幻影のエトランゼ (宵月颯)
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主人公&登場機体・その他の設定

<始めに>

基本、本編は前回の簡易的なあらすじ→会話パート→戦闘パート→戦闘後パート→次回予告で一話が成立します。
話数に前編などが入る場合は敵側パートや思惑パートが入り長引きます。


<ご注意>
各説明毎に本編ネタバレも含みます。


<主人公>

 

※名前:九浄蓮美(クジョウハスミ)

※呼び名:ハスミ

※性別:女性

※年齢:16→17歳(一章)18歳(二章~三章)19歳(四章~五章)20斎(六章)

※血液型:A

※身長:168㎝→170㎝(三章より)

※髪の色:青みを帯びた黒

※髪型:セミロング(肩までのストレートヘアー)

※眼の色:暗めの青

※肌の色:日系だが欧米の白より

※3サイズ:B91・W58・H84

※所属:地球連合軍・極東方面伊豆基地所属ATXチーム(一章、二章)同軍・諜報部→ATXチーム→STXチーム(三章~四章)私設組織ホルトゥス(四章)サイデリアル(五章~六章)イグジスタンス(六章)

※階級:曹長→准尉(一章)少尉(二章~四章)ホルトゥス当主(四章)サイデリアル幹部(五章、六章)→イグジスタンスメンバー(六章)。

※固有能力:サイコドライバー(α版)、縁繋ぎ(解放済)、DG細胞(DG軍団傘下時のみ)→Dセル、鋼の呼吸(四章より)、魔法継承(光と闇属性)、念神召喚(エクリプス)、スフィアリアクター(知りたがる山羊)。

 

Picrewの「テイク式女キャラメーカー」で作成しました。

 

【挿絵表示】

 

 

性格は几帳面で真面目だが、ある意味でひねくれている所がある。

ひねくれの部分はこの世界における母親の遺伝と思われる。

前世と同様に一人で考えて抱え込んでしまう癖がある為、かなりの無茶振りを披露する事がある。

 

これが原因で幾多の戦場でも一歩間違えば戦死する可能性のある無茶を何度もしている。

逆にストレスを溜め込みやすく一定の条件下に置いて、ある意味酷い状況のストレス暴発を起こす。(普段の敬語使いが真逆と言ってもいい位の口の悪さに変貌。)

日頃の軽い茶々程度は受け流しするか、脳内で自己完結して終わりにしている。

元々の能力と几帳面の性格故か瞬時に物事の細分化と仕分けする事が得意で部隊の資料整理に一役買っている。

 

 

好きなものは猫とアロマテラピーなどのリラックス効果のある事、アイスクリーム、月見。

前世では隠れオ〇クであるらしい。

嫌いなものは元彼の存在そのものとそれに類する存在そのもの。

 

 

とある別世界で死亡した転生者、出身は日本で成人した大人だった事は覚えていたが前世の名前は忘れてしまった模様。

 

前世で恋人に裏切られ、その反動で元のオ○クに戻ってしまいSRWの物語にのめり込んでしまう。

 

元々外へ出かける事が好きだったので仕事をしつつ一人で平穏に暮らし、裏切った恋人からの復縁要請を跳ね除けるまでに強くなった。

 

しかし、これが原因で元恋人の凶行により車道に突き出されて殺害されてしまう。

 

本来はこの事故で死ぬべき運命ではなかったが、手違いで死亡してしまったとの事。

 

転生時に色々と補助して貰い、とある条件下で現在の世界へと転生する。

 

転生後は没落した九浄家の長子にして次期当主として誕生する。

 

5歳の頃に実母を事故で無くし後妻にネグレクトまがいの虐待を受けて半年程過ごした。

 

後、秘密裏に盗聴器を父親に発見させ実母の事故の真実と後妻の悪行を発覚させ一家離散の原因を作った。

 

それを苦にし自殺した父親並びに故人となった祖父母の伝手で旧戦技教導隊の隊長だったカーウァイ・ラウの養女となり、彼の任期の間テスラ・ライヒ研究所で共に過ごす。

 

2年後にエアロゲイター襲撃の際にカーウァイを亡くし同部隊の隊員だったテンペスト・ホーカーに引き取られ彼の養女となる。

 

部隊解散後はテンペストと共に各地の基地を転々としていたがテンペストの伊豆基地への転属命令の為、日本に戻り幼馴染だったリュウセイとクスハの住む街に引っ越してくる。

 

その後、幕張の事件まで同街の学園の生徒として生活する。

 

腹違いの弟が居たが、一家崩壊後に里子に出されたものの急性白血病を患って死亡している。

 

なお、日本滞在時に受けたこのドナー検査の際にハスミと弟に血縁関係がない事が判明している。

 

これにより自身の父親が誰なのかをアカシックレコードに問いただした事もあったが答えて貰っていない。

 

もしも血縁上の父親が存命していた場合、三人の父親を持つ事になる。

 

描写されてはいないが、学園通学の為にバイク免許を取得している。

 

後の生活費を自力で稼ぐ為にネット小説を執筆し細々と作品をUPし顔出しNGのネット作家として活動を始める。

 

幼少期にカーウァイと内緒のトレーニングをしており、それを元にバーニングPTで操縦の腕を伸ばしていた。

 

これによりPTとAM系統の操縦は可能であり、特に少女期に内緒で乗せて貰っていたリオン系統を好んでいる。

 

連邦軍へ志願後はMS系統の操縦も視野に訓練していたので操縦は可能である。

 

幕張事件でバグス襲来時に伊豆基地へ納機される予定だったガーリオン・タイプTを輸送していた破損車両を発見し搭乗、実戦はこれが初めてであるものの転生者であるリュウセイの指示と卓越した洞察力、陰ながらの努力で生き延びた。

 

事後整理で軍用機の独断使用の件で刑罰に処される事になったが、軍に志願する事で軍用機の独断使用の罪状を取り消すとの事で有無言わず志願兵となった。

 

リュウセイとギリアムの密約で極秘裏にクスハと共にATXチーム所属となる。

 

ご丁寧にATXチーム恒例の入隊祝い(軍事演習)にクスハと共に引っ張り出されるも、とりあえず合格を頂く。

 

生まれながらに強大なサイコドライバーとしての素質を持っていた為、封印を兼ねて母親のペンダントを随時離さず付ける様に言いつけられていた。

 

幼少期はその力をうまくコントロール出来ない為、アカシックレコードの記録を読み取る事が出来ず、実母の死亡、一家離散、マーチウインドの壊滅、カーウァイのMIA、テンペストの妻子の死を止める事が出来なかった。

 

現在はコントロール出来る様になってきた為、本来の目的の為に独自で行動を開始する。

『縁繋ぎ』の件は十話にて詩篇刀・御伽を回収した為、その効力を知る事となる。

 

後の恒例となってしまった異世界帰り特有の慣れで白兵戦もある程度可能なまで熟練度を上げている。

 

また、所持する能力でアカシックレコードに介入出来る時点で彼女に試験やテスト、ロ〇くじなどの運試しやトランプなどの心理戦はある意味で無用で無敗である。

 

後に専門用語で作戦や説明を受ける時に理解できていない少年や一部の大人達に彼らの思考で解りやすく説明する事となってしまう。

 

ホルトゥスや記憶保持者達に遠回しで情報を与えているが自身がこの世界が物語とされている世界からの転生者だと言う事を万丈を含めた数名にしか話していない。

 

一章終盤からビッグファイア本人にのみ協力しているが、ナシム・ガンエデンの件だけは自分に任せて欲しいと告げている。

 

ビッグファイア並びに二章で協力体制となった孫光龍本人からはアシュラヤー・ガンエデンの巫女と推測されているが既に契約を済ませており、事実上四人目のガンエデンの巫女でもあると同時にホルトゥスの真のリーダー。

 

二章最終話より自身の正体を明かし始め、来るべき戦いに向けて準備を進めている。

 

この世界における『知りたがる山羊』のスフィア・リアクターに選ばれ、三章半ばでサードステージに覚醒を遂げた。

 

四章ではアシュラヤー・ガンエデンとして動き始め、真の目的の為に活動する。

しかし、この試みは無限力の陰謀から仲間を救う為の決断であり別れの時を意味していた。

最終決戦後、ケイロンことアウストラリスとの契約通りにサイデリアルに下った。

 

五章より連合政府より反逆者若しくは保護対象扱いとなっている。

表向きはサイデリアルに何かしらの事情で従ってる様に振舞っている様子を見せているが、結果的に敵としての立場となった。

 

六章では五章終盤で起こった物語の流れの順番狂わせが引き起こされた為にサイデリアルは改名しイグジスタンスへと変貌。

イグジスタンスは世界を狂わせた元凶である御使いや後に判明したナルーダ一派と戦う為にソルの力を経て日々奮闘する事になった。

 

 

<一章の出来事>

幕張事件にてAMを無断使用した為、逮捕されるが今後降りかかる罪状を無くす為に軍に志願する。

その後、アーガマ隊と合流し行動するも所属隊の配属先もありアイドネウス島へ向かう。

アイドネウス島でのUGの機動実験の際にAnti・DCの介入で暴走、DG細胞に感染してしまう。

周囲に知られないままDG細胞を内包しトリントン基地へ。

トリントン基地にてアインストと初遭遇するものの撃退に成功。

伊豆基地へ帰還道中に体内に寄生したDG細胞が活性化し部隊から離脱、旧東京エリアで洗脳状態で対立するも無事に解放される。

後に独立機動部隊ノードゥスに参加し各地の遊撃を続ける。

アイドネウス島へ侵攻したゼントラーディの部隊と交戦中に転移に巻き込まれ冥王星軌道上へ部隊ごと転移してしまう。

地球帰還までにラダム、ゼ・バルマリィ帝国の先遣部隊と交戦、月にて機械化城に占拠された月防衛戦線奪還作戦に参加。

作戦終了後に時空転移に巻き込まれセフィーロと物質界へ転移し事件に巻き込まれるが無事帰還する。

ホルトゥスとの密談で地球圏で起こる敵勢力の大規模作戦を未然に妨害。

後日、梁山泊で新型機を受領する際にBF団の襲撃に遭遇し拉致されてしまう。

ビッグ・ファイアとの密談後、ネルフ本部へ放置される。

そのままネルフ本部からノードゥスへ帰還、始末書と格闘する事に。

数回の戦闘を終え、ホワイトスター戦へ参加し無事終結まで生き残る。

祝勝会ではバニースーツの着用を強制された。

 

<二章での出来事>

L5戦役から四か月後、ノードゥス解散後はATXチームと共に北米エリアにてAnti・DCなどの残党部隊の迎撃任務に就く。

L5戦役後、梁山泊へ出向する回数が増加した。

理由とすれば、BF団に目を付けられる様になった為、自衛が出来る様に修行中だからである。

最近は本人曰く死ぬ気で鬼ごっこが脅威。

ラングレー基地から伊豆基地へ帰還後、梁山泊へ向かう道中で転移に巻き込まれエンドレスフロンティアへ飛ばされてしまう。

エンドレスフロンティアで恋人ケイロンと再会し事件を解決、その後は元の世界に帰還した。

EFから帰還後にベルターヌ第二エリアへ転移し領域の支配者ガープと交戦。

無事に退けるも愛機であるガーリオンC・タイプTを全損させる結果となった。

愛機が使用不能になった為、隠していた念神エクリプスを召喚。

第二エリア解放戦に参戦、無事帰還する。

第三エリアにてデビルウルタリアと交戦、その際に知りたがる山羊のスフィアと遭遇。

知りたがる山羊のスフィア・リアクターに適合してしまう。

同時に念晶石を取り込んだ事でエクリプスの稼働限界が無くなった。

第四エリアでは引き続きエクリプスにて参戦しているが、状況に応じて元のAM系統に乗り換える事になっている。

オーブ近海にてキラと共にアストレイのテスト訓練の際に黒のカリスマが搭乗するレムレースの奇襲を受けて行方不明となる。

その後、場所は不明であるが孫光龍のプライベートビーチで本人に発見され一時的に彼の協力を得る。

姿を隠し進軍中のインスペクターを退け、第四エリアの主シードの撃破する。

その後、閉鎖空間に飛ばされランド、セツコ、ロジャーと共にアサキムの襲撃を退ける。

後にアラスカ基地に救助されるもサイクロプス発動に伴い離脱する。

北米ラングレー基地経由で第六エリアへ向かったものの『踊る悪夢』の再来を目にした為、内部分裂に繋がる虚偽発言で仲間を陥れたカイメラ隊をスフィアの覚醒に至ったランド、セツコと共に新モードとキレ芸込みでフルボッコにした。

第六エリアにてネクロ追撃中に黒の英知の意志によって空間に閉じ込められてしまう。

そこで自身の過去とこれから進むべき道への強い意思を示す。

アースクレイドル戦にてアースクレイドル内部で『アニムスの花』を発見した為、例の事件が今後起こる可能性を視野に入れている。

アースクレイドル戦後、北米に転移したセフィーロの人々を護る為に救援に向かう。

秘密裏に自らの念神官達を動かし、復活したイオニア一行と共に無事にデボネアを倒す事に成功している。

再び宇宙へ上げる時、万丈が記憶保持者に事情をマイルドに説明していたので風当たりは然程悪くなっていない。

二度目のホワイトスター戦ではアインストに飲み込まれた向こう側の世界の遊撃部隊マーチウインドがノイ化して襲撃してくる事を予言している。

ジ・エーデル・ベルナルの戦いも終了し一度は終息するも機界新種騒動に巻き込まれる。

今回起こった空白事件から無事生還を果たす。

 

<三章での出来事>

国際警察機構へ出向後、ギリアム少佐が指揮する諜報部隊へ転属。

外州精機での事件でデュミナス一味のティスと遭遇するが逃がしてしまう。

母親の墓参りの際に最近知った実父の事を義父二名に明かす。

ボトム・ザ・ワールドにて事件に巻き込まれたシンジ達を救出し次の事件の発生先を知る事となる。

後日、Anti・DCのミロンガ強奪の際に男爵と隠者を派遣し新型トライアルに混乱を齎したものの不正を行っていた存在の逮捕に繋がった。

インド・アジャンターにてソムニウムのラミア達と遭遇しベヘモットを退ける。

ガンダムファイト・決勝リーグ中のホンコンにて新型DG細胞のパンデミックを止める為に調査を開始する。

調査最中にバイオネットのガオーマシン強奪事件の最終直面に立ち会い乗り越える。

その後、一週間でクワスチカ探索と一晩でBPL強行捜査をやってのける。

だが、止めた筈のバルトール事件の再発に頭を抱えている。

バルトール事件終息後、負傷した光龍が実の父親である事を記憶保持者に話す。

同時に自らアシュラヤーの巫女でホルトゥスのリーダーである事を明かす。

宇宙へと上がりソーディアンの調査任務に部隊共々着任するが、ソーディアンで恋人ケイロンと再会。

再会の束の間、次元震の転移によって別世界へと転移。

念願であった惑星ジェミナイと聖インサラウム王国の滅亡を救う。

次元震による次元転移の最終地点であるスダ・ドアカワールドでダークブレイン軍団と遭遇し囚われたアムロの救出とデブデダビデに深手を負わせた。

元の世界に帰還したもののスフィアのサードステージへの覚醒と新たな新技の影響で疲弊する。

回復後、カーウァイらと共にソーディアンズ・ダガー確保の為の任務に就く。

ソーディアンズ・ダガーの奪取に成功したもののFDXチームとDMXチームの生死を捻じ曲げた為に今後もより大きな波に巻き込まれる事を視野に入れている。

ソーディアンでの戦いで修羅王アルカイド戦まで参戦していたが、その後のダークブレインとシュウ博士との戦いには参戦出来なかった。

代わりに異空間に出現したバアルの軍勢と交戦する事となった。

その後、修羅の乱を生き抜いた。

 

<四章での出来事>

次の戦いに備えつつSTXチームのメンバーと共に任務を受けている。

その最中に再びEFへと転移しアグラットヘイムの策略を潰す。

帰還する際にピート・ペインを引き連れてきたがトラブルが相次いだものの無事に帰還する。

その後に発生した二つのテロの片方を止める為に行動。

無事に二つとも終息に向かう。

翌年、ガイアセイバーズ設立を期に同部隊への転属命令が下るが無限力の契約違反イカサマによりアーマラに謀殺されかける。

狙撃されたダウゼント・フェスラーに搭乗していたSTXチーム他数名を救出するが自分自身とケイロンが重傷を負って戦線離脱する事となる。

戦線離脱後から数週間後、天鳥船島に残る医療技術で復帰。

ホルトゥスのリーダーとしてアシュラヤーの巫女としてノードゥスと決別する。

合流したイルイとの対談で協力関係を結ぶがイルイの意思を尊重し見聞の旅に出させる。

引き続きホルトゥスとして活動を続けている。

次元断層によって隔絶した地球を元に戻す為にスフィアの力を解放する。

その後、暴走するバラルや地球のレイラインを拠点に活動していたルイーナを止める為にホルトゥスを総動員する。

その過程でホルトゥスにバラルを引き入れる事に成功しレイラインの奪還に助力する。

バラル鎮圧後は鋼龍戦隊にクスハ達を帰還させイルイを預ける。

今まで行動不明だったガイアセイバーズの動向が判明した為、決着を着ける為に伊豆基地へ向かう。

ガイアセイバーズの本体拿捕に貢献するが、黒幕であるアルテウルとアーマラを逃がす結果となった。

南極でのペルフェクティオとの決戦で助力するもアルテウルの奇襲によって念動力を消費したイルイと共に拉致されアダマトロンのコアにされていた。

が、自身に掛けたリミッターを発動させ自力でイルイとイングを引き連れ脱出しアダマトロン諸共アルテウルを倒す事に成功。

ノードゥスの到着が遅かった為、ケイロンことアウストラリスより力量不足と捉えられ、契約通りにサイデリアルに下った。

 

<五章での出来事>

封印戦争終結から数日後、突如発生した時空振動によって物質界の過去へ飛ばされる。

事の次第は『鋼の魂と共に』を参照の事。

その現象から二週間後、アウストラリスと共に帰還。

更に『オロスプロクス』の介入と『眠り病事件』の再発に伴い『九十九事件関係者』らと合流し対処する。

ノードゥスには『神の雷事件』に関して転移による助力の後に反乱を起こしかけていた『フューリー』を『サイデリアル』として介入し侵略。

『次元のるつぼ』と呼ばれる時差変動の現象と『ラマリス』と『負念』の力で復活した『バアルの眷属』の対処に専念する。

暫くの間は『ムーンデュエラーズ』の流れに沿った活動を行っていたが、無限力の横槍とバアルの活性化が激しさを増した。

結果、早期の争乱終結と反逆行為によって御使いよりサイデリアルの切り捨てを迎えた。

 

<六章での出来事>

前回の決戦後、鋼龍戦隊に展開中のサイデリアルの部隊と共にアビスの向こう側…多元地球へ強制転移させられた。

これ以上の混乱を防ぐ為にハスミ自身のこれまでの行動経緯とサイデリアル側の真意を鋼龍戦隊に告げて協力を仰いだ。

協力を得られた後、サイデリアルは御使いとの決別の意味を込めてイグジスタンスへと改名し多元地球で行動を開始する。

 

 

<主人公と接点を持つ搭乗機体>

 

※機体名称:ガーリオン・タイプT

※形式番号:RAM-006T

※全長:18.9m

※重量:30.4t

※基本OS:LIEON→lotus

※開発者:複数いる為、記載は省略する。

※開発:フレーム→イスルギ重工、T-LINKシステム→特脳研、内部機関→テスラ・ライヒ研究所。

※所属:地球連邦軍極東方面伊豆基地所属ATXチーム配備。

※武装:マシンキャノン、アサルトブレード、バーストレールガン、ソニック・ブレイカー、ストライク・アキュリス。

 

 

基本構造はガーリオンと変わりはなく、T-LINKシステムを搭載しているだけである。

上記のタイプTはテストタイプではなく正式採用の為「TYPE・T-LINK」の略となっている。

改修前は試作機だった為、外装の色は灰色と赤だったが整備員の計らいで白とアイリスグリーンの配色に仕上げて貰っている。

また、正式採用化の証としてT-LINKシステムを利用した広範囲攻撃機構のストライク・アキュリスを実装された。

ハスミは集中力の関係で上記の武装を一度の戦闘で3回までしか使えないと話している。

内臓OSのlotusはハスミが独自に組み上げたものでストライク・アキュリスをチート運用できる様に細工している。(プロテクトを解除しなければ所載は判らない様になっている。)

主武装としてバーストレールガンとアサルトブレード、ソニック・ブレイカーで対応している。

任務内容によってはチャフ系などを換装する。

なお、本来のパイロットは幕張事件の際に戦死している為、引き続きハスミがパイロットとして登録されている。

実装されたストライク・アキュリスのアキュリスはラテン語で『小さな投げ槍』を意味し大小問わず投げ槍の総称として使用されていた。

ガーリオンの両肩部分に槍の刃先の様なパーツだけを6本ずつ装備しており、T-LINKシステム解放時に展開しファンネルと同じ要領で扱う。

なお、アキュリスと名付けられた理由はこれら一本一本が念を纏った巨大な投げ槍へと変貌するからである。

後にパイロットである彼女の二つ名になる武装でもある。

三.五話にて会話では話されていないが三話にてDG細胞の感染が予測されるガーリオン・タイプTをDG細胞除染の目的で改修に回されている。

 

 

※機体名称:ガーリオンカスタム・タイプT

※形式番号:RAM-006V・T

※全長:18.9m

※重量:30.4t

※基本OS:LIEON→lotus

※開発者:フレーム→フィリオ・プレスティ、武装並びにシステム→ウィスティアリア・マーリン。

※開発:フレーム→イスルギ重工、T-LINKシステム→特脳研、内部機関→テスラ・ライヒ研究所。

※所属:地球連邦軍極東方面伊豆基地所属ATXチーム配備。

※武装:マシンキャノン、アサルトツインブレード、バーストレールガン、レクタングル・ランチャー、ソニック・ブレイカー、ストライク・アキュリス、フォーメーション・ロータス(ストライク・アキュリスの応用攻撃)、コード・ダークテイル。

※DG軍団傘下時:HP回復、EN回復、精神干渉。

 

本編五話よりハスミが乗り換えた機体。

基本構造は前回と同様T-LINKシステム搭載機であること以外は原作のガーリオンカスタムと変わりはない。

未来改変の結果による技術進歩でレクタングル・ランチャーが先行配備され装備されている。

なお、現時点でディバイン・アームは入手出来ないのでアサルトブレードを改良したアサルトツインブレードが追加された。

現時点で使用していないが必殺技の一つフォーメーション・ロータスは紅い睡蓮が華を咲かせる様を表現する。

コード・ダークテイルはその名の通り『闇の物語』を意味し御伽噺に準えた技であるが、どのような効果を持つか不明である。

 

本編五.五話にてパイロット共々DG軍団に下ってしまう。

本編七話にてDG細胞は除去されそのまま運用される。

本編二十話において全損、フルメンテナンス行きとなった。

本編二十四話に置いてレムレースの襲撃を受けて再び全損。

その後、応急処置しつつ使用しアラスカ基地でフルメンテする。

本編二十九話にて再び全損、修復しても機体スペックが追いつく事が出来ない為に一部を他の機体の修理に流用し破棄された。

なお、アキュリスのみ次機体へ転用された。

 

※機体名称:ガーリオンカスタム・タイプT≪ダークテイルモード≫

 

コード・ダークテイルを発動した状態のガーリオンカスタム。

ティアリー博士の仕込みなのか機体色が変異し紅と黒の装甲へと変異する。

この域はSEEDシリーズのフェイズシフト装甲に酷似している。

詠唱風にされているのはティアリーの趣味である。

L5戦役後は装備点検の関係で外されている。

 

 

黒染語:発動コード『幼き思い出は真実へと変わる!識れ、玄き闇の物語を!詩れ、残酷な童話を!』

 

発動時は上記の文字がディスプレイを覆いつくしある意味でバーサーカー状態へと変貌する。

武装は随伴機のガーリオンカスタムに取り付けられた武装を換装する事で変貌する。

 

 

※武装

*灰被女:解除コード『灰燼に塗れつつも己が復讐の為に屈辱を啜るのなら、栄華の硝子の靴を纏え、乙女よ。』

ガーリオンカスタムの追加両腕・両脚部装備

 

*紅套娘:解除コード『昏き森より醜い世界から生還する為に己が知恵を絞れ、紅に染まりし、幼娘よ。』

ガーリオンカスタムの追加頭部装備

 

*眠茨姫:解除コード『茨の眠りは己を失わせる逃避であり、目覚めを拒まぬならその身に失う痛みを思い出せ、眠姫よ。』

ガーリオンカスタムの追加胴体装備

 

 

 

※機体名称:ゲシュペンストmk-Ⅱ・タイプS

※形式番号:PTX-007-02

※全長:21.2m

※重量:72.4t

※基本OS:TC-OS→lotus・G

※開発者:複数いる為、記載は省略する。

※開発:マオ・インダストリー社、テスラライヒ研究所。

※所属:地球連邦軍極東方面伊豆基地所属ATXチーム配備。

※武装:スプリットミサイル、メガ・プラズマカッター、プラズマ・ステーク、メガ・ビームライフル、メガ・ブラスターキャノン、ストライク・アキュリス。

 

3.5話でガーリオン・タイプTの改修が決定した為、改修作業が終わるまでハスミが搭乗する事になった機体。

基本構造は一般兵用のゲシュペンストmk-Ⅱと変わりはない。

ストライク・アキュリスが装備された為、その装備の関係でスラッシュ・リッパーは外されている。

カイ少佐より送られたOSで『究極!ゲシュペンストキック』が再現可能となっている。

色はガーリオンと同じく白とアイリスグリーンで統一されている。

四話にてハスミのDG細胞感染が進行し限定的なバーサーカー状態になってしまう。

五話で機体を失ったアルベロ・エスト少佐に譲り渡した後、そのまま彼の代用機となる。

尚、一部の武装とカラーリングは変更した模様。

五.五話でDG細胞に感染したフォリア・エスト准尉に奪取される。

七話にてDG細胞が除去され、そのままクライ・ウルブズ隊で運用される。

 

 

※機体名称:ガーリオンカスタム・タイプA

※形式番号:RAM-006V・A

※全長:18.9m

※重量:40.4t

※基本OS:LIEON→rosa

※開発者:フレーム→フィリオ・プレスティ、武装並びにシステム→ウィスティアリア・マーリン。

※開発:フレーム→イスルギ重工、T-LINKシステム→特脳研、内部機関→テスラ・ライヒ研究所。

※所属:地球連邦軍極東方面伊豆基地所属ATXチーム配備。

※武装:武装コンテナ・アミュレット、マシンキャノン、アサルトツインブレード、バーストレールガン、スラッシュ・リッパー、スプリットミサイル、ソニック・ブレイカー、コード・ダークテイル。

 

元テンペスト機だったガーリオンカスタムを改修したロサ専用機体(機体色はアイスブルーと白)。

基本武装は原作のガーリオンカスタムと変わりはないがハスミの随伴機と言う理由上から換装武装に変化を持つ。

重量が増えたのは武装コンテナ・アミュレットが取り付けられた為である。

パイロット同伴も可能だが現状の搭乗者がロサだけの為に人体の生命の危険性を考慮しない方向での設定になっている。(搭乗しているロサに負担がかからない程度は保証されている。)

T-LINKシステムは後述のコード・ダークテイルの起動に必要な為、搭載されている。

この機体におけるコード・ダークテイルの解凍はハスミの了承が必要である。

なお、上記のタイプAはアサルトのAを意味する。

L5戦役後はテンペスト機として運用する為、返却されている。

 

 

※機体名称:ガーリオンカスタム・タイプA≪ダークテイルモード≫

 

コード・ダークテイルを発動した状態のガーリオンカスタム。

こちらの機体色が変異し紫と黒の装甲へと変異する。

この域はSEEDシリーズのフェイズシフト装甲に酷似している。

詠唱風にされているのはティアリーの趣味である。

L5戦役後にテンペスト機として復帰と同時に外されている。

 

 

※武装

*笛吹男:解除コード『貴方が奏でる病巣を運ぶ音色、侮辱の言葉により栄光を掴む事はないが、その者らの代償は言の葉を発した者達の希望を奪う時である。』

ガーリオンカスタム・タイプAの電子戦装備

 

※夢幻娘:解除コード『貴方が望んだ世界を拒ばないで、貴方の過ちを認めて貴方が認めし時、それは儚き夢の物語となる、貴方を守る現実となる。』

ガーリオンカスタム・タイプAの特殊防御機構

 

※青髭鬼:解除コード『その者は愛すべきものを失い、神を憎み、世を憎み、全てを憎悪する者、どうか架の者に安らぎを。』

ガーリオンカスタム・タイプAの広域戦術兵装

 

 

※機体名称:ガーバイン・クリンゲ

 

本編三十二話のアースクレイドル戦にて搭乗。

ガーバインにストライク・アキュリスを換装させた機体。

カラーリング変更とT-LINKシステム装備がある以外は変わりはない。

クリンゲはドイツ語で『刃』を意味する。

この他にもガーバインを主軸にバリエーション違いが複数存在する。

三章ではメンテナンスと大改修を行っている。

 

 

※機体名称:エクスガーバイン

 

本編四十四話にて搭乗。

ガーバインの強化プラン。

エクスバインと同時期に開発が進められていたが、このエクスガーバインは三機のみ早期にロールアウトされた。

ハスミ機のアキュリス装備のクリンゲ。

ロサ機のシュピルツォイグ装備のピストーレ。

テンペスト機のアオスブルフ装備のアクストが存在する。

 

尚、クリンゲは多用型念動兵装装備、ピストーレは砲撃・電子戦兵装装備、アクストは射撃・破砕用兵装装備となっている。

ハスミ機とロサ機はギリアム少佐の諜報部に所属していた頃、要人護衛の関係でコックピットを複座式に改修している。

ハスミ機はエクリプスへの搭乗の関係でサブパイロットのアラン・ハリスが機体の操縦を行っている。

ロサ機もエザフォスへの搭乗の関係でサブパイロットのピート・ペインが機体の操縦を行う。

 

 

※機体名称:念神・エクリプス

※形式番号:無し

※全長:50.6m

※重量:130.5t

※動力源:念晶石、ハスミの念動力、知りたがる山羊のスフィア。

※創造者:ハスミ・クジョウ

※発見地:セフィーロ・狭間の神殿内部。

※所属:ハスミ・クジョウの私物。

※武装:詩篇刀・御伽、光と闇の装甲、心淵の極意。

 

※固有技

鏡界の装衣(???)

念装合身(エクリプスの鎧を他機に装着させるが念の消費が激しい)

解放の浄月(精神異常回復用の技、基本は生身用)

献身の癒月(肉体異常回復用の技、基本は生身用)

金陽の轟き(一点集中型ビームの様な物)

銀月の嘆き(拡散ビームの様な物)

白月の斬撃(三日月型のビーム刃を生成し攻撃する)

旋輪の日鏡(サークル型のチャクラムを無数に出現させる)

反転の月鏡(任意の場に防御用結界を張り巡らせる)

紫陽架斬(ビームを纏わせた一撃技)

月歌薇陣(刀から茨の様な鞭刃を生み出して攻撃する)

天輪渦斬(円陣を組む様に回し斬りする回転技)

巨月落牙(武装を巨大な刀へと変異させ一気に落下させる技)

鋼月の縛糸(敵を捕縛する為に使用した足止め技)

界蝕の儀(特定の結界破壊を目的とした斬撃)

双蝕の宴(光と闇を纏わせた刃で攻撃する初期必殺技)

起承転結(スフィア由来の必殺技)

 

ハスミがセフィーロで入手した念神。

本来は存在しないモノだが、物語の変異とハスミの念の力がセフィーロで具現化された結果である。

以前はこの存在そのものを周囲に秘匿していたが、二章の第二エリア解放戦で正体を晒した。

ハスミの深層心象により日食と月食などの蝕や天候をモチーフとし同じ意味を持つ名前が使用されている。

外見は仮面を付けた武者の様な姿。

搭乗する際はハスミの防具が紫を基調とする和装の鎧へと変化する。

魔法騎士組と同じく片手に宝珠(基本は紫だか白だったり黒に変化する)の手袋を付けている。

魔法系統が光と闇の属性を持つ為に浄化や幻影などを操る事が可能。

心淵の極意は自身の心の闇を受け入れ抱えていく事を決意した事で発動を可能としたモードチェンジの一つ。

今後、彼女の成長と共にエクリプスもその姿を変えていくが彼女自身の心変わりにも反応するので危ういとも捉えられる。

 

第二エリア解放戦時、敵拠点のバリアを破る為に参戦したが稼働限界のリスクがあり本領発揮が出来にくくなっている。

第三エリアにて念晶石と知りたがる山羊のスフィアを取り込んだ事で稼働限界のリスクが無くなった。

オーブ近海での訓練に参加する前に独自にスフィアの力を隠蔽するガードフィルターを完成させる。

これによりエクリプスがスフィア搭載機である事を秘匿する事に成功。

第二十九話にて『心淵の極意』を発動させ、キレ芸を披露した。

第五十三話にて『念装合身』を発現させ、規格無視の他機への強化外装へと変貌させた。

だが、この発現した能力は念の消費が激しい為に無暗に使用する事が出来ない。

エクリプスへ搭乗する様になってから銃撃戦から念動と剣術を応用した戦法にバトルスタイルを変更したが、銃の腕を落とさない様に武装に組み込んでいる。

 

 

※機体名称:アルゲティオス

 

本編八十四話から搭乗、サイデリアルの軍師ファウヌスの乗機。

本来の姿はエクスガーバイン・アクストに外装フレームを施したもの。

色は黒い外装に紫のラインを施している。

外装の頭部アンテナは山羊を彷彿させる尖角をモチーフにしている。

軍師的立場の機体であるが遠近両用対応で他のスフィアリアクターを援護する仕様にしている。

 

 

※機体名称:機神・エザフォス

※形式番号:無し

※全長:51.7m

※重量:143.2t

※動力源:魔導結晶→精霊石

※創造者:ロサ・ニュムパ

※発見地:セフィーロ・地の神殿内部。

※所属:ロサ・ニュムパの私物。

※武装:ロサの銃剣(ティターニア)、地の装甲、心淵の極意。

 

※固有技

大地の叫び(大量の土石流を発生させるだけの技)

大地の変動(任意の地殻変動を起こす技)

大地の捕縛(堅牢な檻を形成する技)

浄化の恩威(異常回復用の技、機体にも使用可能)

豊饒の祈り(肉体回復用の技、機体にも使用可能)

晶石の弾奏(某ハッピートリガーを彷彿させる銃撃技)

金剛の弾道(某ダイヤモンドのミサイル)

砂塵の迷衣(電磁を帯びた砂嵐を起こす技)

 

ロサがセフィーロで入手した機神。

本来は存在しないモノだが、ハスミ同様にセフィーロで具現化されたものである。

以前はこの存在そのものを周囲に秘匿していたが、二章の第二エリア解放戦で正体を晒した。

ロサの深層心象で最も興味を持つ自然の恵みや土の恵みをモチーフにし同じ意味を持つ名前が使用されている。

外見は女神を模した姿。

搭乗する際にロサが人間サイズに巨大化し黄色と橙の外装が追加される。

魔法騎士組と同じく片手に宝珠(橙色)を付けている。

魔法系統は地属性だが植物や宝石、鉱石が魔法名称に使用され、自身が無機物である由縁で無属性も含まれている。

地の属性を持つ為、強固な防御力を持つ。

心淵の極意は自身の心の闇を受け入れ抱えていく事を決意した事で発動を可能としたモードチェンジの一つ。

ホルトゥスへ帰還した後は銃剣の形を変異させ、多彩な方法で攻撃する戦法を編み出す。

最近のお気に入りはガン・カタや爆薬のお土産攻撃などの方向性に戦法向いている。

 

 

第二エリア解放戦にて参戦、地の属性を持つ重火器を操る。

第二十九話にて『心淵の極意』を発動させ、キレ芸を披露した。

第四十七話にてパイロットと共に一時離脱。

第五十六話にてパイロットと共に戦線復帰。

 

 

<組織>

 

※ホルトゥス

ハスミを当主とし代理人ブルー・ロータスが纏める集団。

各人のコードネームは『庭園』に関係する名前になっている。

現時点でその構成員の規模や戦力などは不明。

元々、当主としてハスミ本人が姿を晒していない為に構成員の多くが当主の正体を知らないのもある。

その名の概念は『季節ごとに変わる庭園の様に世界もまた変わる』と言う意味合いで付けられている。

『庭師』、『花』、『樹』、『蝶』など庭園に必要な存在がコードネームになっているが、コードネームのマンネリ化もあり偏りが見え始めている。

確認出来ている『庭師』はホルトゥスの実働部隊、『園芸家』は研究部隊とされている。

ホルトゥス当主にはその側近とする『念神官』が存在する。

現在、コードネームを与えられ協力と保護されている人々は『天鳥船島(アマノトリフネシマ)』と呼ばれる島に滞在している。

封印戦争後は政府に認可されて溶け込んだ協力企業に保護されていた人員を分配させ雲隠れさせている。

 

 

<主人公に関係するキーパーソン・登場人物>

 

※アシュラヤー

蒼のガンエデン、アシュラヤー・ガンエデン。

今世に置いて四体存在するガンエデンの一体で蒼の死海文書を所持する。

正体はホルトゥス当主であり主人公であるハスミ・クジョウ。

ホルトゥスは元々アシュラヤー・ガンエデンが立ち上げた組織であり、とある脅威から世界を守る為に行動を起こしている。

ビッグファイアや孫光龍の言う様にハスミがアシュラヤーと呼ばれているが、既に契約を済ませておりアシュラヤー・ガンエデンと同化し行動していた。

なお、梁山泊での襲撃事件でハスミの事がアシュラヤーの後継者と呼ばれていた事は当事者以外に伏せられている。

二章最終話にてハスミ自身がアシュラヤーの巫女である事をビッグファイアらに真実を告げた。

未だ万丈を含めた数名には巫女候補であるがアシュラヤー・ガンエデンの呼び声は聞こえていないと話をはぐらかしている。

が、変異し続けている現状に黒の英知に触れている記憶保持者達の力を借りる事を決意する。

四章以降はハスミが帰還した事でその意思を見せる様になる。

四章終盤に置いて人類を認めるが、求める力量に達してない事から距離を取る決断をする。

 

※バビル

紅のガンエデン、バビル・ガンエデン。

今世に置いて四体存在するガンエデンの一体で紅の死海文書を所持する。

正体はBF団の当主、ビッグ・ファイア本人こと山野浩一。

普段は伊達眼鏡と髪の色を変えて陣代高校に在学する一般生徒、古見浩一と名乗っている。

今世では初代バビルより記憶と力を引き継ぎ、二代目バビルを拝命しBF団と言う組織を動かしていた。

彼が初代バビルの直系の子孫である事は変わりないので引継ぎか可能であったと推測する。

尚、身体年齢は主人公と変わらないが長年のコールドスリープの関係で本来なら四十代の男性である。

以下は読者視点で説明する。

初代バビルは某同人誌の64における戦いのビッグ・ファイアの記憶を所持しており、敗北後に今世の機人大戦開始前頃に転生。

いずれ現れる『彼ら』を監視する為にBF団を組織したが自身の衰えを感じた為、秘密裏に自身の子孫である二代目バビルこと山野浩一に後を託す。

二章最終話にて因縁の相手である国際警察機構と共闘関係を結んでいる。

三章ではモーディワープの最終決戦では自ら出向いている。

四章ではユーゼスの暗躍を妨害する為にノードゥスに道を切り開いた。

五章は独自に動いている為に足取りは不明。

 

 

※ナシム

白のガンエデン、ナシム・ガンエデン。

今世に置いて四体存在するガンエデンの一体で白の死海文書を所持していたが、遥か過去の大戦で消失している。

αの流れによって彼女の所持していた白の死海文書の一節はネルフ本部に保管されており、残りの欠片は不明である。

現在の彼女の行動は不明であり、配下であるバラルの行動も公にされていないので水面下で行動していると思われる。

だが、バラルの元締めである孫光龍の離反もあり今後の彼女達の行動は不明である。

三章においてバラルを去り、行方不明である事が発覚する。

四章で過去に実の両親が存在していたが、死別し養父母の元で育っていた。

嘗ての記憶を所持しビッグファイアをコーイチお兄ちゃん、ハスミをお姉ちゃんと呼んでいる。

だが、記憶のほとんどがナシムのものだったのでイルイ自身の記憶は年相応の八年分の記憶しか所持していない。

尚、ビッグファイア、ハスミ、イルイは古き血縁の兄弟姉妹同士の関係にある。

見聞の旅の一環でクスハを通して鋼龍戦隊並びにノードゥスに保護される。

四章終盤にてアシュラヤーから世界の守護を任されるも人類を認める一方で求める力量に達していない事から距離を取る決断をする。

引き続き、イルイは正式なマシアフとしているが不必要な争いに巻き込まない為に彼女の念動力の多くを封印した。(力量としてクスハのちょっと上辺り位。)

五章ではGアイランドシティの普通の小学生として過ごしていたが、オロスプロクスの介入で誘拐未遂を受ける。

安全の為に護衛のロサ達と共にセフィーロへ避難する形となる。

 

 

※孫光龍

かつてはナシムの配下で元バラルの元締め。

設定ではガンエデンによって与えられた念動力が今世では生まれながらに所持している。

同時に主人公であるハスミの血縁上の父親になっている。

V.Bと言う過去の想い人が居るにも関わらず主人公の母親と婚姻を交わした理由は彼女の母親がV.Bの転生者の一人で遇った為である。

他人には偽悪者の様な振る舞いをしているが、一人の父親としての側面も出ており負傷したハスミを救っている。

登場初期は自らが父親である事を明かさずにアシュラヤーの協力者として黒のカリスマ一行の妨害を続けている。

が、ハスミを負傷させた黒のカリスマことジ・エーデル・ベルナルに対して可能な限りの苦痛を与えて消滅させようと模索している時点で過保護な面も見られる。

本人曰く親子関係がバレたらハスミに自らを『パパ』と呼んで欲しいと冗談半分で考えていた。

三章にて自身が父親である事実を知ったハスミから養父二名に説明し、以後父親同盟を結んでいる。

これにより三人そろって娘の恋人であるケイロンへの毒舌攻撃(婿イビリ)が発動中。

しかし、早期覚醒が原因で自らの超再生に不具合が生じており普通の人間と同等の耐久率しかない。

この事で負傷し現在は病床についているが、ハスミが念の力を分け与えて動ける程度まで復帰した。

二章~三章において時間がある時に限り念動による仙術の手ほどきをハスミに教え込んでいる。

現在は素性を記憶保持者達に明かしアラン・ハリスの偽名で共に行動している。

アクタイオン・インダストリー社からの出向となっているが、後の措置でSTXチームの補充パイロットとしてハスミらと同行する事となる。

四章ではホルトゥスのメンバーとして活動を続けている。

その過程でブルースウェアに自身の正体と助言を告げた。

四章終盤でハスミよりカーウァイ、テンペストと共にホルトゥスの全権を任される。

以降はホルトゥスとしてノードゥスのバイパス役を請け負い行動する。

搭乗機は応龍皇、エクスガーバイン・クリンゲ(STXチーム在籍時)。

 

 

※カーウァイ・ラウ

旧戦技教導隊の元隊長。

今世では主人公の一人目の養父となっている。

L5戦役時はガルイン・メハベルと言う半サイボーグ化のエアロゲイターの尖兵として洗脳されていた。

解放後はJUDA系列の医療施設で再生治療を受けている。

真面目であるが癖のある旧戦技教導隊を引っ張っていただけに冗談が旨い。

指揮能力と操縦技術は失われていないが、本人は治療後に士官学校の講師に転属しようと考えていた。

だが、今後も続く戦いを終わらせる為に戦う道を選ぶ。

なお、親権に関してはテンペストに渡しているがハスミとの親子関係は続けている。

半サイボーグからの再生治療は済んでいるが、もしも為に左腕だけをサイボーグ化したままにしている。

エクセレン曰くハスミちゃんの過保護パパその一。

修羅の乱の最中、STXチームの指揮官として活動する。

四章ではガイアセイバーズの思惑で消されそうになった事もあり、負傷を抱えたままホルトゥスへ下る。

その後はホルトゥスで一部隊の戦闘指揮を執る。

仇討がてらアーマラとの戦闘で念動の様な力を見せていたが、使用後の反動が大きいらしい。

これは謀殺未遂の際の事故で後天的念者として目覚めたのが原因である。

搭乗機はアルブレード(空白事件)、アルブレードカスタム(修羅の乱以降)。

 

 

※テンペスト・ホーカー

旧戦技教導隊のメンバー。

今世では主人公の二人目の養父。

L5戦役時から主人公を時に叱咤し時に助言しながら父親として面倒を見ている。

乗機はリオン系だったが己の犯した所業を償う為にダークブルーカラーのヴァルシオンに搭乗している。

三章以降はエクスガーバインへ搭乗、ヴァルシオンはビアン博士に返却している。

元同僚達の破天荒な行動に日々胃を痛める苦労人キャラと化している。

しかし、本人も義娘にちょっかいをかける輩には普通に黒いオーラを醸しながら報復している。

ハスミの家族関係の諍いの事を知っており、血縁上の父親が生きていたら自分との関係が崩れるのではと不安な一面も覗かせている。

三章でハスミの実父である孫光龍が現れても今まで通り親子関係を続けたいと言うハスミの発言もあり、不安は取り除かれた。

ハスミから並行世界での旅路で入手したお土産(主にEFなど)を貰う事が多く、その内の一つである護石をブレスレットに加工して身に着けている。

エクセレン曰くハスミちゃんの過保護パパその二。

カーウァイと同じく謀殺未遂の際の事故で後天的念者に目覚める。

搭乗機はガ―リオン→ヴァルシオン→ガ―リオンカスタム(L5戦役から空白事件)、ガーバイン→ガーバインカスタム→エクスガーバイン・アクスト(修羅の乱以降)

 

 

※ブルー・ロータス

現時点で各味方陣営に情報を与えている謎のハッカー。

その素性を知ろうとしたものは花言葉通りに滅亡する。

また、この名前も偽名である可能性が高いとされている。

ホルトゥスの当主として出られないハスミが窓口として代理を任せている人物。

また、組織内でも彼女の正体を知る者は当主以外居ない。

立ち位置はBF団の諸葛亮孔明の様なもの。

コードネームは『蒼睡蓮』。

 

 

※護行柱

ホルトゥスと言う組織おける位置はBF団における十傑衆、バラルにおける神仙に該当する。

七人の柱が存在しそれぞれが「緋、藍、碧、橙、黄、紫、透」の名を持つ。

が、多くが戦死し不在の為にハスミがホルトゥスへ戻った後に行った内部改革で称号を廃止した。

 

 

※三賢者

新たにハスミが作ったホルトゥスの幹部称号。

光龍、カーウァイ、テンペスト達が該当し『日、月、星』の名を持つ。

ハスミがホルトゥスの全権を預けた後、事実上の統括者となる。

 

 

=ホルトゥス・エージェント=

 

出身者の多くは無限力の陰謀で滅ぼされた並行世界や異世界の住人達。

非戦闘員は表企業として存在する企業の社員や管理者として生活。

未成年は各地に分散させてひっそりと学生生活をやっている。

精神的身体的理由で活動出来ない者はアシュラヤーが秘匿する別拠点で生活を行っている。

四章以降はホルトゥスの全権を預けられた光龍達の元、各地に潜伏している。

アシュラヤー不在であるが、空間転移であれば難なく使用できるので正義の味方的な活動は引き続き行っている。

 

 

※地獄

ホルトゥスのメンバー。

二人組で第6の悪魔と第4の堕天使と名乗っている。

火星にて火星開拓基地で悪行を尽くしたハザードを謀殺した。

正体はマジンカイザーSKLの海動剣と真上遼。

現在はホルトゥスの指示の元、戦いの元凶と成り得る組織の基地の破壊工作に周っている。

 

 

※将軍

ホルトゥスのメンバー。

大統領と共にDG事件で暗躍中。

正体は鉄のラインバレルの石神邦生。

現在は公式の場でJUDAコーポレーションのCEOを務める。

ホルトゥスの指示の元で戦争被災者達への慈善活動を行っている。

 

 

※大統領

ホルトゥスのメンバー。

将軍と共にDG事件で暗躍中。

正体はSRWLのラスボスのルド・グロリア。

現在は公式の場でGreAT社のCEOを務める。

軍事産業へ加入し自社商品としてヴァレイシリーズを開発。

ルド本人はホルトゥスの指示で政治介入の為、上院議員選へ出馬している。

 

 

※想像者

ホルトゥスのメンバー。

別の任務で不在中。

 

 

※新郎

ホルトゥスのメンバー。

将軍が経営する企業の社員。

正体はガン×ソードのヴァン。

現在の行動は不明。

 

 

※霧

ホルトゥスのメンバー。

空気が読めないと言う事で他のメンバーから煙たがれている。

元々の性格上、暴走しがちな為に任務を与えて抑えている。

 

 

※軍曹

ホルトゥスのメンバー。

いきなり団子が好物の謎の生命体。

他にも仲間がおり、月のマスドライバー掌握に一役買った。

正体はケロロ軍曹のケロロ。

 

 

※蒼穹

ホルトゥスのメンバー。

正体は蒼穹のファフナーの竜宮島のアルヴィスメンバー。

人数が多い為、総称して呼ばれる。

 

 

※隠者

ホルトゥスのメンバー。

しいて言うなら必○仕○人と呼べる存在。

OZから重要人物を確保した後、護衛に付いている。

現在は男爵と共に行動している。

 

 

※魔術師

ホルトゥスのメンバー。

その名の通り、魔術を操る者。

二章において行動を仄めかせているが正体は不明。

三章ではガオーマシン強奪事件にてパリに現れてGGGに加勢する。

 

※狩人

ホルトゥスのメンバー。

その名の通り、弓を操る者。

二章において行動を仄めかせているが正体は不明。

 

 

※男爵

ホルトゥスのメンバー。

第四エリアにてオーブ滞在中のノードゥスに共闘依頼の手紙を送る。

正体はトレーズ・クシュリナーダ。

三章では隠者と共にミロンガ強奪を行っている。

四章に置いて存命した姿を晒して連合政府の議員として表舞台に戻る。

六章では、次元転移に巻き込まれアビスの牢獄で構築された多元地球のコロニー連合を取り纏める代表を務める。

 

 

<ホルトゥス・所属機体>

 

※機体名称:ハヤル

※形式番号:???

※全長:20.5m

※重量:32.6t

※OS:???

※開発者:???

※開発:ホルトゥス研究部隊『園芸家』

※所属:ホルトゥス

※武装:???

 

ホルトゥスの一般エージェントに支給されている機体。

基本構造はMSやPTと余り大差はなく、ごく普通の戦力となっている。

名前の由来はヘブライ語の『兵士』より。

 

 

※機体名称:シャリアッハ・カホール

※形式番号:???

※全長:不明

※重量:不明

※OS:???

※開発者:???

※開発:ホルトゥス研究部隊『園芸家』

※所属:ホルトゥス

※武装:???

 

ホルトゥスの幹部エージェントに支給される機体。

ハヤルの指揮官機の為、出力はハヤルより高めである。

機体色は青、ブルーロータスの専用機となっている。

名前の由来はヘブライ語で『蒼い伝令』より。

 

 

※機体名称:トールギスⅡ・マスカ

※形式番号:???

※全長:不明

※重量:不明

※OS:???

※開発者:???

※開発:元となった機体は持ち込まれた為、詳しい経緯は不明。

※所属:ホルトゥス

※武装:メガ・ビームキャノン、スタンウィップ、シークレット・サブアーム、擬装用外装。

 

『男爵』専用の機体。

元々の機体を外装によって改修した。

この改修による追加ブースターで高機動に於ける精密射撃を行える様になっている。

本来は補助AIを搭載する予定だったが、本人の希望で無しとなった。

表舞台に戻った後は彼の有志へ追加武装と共に引き渡している。

 

 

<主人公に協力する登場人物>

 

 

※名前:ウィスティアリア・マーリン

※呼び名:ティアリー

※性別:女性

※年齢:25歳

※血液型:O

※身長:170㎝

※髪の色:金髪

※髪型:ロング(ヘアゴムで緩めに纏めている)

※眼の色:明るめの碧

※肌の色:白

※3サイズ:B100・W60・H87

※所属:連合軍・極東方面伊豆基地兵器開発部門所属

※固有能力:機動兵器に関する創作技術並びに該当する開発など。

      

 

自分の興味を引くもの以外は余りにも興味はなく極度のマイペースで普段は余り仕事に打ち込まない。

九浄蓮美の乗機であるガーリオン・タイプTを主軸としたテイル・プランと呼ばれる制作プランを立ち上げた存在。

制作プランは立てたものの後は本体であるガーリオンについてはそれの専門家に任せて放置した。

それはガーリオンもしくはゲシュペンストなどPTやAMと言う本体があればそれに装着する武装を作ればいいと言う考えであった為である。

後々に本体が武装の衝撃に耐えきれない可能性も視野に入れて防御システムとしてT-LINKシステムを導入した。

しかし現状では扱える人材が居なかった為、軍より素質のあると予想される人材を派遣して貰ったが全員が不発であり、T-LINKシステム抜きで稼働させるとパイロットの生命が危険に晒される代物だった。

偶々ハスミが幕張の戦闘で搭乗し予想以上の結果を出した為、彼女を軍に引き入れる算段を企てた。

後にハスミが軍に入った事で、やる気を取り戻し彼女に専用武装であるストライク・アキュリスを送った。

なお、ハスミとは秘密の約束を誓い合う仲であり彼女の求める未来の実現へと手を貸す事を約束している。

五話にてハスミと再会しそのままハガネに乗艦後、伊豆基地へ戻る。

七話では姿を現していないが、後の事を考えて追加武装を制作していた。

九話にて月・地球ルート組に同行している事が判明。

二章では連合軍ソルトレイク基地へ出向中だが、大地震後の行方は不明。

色々あってアラスカ基地に救助されており、新型機の開発を行っていた。

三章ではエリック・ワン博士からの伝言をテスラ研に伝えた後、ハスミ達と合流する。

主人公のホンコンでの捜査で現地待機していたが、バルトール強襲に備えて先に鋼龍戦隊と合流。

以降はハガネの技術班のメンバーとして活動。

四章は謀殺未遂の事故に巻き込まれホルトゥスのメンバーとして動く。

五章以降はホルトゥスのメンバーとして機体整備や次元力の研究に携わっている。

 

 

※名前:七枝紅葉(シチエコウヨウ)

※呼び名:コウヨウ

※性別:男性

※年齢:21歳(一章)→22歳(二章)

※血液型:B

※身長:185㎝

※髪の色:黒髪

※髪型:セミロング、(髪の一部に紅いメッシュを入れている。)

※眼の色:赤

※肌の色:日系よりの白

※3サイズ:いらんでしょ?

※所属:ネルガル重工所属ナデシコ・副操舵士→JUDAコーポレーション所属テストパイロット。

※固有能力:???

 

今回、ナデシコクルーとして雇われた元地球連邦軍所属の操舵士。

見た目は普通だが少々オネエが入っているイケメンなのに残念な人。

家事全般が得意であり、人当たりはいいので受けはまあまあである。

ナデシコ内で暴走する数名を止めるストッパーや良き相談相手となっている。

普段は副操舵士としてブリッジクルーとして働いている。

以外にも白兵戦を得意とし格闘技か何か嗜んでいたのかとよく言われる。

兄弟に双子の兄がおり紅葉本人が度を越えた溺愛をしている。

八話ではハスミとは知り合いの様であり、彼女の発言から紅葉が『護行柱』の一人である事を語っている。

九話では配属先の所属艦の事もあり火星ルート組へ同行。

二章ではネルガルを辞職しJUDAコーポレーションの軍用試作機迅雷のテストパイロットを務める。

三章では北辰に拉致されそうになったアキト達を救出した後、共に雲隠れしている。

四章以降は暗殺されかけたムルタ・アズラエルの護衛に就いている。

 

 

※名前:七枝蒼葉(シチエソウヨウ)

※呼び名:ソウヨウ

※性別:男性

※年齢:22歳

※血液型:B

※身長:185㎝

※髪の色:黒髪

※髪型:ショート

※眼の色:青

※肌の色:日系よりの白

※3サイズ:明日の朝日を拝めんぞ?

※所属:第3新東京市立第壱中学校・数学教師。

※固有能力:???

 

紅葉の双子の兄。

一卵性なので紅葉と瓜二つであるが、違いとして髪がショートとブルーフレームの伊達眼鏡を掛けている。

性格は真面目であるが腹黒い一面もあり授業を聞かない生徒には問答無用で出席簿の角がお見舞いされる。

碇シンジ達のクラスの数学教師として赴任している。

実際はスパイの様な事をしているが監視程度に留めている。

紅葉と同じく『護行柱』の一人。

元々はGreAT社でテストパイロットをするつもりだったが、任務の一件で表向きの職業である教師職へと戻る。

修羅の乱以降は組織の指示で教師職を去り、弟と共にアズラエルとその家族の護衛任務に就く。

 

 

※名前:ロサ・ニュムパ

※呼び名:ロサ

※性別:女性

※稼働年月:二章で合計年数が一年目。

※精神年齢:15位

※外装:1/60ガーリオン+フリルな姫デコパーツ

※外装色:アイスブルーとホワイト

※所属:地球連合軍・極東方面伊豆基地所属ATXチーム・サポートロボット(一章、二章)同軍・諜報部隊→ATXチーム→STXチーム(三章)ホルトゥス(四章)地球防衛軍(五章)鋼龍戦隊(六章)

※固有能力:ハッキング、AM操縦、情報集積体への高度処理能力、DG細胞制御(現在封印中。)、魔法継承(地属性、無属性)、機神召喚(エザフォス)。

 

八話から登場したハスミのサポートロボット。

元はUGに搭載されたUG細胞制御用の『超AI』。

七話で本体が破壊され制御コアのみとなったがそのAIチップはハスミに引き取られた。

名前はラテン語で薔薇の妖精を意味する。

自身を救ってくれたハスミの事を第一に信用しており、彼女の秘密の誓いの事も知っている。

常にハスミから出題される問題を解いたり悩んだりしている。

通常時はハスミの肩に乗って移動しているが、自立での移動も可能。

戦闘時はハスミのガーリオンカスタム・タイプTの随伴機として乗り手の居ないガーリオンカスタム・タイプAに搭乗し行動している。

二章ではガーリオンカスタム・タイプTのサブパイロットを務めていたが、現在はエクスガーバイン・ピストーレと機神・エザフォスにて戦闘に参加している。

なお、コールサインは本来付けられない立場だが隊の計らいでアサルト7になっている。

若干天然気味な所が見られるが人間の行動理念を旨く把握していない事からの発言である。

二章では多少改善はされているが素直なだけにエクセレンに妙なネタを教え込まれるなど少々問題になっている。

歌が好きでハスミが時折歌っているフレーズを思い出して練習している。

同じロボットであるハロやロペット達は大切なお友達である。

セフィーロではエテルナの試練の時に自身の前身となったDGの虚像と戦う事で『罪に飲まれず、前に進む』と決め、前に進む事を決意する。

魔法が使用可能な件に関してはハスミ曰く、誕生過程が違えども確固たる意志を持つのなら可能では?と推測している。

GGG所属のファルセイバーから片思いを向けられているが本人にその気はないらしい。

第四エリアにてツグミのデコレーションにより猫耳姿のニャンコリオンとメイド姿のメイドリオンの外装を持つ事となる。

第四エリアでのハスミ達の行方不明に動揺しているものの周囲を不安にさせない様に努力している。

この時、ミスリルの相良達と行動していた為にマニアックな重火器の知識を得てしまう。

その後、アラスカ基地でハスミと再会。

第六エリアではハスミの助言と自らが持つ高度情報処理能力を生かしてカイメラ隊の思惑を看破する。

三章ではハスミと共にギリアム少佐が指揮する諜報部隊へ転属する。

四十七話で新型DG細胞によって強化されたODEシステムのコアを止める為に戦線を離脱する。

五十六話で戦線に復帰しSTXチームへ移籍する。

四章にて二度目のEFでの旅路でピート・ペインと言う恋人と出会った事で『愛』を学ぶ。

ガイアセイバーズの思惑でSTXチームごと消されそうになった後はホルトゥスへと下る。

その後、ハスミの指示でイルイの護衛を兼ねてノードゥスへと戻る。

五章では引き続きイルイ護衛と言う名目でピートと共に地球防衛軍へ転属、同じく護と戒道の護衛に当たっているボルフォッグとよく鉢合わせる事が増えた。

同時期に出現したオロスプロクスからイルイを守る為にセフィーロへ避難。

中間近くで元の世界に帰還し鋼龍戦隊と行動。

六章ではサイデリアル改めイグジスタンスとの鋼龍戦隊の同盟に伴い、イグジスタンスのアルシャト隊の副官を兼任する。

 

 

※四季の女性達

 

ハスミが転生を行う前に選定した存在達。

それぞれが幼女、少女、女性、老女の四人で構成されている。

名前が無いのでハスミは順にハルナ、ナツキ、アキヨ、フユコと呼んでいる。

命名理由はそれぞれが居た場所をモチーフにしている。

ハスミの推測によると全員が神様であり、その姿は人の一生を表していると思われる。

 

 

<協力関係にあるスフィアリアクター>

 

 

※ヴィルダーク

 

立ち向かう射手のスフィアリアクター。

エンドレスフロンティアで再会したハスミの恋人。

ある理由から真名は明かせないので偽名であるケイロン・ケシェットを名乗っている。

何処かでハスミと出会い、何かの契約を結んでいるがそれは不明である。

ある人物達が顔を合わせれば正体が判明してしまう存在。

その正体はサイデリアル所属、新地球皇国・ガイアエンパイアの皇帝アウストラリス本人。

彼女との密会時には本来の名である次元将ヴィルダークを使っている。

プライベート時の愛称として彼女からはヴィルと呼ばれている。

無限力のお遊びが原因で三章でハスミの元へ合流する流れになってしまった。

この理由からこちら側の世界の身分として天臨社のテストパイロット、ケイロン・ケシェットと名乗っている。

かつての記憶を所持した記憶保持者の一人であり、ある目的の為に今回に置いてもサイデリアルの皇帝・アウストラリスの仮面を被っている。

ハスミと交わした約束に関しても互いに呪いと称している。

搭乗機体の蒼雷は自身の能力を秘匿する為の枷であり、可能性を模索する為の手段。

ソーディアンズ・ダガー奪取任務と同時に本社命令で地球連合軍極東方面軍対神秘対策部隊STXチームに転属となる。

四章ではホルトゥスに身を隠し、ハスミの決起に追従する。

傷を癒す間、地球にある格闘技の資料を読み漁っていたが無限力の陰謀で某格闘技の漫画を資料と勘違いして読み漁ってしまう黒歴史を生み出した。

本人曰く真空波動拳と竜巻旋風脚を覚えたいらしい…

四章終盤でノードゥスの力量不足を痛感しアウストラリスとしてサイデリアルとして活動する。

五章よりフューリーへの侵略と同時にサイデリアルとしての活動を宣言。

ある理由からこちら側の地球圏ではなく地球側と同盟を結んでいる異世界への侵攻を行っている。

終盤で御使いから裏切り行為を見抜かれサイデリアルごと放逐された。

六章よりサイデリアルはイグジスタンスと改名し鋼龍戦隊と同盟を結び行動を開始。

戦乱の最中に遭遇したエンブリヲの謀略でハスミらを拉致された事でイグジスタンスを総動員し本拠地へ殴り込みをするなど、前世ではなかった動きを見せている。

結果的に戦闘中にハスミを愛していると告げて隠す事をしなくなった。

 

 

※ガドライト・メオンサム

 

惑星ジェミナイの精鋭部隊ジェミニスの指揮官。

二つに分かれたいがみ合う双子のスフィアリアクター。

偶然所持するスフィアが突如サード・ステージに移行した所で過去の記憶を取り戻す。

尚、スフィアによる記憶の覚醒は黒の英知の力に関係している。

故郷の惑星に転移して来たハスミ一行の協力を得て、ジェミナイの住民を避難させる事に成功する。

これによりハスミとヴィルダークが交わした約束の実現に協力すると約束する。

前回と同様にサイデリアルから派遣された『鬼宿』に所属部隊共々降伏し投降。

皇国所属のスフィアリアクターとしてサイデリアルに組み込まれた。

五章では追加戦力としてこちら側の世界に部下のアンナロッタ共々転移する。

諦めた様子と酒浸りになっていないと前世側に怪しまれるので小型のウイスキーボトルを携帯している。

蟠りがないので、時折ヴィルダークのズレた行動に突っ込みを入れる様になった。

ヒビキとの再会で表向きは監視、陰では助力する姿勢を取っている。

六章からは酒浸りの姿は止めて、彼本来の姿を見せる様になった。

イグジスタンスに改名してからはヒビキと組む事が多く、兄貴分な所を見せている。

 

 

※アサキム・ドーウィン

 

御使いによって呪いを刻まれたシュロウガの意思が具現化したもの。

夢見る双魚のスフィアリアクター。

今世での正体は不明のままだが、真の正体を知るのはハスミと御使いのみ。

空白事件では敵対していたが、彼の御使い打倒に協力すると言う条件で協力を得ている。

現在もツィーネと共に行動していたがバアルの早期行動を受けて、ハスミらの手で例の世界へ次元転移した。

その後の行方と行動は不明。

五章にてこちら側の世界へ戻って来ており、利害一致の関係とスフィア覚醒の件でサイデリアルとなったハスミらに協力している。

以前からマサキ・アンドーの事に興味を示し、セツコに続いてストーカーと化している。

協力者として行動している際に出会った子供達のまっすぐな夢に興味を示している。

 

 

※エルーナルーナ・バーンストラウス

 

ハイアデス隊を指揮するサイデリアルの総司令官ストラウスの真の姿。

欲深な金牛のスフィアリアクター。

所持するスフィアは既にサード・ステージに上がっており、前世の記憶も取り戻している。

正体を明かしていないので全身鎧姿のストラウスの状態で表舞台に出ている。

が、六章ではハスミの告白と共に早々に正体を明かした。

副官のダバラーンの想いに答えているが、反応が面白いのでちょっかいを出している始末。

イグジスタンスと改名してからはハスミとセツコら女性陣を集めて女子会を開催する仲に進呈している。

 

 

※バルビエル・ザ・ニードル

 

アンタレス隊を指揮するサイデリアル所属の怨嗟の魔蠍のスフィアリアクターの一人。

アウストラリスの招集によりこちら側の世界へ尸空らと共に転移し行動を共にする。

前世の記憶を取り戻しており、セツコに対して謝罪と彼女の力になる事を決めている。

副官のサルディアスとの一件は解決し認めてはいるが相変わらずの関係を取っている。

エンブリヲ戦を切っ掛けにセツコに自身の想いを告げた為に正式に恋仲になりイチャイチャで周囲の精神的砂吐きレベルが上がっている。

その分、憎しみが増大するので所持しているスフィア的にはwinwinらしい…

 

 

※尸空

 

鬼宿隊を指揮するサイデリアル所属の沈黙の巨蟹のスフィアリアクターの一人。

アウストラリスの招集によりこちら側の世界へバルビエルらと共に転移し共に行動している。

前世の記憶を取り戻しており、以前より人を避ける様な素振りはなく角が取れている。

暴走する仲間を止める一人としてハスミと共に気苦労が絶えない。

周囲の分け隔てない関りが切っ掛けで本音で話す事が多くなった。

 

 

※ヒビキ・カミシロ

 

次元漂流者であり、いがみ合う双子のもう一人のスフィアリアクター。

次元商人AGの行動を監視する為に敢えてジェニオンへ搭乗した。

その後はハスミによって正体を晒されたAGをリアクター勢で袋叩きにした。

多元世界に転移後は鋼龍戦隊へ配属する予定だったが、牡羊座のリアクターによるスフィア奪取を防ぐ為にサイデリアル改めイグジスタンス側への配属と言う形となった。

ガドライトと組む事が多いので彼を兄貴分として慕っている。

但し、彼から学び習う所は習って悪い所は指摘している。

 

 

※クロウ・ブルースト

 

転移後の多元地球で遭遇した揺れる天秤のスフィアリアクター。

遭遇時は乗機であるブラスタを入手する前だったのでスフィア同調率がセカンド止まり。

搭乗後はサードステージへ至ったが、スフィア・アクトの事もあり記憶が蘇ったトライア博士の手で早期にCDCシステムを組み込まれた。

これにより利用一回に付き1Gの借金が加算される事となる。

現在はアイム達の行動を探る為に前と同じ道(基本・破界編ソレスタルビーイングルート)を辿る事を決めた。

金銭的不幸は変わらずである。

 

 

※ランド・トラビス

 

空白事件で出会った傷だらけの獅子のスフィアリアクター。

セツコと同時期に再会したが、その頃は記憶を取り戻しておらず初期の頃と同じ道筋を辿っていた。

空白事件後、元の世界に帰還後はメールと共に記憶を取り戻して独自の行動を取っていた。

他のZEUTHのメンバーよりも早期に多元地球へ転移しハスミの識る力で再会。

状況説明後に協力はするが、合流は延期のままと言う形となった。

時折、話し合いの為にイグジスタンス側と合流する形は取っている。

エルーナの事は苦手らしいが戦う仲間としては認めている。

 

 

※セツコ・オハラ

 

空白事件で出会った悲しみの乙女のスフィアリアクター。

ランドと同時期に再会したが、その頃は記憶を取り戻しておらず初期と同じ道筋を辿っていた。

他のZEUTHのメンバーよりも早期に多元地球へ転移しハスミの識る力で再会。

状況説明後に協力はするが、合流は延期のままと言う形となった。

時折、話し合いの為にイグジスタンス側と合流する形は取っている。

チームの仲間だったセツコ側のデンゼルとトビーはハスミの采配で生きているものの、記憶を取り戻すに当たって並行世界の同一人物の記憶が入っている事により軽い記憶障害に陥っている。

バルビエルからの告白で彼の想いを受け取り、正式に恋人となっている。

 

 

※ユーサー・インサラウム

 

多元地球と隣接する別の並行世界の国家の君主にして尽きぬ水瓶のスフィアリアクター。

修羅の乱の頃に王都襲撃時に転移して来たハスミらと遭遇。

同時期に発生したガイオウの侵略を前よりも被害を少なくする事に成功する。

だが、ZONEを使用していないにも関わらず国家が存在する惑星の次元力が消失しアル・ワースへ同化してしまう。

再び再会したハスミらと同盟を結び、対応策を練る。

 

 

※アイム・ライアード

 

別次元の地球で覚醒した偽りの黒羊のスフィアリアクター。

修羅の乱の頃、破界の王ガイオウと共に聖インサラウム王国を襲撃。

国を崩壊に導こうとしたがハスミらの転移で妨害される。

その後は行く先々で妨害され、サンクキングダムで仕留められる。

直後に発生したソルの目覚めにより偽りの暴走から解放された。

今までの暴走は御使い達の監視を逃れる為に自己防衛が働き偽りを重ね続けたのが原因。

その後は和解し自らを利用した御使い打倒を決意をする。

アサキムと組み、影で暗躍する任務に従事している。

 

※ヴァイシュラバ

 

新たに覚醒した埒外の蛇者のスフィアリアクター。

流れは原作と同じく御使いとの戦いで記憶喪失に陥り暴走。

後にアイムと共にサンクキングダムでイグジスタンスによって仕留められる。

ソルの呼び掛けにより、新たなスフィアリアクターとして覚醒する。

周囲には変わらずガイオウで通しており、この呼び名を気に入っている。

ヴィルダークとハスミの恋仲を遠目で見守っている節があるが、後に尻に敷かれると予測している。

本人もガチキレしたハスミを物理的に相手にするのは少々拙いと思っている。

 

 

<埒外の蛇者>

 

・星座:蛇使い座

・リアクター:次元将ヴァイシュラバ

・搭載機:ヴァイシュラバの肉体

・発動キー:「完璧」

・反作用:「衰退」

・スフィア・アクト:「他のスフィアとの共生同調」

 

ソルが新たに生み出し秘匿していたスフィアで至高神ソルの「完璧な意思」を司る。

完璧を求める意志が力に反映するが、完璧を求めず衰退の意思を見せれば即座に弱体化する諸刃のスフィア。

逆に他のスフィアが何らかの影響で暴走をした場合、強制制御を行う役目を持つ。

ぶっちゃけ言えば扱い方次第で12のスフィアの能力を扱う事も可能な代物。

 

 

反映するタロットは元々存在せず、黄道十二宮を表す『世界』が該当する。

正位置の意味では…

成就、完成、完全、総合、完遂、完璧、攻略、優勝、パーフェクト、コングラッチュレーションズ、グッドエンディング、完全制覇、完全攻略、正確無比、永遠不滅。

逆位置の意味…

衰退、堕落、低迷、未完成、臨界点、調和の崩壊。

 

堕落した私生活をしつつも己の目標を完遂する意思を持つ彼だからこそ選ばれたのだと推測されている。

 

 

<設定用語>

 

 

※九浄家

認知されるのは旧西暦時代の一度目の大規模大戦開始前頃。

古い軍事家系の旧家であったが現在は衰退し名前だけが知られる程度。

アシュラヤーの巫女を生み出している一族の使命から歴史の影に隠れ暗躍し平穏を保つ事を第一としてきた。

代々女性が当主を務めており、名前には必ず『花』が使用されている。

理由は花の名でその意味を体現する、花に隠された隠し言葉(花言葉)を利用している為と思われる。

また性の九浄は『苦罪浄化』を捩ったもの。

 

※約定事件

本編開始前の数十年前に起こった国際警察機構とBF団との戦いで九浄家が第三者として介入した一件。

その戦いで当時の九浄家当主が『約定』と呼ばれる能力で双方の特殊な能力を封印し現在の双方の均衡を保っている状況を作り上げた。

本来の目的はこの世界から『御使い』の監視を避ける為にハスミの母であるレンゲが仕掛けた茶番劇。

 

※断章介入

本編に置いて事象に更なる可能性が介入する現象。

例えとして本流の流れにAやB等のIF的な事象が介入すると言うモノである。

可能性が集約した世界の為に起こり得る現象ではないかと予想されている。

また主人公がセフィーロで存在しない念神を入手したのもこれが関わっている。

この為、主人公は後にギリアムに元の流れ(原作)を変えると異なる流れ(IF)へと変異すると説明している。

 

※メモリーホルダー

この世界における逆行者又は転生者の通称であり現在のリュウセイ達を指す。

現時点に置いても重要人物達の何れかに記憶が蘇る可能性があると視野に入れられている。

所持する記憶の量によってケースと呼ばれる以下のタイプに分けられる。

 

⋆ケースEタイプ

逆行か転生の記憶はなく、曖昧に覚えている者。

該当者:藤原忍、兜甲児、流竜馬、ユキ。

 

⋆ケースNタイプ

逆行か転生の記憶を一つのみ保有する者。

該当者:ジョウ(未定の為タイプが変更する場合あり)、瞬兵、洋、ヨウタ、ファルセイバー、ブルーヴィクター。

 

⋆ケースHタイプ

逆行又は転生の記憶を複数保有する者。

該当者:キョウスケ、アクセル、リュウセイ、マサキ、ヒューゴ、コウタ、トーヤ、フォルカ、フェルナンド、ドモン、シュバルツ、東方不敗、ロム、コウ、ガトー、アムロ、シャア、アキト、シンジ、D兄弟、エイジ、キリコ、凱、J、銀河、北斗、アルテア、舞人、キラ、アスラン、シン、ロジャー、万丈、桂、オルソン、光。

 

⋆ケースCタイプ

スフィアによる記憶覚醒をした者。

該当者:ヴィルダーク、ガドライト、アサキム、エルーナルーナ、バルビエル、尸空、ヒビキ、クロウ、ランド、セツコ、ユーサー、アイム、ヴァイシュラバ。

 

⋆ケースEXタイプ

逆行又は転生の記憶の他に未確定数の知識を保有する者。

該当者:ハスミ、ビッグファイア、カヲル、イルイ。

 

 

詩篇刀・御伽(シヘントウ・オトギ)

かつて九浄家に保管されていた家宝の刀で約定事件より行方が分からないままであった。

刀に付属していたとされる護符から察するに遥か古代の物ではないかと推測されている。

その使用用途や付属された能力等も明かされていない。

この護符は現在ハスミが付けているペンダントになっている。

セフィーロにて破損状態のまま発見するもエスクードを取り込んだ事で完全復活した。

ハスミ以外が使用すると自己防衛本能として刀身から刃が突き出し相手を拒絶する。

形状は独特な鍔無しの白い打刀であるが黒い鞘に収まっている。

母・蓮華の残留思念による過去の記憶の転写が施されており、『縁繋ぎ』と『約定事件』についての真相が記憶されている。

が、実の父親に関する記憶だけは抜け落ちてしまっている。

特性として『概念を断ち切る力』を持つ。

 

※ロサの銃剣

セフィーロで手に入れたエスクード製の銃剣。

ロサ以外が触れると砂と化してしまう。

形状はプレートを思わせる刀身と引き金が鍔部分に追加されている。

ロサに合わせているので物凄くサイズが小さい。

後に名前が無いのもアレなのでハスミの提案で『ティターニア』と命名される。

 

※念術

念動力の応用としてハスミが編み出した独自戦術。

現時点では解放されていないが、必要あらば行使する事もあるだろう。

 

※アカシックレコードとの契約

ハスミはアカシックレコードから多種多様の情報を読み解く条件として他言無用のとある契約をする。

 

*アカシックレコードからの情報を記憶保持者達に答えてはならない。

*自らを転生者である事を記憶保持者達に明かしてはならない。

*上記二つに関して既にアカシックレコードか黒の英知に触れている人物は該当しない。

*情報から本来死すべき相手を生存させた場合、自らがその代償を払う事。

*転生前に譲渡する予定の能力に関しては自ら発見し覚醒させる事。

*自身が『アカシックレコードの使者』である事を忘れてはならない。

 

もしも上記の契約を一つでも破ればアポカリュプシスの洗礼で世界を崩壊してしまうと言う爆弾を抱えている。

しかしこれには言葉の抜け道もあり、別の方法で情報を与える事を可能にしている。

ちなみにビッグファイアは逆行者であるものの同じくアカシックレコードを読み解く力を持っている為、三番目の条件に当てはまる。

これにより一とニの条件から外れる。

 

 

 

 

 

《当小説に登場する版権参戦作品》

 

αシリーズ、衝撃、OGシリーズ、MX、A、J、W、Zシリーズ、UX、BX、K、R、Tは確定済みです。

後々の話の流れで他の作品も登場させていきます。

これは登場作品が重複しない為の措置です。

場合によって登場人物の入れ替えや一部イベントを省く事もありますがご了承ください。

 

※既に本編にて世界消滅となった世界(作品)は『虚憶』もしくは『実憶』扱いとなります。

※スパクロは未定です。

※消滅した世界を復帰させるかは未定です。

 

 

=追加参戦=

 

※次世代ロボット戦記ブレイブサーガ

※ガンダムビルドダイバーズシリーズ(第五章より予定)

 

様子を見て追加で参戦作品を投入予定です。

 



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プロローグ

ある次元の世界の銀河にて…

 

 

=???=

 

 

3つの機影に追われながら高速で宇宙空間を突っ切る一体の人型兵器の姿があった。

それを追う三つの機影は紫水晶の竜、エジプト王を思わせる外見に半身が鉱石物で覆われた巨人、頭部が髑髏の人馬騎士の姿である。

 

 

 

「何処ヘ逃ゲテモ、無駄ダゾ?」

「…!」

「ホンマ、しぶとい奴やな…」

「だから~さっさとさっきの仲間ごと始末すればよかったのだ~っ!」

「取リ逃ガシタノハ、致シカタナイ…」

「デブ公とクリ公は相変わらずエグイのう…」

「結果が良ければぁ~それでいいのよ~ぅ!」

 

 

それぞれが追っていた人型兵器対し攻撃を仕掛けながら制止させようとしていた。

会話は以上の通り、傍から見れば漫才の様にしか聞こえないのだが…

追われていた人型兵器のパイロットは深く溜息を吐いた後…

嫌味を込めて電子音に変換した言葉を発した・

 

 

「……漫才はその辺にして貰おうか?」

「何や、もう逃げるの諦めたんか?」

「別に、一人の方がやりやすいからここまで来ただけ……」

「なあにぃ~!?」

「お前達の目的は私……だったら私が惹き付けた方が被害が少ないと踏んだだけよ。」

「つまり、ワイら踊らされとったんか……ようやってくれる!」

「モウイイ、テカゲンハナシダ!」

「…それはこっちのセリフ!!」

 

 

追われていた人型兵器のパイロットは踵を返すと3体の機影に対して戦闘を開始した。

その直後だった。

 

 

「!?」

「どないしたんや!?」

「まさかぁ~!?」

「これは……次元転移!?」

 

 

空間の揺らぎによってその場に居た4つの機影は姿を消した。

それは新たなる戦乱への旅立ちだった。

 

 

 

+++++

 

 

とある世界に置いて…

 

嘗て新西暦と呼ばれていた時代があった。

 

突如出現したクロスゲートの発見を皮切りに様々な戦乱が起こったのである。

 

平行世界、異世界、果ては魔法、心霊、邪神など様々な要因が出現したのである。

 

これはその世界での話であり、それと並行する幾多の世界でも様々な戦乱が起こった。

 

世界は再び、混沌に包まれようとしたがその中に希望もあった。

 

それに対抗する組織が次々と手を取り合い立ち向かった。

 

彼らはそれぞれの世界で一つの遊撃部隊として祭り上げられた。

 

 

「αナンバーズ」

 

「第13独立遊撃部隊ロンド・ベル隊」

 

「ラウンドナイツ」

 

「ブルー・スウェア」

 

「地球連合軍第3艦隊・特務分隊艦」

 

「ノイ・ヴェルダー」

 

「LOTUE」

 

「アルティメット・クロス」

 

「ブライティクス」

 

「マグネイト・テン」

 

「ホワイトベース隊」

 

「部隊呼称不明」

 

「イオニア隊」

 

「コネクト・フォース」

 

「アンティノラス隊」

 

「Z-BLUE」

 

「鋼龍戦隊」

 

 

彼らは地球と言う枠を超えて精神型知的生命体や異星人、異世界人など様々な人種で構成された部隊。

 

俗に言う、地球政府によって集められた最も扱いにくい案件の人々が集められた集団である。

 

ご丁寧に彼らはISA戦術(Integrated Synchronizing Attack、空母の役割を果たす機動戦艦と、そこに搭載された人型機動兵器による電撃戦)に特化した部隊であり、彼らの存在は敵勢力にとって討ち果たすべき存在であったが…

 

それらが集結したこの部隊そのものが異常を超える程の非常識な集まりであった為か、文字通りの返り討ちに合うのがセオリーとなってしまうほどの地球圏において最凶の規格外部隊となってしまったのである。

 

それらと敵対していた部隊や組織も数多くあったものの…

 

軌道要塞を内側から生身で撃退してしまう人外級や…

 

世界規模の精神攻撃すらを屈服させる能力者。

 

衛星型起動兵器などをいとも簡単に塵にしてしまう勇者と螺旋を持つ者。

 

経済や人心掌握による政府内からの瓦解を企てようとしてもそれらすら跳ね除け、逆に痛手を喰らわせる事の出来る政治家やハッカーなどなど…

 

数えたらキリがない程の名言ならぬ迷言や歴史上に残る出来事を起こすなどの伝説を作り上げてしまっている。

 

とある世界に置いてそんな彼らにより『究極のエゴイスト』とも呼ばれた御使い達も彼らの前に敗れ去った。

 

その大戦が終結した後、スフィアによる時空修復によってそれぞれが居るべき世界へ戻る筈だったが…

 

沈黙を続けていたクロスゲートが起動し、幾多の世界は文字通り一つとなった。

 

それは無限の可能性が交差する世界に住む冒険者達が語った。

 

 

ー新たな可能性を秘めた新世界ー

 

 

だったのかもしれない。

 

太陽系が存在した場所には超級型巨大クロスゲートが置かれ、そのゲートに進むと九つの地球と月が存在する新太陽系が存在する新世界へと変貌した新世界もまたその可能性を秘めているのだろう。

 

再編された新世界で統合された人々は様々な要因を残しつつも再び平和を取り戻す事となった。

 

中には敵対していた勢力も加わり、星を失った異星人、移民船団なども協力もあり、スムーズに移民が進みつつあった。

 

そして戦乱から半年後、植民した異星人や古代人、異世界人を交えた地球圏はゾヴォークとの和平交渉の道に進み…

 

長らく続いた星間戦争に終わりを告げる事となった。

 

時間と空間と世界を超えて…

 

新世界は新・統合歴と改暦し…

 

翌年より時を刻み始める事となった。

 

 

 

 

新・統合歴001年、1月1日。

 

新たなる歴史の幕開けを迎える新世界。

 

それは起こった。

 

 

*****

 

新たなる歴史を迎える星々がその時を待つかの様に式典に参列したり星ごとにお祭りムードになっていた…

 

そして…

 

 

「な、なんだあれ!?」

「えっ!?」

 

 

新年を迎えるお祭りに来ていた観客の一人が声を上げた。

 

星々が輝く藍色の空に突如現れた通常サイズのクロスゲート。

 

そこから飛び出す流星の様な無数の光。

 

それらは九つの地球各所へ降り注ぎ。

 

最も近い二つはこの第一地球の北米エリアへと落下した。

 

 

「クロスゲート・バースト」

 

 

と呼称されていた現象は各地球に落下した物体の調査の為に各地球に点在する独立機動部隊に調査を仰いだ。

 

しかし、クロスゲート・バーストの影響で一時的な通信障害が発生した為か…

 

発見された落下地点に落下物の存在は無く移動した可能性があると判明した。

 

それと同時期に地球各所で謎のアンノウンが発生。

 

地球政府はそれの対処と同盟を結んでいる異星人、異世界人、古代人へ情報開示と情報提供を仰いだ。

 

世界は再び戦乱へ向かいつつあった。

 

 

=続=

 

 

 

 

 

 




<今回の登場人物>

※クリスタルドラグーン
ダークブレイン軍団の配下の1体。
他の二人の除き、無駄な話を好まない様子。
(UXの劉備ガンダム達の建国した国を火の海にした水晶の竜の正体。)
ある世界にて謎の人型兵器を追っていたが、次元転移に巻き込まれ第二地球にへ転移した。

※スカルナイト
ダークブレイン軍団の配下の一人。
何故か大阪弁の突っ込み魔。
ヘラヘラしているがやる時はやる奴。
ある世界にて謎の人型兵器を追っていた。
次元転移に巻き込まれ第一地球へ転移し衛星軌道から北米エリアへ落下した。

※デブデダビデ
ダークブレイン軍団の配下の一人。
自信過剰が目立つせいか他二人のボケ担当と思われている。
しかし実力は確かでラクロアのナイトガンダムを戦線離脱に追い込んだ事がある。
(BXでの戦いでナイトガンダムが他の仲間と共に次元転移に巻き込まれた原因でもある)
ある世界にて謎の人型兵器を追っていたが、次元転移に巻き込まれ第三地球へ転移してしまう。
現在は元居城であるダークアイアンキャッスルの奪還に当たっている。

※????
ダークブレイン軍団の配下三体に追われていた人型兵器のパイロット。
仲間達を逃がす為にわざと囮となり、三体を惹き付けた。
戦闘開始前に次元転移に巻き込まれスカルナイトと共に第一地球の北米エリアに落下した。
彼女の会話から追って来た強敵三体を相手にする実力があるらしいが…


******

始めまして、宵月颯と申します。
今回が初投稿となります。
亀更新となりますので何処まで続けられるか判りませんが長い眼で見てください。
気になる事が御座いましたらコメントなどご連絡ください。


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主人公・中断メッセージ集

主人公の中断メッセージ風にまとめたものです。

章ごとに別れますが、大体は似たようなものです。


=中断メッセージ集=

 

 

<第一章編>

 

 

※リアルへの帰還

 

ハスミ「お疲れ様です、お子様は夜更かしせずに、大人の方は明日の仕事に支障がない様にお休みの時間です。」

ロサ「それではまたお会いしましょう。」

 

 

※ATXチームと

 

ハスミ「皆様、お疲れ様です。」

エクセレン「はいはい、お疲れ様。」

クスハ「皆さん、お疲れの様なので宜しかったら私特製の栄養ドリンクを…」

ゼンガー「!?」

キョウスケ「!」

ブリット「…クスハ。」

エクセレン「えっと…」

ハスミ「…(プレイヤーの皆様、早い所逃げてください。」

 

 

※DGと

 

ハスミ(ハイライト無し)「…」

DG「…」

ハスミ(ハイライト無し)「…次もプレイしてくださいね。(ニコ」

 

 

※ロサと

 

ロサ「えっと、プレイヤーの皆様お疲れ様でした。」

ハスミ「ロサ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」

ロサ「大勢の人の前じゃ緊張するよ、恥ずかしいです~。」

ハスミ「ロサに免じて次回もプレイしてくださいね。」

ロサ「ううっ///」

 

 

 

<二章編・前の部>

 

 

※EF勢とその1

 

アシェン「やっほー♪オタク勢の皆の衆!おつかれちゃん!」

輝夜「皆様、お疲れ様です。」

錫華「よいよい、良きに計らえ。」

ハーケン「おいおい、こんなに騒いでたらプレイヤーの皆が休めないだろう?」

アシェン「では、休憩しながらプレイを続けやがれです。」

ロサ「それだと全然休めませんよ。」

ケイロン「ハスミ、終わりは任せるぞ。」

ハスミ「了解です…それでは、夜の人は明日に昼間の人は休憩をしながら次回のプレイを楽しんでください。」

 

 

※密談

 

ケイロン「この様な場所でお前と語る事になるとはな。」

ハスミ「私は別に構いませんよ?」

ケイロン「そうか…」

ハスミ「プレイヤーの皆様、この先の結末を知るにはまだまだ道のりは長いですが…末永く見守ってください。」

ケイロン「その時までお前達をてい…」

ハスミ「今はそれを語ってはなりません!!」

ケイロン「む、すまん。」

ハスミ「では、おやすみなさい。」

 

 

 

※AIの語らい・その1

 

ロサ「プレイヤーの皆様、お疲れ様です。」

ガイン「ロサ、これからどうするんだ?」

ロサ「AMの定期点検があるのでそのお手伝いです。」

ブラックガイン「頑張るのもいいが、偶には休憩も必要じゃないか?」

ロサ「それでは一緒にクスハさんの特製オイルで…」

 

ガイン&ブラック「「それだけは!?」」

 

ロサ「冗談ですよ、これにて失礼します。」

 

 

※AIの語らい・その2

 

ロサ「プレイヤーの皆様、お疲れ様です。」

氷竜「私達の戦いはこれからも続きますが…」

炎竜「応援してくれよな。」

ボルフォッグ「その為にもプレイヤーの皆さんの休息は大事ですよ。」

ロサ「プレイヤーの皆様もそうですが、GGGの皆さんもしっかりメンテナンスを受けてくださいね。」

ボルフォッグ「ご心配、ありがとう御座います。」

氷竜「今度、ロサの事を光竜達に紹介させてあげたいですね。」

炎竜「きっと喜ぶよ。」

ボルフォッグ「同じ女性型ですから気も合うでしょう。」

ロサ「その時はお願いします。」

 

 

※AIの語らい・その3

 

ロサ「プレイヤーの皆様、お疲れ様です。」

ファルセイバー「…」

ブルーヴィクター「…」

ロサ「お二人とも、如何かされました?」

ファルセイバー「いや、特には…」

ブルーヴィクター「女性型のAIロボットは光竜達だけかと思っていたのでな。」

ロサ「?」

ファルセイバー「ロサ、その…」

ブルーヴィクター「ファルセイバー、男らしく言ったらどうだ?」

ロサ「ファルセイバーさん?」

ファルセイバー「こ、今度、その、あの!!?!」

 

(水蒸気を上げてぶっ倒れるファルセイバー)

 

ロサ「ファルセイバーさん!?」

ブルーヴィクター「余りの恥ずかしさにオーバーヒートを起こしたか。」

ロサ「オーバーヒート!?急いで氷竜さんにフリーズガン貸して貰ってきます!!」

ブルーヴィクター「ファルセイバー、お前の初恋は長引きそうだな。」

ヨウタ「それよりもフリーズガンは拙いだろう!」

ユキ「そうだよ、ファルセイバーが氷漬けになっちゃうよ。」

ブルーヴィクター「プレイヤーの皆もゲームばかりせずに青春も謳歌してくれ。」

 

 

 

<二章編・後の部>

 

 

※父と娘

 

光龍「やっほー、孫光龍だよ。」

ハスミ「…」

光龍「何か判らないけど、この話では僕って正義の味方っぽい扱いになっているね。」

ハスミ「どちらかと言うとダークヒーローの間違いじゃ?」

光龍「まあ、こう言うのも悪くないね…何事もハッピーに。」

ハスミ「新しい生活を楽しんでいるみたいなので…まあいいですよね。」

 

 

※扱い方に気を付けましょう

 

ジ・エーデル「諸君、ジ・エーデル・ベルナルだよ。」

ジ・エーデル「何だか判らない内に二章も終わったし、僕も最後の最後で消されちゃったね。」

ジ・エーデル「扱い酷くない!?」

ハスミ「…知りません。」

光龍「もっかい、消し炭にしてもいいかな?」

ハスミ「それは同意します。」

ジ・エーデル「この二人、やっぱり酷い!!」

光龍「君が言える筋合いは…」

ハスミ「無いです。」

 

 

※気になる事

 

メール「ねえ、ダーリン。」

ランド「メール、どうした?」

メール「スフィアって一体幾つあるのかな?」

ランド「確かに…」

セツコ「十二星座をモチーフにしているとアサキムが話していたのでおそらく12のスフィアがあるのでは?」

メール「そんなに?」

ランド「俺とセツコのスフィアを合わせるとここにあるのは二つって事か…」

メール「残りの10個のスフィアってどんなのだろうね?」

セツコ「私達の様な反作用があるのは解りますが…」

ハスミ「総合的に考えれば死にかけるって事は該当するかもね。」

メール「うわ…」

 

 

 

<三章編>

 

 

※似ている様で…

 

 

ハスミ「…」

シュバルツ「どうした?」

ハスミ「御免なさい、ちょっと気になって…」

シュバルツ「気になるだと?」

ハスミ「知っている人に雰囲気が似ていたので…その。」

シュバルツ「そうか。」

ハスミ「…(正確には声ですけどね。」

 

 

 

<四章編>

 

 

※簡単二分位であらすじ解説

 

事故でこの世を去った主人公ハスミは崩壊と終焉迫るSRW世界へと転生。

前世の記憶とアカシックレコード、ヤギ座のスフィアを駆使し災厄から大切な人達を護る為に奮闘する。

例え、その志と願いが通じなくても彼女は突き進む事を。

ガンエデンと化した日より愛する人達と共に贖罪の戦いが始まる。

 

ハスミ「自分で言うものなんですが…これってEX・HARDルートですよね?」

 

 

<EX編>

 

 

※T発売

 

ハスミ「スーパーロボット大戦T発売おめでとうございます。」

ロサ「ハスミ、このスーパーロボット大戦TのTって何の略なの?」

ハスミ「地球を英訳した文字の頭文字から来ているのよ、間違っても監督さんではないので悪しからず。」

ロサ「そうなの…所で私達がTの人達と出会う事ってあるのかな?」

ハスミ「在るのかもしれないし、無いのかもしれない、要は執筆者次第って事ね。」

ロサ「長そうだね。」

ハスミ「そうね、私もいい加減…あの人と再会したいわ。」

 

 




ネタが思いついたら徐々にUP予定です。


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断章ノ詩篇
謎話・零 『消失《ロスト》』


いつか何処かの記憶。

本来なら消える筈の記憶。

何処かで繋がりそして。

ここへ集約し紡がれる。

これはその一端の出来事。


ようこそ、画面外世界(プレイヤー)の皆様。

 

ここは忘れ去られた断片を記す出来事。

 

現在進行している幻影のエトランゼ(シナリオ)で気になった点を纏める意味での話となります。

 

皆様は何故彼らが過去の記憶を所持しこのシナリオに転生したか気になっていると思われます。

 

本来ならこの物語の最終決戦時にお話する予定でしたが、余りにも長すぎるのでこの辺で語っておく事と相成りました。

 

では、現在記憶を所持する人々を交えてお話ししましょう。

 

この世界の成り立ちと混乱の世となった理由。

 

彼らが現れた理由を…

 

 

******

 

 

「前置きはこの辺で宜しいですかね?」

「そうは言うけどよ、ハスミ…本編で無茶し過ぎだろう!!」

「リュウセイにだけは言われたくないけどね。」

「な、何でだよ…?」

「一昔前までは『無敵のリュウセイ様』とかはっちゃけたよね?」

「うっ!」

「それにラトゥーニやマイに対して鈍感すぎるし…リュウセイ病の発生源になったりしているじゃない。」

「へ?」

「リュウセイの様に恥ずかしい技の名前を叫んじゃうって病の事よ。」

「あ、そっちか…」

「自覚はあるの?」

「う~ん、アヤにその事で叱られた。」

「やっぱり、アヤ大尉かなり怒っているんじゃないの?」

「だよな。」

「リュウセイを弄るのはその辺にしておけ、ハスミ。」

「了解です、キョウスケ少尉。」

 

 

話の舞台はATXチームの分隊室。

 

部屋狭くないとかは気にしないでください。

 

ちなみに合流していないメンバーも含まれています。

 

 

「さて、クジョウ准尉…ここでは洗いざらい話して貰うが構わないだろうか?」

「はい、大丈夫です。」

「やけに素直じゃねえか?」

「マサキ、正直言えば私がここで話した事は無限力によってリセットされちゃうから大体話しても問題ないって思っただけよ。」

「そう言う事かよ!」

「まあ、それはさておき…聞きたい事は何でしょうか?」

 

 

※何故記憶を所持した者が多く居るのか?

 

 

「それは確固たる意思の強さによるものです。」

「意思の強さ?」

「ええ、条件はそれぞれ違いますが…共通の条件として世界の終焉を体験したが一つ目の条件です。」

「世界の終焉?」

「イデの光、人類補完計画の発動、調律、オリジンシステム、エタニティ・フラット、アポカリュプシス、ユガの審判など聞き覚えのある現象は有りませんか?」

 

 

「「「「「!?」」」」」」

 

 

「それらこそが世界終焉の結末、いわばBADEND…皆さんはいずれかを体験した筈です。」

「確かに俺達はそのいずれかを体験した事がある。」

「はい、そしてもう一つの条件は理由はどうであれ真化に至る成長を遂げたと言う点です。」

「真化ってたしか…」

「Z事変における御使いへの対抗策の一つだった現象だ。」

「そして最後は強固な自我…要は諦めが悪かったって事ですね。」

 

 

心辺りのある人物達は一斉に顔を背ける。

 

 

「以上の条件を満たした者が次の世界で虚億、実億として記憶が蘇ったという訳です。」

「待ってくれ、その条件が正しければ…敵の方にも記憶が蘇っている可能性もあるのではないのか?」

「そこはアカシックレコードが微調節してくれてますので大丈夫です。」

「えっと…つまりどう言う事ですか?」

「負の無限力に手を貸した魂達はリセットの影響で記憶浄化されてしまったって事です。」

「それではここに居るのは正の無限力の影響だと言うのか?」

「それに近いですが、正確には狭間の無限力と言った方がいいでしょう。」

「狭間?」

「生前に決められた結末を認められず、やり遂げられなかった事がある為に正にも負にも転ずる事が出来ずに曖昧になってしまった魂達が行きつく先です。」

「…」

「そう言った魂は輪廻転生後に稀ですが、記憶を保持したまま転生する事があるみたいです。」

「言い得て妙だが…」

「でしょうね。」

 

 

※現在の世界における改変事例は?

 

 

「正直に言いますと…この世界は先程話した転生者達が悲劇的な結末を阻止する為に用意された世界です。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「事前に用意された世界の駒として我々が転生させられたのか?」

「いえ、この世界は皆さんが結末を阻止し新たな未来を切り開く為の世界です…ただその代償は大きいです。」

「代償?」

「もしも結末を阻止出来なければ、前の世界に戻され…永久に同じ結末を繰り返させられるからです。」

「つまり…俺達は二度と未来を勝ち取る事が出来ないって事かよ!」

「だからこそ失敗は許されないのです。」

「初っ端からハードな戦いとは思ってたが…そんなカラクリがあったのかよ!」

「最初の結末はどうであれ、皆さんは少しずつですが良好な未来を創り上げています。」

「救えなかった命も多々あるがな。」

「ええ、それは無限力の介入によるもので絶対に防ぐ事が出来ない事例でしたから…」

「君はアカシックレコードから知らされていたのだろう?」

「知っていても踏み出す為の力も無ければ戦う力も持たない幼子の頃にどうしろと?」

「…」

「勿論、私自身も何も出来ない歯がゆさはありました。」

「…」

「だからこそのホルトゥスなのです。」

「ハスミ、ホルトゥスは一体何者なんだ?」

「悲劇的結末を迎えた世界から偶然逃げ落ちた人々の集まりです。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「見た事がない機動兵器や技術も並行世界からの逆輸入によるものです。」

「それじゃあラダムに寄生された僕らを救えたのも…」

「彼らの技術力、そして私が知っていたからです。」

「DGの事も知っていた…と言う訳か?」

「DGに関してはアプローチの仕方次第で救える事が出来ましたから。」

「その代わり、お前が洗脳されたりとこっちは生きた心地がしなかったぜ。」

「それについては反省しております。」

 

 

※ハスミは何者なのか?

 

 

「私は皆さんと同じ転生者ですが、転生する前が異なります。」

「異なる?」

「私は……皆さんの存在が物語として定着している世界からの転生者です。」

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

「そんな事ってあるのか…!?」

「現実ではありえませんが、現に私はこうして存在しています。」

「事例がある以上は認めざる負えないか…」

「ハスミ、お前は前の世界でも念者だったのか?」

「いえ、ごく一般のしがないOLをしていました。」

「OLって事は…結婚とかしていたとか?」

 

 

地雷を踏むリュウセイ。

 

 

「まさか?婚姻を約束していた相手に浮気された挙句に捨てられ!向こうが振られたからヨリを戻せとしつこく迫り!!挙句の果てには車道に押し出されて殺される結末を迎えた私が!!!結婚?ありえませんねw」

 

 

生々しい真っ黒いオーラを醸し出すハスミ。

 

 

「随分と生々しい人生を送ったみたいだな。(汗」

「ええ、御蔭様で…軽率な男には細心の注意を払っていますよ。」

「通りでイルム中尉やライトとかのナンパをのらりくらり躱していた訳だ。」

「弱点は把握しておりましたので。」

「ま、まさか?」

「勿論、皆さんの弱点も把握してますよ?幼少期の話したくない事から恥ずかしい中二病の様な黒歴史までね?」

 

 

「「「「「…」」」」」」

 

 

「私の事はもういいですかね?」

 

 

※今後危惧すべき事。

 

 

「私が現在危険視しているのは破滅の王と御使いです。」

「あれ?霊帝は?」

「いずれ理由は判る時が来るでしょう。」

 

 

*******

 

 

それでは無限力からのリセットの時です。

 

皆様のここでの記憶はリセットされ、幻影のエトランゼの時間軸に戻ります。

 

では、またいつか。

 

 

=続?=

 



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狭間ノ詩篇
閑話・零 『滅曲《マーチエンド》』


何処かで聞こえる滅びの曲…

それは星に籠り…

平和を謳歌する中で…

静かに静寂な滅びを迎えた…

幼き日の少女は『夢物語』として静かに紡いだ…



曇天の空に草木も咲かぬ大地。

 

それは燃え盛る鉄屑達の亡骸で埋まっていた。

 

まるで墓場の様に。

 

 

 

『どうして、何故!?』

『噛み砕け…!』

 

 

******

 

 

 

 

 

蒼い。

 

蒼い。

 

蒼い。

 

蒼いのに何故そんなに真っ赤なの?

 

蒼い狼さん?

 

どうしてそんなに真っ赤に染まってしまったの?

 

蒼い狼さんは何も言わずに傍に居た大きな人をガブリと食べてしまいました。

 

 

ボリボリ。

 

ボリボリ。

 

ボリボリ。

 

 

お腹一杯になった蒼い狼さんは大きな朱い狼さんになりました。

 

大きくなった朱い狼さんは次のご飯を探し求めて動きました。

 

 

小さいけれど神様の様な心の王様。

 

鋼鉄の人。

 

赤と白と黄色の人。

 

太陽の人。

 

三日月の人。

 

昆虫の人。

 

獣の人。

 

白い人。

 

赤い人。

 

遠い星から来た人達。

 

 

そして。

 

 

悲しい思いをした蒼い人。

 

苦しい思いをした紫の人。

 

悔しい思いをした金の人。

 

恨みたい思いをした傷の人。

 

 

皆、皆、皆。

 

 

朱い狼に食べられてしまいました。

 

終わった頃には朱い狼のお腹は満腹でした。

 

そしてお腹の中から聞こえるのです。

 

色々な声と一緒に音楽が聞こえた。

 

 

 

<風の行進曲>

 

 

 

心地よい音楽を聴いた朱い狼は言いました。

 

 

 

『愚かな静寂を求めたのはお前達だ。』

 

 

 

朱い狼はあざ笑いながらひと眠りにつきました。

 

 

 

『我々の選択は間違っていたのか?』

 

 

 

朱い狼のお腹の中で食べられてしまった人の一人が答えました。

 

でもそれは誰にも聞こえずに消えてしまいました。

 

まるで風の様に。

 

 

 

『見つけたぞ。』

 

 

 

居眠りをしていた朱い狼を見ていた人が居ました。

 

銀色の腕を持った大きな蒼い鬼でした。

 

 

『ベーオウルフ!!』

 

 

大きな蒼い鬼は朱い狼を殴りました。

 

朱い狼は眼を覚ましましたが殴られてしまったので横にふっ飛びました。

 

しかし、一杯食べてぐっすり寝た朱い狼は元気だったのでそんな事があっても平気でした。

 

蒼い鬼と朱い狼はこうして戦い始めました。

 

そして戦いは止まりませんでした。

 

何度も何度も傷つけ合いました。

 

そして。

 

紫の魔女が言いました。

 

 

『もう時間よ。』

 

 

蒼い鬼は一緒に行けないと話しました。

 

何度言おうとも聞き入れないと悟った紫の魔女は旅の仲間と一緒に先に外の世界に旅立ちました。

 

紫の魔女は青い鬼の為に外の世界に繋がる扉と鍵を残しました。

 

しかし扉と鍵は魔法で後5分しか開いて置く事が出来ません。

 

蒼い鬼は扉が閉じる時間まで朱い狼と戦い続けました。

 

時間が訪れる頃に扉の前へ朱い狼を誘いました。

 

蒼い鬼は扉に入ると紫の魔女が残した魔法を使いました。

 

朱い狼は炎に焼かれて怨みの声を上げながら消えました。

 

蒼い鬼も扉を閉じて外の世界へ向かいました。

 

扉も閉じると炎に焼かれて壊れました。

 

そして世界は静かに壊れました。

 

 

† † † † †

 

 

10年前のテスラ・ライヒ研究所にて。

 

 

 

『わっ!?』

 

 

 

研究所の住居スペースの一室にて備え付けのベッドから飛び起きた少女が居た。

 

少女はびっしょりと冷や汗を出して震えていました。

 

薄暗いライトに照らされた室内からタオルを探し出すと濡れた場所を拭き上げた。

 

そして室内から出て展望スペースに歩いて行き、外の景色を見ながらこう呟いた。

 

 

 

風の行進曲(マーチウィンド)、助けられなくてごめんなさい。』

 

 

 

北米の夜空に流れ星が落ちて行く様子を見ながら少女は一筋の涙をこぼした。

 

 

=終=




<今回の登場人物>

≪マーチウィンド≫
異星人による侵略を受け、半ば彼らに従う者と反逆する者に別れた地球の独立部隊。
監視者と呼ばれる存在との戦いの後、地球に封印を施して外宇宙からの脅威を退けると言う選択を選んだ。
しかし、既に地球に入り込んでいたアインストによって浸食した『ベーオウルフ』によって壊滅した。

≪???≫
※ベーオウルフ
平行世界でのキョウスケ・ナンブ、階級は大尉。
アインスト化によって『ベーオウルフ』と化し、愚かな静寂を呼び込んだマーチウインドを壊滅させた。
その後、アクセル・アルマーとの一騎打ちで消息不明となる。

≪シャドウミラー≫
※アクセル・アルマー
平行世界で『ベーオウルフ』を倒した後、時空転移し生まれ故郷の世界と決別した。


≪旧戦技教導隊≫
※ハスミ・K・ラウ
カーウァイの養女となった幼い頃のハスミ。
旧戦技教導隊ではマスコット扱いになっている。
サイコドライバーとしての能力の一つ『夢見』で平行世界でのマーチウィンドの壊滅とシャドウミラーの逃避を知る。
そして自身の力がまだ完全に未覚醒である事と戦う力を持たない為にマーチウィンドを救えなかった事を悔いている。


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閑話・壱 『紐解《ヒモトキ》』

次の戦場へ向かう前。

睡蓮は今は亡き家族への祈りを捧げる。

己のルーツを紐解く為に。

そして新たな思惑が巡るのだった。


アイドネウス島へ出発する前日の早朝。

 

私は今後こちらへ戻れる時期が分からないので少し早い墓参りに向かった。

 

伊豆内陸の郊外に位置するこの世界での私の実家。

 

かなり古いお屋敷であるが使い勝手はいい。

 

祖父母が無くなる少しの間だけ住んでいた。

 

今は近所に住む三人姉妹のお姉さん一家にお願いしてもらっている。

 

私の実家から何かと便宜を図って貰っており、その縁からだそうだ。

 

我が家の墓標は伊豆の海が見渡せる山沿いの丘にあり、数多くの墓石が立つ中でひっそりとそこに立っていた。

 

祖父母が墓石を豪華にしたがらない謙虚性もあった為だ。

 

ご丁寧に家族一緒に遺骨が収められる日本式である。

 

しかし血縁上の父の遺骨は入っていない。

 

理由とすれば生前に母方の祖父母から絶縁をされてしまった事と遺伝上の父親の遺骨が発見されなかった事である。

 

事件発覚後に崖からの転落自殺をしたのだ。

 

死体は海に流れてしまい、発見されていない。

 

見つかったとしても無縁仏として葬られるだろう。

 

 

 

*****

 

 

 

「御爺様、御婆様、母さん、私…軍人になりました。」

 

 

墓石の周囲を掃除し打ち水とお供えの花束を供え終えると私はお線香を添えた。

 

そして合掌を捧げた。

 

 

「私がいずれ戦場に出るのは運命だったのかもしれません。」

 

「それが九浄家の使命ならば、私もそれに従います。」

 

「だから見守ってください、お義父さんと共に行ってきます。」

 

 

合掌を終えると私は打ち水用の桶を持って実家の墓を後にしようとした。

 

するとどこかで見慣れた姿をした男性がお供えの花束を携えて実家の墓へ向かって来ていた。

 

 

「失礼、ここに九浄家の墓があると伺ったのでお参りに来たのだが…」

「家の墓にですか…でしたらこの先の墓がそうですが?」

「君はもしや…九浄家のご息女のハスミ嬢かな?」

「はい、そうですが……貴方は一体?」

「これは失礼、私はこう言うものです。」

 

 

男性に渡された名刺を見遣ると少し驚いた表情のまねをした。

 

 

「ああ…あの、一介の大企業の社長様が何故私の家に?」

「君のお爺様には多大な恩義があってね、御葬式の際にも顔を出させて貰った事もあるのだが?」

「そうでしたか、この度のご足労ありがとうございます。」

「それはこちらの台詞だよ、亡くなられた事を惜しむ者達も多く居たものだ。」

 

 

 

あえて言おう。

 

何で貴方が出てくるの!?

 

時系列ならもうちょっと先でしょうに!

 

幻惑のセルバンデスさん。

 

何かジャイアントロボルート進んでいませんか?

 

このままだとバラルの園とバベルの塔でダブル頂上決戦の結末しか見えてきません。

 

いやー!!

 

 

 

「ハスミ君、宜しければお時間はあるかね?」

「あ…あの少しならあります。(逃げたいでござる、逃げたいでござるです!」

 

 

 

そのままの流れで私はセルバンデスと共に再び墓参りをした。

 

それでも危機を脱した訳ではない。

 

いくら私がサイコドライバーでもこの状況は拙いでしょう!

 

無数の未来予知でも判ります。

 

下手打つとここで死亡フラグ真っ逆さまだよ。

 

アカシックで調べたら『舞台演劇』使えるってどんだけーですか!?

 

てか、あれは漫画版でしょ!?

 

そもそも私の正体は横浜での変態忍者のせいでバレてるし!

 

てか、名前言っちゃった私もどうかしてるよ!

 

ヤバい、積んでます!

 

そんな私が脳内で一人暴走をしているとスマホの音が響いた。

 

互いにスマホを取り出すと音の主は私ではなかった。

 

 

 

「…お仕事ですか?」

「ああ、重要な案件でね。」

「ご苦労様です。(お願いですから、このまま静かにお帰りください。」

 

 

 

墓参り後、何とか私は危機を脱した。

 

本当に心臓に悪いです。

 

私はその足で実家の屋敷を訪れて亡き御爺様より託された手記を手にした。

 

それによると我が家系は過去にとんでもない事をしでかしていたらしい。

 

箇条書きするとこうである。

 

 

 

 

※古より続く守人の家系。

 

※記述によると機械仕掛けの翼を持った女神、大いなる意思と接触している。

 

※人類が宇宙に進出する遥か過去に異星人と度々接触していたらしい。

 

※代々女傑当主によって繁栄、男尊女卑が激しい時代は男装の麗人など。

 

※表は男性当主、真の当主は女性となっている。

 

※明治22年頃日本海溝付近にて謎の船舶が沈没する様子を黙視。

 

※その後発生した大戦中に先祖が超機人に接触し搭乗者をしていた。

 

※その後の戦いでオーダーと共にバラルと接触、後に壊滅に追い込んだ。

 

※上記の功績により西暦時代まで日本政府より影の守護を任命される。

 

※メテオ3による西暦時代崩壊後、日本政府より守護を解任、別の道を模索。

 

※地球連邦軍設立を機に一族の一部が入隊、影より軍内部の安定を図る。

 

※数十年前、国際警察機構とBF団との戦いに第三者として乱入し現当主がある約定を定める。

 

※上記の戦いで詩篇刀・御伽が破損の為、地下倉庫に安置したものの喪失。

 

※15年前、次代当主誕生、同時に現当主の身体並びに能力の弱体化。

 

※10年前、現当主事故により死亡。

 

※半年後、当主暗殺を謀った婿養子の後妻一族を社会的抹殺、婿養子縁切り、罪無き赤子は里子に。

 

※三ヵ月後、先代当主死亡。

 

 

 

そこから途切れており、ささっと流し読みをした結果がこれである。

 

但し、この手記はかなりの厚みを持っているので他にもやらかした事は多そうである。

 

んで。

 

ご先祖様、一体何やらかしてくれちゃってるんですか!

 

母さん、国際警察機構とBF団に喧嘩を売るなんて貴方どんだけ強者なのですか!?

 

て、言うかあの凶悪レベルの人外と戦ったのですか貴方は!!?

 

今初めて判明、過去の御爺様と母さんは人外クラスの狂人ですた(泣。

 

詩篇刀・御伽の件は交差する世界か無限の開拓地に行ってこいと言うフラグにしか思えない!!!

 

絶対に動く死体と巨大トカゲとバトりたくないです!

 

後、生身でカタパルトから射出されるのも絶対に嫌でござる!!

 

一通り某漂流者なギャク暴走した私は落ち着きを取り戻した後、屋敷を後にした。

 

驚愕の事実を知ってしまった以上、やるべき事が増えてしまったのは事実だ。

 

よし、駄菓子屋に寄って英気を養おう。

 

あーしばらくはBF団に襲撃されない事を祈りたいね。

 

本当に。

 

 

******

 

 

とある南の島にて。

 

 

「厄介な事をしてくれましたね。」

「…」

 

 

何処かのリゾートを思わせるプールサイドにて南国の気候であるにも関わらず白いスーツを着こなす男性がビーチベッドに寝そべっていた。

 

 

「何を言いだすと思えば、貴様こそ隠し事とは…どういうつもりだ?孔明。」

「マスク・ザ・レッド、貴方こそ何をおっしゃいますかな?」

 

 

大きめのグラスに注がれたメロンソーダを啜りながら孔明と呼ばれた男性はマスク・ザ・レッドの話を聞いていた。

 

 

「九浄家の人間は全て絶えた筈……だが生き残りがいたとは聞いていないが?」

「ええ、あの九浄の長老にしてやられましたよ。」

 

 

まさかあの九浄家の姫巫女が生きていたとは。

 

いやはや、戦況はまだまだ私達を見捨ててはいないようですね。

 

さて、我らがビッグファイアはどう出られますかな。

 

 

「かつて、我らBF団を含め国際警察機構の者共は全員その能力を約定によって九浄家当主に封印されたのだぞ。」

「ええ、あれは厄介な出来事でしたよ。」

「ならば…!」

「お待ちなさい、例え九浄家の生き残りがいたとしても封印は解除出来ないのですよ?」

「何故だ!あの小娘一人始末すれば済む事…っ!?」

 

 

呆れた表情ではあるがいつもより鋭い目つきで孔明はある言葉を発した。

 

 

「九浄家先代当主である『蓮華』の能力である『約定』はその一族に危害が及んだ場合、永久に破棄する事が出来ないと付け加えてあるのですよ。」

「…アルベルトに監視を任せていたのはそう言う訳か?」

「その通り、唯一『約定』を破棄できる次代の当主を死なせる訳にはいきませんからね?」

「ふん、俺は好きにやらせて貰うぞ!」

「ビッグファイアに逆らうおつもりで?」

「いや、我らがビッグファイアに逆らう事はない、俺自身あの小娘に興味があるのだ。」

「私は説明しましたよ?くれぐれも厄介な事にならない様にして貰いたいですな?」

 

 

孔明が話し終えるのを待たずにマスク・ザ・レッドはそのままパラソルの日陰になっている影に沈み込む様に姿を消した。

 

そして一人になった孔明も溜息をついた後、誰も居ない筈の場所で誰かに話しかける様に答えた。

 

 

「分かっています、まあ悪い様になりませんよ。(あれはややこしい…恋と言うものですからね。」

 

 

******

 

 

 

「くしゅん!」

 

今、ものすごく嫌な悪寒がしたような?

 

=続=

 




<今回の登場人物>

《BF団》

※幻惑のセルバンデス
幻惑もしくは眩惑と呼ばれる十傑集の一人。
約定事件によって『舞台演劇』などの能力を封印されている。
現在は『オイル・ダラー』と言う表会社で行動している。

※策士・諸葛孔明
BF団のナンバー2、その所載は謎に包まれているが今回の会話で腹黒さは日増しにUPしている模様。
約定事件に関わっており、本来の能力『水魚の交わり』を封印されている。


《九浄家》

九浄蓮華(レンゲ・クジョウ)
九浄家の先代当主であり、ハスミの母親。
享年27歳。
約定事件の首謀者にして固有能力『約定』によって国際警察機構並びにBF団の能力を封印した張本人。
『約定』によって封印したのは双方の特殊な力のみであり武道に関しては何の隔たりもなく使用は可能らしい。
当時のヤング時代の孔明曰く「私の数倍は腹黒かったですよ。」と呟いている。
刀剣の使い手で約定事件では詩篇刀・御伽で阿鼻叫喚の絵図を披露したと言う。
二つ名は『深淵の蓮華(シンエンのレンゲ)』。


九浄 漣(サザナミ・クジョウ)
九浄家の先々代当主、ハスミの祖父。
享年78歳。
当時の政財界からは『鬼震の漣(キシンのサザナミ)』と恐れられており、かなりの猛威を振るっていたらしい。
天下り政治&腐敗政治を断固毛嫌いしており、当事者達を再起不能なまでに社会的抹殺するなど迷宮入りの騒動を度々起こしていた。




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閑話・弐 『祈願《イノリ》』

年の終わりと始まりを迎えるこの日。

人々は何を願い何を求めるのか。

ここにもそれを願い祈る姿があった。

睡蓮はいずれ訪れるであろう戦いから無事に戻る事を願うのだ。

この先に現れるであろう災厄と危機から友を生還させる為に。


新西暦186年12月31日。

 

日本で言う大晦日の日である。

 

地球並びに各コロニーで厳戒態勢のまま年を迎える準備を着々と進めていた。

 

ここにもそれを願う者達の姿があった。

 

 

「年末だって言うのにギリギリまで任務だなんて。」

「少尉、しょうがないですよ。」

「ふふっ戻ったら私が美味しい栄養ドリンクを出しますよ?」

「あ、え、遠慮しとくわ。」

「そうですか?」

「うん、疲れてないし。」

 

 

私達ATXチームも各地が祭りムードになる中で警戒態勢のまま各地の見回りを行っていたのだ。

 

民間人ではない私達が一緒にお祭りに参加できるとは思っていない。

 

これも任務の一環として割合する。

 

 

「アサルト0より各機へ基地に帰還すればエルザムが年越しと年明けの料理を準備して待っている。」

「わぉ!エルザム少佐ったら太っ腹ね。」

「楽しみです。」

 

 

隊長の言葉を皮切りにそれぞれが喜びの声を上げていた。

 

任務を全うした後、それぞれが伊豆基地に帰路を向けるのだった。

 

 

******

 

 

伊豆基地に帰還した私達は任務中のレポートを纏めて提出し他の部隊や仲間になった人達の集うホールへ向かった。

 

既に何人かが待ちくたびれた様で話を進めていた。

 

そしてレイカー司令の挨拶を始め、今年の労い言葉と来年の誓いを立ててパーティが始まる。

 

そしてエルザム少佐を筆頭に非番だった女性パイロット達がお手製の料理を運んで来た。

 

今回は人数が多いので立食式となっている。

 

 

「ささやかながら年越しの料理と年明けの定番である御節料理を用意してみた。」

 

 

他にもソフトドリンクなどが揃っている。

 

当然、祝い事であっても酒類は禁止である。

 

パーティ中に出撃命令があっても可笑しくはないのだ。

 

全員にソフトドリンクが配膳され終わるとレイカー司令の号令がかかる。

 

 

「では、乾杯。」

 

 

「「「「「乾杯!!!!!」」」」」

 

 

ホール内にグラスを軽く鳴らす音が響いた。

 

パーティの始まりである。

 

 

 

「リュウセイ、これ…私が作ってみたの。」

「ラトゥーニが?どれどれ?」

 

 

軽食を取って食べていたリュウセイにラトゥーニが自分で作ったと言う料理を持ってきた。

 

どうやらおにぎりの様である。

 

 

「これマグロのトロか?」

「うん、マグロのトロ…だから”トロ“ニウムおにぎり。」

「うん、醤油ダレが効いててうまいぜ!」

「良かった///」

 

 

何処かでリア充爆発しろとかのセリフが聞こえて来るが気にしない。

 

寧ろ気が付いてない二人であった。

 

 

「皆さん、私もデザートを作って置いたの。」

「わお、さすがハスミちゃん。」

「任務中だったのでこれ位しか出来ませんでしたけど。」

「ハスミ、ありがとう。」

「隊長はこっちの果物ゼリーを…」

「うむ。」

「そっか、ボスって甘い物苦手だっけ?」

「一口食べただけでも卒倒する勢いだからな。」

「いつも隊長用に別で作っておくんです。」

「うまい。」

「テンペスト少佐…いえ、お義父さんもどうぞ。」

「ハスミ、いつも済まないな。」

 

 

ハスミがATXチームに渡したのはホワイトチョコと苺のムースである。

 

ちなみにゼンガーには砂糖不使用の果物ゼリーである。

 

事前に作って冷やして置けばすぐに出せる物だ。

 

 

「ドモン、私もエルザム少佐に習って作ってみたの。」

「ん、いいのか?」

「いいのよ、私がドモンに作ったのだから。」

「そ、そうか…ありがとうレイン///」

「ふふっ。」

 

 

リア充爆発しろその二。

 

 

「こらーボス、甲児君に作った料理を!!」

「ボス、食い物の怨みはって事だ!!」

「に、逃げるだわさ!!」

 

 

リア充爆発しろその三。

 

 

「カミーユ、ごめんなさい。」

「失敗は誰にでもあるよ、また今度頑張れば。」

「そ、そうよね。」

「ありがとう、カミーユ。」

 

 

リア充爆発しろその四。

 

 

「何なんだこの甘ったるい空気は…」

 

 

呆れる元影鏡隊の隊長。

 

 

「楽しいですね。(ああ、腹筋崩壊したいほど笑いたいよ。」

 

 

そんな感じでパーティは進んでいった。

 

そして年を越す除夜の鐘が鳴り響く中で一同がホールの窓ガラス付近に集まった。

 

伊豆の街で年越し恒例の花火が上がるのだ。

 

それを伊豆基地のここからでも見上げる事は出来るので全員が集まったのだ。

 

藍色の夜空に広がる色とりどりの花火。

 

それぞれが祈りを捧げる。

 

良いお年を。

 

そしてhappynewyearと口にするのだった。

 

=続=

 

 

 



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閑話・参 『過去《カコ》』

ふと思い出すのは前世の記憶。

程遠い筈がまるで昨日の様に思い出される。

これは睡蓮が奇跡を目の当たりにする前の記憶。


突然だが、私の前世での事を話しておきたい。

 

まあ、世話話と思って頂いて構いません。

 

産まれは普通の家庭だった。

 

父と母、歳の離れた兄だ。

 

仲はまあ良かっただろう。

 

そんな中で平穏に育って行った。

 

次第に成長し大人に成り、一人立ちをした。

 

新生活、仕事、趣味。

 

それは静かに過ぎ去っていった。

 

ある事を除いては…

 

 

「お前とは付き合えない。」

 

 

ある日、付き合っていた彼に別れを告げられた。

 

一方的にだ。

 

私は一気に冷めてしまい諦めの様にこう伝えた。

 

 

「そう、元気でね。」

 

 

自分ではあっさりしていた方だ。

 

その後は自宅に戻ると強烈な吐き気と共に台所へ向かった。

 

拒絶、悲しみ、怒り、そんな感情に支配された。

 

吐いて、吐いて、吐き出した末に私は泣きながら笑っていた。

 

何でこんなに無力で情けないんだろう。

 

その後、本調子を取り戻すまで何も口に出来ずにいた。

 

何か口にすると吐き気で戻してしまう。

 

それで一気にやせ細った。

 

数週間程過ぎた頃だっただろうか。

 

同じ職場の同僚が話しかけてきたのだ。

 

 

「ねえ、〇〇〇。」

「どうしたの?」

「彼の事、聞いた?」

「何を?」

「やっぱり知らないか…」

 

 

同僚に詳しく聞いてみると私と付き合っていた彼が新しく配属された新人の子と一緒に居るのを見かけたと話してくれたのだ。

 

それも何人もだ。

 

もちろん私と彼が付き合っている事は同じ部署の仲間なら知っている事だったが…

 

どうやら彼は新人の子に乗り換えたらしい。

 

そう、捨てられたと確信した。

 

そしてまた吐き気だ。

 

同僚の子が付き添ってくれていたが、誰が見ても余りにも惨めで無様な光景だっただろう。

 

 

「彼とヨリを戻したい?」

「全然、多分…見ただけで吐くと思う。」

「そうだよね。」

「うん、もう…誰も愛したくないよ。」

 

 

それが私を現実での恋と切り離す切っ掛けになったのだ。

 

学生の頃に止めてしまった空想に入り浸る様になったのもその頃だ。

 

趣味の一環で仕事の合間に物語を書き綴りフリーの小説サイトに投稿する事で満足感を得ていた。

 

仕事をし空想に耽り外へ出て妄想を膨らます。

 

そんな日々が続いた。

 

 

「〇〇〇、ヨリを戻さないか?」

「は?」

 

 

吐き気が収まり、静かに過ごしていた私の前に現れた元彼。

 

何を思ったのか急に元の関係に戻らないかと迫って来たのだ。

 

 

「実は付き合っていた子がさ、お見合いで決めた相手と結婚するからって言われて別れて来たんだ。」

「それで?」

「お前、まだフリーだろ?だからさ…」

「…」

 

ハッキリ言おう。

 

気持ちが悪い。

 

誰のせいで現実を愛せなくなったと思っているの?

 

お前のせいだろう。

 

 

「気持ち悪い。」

「へっ?」

「二度と近寄らないで…」

「どうしてだよ!」

「貴方の顔を見ると吐き気がするのよ。」

「何でっ?」

「これ以上、付きまとうなら警察呼ぶからね。」

 

 

そうはっきりと伝えて別れた。

 

恋に破れたからって振った相手に戻る調子者などこっちから願い下げだ。

 

だが、職場が一緒なだけに会う確率は多いのだ。

 

朝から晩まで付きまとい。

 

上司に相談して配置換えをしても追ってくる。

 

事情を知る同僚のおかげで彼はその冷たい視線に居たたまれななくなったのだろう。

 

数か月後に辞めて行った。

 

静かになった。

 

筈だった。

 

ある日の事だ。

 

交差点で赤になり、待っていると後ろから押される様な感じが伝わった。

 

 

「えっ?」

 

 

そして。

 

 

キキ―――!!!

 

 

「おい、轢かれたぞ!」

「早く119番、救急車!!」

「俺見たぞ、こいつが押していたのを!!」

「人殺しっ!!」

「警察にも連絡だ!」

 

 

騒がしい音が周囲を満たした。

 

空は青いのに何でこんなに朱いんだろう。

 

ああ、私死ぬのかな?

 

 

「だ…っ…………さ…」

 

 

そこで私は目を閉じた。

 

私は死んだのだ。

 

原因は元彼の不用意な行動だった。

 

車に轢かれそうな私を救ってもう一度ヨリを戻そうとしたが失敗したらしい。

 

ハッキリ言っていい迷惑だ。

 

元彼は周囲の人々の情報と同僚達の証拠で塀の中へ入って行った。

 

歳の離れた兄夫婦も元彼を許せずに殴るの罵倒を加えたらしい。

 

うん、ありがとう。

 

所で?

 

何でそこまで知っているかと言うと…

 

目処前に居る幼女に教えて貰いました。

 

 

******

 

 

昼下がりだろうか桜の大木の下でお絵描きをする幼女がいた。

 

だが、顔は見えない。

 

長い髪の毛で隠してしまっていてどういう顔付なのかハッキリと見えないのだ。

 

 

「わたしはおしえたからつぎにいってね。」

 

 

幼女にそう言われると再び景色が変わった。

 

 

次は夏の海だ、夜明けを迎える空に足元には海の水が漂っている。

 

すぐ下は砂浜の様だったので満潮で海水が入った様に思える。

 

目処前にはガーデンチェアに座ってスマホを弄る少女だ。

 

その子も髪の毛で顔を隠している。

 

 

「貴方は何をしたい?」

「具代的には?」

「そうだね、生まれ変わる場所とか?」

 

 

私はすかさずやりたい事を伝えた。

 

 

「うん、判ったよ。」

「それと生まれ変わる場所にあの元彼が未来永劫惹き合わない様にして。」

「解ってるよ。」

「ありがとう。」

「じゃ、次に行ってね。」

 

 

次は秋を思わせる場所だ、夕方になるかならないかの空模様。

 

落ち葉が散る森の中でベンチに座ってノートパソコンを打つ女性。

 

 

「来たね。」

「次は何を答えればいいの?」

「そうだね、さっきのやりたい事の理由かな?」

「理不尽な思いをしたくない、私自身を見つめ直したい。」

「分かった、最後に彼女に会ってね。」

 

 

最後は月夜に照らされる冬景色だ。

 

切れ雲から見せる月の光とふわふわと散る雪が幻想的で綺麗だ。

 

月明かりに照らされながら手元にあるランプで明かりを灯しており、小さなテーブルに置かれた日記を書く老女が木製のチェアに座っていた。

 

 

「よく来たね。」

「はい、先ほどの女性に言われて…」

「それじゃあ最後の質問だよ。」

「はい。」

「前の世界で生きられないけど後悔はないね?」

「ありません。」

「判ったわ、だけど…これだけは忘れないでね。」

「?」

「貴方の選んだ道は険しくそして理不尽な世界かもしれない、それでも(エニシ)がある事を忘れないでね?」

「はい。」

 

 

そこで私の意識は途切れた。

 

次に目を覚ますと清潔そうな白い部屋だった。

 

そう。

 

新たな生命として生まれたのだ。

 

この世界の住人『九浄蓮美』として。

 

そして来るべき災厄からこの世界を守る為に目覚めた。

 

 

『”     “の巫女(マシヤフ)』として…

 

 

=続=



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閑話・肆 『夜船《ヨフネ》』

夢を渡る事は誰の障害も受けない。

ただ道を外れると戻れない。

現実に。

それを忘れることなかれ。

忘れなければ道は開かれるだろう。

手綱を放さずそして道の先へ向かえ。

そこに新たな障害と奇跡が待ち受けようとも。

心を偽ることなかれ。


ある夜の夢の中で。

 

私は再度、戦うべき相手である彼に出会った。

 

 

******

 

 

「随分と早い再会ね。」

「ああ、こうやって再び出逢う事になるとは…」

 

 

ここは私の夢の中。

 

人の夢の中はその人の願望や心象が反映される場所でもある。

 

以前、リュウセイの夢を除いた事があったがバーンブレイド?などのメカニズムが集結した凄まじい夢の世界だったので割合する。

 

他者の夢の中に相手や自分自身が渡り歩く事はかなりのリスクが被る。

 

頻繁に出来ない事は重々承知の上で行っている。

 

こう言った現象を人は『白河夜船』と言うだろう。

 

それと似たようなものだ。

 

 

「やっぱり戦うしかないの?」

「それを愚かだと思うか?」

「愚かと言うよりは自分なりのけじめを着けたいのでしょう?」

「…」

「相変わらず不器用だね。」

「よく言われる。」

「出来る事なら私も貴方と戦いたくはない。」

「だが、この先の未来でお前は俺と戦わなければならない。」

「それはアカシックレコードに刻まれた一つの未来でしかないの、その結末はいくらでも変えられると教えた筈よ?」

「…」

「もしかして…もう起きてしまったの?」

「ああ、正確には『テンシ』の介入によってだ。」

「そう、貴方が直接手を下した訳じゃないのならそれでいい。」

「済まない。」

「謝る相手が違うわ、それは彼女にしてあげて。」

「解っている。」

 

 

私達は話し合いを進めつつ私の夢の中にある蒼い湖を見渡せる丘に座っていた。

 

昼下がりの春を思わせる陽気と春風。

 

パステルカラーの蝶や小鳥が草原で飛び交っていた。

 

 

「お前はどうなのだ?」

「少しずつ準備は進めているわ。」

「順調と言うべきか?」

「いえ、無限力の介入を避ける為にもう少し時間が掛かる。」

「…」

「ただ…これだけは言える、今から半年後に二人のスフィア・リアクターと接触出来るわ。」

「『獅子』と『乙女』だったな?」

「ええ、必ずこの未来を変えて見せるわ。」

「ああ、だが無理はするな?」

「それ、最近お義父さんにもよく言われる。」

「フッ、そうか。」

 

 

この夢の中の彼は普通の人間と変わらない服装をしている。

 

あの重苦しい甲冑など外してただ一人の人になってしまえば普通に話しも出来る。

 

こうやって分かり合えるのに。

 

彼の進む道は険しくそして虚しい。

 

そんな時に傍に居られない事が悔やまれる。

 

寄り添える時間がある限り、私は彼の傍で寄り添った。

 

 

「もう時間ね。」

「今度はいつ頃に逢えるのか?」

「しばらくは出来そうにないわ。」

「そうか。」

「どうしても声を聴きたい時はいつも通りに。」

「解っている。」

「それじゃあ、またいつか。」

「再会を願って。」

 

 

私は彼を見送った後、夢から覚めた。

 

夢の中で彼の手に触れた感触はまだはっきりと残っている。

 

彼の包み込むような大きな掌は暖かく心地いい。

 

 

「また会えるよ、ケイロン。」

 

 

† † † † † †

 

 

「またいつか…か。」

 

 

夢の中で彼女と語り合った彼は目覚めると静かに呟いた。

 

 

「ならば、俺は道化として奴らに立ち向かおう。」

 

 

彼は甲冑に備え付けられたマントを翻してその場を去った。

 

先程まで彼が居た場所には小さな小箱が置かれていた。

 

蓋が開いており、中はオルゴールの様で静かに主が居なくなった場所で音を刻んだ。

 

 

=続=




<今回の用語>

※ケイロン
主人公が彼の真名を露見する事を危惧した為に付けられた愛称。
現時点で彼を象徴する意味も持つ。

※白河夜船
一節では熟睡し過ぎてその間の記憶が曖昧であると言う意味。
ここでは主人公曰く曖昧で一時の様な夢世界の事を指す。

※オルゴール
幼少期、主人公が虐待から来る念能力の暴走で次元の狭間に迷い込んだ時に出遭った男性に送ったもの。
本来の名称は巡音箱・夢繋(メグリネバコ・ユメツナギ)
九浄家に残された一品の一つで特定の相手の夢の中に入り込む事が可能な代物。
しかし、使いすぎると相手の意思と混ざり合ってしまい元に戻れなくなる。



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閑話・伍 『猫日《ネコノヒ》』

来たるこの日。

それはどこにでもいる人の言葉より出たもの。

覆す事は出来ず、ただそれを受け入れるしかない。

現実?

妄想?

いや、人はそれをご都合主義と呼ぶだろう。

これは猫様様な日の出来事。


二月二十二日。

 

旧西暦時代に猫の日として位置づけられたと記録にあった日である。

 

気まぐれで甘える姿に人々は萌え。

 

時に嫌われ、時に甘えられ、気まぐれな仕草は人々を魅了する。

 

春一番の風が吹くある夜の事である。

 

 

 

「猫なんてメーワクだっ!!」

 

 

 

陽昇町と呼ばれる研究都市の一つにて。

 

夜更けに居酒屋から出て来た一人の男性。

 

先ほど、野良猫に遭遇し脅かされた為に言ってしまった言葉。

 

酒に酔った男性はそのままフラフラと自宅に帰路を進めた。

 

しかし。

 

 

 

「メイワク、メイワク…猫はメイワク…」

 

 

と、その状況を見ていた禍々しい一つ目の黒い球体はそれを聞き逃さず復唱していた。

 

そして翌朝を迎えた。

 

 

******

 

 

「ふぁあああ~」

 

 

私の名前はハスミ・クジョウ。

 

訳あってこの世界に転生した異邦人である。

 

伊豆基地の士官用の寮にある自室にて私は目を覚ました。

 

 

「あれ?何か騒がしいな…?」

 

 

いざ起きてみると寮の外で騒いでいる声が響いていた。

 

大体が『猫が!?』とかが多いのだが、ハスミは昨日の夜に起きた戦闘へ出撃しており未だ意識は虚ろ虚ろであった。

 

室内に設置されたシャワールームで支度を整えているとその状況は如何に拙い事になっているのかが理解できた。

 

 

「…」

 

 

鏡に映る自身の頭にある二つの猫耳。

 

それは飾りなどではなくちゃんと感触が残っている。

 

ご丁寧に尻尾まで付いている。

 

色は髪の色と同じく黒に青みを帯びた色である。

 

 

「無限力、ここまでおふざけするのかよ…」

 

 

呆れを通り越した遠い目をしながら鏡に向かって呟いた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「あらん~ハスミちゃんも猫耳がついちゃったのね。」

「そうみたいです。」

 

 

着替えを済ませてATXチームの分隊室に入った所、エクセレン少尉を始めとしたチームのメンバーが揃っていた。

 

状況は皆同じく髪の色に合わせた猫耳と尻尾が付属していた。

 

アカシックレコードで調べた所、どうやらどこかの酔っ払いが陽昇町に潜むアークダーマの一体に『猫はメイワク!』と叫んでしまったのが原因らしい。

 

ちょっとフルボッコして来ていいかな?と思ったりしたり。

 

個人的には猫は好きなので別に構わないが眼の行き場に困る状況であるのは確かだ。

 

閲覧者達よ、大の大人が猫耳と尻尾を付けている状況は人によっては『へー』位で終わるだろう。

 

だが、強面とかオッサンの猫耳はどうだろうか?

