん。本当にその通りだ。

 

 

 

 

 

 

 「放課後ティータイムは……いつまでもいつまでも!!」

 オレは次に出てくる言葉に衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「放課後です!」

 会場が一度に静まり返った。なるほど。次の曲に行くための手か。そんなわけがない。唯先輩だ。真面目に。大真面目に発言したのだろう。

 

 「それでは、最後の曲を聞いてください!」

 オレたち全員で、セットリストを考えたときに、最後の曲としてすぐに決まったこの曲。

 

  『U&I』

 

 これも、唯先輩の作詞。ムギ先輩の作曲。みんなが大絶賛した歌詞。忘れかけた何かを思い出させてくれる。

 

 1曲目に新曲の盛り上がる『ごはんはおかず』

 2曲目に放課後ティータイムの王道『ふわふわ時間』

 3曲目にこれまた新曲で、歌詞が泣ける『U&I』

 

 いいな~放課後ティータイム……本当に最高だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「大成功……だよね」

 LIVEも終わって、部室で壁によりかかって6人並んで座る。

 

 「何かあっという間だったな」

 「ちゃんと演奏できてたか覚えてないわ」

 「ていうか、最初のTシャツで全てとんだ」

 「なにがなんだか……」

 「でも、本当に楽しかったですね!」

 幸せのひと時だった。

 

 「ギー太も喜んでいるだろうね」

 「もちろん、エリザベスもね」

 「わたしのむったんだって!」

 ギー太……唯先輩のギター。エリザベス……澪ちゃんのベース。むったん……梓ちゃんのギター。

 

 「次はなにかな?」

 「次はクリスマスパーティーだな」

 「その次はお正月ですね」

 「初詣に行きましょう!」

 「その次は新歓ライブだな」

 「夏になってもクーラーあるし」 

 「合宿もある!」

 「え~っとその次は……?」

 「て、その次はもうないない」

 「来年の学園祭は上手く……なってるよ……」

 涙が止まらない先輩方。オレと梓ちゃんは後輩の意地ということで、何とか涙をこらえているが、今にも涙があふれてきそうだ。

 

 

 「「先輩と演奏できて本当に幸せです!」」

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 

 

 

 

 

 「みんな、お疲れ様~!」

 「あれ……?」

 「寝てる」

 「幸せそうな顔」

 LIVEが終わって、学園祭も終わった頃、明久は雄二や優子さんといういつものメンバーを連れて部室を訪れていた。ただ、いつもと違うのは、生徒会長の和や顧問の山中先生が居ることだった。

 

 「6人並んで手を繋いで……」

 「仲良し。本当に息が合ってたもんね」

 肩を並べてみんな壁に寄りかかって寝ていた。

 

 

 

 

    ★

 

 

 

 ふと目を覚まして携帯を見てみると、メールが入っていた。

 

 「雄二からか……」

 写真つきで何か来ているな。

 

  『仲睦まじく寝ていたな。お疲れさん。Byみんな』

 

 このメールと共にオレたちが横に並んで寝ているシーンも一緒に添付されていた。ちょっと恥ずかしいぞ。

 

 「続き?」

 画像の下にまだメールの続きがあることを知った。

 

  『召喚大会無事優勝。ババア安泰。迷惑掛けたな』

  

 「よかった~」

 常夏を倒したんだな。流石は雄二とアキ。この学園でこの2人に勝るやつはいないんじゃないかな。

 

 「むにゃ……ヒロ……君」

 学園祭もとうとう終わりを迎えてしまった。何か寂しいな……

 

 





 しっかり常夏に勝っている雄二たち。
 流石としか言いようがありません。 
 ただでさえ、操作技術が高い上に、点数まで高くなったらもはや……

 自分もな~
 軽音部1年のときから入っておけば、3年の最後のライブで泣けたんだろうけど。
 涙ぐむまでしかいかなかったな~
 今更後悔している作者でした。

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#75 打ち上げ!


 学園祭も終わったんだが、まだまだ片付けていないものが……

 いろいろとあるんですね。

 原作では、未成年が酔っ払うなど危なかったですが、

 今回はありませんのでご安心?を。

 では、どうぞ!!




 

 

 「あ、起きたみたいだね」

 「何だアキ。どうしたんだ?」

 未だにオレしか起きていないが、動くことも出来ないので(梓ちゃんがよりかかってるから)じっとしていた。そんなところに、軽音部の部室のドアが開いて、アキが入ってきたのだ。

 

 「なんかね、打ち上げすることになったんだけどさ」

 「へ~打ち上げね」

 「それで、ヒロたちも呼んで来ようって話になったわけさ」

 「見ての通りすぐには行けないぞ」

 「それは分かっているよ。じゃあ、起きたらみんなで来てね」

 みんな……?

 

 「というと、先輩達もってことか?」

 「うん。その通り。近くのあの公園にいるから」

 「どのくらい後になるか分からんが、出来れば向かうさ」

 「OK。是非とも全員来てね!」

 アキはそう言って部室から出て行った。

 

 「打ち上げね~」

 先輩方も連れて行けってことはどういうことなんだろう? そういえば、誰が来ているのか聞くの忘れてたな。多分、いつものメンバーだろう。

 

 「トイレトイレ~」

 唯先輩が突然起きた。ちょびっと寝ぼけている気がする。唯先輩が立ち上がると ー

 「「「わわっ!!」」」

 6人が並んで座って寝ていて、1人がいなくなったらどうなるか。そう、崩れ落ちるのであった。梓ちゃんはオレの方にもたれかかってたからその心配はなかったが、先輩方3人は突然ガクってなって起こされた形だ。

 

 「なんだよ~唯~びっくりしたじゃないか」

 「えへへ~ちょっとトイレに」

 「いっトイレ~」

 「「イエ~イ!」」

 「2人にはついていけん……」

 澪ちゃんの意見に全面的に賛成だ。2人がまだ寝ぼけていると信じたい。

 

 「梓ちゃんはまだぐっすり寝ているようね」

 「そうですね」

 「ヒロ君を信頼しているみたいよ」

 「どういう意味ですムギ先輩?」

 「そのままよ。他人に体を預けて寝るのは信頼している証拠よ」

 そういうものか。寝顔もとっても可愛いなあなんて思っていたら、ふと目を覚ました。

 

 「おはよ~」

 「おふぁよ~ふぁ~」

 眠たいみたいだ。言葉が上手く発せてない。

 

 「今何時?」

 「そうね大体ね♪」

 「律先輩……」

 「てへっ」

 「結構真面目だったんですから!」

 「悪かった悪かった」

 「もうすぐ7時かな」

 「ありがとう」

 りっちゃんのテンションがおかしいのはいつものことだろうか?

 

 「あ、唯帰ってきた」

 「ただいま~」

 「そろそろ帰るか?」

 「あ、何か、学園祭の打ち上げをするから、近くのあの公園に来て欲しいそうです」

 「打ち上げ? 誰が?」

 「アキたちが、先輩達も呼んで欲しいって」

 「おっ! それは嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

 4人で先輩方ワイワイ騒いで、一つの結論に。

 

 「遠慮なく」

 「お言葉に甘えまして」

 「打ち上げとやらに」

 「行こう!」

 「わたしも?」

 「もちろん」

 行くと決まれば、部室を出るのも早かった。

 近くの公園っていうのも、本当の公園の名前を知らないのだ。公園の入り口に書いてあるはずなのだが、長い年月と共に風化され、文字が公園しか見えなくなっているのだ。

 

 「ちょっと!」

 もうすぐ公園に着こうというときに、とある声がして引き止められた。

 

 「話があるんですけど」

 その声のほうに顔を向けると、姫路と島田がそこにいた。

 

 「……………先輩方、申し訳ないけど先に行っててもらえません?」

 「わたしも行くよ。ヒロ君に任せる」

 「分かった。アキたちにはよろしく」

 「OK、さ、先輩行きましょ!」

 梓ちゃんに、先輩達は任せて、オレは姫路と島田と話す。

 

 「何の用だ?」

 「いろいろあるけど ー 」

 「どうして、霧島さんだけ、みんなと仲良くしているんですか!!」

 「おかしいじゃない! ウチたちと同じことをしているのにあっちだけ許されるなんて」

 なるほど。その件か。どうやらこいつらは呼ばれもしないのに勝手に様子を見について来たのか。

 

 「今回の打ち上げはオレは全く関わり無い。オレも呼ばれただけだ」

 「嘘を言いなさい!」

 「別にそうだとしても、どうして霧島さんだけがみんなと仲良くしているのかは七島君が一番分かっていますよね!?」

 姫路も流石は優等生ということか。オレが話をごまかしたんだが、的確にその話を持ってきた。

 

 「霧島代表は、お前らとは違う。以上だ」

 これ以上あれこれ言うつもりは無い。言ったところでお互いのためにならない。

 

 「どういうことですか!?」

 「ちゃんと説明しなさい!」

 「どうして命令口調なんだよ。お前らのほうがいつから偉くなったんだよ。オレが上とは言わないが、お前らに見下される筋合いはねえよ」

 だから大事なことも見つからねえ。夏休みの間、一体何をしていたんだよ。ただ、会いたいという気持ちと、オレたちに対する復讐しか頭に無かったのか。

 

 「説明して下さい!」

 「別に丁寧語になったところで説明する気はねえよ。コレは誰に聞いても一緒だ。既に霧島代表は、コッチにいる。ここにある見えない壁。どうやって乗り越えるかは2人次第だ」

 いい加減にうっとうしい。気づけ。何故にそこまで盲目になっているのだ。わざわざ冷静にならせて中立の客観的な立場から物事を見させているのに。注意力不足なのか。

 

 「私たちは明久君とお話したいんです!」

 「霧島とどこに差があるわけ!?」

 「もうお前らと話す用件はないぞ。これ以上しつこく言ってきたり、こっそり打ち上げに参加しようとしたりすると、110だからな。もちろん、クラスでも雄二や秀吉・竜也や康太が目を光らせている。最後に一つ。よくよく考えてみるんだな。以上」

 オレはそれだけ言い残すと、その場を後にした。引き止める2人の声がしようが無視。公園の中に入る。

 

 「おう、ようやく来たか!」

 「だ、大丈夫だった!?」

 梓ちゃんが、オレがまだ来ていない状況を説明したのであろう。

 

 「アキ、そんなに怖がるな。お前には関係ない。オレとあいつらの話だ」

 「そ、そうだったの!」

 名前を聞くだけでもトラウマになっているほどのことをしでかしてるのに……

 

 「お疲れさま~!」

 「放課後ティータイム最高!」

 「あ、ありがと……」

 「さっきからみんなこんな調子で、何か嬉しいな」

 「そうだな。わたしたちの演奏でここまで楽しそうに」

 「音楽していてよかったね」

 「このバンドでやれてよかった~!」

 オレの予想したとおり、いつものメンバーがいた。しかし、意外な人員が。

 

 「よう、弘志」

 「お前! 晶、来ていたのか!」

 「ああ。俺は飛び入り参加だが。どうしても軽音部と話がしたいと思ってな」

 「話?」

 「その前に、今日の演奏最高だった。今までで一番の出来だった。見るものの心を動かせる演奏が出来る。これはバンドとしては一番手に入りにくいものだぞ」

 「お前にそう言ってもらえて光栄だ。みんなもそう思っている」

 オレが後ろを振り向き、軽音部のメンバーを見ていると一様にうなずいていた。

 

 「それで、本題なのだが」

 「待っていた」

 オレたちは、そこらへんにあるお菓子を頬張りながら話をする。

 

 「軽音部に提案がある」 

 「なんだ?」

 「というか、約束を果たしに来た」

 「は?」

 「俺たちのライブで言ったこと覚えているか?」

 夏、よーぐるっぺ☆のライブを見に行ったんだよな。それで確か ー

 

 「今度のライブ、放課後ティータイムとの共同主催にしたい!」

 「「「本気だったの!?」」」

 後ろから揃って聞こえる声。オレも乗り遅れたがまさしくその通りだと思う。

 

 「至って本気だ。これまでは学園祭が忙しいだろうと思い、誘わなかったが……」

 「念のため聞くが、いつなんだ?」

 「場所が見つかり次第ということだ。先輩方は受験勉強になると思うが、是非ともこれを最後の記念に参加してほしい!」

 晶がものすごい懇願している。そんなに本気だったのか。

 

 「そんなに言うんなら、わたしたちにも断る理由はないな」

 「まだ続けれるの!?」

 「その日までだな」  

 「楽しみね。どんな感じになるんだろう」

 「コラボとかしたりするのかな~」

 ノリノリである。オレも断る理由はない。先輩方がOKならばいい。

 

 「これがオレたちの答えだ」

 「ありがとう! 感謝する。それで、提案だが」

 「なんだ?」

 「せっかくの共同主催だ。コラボをしようではないか」

 「どんな?」

 「放課後ティータイムの曲を俺らも覚える。だから、そっちも俺らの曲を覚えてほしい」

 なるほど。カバーをしてみるということか。全く違った曲調であるから新鮮であろう。

 

 「何の曲をコラボするつもり?」

 「U&Iを是非とも」 

 なかなかお目が高いですな~オレも大好きだ。

 

 「U&Iをそっちのバンドがするってことでいいの?」

 「そういうこと。俺たちの曲は1回しか聞いたこと無いから分からないだろうが、今度持って来るわ曲」

 「分かった」

 「よろしく」

 それだけ言うと、紙コップに入ったジュースをぐびっと飲み干し、みんなに別れを告げて帰っていった。

 

 「なんか突然だな」

 「いい話聞いたぜ! もちろんオレたちも行くぞ!」

 「………優子、あの人すごいの?」

 「知名度はあっちのほうが上らしいです」

 「………そうなんだ」

 「ここらへんで最強のコラボになると思うぞ!」

 このメンバーの中で音楽については随一の頭と腕を持つ男が言ってくれた。

 

 「軽音部お疲れ様~&最後のLIVEよろしく~」

 「お疲れ様~」

 「よろしく~」 

 誰かが突然音頭を取ると、それにみんなが乗っかる。いい雰囲気ですな。

 

 「あ、そういえば雄二」

 「どうした?」

 「どうなったんだ?」

 オレがそう問うと、意味が分かったのかペラペラと完結に伝えてくれた。

 黒幕は3年の教師であったらしく、追放になったそうだ。常夏は1週間の停学、他の参加していた連中も同様だそうだ。それで無事に学園長に腕輪を返したらしい。学園長は試行錯誤を重ね次の学園祭には完成させるといっていたらしい。

 

 「それで、副賞のほうは?」

 「何故かしら、1組じゃなくて、6組分もある」

 「6組!?」

 「渡されたときにババアがこう言ってた」

 アンタたちにはさんざん迷惑掛けたさね。これはせめてもの償い。受け取ってくれ。

 

 迷惑を掛けられたというのがオレたちのことか。

 アキが愛子ちゃん連れて行くとして、雄二が優子さん。

 

 「オレらがもらうってことか?」

 「ああ。男子に全員にやる」

 ということは、オレは梓ちゃん・竜也が憂ちゃん・康太が純ちゃんで……

 

 「秀吉にもやるの?」

 「男子だからな」

 「秀吉には悪いが、誰を連れて行く気だ?」

 「優子じゃないのか?」

 お前ってやつは……お前ってやつは!!

 

 「冗談だ。優子は俺が誘う」

 冗談かよ。結構リアルだったぞ。

 

 「翔子には悪いが、無理だ。もちろん、優子が行きたくないといったら誰かにあげるさ」

 「絶対断らないと思うぞ」

 「根拠は?」

 そんなもんいるか。

 

 「じゃあ、そのチケットとやらをありがたくいただくか」

 「そうだったな。後はお前だけだ。他の連中には全員に渡した」 

 「そうか ー って、これ如月ハイランドパークじゃないじゃん!」

 「ああ。それもババアのミスだそうだ」

 大丈夫かあの学園長?

 

 「ま、行った事無いから面白そうだけどな」

 「楽しく行って来い」

 「お前もそっくり言葉を返す」

 多分、結局全員同じ日に行くんだろうな~と思いつつオレはチケットを大切に鞄に入れた。

 





 姫路と島田の伏線を回収。

 晶との約束の伏線も回収を始め。

 そして、副賞の伏線も。
 雄二も地味に進歩。

 次話は晶との約束の方か、副賞のほうか!

 お楽しみに。

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#76 共同LIVE!


 先に、晶との約束を果たしましょう。

 曲名がたくさん出てきますが……

 是非とも全部聞いてみてください。

 では、どうぞ!




 

 

 「持ってきたぜ」 

 数日後、晶が軽音部の部室に現れ、曲を持ってきた。

 

 「俺たちは楽譜が無い。全部フィーリングで作曲してそれぞれが自分の好きなように演奏している」

 「なんかすごいな」

 「だから、耳コピでよろしく」

 いい勉強になりそうだ。

 

 「あ、そうそう。日程・場所だが、この紙を見てくれ。ポスターも俺たちで作った」

 と、渡されたポスターは、数十枚あった。

 

 ついに最強の布陣整う!

  よーぐるっぺ☆ & 放課後ティータイム

 コラボもあるぜ♪

 

 「この謳い文句なんか嬉しいね」

 「そうだな。わたしたちも場を借りて演奏できるなんて」

 「楽しみ~」

 どうやら、来週の日曜日らしい。なるほど。超短期間だな……

 

 「場所は、あの時と同じだ」

 おおっ! あのホールか。

 

 「そして、時間なんだが、お互い1時間程度と行こう。最後にコラボをいれよう」

 「だってりっちゃん」

 「1時間か~未知の挑戦だな」

 確かに。今まで学校では20分とか30分だったから……

 

 「それと、今頃になってもう一つ提案だが……共同練習しないか?」 

 「共同で!?」

 「ああ。お互い刺激になるだろうし」

 「やるやる!」

 「律、落ち着け」

 確かに。他のバンドの練習を見るのは滅多に見ないからいい機会だ。

 

 「せっかくだし、本番まで毎日しよう」

 「毎日!?」

 「出来る場所あるの?」

 「それはもちろん。前日は本番会場でリハーサル可能」

 こいつらの知名度すごすぎだろ……

 

 「最後に個人的な希望だが。これは誰も考えていないと思うんだが」

 「なになに? 教えて教えて」

 唯先輩が聞く。

 

 「せっかくのコラボだろ? お互いの曲をするだけじゃなくて、何か別の思い出を作りたいと思って」

 「別の思い出?」

 「俺が思っているのは、こっちのメンバーとそっちのメンバー全員で新曲を1曲つくりたいと」

 「「「新曲!?」」」

 随分と意表を突く。共同作成曲ということか。

 

 「今までに無いような曲が出来上がると思うんだよ。もちろん、演奏も全員で」

 「ドラム2人!?」

 「ベースも2人だぞ」

 「いろいろ難点はあると思うが……」

 音の厚みは増すだろうが、多ければ多いほどぐちゃぐちゃになりやすいし、普通リズム隊と言われるのは1人で演奏するから、難しい。

 

 「それは、晶個人の考えか」

 「そうだ。出来る雰囲気だったらみんなに提案しようかと」

 「わたしたちも考えておこう。まずはその曲を完成させるのが先だ」

 「もちろんです。俺も焦って……せっかくの機会をと思い……」

 ありがとう。本当に。

 

 「じゃあ、明日から練習しよう。いつも俺たちが練習しているスタジオでやろう。場所はこれだ」

 「意外に学校から近い!」

 「学校終わったらすぐよろしく」

 「了解」

 「じゃあ、また明日」

 ということで晶は去っていった。

 

 「何か、ものすごいことになったね」

 「どんな感じになるんだろうな」

 「まずは曲を聴いてみようぜ」

 オレらは、持ってきてくれた曲を聴く。全然ジャンルが違って新鮮だ。耳コピに挑戦するが難しい。早速次の日から、いろいろ聞きまくる。もちろん、アレンジもつけくわえながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう本番か~」

 あれから、毎日刺激を受けながらお互いに練習を重ねる。何とか、完成に持ち込んだ。

 

 「リハーサル通りにいくといいけど」

 「LIVEは基本いかないものだ」

 「なるようになるさ」

 楽観的なのが数名。男女ともにいた。

 

 「トップバッターは俺たちが行って来る」

 「おう!」

 そろそろ時間となり、最初に演奏するよーぐるっぺ☆のメンバーがステージに向かった。

 オレたちも舞台袖で控えている。ステージの幕が下りている。そして全員の準備が完了。

 

 「みんな、待たせたな!」

 という晶の声に観客席の方からの歓声が聞こえてくる。おおー満席らしいが、緊張してきたな。

 

 「いよいよ、最強コラボLIVE始まるぜ!!」

 「最初は俺たちよーぐるっぺ☆からだ!」

 「1・2・3」

 ひずませたギターの音がよく聞こえてくるこの曲、あ~題名は覚えてないが、それが始まると同時に幕が上がる。そして、幕が上がりきるころにようやく歌。DrumsにGuitarにBassの3ピースに、歌だけのボーカル。それぞれがレベル高いし、自然と融合している。いやはや、こんなやつらと一緒に演奏できるなんてな。

 2曲続けて、よーぐるっぺ☆の演奏だ。それが終わると、ボーカルMCがこう言った。

 

 「みんな! 俺たちの最強コラボLIVEに来てくれてありがと~!!」

 「キャーキャー!」

 「ここで、今日俺たちとタッグを組む放課後ティータイムのみなさんに出てきてもらおう! どうぞ!」

 という振りがあったので、オレたちは6人でステージに出て行く。すると、歓声があがった。これは想像以上の人数だ。ふと観客席見ると、一番前に竜也率いる10数名が居て、その後ろにも見知った顔がちらほらと。結構、若葉学園の生徒も来てくれている様だ。

 

 「どうも~」

 「放課後ティータイムです!」

 「今回は、よーぐるっぺ☆のみなさんとタッグを組むことが出来て本当に光栄です」

 「みなさん、私たちの演奏と、彼らの演奏をお楽しみください!」

 上手く、梓ちゃんがまとめてくれた。

 

 「よっしゃ。前回のLIVEを見に来てくれた人は知っていると思うが、とうとう約束を果たすときが」

 「前回、このタッグを組むって言ったな」

 「とうとうそれが実現できました! 放課後ティータイムの皆さんありがとう!」

 「じゃあ、早速その放課後ティータイムのみなさんの演奏をお聞き願いましょう!」

 『ふわふわ時間』

 王道。今までのLIVEで欠かさずやってきたこの曲。いつも演奏する講堂とはまるっきり違う人の多さ。ホールのすごさ。そして、観客の多さ。もちろん、照明まで使ってある。緊張を通り越して、演奏するのが楽しくなった。

 それに、あいつらが一番前に居るおかげで、安心できる。いつもあいつらがいる。見守ってくれている。と。ふわふわ時間が終わると、すぐに次の曲に入る。

 

 『ふでペン~ボールペン~』

 この曲は、去年の学園祭で1曲目に演奏した。あの時は唯先輩が病みあがりでギー太を家に忘れてきたんだっけ。急いで取り帰ったんだよな~懐かしい。この曲は澪ちゃんがメインボーカルだからよかった。今回は、さわちゃん先生の特別ギターバージョンではなく、しっかりと唯先輩のギターである。

 キーボードで演奏しながら思うんだが、澪ちゃんの歌う曲はかっこいいな~対する唯先輩は可愛い系。2人の性格や声質が、そのまま出ていると思う。

 あっという間に2曲終わってしまった。次はよーぐるっぺ☆に譲った。

 

 その後も、2曲交代で進めて行く。

 『カレーのちライス』

 『ときめきシュガー』

 『わたしの恋はホッチキス』

 『ぴゅあぴゅあはーと』

 『ごはんはおかず』

 『U&I』

 『いちごパフェがとまらない』

 『冬の日』

 計10曲。多分これで放課後ティータイムとしての曲は全てだ。久しぶり演奏してみると楽しいな。何かアルバムって感じでいいね。

 

 「そろそろ、時間になってきました」

 「え~」

 「ですが! さ~ってここで!! コラボということでなんと!」

 「最後!俺たちが放課後ティータイムの曲を演奏します!」

 というと、観客がざわめきと共に、歓声があがった。

 

 「みなさん、さきほど聞いていただきました『U&I』をよーぐるっぺ☆バージョンで!」

 「1・2・3・4」 

 もともと結構早い曲だが、よーぐるっぺ☆が演奏するとそれが一層際立つ。歌に入ると、男と女の声の違いで、こんなにも変わるのかという新たな発見、流石にキーボードが居ないからちょっと薄いけど、その分晶のギターがフル稼働している。アレンジもくわえており、違う曲を聴いているようにも感じる。これは成功だ。

 

 「ありがとうございました~!!」

 「最後に! 今度は~わたしたち放課後ティータイムが!」

 「よーぐるっぺ☆の演奏をしたいと思います!」

 よーぐるっぺ☆が舞台袖に下がると同時に、オレたちがステージに上がる。歩きながら唯先輩がMCを担当する。すぐに準備して演奏を始める。

 

 「放課後ティータイムバージョンでお聞きください!」

 最初にボーカルの歌から始まるこの曲。もともとはボーカル1人の曲だが、幸いにも放課後ティータイムには2人のボーカルが居る。アレンジして、2人が歌うようにした。唯先輩だけ・澪ちゃんだけ・両方で歌いどちらかがハモったり、ユニゾンしたり。そして、間奏に入ると共に、全楽器演奏開始。スピーディーな曲でパワフルな曲ってのはやってみると面白い。もともとにキーボード無いから、ムギ先輩と考えながら、アレンジを加えていたのだ。

 途中には、もちろんギターソロもあったが、ドラムソロもあり、ブレイクしてベースだけが残って2小節ソロもあり、初挑戦のキーボードソロ。ムギ先輩もオレもしてみた。なかなかの感触であった。そして、最後はボーカルだけが残り、終わる。なんとも成功ではないか!?

 

 「いえ~放課後ティータイムバージョン聞くとまた違った曲に聞こえますね~」

 脇からよーぐるっぺ☆のみんなが出てきて、このLIVEのまとめをしてくれる。

 

 「長かったようで短かったLIVEもこのコラボ企画で終了なんですけど……」

 『アンコールアンコール』

 ずっとこのアンコールが鳴り響いてやまない。音楽で人を楽しませるって凄く誇らしい。

 

 「ありがとうございます。アンコール!」

 『イエ~!!』

 「実はですね。1曲だけ隠していたやつが」

 『聞きた~い!』

 「これがアンコールの曲となります。そして、このLIVE最後を飾るその曲とは!」

 

 『俺たちよーぐるっぺ☆と!』

 『わたしたち放課後ティータイムが』

 『協力して作り上げた新曲です!!』

 オレたち10人がこう言うと、会場中歓声が聞こえてきた。

 

 『2つのバンドの音楽が融合する』

 『新たな音楽をどうぞお聞きください!』

 10人という人数の多さだが……特別セットが組まれた。

 ドラム2、ベース2(ベースボーカル1)、ギター3(ギターボーカル1)、キーボード2、ボーカル1というなんとも想像を絶するようなバンドの出来上がりだ。

 

 ドラムが2つなんて聞いたことも無いが、オレたちは作り上げた。互いが互いのを邪魔しないように1つじゃ到底成し得なかった音が作りあがる。ベースも同じく。ただ、ベースに関しては交互に弾いたりすることが多い。2つもあると喧嘩をしてしまいそうだ。ただ、澪ちゃんはボーカルも兼任するのでベースは簡単。ギター3本はよくあるので、普通にOK。特に唯先輩はボーカルに専念できるし、梓ちゃんのカッティングに晶のテクニックが融合してすごいことに。キーボード2人はいつも通りだからOK。ボーカル1人も、唯先輩と澪ちゃんとの3人での歌となるため、音域がそれぞれ違う歌が出来上がる。それぞれの個性を生かし、奏でるハーモニー。

 今までにない音楽が完成したのではないだろうか。

 

     ★

 

 「最高のLIVEだった」

 「楽しかったよ~」

 最後にものすごい歓声を浴びながら終了したLIVE。裏でお互いに言い合う。

 

 「音楽っていいな」

 この言葉に誰もが賛同した。

 

 片付け等した後、よーぐるっぺ☆のメンバーと再会を期して分かれた。

 

 「お前ら凄い!」

 「まさかあんなことまでするとは!」

 出口には、竜也率いる10数名がいた。

 

 「竜也から見て、最後のはどう思った?」

 「新感覚の音楽だった。だが、改めて難しいとも思ったぞ」

 「あの人数での演奏が?」

 「ああ。上手いところもあったけど、やっぱりごちゃごちゃしていた。だが、それ以上にインパクトがあった」

 流石に1週間やそこらで完成はしないか。1週間で、作詞・作曲して、それをパートごとにアレンジ加えて、みんなであわせるようになるって凄いことだと思う。

 

 「僕たちもあんな音楽やってみたいな……」

 「軽音部入ればいいじゃないか」

 「今はいいよ。先輩方がいらっしゃるし、邪魔しちゃいけないし」

 「わたしたちが卒業したら、2人になってしまうから是非とも入ってくれたまえ」

 「考えておきます」

 何か意味深な言葉を残したな……アキよ。

 

 





 いや~音楽の演奏されているシーンの描写難しいですわ。

 そして、作者は馬鹿なことを考えます。
 10人での演奏。
 リアルではそうとう難しいですよ。真面目に、ドラム2ベース2は見たこと無いです。
 でも、男1人にソプラノ(唯)にアルト(澪)ってすごいハーモニーを奏でてくれそうですよね。

 最後には、フラグが立ったような(汗)
 どうなるんでしょう。


 今気づいた。
 今日七夕じゃん!
 特に何も無いけど。

 
 あ、それと。
 Youtubeにて、自分が所属していた部活の演奏がUpされているのにこの頃気づきまして。
 現在のリアルの高校生のバンドの腕はいかほどのものか見たい方はどうぞ♪
 自分の活動報告「軽音!」をご覧ください。
 詳しい説明はそちらに。


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#77 如月ランド!


 ちょいと短めですが……
 
 きりのいいところで。

 後1つの方の忘れ物。

 如月ランド編です。
 何話かかるんだろう……
 短くて2話=次話まで
 長くて……どのくらいかな。
 
 では、どうぞ!




 

 「 ー ということで、明日は平日ですが学校は休みとなります」

 先生達が出張が重なりすぎて、授業が成り立たなくなるために、明日:金曜日は休みらしい。

 

 「では、明日から3連休となりますが、くれぐれも体に気をつけてください。さようなら」

 帰りのHRが終わり、帰る人はさっさと帰っているし、自習する人は自習を始めた。

 

 「部活行こっ!」

 対して、少数派のオレと梓ちゃん。部活に行って来ます。

 

 「明日、突然休みになったから、何もすること無いよ~ ヒロ君は何するつもり?」

 部室に向かいながら2人で会話をする。

 

 「そうだな~……」

 そういえば、学園祭が終わるときに雄二にチケットをもらっていたんだったっけ。

 

 「明日暇なら出かけない?」

 「いいよ! 何処に出かけるの?」

 「雄二たちが清涼祭で優勝したじゃん」

 文化部の発表や、クラスでの出し物を学園祭といい、召喚大会があるほうを清涼祭という。

 

 「うん」 

 「そこで、学園長にたくさんのペアチケットをもらったんだって。それを譲り受けたんだ」

 「ってことは去年行ったあの遊園地?」

 「それが違うんだよ」

 「???」

 「如月グループには間違いないんだけどね。テーマパークって言うのかな?」

 「ああっ! 如月ランド!」

 「知ってるの?」

 「もちろん。広大な土地にたくさんの遊べるものがあるんだよ」

 聞いた話によると、ボーリングやカラオケやゲーセンやバッティングセンターやありとあらゆる遊ぶものがあるらしい。

 

 「楽しみだな~」 

 「そうだね。詳しいことは部活終わって話そう」

 ちょうど部室の前に着いた。

 

 「「こんにちは~」」

 3年生は引退したから、部活に来るのは2年生だけ?

 

 「あ、あずにゃんたち来た来た」

 そんな常識は通用しない。オレたちも引退後最初の1日目は心配で心配でたまらなかったけど、何食わぬ顔で部室にみんな居たから安心したんだよね。先輩達曰く、受験勉強も部室でやっていいかとのこと。2人が邪魔だったら出て行くとのことだが、全然そんなことはない。と伝えると、毎日今までどおり部室に顔を出していた。

 

 「ちょうど今からお茶の時間だったんだ~」

 「そうですか」 

 もはや日常の一部と化してしまった、ムギ先輩のお茶にお菓子。いつもいつもこうきゅうなものをありがとうございます。

 

 「そういえば、今日は卒業アルバムの写真撮影でしたね」

 昨日、部室で騒いでいたのを思い出した。

 

 「そうだよ~みんなちゃんとした顔だったよ」

 「それはよかったです」

 どんな髪型にするかワイワイ言っていたが、唯先輩がとある事故で、悲惨なことになったので落ち込んでいたが、既に復活しているようだ。

 

 「卒業アルバムといえば、みなさん進路はどうなったんですか?」

 「あずにゃん聞いて聞いて! わたしたち全員一緒の大学に行くことに決めたんだ!」

 「そうなんですか!」

 大学でもサークルに入って、4人で再び結成するんだろうなあ。

 

 「それならば、律先輩もムギ先輩も相当勉強しないと落ちるんじゃないですか」

 「受験生にその言葉は禁句だよ~!」

 「落ちるとかすべるとか」

 いや、いくらAクラスとはいえ、偶然の産物と言っていた2人がとても心配なのですが。

 

 「明日は休みだけど、いつも通り学校に来て勉強しような」

 「え~休みの日くらい寝かせてよ~」

 「そうだそうだ~」

 「2人とも自覚を持ちなさい!」

 澪ちゃんが姉みたいだ。いや母か? そんなことはどうでもいいか。

 

 「あずにゃんたちも来る?」

 「えっ……?」

 「4人の邪魔は出来ませんよ」

 「とか言って~実は2人の邪魔をしてほしくないんじゃないの~」

 「「なっ!?」」

 実はりっちゃんが一番鋭いのではなかろうかとこのごろ感じてきている。

 

 「図星か~せっかくの平日休みだもんな~2人でお出かけも分かる分かる」

 「いいな~あずにゃん。どこに行くの?」

 「えっとそれは……」

 「こら2人ともヒロや梓をいじめない」

 「いじめてないよ~」

 「まあまあ」

 何かとまとまるんだよな~この先輩4人。

 

 「あずにゃんたちのためにも、わたしたちは学校で4人で勉強する!」

 「よ~っし頑張るぞ~」

 「「「「オオー!!!」」」」

 先輩方が勉強するので、オレたちも勉強せざるを得ない雰囲気。まあAクラスの一員として、多少は自覚を持っておかないとな。

 勉強して休憩して演奏しての繰り返しで、今日は終わった。

 

 「じゃあ、明日は10時に駅前に集合ね」

 「分かった」

 ということを言い残して、梓ちゃんと別れた。

 

 

 

    

     ★

 

 

 「あ、来た来た」

 駅前に15分前から待っていると、梓ちゃんはすぐに来た。

 

 「おはよ~待った~?」

 「今来たところ」

 お約束のように言うセリフかもしれないが、オレは本当にたった今来たばっかりだ。

 

 「って、今日はまた雰囲気が全然違うね」

 「如月ランドならば、スカートはやめておいたほうがいいからさ」

 「そうだね」

 ひざ上20cmくらいのズボン(未だになんていうか分からない)に、上は薄めの ー もういいや。オレが梓ちゃんの着ている服を語ったところで誰が理解できようか。

 

 「じゃあ、早速行こう」

 「うん」

 如月ハイランドパークとは反対方向に数駅。ここから歩いて10分くらいの場所にある如月ランド。大型レジャー施設っていうのかな?

 

 「如月ランドって時間制限があるはずだよね」

 「そうなの?」

 「確か3時間くらいだったと思うんだけど…」

 「調べて来ればよかったなあ」

 それならば、余った時間どうしよう…そのときに考えよう。

 

 「ねえねえ、あれって?」

 梓ちゃんが指差した方向に目を向けてみると……

 

 「やっぱりか。なんとなく想像できたな」

 「だね。あっちの方にも居るし」 

 「ホントだ。多分オレたちのことにも気づいているな」

 「あえてお互い見ないふりをしているんだね」

 遠くに、いつものメンバーが、ペアで並んでいるのを数組見つけた。みんな今日が一番都合がよかったんだな。確かに如月ランドみたいなところは、家族連れとかが多いから日曜日とかに来れないんだよね~それを見計らって、平日を狙ったわけか。

 

 「ねえねえ! ちょっとアレ見てよ!」

 「ん?」

 如月ランドの前に来てびっくり。今日は『若葉学園デー』だそうだ。そんなことがあるのすら初耳だ。どうやら、今日の入場客を若葉学園生のみと限定するそうだ。絶対学園と何か裏で話しているだろ。都合が良すぎる。ちょっと嫌な予感がしながらだが、考えすぎだと信じ入場する。

 

 「うわ~広い!」

 巷でどれくらい大きいかをよく、東京ドーム何個分とか言われるが、それを使って表現できるものだ。

 

 「何から攻める?」

 もらったパンフレットを見ながら、考える。考えるくらいものが多いのだ。

 

 

 

 

 

 『何処から行く?』

 『そうだな~どうしよう。竜也君は何処にする?』

 『オレは ー 』

 

 

 

 

 

 

 

 『噂に聞いていたけど、こんなにたくさんあるとはね』

 『俺も驚きだ。それに、今日こんな日だったというのにも尚驚きだ』

 『何か悪意を感じるわよね。裏で企んでいるにおいがするわ』

 『確かに。まあ、それはそのときに対処すればいいとして、まずは遊ぼうぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 『まさか康太がこんなところに連れてきてくれるなんてね』

 『………意外か?』

 『別に~』

 『………それなら言うな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 『今日はどうだったの?』

 『何とか姉さんから逃げ延びたよ』

 『早く決着つけようよ。ボクも手伝うよ♪』

 『いいよ迷惑掛けられないし……』

 『とにかく、遊ぼっ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 周辺で、聞いたことある声色が聞こえてきたがあえて無視。全員その態度を取っているらしかった。こういうところはやはり、仲がいいならではの気遣いとも言うべきか。

 

 

 

 

 

    ★

 

 「やはり動いておるようじゃ……ついてきてもらってすまぬのう」

 「………別に構わない。私なんかでいいの?」

 「うむ。今一番頼りになるかも知れぬからのう」

 「………それで何があるの?」

 「妙な気配が多々あると思うての」

 「………妙な気配?」

 1人のとある男子高校生は、頼りになるだろう女子を連れて、如月ランドにやってきていた。

 





 陰でこそこそと動いているのは一体誰なのか!?

 若葉学園か!?
 如月グループ!?
 はたまた別か!?

 真相やいかに!

 そんな大したことじゃないですが(笑)

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#78 下手!



 全然2話で終わりそうな気配ないです(笑)

 予想、後2話くらい?

 予定は未定!

 では、どうぞ!!




 

 

 「いつだったかな……先輩達が修学旅行に行ってたときに、バッティングセンターに行った以来かな」

 「あのときのリベンジする?」

 「いや……遠慮しておくよ。わたしはヒロ君の見るだけでいいよ」

 「そう?」

 あのときは憂ちゃんのあまりの学習能力の高さに、驚愕してたんだっけ。

 

 「でも、オレも別に打たなくていいよ。梓ちゃんが打たないならさ」

 「見ているから1回打ってよ」

 「あはは………下手でも勘弁してね」

 「わたしより上手いから大丈夫!」

 野球も現役から離れて2年以上経つからな~スイングスピードとか動体視力とか完全に鈍っているよ。

 

 「じゃあ、コレで」

 120kmを選び、早速ゲージ内に入る。軽いほうのバットを選び、数回素振りをする。

 

 「やっぱり、経験者は綺麗だね」

 「そうかな?」

 比較的オレは雑で有名なスイングだったが。

 

 「よし。やるか」

 スタートボタンを押し、画面でピッチャーが投げるのにあわせて球が出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 「ちぇっ……ホームランでなかったか」

 「憂はすごいね」

 「何か実力以外に持ってるものがあると思う」

 「そうだと思う」

 教えてもらって一発目でホームラン……現役の人でもなかなか当たらないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 「次何処行く?」

 「ボーリング?」 

 「分かったいこう!」

 「こう見えて、得意なんだよ」

 「そうなんだ。オレはあんまり行ったこと無いから分からないな~」

 小学生のときに行ったかな~ってくらい。腕が痛くなるからね、野球している間は絶対行かなかったんだよ。

 

 

 「わたしが先?」

 「うん。実力見せてよ」

 「しょうがないな~」

 と一投目からストライクを決める梓ちゃん。

 

 「すごい。言うだけはあるね」

 「当然だよ。次はヒロ君だよ」

 一投目は感覚をつかむために投げる。半分予想通りのGマーク。

 

 「意外に他のスポーツとかは出来なかったり?」

 ぐっ……否定できない。まあ見てなさい梓ちゃん。追い上げるよ。

 

 

 

 

 

 

 「……疲れてきた。スコアが落ちてきているな~」

 最初にストライク2連続とったあと、スペアを数回したが、その後は10本倒せないでいた。

 

 「オレはやっと慣れてきたみたいだ」

 Gは最初の一回のみで、最初の方は1ピンとか3ピンとかだったが、尻上がりに調子を上げ、今ストライクを3連続更新中。

 

 「最後か……最後くらいはストライクを!」

 残念ながらストライクでは終われず、数ピン残った。

 

 「梓ちゃんの敵はオレが取ろう」

 「もうそこまでのレベル?」

 それは分からない。だけど、コツがつかめた気がするんだ。やったばっかのやつがカーブとかかからないのは当たり前だから、スピード・パワーでど真ん中を狙う。そして、真ん中を中心に破裂させるイメージだ。

 

 「っ!! キタ……」

 投げた瞬間にストライクを確信したオレ。フォームは汚いだろうが、ボールの方は筋がいい。

 

 「す、すごい!」

 「これで終わりか」

 「ってわたし逆転されてる!?」

 「最後のストライク点数高いな」

 4連続ストライクがどれほど高くなるかは知らないが、抜いてしまった。

 

 「む~ボーリングで負けるとは思わなかった。悔しい!!」 

 「パワーで押しきっただけだよ」

 「それでも悔しいのには変わりない! 他で何かリベンジする!」

 「何かあるかな……」

 オレはパンフレットに目を落とす。梓ちゃんが勝てそうなものといったら音楽系か。

 

 

 

 

 

 

 「カラオケは?」

 梓ちゃんの得意分野を選んだつもりだったが…

 

 「か、カラオケ!? 歌はちょっと…」

 「ええ? でも音楽してるから大丈夫なんじゃないの?」

 「自信ないな…」

 「行ってみるだけ行ってみる?」

 「分かった…」

 ということで、カラオケに行った。

 

 「ヒロ君、先に歌って!」

 「分かった」

 カラオケは中学時代から結構行き慣れている。初めは野球部のやつらと行ってた時もあったが、どうにもあわない。趣味もだが、声が嫌だった。その後は結構アキと行ってたかな~そこで培った歌唱力を梓ちゃんに披露するのか。音楽についてはストイックだからな~ちょっと怖い。でも、やるしかない。

 

 「じゃあ、コレで」

 SHOOT! という曲を選曲。

 

 

 「むむ……上手い」

 「ホント!? よかった~梓ちゃんに認められて」

 「わたし歌披露できないよ……」

 「そんなこと言わずにさ」

 梓ちゃんはしぶしぶ承諾した感じだったが、曲が流れ出すと真剣な顔になって歌に備えた。

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 結果から言おう。想像以上に下手だった。

 

 「ど、どうかな……?」

 「え、えっとその……あの……うん。梓ちゃんだった」

 「それじゃ答えになってない! 下手なら正直に言って!!」

 「すいません。下手でした」

 どうしてこうも音痴だったのか不思議でならない。小さい頃から音楽に親しんできたはずなんだけど……

 

 「歌はダメなんだよ~」

 「あ~ゴメンゴメン、こんなところ選んだオレが悪かった。もう出よう出よう」

 半泣きで上目遣い。これ、反則。覚えておこう。

 

 「ギターは自信あるんだけど、歌はどうにも……」

 「唯先輩ってすごいんだね」

 「今日改めて実感できたよ」

 ギターをこなしながら、ボーカルの仕事も全うする。天才肌とはこのことだろうか?

 

 「うう~……ギターのゲームはないの?」

 「太鼓ならあるんだけどね」

 目の前に太鼓の仙人があったからそれを指差して答える。

 

 「歌よりはマシかもしれないけど……」

 「オレは全然自信ないよ。あんまりやったことないから」

 「やってみる?」

 「わかった」

 バチ ー いやスティック ー 太鼓の場合はバチでいいか。ドラムはスティックって言わないとダメ。

 

 

 

 

 

 

 

 「やっとヒロ君に勝った!」

 1ゲーム遊んでみたんだが、ボロ負け。リズム感はまだまだのようです。流石に演奏をずっとしていると身につくだろうが、その経験地では梓ちゃんには叶わない。

 

 「満足満足」

 「あはは……」

 表では愛想笑いをしているが、正直とても悔しいのは本人には告げない。

 その後、ダーツをするもお互い下手で勝負つかず。

 ビリヤードは梓ちゃんの勝ちで、卓球はオレの勝ち。

 勝負をしているつもりは無いが、2敗しているのは悔しい限りである。

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、そろそろお昼ごはんにしようか」

 「確かにそんな時間だね」

 ココにやってきたのは11時。もう2時間以上遊んでいるから、とっくに昼になっている。

 

 「休憩スペースは……」

 「あ、ちょっと待って」

 「どうしたの?」

 「何か気になるコーナーが」

 オレは、そこの看板に妙に気になって立ち止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「連中も来ているみたいだが気にせず行こう」

 「そうね。せっかく人が少ない如月ランド。存分に楽しまないと」

 「ちょっと意外だな」

 俺は、優子を誘っておいてなんだが、こういうのはあまり興味ないと思っていた。

 

 「そうかしら。アタシだってたまには遊びたいときや気分転換をしたい時くらいあるわよ」

 「前から優子は優等生って感じで、ずっと勉強ってイメージだったからな」

 「そうだったの。アタシだって雄二がこんな人だとは思わなかったわ」

 「イメージどおりのやつじゃなかったか」

 「ええ。全然違う。悪鬼羅刹だなんて着飾っているだけで全く本性は違ったわ」

 優子の話をしているつもりだったが、いつの間にか俺の話になっていた。

 

 「本性? そんなもの小学生時代に神童と呼ばれてた時から無いんじゃないか?」

 「どうかしらね。少なくとも、今の雄二は学校とかで見る雄二じゃなくて素の雄二だと思うんだけど」

 分からん。優子の言うことは。俺はいつも俺だろ。

 

 「アタシには分かるわ。学校では素顔を隠しているというのがね」

 「というと、優子の本性はまた全然違うのか?」

 「えっ!?」

 「まあ、そんなことはどうでもいい。話もいいが、さっさと遊び倒そうぜ」

 「そうね……」

 俺はパンフレットに一度目を通し、あらかたのものを端からつぶそうと決意した。

 

 「あ、雄二!」

 進もうとしたときに、優子に背後から呼び止められた。

 

 「何だ?」

 振り返ると、いつもとはちょっと違う優子の仕草が見えた。何か……可愛い。

 

 「どうして、今回アタシを誘ってくれたの? 別にアタシじゃなくてもよかったわけじゃない。流石に代表は無理かもしれないけど、あなたならもっと他にペアはいたんじゃないのかしら?」

 「このチケット知らなかったか? カップル限定だ」

 「かかかカップル!?」

 「ああ。要するに男女でしか使えねえってことだ」

 「そ、そうなの」

 「俺が今一番気兼ねなく一緒に居ることが出来る女子は優子だったからだ」

 俺がそう言うと、優子は顔を赤くしていた。ふむ。言葉の選びを間違えたかな。カップルって……だが、チケットにそう書いてあるから仕方ねえよな。

 

 「って訳だ。行こうぜ」

 「まま待ってよ!」

 勉強だけが出来るという意味の優等生ではない優子。運動も抜群に出来るため、今日は非常に楽しめる。バッティングセンターとかは俺の方に分があるが、他のものだったら、五分五分だった。

 

 

 

 






 ヒロと梓は言うまでも無いですね。
 梓が音痴なのは意外でしたか?
 これは、公式設定ですよ。
 Highschoolの方で……意外な事実として発覚しています。
 
 バチとスティックのくだり……
 本気で軽音部のドラマーに怒られましたから、みなさん注意ですよ!

 雄二と優子は……
 書きがいがあります。
 その分一番難しいですが。
 そろそろ建前だけの付き合いから脱出しつつあるかな?


 そうそう、ヒロが歌った曲、
 「SHOOT!」は、八木沼悟志さんが作った曲です。
 知ってますよね? 八木沼悟志さん!

 誰……? と思われる方。
 レールガンシリーズのOPを作った人です。
 「only my railgun」「Level5-judgelight-」「future gather」「way to answer」「sister's noise」

 お分かりになられましたかね。
 因みに、作者はレールガンシリーズは一切見てません(笑)
 fripSide ー というより、八木沼悟志さんの曲が好きなので。

 是非とも「SHOOT!」聞いてみてください。
 fripSideじゃないですが。
 何かと宣伝長くなりました。

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#79 強化!


 前話のときに、後2話くらいかかりそうとか言ってましたが……

 今話で終わってしまいました(苦笑)

 では、どうぞ!!




 

 

 「調べたところによると、今日の若葉学園生の来場者じゃが」

 「………Fクラスの多さに圧倒」

 「じゃな。ほとんど、FFF団で占めているようなものじゃ」

 「………何か騒動を起こさないか心配」

 ワシもそれを危惧しておる。だから、このたび霧島を連れて如月ランドにやってきたのじゃ。若葉学園生のみというのは少々意外じゃったが、もし騒動に巻き込まれ召喚獣とかの話になると、霧島がものすごく役に立つじゃろう。

 

 「あ、あれは!?」

 「………若葉学園生限定ルーム」

 「いかにも怪しげな部屋じゃ」 

 「………罠が仕掛けられているかも」

 それは見た目からも分かるのう。明久や雄二・弘志のような性格なれば、コレを見つけるとすぐにこの部屋に入りたくなるじゃろうな。

 

 「いくつも入り口があるみたいじゃ」

 「………ちょうど、4箇所?」

 「うむ。回ったところ四角形の部屋の1辺に1つずつドアがあるようじゃな」

 「………多分、中で繋がっている」

 如月グループの目的は何じゃ。裏で暗躍しておるFFF団はどこで、みなを襲うつもりじゃ。そういえばじゃが、ワシも一応霧島とおるゆえ、襲われるかも知れぬのう。先ほどから殺気を感じぬのはどのような理由であろうか。明久や雄二などにはずっとついて回っているようじゃが……

 

 

 

 「すみません。この部屋は何でしょう?」

 ワシは思い切ってスタッフに尋ねてみることにしたのじゃ。

 

 「入ってからのお楽しみです。若葉学園生にはなじみの深い部屋となっております」

 馴染みの深い? というと、本当に召喚システムと何か関係しておるのか?

 

 「さようか。霧島」

 「………先に入っておこう」

 「そうかの。せっかくの如月ランド楽しまなくていいのかの?」

 「………みんなの邪魔は出来ない。だから、面と向かってココに入るなともいえない」

 いざとなればメールでもよかろうが、霧島の言ったとおり邪魔はしたくないのじゃ。それならば、陰より助けるしかないではないか。

 

 「入るぞい」

 いかなるトラップがしかけてあるか分からないのじゃ。用心せねばなるまい。

 

 「………開けた空間」

 「そうみたいじゃな。一度試してみるかの」

 「「試獣召喚」」

 ワシらの予想通り、ここでは召喚獣が出せた。多分、将来的に一般公開用にするつもりなのだろう。が、まだ学園生のみのデータしか揃ってないため、若葉学園生のみの使用となっているのじゃと推測した。

 

 「なるほどのう。ワシらにとっては、試召戦争の練習場所ということじゃな」

 「………仕掛けられているものが無いか探そう」

 「そうじゃな」

 ワシら以前に今日入ったものはいないらしく、トラップが仕掛けられている雰囲気ではなかった。

 

 「後は、FFF団が来るのを待つのみじゃ」

 「………確信があるの?」

 「あやつらは嫉妬だけで動くが、ごくまれに、確実にターゲットを仕留めるために無い頭を使うときがあるのじゃ。要するに、今回なれば、とにかく後をつけて狙うのではなく、こういったところを探して、追い詰めて仕留めるという可能性もあるのじゃ」

 むしろ、数に任せた戦いをしそうじゃから、ここは逃げることも出来ないため最適ポジションではなかろうか。

 

 

 

 「………わたしたちはひとまず隠れる場所を探そう」

 「そうじゃな」

 ワシらは、FFF団が入ってきてもいいように、隠れたのであったのじゃ。

 

 

 

 

 

     ★

 

 「やめようよ~不気味だよ」

 「お化け屋敷とかじゃないと思うよ」

 「そういう意味じゃなくて!」

 「限定って書かれると弱いんだよ」

 無理やりだが、梓ちゃんと共に謎の部屋に入る。部屋に入ると真っ暗だ。何だろう……

 

 「真っ暗じゃん……」

 「危ないよ」

 オレは梓ちゃんの手を握り、はぐれないようにした。

 

 「ん? 人の気配?」

 「変なコトいわないでよ!」

 『何だ? 弘志たちもいるのか?』

 『あなたたちも入ってきたのね』

 『あれ、雄二とかヒロがいるの!?』

 『入り口あそこ以外にもあったんだね』

 『………4個あったみたいだ』

 『こういうところ見つけると入ってきたくなるよね』

 『みんな似たものだな』

 『竜也君、わたしたちもでしょ』

 やつら全員入って来ていたのか。暗闇で会話とはなんともおかしな話だな。

 

 

 

 

 「一体ここは何の部屋だ?」

 『ははははは。お前らに教えてやろうか?』

 オレらが暗闇で悩んでいると、どこからともなく気味悪い声が聞こえてきた。

 

 「誰だ!?」

 『吉井明久よ。それは愚問だな』

 「何故僕の名前を知っている!」

 『毎日学校で会っているのに分からないのかい?』

 その声と同時に、ライトアップされ、部屋中がまばゆい光に包まれた。

 

 「須川君!」

 「それにお前ら! って、Fクラス全員いるんじゃねえか!?」

 「何なんだ一体!?」

 オレたちは暗闇の中歩いて部屋の真ん中くらいまで来ていたらしい。いつのまにか、周囲を連中に囲まれてしまっていた。

 

 「お前らに説明するまでも無かろう。異端審問会、審議」

 「全員有罪!」

 くそ。こいつらまでこのランドに侵入していたとは。それに、やつらの嫉妬は辛抱できないから、見つけたら速攻で狙ってくるだろうに、よくぞここまで頭を使ったな。

 

 「みなさん、ここで倒します」

 「しっかりと西村先生の下で補習を受けるのね」

 『『『『試獣召喚(サモン)!!』』』』

 「「「「召喚獣だと!?」」」」

 全員が、相手召喚獣を出してきた。若葉学園ルールならば、オレたちは出さないと戦死者扱いとなる。

 

 「この部屋が若葉学園生限定ってのは!」

 「召喚獣を呼び出せるのだけってことか!」

 「いつものように追ってきてくれたら逃げれたのに」

 「まさか、部屋に追い詰めるとは」

 「考えるようになったのね」

 「この人数差は何だ……」 

 「だが、やるしかあるまい」

 「仕方ない」

 「点数で圧倒するしかないわね」

 こちらも10人全員召喚する。教科は分からないが、点数だけは間違いなくこちらのほうがいい。問題は姫路がどこまで厄介か。

 

 

 

 「10人なら今までの雪辱を晴らせる!」 

 「誰が10人じゃと?」

 「………正義の味方、参上!」

 「霧島よ、自分で正義の味方というのは苦しいぞい」

 「………そう?」

 どこからともなく秀吉と霧島の声が聞こえてきた。

 

 「「試獣召喚(サモン)」」

 ここからじゃ見えない、後ろのほうから悲鳴が聞こえているということは確実に殺していっているのだろう。

 

 「やつらに負けてられねえな」

 「おうよ!」 

 とうとう、こいつを使うときが来たか。手に入れて以来、日の目を見ることが無かったやつを。

 

 「赤金の腕輪起動! 強化(レベルアップ)!!」

 何ヶ月か前の、オリエンテーリングとやらで手にいれたブツ。

 本来、オレの召喚獣は、素手中心で刀やらを点数と引き換えに使うことが出来るんだが、効率悪いんだ。点数の割に雑魚。もっぱら、避けることしか出来ない。

 だが、これがあると、最強となりえる。遠距離では鉄砲が散弾銃に、近距離では刀の切れ味がよくなるとか。データを見ただけだが、実際に使うのは初めてだ。ひとまず試しに散弾銃。

 

 

 

 「危ないよ!」

 前衛のアキや雄二といったやつらの間を弾が飛ぶ。精度も抜群だ。弓も試してみたいところだが、この人数の多さだと、散弾銃が一番効率がいいだろう。優子さんのランスと憂ちゃんの薙刀で中距離で対策をし、梓ちゃんのステッキで遠距離で対策。近距離が圧倒的に多いが、速さと確実性でやつらを圧倒している。アキや雄二・愛子ちゃんや康太の召喚獣が動き回っているので非常に危なっかしいが一発も当ててない。

 

 

 

 「こんなはずでは!」

 「人を集めればいいってもんじゃないよ」

 全員がとにかく倒しまくって、案外簡単にやつらを倒せた。純ちゃんや竜也の召喚獣が見たかったのだが、ちょうど背中側に居たから見えなかった。

 

 

 「戦死者は補習~!!」

 「「何だと!?」」

 まさかこんなところにまで西村先生がやってくるとは! 島田よ。補習室にお世話になるのはお前のほうだったな。西村先生、平気で数十名を抱えないでください。だから鉄人とのあだ名が……あ、先生の召喚獣だ。鉄人とあだ名される体つきにものすごい点数。この召喚獣は一体、オレたちの何百倍の力を持っているのだろうか。

 

 「無事で何よりじゃ」

 「………張り込んでいて正解」

 どうやら、オレたちがこの部屋に入る前からこの部屋に潜んでいたらしい。いや助かった。こうなることが分かっていたんなら、先に教えてくれてもよかっただろうが、そこはいいや。

 

 

 「ワシらが調べたところによると、今日若葉学園生限定というのは、学園と話して決めたことらしいぞい」

 「………今回、襲ったのとは無関係だった」

 FFF団の私利私欲だったということか。まあ、赤金の腕輪を使えてよかったよ。

 

 「あんまりみんなの前では召喚したくなかったんだけどな」

 「仕方ないよ。いつかはバレるんだから」

 「それもそうだけど」

 この前の学園祭でのネコ耳メイドと召喚獣が被る梓ちゃんであった。

 

 「よっしゃ、まだ時間あるがどうするんだ?」

 「せっかくだからみんなで遊ぼうよ!」

 「2人じゃ遊べないようなものもいっぱいあるからね♪」

 「もちろん、秀吉たちも」

 「いいのかの?」

 「………嬉しい」

 その後、12人でさまざまな遊びをして、休日を楽しんだ。

 





 雑魚共の戦いは乗せるに値せず。
 姫路や島田とて同じ事。
 腕輪もちには叶わないんですよ。

 次から何の話しに入ろう……
 バカテス話はもうないですから、オリジナルが急増、
 もしくはまだけいおん話が残っているからそちらもあると。

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 今日発売の「Get goal!」Youtubeにあったので聞きました。
 いや~やっぱり八木沼さんの曲好きですわ。
 聞いてみてください。
 またしても宣伝で終わらせました(笑)

 


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#80 誕生日!


 オリジナル話。

 でもまあ、ほのぼのというかあまあまというか……
 とにかく、のんびり休日です。

 この話になって、初めてちゃんとした日付が出てくるのではないか?
 との疑念が。

 では、どうぞ!





 

 「づ~が~れ~だ~」

 部室の机に突っ伏してる唯先輩とりっちゃん。もう3年生は引退なのだが、その後も続けて部室に来て部室で受験勉強をしている。

 

 「今日はこの辺りまでかな」

 「終わった~!」

 教師係りの澪ちゃんがそう言うと、りっちゃんと唯先輩は喜んでいる。

 

 「明日はどうしようか」

 「土曜日だしね~」

 「明日はなしにしよう。家で個人勉強だ」

 「どうした律? お前らしくないな」

 澪ちゃんの意見に大いに賛同する。普段ならば、みんなで勉強しようと言い出すはずなのだが。

 

 「そうかな? 明日土曜日は休みで、日曜日は図書館にでも行く?」

 「別にいいけど、部室を使わないのは何か理由があ ー 」

 「分かったわ!」

 「律、お前の意図が読めた」

 「え~分かってないのわたしだけ~教えてよ~」

 「それはまた今度だ。この頃暗くなるのが早くなってきているから帰るぞ」

 「待って~」

 オレと梓ちゃんは、先輩方の受験勉強を邪魔しないように共に勉強しただけに終わった。

 

 

 

 

 (ヒロ、お前のためだぞ)

 とりっちゃんに耳元でささやかれた。

 

 「よ~っし帰ろう!」

 りっちゃん……そういう気遣い出来るんだ。流石部長です!

 

 「じゃあな梓、ヒロ~」

 「え、一緒に帰らないんですか?」

 「う~ん、今日は4人で帰り道に寄らなければならないところがあるからゴメンな」

 「え~りっちゃん、そんなこと聞い ー 」

 「唯、帰るぞ」

 未だにりっちゃんの心遣いに気づいていない唯先輩だった。

 

 

 

 

 「わたしたちも帰ろうか」

 「そうだね」

 今日は2人きりで帰ることになった。

 

 「梓ちゃん」

 「何?」

 「明日、暇?」

 「え~っと……多分何も無いと思うけど」

 「家に遊びに行っていいかな?」

 実を言うと、一回も家に入ったことは無い。

 

 「家!? わたしの?」

 「うん。ダメ?」

 「別にそんなことないけど!」

 「じゃあ、いいかな?」

 「分かった。何時ごろ?」

 「10時ごろかな」

 「了解」

 今日は、11月10日金曜日。明日、11月11日は梓ちゃんの誕生日なのだ。

 りっちゃんは、誕生日に最初にお祝いするのはオレだと言わんばかりに、わざと明日の予定をオレたちのために空けてくれたのだ。ありがたいことだ。

 

 

 

 

 

 「じゃあ、また明日ね」

 「うん」

 梓ちゃんの家の近くで別れを告げ、オレも帰途についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん~いい目覚めだ」

 初めての梓ちゃんの家ということで緊張してたとはいえ、ぐっすり眠れたようだ。

 誕生日プレゼントも昨日のうちにしっかりと確認している。

 

 「よし、バッチシ」

 出る前に何回確認したか分からないくらい確認に確認を重ね、家を出た。このままでは家に着くのは早すぎる。家に伺うのに時間前に行ったら失礼だから、ちょっと歩くペースを落とそう。

 ……あ~ダメだ。勝手に足が進んでしまう!! 気分が高揚して仕方が無い。

 

 

 

 

 

 「そうだ。気を紛らすために誰かに電話しよう」

 こんな感じなのに電話に出る相手は面倒くさいと思うかも知れんが、すまないな。

 

 「あ、アキ?」 

 一番大丈夫そうな相手を選んだ。

 

 「どうしたの、突然」

 「ん~っとね、気分が落ち着かないから電話した」

 「何があるの」

 「梓ちゃんの誕生日を祝うんだが」

 「え、今日なの! おめでとう」

 オレがありがとうと代わりに返しておく。電話の後ろの方でがやがやとしているのはどうしたことだろう。

 

 「ね~ね~雄二、今日梓ちゃんの誕生日なんだって。僕たちも何か祝ったほうがいいよね」

 「バカかお前。当日くらい、弘志だけに祝わせてやれ」

 「そっかそうだよね」

 「お~い、全部丸聞こえだぞ」

 後ろの声から察するに、雄二だけでなく康太や竜也がいた。

 

 「でさ~ヒロ。文句言っていい?」

 「何?」

 「今日何日?」

 「11月11日」

 「へ~梓ちゃんの誕生日なんだよね~」

 「あ、ああそうだが」

 アキは何を言っているのかと思ったら、突然思い出した。

 

 「しまった! 今年アキの誕生日に何にもしてねえ!」

 「別にせかしてるわけじゃないんだけどね~」

 「すまん! ってか、今年10月18日何かあっただろ!?」

 「ん~っとね、如月ランド行った日だね。誰も覚えてくれてなかったのは結構寂しかったな。愛ちゃんだけは祝ってくれたけど」

 本当に申し訳ない。あの時も梓ちゃんと ー って、彼女が出来ると友達のこと忘れがちになるのか! 両立できるようにならないとな。

 

 「クリスマスに何かする。約束しよう」

 「クリスマスも梓ちゃんと何かするでしょ!」

 「あ………」

 「あ、ってヒロにとって僕はそんな存在!?」

 「すまん」

 「って、冗談だよ。ただヒロをからかいたかっただけ。いつもと違うヒロをね」

 おいアキ。お前いつからそんな技術を身につけるようになったのだ。

 

 「お前のことは梓ちゃんの次に考えている!」 

 「はは。それはありがたいよ。じゃあ、梓ちゃんを目一杯祝ってきなよ」

 「ありがとうな。多少は気持ちも楽になった」

 変な激励のされ方だったけど。時間もいいくらいだし。そろそろ家に向かうとしますか。

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「えっ? 今日から出張?」

 「突然だが、2日間な。日曜日の夜に帰ってくる」

 「わたしもお父さんについていくから、家を任せたわね」

 「あ、う、うん」

 ど、どうしよう! 今日ヒロ君が来るって言うのに…家に誰も居ないって。しかも夜もいないだなんて!

 

 「では、行ってくる」

 「あ、いってらっしゃい」

 わたしは見送りに玄関に立った。そわそわとドキドキが同時に襲ってきてなんか変な感じ。でも、ヒロ君、まさかわたしの両親の出張を知ってこの日に、突然家に遊びに来るって言った訳無いよね。何か出来すぎているな。

 

 「はいは~い」

 玄関で両親を見送り、その後も数分間玄関で立ち尽くしていたらしい。玄関のチャイムが鳴った。

 

 「こんにちは~」

 「あ、ヒロ君いらっしゃい。入っていいよ」

 「ありがとう。お邪魔しま~す」

 わたしは、動揺を隠しつつ、家にヒロ君を招きいれた。

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「あれ? 家の方、誰も居ないの?」

 「うん、そうなんだ」

 梓ちゃんはそう言いながら、キッチンの方へ向かった。そしてお茶を持ってきてくれた。

 

 「ありがと~」

 「いえいえ。そうだヒロ君」

 「どうした?」

 「何で、今日突然遊びに来ようと思ったの? 両親が今日居ないのも何かの偶然かな?って思って」

 「え?」

 今日居ないってことは、今日1日帰ってこないってコト? 娘の誕生日の日に?

 

 「知らないよね」

 「う、うん。もちろん。オレはこれをしに来たんだ」

 「へっ?」

 「お誕生日おめでとう」

 オレは、もったいぶらずにすぐにプレゼントを差し出しながら梓ちゃんにお祝いの言葉を言う。

 

 「た、誕生日。そっか。今日わたしの誕生日なんだ」

 「って忘れてたの?」

 「う、うん。今の今まで」

 「サプライズみたいな感じになったじゃん」

 「だね。だとしたら両親はわたしの誕生日の日に出張ってコト!?」

 「出張だったの?」

 「うん。ヒロ君、ありがとう。とっても嬉しいよ。プレゼント開けてもいい?」

 オレがすぐに快諾の意を表すと、梓ちゃんは包装を開けた。

 

 「わ~ストラップだ~!」

 「センスないかもしれないけど」

 「ううん。とっても嬉しいよ」

 「実は、おそろいなんだ」

 「えっ!?」

 「ホラ」

 と、オレは携帯を取り出し梓ちゃんの目の前に差し出す。そこにぶら下がっているのは今梓ちゃんに渡したのと同じものだ。ちょっと恥ずかしいけどね。おそろってやってみたかったんだ。

 

 「本当にサプライズだよ!!」

 「喜んでもらえてなにより」

 梓ちゃんは早速ストラップを携帯につけ始めた。

 

 「どうかな?」

 「いいね。2人おそろ」

 「うん!」

 まあ、正直言って今日やることは終わったんだけど。この後どうしよう。

 

 「って、さっきご両親出張って言ってたけど」

 「うん」

 「梓ちゃんの誕生日のことについて何も言わなかったの?」

 「そうだね。ヒロ君が教えてくれたからさ」

 ん~ちょっと可哀想だな梓ちゃんが。

 

 「あ、そういえば、お菓子も持ってきてたんだった」

 「ありがと~今食べる?」

 「後ででいいんじゃない」

 「そうだね。直しておこう」

 と、言いながら再びキッチンの方へ向かう。

 

 「あれ……?」

 「どうしたの?」

 「何だろうこれ」

 カウンターに何か気になるものがあったらしく手に取った。

 

 「封筒? ってわたし宛? 誰だろう」

 と言いながら、梓ちゃんは封筒の中身をあける。

 

 「って、お父さんとお母さん!?」

 「書置きってこと?」

 「わからない。ちょっと読んでみる」

 梓ちゃんはそう言うと、黙って手紙を読み出した。

 読み終わる頃には目に涙を溜めていた。

 

 「……ふぇ………ひ、ろ君」

 「どうした梓ちゃん? 中身が大変だったの?」

 「…ち、違うの。見て」

 梓ちゃんに手紙を渡され、オレも読んで見る。

 

 





 明久よ。
 申し訳ない。
 作者が誕生日を忘れていた。
 別に入れてもよかったんだが、梓の方がいいよな。

 実は、明久は弘志のために嘘をついています。
 日付を計算してみてください。曜日が合わないんですよ。
 如月ランド行った日が金曜日、アキの誕生日は前々日=水曜日なんです。
 何故こんな嘘を。

 この設定後付けじゃないんだからね!
 作者が何も考えずに曜日を設定してミスったわけじゃないんだからね!

 その理由も次話に。
 矛盾はダメですから。
 
 さて、最後の手紙の内容は一体!?

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#81 サプライズ!


 手紙の内容が明らかに。
 そんなに重くないですよ。


 梓のキャラ変わってきていないことを祈る。
 普段見せていないような面だということです。

 では、どうぞ!!!




 

  梓へ

 今日はお誕生日おめでとう。突然出張って驚いたでしょう。

 でも、梓には弘志君がいる。あの子ならわたしたちでも安心できるわ。礼儀正しく梓のことを一番に考えている子だったわ。以前、商店街やあらゆるところでわたしたち話したことあるのよ。梓から写真を見せてもらったことあるから顔は見たことあったけど、性格はどうなのかなと思ってたけれど。いい子ね。

 今日、家に誰も居ないことを告げ、弘志君に泊まってもらえないか聞きなさい。絶対にOKしてくれるはずよ。

 梓は、学校では頼られる存在みたいだけど、1人っ子だから甘えんぼさんだものね。お母さんは知っているわよ。家には誰も邪魔する人がいないから、存分に甘えなさい。

 家には、ちょうど食料が何もなくなったから、ここにお金置いておくわね。2日分。

 

 P.S.冷蔵庫にケーキ入れているわよ。

                                                   お父さん・お母さんより

 

 

 「ヒロ……君」 

 梓ちゃんの泣く顔を見ながら、手紙の内容を吟味する。

 まず……いつかお会いしましたかね。オレのことを知っているようですが、オレは知りませんよ。

 

 「ご両親、優しいね。誰よりも一番近くで見ていたんだよ」 

 「うん……」

 「オレも同じくらい近くにいるから」

 「ヒロ君!!」

 再び涙を流しながら、抱きついてくる梓ちゃん。オレはちょっとかっこつけすぎたかなと思いつつ、梓ちゃんの思い通りにさせる。

 

 「ひ…ロ君」

 「何かな?」 

 「今日、泊まってくれない?」

 「分かった。そうしよう」

 「ふぇ…ありがと……」

 今日ばかりは親が反対したところで、泊まる。断固として。梓ちゃんを1人なんて出来ない。

 

 「大丈夫? 落ち着いた?」

 「うん…もう大丈夫」

 ときたま、孤独感が勝るんだよな。オレもたまにそういうときが来る。でも、守ってあげなきゃとか思ったりしているとそんな感じもなくなるんだよね。

 

 「お昼ごはんのお買い物行く?」

 「そうだね。もう少ししたらお昼時だし」

 梓ちゃんはご両親が食事代として置いて行ったお金を持って準備を始めた。オレも出かける準備を始める。

 

 「じゃあ行こう」

 近くのスーパーに向かうことになった。

 

 

 

 

 

 「あれっ……? 憂かな?」

 「ホントだ」

 「憂~!」

 道端で見つけ、梓ちゃんは憂ちゃんの方へ歩いていく。

 

 「梓ちゃん!! それに、ヒロ君も」

 「何してるの?」

 「買い物だよ。2人は?」 

 「わたしたちも買い物だよ」

 「そうなんだ~楽しんでいるみたいだね」

 「え?」

 「本当は夕方にメールしようと思ってたんだ。お誕生日おめでとう」

 「ありがと~でも何で夕方に?」

 「昼間はヒロ君と2人きりの時間がいいよね~ってみんなそう思ってて」

 「みんな!?」

 それに誰が参加しているんだ。さっきのアキのももしかしたら演技?

 

 「そうだよ~せっかくの2人きりの時間を邪魔しちゃいけないからね~」

 「昨日の先輩達の行動の意味もコレなの!?」

 「帰って来てお姉ちゃん言ってたよ~梓ちゃんうらやましいって」

 「も~先輩たちも知っていたんなら言っててくればよかったのに!」

 その心遣いに感謝です。サプライズだったので嬉しさもひとしおだと思う。

 

 「そうだ。ヒロ君料理できる?」

 「いや。全く」

 「だよね~わたしもあんまり出来ないんだよ」

 そう。問題はそこ。

 

 「お昼はなんとかするとして、夕飯。憂、作りに来てくれない?」

 「ええっ? 2人に悪いよ~」

 「だって、ご飯が……」

 「分かった。梓ちゃんとヒロ君がいいっていうならだけど」

 「何?」

 「わたしだけじゃなくて、みんな呼んで梓ちゃんのパーティーをしようかな」

 「そこまでしてもらわなくていいよ~」

 「梓ちゃん、ありがたく受けなよ。どのみち夜ご飯が問題だし。みんなで食べるといいじゃない」

 「そうだね。じゃあ、憂お願いできる?」

 「任せて! みんなには6時くらいに来るように言うね」

 「ありがと憂」

 「憂ちゃんありがとね」

 憂ちゃんのプロデュース(そこまで大掛かりじゃないけど)で、梓ちゃんの誕生会が開かれることになった。

 

 「じゃあ、わたしはそのお買い物もするから、また夕方ね」

 「うん。バイバイ」

 「バイバイ」

 憂ちゃんは携帯を取り出しながら、歩いていった。行くスーパー違うのかな? もしかしたら、憂ちゃんならではのこだわりがあるのかもしれないが、オレたちはよく分からないので最寄りのスーパーへ。

 

 「お昼ごはん何にしようか?」

 「う~ん……何を作れるか、何の食材がいいかによって変わるんじゃない?」

 スーパーに入っていろいろと考えながら、かごに入れる。

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「あれ? 先輩方?」  

 「ホントだ。みなさん何しているんですか?」

 買い物を終え、梓ちゃんの家に帰ろうとすると、梓ちゃんの家近辺で怪しい動きをしている女子4人が居た。それが見知った人だから、見過ごせない。

 

 「げっ!? 梓・ヒロ!?」

 「その言い方は何ですか! 傷つきます!」

 「いや、悪い悪い。まさか奇襲をかけられるとは思わなくてな」

 奇襲ってそんなたいそうなことはやってない。

 

 「それよりどうしたんですか?」 

 「いや……2人何してるかなって思って」

 「勉強をしてください!」

 「あずにゃん、お誕生日おめでとう♪」

 「ふぇ?」

 「「「おめでとう!」」」

 突然のお祝いメッセージ。これは隣で見ていたオレも意表をつかれた。

 

 「誕生日プレゼントはヒロが立派なものをあげただろうから」

 「わたしたちは何をあげようかと迷っていたんだけど」

 「写真にすることにしたの」

 「いつまでも記念に残るかなと思ってな」

 先輩達、いいアイデア思いつくな~。

 

 「はい。あずにゃん」

 「ありがとうございます。大事にします……」

 「わたしたちはそういうことだから」

 「ちょっと待ってください」

 「どうしたんだ?」

 「夕方6時から暇じゃないですか?」

 「何かあるのか?」

 「憂たちが誕生会をしてくれることになったんです。先輩達もどうかと思いまして」

 「憂が?」

 「わたしたちはいいよ。みんなで楽しみな」

 「そうだな。わたしたちは勉強を頑張る」

 今回も、不満たっぷりの唯ちゃんを引っ張り、3人は結論を言った。

 

 「じゃあ、2人とも仲良くね~」

 といいながら去っていった。

 

 

 

 「先輩達もサプライズだよ」

 「多分、梓ちゃん以外全員誕生日のこと知ってたよ」

 「そうなんだね」

 早速家に入って、お昼ご飯を2人で協力して作ることに。

 

 これがまた、素人2人で作る料理だから、まあひどい。

 でも食べれる味に仕上がっていた。

 何とかなるんだなあと思った。親っていつも料理作ってくれてありがたいとも思った。

 

 

 

 

 

 

 「ふぁあ~」

 「食べたら、眠くなった?」 

 「うん……」

 「夕方からみんな来て大変だろうから、今のうちに寝ておく?」

 「ヒロ君も寝よう」

 って、隣で寝るつもりかい!! まあ、普段寂しいからこういうときくらいは。

 

 「うん。分かった」

 「じゃあわたしの部屋に行こう」

 11月に入って寒さも感じてきた今日この頃。流石に真夏日と違って何も着ないで(洋服はもちろん着ているよ)寝るなんてことは寒くて出来ない。

 

 「へ~梓ちゃんの部屋ってこんな感じなんだ~」

 「意外だった?」

 特別意外ではないけど、一つだけ目をひくものが。

 

 「ベッドの上のあれって?」

 ぬいぐるみ? 抱き枕? どちらにしても寝るときにそれを近くにおいて寝ているらしかった。

 

 「ち、違うの! あれはたまたまあそこに ー 」

 「分かったよ。寝るんでしょ。今日はオレが隣にいる」 

 「うん」

 口では簡単に言っているけど、心臓は心拍数急上昇。

 

 「おやすみ……」 

 「おやすみなさい」

 ベッドに2人横になりながら寝る。梓ちゃんはオレの腕を抱き、寝た。この頃疲れていたのかな。すぐに寝入った。オレも仮眠を取るとするか。

 

 「って……寝りゃしねぇ」

 あまりにも緊張の度が越して、変な感じ。この後変な気を起こさないように、寝ないとな……

 

 「ずっと側にいてねヒロ君」

 寝言なのか良く分からなかったが、梓ちゃんの口からこんな声が聞こえてきた気がした。

 オレはそれに答えるかのようにもちろんといった意思を込めて頬に口付けをした。

 

 




 弘志もすごいですな~
 何がって言うまでもなく、すごいですよね~

 先輩も憂たちもいいですね~

 アバウトな表現しか出ないのはいかなることか。 
 
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 そして、この頃恒例?宣伝コーナー。
 fripSideが新曲発表!
 これもまた、レールガンの新OPみたいですね。
 「eternal reality」
 題名がかっこいい!
 楽しみです。


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#82 ツイスター!



 作者は夏に負けて、頭がおかしくなったんだろうか……

 話を読んでいただいたら分かります。

 では、どうぞ!






 

 

 「…………ん?……さっきからあらゆるものの音が鳴っている気がする……」

 「ふぇ…んー……あ、確かに。って、もうこんな時間!」

 あれからずっと寝ていて、既に6時を回っていた。

 

 「携帯の着信履歴もものすごいことに!」

 「わたしもだよ! さっきからインターホンもすごい!」

 2人で急いで玄関に向かう。

 

 

 

 

 

 

 「ゴメ~ン!!」

 「遅いよ梓!」

 「何やってたんだよ……」

 「と、とにかく入って! ゴメンねみんな待たせちゃって~」

 寝起きで少し頭がぼーっとしているが、みんなが来たのを無下には出来ない。オレと梓ちゃんは少しの隙間をぬって、顔を洗いに行った。

 

 「ったく~憂がみんなを誘ってくれたのに~」

 「ホントにゴメン!」

 「2人とも家に居ないかと思ったよ~」

 「悪いみんな。熟睡していた……」

 5時間くらい寝ていたのかな。昼寝にしては良く寝た。

 

 「2人で仲良く手を繋いで寝ていてね」

 「俺たちを外に置いてうらやましいやつらだ」

 何故知っている!?

 

 「ど、どうしてそれを!?」

 「ふふ~梓は素直ね」

 「へ?」

 「ボクたちはそんなこと知らないよ。カマをかけただけ」

 「む~!!」

 やはりか。隠しカメラとか仕掛けるわけ無いよな。でも、また1つ新たな弱みを握られたような。

 

 

 

 「あ~ずさ!」

 「な、何!?」

 

 

 「お誕生日おめでと~」

 『『『おめでと~』』』

 

 

 「ふぇ……? あ、ありがと」

 突然だよな~本当に。8人ともありがたいよ。

 

 「朝からヒロ君と誕生日を祝ってたみたいだし」

 「さぞかしいいプレゼントをもらったみたいだから」

 「ボクたちは全員でコレを買ってきたよ♪」

 「じゃ~ん」

 憂ちゃんが目の前に出したのは、机の天板くらいの大きさで高さは10cmくらいの。

 

 「な、何これ!?」

 「ケーキだよ!」

 「「ケーキ!?」」

 そんなサイズのケーキがあるのか! 高かっただろうに。

 

 「流石に特別版には出来なかったけど」

 「みんな、見た瞬間に驚いちゃってね」

 「これ買おうってことになったんだ」 

 その気持ちとても判る気がする。こんな机のサイズだぞ。

 

 「じゃあ早速食べようか?」

 「まだ夕ご飯食べてないんでしょ」

 「そうだけど……」

 「夕ご飯作るから、その後にしよ」

 「憂ありがと~」

 「もちろん、料理ならオレも手伝うぜ!」

 出た。カップルで料理が作れるって凄いと思う。って勝手にカップル認定しちゃったけど。別にバチは当たるまい。竜也と憂ちゃんの他にも、この場に料理を作れるのがまだまだいる。

 

 「僕も手伝おうか?」

 「人数だけに俺も手伝ったほうがいいだろう」

 「………同じく」

 アキと雄二と康太。こいつらもまた、料理が作れるのである。アキは一人暮らしで慣れている、雄二は母親がアレだから作りなれている、康太は器用だからうらやましい。

 

 「なんか悔しいよね」

 「みんなには勝てないってのがさ」

 「そうね。アタシたちも練習はしてるんだけど」

 こいつらには叶わないってことか。

 

 「じゃあ、台所借りるね~」

 「うん。よろしく~」

 料理担当の方々がキッチンに。残ったオレたちは会話に花が咲く。

 

 

 

 「梓~こんな昼間から2人で寝ていて何やってたのかな~」

 「な、何もやってないよ! ただ寝てただけ!」

 「本当に~? 怪しいな。わたしたちに言えないようなことでもしたんじゃないの?」

 「し、してないよ!!」

 梓ちゃん、何も無いんだからもっと堂々としてりゃいいのに。

 

 「さっきからこの子は……」

 「いいじゃん♪ 楽しいし」

 「そういう優子だって本当は期待してるんじゃないの?」 

 「な、何言ってるの! そんなことあるわけないじゃない!」

 「優子ちゃんあやしい~!」

 とてもじゃないけど話に参加できるような気配ではない。

 

 「どう思う? ヒロ君?」

 「ふぇ…!?」

 我ながら気の抜けた間抜け声を上げたと思った。

 

 「助かったわ弘志君がそんなんで」

 「い、いや話は聞いてたけど、まさかオレに話題を振ってくるとは」

 「せっかく優子をたたみかけるチャンスだったのに~」

 愛子ちゃんがそう言うが、仕方あるまい。その後も、いろいろと話をし続けていると、待ちに待った夕食が完成した。

 

 

 

 

 「お待たせ~」

 「すごい!」

 5人が5人料理を持ってきて、机に並べようとするが……

 

 「っ……入らないね。テーブル持ってくる」

 10人という多さだ。いつも使っているらしい机だけじゃ入らない。

 

 

 

 「ふ~これに!」

 1人で折りたたみ式のテーブルを持ってきた…オレもついていけばよかったな。

 

 「憂、すごいよ!」

 「いつものことだよ。慣れてるからね~」

 慣れてるって……この量を!? 唯先輩がたくさん食べるんだろうな~

 

 「じゃあ、みんな席ついた?」

 「おうっ」

 「は~い」

 「梓の誕生日を祝って!」

 手拍子3回の後、「HappyBirthDay」を歌いだす8人。元から決めていたんだな。オレもそれにのろう!

 

  

 

 「みんな、ありがと~!!」

 感激している梓ちゃん。そりゃそうだよな~一度はこうやってみんなに祝ってもらいたい。 

 

 「食べよっか」

 「カンパ~イ」

 「「「乾杯~!!」」」

 憂ちゃんと竜也を中心に料理の精鋭5人が作った料理。さまざまな味付けでそれぞれが美味しい。食べている間も話のネタはつきなかった。食後、8人が買ってきてくれたケーキをいただくことに。目の前にするとやはり大きさは際立つ。普通のホールケーキの何倍だろうか……それを食べると、梓ちゃんがこういった。

 

 

 「みんなありがとね。そういえば、ウチにも両親が買ってきてくれたケーキがあるんだけどみんなで分けよう」

 「梓、それは梓のご両親が梓のために買ってきてくれたんだよ」

 「ヒロ君のためにもだろうね♪」

 「だから、わたしたちはいらない」

 「純……みんな……」

 意外といってはなんだが、意外。純ちゃんが一番乗り気で食べるかと思った。

 

 

 

 「よ~っし、たらふく食べたところでゲームでもするか~!」

 「「ゲーム?」」

 竜也が突然こんなことを言い出したが、ゲームなんて持っていないんだが。

 

 「安心しろ。オレが持ってきた」

 持ってきた? こんな大量人数で遊べるようなものがあったかな。あ~あれか。人○ゲーム。

 

 「竜也、いつのまにそんなものを?」

 「気づかなかったか? オレのバックにはコレしか入ってないぜ」

 「そうだったんだ」

 竜也が自分のバックを取り出し、そのゲームとやらを取り出す。

 

 「じゃ~ん、『ツイスターゲーム』!!」

 オレの予想は外れた。しかし、ツイスターってなんだ?

 

 「ん? その様子を見ると、知らないやつが多いのか?」

 「知らない」 

 「わたしも」

 「僕も知らないよ」 

 「俺もだ」

 オレと梓ちゃん・アキと雄二が知らなかったらしい。優子さんは家にあって小さい頃に秀吉(今日は演劇部)としたことがあるらしい。憂ちゃんも唯先輩としたことがあるそうだ。愛子ちゃんや純ちゃんはものすごく笑顔だ。これの楽しさを知っているみたいだ。康太は表情には出さないが、アレは兄あたりとしたことがあるのだろうか。

 

 「せっかくだ。知らないやつらからやってみると面白い」

 「いいね。ルールは?」

 「まあ待て。出場者を先に決める」

 「梓ちゃんは後にしよう。いろいろな楽しみのためにね」

 「愛子、考えが……」

 「わたしも賛成!」

 「………そのほうが面白いだろう」

 「みんながこう言ってるし、最初は野郎共3人でやってみよう」

 ということで、最初はオレとアキと雄二の3人でやることになった。

 

 「やりながら説明した方が分かりやすい」

 「そういうものか」

 「よ~っし何か分からないけど、この2人には負けない!」

 「この円を使って遊ぶのだな」

 赤・青・黄・緑と4種類円があって、それが同じ列に数個並んでいる。

 

 

 「じゃあまずはっと!」

 何か観客の方は手元でルーレットみたいなものを回していた。

 

 「右足を黄色」

 「みんな、右足を黄色に乗せて」

 「それだけでいいのか?」

 「案外簡単だね」

 「こいつらの不気味な笑顔が、悪巧みを考えていることを示しているぞ」

 妙な恐怖感に襲われながらも、ツイスターゲームとやらを楽しむ。

 

 「左手を緑」

 「いよっと!」

 「ふふ……そろそろね」

 「優子、怖いぞ。何かこのゲームにトラウマでもあるのか!?」

 「さあね。それは数分後に分かるわよ」

 怖いな。他のやつらも思いっきり笑顔で見てやがるし。梓ちゃんだけはルールを知らないから、まだきょとんとしてみていた。

 

 「右手青」

 余裕!