 

メディアで調べた所によると地球だけではなく地球圏全域で発生しているらしいのである。

 

敵味方老若男女問わずこの状況が発生していると言う事はもうお分かりだろう。

 

加藤機関曰く『創造しろ』なんてやったら腹筋崩壊、リバース、現実逃避の三パターンに陥るだろう。

 

一例とすればBF団の十傑集にも猫耳が付属されてますと言う事である。

 

うん、後は閲覧者達の創造にお任せしよう。

 

 

「結局、これの原因は何なのでしょうか?」

「解らん、現在も調査が進められているが原因は不明との事だ。」

 

 

ブリットが自分の猫耳に指を差して質問しゼンガー少佐が答えていた。

 

そりゃ、元の原因がアークダーマですからね。

 

原因のアークダーマの発見は勇者チームに任せるしかない。

 

 

「…(原因を知っているけど話し様がないし。」

 

 

今現在も私が転生者でアカシックレコードに介入し放題の状況を隠している。

 

正体を知られる訳にもいかないので今回の原因を知っていても話す事は出来ないのである。

 

半分猫になったせいかホットミルクが異様に美味しく感じていた。

 

オマケに猫舌にもなっているのが辛いです。

 

 

 

「あの、もしかすると私達…魚とかマタタビとか猫が好きなものに反応しやすくなってませんか?」

「そうかも、何だか分からないけど無性に魚が食べたくなったりするものね。」

「まさかそんな…」

「隊長、一体何を?」

 

 

気を紛らわそうと刀の手入れを始めるゼンガーであったが、刀の手入れに使用する打ち粉を見るや否や指先でチョイチョイと弄り始めてしまったのである。

 

 

「む…?」

「…完全に私達、猫化が進んでますよね?」

「そうね。」

「キョウスケ少尉、どうしましょう?」

「原因が分からん以上、何も出来ない。」

「…(まあ、アークダーマの事を知っているドモンさん達辺りが原因を知って動いていると思うから任せるしかないかな?」

 

 

時間が経つに連れて伊豆基地のみならず各地の猫化してしまった人々が更に猫化が進んでしまい戦闘も行えない状況に陥ってしまったのである。

 

唯一猫化を免れたAI搭載のロボット達が何とか被害を広げない様にしようとするも焼け石に水状態であった。

 

この状況に自らの羞恥を晒さない為に自室に引きこもったり、既に猫化が進んでしまいどうしようもない状況に陥ってしまった者などで基地内は騒然と化していた。

 

 

「そう言えば私…猫化しているけどあんまり被害受けてない様な?」

 

 

考えられる理由とすれば私自身が以前DG細胞に感染した事があるのでその影響を受けにくくなっているのでは?と考えた。

 

それならDG細胞に感染していた経験がある人達も同じ状況なのでは?と思った。

 

その結果だが感染期間が短いと他の人と同様に猫化の影響を受けやすくなっており、やはり感染期間が長い人がこの影響下でも動けるらしかった。

 

 

「どうしようかな?」

 

 

基地全体が機能不全、原因を知っている以上はその原因であるアークダーマを倒しに陽昇町へ行きたいが無断出撃もどうかと思った。

 

まだ幼生態であるなら白兵戦でも倒せなくはないが正体を知られたくもない。

 

 

「成り行きに任せるしかないかな…」

 

 

ちなみに『蒼い睡蓮』も似た様なもので動けないらしい。

 

そもそも邪悪獣って確かスーパー邪悪獣にするにはジャークサタンが必要なのにどう言う訳か大量生産されているのはスパロボマジックのご都合主義なのかな?

 

だから原作で地球防衛組ことライジンオーが勝利出来たのかもしれない。

 

あれだけの物量で掛かったら一溜りもないし。

 

本編ではないので説明する必要はないのだが勇者チームに敵対する勢力の大体は以前話した四大勢力に組するか独自に徒党を組んで侵略活動を行っている。

 

所詮は烏合の衆であるので己の権力を求めて自然消滅よろしくで瓦解するのは目に見えている。

 

問題はその悪意達が『霊帝』の生餌にされかねないと言う点である。

 

取り越し苦労な杞憂であればいいがそれも無理な話だ。

 

『霊帝』ってかなり貪欲だった様な気もしなくもないし。

 

 

「本当に調子に乗ってるよね…奴ら。」

 

 

只今、アカシックレコードの実況中継で問題の邪悪獣がこちらへ向かって来ているとの事だ。

 

その後をライジンオーら動けるメンバーが追跡している状態である。

 

 

「緊急事態だし、いいよね?」

 

 

私はそのままハガネの格納庫へ向かった。

 

 

******

 

 

えーっとどう説明した方がよろしいか?

 

BXまで参入してましたよw

 

デストルークは来てないのでどうなっているか不明ですがね。

 

 

 

「そう言う訳ならあの猫を倒すのに協力させて貰うわ。」

「えっ…でも。」

「奴を倒さないと基地の機能も他の人達も元に戻せないって聞いた以上はね。」

「ありがとうございます…えっと。」

「アサルト5よ、私のコールサインなの。」

「よろしくお願いします、僕達は…」

「互いに名前は止めておきましょう、そちらは知られるとまずいのでしょう?」

「出来る事なら…」

「貴方達の事は機体名で呼ばせてもらうわ、その方が分かりやすいでしょう?」

「解りました。」

 

 

礼儀の良い子達でちょっと感激しちゃった。

 

とりあえず、向こうは名前を知られ訳には行かないので機体名で呼び合う事なった。

 

伊豆の砂浜で対峙するノラネゴン。

 

それと同時に出現するスーパー邪悪獣達。

 

こちらはライジンオー、バーンガーン、マッハスペリオン、ファルセイバー、ブルーヴィクター、ガーリオンC・タイプT。

 

スーパー系五機にリアル系一機のアンバランスな戦力である。

 

その為、ペアで行動する事を提案した。

 

バーンガーンとマッハスペリオン。

 

ファルセイバーとブルーヴィクター。

 

私がライジンオーのサポートに入る事でバランスは取る事が出来た。

 

勿論、単機での行動も考えたが相手が相手の為にこう言った戦法を推薦した。

 

相性の良いペア同士による連携を考えてのこの組み合わせ。

 

先のペア二組は連携攻撃ならぬ合体攻撃で火力に申し分はないだろう。

 

こう言う布陣にしたのでメインであるライジンオーにサポートへ入る事にしたのだ。

 

 

「猫に怨みは無いけれどこればっかりはね。」

 

 

マッハスペリオンとブルーヴィクターの援護攻撃で相手の耐久力を削ぎ、バーンガーンとファルセイバーで止めを刺す。

 

実にシンプルであるが前者達の援護があってこそ後者達の撃破率を上げる事が出来るのだ。

 

前者達の攻撃は相手を攪乱させるだけではなく攻撃力低下などの付与効果もある事を私は知っている。

 

それを狙ったのだ。

 

元々相性のいいペア同士の連携もあったのであっさりとおまけ達が片付いたのはいいが本題のノラネゴンを相手にするライジンオーと私ははっきり言って苦戦していた。

 

ライジンオーの戦術は前世の記憶で知っているので邪魔にならない様に援護はしていたが、あのノラネゴンはどうも様子がおかしかった。

 

止まない攻撃に戦艦の支援すらままならない状況。

 

オマケに補給を持つ機体が居なかったのもネックだ。

 

修理は昨日の戦闘で外し損ねていた修理機能を持つ私の機体が担当したが、燃費が良くてもいずれはEN切れになるだろう。

 

そろそろ決着を付けたい所だ。

 

なので。

 

 

「五分でいい、奴の動きを止めておけるか?」

「何をする気だ?」

「考えがある、合図をしたら奴をおびき寄せて欲しい。」

「…分かった。」

「いいのか?ファルセイバー。」

「アサルト5に策があるのならそれにかけてみよう。」

「俺達も賛成する。」

「僕達も賛成するよ。」

「解った、なるべく早く合図する。」

 

 

私はその場を離れ、ある場所に向かった。

 

 

「確かこの辺に……あった!」

 

 

破棄された大型温室を構える果実園。

 

度重なる戦闘で所々脆くなっているがお目当ての物が無事だったのでそれを一か所拝借し戦闘中の彼らの元へ急ぎ戻った。

 

 

「準備は整った。」

「解った!」

 

 

彼らにノラネゴンを街から引き離して貰い、被害が出ない様に海岸沿いへおびき寄せた後、例の物を奴の顔面目掛けて投げつけた。

 

その後。

 

 

「ゴロニャ~ン♪」

 

 

その様子に一同は。

 

 

「えっ?動きが止まった。」

「どういう事何だろう?」

「アサルト5さん、あの猫に投げつけたのって…?」

「あれは破棄された果実園から拝借したキウイの木よ。」

 

 

「「「「「「キウイの木!?」」」」」」

 

 

「何でキウイ?」

「キウイはマタタビ科に属する植物なのよ。」

「そっか、だからマタタビに反応した様になったんだ。」

「さっき奴の動きを見ていたら猫と同じ仕草が残っていたからもしかして…って思ってね。」

「成程。」

「それと用心の為にっと。」

 

ノラネゴンがキウイの木で油断している所で私がストライク・アキュリスで足止めした。

 

 

「今の内に止めを!!」

 

 

そうしている間に彼らに攻撃を集中する様に指示を出した。

 

 

「エリアルスパーク!」

「エクスプローシブピアース!」

「インペイルノヴァ!!」

「フェニックスストーム!!」

 

 

四機の必殺技が炸裂し最後の一撃はライジンオーの必殺技が決めた。

 

 

「ゴッドサンダークラッシュ!!」

 

 

強大なエネルギー攻撃を喰らったノラネゴンは爆発四散した。

 

 

「絶対無敵っ!ライジンオー!!」

 

 

お決まりの名台詞を聞く事も出来たので旨みは取れました。

 

その後、彼らと別れて無事に元に戻った伊豆基地へと帰還した。

 

私は軍用機の無断使用並びに無断出撃の一件で呼び出されたが正当な理由と情報を持ち帰った事で相殺された。

 

ちなみにリュウセイにライジンオーやバーンガーン達の雄姿を写した映像記録を渡した所、すっごいオタク踊りを見れたので腹筋崩壊しそうになった。

 

こっちはこっちで猫化によって醜態をさらしてしまった人達の写真をゲットする事が出来たので後々に利用させて貰います。

 

猫だけにニャンともいい日かな?

 

=続=




<今回の登場人物>

※ノラネゴン
原作では猫の鳴き声を嫌がって生まれた邪悪獣であるが、今回は夜中に野良猫に驚いた酔っ払いが猫を迷惑がった事で生まれた邪悪獣。
原作では動物を操る力を持っていたが、今回は産まれた経緯が違う事と未来改変の影響で人間を猫化させてしまう能力に変異した。
猫だけにマタタビに弱かった様でハスミの機転で破棄された大型温室を持つ果物園よりキウイの木を拝借し投げ付けて無力化し撃破した。

※地球防衛組
地球防衛軍に所属となったエルドランに選ばれた小学生達。
選ばれた期間が早かったので現在小学4年生である。
ノラネゴンを追って伊豆基地へ訪れた。

※VARS
元々は私立防衛組織だったが連邦軍強硬派の手から逃れる為に地球防衛軍へ参入した。
戦闘要員は二名であるが、戦力になるのか不明な三人目も居る。
戦闘要員である二名は謎の転移に巻き込まれアストラギウス銀河にあるウドの街から帰還したばかりだったので猫化を免れた。
その為、地球防衛組に付き添って伊豆基地へ訪れた。

※ファルセイバー
GGGへ参加したスーパーロボット。
現状で動けない機動部隊に代わって活動している。
今回は地球防衛組と共にノラネゴンを追ってやってきた。
理由は不明だがブルーヴィクターと共に現れた為、記憶所持者と思われる。

※ブルーヴィクター
GGGへ参加したスーパーロボット。
同僚であるファルセイバーと共に戦地へ赴いている。
経緯は不明だが合体は出来ない様子。


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魔星ノ詩篇
第零話 『語手《カタリテ》』


プロローグに繋がるまでかなり長いです。

時系列順では第零話~第一話~本編~プロローグ~ラストになります。

この様な流れになりますが長い目で見て頂けたらと思います。

今回の主人公の鬱展開は転生時にチート能力を手に入れる為に請け負った代償です。




今回の話に入る前に私の事とそれまでに起きた事件についてかなり長い説明をさせて頂きたい。

 

私の前世での名前は忘れてしまったのでそこは割合させて貰います。

 

私は俗に言う隠れと呼ばれる部類に入っており、個人的にも物語を書くのが好きだった。

 

普通に生活し仕事し何事もなく平穏に生きてました。

 

そして…

 

それは突然だったのです。

 

大きな衝撃と痛みが全身を駆け巡り。

 

残ったのは青い空と赤い、紅い、朱い景色だった。

 

耳に残るのは叫びと悲鳴と独特のサイレン音。

 

誰かが呼びかける声がうっすらと残るが、徐々に消えて行った。

 

 

 

『そう、この時に前世での私は偶然起きた自動車の衝突事故で死んだのだ。』

 

 

 

それも、神様とやらの手違いと不可抗力らしく。

 

最初は怒りに震えたよ。

 

だが、チート能力を付けて好きな世界に転生させてくれると言うのだからそれでお相子とした。

 

一番したいと思った事があった。

 

新しい人生を生きるのだ。

 

だから、あの世界の人達を救いたいと願った。

 

その為の転生とチート能力を授かった。

 

世界の理さえ変えかねない力を手に入れて私は転生した。

 

 

 

******

 

 

 

『この子の名前は蓮美(ハスミ)にしよう。』

 

 

清潔そうな白い部屋で産声を上げた女の子の赤子に父親と思われる男性にそう告げられた。

 

その横で母親らしき女性が笑みを浮かべていた。

 

こうして私こと九浄蓮美(クジョウ・ハスミ)の人生が幕を開けたのだ。

 

 

「ハスミ、これからよろしくね。」

 

 

私は了承と伝える為に両親に向かって笑った。

 

それから五年間の幸せな家族生活を送った。

 

何故五年間なのか?

 

それは五年後に産みの母親が他界したからである。

 

前回の私と同じく自動車事故だった。

 

しかもひき逃げと言う最悪の結果だ。

 

父親は幼い私を育てる為にしばらくしてから後妻を迎えた。

 

これが良い意味での母親であればの話であるが…

 

あえて言おう、毒でした。

 

翌年に異母弟が産まれるとその育児に付きっ切りで私の事は後回しだった。

 

ネグレクトの一歩手前だった。

 

父親の前では良い母親顔をするが私の事は徹底的に無視を決め込んだ。

 

食事も洗濯も必要な物も全部母方の祖父母と父から貰ったお小遣いでやりくりした。

 

ここでは前世での生活の知恵の知識が役だった。

 

当初の目的を果たす前に死ぬ訳にはいかなかった事。

 

この毒に塗れた義母が私の産みの母親を引き殺した張本人だったからだ。

 

片思いだった父を手に入れる為に私の母を引き殺し、政治屋だった一族の力でその罪を逃れた様だが、私は許すつもりはない。

 

今回は色々と知識を手に入れる事が出来たので近所に住むお姉さんに助けを借り…

 

内緒で購入した盗聴器等を自宅に仕掛けるとボロボロと黒い物が出てきてくれた。

 

 

 

その結果、家庭崩壊となった。

 

 

父は母を殺した女と添い遂げた事に苦悩し自殺。

 

義母は母殺害の罪を含めた余罪とその隠蔽に協力した一族諸共塀の向こう。

 

異母弟は幼いながらも実の母が犯した罪を知り、自ら施設行きを選んだ。

 

祖父母は母殺害の真相発覚後に心労でこの世を去った。

 

私は生前に父の伝手で出会ったカーウァイ・ラウ大佐に養子縁組をして貰い、引き取られしばらくは平穏な生活を送れたが…

 

その大佐も任務中のMIAで行方不明になり死亡した事になった。

 

知っていながら助けられなかった事が悔やまれる。

 

行き場を無くした私を引き取ってくれたのはエアロゲイター襲撃の際に妻子を失った。

 

彼の部下だったテンペスト・ホーカー少佐に引き取られたのだ。

 

最初は大佐の養女だったからが理由だった様だが、暫く暮らす内に本当の親子の様になっていった。

 

そして私は彼の事を『お義父さん』と呼べるまでに信頼関係を築いていった。

 

 

 

******

 

 

そして私はこの日、戦う力を手に入れた。

 

友人と共に幕張で行われるバーニングPTの大会の決勝戦に訪れていた。

 

そうOGのリュウセイとテンザンの一騎打ちのシーンだ。

 

だが、優勝したのはリュウセイでテンザンではなかった。

 

しかもリュウセイは実戦のPTに付属出来る最小限の武装とあり得ない程のテクニックで相手を打ち負かした。

 

これは正直驚いた。

 

流石の私もこのリュウセイは逆行でもしているのでは?

 

と思ったが、イングラム・プリスケンの事もあったので…

 

こっちの手の打ちを明かす訳にはいかなかった。

 

なので、あえて聞かない事にした。

 

その優勝の余韻に浸りながらリュウセイらと共に帰宅する途中だった。

 

バグスが現れた、そうエアロゲイターの襲撃にあったのだ。

 

リュウセイはそのまま出現した量産型ゲシュペンストMk-IIへ。

 

クスハは墜落した輸送機に積載されたグルンガスト弐式へ。

 

行動を共にしていたリョウトとリオは軍に納入される予定だったヒュッケバインMk-IIへ。

 

私も破壊されたイズルギ社の輸送車両にあった試作ガーリオンへそれぞれが乗り込んだ。

 

リュウセイとリョウトが殿を務め、私とリオが操縦に難があるクスハのフォローに入った。

 

機体に搭載されたT-LINKシステムの御蔭でそれぞれの操縦に何の支障は無かったが…

 

まさか、このガーリオンにまで搭載されている事に驚く私が居た。

 

そこからは無双でした。

 

武装も最低限ですが、ほぼフルボッコ状態と言って良いだろう。

 

襲撃から少し経った後に到着したATXチームも唖然だった模様。

 

活躍の場を取ってしまいすみません。

 

それにしても零式と量産型ゲシュペンストが3機って事はまだアルトとかのロールアウトが済んでいないのだろう。

 

ただ、ゼンガー少佐が原作のDC行きにならない事を祈りたい。

 

今回はDCが出てくる事がない様に連邦政府内にも少々手を打っておいたがどうなるだろう。

 

戦いが終わった後、軍用機の無断使用でリュウセイらと共に伊豆基地に拘留され軍属になる事を強いられた。

 

同基地に所属していたお義父さんからはかなり叱られたが無事である事に安堵し泣かれた。

 

本当にごめんなさい。

 

その後、イングラム少佐から説明を受けた私達は軍に属すると言う事で無断使用の一件の相殺してもらう事になった。

 

リュウセイはイングラム少佐指揮下のSRXチームへ。

 

リョウトはパイロット兼整備兵へ。

 

クスハはパイロット兼看護兵へ。

 

リオはパイロット兼オペレーターへ。

 

私もパイロットとして配属される形となった。

 

そして一度、リュウセイ、リョウト、リオと別れる事となった。

 

私とクスハはATXチームに配属される事となった、実戦で戦いに慣れろと言う意味合いの説明を受けた結果だ。

 

OG主軸とは言えここまで話の展開が早いとは、しかも母艦はハガネだそうで遊撃隊として各地を回る事となった。

 

数日後、私達は身辺の事後処理を終えた後にハガネに乗艦した。

 

 

 

αにしてOG…

 

OGにして衝撃…

 

私の戦いは始まったばかりである…

 

 

=続=




<今回の登場人物>

九浄蓮美(ハスミ・クジョウ)
この話の主人公で都内の学園に通学する高校1年生、年齢は16歳、同学園に通学するクスハ達とは幼馴染。
高検並びに大検は取っているものの学生生活を謳歌したい為に通学している。
物語開始前に転校して来た為、前の高校の制服を着用しているが学園が私服認可しているのもあり、そのまま指定制服を私服として着用している。(紺のブレザーと細めのリボンで水色のブラウスになっている。)(容姿は風鳴翼似で胸のサイズが大きめ、髪の色は黒に紺を混ぜた様な配色になっている)
性格は至って真面目だが敵と判断した者には容赦がない。
睡蓮が好きでそれをモチーフにしたケース(携帯端末用)を所持している。
この世界ではライトノベルの執筆をしながら学生生活を送る一般人であるが、実は別次元(プレイヤー側の現実世界)から転生したチート能力者。
チート能力はα基準の『サイコドライバー』、常にアカシックレコードと繋がっている状態である事とその情報から特殊な能力を再現化する力を持つ。
念動力の能力としては他の能力も高いが常時発現状態の予知、ヒーリング能力、戦闘能力がずば抜けて高い。
アカシックレコードと常時リンク状態である為に様々な表と裏事情(今後起こるであろう事件の予測と都合の悪い事まで)を知り尽くしていると言ってもいい状況である。
上記の能力が原因で周りからの迫害を逃れる為に母親の形見であるアンティークなペンダントで念能力を封印している。
身に付けている間は念の力を使う事は出来ないが外せば使える様になる。
無意識に発動している能力は『縁繋ぎ』、世界を結ぶエニシからこの世界の彼らと繋がっていた仲間達(原作上の事情によって元の世界に戻った面々や元々関わらなかったが物語とリンク状態の仲間)がこちら側に必然的に引き寄せられてしまっている。
この世界では実の父親と義母との間に産まれた10歳になる異母弟が居るが、父親の死亡と義母との一件で縁切り状態である。
現在は軍の関係者だった父と祖父の伝手でカーウァイ・ラウ大佐に身元引受人として養子縁組をして貰い生活する事となったがバグス初襲来時にMIAなってしまう。
その為、家族を失ったカーウァイの元部下であるテンペスト・ホーカー少佐に引き取られ彼の養女として再度引き取られる形となった。
原作では「ホープ事件」で死亡した彼の妻子はこの世界ではエアロゲイターの襲撃で死亡している事になっているので連邦政府への復讐心は無くなっている。
苗字を変えていないのは母方の性(父親は婿養子)を失いたくない為である。
幕張でエアロゲイターの襲撃に合い、リュウセイやクスハ達と共に避難していたが…
破壊されたイズルギ社の輸送車両に積載されたT-LINKシステム搭載の試作ガーリオンに乗り込み戦う。
本人曰く『操縦方法はお義父さん仕込みだけど……後は吹っ切れるだけ!」と語っている。
上記の発言はカーウァイに引き取られた時に当人のお遊びで当時の戦技教導隊のデータでシミュレーションを日々やらされていた為である。
今回の戦闘後にアカシックレコードの意思から『この世界にようこそ異邦人(エトランゼ)』と歓迎された。

※リュウセイ・ダテ
17歳、後のSRXチームの一人。
原作とは違い、自信過剰な面は見られず少し落ち着いた様子である。
同じ様にエアロゲイターの襲撃に遭いOG同様に量産型ゲシュペンストMk-II・タイプTTに搭乗し戦う。
原作では優勝を逃す筈だったバーニングPTの大会で優勝候補だったテンザンを打ち負かしている。

※クスハ・ミズハ
後のATXチームの一人。
リュウセイのお隣さんである事は変わらず、襲撃事件前からリュウセイに付き合ってバーニングPTの練習をしていた…
幕張でエアロゲイターの襲撃に遭うものの自身も輸送中に墜落したグルンガスト弐式に搭乗しハスミとリュウセイらと共に撃退した事によって軍属になった。
クスハ汁の脅威は相変わらずである。
OG基準なのかブリットとはまだ恋人同士ではないらしい。

※リョウト・ヒカワ
リュウセイ達の友人。
エアロゲイター襲撃時にマオ・インダストリー社が主催したプログラミング大会で優勝した事でスカウトされており、その件で支社に顔を出していた。
軍のトライアル機として搬入予定だった通常カラーのヒュッケバインMk-IIに搭乗し、リュウセイ達と共闘し撃退したものの無断使用の一件で軍属になる事となってしまう。

※リオ・メイロン
後のリョウトの恋人。
エアロゲイター襲撃時に支社に顔を出していたリョウトと同じく軍のトライアル機として搬入予定だった赤いヒュッケバインMk-IIに搭乗し、リュウセイ達と共闘し撃退したものの無断使用の一件で軍属になる事となってしまう。

※キョウスケ・ナンブ
※エクセレン・ブロウニング
※ゼンガー・ゾンボルト
※ブルックリン・ラックフィールド
幕張に現れたエアロゲイター迎撃の為に出撃していた。
ハスミを含めリュウセイ達民間人の戦闘スペックに驚いていた。
人員不足の為、ハスミらに協力を仰いだが後の祭りだった。
なお、ハスミの事はカーウァイの一件でゼンガーが知っていた。

※イングラム・プリスケン
バーニングPTの大会を利用してリュウセイ達を監視していた。
エアロゲイター襲撃の際はそれを利用し彼らにPT並びに特機に搭乗せざる負えない状況を作った。
なお、ハスミのガーリオン搭乗の件に関しては全くの偶然だった模様。

※テンペスト・ホーカー
この世界でのハスミの養父。
現在はギリアム・イェーガーと共にある事件の真相を追って連邦軍情報部に所属している。
ハスミのAM無断搭乗に一件に少なからず怒っていたが生き延びた事に安堵もしていた。
元々の養子縁組をする筈だったカーウァイにお遊び半分で教えられたPTの操縦が今回の延命に繋がったとギリアムに話している。

※ギリアム・イェーガー
連邦軍情報部所属の壁際のいぶし銀。
偶然とはいえ息を吐く様にPTを動かしたハスミとリュウセイの操縦センスに驚いている。
イングラムの件もあり何か秘密があるのではと怪しまれている。

※九浄家
ハスミの実家、母方の実家であるが祖父母と母が死亡し婿養子の父親の一件で没落状態。
先祖は明治時代より旧陸軍士官として所属し多くの功績を上げており、少なからず名のある軍人家系の一族だったが直系である母の死後に婿養子の父親が迎えた義母によって繁栄から没落の道へと一転した。
後に義母一族の犯した母親殺害の一件で婿養子の父親はお家断絶の末自殺。
義母は実の息子からの拒絶に寄る精神崩壊でそっち系病院行きの末に死亡、殺害に関わった義母一族は刑務所へ、異母弟は施設送りとなった。
現九浄家当主はハスミとなったが、別居中であった事と軍属になる事となったので信頼出来る知り合いに実家を預けている。
旧西暦より続く旧家の為、古びた倉や地下壕に改装された元座敷牢跡等が残っている。
ハスミによると古い手記なども多く残っており、当時の世に跋扈していた魑魅魍魎などと戦ったと言う痕跡も残されている。


九浄優弥(ユウヤ・クジョウ)
10歳になるハスミの異母弟。
異母姉の様な能力を全く持っていない普通の一般人。
幼いながらも実母が犯した罪を理解している。
異母姉であるハスミから遠ざかる為に自ら施設行きを選んだ。
現在は施設から都内の小学校に通学していた。
が、急性白血病を発症しドナーが見つからないまま死去した。
主人公もドナー検査をしたが彼と血縁関係が無いらしく赤の他人と判明している。




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第一話 『混世《マザリヨ》』

世界は混ざり合い…

そして…

境界は消え…

全ては始まる…

今はただ…

限りある命を救うべく…

希望を胸に新たな時代へ動き出す…


ある日の事…

 

 

「ゼンガー少佐、レポートお持ちしました。」

 

 

私が室内に入ると屍が3名ほど出来上がっていた。

 

 

「ど、どうしたんですか!?」

「あ、ハスミ。」

 

 

そこには看護服を着たクスハが例のドリンクをトレイに乗せて持っていた…

 

 

「クスハ、少佐達が…ってまさか?」

「うん、いつもの栄養ドリンクを作ってあげたら…」

「……(あ、察し」

「ハスミの分もあるんだけど?」

「私はいいよ!これからトレーニング行くから何か入れちゃうと動けないし。」

「そう?」

 

 

クスハドリンク(オレンジジュース割り)を正論でスルーした後、ある意味で屍と化してしまった3名に心から合掌した。

ちなみにゼンガー少佐は某ボクシングアニメな真っ白に燃え尽き、エクセレン少尉は受け狙いのセクシーポーズで倒れ、ブリットは耳から紫色の煙を出しながら俯せに倒れている。

皆さんネタキャラ乙。

 

 

「あれ?キョウスケ少尉は?」

「ああ、少尉もトレーニングに行くって言って出て行ったばかりよ?」

「そっか、とりあえず少佐達を医務室に運んでおこうか…」

「うん…皆さん相当疲れていらっしゃったんですね。」

「そ、そうね……(違う、違う、そう言う事じゃなくてー!!(泣)」

 

 

内心、私はクスハ汁の脅威に怯えていた。(いくら乾燥ムカデが漢方薬でも飲めません!)

この騒ぎに駆け付けた他の隊員の手(ジャータ達)を借りて3人を医務室に運んだ。

その後の処置を勤務医とクスハ達に任せて私は医務室を後にした。

 

 

 

 † † † † †

 

 

 

「本当に済みません、こちらでも気を着けていたのにとうとう犠牲者を…」

「気にするな、俺も何かあると思って飲まなかった。」

 

 

先程の騒動から一時間後、ハガネ艦内に設けられたトレーニングルームのランニングマシンでランニングするキョウスケとハスミの姿があった…

 

 

「それにしてもよく気が付きましたね、今回はオレンジジュース割りだったので判りにくいと思ったのですが?」

「かすかに匂いがな、分の悪い賭けだったが…」

「流石クスハ汁……(オレンジジュースの香りすら退けるとは!」

「恐らくは俺の方に原液が少し多めに入っていたんだろう…そのせいだ。」

「はぁ…(余計にベッドの住人期間が長引きますよ、それ」

「…それでゼンガー少佐に用事があったんだろう?」

「少尉、実は少佐がその件で倒れてしまったのでレポートを提出するのが遅れてしまうのですが。」

「後で俺の方から渡しておこう、トレーニングが終わったら俺に渡してくれ。」

「了解しました。」

 

 

 

******

 

 

 

幕張での戦いから2週間が経過。

 

私とクスハがATXチームに配属されハガネに乗艦。

 

訓練とその他諸々の勤務をこなしつつ懲戒任務に従事し、しばらく経ってからの事だ。

 

リュウセイ達はヒリュウ改に乗艦し別ルートから遊撃隊として参加する事となったのだが、合流予定だったヒリュウ改はジオン公国の強襲を受け、その翼を折られる事となった。

 

その為、急遽地球圏へ帰還予定だったアーガマへ配属となったらしい。

 

リョウトとリオも同戦艦に配属される予定だ。

 

ネルガル重工や獣戦機隊の存在は電子雑誌やネットのメディアで確認済みでだったので…

ヒリュウ改の代わりにナデシコやガンドールがその代わりを担うと思ったが少し違ったようだ。

 

民間企業の所有戦艦と動力炉に難のある母艦では不備があるだろう。

 

ちなみにサバイバルイレブン中だったガンダムファイトの急な中断や完成式典を行ったオービタルリングとアルゴス号の出港の情報もあったのでJかWの設定も混じっているのかもしれない。

 

DCはビアン博士の謎の失踪を切っ掛けに内部分裂が発生し穏健派と強硬派に別れてしまった。

 

ビアン博士の失踪に関しては心辺りがあるが、それは後に話す事にします。

 

そう言えばあの人って邪神とかの問題をどうしたんだろう?

 

よく判らないけど人類史上最凶の迷子君と一緒にいたんだよね。

 

分裂を起こしたDCは強硬派であるAnti・DCがジオン公国と結託し穏健派であるcross・DCが連邦と繋がりを持つ事となった。

 

この世界の連邦軍のティターンズ設立を止める為に『蒼い睡蓮』を使い、色々と裏で手を回して関係のある存在達をブタ箱へ放り込む手筈を整えて置いた。

 

切っ掛けは些細なものだが、同じ様に設立を阻止しようと動いていた存在達も居た様で、手を出せない部分はその存在達に任せる事にした。

 

結果的にティターンズに組み込まれる筈だった犠牲者達を救う事が出来た。

 

連邦軍特殊独立部隊ロンド・ベルのメンバーに組み込まれた様だ。

 

ちなみにこの肩書は誤字ではなく未来が変わった為の誤差である。

 

そんな中で気になったのは…

 

イングラム少佐によるリュウセイ達の監視の為だろう。

 

私もクスハも一緒にアーガマに配属される筈だったが…

 

ギリアム少佐の伝手で私達だけはATXチームに配属と言う形で遠ざけられてしまったのだ。

 

気になって後から少佐に問いただしてみたが、困った様に苦笑してスルーされてしまった。

 

 

『すまない、君達の為なんだ。』

 

 

察しては居たものの…

 

私はそれらの行動が確定出来る内容を聞いてしまった。

 

ギリアム少佐とリュウセイの話を…

 

 

******

 

 

『それが本当ならば…イングラム・プリスケンは…』

『間違いない…俺は奴の念を視た。』

『…』

 

 

とある個室でギリアム少佐と話しているリュウセイ。

その表情はとても複雑な思いを持ち合わせていた。

ちなみに上下関係上の事もあり、あのリュウセイが敬語だったのが吃驚だった。

 

 

『信じられないですよね…俺だって驚きました。』

『同一人物への逆行、実際に眼にしたのは初めてだが…』

『俺にも分からない事があります、前の世界には居なかった奴も居れば…』

『君の言う様に存在した者も居た、そして生き残らなかった者も…か?』

『そう言う訳で俺が説明出来る情報は一部、曖昧な部分を多いから確実な情報だけになってしまいます。』

『証明させるとは言え、私の正体を知っている以上放っておくつもりはない。』

『…(やっぱ、ヘリオスは図星だったか?』

『二人だけだが…クスハ・ミズハとハスミ・クジョウの配属先だけはこちらの方で何とかしよう。』

『分かりました、リョウトとリオは?』

『君の話ではまだ彼らが能力の片鱗を見せた訳ではない様だったな、狙われる危険性はまだないだろう。』

『俺と同じ配属先になるのは免れねえか…』

『問題はイングラムが今後どう動くかだ。』

『恐らくは残りのSRXチームと合流してSRXを完成させる為に動く筈です、エアロゲイター、いやバルマーへの手土産代わりに…!』

『それが奴の目的か?』

『はい、それでクスハは兎も角、問題はハスミです。』

『クジョウ君がどうかしたのか?』

『俺はハスミの人生が今後どうなるか知らないんです、この世界で初めて出会ったかので…』

『そうだな、何かあるのを防ぐ為にもイングラムの監視下から逸らした方がいい。』

『頼みます、アイツ…結構無茶するんで…』

『彼女らしいな、前と全然変わっていない。』

『えっ?』

『ハスミ・クジョウはホーカー少佐の養女でね、戦技教導隊に居た頃は一緒に暮らしていた事あるんだよ。』

『あの人の?』

『思う所があるだろうが、彼女は心配しなくてもしっかり場を良く弁えているよ。』

『そうですか。』

『先程、君に貰った情報は有効に使わせて貰うよ。』

 

 

 

******

 

 

やはり、この世界のリュウセイは逆行していた様だ。

 

α設定かOG設定か新設定か何処の記憶でどこまで知っているのか?

 

ギリアム少佐の正体を知ると言うのは『ヘリオス・オリンパス』としてか『仮面の総統アポロン』としてかは不明だが…

 

リュウセイの様に逆行を起こしている者達が居るのか?

 

そして私と同じように複数の情報を所持しているのかとアカシックレコードに問いただした所。

 

アカシックレコードからは正解であるが一部間違いもあると返答された。

 

逆行者は他にも存在する。

 

これは正解。

 

逆行者は情報を所持しているがどの世界の記憶に基準するかは不明である。

 

これが間違いの理由だ。

 

恐らく逆行者達の覚えている記憶の基準が一作品までの記憶しかないと言う事だろう。

 

その推理でいけば、この世界の逆行リュウセイの記憶はOG基準と言う事になる。

 

そうでなければ幕張の時にあそこまで冷静な判断は出来ないだろうし…

 

バーニングPTの大会で優勝する事は無かった。

 

だからこそ、ガンダムやマジンガーを始めとした版権の機体をメディアに放送された際に踊る勢いで喜んでいた。

 

そんな感動は初めて見た時しか味わえないだろう。

 

そもそも日頃から口走っている情報がOG基準のものばかりなのも理由だが…

 

 

あ………!?

 

 

逆行者が居る時点で気がつかなったが、他にも逆行者が居ると言う事はこの世界の改変は彼らの行動に寄るものだろう。

 

その内会う事もあるだろうが、今は自分の成すべき事をするだけだ。

 

まずはこの世界に存在するホワイトスターを叩く為に。

 

そして…

 

世界で見え隠れする奴らを倒す為に。

 

有無言わずに出てくるでしょうけど。

 

そろそろ新作の執筆でも始めますかね。

 

=続=

 




混乱の世は変わらず世界は一歩ずつ戦乱へと向かう。

次回、幻影のエトランゼ・第二話『嵐声《アラシノコエ》』

横浜に巨人が唸りを上げ、大いなる祈りが勇者の嵐を呼ぶ。


<今回の登場人物>

≪ATXチーム≫
ハガネに配属されているPT隊。
ゼンガー達を含めた6名が配属されていたが志願兵としてクスハとハスミが配属された為、大所帯化しつつある。
アサルト4がクスハ、アサルト7がハスミ、5、6は別行動中の為、不在である。
特機が2機、PTが3機(内1機は空中戦型)、AMが1機のバランスが取れた部隊である。

※キョウスケ・ナンブ
階級は少尉、ATXチームの副隊長、コールサインはアサルト1。
アインストとの本格的な接触を果たしていない様子。
この世界では配属された順番が違うせいかアサルト4ではなくアサルト1になっている。
冷静であるが博打に似た戦法は相変わらず。
エクセレンを観る眼がどことなく違う事から何か複雑な経緯を抱えている模様。
乗機は納機されたアルトアイゼン。

※エクセレン・ブロウニング
階級は少尉、ATXチームの一員、コールサインはアサルト2。
アインストとの本格的な接触は果たしていない様子。
チームのムードメーカー、志願入隊したクスハとハスミで遊んでいる。
いつも通り、お姉さまか姐さんで呼んでと話しているが立場上の事もあり双方少尉で定着している。
乗機は納機されたヴァイスリッター。

※ブルックリン・ラックフィールド
階級は曹長、愛称はブリット、ATXチームの一員、コールサインはアサルト3。
グルンガスト弐式に搭乗したクスハに一目惚れし密かにアプローチし続けている。
エクセレンに弄られている姿を観たハスミから『もしかしてあだ名ってひよこですか?』と言われた際、入隊当初の古傷だったらしくかなり落ち込んでいた。
乗機はマオ社より納機されたヒュッケバインmk-Ⅱ。

※ゼンガー・ゾンボルト
階級は少佐、ATXチーム隊長、コールサインはアサルト0。
原作とは違い、DCへの離脱が無くなったので引き続きATXチームを率いている。
ハスミとは旧戦技教導隊時代からの知り合い。
乗機はグルンガスト零式。

※クスハ・ミズハ
階級は曹長、ATXチームの一員、コールサインはアサルト4。
幕張の一件で志願兵として配属する。
通常時は看護兵として働いているが有事の際はパイロットとして戦う。
ブリットから密かにアプローチを掛けられているが本人は気づいていない模様。
乗機は幕張で搭乗してしまったグルンガスト弐式。

※ハスミ・クジョウ
階級は曹長、ATXチームの一員、コールサインはアサルト7。
物語の主人公、クスハと同じく幕張の一件で志願兵として配属される。
ブランクはあるものの旧特殊戦技教導隊の戦闘データと渡り合える技量を持つ。
隠しているがれっきとしたチート級念動力者。
乗機はATXチームに納機予定だった試作ガーリオンに取り付け予定だったパーツを加えて完成させた正式採用型ガーリオン・タイプT(カラーリングはホワイトだがヘッドとウイング部分にアイリスグリーンが塗装されている。)。

≪SRXチーム≫
ヒリュウ改に配属予定だったイングラム・プリスケン少佐の指揮する特殊PT部隊。
『念動力』を利用した戦術兵器SRXの開発並びに搭乗者の育成を行っている。
現在はアーガマに配属され行動している。

※イングラム・プリスケン
毎度お馴染み『フフフ…』の人。
リュウセイ、リョウト、リオを引き抜いてアーガマに配属となった。
後続で同部隊のライ、アヤと合流している。
リュウセイ曰く現在はゴッゾォの枷に操られている模様。
乗機はビルドシュバイン。

※リュウセイ・ダテ
ハスミが確認できている逆行者。
バーニングPTの優勝者、幕張の一件で志願兵となり階級は曹長。
原作の様な突貫する癖は無くなり、状況を冷静に判断してから行動する。
趣味の特撮、戦隊、ロボットアニメのフィギュアその他諸々の収集は相変わらず。
主人公がテンペストの養女だった事に驚いている。
乗機はR-1。

※ライディース・F・ブランシュタイン
SRXチームの一員、階級は少尉。
ゲームの腕でスカウトされたリュウセイと反りが合わず突っかかって行く様子は相変わらずだが二週間の行動で少し軟化した模様。
理由とすれば実戦と同じ装備可能範囲の武装でコテンパンにやられた事を根に持っていたがリュウセイの真意とこれからの行動を観察した上での軟化と思われる。
連邦軍内に父親、兄、従妹が存在するが『エルピス事件』が切っ掛けで疎遠になっている。
乗機はシュッツバルド。

※アヤ・コバヤシ
SRXチームの一員、階級は大尉。
原作と同じくリュウセイのサポートに回っている。
過去に特脳研の事故で妹のマイを失っている。
乗機は量産型ゲシュペンストmk-Ⅱ・タイプTT。

≪???≫
※ブルー・ロータス
裏社会で有名な所属不明の謎のハッカー。
その正体を知ろうとした者はその名の花言葉通りに「滅亡」する。


<今回の登場勢力>
※Anti・DC
内部分裂を起こした強硬派のDC。
アードラ・コッホやアギラ・セトメなどの性根のひん曲がった曲者達が集まる。
その多くは人体実験や戦いを遊びの様に思う連中が揃っている。
cross・DCと同様に元はコロニー統合軍だったが、最強の兵士を造る研究や実験が出来なくなる理由からそれらが公認されてしまっている現在のジオン公国と接点を持つ。

※cross・DC
内部分裂を起こした穏健派のDC
ビアン博士の意思を継いだブランシュタイン家を筆頭に宇宙規模の災厄に立ち向かう姿勢を持ち、また自身の汚点であるAnti・DCの壊滅に力を注いでいる。
Anti・DC同様に元はコロニー統合軍だったが連邦政府内の大きな改革を切っ掛けに賛同する様になる、現在は連邦政府と接点を持つ。
一部の管轄は民間の研究機関と共にメテオ3の管理も行っている。

※ジオン公国軍
α基準だがアイドネウス島(南アタリア島)に落下した『マクロス』の一件で『一年戦争』は停戦状態になった、その7年後にAnti・DCと同盟を結んだ事により活動を再開した。
前回と同じくザビ家が主な指導者だがお飾り状態であり、真の黒幕は別に存在している模
様。
尚、風の噂ではザビ家はミネバ・ラオ・ザビを残して一族全員が処刑されたとされる。

※連邦政府
α基準だが、かつての強硬派やその権力で軍部を牛耳っていた存在達を謎の一斉検挙を期に新たなに統合された、現在は連邦軍内の穏健派を筆頭に太陽系規模の戦乱の収拾に力を注いでいる。
その為、連邦軍特殊独立部隊ロンド・ベルには独自の権限と現場での独自の行動を許されている。
ちなみにエゥーゴがその部隊を組み込む連邦軍内の独立組織であり、穏健派の支持の元で他の遊撃部隊の派遣などを行っている。
また、エゥーゴは民間の研究機関や企業などのバイパスを数多く持っている。


<今回の登場用語>
※クスハ汁
知る人ぞ知る、飲めば体力並びに身体の不調を回復させるが一度は気絶を余儀なくされるクスハ特性のドリンク。
通常時の材料はセイヨウサンザシ、ホンオニク、ローヤルゼリー、ナルコユリ、グレープフルーツ、ドクダミ、ウナギ、マグロの目玉、梅干、セロリ、マソタの粉末、ムカデ、イモリ、マムシ、コラーゲン、柑橘類…
強化版としてこれにアガリクス、冬虫夏草、紅茶キノコ、スッポン&オットセイのエキス、ローヤルゼリーを2倍。
飲みにくい場合はオレンジジュースか烏龍茶で割って飲むらしい。
リュウセイとハスミの話に寄るとかつての改悪版はアスファルト臭や紫の煙が立ち昇ったものもあったらしい。
学生時代、双方ともに服用した後は仲良く保健室に担ぎ込まれたと青ざめた顔に遠い眼で語っており。
学園の料理研究部で完成版に近い状態の物を目にしたハスミはムカデなどが含まれているのでやたらに口にしない方が身の為と同級生だった兜甲児らに呟いた後に学園の調理室で食中毒?発生の騒ぎが起きたらしい。
その時のドリンクの色は『テケリテケリー』と声を発する物体が出てくるような状態だったとの事。

※白野睡蓮
ハスミが小説を出版する際に使用しているペンネーム。
女性向けや御伽話風のファンタジー小説の執筆が多い為か女子学生から若い世代を中心に人気を得ており、読みやすく心に残るとコメントや支持を受けている。
以下は出版済みの小説タイトルである。
※紅い騎士と星の悪魔。
※不器用な君が貴方を好きなるのは…
※弱虫な僕は君を護りたい。
※魔法使いは願いの杖を振るう。
※白雪姫に恋した黒い死神。
※神様の悩み事は些細な事で…
※勇者と英雄の違い。
※暗い心にさようなら。


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第二話 『嵐声《アラシノコエ》前編』

月光に照らされる市街地…

飛び交うは無数の光…

巨人は唸りを上げ…

そして…

六人の特攻者が現れる…


日本を中心に中国や赤道直下の島国を転々としながら日々遊撃隊として戦う日々が続いていた。

 

ある日の分隊室で備え付けのソファで干物になっているエクセレン、飲み物を持ってきたブリット、追加された状況報告の資料を閲覧するキョウスケの姿があった。

 

 

「それにしても今週に入って出撃回数が多くなったわね。」

「日本ではDrヘル、恐竜帝国、妖魔帝国と様々な組織が動いていますからね。」

「宇宙ではジオン公国を始めとした反連邦軍の連合やエアロゲイター、そして異星人の連合や未確認の起動兵器を使役する組織も現れている。」

「例の宇宙怪獣も近々太陽系に到達するらしいし、ビアン・ゾルダーク博士の『人類に逃げ場無し』ってよく言ったものね。」

「エクセレン、クスハとハスミは?」

「クスハちゃんは医務室の勤務中、ハスミちゃんはパパと通信室でお話中よ。」

「ハスミの義父さんと言う事は…ホーカー少佐に?」

「そうよ、義理とは言え年頃の養女とその養女を娘に持つあしながおじさんな少佐…何か匂わない?」

「変な妄想をするな、エクセレン。」

 

 

その会話を端で自身の刀の手入れをしつつ聞いていたゼンガーは刀を鞘に戻すと何処からか携帯端末を取り出し、ある写真を見せた。

 

 

「あら~可愛いわね、これってハスミちゃん?」

「ああ、カーウァイ大佐に引き取られた頃のだ…まだ六歳だったな。」

「あの、隣に移っている方は?」

「俺の上司だったカーウァイ大佐だ。」

 

 

映像に移された写真には可愛い笑顔で笑う少女とその隣で少女と高さを合わせる様に並んだ壮年の男性の姿があった。

 

 

「て、事はボス達とも?」

「そうだ、11年前…当時の俺達は大佐の元、テスラ研でPTのOS開発の一端を担っていた。」

 

 

† † † † †

 

 

『今日から私の娘になるハスミだ。』

『ハスミです、よろしくおねがいします。』

 

 

あの日、テスラ研の一室で友人の葬式から戻って来た大佐の一言にその場に居た隊全員が唖然としていた。

 

相変わらずの大佐とその横で礼儀正しくお辞儀をするハスミを連れてな。

 

 

『大佐、急に一体!?』

『後で説明する。』

『おじさん…?』

『大丈夫だ、ハスミはしばらくここで一緒に生活する事になった、迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む。』

 

 

ちなみにハスミが俺達と生活できたのもカザハラ所長から了承を得たからだ。

 

規律に厳しい所なら全寮制の施設行きになっていただろう。

 

それから一週間位経った頃だったな。

 

 

『ハスミちゃんはいい子ですね、礼儀正しくしっかりしてますよ。』

『本当に、私の娘はまだまだ甘え盛りで…』

『そこで子持ちの二人に相談なんだが…』

『はい?』

『な、何でしょうか?』

『正直言うとハスミには我慢させてばかりの様にも思えて来てな、何か喜んでくれる様な事は無いだろうか?』

 

 

カイ少佐とテンペスト少佐は妻子が居るとは言え、軍務の関係で家族サービスなど余り出来ない状況だ。

 

ましてや年頃の娘、お二人は眉間に皺を寄せながらかなり悩んでいた。

 

 

『ぬいぐるみなんてどうでしょう?』

『ぬいぐるみ?』

『ええ、小さな女の子なら誰でも好きな物でしょう?』

 

 

ギリアムが助け舟として一案を出したのだが…

 

 

『すまんな、ギリアム…あの子にぬいぐるみは駄目なんだ。』

『何か不都合な事でも?』

 

 

大佐は言うべきではないのかもしれなかったらしいがその重い口を開けた。

 

 

『あの子は母親との思い出のぬいぐるみを義母に壊されているんだ、目処前で…』

 

 

死亡した実の父親が後妻として迎えた女性は前妻の子であるハスミを嫌っていた。

 

事ある毎に虐待に近い事を繰り返していたらしい。

 

ぬいぐるみを始めとして思い出の品々を壊された様で。

 

それ以来、何も欲しがらなくなったらしい。

 

壊される位なら要らないと。

 

 

『…』

『あの子の控えめな態度もその虐待から来ているのではないかと思っている。』

『そうでしたか、ぬいぐるみが無理でしたら他に何かを…』

『何を悩んでいるんだい?』

『カザハラ所長。』

『大の大人が雁首揃えて…PTの事は優秀なのに女の子のご機嫌取る事に関してはまだまだだね。』

『所長は何か策でもあるのですか?』

『ん、ハスミちゃんね…いつか星空を自由に飛んでみたいって前に話していたんだよ。』

『星空を?』

『その位なら大佐達でも出来るんじゃないかな?』

 

 

そこで大佐はハスミを喜ばせる為にPTのシミュレーターを使ってある事を計画した。

 

 

『お星さま、いっぱい!』

 

 

当時、PTのOS開発の一環でテスラドライブ搭載機のトライアルも行っていた。

 

その為、シミュレーターにはガーリオンの前身であるリオンのデータを組み込まれていた。

 

大佐はシミュレーターにハスミを乗せて夜間飛行のまねごとをさせた。

 

 

『ハスミ、これからも我慢させる事があるかもしれない…時々でいい、ハスミの事も私に打ち明けてくれると嬉しい。』

『えっ?めいわくしないんですか?』

『そんな事は無い、ハスミはもう私の家族だからな、それと敬語はいいんだよ?』

『あ……ありがとう。』

 

 

”お義父さん…“

 

 

小さな声でお義父さんとその時からハスミはカーウァイ大佐の娘になった。

 

 

† † † † †

 

 

「ふうん…随分とボスの上司やボス達に可愛がられていたのね。」

「俺達にとっては妹の様な存在だった。」

「だから、最初に会った時に隊長の事をお義兄さんと呼んだんですね。」

「ああ、昔の名残でな。」

「ハスミちゃん、時々、ボスの事を言い直しているけどやっぱり可愛いわね。」

 

 

ゼンガーはその思い出話を話した後、静かに悲痛な顔で答えた。

 

 

「だが、その幸せも長くは続かなかった。」

「…続かなかったとは?」

「その2年後、エアロゲイターが地球に現れた最初の日に大佐は戦死された。」

 

 

「「「!?」」」」

 

 

「そして、同時に起こったエアロゲイターによる都市襲撃の際にテンペスト少佐の妻子も亡くなられた。」

「そうだったんですか。」

「養父である大佐が亡くなり、ハスミは施設に送られる事になっていたが…テンペスト少佐はそんな彼女を引き取った。」

「傷の舐め合いって訳じゃないだろうけど……ボス、どうしてなの?」

「最初は亡くなられた娘さんに重ねて見て居たそうだが、長く生活する内に本当の娘として守りたいと話していた。」

「最初の言葉は同感できませんでしたが…そう言う事でしたか。」

「それが無ければテンペスト少佐は妻子の敵だけを望む復讐鬼に成り果てていたかもしれなかった。」

「つまりハスミちゃんの存在はパパの暴走するかもしれない衝動を止める事が出来たって事かしら?」

「ああ、偶然とは言えハスミは一人の人間の心を救ったのだ。」

 

 

 

******

 

 

 

現在、私達は赤道直下の島国からの日本の伊豆基地に向かって帰還中だった。

 

本来なら伊豆基地でハガネの修理と補給を行う為、少しの間だけ休暇になる予定なのだが。

 

急遽、テスラ・ライヒ研究所からの依頼で超古代文明の起動兵器である『超機人』の発掘調査を行っている安西エリ博士を保護し国際警察機構の所持する日本の極東支部へ移送する事となった。

 

現在、博士の身柄は上海の港で国際警察機構のエージェントによって無事確保された。

 

しかし、超機人は発掘調査中に現れたBF団によって確保されてしまったそうだ。

 

肝心の乗り手が居ない以上、奴らが扱うには無理な話だが。

 

奴らにも念を使う者が居る以上、油断は出来ないのが私なりの不安だ。

 

明治時代の戦乱中に超機人を特殊な物質で操った事例が残っている訳だしね。

 

それと脱線して国際警察機構とBF団の世界について説明する。

 

彼らの世界のエネルギー源であるシズマドライブの事だが…

 

この世界では開発当初から問題点が発見された様で後に破棄された。

 

なのでこの世界では『バシュタールの惨劇』は起きていない模様だ。

 

うん、いくらリサイクル可能なエネルギー媒体でも使い続けると地球の酸素が無くなる代物なんて使えないもんね。

 

こちらとしても二酸化炭素で窒息死なんて御免だ。

 

本当にスパロボマジック補正は乙です。

 

話は戻り…

 

超機人の事ならバラルが黙っていない筈だ。

 

α時代のバラルが何をしていたかは情報が無かったので判らなかったが…

 

何せアカシックレコードと言うwikiを引っ提げてますので調べた所。

 

例の孫光龍が表舞台から姿を消している事が判明した。

 

裏社会にサトー・スズキ他偽名8種の名前と外見に一致する男性の姿が無かったのも裏付けの一つだ。

 

どうも、アカシックレコードによると第二次世界大戦後のオーダーとの戦いの傷が今だ癒えていない為らしい。

 

オーダーのメンバーには敵に容赦のない人達が集まっていたからだろうけどね。

 

後の子孫が刀で銃弾を切断する人(トウゴウ家)とか…

 

時々先祖に正義感が強い人が居るのに子孫が戦争狂のキチガイ(グリムズ家)とか…

 

金髪美形な天才軍人家系(ブランシュタイン家)とかだし…

 

そう言えばあの話まだ最後まで見ていないけど結末はどうなっちゃったんだろう?

 

更にその子孫がまたバラルの残党に捕まったり戦ったりしている時点で勝ったと思うが…

 

その話は当事者だった超機人達に合流出来たら聞いてみよう。

 

教えてくれるか判らないけどね。

 

結構あの話はシビアだったし。

 

誰にだって話したくない事もあるもの。

 

当面の問題とすれば、今の状況で四霊クラスの超機人である応龍皇が戦いの舞台に出て来られるのも困る。

 

対応出来る戦力が現状で少ない事もあるのだが、あえて言えば相手したくない。

 

α版ではえっ?これでボスクラス?感だけどOG版だと余りにも強化されすぎてて本当に泣きました。

 

とりあえず、横浜で暴れるであろう列車型ロボットをどうやって倒そうか考え中です。

 

戦闘場所が市街地だったし。

 

流石にあの戦闘は南京で起こった事だけど、他でも同じ事をすれば地元民が怒るよ。

 

多分、今回の件でBF団の十傑集が直接出てくる事は無いだろう。

 

用心に越した事は無いかな。

 

それと勇者特急隊に喧嘩売る気ですか?あのBF団の覆面戦闘員ズは!!

 

ちなみに調べたら研究都市の一つとしてヌーベルトキオシティがあったのよね。

 

下手すると他の勇者達も集結しちゃいそうな気がしてきました。

 

リュウセイが観たら狂喜乱舞しそう。

 

この前も通信でマジンガーとゲッターロボの合体シーンを拝めたらしくて仏壇に祈る勢いだったのを思い出しました。

 

一応、SRX計画の機体は機密扱いの上に秘密裏の訓練中だったので顔合わせは出来なかったと言っていた。

 

その後、アーガマの部隊と合流したがDrヘルの襲撃とジオン公国軍の他に見慣れない機動兵器を有した部隊と鉢合せしたそうだ。

 

データを送って貰った所、正体はギガノスのメタルアーマーだった。

 

うわ…

 

Aも入りつつあるみたい。

 

α基準でちょっと違う様のは判ってた。

 

こっちもジオン公国軍の部隊(ツボの人)と鉢合わせをし、ジェットストリームアタックとやらを拝ませて頂きました。

 

勿論、リュウセイにその時の映像を送ってあげた。

 

SRXチームで連携攻撃を思いついたからと仲間に話を持ちかけたらしい。

 

あれだね、リュウセイ。

 

成功を祈ってる。

 

ん、出撃命令が出た様なのでこの辺で…

 

 

******

 

 

月明かりに照らされる横浜市街。

 

ATXチームは街に出現したBF団の戦闘兵器と交戦する所だ。

 

安西博士は斥候として先に出撃していたジャイアントロボを操る草間大作によって先に救助されハガネへと運ばれた。

 

引き続き、ジャイアントロボと共に共闘し一掃する事となった。

 

 

 

「んもーせっかく日本にたどり着いて休暇もないのに相手はポンポン出てくるんだから!」

「少尉、仕方がありませんよ…」

「せっかく横浜に来たんだから中華街位行かせて欲しいわよ!」

「仕方がないだろう…」

「確か、休暇申請と言えば街にはアーガマの隊員も出払っているって聞きましたけど…」

「アーガマって…ハスミ、もしかしてリョウト君やリオも?」

「それは分からないけど…今日横浜で開催予定の花火祭があるから来てるかもしれない…(クスハが言う様にリョウトとリオの念が中華街辺りから感じるし。」

「あら?その子達って誰?」

「高校の同級生のお友達です、幕張で仲良くなりました。」

「私やクスハと同じ様に幕張の戦いに巻き込まれて志願兵に、現在はアーガマ隊へ配属されています。」

「ああ、あの時のね。」

「巻き込まれていないといいのですが…(巻き込まれちゃっていると言えば正しいけど。」

「アサルト1以下各機、無駄口を叩くのは終わりだ…隊長の雷が落ちる前に気を引き締めるぞ…!」

 

 

キョウスケの発言を皮切りにゼンガーが各機に号令を掛けた。

 

 

「アサルト0より各機へこれより国際警察機構所有の特機と共に街に出現したBF団所有の機体を破壊する、民間人の避難が終わるまで極力市内での戦闘は避けろ!!」

「アサルト1、了解!」

「アサルト2も了解よ、ボス!」

「アサルト3、了解!」

「アサルト4、了解しました!」

「アサルト7、了解です!」

「皆さん、よろしくお願いします。」

 

 

各自の了承と共にジャイアントロボを操る少年は礼儀正しく挨拶をした。

 

 

「よろしくね、えっと?」

「僕は草間大作です、よろしくお願いします。」

「可愛いボクちゃんは礼儀もいいのね、私はエクセレン、エクセ姉さんって呼んでね。」

「少尉…自分はブルックリン、ブリットと呼んでくれ。」

「はい、エクセレンさん、ブリットさん。」

「あら、姉さんって呼んでくれないの?」

「いえ、初対面の人にそんな事を言うのは…」

「気にしなくていいのに~」

 

 

相変わらずの茶々を入れるエクセレンにどう対応すればいいか困る大作。

 

その様子を見ていたゼンガーは早速布陣を決めて各自に通達した。

 

 

「アサルト1は俺と行動、アサルト2と3は草間少年と共に行動、アサルト7は前回と同じく4のフォローを頼む。」

「アサルト1、了解。」

「OKよ、ボス!」

「了解。」

「アサルト7、了解です。」

「ハスミ、ごめんね…私が操縦に慣れないから。」

「クスハは前よりも旨くなってるし心配しなくていいよ。(序盤はそうでも、貴方は後に超機人を乗りこなせる位に成長するんだから…」

「うん。」

「クスハ、相手が特機の場合は敵が寄ってこない内はブーストナックルとマキシブラスターで牽制…寄って来た時は…?」

「様子を見ながら弐式爆連打と計都瞬獄剣の格闘戦で応戦ね…ええ、覚えたわ。」

「そう、こっちもなるべく援護に回るから落ち着いて行こう。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

各自のメンタリティーの調整が終わる頃合いを見計らいゼンガーは隊長として活を入れて戦闘を開始した。

 

 

「各機、散開!」

 

 

=続=




<今回の登場人物>

≪LTR機構≫
遺失技術調査研究(Lost Technology Research)機構で新西暦160年に発足。
世界中の遺跡を調査し、失われた技術を解析する機関。
安西真琴博士が中心人物で、娘であるエリ博士も所属している。

※安西エリ
ドリルLOVEな人。
超機人発掘の為、中国大陸山西省の蚩尤塚に滞在していた所、BF団に捕らえられそうになった。
今回は国際警察機構の伝手で救い出され、横浜まで護送されていた。


≪国際警察機構≫
俗に言う正義の味方であるが人外級(一部除く)の集まり。
黄帝ライセを筆頭に九大天王と呼ばれるS級エージェント、A級エージェントとランク付けがされている、最下位はC級エージェント。
察しの通り、ランクが上に行くほど人外率が高くなる。
現在はα基準でBF団を始めとした反政府組織と対立中。
話から察するにGGG等の特殊な組織と面識があるらしい。

※草間大作
ジャイアントロボが無いと何の力も持たないごく普通の少年。
どことなく背伸び加減が見え隠れしている。
漫画版の様な能力を持ち合わせていない。
現時点でOVA版と思われる。

※銀鈴
国際警察機構のエージェント、テレポート使い。
声的に某○○の城を思い出す。

※鉄牛
国際警察機構のエージェント、鉄斧による戦闘を得意とする。
微妙に大人げなく見える。


≪BF団≫
こちらも人外級が集う国際犯罪組織。
今回は安西エリ博士の誘拐を目論むつもりだった様だが国際警察機構とハガネ率いるATXチームの活躍によって退けられる。
向こう側の幹部クラスが出ていない事もあり、何か別の思惑がある様に思われるが?

※Qボス
OVA一話でお役御免の人。


≪旋風寺コンツェルン≫
『電力』を利用した研究都市に存在するヌーベルトキオシティの財閥。
実際は秘密のヒーロー『勇者特急隊』の隠れ蓑であり、日夜街を荒らす悪党を懲らしめている。
各研究都市に指定されているシン・ザ・シティの『破嵐財閥』や星見エリアの『西園寺財閥』とコネを持っており、Gアイランドシティの『宇宙開発公団』に多大な出資を行っている。


※旋風寺舞人
若干15歳の旋風寺コンツェルンの社長、祖父は総帥をしている。
ヌーベルトキオ大学の入試問題を軽々と解いてしまう頭脳を持つ。
『勇者特急隊』のリーダー。
今回は正体を明かさず、エネルギープラントを襲撃した敵を撃破するも、後編にて大損害を被る。
Vではなく勇者の物語の設定と思われる。

※マイトガイン
勇者特急隊が所有する特機の一機にしてマイトガインそのもの。
マイトウイング、ロコモライザーとの合体前はガイン。
ヌーベルトキオ・タイムズの新聞にも一面を飾っている。


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第二話 『嵐声《アラシノコエ》中編』

月下の街で巨大な侍は吠え、その剣を構える…






「くそっ、ジャイアントロボならいざ知らず…あのATXチームまで出てくるとは…!」

 

 

車両に偽装していたBF団所有の怪奇ロボを操縦する覆面の男性は外に丸出し状態のコックピットから悪態をついていた。

 

何故なら同団員が操る同型機が次々に破壊されてしまっているからである。

 

 

「チェストぉぉぉぉ!!!」

 

 

零式斬艦刀による一刀両断。

 

 

「取った!」

 

 

『切り札』と呼ばれる連続釘打ちから鉛玉の全弾発射。

 

 

「はいは~い、むさ苦しい人はご退場ってね!」

 

 

オクスタンランチャーBとWモードの連射攻撃。

 

 

「チャクラムGO!」

「パンチだ、ロボ!」

 

 

チャクラムシューターの援護攻撃とジャイアントロボの鉄拳。

 

 

「クスハ、今よ!」

「ええ、マキシブラスター!!」

 

 

バーストレールガンによる援護射撃とマキシブラスターのコンビ攻撃。

それぞれの武器の組み合わせによってBF団の放ったロボットは瞬く間に破壊されたのだ。

その為、残っているのは悪態付いていた隊長格のQボス機のみである。

 

 

「こんな筈では…!」

「男なら潔く引き際を見据えた方がいいわよ?」

「投降してください、次は撃ちます。」

「ふん、投降するくらいなら!」

 

エクセレンの挑発的な説得からクスハの献身的な説得を試みるが通じず…

最後の悪あがきに乗り、こちら側に特攻してきたのである。

 

 

「その意気や良し!」

「隊長…!」

「奴の相手は俺が引き受けた…全員手を出すな!」

 

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

ゼンガーは零式斬艦刀を構えると突撃を開始したBF団のロボットに対峙した。

 

 

 

「我が名はゼンガー!ゼンガー・ゾンボルト!悪を断つ剣なり!!」

 

 

その切っ先を向け、もはや名言とまで言われた台詞を語った。

 

 

「斬艦刀!疾風怒濤!!!」

 

 

グルンガスト零式がブースターを噴かせ、相対する様に突撃しそのままのその巨撃を振り下ろした。

強大な剣先は瞬く間に相手の戦闘ロボを押し潰し、機体は横浜の地に沈んだ。

 

 

「我が斬艦刀に…断てぬものなし!」

 

 

敵前逃亡は彼らBF団に取って最大の裏切り行為。

逃げる事は出来なかったのだろう。

潰されたコックピット部分だった場所に朱い跡が四散していた。

せめてもの鎮魂を込めて、私はコックピットの中から合掌と黙祷を捧げた。

 

 

「これで敵さんは全部かしら?」

「ブリッド、どうだ?」

「周囲に敵残存兵力はありません。」

「アーガマ隊は?」

「無事避難を終えたとアーガマより入電がありました。」

「よし、これより帰還…!?」

「隊長、これは!?」

「少佐!伊豆基地より入電、横浜郊外の海上発電プラントが謎の起動兵器に襲撃されていると通達です!」

 

 

ブリットが通信を受け、命令内容を復唱した。

 

 

「現現場は後続の別部隊に引き継ぎをし、ハガネ以下ATXチームは海上プラントへ急行せよと命令が出ました!」

「分かった、アサルト2と7は先行し海上プラントに向かえ!」

「了解よ、ボス!」

「アサルト7、了解。(海上しかも発電プラントに襲撃?それに夜って事は…まさか!?」

「そう言う訳だから先にドライブと洒落込むわよ、ハスミちゃん!」

「了解です。」

 

 

ヴァイスリッターとガーリオン・タイプTはそのまま部隊を離れて海上プラントへと急行した。

 

 

† † † † †

 

 

横浜郊外に隣接された海上発電プラントに向かっている道中の事である。

ちなみにこの海上プラントはヌーベルトキオシティへの電力供給を行っている発電所の一つだった事が後の報告書で分かった。

 

 

「全く、こういう忙しい時には白いキツネちゃんが欲しいわね。」

「あ、青いタヌキじゃなくて…ですか?(どう聞いてもどら焼きLOVEのネコ型ロボットです。」

「あら?そうだったっけ?」

 

 

最初はカップ麺?と思ったが空気を読んで青いタヌキと返しておいた。

エクセレン少尉、イイ感じのネタをありがとうございます。

 

 

「キツネは兎も角、この件が終わったらお夜食にうどんでも作りましょうか?」

「あら本当に?」

「はい、報告書を纏め終わったらですけどね。」

「わぉ、お姉さん期待しちゃうわよ?」

「甘辛お揚げの入ったきつねうどんでよろしければ。」

「それじゃ、早い所暴れまわってる悪い子さんにお尻ペンペンしに行きましょ?」

「了解です。」

 

 

 

† † † † †

 

 

先程グルンガスト零式によって真っ二つにされた怪奇ロボを近くのビル街から伺う人影があった。

 

 

「ふん、小物を焚き付けてみたがこの程度か…」

 

 

独特の髪型、右目に独特の眼帯をした紳士服の男性が葉巻煙草を吹かしながら嫌味を呟いた。

その横にスキンヘッドの男性が付き従っていた。

 

 

「やはり、直接焚き付けなければいかん様だな。」

「アルベルト様、どうされます?」

「今は奴らの動向を探り、いずれジャイアントロボごと奴らを襲撃する。」

「はっ!」

「イワン、車を出せ!」

「只今。」

「我らがビッグファイアの語る『九浄家の姫巫女』…我ら十傑集に匹敵する力の持ち主か?それとも凡人か?楽しみだな。」

 

 

******

 

 

その頃、シン・ザ・シティの郊外に構える屋敷の一室にて。

 

 

「万丈様、先程横浜にて勇者特急隊が動きを見せたそうです。」

「ようやく彼も戦いに出られる戦力を整えたらしいね。」

「ええ、ですが確認できた機体は1機のみでした。」

「なるほど、足並みを揃えるにしてもGEARもGGGもパイロット候補者の確保や彼の調整と問題が山積みだからね。」

「ええ、ブレイブポリスからのデータ提供や旋風寺コンツェルンの極秘裏の協力がありましても…」

「判っている、彼らも僕らもあの『蒼い睡蓮』からの警鐘を無下にする訳にもいかない、来るべき日までにその戦力を整えよう。」

「そうですね。」

 

 

=続=

 




<今回の登場人物>

≪アーガマ隊≫
本来の正式名称は第13独立遊撃隊ロンド・ベル、上記は略称として使用される。
この世界ではティターンズが設立されなかったので連邦軍特殊独立部隊ロンド・ベルと呼称されている。
メンバーはMS乗りを含め日本各地に在住する研究機関の特機、フリーの傭兵、異世界帰り等が集結している。
度重なる連戦で機体の修理やオーバーホール中だった事と横浜の花火大会に戦闘要員の多くが出払っていた為に出撃する事が出来なかった。
今回の事件後にSRXチームが実戦での戦闘経験の為に合流する。

≪破嵐財閥≫
※破嵐万丈
シン・ザ・シティに屋敷を構える富豪。
現当主である彼自身の手腕もあり、経済的にもかなり裕福である。
その実態は火星のメガノイドに復讐心を燃やすダイターン3の隠れ蓑。
一節によると彼自身が最高傑作のメガノイドと言う説がある。

※ギャリソン時田
万丈の執事、旋風寺舞人の執事をしている青木とは執事仲間。

≪BF団≫
※衝撃のアルベルト
BF団十傑集の一人、ジェガン破壊の人。
BF団首領であるビッグ・ファイアの勅命で『九浄家の姫巫女』の監視を行っている。
特に能力の開花など目立った様子は無いと判断している。
放置してもいいと言う考えに至ってもいるが…?


※オロシャのイワン
BF団B級エージェント、ハニワさんの運転手。
『バシュタールの惨劇』の被害に遭っていないものの何故かBF団入りしている。


<今回の用語>
※きつねうどん
ハスミが作ったきつねうどん。
諸事情で一部が手抜きだが味は保証済み。
材料は冷凍うどん、冷凍だしキューブ(だし汁を煮詰めて冷凍したもの)、鰹節、油揚げ、しょうゆ、みりん、お砂糖、長ネギ、七味唐辛子。
エクセレンから「私のお嫁さんに来て~♪」と冗談交じりな発言をされている。
後に一日20食限定で伊豆基地の食堂に並ぶ羽目になる。

※クスハおにぎり
クスハの作ったおにぎり。
具材はおかかと梅わさび。
クスハの中で定番になっているチョコレートと梅ジャムが投入されそうになった所をハスミが止めたので普通のご飯と具材となっている。
理由は過去に学園全体で行われた体力強化合宿の際にクスハドリンクでご飯を炊こうとしていた為である。

※九浄家の姫巫女
ハスミの事を指す、九浄家は代々女性のみに特殊な能力が宿る。
ハスミの母である『蓮華』も特殊な能力を所持していた。
しかし、近年に入りその能力の伝承も薄れてしまっている。
先祖返りを起こして能力に目覚めた蓮華やその子であるハスミにも素質は受け継がれていると思われたが周囲からは何もないとの事で普通の子として扱われていた。
実際はハスミ自身は能力を所持しており、母親の形見であるペンダントの力で自身の能力を封印しているのが真実である。
ハスミが確認している中で姫巫女の秘密を知っているのは死去した先代当主の母方祖父母と実母、養父となったカーウァイとテンペストのみである。
何故、BF団首領のビッグ・ファイアがこの事を知っていたかは不明である。


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第二話 『嵐声《アラシノコエ》後編』

少女の祈りと共に現れる嵐を呼ぶ勇者…

愚かな鬼は泣き叫びながら退散したが…

巻き起こるは更なる波乱の波…

赤き忍が…

剣を携えた狼が…

月下の舞台で美しく舞う…






横浜の戦闘が発生して少し経った頃。

 

 

「お願いです、どうか電気を奪わないで!」

 

 

少女は赤いロボットに向かって叫んだ。

何度も何度も繰り返し繰り返し叫んだ。

しかし、己の欲望の為に赤いロボットは少女を踏みつぶそうとした。

だが、それを止めようと一人の人影が走り彼女を抱きかかえて物陰へと飛び込んだ。

自分を救ってくれたヘルメットをかぶった少年の姿を観ると彼はこう答えた。

 

 

「君、大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます。」

「良かった…でも、ここは危険だから早く逃げるんだ。」

「あの、貴方は…?」

「俺は嵐を呼ぶ勇者…君とは何処かでまた遭えるよ。」

 

 

少年はそう答えると赤いロボットを抑え込もうと応戦している青いロボットに指示を出す為に去って行ってしまった。

いつか遭えると答えて。

それは何を意味しているのか?

少女がその意味を知るのは長い時間が必要であった。

 

 

「ガイン、予定通り始めるぞ!」

「分かった、舞人!」

 

 

青いロボットことガインの了承を得た少年こと舞人は左手首に装着したブレスに向かって叫んだ。

 

 

「ロコモライザーアァァ!!」

 

 

同時刻。

海上プラントに接近する物体があった。

それはSL型の機動兵器だった。

巨大な汽笛を鳴らし、海上を突っ切って海上プラントに向かって来たのだ。

 

 

「ちょ、何あれ!?」

「っ!(間違いない、あれはロコモライザー!」

 

 

私は自分の中で確信しながらエクセレン少尉と共に巨大なSLの機動兵器に目を向けていた。

これこそがあの名シーンの幕開けだったからだ。

ちなみにガーリオンの搭載カメラでロコモライザーを総撮り中である。

後でリュウセイに送って変なポーズをする様を見ようと思ってる。

 

 

「あらら、随分とおっきいSLが出て来たわね。」

「…機動兵器か何かでしょうか?」

「ん~逆に輸送艦か何かかもね?」

「それもありそうですね。(輸送艦でもあってガインの合体パーツなんですよね。」

「まあ、それはともかくこっちも急ぎましょっか?」

「了解です!」

 

 

私達は同じ場所へ向かっているSL型の機動兵器を追う様にその後方から機体を飛ばした。

 

 

「レェェェッツ! マァァァイトガァァァイン!!」

 

 

海上プラントで目撃したのは何処からか聞こえて来た少年の声と汽笛の音。

プラントに到着したSL型の機動兵器は既に戦闘を開始していた青いロボットと新幹線を模した戦闘機を認識すると変形を開始した。

後は知っている通りの動作だ。

そしてあの言葉が聞こえた。

 

 

 

「まさか、あれが噂のマイトガイン!?」

「そう、その通り!!」

 

 

 

「「銀の翼に希望を乗せて、灯せ平和への青信号!勇者特急マイトガイン、定刻通り只今到着!!」」

 

 

毎度おなじみの台詞を聞いた後は何も知らなかった素振りをしてエクセレン少尉と会話を続けた。

ちなみに合体中にヴォルフガングに武装解除の勧告をしたが予想通りの反応をしてくれたのでフルボッコにする予定です。

 

 

「ビックリし過ぎて呆気にとられちゃったわ。」

「本当です。(TV画面越しとかじゃない、本物です!」

「どんでん返しのサプライス状況になった所で…ハスミちゃん。」

「こちらの警告を無視した輩はどうしますか…ですかね?」

「そうね、あの真っ赤かのゴロゴロちゃんに痛~いお仕置きでもしましょっか?」

「はい、了解しました。(正直、舞人君達を敵に回したくないのが本音だし」

 

 

私はエクセレン少尉と一緒に画面越しではあるが悪意を込めた笑みを互いに交わした。

うん、思いっきり性根が悪くなり始めてる。

だが、私達が手を下す前にマイトガインはティーゲル5656を仕留めてしまった。

しかも必殺技ではなくただの一文字切り。

どういう事かは不明だが、必殺技をするに値しない相手だったのだろうか?

謎が残った。

無事に海上プラントに襲撃をかけてきたティーゼル5656を退けた私達だったが、問題が残っていた。

 

 

「少尉、どうしますか?」

「そうね、ボス達が来るまでにSLちゃんと周辺の状況確認だけしときましょうか?」

 

 

それはマイトガインの事である。

 

軍に認識されていない所属不明の機体。

 

これをどうするかでエクセレン少尉と悩んだ。

 

私の考えとすればこうである。

 

後続でこちらへ向かっている隊長の指示を仰いでも良かったが、問題は彼の正体が知らればとんでもない事になるからだ。

 

一介の大企業の社長が極秘裏に機動兵器の開発及び武力行為を行っていたと知られればスキャンダルの騒ぎではない。

 

各地に点在する研究都市へ軍強硬派の介入の糸口にさせてしまうからだ。

 

軍事制圧による関係者への身柄拘束及び戦力の接収などで彼らの自由が無くなるのは避けたい。

 

彼らは今後起こる戦いに無くてはならない存在だからだ。

 

後の戦いでも彼らの助けを借りなければならない。

 

そう考えていた矢先だった。

 

 

 

「っ!?(この感じ、何か来る!?」

「ハスミちゃん、どうしたの!?」

「何か来ます!(アカシックレコード…そんな!?」

 

 

その場に現れたのはボロボロになった正体不明の機動兵器群である。

各自損傷が激しく何かから逃げてきた様にしか見えない。

 

 

「何なの~あの厳つい連中は?」

「わ、分かりません。(あれはザ・ブーム軍のバンクスとギャンドラーの小物その他!?」

「そりゃ見た事もない機体だもんね。」

「何故でしょうか、あの機体やけに傷ついてませんか?」

「そうね、敵さんなら…いざ戦闘って時にこれだけやられてるのも可笑しいわね。」

「…(あれだけの数なら二人でやれなくもないけど問題はそれを無傷かつ一人で相手した存在だ。」

 

 

相手にしたくない相手がこっちに向かって来ていると言う事である。

 

「流石、忍者汚い!」とか言いたくなるような物騒な忍者がね。

 

前世では画面越しであるがあれはチート過ぎるだろう。

 

奇天烈な見た目に反して美声なのは許すが。

 

碌に戦闘経験を積んでいないレベル10以内のルーキープレイヤーが中堅プレイヤーに手を出すのと同じ事だ。

 

いや、もっと拙い展開かもしれない。

 

下手をすればレベル1がレベル100に対して戦いを挑む状況でもある。

 

 

 

「何でしょうか、あれ?(まさかビッグゴールドをこの目で拝む日が来るとは思わなかった。」

「な、成金趣味とかじゃないわよね?」

「た、多分。(今更だけど、あの趣味は解らんわ。」

 

 

この世界の原作では設定はあったものの出現しなかったマスク・ザ・レッドとビッグゴールド。

 

それが今、目処前に現れた。

 

正直言うと弐式とmk-Ⅱを指パッチンネタを披露した素晴らしきの紳士の方が印象的だ。

 

だが、この忍者も負けず劣らずかなりの猛者だ。

 

現代に残るチート級・忍者の一人である以上、その実力も確かだろう。

 

 

 

「フン、面白いものを見つけたと思ったが…実に手ごたえがない。」

「何なの?あの赤マスクのヘンテコ忍者さんは?」

「少尉、それは言わない方が本人も気にしているかもしれませんし。(はい、全滅フラグ確定しました。」

「聞こえているぞ…」

「あらら、別に悪気があって言った訳じゃあ~」

「少尉、悪ふざけは止めておいた方が良いです。」

「そうね、とんでもない忍者を相手にしているみたいだしね。」

「ほう?」

「…(本能的には逃げたいけど逃げる訳にはいかない!」

 

 

その一瞬だった。

 

何が起こったのか判らなかった。

 

破損し墜落したヴァイスと吹き飛ばされたマイトガインの姿が見えた。

 

オマケにバンクスとギャンドラーの小物達は真っ二つに両断された屍の山を築いていました。

 

 

「…(これは剣圧、それもかなりの技量だ。」

「ほう、これが視えた様だな?」

「嫌な気配には敏感な達のもので。」

「…(あのパイロット、一瞬とはいえ俺の居合を避けるとは…面白い!」

 

 

一介のパイロットがあれを避けたのは拙かったかな?

 

それでもあの一撃を被弾すればガーリオンが保たないし。

 

 

 

「貴様、名は?」

「私は蓮実、九浄蓮実…ATXチームの一人です。(機嫌を損ねてもアレだし名乗っても大丈夫かな?」

「九浄だと…!?」

「あの?(驚いている?」

「そういう事か、孔明め…」

 

 

気配が変わった?

 

これは殺気!?

 

 

「奴が何を企んでいるかは知らんが、貴様を野放しにする訳にはいかないな!」

「っ!?」

「十傑集が一人、マスク・ザ・レッド、これが貴様の息の根を止める者の名だ!」

「私もATXチームの名に賭けてここで引き下がる訳にはいかない!」

「その意気や良し!」

 

 

ここで引き下がったらエクセレン少尉、舞人君やガインの命はない。

 

無謀かもしれない。

 

それでも彼らを守れないのはもっと辛い!

 

やるしかないのよ!

 

 

「まだ、これを使うつもりはなかったけど!」

 

 

私はガーリオンに装備された刃をパージした。

 

そのままパージすれば地面に落下するだけだがそれは起こらない。

 

刃は私の念を通して浮いているからだ。

 

 

「これは?」

「強念の刃は今、華開く!」

 

 

念じて刃は華開き、一瞬にして咲き誇る花弁の槍。

 

それは誰をも寄せ付けぬ気高き一輪の華。

 

穢れを浄化する美しき歌蓮鳴る華。

 

踊れ、踊れ、舞い踊れ!

 

 

「舞え!ストライク・アキュリス!!」

 

 

私の念を通して敵を射抜くストライク・アキュリス。

 

相手に刺されば巨大な念の槍と化して敵を射抜く。

 

敵を翻弄し最後は花が咲き誇る。

 

そう燃料と鮮血の花が咲く。

 

まるで妖に魅入られた哀れな生贄の様にその命を散らすのだ。

 

 

「腕は良いようだが、持久戦には向いていない様だな。」

「ぐっ!?」

 

 

外部に念の力を感知されない様にブレーカーの役割を持つ形見のペンダント。

ペンダントを付けた状態の私ではここまでが限界だった。

 

後、一歩の所で念が途切れたのだ。

 

もう少しでマスク・ザ・レッドに一矢を向けられたのに!

 

目の前がぼやけて来た。

 

 

「冥土の土産だ、一瞬で終わらせてやる。」

 

 

機体を墜落させ、地に墜ちた私のガーリオンはただ破壊されるのを待っていた。

 

意識が途切れる最後、独特の台詞を耳にした後、私の意識は飛んだ。

 

 

「待てぃ!!」

 

 

そして次に目覚めたのは病室のベッドの上。

 

後続で追って来た隊長達の話では既に敵影はなかったとの事だった。

 

どうやら助かったらしい。

 

******

 

 

海上プラントでの事件後、予想外の敵襲により自分自身と機体を損壊させた私とエクセレン少尉は治療の後に報告書とその時に撮影し破損で削除されなかった僅かな映像を纏めてゼンガー少佐へ提出した。

 

今頃、レイカー司令の元へその報告が上がった頃だろう。

 

そして現場で回収された残骸が一部を除き、地球性の機動兵器ではない事が判明した。

 

つまりは外来…異星人の物ではないかと言う議論が上層部で行われている。

 

まあ、こんなにも早くザ・ブーム軍とギャンドラーが出てくるとは思わなかったけどね。

 

それでも各陣営共に少数だけだったのが気になる。

 

情報を聞き出す前にマスク・ザ・レッドに倒されてしまったので彼らが地球圏にやって来た理由を知るのはどうやら先の様だ。

 

後はロム・ストールから直接聞き出すしかない。

 

外宇宙で何か起こっているのかをね。

 

後で『蒼い睡蓮』にひと仕事して貰うのとアカシックレコードに詳しく聞いてみる事にする。

 

肝心のマイトガインの戦闘データはさすがにどうしようかと思ったが…

 

運良く、その戦闘でデータが破損してしまったので見せずに済んだ。

 

うん、合体シーンの画像がパーです。

 

その元凶であるマスク・ザ・レッドに目を付けられた事も少々厄介だ。

 

ここ暫く…ものすっごい寒気に襲われるのだが気のせいと思いたい。

 

あの戦闘の情報はBF団にも届いて居るだろう。

 

エクセレン少尉は気絶していたので見られてはいなかったが、私のサイコドライバーとして能力をフル発動させてしまったのだ。

 

流石に相手を退ける程度に収めていたがそれでも気絶してしまう反動だ。

 

後の事もあるし、後で修業をやり直そう。

 

 

******

 

 

事件後、負傷は大した事は無く二、三日で動ける様になった私はエクセレン少尉との約束だった料理を披露した。

 

 

「わお!すっごく美味しいわよハスミちゃん♪」

「気に入って頂けて何よりです。」

「クスハ曹長のおにぎりも美味しいですね。」

「ありがとうございます。」

「二人ともお料理出来てお姉さん感動しちゃうわ。」

「普段から自炊しないからだろう?」

「あら~お湯入れて三分は出来るわよ?」

「カップ麺は料理と言えませんよ、少尉?」

「ブリット君まで~」

「まあまあ…(設定とは言え、エクセレン少尉の調理技術壊滅ネタがここまでとはね。」

 

 

双方呆れた顔で料理できない事をキョウスケとブリットに指摘された後、空の器をテーブルに置くとエクセレンはいつものノリでハスミに抱き付いた。

 

 

「ハスミちゃん、遠慮しなくていいから私のお嫁さんに来てぇ~!」

「あの、それだと同性婚とかになりますけど?」

「いいじゃない、同性婚合法化とか進んでるし~!」

「…キョウスケ少尉はどうするのですか?」

「勿論、私の旦那様でハスミちゃんは私のお嫁さんでいいじゃない?」

「…今度は多重婚ですか。(わー相変わらずのノリ御馳走様です。」

 

 

相変わらずのノリを軽くスルーする中で、陰湿なオーラを出しながら部屋の隅で怨念を飛ばしかねない養父の笑ってない顔が目に映った。

 

 

「言うのは構わないが…テンペスト少佐、部屋の隅から怨まないで下さい。」

「お、お義父…いえ、テンペスト少佐?(何だが撫子パパなノリになってる。」

「あらら~少佐御免なさい、お宅の義娘さんに何かしようとかそう言う悪気は…」

「エクセレン少尉、冗談だろうが次はペナルティを考えておく…ゼンガーもいいな?」

「構いません。」

「ぼ、ボスまで!?」

「日頃の行いのせいだな。」

「きょ、キョウスケ!仏頂面しないで助けてよ~!」

「上官命令だ、諦めろ。」

「キョウスケの馬鹿ぁ~っ!!!!」

 

 

泣きっ面に蜂状態なのかエクセレンは泣きながら分隊室を退室して行った。

ご丁寧に食べた分の食器を持ってである。

 

 

「テンペスト少佐、今のは職権乱用では?」

「部下の健全を見守るのも上司の務めだ、そうだろうゼンガー?」

「全くです。」

 

 

うわ、あの隊長が威嚇されている。

 

ここまで運命を変えると人格も変わるものかな?

 

他の面々もこうなっちゃうのかしら?

 

兎も角、お義父さんが親バカになり始めている事にはごめんなさいです。

 

 

「以前出会った時よりも少佐の過保護が進んでいる様だな。(汗」

「はい、元気そうで何よりですけどね。(唖然です。」

「あの様子では、当分恋愛の一つもさせて貰えないだろう。(遠い目」

「ですよね。(シクシク。」

 

 

私はゼンガー少佐にヒソヒソレベルの会話で状況を説明した。

 

ピンと来る相手も居ないので私の春は当分先の様だ。

 

 

† † † † †

 

 

その夜、とある海岸沿いにて。

 

 

「指定の場所はここか…」

 

 

人気のないの海岸で誰かを待つロムの姿があった。

 

 

「…待たせてしまって申し訳ない。」

 

 

彼を見つけた白いローブ姿の人物が現れた。

 

 

「貴方がブルーロータスか?」

「その通りだ、そちらはロム・ストールで宜しいか?」

 

 

互いに自己紹介を終えると本題に入った。

 

 

「ああ、それで俺に聞きたい事とは?」

「知る限りでいい、そちらが持つ外宇宙での情報を聞かせて貰いたい。」

「何故それを知りたいのですか?」

「全ては大いなる禍から世界を救う為にだ。」

 

 

その言葉と共に高波が静かに音を弾けさせた。

 

 

=続=

 




集結する力と力。

新たな仲間と共に突き進む。

例え分かれていてもその志は同じ。

次回、幻影のエトランゼ・第二.五話『別道《ワカレミチ》』

変わりつつある未来は何を与える?


<今回の登場人物>

≪民間人≫
※吉永サリー
後の旋風寺舞人のお嫁様。
父親の手術中に停電が起こり、その原因を作ったウォルフガングの操るロボットに押しつぶされそうになった所を舞人に救助される。
その後、シンデレラ街道をまっしぐらする事となる。
戦闘後は一連の事件の事情聴取の為、ヌーベルトキオシティ内の警察機構に保護される。

≪犯罪者≫
※ウォルフガング
自身の技術力を誇示するため様々なロボットを作り出すマッドな博士。
ティーゼル5656を部下と共に操縦しロボット開発に必要なエネルギー源を奪う為に発電所を襲った。
マイトガインによってフルボッコされ尻尾巻いて退散した。

《BF団》
※マスク・ザ・レッド
地球外勢力の調査に出撃していた所、今回の戦闘に出くわす。
生身で戦うと思いきやビッグゴールドで出撃していた。
どうやら秘密裏に動いているアルベルトを密かに追っていた模様。
因みに主人公曰く相手にしたくないランキングに含まれる。(順位は不明)


≪???≫
※ロム・ストール
天空宙心拳の使い手。
単身でギャンドラーとザ・ブーム軍を追っていたが既にマスク・ザ・レッドに倒された後だった。
その後、地球で動く為の隠れ蓑として勇者特急隊と行動を共にする。
現在は舞人の話し相手兼ボディガードと言う触れ込みで雇われている。

※ブルーロータス
ロムの前に現れた謎の仮面の人物。
声を電子機器で変換している為、男か女か判別は不明。
白のローブに独特の仮面を付けている。
ロムに外宇宙の状況を聞く為、呼び寄せた。



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第二.五話 『別道《ワカレミチ》』

指し示されるは幾多の道…

選べるのは一つだけ…

ならば、己の信ずる道を進む…

選べぬ道は未来を託し…

仲間に希望を託そう…


横浜の事件から三日後。

 

私達ATXチームは伊豆基地に置いてアーガマ、修復を終えたヒリュウ改、新たに帰港したクロガネ、それぞれに乗艦するクルーと合流する事となった。

 

レイカー司令の指示の元、各地で進軍を続ける敵勢力の無力化を進めると共に新たな任務への着任が決定したのだ。

 

その説明をする前に今回の合流メンバーを紹介します。

 

まず、アーガマ。

 

カミーユ、エマ中尉、クワトロ大尉らアーガマ隊、シャングリラチルドレン。

 

日本各地で行動していた光子力研究所、早乙女研究所、ムトロポリス、南原コネクション、ビッグファルコンと言ったスーパーロボット軍団の大御所。

 

そこへSRXチームとリョウト、リオが所属している。

 

次にヒリュウ改。

 

オクト小隊は相変わらずであるがレオナがオクト4として隊に組み込まれていた。

 

レオナによると以前所属していたトロイエ隊は別エリアにてエアロゲイターの襲撃に遭い、その多くが死亡はしていないものの負傷で戦線を離脱状態らしい。

 

どう言う経緯か不明だが元PTXチーム所属のイルムガルド・カザハラ中尉が乗艦していた。

 

何でも月面基地でダンガイオーと呼ばれる特機に搭乗する4人の少年少女らを保護したらしい。

 

彼らは宇宙海賊バンカーから逃亡中の身で仲間の一人が地球産まれとの事で逃亡先に選んだらしい。

 

後で格納庫を覘いたらアイザム・ザ・サードがあった。

 

あれ?衝撃のストーリーかなり飛ばしてないですか?

 

戦艦は参加していないがキング・ビアルの面々も参戦していた。

 

前々から思っていた事ですが、あのキチガイ緑ブタと言い訳ばっかの脳髄コンピューターはフラグが立つ前に消し炭にする予定です。

 

赤の他人が勝手に地球は悪の意思に満ちているとか決めつけるなんて馬鹿げている。

 

アカシックレコードに因ると後にガンエデン登場でフルボッコな結末が見えたので直接手を下す必要もないが個人的には止めを刺して置きたい。

 

今回、ギリアム少佐が極秘の任務でヒリュウ改に乗艦する事となった。

 

続いてクロガネ。

 

クロガネに配属するトロンべ隊にはエルザム・V・ブランシュタイン少佐を筆頭にATXチームのアサルト5のユウキ・ジェグナン、アサルト6のリルカーラ・ボーグナインがそのまま転属と言う形となった。

 

別動隊で動いていた獣戦機隊もこちらに参加していた。

 

例のあの人は既に裏切った模様です。

 

主に左遷の末、閑職に追いやられた筈の真空管ハゲs&スーパーサ○ヤ人な髪型しているアレが原因です。

 

ついでにハンス中佐も関わっていたよ。

 

碌な事しないこの4人には後で過去の羞恥ネタ暴露で精神的かつ社会的に始末しよっと。

 

ゴッドバードな妖魔帝国の復活フラグなどへし切長谷部ってくれるわ。

 

最後に我らがハガネ。

 

私達ATXチーム、ちなみに私はユウ達の転属でアサルト5にコールサインが変更になりました。

 

ハガネ所属のゴースト小隊よりカイ少佐、ジャータ少尉、ガーネット少尉、ラトゥーニ、他数名。

 

ゴースト小隊は数日前に伊豆基地司令宛に届いた『異名からの情報』で極秘遠征していたのだが、とある研究施設でラトゥーニの仲間である3人の少年少女と数名の被験者達を保護したとの事。

 

現在は違法薬物による投薬と精神汚染の関係で治療中らしい。

 

助けるのが遅くなってしまったが無事でよかった。

 

アーガマ隊所属のフォウやロザミアも別系統の研究対象だったが彼らと顔見知りだった様で心配していた。

 

残念な事に大元の元凶であるジジババ共は取り逃がしてしまった。

 

次にあったら袋叩きにします。

 

そして養父のテンペスト少佐が今回の任務からATXチームに同行する事となった。

 

お義父さん、いくら何でも職権乱用のしすぎです。

 

 

 

色々と愚痴ってしまったが、ある程度のメンバーは紹介できたので行き先を説明します。

 

 

 

レイカー司令から複数の戦艦が集結したので三手に別れて行動する事となった。

 

アイドネウス島経由トリントン基地行はハガネ、クロガネ。

 

アイドネウス島への監査を終えた後、そのまま南下してオーストラリアへ移動する事となった。

 

因みにこの世界ではシドニーにコロニー落としをされなかったので普通に都市として機能している。

 

お待ちかねの新型受領とそのテストにトリントン基地への旅行の様なものである。

 

それと同時にアルビオンを経由して地球に降りて来ると言うジオン公国のVIPと将校達の事が気になる。

 

これに関してはアカシックレコードからの先取り情報である。

 

ジャブロー経由ダガール行はアーガマ。

 

ジャブロー周辺の様子がどうもキナ臭くなってきたので現地調査を依頼された。

 

そのままダガール経由で同基地に配属されているアムロ大尉ら、カサレリアでウッソ達を拾って戻ってくるルートだ。

 

日本残留組にヒリュウ改。

 

流石に他のルートに戦力を回す訳にはいかず、日本防衛の為に残留となった。

 

噂の大元である「勇者」や「EVA」を確認できるチャンスかもしれない。

 

 

と、まあ…この様な布陣となった。

 

私はATXチームに所属している以上、他のルートへ向かう事は出来ない。

 

とりあえず、アーガマにリュウセイ。

 

ヒリュウ改にギリアム少佐。

 

この二人が居る以上、悪い方に展開が行かないと思うので彼らに任せようと思う。

 

後で『蒼い睡蓮の助言』を送っておくつもりだ。

 

さてと、アイドネウス島でマクロスの式典が行われるまであと二月…

 

それまでに戦力と布石を整えるつもりだ。

 

彼らにあの時の様な敗戦の想いだけはさせない。

 

私の眼の黒い間は危なっかしいフラグなんぞごみ箱へ強制送還してくれるわ!

 

あ、隠し要素は全員救出&救済主義なのでよろしくです。

 

=続=




アイドネウス島へ向かうハガネ。

そこで行われる究極と呼ばれるガンダムの稼働実験。

そしてあの悪夢が再来する。

次回、幻影のエトランゼ・第三話『金指《キンノユビ》』。

心の王の黄金の指は何を思うのか?






※今回はルート選択と説明の為、登場人物は省略します。


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第三話 『金指《キンノユビ》』

現れるは究極だった悪魔…

それらを止めるは…

荒々しくも神々しい金の指…

曇り無き水の一滴…

悪魔の産声に隠された嘆きと共に…

睡蓮は銀色の呪いを受ける…

それは偶然か必然か…




横浜での事件の後、各自の滞っていた機体修理や必要な補給物資到着までの遅延が続いていた。

 

物資到着までと療養期間を含めて1週間ほど、伊豆基地で缶詰にされてました。

 

その間に休暇を言い渡されたパイロット達は伊豆の海へ海水浴を敢行しそれぞれの親睦に勤めていた。

 

しかし、私の考えが甘かった。

 

今の時間軸はα、IMPACT、OGの序盤だ。

 

お決まりのネタをやられそうになったのだ。

 

そう、スパロボお色気シーン恒例行事の『のぞき』である。

 

幾ら何でも『のぞき』をされる日が来るとは思わなかった。

 

ちなみに甲児やボス達曰く『我が学園きっての三大ボ〇ンちゃんや数々のボ〇ンさん達がこれだけ揃っているんだぜ!見なくてどうする!?』だそうだ。

 

我が学園きってと言うのはさやかとクスハ、どう言う訳か私らしい。

 

オイこら!です。

 

ちなみにアカシックレコードでそれが発生する事を先に知った私は女子更衣室に罠を仕掛け、尚且つお義父さん達に頼んで恐怖の訓練メニューを考案してもらった。

 

案の状、更衣室に忍び込んで盗撮カメラ設置なり実力行使で覗こうとした連中は動画サイトyou・friend仕込みの罠(時限式メントルコーラ&タバスコ入りスライム爆弾)で仕留めました。

 

ちなみにこれらの罠道具は全部、先日伊豆の駄菓子屋で購入した代物です。

 

そして、とっ捕まった数名は炎天下の中で旧戦技教導隊きっての頑固親父sに説教の末、恐怖の訓練メニューをこなすペナルティに処されました。

 

うん、合掌はしておいてあげるよ。

 

えっとお義父さん、さすがにそれは素人じゃ死にますって。

 

何だかブツブツと『私の義娘に手を出せばどうなるか…』聞こえるわ怨念っぽいのが漂ってる!?

 

ついでにカイ少佐、数名昇天してます。

 

パパセコムってすごいね。

 

そんな阿鼻叫喚な状況を他所にエルザム少佐の海の家風の料理美味しかったな。

 

相変わらず黒のエプロンにブランシュタイン家の金箔家紋入りは凛々しいです。

 

後、ゼンガー少佐。

 

毎度の事ですが、ふんどし姿で釣りをしないで下さい。

 

それと貴方本当にドイツ人ですよね?

 

似合いすぎてて貫禄が出まくりです。

 

そのせいで浜辺の隅っこでエクセレン少尉や忍達辺りが腹部抑えて悶絶しています。

 

毎度の事ながら抱腹絶倒させてしまう破壊力は抜群です。

 

と、思いつつ隊長が釣った魚で作られた浜焼きを黙々と食べていた私である。

 

さてブリット、そろそろ気絶から回復しないと君鼻孔からの出血多量でそのうち死ぬよ?

 

いくらクスハの水着姿見て卒倒したとは言え、むっつりスケベ率が日々アップしてるね。

 

タスク、リュウセイ、気絶した彼に素数を数えろと言っても無理だよ。

 

それとクスハ、介抱するのに今のブリットには貴方の膝枕は毒だよ?

 

これが本当の無限ループって奴だね?

 

アハハ。

 

本当に楽しいね、この人達。

 

 

*****

 

 

そして休暇期間の1週間が過ぎた。

 

補給物資の詰め込み作業と短い休暇を終えた私達の部隊はハガネに乗艦し、アイドネウス島へ向かっていた。

 

今回はクロガネが追従する形で任務に参加しているのでありがたい。

 

元ATXチーム所属のユウとカーラとはクスハと共に意気投合し、紅茶の件でユウと音楽の件でカーラと話をした。

 

私も小説を執筆をする時に良くコーヒーやお茶にヒーリングソングを嗜みつつ進めるのでリラックスできるお茶や音楽などでいい知識を貰えた。

 

クスハドリンクの洗礼だけは何とか止めました。

 

察してくれた二人には感謝しきれない。

 

そう言えば、二人が連邦軍(OG)の軍服に袖を通している姿はかなり斬新だった。

 

まあ、お義父さんも同じ連邦軍の軍服だったので少し違和感はあるものの似合っていると思う。

 

私も同じ連邦軍の軍服に袖を通しているがピンク色の少女兵用よりも成人女性用の青い軍服の方が好みだ。

 

早い所、あの軍服が着られる様に成長したい。

 

後、前回の一件に関する情報収集並びに生還で私の階級が准尉へ昇格しました。

 

理由とすれば、あの時アキュリスを盾代わりにヴァイスやマイトガイン、屍の山を防御して死守し情報を持ち帰ったのが一つらしい。

 

確か、オリジン辺りで准尉に関する説明があった様な気もするけど割合します。

 

うん、気になる人は調べてください。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

次の哨戒任務まで休憩を取っていた私は自室でコーヒーを片手に小説の添削をしつつ例の情報に関してぼそりと呟いた。

 

 

「…にしても困りました。」

 

 

蒼い睡蓮から手に入れた情報に寄ると現在の外宇宙は大規模な混乱に陥っている。

 

原因と言うのは四大星間国家のいがみ合いである。

 

一つ目は只今、地球圏に喧嘩を売っていますよゼ・バルマリィ帝国。

 

二つ目は秘密裏に偵察を繰り返しているインスペクターことゾヴォーク。

 

三つ目は植民星かき集め中のズールとムゲ筆頭の星間連合。

 

四つ目は数で勝る驚異の軍団を使役するバッフ・クラン。

 

この四大勢力が星間内で戦争中らしい。

 

そしてゼントラーディとメルトランディの巨人軍団、宇宙怪獣、現在は地球圏に接触していないアインスト、ラダム、イバリューダー、ガルファ等の勢力が無作為に介入しているそうだ。

 

その余波でフリード星、ブレイブ星、ラドリオ星など温厚的な星々は滅ぼされるか隷属星として各勢力に星ごと拿捕されてしまっている。

 

逆に抵抗を続けた根性のある惑星群などは上記の四大勢力に取り込まれています。

 

誰だかもう察していますよね?

 

世紀末なアイツらですよ。

 

この様な感じに四大勢力は戦力増強の為の他星への侵略を繰り返してしまっている。

 

その最中に何とか生き延びた少数はここ地球圏を目指して流れているとの事だ。

 

何故か?

 

彼ら曰く、地球人は四大勢力と渡り合える戦力を秘めているかららしい。

 

後にそうなるかもしれませんが、今あの戦力で地球圏に攻め込まれたらひとたまりもないのですが?

 

 

「今は地球圏に侵略を開始しているホワイトスターを何とかしないと話が始まらないですね。」

「話には聞いていたがここまで複雑とは…地球圏よりも外宇宙の方が慌ただしいな。」

 

 

 

同じ様に私の自室でコーヒーを啜り、気難しい顔で答えたお義父さんことテンペスト少佐。

 

私が転生者で今回の経緯を大体把握している事を知っている人物の一人です。

 

正体を明かしたのは私がお義父さんの養女に迎え入れられた時である。

 

驚いていたものの過去の羞恥ネタを話したら信じてくれました。

 

うん、私が来る前の戦技教導隊時代にエルザム少佐のお手製虫料理を試食して卒倒し一日病室から出られなかった上にゴキブリのガサゴソ音でトラウマが発生するオチなんて誰にも言えないものね。

 

 

「はい、恐らくは各陣営に隠れ潜む悪意の仕業と思います。」

「例の悪霊の事か?」

「いえ、それとは違う欲望の悪意の集まりです。」

「己の欲望の為に他者の血を流させる輩だったな。」

「知っているとは言え、今の私に止める術はないのでどうしようもないです。」

 

 

知っているからこそ何も出来ない自分が歯痒い。

 

こう言う所はアニメや漫画の様にはいかない。

 

これが現実である以上、そのルールに沿って世界は進むのだから。

 

 

「ハスミ、お前はどう進む?」

「前にも話した通り、私は私の信じる道を進みます。」

「そうか…」

「無謀と思っていますか?お義父さん。」

「確かに無謀だが、それを補える手腕と知識がお前にはあるのだろう?」

「はい。」

「ならば私は何も言わん、お前が進むべき道を進むといい。」

「お義父さん…」

「だが、無茶だけはするな…それだけは約束して欲しい。」

「判りました。」

 

 

前世のお父さんもこんな感じだったのかな?

 

ゲームキャラクターを義理の父と呼び慕う今の状況。

 

傍から見ればおかしいかもしれないがこれが私の現実であり今の状況だ。

 

彼を父と呼び、同じ戦場を駆け巡る日々はとても充実している。

 

私はこの人を父と呼べて安堵しているのだ。

 

 

「お義父さん、前に話した通り…シャイン王女の護衛をお願いします。」

「分かっている、例のキョウスケ少尉の事件で降格と左遷したとは言えハンス少佐…奴の行動には不可解な事が多い。」

「恐らく、Anti・DCがそれに一つ噛んでいるでしょうから…」

「そうだったな。」

 

 

これから発生するシャイン王女の拉致事件にはAnti・DCが関わっている。

 

時系列と同じであればジャブロールートへ進んだリュウセイ達の部隊と接触する筈だ。

 

敵の数が多い為、ジョルジュ・ド・サンドがその場で介入する予定となっている。

 

この世界では彼を慕うマリアルイゼ姫とシャイン王女がご友人らしい。

 

歳も近いし、いい友達になっているのだろう。

 

ラトゥーニ、着せ替え人形にされまくりだろうな。

 

見た目も性格も可愛いからちょっとうらやましいかも。

 

話はさておき、その後の護衛をお義父さんに担って貰おうとした訳である。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

時折現れる敵を迎撃したり哨戒任務や艦内で訓練を行いつつ、ハガネ一行はアイドネウス島へ到着した。

 

予想通り、巨大なマクロスの母艦が鎮座している姿が目に移った。

 

そして島の中央にぽっかりと開いた湖にはメテオ3が沈んでいる。

 

現在は重力アンカーでメテオ3を支えているもののいずれセプタギンとなって地球圏を襲うだろう。

 

アカシックレコードによるとこの世界のUGのUG細胞はこのメテオ3の破片より転用されたらしい。

 

そう言えば『新』で似たような設定を聞いたような?

 

でも、この世界の東方不敗は地球人だし。

 

何で?またスパロボマジック?無限力(イデ)の陰謀?ややこしい。

 

この世界はどこまで『実験室のフラスコ』を『因果』で満せば気が済むんだろう。

 

 

 

「では、もう一度今回の目的を説明する。」

 

 

ハガネ艦内のグリーフィングルームにて今回の目的を説明された。

 

今回の目的はアイドネウス島にあるEOTI機関からの依頼で今回の稼働実験を行うUG(アルティメットガンダム)の警護依頼だった。

 

本来は地球環境再生を行う為の過程で作成されたものだが、このご時世だろうか兵器転用の声も上がっていた。

 

その一派があのヘンテコ銀仮面を付けていないウルベ・イシカワである。

 

あの仮面は原作では暴走したDG追撃の際に受けた傷を隠す為に付けていたので今はありません。

 

お義父さんにも事前に原作での彼の経緯を説明しておいたが、どうやらクロらしい。

 

軍諜報部でもギリアム少佐がマークしていたと話していた。

 

半信半疑だったが私の言葉でそれが確信になったとの事。

 

アカシックレコードの読み通り、今回の一件で事を起こすらしい。

 

出来る事なら止めなければならない。

 

 

******

 

 

私達は艦内で説明を受けた後、護衛対象の機体を見学する為にEOTI機関本部の格納エリアに訪れていた。

 

ゴースト隊やトロンべ隊も一緒である。

 

大部分は閲覧出来ないものが多いが今後の研究によって実用化が進められている技術やスポンサー確保の為に自分達の研究を見て貰いたいと言う研究グループなど様々な思惑がそこにはあった。

 

二ルファで戦う事になってしまったリクレイマーの母体となる伊佐未ファミリーのオルファンの研究も眼にする事が出来た。

 

時折、あの名を耳にするが既に彼は行方不明になっている様だ。

 

そりゃバイストンウェルで兵器開発を行ってますからね。

 

一通り、有名な名前をちらほらと聞きつつUGの保管されている格納庫へ足を進めた。

 

ビアン博士が行方不明になっていてもここは正常に機能している。

 

恐らくは側近だった存在達によって支えられているのだろう。

 

アカシックレコードに因ればビアン博士はシュウ・シラカワ博士とマサキ・アンドーと共に今もどこかで行動しているらしい。

 

何かの思惑か暗殺未遂でもあったのかは不明だが原作のDG設立フラグはへし折っておいたのでラングレー基地のグレッグ司令達は今だ健在だ。

 

私は出会った事はないがその内に顔を合わせる事もあるのかもしれない。

 

出来る事ならいずれ起こるであろう『次元を超えた先での戦い』の為に戦力は多い方がいい。

 

それが今の私の出した答えだ。

 

 

「あれがUG?」

 

 

考え事をしている私がエクセレン少尉の声で現実に引き戻された。

 

格納庫に鎮座するUG。

 

その横で主任研究者達が最終調整を行っていた。

 

 

「すごいですね…(あれはライゾウ博士とキョウジ・カッシュ、奥さんにミカムラ博士か。」

 

 

その中でひときわ目立つ赤いマントを羽織った青年がその様子を見守っていた。

その姿を観たエクセレンは狂喜乱舞しその横で案内を務めた男性の研究所スタッフが説明をしてくれた。

 

 

「ねえ、あれってドモン・カッシュよね!?」

「このUGの開発責任者が彼の父親だそうで、彼自身も今回の稼働実験の警護に参加してくれました。」

「うっそ、色紙持ってくるんだったわ!」

 

この様な感じで暴走するエクセレンにブリットが対応し、クスハやカーラ、ユウが話を進めた。

 

「少尉、任務中ですよ?」

「もう、ブリット君ったら~今は中止しちゃってるけど、彼って有名なガンダムファイターなのよ?」

「俺も知っていますよ、数か月前のアメリカの都市部でアメリカ代表のチボデー・クロケットと交戦してましたからね。」

「いいわよね、ブリット君ってばその時その場所に居たんだし~」

「居たと言っても任務中でしたし…」

「そう言えばその後に大会の中止が宣言されたんですよね?」

「そうそう、エアロゲイターとかの襲撃も徐々に悪化していたし。」

「その結果、大会よりも地球防衛の為に選手すら担ぎ出される羽目になったか…」

「うん、情勢は日々悪くなる一方だしどうしようもないよね。」

 

 

しかし、ガンダムファイトの中止で救われた命はいくらでもある。

 

UGの研究成果で宇宙放射線病の治療法が確立したり、国連から派遣されたWHOによって一部の国の命令でドーピング薬の服薬を余儀なくされ薬物などで弱ったファイターが戦場に担ぎ出される事も無くなったのだ。

 

戦場での死を望む人もいるかもしれないがそれ以上に残された者達の事を考えるきっかけとなった。

 

せめて余生位は静かにさせてあげたいのが私の信条でもある。

 

でも、誰かがまた新たな犠牲になる事だけは避けたい。

 

出来る事はやるつもりだ。

 

 

「あれ?」

「ハスミちゃん、どうしたの?」

「いえ、あのUGでしたっけ?何だか不思議な感じがしたので…」

「そう?」

「多分、私の気のせいかもしれませんけどね。」

「あらら?とうとうハスミちゃんもブリット君やクスハちゃんみたいにキュピーンとかなったり?」

「何を言っているのですか?私は二人や皆よりも適性がギリギリで…」

「そうは言っても、こう言うのって二人にはない特別な能力が実はあったりするものよ?」

「そうですかね?(ううっ、モロに図星なんですけど?」

「そうよ、自信を持ちなさいって!」

「は、はい。(本当に隠しててごめんなさいです。」

 

 

ちなみに私はサイコドライバーとしての能力の事を隠す為に適正テストではギリギリのランクを取って置いたのだ。

 

そうでなけれは私はあのガーリオンから降ろされてしまう。

 

それを避ける為の措置だ。

 

今の所、適性が高いとイングラム少佐に思われているのがリュウセイとクスハ、ブリットである。

 

後にSRXアルタードや龍虎王を乗りこなすのだがら適正は高めなのだろう。

 

その次にユウ、リョウト、タスク、アヤ大尉が同格、三番目にカーラ、リオ、レオナが似たり寄ったり、最後があるのかないのか不明な程度の私と言う結果だ。

 

正直に言うとペンダントを外してテストを受けていたらとんでもない結果になっていたかもしれない。

 

予測通りにフフフ…の人に謀られて機体ごと拉致、そのままホワイトスターにお持ち帰りルートだったかもしれない。

 

うん、ヤダね。

 

 

「そう言えばキョウスケは?」

「少尉なら先にハガネに戻られましたよ?」

「あらそう?」

「命令あるまで待機でしたから先に休んでいるのかもしれませんね。」

 

 

ゼンガー少佐らと各小隊と共にUG開発研究主任ライゾウ博士と研究メンバーに挨拶を終えた後、キョウスケ少尉は先にハガネへと戻ってしまったそうだ。

 

命令があるまで待機命令は出ているがUGの見学をするもよし、研究スタッフに連れ添って残りのスペースの見学もOKと言う事で自由時間になっていたのだ。

 

それを他所に私はアカシックレコードからまた情報を開示された。

 

 

「…(ん、そう言う事か?」

 

 

アカシックレコードより開示された情報が正しければキョウスケ少尉は会いに行ったのだ。

 

永遠のライバルである彼に。

 

そして偶然にも出遭う事になってしまった。

 

 

 

「久しぶりだな、キョウスケ・ナンブ?」

「やはり、アクセル・アルマー…!」

「その様子だとお前も記憶を持っている様だな?」

「!?」

「貴様もどうか知らんが、知っている記憶、知る筈のない記憶、どちらも所持するっていうのは何の因果だろうな?」

「状況はお前も同じという訳か?」

「俺と?お前も『あの戦い』を知っているのか?」

「ああ…」

 

 

二人は互いに『あの戦い』を口にした。

 

 

「俺達は『あの戦い』で確実に死んだ筈だった。」

「そしてどう言う訳か俺達は記憶を持ったまま同じ存在として生まれ落ちた。」

「お前は向こう側から来たのか?」

「ああ、俺が完全に記憶を取り戻したのはアインストに取り込まれたお前と対峙する時だった。」

「…」

「気にするな、貴様も救える筈の命を救えなかったのだろう?」

「調べたのか?」

「ああ、キョウスケ…この世界でも例のシャトルの事故に巻き込まれていたのだろ?」

「そうだ、そしてあの事故をきっかけに俺も記憶を取り戻した。」

「互いにややこしい時に記憶が戻ったものだな、これがな?」

「そうだな…だが!」

「安心しろ、俺はヴィンテル達と離別した。」

「何だと?」

「新しい可能性を見出したと言ったら『好きにしろ』だとさ。」

「…そうか。」

「それにちょっとばかり入れ知恵をしておいたし暴走はしないだろう、国際警察機構やBF団やら敵に回すと厄介な連中がいるからな?」

「アクセル、ラウル達はどうなった?」

「奴らは向こうの世界の月面のコロニーで研究を続けている筈だ。」

「記憶が戻らなかったのか?」

「記憶が戻るにしても差異はあるんだろう、恐らくは向こうで…」

「そうか…」

「見捨てるつもりはなかったが向こう側の独立機動部隊が余計な事してくれたおかげで宇宙との行き来どころか連絡すら取れなくなった。」

「どういう事だ?」

「あの機械仕掛けの女神(ガンエデン)の仕業ではないのは確かだ。」

「それでも地球圏を宇宙から遮断するフィールドを発生させるものでもあったのか?」

「何分情報が曖昧でな、分かったのはその独立機動部隊が何かの装置を起動させたと言う位だ。」

「そうか…」

「結果、俺達の居た世界は衰退と滅亡する運命にまたなった訳だ。」

「話が変わるがアクセル、何故ここに居る?」

「過去の記憶のよしみでなUG…いや、DG(デビルガンダム)の暴走を止める為だ。」

「…お前もDGの事を知っているのか?」

「ああ、恐らくお前の持つ記憶とは違う記憶で関わっていたらしい。」

「だが、知っているのなら話は早い、あの事件が起きるのはいつだ?」

「俺の推測が正しければこれからだ…!」

「!?」

「かつてDGの暴走を引き起こす原因を作ったウルベ・イシカワの周囲でキナ臭い連中が関与していたからな。」

「やはりか…」

「傭兵の真似事をしている俺がここでの警備の依頼を受けたのもそれが理由だ。」

 

 

 

あ~隠れていたとは言え、拙い事聞いちゃった。

 

まあ、これはこれで良かったのかな。

 

まさかアクセル・アルマーやキョウスケ少尉が逆行者だったなんて、何て奇跡?

 

それにしても『あの戦い』って何の事だろう?

 

可能性で言えば『霊帝』か『御使い』との戦いだと思うけど?

 

もっと強大な敵でも現れたのかな?

 

コンパチフラグ立ちそうな時点で『例のアレ』を思い出した私がいる。

 

 

******

 

 

その後。

 

稼働実験の開始時刻となり、各自持ち場に付いた。

 

ATXチームは外部からの侵入を妨害する為に施設の外で待機。

 

アクセルは内部での思惑を阻止する為にこの場には来ていない。

 

ドモンの姿もないので付き添っているのだろう。

 

 

 

「それにしても、あれ凄かったな?」

「ええ、あれが実現されれば地球の環境問題は無くなるんでしょ?」

「うん、そう説明を受けた。」

 

 

EOTI本部の実験場右側に展開するゴースト小隊のジャータ、ガーネット、ラトゥーニが通信機で会話をしていた。

 

彼らの乗機は順にゲシュペンストmkーⅡ(青)が二機とビルドラプターだ。

 

実験場左側に展開しているトロンべ小隊はガーリオン(黒)、ゲシュペンストmk-ⅡタイプTTが二機、ダンクーガの配備。

 

中央がATXチーム、ハガネ、クロガネの傍にテンペスト少佐の搭乗するガーリオン(ダークブルー)が待機していた。

 

EWAC等の電子戦装備が施されており、周囲の警戒に呈していた。

 

原作だとラングレー基地への攻撃に使用したのはリオンの電子戦装備だったが、時系列の変化でこうなった。

 

普段は遠距離戦を想定したMLRS装備(多連装ロケットシステム)になっている。

 

様はミサイルコンテナを積んだガーリオンである。

 

実際はガーリオンの特性である機動性を封印してしまうが、撃つだけ撃って後はMLRSを切り離してからが本領発揮だ。

 

トリントン基地にて私の機体を含めて各機のガーリオンはカスタム化する予定になるので少しは変化もあるかもしれない。

 

 

 

「…(静かすぎる。」

 

 

待機中であるがこの空気は嫌な予感しかしない。

 

後はアクセルとドモンの手腕に任せるしかない。

 

ドモン・カッシュも逆行者であるのはアカシックレコードから確認済みである。

 

悪い方向にはいかないと思いたい。

 

 

「っ!?」

「ハスミちゃん、どうしたの!?」

 

 

私の頭痛と同時に施設周辺で爆発が起こった。

 

爆発の規模からして陽動だと思われる。

 

 

「何が起こった!?」

「カイ、どうやら施設内部で爆発が起こっている!」

「何だと!?」

「規模からして…これは陽動だ!」

「ゼンガー!」

「各自、警戒を怠るな!来るぞ!!」

 

 

カイの言葉を皮切りにテンペストが状況を説明、察したエルザムがゼンガーに声をかけた。

 

それと同時に現れたのはAnti・DCの部隊である。

 

構成はガーリオン、バレリオン、シーリオン、ジオン軍の水中戦用MSのオンパレード、それに混ざってギガノスのMAが含まれていた。

 

 

「やはり、Anti・DCか!?」

「報告にあった機体もあるな。」

「テンペスト、数は!」

「数からして奴らは奇襲が目的だろう、後続の部隊が後に控えていると思われる。」

「この戦法は恐らく…」

「おそらくはロレンツォ中佐だろう。」

「!?」

「…油断は禁物という事だ。(だが、何故リオンとガーリオンの機動性を利用した奇襲に切り替えなかった?最悪の結果にならなければいいが…」

「アサルト0より各機へ奇襲部隊への攻撃は俺とアサルト1、2で行う!3、4、5は本部周辺の防衛に当たれ!」

 

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

「トロンべ1より各機へ我らも本部の防衛に向かう、獣戦機隊の諸君らも追従してもらおう。」

「仕方がねえ…少佐さん、付き合うぜ!」

「ゴースト小隊各機はハガネの防衛しつつ、あぶれた敵を叩くぞ!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 

先行してグルンガスト零式、アルトアイゼン、ヴァイスリッターが奇襲部隊を叩き、あぶれた敵を中立地帯のゴースト小隊、トロンべ隊、ダンクーガが叩く。

 

本部周辺の警戒をヒュッケバインmk-Ⅱ、グルンガスト弐式、ガーリオン・タイプT、ガーリオン(紫)で行い、撃ち漏らしを叩く事となった。

 

今回は大物が参加していなかった事が唯一の救いだった。

 

また黒い三連星やMA繋がりでギガノスの蒼き鷹とかと当たりたくないし。

 

星座占い好きのガーリオンを見かけたが、侵攻中にアルトアイゼンのリボルビング・ステークを撃たれて早期退場となった。

 

ご苦労様です。

 

しばらくしてから増援でマクロスに配属されているバルキリーの部隊が駆けつけてくれた。

 

どうやらマクロスにも奇襲が行われたが無事に退けた様だ。

 

こちらは実験エリアをキラーホエール級からの砲撃を受けてしまったものの無事とは言えないがEOTI機関の本部死守に成功した。

 

Anti・DCの奇襲部隊が撤退を開始し少し落ち着いた頃に私は異様な気配を感じた。

 

 

「っ!(何、この気配は?」

 

 

圧倒的な闇の念が押し寄せた。

 

恐怖、悲しみ、苦しみ、痛み。

 

 

 

イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ。

 

コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ。

 

 

「えっ!地震!?」

「な、何が起こった!?」

 

 

そして実験エリアを中心に地響きと爆発が起こった。

 

 

「クスハ!危ない!!」

「えっ!?」

 

 

私は言葉よりも先に体が動いてしまい、クスハの乗るグルンガスト弐式の前に移動していた。

 

そして地中から無数の触手が飛び出しガーリオン・タイプTを貫いた。

 

 

 

「ぐっ!?」

「ハスミ!?」

「何だ、これは!?」

 

 

コックピットまで貫いた触手は運よく座席から外れており、即死は免れたが少し左腕に掠ってしまった。

 

独特のサイレンとerrorの赤い文字がコックピットのディスプレイを埋め尽くしていた。

 

触手に捕まったガーリオン・タイプTは身動きが取れず、行動不能に陥ってしまった。

 

そして現れたのは警護対象だったUGだったものだ。

 

 

「しっかりして、ハスミ!」

「ダメだ、通信が繋がらない!」

 

 

クスハは起こった衝撃でうろたえてしまい、ブリットは何とか連絡を取ろうと回線を繋げるも返答はなく、sound・ONLYの表示が映し出されるだけだった。

同時にハガネ並びにクロガネより各パイロットに入電が入った。

 

 

「各員に次ぐ、UGが暴走しコックピットに民間人が囚われている。」

「ちょっと、どういう事!?」

「UGには環境修復機能の制御ユニットが積まれている、それが先ほどの戦闘での爆発で誤差を起こしたらしい。」

「マジかよ!」

「どうしよう、ハスミが…!」

「クスハ、落ち着くんだ。」

「ハスミ!」

「…と、さ…。」

「ハスミ、無事なのか!?」

「私は…大丈…夫、でも…機体…が。」

 

 

ノイズまじりの音声で私は無事だと伝えたが、既にUGいやDGの触手に囚われてしまい身動きが取れなくなっていた。

 

コックピット内に侵入し細分化した触手に捕まり絞殺されるのを待つだけだったのだ。

 

意識が遠のく中、DGの触手から意思を感じ取った。

 

コワイ、タスケテと。

 

私は無意識にこう答えた。

 

 

「大丈夫…怖くない…よ…。」

 

 

そこで私の意識は遠のいてしまった。

 

 

 

「俺のこの手が光って唸る!お前を倒せと輝き!叫ぶ!」

 

 

 

聞こえる声と共に現れたのは黄金の指を持つガンダム。

 

 

 

「必殺っ!!シャァァイニング!!フィンガァアアアッ!!!」

 

 

 

シャイニングガンダムのシャイニングフィンガーはガーリオン・タイプTの触手を引きちぎった。

 

拘束されていたガーリオン・タイプTはそのまま地面に落下する所だったがそれを庇ったのが彼だった。

 

 

「何とか間に合ったようだな、これがな。」

 

 

青い二本角のソウルゲインである。

 

 

「兄さん…くっ!」

「ドモン、油断するなよ!」

「分かっている…!」

 

 

その後、増援で現れたシャイニングガンダムとソウルゲインに私は救出されたが肝心のDGは取り逃がしてしまったとの事だった。

 

また、私は取り返しのつかない結果を残してしまった。

 

 

******

 

 

今回の戦いでドモンとレイン、フリーランスのアクセルらがハガネに乗艦する事となった。

 

理由は軍の情報網によるDGの情報提供行う代わりにドモンのその戦闘能力を買った為である。

 

今回の戦闘の事故でUGはDGに変貌してしまった。

 

UGを止めようとしたドモンの兄はDGの取り込まれてしまい、そのまま行方不明。

 

今回の奇襲の手引きをしたと思われるウルベ・イシカワは失踪。

 

彼に脅されて協力してしまったミカムラ博士は撃たれてしまい、現在も治療中との事だ。

 

ドモンの両親は今回の件でその身柄を国際警察機構の総本山である梁山泊に移送される事となった。

 

命を狙われている以上、もしもを踏まえて『蒼き睡蓮』を通して秘密裏に手回しをして置いたのだ。

 

そして。

 

これからシュバルツ・ブルーダーが産み出される。

 

ドモン・カッシュ。

 

貴方は彼と出会えたのならを兄として迎え入れますか?

 

それとも戦友として迎え入れますか?

 

どちらにしてもそれはドモンが決める事である。

 

私はただその行く末を見守るだけです。

 

アクセルは表向きはお金目当てだが過去の記憶よしみで乗艦するらしい。

 

貴方が味方で良かったです。

 

記憶喪失な貴方も見たかったですけどね。

 

 

† † † † †

 

 

今後の活動指針が決定し隊でのミーティングを終えた後、各自指示があるまで通常勤務となった。

私は先の戦いで負傷はしたものの軽い軽傷であったので自室で静養する様に言い渡された。

 

 

「これ、どうしようかな。」

 

 

私は自室に籠りベッドの上に座り軍服の袖を捲って左腕に付いた少し縦長で六角形の銀色の何かを見ながらぼそりと呟いた。

 

 

「…(やっぱりあの時しか考えられない。」

 

 

私はあの時DGの触手に捕まった。

 

恐らくはあの時に受けた攻撃が原因だろう。

 

アカシックレコードは必然だって言っていた。

 

確かに悲しみと苦しみの中で生きる存在達を救いたいと願った。

 

それはあのDGも入っているのだろうか。

 

誰かを救う為にはその存在の痛みを知らなければならない。

 

この銀色はDGの痛みと悲しみ。

 

これからは悪意は感じ取れないし様子見をするしかないよね。

 

DGいや、UGはどうしたいのかな。

 

 

物語と同じ様に悪魔になるのか?

 

新しい道を進むべく生まれ変わるのか?

 

 

望まれて生まれてきたのに君はその力故に追われた。

 

逃げて、逃げて、逃げた。

 

怖いのに訳も解らず撃たれて泣いた。

 

そんな力を持ったのは自分のせいじゃないのに、だからシステムは暴走した。

 

誰か一人でもその思いに答えてくれたのなら、あの様な悲劇は起きなかった。

 

画面越しとは言え、私は何度もあの物語を見る為にそう思ってしまう。

 

だから…

 

いつか手を取り合える事を願って私は前を進む。

 

偽善なのかもしれない。

 

それでも私は解り合いたい。

 

同じ様に誰かと解り合いたいと願った。

 

あの主人公と姫君が望んだように。

 

私は繋ぎ止めたい。

 

 

=続=

 




紡がれる記憶。

それは合わせ鏡の様で違うもの。

伝承はその者の持つ記憶であり。

全てが同じという訳ではない。

今は知らずともいい。

次回、幻影のエトランゼ・第三.五話『差異《チガイ》』。

真相は白日の元へ。







<今回の登場人物>

≪ネオジャパン≫

※ドモン・カッシュ
第二の逆行者、ネオジャパン代表のガンダムファイター。
既に明鏡止水を扱えるが乗機がシャイニングガンダムの為、無茶をすると回路のショートやオーバーヒートを起こしてしまう。
原作同様にサバイバルイレブンの最中であったが、異星人の出現に伴い大会は無期限の中止状態にある。
ギアナ高地で修業中だったがアイドネウス島で父親が主任を務めるUGの稼働実験の様子を見学する為に訪れていた。
しかし、原作同様ウルベの策略でDGへと変貌してしまう。
アカシックレコードによるとDGの発生を知っていても止める事は出来ない運命らしい。
それはドモンの人生を作り上げた最も深い出来事である為に切り離せないとの事。
原作の様な暴走加減はなく落ち着いているが、何処か悲しさを秘めた表情を見せている。
現在はDGの捜索に軍諜報部と『蒼い睡蓮』の情報に頼っている。

※レイン・ミカムラ
ガンダムファイトにおけるドモンのサポート役であり幼馴染で後の嫁さん。
今回の一件でライジングガンダムを受領、ドモンと共にDG捜索に当たる事となる。


≪フリーランス≫

※アクセル・アルマー
第四の逆行者、元シャドウミラーに所属していた隊長格。
OGの記憶だけではなくAの記憶を所持しており、未来を変える為にシャドウミラーと縁を別つ。
現在はフリーランスとして各地を転々としていた。
今回の一件で民間からの協力者と言う事でハガネに同乗。
ATXチーム預かりとなった。
コールサインはアサルト6。


≪ATXチーム≫

※キョウスケ・ナンブ
第三の逆行者、今回の事件で発覚。
OG主軸だがIMPACTの記憶も保持していた。
彼が語った『あの戦い』がいつの時期に起こったのか不明である。

※ハスミ・クジョウ
ATXチームの一員、コールサインはアサルト5。
今回の戦いでDGにDG細胞を植え付けられてしまう。
特に悪意などは今は感じられない為、様子見をしようと本人が決めた。
元々能力の事もあり精神的に強い自我を持っていたので感染は通常よりも遅いがその恩威を受けてしまっている為、早期に治療をしなければ人としての命は無い。
今回は発生時期のズレもありDG事件が開始した直後の為、治療法は発見されていない。
原作同様早くとも治療法が発見されるまで三ヶ月の月日が必要となる。




<今回の用語>

※あの戦い
キョウスケとアクセルが語るある戦いの事。
双方が覚えているのでOG主軸の戦いである事が予測されている。
その戦いで彼ら自身や所属する鋼龍戦隊共々全滅したらしいが?


※you・friend
世界公認の動画サイト、危険なものからフレンドリーなものまで揃っている。
おわりかいちょーとビネガーライスン、タンメン・メンの実験且つ脅かし動画が人気。


主人公が伊豆の駄菓子屋で購入した駄菓子一式。
一部は罠に使用されている。

※メントル
現実世界におけるメン〇スの様なもの。
パッケージは似ているが謎のフレーバーで赤シソ味とサルミアッキ味などがある。

※ゲコ・コーラ
カエルの絵が描かれている緑色パッケージのコーラ。

※うまね棒
現実世界におけるう〇い棒の様なもの。
材料は似ているがグラタン味やエビチリ味、ミネストローネ味、苺ミルク味などがある。

※べビーサンラーメン
現実世界におけるべ〇ースターラーメンの様なもの。
どういう訳か酸辣湯味がある。

※山菜の都
現実世界におけるき〇この山とた〇のこの里の類似品。
チョココーテイングと棒状ビスケットで山菜を真似ている。

※カロリーパートナー
現実世界におけるカロリーメ〇トの類似品。
厚めのハート型ブロッククッキーが4枚封入されている。
メロン味、カフェモカ味、シナモン味がある。



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第三.五話 『差異《チガイ》』

紡がれる記憶。

それは合わせ鏡の様で違うもの。

伝承はその者の持つ記憶であり。

全てが同じという訳ではない。

今は知らずともいい。

これが『虚億』であり『実憶』と知るのはもう少し未来である。




話は遡り、DG失踪から1日が経過した頃。

 

この戦いで私は取り返しのつかない失態を侵してしまった。

 

目覚めたのはメディカルルームの一室、どうやら救出されたらしい。

 

横で付き添っていたクスハが他の皆を呼びに行った後、医者からは外傷は左腕の傷だけで他に異常は見られないと説明を受けた。

 

パイロットスーツを着用していなければコックピットの破片で左腕所か体の肉の何処かが抉れていたかもしれないと冷や汗ものの話もあったが、左腕の傷は縫う程の物ではないので出血が止まれは保護フィルムで良いと言われた。

 

運が良いのか悪いのか不明な感じだ。

 

 

******

 

 

「ハスミ、私のせいでごめんなさい。」

「そんな事はないよ、クスハのせいじゃないから気にしないで。」

「でも、無事で良かった。」

「うんうん、あそこにいるタレ目の赤ワカメな王子君がハスミちゃんを助けてくれたのよ?」

「誰が赤ワカメな王子君だ…!」

 

 

私はATXチームの分隊室で他のメンバーから心配されていた。

 

もちろん、お義父さんからはしっかり平手打ちを受けて置きました。

 

心配ばっかりさせてゴメンなさい。

 

クスハは謝りっぱなし、エクセレン少尉は冗談交じりで新メンバーにちょっかいを出していた。

 

 

「あの、そちらの方は?」

「彼はアクセル・アルマー、元傭兵でうちの方で預かる事になったのよ。」

 

 

エクセレンの説明を受けてハスミはアクセルに自己紹介を含めて挨拶を交わした。

 

 

「助けて頂きありがとうございます、私はATXチーム所属ハスミ・クジョウ准尉です、コールサインはアサルト5です、よろしくお願います。」

「慣れ合うつもりはないが…よろしくな。」

「はい、よろしくお願いします。」

 

 

それと同時に独特の赤いマントの男性と女性が分隊室へ入ってきた。

 

 

「お~来た来た、ハスミちゃん、今日からこの部隊に参加する事になった…」

「ドモン・カッシュだ、DGの追撃の依頼を受けてしばらく同行する事になった。」

「私はレイン・ミカムラ、ドモンのサポートメンバーよ。」

「お話は伺っています、ご迷惑をおかけしたようで…」

「ハスミだったわね、体調がすぐれなかったりしたら相談に乗るから気軽に声をかけてね。」

「レインは医者でもあるんだ。」

「はい、その時はお願いします。(やっぱりDGと直接接触した一人だからかな?」

「でね、ハスミちゃん。」

「はい?」

「アナタをコックピットから出すのにすっごく苦労したのよ?」

「へっ?」

「だって、触手に巻き付かれたあられもない姿だったのよ?」

「はい?(うわ…まさかの危ない薄い本ネタがぁ。」

「少尉、なっ何て事言うんですか!?」

「だって~滅多に出来ない体験じゃない?」

「…(いや、後に貴方もその餌食になるのですか。」

「大丈夫よ、ハスミちゃんはちゃんと乙女のままだから。」

「あ、はい…(意味は解りましたが、そこでそのネタ振りますか!?」

 

 

エクセレンのいつものネタ発言にブリットがツッコミを入れた。

 

周囲はノリに着いて行けず唖然としている。

 

呆れた表情でエクセレンを見た後、キョウスケ少尉が話しかけてきた。

 

 

「ハスミ、お前のガーリオンだが…」

「やはり、壊れてしまいましたか?」

「いや、修理は終わっているが…機体のスペックがお前に追いついていないらしい。」

「えっ?」

「専属のマーリン博士にも相談をして置いたが、元から改良を加えた方が今後運用するのに支障は無いだそうだ。」

「そんな事が、私にそんな高度な操縦技術を持っている訳じゃ…」

「日頃、お前が地道にシミュレーターで練習を重ねているのは皆が知っている。」

「それが徐々に実ったって話よ。」

「いえ、私は自分に出来る事をしているだけで…(でなきゃ即死でしょ、普通。」

「もう~お姉さん感動しちゃう~。」

 

 

本音を他所に謙虚な発言をしたのだが、エクセレン少尉に捕まり某龍玉のスケベな亀様の様な状況に陥ってしまった。

 

いつもの通り、呆れた表情でブリットが話をしていた。

 

「ふえっ!?」

「少尉、ハスミが窒息しますよ。」

「可愛い子はモフモフするに限るでしょ?」

「わふっ!?(く、くるしい。」

「兎に角、次の行き先であるトリントン基地でお前の機体は改修作業に入る、改修作業が終わるまではゲシュペンストmk-Ⅱに乗って貰う。」

「りょ、了解しました。」

「ゲシュペンストmk-Ⅱは地上での戦闘が主だ、ガーリオンとはモーションパターンや戦術が違ってくる、カイ少佐がシミュレーターでの講義してくれるそうだ。」

「カイ少佐が?(あーこれってまさか?」

「隊長はエルザム少佐やテンペスト少佐と共に前回のAnti・DCの戦力を調査中だ。」

「例のですね、たしかAnti・DCの戦力の他にジオン軍、見られない機体がありましたね。」

「ああ、以前にもアーガマ隊とSRXチームが遭遇した集団に酷似しているそうだ。」

「確かにMSとはちょっと違う感じはありましたね。(まだ決起の様子がないけど、きっとギガノス帝国と名乗りを上げる筈だ。」

「だが、機体に使用されていた素材は地球圏で採取される素材だった、この意味は解るな?」

「…察しました。」

 

 

確かに前回もAnti・DCはジオン公国軍と同盟を結んでいる事は連邦も知っている。

 

実際、地球に偵察程度でバッタやカトンボを放っている木連や個々出しで戦力を出撃させているギガノス帝国の事もある。

 

似たり寄ったりな異星人連合やDrヘルに恐竜帝国等の異形勢力は特機な彼らに任せるとしよう。

 

アクセルさんが出て来た以上、Aのシナリオも入って来ているだろうな。

 

ラミア・ラヴレスと敵対する可能性もあるけど、今はOGの状況だし。

 

まだ動きはないとは言え、ちょっと心配だな。

 

出来る事ならWシリーズの人達も救ってあげたい。

 

問題はあの緑ワカメがこっちの説得に乗るかだけど、場合によってはご本人単体システムXNでエンドレスフロンティア送りにしちゃおう。

 

ご趣味の闘争真っ盛りの世界だし、一石二鳥でしょう。

 

あれ、ちょっと待てよ?