 

 「左足青」

 ……!? 左足!? ここからじゃやつらが邪魔で。

 

 「愚問だと思うが、これって、両手両足以外床についたらダメなのだな」

 「「「当たり前!」」」

 そこまで言わなくても。ちょっと聞いてみただけじゃないか。

 

 「ゆう…じ…邪魔」

 「お前こそどっか行け!」

 「くっ……よし!」

 「さて、このゲームの怖さが分かる頃だね」

 今怖さって言った! 楽しさじゃねえのか!?

 

 「左手赤」

 「はあ!?」

 「この角度からあそこを狙えと!」

 「先手必勝!」

 アキが先に動いた。オレたちも後れをとるものかといっせいに狙うものの、他の3つが動いてしまってどうすることも出来ない。

 

 「体が柔らかくないとダメだな」

 「俺は結構不利だぜ」

 かたくは無いだろうが雄二は体が大きいからなアキに比べて柔軟性に劣る。

 

 「右足青! ー ってダメか」

 「じゃあ、ボクがまわそう。右足緑!」 

 「ぐおっ!」

 「ぎゃ~!!」

 「巻き込むな!!」

 3人が3人先を急ぎすぎて接触。そのまま全員崩れ落ちる。

 

 「「「はははは!!!」」」

 「全員、失格じゃん!」

 「くそ~雄二のせいで!」 

 「お前がそんなところにいるのが悪い!」

 「恐ろしいゲームだ……」

 竜也め。何が楽しいだ。

 

 

 「さて、ここからが本番。一番の楽しみは最後にとっておこう」

 「そうだね♪」

 「このゲームの最大の楽しみは男女共にやるんだもんな」

 「「えっ!?」」

 「っていうわけで、ムッツリーニと純ちゃんと、愛ちゃんと明久行こう!」

 先ほど観戦していたメンツが、自分の番になると苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 「やめてアッキー!!」

 「仕方ないじゃないか! どうすることもできないんだよ!」

 今の状況を説明するには、R-15制限が必要となるためにやめておくとする。その後すぐに、アキと愛子ちゃんが2人で倒れ、お互いの顔が近くに。喜んだ純ちゃんも束の間、バランスを崩し、康太の上に乗っかる形に。うん。これは写真撮るべきだ。

 

 

 

 「ふ~これは見ているほうがいいんだよね~」

 「今分かったよ。やってるほうは辛いだけ」

 「じゃあ、次のグループ、雄二と優子さん行こう!」

 「おい、待て。竜也何お前自分は入ろうとしていないんだ」

 「げっ!」

 「バレバレだ。お前巻き込む」

 「もちろん、憂も巻き込むわよ」

 苦笑いしながら、2人とも参加することに。あれ? この流れって……

 

 

 「憂ちゃんやばい!」

 「わたしのほうもダメ!!」

 「くっ……これほどまでに腕力を使ったのは久しぶりだ」

 雄二は優子さんのダメージを経験するために、腕立て伏せ状態を下でキープしているのだ。何たる力だ。

 

 「む~女子2人が頭よく、的確な場所に逃げるからなかなかだな~」

 「愛子、アタシだって伊達に昔してたわけじゃないのよ」

 「わたしもお姉ちゃんとずっとしてたんだから!」

 竜也が、観客だったときの面影なしの汗だくになっている。雄二も精神的に削られていっているのだろう。アキやオレとするときは、倒れたとしても二次災害は起き得なかったが、女子が2人いるもんな~しかも優子さんだぞ。

 

 「し、しぶとい!」

 「竜也よ。お前ギブしたらどうなんだ?」

 「へっ。何言ってるんだ。お前こそ頭に血が上って汗ダラダラじゃねえか」

 「負けるわけには行かないね」

 ゲームだというのにここまで熱くなるのか。この終わりはとてつもなく突然訪れた。2人の汗が、置くべき手を滑らせてスリップしたのだ。それに全員が巻きこまれて危ない格好に。まあ、男子が下になっているから安全か。

 

 「ご、ごめんなさい雄二!」

 「気にするな。大丈夫か?」

 「え、ええ」

 惜しかった。ラッキーが見れるかと思ったのに。

 

 「ごめん憂ちゃん!! 悪気は無かった!」

 「分かってるよ。不可抗力だもんね」

 うん。下心があったら確実に後ろに手が回るようなところに、ちゃんと触れていますな。

 

 「いいもの見れたね~」

 「くっ……愛子を元気にさせたくはなかったわ」

 「でも、ド本命が残ってるじゃん!」

 「そうね。しっかりと見届けてあげましょう」

 「さて、ラストメインイベントだな!」

 8人の視線がいっせいにオレと梓ちゃんのもとに。この後にやれってか。男子としてはラッキー多発するから嬉 ー いやなんでもない。

 

 

 「え、わわたし!?」

 「梓~みんながここまでやったんだ」

 「やりたくないとは言わせないわよ」

 「強制ね」

 「もちろん、2人で」

 「「えっ!? 4人じゃないの!?」」

 「あきれるくらい息がピッタリね」

 「2人の様子を8人で見たいものね」

 どの道、この言い合いには勝てそうもない。仕方なくやるとするか。ラッキーには期待している。期待していないとか言ったら男じゃないな。って、ただの変態じゃねえか!

 

 「ううっ……やるよ!」

 『『『『オオーーーー!!!』』』』

 何だこいつらは。どんだけ期待してるんだよ。

 

 「これ、難しくない!?」

 「稀に見る、プレイヤーイジメだね」

 全てを円の中に置くんだが、体をねじっておかないともうアウト。2人やばいよね。

 

 

 「きゃっ……」

 「ゴメン梓ちゃん。って!!!」

 まずいぞまずい。これはまずい。四つんばいに近い格好の背後に回る形となったオレは、成り行きどおり、梓ちゃんの下半身の近くにならざるを得なくなっている。どうするんだよ~!!

 

 「いいぞ弘志!」

 「梓もかわいいわよ!」

 「「うるさいな~みんな!! こっちは真剣なんだよ!!」」

 「また被った」

 「うらやましい」

 観客の盛り上がりとは裏腹に、オレたちの苦悩はすごい。

 

 「ううっ……恥ずかしい……見ないでよヒロ君……」

 「断じて見てない! オレは下しか!」

 「きゃっ!!」

 突然、梓ちゃんが手を滑らせ足を滑らせオレの上に落ちてきた。

 

 

 

 

 

 「~~~~~~~~~~~っ!!!」

 お互い、声にならない悲鳴を。

 

 

 

 

 「ご、ごごごごめんヒロ君!」

 うん。こちらが全力で謝ります。いくら不可抗力とはいえ、梓ちゃんの股に顔を突っ込んだ形になったんですからね。

 

 「あはははっ!! 最高だねこの2人」

 「反応が一番面白いよ!」

 「持ってきて正解だった~」

 「ううっ……もうこのゲーム絶対やらない……」

 「楽しかったのに~」

 「まあまあ2人をいじめないの」

 「そういう優子だってとても楽しそうじゃない」

 「ええ。そうよ。いいものが見れたわ」

 鬼だ。鬼がたくさんいる。

 

 

 

 「まあゲームも終わったことだし、オレたちはそろそろお暇するか」

 「そうしようぜ」 

 「もう帰るのか」

 「そうね。これ以上ココにいたって2人のご迷惑」

 「ボクたちは、さっきのが見れただけでも幸せだから」

 「じゃ~ね」

 「おい、ちょ!!」

 やつら、帰るって思いたってから行動に移すまでが早すぎだろ。引き止める暇も無かったぜ…

 

 

 

 

 

 「ね、ねえ……ヒロ君」

 「どうしたの?」

 全員を玄関まで見送った後リビングに帰ってきたら……

 

 「って、竜也確信犯か」

 ツイスターゲーム置いていっているのだ。オレたちがいない間でもどうぞ遊んでくださいといわんばかりに。

 

 「やりたいの?」

 「梓ちゃん、あいつらの作戦に呑まれるのはもうやめよう。それこそ思う壺」

 「あっ…………きゃっ!!」

 ツイスターゲームにまたもや足を滑らす梓ちゃん。汗がまだ結構残ってたのか。

 いろいろなものが散乱する音が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の間に何があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ご、ゴメンヒロ君!」

 梓ちゃんってここまでドジっ子だったっけ。足を滑らせ、避難させていたケーキの方に突っ込む。

 

 

 「べたべただね……」 

 「うん」

 オレもべたべたなのだ。梓ちゃんが余りにもいい転びっぷりだから、オレまで被害を受けているのだ。

 

 

 

 

 「どうしよう……」

 「梓ちゃんが先にお風呂入ってきなよ」

 「ええっ! わたしのせいで、こんなになったんだし、ヒロ君が先に」

 「それはまずいよ。だって、今日は梓ちゃんの誕生日でしょ。祝ってるんだからさ」

 「でも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、一緒入っちゃう?」

 すいません、調子に乗りました。ツイスターゲームで気がおかしくなってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………………………………そうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えええええええええええっっっっ!?」

 オレは、自分自身で取り返しのつかない扉を開けてしまったようだ。

 

 

 

 





 あはは……

 続きとても期待してますか……?

 誕生日話は、これで終わりですよ!!

 久しぶりに暴走しましたね。
 えっ?
 いつも暴走してるって?
 そんなバカな。
 普段は平常(なはず)

 そろそろネタがつきてきた。

 1話1ヶ月単位で飛ばしていこうかな。

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#83 夜空!


 さて、宣言どおり1ヶ月飛ばしましたよ。

 あっという間の冬休み。

 作者には到底無縁のあの日。

 では、どうぞ!!




 

 「さて………向かうとするか」

 今日は12月24日。クリスマスイブ。昨年は何したっけ……?

 あ、そうそう。平沢家で軽音のメンバーで楽しんだ。今年はもちろん梓ちゃんと過ごす。先輩達が受験で追い込みの時期に不謹慎だと思い、空気を読んでいたら向こうから気遣ってくれたために、ありがたくそのお言葉に甘えているのだった。

 

 「あれ、ヒロ、どうしたの?」

 「あ、アキ!?」

 もうすぐ西に陽が沈みそうな時、待ち合わせ場所に向かって歩いていっていると、偶然アキと遭遇した。

 

 「そっか~やっぱり梓ちゃんだね」

 「ぐ……お前は明日だ。クリスマス当日」

 「分かってるよ。覚えていてくれたんだね」

 「当たり前だ。誕生日は本当にすまなかったな」

 アキの誕生日をすっかり忘れていたんだ。その埋め合わせをクリスマスにすると言っていた。イブは梓ちゃんと過ごすとして、25日をアキと過ごす。

 

 「じゃあ、僕は愛ちゃんと待ち合わせがあるから」

 「おいっ!」

 いろいろと突っ込みたかったが、あいつは既に消えた後だった。

 

 

 

 「げっ!!」

 オレは少し遠い場所に見える光景を見て愕然とした。

 

 『土屋も裏切った~!!』

 『異端者は処刑~!!』

 『捕まえろ~』

 

 FFF団絶賛活動中。道行く人を攻撃するなよ。康太ドンマイ。純ちゃん連れて逃げている。あの様子だと、もう付き合っているな。まあ、前々からそんな様子だったが。

 

 『あ、七島も居るぞ!!』

 『落ち着け、あいつは今1人だ!』

 『こちらの味方に違いない』

 

 勝手に仲間に入れないでいただきたい。

 とはいっても、むやみに攻撃されるのは嫌だ。

 

 

 『って、何処行った!?』

 クリスマスイブという人ごみの多さを利用して人に紛れる。こうでもしないと、ずっと監視されっぱなしだ。

 

 

 

 「ヒロ君~」

 「あ、梓ちゃん。待たせちゃったね」

 「さっき来たところだし。でも、どうしたの?」

 「ん~危ない気配を感じていた」

 気配どころか、実物を見たんだがな。余計な心配を掛けるのはやめておこう。

 

 「じゃあ行こうか」

 「うん。……でも何処に?」

 「まあついて来て」

 オレは人通りが多い道を外れ、近くの公園にやってきた。

 

 

 「公園?」

 「違う違う。今からコレで移動するの」

 「自転車?」

 オレは前もって置いていた自転車の鍵を開けながら、梓ちゃんに告げる。

 

 「持ってきてないよ」

 「二人乗りで行こう」

 「…いけないこと………だけど……うん。分かった」

 真面目だな~二人乗りとかしているやつ山ほどいるよ。それに、自転車2台で併走するのとはまた違ったものがあるじゃないか。

 

 

 「行こう」

 それならば最初からオレが自転車に乗って梓ちゃんの家まで向かえばいいとも思うが、何せFFF団だ。住所を把握している可能性も否定できない。だからわざと人通りが多い方で待ち合わせしたのだ。そこから自転車で逃げればやつらも追ってこれまい。

 

 「初めてかな」

 「うん。そだね」

 「って、そうやって乗るの?」

 と言いながらも内心、喜んでいるオレ。二人乗りの乗り方で男が前で女子が後ろのときは、後ろからぎゅっと手を回して乗るのが王道だろう。ってオレやっぱり頭がおかしくなってる気がする。

 

 「結構遠い場所に行くみたいだね」

 「ん~どうだろう。人が多くないといいんだけど」

 「???」

 「お楽しみだよ」

 オレは徐々にきつくなっている坂をギア利用して登っていく。

 

 

 

 「もうそろそろかな」

 「? 市街地から離れた場所だね」

 山だからね。目的地までもう少し。

 

 「ここに止めて行こう」

 オレは駐輪場とやらがなかったために、階段の近くに置いて階段を登っていく。

 

 「ここは駐車場も無いから、結構人が少ないんだ」

 「人が少ないこんな場所で何を!?」

 え、ええっと何を考えているかはわからないけど、絶対そういうのじゃないから。

 

 「でも、話し声が聞こえるね」

 「うん。まあ多少は居たところで変わりはしないよ」

 オレたちは階段を上りきると、少し広めの場所に着いた。

 

 

 

 

 

     ★

 

 「大変だねムッツリーニ」

 「ホントだよ。ボクたちもバレないようにしないとね」

 「あ、あれは竜也と憂ちゃん」

 「本当に仲良しだよね。いい加減付き合えば良いのに」

 「う~ん……そうだよね」

 でも憂ちゃんには最優先順位の唯先輩がいるからね。なかなか前には進めない。だけど竜也もクリスマスに2人で誘っている時点である程度凄いと思うんだけどね。十分付き合っていると思うよ。

 

 「じゃあ、僕たちもいこうよ」

 「そうだね♪」

 「でもFFF団が迫ってくるっていうのは怖いな」

 「大丈夫。アッキーがボクを連れて逃げて行ってくれるんでしょ♪」

 確かにそうだけど。2人の時間がね。せっかくイルミネーションを楽しみたいのに。

 

 

 

 

 

     ★

 

 「どう梓ちゃん、市街地じゃ見れない綺麗な星空だよ」

 「わ~綺麗~!! よくこんな場所知ってたね!」

 「まあね。昔から自転車でいろいろ回るのが好きだったから」

 「すご~い。案外近場だけど、ライトが全然無いから星が綺麗」

 「それに、空気も澄んでいるからいいでしょ」

 こういう場所知っててよかったと初めて思った。中学時代のオレ、よく自転車でさまざまな場所を駆け回ったな。

 

 「都会のイルミネーションもいいけど、こういう星空もいいね」

 「喜んでもらえて何よりだよ」

 オレらは近くにあったベンチに腰掛け、星空を見ながら話をしていた。

 

 

 『さあついたぞ』

 『わ~綺麗ね』

 『だろ? 穴場なんだぜ』

 『よく知ってたわね。案外ロマンチスト?』

 次に来たカップルらしき人の声に聞き覚えがあったが、顔を確認できるほどの明るさではない。

 

 『っ……まあいいじゃねえか』

 『ふふっ…本当は代表に見せたかったんでしょ』

 『……………言うな。もうそのことは』

 『誘ってくれて嬉しいわよ。こんな景色あまり見られるものじゃないし』

 『なあ優子』 

 『どうしたの突然改まって』

 『今の俺の気持ちを言いたい』

 『??』

 『ずっと……ずっと俺の側にいてくれねえか?』

 『えっ!?』

 『今の俺があるのは優子のおかげなんだ。6月のあの頃からずっと俺を支えてくれた』

 『雄二……』

 『俺がお前にしてやれることは無いかも知れんが…優子。俺は ー 』

 『分かったわ。いえ。アタシからもお願いするわ。ずっと一緒にいましょう。』

 『優子っ………!!』

 『代表には申し訳ないけど……アタシとしても望んだ結果ね』

 『望んだ? 前から俺のことを……?』

 『ば、バカじゃないの!! もういいでしょ!!』

 『ははっ……ありがとな』 

 

 これはオレたちは聞いてよかったのだろうか。録音したいくらいムードがよかったんだけどなあ。いいね雄二。ロマンチスト。オレなんか……あ、思い出すだけでも涙が。

 

 

 

 

   ごめんね雄二。今までありがとう。優子なら………2人ともお幸せに。

 

 

 こんな呟きが聞こえてきた。声の主・内容的に霧島代表だろう。ついてきたのか、予測してたのかは分からないけどここに来たんだな。うん……泣ける。

 

 

 

 

   ようやく……ようやくじゃな。2人とも。寂しくもあるが姉上も雄二もこれがもっともよい結果じゃろう。

 

 

 

 また違う方からも呟きが。今度は完全に秀吉だと分かった。ずっと陰で支えてくれたんだな。うん、いろんな意味でありがとう。

 

 

 

 

 「何か立ち聞きしたみたいな感じだね」

 「うん。星空とあわせてロマンチックだった」

 「わたし達のときは何か場の空気でみたいな感じだったけどね」

 あ~そうだよね。何か梓ちゃんに申し訳ない。

 

 

 

 「梓ちゃん」

 「どうしたの突然」

 「改めて言う。梓ちゃんのことが好きだ。今後ともずっと一緒に居よう」

 「ふぇ……うん。ありがとヒロ君」

 あの時は無理やりみたいな感じだったけど、今回ちゃんと言えてよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 『 ー 捕まえろ~!!』 

 「結局見つかるのかよ!!」

 「あはは。逃げよう!」

 ほかのみんなは無事なのだろうか……

 

 





 このタイミングでの雄二の告白は当初から決めていました。

 何か、一つ一つ重ねていくことで、この作品も終わりに近づいていってる気が。

 後は竜也憂だけでしょ。
 もう実質的には付き合っていますよね。明久の言うとおりに。

 もう先輩が卒業して、軽音部どうなっちゃうの!?
 って方に入っていかないと。

 いい終わりかただったはずなのに…
 最後にオチをつけないとね。


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#84 従兄妹!



 前話で、ラブストーリーの方の話が、全員分終わっちゃいましたね。
 (竜也憂もカウントする)

 このままだとマンネリ化します。
 
 それを防ぐために、新たなスタートが今!!

 では、どうぞ!!





 

 「……ん……んー!! 朝か」

 カーテンの隙間から射して来る朝日でオレは目覚めた。

 

 

 

 「今日から新しい年のスタートだな」

 1月1日。早いな。もうすぐ3年生にでもなろうとしている。オレはカーテンを開け、大きく背伸びをした後に顔を洗いに行った。

 

 

 

 「あけましておめでとう」

 「あけましておめでとう、お母さん」

 「今年は年末はウチで過ごすの嫌だった?」

 「えっ?」

 そう、去年は大晦日から正月を平沢家で軽音部のみんなと過ごしていたのだが、今年は自宅。希望を言うのならば、梓ちゃんと過ごしたかったのだが、家族3人で居る日が滅多にないんだから、たまには家に居てくれとお父さんに頼まれたからそのようにした。梓ちゃんにそれを伝えると賛同してくれた。

 

 「はい、お年玉」

 「ありがとう」

 普段、お小遣いをもらっていないオレは毎年のお年玉というのが重要な収入源である。大切に使う所存だ。

 

 「お父さんももう準備出来ているから早く準備しなさい」

 「分かった」

 去年は、たまたま実家に帰るのが1月2日で正月遊べたんだが、今年は普通に1月1日に里帰り。そこまで遠い距離ではないが……

 

 

 

 「準備出来たよ~」

 Let's里帰り。そこまで楽しいものではないが。だって、従兄弟はもう半分以上独り立ちして、正月にすら帰ってこないからな。

 

 

 「弘志、軽音部は楽しいか」 

 「えっ? うん、楽しいよ。突然どうしたの?」

 「いや、お前と改まって話す機会が全然無いからな」

 「そうだね」

 お父さんは仕事が忙しくてなかなか会えない。

 

 「そういえば、誰と初詣に行くつもりだったの?」 

 「うぇっ!? う~ん…軽音部の先輩も今年受験だからな~」 

 「同級生が1人いたでしょう」

 「梓ちゃんでしょ。あちらも里帰りしているよ」

 向こうの家も今年は里帰りをするらしく、ある意味都合が良かった。

 

 「仲良いのね」

 「う、うん……そうだね」

 実を言うと、学校での出来事をほとんど両親に話していないため、付き合っていることすら話してもいない。家族が不和なわけではないけど、あんまり話さないんだよね~。オレからも話しに行こうとは思わないし。

 

 

 

 「ん~寒い」

 車から降りると、あたりは霜があった。それでどれくらい寒いのかをあらわしている。

 

 「いくぞ」

 実家の方へ向かう。既に祖父母はいないが、お父さんの兄弟その家族が集まって正月を祝うのが通例だ。

 

 

 

 

 「あけましておめでとうございま~す」

 勢いよく家のドアを開け、部屋の中にいる誰かに聞こえるように挨拶をする。

 

 「おめでと~」

 まず一番最初に玄関に駆けつけたのは、ちびっ子だった。この子は、ああ姪っ子だな。

 

 「久しぶり、ヒロ兄。早速勝負」

 新年の挨拶もなしに宣戦布告したこやつは、2つ下の従兄妹。やつは、スポーツ万能・容姿端麗と来た。頭の方は知らないが、モテること間違いなしだろう。しかし、こいつは小さい頃からオレの遊び相手。いや、オレがやつの遊び相手というべきなのか。オレが野球をすれば野球を。サッカーをすればサッカーをしていた。そのたびにオレに勝負を挑んで、負けていた。女子の中では上手いんだろうが、流石にオレも負けてはおられん。

 

 「おめでとうございます。そんなところに立っていないで早く入って頂戴」

 「ありがとうございます。義姉さん」

 父さんの兄の嫁。まあ、この正月を催している人ってわけだ。オレらが大広間に入ると、既にみんな来ていた。

 

 

 「おめでとう。大きくなったな~弘志」

 「ええ。まあ」

 そこまで大きくなってはないが、この言葉はおじさん・おばさんの社交辞令だ。変に抵抗するのもおかしい。

 

 「この優花はずっと弘志に会いたいって言ってうるさかったんだから」

 と、叔父さんがこういった。大変ですね……

 

 「とうとうリベンジを果たすときが来た」

 若干中二病が入っている気がするのはオレだけだろうか。一刻も早くちゃんとした人間になれ。この先ほど宣戦布告をかましたやつの名は、「月野優花(つきのゆうか)」。黙ってりゃ日本女性といった感じで大人しく可愛らしいのに、口を開くとやんちゃ。そして、スポーツをするとまさにじゃじゃ馬。こいつの相手をするのは大変だぜ。

 

 「何のリベンジするんだよ……」

 「全部」

 贅沢言うな。そこまでオレは器用な人間じゃねえ。お前と違ってな。

 

 「じゃあ、バスケ」

 「ちょい待ち。やったこともないぞ」

 「冗談。まずは野球とサッカー」

 「まずはってそれ以外にもやる気かよ!」

 「当たり前。そのために正月まで今か今かと待っていた」 

 叔父さんの方に助けを求めようとするが、お手上げのようだ。どうやらこれの解決方法は実際に戦い負かすことのみのようだ。上等だ。分かりやすい。いくら軽音で体がなまってるからとはいえ、女子に負けるほど劣っちゃいねえ。スポーツテストだって未だに高得点だ。

 

 「ふふ。元気ね2人とも。いいわ。わたしが審判でいいでしょう」

 この発言をしたのは、オレの従姉弟のさや姉ちゃん。最初にお出迎えしてくれた姪っ子の母親だ。

 

 「若い者は元気だの~」

 「年寄りは先に頂いておく」

 と、おっさんらが酒を持ってオレたちにアピールした。十分遊んで来いという指示なのか。

 

 「ママ、行く」

 「あらついてくるの? いいわよ」

 「ヒロ兄、今年こそ負けない」

 「何年目だよ」

 少しでも油断したら負けるが、こいつの顔を立たせるために負けるようなことはしない。そんなことしたって嬉しいやつではないからな。

 

 

 

 「いつもの場所。ここでいいよね」

 「ああ。構わん」

 近くの神社の横の空き地で早速スタートするんだが……野球もサッカーも勝ってしまった。

 

 

 

 

 

 「な、何で……? 今年こそ勝てると思ったのに」

 「ははっ。オレには勝てないってことだ」

 「くやしい。もう一度」

 何度やったって無駄と言っても、再戦を希望している。が、これ以上やる意味は無い。

 

 「正直、野球とサッカーの練習あんまりしていないだろ」 

 「うっ……」

 「オレは現役から離れている。優花が真面目に取り組めば勝てるだろ。今度は何に挑戦してるんだ」

 一つのことを極めようとせず、さまざまなものに挑戦する。いいところでもあり悪いところでもある。

 

 

 「………まだ秘密」

 「何だそりゃ……バスケは無理だからな」

 「違う」

 さっき冗談って言ってごまかしていたが、それを練習していたらオレだって洒落にならない。素人だから。それに、よくよく考えればこいつの性格上、オレの苦手な土俵で勝負するなんてことしないと思う。

 

 「まあいい。とにかく帰ろうぜ」

 「2人とも、せっかくだから神社にお祈りして行きましょう」 

 「は~い」

 さや姉がそういうと、オレたちは素直に従った。

 

 

 「わたしは今年も健康第一にしないとね。2人ともお願いはちゃんとしないとダメだからね」

 「分かってる」

 4人(姪っ子も)はしっかりと祈る。

 

 (軽音部の先輩が全員同じ大学に行けますように)

 最初にコレを願った。コレは、梓ちゃんもオレも共通の願いだ。

 (梓ちゃんとずっといれますように)

 そして、もちろんこれも。

 

 「 ー ヒロ兄に今度こそ認めてもらえるように ー そして、1人前の女の子として ー 」

 隣でぶつぶつ言っている優花だが、祈りってそんなに声を上げるものだっけ。まあいいか。

 

 

 

 「2人ともちゃんと願ったわね」

 帰り際、さや姉が言ってくる。もちろんさ。

 

 「来年こそ、絶対にヒロ兄にリベンジできるように」

 勘弁してくれ。オレが勉強に専念したら勉強で勝とうとするのか?

 

 「帰りにコンビニに寄っていくから」 

 「酒もう飲んでしまったのかよ」

 運転をしない組がじゃんじゃん飲んでいるのだろうなあ。泥酔するぞ。

 

 

 

 

 「ありがと~ございました~」

 さや姉が早速酒を購入して帰ろうとしたとき。偶然にも1人の少女と遭遇してしまった。

 

 

 

 「ひ、ヒロ君? 何やってるの?」

 「あえ……あ、梓ちゃん!?」

 「そんな………信じていたのに!!」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ梓ちゃん!!」

 店を出たところに梓ちゃんが1人でいた。それでオレたちのほうを見るなり、走って逃げる。今のオレたちの状況は…左から姪っ子・さや姉・オレ・優花といった順で手を繋いで歩いていた。

 

 「誤解だよ梓ちゃん!! 待ってくれ!!」

 この状況を端から見ると、冗談じゃ済まされないようなことだ。しかも、梓ちゃんだぞ。付き合っている相手だ。付き合っている相手が見知らぬ女性と手を繋いでいたら、そういう反応も自然だ。

 だが、だからといってこのままでいい訳が無い。確実に誤解を解いておかないとダメだ。急いで、荷物をその場に下ろし、梓ちゃんを追いかけていった。

 

 「話を聞いてくれ!!」

 「もういいよ! ヒロ君なんて!」

 走りは断然オレの方が早いため、逃げ出したところで追いつく。そこで手を捕まえると、無慈悲にも振り払われた。

 

 「聞いてくれ。あれは、いとこだ。今日帰省するって言った ー 」

 「 ー えっ?」

 「いとこの姉ちゃんにその子ども、あとはいとこの妹だ。梓ちゃんが勘違いしたような人じゃない」

 「そうなのっ!?」

 「ああ。断じて。オレには梓ちゃん1人だ」

 誤解が解けてなによりだ。このままだと次会うのがとてつもなくまずい雰囲気になるからな。

 

 「ゴメンねヒロ君。勝手に誤解しちゃって」

 「ううん。あんなことしてたオレも悪い。毎年いつもの癖で」

 「毎年やってたんだね……」

 「ああっ! 気にしたらゴメン!」

 女の子って難しい。機嫌を損ねないようにするってのは至難の業だ。それに比べて ー

 

 

 

 

 

 「あなた何者?」

 優花は ー って、何でお前までここに来ているのだ。

 

 「へ? あなたこそ誰?」

 「わたしは月野優花。正真正銘ヒロ兄の従兄妹!」

 どこが正真正銘だ。オレとお前が似ているところなど見当たらんわ。

 

 「はじめまして。中野梓です。ヒロ君とは同じ軽音部で ー 」

 「それだけじゃないでしょ」

 「って、優花。ちょっとキレているのはどういうことだ?」

 「…………別に。そんなつもりじゃない」

 キレているじゃないか。お前は考えていることがすぐに態度に出るから分かりやすいんだよ。

 

 

 

 「あ、電話! 早く買ってこないと」

 「何か頼まれていたんだね」

 「うん。っていうか、ヒロ君の実家もこの近くなんだね」

 「そうだよ。梓ちゃんもなんだね」

 「そうなんだ。って、いとこって言えば竜也君もだったよね」

 「あれは、母親のほう。今日は父親のほう」

 「なるほどね~じゃあ、わたしは買い物していかないといけないから」

 「うん。じゃあまた明日ね」

 「また明日~」

 梓ちゃんはさきほど逃げ出したコンビニの方へ走っていった。

 

 

 

 「ヒロ兄」

 梓ちゃんが立ち去ると、優花がらしくない顔でオレに質問攻めを浴びせる。

 

 「何処の女?」

 「何敵対心むき出しにしてるんだよ。さっき紹介しただろ。部活の ー 」

 「それ以上の関係にあるでしょ」

 「ぐっ……」

 「そうなんだ。……………」

 「べ、別にお前なんかに関係ないだろ」

 「関係ない!? そこまで言う……」

 あ、落ち込ませた。何でだ。こいつが落ち込むところなんてオレは想像できないぞ。あらゆるもので負けたところで闘争心は失わないのに………今回の件ばっかりは何だ?

 

 

 

 

 「お~い、そろそろ持ってくれ~」

 「あ、ゴメンさや姉」

 後ろから重い荷物を抱えたさや姉が歩いてきた。荷物をほっぽり出していったから、負担掛けたな。

 

 「あの子、軽音の子なの?」

 「そうだよ。ギターがとても上手いんだ。両親がジャズバンドやってたらしくて小学生の頃からギター弾いてたらしい」

 「へ~そりゃすごいね。それならば弘志のお父さんもすごかったって聞いたことあるけど」

 え? そなの?

 

 「よくは知らないから、本人から聞けば?」

 「そうする。 ー って、優花元気ないな。大丈夫か」

 「…………」

 完全に機嫌を損ねている。こりゃ、帰ったら何か話さないとな。

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 「はっはっは……優花はまた負けたか」

 「……うるさい」

 「弘志もすごいな~」

 家に帰って酒を届けると、酔っ払いながらもおっさんらがこんなことを述べてきた。

 

 

 

 

 「ヒロ兄、ちょっと来て」 

 「んあ? どうしたんだ。まあいいけど」

 優花に呼び出されたために、部屋を出る。

 

 「勝負はまだ終わってない」

 「はあっ!? 何をする気だ」

 「キーボード」

 「何って言った?」

 「キーボードで勝負して欲しい」

 この1年、オレにキーボードで勝つために練習してきたのかよ。だから野球とサッカーのレベルがそんなに上がって無かったってか?

 

 「何が目的だ」

 「ヒロ兄の土俵で、ヒロ兄を倒す」

 いい度胸じゃねえか。オレのほうがキーボード歴は長いんだ。

 

 「知ってると思うけど、わたしはピアノ習ってない」

 「ああ。お前が有利にはならないな」 

 この確認をしておかないと、優花は気に食わないらしい。自分が有利な立場でスタートするってのがそれほどまでに嫌か。

 

 「去年の正月、ヒロ兄がキーボードをやっているって聞いたその日から練習しようと決めた」

 その意識を何か1つのものに傾けてくれたら、今頃はものすごい選手になっているんだろうにな。

 

 「しかし、キーボードの優劣ってどうつけるんだよ」

 「親戚の人に判断してもらう」 

 「酔っ払いに?」

 「酒を飲んでない人もいる」

 至極もっともな意見だ。この家にはキーボードがあるし、出来ないことは無い。

 

 「逃げるなよ」

 「逃げるか」

 この自信満々な優花の態度を見ると少し恐ろしい。ただオレにもプライドがある。

 

 「早速やろう」

 ゲームの説明は優花があらかた行ってくれた。そして、先攻を選びやつは先に演奏をしだした。

 

 「ほぉ~優花ちゃんがキーボードを」 

 「昨年、弘志君がしていると聞いてからすぐに練習し始めまして」

 「1年でなかなかのものじゃないか」

 オレもその意見には大いに賛同する。何事にも器用だな……お前。うらやましいぜ。

 

 

 

 

 

 

 「ふ~終わったよヒロ兄。勝負は一回限りだからね」

 「ああ」

 と言ってオレは今更ながらに気づく。バンドでのキーボードと、1人でやるキーボードの違いだ。バンドでのKey.はバンドって中で存在感あるけど、それを1人でやると曲として分からないんだよな。

 

 

 

 

 「ふむ。困った」

 とはいえ、優花にこのまま何もせずに負けるのは許しがたい。『ふわふわ時間』でも自分なりにアレンジするか。

 

 「よしっ」

 今までで一番練習した曲だ。それにメロディーやギターの部分だってほとんど頭に入っている。後は指が動いてくれるか。その練習をしたことが無いから不安なんだが。

 

 Eのコードから始まるこの曲。最初は本来Key.は無いけど、今日は1人。全部自分で弾かないといけない。もちろん、ボーカルラインもそうだ。左でベース音弾きながらも、右でメロディーを。

 

 

 

 

 

 「………負けた……」

 オレが引き終わると同時に真後ろで見ていた優花からの呟き。それと同時に拍手が鳴り響く。

 

 「優花ちゃん、残念だが ー 」

 「弘志君のほうが上手い」

 「……はいっ! 今回は納得がいってます」

 うん、意外だ。今日は何かとおかしい。オレは生まれてこのかたやつが涙を流しているのを初めて見たかも。

 

 「今日は、お邪魔しました~」

 「ありがとうございました」

 夕方になり、そろそろ実家をお暇する時間。

 

 

 

 

 

 

 「優花、またな。1年後、勝負はもう勘弁してくれ」

 「そんなに待たないかもね。バイバイ」

 オレは、その言葉の意味が分かるのはもう少し経ってからのことだった。

 

 

 

 






 この新キャラ、月野優花。
 今後、どう動くのか。
 予定では準~正レギュラーレベルです。

 梓と順調な交際をしていた弘志に暗雲が!?

 一層カオスになる、「青春と音楽と召喚獣」
 をお楽しみください。
 
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#85 3学期!


 前話の終わりである程度予感はしていたでしょう。

 とうとう3学期に入ります。

 そこでやはりあの方登場します。

 では、どうぞ!!




 

 

 「先輩来ないね」

 「うん。3年生は3学期は、週2しか来なくていいんでしょ。2月から週1」

 正月の騒動の後、その次の日に初詣に行ったオレたち2人。何か特別なことがあるわけでもなく、始業式を迎えた。その日の部活。部室に行っても先輩達が一向に現れる気配が無いのだ。

 

 「そうだったね。ちょっとメール見てみようか」

 「何がしかの連絡が入ってるかもね」

 梓ちゃんが携帯を取り出すと、確かに澪ちゃんからのメールがあった。内容は、学校に来ない日は部室にも来ないんだそうだ。最後の追い込みの時期、塾等忙しいのであろう。

 

 「どうしよっか……2人で練習するにしてもね」

 と、オレたちが考えていると、部室のドアが開いた。オレたちは自然とその方へ顔が向く。するとそこには…

 

 

 

 「ヒロ兄……」

 「優花!?」

 オレの従兄妹:月野優花が現れた。それも、ウチの制服を着て。

 

 「今日から若葉学園生。ヒロ兄よろしくね」

 しかも転校生というね。オレのいとこってのは転校してくるのが多いな。

 

 「何故ここに?」

 「ヒロ兄が他の ー じゃなくて、勝負をいつでもつけれるように」

 女子高生としては平均的な体つきをしながら、顔立ちが整っているため、内心自慢の従兄妹だ。こいつがその気になればいつでも誰かと付き合うことが出来るだろう。性格も悪くはない(オレに対して例外)

 いい加減諦めれば良いのに、オレの後ろをついてきては追い抜こうとしている。何がきっかけなんだろうか、オレには全くの覚えがない。

 

 「分かった。お前の意志は分かったが、よくも簡単に親父さんが許したな」

 「引越しはしてないから、ちょっと通う距離が遠くなるだけ」

 「転校の手続きとかいろいろ面倒だろうが」

 「喜んでしてくれた」

 あの叔父さんも何を考えているんだか……

 

 「それで、この学校のことを聞こうにも先生達は忙しそうだったから、やめにした」

 「だからオレのところに来たってか?」

 優花は返事する代わりにうなずいた。ふむ……暇だし別に構わんが、梓ちゃんもいるしな。

 

 

 「じゃあ、わたしはちょっと教室の方に戻るね」

 「梓ちゃん、そんなに気を遣わなくていいんだよ」

 「えっ?」

 「ヒロ兄のバカ」

 何故に罵倒されなければならないのだろうか。こいつはこんな性格だったか? そういう風な言葉はあまり聞き覚えの無いのだが。

 

 「この学校にどんなところがあるか教えてよ」

 「あ~分かった。梓ちゃんも行こうか」

 「いやいいよ。わたしがいると話しにくいこともありそうだし」

 梓ちゃんは優花のほうを見て、オレに伝えた。女子同士にしか分からないようなことだろうな。さっぱり分からん。梓ちゃんを1人にしては問題だということで気を利かせたのに……

 

 「じゃあ、行こう!」

 「あ、ああ…」

 オレは優花に学校紹介をするために部室を出た。

 

 

 

 

 

 「は~やっと邪魔がなくなった」

 「邪魔?」

 「何でもない」

 今日のこいつは何かとおかしいような。オレは何もやった覚えないが不貞腐れている感じだ。

 

 「って、離れろよ!」

 「いいじゃん。いつもこうしてるでしょ」

 「お前、実家で会うときと学校で会うときの違いくらい分かれ!」

 突然腕を組んできたから振り払おうとするも、知っての通り運動神経抜群であるため、力の掛け方が絶妙なのだ。オレが離そうとすると痛みが来る。何もしないで置くと痛みは来ない。何ともいやらしい……

 

 「お兄ちゃん」

 「ちょっと待て。それはいろいろと語弊がある」

 「小さい頃はこう呼んでたじゃん」

 「今いくつだ」

 「16」

 自覚しているのなら、行動にも現して欲しい。その呼び方はいろいろまずいということで、今の言い方に変えたのに。

 

 「分かった。ヒロ君」

 「ちょい待ち。何で元の呼び方に戻そうとしない」

 そうだったな。こいつはもともとこんな明るい性格だったよな。一時、オレから距離を置くためか何か知らんが勝負のとき以外話すこと無かったんだが……とことんオレを振り回すんだよな。

 

 「気に入った」

 1つの教室を案内する前にどっと疲れたよ。その後、数十分かけて校舎中を案内して回った。その間中優花は腕を絡めて歩いていたんだが…たまにすれ違う知り合いと目が合うと、気まずくなる。これを見て、オレが脅されているようには見えないもんな。

 

 

 

 

 「あ、西村先生…」

 「七島……お前は校舎内で何をやっているんだ」

 「優花に言ってください」

 「お前は見ない顔だな。転校生か?」

 「はい。今日からこの学校に転校して来ました月野優花です。ヒロ君の従兄妹です」

 「そうか……出来れば校舎内でそういった行動は謹んでもらえるといいんだが」

 呆れながら優花に言う西村先生。どんどん言ってください。オレを社会的に抹殺するつもりですよ。この野郎…勝負で勝てないからってこんな姑息な手を使うまでに落ちぶれたのか。お兄ちゃんは悲しいよ。冗談。

 

 

 「あ、ココにいた」

 「あれ、大島先生どうかなさいましたか?」

 「あ、ウチのクラスに転校してきた月野です」

 「大島先生のクラスでしたか。どうやら七島の従兄妹らしいですよ」

 「そうでしたか。いい先輩がいてよかったじゃないか」

 「光栄です」

 そこはお前が照れるんじゃなくてオレが照れるんだ。

 

 「校内見学をしないといけないから ー 」

 「もう終わりました。ヒロ君に」

 「一応、施設は教えました」

 「ありがとう七島。それでは早速だが部活動の紹介を」

 「それもいらないです。もう決めてますから」

 「そうか。早いな。いいことだ。何部に入るつもりだ?」

 オレの方をちらっと見てから優花はまだ内緒ですと答えた。明日教えるらしい。オレもそれは知りたかった。こんなに器用な優花だ。どこの運動部からでも引っ張りだこだろう。

 

 「じゃあ、俺はもういらないな。七島わざわざすまんな」

 「くれぐれも校内では気をつけろよ」

 この学園1・2の運動神経いい先生を目の前にして身じろぎ1つしなかったこいつの肝っ玉の太さは何か。もはや金属か。

 

 「ヒロ君今日はありがとう」

 「ああ。本当に疲れた。お前がこの学校に来るとか思っても無かった」

 おかげで気が休まる日が来ないよ。

 

 「わたし帰る。また明日ね」

 そう言うと、テンションが高いのか軽くスキップして帰った。って、おい。また明日もお前と会うのか!? 部室に会いに来るのか。もしくは教室に乗り込んでくるか。個人的に両方避けてもらえると嬉しい。学校外で会う分には全然構わんのだが。

 

 

 

 

 

 「帰るか」

 部室に帰る。ドアを開けたら、大勢の人がいた。

 

 「なんで?」

 オレは思わずつぶやいてしまった。しかも、その面々がアキや雄二といったいつものメンバーであった。

 

 

 「ヒロ。ココに来て」

 「んあ? どうした。って、梓ちゃんは?」

 「席を外してもらってる」

 何だ、みんなのまとってるムードがいつもと違うぞ。怖い……

 

 「え、ええーっと……?」

 「「「失望した!!!」」」 

 「突然、何を!?」

 みんなに指差され、息ピッタリでこんなことを言われた。

 

 「見に覚えが無いのかい? それはそれで末期症状だ」

 まさかとは思うが、さっきの学校紹介していたときの見られてたんじゃ。

 

 

 「ちょっと待て。お前ら何か勘違いしてねえか?」

 「言い訳無用。僕らは異端審問会ならぬ ー 」

 「おい待て。状況整理くらいさせろ。それだとFFF団と同レベルだ」 

 「ふむ。それは嫌だ」

 いや、今の追い詰め方とか十分それに近かったと思うぞ。

 

 「お前たちが何を持ってオレに失望したのか」

 「それはヒロ自身が分かっているはずだ」

 おいアキ。たいがいにしとけ。状況整理だって言ってるだろ。食い違ってたら元も子もないんだよ。

 

 「僕たちは偶然見てしまった」

 「何を」

 「梓ちゃん以外の女の子と仲良く手を繋いで歩いているシーンを」

 食い違いはなさそうだ。予想通り勘違いをしている。オレはこの勘違いを解くのにどれほどの労力を要するだろうか。本人にしたときも大変だったが、こいつらはvs10人いるから大変だ。

 

 「よし。お前たちの言い分は分かった。オレの言い分も聞いてもらおう」

 「聞くまでもない」

 だとしてもオレは身の潔白を証明するために言うぜ。

 

 「あれは、オレの従兄妹だ」

 「ヒロ君~いる?」

 最悪のタイミングで当の本人が現れた。悪意があるのかこいつは。嫌がらせか?

 

 

 「あ、さっきのヒロと手を繋いでた人」

 「お前からも言え。優花。オレの従兄妹だ。自己紹介しろ」

 「あ、え~っとヒロ君の従兄妹の月野優花です。よろしくお願いします」

 「それでいい。分かったか。これでいいだろ」

 何かとオレを貶めようとするな。やめてくれ。

 

 「お前は何しに来たんだ」

 「荷物をここに置いてたの忘れてて」

 「わざとだろ」

 「違うよ。ちょっと舞い上がっちゃって」

 「はいはい。転校初日だから分かるけど、気をつけて帰れよ」

 「…………分かった」

 さっきまで調子が良かったのにオレがごく当たり前のことを言うと、また不機嫌になったようだ。そして、やつはこの部室を後にした。

 

 

 

 「でもヒロ」

 「何だ」

 「いくら従兄妹とはいえ、あそこまでする?」

 「無理やりだ。あいつの運動神経のよさを知らないから分からんだろうが……」

 普通に運動部だったら……例えば、女バスだったら普通に4番背負って県大会以上は確実。ソフトボールだったら4番ピッチャー。そんなやつが、きれいに腕を絡めるのだ。後は言わなくても分かるだろう。

 

 「でも……梓ちゃんのことも考えるとね」

 「分かってるさ。本人もあいつのことは知ってる。お前らもオレたちの仲を心配してくれたのはありがたい。ただ、あいつとの決着はオレ自身の手で下さないといけないんだ」

 「決着?」

 「やつは小さい頃からオレの後についてきて、オレがサッカーするならサッカーして、野球するなら野球してという感じでやってきたんだが、その度にオレと勝負をするのだ。オレの得意分野でオレに勝つことを目標としているのだ。今回転校してきたのも年に1回しかチャンスがないのを変えるためだそうだ」

 「ははは………大変だね」

 よくぞ同情してくれた。ただ、同情してもらってもやつとの勝負がなくなるわけではない。

 

 「でもよかった。ヒロ君がまさか梓ちゃんを捨てたのかと思った」 

 「憂ちゃん、そんなわけあるものか。オレだって梓ちゃんは大切な人だよ」

 「よかったね~梓、そう言ってもらえて」

 と、純ちゃんが言うと、物置から梓ちゃんが出てきた。

 

 

 

 「うん……わたしは信じてたよ」

 「アツいね~」

 「っていうか、みんな勝手に先走っちゃってびっくりしたよ。わたしはもう知ってたのに」

 「てっきり梓を捨てたのかと思ってさ~問い詰めようと思ったんだよ」

 「そこまでしなくても」

 「甘い! 梓は甘いよ!」

 心配しなくていいよ。オレは梓ちゃんと一緒にいるからね。

 

 「ってか純、ジャズ研行かなくて良いの?」

 「しまった~!! もうとっくに始まってるじゃん!!」

 ご愁傷様です。急いで出て行った。

 

 「秀吉も」

 「ワシもそろそろ行かねばのう」

 「アタシも生徒会の仕事があるし」

 「………わたしも手伝いを」

 「ボクも部活があるんだった」

 秀吉も部活に向かい、愛子ちゃんも同じ理由で部室を去った。優子さんは、この1月から若葉学園の生徒会長として君臨することになった。和さんの跡を継ぐ者としてこれ以上ないだろう。霧島代表は学年代表として、生徒会のサポートもしている。

 

 「俺たちも帰るか?」

 「そうだね。問題も解決したし」

 「竜也、暇ならドラム叩いてくれ。2人じゃどうも練習できなくて」

 「…………どうしようか」

 竜也はアキや雄二・康太のほうを見て、こういった。

 

 

 

 「ねえねえ。わたし何か楽器弾いてみたい!」

 「憂、唯先輩が置いていっているギー太使えば?」

 「使っちゃって良いのかな?」

 「いいんじゃないの。憂ちゃんが使うんなら喜んでいると思うよ」

 「そうかな~」

 というか、家で練習するときにも憂ちゃん何回か触っているし別に構わないだろう。

 

 「よし。俺が叩いてもいいか?」

 「雄二が? 出来るのかよ」

 「どうだか」

 「やってみろよ」

 と言うと、雄二はドラムの前に座りスティックを握ると、激しくたたきだした。

 

 

 

 

 「おお……なかなかやる。練習しているのか」

 「練習ってほどではないが、暇つぶしにな」

 「家にドラムが?」

 「ねえよ。ま、そんなことより練習しないのか?」

 「お、おう。するする。梓ちゃん用意できてる?」

 「今の間にしたよ」

 オレも自分のキーボードの電源をつけて準備完了させる。

 

 「これでよしっと」

 憂ちゃんもいつの間にかギー太を持っていて、チューニングも終わらせていた。

  

 「ベースがいねえな」

 「音に深みがないよね」

 「………心配するな。ジャズ研から借りてきた」

 「竜也が弾いてくれるのか」

 「………いや、俺が弾こう」

 「何っ!?」 

 そういえば前に言ってたな。康太、たまに純ちゃんにベースを教わっているって。

 

 「何か随分と本格的になったな」

 「じゃあオレがもう1つのキーボードするか」

 「僕が何か歌おうかな」

 「お前ら即興でそんなこと出来るのかよ」

 「「「まずはやってみよう」」」

 確かにこいつらの言う通りだから、やってみることにする。そんなことを思ってたら、突然憂ちゃんのギー太が音を上げた。というより、憂ちゃんが弾きだした。これは「ふわふわ時間」だな。突然鳴り出したというのに、みんな動揺もしていなかった。オレや梓ちゃんが入れるのは当たり前だが、雄二や康太・竜也が入れたってのは凄いと思った。そして、歌の部分、アキが歌えている。何だお前ら練習していたんじゃないんだろうな。この出来は。すごすぎるぞ。軽音メンバーは誰も楽譜を教えていない(そもそも楽譜がない)から、おそらくは全て耳コピ。竜也を中心に作ってたのか。忘れていたが、憂ちゃんの応用力の高さ。唯先輩の練習に付き合ってただけで自分も弾けるようになるのかよ。

 

 

 

 

 

 

 「すごいよみんな!」

 梓ちゃんの声。オレもそう思った。

 

 「楽しかったね。またこんな機会があるといいね」

 「そうだな。俺たちはそろそろ帰るか」

 「………じゃあ、帰る」

 「ありがとね~楽しかったよ」

 「さらば」

 いつの間にか自分の楽器を片付けて部室を後にする5人。

 

 「何だったんだろうね」

 「さあ?」

 謎が残った今日の部活だった。

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「みんな~ちょっと聞いて~」

 「どうしたのさわちゃん」

 「いいお知らせがあるの」

 次の日、学校に来た先輩方と部室にいたら、さわちゃん先生が突然乗り込んできた。この時期、3年生の担任を持っているということで滅多に現れなかったのに。何があったんだろう。

 

 

 

 





 どうですか?
 新キャラ月野優花。
 読者の皆様がどう思われているのか気になります。

 名前の由来は……しょうもないことですが……
 この頃見た作品の中で作者が最も好きな女子キャラからそれぞれ1字取っています。
 部分部分分かるかもしれませんが、誰か全部分かる方はいらっしゃるのでしょうか!

 
 最後らへん、今後に向けての伏線でしたが、いつの間にかアキたちは楽器が弾けるように。 これが今後どういう風に軽音部にどういう風に影響していくのか!!

 最後、さわちゃんは一体何しに来たのか。

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#86 疎遠!


 新キャラ登場で、徐々に見えない壁が積みあがっていく。

 その壁を取り壊すことが出来るのか。
 はたまた、高く積みあがって取り返しのつかないことになるのか。

 今後のヒロと梓は優花の登場によってどうなってしまう!?


 では、どうぞ!




 

 「こんな時期にと思うかもしれないけど……」 

 「どったの?」

 さわちゃん先生が、いいお知らせということで突然やってきた部室。受験勉強にいそしんでいた先輩方も手を止めて、さわちゃん先生の話を待つ。

 

 「軽音部に新入部員がやってきました!」

 「マジ!?」

 「こんな時期に!!」

 「嘘~」

 「どんな人?どんな人?」

 ………オレはとある1人の女子の顔が思い浮かんできた。それと同時に冷や汗がタラリと。

 

 「どうぞ。入ってきて頂戴」

 「失礼します」

 といって、入ってきたのは女子。上靴の色からして1年生のようだ。

 

 

 

 

 「月野優花と言います。昨日転校してきたばっかりですがよろしくお願いします」

 やっぱりか。予想通りというべきなのか……まさか部活までオレの後を追ってくるとは。

 

 「かわいい~」 

 「楽器は何が出来るの!?」

 「どっから来たの?」

 「甘いもの好き?」

 「先輩達落ち着いてください。この子もちょっとひいてるじゃないですか」

 先輩達は一瞬にして優花の元へ行くが、梓ちゃんがそういうと、先輩達は再び元の場所に戻った。

 

 

 

 「月野優花です。楽器はキーボードを少し。先輩達の受験勉強の邪魔はしません。本格的には春からやろうと思っています。それまではどんな部活かを知るための見学のようなものですかね」

 「どこかで聞いたことがあるような」

 「あれだ。ヒロが入ってきたときと似ているんだ。最初は見学ってのが」

 「そうか!」

 確かにそうだな。意図せずしてやったんなら、やはり親戚というべきなのか。

 

 「よろしくね、優花ちゃん」

 「…………はい。よろしくお願いします」

 機嫌悪そうに答える。何か喧嘩でもしたのか? 会って間もないのに。

 

 「じゃあ、わたしは職員室に戻るわね」

 「ほ~い」

 「仲良くするのよ」

 「ほ~い」

 さわちゃん先生は部室を後にした。

 

 

 

 「ヒロは何も聞かなくて良いのか? 今度からずっといる部員だぞ」

 「え、まあ……聞かなくてもいいですよ」

 「何だ? 梓以外には興味ないのか?」

 「そういう意味で言ってるわけじゃないですよ! ただ、既に十分すぎるくらい知っているから別にいいでしょ」

 「どういう意味?」

 「オレの従兄妹なんですよ。まさか部活まで一緒になるとは思ってもいなかったですけど」

 「「「従兄妹!?」」」

 「全然似てないね」

 従兄妹ってそりゃ~4親等も離れてりゃ似てないだろうよ。

 

 「何か迷惑かけたら言ってください。すぐにしかりますから」

 「なるほど。面倒見が良いのはこういうところからか」

 「嫌が応にもその手のスキルは上がりますからね」

 「そうか~1年の頭からこの学校に居たら、もっとわたしたちも楽しかっただろうに」

 「残念ながらわたしたちももう受験だからな」

 「楽器弾いている暇ないもんね」

 「本当にね」

 そりゃあもちろん、後輩としてもみんなに同じ大学にいって欲しいから、勉強してもらいますけど。

 

 「ねえ、ヒロ君」

 「なんだ?」

 「お前、ヒロ君って呼ばれてるのかよ!」

 「昨日からですよ。突然。同じ学校に通うようになってから」

 りっちゃんの笑いが止まらないのはどうにかしてほしい。

 

 (軽音部のみなさんには、ヒロ君が学年より実年齢が1個上って教えてるの?)

 (心配するな。軽音部だけにしか教えてない。お前も絶対にバラすなよ)

 (分かってる)

 ここらへんの事情は優花もよく知ってるから、十分に対処してくれるだろう。 

 

 

 

 「もうわたしのことはいいですから、先輩達受験勉強なさってください」

 「そうだな。休憩終わりだ」

 優花はそういうと、オレと梓ちゃんの座っている場所の対角線上の机の前に、椅子を持ってきて座った。要するに、さわちゃん先生の席だ。

 

 

 

 「えっとこの式を微分すると……そして増減表から ー 」

 「If were not ー ああ、仮定法ね」

 「井上馨は、欧化政策の一環として鹿鳴館を建て、条約改正をしようとした」

 「メンデルの遺伝の法則じゃなくて、これは連鎖だね」

 先輩達ってここまで勉強に集中することが出来るんだ。おみそれしました。でも、全員が違う教科をしているのは何だろうか。耳に入ってくる単語だけでも勉強になるからわざと教科をずらしているのか。

 

 「わたしたちもしないとね」 

 「うん。そだね」

 この頃、先輩達の受験勉強に付き合っているおかげで、オレらの成績は上昇中。家ですべきものが全て部活中に終わるんだもの。 

 

 

 その後、ずっと勉強で今日の部活を終えた。優花から特に異存が無かったところを見ると、さわちゃん先生にこのような状況と既に伝えられていたのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあな梓・ヒロ、えっと優花!」

 「お疲れ様です」

 優花もオレたちと一緒のほうから帰るらしい。

 

 

 

 「えっと………これは……」

 今オレは、右手は梓ちゃんと手を繋いでいる。これはいつもの光景だ。だが、左しかも腕には優花の手が。これじゃ、どっちと付き合っているか分からなくなるものだ。梓ちゃんもやめて欲しいなら言っていいんだよ。オレが言ったところで意味が無いからさ。2人きりになりたいなら言ってくれ。オレも喜んでそっちにいくから。優花は悪気は無いんだよ。多分。いつも通り、今まで通りオレと過ごしているだけだ。

 

 

 

 「じゃあ、わたしはここでいいよ」

 「いつも通り送っていくよ」

 「それじゃ、悪いし」

 「優花は気にしなくていいよ。というか2人とも名前で呼び合ってよ」

 何かと疎遠な空気漂う2人。お互い同士でしゃべることはほとんどない。

 

 「梓ちゃんは優花って呼び捨てで言っていいよ」

 「優花、これでいいかな?」

 「いいだろ優花」

 「…うん。中野先輩」

 「そんな他人行儀にならなくても。下の名前で呼べば良いだろ」

 「梓先輩」

 「よろしくね」

 夜道だから2人の表情はよく見えないが、話し方・言葉で大体分かる。

 

 「じゃあ、また明日ね」

 「うん。バイバイ」

 梓ちゃんを家まで送り届けた後は、オレも家に帰るだけ。

 

 「わたしを家に送ろうとはしないの?」

 「冗談だ。お前の家、ここから遠いだろ」

 「そう。だからヒロ君の家に行く」

 どういう意味かな? それに、直接帰ればこんなに遠くは無かっただろ。

 

 「ヒロ君の家に自転車置いているからそれで帰る」

 「毎朝、ウチに止めて通っているのかよ」

 「うん。そのつもり」

 まあ別にダメじゃないけどさ。ってかお母さんが許したならいいけどさ。

 

 「じゃあ、わたしも帰るね」

 「家まで送らなくて良いのか?」

 「自転車だから大丈夫」

 「そうか。気をつけて」

 家の前まで来ると、確かに優花の自転車があった。それに乗って帰っていく優花。その後姿を見ながら、今日一日もどっと疲れたと感じてしまった。

 

 

 

 

 

    ★

 

 次の日もその次の日も、来る日来る日毎日優花は軽音部の部室に来るようになった。部員になったから当たり前なんだが……オレはそのため、梓ちゃんと話す回数が激減した。クラスでもなかなか忙しくて話せない、こんなときでもいつも部室で話していたんだが……帰り道も本来なら2人きりで帰るんだが、最初の日のように優花がずっとついて来るためそんなことも出来ない。

 梓ちゃんが嫌と言えば終わりなんだろうが、それをしない優しさというか何というか……梓ちゃんは優花を悪く思っている感じはさっぱりないのだ。優花がどうも梓ちゃんを嫌っているというか、そんなオーラを出しているきがするんだよなあ。どうすればいいんだろうか。結局のところはオレが解決しなくてはならない問題なんだけどさ。

 

 

 そんなこんなで1月がいつの間にか過ぎていた。なんらいい解決策が思い浮かばずに。進展0。先輩方がセンター試験を受けたり、私立の試験を受けたりというのがあったというのが最

近の軽音部活動記録であろうか。

 

 

 こうやって、ちょいとばかし梓ちゃんとの距離が疎遠になりそうなときに、2月も数日過ぎていった。このまま梓ちゃんとの距離がどんどん遠くなる気がする。それは絶対に嫌だ。むしろ、梓ちゃんもそれを望んでいないと信じたい。優花という1人の登場によってここまで関係が途切れると言うのも予想してなかった。正直、自分の見立てが甘かった。

 

 

 

 

 「梓ちゃん」

 「……どうしたの?」

 だから、行動を起こす。優花には悪いと思うが、梓ちゃんをまず最優先に考えることにした。

 

 「今日、部室に行かずに帰らない?」

 「急にどうしたの?」

 「部活に行くと優花がいるじゃん。だからこの頃ゆっくり話していないなと思ってさ」

 「それだけ?」

 あんまり乗り気じゃなかった。どうしよう。これがいわゆる倦怠期ってやつなのだろうか。

 

 「分かった。そうしよう!」

 「今日の部活は中止。ということで」

 「山中先生に言いに行かないとね」

 さわちゃん先生には事情を話して、優花が来た場合は今日の部活はないということを伝えてもらうようにした。

 

 「寄り道しよっか」 

 「何処に?」

 優花がカンが良かったら、確実に追ってくる。梓ちゃんと帰っているいつもの道を。だから今日はその方向に行きたくない。ということは、意外と近場のあそこだな。

 

 

 

 「久しぶりラ・ペディス行く?」

 「いいね。この頃ご無沙汰だったからね」

 竜也のバイトも1年の時に比べたら少なくなっているらしい。あのときが異常だっただけだが。

 

 「いらっしゃいませ~って、お前ら」

 「ココで会うのは久しぶりだな」

 「こちらにどうぞ」

 「ありがとうな」

 竜也は学校が終わってすぐにココに来たらしく、既に仕事に入っていた。

 

 「今日は部活無いのか」

 「切り上げてきた。いろいろと話がしたかったから」

 「そか。本当にごゆっくりしてけ。別に注文しなくても構わない」

 「気遣いありがとう」

 竜也のこういった気配りが非常に助かる。オレは竜也が持ってきてくれたお冷を飲みながら話す。

 

 「3学期になって話す回数減ったよね…」

 「うん」

 「やっぱり、優花のせい?」

 「………………」

 「怒っている?」

 「そんなんじゃ ー 」

 「ゴメンな。オレのせいでこんなことになって……オレはもっと梓ちゃんと話したいのに」

 「……わたしだってもっと。でも」

 「でも?」

 「優花ちゃんにヒロ君を取られたって感じに思っちゃって。ヒロ君にとっては昔から面倒を見てきた従兄妹なのに」

 梓ちゃんがそういう風に思ってくれたんだ。本当にゴメンな……

 

 「あいつは前からオレの真似をして追い抜こうとする」

 「そう思っているのは多分ヒロ君だけ」

 「どういうこと?」

 「優花ちゃんは、ヒロ君のことを好きなんだよ」

 「はあっ!?」

 そんなわけがあるわけない。あの優花がだぞ。

 

 「好きな人と同じことをして、それを認めてもらいたい。そう思っていると思うよ」

 「絶対違うよ~」

 「本当かどうかは本人に確かめてみればいいよ」 

 そこまで言うか。にわかには信じられないんだが。

 

 「わたしはヒロ君が優花ちゃんにその事実を告げられたとしたら ー 」

 「梓ちゃんを選ぶよ。梓ちゃんもそれを信じてくれる?」

 「もちろん」

 よかった久しぶりに話せて。これを聞くと本気で優花と話さなければなったな。

 

 

 「何か注文しよっか」

 「そだね」

 オレたちは竜也を呼んで注文する。今日は何か気を遣ってくれたのか心なしか大盛りだった。

 

 「ねえヒロ君」

 「何?」

 「先輩たちに何かプレゼントする?」

 「合格祝いにってこと?」

 「あ、いや…それも兼ねてというかなんというか」

 ? 全く心当たりが無いものだ。

 

 「ば、バレンタインに、日頃の感謝を込めて何か送るかなと思って」

 そんな日もあったな。例年変わらず過ぎていっていたから気にもしてなかったよ。

 

 「そうだね。もうすぐ先輩達も卒業だし、これがラストチャンスだね」

 「うん……去年はムギ先輩が持ってきてくれたけど、今年はわたしが持っていこうかなと思って」

 「オレも手伝うよ」

 「ありがと」

 今日はこの後ずっと何を作るかで決めて帰ったのであった。

 

 





 三角関係?
 果たして梓の見立ては当たっているのか。
 ただの思い過ごしに終わるのか。

 バレンタインね~
 二次創作の小説書くときに毎回題材にするけど、その度にちょびっと憂鬱に。
 欲しいな~ってね。
 
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#87 バレンタイン!



 クリスマスに続いて縁がないこちら。
 
 というか、クラスや隣のクラスなどでそんなの見たことない。

 義理チョコですら。

 友チョコならよく見る。女子同士だな。


 どうでもいいですね。
 
 では、どうぞ!





 

 

 「先輩方、受験お疲れ様でした! 日頃の感謝も込めてコレ、どうぞ!」

 「おお……ヒロがわたしたちにプレゼントか」

 「そういえば今日はバレンタインだったわね」

 「ありがとうな!」

 2月14日、オレは学校について早々雪の降る中、先輩達を待っていた。久しぶりの先輩の登校だ。予想通り、4人で揃ってきたため持って来ていたプレゼントを渡す。料理という苦手分野、ここは流石にお母さんに手伝ってもらった。作るって言ったときは相当驚かれたが、理由を伝えると快諾してくれた。そして、お母さんに助言をもらいながらの初めてのお菓子作り。

 梓ちゃんと相談して決めた結果、梓ちゃんがチョコケーキをつくり、オレがクッキーをつくることになった。渡すのはバラバラでもいいって決めてたからオレは先に渡してたけど、この先輩の様子じゃ梓ちゃんはまだのようだ。

 

 

 

 「それより~ヒロのほうはどうなの?」

 「あずにゃんからもらった?」

 「え?…………あ、そっか。今日バレンタインデーだっけ」

 「おいおい、そのためにわたし達に渡してくれたんじゃないのか?」

 そうなんだけど……バレンタインデーで梓ちゃんからもらえる可能性というのに全く気づいていなかった。去年までそういうのとは無縁でいたからさ、先輩に渡すのだけで精一杯になっていたな。そうかそうか。梓ちゃんからもらえるのか~期待しとこ。

 

 「それじゃあ、また放課後部室でな~梓がヒロにどんなの渡すか楽しみだな~」

 「って、りっちゃんが楽しまなくても」

 「ふふ~……いいじゃんいいじゃん」

 と言いながら昇降口の方に向かっていった。オレはその歩く姿をずっと立ち止まってみていた。もう受験は全部終わったんだよな~すぐに卒業か……オレがノスタルジックになってもダメだ。笑って先輩達と最後まで過ごさないと。…………あ、澪ちゃんまたファンの人にもらってるよ。凄い数……

 

 

 

 

 

 「あれ、ヒロ…こんなとこで何やってんの?」

 「おうアキ。先輩に日頃の感謝を込めてプレゼントをしたんだ」

 「そうなんだ。今日は楽しみだね」

 「ああ。楽しみだな」

 校門前で立ち止まっていると、アキがやってきた。オレはアキと共に教室の方へ向かった。

 

 

 

 「ヒロ君!!」

 突然、後ろから呼び止められたが、オレはあえて無視と言う選択をとることにした。なぜならば。

 

 「ちょっと、聞こえているよね」

 どのみちすぐそばまでやってくるから。誰が? そんなの決まっているじゃないか。

 

 「何か用か、優花」

 何故か同じ学校に転校してきた従兄妹の優花である。

 

 

 「コレ、作ってきた。だから食べて」

 「お前、料理出来たのか」

 「やったことない。でも、ヒロ君にプレゼントするから気合入れて」

 通り過ぎていくやつの視線がとても痛いんだが……オレはこういう場合、どうすればいいのだろうか。受け取るべきなのか。梓ちゃんからもらうのが最優先だから受け取らないで置くべきなのか。

 

 「本当に食べれるのか?」

 「味見したから大丈夫」

 「でも、今腹いっぱいだし、後で食べるぞ」

 「感想聞かせてね」

 「はいはい」

 結局受け取ることにした。優花の顔見てると、ここで引き下がったらいろいろとやばい気がしてきたからね。もちろん、腹いっぱいっていうのは嘘。梓ちゃんのを一番最初に食べる。これだけは譲らない。

 

 

 

 「ヒロ、人気だね」

 「お前、オレの心の中の葛藤を知ってそれを言ってるか?」 

 「冗談だよ。僕だって今朝、姉さんにもらったし」

 「おあいこだな」

 そういえば、姉さんの不純異性交遊の厳禁についてはどうなったのだろうか。何も異変が見当たらないことから、オレはお咎めなしであろうという結論に至った。

 

 「じゃあ、僕は教室に行くから」

 「おう。またな」

 Fクラスといえども、雄二やアキ・康太や秀吉・竜也と言った連中は来年Aクラス入りを目指すために必死に勉強しているらしい。それが、あまりにもクラスの温度差を生み出していて、先生も多少やりづらい感をだしているそうだ。雄二はほぼ確実にAクラス入りは確定している。他の5人は……今の様子じゃBが精一杯か。もしくは何かの運でAクラス入りをもぎ取るか。クラス替えが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

  

 

 「あ~今日の授業一切集中できなかった」

 いつもらえるのかとワクワクドキドキしながら待っていたが、放課後まで何もなし。どころか、梓ちゃんと一度も顔をあわせていない。偶然にもほどがあるが………それは放課後になれば終わるだろうと。そして、部活の時間。一緒に行こうと思って、梓ちゃんのほうの席を見てみるも姿は見あたらなかった。バックはあるも、本人の姿だけが見えなかった。

 

 「憂ちゃん、梓ちゃん何処に行ったか知っている?」

 「さあ…どこだろうね…わたしも知らない」

 「そうなの……」

 「さっきすれ違ったけど、何か用事があったわけじゃないの?」 

 「純ちゃん?」

 Dクラスの純ちゃんがAクラスにわざわざやってきて伝えてくれた。まあ、本来の用件は別にあると思うが。

 

 「急にどうしたの純ちゃん」

 「梓がちょっと心配でさ~」  

 「それならば見つけたときに何で後を追わなかったの?」

 「いや、バックも持ってなかったから直に戻ってくるだろうと思って」

 確かにそうだ。純ちゃんを責めることは出来まい。

 

 「でも、梓ちゃんが心配ってのは?」

 「軽音部の先輩にバレンタインのプレゼントを渡せるかどうか。全然渡せなかったんだよ」

 「そうなんだ。そりゃ心配になるわ」

 直前まで来て照れちゃっているのかな。

 

 「梓曰く、『みんな、いなくなっちゃうんだなあ』って呟いてたね」

 目に浮かぶようだ。オレもそう思ったし。梓ちゃんが思うのも無理はない。

 

 「その場はわたしと純ちゃんで慰めたけど」

 「本来はヒロ君の役割だよね」

 それはそうだ。オレがその場にいたならそうするよ。でもあいにくね。

 

 「そういえば、そんな話を知らないってことは梓と話してないの?」

 「今日一回も話すどころかお互いすれ違いもなかったよ」

 「ええええええええっ!!! それはまずいでしょ。梓、ヒロ君にもあげてなかったの!!」

 「純ちゃん落ち着いて。ココAクラス。みんなまだいる」

 「あっ………」

 周りの女の子がくすくす笑っているの見ると、オレも恥ずかしくなってきた。

 

 

 

 「全然梓、帰ってこないね」

 「うん。どこに行っているんだろう」

 「そろそろ探しに行こうかな」

 「わたしと純ちゃんは教室にいるから、帰ってきたらメールするね」

 「うん。よろしく」

 オレは2人を残し、梓ちゃんを探しに出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何処にいるんだろう」

 皆目見当もつかなかった。まず、部室にはいないはずだ。そのほかに梓ちゃんといって心当たりがある場所がなかなかない。自分から優花に決闘を申し込みに行ったとも考えにくい。まずは職員室だな。

 

 「え? 来ていない?」

 「ええ。今日は見てないわね」

 「ありがとうございます」

 さわちゃん先生や他の先生に聞くも、誰も行方を知らなかった。ふむ……何処だろう。

 

 

 

 

  っ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか……な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレの脳裏に一瞬だけ嫌な思い出が流れた。

 そう、あれは去年の学園祭のことだった。自分達の受験合格のためということで、ワルと協力してアキや雄二を追い落とそうとした件。その騒動に梓ちゃんたちも巻き込まれたんだよな。そう、誘拐という形で。少なくともひきずってはいないが、心のなかから一生消えない事件として彼女らに遺されていくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変なもの思い出してしまった。まさか……そんなはずはない。アレ以降、学園の警備は強化したと聞いているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなオレの悩みは一瞬で消し飛ばされた。梓ちゃんが1人で立っていたのだ。中庭の木陰で。

 

 「こんなとこにいたら寒いよ」

 悪い予感が本当じゃなくて非常に安堵した。オレはそう思って梓ちゃんのもとへ行った。

 

 「ヒロ…君。どうしてここに?」

 「全然教室に帰ってこないから探したんだよ」

 「……そう…ゴメンね1人でこんなところに来ちゃって」

 「謝ることは無いよ。でも、悩みを1人で抱え込んでいるってのはオレとしては嫌かな」

 「え?」

 「オレに悩みをぶつけてよ。オレが解決できるかは分からないけど、出来るだけ力になるからさ」

 現在の悩みってのはさっき純ちゃんから聞いた先輩の卒業の件だろう。それに関しては、どう解決すればいいか分からないが、とにかく梓ちゃんを立ち直らせるのが先だ。

 

 「もうすぐ先輩達卒業なんだよ。それを改めて考えるとね……」

 「それはオレだって一緒。でも、先輩達はそんな寂しそうな顔の梓ちゃんと会いたくはないよ」

 「……?」

 「梓ちゃんは笑顔が一番いいよ。先輩達もそう思っているに決まってる」

 「………………うん」

 「オレたちが悲しんだって先輩達は卒業する。それならば、笑顔で送り出そうよ」

 聞いた話によると、人間と言うのは別れ際の顔を覚えておくらしいからさ。これが本当かどうかは分からないけど、信じていい気もする。

 

 「それが、オレたち後輩として先輩達に出来ることなんじゃないかな」

 オレがそう言うと、梓ちゃんは涙を流していた。逆効果だった? まずいな。オレは梓ちゃんの側に寄り、頭を撫でた。すると、涙を流しながら抱きついてきた。寂しいよな。2年間随分長い時間を過ごしてきた最高の仲間だもんな。

 

 

 

 「ありがとう、ヒロ君。これで決心ついたよ」

 「それならよかった。やっぱり梓ちゃんは笑顔が一番だよ」

 「ありがと。ヒロ君、コレ」

 「どうしたの?」

 「ヒロ君にバレンタインデーのプレゼント」

 あっ……そうだった。またしてもすっかり忘れていた。自覚してないと不意打ちに感じるよ。

 

 「ありがとうね梓ちゃん。オレの分まで」

 「じゃあ先輩達に渡しに行こう」

 「そうだね」

 教室に2人で帰ると、純ちゃんと憂ちゃんがそのまま待っていた。オレたちを見るなり笑顔になり、別れを告げられた。オレがいるからいいと判断したのだろうか。純ちゃんは部活があっただろうに本当に申し訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「開けよう」

 部室の前まで着くと梓ちゃんがドアノブに手を掛けて気張っていた。そんなに気張らなくてもいいんじゃないかと思うが……梓ちゃんがドアを思いっきり開けると中から悲鳴が。

 

 「唯先輩、こんなところで何を」

 ドアの近くにいた唯先輩、どうやらオレたちの気配がしたからココに来たらしかった。

 

 「あ、梓、こっちこっち」

 「ヒロも早く」

 既にティータイムの準備はしているらしく、他の3人は席についていた。

 

 

 

 

 「今日はとっておきのお茶にしてみたの」

 「そうなんですか」

 「ムギ~お菓子は?」

 「ゴメンね。今日は持ってきていないの。その代わり梓ちゃんが用意してくれたそうよ」

 「え?」

 何で知っているかは疑問だが……梓ちゃんも渡せるいい機会じゃないか。

 

 「わたしの分、残しておきなさいよ。だって」

 さわちゃん先生の席を見ながら、りっちゃんが言う。なるほど流石は先生。お見通しというわけか。梓ちゃんは流れでバレンタインのプレゼントを開け、みんなで取って分ける。

 

 「優花ちゃんは?」

 「今日は三者面談みたいだから遅れるみたいよ」

 「そうなんだ」

 バックはあるから、一度ココに来て再び教室の方に戻ったのだろう。優花には悪いが先にいただくとするか。

 

 

 「おいしい~」

 みんな舌鼓をうちながら梓ちゃんのケーキをいただく。本当に美味しいんだこれが。

 

 「あ、ヒロ。クッキー上手かったぞ」

 「もう食べたんですか!?」

 「昼休みに腹減ってな」

 「お粗末さまでした」

 美味しかったといわれると嬉しいな。……だからといって料理をまたしたいかと言われたらNoだけど。作らないといけないときは作るけど、自分から進んでは……

 

 「みんなでこうして一緒にいるっていいですね」

 「梓……」

 オレもそう思うよ。本当に……

 

 「そういえば、ヒロ~梓からもらったか~」

 「あ、はい。さっき」

 「どんなのどんなの?」

 「え、オレもまだじっくり見てないですよ。帰ってから開けます」 

 先輩達の質問攻めにあっていたから、オレは他の人より部室に入ってきた人がいるとは思わなかった。

 さわちゃん先生と優花だった。優花は三者面談終わってきたんだろう。さわちゃん先生はケーキを食べに来たんだろうな。その後も楽しい話をしながら今日1日が終わった。

 

 

 

 

 もちろん、寝る前ながら、梓ちゃんのチョコレートはいただいたよ。ちょっとビターだけどまろやかっていうか何ていうか。オレはグルメリポーターになれそうにねえな。

 次の日の朝、優花からもらったチョコレートはいただいた。まあ、初めてにしてはよく作れているよ。流石は女子というべきか? オレはダメダメだったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「マジか!!」

 オレは授業中にもかかわらず、思わず声を出しそうになった。危うく寸前で止めたからよかったものの…

 何をそんなに驚かせたかと言うと、メールが届いたのだ。内容見てみると、

 

 

 

 

 

  『VVVVVやったぜ!!』

 

 

 

 

 

 

 とのことだ。送信主りっちゃんだ。この意味は、第一志望の大学にみんな揃って受かったということなのだろう。オレはそれを見て思わず飛び上がりそうになったが理性で止めた。梓ちゃんや憂ちゃんも同じ反応をしている。あちらには、唯先輩や澪ちゃん・ムギ先輩が送ったんだろう。

 

 本当によかった。これで安心だ。

 

 

 






 梓の寂しがりやがパワーアップしている気がするのは気にしない。

 そして、とうとう先輩の受験合格。

 いよいよ、別れの季節に突入するのか。

 どうしよう……

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#88 計画!


 もうすぐ、卒業。

 今回は全く伏線を仕掛けてなかったためにあまりにも突然な展開。
 
 けいおん!の映画の話です。

 では、どうぞ!!




 

 「怪しいですね」

 「な、なんのことでしょう」

 「さあ、早く見せてください!」

 「きゃーやめて~!!」

 バレンタインの日から数日後…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレたちは、部室で旅行の計画を立てていた。何の旅行かというと先輩達の卒業旅行だ。確かに夏休みの間にそんな話もあったがまさか本当に実行するとは思ってもいなかった。

 それで、何処に行くかを決めていたんだが、みんなバラバラで。海外旅行と言う話なんだが……唯先輩はヨーロッパ、澪ちゃんはロンドン、りっちゃんはドバイかハワイ、ムギ先輩は温泉ということだ。

 

 オレと梓ちゃんは主役じゃないので何も言わなかったが、心の中で突っ込んでいた。ヨーロッパって広すぎ。温泉って日本にあるし。

 とまあ、こんな風に分かれていたからどこに行くか決めるために、「あみだくじ」をした。結果、ヨーロッパに決まったんだが、いささか様子が変だったので梓ちゃんが唯先輩に問い詰めているのだ。

 

 

 

 

 

 「やっぱり……思ったとおりですね」

 と、先ほどのあみだくじ(唯先輩手作り)を見てみる。何処に行っても全部ヨーロッパと書かれていた。いわゆるイカサマだ。

 

 「しまった!」

 「唯~いい加減にしろ~」

 ここは第三者の意見がいいだろうと言うことになって、トンちゃんに決めてもらうことになった。ルールは、それぞれ行き先を書いているティーカップにトンちゃんが触れたところに行くということだそうだ。この決め方、数年前サッカーのW杯で何かあったような気が。

 

 

 

 

 「ロンドンだ!!」

 「澪、よかったな」

 「ロンドン……行ける!! やったー!!」

 日頃、感情をあらわにしない澪ちゃんが大声を出して喜ぶ。相当行きたかったらしい。

 

 「唯もよかったじゃないか」

 「何で? ヨーロッパじゃなかったよ」

 「あのな唯、一つ言っておくが、ロンドンもヨーロッパだ」

 「……………………え?」

 本当にこの方大学合格したんでしょうか。何かのまぐれとかじゃ……

 

 「よかったな梓。ロックの本場だぞ」

 「えっ? わたしも行くんですか?」 

 「もちろんじゃないか。梓もヒロも」

 「来ないのあずにゃん! ヒロ君も」

 ……先輩達の卒業旅行なのにオレたちも行くんですね。でも海外って……

 

 「お邪魔にならないでしょうか?」

 「ぜんぜ~ん!」

 「親に行っていいかどうかを聞いておかないといけないですから」

 と、梓ちゃんは携帯を取り出して電話を始めた。オレも親に連絡しないと。

 電話をすると、初めは冗談かと思われたらしかった。そりゃそう思うわ。ただ、本気とわかってびっくりしていたが、承諾してくれた。よかった~

 それにしてもロンドンかあ。イギリスだもんね……何処に行くんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「突然わたしたちも行くことになるんだもん。びっくりしたよ」

 「そうなんだ~」

 「いいなあ海外旅行。軽音部うらやましい!」

 「わたしたちがしっかりしないと」

 帰りに梓ちゃんが本を買いに行くと言ったのでついていくことに。途中で憂ちゃんと純ちゃんにも会ったので、そのまま合流した。梓ちゃんが謎の張り切りよう。まあ、あの先輩たち見ていたら分かるけどね。 

 

 「梓ちゃん、ヒロ君。お姉ちゃんのことよろしく頼むね」

 「ね~憂、そのお姉ちゃんなんだけどさ~」

 「え?」

 「何か、わたしたちに隠し事をしてるみたいで。憂知らない?」

 「お姉ちゃんに隠し事なんて出来ないと思うけど」

 梓ちゃんが言っていることも分かる。オレたちが突然現れると先輩達ビックリしているんだよね。でも、憂ちゃんが言っていることも分かる。あの唯先輩がだ。あみだくじの件でも分かったがすぐに嘘は分かるんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ★

 

 「いらっしゃいませ~海外旅行のご予約ですか?」

 「はい! ロンドンで5日ほど」 

 次の日、6人で旅行代理店に行く。

 

 「5日って、いつ行くんですか?」

 「期末テストが終わって、5連休だろ?」

 「あ、そうですね」

 そういえば、2年生は期末テスト終わったらちょうどそこから土日を間に挟んで5連休とか言ってたな。1年生は、大学訪問とかあるから普通に土日だけの休み。だから、優花は来れないのだ。この話をしたら、普通にみんなで行って来てみたいな感じだった。そういうのはしっかりわきまえているのだな。それに気を使ってか、この頃部室にも現れないし。

 

 「ロンドンへ、3泊5日ですね」

 「3泊?」

 「往復で1泊するってことよ」

 「なるほど」

 時差の関係上、そうなる。ロンドンと日本って9時間だっけか。

 

 「ロンドン市内だけでよろしいですか?」

 「どうする?」

 「それでいいと思いますよ。たくさん見るところありますし!」

 「じゃあ、そうしようぜ!」

 みんな行きたいところがありすぎて、店の人が個人旅行を勧めてきた。流石にそれは…と思ったが、何なくOKを出す先輩方。さらに梓ちゃんに負担が増えそうだ。オレも手伝わないとな。

 

 

 

 

 

     ★

 

 「ネッシーですか?」 

 次の日、部室で何処に行くか決めていたら突然唯先輩がネス湖にいけないかと言ってきた。

 

 「オカルト研の人に写真撮って来るっていったからさ」

 「先輩、ネス湖のネッシーって伝説ですよ」

 「実際にいないわね」

 「そ、そんな! あれはオカルト研のジョークだったんだ!」

 唯先輩のがっかり度は半端じゃない。さわちゃん先生も久しぶりに部室に現れたと思ったら呆れているし。

 

 「他にどこか行きたいところありますかね?」

 「先輩方!」

 「どうしたヒロ?」 

 「1つだけ見てみたいところが」

 梓ちゃんも特に希望出していないみたいだけど、どうしてもイギリスといったら行きたい場所が。

 

 

 「言ってみろ」

 「実は、全く音楽に関係ないんですけど」 

 「構わんさ」

 「ウェンブリースタジアムに行ってみたいんですよ!」

 サッカー好きならば一度は訪れたいと思う『サッカーの聖地』。アメリカに行くならば『ヤンキースタジアム』に行く感覚だね。こちらは野球だけど。

 

 「うぇんぶりー?」

 「はい。サッカー場です。試合は流石に見れないですけど、どんなところかは」

 「いいんじゃないか?」

 「ありがとう!!」

 「じゃあ、そのウェンブリースタジアムも候補に入れておきますね」

 梓ちゃんに結局任せっきりになってるじゃん。オレも仕事しないとね。道順とか調べたり英会話出来るようになったり。

 

 「頼んじゃって良いのか?」

 「こういうの好きなんです。気にしないでください」

 「悪いな」

 「わたしは帰ります」

 今日はやけに早い帰りだ。オレもそれについていくから帰る。

 

 「みなさんは帰らないんですか?」

 「帰る ー 」

 「わたしたちもう一杯お茶して帰るわ。梓ちゃん」

 「気をつけて帰れよ。ヒロ」

 ん~やっぱり梓ちゃんが気にかかっているのは間違ってないよな……何か隠しているような。

 

 「じゃあ、お先に失礼します」

 「また、明日な~」

 部室を後にする。

 

 

 

 「ねえ梓ちゃん」

 「やっぱり先輩達何か隠してるよね」

 「気になるけど、いつか言ってくれるまで待とうよ」

 「そうだね。それに期末テストも近いし、スケジュールも立てないといけないから」

 いろいろと大変だ。あ、優花があまり姿を見せないのもテストが近いって言うのもあるのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 「そうか、曲だよ!!」

 「梓ちゃんもヒロ君もわたしたちの演奏を聞いて入部してくれたものね」

 「なんで今まで思いつかなかったんだろう……」

 「いいじゃんそれ!!」

 「先輩が後輩に送る曲。いいよね!!」

 3年生4人は、卒業する前にお世話になった後輩に何かプレゼントを考えている最中だった。

 

 「忘れ物を取りに ー 」

 そんなときに、梓が帰ってきたのだ。

 

 「わわっ。あずにゃん!?」

 「いつからそこに!!」

 「今ですけど」

 「あ、そうだね。むったん忘れてたんだよね。忘れちゃダメだよ」

 「あ、はい。それでは失礼します」

 何とかごまかしたような感じだが、梓や後ろで見ていた弘志は疑いの目をしていた。なぜなら、見たことの無いくらい先輩4人が真面目な顔をしていたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「お前らマジでロンドン行くのかよ!?」

 「あ、ああ。卒業旅行ってかたちでな」

 「いいな~ボクも行きたいや」

 「無理よアタシたちじゃ。そもそもパスポート持って無いでしょ」

 「お土産よろしくな。絶対だぞ!」

 久しぶりに雄二やアキたちがAクラスに現れたと思ったら、どこからか情報を仕入れてたらしくオレたちに詰め寄ってきた。これで約10人分のお土産を買うことが決定したな。忘れないようにしないと。

 

 「ロンドンっていうと、ホームズのいたところじゃなかったか?」

 「シャーロックホームズ?」

 「ああ。ベイカー街221Bってロンドンじゃなかったっけ?」

 「覚えてない。近く通ったら見てみるわ」

 「他にもロンドンっていったらたくさんあるわよね」

 みんな自分達が行くみたいに盛り上がっていた。こりゃこいつらの分まで楽しんで来ないとな。早いな~期末テストもあっという間に終わって、明日からロンドンだよ。何とか梓ちゃんと2人で行程は決めたけど、言語も通じないしこの通りに行くか心配だな。

 

 「英語は大丈夫なの?」

 「本場だからね……不安が残るけど。優子さんがいたら通訳頼むのに」

 「ふふ…そこは自分達で何とかしなさい」

 「聞き取れなかったらどうしよう」

 リスニングとかで聞くのよりレベルが違うんだよな、速さが。6人も行くんだ。それに一応、曲がりなりにも全員「Aクラス」。誰か分かるだろう。

 

 「楽しんできてね。みんな」

 「先輩達にもよろしく言っておいてね」

 「は~い」

 アキたちと話していたら、入り口の方に優花が立っているのが見えた。全然入ってくる気配が無かったが、あいつが伝えたい意思は分かった。お土産を楽しみに待っているのだ。そりゃ忘れないと思うぞ。

 さて、明日から異国の地か。飛行機乗るのも初めてだな……楽しみだ。

 

 





 ウェンブリースタジアムだけでなく、オールドトラフォードにも行きたいなあ。
 サッカー好きの作者です。

 それに、リバプールに行って、ビートルズと同じ空気を吸ってみたい。
 イギリスって凄いと思う。

 ご飯はあんまり美味しくないらしいけど。

 今回の旅行、優花は事情により参加が出来ない。
 さて、旅行中・帰って来てから、どうなることでしょう。

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#89 ロンドン!