 

Aのシナリオが入って来ていると言う事はそろそろあのドラグナーの三馬鹿トリオに接触する筈だよね?

 

また記憶持ちって訳じゃないと思うけど、何だかややこしいな。

 

まあ、傲慢な態度を取っていたら修正しよう。

 

その方が彼らにとっていい薬だろうし。

 

まったく『この世はさながら戦国』ですかね。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

アイドネウス島での事後処理を終えた後、私達はオーストラリアのシドニー基地を経由し内陸のトリントン基地へ向かう事となった。

 

二日程度の巡航である。

 

途中で敵部隊の交戦もあったが、新規参入したソウルゲインとシャイニングガンダムの敵ではなかった。

 

むしろ敵が可哀想な位の悲惨な迎撃を受けていたので。

 

水上メインの戦闘時はハガネの艦橋でライジングガンダムの射撃を見る事が出来た。

 

やはりレインさんの射撃の腕はいいが、接近戦では躊躇いが見られた。

 

今回は原作と違い、早期参入してくれたので時間は掛かるが腕を磨く経験は詰めると思う。

 

そして私自身に問題が起きていた。

 

DG細胞の感染だ。

 

感染の傾向は原作よりも遅いがそれも時間の問題だろう。

 

今の所、破壊衝動に飲まれる様な危険性は感じられない。

 

寧ろ静かな方だ。

 

そして次にDGに接触した場合どうなるか不明な所だ。

 

私は正気を保っていられるだろうか?

 

DGのDG細胞の感染の恐ろしさは画面越しや書籍、ゲームなどで理解している。

 

だからこそ私は立ち向かわなければならない。

 

解り合えずに何も知らずにただ復讐に囚われる人を見ているのは嫌だから。

 

 

******

 

 

「ハスミ、ちょっといいかしら?」

「はい、何でしょう?」

「お仕事中だったかしら?」

「いえ、丁度作業が終わった所だったので時間はありますよ。」

 

 

私は自室でカイ少佐へ提出予定のレポートの作成を行っていた。

 

ゲシュペンストmk-Ⅱのモーションパターンや戦術指南を受けた後、自分なりに戦う方法をレポートに纏めて提出と言われた為である。

 

ガーリオン・タイプTに装備されたストライク・アキュリスは取り外しが可能なのでゲシュペンストmk-Ⅱに装備された状態での戦法も含まれている。

 

予想していた通り、『究極ゲシュペンストキック』のモーションパターンの入ったOSを頂きました。

 

はい、今度叫んできます。

 

丁度作業を終えた所でレインさんが訪ねて来たのだ。

 

 

「調子はどう?」

「もうすっかり、クスハドリンクを飲んだせいかもしれません。」

「ああ、あのドリンクね。」

「はい、あのドリンクです。」

 

 

2人そろって遠い目で思い出しました。

 

私が病室から出られる様になり分隊室で団欒している時にクスハがクスハドリンクを携えて現れたのだ。

 

その場に居た三人から同情の視線を受けつつ飲み干しました。

 

文字通りで半日程、病室送りになりましたが現在は快調です。

 

 

「あのドリンクって不思議ね?」

「ええ、どう言う訳か味は兎も角…効力が凄まじいですからね。」

「ドモンやアクセルも飲んでいたけど、よく耐えたわね。」

 

 

そう言えば地獄を見て来たかの様な姿で二人とも青ざめていたな。

 

あれに耐えきれる人って結構少ないんだよね。

 

特例としてエルザム少佐他数名以外はね。

 

 

「大体は必ずと言っても倒れるのですが、中には無事な人もいるんです。」

「そ、そうなの。」

「一例としてエルザム少佐とか…」

 

 

普通は驚きますよね。

 

あのブクブクと泡立ってジャリジャリしててコッテリでドロドロの紫色のスライムみたいな飲み物を飲んで無事で居られる人って何でしょうかね。

 

 

「あの…それで本題の話とは?」

「ええ、貴方に伝えておきたい事があって…」

「はい。」

「実は前の戦闘での事なのだけど、何か変わった事は無い?」

「変わった事?」

「例えば今回の様に急に調子が良くなったり感覚が鋭くなったりとか?」

「体調は良くなりましたけど、他はどうかと言われると…」

「そう、ならいいのよ。」

 

 

恐らくDG細胞の研究結果が出たのかな?

 

相当ヤバい状況になってきているみたいだね。

 

 

「実はUGいえDGと呼称される様になったのだけど厄介な事が分かったの。」

「厄介な事?」

「ええ、UG細胞と呼ばれる環境再生システムなのだけどあれが誤作動を起こしてDG細胞に変異した事は知っているわね?」

「はい、先日レポートの方は目を通させて頂きました。」

「そのDG細胞に生物への感染の事例が出たの。」

「えっ、生物にですか?」

「実験用のマウスに回収されたDG細胞を投与した結果、凶暴性を発揮して周りにいた未感染のラット次々に襲って感染させてしまったの。」

 

 

やっぱり、原作と同じ結果になった訳か。

 

治療法が見つかっていないから実験用ネズミちゃん達は処分されちゃったんだろうな。

 

 

「もしも貴方にも感染の傾向が出始めたらすぐに教えて欲しいの。」

「私が直接DGに接触した人間の一人だからですか?」

「ええ、感染経路はまだ判明されていないけど直にDGと接触しているのなら考えられるとライゾウ小父様から通信が入ったの。」

「そうですか、あの…もしも私が感染したらどうなってしまうのですか?」

「一時的に隔離をお願いする事になるわ。」

「…(ですよね。」

「小父様の研究が進めば治療法が見つかるかもしれない、それがいつになるかは今後の研究次第なのだけど。」

「判りました、何か変化があれば相談します。」

「ええ、今の所感染の様子も無い様だから念の為と思って頂戴。」

「いえ、ご心配をお掛けして申し訳ないです。」

 

 

その後、レインは軽い検査をハスミに行った後に部屋を離れていった。

 

 

「…」

 

 

話すべきだったのかもしれない。

 

でも、話せる状況じゃない。

 

私は解り合いたいと願ったのだから。

 

 

******

 

 

その頃、ATXチームの分隊室の一室にて。

 

キョウスケ、アクセル、ドモンの三人がその場に集まっていた。

 

ゼンガー達は引き続きAnti・DCの戦力の調査。

 

エクセレンとブリットは偵察任務で不在、クスハはメディカルルームで仕事中、ハスミはレインとハスミの自室で話している最中であった。

 

 

 

「俺達の今の状況を話を纏めるとこう言う事になった。」

 

 

内容が長いので箇条書きで説明。

 

 

※この場に居る俺達は全員過去の記憶を持って復活?転生したらしい。

 

※差異はあるものの『あの戦い』を知っているのは俺とアクセルのみ。

 

※ドモンはとある世界で『調律された世界に現れた怨念を司る存在』に世界を破壊された記憶を最後に転生した。

 

※一例としてドモンが既に明鏡止水を会得している様に転生者は前回の能力を引き継いでいる。

 

※この世界は俺達が関わった複数の記憶にある様々な世界が入り混じり混濁した世界である。

 

※この時期に発生している筈の事件や死亡者の死亡が未然に防がれてしまっている。

 

※現時点で不明であるが新たな組織の存在と居る筈の無い存在が存在している事。

 

※少なくとも転生者は他にも存在する可能性がある事。

 

 

 

「要約するとこうなった訳だな、これがな。」

「ややこしいな。」

「それよりもお前達は何処まで記憶を持っている?」

「三度目位までなら覚えている。」

「俺も三度目だ。」

 

アクセルとキョウスケが転生の際に覚えていた転生前の記憶は三度までだった。

 

そしてドモンの方へ顔を向けると指折りで確認しているドモンの姿があった。

 

ドモンは申し訳なさそうに顔を背けるとボソリと呟いた。

 

 

「俺は十二度目位…かなり曖昧だが。」

 

「「!?」」

 

「何だ、その出鱈目な記憶量は!?」

「転生前の記憶を持つ者に差異があると言ったのはお前達だろう!」

「否定はしないが…」

「流石に多すぎだろう!」

「一番多い記憶が師匠と殴り合いしていた事ばかりだ。」

「あの爺さんか。」

「そんな事もあったな。」

 

 

ドモンの保持している記憶数にツッコミを入れるしかない二人。

 

二人の発言に正論を問うドモンであった。

 

ふと、キョウスケはある提案を思い出しドモンに話を進めた。

 

 

「ドモン、覚えている限りで良い…今からある人物達の名前を上げる。」

「名前だと?」

「今から話す人物に出会った事のある奴は居るか確認して欲しい。」

「分かった。」

 

 

キョウスケは転生前の世界で仲間であった存在達の名前を幾つか上げた。

 

そしてその幾つかにヒットしたのである。

 

 

「ラウルとフィオナ達、ヒューゴ、アクア、トーヤ、カルヴィナ、三人娘、リュウセイ達SRXチーム、キョウスケ、エクセレン、アクセル、ラミア、マサキ達と奴等と縁のある敵勢力も知っている。」

「他には?」

「この世界でまだ会った事は無いがイルム、リンの二人とゾヴォークのゲスト三将軍も転生前の何処かの世界で出遭った事がある。」

「そこまで関わりがあるとは…」

「出会った事があるとは言え、そちら側と若干情報が違う様だ。」

「そうだな、かなり差異がある。」

「兎に角、今後現れるだろう敵勢力の存在も知る事が出来たが…」

「問題はそれをどうするかだ。」

 

 

ドモンが知る転生前の記憶から数多くの戦いとそれに関わった勢力について情報を得る事が出来た。

 

差異がある記憶はトーヤが紫雲統夜と言う名前で呼ばれていたり、三人娘が純粋な地球人で幼少期よりフューリーに拉致された事、ラウル達が元々居た時代からデュミナスとの戦闘が原因で5年前の戦いに時間移動してしまった事、ヒューゴ達と戦ったAI1やリュウセイ達と共にゼ・バルマリィ帝国のユーゼスとラオデキヤ率いる第8艦隊と交戦した事が判明したのだ。

 

そしてキョウスケとアクセルの転生前の記憶に残るアインストとシャドウミラーとの戦いも覚えていたとの事だった。

 

 

「ざっくり話すとその位だ、お前達の知るインスペクターいやゾヴォークが今後こちら側に侵略を開始するのがいつ頃なのかは分からない。」

「そうだな、現状ではゼ・バルマリィのはぐれバルマーが侵攻してきているのは予想は着いているが…」

「今後の展開は俺達にも不明だ。」

「何分、俺達の知らない勢力もこの戦いに姿を現している様だからな。」

「いずれ現れる敵勢力の事もな…」

「一つ気になる事がある、ブルーロータスを知っているか?」

「ブルーロータス?」

「例の神出鬼没のハッカーの事か?」

「ああ、俺はあのブルーロータスに情報を貰いUGいやDGの誕生に遭遇した。」

「やはり、ドモンお前もか…」

「キョウスケ、どういう事だ?」

「ブルーロータス、経歴は不明、神出鬼没の凄腕ハッカーもしくは情報屋と呼ばれている存在だ。」

「そんな奴が存在していたのか?」

「その情報収集能力を手に入れようとしてブルーロータスの正体に近づくものはその名の通り破滅する。」

「破滅だと?」

「レインに聞いてみたが蒼い睡蓮の花言葉は『滅亡』を意味するらしい。」

「なるほどな、だからブルーロータス(破滅を意味する蒼睡蓮)か。」

「情報も使い方次第では身を滅ぼすと言う事だ。」

「現にゴースト小隊にアラド達スクールのメンバーや他の実験体が捕らえられている実験施設の情報を流した位だ。」

「奴らを?」

「どうも、何かしらの条件で協力している様だ。」

「キョウスケ、アクセル…少しいいか?」

「どうした?」

「俺の他にブルーロータスと直接接触した事がある奴が居る。」

 

 

ドモンの驚愕発言に再び驚く二人。

 

 

「何だと!?」

「誰だ…そいつは?」

「キョウスケお前なら知っている筈だ、ロム・ストールの名を。」

「ロムが!?地球圏に来ていたのか?」

「ああ、俺がギアナ高地で修業をしている時に再会した。」

「もしや記憶を持っていたのか?」

「転生前の記憶で覚えていたのはお前と同じく三度程度、地球圏に向かったのもそれが最良と考えた末だったらしい。」

「今は何処に?」

「縁あって、とある財閥の家に厄介になっていると話していた。」

「まさか破嵐財閥か?」

「いや、そこまでは…家主との約束で教えて貰えなかった。」

「おい、二人だけで話を進めるな。」

「すまん…」

 

蚊帳の外にされかかっていたアクセルの発言にドモンは転生前の世界でのかつての仲間であり異星人であるロム・ストールの事を話した。

 

 

「成程な、で…そのロムが接触したブルーロータスとはどんな奴だった?」

「外見は白いローブに睡蓮の絵を入れた仮面を付けていたらしく性別も不明だったそうだ。」

「だろうな…」

「ロムも人としての気配を感じ取れなかったと話していた、恐らくアンドロイドか何かで遠隔操作していたかもしれないと…」

「余程の秘密主義か、奴は何故ロムに接触を図った?」

「地球圏外の外宇宙の情勢を知る為と言っていた。」

「外宇宙でも拙い事になっているのか?」

「拙い所の騒ぎじゃない、下手をすれば地球圏を侵略されかねん勢いだぞ…!」

「!?」

「さっき話したゼ・バルマリィ帝国の他にゾヴォーク、ズール・ムゲの星間連合、バッフ・クランの四大勢力による抗争、ゼントラーディの巨人軍に宇宙怪獣、地球圏に接触していないがアインスト、ガルファにラダム、イバリューダーが無作為に行動しているらしい。」

「聞き慣れん勢力もあるが、かなりの脅威である事は判る。」

「他は兎も角、俺はゼントラーディの巨人軍とイバリューダーについては何も知らない。」

「俺は主に後半部分から既に解からん。」

「とりあえず俺達が気をつけるべきは地球圏に飛来している勢力並びに反勢力だな。」

「そうだな、以前コソコソとしているが木連やギガノスの行動も放って置けば厄介な事になる。」

「ああ。」

 

 

行動すればするほど、変化があればあるほど抱え込む厄介事は増えるばかりである。

 

やはりこの世界は何かがおかしいと思う三人であった。

 

 

「俺はその場に居なかったがドモン、アクセル、DGの誕生現場に居合わせていたな?」

 

 

キョウスケは先の戦闘で起こったDGの誕生現場の件について聞こうとした。

 

 

「…何があった?」

「前と同じ様にウルベの奴が外部の協力者を募ってDGの格納庫に爆発物を仕掛けていた。」

 

 

UG稼働実験の最中、突然起こった爆発から父さん達を護るのが精一杯だった。

 

そしてその爆発が原因でUGのUG細胞に誤作動が起きてDGへと変貌してしまった。

 

そしてそれを期にウルベは父さん達を反逆者としてDGを接収しようと現れた。

 

だが、ウルベを追っていた国際警察機構の村雨が現れた。

 

村雨とウルベに脅されていたものの内部告発をしたミカムラ博士の話でウルベのAnti・DCとの密約があった事が判明し、軍上層部の権限でウルベの権限を凍結並びに逮捕する筈だった。

 

所がAnti・DCに協力していた木連の北辰によって奴はまんまと逃げ果せてしまった。

 

俺とアクセルは奴らの伏兵から父さん達を護るのに精いっぱいだった。

 

そしてDGを止めようとした兄さんがDGに取り込まれてしまい取り逃がしてしまった。

 

真実を告発したミカムラ博士は父さんを庇ってウルベに撃たれてしまい今も治療中だ。

 

 

「それが全てだ。」

「…」

「俺ももう少し助力出来れば良かったが…すまん。」

「いや、兄さんは死んだ訳じゃない…今度DGを見つけて取り戻して見せる。」

 

 

ドモンは全てを話し終えた後、必ず兄を救うと心に決めた。

 

 

「しかし、木連までAnti・DCに協力していたとはな。」

「烏合の衆って奴だろう。」

 

 

木連の出現に少し不安な面を語る二人。

 

 

「この場に居ないが村雨の奴には感謝しきれない、ミカムラ博士も…俺は必ずウルベの奴を仕留める。」

「協力するぞ、ドモン。」

「乗り掛かった舟だ、これがな。」

「キョウスケ、アクセル…すまない。」

「とりあえず、俺達がすべき事はどうするか?」

「これまで通り戦い…その最中で俺達と同じ様に転生の記憶を持つ者達を探す事だ。」

「そうだな。」

 

 

この場の三人が決めた決意はいずれ未来を変える礎となるだろう。

 

 

=続=




月夜の下で白き忍者は忍びなれど忍ばない。

そして折り鶴に従えられた獅子、鳳凰、青竜、巫女はそれに続く。

そして睡蓮は紡がれた外伝の奇跡を目の当たりにする。

次回、幻影のエトランゼ・第四話『月下《ツキノシタ》』。

満月の空で紡いだ軌跡は真の奇跡。


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第四話 『月下《ツキノシタ》』

月夜の下で忍が飛び交う。

時過ぎれば火の海と化す街並み。

守るべく鋼鉄と黒鉄は進む。

そして更なる出会い。

荒ぶる竜の騎兵隊。

奇跡の象徴は雨ノ百合と鬼灯。

睡蓮は亡霊の必殺技を披露する。




その航路がオーストラリア近海へと近づきつつあったハガネとクロガネ。

 

その時、謎の集団の戦闘を目撃する。

 

このまま戦闘が続けば目的地のシドニーにも多大な被害が及ぶ。

 

各部隊に迎撃の任が下ったのである。

 

 

「アサルト0並びに4、6発進どうぞ。」

 

 

特機用のカタパルトでオペレーターの通信が入り順に発進する。

 

 

「グルンガスト零式、参るぞ!」

「アサルト4、行きます。」

「とっとと終わらせるぞ、アサルト6出る!」

 

 

こちらのPT用のカタパルトでも発進準備を進めていた。

 

 

「アサルト1発進どうぞ、順に2、3、5、シャイニングガンダム、ライジングガンダム、発進どうぞ。」

 

 

発進口が開閉しその先には月夜の空と海が広がる。

 

 

「アサルト1了解、出るぞ。」

「はいは~い、じゃ行ってきます♪」

「アサルト3、出撃します!」

「アサルト5、ゲシュペンストmk-Ⅱ出ます。」

「レイン、遅れるなよ。」

「ええ!」

 

 

ATXチームが発進した後、続けてゴースト隊が発進した。

 

今回は戦艦の警護の為に後衛に当たっている。

 

 

「ハスミ、mk-Ⅱの乗り心地はどうだ?」

「悪くありません。」

「俺の組んだ戦闘OS、無駄にはならない筈だ。」

「はい、有効に使わせて頂きます。」

「ハスミ。」

「テンペスト少佐、何でしょうか?」

「無茶はするな。」

「了解です。」

 

 

戦闘海域に向かう途中でゴースト1より通信が入り、応対した。

 

やはり『究極ゲシュペンストキック』を使わざる負えないらしい。

 

そして人数調整の関係でゴースト隊に編入したテンペスト少佐から心配されてしまった。

 

前の事を根に持っていた様だ。

 

通信の周波数を変えてお義父さんだけに通信を行った。

 

 

「お義父さん、必ず帰ります。」

「分かった。」

 

 

私は通信を切ると部隊と合流し戦闘海域に向かった。

 

 

******

 

 

ATXチーム並びに各部隊が戦闘海域に向かっている最中の事。

 

そこでは折り鶴に似た戦艦と5機の人型機動兵器が横浜の事件で出現した赤い忍者に襲撃されていた。

 

なお、この赤い忍者の正式名称であるバンクスである。

 

しかし現時点では不明の為、連邦からは『レッドアサシン』と呼称されていた。

 

 

 

「ちっ、地球に帰って来たと思ったら奴らと鉢合せしちまうとは!?」

「兄貴、どうするんだ?」

「やるしかねえ、そもそもローニンの知り合いがいるって言う極東支部まで無事にたどり着けるとは思っては無かったしな。」

「ちょっと、ジョウ、マイク、二人ともグダグダ言っている場合じゃないわよ。」

「ごめんなさい、私のせいで…」

「カレンのせいじゃないわ、アイツらだって偶然私達を狙って来た様なものだもの。」

「そうだ、来るなら俺達で奴らを倒すだけだ。」

「レニー、ダミアン…ありがとう。」

 

 

白い忍者型の機体からジョウ、青い竜型の機体からマイク、飛行型の赤い機体にレニー、黄色い獅子型の機体のダミアン、薄水色の人型の機体のカレンがそれぞれ通信で話していた。

 

彼らは火星へ移民した移民団だったが、折り鶴型の戦艦エルシャンクが降り立った事から全てが変わったのだ。

 

エルシャンクを追ってザールとムゲの星間連合に組み込まれたザ・ブーム軍が追撃してきたのである。

 

その場に立ち会ったジョウ達はエルシャンク一行に協力し火星から地球へと脱出してきたのである。

 

現在、火星はザ・ブーム軍、メガノイド、木星トカゲとの三つ巴戦に移行している。

 

火星侵攻の一端を担ったハザードであるが蒼い睡蓮の仲間である『地獄』のコードネームを持つエージェント達によって謀殺されたとの事である。

 

その様子を確認したローニンは彼らよりハザードの裏帳簿並びに悪行の数々を記した記録媒体を渡された。

そしてエージェントの一人が『奴は火星侵攻の罪を償う為に自決した。』と上層部に伝えろと言い残して去って行ったのだ。

 

ローニンは説明された通りの指示を行い、その後の上層部の指示で民間人をマーズクレイドルへ避難させ籠城する事を決めた。

 

現在も火星で敵勢力への抵抗を続けているそうだ。

 

ちなみに彼が何故『地獄』と名乗った者達の指示を受けたかと言うと常識が通じる相手ではないと悟った為でもある。

 

そして地球への逃避行の間にハザードの政策に意を反したレジスタンスの出であるダミアンと元敵側の刺客だったカレンも加わっていたのである。

 

そしてジョウは飛影の操縦者に選ばれ、戦力上申し分ない力を手に入れた一行だったが爪が甘かったせいで他勢力の追撃を受けた上にザ・ブーム軍の偵察部隊に発見されてしまったのだった。

 

 

「姫さん、ここは俺達が何とかする。」

「その隙にここから逃げてください。」

「いえ、皆さんが戦っているのに私達だけで逃げる訳には行きません。」

「姫様…」

「私も戦います、そうでなくては火星に残してきてしまったローニンさん達に顔向けができません!」

 

 

ロミナ姫の意思は固く、曲げられるものではないと悟ったジョウ達はそのまま戦闘に参加してもらう事に決めた。

 

 

「分かったぜ、姫さん力を貸してくれ!」

「ええ、ガメラン、シャフ、このまま戦闘準備を!」

「はっ!」

「判りました。」

 

 

エルシャンクも戦闘態勢に入りザ・ブーム軍の偵察部隊と戦闘に入る直前だった。

 

この戦闘海域に乱入する機影が存在した。

 

 

「こちら地球連邦軍極東方面伊豆基地所属戦艦ハガネ、貴殿の所属を述べて貰いたい。」

「こちらはエルシャンク、私達はシェーマ星系ラドリオ星より亡命してきました。」

「エルシャンク…?」

「艦長、照会が取れました。」

「上層部からの要請で保護の指示があります。」

「分かった。」

 

 

通信で互いの紹介を終えた後、エルシャンクは連邦軍上層部からの指示で保護の任が下された。

オペレーターのエイタとアズキの照会でダイテツ艦長はエルシャンクの代表者に会話を続けた。 

 

 

「こちら戦艦ハガネ、艦長のダイテツ・ミナセです。」

「私はロミナ・ラドリオ、ラドリオ星のラドリオ王家の者です。」

「では、ロミナ姫でよろしいか?」

「はい、ダイテツ艦長。」

「火星開拓基地からの照会で上層部より貴方方の保護を任命されました。」

「では…」

「まずは周囲の敵を一掃してからとしましょう。」

「判りました、こちらも微力ながら協力致します。」

 

 

二つの戦艦の通信が終了しこの戦闘を終わらせる為に行動開始となった。

 

 

「アサルト0より各機へ、これよりエルシャンク所属の特機と共に戦艦エルシャンクの護衛並びに敵の掃討を行う。」

「アサルト1了解。(ここでジョウ達に出遭うとはな。」

「OKよ、ボス。」

「アサルト3了解です。」

「アサルト4了解しました。」

「アサルト5了解。(物語が加速し過ぎてる、このままだと最悪の結果になりそう。」

「了解した。(あれがエルシャンクか、まるで折り鶴だな。」

 

 

ATXチームはゼンガーの号令と共に合意の声をかける中で前回の記憶を持つ者達はそれぞれの思惑を過らせていた。

 

 

「レイン、お前はハガネの艦橋で援護頼む。」

「分かったわ、ドモンも無理をしないで。」

「すまない。(DGの気配はなさそうだ、今はザ・ブームの雑魚を片付けるか。」

 

 

ドモンとレインの二人も互いに鼓舞していた。

 

 

「…」

「ちょっと忍、どうしたんだい?」

「いや、何でもねえ。(あいつら何処かで?」

「忍がボーっとするなんて珍しいね。」

「明日は槍の雨が降るか?」

「お前ら…俺を何だと思っているんだ!」

「そうそう、いつも通りシャキッとしとくれよ!」

「ああ!!」

 

 

忍もまた仲間に叱咤され戦闘態勢に入った。

 

互いに軽い挨拶をしザ・ブーム軍と見慣れない機体(ムゲ・ゾルバトス帝国製の戦闘メカ)が混合する偵察部隊を相手に私達は戦闘を開始した。

 

 

「わぉ、さすが忍者って所かしら?」

「少尉、ふざけている場合じゃないですよ?」

「いいじゃない、これだけ大盤振る舞いの部隊で攻めてるんだし。」

 

 

正直に言えば戦力として申し分ない状況だ。

 

何せ前回の記憶を所持しているキョウスケ少尉、アクセルさん、ドモンさん、おそらくジョウがいる以上、この戦線を崩す事は不可能だろう。

 

旧戦技教導隊であるゼンガー隊長、エルザム少佐、カイ少佐、お義父さんことテンペスト少佐まで揃っているのだから。

 

今は敵の数を減らす事に専念しよう。

 

 

「あらら~また増援?」

「どうしたんでしょうか?」

「よほど、彼らを俺達と接触させたくないのかもしれん。」

「ややこしい、これがな。」

 

 

しばらく戦闘を続けているとここを嗅ぎつけたのか敵の増援部隊が現れたのだ。

 

更に増えた敵機の数にこちらも少し延長戦を強いられる事になりそうだ。

 

その時だった。

 

 

「こちら、トリントン基地所属アルビオン隊、応答を願う。」

「こちらは伊豆基地所属ハガネ、どうぞ。」

「コーウェン司令の命により貴君らの救援に入る、指示はそちらに従う。」

「救援感謝する。」

 

 

ハガネにアルビオン隊からの通信が入り、救援に来たと説明を受けた。

 

戦闘の指揮権はハガネになった為、ダイテツ艦長は各機に命令を下した。

 

 

「これよりアルビオン隊と連携し敵の殲滅を継続する。」

 

 

近くの小島付近に到着したアルビオン隊のメンバー。

 

GPシリーズの二機のガンダム、ジムカスタム、ジムキャノンⅡ、そしてドラグナーの三機であった。

 

 

「ヒヨッコども、訓練通りにやれ。」

「了解です、バニング大尉。」

「少佐は後方から援護を願います。」

「了解した。」

「ケーン、お前達は敵の攪乱を頼む。」

「了解。」

 

 

ありゃりゃ、アカシックレコードの予告通りかなり編成が変わってるな。

 

少佐の件は後で説明するとして三馬鹿の機体はまだカスタムではない。

 

無茶をしなきゃいいけど。

 

 

******

 

 

敵の増援もあったが味方の増援もあり、こちらの優勢で敵機の姿が見えなくなった頃だろうか。

 

バンクスの一体がエルシャンクの装甲の影に潜んでおり、期を見たのかエルシャンクのブリッジを狙って行動したのだ。

 

既にエルシャンクから離れすぎてしまったジョウ達では間に合わない状況である。

 

 

「姫さん!?」

「やらせはしない!」

 

 

コックピットのディスプレイに『ULTIMATE・GESPENST・KICK』と表示され続けて『SHOUT・NOW!!』と表示された。

 

ゲシュペンストmk-Ⅱを飛翔させ空中でバランスを取った後、こう叫んだ。

 

 

「究極!ゲシュペンストォォォ!!キィィック!!!!」

 

 

ゲシュペンストmk-Ⅱの重量とブーストを利用し落下の速度もプラスされたキックがバンクスを狙う。

エルシャンクを狙っていた一体のバンクスに強烈な足蹴りが決まりそのまま爆発四散する。

 

 

「永久に…地の底を這いずり回れ。」

 

 

うん、INのキョウスケ少尉をイメージしてみた。

 

そのままゲシュペンストmk-Ⅱの体制を立て直し、次の行動に移った。

 

 

 

「あららん?ハスミちゃん、やるじゃない。」

「言わないでください、恥ずかしいです///」

「そう?結構ノリノリだったけど?」

「忘れてください…!(改めて思い出すと恥ずかしい。」

「どうしようっかな?」

 

 

貴方には絶対に言われると思いましたよ。

 

はあ、後で何て言われるだろう。

 

泣けてきた。

 

 

「その辺にして置け。」

「あらん、キョウスケ~私はハスミちゃんのお叫び羞恥プレイを褒めてるのよ?」

「それは褒めているに入っていない。」

「ん、もう。」

「ハスミ、その技を使うなら羞恥心を捨てろ。」

「りょ、了解です。(ですよね。」

「あら?ハスミちゃん。」

「はい?」

「左の眼が赤くなっているけど?」

「えっ?」

「もしかして泣いちゃった?」

「いえ、さっき前髪が眼に当たっちゃったので。」

「そう、もしだったらヘルメットちゃんと被っておきなさいな?」

「そうですね、そうします。」

「…」

 

 

もしかして感染が進行した?

 

確かに原作でもDG細胞は精神の不調で進行の有無が決まっていた。

 

いや、今は戦闘に集中しないと。

 

 

「っ!?」

 

 

油断していたとは言え海中から突如現れたバグスの攻撃を喰らってしまったのだ。

 

 

「ハスミちゃん!?」

「新手か!」

「ハスミちゃん、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です。」

 

 

その時だった。

 

 

 

ーユルサナイー

 

 

 

「!?」

 

 

 

ーモウスグー

 

 

 

「…(この声は!?」

 

 

 

ーアエルー

 

 

ーワタシモー

 

 

ーアナタニアイタイー

 

 

ーワタシヲマモッテー

 

 

 

「ぁ……(声が聞こえる?」

 

 

 

ーダカラー

 

 

ーソマッテー

 

 

ーワタシノイロニー

 

 

ーハスミハー

 

 

ーワタシガマモルカラー

 

 

 

「私は…(貴方をマモル。」

「ハスミちゃん?」

「!?」

 

 

キョウスケが通信画面越しで見たハスミの姿は異常であった。

 

普段の深い蒼をした瞳のハイライトは無く澱んでおり、相対して左眼は紅く染まっていた。

 

そして無言のまま敵陣営に突撃し戦場をかき乱した。

 

装備されたストライク・アキュリスを展開し敵をかく乱しその隙をついてメガ・ビームライフルで撃ち落とし、プラズマ・ステークで殴りつける。

 

所謂バーサーカー状態である。

 

 

 

「ど、どうしちゃったの?」

「兎に角、ハスミを止めるぞ!(あれではまるで…!」

 

 

 

その後、無事に戻された私は隊長の話で私の様子がおかしくなったと聞いた。

 

ストッパーが外れたかの様に突如現れたバグスの集団を完膚無きなまでに仕留めたらしい。

 

クスリと笑う姿は狂気の沙汰としか言えなかったとの事。

 

キョウスケ少尉やクスハ達が必死に呼びかけて味方に被害が及ぶと言う凶行は無く事無きを得た。

 

医者の話では被弾した衝撃で破損したT-LINKシステムが幼少期に受けた虐待を起因として一時的に相手を倒す事で自身を護ると言う思考に染まっていた可能性があると説明を受けた。

 

私はそう言う事にして置く事にした。

 

その後、新たに仲間に加わったエルシャンク一行、トリントン基地所属組、ドラグナーの三馬鹿トリオと交流を深める事にした。

 

毎度の事ながら皆がクスハドリンクの洗礼を受けていたがウラキ少尉とガトー少佐は見事に逃げました。

 

前回の記憶があるからって逃げるとは情けない。

 

気持ちは理解しますが。

 

一緒に同行していたリンダとローズから私が隠れて執筆している作品のファンだった事が嬉しかった。

 

ライトノベル専門雑誌であるファンタジア掲載の「賞金稼ぎと桜月の姫君」の続きが気になる筝だ。

 

丸河書店の出版社には軍属になってから執筆が出来ない時、纏めて完成した原稿を送って置いて小出しで掲載して貰っていた。

 

一気読みしたいのは判るがそれだと面白味が無くなってしまう。

 

残念だがそのスタンスは崩せない。

 

二人ともごめんね。

 

その後、私は自室に戻って行った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「やっぱり感染が進行している。」

 

 

自室で制服の袖を捲ると銀色の六角形の部分が増え始めていた。

 

確か原作では腕を一回りする位の感染が進むと徐々に自我が曖昧になっていたのを思い出した。

 

 

「まだ時間はあると思うけど、悠長している訳にはいかないよね。」

 

 

そう、DGとの再会が近い事をアカシックレコードから警告を受けていた。

 

ただでさえトリントン基地で例の存在達が現れる事を警告されていたばかりなのに。

 

物語は余りにもねじ曲がりそして変異しつつあるのだろう。

 

その予兆としてジャブロールートへ進んだアーガマ隊がバイストンウェルに飛ばされてしまった事をアカシックレコードから伝えられた。

 

極東残留ルートのヒリュウ隊もややこしい事に鉄甲龍の風のランスターと交戦したらしい。

 

ゼオライマーはまだラストガーディアンの基地に眠り続けているのでまだMXの流れが入って来ている訳ではないらしい。

 

 

「…(そろそろ本格的に蒼い睡蓮に情報を渡して動いてもらった方がよさそうだな。」

 

 

私は銀色に染まる事を予期し事を始める事にした。

 

全ては救済の為に。

 

 

=続=

 




血の繋がらない義親子の会話。

それは別道を行く先の仲間達の軌道。

陰で動く者達の雄姿と思惑は何を感じるのか?

次回、幻影のエトランゼ・第四.五話『会話《トーク》』

心の底より盛大に笑みを浮かべよ。


《今回の登場人物》

<エルシャンク>

※ジョウ・マヤ
飛影のパイロット、今回の件で逆行している事が判明。
しかし、一部の記憶が蘇っておらず曖昧な所があるがカレンの一件は覚えていた。

※レニー・アイ
鳳雷鷹のパイロット、ジョウの事を好いている。
ロミナとはライバル関係にある。

※マイク・コイル
爆竜のパイロット、ジョウを兄貴と慕う。

※ダミアン
黒獅子のパイロット、カレンとは恋人同士。

※カレン
シャーマンのパイロット、元ザ・ブーム軍のくのいち部隊だったが彼らのやり方に反しこちら側に投降、反旗を翻した。
ダミアンとは恋人同士である。

※ロミナ・ラドリオ
ザール、ムゲの星間連合によって隷星となったラドリオ星のプリンセス。
エルシャンクの艦長を務める。
ジョウに対して一途な思いを馳せている。
既にジョウから地球での忍者の事情を聞いており理解している。
連邦軍に保護を求め、VIP扱いとなっている。


<トリントン基地所属>

※コウ・ウラキ
トリントン基地所属のテストパイロットだったがアルビオン隊に転属。
本編開始前の2年前に逆行した。
今回は同じ様に逆行を果たしたガトーと意気投合している。
逆行の影響で過去の操縦技術を披露した為、GPシリーズ01のテストパイロットを務める。
ストレスが溜まると嫌いだった筈のボイルした塩ゆでニンジンをドガ喰いするなど原作とは真逆の状況にある。

※アナベル・ガトー
内部抗争によりジオン公国より亡命、現在は客将扱い。
コウと同じく本編開始前の2年前に逆行を果たした。
ザビ家暗殺の汚名を着せられたデラーズの護衛に当たっていたが本人からの指示でアルビオン隊に協力する事となった。
アルビオンで地球に降下する際に追撃してきた部隊から艦を守る為にGPシリーズ02を駆って死守しそのまま機体のテストパイロットとして搭乗する。
「ソロモンの悪夢」の異名は錆付いていない模様。

※サウス・バニング
アルビオン隊に配属になった不死身の四小隊の一人。
乗機はジムカスタム。

※チャック・キース
コウと同じくテストパイロットを務める。
乗機はジムキャノンⅡ。


<ドラグナー隊>

※ケーン・ワカバ
戦艦アルビオンと共に地球に帰還した元アストロノーツアカデミー生。
成り行きでドラグナー1型のパイロットになる。
元はリーゼントだったがバッサリ切られた。
現在は『A』の時と同様、他二名と共にバニングの元でスパルタ訓練を受けている。

※タップ・オセアノ
ケーンと同じアカデミー生。
成り行きでドラグナー2型のパイロットになる。

※ライト・ニューマン
ケーンと同じアカデミー生。
成り行きでドラグナー3型のパイロットになる。
戦闘後にクスハにナンパを仕掛けるもクスハドリンクの洗礼を受ける羽目になる。


<クロガネ・トロンべ隊>

※藤原忍
獣戦機隊の一人、ダンクーガのメインパイロットを務める。
うろ覚えな『虚憶』の関係で以前よりも落ち着いている。


<ハガネ・ATXチーム>

※キョウスケ・ナンブ
逆行の記憶を持った仲間が増えた為、前より計画していた転生の記憶を持つ仲間集めを進める。
ハスミがDG細胞に感染している事にドモンやアクセルと共に薄々気が付いている。

※クスハ・ミズハ
ATXチーム所属、アサルト4。
仲間入りしたメンバー達にクスハドリンクを披露し悪夢の根源の一端を担う。
記憶を持っているコウとガトーは颯爽と避難した為、事無きを得る。

※ハスミ・クジョウ
ATXチーム所属、アサルト5。
今回の戦闘でDG細胞の汚染が進行。
100%中20%に上がり、感情の高ぶりで左眼が紅く輝く様になってしまっている。
傾向としてDGの声をダイレクトに聞こえるまでに侵食が進んでいる。
また『究極・ゲシュペンストキック』を披露した結果、スーパー系か?と誤解されてしまう始末である。
またケーン達の仲間であるリンダとローズから白野睡蓮著の書籍のファンであると聞かされる。

<???>

※地獄
ブルーロータスの仲間、ハザードの悪行を阻止する為に派遣された。
彼に協力する者達は全て鎮圧され生き残っている者は居ない。
ローニンによると二人組で刀と拳銃を所持していた模様。
互いに第6の悪魔、第4の堕天使と名乗っていた。


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第四.五話 『会話《トーク》』

物語は加速し止める事はない。

ならばその流れに乗って突き進もう。

これは一時の珈琲時間。

現れる影の人々。

それは未来への軌道へと繋がる。




私達はシドニー基地を経由しアルビオン隊の案内でトリントン基地へ到着した。

エルシャンクは上層部から命令でそのままハガネ、クロガネ両艦が護衛。

アルビオン隊の母艦である戦艦アルビオンはシドニー基地で修理中のままだった。

地球へ降下する際の敵勢力の追撃で未だ修復が終了しないのである。

アルビオン隊、ドラグナー三馬鹿トリオはエルシャンク共々ハガネとクロガネ預かりとなったのである。

 

 

******

 

 

「ハスミ、お前が予言した通りの事が起こった。」

「そうですか…」

「以前宇宙は今だ停滞を保っているが地球内部はかなりの混乱に陥っている。」

「それに関しましては順に説明しますが宜しいですか?」

「任せる。」

 

 

前回の戦闘から翌日、テンペストはハスミの自室でコーヒーを啜りながら今後の事に着いてハスミと話し合いを行っていた。

 

今回は飲みやすいアメリカンである。

 

普段は紅茶やハーブティを嗜むが義父の嗜好に合わせてコーヒーを付き合う事もある。

 

 

 

「お義父さん、予定通りに一か月後にマクロスの出港式典が行われます。」

「以前から話していた例の事件だったな。」

「はい、蒼い睡蓮にも情報を回して置いたので近々大規模な部隊編成が行われると思います。」

「承知している。」

 

 

トリントン基地での一件が終わった後、伊豆基地に戻れば新たに仲間に加わった人達と交流があるだろう。

 

しばらくは共に行動するが、マクロスの一件で宇宙に飛ばされるので地上になるべく戦力を残して置く算段にしたのだ。

 

パワーバランスが取れれば地上に残存する敵勢力の鎮圧も出来る。

 

宇宙に移動した場合は協力関係になるだろう新たな仲間との出逢いを含めて漁夫の利を得ようと思っている。

 

だが、余りにもやり過ぎると無限力からの横槍が入る可能性があるのでマクロスの転移は止めて置かない事にしたのだ。

 

変異しすぎた物語にそれは必要ないと思うが念の為である。

 

ちなみに私達が宇宙ルートへ行く事はアカシックレコードで確定済みです。

 

 

「ハスミ。」

「何でしょうか?」

「お前の身体の事だが…」

 

 

私はコーヒーの入ったマグカップをテーブルに置くと感染が広がりつつある左腕を摩った。

 

 

「このまま感染が進めば…私はいずれ戦う為だけの傀儡となります。」

「ハスミ、やはりレイン君に…!」

「これは自分で決めた事です、必ず説得して戻ってきます。」

 

 

ハスミの決意は固いとその表情で判断したテンペストは内心心配しつつも送り出す事を決めた。

 

保護者としてどうかと思うが義娘の決意を崩すのは容易ではないと悟ったのもある。

 

 

「…分かった、それまでの『庭園』の行動は私の方で調節して於こう。」

「よろしくお願いします。」

 

 

エルシャンク防衛の一件で私は一度DGの破壊衝動に飲まれた。

 

仲間に被害が及ばなかったがそれでも私の失態に変わりはない。

 

DGの声が聞こえる様になったのもその後だった。

 

どうしていいのかわからないまま怖がっている子供の声だった。

 

誰もが皆同じものになれば怖くないとそう自分自身に言い聞かせていた。

 

それでは何の意味も持たない。

 

だから言葉を掛けて挙げなければならない。

 

 

「では、少佐…本題に入りましょう。」

「そうだな。」

 

 

アカシックレコードによってもたらされたジャブロールート、極東ルートへ向かった仲間達の動向を説明します。

 

まずジャブロールートより。

 

ジャブローに向けて出港したアーガマであったが、太平洋上にて突如発生した現象によりバイストンウェルへと転移してしまった。

 

そこで出会ったショウ・ザマと言う青年の話ではバイストンウェルは異世界であり、地球における海と大地の狭間にあると説明を受けた。

 

俗に言う伝承などで語られる『死後の世界』に近い世界らしい。

 

そこではアの国のドレイク・ルフトが地上から招いたロボット工学の権威の一人、ショット・ウェポンの手で完成したオーラマシンを利用しバイストンウェルの制圧を進めており、いずれ地上にその戦火を広げると話していた。

 

αと衝撃、UXを入り交ぜた状態にあるらしい。

 

彼の伝手からラの国の王女、シーラ・ラパーナとラウの国の女王、エレ・ハンムの協力を得る事で一行は一先ず地上に戻る事が出来たがアの国のオーラバトラーまでも巻き込む事態となってしまったのだ。

 

降り立ったのがアメリカのボストン。

 

流石に故郷を火の海に出来ないとドレイクに与していたトッドはショウ達の仲間に加わったのだ。

 

何とかドレイク軍を撤退させる事に成功した一行は目的地のジャブローへ向かった。

 

その後、アーガマ隊はバイストンウェルで数か月過ごしたらしいがこちらでは三日間のMIAだったらしい。

 

その為、大したお咎めは無かったそうな。

 

気になるのはバイストンウェルで数か月過ごした彼らの体内時間は行方不明期間と同じく三日間しか変動がなかった事だ。

 

あの浦島効果はどこ行ったー?

 

また無限力の陰謀ですかねー?

 

ジャブローへ到着した一行は現地で戦闘を続けるジオン公国軍の部隊の鎮圧並びに取り逃がしたドレイク軍の捜索に当たった。

 

例の如くガンダム界のロミジュリ騒動は何とか収まり、お付きの人も色々あって投降。

 

やはり、ジャブローへの侵攻を進めていたジオン公国軍内部でも疑心暗鬼か続いており、彼らに協力しているAnti・DCや例の機体ことメタルアーマー(MA)を中心とした勢力の正体が判明した。

 

その名はギガノス帝国。

 

そのギガノス帝国とAnti・DCが裏で何やら行動を起こしているらしく、今だ公の場に姿を見せないザビ家が暗殺されたと言う情報はより確実になっているとの事だ。

 

そしてダカールへと巡航中にリクセント公国から脱出して来たシャイン・ハウゼン王女を保護した。

 

どうやら正体不明の勢力(OZ)に公国が侵略されてしまい、お付きのジョイス、同国のパイロットであるルーメン4、偶々リクセントへ来訪していたジョルジュ・ド・サンドの尽力をへて囚われの身になる事だけは避けられたとの事だった。

 

もちろん、一度敵勢力に捕まったが王子様の如くライディース・F・ブランシュタインによって救われたとの事。

 

うん、その時のシャイン王女の心情は察しました。

 

そのまま王女共々同乗しダカールへと巡航を続けた。

 

道中でカサレリアのリガ・ミリティアに接触し協力を得られたのも幸いだったのかもしれない。

 

そしてダカール到着後は連邦基地内で内部抗争の真っただ中だった。

 

偶然にも左遷させておいた膿共が原因だったらしい。

 

しかし蒼い睡蓮の情報で手助けにやって来た『宇宙の始末屋』と呼ばれる者達の手によって首謀者達は捕らえられた。

 

彼らによってもたらされた首謀者達の悪行の数々が暴露された後、軍法会議にかけられるとの事だった。

 

外見が海〇主な人と髪型が某野菜人の様な人、しっかりお勤めしてきてください。

 

ちなみに彼らと内通していたと思われるAnti・DCの部隊が襲撃を掛けて来たがアーガマ隊によって返り討ちになりました。

 

エルピスに毒ガスをまき散らそうとした人よ、爪が甘いのだよ。

 

そんな輩には狼の印が黙っていない。

 

後続の部隊に事後処理を任せた一行は伊豆基地へと帰還していった。

 

 

「ジャブロールートのアーガマ隊の動きはこの様な状況です。」

「ついにギガノスとOZが動き出したか…」

「ええ、まあ彼らの飼い主であるロームフェラ財団に関しましては抑え込めると思います。」

「…あの若造に任せただったか?」

「はい、蒼い睡蓮の協力者である死天使さんには色々とやって頂く事がありますので。」

「そうか。」

「彼の前座としてはいい相手でしょう。」

「犬猿の争いの様にも思えるがな。」

「では、極東ルートのヒリュウ隊についての状況です。」

 

 

極東へ残ったヒリュウ隊の同行を説明します。

 

ネルガル重工で建造された戦艦ナデシコは火星の極冠遺跡から発見されたオーバーテクノロジーを利用して創られたものである。

 

しかし、彼らの雇い主の目的は古代火星文明の技術独占だった。

 

表向きは火星に取り残された火星都市・マルスシティの住民の救助となっている。

 

それを知らずにナデシコのクルー達は火星へと出港準備を進めていた。

 

所がその技術を接収しようと連邦軍内部の某真空管ハゲがやらかしてくれたのである。

 

それを止める為にヒリュウ隊は出撃を余儀なくなされた。

 

しかし、紫色の老人によってそれは崩されてしまったのである。

 

某真空管ハゲの下で動いていた兵士達は口々にこう言ったそうな。

 

 

『紫がぁ…』

 

『笑い声ひぃいい!!?』

 

『何でおさせげぇえあ!!』

 

 

等とトラウマと化してしまい全員病院送りとなったそうな。

 

相変わらずいい仕事してますね。

 

次に会う時は敵である以上、容赦しませんからね。

 

そして某真空管ハゲは伊豆基地の兵力無断使用並びに同基地司令部への命令違反からのその他諸々の一件で独房入りと相成りましたとさ。

 

念の為、蒼い睡蓮がナデシコにエージェントを送ったと話していたがどんな隠し玉なのか気になる。

 

ヒリュウ隊と某真空管ハゲの私兵隊が小競り合いを起こしている際に彼らは火星へと旅立って行った。

 

そしてその数日後、地球圏に飛来している異星人の集団による街への襲撃が行われた。

 

そして現れたのだ『勇者』と呼ばれる存在達がその場所へ。

 

彼らは故郷の星を追われた者、星の意思により生まれた者、平和を誓う人々の手によって生み出された者、その思いは様々であるが弱きものを助け悪を挫くスタンスは崩していない模様である。

 

彼らは国連事務総長が指揮する地球防衛軍所属の為、管轄が違うもののいずれ共に手を取り合える事を願いたい。

 

命と呼ばれる宝を守る白き獅子よ。

 

この世の悪を挫く不死鳥よ。

 

地球の意思を継ぐ蒼き命よ。

 

大いなる風となれ颯爽せし嵐よ。

 

白と黒に彩られし金色の印を胸に抱く者。

 

黄金の祈りを携えて冒険心を持つ者よ。

 

七色の七人の戦士達。

 

未だ姿を見せない金色の獅子と緑の誓い。

 

蒼き竜と紅き鳳凰。

 

雷を纏う少年少女達。

 

忍の心を志す三人の少年達。

 

太古の恐竜の魂を受け継ぐ少年少女達。

 

御伽の鬼退治を続ける少年少女達。

 

彼らとの出逢いを胸に行く道違えどいつか会える日を願う。

 

そしてヒリュウ隊は更にその翌日に使徒との遭遇を果たした。

 

残暑の残る第二新東京市に第三使徒が出現。

 

彼らは救援に向かおうとしたが『ネルフ』によってそれを遮られてしまう。

 

何故なら彼らの保有する機動兵器である『EVA』がいともたやすく倒してしまったからだ。

 

実際の戦闘は見ていないが恐らく彼も転生者である。

 

理由とすれば『暴走』と言う言葉を耳にしていないからである。

 

彼が何処までの記憶を持っているか不明である。

 

まさかと思うが『御使い』までの記憶もあるとは考えにくい。

 

蒼い睡蓮はエージェントを控えさせると話してはいたが『ネルフ』の暗部達が黙っていないだろう。

 

その為、エージェントの一人は彼が身近な場所で出会える様に手配はするらしい。

 

そして問題は使徒との戦闘後に現れた『鉄甲龍』だ。

 

現在も『国際電脳』を隠れ蓑にしている。

 

後々残して置くのも何なので『国際電脳』の一件は『博士』に一任している。

 

うん、異星人のAIプログラムその他を掌握するウイルスを仕込めるのだから一巻の終わりであろう。

 

出来る事なら彼らからキチガイの遺伝子の呪縛を解いてあげたいのもある。

 

ヒリュウ隊を襲った『風のランスター』は様子見だけだったのだろうかちょっかい程度の戦闘を行った後、そのまま撤退したそうだ。

 

理由とすればあの『八卦ロボ』は原作でも15年の歳月をかけて開発されたのだ。

 

未だ解明されていない部分も多いのだろう。

 

流石、あのキチガイの作品である。

 

その内。『烈』も出そうな気もしなくもない。

 

 

「少々無駄口が過ぎましたね、申し訳ありません。」

「いや、二つの部隊の行動で奴らを閑職に追い込んだ事だけは何よりも救いだ。」

「そうですね。」

「所でハスミ…お前が話した『紫の老人』と言うのはまさか?」

「ええ、先のガンダムファイト優勝者である人外級の御人です。」

「…あれはもう人と言えるのか?」

「お義父さん、それを言ったら国際警察機構とかBF団がもっと人外級ですよ。」

「そ、そうだったな。」

「それに彼らに襲撃予定の敵の刺客達がもっと不憫と思います。」

「う、うむ…」

 

 

いや、あれはさすがにね。

 

地球の人外級が集う秘境に刺客を送り付けちゃ駄目でしょ。

 

Zなお話の31話を思い出したよ。

 

アハハ、あれよりももっと酷いけどね。

 

今回は国際警察機構、BF団、シャッフル同盟、クロノス星勢等々が揃ってる。

 

説明とか描写とか難しいかもね。

 

そんな事でテンペスト少佐との話を切り上げ、私はある事をふと思った。

 

気がかりなのがあのキチガイの作った『次元連結システム』である。

 

微妙に『交差する門』に原理が似ている様に思える。

 

まさかと思うが今は考えておかない事にする。

 

あの確証が当たっている事もなければアカシックレコードから警告されていないからである。

 

いや、伝えたくても伝えてくれないと言うのが正しい。

 

ここ最近無茶をしすぎたのでアカシックレコードから心配されているのだ。

 

今もし過ぎている。

 

自覚はあるし申し訳ないと思っている。

 

 

 

=続=

 




砂の大地で睡蓮は何を思う。

異形が集う地で何を見るのか?

太陽すら掻き消す暗き闇夜。

静寂を求める存在がその姿を現す。

次回、幻影のエトランゼ・第五話『異形《アインスト》』

変異する物語は加速する事を止めず、ただ突き進む。


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第五話 『異形《アインスト》』

光すら届かない闇の世界。

魔方陣より現れるは異形。

静寂を求める異形達は何故現れたのか。

交差する思いを胸に。

闇夜を貫け。




前回から1週間近く経過した。

 

トリントン基地へ到着した私達は現地の司令官であるコーウェン准将と挨拶を交わした後、本題の護衛対象の話と私達の機体の改装作業が行われた。

 

その間は基地のテストパイロット達と共に共同訓練や模擬戦を行ったり、基地を狙って現れる敵部隊と交戦し追撃したり等で時間を忘れる程日々が過ぎて行った。

 

補給の為に基地を訪れた独立遊撃部隊の姿を見る事も多かった。

 

スパロボの原作では関わりは無いものの設定として生きていた一年戦争の影の功労者達である。

 

ちなみにドラグナー三馬鹿トリオとも模擬戦を行った。

 

クスハ、ブリット、私を巻き込んでの形である。

 

チーム戦のバランスを考えてクスハもゲシュペンストmk-Ⅱに乗り換えて行われた。

 

弐式を使ってやってもいいと思ったけどね、後でグダグダ言われるのも何だし。

 

結果はと言うと?

 

うん、こっちの圧勝ですよ。

 

何度、君らの戦闘パターンと癖をゲームとDVDで見てると思ってるのかね?

 

オ○○のつく所業へ堕ちるとこまで堕ちた人間は容赦ないよ。

 

余りにも調子づいていたから厭味ったらしく、にこやかに責めてあげたよ?

 

えっ?漢字の表記が違うって?

 

キノセイデスヨー。

 

ちなみに三馬鹿トリオは前の記憶を持っていない。

 

そのせいかドモンが「また『見切り』の稽古を一からやり直さなきゃな。」と師匠顔負けの黒い呟きを聞いてしまった。

 

MX版の対ギルガサムネ戦用の為、致し方がないとは思う。

 

そんな訳でケーンの悲鳴が基地の一角から聞こえて来るのは気のせいと言いたい。

 

ケーンよ、無事に生き残れば君が人外級の仲間に足を踏み入れる事になるだけだから安心したまえ。

 

うん、合掌。

 

 

******

 

 

「うぇえ…」

「もう勘弁してくれ…」

「本当に…」

 

 

トリントン基地滞在から3日目位だろうか?

 

正午の休憩時間にテストパイロット並びに民間上がりのパイロット一同が食堂に集まっていた。

 

日々ハードな訓練のせいかケーン達は相当参っている様である。

 

特にケーンは自覚はないもののドモンから見切りを取得させる為の修行もプラスされているので疲労もその倍である。

 

他二人も旧戦技教導隊のきっての頑固親父ズことカイ少佐とお義父さんにしごかれているので同じ様なものである。

 

ライトに関しては私にナンパしたのが切っ掛けでお義父さんから殺意を込めた訓練をさせられているとか?

 

ゴメン、そんな状態のお義父さんは私でも止められんのよ。

 

毎日そんな隊長達と鍛錬しているブリット達でさえ少し疲れ気味である。

 

その理由は数か月前から破壊した筈の敵の兵器がどう言う訳か再び姿を現し基地周辺を狙って襲撃を繰り返しているとの事だ。

 

確かにオーストラリア大陸は資源が豊富なのは知っているがそれも限りがある。

 

だが、その敵部隊に遭遇した味方部隊の報告にはまるで納品されたばかりの新品同様だったそうだ。

 

しかも無人機でパイロットの気配はない。

 

一瞬該当する言語が頭を過ったがDGの声ではないし他の可能性もないとアカシックレコードで確認した。

 

しいて言うならまたシナリオが加速し始めたと言う事だろう。

 

話を戻すが、もっとも襲撃されているのはここトリントン基地。

 

そして偵察部隊の命がけの情報収集で敵機動部隊の拠点が特定された。

 

その為、大陸各地に散らばった手練れをこちらに集結させて敵拠点への総攻撃をする予定なのだ。

 

手練れと言っても各基地から厄介者扱いされたメンツばかりなのだが…

 

その厄介者達が現場では優秀である事に上は気が付かないのか?

 

まさにその一部の奴らは阿保としか言いようがない。

 

彼らには彼らなりの戦法並びに情報収集能力に長けていると言うのに。

 

司令室でふんぞり返っている者達には解らないと思うが、そこでしか見えない何かを見ると言う事は大事な事だと思う。

 

 

「今日はさすがに疲れたな。」

「うん、後で栄養ドリンクでも作ろうかな?」

 

 

はい、皆から却下からのストップ宣言されました。

 

理由はいつもの事であるが今は昼時。

 

ここと日本との時間差は場所にもよるが大体一時間から二時間程度であり余り支障はない。

 

しかも気候も場所によって変わっており、砂漠性気候地域に近いここでは昼間は35度以上、夜は逆に爽やかで過ごしやすい。

 

日本ではもう暦で冬季の中間辺りだろう。

 

季節が逆になるとは言え、慣れないとキツイ。

 

そうでなくても減るものは減るのだ。

 

 

「…(前に見た雑誌にあったメニューに似てるな。」

 

 

私は端末をランチプレートの奥に置いて食事をしていた。

 

トマトベースのスープはあっさりしていてこの気候にぴったりだろう。

 

野菜と豆類の量が日本のより多いがそれに加えて大きめのウインナーが入っていた。

 

オマケに炭水化物類が多いので体重が気になるのは置いといて。

 

付属されていたお菓子類は後で食べる為に残して置いた。

 

 

「ハスミ、どうしたの?」

 

 

食事後に私がいつもの考える状態になると深刻な顔をする癖に気が付いたクスハが話しかけて来た。

 

それに対し私も話を返しておいた。

 

 

「うん、ちょっと気になった事があって…」

「気になる事?」

「この前の戦闘でちょっと違和感があったから、それが気になってね。」

「…私は戦うのに精一杯だったし、ブリット君はどう?」

「俺もそんな事は無かったよ。」

「アタシもユウは?」

「いや、ここの所連戦が続いているのもある…疲れているんじゃないか?」

「そうかもしれない。」

「でもさ、ハスミの『気になった』って後で助かった事あるじゃない?」

「うん、ハスミには助けられてばかりで…」

「クスハ、それは気にしないでっていつも言っているでしょ?」

「けど、ハスミが言うのなら何か不吉な事が起こるんじゃないか?」

「迷信に囚われてどうする?」

「とか言ってさ、ユウってそう言うの苦手だもんね?」

「カーラ、俺は非科学的な事が…」

「そっか、時間があったらとあるジェイルハウスの話でもしてあげようか?」

「なっ?」

「信じるも信じないも貴方次第でしょ?」

「分かった、受けて立とう。」

 

 

この話を後日、ユウやカーラ達と交えて行ったら全員顔を青ざめていたのは気のせいか?

 

 

「何の話?」

 

 

へばっていたケーン達がこちらの話に入って来たので一緒に話す事にした。

 

閲覧?している人には悪いが、かくかくしかじかで説明しておいた事にしてください。

 

 

「そういう事がね…」

「そう言えばそっちのメンバーって例のテストの適正者だったっけ?」

「そうよ、私は有るか無いか程度だけどね。」

「けどさ、話を聞く限り君の方がより能力者っぽいけど?」

「そうかな?(だから言えないって!」

「もしかして機械の故障だったりしてさ。」

「ないない、ちゃんと軍の査定が通ったのしかテストに使わないって。」

「そだよ?」

 

 

そこへ現れたのはここでは不釣り合いな白衣を着た金髪の美女である。

 

 

「はぁい、ハスミ。」

「ティアリー博士!?」

「ゲンコしてた?」

 

この女性はウィスティアリア・マーリン博士。

 

通称はティアリー。

 

私の機体である『ガーリオン・タイプT』の主任技術者である。

 

 

「ええ、まあ。」

「もう、私の居ない所で無茶した駄目よ?」

 

 

ティアリー博士に毎度の事ながらスリスリ込みで抱き付かれる私。

 

ちなみに私の胸のスクィーズなグレフルとティアリー博士のメロンが谷間で潰しあっている状態が続いている。

 

おい、そこの三馬鹿トリオよ鼻の下伸ばすな!

 

こっちだって恥ずかしいの。

 

 

「博士、何か用があったんじゃないんですか?」

「そうそう、そうだったね。」

 

ティアリーは抱き付きを終わりにすると本題に入る為に緩めにかけた眼鏡を掛け直した。

 

 

「ハスミのガーリオンの改修作業がもうすぐ完了するから早めに教えようと思ってね。」

「資料は読ませて頂きました、かなり様変わりしたそうですね。」

「そだね、あっちこっちガタが来てたし…いっそのこと全部取っ払って入れ替えした方が良いかなって思ったのさ。」

「それは該当があり過ぎて何とも…」

「あのDGと遭遇して奇跡的に生還出来ただけでもすごいけどね。」

「…ですよね。」

「それと追加装備とアキュリスのバージョンアップしておいたから後で試して見て。」

「追加装備にアキュリスのパワーアップですか?」

「そ、アキュリスはシステムの伸びが見えて来たから更に使用時間を延ばして置いたし追加装備は使ってからのお楽しみだね。」

「何と言うかキョウスケ少尉な事を…」

「じゃ、先に格納庫で待ってるよ。」

 

 

ティアリー博士が去った後、壁にかけられた時計に目をやると休憩時間はまだ十分あった。

 

なのでその足で元ガーリオンが置かれている格納庫エリアに向かった。

 

 

******

 

 

「これが君のNew機体、機体名はガーリオンC(ガーリオンカスタム)・タイプTだよ。」

「槍を携えた獅子と言った方がいいでしょうか?」

「君の武装から察するにそうなるね。」

 

 

基本構造は原作のと大差はないが、私個人に対応出来る様にセッティングされているのである意味で私専用になっている。

 

正直に言うとレオナのズィーガーリオンの発展前と言ってしまった方が早い。

 

 

「エルザム少佐やテンペスト少佐のガーリオンもカスタムに変更になったのですね。」

「うん、担当は私じゃないけどね。」

「…(足並みは揃いつつある、後は時を見るしかないか。」

 

 

格納庫でハンガーに収納された私の機体とその横で調整を受ける黒と赤のガーリオンCと青黒いガーリオンCが調整作業を受けていた。

 

こちらも原作のカスタムと大差ないが違いがあると言えばT-LINKシステムを導入していない事だろう。

 

それでも今回の戦争で勝ち抜けるだけの戦力でしかない。

 

この後に控える「例の事件」と「インスペクター事件」ではギリギリだろう。

 

エルザム少佐は後に乗り換える予定になっているので支障はないだろうが問題はお義父さんの機体だ。

 

恐らくはリオン系の後継機に乗り換える事になるだろうが、あの胡散臭い女狐社長では裏でまた余計な思惑を立てているに違いない。

 

そんな機体に乗せる訳には行かないのだが現実とは皮肉なモノである。

 

おすすめとすればヴァルシオン改なのだが、フラグが立ちまくりなので即時却下です。

 

もしそうなったら必ず止めるけどね。

 

 

 

「ん、にゃ?外が騒がしいね。」

「何でしょうか?」

 

 

外から騒ぎ声が響いており、ティアリー博士はこちらへ走ってくる整備兵の一人に声を掛けた。

 

 

「何があったの?」

「博士、友軍が正体不明の大型機動兵器に襲撃され、襲撃を受けた小隊が運び込まれたそうです!」

「どこの部隊?」

「クライ・ウルブズ隊だそうです!」

「!?」

「部隊は全員生き残ったそうですが、使用していた機体は全てボロボロです。」

 

 

私はティアリー博士と共に格納庫の外へ出てみると悲惨な光景が広がっていた。

 

輸送艦のレイディバードから運び出される原型を留めていないPTの残骸。

 

しいて言うならコックピットブロックが無事な位だろう。

 

そして負傷したパイロット達が運び出されていた。

 

気絶しているのか担架で運ばれる者。

 

よろよろと救護兵に付き添われて出てくる者。

 

あちらこちらに包帯やガーゼで傷口を追っているが歩ける者等だ。

 

だが、明らかに負傷している者の中に同じ気配を感じた。

 

そうDG細胞感染者が紛れ込んでいると確信した。

 

 

「これは厄介な事になっているね。」

「…(誰も死んでいない、けど…」

「ありゃ?今昼時だよね?こんなに暗かったっけ?」

「えっ?」

 

 

空を見上げると昼間なのに太陽が見えない。

 

まるでここだけ消えたような状態だ。

 

そう、太陽を失った昼間。

 

それは奴らの活動を予兆させる光景でもあった。

 

 

******

 

 

それから一時間後、トリントン基地の作戦室には同基地内に着艦中の艦長数名と所属艦パイロット、基地配属のパイロット、補給に訪れていた遊撃部隊のパイロット達が集まっていた。

 

 

「では、作戦要項を伝える。」

 

 

レイディバードで運ばれた部隊とは別に活動していた部隊の生き残りから今回の襲撃事件の首謀者達が拠点としている地点を割り出したのだ。

 

そこへ奇襲攻撃を仕掛け、敵部隊を掃討する事となった。

 

その奇襲作戦に選ばれたのがハガネとクロガネ、エルシャンクである。

 

基地に残留中の各遊撃部隊は基地防衛の為にここへ残る事となった。

 

つまり別れて行動する事となったのだ。

 

ここまではいい。

 

問題は機体の事だ。

 

生憎、私のガーリオンCはまだシステム面で調整作業中の為に前線へ出す事が出来ない。

 

その為、再びゲシュペンストmk-Ⅱへ搭乗する筈だったが…

 

クライ・ウルブズ隊の隊長、アルベロ・エスト少佐が隊長と話し合っている場面に出くわしたのだ。

 

どうやら機体が無いのでこちらのゲシュペンストmk-Ⅱを貸して貰えないかと言う事だ。

 

事実、あの人の戦闘能力は嫌と言う程知っているのでそれはありがたいのだが…

 

その問題が私が戦闘に出られないと言う点である。

 

俗に言うイベント出撃的な要素になってしまうのだ。

 

それは仕方がないが物凄く嫌なイベントがこの後に待っているのでそれを危惧している。

 

正直、ペンダントを外そうかと思ったがBF団やバラルに感づかれそうなので却下する。

 

私はあきらめてアルベロさんにゲシュペンストmk-Ⅱを貸出する事に決めた。

 

 

「隊長、私からもお願いします。」

「ハスミ…!」

「私の機体は調整さえ終われば出撃できます、今は手勢が多いに越した事はない筈です。」

「分かった…では、エスト少佐。」

「こちらこそ無理を言って済まない、そちらの隊の者にも礼を言わせて貰いたい。」

「いえ、現状でそう思っただけなので…」

「名は何と言う?」

「ハスミ・クジョウ准尉です。」

「准尉?もしや志願兵か?」

「はい。」

「そうか…(志願兵の受け入れ年齢が引き下げされたとは言え、こんな少女まで戦う事になるのか…」

 

 

アルベロは複雑な表情をした後、その場を去って行った。

 

 

「では、失礼する。」

 

 

出遭う確率は高いと思ったがまさかここまで早いとは…

 

DGの一件が出てきているしMXの件で縁が繋がったのかな。

 

だとすると事を急がないといけない。

 

イエッツドの一件がまだ始まっていないとしても止めなければならない。

 

貴方達も必ず救ってみせる。

 

そして、あの蛇ジジイとキチガイオバハンに鉄槌を下してやる。

 

あの二人の所業は許されるものではない。

 

プレイしている時も虫唾が走った位だし。

 

悪業即瞬殺です。

 

 

******

 

 

先の話通り、私のゲシュペンストmk-Ⅱはクライ・ウルブズ隊へ回された。

 

そして私は機体調整が終わるまでハガネの格納庫でスタンバっていた。

 

先に調整が終わったエルザム少佐達は既に出撃していたが、あの数の敵を倒せるかが不安だった。

 

読み通り、ストーン・サークルから出て来たのはアインストだった。

 

唯のアインストだったらまだ良かったのだが…

 

これが何の因果かエンドレスフロンティアで出現するアインスト達が出て来たのだ。

 

しかも機動兵器サイズで白兵戦サイズではありません。

 

きっと邪神様(KOS-MOS)でも相手に出来ると思います。

 

W07?言わなくても解る人には解ると思います、うん。

 

それにしてもあれは蹂躙し過ぎたと思いますよ。

 

記憶持ちの三人衆。

 

 

 

「アクセル、奴らは本当に…!」

「ああ、間違いない!奴らはエンドレスフロンティアで遭遇したアインストの一団だ。」

「こいつらが…」

 

 

キョウスケ、アクセル、ドモンの三人は互いに通信で出現したアインストの正体がエンドレスフロンティアで出現するアインストである事をアクセルから聞き出していた。

 

 

「奴らはどう言う訳か知らんが機動兵器サイズになっているのは厄介だ。」

「こちら側に転移する時に変異したのかもしれない。」

「だが、アインストに変わりはないのだろう?」

「ああ、ここへ出て来たが運の尽き…纏めて送り返してやる、これがな!」

「オイオイ、俺達の事も忘れて貰っちゃ困るぜ!」

「記憶は違えどアインストとの戦闘経験を忘れた訳ではない。」

「及ばずながら支援します。」

 

 

同じく記憶を所持するジョウ、ガトー、コウもまた状況を理解し参戦してきた。

 

 

「飛影、今日は大盤振る舞いだ!」

「ウラキ、バックスは私に任せろ!」

「了解、フォワードに着きます!」

 

 

各機散開し周囲に散らばったアインストへ攻撃を仕掛けていった。

 

 

「化けモンだが何だが知らねえが!天下のドラグナー隊を舐めんなよ!!」

「そうだとも!」

「生まれ変わったドラグナーのお披露目と行きますか!」

 

 

トリントン基地にてカスタムへ改造されたドラグナー1型、2型、3型。

空中戦に加えビームバズーカーまで装備された為、火力は十分だった。

 

 

「あっちもやるね!」

「カーラ、敵の気をこっちに引き付けるぞ!」

「了解だよ、ユウ!」

「ハスミ…私も戦う!」

「クスハ。」

「ブリット君、大丈夫よ…私もハスミの分まで戦う。」

「じゃ、ハスミちゃんが出て来られるまで頑張っちゃいましょ!」

「忍、一気に行こう。」

「おう!」

 

 

同僚のクスハ達もアインスト相手に頑張りを見せていた。

 

 

「ゴースト小隊は俺に続け!」

「了解。」

「アイツらばかりにいい格好させられねえな!」

「ええ!」

 

 

ゴースト小隊もまた艦の護衛に当たりながら周囲に展開するアインストを迎撃。

 

一方、戦闘中のハガネのブリッジでは。

 

 

「艦長、トリントン基地より入電です。」

「例の情報の予想通り、基地にも例のアンノウンが襲撃を開始したそうです。」

「そうか。」

「艦長、『蒼い睡蓮』は一体何者なのでしょうか?」

「解らん、だが…基地の襲撃を回避できた事には感謝しよう。」

 

 

ISA戦術による敵拠点の制圧並びに基地への敵別動隊による強襲を予想し基地防衛に支障のない戦力を残す。

 

これが『蒼い睡蓮』の提供した情報であり、戦術提案でもあった。

 

流石に上層部の誰もが疑心暗鬼となったが『蒼い睡蓮』の奇跡の噂は耳にしていたコーウェン准将の声で提案を推奨する事となったのだ。

 

もちろんキョウスケら記憶所持者達もアインストの神出鬼没な習性を把握していた為、この提案は妥当だと判断した。

 

 

「粗方、片付いたようだな。」

「ああ…」

「一体どれだけ湧いてくれば気が済むんだ、奴らは?」

 

 

ストーンサークル周辺のアインストは姿を消した。

 

消したと言うよりは突撃をした三名並びに旧教導隊切っての切込み隊長格達の手により屍の山を築いていた。

 

釘打ちで撃たれてはベアリング弾の雨霰でボコボコ。

 

ぽっかりと巨大な穴を開けられてスカスカ。

 

手形の延焼跡を残したコゲコゲ。

 

巨大出刃包丁で三枚卸しのピラピラ。

 

最後は風穴だらけのハチの巣状態である。

 

他にも撒き菱だらけのトゲトゲなどがある。

 

はい、合掌。

 

その屍達も既に灰塵となってしまい原型を留めていない。

 

その為、生きたサンプルが回収される事は無いだろう。

 

向こうの基地司令部にも奴らの死骸サンプルに手出し無用と『蒼い睡蓮』から警告を受けていた為である。

 

それに事実上、アインストの回収を行う部隊が行動不能ならそれも出来ない筈だ。

 

だが、ノイ・レジセイア率いるアインストの集団がいつこちらへ転移するかはまだ不明なので安心は出来ない。

 

無限力からの眼を逸らしつつ危険なフラグを一つずつ消していくのも容易ではない。

 

ストーンサークルに一瞬の静寂が訪れた後、再びそれは起こった。

 

 

「まだ残っていたのか!?」

 

 

ストーンサークルより現れたのは白と黒のツートンカラーの巨大なアインスト。

 

そのアインストの姿にアクセルは驚愕の声を上げそうになったが何とか抑えた。

 

 

「アイツは…!」

「アクセル、奴は?」

「奴がエンドレスフロンティアに出現した女王蜂級アインスト…ヴァールシャイン・リヒカイトだ。」

「奴が…!」

「だが、意思の様なものは感じ取れないが…?」

「恐らくは顕現に失敗したのだろう、奴は抜け殻かコピーだろう。」

 

 

キョウスケとアクセルは少なからずともアインストと縁を持つ、後者はアインストの力を経て身体を蘇生しているのでその声や意思を聞く事も容易いのだろう。

 

ドモンは格闘家としての相手の気を感知する事に長けているのか気配を感じ取った時にその違和感を感じ取っていた。

 

 

「…」

「アルフィミィの機体と何処となく似ているな。」

「個体差はあるにしても違いは出る。」

「念の為に言って置くが奴の鬼面には注意しろ。」

「っ!?来るぞ!」

 

 

キョウスケの声に続き、動き始めるヴァールシャイン・リヒカイト。

 

自我亡き複製でもその力は侮れない。

 

鬼面より発せられるビーム兵装は威力が高いのか周囲に土煙を上げて一気にハガネへと接近してしまった。

 

 

「緊急回避!」

「間に合いません!」

「万事休す、か。」

 

 

その時だった。

 

ヴァールシャイン・リヒカイトに無数の槍が突き刺さった。

 

 

「これはオマケよ!」

 

 

特機用カタパルトデッキから出てきたのは白いガーリオンC。

 

すかさずレクタングル・ランチャーを放った。

 

 

「!?!!!?」

「古巣に戻れ!」

 

 

ストライク・アキュリスによる不意打ちと動きを止めた一瞬を突いての射撃攻撃。

 

それは目眩まし程度かも知れないが怯ませる事は出来ただろう。

 

 

「ギリギリでしたが何とか間に合いましたね。」

「わぉ、それがハスミちゃんの新兵器?」

「はい、先行配備されたレクタングル・ランチャーです。」

「例のか、もう配備体制に入ったのか?」

「連射はイマイチですが火力は十分です。」

「じゃ、足並みが揃った所で…」

「各機、奴を仕留めるぞ!」

 

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 

† † † † † †

 

 

無事にストーンサークルに出現したアインストを殲滅した。

 

事件の終息後、私達の部隊は任務を終えて伊豆基地へ帰路を向けていた。

 

今回の一件はストーンサークル跡地を厳重警戒し別機関に調査を依頼する事になった。

 

灰燼となった死骸は焼却処分しサンプルの回収は一切禁止された。

 

後は成り行きに任せるしかない。

 

そして極東へ近づいていた頃。

 

ハガネ艦内の一室にてハスミは交代時間となった為に自室にて休んでいた。

 

 

 

 

「…(DG」

 

 

 

 

ーハスミー

 

ーヤクソクシタヨー

 

ーアイニキテー

 

ータイヨウヲカガゲルチヘー

 

ーソシテオシエテー

 

ーアナタノシルミライノハテー

 

ーコノサキニマツサイヤクノオトズレヲー

 

ーワタシハアナタヲシナセナイー

 

ーワタシガマモルカラー

 

ーアナタヲギセイニシナイカラー

 

ーレイテイモミツカイモヤミノタイジニモテダシハサセナイー

 

ーハスミハオトモダチダカラー

 

ーハスミハワタシノミコトナルー

 

ー“     ”ノミコニハサセナイー

 

ー“     ”ノミコハモロハノツルギー

 

ーハスミジブンヲキズツケナイデー

 

ーアナタハー

 

ー“   ”ー

 

 

 

「…(うん、心配しないで。」

 

 

ハスミの左眼は紅く輝いており虚ろなまま表情を変えずに過ごしていた。

 

だが、ビキビキと音を立てながらハスミの皮膚は変色を始めていた。

 

 

「…(ATXチームの皆、ゴメン。」

 

 

パシュンと室内の扉をスライド式の開閉音が響く。

 

そこに居たのは同じ様に銀色の洗礼を受けた者。

 

 

「もう行くのね?(絶対に取り戻して見せるよ。」

 

 

その言葉を最後に室内の主は消えた。

 

 

=続=




消えた睡蓮と黄土。

集結する仲間達。

滅びを迎えた都市で流れる悲しい旋律。

現れた機械仕掛けの悪魔。

囁く闇の声は契約の証。

次回、幻影のエトランゼ・第五.五話『涙悲《ナミダトカナシミ》』

睡蓮は銀の揺り籠で闇の中に眠りにつく。


<今回の登場人物>

《トリントン基地在住》

※モルモット小隊
元ジャブロー直属の第11独立機械化混成部隊。
現在はオーストラリア大陸を転々とする独立遊撃部隊として活動。
同部隊はマクロス落下事件以前にEXAMシステム事件にかかわっていた。
しかし、システムそのものが危険視され実験は破棄された。
現在はEXAMシステムが外されたブルーディスティニーシリーズを部隊で使用している。

※ホワイトディンゴ小隊
オーストラリア大陸に点在する独立遊撃部隊の一つ。
補給の為、トリントン基地へ帰還していた。
基地防衛の為に出撃を余儀なくされる。
マクロス落下直後の戦闘で本隊から捨て駒にされた『荒野の迅雷』は彼らの部隊預かりとなっている。

※ドラグーン小隊
プロトタイプドラグナー3機のデータを基に作成された新規採用型MAを使用する部隊。
今回は先行量産された物をモブキャラの部隊が基地防衛に任った。
しかし、カスタム化したドラグナーとは天と地の差があった。
もしくは彼らのパイロット技能によるものかもしれない。

※クライ・ウルブズ隊
地球連邦軍の特殊作戦PT部隊。
上層部からの命令で現在逃走中のDGを追って各地を転々としていたがオーストラリア大陸南部にて交戦、死傷者はないものの部隊は壊滅状態の上、同部隊の隊員らが負傷しトリントン基地に搬送された。
今回は基地防衛の為、後方支援に回っていた。
今回の一件でウルフ9ことフォリア・エストがDG細胞に感染している事が判明。
治療の為、梁山泊へ送り届ける為にハガネ、クロガネ隊に部隊共々乗艦する。


《伊豆基地所属》

※ウィスティアリア・マーリン
伊豆基地より出向している研究者。
トリントン基地でガーリオン・タイプTの改装作業に携わっている。
ハスミがT-LINKシステムで異常な数値を出している事を隠した存在の一人。
現在は数値に細工をしている為、普通の技術者では判別できない様になっている。
常に読めない性格でありハスミへのスキンシップが激しい。

※ハスミ・クジョウ
主人公。
今回乗り換えたガーリオンC・タイプTで奮闘し二つ名を授与される。
DG細胞による汚染は続いているものの今回だけはDGより力を貸して貰えた。
しかし、その一件で感染が進行してしまった為にDGの声に抗えなくなってしまっている。


<DG軍団>

※デビルガンダム
第三話『金指』で出現し誕生した。
ファーストコンダクターであるキョウジ・カッシュはDGによって生体ユニットにされているが今回は仮死状態にされている。
つまり、完全に感染しきっていない状態にある。
そしてセカンドコンダクターであるハスミが『大丈夫』と声を掛けたのが切っ掛けで興味を持ち、特殊な脳波で彼女へメッセージを送り続けている。
今回クライ・ウルブズ隊と交戦したのは自衛の為である。
旧UG細胞を制御するのに別研究機関から提供された『超AI』が使用されているのか自我の様なものが芽生えているらしくその性格や話し方からまだ幼子を思わせている。


<???>

今回、トリントン基地より数千キロ離れた地点に出現したストーン・サークルを依代として出現したアインストの集団。
しかし、顕現自体が成功した訳ではなかったので女王蜂級は出現しなかった。
後にアクセルから今回のアインストがエンドレスフロンティア側で遭遇したアインストであると仲間内の間でのみ判明した。


※アインスト・ヘルツ
エンドレスフロンティアで出現する浮遊霊風のアインスト。

※アインスト・オンケル
エンドレスフロンティアで出現する胴体から生えた長い尾で立ちあがっているようなアインスト。

※ヴァールシャイン・リヒカイト(モノクロ)
エンドレスフロンティアで出現するアインスト達の元締め。
今回は更に複製された物が登場するがオリジナルよりもかなりパワーダウンしている。
自我は無くストーンサークルに侵入する者は見境なく排除している。


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第五.五話 『涙悲《ナミダトカナシミ》』

突然の出来事。

消える睡蓮と黄土。

刻まれた銀色の烙印は抗いを許さず。

悪魔の手繰り糸は踊り。

銀色の駒は足並みを見せる。

これもまた物語の一つであるのなら越えなければならない試練なのか?


伊豆基地へ進路を取り、後数時間で到着する頃。

 

ハガネの格納庫で爆発が起こり、二機の機体が飛び出した。

 

飛び出した機体はガーリオンC・タイプTと黒のゲシュペンストmk-Ⅱだった。

 

ブリッジではエイタとアズキが通信を何度か試みてコックピットの映像を映し出すがアズキは余りの光景に悲鳴を上げていた。

 

それもその筈、二機のコックピット内部は異常な光景だったからだ。

 

側面のディスプレイを埋め尽くす生きたコードとパイロットの皮膚を侵食する銀色の烙印。

 

そしてパイロット達の虚ろな紅い眼だ。

 

二機はそのままその場を離れてロストしてしまった。

 

急ぎ,その足取りを掴もうとするが何者かの意思が絡んでいるのか反応は消えてしまった。

 

今回の一件で同じ様に極東エリア周辺で任務中だった部隊やパイロット達が失踪すると言う事件が起こっていた。

 

全員の共通点はDGに直接接触した事があるパイロットや部隊である。

 

DG細胞による汚染と洗脳によりこの様な行動を行ったと言う事は事前に開発者であるライゾウ博士の研究レポートで把握されていた。

 

そして治療法が今一歩の所で確立出来ていない為、発見されても彼らは倒すしかないと上層部内で判断されつつあった。

 

しかし、この失踪事件が発覚した三日後にようやくDG細胞の治療法が発見された。

 

だが、それは100%の感染者には使用出来ずあくまで感染がまだ進み切っていない者に対する治療法だった。

 

それは完全に感染してしまったパイロットの命は保証できないと言う事だった。

 

急ぎ、彼らを捜索する為にハガネ一行は伊豆基地へ帰路を進めた。

 

伊豆基地に到着した一行は極東エリアの警戒を行いつつ同エリア内でロストした失踪者達の捜索に当たっていた。

 

だが、一向に情報は入らず八方塞がりの状況が続いた。

 

 

******

 

 

「ハスミ…」

 

 

伊豆基地の一室にて。

 

テンペストは一人、収集された情報を閲覧していた。

 

PCのディスプレイの文字の羅列を気にせず、ただひたすら一句一句余さず確認を行っていた。

 

 

「テンペスト少佐。」

「ギリアム…」

 

 

そこへギリアムがコーヒーを入れたカップを携えて室内に入って来たのだ。

 

 

「少し休まれませんか?」

「すまない。」

 

 

コーヒーカップを渡されたテンペストは礼を伝えた後、目元を抑えていた。

 

自分でさえ、どの位の時間を情報整理に当てていたのか判らなくなる位に気を張り詰めていたのだ。

 

以前の自分であれば、ギリアムの持ってきたコーヒーカップを払いのけていただろう。

 

それも無くなったのは義娘(ハスミ)の御蔭なのかもしれない。

 

ただ一つの意識だけに縛れると周りが見えなくなりいずれ人生の迷子になってしまう。

 

義娘が私に対し良く話していた事だ。

 

 

「気持ちは解りますが、貴方が倒れてしまっては元も子もない。」

「解っている、だが…どうしても何かしていないと落ち着かんのだ。」

「少佐…」

 

 

テンペストはコーヒーを一口啜り、自身の不安を吐露した。

 

 

「先日、アルベロ少佐と話をしたそうですね。」

「…」

 

 

ハガネ一行が伊豆基地へ着艦した直後の事である。

 

情報もなくただ闇雲に捜索へ向かおうとした部下達を抑えていたが、その中にも不安を隠せぬ存在が居た。

 

失踪者の一人であるフォリア・エスト准尉の父親であるアルベロ・エスト少佐である。

 

彼は暴走する部下達から離れた場所でその様子を見ていたが自身もまた部隊の部下であり実の息子である准尉を捜索しに行きたいと思っていたのだ。

 

その表情を察したのかテンペスト少佐は彼に話を持ち掛けた。

 

義娘が世話になったと話を皮切りにして。

 

アルベロはトリントン基地でのアンノウン迎撃作戦の際にゲシュペンストmk-Ⅱを譲り渡してくれた少女の父親が彼であると知った。

 

そして彼女もまたフォリア准尉と姿を消したAMのパイロットであると知ったのだ。

 

互いに身内をDGによって攫われた。

 

現状ではどうする事も出来ず、ただ時間だけが過ぎる事に苛立ちもあった。

 

テンペストはいずれ来る打開策の時まで待つしかないとアルベロに語った。

 

義娘の感染期間が最も長く完全に感染するまで時間が残り少ない事を知っていてもだ。

 

せめて悔いのない行動をと語った後、その場を去って行った。

 

 

「いずれ暴走する事は目に見えていた、出る杭は打って置くべきと思っただけだ。」

「ハスミの影響ですか?」

「かもしれんな。」

「必ず彼女や他の人々を助け出しましょう。」

「ああ。」

 

 

ハスミ、お前は『必ず戻る』と言ってくれたな?

 

私は出来る限り、お前の事を待とう。

 

だが、どうしようもない時はお前を救いに行こう。

 

嘗てお前が私を救ってくれた様に私もお前を助けに行こう。

 

それまで無事で居てくれ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

集結する筈だった部隊、だがそれは仲間の失踪を迎えたままそれは果たされた。

 

幼馴染が失踪し悲観する者。

 

友として仲睦まじい間柄だった者。

 

信頼する部下を失った者。

 

そして義娘と共に日々を暮らし、共に歩んだ者はもっとも悲観しつつも部下への示しの為にその姿を見せずにいた。

 

各部隊は捜索と襲撃を続ける敵部隊の迎撃を繰り返しながら不安な日々を送っていた。

 

そんな部下達の心情を察し、全員とは言えないが頭を冷やせと言う意味合いで待機命令と半休が出された。

 

その中でドモンはある場所を訪れていた。

 

いずれ七つの心と共に現れる星の海と七つ星の名を持つ少年達が集う場所。

 

 

「ドモンさ~ん!!」

「来たか…」

 

 

星見町を見渡せる公園の展望スペースでドモンに向かって走ってくる少年が居た。

 

 

「久しぶりだな、銀河。」

「お久しぶりです、ドモンさん!」

 

 

このイガグリ頭の少年こと出雲銀河と言い、かつて前の世界でドモン達と共に戦った戦友でもあった。

 

 

「最初電話を貰った時、ビックリしましたよ。」

「済まなかったな、道場を訪ねようとしたが目立ちそうだったんで止めて置いて正解だった。」

「むしろ俺の母ちゃんが卒倒するか手合わせとか言ってきそうな気もする。」

「そうだったな。」

「ドモンさんにも記憶があって良かった、俺…前の記憶が戻った時どうしようって思ってずっと悩んでいたんです。」

「最初は戸惑うだろうな、個人差はあれど俺はこの世界で生誕と同時に記憶が戻った位だからな。」

「それ、どこの無双ですか?」

 

 

ドモンのトンでも発言に唖然とする銀河を他所にドモンは彼らと共に戦った電子の聖獣達に声を掛けた。

 

 

「お前達も元気そうだな。」

 

 

「「「…(コクコク」」」

 

 

「所で記憶が戻っているのはお前やデータウェポン達だけなのか?」

「俺の他にも北斗にも記憶が戻っているんですけど…といってもまだ電童には乗れてないんですけどね。」

「そうか…」

 

 

銀河の話では当人の記憶が戻ったのは小学3年生位からで、親の眼を盗んではレオサークル達を探していたそうだ。

 

しかし無駄骨であり、彼らもまた使えるべき主の記憶を持っていたのですぐさまそこへ訪れていたそうだ。

 

現在はギアコマンダーが無い為、銀河の持つ携帯端末に身を隠している状況である。

 

またレオ達を使ってまだこの町に越して来ていない北斗と連絡を取り合っていたそうだ。

 

 

「それとドモンさん、俺達…もしかしたらドモンさん達と一緒に戦えないかもしれない。」

「どういう事だ?」

「実は…」

 

 

銀河は北斗からある情報を得ていた。

 

北斗の話によると彼の母親である織絵のPCの端末からユニコーン達を使って情報を集めており、GEARが国連事務総長の指揮下にある地球防衛軍所属になっている事である。

 

地球連邦軍とは別の扱いになっており、いずれ電童で戦う事があっても一緒になる可能性が低いと話に出たのだ。

 

現時点で地球連邦軍内で腐敗の膿出しを行っているとは言え、いつ一部の強硬派が暴挙に出るか分からない。

 

可能性とすれば彼らの家族を人質に取って、自分達の手駒にすると言う暴挙もあり得るのだ。

 

そう言った可能性があるのなら彼らの所属は地球防衛軍の方が良いのかもしれない。

 

 

「成程な、だが…何処かでまた共に戦える事があるかもしれない。」

「…」

「道は違えといずれその道は繋がる事もある…」

「それって…」

「以前、出会った仲間がよく言っていた言葉だ。」

「意味は解りました。」

「なら、電童に乗るその時まで己の技と心に磨きを掛けろ。」

「はい。」

 

 

ドモンは気晴らしに銀河と手合わせとした後、ロムやヒューゴ達と再会した事を話した。

 

そしてDGがこの日本に潜伏している可能性がある事も話した。

 

銀河もDGと聞き、かなりヤバそうな顔をしていたがすぐに落ち着いた。

 

 

「ええっDG!?」

「ああ、現時点で行方は不明のままだ。」

「うわ…」

 

 

銀河もかつて『時と不完全が争った世界』と『調律されたものの霊帝と呼ばれる存在によって滅んだ世界』で戦った事はあったが、それもまた脅威である事は骨身にしみていた。

 

 

「そう言えば変な噂を聞いた事があります。」

「変な噂?」

 

 

銀河の話ではこの日本にDr.ヘルや恐竜帝国などの地下勢力などの侵攻によって復興作業が滞っている旧東京エリアがある事を話した。

 

そこに近づいた人が行方不明になると言う失踪事件が起こっていたのだ。

 

幽霊の仕業か?と興味本位で肝試しに行く学生や一部の記者や娯楽番組の撮影団がその噂を真実を突き止める為に侵入し行方が分からなくなったそうだ。

 

それが増え始めたのが約二週間前。

 

丁度、アイドネウス島からUGがDGとなり姿を消した期間と重なるのだ。

 

その話を聞き、ドモンはある推測をした。

 

DGは自己増殖で己の分体を増やし、本体はそこへ逃げていたのではないか?

 

それならばオーストラリア大陸や他のエリアで目撃されたDGが分体であると想像がつく。

 

そしてそれらが一斉にその廃墟へ集合していると言うのならと。

 

DGの三大理論を利用すればそれも容易いだろうと判断した。

 

 

「ドモンさん?」

「銀河、すまないが俺は基地に戻る。」

「また会えますか?」

「いつかは分からないがまた会いに来る。」

「その時は北斗と一緒にいいですか?」

「ああ、楽しみにしておく。」

「はい、ドモンさん…気を付けてください。」

「ありがとう、銀河。」

 

 

ドモンは銀河との再会を約束しその場を後にした。

 

いずれ彼が出会うだろう仲間と共に再会するのはまた戦場であると言うのは神のみぞ知ると言った方がいいのだろうか。

 

縁は繋がったのだ。

 

それもまた必然と言うのならこの縁は無駄ではない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

「気付かれたみたいね。」

 

 

ーソウー

 

 

「兄弟で戦うのは嫌?」

 

 

ーイヤダー

 

 

「だったらどうしたい?」

 

 

ーテニイレル、ズットイッショニイルー

 

 

「そう(DG、分かり合えなければすれ違うままなのよ?」

 

 

ーハスミ、ハスミハキエナイヨネ?ー

 

 

「出来る限りは一緒に居てあげる。」

 

 

ーウン、イッショイッショー

 

 

「…(抑え込めるのもここまでか。」

 

 

ーハスミ、マタコモリウタヲウタッテー

 

 

「眠るの?」

 

 

ーウン、ダカラキキタイノー

 

 

「解ったわ。(舞台は整った、後は貴方次第です…ドモン・カッシュ。」

 

 

ハスミは暗い空間で口ずさむ。

 

いつか人が歌で手を取り合おうとした世界で歌を胸に戦う少女達が歌う子守歌を歌った。

 

世界が繋がった誰もが知る子守歌を静かに歌った。

 

 

=続=




悪魔を滅ぼす為に集結する力。

全ては愛すべき者を救う為に。

機械仕掛けの悪魔の子の嘆き。

傀儡となった睡蓮は妖艶なる人形。

次回、幻影のエトランゼ・第六話『闇歌《ヤミノウタ》』


「義娘を返して貰おうか?」(スナイパーライフルを構える音)
「テンペスト少佐、抑えて抑えて!!」
「止めるなダテ少尉!もしや少尉…私の義娘に近づくつもりか!!」
「ないです、ないですから!!?」
「信用できん!」
「クスハっ!少佐に栄養ドリンク一杯っ!!」
「はーい。」
「何をする!やめっガボッ!?」


ードサッー



ーポクポクー



ーチーンー


<今回の登場人物>


※出雲銀河
GEAR戦士電童のパイロット。
現在は小学4年生、パイロットではなくただの民間人である。
約一年ほど前に嘗ての記憶が戻った為、単独で相棒であるレオ達を捜索していた。
しかし、彼らも記憶が戻っていたので後に合流し共に行動している。
ドモンの連絡で再会し今回の失踪事件に関わるヒントを伝える。
ちなみにレオ達三匹は銀河の持つ携帯端末に身を隠している。


※草薙北斗
GEAR戦士電童のパイロット。
銀河と同じく記憶が戻っており、ユニコーン達と再会している。
現在は銀河と連絡を取り合いつつ自分達の所属すべき場所を調べている。



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第六話 『闇歌《ヤミノウタ》』

妖しき言の葉は呪詛。

曖昧で不変でそしてその心に浸透する。

咲き開くは美しき睡蓮。

解放されしその力は■■■■■■。

物語は終焉となるか継続となるか。

誰にも分からない。


前回、銀河から聞かされた噂の場所へ向かう前に基地へ戻ろうとしたドモンだったが…

 

今回の件に関係しているがまだ確定した訳ではなかったので単独で調査へ向かう事にしたのだ。

 

その移動中(GF式徒歩)に伊豆基地に居るレインを通して連絡をしたが、本人は音信不通だったのでメッセージに伝言を残して置く事にした。

 

旧東京エリアで不可思議な失踪事件が発生している、DGと関係があるかは不明だがそこを調べるとメッセージを残して。

 

ドモンは旧東京エリアへと向かった。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

 

「あの人、一人でここへ来るみたいね。」

 

 

ーハスミノウラナイアタッタネー

 

 

「占い、か…正直に言えば予言なのだけどね。」

 

 

ーソウナノ?ー

 

 

「未来を識ると言う点では同じものよ。」

 

 

ハスミはDGの傍でタロットカードを数枚めくりその結果を見ていた。

 

左から『星』、『運命の輪』、『月』のカードである。

 

順に過去、現在、未来を表しておりそれによって相手の運勢を占う。

 

複雑な方法もあるのだが判りにくいので今回は簡易的なものである。

 

カードの絵柄には正位置と逆位置が存在しそれも占いの結果に関係してくる。

 

壱番目は『星』の正位置で希望や願いが叶うを意味する。

 

弐番目の『運命の輪』が正位置の為、変化や定められた運命を意味する。

 

参番目の『月』は逆位置の為、徐々に好転するを意味する。

 

 

「これは願った事が叶えられたけど、いずれ変化が生じ…不安定な結末を迎えるが徐々に好転はすると言う意味なの。」

 

 

ーソレハダレノウンメイ?ー

 

 

「特定の相手に占った訳じゃないから誰になるかは分からないわ。」

 

 

ーソウナンダー

 

 

「それよりもここへドモン・カッシュが向かっているけど、準備はいいの?」

 

 

ーダイジョウブダヨー

 

 

「解ったわ。」

 

 

 

彼には旧東京エリアの地下迷宮で少しお手伝いをして貰いましょう。

 

いずれここへ現れる敵を退ける為にも必然を偶然と装わなければならない。

 

さてと、どう動こうかな。

 

この一帯にマシーンランドを建設される訳にはいかないしね。

 

ドモンさん、貴方には悪いが人暴れして貰うよ。

 

貴方を追って写し身の忍も現れるだろうし。

 

いずれ起こる災厄の一つを消す為にもやらなければならない。

 

脅威に成り得る敵の対処はDGにも受け入れて貰えた。

 

その為に貴方達を手に入れる。

 

それがDGの提案であり最も生存の確率を高める方法。

 

DGが私の持つ過去の記憶と知識を垣間見た結果、先の件を認める決を下した。

 

やはりDGはかなりのスピードで成長を続けている。

 

どうすればいいのか、自ら考え、提案し行動、そして結果を元に新たな方法を模索する。

 

人に近い考えを行える『超AI』だからこそ出来る思考だ。

 

だが、『超AI』も人の犠牲の上に成り立っている。

 

この『超AI』を完成させる為に人体実験まで行われしまっていた位だ。

 

私がこの世界に産まれる前に起こってしまった事件の為、防ぐ事は出来なかった。

 

『超AI』のプロトタイプの開発者は世界から非難され今も冷凍刑に処されている。

 

現在、軍で使用されているAI搭載のロボット達は一部の思考パターンを限定されたものである。

 

例外はブレイブポリスや勇者特急隊、GGGで活動中の『超AI』のロボット達だけだろう。

 

同じAIチップを使用している以上、『例の事件』に関わる危険性がある事を危惧したい。

 

それは笛吹男に導かれて地の底へ消えて行く子供達の行列の様に。

 

 

ーハスミ?ー

 

 

私はまた考えに耽ったらしい。

 

この癖は直さなければならないが、どうしても抜けないのだ。

 

 

「DG?」

 

 

ーマタ、カンガエゴト?ー

 

 

「ええ…」

 

 

ーシンパイ?ー

 

 

「それが起こるか起こらないかは今後次第だけどね。」

 

 

DGはシュルシュルと触手の一部の伸ばしてハスミの手に置いた。

 

生物の様に脈を打ち、それでいて鉄の様に冷たい感触が触れた部分から伝わった。

 

 

「大丈夫、心配しないで。」

 

 

悪い様にはならない、ただそれだけしか話せなかった。

 

貴方にとっても。

 

私にとっても。

 

それが最良なのだから。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

更に時間を遡る事、ドモンが星見町へ向かう前の事である。

 

伊豆基地内のATXチーム分隊室にて。

 

少佐達は上層部との対策会議、他は巡回などで出払っており、現在はキョウスケとアクセルの二名のみ残っている。

 

その為、記憶保持者達を集めて話し合いを進める事となったのだ。

 

 

「俺はヒューゴ・メディオ、キョウスケ達とは前の世界での仲間だった。」

「久しぶりだな、ヒューゴ。」

「ドモン、お前も記憶が戻っていたのか?」

「ああ、俺の他にもここに居る全員は差違はあるが過去の記憶を持っている。」

「差違か、俺はつい最近記憶が戻ったせいか少し違和感を感じるな。」

「暫くすれば馴染むだろう。」

 

 

今回、新たに前世の記憶を取り戻したヒューゴが仲間に加わった。

 

しかし、今回のDGの一件の間だけでありDGの事件が終息すれば再び別の任務に着任しなければならない。

 

そのヒューゴ自身も先のDGとの戦闘で負傷し戦闘に参加出来る状態ではなかった。

 

搭乗機を破壊されたのもあるが、隊長であるアルベロより絶対安静の命令を受けたのもある。

 

ちなみにヒューゴの記憶が戻ったのは先のDGとの戦闘が切っ掛けだったとの事。

 

一通りの自己紹介を終えた後、それぞれが持つ情報を纏めた。

 

ヒューゴからは遭遇したDGの件についてその時の状況を詳しく聞く事が出来た。

 

例のアインストが引き起こした事件を追っていた矢先の出来事だったらしく部隊全員が奇跡的に生き残れたのは偶然にも等しかった。

 

下手をすれば同僚のフォリアはDG細胞によって完全なゾンビ兵になっていたかもしれない。

 

だが、部隊が生き残れたものの結局フォリアにDG細胞が感染した事実は変わらなかった。

 

今回は状況が違い徐々に感染が進行するタイプだったので治療の見込みがある事が幸いだった。

 

しかし、その本人はDGの信号に引き寄せられ行方不明になってしまっている。

 

一刻も早くフォリアを取り戻したいとヒューゴは表情を陰らせていた。

 

次にアクセルからは先の戦闘で遭遇したアインストがエンドレスフロンティアと呼ばれる世界に現れた群れの集団だったと説明。

 

そしてそこに住まう住人を操っていた事もあると聞かされた。

 

幸いにもそれに抗った現地に生きる人々の手によって滅んだとの事だが、今回の転生の一件でリセットされている可能性を視野に入れるべきと危惧していた。

 

ジョウからは火星の一件についてである。

 

前と同じくハザードによって火星に点在していた連邦軍が壊滅し生き残りはマーズクレイドルに集結し今も攻防戦を続けている。

 

マーズクレイドルは地球のアースクレイドル、月のムーンクレイドルと並び人類が生き残る為の設備や戦力も配備されていた。

 

そしてマーズクレイドルに冷凍睡眠に入る予定の人々がまだ居なかった事もある。

 

その為、火星の避難民達の受け入れが可能だったのだ。

 

ちなみにハザードは『蒼い睡蓮』が派遣したエージェントによって謀殺された。

 

エージェント達が追撃をされた時に搭乗していた機体にどこか見覚えがあったそうだが完全に思い出せないとの事。

 

一言で言えばマジンカイザーの様な風貌だったそうだ。

 

その謎は後で考える事にした。

 

続けてはガトー少佐からの情報である。

 

やはりザビ家は木蓮の草壁とギガノス帝国のドルチェノフの秘密裏の結託によって暗殺されてしまっていた。

 

その場に偶然にも居合わせてしまったデラーズとシン・マツナガは生き残った幼いミネバとドズルの奥方、事実を知った将官、士官達と共に二人を逃がす為にこちらへ亡命したとの事だ。

 

その逃亡中に犠牲を払いつつも連邦軍内で彼らと和平を望む穏健派に救われたのだ。

 

彼らにその情報を託しミネバ達は地球のある場所に隠居されている。

 

ガトー自身はその時再会したコウとデラーズの指示、彼の意向を察した連邦軍のとある将官の伝手でトリントン基地所属とになったとの事だ。

 

それを聞いたこの場に居る全員が驚愕した事実である。

 

ちなみにこの情報は連邦軍上層部の穏健派のみが知る情報である。

 

そしてコウからは気になる事を耳にした。

 

地球の半数以上のコンピューターシェアを握っていた国際電脳の株価が一気に下落し、現在倒産の危機に陥っているとの事である。

 

逆にGreAT社とJUDAコーポレーションと呼ばれる二つの企業が新参として参入してきたのである。

 

前者は日用品からトイレまでが売りの複合企業、後者は大手医療器具メーカーであるが双方共に今までにない画期的な技術が売りで株価を伸ばしつつあるとの事だ。

 

イスルギ重工がGreAT社かJUDAコーポレーションとの合併を企てていたがあっさりと双方から却下されたそうだ。

 

この情報はコウ自身がアムロ・レイと並ぶ機械工学への思慮深さとそれに先進的な企業を調査した結果である。

 

ジョウがJUDAコーポレーションに関してどこか聞き覚えがあると話したが思い出そうとすると先のマジンカイザーもどきと同様に靄がかかった様に頭痛を引き起こしていた。

 

これはジョウの記憶にある『虚億』もしくは『実億』の中に彼らと何らかの関わりを持っていた可能性があるとキョウスケ達は推測した。

 

しかし思い出そうとすると頭痛がすると言う事はその記憶に何らかの枷が掛かっている可能性があり、それが何者かの意思かは不明だが強大な力が関わっている事は確かだろう。

 

現に自分達の様に転生を果たした人間がこうも都合よく記憶を持ち、なおかつこうして集結する事はほぼ奇跡としか言えない程に都合が良過ぎる。

 

そして『蒼い睡蓮』の予言。

 

この予言によってこの時期に発生する戦闘や戦死者の数が前回の記憶よりも激減していた。

 

少なからず地下勢力などの侵略者、異星人やジオンなどの敵勢力からの襲撃はあるものの被害状況はどこも最小限にとどめられている。

 

『蒼い睡蓮』とは何者なのか?

 

何故こうもこちら側に介入しているのだろうか?

 

その行動は壊滅を滅亡させ、その言葉は悲報を滅亡させている。

 

『蒼い睡蓮』は災厄を滅亡させる為の意味だとしたら?

 

その行動からキョウスケの導き出した『答え』は確実なものでもないので自分自身に留めておいた。

 

隣にいたアクセルもまたキョウスケの考えを察したものの同じ様に口を噤んだ。

 

最後にキョウスケは改めてアインストの一件と同僚で部下のハスミがDG細胞に侵されて、失踪している事を話した。

 

そしてとんでもない爆弾発言を投下した。

 

 

「本人は隠しているのか自覚がないのか判らんがハスミの操縦技術は旧戦技教導隊と同等の技術力を持っている。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

ジョウを始めとしたその場に居たメンバーが声を荒げた。

 

 

「ハスミのシミュレーション訓練結果のログを調べていたがあれはもう化け物じみている。」

「そのシミュレーションの相手は?」

「どうやって組んだのか知らんがゼンガー隊長ら旧戦技教導隊全員と対峙した戦闘シミュレーションをやっていた。」

「おい、そいつはどういうことだ?」

「ジョウ、お前は知らないと思うが隊長達はかつてPTやAM、MSの基礎OSを手掛けていた。」

「基礎OSってたしか…」

「俺が説明するよ。」

 

 

助け船としてコウが基礎OSについて説明。

 

 

「そう言う訳で現時点で稼働している多くのMSやPTの初期OSはそのデータを一般兵用に最適化して転用されているんだ。」

「て、事は…!?」

「隊長達は人知れず、とんでもない人材を生み出していたと言う事だ。」

「キョウスケ、前から聞こうと思っていたがハスミ・クジョウは一体何者だ?」

「彼女は基礎OSの開発者であるカーウァイ・ラウ大佐の養女だった。」

「ナンブ少尉、彼女の義父はテンペスト少佐だと聞いていたが?」

「カーウァイ大佐はハスミの二人目の義父、テンペスト少佐は三人目になる。」

「どういう事だ?」

「そうか、カーウァイ大佐は数年前のエアロゲイター襲撃で…」

「期間は短いとは言え、ハスミはあの旧戦技教導隊と共に過ごしていた。」

「成程な、知らずがどうか分からんが操縦技術を身に着けていたのなら化け物並みにもなるか…これがな。」

「…」

「キョウスケ少尉、もしかして…まだあるとか?」

「少佐達の悪ふざけなのかその仕込みのせいで銃器の扱いからハッキング、白兵戦闘までこなせる。」

 

 

その発言を聞いたキョウスケを除く全員の表情が青ざめた。

 

 

「最近は独学で爆薬と罠の仕掛け方法を学んでいたな。」

「…更に悪くなっているのは気のせいか?」

「いや、後者は以前の甲児達の悪ふざけ防止に役立っていた。」

「悪ふざけ?」

「…覗きだ。」

「記憶が戻ってないにしろ相変わらずですね、彼らも。」

「今の所、記憶は蘇る傾向は見えていない。」

「アイツらも『虚億』と『実億』を封じられているのか?」

「それは解らん、可能性としてはあり得ると思う。」

「そう言えばリュウセイは?」

「リュウセイにはイングラム少佐の監視を避ける為に別行動を取って貰っている。」

「…この世界の少佐も奴らに操られているままなんですね。」

「少佐の背後関係に居る存在がレビかユーゼスが分からない以上、下手な行動はとれない。」

 

リュウセイの情報が確かなら二つの『実億』に残る記憶ではホワイトスターの黒幕は二人いると話していた。

 

それがレビ・トーラーとユーゼス・ゴッツォである。

 

この世界での黒幕がどちらであるか現状では不明。

 

レビに関してはマイの事があるのでリュウセイに任せる事にした。

 

 

「あの『蒼い睡蓮』なら何か情報を掴んでいるって事はないですよね?」

「そこまで都合よく情報を持っているとは限らないと思うが…」

「それに遭遇する確率すらない相手にどうやって接触すればいい?」

「ですよね。」

「そろそろ時間か…」

「ドモン、どうしたんだ?」

「悪いが一旦抜けさせてもらう。」

「何処へ行く気だ?」

「知り合いを待たせているんでな、星見町へ行ってくる。」

「星見町!?」

 

 

ドモンの語った場所に覚えのあるヒューゴは声を上げてしまった。

 

 

「ドモン、まさかと思うが銀河達も?」

「確認は取れている。」

「ロムに続いて銀河達もか…」

「ヒューゴ、何か知っているのか?」

「前の世界で一緒に戦った仲間達の事だ、その仲間がその町に居る。」

「仲間か、どんな奴らだ?」

「まだ小学生さ、ドモンが会いに行く仲間は」

「子供か…勝平達と仲良く出来るといいね。」

「前の時といい、この部隊はどうしてこうも子供が参加する確率が高いのか…」

「状況は人それぞれだけど…彼らは軍に従っていた訳じゃなくて自分の意思で戦っていた、それだけは確かだよ。」

「…そうだったな。」

 

 

ガトーは前の記憶でもこの独立機動部隊に参加する者の大半が未成年の子供であった事を思い出し、眉間に皺を寄せていた。

 

コウもまたそれにフォローを入れ一度は抑えたが濁す様に発言をした。

 

 

「ただ、今回だけはちょっと複雑になっているのは俺にも解る。」

「何があった?」

「アムロ大尉やクワトロ大尉の話ではそう言った関わり持つ子供達を国連事務総長の指揮下にあるGGG…いや、地球防衛軍に集結する様に仕向けている存在が居るとだけ聞いた事がある。」

「その存在は一体?」

「それも『蒼い睡蓮』の仕業じゃないかって大尉達も話していた。」

「あの『蒼い睡蓮』か…こちらでも噂は耳にしている。」

「やっぱり、そっちでも噂になっていたんだ。」

「こちらと変わらんと思う、経歴、所属、その他諸々が素性不明の情報屋とだけな…」

「それと?」

 

 

「「正体を知ろうとした者は必ず『滅亡』する。」」

 

 

「その手口は様々だが、知っている中で最も凶悪なのが…」

「権力主義者達が起こした社会復帰ゼロに等しい汚職事件、天下り事件、隠ぺい事件の露見だね。」

「実に鮮やかな手腕だったと閣下も感心していた。」

「普通に感心してくれる人がいるだけ羨ましいよ。」

「…何があった?」

「大尉達、その事件を知った後…かなり共感し過ぎてあの世にも恐ろしい黒い眼差ししていたのを俺は見たんだよ。」

「私は何を言わんぞ。」

「うん、何も言わない方が良い…後が怖いから。」

 

 

コウは『蒼い睡蓮』の起こした露見事件の一件でアムロとクワトロの両名の腹黒い一面を目の当たりにしてしまった事をガトーに漏らした。

 

そのガトーも知らぬが仏と言うスタンスでスルーを決め込んだ。

 

上記の事で察して頂く様に二人も『記憶持ち』である。

 

何処までの記憶を持つがは語られていないが腹黒い一面を見せると言う状況に陥っているのでかなりの精神年齢となっている筈である。

 

 

「互いに盛り上がっている所で悪いが話を戻すぞ?」

 

 

会話の最中にドモンはその場を離れ、残った六名で話し合いを続けた。

 

 

「俺が言いたいのはDGがもしもハスミ達の持つ技術力などを吸収しているのなら油断は出来ないと言う事だ。」

「腐っても囚われた連中は最前線で戦う兵士、その能力も様々だ。」

「それにハスミはT-LINKシステムへの適性を少なからず持っている…俺はそれも危惧している。」

「彼女は適正検査でも最低位置の筈、余り気にし過ぎじゃ…」

「本当に最低位置だったらな…」

「どういう事だ?」

「アイツは何かしらの戦いや事件が起きる前に必ず予言の様に何かがおかしいと呟く事があった。」

「偶然では?」

「それはない、クスハ達も戦いに参加する前はそのおかげで事故や不測の事態から逃れられたと話している。」

「それじゃあ彼女はこうなる事を知っていたとでも?」

「俺達と同じ『記憶』を持つ者であれば…話は別だ。」

 

 

キョウスケはハスミもまた『記憶』を持つ者である可能性を語った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

更に別の場所において。

 

某高層ビルの最上階にて社長室と思われる場所で専用のデスクからモニターを見る白人の男性。

 

そしてモニターには同じく社長室の様な場所で通信を送る黒髪の男性が対話をしていた。

 

 

 

「久しぶりだね。」

「お互いに。」

「まあ、そう敵視しないで頂きたい…私も『蒼い睡蓮』によって救われた身なのでね。」

「貴方もですか…同じ同志と言うのなら仕方ありませんか。」

「ですが、これだけは言わせて頂きたい。」

 

 

自分はもうあの様な過ちを犯す者になる事は無い。

 

今は共に歩む仲間もいるのだからと白人の男性は答えた。

 

 

「…そうですか。」

「身の潔白は今後の行動で示すとします。」

「信じますよ、仲間を騙し偽る様な事をしていた私が言うのも何ですけどね。」

「ははっ、こう言う業務を行っていると腹の探り合いもまた必要と思いますけどね。」

「言えますな。」

 

 

淡々と世話話を続けた二人は話の本題を持ち出した。

 

 

「『蒼い睡蓮』から君と私で『悪魔』に忍び寄る『害虫』の駆除を依頼された。」

「知っているよ、数日前に『蒼い睡蓮』から連絡は貰っている。」

「そうか…依頼にあった『悪魔』は厄介な相手でもあるが君と同じく助けるべき相手でもある。」

「一方的な迫害、理不尽な過去を持つのか…あの『悪魔』も?」

「そうらしいね、だからこそ『蒼い睡蓮』も動きを見せたのだろう。」

「確か『巫女(メディウム)』が『悪魔』に張り付いているらしいね?」

「そうらしいが彼女も『悪魔』の洗礼を受けて居る以上、時間の猶予はないよ。」

「なら、早々に出た方が良いね。」

「現地集合で宜しいか?」

「そうさせて貰うよ。」

「では、『大統領』。」

「ええ、『将軍』。」

 

 

互いに通信を切った後、社長室を後にした。

 

 

******

 

 

時間は進みドモンが銀河と別れた後、旧東京エリアに到着した。

 

 

「…紋章が疼いている。」

 

 

ドモンの手の甲に刻まれたシャッフルの紋章が警告する様に輝きを放っていた。

 

 

「解っている、ここに居るんだろう?」

 

 

それを抑え込む様にドモンは紋章に手を置いた。

 

 

「やはり、繰り返すしかないのですか…師匠?」

 

 

ドモンは消え入りそうな声で呟いた後、廃墟へと侵入した。

 

その後、旧東京エリアから様々なチャンネル、ネットを介して何かの動画が流れていた。

 

それは美しくも切ない音楽と共に影絵の少女が歌っている姿だったそうだ。

 

 

=続=




語られるは駄文の如き裏の話。

彼らは何処から来たのか?

それを知るにはまだ早いのか?

ここは庭園で起こった一時の出来事。

次回、幻影のエトランゼ・第六.五話『影話《カゲバナシ》』

蒼い睡蓮と悪魔の密会は波乱を極める。



「コックさん、一番安いランチと調味料ありったけ。」
「おやおや新郎君、ここは社員専用の無料の食堂だよ?」
「…」
「君も私の会社の社員なのだから遠慮しないで、ね?」
「あーそうですか。」
「君って本当にマイペースだね。」



<今回の登場人物>


≪???≫

※大統領
ホルトゥスのエージェント。
某企業の社長でかつて大罪を犯したらしい。

※将軍
ホルトゥスのエージェント。
某企業の社長、結構腹黒いらしい。

※巫女
ホルトゥスのエージェント。
所載は不明。

※新郎
ホルトゥスのエージェント。
現在は将軍が経営する企業の社員として雇われている。


<クライ・ウルブズ>

※ヒューゴ・メディオ
新たな記憶所持者。
現在はDGとの戦闘で負傷中の為、戦線から退いている。


<アーガマ隊>

※アムロ・レイ
記憶所持者。
二つ名の「白い悪魔」は健在。
膨大な記憶を所持している為、かなり腹黒くなっているらしい。

※クワトロ・バジーナ
記憶所持者。
アムロ同様にかなり腹黒くなっているらしい。


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第六.五話 『影話《カゲバナシ》』

語られるは駄文の如き裏の話。

彼らは何処から来たのか?

それを知るにはまだ早いのか?

ここは庭園で起こった一時の出来事。

そして世界に関わった記憶以外の記憶を持つ者達は静かに歩みだす。

蒼き睡蓮は大嵐の緊急の知らせを知る。


これはDGによるDG細胞感染者達の集団失踪事件発生後の事である。

 

あるエリアにて。

 

 

******

 

 

「おい、どう言う事だよ!」

 

 

執務室を思わせる場所にて自動ドアから脅しにも聞こえる声を上げて入ってくる二人組。

 

二人組と言っても叫んでいるのは相方の方であり、もう片方は無言のまま入って来た。

 

 

「どういう事…とは?」

 

 

それに応対するのは執務室にあるデスクの席に鎮座する『蒼い睡蓮』ことブルーロータスであった。

 

相変わらずその姿を悟られぬように全身に蒼鎧、白いローブと仮面を付けていた。

 

 

「あのデカブツの事だよ!あんな大物が居るって知ってて黙ってたのか!?」

「海動、止せ。」

「真上だってあいつと戦いと思わないのか!」

「堕天使君、彼には説明をしたのでは?」

「こいつが素直に話を聞くと思うのか?」

「…そうでしたね。」

「あ!?」

 

 

堕天使こと真上の言葉にブルーロータスは肯定した。

 

その言葉に不満を隠さず、海動は堂々と威嚇していた。

 

そしてブルーロータスは再度説明を言い渡した。

 

 

「そう言う訳で…あのDGは今後の戦いに必要不可欠な力なのです。」

「んで、JUDAのおっさんらを向かわせたって訳か?」

「言葉通りですよ。」

「けっ…あのヒキガエル顔のオッサン(ハザード・パシャ)をぶっ飛ばしたのはいいけどよ、こっちは腕が訛ってしょうがないぜ!」

 

 

ブルーロータスは彼らの性質を知った上でエージェントとして仲間に引き入れたが、余りにも扱いにくいと言う事を改めて痛感していた。

 

内心、彼らを指揮していた中間管理職の方達はさぞや胃を痛めただろうと合掌した。

 

 

「では、次の仕事を与えましょう。」

 

 

ここで彼らの鬱憤を解消しておかないと後々の行動に支障が出ると判断したブルーロータスはある任務を言い渡した。

 

 

「貴方達には雷王星へ向かって頂きます。」

「雷王星?たしかSTMC(宇宙怪獣)共の巣になる予定になると話していた惑星だな。」

「正確にはその調査ですけど、場合によっては数減らしをお願いしたいと思います。」

「へっ、何だろうと関係ねぇ…俺は暴れられればそれでいい!」

「了解した。」

「但し、引き際を見誤らない様に…」

「解っている。」

 

 

STMCは扱い方によって恐るべき武力になる。

 

何処にも属さず己の欲望のまま突き進む。

 

無限力が生命体に架した生存の為の試練と言うがこれは余りにも不憫だろう。

 

しかも厄介な事に銀河大戦と呼ばれる戦乱で行われるバスターマシン三号による作戦を切っ掛けに奴らは後の多元世界に転移してしまい多大な被害を与えてしまっていた。

 

その転移に加担したのが『御使い』であるのも『彼女』からの進言で理解している。

 

それを防ぐ為にもここで奴らの数を削減をしなければならない。

 

 

「出来る事なら雷王星ごと奴らを始末出来ればいいのですが…」

「俺達もそうしたいのは山々だがSKL-RRが修理中では出力不足だ。」

「おまけに由木達も怪我でぶっ倒れたまま…ウイングルやアイアンメイデンもぶっ壊れたままだしな。」

 

 

現時点で彼らが搭乗しているマジンカイザーSKLは翼と乗馬を失った状態である。

 

理由とすれば彼らがこの世界に転移して来た事から話さねばならない。

 

ある日、彼らは突然この世界に現れた。

 

彼らは満身創痍で敗北と言う屈辱に塗れた惨い状況だった。

 

『彼女』からの予言でブルーロータス達は彼らの救助に赴いた。

 

後に事情を聴くと彼らの世界が何者かによって滅ぼされた事が語られた。

 

神が起こした破滅から平和を手に入れた世界に訪れた突然の終焉。

 

その光景は誰もが予想も出来なかったものだったらしい。

 

これで『彼女』の予言通りであれば新たな転移者も現れるだろう。

 

そして、いずれはこちら側にもやってくる災厄に立ち向かう為に彼らを仲間に引き入れたのだ。

 

 

「アンタには感謝している、こうやって再び立ち上がる事が出来るのだからな。」

「おうよ、掛けられた恩と売られた喧嘩はキッチリ返さねえとな!」

「…(悪魔君、貴方のさっきの怒りは何処へ?本当に単純ですよね。」

 

 

ふと、真上は『彼女』の事をブルー・ロータスに訪ねた。

 

 

「所で例の『彼女』からは何も連絡は来ないのか?」

「前に話した通り…全てを語るにはまだ力不足、そしてその時ではないとの事です。」

「けっ、勿体ぶりやがって…」

「余程、情報漏洩を危惧しているのだな。」

「そうですね、話を戻しますが貴方達の出撃に関してですが…」

 

 

雷王星調査に彼らだけではなく、エージェント数名と共に同行し調査を進めて欲しいと話した。

 

勿論数減らしが可能であればそれも行い、あわよくば殲滅も視野に入れて欲しいと再度付け加えた。

 

 

「だが、JUDAのメンバーは『将軍』と『想像者』を除いて今だ動けん状況だろう?」

「ええ、貴方達の世界が消滅した時に負った傷と転移時の衝撃でファクターはほぼ活動停止状態に追い込まれました、ファクターではないアルマ搭乗者達を守る為とはいえ発見時は酷い状況でした。」

「けどよ、俺らもそうだったがアイツらも唯じゃすまなかっただろ?」

「ええ…(そもそもファクター以上の自然治癒能力を発揮する貴方達が悪魔じみているのですが?」

「表社会に忍ばせたJUDAコーポレーションとGreAT社、地球内部の海域で隠密活動を続ける竜宮島、外宇宙で調査を進めるクトゥルフと最凶の魔術師、アンタの事だろうが他にも隠し玉を数多く持っているのだろう?」

「どうでしょうね、必要あらばっ……!?」

 

 

その時、ブルー・ロータスの着席するデスクに置かれたディスプレイにメールが一件着信された。

 

 

「どうした?」

「少々失礼する。」

 

 

ブルー・ロータスはメールの内容を見ると仮面越しでその場の二人には解らなかったが、その表情は動揺しつつあった。

 

 

「オイオイ、何なんだよ?」

「失礼した、先程『大嵐』から伝言がありましたので…」

「例の『巫女』と行動しているエージェントか?」

「ええ、前回の任務の調査結果の件でね。」

「例の骨太とニョロニョロお化けだったか?」

「海動、正確には『アインスト』だ。」

「話を戻しますが…早速、二人には先の任務に着任して頂きたい。」

「調査は俺達二人の他に誰を組ませる気だ?」

「不本意ではありますが『霧』達を選出しておきます。」

「げっ、奴らかよ!?」

 

 

『霧』と言う言葉に反応した海動と真上はその表情に苦みを見せていた。

 

 

「彼らもこのまま放置して置けば何をしでかすか判りませんからね。」

「それは同感する、アンタが秘密裏に続けたこの行動を奴一人の行動で全てぶち壊す可能性もあるからな。」

「へっ、空気を読めなさは相変わらずだぜ。」

「…(貴方も人の事は言えないと思いますが?」

「そいつらの御守りもしながら任務を遂行しろと言う訳だな?」

「手間をかけると思いますがよろしくお願いします。」

 

 

任務を受領した二人は室内を後にした。

 

 

「やはり『彼女』の言う通り、世界の終焉は着実に進んでいるようですね。」

 

 

そう、『彼女』は語った。

 

この宇宙は終焉へと続く最後の人の世。

 

ここで破滅を迎えれば人類は永久に決められた生と死の無限ループに陥る。

 

そこは創造も破壊もない中間の世界。

 

たった一人の存在によって作り上げられた遊戯盤の世界として成り立つ。

 

その一人の手に誰もの生死が握られ弄ばれる。

 

その一人の存在が飽きるまで続けられる希望も絶望もない。

 

それこそ人の理解すら超えた真の意味で終焉の世界に代わるだろう。

 

それを止める為に様々な意思達がこの宇宙へ集結しようとしている。

 

その存在はそれを良く思わないが故に抹消させようとしている。

 

以上の経緯を『彼女』は生命の記憶から教えられた。

 

 

「だが、『巫女』は『悪魔』に囚われたままだ。」

 

 

念の為に『大統領』、『将軍』、『新郎』を向かわせたがどうなるか。

 

『彼女』の言う奇跡は起こるのだろうか?

 

それはまだ誰にも分からない。

 

 

「道化もまた現る、そうバラルの復活か…」

 

 

ブルーロータスはデスクに置かれた資料に目を向けた。

 

そこには武器商人アラン・ハリスと記載された白人男性の調査資料とレンジ・イスルギの心臓発作による変死事件の経緯資料が置かれていた。

 

 

=続=

 




動き出す存在達。

地下迷宮で再会する仲間との戦い。

遂に睡蓮はその牙を剥く。

そして蒼い睡蓮は新たな同志を送り込む。

全ては呪われし眼が仕向ける遊戯。

次回、幻影のエトランゼ・第七話『呪眼《ジュガン》』

新たな物語は交差する。



「初めまして、猫日に登場したファルセイバーだ。」
「同じくブルーヴィクターだ。」
「本編に登場してないのに何故次回予告に出て来た、と?」
「理由は簡単だ、作者曰くネタが思いつかないからだそうだ。」
「そんな理由で?」
「理由は兎も角、そもそもファルセイバーはネタの宝庫だろう?」
「は?」
「BXでは『お前は保護者』かと言わんばかりにユキに過保護だっただろう?」
「そ、それは…」
「過保護も道を外れればユキの成長を妨げる、度の過ぎた発言は控えるべきと思うが?」
「う…」
「同じ保護者仲間のデッカードやバーン達からも過保護すぎて周りへの影響も考えるべきだと苦情まで言われたのだぞ?」
「済まない。」
「そう言えばバーンガーンの声の事何だが…」
「どうした?」
「バルギアスに似ているのは気のせいか?」
「他人の空似じゃないか?」
「浜田君からは中の人とかどうとか?」
「はあ?」

ハヨ、オワレ。


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第七話 『呪眼《ジュガン》』

廃墟に残された地下鉄跡地。

入り組んだ先にあるのはかつての電波塔。

そこに待ち受けるのは鍵盤楽器が奏でる戦操の音。

過去の再来は再び起こるのか?

庭師達は害虫を刈り取る為に動き出す。

全ては悪しき眼より語られる。


極東エリア内におけるDG細胞感染者達の失踪事件の三日目。

 

旧東京エリアの地下鉄迷路内部にて。

 

 

******

 

 

「奴に気付かれない内に早くその人を!」

 

 

少女は覆面を被った男性にそう叫んだ。

 

トリコロールの覆面を被った男性は気を失った男性を担いで外へと向かっていた。

 

覆面の男性は歩みを進める中でこう思った。

 

自分は無力だ。

 

彼女の様に誰かを救う余裕がない事に。

 

弟と近い年齢の彼女は自分の身の安全よりも私達の安全を優先したのだ。

 

彼女もまた悪魔の洗礼に身を蝕まれていると言うのに。

 

何故、こうも他人の為に動ける?

 

彼女は『私は末端ですが…一軍人として民間人を守る義務があります!』と答えた。

 

そして…

 

 

「私は大丈夫ですから。」

 

 

私は彼女の重みのある言葉を受け取り、キョウジを連れてその場を去った。

 

彼女の最後の言葉を後に背を向けた。

 

たった一人で廃墟の奥底に彼女を置いてきたのだ。

 

DG細胞の支配がある以上、これ以上の侵入は出来なかった。

 

私は無力だ。

 

余りにも無力過ぎた。

 

過去の記憶を辿り、私のオリジナルであるキョウジを救出したのはいい。

 

だが、別の犠牲者を出してしまったのだ。

 

キョウジの感染を除去する為の猶予がない事が私を焦らせた。

 

それが冷静になり切れなかった私の責任だ。

 

そして正気を保った彼女の最後の姿だった。

 

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

時は戻り、ドモンが地下鉄の駅に到着した頃。

 

 

「あの人達、勝手に動くのは良いけど…もう少し節度を持って行動してほしかったな。」

 

 

かつて電波塔と呼ばれた場所にある一室にて。

 

ハスミはノートPCを広げて地下迷宮の様子を伺っていた。

 

その眼は虚ろではなく鮮明な真紅の眼だった。

 

 

「ま、今の状況の彼らじゃ…ドモンさんに勝てないけどね。」

 

 

ハスミは普段しっかりと着用している軍服を着崩す様に着用していた。

 

そしてDG細胞に侵された部分を露出させる様に見せており。

 

ネクタイを外して首元の鎖骨を露出し胸の谷間が見えそうで見えないと言う如何にも狙った着こなし方をしていたのだ。

 

 

「力に溺れるのはいいけど…DGの命令に背くならお仕置きが必要だね。」

 

 

ハスミは真紅の瞳を一度閉じると再び開きその眼を猫の様に視線を変えた。

 

クスリと笑みを浮かべるその表情もかつてのハスミとはかけ離れており、むしろ冷酷な一面を見せていた。

 

 

「まあ、成り行きに任せようか?」

 

 

ハスミはデスクに置かれたPCを閉じるとその部屋を後にした。

 

 

******

 

 

現在ドモンは廃墟となった旧東京エリアにて、前と同じく地下鉄跡を利用し目的地である電波塔へと向かっていた。

 

そして記憶にある通り、通った事のある道を進んでいた。

 

 

「この音は?」

 

 

既に破棄された地下鉄の駅に到着するとこちらへ向かって停車しようと地下鉄の車両が入って来たのである。

 

 

「…(罠である事は知っているがここは。」

 

 

ドモンはそのまま停車した車両に乗り込み、乗り込みが確認されると発射音と共に車両は発車した。

 

車両内へ入ったドモンは運転席がある車両へと歩みを進めた。

 

 

「…(紋章が騒めている。」

 

 

ドモンは再び紋章の浮かび上がる右手の甲に手を添えた。

 

 

「解っている、お前も悲しいのだろう。」

 

 

再び起こった災厄。

 

その一つに遭遇している。

 

紋章が繰り返される悲劇への嘆きをその痛みとして訴えた。

 

 

「キング・オブ・ハート…嘆くのは後だ、まずはあの四人を取り戻す…!」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃。

 

地上では旧東京エリア一帯に展開していたデスアーミーの大群が二機の機動兵器と戦闘を開始しており、約数十体が両断された姿で放置されていた。

 

 

「やれやれ、『蒼い睡蓮』も随分と厄介な依頼を持ち込んでくれたね。」

「将軍、怖気づいてしまったかい?」

「いや、逆だよ…大統領。」

「ほう?」

 

 

普段の礼儀の良い言葉遣いもその本性を晒したのか荒々しいものへと変化していた。

 

 

「俺も少しばかり腕が鈍ってしまったのでね、慣らし相手には丁度いいと思っただけさ。」

「では、期待させて貰おう…織花、準備はいいかな?」

「いつでもどうぞ、大統領。」

「了解した…!」

 

 

コックピットにて後方のサブシートから指示を受ける織花と呼ばれたストレートヘアーの女性は大統領の合図と共に次の行動へ移った。

 

 

「いくら『悪魔』の能力で再生、増殖した所で所詮は劣化コピーに過ぎないんだ。」

 

 

ディアーズショットによる牽制の後、ビームハルベルトによる突撃攻撃で空中に展開するデスバーディの一体を破壊する。

 

 

「威力は抑え気味だが、君達を始末するには丁度いいよ。」

 

 

一旦距離を取った後、デスバーディを全機狙える位置に機体を移動させインペリアルランチャーを発射した。

 

一機目の僚機撃墜で混乱した隙を突いた結果だった。

 

そして地上でもその様子は伝わっており、デスビースト達にも混乱を呼び込んでいた。

 

 

「おっと、お前達の相手は俺だよ。」

 

 

地上で動きが鈍ったデスビーストをジュダの七支刀が断ち切る。

 

 

「おやおや、逃げるにはまだ早いよ?」

 

 

切り飛ばされた残骸が周囲に展開していたデスビーストに接触し更なる獲物へと変貌する。

 

 

「残念だが、俺はお前達を全員逃がすつもりはない。」

 

 

ジュダに搭乗する『将軍』の恐るべき気迫はデスビーストだけではなく空中に展開するデスバーディにもそれは悪い意味で伝わった。

 

 

「その名も石神祭り(しゃくじんまつり)だ!」

 

 

七支刀による剣撃乱舞はデスビーストだけではなく周囲の廃墟ビルをも巻き込み灰塵となす。

 

もしも月夜をバックにすれば絵となるが今は曇天の空でそれは望めない。

 

 

「いやいや、俺も大人気なくはしゃぎすぎたかな?」

 

 

七支刀を重々しく肩に担ぎ上げると『将軍』はコックピットで肩をすくめた。

 

周囲に展開していたデスビースト、デスバーディの混合部隊を一掃した後、『大統領』は『将軍』に通信を送った。

 

 

「そう言えば、先行して地下へ潜った『新郎』はどうしているかな?」

「さて、彼が極度のマイペースである事は君も知っているだろう?」

「そうだったね。」

 

 

二人の通信に割り込む存在が居た。

 

 

『それどころじゃないでしょ!!』

「おっと、『軍曹』…君も居たのかい?」

『何ぃ~呑気に会話しているのでありますか!?』

「そう言うつもりでは無かったのだがね。」

『ちょっと、ちょっと、今回の相手は気が抜けない相手だと…吾輩、何度も説明したでありますよね!?』

「揺さ振りをかけたが大将首が出てこないしどうしようもないだろう?」

『そう言う油断する様な事を言うから銃弾で脳天撃たれるのでありますよ!』

「いや~あの時の私もやり過ぎちゃったよね。」

「君、よく無事だったね……ああ君もファクターだった事をすっかり忘れていたよ。」

『全く、通信役の吾輩の身に…モグモグ、なって欲しいであります…モグモグ。』

「『軍曹』、通信しながらいきなり団子を齧るのもどうかと思うよ?」

『だって!だって!二、三日前からずっとここで吾輩一人で寂しく待機だったんだもん!』

「それでいきなり団子をお供に通信ですか?」

『そうであります、これブルーロータス殿から選別に貰ったであります♪』

「そう言えば君の姪っ子君はどうしたんだい?」

『モア殿なら雷王星に派遣されたであります。』

「雷王星?たしか例の宇宙怪獣の巣だったね?」

『吾輩にすればあれは台所から湧き出る巨大なゴキブリの様なものであります。』

「ああ、言えるね…それは。」

『それに何かあったらモア殿が居ますし何とかなるっしょって事で吾輩も許可したであります。』

 

 

「「「…」」」

 

 

『ちょ、ちょっと何で皆して無言になるんでありますか!?』

「いや~あれはね。」

「どう反応していいか…」

「『大統領』、その場合は常識の域を超えた存在と言う回答が宜しいかと?」

「そうだね。」

 

 

その後、雷王星が何かの影響により全壊したと言う報告が地球圏に点在する各勢力が知る事となる。

 

 

******

 

 

そして地下では。

 

ドモンは地下鉄車内でチボデーに遭遇し一戦交えた後。

 

地下鉄を収容するホームへと移動した。

 

だが、待ち受けていたのは拳を交えた仲間であった。

 

 

 

「お前達のファイターとしての魂はそんなものなのか!!」

 

 

拳と拳が衝突する。

 

救いたいと思う意思と捻じ曲げられた意思の衝突。

 

 

「如何にDG細胞で強化されようがキング・オブ・ハートに同じ技は二度と通用しない!」

「へっ、相変わらずスカしてやがるぜ!」

「本当にアニキは楽しませてくれるよね!」

「貴方にどう言われようともここを通す訳には行きません。」

「…」

 

 

ドモンに対峙するのはDG細胞によって操られた者達。

 

ドモンと共に拳を交えた者達の姿は戦いに狂う狂戦士そのものだった。

 

 

「チボデー、サイ・サイシー、ジョルジュ、アルゴ、お前達は…!」

 

 

前回とは違う空気を漂わせている事を感じ取ったドモン。

 

何かがおかしい。

 

それだけは感じ取れた。

 

 

「やはり脳筋は脳筋でしたか…」

 

 

カツカツとヒールの音を立てながらこちらへ通じる広間に出て来る者の姿があった。

 

 

「お前は…ハスミ・クジョウ!」

「お久しぶりです、ドモンさん。」

 

 

同ホーム内の上の階層から一礼をするハスミ。

 

だが、その姿はDG細胞に感染したと言う証で染まっていた。

 

 

「DGからのご命令です、貴方達は地上に現れた敵を排除せよとの事です。」

「えーせっかくいい所なのに?」

「たった一人に苦戦していた者がどの口で言いますか?」

「へっ、言ってくれるぜ。」

「二言はありません、直ちに地上へ赴いてください。」

「命令とあらば致し方ありませんね。」

 

 

チボデー達はその場を離れて地上へと向かった。

 

 

「さて、人払いは済みました。」

「まさか…ハスミ、お前は。」

「言っておきますが…浅はかな希望はお持ちにならない方が宜しいかと思いますが?」

「…それがお前の本性か?」

「さぁ、どうでしょうね?」

 

 

DG細胞によって操られた者はその本心を晒される。

 

この場にいるハスミは本来の本性を晒しているのだろうか?