 はい、ロンドン。
 めっちゃまとめました。
 だから、1話に。
 でも、いつもよりも長めです。

 詳しくは、けいおんの映画を見てくださいな(笑)

 唯ら3年側じゃなく、2年の立場から見るロンドンです。
 
 あ、英語に注意を。
 読めない人はスルーしても何の問題もありません。

 では、どうぞ!!




 

 「忘れ物は無いな!」

 ロンドンに行く当日。みんなで集合して空港に向かうんだが……澪ちゃんさっきからそれ何回言っているかな。心配になるのも分かるけどさ。みんなが大丈夫って言っているんだからさ。

 

 

 電車での移動中も空港に着いてからもずっとはしゃいでいる4人の先輩。最初っからそんなに飛ばしていたらロンドン着いたとき、もたなくなると言いたいが、楽しみを止めるというのも無粋だ。

 厳しい出国審査を経て、飛行機に乗る。澪ちゃんとりっちゃんとムギ先輩が横1列で座り、その後ろにオレ・梓ちゃん・唯先輩が座る。オレは決心した。この5人が何もトラブルに巻き込まれないようにしないと。

 

 

 

 いよいよ出発のとき。唯先輩は相変わらずだったが、確かに初めての離陸を経験するっていい感じだ。オレは通路側にいるためあまり見えないが、あんなに大きいと感じていた空港が小さくなっていく様子もすごい。あっという間に雲の上を通り過ぎていった。

 

 飛行機が安定した頃に、シートベルトを外していいサインがでた。早速唯先輩は外して梓ちゃんに抱きついていた。はしゃぎすぎだっつーの。そのタイミングで、機内食も出される。普通に日本人がCAで運んできたために、とある1人の表情は暗くなった。どうやら、英語で聞かれることを想定してシュミレーションしてたらしい。

 

 オレは機内食を食べ終わる頃に、寝ることにした。9時間の時差で12時間くらいのフライト。大体、出発時刻より3時間で着くということか。寝ておかないとつらいことに。着いてもまだ昼だからな。

 

 

 

 

 

      ★

 

 「ここがロンドンか!!」

 「寒っ!!」

 これまた厳しい入国審査を受け、荷物を受け取り飛行場の外に出る。ちょっとの間梓ちゃんが気落ちしていたのは、入国審査の時に聞かれた質問だろうか。よく聞いてはいなかったが、「I am seventeen.」と答えていたところを見ると、実年齢をごまかしているように見えたのだろう。

 

 「そんなに子どもっぽく見えるかな……」

 とは本人の言葉だ。日本人は幼く見えるらしいからな~基準が分からないけど。

 

 

 

 

 「あ、タクシーだ!」

 早速、移動するために6人でタクシーに乗り込む。

 

 「Where are you going?」

 何処に行くつもりですか?と聞かれた。日本人のほとんどが、英語を英語のまま理解できないからダメなんだよね。一回日本語に訳さないと理解できない。オレももちろんそのタイプだ。

 

 「Hotel Ibis please!」

 と一番英語力に自信があるムギ先輩が答える。海外旅行経験も豊富だからひとまずは安心してよいか。と思ったが、梓ちゃんが答えていた。

 

 「Yes, the Ibis. Which one?」

 ホテルアイビスに行くことは了承したみたいだが……

 

 「どのホテルアイビスに行くつもりなのか聞いてるみたいだ」

 澪ちゃんがそう言った。確かにそういう意味だろう。ロンドンにはたくさんホテルアイビスがあるんだろうな。

 

 「アールズコート、おーけー?」

 りっちゃんがバリバリの日本語英語で答えていた。相手は気持ちよくうなずいて乗ってと促してきた。全員が乗ると急発進した。荒いな~まだ全員シートベルト着用してないぞ……

 

 ドライブ中に、スタジアムを2つ見た。大きいよなあ本場は。その周辺にはやっぱりアーセナルやチェルシーのユニフォームを着ている人がたくさんいた。残念だなあ。オールドトラフォードが遠くていけないとは。マンチェスターやリバプールは覚悟していたけど、同じロンドン市内でも行けないのか……イギリス恐るべし。

 

 

 

 

 「おおっ着いた!!」

 「あれ、おすし屋さん?」

 「本当だ。回転寿司だよ!」

 降りるとホテルも見えたが、同時に回転寿司屋もあった。このノリはおそらく……

 

 「行こうよ行こうよ!」

 「回るんだお寿司!」

 「入ってみようぜ!」

 ということで、予想通り店内へ。ロンドンに来てまで寿司かよと思ったが、りっちゃん曰く日本人として日本食を確かめたいらしい。なるほど最もだ。だが、オレたちにそんな舌あるのか……

 

 

 「凄い豪華だ!」

 日本での回転寿司とはちょっとイメージが違うな。高級寿司の店内で回っている寿司という感じでギャップがすごい。オレたちが店内にあっけに取られていたら、店員と思しき人に話しかけられた。

 

 「Hello. You are the ones from Japan, right?」

 「イエス」

 「I'm the manager of this establishment.You're the ones who will be performing today, collect?」

 「イエースイエース」

 「おい、唯、簡単にイエス連呼するな」

 「だって、歓迎されている感じじゃない?」

 確かに握手までされているが、どうも違う気がするぞ。えっと……何だろう。かーこういうときに英語得意ならと思うんだが。分かる単語だけで想像するしかないか。

 

 「凄いね。ロンドンでお寿司屋さんってハッピ着て食べるんだ」

 いつの間にか荷物を預けさせられて、ハッピも着させられて……絶対これ何かおかしいよな。

 

 

 

 「OK, If you'd like to get on stage.」

 と、オレたちが誘導されたのは、寿司屋さんにふさわしくない場所。ステージであった。オレたちが荷物を預けたのって演奏してくれってことか? 確かに梓ちゃんや唯先輩・澪ちゃんは自分の楽器持っていたから演奏できると思われたのかもしれないが……

 

 「何てことを!」

 と、ムギ先輩が抗議をしに言ってくれた。英会話能力本領発揮か。

 

 

 

 「って、何しに言ったんだよ!」

 「キーボードが無かったからね~」

 演奏しに来たわけじゃないって言いに行ったわけじゃなかったらしい。

 

 「ヒロ君、どうする? キーボード1つしかないらしいの」

 「え、ムギ先輩いいですよ。オレはその間に誤解を解いておきます」

 ただ、もう既に演奏しないといけない雰囲気に追い込まれているけどね。お寿司を食べ損なったら相当みんながっかりするだろうからそこのところはぬかりなく。

 

 

 

 

 

 「Can I talk you now?」

 「OK. Oh, You are their assistant, aren't you?」

 っと……本場は早いぜ……えーっと、オレは彼女らのマネージャーかって? いや違う違う。そうかもしれないけど、一応Playerだから。

 

 

 「“Love Crisis” very cute.」

 かわいい? オレじゃなくてもちろん彼女らがだろうが……それにしても「ラブ・クライシス」ってどっかで……

 

 

 

 

 

 

 「1・2・1234!」

 りっちゃんのカウントから演奏始まったよ。「カレーのちライス」って……寿司屋なのに……

 って、オレは演奏聞いている暇なんかねえ。誤解を解くために - って思い出した。「ラブ・クライシス」って、1年生の大晦日で一緒にライブしたりっちゃんの友達がいるバンド! 確かにあそこもガールズバンド。ウチも ー って違うけど。だからオレマネージャーって思われているのか。今すぐ誤解解かないと。

 

 「I'm afraid We are “Houkago TeaTime” OK?」

 「Just kidding!」

 いや、ジョークじゃないっす。真面目に。こりゃ、時間帯的に本物を探した方が早いかも……間違えられたってことはそろそろ来店してもおかしくない。

 アイコンタクトで、みんなにちょっと出て行くと言って外を探し回る。すると、1分もしないうちに彼女らにあった。

 

 

 

 

 「あれ、あなたは……?」

 「お久しぶりです。放課後ティータイムの七島弘志です。りっちゃんの友達のラブ・クライシスさんですよね」

 「え、ええ。そうだけど、あなたたちもロンドンに来てたのね」

 「はい。だけどちょっと問題がありまして……」

 と、今の事情を話すと急いで店までついてきてくれた。

 

 

 

 「You've got the wrong idea. They are our friends “Houkago Teatime”. We are “Love Crisis”. OK?」

 と、オレでも分かるような英語で相手に説明していた。最初は冗談かとまた思ったらしいが、ようやく分かってくれたらしい。

 

 「Sorry, I misunderstand. 」

 誤解していたって。やっと分かったか。

 

 「I'm glad we cleared up the misunderstanding.」

 誤解が解けて何よりだ。

 

 「They are visiters. Now, We performance」

 ラブ・クライシスの方が、オレらは客で、わたしたちが今から演奏するって言ってくれた。

 

 「OK, Thank you. “Houkago TeaTime”. Please yourself.」

 食べていいらしい。カレーのちライスがちょうど終わったため、オレはみんなに説明しに行く。

 

 「誤解、解けたよ。何でも『ラブ・クライシス』のメンバーと間違っていたらしい」

 「マジかよ! って、マキちゃん!」

 「あ、りっちゃん! ゴメンね。わたしたちのせいで」

 「いいのいいの。まさか演奏するとまでは思わなかったけど」

 「ふふ……今度はわたしたちが演奏するからみんなはお寿司を食べておきなさい」

 みんなの顔には安堵の色が見えた。オレも一安心だよ。

 

 その後、彼女らの演奏を聞きながらお寿司を食べる。まあまあ美味しい。あんまりお寿司を

食べないから日本より ー ってのは比べられないけどさ。

 

 

 

 後で聞いたところによると、このラブ・クライシスは川上さんなる人の紹介でここで演奏することになったらしい。覚えているだろうか。ラブ・クライシスと初めて会ったときの店長の名前だ。その人とココの店長が知りあいらしいから、開店祝いにってことだそうだ。そのためにロンドンに来れるってすごいな。

 

 

 

 

 

 

 「やっとホテルだ~」

 「いろいろあったね~」

 ようやくチェックインをし、部屋に入る。お金の関係上、ダブルベッドの部屋2つに6人ということになった。本当はいけないかもしれないが。1つに3人か。部屋割りは当たり前?に、先ほどの飛行機と同じ組み合わせになった。

 

 「お風呂お風呂~」

 オレたちの部屋は、梓ちゃんと唯先輩。何か唯先輩に申し訳ないけど…って感じじゃないけどね。最初にお風呂入って行ったし。でも、オレが女子2人と一緒に寝るってのは大丈夫か。ツインじゃなく、ダブルだぞ。

 

 「疲れたね~」

 「まさか演奏することになるなんて」

 と、ベッドでくつろぎながら2人で話す。オレの疑問何ていうのは気にしなければいいだけの話だ。

 

 「唯先輩、留年するのかな?」

 「突然どうしちゃったの梓ちゃん」

 「ん~っとね、この頃の不可解な言動から考えてみたの」

 そこまで不可解だろうか…留年となると憂ちゃんが何か言いそうだが。

 

 「先輩方がしゃべってくれるまで気にしないでおこうよ。あまり気を張り詰めすぎるのも良くないよ」

 「そうかな?」

 「せっかくのロンドンなんだし。もっと楽しもう!」

 「うん!」

 それぞれの部屋に分かれて10数分した頃か、先輩方3人がやってきた。

 

 

 

 

 「って、何で制服なんですか!?」

 それも制服姿で。確かに持ってこいとは言ってたけど。何で着る必要が。

 

 「記念写真してたんだ~」

 学生時代の思い出として取っておくためか。

 

 「あずにゃ~ん、ヒロ君~お風呂上がったよ~ってみんないる!」

 唯先輩は、お風呂から上がってきてヘアアイロンをかけようとした。そのままコンセントに差し込み ー って!!

 

 「うぎゃーっ!!」

 言わんこっちゃない……間に合わなかった。

 

 「唯先輩、変圧器使わないと……」

 「怖い~」

 火花散ったからね。そりゃ怖かっただろう。でも、変圧器持って来ているなら何で使わないんですか!

 

 

 

 

 

 その日は、みんな疲れていたらしくすぐに寝ることに。次の日はロンドン市内を1日中観光。歩きつかれた~みんなでりっちゃんの部屋のほうにいると、電話が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 「電話!?」

 「フロントからかな」

 「澪出ろよ」

 「律が出ろよ」

 と、まあ譲り合いしてたので遠慮なくオレが出ることにした。相手を待たせちゃ悪いからな。

 

 「Hello? This is Tainaka.」

 「おおっ。バリバリの英語」

 「名前詐称だな」

 「お前が電話に出ないからだ」

 「切られちゃいました」

 オレが電話に出ると同時に、プープーという音が。あまりにも遅いため切られたのだろう。

 

 「ふぁ~……」

 「梓ちゃん、部屋に戻って寝よう。相当疲れているよ」

 「……うん、そうする」

 「じゃあ失礼しました~」

 「わたしはもう少しここにいるよ。先に寝てていいよ~」

 「分かりました」

 ふらふら歩いている梓ちゃんを支えながら部屋に行きつきベッドに寝かせる。すぐに梓ちゃんは寝た。オレも寝るとするか……

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「えっと……これは……」

 ダブルベッドに3人で寝ていると分かった時点から可能性を否定できなかった事実が今ココに。左を見てみると、梓ちゃんがオレの腕を抱き枕代わりにして寝ている。そして、

 

 「あ~ずにゃ~ん……ヒロく~ん……」

 寝言をず~っと言っている唯先輩がオレにのしかかりそうになっているのだ。どんだけ寝相悪いんですか!!

 

 「っと危ない……」

 何とかして、唯先輩を遠ざけることに成功。梓ちゃんに関してはもう離れないから諦めている。

 

 「ふぁ~……眠……」

 オレはもう一度眠りについた。そうでもしないと体力持たないぞ~

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「ヒロ君のバカ……」

 と、朝一で梓ちゃんに罵倒を。何故?

 

 「あはは……ヒロ君……ゴメンね~」

 「何をやったんですか」

 「ちょっとね、抱き枕代わりにヒロ君を ー その様子を見たあずにゃんがね ー 」

 「いや、そりゃそうでしょ。オレが罵倒される理由が分からないですけど」

 あんなに唯先輩を遠い場所にやったのに……凄い人物だ。家でもベッドに寝ているって言ってたけど落ちないのかな。ここまで寝相悪くて……

 

 「おい、川上さんからメール来てるぞ」

 りっちゃんらが部屋に乗り込んできてこう告げた。メールの内容はあらかたこんな感じだ。

 ラブ・クライシスのマキさんからオレたちがロンドンに来ていることを知ったらしい。そこでお願いがあるそうだ。明日の午後に日本のカルチャー紹介ってやつでバンドで出てほしいそうだ。ラブ・クライシスと共に。

 

 「どうする?」

 「わたし出たい!」

 「もう……唯先輩ったら~」

 「これからスケジュール練り直しだな」

 「というより、明日の予定を全て今日回るようにすればいいんだよ」

 ということで、ハードスケジュールとなった今日。走りまわった~でも楽しい。

 

 「でも、明日って出国する日だよね。大丈夫かな」

 梓ちゃんが、疑念を口に出している。確かにその通りだ。

 

 「ギリギリ間に合うかな」

 とりっちゃんが時間が書いてあるやつを見ながらそう言う。

 どうやら明日最後の最後まで走らないといけないみたいだな。

 

 ホテルに帰り着いて、何を演奏するか迷っていると、唯先輩が突然、

 

 「ごはんはおかずをとりあえず英訳してみたよ」

 と言い出した。いや…1日で歌詞覚えられるんですか……今日は結局その話で終わった。 

 

 寝ようとすると昨日の恐怖?がよみがえって来る。それを察してか今日は梓ちゃんが真ん中で寝ることに。ただ1ついいか。梓ちゃんが真ん中ならもっと遠慮なく抱きついてくると思うんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「ふぁ~」

 「どうしたのあずにゃん、眠たそうだね」

 「唯先輩のせいで眠れませんでした」

 ほらね……やっぱりそうなると思ったよ。

 さて、今日はロンドン最終日。最後まで楽しむぞ~!!

 

 「あ、ちょっと待って」

 チェックアウト寸前に、ムギ先輩がオレたちから離れた。そして、何かを抱えて帰ってきた。

 

 「それって……」

 「みんな持って来ているのに、わたしだけって言うのも」

 「お~い、ヒロも無いぞ」

 「はっ……ゴメンねヒロ君。気が利かないで……」

 「あ、いやいいですよ。どんなんでも演奏しますから」

 ムギ先輩は日本からわざわざキーボードを郵送してもらったそうだ。流石はお嬢様。やることは違う。オレはどんな楽器でも演奏してみせる。あ、キーボードに限るよ。

 

 「お~ここで演奏するのか~」

 「すごいね~野外ステージだよ」

 早速会場にやってきたオレたち。確かに日本のカルチャー紹介って銘打っているだけあって、日本のものがたくさんあった。

 

 

 

 

 

 「あれ、お前たち……」

 「あ~!! よーぐるっぺ☆!! 何で!?」

 「いや、こっちのセリフなんだが」

 「わたしたちは卒業旅行なんだよ」

 「そうなんだ……俺たちはここで演奏するためにな」

 ラブ・クライシスといい、よーぐるっぺ☆といい、日本を代表しているみたいですごいな。そんな中に入ってっていいのかね。出場バンドたくさんいるみたいだけど。

 

 「わたしたちも演奏するんだ」

 「へ~そうなんだ」

 「彼女らは野外ステージなんだとさ」

 「そうなのか」

 「マキちゃん!?」

 どうやら、よーぐるっぺ☆とラブ・クライシスは知り合いらしい。すごいな~

 

 「わたしたちは屋内ステージ。野外は初めて?」

 「そうなんだよ。どうなるんだろう」

 「いつもどおりだよ」

 と、3バンドで談笑。そして、その後雰囲気を確かめようということで野外のステージに立ってみる。

 

 「Hi, Houkago TeaTime?」

 「Yes」

 スタッフらしき人に話しかけられた。放課後ってやっぱり日本語だから海外の人が言うといいにくそうだな。

 

 「Could you set up your instruments now, please?」

 「何て?」

 「セッティングを始めてくださいって」

 澪ちゃんが通訳してくれた。あれ……これってムギ先輩の活躍の出番あまり無かったみたいな?そういうのはいいとして、セッティングをさっさと開始する。オレとりっちゃんだけこちらで用意された楽器を使う。

 

 

 

 「はっ!! これ、差していいのかな?」

 と、シールドを持ちアンプに近づけようとしている唯先輩が言っている。ああ~なるほど。初日? のトラウマがあるんだな。火花を散らした。

 

 「そのまま差せば良いのよ!!」

 と、突然現れた女性が唯先輩の手からシールドを奪ってアンプに繋げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「って、さわちゃん(先生)!?」」」」」

 

 

 

 

 「そもそもこのギター日本のメーカーじゃないでしょ!」

 「何、幻?」

 「何でココに?」

 「足がある」

 「失礼ね。幽霊じゃないわよ!」

 あれほど、初海外はハネムーンじゃないとダメだと言っていたさわちゃん先生が、海外に1人で現れている。

 

 「マイルの有効期限が切れちゃうから使ったわけよ。それにわたし軽音部の顧問だしね」

 よく分からんが、もったいないからロンドンに来たってわけだな。

 

 「いつ来たの?」

 「昨日よ」

 「帰るのは?」

 「今夜!」

 えっ……本当にこのためだけに来たみたいな感じじゃん。

 

 「それならそうと、連絡位してくれれば良かったのに」

 「ホテルに電話したのに誰もでないんだもん」

 あ、あれさわちゃん先生だったのね。

 

 「さ、とっておきの衣装も持ってきたわよ!」

 普通ならばキャリーケースって自分の着替えとかがあるもんだが、この先生は日程的にそんなの関係ないからか、オレたちのステージ衣装とやらを持ってきていた。川上さんから話は聞いていたのだろう。

 

 「ジャパニーズレディースニンジャ!」

 「くのいちかよ!!」

 『オオー!!』

 観客から歓声が上がっている。おいおい。まだ演奏始まってないぞ~これも立派な日本文化ってことか。

 

 「コレ見て!」

 と、携帯を取り出しオレたちに画像を見せる。

 

 「和ちゃん!?」

 試着させたんだな……被害者だ。ごめんなさい和さん。

 

 「って、優子さん!?」

 「生徒会つながりでね」

 ゴメンね優子さん。この女性が迷惑掛けて……生徒会長ってそんな仕事しなくていいんだよ。

 

 「今度は憂!?」

 「純まで」

 この2人は喜んでやっているような気もせんことはないな……

 

 「最後は優花かよ!!」

 「みなさんのためならって着てくれたわよ」

 まあ、みんな似合っていること。すごいな~

 

 「却下!」

 りっちゃんがそれを見るだけ見て、さわちゃん先生の意見を却下した。まあ、当然だろう。異国の地でそんな格好で演奏する身にもなってほしい。恥ずかしいにもほどがある。当然さわちゃん先生はごり押ししてくるが、みんな知らん顔。

 

 

 

 

 

 

 

 「いよいよ本番か」

 曲目は、ふわふわ・ごはんの2曲に決まった。ふわふわ便利だな~いつでも演奏可能。それだけ、愛着があるってことだよな。演奏している間中、イギリスロンドンの方々は快く歓声を上げてくださった。嬉しいな。言葉は分からないはずなのに。あっという間にふわふわの次にごはんを演奏する。

 前日に、英訳していたはずなのに普通に日本語で歌っているし……覚えられなかったんだな。そんな感じで終盤まで言っていてアウトロに向かっていたら、

 

 「もう一回!!」

 と唯先輩が……アドリブ来ました。こんな無茶振りにも簡単に対応が出来るのがHTTです。

 

 「って、ここで入れてくるのかよ」

 「英語だ……」

 短い間だったが、お世話になったロンドンにささげる、ごく僅かな英語ごはん。これで、オレたちのロンドンでの演奏は終わった。

 

 

 

 「やばいよ!!」

 「間に合うかな……」

 そして当然のごとくして訪れる、飛行機に間に合わないかもしれないからダッシュ。唯先輩のアドリブもロスタイムの原因であろう。

 さわちゃん先生が手配していたタクシーに乗り込み、急いでタクシーに乗り込む。その後の記憶は既に日本。タクシーから降りて飛行機に乗るときですら無意識でやってたのか。

 

 





 強引にまとめすぎましたかね(苦笑)

 それは理由があるんですよ。

 本来ならば80話までに2年生を終わらせたかったんですが、とっくに過ぎていますね。
 だから90話に終わらせようと決心してこの無理やりさです。

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#90 卒業式!



 あっという間に、お別れのお話。

 早かったですな~90話。

 ロンドンから帰って来て、あっという間に卒業式。

 では、どうぞ!!


 



    

 

 「どうだったロンドン!?」

 「いいな~楽しかっただろうな~」

 「しかも向こうでライブやったんだろう」

 次の日、教室に着くなり何故かアキや雄二・純ちゃんといったAクラスに関係ない方々も顔をそろえていた。

 

 「はは……すごかったぞ。はい。お土産」

 『『『『やった~!!!』』』』

 この人数だから大した物は買ってないが、霧島代表・優子さん・愛子ちゃん・純ちゃん・アキ・雄二・竜也・康太・秀吉にお土産を。憂ちゃんは姉がたくさん買っていったみたいだからそれでいいらしい。優花には後で。

 

 

 

 

 「ねえ、ヒロ君。先輩達が来て、明日教室でライブするんだって」

 「えっ?」

 3-Aの教室で朝ライブをするそうだ。もちろん参加で。このとき周りにいた連中も聞きに来るそうだ。

 

 

 

 

 

 「うわっすごい」

 結構な客の入り様。全然告知してないのに口コミでここまで。さて、早速演奏を。先輩達が受験終わって本格的に練習を始めた曲、要するにまだライブで未公開曲の新曲だ。

 

 

 「五月雨20ラブ」

 澪ちゃんボーカルのこの曲。そして、次の曲は初の試み。

 

 

 「わたしが歌います。Honey Sweet Tea Time」

 ムギ先輩が初めてボーカルを務める。もちろんキーボードもしながら。すごいな~尊敬するよ。

 この新出2曲を先に持ってきて、後はおなじみの曲たち。過去に10曲演奏しているが、その中でとっておきのを。やはりふわふわとか。そして、最後にはU&Iを持ってくる。楽しい! 観客の方たちもとっても楽しんでいたようでよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 

 「わたしたちのお昼ご飯を買ってきてくれないでしょうか~!!」

 「3年生がこの時期にいるのはおかしいからさ」

 次の日昼休み、体育の帰りに購買のパン屋の近くを通ったら、先輩方4人がいた。

 

 「分かりましたよ。買って来ます」

 「ありがとな梓、ヒロ」

 オレと梓ちゃんはジャージのままパンを4人分買いに行った。

 

 「今日朝からずっと部室にいるみたいだね」

 「暇人だよね~」

 オレたちは買って部室に届けた。相当朝から紅茶を飲んでいるらしかった。最後の最後までHTTとしての大事な役割を忘れてないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが先輩達と過ごす、最後の放課後か……」

 「何かあっという間だったよね2年間」

 「あ、ヒロ君・梓先輩こんにちは」

 「優花……」

 放課後2人で部室前まで来てドアの前で立ち止まっていたら、階段を上ってきた優花と出会った。よくよく考えれば、こいつ梓のことを先輩って呼んでいるんだから、オレもそう呼べよ。別に強制はしないけど。

 

 「入らないの?」

 「あ、いや入るぞ」

 「失礼しまーす」

 「遅いぞ」

 「へっ?」

 なんと楽器のセッティングをしていたではないか。

 

 「演奏するんですか?」

 「そうだよ。わたしたちの曲を残そうと思って」

 「分かりました。早速準備します」

 オレと梓ちゃんは急いで準備に取り掛かる。

 

 「それで、何から演奏するんですか?」

 「決めてなかった……」

 オレたちの準備も完了したところでいざ!と思ったら何も決めてなかったみたいだ。

 軽く曲順を決めることに。どうやら今までの曲全て演奏するみたいだからな。アルバムじゃん完全に。

 

 

 

 1.ふわふわ時間

 2.わたしの恋はホッチキス

 3.ふでペン~ボールペン~

 4.カレーのちライス

 5.いちごパフェがとまらない

 6.ぴゅあぴゅあはーと

 7.Honey Sweat Tea Time

 8.五月雨20ラブ

 9.ときめきシュガー

 10.冬の日

 11.翼をください~HTTver.~

 12.校歌~HTTver.~

 13.ごはんはおかず

 14.U&I

 

 

 

 「じゅ、14曲?」

 「こんなにしたんだなわたし達」

 「わたしがこの部に入ろうとしたきっかけって翼をくださいだったよね」

 「そうだな~あの時はわたしたち3人でどうなるかと思ってたな」

 最初、唯先輩を除く3人が軽音の初期メンバーだったらしいが、あと1人入らないと廃部になるといって必死で部員集めしたら当時バリバリ初心者の唯先輩が見学に来たらしい。その当時からティータイムはあってその誘惑に負けたりして、最後は3人による翼をくださいの演奏で入ろうと決意したそうだ。

 

 

 「こんなにあるんですから早くしないと」

 「そうだな」

 「じゃ、優花は録音係ということで」

 「分かった。みなさん頑張ってくださいね」

 こうして始まった、『放課後ティータイムアルバム』作戦。あわせて何時間かかっただろう。つかれた~

 

 

 

 

 

 「先輩達すごいです。こんな演奏していたなんて驚きです。ヒロ君が何も楽器弾けないのに軽音部に入ろうと言い出したのか分かりました!」

 そっか。オレたちの演奏本格的に聞くのって初めてだっけ。ま、オレも今となっちゃこの方達と同じメンバーとして演奏できて嬉しい限りだ。

 

 

 優花よ。お前がどんな理由で軽音に入ったかは知らんが(ある程度は推測できるけど)、生半可な気持ちでこの先輩方を引き継ぐなよ。分かっているだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 

 「とうとう今日で先輩ともお別れか~」

 「うん……」

 Aクラスを出て、講堂に向かう途中に当たり前のようにDクラスの純ちゃんとFクラスのやつらと合流する。Dクラスといえば、久しぶり清水さん見たな。一生懸命働いてるんだろうな。

 

 『大変、遅刻だ~!!』

 聞き覚えのある声が。ああ、予想通り唯先輩だ。その周りには軽音部の先輩が4人。は~最後の日までなにやってるんだろう。

 

 「さっすが軽音部だね。ギリギリで生きている感じ」

 なにやら謂われも無いことを純ちゃんに言われた気がする。

 

 

 

 「あいた!!」

 「大丈夫梓ちゃん!」

 「ちょっとよそ見していたら」

 壁に頭をぶつけていた。こりゃ血は出てないけど一応保健室に見せたがいいな。

 

 

 

 「おかえり梓ちゃん」

 「ううっ。卒業式にこんなに……」

 おでこにガーゼ?を貼っていた。気が乗らないんだよね。

 

 「大丈夫、前髪で隠れて見えないから」

 「それにしても、卒業式無事に終わるかな」

 「平気平気。もう何も無いから!!」

 あ~終わるかな……何かしらやらかしそうなんだよね。憂ちゃんのフォローもちょっとむなしい。

 

 「ってか、あの常夏卒業するのかね」

 「まだ学校に居たのかな?」

 「停学だったからいるんじゃない?」

 懐かしい名前を聞くものだ。あの悪巧みに参加したやつら、卒業式居辛いだろうなあ。自分達がしてしまったことなんだから責任取らないといけないけど。

 

 

 

 

 

 「これより ー 」

 講堂に全員が入ると早速卒業式が始まったんだが……な~んも覚えてない。上の空だった。ずっとこれからのことを考えていたんだよな。先輩達がいなくなった軽音部。対立しているような雰囲気の女子2人。考えるだけでも気が重くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ★

 

 「あずにゃんとヒロ君がわたしたちに翼をくれたんだよね」

 「そうだな。わたしたち軽音部に」

 「放課後ティータイムとしてね」

 「2人はわたしたちをたくさん幸せにしてくれた天使なんだよ」

 「そうかもしれないな」

 4人は卒業式後、屋上で空飛ぶ鳥を見ていた。その中で後輩達に送る曲のフレーズを思いついたみたいだ。

 

 「この曲もあずにゃんとヒロ君の羽になるかな」

 「気に入ってくれるといいな」

 「2人と後優花ちゃんもわたしたちのこの曲で羽ばたいてほしいね」

 「そうだな」

 先輩として最後に出来ることは無いか。それを思いついたあの日から練りに練ったこの形。軽音部として最高の贈り物「曲を贈る」ということで4人は一致していた。それを渡すまで後もう少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 

 「わたしはジャズ研の部室に行って来るから、しっかりしなよ」

 「あ、うん……」

 ぼーっとしていた梓ちゃんに純ちゃんが一言告げて教室を出て行く。既に2-Aの教室は人が少なくなっていて、オレたちとアキや雄二たちだけとなっていた。

 

 「梓ちゃんも部室に行くんでしょ」

 「うん。憂は?」

 「わたしは家に帰ってお祝いの準備をしないとね」

 「そうなんだ。わたしもお祝いしなくちゃね」

 「うん!」

 悲しんでいる場合じゃないということだな。それを聞くとみんな安心したかのようににっこり笑って教室を出て行った。後はオレと梓ちゃんの2人きり。

 

 「行こうか」

 「そだね!」

 最後の部室。最後の部活動に向かう。

 

 

 

 

 

 部室に入ると、既にムギ先輩がお茶を淹れ始めていた。

 

 

 「すいません。今日くらいはわたしがお茶淹れようと思ったんですけど」

 「ダメよ。わたしの仕事だもん」

 ムギ先輩は最後までムギ先輩らしいな。

 

 「梓、軽音部の今後のことなんだけど」

 「大丈夫です! わたしとヒロ君で何とかしますから!」

 「ええ。先輩達に負けないように」

 「ヒロ、結局先輩って言い方から抜け出さなかったな」

 どういう意味だろう。

 

 「最後くらいは同じ18歳としてな」

 「いや、もうこの学年で慣れましたし」

 「そうか。そうだよな」 

 「その代わり、今日が終わったらみなさんOGなんですから先輩って呼ばないかも知れませんよ」

 「いいな、それ」

 「期待してるぞ」

 えっ……冗談だったんだけど…

 

 

 「絶対に廃部にしませんから」

 「そうです。あ、それとわたし。みなさんにちゃんとしたお礼を言ってなかったと思いまして、手紙に書いてきました」

 と言って、手紙を4人に渡す。さっき書いてたのはこれだったのか。

 

 

 

 

 「先輩方、ご卒業おめで ー 」

 ……バックをみんなと同じところに置こうとしたときに梓ちゃんが固まる。目線からして卒業証書入れだな。

 

 「どうした梓?」

 

 

 

 「卒業しないでください…もう部室片付けなくても、お茶ばっかり飲んでてもいいから…卒業…しないで」

 

 

 

 梓ちゃんはそういうと泣き出した。こらえていたんだろうな~ずっと……オレも泣きそうだ。人前では泣かないと決めているからそれは絶対しないけど……今後自分達だけで軽音部が成り立っていくんだと決心しても、やっぱり先輩の後姿だけは残ってしまう。

 

 

 

 

 「すいません……お祝いなのに……泣かないつもりだったのに……笑って見送ろうと思ったのに」

 

 

 

 隣にいるオレは声を掛けれない。今声に出すと泣き出しそうなのがすぐに分かってしまうからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「梓、ヒロ。2人に聞いてほしい曲があるんだ」

 「「……へ?」」

 オレたちはソファのほうに誘導されて先輩方がセッティングするのを待っていた。

 

 「やるか」

 りっちゃんのスティック音で始まった。ボーカルは唯先輩だけでなく、みんなが歌うようだ。

 

 

 隣見てみると、梓ちゃんがずっと涙を拭いていた。自然と涙がこみ上げてくるようだ。あっという間に終わったこの曲。放課後ティータイムとして最後の曲であろうこの曲は15曲目にして「天使にふれたよ」という題名らしい。

 ロンドンに行く前からずっとオレと梓ちゃんのことを思いながら、書き上げた歌詞だそうだ…………本当にこの方達が先輩でよかったよ。ねえ梓ちゃん……

 

 

 

 

 「あんまり上手くありませんでした!」

 『えっ!』

 「でももっと聞いていたいです。アンコール!」 

 梓ちゃんも最後まで梓ちゃんなりに先輩達を送り出そうとしているんだな。

 

 

 

 「あ、さわちゃん」

 「優花も」

 あの顔を見ると、さきほどからのやりとりを全て聞いていたみたいだな。入って来ればよかったのに。遠慮なんてせずに。

 

 「わたしも先輩方に負けないように頑張ります。もちろん絶対にヒロ君には負けません!」

 「おおーっとヒロ、キーボードの座とられないようにしておけよ」

 「大丈夫ですよ。ムギ先輩もいたから」

 結局卒業式の放課後もみんなで演奏して終わったな~。楽しかったよな2年間。あっという間だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「音楽って最高だな♪」

 今度はオレたち3人からの再スタートだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 いや~感動して泣けましたよ。 
 けいおん最終回。
 いや、マジで。







 これで、最終話 ー












 と思いましたか?

 違いますよ!
 
 3年生になってからの話もします。
 伏線もいくつか回収してませんし。

 けいおんhighscoolに入って行きます。

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第3章 3年生編
#91 3年生!



 新章突入!
 3年生編。

 先輩はおらず、最高学年にあがった主人公達の代。

 どんな波乱が巻き起こるのか。
 
 では、どうぞ!!




 

 

 「どうせまた、卒業していった3年生のこと考えているんでしょ」

 

 

 

 

 

  ………………

 

 

 

 

 

 

 「おーい!! 3人とも聞いてる!?」

 3年生になって迎える最初の始業式を明日に迎えた今日、オレと梓ちゃんは、純ちゃんと憂ちゃんととあるファミレスに来ていた。が、どうも純ちゃん以外の3人は気が乗らないというか、ぼけーっとしているというか。

 

 

 「もう、話聞いてくれないとわたし帰っちゃうぞ」

 と、純ちゃんがらしくないキャラで言っても、3人はスルーというか反応できなかった。

 

 「おーい、何か突っ込んでくれないと恥ずかしいじゃん!!」

 「あ、ゴメンゴメン……」

 「梓ちゃんとヒロ君は、先輩がいなくなってぼーっとしていると思うけど、憂は何なの?」

 「お姉ちゃんがいなくなったから暇で……」

 「定年を迎えたサラリーマンか」

 唯先輩たち4人は、全員同じ大学に進み寮に入っているらしい。唯先輩も初めて憂ちゃん離れしているだろうから大変だろうなあ。

 

 

 「はいはい、部長、今後のこと」

 「へっ?」

 オレたち世代が3年生になった今年の部長は、梓ちゃんである。オレがするという意見も出たそうだが、オレは梓ちゃんのほうが適任だと思うので任せた。いろいろ楽器とかのことを知っているのは梓ちゃんだからな。

 

 「へっ? じゃない」

 こう、純ちゃんが強く言うのも、3年生から軽音部に移籍してくれたのだ。1年の時からの約束で、これまた憂ちゃんも同じく軽音部に入ってくれた。今まで唯先輩の世話をしていたから大変だっただろうけど、その時間を軽音に使えるってのはいいな。

 

 「明日は始業式、そして数日後には入学式、その後は新歓でしょ」

 「あ……」

 「こんなんだったら、先輩達どう思うかな~部長、しっかりしてよ。ほら、副部長も!」

 言わずもがな、副部長とはオレのことだ。

 

 「優花ちゃんもいるし、純も憂も入ってくれたから何とかなるんじゃない?」

 「音あわせもしたことないし」

 「うっ……」

 「そもそも楽器まだ買ってないんだけど」

 「うっ………」

 「ドラムいないと始まらないし」

 「うっ…………」

 ダメダメじゃん。あ~先輩達って相当凄かったんだな。

 

 「新歓出ない訳にも行かないし」

 「竜也たちに応援頼んだとしてもな~」

 「軽音部じゃないのにね」

 正式に軽音のメンバーじゃない人に軽音の宣伝してもらったってね。

 

 「って、もうこんな時間……」 

 「何か用事でもあるの?」

 「あっちゃんにベースを習いにいく」

 「そう……じゃあ、また明日ね」

 あっちゃんとは、純ちゃんの兄である。純ちゃんは同じベーシスト尊敬しているようだ。

 

 「もうわたし達も帰ろっか…」

 「わたしはギターを買えるように頼んでみるよ」

 「うん。また明日ね」

 オレたちも帰った。明日から3年生。どうなってしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 

   ★

 

 「おはよう! 七島、中野」

 次の日:始業式。学校に来ると、校門前で西村先生が立っていた。

 

 「おはようございます」

 「お久しぶりですね、先生。元気してました?」

 2年生になってから西村先生に会う回数が減ったため、懐かしく感じるようになってしまった。ダメだろ…

 

 「そうだな。まだまだ年は取っておらんからな」

 「そうですか。それはよかったです」

 「ほら。今年のクラス分けだ」

 未だにこの方式を貫いているんだね。個人個人に封筒を渡すというシステム。

 

 「お前ら、よく両立できているじゃないか」 

 「それはどうも」

 もはや、もちろん?2人ともAクラス。そりゃあ、文化祭終わって勉強量増えたからな~

 

 「今年のAクラスはうるさくなりそうだ」

 「オレのせいにしないでくださいよ」

 「諸刃の剣だからな。監視役にもなりうるかと思えば共になって騒ぐ」

 返す言葉もございません。……というか、その言い方。まさか ー 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「やっぱりな……」

 オレは教室のドアを開けると同時に、悪友の顔がたくさん見えたのを見て呟いた。西村先生はコレを言っていたのか。

 

 「やっほ~ヒロ」

 吉井明久。観察処分者として注目を浴びたかと思えば、3年生でAクラスまで駆け上がる。

 

 「1年間よろしくな」

 坂本雄二。元神童としてのプライドは残っていたみたいだ。

 

 「なにやら賑やかになりそうじゃのう」

 木下秀吉。演劇部のホープにして、美少女男子。もはやバカとは言わせない。

 

 「………俺も忘れてもらっちゃ困る」

 土屋康太。ムッツリーニという二つ名を持っていたのはもはや過去の話か。

 

 「オレだけ置いてけぼりにされてもらっちゃ困るからな」

 本田竜也。オレの従兄弟で、坊ちゃま。天才芸術肌のバカだったが、その汚名も返上できそうだ。

 

 「去年は憂や梓と離れてショックだったからね~」

 鈴木純。もとDクラス、今年から軽音のベーシスト。意外と頭はよかったようだ。

 

 「まさか全員来るとはね。みんなとはいえ、容赦はしないわよ」

 木下優子。新生徒会長。みんなのお目付け役。

 

 「楽しくなりそうで、よかったよ♪」

 工藤愛子。保健体育のスペシャリストの座はそろそろ彼女の手に渡るか?

 

 「去年以上にすごいことになりそう」

 平沢憂。家庭科なら任せなさい。伊達にお姉ちゃんの世話をしてません。

 

 「それはなるでしょう」

 中野梓。かわいいかわいい軽音部の部長。

 

 「七島君、梓ちゃんだけ、べた褒めしすぎでしょう」

 佐藤美穂。去年はなかなか出番が出てこなかったため、今年はと期待している。

 

 「くっ……まさか学年主席の座はおろか、次席の座まで奪われるとは」

 久保利光。どうやら次席陥落したようだ。

 

 「ってことは一体誰が次席?」

 七島弘志。以上。

 

 「………雄二」

 霧島翔子。この方は主席の座を譲らなかったようだ。学年主席の座は3年間揺るがず。

 

 「そうか、雄二か」

 「ああ。優子に悪いからな」

 「それでアタシまで抜くんだから、ちょっとね」

 「………2人とも凄い」

 いやはや、こんなやつらがいるAクラスに試召戦争を挑もうとするやつらはいるのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「俺たちFクラスは、3日後試召戦争を挑む」

 いた~出ましたFクラス。SHRが終わって突然乗り込んできたな。今年もAクラスの担任を引き受けてる高橋先生も苦笑いになっているし。何か伝統になりつつあるAクラス挑戦。今年は負ける気しないよ。雄二がいないFクラスなんぞ怖くも無い。

 

 「それにあたって、昨年同様一騎討ちだ。ただ、×3で」

 1人でAクラスに乗り込んできた度胸は認めよう。ただ、本当に勝てる要素は揃っているのか。相手ながら心配になってくる。

 

 

 「どうする代表?」

 「………別に構わない。そもそも断れない」

 「須川、俺の真似か?」

 「坂本、吉井やお前ら。俺たちFクラスはお前らを許さない。覚悟しとけ」

 「いやいや……俺たちは出ないぞ。後、そんな軽い気持ちで試召戦争をしているならやめておけ。痛い目にあうぞ。Fクラス代表の先輩としての助言だ」

 「ははっ笑わせてくれる。お前たちっていうのがどのくらいのものだ。去年より戦力upしたのを覚えておけ」

 大幅にdownしただろうよ。あんなに大口叩いていいのかね。堂々と威張って出て行ったけど。もはやこちらAクラスの連中は怒りよりも同情の目のほうが強い。だろうよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………一応、3人誰が出るか決めておく?」

 「それは後ででいいだろ。こんなタレント揃いのクラス」

 Fクラスから上がってきたらそう見えるだろうな。何かに秀でているっていう桁が違うから。

 

 「………そう?」

 「でも何か対策はしておかないといけないでしょ」 

 「ムッツリーニ。Fクラスのメンバーで見慣れない顔を捜しておいてくれ」

 「………了解」

 雄二が勝手に指示を出したところで、代表が何も言わないんだから誰も反論しない。去年のオレの立場だったが、内心面白くないだろうな。Fクラス上がりの癖にとか思われているだろう。そうそう、雄二はトラウマがなくなりつつあるみたいだ。代表とも普通に話せるようになっていた。主席・次席のコンビだからな。しっかりしてもらわないとね。その横でいつもサポートするのが、会長こと優子さん。頼りになるよ。今年はクラスにおいて何もしなくていいだろう。オレも梓ちゃんもそう思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ★

 

 「何やってるんだろう……」

 あの後、話し合いもほどほどに終わり始業式も終わった後で、軽音部新メンバーを含む4人で部室に向かったところ、見慣れぬ人影が。近づいてみると、なにやら外国人の雰囲気をかもし出していた。

 

 

 

 

 

 「What are you doing now?」

 オレたちはロンドンで数日過ごしたんだぜ! と言わんばかりに英語で言ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」

 「「「「日本人かよ!!」」」」

 良くて外国人、悪くてもハーフに見えるこの子。日本語しかしゃべれないみたいだ~格好つけて英語を話したオレって……

 

 

 

 「えーっと……何やってるの?」

 「え、あ、その……ティーセットを持っていこうと」

 堂々と泥棒宣言をやってのけた。ある意味凄い。っと、あの色は先輩じゃなくて今年は1年生なんだよな。

 

 「このティーセットを触れるのはね、お茶を淹れることが出来ないとダメなんだよ」

 純ちゃんは一体なに言っているんだろう。

 

 「出来ました」

 「はやっ」

 しかも、この後輩も乗ったし。泥棒宣言した人をそのままウチに引き込むってオレたちもすごいな。

 

 「この香り、味、最高の条件下でしか引き出せない味だわ~」

 「さわ子先生!?」

 突然山中さわ子元先輩の担任が現れ、お茶の味を解説してくれた。

 

 「金髪・碧眼……着せ替えのしがいがあるわ~」

 「キャー!!!」

 「さわ子先生、なにやってるんですか!!」

 「今から勧誘しようと思ったのに…」

 「ごめんなさい」

 さわちゃん先生はずっと邪魔ばかりだ。しかし、あれは一体誰だったんだろう……見た目は外国人だがバリバリの日本人だったっていう後輩。しかも、堂々と泥棒宣言をしたあの勇気。いろいろと気になりますな。

 

 

 





 さあさあ、一体誰なのか?
 新キャラ。レギュラークラス(の予定)

 キャラ多すぎて(汗)
 Aクラス4分の1も名前が分かるやつがいるってすごすぎ。
 
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#92 情報収集!


 新学年早々の試召戦争の動き。

 AクラスはAクラスとしての威厳を保ったまま勝利に導くことは出来るのか。

 作戦を考える軍師が多いため逆に「船頭多くして船山に登る」ことにならないか。

 
 軽音部、謎の訪問者、
 
 一体誰!?

 では、どうぞ!!




 

 

 「………Fクラスの情報」

 次の日、HRで康太がつかんだ情報を公開することに。相変わらず仕事は早い。昨日の今日だからな。

 

 「流石だ。翔子、みんなに伝えた方がいいな」

 「………うん。よろしく」

 康太は小さくうなずき、Aクラスならではの巨大ディスプレイのほうへと歩いていった。そして、情報をそこに表示させる。

 

 

 「………一応、全員のPCにも同じものを表示させた」

 先生のPCなのに仕事が早いことで。ハッキング出来るんじゃないか……

 

 「………須川が代表。主戦力:姫路・島田と思われる」

 「なるほどな。この2人を頼みにしてるのか。そりゃあ使えねえ連中よりマシだ」

 「………驚く情報。根本がFクラス入りしていた」

 「ほう。それは楽しみだ」

 「………他に特に目立った人物はいない」

 終わり? もうちょっと期待してたんだけど。須川があそこまで啖呵を切ってAクラスに宣戦布告するもんだから、もっとすごいのいるのかと思ったのに。プラスは根本オンリー? それすら+かどうか分からないぞ。

 

 「ということは、試召戦争を明後日にしたのは単純に姫路あたりの点数を回復するためか」

 「お前の言い方だと姫路はわざとFクラスに落ちたみたいな言い方だな」

 「そう聞こえるか」

 オレもそう思うが。どうせアキがFクラスだと思ったんじゃないか。再び一緒のクラスになりたくてとか。

 

 

 

 「………雄二」

 「何だ」

 「昨年Fクラス代表として聞く。姫路と島田の得意教科は?」

 「姫路は家庭科以外ならオールラウンダーだ。島田は知っての通り数学のみ」

 油断はするつもりはないが、ココまでの情報を相手に与えておいて須川率いるFクラスはどうやって勝とうとしているのだろうか。

 

 

 「根本はよく分からないわね」

 「確か文系のはずだ」

 「そもそも、根本が出てくるかどうかは分からないんじゃない?」

 「それもそうだが、去年までBクラスだということを考慮すると、考えないわけにはいかない」

 あれほどまでに厳正なテストだ。カンニングを行えるとは言いがたい。

 

 「姫路には代表がいったほうが」

 「それがいいだろう」

 「………分かった。島田の場合は?」

 「雄二でいいのではないかしら?」

 優子さんの口から出た意外な人選。Aクラスの面々は口をポカーンと開けていた。

 

 「俺か?」

 「ええ。数学は確か学年1位でしょう」

 「ふっ……それは知らんが、確かに数学は得意だ」

 「………じゃあ、雄二お願い」

 「いいのか? 他のAクラスの連中のことを考えたほうが ー 」

 「雄二は学年次席。文句を言われる筋合いは無い」

 それもそうだ。いくら昨年までFクラスとはいえ、学年次席に文句を言うってのは身の程知らずだ。

 

 「………そういうこと。よろしく」

 「分かった。後1人だな。根本の場合は単純に久保でいいだろ」

 「僕かい?」

 「ああ。文系で翔子の次だろ」

 「確かにそうだが」

 「………よろしく、久保」

 久保はAクラスの面々からの信頼は厚いためすぐに決まった。

 因みに、Aクラスの面々はほとんどメンバーは変わってない。下の10人が変わった程度。

 

 

 

 

 

 「ただ、Fクラスだ」

 「そうじゃな」 

 「それだけで僕たちは理解できる」

 去年からAクラスだった面々はあんまり理解してそうじゃなかったが。

 

 「やつら、保健体育や家庭科に強い」

 しぶとく社会で生き残りそうだよな。

 

 「………保健体育で勝負を挑もうなど」

 「そうだね康太君。ボクたちがいるAクラスに保健体育で挑もうとする考えのない人は来ないと思うよ」

 とてつもない自信。だが、みんなはうなずかざるを得ない。だって……たまに先生をも凌駕する点数を出してくるからな。この2人がいると分かっているから保健体育での勝負は考えにくい。

 

 「じゃあ、家庭科か?」 

 「こちらにもスペシャリストがいるわよ」

 「そうだよ。憂ちゃん♪」

 「わたしですか?」

 「昨年は凄かったもんな」

 ちょうど1年前くらいのころ。延長戦になった一騎討ちで、最後に出てきた憂ちゃんは家庭科で秒殺で終わらせたのだ。その記憶はまだ残っているらしかった。

 

 「………それじゃあ、根本以外だったら憂」

 「妥当だろ」

 「わ、分かった。頑張るよ!」

 一応、試召戦争の代表が決まった。

 vs姫路は代表、vs島田は雄二、vs根本は久保、vs他は憂ちゃん。

 穴は見当たらない。果たして須川よ。お前はこの穴を見つけることが出来るのか。見つけないとすぐ負けだぞ。

 

 「………明日は入学式だから、次学校に来るときは決戦」

 始業式の2日後に入学式、その2日後に新入生歓迎会。春先は行事が詰まっているな。

 

 「………今年もAクラスとしの誇りを持って戦う」

 霧島のこの言葉でHRは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「ふぁ~AクラスやFクラスって試召戦争大変だね。眠いよ」

 部室に行きながら純ちゃんが呟く。

 

 「純はそんなにやってないんだっけ?」

 「去年は最初にFクラスに攻められたときだけ」

 オレたちはコッチのほうに慣れているからな……

 

 「多分、試召戦争は何もしなくていいと思うよ」

 「そう思う。こんなクラスに攻め込むクラスがあるなら教えて欲しいよ」

 Fクラスです。

 

 

 

 「さあて……今日こそ梓を ー 」

 純ちゃんが思いっきりドアを開けると、なにやら見覚えのある顔が。

 

 

 

 

 「あれ、昨日の……」

 そう、堂々と泥棒宣言をした見た目は外国人で、バリバリの日本人の子だ。

 

 

 

 「あっ!」

 「お茶淹れてくれる?」

 「はい、ただいま」

 「純……」

 純ちゃんは既にこの状況に対応しているらしく、追い出すわけでもなく逆に引き込んでいた。

 

 「どうぞ…」

 「美味しい~昨日山中先生が言ってたけどすごい美味しい」

 「ムギ先輩の時が懐かしいよ」

 「ムギ!?」

 「どうかした?」

 「いえ、なんでもないです」

 「そういえば、お名前は?」

 「斉藤菫(さいとうすみれ)です」

 めちゃめちゃ普通の日本人名じゃん。カタカナが似合うのに。

 

 「スミーレちゃん」

 「す、スミーレ?」

 「見た目がそんな感じだから」

 なるほど。賛成の票を投じよう。

 

 「軽音部に興味ない?」

 「いえ、あんまり」

 「入ってみない? すっごく楽しいよ」

 部長が押します! オレも手伝いたいのは山々だが、憂ちゃんやら純ちゃんやらが猛アタックするから控えめにしておく。

 

 

 

 

 「新入生歓迎ライブあるから聞いてね」

 「は、はあ……」 

 「衣装持ってきたわよ。っているじゃな~い、着せ替え楽しみ~」

 「キャー!!」 

 さわちゃん先生……生徒はおもちゃじゃありませんよ。

 

 

 

 

 

 

 「わっ……とと……」

 「あ、優花」

 「何なの今の子?」

 部室に入ろうとしたら突然中から全速力で走って逃げて来る子がいたら怖いよな。

 

 

 「う~ん…謎の人物」

 「は?」

 オレたち4人がその子について説明していたら優花が不思議そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 「どうした?」

 「どこかで会ったことあるような気がする」

 「学校内じゃなくて?」

 「多分。思い出せない……」

 「思い出したら是非とも教えてね!」

 「分かりました」

 オレに対してだけ強気な態度取るんだな。おい。別にいいけどさ。慣れてるから。

 

 

 

 

 

 

 「ねえねえ梓ちゃん」

 「何?」

 「結局、新入生歓迎ライブどうするの?」

 「あっ……」

 忘れているわけないしな~現実逃避したかったんだよね。

 

 「純先輩や憂先輩はまだ参加できないですもんね。当然わたしもこの軽音部に入ってまだ音あわせしたことないですし、こうなったらやっぱり ー 」

 そう言って、オレと梓ちゃんの方に顔を向ける。何とかしろってか?

 

 「歌いながら演奏するのか~」

 「初めてだ。でも、やらないとね」

 「そうだよね。どうする?」

 オレは梓ちゃんとどういう風にやるか、やるとしたら何の曲をやるかを相談した。そして、大体が決まったので早速練習に入る。バンドとしてではない形だから難しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「へ~ムッツリーニの妹が入ってくるんだね」

 「………昨日入学式だった」

 入学式明けの次の日、学校ではこんな会話があっていた。

 

 「因みに僕の弟もこの学校に入学したんだよ」

 「そうなんだ、久保君」

 久保弟もこの学校か。

 

 「2人とも何の部活するとか聞いてない?」

 「………何も」

 「さあね。入るかどうかも聞いてないね」

 これは意外な人脈。是非とも軽音部に欲しいところである。

 

 「ほらほら、今日はそんな会話をするような日じゃないでしょ」

 「………気を引き締めて」

 「言っている側からやってきたよ♪」

 そう、今日はFクラス戦。Fクラスとしては待ちに待っただろうが、オレたちとしては別に待ってもないし一生来なくてもいいとも思っている。誰かFクラスの良心はいなかったのか。いたとしても圧倒的多数や姫路島田といった強権で押さえられるだろうが。

 

 

 

 「さて、1時間後にはもう俺たちの部屋か」

 「アキ、何故そこにいるのかしら」

 「帰って来てくださいね」

 アキ最凶最悪の敵がやってきた。

 

 『これより異端審問会を開く』

 『坂本死刑』

 『吉井』

 『土屋』

 『本田』

 『七島』

 待って欲しい。他の4人は元Fクラスメンバーとして認めているのは分かるが、オレを巻き込まないで欲しい。……というのは冗談。誰も巻き込ませるものか。

 

 「………早く始めよう。時間がもったいない」

 「学年主席殿はそう来るか。そうだろうな。勝つのは決まっているもんな」

 「そうはさせませんけど」

 「Fクラスをなめないで欲しいわね!」

 Aクラスを過小評価しないでほしい。いい迷惑だ。そちらの情報は全て康太を通じてAクラス全員が分かっているからさ。須川の奇策とやらがどんなものかは見ものだな。

 

 

 

 





 今回のは伏線というか、下準備というか……

 次の話に繋がるための話だから若干内容が薄かったかもしれません。

 さて果たして、須川はAクラスの想像以上の作戦を考え付いているのか。

 そして、謎の人物の名前が判明したが一体どういった人物か。
 
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#93 返り討ち!


 始業式早々、FクラスはAクラスに試召戦争を申しこむ。

 3日後という猶予つき。
 この間にFクラスのメンバーは確実に成長したらしかった。

 それはそうであろう。

 なぜかって?

 0点の方がテスト受けたらそうなる。
 
 では、どうぞ!!





 

 

 「では、1人目お願いします」 

 Aクラスにて行われている、AvsFの試召戦争一騎討ち。今年は3回戦までなんだが……

 

 「よし、島田。景気付けに勝って来い」

 「分かったわ」

 今気づいたが、科目選択権なるものを決めていなかったな。でも、こちらは相手を見て選手を決めているから、別に構わないか。

 

 「島田か。ではAクラスの諸君。ココで見ているがいい」

 「………神童と悪鬼羅刹と呼ばれた雄二の本気」

 「翔子、黙っておけ」

 「雄二らしく勝てばいいんじゃない」

 「分かっているぞ優子」

 Fクラスに比べて声援は少ししかないが、学年次席の目はぎらぎらと光っている。

 

 「へえ、坂本が相手ね。引導を渡してあげるわ」

 「やはりお前は日本語から勉強した方がいいんじゃないか」

 「何をっ!」

 「今回の戦いは科目選択権を譲ろうではないか。学年次席の力を見せてやる」

 「何を言ってるのかしら。カンニングで上り詰めた悪党。科目は数学よ!!」

 ははっ……よく言うぜ。いくらお前が数学得意とはいえ……挑む相手が悪いだろう。

 

 「承認します!」

 「「試獣召喚(サモン)!」」

 いつものように幾何学模様のフィールドが出て、お互いの召喚獣が出る。島田は武器サーベル。雄二は相変わらず素手メリケンサックである。武器を見るとやや劣るが、元の地力が違う。

 

 数学 F島田 vs A坂本

      738    942

 

 「何だあの戦いは!?」

 「坂本は腕輪使えるのか!!」

 あ、因みにだが、数学は他の教科と違って2科目合体だから、大体点数は倍くらいだ。正確には違う。数ⅠAと数ⅡBの点数の合計点だ。だから腕輪使用条件は800点以上。それでも雄二は余裕で超えている。

 

 「この点差なら余裕よ」 

 「どうだか」

 「あんたに無いもの、それはリーチの長さよ!」

 島田はそう言うと、サーベル片手に召喚獣を雄二の召喚獣へ突っ込ませた。斬られると思ったその時、雄二の召喚獣はほんの少しだけ左前に進みサーベルを避わしたかと思うと、その刹那、ボディーブローの要領で3発連続でいれ、大体心臓がある辺りを2発、顔面を1発殴ったかと思うと、ローキック。いつの間にか島田の召喚獣は姿がなくなっていた。

 

 「な、何で? 何があったの!?」

 「勝者、Aクラス」

 高橋先生のよく通る声で言われると、Aクラスからは安堵の声が、Fクラスからは……いつもどおりだった。

 

 

 

 「ちょいとばかし、よい子は見てはいけない図になっていたな」

 「構わんさ。姿と内面は違うんだからよ」

 軍服を着た女の子の召喚獣に、不良にしか見えない召喚獣が10発弱のパンチをいれ壊滅させた姿。確かにお茶の間のよい子は見てはいけない図だ。ただ、1つ言えるのが、雄二の勝ち方はこれしかないだろう。散々に殴るしか。だって武器がほぼ素手だぞ。

 

 「明久、お前との練習がよかったな」

 「うん。雄二の操作技術も段違いに成長していたよ」

 なによりも驚くべき点は、雄二はただ力(点数)任せに殴っていたわけではなく、しっかりと急所を狙っていたのであった。肝臓・心臓・顔面(脳)、ココらへんは実体験で熟知していることだろう。中学生の時に散々やりまくっただろから。その後の知識も加わっているし、今の雄二は負けないんじゃないか。

 

 「くっ……坂本め。最初から数学に絞ってやがったか」

 島田=数学だろ。逆にそうじゃなかったらこちらも奇襲された形になっていたんだが。

 

 

 

 

 「もういい、根本行ってくれ」

 「……ああ」

 どうやら根本は、今回の振り分け試験は忌引きだったらしいがそこも情け無用の学園。即Fクラス行きだったらしい。少しは同情してしまうがやつらに加担しているだけそれは無駄無駄。表情を見る限りいい迷惑といった感じだが……久保せめてもの救いだ。秒殺してあげろ。

 

 「僕が行くよ」

 「久保君~」

 「頑張って久保君!」

 Aクラス女子からの人気はナンバーワンの久保。しかし未だに誰かと付き合っているという話は一度たりとも聞いたこと無い。弟がいるらしいからその謎は聞いてみようかな。軽音部に勧誘した後にね。今はそんなのどうでもいい。試召戦争だ。どうやら根本は国語を選択したらしく既に高橋先生も承認していた。

 

 「「試獣召喚(サモン)!!」」

 いつものように2体の召喚獣が出てくる。昨年代表だった根本はあまり操作経験が無いのではないか。それに対し、久保は前線の指揮官やら結構な戦いの場を踏んでいるため完全にこちらに有利。

 

 国語 F根本 vs A久保

      690    925

 

 「おおおお!」

 「流石は久保。元学年次席の座は只者じゃない」

 国語も先ほどの数学同様、倍になる。どうしてこうなるかは一応抑えておいたほうがいいか。今年の自分達のためにも。

 この召喚システムはセンター試験に基づいて点数化しているらしい。センター試験において、

 

  国語(現代文・古文・漢文)・数学(ⅠA・ⅡB)・英語(リスニング込み)は200点満点、社会理科あわせて3科目(文系理系によって2科目取る教科が違う)それぞれ100点満点の合計900点となっている。

 

 そのため、国語数学英語に関しては大体他の教科の倍の点数となっている。

 

 他にも副教科として、保健体育や芸術(音楽・美術・書道)・家庭科というものが存在している。これは総合科目には含まれない。

 

 おっと、おさらいしている間に久保が力(点数の差)技で押していっているようだ。

 

 「根本君、これでおしまいだ」

 「ぐ…………」

 久保君のこの宣言どおりに、根本の召喚獣の姿は消えていった。

 

 「勝者、Aクラス!」

 普通に2勝先取。これでこの戦いは勝ちなんだろうけど、終わらないだろうなあ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひ、姫路!! 意地を見せてくれ!!」

 「分かっています」

 普通の普通に奇策もなしに3戦目突入。姫路だとさ。Aクラスが一番恐れている人物。確かに怖い。が、代表の敵ではないだろう。

 

 「科目は総合科目でお願いします!」

 「………構わない」

 学年主席に総合科目で挑むって凄すぎる。学年主席=総合科目で最も点数高かった人だぞ。わざわざ相手の得意陣地で戦っているようなものだ。

 

 「「試獣召喚(サモン)!!」」 

 もう言うまでも無いフィールドが出てきて、同じく2体の召喚獣が出てきた。

 

 総合科目 F姫路 vs A霧島

         3728    4092

 

 「凄すぎる!!」

 「何だ2人ともこの点数は」

 「腕輪の戦いになるのか!?」

 総合科目の場合、3600点から使える。5教科9科目でおおよその目安全科目400点以上だからな。

 

 「覚悟っ!!」 

 「………望むところ」

 早速、姫路が腕輪を使用したようだ。確か姫路の腕輪の能力って「熱線」だっけか。

 

 「ちょっと代表まずくない?」

 「………落ち着け純」

 「そうだぞ純ちゃん。我らが代表がそんなにもろいわけがない」

 不安がる純ちゃん。対して去年から代表と同じクラスにいるオレたちは全くそんな感じも無い。むしろ余裕さえ感じる。代表ならこんな展開簡単にひっくり返せると。

 

 「………うん。これで大丈夫」

 「っ!! まさか!!」

 その熱線とやらを、どこから取り出したか分からない大量の鎖を駆使して全て吸収、そしてそのまま攻撃。

 

 「きゃあっ!!」

 ただでさえ威力が強い鎖攻撃に、さらに熱線で熱を吸収し強化した鎖だ。姫路は自分に食らう攻撃を倍増させただけなのかもしれない。

 

 

 「勝者、Aクラス。3戦全勝にてAクラスの勝利」

 高橋先生のこの声が響き渡っても、誰も歓声を上げなかった。Fクラスはもちろんのこと、Aクラスは勝って当たり前と思っている。油断大敵だが、今回は相手の方がこちらをなめていたから仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 「須川君、Fクラス代表として交渉に参加してもらうわ」

 木下優子生徒会長が有無を言わさぬ迫力でFクラス率いる須川にこちらに来るよう促す。背後のあのオーラは……これは須川はFクラスに帰った後袋叩きにあうんじゃないかな。

 『須川会長は、木下優子に話しかけられた!』とな。バカじゃねえのかと思うが。

 

 「そもそもだ。須川、何のために試召戦争を仕掛けたんだ」

 「お前たちをFクラスに戻すためだ」

 と悪びれも無く須川が言うのに対し、半ば呆れていたオレたち。

 

 「翔子、こいつらに情けは無用だ。ルールどおりにしよう」

 「………そのつもり」

 「Fクラスは設備ダウン+試召戦争3ヶ月禁止ね」

 この決定は痛いぞ。あの廃屋より悪い設備で、1学期を過ごさないといけないんだろう。ご愁傷様です。

 

 

 

 「カンニングしたんでしょ~」

 「悪い子にはオシオキですよ!!」

 「………2人ともうるさい。少しは分かったらどう?」

 「何よ偉そうに」

 「裏切りましたね翔子ちゃん」

 代表は、そんなの何処吹く風。この状況でアキに喧嘩売ろうとするならAクラス全員が守ってくれるだろう。それくらい今回は理不尽だぞ。

 

 「言っておきますが、この学園でカンニングなど見逃すわけがありません」

 「ということで、さっさと自分達の教室に帰ってもらえませんでしょうかね」

 優子さんのこの言葉に、Aクラスの全員が賛同する。

 

 「最後に、須川・姫路・島田。お前らは俺たちAクラスと関わりを持つな。試召戦争以外で」 

 「はあっ!? 何でよ!」

 「自分達で分かるがいい。それに、敗者は勝者の言うことを素直に受け入れるものだ」

 「さあ、我がFクラス諸君よ。教室に戻ろうではないか」

 Fクラスのやつらは負け犬の遠吠えと言わんばかりに捨て台詞を吐いて教室から出て行った。ってか、我が? 西村先生今年もFクラス担任でしたか。お勤め感謝。

 

 「何か無駄な時間を過ごした気がするわね」

 「………大丈夫、今後3ヶ月はFクラスからかかってこない」

 「去年の方が危なかったね~」

 そりゃそうだ。雄二だもんな。今自分達のクラスの学年次席様の頭脳が相手だったから手ごわいだろう。

 

 「さあ、みなさん。気を取り直して授業をしましょう」

 「「はい」」

 Aクラスはやはり真面目。こんな展開でもすぐに授業に切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「あれ、スミーレちゃん」

 「っ!? しまった」

 「お茶淹れて頂戴」

 「はい、只今」

 この展開にももはや突っ込む気は無くなった。

 

 




 何の面白みも無い今年の試召戦争一騎討ち。
 代表が須川だからだな。

 このAクラスに誰が攻め入るんだろうか。
 単教科でも得意なやつたくさんいるし。

 ということで、試召戦争は今後あるのか? ということですね。

 軽音部でもおなじみの光景になったあの泥棒宣言の子がお茶を淹れる。
 果たしてどうなってしまうのか!!

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#94 後輩!



 ずっと現れている、あの謎の行動をする美少女。
 
 果たして軽音部はどう対処するのだろう。

 その前に、新歓ライブってのも忘れちゃいけないな。

 では、どうぞ!!





 「大丈夫よ。練習してきたんだもの」

 「軽音部の瀬戸際だな~」

 いよいよ、新入生歓迎ライブの日がやってきた。2年前のコレでオレは感動して入部したんだったよな~今年そういう人が現れるかな…あの時の先輩達みたいになれるのかな。

 

 「ヒロ君、先輩達は先輩達、自分達は自分達だからね」

 オレの悩みが分かったような顔をして助言をくれる優花。

 

 「緊張しないようにステージ衣装持ってきたわよ!」

 「「着ませんから!!」」

 「せっかく持ってきたのに~」

 さわちゃん先生は、ほとんどの確率で妙な衣装を作成してくる。ただ、去年の学園祭のときはもう感動もの。

 

 

 

 

 「続いては、軽音部の演奏です」

 と、司会の会長:優子さんの声が聞こえてきた。もう出番か。

 

 

 

 「行こうか」

 「…うん。やりきろう」

 オレと梓ちゃんは舞台袖からステージへと歩いていく。そのステージにはピアノが置いてあり、中央にはアンプが1台。そして、梓ちゃんの手にはアコースティックギター通称アコギが。

 

 ピアノ・アコギの2ピースで演奏することに決まったのだ。

 

 

 

 「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

 部長の梓ちゃんがスピーチを行う。今までに何回もステージに立っているから緊張はしていないようだ。

 

 「わたし達軽音部は部員が少なくてこのままでは廃部になってしまいます」

 オレたちが引退したらの話。嘘は言っていない。

 

 「もし、バンドや楽器に興味のある人がいたら是非見に来てください。初心者ももちろん歓迎です」

 「オレも初心者で入部しました。みなさんお待ちしています」

 オレが最後を締めた形になったが、梓ちゃんは普通に何食わぬ顔でエレアコ(アコギの中でもアンプを繋いで音を大きく出来るもの)を準備していた。オレもピアノの前へ座り少し深呼吸。キーボードを今まで弾いてきたから全然違った感覚だ。

 

 

 

 「では、聞いてください。『ふわふわ時間~アコースティックver.~』!」

 春休みの間、2人で編曲をしてアコースティックver.として完成させたこの曲。本来ならばもはや放課後ティータイムではないのだから、この曲は使うべきではないのだろうが、作詞作曲をするには時間が足らなさ過ぎた。もちろん新入生は原曲を知らないのでver.とか言われても何のことやら分からないだろうが、このライブには新入生だけでなく2・3年生も来れる。新感覚を体感していただけるだろうか。

 

 

 

 本来、唯先輩のメインボーカルのこの曲。その部分を梓ちゃんが歌い、澪ちゃんのハモリの部分をオレが歌うという感じに。楽器を演奏しながら歌うのってここまで難しかったんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「ギター弾きながら歌うってあそこまで難しいんだ……唯先輩のことひどくは言えないよ」

 ライブが終わり、部室に帰って来て梓ちゃんが一言。凄かったんだな唯先輩も澪ちゃんも。よくぞあそこまで上手く歌えたものだ。

 

 

 「ギター弾いてたからじゃなくて根本的に歌が ー 」

 「純ちゃん!!」

 「流石にその言葉は抑えておいた方が」

 どうやらオレと梓ちゃんは歌がそこまで上手い方じゃないらしい。自覚はしていたけどね。

 

 

 

 「あのー体験入部させてもらいたいんですけど」

 「来た!」

 「ほら、梓ちゃんたちの歌が良かったからだよ!」

 「いえ、わたしはいろんな部に体験入部して回ってるだけです。歌は独特でしたね」

 「「ですよね~」」

 ちょっと泣けてくるよね。意外とずけずけ言う後輩もいたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ありがとうございました~」

 むったんこと、梓ちゃんのギター:ムスタングの6弦を切るというすさまじいことをやってのけたこの後輩は、満足したかのように礼を言って帰っていった。あの子とてつもなく不器用?

 

 

 

 「あ、あれはスミーレ!!」

 「みみみ見つかった……」

 「お茶淹れてくれる?」

 「はい、ただいま」

 今日もまた、お茶を淹れに ー じゃなくて、ティーセットを奪いにやってきたんだな。

 

 「どうぞ」

 「ありがと~」

 「美味しいよね」

 「あ、そうだ。スミーレちゃん、お菓子持ってきたんだ。食べる?」

 憂ちゃん手作りのお菓子。レアだぞ~美味しいぞ~ 

 

 「ありがとうございます……美味しいです」

 「本当、良かった~」

 「どうして、ここまでわたしに構ってくれるんですか?」

 「何でってもう何回も一緒にお茶してるじゃん」

 「もしかしてわたし達とおしゃべりしに来てくれてるのかなーって。ただおしゃべりするだけでも楽しいよね」

 「梓ちゃんお姉ちゃんみたいなこと言うようになってきたね」

 「え! 何それ? 唯先輩に似てきたってこと!? ショックだ~!!」

 「何でショックなの~いいじゃん!」

 いい雰囲気だな。まるで ー やめておこう。また思い出してしまって寂しい気持ちになるだけだ。今はこのメンバーで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こんな部なら入部してもいいかも……」

 「「「確保~!!!!」」」

 「ヒロ君、先輩達凄いね」

 「でしょ」

 無理やりにでも1人ゲットしちゃったよ。

 

 

 

 

 「あの~入部したいんですけど」

 「あれ、さっきの子」

 「入部してくれるの!?」

 「はい。さっきで全部の部活を体験して、ここが一番出来ると思ったので」

 あれで!? と5人の心がシンクロしたのは言うまでもない。でも、新入部員が入ってくるのはいいことだ。

 

 

 「あれ、同じクラスの奥田さん」

 「あ、はい…よろしくお願いします」

 今日から新生軽音部の始まりだな。どうなることやら……

 

 

 

 

 「それで早速なんだけど、楽器はどうする?」

 「早く決めておかないと、今年は何故か学園祭が早まったからね」

 学園長の一声で変わったらしい今年の学園祭の時期。確か1学期末だったかな。オレの空想だが、昨年清涼祭のほうで未完成のまま出してしまった腕輪が完成するから、一刻でも早く見せたいとかね。

 

 「学園祭に何かあるんですか?」

 「そうだよ! 軽音部はステージの前で演奏するの!!」

 「そうなんですか……」

 「練習すれば絶対に間に合うからさ、そのためにも早く楽器は決めておいたほうがいい」

 梓ちゃんがギター、オレと優花がキーボード、純ちゃんがベースとして……

 

 「どれがいいっていうのは分からないかもしれないから、ひとまず楽器屋行く?」

 「それがいいよ。実際に全部触ってみてどうなるかって話だからね」

 ひとまず、6人で楽器屋に向かうことになった。オレたちが1年の時から行き続けているムギ先輩の家の系列のお店。これは伝統になるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれ、斉藤さんではないですか?」

 楽器店に入るなり、オレたち一行というより、スミーレちゃんに話しかけてきた店員が。

 

 「ひ、人違いでは?」

 「何をおっしゃるのですか、最近お会いしたじゃないですか」

 「せ、先輩、ギターこっちですね行きましょう!!」

 スミーレちゃんがこれ以上ないくらい動揺していたが……深く詮索はするものではないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「って、お前らもここに」

 「わざとじゃないだろうな」

 竜也率いる4人が楽器店にいた。ここで待ち構えているんじゃないよな。

 

 

 

 「ん? あれは琴吹家のスミレちゃん?」

 「えっ?」

 「ほら、あの子だよ」

 少し離れた場所で梓ちゃんや他の人と楽器を見ているスミーレちゃんを指す。

 

 「知り合いか?」

 「お前は知らないのか。去年まで軽音部にいた琴吹紬の妹にあたる存在だぞ」

 「妹!?」

 「正確には血は繋がっていないが、姉妹のようなものだった」

 「ちょっと待て。本当に同一人物か?」

 「なかなかあの顔立ちは忘れないだろう。斉藤菫ちゃんだろ」

 オレは今までのスミーレちゃんの行動を思い出しながら、今の会話を吟味する。そうすると、全てが繋がった。あの不可解が行動の意味が分かるってもの。ココで聞くのはあれだから部室に帰ってからでも聞くか。

 

 

 

 「そういや、お前らよく楽器店に現れるが……」

 「いいだろ別に」

 「そろそろ教えていいだろ」

 「だよね~ヒロに隠し事をずっと持ち続けるって疲れるからさ~」

 「………俺たちはバンドを組んでいる」

 「は? 何て?」

 康太の声が小さくて聞こえなかったようなので、もう一回聞いてみた。

 

 

 「だから4人でバンド組んでいるってことさ」

 「聞き間違いじゃなかったか……何で軽音部入ってくれなかったんだよ」

 「だってさ~放課後ティータイムの息が合いすぎて他のメンバーが入る隙間も無いって言うか」

 「とにかく、お前らの邪魔はしたくなかった」

 「あそこまでの演奏を出来るってのは、練習をたくさんした以外にも秘訣があっただろうからな」

 確かに、演奏以外でも非常に仲がいいとか……? 最後のほうには優花が入ってきたけど、もうあの頃は演奏してなかったからそこまでの影響なかったしな~

 

 

 「じゃあ、先輩がいなくなって実質放課後ティータイムとしての活動が出来なくなった今、軽音でやろうとは思わないのか?」

 「面白そうだよな。でも、入ってきた後輩の練習の邪魔をするのはよろしくないだろ」

 「それもそうだが、今年の学園祭が早いだろ。ココだけの話をする」

 オレは他の軽音のメンバーが楽器選びに夢中になっているのを見て、こいつらに話しかける。

 

 

 

 「正直、このメンバーで4曲はきつい。練習期間が短すぎる。昨年まで軽音の枠4曲だったからそれは保持したいじゃん。でも、3ヶ月じゃ素人は1曲が精一杯だろう。だから残り3曲をオレと梓ちゃんとかで終わらせるわけには行かないじゃん……」

 

 梓ちゃんにも伝えていないこの悩み。梓ちゃんはとっくに分かっているのかもしれない。だけど、それは全然表に出していなかった。

 

 

 「お前の気持ちは分かった。オレたちも全力で手伝いたい。だが、梓ちゃんやら他のやつらの意見も聞きたいからさ。それを聞いてからもう一回オレたちの所に来てくれ。オレたちとしてもお前らと演奏するのは楽しみにしているからさ」

 

 竜也が代表して言うと、後ろの3人はうなずいていた。何とも心強い味方だ。この件は頼み込んでおくとするか。

 

 

 

 

 「お前はそろそろあの子たちの元へ戻った方がいいだろう」

 「くれぐれも他の女の子にうつつを抜かして、梓ちゃんを忘れないようにね」

 「分かってるわ言われなくても、憂ちゃんと純ちゃんは軽音部で預かっておきますわ」

 「よろしく頼む」

 「………(コクコク)」

 他のメンバーに気づかれないように雄二たちと別れ、みんなと合流する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「全然手が出ない……」」」

 合流した途端、こんな言葉が出てきた。オレはまったく話の流れを読めないから聞くことにする。

 

 「どうしたの?」

 「ドラムセットの値段がね~」

 およそ10万円。オレたちじゃ手も足も出ないですな。去年まであったドラムセットはりっちゃんの個人のだった。

 

 「さわちゃん先生に頼んでみますか」

 「そうしよう。どの道ドラムがないとバンドとして成り立たないからさ」

 梓ちゃんは携帯を取り出し、さわちゃん先生に連絡を取ってみる。少し喧嘩をしているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたの?」

 電話を切った後、聞いてみる。

 

 

 「実は去年一昨年の部費溜めてたのよね~とか言われたから」

 ムカっと来たんだね。わかるよ。それなら早く言えってね。

 

 

 「だからもうちょっと待ってたら先生来るから」

 「そうなんだ。ドラムは誰に決まったの?」

 「スミーレちゃん、結構上手かったんだよ~」

 そうなんだ。意外だよな~何か普段からストレスがたまっているとか?

 

 

 

 「憂ちゃんや奥田さんは?」

 「わたしはギターを弾いてみたいかな。ギー太弾いてから弾いてみたいな~って思ってたんだ」

 「じゃあ、奥田さんはどうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………わたし、やめます」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「えっ?」」」

 

 「わたし、勉強以外はからきしダメで高校生になってからは何か新しいものに挑戦しようと思ったんですけど。やっぱり慣れないことはするものではないですね」

 ちょ、ちょっと待ってよ。もうちょっと続けようよ。という引止めをしようかと思ったとき、

 

 

 「ちょっと待ちなさい、奥田ちゃん。話は聞かせてもらったわ」

 いつから立ち聞きしていたのかさわちゃん先生がいた。

 

 「あなたPC使えるかしら?」

 「ええ、家にあるので」

 「それじゃあ、ちょっと待ちなさい。この後部室に戻ってからちょっと話があるわ」

 みんなの頭の上に疑問符がついたのは間違いなしだろう。

 

 「梓ちゃん、ドラムセットってのは?」

 「コレです。足りますか?」

 「ちょうどいいわね。これにしましょう」

 ということで、即決。ドラムセット購入。明日部室に運んできてもらうことに。その後、先ほどのさわちゃん先生の話どおりにするためにオレたちは部室に戻ることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何だろうね」

 「全然想像がつかないよ」

 少し待っていると、さわちゃん先生がPCを抱えて部室にやってきた。

 

 「奥田ちゃん、あなた音楽理論って興味ある?」

 「音楽理論、ですか?」

 「そう。勉強が出来る奥田ちゃんなら結構最適なんじゃないかなって思うの」

 「そう、ですか?」

 「それを学んだ後で、これよ」

 とPCを立ち上げて、とあるソフトを開き奥田さんにそれを見せる。オレたちもそれを背後から見させてもらう。

 

 「DTMって言ってね、実際に演奏しなくてもPC上で曲が作れるの」

 「そうなんですか?」

 「そうよ。ニ○ニ○動画とかでよくupされている曲とかはコレで作ったのばかりなんだから」

 「すごいですね!!」

 「やめないよね?」

 「これからはわたしがみなさんをプロデュースします!!」

 よかった。さわちゃん先生のおかげで、1人の部員がやめずにすんだ。普通にこういうことばかりしてくれれば本当にありがたいのに……

 

 

 これで担当は決まったかな。ギター梓ちゃん・憂ちゃん、ベース純ちゃん、キーボードオレ、ドラムスミーレちゃん、作詞作曲奥田さん。ということか。新生軽音部だな。

 

 

 

 

 

 「そういえばスミーレちゃん」

 「はいなんでしょう?」

 「琴吹家で住んでいるって本当?」

 「あら、そうよ。よく知ってたわね」

 「や、山中先生!?」

 「え……ダメだった?」

 スミーレちゃんはちょっと目が潤んできて、泣きそうだった。コレ触れちゃダメな話だったのか。申し訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫?」

 「大丈夫です」

 その後、自分とムギ先輩の生い立ちからこの頃の不可解な言動まで全て話してくれた。すごいな~

 

 「ティーセットはムギちゃんから許可もらってるわよ」

 ティーセットを持ち帰れというムギ先輩の言葉は軽音部へと向かわせる口実だったらしい。引退しても部活に貢献してくれますなムギ先輩。本当にありがとうございます。

 

 

 「じゃあ、スミーレちゃん今後ともよろしくね!」

 「はいっ!!」

 めでたしめでたし……でいいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「梓ちゃん、提案があるんだけど」

 「何?どうしたの?」

 「竜也たちを軽音部に誘おうと思っているんだけどどう思う?」

 「入ってくれるの?」

 「迷惑じゃなければ、オレたちと演奏したいと言っているらしい」

 「本当!? 大歓迎だよ!! 部員がたくさん増えたね~!!」

 「たちって言うと誰がいるの?」

 「えっとね、竜也・アキ・雄二・康太の4人かな」

 「そんなこと言ってなかったけどな~」

 純ちゃんがそう言うけど、結構嬉しそうだった。憂ちゃんも同じく嬉しそうだし。優花やスミーレちゃん、奥田さんは何のことかさっぱり分かってなかったみたいだけどね。

 

 「じゃあ、竜也たちにはそう伝えておくよ。コレで学園祭の負担もかなり減るでしょ」

 「そうだね。残り3ヶ月まずは1曲演奏できるようになるまで頑張ろう!!」

 「「「オー!!」」」

 1歩1歩ずつ進んでいる道。ようやく加速しだしたかな。まだまだゴールは遠いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「ってことで、オレたち4人がこの軽音部に入ることになりました。よろしく!」

 次の活動日、竜也たちが来て自己紹介をした。11人になったんかな。今日からようやく本格的な練習を始めることが出来るな。

 

 「じゃあ、早速練習しよっか」

 「梓ちゃん、わたしギター買ったよ!」

 「ホント!? それじゃあたくさん練習出来るね!」

 「優花、キーボードは1台しかないから」

 「うん」 

 昨年まではムギ先輩の自分のキーボードがあったため2台だが、今年は備品の1台しかない。

 

 「ヒロ君、この大人数じゃ一気に練習できないからどうする?」

 「この中で2つにバンドを分けたらどう?」

 「う~ん……どう分けようか」

 「竜也たちは結構息が合っているからそこはいじらない方がいいだろう。だからオレがこっちに入ればちょうど、男子:女子が5:5になるじゃない」

 「そうだね。そうしよう! 奥田さんは男子女子両方の作詞作曲を頼むね」

 「任せてください!」

 若干驚きの表情が見られた男子勢。そりゃあそうだよな。軽音部に作詞作曲担当の人ってなかなかいないよな。

 

 

 

 「今日はまず、どういった曲をするかってのをみんなが知らないといけないよね」

 「それでも、メンバーが足らなさ過ぎる……」

 「ぶっつけかもしれないけど、あわせてみる?」

 「竜也たちと? ボーカルは梓ちゃんしかいないよ」

 「うっ……………何か先輩達が残していったもの無かったかな……」

 「そういえば、あのアルバム、この部室にも1つ残しておいたような」

 卒業式前日に放課後ティータイムの足跡を残しておくという名目で全ての曲を録音していた。それを焼き増しして放課後ティータイムのメンバー全員とさわちゃん先生、あと部室に1つ置いていた。

 

 「そうだね。あれを聞かせてみよう」 

 早速流す。なにやら懐かしいな。男子勢の諸君は聞くまでも無く分かるだろうが…新入生の2人は結構表情が変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 「先輩達こんなのをしていたんですね。すごいです」

 「これほどの曲を作れるか自信ないです」

 「まずはやってみようよ」

 「追い抜こうとしなくていいからさ、オレたちの代での曲ってのを作り上げよう」

 その後、今日は練習して終わった。そしてその次の日も……いい雰囲気で練習が出来ていっていた。

 

 





 ちょいと長めでしたが、いかがでしたでしょうか。

 伝統的な部活というのは、先輩から後輩に受け継がれていくものがありますよね。
 大変ですよ。

 以前からフラグを建てまくっていた、アキたちの軽音部入部の件。
 とうとう入りました。
 総勢11名ですか。
 多いですね~昨年に比べましたら。
  
 
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#95 修学旅行!