 

それも余りにも災厄な状況で。

 

 

「フォリア・エストはどうした?」

「彼なら地上です、他の兵士達もDGのご命令で出撃しています。」

「ならお前は何故ここに居る。」

「私はDGからアナタに伝言を届ける為のメッセンジャーとして残りました。」

「何だと?」

「ドモン・カッシュ、我々の同志になれ…との事です。」

「俺がそんな事に加担すると思ったか?」

「ええ、思っていませんよ?」

 

 

ハスミはニコリと笑みを浮かべる。

 

それは清楚な少女を思わせるが一瞬にして冷酷な表情に変わった。

 

 

「だから力づくでなって頂きましょう。」

 

 

指を鳴らすとホーム内の出入り口全てのシャッターが閉まり、代わりに車両搬入用の大型シャッターが開閉する。

 

 

「こいつは!?」

 

 

現れたのは車両整備用に配置されていた整備用レイバーである。

 

レイバーはMSやPT、特機などの開発に伴い。

 

需要性を失ってしまいその数を徐々に減らしていった。

 

現在地球圏で使用されているのは公共や民間用として下げ降ろされているものだけである。

 

有名なのはお台場の僻地に置かれた特車二課と呼ばれるレイバー隊である。

 

もっとも金喰い虫扱いされ不遇の扱いを受けてしまっている。

 

話を戻すが、放置された旧東京エリアには回収されていない破棄レイバーも数多く存在する。

 

DGならそれらをかき集めて手駒として使用する事も可能だろう。

 

 

「幾ら貴方でもこれだけの数を相手にするのは無理でしょう?」

「ふっ、俺も舐められたものだな…だが!」

「そうでしょうか?」

 

 

突如、西側ホームのシャッターを突き破れた。

 

そこから現れたのは二人の人影。

 

 

「兄さん!?シュ…っ!?」

 

 

ドモンは言い掛けた言葉を飲み込んだ。

 

ドモンはこの世界ではシュバルツ・ブルーダーに出遭っていない。

 

知りもしない相手の名前を答えるにはリスクが多すぎる。

 

 

「やはり、罠だったか…(ドモン、何故ここへ!?」

「さて、役者が揃った所ですしそろそろ…っ!?」

 

 

シャランと鈴に似た音が周囲に響いた。

 

 

「えーっと、ドモン・カッシュってアンタ?」

「誰だ、貴様は!?」

 

 

更に現れたのは黒いタキシードに身を包んだ男性。

 

先ほどの音は唾の長い帽子の端に取り付けられたリングから鳴り響いたものだ。

 

 

「あー俺はブルーロータスに頼まれてアンタらを助けに来た。」

「ブルーロータスだと!?」

「悪いが名前を明かす訳にはいかないんで…メンドーだし。」

「…(ブルーロータス、とうとう庭師達を動かしたか。」

 

 

分が悪いか。

 

流石に白兵戦に置いて狂人を超えている三人に整備用レイバーでは荷が重い。

 

ならば、戦場の舞台を変えよう。

 

 

「では、地上で再度お会いしましょう。」

「待てっ!?」

 

 

ハスミがその場を去ろうとしたので追いかけようとしたが整備レイバーに遮らてしまい。

 

その姿を見失った。

 

 

「くっ!」

「さっさと行けよ、俺はメンドーを押し付けられてイライラしているんで…!」

「しかし…」

「ドモン・カッシュ、この場は彼に任せて我々は地上へ戻るぞ。」

「…分かった。」

 

 

ドモン達はタキシード姿の男性をその場に残して彼が進んできた道を辿って地上へ向かった。

 

 

「やれやれメンドーだ。」

 

 

タキシード姿の男性は蛮刀を取り出すとこちらへ向かって来た整備用レイバーに切りかかった。

 

 

******

 

 

再び地上では。

 

地上での戦闘を聞き付け、旧東京エリアへと到着したハガネ、クロガネ、アーガマ。

 

なお、ヒリュウ改とエルシャンクは別エリアで発生した戦闘を止める為に二手に分かれている。

 

現在、地上へ現れた四機のガンダムと連れ去らわれた軍兵士の搭乗するPT、AM、MSの混成部隊とそれにデスアーミーの歩兵隊と言う部隊が待ち構えていた。

 

先の戦闘の首謀者である二機は既に撤退した模様で姿は無かった。

 

これも『蒼い睡蓮』の仕込みであり、旧東京エリアに潜む『悪魔』を燻り出す為の行為であった。

 

囚われていた民間人達は既に『蒼い睡蓮』のエージェント達によって救出されている。

 

その連絡を受け取ったハガネ以下二つの僚艦は残った兵士達を無力化し救出する為に行動していた。

 

 

「彼らも操られていたなんて…」

 

 

四機のガンダムの姿に反応したレイン。

 

続けてATXチームとカーラ、ユウが会話に加わった。

 

 

「うっそお!?レイン、彼らって確か!?」

「ええ、彼らもガンダムファイター…そしてドモンと拳を交えた事のある人達。」

「あの四機、強豪とされている国家代表のファイター達ですね。」

「確かネオアメリカ、ネオチャイナ、ネオフランスだっけ?」

「最後はネオロシアか、武装から察して接近戦は控えた方が良いな。」

「だが、ハスミの姿がないな。」

「ハスミ。」

 

 

展開する敵部隊にハスミのガーリオンCの姿は無かった。

 

恐らく、まだ出撃していないのだろう。

 

肝心のDGの姿もないので後続出撃と思われた。

 

 

「せっかく呼ばれたので出ますよ。」

 

 

通信を傍受していたのか地響きと共に現れるDGとその僚機としてガーリオンC・タイプTがその姿を現した。

 

 

「ハスミちゃん。」

「お久しぶりです、三日ぶりでしょうか?」

「ハスミ、無事だったのね!」

「無事とは?」

「クスハ、待って!」

「ああ、DG細胞ならまだ私の中にありますよ?」

「ハスミ。」

「DGを狙う者にはそれ相応の対価を…それがDGの命令です。」

「それはお前の本意か?」

「どうしてです?」

「お前からは殺意を感じられない。」

「それは戦えば判る事ですよ。」

「何だと?」

「DGの悲しみを理解出来ないのなら何も知らないまま消えてください。」

 

 

******

 

 

別ルートで脱出中のドモン達は。

 

脱出の道中でドモンはシュバルツよりDG暴走の真相。

 

そしてそこに巣くう黒幕の正体を語った。

 

 

「それじゃあDGは!?」

「ああ、全てはあの始まりの日が原因だ。」

「EOT機関にそんなものが保管されていたのか。」

 

 

EOT機関に保管されていたある物質がUGをDGへ変貌させてしまった正体である。

 

それに気づかず、同じ暴走だと思い込んでいたドモン。

 

 

「それはお前の知らぬ所で起こった事だ、自分を責めるな。」

「シュバルツ…いや、兄さん。」

 

 

ドモンの落ち込みに叱咤を加えるシュバルツ。

 

その思いを感じ取りドモンはシュバルツを兄と呼んだ。

 

 

「兄さんか…そう呼ばれるのはいつ振りだろうか。」

「例え、兄さんの映し身であっても俺にとってアンタも兄さんと変わらない。」

「ドモン。」

「必ず、アイツらもDGも俺と仲間達と共に救ってみせる。」

 

 

かつては猪突猛進の如く一人で突っ走っていたが冷静に状況を判断し仲間を信じ突き進む。

 

その姿にシュバルツは変わったなと呟いた。

 

 

「…(成長したなドモン。」

「だから力を貸して欲しい。」

「ああ、解っている。」

 

 

二人の会話にキョウジも加わった。

 

 

「だか…ら…言った…だろう?」

「兄さん!」

「俺の…俺達の弟は……誇れると…」

「キョウジ、今は…」

「ああ…ドモン、シュバルツ…後を任せるよ。」

 

 

一度は目覚めたもののDGの生体コアにされていた為、衰弱も激しく余り体力も残っていなかったのである。

少しだけ会話をすると再び眠ってしまった。

 

 

「兄さん。」

「ドモン。」

 

 

「「今は成すべき事の為に!!」」

 

 

******

 

 

再度、地上にて。

 

 

「やはり、姿が無かったとは言え油断してしまいましたね。」

「ISA戦術の弱点を探すのがお前の目標の一つだった、その戦術の裏の裏を突いただけの事だ。」

「敵に塩を送ってしまったか。」

「ハスミ!」

「お義父さん、本気で来なければ死ぬだけだとそう教えてくれましたね。」

「そうだ、だからこそ私はお前を救うと決めたのだ!」

「ならば、本気で戦い合うのみです!」

 

 

同型同士の戦い、戦いを制するのは搭乗者の技量のみ。

 

 

「少佐っ…!」

「義娘の不始末は私が着ける!お前達はDGを頼む!!」

 

 

他の機体をDG討伐に向かわせ、テンペストは義娘を取り戻す為に銃口を向けた。

 

 

******

 

 

DGと共に現れるガンダムヘッドの猛攻を掻い潜り、一機、また一機とDGに近づき攻撃を加える。

 

またその僚機を狙うガンダムヘッドやデスアーミーを撃墜しながら援護射撃を加えていた。

 

洗脳されていた兵士達や四機のガンダムは行動不能にしライゾウ博士より提供されたDG細胞を阻害する特殊弾薬のおかげで身動きが取れなくなっていた。

 

 

「レイン、無事か!」

「ドモン、今まで何処に!?」

「話は後だ、まずは奴を止める!」

 

 

「出ろぉぉぉ! ガンダァァァァム!」

 

 

ドモンが指を鳴らすとハガネの格納庫に収容されていたシャイニングガンダムを呼び出し搭乗する。

 

ちなみにこの状態で呼ぶと格納庫のハッチを壊しかねないので特機用のハッチから瞬時に出られる様に配備して貰っていた。

 

 

「シュバルツ、頼む!」

「任せて貰おう。」

 

 

「超・級・覇王!電影弾っっ!!」

 

 

ドモンはシャイニングガンダムに搭乗後、待機していたガンダムシュピーゲルと合流しDGに強烈な一撃を披露した。

 

本来ならば彼の師匠と共に行うべき技であるが不在の為、致し方ない。

 

繰り出された技は周囲に展開していたガンダムヘッドとデスアーミーを巻き込みDGの左側腕部をもぎ取っていった。

 

シャイニングガンダムはその一撃を終わらせると元の位置へ戻って来た。

 

 

「皆聞いてくれ!あのDGはガイゾナイトと呼ばれる鉱石生物によって操られている!」

「ガイゾナイト?」

「EOT機関に保管されていたが、あの襲撃事件でDGに取り憑いて復活の機会を待っていたらしい。」

「それじゃあハスミちゃん達を操っていたのも…!」

 

 

「ドウヤラワタシノソンザイニキガツイタチキュウジンガイタトハ?」

 

 

DGは瞬時にDG細胞で再生するとコックピット部分に生物の瞳を巨大化させたような物体が配置されていた。

 

 

「とうとう出て来たか…!」

「ハハハハハッ、ズイブントオモシロイキゲキヲミレタガマダマダミタリナイ、キサマラヲゼンインワタシノテゴマ二ッ!?」

 

 

だが、この一瞬だった。

 

DGに寄生したガイゾナイトが動きを封じられたのは。

 

 

 

ーソウハサセナイー

 

ーワタシハアナタノアヤツリニンギョウジャナイー

 

ーダカラトメルー

 

 

「クッ!DGメ、ニンゲンニウラギラレタミデナニヲイウカ!!」

 

 

ーワタシハヒトヲシンジルー

 

ーハスミガワタシノコエヲキイテクレタカラー

 

ーワタシハヒトヲシンジタイー

 

 

「オノレ!!」

 

 

ーミナサンゴメンナサイー

 

ーワタシゴトガイゾナイトヲハカイシテクダサイー

 

ーワタシガトメテイルウチニハヤクー

 

 

朧げな電子音でその言葉を伝えたDG。

 

搭載された『超AI』が心に目覚め始めた兆しでもあった。

 

『自己犠牲』による『人格』の確立。

 

それはこの世界における新たな可能性だったのだ。

 

 

「DG、お前の気持ち受け取った!!」

 

 

シャイニングガンダムが黄金へと染まり、その両手には巨大なビームソードが形成される。

 

 

「お前の愛と怒りと悲しみを重ねる!!」

 

 

その意思は曇り無き一滴。

 

 

「俺のこの手が光って唸る、お前を倒せと輝き叫ぶ!」

 

 

明鏡止水の志と共に。

 

 

「喰らえ! 愛と、怒りと、悲しみのぉ!!」

 

 

闇を葬り去る。

 

 

「シャィィィイニングッ!フィンガーソード!!」

 

 

巨大な剣はDGの機体ごとガイゾナイトを斬り裂いた。

 

 

「ソンナ…バカナァアアア!?!?!?!」

 

 

断末魔と共にその呪眼は光の浄化を受けて消えて行った。

 

そしてDGもその原型を失い爆発四散した。

 

だが…

 

 

「せっかく解り合えたのならやり直す事も必要だと思うな。」

 

 

ボロボロになった二機のガーリオンCの腕には不釣り合いなコアブロックが収まっていた。

 

 

「全く、私の義娘ながら無茶ばかりする。」

「…申し訳ありません。」

「戻ったら私を含めてゼンガー達との説教とこの経緯の始末書が待っている事を覚悟して置け。」

「りょ、了解です。(前途多難だよ。」

 

 

その後、改修されたコアブロックに収まった『超AI』より感染してしまった人々からDG細胞を除去した後、その力を使い果たして眠りに就いたのだった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱ 

 

 

ある場所において。

 

 

「やれやれ、僕らが眠っている間に面白い事が起きているじゃないか?」

 

 

男性は笑みを浮かべる。

 

 

「トウゴウにブランシュタインそしてクジョウ、グリムズとあの彼女の子孫はいないみたいだけど…かつての大戦を思い出すねぇ。」

 

 

球体状の装置から映し出される映像を見る男性はある事に気が付いた。

 

 

「君は…そうか、そう言う事か?」

 

 

映像に映し出された少女の思念を察し、その顔に手を添えると笑みを浮かべた。

 

 

「君と神の子、どちらが地球を…いや、銀河を守護する巫女に相応しいか見極めさせてもらうよ。」

 

 

男性はスーツのポシェットに添えられた花に触れた。

 

 

「君もそう思うだろう?」

 

 

花は静かに揺れた。

 

 

=続=

 




一つの禍は去った。

しかし油断は出来ない。

仲間の結束を高める為にある名称を付ける事となった。

次回、幻影のエトランゼ・第七.五話『名称《メイショウ》』

その名の如く志を胸に乱世を駆けめぐれ。



<今回の登場人物>

※新生シャッフル同盟
ここではドモン以外の四名を指す、今回もDG細胞に操られてしまっていた。
今回の一件で双方共に救出され、旧シャッフル同盟の後継者に選ばれた。
現在はその傷を癒すと同時に旧シャッフルより過酷な修行を受ける事を決めた為、今回は仲間にならず離脱した。

※シュバルツ・ブルーダー
DG細胞より生み出されたキョウジのコピー。
その生命はDGが居る限りと言う限定の為、不安定な生命を持つ。
前世の記憶を所持しドモンと再会。
その後、今回のDGの行動を説明し止める為にドモンと行動を共にする。
事件後はDGより独立した存在として切り離されたので消滅を免れた。

※キョウジ・カッシュ
DG細胞によって操られていたドモンの兄。
DGの興味対象が変わった為に一時的に支配下から逃れた。
再び支配下に置かれない内にDGが欲しているものや裏で糸を引いている者の正体をシュバルツを通してドモンに知らせる。
戦闘後、無事救出されたがDG細胞の感染期間が長かったので精密検査の為に伊豆基地に移送された。

※DGのコア
DG細胞を制御する為に『超AI』のチップが搭載された制御コア。
今回の戦闘で肉体となっていた機体は大破したが『超AI』が収まった制御コアのみはハスミによって救出された。
安全の為、制御コアのみ梁山泊へ護送される事となった。
肝心の『超AI』のチップは破棄と言う名目でハスミに譲渡された。
現在も名称のないまま、新たなボディが出来るまでハスミの携帯端末にお引越ししている。

※ガイゾナイト
鉱石生物、以前はブレイブポリスによって倒され封印の為にEOT機関に保管されていたが例の強襲事件の際に逃走。
DGが暴走した原因であり今回の事件で寄生していた事が判明。
DGが自らの躰を失う覚悟で己の躰に留め、その隙をついてドモンの明鏡止水版シャイニングフィンガーソードで破壊された。


※ヴァン
『新郎』の正体でダン・オブ・サーズデイのパイロット。
訳アリで『蒼い睡蓮』のメンバーに加わっている。
地下鉄車両を収容するホームで苦戦していたドモン達に加勢した。
マイペースかつ変な敬語やボンクラ路線は相変わらずの様である。
だが、剣技の腕は落ちておらず蛮刀でDG細胞によって操られた整備用無人レイバーを一網打尽にした。

※石神邦生
『将軍』の正体でJUDAコーポレーションの社長を務める。
前回の一件でイスルギ重工から合併の話を持ち込まれたが早々に却下している。
既に『蒼い睡蓮』のメンバーに加わっており、DG出現の際にジュダを駆って出撃した。
会話から目には目を大物には大物をと言うスタンスで『御旗』の事をルドに話していたのでもう一つの記憶も所持しているものと思われる。

※ルド・グロリア
『大統領』の正体でGreAT社の社長を務める。
前回の一件でイスルギ重工より合併の話を持ち込まれたが石神同様に早々に却下している。
嘗て自らが起こした所業を知っており、今度は道を外さない様に考えを改めた。
石神同様に『蒼い睡蓮』のメンバーに加わっており、DG出現の際にインペリアルヴァレイを駆って出撃していた。
尚、サブパイロットとしてHL-1が同乗している。
本来の乗機であるガルトデウスを持ち出さなかったのは『蒼い睡蓮』から内密にと依頼されていた為である。

※HL-1
普段はハルカ・オルヴェと言う名でGreAT社の社長秘書を務めるアンドロイド。
今回の戦闘でインペリアルヴァレイのサブパイロットとして同乗し戦闘補佐をした。
本来の名前を偽る意味で与えられた名前ではあるがルドより共に歩むと言う意味合いで名前を与えられた事に感謝している。
エージェント活動時は『織花』と言う名称で活動する。


※ハスミ・クジョウ
ガイゾナイトに寄生されたDGからの精神干渉で凶暴性を控えた冷酷な感情に支配されている。
過去に旧戦技教導隊に教え込まれた技術を披露し旧東京エリア内に数多くのトラップを設置し迎え撃った。
現在はDG細胞の感染期間がキョウジと同時期だったので精密検査の為、伊豆基地に収容される。


※軍曹
メタ発言をする謎のカエル?。
今回は戦闘の様子を伺っていた。
『蒼い睡蓮』の仲間と思われる。


※謎の男性
普通に素性は判ります。


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第七.五話 『名称《メイショウ》』


志同じくする者達を総称して名を示す。

名を表すものは『絆』。

そして時は過ぎ去り。

それまでに起こった禍は全て打ち破る。

そして運命の時。

『絆』は星の海へと誘われる。




 

前回の戦いからしばらく経ちました。

 

私はDG事件の後、他の感染者達と共に救出され無事にDG細胞から解放されました。

 

その後にお義父さん達からかなりキツイ説教をされました。

 

五人の後光に閻魔様とかの地獄の使者が数名見えましたし。

 

延々と五時間ほど各一名ずつよりお説教されておりました。

 

エルザム少佐とギリアム少佐のあの笑ってない笑顔が本当に怖い。

 

隊長とカイ少佐は問答無用でもっと怖い。

 

お義父さん、お願いですからそんな怨念籠った笑顔でクスハドリンクを勧めないでください。

 

ガタブル覚悟で本当に死ぬかと思った。

 

反省しました本当にごめんなさい。

 

私もあそこでガイゾナイトが寄生しているなんて思ってなくてですね。

 

しかも無限力の陰謀だったので。

 

アカシックレコードに聞いたので確定済みです。

 

どうやら蒼い睡蓮の仲間が雷王星を全壊させたのが悪かったらしい。

 

そりゃ雷王星はSTMCによって増殖しエクセリヲンの縮退炉暴走で破壊されるかシュウ・シラカワ博士の伝手で消滅する予定だったのだ。

 

情報を与えたのは私だが下手をすれば救出出来る命も救えなかったかもしれない。

 

今後の情報提供する時は細心の注意をする事にする。

 

それではDG事件後から現在の時間軸までに起こった事を説明します。

 

まずDGの一件。

 

無事に救出された人達はDG細胞除去も行われて元の所属や生活の場へ戻って行った。

 

どうやら私がガイゾナイトに寄生されたDGに洗脳されていた時、新生シャッフルとなる四人を止める為に旧シャッフルの四人が駆けつけてくれたらしい。

 

理由は蒼い睡蓮から未来ある若者を救う為に手を貸して欲しいとの依頼だったらしい。

 

原作通り後継者を見つける事も出来たので彼らに修行をしないかと誘ってそれぞれの修行地に移動した。

 

流石はガンダムファイター、体力だけは脳筋レベルですね。

 

二~三日したらすぐに動ける様になってたので。

 

フォリアさんも無事に元に戻ったそうなのでホッとしている。

 

肝心のキョウジさんと私は感染期間が長かったので安全が確認されるまで隔離されていた。

 

その検査の為に国際警察機構のエージェントに付き添われてライゾウ博士が来日した。

 

ドモンさんは兄を取り戻せた事とDG、シュバルツの件を説明した。

 

どうやら本物のシュバルツ・ブルーダーはガンダムファイト中に何者かに襲われて戦死していた。

 

それを偶然DGが発見しキョウジさんが不本意ながらアンドロイドとして復活させたそうだ。

 

あの状況では致し方無いとは言え人の命をその一生を変えてしまったのだ。

 

その自責の念は余りにも重いだろう。

 

当のシュバルツも『成るべくしてそうなった、ただそれだけだ』と論してキョウジを励ましていた。

 

そしてDGに搭載された『超AI』は私が引き取る事となった。

 

理由とすれば『超AI』自身が私から離れたくなかった事と私が切っ掛けで自我に目覚めた事である。

 

今後は私個人のサポートロボットとして傍に居る事となった。

 

そして制御コアは安全が確立されるまで梁山泊で封印される事になった。

 

後で『超AI』の名前を考えねばと思った次第だ。

 

それから必要な手続きを終わらせた後、私は隔離期間終了と同時に原隊復帰した。

 

キョウジさんは本人の希望もありドモンさんのサポートクルーとして共に行動する事になった。

 

シュバルツも共に戦線に加わる事を決めた様だ。

 

 

それから一週間後。

 

 

宝石型の使徒との激戦とネルフの参加。

 

二体のジャイアントロボの激突。

 

黒鉄の城の翼と赤き竜。

 

ギガノス帝国の正式な宣戦布告。

 

クロスボーン・バンガードの出現。

 

更なる異星人連合の侵攻。

 

サイバスターとEVA弐号機の合流。

 

など、目まぐるしく日々は過ぎて行った。

 

そして…

 

 

私とお義父さんで親子喧嘩勃発。

 

理由とすればお義父さんとシャイン王女が桃姫よろしくな状況で拉致されました。

 

私は赤い配管工か!っとツッコんだのは別の話。

 

急ぎ、その足取りを掴んだ私達はアイドネウス島ルートの海域でAnti・DCの部隊を発見し交戦する事となった。

 

あのYの字鉄板ジジイめ、よくもやってくれましたね。

 

ゲイムシステム搭載のヴァルシオン四機と戦う事となった。

 

どうやら今までの敗退が原因で鉄板ジジイの部隊はトカゲの尻尾切りにされたらしい。

 

苦し紛れに開発途中だったヴァルシオンを組み上げて総力戦に出た様だ。

 

 

一号機にシャイン王女。

 

二号機にAnti・DG兵。

 

三号機にテンペスト少佐。

 

四号機にテンザン。

 

 

原作と同じ組み合わせの様だった。

 

 

一号機にライとラトゥーニ達。

 

二号機は他のメンバー。

 

三号機は私とギリアム少佐達。

 

四号機はリュウセイとリョウト達が張り付いた。

 

 

暫く戦っているとラーダさんからゲイムシステムの経緯が判明したと言う通信が入った。

 

何とか動きを封じてゲイムシステムの制御系部分を破壊。

 

二号機のパイロットは残念ながら救出出来なかったが他の三機は何とか確保する事が出来た。

 

アードラの戦艦はマサキのコスモノヴァで撃沈。

 

今回の拉致を手引きしたハンス少佐の乗艦した戦艦は隊長の斬艦刀で真っ二つにされた。

 

それぞれの何名か因縁を持つ相手は今回で倒す事に成功した。

 

無事助けられた三名は伊豆基地へ搬送される予定だったが、お義父さんはゲイムシステムの影響が比較的に軽度だったので精密検査のみとなった。

 

と、言うよりも私が念動フィールドでお義父さんの脳への負担を軽減した為だ。

 

それでも周囲に気付かれない様にしなければならないので静養が必要になってしまった。

 

シャイン王女はそのまま伊豆基地へ、テンザンは戦犯として裁かれる筈だったがゲイムシステムの影響でDCに加担していた頃の記憶を失くしてしまい、ただのゲーム好きに戻ってしまった。

 

リュウセイから聞いた事だが、どうやらバーニングPTの大会前の記憶まで後退しているらしい。

 

特に害はないので一時伊豆基地で拘束した後、そのまま病院に移されるそうだ。

 

以上がこの一カ月の間に起こった出来事である。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

次の指令が下るまで再び休暇となった。

 

レイカー司令は度重なる戦いで疲弊した私達に英気を養ってもらう為に立食を兼ねたパーティの開催を許可した。

 

勿論、今後の作戦や諸々の説明をしながらである。

 

その間に仲間になった人達との交流なども含めての事である。

 

そして。

 

 

「突然だが君達の部隊に正式な呼称を付けたいと思う。」

 

 

レイカー司令の言葉に全員が騒然。

 

因みに艦長達を交えて前々から考えていた事だったらしい。

 

様々な所属の部隊が集まった事でその部隊を一つの呼称で呼べる事と正式な独立機動部隊として行動する為にとの事だった。

 

命名はこの場の全員が考えて欲しいとの事で更なるガヤガヤで周囲は再び騒がしくなった。

 

 

因みに出された名称は以下のとおりである。

 

 

アムロ大尉からは『マーチウインド』。

 

ドモンからは『ラウンドナイツ』。

 

ウッソからは『ブルー・スウェア』。

 

カミーユからは『マグネイト・テン』。

 

他からは『ヴェルダー』、『ブライティクス』など聞き慣れた部隊。

 

キョウスケ少尉からは『鋼龍戦隊』。

 

リュウセイは『αナンバーズ』。

 

 

と言う流れである。

 

因みに変なネーミングを付けようとしていた連中にはにっこりと笑ってない笑みを上げてやった。

 

DG事件で私が凶悪な戦術を見せつけたのが原因らしい。

 

本当にゴメン、わざとじゃないのよ。

 

 

「他には?」

「ネクサスって名前は?」

「それさっきも聞いたよ?」

 

 

私はネクサスと言う名である言葉を思い出した。

 

ずっと心の中でいずれ付けたいと思っていた名前である。

 

 

「あの!」

 

 

私は名乗りをあげた。

 

 

「ノードゥスと言うのはどうでしょうか?」

「意味はラテン語で『絆』か。」

「はい、ここに集まったのは何かの縁かもしれません…そして『絆』で結ばれていると言う意味で考えたのですがどうでしょうか?」

「いいんじゃないかな?」

「ねえ、キョウスケ…『絆』なら私達にピッタリな名前じゃない?」

「そうだな。」

 

 

他からも共感の声を頂き、私達の部隊の名称は「ノードゥス」と命名された。

 

 

******

 

 

私達はアイドネウス島に再び訪れていた。

 

理由はマクロスの護衛である。

 

一カ月の間にギガノス帝国とジオンの共同戦線部隊が月のマスドライバー施設を占拠。

 

このアイドネウス島を狙っていると言う厄介な事になっていた。

 

ゴチャ混ぜシナリオにも程がある。

 

因みにこの隕石を阻止する方法は二通りある、一つはゲッタードラゴンとR-GUNパワードによる撃ち落とし、もう一つはこの前合流したEVA三機による押し返しである。

 

だが、地球衛星軌道上にフォールドアウトしてきたゼントラーディの艦隊のおかげで半分は何とかなったが自動追撃機能によるマクロスの砲撃で彼らと戦う羽目になってしまった。

 

それに伴いSDF部隊の登場。

 

二度に渡る戦いで勝利を収めたが敵の増援部隊によって撤退を余儀なくされた。

 

島から脱出した者、脱出できずにマクロスへ避難した者、それらの確認が済んだ。

 

そうフォールドアウトで衛星軌道上に転移しゼントラーディの艦隊に攻撃を仕掛ける決断をしたのだ。

 

所が私達は地球を遠く離れ、冥王星宙域へフォールドアウトしてしまったのである。

 

各戦艦は一先ずマクロスへ収容。

 

各部隊の大気圏用装備の回収作業、マクロスへ避難した避難民への対応。

 

そして自力で帰還せざる負えない状況。

 

乱世は始まったばかりだ。

 

 

=続=

 





星の海は暗くそして冷たい。

蒼き星への旅路は長くそして困難を極める。

そして新たな戦いが始まる。

次回、幻影のエトランゼ・第八話『騎士《テッカマン》』

一筋の光は何を見つめる。


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第八話 『騎士《テッカマン》前編』

蒼き星を目指し戦士達は突き進む。

その先にどんな苦難が待ち受けようとも受け入れよう。

これが我らの進むべき道であっても変えられる道ならば。

切り開こう。


私達が冥王星宙域に飛ばされてから数週間が経った。

 

息を潜めていた異星人連合の襲撃。

 

何度も続くゼントラーディとの交戦。

 

クロスボーンバンガードの横槍。

 

そして姿を現した木連。

 

私達は彼らと交戦を繰り広げていたネルガル重工所属の戦艦ナデシコを救出。

 

別の指揮系統からの命令で木連と和平を結ぶ予定だったが向こう側が和平交渉を破棄し交渉決裂。

 

その最中だったそうだ。

 

以後、私達と同じ指揮下に入る事が決定した。

 

彼女らの目的も地球に帰還する事なので同行する方が得策と判断したのだろう。

 

後、ヤマダさんと九十九さんが無事でした。

 

何でもアキトさんの機転で助けられたそうです。

 

あ、これは記憶持ち決定です。

 

どうも最近になって記憶持ちの人達がこちらに合流する様になった。

 

もうじき大きな波が訪れる予定だったので致し方ない。

 

私自身が想定していたとは言え、急な転移だったので地球の事が心配だ。

 

しかし今回のこの世界は数多くの戦力と蒼い睡蓮が影で動いている為、そう易々とは敵陣営が戦火を広げる事は出来ないと思う。

 

今は合流予定の彼がどう動くかが問題である。

 

どこぞの眼帯付の仙人さんじゃないけど『流れのままに』なのかもしれない。

 

そしてマクロスは木星宙域から離脱し火星宙域へと到着する予定だ。

 

火星を通り過ぎれは地球へ帰還する事が出来る。

 

だが、その前に起こる出来事がある。

 

そうαのシナリオである例の裏切りフラグが待っているのだ。

 

今回ばかりはやらせる訳にはいかない。

 

 

******

 

 

マクロス、実際乗艦したが悪い所は余りない。

 

ただ、現時点でマクロスに天候システムが導入されていないのでしばらく朝日を拝めないのが難点だ。

 

訓練や偵察で宇宙に出る時は星海航行を満喫し放題だが。

 

後に進宙するバトル7と連結されているシティ7やバトル・フロンティア船団のコロニーなら二十四時間のサイクルで様々な天候、朝から昼、夜へと切り替わるので時代の流れなのかもしれない。

 

元々移民船としての機能も持っていたので住民が住める居住スペースから工場、農場など生活に困らない様に様々な業務ブロックが配置されていた。

 

そして長い航海になる事に不満が溜まるのを防ぐ為に『ミス・マクロス』を決めるアイドル選抜コンテストを開催する動きもあった。

 

私はいずれこの戦いを救う『歌』を歌う彼女の事は好意を持てるが初代トライアングラーを視る羽目になるので何処かまどろっこしいのである。

 

恋愛小説も執筆する過程で相手を不快にする様な執筆は避けているせいもあるかもしれない。

 

実際、彼が選んだのは彼女ではなくあの人だったし。

 

取りあえず、ミスマクロスのコンテストに乱入するゼントラーディの横槍は目を瞑る事とする。

 

あれも必要なターニングポイントである。

 

彼らに文化を与えるのは元々決まっていた事だし。

 

何よりもそのバタフライエフェクトがあったからこそ勝利出来た戦いでもある。

 

その後に起こった悲劇はどうしようもないが…

 

蒼い睡蓮の新規情報でラダムの他に早期にガルファも地球圏を目指して現在侵攻を続けていると厄介な情報を得た。

 

ガルファは勇者軍団の敵陣営であるグランダーク達に組しており利害一致の共闘関係を結んでいる様だがこれも敵の敵は味方と言う考えではなく互いに足の引っ張り合いをするスタンスだろう。

 

出来る事なら救える命があるなら救いたいが何分、こちらの情報の開示が難しい事と無限力の介入も危険視しなければならないので下手を打てない。

 

いずれ鉢合せをするかもしれない。

 

そして更に厄介な事に孫光龍が早期に目覚めた以上、沈黙を貫いてきたビッグファイアも動きを見せるだろう。

 

そうなれば私の正体もいずれ彼らに知られる。

 

そろそろ腹を括る必要も考えて置こう。

 

ああ、また地獄の黒い番犬と獅子座の金甲冑の覇気を纏ったエルザム少佐とギリアム少佐の冥府級説教が…

 

隊長なんて三枚卸し上等、カイ少佐は鬼軍曹よろしく速攻で訓練室行き、お義父さんは前回の事もあってネガティブオーラが余計に酷い。

 

ヤバい、考えただけで恐ろしくなってきました。

 

いや、今は考えるのはよそう。

 

兎に角、バラルとBF団の今後の動きを調べながら動くしかない。

 

そう言えば、マクロス出航のドサクサに紛れて密かに忍び込んだ五人組はどうしているだろうか?

 

 

「ふう…」

「ハスミ、どうしたの?」

「ちょっと考え事。」

 

 

只今、ハガネ艦内の自室に籠っている私。

 

その隣には1/60サイズのガーリオンが浮遊している。

 

この機体の正体は前回のDG事件で生き残った『超AI』である。

 

構築された性別は女性、精神年齢は大体15歳前後位になっている。

 

私にとっては妹の様な存在になった。

 

名は『ロサ』、ラテン語で薔薇と言う意味だ。

 

機体のカラーリングは薄い水色にしており青い薔薇の花言葉の『奇跡』と『不可能を成し遂げる』と言う意味合いを持たせている。

 

ロサの外装を作ろうと思い立った時、ロブさんからはグルンガストとかゲシュペンストの一案を頂いたが人格モデルが女性なので却下させて貰った。

 

リュウセイはバーンブレイド3の外装とか言うのでハリセンを構えて笑ってない笑みをしてあげたら踵返して逃げて行った。

 

他にもハロやロペットなどの外装はどうかと案件を頂いたがピンとくるものが無かったのでマイナーだが一番親しみのあるガーリオンの外装にする事にした。

 

ぬいぐるみっぽいSD風ガーリオンでも良かったがロサ本人が動きづらいと話していたので元のガーリオンをプラモサイズにした外装と言う事で落ち着いた。

 

少し変化を付けてスカートの様な装甲と頭部アンテナに小さな白いリボン型アンテナのオプションを付けてあげた。

 

念の為、背部分に取り付けたバーストレールガンには麻酔針とスタンガンが仕込まれている。

 

音声は麻酔銃と関連している方と同じなので察してください。

 

流石にフェアリオンの様なロリ風は出していない。

 

あえて控えめの女性風に仕上げてみた。

 

通常勤務に勤しみながらだったので完成するのが遅くなってしまったがとりあえず良かった。

 

ちなみにロサの外装が完成したのが、丁度お義父さん達が連れ去らわれた事件前。

 

ロサは名目上、私のサポートロボットなのだがお義父さん達が拉致られた為に搭乗者不在のガーリオンCをコックピットからハッキングし戦闘に参加してしまったのだ。

 

流石の私もこのお転婆ぶりには気が付かなかった。

 

色々とあって救出後のお義父さんは鹵獲したヴァルシオンへ、ロサはそのままお義父さんのガーリオンCに搭乗し、私の随伴機として行動する事となった。

 

勿論カラーリングも判りやすい様に変更しました。

 

機体の改装とか塗装って結構難しくてリョウト達に手伝って貰った次第であります。

 

あれだね、自動車の傷直しとは桁違いに難しかったです。

 

コックピットブロック内部に取り外し可能な専用のコネクトシートを接続。

 

要はoo版ハロの設置スペースと似たようなものが取り付けられたのだ。

 

そこからガーリオンCをロサが操縦する事になる。

 

勿論普通にパイロットとの同伴も可能だが、戦力の乏しいこの状況では乗り手が居る事が好ましい様でロサの戦闘AIとしてのパイロット登録が決定した。

 

 

「前に話した事、覚えてる?」

「うん、例の事件だったね?」

「そう…それがもうすぐ行われる。」

「助けるの?」

「今の状況で助けられるか分からないけど…やるしかない。」

「大丈夫、私も手伝う。」

「ありがとう、ロサ。」

 

 

どうか、これから起こる『あの戦い』に間に合って欲しい。

 

星の海を駆け巡る白き騎士よ。

 

どうか間に合って欲しい。

 

私はロサを抱きしめながらそう願うのだ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

イングラム少佐からRシリーズの合体テストを行う為、護衛と言う形で出撃命令が下った。

 

その中にクスハとブリット、マサキに私とロサも含まれている。

 

他はマクロスの護衛と周辺の偵察などで動いている。

 

何かある事は解っているのにこちら側の拒否権無しは歯痒いが致し方ない。

 

そこでキョウスケ少尉はドモンさんとアクセルさんに頼んで秘密裏に私達の後を追尾していた。

 

あの二人は民間からの協力者だし何とでも言い訳は出来るだろう。

 

 

ちなみにRシリーズはR-3だけプラスパーツが装着されておらず、合体しても脚部部分がない上にR-2はトロニウムエンジンの出力が不安定でエネルギー不足に陥り、すぐに動けなくなる。

 

はい、れっきとしたフラグ確定です。

 

そして確実な不安が過る中、マクロスから少し離れた宙域でテストが行われた。

 

だが…

 

 

「皆さん、こちらに向かって未確認の機動兵器が接近中です!」

「えっ!?」

「イングラム少佐、各機の警戒態勢への移行を推奨します。」

 

 

ロサの言う通り、αのシナリオが始まる。

 

初めましてレビ・トーラー、シャピロ・キーツ、アタッド・シャムラン。

 

 

「私はレビ、レビ・トーラー、ラオデキヤ様直属の戦爵にしてジュデッカを操る者。」

 

 

実際に感じてみたがジュデッカを制御機にしている分、その念は実に厄介だった。

 

クスハとアヤ大尉が不穏な状況で説明していたし。

 

リュウセイとマサキは前の記憶がある分、相手の正体を理解していたので慢心はしていなかった。

 

 

「予定通りにリュウセイ・ダテ、クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールド、ハスミ・クジョウが揃っているようだな。」

「何故、俺達の事をを知っている!」

「我らの偵察部隊から随時お前達の情報は送られている。」

「こちら側の情報が筒抜けだったと言う事か…」

「…(それでも前回よりは情報流出を最小限に抑えているんだよね。」

 

 

今回は蒼い睡蓮が秘密裏に彼らの偵察部隊とされている人員を秘密裏に処分していた。

 

これは悪い意味ではない、寧ろ理不尽に洗脳されている人達を救っていたと言った方が正しい。

 

そのせいか、奴らに入る情報も微々たるものになってしまったのだろう。

 

奴らに入る情報は既に戦闘部隊でも入手出来る代物ばかりだ。

 

それでも相手側に渡ってしまった情報も少なからずあった。

 

あの状況下で私達の情報を入手出来る人はイングラム少佐ただ一人。

 

そのイングラム少佐はシャピロに例の如くその正体を暴かれ。

 

レビはここにおびき寄せられた私達について説明していた。

 

アタッドは地球人と見下しているけど、一応貴方も地球人なのですが?

 

カーウァイお義父さんの状況次第ではアレンジペルソナを永久に表面意識に出て来られない様に始末する。

 

元々、ジェニファー・フォンダの責任じゃないしね。

 

ある程度の説明を語り終えた後、私はレビに問いただした。

 

 

「リュウセイやクスハ達なら話は分かるけど、何故私まで?」

「フ、うまく隠しているのか自覚があるのか判らんが貴様も強念者だ。」

「は?」

「えっ!?」

「何だって!?(やっぱりDG事件の時に感じたあの念は間違いじゃなかったのか!」

「アタシだって信用したくないさね、お前のデータを見る限りレビ様に近い念を所持している以上、放っておく訳にもいかないのさ。」

 

 

おい、無限力。

 

これもお前のシナリオか?

 

だとしても早すぎるだろう。

 

あーこりゃ冥府級説教コース突入するかも。

 

何とか誤魔化す所だけ誤魔化して逃げるしかない。

 

 

「…一つ聞きたい事がある。」

「ん?」

「カーウァイ・ラウを知っているか?」

「…(カーウァイってたしか?」

 

 

今は写真だけでしか見れなくなってしまった義父の面影が脳裏を過ぎった。

 

癖のある教導隊を指揮し私を受け入れてくれたあの優しい手を。

 

だからこそ聞きたかったのかもしれない。

 

その最後を。

 

 

「ああ、捕らえたサンプルにそんな名前の奴がいたねぇ?」

「!」

「随分ともがいてくれたものでさ、加減が出来なかったよ。」

「まさか…」

「アタシが人形として再利用してやったのさ。」

「!?」

 

 

レビに代わりベラベラと話し始めたアタッド。

 

OGシナリオの結末の一つに繋がった瞬間だった。

 

 

「そんなに逢いたいなら逢わせてやるさね…もっとも、お前の様な地球人の事を覚えているかは保証できないけどね?」

 

 

数機のメギロートとゼカリアの混合部隊と共に転移して来たエゼキエル・ラヴァン。

 

通信でその無惨な姿を垣間見る事となった。

 

昔の面影を残したサイボーグ姿でコックピットに鎮座していた。

 

それも原作と違い身体の半分が機械化された姿だった。

 

 

「…」

「カーウァイお義父さん。」

「おい、ハスミ!大丈夫なのか!?(キョウスケ達から聞いていたが、コイツはかなりヤバい状況だぜ。」

「どうするニャ。」

「マサキ。」

「くっ!(下手に動くとこっちの素性も相手にバレちまう。」

「ハスミ!(もしもキョウスケの感が当たっていたのなら…!」

「ハスミ、返事をして!」

「ハスミ!」

 

 

マサキやリュウセイ、クスハ達の声が通信機から何度も響く。

 

私は何をしている?

 

これくらいの動揺で動けないのか?

 

情けなくここで終わるのか?

 

何もせずにただ落とされるのか?

 

答えは否だ!

 

私は約束した!必ず貴方に会うって!

 

そして私達の願いと夢を貫く為に!

 

例え、これが仕組まれた罠だとしても!!

 

 

「…リュウセイ。」

「ハスミ、平気なのか?」

「平気よ、それよりもお義父さんの事は私に任せて貰える?」

「何を!?」

「理由は聞かないで…」

「ハスミ…」

「私は私の戦いを続ける、それが死んだ母さんやカーウァイお義父さん達との約束だから。」

「…分かった、無茶はするなよ。」

「ありがとう。」

 

 

その通信を聞いていたのかイングラムはリュウセイ達にSRXへの合体を指示した。

 

 

「リュウセイ、ライ、アヤ、お前たちはSRXへの合体を始めろ。」

「隊長、しかし!」

「他はSRXの合体が完了するまで援護を…それがこの状況を打開する唯一の方法だ。」

「隊長…」

「…(碌なテストもしない内にパターンOOCを発動とは。」

 

 

前回なら失敗していただろう、だがリュウセイは信じていた必ず成功させてみせると。

 

 

「ライ、アヤ…やってやろうじゃねえか!」

「リュウセイ。」

「リュウ?」

「ここで失敗したとあっちゃあ…俺達にRシリーズをSRXを託してくれた皆に示しがつかねえ!」

「お前に言われるとはな…」

「ライ、リュウ、やりましょう!」

 

 

SRXへの合体陣形へと三機が移動し準備に入った。

 

 

「念動フィールド、オン!」

「トロニウムエンジン、50パーセント限定で稼働!」

「行くぜ!ヴァリアブル・フォーメーション!!(前回の失敗はアヤの念動フィールドへの多大な負荷とトロニウムエンジンの不備が原因だった、それなら!」

 

 

リュウセイは合体シークエンス中に前回の事を振り返り、ある事を思いついた。

 

失敗すれば自身の命も危うい可能性もあった。

 

だが、これから起こる戦いに比べれば些細な事かもしれない。

 

過信か執念か。

 

リュウセイは必ずやり遂げると誓った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

リュウセイ達がエアロゲイターの偵察部隊と交戦を始めた頃。

 

この宙域へ向かって突き進む一筋の光があった。

 

 

「一刻も早く、行かなければ…!」

 

 

紅と白の装甲を纏った騎士は碧色の閃光と共に宙域へ突き進む。

 

それは更なる警鐘を鳴らす事となる。

 

 

=続=

 




痛みをその身に宿す白き騎士。

不完全な念動兵器。

罪を背負いつつも絶望に抗う睡蓮。

全ては交差し奇跡となる。

次回、幻影のエトランゼ・第八話『騎士《テッカマン》後編』

抗え、残酷なる未来を。


<今回の登場人物>

※ロサ
第六話に登場したDGに搭載されたUG細胞の制御AI。
DGと切り離された為、別格となっている。
回収された後、本人の希望でハスミのサポートAIとして生きる事を決める。
GGGから提供された『超AI』の為、いずれは『勇気』に目覚める可能性もある。
外装フレームは1/60スケールのガーリオン。
背部分に装備されたバーストレールガンには麻酔針とスタンガンが仕込まれている。
現在は乗り手の居ないガーリオンCの戦闘AIとして登録されている。

※マサキ・アンドー
魔装機神サイバスターの操者。
ある事情で行方を眩ませているビアン博士達の護衛を務めていた。
現在はノードゥスに合流しAnti・DCの行方を追っている。
過去の記憶を所持しているがとある記憶だけ封印されている。

※レビ・トーラ
エアロゲイターの幹部。
ラオデキヤの名が出ている為、α基準と思われる。

※アタッド・シャムラン
レビの腹心。
数年前に捕虜となったカーウァイに人体改造を施した。

※シャピロ・キーツ
説明不要の裏切りフラグ持ち。
服装はディラド戦のもの。



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第八話 『騎士《テッカマン》後編』

星海を翔ける光。

覆されるシナリオ。

全ては交差し大いなる光となる。

差し伸べよ、己が強き意志を。

睡蓮は闇の物語を解放する。


ハスミ達がエアロゲイターの偵察部隊と交戦を始めたと思われる頃。

 

 

「…」

 

ここマクロスでもエアロゲイターの別動隊によって攻撃を受けていた。

 

しかし、今回は収容されている戦艦から部隊までかつての小戦力ではない。

 

かなりの大部隊となっている。

 

その為、それなりの戦力を相手にしなければならない事は彼らも理解している筈だ。

 

そこまでして自分達に釘付けにする理由を私は理解した。

 

奴らの目的は別行動を行ってるSRXチームと護衛に入ったハスミ達である。

 

敵の狙いがトロニウムエンジン並びに念動力者の確保が目的なら察しがつく。

 

偶然(・・)にも定時偵察に出ていたアクセルとドモンに彼らが向かった宙域へ向かう様に指示し、足の速い戦艦をその後続として向かわせる事が決定した。

 

恐らく数日前より行動を共にしたナデシコと分離型使徒との戦いから参戦したリーンホース・Jrが妥当と思われる。

 

ナデシコのボソンジャンプもしくはリーンホース・jrのビーム・ラムによる突撃離脱の戦法を用いるしかその場を離脱する手段はないだろう。

 

あるいは…

 

いや、余り考えたくないがその方法ではハスミの正体を知られる可能性があるだろう。

 

だが、人の謀が及ばぬ領域の存在ならば話は別だ。

 

無限力。

 

奴らの差し金か。

 

ハスミ、お前の語ったシナリオは早まるかもしれん。

 

私はヴァルシオンの操縦席から義娘達の無事を願うしかなかった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

しくじった。

 

横浜での戦闘、アイドネウス島からオーストラリア大陸への遠征、DG事件と当てはまる限りの無茶振りは私の責任もある。

 

解っていたとは言え…

 

私が強念者である事が知られてしまった。

 

だが、敵の言葉をそう易々と信用する彼らではないと願いたいが今回は違う。

 

記憶を持っていなければ怪しむのはライとアヤ大尉だけだっただろう。

 

だが、記憶を持つリュウセイとマサキなら恐らく感づいてしまっている。

 

もう言い逃れは出来ない。

 

本来なら私が念動力者である事を語るのはもっと先にする予定だったのだ。

 

それが現在の戦闘で見事に崩された。

 

これも無限力の仕込みだろう。

 

おのれ○○め!とナルトとしらたきの様な名前の人の台詞を叫びたくなった。

 

奴らは完全にこの状況を楽しんでいる?

 

いや、秤に賭けているのか?

 

ゲームの様に…

 

 

「…(さてと、どう攻めるか。」

 

 

念の為、現場の指揮権を持つイングラム少佐に進言をし許可を得た上で行動している。

 

しなかったら命令違反で撃たれても可笑しくない。

 

まあ裏切る予定の人の許可を貰っても意味がない様に思えるが裏切りを確定させていないので従うしかない。

 

その当人も私の念の力を見たがっている素振りもあるので遠慮なくやらせて貰う。

 

どの道、この会話は人の影にコソコソ隠れてストーキングよろしくな仮面付けた忍者に筒抜けだし。

 

マクロスの転移後、街中で似合わない色のスーツを着込んで優雅にティータイムを楽しんでいる年齢不詳の能天気紳士も来ているらしいので。

 

問題はクスハとブリッドを守り切れるかだ。

 

αのシナリオならどちらかがエアロゲイターに連れ攫われる可能性がある。

 

それを承知しているのならリュウセイとマサキも動くだろう。

 

なら、私とロサはカーウァイお義父さん…いや、ガルインと共に現れた部隊を退ける。

 

アタッドはマサキ、クスハ、ブリット。

 

レビはリュウセイ達。

 

シャピロはイングラム少佐に任せよう。

 

同時に今後奴らが手出し出来ない方法で行動させてもらう。

 

奴らも『例の存在』と同一の能力を持つ存在達に手出しはしないだろうけどね。

 

この方法は更に二つの組織に私が強念者である事を確定させてしまう上にリスクが高すぎる。

 

あの事を知られるのも早すぎるけど…

 

それでも切り抜ける方法にかけるしかない。

 

 

「ロサ、まずは周囲の雑魚を片付けるよ!」

「了解!」

 

 

こちらの動きに気が付いたのかアタッドの機体がこちらを狙って来た。

 

 

「アタシらを無視する気かい?」

「んな訳ないだろ!」

「っ!?」

 

 

アタッドの機体に張り付いたサイバスター。

 

 

「テメエの相手は俺達だ!」

「このっ…地球人が!」

「…(だから、貴方も地球人ですけど?」

「ハスミ、コイツの相手は俺達で何とかする!」

「俺達の事は気にするな。」

「だから、ハスミはお義父さんを救ってあげて。」

「マサキ…ブリット、クスハ。」

「後で訳は聞かせて貰うからな!」

「ありがとう!」

 

 

私はマサキ達に礼の言葉を告げ、エゼキエル・ラヴァンの部隊に交戦を仕掛けた。

 

 

「…(リュウセイ、後は頼むわ。」

 

 

そして。

 

史実には存在しない未完全な天下無敵のスーパーロボットが誕生した。

 

 

「未完全でも天下無敵のスーパーロボットっ!ここに見参!!」

 

 

SRX(脚部パーツ不足版)の合体に成功したのだ。

 

サルファでも脚部パーツが無くても稼働は可能。

 

しかし、そのエネルギー不足により武装は制限されてしまっている。

 

 

「大尉、無事ですか?」

「ええ、何とか…(それにしても念動フィールドの負荷がいつもより軽いような?」

「リュウセイ、合体は成功したが…一部の武装しか使えんぞ!」

「わ…解ってるって。」

「リュウ、さっきから声が変よ?」

 

 

通信で互いの無事を確認するものの、リュウセイの声に異変を感じ取ったアヤ。

 

 

「だ、大丈夫だって!」

 

 

同じく違和感を感じたライはそれぞれの念動バイタルの画面を確認した。

 

 

「ん?念動フィールド生成の……これはR-1からだと!?」

「リュウ…貴方まさか!?」

「お前、合体のみならず…SRXの念動フィールド生成までしたのか!?」

「ははっ、けど…うまくいっただろ?」

 

 

リュウセイは合体から活動までの念動フィールド生成までも自らの念で補ったのだ。

 

本来ならアヤの念動フィールドでSRXの安定を図る筈だった。

 

以前のリュウセイであればここまでの器用さはない。

 

理由は念の力はその性格から影響する為である。

 

つまり念の力は千差万別、確率の様に何通りもあるのである。

 

現在のリュウセイはいとも簡単にその複雑な念の操作を行っているのだ。

 

更にその念の操作の為に膨大な念の力を要する。

 

だからこそ二人は驚きを隠せなかった。

 

それが現実に行われているのだから。

 

 

「リュウ、どうして…?」

「アヤばっかりに負担はさせられねえって思ってさ、俺にも念動力はあるんだ…助け合えるならするべきだろ?」

「ごめんなさい、リュウ。」

「大尉、泣き言は後です…今は!」

「ええ、解っているわ!」

「わりぃ、ライ。」

「こんな無茶は今回だけにして貰うぞ!」

 

 

リュウセイは思った以上の念の消費に耐えつつも使用可能武装を確認した。

 

R-3のプラスパーツが無い事とEN不足により、テレキネシスミサイル、ブレード・キック、ドミニオン・ボール、天上天下無敵剣が使用不能である。

 

現状ではハイ・フィンガーランチャー、ガウン・ジェノサイダー、ザイン・ナックルが使用可能だった。

 

無茶振り披露合体のツケだろうと攻撃の術が奪われた訳ではなかった。

 

 

「アヤ、さっきの合体でストライク・シールドのパーツが離れちまったけど使えるか?」

「え…使えなくはないけど?」

「リュウセイ、どうする気だ?」

「やられっぱなしじゃ性に合わねえ、相手に一泡吹かせてやるのさ!」

「リュウ…」

「分かった、だが…無茶はこれっきりにして貰うぞ!」

 

 

リュウセイに策がある事を察したライはその言葉を信じ、後押しをした。

 

 

「その程度の念でこのジュデッカを!」

「何がだって!」

「っ!?(何だ?この念は!?」

 

 

SRXから発せられる念にレビは反応し一時的だが怯みを見せた。

 

 

「今のお前には解らないだろう!だがな、俺は必ず真の無敵のスーパーロボットへの合体をやり遂げて見せる!!」

「何をふざけた事を…!」

「解んねえだろうさ!図体ばかりデカいロボットを振り回すしか能がない…お前にはな!(マイ、必ず助けるからな!」

 

 

 

******

 

 

「…」

 

 

フフフ…

 

リュウセイ、お前は俺の予想以上の行動を起こしてくれる。

 

お前ならば魔星の守護者に相応しい。

 

レビ以上の念を引き出し、そして圧倒する意思の力。

 

それがお前の出した答えなのだろう?

 

そして…

 

ハスミ、お前もまた更なる可能性を見出した様だな?

 

いや、元から隠していたらしいが関係ない事だ。

 

レビが使い物にならなくなった場合を含めて新たなジュデッカの操者は必要だろう。

 

その時はお前がジュデッカの人形と成る時だ。

 

 

「…」

「どうした、ここまでか?」

「いや、計画通りだ。」

「?」

「そろそろ次の段階に入らなければならないのでな…」

「ようやく本性を現したか。」

 

 

この男、奴らのエージェントだと聞かされているが…

 

一体何を考えている?

 

得体の知れない男か?

 

いや、底知れぬ何かを感じる。

 

これは陛下にお伝えせねばな。

 

 

「…(忍、この戦いは何処か捻じ曲がっている。」

 

 

シャピロは己の思惑の中でイングラムの印象に違和感を感じ取った。

 

以前、地球連邦軍に属していた頃に出遭った彼とは異なる感覚。

 

それは彼の中にある野性が成せる事なのだろうか?

 

 

******

 

 

「標的確認、攻撃開始。」

「っ!?」

 

 

それぞれの戦いが続く中でハスミはカーウァイを救う為にエゼキエル・ラヴァンと交戦に入った。

 

僚機を数機程撃墜し、残りをロサに任せての行動だった。

 

 

「お義父さん、思い出して!」

「…」

 

 

相手の攻撃を牽制し応戦しつつ何度も説得を続けた。

 

 

「…(やっぱり、向こう側の精神操作が!」

 

 

そしてエゼキエル・ラヴァンが攻撃を近接戦闘へと切り替えた。

 

相手の実体剣を避けるべく、こちらもアサルトツインブレードでその一撃を止めた。

 

刃と刃が火花を散らす時、それは起こった。

 

 

「っ!?(これは!」

 

 

流れ込んできたのはカーウァイそしてガルインの記憶。

 

幼き頃の自身と過ごす記憶と交戦時に被弾し重傷を負った記憶。

 

そして奴らに改造されると言う恐怖の記憶。

 

人形として自らの意思に反した戦いを強いられる記憶。

 

 

「こんなの酷すぎるよ…(解っていたとは言え、これは惨すぎる。」

 

 

サイコメトリーに近い力による他者の記憶の開示。

 

その記憶が一瞬の内に脳裏に焼き付く様に視えたのだ。

 

本来ならば数行程度に記された結末だっただろう。

 

だが、現実にその記憶が呼び起こされたのだ。

 

当時の騒音や叫び声、下手をすれば生々しい惨状と共に。

 

血の臭いと恐怖の声。

 

それらは一瞬の内に人を狂わせるだろう。

 

 

「お義父さん、苦しかったね…辛かったね。」

 

 

私は涙を流すしかなかった。

 

だがその涙は悲しみの為ではない。

 

復讐の為の涙だ。

 

 

「幼き思い出は…真実へと変わる!識れ、玄き闇の物語を!詩れ、残酷な童話を!」

 

 

もう迷わない。

 

この時だけ私は!

 

自分を偽らない!

 

 

「…行こう、ロサ!」

「分かったわ、ハスミ!」

 

 

私はパイロットスーツの首元を緩めるとそのペンダントを外した。

 

黒き物語とその語り手の枷は外されたのだ。

 

 

******

 

 

同時刻。

 

マクロスでは第一種戦闘配備の為に住居ブロックに人気はなかった。

 

しかし、違和感を残す様に白いスーツを纏った男性が喫茶店の一角で冷めてしまった紅茶に口を付けていた。

 

 

「君はどこまで上り詰める気かな?」

 

 

皿に置かれたティーカップの紅茶は静かに揺れる。

 

 

「僕もご挨拶位はしておこうかな。」

 

 

 

更に同時刻。

 

地球の一角にある南国の島では。

 

夜を迎えた月夜に島に建築された城のエントランスから宇宙を眺める学生服を纏った青年と控える様に独特の羽根団扇を持った男性の姿があった。

 

 

「どうやら姿を見せた様だね。」

「どうなされますか?」

「アルベルトには連絡を送って置いた、後はマスク・ザ・レッドだけど…彼は木星の近海に居るしね。」

「では、残りの十傑集に収集を?」

「そうだよ、彼らや君の力を取り戻す為にね?」

「畏まりました。」

「…(ハスミ、いずれ君に会いに行くよ。」

 

 

新たなシナリオが刻み始めた瞬間でもあった。

 

 

******

 

 

「はぁ、はぁっ!」

 

 

久しぶりの感覚だね。

 

この念の力、抑え込まれた分だけ溢れかえるよ。

 

力が有り余る感覚。

 

だけど、飲まれるな、溺れるな。

 

与えられた力は己の為にあり他者を守る為のものである。

 

大丈夫、行ける。

 

 

「ロサ、モードの活動限界時間は?」

「約五分、それ以上は…」

「それだけあれば十分よ。」

 

 

放出される念によって弾き飛ばされるエゼキエル・ラヴァン。

 

そして周囲のT-LINKシステム搭載機に余波は届いた。

 

 

「!?(この念はハスミなのか?」

「ひゃっ!?」

「ぐうっ!」

「この念は…!?」

 

 

怒りと憎しみを通り越して救いたいと願う意思と復讐の念が周囲に広がった。

 

 

「この念をあの機体か…!」

「このっ地球人が!」

 

 

念の発生した機体を索敵したアタッドはマサキ達の攻撃を潜り抜けハスミの元へ向かって来た。

 

 

「お前か!」

「…」

「なっ!?」

 

 

瞬時にカナフ・スレイブによる先制攻撃で逃げ場を失わせたと確信した。

 

だが、それはものの数秒で崩れ去った。

 

周囲に展開したカナフ・スレイブは全て撃破され、搭乗している機体の片腕、片足を切断されたのだ。

 

 

「そんな…アタシがこんな奴に後れを!」

「貴方の十八番は封じたわ、まさか同じ事が出来る奴がいないとでも思った?」

「お前っ!」

「…見下すのも大概にして貰おうか?」

 

 

私はアタッドの機体の残された腕と足、スラスターの部分を斬り裂いた。

 

私にしてはかなり低ボイスな罵りだったと思う。

 

だが、カーウァイお義父さんが味わった恐怖に比べれは優しい方だ。

 

 

「一体何処の誰が自分達が最強と決めつけた?」

「っ!?」

「地球には『窮鼠猫を噛む』って言葉の揶揄があるけど…それが今の現状だよ?」

「お前は一体…」

「貴方は噛みつかれた猫…私は噛みつくんじゃなくて。」

 

 

『喰い千切る方だからw』と語った後、出来る限りの苦痛と恐怖をアタッドの機体に与えた。

 

ロサには四肢を切断しコックピットブロックだけ残ったエゼキエル・ラヴァンの牽引して貰っていたが。

 

全てがうまくいく訳ではなかった。

 

突然のイングラムの裏切りによりアヤ大尉の不調。

 

そして彼らの軍門に下る様にリュウセイと私に勧誘する言葉。

 

勿論、御断り申し上げた。

 

流石のリュウセイもアヤ大尉を不要と語ったイングラムの声に切れてR-GUNを破壊した。

 

しかし、イングラムは機体から脱出し原作と同様に後続で現れたエアロゲイターの部隊に救助されてしまった。

 

しかし、世界は新たなシナリオの啓示を示した。

 

見慣れない謎の未確認生物。

 

宇宙怪獣とも違う感じにその場に居た誰もが驚くしかなかった。

 

そうラダムの襲来だ。

 

だが、その集団を追って現れた白と紅の騎士と蒼き地球を意味する航宙機。

 

人型にして人間サイズの騎士達は瞬く間にラダムを蹴散らして行った。

 

 

「行くぞ、シンヤ!」

「OKだよ、兄さん!」

 

 

「「ダブルッ!!ボルッテッッカァアア!!」」

 

 

ブレードのボルテッカとエビルのPSYボルテッカ。

 

エビルのボルテッカを吸収するPSYボルテッカに力を添える事で技の威力を上乗せし敵に放ったのだ。

 

 

贖罪の紅と断罪の碧が重なり。

 

二つの力を束ねて一つとなる。

 

周囲に点在していたラダム獣とエアロゲイターの部隊を巻き込み。

 

フェルミオンの光の中でその残影は消えて行った。

 

 

「くっ!この場を退くぞ!」

「わ、解りました。」

「…(ハスミ・クジョウ、貴様もサンプルとして申し分ない…いずれはリュウセイと共に。」

 

 

不利と悟ったのかレビ達はエアロゲイターの残存部隊を率いて撤退した。

 

 

「…」

「兄さん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。(次は月、か。」

 

 

二人の騎士は藍色の海に漂いながら己の罪を再確認した。

 

この身に宿った力と暗黒の星海に置き去りにしてしまった家族への懺悔。

 

そして新たな戦乱を呼び込んでしまう事に。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

地球人の修羅場による念の胎動。

 

そして危険視していたラダムの襲撃によって撤退を余儀なくされたエアロゲイター。

 

いや、ゼ・バルマリィ帝国の偵察部隊はその経緯を総司令へと申告した。

 

そして偵察に赴いたレビ以上の念能力者が二人も出現した事はこちら側にとって朗報であり深刻な状況だろう。

 

だが、総司令は強敵との遭遇にうっすらと笑みを浮かべていた。

 

そして隣でその経緯を聞いていた仮面の男。

 

ユーゼス・ゴッツォは仮面の裏からある思惑を駆け巡らせていた。

 

 

「…(あの者、そしてアシュラヤーの目覚めはハトハラーの時である、か。」

 

 

そしてユーゼスは仮面の裏から笑みを浮かべた。

 

 

「…(ならば手に入れよう、その力を私の求めた答えを識る者を。」

 

 

思惑を新たに彼は野望の一手へと模索し始めたのである。

 

 

******

 

 

その後。

 

エアロゲイターの幹部クラスと交戦を繰り広げた私達はナデシコとリーンホース・Jrによって救助された。

 

緊張の糸が切れたのかリュウセイは念の使い過ぎでコックピットにて気絶しアヤ大尉はイングラムの言葉で錯乱した為、鎮静剤を打たれて同じくメディカルルーム行きとなった。

 

クスハとブリットも念の為、メディカルルーム行きとなった。

 

ライはイングラムの一件で一時拘束され、マサキはギリアム少佐に連行されていった。

 

私はテンペスト少佐と隊長達にカーウァイお義父さんが生きていた事を話した。

 

動揺はしていたものの念で確認したから確実であると説明したら信じて貰えた。

 

そして新たに現れた騎士達はスペースナイツと呼ばれ、偶然にもマクロスに乗艦していた責任者から照会が取れたのでその正体は私の念とイングラムの一件を説明する為に後日となった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ハガネ内のメディカルルームにて。

 

 

「これから兄さん達がこちらに来る。」

「何で急に?」

「恐らくお前が無茶をした例の件についてだろう。」

 

 

真面目な表情で忠告をしたライ。

 

 

「いいか、絶対にエルザム兄さん達を怒らせるなよ。」

「な、何だよいきなり?」

「俺は忠告したぞ?」

 

 

しかし、リュウセイには?マークの為にイマイチ読み込めず仕舞いである。

 

しっかりとリュウセイに忠告をしたライはそのままメディカルルームを後にした。

 

そして入れ替わりにエルザムとギリアムの両名が室内に入室して来た。

 

 

「リュウセイ曹長、話し合いを始めようか?」

「安心してくれ、悪い様にはしないよ?」

 

 

二人の背後に地獄の番犬と呼ばれる犬人間と小さな一つ目魔法使いを肩に乗せた死神の姿がぼんやりと見えていた。

 

 

「…(そう言う事は判りやすく言ってくれよ、ライっ!!!」

 

 

リュウセイはこの場を持ってライの意味を知った。

 

そして。

 

燃え尽きた表情で魂が抜けかかっているリュウセイをラトゥーニがメディカルルームで発見するのは約三時間後の事である。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その頃。

 

人気のない格納庫にて。

 

 

「ハスミちゃん。」

「紅葉さん?」

「蒼い睡蓮から貴方宛によ。」

 

 

ナデシコクルーの七枝紅葉は待ち合わせていたハスミにディスクを手渡した。

 

 

「どうも。」

「一応言うけど、無茶もほどほどになさいね?」

「解っています…そちらは?」

「黒い王子様は貴方の言う通り記憶を持っているわ。」

「やはりですか。」

 

 

他愛のない会話、紅葉は普段のヘラヘラな表情を変えて語った。

 

 

「所で…いつまでこの茶番を続ける気?」

「彼らはまだ『真化』への道に立っただけ、まだ続ける必要がある。」

「全く、いつになったら『巫女』としての自覚を持ってくれるのかしらね?」

「おやおや、『護行柱』の一角が嫌味?」

「別にそう言う訳じゃないわよ、兄さんや他の三人は兎も角…貴方が言う様にシナリオが加速しているのなら予定を早めた方が良いってアタシが思っただけよ。」

「予定は現状維持のまま、動きを見せる訳には行かないわ。」

「また『無限力』のせい?」

「ええ、あの陰険で強引で我が儘で傲慢で…性根のひん曲がった意識集合体のせいでどれだけシナリオの修正に手間取ったか。」

「ちょっと、真っ黒いわよ。」

 

 

ハスミの醸し出す黒のオーラにツッコミを入れる紅葉。

 

 

「そう言う訳で貴方には火星ルートの監視役として行ってもらいます。」

「は?」

「この後、この部隊は二手に分かれて火星と月・地球のどちらかに向かう事になります。」

「何でよ?」

「火星でちょっとした動きもありますからその牽制です。」

「成程ね、所で何でアタシが火星に行くのが決定済みな訳?」

「ナデシコが再度火星に向かうからです。」

「…そう言う事なら仕方がないわね。」

「私の所属部隊がどちらに配属されるかは現状では不明なので今後次第です。」

「ふうん…事によっては『紅扇』を動かす事になるけどいいかしら?」

「構わないわ、ただ素性は明かさない事を約束して。」

「了解したわ、巫女様。」

「様は止めて。(これで更なるシナリオが加速する。」

 

 

=続=




睡蓮の目覚め。

重なる白と紅の騎士。

語られるは悲劇の始まり。

そして新たな可能性。

絶対なる悪の使者の脅威。

次回、幻影のエトランゼ・第八.五話『解想《カイソウ》』

望まぬ結末を誰が受け入れるものか。


<今回の登場人物>

※相羽タカヤ
テッカマンブレードに変身する青年。
アルゴス号におけるラダム襲撃事件の生き残りの一人。
周囲には上記の事があり二つ名のDボゥイ(デンジャラス・ボゥイの略)と呼ばれる事となる。
記憶保持者だが、思い出したのはラダム襲撃の最中との事。

※相羽シンヤ
テッカマンエビルに変身する青年。
相羽タカヤの双子の弟。
同じくアルゴス号におけるラダム襲撃事件の生き残りの一人。
もう一人のDボゥイ(デストロイド・ボゥイの略)。
記憶保持者でDボゥイと同時期に思い出す。
色々とあって過去のしがらみは拭い去ったとの事。

※如月アキ
ブルーアース号のサブパイロット。
前回と同様にD兄弟の兄の方に恋い焦がれる。

※ノアル・ベルース
ブルーアース号のパイロット。
Dボゥイ達の二つ名の命名者。

※ミレッタ・ルルージュ
ミリィと言う愛称で呼ばれるオペレーター
マクロスに乗り合わせていたスペースナイツの一員。

※ハインリッヒ・フォン・フリーマン
外宇宙開発機構の創設者であるがEOT機関に出向中にマクロスの転移に巻き込まれ同乗していた。
別行動中だったブルーアース号のメンバーとDボゥイ達の身柄について説明した。


※ハスミ・クジョウ
今回の一件で自身が強念者である事が発覚。
その件に関しては次回へと続く。
そしてその思念の叫びはBF団、バラルに自身が強念者である事を発覚させてしまう結果となった。

※七枝紅葉
ハスミとの密会で彼が『護行柱』の一角と話しているが?

※リュウセイ・ダテ
SRXの合体に成功させるが、それは自身の念動力も使用してアヤの念動フィールドの形成をも自身が行うと言う荒行を見せた。
しかし、念動力の使い過ぎで病室送りとなる。

※ビッグファイア
BF団を統べる存在。
ハスミの念を感じ取り動きを見せる。

※孫光龍
バラルを預かる強念者。
ハスミの念を感じ取り動きを見せる。

※ユーゼス・ゴッゾォ
ゼ・バルマリィ帝国・帝国監察軍第七艦隊の副司令官。
野心に満ちた性格は相変わらずであるが今回は決定的に何か違う様子を見せている。
総司令官であるラオデキヤと共にヴィレッタの報告でハスミの存在を知る。
最後に『アシュラヤーの目覚めはハトハラーの時である、か…』の言葉を残している。


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第八.五話 『解想《カイソウ》』

暗黒の宇宙より帰還した者。

語られるは悲劇と奇跡。

奇異な記憶の覚醒のルーツは何を意味するのか?

その一端が明かされる。

睡蓮は母との遺言を語る。



数日後、リュウセイの念は回復したもののアヤ大尉の錯乱症状からの昏睡は今だ続いていた。

 

現在もアヤ大尉は念の力に不調を見せていた為、メディカルルームから出て来る事はなかった。

 

念動力に関してはケンゾウ博士の元で治療する必要があるとの事でSRXチームは地球帰還後は伊豆基地へ単身戻る事が決定した。

 

そしてリュウセイとライの二名はイングラム少佐の裏切りもあり、現在も独房へ入れられている。

 

元々SRX計画はイングラム少佐が関わっていた為、何処までエアロゲイターに情報が漏れているか不明だった。

 

リュウセイ達に何らかの暗示操作も行われている可能性も捨てきれないとの事でしばらくは戦闘に参加する事は出来ないだろう。

 

肝心のRシリーズも前回の戦闘で無理をした為に修理されないまま現在も凍結されている。

 

そして他のT-LINKシステム搭載機はRシリーズとの関係を否定されたので凍結措置はされなかったのは救いだっただろう。

 

イングラムによって私やクスハ達を含めた念の力も持つ者はマークされていた事が判明した。

 

ダンガイオーチームのミア・アリス達やひびき洸など他の念に関連した能力を持つ者達もである。

 

疑う者達を納得させる為に全員が検査を受け、全員シロで会った事が検査結果で判明されたので事なきを得た。

 

 

そして…

 

 

*******

 

 

「ハスミ、貴方の念の測定値なのだけど…」

「…」

「測定値を超えた念を検出したわ。」

「やはりですか。」

 

 

私だけメディカルルームの検査室でラーダさんから検査を受けていた。

 

前回の戦闘で私から膨大な念の波動を感知した為である。

 

あの戦闘の後、リュウセイ達の拘束のドサクサでペンダントを没収されてしまったのだ。

 

未だ返却すらして貰っていない。

 

 

「話して貰えるかしら?」

「…」

「勿論、話せない理由があるなら私からは何も聞かないわ。」

「ラーダさん。」

「貴方にも話せない理由があったのでしょう?」

 

 

貴方にもと言う言葉に私はラーダさんの過去を思い出した。

 

彼女もまたその能力によって被検体として扱われていた時期があった事を。

 

そしてその後の悲しい別れも。

 

 

「私は…絶対に話してはいけないと死んだ母の言葉を守っていました。」

「ハスミのお母様の?」

「はい、母はずっと死ぬ間際まで私の事を守ろうとしました。」

「…」

「そして…」

 

 

私は『信頼に至る人物が現れるまで何があろうともその力の事は口外してはならない。』と答えた。

 

 

「その信頼に至る人物と言うのは?」

「今だ、見つかっていません。」

「そう。」

 

 

私が口外するに至る人物に貴方達は出会っていない。

 

だからこそ貴方達にとっては見つかっていないが正解にあたる。

 

あの人の正体をまだ語る訳には行かない。

 

名前だけで気付く人物もこの部隊には存在しているから。

 

本当に屁理屈と言葉の理、言葉遊びは便利である。

 

言い方を変えればその意味は千差万別と様々な意味に置き換わる。

 

私は仲間すら欺いている。

 

だけど、その仲間すら危険に晒す訳には行かない。

 

例え、裏切る形になったとしても私はやり遂げなければならない。

 

そうでしょう、ケイロン。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

それから数時間後、イングラム少佐の裏切り、私の念、そしてスペースナイツの参戦についての説明が行われた。

 

イングラム少佐の裏切りはαとOG基準で誰もが疑心暗鬼になっていた。

 

元々、感情をさらけ出す様な人ではなかったのでその印象は人それぞれだろう。

 

元々史実では出会う事の無かった人達の印象は何処か複雑だった。

 

なお、私の念については所持していたペンダントが念を抑える特殊な作用を持っていたのではなく、死亡した母親からの遺言が強力な暗示となって念の力を押さえ付けていたと言う話をラーダさんが説明した事で終わった。

 

私が前回の戦闘でその暗示を断ち切った事で発動した。

 

その為、今まで低の低として見られていた念の素養は一気に跳ね上がったとだけ説明された。

 

ちなみに返却されたペンダントは私以外が使用する事は出来ないので、ただの装飾品と思って貰えた。

 

とりあえず、窮地に立たされる事だけは避けられた。

 

そして問題のスペースナイツであるが…

 

外宇宙開発機構の創設者であるハインリッヒ・フォン・フリーマン氏より大まかな説明された。

 

数か月前に外宇宙調査に旅立ったアルゴス号とシグナライト号の二隻がある宙域で行方が途絶えた。

 

その二隻の内の一つであるアルゴス号が謎の宇宙船と接触し調査に当たった。

 

しかし、そこに居たのは寄生生物ラダムと呼ばれる外宇宙生命体だった。

 

彼らは何も知らずに乗艦してしまったアルゴス号の乗組員を襲い、瞬く間に制圧してしまったとの事。

 

僚艦であるシグナライト号だけは逃がしたもののシグナライト号は敵の攻撃で航行不能なったばかりか偶然発生したブラックホールに飲み込まれてしまい、その消息は途絶えてしまったとの事だった。

 

そしてアルゴス号の乗組員は寄生生物ラダムによって彼らにとって都合の良い素体にする為、改造されてしまった。

 

だが、その急激な身体改造に耐えきれる筈もなく乗員の95%近くが死亡した。

 

残されたのはここに居るDボゥイ達二名と他数名だったとの事。

 

しかし、奇跡が起こった。

 

同じ様に身体改造に耐えきれず排除された乗組員の一人であり、今回の外宇宙探査の計画の立案者でもある相羽孝三博士によって二人が囚われていたブロックを破壊し逃がしたそうだ。

 

偶々、二人だけは別ブロックで洗脳されないまま身体改造を終えて奴らの道具にされるのを待つばかりだった。

 

そして二人が居たブロックは切り離しが可能だった為に博士は最後の力を振り絞って二人の居たブロックを切り離して逃がした。

 

博士はブロックの切り離す為に爆発に巻き込まれ消えて行った。

 

その爆発のせいで奴らの宇宙船は航行不能となり追撃を免れたそうだ。

 

二人は当てもなく宇宙を彷徨う事になった。

 

そしてここで問題なのが…

 

 

「二人を救助したのがあのブルーロータスの仲間だった事だ。」

 

 

彼らは宇宙を彷徨っている中でブルーロータスが所属する組織のエージェントに救出され、そこで治療を受けていた。

 

その組織の名は『ホルトゥス』と呼ばれ、ラテン語で庭園を意味する。

 

ホルトゥスの実働部隊である『庭師』達によって発見され救助されたのだ。

 

そして研究部隊である『園芸家』達により治療と研究が進められ、二か月前に治療を終えて地球圏へ戻る算段だった。

 

彼らは地球を敷いては世界を救う手助けになる事を願い、無償で二人の立て直しを支援してくれたのだ。

 

そして木星軌道上で彼らの部隊と別れ、地球へ向かう最中にスペースナイツ所属のブルーアース号と接触しそのまま協力する形となったとの事。

 

地球に帰還しなかったのは調査対象の追跡中、つまりラダムの先遣隊を追撃していた為であった。

 

そして二か月後の今回で冥王星に飛ばされてしまったマクロスと接触するに至ったという訳である。

 

そしてホルトゥスに接触した二人からある事を告げられた。

 

 

「ホルトゥスが俺達を発見できたのは彼らのメンバーに先視と呼ばれる予知能力者がいた為だと話を聞いた。」

「僕らの乗っていたブロックは推進装置や救難信号を発信する装置も故障していて、発見されたのが奇跡的…正直生きた心地がしなかったよ。」

 

 

その言葉は驚愕を与えた。

 

ブルーロータスの奇跡は予知による先視。

 

それだけであれだけの奇跡が起こせたのだ。

 

だが、先視だけではない。

 

ブルーロータスの独自の戦略と戦術、そして今だ姿を見せない彼らの戦力によるものも含まれると思う。

 

 

「だが、ブルーロータスは自身がホルトゥスの取締役ではないと語っていた。」

「そうそう、確か…上に組織を運営する元締めが居るって話していたよね?」

「その存在が先視の能力を持った人物と協力体制にあるとだけ知る事が出来た。」

「後は知る必要のない事って言われてバッサリお断りされちゃったけどね。」

 

 

二人が手に入れる事が出来た情報はここまでであり、彼らと協力体制になる存在は今だ不明のままとなった。

 

例の火星で地獄を見せたマジンガーの様な機体、各地で活動する機動兵器の謎もまた不明のまま…

 

話は終わりを告げた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ハガネ艦内のハスミの部屋にて。

 

私は長い尋問と始末書の束を片付け終え、自室で一息を入れていた。

 

そして蒼い睡蓮の情報を開示した所、更にややこしい事が起こっている事が判明した。

 

 

「またややこしい事に…」

 

 

折角入れたコーヒーの味が不味くなりそうな勢いである。

 

もうミルクココアを入れてカフェモカに味換えでもしようか。

 

 

「無事に地球圏に戻れたのはいいけど、ここまで厄介な事になっているとはね。」

「何があったの?」

「予想はしていたけど、こちらの読み違いでラダムの侵入を許してしまったのよ。」

「だが、お前の話していたオービタルリングには何の損傷も見られないが?」

 

 

同じくロサとテンペスト少佐もまたこの自室で今後の事を検討する為に集まっていた。

 

ここ暫くはシュバルツさんの監視が激しいのであの人の偵察任務が重なる時間に合わせて行っていたのだ。

 

 

「アイドネウス島でのゼントラーディ偵察部隊が現れた時、奴らの機体や戦艦に張り付いていたんです。」

「!?」

「何だか虫みたいです。」

「ロサ、ラダムの習性としては寄生虫の一種に変わりないんだけど…」

 

 

ロサの天然発言に一応ツッコミを入れるハスミ。

 

 

「規模はどの位なんだ?」

「数体程度ですが、既に奴らは行動を開始し…各地へラダム樹として地中に埋まってしまっています。」

「それが向こう側からの連絡か?」

「はい、ホルトゥスが奴らの同行を捜索していますが…これも無限力の差し金の為に監視に留めています。」

「手が出せないと言う訳か…」

「恐らくはラダム樹の開花は奴らのシナリオの一つとして定めされていると見ていいでしょう。」

「…」

「本題は、地球圏と火星での戦況変化です。」

 

 

私達が地球から離れて二カ月と数週間近く経った。

 

そしてその戦況は一変し再び複雑な分布に変異していた。

 

月では例のアイドネウス島での任務後、新たな敵が襲来していた。

 

ガルファである、奴らの襲来は半年後と予想をしていたのだが余りにも早期に飛来したのである。

 

そして同盟を結んでいるグランダーク一味、ギャンドラー、ガイスターズ、機械化帝国などの機械化同盟で構成されている。

 

その為、月の半分は奴らの侵略領域へと変貌してしまったのだ。

 

現在も月の駐留部隊が応戦し何とか食い止めているが時間の問題だろう。

 

マスドライバーを占拠したジオンとギガノスの混成部隊は早期に撤退、理由とすればギガノスの大将であるギルドールが自軍の士官に暗殺されたのだ。

 

その為にギガノスでの内部抗争に発展してしまったのだ。

 

しかも原作では月にギガノスの拠点が存在した筈なのだが、どう言う訳は無くなっているらしい。

 

やはり月は様々な勢力が点在している為か、現在の月が軍事拠点に向かないと思ったのだろうか?

 

ここからは展開が読めるのであえて何も言いません。

 

今の所、月面都市フォン・ブラウンやセレネシティ、そしてヒュッケバイン系統の製造を行っているマオ・インダストリー社の安否が気になる。

 

月の地中で籠城しているフューリーが現時点でどう動くかは不明であるが、自分達の平穏を脅かすのであれば動くだろう。

 

なお、同じ月面都市であるグラナダは既に機械化同盟に占拠されてしまった為にジオンも更なる戦力低下の首締め原因となっている。

 

何となくメガノイドらが機械化同盟と手を組むと思っていたが…

 

やってくれちゃいました、破嵐万丈さん。

 

同世代とは言え、末恐ろしい。

 

やっぱり最強裸族な竜の星座は伊達じゃない?

 

どうやったら、たった一人でメガノイドを壊滅に追い殺れるのですか?

 

αでも度肝を抜かされましたが、本当に完全無欠の超人と言うキャッチコピーは伊達ではない。

 

本当に眼玉ドコーです。

 

その為、火星のメガノイド勢の戦力が激減し衰退中との事だそうです。

 

そこで逆に戦略的陣地を拡大しつつあるのが異星人連合と木連である。

 

地球側のマーズクレイドルも防戦の一方であったが、火星へダイモビックと大空魔竜が援軍として向かったのである。

 

本来ならばあの某野菜人の様な髪型の人に邪魔をされそうであるが、ご本人は例のダカールでの一件で今も塀の向こうでお勤め中である。

 

蒼い睡蓮も火星に秘密裏に援軍を送ったそうなのでとりあえずは事なきを得ている。

 

これが今の月と火星の現状である。

 

地球でもザンスカールによる地球を洗浄するとかの物騒な作戦を行おうとしているので、そろそろ『正義の味方』のご登場を迎えるとしましょうかの予定だ。

 

ドレイク軍も地上から更なる勇士を募って戦力増強を行っている様だし。

 

沈黙を貫いているOZの方もそろそろご対面の予定もあるだろう。

 

こちらは竜宮島メンバーにも動いてもらう算段でいる。

 

さてと、無限力とやら…

 

ここまでド派手な事をしてくれたのだから、その下剋上の凄まじさを見せてあげましょう。

 

私とてここまでやられて黙っているつもりはないのでね。

 

前回のドサクサでガルインを奪い返された怨みもあるので。

 

 

「何だかハスミ…怒ってる?」

「ロサ、あれは寧ろ…怨念と言った方が正しい。」

「?」

 

=続=




新たなる試練と新たなる戦い。

月の女神の聖地は焦土と化す。

二対の鷹は女神を守る為に羽ばたき。

呼応する竜の騎士と宇宙の騎士。

次回、幻影のエトランゼ・第九話『月廻《ツキメグリ》』

月の元へ騎士達よ集結せよ。


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第九話 『月廻《ツキメグリ》前編』

二人の騎士が語った生存の真実。

新たな可能性と脅威。

月での思惑。

月の戦場は近く遠いのか?


漸く地球に帰還する予定だったが、私達の部隊へ月の駐留部隊の危機を知らされる。

 

それと同時に火星のマーズクレイドルより救援要請も受けていた。

 

そこで部隊を二つに分けて行動する事となった。

 

月へはUCガンダム勢、Gガンダム組、スペースナイツ、ドラグナートリオ、ハガネ、クロガネ、ゲッターチーム、国際警察機構。

 

火星へはナデシコ、マジンガーチーム、ザンボットチーム、超電磁チーム、エルシャンク、ライディーンチーム、リガ・ミリティア、ダンガイオーチーム、オーラバトラー組、EVA組、ヒリュウ改。

 

と言う配置になった。

 

月ルート組は月の駐留部隊と合流予定なので火星組の配置が多いのはこの為である。

 

マクロスとSDF部隊はアイドネウス島や地球帰還道中で保護したコロニーからの避難民の関係もあり、暫く別行動となった。

 

地球に帰還するまでに起こった小競り合いで合流したイサムさん達は別として、ちゃっかりマクロスに紛れ込んでいたヒイロ達がどう動くかは不明である。

 

取り敢えず、OZの裏工作は何とか食い止める予定だが…

 

暴走カトル君になる事が無いように祈りたい。

 

ちなみにゼントラーディのブリダイさんの所の艦隊に捕まった時に興味深いヒソヒソ話を聞く事が出来た。

 

まさか彼らも自分達の言葉を瞬時に解読可能な地球人がその場に居るとは思わなかっただろう。

 

前世のネットサーフィン癖かつ中毒マニアのアニメ言語解読サイトを閲覧しといて良かったわ。

 

ちなみにグ〇ンギ語の解説とかもあったね。

 

彼らの話から察するにザールやガルラの単語を聞くこととなった。

 

この宇宙に『古の獅子達は集う』だろうか?

 

イバリューダーは既にWシナリオフラグが経ってしまったのでいずれは太陽系へと訪れるだろう。

 

味方が増えるのは結構だが、STMCの様に敵が沸いて来るのはご遠慮願いたい。

 

寧ろ願い下げである。

 

さて本題の話を戻そう。

 

火星組は向こう側での戦況が落ち着き次第、ボソンジャンプで地球に戻る予定。

 

こちらもどうにかして月の敵戦力を叩く予定だ。

 

個人的には勇気ある子ども達に余計な負担を掛けさせたくない。

 

そう言えばBF団って月面にも基地を持っていた筈だけど、どうなる事やら。

 

まあ、鉢合わせだけはしたくないです。

 

 

******

 

 

地球、火星の近海に到達する数日前。

ここマクロス艦内のとある一室にて。

 

 

「見事に別れたな。」

 

 

クワトロの言葉を皮切りに過去の記憶を所持する者達が集結していた。

 

DG事件後に起こったいくつかの騒動により数名の記憶保持者達と再会。

 

それによって様々な情報を得る事となった。

 

彼の発言は今回の部隊編成の決定に関しての物である。

 

 

「どちらにしてもバラケた方が双方の戦いに介入しやすいと思うぞ?」

「それもそうだな。」

 

 

アムロもまた今回の部隊編成に異存はない事を話した。

 

 

「それにしてもこんなに記憶を持った人達が現れるなんて…」

「不思議と言えば不思議なんだよね。」

「あの…」

「そっか、シンジ君は昔の俺の事を知らないから慣れないよね。」

「ごめんなさい。」

「いいよ、あの時の俺は復讐に囚われていたからね。」

 

 

EVA初号機のパイロットである碇シンジとナデシコのコック兼パイロットのテンカワ・アキトの二人が話していた。

 

ちなみにシンジがアキトに違和感を持つのはMXシナリオの一件である。

 

二人が接点を持っているのはそのシナリオと遥か遠き銀河の海を航海する物語だけである。

 

 

「二人のおかげで新たな情報を得る事が出来た、感謝している。」

「いえ、ほとんどは共通している情報が多いですし…」

「だが、我々が介入していない記憶もあるだろう?」

「それもこの世界で通用するか判りません。」

「それにしてもあの二つの企業が隠れ蓑と言うのは驚いたけど…」

「僕も最初は目を疑いましたけど、あの戦いでは関係を持っていた企業でした。」

 

 

シンジの記憶に残る並行世界からの侵略者との戦い、それによる新たな管理世界の想像。

 

その言葉にアクセルはシャドウミラーと同じ思想の持つ者かと思ったが…

 

それよりもタチが悪い相手だったとシンジの話から理解した。

 

ナノマシン制御による人類統一。

 

あるべき感情を失った人間と徹底管理された希望も絶望もない世界。

 

それは人間が求める世界ではない。

 

その管理者ともいえるセントラルと三つ巴戦の相手がGreAT社である。

 

GreAT社とJUDAコーポレーション。

 

表向きは複合企業と最先端治療を受け持つ医療メーカー。

 

しかしその裏では双方共に高性能の機動兵器を所有する組織だった。

 

地球圏で『加藤機関』と名乗っている義勇組織もJUDAコーポレーションと接点を持っている。

 

そしてGreAT社は現時点で機動兵器の保有をしていないもののいずれは何かの形で姿を見せるだろうと彼らも危険視していた。

 

 

「…(それでもあの人は最後に間違った正義を押し付けた自分の行いを悔やんでいた。」

 

 

シンジは結局は戦う事でしか解り合えなかったあの人の事を思い出した。

 

 

「…(だから、僕はもう間違った選択はしないよ…カヲル君。」

 

 

そしていずれ出会うであろう彼との和解を望んでいた。

 

 

「…(ガイ達も無事に助け出す事が出来た、今度こそ俺も間違った選択はするつもりはない。」

 

 

いずれ黒衣の亡霊として動く未来が待っているアキトもまた別の未来を模索していた。

 

 

「…」

「どうした、シンヤ?」

「何て言うか、兄さんの仲間って不思議な人達が多いなって。」

「半分以上は俺も初対面だ、ドモン達が信頼出来ると話すのなら信頼してもいいだろう?」

「そうだね、ラダムに寄生された僕らをこうも受け入れてくれたのだからね。」

 

 

二つの記憶でラダムに寄生され機動部隊とノイ・ヴェルターに敵対していたシンヤことテッカマンエビル。

 

今回は異なる方法で早期にラダムより脱した為に本来迎えるべき未来が変わってしまったのである。

 

これからはラダムの操り人形ではなく本当の正義の味方と言う位置で戦う事となったのだ。

 

 

「Dボゥイ、お前達がラダムから脱した話を詳しく聞きたい。」

「俺も気になっていたんだ。」

「そうだな、俺も正直…今回の事には驚いている。」

 

 

Dボゥイはドモン達顔見知りからの提案を受け入れ、自分達の救出された経緯を詳しく語った。

 

 

******

 

 

Dボゥイ達がホルトゥスの実働部隊『庭師』達によって救出された後。

 

寄生されたラダム摘出とその後の治療は困難を極めた。

 

地球側で成長したラダム樹と違い、原生型のラダム樹は扱いを間違えると寄生された生命体を死に追いやる可能性があるからである。

 

地球で成長したラダム樹は地球に存在する生命体に合わせてその生体構造も変化している。

 

その為、このラダム樹に取り込まれた地球人は何の障害もなくテッカマンの素体である素体テッカマンに変異する事が可能なのである。

 

しかし、Dボゥイ達アルゴス号の乗組員の場合は違う。

 

アルゴス号が接触したラダム樹は原生型の為、生命体への安全性が極めて低い。

 

その為、取り込まれた生命体が素体テッカマンとして完成するのはほんの一握りなのだ。

 

原生型は言わば寄生する生命体の安全性が欠けたテッカマン製造機である。

 

彼らが寄生した生物と同じ生命体を発見した場合の言わば研究室のモルモットと同じ扱いだったのだ。

 

成功しようが失敗しようがラダムにとっては関係ない。

 

自分達にとって優秀な鎧が出来上がればいい。

 

そんな考えを持った連中なのだ。

 

つまりアルゴス号の乗組員はラダムの生存の為の人体実験に巻き込まれた最初の被害者なのだ。

 

そこを留意しておきたい。

 

話を戻そう。

 

以上の点からDボゥイ達を原生型ラダム樹から切り離す事は危険と判断したホルトゥスの研究部隊『園芸家』達は彼らが完全なテッカマンとして完成されるまで見守るしかなかったのだ。

 

彼らの生命維持を第一に取り込まれていたDボゥイ達の了承を得て行われた。

 

そしてラダム樹から排出された後、彼らからラダム獣の摘出手術が行われた。

 

しかし、ラダム樹から解放された彼らは予定通り暴走。

 

実働部隊『庭師』の『地獄』と『聖女』達の尽力により休眠状態に持ち込んだ。

 

その後、脳幹に寄生されたラダムは破棄。

 

完全型テッカマンと化した彼らの生体治療へと切り替えられた。

 

その為、過去のDボゥイが抱えていた欠点である変身後の理性を保てる30分までのタイムリミットが無くなった。

 

この30分タイムリミットの関係でテッカマンブレードは不完全なテッカマンとなっていた。

 

こうして『園芸家』達の治療もあって無事に生還する事が出来た。

 

朗報として彼らの研究と治療の結果により更なる変化であるブラスター化が生命危機の危険性もなく発現可能となったのだ。

 

現在ブレード、エビルの双方のブラスター化が解除されていないが、後々可能となる日は近いだろう。

 

 

「そう言う訳だ。」

「暴走状態のお前達を抑え込むとは中々のやり手だな。」

「ドモンと似た様な戦闘力を持った人達も居たんだ…」

「ドモンさん…確か、たった三人で科学要塞島を無力化してましたよね?」

「ガンダムファイターなら、あんなものモノの数に入らないだろう?」

 

 

その場に居たUCガンダム組は遠い眼をしながらドモンの発言をスルーしていた。

 

ちなみに科学要塞島の件を知らないDボゥイ達は顔を合わせて?を浮かべている次第である。

 

 

「ドモン…自分を基準に話すな、Dボゥイ達がカルチャーショックを起こしているぞ。」

「キョウスケ、寧ろ現実逃避しているアムロ大尉達の方が心配だぜ?」

「こりゃ完全にショック状態だな…」

 

 

キョウスケの発言に続き、マサキとジョウが感想を述べていた。

 

話はさておき。

 

 

「キョウスケ、リュウセイ達の謹慎はまだ解けないのか?」

「ああ、しばらくはあのままだ。」

「今回はかなり謹慎措置が長いんですね。」

「俺達の居た世界もそうだったがSRXの件でかなり上が騒いでいたからな。」

「ま、リュウセイがこの場に居たらDボゥイ達がオタク被害を被っていただろうし今はいいんじゃないか?」

 

 

マサキの発言にキョウスケはその時の状況を想像すると頭を抱えてしまった。

 

 

「所でマサキ、ハスミの事だが…」

「それなんだけどさ、ギリアム少佐に制止されちまった。」

「どういう事だ?」

「多分、念動力の事と誤解されちまったと思う。」

「要は判らず仕舞いか?」

「悪い、何とか話を聞こうと思ったけどさ…親父さんの事もあったしあんまり聞ける様な状態じゃなかった。」

「接触したガルインが彼女の前の義父親だった事か…」

「俺達は兎も角、アイツは知っていたのか判らないけどよ…あの驚き様は芝居って訳じゃなさそうだった。」

「つまりハスミは『記憶所持者』ではなくシャイン王女と同じ『未来予知』、もしくは『念による高度な危険察知能力』の類だったのか?」

「リュウセイ曹長が居れば彼女の念動力の力量を確認出来たのだが…」

「シュバルツ、貴方の方はどうだっただろうか?」

「こちらも探りを入れたがその様な素振りはなかった、寧ろ我々の動きを察知しているかの様に尻尾を掴ませていない。」

「彼女は教導隊と言うサラブレット達の中で成長した仔馬だ、それなりに事を動かす才覚を持っているのかもしれん。」

「シュバルツ程の忍を欺くとなると十傑集クラスの猛者と認識せざる負えないが…」

「いずれにしろ、彼女の行動は今後も調べる必要はあるだろう。」

 

 

進展のないまま、彼らは次の月での戦闘の作戦会議を始めた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

火星ルートへ向かう部隊と別れ、私達の部隊は無事に月面都市フォン・ブラウンへと入港。

 

艦長達は月司令部と今後の作戦についての会合へと向かい、私達は待機となった。

 

だが、必ず連絡が付くことを条件に月面都市内部に行く事を許可された。

 

戦闘前の息抜きと言った所だろう。

 

ウラキ少尉とガトー少佐が二人で隠れるようにダウンタウン方面へと出て行ったのを見かけた。

 

失われた世界から宜しくの某グラサン&モヒカンネタで某木○洋画劇場な展開でもする気だろうか?

 

おまけに何でも商品として売り出す移動式店舗を所持する某セクシーな店長を思い出したわ。

 

うん、思い出すとキリが無いから止めよう。

 

私はティアリー博士に例の機能のバージョンアップと武装の解凍をお願いしたので、そのお礼に月面都市限定のコスメを購入していた。

 

意外とね、化粧品ってお金も掛かりますし減りも激しいものなのです。

 

リョウト達はマオ社へ出向。

 

恐らくヒュッケバイン系とグルンガスト系の話だろう。

 

SRXチームの一件もあったので念入りに調査と整備が必要と思われる。

 

例のR-GUNは回収されマオ社にて封印される事となったし。

 

現在もT-LINKシステム搭載機は集中メンテを行っており、次の戦闘で使用できる様に整備を進めている。

 

そろそろ追加武装でも欲しい位だ。

 

αシナリオでは計都瞬獄剣とGインパクトキャノンが追加装備として後付けされていたが、前回も話した通り技術関連で動きがあった為にあの幕張事件の最初から既に装備されていた。

 

となると、この戦いでの後継機オチは打ち止めだろうか?

 

OGシナリオの介入ならインスペクター事件で参式やmk-Ⅲが参入していた。

 

私が現在搭乗しているガーリオンCもINシナリオのガーバインに乗り換えになる可能性も捨てきれない。

 

それに更なる敵勢力も侵攻を開始しているので戦力増強もかねて参式やmk-Ⅲ辺りは参入を果たして貰いたい。

 

超機人達はBF団や早期に目覚めてしまったバラルの追撃もあるので下手に手を出す事は出来ない。

 

寧ろ、さっさと手に入れた方がよくない?と言う言葉が脳裏に浮かんだ。

 

そうしたいのは山々だがリュウセイ達の一件でクスハ達の念が安定しない事もある。

 

今の状況で接触をさせるのは危険すぎるので却下。

 

まあ…αシナリオなら八人の誰かが操者に選ばれるだろうが、この先は彼ら次第なので余り口出しをするつもりはない。

 

私はクスハ達を信じたいから手を貸さずに事を構えるのだ。

 

結末を知る一人として必然シナリオを覆す事は出来ない。

 

出来るとすれば災厄の結末から少し道を逸らす程度だ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

艦長達が会合から戻り、そのまま作戦会議に移行。

 

月の駐留艦隊司令より月における絶対防衛戦線の奪還と敵の戦力を削減する作戦が決定した。

 

本来ならばここで敵本拠地を叩きたい所であるが地球と火星の防衛にも戦力を割っている為にそこまでに持っていく事は出来ない状況だ。

 

戦略バランスを崩せばどうなるか解っているからこその判断だろう。

 

タカ派共の動きを鈍らせると本当にやりやすいものである。

 

そしてこの展開も予想はしていました。

 

 

「久しぶりだな、ケーン・ワカバ。」

「アンタはマイヨ・プラート…!」

 

 

ジオン・ギガノスの混成軍から投降して来たマイヨ・プラートと彼の部下達。

 

連邦軍は彼らからギルドール暗殺の一報を受ける事となった。

 

そしてその主犯として汚名を着せられてしまったマイヨはギルドール派の士官達を集めて亡命してきたのである。

 

以前、京都で行われた和平会談の際も木連の工作員によって阻まれてしまい和平の道は閉ざされてしまった。

 

この時、蒼い睡蓮が動かなかったのは訳がある。

 

和平に応じてもその内部に残る腐敗の膿を取り除かなければ意味がないと…

 

その為、犠牲者を最小限にしつつ和平会談を失敗させていたのだ。

 

傍から見ればいい迷惑であるが、後々にこれが不幸な結果を招く。

 

だからこそ蒼い睡蓮は『滅亡』を意味するのだ。

 

『滅亡』には『滅亡』を。

 

和平の時期が早すぎたものや遅すぎたものを見定め、行使する。

 

既にこちら側に転移したシャドウミラーが後々行動を起こす際に接触する可能性のある組織を徐々に壊滅させていた。

 

地球内の小競り合いを早々に終わらせる為に。

 

そしていずれ戦うべき相手との接触に備えての事だった。

 

 

「アンタのして来た事を許すつもりもねえが、今はアテにさせて貰うぜ。」

「よろしく頼む。」

 

 

とりあえずは上々かな。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

月の半分を侵略された為、連邦軍は月の絶対防衛戦線を敷く。

 

その絶対防衛戦線の奪還と均衡を保つのが今回の目的である。

 

既に月機動艦隊、月面基地からの勇士達、月に点在する企業からのバックアップにより準備が進められている。

 

その中で興味深い名前を聞く事となった。

 

 

「栄光の星の乙女、月の女神が愛した鷹、白き山猫か…」

 

 

地球連邦軍戦技研究班グローリー・スター。

 

エンデュミオンの鷹。

 

ホワイト・リンクス。

 

 

「シナリオは変異し新たな物語を刻む、それは世界が求めた事かな?」

 

 

ハスミは出撃直前のガーリオンC・タイプTの中で呟く。

 

 

「ケイロン、ようやく『悲しみの乙女』と出会えそうだよ。」

 

 

そう、神に抗う為のシナリオが刻み始めた瞬間だった。

 

 

=続=

 

 




月の戦域。

そして現れる機械仕掛けの道化達。

竜の騎士よ、星の騎士よ、二対の鷹よ、乙女よ、山猫よ、睡蓮よ、妖精よ、踊れ、踊れ。

黒き物語を語れ。


次回、幻影のエトランゼ・第九話 『月廻《ツキメグリ》中編』

踊れ機械仕掛けの道化よ、己の所業を悔い改めよ。


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第九話 『月廻《ツキメグリ》中編』

月の聖地を脅かす者よ。

二対の鷹がそれを拒み。

竜の騎士と宇宙の騎士が月の舞台を駆け巡る。

さあ、機械仕掛けの道化達よ踊り狂え。

薔薇の妖精は妖艶に微笑む。

睡蓮よ、己の枷を解き放ち、刃の花弁で切り刻め。


眼を背けるつもりはない。

 

私は戦う。

 

その先の未来を勝ち取る為に。

 

 

******

 

 

「…(予想通りの展開かな?」

 

 

作戦開始から一時間が経過した。

 

万全の用意を整えた私達ノードゥスが奇襲役を務め、月駐留部隊が絶対防衛戦線に侵攻し戦線を掌握する。

 

それが今回の目的である。

 

敵はそれを察したのか部隊を派遣し応戦を開始した。

 

相手は小回りの利く機体ばかりではない、火力重視のスーパー系である。

 

「…(ギャンドラーは兎も角、ガルファは重機士クラスが出撃していない所を見るとまだ偵察部隊規模か?」

 

その部隊に見覚えのある敵が混じっているが落ち着いて行けばやられる事は無い。

 

隊長クラスがまだ出撃していないのが幸いだった。

 

だが、敵側の戦線維持が困難になった頃合いでもある。

 

今こそ痺れを切らせて出て来るだろう。

 

その時が狙い眼である。

 

先に機械化城を目視したメンバーの映像を見ると電球のオブジェが確認出来た。

 

恐らく現在の城の主は電気王。

 

そして、この前線の司令官なのだろう。

 

電気王の戦闘パターンは前任の歯車王よりシンプルだ。

 

歯車王が狡猾かつ知略に長けた指揮官であれば、電気王はその逆である。

 

姑息な手を使わず、力押しによる圧倒的な戦力を投入し続けるだろう。

 

DG事件以降後に地球侵略を開始したらしいが…

 

侵略行為も儘ならず、かなりの失態を侵しているのでそろそろ奴にとっては大詰めだろう。

 

 

「麗しきは戦の花か…」

 

 

つい、鼓舞する為に口ずさんでしまう。

 

蒼き翼を持つ少女の歌を。

 

写し取った姿が若干似ている為かどうしてもこの癖も治らないのだ。

 

 

「戦い護る為の歌も…いいよね。」

 

 

いずれ出会うだろう熱き魂の歌を歌う歌い手達の姿を思い出しながら。

 

私は戦闘に集中した。

 

 

******

 

 

「Dボゥイ、ぺガスの調子はどう?」

「悪くない。」

「そりゃそうさ、文句を言えばおやっさんとレビンにどやされちまうぜ?」

「フッ、そうだな。」

 

 

ブルーアース号よりアキの通信を受けたブレード。

 

現在ブレードは月支部で開発していた新装備と共に戦場を駆け巡っていた。

 

その名もぺガス。

 

地球圏に戻ったDボゥイ達はノードゥスに所属した事により、彼らが戦う相手はラダムだけではなくなった。

 

代償として様々な敵勢力と戦う事になってしまう選択でもあったのだ。

 

その為、今後予測される戦いに備えてとあるプランが発案された。

 

戦力増強をかねてスペースナイツで稼働していた人型作業ロボットを改修した結果。

 

このぺガスが誕生した。

 

史実とは違い、かなり早い登場であるがDボゥイ達の進言が関わっていると言う真実を知るのはフリーマン氏のみである。

 

 

「僕らの武装はエネルギー消費が激しいからね、これはありがたいよ。」

「ああ、それに答える為にも奴らを蹴散らすぞ!」

「OKだよ、兄さん!」

 

 

そして更に物語は変異し、この場に居る天馬は一機だけではない。

 

 

「エクレス、僕らも続くよ!」

「ラーサ。」

 

 

紅と白の騎士は機械仕掛けの天馬と共に戦場を駆け抜けた。

 

 

******

 

 

その頃、機械化城では…

 

 

「くっ、地球人共め!」

 

 

機械化城の玉座の間で悪態をついているのはこの城の主である電気王である。

 

依然として地球侵略が遅々として進まず、占拠地である月の掌握に力を注いでいた。

 

しかし、地球人の戦力を甘く見ていた為かこの様な醜態を晒す事になってしまったのである。

 

現在、月の防衛戦線の維持の為に部隊を投入していたのだが…

 

 

「この隙を突いてあ奴らの侵入を許すとは…おのれっ!!」

「電気王様、緊急事態です!」

 

 

玉座の間に入室する部下の機械兵。

 

人であるならば表情などから焦りなどが確認出来るが、この機械兵には表情を変えると言う精密性はないので声の状況で判断するしかないだろう。

 

しかしその声で緊急を要する事であるのは電気王でも理解する事は可能だった。

 

 

「今度は何だ!」

「何者かにより我々が掌握していたマスドライバー施設が先ほど制圧されました。」

「何だと…!?」

「一瞬の事でした、次の地球制圧作戦の為に整備を進めておりましたが…」

 

 

機械兵によるとマスドライバー施設のメインコンピューターが何者かに掌握されたと説明した。

 

その時、制御区画の画面には渦巻きが描かれた二つのレンズが接続された奇妙なマークと余りにも気色の悪い声が響いたとの事だった。

 

そしてその声の主から電気王に伝言が言い渡された。

 

 

『ク~ックックック、オタクらさ~自分達が優位に立ったのに一瞬の内に崩された気分はどう?』

 

 

発現から察するに嫌味めいた声で挑発を繰り返していた。

 

 

『ちなみにこの音声は録画されたものだからそちらさんが何を言ってもこっちは痛くも痒くもないんで~♪』

 

 

口癖なのかク~ックックと言う声を何度も発言。

 

 

『悪いけど、このマスドライバーはオレ達『ホルトゥス』が乗っ取らせて貰ったぜ。』

 

 

声の主の音声メッセージの後、施設に侵入していた謎の生物に機械化帝国の駐留部隊を全滅させられてしまったのだ。

 

残された部下の映像から重火器を操る赤い何かと嫉妬タラタラの黒い物体、高速で動く蒼い存在、ビームサーベルで落書きの様な切り跡を付ける緑のアホによって部隊は壊滅したらしい。

 

最後に『ゲロゲロゲロ~♪』と言う謎の声を最後に通信は途絶。

 

マスドライバー施設は掌握されたとの事だった。

 

 

「以上です。」

「…!」

 

 

怒りに任せて部下の頭を握り潰し、その残骸を隅に放り投げた。

 

部下は火花を散らし機能停止。

 

電気王は再び前線の映像が映し出されたメイン画面に体を向き直した。

 

そして電気王は覚悟を決めねばならなかった。

 

前任の歯車王の失墜させた事で手に入れた地位であったが…

 

それ以上の醜態を晒した電気王に次はない。

 

恐らくは本星から後任のエンジン王が派遣されている頃だろう。

 

 

「かくなる上は…」

 

 

電気王は苦肉の策として愛機と同化し最終決戦に挑む事を決めた。

 

それが自らの命を縮める事になろうとも…

 

 

******

 

 

奪還作戦決行から数時間前。

 

地球・極東方面地球防衛軍日本支部において…

 

 

『急な通信で申し訳ない、私の名はブルーロータス…率直ではあるが貴方達に伝えねばならない情報がある。』

 

 

地球防衛軍に送られた一つのメッセージ。

 

それは戦局を左右する情報でもあった。

 

ブルーロータスからの情報によると地球連邦軍月面駐留部隊と特殊独立遊撃部隊『ノードゥス』による月面の絶対防衛戦線の奪還作戦を行うと言うものであった。

 

それも今から数時間後と言うお墨付きである。

 

敵勢力による月の掌握は地球のオービタルリング制圧の足掛かりにさせてしまう危険性があった為、前々から重要視されてきた案件でもあった。

 

連邦軍も眼を光らせていたが、何分敵の戦力図が不明だった為に中々手が出せずにいたのだ。

 

もしも月が掌握されオービタルリングを制圧された場合、地球上における重要拠点を一斉に制圧する事が可能だからである。

 

オービタルリングは宇宙港だけではなくコロニーへの物資輸送や地球圏における防衛装置の役割も担っている。

 

上記の事から地球圏の人類にとって重要拠点である為、一年戦争の頃に置いてはその管理を地球防衛軍が行っていた。

 

理由とすれば連邦軍とジオン、その後に現れたザンスカール、クロスボーンバンガードなどの戦争に利用されるのを防ぐ為でもある。

 

もしも連邦軍の管轄だった場合、一部の強硬派による被害は計り知れなかった。

 

その為、オービタルリングは地球防衛軍の管轄並びに人類間の戦争による強制的な利用は一切行わないと言う約定が取り決められたのである。

 

しかしその約定から数日後、例のマクロス落下を期に休戦協定が結ばれた為に七年経った今では忘れ去られているのが現状である。

 

話を戻そう。

 

地球防衛軍に与えられた情報は彼らと協力関係を持つGGG(ガッツィー・ジオイド・ガード)の傘下に収まっているザウラーズにとって重要な案件であった。

 

 

<貴方達が敵対している機械化帝国を連邦軍が眼を惹き付けている、もしも先手を打つなら今しかない。>

 

 

要約するとこの様なメッセージである。

 

勿論、彼らには宇宙へ移動する手段は持ち合わせている。

 

ノードゥスが冥王星へ飛ばされてから一週間後。

 

彼らの協力関係であるVARSの本拠地が襲撃されたのである。

 

その最中に彼女らの切り札の一つである『移動要塞モビィ・ディック』を起動させ壊滅は免れた。

 

しかし、強力な戦力を保有している事が露見してしまい一時期は接収の危機もあったが…

 

表向きは地球防衛軍の保有する移動戦艦と言う建前で事無きを得たのである。

 

GGGが大きく動けない現状で稼働する事が可能な移動要塞はその一隻のみ。

 

元々、月の機械化城や月の位相空間に隠れているグランダーク城への決戦が近かった事もある。

 

その為、地球防衛軍はGGGを経由しブルーロータスの提案を承諾。

 

急ぎ、早期決戦に向けて動き出したのである。

 

地球の守りは各地の地球連邦軍や協力関係にある民間の研究機関、秘密裏に動いているホルトゥスが眼を光らせているのでそう易々と占領される危険性はないだろう。

 

賽は投げられた。

 

後は流れるままに事が進むのを待つばかりである。

 

 

******

 

 

時は戻り。

 

月の絶対防衛戦線奪還作戦開始から数時間後。

 

 

「どうやら敵さんも切羽詰まったみたいね。」

「ああ、例のマスドライバー施設を解放しに行った部隊の話では既に敵の姿が無かったらしい。」

「あら、また睡蓮さんの仕業かしら?」

「かもしれん、確証はないがな。」

 

 

進撃を続けるノードゥス。

 

乱戦の中でエクセレンとキョウスケは変化しつつある戦場に違和感を感じていた。

 

 

「…(アムロ大尉の言う通り、セツコ・オハラ曹長とカルヴィナ・クーランジュ少尉に接触を果たしたが双方共に記憶がなかった。」

 

 

後のZ事変の立役者の一人であるセツコ・オハラ。

 

フューリーとの激戦に置いて共に戦ったカルヴィナ・クーランジュ。

 

二人に簡易的な接触を果たしたが記憶を取り戻した気配はなかったのだ。

 

一例としてカルヴィナ少尉の前でドモンとDボゥイの会話を見せる事で過去の記憶を持つのか?と確認したが…

 

その表情を確認したが特に反応はなかった。

 

記憶を取り戻すにしても何かの法則性があるのか現在でも不明のままである。

 

結局は無駄骨となってしまったが今後も二人の事はマークする必要があるだろう。

 

一方でマスドライバー施設への奇襲作戦に参加していたモビルアーマー部隊からは『エンデュミオンの鷹』の不満の声が拾えた。

 

 

『俺達の苦労は一体…』

 

 

先程も説明した通り、奇襲には成功したものの掌握する予定の施設がもぬけの殻だったのだ。

 

何者かと争った形跡と睡蓮のマークが残されていた事からホルトゥスの仕業ではないかと噂になっている。

 

その為、マスドライバー施設の確保は事無く終わってしまった。

 

モビルアーマー部隊はそのまま待機となりマスドライバー施設の警戒を続けている。

 

だが、その施設を眺める様に謎のMSが一機その様子を伺っていたのは誰も知らない。

 

 

『キョウスケ少尉。』

「隊長、どうされました?」

『先程月面駐留部隊からの通信で絶対防衛戦線の奪還が完了したそうだ。』

「わぉ、じゃ私達は?」

『このまま敵勢力を拠点まで追い詰める。』

「ですが、この戦力では…」

『それだが、地球防衛軍が敵勢力の拠点に奇襲を仕掛けているそうだ。』

「!?」

『どうやら制圧相手の敵勢力は防衛軍の追っている敵勢力の一つらしい。』

「つまり共闘と言う訳ですか?」

『いや、殿は彼らの方で俺達の任務は彼らの進む道を作る事だ。』

「成程ね、それじゃあ花道を作りに行きましょうか?」

「ああ。」

 

 

 

変異する物語の対峙は交差しつつあるのだろうか…

 

 

=続=




絆の戦士達は勇者の進む道を切り開く。

次回、幻影のエトランゼ第九話『月廻《ツキメグリ》後編』

歩め、その先の未来を勝ち取る為に。



<今回の登場人物>

※エクレス
テッカマンブレード支援機ぺガスの兄弟機。
早期にラダムから脱したテッカマンエビルの支援機として導入された。
カラーリングは彼の装甲と同じ黒をベースとしている。
武装はぺガスと同じであるが、捕縛用のアンカーが取り付けられている。
名称はペガサスの兄弟馬エクレウスより。

※???
ホルトゥスが秘匿する技術で作成されたMSサイズの機体。
今回はその一機をブルーロータスが搭乗している。


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第九話 『月廻《ツキメグリ》後編』

可能性の物語は更に変異する。

終わりは始まり。

始まりは終わり。

いや、新たなる戦いの始まりなのかもしれない。

今はただ…

この奇跡を受け入れよう。


月の絶対防衛戦線奪還作戦開始直後。

 

月へ向かう一隻の移動要塞の姿があった。

 

それは優美な白い鯨を想像させるフォルムだろう。

 

これは私設防衛組織VARSが所有する移動要塞モビィ・ディックである。

 

月での早期決戦に向けて出港。

 

そこで待ち受けるのはそれぞれの因縁。

 

若しくは新たな戦いの始まりなのかもしれない。

 

そんな予期せぬ物語の変異に誰が気付くだろうか?

 

いずれにしても勇者達は平和の為に戦場へ向かうのだ。

 

 

*******

 

 

「…」

「お姉様、どうしました?」

「ちょっと気になる事があってね。」

「あのブルーロータスの事ですか?」

「まさしくそれよ、あの人には随分と助けられているけど…余りにも都合が良過ぎない?」

「そうですね、正体不明のハッカー若しくは情報屋…表と裏の世界でも噂の存在ですからね。」

「悪い人ではなさそうだけど、何か裏がありそうでね。」

「考え過ぎじゃないですか?」

「だと良いけど。」

 

 

モビィ・ディックのブリッジにて二人の女性が会話を行っていた。

 

一人は黒い長髪の姉御肌の女性、もう一人はお嬢様な雰囲気を醸し出す女性。

 

前者はこの私設防衛組織VARSの司令官である芹沢愛美。

 

後者は同組織のオペレーターの椎名ひろみ。

 

二人は極東エリア大手の複合企業の一つC-Naゼネラルカンパニーのトップエンジニアと社長令嬢と言う間柄である。

 

だが、VARSでは司令官とオペレーターと立ち位置がコロコロ変わっている。

 

そんな些細な事は二人には関係ない。

 

ただ慕われる者と慕う者が一緒に居るだけの事である。

 

話を戻そう。

 

彼女達も地球引いては平和の為に戦い護る事を決めた人々の一人でもあった。

 

しかし原作の彼女達のご時世であれば何の問題も無かっただろう。

 

この世界ではそんな願いでさえも陰謀の材料に代わってしまうのだから。

 

かつての様な甘い考えは出来ない。

 

 

「愛美さん、目的のエリアまで到達しました。」

「判ったわ、全戦闘要員に出撃準備を急がせて!」

「了解しました。」

 

 

******

 

 

その頃、モビィ・ディック艦内。

 

 

「…」

「瞬兵、どうしたんだ?」

「洋?」

 

 

艦内に設けられた一室にて戦闘要員であり、VARE司令官の弟でもある芹沢瞬兵は考え事に耽っていた。

 

それを察したのか彼に話しかける親友の坂下洋。

 

彼もまた変異した結末と余りにも早すぎる決戦にどことなく違和感を感じているのだ。

 

だが、瞬兵が気にしている事はそれだけではなかった。

 

 

「アスタルと話した事、覚えてる?」

「ああ、例の事か?」

「うん、この戦いが終わっても次の戦いが待ち受けているって話。」

「俺達がグランダークやバルドーを倒しても更に新たな戦いが待っている…だろ?」

「僕達が覚えている所はそこまでだったし…」

「そうだな、今回は俺とスペリオンがセルツに乗っ取られる事が無かったせいか…瞬兵はキリコさん、クリンさん、ジョルディ王子に会う事がなかったのもある。」

「バーンも何かしらのズレが生じているんじゃないかって前に言ってたよね?」

 

 

そう答えると瞬兵の羽織っているジャケットの中から現れるバーンと呼ばれた青い玩具サイズのロボット。

 

 

「ああ、恐らくは過去の記憶を頼りに今まで起こるべき事象を変化させたせいだろう。」

「そうだよね…」

「戦いの中でキリコ達と出会う事が無かったのも瞬兵自身が知るべき事を理解している為に大いなる意思アスタルは必要がないと思われたのだろう。」

「僕にとってはキリコさん達に会える事が大事だったんだけど…」

「何かの縁があれば、いずれ会えるだろう。」

「その時は戦いの最中と言う事もあるかもしれんがな。」

 

 

同じ様に洋のパーカーから出て来た赤い玩具サイズのロボット。

 

 

「スペリオン、もしかしてバルドーとの戦いの時かもしれないって事なのか?」

「ああ、記憶が確かならキリコ達と出会ったのもその頃だった筈だ。」

「うん、あの時に皆より出会ったのが僕が最初だったもんね。」

 

 

何か察したのか二人のロボットは進言した。

 

 

「その話は無事に戻ってからする事だ、奴の気配が迫っている。」

「そうだな。」

 

 

それと同時に艦内放送で出撃要請のアナウンスが放送された。

 

 

「瞬兵、まずはグランダークとの決戦だ。」

「うん。(シズマさん待ってて、必ず助けて見せるから!」

 

 

******

 

 

同時刻、月面機械化城周辺。

 

ブルーロータスからの情報で地球防衛軍の一軍が機械化城へ進撃を開始。

 

その進撃ルートを確保するのがノードゥスに与えられた命令であった。

 

地球防衛軍は機械化城の破壊並びに同盟を結んでいる背後組織の壊滅。

 

月面駐留部隊とノードゥスはその進撃ルートの確保と追撃部隊との戦闘。

 

これがブルーロータスの出した提案である。

 

どちらにしても双方に利点がある作戦として各上層部はこれを承認。

 

要はギブ&テイクの方式である。

 

地球防衛軍には決戦兵器が揃っていた事もあり、前者の作戦。

 

ノードゥスは部隊を半分に分けてしまった為にそれなりの戦力はあるものの決戦に挑む事は危険と判断し後者の作戦。

 

前回の説明も含めた結果、どちらも重要な作戦である為にこの様な配置になったのである。

 

 

「…(とは、言ったもの…機械化城の兵力に加えて更にグランダーク城の兵力まで投入するとはね。」

 

 

乱戦が続く中、機械化城の兵力を叩いて城内へと下がらせた。

 

だが、援軍を送るかの様にグランダーク城の兵力が出現したのである。

 

なお、連邦軍は彼らを総称してナイトメアを呼称している。

 

 

『ハスミ、状況は!』

「こちら敵勢力の隊長クラス二機と交戦中!」

 

 

隊長であるゼンガーからの通信でハスミは状況を説明。

 

援軍として現れた恐竜型ロボと戦闘中だった。

 

なお、キョウスケとエクセレン、アクセルは赤と青の巨大ロボットと交戦中。

 

クスハとブリッドも他の雑兵らしき機体と交戦中の為、援護に周れないのである。

 

 

「このメカ共、すばっしこい上に攻撃が全然当たらねえ!」

「プテラ、プテラ。」

「戦闘中に何だ、サンダー!」

「あの子、可愛い。」

「はぁ!?」

「俺、あの子捕まえる!」

「待て、サンダー!?」

 

 

紫色のプテラノドン型ロボットのプテラガイスト、青いブラキオサウルス型ロボットのサンダーガイストのペアは現在、ハスミとロサのペアと交戦中だった。

 

 

「ハスミ、何だかあの青いロボット…」

「ええ、聞こえてたわ…早速だけどお仕置きと行きましょうか?」

「う、うん。」

「私の妹分に手を出すとどうなるか思い知りなさい!」

 

 

ハスミは武装をストライク・アキュリスに切り替え、攻撃を再開する。

 

ロサはミサイルコンテナから追尾ミサイルを発射し後方援護へと回る。

 

 

「ハスミ、右から敵の反応!」

「っ!?」

 

 

更なる敵の出現。

 

姿から察するに二機の仲間達であろう。

 

 

「遅せえぞ、てめえら!!」

「へっ、たかが二機程度で手間取ってる奴に言われたかねえがな!」

「てめえこそ、さっきまでモニタールームでごろ寝しながら胡坐掻いて居やがった癖に!」

「そーそー。」

「うっ、うるせえ!!」

「だから言ったのに…」

 

 

オレンジ色のトリケラトプス型ロボットのホーンガイストとミリタリーグリーン色のステゴサウルス型ロボットのアーマーガイストの出現と同時に痴話喧嘩を開始。

 

その様子を見ていたハスミとロサは余りの呆気なさに唖然としていた。

 

 

「あら、ここであの懐かしいネタなのね。」

「えっ?」

「兎も角、四機を相手にするのは得策じゃないわね。」

 

 

宇宙海賊ガイスターズ、首領ダイノガイストが認める四機の将。

 

問題はあの四機に合体機能が備わっていると言う事だ。

 

マッドガイストは兎も角、プテダーとホーマーに合体させられたらこちらの火力不足で手に負えない。

 

キョウスケ少尉達はドライアス傘下の起動兵器であるソドム、ゴモラと交戦中だし。

 

クスハ達はオーボス配下のレッドロン部隊のメカと交戦。

 

ゼンガー隊長は何の因果かデビルサターン6とディオンドラと交戦中。

 

他も母艦防衛をしつつ交戦中、助けを期待する事は出来ない。

 

 

「…(長期戦を想定していたとは言え、もう弾数も残り少ない。」

「ハスミ。」

「ロサ、ダークテイルモードを使用するわよ。」

「了解です!」

 

 

ハスミは解除コードを発声しようとしたが、何者かに遮られてしまう。

 

 

「幼き思い出は…」

「その必要はないよ、ハスミ君。」

「えっ!?」

 

 

現れたのはかつて退けた筈の起動兵器。

 

ジャイアントロボの兄弟機、GR2である。

 

 

「久しぶりだね、ハスミ君。」

「貴方は…BF団十結集が一人、眩惑のセルバンデス!?」

「おや、覚えていてくれたのかい?」

「何故貴方が?貴方達の狙いは大作君とジャイアントロボの筈!?」

「ちょっとした用事ついでに君を助けに来た。」

「どういう事ですか?」

「前にも話した筈だよ、君の御爺様に助けられたと?」

「…」

「信用して貰うつもりはない、敵である私にはそんな資格はないからね。」

「解りました、今はそのお手をお借りします。」

「ハスミ。」

「…(残念だけど、今の戦力だけでガイスターズやGR2を相手にする事は出来ない。」

「賢明な判断だよ。」

 

 

そもそも、宇宙空間で平然と素のままで出ている貴方を相手にしたくもありませんので。

 

ビッグファイアの御蔭ですか?

 

相変わらず破天荒な設定ですよね。

 

第一、国際警察機構の極東支部襲撃で死亡する筈だった貴方が生き残ったのも何かの縁でしょうし。

 

今はただこの奇跡に感謝します。

 

 

「大作君、聞こえる?」

『ハスミさん、どうしましたか?』

「実は…」

 

 

念の為、艦長達と隊長、大作君に連絡を取って今の状況を説明。

 

余り納得はしていないものの現状ではどうにもならないので様子見となった。

 

 

『バンデスおじさん。』

「懐かしい呼び方だね、大作君。」

『僕は何故貴方が味方をしたのか判りませんが…悪い様には思えなかったので。』

「君にだけは教えてあげよう、これはビッグファイアのご意思だよ。」

『えっ?』

「アシュラヤーが目覚めた今、更なる危険性の排除が命令として下されたのだよ。」

『アシュラヤー?』

「アシュラヤーは君達のすぐ傍で見守っている、それが善であるが悪であるかは君達が決める事だ。」

『どういう事ですか!』

「それ以上は私も知らない事だ、だが…いずれ君達は知る事になるとだけ伝えておこう。」

 

 

セルバンデスはアシュラヤーの情報を大作に話すと通信を切り、戦闘を開始した。

 

 

******

 

 

別の戦線にて。

 

 

「ガトー、またせたな。」

「ケリィ!」

「踏ん切りがつかなかったが、今の状況を軽んじる程…俺は落ちてはいないぞ。」

「いや、待っていたぞ。」

「ケリィさん。」

「ウラキとか言ったな、ガトーが認めた男ならまだ戦えるな!」

「勿論です。」

「まあ、“待たせる”のが旨いのはガトーの方なんだがな。」

「何の話だ?」

「細かい事は気にするな。」

「はぁ?」

 

 

マスドライバー施設を掌握した月面駐留部隊であったが、漁夫の利を得ようとラダムの先遣部隊が襲撃を開始。

 

モビルアーマー部隊が応戦に入ったが、たった一体のテッカマンによってその守備は崩されそうになっていた。

 

 

「やはり貴様か、テッカマンダガー!」

「ふん、裏切り者のブレードとエビル…よもや生きていたとは。」

「色々とあってね。」

「だが、ラダムを裏切った者には死を!それがオメガ様のご命令だ。」

「!?」

「ダガーの奴、マスドライバーにラダム獣を寄生させただと!?」

「エビル、マスドライバーの方を頼む。」

「了解したよ、兄さん。」

 

 

連絡を受けて現場に急行したスペースナイツとドラグナーチーム。

 

ブレードはラダム獣を指揮するテッカマンダガーを。

 

エビルはマスドライバーに寄生したラダム獣を。

 

ドラグナーチームはモビルアーマー部隊と共に周辺に展開したラダム獣の追撃を開始した。

 

 

「同じ鷹の二つ名を持つ同士、頼りにさせて貰うよ。」

「了解した。」

 

 

エンデュミオンの鷹とギガノスの蒼き鷹の共闘。

 

 

「虫共の相手は俺達だ!」

「漁夫の利を狙うとはいい度胸だね!」

「そんじゃま、蟲退治と行きましょうか!」

 

 

竜の騎兵隊もまたそれに続いた。

 

ちなみに彼らがこちら側に来られたのには訳がある。

 

機械化城へ接近する戦艦があった。

 

白き鯨、モビィ・ディックである。

 

そこから六機の機体が落下し戦場に現れた。

 

エルドランに選ばれた戦う小学生達と騎士の風貌を持つ二体のロボットである。

 

彼らは機械化城の主である電気王との決着の為に現れたのである。

 

それに察して周囲の敵の動きも変わって来た為に各方面の援護に向かったのである。

 

モビィ・ディックはそのまま進路を機械化城へ向けていた。

 

月の異次元の先にあるグランダーク城へ向かう為に。

 

私は機械化城の上に現れた歪に向かう白きクジラに向かって告げた。

 

行ってらっしゃいと…

 

 

「ちっ、奴らを城に潜入させちまった。」

「てめえらがモタモタしてたからだろう!」

「ケンカ、良くない。」

「そうは言うがこの状況じゃあ…」

 

 

機械化城の周辺は既に焦土と化しており、敵部隊の殆どは壊滅状態であった。

 

それを察したのか同盟を結んでいるギャンドラーとガルファは早期に撤退。

 

残っているのは機械化帝国の戦力のみである。

 

 

「俺達を甘く見過ぎたな!」

 

 

ゲッターチームの発言を皮切りにノードゥスのメンバーは勝利の声を上げる。

 

 

「地球はお前達の物ではない。」

「早々に退場して貰おうか、貴様達を相手にする程…我々も暇ではないのでな。」

 

 

黒いオーラを出しつつ発言するニュータイプ達。

 

 

「「…(発言と表情が合ってない。」」

 

 

その表現にツッコミたいカミーユとジュドーであるが後が恐ろしいので内心のみに留めている。

 

 

「所詮は烏合の衆、統率の取れん連中に後れを取る我々ではない。」

「俺達は先へ進む、ここで足止めを喰らうつもりはない。」

 

 

ゲルマン忍者とキングオブハートの二人もまた機械化城の兵力の屍を築いていた。

 

 

「さて、逃げるならこれ以上の追撃しませんよ?」

「くっ…!」

「最も、次に会った時は手加減できませんけどね。」

 

 

ハスミもまた相手にしていたガイスターズのにこやかな黒いオーラを出していた。 

 

 

「ボスからの命令だ、撤退するぞ。」

「逃げる、勝ち。」

「屈辱だぜ。」

「ま、その内いい事あるって。」

 

 

敗戦の気配を察した彼らのボスは彼らに撤退命令を下した。

 

瓦解する機械化城の兵力。

 

そして機械化城はこの日を持って地球連邦軍並びに地球防衛軍によって敗北したのである。

 

同時にマスドライバーに襲撃を行っていたラダムも月駐留部隊の援軍によって敗北した。

 

その中に敵テッカマンの姿は無かったそうだ。

 

 

******

 

 

無事、月の絶対防衛戦線の奪還並びに機械化城の壊滅に成功。

 

グランダーク城へ向かったモビィ・ディックが帰還するまでの間、私達は簡易修理と補給を済ませた後。

 

周囲の警戒へと向かった。

 

しかし、物語は更なる変化を見せる。

 

 

「これは!?」

「ハスミ!」

 

 

―どうか彼女達を守って―

 

 

涼やかな幼い声と謎の光と共に私とロサは現戦場から姿を消した。

 

それは新たな戦いに向けての過酷な試練の旅路でもあった。

 

 

=続=

 




睡蓮よりもたらされた新たな記録。

いずれ出遭うのだろうか?

次回、幻影のエトランゼ第九.五話『追憶《ツイオク》』

戦いの果てに待ち受ける真の敵の名が明かされる。


<今回の登場人物>

※VARS
愛美が立ち上げた私設防衛組織『Valiant Attack and Rescue Staff』の略。
司令官は芹沢愛美。
戦闘要員は二名で彼女の弟とその親友が受け持っている。
またVARSとは宇宙開発を目的とした小型ロボットの総称であるが、OS設定などが簡単に行える上に扱いやすい為に軍事利用の側面もあったが開発者の愛美は玩具特許を取得した上で子供向けの玩具として販売する事で軍事転用を防いだ。

※宇宙警察機構、地球の守護戦士、勇者特急隊、ブレイブポリス、レジェンドラの勇者
表向きは地球防衛軍と協力体制にあるGGG傘下の組織。
連邦軍強硬派等の介入を防ぐ為の表向きの所属である。
今回のグランダーク城並びに機械化城との早期決戦に参加。
それぞれの因縁のある敵とは今回で決着を付けた。
なお、勇者特急隊の宿敵であるブラック・ノワールの消息は掴めていない。

※GGG
ガッツィー・ジオイド・ガード 『Gutsy Geoid Guard』の略。
国連事務総長指揮下の地球防衛組織。
戦闘要員は獅子王凱と臨時で特別隊員となっているヨウタ・ヒイラギとユキ・ヒイラギ。
他は開発の遅延で正式参加出来ず、主力となっているのはファルセイバーとブルーヴィクターのみである。
機械化城での早期決戦の援護に向かった。

※ザウラーズ
エルドランに選ばれた戦う小学生チームの一つ。
原作とのズレで小学5年生。
電気王との決着を付ける為にグランダーク城へ向かう一同と別れて機械化城へ向かった。

※地球防衛組
エルドランに選ばれた戦う小学生チームの一つ。
原作とのズレで小学4年生。
電気王と決着を付けるザウラーズを援護する為に機械化城へ同行した。

※ガンバーズ
エルドランに選ばれた戦う小学生チームの一つ。
原作とのズレで小学3年生。
電気王と決着を付けるザウラーズを援護する為に機械化城へ同行した。
正体がばれると犬になる呪いに関してはブルーロータスの仲間の介入で事無きを得る。

※ダンケッツ
エルドランに選ばれた戦う小学生チームの一つ。
原作とのズレで小学4年生、他のチームとは一ヶ月程遅れて参戦した。
電気王との決着を付けるザウラーズを援護する為に機械化城へ同行した。

※ハスミ・クジョウ
ノードゥスのメンバーと共に勇者達の侵攻ルートの敵を一掃すべく奮闘した。
作戦終了直後に謎の時空転移に巻き込まれ失踪する。
ちなみに謎の敵製恐竜ロボの漫才じみた発言に『あら、ここであの懐かしいネタなのね。』と妙に納得した発言をしている。

※ロサ・ニュムパ
侵攻ルート上の敵を一掃すべく奮闘した。
ちなみに機械化城と協力体制にある宇宙海賊ガイスターズの四将の一人サンダーガイストから『可愛いタイプの女の子』と言う事で色々と酷い目に遭いそうになったが、ハスミが締め上げたので問題なしである。
ハスミと共に転移に巻き込まれてしまう。

※ケリィ・レズナー
月面都市でガトーと再会。
自身を慕うラトーラの事もあり前線に戻る事を拒否していたが、ラトーラの住む都市を守る為に前線に復帰。
フリーの傭兵と言う形でノードゥスに参戦する。
負傷した腕に関してはJUDAが行っている最先端治療のモニターをしており、義手ではあるが以前と同じ腕を振るう事が可能。

※眩惑のセルバンデス
月の絶対防衛戦線の作戦行動中に出現。
何かしらの理由で出撃していたが、どう言う訳か今回は共闘する事となった。
戦闘終了後の行方は不明のままである。



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第九.五話 『追憶《ツイオク》』

歪の開閉と共に帰還した睡蓮。

その手に携えた刀と力は何をもたらすのか?

睡蓮は静かに永き旅路の記録を書き記す。



歪の先を超えて帰還した私達。

 

長い時間を向こう側で過ごしたが、こちらでは数時間の出来事だったとの事だ。

 

時間のズレは様々な要因を生み出すと聞かされていたが、それでも不思議な体験であった。

 

私は事の説明をする為に艦長室に呼び出され、説明をする事となった。

 

異なる別世界での出来事。

 

それは険しくも自らを高める旅であった事を告げた。

 

 

******

 

 

数時間後。

 

 

「はぁ…(口から魂が抜けそう。」

「ハスミ、大丈夫?」

「大丈夫だけど、報告書が山積みでどうもこうも…」

 

 

只今、向こう側で起こった出来事を報告書に纏めている最中です。

 

まだ半数もある報告書を纏める為に自室のPCとにらめっこ中。

 

本当に真っ白に燃え尽きたい気分。

 

 

「ロサ、コーヒー…お代わり貰える?(セフィーロの次は九十九事件ってハードすぎやしませんかね。」

「うん、ちょっと待っててね。」

 

 

本日4杯目のコーヒー。

 

カフェインの取り過ぎ上等である。

 

前世のOL時代に比べればまだ十分の一にも満たない量である。

 

 

「まさか、向こう側で事前に作って置いた報告書のデータが帰還時に破損しているなんて誰が予想できた?」

「う~ん、判らない。」

「絶対、無限力の陰謀よ……呪ってやりたいわ。」

「ハスミ…(また黒いオーラが。」

「何が何でも地球に戻るまでに終わらせるわ。」

 

 

こんな所で足止めを食う訳には行かない。

 

私達が地球に戻る頃には『地上クリーン作戦』と『恐竜帝国による極東進撃作戦』、『ドレイク軍の最終決戦』が待ち受けている。

 

あんな事を二度とさせる訳にはいかない。

 

それを見通し、蒼い睡蓮が先行してエージェント達を派遣している。

 

ティターンズが設立されなかったし、OZもホルトゥスのエージェント達によって既に瓦解が始まっている。

 

旨く行っているといいけど…

 

アクシズは例のザビ家暗殺事件で宇宙に引きこもっている。

 

プルとプルツーはこの前のドサクサに紛れて救出したし、ゼナとミネバの母子は地球に居るから様子が不明だ。

 

残るはギガノス、ジオン、木連、Anti・DGの連合組織、ザンスカール帝国、ジュピトリアン、クロスボーン・バンガード、ゼ・バルマリィ帝国の先遣部隊に異星人連合。

 

この頃になると先遣部隊は支配下に置いている異星人連合とジュピトリアン達の監視を強めて内部分裂の要因を引き起こし始めている。

 

何とかして瓦解に持ち込めないだろうかと考えている。

 

地上は恐竜帝国、Dr.ヘル、妖魔帝国、ドレイク率いるバイストン・ウェル軍か。

 

ラダムは偵察部隊を壊滅させたし、STMC共は雷王星を壊滅に追いやったので奴らの侵攻は停滞している。

 

機械化城は壊滅し、グランダーク城も崩壊、他の同盟組織も瓦解し再起までに時間が掛かるだろう。

 

既にメガノイド達も万丈さんによってフルボッコ状態、

 

第13使徒と第18使徒の件はシンジ君に任せるとして…

 

これだけシナリオが変異した世界でBF団とバラルがどう動くかが問題。

 

不安要素はまだまだあるけど、今の戦力でやれるのはここまでだ。

 

足並みは揃いつつあるけど肝心の力が足りない。

 

未来世界直行までは何とか防げたけど、インスペクター事件や修羅の乱、封印戦争も控えているのにこのまま行けるのだろうか。

 

考えてもしょうがない、今は目処前の仕事を片付けないと。

 

まだアレを動かすには早すぎる。

 

過ぎた力は災いを呼ぶ。

 

自分自身でよく解っている事じゃないか。

 

だからこそ出来る限りの生存&救出フラグは立てて見せるわ。

 

 

******

 

 

更に半日後。

 

ラーカイラムの一室にて。

 

前回の戦闘で無理をし過ぎた為、アーガマは月のドッグ入りとなった。

 

その為、月面基地でラーカイラムに乗り換える事となり今に至る。

 

 

「…」

 

 

ハスミが提出した報告書のコピーを閲覧する記憶保持者達。

 

現在は戦艦を直結させて行き来可能な状況になっている為、他の艦に乗艦しているメンバーもここへ来ていた。

 

 

「セフィーロは聞かない名だが、九十九事件はアクセルからの情報だったな。」

「ああ、指定閉鎖区域渋谷から始まった揺らぎの始まりだ。」

「それに関する詳しい経緯を彼女達のおかげで手に入れる事が出来た上に我々も新たな情報を手に入れる事が出来た。」

「惑星セフィーロの存在する宇宙にペンタゴナ・ワールド、ドキドキスペース、惑星ガイア、惑星アースト、惑星Zi、アースティアが存在する、か…」

「通りで俺達が知る世界と接点が見つからなかった訳だ。」

「一瞬、バルドナドライブで惑星エリアに吹っ飛ばされたと思ったけどよ。」

「前回の事もある、もしもと言う事も視野に入れた方が良いだろう。」

「しかし、どれだけ事件が起こっているんだ…この世界は?」

「解っていても頭が追いつかないと言うか…」

「胃が…」

 

 

キョウスケの言葉を皮切りにアクセルは九十九事件の始まりを語り。

 

クワトロとアムロはハスミの報告書によって行方が不明だった世界の情報を知る事が出来た。

 

マサキが次元転移の状況をかつてのアナザーセンチュリーズエピソードと呼ばれる惑星エリアでの出来事を思い出した。

 

しかし、度重なる状況変化にコウ達は思考が追いつかずにいたのである。

 

なお、ガトーは最近胃薬がお友達と化してしまっている。

 

 

「しかし、こんな短期間であれだけの報告書をよく纏め上げられたものだな。」

「仕事を必ずやり遂げるのが彼女の良い所じゃないか?」

「そもそもハスミは苦労している様に思えますが、慣れていると言った方が正しいです。」

「どういう事だ?」

「これも隠している様子ですが…彼女、小説家です。」

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

「以前、月面都市で衛星通信越しに小説の原稿やら印税やらと隠れて騒いでいましたから。」

「印税まで付くとなるとかなりの売れっ子の様だね?」

「ペンネームは白野睡蓮、最近話題になっている作家と雑誌に取り上げられてます。」

「白野睡蓮って…ニナが読んでいた恋愛小説の作家じゃないか。」

「そう言えばアキも新刊が出ないと話していた。」

「白兵戦も出来て、ハッキングから爆薬処理、おまけに事務処理に長ける人間ってどうなんだろう?」

「まあ、優秀と言う事で良いんじゃないか?」

「そう言うものかな?」

 

 

本日のキョウスケの爆発発言を皮切りにD兄弟はツッコミを入れたい気分の様だ。

 

 

「話を戻すが、今後の我々は地球に降下し地上で進撃中の地下組織、バイストン・ウェル軍、ザンスカールの動きを止めなければならない。」

「ザンスカールは欧州を中心に地上クリーン作戦を開始する頃合いの筈だった。」

「ああ、恐竜帝国もこの期に極東制圧を進め、バイストン・ウェル軍も最終決戦を行う予定だ。」

「火星での状況だが、向こうでも厄介な事が起こったらしい。」

 

 

クワトロとアムロの説明で更なる情報が展開された。

 

 

「厄介な事?」

「ゼ・バルマリィ帝国からの逃亡者と避難民達を確保したらしい、SPTと言えば判るか?」

「SPT…エイジ達か!」

「ああ、そしてエイジ君にも記憶があったそうだ。」

「話によると彼の姉と義兄と共にゼ・バルマリィ帝国の後続部隊から脱出し火星に降り立ったとの事だ。」

「それだけじゃないだろう?」

「ああ、火星の研究施設跡地でラウル達を発見したそうだ。」

「木連の部隊に囚われていたそうだが、隙を見て脱出したらしい。」

「ラウル達が…」

「記憶に関してはラウル君だけで他はないそうだ。」

「向こう側の事は何か言っていたか?」

「話に寄ると向こう側の地球圏はアインストによって掌握され滅んだそうだ。」

「そうか。」

 

 

ゼ・バルマリィ帝国の隷星となってしまった惑星グラドスからの逃亡者。

 

そして、かつて不完全と戦ったラウル一行の消息が判明した。

 

事情や名前を知る者達は安堵の声と感想を告げた。

 

だが、アクセルの居た向こう側の世界の崩壊も告げられたのだ。

 

複雑な想いもあっただろうが、なるべくしてなった世界に未練はないそうだ。

 

 

「キョウスケ、リュウセイ達の今後は変わらずか?」

「ええ、SRXチームは謹慎が取れても伊豆基地で待機の予定だとギリアム少佐から連絡がありました。」

「問題はその伊豆基地にレビやイングラムの奴らがちょっかいを掛けて来るって事だ。」

「確か例の記憶の…?」

「それだけじゃねえ、ハスミの前の義親父さんも引き連れてな…奴ら胸糞悪い事をしやがるぜ。」

「恐らくはイングラム…いや、ユーゼスの思惑が絡んでいる筈だ。」

「キョウスケ少尉、結局の所…彼女の真意は掴めていないがどう思う。」

「何とも言えませんが、我々の敵ではない事は確かでしょう。」

「敵ではないと?」

「彼女から悪意は感じられないとリュウセイから聞きましたから。」

「真意が判らない以上、今後も彼女の行動は監視を視野に入れ続けるしかないだろう。」

「ええ、それが妥当と思います。」

 

 

そして語られる先の記憶。

 

 

「最後にだが、クスハ達が梁山泊で手に入れる力が今後の我々の先を示す事になる。」

「白き魔星か異空間か…どちらにしても手を抜けない戦いになるだろう。」

「我々は進まなければならない。」

 

 

そう『テンシ』との戦いが待ち受けているのだから…

 

 

=続=




英雄、柱、勇者、魔法騎士。

たった一人の犠牲によって成り立つ世界群。

そんな幻想世界で起こった出来事。

次回、幻影のエトランゼ第十話『少女《マジックナイト》』

睡蓮よ、喜びと悲しみの思い出と共に覚醒せよ。


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第十話 『少女《マジックナイト》』

戦う為の力とその力を背負う覚悟。

試練は苛烈であろう。

知っているからこそ、その手は鈍るのだ。

睡蓮よ、己はまやかしであれど愛すべき者の姿をした虚像を断ち切れるのか?

だが、真実の視る眼は曇っていない。

全てはこの先の災厄から世界を守る為に力を振るうのだ。



こんにちは、ハスミ・クジョウです。

 

前回の話を遡り、向こう側で起こった出来事を話したいと思います。

 

当時の私達はセフィーロと呼ばれる惑星が存在する異世界に飛ばされております。

 

月の絶対防衛戦線奪還作戦終了直後に飛ばされてから早三ヵ月。

 

この苛烈で人外クラスに足を踏み入れるようなサバイバルに慣れつつあります。

 

つい最近はイノシシ型の魔獣を狩猟致しました。

 

お供にネコが居たら色々とツッコミたい気分です。

 

 

******

 

 

本日は近くの果実園から果物を採取し、森の奥にある一軒家に帰宅。

 

 

「只今戻りました。」

「おかえりなさい。」

 

 

家主の名はプレセア。

 

この世界で創師と呼ばれる鍛冶職人の様な職業をされている方である。

 

つい三ヵ月前までは酷い衰弱で倒れていた人であるが、体調も落ち着いてきており通常生活には支障がない位に回復しています。

 

この世界に飛ばされて半分訳分からん状態の私達を救助してくれたのも彼女である。

 

その恩返しとして彼女の身の回りの世話を行っていました。

 

例のフラグは何とか回避しました。

 

 

「果実園の方はどうだったかしら?」

「先週よりも魔物が増えて来たみたいです。」

「そう…」

 

 

家のダイニングルームで収穫して来た農作物を確認しながら私はプレセアに現状報告を行った。

 

現在の生活圏となっているこの森林地帯では結界によって魔物の類が侵入出来ない様になっていたのだが…

 

ここ最近になってその結界が緩み始めてしまい、安全とは言えなくなってしまったのである。

 

この理由を話す為には私達が飛ばされた三ヵ月よりも前に遡る。

 

この惑星セフィーロは『柱』と呼ばれる一種の人柱の様な存在によって守られた星である。

 

特性として人々の想いが力となる星であり、その力が最も強い存在を柱と呼称されるのだ。

 

そしてその柱の祈りによって星のバランスが保たれている。

 

要するに喧嘩も戦争も出来なければ、柱の結界によって武力による侵略もないと言うものだ。

 

その為、セフィーロは平和な時を過ごしていた。

 

しかし。

 

そのセフィーロに異変が起こった。

 

現在の柱であるエメロード姫が神官ザガートによって攫われたのだ。

 

その為、柱の継続に不備が生じ魔物が出現すると言う事態に陥った。

 

星に伝わる伝承では柱を救う為に異世界から魔法騎士(マジックナイト)と呼ばれる存在が召喚されるらしい。

 

だが、柱によって召喚された筈なのだが未だ音沙汰がない。

 

周辺に住む村人達は姫が召喚に失敗してしまったのではないかと噂をする状況に陥っている。

 

その人々の不安は更に魔物を呼び寄せる要因となってしまっていた。

 

余りにもお粗末な顛末である。

 

正直に言えば私はこの物語の結末を知っている。

 

そもそも柱システム自体が異常すぎるのだ。

 

そんなものが無くても私達の世界は混乱の最中ではあるが生きていられる。

 

前へ進む事、自分自身で立ち上がる事、それらをたった一人の姫に押し付ける考えは異常だと私にも理解出来る。

 

話はさておき。

 

問題はどうやって魔法騎士となる予定の少女達に接触すべきかと言うものである。

 

アカシックレコードからは何の音沙汰がないので動く事を控えている。

 

ただ闇雲に動くのではなく、待つ事も大事であると言う事を隊長達に教え込まれた結果だ。

 

その内に『空から女の子が!』のフレーズが似合う召喚のされ方で落ちて来るのでロサには現地点を中心に周辺の地域を偵察して貰っている。

 

連絡がないのでその予兆がまだないのだろう。

 

私とすれば、なるべく早く彼女達と同行してこの先の森の奥にある伝説の泉『エテルナ』に向かいたい。

 

理由は母の形見である『詩篇刀・御伽』をこの世界で発見からである。

 

しかも無事ではなく刀身は折れてしまい現状では使用出来ずにいる。

 

プレセアの見立てではかなりの年月を掛けて使い込まれた武器である為に生半可な鉱物で修復してもすぐに折れてしまうらしい。

 

解決案としてエテルナにある希少鉱物エスクードを採取する事を勧められた。

 

勿論、入手出来ればこれ程心強いモノはないだろう。

 

ただ、その試練に勝利する事が出来るのだろうか?

 

知っているからこそ、その手は鈍るのだ。

 

 

「!?」

「どうしたの?」

 

 

ダイニングルームに響くアラートの電子音。

 

どうやらその時が訪れた様である。

 

 

「ロサからの連絡です、しばらくここを留守にします。」

「判ったわ、気を付けてね。」

「はい。」

 

 

私は家を出るとガーリオンカスタム・タイプTで上空待機中のロサと合流した。

 

 

******

 

 

「ハスミ、ここが問題の不安定エリアよ。」

「確かに歪の様なモノが出ているわね。」

 

 

ロサと合流した私はロサの案内で問題のエリアへ訪れていた。

 

空にぽっかりと開いた謎の穴の様な歪は違和感と同時にある気配がこちらへ落ちて来るのを感じ取れた。

 

セフィーロの空は美しいがこれも虚像である。

 

空は海の色を写しただけの巨大な鏡の様な結界が張られている。

 

その為、この世界が重大な危機に見舞われている事をごく少数が知る程度である。

 

 

「…(この結界の先に彼女が囚われているのは知っているけど、今はどうする事も出来ない。」

「ハスミ、歪から生体反応…数は3です!」

「運命は動き出すか…」

 

 

歪から閃光と共に落ちて来る少女達。

 

一人はピンク色のおさげの赤い制服の女の子。

 

一人は水色のストレートヘアーの青い制服の女の子。

 

一人は薄茶のセミロングヘアーの緑の制服の女の子。

 

流石にこの状況が飲み込めず、悲鳴を上げながらパラシュート無し空中ダイブを現在進行形でやっているのだ。

 

それは一部を除いて誰でも驚くだろう。

 

正直に言うと生身でカタパルトから射出されるのとどっちかマシかと悩む位である。

 

私は空しい考えをしつつAMの操縦桿を握りしめ、落下する彼女達を保護した。

 

 

『貴方達、大丈夫?』

「た、助かったの?」

「そうみたいです。」

「良かったわ…危うく水風船みたいにペッシャンコになる所だったわ。」

「それにしてもここは?」

『とりあえず、地上に降ろすから詳しい話はそこでしましょう。』

「お願いします。」

 

 

途中で羽を付けた巨大な魚に出遭い、その後に着いて行く形で地上に着陸した。

 

私達も彼女達への自己紹介を兼ねてAMから降りた。

 

 

「助けて頂きありがとうございます。」

「無事で何よりよ、貴方達こそ怪我はない?」

「はい、大丈夫です。」

「貴方は連邦の兵士さん…よね?」

「私は地球連邦軍極東方面伊豆基地所属、戦艦ハガネ配備隊ATXチーム所属ハスミ・クジョウ准尉。」

「私はサポートロボのロサです。」

「私は鳳凰寺風と申します。」

「私は龍咲海よ。」

「私は獅童光。」

「風、海、光ね。」

 

 

互いに自己紹介を終えた後、これまでの経緯を整理した。

 

 

「では、クジョウさん達は三ヵ月前にここへ?」

「ええ…私達は部隊の仲間と共に月面で作戦行動中だったの、作戦は終了したけど…」

「その直後に私とハスミはここへ飛ばされてしまったの。」

「私達は他校交流の一環で見学ツアーに参加してましたの、丁度オービタルリングの衛星タワーへ上っている最中でしたわ。」

「最近物騒になってきて本当は東京タワーだったけど、治安の関係で衛星タワーに変更になったのよね。」

「確かに地球防衛軍の駐留部隊が警備しているから安全と言えば安全ね。」

「私達、偶然一緒の見学コースになって一緒に回る予定だったんだ。」

「それで、巻き込まれたと言う訳ね。」

 

 

どうやらこの三人は私達が居た世界の同時刻、日本の衛星タワーに居たらしい。

 

ここまで変異が続くと何やら何やらだわ。

 

 

「クジョウさん、お聞きしたい事が…」

「ハスミで構わないわ。」

「では、ハスミさん…この世界は一体?」

「話すと長くなるのだけど……ここは地球ではなく、セフィーロと呼ばれている惑星よ。」

 

 

私はプレセアから聞き出す事が出来た情報を分かりやすく説明し彼女達に伝えた。

 

彼女達も半分程コンヒュ状態になっていたが、付け加えでリアルなRPGとファンタジーな世界と解釈した方が良いとだけ話した。

 

 

「と、言う訳だけど…理解出来たかしら?」

「何だかすごい事になってて…」

「私も何が何だか…」

「???」

 

 

流石にこの状況下では混乱するのは当たり前だろう。

 

原作の彼女達はこれからその手を血で染めなければならないのだから。

 

14歳の少女には余りにも過酷すぎるかもしれない。

 

それを言うとシンジ君達の方がもっと理不尽すぎるので考えない事にした。

 

私自身も戦場に出て一体何人の命を奪って来たのか見当もつかない。

 

いや、知ろうと思えば知る事が出来るがアカシックレコードがそれを拒絶するのだ。

 

私が壊れない様にする為に。

 

私は誰かを救いたいが故に誰かを傷つける覚悟はしていた。

 

私はせめてもの贖罪の証としてエゴイスト達から蹂躙されつつある世界群を救う事を決めた。

 

それが私に出来る償いだ。

 

 

「私が集められた情報はこの位かしらね。」

「いえ、色々と参考になりましたわ。」

「月でそんな事をがあったなんて…」

「恐らくは民間への混乱を避ける為に行った措置よ、後日にでも正式に情報開示が行われると思うわ。」

「確かに私達が混乱しても何の得策にもなりませんものね。」

「ハスミさんは戦ってて怖くなかったの?」

「そうね、怖いと言えば怖いけど…何も出来なくなるよりはマシって考えたらどうにでもなったわ。」

「要は慣れって事かしら?」

「そこまで慣れなくてもいいけど、踏み入れれば平穏に戻れないって言うのがあるかな。」

「ハスミさん。」

 

 

これは戦場に出ている者なら誰でも成りやすいPTSDの一種だ。

 

研ぎ澄まされた神経は平穏な世界に戻ると一瞬の内に恐怖へと変わる。

 

何処かで誰かが狙っているのではないのか?

 

戦わなくてはいけない、そんな感覚に陥るのだ。

 

 

「ハスミさん、私達…元の世界に戻れないの?」

「残念だけど、私にも判らないの。」

「そんな…こんな、デリーズやハールンナッツのない世界になんてぇ!!」

 

 

海の叫びにはごもっともである。

 

某大手ファミレスや有名ブランドアイスがないと言うのは女学生にとっては苦痛だろう。

 

後ゴメン、私はフリーズストーン・クリーミィのアイスの方が好きなのよ。

 

氷点下まで冷えた大理石の上で色々とミックスされるアイスって見ているだけでおいしそうだから。

 

昔は体重計に乗るのが怖かったけど、こっちに転生してからか太りにくい体質になってくれたのは良い。

 

その代わり、食べた栄養が胸に行くのはどうなんだろう。

 

クスハじゃないけど最近胸が大きくなった様な気がして重い気がするのは気のせいだろうか?

 

これ以上、サイズが大きくなるとブラの買い直しやパイロットスーツの変更をしないといけないから困るんだけどな…

 

クスハも制服のボタンが跳ねちゃってとんでもない事になっていたから他人事でもないのよね。

 

エクセレン少尉が成長期の継続かしら?って言ってたし。

 

またクスハと一緒に揉まれそうで気が気でない。

 

 

「ちょっと光、どこ行くの?」

「ウサギさんがこっちに来てって!」

「ぷぷっ!」

「まあ、ふくよかな可愛らしいウサギですね。」

「ウサギと言うよりマシュマロっぽい感じもするわね。」

「ウサさん、可愛いです。」

「長い耳もあるしウサギでいいよね。(あれはモコナ、と言う事は呼んでいるのか?」

 

 

一瞬ウサギを見た時、某チョリーッスって声の黄色い毒舌ウサギを思い出したのは気のせいだろうか?

 

私達はそのウサギ?の後を追う事にした。

 

その奥の遺跡跡地で待っていたのは杖を携えた威厳を持つ美少年だった。

 

 

「よく来た、選ばれし魔法騎士達よ。」

「魔法騎士?」

「私の名はクレフ、導師をしている者だ。」

「クレフさん、私達がここへ来た理由を知っているのですか?」

「そうだ、それについては説明をしなければならないが…大方の説明はその少女より聞かされたので全てだ。」

 

 

クレフは杖の先をハスミに向けた。

 

彼はプレセアを通して今までの経緯を知っていたらしく、大体の説明は終わっていると推測していた。

 

 

「君達二人はエメロード姫の手でこの世界に招かれたのではない、何かの理由でこちらに転移したのだろう。」

「つまり、私達は魔法騎士ではないと言う事ですか?」

「いや、イレギュラーな存在ではあるが…魔法騎士の資格を持つ者として見てもいいだろう。」

「…」

 

 

はい、原作崩壊の危機です。

 

アカシックレコード様、本当にごめんなさい。

 

 

「それじゃあ…私達が魔法騎士となって姫を救う事が出来れば、元の世界に戻れるんですね?」

「その通りだ。」

 

 

少し変わってしまったが、経緯は原作と同じか。

 

少し話し終えた後、クレフは私達の名前を聞き終えた後に魔法と防具を授けてくれた。

 

ご丁寧に私とロサも頂きました。

 

連邦の制服にあの初期甲冑を付けていると思ってください。

 

ロサは小さなシールドが二つ程ロサの周囲に浮いている形になっている。

 

 

「その防具と魔法はお前達の成長と共に進化するものだ。」

「RPGで言うレベルアップの様な物ですね。」

「?、それと同じかは判らんが、必要な時にその力を発揮するだろう。」

 

 

原作通りなら光は炎の魔法、海は水の魔法、風は風の魔法だけど…

 

 

「ハスミ、ロサ、お前達は見た目に反してかなりの修羅場を潜り抜けた様だな…」

「まあ、元の世界で軍人をしていましたから。」

「そうか。」

 

 

付け加えてクレフは私達の魔法のヒントを授けてくれた。

 

私は太陽と月がその先を指し示す、ロサは命の尊さを知る事で目覚める。

 

何となく理解出来たので、後は実践あるのみである。

 

クレフとの会話の後、アルシオーネと言うザガートの刺客を一度退け。

 

彼と別れてAMにてプレセアの家へと移動。

 

プレセアから武器を借り、その足でエスクード採取へと向かう事となった。

 

道中でフェリオと言う少年に出遭い、エテルナまで同行する事になった。

 

そして…

 

 

「泉に引き込まれる事は知っていたけど、まさかここまでとはね。」

 

 

海曰く妙な泉エテルナに引き込まれた私達は離れ離れになってしまった。

 

何もない空間を当てもなく彷徨う事になりそうだったが展開と言うものは早い。

 

 

「成程、私の相手は貴方か……ケイロン。」

 

 

私はプレセアから借り受けた刀の形状をした剣を構えた。

 

 

「私の志は折れない!」

 

 

******

 

 

同時刻。

 

光は愛犬の閃光、海は自分の両親、風は自分自身と戦い始めた頃。

 

 

「ハスミは言っていた、エテルナは試練の場であり自分が最も苦手とする姿で虚像が現れるって。」

 

 

ロサの目処前に現れたのはサイズダウンした自分自身の前身であり忌むべき姿。

 

 

「解ってる、私が悪魔だった頃の事を忘れる事はないわ。」

 

 

ハスミは泉に向かう前に光達に助言をした。

 

もしも虚像であっても自分の大切な人と戦えるか?

 

そして大切な人が自分達を傷つける事があると思うか?

 

三人は納得出来ずにいたが、ハスミの助言を心に留めて置く事にした。

 

その意味を理解した。

 

 

「よくも閃光の姿で現れたな!!」

 

「私のパパとママはこんな事をしないわ!」

 

「私の事は私自身が一番良く知っています!」

 

「知っているからこそ…その手は鈍る、だけど私が揺らぐ事ない!!」

 

「自分の犯した罪は背負っていきます!」

 

 

己の心の強さと共に魔法を放つ。

 

 

「紅い稲妻!!」

 

「蒼い竜巻!」

 

「碧の疾風!」

 

「月の嘆き!」

 

「大地の叫び!」

 

 

それぞれの虚像が倒されると各自その場でフェードアウトした。

 

彼女達は無事に試練を乗り越えてエテルナの入口へと戻って行った。

 

 

「皆、無事の様ね。」

「プレセア!」

「どうやら戻ってこれた様ですね。」

「エスクードは?」

「頭の上に浮いているのがそうじゃないかしら?」

「これですよね?」

 

 

プレセアによるとエテルナの上で浮いてる事は試練を乗り越えた証らしい。

 

早速、武器を作って貰うのだが今回は5人分になる。

 

プレセアの負担はかなり大きい。

 

その為、ロサの武器だけは彼女の双子の妹であるシエラの助力で創る事となった。

 

アニメ版がごっちゃになってますよね。

 

詩篇刀・御伽は一から作り出すのではなく修理の過程なのでシエラにやり方を教わりながらエスクードを精神力で刀に取り込む工程を始めた。

 

精神力=念動力である。

 

かなり神経の居る作業であるが、元に戻したいと言う願いが届いたのか無事詩篇刀は再生する事が出来た。

 

プレセア達は近隣の村人達と共により安全な場所を求めて森から出ていく事が決定。

 

そして伝説の武器を手に入れた私達は三体の魔神探しの旅に同行する事となった。

 

AMは武器完成後に追撃して来たアルシオーネの裏工作によって背部分のバーニアが破損してしまい飛ぶ事が出来なくなってしまった。

 

歩行は可能だが、ENの残りも数少ないのでモコナのお腹に一時的に預かってもらう事にした。

 

本当に便利な能力よね。

 

ここから先が長い話になるのだが、大部分を省く事にする。

 

理由とすれば話せない部分が多いのもある。

 

無事三体の魔神と念神、機神を手に入れた私達はザガートの空中居城へ侵攻。

 

私とロサが魔神ザガートの相手を務めている間に光がエメロード姫から真意を聞き出して説得。

 

エメロード姫が柱制度の廃止を願った事で今回の戦いは終わりを告げた。

 

代償としてセフィーロの結界は崩壊、柱制度の廃止により姫への罵声が多かったが…

 

私とロサが事の弁明と今回の事件の要因を説明した事で民達は納得した。

 

これからはエメロード姫を中心とした魔導士達によって国家再建が開始されるとの事だ。

 

光達はその手伝いをしたいとの事でセフィーロに留まる事になった。

 

しかし、私とロサは元の世界に戻る事を告げた。

 

理由は元の世界の危機が去った訳ではないので早急に戻りたいと話した為である。

 

手に入れた魔法と武器、防具はセフィーロを救った御礼としてありがたく授与した。

 

そして姫達の力で元の世界に戻る道中で『揺らぎ』に巻き込まれた。

 

特別閉鎖区域・渋谷に落とされた私達はそこで出会った森羅のエージェント有栖零児と小牟に出遭い、彼らと同行。

 

そのまま九十九事件に巻き込まれる形となったのである。

 

前世でシナリオ看破していたおかげか道中は困る事は一切ありませんでした。

 

但し、ゾンビと恐竜とカタパルトと駄洒落は二度と相手にしたくありません。

 

後、たろすけ…今度会ったら絞める。

 

何とか九十九事件を解決したものの後にエンドレスフロンティアでの事件もあるので気が気でないのもある。

 

詩篇刀に収められた記憶と力、母の遺言の事もあるし更にやる事は多そうだ。

 

 

******

 

現時刻。

 

 

「もうすぐ地球か…長かったな。」

「そうだね。」

「さてと、諸々の戦いもあるけど…梁山泊での戦いは本気で行くわよ?」

「了解です。」

 

 

境界線のズレは更なる戦いを生み出す。

 

 

=続=

 




迫る三つの争い。

介入者達の影。

次回、幻影のエトランゼ第十.五話『進言《シンゲン》』


二つの睡蓮は何を問うのか?


=今回の登場人物=

※獅童光
都内の公立女子校の生徒。
天真爛漫ではあるが、エテルナでの一件の後にかつての記憶を取り戻す。
セフィーロでの事件が終わった後、復興の手伝いをする為に他の二人と共にセフィーロに残る事を決める。

※龍咲海
都内のお嬢様御用達の女子校の生徒。
フェンシングの使い手。

※鳳凰寺風
都内の名門女子校の生徒。
弓道を嗜む。

※ハスミ・クジョウ
今回の事件でセフィーロにて詩篇刀・御伽の回収、光と闇の魔法、念神■■■■を手に入れる。
報告書に念神の一件は記載せずに置いてある。
セフィーロから九十九事件後に元の世界に戻った際は甲冑も所持していたが、セフィーロ製の物は手甲の宝珠の中に全て収納されている。
再生された詩篇刀・御伽は他人が触れると睡蓮を模した刃が突き出して拒絶する。

※ロサ・ニュムパ
今回の事件でセフィーロにてロサ専用の銃剣、地の魔法、機神■■■を手に入れる。
ハスミの報告書では機神の一件は記載されていない。
セフィーロから九十九事件後に元の世界に戻った際は甲冑も所持していたが、セフィーロ製の物は手甲の宝珠の中に全て収納されている。
ちなみにロサの銃剣は他人が触れると砂となってしまう。


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第十.五話 『進言《シンゲン》』

迫りつつある白き魔星との決戦の影。

睡蓮は進言する。

この戦いの行く末を決める戦の駒を動かすのだ。


月~地球近海にて。

 

私達ノードゥスは地球へ降下後、予定通り伊豆基地でリュウセイ達と別れる事となった。

 

理由は前回に語った事と原作通りと同じく、Rシリーズの修理とアヤ大尉のメンタル回復の為である。

 

イングラムの裏切りの後、何度か目覚めている時にも情緒不安定でエクセレン少尉が胸ハグで慰めていたのを見てしまった位だ。

 

リュウセイとは独房越しではあるが、会話する事が出来た。

 

 

『ハスミ、お前が何を考えているのか判らねえけど…俺は信じてるぜ。』

 

 

正直、胸が痛んだ。

 

話せない事は無いが、今はまだ話す時期ではない。

 

話せてしまえば楽になるのかもしれない。

 

だが、私は楽になりたくて話すのではない。

 

知られてはいけないから話さないのだ。

 

どこでその歯車が外れるのか判らないから。

 

奴らの眼はいずれここへと向けられるのだ。

 

 

******

 

 

「久しぶりです、ブルーロータス。」

『ハスミ、連絡がないと思いましたが…』

「前回話した例の転移で色々ありましてね。」

『…そうでしたか。』

「次の動きについて分かった事がありますので報告します。」

 

 

前回と同様に私はブルーロータスへ連絡と取り、今後の件に関して作戦会議を行った。

 

欧州を中心に展開されるザンスカール帝国所属モドラット艦隊による『地球クリーン作戦』。

 

戦艦アドラステア級汎用戦艦を用いた作戦である。

 

大体原作を知っている方はご存知であるがDのシナリオと同様に巨大なバイク戦艦によって地上のあらゆるものを押し潰すと言う荒行であり、非人道的行為でもある。

 

ダ・ガーン達辺りが見過ごす行為ではないが、軍事介入は避けられない状況だ。

 

流石の私やブルーロータスも出し惜しみは無しと言う考えで度肝を抜かせる戦力を投入する事に決定した。

 

斥候として『加藤機関』を向かわせる事となった。

 

そして敵侵攻ルートの民間人の救助を地球防衛軍に依頼する形で体裁を取り繕うと言う方向だ。

 

Dシナリオではかなりの苦渋な想いをさせられたのだ、一撃で戦艦を落とされる屈辱を味わうがいい。

 

次は恐竜帝国による極東進撃作戦である。

 

正式な名称はない、恐竜帝国の地上制圧作戦の最終決戦と言える。

 

地上制圧に動く度に他勢力からの横槍や同盟による瓦解によってその侵攻作戦は停滞していたのである。

 

向こうも痺れを切らしたのだだろう。

 

漸く『地獄』の復活に目処が立ったので本当の地獄を見せてあげようとブルーロータスが呟く。

 

貴方も容赦がないですな。

 

そして最後はバイストン・ウェル軍との決戦。

 

こちらは原作とは事なり北米エリアの制圧を行おうとしている。

 

その為、オーラバトラー対策の為に竜宮島のメンバーに向かって貰う事となった。

 

こちらの手の内を見せる様であるが、致し方がないとブルーロータスが話していた。

 

OZ瓦解のドサクサで『隠者』達には要人護衛に出ている。

 

他のエージェント達も今後の活動に備えて動いている為、動かせる戦力はそこまでと語った。

 

 

「所でプラントの動きはどうなっていますか?」

『今の所、何の動きもない…寧ろ静かすぎると言った方が正しい。』

「そうですが…小父様がロゴスとゼーレの動きを監視している以上は大きな動きがあれば、こちらにも連絡が入るでしょうし。」

『貴方が監視対象にしているアクシズ、リクレイマー、ミケーネ、バラル、BF団などはこの先の未来で事を起こす可能性があると言いましたが…何故ですか?』

「そう言うシナリオの予定だからです。」

 

 

可能性としてその前にシャドウミラーからの刺客、修羅の到来、闇脳野郎の暗躍などが起こる。

 

それもフラグの一つだ。

 

アクセルさんの早期合流やラウルさん達の発見もその兆しだろうし。

 

捨て置く訳には行かない。

 

異常な介入をした結果、起こるべき戦いが起こらなければ…最悪の場合は早まる可能性もある。

 

様々な視野を入れた結果、余すことなく監視を徹底する事に決めた。

 

例え、無限力に逆らう結果であっても私は人の可能性を信じたいのだ。

 

 

「そしてOZや木連を瓦解させても、次の組織が発足される筈です。」

『まさに亡霊ですね。』

「ええ、BF団とは梁山泊で接触の機会があるのでこちらで様子を伺います。」

『解りました、どうかお気を付けて…』

「はい。」

 

 

私は連絡を終えると通信機のスイッチを切った。

 

 

「さてと。」

 

 

お膳立てはこの位でいいでしょう。

 

月のグランダーク城も壊滅、背後組織はほとんど壊滅。

 

生き延びた者も散り散りとなった。

 

これで彼らも少しは動きやすくなったでしょうけど。

 

問題は彼らの母星が今だインスペクター、いやゾヴォークの難民として扱われている以上は下手な手出しが出来ないと言う事だ。

 

この辺は何とかしないとね。

 

リュウセイ、レビ…いやマイを救えるのは貴方次第よ。

 

そしてイングラムの呪縛を解き放つ為にもその力は必要とされる。

 

ここから原作崩壊の巻き返しと行きましょうか?

 

後手に回るつもりはないよ?

 

 

=続=




その力を手に帰還する睡蓮。

そして変わりつつある戦況。

更なる力を求めて深き山の元へ。


次回、幻影のエトランゼ第十一話『竜虎《リュウコ》』


目覚めよ、四神の竜と虎よ。


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第十一話 『竜虎《リュウコ》前編』

各地で始まる庭師達の活動。

白き鬼、蒼穹、地獄はその猛威を振るう。

戦いは最終決戦へと近づくのだ。


前回から更に時間が過ぎた。

 

地球降下後、部隊を三つに編成し状況対応を行う事となった。

 

火星ルート組はボソンジャンプによって転移し、北米エリアのバイストン・ウェル軍に対応。

 

月ルート組は欧州エリアのザンスカール軍に対応する事となった。

 

私達の部隊は伊豆基地へ移動しリュウセイ達を降ろした後に恐竜帝国の進撃を止める事となった。

 

道中で艦隊の編成も行われ、ザンスカール軍にはリガ・ミリティア、バイストン・ウェル軍にはオーラバトラー隊、恐竜帝国にはゲッターチームが中心となって動く算段となった。

 

また火星ルート組は木連と一部異星人連合との決着を終え、道中でガンバスターに乗り換えたトップレスのチーム、グラドス人と地球人のハーフであるエイジらSPT隊、イルボラが参戦した。

 

ここまでは良かったのだが、度重なる戦いが原因で一部の搭乗機体の限界が超えたのだ。

 

主に前線を張っている主力機である。

 

一部は集中メンテナンスを受ければ稼働は可能であるが、他はそうはいかない。

 

特に部品交換がしにくい機体が多い為、補給が途絶えると活動もままならない。

 

今回はマジンガーZやゲッタードラゴンなどの特機や一部のMSが対象である。

 

シャイニングガンダムに至ってはパイロットであるドモンの成長速度に追い着いていない。

 

冥王星へ転移した頃から、その兆しは出始めており…

 

騙し騙し運用の結果、今回の最終決戦が運用可能限界点と推定された。

 

ヒュッケバインmk-Ⅱやグルンガスト弐式もクスハとブリットの念への対応不全が見えている。

 

タスクはジガンスクードへの乗り換えもあったので支障はないが、リョウトやユウ達の機体も乗り換えの時期だろう。

 

例の如く、第三の凶鳥と参式の出番なのか竜虎の目覚めかは不明だ。

 

その先の物語の開示はまだされていない。

 

読み違えれば、多大な被害が出てしまう。

 

だからこそ手は抜けない。

 

予定されている梁山泊へのBF団介入の件なら尚更だ。

 

原作通りならあの忍者と指ぱっちん、台詞無しとお供が出てくる予定だ。

 

あ、相手にしたくない。

 

特に忍者。

 

冥王星にも引っ付いて着たみたいだけど、隠れて女性陣の着替えシーンと女性用浴場を覗き見しおって!!

 

一瞬漫画版か!って思ったわ!

 

『役得』と呟いたのは絶対に許さない…

 

あの時、エクセレン少尉に胸揉まれたの絶対見られてる。

 

ううっ、泣きたい。

 

いっその事、ビッグファイアにチクってやりたいわ。

 

いや、機会があったら厭味ったらしく遠回しにチクろう。

 

ん?

 

どうやら『庭師』達が動き出した様だ。

 

蒼い睡蓮も相変わらず仕事が早いですな。

 

まあ、出し惜しみは無しの方向性の介入だ。

 

精々、震えあがって貰おうか?

 

 

******

 

 

同時刻、欧州エリアにて。

 

 

地表を抉り、粉塵を上げながら進行するモドラット艦隊のアドラステア級戦艦。

 

しかし、その大部分が炎上し侵攻不能状態に陥っていた。

 

 

「正義の味方、参上!!」

 

 

前衛に立つ白い機体。

 

東洋で言えば白い二本角の鬼だろう。

 

名はラインバレル。

 

現在の『加藤機関』に置ける旗機の一つだ。

 

周辺にはイダテン、迅雷と呼ばれるアルマの部隊。

 

部隊長はそれぞれラインバレルと同じマキナが務める。

 

上空にはシャングリラと呼ばれる戦艦が待機し、モドラット艦隊の侵攻を拒んでいた。

 

 

『シャングリラは上空で待機、各員はアドラステア級艦隊を制圧し無力化に専念しろ。』

「要は殲滅だろ?」

『ああ、奴らに慈悲は不要だ。』

「了解!」

 

 

ラインバレルの両腕に搭載された二本の刀が引き抜かれるのと同時にMS部隊の追撃が始まった。

 

本当の暴力を知る『蒼』。

 

山々を震え上がらせる『黄』。

 

魔獣を従えさせる『紫』。

 

蜃気楼の如く姿を消す『緑』。

 

騎士を思わせる『銀』。

 

無数の線を操る『桜』。

 

空を駆ける『灰』。

 

巨大な光を操る『朱』。

 

 

真の意味で戦慄の時が始まった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、北米エリアでは。

 

 

『各員、オーラバトラー部隊の迎撃と同時に艦隊の都市部への侵攻を阻止する。』

「全く、ブルーロータスも無茶な作戦を押し付けてくれたもんだな。」

「道生さん、愚痴は後です。」

「一騎こそ、体の方は大丈夫なのか?」

「ええ、ホルトゥスの治療で以前よりも調子が良くなりました。」

「一騎君、術後の慣らしとは言っても無理は禁物だよ。」

「真矢ちゃんの言う通りだ、雑魚は俺達に任せて大将首を頼む。」

「解りました。」

 

 

バイストン・ウェル軍による北米侵攻作戦。

 

こちらで参入した地上人達も加わり、その戦いは苛烈さを増した。

 

その為、チーム戦を得意とする竜宮島のアルヴィスメンバーを向かわせたのだ。

 

主戦力はマークザインを始めとしたファフナー部隊。

 

それぞれの特性を生かしたチーム戦を得意とし、その連携力は侮れない。

 

何度(・・)も戦った事のある相手である、苦戦を強いられた事もあるが油断する気もないだろう。

 

 

さあ、蒼穹を駆け抜ける時だ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、極東エリア。

 

こちらは説明するまでもないだろう。

 

たった一言で表せるのだ。

 

まさに『地獄』であると…

 

 

「貴様らは一体…!?」

 

 

進撃を開始した恐竜帝国のバッド将軍はボロボロになった自機から爆炎と共にこちらへ向かってくる『魔神』を目撃した。

 

そして、たった一機によって最終決戦に挑む筈の戦力を半数も失ったのだ。

 

明らかに『マジンガーZ』や『グレートマジンガー』ではない事は確かである。

 

地獄の使者?

 

いや、地獄そのものと言った方が相応しいだろう。

 

 

「んな事は関係ねぇ、ただてめえらがムカつく奴らだって事だけだ。」

「貴様らをこの先へ絶対通すなと依頼されているのでな?」

 

 

パイロット達は口々に言う。

 

正義なんてものは関係ない。

 

自分達が良ければそれでいい。

 

バッドや無敵艦隊ダイからその惨状を見た帝王ゴールとガレリィ長官はその意味を理解した。

 

『狂っている』と…

 

人でありながらその思考は逸脱し彼らの思うがままに動いている。

 

最早人ではないのだろうか?

 

そう思えてしまうのだ。

 

 

「さてと、とっとと仕上げに行くか!」

「ああ!」

 

 

そして恐竜帝国は更なる地獄を眼にするのだ。

 

 

「神に会うては神を斬り!」

「悪魔に会うてはその悪魔をも撃つ!」

「戦いたいから戦い!」

「潰したいから潰す!」

 

「「俺達に大義名分など無いのさ!」」

 

 

大義名分など無い。

 

これが彼らの行動原理である。

 

恐竜帝国が地上を欲すると言う行動原理であると同時に彼らの行動原理は大義名分そっちのけの戦いこそが行動原理なのである。

 

失うものがない以上、彼らに太刀打ちする事は出来ないだろう。

 

この日を持って恐竜帝国は完全な敗北を受けたのである。

 

地獄は目処前にあると言う惨状を見せつけられたのだ。

 

まさに『神が恐れ、悪魔すら慄く』と言った所だろうか?

 

だが、恐竜帝国は知る由もなかった。

 

彼らが本気の半分程度しか出してない事に…

 

その程度の相手と認識されたのも知らぬまま、マグマの滾る地の底へと沈んでいった。

 

 

******

 

 

火星ルート組と月ルート組の追撃により、ザンスカールの地上作戦は失敗に終わりバイストン・ウェル軍は内部分裂の末に事の始まりを造った者達の処刑と共にドレイクがその罪を背負って自害した事で終わりを告げた。

 

ザンスカール軍は残存兵力を集めると宇宙へと引き返した。

 

これで奴らの切り札は『天使の輪』のみである。

 

バイストン・ウェル軍は主な司令官と旗頭であるドレイクを失った事で瓦解、シーラ女王とエレ王女が彼らを纏め上げバイストン・ウェルへと送り返した。

 

向こう側の友軍に一時預け、戦いが終わった後にその処遇を決めるとの事だ。

 

ドレイクの娘であるリムルと黒騎士ことバーンは彼らの処遇を決めるのと同時に起こしてしまった争いを終結させる為にこちらに参入した。

 

すんなりと言った事に正直驚いている。

 

そして私達極東ルート組は恐竜帝国の壊滅を受けて、一時伊豆基地で待機だったが…

 

それに参じてエアロゲイターの襲撃を受けた。

 

察しの通り、アタッド、ガルイン、そしてレビの再来である。

 

例の一件でアタッドから怨みを買われていたが、私はガルイン…

 

カーウァイお義父さんを取り戻す為に奮闘した。

 

若干ながらその意思に揺らぎを見せていたが、後一歩の所で撤退してしまった。

 

R-GUNリヴァーレを駆るイングラムの出現によって…

 

それにより、リュウセイ達が参戦。

 

新しい武装を携えたRシリーズによる新合体技でイングラムを撤退させた。

 

レビもリュウセイとひと悶着あったが、撤退してしまい助ける事は出来なかった。

 

リュウセイ達の処遇は戦力不足の事もあり、戦線復帰する事となった。

 

今後予測されるホワイトスターとの最終決戦に控える為にスーパーロボット組は各地の研究所で緊急メンテナンスの実施。

 

そしてリアルロボット組もMSの乗り換えや改造などが徹底された。

 

私達ATXチームは部隊を離れて梁山泊へと向かう事となった。

 

全ては龍虎の目覚めの為に…

 

 

=続=

 

 




変異は気紛れ。

誰しもが気が付く事ではない。

突発的に起こるのだ。

次回、幻影のエトランゼ・第十話『竜虎《リュウコ》後編』

竜虎の目覚めは混乱の目覚め。


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第十一話 『竜虎《リュウコ》後編』

深き山脈の奥深くに佇む秘境。

過去の記憶を携えた者達の限界が知らされる。

強すぎる力は時として制御不能の領域へと至る。

また、満を期して新たな災厄もまた現れた。

そして睡蓮は選択を迫られる。


本来であれば国際警察機構の北京支部で行われた筈の出来事。

 

変異とは新たな可能性と予測不可能な出来事を引き起こす。

 

偶然でもなければ必然であるかの様に。

 

今回の私達はノードゥスの部隊を離れて梁山泊へと到着。

 

早速、こちらで秘密裏に整備されていたヒュッケバインmk-Ⅲとグルンガスト参式を受け取る準備に入った。

 

私達がこちらへ出向く前に国際警察機構でも例の事件に関して一通りの真相を話していた頃だと思う。

 

このシナリオを察している方は解るとおりますが、シュウ博士が来てます。

 

まあ、今回は決められたシナリオなので流れのままに進む事しか出来ない。

 

そう…変える事は出来ないのだ。

 

 

*******

 

今回のメンバーはATXチーム、アクセルさん、マサキ、ドモンさんらGガンチーム、スペースナイツ、大作君ら国際警察機構である。

 

なお、例の件でエルザム少佐、ギリアム少佐が同行している。

 

大作君達は経過報告の為に国際警察機構本部の司令部へ、クスハ達はLTR機関のエリ博士と話があると言うので別行動になった。

 

マサキはシュウ博士の姿を見つけるや否やそのまま姿を消した。

 

彼らにも色々と事情でもあるのだろう。

 

同じ様にドモンさん達は保護されている御両親と再会、私とロサも御挨拶に出向いた。

 

DG事件の一件でギクシャクが取れていなかったが、ロサ自身は受け入れられる様になっていた。

 

そして今回呼ばれた要件の為に私とロサはエルザム少佐達と共に別の部屋に案内された。

 

ジェガン破壊で有名な極東支部襲撃事件のドサクサで会う事も無かった為、今回が初対面となる。

 

案内されたのは一見何の変哲もない個室で取引先に使われる様な感じの部屋だった。

 

 

「急な申し出で済まなかったね。」

「いえ、それよりも彼女を呼んだ理由の説明を願えますか…中条長官?」

 

 

それぞれ軽い挨拶の後、九大天王の一人静かなる中条こと中条長官と呉先生こと呉学人が話を始めた。

 

 

「君がハスミ・クジョウ君だね?」

「はい、ハスミ・クジョウ准尉です。」

「蓮華君によく似ておられる…」

「母をご存じで?」

「元々彼女は我々国際警察機構のエキスパートで九大天王候補にと推薦される位だったのだよ。」

「えっ?(初耳なんですけどー」

「驚くのは無理もない、彼女は君の前ではそのお転婆ぶりを見せていなかった様だからね。」

「あの…覚えている限りでは母は儚げでおしとやかな感じでしたが?」

 

 

「「…」」

 

 

あの、長官、呉先生…

 

ちょっと顔が青いですけど?

 

うちの母が過去に何かしましたか?

 

しちゃった系ですかね?

 

 

「あの…?」

「あ、いや…すまなかったね。」

「つかぬ事をお聞きしますが、私の母が過去に何か?」

「まあ、色々とあったね。」

 

 

呉先生、視点が遠い所に行ってますけど?

 

 

「それはさておき今回君達を呼んだ件なのだが……話せば長くなるのだがね。」

 

 

中条長官は後に『約定事件』と呼ばれる事件の話を始めた。

 

今から数十年前のある日、私の母『蓮華』は中条長官に辞表を叩き付けて失踪。

 

他エージェントを送り、その消息を掴もうとしたが全て的外れとなったらしい。

 

そして、その数日後にBF団の開戦布告によって『約定事件』が開始された。

 

双方が拮抗する戦いが始まり、しばらく経った頃…

 

行方不明だった蓮華がその姿を現した。

 

母は双方の戦いに介入し『約定』と呼ばれる能力を発動。

 

その結果、国際警察機構とBF団の能力者達はその能力を封印されてしまった。

 

封印されたのは特殊能力のみであり、通常の格闘戦ならば行使する事は可能。

 

何故、蓮華が能力を封印し失踪したのか不明のまま今日に至った。

 

その謎は私の祖父『漣』から託された手記に記載されているが、遺言が残されていたので今まで開封する事が出来なかったとの事だ。

 

 

「開封が出来ないとは?」

「漣氏の遺言では『次期当主である君が16歳を過ぎた頃、戦いの場に居るのならば…君をこの日に呼ぶ事。』と聞かされていたのでね。」

「御爺様がそんな事をですか?」

「呉先生、例の手記を…」

「はい、こちらに。」

 

 

呉先生がアタッシュケースから取り出したのは何の変哲もない手帳、何かの鍵が施されており開封出来ない様だ。

 

 

「これがその手記だ。」

「鍵の様な物が掛かっている様ですが?」

「その通りだ、漣氏との約束もあったのでね…手付かずのままにしてある。」

 

 

あれ?この形は…

 

 

「もしかして?」

 

 

私は形見のペンダントを取り出し、手記の鍵穴に合わせた。

 

形は合っている、恐らくは嵌め込み式の鍵の様だ。

 

 

「鍵が開いた。」

「成程、君の持つペンダントが手記を開く為の鍵だったのか。」

「鍵かどうかは解りませんでしたが…」

 

 

鍵の部分が外れた手帳を改めて確認する事となった。

 

中に記録されていたのは約定事件の真実だったのだが、詳しい事は何も書かれておらず簡易的な言葉しか記載されていなかった。

 

 

『封印の時、終焉の時を抗った先の未来。』

 

『四封の機械仕掛けの神々が集う時、傲慢な御使い、大いなる破滅に抗う時である。』

 

『十二の宝玉が現れ、破界と再世、時獄と天獄が始まる。』

 

『約定を断ち切り、人としての抗いを求めるのなら御伽の声を聴け。』

 

 

物凄く拙い事が掛かれています。

 

予測通り封印戦争、銀河大戦、Z事変の到来の前触れです。

 

ガンエデンは察し、ついでにエゴイスト四人衆と完璧親父の事も記載されてますとも。

 

内心冷や汗ダラダラモノですよ。

 

 

「約定を断ち切るなら御伽の声を聴け?」

「恐らくは詩篇刀・御伽の事だろう、だが…」

「例の約定事件で失われていますからね。」

 

 

例のレポートを閲覧していない中条長官達は詩篇刀が失われたままの認識しかない。

 

ギリアム少佐が朗報がてら説明を入れてくれた。

 

 

「…その事なのですが。」

「どうしたのかね?」

「詩篇刀・御伽は現在クジョウ准尉が所持しています。」

 

 

そんなチベットスナギツネの様な眼差しを送らないでください。

 

こちらもこんな事になるなんて知ってはいましたが、ここまでとは思いませんでしたから。

 

本当にごめんなさい。

 

 

「ハスミ准尉、出して貰えるか?」

「はい。」

 

 

私は忍ばせて置いた手甲を右手に装着し詩篇刀を呼び出した。

 

以前よりも形状が少し変わってしまったが、面影が残っていたので詩篇刀である事は判って貰えた。

 

 

「長官。」

「ハスミ君、実は君に…」

 

 

呉先生と長官が何かを言いかけた時、室内にアラート音が響き渡る。

 

 

「何事だ!?」

『長官、この梁山泊に侵入者が!?』

 

 

監視施設からの通信が入ったが、爆発か何かに巻き込まれて通信が途絶してしまう。

 

 

「ハスミ准尉、何か分かるか?」

「確認中です。」

 

 

ギリアム少佐の発言で私は念を通して梁山泊を視る。

 

 

「梁山泊の格納庫にスーツを着た人……指を弾いただけで人が切れた!?」

「恐らくそれは十傑集の一人、素晴らしきヒッツカラルドだろう。」

「他には?」

「赤い仮面でスーツ姿の忍者が貯水施設に独特の和服を着た隻眼の男性が梁山泊の搬入口に居ます。」

「マスク・ザ・レッドに直系の怒鬼。」

「十傑集が三人も…!」

「っ…待ってください!」

「眼帯を付けた人と…あの人はセルバンテスさん!?」

「衝撃のアルベルトに眩惑のセルバンデス…十傑集の半分がここに集まったと言う事か!?」

「長官、他の九大天王の方々にも…!」

 

 

呉先生の掛け声の後に続く爆発音、今度は外部からの様である。

 

 

「また爆発!?」

「あれは!?」

 

 

この気配はアインスト!?

 

しかもエンドレスフロンティア版じゃない。

 

ここに超機人が現れるからかもしれないけど…

 

でも、どういう事?

 

原作ではBF団とあしゅら男爵がここへ攻めて来る筈。

 

キョウスケ少尉達が居る事でシナリオに変化が起きたのか?

 

確かにOGの超機人絡みのシナリオではアインストが現れたけど…

 

これは流石に展開が早すぎる。

 

また無限力のお遊びか…

 

相変わらず性根が曲がり過ぎている。

 

何とかしたいけど、今回はアカシックレコードから介入禁止って釘打たれてるし。

 

キョウスケ少尉達、申し訳ないです。

 

今回はそちら様だけで何とかしてください。

 

 

******

 

 

梁山泊内部にBF団、外部周辺にアインストと言う『前門の虎後門の狼』状態な今回の

敵の布陣。

 

格納庫に近かったメンバーは梁山泊在住のエキスパート達の援護で出撃しアインストに対応。

 

しかし、クスハとブリッドの機体は念対応のアップデートが済んでいないので無理は出来ない。

 

現れたBF団への対応については…

 

貯水施設にシュバルツさん、搬入口にドモンさんと言う布陣である。

 

なお、衝撃のアルベルトと眩惑のセルバンデスは九大天王の方々が追っている。

 

避難道中でエキスパートの一人、不死身の村雨健二こと村雨健二と大作君らと合流したが…

 

必然的に指パッチンこと素晴らしきヒッツカラルドに鉢合せと成りました。

 

もうムンクの『叫び』をやりたい位に心境はパニくってます。

 

 

「長官。」

「村雨君、いつ戻って来た。」

「つい先程です、それよりもBF団の狙いは…」

「我々の目的が『草間大作』とでも言うつもりかな?」

「っ!?」

 

 

指をスナップさせる音で私達が居るフロアの障壁を斬り裂くヒッツカラルド。

 

 

「初めましてかな、私の名は素晴らしきヒッツカラルド。」

「やはり、十傑集か。」

「今回は確実な任務達成の為にゲストを追加させて貰っている。」

「…(その為に十傑集の半数も集結させるとは無限力も汚いね。」

「我々の目的はただ一つ、そこに居るハスミ・クジョウをこちらに引き渡して貰いたい。」

 

 

「えっ!?」

 

 

「どうしてハスミさん何ですか!」

「判らないのかい?彼女も強力な念者、そして次代のアシュラヤーに選ばれた存在だ。」

「アシュラヤーって!?」

「さてね、我々も詳しくは聞かされていないが…我らがビッグファイアの命令である以上、こちらに引き渡して貰いたい。」

「そんな一方的に!」

「勿論、ある程度の条件はこちらも呑もう。」

「条件?」

「例えば、彼女をこのまま引き渡して貰えれば…何もせずに我々は引き下がる所存だが?」

「…(典型的な天秤掛けか、中条長官はこの条件をどう判断するか?」

 

 

ヒッツカラルドが提示した条件は私がBF団に来れば梁山泊に居る全員の命を保証すると言うものだ。

 

断れば問答無用で血が流れる。

 

問題は管轄の違う私と言う一人の兵士をこのまま連中に引き渡せば、国際警察機構の管理体制に異議を唱えて一部のタカ派の連邦軍から横槍が行われるだろう。

 

余りにも計算尽くした条件だ。

 

そのドサクサで何かの行動を起こすつもりだろう。

 

今回は介入禁止にされている以上、下手な芝居は出来ない。

 

想定していたとは言え、接触するにも早いと思ったのだが…

 

余程、想定外の事がBF団でも起こっているのだろうか?

 

さて、どうする?

 

外はアインストの襲撃の最中、無事にクスハ達が竜虎王と接触出来ても残りの十傑集を彼らが相手に出来るか不明だ。

 

常に理不尽な選択を強いられるのは解っていた。

 

今回も読み違えれば多大な被害が出る。

 

失敗は許されない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その頃、外部では。

 

 

「んぅもう!何なのよあいつらは!!」

「エクセレン!梁山泊には一歩も近づけさせるな!!」

「解ってるわよ、ハスミちゃん達がまだ中に残っている訳だしね!」

「…(レジセイア側のアインストが現れるとは想定していたとは言え、行動が早すぎる。」

 

 

現在梁山泊へ侵攻しているアインストの種類は動物の骨の様なクノッヘン、植物型のグリート、鎧型のゲミュートである。

 

以前の戦闘力程度の為、偵察が目的だろう。

 

だが、油断できないのは確かである。

 

下手をすればアインスト化を促す霧の様な物質を散布する可能性がある為だ。

 

その為、防衛ラインを決めて防戦一方の戦法になってしまっている。

 

梁山泊内部ではBF団の十傑集が侵入している為に避難が完了せずにいる為にいつになっても深入りが出来ないのだ。

 

内部で十傑集を相手にしているドモン達でさえ苦戦を強いられる相手である。

 

無理強いは出来ない。

 

 

「っ!?」

「クスハ、どうしたんだ!」

「弐式のT-LINKシステムが動かない!?」

「ちょっとどう言う事よ!?」

「クスハ、梁山泊へ下がれ!」

「りょ、了解です!」

 

 

その時だった、ゲミュートの一体が交代するグルンガスト弐式に張り付いたのである。

 

 

「クスハっ!?」

「あっ!」

 

 

引きはがそうとブリッドのヒュッケバインmk-Ⅱが応戦に入るが逆にこちらもT-LINKシステムに異常をきたし動けなくなってしまう。

 

 

「ブリッド君!」

「mk-ⅡのT-LINKシステムも限界が!」

 

 

二人に待つのは死。

 

その時だった…

 

二人に語り掛ける謎の声が響いた。

 

中国の武将の姿をした二人の人影が二人に声をかけたのだ。

 

 

要約すると『この世界を守る覚悟があるのか?』と。

 

二人は答えた。

 

真っ直ぐな想いを告げた。

 

青の竜と白の虎はその声を聴き届けて覚醒した。

 

 

 

「竜虎王、顕現っ!」

 

 

 

グルンガスト弐式とヒュッケバインmk-Ⅱを核に竜王機と虎王機が融合したのだ。

 

そして四神クラスの超機人が合体する事で顕現する。

 

破邪を祓う力が今この時をもって生まれた。

 

 

「龍王破山剣!逆鱗断っ!!」

 

 

古き破邪を竜の逆鱗が切り裂く。

 

真っ二つにされたゲミュートは事切れる様に塵と化した。

 

残存していたアインスト達もその破竹の勢いで壊滅し、この場の驚異は去った。

 

 

† † † † † †

 

 

アインスト壊滅を遠目で確認するハスミとロサ。

 

 

「さて、ハスミ君行こうかね?」

「…約束は守ってください。」

「それは君次第だ。」

「ハスミ。」

「ロサ、大丈夫よ。」

 

 

私が選んだ選択。

 

それはBF団の提案を受け入れる事。

 

あの時点で受け入れなければ、梁山泊内部に行われる攻撃で各エリアが連鎖崩壊を起こし…

 

避難中の人々が圧死していたのである。

 

その中にドモンさんの家族が含まれていたのもある。

 

それを避ける為とは言え、私のやり方は裏切りに近いのかもしれない。

 

誰からも分かって貰えない事は重々承知している。

 

この選択が間違っているかも判らない。

 

それでも出来る限りの可能性があるのならやるしかない。

 

 

* * * * * *

 

 

一行は梁山泊におけるアインストとの勝利を収めたが、ハスミ・クジョウとロサ・ニュムパがBF団に拉致されてしまった。

 

それは限りなく灰色に近い勝利でもあった。

 

 

=続=




これは必然。

孤島の鳥籠で睡蓮は仲間の無事を願う。

だが、巨大な炎と対話の時が迫る。

次回、幻影のエトランゼ・第十一.五話『捕人《トラワレビト》』

迫る選択肢はいつも理不尽が付きまとう。


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第十一.五話 『捕人《トラワレビト》』

孤島の鳥籠の中で何を思う。

問われた問いに耳を傾け。

この先の未来を決める。

これはその予兆に過ぎない。







梁山泊での戦いから早一週間。

 

現在ノードゥスは伊豆基地で待機のまま、パワーアップの為に各施設に戻った仲間達の帰りを待っていた。

 

時には迎えに行ったりしている。

 

大きな流れではシンジ君が第13使徒と戦ったり、今まで放置されていたカイラスギリーの破壊、フロンティア1から他のコロニーにバグを放った鉄仮面との戦い、リュウセイがレビを救出したりなど、時系列が崩れ過ぎた状態が起きているらしい。

 

と、アカシックレコードがリアルタイムで教えてくれた。

 

残るは鎖国状態となっているアクシズの動向やジオンを隠れ蓑にしているギガノス帝国とAnti・DG、弱体化させた異星人連合、現時点で脅威になっているゼ・バルマリィ帝国の動向である。

 

地上の敵勢力はこの一週間の間にノードゥスに総力戦を持ち込んたが、ほぼ壊滅したと言って良いだろう。

 

目まぐるしく変わる戦場と戦況。

 

私は最後の戦いに間に合うのだろうか?

 

 

******

 

 

「浮かない顔だね。」

「…そう見えますか?」

「無理もない、無理やりとは言え少々手荒な真似でこちらに出向いて貰ったからね。」

 

 

現在、私は地球の某所のBF団所有の孤島に囚われている。

 

目処前に居るのはBF団の総帥ビッグファイア本人である。

 

その横には諸葛孔明が控えている。

 

 

「…(本当に私と同じ元学生にしか見えないな。」

 

 

目処前のビッグファイアは学ランの様な服?を着ており、年相応の青年の様にしか見えないのだ。

 

悪いと思ったがビッグファイアの過去をアカシックレコードに教えて貰った所、その手のマニアなら誰でも知るとある有名な物語の過去を持っているらしい。

 

マーチウインドを相手にGR計画を遂行したあの有名なシナリオである。

 

私も正直驚いている。

 

 

 

「敵である私をここへ呼び寄せた理由は何なのでしょうか?」

「君と話して見たかった。」

「それだけではないのでは?」

「君は用心深いようだね。」

「敵地のど真ん中で気を許す兵士などいませんよ。」

 

 

 

ビッグファイア、BF団を統べる者。

 

現存する最古のサイコドライバーにしてガンエデンに並ぶ力の持ち主。

 

例のシナリオでは遥か遠い銀河に生きる異星人だったが、同胞達の愚かさに愛想を尽かせて地球へ降り立った。

 

そして長き時の中でバラルと敵対しある意味では地球を守護していた存在でもある。

 

私は複雑に絡み合う時系列の記憶から出来るだけ彼の情報を引き出していた。

 

正念場、ここで選択を間違えればバベルの塔での頂上決戦が開始してしまう。

 

それを防ぐ為にも情報と言うカードの切り方を誤ってはいけない。

 

 

 

「では、率直に言おう…我々の仲間になって欲しい。」

「っ!?」

「驚いたかい?」

「いえ、想定していたとは言え…はっきりと言われたので。」

「想定?」

「私を連れ去った理由は私の持つ力、まずは仲間へ勧誘し出来なければ命を…とありきたりですがね。」

「これは一本取られましたな。」

「そうだね。」

 

 

こうやって笑っているのにどうしてあんな事に踏み切れたのか理解できない。

 

本来の優しさを隠す様に踏み切ってしまったGR計画。

 

人はそんなに愚かなのだろうか?

 

私にはそうは思えない。

 

確かに裏表は誰にでもある。

 

絶望するには早すぎる位に。

 

人類に対して絶望するには足りない。

 

それ以上の絶望がこの先の未来で脅威として待ち受けている。

 

それを彼は知っているのだろうか?

 

 

「きっかけはアシュラヤーの単語でした。」

 

 

アシュラヤー。

 

ヘブライ語で『幻想』を意味する言葉。

 

あの手記に隠されていた言葉。

 

『アシュラヤーの目覚めはハトハラーの時』と言う言葉。

 

要約すると『幻想の目覚めは始まりの時』と言う意味だ。

 

そしてこの一週間でその存在が何なのかを理解した。

 

 

「私がアシュラヤーに選ばれた、それは貴方達にとって有力な利益若しくは脅威を生む何かであると推測しました。」

「その着眼点は間違ってはないね。」

「ここへ招いたのも手元に置いて監視する為でしょうか?」

「初めはね、けれども君は自分の推理で大体は把握出来ているだろう?」

「…」

「僕としては、そろそろ君の『正体』を晒してもいいと思う。」

「正体?」

「君がアシュラヤーの巫女であり、ホルトゥスを統べる者と言う事をね。」

 

 

理不尽は常に寄り添う様に。

 

これはカマかけか?

 

だが、あの眼は真理にたどり着いた眼だ。

 

 

「詩篇刀・御伽を所持すると言う事はそう言う事だよ。」

「…」

「勿論、この事を『バラル』が放って置く事は無いだろうね。」

 

 

成程、既に正体はばれていたか…

 

なら、こちらのジョーカーを一つ切らせて貰おう。

 

 

「共犯者にするつもりですか?」

「だとしたら?」

「条件があります。」

「条件?」

「この先の未来、そして貴方が絶望せずにすむ新たな未来への開拓を決める事でもあります。」

「成程、その条件とは?」

「まずはバラルの説得もしくは力を示して掌握する事、もう一つは…」

「っ!?」

 

 

その発言は一凪の海風にかき消された。

 

 

******

 

 

今回の決議で彼がどう出るかは判らない。

 

だけど、悲劇的結末を変えられるのなら変えてあげたい。

 

絶望せずに済む未来を見せてあげたい。

 

その思想は余りにもねじ曲がり、変わってしまうかもしれない。

 

それでも可能性があるのならその可能性に賭けたいと思った。

 

だから、それぞれの決着は人類共通の脅威を祓ってからご自由に。

 

そこまで邪魔をするつもりはない。

 

 

「ふぅ…」

「ハスミ、大丈夫?」

「うん、ちょっと疲れただけ。」

 

 

ビッグファイアとの話の後、私は牢屋代わりの一室に連行された。

 

拉致された身ではあるが、待遇が少し良過ぎるのもどうかと思う。

 

同じ様に拉致されたロサと再会し今に至る。

 

 

「結局どうなったの?」

「正体バレてたわ。」

「ええっ!?」

「まあ、そんなに驚く事じゃないわ。」

「で、でも…」

「いずれ判る事が早く来ただけよ。」

「…ハスミが言うなら。」

「こちらの意思は伝えたし、後は向こうがどう出るかかな?」

「大丈夫なの?」

「うん…理は巡り、結末へと辿る。」

「それって?」

「なる様にしてなるだけ…後は時間が掛かるだけよ。」

 

 

その後、どう言う訳か私はBF団から解放された。

 

ビッグファイアの意思らしい。

 

鹵獲されていたゲシュペンストmk-Ⅱに搭乗させられた上に極東方面へと放置された。

 

ちなみに放置された場所がネルフ本部。

 

はい、シンジ君がゼルエルに対してキレッキレの暴走中でした。

 

オマケにその様子を見に来たのか、ユーゼスまで現れる始末である。

 

どうやらレビを奪還された事で向こう側のパワーバランスが狂ったのだろう。

 

ざまぁwと思うのは私だけだろうか?

 

ここまで来て、また拉致られるヘマをしたくないのでキッチリ応戦しました。

 

ここできてダイターン3の援護もあり、何とか窮地を逃れました。

 

しかし、シンジ君がやり過ぎた為にエヴァに取り込まれました。

 

今回は何者かの思惑が絡んでいるらしくサルベージ作戦は失敗。

 

私は初号機の前で何も出来ずに落ち込むレイに助力する事に決めた。

 

初号機に触れて私が『架け橋』となる事でレイの意思を取り込まれたシンジ君に繋いだのだ。

 

後は当人同士によるものだが、すんなりと事は旨く行った。

 

即席サルベージに成功しエヴァから排出されたシンジ君を含めたエヴァのパイロット達はネルフ本部で待機となった。

 

エヴァシリーズのフルメンテや新規参入した参号機の事もあり、調整が必要と判断された為である。

 

私はそのままノードゥスに帰還、色々と根掘り葉掘り聞かれたが有力な情報がなかったのですぐに解放された。

 

そして報告書&始末書の束と格闘する羽目になりました。

 

カフェインプリーズである。

 

コーヒーカップを片手に私は一刻一刻と迫る決戦に向けて、思惑を巡らせた。

 

 

=続=

 




決戦の時が迫る。

捻じ曲がったシナリオに抗えるのだろうか?

次回、幻影のエトランゼ・第十二話『白星《ホワイトスター》前編』

結末は白き魔星と共に。


*******


「結局、解放して宜しかったので?」
「彼女の真意が判ったからね。」
「真意ですか?」
「そう、僕が想定していたよりも強大な脅威がこの世界に集結していると教えてくれた。」
「!?」
「彼女はそれを知っている、今までのあらゆる布石はその為だろう。」
「しかし、我々の監視では…」
「うまく肝心な所は欺かれていたようだね。」
「私もまだまだの様ですな。」
「さて、これから僕らもバラルやこの地を目指す脅威との対策で忙しくなるよ。」
「しかし、蓮華によって封じられた我々の能力は結局の所…どうなったのでしょうか?」
「それなら大丈夫、もう『繋いだ』と言っていたからね。」


僕はこの地を去るハスミ達を見送りながら次の戦いに備える構えを孔明に伝えた。


「…(ハスミ、いくら何でもオイタが過ぎた僕の妹に尻叩きはどうかと思うが?」


すり寄って来たアキレスを撫でながらそう思った。



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第十二話 『白星《ホワイトスター》前編』

幾多の戦いの始まり。

その通過点に過ぎない。

この戦いも進むしかない。

その先に一瞬の出来事が待ち受けようとも。







天使の輪は墜ち、最後の使者は共に歩む道を選ぶ。

 

鎖から外された異星の人々の帰還。

 

偽りの独裁者からの解放を期に人々は結束の時を向かえる。

 

敵は白き魔星にアリと…

 

 

******

 

 

私がネルフ本部に放り出されてから三週間近くが経過した。

 

エアロゲイターの前線基地とされているホワイトスターへの反攻作戦が決定。

 

そう、OGシナリオの一つである『OPERATION・SRW』の開始でもある。

 

 

「例の伊豆基地での襲撃を合わせたエアロゲイター保有のゲシュペンストmk-Ⅱの記録データです。」

 

 

作戦に備えて物資、資材の供給が進む中で私は例のゲシュペンストの件でクロガネの一室に呼び出された。

 

旧戦技教導隊関係者の集まりである。

 

ギリアム少佐の説明の後、カイ少佐の言葉を皮切りにそれぞれが意見を出す。

 

 

「どう思う?」

「疑念の予知は無いと思います。」

「ハスミ、あれに乗っていたのは確かにカーウァイ隊長だったのか?」

「画面越しですが、あの姿…そして機体に触れた時に感じた気配は間違いなくお義父さんでした。」

「年季が立ち過ぎているとは言え、あの様な姿にされるとは…」

「ギリアム少佐にはもう話してある事ですが、お義父さんを操っていた相手の念動波形パターンを記録しておきました。」

「そしてハスミが記録した敵の念波データと一致する念波データがこちら側に残っています。」

 

 

ギリアムが近くのコンソールを動かし、テーブルにはめ込まれた画面からあるデータが表示される。

 

 

「そのデータは地球連邦軍内に秘匿されていた特殊脳医学研の実験非検体『ジェニファー・フォンダ』と一致しました。」

「特殊脳医学研…特脳研か、SRX計画の要である以上はイングラム少佐が前々から接触していた可能性は高いか。」

「リュウセイ曹長に救出されたレビ・トーラー…いえ、マイ・コバヤシの事もありますからね。」

「それらが繋ぐピース、奴らは人類を拉致し自らの兵として戦場に投入しているのだろう。」

「つまり、今までのエアロゲイターの行動は…実戦投入の為の実験でしょうか?」

「恐らくは…」

 

 

知っていたとは言え、実際にやられるとキツイ。

 

ホルトゥスが動いているから被害は最小限に抑えられている。

 

それが無ければどれだけの人が犠牲になっていただろう。

 

同じ人間のする事じゃないと実感できる。

 

 

「ハスミ、大丈夫か?」

「…すみません。」

「ハスミ、お前はどうする?」

「ゼンガー隊長?」

「恐らく、次の作戦ではカーウァイ隊長が投入されるだろう。」

「カーウァイお義父さんをどうするか…ですか?」

「そうだ。」

「我々は最悪のケースを想定して戦う覚悟だ。」

 

 

救える可能性が低い以上、せめて自分達の手で…

 

それが隊長達の決断。

 

私は、私が出来る事をするだけ。

 

 

「同行させて貰えないでしょうか?」

「ハスミ、判っていると思うが…」

「判っています、だからこそ……諦めたくないのです。」

「ハスミ。」

「もしも、その時が来たのなら私も覚悟を決めます。」

「判った、作戦時は俺達と追従して貰うぞ?」

「了解です。」

 

 

ほんのわずかでも希望があるのなら意地でもしがみつく。

 

けれども、私の中で一つの思いが揺らぎはあった。

 

カーウァイお義父さんとテンペストお義父さんのどちらを優先するのか?

 

私にとってはどちらも育ての親に変わりはない。

 

私は偽善であろうとも自分の意思を捻じ曲げる事だけは絶対にしたくはない。

 

だから揺らぎはない事を告げた。

 

 

「テンペスト少佐、私は少佐の養女になれて嬉しかったです。」

「ハスミ?」

「カーウァイお義父さんを無事に助けても私の気持ちは変わりません。」

「…」

「私にとって二人はどちらも私のお義父さんですから。」

「ハスミ。」

 

 

変わりつつある現実と未来。

 

過去は変えられなくても進んできた歩みは残るのだ。

 

この培ってきた思いだけは間違いじゃない。

 

 

「当たり前だろう、お前は私の義娘に変わりはないのだからな。」

 

 

照れ臭く言うお義父さんであったが…

 

 

「お義父さん、顔が赤いですよ?」

「うっ///」

「一本取られたな。」

「カイ、お前っ!?」

「微笑ましいですね。」

 

 

いつも通りに茶化されるのであった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻。

 

ハガネ艦内格納庫にて。

 

 

「…」

 

 

ホワイトスターか…

 

今回は前の記憶も入り混じっているせいかどうも落ち着かねえ。

 

SRXの合体も出力の関係で数十回か…

 

レビ…いや、マイを救えただけまだマシだったけどよ。

 

マオ社からR-GUNパワードとビルドシュバインの納機も終わった。

 

ヴィレッタ隊長とも合流出来た。

 

後は教官を救えるかだ。

 

いや、今度こそ救うんだ。

 

絶対にこの手を放さねえって決めた。

 

何度だって追いかけてやる。

 

もうあんな思いは懲り懲りだ。

 

 

「教官…逃げても何度だって追いかけてやるから待ってろよ。」

 

 

リュウセイは誓う。

 

その先の未来の為に。

 

 

******

 

 

「ドモン、判っていると思うが…」

「無茶は今回だけだよ、兄さん。」

 

 

ホワイトスターへの反攻作戦。

 

その前に起こった戦いに置いてシャイニングガンダムはついに地に伏せた。

 

想定していた時期よりも持った方だろう。

 

 

「…(ゴッドガンダム、ようやくお前に会えた。」

 

 

格納庫に納機されたゴッドガンダム。

 

時系列の違いから今回の戦いが初陣となる。

 

シャイニングガンダムは回収され、向こうで解体される予定だ。

 

名残惜しいがシャイニングは役目を果たしたのだ。

 

いつかまた乗る事があるだろうか?

 

それは誰にも予測不可能である。

 

 

「稼働テストもしていない機体にお前を乗せるのは…」

「大丈夫だ、今までもそうだった筈だよ。」

「ドモン。」

「必ず帰ってくる、その時は兄さんに応援して欲しい。」

 

 

危機が去れば、ガンダムファイトは再び再開されるだろう。

 

今回の俺はDG事件を追う為にガンダムファイターに選ばれた訳じゃない。

 

正式な国からの依頼だ。

 

 

「…(DGは無くなり、ウルベがDG細胞を手にする危機は去った、だが…今も感じるこの不快な感覚は何だろうか?」

 

 

今はまだ、訪れる事の無い災厄の気配にドモンは不穏な感覚を覚えるのだった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ 

 

 

同艦内休憩所にて。

 

 

「ふう…」

「兄さん、どうしたの?」

 

 

ぺガスらのメンテナンスが終了し一息入れたD兄弟。

 

 

「ちょっとな。」

「もしかして、次の作戦の事?」

「ああ…」

「兄さんの記憶でも僕の記憶でも体験した事が無い戦いだったね。」

 

 

二人にはC・Eを主軸とした戦いの記憶しかない。

 

その為、今回の戦いに関する記憶がない為か遅れをとるのではないか?

 

そんな不安が過ぎるのだ。

 

もしもこの戦いで別の勢力が仕掛けてきたら護り切れるのか?

 

変わりつつある戦況に抗える事は出来ない。

 

 

「クワトロ大尉だっけ?あの人の話じゃ…こっちの?前の世界はややこしい事になっているみたいだし。」

「そうだな、クワトロ大尉…いや、あの人がシャア・アズナブルとして敵対したのちに地球連合軍が設立された事には驚くしかない。」

 

 

異なる世界における封印戦争時に起こったシャアの反乱、封印戦争終結後に地球連邦軍は各組織の残存兵力を纏め上げ地球連合軍へと編成される事となったが…

 

更なる混乱の渦中に身を投じる結果へと繋がった。

 

 

「本当にややこしい。」

「ああ、今回の戦いを切り抜けても次の問題が山積みに残っているからな。」

「ラダムの母艦、また月に不時着すると思う?」

「それは判らない、場合によっては別の場所に拠点を変える可能性があるかもしれない。」

「うん、これだけ多くの敵勢力が地球を狙っている以上は考えられるよね?」

「この話は後だ、今はただやるべき事をやるだけだ。」

 

 

******

 

 

同時刻、ラーカイラムの個室にて。

 

 

「ホワイトスターへの反攻作戦、気が抜けないな。」

「ああ、そして影で暗躍するシャドウミラーや他の組織の動向も気になる。」

「敵が動いている様子が無い以上は手出しは出来ないですよね?」

「私兵か何か伝手があればこちらも動けるでしょうが…」

「その伝手でミスリルやグランナイツが発見されただけでも朗報と言えるだろう、ラル達には感謝しきれない。」

「ラルさんが?」

「ああ、地球でアルテイシア…いや、セイラと共に調査をしてくれている。」

「そうか、こっちでもカイの伝手を使って例の組織に接触できないか動向を探って貰っている。」

「例の組織?」

「コウ、お前も覚えているだろう…GGGだ。」

「ですが…アムロ大尉、この時期の凱達は…」

「解っている、今後の事を踏まえての話し合いだ。」

「しかし、ここまで大胆に動いても良いのですか?」

「あくまで我々の様に記憶を所持していると言う仮定での行動だ。」

「こちら側から特定の人物にある言葉を送ってそれに反応すれば記憶を所持していると判断できる。」

「ある言葉?」

「彼らが記憶を所持しているのなら反応する言葉だ。」

「GGGには霊帝、ミスリルとグランナイツには御使い、こんな感じにね。」

「そうか、前の世界で戦った相手の異名を知っているのなら…」

「可能性はあると言う訳だ。」

「しかし、こちらの誘いに乗るでしょうか?」

「やるだけの事をやるだけさ。」

「だが、向こう側の気付いている筈だ……この世界を覆う強大な影をな。」

 

 

戦いの中で見え隠れする強大な影は近々その姿を現すだろう。

 

クワトロの言葉にアムロ、コウ、ガトーはただ頷くしかなかった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

搬入作業が終了し宇宙へと上がったノードゥス。

 

彼らは敵の中枢に潜り込み、敵の大将格を倒す任務が与えられた。

 

ホワイトスターに向かって続々と集結する艦隊。

 

地球連邦軍保有のグレートアークを旗艦とし、それぞれの組織で主だった戦艦がその姿を現していた。

 

そしてOPERATION・SRWの開始の合図である閃光弾が発射された。

 

OGシナリオの一つ『L5戦役』の始まりである。

 

 

=続=

 




流れる筈の涙は堪えるしかない。

ただ、勝利の為に魔星へと向かう。

あの温もりは過去の思い出。

次回、幻影のエトランゼ・第十二話『白星《ホワイトスター》中編』

嘆くな、戦いはまだ終わりではない。



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第十二話 『白星《ホワイトスター》中編』

操り人形は踊る。

それは自らが望んだ行動ではない。

思惑の糸を断ち切れ。

その先の未来を勝ち取る為に。





OPERATION・SRWが開始した。

 

ホワイトスターへの総攻撃準備の為にノードゥスは敵部隊への奇襲攻撃を仕掛ける事となった。

 

相手が同じ地球人でその成れの果てであったとしても…

 

 

「ちっ、虫だったり他の組織から鹵獲した機体ばっかりだ。」

「やはり、我々への様子見でしょうか?」

「恐らくな、全く舐めた真似をしやがって!」

 

 

ヒリュウ改のオクト小隊隊長カチーナとその部下であるラッセル。

 

敵部隊の構成の様子に違和感を覚えた。

 

艦を狙うバグスの塊にタスクが、タスク機を狙う漏れた敵をレオナが対応する事で現状維持のまま戦闘は続いた。

 

 

「俺らが仕掛けて来てるってのに隊長格の姿がねえ。」

「恐らくはこちらの戦力を削る為に使い捨ての戦力を投入しているのでしょうね。」

「だよな、とにかくヒリュウ改に近づけさせる訳にはいかねえ。」

「周囲の雑魚は中尉と私達に任せて、貴方は敵の陣形を潰す事に専念なさい。」

「合点承知だぜ、レオナちゃん。」

 

 

ジガンスクードのギガ・ワイド・ブラスターが前方の陣形を崩し、それを好機に他の各機が落としていく。

 

同じ様にラーカイラム、リーンホース・Jr、ナデシコ、エルシャンク等の艦隊所属MS・特機の混成部隊も母艦を護りつつホワイトスターへと向かって行った。

 

 

******

 

 

ハガネよりSRXチームが発進。

 

 

「SRXチーム発進します。」

「…」

「レビ…いや、マイ。」

「リュウセイ?」

「やっぱり気になるか?」

「皆は私を受け入れてくれた、だから私は私を救ってくれたリュウセイやアヤ達の力になりたい。」

「マイ。」

「じゃ、敵さんの本拠地に殴り込みに行こうぜ!」

「うん。」

「各機、ATXチームの出撃の邪魔になる。」

「了解、先行開始します。」

「ヴィレッタ隊長、指揮をよろしくお願いします。」

「ええ、任せて。」

 

 

SRXチームに参入したレビことマイのR-GUNパワード、ヴィレッタのビルドシュバインと共に進撃を開始する。

 

続けてヒリュウ改よりATXチームが出撃を開始する。

 

 

「キョウスケ中尉、各艦の進路を切り開いてください。」

「了解、ATXチーム突貫する!」

 

 

ATXチーム隊長代理のキョウスケが合図をする。

 

 

「ラジャー!」

「了解!」

「はい。」

「了解です。」

「要は艦に近づく奴らを片っ端から倒せばいいのだろう?これがな。」

 

 

ATXチームは例の一件でゼンガーとハスミが抜けている。

 

その為、残りのメンバーでホワイトスターへの進路を切り開く事となる。

 

しかし、前回とは違い戦力は十分である。

 

だが、ホワイトスターには強念の結界が張られている。

 

SRXチームの役目はホワイトスターに辿り着き、バリアを破壊する事である。

 

付け焼刃のT-LINKツインコンタクトによるトロニウムバスターキャノンでの一点集中攻撃である。

 

バリア発生地点を破壊すれば、ホワイトスターを包むバリアを破る事が可能である。

 

それがマイの持つ敵の情報である。

 

その後は各艦に搭載されたHIMAPWによる総攻撃が開始される。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

グレートアーク級からの核攻撃開始までのタイムリミットはSRXチームがホワイトスターのバリアを破壊するまで。

 

それまでにカーウァイお義父さんの機体を探さないと…

 

周囲に念の張り巡らせているが、どうも引っかからない。

 

 

「ハスミ、反応はあったか?」

「いえ、もしかするとまだ出て来ていないのかもしれません。」

「ある程度の揺さぶりを掛けんと現れんか…」

 

 

念の為、グレートアーク級周辺にホルトゥスのメンバーが控えている。

 

これはアタッドの進撃ルートが複雑だからだ。

 

ディバイン版では真っ先にSRXチームに接触。

 

レコード版ではグレートアーク級へ。

 

OGsでは作戦開始半ば辺り。

 

どれに当てはまるかは判らないが念の為である。

 

 

「…(今回はテンザンが退場した事でパワーバランスが狂い始めているし、敵がどう出るかが問題ね。」

 

 

R-GUNリヴァーレが出ている以上、漆黒の堕天使が出現するかは判らない。

 

複雑な並行世界の果てに集約されたこの世界はあるのだから。

 

可能性は否定できない。

 

 

「…(後はリュウセイ次第か。」

 

 

この結末はどう転ぶだろうか。

 

 

「っ!?」

「ハスミ!」

「ゼンガー隊長、ホワイトスターから出て来ます!」

 

 

漸くお出ましみたいね。

 

 

「この念、あの地球人か!」

 

 

アタッドのヴァイクル、そしてガルインのゲシュペンストmk-Ⅱがこちらの気配を察知し進撃を開始した。

 

 

「ガルイン、奴らを始末するよ。」

「了解。」

 

 

こちらもそれを察知し接触を果たした。

 

 

「あの地球人もいるのか、丁度いい…ここで今までの屈辱を晴らさせて貰うよ!」

「ゼンガー隊長、グリフォンの相手は私がやります……お義父さんの事、お願いします!」

「承知した!」

「カーウァイ隊長、貴方を縛る呪縛は我々が解きます。」

 

 

因縁の対決は始まった。

 

早期にグリフォンを停止させる為に交戦を開始した。

 

 

「地球人、お前のせいでアタシはぁ!!」

「逆恨みは大概にしなさいよ!貴方だって地球人なんでしょう!!」

「な、何を…!?」

「レビ・トーラ…いえ、マイから聞いたわ!」

 

 

“貴方の本当の名前はジェニファー・フォンダ。”

 

“私達と同じ地球人よ!”

 

 

「ふざけるな!」

「否定しまくりの所を見ると実感はある様ね。」

「アタシが地球人?笑わせるな!!」

「実際、そうなのだから否定する必要もないでしょう?」

「アタシは生粋のバルマー人、地球人の訳がっ!?」

 

 

アタッドの脳裏を巡る記憶。

 

嘗てジェニファーであった頃の記憶。

 

だが、仮面を付けた様に塗り替えられていく。

 

ジェニファーであった証が消えて行こうとしていた。

 

ジェニファーの人格とアタッドの人格がせめぎ合っている。

 

 

「アタシは…アタシは!?」

「後はこの機体のT-LINKシステムを…!」

 

 

グリフォンの頭部に搭載されたT-LINKシステムを撃ち抜く。

 

 

「ああっ!!!?」

 

 

せめぎ合う思念。

 

解放されたジェニファーに取り憑こうとするアタッドの思念。

 

 

「アタッドの人格、アレンジペルソナ…これで終わりよ!!」

 

 

詩篇刀・御伽の解放。

 

 

「お前の思念を断ち切る…!!」

 

 

刀の切っ先がアタッドの思念を斬り裂く。

 

その常人では聞こえない叫び声と共にアタッドの人格は四散した。

 

ジェニファーはそのまま気絶しグリフォンは停止した。

 

 

「グリフォンを沈黙!」

 

 

グリフォンことヴァイクルの停止と共にガルインのゲシュペンストmk-Ⅱの停止した。

 

 

「止まったのか?」

「判りません。」

「ハスミどうだ?」

 

 

グリフォンを牽引し停止したゲシュペンストmk-Ⅱの元へ接近。

 

確認した所、どうやらこのグリフォンがガルイン機をコントロールしていたらしい。

 

その為、グリフォンの送受信機だったT-LINKシステムを破壊した事でガルイン機は機能停止したのだろう。

 

 

「妙な気配は感じられませんが、頭部に搭載されている外部コントロール受信機を破壊した方がいいと思います。」

「判った。」

 

 

別の機体からの操作も考えられる為、ギリアム少佐がガルイン機の頭部を破壊。

 

私は動かなくなったガルインに声を掛けた。

 

 

「お義父さん、カーウァイお義父さん?」

「…っ!」

「カーウァイお義父さん!」

「ここは……?ハスミ?お前なのか?」

「うん、御帰り…お義父さん。」

 

 

何度目かの呼びかけで目覚めたガルインことカーウァイ。

 

 

「お前達、随分と老けたな?」

「お、お義父さん?」

 

 

お決まりのジョークによって周囲が静まり返る。

 

 

「第一声がそれですか…」

「隊長、外見は兎も角お変わりない様で。」

「皆、随分と迷惑をかけた様だな。」

 

 

隊長は隊長のままである事に安堵した。

 

 

「お義父さんのせいじゃない、だから…」

「私が居なくなってからの事を聞かせて貰えないか?」

「解りました、色々と話したい事もありましたし。」

「ですが、手短な説明になります。」

「戦いはまだ終わった訳ではありませんので。」

「そうだったな。」

 

 

私達は一度、ヒリュウ改と合流し事情を説明。

 

二機を預かってもらい、先に先行したメンバーと合流する為に再度出撃した。

 

 

「良かった…」

 

 

すり抜けた手をつかみ取った。

 

最後の仕上げと行こう。

 

皆が待っている。

 

 

=続=

 




白き魔星の牢獄。

漆黒の堕天使の目覚めと共に黒き地獄と審判者が現れる。


次回、幻影のエトランゼ・第一二話『白星《ホワイトスター》後編』


更なる奇跡を起こせ。


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第一二話 『白星《ホワイトスター》後編』

先を知るからこそ出来る事。

これ以上は好きにさせない。

白き魔星…

これがお前達の墓標だ。


無事アタッドことジェニファーとガルインことカーウァイを救出した旧戦技教導隊の一行。

 

ヒリュウ改にて彼らの引き取りと機体の補給を済ませた後、先行したノードゥスの部隊と合流した。

 

現在、第二次敵防衛ラインを突破し最終ラインへの戦闘を行っていた。

 

そう、ホワイトスターへの直接攻撃開始の合図である。

 

 

******

 

 

『ハスミちゃん、無事にパパを助けられたのね。』

「はい、ご迷惑をおかけしました。」

『いや、何事もなくて良かったな。』

「正気に戻っても相変わらずでした……そちらの戦況はどうなっていますか?」

『SRXチームのサポートする部隊と周囲の敵を引き付ける部隊に別れている所だ。』

「転移による敵の強襲などは無かったのですか?」

『それはマサキとリューネ、ダンガイオーチームやナデシコのメンバーが防いでくれた。』

「それでは展開しているグレートアーク級艦隊の壊滅は無かったと言う訳ですか?」

『その理由はこれを見れば判る。』

 

 

ATXチームと合流した私はホワイトスターへ突入するまでの経緯をキョウスケ中尉から聞く事となった。

 

本来ならばホワイトスターからの転移戦法で味方艦隊の被害は甚大だった。

 

だが、転生者達の機転と思わぬ援軍によってそれらは阻まれたのである。

 

 

「赤いヴァルシオン?」

『パイロットの名前を聞いたら驚くわよ、何とビアン博士が乗ってるのよ!』

「まさか、ビアン・ゾルダーク博士が…!」

『ああ、博士達もブルーロータスの進言を聞き付け…戦場に出向いたそうだ。』

『ホント、あの人達のおかげね。』

「…」

 

 

浸透する蒼い睡蓮の奇跡。

 

先視の力と卓越した戦術、そしてその戦力。

 

場合によっては危険視の言葉も入ってくるが、今回はそれを煽る一派が一掃されたのでそれはなくなっている。

 

先を視る事で危機と成り得る事象を防いできた。

 

だが、彼らが表舞台に出る事はない。

 

今はその時ではないから…

 

 

「キョウスケ中尉、ATXチームはどちらの部隊へ入る事になりますか?」

『俺達はSRXチームのサポートに入る。』

「…やはり、伊豆基地での一件ですか?」

『ハスミちゃんだって一矢報いたいでしょ?』

「ええ、お義父さんをあんな目に遭わせたのですから…出来る事なら。」

『だが、無理は禁物だ…俺達がチームである事を忘れるな。』

「了解です。」

 

 

幕引きまでは程遠い。

 

残るは漆黒の堕天使、黒き地獄、紫の審判者。

 

負ける訳には行かない。

 

この先の災厄戦はそれほどまでに過酷な戦いであるから。

 

 

「…」

『ハスミ。』

「キョウスケ中尉。」

『これは秘匿通信だ、俺はお前とだけで話をしたい。』

「…話ですか?」

『そろそろお前の本性を見せて貰いたい。』

「本性?」

『俺の考えが正しければ、お前は転生者だろう?』

「…何故ですか?」

『お前はさっきの話で艦隊について聞いたな?』

「それが何か?」

『お前はグレートアーク級艦隊が転移奇襲を受け、壊滅する事を知っていたのだろう?』

「…」

『先程、お前は壊滅は無かったと言った。』

「はい。」

『そこで本音が出た。』

「?」

『お前はどうやってグレートアーク級艦隊がこの戦場で壊滅する事を知った?念視や先視だけでは全体を把握出来ないだろう?』

「…(あ。」

『…お前はこうなる事を事前に知っていたと言う事だ。』

「…」

『グレートアーク級の壊滅が無かった事でお前は何処か安心していた。』

「それだけですか?」

『お前は何かしらの方法で艦隊が必ず無事である事を知った、それにこの戦場でグレートアーク級艦隊が壊滅をする事を知るのは転生の記憶を持つ者だけだ。』

「…(失言だ。」

 

 

ああ、こう言う性格で少ない情報で真実に辿り着く人だって事を忘れていました。

 

私も爪が甘い。

 

一番厄介な人物に情報を与えてしまったか…

 

けれども、言うべきか?

 

話せば災厄の脅威に晒される。

 

災厄はずっと私を監視し続けている。

 

なのに…

 

また私の一言で誰かを巻き込もうとしている。

 

 

『ハスミ、お前は俺達の敵なのか?』

「違います!」

 

 

私は貴方達の敵じゃない。

 

そう言いたい。

 

だけど…

 

だけど!

 

 

『…』

「ある話です『少女が魔王となった切っ掛け』は何だったのでしょうか?」

『それは?』

「その小説を探してください、それが答えに繋がります。」

『ハスミ…』

「そろそろ時間です、配置に戻ります。」

 

 

私は通信を切ると泣いてしまった。

 

本当の事を伝えたい。

 

だけど、伝える事が出来ない。

 

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。

 

 

******

 

 

あの話は私の前の世界での生涯とその後の願いを御伽噺風に綴ったものだ。

 

あの話の教訓は嘘は付けない、いずれ暴かれると言うものである。

 

そして掟は必ず守らなければ罰が待ち受ける。

 

例えに利用するには十分な題材である。

 

 

「…(考えるのは止めよう、もうホワイトスターに着く。」

 

 

今度はリュウセイ達の手助けをしなければならない。

 

次も助けるとそう決めた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

周辺の敵は赤いヴァルシオン率いる強力な援軍によって一掃され、ノードゥスは半分に別れる必要はなくなった。

 

ホワイトスターの障壁を破る為にノードゥスの艦隊が集結。

 

トリはSRXチームのSRXとR-GUNパワード。

 

そして障壁を破壊する為にジガンスクードとクロガネ、ハガネ、ヒリュウ改が配置に着いた。

 

だが…

 

動揺していた私はイングラムの罠により結界に取り込まれる史実に気が付く事が出来ずに…

 

失態をまた犯してしまった。

 

そしてタスクが障壁を破壊する為に無理をし過ぎて戦線を離脱する結果を作った。

 

レオナには嫌な思いをさせてしまった。

 

ごめんなさい。

 

私達は迎え撃つ雑魚と隔壁を破壊しつつホワイトスターの最深部に突入した。

 

そこにあったのは…

 

 

「空に草原?」

 

 

地球の環境に酷似した場所。

 

けれども、私はこの光景を知っている。

 

モノクロのページとカラフルな液晶画面の中でだけど。

 

ここは奴らが地球人を繋ぐ牢獄だから…

 

 

「ようこそ、地球人種よ。」

 

 

銀色の髪に独特の赤いタトゥーを付けた男性が鎮座していた。

 

ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ。

 

ゴッツォ家によって創り出されたハイブリットヒューマンの一体。

 

彼自身はその事実を知らないだろう。

 

彼もまた人形だから…

 

 

「我が名はラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ、この自動要塞ネビーイームを統べる者。」

 

 

やはり、レビの代わりがラオデキヤ。

 

そして裏で操っているのはユーゼス。

 

だけど、その姿は無い。

 

当の本人は高みの見物だろうか?

 

 

「…(奴がリュウセイの話していたゴッツォの創り出した人形か。」

「…(何度か問いかけをしているがこいつから答えが聞ける状態じゃない、これがな。」

 

 

他のメンバーが問いかけを行うが、聞けるのはレビの…OGと同じ事だけだった。

 

答える必要はないと…

 

元々答えるべき真実を知らない以上、これ以上の詮索は出来ない。

 

本当に厄介だわ。

 

 

「貴様達に許されるのは我らの元に仕える事のみ、答えよ…我らの軍門に下るのか?」

「断る!」

 

 

ラオデキヤの問いに答えるキョウスケ。

 

それは拒絶。

 

 

「俺達は貴様らの手鼻を挫く為にここまで来た。」

「俺達は屈しない。」

「貴様達は踏み入れてはならぬ地へ訪れたのだ。」

 

 

 

アクセルが、アムロが、クワトロが。

 

 

「人を人形の様に扱うお前達の好きにさせてたまるか!」

「我々はどんな事があろうとも抗う覚悟は出来ている!」

「俺達にもやるべき事が残されている!」

「ここで立ち止まる訳には行かないんでね。」

 

 

コウが、ガトーが、D兄弟が。

 

 

「僕達は貴方に立ち向かう。」

「そうだ、これ以上の好きにはさせない!」

「目標が目処前に現れてくれたんでね、やらせて貰うぜ!」

「地球だけじゃない、他の星々を解放する為に!」

 

 

シンジが、アキトが、ジョウが、エイジが。

 

 

「ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ…ここが貴様達エアロゲイターの墓標だ!」

「地球へ攻め込んだその罪、償って貰おう!」

「倍返しの時だぜ!」

「犠牲者を出させる訳には行かない!」

 

 

ドモンが、シュバルツが、マサキ、ラウルが。

 

侵略者への反攻の意思を伝える。

 

 

「この期に及んでも…まだ自らを篩にかけるか?」

 

 

ラオデキヤは座席から立ち上がるとそのマントを翻した。

 

 

「よかろう、この時を持って我らの審判をその身に受けるがよい。」

 

 

空間内の隔壁が開閉し現れた機動兵器。

 

その名はズフィルード。

 

人の形を象ったネビーイームを守護する門番。

 

 

「…(真の審判はまだ始まっていない、貴方はその前座に過ぎない。」

 

 

それぞれが倒すべき相手に銃口を向けた。

 

 

******

 

 

「くっ!」

「イングラムっ!!」

「…(SRXの機動性能ではリヴァーレに追いつける筈が…!」

「俺はアンタのツラに一発ぶち込む……そしてアヤ達の前で土下座させてやる!!」

「やれるものな…がぁ!?」

「やれるものじゃない、やってやるんだよ!!」

 

 

ホワイトスター内部でズフィルードと共に現れたR-GUNリヴァーレと交戦するSRX。

 

機動性ではリヴァーレの方に利があるが、リュウセイはそれを見通してザインナックルをリヴァーレに叩き込んだ。

 

転生の記憶を持ったリュウセイの念はイングラムが想定していた以上に成長を遂げていた。

 

それは数々の修羅場を潜り抜けて来た彼らだからこそ成し得る事だった。

 

 

「レビ、ヴィレッタ、やはり裏切ったか…」

「私の名はマイ・コバヤシだ…ユーゼス!」

「貴方には随分と苦渋を舐めさせられ続けられたわ…」

「ふん、レビよ…それが偽りの名であってもか?」

「それでも私はアヤの妹、マイ・コバヤシだ!!」

「マイも私も前に進む、お前達を倒す事で!」

 

 

ユーゼスのジュデッカにR-GUNパワードとビルドシュバインを中心に攻撃を仕掛けていた。

 

そして私もまた、奴と交戦を開始した。

 

 

「地球人如きが…!?」

「どうだろうか、その見解は?」

「何だと?」

「貴方の様な人形遣いに話す事は無い。」

 

 

お義父さんやジェニファー達を操ってくれた事、忘れたとは言わせない!

 

ユーゼス・ゴッツォ。

 

貴方も倒して見せる。

 

 

「貴様か、アウレフを通じて監視していたが……よもや貴様こそが最も危険で有用な存在だったか。」

「…」

「レビが戻らぬ以上、貴様を捕らえ…ジュデッカのコアにしてやろう。」

「お断りよ!」

「…(あの愚帝を思わせる念、排除すべきと思ったが傀儡として使役する方が得策と言えよう。」

 

 

我らの母星に存在した黒の死海文書。

 

対成す様に地球に存在した白の死海文書。

 

その二つを合わせる事である真実を語っていると思われた。

 

だが、違った。

 

死海文書は二つではない。

 

四つに分かれていたのだ。

 

残りの二つ。

 

記述に残されていた紅の死海文書と蒼の死海文書。

 

それらを奴らより早期に見つけ出さねば…

 

 

「…(ジュデッカのコアは完全に破壊しないとアレが起動してしまう。」

「ハスミ、援護有難う。」

「いえ、それよりも…奴を倒さないと!」

「うん、ユーゼスを放っておく訳にはいかない。」

「マイ、ヴィレッタ大尉、私達が援護します。」

「判った。」

「任せるわ。」

「ロサ、一気に詰めるよ!」

「了解です!」

 

 

後は奴の行動パターンを思い出して戦うだけ。

 

予行演習無しの一度きり。

 

油断はしない。

 

ここで終わる訳にはいかない。

 

キョウスケ中尉、皆さん。

 

ラオデキヤの相手を頼みます。

 

私はここで奴を食い止めます。

 

それがこの先の未来に関わる事でも…

 

 

******

 

 

「…(ドモンやリュウセイから聞いていたが、厄介な相手だな。」

 

 

奴の機体に搭載されているズフィルードクリスタル。

 

その大元は今もアイドネウス島に眠っている。

 

あの時はシュウ・シラカワの手によって大気圏外に転移させた事で事無きを得たが…

 

今度はどう転ぶか。

 

マサキは考えがあると言っていたが…

 

兎に角、奴を倒さなければ話にならん!

 

 

「ふっ、やはりお前達は他の地球人種と異なり予想を超える戦力を…」

 

 

ズフィルートの攻撃の際に現れる影。

 

かつて前世で戦った機械仕掛けの神の姿。

 

それは女性的だったり男性的だったりと姿を変えて現れる。

 

その正体を知る者はその光景を思い出す。

 

ナシムとゲベルの名を…

 

 

「その台詞は聞き飽きたぜ!」

「!?」

「お前達が俺達を成長させ自身の手駒として利用する事は既に解っていた。」

「だが、貴様達はこの時点で失態を犯している。」

「俺達がお前達を超える戦力を手に入れてしまうと言う失態をな…!」

 

 

ズフィルードに目掛け、それぞれの必殺技が炸裂する。

 

燃え上がる不死鳥が、鉄杭と鉛のオンパレードが、蒼き麒麟の一撃が。

 

それらがズフィルードを貫いた。

 

爆炎を上げつつ朽ち果てる機体へ言葉を送る。

 

 

「お前達の事だ…この時点でそれを覆す策でもあるのだろう?」

「…だとしたら?」

「悪いが既にその対策はこちら側で用意済みだ。」

「シュウ、用意は出来ているんだろう!」

 

 

『やれやれ、人使いが荒いですね。』

 

 

******

 

 

地球、アイドネウス島にて。

 

 

「ですが、奴らに復讐が出来るのならお手伝いしますよ。」

 

 

島の中心部より打ち上げられるメテオ3。

 

 

「以前の様な後出しにはなりませんよ?」

 

 

最後の審判者が宇宙へと転移する。

 

早期決戦はこれから始まる。

 

 

「さて、私も決戦の場へ赴きましょう。」

 

 

蒼き魔神もまた宇宙へと舞台を移した。

 

 

=続=

 




母なる大地に眠る悪夢。

それは星を滅ぼす災厄。

危機を察して集結する人類。

志は一つ。

次回、幻影のエトランゼ・第一三話『審判《セプタギン》』

可能性は目処前に。


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第一三話 『審判《セプタギン》』

シナリオは覆される。

その先にある変わりつつある未来と世界に。

どんな事が待ち受けようとも。

突き進め。

歩みを止めるな。

それが一筋の希望だとしても…



ホワイトスター最深部にて。

 

激戦を繰り返すノードゥスの部隊。

 

そして一つの決着が終わろうとしていた。

 

 

******

 

 

「馬鹿な…」

 

 

紫の番人が敗れ、黒の地獄もまた地に堕ちた。

 

 

「これで終わりだ、ユーゼス。」

「私達の運命を弄んだ罪、ここで償いなさい!」

「この様な事が…あって!!」

 

 

ジュデッカの再生機構が損傷し蓄積されたダメージによって機体は悲鳴を上げていた。

 

所々で起こる爆発と火花。

 

そのまま逃げる事も出来ただろう。

 

 

「こ、のままでは…!」

『侵略者が潰える歴史は常に繰り返させる。』

「何が…言いたい?」

『アプローチの仕方次第で未来を変える事も出来た筈と言う事よ。』

「…」

『貴方が目指そうとした未来がどんなモノなのかは分からない、それでも歪んだ犠牲の上で成り立つ未来からは何も得られない。』

「では、如何すれ…ば…良かったのだ?」

『互いに逢いより言葉を交わす事から始めればよかったのよ。』

 

 

誰もが知る言葉と言葉。

 

通じ合う事が出来ないかもしれない。

 

それでも何かで伝える事が出来るかもしれない。

 

相手に悪意があれば立ち向かい。

 

共に歩むのなら手を取り合えばいい。

 

小さな子供でも出来る事。

 

 

「ふ、甘いな。」

 

 

仮面の支配者は最後の言葉を送った。

 

 

「ハスミ・クジョウ。」

『…』

「地獄の底からお前達を嘲笑おう、愚かな選択をし続けるお前達をな…!」

 

 

その言葉を最後に黒いジュデッカは爆散した。

 

コアも損傷し跡形もなく砕け散った。

 

 

「これで終わればいいけど…」

「ハスミ。」

「ロサ…」

「本当に良かったの?」

「もう説得が出来ないまでに歪んでしまっていた、例え救ったとしても遺恨を残すだけよ。」

「…」

「相寄れない時もあるって事ね。」

 

 

正直、私の中でカーウァイお義父さんを苦しめた事で枷になっていた。

 

だから説得は出来なかった。

 

心の何処かでユルサナイと言う想いがあったからだ。

 

手を取り合いたいと願った。

 

だけど、それもここでは出来なかった。

 

このユーゼスにはかつて世界の為に戦おうとした意思は無かったからだ。

 

全ては己の欲望の為に澱み切った意思は覆す事は出来ない。

 

これが私の出来る限界だ。

 

 

******

 

 

一方SRXチームは…

 

 

「少佐、イングラム少佐…!」

「アヤ…」

「少佐!」

「ようやくお目覚めですか?」

「お前達、どうして…」

「枷は外れたみたいね。」

「ヴィレッタ。」

「あの子達に感謝しなさい、命掛けで貴方を救おうとしたのだから。」

 

 

イングラムが周囲を見渡すと集まっていたSRXチームの面々とボロボロになったSRX、無残に破壊されたR-GUNリヴァーレの残骸が目に映った。

 

目元に涙を溜めていたアヤは自身を抱きしめ、他のメンバーは安堵した表情でこちらを見ていた。

 

本来なら死ぬ事で解放される筈だったが、それらが覆された。

 

付けられた枷の気配はない。

 

消えている、何故だ?

 

 

「…(まさか?」

 

 

俺はリュウセイを見た。

 

それに気が付いたリュウセイは相槌の様に笑い返した。

 

それが何を意味するのか判らない。

 

だが、この時に感謝しなければならない。

 

もう一度、お前達と共に歩めると言う事を…

 

 

「イングラム少佐、今後の事ですが…」

「…」

「貴方はエアロゲイターに洗脳されていたと言う事で通してあります。」

「ライ…!」

「これはSRXチーム全員の総意です。」

「だが、俺は…」

「散々自分達を引っ掻き回したのです、その対価は体で払って貰うと言う事になりました。」

「それでいいのか?」

 

 

SRXチームは皆それを了承した。

 

それぞれがその証の言葉をかけた。

 

 

『リュウセイ、一大事だ!!』

「キョウスケ、どうしたんだ!?」

『メテオ3が起動を開始した。』

「何だって…!?」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ホワイトスターの守護者達を倒した後…

 

コアを失ったメテオ3ことセプタギンを破壊する事で全ては終わる筈だった。

 

しかし、ここでもシナリオは覆されたのだ。

 

 

「では、メテオ3は元々エアロゲイターが所持していた惑星殲滅兵器だったと?」

『その通りだ、それに気が付いた我々は何度かメテオ3の破壊方法を模索していた。』

 

 

合流したビアン博士から語られた真実。

 

メテオ3の正体はエアロゲイターが何かしらの状況で壊滅した場合に動き出す惑星殲滅兵器。

 

そしてその起動コアがないものの別の方法で起動してしまった。

 

恐らくは何かの安全装置が働いた可能性があるとの事だった。

 

このままでは地球圏が壊滅。

 

人類滅亡は免れないとの事だ。

 

 

「しかし、今になって何故?」

『メテオ3の正体を知ったワシらを狙う輩が現れた為に身動きが取れん状況だった。』

 

 

真実を知る者の口を封じる為に幾度もその命を狙われていた。

 

その為、ビアン博士を始めとした数名は姿を隠す必要があったのである。

 

 

『このまま放置すれば人類に未来はない。』

「しかし、ホワイトスター戦で疲弊した現在の戦力では…」

『言った筈だ、人類に未来はない…それは地球もコロニーも同じ事だ!!』

 

 

ビアン博士の言葉はオービタルリングの衛星通信で地球全土、コロニー群に届いていた。

 

 

『これは人類存続の為の戦い、臆するな諍いあった者達よ…この言葉に賛同するならばこの地に集え!!』

 

 

そして願いの言葉は届いたのだ。

 

かつて敵対していた者達が、枷に繋がれていた異星人達が、地球を守護していた勇者達が。

 

宇宙に集い始めたのだ。

 

 

******

 

 

この光景に私は涙した。

 

手を取り合えなかった筈の人々が手を取り合ったのだ。

 

これは一時かもしれない。

 

それでもこの奇跡に感謝したい。

 

 

「もう一息だ!」

 

 

ノードゥスはセプタギンに向かって追撃を開始した。

 

ホワイトスター戦で使用されなかった艦隊の核兵装をセプタギンへ発射。

 

ある程度のダメージを与え、残りの兵力で殲滅させる。

 

いつもと同じ手であるが、他に方法が無い以上…

 

致し方ない。

 

 

「何ともまあ敵さんも大きいくす玉を用意してくれちゃったわね。」

「隕石だと思いますけど?」

「兎も角、俺達で出来るだけ破壊するぞ。」

「敵は強大にして一体、いざ行かん!!」

「了解!」

 

 

 

セプタギンに向かって行くノードゥス。

 

大火力で迫りくる結晶の嵐を掻い潜り、攻撃を加えて行く。

 

しかし、最深部までには届かず停滞している。

 

 

 

「ちっ、相変わらず堅いな。」

「減らず口を叩いている暇があるのなら攻撃を続行したらどうですか?」

「へっ、言われるまでもねえぜ!」

 

 

合流したグランゾンのワームスマッシャーが周囲の結晶群を蹴散らし、サイバスターが斬り裂く。

 

疲弊する体と機体に鞭を打ち、攻撃を加えて行く。

 

どんなに困難でもその先の未来を勝ち取る為に。

 

そして宇宙に声が響いた。

 

 

 

『テトラクテゥス・グラマトン』

 

 

 

現れたのは半壊に近いSRXと大破した筈のR-GUNリヴァーレ。

 

二つの機体が呪文と共に融合した。

 

SRXの巨体とR-GUNリヴァーレの特性を持ち合わせた機体。

 

その名はSRXリヴァーレ。

 

 

「リュウセイ、長くは持たん…一度きりだ。」

「判ったぜ。」

 

 

R-GUNリヴァーレの必殺技。

 

因果地平の彼方へ送る一撃。

 

 

 

「「「「「「アキシオン・バスタぁああああ!!!」」」」」」

 

 

 

展開された魔方陣の中で崩壊し続けるセプタギン。

 

それを好機にノードゥスのメンバーも更なる攻撃を開始する。

 

最後の審判者は覆されたシナリオで覚醒したがその稼働時間は僅かだった。

 

崩壊する審判者を最後に…

 

人類は滅亡の脅威から生還。

 

そしてエアロゲイターとの戦いに勝利したのだった。

 

 

=続=

 

 




一つの戦いに終止符が打たれた。

ある者は戦場を退き。

ある者は戦う事を決意する。

『希望』は拡散し『未来』へと紡がれる。


次回、幻影のエトランゼ・第十四話『後日《ゴジツ》』


今は一時の安らぎを。




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第十四話 『後日《ゴジツ》』

白き魔星での戦いは終わった。

だが、災厄が過ぎ去った訳ではない。

これは次の戦いまでの記録。



ホワイトスターとの総力戦。

 

この戦いは『L5戦役』と呼ばれ、一時的だが民衆を騒がせた。

 

この戦いを切っ掛けに地球連邦軍は各勢力と和解し地球連合政府を設立。

 

その政府には各勢力の現在の主である人物達が肩を並べる事で調和を保つ事となった。

 

だが、この政策を良く思わない輩やこれを期に漁夫の利を得ようとする輩も少なくない。

 

そんな毒物はホルトゥスのメンバーによって処理され毒を出す事は無かった。

 

その後に起こったホワイトファングやOZ残党による小競り合いや妖魔帝国と決着。

 

L5宙域に自治権を置くコーディネーター主体のコロニー国家『プラント』の出現。

 

新たな異星人の出現。

 

起こるべきシナリオは早期に始まりつつあったのだ。

 

 

******

 

 

L5戦役から数週間後。

 

L5戦役の勝利を祝して祝勝パーティが行われた。

 

このパーティ後、軍を去る者、続ける者、新天地へ赴く者と別れる事になっている。

 

流れ通りにバニーちゃんはさせられました。

 

ちなみに祝勝パーティに参加していたハマーン様がバニースーツを見て『いいモノだな。』とボソリと呟いていたのは気のせいと思いたいです。

 

ツインテール時代のハマーン様も可愛かったですけどね。

 

テンペスト&カーウァイWお義父さんとビアン博士が自分の娘のバニーガール姿に後光から閻魔様が出ていた事は教えるつもりはないので…

 

エクセレン少尉がどうなったかは不明である。

 

それはさておき。

 

おめでた組が二組程いたのでそのお祝いを兼ねている。

 

ジャータさんとガーネットさん、シローさんとアイナさんのカップルである。

 

二組は子育てに専念したいとの事で退役する事となった。

 

ジャータさん達は浅草へ、シローさん達はカナダへ新居を構える予定である。

 

それを聞きつけたシャイン皇女が二組にご懐妊祝いと称して新居をプレゼントしていた。

 

さすが皇族、新居すらプレゼント出来るとは…

 

それよりもノリスさん、ホールの隅っこで苔を生やさないでください。

 

カーウァイお義父さんとジェニファーは地球へ降りた後、JUDAコーポレーション系列の病院で治療に専念する事になった。

 

カーウァイお義父さんの身体は半分が機械化していたので通常生活するにしても支障があった。

 

その治療とリハビリをする事となった。

 

JUDAでは再生治療と言う最先端医療が確立しつつある。

 

そのモニターをする条件で受けさせて貰える事となった。

 

私の親権については引き続きテンペスト少佐が持つ事に決定。

 

一番必要な時に居る事が出来なかった為だと話していた。

 

私は何も言えなかった。

 

 

******

 

 

それから更に数週間後。

 

大雑把であるが地球で活動する者、地球近海で活動する者、外宇宙へ向かう者に別れた。

 

 

外宇宙へはマクロス艦隊を中心とした部隊。

 

そこへトップレス、エルシャンク、ダンガイオーチーム、SPTチームが便乗する形となった。

 

以外にも超電磁チームもこれに加わる事となった。

 

どうやら火星での一件が絡んでいるらしい。

 

 

地球近海はヒリュウ改、ラーカイラムの部隊、アルビオン隊などのUCガンダム組などである。

 

シーブックとセシリーはコスモバビロニア思想の廃止を掲げる為に木星へと旅立った。

 

同時にイカロス基地の修復へジュドー達が向かう事になった。

 

稼ぎ場所があるなら飛んでいくと言うのは彼ららしい発想である。

 

ちなみにプルとプルツーも一緒に行くとの事である。

 

ヒイロ達はOZ壊滅後、それぞれが行方不明となった。

 

色々とあるのだろう。

 

ウッソ達はカサレリアへ戻り、それ以外は地球連合軍へと組み込まれる事となった。

 

リョウト達は結局軍に残る事になり、月のマオ社へ出向。

 

タスク達はヒリュウ改にて地球近海の警備へ。

 

 

地球ではお察しの通りスーパーロボット組、ハガネ、クロガネである。

 

スーパーロボット組は各地への復興の手伝い。

 

国際警察組は元の居場所へ。

 

スペースナイツは地上で発見されたラダム樹の調査へ。

 

ナデシコは解体され、それぞれがしていた仕事に戻って行った。

 

アキトさんはユリカ艦長との結婚を許して貰う為にラーメン修行へ。

 

ドモンさん達は地球へ散らばったDG細胞の欠片の調査の為、一度アイドネウス島へ。

 

SRXチームは特脳研とテスラ研を交互に行き来する形となった。

 

イングラム少佐は事が事なのでしばらくは謹慎措置が決定。

 

ブリッドとクスハは超機人の調査の為にテスラ研へ。

 

カーラ達は引き続き、クロガネに搭乗しエルザム少佐の指揮下に。

 

ラウルさん達は色々と問題あるのでクロガネ預かりとなった。

 

アクセルさんは本人の希望で軍に所属、そのままATXチームへ配属された。

 

今後の事もあり、自身の素性を明かした上での決断との事だ。

 

ラトゥーニは戦技教導隊へ配属、ジャータさん達が抜けた欠員に彼女と同じ同郷の仲間達が加わる事となった。

 

テンペストお義父さんはギリアム少佐と共に諜報部へ

 

私はキョウスケ中尉達と共に引き続きATXチームで戦う事にした。

 

時々、国際警察機構へ出向する事もありますが…

 

全ての戦いが終わった訳じゃない。

 

始まったばかりなのだから…

 

 

******

 

 

未だ合流を果たしていない勇者チーム。

 

彼らは母星解放の目処が経っていないので引き続き地球へ残る事となった。

 

一部は諸事情で表舞台から消えたり、別行動をしているとブルーロータスから連絡を受けた。

 

GGGもようやく活動の目処が経ったのでそろそろ例の奴らと鉢合せの時が来るだろう。

 

一月頃にガルファが月の防衛戦線外を掌握、GEARが本格的に行動を開始した。

 

パイロットは察しの通りである。

 

また同じく土星軌道上へ新たな異星人が襲来。

 

現在の所、動きは見せていない状態だ。

 

光達は無事に転移した時間軸へ帰還。

 

今は動きを見せない様にしている。

 

把握出来ている事はこれが全てである。

 

次のシナリオは転移騒動と異界騒動である。

 

気を抜く事は出来ない。

 

 

******

 

 

「ねえ、ハスミ。」

「ん?」

「結局、キョウスケ中尉には本当の事を話したの?」

「話したと言うよりはヒントをあげただけよ。」

「ヒント?」

「理由はどうであれ、私はアカシックレコードとの契約で本当の事を話せない。」

「そうだよね。」

「でもね、この契約には抜けている所があるのよ。」

「へ?」

「直接話す事が出来なくてもヒント程度の記述は許されているって事よ。」

「…そ、そうなんだ。」

「綺麗事だけじゃ世界は救えないもの。」

 

 

北米ラングレー基地へ転属となった私達は次の戦闘まで待機の間。

 

少しながら会話をしていた。

 

私はハスミの事が心配だ。

 

かつてDGとして活動していた時にDG細胞を通して視たあの記憶。

 

あれが真実ならば、ハスミの抱える闇はとても深い。

 

救った光に支えられ、強大な闇に立ち向かう。

 

ハスミはそれでバランスを取っている。

 

きっとセフィーロで手に入れた力もそれが由来だって思った。

 

ハスミはこれからどんな選択を強いられるのだろう。

 

私はずっとハスミを支えると決めた。

 

その選択次第では仲間を裏切る事になるかもしれない。

 

それでも私はハスミと一緒にいる事を望んだ。

 

 

『総員、第一種戦闘配備!繰り返す…』

 

 

「ロサ、出撃よ。」

「了解です。」

 

 

=第一章・完=

 

 

 




強大な闇、争い、異変。

新たなる戦いの幕開け。

予兆の果てに世界は斬り裂かれる。


次回、幻影のエトランゼ・第二章『異界ノ詩篇』


世界を揺るがす異変の影は全てを覆い尽くす。


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二章予告

白き魔星の脅威は去った。

だが、闇に蠢く者達の姿が消え去った訳ではない。

流れは新たな災厄を呼び込む。


世界の流れは時として新たな流れを呼び込む。

 

 

 

=血のバレンタイン=

 

 

 

「何者かが連合軍のタカ派を先導しプラントに核攻撃を開始したのです。」

「何だと?」

「我々ホルトゥスもその妨害の為、行動を開始します…どうか鏡に映る影にお気を付けて。」

 

 

 

地球を揺るがす惑星規模の異常気象。

 

 

=惑星断裂現象=

 

 

「地球との交信が途絶しました!」

「あれは一体!?」

「…(あれこそが太古の地球の姿か。」

 

 

 

新たな次元からの転移者達。

 

 

 

=アストラギウス銀河=

 

 

「俺が危険視している奴らの名は御使い…」

「御使い?」

「天使の名を語ったエゴイストの象徴とも言える。」

 

 

 

=惑星アースト=

 

 

「僕らがここに転移した理由がまだ何かありそうな気がするんだ。」

「そう…」

「元の世界に戻れる保証がないかもしれないけど、いつか帰れる日の為にやってみるよ。」

 

 

=惑星セフィーロ=

 

 

 

「人々の混乱と恐怖の意思により闇の女王が産まれました。」

「…(恐れていた事が現実になるなんて。」

「その者の名は…」

 

 

 

地球に浸透する百鬼夜行の存在。

 

 

=魔族襲来=

 

 

「あらあら随分と躍起になってるわね?」

「さっさと御退場願おうか、このオカマ野郎!!」

「声が似ている分、どうもややこしいのでございますです。」

 

 

=純粋なる存在=

 

 

「私達は扉を開きたいのです。」

「扉?」

「そう、彼の者を呼び寄せる為にでしてよ?」

 

 

 

新たなる異星人の侵攻。

 

 

 

=監査官到来=

 

 

「貴様ら下等生物の墓場と知れ!」

「それはこちらのセリフだ!」

「はいはい、坊主さんは引っ込んでなさいってね!」

 

 

 

=ゾンダー出現=

 

 

 

「屈するがいい、心弱き者どもよ。」

「俺達は屈しない、勇気ある限り!!」

「炎より蘇った不死鳥を甘く見るな!」

 

 

 

各地で蜂起するそれぞれの正義と悪意の意思。

 

 

 

「これもまた一つの戦いか…」

 

 

 

「私達の出番だね。」

 

 

 

「もうあんな悲劇は繰り返させない。」

 

 

 

「不本意であるが我らBF団は貴様達との共闘を望んでいる。」

 

 

 

「ザ・クラッシャーって言いやがったのは誰だ!」

 

 

 

「光、私の声が聞こえる?」

 

 

 

 

「ラダム、お前達の好きにはさせん!」

 

 

 

「敗者と化した私が仮面を被る時が来るとは…」

 

 

 

「オーガン、貴方の意思はオレが継ぐ!」

 

 

 

「地球を守護する為に僕らバラルも人肌脱ごうかな?」

 

 

 

「新たなDG細胞だと…!?」

 

 

 

「キョウスケお迎えに来ましたの。」

 

 

 

「抗う、そしてこの先の未来を勝ち取る為に!!」

 

 

 

「お目覚めですか?アシュラヤー様。」

 

 

 

「戦い合う運命はここで断ち切る!!」

 

 

次回、幻影のエトランゼ・第二章『異界ノ詩篇』。

 

 

 




新たなるシナリオと事象は更なる混乱と悲劇を招く。

抗う為の希望は前世の記憶と己の力量のみ。


「これがお前達の仕組んだゲームか、無限力っ!!」


次回、幻影のエトランゼ・第一五話 『波乱《ハラン》』


新たなる戦いの幕開けは血染めの日より始まる。


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異界ノ詩篇
第一五話 『波乱《ハラン》』


再び、戦いの火蓋は開かれる。

それは静かにゆっくりと…




『L5戦役』から早四か月。

 

地球連合政府設立と同時に厳正な投票によって大統領の就任式が行われた。

 

地球連合政府代表・ブライアン・ミッドクリッド大統領は新たなる異星人の再来と危険性を説き、今後の太陽系防衛戦線の強化と異星人難民の受け入れを検討すると主張。

 

この異星人難民についてはラドリオ星の皇女であるロミナ姫を筆頭とした異星人の方達の事である。

 

一部はマクロス艦隊と共に旅立って行ったが、残る者は今後の外部侵略者の情報と戦力を提供。

 

それはお堅い頭の連中を納得させる為の口実として使わざる負えなかった。

 

 

イージスの盾か…

 

ハルパーの鎌か…

 

どちらに転んでもこの戦いは起きるのだ。

 

それが無限力が提示した今回の遊戯だ…

 

余りにも腹が煮えくり返る答え方だった。

 

 

******

 

 

アメリカ大陸、テキサス州に近い荒野エリアにて。

 

 

『各機へ、戦闘中のオセロ小隊が敵の機動中隊に押されている。』

 

 

戦艦のカタパルトデッキの起動音と共に通信が入る。

 

 

『エクセレン、先行してオセロ小隊の護衛を頼む。』

「OKよ、キョウスケ。」

『アサルト2、どうぞ。』

 

 

オペレーターの合図と共にヴァイスリッターは出撃した。

 

今回の敵はAnti・DCの残党。

 

ホワイトスター戦後にビアン博士と連合軍の介入によって残党の大部分は解体されたが、それをよしとしない連中の集まりである。

 

未だ、自分達こそが正義と思い込んでいるのだ。

 

 

「フン、地球連合のウジ虫共め…我らAnti・DCが健在である事を思い知らせてやる!」

「た、隊長!?」

 

 

空中で陣を取るガーリオンの部隊。

 

しかし、その一機が長距離射撃によって撃墜されたのだ。

 

「直上からの射撃だと!」

『はいはい、一列に並んでね。』

 

同じ様に長距離射撃によって二機、三機と撃墜されていった。

 

地上ではランドリオンとバレリオンの敵混成部隊が進軍していたが、それらも壊滅の危機に瀕していた。

 

赤き衝撃と青き閃光が敵陣に突撃し、敵を翻弄。

 

撃ち漏らした敵機体を後方から追撃してきたカーキ色のヒュッケバインモドキが撃墜していた。

 

 

『ハスミ、先行配備された量産型の調子はどうだ?』

「安定していて扱いやすいですが、やはり馬力はヒュッケよりも落ちますね。」

『量産型だからな、本来ならブリッドに任せるつもりだったが…』

「仕方ありません、ブリッドはクスハと共に超機人の一件でテスラ研へ出向中ですから。」

『そのブリッド達も数日前に超機人に似た機動兵器と1戦交えて動けない状態だ。』

「本当に…二人とも無事でよかったです。(孫光龍の早期復活のせいで妖機人の活動を早める事になってしまうとは、『おのれ無限力め!』と言いたい。」

 

 

私はマオ社より納機されATXチームに先行配備された量産型ヒュッケバインmk-Ⅱに搭乗している。

 

データ収集の為とはいえ、愛機から降りるのは少し心細い。

 

私の愛機であるガーリオンC・タイプTは現在ロサが搭乗し行動している。

 

今はエクセレン少尉と共に空を散歩中である。

 

「艦長、敵部隊の壊滅を確認…敵母艦の機影は確認出来ません。」

「判った、各機シロガネへ帰投せよ。」

 

戦死者は出ていないものの、損害を受けたオセロ小隊は後続部隊と合流しラングレー基地へ帰還。

 

私達は引き続き、警戒任務に戻った。

 

 

******

 

 

今回の戦闘報告書を各自提出し一息ついた頃。

 

 

「今月に入って連中の襲撃回数、何件目よ?」

「今回を合わせて68回目ですね。」

「何だか多くない?」

「主に連邦政府から連合政府に代わったのが原因ですね。」

「でしょうね。」

 

 

早期による地球連合政府設立は大きな波紋を呼んだ。

 

この政策に人類全てが同意する訳ではない。

 

ごく一部がこの様に反乱や紛争を起こしているのだ。

 

だが、そうせざる負えない状況に近々なるのだから仕方がない。

 

そんな複雑な想いを巡らせる私、そしてエクセレン少尉は分隊室のソファーで項垂れながら文句を続けていた。

 

 

「東海岸から西海岸を右往左往する身にもなりなさいよ。」

「敵がこっちの都合を考えてくれる筈も無いと思いますけどね。」

「それ言っちゃう?」

「ブリッドが居ない分、突っつく相手がいないからと私まで巻き込まないで下さい。」

「ハスミちゃんってば毒が出てるわよ。」

「事実を話したまでです。」

 

 

毎度の事ながらエクセレン少尉の相手をしていたブリッドの胃がよく無事だった事を称賛したい。

 

それはさておき。

 

今回の戦いからインスペクターやアインストが本格的に活動を開始する。

 

既にガルファ、鉄甲龍、百鬼帝国、イバリューダーまでもが活動を開始している状況だ。

 

そして二月十四日に起こったプラントへの核攻撃未遂事件。

 

これはバイオネット、アマルガム、シャドウミラーによる同盟とそれに同調したタカ派連合軍の一派による介入である。

 

バイオネットとアマルガムはホルトゥスの介入で活動すらままならない位の大打撃をL5戦役時に与えていたのだが…

 

シャドウミラーの出現によって今回の戦いから少しずつではあるが参戦の兆しを見せていた。

 

おまけにこの件にイスルギ重工も一枚噛んでいると来た。

 

あの女狐、少し痛い目を見ないと判らんものかな?

 

例のナマズ髭にはしばらく道化を演じて貰うし無論手は打ってある。

 

ナマズ髭には後の事件で役に立って貰わなければならない。

 

某銀行員の如く『倍返しだ!』をするつもりである。

 

 

******

 

 

次の命令があるまで自室に籠る事にした。

 

勿論、隊の訓練メニューとその他の提出書類を仕上げてからである。

 

この辺は前世のワーカーホリック癖が出ているのでどうしようもない。

 

因みに自室に籠ったのには理由がある。

 

ある場所へ連絡を取る為だ。

 

 

『おや、珍しいですね…君から連絡を寄こすとは?』

「お久しぶりです、小父様。」

『お久しぶりですね、ハスミ君。』

「少し込み合った話になるのですが…お時間は宜しいですか?」

『構いませんよ、君もそれを見通して連絡したのでしょう?』

「はい、現国防産業連合理事の小父様も多忙の身ですし…無理強いは出来ないと思いましたからね。」

『色々とね、君が教えてくれた『鏡に映る影』共とあのオカマ君や女狐さんのおかげでこちらの市場を荒らされて困っているよ。』

「やはりですか…」

『こちらでも手を打って置きましたが、どこまで介入出来るかは現状では不明ですね。』

「相変わらず用意周到で…」

『備えあれば患いなし…君の母君が良く仰っていた事ですよ。』

 

 

電話相手はお察しの通り、あの方である。

 

実は幼少の頃、母の葬式の際に御爺様の伝手で顔合わせをしている。

 

小父様が母の学生時代からの後輩だった事に驚きを隠せないのだが…

 

その関係から九浄家の財産並びに遺産管理をして頂いている。

 

ちなみに今回のこの方は反コーディネーター運動はしておりません。

 

何故なら、その先駆けとなった諍いに学生時代の母が介入した為である。

 

DQNないじめっ子コーディネーター達を相手に到底人間業とは思えない荒業、モザイク修正要の惨状、その後の真っ黒い後始末などが鮮やかに行われたらしく…

 

それからの付き合いだそうだ。

 

因みにアカシックレコードで調べたらDQN共の屍の山の上にオホホな笑い声で佇む紺のセーラー服姿の母のシルエットの記録がありました。

 

何だか竹刀とかヨーヨーが似合いそうな一場面です。

 

母さん、青春謳歌の学生時代に貴方は何をやっているのですか?

 

 

「……才色兼備でおしとやかな母のイメージが何処かへ逝きそうです。」

『実子の前で自分の黒い歴史を出さないと言うのが親と言うものですよ。』

「本当ですね。」

『では、本題と行きましょうか?』

「はい、実は…」

 

 

私が小父様に伝えた事。

 

ヘリオポリスに納機される五機のガンダムの件。

 

それらにある細工を依頼した。

 

どうせ、いろんな人の手に渡ってしまうのだから別に細工位いいでしょう?