 すいません、遅れました~
 今日オープンキャンパスに行ってまして帰りが遅かったもので。
 よかったですわ~

 そのよかったことと対比して残念なニュースが。
 ウチの高校の野球部が決勝で負けてしまいました。
 あと一歩で初の甲子園。
 よくぞ公立であそこまで勝ち上がった。ということでした。


 さて、話のほう。

 一気に時系列は飛び、5月に。
 
 では、どうぞ!!




 

 「今日から、京都だ!!」 

 学園名のように若葉が覆い茂っている5月に入ってからのこと。

 

 「耳元でやかましい」

 新幹線を待っていると、アキがすぐ後ろで騒ぐから耳が痛くなった。あ、因みに今日から若葉学園は京都へ修学旅行。Aクラスは最高クラスの席で新幹線移動らしい。Fクラスは学校のバスで昨日の夜から行っているとのこと。西村先生お疲れ様です。

 

 

 「お土産忘れないようにしないとな~抹茶八つ橋に、ハッカの八つ橋、いちごの八つ橋に ー 」

 「お前どんだけ八つ橋好きなんだよ」

 「京都って言ったら八つ橋でしょ」

 「そうだけども……他にも何かあるだろ」

 「何かって?」

 そう言われたら出てこないけどさ。

 

 「去年の強化合宿みたいにならないよね」

 「そう願っておきたいものだな」

 「先生に任せよう。無理ならばAクラスで抑えるしかない」

 「………去年はごめんなさい。今年はそうならないように」

 「アタシも全力を注ぐわ」

 雄二やアキの不安は、Aクラス代表霧島と生徒会長優子さんによってかき消されたのかどうか心配なところではある。

 

 

 

 「 ー みなさん、この新幹線に乗ります」

 最小限度のことをAクラス担任の高橋先生が言った。気をつけてくださいね~とか言うまでもないということ。それがAクラス。Fクラスなれば、注意したところで聞かない気がする。

 

 

 「どう座ろうか……」

 仲いい人同士が近くに座っていくが、オレたちはいささか人数が多い。

 

 「1組が4人でしょ」

 新幹線の座席を向かい合わせということで4人1組か。

 

 「面倒くせえ。適当に乗り込もう。もうすぐ動くぞ」 

 雄二の言葉にみんな賛同して、自然と2人組ずつ作って座っていく。

 

 「よろしく」

 「雄二たちなら騒がしくならなくて済むな」

 『どういうこと~ヒロ。それは僕たちがうるさいってことかな!?』

 後ろの座席から聞こえてきたアキの声。もうその声がうるさいっていうのを自覚して欲しい。

 

 

 「ドアが閉まります。ご注意ください」

 このアナウンスが流れてすぐにドアが閉まり発車する。背後の方では小学生と間違えるくらいはしゃいでいるヤツがいるが出来るだけ気にしない方向で行きたいと思う。

 

 

 

 「そうだ。あれから軽音部はどうなの?」

 オレたちのグループは梓ちゃん・雄二と優子さんで出来ている。奇しくも優子さんだけが軽音部ではないため、状況を知りたかったのであろう。優子さんは生徒会で忙しいだろうから軽音部には誘えなかった。

 

 「いい雰囲気だぞ。後輩のドラムの進歩度合いがすごい。なあお2人さんよ」 

 「確かにそうだよね。ドラムにばっちりあってたんだと思う」

 「基準が分からんから何とも言えん。ドラムは雄二が一番知っているだろ」

 「へ~そうなのね。楽しみだわ軽音部の躍進が」

 躍進と言われましても外部の大会に出るわけではないので……

 

 「憂はギターの飲み込みが異常だし」

 それは姉妹似ているということだろう。

 

 「優花ちゃんは流石にヒロ君に追いつけ追い越せとやっていただけあって上手いし」

 よかったな、部長殿に褒められているぞ優花。

 

 「奥田さんも既に1曲作り上げたし。みんなよくやっているよ」

 『あれ、わたしの名前が出てこなかった~』

 「はいはい。純も上手いですよ」

 『やった』

 横の方から聞こえてきた声。純ちゃん嫉妬かな? 多分そんな気持ちも無いだろうけど。純ちゃんの実力はもう折り紙つきだったからね。あのジャズ研で激戦区のベースを勝ちあがっていたんだからな。

 

 

 「一つ気になるのがね~優花ちゃんのことなんだけどさ」

 「優花ちゃんってあの弘志君の従兄妹の?」

 「そうそう。優花ちゃんがちょっと何かわたしと距離を取っているって言うか」

 梓ちゃんも気づいていたか……オレもそう思っていたんだけどな~確証は無かったから突っ込んで聞いたことは無かったけど。

 

 「確かにな。嫉妬してるんじゃないか?」

 「嫉妬?」

 「俺にもよく分からん」

 「アタシはその現場を見たこと無いから良く分からないけど、優花ちゃんは弘志君を尊敬できるライバルみたいに思っているってことで間違いないよね」

 「え? 尊敬してるのか? ライバルは間違いないだろうけど……」

 アレのどこに尊敬の念があるのか。

 

 「ヒロ君がやっているから自分もする。これって憧れの気持ちが入っていないと普通しないよ」

 「アタシもそう思うわ。ただ何かするってなら普通1つに情熱を注ぐものじゃないかしら?」

 「タイミングよく弘志がやっているものに変えているってな」

 「それは、オレと常日頃対戦したいからじゃないのか? 前も言ったと思うが ー 」 

 「ヒロ君のフィールドで勝ってこそでしょ」

 「そうそう。それ」

 「取り方を変えれば、そこで勝たないと、弘志君に認めてもらえないと思っているのね」

 どこかで聞いたことある話のような気がするが。う~んイマイチピンとこんな。

 

 「そこら辺はオレが聞くより他の誰かが聞いたほうがいいだろう」

 「わたしもダメだよ。距離取られているし」

 「俺かよ? それはダメだな。そういうのは俺の仕事じゃない。第三者に聞いてもらうのが一番だ」

 「ってことはアタシ? 最初のとっかかりが無いわよ」

 「放送で呼び出すのはどうだ? 生徒会からって言って」

 「あのね、生徒会はそういうものに使うものじゃないの」

 「生徒会は生徒の悩み相談は解決してくれないのか」 

 「うっ…………仕方ないわね。それとなく聞いてみるわよ」

 「ありがとう、優子ちゃん!」

 地味に雄二のきつい言葉もあったが、これを解決しないと本当に軽音部として一体化できないと思ったのだろうな。

 

 

 

 『あれ、富士山じゃない!?』

 『ホントだ~!』

 『大きい~』

 後ろの騒がしい組が珍しくいいことをいったので、オレたちも窓の外を見る。

 

 「写真撮っておこう」

 「記念だね」

 突如写真会が始まったのは言うまでも無い。康太が反則的なまでに高性能なカメラを使おうとしたために、みんなが卑怯だと言い、勝負には外された。もちろん写真を撮るのは個人の自由だから別に強要しない。

 

 「誰が一番良い角度で撮れるかな?」

 おいおい……みんな参加しなくて良いんだぞ。現にオレはカメラ持ってないし。

 

 「疲れた。ちょっと京都に着いたら起こしてくれ。寝たい」

 「あ~オレも寝たい。よろしく」

 雄二とオレは疲れて寝た。他はどうなったかは知らない。気づいたら京都駅~というアナウンスが流れていた。急いで、バックを持って外に出る。危ないな~起こしてくれよ。

 

 

 

 「起こしたんだよ。返事もしたからもういいのかなって」

 梓ちゃんがちょっとバツが悪そうにこう言った。オレは寝ながらそんなことをしたのか。雄二もどうやらそうだったらしい。無意識って怖い。

 

 「まず、今日は平等院鳳凰堂まで行き、そこからホテルに戻ります」

 まだ昼くらい。市内からは少々遠いらしいが、夜までには帰ってこれるんだろう。だからスケジュールに組み込んでいるんだろうしな。

 あ、Aクラス待遇。高級バスが用意されている。どこまで凄いんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「疲れたね~」

 宇治から帰って来て着いた若葉学園が貸し切りにしたらしいこのホテル。まあまあ普通のホテルだな。高級なホテルじゃなくてよかったよ。そればっかり続くと感覚が鈍りそう。

 

 「それでは、各自部屋に戻り、夕食があるまでひとまず待機をしておいてください」

 と高橋先生が言ったので、女子と別れて自分達の部屋に向かった。

 

 

 

 「去年は特別な形だったけど、今年は全員一緒の部屋だね~」

 Aクラスでも雑魚寝が出来るのはよかった。昨年:強化合宿の折、Fクラスは雑魚寝というのは理解できた(オレは特例としてこいつらと一緒の部屋だったから)からいいものの、懐かしいな。

 

 「今年こそ何もあって欲しくないな」

 「その件については何も言わない方がいいじゃろう」

 そういえば久しぶり秀吉の声を聞いた気がする。演劇全国大会に向けてたくさん練習しているんだろうな。

 

 「………一応、警戒はしておく」

 とそれなりの道具を持ってきて、セキリュティを独自で行うこの部屋。改造をするわけではないので別にかまわないだろう。康太の技術を乗り越えられるものはいるのか……

 

 「それじゃあひとまずトランプしよう!」

 「アキ、お前に面白いトランプを見せてやろう」

 オレは自分のバックからトランプを取り出す。

 

 「歴史トランプ? こんなのあるの?」

 「いろいろ書いてあるから見てて面白いぞ。基礎知識だけどな」

 「遊びながら勉強になるってやつだね」

 「そういうこと」

 早速いろいろなゲームをやった。しばらくやっているとアナウンスが入り夕食、そして入浴、そして就寝。あっという間にそんな時間になるが、この部屋が消灯の時間で静かになるわけが無い。疲れをおして、やつらのテンションについていった今日1日であった。

 

 





 2章でも出てきたこの時期の修学旅行話。
 
 特に面白くなりそうも無いので、軽音部の人間関係のほうにフォーカスを当てていきたいなと考えているところです。

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#96 京都!



 修学旅行にやってきた若葉学園。

 もちろん、平和で終わるわけでもなくいろいろと騒動があっていた。

 無傷で乗り越えられるか?

 京都を満喫できるか?

 では、どうぞ!!




 

 『戦死者は補習~!!』

 そろそろ寝ようかというときに、外から大声が聞こえてきた。あの声は西村先生か?

 

 

 「何があったんだ?」

 「………設置したカメラで様子を見る」

 部屋の前やさまざまなところに康太の隠しカメラ。以前みたいにエロい方で使われなくなったこの技術は、誰にでも尊敬の念を抱かせる凄さだ。

 

 「………見てみるといい」

 康太がそういってPCの画面をみんなに見せてくれた。すると、たくさん人がいて召喚獣もたくさんいた。

 

 

 

 「バカが女子部屋の方に行こうとして先生達に止められたってとこか?」

 「そんなことじゃろうな。じゃが、どさくさにまぎれて数人は突破しておるし」

 「逆に女子がこちらのほうに来ているのも伺える」

 貸し切りホテルの最大の魅力だろうか。他の人に気兼ねなく試召戦争が出来るってのは。オレたちとしてはもう勘弁して欲しいんだがな。

 

 「………みんな逃亡の準備もしくは隠れる準備をしておいたほうがいい」

 「なるほど。やつらの顔が見えるな。コチラの方にいるし」

 姫路や島田が相変わらず手下を連れて男子部屋の方にやってきているのが見えた。おそらくターゲットはこの部屋。

 

 「そもそもこの部屋にいれなければよいのだろう」

 「だけど雄二、この部屋鍵掛けれないよ」

 「秀吉、頼めるか」

 「おぬしらを守るためなれば、やってやるぞい」

 それなら、と雄二は秀吉に作戦を伝える。なるほど、秀吉の真骨頂演技力というのに賭けるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何!? 姫路たち以下女子が男子の部屋を狙っているだと?」

 部屋に近づいて来た時に、秀吉が大声で西村先生の真似をした。姫路たちも西村先生なれば躊躇するだろう。

 

 「それはいけませんね。直ちに対策を練らないと」

 次に高橋先生。この2人がいる部屋なんて誰も勝負に入って来れないわ。

 

 「勝手な行動をするせいで、女子全員がこんな人たちと思われたくないだろうな」

 極めつけ、大島先生。もはや近づこうとは思わないだろう。

 

 「坂本、安心してくれ。この部屋だけ特別でな」

 「昨年のようなことが無いようにと、目には見えない施しをしているのです」

 「これに引っかかったらものすごいことになるだろうな」

 

 

 『み、美波ちゃん……』

 『今日はやめておきましょうか』

 『そうですね。先生が3人もいるようじゃお話も出来ません』

 『そもそも、部屋に行かずとも、自由行動のときに行けばいいんだからね』

 『いいですね、美波ちゃん』

 『見つからないように早く帰りましょう』

 

 部屋の外から聞こえてきた女子2人のこんな声。どうやら、秀吉の演技作戦は大成功を収めたようだ。

 

 

 

 

 

 「サンキュー秀吉」

 「うむ。上手くいって何よりじゃ」

 「人選が良かったよ。強敵だね」

 「………姫路たちは西村先生と遭遇して捕まった」

 「何がなんだか分からないだろうな」

 「こんな時間に出歩くのが悪い」

 聞いた話によると、この後消灯時間後に出ていた人間は西村先生による特別補習があったらしい。西村先生お世話掛けます。先生の体力は無尽蔵なんですか……体よく壊しませんね。

 

 

 その日の夜は、こういった騒動もありあまり眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、早速フィールドワーク。班で京都を自由に歩き回って良いんだが……オレの班はというと、もちろん同じ部屋の6人組。行きたい場所がバラバラで本当に困ったものだった。

 

 「金閣は行ってみたかったんだよね~」

 「演劇をする上で、清水の舞台には一度は立ってみたいものよのう」

 「二条城はもちろん見たいな」

 「………太秦の映画村で写真を」

 「お前ら三十三間堂に行きたいと思わんのか」

 「銀閣は渋いぞ」

 地図に描いてみたら分かると思うが、京都市内をぐるりと囲む感じだ。Aクラスは何故かバスのフリーパスを渡されるのではなく、班ごとに専用タクシーが着くという……感覚がおかしくなりそうだ。

 

 「早く行かないと時間なくなるわよ~」

 「分かった優子。今から俺たちも行く」

 優子さんから電話が掛かってきたと思われる雄二。向こうの班もおなじみ6人組。今回はアキたちがこの女子6人を巻き込んで、大移動に付き合ってもらうことに。

 

 「早く下に降りるぞ。既に待ってるようだ」

 「分かった!」

 一応、班長は雄二(女子のほうは優子さん)である。

 

 

 

 

 

 

 「ほらほら、早く早く」

 既にタクシーの前で待っていた女子の方々が手招きしていた。急がないと。

 

 「遅い!」

 「すまんすまん、明久の野郎が寝坊しやがって」

 「おいっ! 僕だけのせいか?」

 「「「そうだろ」」」

 「そこまで声をそろえなくても」

 ギャーギャー騒ぐアキをなだめ、それぞれタクシーに乗り込む。男子6人女子6人別のタクシーに乗り込むかと思いきや、3:3で乗ることに。新幹線の組み合わせの4人に秀吉・代表を付け加えた6人だ。

 

 

 

 「出発~!!」

 「オオー!」

 遅くまで寝ていたと言うから元気だけは人一倍にあるな。

 

 「まずは、二条城にお願いします」

 「了解!」

 専用のタクシーの方に行き先を告げる。ホテルから程近い場所にある二条城。歴史で出てくる一番大きなことっていうと大政奉還の舞台かな。他にもたくさんあるけども。

 

 「うんうん……何ともいいかな」

 「何だ~気持ち悪い」

 代表と雄二が同じ空間にいるというだけでも凄いことだ。雄二の大きな進歩だな。

 

 「霧島が本当に改心してそれが行動に出ておったからのう」

 「雄二のトラウマも消えていったっていうわけね」

 「2人がまた話せるようになってよかったよ」

 4人は同じことを考えていたらしく、2人に言った。

 

 「………雄二、本当に嬉しい。また話せるようになって」

 「ああ……出来ればもうちょっと手荒な真似はやめて欲しかったけどな」

 「………ゴメン。でも、それで気づいた。わたしはこれじゃダメだって」

 「それはいいことだ。今後のお前のためにも重要だぞ」

 代表はちょっと感激したか目が潤んでいた。雄二に褒められたっていうのがどのくらい久しぶりなのだろうか。おそらく、あったとしても小学生の頃以来か? 雄二が代表より上に立ったってのはそのときくらいだろ。でも、あの神童が人を褒めるなんてこと似合わないけどな。

 

 

 「着いたよ。皆様方」 

 「はやっ!」

 本当に近所だったんだな。別に歩いてきてもいい距離だぞ。

 

 

 「よ~っし ー 」

 「アキ、お前子どもに戻った?」

 「何を失礼な。こういうときはせっかくだからはしゃがないとね!」

 「まあそれはいいが、二条城内では静かにしろよ」

 「うぐいす張りだっけか?」

 「床だろ。康太、気にならないか?」

 「………挑戦してみる。音がならないかどうか」

 二条城の廊下を歩くと、音が鳴る仕組みになっているため、曲者が入ってきたときに対処がしやすくなる。それを康太は音を鳴らさずに歩こうというのだ。普通は出来なさそうだが康太なら出来そう……

 

 「………無念……」

 「そりゃあ無理だろ。お前人間だからな」

 そもそも、忍者対策だから忍者だとしても音が鳴るんだろ。無理だよな~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「次は、太秦映画村に」

 ほんの少し滞在してすぐに次の目的地へ。西側に離れた場所にあるこの場所。意外と人気スポットらしいが……

 

 「せ、設備メンテナンスのため休村……」

 「………俺に恨みでもあるのか」

 「いや誰も無いから……運が悪かったということだろう」

 「………くっ…」

 まさかの休みとはな。そりゃあ休みがないとやっていけないだろうが、ちょうど修学旅行と被るとはな。康太が本当に落ち込んでいるじゃないか。ただでさえ先ほど二条城でやられているんだからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「次行くぞ」 

 「金閣だね」

 金閣寺、ではなく鹿苑寺金閣。本物は昭和年間に消失してしまい今は復元されているものだがまあ輝かしいもので。

 

 「うま~い!!」

 「お前は自分で金閣行きたいって言ったんじゃなかったか?」

 「そうだけど、ここの八つ橋美味しいんだよ~」

 花より団子ならぬ、名所より八つ橋in京都。ってか。まあ美味しいけどさ。

 

 

 

 「もういい。次行くぞ。後がつっかえてるんだ」

 「え~」

 アキの反対を抑え、次に向かう。次は金閣の近所にある龍安寺。ここの石庭は是非とも見るべきであろう。ということで女子からのリクエスト場所である。

 

 「1、2、3、……何回数えても14だよ~」

 「悔しいが15は見つからないな」

 ここの石庭、不思議と回廊の何処から見ても本当にある数、15個の石より1つ少ない数しか見えない。

 

 「作成者の美のセンスが凄いわ」

 「落ち着くね~」

 もはや数えることを諦めている方々は、日本伝統のわび・さびの雰囲気を味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「銀閣か~銀じゃないね~」

 次もわび・さびを感じる場所、銀閣。正式名称:慈照寺銀閣。金閣が金だからといって、銀閣は銀ではない。

 

 「あっちが東求堂か。よくお目にかかるな」

 「本当ね。……って、もう飽きが来ている人がいるし」

 この年でわび・さびを理解しろとは言えないが、みんな感慨に浸っているんだからもうちょっと一緒になって見て欲しいものだ。

 

 

 

 「お腹空いた~!!」

 「お前は大丈夫だろ。何回も試食食べていたじゃないか」

 「八つ橋はお腹の足しにはならないよ~」

 「ったく……まあいい。昼飯にするか」

 昼ご飯を食べるのに何処に行こうか迷っていると、運転手の方が近くでオススメの店を案内してくれた。値段と美味しさがバランスいいらしい。

 確かに、運転手さんが言うとおり、いい食事が出来たと思う。時間は限られているので、あんまりゆっくりしている暇は無い。その次は、清水寺に向かった。

 

 

 

 

 

 

 「ここが、清水か。高いのう」

 「噂で、清水の舞台から飛び降りても死なないとかあったけど」

 「こりゃ、死ぬよな…」

 「あながち諺もバカに出来ないわね」

 清水寺で滞在した後は、参道を通り麓まで降りる。その道中、アキが懲りないんだ。八つ橋試食コーナーを食べ荒らすっていう。味で本当に美味しかったところは買っていっているから文句は言えないんだな。

 

 

 

 

 「次は三十三間堂か」

 「長いな~!!」

 「ここで弓道の大会があっていると言う噂は本当なのか?」 

 「どうだろうな。この端から端まで届くのか?」

 とても長い建物だ。そしてこの噂の真相を知りたいものだ。

 

 「千手観音キタ~」

 「うるさいよアッキー」

 「ごめんなさ~い」

 「神々しい……」

 目が痛くなるな……ものすごい数。京都ってすげー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで、京都巡りは終わったかな」

 「時間も少し余ったみたいね」

 「上手く時間配分できたんだ」

 「お願いがあるんやけど、最後に1つ行きたいとこが」

 オレはみんなに頼みごとをする。行きたかったんだけどな。今は大して見るところが残ってないからみんなが賛同してくれるかどうか。

 

 「何処なのヒロ君?」

 「本能寺に行きたい」

 「「敵は本能寺にあり!!」」

 「お前らテンションがおかしいぞ」

 その本能寺なんだが、今は別の場所に移転している。

 

 「オレが行きたいのは今あるほうの本能寺じゃなくて、その当時あった場所に行きたい」

 「何もないんじゃないの?」

 「確か碑だけが残っていたはず」

 「そうなんだ~それって時間間に合う?」

 「ホテルの近くだし大丈夫と思う」

 「それじゃあ、いいじゃん。ねえみんな」

 梓ちゃんがみんなに聞いてくれる。みんなうなずいていた。ありがとう。

 

 「それじゃあ、本能寺跡だね了解!」

 2人のタクシー運転手が、その話を聞いていたらしくにっこりと笑顔で運転席に乗り込んだ。

 

 

 「でもどうして跡地の方に? 見る場所無いんでしょ」

 「梓ちゃん、見る場所は無いかもしれないけど、そこに行くことに意味があるんだよ」

 「ふ~ん……そういうもの?」

 オレの持論がどうも分からないらしかった。う~ん……そういうものだと思うけどなあ。

 

 「例えばさ、イギリスに行ったときに行けなかったけど、リヴァプールね」

 「うん、ビートルズの生まれた場所だね!」

 「そうそう。そのリヴァプールに今は無い、彼らが育った場所があったら」

 「行きたいね!」

 「その感覚と一緒だよ」

 音楽に直すと分かってくれたこの気持ち。地味に嬉しいものだ。

 

 「なるほど~理解したよ!」

 「優子も理解した?」

 「まあ、なんとなく、ね」

 「歴史ってやっぱり男子の方がロマンを感じるんだろうな~」

 オレと雄二は少し物思いにふけっていた。

 

 「いや、ワシもおるぞい。忘れるでないぞ」

 「あ秀吉。秀吉は分かるの?」

 「なんとなくじゃな」

 「曖昧だな~」

 「………わたしも分かる」

 「その本能寺の跡地に着いたよ」

 おっ。お待ちかねの場所。オレたちは下車し、碑の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえヒロ」

 「何だ」

 「これだけ?」

 「うるさいな~ちょっとは想像させてくれよ」

 「それは想像じゃなくて妄想 ー 」

 アキが何か言っているがちょいとだけシャットダウンさせてもらいますよ。

 この地にて、中世の世を終わらせた風雲児織田信長の一生が終わったんだな~最大の反逆者とまで言われた明智光秀はどのような気持ちでココを襲ったんだろうか。いろいろと黒幕の説が出ているが未だ解決していない戦国史上最大、いや日本史上最大の謎「本能寺の変」はロマンだな。

 

 「そろそろ出ないと間に合わないわよ」

 「だそうだ、ヒロ。続きは車の中」

 「…………分かった」

 しぶしぶ、車に乗り込む。この地に何万もの兵がいたんだな。今じゃ考えられない……

 

 「本能寺の変に関しては、人によって取り方が全く違うもんな」

 「ああ。それがまた面白いところだ。会話しててここは違う。ここはそうだとか言うの」

 「ゴメン……アタシたちはついていけそうに無いわ」

 「ワシは興味あるぞい!」

 男子勢にしか分からないんかな~この気持ち女子にもわかってもらいたいものだけど。

 

 「最後を良い形で終わらせてくれてみんなに感謝だ。ありがとう」

 「そこまでよかったんだ」

 「考えてみると、ムッツリーニが可哀想だな」 

 「確かにのう。アヤツの行きたい場所だけが行けぬというの」

 車の中は程よい雰囲気であった。あっちはとても騒がしいだろうな~康太と憂ちゃんが大変だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「帰ってきたか。ギリギリだな」

 「満喫してきましたからね」 

 ホテルに着くと、ロビーで西村先生が待っていた。チェックポイントではないが、ここを通過してちゃんと帰ってきたことを先生達に報告しないといけない。

 

 「昨日は騒がしかったが今日もそうなるだろう。俺たち教師も全力を尽くすがお前らも十分警戒しておけ」

 とのこと。それは言われるまでも無くそのつもりだ。オレたちはそう思いながら部屋に帰っていった。

 

 




 京都懐かしいですな~

 今から3年半前に中学時代の修学旅行で行ったっきりですわ。
 その時、銀閣が工事中で金払ったのに見れないという出来事が一番印象的でした。

 八つ橋の試食食べ荒らしは同級生がたくさんしてましたね~
 学生の特権? 店員も半ば呆れと諦めがあるでしょうね。

 本能寺の跡地を見てみたかったですよ。
 いや、これマジで。
 ヒロじゃないけど、いろいろと想像したかったものです。

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 今後ともよろしくお願いしますね!! 

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#97 わだかまり!


 ちょいとばかし、個人的な都合で今度から2日1話ペースとなります。

 そろそろ自分の進路にも目を向けていかないといけないですからね。

 更新速度だけが売りの自分の作品の特徴を1つ失った感じで嫌ですが、仕方ないです。

 
 さて、本文のほうですが……

 姫路・島田がフィールドワーク中に何も仕掛けてこなかったその理由は何か?

 では、どうぞ!!



 

 

 「ふ~疲れた」

 オレたちはフィールドワークが終わって、自分達の部屋に帰ってきた。

 

 (………ヒロ・雄二、ちょっといいか?)

 康太が声を小さくというよりほぼアイコンタクトでオレらを呼んだ。ちょいと他のみんなと距離を取って康太の話を聞く。

 

 (………気配がする)

 (気配? 何の?)

 (………おそらく、天敵)

 なるほど。天敵か ー って、それで分かるオレたちもオレたちだな。

 

 (そうか…それならばこちらもそれなりの対応をするとしよう)

 (まず、アキを避難させよう)

 (明久についでに鉄人を呼んできてもらう)

 (………俺たちは何すればいい?)

 (この部屋は、オレと雄二と秀吉でいいだろう)

 (やつらが2つに人を分けられていたら大変だからな)

 (………俺は竜也と共に明久の護衛に就けばいいのだな?)

 (よし。作戦開始だ)

 この今の内緒話を、紙に書いて他の3人に回す。すぐに了承してくれて、その通りにする。

 あまりにも静かになるのはおかしいから、アキが出て行ったあと会話を繋げる。

 

 

 

 

 「なあ明久よ」

 「どうしたの雄二?」

 因みに秀吉の声真似です。目閉じていたら本人と遜色ないぞ。

 

 「ちょいとばかし俺は班長の仕事として外出しなければならない」

 「そうなの? ヒロはどうする?」

 「アキを1人にさせるってのは嫌だが、オレも高橋先生に呼ばれているんだ」 

 「そっか~それなら仕方ないね。みんなが帰ってくるのを待っているよ」

 オレと雄二は偽りの外出を申し出、部屋の中に隠れた。ちょっと経ってから、

 

 

 

 

 

 

 「ふふ……アキ、やっと2人きりになれたね。お話したかったんだ~」

 と言いながらベランダから入ってくる島田。

 

 「し、島田さん!? 今1人なの!?」

 布団の中に秀吉は入っているため、島田からは顔が見えない。島田は声だけで判断して会話をしていた。

 

 「そうよ。そろそろアンタと話がしたかったのよ。いつもいつも坂本やら七島やらが邪魔するからね」

 

 

 

 

 「悪かったな邪魔してよ」

 「ま、当然のことだろ」

 と、オレたちは島田の話の良いタイミングで出てくる。因みに逃げられないように、ベランダの方とドアの方に分かれて立ちふさがる。

 

 「な、何でアンタたちココにいるのよ!! 出て行ったんじゃなかったわけ!?」

 「簡単に嘘に引っかかるんだな。俺たちが明久を1人にするわけないじゃないか」

 「部屋に入ってきたときからベランダに潜んでいるっていうのは気づいていたんだよ」

 「ちょ、アキ! 逃げずにお話を ー 」

 島田は無理やり強行手段で布団をはがす。するとそこには。

 

 

 「って、木下!? 何で?」

 「ずっとワシが明久の声真似をしていたからじゃ」

 「要するに島田。お前は声真似とアキの本当の声の区別すらつかないんだ」

 「そんなやつに、明久を大事にするとか何とか言われる権利は無い」

 因みに、オレですら分からない。コレは雄二の口車。島田をキレさせるのが目的だ。

 

 「卑怯よ!」

 何が? とんでもない言いがかりだ。

 

 「一応聞く。お前は明久に何を話そうとしたのだ」

 「Aクラスで他の女子といちゃいちゃせずに、アンタの居場所はFクラスなんだから戻ってきなさい!」

 「大概にしといたらどうだ?」

 「正直、強制転校させられないのが不思議なレベルだな」

 「うむ。しかし学校側としても不祥事を表立って処理したくないのじゃろうの」

 「うるさいわね!! ウチにだってアキと話す権利はあるでしょ!!」

 「そんな権利、とっくの昔に自分自身で放棄したじゃねえか」

 「家庭裁判所に持って行けば、確実に同じ事言われるな」

 同じこと ー かどうかは分からんが、オレたちが勝つと断言できる。

 

 「そろそろ訴えようか」

 「何でそんなことしなくちゃいけないのよ!」 

 「アキの身の安全と、お前らに引導を渡すためだ」

 「ふん。好きにしなさい。ウチらが勝つに決まってるんだから。他人がどうして会う権利を奪ったり出来るのかは教えてもらいたいものね」

 そんなことをさせるアンタのその気持ちはどうなっているのかを教えてもらいたいね。

 

 「もういいわ。あんた達には用が無いから帰るわね」

 「起動(アウェイクン)!!」

 「試獣召喚(サモン)っ!」

 「はあ? 突然何をやってるの!?」

 雄二の黒金の腕輪でフィールドを作り、オレが召喚獣を繰り出す。こんな戦いに秀吉を使うまでも無い。

 

 「島田よ。召喚しないと強制的に補習室に連行されるぞい」

 「ううっ……卑怯よアンタら! 勝てば良いんでしょ勝てば。試獣召喚(サモン)!」

 数学ですら、お前みたいなやつに勝たせるつもりは無い。

 

 「ほう…どうやら天はオレに味方してくれたようだぜ」

 「何で数学じゃないのよ!」

 「Aクラスはな、どの教科でも勝負できるんだよ!!」

 因みに家庭科では厳しいのは内緒だ。

 

 社会 A七島 vs F島田

      645     92

 

 「な、7倍じゃと……弘志よ。さらに点数上げたの」

 「そりゃあ、一時部活が勉強だったからな」

 一番の得意教科、社会。バリバリ数学しか出来ない島田には負ける要素が見当たらない。

 

 「とはいえ、油断するわけには行かないな。やるからには全力だ」

 「な、何よ。かかってきなさい!」

 「強化(レベルアップ)!」

 2回目となる腕輪使用。最もこんな戦力の差に使うものではないが、徹底的にやりたいのでここはあえて。

 

 「何を使おうかな~」

 「かかってこないのならウチが!!」

 「その程度の速さで奇襲になるとでも?」

 カウンター気味にパンチ一発。

 

 社会 A七島 vs F島田

      win    lose

 

 

 「えっ? もう終わり?」

 あまりにもあっけない終わりで逆に気が抜けた。たったあれ一発かよ。もうちょっと面白い戦いをしたかったな。

 

 『戦死者は補習~!!』

 「イヤ~!! 卑怯よあんたら!!」

 『言い訳は補習室でみっちり聞かせてもらおう』

 部屋の外すぐに待機したと見られる西村先生が、部屋に入ってきて島田を運ぶ。もう一方の手には姫路が運ばれていたのを見ると、康太が作戦通り姫路と保健体育で勝負し勝利したんだな。

 

 「これで修学旅行中は安泰だ」

 「といっても今晩と明日の昼までだけどね」

 「それだけの身の安全が保障されたら楽しめるだろ」

 「確かにね~」

 クールダウンにもならねえ戦いだったな。普通ウォーミングアップにもならないっていうけど、こんなに疲れているときにはクールダウンの方がいいかなと思った。

 

 

 

 

 

 

 「ヒロ君、軽音部にお土産買ってなかったでしょ」

 消灯前の自由時間(とはいっても、ホテルの外には出られない)に、梓ちゃんが憂ちゃんと純ちゃんを連れてやってきた。

 

 「確かに。お前らも行くか?」

 「行く行く!」

 「秀吉、1人になっちゃうね」

 「ワシのことは心配せずともよい」

 「あ、優子ちゃんからの伝言。秀吉、部屋に来なさい。だそうですよ」

 「な、何をする気なのじゃ姉上は……」

 「そんな怖いコトされないって。1人なのを気遣ってくれたんだよ」

 「そうじゃろうか……」 

 ともかく、オレらはホテルの下のお土産売り場に向かった。

 

 「優花と、スミーレちゃんと奥田さんと……さわちゃん先生だな」

 「ちょっと間があったのは?」

 「悪巧みをしているときの顔が思い浮かんでしまったから、持って行かないでおこうという考えが一瞬頭をよぎったんだ」

 ただ、それは人間としてお世話になっている人に礼をしないのはおかしいと思った。

 

 「何にしようか……」

 「食べ物じゃないほうが良いかもね」

 「残るものか~」

 オレらは消灯時間ギリギリまで悩んで4人の分をみんなで分けて買った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「何かあっという間だったね」

 最終日、遊園地で遊びまくったあと新幹線に揺られて帰ってきた。そして、学校に寄る。

 

 「わたし達がいない3日間にどんなことがあったんだろうね~」

 「軽音部楽しみだ」

 オレたち軽音部は全員、部室に向かった。すると、途中でスミーレちゃんに偶然会った。

 

 「あ、先輩方!! お帰りなさい。お元気そうで何よりです」

 そちらこそとても元気そうで何よりです。

 

 「部室にいらっしゃるのですか? 是非来て下さい」

 と、オレたちを誘導するように先に部室に向かったスミーレちゃん。部室のドアを開けると、

 

 「直ちゃん、優花先輩! 先輩方帰ってきましたよ~」

 部室内に向かって話していた。すぐ後に足音が聞こえてきた。

 

 

 

 「お帰りなさい」

 「ヒロ君~みなさんもお疲れ様です!」

 だんだん、オレが知っている優花ではなくなってきているような……キャラ崩壊?

 

 「直ちゃん、先輩達帰って来て良かったね」

 「優花先輩こそ、待ちわびてたじゃないですか」

 そんなにオレたちのこと待っていたのは嬉しいが……

 

 「「「直ちゃん??」」」

 オレらは同じところに疑問を持った。

 

 

 

 「あ、先輩方も直ちゃんって呼びましょう。本人もそう呼んでほしいみたいですから」

 と優花が言う。下の名前を知らないのは、唯一奥田さんだけだが。

 

 「お願いします」

 なるほど、奥田直ちゃんでしたか。下の名前なんて全然気にしてなかったな……

 

 「直ちゃん、ただいま~」

 「お帰りなさい。立ち話もアレなんで、早く中に入ってください」

 「お茶淹れます」

 誘導されるままにオレたちは部室内に入り、椅子に座る。

 昨年まで部員が6人だけだったから椅子が足りたけど、今年は多いので入らない。アキたちには申し訳ないけど座布団on床で勘弁してもらっている。オレと梓ちゃんの場所は変わらず、去年までの唯先輩の場所に憂ちゃんが、澪先輩の場所に純ちゃんが、りっちゃんの場所におく ー 直ちゃんが、ムギ先輩の場所に優花が座っている。スミーレちゃんは給仕係としてメイド服を着て立っていた。何故メイド服なのかはさわちゃん先生の趣味なのだそうだ。もう突っ込む気にもなれず全員スルーしている。

 

 

 

 

 「3人にお土産買って来たよ~」

 「みんなで買ってきたんだけどね」

 「音楽に関係がないっていうのが残念だけどね」 

 金閣・銀閣・清水寺のキーホルダーである。京都に行ったってのがよく分かるだろ。それに4つでそれセットだったしちょうど良かったんじゃない。

 昨年ほどの団結じゃないのは申し訳ないけど。

 

 「ありがとうございます!!」

 「嬉しいです」

 「早速つけます!!」 

 とても喜んでくれて何よりだ。それに気づかない間に仲も深まっているし。

 

 

 

 

 『生徒会からの放送です。2年生、月野優花さん、生徒会室に来て下さい』

 

 との放送が入った。この声は生徒会長:優子さんだ。って、早速修学旅行初日に言っていたことを実行するのか!! 流石だね。

 

 「え、何だろう……何かしたかな?」

 こういうお呼び出しともなれば、自分が悪いことをしたかと不安になるものだ。

 

 「行ってみると良いんじゃない?」

 「荷物も持っていっておきな、もうみんな帰るからさ」

 「今日の部活終わりですか?」

 「うん。明日からみんなで頑張ろう!」

 「はいっ!」

 優花は1人生徒会室に行き、オレたちは帰途についた。

 

 「って、ちょっと待ってよ。置いていくの?」

 「あ、優花。待たないとダメなのか?」

 「別に……ただヒロ君がそういうことするんだと思って」

 「はいはい。待っておきますよ。終わったら電話しろ。散歩してくる」

 「了解!」

 ったく……高校生にもなって1人で家にも帰れないのか……

 

 「ゴメンね梓ちゃん。アイツがあんなんで」

 「気にしてないよ。それよりも、今から話される内容のほうが気になる」

 「優子さんがどこまで聞きだせるかだね」

 「その間、ぶらぶらっと中庭を散歩しようか」

 オレたちは暇つぶしに散歩という手段に出た。

 

 

 

 

 

 

 

     ★

 

 「失礼します」

 「来たわね。アタシが呼んだの」

 「生徒会長?」

 優花は放送の通り生徒会室に向かった。そこで待ち構えていたのは優子ただ1人のようだ。

 

 「どういったご用件でしょうか?」

 「軽音部のことよ」

 「け、軽音部? 何かありましたでしょうか。それに、軽音部ならば梓先輩やヒロ君のほうが ー 」

 ちょいとばかし、動揺している優花。優子はそれを落ち着かせ椅子に座らせた。優子もそれに対して座った。

 

 「そんなに固まらなくてもいいから、素で話して欲しいの。今のアタシは生徒会長ではなく、1生徒として聞いて欲しい。軽音部の部長と副部長 ー 梓ちゃんと弘志君ね」

 「ええ」

 「どう思う?」

 「どうとは?」

 優子さんは立って窓の外に視線を移しながら、次の言葉を告げた。

 

 

 「そのままよ。あの2人を見てどう思う?」

 「よく分かりませんが、仲が良くて良い先輩方ですよ」

 「アタシが聞きたいのはそんなお手本のような答えじゃなくて、あなたの気持ちよ」

 「???」

 「気づいているか分からないから言っておくわね。あの2人、付き合っているのよ」

 優子がそれを告げると、優花は少し目を見開いて驚いた後、こういった。

 

 「やはり、そうでしたか……」

 驚きはしたが、予想もしていたことらしかった。

 

 「がっかりした?」

 「……2人を見ていて感づいてはいましたが ー 」

 「嫉妬した?」 

 「な、何で嫉妬を!?」

 「あなた、話を聞いたけど、弘志君を追ってココに転入したそうじゃない」

 「ええ」

 「弘志君は全然譲らなかったけど、アタシたち周りの人はみんなこう考えているのよ」

 優子はいったん言葉を切ると、窓の外から優花の顔に視線を動かしこういった。

 

 「あなたは尊敬の念・憧れが転じて弘志君を好きという気持ちになっているのよ」

 「っ!!」

 「図星でしょう。梓ちゃんも気づいていたわよ」

 「そう…なんですか」

 「深くは気にしないのが梓ちゃん大人よね」

 優子さんは、手招きで優花をコチラに呼び寄せ、共に窓の外を見た。

 

 「見て。あの2人の様子」

 窓の外には2人が散歩している様子がはっきりと見えた。

 

 「仲良いでしょ。2人は喧嘩もするけど、それでも仲が壊れないのよ。何故だか分かる?」

 「いえ」

 「それはね、好きという気持ちと他に、互いに尊敬の念を抱いているからよ」

 「はあ……」

 「何で突然こんなことを言い出したのかっていうと、軽音部に頼まれたのよ。あなたと梓ちゃんの関係が微妙におかしいって。それは弘志君を巡ってのことだとみんな分かったわ」

 そういうと、優花は口をつぐみだんまりを貫いた。優子は構わず続ける。

 

 「あなたが弘志君を好きになるなとは言わない。いえ、逆に今までの通りで良いのよ。でもね、その気持ちは踏ん切りをつけて置かないと時としてとてつもない方向に暴走してしまうのよ。今の3年生にもいるわ」

 優子は姫路と島田、そして以前の霧島の顔を思い浮かべながら物申す。

 

 「だからね、あの2人の気持ちを尊重して欲しいの。お互いがそうなんだから、第三者であるアタシたち他人には関与できないわ。いえ、してはならないのよ。あなたが梓ちゃんに嫉妬して軽音部の和が乱れるとなったら残念でしょ。そうなる前に、すっきりさせておきましょうよ」

 優子は既に2人の様子が見えなくなった窓の外の風景から再び優花の顔に視線を戻す。

 

 「これはお願い。弘志君に対するその思いは心の中に秘めておいても構わないけど、くれぐれも仲を引き裂こうとか自分のものにしてやるとかいう気持ちはなくして欲しい。あなたにそんな人になって欲しくないから」

 切実な願いだろう。もはや修正不可能なあの2人に代わってというか、下の代でなりそうな子をなんとかして正常に戻す。

 

 「それに、そんなことしたら一生弘志くんはあなたのほうを振り向いてくれないでしょうね」

 優花にとってそれが最も大きなダメージとなった。

 

 「分かりました。早速ヒロ君 ー いえ、ヒロ兄たちにわたしの気持ちを伝えようと思います」

 「そうね。それがいいわ。わだかまりを残すものではないもの」

 「ありがとうございます」

 「話は終わりよ。そろそろ学校出ましょうかね。あなたも弘志君たちが待っているんでしょ」

 「はい!」

 優子のお悩み相談解決は無事成功で終わったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ★

 

 突然生徒会長に呼び出されるから何かと思ったけど……

 すごいな~全部お見通しだったよ。でも、本当に全部言う通りなんだよね。先輩って凄いな。

 

 「あ、いたいた!!」

 「何だ電話しろって言ったのにもう終わったのか?」

 「終わったよ」

 場所は大体分かっていたので電話をせずに向かったらちょびっと怒られた。当然だよね。

 

 「ヒロ君、いやヒロ兄」

 「どうした? 急に」

 「今頃だけど本当のことを言おうと思って」

 「何か優子さんに吹き込まれたのか」

 わたしが突然こういうのも変だと分かっている。毎年正月にしか会えずに、今年から突然毎日会うような生活になって性格が変わったのかもしれないっていうのも自覚している。

 

 「実はね。ヒロ兄のことが好きだったの」

 「は?」

 即答された……しかも何言ってるのコイツ?みたいな感じで。そりゃそうだよね。ずっと競い合っていたライバルが突然こんなコト言うんだもんね。

 

 「ヒロ兄が野球をしたら野球、サッカーをしたらサッカー、そして今はキーボードしたらキーボードをするように、わたしはヒロ兄の得意分野をずっと真似してきた」

 「それでオレに勝ちたかったんだろ」

 「うん。それで、勝ったらヒロ兄に認められると思って。わたしっていう存在がいるって」

 「そんなもんしなくてもお前がいるってことは忘れないだろ」

 違うんだよ……ヒロ兄。

 

 「そして、勝ったらこのことを告白しようと」

 「…………」

 「でもね。それが今の軽音部、そしてヒロ君に悪い影響を及ぼすって分かった。梓先輩を嫉妬し、軽音部の仲が悪くなりって言う風に。今、わたしはこの軽音部の場所を失いたくない。もちろん、ヒロ兄も失いたくなかったけど、梓先輩がいるから……梓先輩ならヒロ兄を大切にしてくれるって分かったから、わたしは諦めることにしたの。それに当たって、この思いをヒロ兄にぶつけようと思って」

 今までのわたしの気持ちを全てぶつけた。これでヒロ兄になんと思われても良い。

 

 「そうか……それはありがとうな。でも、お前が気づいたように梓ちゃんがオレにとって大事だ。もちろんお前も大事なんだがな……」

 「もう分かってるから言わなくても良い」

 「オレのことをそんなに思ってたなんて全然気づかなかった……すまないな」

 「謝ることなんかじゃない。わたしが毎年あんな態度を取っていたから」

 「呼び方を昔のに戻したのは?」

 「執着しないように。ヒロ兄って呼べば、従兄妹って関係でしょ。それでいいの」

 最後はよく分からない理屈で締めたけど、ヒロ兄が納得したからそれでいい。

 

 「梓先輩もごめんなさい」

 「いいよ。気にしないで。それより優花ちゃんが本当のこと話してくれてよかったよ」

 「ありがとうございます」

 「一緒に頑張ろう!」

 先輩、大人ですね。生徒会長の言う通り。部長でよかったです。

 

 「じゃあ、帰ろっか。もう日も暮れるし」

 「「うん」」

 今日は何だかとってもいい日だった。

 

 

 

    ★

 

 「ふ~」

 「お疲れ優子。上手くいったようだな」

 「そうね。あの様子を見てみる限りではね」

 「姫路や島田・そして翔子の二の舞にはどうしてもさせたくなかったからな」

 「雄二、帰りましょう。アタシたちも」

 生徒会長は1つの大仕事を終えると、1人の女子高生としての顔であった。

 





 軽音部の唯一の不安要素だった優花。

 今回見事解決。

 そして、最後の学園祭の演奏に向けて後1走り!?