 

対価はそれらの発展型の改良データ。

 

いずれ必要になってくるので秘密裏の依頼だ。

 

例の老人達を出し抜いて貰わないといけないのでその保険である。

 

念の為、ホルトゥスを通して小父様の警護も付けている。

 

 

『何となくですけど、君も母君に似てきましたね。』

「そうですか?」

『やり方は大人しめですが、少量で飛び散らせる火花の量は膨大…母親譲りですよ。』

「よく言われます、母を知る人には母に似てきたと…」

『…(それでも君の隠す苛烈さは母君以上ですけどね。』

「例の四月の件はホルトゥスに依頼してあるので大事にはならないと思います。」

『判りました、君も気を付けてください。』

「はい、気を付けます。」

『最後にですが、僕の不祥事で犠牲となった彼らを救って頂き感謝します。』

「直接ではなく遠回しです…私は情報を与えただけにすぎません。」

『判っていますよ、彼らの今後はこちらで調節しますし…場合によっては君に助力を願う事もあるかもしれません。』

「その時はその時です。」

『では、失礼するよ。』

 

 

私は最後の言葉と同時に通信を切った。

 

例の事を思い出したらムカついてきたから、バイオネットの施設に地獄の二人組でも差し向けてやろうかしら。

 

それはそれで楽しそうだけどね。

 

タヌキやキツネになるつもりはないけど、これだけはどうにもなりません。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

シロガネ艦内、ATXチームの分隊室にて。

 

深刻な表情で話を続けるキョウスケとアクセルの姿があった。

 

ハスミは自室にエクセレンとロサは休憩所へ居る為、二人のみである。

 

 

「どう思う?」

「どうもこうも、あれはヴィンデル達の仕業だろうな。」

「ブルーロータスの介入で被害は防げたが…」

 

 

二月十四日に発生したプラントへの核攻撃事件において。

 

 

『何者かが連合軍のタカ派を先導しプラントに核攻撃を開始したのです。』

 

 

突如送られてきたホルトゥスからの暗号通信。

 

ブルーロータスからのメッセージであり深刻な状況でもあった。

 

 

『我々ホルトゥスもその妨害の為、行動を開始します…どうか鏡に映る影にお気を付けて。』

 

 

しかし、対応に遅れた連合軍の代わりにホルトゥスが介入し核攻撃は防がれたが、それでもプラント側に数名の死傷者を出した為に情勢は悪化しつつある。

 

その後、二月二十二日に行われる筈の『世界樹攻防戦』は例の猫事件が原因で頓挫した。

 

逆にプラント側が報復として起こしたエイプリル・フール・クライシス事件が原因でナチュラルとコーディネーターの開戦は防ぐ事が出来なかった。

 

双方ホルトゥスの介入で未遂に終わってはいるが、戦争継続を願う者達の思惑はより一層表面化しつつあったのだ。

 

 

「ヴィンデル達の目的が変わった訳じゃない、別の場所から狙ってくるだろう。」

「元鞘として、奴らは今後どう出る?」

「恐らくここへ送り込まれてくるだろう、W17……ラミア・ラヴレスがな。」

「記憶があると思うか?」

「そこまでは判らん、覚えていたとしても奴がボロを出すとは思えん。」

「そうか。」

「しばらくは様子見と行くしかない、これがな。」

 

 

その発言直後に発生した戦闘で件の存在と再会したのはまた次回へ続くのだった。

 

 

=続=

 

 




不透明な平穏に戻った幼子達の日常。

新たなる波と出会い、別れ。

次回、幻影のエトランゼ・第一六話 『日常《ニチジョウ》』


子供達の日常を汚す影を祓え。


<今回の用語>


※猫事件

閑話・伍 『猫日《ネコノヒ》』を参照。
二月二十二日に陽昇町で起こったアークダーマの騒動。
地球圏全域で人が猫化(猫耳尻尾のみ)する現象が発生。
徐々に人類が猫化の危険性があったが、一部の地球防衛軍により事件は終息。
色々と羞恥心が晒される日でもある。
記憶を持つ者にとって同時に『世界樹攻防戦』の危機を防いだので余り悪く言えないとの事。


※ATXチーム

L5戦役後に隊員の再編成がされ、所属人数は八名(内一名はサポートロボット)である。
隊長であるゼンガーは別件で不在、ブリッド、クスハの両名はテスラ研へ出向中。
現時点で部隊は五名のみとなっている。
なお、キョウスケ中尉が隊長代理、アクセル中尉が副隊長を務めている。



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第一六話 『日常《ニチジョウ》』

限りなく白で限りなく黒の日常。

曖昧な境界線。

それはいずれ崩れ去って行く。

静かにゆっくりと…


『L5戦役』からしばらく経った頃。

 

ノードゥスは解散しそれぞれの場所で活動を始めていた。

 

そしてここ日本では…

 

 

******

 

 

第3新東京市では。

 

同市内にある第壱中学校では朝礼も終わり、授業の真っ最中である。

 

この世界では例の事件があっても四季が存在し夏のみではないので桜並木も満開である。

 

 

 

「春やなぁ。」

「そうだねぇ。」

「二人とも真面目に、まだ授業中だよ。」

 

 

ここ二年の教室の一角で外の桜並木を見ながらボーっとする者達が居た。

 

その者達を注意する者も居た。

 

ボーっとしているのが鈴原トウジと相田ケンスケ。

 

注意しているのが碇シンジである。

 

三馬鹿トリオと称される彼らでも学生の本分を忘れる時もある。

 

そんな彼らの脳天に鉄槌が落ちるのだ。

 

 

「あだっ!?」

「でっ!?」

「…(い、痛そう。」

 

 

それもその筈、背後よりトウジとケンスケの脳天に出席簿の角が振り下げられたのだ。

 

イタイ、余りにもイタイ。

 

その実行者は真っ黒なオーラを醸し出しており、怒髪天ギリギリの状況である。

 

容姿は黒のワイシャツに紺のネクタイとブルーフレームの眼鏡を掛けたインテリ美丈夫である。

 

 

「鈴原、相田…そんなに俺の授業をサボりたい様だな?」

「トウジ、ヤバいよ。」

「か、堪忍や!堪忍してぇな!七枝先生っ!!」

「…(だから言ったのに。」

 

 

トウジ達を怒っている教師の名は七枝蒼葉(シチエソウヨウ)

 

数学教師としてこの四月から第壱中学校に赴任してきた。

 

ナデシコクルーの一人、紅葉さんの双子の御兄さんである。

 

僕も最初は目を疑ったが事実らしい。

 

実際22歳ではかつてのスズネ先生の様に教育実習生とか院生をしていると思ったが…

 

本人曰く飛び級で教師になったとの事だ。

 

 

「鈴原、相田、お前ら放課後に補習な…碇と渚はこいつらの見張りを頼む。」

「えっ?」

「返事は…?」

「は、はい!(結局…こうなる訳だ。」

「渚も悪いが頼んだぞ。」

「判りました。」

 

 

トウジとケンスケ二人の失態が判明すると教室内に爆笑の嵐が巻き起こった。

 

その様子を見ていたアスカは「バッカじゃないの?」とボソリと呟き…

 

レイは教科書で口元を隠しながらクスリと笑っていた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同じ頃。

 

赤道直下に開発された研究都市の一つ『CITY-NO.5』。

 

そこへ修学旅行へ訪れた子供達の姿があった。

 

関東を中心とした小学校の合同修学旅行である。

 

旅行の目的は最先端技術を研究する都市の見学並びに通貨システムなどの利用体験である。

 

 

「それにしても南の島に近いのに全然熱くないね。」

「都市自体に気温管理システムが導入されているから快適に過ごせるってパンフには書いてあるな。」

「おまけにあのショーウィンドウに飾られているピッチリスーツで何着も服要らずって訳か。」

「便利だね。」

「私はあんまり好きじゃないな、おしゃれが出来ないもん。」

「そうよね、慣れてないと困るかも…」

 

 

街中を散策するのは例の勇者チームの少年達である。

 

順に瞬兵、洋、高杉星史、相羽菜々子、香坂ひかるの五人である。

 

現在は勉強テーマ毎にグループに分かれて行動中だった。

 

ちなみに勉強テーマは『日常生活の違い』である。

 

 

「ヤンチャー君も一緒に来られれば良かったね…」

「勿論誘ったさ、アイツ…勉強は嫌いだって言って逃げちまったよ。」

「ヤンチャー君らしいね。」

 

 

二人は遠き異星より訪れた友人の事を話していた。

 

 

「私達も早く行動しないと自由散策の時間が無くなっちゃうよ?」

「次はどこだっけ?」

「この先の歴史博物館が近いからそこから見学しようか?」

 

 

「「「「賛成。」」」」

 

 

その後、子供達は歴史博物館の中で『古き良き時代』を好む一人の青年と出会う事となる。

 

それは何かの兆しか若しくは必然だったのかもしれない。

 

 

******

 

 

時は進み、日本の某所。

 

俗に言う放課後。

 

 

「六年は修学旅行かよ…いいなぁ。」

「しょうがないよ、僕らはまだ五年生なんだし。」

「そうだけどさ。」

「瞬兵君や洋君、星史君達は今頃…南の島で楽しんでるかな?」

「また厄介な事に巻き込まれたりして…って事は無いよな?」

「それ、冗談じゃなくなりそうだから止めよう。」

「お、おう…」

 

 

この二人の名は出雲銀河、草薙北斗。

 

星見小学校へ通学する少年達である。

 

一件普通の小学生に変わりはないがある秘密を抱えている。

 

その秘密の関係で彼らは冗談半分でも失言する事は控えている。

 

 

「そういえば、護達は?」

「たしか、新宿へ社会科見学に行っているんじゃないかな?」

「ふうん、あっちも外部学習か…」

「炎さん達はこの前の事件で余り落ち着いてないし。」

「ヨウタさん達は?」

「たしか、別件でしばらくこっちを離れるって言ってたかな?」

「何かバラバラだな。」

「一緒に居た時間が長かったせいもあるかもね。」

 

 

一月に起こったガルファの月面侵攻。

 

それに伴い、オービタルリング・極東エリア部分を破壊し侵攻。

 

彼らは星見町へ現れたガルファの機獣の侵攻に遭遇した。

 

察して頂く様に彼らには記憶があった。

 

すぐさま彼らは搬送中の電童へ向かい、発見後に搭乗。

 

子供とは思えない活動力で敵を圧倒。

 

そのまま地球防衛軍の庇護下に置かれる事となった。

 

それから勇者と呼ばれる存在と共に戦う子供達と出会い、馴染んでいった。

 

四月に入るとそれぞれが向かうべき戦いの場へ別れた。

 

一緒に居る事が多かったので何処か寂しいのもあるが…

 

このご時世にそんな悠長な事は言えない。

 

避けられぬ戦いがある以上は戦うしかない。

 

 

「マサトさんが言っていたナチュラルとコーディネーターとの戦いどう思う?」

「正直言うと…馬鹿らしくね?」

「何で?」

「だってさ、どっちも人間だろ?」

「そうだけど…」

「ドモンさんも言っていた事だけど、どっちも殴られれば痛いと感じる…ただ産まれ方が違うだけで変わらないって事さ。」

「…」

「どっちも人間なら話せるだろ?サルじゃあるまいし…」

「そうだよね。」

 

 

銀河のストレートな言い方で悩んでいた北斗も納得した。

 

 

「寧ろさ…あっちの方が気になるんだけどよ。」

「あっちって?」

「マサトさんの木原マサキ化。」

「うっ…それは困る。」

「だろ?」

 

 

冗談交じりの会話は続き、下校中の二人はそれぞれの家へと帰路を進めた。

 

 

******

 

 

同じ頃。

 

第壱中学校の校舎裏。

 

 

「ああ、滞りなく監視は続けている。」

『大丈夫なの?』

「今の所はな…」

『全く、巫女様は人使いが荒いよ。』

「そっちはどうなんだ?」

『黒い王子様に動きなし、相変わらず雪谷食堂でラーメン作ってるよ。』

「そうか。」

『ティアリー姉もソルトレイク基地で缶詰だし、どうなる事やら。』

「アイツはどうした?」

『あの人ならヘリオポリスに潜入調査中だよ。』

「おい、ヘリオポリスは!」

『解ってるよ、それも見通しての潜入だってさ。』

「…」

『例の事件が迫って居る以上、色々と面倒なんだけどね。』

「所でお前は?」

『JUDAで迅雷の訓練に参加してるよ、今日はオフだけどね。』

「JUDAで?」

『ま、色々とね。』

「例の件か?」

『そ、ややこしいけど…実用性がある以上は軍も喉から手が出る程だろうし。』

「ルド社長も参入すると話していたが…」

『それだよ、兄さんだって潜入の件が無ければインペリアルヴァレイのパイロットを頼まれてたでしょ?』

「あのうさん臭い女社長に顔を合わせたくなかったから断った。」

『例の性格おブスなローズ、社長達が軍事産業に参戦するや否や合併の話をまた持ち込んでたもんね。』

「ああ、顔を合わせたら色目込みでイスルギ重工のテストパイロットに引き抜かれそうになった。」

『あ?あのブス……アタシの兄さんに手ぇ出しやがって、次あったらタダじゃおかねぇ!』

「本音が出てるぞ?」

『ごっめん、ツイね☆』

「用事がないなら切るぞ?」

『了解、またね。』

 

 

蒼葉はスマホの電源を切ると眼鏡を掛け直した。

 

 

「鏡は割れるか…」

 

 

その数日後、地球規模で大地震が発生。

 

更なる戦いの戦鐘は鳴らされたのだった。

 

 

=続=




始まった災厄へのカウントダウン。

消えた人々。

現れた人々。

世界と言う鏡は砕け散った。

次回、幻影のエトランゼ・第一七話『異変《イヘン》』

天変地異は新たなる出会いと災厄を齎す。


<今回の登場人物>

※七枝蒼葉

紅葉の双子の兄。
発言から数学教師として第壱中学校に潜入中。
冷静な判断力と少し毒の入った発言をする。
弟からブラコンされている。


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第一七話 『異変《イヘン》』

突如発生した地球規模地震。

希望の光は散り散りとなり…

世界と言う鏡は割れた。



四月の後半を迎えたある日の朝。

 

それは唐突に発言された。

 

 

******

 

 

「…(いくらなんでも早すぎる!」

 

 

別件でATXチームから離れタウゼントフェスラーにて伊豆基地へ戻っていた私とロサ。

 

その日の早朝、アカシックレコードから新たな情報がもたらされていた。

 

 

「…(よりにもよってZ事件とベルターヌ事件のダブルブッキンクは無茶振りし過ぎでしょう!」

 

 

猶予は三日間、三日後に二つの事象が発生するとの事だった。

 

私は個室に念の結界を張ってから携帯端末を取り出し、連絡を取った。

 

 

「ブルーロータス。」

『ハスミ、一体どうしたのですか?』

「拙い事が判明しました、監視対象AとBに『魔導師』と『狩人』を緊急派遣してください。」

『では…!』

「派遣後は彼らに監視を続行、三日後にそれは起きます。」

『判りました、直ちに最優先派遣を致します。』

「お願いします。」

『ハスミ、貴方はどちらへ?』

「伊豆基地経由で梁山泊に向かう予定になっているのですが、その道中で例のお遊びに付き合わされる予定です。」

『…今後の動きは?』

「プランBのまま行動、A、Bの確保が出来なかった場合はプランAで行動してください。」

『プランCは?』

「まだあの三体を動かす訳には行きません。」

『判りました、引き続き待機させます。』

「頼みます、あの黒い基地外にこちらの手の内を見せる訳には行かないので…」

『黒い基地外?』

「黒の天才と言うべきでしょうが、私とすれば基地外としか言いようがありませんよ…」

『はぁ…?』

「私からの要件は以上です。」

『判りました、お気を付けて。』

 

 

私は一度目の通信を切った。

 

二つ目の連絡を加える。

 

 

「小父様。」

『ハスミ君、こんな夜更けにどうしたのですか?』

 

 

こちらが早朝であれば向こう側は深夜の為、この様な発言になっている。

 

 

「予測通り、三日後に地球規模で大地震が発生します。」

『何ですって?』

「ただの地震じゃありません、例の侵略者と時空転移を伴う事象です。」

『魔物の再来ですか…厄介ですね。』

「例の武装はどうなっていますか?」

『滞りなく地球防衛軍に行き渡る様にしてありますよ。』

「判りました。」

『君はどうするつもりですか?』

「例のお遊びに付き合う事になりそうです。」

『そうですか、貴方も大変ですね。』

「いえ、出来る限りで良いです…各地の防衛配備を急がせてください。」

『ええ、上層部にも声掛けはしておきますよ。』

「判りました、夜分遅くに失礼しました。」

 

 

二度目の通信を切ると自分の足元の影に違和感を感じた。

 

恐らくは彼だろう。

 

 

「さっきの話を聞いていたのなら貴方の御主人様の元にも伝えて貰えますか?」

 

 

理解したのか足元の影はゆっくりとドアの下から外へ出て行った。

 

 

「…(呼炎灼を監視に付けるってどういう神経しているんだか。」

 

 

******

 

 

その後、私達はタウゼントフェスラーの不調もあり予定通り伊豆基地に待期となった。

 

量産型ヒュッケは向こう側で乗り換えをして居る為、愛機と共にこちらに居る状態だ。

 

まあ、こっちじゃないと本領発揮出来ないし。

 

いざという時の為に必要であるのは変わらない。

 

いつもの様に訓練を終わらせ、今までの報告書を纏め上げて提出。

 

後は、半休を頂いて小説のデータを担当宛に送ったりなどをしていた。

 

丁度、こちらに戻ってくるのと同時に注文して置いた宅配便が届いていた。

 

まあ、食品なので監査に引っかからなかったのも幸いだろう。

 

 

「丁度切れてたから届いて良かった。」

 

 

注文したのは『夜空や』と言う行きつけの喫茶店兼菓子販売店である。

 

そこのキャンディセットなどを注文していたのだ。

 

透明な藍色の球体のポットの中には太陽、月、星、天の川の四種類の形のキャンディと金平糖が入っている。

 

後は長方形の缶ケースに収められた星座のマークが入ったクッキーである。

 

前回の戦いの際には幼少組に分けてしまったのでご無沙汰であったが、ようやく購入の目処が経って大人買いに走った次第である。

 

こんな悠長な事をしている状況ではないのだが、例の侵略者が地球へ進軍してこない以上は下手な動きは出来ない。

 

刺激するよりは様子を伺う事に決めた。

 

第一に連中は封印が解かれなければ本領発揮が出来ないがダメージを与えられない不可視の状態だ。

 

そして例の封印が緩むのがその三日後。

 

効率のいい相手を送っておいたので大事にはならないと思いたい。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

それから三日までの間に幾つかの事件が発生した。

 

まずは鉄甲龍からの宣戦布告。

 

国際電脳はこれが切っ掛けで株価暴落の末、倒産。

 

これに対してクリムゾングループが躍り出ようとしたが、またもや娘の不祥事により頓挫。

 

結局は別の企業が参入する事でネットワークの安全は保たれつつあった。

 

百鬼帝国の進撃。

 

現在は各地のスーパーロボットチームが対応、新たな仲間も加わったとの事だ。

 

ヘリオポリス崩壊。

 

オーブが自治権を持つ中立コロニーは連合とザフトの小競り合いに巻き込まれ崩壊。

 

死傷者は軍人を除いて無しと言う事例が出ている。

 

蒼い睡蓮の介入か?とささやかれている。

 

そして街に蔓延しつつある謎の影。

 

手に負えない相手との事で特車二課がブレイブポリスと合同で対応。

 

正体は過激派組織が保有する研究所から逃げ出した生物兵器との事である。

 

民間から五名の死者が出ており、早急に対処が求められた。

 

その後、旧国際競技場跡地で射殺されたとの事だ。

 

これらが三日間で起こった事件だ。

 

 

 

「はぁ、拙ったな…」

 

 

予定の三日後、ブルーロータスの連絡では『魔術師』と『狩人』の介入で監視対象AとBを確保した者の…

 

監視対象Aから謎の物体が四つ程、敵に奪われてしまったとの事だった。

 

そして監視対象Bも負傷しており、現在は治療中との事だ。

 

 

「曖昧な封印の解呪か、通りで例の事件と混合されたと思ったよ。」

 

 

中途な結末を迎えた為に二つの事件が重なる事で今回の事件は起こる事になった。

 

その予兆として既に地球が震え始めている。

 

 

「だけど…お遊びはキッチリやらせて貰うよ、エンドレスフロンティアでね。」

 

 

私とロサはタウゼントフェスラーごとエンドレスフロンティアに飛ばされる事となった。

 

だが、次の話は私の居ない場所で行われる。

 

続報を待って欲しい所だ。

 

 

******

 

 

運命の三日後、地球規模で大地震が発生。

 

長時間における地震の後、地球は六つに割れ、マントルが肉眼で確認できる姿へと変わった。

 

太古の地球の姿の一つ、ベルターヌへと。

 

 

=続=

 




崩壊した世界。

新たな出会いと戦い。

二対の獅子は唸る。

次回、幻影のエトランゼ・第一八話 『獅子《シシ》』

黄金の獅子と黄昏の獅子は対峙する。


<今回の用語>


※夜空や
ハスミが気に入っている喫茶店兼菓子販売店。
一番人気は天体の形をしたキャンディセット。
エクセレンが完食してしまった際のハスミの表情は閻魔の形相だったとか…


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第一八話 『獅子《シシ》』

混乱の大地。

対峙する獅子。

現れる最後の剣。

炎獄を纏う魔族。

始めよう、壮大な物語の一角を…



前回の話から三日後。

 

正確には三日目の正午頃の事である。

 

 

******

 

 

地球規模での大地震発生から数時間後。

 

地球は各エリアとの通信が途絶。

 

尚、通信が不可能なのは宇宙と割れた先のエリアに限られる。

 

それ以外では通信が可能だった為、状況を把握しつつその処理に追われていた。

 

宇宙では地球を目視するだけでも異常な状態である事がハッキリと分かる。

 

マントル部分に支えられる状態で地球の地層が六つに避け、惑星として活動しているのが不思議な状態に変化しているのだ。

 

宇宙側からも地球への通信が途絶えた事により混乱を招いている。

 

だが、連合政府に変わっていた事で大混乱へは至らなかった。

 

予想された侵略者に備えて各コロニーごとに生産プラントや自立ライフラインの確立。

 

外敵が現れた際に共同で立ち向かえる様に軍備管理が徹底されていたのだ。

 

これは『L5戦役』を教訓としたもので実現された計画である。

 

ブライアン大統領は国防理事を務めるアズラエル氏の助言を受けて立案。

 

本来ならば地球と宇宙の垣根をどうにかしないと出来ない事だった。

 

だが、前回の戦いで人類は一つと成れた。

 

その兆しの一つだと思われる。

 

その為、混乱はあるものの…

 

不用意な混乱は敵に隙を作る事になる為、月と各コロニー群は外敵の脅威を危険視しつつ様子を伺う事になった。

 

ザフトも地球降下部隊との連絡が途絶えた事もあり、戦線を一時停戦。

 

敵は一時的に異星人のみとなった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

現在の私はこちら側の世界に居る訳ではないので語り部の程度に説明させて頂きます。

 

今回の話は少々厄介な物語が介入している。

 

主軸の物語に別の事象が差し込まれる現象を私は『断章介入』と呼んでいる。

 

今回はこの『断章介入』が関わっている。

 

まずは断章介入の一つである勇者達の件についての説明から入ります。

 

L5戦役時の彼らは彼らの因縁となる相手と戦っており、表舞台には出て来なかった。

 

理由とすれば彼らの半分が異星人、そして地球の意思によって生み出されたからである。

 

その内の地球製は三割、勇者特急隊、ブレイブポリス、GGGである。

 

地球では地球防衛軍所属となっているが、彼らの力の源は彼らを慕う子供達やそれぞれの正義だ。

 

協力者であるその子供達やその家族、周囲の人々に危害が及ばない様にしなければならない。

 

もしも当時の汚職まみれの一部上層部の介入が行われれば、狙われるのは彼らだ。

 

そして子供達を人質に彼らに自分達の元で戦えと強要するだろう。

 

やろうと思えばやってしまうのが当時のタカ派の連邦軍上層部だ。

 

最悪の結末を迎える可能があった為に私はホルトゥスを通じて彼らが地球防衛軍へ参加する手筈を整えた。

 

地球を守ると言う大義名分の元で戦っていれば連中の介入は抑えられる。

 

察して頂く様に彼らがL5戦役の一部の防衛戦並びに最終決戦のみで他の戦いに介入しなかったのはこれが理由である。

 

しかし今回ばかりはそうはいかない。

 

ノードゥスの月の防衛戦線奪還作戦時に月に前線基地を構えていたグランダークを倒した勇者達。

 

グランダークはその戦いで再び封印された。

 

だが、グランダークの放った負の念がとんでもない代物を呼び起こした。

 

それが今回の事件の原因の一つである。

 

正直に言えば、この負の念…

 

その場に居れば相殺する事は可能だった。

 

だが、無限力の介入で私はセフィーロと物質界に飛ばされてしまった事で相殺する事が出来ずに逃がしてしまった。

 

その為、今回の事件の一端を担ってしまったのである。

 

正直、頭が痛い。

 

頭痛にノー○ンをプリーズである。

 

そう言う訳でL5戦役後、私はホルトゥスを通して事件に関わる予定の彼らに監視を付けていた。

 

まさかの大当たりを引いた訳である。

 

しかし、事は旨く行かずと言うモノで取り逃がしと不完全なベルターヌを再現させてしまったのである。

 

不完全なので予想もしなかった介入が起こってしまったのである。

 

それがZ事変の一つである獅子の話だ。

 

元々あちら側の並行世界群は例の御使いのお遊びの関係で次元境界線が不安定になっており、飛ばされる事が多々起こっていたのである。

 

知っていたとは言え、本当に嫌な気分になる。

 

皆さんの言葉で今回の事を要約すると今回の話はランドルート序盤と変異したベルターヌ事件、インスペクター事件のお話の同時勃発である。

 

これにSEEDの早期介入だ。

 

問題山積み。

 

で、前と同様に先回り出来ない様にエンドレスフロンティアに飛ばされた訳である。

 

とりあえず、転移先で野良アインストを生身で切り刻んでストレス発散しております。

 

それに…

 

あちら側にはシュテルン・レジセイアの残骸があるのでどうにかしないとですしね。

 

では、今回の話をどうぞ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方地球では…

 

地球の日本列島を中心にその下に位置する赤道直下の島々が残ったエリア。

 

通称、第一エリアにての状況。

 

大地震後の混乱は収まったものの新たな敵の介入が始まった。

 

震災後に突如として現れた『魔族』である。

 

彼らは人間はおろか進軍を開始していた百鬼などの地下と宇宙の敵勢力までも見境無しに襲撃している。

 

これにより地球における戦線は大混乱に陥った。

 

昼夜問わずに『魔族』の徘徊に怯える日々が始まった。

 

ある程度の迎撃は今の人類には可能であるが大地震に因るエリアの分断によって物資の供給原が断たれた。

 

いずれ食料や弾薬などの供給物資が滞るのも時間の問題だろう。

 

その為、『魔族』により現在も物資供給が可能なプラントを中心に襲撃を受け続けている。

 

人類から生きる希望をもぎ取る為に…

 

 

******

 

 

「ここはどこだ?」

「ダーリン、私達…また飛ばされたのかな?」

「かもしれねえ、ビシニティとは違った街だしな。」

 

 

 

地球の日本列島、関東地方の都市部に位置する新宿。

 

そこに一体の機動兵器が現れた。

 

オレンジ色の装甲に工具を巨大化させた機器を所持していた。

 

機体の名はガンレオン。

 

つい先程、この地球に飛ばされた並行世界の者達である。

 

 

「メール、周囲の様子はどうだ?」

「何か震災と戦闘が同時にあったみたい、あちこち崩れたり壊れている建物が多いし。」

「こっちでも小競り合いか何かが起こっているのか?」

「うーん、わかんない。」

 

 

ガンレオンから索敵をし、現状を報告するメール・ビーターと言う少女。

 

外見は小学生だがれっきとした15、6歳の女の子である。

 

状況を知らない相手から見ればロリ○○と言われてもおかしくはない容姿だ。

 

そしてガンレオンのメインパイロットを務めるランド・トラビス。

 

元の世界では『ザ・ヒート』若しくは『ザ・クラッシャー』と呼ばれる修理屋である。

 

その異名は本人が暑苦しく、時折見せる壊し屋の様な表情から取られている。

 

二人はアウトローがさすらう様な荒廃世界にて『ビーター・サービス』と言う修理屋をやっていたが…

 

その世界でも小競り合いと言うモノは付き物で、日々戦う事も余儀なくされる事も多かった。

 

慣れと言うモノは恐ろしい。

 

 

「ダーリン、周囲に反応…ここに向かって来てる。」

「鬼が出るか蛇が出るか。」

「まさかお化けとか?」

 

 

そこに現れたのは炎を纏った異形の存在。

 

 

「と、思ったら化け物だったよ!」

「な、何だよあいつらは!?」

 

 

その異形こそ、このエリアに進軍している魔族の一角。

 

名をブレアと言う。

 

 

「何だぁ?妙な気配があったと思ったが…ただのガラクタじゃねえか?」

「ガラクタだってぇ!?」

「あん?それともポンコツか?」

「パパのガンレオンをポンコツですって…ダーリン!」

「ああ、俺達を怒らせた事を後悔させてやるぜ!!」

「いいねえ、倒し甲斐があるぜ!」

 

 

チンピラの様な性格上、やる事が汚いのがこのブレアの特徴である。

 

攻撃の合図と同時に配下である下級魔族を呼び出したのである。

 

彼の配下、炎魔ラプトルである。

 

 

「だが、この俺様の軍団に勝てるかな?」

「ダーリン、ちょっと数が多いよ。」

「多勢に無勢って奴か。」

「ヒャッハー!さっきまでの威勢は何処へ行ったんだ?」

 

 

しかし、この状況を覆す存在もまた居るのだ。

 

 

「そこまでだ!」

「ちっ、勇者共か!?」

「ダーリン、あれ!」

「ライオンだと?」

 

 

現れたのはこの地を守護する勇者達、しかしその半数は先程の震災の余波に巻き込まれ散り散りになってしまっている。

 

この場に居るのは転移を免れた勇者達である。

 

GGGのガオガイガーを筆頭としたGGG機動部隊、VAREの仮メンバーである。

 

他は先程の震災で逃げ遅れた民間人の救出へ向かっているので不在である。

 

 

「そこの機体、こちらで援護する…戦えないなら下がっててくれ。(あれが宗介達が話していたガンレオンか。」

「安心してくれ、こっちも尻尾を巻いて逃げる訳には行かねえからな!」

「同じライオンさん同士助け合わなきゃね。」

「判った、俺はGGG機動部隊隊長の獅子王凱だ。」

「俺はランド、ランド・トラビス。」

「私はメール・ビーター、ダーリンの将来のお嫁さんよ。」

「メール、今言う事じゃないだろう?」

「ランドさん、メールさんとは年齢的に少々問題があるかと思いますが?」

「だから違うっつうの!」

 

 

ボルフォッグの発言に対し毎度お馴染みのツッコミを訂正するランド。

 

 

「コントなら後にしな、俺は勝手にやらせて貰うぜ!」

「シズマ、無茶は止せ!」

「こっちは光達がやられているんだ、俺の一族の不始末は俺が着ける!」

「凱機動隊長、私達はシズマさんのフォローに入ります。」

「隊長はランドさん達をお願いします。」

「判った、任せるぞ…氷竜!炎竜!」

 

 

シズマの駆るセイバーヴァリオンを筆頭に氷竜と炎竜が周囲のラプトルに対し攻撃を仕掛けた。

 

 

「テメェの相手は俺達だ。」

「へっ、死にぞこないと一緒にテメェらも纏めて燃やしてやるぜ!!」

「ブレア、これ以上街に近づけさせはしない!」

 

 

ブレアの相手はガオガイガーとガンレオン、フォローにボルフォッグの布陣である。

 

しかし、相手は腐っても魔族の一角を統べる者。

 

そして業火を操る者である。

 

 

「喰らいやがれ!」

「何処を狙ってやがる!」

 

 

ブレアの腕が伸びランドの近場で地面に突き刺さった。

 

だが、凱はそれも攻撃手段である事を知っている。

 

すぐさまランドに通信を送る。

 

 

「ランド、そこから離れろ!」

「おわっ!?」

 

 

ブレアの伸ばした腕はガンレオンの足元に現れる。

 

回避していなければ機体毎燃やされていただろう。

 

 

「ちっ、ハズレか!」

「気を付けろ、奴らに並大抵の行動は通用しない!」

「おう、俺も少し油断しちまった…次は気を付けるぜ。」

「ダーリン、がんば!」

 

 

ガンレオンはチェイン・デカッターを構え、ガオガイガーはブロウクン・マグナムからのドリルニーで近接戦闘を開始した。

 

 

******

 

 

同戦闘域にて。

 

 

「雑魚に構っている暇はねえ!」

 

 

ラダーブレードでラプトルを切り裂いていくセイバーヴァリオン。

 

後方から援護射撃を加える氷竜と炎竜。

 

 

「シズマさん、焦ってるな。」

「震災直後の戦闘で光さん達が負傷したのは自分のせいであると…今でも思い込んでいますからね。」

「あれは光達が自分の意思で庇っただけで…」

「それでも彼にとっては自分よりも年下の…ましてや女の子を傷つけてしまった事に罪悪感が出たのでしょう。」

「そう言うモノかな。」

「私達の超AIはまだ成長の途中です、人の心理を全て理解した訳ではありません。」

「複雑だね。」

「ごちゃごちゃ言ってる暇があるなら、こっちの手伝いでもしやがれよ!」

「私達に!」

「ぬかりはないぜ!」

 

 

双子ならではのコンビネーションで相手をし始めた氷竜と炎竜。

 

そして殿はセイバーヴァリオン。

 

三体の進撃は炎魔を一網打尽とする。

 

 

「ちっ、あのジジイめ…もう少しの所で!」

「ブレア、貴様の猛攻もここまでだ!」

「へっ、今日の所は引き下がってやるよ!」

 

 

ブレアは戦闘中の思念的通信にて不用意に人間を殺すなと彼らの上の存在であるゴーデスの指示で撤退。

 

本人は不快感しかないが、逆らう事は自らの破滅を呼ぶ行為なので仕方がなく命令に従った。

 

人間は彼らにとって餌の様なモノらしく、要は食糧が減るから攻撃は止めろと言うモノである。

 

 

「次はこうはいかねえぞ!首洗って待ってろよ!!」

 

 

ブレアは三流の様な捨て台詞を残すと爆炎を上げて撤退していった。

 

 

「一昨日きやがれってんだ!」

「ガンレオンを馬鹿にするからよ!」

「二人とも、詳しい話を聞きたいんだが…」

「そうだな、ここが何処なのかもわからねえし。」

「ダーリン、共々よろしくお願いします。」

 

 

ランド達は今後の行動を決める為に凱達の後に続いてGGGの基地があるGアイランドシティへと向かった。

 

これが勇者達の物語が紡ぐ、希望の始まりである。

 

 

=続=

 




無限力の遊戯の始まり。

それは飛び込みの出演者を迎えて行われる。


次回、幻影のエトランゼ・第一九話 『開拓《フロンティア》』


貴方との再会はこんなにも早い。



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第一九話 『開拓《フロンティア》』

あらゆる世界が交差する世界。

予想もしない出演者達の登場。

世界はまた変異の時を向かえる。


様々な『世界』、あらゆる『人』、そして『刻』さえも混ざり合う、通称『未知なる無限の開拓地』。

 

あらゆる存在を内包する混沌さ、そして無限の可能性を秘めた大地である。

 

と、言う謎の世界情勢説明で有名なエンドレスフロンティアに飛ばされ早三日が過ぎた頃。

 

 

******

 

 

「はぁ…どうしたものかしらね。」

「うん。」

 

 

私達はエンドレスフロンティアの略称でEF。

 

そのEF内の神楽天原と呼ばれる世界に居る。

 

理由は前回の転移でロストエレンシアに落下した私達は辛うじて助かったものの…

 

転移のショックでダウゼントフェスラーは航行不能。

 

ガーリオンカスタムはこの世界に来てから謎の外部アクセスによるブロックで起動しなくなっていた。

 

これも無限力の仕業だろう。

 

使用不能状態に陥った為に私達はセフィーロで手に入れた宝珠に輸送船と機体を隠蔽。

 

徒歩でロストエレンシアを彷徨っていた。

 

道中でハーケン・ブロウニングとアシェン・プレイデルの両名に出遭い、彼らに同行する形で今に至る。

 

因みにアシェンさんにラミアさんと話したら、ちょっと反応していた所がツッコミどころです。

 

道中で寄った元シャドウミラーの母艦の一つことマイティエーラやシュラーフェン・セレストでも例の事件に関連した事を聞く事も出来たので良しとする。

 

現在は神楽天原を収める武酉城の城主である楠舞家。

 

その姫である楠舞輝夜の依頼で同世界の北に位置する滅魏城へと向かっている。

 

ただし、ここからが厄介である。

 

原作と同様ならミルトカイル石若しくは楔石と呼ばれる鉱石が滅魏城に群生しているだろう。

 

特に略称はないので私達側の世界ではアインスト原石と呼んでいる。

 

 

「さてと…ハスミ、ロサ二人には悪いが一緒に滅魏城に向かって貰うぜ。」

「了解です、乗り掛かった舟と言いますし。」

「話が早くて助かる、こういう所をお前も見習って欲しいぜ。」

「ほっとけでござんす。」

「所で滅魏城と言うのは?」

「この神楽天原には私達の居る武酉城の他に滅魏城と呼ばれる城があります。」

「この世界には人間の他に妖怪や式鬼一族と呼ばれるオーガ達も存在するのさ。」

「まるで御伽草紙ですね。」

「それで滅魏城には私のお友達の錫華姫が向かったまま戻ってこないのです。」

「どうしてですか?」

「エトランゼ達が視たミルトカイル石がその城にも群生し始めたらしい。」

「アインスト原石…」

「その楔石を調べると言ったままで私も心配になってしまい…」

「お友達を救う為に姫様自らも調査に乗り出したと言う事で宜しいですか?」

「はい、その通りです。」

「では、早速向かいましょう。」

「はい、道案内は私に任せてください。」

 

 

桜の花びらが舞う武酉城を後に私達は紅葉が彩る滅魏城へと向かった。

 

道中で見た事のある様な妖怪や鬼の一派に襲撃されたりとしたが、特に難なく移動出来た。

 

梁山泊の修行で戴宗さんの『通称、死ぬ気で鬼ごっこ』から何とか生還した時よりは苦でもないので。

 

本人がお酒飲んでる時の鬼ごっこの方が鬼畜だったしね。

 

二度とやりたくない。

 

 

「そう言えば辞書娘、先ほどの城下町で何を買っていやがったのでございますか?」

「え、マタタビ饅頭だけど?」

「マタタビ饅頭ですか?」

「まあ、一種の厄除け代わりに。」

 

 

辞書娘とはアシェンが付けた私へのあだ名である。

 

相変わらず何と言えばいいのか…

 

 

「マタタビ饅頭ね、まあいいんじゃないか?」

「何もなければ後で食べちゃいましょう。」

「はい、嬉しい事極まりないです。」

「餌で釣られる姫がいやがりますです。」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

滅魏城へ到着した私達を待っていたのは赤いアインスト原石に侵食されつつある滅魏城だった。

 

 

「こんなに楔石が…!」

「…(やはりこれは…!?」

「ハスミ、如何したの?」

「ちょっと嫌な気配が混じっている。」

「嫌な気配?」

「道中で戦った鬼の気配の他に別の気配が城内に紛れ込んでいる。」

「確かに感じた事の無い不思議な気配がありますけど…」

「これは私の推測だけど、恐らく城内にアインストが紛れ込んでいる。」

「アインスト…博識ガールの居た新西暦の世界に現れたって言う連中の事か?」

「はい、私達が戦ったのはもっと大型ですが…気配も小さいので城内に居るのは多分サイズダウンしたアインストで間違いないでしょう。」

「成程な、とにかく爆乳ガールや博識ガールの予想は当たったってことだな。」

「艦長、この周囲にあるミルトカイル石からはエネルギー反応は感知できませんですのことよ。」

「はい、間違いないです。」

「シンデレラもリトルメカガールもこうは言っているが…?」

「ハーケン艦長、原石から妙な気配が出ているのは間違いないです…恐らく別の何かに利用しているのでは?」

「…兎も角、オーガプリンセスの捜索と城内の探索を始めようぜ。」

 

 

城の内部を探索し道中で現れた鬼達と何度か刀を交えた後。

 

暫くすると城内の通路にて誰かの声が聞こえてきた。

 

 

「守天!聞いておるのか!何故聞こえん!」

 

 

ガタイの良い鬼の男性に対し小柄な少女が叫んでいた。

 

 

「守天!」

「錫華よぉ…もう一度、俺様と一緒に夢ェ見ねえか?」

「…本気で言っておるのか?」

 

 

守天の話に対し不穏な様子を見せる錫華姫。

 

 

「ここで何をしておるのか知らぬが…この滅魏城は、わらわの故郷でもある!」

「…」

「それをこんな『楔石』だらけにするとは不届き千万!わらわ的に許す訳にはゆかぬ!」

「もう少しなんだよ、錫華…。」

「?」

「もう少しでモノになるんだ、力を再び俺様達式鬼一族に…」

「守天っ!」

 

 

そこへ到着した私達。

 

多分、間が悪い。

 

 

「お、何だ何だ?」

「あ!錫華ちゃん!」

 

 

輝夜姫が声を上げる。

 

 

「ハーケンさん、あのお腹丸出しの子が錫華ちゃんです!」

「成程、いいラインだ…。」

「艦長、二人して同じ方向に向かないでください。」

「話の内容から察すると向こう側に居る大男が守天でしょうか?」

「む、輝夜か?」

 

 

こちらの会話も筒抜けなので状況に気付いたのか、錫華がこちら側に話しかけた。

 

 

「輝夜!一体何処をほっつき歩いておった!」

「え、えーと…隣の世界まで。」

「まさか、ロストエレンシアにか!?」

「そうです。」

「守天といい、お主といい、一体どう言うつもりであるか!」

「おっと、怒りは美容の天敵だぜ?腹ビューティ。」

「その通りです、どうか落ち着いてくださいませなのです…胸板姫。」

「ぐっ…無礼なっ!輝夜!そちはどう言う…!」

「ま、まあまあ…錫華ちゃん。」

 

 

もう、会話がカオス化しつつあるので仲裁に入る事にした。

 

似たような日常茶飯事の会話で慣れすぎると本当にまずいです。

 

 

「錫華姫様、後で説教やクレームはいくらでも出来ます…今はそちらの問題を片付けるべきかと思いますが?」

「む。」

「侵入者か…全く、新しく雇った守備隊は何をやってやがる。」

「…(間違いない、この気配は…!」

「まあいい、錫華…また来な。」

「守天?」

「俺様はいつでもお前を待っているぜ。」

「待たぬか守天!トンチキ共の邪魔が入ったが、わらわの話はまだ終わっておらぬぞよ!」

「…帰れ、俺様は目指す。」

「…(む?守天?」

 

 

守天は錫華の言葉を聞かず、その場から去って行った。

 

守天が去り際に答えた言葉に私の予想は決定的なものになった。

 

修正、世界、静寂。

 

その言葉は例の存在達が語っていたモノと同一だった為である。

 

 

「おっと、行っちまったぜ?」

「あの…追わなくて大丈夫ですか?」

「いや、今追いかけても話が通じるかどうか…」

「それでも追うに決まっておろう、ここを抜けて北に進めば大門が…」

 

 

話している最中に錫華はある事に気が付いた。

 

 

「…と言うか、そち達は何者ぞ?」

「互いの自己紹介は進みながらにしましょう、今は大門に向かうのが先決かと?」

「そうじゃな、そちは良く気が利くのう?」

 

 

私達は急ぎ城内にある大門に向かいながら自己紹介を進めた。

 

道中で物騒な会話が会った事は気にしません。

 

うん、チャラ男とか下品な絡繰りとか気のせいだろうねw

 

危うく抱腹絶倒で笑いそうになったのはごめんなさい。

 

 

「この階段を上った先に大門が…!?」

「こっちにもアインスト原石が…!」

 

 

北側へ移動し北の広間の階段を登り切ると見慣れた存在を連れた猫耳の女性に出くわした。

 

奥にある大門はアインスト原石で封鎖されており、突入は出来ない。

 

追っていた守天の姿もない、恐らくは門の先に行ってしまったのだろう。

 

 

「…と、言うかこの先は通行止めで御座います!」

「あ、行商人の琥魔さん!?」

「こいつがシロウの言っていたイーヴルキャットの性悪な駄猫って奴か…?」

「嫌ですわ、お客様~あんな黴臭い腐れ駄犬の言う事を真に受けるなんて。」

「十分、性悪な発言をしておりますけど?」

「それはそうと、ここは通せないのです。」

「この城の城主に誰も通すなと言われているからな。」

 

 

琥魔の発言後に城内の吹き抜け部分から落下する様に降りて来る男性。

 

 

「ん?もう一人いるのか?」

「…」

「そちは人間か?だが…人間であるなら守天が早々に城に挙げる事はないのじゃが…」

「人ではあるがこの世界の者でもない。」

「つまり博識ガール達と同じエトランゼって訳か?」

「そうですよ、ハーケン艦長。」

「どう言う事だ?」

 

 

少し前に出て、琥魔の後に出て来た男性にハスミは話しかけた。

 

 

「…まさかここでお前に会えるとはな。」

「久しぶりです、ケイロン。」

「何年ぶりだろうか。」

「私には数年ぶりです。」

「そうか…」

 

 

正直、彼とこんなにも早く再会出来た事に内心驚いた。

 

本当なら寄り添って抱きしめたい、今は冷静に話を進めよう。

 

 

 

「話は察するに守天殿の命令でここを通す訳には行かない、だったら自分達を倒せと解釈してもよろしいでしょうか?」

「話が早くて助かりますにゃ。」

「恐らくそこの猫娘さんはお金で雇われたのでしょう、狼郎さんが性悪で金に汚いと猫娘さんの事を申していましたから。」

「あの駄犬め、色々とお客様に悪評言いふらしおって…だから嫁の貰い手が居ないのニャ。」

 

 

琥魔の発言にドン引きするロサ。

 

某ギャグシーンに良く付く(汗)のマークが横に出ている。

 

 

「堂々と本音の駄々洩れです。」

「これで彼女が性悪である事は確認できたので…戦いましょう。」

「えっ、いいのですか?」

「約束は頑なに守る人ですから…彼の相手は私がしますので皆さんは猫娘さんと背後にいる奴らをお願いします。」

「OK、まあそう言う訳だ…こっちも遊びじゃないんでね。」

「さっさと倒して通して貰うでござんす。」

「判りました、私も今は雇われの身…先払いで頂いた賃金分は働かないといけませんので。」

「悪く思うな、これもまた運命だ。」

「成程、双方プロって訳か…気に入ったぜ、キャットガール、エトランゼファイター。」

「まあ、あの筋肉ダルマよりも払うってなら考えなくもないニャ。」

「…先程の発言と喰い違っているが?」

「世の中お金ですニャ。」

「…」

「…(ケイロン、再会早々に駄猫の醜悪発言の洗礼を受けるとは御気の毒に。」

「駄猫風情が、わらわの邪魔をしおって…早々に三味線の材料にしてやるぞよ。」

「同感です、ウナギ腹姫。」

「そちは一言多いのじゃ!」

「交渉は決裂、駄猫ガール…準備はいいか?」

「はい、では…ぶちのめして身ぐるみ剥がさせて頂きま~す!」

「そんな、私…身ぐるみ剥がされたら。」

「お、そいつは大歓迎だな?」

「相変わらず揺らぎないですぜ、艦長。」

 

 

毎度お馴染みの駆け引きの後にハーケン一行と駄猫一行の戦闘が始まった。

 

ただ二人を除いて…

 

 

「人払いご苦労。」

「いえ、いつもの事ですから。」

 

 

一行より離れた場所に移動したハスミとケイロン。

 

 

「奴らの眼は?」

「こちら側に気が付いていません、現状での話は可能です。」

「そうか。」

「しかし、随分と早い再会になりましたね。」

「ああ、俺も正直驚いている。」

「これも無限力の介入と思いますが……今はただ貴方との再会を嬉しく思います。」

 

 

再会を喜びたいが、砂糖100杯入ったメイプルシロップの様な甘ったるい雰囲気をする事はない。

 

 

「その前にお前が強くなったのか試させて欲しい。」

「はい、夢の実現の為に今日まで精進を重ねて来ました。」

「ならば、構えろ。」

「…」

 

 

私は手甲の宝珠から愛刀を呼び出すと鞘から抜いて構える。

 

 

「お前の得物は刀か?」

「正確には母の形見ですが、今は私の手に馴染んでいます。」

 

 

話している最中に至近距離に現れる残影と拳。

 

すかさず数歩程横に逸れて避ける。

 

 

「お話し中に攻撃ですか?」

「構えろと言った時点で始めているが?」

「…でしたね。」

「だが、俺の初手を見切った事には賞賛する。」

「いえ、慣れるまでは何度も梁山泊の壁に人型を作ってましたので。」

「それは無事と言えるのか?」

「どうでしょう?梁山泊ではそれが普通ですから。」

 

 

私も刃先から『白月の斬撃(しらづきのざんげき)』を放つ。

 

それは周囲の岩を抉り三日月の様な跡を無数に残した。

 

 

「成程、それなりの修羅場は潜りぬいてきたと言う訳か。」

「今のは初歩です、余り本気を出すとこの城を壊しかねないので抑えています。」

「腕は見れた、それだけで十分だ。」

 

 

同時に互いの首元に拳と刃先がギリギリ薄皮一枚の所で止まっていた。

 

 

「オイオイ、見ているこっちがヒヤヒヤしたぜ。」

「そっちは終わりましたか?」

「ああ、お前が買っていたマタタビ饅頭を餌にな?」

「やはり、効果覿面でしたね。」

「御蔭様で今はウチのシンデレラ達と色んな意味で仲良くやってる。」

 

 

様子を見に来たハーケンさん。

 

こちらの決着が着いたと思ったらしく出て来たようだ。

 

途中の会話はハーケンさんも聞いていないのでネタバレはない。

 

 

「で、そっちのエトランゼファイターはどうするんだ?」

「守天との義理は果たした、これから元の世界に戻る術を探すつもりだ。」

「そうか、だったら俺達と来ないか?」

「お前達と?」

「そこの博識ガールとリトルメカガールも元の世界に帰る術を探している。」

「同じ目的なら…か?」

「そう言う事だ、歓迎はするぜ?」

「…」

「ケイロン?」

「これもまた立ち向かうべきなのだろう、短い間だろうがよろしく頼む。」

「OK、褐色ファイター…俺達はこれからこの城の西側の端にある龍寓島に向かう。」

「判った。」

「艦長、大門はどうなりましたか?」

「ミルトカイル石で封鎖されている以上、それを壊す方法と一緒に向かう事になった。」

「判りました。」

「話が早くて助かる。」

 

 

ハーケンが先に仲間達の元へ戻り、私達はその後から追った。

 

 

「ケイロン、共に行きましょう。」

「偶然が重なった再会に今は感謝しよう。」

 

 

彼は私の差し出した手に触れて繋いだ。

 

夢じゃない、現実の彼の手の温もりを忘れない。

 

これがエンドレスフロンティアで起こった、私が今語れる全てである。

 

その後、輝夜姫の師匠から情報を貰った後にエルフェテイル、デューネポリス、ヴァルナカナイ、フォルミッドヘイムと旅を続けた。

 

エルフェテイルに存在するエスメラルダ城塞とミラビリス城にて九十九事件の関連者と再会、共に同行。

 

そしてEFで起こった『10年戦争』の真実を紐解きつつ、事件の首謀者であるアインストとの決戦を終えて元の世界に帰還した。

 

彼らともそこで別れた。

 

それでもいつか遭えるだろう。

 

私の『縁繋ぎ』はその為の力なのだから。

 

 

=続=

 




風化の大地に降り立つ者達。

太陽と月が闇に溶け込む時。

それは光と闇の調和を意味する。


次回、幻影のエトランゼ・第二十話 『月蝕《エクリプス》前編』


華咲け月華の睡蓮よ。


=今回のハスミの動向について=

今回、詩篇刀・御伽があるにも関わらず原作物語通りに進めたのはエンドレスフロンティアにおける無限力の介入が厳しくなっている為である。
著しく物語を壊す様な事があれば、何かしらのペナルティが科せられる可能性があった為に今回の話の様な行動をとった。

愛機ガーリオンCやダウゼントフェスラーの機動不可能は無限力の介入によるもの。

また、私服ではなくいつもの少年兵用の軍服を着ているが…
スカートの両端に隠しジッパーが入っており、戦闘時は広げてスリット状態にしている。
若しくはセフィーロ製の最終形態の鎧を呼び出して着込んでいるので汚れたり破損する心配はない。


=今回の登場人物=


※ケイロン
ハスミと話していた褐色の男性。
本名を明かせないのでハスミが呼称するケイロンで通している。
足技を主とした近接格闘戦に秀でている。
デューネポリスではカッツェ・コトルノスに妙な親近感を寄せられ、本人曰く久々に戦慄が走ったそうな。
アインストとの決戦後は元の世界に帰還した模様。



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第二十話 『月蝕《エクリプス》前編』

物語の変異は続く。

それは一つの波紋の様に。

ゆっくりと広がって行く。






無事、エンドレスフロンティアから元の世界に帰還した私達であったが…

 

間の悪い事に連合軍とザフト・地球降下部隊が睨み合いを続けているアフリカ大陸のど真ん中へと放り出される事となった。

 

そこにベルターヌ化による転移騒動でアストラギウス銀河にある惑星メルキアの一部が出現。

 

その星内部の一角にある地下階層都市ウドがくっ付いている状態だ。

 

こちら側に転移したのが切っ掛けでウドの街の気候変化に街の住民は驚いているとの事。

 

ウドが存在する惑星メルキアではメルキア軍とバララント軍の衝突で起こった百年戦争.

 

これが切っ掛けで同惑星では戦争の影響による大気汚染で赤い酸性雨が発生する環境汚染が起こった。

 

それが一時的とはいえ無くなったのだからかなりの驚きと言えるだろう。

 

エンドレスフロンティアへの転移での時間のズレは数か月、こちら側では二週間が経過している。

 

二週間の不在の間に第一エリアの支配者であった魔族ブレアは既に討伐されていた。

 

ちなみにブレアが根城としていたのが浅間山。

 

九州エリアに遠征に出ていたゲッターチームが急遽合流し勇者チームとの共同作戦に参加。

 

早乙女研究所の防衛と共にブレア討伐を行う作戦である。

 

この作戦は成功したものの、勇者チーム側の主力戦艦が全損。

 

二番艦に当たる『箱舟』を稼働させ第二エリアへ向かったとの事だ。

 

各エリアごとにエリアを隔てる様に結界が張られているのだが、エリアを支配する魔族を倒す事で緩みが発生。

 

その緩みを大火力の主砲で打ち破ると言う荒業を披露したらしい。

 

そして問題は現時点で私達が帰還したアフリカ大陸は第二エリアと呼ばれており…

 

魔族の一角、ガープが支配する風の領域でもあった。

 

早い所、合流しないと…

 

 

******

 

 

私達は限定的凍結プロテクトから解除されたタウゼントフェスラーで航行しつつ周囲を探っていた。

 

第二エリアはアフリカ大陸を中心とした砂漠地帯で構成されている。

 

まさしく生命の息絶えた風化の大地だ。

 

そしてタウゼントフェスラーの操縦席のモニターから外の景色を眺めているロサから会話が始まった。

 

 

「何処に行っても砂漠ばっかりね。」

「アフリカ大陸丸ごとが第二エリアの特徴だからね。」

「ハスミがアカシックレコードから聞いた話だとザフトの地球降下部隊の一角が下りているんだよね?」

「そ、場合によってはATやラダムに最悪の場合は魔物と鉢合せしそうだし。」

「うーん、前途多難?」

「とりあえず、タウゼントフェスラーやAMが無傷だった事だけが救いかな。」

「もし鉢合わせしちゃったら?」

 

 

ロサの何気ない発言に私は答えた。

 

 

「勿論逃げる。」

「だよね。」

「理由は別にあるけどね…」

「へ?」

「戦場に前触れも無く響く鳥の声って知ってる?」

「ううん、初耳。」

「それを聞いた者は戦場から帰還する事も無く、必ず戦場で息絶えると噂される…告死鳥。」

「つまり、死を告げる鳥って事?」

「ま、噂だけどね。」

「ハスミ、もしかして鳥さんの正体を知ってるの?」

 

 

爽やかな笑みを浮かべるハスミに対してロサは察した。

 

 

「知っているのね。」

「まあね、話を戻すとこのエリアはその部隊が展開しているエリアに近いって事よ。」

「そっちの鉢合わせも考えられるって事?」

「可能性は否定出来ないね、まあ…彼らも任務中だからこっちに何かしらのアプローチを掛ける事はないだろうけど。」

「どうして?」

「前と同様で彼らは公式上戦死扱いになっているからよ。」

 

 

現連合軍・諜報部に潜入しているホルトゥスのメンバーに頼んで彼らの素性を調べて貰った事がある。

 

その結果、公式の史実と異なる道を歩んでいるらしい。

 

告死鳥ことFDXチーム。

 

死者を連想させる武装を使用する連合軍の非公式特殊部隊の一つだ。

 

戦闘要員は4名だが、これに艦長、情報処理担当のラルカと言うAIロボットと別にオペレーターとしてイアンと言う青年が配属されている。

 

彼は同部隊所属の戦闘要員、リェータの弟であるが、L5戦役時にあらぬ疑いを掛けられた為にこちらへ島流しさせられたのだ。

 

理由はその手の出世を妬んだ嫌がらせである。

 

正直腹が立ったので出世を妬んだ連中の木端微塵に成りそうな醜態を晒した画像&動画を捨てアドで所属部隊に送付してあげました。

 

 

「合掌した方が良いのかな?」

「何の事?いい年して嫌がらせをやってる方が悪いのだから別にいいでしょ?」

「それはそれで色々とコワイね。」

「とりあえず、この話は終わり」

 

 

私は告死鳥の話を切り上げ、現時点の問題に戻った。

 

 

「今はこのエリアの何処かに飛ばされている仲間達と運良く合流出来ればいいのだけど…」

「何処に居るのか判らないの?」

「心当たりが幾つかあるけど、記憶にある事象のどの辺まで進んでいるか判らないから確定と言う訳には行かないけどね。」

「この第二エリアって複雑な戦況になっているんだっけ?」

「ええ、ウドの街を中心としたATの部隊、魔族と戦い続ける勇者チーム、この砂漠に転移したアークエンジェルとザフトの地上降下部隊、ミスリルと追撃先のテロリスト、それらがアカシックレコードを通して確認出来たわ。」

「あれ?前に話していたデロイアは?」

「例の『断章介入』が原因でこちらの事象に引き込まれなかったらしいわ。」

「要は省かれた?」

「そうなる、どういう基準なのかは分からない。」

「…」

「出来る事なら顔見知りと合流出来るといいけどね。」

 

 

私の願いを他所に敵と言うモノは出現するのである。

 

 

「ハスミ、未確認の反応をキャッチ。」

「目視は?」

「モニターに回すね。」

 

 

操縦席近くのモニターに映されたのは異様な光景だった。

 

真っ青なグラスの様な体格に髭とステッキを付けた紳士の様な風貌の存在が進路方向に点在していた。

 

こちらの存在に気付いているらしく、後戻りは出来ない状況だ。

 

 

「敵の様子ね…(あれは台風男爵、ガープの使い魔が出て来たか。」

「ハスミ、どうするの?」

「ロサ、タウゼントフェスラーの操縦をお願い…私が追撃に出るわ。」

「うん、気を付けて。」

 

 

私はタウゼントフェスラーの操縦をロサに預け、格納庫へと向かった。

 

道中でパイロットスーツに着替えるのも忘れていない。

 

 

「乗るのは久しぶりね…」

 

 

ガーリオンC・タイプTのコックピットで機体を起動させながら呟く。

 

 

「交差する世界で貴方と再会出来た……だから絶対に生き残る!」

 

 

ガーリオンCのアイカメラが煌々と光を放った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

タウゼントフェスラーの格納庫から発進した後、その横に付いた。

 

 

「ロサ、敵は私が惹き付けるからその内にこの領域から離れて。」

「ハスミは?」

「大丈夫、ある程度やったら跡を追うから。」

「判ったわ、必ず戻って来てね。」

 

 

私はロサに指示を出すとタウゼントフェスラーを別の空域へ逃がした。

 

 

「さてと、お相手は…四体。」

 

 

台風男爵は勇者チームでも相手にするのに手を焼いた相手だ。

 

あのバカげた風貌からは想像も出来ない回避能力と高速ファンによる疑似台風を生み出す攻撃は侮れない。

 

ガーリオンCの高機動なら避けられなくもないけど捕まったら最後、機体毎バラバラにされるのは確実。

 

猶更用心しないとね。

 

しかし、妙だな…

 

あの数だと偵察部隊程度。

 

何かを探しているのか?

 

該当があり過ぎて何とも言えない。

 

あるとすれば…

 

 

「あらあら、何なの?」

「誰だ!?」

「見ない顔ね、ブレアちゃんがやられちゃったからまた余所者が入り込んだのかしら?」

「何故オネエ言葉?(あの声でこれ聞いちゃうと腹筋が…」

「アンタに関係ないでしょ、アタシはこの領域を支配する風のガープ…まあ覚えてもアンタの命は無いだろうけどね?」

「領域?つまり貴方は地球を断裂させた首謀者の仲間って事ね。」

「地球?違うわね…アタシ達は取り戻したのよ。」

「取り戻した?」

「そうよ、あの機械仕掛けの神々から…このベルターヌをね。」

「ベルターヌ、それがお前達が使うこの星の総称か?(やっぱり今回の件もガンエデンが関わっていたか。」

「少しは理解力のある人間の様ね?」

「過去に何が起こったかは私は知らない…それでもベルターヌが地球となったのは、貴方達が一度膝を付いたと言う確かな証と言う意味かしら?」

「利口過ぎるのも良くないわね、まあいいわ。」

「!?」

「アンタはアタシが直々に切り刻んであげる。」

 

 

癪に障ったのかガープはお得意の風の砲弾を生み出し攻撃を開始した。

 

ちなみに被弾すると高速回転によって生み出された真空の風で切り刻まれるものだ。

 

例によって不意打ちを受けたエクスカイザーやパイロットを欠いたバーンガーンでさえ半壊の末路を辿った一撃である。

 

そして原作においては宇宙警察機構をたった一人で壊滅させた手練れ、油断は禁物だ。

 

だが、知っているからこそ…その軌道は見切れる。

 

 

「あら、避けられた?」

「伊達に数々の修羅場を潜り抜けて来た訳じゃないので。」

「少しは骨のある相手の様ね、いいわ…本気で行かせて貰おうかしら?」

「…(相手は五体、ガーリオンCだけでやれるか?いや、やるしかない!」

 

 

******

 

 

一方、ハスミの指示で先程の戦域から離脱に成功したロサは…

 

 

「ハスミ。」

 

 

どうしよう。

 

ハスミは絶対に機神を出すなって言ってた。

 

確かにココのボスに属性効果で私の機神じゃ歯が立たないのは戦略的に解ってる。

 

でも、何も出来ないのはもっと嫌なのに。

 

私はハスミに守られているだけでいいの?

 

あの時と同じ様に。

 

ううん、何も出来ないよりは何かしたい。

 

少しでも可能性があるなら!

 

 

「お願い、届いて。」

 

 

ロサはコンソールを操作しSOS信号を発信した。

 

敵地でのSOS発信。

 

それがどの様な結果を招くか、十分理解した上での行動だった。

 

 

「やっぱり、敵地だから反応が薄いのかな。」

 

 

SOS信号発進から約1時間が経過。

 

 

「ハスミが戻ってこない、反応もない…何も出来ないの?」

 

 

ロサのアイカメラから伝うものがある。

 

冷却用の水であるが、ロサに涙の概念を与える為にハスミがわざわざ取り付けた機能だ。

 

機械でも人の心を持つのならば涙の意味を理解する為に必要だと思った為である。

 

それは喜び、笑い、悲しみ、怒り、人の感情を構成するものの中で涙は欠かせない。

 

他者を思う心があるからこそ涙は流せるのだ。

 

 

『聞こえるか、そこのタウゼントフェスラー。』

「え…」

『応答せよ、こちら地球連合軍月面第8艦隊所属艦アークエンジェル。』

「はい、地球連合軍北米方面ラングレー基地所属戦艦シロガネ配備隊ATXチームの別働チームです。」

『確認した、そちらの状況は?』

「このエリアを侵略する敵と交戦でパイロット一名が追撃中です、私は救難信号発信のまま撤退を命じられました。」

『了解、そちらの状況は判った…旗艦は警戒任務中の本艦の進路方向に居る為、そのまま待機せよ。』

「了解。」

『なお、追撃中のパイロットにはこちらから援護部隊を選出する。』

「了解、本艦は現空域にて待機します。」

 

 

通信から流れる女性の声、恐らく軍人気質の人だろう。

 

相手側の的確な指示の元、ロサは救いの手が来た事に安堵した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一時間後、ロサと別れたハスミは…

 

 

「本当にしぶといわね。」

「しぶとさは所属チームの信念です、覆す事はありません!」

「…(この機体のパイロット何なの?こっちの動きを完全に読んでいる上に増援がてらに召喚したエネミーポットまで即破壊しちゃうなんて。」

「さて、そちらも手の内は出し切ったと思いますが?」

「そうね、手持ちの配下はさっきのでおしまい…使えない配下をポンポン出した所でアンタを痛めつけられないんじゃ意味ないモノ。」

「…(とは言ったもののバーストレールガンはEN切れ、ツインアサルトブレードは刃先がボロボロ、後はソニックブレイカーとストライク・アキュリスどちらも一発撃てる位しかエネルギーはない。」

「まあ、そっちも打つ手なしって思えるし…この一撃で決着を付けましょう。」

「そうね。(そっちにはそう言うつもりはないのでしょうけど。」

 

 

勝負は一瞬。

 

一撃はどちらを選択する。

 

 

悩むものか、いつも一緒に戦って来た相棒。

 

私は相棒を信じる。

 

そうでしょう、ガーリオンカスタム。

 

 

 

「先手を撃つ!」

「それならお見通しよ。」

 

 

私がソニック・ブレイカーでガープに突撃したのと同時に相手もまた攻撃を仕掛けた。

 

 

「アタシの間合いに入って逃げられるとでも!?」

「確かに考え無しで突っ込んだ訳じゃない、貴方の攻撃に致命的な隙があるからね。」

「まさか!」

「竜巻の中心部は空洞って事を忘れたとは言わせない!」

「くっ!?」

「ソニック・ブレイカーは囮、殿は…ストライク・アキュリス!!」

 

 

ソニック・ブレイカー発動時に逃がして置いたストライク・アキュリスを操り、ガープへ突撃させる。

 

 

「貫けっ!!」

 

 

ガープは竜巻の攻撃を解除し回避しようとするも一部のストライク・アキュリスが彼の顔を切り裂く。

 

 

「ああっ!!?」

「ご自慢のお顔が台無しね?」

「このっ人間風情が!!」

「その人間を無暗に殺し合わせた奴に言われたくもないわ。」

「お、覚えてらっしゃい!!」

 

 

自尊心をズタズタにされた為かガープは傷だらけになった顔を抑えて戦線を離脱した。

 

残ったのはガープの攻撃に耐えきったもののEN切れと装甲破損でズタボロとなったガーリオンC・タイプTだけが砂漠に墜落した。

 

 

「あー本当に後先考えない作戦は止めとこ、ロサとの約束も破っちゃったし…」

 

 

その後、私はアークエンジェルと合流を果たしたロサ達に救出された。

 

再会したロサからは泣き付かれたり、簡易的な説明と事後報告などで色々と忙しかった。

 

そこで集めた情報によると、どうやら原作に近い展開になっているらしい。

 

ヘリオポリス崩壊と共にそこからの避難民や一部の志願兵を募り、ザフトに奪われた四機ガンダムの追撃を受けつつ航海を続けていたアークエンジェル。

 

連合軍月面艦隊所属・第八艦隊と合流したものの原作通り、ザフト艦隊の襲撃を受ける事となった。

 

その最中に例の地球規模の地震が発生。

 

アークエンジェル、そして大破寸前の第八艦隊の数隻はこの第二エリアへ転移したらしい。

 

周囲偵察の末にオーストラリア大陸にあったトリントン基地を発見しそこへ移動。

 

難民キャンプのベースを兼任しつつ今日まで魔族と戦っていたとの事だ。

 

基地に滞在していた元ノードゥスのメンバーが率先して対応していたが、何分補給物資の追加もない。

 

墜落した第八艦隊の残骸から物資を発見し繋いでいるが、それも数週間分の計算だったが…

 

そこへ第一エリアを解放した勇者チームと合流を果たした元ノードゥスのメンバーがやって来た。

 

彼らの来訪により魔族によって抑え込まれた戦線を解放。

 

ついに奴らの居城を発見したが、どうやら特殊は障壁で侵入が困難になっているらしい。

 

その為、攻め込めない状況だと言う事だ。

 

ここでも変異が起きたかと自分の中で納得しておく。

 

とりあえず、トリントン基地に戻ったらお小言が待っているので報告&始末書を終わらせておきたい。

 

 

=続=

 




力尽きる幻槍の獅子。

光と闇の障壁が行く手を阻む。

だが、少女達の声と共に切り開く者は姿を現す。

次回、幻影のエトランゼ・第二十話 『月蝕《エクリプス》中編』。

陽輝と月煌よ、勇者達の往くべき道を照らし出せ。



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第二十話 『月蝕《エクリプス》中編』

打開策はその手の中に。

少女達は戦う覚悟を。

睡蓮はこの先の災厄に抗う覚悟を。

その想いを胸に呼び起こす。


先の戦闘後、アークエンジェルに拾われた私達は無事にトリントン基地に戻る事が出来た。

 

しかし、それと同時にある事を告げられた。

 

無茶振りはここまで響く事になると言う事を…

 

 

******

 

 

トリントン基地内、通路にて。

 

 

「はぁ。」

「ハスミ。」

「予想以上のダメージが蓄積していてガーリオンCが修理行きなんて、誰が予想出来た?」

「う~ん、無限力?」

「これはアレなのか、アレなのか…」

 

 

確かに先程の戦闘で無茶振りの上で大将首に手傷を負わせましたよ?

 

その結果がこれですか?

 

良くある展開と思いましたが…

 

まさかここでそれが起きるなんて思いもしませんよ。

 

本当にどうしよう。

 

やっぱりガーリオン無双は無茶があり過ぎたかしら?

 

次は大将首の城攻め対策ですよ?

 

しかも変異で色々と事象まで変わってきているのに…

 

腹を括るしかないと言うのはこう言う事かもしれない。

 

 

「兎に角、呼び出しも受けているしお小言込みで今後の対策をしないとね。」

「そうだね。」

 

 

私とロサは元ノードゥスのメンバーが集合しているブリーフィングルームへと足を運んだ。

 

 

「ハスミ・クジョウ少尉並びにロサ・ニュムパ両名、出頭命令により参じました。」

「ハスミちゃん、無事でよかったわ。」

 

 

ブリーフィングルームに入るのと同時にエクセレン少尉に抱き付かれる事となった。

 

相変わらず胸クッションが凄まじいです。

 

 

「エクセレン少尉、どうしてここに?」

「それがね、話すと長くなるんだけど…ハスミちゃんが梁山泊へ向かった後によくわかんない敵の奇襲攻撃でシロガネが航行不能になっちゃってね。」

「シロガネが…キョウスケ中尉達は?」

「私もキョウスケ達と一緒にハガネに移動する事になったんだけど、例の大地震のせいでバラバラになっちゃったの。」

「そうでしたか。」

「ね、ラミアちゃん、アクセル中尉?」

「散々な目に遭ったでございますです。」

「まったく一体何がどうなっているのか、これがな。」

「で、地震の後に砂漠に落とされるわ~キョウスケとクスハちゃん達に連絡が取れなくて…ハスミちゃんと同じくここに拾われたって訳。」

「あの地震からどの位経ってます?」

「二週間ちょいね、解放された日本と赤道直下の諸島群は宇宙との連絡が取れたけど…他はまだよ。」

「に、二週間!?(まあ恒例のリアクションとしておいてと。」

「ちょ、どうしたのよ?」

「いえ、また異世界に飛ばされていたので時差が…」

「あらら…今度は何処に飛ばされたの?」

「未確認の世界で名はエンドレスフロンティアです。」

「!?(エンドレスフロンティアだと!?」

「その話は詳しく説明しますので抱き付きは終了でいいですか?」

「あら、ごめんなさいね。」

 

 

ブリーフィングルームに入ると元ノードゥスのメンバーの一部が集結していた。

 

L5戦役時に共に戦ったアルビオン隊に例の不死身の三人小父さんも追加されてます。

 

で、ドラグナーチームの三馬鹿トリオにマイヨさんら例の三人組。

 

新規参戦組はアークエンジェルのメンバーと近くのレジスタンスから出て来た更生前のカガリ姫とキサカさん。

 

キラがコーディネーターである事はこの紹介の時に説明を受けた。

 

箱舟を拠点とする勇者チーム、ほとんどが子供である事には知っていても驚いて置いた。

 

建前上その傘下となっているGGG、VARS、勇者特急隊ら地球防衛軍。

 

そしてヒイラギ兄妹、マジックナイトの三人娘、道中で仲間になったAT乗りのキリコ一行である。

 

三人娘達との再会は案の定予想はしていましたが、この後に一波乱あった事は後に。

 

残念な事はエルドランチームは例の地震の余波で行方不明のままらしい。

 

電童の二人組はデータウェポンが彼らの元に全員集結しているのが原因だろうかガルファの襲撃は微々らしい。

 

話に寄ると敵側の電童である凰牙を難なく退けたらしいが確保寸前の所で敵陣に奪還されたとの事だ。

 

元ノードゥスのスーパーロボット組は日本防衛の為に残留中。

 

そこにハワイ基地へ出向中だったSRXチームと戦技教導隊が合流。

 

そして外部協力者&協力体制となったランド一行、ミスリル、ラストガーディアン、そして大地震の余波で現れたTERRAが合流している。

 

残留した理由は九州エリアに現れた邪魔大王国と北海道エリアに現れたドラゴ帝国と呼ばれる地下組織、行動を開始した鉄甲龍が原因である。

 

ん、百鬼帝国?何か知りませんが何処かの地獄がフルボッコにしていた様な?

 

ドラゴ帝国の出現によってエルドランチームやおそらくアーガマの子孫達もNEOの関係で多分アースティアに飛ばされたのだろう。

 

DG細胞は例の一件で消失しているのでデビルウルタリアの件はないだろうと思いたい…

 

ここまで来てインスペクター事件、ベルターヌ事件、Zの予兆、MXとNEOの介入。

 

ややこしいのはいつもの事だからノー○ンプリーズである。

 

互いの自己紹介を終えた後、私はエンドレスフロンティアに転移した件と同時にアインストの新たな情報、そして接触したガープの件を説明。

 

接触したアインストの新規情報に他者に対し精神干渉の末、洗脳、同化、擬態する事を伝えた。

 

それによって向こう側での大規模戦争『10年戦争』が引き起こされた事を…

 

こちら側でも起こる可能性を視野に入れるべきと申告した。

 

その件でラミアさんとアクセルさんは何かを思い詰めていたが、恐らくは生まれ故郷についての事だろう。

 

ガープに関しては乗機AM全損覚悟で顔面に傷を負わせた事を話した。

 

理由とすれば奴の攻撃にAMの装甲が耐えきれるのかの検証。

 

ソニック・ブレイカー発動時の集束フィールドと念動フィールドの重ね掛けであっても機体をギリギリ維持するので精一杯であった事は報告書で提出済みである。

 

通常時ならば間違いなくバラバラにされていただろう。

 

 

「ハスミちゃん、また無茶振りをしちゃったのね。」

「ロサを逃がす事と現状で助けを呼べる状況ではなかった事もあります、まさかガープがこのエリアの敵司令だったとは思いも因らなかったので…」

「命があっただけでも奇跡と思いますでございますわ。」

「無茶の遺伝は奴の賭け癖か?」

「キョウスケの居ない所でそれ言っちゃう?」

「事実である事は確かだろう、これがな。」

「説明した通り、私が敵の総大将に手傷を負わせた事は事実に変わりはありません。」

「何らかの報復があってもおかしくないか…」

 

 

エクセレン、ラミア、アクセルの呆れ顔と共にお小言を言われ、敵の総大将に手傷を負わせた事で何かしらの報復がある事は大人組が肯定していた。

 

 

「それはそうだけど敵の本拠地は見つかっても入る方法がないんじゃどうしようもないわよ。」

「どういう事ですか?」

「ハスミちゃんはまだ知らなかったわよね、実は敵の本拠地は既に発見されているのよ。」

「問題はそこへ侵入する手段がないって事だ。」

「侵入不能ってバリアか何かの類ですか?」

「まあ、御伽噺っぽく言うと魔法のバリアって感じかしら?」

「はぁ…」

 

 

エクセレンのツッコミ満載な説明では埒が明かないので事情を知る勇者チームが事情説明にスライドした。

 

彼らの話に寄ると現在の地球をベルターヌと言う太古の地球の姿に戻した存在がバルドーと呼ばれる魔族の集団である事。

 

その魔族の集団からアフェタと呼ばれる力が奪われた事によって地球が断裂したような形になったとの事だ。

 

だが、奪われたアフェタは六つの内の四つで取り戻した炎のアフェタを合わせて奪われなかった光と闇のアフェタはこちら側にあるとの事だ。

 

敵に奪われたアフェタは風、土、水。

 

それ以外は本領を発揮出来るが奪われているアフェタと同じ属性の関係者は力が激減したり今までと同じ様な力を発揮出来ないとの事だ。

 

念の為、アフェタの関係上で属性効果と言うモノが発生しており炎の属性は水の属性に弱いなどのRPG要素が盛り込まれていた。

 

炎は風に風は土に土は水に水は炎にと言う形である。

 

ちなみに光と闇は互いに強く弱い。

 

こんな属性の関係上を利用して活動している、ちなみに属性の無い一般のMSやPTは無属性と位置付けられ特に変化はないが属性攻撃に対しての攻撃に相乗効果はないとの事だ。

 

で、アクセルさんの声をオネエ風にした声を持つ例のオカマことガープは妙なヒントを残していた。

 

 

「つまり、ガープの話では『残念だけど光と闇が交差する時なんて先ず来ないわよ?』とバリアのヒントを話していたと?」

 

 

どうやらガープが居城に帰還する時に発生した障壁は光と闇が交わる事で開かれるらしい。

 

一度は問いかけに関係性がある光属性と闇属性の攻撃を持つ者同士の合わせ技や夜明けと夕暮れに奇襲を仕掛けたがバリア解除に当てはまらず、その謎かけに誰もが悩んでいたのだが…

 

 

「もしかして、この光と闇が交わると言うのは…日食と月蝕の事でしょうか?」

「ちょっとまち、日食と月蝕なんて早々起こる筈ないでしょ?」

「それが可能なら?」

「ハスミ少尉、どういう事で御座いますですか?」

「レイカー司令とギリアム少佐から口止めはされていますが、この状況下では致し方ありません。」

「…(成程、キョウスケやヘリオスが危険視していたのはこの事だったか。」

「この件の開示の許可を伊豆基地のレイカー司令に連絡を取る事は出来ないでしょうか?」

「時間は掛かると思うが許可を取ってみよう。」

 

 

話に参加していた基地司令のコーウェン准将からもお墨付きを頂けた。

 

 

「お手数をお掛けします。」

「所でハスミちゃん、その件なのだけど…」

「エクセレン少尉、この件はレイカー司令からの緘口令が解かれるまでは話す事できません。」

「相変わらずそう言う所は律儀なんだから。」

「情報漏洩の末の銃殺刑になられたいのなら遠慮なくお話しますけど?」

「うっ!」

 

 

その話を傍で聞いていたコウ達はと言うと…

 

 

「実際あり得る事だから余り笑えない。」

「冗談にもキツイ発言だよね。」

 

 

実際に軍の機密若しくは重要な情報の漏洩は軍の行動に支障そして敵に有力な情報を与えてしまう結果となるのだ。

 

その為、他言無用の緘口令などを敷く事が多い。

 

ちなみに危うくその件を言いかけたマジックナイトの三人娘には威圧込みできつく話しておいたので青ざめていた。

 

暫く時間が経過すると通信にて緘口令の解除が言い渡されたので話を進める事になった。

 

 

「緘口令解除となりましたので先の件についてお話します、それにはまずセフィーロでの一件を話さなければなりません。」

 

 

私はセフィーロでの件を先に説明、その後にガープの居城のバリアを破壊する手立てである『念神』の事を説明した。

 

『念神』とはセフィーロで光達が纏う『魔神』と同様にセフィーロで生まれた存在。

 

魔法の力を糧とする『魔神』とは違い『念神』は念の力を糧とする。

 

それ故に念の力をフルに発揮する必要があるのだ。

 

理由とすれば念を満たす器がない機体と言えばいいだろうか?

 

例えとすればSRXを念を満たす機械の器とすれば『念神』は念の塊そのものだ。

 

念の塊を戦える姿に形成の末に維持する。

 

それだけでもかなりの負担になる。

 

これにより念の力をフルに発揮すると言う事は命の危険性もあるし…

 

今は秘密裏協定を結んでいるビッグファイアやバラルを通して動きを見せないナシム・ガンエデンにも悪い意味で感づかれると言う事だ。

 

それを意味する事は何なのかは今は語る事は出来ない。

 

それでも今回は危険を伴う一戦である事に変わりはない。

 

 

「念神ねぇ、どういう姿なの?」

「イメージとすれば戦国の武将の様な姿になりますね。」

「あら、じゃあ法螺貝とか持ってたりして?」

「それは有りません。」

 

エクセレン少尉のツッコミを避けて話の続きを再開。

 

それらを考慮して作戦の話し合いへ転じた。

 

内容は私の機体で敵陣のバリアを破壊、バリア破壊後は一軍による強行突破からの敵大将の討伐と言うシンプルな作戦となった。

 

しかし、その間にこの基地をもぬけの殻に出来ないので半分はこちらで待機と言う形を取っている。

 

ザフトの地上降下部隊が動きを見せていない以上は何かしらの行動を起こす事は目に見えていた。

 

若しくは物資欲しさにウドの街の荒くれ者達がこれを期に襲撃を起こす可能性も否定できない。

 

 

「では、ハスミ少尉の機体で敵陣のバリアを突破…地球防衛軍の主力部隊を中心とした部隊が先行し敵陣営を掌握しその後は敵陣営の司令官ガープへの攻撃に移行する。」

 

 

振り分けはこのような形となった。

 

ガープ居城へは地球防衛軍とATXチーム。

 

基地防衛にはアルビオン隊、AT乗り、ドラグナーチーム、アークエンジェル隊。

 

基地防衛の件は記憶を持つコウさん達の他にキリコさん、キラも居るので見張る必要はないだろう。

 

 

「では各自、作戦決行時刻まで所定の位置で待機を任ずる。」

 

 

作戦決行まで僅かながら時間を頂き、それまでは各自の再会を喜んだ。

 

 

******

 

 

同基地内休憩エリアにて。

 

 

「ハスミさん。」

「光、海、風、さっきはごめんなさいね。」

「いえ、先程の事は私達を守る為に仰ってくれたのでしょう?」

「そうです、気にしてませんし。」

「ありがとう。」

「これで魔法騎士が全員揃ったね。」

「ぷぷぅ。」

「はい、光さん、海さん、モコナさん、私に、ハスミさんとロサさん。」

「こっちで顔を合わせるのは初めてよね。」

「貴方達も無事に戻れてよかったわ。」

「はいです。」

「風…私達が去った後のセフィーロの経緯を知りたいのだけど、いいかしら?」

「判りました、お話出来る範囲までご説明させて頂きますわ。」

「色々あったものね。」

 

 

私とロサがセフィーロを去った後、光達は出来得る限りの復興の手伝いを行っていた。

 

光と風に恋バナも芽生えた事も内心wktkしつつ話を聞き続けた。

 

やはり柱制度が無くなった事で新たな戦いも訪れてしまった。

 

最初は機械化惑星オートザム、アラビア風惑星チゼータ、中華風惑星ファーレンの三国が来国。

 

しかし彼らは侵攻してきたのではなく協定を望んできたのだ。

 

警戒していた事の一つであるペンタゴナワールドの件である。

 

支配者であるポセイダルが決起し各惑星へ侵攻を開始したとの事だ。

 

各惑星のレジスタンスと共に攻防を続けてきたが、惑星アーストのマーダル軍、アースティアの邪竜一族やドン・ハルマゲの侵攻やエルンスト機関も何かしらの動きを見せる様になり…

 

最近では一つ目の妙なMSまでも見かける様になったらしい。

 

 

「その一つ目MSってどんな姿だったの?」

「色は黄色で何度倒してもまた再生してしまい…」

「やっぱりデスアーミか。」

「ハスミさん、知っているのですか?」

「知っています、私に関係のある事です。」

「ロサちゃん?」

「話しても平気なの?」

「うん、ずっと隠せない事だって思ってた。」

「ぷぷぅ…」

 

 

私はロサと共に光達が接触したデスアーミの件を期に前回のL5戦役で戦う事となったDG事件を語った。

 

そしてロサとの出逢いとその正体も。

 

 

「でも、これだけは勘違いしないで…ロサは理由のない戦いで誰かを傷つけたりしない、自分の罪を向き合うと決めているから。」

「はい、気にしないでください。」

「ロサちゃん。」

「お辛かったのに…ごめんなさい。」

「まるでカゲロウやブラックガインの時の様だったわ。」

 

 

ロサの話を切っ掛けに光達は地球防衛軍で接触した勇者特急隊のブラッグガインとブレイブポリスのカゲロウの事を思い出した。

 

二機もまた生まれた経緯上敵として戦う事になってしまったが最後は仲間になってくれたとの事だ。

 

 

「誰もが生まれた経緯を変える事は出来ない、それでも生きた経緯は変えられる。」

「ハスミさん。」

「それは誰にでも言える事よ、私もロサもそして貴方達も…(そして私達を待ち受ける困難も強大な敵との戦いもまた運命なのかもしれない。」

「ハスミ。」

「互いに所属は違うけれど、共同作戦頑張りましょ?」

「はい、お願いします。」

 

 

所持していた端末から集合命令が下った。

 

 

「時間ね、そろそろ行きましょ?」

 

「「「はい。」」」

 

「…(ケイロン、どうか再会の日まで見守っていて。」

 

 

光達が先に向かったのを確認した後、足元に残っていたモコナを抱き上げ、その大きな耳に囁いた。

 

 

「ぷぷ?」

「今はあの子達を静かに見守っていてください。」

「ぷ!」

 

 

モコナは肯定した様子で胸?の部分に手を置いて合図した。

 

それを確認した後、私も集合場所へと向かった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

地球防衛軍所属艦『箱舟』に乗艦後、ガープ居城へ侵攻。

 

太陽を受けて熱気を上げる灼熱の砂漠を抜け、緑に彩られた巨木へと到着した。

 

 

「…(ガープの居城、前に視たのと同じ様子だけど」

「ハスミ少尉、そろそろ時間ですが宜しいですか?」

「了解です、芹沢艦長。」

「光ちゃん達はハスミ少尉の援護をお願いするわ!」

 

「「「はい。」」」

 

「私達の出番だね。」

「新宿では怪我で動けなかったけど…」

「私達も力になれる事を。」

「大丈夫、皆さんになら出来ます。」

 

 

箱舟の甲板にて待機の4人と1機。

 

鎧を纏い掲げるのは己の剣。

 

それぞれが契約した『魔神』、『念神』、『機神』の名を叫ぶ。

 

 

「レイアース!」

「セレス!」

「ウィンダム!」

「エクリプス!」

「エザフォス!」

 

 

炎を巻き上げ現れる火の獅子。

 

水流と共に現れる水の竜。

 

嵐を噴き上げる風の鳳凰。

 

太陽と月が交差する日食と月蝕の武神。

 

輝く晶石と花々を守護する大地の女神。

 

 

美しきセフィーロを救った伝説の魔法騎士が並び立ったのだ。

 

 

「これより作戦名『月蝕』を発動する!」

 

 

号令と共に作戦が開始された。

 

 

「光、海、風、ロサ、今から奴らの居城に張られている結界を破壊する…周囲の警戒をお願い。」

「判ったよ。」

「ハスミさん、気を付けて。」

「守りは私達にお任せください。」

「出来る事をする。」

 

 

結界を視念で確認するとうっすらとだがその範囲を確認した。

 

 

「断ち切れ……紫陽架斬!!」

 

 

まずは条件を満たす為の太陽を象徴をする攻撃。

 

 

「続けて、切り裂け……月歌薇陣!!」

 

 

そして二つ目の条件である月を象徴とする攻撃。

 

 

「交わりの時、界蝕の陣!」

 

 

光と闇の攻撃を重ね合わせ、疑似的な日食と月蝕の現象を起こさせる。

 

そしてガラスが割れるような音と共に敵居城の障壁は破られた。

 

 

「敵拠点のフィールドを破壊、侵攻可能です!」

「了解、各機侵入後…盛大にボッコボコにぶっ壊しちゃいなさい!!」

 

 

あの問いの答えはその存在が光と闇の属性を二つ持ち合わせている者だけが開く事が出来ると言うものだ。

 

まさかと思ったがこれも無限力の介入か?

 

この件は後にしよう、まずはガープを倒してからだ。

 

反逆の城攻めの時は来た。

 

無様な醜態を晒してやるわ!!

 

=続=

 

 




砕かれる悪しき魔の障壁。

立ちふさがるは復讐に燃える風の魔王。

そして襲撃する純粋な者達。

次回、幻影のエトランゼ・第二十話『月蝕《エクリプス》後編』。

赤き鬼神は何を求める。


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第二十話 『月蝕《エクリプス》後編』

驕った者は絶望へ。

覚悟の果てに剣を構える。

そして現れるは赤き鬼神。

古の静寂は何を問う?


ガープの居城の障壁を破り、侵攻を開始した私達であったが…

 

突如として現れたアインストの集団と三つ巴戦に移行する事となった。

 

 

******

 

 

「アインスト!何故ここに?」

「ハスミ少尉、奴らはあの大地震後に頻繁に現れる様になったので御座いますです。」

「以前遭遇した個体とは違う様だ、これがな。(やはり奴が来るのか?」

「では、L5戦役に遭遇した奴らは様子見だったと言う事ですか?」

「そうらしいわね、でなきゃこんな時に襲ってくるなんて思いもよらなかったもの。」

「…(流れはOGからINへ移行しつつあるのか?」

 

 

勇者チームをガープ居城内部に先行させ、進入路を死守する構えとなったATXチームと魔法騎士達。

 

現在侵攻を開始しているアインストはクノッヘン、グリート、ゲミュートの三種。

 

いずれにしても油断は出来ない相手である事は確かである。

 

 

「それにしてもアインスト達はどうしてここへ攻めて来たのかしら?」

「様子から察するに敵の味方という訳でもないようでありんす。」

「若しくは奴らが興味を示すものがここにあるかもしれん。」

「…(該当すると言えばエクセレン少尉を攫いに来たか、ここをストーンサークル化程度しか思いつかない。」

 

 

さっきの考えが当たって居れば、ここへ出て来る筈。

 

未だ気配がない以上は何とも言えない。

 

だけど、エクリプスを召喚した時の念消費が激しいし索敵に割りたい。

 

落ち着いて気配を探るしかない。

 

 

 

「殿は俺とクジョウが務める、エクセレンとラミア、ロサは援護を頼む。」

「了解。」

「任せて了解よん♪」

「了解でありんす。」

「はいです。」

「光ちゃん達はお姉さん達と一緒に戦艦の護衛をお願いね。」

「判りました。」

 

 

ソウルゲインとエクリプスがクノッヘンとゲミュートを翻弄。

 

その隙に艦への攻撃に適したグリートをヴァイスリッター達が片付ける算段となった。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

ガープ居城の一室では。

 

 

「どいつもこいつもアタシの城を滅茶滅茶して…タダで済むと思わない事ね!」

 

 

普段の人を喰った様な様子は見られず、ただ怒りに任せて呪詛の様な言葉を紡いだ。

 

理由とすれば、前回ハスミがガープを退ける際に与えたダメージが回復していない為である。

 

未だガープの顔の傷は癒えず、切り傷だらけのまま出血が続いていた。

 

 

「あの機械人形乗りめ、よくもアタシの美しい顔に傷を…この痛みと怨みはあの女の命で償って貰うわ。」

 

 

風を巻き上げてガープは戦場へと赴いた。

 

そして勇者チームは城内部の潜入に成功したものの、城の主が見当たらず捜索を続けていたが…

 

既にガープは己の個人的な復讐の為に艦護衛の為に残ったチームへ攻撃を仕掛け始めていた。

 

それはエリア守護の任を放棄する事。

 

己の主であるバルドーへの裏切り行為でもあった。

 

 

「また会ったわね、人間!」

「わぉ、前会った時よりかなり怒ってない?」

「私が奴の顔面に傷を負わせたのをかなり根に持っているようですね。」

「その白い機械人形の乗り手?あの時の女ね…探す手間が省けたわ!」

 

 

ガープの怒りのボルテージは上がりつつあり、最早冷静さを失いつつあった。

 

 

「アンタだけはアタシの手で直接切り刻んであげるわ!」

「その傷に値する事を貴方がした、当然の報いと思いますけどね。」

「どう言う事でございますのですか?」

「アフリカの砂漠を彷徨っている時、道中でキャラバンの惨殺死体を発見しました…それも風で斬り裂かれた様な無残な姿でした。」

「っ!?」

「惨殺死体の中には女性や子供、老人も含まれていました、そこに居るガープは無残に遊び半分で…!」

「酷い…」

「何て事を。」

「アタシの庭でウロチョロしているのが悪いのよ、当然よ。」

「ふざけるな!弄んだ命の数の分…お前の罪を数えなさい!!」

「人間風情が…っ!!」

「その人間にそこまで手傷を負わせられたのは誰だ?そもそも貴様の声も気に喰わん!」

「はい、アクセル副長に声が似てらっしゃってますんで余計でありんす。」

「ラミアちゃん、それ言っちゃう?」

「クジョウ、遠慮はいらん!奴をここで仕留める!!」

「了解です、アクセル中尉。」

 

 

ガープへ再度攻撃を仕掛けるアクセルとハスミ。

 

エクセレン達は引き続き、台風男爵とアインストの相手を引き受けていた。

 

 

「ゆけ、玄武剛弾っ!!」

「そんな攻撃がっ!?」

「今のは囮、こちらからも受けて貰う…白月の斬撃!!」

 

 

玄武の甲が月牙の斬撃がガープを撃ち抜き、斬り裂く。

 

 

「怒りに任せた攻撃ではこちらの動きを読めないでしょう。」

「どいつもこいつもアタシに泥を塗って…もういいわ!この城諸共アンタ達を八つ裂きにしてあげるわ!」

「その台詞、打つ手無しか?」

「生憎ですが、私達の攻めはまだまだ続きますよ。」

 

 

ガープに必要以上の攻撃を加えて更なる怒りのボルテージを上げつつあるアクセルとハスミ。

 

その様子を戦闘を続けながらエクセレン達はツッコミの嵐をしていた。

 

 

「副長さんにハスミちゃんったら…えげつないわね。」

「しかし、敵にダメージを与えつつ油断させるには効果的なやり方だと思いますです。」

「ハスミ、すっごく怒ってた…キャラバンの人達のお墓作る時に絶対に敵を取るって話してた。」

「ハスミちゃんらしいわね。」

「…(ハスミ少尉、余り話した事は無いが彼女は冷静かつ情に深いのだな。」

「ハスミさん。」

「一緒にセフィーロを旅をした時もそうだったわね。」

「うん。(今なら解る気がする、ハスミさんは隠しているけど誰よりも優しすぎるって事を。」

 

 

台風男爵の集団へオクスタンランチャーの銃弾が飛び交い、イリュージョンアローが貫く。

 

炎の矢が氷の刃が碧の疾風が晶石の弾奏がアインストを斬り裂き射抜く。

 

 

「ぐっ…アンタ達、ここまで。」

「さて、ここで閉めさせて貰うぞ。」

「地獄の底で閻魔様の元で土下座して来なさい!」

 

 

二機の必殺技がガープを貫く。

 

 

「コード、麒麟!」

「陽の光、月の闇、それらを転じて無に帰す!双蝕ノ宴!!」

 

 

ソウルゲインの拳がエクリプスの双刀が唸りを上げた。

 

 

「シズマ、締めは任せたぞ!」

「そのつもりだ!!」

「アンタ、いつの間に!?」

「貴方を油断させている間にこちらへ呼び寄せたのよ、要は時間稼ぎって所ね。」

「こんな簡単に…」

 

 

ハスミはこの事を計算しアクセルと共に奥へと潜入してしまった勇者チームを呼び戻す為に時間稼ぎを行っていた。

 

救援に間に合ったセイバーヴァリオンの一撃によってガープは四散し配下である台風男爵も塵となって消失。

 

ガープの亡骸より緑色の発光体が出現しセイバーヴァリオンに吸収され消え失せた。

 

 

「風のアフェタ、回収終了。」

「残りは後二つか…」

「目的の一つを果たせた所で悪いけど、まだ敵が残っている事を忘れないで。」

「解っている。」

「…(原作でもそうだけど取っ付きにくい所は相変わらずね、瞬兵君がよく懐いたわ。」

 

 

風のアフェタの回収により風の力が復活。

 

残りのアインストを片付ける為に臨戦態勢に入る一行だったが…

 

突如として鬼火の様な物体と共に赤い鬼神が現れた。

 

 

「何なの、アレは!」

「恐らくはアインストの司令官だろう、これがな…(とうとう出て来たか。」

「…(アインスト・アルフィミィ、初めましてだね。」

「…」

「エクセレンさん?」

「ああ、ロサちゃん…どうしたの?」

「急にエクセレンさんの意識レベルが低下したので…」

「あらら、さっきの戦闘で疲れちゃったのかしら?」

「エクセ姉様、戦闘続行が不可能なら艦の方へ戻られた方が宜しいのでございますです。」

「大丈夫よ、ラミアちゃん達やボクちゃん達が戦っているのに休んでられないわ。」

「無理はしないでください。(やっぱりアインストの呼び声に反応しているのか?」

「解ってるわよ、大丈夫だから気にしないでね。」

 

 

赤い鬼神ことレッド・オーガの出現と同時にエクセレンの意識が一瞬途切れた。

 

仲間達の声で意識を取り戻すものの本人の不快感は拭い去った訳ではない。

 

 

「…(だったら、早く決着を付けないとエクセレン少尉のアインスト化が進行してしまう。」

 

 

ガープとの戦いでエクリプスの力を使い過ぎた。

 

どうであれ早期決着に持ち込まないと…

 

風の力が戻った分、風のウィンダムやマイトガインの力も戻った。

 

無理強いしなければ勝てるはず。

 

 

「ガイン、今までのアインストとは様子が違う…気を付けるんだ。」

「了解、舞人。」

「北斗、行けるか?」

「大丈夫だよ、銀河。」

「銀河君、北斗君、アムロ大尉の情報通りならあの赤いアインストには注意するんだ。」

 

「「了解!!」」

 

「…(この舞人君、もしかして?」

「ハスミさん、どうかしましたか?」

「ううん、何でもないわ…(調べてみる必要があるかな?場合によっては例の記憶が蘇っていると思うし。」

「ガープとの戦闘で何かありましたか?」

「ちょっと子供には聞かせられないR指定の話をね、気にしないで頂戴。」

「R指定ってもしかしてアレか?」

「多分、映画とかである大人のみ閲覧可能な奴だよ…ほらスプラッターとか多いと付けるし?」

「ああ、あっちか…そうだよな。」

「…(貴方達、やっぱり転生してると神経図太くなるわね。」

 

 

こう転生者が多いのはそれだけこの先に待ち構えている試練が過酷である事を教えてくれている。

 

そうだよね、転生している人達も私も言えない事を一杯している。

 

眼を瞑りたくなる事も背けたくなる事も色々あった。

 

いずれ起こる封印、終焉、破界、再世、時獄、天獄の戦いで私は止められるのだろうか?

 

それでも止めなくてはいけない。

 

この世界に転生した時から決めていたのだから。

 

私はやり遂げて見せる。

 

だから、ケイロン…見守っていてください。

 

貴方の望む罪の清算を必ず叶えてあげるから。

 

 

 

「キョ…ウ…スケ…」

「えっ!?」

「喋った?」

「…(やはり、アルフィミィか。」

「この前まではエクセレン少尉にのみ聞こえていた声が…何故?」

「…(成程、この件は例のお話の中盤に差し掛かっているのか。」

 

 

赤い鬼神ことレッド・オーガと戦闘を続ける一行。

 

エクセレン少尉とこの場に居ないキョウスケ中尉に聞こえた声。

 

それが普通の人間にも聞こえる様になったのだ。

 

だが、ハッキリとした感情表現はなく虚ろな様子である。

 

暫く戦闘を続けた後、レッド・オーガはその場から撤退してしまった。

 

 

******

 

 

無事、ガープを倒した一行はトリントン基地へと帰還した。

 

しかし、トリントン基地も例のアインストと共にザフト地上降下部隊が進行。

 

こちらでも三つ巴となってしまった。

 

何とか防いだものの再び狙われる可能性がある為に駐留部隊を分ける事となってしまった。

 

ガープを倒した事により次のエリアへのバリアが破壊出来る様になったが、新たな弊害も出てしまったのである。

 

そして砂漠の戦いはこれからも続く。

 

その予兆が脳裏を過ぎるのだった。

 

 

=続=




次の大地を目指す一行。

そこで出会うのは希望か?絶望か?

鏡に映る影が姿を現す。


次回、幻影のエトランゼ・第二十一話『影鏡《シャドウミラー》前編』。


選択はいつも理不尽が伴う。



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第二十一話 『影鏡《シャドウミラー》前編』

次なる大地は不毛の世界。

閉じ込められし者達の攻防は続く。

そして悲劇的戦いの連鎖は続く。


前回の戦いから更に二週間位が経過。

 

ガープの死を持って第二エリアが解放され、第二エリアにおける宇宙や第一エリアとの通信が完全に回復してしばらくしてから事だ。

 

攻撃を控えていたザフト軍が再び侵攻を開始、同時に地球降下時に戦闘を続けていた例のザフトの四人組も紛れ込んでいた。

 

どうやら彼らもこの侵攻作戦に参加するらしい。

 

こ奴らは…人間同士で争い合っている場合ではないと言う事を理解出来ないのか?

 

もう次の戦闘で出会ったら…とっ捕まえて締め上げよう、うんそうしよう。

 

それに、この前一緒に近くの街の様子を見に行ったキラとカガリ達も様子も余り良くない。

 

理由はあのバルトフェルドとの出逢いだ。

 

察して頂く様にドネルケバブのヨーグルトソースとチリソース討論ネタである。

 

あんまりにもうるさいので私は半分に切って両方のソースを片方ずつかけて食べました。

 

いい年した大人が何をしているのやら、そもそも人の好みにとやかく言われる筋合いはない。

 

と、言うよりも食事位は騒がずに食べて欲しいものである。

 

で、物資欲しさに紛れ込んできたウドの荒くれ者達と遭遇し一先ずはテーブルを盾に避難したが例の如くカガリがソース塗れとなった。

 

連中については食事の邪魔をされたので私が軽く捻っておきました。

 

キラからは「…凄いですね。」とドン引きされてしまった。

 

うん、御免ね…怖がらせちゃって。

 

EF帰りはこうなる事が多いから、もうね…銃を持った兵士の動きが止まっている様にしか見えなくなっちゃってね。

 

アハハ…笑えない冗談。

 

ちなみにバルトフェルドさんからは「君、まさか…コーディネーター?」な発言をされました。

 

違います、れっきとしたナチュラルでEF帰りの念動力者なだけです。

 

その後、そちら側から服の弁償をして頂けるとの事でキラ達と共にザフト軍所属地上戦艦レセップスが守護する駐留基地へと連れて行かれる事となった。

 

正直、争う理由も無かったしこちらも別に正体を明かしたわけではない。

 

例の如く銃を向けられ、あの問い掛けに入った。

 

 

『ただ護るだけじゃ駄目だと…護られる人も前を向いて貰いたいと思っています。』

 

 

キラが伊達に転生を果たしている訳ではないみたいで良かったわ。

 

キラに続いてそこでの問いに私も答えて欲しいとの事で、私はこう伝えて置いた。

 

 

『君は何の為に戦う?』

『戦いは思惑で引き起こされる、私はその思惑と戦うと決めました。』

『思惑?』

『戦うと言う事はそこに何か理由があるからと考えています。』

『理由…ね。』

『その理由によって判断し戦う事を決めます。』

『あくまで限定的な交戦すると言うのか?』

『戦いは単に銃を取るだけではありません、様々な事で決着が着けられると思います。』

『人類全てが君と同じ考えと思えんがな。』

『そうかもしれません、けれどもいつか人は解り合える時が来ると信じています。』

『その物言い、君は絶望かもしれない未来を信じるのか?』

『未来を信じる事は誰でも出来ます、私にとっての未来は一人一人が自分で考え自分の手で掴み取るものと理解しています。』

『成程な、それが君の行動原理か…ハスミ・クジョウ少尉。』

『!?』

『地球連合軍極東方面伊豆基地所属ATXチームの一員、若しくは国際警察機構所属エージェント候補かな?』

『知っていて接触したのですか?』

『知っているも何も君達有名だからね、L5戦役の立役者であるノードゥスは?』

『…』

『それに君も二つ名持ちのエースパイロットだと言う事もね。』

『ハスミさんが?』

『お前、そんなすごい奴だったのか?』

『余り実感してなかったわ。(やっぱり名が売れると不味いような…』

『まあ、君達と次に会うのは戦場だ…その時は正々堂々と戦おう。』

 

 

そんな事で私達は解放されトリントン基地に戻る事となった。

 

だが、私は失念していた。

 

それがバルトフェルドさんとの別れになると言う事を…

 

 

******

 

 

それから数日後。

 

ついに侵攻を再開したザフト地上降下部隊を抑える為に出撃を開始する私達。

 

勇者チームは前回の戦いの負傷が残っている為、動ける者を中心に基地防衛に呈して貰っている。

 

出来る事なら子供達の手を血で染めさせる訳には行かない。

 

割り切っている子達もいるが、本心でない事は確かだ。

 

そこら辺の配慮をしっかりしなければ彼らは潰れてしまうだろう。

 

乱戦が続く中で再びアインストが出現。

 

三つ巴戦となるが、一部のザフト兵達がこれを好機と捉えてこちら側に攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

命令を下し、戦場を混乱させぬ様に制止させようとするバルトフェルド。

 

しかし、部下達に声は届かなかった。

 

まるで誰かに操られている様に。

 

 

「…(これじゃあEFの時と同じ!」

 

 

戦場の至る所に出現したアインスト原石により、戦場に居た兵士の精神に異常をきたし敵味方関係なく耐性の無い兵士はその意思を操られてしまったのだ。

 

戦場が混乱し収拾が付かなくなった以上、アインスト原石を一刻も早く破壊しなければならなかった。

 

 

「キラ、一時休戦だ…悪いがお前の力を借りたい。」

「判りました、バルトフェルドさん。」

「キラ、あの一番大きなアインスト原石を破壊すれば他の人達の精神操作は止まる筈よ。」

「了解です、ハスミさん。」

「君、判るのかい?」

「同じものを見た事があるので。」

「道は私達が開きます、キラとバルトフェルドさんはあの原石の破壊に専念してください。」

「了解した、アイシャ…行けるか?」

「大丈夫よ、アンディ。」

 

 

暴走するザフト兵と連合兵の両者と容赦なしに襲い掛かるアインストを相手に私達は動いた。

 

だが、この選択が間違いだった。

 

私もキラ達と共に向かっていれば良かったのだ。

 

アインスト原石を守る為にゲミュートタイプが網を張っていたのだ。

 

それらを掻い潜り、何とかアインスト原石を破壊する事に成功するが…

 

バルトフェルドとアイシャが搭乗するラゴゥが大破したのだ。

 

パイロットの生死は不明、コックピットブロックは破壊され生存は絶望的だった。

 

これに対しアカシックレコードの返答は無限力の介入であると教えてくれた。

 

また、私は選択肢を誤ってしまったのだ。

 

アインスト原石の破壊、ザフト地上降下部隊の司令官の死亡と共にアフリカ戦線の戦いは終息へと向かって行った。

 

捕虜として捕えた例の四人組の内、三人組はこちら側で預かる事となった。

 

名前はイザーク、ディアッカ、ニコルである。

 

これにアスランと言う少年が居たが、戦場の混乱で行方が分からなくなったそうだ。

 

無事で居てくれる事を願いたい。

 

ついでに悪態付いていたイザークはちょっと梁山泊式お仕置きしたら、部屋の隅っこから出て来なくなったけど知~らないっと。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

第二エリア解放後のアフリカ戦線終息から更に二週間後。

 

第一エリアのゾンダーの動きが活発化した事によりGGGは一時帰還する事となった。

 

代わりに協力体制を取っていたランド一行やTERRAが参戦する事が決定。

 

トリントン基地の防衛は引き続きアルビオン隊ら駐留部隊が引き受ける事となった。

 

そして、私達は第三エリアに向かう事となったが…

 

そこでの戦いもまた熾烈な思惑の真っ只中にあったのだ。

 

 

******

 

 

第三エリアは惑星アーストの一角、そしてセフィーロの一角、アースティアの一角、北米大陸がくっ付いた状態のエリアだった。

 

運良くセフィーロとコンタクトを取っていたキョウスケ中尉らハガネクルー、イオニア一行と合流する事が出来た私達はセフィーロの城を拠点にセフィーロ城を狙うドン・ハルマゲの軍勢、エルンスト機関、邪竜一族、偶然にもペンタゴナワールドのポセイダル軍やドラゴ帝国の軍勢も入り込んでいたのでこれも排除する形で戦闘を続けていた。

 

そしてこのエリアの支配者ドーザの介入もあり、戦線は一向に収まりを見せる事が無かった。

 

しかし、兆しと言うモノは現れるモノである。

 

惑星アースト側の支配者マーダルの提案により第三エリアの支配者であるドーザ討伐までの間、共同戦線を張る事が決定した。

 

同じ様な提案をするもののエルンスト機関は沈黙、他は徹底抗戦の構えを見せており、結局提案を受けたのはセフィーロ側や白い谷のレジスタンスを始めとしたペンタゴナワールドのレジスタンス連合である。

 

最も母親を奪われたジョジョことジョルディ王子は悟ったかの様にマーダルの提案を受けていた。

 

この混乱した戦況を良く見ての判断だろう。

 

記憶を所持している以上は色々と葛藤があっただろうが、彼なりに考えた末の判断だ。

 

私はキョウスケ中尉達との再会とエメロード姫への謁見などで右往左往していた。

 

エメロード姫との謁見で危険視していた事例が発覚した。

 

今回の転移事件を切っ掛けにセフィーロを狙う闇の女王が出現したとの事だ。

 

その者の名はデボネア。

 

エメロード姫曰く、人々の恐怖を拭い去らない限り何度も復活するらしい。

 

うん、知っていました。

 

それに地球をベルターヌから解放しないと恐怖の感情を糧に何度も復活するって事も知ってます。

 

唯一の救いは向こう側にノヴァとアルシオーネが居ない事が幸いである。

 

ノヴァはずっと光の傍で霊体?の姿で引っ付いたままだし、アルシオーネはザガートとの恋を割り切ったのかスッキリしていた。

 

その代わり、姫の守護精獣であるイノーバが悲惨な眼に遭っている事は眼を瞑ろう。

 

クレフを始めとした魔導士達も無事であったし、今はこの戦線をどうするかに集中しよう。

 

光と風にも恋人の元で少し休んで貰いたい。

 

海はアルシオーネ達と一緒にお茶会をしているし、彼女達の精神安定に繋がって欲しいと思う。

 

私はエメロード姫に呼び出され、例の事について問い掛けをされた。

 

例の事に関しては今はまだ話す事が出来ない。

 

エメロード姫は同じ境遇だからこそ、間違った選択をして欲しくないと心配されてしまった。

 

以前出遭った少女の姿ではなく大人びた女性の姿で語る姫はとても凛とした立ち振る舞いで女王を務めていた。

 

今は夫婦の間柄となったザガートと共に国を治めている。

 

本来なら手に入れる事の出来なかった未来だ、出来る限り幸せになって欲しいものだ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

第三エリアに到着してから三日後。

 

例の地震発生前までイオニア一行と行動していたドモンさんが発見された。

 

それも最悪な結果で…

 

 

「ドモンさんがDG細胞に感染した!?」

「ああ、エルンスト機関と言う組織がこちら側に潜入してDG細胞の欠片を奪取していたらしい。」

 

 

エルンスト機関に所属していたシャーリィと言う少女の話によると邪竜一族やモンスカーの脅威からアースティアを守る為にとある人物の介入を経てDG細胞を手に入れたとの事だ。

 

しかもコアとして精霊石を使用したものの暴走、エルンスト機関は瞬く間に占拠されてしまったのだ。

 

それを聞きつけたドモンさん達が止める為に先行したものの精霊石と言う半永久的エネルギー精製プラントを手に入れたDG細胞は止まる事を知らず、暴走を続けた。

 

そして最悪な事に生体コアとしてレインさんが捕らえられてしまったのだ。

 

レインさんを救おうとしたドモンさんも精霊石によって強化されたDG細胞に感染。

 

現在もDG細胞の感染が進行しつづげ、生死の境を彷徨っている始末である。

 

イオニアの治療室でキョウジさん達が必死に除去作業を続けているが、以前安定しない。

 

…無限力、ここまで性根の腐った事をし続ける気か!

 

そして先程、エルンスト機関本拠地である空中施設ウルタリアはDG細胞によってデビルウルタリアへと変貌。

 

第三エリアを喰いつくそうと現在も増殖を続けている。

 

話を戻すが、エルンスト機関に接触しDG細胞を提供した人物達の名前が判明した。

 

行方を眩ませていたウルベ、そしてシャドウミラーのヴィンテルの名が出たのだ。

 

ホルトゥスでも行方を追っていたが、最悪な事にシャドウミラーと接触を果たしていたらしい。

 

これも無限力の介入か…

 

 

******

 

 

デビルウルタリア出現から半日が過ぎた頃。

 

イオニア一行が先行してデビルウルタリアから出現したデスアーミーの軍隊に対応。

 

それに参じて現れたドーザに対しマーダル軍の協力もあり勇者チームとセフィーロの魔術師達が応戦。

 

私達の部隊はデビルウルタリアへの突入を検討していた。

 

 

「では、これよりデビルウルタリア攻略作戦の説明を行う。」

 

 

ハガネ艦内のグリーフィングルームにて説明会が行われた。

 

判りやすくすると二つの部隊に分けられる。

 

デビルウルタリア内部に侵入する部隊と外部から侵食を防ぐ部隊だ。

 

なお、ドモンさんはDG細胞の除去作業が難航している為に今回の作戦から外されている。

 

侵入部隊はドモンさんを除いたシャッフルの人達を中心としたMS、MF、PTの混合部隊。

 

外部への攻撃は大火力のスーパー系と言う事でクスハ達と私、ロサなどの特機乗りである。

 

ちなみに今回はセフィーロのエリアがある為に念神への負担は軽減されている。

 

つまりは大火力の満漢全席は可能である。

 

デビルウルタリア、まさかと思ったけど中二病化アマネ君も出て来ている以上は注意しなければならない。

 

ホルトゥスのメンバーも動ける者をこちらに回して貰っているが、救援が間に合うのかは不明だ。

 

現在、同時刻において第一エリアでゾンダーが東京エリアを中心に例の事件を引き起こしていた。

 

第三エリアでデビルウルタリアの出現。

 

第一エリアでゾンダーの人類ゾンダー化作戦の発動。

 

危険視している中でもヤバい大規模事件がダブルで起こっていたのだ。

 

正直、自分の不甲斐無さに落ち込みそうだ。

 

何の為の念動力者だ?サイコドライバーだ?アカシックレコードへのアクセスだ?

 

使えなければ何の役にも立たない。

 

ただの知識の垂れ流しだ。

 

私は悪魔になっても構わない、自分の中の記憶と知識で誰かを救えるのなら…

 

私は闇に飲まれる事を拒絶しない。

 

 

=続=

 




それは何の為の知恵?

それは何の為の力?

それを知る事は闇を知る事である。

次回、幻影のエトランゼ・第二十一話 『影鏡《シャドウミラー》後編』

知り過ぎる事になっても闇に飲まれる覚悟を決めろ。


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第二十一話 『影鏡《シャドウミラー》後編』

どの様な枷があろうとも彼らは立ち向かう。

大切な恋人を救う為に。

大切な仲間を救う為に。

闇に飲まれる覚悟を決める時が来た。

それが修羅の道であろうと受け入れる覚悟を決めろ。


デビルウルタリアへの侵攻作戦の会議が終わりかけた頃。

 

治療中だったドモンがハガネのグリーフィングルームへ訪れた。

 

身体の状態を見る限りにDG細胞の感染が除染しきれていない。

 

上半身に巻かれた包帯の隙間からじわじわと侵食するDG細胞がそれを物語っている。

 

 

******

 

 

「待ってくれ…!」

「あ、アニキ!」

「治療中だった筈では!?」

「ダイテツ艦長…この作戦への参加の許可を貰いたい。」

「君はDG細胞の除染がまだ済んでいない、負傷した兵士を戦場に送る者などいないぞ。」

「それでも行かなければ…レインが連れ去られたのは俺の責任だ。」

「ドモン…」

 

 

ドアの隙間で体を支えているも崩れる様に倒れそうになるが…

 

遅れて来たキョウジとシュバルツがドモンの身体を支えてバランスを取り戻した。

 

本来なら立ち上がるのもやっとの状態だ。

 

いつ、その自我が乗っ取られるのかも判らない。

 

それでも自分の意思と抗う眼は真実であると悟った者達は…

 

 

「艦長、俺達がドモンのサポートに入る。」

「それでこの馬鹿が収まるならそれでいいだろう?」

「…」

「艦長。」

「本来ならば出撃を許可する事は出来ん、だが…君がDGを止める為のキーだろう。」

「では、出撃の許可を?」

「ああ、ドモン君…君も内部へ侵攻するメンバーに加わって貰う。」

「済まない、ダイテツ艦長。」

「その代わり、必ず生きて帰ってこい…これは君だけではなく全員に当てはまる事だ。」

 

 

作戦開始前から修羅場になりそうだったが、ダイテツ艦長の機転で落ち着く事が出来た。

 

ドモンさんには支えてくれる仲間が居る。

 

後の事は彼らに任せよう。

 

問題はデビルウルタリアを創り上げたシャドウミラーのヴィンテル達がどう動くかだ。

 

アクセルさんもシャドウミラーの統括者が現れた事で表情に陰りが見え始めた。

 

恐らくはあの人なりに落とし前を付ける気でいるのだろう。

 

そして最後はラミアさん。

 

信じています、貴方が変わってくれた事を…

 

私は私の出来る事をするだけだ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

それから数時間後に作戦が開始した。

 

外部攻撃部隊に特機を中心としたスーパー系。

 

龍虎王、エクリプス、エザフォスら特機部隊。

 

私達の役目はデビルウルタリアへ攻撃を仕掛け、内部侵攻部隊への注意を逸らす為のものだ。

 

内部へはシャッフルを中心としたMS等の高機動部隊。

 

敵の攻撃を掻い潜り動力源へと向かう。

 

レインさんを救うキーはドモンさんの為、彼を守りながらの行動である。

 

デビルウルタリアから漏れ出したデスアーミーの大群をイオニア一行と救援に駆け付けたレジスタンス連合らが止めてくれている。

 

そしてドーザとの決着は勇者チームとマーダル軍連合が引き受けている。

 

今も東京で戦い続けるGGGと向こう側の駐留部隊の安否も気になるが…

 

向こう側には既にホルトゥスの先行メンバーも到着している頃だろう。

 

今は彼らを信じて自分の事をやるしかない。

 

 

「クスハ、行けるか?」

「大丈夫よ、ブリット君。」

「クスハ、今回は広域戦術が要…戦闘はクスハがメインの方が良いわ。」

「ハスミ、判ったわ。」

「ロサ、クスハが符術攻撃に呈する間は私達で周囲の雑魚を片付けるわよ。」

「了解です。」

「それで構いませんね、アクセル中尉。」

「すまん、俺は俺でやらねばならん事がある。」

「いえ、ドモンさんにはキョウスケ中尉達が付いていますので悪い結果にはならないと思いますが…」

「だが、注意しろ…何が起こるか判らん状態である事は確かだ。」

 

 

デビルウルタリア上空にて外部攻撃部隊が展開を始める中。

 

私達ATXチームは二つのチームに分かれて行動する事となった。

 

内部突撃部隊にキョウスケ中尉、エクセレン少尉、ラミア少尉。

 

外部攻撃部隊に私、ロサ、クスハ、ブリッド、アクセル中尉である。

 

外部攻撃部隊の指揮はアクセル中尉が担うのだが、別件の事もあり各自対応に任せる事となった。

 

要は自分で判断し行動しろと言う事である。

 

 

「綾人君、今回が一緒の戦闘になるけどよろしくね。」

「はい、皆さんよろしくお願いします。」

「修理が必要なら俺達に任せてくれよな。」

「壊れた機械を治すのもビーター・サービスの十八番だからね。」

「はい、ランドさん、メール。」

 

 

今回はラーゼフォンとガンレオンの救援もある、何事もなければいい。

 

ラーゼフォンは例の神様版は封印されているし、ガンレオンはスフィアの覚醒の兆しがまだない。

 

前者は記憶持ち、後者は記憶がないのだろうか?

 

詳しい話を聞く機会がなかったので今度調べてみる必要がある。

 

今回の戦闘はこちら側と向こう側の件が大きく関わっている。

 

そしてウルベがホルトゥスの追撃を逃れられた事もそれが関係している。

 

そろそろ奴も出て来るか黒の天才こと黒のカリスマ。

 

そう、ジ・エーデル・ベルナールが…

 

黒の英知とアカシックレコードは切っても切れない関係。

 

それも暴露されそうな気もしなくもないけど…

 

成る様に成るしかないのか?

 

いや、もっと拙いのはマサキとアサキムの出会いだ。

 

それがどんな結果を生み出すか…

 

無限力め、絶対にこの状況を楽しんでいる。

 

一歩間違えばより多くの命が奪われる危険性もある。

 

止めて見せる、それが私の願い…そして未来に繋がると信じている。

 

どんな事でもいい、教えてアカシックレコード。

 

私はあの人を…皆の未来を守る為に闇に堕ちても構わない。

 

それが輝きを増す光に映る影の闇に成り果てようとも。

 

 

******

 

 

一方、内部突入部隊は…

 

 

「…っ!」

「ドモン、大丈夫か?」

「平気だ、これくらいの事で奴に屈する訳には行かない。」

「アニキ…」

「我々も以前DG細胞に感染し捻じ曲がった欲望のまま戦う事になりましたが…」

「アイツは必死にそれに抗っているのか…へっ、相変わらず無茶しやがるぜ。」

「だからこそ、俺達はドモンをDGの元へ向かわせる。」

「ドモン、ちゃんとレインの事を救えよ。」

「私達が全力を持ってサポートします。」

「アニキはレインねーちゃんを救って。」

「お前達、すまない。」

 

 

ガンダムシュピーゲルに支えられながら行動するゴッドガンダム。

 

本来ならば戦える体力など残っていないに等しい状況である。

 

全ては自らの決着と愛する者を救う為にその強靭な精神力だけで動いているのだ。

 

出撃前にDG細胞を可能な限り除染し搭乗したが内部に突入してからと言うものDG細胞の侵攻速度が速まっている。

 

シャッフルの仲間達は可能な限りドモンのサポートに呈する事にしたのだ。

 

 

「どうやら心配する必要はなさそうね。」

「何をだ?」

「とぼけちゃって、ドモンとレインの仲よ。」

「…」

「ドモンがもう決めているんだし、後はレイン次第ね。」

「おしゃべりはそこまでだ、もうすぐ動力源に着くぞ。」

「はいはい、解ってますって。」

「…(あれが愛の表れか。」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

デビルウルタリア最深部・動力炉にて。

 

DG細胞による浸食で所々が触手の様な物で埋め尽くされている。

 

その最奥にDG事件の首謀者である男が控えていた。

 

 

「ようこそ、シャッフル同盟とオマケ達。」

「ウルベ、レインを返して貰おうか!」

「ふん、もうじきDG細胞に飲み込まれる君に取り返せると思っているのか?」

「俺はやり遂げて見せる。」

「キング・オブ・ハートの継承者は伊達ではないか…ならばお相手しよう、このグランドマスターガンダムでな!」

「グランドマスターガンダムだと…!?」

 

 

ドモンとシュバルツ、キョウスケはその言葉に驚愕した。

 

驚くのは無理はない。

 

この世界におけるDG事件はあの旧東京エリアでの一件で終息しグランドマスターガンダムを構成するデビルガンダム四天王と交戦していない所か存在していない。

 

そう、問題は存在しない筈ものがそこにあると言う事だ。

 

それが示すのは…

 

 

「シャドウミラーとやら居たあちら側の世界でもDG事件が起こっていた様でね、その時に生み出されたグランドマスターガンダムをここで創り上げたのだ。」

 

 

どうやらシャドウミラーの世界におけるDG事件はデビルコロニーになるまで続いていたらしい。

 

それも終息したかは不明であるが…

 

 

「あれがグランドマスターガンダム。」

「まるでいくつものガンダムの集合体ですね。」

「やべえ気配があのガンダムから漂ってくるぜ…」

「それだけあのガンダムが強大だと言う事か。」

 

 

どうやら彼らにも虚億としてグランドマスターガンダムとの戦いの記憶が残っているらしい。

 

蛮勇的な行動はとらず、相手の様子を伺う様に体制を取るのは彼らなりの成長の表れなのかもしれない。

 

 

「ドモン・カッシュ、その半死半生の姿で何処まで耐えきれるかな?」

「俺は…ぐっ!?」

「ドモン!」

 

 

熱い、全身の血が沸騰しそうだ。

 

俺の意思が…呑まれ…る?

 

違う、呑まれてなるものかぁああ!!!

 

 

「俺は貴様を倒し、必ずレインを救ってみせる!!」

「持ち直したか、素直にDG細胞に身を委ねて居ればいいものを…」

「ウルベ、貴様の挑発は俺には通用しない!」

「ならば、掛かってくるがいい…新生シャッフル同盟共よ!」

 

 

******

 

 

戻って外部では…

 

ドモン達が動力炉に辿り着いたのを切っ掛けにこちら側の攻撃が激しくなってきた。

 

そして鏡に映る影もまたその姿を現した。

 

 

「ヴィンテル、貴様…!」

「アクセル、私が見込んだ時よりも随分と腑抜けになったな。」

「腑抜け?違うな。」

「?」

「俺は知った、理由も無く戦いが続く世界に未来はないと!」

「永遠なる闘争はお前の望みでもあっただろう!」

「それが産み出す結末を知った以上、俺はお前達を止める。」

「アクセル…それが貴方の選んだ道なのね?」

「ああ、レモン…旅立ったお前の子供達は無事に無限の開拓地で根付いた様だぞ?」

「えっ!?」

「ハーケンとアシェンもラミアも別の未来を生きる事を望んだ、お前はどうするんだ?」

「私は…」

「作られた者が戦いの中でしか生きられないと言う事はない。」

「どう言う事?」

「誰であれ武器を取る事も捨てる事も出来る、後は自分次第と言う事だ。」

「…」

「アクセル!貴様も我々の野望を止めると言うのであれば全力で掛かってくるがいい!!」

「そのつもりだ…これが俺の後始末の付け方だ、これがな!」

 

 

アクセルもまた己の決着を付ける為に立ち向かっていた。

 

 

「全機、ヴィンテル様とレモン様をお守りするぞ!」

「そうはさせない!」

「!?」

「貴方達がこの戦いを引き起こしたのなら…超機人の操者としてそれを止めて見せます!」

「クスハ、俺が虎龍王で攻める!」

「判ったわ、ブリット君。」

「ロサ!全弾発射の大盤振る舞い、遠慮は無しよ。」

「了解です!」

「僕も止めてみせます!」

「こんな戦い早く終わらせなきゃ、ダーリン!」

「ああ!!」

 

 

エキドナ率いるWシリーズの部隊に対してクスハ達が対応。

 

構成はエルアインスとラーズアングリフ、そして黒いアンジェルグである。

 

だが、戦闘続行の中でデビルウルタリアにも変化が起き始めていた。

 

何もかも飲み込もうとデビルウルタリアは周囲の機体に襲い掛かって来たのだ。

 

 

「ハスミ!」

「!?」

 

 

私もこのガンダムヘッドに吹き飛ばされ、ウルタリアの内部に墜落する事となった。

 

 

「いっつう…ここは研究施設か何かかしら?」

 

 

先程の場所からデビルウルタリア内部の最底部まで叩き落された。

 

一瞬研究施設か?と思ったが、何かの保管庫らしい。

 

そしてエクリプスにめり込む様に何かの結晶が付着していた。

 

 

「これは一体?」

 

 

エクリプスの手で触れると私の意識はブラックアウトした。

 

それが一瞬だったのか不明であるが…

 

見た事のある光景の中にいた。

 

 

「これが…こんな所にあるなんて!?」

 

 

これが私に与えられた新たな試練なのか?

 

それでも受け入れよう。

 

私もまた聖戦に赴く運命ならば!

 

 

 

「私は受け入れるわ!知りたがる山羊のスフィア!!」

 

 

それから数十分後、私は元の場所に戻っていた。

 

 

通信機からは例の発言の真っ最中だったらしい。

 

 

はい、皆様ご一緒にご清聴ください。

 

 

「俺は、お前が…お前が…!!」

「!?」

「お前が好きだぁぁあ!!! お前が欲しいぃぃぃ!!! レイィィィン!!!!」

 

 

何ともまあ木っ端微塵に成りそうな恥ずかしい台詞ですよね。

 

前世のリアルタイムで聞いた時はこっちまで恥ずかしくなったよ。

 

でも、悪くない響きです。

 

 

「さあ、最後の仕上げだ!」

「ええ!」

「二人のこの手が真っ赤に燃える!」

「幸せ掴めと!」

「轟き叫ぶ!」

「ばぁぁぁぁくねつッ! ゴッド! フィンガー!」

「石!」

「破!」

「ラァァァブラブ! 天驚けぇぇぇぇん!!!」

 

 

二人の愛の輝きが悪魔を貫いたのである。

 

デビルウルタリアは機能停止し第三エリアの荒野に墜落。

 

シャドウミラーの大部分も掃討。

 

一つの戦いに終わりを告げたのである。

 

 

=続=

 




受け入れた先に待つ者。

代償は重くのしかかる。

次回、幻影のエトランゼ・第二十二話『代償《ダイショウ》』。

この代償は次への反逆の時である。


=今回の登場用語=


※精霊石の正体
エルンスト機関に保管されていた精神エネルギー結晶の一つ。
その内の一つの真の姿は念動力を蓄積する事が可能な念晶石。
デビルウルタリアにて偶然発見した結晶は念神・エクリプスが取り込んだ事(正確には不可抗力でめり込んだ)で稼働限界の心配が無くなった。


※知りたがる山羊
後のZ事変で大きく関わるアーティファクトの一種。
エルンスト機関に保管されていた先程の念晶石にそのスフィアが入り込んでいた。
偶然にもエクリプスが念晶石を取り込んだ事でハスミがスフィア・リアクターとして選ばれた。
反作用の代償により『無尽蔵の知識の収集』で必要のない情報まで取り込む始末である。
最初のステージの為、まだ軽度であるがステージが上がる毎にSAN値減少に悩まされる事となる。
本来の持ち主となるべき存在はとある人物の闇を垣間見た事で自壊したらしいがこの世界ではどの様な結末を辿るかは不明である。
尚、今世のハスミの生誕日は双子座の域であるが前世での生誕日は山羊座の域に入るので関係していると思われる。


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第二十二話 『代償《ダイショウ》』

運命は切り開く為に。

この代償はその証。

その証を胸に前を向け。

いつの日か終息の日を迎えるその日まで。




デビルウルタリアの陥落による墜落。

 

DGの完全なる破壊。

 

シャドウミラーの事実上壊滅。

 

主だった敵侵攻部隊の撤退。

 

第三エリアの支配者であるドーザの消滅。

 

以上により第三エリアでの戦いは終息の道を辿る事となった。

 

 

******

 

 

「では、私達はこのウルタリアの処理に専念いたします。」

 

 

エルンスト機関代表であるキャオス・レールは今回の事件を引き起こした責任を取る事を決め、デビルウルタリアの事後処理を引き受ける事となった。

 

イオニア一行に連絡役としてリバリスと言う青年が加入。

 

搭乗機はアルシグノス。

 

イオニア一行の中核となっていた稲葉駆。

 

彼の弟である天音が解放された事により悪意は消え抜け殻となった為である。

 

調査の結果、特に問題はないとの事でリバリスがパイロットとして搭乗する事となった。

 

よくある使えるものは使うと言うスタンスである。

 

だが、イオニア一行は引き続き第三エリアの防衛に当たる事となった。

 

理由は撤退をしたもののポセイダル軍、ドン・ハルマゲ軍、邪竜一族の勢力が弱くなった訳ではない。

 

再び、睨み合いが続く以上は監視を続ける事となった。

 

とりあえず、この現状が回復するまでマーダル軍の共闘期間が伸びた事は救いだろう。

 

続けてシャドウミラーの件であるが…

 

首魁のヴィンテル・マウザーは逃亡。

 

同幹部のレモン・ブロウニングら所属の兵士達は投降する形となった。

 

アクセル中尉の説得もあり、戦う理由を失った以上は彼女達も何もしないだろう。

 

シャドウミラーから接収した一部の機体はこちらで拝借する形となった。

 

お察しの通り、ラーズアングリフ等の機体である。

 

搭乗パイロットが居ない以上は暫く倉庫入りだが致し方無い。

 

次のエリアでカーラ達と無事に合流出来れば乗り換え機として使用する事になっている。

 

そして問題のDGですが…

 

後に伝説化されてしまう地球三大告白の一つをしてしまった為にお二人様は色々と修羅場中である。

 

勿論、グランドマスターガンダムを駆るウルベは倒されましたが…

 

二人には代償と言うモノが架せられた。

 

二人の身体に精霊石を媒介としたDG細胞の欠片が残留してしまったのである。

 

精霊石は人間の心…つまり精神部分に作用する為、二人の『ずっと一緒』と言う強い想いが呪いと化してしまったのだ。

 

調査の結果、このDG細胞は取り除けず体内に残留するが感染させる事もする事も無い事が判明した。

 

つまり休眠状態になっているらしい。

 

今の所、異常は見られないので様子見となったのである。

 

二人もそれを承知している、後は本人達の判断に任せる事となった。

 

ちなみに私のエクリプスが取り込んでしまった精霊石はと言うと…

 

戦闘中に不可抗力で取り込んでしまったが事情が事情なので差し上げますと言われてしまった。

 

まあ…物凄く物騒なモノが入ってますけど、ありがたく拝借致しました。

 

そもそもこれココにあったら危ないだろうし…

 

問題のスフィアを一つ確保出来ただけでも大きな進歩です。

 

その代わり、厄介な反作用とフルバトルする羽目になりますが…

 

またコーヒーとノー○ンの服薬量が増えそうです。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

「それじゃあ、真一達は元に戻れるんですか!?」

「時間は掛かるがこちらで治療を続けよう。」

「よ…良かった。」

 

 

セフィーロ城にて。

 

クレフと話す赤いTシャツがトレードマークの少年。

 

名前は大牙剣。

 

善神アーガマの遺産である獣神ライガーを操りドラゴ帝国と戦っていた少年である。

 

彼の友人である真一と言う少年がドーザが創り上げた『お子様ランド』と呼ばれる牢獄に囚われていたのだ。

 

ドーザが倒れた事でそこに捕らえられていた子供達は解放されたが…

 

潜入したドラゴ帝国の将が罠を仕掛けていたのだ。

 

捕えられていた一部の子供達に鬼虫と呼ばれる生物を寄生させられてしまったのだ。

 

鬼虫とは人間を魔竜戦士に変化させてしまう非人道的行為の代物。

 

寄生された人間は魔竜戦士となりドラゴ帝国の傀儡と成り果ててしまう。

 

寄生してしまうと現代の技術を持ってしても元に戻す事は不可能。

 

寄生させられた子供達の命を散らすかと思ったが…

 

助け船を出したのがセフィーロの魔術師達であった。

 

彼らの中に錬金術に精通した術者がおり、寄生した鬼虫を子供達から引き剥がす事が可能だと判ったのだ。

 

お子様ランドに捕らえられていた子供達は検査の後に元の親元へ帰れるまでセフィーロが保護すると申し出もあり、ノードゥスはそれを承諾。

 

繰り返す筈だった悲劇がまた一つ消えたのである。

 

同時刻セフィーロ城・城内にて。

 

 

「ロサ、どう?」

「何だろう、力が湧いてくる様な感じがする。」

「シズマが土のアフェタを取り戻した事でロサも本領が発揮できる様になったみたいね。」

 

勇者チームの戦いでドーザから土のアフェタを取り戻した事により地の属性の能力が戻った。

 

機神・エザフォスも地の属性を持つので本来の力を取り戻したのである。

 

ATXチームは休憩中にその話を城の一角で行っていた。

 

 

「じゃ、ロサちゃんもスーパーモードとか使えたりして?」

「わ、判りません…使った事もないです。」

「ロサ、いつもの悪態だ…気にするな。」

「うーん、でも使える様に練習してみます。」

「少尉…」

「あらら、まあ結果オーライって事で。」

「ロサも練習するなら私も使える様に修行してみようかな?」

「ハスミちゃんまで梁山泊流に染まっちゃった?」

「備えあれば患いなしですよ。」

「それ以上強くなったらお婿さんが来なくなるわよ。」

「その時はその時です…(私はあの人以外愛する事は無いですし。」

「ブリット君も大変ね、ますます差を着けられちゃうわよ?」

「言わないでください。」

「ブリッドは攻撃時に自分の性格が出るからそこを何とかしないと何時まで経ってもゼンガー少佐からも一本取れないわよ?」

「やっぱりか、自分でも直そうとはしているんだが…」

「素直って言うのも時には大事だし、少しずつ直していけばいいんじゃないかな?」

「そうよ、そこがブリッド君の良い所だもの…私はブリット君のそう言う所が好きよ。」

「クスハ///」

「あらら、クスハちゃん…しっかり止め刺してるわよ?」

「キョウスケ中尉、アクセル中尉とラミア少尉は?」

「二人は例のレモン・ブロウニングと話している。」

「聞いた時は吃驚したわよ、あの人向こう側の私らしいのよね。」

「平行世界のエクセレン少尉って事ですか?」

「まあ、向こうでも色々とあった様だし…あんまり深く聞くものじゃないわね。」

「…」

「でもね、私は私よ、あの人がレモンである様にね。」

 

 

変えてしまった結末はいつの日か新たな戦いを招くかもしれない。

 

それでも変えられるのなら、その先の未来を見てみたい。

 

私はそう思ってしまうのだ。

 

 

同時刻、イオニア艦内・治療室。

 

 

「本当にいいんだな?」

「レインと二人で決めた、俺は…俺達はこのまま抱えていく。」

「父さん達が聞いたら卒倒する話だぞ?」

「俺の無茶はいつもの事だろう?」

「今回の無茶は度合いが違うがな。」

 

 

治療室にて検査を終えて話し合うカッシュ兄弟とレイン。

 

ドモンとレインの体内に残留したDG細胞の件である。

 

二人は一生抱えていくと決めた事を告げたばかりである。

 

 

「唯一の救いは表皮にDG細胞が出ていない事だけか…」

「感情の高ぶりで浮き出る事はある…でしたね。」

「ある程度は衣服で隠せると思うが人前に出る時は十分注意してくれ。」

「判りました。」

「弟には花嫁で俺達には可愛い義妹が出来るんだ、その位は出来ないとね。」

「に、兄さん///」

「もう、キョウジさんったら。」

「キョウジ、揶揄い過ぎだぞ?」

「シュバルツ、貴方だって満更でもないんだろう?」

「そうかもしれん。」

 

 

兄弟に揶揄い続けられながらドモンはある気配に気が付いた。

 

 

「!」

「ドモン、どうしたの?」

「いや、何でもない…」

「そう、ならいいのよ。」

「…(貴方も来ていましたか、師匠。」

 

 

******

 

 

第三エリア某所にて…

 

 

「マスター、彼に会わなくて良いのですか?」

「構わん、あ奴もこちらには気づいておる。」

「ほぉ、さすがはマスターの弟子か?」

「ふん、成長はしたようだが…まだまだ青二才だ。」

「ふふっ、素直ではない所もそっくりと思いますよ?」

 

 

ノードゥス並びに寄せ集め部隊が中継地点としているセフィーロ城を一望出来る場所にて。

 

それぞれが特徴的な服装を纏った五名の人影がその様子を伺っていた。

 

 

「マスター、私達を集めたのは?」

「とうとう奴らが動き出しおった。」

「まさか…!」

「人類の歴史を影より支配して来た存在…クロノがな。」

「クロノ…初代シャッフル同盟の方々もその素性を掴めずにいた例の組織ですね。」

「ブルーロータスと言う輩がワシに接触し…その事を伝えたのだ。」

「その組織が動き始めると?」

「その通りだ、ワシらもまた奴らとの戦いに備えねばならん。」

「元より覚悟は決めている。」

「我らシャッフルの悲願でもありましたから。」

 

 

ドモンよ、ワシらは影よりお前達を見守ろう。

 

いずれ同じ道を進む時、その姿を現す。

 

その時まで奴らの毒牙に気を付けよ。

 

奴らは巧みに人を陥れ堕落させる。

 

それが奴ら…クロノだ。

 

記憶を持つお前ならそれを看破出来るだろう。

 

 

******

 

 

その後、私達は部隊の再編を行った後…

 

第四エリアへ向かう事となった。

 

最後のアフェタである水のアフェタを取り戻す為に。

 

私達は進むしかない。

 

ちなみに第一エリアのゾンダーとの決戦は終息を迎えた。

 

しかしGGGは弾丸X使用によりその多くが戦闘不能に陥り、現在も修理中との事だ。

 

これ以降のゾンダーの発生が無くなったが…

 

もう一つの事件が起こってしまった。

 

早咲きラダム樹である。

 

どうやらラダム獣は東京にも忍び込んでおり、素粒子ZOに反応し開花。

 

東京に居た住民を取り込み素体テッカマンを生み出す所であったが…

 

GGG北米支部が開発した対ラダム用ディスクXの効力により素体となった人々は救助された。

 

これも新たな流れの始まりだったのかもしれない。

 

だが、進むしかないのだ。

 

それが必然なのだから…

 

 

=続=

 




それぞれの決意を胸に。

未来は紡がれる。

これもまた試練の始まり。

次回、幻影のエトランゼ・第二十三話 『魔海《マカイ》前編』。

魔物蔓延る海の果てに待ち受けるモノとは?



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第二十三話 『魔海《マカイ》前編』

蒼き深淵の底より現れる異形。

彼の者、醜悪たる姿を偽る為に美しいもので囲う。

だが、真実は変えられぬ。

美しさは一瞬だからこそ輝く。

永久の美と言う言葉はないのだ。






第一、第二エリアの友軍と合流し第三エリアにて部隊編成後に私達は第四エリアへと到着した。

 

第一、第二、第三エリアの均衡が崩れない程度に残留組を配置してきた為、ややこしくなっている。

 

それを踏まえての説明の後に今回の話へと移ります。

 

理由は第四エリアの変異後地形が前と同じじゃない為だ。

 

 

******

 

 

まずは各エリアの残留組から。

 

第一エリアの残留組はGGG、極東エリアのスーパーロボット軍団、GEAR、イオニア一行よりライガー組、エルドランチーム、宇宙からはプリベンターが駆けつけている。

 

これはドラゴ帝国がメタルナイトと言う新戦力を増員した事、機械化帝国より新たな幹部であるエンジン王の出現があった為である。

 

また行動を縮小していたガルファも動きを見せる様になったとの事で銀河達は本部に戻る事となった。

 

そしてプリベンターが追っている例の組織の影も気になるが彼らに任せるしかない。

 

場合によっては『男爵』に出張をお願いする予定だ。

 

マサトはとりあえず『冥王化』はしていないので様子見である。

 

第二エリアの残留組はドラグナーチーム、アルビオン隊、キリコ一行、宇宙より獣戦機隊が合流している。

 

第二エリア解放戦の間、姿を潜めていたウドの街のAT乗りに続いて未確認のAT乗り達が姿を現した。

 

それらを止める為に抑止力として残留する事となった。

 

オマケに野盗化した敵組織の残党部隊も現れている。

 

一例として某毒蛇部隊とか…

 

第三エリアの残留組は残りのイオニア一行、これに白の谷や他のレジスタンス連合、グッドサンダーチームとコズモレンジャーJ9が加わっている。

 

光達もセフィーロの防衛に協力したいとの事で残留する事となった。

 

未だセフィーロの影に潜み続けるデボネア、邪竜一族とドン・ハルマゲの侵攻が終わった訳ではないのも理由だ。

 

宇宙の方はアムロ大尉らロンド・ベル隊を中心としたUCガンダムチームと再結成されたナデシコ組が網を張っているので何かあれば連絡が入るだろう。

 

そして第四エリア侵攻組は合流したスペースナイツ、ミスリル、SRXチーム、戦技教導隊、新たに加わったプロジェクトTD、GGGを除いた勇者チーム一行、ハガネクルー、ATXチーム、マサキ、シャッフル同盟、アークエンジェルクルー。

 

戦技教導隊にラトゥーニの同郷の仲間であるアラド、ゼオラ、オウカの三名が加入した。

 

本来なら普通の生活に戻る事も可能だったが、ラトゥーニが戦う事を決めているのなら自分達もその力になりたいと志願したのである。

 

マサキについては大地震による転移と例の方向音痴が原因で彷徨っていた所をプロジェクトTDのメンバーと合流したSRXチームに発見されたらしい。

 

プロジェクトTDはアイビスとツグミチーフだけと思ったが、スレイも一緒だった。

 

理由はシャイン王女と出会った事にある。

 

彼女は金持ちの道楽と言っていたフェアリオンの開発真意とシャイン王女の決意を知り、その考えを改めたらしい。

 

シャイン王女は、国と民そして平和を願う一人の人間として戦う事を決意した。

 

スレイもまたその理由を知らずに金持ちの道楽と失言してしまった事に色々葛藤したが、現在は収まっている。

 

アステリオンの件も珍しい事にスレイが納得した上でアイビスが搭乗している。

 

アイビスに虚億でもあったのだろうか?

 

もしくは周囲が彼女達に何らかの影響でも与えたのかもしれない。

 

ちなみにロサはツグミチーフに捕まり色々とフレームに可愛いデコレーションをされてしまっている。

 

本人も満更でもないようなのでそのままにして置いている。

 

こう言うのを『可愛いは正義』だろうか?

 

一例としてプ○キュアみたいな状態になっている。

 

えーと…

 

ロサ、可愛いのは良いけど…普通のままで戻ってきてね。

 

んで、私は勇者チームと共に勇者ロボとエクリプスの件でリュウセイに動画&写真撮らせてくれと迫られている。

 

判ってたよ、判ってたよ。

 

転生しても性格ブレてない事も解ってたよ。

 

だから軽く絞めました、勿論梁山泊的に軽くです。

 

リュウセイ、そんなにこの世の終わりが来たような顔しなくても…

 

五体満足で生きてるからいいでしょ?

 

次に他所様に迷惑かけたら…解ってるよね?

 

リュウセイも了承してくれたし丸く収まったので放って置いた。

 

なんやかんやで浜田君から映像データを貰ってさっさと逃げて行きました。

 

勇者チームの情報流出を避けたいのに何やってんだが…

 

エクリプス?戦闘以外で見せる訳ないでしょう?

 

知られると不味いモノが搭載されているのだから絶対にありえません。

 

今は知る対象が少ない方が良い。

 

それでもスフィア・リアクターとして覚醒し始めるランドさんには感づかれるだろうな。

 

その時は潔く腹を括るしか…

 

いや、手はあるな?

 

知りたがる山羊の力ならそれが可能だ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

それから数日後。

 

第四エリアのバリアを破壊、航行を続けると見えてくるのは青い海原と所々に見える諸島群だ。

 

本来はオセアニアを中心としたエリアを取り込んでいるが、ここでは海域に面したエリアが集中的に組み込まれたのだろう。

 

そして奪い返す最後のアフェタが水のアフェタのみになっている為、支配エリアの障壁バリアが弱くなっている。

 

これは外部からの侵攻を容易くする事が可能…つまりは更なる敵を呼び込む事になる。

 

これが何を意味するかはいずれお分かりになると思います。

 

 

「何処へ行っても海ばっかりね。」

 

 

ハガネの展望室から外の様子を伺うエクセレン達。

 

丁度、休憩時間である。

 

 

「調査の結果、第四エリアは地球圏における海域に面した地域の集合体の様ですから海ばかりなのも当然です。」

「つまり…このエリアの魔族は水の属性なのか?」

「ヴァリオンの話ではそうみたいよ。」

「ちなみに地の属性が弱点となりますのでロサの本領発揮場とも言えるわ。」

「じゃ、パワーアップしたロサちゃんに期待でもしましょうか?」

「うーん、姿だけ変わっただけなのですが?」

「それは気持ち次第ってね。」

 

 

現在、ロサはツグミチーフのお遊びの名残でデコられたままになっている。

 

フリルで猫耳付けたガーリオンなのでニャンコリオンとでも言うべきか?

 

可愛いけど、ロサ…

 

お願いだから戦闘中だけはその姿は止めておこうね。

 

ファルセイバー辺りが色々と危険だから。

 

第二エリアに続き第三エリアでも修羅場の真っ最中だったのでゆっくり語る事が出来なかったが…

 

無事にロサは勇者チームに受け入れて貰えました。

 

少しばかり心配だったが素性を知った上で受け入れてくれたのだ。

 

彼らには感謝しきれない。

 

で、何故ファルセイバーが出て来るのかと言うと…

 

どうやらロサが彼に一目惚れされたらしい。

 

あれ?過保護バリバリのユキ一筋じゃなかったっけ?

 

確かにロサにも過保護になりたくなるオーラが出ているのは判るよ?

 

これで過保護な青い機体まで出てきたら泥沼ですな。

 

笑い事じゃないけど…

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

第四エリア侵攻部隊に編成された記憶持ちの一行はと言うと…

 

 

「第一エリアでそんな事が起こっていたのか…」

 

 

キョウスケの言葉を皮切りにハガネ艦内の使用されていない一室で話し合いを続けていた記憶持ち一行。

 

メンバーはキョウスケ、アクセル、リュウセイ、マサキ、ドモン、シュバルツ、宗介、相羽兄弟、キラ、舞人、瞬兵、洋である。

 

他とも連携を取りたかったが、各エリア防衛の為の部隊編成の事もあり致し方ない。

 

第一エリアでの状況を知る宗介、相羽兄弟からの説明から始まり。

 

前の世界でゾンダーとの決戦に参加していた舞人達は今回の戦いに助力出来なかった事を話した。

 

 

「結局、ゾンダーによる都心制圧作戦と並行して都心に逃げ込んでいたラダム樹の早期開花が起こってしまった。」

「ゾンダーとの東京決戦は前の世界で俺達も参加していたのですが…」

「僕達、今回は凱さん達に助力出来ませんでした。」

「結果的にGGGとスペースナイツに重荷を背負わせる事に…」

「仕方がない、前に聞いていたが敵の策略も関わっていた以上…それぞれが出来得る限りの事は出来た筈だ。」

「…」

「前の世界ではラダムに操られた僕が奴らの指揮を執っていたんだけど…まさかランスがその役になっているとはね。」

「話は伺っています、やはり家族同然だった人達と戦うのは…」

「割り切らなければならない時は誰にでもやってくる。」

「そうだよ、出来る事なら救ってどうしても…と言う時は覚悟を決めないといけない時もね。」

「覚悟を決めるか…」

「うん、僕らもその時が来たら決めなきゃいけないんだね。」

「洋君、瞬兵君…」

「舞人さん、僕達は大丈夫です…ちゃんと分かっていますから。」

「解っているさ、君達の事を信じているからね。」

 

 

転生しているとは言え、彼らはまだ十代の少年だ。

 

舞人を含め勇者達と共に行動していた少年達はどれだけの修羅場を潜り抜けて来たのだろう。

 

それは当人達の知る事でこちらが口を出す事は出来ない。

 

 

「後悔しても仕方がない、今は起こり得る状況を整理するぞ。」

「同意見だ、これがな。」

 

 

キョウスケを始めとした記憶所持者達は第四エリアでの状況を改めて確認し起こり得る状況を纏めた。

 

もっとも起こり得るのは魔族の介入、そしてオーブとの早期接触だろう。

 

宗介からは連絡が取れていないトゥアハー・デ・ダナンの動向。

 

キラは捕虜となっているイザーク達の説得。

 

舞人達はこのエリアで敵の魔族に洗脳されている仲間達の安否。

 

リュウセイはOZからAnti・DCへ占領されたままになっているリクセント公国。

 

マサキはテスラ研脱出の際に交戦したインスペクターの幹部の件。

 

DボゥイからはCITY-NO.5に居るトモルの件。

 

ドモンらはアースティアで起こった出来事と第三エリアで受けたDG細胞の傷跡の件について伝えた。

 

他の仲間達が揃っていれば別の一件が思い出せるが、今の自分達が関わる予定の事象はその位である。

 

前の世界で起こった事象が起こるかもしれない起きないのかもしれない。

 

曖昧な事象変異で自分達の先読みが通用しなくなりつつあるのだ。

 

 

「所でよ、ハスミの事はどうなったんだ?」

「一応は解決したって言うか何と言うか…」

「また、ややこしいのか?」

 

 

マサキの発言を皮切りに舞人達が質問を始めリュウセイもその理由について話に加わった。

 

 

「ハスミさんがどうかしたんですか?」

「舞人達は知らなかったよな、アイツも一応…転生者なんだよ。」

「えっ?」

「ハスミさんも?」

「何だか曖昧な言い方みたいですけど…」

「正確にはかもしれない…だ、アイツ自身が直接明かした訳でもない。」

「どうしてですか?」

「アイツはちょっとばかし厄介な案件を抱えていてな、俺達との前世上の記憶を交えた直接の接触は出来ない事になっている。」

「つまり普通の会話や接触は可能で前世の記憶を交えた会話は不可能と言う事ですか?」

「そう言う事だ、これがな。」

「ちなみに一言でも俺達に例のアレで知り得た記録の事を話すと無限力の介入で人類滅亡から宇宙リセットと言う最悪な爆弾を抱えている。」

「それに協力する事は出来るが遠回し程度にしか協力する事が出来ないときた訳だ。」

「どうして彼女が…!」

「その理由はアイツがアカシックレコードと繋がっているからだ。」

 

 

アカシックレコードと言う言葉に混乱する少年組に助け舟を出したのはパートナである勇者達である。

 

 

「アカシックレコード?」

「アカシックレコード…過去、現在、未来と宇宙における万物の記憶を収めてあるとされる大いなる記録の事だ。」

「それって!?」

「この世の英知を収めた記録か…」

「それがあのハスミとやらと繋がっていると?」

「ああ、いつどこでそんな事が出来る様になったのかは俺達も知らん。」

 

 

舞人はアカシックレコードに繋がっているならばその記録を利用すれば今までの事件を未然に防げたのでは?と話すが…

 

理由を知るキョウスケらはそれを否定した。

 

 

「待ってください、それなら今まで起こっていた事件を未然に防く事も出来た筈じゃ!」

「そこがややこしい所だ。」

「ハスミによればアカシックレコードで知り得ても介入出来る事象と出来ない事象があるらしい。」

「その邪魔をしているのが無限力そして事象変異のバランスを取る為にアカシックレコードが介入制限を掛けている訳だ。」

 

 

宗介はこの事に苛立ちを覚えるもドモンとシュバルツがそれを制した。

 

 

「勝手な…情報を与えるだけ与えてその事件に介入出来ないとは、まるで情報の無駄遣いだ。」

「宗介、物事には一つの流れを変えた場合…それを正す為に別の流れが入る事もある。」

「己の望むがままに流れを変えれば、その本流はやがて激流となり己を飲み込むだろう。」

「つまり彼女がアカシックレコードの提案を素直に受け入れているのはそのせいだと…?」

 

 

続けて相羽兄弟が理由を察して助言を入れた。

 

 

「ハスミなりに物事が混乱しない道を選んでいると考えた方が良い。」

「僕らの様な例外が出たんだし…その無限力とかアカシックレコードの対応とかで苦労しているんじゃないかな?」

「…」

 

 

キラがふと思い出してキョウスケに質問した。

 

 

「キョウスケ中尉、どうしてそこまで理由を知っているんですか?」

「さっきも話したが彼女からは直接聞く事は出来ない…なら間接的にならどうだ?」

 

 

納得した舞人を他所に更に年下の少年達は?を浮かべていた。

 

「…そうか!」

「えっと、どういう事ですか?」

「つまりハスミさんは直接伝えられないから別の方法でキョウスケさん達にこの事を知らせたんだよ。」

「ああ、なるほど。」

「まったく、その話を聞かされた時はビビったぜ。」

「昔からアイツはタヌキとかキツネっぽい所があったからな。」

「リュウセイさんってハスミさんと幼馴染なんですか?」

「幼馴染って言っても小さい時だけで親御さんが亡くなってから別れていたし二年前に再会した位でその間の事はあんまり知らねえんだ。」

「複雑ですね。」

「まあそう言う事にしておいてくれよ。」

「兎に角、ハスミには例の記録の話を直接聞く事は絶対にするな。」

「解ってるよ、聞いた途端に人類滅亡じゃ堪ったもんじゃねえ。」

 

 

再び話を戻し、キョウスケはキラに話を振った。

 

 

「キラ、オーブに関してはお前が一番知っていたな?」

「はい、中立を貫いていると言うのは変わらずですが…」

「場合によっては戦火に巻き込まれる事を覚悟しておいた方が良い。」

「解っています、それでも僕はオーブや世界を火の海にするつもりはありません。」

「ああ、出来得る限り俺達で護り切るぞ。」

 

 

互いの情報整理を終え、一先ず今回の会合は終了となった。

 

 

******

 

 

しばらくして第一種戦闘配備のアラームが艦内に鳴り響いた。

 

侵攻中の海域に魔族と思われる敵の集団を発見した為である。

 

どうやら別の組織に所属する大隊が襲撃を受けているらしい。

 

敵対勢力の可能性も否定出来ないが襲撃相手が魔族である事は変わりはないので救援に向かう事となった。

 

それは新たな可能性が産み出した結果だったのである。

 

 

=続=

 

 




これは望んだ結果だったのか?

それとも新たな災厄の兆しなのか?

次回、幻影のエトランゼ・第二十三話 『魔海《マカイ》後編』。

蒼き海は魔の血で染まる。


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第二十三話 『魔海《マカイ》後編』

蒼き海に希望を捨てずに進む者達。

これも奇跡。

互いの蟠りを拭い去る。

今はただ…

互いの手を取り合うのだ。


救難信号の反応に接近するに連れて襲撃を受けている大隊の所属先は判明した。

 

オーブ所属のオーブ海軍と負傷し同じく救難信号を発し続けていたザフトや連合と言った例の大地震に巻き込まれてしまった…はぐれ部隊の一つだった。

 

オーブ側が人命救助と言う名目で救援に出た様だが、運悪くこのエリアを支配する魔族に眼を付けられたのだろう。

 

こちらは進行ルート上に存在する無人島群へ敵を誘い込む戦闘を展開する事となった。

 

理由は水中と空中で活動出来る機体が限られてしまっている為である。

 

特機でオーブ艦隊の艦橋を利用した因幡の白兎な事は出来ないので…

 

 

******

 

 

大分説明が遅れてしまったが、あの第二エリアに転移した後。

 

私達が地球を留守にしている間に上層部の判断でノードゥスが再編され、元所属や新規配属された者達が今回の事態終息に向けて組み込まれる事となった。

 

現在、部隊は分割して行動しているがノードゥスに変わりはないので現場では総称してノードゥスと名乗っているのである。

 

 

「こちら地球連合軍所属・独立遊撃部隊ノードゥス。」

 

 

ダイテツ艦長がオーブ艦隊の司令と交渉した所…

 

何とかこちら側の救援活動を受け入れて貰えた。

 

国連事務総長の管轄である地球防衛軍の主力部隊や一部の赤袖のザフト兵君達が居た事や…

 

カガリ・ユラ改め、カガリ・ユラ・アスハがバイパス役として乗船していた事もあり話はスムーズに終えたのもある。

 

カガリの跳ねっかえり姫も私達と行動を共にする事で考えを改めた為だ。

 

シャイン王女や同世代の子や年下の子達と一緒に行動した結果が出た事もある。

 

良かったね、あの状態でアスカに出会ったら確実にダメ出しにされてただろうし。

 

俗に言う年下に言い包められるって感じで、アスカの場合だと毒舌三割増しだが…

 

お付きのキサカさんも陰ながらでホッとしていた表情を見る限り出会う前からも相当荒れてた様だ。

 

 

「ダイテツ艦長、こちらは各艦隊の防衛をしつつ救援活動に入ります。」

「判った、戦闘はこちらに任せて貰おう。」

「了解しました。」

 

 

地球防衛軍側の戦艦箱舟の艦長である愛美はダイテツ艦長に救援活動の進言をした後、各勇者達に負傷した混合艦隊の支援に向かわせた。

 

殆どが人命救助のスペシャリストだ、一時戦線離脱中のGGGが欠けているがその効力を失った訳ではない。

 

しかし、油断出来ないのは確かだ。

 

相手は水中を高速で移動する事が出来る闘飛魚と呼ばれる魔族の手下。

 

オマケに高水圧を利用した攻撃でMSなどの装甲を斬り裂く事も可能。

 

今回の戦場が海である事も災いしてか地の利は彼らにある。

 

そしてオーブ海軍、ザフトと連合の水中部隊が大打撃を受けたのもこれが原因だ。

 

かつての勇者の物語ではガオガイガーのディバイディングドライバーで奴らを海中から引きずり出す一種の漁っぽい戦法で勝敗を上げていた。

 

ガオガイガー不在の為にその戦法が使えない以上は別の方法を模索するか同じ状況を再現するしかない。

 

悪報ばかりだったが良き朗報もある。

 

オーブ艦隊には護衛として新たな仲間と共にノードゥスのメンバーも組み込まれていた。

 

新たな出会いと奇跡の再会と言う状況でもあるが…

 

不運な状況下での出会いでも受け入れるしかないだろう。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

戦闘開始からしばらく経った後。

 

ブレードとエビルは先行しこちらへ侵攻してきた闘飛魚の群れを追っていた。

 

その中でオーブ艦隊に紛れて戦闘を続けていた同じ鎧を身に纏った存在を発見したのだ。

 

 

「あれは!」

「まさか…オーガン、トモルなのか?」

 

 

同じ様にその姿を発見し声を発したオーガン。

 

しかし、前世で戦う事となってしまった存在を目にしたのか一瞬の驚きを隠せないでいた。

 

 

「やっぱり、Dボゥイさん。」

「トモル、お前にも記憶があるのか?」

「はい、思い出したのは最近ですけど…あの。」

「ああ、僕の事か…今回は初めましてかな。」

「シンヤは味方だ、安心してくれ。」

「そう言う事、前は色々とあったけどよろしく。」

「聞きたい事は山ほどありますけど…今は。」

「ああ、奴らを叩くぞ!」

 

 

今は目処前の敵を退ける事に専念した。

 

話さなければならない事。

 

どうしても話したい事。

 

それを胸の内に収め、今は仲間と共に己の槍を奮うのだ。

 

 

「…(Jルートにも似た展開でオーブ艦隊と来ればwルートのオーガンと接触するのは必然か。」

「ハスミ、凱さんの方法が使えない以上は水の魔族を退けるのに時間が掛かるよ?」

「まあ、方法はない訳じゃないんだけど…」

「どう言う事?」

「それを可能にするにはロサの協力が必要になる。」

「?」

 

 

ここに地の属性のエザフォス、光と闇の属性のエクリプス。

 

双方共に原動力は違うがセフィーロで授かった魔法は使えるのだ。

 

そこで私が発案したのが以下の通りである。

 

先ずは私の拘束魔法の一つ『鋼月の縛糸』で敵を捕縛し一定の場所に集める。

 

そしてロサの局地変化魔法の一つ『大地の変動』で敵を海から引き揚げる。

 

そして皆で袋叩きと言う余りにも判りやすい作戦である。

 

伊達に前世で失恋の痛みを忘れる為に色んなRPGに勤しんでいた訳ではない。

 

方向性と転用の可能範囲を考えた上で判断してやった事だ。

 

ちなみにこれにはある理由が存在する。

 

それは光達がセフィーロで覚えた魔法が極端すぎた事が原因だ。

 

原作と同様、光と海は攻撃系の魔法、風は補助支援よりの攻撃系の魔法になっている。

 

体力回復が風頼みになってしまうし毒等への治癒魔法が全く使えないとなると厄介だ。

 

そこで私とロサの介入の件もあり、これを克服する為に私達の属性魔法の成長方向を変異させた。

 

ロサは解毒などの治癒魔法、他者への攻防特化や補助支援。

 

私は精神汚染などの複数の治療魔法を可能とした某魔剣士の様なスタイルへと魔法を伸ばす方向に変異させた。

 

考えようでは光は炎系統なので熱を応用した魔法。

 

海なら水系統の魔法を使いこなせるから水質変化や霧とかの魔法。

 

風も大気元素の変異させて攻撃する魔法を使えそうなものと思っていた。

 

やはり、セフィーロの魔法は当人の心によって作用するモノが多いのか結局は発現しなかった。

 

ただ剣で斬り裂き銃を撃つだけが戦いではないし様々な方法がある。

 

ここに黒の騎士団の統括が居れば、もっと効率のいい方法を思いつくだろうが…

 

今は出来得る限りの方法で戦局を乗り切るしかない。

 

 

******

 

 

同時刻、同じ戦場で戦闘を続けるSRXチーム。

 

今は二手に分かれて行動している。

 

海の中から出現しては潜航し姿を消す相手にリュウセイとライは苛立ちを覚えていた。

 

 

「ちっきしょう、アイツら海の中に潜りながら攻撃してきやがる。」

「こちらの戦術を制限するつもりだろう。」

「…奴らの親玉は今まで戦って来た魔族の連中よりも頭が切れるって奴か?」

「かもしれんな、特に第一エリアから第三エリアの魔族は力押しの連中が多かった。」

「まあ、その内の一人はハスミがタイマン張って倒しやすくしたけどよ。」

「兎も角、奴らにとってこの戦場は最も効率のいい場所である事は確かだ。」

「こっちで使えそうな手は本人不在で使えねえ、打つ手なしか?」

「…気持ちは解るが、今は手を動かせ。」

「解ってるって。」

 

 

海と言う戦場は彼らにとって不都合な戦場である事は確かだ。

 

水の中ではビーム兵装は全くと言って使用できない。

 

その為、攻撃方法は実弾系や近接武装に限られてしまう。

 

この理由によりテッカマン達も切り札であるボルテッカを使用する事が出来ない。

 

原因はボルデッカのエネルギー源であるフェルミオンは水の中では複雑な水の分子に反応し暴発してしまうからである。

 

もしもボルテッカを水の中で撃てば判るだろう。

 

私は今でもあのシーンが脳裏に焼き付いている。

 

それはブレードの物語での話であるが…

 

あるデータを採取する為にブレードと仲間達は水中の施設へと向かったがボルテッカを封じられた状態での水中戦を強いられたシーンである。

 

敵はこちら側の戦術を把握している様で一向に水の中から潜航し纏まって行動する事がないのだ。

 

そして深手を負った相手を助けに行く人間の行動心理を利用しているのも含まれている。

 

余りにも計算づくされた戦いだ。

 

 

「海での戦場でやられたら厄介な戦術をほぼやられていると…本当に腹が立つわ。」

「相手に色々やっちゃったもんね。」

「でもね…」

「?」

「あの魔族達はそれぞれ独自のプライドが強すぎて互いに干渉する事は全くもって皆無な筈なのに…」

「変わったって事は?」

「どうかな?切羽詰まっているなら解るけどね。」

 

 

情報が少なすぎるので確実とは言えないのだが、彼らは互いに干渉する事はない。

 

寧ろ互いに捨て駒扱いするや出し抜くなどの意識が強いからだ。

 

ネタバレになってしまうが、後々赴く事になるアマゾンエリアを支配した闇の属性を持つネクロは己の時間稼ぎの為に他の魔族達を復活させ足止めに利用していた。

 

その力さえも他の魔族を凌駕していたのは主君であるバルドーと同じ属性の為に能力の恩威でも受けていたのだろうと今更ながら推測した。

 

推測に過ぎないし情報自体が少ない作品だったので有耶無耶である。

 

話を戻すが、敵が焦っているのは理解出来る。

 

この戦いから介入をし続けた事で彼らの活動は余りにもねじ曲がってしまっているのだ。

 

不完全な復活を遂げた彼らが次に狙うとすれば…奪い損ねたアフェタの回収とシズマの抹殺だろう。

 

それだけは避けなければならない。

 

シズマの死は完全なる『最後の剣』の復活を意味する。

 

それと同時に魔族側の『暗黒剣』の復活をも意味する。

 

今回の一件への介入はこの結末を変える為に起こした事だ。

 

もしもそれが崩れたら『あの悲劇』の再現が起こってしまう。

 

それはバアルの思うつぼだ。

 

バアルは命ある者達に対して絶望的未来へ向かう様に逝くべき道を仕向ける。

 

それを防ぐ為に真化した者達が存在するが、如何言う訳か真化に至る者が出現しなくなった。

 

それも原因かは不明だが例の輪廻を繰り返し今世における数億年前からもそれが停滞しバアルは予想以上の力を付けてしまったのである。

 

そこで世界の意思は真化の可能性を持つ者達に前世の記憶を所持させ再生させたのだが…

 

どれも失敗に終わってしまったのだ。

 

理由は聞かされていない。

 

ここで世界の意思は最終手段として異世界から素質のある人間を転生させようと決めた。

 

これも失敗に終わった。

 

この理由は言わずとも異世界転生モノ書籍にアリがちなネタが披露されてしまったのである。

 

それはその人間が持つ知識などの暴露や暴走が原因であるのだが…

 

最初に転生させられたAはヒロインとイチャイチャしたいと言う事で即刻に元の世界で赤子に転生させられ戻された。

 

続いてのBは見事なまでの戦争オタクで根っからのhappyトリガーだった為に転生してからしばらくした後に戦死した。

 

Cは私と同じく女性だったが求めていた恋愛小説の世界ではなく戦争モノへの転生と言う余りの結末に発狂し自害を果たして退場。

 

Cの次のDは初老の男性で真面目な政治家と言うスキルで何とか戦争終結へと導いたがロゴスの様な戦争商人に暗殺されてしまった。

 

そしてEは子供だったが所持した能力が原因で研究所へ拉致後、人体実験の餌食となり退場した。

 

その後も何度も異世界からの転生者を募り世界を変えようとしたが失敗に終わってしまったのである。

 

と、言うより人選が一部間違っている様な気もしなくもない。

 

私はその何人目かの転生者に選ばれた。

 

今の所は順調とは言えないが世界の望んた通りに対バアルに向けて動けていると思う。

 

 

「兎も角、連中にこれ以上好き勝手される訳にはいかない。」

「始めるの?」

「いや、キョウスケ中尉達に案件を持ち込んでからにしよう。」

「今回は慎重だね。」

「どうもさっきから嫌な気配を感じる…この気配は警戒しない訳には行かない。」

「気配?魔物の気配はエザフォスを通して私にも感知出来るけど…他に気配なんてあったの?」

「…(ロサにも感じ取れない気配って…まさかスフィアの影響?」

「でも、ハスミが言うなら私は信じるよ。」

「ありがとう、ロサ。」

 

 

今回の戦場、このスフィアが教えてくれているのなら相当ヤバいのが来るって事か…

 

アカシックレコードから何も音沙汰が無かったら失念していた。

 

一体何が来る?

 

良く思い出せ、魔族の他にあり得る襲来は…

 

アインスト、マシンナリーチルドレン、インスペクター、新たな転移者か?

 

海で遭遇する事象に関係する事。

 

っ!?

 

さっきのビジョンは…?

 

海に影。

 

あの影はまさか!?

 

 

******

 

 

同時刻、同海域内にて。

 

 

「ブリット君、今のは?」

「ああ、俺も感じた。」

「あの感じは前に戦った妖機人よね?」

「恐らくは…」

「でも、どうして二つも気配が?」

「判らない。」

『クスハ、ブリット、すぐに海から離れて!!』

「は、ハスミ?」

「何が…!?」

 

 

異質な気配を感じていたクスハ達超機人操者。

 

しかし、行動が遅かった故に海から延びる魔の手から逃れる事が出来なかった。

 

そのまま海中に引きずり込まれていった。

 

 

『遅かったか…』

「ハスミちゃん、アレは一体。」

『気配から察するに超機人に似ていますけど気配は真逆の存在です。』

「以前、クスハ達を襲った妖機人か?」

『恐らくは、気配を感じたのは今回が初めてなので正確性はありませんが…』

「キョウスケ、どうするの?」

「ハスミ、その念神は水の中でも動けるか?」

『可能ですが、今回ばかりは手を出す事は出来ません。』

「どういう事だ?」

『龍王機と虎王機がこの戦いに手を出すなって威嚇しているんです。』

「ええっ!?」

「訳アリか?」

『可能性はありますね、若しくはクスハ達に試練でも与えるつもりかもしれません。』

「試練だと?」

『そうです、自分達の操者として資格があるのか改めて行おうとしています。』

「全く、いい迷惑だな…これがな。」

『同意見です。(原作と同様に相っ変わらず頭か堅いですからあの二頭は。』

「それじゃあ、おとなしくクスハちゃん達が上がってくるのを待っているしかないわけ!?」

「それもだが、俺達は例の魚共を片付ける作業が残っている。」

『キョウスケ中尉、その件ですが…私に案があります。』

「それは確実か?」

『この手段を確実にするには皆さんの協力が必要です。』

「判った、内容を聞こう。」

 

 

クスハ、ブリット、今が正念場。

 

確実に龍王機と虎王機を認めさせる為には貴方達が覚悟を決めなさい。

 

相手は過去の亡霊。

 

海に沈みし烏賊と蛸の妖機人。

 

烏賊八帯なんかに負けないで。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「ブリット君。」

「ああ、こいつは厄介だ。」

 

 

海中に引きずり込まれた龍虎王。

 

その相手は十の脚と八の脚を持つ異形。

 

乗り手の意思はない。

 

其処にあるのは憎悪だけ…

 

 

「何なのこれ…」

「奴は俺達じゃない、龍虎王を憎んでいる?」

「でも、どうして?」

「恐らくオーダーファイルに記載されていた妖機人。」

「オーダーファイルの?」

 

 

オーダーファイル。

 

それは新西暦が始まる前の旧西暦に遡る。

 

始まりは一度目の世界規模の大戦が行われた頃。

 

オーダーファイルとはトウゴウ家、ブランシュタイン家、グリムズ家、コウトク家、クジョウ家。

 

この五つの家系がバラルと対峙していた時の記録である。

 

それぞれの家系ごとにオーダーファイルの記述を分けて管理している。

 

それはバラルの手を逃れる為の措置である。

 

だが、コウトク家は二回目の世界大戦前のバラルとの一戦で当主の少女が姿を消した為に記録は消失。

 

今代のグリムズ家は敵の為に閲覧は不可。

 

クジョウ家は代々当主より次代当主へ口伝される為、ハスミは母親の口伝を聞く事が無かったので不明とだけ答えている。

 

現在閲覧が可能なのはトウゴウ家、ブランシュタイン家の記録のみである。

 

 

「記述にあったどれかは不明だが間違いない。」

「水の中を自由に行き来する妖機人でも!」

「俺達は負けられないんだ!」

 

 

過去の因縁を断ち切れ。

 

それが新たな操者となった二人に課せられた試練。

 

竜と虎は二人の意思を汲み取る。

 

自らの操者に相応しいと。

 

 

「スケイル・バルカン!」

 

 

龍王の鱗が自らを絡め取る十八の腕をはじき返す。

 

 

「龍王破山剣!」

 

 

龍王の剣を構える。

 

 

「クスハ、落ち着いて奴の姿を捕えるんだ。」

「ありがとう、ブリッド君。」

 

 

相手の動きをよく見る。

 

 

“周囲の気配を感じて相手の動きを予測するの、そして大事なのは…”

 

 

ハスミ、判っているわ。

 

 

「必要なのは折れない剣じゃない、折れない心!!」

 

 

“そう心の在り方、それが念の力に作用する”

 

 

クスハの思いとブリッドの激励により龍の一撃は過去の亡霊を斬り裂いたのである。

 

 

******

 

 

『どうやらクスハ達の決着が着いたようです。』

「そうか。」

『お膳立てはこちらで準備しました…後は煮るなり焼くなりお願いします!』

『魚料理の大盤振る舞いです!』

 

 

鋼月の縛糸で敵を拘束し指定エリアまで下がらせる。

 

次に大地の変動で指定エリアごと海底から連中を押し出す荒行だ。

 

その後はお分かりで在ろう。

 

 

「クレイモア!」

「玄武甲弾!」

「ヴァイスちゃんのスナイピング舐めないでね、ラミアちゃんもよろしく♪」

「了解でありんす!」

 

 

ATXチームの銃撃。

 

 

「水を得た魚の時間は終わりだ。」

「僕らにボルテッカを一度も撃たせなかったのは残念だったね!」

「その分のフェルミオンを受けて貰う!!」

 

 

飛び交う三色の閃光。

 

 

「お前達、一斉射撃だ。」

「了解。」

「アラド、外さないでよね。」

「解ってるって!」

「こちらも援護を開始します。」

 

 

戦技教導隊もそれに続く。

 

 

「アンタ達、あの子達が良い位置に打ち上げたんだ!外すんじゃないよ!」

「肯定だ。」

「本当にいい位置だぜ!」

 

 

ミスリルが…

 

アークエンジェル組が…

 

シャッフル同盟が…

 

マサキが…

 

打ち上げられた闘飛魚の群れを打ち取った。

 

そして今回の戦闘は終わりを告げた。

 

 

******

 

 

「さてと…どうするかね?」

 

 

その戦場を見物する一機の影があった。

 

 

「ウェンドロに報告すべきだろうが…今の奴は。」

 

 

言葉を言いかけたが口を閉じた。

 

 

「…本当に過去の記憶があるって困るよな。」

 

 

=続=

 




暁の国で戦士達は一時の休息を得る。

それは早い出会いと再会が待っていた。

次回、幻影のエトランゼ・第二十四話 『宝珠《オーブ》』。

新たなる奇跡を刮目せよ。


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第二十四話 『宝珠《オーブ》』

戦士達はその歩みを止める。

暁に輝く国で起こった出来事。

それは次の戦場への道標。

続く戦いは更なる変革をもたらす。







無事、第四エリアの魔族を退けた私達ノードゥスは臨時的な連合艦隊と共にオーブへと帰港する事となった。

 

理由はこのエリアの支配者である水の魔族である『激流のシード』の居場所が掴めていないからである。

 

所在が掴めていない以上は下手に動き回る訳には行かなかった。

 

そこでオーブことオーブ連合首長国の代表であるウズミ・ナラ・アスハ氏からの提案もあり、そちらの国へご厄介になる事が決定したのである。

 

ちなみに今世では地球連合政府設立後にオーブ等の諸国は独立を認められている為、私達連合軍の軍人に対しての風当たりは緩くなっている。

 

連合軍全員がそうではない事は今も変わらないが、正しき流れへ変えようとする者達も居る事を理解して貰っているからだろう。

 

ここら辺は向こう側の政治絡みにも関わるので今は深く言えない。

 

とりあえず、今の時点で一言言いたいのは…

 

何が悲しくて梁山泊本山がここに転移しているかという事です!!

 

色々とマズイ。

 

非情にマズイ。

 

そろそろ腹括る時が来た様です。

 

え、特訓?

 

常識外れのEF帰りを甘く見ないでください。

 

 

******

 

 

帰港後、ウズミ氏と部隊代表者達の話し合いの結果。

 

敵の拠点が判明するまでの間、私達はオーブを拠点に襲撃に対する防衛と第四エリア内の調査を行う事が決定した。

 

外部調査へ赴く場合は部隊を更に二つに分ける必要があるが、オーブで合流した仲間と新規加入した仲間達を含めてなので戦力が削られる事は無いだろう。

 

皆様もそろそろ把握したいと思われていると思いますので…

 

今回オーブで参入したメンバーを含めて現在の部隊構成をご説明したいと思います。

 

まずはDボゥイ達と合流したオーガンこと真道トモル。

 

同じく前回の記憶を所持しているが、想定通りWと原作の記憶しかないらしい。

 

そこは構わないが、色々と厄介な案件を抱えているのは前と一緒だ。

 

理由はオーガンのソリッドアーマーの件である。

 

原作におけるトモルの余生、彼のイバリューダー戦後に残された余生が余りにも短すぎた。

 

度重なるオーガンとのリンクが原因で僅か35歳と言う若さでこの世を去ってしまったのだ。

 

原作の敵幹部の余生が短かったのと同じ原理である事は判明している。

 

確かにソリッドアーマーは強いかもしれないがリンクする肉体に問題があればその生命も短いだろう。

 

そして久美・ジェファーソンの命の救済だ。

 

彼女もWのシナリオでは生き残ったが、原作では最終決戦の最中に居たオーガンを救う為に太陽を数分早めに引き寄せると言う荒行を見せた為にその命を散らした。

 

それらを避ける為にも色々と布石を置いた方が良いだろう。

 

アーキオーガンに関しては私達が大地震でバラバラにされる一日前に地球へ赴いた。

 

そして同じく追って来たイバリューダー達と交戦。

 

アーキオーガンが地球飛来前にEDFに送り続けた情報を元に完成したソリッドアーマー。

 

そのアーマーにリンクしたトモルと共に応戦したが地球へ赴くまでに負ったダメージが原因でその生命も危うい状態に陥った。

 

所が同じ様に地球へ赴いていたリーブによって助けられアーキオーガンは彼女と共に姿を消した。

 

恐らくは第四エリアの何処かに潜伏しているだろう。

 

二人とも無事だといいが…

 

次に前回の戦闘には参加していなかったが、ヒリュウ改のメンバーもこちらに転移していた。

 

タスクはジガンスクード・ドゥロ、レオナはズィーガーリオンと改修機に搭乗。

 

カチーナ中尉達は変わらずであるが第三エリアで接収したシャドウミラーの機体の一部へ乗り換える形で火力不足を補う事となった。

 

勿論、搭乗者が居なくなってしまったグルンガスト(赤)なども引き続き使用している。

 

同じく同艦にギリアム少佐とテンペスト少佐が救助されていた。

 

諜報部で例の存在を追跡していたが例の大地震で転移に巻き込まれたとの事だ。

 

エクリプスの一件が事後報告になり、二人からはかなりの御叱りを受けたが事情が事情なだけにお咎めは無しにされた。

 

ギリアム少佐に第三エリアで起きたシャドウミラーの壊滅的大打撃の件についてはアクセル中尉から説明されると思うので簡易的な事だけ報告しました。

 

余り介入する事が出来ないので。

 

お義父さんには大地震後から今までに起きた事を一から説明。

 

『また、お前は無茶を…』と頭を抱えていた事には本当にゴメンナサイですが、ほぼ不可抗力である部分も多い事は理解して貰えた。

 

勇者チームも散り散りになっていた仲間の一部と再会出来た様子だ。

 

だが、逆に敵の魔族に操られている仲間が居る事が判明した。

 

たしか「どっしぇ〜!!!」だったかな?そんな叫びをする方が操られていたのをうっすらと思い出した。

 

原作曰く黒いG以上の生命力を持っているし、うっかり撃墜してもご退場はしないだろう。

 

そして戦いの流れは再びINへと戻る。

 

オーブに避難していたシリアスと言う少年からある情報を得た。

 

シャイン王女の故郷であるリクセント公国を根城にAnti・DCの残党が潜伏している事が判明した。

 

民間人の多くは脱出に成功したが、まだ城内に残っていた公国関係者や来客者達が人質として残っている。

 

シャイン王女も公国奪還の際に自らも出撃すると声明を出した。

 

ノブレス・オブリージュだったか?

 

某グリムズのキチガイが語った様に『高貴なるものの務め』とはよく言ったものだ。

 

国を背負う覚悟、己の血と他人の血を流す覚悟、それが出来るのならこちらからフォローする事は何もないだろう。

 

今回も彼女の無二の親友やそれを支える仲間達も居るのだから。

 

続いてアークエンジェル隊には新規のメンバーが加入した。

 

そう某連合の三人悪の悪ガキ達である。

 

以前、戦技教導隊が救出した非道な人体実験を受けていた孤児達を救った一件。

 

救助され治療を受けていたが、中には戦う事から抜けきれない子達も出ていた。

 

その子達は療養と言う条件でオーブの療養施設でメンタル面の治療を受けていた。

 

だが、今回の大地震が切っ掛けで魔族の襲撃を受ける様になり彼らが戦わざる負えない状況へと陥ってしまったのだ。

 

別のエリアで救助されていた連合の補給部隊が艦載していた新型MSの数機をその子達が脱出の為に乗ってしまったのである。

 

元々MSの操縦訓練を受けていた子達なのでやられる事はなかったが…

 

状況がどうであれ、元実験施設出身者による戦闘行為は周囲からの偏見に晒される事となる。

 

そこで上層部は同じ様に実験施設出身者が集うノードゥスに彼らの身柄を一任する事が決定。

 

その命令を受けたノードゥスは彼らの身柄とMS数機を引き取る事となった。

 

ちなみにこれは前回に話した小父様の手回しが関わっている。

 

要約するとこんな感じである。

 

『こちらの不手際で生まれてしまった跳ねっかえり達をそちらに預けます、それと同時に採用予定だった試験機を優先して預けるのでその運用データを引き換えにお願いしますネ。』と言うオチも付いている。

 

そして箱舟に搭載されている『轟爆』と言う主砲にも細工も小父様に頼んだ事だ。

 

あれは『轟爆』と言う名のローエングリン砲に置き換わっている。

 

本来ならばブレアから奪った列車砲を改造する筈だったが…

 

どう見ても時代的に見ても火力不足だしバージョンアップって事で。

 

今後降りかかる災厄に立ち向かえる様に小父様に手回しを頼んで地球防衛軍に行き渡る様に細工して置いたのだ。

 

やるべき事、出来る事は出来る内にして置きたい。

 

そう、私達はまた飛ばされる。

 

そして最悪の結末を迎える事も想定されていると言う厄介な展開で…

 

 

******

 

 

オーブでそれぞれが抱える一件で別行動になった後…

 

私もまた梁山泊への出向指示が出ていたので外出許可を申請し移動を開始した。

 

その道中で同じ様にモルゲンレーテに出向するキラ達と再会した。

 

メンバーはキラ、イザーク、ディアッカ、ニコル、ムウ少佐である。

 

これに三人がもしも暴れてしまった時を考えてD兄弟が張り付いている。

 

二人もモルゲンレーテ社に出向する事になっていたので同乗する形である。

 

モルゲンレーテ社までは距離があるので車両での移動、他の六人は既に乗車して待機していた。

 

 

「キラ達も街に?」

「はい、これからモルゲンレーテ社に行く予定です。」

「乗っていた機体が機体だものね。」

「状況が状況でしたから…ハスミさんはどちらへ?」

「これから梁山泊に出向する様に言われているけど、その後に会っておきたい子達が居てね。」

「知り合いですか?」

「ええ、以前任務で助けた子達で…名前はステラ、アウル、スティングって子達なの。」

「えっ!?」

「もしかして知り合い?(ポーカーフェイスっと。」

「いえ、似たような名前の子が居たので…」

「そう。」

「もしかしてその子達も…」

「ええ、先日アークエンジェル隊に加入したクロト達と同じく戦災被害者よ。」

「…」

「それでもフォウ達と同じで戦う事を強制されていないって事だけは救いね。」

「はい、そうですね。」

「それじゃあ、またね。」

 

 

キラと話しを終え、キラは車両に乗車してモルゲンレーテ社へと向かって行った。

 

 

「さてと、お小言込みで次の対策を練らないと…」

 

 

私もまた反対方向にある梁山泊へ移動を開始した。

 

え、移動手段?

 

もちろん徒歩ですが何か?

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

梁山泊、国際警察機構の本拠地にして総本山。

 

L5戦役当時にBF団とアインストの襲撃を受けて本山は大打撃を受けたが現在は修復され落ち着きを取り戻している。

 

しかし、例の大地震の一件でオーブに転移した所か各地に散らばっている一部のエキスパートから下位のエージェントとの連絡が取れずにいた。

 

前回の戦いで共に戦った草間君達もまた行方が分からなくなっているとの事だ。

 

おそらく何処かのエリアに飛ばされていると思われる。

 

九大天王の一人、無明・幻妖斉の力で梁山泊はただの山として隠されている。

 

国際警察機構の総司令である黄帝ライセの指示で無用な戦いを避ける為の措置だ。

 

ちなみに私はエージェント候補と言う肩書きで通している。

 

いくらセフィーロの魔法と防具、詩篇刀・御伽で能力を補填しても一般人位の耐久性しかないのでその位でいいと思います。

 

それにBF団と言うよりもビッグ・ファイア本人に協力している…何て天地が引っ繰り返ろうとも絶対に口が裂けても言えません。

 

あの時の丑三つ時で大木に藁人形に釘を打ってるような爽やか笑顔で脅されたら泣きますわ。

 

その横でホッホッホって笑う諸葛亮孔明の顔を思い出したら無性に腹が立ってきた。

 

今度会ったらあの腹黒策士に一発一泡吹かせてあげたいです。

 

と、思考を張り巡らせている間に謁見の場に到着した。

 

 

「始めましてと言うべきかな?」

「はい、始めまして…ライセ総司令。」

 

 

はい、今回の第一修羅場です。

 

ちなみに他の九大天王は出払っており、座席に座したライセと相向で私が立っているだけである。

 

余程、他のエキスパートに聞かれたくない事でもあるのだろうか?

 

同じ九大天王である中条長官にも在席を禁じていたし。

 

 

「君の事は母君…蓮華君より直接聞いている。」

「それは何処まででしょうか?」

「君の家系が抱える宿命までと言って置こう。」

「そう…ですか。(あの事も話してあるって事か。」

 

 

例の一件を説明済みと捉えて私は話を続けた。

 

 

「総司令、今回はどの様なご用件で私は呼ばれたのでしょうか?」

「君も気が付いているだろう、奴ら…バラルが動き始めた。」

「!?(やっぱり、あの海で戦った妖機人は奴らの差し金か!」

「だが、彼らはこちらにコンタクトを取り…限定ではあるが共闘の意思を見せた。」

「彼らが共闘ですか?」

「恐らくは利害一致と見ていいだろう。」

「敵の敵は味方と?」

「であれ、君は彼らをどう見る?」

「…」

 

 

原作上の彼らは非人道的行為を繰り返し人間を小機人に改造する輩だ。

 

同族すら犠牲にする事も厭わない。

 

相寄れるのか?

 

あの海域に出現した妖機人の一件もある。

 

ただ連中が復活させたと言う証拠はなかった。

 

判断を見誤れば厄介な連中なのにどうしろと?

 

アカシックレコードからは特に何も開示してこない。

 

スフィアも不安になるような事例を見せつけて来る。

 

今回は私の判断に委ねるつもりか?

 

 

「今は答える事は出来ないとだけ…」

「理由を聞かせて貰えないだろうか?」

「こちらへ赴く道中で遭遇した妖機人による襲撃の件について彼らがどう弁明するかですね。」

「ふむ。」

「最も彼女が彼らを統括しきれていないのもありますが…」

「それは君からの忠告と受け取ってもよいのか?」

「私からはそう答えるしかありません。」

 

 

手を取り合えるのならそうしたい。

 

だが、今回のビッグ・ファイアと孫光龍の因縁がどうなっているか不明なのでOKと言いづらいのである。

 

本当に面倒な因縁だが、これに関しては当人同士で解決するしかない。

 

下手に横槍を入れる訳にもいかないので。

 

 

「では、最後に一つ聞かせて欲しい。」

「何でしょうか?」

「君の目的は何だね?」

「最悪の結末を回避する、それが私の目的です。」

「判った、よろしく頼む。」

「では、失礼します。」

 

 

私は一礼を交わすと謁見の間を後にした。

 

帰り際に保護施設に寄ったがステラ達は外出しており、会う事は出来なかった。

 

オーブで知り合った赤い瞳を持つ友人と出かけているとの事だ。

 

まだ滞在時間はあるし次の機会にしよう。

 

 

******

 

 

それから三日後、ATXチームはキラを含めたモルゲンレーテ社のテストパイロット達を引き連れ、近くの海域で実地訓練を行っていた。

 

ちなみにクスハ、ブリッド、ロサ、アクセル中尉、ラミア少尉はオーブで待機。

 

キョウスケ中尉、エクセレン少尉、私が今回の護衛担当をしている。

 

訓練を受けるのはカガリのストライクルージュ、アサギ、マユラ、ジュリのM1アストレイのフライトユニット付き。

 

データ収集にキラがエールストライクに搭乗している。

 

ちなみに私も修理が終わったガーリオンカスタム・タイプTに乗り換えて行動している。

 

今回は戦闘が目的ではないのである程度の自衛が出来る程度に収まっている。

 

 

 

「カガリ、調子はどう?」

「うん、前よりも扱いやすくなっている。」

「OSを微調節した甲斐があったね。」

「最終的には全部のOSを合わせて正式なナチュラル用のOSになるんだろ?」

「そうだね、マユラ達のOSも微妙に癖をつけてあるから少しクセが出るけど。」

 

 

データ収集も終わり、帰還する準備を始めていた時にそれは起こった。

 

 

「キョウスケ、何か嫌なお客さんがこっちに向かって来ているわ。」

「…」

「どうする?」

「キラ、お前はオーブの姫達と一緒に先に戻れ。」

「中尉、ですが…!」

「相手は一体だが正体が判らない以上、俺達もどうなるか分からん。」

「…」

「キラ、中尉の言う通りにして。」

「判りました。」

「待ってくれ、私も一緒に戦うぞ!」

「カガリ、これはそう言う事じゃ…」

「だけど…!」

「カガリちゃん、ここはお姉さん達に任せて頂戴。」

「もしもの時は私が何とかするから、あの子達と一緒に戻って。」

「…判った。」

 

 

一緒に戦列に加わりたかったカガリであったが、キラとベテラン三人に言われる形でマユラ達と共にオーブに帰還する事となった。

 

キラも彼女達を守る為に護衛に付いた。

 

 

「さてと、あの子達を逃がしたはいいけど…お相手はどんな方かしらね?」

「接近する熱量の反応から察するに拙い事は確実ですね。」

「成程、俺達はとんでもないブタを引いたか…」

 

 

そして海域に出現したのは出現するには場違いな存在だった。

 

 

「…!(そんな…あれはレムレース!?」

「いや~ん、ま○っちんぐなお相手じゃない。」

「冗談を言っている暇はないぞ。」

「そうね、あの子達がオーブに辿り着くまで足止め位はしないとね?」

「…」

「通信だと?」

 

 

音声のみの回線が接続されると目処前の大型機動兵器のパイロットが話しかけてきた。

 

 

『初めましてかな?私の名は黒のカリスマ。』

「ちょ?自分で天才って言っちゃう?」

「貴様、何が目的だ?」

『ここへ赴いたのは君達に私の実験に付き合って貰おうと思ってね。』

「実験だと?」

『安心してくれ、死なない程度には遊んであげるよ。』

 

 

そう答えるとプロミスド・ミレニアムと呼ばれる全砲突撃斉射が行われた。

 

 

「各機散開しろ!」

「言われずとも!」

「了解です!」

 

 

各自で攻撃を避けるも海域一帯を遮る煙が発生し煙の中で右往左往していたアルトアイゼンに突撃しドリルで追撃、最後に胸部内蔵のビーム砲で吹き飛ばれてしまった。

 

 

「ぐっ!?」

「キョウスケ!」

 

 

その一撃はアルトアイゼンに耐えられるものではなく、ドリルによって右腕部分と周囲の装甲は斬り裂かれ拉げており各部から火花が散っていた。

 

 

『威力は十分だね。』

「ちょっと!貴方やり過ぎじゃない!!」

 

 

ヴァイスリッターのオクスタンランチャーの銃撃で牽制するが、ディメイションフォール1999の「極小次元震」によりオクスタンランチャーと左足部分が文字通り削り取られた。

 

 

「これは…流石にマズイわね。」

「キョウスケ中尉、エクセレン少尉!!」

『フフッ、残りは君だけだね。』

「そう簡単にやられてやるものか!!」

『残念だけど、そうはいかないよ?』

 

 

本来装備していない筈の杖が次元の裂け目から出現しガーリオンカスタム・タイプTを貫く。

 

コックピットは外れていたが装備の殆どが先程の攻撃で破損し使用不可能となった。

 

 

「しまった!?」

「ハスミちゃん!」

『万策尽きた相手を絶望の淵に落とすのも僕の趣味でね。』

 

 

時空が歪む。

 

 

「何なのこれ?」

「…(まさか次元震!?」

『さようなら諸君…またどこかで遭おうか?』

 

 

その場で行動不能となった三機は歪んだ時空へ投げ出された。

 

 

『いや、もう会えないんだったね…これは失敬した。』

 

 

黒のカリスマと名乗った相手は高笑いをしその場を去って行った。

 

 

『いや~本当に愉快、愉快、だねぇ?』

 

 

残されたのは静まり返った海原だけだった。

 

 

=続=

 




睡蓮は新天地で当てもなく彷徨う。

これは新たな戦いの為の布石なのだろうか?


次回、幻影のエトランゼ・第二十五話 『来転《ライテン》』。


来たるべき事象は最悪の展開を見せる。


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隠の付箋

誰にでも隠し事はある。

これはその一つに過ぎない。





※初見の方は次の話へ。
※周回済みの方はそのまま閲覧してください。


 

地球断絶事件の最中、第四エリアのとある無人島にて。

 

 

******

 

 

「さてと、今後…どうするかな?」

 

 

南国の無人島の浜辺で不釣り合いな白のスーツを着用する男性。

 

彼の名は孫光龍、バラルを統べる者にして強大な念の力を持つ念動者である。

 

 

(身の振り方を変えようとしたのはいいけど、どうも僕らしくないね。)

 

 

十数年前、君を失い。

 

君を失ったのと同時に大切なものを手放した。

 

そして僕は『混乱』を齎す者へと戻った。

 

僕に光なんて似合わないのだろうか?

 

あの時、君が見せてくれた光はとても心地が良かった。

 

例え、君が何度生まれ変わりその記憶を失っていようとも…

 

僕は君から貰った欠片で何度でも探すよ。

 

そして物思いに耽っていた僕の目処前にあの子が現れた。

 

 

「この気配は…!」

 

 

目処前の砂浜に突如落下して来たAM。

 

機体の損傷は酷く、特にコックピット部分が半分潰れかけている。

 

 

「生者が出るか死者が出るか…」

 

 

僕はコックピットブロックのハッチを引き剥がした。

 

そこに居たのは血濡れのパイロットスーツを纏った女性だった。

 

所々、スーツは引き裂かれ脇腹には破片が刺さり出血が酷かった。

 

ヘルメットもひび割れていて中を覗き込める状態ではない。

 

僕は安否確認の為にそのヘルメットを外した。

 

 

「!?」

 

 

彼女に意識はない、息も辛うじてしている程度。

 

額はバイザーの破片で切ったのか出血が続いている。

 

だが、その顔は忘れる筈もなかった。

 

彼女が死を覚悟してでも守ろうとした子なのだから。

 

 

「蓮華、あの時の約束を守るよ…この子を僕の命に代えても護ると。」

 

 

僕はこの子をコックピットブロックから連れ出した。

 

そして無人島の奥地へと移動を開始した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

無人島の奥地、南国由来の密林がこの洞穴を隠していた。

 

僕はそのままあの子を連れて洞穴の奥へと入って行った。

 

急がなければと…

 

それだけが僕の歩みを早くさせた。

 

そして最深部に到達した直後、僕は答えた。

 

 

「眠っている所、申し訳ないけど目覚めて貰うよ…霊亀皇。」

 

 

旧西暦時代、二度目の世界大戦が始まる前の頃。

 

僕はこの四霊の超機人・霊亀皇でオーダーと激戦を繰り広げた。

 

その戦いから数世紀経った今でも眠りに就いている。

 

L5戦役で戦死した死者達の魂を喰らいながら目覚めるその時まで。

 

だが、それも悠長としている事は出来ない。

 

 

「力を貸して欲しい、この子を救う為にね。」

 

 

霊亀皇は僕の声を聴き届けたのか、目覚め始めた。

 

本調子とは言えないが、この子を救う為の力は使わせて貰おう。

 

 

******

 

 

霊亀皇の最深部、かつてここから僕は霊亀皇を操った。

 

その一部には前の戦いの名残が残っている。

 

V・Bことヴァレリー・フォン・ブランシュタイン。

 

かつてそのヴァレリーを収めた場所にあの子が眠っている。

 

機人大戦の折に医療目的の為に残された技術。

 

それがあの子を救う唯一の方法だった。

 

 

「時間は掛かるが、これしか方法はない…」

 

 

呼吸は安定したらしく、一定のリズムで溶液に気泡が混じっていた。

 

傷は完全に塞がっておらず、内部の溶液に微量の血液が混ざり合っている。

 

そこへ収めてから数時間が経過しているが、傷の治りは現代の技術を通り越している。

 

何もしなければ出血多量でこの子の命はなかっただろう。

 

先に額の傷が無くなり出血が止まるとこの子の顔立ちが彼女に瓜二つなのが判る。

 

まだ何も知らない赤子だったこの子が今では戦場に立って戦っていた。

 

蛙の子は蛙と言うのか運命は僕らを引き合わせた。

 

僕らは未来永劫戦い続ける宿命なのかな?

 

もしも彼女が居れば『どんな世界にも『永劫』と言う言葉はないわ。』と同じ事を話してくれるのだろうか?

 

 

「僕を許してくれとは言わない、だが…あの子を傷つけた相手だけはねじ伏せよう。」

 

 

所々に赤で染まった白いスーツを纏ったままの孫光龍は己の手を握り絞めた。

 

握り絞め過ぎて血がにじみ出ていたが気にしていない。

 

彼の表情は無表情だったからだ。

 

それは殺意の籠った危うい意思でもある。

 

 

「こんな僕にも熱く滾る意志があるとはね…」

 

 

彼の行動を他所に胸元の白百合は静かに揺れた。

 

 

=続=




<おまけ>


ハスミ「あの…傷の処置をしてくれたのは有難いのですが…」
光龍「ん、どうしたんだい?」
ハスミ「単刀直入に聞きます…見たのですね?」
光龍「ああ…さすがに脱がさないと傷の処置が出来ないからね、アハハ…」
ハスミ「では、一発殴らせてください。(ニコ」
光龍「まあ、そう来るよね。」


その後、孫光龍の右頬に強烈な平手打ちが撃ち込まれたのは言うまでもない。


光龍「色々と酷い。」
ハスミ「グーでないだけマシと思ってください。」



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第二十五話 『来転《ライテン》』

一つの敗北は次への再起。

だが、忘れるな。

これは偶然ではなく必然が重なった。

定められた生還である事を。




キョウスケ、エクセレン、ハスミ、キラのMIAから二週間が経過。

 

訓練を受けていたカガリ達の護衛についていたATXチームは前回の通りであるが…

 

キラ・ヤマトの場合は黒のカリスマが放った別動隊の奇襲からカガリら四名を守る為に囮となり行方不明となった。

 

消息を絶った海域から発見された残骸から全員死亡したと判断され捜索は打ち切られつつあった。

 

ATXチームはアクセル・アルマーが隊長代理を務め、同チームのサポートロボットであるロサ・ニュムパは諜報部所属のテンペスト・ホーカーが預かる事が決定。

 

一つの波は流れを変えて更なる波が迫りつつある事を彼らは知る由も無かった。

 

 

******

 

 

四名の行方不明から一週間後。

 

地球近海に置いて…

 

 

対インスペクター並びにザフトの動きを探る為に行動していたノードゥスの宇宙組の部隊。

 

宇宙部隊の前に突如とある現象が起こったのである。

 

その状況にいち早く気が付いたのは再編されたナデシコのクルーである。

 

この現象をボソンジャンプと酷似していると思ったからである。

 

演算ユニットの一件で初代ナデシコの意思を継いだナデシコBのブリッジにて会話が始まる。

 

 

「艦長、部隊の進行ルート前方に転移反応を感知しました。」

「ルリちゃん、転移と言ってもあれはボソンジャンプでもないよ?」

「はい、恐らくは私達の知らない異なるエネルギーによる転移と思います。」

「ルリちゃん、他に反応は?」

「待ってください…これは。」

「どうしたの、ルリルリ?」

「スクリーンに転移反応のあった場所を映します。」

 

 

ルリはオモイカネにナデシコのブリッジ前方のスクリーンに映像を映し出す様に指示を出した。

 

映し出されたのは撃墜されたアルトアイゼン一機のみだった。

 

 

「あれはアルトアイゼン!?」

「ルリちゃん、ブライト艦長達に通信を繋いで。」

「準備は出来ています。」

「ブライト艦長。」

『ユリカ艦長、君達も見たか?』

「はい、」

『アルトアイゼンの位置はこちらが近い、回収は我々に任せてもらおう。』

「了解しました。」

 

 

ユリカはルリに指示を出し、同じく行動を共にしているブライト艦長らが指揮するラーカイラムに通信を送った。

 

そしてアルトアイゼンの回収は向こうが引き受けると言う事で周囲の警戒に当たる事となった。

 

 

「…(俺達が地球を離れている間に一体何が起こっているんだ?」

 

 

アルトアイゼンのパイロットであり地球で行動中のATXチームの隊長代理であるキョウスケの安否が不明と言う現実を突きつけられた。

 

この場に居た記憶を所持するアキト達はその状況に不安と言う感情が脳裏を過ぎるのだった。

 

そして同時刻、次元震に巻き込まれたキラもまた桃色の歌姫の元で目覚めようとしていた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

そしてここでも目覚めようとしていた。

 

それは最悪の展開でであるが…

 

 

 

「…」

「エクセレン、ワタシトオナジモノ…」

 

 

植物にも生物にも似た物体に絡め取られたヴァイスリッター。

 

コックピットの中でエクセレンはただその様を見ていた。

 

青い瞳ではなく赤く澱んた瞳でただ見続けていた。

 

 

「コンドハ…キョウスケ、アナタヲ…」

 

 

変貌したエクセレンを見続けるナニカが囁いた。

 

 

「テニイレル。」

 

 

徐々に形作られる影の存在に対してエクセレンはただ虚ろのままだった。

 

 

 

—モトメル—

 

 

—セイジャクノセカイ—

 

 

—カノチニ—

 

 

—モドルタメニ—

 

 

—トビラヲヒラクモノ—

 

 

—テニイレルタメニ—

 

 

そして巨大な何かがその様を見届けていた。

 

 

******

 

 

私が目覚めたのは行方不明になってから二日目の事だった。

 

 

「…」

 

 

何処かの部屋に寝かされているらしく動こうとすると身体の節々が痛む。

 

ふと思い、利き手を自分の元に持ってくると包帯が巻かれている。

 

どうやら私は負傷している様だ。

 

 

「中尉、少尉…」

 

 

二人を救えなかった。

 

判って居たのに奴が出るタイミングを見誤った。

 

また無限力の仕業らしい。

 

あの子達を救った代償とでも言うのか?

 

 

「…(黒のカリスマが現れた以上、ノードゥスの部隊は今後も狙われるわね。」

 

 

可能性とすればZのあの展開が起こる可能性がある。

 

避けようとしていたのに避ける事が出来なさそうだ。

 

その時、室内のドアを開ける音と共に入室する人物に私は驚くしかなかった。

 

 

「どうやら気が付いたようだね。」

「っ、貴方は…!?」

 

 

私は、この時点で一番逢いたくない人物に救われた様だ。

 

白いスーツの男。

 

名は孫光龍。

 

正式名称はアクラヴ・アヴォット。

 

後の封印戦争や終焉の銀河に関わるキーパーソンの一人だ。

 

 

「…」

「随分と警戒されているね、一応…君の命の恩人なのだけど?」

「助けて頂いた事には感謝します、名前は何とお呼びすれば…」

「ああ、僕の名前はアラン・ハリス…しがない武器商人さ。」

「私は地球連合軍極東方面軍戦艦ハガネ配備隊・ATXチーム所属、ハスミ・クジョウ少尉です。」

「ご丁寧にどうも。(う~ん、うまく隠しているみたいだけど怪我のせいか所々から念が漏れているね。」

「…(念の気配を隠す気ゼロってこの人何考えているのか全然分かりません。」

「やっぱり傷のせいか疲れ気味の様だね。」

「色々とあったので…」

「それにしても吃驚したよ、急に空が裂けたと思ったら君が機体ごと僕のプライベートビーチの浜辺に堕ちて来たからね。」

「お手数をお掛けします。(え、貴方プライベートビーチなんて持ってたの!?」

「さてと、冗談は程々にして…本題に入らせて貰おうかな。」

「本題?」

「こう呼べば君も話に乗ってくれるかな?」

 

 

アラン・ハリスは人を煽る様な笑みで答えた。

 

 

「君は蒼のガンエデン、アシュラヤー・ガンエデンの巫女だろう?」

「!?」

「君が継承を済ませているかは不明だけど、代々クジョウの乙女は当主に成ると同時にアシュラヤーの巫女を継承する事が掟だったからね。」

「…」

「勿論、ビッグファイアこと紅のガンエデン、バビル・ガンエデンの事も知っているさ。」

「何故、その話を私に…?」

「忠告されたからだよ、君の事を含めて…そのビッグファイア本人から。」

 

 

先程の表情とは打って変わり原作の彼とは似ても似つかない真面目な表情へと変わった。

 

 

「君は知っているんだろう?南極に眠る奴の正体やここ最近この世界を監視している奴らの事について。」

「大雑把にですがね、アラン・ハリスさん…いや、孫光龍さん。」

「おやおや、僕の正体もとっくの昔に看破されていたんだね。」

「ええ、正確には白のガンエデン…ナシム・ガンエデンの傘下でしたか?」

「正解…君も神の子と同類だし、真名で呼んでも構わないけど?」

「それはさておき、貴方に会ったら直接言って置きたい事があったので…」

「何かな?」

「この前、妖機人・烏賊八帯を嗾けたのは貴方の差し金か?」

「随分と…懐かしい名前が出たものだ。」

「どうなのですか?」

「悪いけどそれは僕じゃない、第一彼らは数百世紀前にオーダーによって倒されたし復活させる気も無かったよ?」

「…(光龍が関与していないと言うのなら、奴らは魔族の邪気か何かで復活したって事か?」

 

 

そうは言われても彼の性格上…

 

全くもって信用できない。

 

情報が少ない以上は半信半疑程度に留めて置こう。

 

 

「それと老婆心程度に言って置くけど総人尸解計画…辞めて置いた方が身の為よ。」

「!?」

「あれには決定的な欠陥があるからね。」

「どういう事かな?」

「もし成功したとしても南極に眠る奴らと戦えるのか?そもそもバラルの加護が地球全域まで届かないのに?」

「…それを僕が信じるとでも?」

「信じる信じないは貴方次第、私も忠告する程度だけ教えておくわ。」

「…(ビッグ・ファイアも君も神の子以上にこの先を見ているのか?」

「もしも仕掛けるのなら全力で止めてあげるけど?」

「結局は僕らにその計画を捨てろと言いたいのだろう?」

「貴方達の総意を捻じ曲げる様で悪いけど、でもね…犠牲となった同胞を思うなら別の策を考えるのもアリかと思うわ?」

「…考えておくよ。」

「じゃ、いい事教えてあげる…遥か昔の私達と共に南極の門を封印した存在は月の中で傍観しているわ。」

「ふうん、彼らもしぶとく生きてたんだ。」

「ただ穏やかではないわね、いずれ内乱が起こるのは目に見えているし。」

「何処もハッピーとは言えないね。」

「貴方も知っているのでしょう?茶番を焚き付けている存在に…」

「おやおや、あの連中もしぶといね。」

「話せるのはここまで、後は自力で辿り着いてください。」

「残念、もっと聞きたかったよ。」

「これ以上は奴らの抹消対象に入りかねませんよ?」

「う~ん、僕としては奴らを放って置くつもりはないんだよ?」

「果報は寝て待てと言ってもですか?」

「君に策があっても教えてはくれないのだろう?」

「目処前の脅威を叩くまでは今は何とも言えませんからね。」

「正確には僕らの敵かな?」

「そうとは言い切れませんよ?」

「どう言う事だい?」

「彼らは交わってしまった、いずれ変異するでしょう。」

「その変異とやらが起こればいいね。」

「起きますよ、必ず。」

 

 

ネタバレ覚悟で彼と話した。

 

これから彼がどう出るか。

 

唯のトリックスターでない事を祈りたい。

 

 

「さてと、次の本題に入ろうか?」

「…」

「僕はこのまま君をバラルの園へ連れて行こうと思う。」

「連行してどうするつもりですか?」

「君の想いを彼女の前で語って欲しい。」

「…」

「これで説得が出来なければ敵同士って事になるかな。」

「だとしても今の状態では彼女を納得させるには材料が足りない。」

「この僕の離反を含めればそうは言ってられないと思うよ?」

「どういう事ですか…!?」

「実は言うと僕は彼女に愛想が尽きてね、君に下ろうかと思っているんだ。」

「!?(え、ちょ!?」

「驚かなくていいよ、僕と四霊の超機人『応龍皇』が君の仲間になるんだ。」

「…驚く事だと思いますが?(あーっと色々とすっ飛ばしています!!」

「ここで僕を受け入れてくれるのなら…僕は君をバラルの園に連れて行かずに君を元の仲間の元に帰れるように手助けするよ?」

「拒否権はないか…」

「どうする?」

「言って置きますが、私が抱える案件は余りにも強大で凶悪なものばかりですよ?」

「まあハッピーに考えれば何とかなるよ。」

「そうですか…(そのポジティブ加減には色々と呆れますね。」

「さあ、どうする?」

 

 

物凄く先行き不安な申し出なのですが…

 

目には目をトリックスターにはトリックスターを。

 

奴を出し抜くには彼の力が必要だろう。

 

元々根は悪い人じゃないのは設定にもあったし…

 

新たな可能性を信じてみよう。

 

 

「では、絶対に虚偽なく私を裏切らないとその胸の白百合に誓えますか?」

「…誓おう。」

「判りました、今より貴方は私の仲間です。」

 

 

それなりの代償としてV・Bの花に誓わせた。

 

彼女には申し訳ないけど、彼をこのまま放置すればあの悲劇が待っている。

 

それを防ぐ為にも新たな策を使う事にする。

 

後は信じた流れに私は進むだけだ。

 

 

=続=




異例の共闘。

それは奇跡なのか必然なのか?

それは誰にも判らない。


次回、幻影のエトランゼ・第二十六話 『共闘《キョウトウ》前編』。


新たな可能性は更なる可能性を見出す。


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第二十六話 『共闘《キョウトウ》前編』


目指すは魔物に囚われし美しき島国。

そして再会する為に睡蓮は更なる戦略を立てる。

それは強大な力と共に彼らを護る影と成り果てようとも…




私が孫光龍に救助されてから更に一週間近くが経過した。

 

前回の戦闘で負傷した傷も徐々に癒えている。

 

どうやら彼ら特有の技術の御蔭らしい。

 

流石は仙人様と言った所だろうか?

 

 

******

 

 

「ここまでしてやられるとは…!」

「スクリーンのメディアに向かって悪態付いてどうしたんだい?」

 

 

彼のプライベートビーチに設置された豪邸レベルのセーフハウス。

 

そのリビングに備え付けられた液晶画面を見ながら私は苛立ちを見せていた。

 

若干動ける様にはなったが、まだまだ全快とは言えない。

 

代わる代わる変異とそれに対応出来ない自分に対しての苛立ちもあるが…

 

それに拍車を掛けているのが現在速報されている内容についてである。

 

画面下の見出しには『エーデル・ベルナル准将、大統領主任決定』と映し出されている。

 

これに関してはアカシックレコードで調べた結果、地球政府内部で大規模なクーデターが起こってしまっていた。

 

シャドウミラーの瓦解によってあのナマズ髭が奴らと手を組んでいた事が露見し、更にオペレーション・ハルパーと呼ばれる軍事クーデターを起こす準備をしていた事もナマズ髭を追い詰める結果となった。

 

本来なら封印戦争時に奴を追い込む筈だったが、エーデル・ベルナル准将指揮下のカイメラ隊と呼ばれる特殊部隊によってそれは水の泡となった。

 

言い方を変えれば手柄を横取りされたと言ってもいい。

 

今回の大地震の混乱を利用して起こされた為に未然に防ぐ事が出来なかった。

 

ホルトゥスのメンバーも各地に潜伏させている為に大規模な大隊活動が困難になってしまっている。

 

本隊との連絡が取れれば良かったのだが、黒のカリスマが出現した事によりそれも出来なくなった。

 

地球圏で普及されている通信手段がUNに関連する商品に置き換わっており、下手に連絡を取る事が出来ない。

 

原作を知る人達にはご理解して貰えるだろうが、UNを管理しているのはエーデル・ベルナル率いるカイメラ隊だ。

 

つまり連絡手段が限られてしまったのだ。

 

そして大地震によるエリア分断のせいで通信手段が制限されてしまっている。

 

注意していたとは言え、こんな状況でホルトゥスを動かす事が出来ない自分が歯痒い。

 

早急に第四エリアを解放しないとホルトゥスを動かす事が出来ないし彼らの身に危険が迫る。

 

最悪の展開が続く中で私は彼に話を戻した。

 

 

「新しく大統領になった女性…どう思いますか?」

「エーデル・ベルナルか…僕も噂程度に聞いた事があるよ、何でも『聖母』と言われている人物じゃないか。」

「聖母?聖母どころかどこぞの女狐以上に凶悪な性格の持ち主ですよ…それも何重にも重ねた厚化粧を塗りたくった顔のね。」

「随分と悪辣な解説だね。」

「これも私や隊長達を襲った奴の仕込みと思えば虫唾が走りますよ。」

「余り怒ると傷に触るよ、いくら僕らの技術で治したと言っても普通なら今でもベッドの上だからね。」

「…」

「君の怒り具合から察するにその黒のカリスマが本格的に行動を開始したと見ても?」

「ごもっともで、御蔭様でSNSでも大混乱ですよ。」

 

 

前回、レムレースの攻撃により大破したガーリオンカスタム・タイプT。

 

そのコックピットの中で無事に残っていたスーツケースから持ってきたタブレットを光龍に見せた。

 

画面に映し出されていたのは例のSNSで黒のカリスマによって書かれた文章やそれを真似る愉快犯や模倣犯の仕業のも紛れており痛い文字の羅列が続いている。

 

 

「見るに耐えない内容だね、何だいこの阿保共のお遊びは…?」

「この一連の流れも黒のカリスマの仕込みです。」

「見る限り、面白半分で奴はこんな下らない事をしているのかい?」

「ご名答です。」

「…黒のカリスマの出現に伴うSNSの炎上、模倣犯や愉快犯の出現、そしてエーデル・ベルナルの大統領就任で地球政府は更に荒れるだろうね。」

「ええ、御蔭様で私は彼らの元に戻る事が困難になりました。」

「戻らないのかい?」

「このまま混乱が進めば、黒のカリスマは自己快楽の為に更なる混乱を求めて一大イベントを行う筈です。」

「一大イベント?」

「例えばノードゥスの部隊同士の潰し合いです。」

「!?」

 

 

これが実行されれば、私達を目の敵にしている内外の敵勢力の反攻が行われるだろう。

 

この同士討ちだけはどんな事があっても阻止しなければならない。

 

ホルトゥスを動かそうにも内外の敵勢力を止める為に行動して貰っているので人手不足だ。

 

私は解決出来ない事案を一度引っ込めると話の続きを始めた。

 

 

「現在のノードゥスは今回の事態収拾の為に部隊を分散させて事に当たっています。」

「確か…例の魔族の襲撃で部隊がバラバラになっていたんだったね。」

「はい、奴が潰し合いを行う手順にはまず…地球断絶現象に伴う通信障害、そしてノードゥスのエリア解放の武勲、この二つがピースです。」

「…」

「そしてあの女狐が准将時代に築き上げたUNと呼ばれる通信機構、これを先程のピースに合わせるとどうなりますか?」

「ああ、成程…つまりUNで集めた情報を元に虚偽の報道を造り出して彼らの部隊に別々の内容を流すって訳かな?」

「その通りです、まともな人なら偽物であると気が付いてくれると思いますが…その都度、新参者や血の気の多い人が居るのもノードゥスなので何処かで衝突になる可能性が出て来ると思います。」

「だから潰し合いがしやすい訳か…奴の性格ならその後のイベントも残していそうだね。」

「恐らくは…(当然、特大級の凶悪な大イベントを仕掛けて来る。」

「君はそれを止めたいのだろう?」

「その通りです。」

 

 

正直な話、記憶持つ彼らなら止める為に動いてくれるだろうが、それをさせない為に既に内部へ毒が仕込まれているだろう。

 

問題はその毒がどう作用するかだな。

 

例のシナリオでは二分した部隊を引き合わせて『正義』と言う名の元にそれぞれの『正義』をぶつけ合った。

 

そして相寄れない者達が居た事もその衝突に拍車を掛けた。

 

視野が狭くなった彼らがどう出るかで私は今後も単独で動くつもりだ。

 

 

「成程、それで自らの行方不明若しくは戦死した状況を利用するという訳だね?」

「ええ、要は道化と言った所です。」

「それはいいとして、君…乗っていた機体が動けない事を分かってやってる?」

「勿論です、代用パーツや部品が無い以上は機体の修理は不可能…なので隠し玉の裏技を使います。」

「おやおや、随分と引き出しを持っているんだね。」

「女性は秘密で美しく着飾るものです。」

「…そう言う事にして置くよ。」

 

 

あ、そうだ。

 

アレの事も一応聞いて置くか…

 

 

「一応聞いておきますが、貴方がバラルを裏切ったとなれば『四凶』や『四罪』が動くと言う事は?」

「前者はあると言いたい、後者は旧西暦の戦いで消失したし使えない駒を彼らが復活させる事もないだろうね。」

「…」

「他の神仙達が動けない以上、本格的な行動はしてこないよ。」

「傍観ですか?」

「そうだよ、元々バラルはノードゥスに眼を掛けていたからね。」

「かつての様に自らの剣にする為に?」

「ま、彼らが早々に下る事はないと思うけど…」

「要は品定めという訳ですか。」

「かもね、それにバラルを裏切る僕には関係ないし。」

「…(本心か?それとも白を切るか?」

「君に信用して貰う証として僕も前線に出るよ。」

「!?」

「僕が君の戦う力と成れば信用してくれるかい?」

「…解りました、次の戦いでその手を貸して貰います。」

「ん、とっておきの舞台でもあるのかな?」

「ええ、少なくともあの戦場ならば貴方が多少暴れても彼らへの被害が少ないでしょうから。」

「もしかして『限仙境』の事を言っているのかな?」

「手を貸すのならその位どうって事も無いでしょう?」

「ハハッ、これは手厳しいね。(もしかして僕、マズイ籤を引いたかな?」

「では、作戦会議と行きましょうか?」

「お手柔らかに。(期待しているよ、僕の新たなガンエデンの巫女様。」

 

 

動けない今、出来得る限りの戦略を立てて置く。

 

次の再戦までに絶対の勝利を掴むために。

 

 

******

 

 

更に一週間が経過。

 

オーブに滞在中のノードゥスは前回行方不明となったATXチームの三名のMIA認定を決定し次の作戦に移る事となった。

 

まずはAnti・DC残党によって占拠されているリクセント公国の解放。

 

この件に関してはヒリュウ改とハガネの二艦で行う事になった。

 

理由はオーブ内にミスリルが追っているテロリスト集団が潜入していた事が判明した為である。

 

何度か戦闘となり、その多くが拿捕されたが…

 

幹部クラスは行方を眩ませてしまい、魔族の襲撃の事もありオーブの守りを手薄に出来ないと判断した為である。

 

その為、アークエンジェルと箱舟の二艦がこちらで待機と言う形となったのである。

 

所が…

 

待機中だったノードゥスの各戦艦に一通の電子メールが送信されてきた。

 

開封するとSOUND・ONLYの表示のメールから流麗な口調の男性の声が響いた。

 

 

『急な連絡で申し訳ない、私の名は『男爵(バロン)』…ホルトゥスのエージェントをしている者だ。』

 

 

一度再生すると機密保持の為にメールが消去されるでそのまま聞いて欲しいと付け加えていた。

 

 

『君達に残念な知らせがある、現在…君達が奪還を試みているリクセント公国は魔族の根城と化している。』

 

 

男爵の情報提供により、リクセント公国が激流のシードの根城と化していた事が判明した。

 

証拠としてリクセント公国近隣の海域と公国内部の様子が映し出された映像が添付されていた。

 

 

『我々はホルトゥスの当主より貴君らに助力する様に命令を受けている、共闘を受け入れて貰えないだろうか?』

 

 

最後に指定時間と座標ポイントを伝えるとメールは自動的に消去された。

 

メール内容のコピーを取った艦長達は待機中の各部隊を呼び寄せ、緊急会議を行った。

 

メール内容とホルトゥスのエージェントからの共闘依頼について話し合った。

 

部隊を動かすには危険と判断し少数精鋭のみで出撃し指定ポイントに向かう事が決定した。

 

判断はアクセル中尉とギリアム少佐の手に委ねられる事になる。

 

 

******

 

同時刻。

 

男爵が指定したポイントにて。

 

とある無人島の浜辺て仮面を付けた男性と部下の青年が話を続けていた。

 

仮面の男性は舞踏会で付ける様な蒼いアイマスクと青を基調とした軍服を纏っている。

 

 

「さて、彼らがここに訪れるまで時間を潰すとしよう。」

「男爵様、彼らは受け入れて下さるでしょうか?」

「安心したまえ。」

 

 

部下の不安を無くす様に男爵は仮面越しではあるが自信満々の笑みで返した。

 

 

「彼らなら必ず受け入れてくれるさ。」

 

 

そう、今回の戦いは私の罪滅ぼしでもある。

 

これは敗者と化した私が仮面を付けてまでもやり遂げなければならない。

 

風となった友よ、こんな無様な私を笑ってくれ。

 

私は二度と俗世に戻る事が出来なくてもそれを選んだ。

 

この戦いも当主が私に示してくれた償いの機会なのだから。

 

 

「そして…いずれ起こる円舞曲の演奏が始まる前に私は止めなければならない。」

 

 

=続=

 




仮面の男、男爵。

彼が率いる部隊との共闘。

そして美しき島を奪還する為に手を取り合う。


次回、幻影のエトランゼ・第二十六話 『共闘《キョウトウ》中編』。


動き出す様々な思惑。

それは一つに繋がる。



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第二十六話 『共闘《キョウトウ》中編』

語られる男爵の過去。

そして償うべき戦い。

歩み寄る絆。

絶望を覆す作戦は動き始める。




今回の話を始める前に私こと男爵の過去を少し話させて貰おう。

 

今の私が仮面の敗者として生きているのも彼らとの出逢いが遭ったからだ。

 

そして私の中に残る記憶もまた今の私を形作っているのだろう。

 

黒き記憶に触れ、そして彼らに未来を託した私が望んでもいない破滅への未来を迎えた世界の記憶。

 

それが産まれ持って受け継いだ前世の私が持つ記憶だ。

 

その結末を迎えない為に私は何度も事を起こそうとした。

 

だが、反って裏目に出てしまう。

 

その結果がリクセント公国の一件である。

 

上層部を抑えきれず、私はあの国を戦火に巻き込んでしまった。

 

私が敗者を望んだからか?

 

何も変えられないのか?

 

諦めかけたその時、彼らは現れた。

 

彼らはホルトゥスの使いと名乗り、私を助けに来たと説明した。

 

一度は疑ったが…私は例の組織による裏工作の件で死を待つ身。

 

だからと言って、ただ指をくわえているつもりはない。

 

私は部下共々死亡したと言う形で彼らに着いていく事にした。

 

そして彼らの当主代理である『ブルーロータス』に出遭った。

 

幾つか興味深い話を聞く事となった。

 

彼女の話に寄ると前世の記憶を持つ者達を総称してメモリーホルダーと呼称されている事。

 

私と同様に過去の記憶を持つ者達が独自に集まり、世界を変えようと動き始めている事。

 

そしてこの世界に例の組織が侵略を開始している事を告げられたが…

 

この話の中で一つ気掛かりな事があった。

 

それは私と同様に記憶を持つ者が複数存在している事である。

 

何故か?と私はブルーロータスに問いを投げかけた。

 

彼女はこう話した。

 

 

『当主曰く…この集約された世界に残された希望の欠片、もしも失敗すれば次はない。』

 

 

我々の記憶が希望の欠片と言うのだ。

 

そして失敗と言うのは我々が破滅の運命を覆す事が出来なければ次はないと理解した。

 

それ程までに我々の世界は危機に瀕していると言う事か。

 

 

『当主はその運命を変えるべく動いています、ですが…世界の意思の中には面白半分で人の一生を操ろうとしている者も居るのです。』

 

 

延々と続く破滅の未来を変えようとするアカシックレコードの意識集合体。

 

本来在るべき未来へ進ませようと邪魔をするのが無限力と呼ばれる意識集合体。

 

二つの意識のぶつかり合いが今も続いている。

 

そして世界の裏に潜む高次元生命体。

 

その中でも己の我欲の為に真化を遂げたのがバアルである。

 

永く続く戦いの中でバアルと呼ばれる存在達が力を強めてしまった。

 

そのバアルの力を強めてしまったのが疑似的真化を遂げた『御使い』達だ。

 

早急に奴らを鎮め、世界の均衡を正さなければ再び破滅の未来が待ち受けている。

 

陰陽は常に等しく。

 

因果関係を平等にしなければ世界は再び崩壊するだろう。

 

 

『当主はこの状況に対しバアルを根絶とまでは行きませんが、奴らを鎮め…世界の因果関係を元に戻す為に動いています。』

 

 

初回であれば唯のホラ吹き話と思われるだろう。

 

だが、私にはこれが真実と判る。

 

英知とも呼ばれる黒の記憶に触れた前世の自分の記憶がそれを物語っているからだろう。

 

だからこそ、彼女達と共に戦う事を願い受け入れた。

 

黒の記憶に取り込まれた後に起こった悲劇を食い止める為に。

 

さて、この敗者の戯言はここまでとしよう。

 

こちらが招いた客人達を待たせる訳には行かないのでね。

 

 

******

 

 

指定時刻、第四エリア内の無人島の一つにて。

 

 

「よく来てくれた、諸君らがノードゥスの使いか?」

「その通りだ、エージェント・バロン。」

 

 

無人島の浜辺で男爵とその部下、ノードゥス代表としてギリアムとアクセルが対面している。

 

 

「早速だが、こちらが渡した手紙の要件は受け入れて貰えるだろうか?」

「男爵、我々と共闘すると言うそちらの要件はこちらも了承したい。」

「元々リクセント公国の奪還はこちらも考えていた所だったからな。」

 

 

ノードゥスはホルトゥスの情報によって何度も救われた。

 

今回の要件の受け入れは今までの恩返しの意図も含まれていた。

 

 

「そちら側にも悪い知らせではない筈だ。」

「…こちらの提案を受け入れてくれて感謝する。」

「男爵、こちらで考案した作戦内容だが…」

 

 

ギリアムは前もって考案した作戦プランを男爵に提示した。

 

それを見た男爵は幾つかの作戦の要点を取り入れ、一つの作戦に纏め上げた。

 

勿論、公国に取り残されている公国関係者達の安全を最優先にする事を条件にしている。

 

 

「この作戦を成功させるには敵に奇襲を仕掛け公国外へ誘き寄せるチーム、手薄になった公国へ潜入し人質の解放と護衛をするチーム、この二つのチームが重要になってくる。」

「公国内突入に関してはこちらにメンバーの伝手がある、そのメンバーと合同で作戦を行っては貰えないだろうか?」

「判った、こちらでも選出部隊を調節しよう。」

 

 

進められる公国奪還作戦。

 

反逆の時は近い。

 

そして更に時は流れる。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ノードゥスの部隊とホルトゥスの男爵率いる部隊が公国奪還作戦を決行を開始する頃。

 

その頃、第四エリアを分断中の障壁前に向かう影。

 

それは巨大な青い龍がその巨体をうねらせながら雷雲の中を移動していた。

 

 

「確かに連中の結界が弱まっているけど、これは無茶振りすぎないかい?」

「何故です?それだけの力があるのですから…使う時に使わなければ錆付きますよ。」

「ハハッ、そう言う所は君のご先祖様と変わらないね。」

 

 

あーもしかして…

 

私のご先祖様も色々と何かしちゃった系ですか?

 

本当にうちの家系はやらかし放題してくれますよね。

 

その子孫としてツッコミを入れたいです。

 

 

「…お聞きしてもいいでしょうか?」

「ん?」

「私の先祖は…どんな方だったのですか?」

「そうだね、印象強かったのは旧西暦時代の一回目の世界大戦後だったかな…その頃の君のご先祖様は時代が時代のせいか男装の麗人として生きていたよ。」

「安定の亭主関白の男尊女卑な時代ですね。」

「ちなみに僕が手助けしたグリムズ家、当時の連中が呼び出した雀武王をちゃっかり奪って搭乗していたけど?」

「…(脳裏に仏壇の鐘の音が響きました。」

「元々、君の家系は古くからある念者の家系の中でも強念者の家系だったからね…魂を喰われる事なく使役していたよ。」

「そしてバラルと敵対した…ですか?」

「そうなるね、結局僕らが今の時代に復活せざる負えないまでに致命傷を与えてくれたのもオーダーとして戦った君らのご先祖様達だったよ。」

「怨恨…そう言う感情はなかったのですか?」

「そうだね、僕もどこか完敗したなって気持ちもあったよ…それでもあそこまで暑苦しい思いは抱けなかった。」

「そうですか…」

「さて、昔話もこの辺で。」

 

 

第四エリアを仕切る障壁の前へと辿り着いた。

 

エリアを遮る障壁、肉眼では認識できないがある程度の能力者であれば判る範囲のモノである。

 

 

「それでこの障壁、僕の応龍王の力でも壊せるらしいけど…壊したら相手にバレそうだけど?」

「どうでしょう、障壁を壊して潜入を考えている連中なら私達以外にも居ますけど?」

「成程、その連中と誤認させて潜入するつもりかい?」

「潜入どころか後追いですよ。」

「おやおや、もう潜入している輩が居るのかい?」

「ええ、自らを監査官と名乗っている連中です…どっちが監視されているのかも解らないのにね。」

「うーん、君が言うと何か企んでいる様にしか聞こえない。」

「バラルを裏切った貴方にだけは言われたくもありませんけど?」

「耳が痛いね。」

「まあ連中には少々やり過ぎな面があったのでここら辺で痛い目に遭って貰うつもりです。」

「どういう事だい?」

「連中、外宇宙の色んな所にご迷惑を掛けています…それも最悪な顛末で。」

「だから裁きを下すと?」

「私は唯の人間です、神じゃありません。」

「これは失敬。(ま、僕にすれば君も神様である事は変わりないんだけどね。」

 

 

監査官ことインスペクター。

 

正式呼称はウォルガと言う。

 

理由は明かせないが、生命の発祥の地とされる地球を監視する為に連中の上層部に当たるゾヴォーク…枢密院が地球に送り込んだ連中の事である。

 

今回はウェンドロと言う見た目爽やか美少年、中身はドロドロ腹黒我が儘ボクちゃんと言う傲慢さバリバリの司令官が派遣されている。

 

勿論、話し合いの余地なし。

 

理由は察しの通り、INと言えば画面外の皆様方なら判るだろう。

 

既に乗っ取られている。

 

時期はホワイトスターを掌握された直後。

 

恐らく、インスペクター側の彼らは気が付いていないだろうが時間の問題だろう。

 

これでホワイトスターのシュテルン・レジセイア化は確定した。

 

そして破壊された残骸がエンドレスフロンティアに流れ…

 

そこでヴァールシャイン・リヒカイトら亜種達が誕生する。

 

ヴァールシャイン達は既に倒しているので向こう側での暴走は暫くないだろう。

 

二回目があるのなら用心しなければならないが…

 

その流れがまだ来ない以上はEF関連は様子見とするしかない。

 

 

 

「話は変わりますが、機体の件…感謝します。」

「僕のコネが役に立ってよかったよ。」

「まさか、貴方がダニエル・インストゥルメンツ社と面識があるなんて思いませんでしたよ。」

「表向きは武器商人アラン・ハリスで僕は通ってるからね。」

「その縁でこうしてガーリオンの修理の目処がたったので助かりました。」

「それにしても修理と言うよりも改造までして良かったのかい?」

「元々、改修しないと機体性能が私に追いついていない状態でしたし丁度良かった所です。」

「成程、向こうから使い物になりそうにないパーツを引き取ったのはそれか…」

「パーツ自体の出来は良かったですし、後は裏技で調整すれば何とかなりましたよ。」

「彼ら、相当泣きそうだね。」

「そうですかね、使えないパーツを廃棄同然で引き取りましたし向こうの廃棄処分代を浮かせてあげたと思えばいいんですよ。」

「そう言う事にしておくよ。」

 

 

FDXチーム結成の要因となったダニエル社。

 

そことコネを持っていた孫光龍の伝手でガーリオン一機分の部品と廃棄処分予定のパーツを購入。

 

予算はとりあえず向こうが開発する予定の武装やらのシステムの発展データと引き換えで何とかしました。

 

買取の時にそのデータを作った相手に会わせて欲しいとか何とかがあったそうですが、企業秘密と言う事で誤魔化して貰った。

 

バリエーションのデータは余り露出させる訳には行かないので。

 

その後、目星を付けていた廃棄済みの工場跡地で修理と改造を開始。

 

一応、前もって作って置いたサポートメカ達を呼び出して作業を進めていたのでどうにか今回の戦いに間に合ったと言う形である。

 

本当に便利だね、このセフィーロ製のオーブ。

 

青いタヌキのポケット様様の収納力です。

 

ついでに廃棄パーツから使えそうな武装も作成。

 

このチートな発展スキルはお義父さん達に感謝するべきだろう。

 

テスラ研に居た時もリシュウ先生やジョナサン小父さんに少し教えて貰ったのもあるが…

 

こんな時に役に立つとは思わなかった。

 

PTやAMのパイロットになると同時に機体の管理や応急処置等の講義を受けるのが前提だ。

 

それを受けなければ一介のパイロットは務まらない。

 

L5戦役時の私やクスハ達は志願兵からだったので訓練を受けつつ講義を受けていた。

 

必要な知識の講義は真面目に受けるべきだね。

 

長話はここまでにして話を戻そう。

 

 

「敵の部隊構成はシルベルヴィントとドルーキン、レストジェミラにガロイカか…」

「あの数なら何処かに襲撃する予定だったのかな?」

「恐らく狙いは連合軍の各方面基地襲撃だったが…大地震の一件でそれが出来なくなったと見るべきでしょう。」

「こんな状況じゃ連中も偵察するしかないのだろうね。」

「ですが、放って置くつもりもありません。」

「叩くかい?」

「はい、このまま連中を放置するつもりもありません。」

「判ったよ、行きかけの駄賃替わりだ……彼らには僕らの相手になって貰おう。」

「了解です。」

 

 

この時、進軍中だったアギーハとシカログはその心に恐怖を刷り込まれる事となる。

 

雷雲に抱かれた巨大な龍が雷撃にて部隊を一掃したと…

 

地球に手を出すなと言う彼の忠告が現実のなるとは思わなかったのだろう。

 

だが、もう遅い。

 

お前達は天の逆鱗に触れたのだから。

 

さあ、お膳立てはここまで。

 

次は水魔の討伐だ。

 

 

=続=

 




巨大な蒼き龍はその雷撃にて海の魔物を一掃する。

それは一つの戦いの終わりでもあった。

次回、幻影のエトランゼ・第二十六話 『共闘《キョウトウ》後編』。

駆け抜けろ月下の空を。


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第二十六話 『共闘《キョウトウ》後編』

月下に金と銀の妖精は舞う。

悪魔に囚われた国を取り戻す為に。

魔族よ、お前達の目論見は全て見通されている。

その全てを天撃にて討ち貫け。


リクセント公国奪還作戦決行開始から数時間前。

 

第四エリアのとある空域にて。

 

 

*******

 

 

「侵略者の癖に弱いね…君達?」

 

 

雷雲と共に雲の間をうねりながら移動する巨大兵器。

 

かつて地球の守護者としてその力を奮った応龍の化身。

 

名は応龍王。

 

 

「まあ…君達なら力の差は歴然だと判るよね?」

「…(原作同様にえげつない攻撃。」

 

 

応龍王より放たれた龍王雷槍。

 

それは天候操作によって無数の雷撃を生み出し敵を貫く技。

 

その攻撃の前に成す術もなくインスペクターのレストジェミラとガロイカで構成された部隊は壊滅した。

 

 

「そこまでだ、アギーハ、シカログ。」

「メキボス、アンタ今まで何処に居たんだい!」

「こっちも色々とあったんだよ。」

「で、ヴィガジの奴は?」

「奴はEU方面で仕損じて先に撤退している。」

「!」

「どういう事だい!」

「前に俺が忠告しただろ、地球人の戦力を甘く見るなって?」

「…」

「その結果がヴィガジと同じ末路か…あれだけ忠告しておいたってのに。」

「…アタイ達がこんな奴らに後れを取ったとでも言うのかい?」

「この現状ではそう見るしかないだろう。」

 

 

第四エリア侵入後に私達が鉢合わせたのはアギーハ達が率いる部隊だった。

 

アギーハ達の目的は第四エリアの調査、隙あらば点在する地球の軍施設の制圧が予想出来た。

 

しかし、予期せぬ私達との遭遇によってそれも不可能となった。

 

と、言うよりもこっちに攻撃を仕掛けたので正当防衛と言う形で向こうの自滅を招いた。

 

その結果、彼女らの戦力であるレストジェミラとガロイカの部隊を全滅。

 

残っているのはアギーハ自身が搭乗するシルベルヴィントとシカログのドルーキン。

 

そして先程現れたメキボスのグレイターキンだけである。

 

 

「全く、遭遇した途端に攻撃とは…異星人と言うのはデリカシーに欠けているのかね?」

「それは同感です。」

 

 

生き残った自称リーダー達の前にインスペクターの偵察部隊を壊滅させた蒼い巨龍こと応龍皇とバリアコートで姿を隠している機体が対峙している状態は続いている。

 

 

「さて、ここまですればこちらの言い分は判りますよね?」

「黙って撤退するか、このまま自滅するか、どちらを選ぶ?」

 

 

流石に自分達の状況と敵の言葉にアギーハは痺れを切らせた。

 

 

「地球人が!一度の戦闘で勝ったからって調子づいてんじゃないわよ!」

「ああ、そうですか…この場での壊滅がお好みで?」

「そうさね、ここでアンタらを倒せば!」

「…本当に馬鹿ですね。(呆れるほどに」

 

 

シルベルヴィントのブースターを加速させ、バリアコートの機体へ突撃させる。

 

 

「…(貴方の動きは原作通りですよ。」

「なっ!?」

 

 

シルベルヴィントは高機動における戦闘では優位だろう。

 

だが、その反面防御力が格段に落ちている。

 

スピード重視に視点を置いた結果だろう。

 

参考機体がリオン系やサイバスターなだけに判りやすい。

 

 

「私も似た機体に搭乗していましたので弱点位は把握出来ますよ。」

 

 

高周波ソードで切り刻むつもりだったのだろうが、そのパターンを把握している私にはわかりやすい行動だった。

 

私は相手の突撃のタイミングの隙を突いて回避しシルベルヴィントのスラスターを破損させた。

 

 

「ア、アタイのシルベルヴィントが!?」

「貴方と話をするつもりもないのでご退場願います。」

 

 

スラスターの破損により動きの鈍くなったシルベルヴィントに更なる攻撃を仕掛けた。

 

紫闇の月輪が白銀の風を斬り裂いた。

 

 

「シ、シカログ!!」

「!?」

「アギーハ!?」

 

 

シルベルヴィントはそのまま爆散し爆炎が収まった後、現れたのはバリアコートの機体。

 

だが、その機体の手には人影があった。

 

 

「…!」

「お前、どうして?」

 

 

機体の手に乗せられていたのは爆散したシルベルヴィントのパイロットであるアギーハ。

 

所々、煤で汚れてはいるが気絶しており無事である様だ。

 

 

「そこの緑色の機体の人、この人…貴方の恋人なのでしょう?」

「…」

「今回だけだ、次は無い。」

 

 

私はドルーキンのパイロットに回収したアギーハを預けた。

 

 

「さて、こちらの力量は分かって貰えただろう?」

「ああ、お言葉に甘えて撤退させて貰うぜ。」

「…」

 

 

アギーハの回収を終えたドルーキンとグレイターキンはそのままこの空域を離脱して行った。

 

 

「返して良かったのかい?」

「あのまま倒していたら話し合いの余地もありません。」

 

 

正直に言えばINのアギーハ達の最後に同情してしまったのが本音だ。

 

もしも立場が違っていたら解り合えたかもしれないと今でも思ってしまう。

 

そう思ってしまうとスフィアが反応し、その力の影響でその時の光景が鮮明に蘇ってしまった。

 

甘いと自分でも思う。

 

これでも自重してきたつもりだが、何処かで甘さが出てしまう。

 

私にはまだ覚悟が足りないのかもしれない。

 

 

「…所でどうやって倒した機体のパイロットがあの機体のパイロットの恋人だって判ったのかな?」

 

 

当然ながら先程の行為に対して質問をする光龍。

 

私はあらかじめ考えて置いた答えを伝えて置いた。

 

 

「それは機体の動きです。」

「?」

「貴方が敵の部隊を一掃した攻撃の際にあの人達は互いに庇い合っていました、それだけです。」

「ふうん、まあ…そう言う事にしておくよ。」

「思ったよりも時間を掛け過ぎました、早くリクセント公国に向かいますよ。」

「了解した。」

 

 

二機は空域を離脱し激戦を繰り広げるリクセント公国へと向かって行った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

そして時は戻り。

 

ノードゥスとホルトゥス・バロン部隊による公国奪還作戦が開始した。

 

奇襲する部隊はオクト小隊、戦技教導隊ことゴースト小隊、スペースナイツ、EDF。

 

手薄になった公国内部に侵入し人質の確保を行うのがホルトゥスの男爵率いる部隊とギリアム少佐率いる特別救助部隊である。

 

残りは所定の位置で待機し人質救出が完了次第、敵本陣に攻撃を仕掛ける予定だ。

 

理由は公国を占領しているシードは自らの醜悪な姿に対して綺麗なモノが好きと言う趣向を持っている。

 

この為、リクセントを奪った理由も公国が美しい国である事と手に入れた国を壊してしまう事を恐れる為に自ら前線に出て来る可能性が多いにあった。

 

それを利用したのである。

 

勿論、人質や公国への被害を最小限に抑える事が出来るので今回の作戦は皇女も納得している。

 

事の顛末を一部知っているからこそ出せる作戦とその提案である。

 

 

******

 

 

「予定通り、俺達で奴らをおびき寄せるぞ!」

 

 

カイ少佐の号令を皮切りにリクセント公国を目視出来る海域へ到達。

 

敵をおびき寄せる為に攻撃を開始した。

 

 

「連中、例の魚共の他にMSやPTまで接収しやがったのか!」

「一筋縄ではいかないでしょうか?」

「今まで戦って来た連中が甘かったのかもしれねえ。」

「中尉、私達は左側の敵をおびき寄せます。」

「判った…タスク、敵が出てきたら加減しろよ!」

「了解っす。」

「ラッセル、アタシ達も少佐達に続くぞ!」

「了解!」

 

 

オクト小隊もまたゴースト小隊に続き行動を開始した。

 

 

「ラトの奴、大丈夫かな?」

「アラドじゃあるまいし、大丈夫…あの子だって私達以上に場慣れしているもの。」

「ええ、私達もラトに負けない様に進みましょう。」

「了解、姉さん。」

 

 

オーブで最終調整を終えた、アラドのビルドビルガー、ゼオラのビルドファルケン、オウカのラピエサージュ。

 

大地震前にハワイの基地でラトゥーニが稼働テストに協力し完成した機体である。

 

末妹のラトゥーニの思いが入った機体で夜空を飛翔する。

 

余談だが、ラピエサージュの原案はアクセル中尉からである。

 

 

「ノアル、バルザック、ソルテッカマンの調子は?」

「ああ、例のフライトユニットの調子も悪くないぜ。」

「今まで煮え湯を飲まされていたんだ、空さえ飛べればこっちのもんだ。」

「島に上陸するまでは油断するなよ。」

「解っているさ。」

「じゃ、僕達は先に先行するよ。」

 

 

オーブで再会したノアルとバルザック、両名とも今回の戦闘から改修されたソルテッカマンで参加している。

 

前回のソルテッカマンの利点は地上戦における高速移動と多彩な射撃攻撃。

 

その反面、フェルミオンの残量が少なくなると無防備になると言う欠点を持つ。

 

パワードスーツである為にフェルミオンを積載出来る量も限られているのだ。

 

そこで積載量の増加と攻撃範囲を増やす為に専用武装の作成を前々から検討していた。

 

そしてオーブで最終調整が終わり、完成したのがこのフライトユニットである。

 

形からするとストライクの様にエールパックを装着している姿になる。

 

飛行が可能、そしてフェルミオンの積載量が増加しているのですぐ弾切れになる心配はなくなった。

 

元々、空はテッカマン、陸はソルテッカマンの形が理想であるがラダム以外の敵の対応策としてこの様な措置となったのである。

 

そのノアル達と離れ、先に先行するブレードとエビル。

 

シンヤことエビルは兄であるブレードに話しかけた。

 

 

「兄さん、あの事を聞くつもりでしょ?」

「勿論、この戦いが終わったら聞くさ。(聞かなくてはならない、ホルトゥスに預けたミユキやフリッツの事を。」

「僕らを救ってくれた組織だから大事にならないと思うけど…二人の治療は旨く行っているかな?」

「向こうは出来得る限りの治療は施すと約束した、それを信じるしかない。」

「…そうだね。」

 

 

託した希望が光る事を祈りつつ二人の騎士は夜空に閃光を描いた。

 

 

「Dボゥイさん…俺も負けてられないな。」

 

 

その後をもう一人の弟分であるオーガンが追いかけた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱ 

 

 

陽動組の戦闘が開始ししばらく経った後。

 

リクセント公国内、城に続く地下水路にて。

 

 

「俺達、一緒に来た意味があったのか?」

 

 

地球防衛軍側より内部に潜入するチームに組み込まれたダグオンチーム。

 

そのリーダーであるエンがボソリと呟いた。

 

こんなご時世の為に彼らも対人戦闘の心得は受けていたが…

 

それが無意味になりそうな状況を見た為である。

 

 

「ふん、いくら操られているとは言え…この程度か?」

 

 

ノードゥス側より内部潜入チームへと組み込まれたシャッフル同盟のドモン・カッシュが答えた。

 

 

「ドモンの兄貴、これはやり過ぎだと思うよ。」

 

 

地下水路内に現れたAnti・DCの兵士と恐らく手を組んでいたシャドウミラーの残党兵。

 

行く手を阻む敵の部隊の中に量産型Wシリーズも含まれていたのが理由だ。

 

 

「放って置けば何をしでかすか判らん連中だ、この位どうってことないだろう。」

「そうは言うけど、地下水路の通路内がボコボコだからね。」

「…」

「まあ半分は兄貴じゃない事は判ってるからあんまり言いたくないけどさ。」

「…次は加減する。」

 

 

先程の敵部隊の兵士達が某犬○家の様なスタイルで水路に突き刺さっていたり、水路の壁にはエジプトの壁画の様に様々な人型を作っていた。

 

勿論、この惨状を作ったのは紛れもなく内部侵入チームのドモン達である。

 

相手も反撃の際に壁に弾痕を作っていたので全てこちらに非があるとは言いづらい。

 

 

「この騒ぎで敵に感づかれなければいいのですが…」

「警報装置の類は一切反応していない、恐らくはまだ向こうも気付いていないだろう。」

「ふも、ふももふもふ、ふーもふも、ふもも…ふもっふももふも。」

「えっと『リクセント内の警報装置の位置はシャイン王女からの情報より把握している、まだ反応はない…このまま警備室まで進むぞ。』です。」

「ロサ、翻訳ありがと。」

「つか、何でソースケじゃなくて隊長が着ているんだ?」

「クルツ、作戦を聞いてなかったのか?」

「いや、聞いてはいたけどよ…ボン太くんの中身があれじゃあ。」

「はいはい、そこまで。」

 

 

同じく内部突入に組み込まれたミスリル。

 

メンバーはマオ、クルツ、宗介、そして…オーブで合流したクルーゾである。

 

ちなみに今回の作戦に導入されたパワードスーツのボン太くんであるが…

 

お察しの様にクルーゾが着用して使用している。

 

理由は彼のASがオーブで起こった某モミアゲとの戦闘で使用不能となったので代用としている為だ。

 

例の如く翻訳機が故障している為、今回はロサが翻訳している。

 

 

「私は可愛いと思います。」

「ふーも、ふももっふも。」

「えっ…『ありがとう、後で俺の秘蔵コレクションを紹介してやろう。』ですか?」

「ベン、いい所だけど…そろそろ目的地に到着するよ。」

「ふもっふ。」

「『了解した。』です。」

 

 

緊迫する状況下でもいつもの調子の会話で内部突入チームは目的地へと進行していった。

 

淡々と任務をこなすロサにマオは安堵した様子で話しかけた。

 

 

「少しは元気になったようだね。」

「えっ?」

「いくら平気です、って行動しても判るものよ。」

「…」

「急にパートナーだった相手を失ったのよ、そう簡単に割り切れるもんじゃないわ。」

「すみません、ご心配をお掛けしました。」

「いいのよ、ハスミが言う様にそれも人間らしいって事なんだろうね。」

「変ですよね、機械なのに…」

「確かに変だ。」

「宗介、ちょっとアンタね…」

「だが、それがお前なのだろう?」

「私…」

「だったらお前の信念とやらを貫き通せ、ハスミならそう言う筈だ。」

「はい、ありがとうございます…宗介さん。」

「あの唐変木も良く言う様になったものね、あの子の影響かしら?」

「きっと、それが宗介さんの優しさだと思います。」

「ふうん、そう言う事にしておくか。」

 

 

宗介の精神的な成長に感心したマオと心の閊えが取れたロサは進む。

 

どんな事があろうとも前に進む覚悟を決めた。

 

ロサはその想いを胸に前へと進む。

 

 

******※

 

 

「よくも吾輩の楽園を!」

 

 

リクセント公国への奇襲に気が付き、手に入れた国を死守する為に動き出したシード。

 

 

「お待ちなさい、この国は貴方のモノではありませんわ!」

「!?」

 

 

奇襲チームと合流したハガネより出撃する金と銀の妖精。

 

 

「リクセントの皆、私戻って参りましたわ!」

 

 

スポットライトに輝く赤い装甲と紫の装甲のリオン系の機体。

 

その名はフェアリオン。

 

 

「私の国と民を返して頂きます、覚悟なさいませ!」

 

 

妖精の羽ばたきの様にふわりと飛翔するフェアリオン。

 

 

「行きますわよ、ラトゥーニ!」

「はい、シャイン王女!」

 

 

シードに向かって動き始めた二機に攻撃を開始するAnti・DCの機体。

 

パイロット達はシードによって催眠術を掛けられており、こちらを敵と認識し攻撃を仕掛けて来ている。

 

だが、敵である以上は戦わなくてはならない。

 

 

「一国の主が戦うか、それが何を意味するのか解っているのか?」

「己と他人の血を流すと言う意味で御座いましょう、その覚悟は出来ております。」

「成程、それがその機械人形の色か?」

「そう、この赤いフェアリオンはその証です!」

 

 

シードは己の問いかけでシャイン王女が戸惑うかと思ったが、覚悟を決めて戦場に出た君主を迎え入れた。

 

 

「ならば、吾輩も本気を出そう…来るがいい!小さき君主よ!」

「シャイン王女!」

「W-I3NKシステム、弾道予知!」

 

 

シードの肉体より発射された無数の超重水圧弾をシャイン王女が予知。

 

ラトゥーニがその情報を元に行動パターンを構築。

 

 

「「W-I3NKシステム、シンクロ!!」」

 

 

二機は踊る様に弾道を回避しシードへ突撃し攻撃を加える。

 

 

「すごい、あれだけの弾幕を避けるなんて…」

「ラトゥーニは兎も角、シャイン王女は初陣なんだろ?」

「それを可能としたのが、フェアリオン両機に搭載されたW-I3NKシステムです。」

 

 

プロジェクトTDのメンバーであるツグミチーフよりフェアリオンの機体説明が入る。

 

説明が長いので要約するが、シャイン王女の予知とその情報を元にラトゥーニが行動パターンを構築すると言う荒行があって成り立つシステムである。

 

だからこそ二機は『超音速の妖精』となるのだ。

 

 

「くっ、護衛の騎士達は一体何をやっておるのだ!?」

 

 

シードが語っているのは己が操っているリクセント公国を襲撃したAnti・DCの幹部、アーチボルト・グリムズとワルザック共和国よりリクセントへ公務で訪れていたワルター・ワルザックとその部下達の事である。

 

自らの護衛としていたが、他のノードゥスのメンバーによって足止めされていたのである。

 

 

「ゴルドラン、ワルターの奴の眼を覚まさせるにも!」

「ガツンとよろしく!」

「まあ、死なない程度に程々にね…」

「了解、主達!」

 

 

ワルターと因縁を持つレジェンドラの勇者ゴルドランとそれを従える三人の少年達。

 

 

「アーチボルド、よもやここで貴様に出遭うとは!」

「ライ、ここは俺達がサポートする!」

「因縁を断ち切るんだ。」

「すまない!」

 

 

そしてアーチボルドと因縁を持つSRXチームのライもまた仲間の援護で立ち向かう。

 

洗脳されてはいるが、奴の搭乗するグラビリオンは一筋縄ではいかないだろう。

 

 

 

「足止めだと!?」

「その通りだ!」

 

 

シードに攻撃を加える蒼い髭男と桃色のワルキューレ。

 

 

「貴様の様な唯の魚の化け物に俺達が負けるとでも思ったか?」

「吾輩を……化け物、よくも!!」

「なっ!?」

 

 

アクセルが偶々シードの逆鱗に触れた事で攻撃の手数が増加した。

 

 

「アクセルさん、シードは自分の姿にコンプレックスを持っているんです…あんな事を言ったら。」

「成程、地雷を踏み抜いてしまったが…だが、賭けは勝ったようだな。」

「どういう事ですか?」

「奴は怒りで周囲が見えていない、今がチャンスだ!」

「副長、いえ…隊長、指示を!」

「俺達で王女のフォローに入る、各機遅れるなよ!」

 

 

「「「了解。」」」」

 

 

 

この場にいるべき筈のゲストが不在の中で戦闘は続く。

 

 

「まさか、ライディース君とここで再会するなんてね。」

「アーチボルド!」

「おっと、動かない方が賢明ですよ。」

「まさか!?」

「ええ、シェルターに避難させたこの国の要人達は爆薬を共に隔離させてあります。」

「貴様…!」

「僕に何かすれば、ドカン!と行きますよ?」

「くっ!」

 

 

ライとアーチボルドの会話に割って入る音声通信があった。

 

 

『残念だが、貴様の手は無くなったぞ!』

「どういう事ですか?」

『貴方がお話していた爆弾は解除しました、脅迫しても何も出来ませんよ?』

「なっ!?」

『そう言う事、それとおまけがそっちに行ったから精々ボコボコにされな!』

「こんな事が!?」

 

 

宗介とロサ、マオの会話の後に何処からか狙撃されるグラビリオン。

 

 

「そんな、両腕に異常!?」

「ふもっふ!」

「ね、鼠!?」

 

 

グラビリオンの前に現れた鼠ことボン太くん。

 

 

「ふももふ、ふもっふ!(ネズミではない、ボン太くんだ!」

 

 

毎度おなじみの対AS用グレネードランチャーによる強襲を受けるグラビリオン。

 

そしてボン太くんの機動性に右往左往する事となる。

 

先程の狙撃によってメガ・グラビトンウェーブが使用不可能となった為に捉え切れないのである。

 

 

「鼠如きにこの僕が…!?」

「アートボルド、ここが貴様の納め時だ!!」

 

 

ボン太くんの援護でSRXに合体を済ませたSRXチームの追撃によってグラビリオンは大破。

 

脱出ブロックに使用されているガーリオンカスタムが出現しなかったので死亡したものと思われる。

 

そして地平線の彼方で輝く朝日の中で妖精は今宵の踊りを終わらせる。

 

 

「「ロイヤル・ハート・ブレイカー(ですわ)!!」」

 

 

要約すると『大失恋』と呼ばれるフェアリオンの必殺技がシードに向けて繰り出される。

 

そしてアンジェルクのイリュージョン・アローとソウルゲインの玄武甲弾がシードを貫いた。

 

だが…

 

 

「こんな事で吾輩の楽園は…!」

「じゃあ、君の夢を終わらせようか?」

 

 

朝焼けの空が突如曇天のへと変わり、天より太鼓の音が鳴り響く。

 

遥か昔の人々はこう語っていた『天鼓が鳴り響くのは乱神の現れる前触れ』であると。

 

 

「貴様は!?」

「お久しぶりと言いたいね、水の百邪君。」

「まさか、動き出したのか…かの者達が!」

「その真実を知る事も無く君はここで終わるんだよ。」

 

 

雷雲の海をうねりながら現れる巨大な龍。

 

 

「坊やは良い子だ、ねんねしなってね…応龍豪雷槍、ドカンと行ってみようか!」

 

 

先程のダメージを引きずるシードに逃げ道は無かった。

 

ただ周囲を巻き込む心配がない海域へその身を移動させたのが丁度良かった。

 

蒼き巨龍より放たれる雷の天撃と応龍の咆哮は奴の存在を掻き消す様に消失させた。

 

 

「吾輩の…らく、エ…ン。」

「…(せめて、静かな海の底で眠りなさい。」

 

 

私は奴の最後の姿に心の中でそう答えた。

 

シードの居た場所より出現した青い光が海域で戦闘を続けていたセイバーヴァリオンに吸収されたのを見届けた後、私達はその場を離れようと念話で会話した。

 

 

『目的は完了した、これでいい。』

『そうかい、なら…僕らもそろそろ戻ろうか?』

『ああ。』

 

 

シードの撃破と第四エリアの解放を見届けた私達はその場から撤退しようとしたが…

 

 

「待て!」

「まだ何か?」

「お前達は何故俺達に手を貸した?」

「そうだね、アシュラヤーの頼みとでも言っておこうか?」

「!?」

「僕らに関わるのはもっと先の事だけど、一応忠告して置こうかな。」

「忠告?」

「貴方達の仲間を襲ったのは『黒き天才』いや『狂気の天災』とも言える存在だ。」

 

 

 

コートで姿を隠した機体の通信から響いた電子音声で語られる真実。

 

その言葉の意味に反応する記憶を保持する者達。

 

 

「まさか中尉達を襲撃したアンノーンの事か?」

「まあ君らの仲間かは判らないけど…機体の装甲に君達の付けているのと同じのマークが入ってたしそうかなって?」

「やっぱり、キョウスケ中尉達は…」

「あの、中尉達は?」

「残念だけど、僕らが向かった頃には既に終わった後だったよ。」

「中尉…」

「こちらの調査の結果、奴が引き起こした現象で何処かへ飛ばされたのは確認したが…その後の行方はこちらでも掴めてはいない。」

「…」

「恐らくこのエリアを解放したのなら各地との通信が可能だろう、それで調査するなり連絡を取り合うなりするといい。」

「だけど気を付けるんだね。」

「奴の眼は鋭い、今後も隙を見せない事をお勧めする。」

 

 

それだけを告げると二人は転移し行方を眩ませてしまった。

 

 

「奴らは一体(孫光龍は兎も角、あのマントの奴は誰だ?」

「連中は奴の事を知っていた、恐らくは…」

「記憶を持っている、か?」

「そう考えるのが妥当だろう。」

 

 

知る筈のない情報を持つ者は記憶を持つ者。

 

若しくは記憶を持つ者より情報を齎されたのかもしれない。

 

それはどちらなのかはあの者達が知る事である。

 

ノードゥスは応龍王とマントを羽織った機体の介入によって予定が狂ってしまったが、無事リクセント公国を解放。

 

そして第四エリアの支配者シードを撃破する事に成功した。

 

残るは第五エリアと第六エリア、最深部エリア、そして地球へ着実に進行しているバルドーの対応で魔族との戦いは一区切りを迎える。

 

だが、それ以外の事にも目を向けなければならない。

 

未だ侵攻を続けるインスペクター。

 

動き出したアインスト。

 

ナチュラルとコーディネーターの争い。

 

暗躍する黒のカリスマ。

 

まだ全てが終わった訳ではない。

 

 

******

 

 

リクセント公国近海より離脱した二人は…

 

 

「もう一度聞くけど、良かったのかな?」

「既に決めた事、私は戻る訳には行かない。」

「君を決定付けた何かが彼らの中で起こっていた、それだけは理解したよ。」

「…」

「ま、無理強いはしないよ…僕も君とのバカンスをもう少し楽しみたいからね。」

「残念ですが、そう言える状況ではない様です。」

「どういう事だい?」

「後、数分でこの海域に次元震が発生します。」

「まさか!」

「ええ、これもお遊びの一環の様です。」

「…どうする?」

「私はこの『お遊び』に付き合う必要があります、貴方は以前お話した通りに動いてください。」

「了解したよ、だけど…無理はしない様にして貰いたいね。」

「安心してください、向こうでは姿を晒しても大丈夫の様です。」

「そうか、なら僕も命令があるまで気長に待つよ。」

 

 

私は彼と別れた後、迫りくる次元震に身を委ねて次の戦場へと向かった。

 

 

=続=




今世に集う、それぞれのスフィアの目覚め。

更なる次元震。

そして引き込まれる新たな世界。

次回、幻影のエトランゼ・第二十七話 『胎動《タイドウ》』。

定められた運命に抗え。


♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱


とある異星人達の会話。


「シカログ、アタイ…負けちゃったよ。」
「…」
「あんな強い奴が地球に居たんだね。」
「…」
「シカログ?」
「…」
「アタイが生きてて良かった?」
「…」
「ありがとう、心配かけてゴメンね//」


ドルーキンのコックピットの中、アギーハをシカログは抱きしめた。

ただ、彼女の無事をその手で実感している。

何かを失う覚悟が出来ていなかった、確実に自分達の勝利を妄信していた。

あのパイロットが語った様に次は無い。

本当にそうだと…シカログはアギーハの体温を感じ取りながらそう思った。


「自分のコックピットでイチャコラするのは構わねえけど、せめて通信を切ってからやってくれよ。」


蚊帳の外にされているメキボスは空しく溜息をついた。




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第二十七話 『胎動《タイドウ》』

彼女の語る『お遊び』。

世界と言う遊戯盤で行われる出来事。

それは変えてしまった事象への償い。

罪滅ぼしの代償。

過不足なく平等にする為に彼女は奔走する。


第四エリア解放から数時間後。

 

 

「では、我々はこれで。」

「ご協力に感謝する。」

 

 

ホルトゥスの男爵率いる部隊はホルトゥスの本隊からの指示で引き上げる事となった。

 

男爵は別れの挨拶を各艦長に済ませていた所ある。

 

最後にレフィーナ艦長らが男爵に質問した事から始まった。

 

 

「結局、あの機体は一体何だったのでしょうか?」

「こちらもあの機体に関しては情報を持っていない、恐らく本隊と合流すれば何か分かるかもしれないが…」

 

 

男爵より語られるアシュラヤーの正体。

 

それはホルトゥスを創り上げた存在であり、その意思を代弁するブルーロータスによってホルトゥスは行動している事が判明した。

 

だが、先程現れた機動兵器に関しては情報を彼は持っていない。

 

恐らく不在中に新規参入したメンバーではないかと男爵は推測した。

 

 

「よくある事だ、私達の部隊を含め任務中に新規加入したメンバーはいくらでも居る。」

「そうなのですか?」

「ええ、それにメンバーはそれぞれの素性を明かさない事になっている。」

「…何故ですか?」

「情報漏洩を無くす為だ、個人を特定すれば瞬く間に情報が手に入ってしまう。」

「つまり、各員のコードネーム体制とブルーロータスと言う管理者、アシュラヤーと言う司令塔が居る事で君達の組織は成り立っているのか?」

「単純だが良く出来ている。」

 

 

言葉では単純な成り立ちと答えるがそうではない。

 

ブルーロータスと言うホルトゥスの広告塔と代弁者を立てる事で敵の矛先はブルーロータスに向かう。

 

それはブルーロータスを倒せば組織は崩壊させる事が出来ると敵に認識させる為だ。

 

しかし、それだけでは組織は崩壊しない。

 

これはブルーロータス自身が囮となる事で組織を纏める真の司令官を守る為の措置だからだ。

 

つまり、ブルーロータスが居なくなっても組織を動かす事は可能。

 

司令官の影武者を何人も作ったリガ・ミリティアがその例に挙げられる。

 

恐らくはこれと同じ法則なのだろう。

 

 

「だが、情報収集能力は他の組織と桁違いである事は確かだ。」

「確かに、まるで前もって解っている様にも思えます。」

「急な状況変化にも柔軟に対応していますし…」

「それもホルトゥスの強みでもある。」

 

 

驚異的情報収集能力、迅速な対応、急な状況変化に対する行動、それらに対応する部隊と人材の配置。

 

遊戯盤の駒を決められた位置に配置するが、時には即興の踊りをする様に行動する。

 

組織を纏めるものは余程の実力者なのだろう。

 

 

「私が答えられるのはそこまでだ、これ以上は組織の意思に反するのでな。」

「いえ、少なくともこちらには有力な情報でした。」

「君達の往く道に幸あらん事を祈ろう。」

 

 

男爵は出来得る限りの情報を与え、その場を去って行った。

 

Dボゥイ達は自身の妹と仲間の無事を男爵から確認し治療を終えて地球に戻っている事を告げられた。

 

いつか何処かで再会し合流する事が出来るだろう。

 

その後ノードゥスはオーブから離港、海風が揺れるエリアを後に次のエリアへと出港した。

 

 

******

 

 

そして時間は今回の話に戻る。

 

『次元震』

 

とある平行世界で起こった次元崩壊を期に始まった現象。

 

 

それは時間と空間を越えて起こる。

 

そしてそれは数秒後、数分後、数時間後、数日後、数ヶ月後、数年後、数世紀後など…

 

様々な時と場所で発生する。

 

突然かもしれない、もっと先かもしれない。

 

だが、いずれ起こるのだ。

 

そして望もうが望まなくても、別れ、出逢い、再会の世界へと理は進む。

 

次元震とは混乱の新世界の始まりを告げる証だから…

 

 

「はぁ…」

 

 

皆様お久しぶり、ハスミ・クジョウです。

 

今回の話はここ閉鎖世界パラダイムシティよりお送りします。

 

 

「…(せっかく御洒落なBARに来てるのに未成年だから飲めないのが辛い。」

 

 

身体は十代後半、合計精神年齢五十代位の嘆きが心の中で呟かれた。

 

何故で五十代なのか?

 

前世で死んだ時、私の享年が三十代後半に差し掛かっていた為だ。

 

普通なら結婚して子供を産んで育てていても可笑しくない年齢だろう。

 

私にはそれが出来なかった。

 

愛した人の裏切りで私の中で何かが壊れた。

 

信用出来なくなった。

 

だから一人で自由に生きる事を選んだ。

 

さて、過去話はここまでにして今回の話に戻ろう。

 

 

「いや~いい酒だぜ!」

「ランドさん、ちょっと飲み過ぎでは?」

「折角の仕事終わりの一杯だぜ?」

「ダーリンってばもう。」

「ハハッ、気に入って貰えて嬉しいよ。」

「女の子にはドン引きされているけどね…」

 

 

同じく相席で酒を飲むランドとロジャー。

 

未成年と言う事でソフトドリンクで乾杯しているセツコ、メール、私。

 

酒が入った男性陣に毒舌発言をするドロシー。

 

以上が店の奥で過ごしていた。

 

 

「…(とりあえず、目的の二人には再会出来たのは良かったかな。」

 

 

私もまたドリンクを飲みながら物思いにふけった。

 

ちなみにセツコは私と同じ18歳らしい。

 

ランドさんもメールも齢が若返っていたのでこれも変異の関係かもしれない。

 

 

「そう言えば、ハスミってどこで任務中だったの?」

「配属先の独立機動部隊で各地を転々としていたの、その後に所属チームの隊長達と共にオーブ領近海で妙な機体に襲われて…」

「妙な機体?」

「機体は特機級、名称は不明でパイロットは『黒のカリスマ』と名乗っていました。」

 

 

その名前に眉を動かしたロジャーことロジャー・スミス。

 

彼もまた転生者だろう。

 

 

「黒のカリスマ?変な名前だね。」

「それじゃあ俺達が第三エリアで別れた後に襲われたって事か?」

「そうなります。」

「あの…他の人達は?」

「隊長達も私も転移らしき現象に巻き込まれて行方は分かっていないわ。」

「そう…私と同じね。」

「セツコも?」

「ええ、私もグローリースターと言うチームに配属されていたの…ここに飛ばされた時に隊長達と逸れてしまって。」

「グローリースター、たしか…独自の戦技研究を行っている月面配属チームだったかしら?」

「ハスミ、知っていたの?」

「月のマオ社に知人がいてね、その伝手よ。」

「そうだったの。」

「独特のエンブレムだったし…もしかしてと思って。」

 

 

セツコの制服に刺繍された星をモチーフとした腕章。

 

『栄光の星』を意味する部隊の名に相応しいマークである。

 

 

「それならハスミの所属しているチームも有名よ。」

 

 

交差する刀と銃、それが私の所属するATXチームのマーク。

 

本来なら要る筈のない存在であっても。

 

 

「あれは軍のプロパガンダの関係で知名度が上がっているだけよ。」

「それでも十分な功績よ、『L5戦役』でも立役者になっていた…」

「戦った相手が同じ地球人でも?」

「えっ?」

「あの戦いはエアロゲイターに洗脳された地球人が戦わされていたの。」

「そんな…」

「軍上層部はその情報で更なる混乱が予測されると判断し状況が落ち着くまでは緘口令を敷いたの。」

「そうとは知らずに…御免なさい。」

「ううん、元々その件で軍の情報開示ももうすぐ行われる予定だったの…だから心配しないで。」

 

 

BARで流れるジャズ系の音楽が響く中で手元のグラスの氷がカランと音を立てた。

 

 

******

 

 

少し今回の状況について説明させて貰います。

 

ここパラダイムシティはある日突然起こった次元転移によって切り取られた。

 

そして異空間の海を漂う事となった。

 

幸いにもシティ全域を賄える程度には物資供給を行えていたので人々の混乱はなかったそうだ。

 

だが、私達がここへ落ちて来た事によって再び混乱が訪れてしまった。

 

人々は口々に言う。

 

もしかしたら帰れるのでは?と…

 

生憎だが、今の私達にそんな術は持っていない。

 

何かしらの予兆がない限りは籠の中の鳥状態である。

 

シティで身分証すらない私達を流れ流れで助けてくれたのがロジャー・スミスだった。

 

黒いスーツでビシっと決めており、ネゴシエーターを生業としている方である。

 

うん、説得(物理)ですね。

 

昔ながらの三バカトリオ、全身包帯さん、三〇屋な声の人とバトルを繰り返して早一週間が経過した。

 

先程のBARでの打ち上げも勝利を祝してである。

 

 

「とは、言うものの…」

 

 

何の手がかりのないまま、閉鎖空間のパラダイムシティで過ごしている。

 

元の世界ではどうなっているだろうか?

 

幾つかの布石は残して置いた。

 

暴走する事はないだろうが、今のままではどうする事も出来ない。

 

判った事は転移前のセツコが第5エリアでリガ・ミリティアを始めとした連合部隊と共に行動していた事だ。

 

その中には月光号、例のセクハラ特異点、髭のガンダム、エクソダス、フリーデンなどの聞き慣れた単語を聞く事が出来た。

 

その中にも転生者達はいるだろう。

 

拙い方向に向かっていなければいいのだが…

 

不安ばかりが脳裏を過ぎる。

 

私はここで何をしているのだろう。

 

真相は掴めている、なのに何故動かない?

 

スフィアの存在を知られたくない為?

 

その力を利用される事を恐れている為?

 

確かに山羊座のスフィアはとんでもないパンドラの箱だ。

 

その使い方次第で戦局は一変する。

 

例えば、敵の戦力から点在地点に弱点を一瞬にして割り出せるのだ。

 

スフィアの存在を知られたら最後、私は仲間達の元へ戻れなくなる。

 

スフィアの威力を知った軍は総力を挙げて私を捕えるだろう。

 

それだけは絶対に避けなければならない。

 

たった数名の孤独な戦い。

 

私の脳裏に『永遠の孤独』の歌が流れた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「君達は聖戦に選ばれた存在、その共鳴が新たな選択を選ばせる。」

 

 

突如、鴉型のコルニクスを引き連れた黒い機体シュロウガが強襲してきた。

 

ランドはメールを救って貰った恩がセツコはデンゼルとトビーを仲間を襲われた怨みが戦場を混乱させた。

 

 

「二人とも、いい加減にして下さい!!」

「ハスミ、でも…!」

「二人が争ったら敵の思うツボだと言うのが判らないのですか!」

「ハスミ。」

「話し合う事は後でも出来ます、今は奴を抑えるのが先決です!」

「彼女の言う通りだ、ここで君達が争っても何の意味もない。」

「…判ったわ。」

「ああ、今は奴を止める!」

 

 

私はロジャーさんと共に二人を説得し何とかシュロウガを抑える方向に持ち込んだ。

 

 

 

「君は…?」

「?」

「そうか、そう言う事か。」

「アサキム・ドーウィン。」

「ハスミ・クジョウ、君は面白いね。」

「…同僚と同じ顔と声で言われてもピンとこないけど?」

「君はいずれ全てを裏切る魔へ染まる、その時を楽しみにしているよ。」

「!?」

 

 

まさか『夢見る双魚』のスフィアを所持しているの?

 

いや、あれは再世編で入手する筈。

 

まさか、また変異が!?

 

 

「さあ、おしゃべりはここまでだ…行ってくるといい。」

 

 

ー最悪の結末に君達は耐えられるかな?ー

 

 

そしてまた私達は飛ばされた。

 

最悪の戦闘の中で私達は覚醒する。

 

スフィアの輝きと共に。

 

痛みと悲しみと苦しみの中で。

 

その身を刻み込まれる。

 

 

=続=

 




帰還した者達。

更なる戦いと思惑。

次回、幻影のエトランゼ・第二十八話 『危機《キキ》』。

さあ、始めよう。

正史へ反逆を開始する。


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第二十八話 『危機《キキ》』

絶望へのシナリオ。

痛みと悲しみと苦しみはそれを物語る。

正義は時として悪意へと変貌する。







アサキムとの戦いは中途な結果で終わりを告げ、再び次元震に飲み込まれた。

 

そして閉鎖空間にあったパラダイムシティごと元の世界に帰還した私達。

 

それは第五エリア陥落の時であった。

 

 

******

 

 

転移後、距離の関係で救援が早期到着する可能性のある連合軍・アラスカ基地に救助を求めた。

 

その後、色々と手続きを終えて引き取られた私達であったが…

 

更なる戦いの幕開けでもあった。

 

 

『オペレーション・スピットブレイク』

 

 

その言葉が私の脳裏を過ぎった。

 

 

「まさか…『大天使』の他に『王道ではない』の人達も揃っているってどう言う風の吹き回し?」

 

 

またWの介入か、随分とゲームの駒を増やすものですね…無限力様。

 

恐らく、今回の戦いはWにおけるSEED原作シナリオの再現だろう。

 

やはりアラスカ基地はゼーレ主体のブルーコスモスの手が回っている事は予想出来たので下手な事は出来ない。

 

余りにも嫌な予感しかない。

 

あるとすれば、一つ目の巨人の名を関した戦略兵器。

 

あれの発動だけは避けないといけない。

 

今頃…ロゴスの老人連中は金儲けの会合でもしているでしょうね。

 

害悪風情の金の亡者共が、血と涙で染まった汚金をベッドにくたばってください。

 

御爺様が御存命ならそうなされたでしょうから。

 

 

「斬り裂きエド、月下の狂犬、煌く巨星J、乱れ桜、白鯨か…有名なエースパイロット様方が集結とは…」

 

 

やはり、この基地はサイクロプス以外に何かあるわね。

 

如何言う訳か、基地に保護されていたティアリー博士、アークエンジェルと共に出向を命令されたお義父さんとロサに再会出来たので色々とやらかそうと思う。

 

勿論、説教はしっかりと受けております。

 

 

******

 

 

アラスカ基地の一室にて、今後の活動方向を考える為に会議中。

 

救出された私はお義父さん達と共に新造戦艦ドミニオンへの転属命令が出されていた。

 

艦長はナタル少佐、艦長就任と同時に階級が上がったらしい。

 

例の如くあの三人悪トリオと一緒です。

 

再会したら悪態付いてたので軽く遊んで置きました。

 

異世界で人間サイズのアインストとバトっていた人間を舐めて欲しくないので。

 

如何言う訳か三人悪から『姉さん』って呼ばれる事になりました。

 

君達、私より二つ下でしょ?