 優子の活躍、流石ですな~

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#98 準備期間!


 一気に季節が変わります。

 読者の皆様方もうすうす感づいていらっしゃるかは分かりませんが……

 最終回にドンドン近づいていっています。

 最後までお付き合いのほどをよろしくお願いします!

 では、どうぞ!!



 

 「結構仕上がってきたね」

 学園祭も近づいてきたある日のこと。タオルで汗を拭きながらみんなに話しかける梓ちゃん。

 

 「スミーレちゃんも何とか間に合ってくれそうだし」

 「直ちゃんはバッチリ曲作ってくれたし」

 作詞作曲を出来るなんてすごいと思う。これもまた一種のセンスだ。

 

 

 

 「先輩達は、クラスの出し物何をやるんですか?」

 「何だっけ?」

 純ちゃんがオレたちに振ってくる。覚えていないのかい……

 

 「確かメイド・執事喫茶」

 「霧島の好みなのかと思ってしまうよな」

 オレがこういうのも、昨年2-Aクラスもまたメイド・執事喫茶なのであった。

 

 「あながち間違っていないかもね」

 それに、何故かAクラスには美人に美男子が多いから好都合。人気が上がるとのこと。正直言って、オレはそっちのほうは全然ノータッチ。軽音部は基本そのタイプだ。

 

 「翔子が俺たちに気を遣ってくれてるからな」

 「そもそもAクラスで部活生ってのが珍しいんだ」

 オレたちくらいじゃないのかね部活入っているの。他に居ても数名。

 

 

 

 「ヒロ君、練習しよう!」

 「OK。どっち?」

 「あんまり練習が足りていないほう」

 オレと梓ちゃんは、以前からの正規メンバーのために出ないといけないのが多い。去年までは全員が全員4曲演奏していたけど、今年はそういうわけにはいかない。人数の多さ以上に、4曲も仕上げられないという不安からだ。

 

 「お前らよく演奏しながら歌えるよな」

 「まだまだ……そもそも何でオレ歌っているんだろう」

 「わたしも。純のせいか」

 「いいじゃんいいじゃん。軽音部の先輩としてそこはかっこいいとこ見せてあげないと。ね、部長」

 純ちゃんがここまで部長というのを強調するのも、以前梓ちゃんが部長と言われてやる気になったのを見てからであろう。

 

 「よしっ! やろう!!」

 梓ちゃんと2人でやる曲。あの新歓ライブのリベンジだ。練習を重ねて今度こそしっかりと歌えるように、そして演奏できるようになっておかないと……曲はふわふわではなく、直ちゃんが作ってくれた曲。4曲全て作ってくれたから本当に感謝している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ★

 

 「ババアもとい学園長は何て言ってたの?」

 次の日、教室で談笑していたら雄二とアキが呼ばれて学園長室に向かった。そして10分くらいすると帰ってきたので用件を聞いてみた。

 

 「何故今年清涼祭に出ないのかと」

 「召喚戦争のことね。去年優勝したからさ、是非とも今年もって」

 「それでお前たちは何て?」 

 「「断る!」」

 即答かよ。ちょびっと学園長のゆがんだ顔を想像してしまったじゃないか。

 

 「それにしては長かったな」

 「ババアが頑として譲らないんだ」

 「だから仕方なくね、妥協したよ」

 「どのラインで?」

 「本戦には出ないけど、優勝者が昨年の優勝者に挑むという形で1戦だけ」

 何とまあ。相当買われているな。それを許す学園長も学園長だな。宣伝目的なのは確かだが。

 

 「練習しなくて良いのか? 昨年度優勝者」

 「明久がいるなら大丈夫だろう。こいつに操作技術で勝るやつはいねえ」

 「油断は禁物だよ」

 「どうしろと」

 「アタシたちAクラスの人と練習したら良いじゃない」

 「立会いの教師は?」

 「どうしましたか?」

 「既に準備済みって訳ね」

 仕事が早い優子さんは高橋先生を連れてきていた。

 

 

 

 「模擬試召戦争をさせてください」

 「分かりました。承認します」

 「「試獣召喚(サモン)!」」

 久しぶりこのコンビを見るな。一番安心するよ。

 

 「相手はどうする?」

 「2人がセットだろ」

 「じゃ、まずオレが行きますわ。どうする梓ちゃん?」

 「わ、わたし!? 召喚するのか~」

 「もうみんな知っているって、恥ずかしくないよ」

 「うう……分かったよ」

 梓ちゃんはネコ耳メイドの召喚獣だ。お似合いだと思う。

 

 

 総合科目 坂本&吉井 vs 七島&中野 

         3318&3276  3521&3427

 

 

 「良い勝負じゃない!」

 「操作技術が勝つか、点数が勝つか」

 久しぶり同じくらいの相手と試召戦争するから、良い機会だ。コレ以降ないかもしれない。全力で行くぞ。

 

 「強化(レベルアップ)!!」

 もはやこのレベルになると、武器の強化でもしないとこいつらについていけない。

 

 「やはり使い勝手の良い刀かな」

 梓ちゃんが遠距離タイプだからオレは近距離攻撃を選ぶ。相手の2人も近距離だからオレが2人を食い止めなければ勝ち目は無い。

 

 「雄二」

 「どうした?」

 視線だけはオレたちのほうをずっと見ながら、2人は会話をしていた。

 

 「早速使って良いかな?」

 「お前が出来るならな」

 「二重召喚(ダブル)!」

 げっ……マジかよ。最初っから神経集中させるのだな。いいだろう真剣勝負だ。

 

 「どうした、まだかかってこないのか?」

 オレはわざと挑発をする。出来るだけ梓ちゃんとは距離を取りたくは無い。梓ちゃんの召喚獣は接近戦に持ち込まれると弱いためだ。

 

 「明久、いいか?」

 「OK、いつでもどうぞ」

 「いくぞ!!」

 雄二の召喚獣に、アキの2体の召喚獣が一気にコチラの方に。オレは二刀流にかえ、何とか対策練るも2vs3ってのは危ない。梓ちゃんにも伝え、雄二に1太刀浴びせると同時に後ろに退く。梓ちゃんは遠距離でアキの2体の召喚獣に攻撃をし、同じく後ろに退いた。 

 ただ、その間にも相手の操作技術が上なので、攻撃は食らった。

 

 

 総合科目 坂本&吉井 vs 七島&中野

        2698 2901   2323 2587

 

 

 「ふ……流石だな」

 「あんまり点数削られるわけには行かないんだよ」

 2人3体の召喚獣は目にも止まらぬスピードでオレたちの目くらましをし、いつのまにか攻撃をたくさんぶち込んでいた。やばいぞ……

 

 

 総合科目 坂本&吉井 vs 七島&中野

         2698 2901   187 294

 

 

 「ギブアップだ。こんなんで補習室行ってたまるか」

 怖いのは、模擬とはいえ、補習室行きには変わりない。

 

 「高橋先生……」

 「承認取り消し!」

 そういうと、フィールドは消えていった。

 

 「悔しい。全然歯が立たなかった……」

 「場数の違いかな……」

 

 

 

 

 「………次は俺が相手になろう」

 「康太の相方といったらボクだね。高橋先生、保健体育でお願いします!」

 この学校で2人だけ全教科の承認が出来る人物の1人。もちろんあと1人は西村先生である。

 

 「ムッツリーニと愛ちゃんが相手で保健体育か」

 「これ以上ない劣勢だな」

 「「試獣召喚!」」

 既に召喚していた康太と愛子ちゃんの召喚獣を見ながら召喚する2人。

 この2人に保健体育で勝るものはいないだろう。大島先生&西村先生でももしかしたら負ける。

 

 「………加速!!」

 「ボクも腕輪使うよ!!」

 点数が表示される前に速攻で、康太と愛子ちゃんは腕輪の効果を使い、攻撃を仕掛けた。

 

 「くっ……」

 「油断していたつもりは無いが、結構減らされたな」

 

 

 保健体育 坂本&吉井 vs 土屋&工藤

        164  139     682 635

 

 

 「この点差……」

 「腕輪使ってあの点数かよ」

 最初の点数がどんくらい高かったんだって話だ。

 

 「負けない!」

 「いくら2人が相手とはいえ、1発も攻撃をいれられないのは悔しい」

 そういうと、確かに攻撃は入れるもののそれ以上の攻撃をいれられていた。

 

 「無念だ……明久」

 「うん。高橋先生」

 「承認取り消し」

 戦死になるわけにはいかない。それに、実を言うとちゃんと点数も減っていくため、今の状態で他のクラスに試召戦争挑まれたら危ないんだよね。だから、次の日が期末テストというこの日に練習をした。

 

 

 「じゃあ、次は憂と竜也君が組んで家庭科だね」

 次々と教科を変え、試召戦争の練習をする。総合科目の点数を消費しているため、副教科でないと勝負できない。家庭科の次は芸術でいったん終了になるだろう。

 

 これで2人の操作技術も上がったと信じたい。オレたち練習に参加したメンバーは次の日のテストで点数を回復した。

 

 

 期末テストが終わると、すぐに学園祭の準備。クラスでは喫茶店の準備があっていたがあまりそっちのほうには関われずに軽音の練習を結構多めにしていた。ようやく完成に近づいてきた。

 

 





 別段、言うことはありませんかね。
 
 明久のダブル、いつ以来ですかね…久しぶり見ましたね。
 ネコ耳メイドと共に。

 次話はもう、学園祭。
 最後の学園祭となるがどうなってしまうのだろうか。

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#99 引退!


 今までで最高記録の長さかな?

 最後の学園祭、一体どうなるのか!!
 
 では、どうぞ!!




 

 「お帰りなさいませお嬢様」

 高校生の間は時間が過ぎるのが早いって中学生の頃先生が言ってたが本当だな。あっという間にもう学園祭当日だよ。オレはどうして執事なんだろう? 積極的に話し合いに参加してなかったのが悪いが……

 

 「………七島、もっと笑顔笑顔」 

 とかいう霧島もまだ笑顔が足りていない気がする。周りを見てみると、秀吉や愛子ちゃんやは分かるとして、優子さんや梓ちゃんも既に馴染んでいた。

 

 「執事、少ないんだから頑張っていこう」

 「そうだな久保」

 なかなか話す機会は無かったが、Aクラスの勉強バカの中でも常識人……だが、もうあの性癖は治ったのか? 別段、避けるわけでもないが、相手となるヤツが可哀想で……

 

 とか考えていると再びドアの開く音がした。接客だ。

 

 

 「お帰りなさいませ……ってお前ら?」

 軽音部の後輩3人がやってきた。素直にお嬢様なんて言えないよな~

 

 「あれ、3人ともどうしたの?」

 梓ちゃんがこちらに気づいたらしく、駆け寄ってきてくれた。

 

 「先輩方のお店がどんなところか来てみたかったんです!」

 「3-Aは凄いですね……」

 「ヒロ兄、案内は?」

 「はいはい。こちらにどうぞ」

 オレが案内するのがさも当然のように聞いてきたのでそのご要望にお答えすることに。

 

 「うわっ! メニューが多い!」

 「これが学園祭でやる質ですか!?」

 「3ーAって万能だね」

 そうかもしれんが、実はそうでもない。

 

 3-Aの厨房、誰がやっているか。料理長:竜也を筆頭に、その下にアキ・雄二・康太・憂ちゃんという、高校生のレベルとは思えない食事を作るメンバーが揃っている。

 

 それに、他のクラスにはバレちゃまずいが、取引をしている。

 

 竜也がバイトをしている「ラ・ペディス」。3年生になってから軽音に入ってくれたため、バイトの日数は激減したが、それまではほぼ毎日のように働いていたこの店。オーナーの娘である清水美春とAクラスは取引をしていた。売り上げの数割を「ラ・ペディス」に入れることと、さりげなく「ラ・ペディス」の宣伝をすること。これを条件にAクラスのメニューを「ラ・ペディス」と一緒にしても構わないというお墨付きを得たのだ。

 

 竜也の腕は清水さんには分かっている上に、Aクラスという最高設備を使って宣伝してくれるというわけで、清水さんもこの話には上手く乗ってくれた。だが、これがバレたら大変なことになるために、この情報を知っているのはごく僅か。Aクラス上層部と清水さんしか知らない。

 Aクラス上層部って誰がいるか? 察してくださいな。

 

 「みんなは、クラスの出し物はいいの?」

 「わたしと直ちゃんは明日ですから」

 「はい。今日は今日のことで一杯です」

 「わたしも明日に回してもらいました!」

 話を聞いてみると、軽音を応援しているから頑張ってと励まされたそうだ。これを伝統にしていかないといけないよな~先輩方が3年掛けて作り上げてきた軽音部、オレたちの代で潰す訳には……。

 

 「わたしたちもシフトは朝までだから。昼からは部室行けるよ」

 「その間はちょっと待ってて。3人で練習しててもいいから」

 ふと考えてみると、ウチのクラスの厨房の主な人物は全員軽音部に所属しているではないか。オレたちが演奏している間、ここは休業ってことに?

 

 「………だから、2グループに分けて最後の練習をしてきて」

 とのこと。そうなるわな……

 

 

 「安心していいわよ。あなたたちが演奏するときはここ閉めるから」

 「みんなライブ聞きに行くからさ!」

 今年のライブ、優子さんの取り計らいで、学園祭のトリを務めることになった。そのため、ライブは夕方からだ。その優子さんも、Aクラスの手伝いはごく僅かな時間しか出来ない。生徒会長としての仕事があるためだ。

 

 「先輩、ご飯を食べましたら先に部室で待ってますから」

 「分かった」

 ということで、3-Aでご飯を食べたあと後輩3人は部室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お帰りなさいませ、ご主人様」

 それ以降も3-Aの人気は高く、ずっと人が入っていた。そんな中、お昼になったのでオレと梓ちゃんは抜けさせてもらう。接客のほうだから替えはきく。そのため、オレらはもう戻ってこず部室で最後の仕上げだ。

 

 「ライブ期待しているからね」

 「絶対聞きに行くぞ~!!」

 2-Aになったときは反発を買っていたオレだったが、音楽を通じてこんなに思ってくれているのは非常に嬉しい限りだ。

 

 「ありがと~」

 「行って来る!」 

 オレと梓ちゃん、そして厨房の方からは憂ちゃんが抜けてきた。女子グループでの練習が最初だ。

 

 「わたしを忘れないでくれ!!」

 「あ、純、ゴメンゴメン」 

 接客もしていたらしいが、全然視界に入らなかったため危うく置いて行きそうに。純ちゃんも一緒に部活に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「待ってました~」

 「早く練習しましょう」

 「最後の仕上げです」

 軽音内での女子のフルメンバー。構成は、Gt.&Vo.の梓ちゃん、Gt.の憂ちゃん、Ba.の純ちゃん、Dr.のスミーレちゃん、Key.の優花、………

 

 「直ちゃん、ライブ本番何するの?」

 「何でしょうね……?」

 「バックダンサーとか?」

 「しませんよ!!」

 直ちゃんいわく、出番はさわちゃん先生が作るそうだがあまり期待は出来ない。

 

 

 「じゃあ、早速やろうか」

 1時間ほど、細かいところに気をつけながら練習をする。

 

 

 その次は、男子メンバーの練習だ。憂ちゃんと純ちゃんが戻り、代わりに男子勢がやってくる。こちらもまた同じように練習を重ねる。こちらのメンバー構成は、Key.&Vo.のオレ、Gt.&Vo.のアキ、Gt.の竜也、Ba.の康太、Dr.の雄二という構成である。ボーカルはオレとアキのツインボーカル。

 

 「ま、こちらはそこまで心配することは無いな」

 「そうだね。女子に比べて練習期間は長かったからね」

 新入生もベンバーに加えている女子メンバーに対し、このメンバーは1年生の時からちょくちょく練習していたらしかったからすぐに仕上がった。

 

 

 「じゃあ、俺らはもう一回戻るわ」

 「分かった。言っておくが、最後にあのメンバーでの練習もあるからな」

 「覚えているさ。じゃ、2人での曲も練習しておけ」

 「了解」

 雄二と竜也、アキと康太は再び忙しい3-Aに戻っていった。残ったのは、オレと梓ちゃんと後輩3人。

 

 

 

 

 

 「コレが一番心配なんだよね」 

 「確かに。練習しよう」

 2人がリベンジと意気込んでいる、アコギとピアノの2人による演奏。歌うのはもちろん両方。新歓ライブでの出来はイマイチだったために、ここで完成形を披露しようと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全員来たぞ~」

 あまりにも集中していたためか、他のメンバーが全員揃ってきたのにも気づかなかった。梓ちゃんと見合って苦笑し、全員を迎え入れた。

 

 「じゃあ、最後に2回ばかり練習して本番に臨もう」

 今日1度も音合わせをしていないメンバーで練習をする。ちょうど2回ほど終わらせた頃に、

 

 「軽音部のみなさん、そろそろ講堂へ道具を運んでちょうだい」

 と優子さん直々軽音部の部室にやってきて伝えにきてくれた。今も講堂で何か出し物があっているだろうに……

 

 「よし。今までの練習どおりにやれば大丈夫だから。みんな頑張ろう!!」

 「「「オオー!!!」」」

 それぞれ道具を運び、講堂に向かう。着いた頃にちょうど前の出し物が終わろうとしていた。ナイスタイミング。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「次は軽音部からの出し物です。準備がありますので少々お待ちください」

 と言われ、ステージの幕が下りた。オレと梓ちゃんは互いに言葉を交わさず一回顔を見合わせ、うなずいただけで、ステージ中央に向かった。梓ちゃんはエレアコとアンプを手に。

 

 「お待たせしました。本日最後の出し物。みなさんお待ちかね、軽音部からの出し物です!!」

 優子さんのこの声と同時に幕も上がり、外から歓声も聞こえてくる。この感覚にはいつまで経っても慣れないものだ。しかも心なしか今日は観客がいつもより多い気がする。

 

 幕が上がりきる前に2人で顔を見合わせて息を揃え最初の曲を始める。

 

 

  ♪きっといつかまた出会えるさ~

 

 

 の出だしから始まるこの曲。この部分は歌オンリーという失敗したら目も当てられないものだ。滑らかな滑り出しで、伴奏アコギとピアノの音が鳴り響く。そして、AメロBメロサビと順調に進めていく。2番も同様に。そして最大の見せ場、間奏の梓ちゃんのアルペジオに、その後音はピアノだけになりそれまでのサビとは違って少し、儚い雰囲気。そしてすぐ後にサビをもう一度サビを繰り返すがそこではアコギとピアノ両方入って盛り上がる。

 

 

 今までで最高の出来だ。長く感じたこの1曲。終わると、拍手が講堂中に鳴り響く。梓ちゃんと顔を見合ってお互い笑顔。1曲目というのにやりきった感があるよ……ダメダメ。まだあと3曲もある。

 

 

 

 「こんにちは~軽音部です!!」

 オレと梓ちゃんは目の前にあったマイクを取り、ステージの前のほうまで出てきて話す。

 

 「最初の曲は『memory』という曲で」

 「わたしたち2人、1年生からずっとやってきた組が演奏しました」

 そう言うと、再び歓声が沸く。オレたちと1つ下の代なら放課後ティータイムの時期を知っているからな。先輩達の遺産がまだ残っているな。いつまでも『memory』として残っていくよ。いや、軽音部の伝統として残さなければならない。若葉学園軽音部中興の祖だからな。

 因みに、初代はさわちゃん先生たちの代らしい。聞いてビックリだ。引退した後メタルの波が終わり、軽音部も徐々に衰退していたそうだ。泣きながら話されたよ。

 そして、復活させたのがメタルとは程遠い放課後ティータイムと。その時の顧問が初代のさわちゃん先生だったということで、思い出深いらしい。ずっと泣きながら話された。

 

 

 「去年、先輩方が引退して、メンバーがわたしたち2人になって活動を続けられなくなるのかと思った時期もありましたが」

 「無事に新入部員が入りまして存続が可能となりました!」

 「メンバーの紹介も兼ねて次の曲に行きたいと思います。わたしを中心に女子だけで組んだバンドです」

 オレは梓ちゃんたち女子にステージを譲り、いったん舞台袖に退く。

 

 

 

 「直ちゃんの姿が見当たらないが」

 舞台袖に退いても見当たらないので雄二たちに聞いてみる。

 

 「先生に連れられてPAの仕事をしているぞ」

 「PA!!」 

 機器がたくさんあるほうに目を向けてみると確かにさわちゃん先生と直ちゃんがいた。すごいな。運動部で言うマネージャーの役割に近いかもしれないが、バンドでは十分メンバーの一員だよ。

 

 「お、準備が出来たみたいだね」

 アキがそういったため、ステージのほうに目を向けてみる。

 

 

 

 

 

 「早速、2曲目行きます! 『Answer』!」

 この曲は、梓ちゃん目線で詞を書いてみたとのこと。By直ちゃん。詞の内容の端々に梓ちゃんの気持ちも隠されている。直ちゃんすごいな~よく人を観察しているよ。

 それに、初心者でまだ3ヶ月くらいしか練習していないと言うのによくドラム叩けるねスミーレちゃん。他の上級者と一緒に練習しているから上手くなっていっているんだろうな。

 梓ちゃんは言うまでもなく、実力はジャズ研の頃から折り紙つきの純ちゃん、センスの塊は姉妹とも憂ちゃん、オレに認めてもらう一心で、ずっとキーボードを練習してきた優花、全てがクロスして音を奏でているな。

 

 

 「ありがとうございます! 早速、この曲を演奏したメンバーを紹介します!」

 2曲目が終わり女子のメンバー紹介。

 

 「まずは、昨年まではジャズ研のベーシスト:鈴木純!」

 「純ちゃ~ん」

 「かっこいい!!」

 「あはは、ありがと」

 歓声に照れながらも思いっきりはしゃぐ純ちゃん。

 

 「放課後ティータイム天才平沢唯先輩の妹、こちらも天才平沢憂!」

 「天才なんかじゃないよ~」

 「憂ちゃんかわいい~!!」

 「ありがと~」

 普通に観客と会話しているし。憂ちゃんもまさかこっち側の人間になるとは思ってなかっただろうな。前まで観客側から話しかけてくるほうだったのにね。

 

 「転校生でヒロ君の従兄妹、ヒロ君には負けない月野優花!」

 「どうもです」

 「キャー可愛い!!」 

 「演奏中はカッコイイ!!」

 人気だな優花よ。がっちりとみんなのハートつかんでるじゃん。

 

 「そして1年生、ポワポワはムギ先輩譲り、斉藤菫!!」

 「あ、どどどうも!!」

 「やっぱり緊張してる?」

 「もちろんです。足が震えています」

 「そのうち慣れるよ」

 確かに慣れる。が、慣れても緊張するのには変わりない。足が震えている感覚に慣れるだけだ。

 

 「最後、舞台にはいませんが、軽音部の縁の下の力持ち、奥田直!!」

 突然スポットライトを当てられ、ビックリする直ちゃん。まさか呼んでもらえるとは思っていなかったか。

 

 「実は、今日演奏する4曲、作詞作曲は全て直ちゃんなんですよ!」

 梓ちゃんがカミングアウトすると観客ビックリ。そりゃそうだ。音楽のイロハも分からなかった子がここまで出来るんだからな。みんなも希望にあふれるよね。

 

 

 「そして忘れてはならない」

 「我らが部長」

 「「中野梓先輩です!!」」

 まさか自分にも振られるとは思ってなかった梓ちゃんはビックリするも落ち着き払って観客に手を振っていた。

 

 

 「女子のメンバーは以上です! 次3曲目は男子メンバー。よろしくヒロ君!」

 「了解、梓ちゃん。またまた出てきましたヒロ君こと七島弘志です。早速3曲目を演奏する男子のメンバーを紹介したいと思います!」

 女子が全員舞台袖に退いたのを見て、1人ずつメンバーを紹介する。

 

 

 「まずは、ギター本田竜也!!」

 オレが名前を呼ぶと1人でギター持って現れた。しかし相変わらずかっこつけだな~投げキッスまではしなくてもよろしい。女子のファンが集まりそうだぜ。

 

 「竜也は幼少の頃から音楽の英才教育を受けていて、実力は相当なもの」

 「よろしくっ!」

 簡単に挨拶を済ませた竜也、さっさと次に進めという無言の抗議か。

 

 「じゃあ次! ムッツリーニと呼ばれたこともあった土屋康太!!」

 「………」

 もともと無口な康太。それにこの人数を前にしたらなおさらだ。

 

 「この無口なスタイル。陰から音楽を支えるベースにピッタリ」

 「………俺はいいから次に進め」

 「最近こいつの話を聞かないと思っていた人! カメラをベースに持ち替えて練習してました」

 康太がジロリとこちらを見てきた。何だ……人前に立つのがイヤだからか。お望みどおり次行きますよ。

 

 「そして、神童とも悪鬼羅刹とも言われた坂本雄二!」

 「そんなの過去の話だ」

 「そう、もはや過去の話。見た目通りドラムを叩きますが、パワーにあふれるだけでないドラムに注目!」

 メンバーを紹介するにつれて3年生の方からはあまり声が上がらなくなる。

 

 「そして最後、若葉学園初観察処分者、吉井明久!!」

 「僕にもその称号いらないから」

 「バカと言われたのはもはや過去の話。いまやAクラスの一員で、ギターも演奏できる」

 「あはは……よろしく」

 一通り全員紹介したところで、メンバーを見渡してみると確かにオレたちの学年じゃ評判悪いのばっかだ。そんなのは演奏する上ではどうでもいい。要は心に音楽が響くか響かないか。

 

 「この個性豊かなメンバーが揃って演奏する軽音部3曲目。『Go Ahead』!」

 パワーにあふれかつ正確なドラムソロ2小節をスタートにオレたちは全員演奏する。アキとオレの相性は抜群。デュエットもすぐに適応した。アキのやわらかい声とオレの中途半端な声。それらが微妙にマッチするんだ。そして、間奏のギターソロはもはや竜也の独壇場。それぞれの個性を十分に生かしたこのバンド。

 

 

 

 

 

 

 

 「ありがとうございました!!」

 拍手喝采。評判悪いのは地味に気にしていたからそれが認められたのは嬉しいばかりだ。

 

 「これで、全員の紹介終わったね」

 梓ちゃんが女子全員連れて(直ちゃんいないけど)ステージに現れた。

 

 「そうだね。それと同時に後1曲しか残ってないけど」

 オレらがこういうと、えーとかブーとか聞こえてきてとにかく嬉しかった。

 

 「宣伝いいのかな?」

 「やっちゃおう! ここにいる3年生、全て3-Aクラスなんですけども」

 「執事・メイド喫茶をやっていますので、よかったら是非!!」

 そういうと、キャーキャーわーわー男女の声が入り乱れて凄かった。人気ってのは嬉しいものだ。

 

 「後輩、3人ともAクラスなんで、2-Aや1-Aもよろしくお願いしますね」

 軽音部って頭良いイメージ普通ないはずなのに。何のキセキだろうか。

 

 

 「は~……もう最後の曲演奏しますか」

 「何かあっという間だったね」

 「そうだよ。この3年間もね」

 「放課後ティータイムの頃からわたしたちは演奏していたけど、3年生2年生のみなさん聞いてくれてましたか~!!」

 と梓ちゃんが聞くと、歓声が上がった。

 

 「ありがとうございます。1年生の皆さん、楽しんでますか~!!」

 「凄い歓声。嬉しいね」

 「わたしたちに元気くれるよね」

 「ホントに」

 世間話をして時間を長引かせようにも、2人には唯先輩ほどの話術は無かったと見え…話が止まってしまった。

 

 

 

 「最後の曲は、このメンバーの中からえりすぐって構成したバンドです」

 「ドラムは雄二!」

 乱れ打ち(勝手にオレが命名)をし、アピール。

 

 「ベースは純!」

 こっちも1フレーズ何かを演奏しアピール。

 

 「ギター竜也!!」

 さまざまな技法を使い1フレーズだが猛アピール。

 

 「そして、わたしとヒロ君、この5人で演奏します!」

 「ボーカルは……聞いてからのお楽しみ」

 どよめきが起きたが、気にしない気にしない。そして演奏しないはずの他のメンバーも舞台袖に下がらない。それは何故か。

 

 「1・2・3・4!」

 雄二のカウントから入るこの曲。数小節してから歌になる。

 

 ボーカルは残り全員だ。1人1人の個性を消さないようにそれはちゃんと考慮してある。2人で一緒に歌ったりする場所ももちろんあるし、ユニゾンの部分もある。

 えりすぐった、と言うが全員が軽音部の残ったメンバーだ。みんなで軽音部。これで曲は完成する。

 最後の曲になって余裕が出てきた。観客のほうを見てみると、座れないくらいお客さんが入っているじゃないか。いや~そりゃ歓声もあんなに大きくなるわけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒューヒュー!!」

 演奏が終わり、あらゆるところから指笛が聞こえてくる。

 

 「キャー!!」

 「カッコイイ!」

 「カワイイ!!」

 そしていろいろな歓声が。

 

 「「「アンコール・アンコール・アンコール!!!」」」

 今までに聞いたことも無い言葉が。オレたちは思わずステージ上で顔を見合わせる。そうしている間、徐々にその声は大きくなり、しまいには全ての声がこれに統一された。

 

 

 

 

 

 

 

 「アンコール! ありがとうございます♪」

 「こんな経験初めてです!!」

 「じゃあ、そのアンコールにお答えして!」

 と梓ちゃんが言うとみんないっせいに梓ちゃんのほうを見る。そりゃそうだ。そんなの想定してないから用意もしていない。どうするつもりだと言わんばかりに。

 

 「放課後ティータイムのカバー、ふわふわ時間をやります!!」

 このメンバーなら演奏できる。全員が。そして、全員が歌える。だからこの曲を選んだのか。

 

 「軽音部の伝統のこの曲、最後に演奏してみなさんとお別れしたいと思います」

 それだけ言うと、みんなで一気に顔をあわせ、最初は竜也から入る。そして、雄二や梓ちゃん、純ちゃんやオレが演奏し、歌の部分。ボーカルはアキ・康太・憂ちゃん・優花・スミーレちゃんの5人がいる。ぶっつけだがどう対応するのだ。それにスミーレちゃんや優花はあんまりこの曲に馴染みが無いだろう。

 

 本来唯先輩が歌う部分を憂ちゃんが歌い、澪ちゃんが歌う部分をアキが歌っていた。他の3人はノリでなんとか。みんなの顔を見渡すと全員が笑顔、楽しく演奏していた。

 そして観客の顔にも笑顔が見えていた。音楽をする上でこれが一番幸せだ。

 

 あっという間にふわふわ時間も終わり、今年の学園祭が幕を閉じた。去年の学園祭も最高だったが、今年3年生となり後輩を持つ身になった学園祭も最高だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「先輩方がいて、本当に楽しかったです!」

 「これが最後なんですよね……」

 「寂しいです!」

 部室に帰って来てから、後輩3人が泣きながらこう言った。

 そうか、あえて気にしないようにしていたがこれで2年とちょっと続けてきた部活もおしまいか……いろんなことあったな~今年は先輩として涙は見せないでおこう。笑顔で。笑顔で幕を引こう。

 

 「大丈夫。もう3人なら軽音部を引っ張っていける!」

 「5人になるまで活動停止なんですよね」 

 「部員集めるところから頑張ります! 軽音部の伝統を潰さないためにも」

 いい意気込みだ。この素晴らしい伝統は若葉学園必須だ。

 

 

 「あの~すいません」

 軽音部に聞きなれない声がした。そのため、みんなそっちのほうを振り向いてみると1人の男子と1人の女子がいた。上靴の色から察するに1年生か。

 

 

 

 

 

 

 

 「………陽向!?」

 

 

 

 

 

 





 学園祭の曲。題名だけ考えました。歌詞は考える暇が無かった……
 『memory』『Go Ahead』
 です。

 『Answer』はHighschool編で使われています。
 
 この作品を書き始めてずっとぶれなかった、最後の学園祭ライブの最後の曲でこのメンバーでやるということ。
 もうここまで来たか……と思ってしまいますね。

 最後になんらかの伏線が。
 この考えも当初からありましたね。

 そしていよいよ、次話が最終話。
 最後までお付き合いくださいね。

 コメント・感想・評価、
 お願いしますね♪


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#100 青春と音楽と召喚獣!

 久しぶりの2日連続投稿。 

 ちょうど100話最終回。
 当初から100話を目処に書き上げようと思っていました。
 最初の話を投稿して、4ヶ月。
 書き始めたのは不慮の事件がきっかけでしたね。
 あっという間でした。
 
 この話が投稿される少し前のデータで、
 「青春と音楽と召喚獣」の感想数は233件でした。
 これは、ハーメルンにおけるバカテス二次創作小説の感想数5位におけます。
 感想を書いてくださったみなさま1人1人にお礼を申し上げたいところですが、いささか数が多いですので、全員一気に申し訳ないですが、ありがとうございます♪

 クロスオーバー小説ということで物珍しさに読んでくださる方もいらっしゃったかと思います。最後まで読んでいただいて非常に嬉しい限りです!
 
 ここまで続けられたのも自分の作品を愛読してくださっている読者様のおかげです。
 心からお礼を申し上げます。

 では、最終話。
 今までで一番短いかと思いますが……
 お楽しみください。

 では、どうぞ!!





 

 「………陽向!?」

 康太が、驚いた感じで名前を挙げた。

 

 「康兄……」

 「康兄ってまさか」

 「………俺の妹だ」

 「「「何いいっ!!!!」」」

 みんな衝撃だ。妹がいたとか聞いたことがあるような無いような……

 

 

 

 「………どうした突然」

 「あたし、軽音部に入りたい!」

 「「えっ!?」」

 「「今なんて」」

 「あたし、軽音部に入りたいです。今日のライブを聞いて感動しました! あたしもこの一員になれたらと思いました!」

 まさかの入部宣言。しかも康太の妹だ。

 

 

 「………お前、あれだけ楽器には興味がないとか言ってたくせに」

 何回か誘ったらしい。

 

 

 「だから気が変わったの。ここにいる久保君もそうなの!」

 「僕も軽音部に入りたいです! 陽向ちゃんと同じく、ライブを見て入部を決意しました!」

 オレや梓ちゃんみたいな子がこんなところに現れるとは。先輩方も当時こんな気持ちだったんだろうな。

 

 

 

 「歓迎するよ。自己紹介をして!!」

 「はい。土屋陽向です。康兄の妹です。よろしくお願いします!」

 「みなさん兄がいつもお世話になっています。久保利光の弟:久保良光です。よろしくお願いします」

 さらに衝撃だった。あの久保の弟らしい。しかも康太の妹と仲が良いと見た。何の偶然だ。

 

 

 「康太、久保に弟がいたって知ってたか?」

 「………初耳」

 久保の弟はオレたちのことを知っていたのにな。

 何はともあれ、部員が入ってきてくれるのは嬉しいものだ。

 

 

 「よかったね3人とも、廃部にならずにすむよ!」

 「はいっ! 2人とも一緒に頑張ろう!!」

 「部長は明日付けで、優花だな」

 「わ、わたし?」

 「年齢的に見ても経験的に見てもお前だろ。もう3年生はみんな承認している」

 「優花先輩お願いします!」

 これこそ新生軽音部の誕生か! 中興の祖から3代目だな。先輩方、ちゃんとバトンは引き継ぎましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「こんにちは、先輩!」

 学園祭が終わって数日後、新生軽音部にオレと梓ちゃん・憂ちゃんと純ちゃんは乗り込んだ。

 あ、因みに学園祭の次の日、宣伝が聞いたのかものすごく3-Aは盛況だった。写真撮影もたくさんされた。霧島の考えでお金を取る事にしたもののそれでも撮りたいという人がたくさんいてびっくりした。

 そして清涼祭。優勝者と手合わせした雄二・アキコンビは圧倒的な強さで勝利した。優勝者が不憫なくらい。その不憫な優勝者には学園長から腕輪もらうが、何ともいえない複雑な心境だっただろう……

 

 「これからもずっと来て良いかな?」

 「はい!! 喜んで!」

 昨年の先輩達同様、引退しても居座りつくオレたち。こちらも伝統になりそうだ。

 

 「陽向ちゃんと良光くんは楽器何を選んだの?」

 「あたしは康兄と一緒でベースです!」

 「僕はギターです!」

 「バランスがいいね。みんなわたし達に気にせず練習して良いからね」

 放課後ティータイムの時間を満喫するオレたちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 「やった! 合格だよ梓ちゃん!!」

 「ホントだ~!!」

 季節は進んで受験シーズン。オレと梓ちゃんは共に先輩方が通っている大学を受験し合格。

 他のメンバーもそれぞれ別の進路をたどった。雄二と優子さん・霧島はもっと上の大学に行った。将来は霧島財閥と何か関係があるかも。竜也は音楽の道に進み上京、康太はカメラマンになるために大学に行き、愛子ちゃんは看護士になるために看護学校に、秀吉は劇団に入って役者を目指すらしい。アキと純ちゃんと憂ちゃんはオレたちと同じ大学に入った。みんな進路は違ってもいつも仲良しだ。

 

 「梓ちゃん、大学でもよろしくね」

 「うん。こちらこそ。喧嘩もするかもしれないけど、ヒロ君をとっても尊敬しているから」

 「オレだって梓ちゃんのこと尊敬しているし、好きだからね」

 お互い合格の喜びを分かち合っていたところに後ろから懐かしい声が。

 

 「これでまたみんなで演奏できるな」

 「久しぶりだ」

 「またお茶しようね」

 「放課後ティータイム再始動だな!!」

 『オー!!』

 若葉学園で学んだように、この大学に入ってよかったと思うような大学4年間にしないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       お・し・ま・い・♪

 

 

 

 

 

 

 




 この4ヶ月間お世話になりました。
 最後のあとがきとなりますが、是非最後まで目を通していただけるとありがたいです。

 「バカとテストと召喚獣」「けいおん!」
 のクロスオーバー。誰も書いてなかったため挑戦したこの小説。

 成功したのかな?
 いささか不安に感じますが、自分は満足です。
 この小説を見て1人でも他方の作品を見てくださる方がいたら嬉しいことこの上ないです。

 「七島弘志」
 主人公の名前ですが、最終話にして由来を暴露したいと思います。
 「七」…GARNETCROWの作詞兼キーボーディストAZUKI七さんから
 「島」…キーボードを弾く作者の名前の一部から
 「弘」…GARNETCROWの編曲兼キーボーティスト古井弘人さんから
 「志」…fripSideの作曲兼キーボーディスト八木沼悟志さんから
 それぞれ一字ずつ取りました。馬鹿馬鹿しいですね(笑)


 因みに「月野優花」ですが……
 これはこのキャラを出した当初、好きだった女子キャラ4人をそれぞれ1字ずつ。
 1つずつ作品が違います。
 「野」は中野梓から「優」は木下優子から。
 後は誰でしょう……

 どこかでネタばらしをしたかもしれませんが…
 作者が高校で軽音部に入ろうと思ったのは、実は二次小説がきっかけだったんです。
 バカテスのメンバーが軽音に入って楽器をする。その描写がすごくうらやましいというかなんというか……その小説にあこがれた? っていうかはわかりませんがともかくそれがきっかけでした。
 誰か1人でもこうやって人生を変えることか出来たらすごくそれはうれしいことです。

 
 「青春と音楽と召喚獣」は終わりましたが、自分の作品に興味がある方は……
 ・けいおん短編
 「放課後ケーキタイム」…梓の誕生日を記念して書いたものです。
 
 ・バカテスと織田信奈の野望のクロスオーバー作品、
 「吉井明久の野望R」です。

 織田信奈の野望を知らない方でも十分読める内容となっています。
 明久大活躍!? ともかく見に来てくださいな。

 ・バカテス、オリ主×優子の作品
 「バカとオレと彼女たちR」です。

 私が結構前に書いた作品のリメイク版です。

 そちらでもお会いしましょう。


 軽音関連ということで、宣伝をさせてください。
 作者はいないんですが…同級生・後輩の演奏です。
 https://www.youtube.com/watch?v=a59JixEfsm8
 https://www.youtube.com/watch?v=5XcG9CxUB5I
 https://www.youtube.com/watch?v=ldD94Q8WntQ


 本当に最後ですが……
 100話もありがとうございました。
 この作品が終わりましても、感想・コメント・批評等はいつまでもお受けしていますので、遠慮なくお願いしますね♪



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