 

キラは今だ発見されておらず、ずっとムウ少佐や三人悪トリオが奮闘してくれていたのでそれには感謝したい。

 

ちなみにムウ少佐の機体はオーブに救助された連合艦隊がアラスカ基地に納機する予定だったストライクの二号機である。

 

先んじて小父様にデータを渡してオーブで作られる筈だったライトニングパックを装備している。

 

そしてアークエンジェルには不足人員として『煌く巨星J』ことジャン・キャリー氏が配属となっていた。

 

置き去りフラグ確定です。

 

道中一緒だったランドさんとセツコさん、ロジャーさんはアークエンジェルが引き取る形が決定した。

 

そして四人の会話へと戻る。

 

 

「お義父さん、連絡が遅くなり申し訳ありません。」

「いや、その『次元震』が関わっていたのなら致し方ないだろう。」

「うん、ハスミが無事でよかった。」

「それでも、キョウスケ中尉とエクセレン少尉、キラを守れなかったのは…」

「ハスミ。」

「あのキョウスケ中尉らがそう簡単に倒れる筈ないだろう?」

「お義父さん。」 

「身近にいたお前なら判る筈だ、無事だと。」

「はい…」

 

 

判っている、最高の形と最悪の形で再会する事も。

 

私は自身の行方不明中に起こった出来事を話せる範囲で答えた。

 

 

「ええっ、リクセントに居たの!?」

「ゴメンネ、合流したかったのは山々だけどそっちの部隊にもうカイメラ隊から出向している人が居たから戻れなかったのよ。」

「カイメラ隊の人達がどうかしたの?」

 

 

続けてカイメラ隊の動きとアサキムの件に関して説明した。

 

 

「アサキム・ドーウィン…マサキ・アンドーに酷似した青年か。」

「恐らく、並行世界の同一人物と私は推測しています。」

「やっぱり、あのカイメラ隊の人達って悪者だったのね。」

「おまけにトンでも変態集団だから気を付けてね。」

「変態?」

「極度の女性恐怖症と変態眼鏡に色々と可愛そうな露出さん、最後にドSでドMなサディストだったかな…」

「…頭が痛くなってきた。」

「お義父さん、頭痛薬ありますよ。」

 

 

カイメラ隊の正体を知り、頭を抱えるテンペスト。

 

横から常備している頭痛薬を渡すハスミ。

 

ソファーでコーヒーを飲みながらティアリーは告げた。

 

 

「結局の所、ハスミちゃんはこれから如何したい訳?」

「…当初の目的の通り、これからも世界の破滅させる根源と戦います。」

「意思は変わらないのだな?」

「はい、それが自分の意思であり…『あの人』との約束ですから。」

「ねえ、ハスミちゃん…その前から話している『あの人』って誰なの?」

「今は話す事が出来ません。」

「どうしてもか?」

「あの人を知る事……それを誰かが知る事は私が全員の敵に回る時と承知してください。」

「それ程までに知られたくない相手なのだな?」

「はい、それがあの人と交わした約束ですから。」

 

 

あの人、ケイロンの事をまだ知られる訳には行かない。

 

記憶を持つ大尉達なら名前で感づいてしまう。

 

どうか、愛してしまったあの人を救いたいと言う自分を許して欲しい。

 

あの日、出会った時のあの人の後姿はとても寂しかったから。

 

護るべきモノを失っても立ち向かおうとした。

 

その反面、抗えない恐怖心にも襲われてもいた。 

 

そして置かれている立場による板挟みに苦悩していた。

 

だからこそ私はあの人の願いを支えてあげたいと決めた。

 

今はその結末に至るスタートライン。

 

私は負ける訳には行かない。

 

待っているがいい、黒のカリスマ…いやジ・エーデル・ベルナル!!

 

その捻じ曲がった性根を粉々に砕いてあげるわ!

 

勿論、完全に仕留めしない。 

 

奴もまた『テンシ』と対抗する為に必要なキーパーソンだから。

 

 

******

 

 

その後、色々とやらかしている間に第一種戦闘配備の放送で強制出撃を余儀なくされた。

 

機体の修理が完了した直後で良かったと思う。

 

アークエンジェルとドミニオンは基地の防衛戦線の維持の為に出撃。

 

フレイがドミニオンに乗艦したのは確認しているので拉致の心配はないだろう。

 

問題はひじきパンマンことジエー・ベイベルがランドさんとセツコの機体の修全と改造をした事である。

 

二機のパワーアップの為に致し方ないがあの顔面を一発ぶん殴りたいと思った。

 

多分、気色悪い程喜ぶと思うけど…

 

ちなみにひじきパンマンは第一種戦闘配備命令後にさっさと雲隠れしましたよ。

 

そして出撃後、基地に残留していた他の部隊も防衛戦線へ散り散りになって応戦していた。

 

相手は予想通りザフト。

 

先程の述べた作戦『オペレーション・スピットブレイク』が開始してしまったのだ。

 

ザフト側はパナマの予定だったのだろうが、史実通りアラスカへ進軍を開始したのだ。

 

 

「アラスカ基地に残っていた例のデータの回収作業後で良かったね。」

「ええ、問題はここから脱出出来るかと言う事かな?」

 

 

アークエンジェルとドミニオンが防衛線の前線に回され、他の部隊は別のエリアの防衛に周って行った。

 

たった二艦で襲撃を仕掛けて来るザフト軍を相手にしなければならなかった。

 

ザフトにとっては連合軍から強奪したイージスを除いた三機が奪い返されたのだ。

 

しかもパイロットがザフトの議会関係者の親族なら躍起にもなるのだろう。

 

今回の戦闘に彼ら三人は参加させる事が出来ないので独房入り。

 

現状で出撃しているのはアークエンジェル側からライトニングストライク、エールパック装備のストライクダガー、ランチャースカイグラスパー、ガンレオン、バルゴラ改、ビッグオー。

 

ドミニオンからレイダー、カラミティ、フォビドゥン、色々とあって譲渡されたヴァルシオン、ガーリオンカスタムが二機である。

 

合わせて戦艦二艦と十二機で進軍するザフト軍と交戦しなければならないと言う事である。

 

原作であれば無茶振りなシナリオステージに見えるだろうが、現実に起こっているのだ。

 

 

「テンペスト少佐、その機体は…」

「ああ、博士からの置き土産だ。」

「こちらにいらっしゃったのですか?」

「いや、お前と再会する前の道中でな…」

「そうでしたか。」

「博士もお前と同様に連合軍や各勢力を暗躍する存在には気が付いていた様だ。」

「…(ブルーロータス経由で情報は渡して置いたけど、流石ビアン博士です。」

「ハスミ、あの基地の地下にあったのはまさかと思うが…」

「あれはサイクロプス、発動すればアラスカ基地の周辺数千キロが巨大電子レンジになる代物です。」

「ここで私達に足止めをしろと言う命令だが、我々ごともみ消すつもりか?」

「その通りです、恐らくはゼーレが関与したブルーコスモスいえ黒のカリスマの思惑でしょう。」

「そう言う事か、ここで撤退し全滅を免れても敵前逃亡で後ろから撃たれるしかない。」

「申し訳ありません、大天使と座天使のクルー、スフィアリアクター達を救う為とは言え無茶な方へ引きずってしまって。」

「お前の無茶は前々からだろう、今更何を言う?」

「正論過ぎて何も言えません。」

 

 

私はSEEDにおける原作ルートに引っ張られつつも反逆の時を狙った。

 

それぞれが応戦しザフト軍を防衛戦線で押し留めてもいずれ疲弊と弾薬不足に陥るだろう。

 

そしてその時は訪れようとした。

 

 

「各員、何としてでも艦に敵を寄せ付けるな。」

 

 

数で推し進めるザフト軍。

 

とうとうアークエンジェルにジンが取り付き、その銃口がブリッジに向けられた。

 

その状況に逃げる者、頭を抱えて隠れる者、マリューは最後までその銃口を睨み付けた。

 

そして撃たれる瞬間、ジンのライフルを撃ち抜く機影が現れた。

 

それは青い閃光。

 

ジンの武装のみ使用不能にするとコックピットを狙わず、撃墜した。

 

アークエンジェルを守る様に現れたガンダム系の機体。

 

名はフリーダム。

 

 

『マリューさん、応答願います。』

「その声、キラ君なの?」

『はい、僕です。』

「一体、その機体は…?」

『話は後です、皆さん急いでここから撤退してください。』

「どういう事?」

『アラスカ基地内部のサイクロプスと言う戦略兵器が稼働を開始しました。』

「えっ!?」

『時間がありません、早く撤退してください。』

『ラミアス艦長、彼の話は本当だ。』

『バジルール艦長?』

『アラスカ基地にはサイクロプスが設置されており、この状況では基地ごと放棄する可能性がある。』

「ここへ来る道中でエドと言う連邦の士官の方が教えてくれました、その人達の部隊も撤退を開始しています。」

『斬り裂きエド、エドワード・ハレルソン中尉か。』

「はい、僕達が援護します…今の内に撤退を!」

『他に誰かいるの?』

「キラ、ザフトも状況を知って撤退を始めた。」

「判った。マリューさん、彼は味方です。」

『判ったわ、バジルール艦長、この空域から即離脱…それでいいわね?』

『こちらも異存はない、各員!負傷した兵員を回収しつつこの空域を撤退するぞ。』

 

 

サイクロプス発動が近づく中、アークエンジェルとドミニオンは戦闘で負傷した兵員を回収しつつ撤退を開始した。

 

中にはザフトの兵士も含まれていたが、人道的措置として救出した。

 

これに関してはアークエンジェルの独房入りしていたイザーク達が協力を申し出てくれた。

 

そしてアークエンジェルとドミニオンの離脱後、アラスカ基地はサイクロプス発動に伴い地図上から消滅した。

 

 

******

 

 

キラとそのお友達のアスランの協力もあり、無事とは言い難いが撤退する事が出来た私達。

 

そこでサイクロプス発動に関して驚くべき事が判明した。

 

サイクロプス発動の件に関しては左遷されていた筈の某真空管ハゲや某野菜人ヘア達の独断だったらしい。

 

軍内部でも彼らへの非業中傷が高まりつつあった。

 

そして、私達は修理と補給を済ませる為に北米のラングレー基地にそこから経由でノードゥスが目指している第六エリアへ向かう事が決定した。

 

第五エリア解放と共に現れた異邦人達の処置など色々と騒いでいたが、ロジャーさん達の事もあったのでそれも上へ報告書で上げて置いた。

 

宇宙でもとうとうアインストが動きを本格化しその中に変異したヴァイスリッターの姿があったそうだ。

 

今は宇宙組が応戦しているが、いずれは戦う時が来るだろう。

 

ザフト、インスペクター、アインスト、そして黒のカリスマ。

 

目覚めつつあるスフィア。

 

ランドさんは体の痛みを。

 

セツコは五感を失う感覚を。

 

私は流れ込む知識の濁流を。

 

善悪が織りなす正義の在り方を識った時、スフィアの完全なる覚醒の時は近い。

 

それはこの騒動の結末を近づきつつある証なのだろう。

 

=続=

 

 

 




自身の中で蠢く闇と憂い。

美しくも深淵へと誘う黒き睡蓮と魔性の蒼き薔薇の開花。

闇に飲まれようともその心の輝きを忘れない。

次回、幻影のエトランゼ・第二十九話 『覚悟《カクゴ》』。

大天使と座天使は暗黒の大地で繰り広げるそれぞれ正義の在り方に出遭い迷う。






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第二十九話 『覚悟《カクゴ》』


仕組まれた戦い。

罠に嵌る仲間達。

スフィアの鼓動と共に。

それは崩される。


北米ラングレー基地での補給を終えた私達。

 

アラスカ基地での一件はタカ派一派の暴走並びに同軍を巻き込む卑劣な行為として私達のお咎めは無しとなった。

 

引き続き、私達は第六エリアに向かったノードゥスを追う事となった。

 

第五エリアの件はアカシックレコードの情報で補完した。

 

第五エリアとは欧州ヨーロッパエリアが切り取られた場所。

 

その上の天空神殿から第五エリアを支配している魔族アズラエルが統治する場所である。

 

小父様と同じ名前だが全くの別人である。

 

天使の様な風貌を持つが、その在り方は魔族と言ってもいい。

 

古代で神でもないのに人間を裁いていた報いと思う。

 

だからこそ本当の光に勝つ事は出来なかった。

 

そして第五エリアでリガ・ミリティア、月光号クルー、フリーデンクルー、ミリシャ、エクソダス組、エレメント組と合流。

 

どうやら動きを見せていなかったグランナイツも第五エリアの戦闘後にノードゥスに加入したらしい。

 

日本で行動していたGGGはエリア解放毎に現れた原種と戦闘している。

 

恐らくは第六エリアで鉢合せになるだろう。

 

そして第三エリアでの一件も終わりを迎えている。

 

ただ、ガルファと機械化帝国が再び同盟を結んで月に籠城をしているのが気になる。

 

後々、合流を果たすメンバーに事情でも聞こうと思う。

 

これでノードゥスの遠征中にそれぞれが戦いの決着を着けられた。

 

勿論、救えなかった命もあった。

 

それでも前よりは救えたと思う。

 

記憶があるのだから全員救えなんて無茶振りは神様でもなければ出来ないだろう。

 

それでも出来得る事は出来たと思いたい。

 

問題はここからだ。

 

第六エリアは南米アマゾンエリアが切り取られた場所である。

 

連合軍本部のジャブローも含まれているのでどうなっているのか見当もつかない。

 

現在はオーストラリアのトリントン基地が臨時の連合軍本部となっている。

 

そして南米にはUNことUNIVERSAL NETWORKの施設が存在する。

 

一応、施設は第六エリアから外れており第4エリア解放時に元に戻っている。

 

私の不在時に例の同士討ちになる為の情報は流れてしまっていた。

 

あのひじきパンマンが遊びで出ている所を狙って孫光龍にUN管理施設に潜入して貰った。

 

勿論、改竄に改悪した情報の証拠も入手している。

 

彼とはラングレー基地で密かに合流し情報は回収している。

 

ただ、ランドさんとセツコさんの体調も思わしくない。

 

今回の獅子座のスフィアはランドさんが所持しており、その痛みは苛烈だ。

 

乙女座のスフィアは前回同様にセツコが所持しており、五感が旨く機能していない。

 

私もただでさえ溜まりに貯まったストレスが限界値を越えている。

 

もう少しだけ我慢できるだろうか…

 

自分の中の闇が花咲くその時まで。

 

 

******

 

 

「何でこんな事に…」

 

 

第六エリア到着後、戦闘を行っている反応をキャッチし急ぎ急行したアークエンジェルとドミニオン。

 

そこで見たものは踊る悪夢の再来だった。

 

どうやらノードゥス内で寄せ集めと言う部隊だった事と双方の情報の行き違いで対立しあっているらしい。

 

最悪な事に部隊に居た筈の記憶保持者達が全員いなくなっていた。

 

どうやら私と同様に『次元震』に巻き込まれ行方不明になっていたらしい。

 

どう見ても罠としか言い様のない情報と改竄映像だけで判断してしまったようだ。

 

私が危険視していた最悪の結末が今再現されようとしている。

 

 

「どうして。」

 

 

目処前で仲間と慕っていた人達が互いに銃を向け剣を向けている。

 

一部が仲裁に入ろうとしたが、逆に倒されて動けなくなっていた。

 

これを見て何とも思わないのか?

 

貴方達の仲間と言う言葉はその程度だったのか?

 

もうキレていいよね?

 

 

「ロサ、行こう。」

「うん。」

 

 

私はナタル艦長に出撃許可を貰い、仲裁役として出撃した。

 

同じく、ランドさんとセツコも出撃してくれた。

 

二人ともスフィアの影響で体の調子が良くないのに…

 

今回は私のガーリオンカスタムにロサが同乗する形で出撃した・

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「お前らいい加減にしろよ!」

「こんな事をして何になるんですか!」

 

 

ランドとセツコがそれぞれ所属していた部隊の間に入って戦闘を止めようとするが…

 

 

「貴方達は知らないでしょうが彼らは!」

 

 

カイメラ隊から出向して来たと言うレーベンが虚偽の説明をする。

 

世界を混乱させる異邦人達や地球防衛軍はこちらで管理すべきと。

 

 

「我々は彼らを止める義務があるのです。」

「それでどうするつもりですか?」

「君は?」

「元ATXチーム所属のハスミ少尉です。」

「聞いているよ、今まで行方不明だったそうだね。」

「話を変えないでください、彼らを倒してどうするつもりですか?」

「彼らを止め、こちら側に協力して貰う事が出来れば世界は平和に…」

「一方的なごり押しの平和が何になると言うの?」

 

 

私は説明に入ったレーベン少尉に論されるが虚偽である事は明白だったので拒絶した。

 

 

「貴方は彼らの味方なのですか?」

「違う。」

「なら、何故です?」

「頭を冷やさなきゃ真実は見えないとだけ言っておきますよ、顔だけ野郎…!」

「な…!?」

 

 

そして予定通り、私の機体をレーベンの機体が貫いた。

 

前もって脱出装置を発動させ逃げたので機体が破損しただけだった。

 

 

「残念です、貴方も平和に準ずる兵士と思いましたが…」

 

 

死人に口無しとでも思ったのか?

 

いい加減、こんな茶番を終わらせようか?

 

 

「念神顕現・エクリプス。」

「機神招来・エザフォス。」

 

 

怒りの限界値を抱えたまま念神と機神を呼び出す私達。

 

一部、この状況を知らないメンバーは一度足を止めた。

 

 

「ロサ、アレよろしく。」

「うん、大地の捕縛。」

 

 

ロサの魔法で生み出されるのは大地の牢獄。

 

殺気立っていた仲間達は全員そこへ放り込まれた。

 

敵と認識した相手を除いて。

 

 

「さてと、ようやく話しやすくなりましたね。」

「一体、何が…?」

「アラスカでの一件、そして各艦に残っていた改竄映像の束、うまく消去した様ですが私達の眼は誤魔化せませんよ?」

「皆さんが暴走している間にちょっとデータベースを拝借させて頂きました。」

「それで面白い事が判ってしまいましたよ?」

 

 

ロサが各モニターをハッキングしとある映像を映し出す。

 

それは第五エリアでの映像でノードゥスの地球防衛軍側の機体が同軍を攻撃している様になっている。

 

その映像に施されたフィルタリングを外すと出て来るのは全く別の映像である。

 

 

「ここまで完璧な合成映像は初めてですよ、それにUP時期はつい最近なのに一般には出回ってない。」

「恐らく、ノードゥスを混乱させる為に同行中の各艦に流していただけの様ですね。」

「なっ!?」

「UNを管理しているのは最近大統領になったエーデル・ベルナル准将、そしてお前達カイメラ隊だ!」

「よくもノードゥスの皆さんを嵌めようとしましたね!」

 

 

この台詞によって仲間達が判ったのは自分達が罠に嵌っていた事。

 

危うく仲間同士で戦い合う事になりそうだった事である。

 

 

「くそっ、あと一歩の所で!」

「レーベンさん、どうしてそんな事を!」

「エーデル准将は貴様達を邪魔と見なしたからだ、お前達の存在が准将を脅かす!」

「それがお前達のやり方か!」

「そうだ、そしてランド・トラビス…お前のスフィアは俺が貰い受ける!」

「やはり、狙いはスフィアだったのですね。」

「恐らくセツコの仲間を襲ったアサキムも彼らの仲間と思います。」

「えっ?」

「カイメラ隊のカイメラは合成生物のキメラの事、キメラは獅子、山羊、蛇、鴉が合成されて出来た生物です。」

「最初から仕組まれていた?」

「前に聞いたセツコの話、それを合わせて今はっきりとしたわ。」

「よくもトビーと大尉を…!」

「メールを救ったのもそれが狙いか!」

「可能性はあります!」

 

 

ランドとセツコも戦うべき相手を見つけた。

 

今戦うべき真の敵はカイメラ隊。

 

 

「レーベン、事を急ぎ過ぎたな?」

「全く、もう少しで倒せそうだったのにさ。」

「でも、僕らもこれで本気を出せるよ。」

 

 

他の艦に同行していたシュランのカオス・アングイスと現れたエリファスことカオス・カペル、シュロウガ。

 

そしてコルニクスを含んだ無人機の部隊が出現した。

 

レーベンは仲間達と合流し隊列を整えた。

 

 

「知ってしまった以上はここでお前達を始末する。」

 

 

彼らは負傷した仲間と艦をこのまま倒せると思ったのだろう。

 

だが、答えは否だ。

 

 

「俺の痛みは…」

「私の悲しみは…」

「…(私の知りたがりは…」

 

 

「「「この先の未来の為に!!!」」」

 

 

ガンレオンはマグナモードにバルゴラ改はグローリーへ変貌。

 

そして私達もまた極意を発動する。

 

 

「ロサ、行けるね?」

「うん、もう迷わない。」

 

 

二人なら出来る。

 

 

「「知るからこそ、その手は鈍る、躊躇いは全てを失う、迷うな、抗う事こそ未来へ繋ぐ!!」」

 

 

ー心淵の極意ー発動。

 

 

「っくううう!!?」

「あああああ!!」

 

 

心の深淵、己の心の闇と対峙する。

 

一歩間違えれば闇に飲まれ暴走する。

 

だけど、心の中の輝きを知るから出来る。

 

己の心の闇と向き合い、解り合い、溶け合う事で一つになる。

 

 

「「極意発動!!」」

 

 

エクリプスは本来の装甲は黒に染まり所々に紫が入る程度に変色。

 

装甲も鋭利な刃へと変異する。

 

エザフォスも装甲が黒に染まり所々に橙が入る様に変色。

 

装甲は重圧な鎧へと変異する。

 

搭乗者達の装いもまた変異し黒を基調とした物に変化した。

 

ハスミは堅牢な和装だったが、露出する部分が多くなった。

 

ロサは逆に装着する装甲が少なくなり軽い感じに変化した。

 

 

「まさか、闇の力を自分のモノに…?」

 

 

この光景に驚くアサキム。

 

だが、ハスミは訂正した。

 

 

「違う、これは己の闇と解り合った力だ!」

 

 

極意モードのエクリプスがシュロウガを。

 

 

「ダーリン、遠慮なしでいっちゃお!」

「おう!」

 

 

マグナモードのガンレオンはカオス・レオーを。

 

 

「貴方達を私は許さない!」

 

 

バルゴラ・グローリーがカオス・アングイスを。

 

 

「私も止めて見せます!」

 

 

極意モードのエザフォスがエリファスと対峙する。

 

コルニクスの無人機部隊は無傷だったアークエンジェルとドミニオンの部隊が応戦している。

 

戦うべき相手が判った以上、彼らは何もためらわない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻。

 

離れた場所からノードゥスの潰し合いを観戦しようとした黒のカリスマ。

 

それを盛大に邪魔したのが…

 

 

「よくも私の邪魔をしてくれたね。」

「邪魔はするよ、僕も色々と君には怒っているんでね。」

「私、君に怨みを買う事したかな?」

「逆に言わせて貰うよ、君が知る必要はない。」

 

 

孫光龍の応龍王が黒のカリスマが搭乗するレムレースと対峙していた。

 

この時の孫光龍の表情はいつもの敵対する相手を挑発するモノではない。

 

無表情を通り越した殺意そのモノである。

 

 

「君の様な中途半端な道化はいらないんだよ。」

 

 

一瞬ではあるが、光龍の脳裏にあの光景が蘇った。

 

 

(救え…なくて…ごめんな…さ…い。)

 

 

あの場所で倒れ傷ついた身体で無意識に答えた彼女のあの言葉を。

 

鉄の匂いと赤に染まった彼女の身体を抱きしめたのだ。

 

そして意識は現実に戻る。

 

 

「…早々にここから退場して貰おうかな?」

 

 

白き道化と黒き道化の戦いが火蓋を切っていた。

 

 

******

 

 

その後、カイメラ隊をを退けた私達であったが…

 

スフィアの覚醒に伴い、ランドとセツコはメディカルルーム行きとなった。

 

だが、覚醒に伴いスフィアの反作用は消えた様だ。

 

私とロサは無茶振りが過ぎたので説教を聞きながら私は点滴、ロサは疲弊したパーツ交換となった。

 

まだ、仲間達の戸惑いは消えないが話し合う時間は出来たと思う。

 

宇宙の混乱を鎮める為に止まる訳には行かない。

 

 

=続=

 

 





次回、幻影のエトランゼ・第三十話 『結束《ケッソク》』


願うのは友との絆の修復。

そしてこの先の未来だけ。


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第三十話 『結束《ケッソク》』

共に歩む足取りを止めるな。

何が正しく間違いかは言葉で心で意志で伝えよ。

『絆』はその為の意味。




少々の被害が出たものの悪夢の再来を阻止した私達。

 

前回の戦闘でカイメラ隊の悪行も晒す事が出来た。

 

が、奴らの撤退は外側にも影響するだろう。

 

しかしこれは真実を知った外側の人達に抑えて貰います。

 

そこで衝撃的なのは黒のカリスマがあの国際警察機構やBF団をも敵に回したと言う事実。

 

奴もそれがどんな結果を生むのか理解しているのだろうか?

 

………………………うん(九大天王と十傑衆双方からのダブル報復の図を想像しながら)。

 

そんな事は私に関係ないのでニラオチ程度に済ませてありますが…

 

嫌味がてらで匂わせ程度の情報通達は双方にして置いてあげました。

 

それとカイメラ隊フルボッコ中に奴と戦闘をしていた孫光龍からも『奴の機体を破壊しておいたからしばらくは泣き寝入りだろうねw』とすっごい笑顔の念話で言われました。

 

オイオイ、ボス格が何やっとるのとツッコミを入れたいが差し向けたのは私である事に変わりないので置いておく。

 

前回の暴露の件に関してはこちら側の戦闘介入前に送られていたブルーロータスからのメールにて判明した事にしてある。

 

まあ証拠はアークエンジェルとドミニオンの各艦と各機体に送られたそのメールと受信時間で何とかなると思うので余り深くは言わない。

 

内容は謎解き方式になっているが、この手の謎解きはギリアム少佐から学んでいたのでそれを利用している。

 

はてさて、ここからが問題である。

 

前回の戦闘で破損した艦並びに機体の修復作業の間。

 

私達が離れている間に起こった出来事。

 

そして向こう側で起こっていた出来事。

 

キラと私の生還の件を含めて説明会となりました。

 

 

******

 

 

修復作業に入っている者以外の人員で会議となったが…

 

流石に全員が入りきらないので各艦のグリーフィングルームに集合、そこから各艦と映像を繋いでいる状態だ。

 

ちなみに勇者達はサイズの問題で格納庫からである。

 

恐らく多種多様の視点から意見を聞きたいのだろう。

 

 

「この場に居ない者もいるが、ミーティングを始める。」

「まずはクジョウ少尉から不在時から今回までの行動を説明して貰いたい。」

「了解しました。」

 

 

私はキョウスケ中尉達と共にカガリら四名を逃がした後、黒のカリスマと名乗る人物の襲撃を受けた事から説明を始めた。

 

その際、何かの転移?に巻き込まれ…その反動でガーリオン・カスタムは大破。

 

私自身も負傷し身動きが取れなくなってしまった。

 

転移先でアラン・ハリスと言う情報屋に救われ、彼の伝手で傷を癒しつつガーリオンを修復。

 

動ける様になり、ノードゥスの部隊を合流しようとした所で再び転移?に巻き込まれ…

 

閉鎖空間に囚われたパラダイム・シティに飛ばされた。

 

そこでランド一行と再会しグローリースターのセツコ少尉、街の住民であるロジャー・スミスと出会った。

 

セツコ少尉の協力もあり、ガーリオンを完全修復。

 

日々、街で暴れる悪党風情を倒しつつ帰還の方法を模索する中でアサキムのシュロウガが襲撃。

 

シュロウガとの戦闘で再び転移に巻き込まれ、アラスカへ街ごと転移。

 

その後、アラスカ基地の救助でアークエンジェル隊と再会したものの…

 

ザフト降下大隊による奇襲に巻き込まれ、応戦したが戦略兵器サイクロプス起動に伴い基地を放棄。

 

サイクロプス発動時は敵味方関係なく巻き込まれた。

 

これを発動させたのが三輪防人元長官らタカ派一派である。

 

サイクロプス発動における離脱戦でキラ達と再会。

 

再会したキラ達と共に負傷した人達を回収しつつ基地を脱出後、ラングレー基地で補給しこの第六エリアへ赴いた。

 

第六エリアまでの移動時に例のブルーロータスのメッセージ携えた破嵐万丈氏と合流。

 

メッセージの内容から第六エリアへ向かったノードゥスが危機的状況であると判明。

 

そして部隊にカイメラ隊と言う敵の影が潜んでいる事も…

 

現場に急行後、同士討ちの乱戦状態のノードゥスメンバーを止める為に私達が先行。

 

その後、様子を伺いつつアークエンジェルとドミニオン両艦の戦力を出撃させて敵を一掃する作戦を決行。

 

カイメラ隊が本性を晒した事で罠の真実も信用性が出たのもある。

 

そして真実を知ったランドさんとセツコ少尉のスフィアが完全覚醒、二人の反作用もこれにより消えた。

 

私とロサも無事に新モードを発揮しカイメラ隊を退かせる事が出来たと説明した。

 

 

「ここまでが私の行動経歴です。」

「ご苦労、そのアラン・ハリスと言う人物は一体?」

「情報屋と言うだけで経歴までは判りません、傷の治療とガーリオンの修復する代わりに自身の護衛だけで構わないと言われた位ですから。」

「ふむ。」

「結局、私が再度の転移に巻き込まれたので彼の行方は判りません。」

「無事である事を祈ろう。」

「はい…(彼の偽名だけ出して置けばいずれ気づくでしょう。」

 

 

スフィアに関しては第五エリアである程度情報が明確になっていたので知らなかったのだ第四エリアで行方不明になっていた私だけだ。

 

そもそも周囲は知らないと認識しているが、私自身は耳にタコが出来る位にその事を知っている。

 

それが抱える闇も…

 

 

「次はキラ少尉、説明を始めてくれ。」

「判りました。」

 

 

続いてはキラの行方不明の間の経緯説明だ。

 

彼は追撃してきた黒のカリスマのレムレースではなく、アサキムのシュロウガによって撃墜された。

 

そして転移に巻き込まれプラントのコロニーが位置する近海に落とされたとの事だ。

 

発見したのはラクス・クラインの息のかかった人達。

 

今までプラントでは強硬派のザラ派と和平派のクライン派に分かれていたとの事。

 

だが、キラの親友で救援に駆けつけて来たジャスティスのパイロットのアスランより衝撃の事実が判明した。

 

ラウ・ル・クルーゼと言うザフトの士官がインスペクターへ鞍替えしたらしい。

 

これによりザフトはインスペクターの奇襲で建造中だった最終決戦兵器ジェネシスを奪われ、兵力の三割を失った。

 

ジェネシスが完成すれば地球圏のみならず、他のコロニー群や火星、木星まで攻撃が可能になってしまう。

 

現在はザフトが兵力を結集し奪還を試みているとの事だ。

 

アスランはザフトの代表者であるパトリック議長の指示で連合に停戦を受託して貰う為に使者として来たそうだ。

 

地球へ向かう道中、インスペクターの襲撃を受けてしまった為に矢も得ず新造MSのフリーダムとジャスティスで単機降下してきたとの事。

 

指示書は既にラングレー基地で仮設本部となったトリントン基地に送られているので各地でザフトとの停戦が始まっているだろう。

 

素直に応じてくれればいいのだが、それが出来ないのが世の常である。

 

捕虜となっているイザーク達についてはアスランと共にザフト側の使者と言う形でノードゥスに同行する様に指示を受けているとの事だ。

 

 

「以上です。」

「それではアスラン君とイザーク君達はアークエンジェルとドミニオン両艦の元で行動して貰いたい。」

「判りました、こちら側の要件を聞き入れて下さりありがとう御座います。」

 

 

そして第五エリアでの出来事に入る。

 

ここでは少々厄介な事が起きており、転移騒動で様々な人々が転移してきたらしい。

 

髭ガンダムこと∀ガンダムを操縦するロラン。

 

ツインサテライトキャノンのダブルXを操縦するガロード。

 

オーバーマンを操るゲームキングのゲイナー。

 

トラパーと呼ばれる物質で空をサーフィンする月光号クルー。

 

シビリアンのジロン一行。

 

時空振動弾によって飛ばされてきた特異点の二人とファクトリーの一行。

 

アクエリオンを操るDEAVA一行。

 

元々こちら側の世界に居たグランナイツ。

 

前回一緒に戦ったリガ・ミリティア、国際警察機構の大作君と銀鈴さん。

 

等々、Z組の半分などが転移していたとの事。

 

話を聞く限り、修羅場は終わった後らしく今後の戦闘で彼らの敵が出て来る事は無いだろうとの事。

 

そして第五エリアでは勇者組の飛ばされた仲間のほぼ全員が合流出来たらしい。

 

GGGで超竜神と言う勇者ロボが原種との戦いで行方不明になっていたのがつい最近発見された。

 

そろそろ腕原種と腸原種の襲撃の鉢合せの頃だろうか。

 

これは記憶保持者達が一斉に行方不明になった事が関わっている。

 

彼らは何処へ飛ばされたのか、今の私には調べる事が出来ない。

 

ただ言える事は何かの意思が関わったとの事だ。

 

未だアカシックレコードからの連絡がないまま連絡会は終わりを告げた。

 

 

******

 

 

各艦の修理にまだ時間が掛かるとの事で交代で周囲の警戒と待機の命令が下された。

 

私はロサと共に行方不明の間に加わった新たな仲間達に自己紹介を兼ねて挨拶周りに向かった。

 

カイメラ隊との戦いでキレ芸を見せた為に年少組にドン引きされてしまったが、話し合いで何とか分かって貰えた。

 

ゲイナー、ガロード、レントンの恋バナを横から聞いたり。

 

シルヴィアから念動力の件で手合わせをしたり。

 

宗介軍曹からは護衛対象の千鳥かなめを紹介して貰ったりしていた。

 

ロサは念願の光竜と闇竜に出遭い、乙女な会話が続いている。

 

GGGのメンバーとはアラスカ行きの道中で紹介を受けたらしい。

 

後にバーチャロンのメンバーと遭遇したらしたらで女の子ロボットが増える予感がしなくもない。

 

 

「かなめは陣代高校の生徒さんなのね。」

「ハスミさんは何処の高校だったんですか?」

「最終は東城学園よ、でも大学を出てたし学生生活をしたいって思って高校に通学していたかな。」

「だっ大学!?」

「旧連邦大学…今は連合大学だったかな、そこの通信課程で卒業しているわ。」

「すごい…」

「…まあ学生生活半ばで去年の幕張事件に巻き込まれて軍に入隊って事になっちゃったけどね。」

「色々と大変だったんですね。」

「生きる為と思えば何とでもなっちゃうみたいね、それにしても陣代高校か…あの人元気にしているかな?」

「あの人?」

「大貫さんって人で以前は東城学園の用務員をしていたの。」

「え?」

「あの人、元国際警察機構のエキスパートで殺伐とした空気が嫌になって学校の管理職に転職したのよ。」

 

 

「「…!?」」

 

 

「軍曹、かなめ、二人ともどうしたの?」

 

 

現在の宗介とかなめの表情はサーっと青くなり、某借金さんの借金が加算される時に流れるBGMがバックに流れる様な空気へと変貌した。

 

 

「L5戦役が終わった頃に出向先の梁山泊で紹介されてね、そこで色々とお話をした後…手合わせもしたわよ?」

「まさか…?」

「盛大に負けちゃった、凄いよね…チェンソー二刀流何て初めて見たわ。(遠い目」

「…」

「は、ハスミさん?」

「ちなみにあの人には伝説があってね、カトリーヌとかグレースって女性の名前を付けた飼育動物並びに植物に何かあったら九大天王が出張る位の暴走したって珍事が起こっていたんですって。」

「ソースケ、聞いた?」

「少尉殿、それは誠ですが?」

「詳しく聞きたいなら銀鈴さんに聞くと良いわよ、当時の暴走の現場に居たらしいから。」

 

 

だから、今後…鯉とか桜の木に何かするなよと遠回しに軍曹に注意しておく私であった。

 

 

=続=

 




暗黒の世界。

記憶を持つ者達は己の存在意義を問われる。

変えた先の未来の代償。

肩代わりの先を知る事となる。


次回、幻影のエトランゼ・第三十一話 『決心《ケツイノココロ》前編』


それは一つの道筋。




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第三十一話 『決心《ケツイノココロ》前編』

人は誰しも心に光と闇を抱える。

どちらも対等に天秤で等しく釣り合う様に。

どちらかが極端は稀。

そして心に光の闇と闇の光を持つ者。

それを持つ者は常人ではない何か。

人の形をした何かである。


第六エリア。

 

地球・南米アマゾンを中心としたエリアである。

 

だが、アマゾン特有のジャングルを見る事は出来ない。

 

ココにあるのは闇。

 

戦乱によって滅んだ街や都市の瓦礫が黒い闇の海に沈む様な世界。

 

それが広がっているのだ。

 

 

******

 

 

エリア内を探索中、敵と遭遇しつつ対処して行くノードゥス。

 

このエリアの主である闇の魔物・ネクロ。

 

奴はこちらとの戦闘を行わず、逃走を続けている。

 

道中で今まで倒してきたブレアら四人の魔族を復活させ差し向けて来た。

 

だが、一度倒した事のある相手の為かこちらが不利になる事は無い。

 

奴らを倒しつつノードゥスはエリアの奥へと進む。

 

しかし、ここで予測していた事件が発生した。

 

エジプトエリアとここ第六エリアにGGGが追跡していた原種が逃げ込んだと知らせが入った。

 

前と同じであればココに入り込んでいるのは腸原種と鼻原種の二体の筈だ。

 

GGGは協力者であるソルダートJ一行と部隊を分けて二か所の原種に対応する事が決定。

 

ノードゥスはGGGメンバーの救援に向かうチームとネクロを追うチームに別れる事となった。

 

ノードゥスの記憶保持者達が不在のまま戦いは激化する。

 

私達はネクロを追うチームに組み込まれ、奴の足取りを追跡する事となった。

 

 

「…」

 

 

配置換えで私とロサは元のATXチームへ戻った。

 

現在のATXチームはギリアム少佐が隊長代理を務めている。

 

前回も説明した通り、ゼンガー少佐と合流出来ておらず、キョウスケ中尉とエクセレン少尉はMIA、アクセル中尉は合流前に次元震で行方不明のままだ。

 

現時点でATXチームを纏める者が居なかったのでギリアム少佐が代理を務めているのだ。

 

現在、そのギリアム少佐から例の件に関して話して欲しいと強く命令されている。

 

それは今まで隠してきた私の過去の記憶に関してだ。

 

 

「クジョウ少尉、話して貰えないだろうか?」

「申し訳ございませんが、答える事は出来ません。」

「制約に関してはテンペスト少佐…君の御義父上から説明は受けている。」

「!?」

「それに俺自身にも過去の記憶とやらは持ち合わせていない、制約に当てはまらないと思うが?」

「…知ってどうするつもりですか?」

「どうするか…では、君自身はどうするつもりだ?」

「…真の敵を倒す為に私は今の道を進みます。」

「真の敵?」

「…『混沌』あるいは『破滅』あるいは『虚無』あるいは『御使い』それらを形作る者。」

「それは一体?」

「人の認識と理解を越えた先に潜む者、私が戦う相手とはそう言う存在です。」

「…(もしや…リュウセイ少尉の語った、いずれ侵略を開始する者達か?」

 

 

人は物事を認識しそれらを理解する事で知識と成す。

 

その見識すらも超える存在からあの人を大切な人達を世界を守るのが私の願い。

 

私自身がこの世界において異物で拒絶されたとしても。

 

 

「その様な存在とたった一人で戦うのか?」

「一人ではありません。」

「どういう事だ?」

「それはいずれ説明します…今は互いに道は違えど、やがて行く先は交差し結び着くからです。」

「つまり、我々が手を組む事…今はその時ではないと?」

「はい。」

「何故だ?」

「現時点で手を取り合うと先のカイメラ隊と同じ状況に成り得るからです。」

「志同じくする者を一つに纏めてはならないと?」

「その通りです、こちらの手の内が判れば敵の目標が絞れてしまうからです。」

「だからこそ我々が手を取り合うのは早すぎると言う事か。」

「申し訳ございません、私が現時点で伝える事が出来るのはここまでです。」

「済まない、時間を取らせたな。」

「いえ、ご理解頂きありがとう御座います。」

 

 

ギリアム少佐、お願いですからお義父さんを余り精神的に苛めないで欲しいです。

 

私の我が儘に付き合わせているのは解っています。

 

だから、その時が来るまでそっとしておいてください。

 

過剰な情報漏洩は周囲を混乱させるだけですから。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

合流と無事だった記憶保持者達での会議が行われていた。

 

現在無事なメンバーは宗介、万丈、ロジャー、キラ、アスランの五名である。

 

 

「お久しぶりです、皆さん。」

「キラ君も無事で何よりだよ。」

 

 

帰還したキラとその友人のアスラン。

 

二人とも記憶を所持しており、アスランに関しては記憶を持っていても慎重に動いていたとの事。

 

色々と手を回そうとしたが、上官であるラウ・ル・クルーゼの事もあり下手に動けなかった事もある。

 

今回の血のバレンタイン、世界樹攻防戦、ヘリオポリス崩壊など一通りの混乱はホルトゥスによって阻止されてしまっているので余り憂いはないのだろう。

 

 

 

「キラ、無事で何よりだ。」

「宗介、あの…他の皆さんは?」

「その事だが…」

 

 

第五エリアの主、アズラエル討伐後。

 

突如発生した次元震により記憶保持者達が巻き込まれ消失。

 

宗介自身は瞬兵と洋の咄嗟の判断で免れたそうだ。

 

巻き込まれた内の二人、D兄弟はGGGのオービットベース付近へ転移。

 

転移後の同時刻に発生した機界七原種との戦いに巻き込まれたとの事だ。

 

そしてラダムの刺客、テッカマンアックスと交戦。

 

道中、色々とあり彼の助力により融合した七原種の特殊シールドを打破。

 

スターガオガイガーとキングジェイダーの協力攻撃により七体の内五体を浄解する事に成功した。

 

が、テッカマンアックスはこの戦闘でクリスタルが破損。

 

彼の脳髄に寄生したラダム獣に関してはマイクサウンダーズ達の新ディスクの効果で除去された。

 

この新ディスク使用はぶっつけ本番だった事もあり後遺症など諸々の検査も含めてオービッドベース預かりとなった。

 

 

「…と、言う訳だ。」

「あの…凱さんとJさんも僕らと同じ様に記憶を持っていると言う事でいいんですか?」

「確認は取れている、L5戦役中もアムロ大尉達が動けない俺やGGGの獅子王凱にメッセージを送ってくれていた。」

「こうして聞くと記憶を持つ人達が集結し始めていると考えてもいいのか?」

「かもしれない。」

「僕の様に偶然…いや、意図的にこちら側に辿り着いたのもあるからね。」

「僕もL5戦役頃からブルーロータスに情報を提供して貰っていたが、ここまでの規模になるとは思わなかったよ。」

「様々な戦いの記憶を持つ者が集結し始めている…僕らが過去の世界で戦ったカリ・ユガの時の様な事が起こり始めているのかな?」

「多分な、若しくはジスペルの件もある。」

「改めて聞くと前世の僕らの戦って来た相手や僕らの知らない数々の戦い、それらが集約し始めていると思うよ。」

「ルイーナやフューリーの出現はキョウスケ中尉達から予期されているが、今の所ザ・データベースの姿は見えていない。」

「能々考えると僕らが前世で戦って来た相手って相当危険性の高い組織や集団ばかりですよね?」

 

 

キラの発言に他の四人は無言と化した。

 

先の様に前世で戦って来た敵がこの世界に出現する可能性が多く出て来たのだ。

 

ただでさえ、現在はインスペクター、アインスト、原種、ラダム、イバリューダー等々。

 

どんなに避けてもいずれ戦わなければならない組織は数多くある。

 

 

「確かに、転移して来たミリシャやフリーデン一行、エクソダス組、月光号クルーと一緒に彼らの敵も転移して来ている可能性がある。」

「…中でもコーラリアン達の出現だけは無いと願いたいね。」

 

 

コーラリアンの単語に青ざめるキラとアスラン。

 

あの鮮明に残る光景は思い出したくないのだろう。

 

 

「話を変えよう、以前ギリアム少佐からの連絡で僕が調査していた人物についてだが…」

「調査していた?」

「この艦に乗艦している人物、名前はハスミ・クジョウ君についてだ。」

「ハスミさんですか?」

「あの、アサキムを完膚なきまでに蹂躙したパイロットですね。」

「公式の記録の他に何かあると思って僕なりに調べてみた所、彼女にはとんでもない繋がりがあったよ。」

「繋がりですか?」

「彼女の先祖がエルザム少佐の先祖と同じくオーダーのメンバーだったのは知っているね?」

「それはキョウスケ中尉から聞かされています。」

「そこで…ガンエデンの話をしたいと思う。」

「ガンエデンってナシム・ガンエデンとゲベル・ガンエデンの事ですか?」

「そう、その二つのガンエデンの他にもう二体のガンエデンが存在したらしい。」

「もう二体のガンエデン!?」

「つまり、ナシムとゲベルが存在している可能性があれば…この世界にガンエデンは四体存在する事になる。」

「一体、何処からそんな情報を!」

「ガンエデンに最も関わりのある人物から直接教えられたよ。」

「関わりのある人物?」

「…孫光龍、彼本人からだ。」

「あの人が!」

「僕も最初は驚いたよ、何故彼が僕に接触して来たかは判らない。」

「彼は一体何を?」

「彼は『勝手に調べるのは構わないが彼女の邪魔だけはしないように』と忠告をして去って行ったよ。」

「彼女の邪魔ですか?」

「ああ、恐らくナシム…イルイ・ガンエデンの関する事だと僕も最初に思ったがそれとは違うらしい。」

 

 

万丈は光龍の忠告が誰からの言葉であるか不明だと説明した後、話の続きへと入った。

 

 

「これはギリアム少佐から直接依頼された事でね、僕はL5戦役後に地球各所でガンエデンに関係する伝説を調べていたんだ。」

「その結果、四体のガンエデンが存在する事が判明したという訳ですか?」

「そう、伝承によると白のナシム、黒のゲベル、残りの二体は紅のバビル、蒼のアシュラヤーと呼ばれていた様だ。」

「バビルにアシュラヤー。」

「バビルに関しては今は説明出来ない、相手が悪すぎる。」

「では、アシュラヤーは一体?」

「その情報をギリアム少佐に伝えた所、アシュラヤーに関して拙い事が判明した。」

「拙い事?」

「L5戦役時、梁山泊でハスミ少尉がBF団に拉致された事がある。その時十傑衆の一人がハスミ少尉がアシュラヤーに選ばれたと発言していたとの事だ。」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「それじゃあ…!」

「既に彼女が接触しているのであれば、蒼のガンエデン…アシュラヤー・ガンエデンの巫女は彼女と言う訳だ。」

「彼女が…!?」

「確かに強い強念者である彼女なら可能性はありますが…」

「ただ、これにはまだ続きがある。」

「続き?」

「このガンエデン達は古き時代に『御使い』、あの喜びのアドヴェント達から銀河を護る為に戦っていたらしい。」

「そんな事が…!」

「恐らくこの集約された事象の世界で過去にガンエデン達が戦っていたのが『御使い』もしくは『バアル』だった可能性もある。」

「正直、スケールが大き過ぎて追いつきません。」

「そのガンエデンとは一体?以前も説明を受けていますが自分にはどうも理解が。」

「後で説明するよ、とにかく彼女には十分注意しておいた方が良い。」

「敵かもしれないと?」

「それもあるが、イルイの事も含めて彼女がアシュラヤーに取り込まれる可能性もある事を危険視した方が良いね。」

「彼女、敵に回したくもない程に強くなりましたからね。」

「ましてや、戦闘経験が乏しいイルイとは違い…彼女はL5戦役を生き抜いた実力者だ。」

「つまり取り込まれたら最後、僕らで止めるのは至難という訳ですか?」

「最悪、そう言う事だよ。」

「本人に問いただそうにも彼女は遠回し程度に助言するばかりかはぐらかしている。」

「それは彼女にある制約が設けられているからだよ。」

「制約?」

「その為に僕らが記憶を持つ者である以上、彼女から直接話を聞く事は出来ない。」

「例の話したら宇宙崩壊の件に関わる事ですか?」

「そう、その要因でもある。」

「それならどうやって情報を?」

「記憶を持たないモノに情報を与えて代役に話を行って貰えばいいだけの事さ。」

「それが遠回しの助言ですか?」

「正解だよ。」

「それでも話せない事もあると?」

「恐らくは僕ら以上に今後の混乱に関して彼女は知っていると思う、確かな証拠はないけどね。」

 

 

話の最中に第一種戦闘配備のアラームが鳴り響く。

 

どうやら標的のネクロを発見したらしい。

 

彼らは奴を倒して今も戦い続けているGGGの救援に間に合うのだろうか?

 

 

=続=

 




人の心の闇。

闇の牢獄でそれは問われる。

次回、幻影のエトランゼ・第三十一話 『決心《ケツイノココロ》後編』

闇の中の光を見つけよ。


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第三十一話 『決心《ケツイノココロ》後編』

昏き闇の底で問われる。

何がしたいのか?

その理由は?

偽るのは止めるべき?

だからこそ語る時なのだろうか?


先程GGG救援チームと別れ、発見したネクロを追撃していた私達だが…

 

突如、私達を含めた数名がこの暗黒の海へ落とされてしまった。

 

残ったメンバーは追撃場所にてネクロとネクロ配下の下級魔族のエレによって阻まれてしまっている。

 

交戦する仲間達の姿を最後に私の意識はブラックアウトした。

 

 

******

 

 

光も届かぬ暗黒の海の底で私達は眼を覚ました。

 

落とされたメンバーは私ことハスミ、ロサ、万丈さん、キラ、アスラン、ロジャーさんである。

 

各自の機体は動くようだが、闇雲に行動せず固まって態勢を立て直した。

 

 

「皆、無事かい?」

「こっちは大丈夫です。」

「それにしてもここは一体?」

「周囲は闇ばかり、余りいい状況じゃない事は確かだね。」

 

 

万丈の声掛けに各自が応対する。

 

 

「ここは何かの異空間ではないでしょうか?」

「異空間?」

「はい、以前私達が第二エリアで戦ったガープも根城に結界の様なフィールドを形成していました。」

「もしもネクロが結界を張ったのであれば、同じ様な気配がありますし。」

「それが感知出来ないので全く別の何かとしか言いようがなくて…」

「ふむ。」

「ここがネクロの創り出した異空間でないと推測すると一体誰が?」

「まさかアインスト?」

「それはないわ、奴らの気配は覚えているし…それらしい気配は今の所感じられない。」

「どちらかと言うと澄んだ気配だよね?」

「ロサの言う通り、ここは余りにも澄み切った気配しか感じられない。」

 

 

アインスト空間とはまた違った純粋とも言える気配。

 

余りにも不純物が入っていない様な澄み切った気配。

 

それは生物が住まう事を許さない様な空間とも言える。

 

どんな生物でも若干の不純物を取り入れる事で生体を維持している。

 

人が酸素を取り入れ、生きる為に徐々に肉体を老化させる様に。

 

金魚が塩素を抜いた不純物混じりの水の中で生きる様に。

 

どちらかが多くても少なくてもいけないのだ。

 

それは陰陽の考えにも捉えているのだろうか?

 

だが、ここは一度見た事がある場所。

 

ここは…

 

 

 

「そう、ここは黒の英知の中。」

「黒の英知!?」

「どうして貴方がそれを!」

「それはこっちのセリフ、どうして貴方達が黒の英知について知っているの?」

「それは…」

「では、こちらも聞こう。」

「万丈さん。」

「ハスミ・クジョウ君、君は何者だ?」

「何者か…しいて言うなら私は異物でしょうか。」

「異物?」

「何者にも該当しない、異物。」

「君が異物と言う理由は?」

「私は知り過ぎているから、この世界の事や行く末の先々を…いずれ現れるであろう脅威の存在をね。」

「つまり君は既にサイコドライバーの域に達している、だからこそアカシックレコード通して知っているのか?」

「サイコドライバー?」

「強力な力を持った念動力者が達する域、万物の記憶を司るアカシックレコードにアクセスする事が出来るそうです。」

「だから黒の英知を知っていたのか?」

「恐らくは、前世でアカシックレコードを介する事が出来るのはイルイとルアフ位と思っていましたが…」

「ハスミ君、君はサイコドライバーでアカシックレコードを通して黒の英知の存在を知った、それが答えで合っているかな?」

「半分正解、半分不正解です。」

「半分不正解?」

「不可抗力とは言え、黒の英知に触れてしまった貴方達には話す事が出来るのでご説明しましょう。」

「ギリアム少佐の話していた君の制約条件を僕らが満たしたと?」

「その通りです、万丈さん。」

「では、聞かせて貰おう…君の知る情報とやらを?」

 

 

ええ教えますよ、今知るべき情報だけはね?

 

 

「まずは貴方達は逆行ではなく転生者で間違いありませんね?」

「逆行?」

「自分自身の意識が過去若しくは未来の同一人物の中へ戻ってしまう現象を逆行と言います。」

「確かに僕達が視た未来と今の状況はかけ離れている…」

「逆に転生の場合は同一人物若しくは全く別の人物として転生し同じ人生若しくは時系列が変わった人生を送るパターンが多いです。」

「他にも憑依や成り代わり等がありますが、特に説明する理由もないので省きます。」

「先ほどの転生の説明が何か関係があるのか?」

「はい、私もまた転生者ですが…貴方達とは違う世界から転生してきました。」

「違う世界?」

「私は…この世界を物語と称する世界からの転生者です。」

 

 

私は貴方達を空想上の物語として生み出した人々が住まう世界からの転生者。

 

それはある意味で創造主と同じ世界からの転生者を意味する。

 

だからこそ事の成り行きと今後起こり得る可能性と必然性の事象を知っている。

 

 

「僕達が物語の存在…?」

「そんな事があり得るのか?」

「確かに在りえるのかも知れない。」

「僕らの世界が物語を称される可能性はあった、かつて多元世界を巡って来た僕らならその可能性に行き着くことだってあり得たんだ。」

「それがハスミさんの生きていた世界では当たり前に起こっていた?」

「空想上の物語としてなら今の状況のフィクションはいくらでもあったわ。」

「ハスミ君、それがあったからこそ君はL5戦役で数々の奇跡を起こせたのか?」

「…そうかもしれませんね。」

「DG事件の早期終結、ブルーコスモスの活動停滞、犯罪組織の施設摘発、起こり得る危機の予知、そしてL5戦役の最終決戦における架け橋も君の差し金なのか?」

「半分は、もう半分は記憶を持つ人達が繋いだ奇跡です。」

「…」

「私は助言しただけに過ぎません。」

 

 

もう少し話すタイミングを伸ばしたかった。

 

けれども、彼らが真実に辿り着いてしまった時点でもう言い逃れは出来ない。

 

だからこそ、この空間で出来得る限りの布石を残して置く。

 

 

「だからってそんな…」

「そんな事ですか?」

「ロサ。」

 

 

今まで会話に入らず、口を閉ざしていたロサが話しかけた。

 

 

「私、あの時ハスミに助けて貰わなかったら皆さんに会う事もこうして稼働している事も出来ませんでした!」

「助けて貰った?」

「昔の私はDGのコアユニット制御用のAIでした。」

「DG!?」

「訳あって私はアイドネウス島で暴走してしまい、その場に居たキョウジさんやハスミにDG細胞を感染させてしまいました。」

「ロサの言う事は本当よ、但しその時のロサはガイゾナイトと言う外宇宙から飛来した寄生型鉱物生命体に寄生されていたの。」

「感染しているのに暴走を止められなかった私をずっとハスミは励ましてくれた、大丈夫、必ず助けるからって。」

 

 

そして私は救われた、私にロサと言う名前と新しい身体と共に新しい道を歩み始めた。

 

 

「ハスミのした事は無駄じゃないです!」

「ロサ、大丈夫…解っているから。」

 

 

機体越しではあるが、泣き始めてしまったロサを私は抱きしめた。

 

DGの経緯を知らないロジャーは静観。

 

他の三人はロサの叫びを聞き続けた。

 

 

「DGの暴走原因は一通り知っている、この子はただ差し伸べてくれる手が無かったから暴走を続けたの。」

「差し伸べる手?」

「誰だって理由も判らずにただ消えろだけでは納得しないでしょう?」

「つまり…彼女にもGGGの勇者ロボ達の様に自我があるからですか?」

「そう、私は理由を知っていた…だからこそ必ず助けると決めた。」

「君はそうやって暴走し続ける可能性のある人物達を救い続けたのか?」

「先程話した通り、私は情報を与えたにすぎません…それを元に成し遂げた人達こそ感謝されるべきです。」

「…」

「これは私の独り善がりのエゴかもしれません、それでも誰かの救いになるのなら私は今の行動を続けます。」

 

 

私はそう決めた。

 

生まれ変わる時にあの場所で。

 

誰かに後ろ指を指され様とも。

 

 

「それでも力及ばず…救えなかった命は数多くありました。」

「君がそれを全て背負い込む必要はない、君はこれまでも出来得る事をやって来たのだろう?」

「フレイやナタル少佐、トールを救ってくれたのも貴方なのですか?」

「そうなるかな、遠回しだけどあの三人組も助けられたし。」

「クロト達の事も?」

「L5戦役の頃に根回しをしてね、あの子達も自分の道を自分の歩む事が出来る。」

「どうして彼らを?」

「彼らもブルーコスモス主体の施設…ロドニアの施設に引き取られていたから。」

「ロドニア!?」

「そう、オーブに居るステラ達もあの施設に囚われていたの。」

「そうだったのか…」

「最初はラトゥーニの…スクールの子達を救いたいと思って調査をしていたら偶然そこに行き着いた。」

「それで根回しをして救出した訳だね。」

「はい、ステラ達が今後共に戦うかはあの子達次第、その時まで今は普通の事をさせてあげたいと願ったわ。」

「あの…シンに記憶は?」

「残念だけど思い出していないわ、時期に覚醒すると思う。」

「成程、僕らの前世の記憶も時差による覚醒という訳かい?」

「あくまで私の推測です、詳しくは教えて貰えませんでした。」

「僕らの記憶はアカシックレコードによって目覚めさせられたと言う訳か…」

 

 

アカシックレコードは数々の世界に散った希望をこの最後の世界に集約させた。

 

ここで失敗すれば後は無い。

 

ただ永遠と絶望の世界が続くだけ。

 

そうバアルの望んだ支配の世界が産まれる。

 

 

「ハスミ君、最後に聞かせて貰えないだろうか?」

「何でしょうか?」

「君は新たなガンエデンと関わりがあるのか?」

「残念ながらありません、私もガンエデンはナシムとゲベルの二体と思っていましたし。」

「そうか…(つまりもう二体のガンエデンは何かの理由で生まれたと言う事か?」

「アシュラヤーに関しては選ばれたと言う事は知っていますが、私には呼び声の様なモノは感じられないのです。」

「呼び声?」

「正確にはガンエデンの意思に呼ばれると思って頂ければ。」

「ナシム・ガンエデンもそうだったのか?」

「前世の私にはそう言う風に見えましたね。」

「見えた?」

「感覚で言うと監視カメラの映像を覗いている様な感じです。」

 

 

監視カメラから覗いた様に。

 

様々な主人公の眼から視た様に。

 

物語の舞台となった情勢から視た様に。

 

戦いの場である世界から視た様に。

 

それらを綴った文章から紐解いた様に。

 

鮮明に造られた映像から視た様に。

 

私は見る事、聞く事、プレイする事で貴方達の物語をこの世界(SRW)を知った。

 

 

「SRW、それが僕らの世界の物語の名前か?」

「はい、幾多の可能性が集約した世界の物語。」

 

 

数々の戦いの果てに産まれた可能性の未来が描かれた世界。

 

時に破滅、時に悲しみ、時に苦しみに苛まれた世界。

 

それでも諦めずに前に進む事を教えてくれた物語。

 

前の世界で兄さんが幼い私と遊ぶ為に一緒にやってて、お母さんによく怒られたっけ。

 

それでも兄さんと一緒にテレビの前でプレ○テ弄ってたな。

 

お母さんが『一緒に遊ぶのは良いけど、女の子の遊びもしてやってね。』って話しても止められなかったな。

 

もうあの世界での私の名前も思い出せないのに。

 

きっと前の世界の自分の名前を忘れてしまったのは私が未練を残さない為かな。

 

 

「アシュラヤーの事は今後私に何かのアプローチがあると思います。」

「出来れば何事もないと良いけどね。」

 

 

それは出来ない。

 

ナシムは封印戦争の過ちを繰り返す可能性がある。

 

その時は私が止めると約束した。

 

幼い姿のイルイを何処まで説得出来るか判らない。

 

それでもあの過ちを繰り返させる訳には行かない。

 

 

「ハスミさん、僕達はこの空間から出る事は出来ないんですか?」

「残念だけど…これに関しては黒の英知の意志次第、こちらから何かをする事は出来ないの。」

「つまり、勝手に元の空間に戻るまで待つしかないと言う訳か…」

 

 

私の秘密の一部を話し終えた後、この黒の英知が創り出した異空間から脱出出来ないかとキラが話すが…

 

これに関しては黒の英知の意思が決める事で決定権はこちら側にはないと話した。

 

黒の英知に触れた人間はその絶望によって堕ちる筈だが、彼ら記憶保持者達は希望の欠片の為にその被害を受けなかった様だ。

 

 

「ネクロに関しては勇者達が対処法を知っている筈だから悪い方向には行かないと思うけど…問題はGGGの方ね。」

「ハスミ君、こちら側とエジプトエリアに現れた原種の正体が判るのかい?」

「はい。」

 

 

エジプトエリアに出現したのはギザのピラミットに融合した腕原種とスフィンクスの像に融合した胃袋原種。

 

こちら側に潜入した原種はモアイ像と融合した鼻原種とマヤのピラミットに融合した腸原種。

 

どちらともゾンダーメタルプラントを精製し現地の観光客をゾンダー化させようとしている。

 

今回は双方共に観光客が居る様な状況ではないので邪魔者排除と考えた方が良い。

 

だが、この戦闘には問題がある。

 

 

「この戦闘でGGGの超竜神が復活し木星のザ・パワーで撃龍神とシンメトリカル・ドッキングで幻竜神と強龍神に特殊合体を成功させ双方の原種を倒す事に成功します。」

「…」

「逆にこの戦闘が切っ掛けで原種側にザ・パワーの在処が木星にあると知られてしまいます。」

「成程、それで原種は木星に移動していたのか…」

「奴らの監視端末にちょっかいを掛けて貰える様に情報を流しましたが、何処まで防げるか不明です。」

「そんな奴がいたのか?」

「GGGの面々は最後までその存在を知りませんでしたけどね。」

「そこまで細かく情報を知るとなると君の能力は人前に出せないね。」

「ええ、その為に何処にでもいる普通の人間を演じていました。」

「だから制約があるにしろ僕らにも正体を明かす事が出来なかったという訳か。」

「何処かの世界にも私の様な存在が送られた様ですが、どれも失敗に終わっています。」

「失敗した?」

「その世界の住人との接触方法が悪かった、本人が暴走した、行動する前に消された等……理由は色々です。」

「その…理由は聞かないでおこう。」

「…話しにくそうだからね。」

 

 

もっと詳しい事情を話す事は出来ない。

 

余りにも事の顛末が酷過ぎるので。

 

私でさえ呆れている理由があるのだ。

 

察してくれた万丈さんやロジャーさんには感謝しきれない。

 

 

「兎に角、君はその能力に関しては事情を知るメンバー以外には秘匿のままの方が良いだろう。」

「万丈さん、やはり…アクセル中尉達にこの事を話しますか?」

「皆には僕が旨く説明しておくよ、君は危険が迫ったら必要な情報をくれるだけでいい。」

「判りました。」

「他の皆もそれで頼みたい、ハスミ君がこれ以上重荷を背負う必要はない。」

 

 

万丈の説明に対し他の三人も了承する。

 

 

「ハスミ、これでいいの?」

「うん、あの人達なら信じられるから。」

「ハスミがそう言うなら、私も信じる。」

「ありがとう、ロサ。」

 

 

それから黒の英知の異空間から抜け出せるまで会話が続いた。

 

これからの事。

 

ホルトゥスの事。

 

ホルトゥスに関してはブルーロータス本人に情報を与えているだけで組織の所載は不明と説明しておいた。

 

能力でも詳細を知る事は出来ないと付け加えてある。

 

アカシックレコードでも検索不可能の事例もあると認識させる為だ。

 

私は一部だけ教えた。

 

今はまだ全てを語る事は出来ない。

 

多分、万丈さんなら察しているだろう。

 

本当にゴメンナサイ。

 

 

******

 

 

その後、私達が空間から出られたのは戦闘後だった。

 

周囲には敵の罠と説明し納得して貰った。

 

黒の英知の情報を今の仲間達に教える事が出来ないからだ。

 

ネクロは倒され、こちらのGGGの戦闘も無事に終わりを告げたとの事。

 

見たかったイベント見逃しました。

 

そしてエジプトエリアの方にクロガネクルーが現れ、共に原種を撃退したとの事。

 

いつの間にか隊長はダイゼンガーに乗り換えていたのでこっちのイベントも見逃しました。

 

初『刃馬一体』見たかったです。

 

そして次の戦いは再び私達の部隊を二手に別れさせる事となった。

 

アースクレイドルでの決戦とベルターヌ内部のコアへの進軍。

 

戦いの最終決戦は近づきつつあった。

 

 

=続=

 




咆哮する赤と青の鬼神。

己の信念を掛けて雌雄を決する時は来た。

次回、幻影のエトランゼ・第三十二話 『大地《アースクレイドル》前編』

斬り裂け二対の斬艦刀よ。


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第三十二話 『大地《アースクレイドル》前編』

地の底の揺り籠。

護るべき者への志の違い。

その心に問え。

何をすべきか?




私達がエリア解放戦を行っていた頃。

 

クロガネクルーは独自の行動を行っていた。

 

エルザム少佐らの調査で中立地帯であるアースクレイドルがAnti・DC、今まで姿を見せなかった鉄甲龍、アマルガムの同盟に占拠された事が発覚した。

 

理由はベルターヌ化現象のドサクサに紛れてアースクレイドル内の何者かが奴らを招き入れた事で起こった結果だ。

 

これは何を隠そうマシンナリーチルドレンの開発者であるフェフ博士である。

 

野放しに出来ない状況の為、部隊を再び二つに分けて行動する事となった。

 

主軸となる部隊から説明する。

 

アースクレイドル代表のソフィア博士が内部に捕らえられているのでクロガネクルーはアフリカエリアの戦線に入る事は確定。

 

第六エリアから魔族の本拠地となっている内部コアへは勇者チーム。

 

この二つの主軸となる艦に私達の部隊が割り振りされる形である。

 

戦力が多い分、二手に分かれても問題ないと結論が出た為だ。

 

大体の割り振りは決まっている様なものなので続いての説明に移ります。

 

アースクレイドルルートへはクロガネ、ハガネ、ヒリュウ改、アークエンジェル、ドミニオン。

 

内部コアルートへは箱舟、第五エリアで合流した異世界メンバー。

 

先の戦闘で合流したGGGは内部コア組に組み込まれている。

 

そして転移後にGGGと行動していたD兄弟、極東防衛に組み込まれていたスーパーロボット組はアースクレイドル組に移動した。

 

未だ飛ばされたままの残りの記憶保持者達の行方が掴めない以上、下手な行動は出来ない。

 

出来る事ならイレギュラーな事象介入が起こらない事を祈りたい。

 

 

******

 

 

内部コアルート組と別れて数時間後。

 

元第二エリアことアフリカエリアへと到着した私達。

 

アフリカ海岸でクロガネと合流し目的地であるアースクレイドルへと向かった。

 

その道中で突入前の作戦会議が行われた。

 

 

「…(やっぱり、アースクレイドル周辺の砂漠に地雷が仕掛けられているのは原作と同じか。」

 

 

アースクレイドル潜入において、エルザム少佐達の調査結果から説明が始まった。

 

アースクレイドル周辺の砂漠に無数の機雷が設置されており、アースクレイドルの周囲を鉄甲龍の戦闘メカとAnti・DCの艦隊が防衛している形である。

 

内部は恐らくマシンナリーチルドレンやアマルガムの部隊が網を張っていると推測していいだろう。

 

問題はSRXチームからリュウセイが欠けている事、マサキの不在、アクセル中尉とキョウスケ中尉もまた行方が不明のままだった。

 

RシリーズがSRXに合体出来ない、サイバスターのサイフラッシュによる敵機殲滅が不可能と言う事態である。

 

この戦い、彼らが不在のままで進めろと言う事なのだろうか?

 

結局、原作と同様にクロガネが地中潜航でアースクレイドルに侵入、残りの艦が陽動へ回る事となった。

 

不安が脳裏を過ぎようとも私達は前へ進むしかない。

 

そして作戦会議は終了し、作戦開始時刻まで各自待機となった。

 

アースクレイドル攻略に際して私はガーリオン・カスタムからガーバインへと乗り換える事となった。

 

理由は数々の戦闘で乗機のガーリオン・カスタムをボロボロに酷使した為である。

 

何度修理をしても既に機体スペックが私に追いついておらず、何度も戦闘で不具合を見せていたのもそのせいだとティアリー博士に話をされた。

 

せめてもの形見としてガーバインにストライク・アキュリスを受け継がせた。

 

このガーバイン・クリンゲで戦う。

 

念神エクリプスと機神エザフォスは話し合いの結果、私達の奥の手として温存する事になった。

 

出所が出所なので正式な運用指針が確定するまで余り姿を晒さない方がいいとの判断だ。

 

 

『ハスミ。』

「お義父さん。」

 

 

コックピットで待機していた私に通信を送るテンペスト少佐。

 

 

『ギリアムの件だが、済まなかった。』

「いえ、あの少佐の事ですから何時かはバレると思っていました。」

『そうか。』

 

 

あのパイロット技能で予知能力所持のギリアム少佐の尋問から逃げられる筈もないと思いますので。

 

元仮面総統は伊達ではないですか…ね。

 

 

「…問題は黒の英知の意志が姿を見せ始めた事です。」

『例の絶望的未来を指し示す記憶だったな?』

「はい、記憶保持者達はその意志への耐性を持っているので悪い方向には堕ちないと思いますが…」

『耐性を持たぬ者はそうではないと?』

「はい…お義父さんには元々私が念動力で精神防御壁を敷いていますのである程度の精神汚染は防げると思います。」

 

 

正直に言えば不測の事態に置いての措置だ。

 

お義父さんを巻き込んだ以上、何かの妨害があると予測した私はそれなりの防御策を敷いた。

 

いずれ戦うであろう『喜びのアドヴェント』ら御使いへの対策を兼ねている。

 

これは私が出来るせめてもの対処策だ。

 

 

『護っていると思えば、お前にはいつも守られているな。』

「お義父さん。」

『大丈夫だ、お前の思いを無駄にはしない。』

「はい。」

 

 

作戦開始時間が迫る中、会話も程々に通信を切って出撃準備に入った。

 

私はパイロットスーツから首に掛けていたペンダントを取り出した。

 

以前EFにてケイロンと交換したペンダントである。

 

本来はあの人が付けていたサークレットだったが、EFにおける旅で破損してしまった。

 

縁あって私が修復してペンダントとして作り直したもの。

 

ヴァールシャイン・リヒカイトとの最終決戦の前夜。

 

互いに生きて会おうと交換しあったのだ。

 

彼には私が持っていた形見のペンダント。

 

私は彼の破損したサークレットから創り出したペンダント。

 

何時か何処かで再会する時まで。

 

 

「来たる日までどうか待っていてください……陛下。」

 

 

あの地で巡り合ったその時、私は貴方の元へ参じましょう。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ハガネ、ヒリュウ改、アークエンジェル、ドミニオンから各機体が出撃。

 

アースクレイドル奪還作戦が開始した。

 

 

 

「ATXチーム各機へ、他の部隊が敵を足止めしている間に我らはアースクレイドルへ潜入する。」

 

 

「「「「「了解。」」」」」

 

 

キョウスケとアクセルが不在のATXチーム。

 

再び隊長として戻ったのがゼンガー少佐である。

 

 

「ブリット、お前の成長ぶりを見せて貰うぞ。」

「了解。」

 

 

弟弟子に当たるブリッドに。

 

 

「クスハ、どんな事があろうとも恐れるな。」

「はい。」

 

 

超機人の操人であるクスハに。

 

 

「ラミア、己の決めた道を歩め。」

「了解でありんす。」

 

 

人の心に目覚めたラミアに。

 

 

「ロサ、その真っ直ぐな想いを忘れるな。」

「了解です。」

 

 

人と共に歩む事を選んだロサに。

 

 

「ハスミ、彼らを頼んだぞ。」

「了解です、ゼンガー隊長。」

 

 

大地の揺り籠に囚われている希望を視たハスミに。

 

ゼンガーはそれぞれに声を掛けた。

 

 

「行くぞ!!」

 

 

一方地上では。

 

 

SRXチーム、戦技教導隊のハガネ隊。

 

オクト小隊、イルム中尉の新生PTXチームのヒリュウ改隊。

 

フリーダム、ジャスティスを中心としたアークエンジェル隊。

 

例の三人悪トリオのドミニオン隊。

 

そして第一エリアで奮闘したスーパーロボット部隊。

 

マジンカイザーを筆頭としたマジンガーチーム。

 

グレンダイザーも合流していた為、ベガ星連合軍と交戦していた可能性がある。

 

真ゲッターを中心としたゲッターチーム。

 

こちらも百鬼帝国製の機体が追従していたので離脱者が出たと思われる。

 

九州エリアで活躍していた鋼鉄ジーク。

 

そしてZシリーズでおなじみのスーパーロボット組もこの第一エリア組と共に合流していた様だ。

 

続いて鉄甲龍絡みでゼオライマー。

 

第三エリアで共に戦ったラーゼフォンと合流したライディーン。

 

第四エリアで共に戦い続けたミスリル。

 

日輪のダイターン3。

 

それが今回の作戦に参加したメンバーである。

 

この場にフリーデンのメンバーやミリシャ、シビリアンの彼らは不在だ。

 

もしもこの場に彼らが訪れていたのであれば、あの光景を思い出してしまう。

 

前世でアースクレイドル間近で御大将の月光蝶でズタボロにされたシナリオを…

 

当時はポ○ステ様を拝んでしまった位です。

 

 

「…(記憶がないにせよ、緊張感のないおしゃべりな事で。」

 

 

戦闘開始後、周辺の敵機を破壊しつつアースクレイドルへの道を切り開く。

 

道中、緊張感のない会話も多々あり。

 

流石に溜息をつきたくもなったが…

 

一応、同級生のよしみで言わないで置く。

 

甲児はさやかとマリアの取り合いの喧嘩に巻き込まれ。

 

竜馬もまたそれに近い状況に巻き込まれていた。

 

 

「…(問題は秋津マサトがどう出るかか。」

 

 

アースクレイドルへ近づく中、今回の戦いは彼の出生についても絡んでいるだろう。

 

例の力で次元連結システムの基礎となった記述の出所が判明した以上。

 

恐らく奴が生きていると確信した。

 

あの子を救う為にも奴を野放しにするつもりはない。

 

次元連結システム=クロスゲートとはよく言ったものですよ。

 

その内、次元力の一件でも絡んでくるだろう。

 

その時は腹を括る覚悟をしなければならない。

 

 

******

 

 

「ゼンガー!」

「奴は俺が引き受けた!」

 

 

アースクレイドルの頂上付近で斬り合う巨大な剣。

 

ダイゼンガーとスレードゲルミルが刃を交えたのだ。

 

 

「ウォーダン・ユミル!」

「ゼンガー、この先に…メイガスの元へ貴様達を行かせはせんぞ!」

「メイガスだと…もしや。」

「…行く末は我らの刀が答えるだろう。」

「ならば、押して参る!」

 

 

クロガネがアースクレイドルへ到達し、その外殻を超大型回転衝角にてこじ開け。

 

ゼンガー隊長が追撃してきたウォーダン・ユミルのスレードゲルミルを抑えている間。

 

私達はアースクレイドル内部へ潜入し潜入部隊は先に最深部へと向かった。

 

その道中、私とロサだけは別行動を取らせて貰った。

 

理由は不快な気配をアースクレイドルの別区画から感じたからと説明しておいた。

 

事前に侵入後の指揮を執るエルザム少佐から了承を得ているので敵前逃亡ではない。

 

そして一番その気配が近いエリアに移動し侵入を続けた。

 

作戦開始前に配布されたアースクレイドル内部のフロアマップが正しければ彼らが囚われているのは研究施設のエリアだ。

 

私達はそのまま研究施設に続く搬入路を進んでいた。

 

 

「この先の様ね。」

「ハスミ、さっきの話は本当なの?」

「ええ、間違いなく彼らはこの先に囚われている。」

「まさか舞人さんとガインさん、ブラックさんがAnti・DCに捕まっていたなんて。」

「恐らくはアマルガムか例の犯罪シンジケート経由でしょうね、舞人達が第五エリアで起こった次元震で散り散りになったのは知っていたけど…」

「ハスミ、もしかしたらガインさん達は…」

「彼らの超AIが奴らの制御化に置かれている可能性も否定出来ない。」

「!?」

 

 

私はロサに冷たいとは思ったが、私なりの結論を答えた。

 

Anti・DCやアマルガムらが絡んでいる以上、舞人達の生命が無事であるかは最悪の結果を含めて考えた方が良い。

 

奴らは本気を出せば、人の命など考えもしないだろう。

 

今までの奴らの行動がお遊びと言って良い程の規模だった。

 

そして追い詰められた者はその牙を剥く。

 

私は彼らの行動パターンが判っているからこそ判断した。

 

理由とすれば…

 

この状況下に置いて、私の中である言葉が思い浮かんでしまうからだ。

 

『悪夢のオンエア』

 

それはガイン達にとって屈辱的な出来事。

 

その言葉は舞人達の物語でガインが操られてしまうと言う出来事を記録した話のタイトル名である。

 

 

「ハスミ、私…私ね。」

「ロサ?」

「舞人さん、ガインさんとブラックさんを私と同じ目に合わせたくない。」

「…判っているわ。」

「だから、そうなったら…止めて見せる。」

「貴方だけじゃないわ、私と二人で…」

「いや、四人だ。」

 

 

こっちで単独行動に移れば来ますよね…

 

 

「今の話を聞いていたのですね、ギリアム少佐、テンペスト少佐。」

 

 

こちらの跡を追って来た、ギリアム少佐のゲシュペンスト・タイプRVとテンペスト少佐のヴァルシオン。

 

 

「ハスミ、すまん。」

「いえ、テンペスト少佐のせいでは…むしろ気になっていた事が明確になったので安心もしました。」

「気になった事?」

「ギリアム少佐、貴方が持つ予知能力は『数多の未来の可能性の中で、その時点で最も有力な未来を垣間見る事』が出来るで合っていますね。」

「!?」

「でなければ、特殊なジャミングを使って移動している私達を追う事は不可能の筈です。」

 

 

通信越しであるがギリアム少佐の顔色が少し変化したのを感じ取った。

 

予知能力の一件はテンペスト少佐に話していなかったので驚きを隠せていない。

 

 

「ギリアムに予知能力…だと?」

「分類するならシャイン王女が『不測の事態と危険察知の予知』、ギリアム少佐は『有力な未来線の予知』ですかね。」

「ハスミ少尉、それもアカシックレコードからの情報なのか?」

「半分は…残りは私なりの解釈です。」

「…」

「ギリアム少佐、今は余計な詮索をしている暇はない筈です。」

「判った、では少尉…君は戦列を離れて何をしようとしている?」

「囚われた希望の欠片を拾いに行く事とこの大地の揺り籠に隠された闇を知る事です。」

「闇だと?」

 

 

広がりつつある闇。

 

そしていずれ現れるであろう悪意から世界を護る為に。

 

私は知らなければならない。

 

この先に隠された闇を。

 

こんなゴタゴタをするつもりで部隊から離れた訳じゃない。

 

少しこちらの手の内を晒して置こう。

 

敵ではない、でも味方でもない。

 

私はどちらにもなれない半端ものだから。

 

 

「ハスミ少尉、君は一体何者だ?」

「キョウスケ・ナンブ、アクセル・アルマー、リュウセイ・ダテ、マサキ・アンドーと同じく私も転生者です。」

「君が転生者!?」

「但し、キョウスケ中尉達とは異なります。」

「異なる?」

「私は貴方が『実験室のフラスコ』と呼ぶ世界を造り出した存在と同じ世界からの転生者だからです。」

「!?」

 

 

実験室のフラスコ。

 

私なりの解釈で言うならこの世界観の事。

 

私はその世界観を造り出した人達と同じ世界に居た存在。

 

ただ何処にでも居る。

 

その物語が好きなだけの一般人。

 

唯のオタク、唯のマニア、唯のファン、唯のモノ好き。

 

私はその内の一人。

 

 

「こうなってしまった以上、アカシックレコードの契約に基づいて話せる事は話します。」

 

 

美しくも残酷で。

 

醜くも慈悲で。

 

ただパフォーマンス的な感覚で創られた世界。

 

この世界に生きる事となった私が行おうとしている事がどんなにエゴであるか。

 

私は語った。

 

それは絶望だったかもしれない。

 

それでも希望はあると言う事を。

 

知って欲しかったから。

 

 

=続=

 

 




山羊の面を被る悪魔は語る。

淀み始めた闇は噴き出し始めた。

だからこそ止めなければならない。

次回、幻影のエトランゼ・第三十二話 『大地《アースクレイドル》後編』

大地の底で希望は降り立つ。



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第三十二話 『大地《アースクレイドル》後編』

求めた未来に進む為に。

知り得る事を口に紡ぐ。

それが開示すら許されるもので無くても。

真実を追い求める事を止める事は出来ない。

それが山羊の宿命ならば。


私達は目的地である研究施設があるエリアへ移動しながら話を続けた。

 

 

「それが真実だと言うのか?」

「その通りです、ここに隠された闇はそれだけ深いのです。」

「コーディネーターの遺伝子研究が別の組織でも広がっていたとは…」

「数十年前に起こったバイオハザードで壊滅したコロニーメンデルの生き残りが様々な機関にその情報を売り渡したのが事の発端でした。」

 

 

過去にアカシックレコードで調べた事件がある。

 

キラとカガリの生まれ故郷であるスペースコロニー・メンデルで大規模バイオハザードが発生。

 

今世では住民の多くが避難出来ずに死滅。

 

生き残ったのは赤子だったキラ達と数名の人々だけだったそうだ。

 

その生き残りの中にメンデルで遺伝子研究を行っていた科学者達も含まれていた。

 

問題はその生き残りの中に木原マサキが居た事だ。

 

元々、木原マサキはアイドネウス島の研究機関で次元連結システムと遺伝子研究に携わっていた。

 

だが、彼の研究には犠牲が伴った為に研究機関内で徐々に孤立していった。

 

後に木原マサキはEOTの研究機関を去り、鉄甲龍で秋津マサトを含めた八卦衆と幽羅帝のクローン受精卵と八卦ロボを造り出した。

 

最終的に自らが殺された後も含めて幾つかのトリガーを残して。

 

そのトリガーが今回の問題点で厄介な一件であるが、私が助言する事は出来ないので止めて置く。

 

 

「その情報がこの先の研究施設に眠っていると?」

「はい、木原マサキの研究に手を貸していた人物がここでも暗躍している事を知った私はその情報を求めてここに来ました。」

「その者の名は?」

「アルテウル…アルテウル・シュタインベックです。」

「アルテウル?」

「確か、グライエン・グラスマン氏の補佐官をしている者だったな。」

「今は…ですかね。」

「今は?」

「奴の正体はユーゼス・ゴッツォ、L5戦役でマイやカーウァイお義父さん達を操っていた存在です。」

 

「「!?」」

 

「あの時、ホワイトスターで倒したのは奴の複製でした。」

「では、奴はL5戦役後も地球に潜んでいたと言う事か?」

「そうです…私も危うくアラスカ基地で消されそうになりましたよ。(半分は黒のカリスマのお遊びだけど。」

「ハスミ少尉、もしや木原マサキの次元連結システムとは…」

「はい、ユーゼスが話していたクロスゲートパラダイムシステムの副産物です。」

「やはりか…」

「私も最初は目を疑いましたが…奴が生きている以上、可能性はあると思いました。」

 

 

ユーゼスは地球に潜伏し自らの研究を完成させる為にその分野の優秀な科学者に情報の一端をばら撒いた。

 

そして自身にとって有益な情報が出るのを待っていた。

 

撒いた種をから作物を収穫する様に撒いた種を手に入れた研究員からその命と研究結果を刈り取ったのだ。

 

 

「その様な絡繰りが…」

「ちなみに奴はニブハル・ムブハル大統領特別補佐官とも繋がっています。」

「…私はもう何も驚かんぞ。」

「ハスミ少尉、その件に関しては…」

「記憶を持つキョウスケ中尉達なら仲間内で話していると思いますが、今の話はこの場に居るテンペスト少佐、ギリアム少佐、ロサにしか話していません。」

「…そうか。」

「どの道、この事は後に判明する事なので先取り情報と思ってください。」

 

 

後の封印戦争で嫌と言う程、奴らと関わる事になる。

 

マサキ経由でビアン博士にもこの事は伝わっていると思うし、悪い様にはならないと思いたい。

 

でなけれはODEシステムの開発中止がされる筈もないので。

 

私は何処までも中途しか出来ない。

 

 

「続きは後程、今は旋風寺社長と勇者特急隊所属の特機二機の奪還が最優先です。」

「解っている、彼も記憶を持つ者なら早々救い出さなければならない。」

 

 

だが、私はこの先に眠る闇が途方もなく深い事を知る筈もなかった。

 

そこに闇がある、それだけをアカシックレコードで調べただけだ。

 

その先の闇の深さを自ら判断する事と指示された様に…

 

 

*****

 

 

地上でダイゼンガーとスレードゲルミルがアースクレイドル頂上で斬り合う中。

 

地上に残った仲間達はAnti・DC、鉄甲龍、アマルガムの連合部隊に応戦していた。

 

アフリカの砂漠にAWの残骸が墜落しASの爆散した欠片が散らばる。

 

戦闘は太陽が地平線に沈むまで続いた。

 

更なる追撃で現れた敵幹部クラスの機体と交戦を始めた頃。

 

潜入部隊はアースクレイドルの最深部へと到着した。

 

 

「ここが最深部の様だな。」

 

 

アウゼンザイダーを筆頭に最深部へ到達する潜入部隊。

 

潜入した各機は巨大なホールの様な場所へと降り立った。

 

 

「随分と変わってしまった様ね。」

「オウカ君、ここに居た事があるのか?」

「はい、私やアラド、ゼオラ、ラトゥーニも以前ここに居た事があります。」

「L5戦役前よりもずっと昔の話っすけどね。」

「アラド、敬語!」

「で、あります!」

「そうか…」

 

 

オウカの話を皮切りに質問するエルザム少佐。

 

かつてスクールに居た頃、ここに居た事をオウカは説明した。

 

ロドニアに移され、戦技教導隊に救出して貰わなければラトゥーニに会えず、もっと酷い事になっていたかもしれないと話した。

 

それに対しゼオラ、アラドも肯定した。

 

 

「ラトと別れた私達はロドニアのラボで調整を受けていましたが、あの時ロドニアでラトに助けて貰わなければどうなっていたか…」

「オウカ姉様。」

「もっと酷い事になっていたと思うぜ、姉さん。」

「アラド?」

「ラトや他の皆をあっさり捨てた連中だ、もっと悪い事になっていたと思う。」

「アラドの言う通りよ、姉様。」

「ゼオラ。」

「だから俺達がここにいるのもそう言う事なのかもしれない。」

「ええ、私達でスクールの因縁を断ち切りましょう。」

「姉様、私達も一緒に戦う。」

「私もラトゥーニ達のお手伝いさせてくださいませ。」

「判ったわ、アラド、ゼオラ、ラトゥーニ、シャイン王女、私達でアギラとの決着を付けましょう。」

 

 

オウカ達スクール組とシャイン王女の決意は固まった直後。

 

 

「ふん、人形共め…余計な知恵を付けおって。」

「その声は!」

「間違いねぇ、その声はアギラ・セトメ!」

 

 

アースクレイドル最深部でグラビリオンを筆頭とした部隊を展開するアギラとその護衛の兵士達。

 

その中にアマルガムのASや二機のベルゲルミルの姿も含まれていた。

 

アーチボルト機の姿は無いようなので、恐らくリクセント公国で死亡したのは確実だろう。

 

 

「ふん、ブロンゾ28か…少しは使える様になったようじゃの。」

「アラド・バランガだ!番号で呼ぶんじゃねえ!」

 

 

何処までもアラド達を人形と番号呼ばわりするのは変わっていない。

 

その様子にオウカ達も反論する。

 

 

「セロめ、名前なぞ余計なモノを与え追って…」

「セロ博士は貴方よりも出来た人と言う事です、アギラ・セトメ!」

「アウルム1、お前はもっと利口だと思ったが…ワシの見当違いか。」

「アウルム1の名は捨てました、今の私の名はオウカ・ナギサです。」

「そんな事はどうでもいい、…その様子だとブロンゾ27も居るようじゃの。」

「私にはゼオラと言う名前があるわ……貴方がラトを捨てた!その怨みは忘れたりしない!」

「ラト?もしやラトゥーニ11か…死にぞこないがまだ生きて居ったか。」

「アギラ・セトメ…!」

「まあ良い、貴様らなぞ不要じゃ…ワシももう少し利口な子達を手に入れたのでのう。」

「まさか…その周囲の機体に乗っているのは!?」

「そうじゃ、お前達のデータを元にゲイムシステムに適応させたワシの可愛い子達よ。」

 

 

真の意味で人形の様な状態でエルアインスに搭乗する兵士達。

 

搭載されたゲイムシステムによって既に戦うだけの兵士に成り下がっているのだろう。

 

自我を無くし、ただ命尽きるまで戦い続けさせられるとも知らずに。

 

 

「酷い。」

「…何と言う事を!」

「出来そこないのお前達のデータは有効に活用させて貰ったぞ。」

「ふざけんな、俺達を物扱いしやがって!」

「アラド…!」

「ああ、ゼオラ、ラト、シャイン王女、姉さん、俺達でアギラの奴を止める!」

 

 

荒ぶる百舌の咆哮と共に姉妹達もその後に続いた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、研究施設内通路にて。

 

 

「バイオネットのサイボーグに量産型Wシリーズの配置でも…やれなくはないです。」

 

 

量産型Wシリーズの兵の一体を一刀両断し突き進むハスミと道中で拾ったサブマシンガンで援護するギリアム。

 

その後ろにテンペスト、ロサの順の配置である。

 

 

「しかし、君達の鎧にあの様な機能が備わっていたとは。」

「まあ限度があるのですが。」

「もう私は何があっても驚かんぞ。」

「ですよね…」

 

 

例の鎧に搭乗していた機体を収納する事が出来た事を話しつつ。

 

同じ様に味方への援護射撃を行いながら目的の研究施設へと向かっていた。

 

相手はEFで嫌と言う程に相手をした量産型Wシリーズ、初期型の戦闘特化タイプではないとは言え油断は出来ない。

 

そして通路の先の扉の前に陣取る二体の人影。

 

 

「ちっ…(最後の最後でアラストルまで持ち出すとなると…この先で間違いないようね。」

「ハスミ!」

「ええ、二人でなら何とか倒せる!」

 

 

私とロサがアラストル二機の相手をする為に前に出た。

 

アラストルには機銃とボール・ベアリング、おまけに自爆装置付きである。

 

だが、奴らにも決定的な隙がある。

 

 

「…どんな輩にも弱点がある事に変わりはない!」

「ハスミ、相手の自爆装置は私に任せて。」

「ロサ、頼んだわ。」

 

 

この手の機銃掃射は過去の九十九事件からEFでも嫌と言う程に慣れている。

 

慣れが原因でこの位避ける事は出来るのだ。

 

私はアラストルの一体に接近し関節部分を切り裂く。

 

どうやら関節部分の装甲強化を行っていなかったのかあっさりと切断する事が出来た。

 

アラストルの動きの鈍さは原作と変わりない様子である。

 

 

「…伊達に九十九事件で本物の恐竜やらゾンビやらとバトルを繰り広げていた訳ではないので。」

 

 

戦闘中に不謹慎だが、ふと思い出した九十九事件の黒歴史。

 

ジャングルでアロサウルスと死ぬ気で鬼ごっこしたり。

 

妙な豪華客船でゾンビの脳天を斬り裂いたり。

 

B級ホラー映画のセットっぽい村で悪魔とバトルしたり。

 

生身でカタパルト射出を経験したり。

 

急に話す言葉が駄洒落になったり。

 

もう何か生きているのが不思議な位の騒動でした。

 

どこのスパロボマジック?

 

いや、この場合はナムカプマジックと言うべきか?

 

非常に空しくなりました。

 

 

「ハスミ少尉、どうかしたのか?」

「いえ、ちょっと…複雑な思い出がフラッシュバッグしたもので。」

 

 

ロサが切り伏せたアラストルともう一体のアラストルの自爆プログラムを削除し無力化した後。

 

私達はその先の扉を潜り、目的地へと向かった。

 

 

「義娘が…」

 

 

道中でお義父さんが物凄く落ち込んでいる様だがそっとして置こう。

 

いや、本当に私にも責任はありますが今後の活動に必要な事なので…

 

その…御免なさい。

 

 

「ハスミ、そろそろ目的地よ。」

「判ったわ。」

 

 

ロサの発言で私は現状に意識を戻した。

 

その先の光景を眼にし、私の意志は怒りへと変貌した。

 

 

「ロサ、ギリアム少佐とテンペスト少佐も下がっていてください。」

「少尉、一体…」

「少しばかり修練が足りなかった様です、私はこの怒りを抑えられそうにありません。」

 

 

アースクレイドル内部の研究施設。

 

そこは非人道的行為の巣窟と化していた。

 

打ち捨てられた人の形をしたナニカ。

 

培養槽に浮かぶ人だった欠片。

 

牢獄に押し込められた虚ろな眼をした子供達。

 

そんな中で慌てて逃げようとする研究員達の姿。

 

他者の命を踏みにじる行為をしておいて、そんなに自分の命が大切か?

 

 

「貴様達全員明日の日を拝めると思うな…!」

 

 

私は突進し研究施設の破壊を始めた。

 

囚われた嵐を呼ぶ勇者達を救う為に。

 

 

******

 

 

先程から数時間後、アースクレイドル内部・最深部。

 

激戦を繰り広げていた突入部隊だったが、不測の事態が起こっていた。

 

戦いの折にマシンセルの制御コアを何者かが奪取したのだ。

 

それによりマシンセルの恩威を受けていたAnti・DCの機体から搭乗者までが変異を起こしたのだ。

 

そう、かつてのDG細胞の様に暴走を始めてしまった。

 

マシンセルの自己増殖、自己再生により何度倒しても復活する不死身の兵士を相手にする突入部隊。

 

何の因果か自己進化の能力を与えられていなかったのは幸いだっただろう。

 

今世のマシンセルはデータ更新が無ければ進化の過程を行えない。

 

だが、脅威である事は間違いなかった。

 

 

「兄さん…!」

「ああ、各機!残りの弾数並びに離脱のエネルギーに注意し行動せよ!」

 

 

DG事件の教訓が生かされ、それ相応の対応を取るブランシュタイン兄弟。

 

 

「ゼオラ、ラト、王女さん、姉さん…!」

「ええ、アギラ・セトメ…マシンセルに取り付かれた憐れな人。」

「これで…!」

「終わりになさいましょう!」

「これが私達の最後の別れの挨拶です!」

 

 

マシンセルの暴走で変異したグラビリオン改。

 

その搭乗者であるアギラ・セトメもその意識を失い、ただ戦う為の兵器に成り下がった。

 

今はアラド達の攻撃によって物言わぬ残骸へと変貌した。

 

 

「姉様、ゲイムシステムに取り込まれた子達は…」

「残念ですが、この状況では。」

 

 

マシンセルの暴走でゲイムシステムにリンクしていた周囲の敵機もその変異の脅威に晒された。

 

それにより救う事は出来ないと判断し一人残らず撃墜したのだ。

 

もう少し早ければ救えたかもしれないが、後の祭りである。

 

そしてアースクレイドルから脱出を目論んでいたイーグレット・フェフ博士とマシンナリーチルドレン達を一掃したウォーダン・ユミルもまた新たな道へ進もうとしていた。

 

 

「ウォーダン・ユミル!」

「行け、ゼンガー…己の道を。」

「いや、お前もだ!」

「!?」

「勝者にその権利があるのだろう?」

「だが、俺は…」

「お前はウォーダン・ユミルだ…新たな剣の道を探すのも悪くないだろう?」

「…」

 

 

片腕の失ったダイゼンガーはソフィア・ネート博士が眠っているポットを回収。

 

同じ様に追従する形でスレードゲルミルも脱出を始めた。

 

今回は制御コアからソフィア博士が切り離されていた事が救いだった。

 

私達も囚われていた勇者特急隊の三人を救出しエルザム少佐からの通信を受けてアースクレイドルから脱出した。

 

 

******

 

半壊するアースクレイドルを背に私達は無事奪取する事が出来た。

 

今回の戦闘で正史を捻じ曲げた事によりアラド達の姉であるオウカは死なず、クエルボ博士も生き残った。

 

そしてウォーダン・ユミルもこちら側に投降する事となった。

 

自らの意思に決着が着いたからだろう。

 

地上では最後の最後で追撃して来た存在が居た。

 

あの木原マサキ本人が生き残っていたのだ。

 

彼は秋津マサトを自身のスペアにしたのではなく『影武者』にしたらしい。

 

そして一度死した木原マサキ本人はこのアースクレイドルの中でひっそりの息を潜めていた。

 

自身のクローン受精卵を『限定促進』によって僅か数時間で受精卵から大人へと成長を遂げさせ、『真の冥王』としてマサト達の前に現れたのだ。

 

交戦中だった幽羅帝も木原マサキの出現を受けて共闘を申し出た。

 

混戦の中で秋津マサトは木原マサキの隙を突いて彼の登場するもう一つの天のゼオライマーを破壊した。

 

彼が自らの肉体に施した『限定促進』が仇となったのだ。

 

自らを再び生み出す際に使用した細胞が原因でテロメア異常を起こしたのだ。

 

急激な老化によって戦闘に耐えうる肉体を制御する為にマシンセルのコアを利用したが、マシンセルに自己進化のプロセスが組み込まれていなかった為に情報の混濁が起きたらしい。

 

旨く演算処理が出来なくなったマシンセルの暴走の隙を突いて機体ごと木原マサキを葬ったのである。

 

平和を願った冥王の光はマシンセルと傲慢な冥王を滅ぼしたのである。

 

史実を捻じ曲げた結果であったとは言え、危うく全滅も考えられた戦闘だった。

 

この事で秋津マサトはゼオライマー全損を覚悟で木原マサキとの決着を付けたが同時に戦う力を失った。

 

そんな絶望の淵に希望もまた存在した。

 

鉄甲龍の幽羅帝以下八卦衆が投降を申し出た件である。

 

彼女達も木原マサキの思惑に流されない為に自らの意思で選んだとの事。

 

彼女達は自らの機体の一部をゼオライマーに移植する事を提案したのだ。

 

 

「我らが互いに戦う事が木原の思惑と言うのなら戦う力を一つに纏めてしまえばいい。」

 

 

自分達には既に必要のない物と幽羅帝は語った。

 

知らなかったとは言え、彼女達も木原マサキの掌の上で踊らされていたのだ。

 

幽羅帝の最後の指示の下で彼ら八卦衆は戦う事を放棄した。

 

OVA版の彼らの中で一人意外だなと思ったが、まあバタフライエフェクトの一つと捉えている。

 

鉄甲龍との戦いも私自身の介入無く終わりを告げ、アースクレイドル奪還作戦も終わりを告げた。

 

だが、私の意識は次の戦いへと矛先を向けていた。

 

ハガネのブリッジではセフィーロのクレフより緊急の連絡が入っていた。

 

ちなみに前回の滞在で直接回線を繋げる様にセフィーロ流で調節してあるので支障はない筈である。

 

 

「急な申し出で申し訳ない、セフィーロのクレフだ。」

「導師クレフ、申し出とは一体?」

「ダイテツ艦長、クジョウ・ハスミとロサ・ニュムパの両名をこちらへ援軍に向かわせて貰いたい。」

「援軍とは?」

「我々の宿敵デボネアが現れた、現在も魔法騎士達やエオニアの一行が応戦しているが苦戦している。」

 

 

クレフの話に寄るとデボネアは旧第三エリアで倒された邪神ドラコ、皇帝ワルーサ、魔王ゴクアーク、魔王レツアーク、魔王サイアーク、機械神、邪竜族皇帝、妖神ゴブーリキ、アマンダラ・カマンダラ、ラルヴァの悪意を吸収しデボネアが降臨してしまったとの事だ。

 

念話で同様の内容を聞いている私にもこれがどう言う事が理解出来る。

 

途方もなく危険な状況であると言う事が。

 

恐らくあの子達……魔法騎士達だけでは抑えられないだろう。

 

正史を捻じ曲げれば、それ相応の災難が待ち受ける。

 

これは数々の捻じ曲げの代償の一つだ。

 

だからこそ私は識る者として止めなければならない。

 

同じ魔法騎士の宿命であるのならば…

 

 

=続=

 




澱み出る恐怖。

真の敵は自分自身。

己の心に打ち勝て。

次回、幻影のエトランゼ・第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》前編』

願うのは少女達の心の復活。


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闇の付箋

私は護る為に暗躍する。

どんな事をしてでも…





時間軸はアースクレイドル脱出直後の頃。

 

私は彼に念話で連絡を取っていた。

 

 

******

 

 

「聞こえますか?」

「待ちくたびれたよ、漸く連絡を取ってくれたのかい?」

 

 

孫光龍は相変わらずのポーカーフェイスでこちらの声掛けに反応した。

 

 

「ええ、こちらも色々とありましたので…」

 

 

あの場所であんなものに出くわすとは思わなかったし。

 

 

「それで要件は?」

「アニムスの花…と言えば判りますか?」

「!?」

 

 

光龍もその花の名を知っていた様で声で反応が判った。

 

 

「…その名を何処で?」

「アースクレイドルの研究施設の一角でその花が栽培されていました。」

「成程、で…何人死んだ?」

「ざっと数十人、あの施設で発見したアルジャーノン発症患者は全員死亡していましたよ。」

「アルジャーノン?」

「この時代ではアニムスの花を開花させる人間をアルジャーノンと呼称しているんです。」

「ふうん…」

 

 

正確にはこの時代での第一発見者の名前を取ってアルジャーノンと呼ばれるのが正しい。

 

 

「それで、今後どうなるかな?」

「アニムスの花が出たと言う事は例の一族も動き始める筈です。」

「ソムニウムの奴らか…」

 

 

遥か古代の地球で誕生したソムニウムの一族。

 

私達は遥か古代の時代に彼らと契約を結んだ。

 

地球を害する存在が現れた時、領域の枠を超えて共闘すると言うモノだ。

 

今回も彼らの脅威となる相手が厄介な為だ。

 

 

「例の場所はどうでした?」

「もぬけの殻だったよ…ただ大量のフラミンゴの死骸と汚染された湖が残っていたけどね。」

「既に封印は解かれたと言う事か…」

「封印?誰かがそこに居たのかい?」

「ええ、封印された存在の名は…カンケル若しくはベストマンと呼ばれる者。」

「完全なる人?随分な名前だね。」

「…しいて言うなら『不老不死』を目指そうとした馬鹿な連中の実験の成れの果てとも言えます。」

「おやおや、相変わらず悪辣だね?」

「真実である以上、否定はしませんよ。」

 

 

しかし、ペルーのアンデスの奥地。

 

あの湖がそう簡単に汚染される筈が…

 

後で少し調べてみるか。

 

 

「それで?そのカンケルとやらはどうするつもりだい?」

「今は復活の兆しがある訳ではないので様子見とするしかありません。」

「ま、僕も君が命令したアインストの殲滅や黒のカリスマ達へのちょっかいで忙しいからね。」

「…その二つももうじき終わりを告げるでしょう。」

 

 

そう、もうすぐ終わりを告げる。

 

そして次なる戦いが待ち受けている。

 

私はただ流れに沿って救える命を引き上げるだけだ。

 

 

「貴方は引き続き先程の命令に従ってください。」

「了解したよ。」

「アルジャーノンに関しては既にビッグファイアも動いている筈です。」

「君といい彼といい仕事が早いねえ。」

「捨て置けば足元を掬われるのは自分ですから。」

「そう言う事にして置くよ。」

「では、次の指示があるまでは先程の行動をお願いします。」

 

 

私は念話を切るとハガネの格納庫に機体を移動させた。

 

そして更なる戦いも始まろうとしていた。

 

=続=

 



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第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》前編』

真の敵は己自身。

武器を持つ意味を噛み締めて。

己の恐怖を戦え。



アースクレイドル戦から数時間後、私とロサ達はダイテツ艦長らの指示の元で部隊を離れて北米大陸へと戻って来た。

 

本来ならインスペクターへの反攻作戦に向かう筈だったが、協力者であるセフィーロの人々を放って置く訳には行かないとの判断だ。

 

前回は色々とあり、話しそびれてしまったが舞人君達は無事である。

 

例の研究施設に所属していた一部の研究員達は例の生工食料研究所やバイオネット、アマルガムの表向きのダミー研究機関から出向している者達が多かった。

 

彼らを気絶させた後で口腔から這い出して来たあの蟲達には今でもぞっとするしかない。

 

勿論、某世紀末風に汚○は消毒だ!!で蟲共は全て処理して置きました。

 

あれ放って置くと危ないし。

 

寄生されていた人達の体内に残った神経毒は私とロサの浄化魔法で処理したので後遺症は残らないだろう。

 

但し、自らの口腔内に蟲が入り込むトラウマだけは残して置いた。

 

精々自分達がやっていた事を後悔して貰おう。

 

まあ…普通に蝗の佃煮や蜂の子とか食べられる人には意味はありませんけどね。

 

蝗だと感触は桜エビを食べている感じだから蜂の子の方が正解かな?

 

微妙な食レポは程々にしておいて…

 

その奴らに何かされる直前だったので舞人君は事無きを得ているが、距離上バルドーへの防衛戦には参加出来ないのでそのままセフィーロへの戦いに参加する事となった。

 

投降したウォーダン・ユミルは自身の負傷と愛機のスレードゲルミルの修復を兼ねてテスラ研へ移送される事となった。

 

そこには第三エリア戦にて同じく投降したものの負傷し療養中のレモン・ブロウニングが居るので彼女に彼の治療を依頼する事が決定した。

 

そして最後に北米大陸に戻って来た理由について説明する。

 

これは導師クレフがセフィーロ城から救援要請の知らせを送って来た事から始まる。

 

内容はデボネアの出現と完全覚醒に関する事である。

 

現地に残留する魔法騎士達とエオニアの一行、現地で戦い続ける白の谷を始めとしたレジスタンス連合に救援に駆け付けたエルドランメンバー達が抑えてくれていたが圧倒的な悪の力を前に敗走を余儀なくされた。

 

今は後方支援に回っているレジスタンスやセフィーロ側の世界から来た各国の軍隊が足止めをしている状況である。

 

マーダル軍も再び協力を申し出てくれたのもあるが時間の問題だろう。

 

恐怖は時間が経つ事に増大しているのだから…

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ハガネ連合艦隊は既に宇宙へ上がった頃だろう。

 

理由はラウ・ル・クルーゼの離反によって奪われたジェネシスの奪還並びにホワイトスターへ籠城しているインスペクターへの反攻作戦に参加する為である。

 

この作戦にはオーブも参戦、元々火種の原因となった機体を自国のコロニーで製造していた事への清算を兼ねているらしい。

 

地球を守ると言う大義名分の元での戦いなのでその意味は成してないと思うが気にはしない事にする。

 

一方でエルドランチームを抜いた勇者組は地球に接近しつつあるバルドーへの防衛戦。

 

この防衛戦から抜けたGGGは機界31原種が逃げ込んだとされる木星へと移動を開始している。

 

これは道中に双方出くわす可能性があるのでこちらも混戦を予想される。

 

GEAR、スペースナイツ、EDFは月で混戦を開始したガルファ、ラダム、イバリューダーへの戦い。

 

これに対し地球連合軍・月面駐留艦隊も参加する予定である。

 

そして敵勢力の多くが殲滅された地球でエオニアの一行と共にデボネア戦へと移行した。

 

どれも厳しい戦いになる事は判っている。

 

連絡が取れる様になった私はブルーロータスに指示を送り、各方面の戦闘にホルトゥスのメンバーを送り込んだ。

 

これで釣り合いは取れる筈である。

 

そして私は有る存在に今回の件を訪ねようとした。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

セフィーロ城内。

 

広がる黒雲と鳴り響く雷鳴。

 

その光景を誰も居ない一室の窓から覗くモコナの姿があった。

 

 

「ぷぷぅ。」

 

 

私は誰の気配も姿も感じないのを確認してから言葉を発した。

 

 

「モコナ、そろそろ聞かせて貰えませんか?」

「ぷぷ?」

「モコナ、いえ…セフィーロの創造主様。」

 

 

私の発言にいつものポーカーフェイスを貫こうとしたが、既に正体がバレている事を察しモコナは本性を晒した。

 

セフィーロの存在する世界を生み出した創造主こと創造主モコナである。

 

話し方が原作と若干異なるのはこの世界だからだろうか?

 

 

「最早、君には隠し通せないようだな?」

「生まれ持った能力もありますけどね…貴方はこの状況をどう見ますか?」

「この件に関しては私の想定外と言うべきだろう。」

「…でしょうね。」

「ハスミ・クジョウ、君はこの状況に関してどう考える?」

「あるとすれば、セフィーロ以外の存在の介入が今回の要因でしょう。」

 

 

デボネアは本来セフィーロの人々の深層心理の奥底にある恐怖から誕生する筈だった。

 

だが、今回はセフィーロと同じ世界に存在する他の国を巻き込んで誕生した。

 

それが要因ならば、デボネアは他の国に属する人々の恐怖も取り込んでいる可能性がある。

 

いや、結果としてセフィーロやこの世界に進軍して来た悪意の持つ者達の怨念を取り込んだ。

 

だからこそ魔法騎士達だけでは抑えられず敗走を余儀なくされた。

 

今のデボネアが取り込んだ強い悪意を持つ者達の怨みや恐怖は並大抵のものではない。

 

今回は他の国の人々やこの世界の人々の力を得られなければ勝利など望みが薄いだろう。

 

但し、戦いの要は魔法騎士達である事に変わりはない。

 

 

「…私の見解は以上です。」

「それが本当ならば彼女達だけで抑えられる筈もなかったと言うのか?」

「私やロサは兎も角…光達は半年前まで戦いを知らない女の子達だったのですよ?」

「…」

「私の知る限り…エルドランに選ばれた幼い子達は彼女達よりも前から戦い続けている、実戦経験の差が違うのです。」

「私は…」

「私はセフィーロでの旅であの子達に出来得る限りの戦い方と心構えを教えたつもりです。」

「済まない。」

「それは光達に答えてあげてください…後は光達次第です。」

「…判った。」

「私は光達の元へ戻ります。」

 

 

私が部屋を後にしようと踵を返した時、創造主モコナは答えた。

 

 

「今まで魔法騎士達を支え続けエメロード姫を救ってくれてありがとう。」

「姫に関しては光達のお陰ですよ。」

「…そう言う事にしておこう。」

 

 

実際、エメロード姫を説得したのは光達だ。

 

私はロサと共に説得の間だけザガートを足止めしたに過ぎない。

 

 

「ありがとう…ガンエデン。」

 

 

私は創造主モコナの最後に答えた言葉を聞かないふりをして部屋を去った。

 

 

******

 

 

再びセフィーロ城内にて。

 

幾つかの階層を行き来し、とある一室へ私は赴いた。

 

 

「光、海、風…」

 

 

私が訪れる前に彼女達はデボネアの侵攻を阻止しようとしたが、圧倒的な力の前に負傷し心に傷を負ったのだ。

 

負傷は治癒魔法で癒えているが、心の傷だけはどうしようもない。

 

その彼女達は今もこの一室で眠り続けていた。

 

 

「…状態はどうですか?」

「余り良くはない、どんなに声を掛けても僕らの声が届かない。」

 

 

眠りに就く海の手を握りながら召喚師のアスコットは答えた。

 

普段から前髪で目元を隠しているが今回は余計に暗くなっているのが判る。

 

同じ様に光の傍で様子を見る魔法剣士のランティスが呟いた。

 

 

「それだけデボネアの脅威が凄まじかったと言う事か…」

「恐らくは…それでも誰かがデボネアを止めなければならないのは変わりません。」

「止めるって、あんな奴の所に戦いに行くの!?」

 

 

私の発言にアスコットが叫んだ。

 

それに対して私は非情だが切り返した。

 

 

「私は軍人です、大切な人達を護る為に軍に志願したのです。」

「だからって…」

「ハスミ、お前は怖くはないのか?」

 

 

アスコットの声を遮り、エメロード姫の弟であるフェリオが質問。

 

私は私なりの結論を答えた。

 

 

「ただ震えるだけでは誰かを助ける事は出来ません、今も宇宙で必死に戦っている仲間達の為にもここで立ち止まる事はしたくありません。」

「覚悟を決めたのだな?」

「それは当の昔に決めています、私は私自身がやれる事をやると決めただけです。」

 

 

最後に私は眠り続けている光達に答えた。

 

 

「光、海、風、これから私は戦いに出るわ…貴方達が心の底で震えているのなら止めはしない。」

 

 

誰でも恐怖は感じる。

 

最初に銃を握り、他人を傷付けると判っていて引き金を引いた。

 

私はあの感触を今でも忘れていない。

 

誰かの命を奪うと言う事を。

 

その覚悟を背負うと言う事を。

 

それらを踏み台にして生きていると言う事を。

 

綺麗事だけで生きていけないのは識り尽くしている。

 

貴方達はどうする?

 

私は貴方達の心を汚すつもりはない。

 

これからどうするかは貴方達自身が決めなさい。

 

 

「それだけは言いたかった…行ってくるわね。」

 

 

私は部屋を去り、ロサと共にデボネアを抑えている部隊の援護に向かった。

 

 

(さてと、後は光達次第かな…)

 

 

ここまでややこしい問題を押し付けられたのだ。

 

用足しは済ませたました?

 

仏様への御祈りは?

 

押入れの中でブルブル震えて命乞いをする準備は出来ました?

 

なら、開幕と行きましょうか。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、心の深層の奥底にて。

 

 

『…海ちゃん、風ちゃん、今の聞こえてたよね?』

 

 

海と風の手を握って励ましている光。

 

 

『聞こえたわ。』

『私達を元気づけようとしていましたわ。』

『うん。』

『でもね、私…怖いの。』

『私もです。』

『海ちゃん、風ちゃん…』

 

 

圧倒的な力の前に恐怖を覚えた二人。

 

光はずっとここに留まり、彼女達を鼓舞していた。

 

 

(私はセフィーロをこの世界を救いたい、だからもう少しだけ時間をください。)

 

 

光は必ず、三人で目覚める事を誓いながら説得を続けていた。

 

 

=続=




集結する魔法騎士。


次回、幻影のエトランゼ・第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》後編』


英雄譚と言う物語は人々の心に刻まれる。


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第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》後編』

眠りにつく少女達。

私は鼓舞する為に刀を振るう。

戦うべき相手の正体を識っているから。

私は迷わない。


※マークでBGM推奨:CUSTOS


月面決戦が始まる少し前。

 

月面都市セレネシティに事業を置くマオ・インダストリー社は地球が元に戻った直後にインスペクターによって掌握されていた。

 

しかし社内に併設された工場にある筈のヒュッケバインシリーズは地球断絶事件の前に全て地球のフランス・オルレアン基地へと移送されていた。

 

その為、インスペクターは社内に残っている研究データだけでも奪い去ろうとしたが予期せぬ相手と戦う事になってしまったのだ。

 

L5戦役時、地球の裏側で猛威を振るっていた蒼き魔神グランゾンである。

 

 

『シラカワ博士、助力に感謝する。』

「いえ、こちらこそ…救助が遅れてしまい申し訳ありませんでした。」

 

 

マオ社代表取締役のリン・マオは窮地を救ってくれたシュウ・シラカワ博士に返礼の通信を入れた。

 

その横で補佐を務めるユアン・メイロンが答えた。

 

 

『しかし、何故このバイオロイド達は急に動かなくなったのでしょうか?』

「彼らを制御するNCCネットワークに細工をしたのです。」

『では、ここ以外にも?』

「ええ、今頃各地でも同様の事が起こっているでしょう。」

 

 

マオ社を掌握していたバイオロイド達を無力化した事をリンに伝えたシュウ博士は急ぎ連合軍へ通信を送り、月各所の奪還を依頼して欲しいと答えた。

 

 

『判った。』

「では、私はこれで…次の行動に移らなければならないので。」

『次の?』

「ええ、インスペクターへの反攻作戦…そして蒼き睡蓮が予期した戦いへの布石の為に。」

 

 

それだけを答えると通信を切り、グランゾンは転移していった。

 

 

******

 

 

私は光達の居た部屋を後にする数時間前にセフィーロ城内で開かれる作戦会議に参加した。

 

現在も作戦の中核となる機体の修理が着々と進み、作戦開始時刻までに間に合うだろうとの事だ。

 

 

(戦う力を取り戻せても皆の心に染み付いた恐怖の闇は拭い去れていない。)

 

 

当時の戦闘記録もそうだが、アカシックレコードで視た事で彼らの早期敗走は正しい判断だった。

 

かつてのデビルウルタリアでの戦いを思い出させる死なない兵士の群れ。

 

そしてデボネアによる心の闇への攻撃。

 

それらが現地で戦う者達の心を折っているのだ。

 

この戦いは心の闇…つまり自身のトラウマと向き合う必要がある。

 

こう言っては何だが今回の戦闘メンバーは心の闇があり過ぎるのだ。

 

騙されて戦っていた者。

 

操られて戦っていた者。

 

創造主の意思に反して戦った者。

 

同族を裏切って正義を貫こうとした者。

 

その経緯は様々だ。

 

だからこそ、誰かが明日へ目指す道を創らなければならないだろう。

 

そして彼らが己の闇と決着を付けなければならない。

 

よりハードな戦いになると思う。

 

 

(少し、彼女らに人暴れして貰う必要があるか…)

 

 

作戦内容を聞く中で私は彼女らを呼び寄せる事を決意した。

 

天を舞う者、海を踊る者、地を巡る者。

 

蒼き守護女神を守護する三体の守護獣達のお披露目をする時だ。

 

 

(ええ、解っているわ…心配は無用よ。)

 

 

誰にも聞かれない様に私は彼女に答えた。

 

あの時、私は万丈さんに嘘を答えた。

 

彼女の呼び声は聞こえていないと…

 

正確には既に同化していると答えた方が正しかった。

 

その契約を終えたのも私が弱冠五歳の頃…母を亡くした直後だった。

 

本来なら精神の幼い子供がアシュラヤーの意思に抗える事など出来なかったが…

 

私と言うイレギュラーのせいで主導権は私のまま融合してしまった。

 

彼女も『それも運命だったのでしょう。』と割り切っていた。

 

この状況は今日まで続いている。

 

第六エリアでの万丈さんは私への質問を間違えたのだ。

 

それでもあえて問わなかったのかもしれない。

 

私がこの真実を答えるまでの時間を与えてくれたのだろう。

 

 

(ビッグファイアも薄々気が付いていると思うけど、あれでも黙ってくれていたのだろうな。)

 

 

ま、戦うべき相手の影を追い始めた以上はやるべき事はやるつもりである。

 

復活を遂げる鋼鉄の孤狼達の為にも。

 

布石と言う布石は多い方が良い。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

予想外の事態は何時も慌ただしい。

 

作戦に参加する機体の修理が終了しないままの出撃はよくある事だ。

 

だが、今回の作戦は失敗する訳にはいかない。

 

そこで機体の修理を終えた者、元々修理の必要がない機体を持つ者が先に出撃する事ととなった。

 

拠点に攻め込まれてしまえば、今までの結果が無駄になってしまう。

 

戦闘の指揮は私と共に訪れたテンペスト少佐が行う事になっている。

 

本来なら宇宙のメンバーと合流して貰おうと思ったが…

 

 

『本来ならその戦場に私は存在しない、そう言う事ならこちらの戦況を終わらせる活動に参加しても影響はないだろう?』

 

 

正論とは言い難いが少佐が決めた事に口出しするつもりはない。

 

物語は主軸にありながらも戦いは時に変異し変わりつつあるのだ。

 

だからこそ、この戦闘にも無限力の介入があったのだろう。

 

でなければ、デボネアがあそこまで強大な力を得る事はなかったのだ。

 

死すべき人々へ未来を与え、変えに変えた事象への償いは続く。

 

 

「…(いつもより周囲の気配がピリピリしていてどうも落ち着かない。」

「ハスミ、大丈夫?」

「大丈夫、ちょっと変な感じがしただけよ。」

 

 

出撃準備が整わないエオニア一行が出撃出来るまで、臨時の継ぎ接ぎ部隊がセフィーロ城を背に陣取っていた。

 

エオニアの一行は行動を共にしていない間に敵幹部だった人達を仲間に引き入れていた。

 

元ジャーク帝国の司令官ベルゼブ一行、元機械化帝国の四天王・エンジン王とギルターボ、元ドラコ帝国の戦士リュウ・ドルグ、元ドン・ハルマゲ軍の戦士ダ・サイダーとレスカ一行、暗黒騎士のガルデン、ゴールド三兄弟、マーダル軍からハイ・シャルタットと言う具合である。

 

ハイ・シャルタットは兎も角、他の人達はエオニア一行と和解して協力していたとの事なので特に問題はないだろう。

 

 

『ハスミさん。』

「舞人君、本当に戦線に出て大丈夫なの?」

『はい、俺も黙って見ている性分ではないので。』

「判ったわ、ただ無理はしない様に…(病み上がりで戦わせるのはと思ったけど大丈夫そうね。」

 

 

アースクレイドルから救出された舞人達も今回の戦闘に参加している。

 

残りの勇者特急隊のメンバーと合流しているので全機勢ぞろいとなっている。

 

 

『各機に通達する、今回の戦闘指揮を任された連合軍のテンペストだ。』

 

 

少佐の戦闘前の指示が始まった。

 

 

『各々が元勢力の幹部であった事は連絡を受けている。その為、現戦場のでの判断は各々に任せる事にした。だが…これだけは各自に守って欲しい、互いに必ず生きて戻る事だ。』

「了解です。」

 

 

各自の合否を確認した後、迫りくるデボネアの軍勢への戦闘に移行した。

 

デボネアは己が取り込んだ悪意達が配下として使用していた兵器を生み出し戦力にしていた。

 

強化されているとは言え、その戦い方が変わった訳ではなかった。

 

 

「ロサ、共に牽制射撃を頼む!」

「了解です、牽制射撃行きます!」

 

 

テンペストのヴァルシオンのクロスマッシャー、ロサのエザフォスによる晶石の弾奏による弾幕が始まった。

 

突撃してくる敵機の大半をこれで撃ち落とし、その残りをハスミらが切り込む形である。

 

 

「これ以上、城へは近づけさせない!」

「ガイン、ガンナー、ギリギリまでパーフェクトキャノンを温存するぞ!」

「了解。」

「おうさ。」

「ブラックとバトルボンバー、ガードダイバーは後方から撃ち漏らした奴らの相手を頼む。」

 

「「「了解。」」」

 

「ベルゼブ、地球防衛組が戻って来るまで私達で持ちこたえましょう。」

「勿論、そのつもりだ。」

「ラムネスの奴がへばっている間に俺達でやってやるぜ!!」

「ダーリン、行っちゃおうじゃん!」

「ギルターボ、こちらも後れを取る訳には行きませんよ。」

「了解だよ、ファーザー!」

「魔竜王ドルガ、参る!」

 

 

入り乱れる乱戦の中でも互いに鼓舞する事を忘れてはいない。

 

 

「自らの不始末を付ける為にも。」

「フット、マスク、連係プレーで行くぞ!」

「マーダル様の為にもここでやられる訳にはいかん!」

 

 

己の相性を理解し互いの相性を理解する事で迫りくる敵機を一網打尽にしていく。

 

 

「何故、あ奴らは恐怖に屈しない!」

 

 

力を増したデボネアの放つ魔の気配によって恐怖へと叩き落される筈だった人間が希望を胸に這い上がって来たのだ。

 

その光景にデボネアはその妖艶な貌を歪めた。

 

 

「デボネア、貴方には判らないでしょうね!」

「!?」

「私達はお互いに自分の心の闇と折り合いを付けた、だからこそどん底に居ようとも這い上がれる!」

「恐怖を恐れぬと言うのか!」

「恐怖の底に希望を見出した俺達を止める事はお前には出来ない!」

「かつての我々は敵として恐怖を振り撒いてきた。」

「だが、戦いの中で己の愚かさに気が付き…そして希望を見つけたのだ!」

「やっちまった事はしょうがねえ、だから俺様達は前を向くのさ!」

「立ち止まる事をせず、前へ向く事をザウラーズは私達に教えてくれたのです。」

 

 

そう、希望を胸に抱かせてくれたエオニア一行に変わって。

 

今度は私達は彼らの希望の証となる。

 

 

「おのれ、おのれっ!」

 

 

この状況を否定出来ず、己の力を暴走させるデボネア。

 

その巨大な黒き雷撃がセフィーロの城へと迫っていた。

 

 

「城が!」

「この距離からではっ!」

「来る…(デボネア、まだこちら側の隠し玉は残っている!」

 

 

デボネアの黒き雷撃を撃ち返し、城を護る様に現れた三体の蒼き存在。※

 

 

「あれは一体!?」

「判らない、だけと…あの三体からは敵意は感じ取れない。(ポーカーフェイスっと。」

「じゃあ、アタイ達を助けてくれたじゃん?」

「今はそう判断するしかないでしょう。」

 

 

一体はヴァルキリーを、一体はマーメイドを、一体はアマゾネスをを思わせる風貌である。

 

 

「まだ私の邪魔をするか!異界の海を護りし蒼き機械仕掛けの神の僕達が!」

「機械仕掛けの神?(ああ、何度でも邪魔をするさ。」

 

 

三体は城に纏わりつく魔のオーラを浮き出させはじき返すとその場から去っていた。

 

 

「あれは?」

「成程、アレが原因だったのね。(ありがとう、お疲れ様。」

「どう言う事なのですか?」

「光達やエオニア一行の不調が依然と治らなかったのは、あの纏わりついたオーラが原因だったのよ。」

「ハスミさん、また感じたのですか?」

「ええ間違いないわ、アレはデボネアの気配と同じものよ…光達が目覚めなかった原因でもあるわ。」

「では、そのオーラがなくなったと言う事は?」

 

 

城から出撃するイオニアとイオニアの一行、殿としてシグザリアス、レイアース、セレス、ウィンダムが前衛の様である。

 

 

「遅くなって済まない。」

「翔君、無事でよかったよ。」

「翔、もう体調の方はいいのか?」

「はい、お陰様でバッチリです。」

「ハスミさん、ロサ、遅れてごめんなさい!」

「光、海、風、貴方達も戻った様ね。」

「ご心配をおかけしました。」

「私達も一緒に戦わせてください。」

「勿論よ。」

「皆さん、お待ちしていました。」

 

 

快調したイオニアの一行と合流しデボネアとの戦闘に戻った。

 

 

「おのれ、人間どもが!」

 

 

デボネアは己が取り込んだ悪意達の親玉を複製で生み出し、更に戦列に加えた。

 

だが、恐怖の力が薄れてきたのか各一体ずつになっている。

 

 

『各機に続く、敵の攻撃が薄れて来た…今が攻め時だ!』

 

 

 

それぞれが因縁を断ち切る為に立ち向かっていく。

 

 

地球防衛組がジャーク皇帝を。

 

ガンバーズが三魔王を。

 

ザウラーズが機械神を。

 

リュー使い達が邪竜皇帝を。

 

勇者ラムネス一行が妖神ゴブーリキを。

 

善神アーガマの子孫達が邪神ドラゴを。

 

シグザリアスがラルヴァを。

 

そして…

 

 

「デボネア、私達はもう恐れない!」

「皆が見せてくれた輝きを!」

「忘れない為に!」

 

 

レイアース、セレス、ウィンダムが重なり合神レイアースへと変化する。

 

 

「己の闇を理解し寄り添い共に歩む!」

「私達は前に進みます!」

 

 

エクリプス、エザフォスが心淵の極意を発動させモードチェンジする。

 

そしてそれぞれの必殺技が因縁を打ち砕く!

 

 

「何故…」

 

 

デボネアは輝きの中に埋もれながら何も理解できずに再びその存在はかき消えて逝った。

 

そして倒されたのと同時に曇天の空はゆっくりと輝きを取り戻していった。

 

その輝きを確認し勝利の声を各自で上げた。

 

 

******

 

 

合神レイアースを解除しゆっくりとセフィーロの城へと降りて来る魔法騎士達。

 

 

「ランティス、私…ずっと貴方に言いたかった事を言うね。」

 

 

光は笑って答えた。

 

 

「ランティス、大好き。」

「俺もだ…」

 

 

黒の魔法剣士は天の梯子から降り立つ炎の魔法騎士を抱きしめる。

 

光は自分が望んだ結末を叶えたのだ。

 

 

「…(光、ランティス、どうか幸せに。」

 

 

その先の未来は貴方達自身に掛かっています。

 

私は宇宙で戦いを繰り広げている仲間達の安否を思いながら意識を天へと向けた。

 

 

=続=




己の一撃を込めて。

己の魂を掛けて。

彼の者を解放せよ。


次回、幻影のエトランゼ・第三十四話 『赤撃《アカキショウゲキ》』


私は私に成りたい。

それはもう叶えられている。

ただ、気が付かないだけ。


*****

<ショメル>
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の機神官の総称。
意味はヘブライ語で「番人」、三体はアシュラヤーの象徴色である青系の装甲を持つ。
今回の戦闘で危機に陥ったエオニア一行を救った。
(正確には巫女であるハスミを救う為に現れた。)
戦闘後は姿を消し、行方は不明である。


※トフェル
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の念神官の一体。
クストースのカナフに該当する。
外見は腰に翼を生やした甲冑の女性で周囲に鏡の様な物体を浮遊させている。
意味はヘブライ語で「鉤爪」を意味する。

=技名=
アソン・テヴァ(天災)、ヴァツォレット(日照り)。

※二ヴ
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の念神官の一体。
クストースのケレンに該当する。
外見は上半身が女性で下半身が魚の人魚で宝飾された杖を所持している。
意味はヘブライ語で「牙」を意味する。

=技名=
マアルボレッド(渦)、マブール(洪水)、サハフ・ヤム(侵食・海)

※ラアマー
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の念神官の一体。
クストースのザナヴに該当する。
外見は狼と女性を合わせた獣人で俊敏な鞭を装備している。
意味はヘブライ語で「鬣」を意味する。

=技名=
セアラー・バラック(嵐・稲妻)、レイダット・アダマー(地震)。


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繋の付箋

決めたのならばそれでいい。

だが、決めたのならば覚悟を決める事。

それだけの重荷を背負う事を。

逆に共に立ち向かう仲間が居る事を忘れない様に。


デボネアの覚醒と一度目の敗走が発生する少し前。

 

セフィーロの城では…

 

 

******

 

 

「光、こんな夜遅くに呼び出して申し訳ありません。」

「エメロード姫、二人だけで一体?」

「…貴方に大切なお話があります。」

「話?」

 

 

エメロード姫は静かに答えた。

 

 

「光、貴方に次代の柱を担って欲しいのです。」

「私が…柱に?」

「はい、勿論今までの私達が行って来た柱制度ではなく…貴方達、地球の人々の考えを取り入れたものを元に次の柱へなって貰えませんか?」

「待ってください、私に柱の資格は…」

「私が持つ柱の資格が貴方を選んだのです。」

「…(また私が柱に?でも…私は。」

「迷うのも無理はないと思います、ですので…私の方で時間を下さるようにお願いしました。」

「エメロード姫。」

「御免なさい、貴方に酷な事を二度も押し付けてしまって。」

「それはエメロード姫のせいじゃない、誰にだって…誰かを愛する事を止める事は出来ないもの。」

 

 

セフィーロの為に大切な人を愛していてもその愛した人の為に祈れない。

 

それがかつての柱に架せられた運命。

 

 

「光、貴方がランティスの事を愛している様に私もザガードの事を愛しています。」

「姫。」

「私が犯してしまった過ちを貴方にして欲しくない、だからよく考えて選んでください。」

「判りました、すぐにその答えは出ないかもしれない…だからもう少し待っててほしい。」

「はい、光…待っています。」

 

 

晴れない曇天の空の夜の元、エメロード姫は柱への選択を光に伝えた。

 

しかし、これが原因で光の心に淀みが産まれた。

 

知っていてもそれに手を伸ばす事への躊躇い。

 

そして翌日、デボネアの覚醒に伴う侵攻とエオニア一行の戦闘不能による敗走を余儀なくされたのだった。

 

その後、いろいろとあってデボネアを倒し北米大陸における決戦を終わらせた私達。

 

光はランティスに自らの思いを告げた後、光はエメロード姫に答えを伝えた。

 

光が告げた答えは『柱になる』と言う選択だった。

 

だが、その選択が次なる戦いで大きな役割を持つ事をまだ誰も知らない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

そしてここでも。

 

中国大陸奥地に座する梁山泊。

 

そこへ因縁の来客が訪れていた。

 

 

「久しぶりだね、黄帝ライセ。」

「ビッグファイア。」

 

 

BF団を纏め上げるビッグファイア。

 

国際警察機構の総司令であり梁山泊の長である黄帝ライセ。

 

その二人が互いに顔を会わせたのだ。

 

 

「戦いに来た訳じゃない、話し合う為に来た。」

 

 

ビッグファイアは『信用できないとは思うが、君の影に隠れている者達の武器を収めてくれるかな?』と付け加えた。

 

それに対しライセも片手を少し上げると周囲に隠れていた者達は武器を収めて引き下がった。

 

 

「話し合うだと?」

「…そちらも気が付いているのだろう?」

「例の者達の事か?それともあの花の事か?」

「どちらもであるが、今回は違う。」

 

 

ビッグファイアは『僕がいつまでも知らぬ存ぜぬを認めると思っていたかな?』と付け加えた。

 

 

「…彼女の事か?」

「察しの通り、彼女の事だよ。」

 

 

ビッグファイアは何処か嬉しい様で軽い悪戯に困った表情で答えた。

 

 

「私も感じた、あの娘が動き始めたのだろう?」

「恐らくは…必要と考えた上でだろうね。」

「必要?例の者達へのか?」

「そう考えている、正確にはこれから起こる戦いを早期に終わらせる為の下準備。」

「薄々と何かしていると思っていたが、そこまで進行していたとは…」

「君は知っていたのだろう、彼女が…蓮華が死した後、幼いあの子が次代の巫女となった事を?」

「…ある例外を除いてはな。」

「例外?」

「あの娘…ハスミは歴代のアシュラヤーの巫女の中でも特に力の強い者だった。」

「だから封じたのか?その力を使いこなせるその時まで?」

「自ら望んでの事だ、あの娘も自分で判っていたのだろう。」

 

 

幼き身で強い力を持つ事はどの様な結果を生み出すか。

 

だからこそ来たるべきその日まで隠し通した。

 

 

「元々遺伝上の父親が不明の娘だ、一体何処からあれだけの力を持ったのか見当もつかん。」

「生前の蓮華が隠し通した秘密、ハスミの父親が一体誰なのか?」

「私の考えでは恐らく…」

「彼女は念者同士の子…だろうね?」

 

 

その場へ道化の様に現れた孫光龍。

 

 

「孫光龍。」

「アシュラヤーの護り手の僕を省いて密談とは中々頂けないな。」

「君がナシムを見限ったと言う事は本当らしいね。」

「そ、彼女の予言した通りナシムの考えでは本当にこの世界を救えないからね。」

「予言?」

「例の連中が動いているのは確認出来た、そして『聖戦』が始まってしまった事もね。」

「とうとう十二の宝玉の覚醒が始まったと言う事か。」

「今の所、僕が確認出来たのは『獅子座』と『乙女座』だけだよ。」

「ふむ…」

「話を戻すけど…くれぐれも彼女の邪魔だけはしないでくれよ。」

「そのつもりはない。」

「あの子から今の状況では奴らの思うツボと話しを聞いているからね。」

「ふうん、つまり長年の因縁をそっち置きにして手を組む事をにした訳か?」

 

 

ライセの発言にビッグファイアは自身の提案を受け入れたと受け取った。

 

 

「僕らの提案を受け入れてくれると?」

「あ奴らを倒す為には致し方ないのだろう?」

 

 

 

長き歴史の中で梁山泊とBF団はこの時休戦協定を結んだ。

 

 

(蓮華、本当にあの子は凄いよ…さすがは僕らの自慢の娘だ。)

 

 

その光景を眼にした孫光龍は普段着用している帽子の鍔を掴み目元を隠した。

 

 

=続=

 

 



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第三十四話 『赤撃《アカキショウゲキ》』

赤い衝撃。

白い堕天使。

祈りを込めて。

紅の呪縛を巨腕の鉄杭にて穿て。



アースティアの悪意を吸収したデボネアを倒し、アースティアから転移した人々から英雄視されるエオニア一行。

 

その凱旋を他所に私達は次なる戦いの場へ向かわなければならなかった。

 

私ことハスミ、ロサ、テンペスト少佐はインスペクターに奪取されたジェネシス奪還作戦に向かったノードゥスと合流。

 

勇者特急隊と魔法騎士達、エオニア一行は木星へ向かったGGGとVARSの連合と合流。

 

エオニア一行よりエルドランチームは地球防衛軍の要請で月にてガルファの中継基地となっている螺旋城、ラダム、イバリューダーの巴戦が発生している戦場へ向かう事が決定した。

 

セフィーロの防衛は引き続きアースティアのレジスタンス連合と休戦しているマーダル軍が引き受けてくれる事となった。

 

倒すべき敵の大半が居なくなったもののいつ何が起こるか判らないからだ。

 

これは同意せざるを得ない。

 

インスペクターの先遣部隊の親玉に寄生したアインストの事もあるのでこちらとしては内心有難い。

 

場合によっては地球各所でアインストが襲撃を始める可能性も捨てきれない。

 

結果、木星と月行きはエメロード姫の力で転移するとの事でセフィーロ城でそのまま待機。

 

私達三人はラングレー基地とテスラ研経由で移動していたシロガネと合流しそれぞれの戦場へと向かった。

 

 

******

 

 

宇宙へ上がった私達。

 

シロガネにはラングレー基地で増員した部隊とテスラ研で待機していた戦闘人員と合流している。

 

ラングレー基地からは行方不明だったリュウセイとマサキ、アクセル中尉。

 

そして謹慎処分中だったイングラム少佐もといイングラム大尉が乗艦。

 

少佐が大尉なのは前回の戦いに置ける降格と長期謹慎からの処分を受けたからである。

 

リュウセイ、マサキ、アクセル中尉はラングレー基地へ救助され機体の修復とイングラム大尉との合流を待っていたらしい。

 

私は彼らが行方不明になった前に行方不明になってしまっていたので久しぶりの再会である。

 

マサキから『幽霊か?』と言われたので『私が幽霊なら貴方は数回遭難の末に餓死してるわよ。』と遠回しの小言を含ませて置いた。

 

ちゃんとクロとシロに『余計に返されてるニャ。』と『図星突かれてるニャ。』と突っ込まれているよ。

 

後でクロとシロのペアには嫌われない程度にモフモフさせて貰った。

 

気になるイングラム大尉の乗機はエクスバイン・リヴァーレ。

 

L5戦役で大破したR-GUNリヴァーレを回収しそのパーツを受け継いだ機体である。

 

これも驚いているが他にも驚いている事がある。

 

正式名称は明かされていないが、あのFDXチームも乗艦していた。

 

理由は彼らの機体を搭載したPTキャリア・クレーエがシロガネに搬入されていた為である。

 

恐らくはインスペクターの兵器回収若しくは鹵獲の為に派遣されたのだろう。

 

ホワイトスター戦で彼らの中から戦死者が出る為、こちらもマークして置く必要がある。

 

テスラ研からはあのウォーダンさん、レモンさん、リシュウ博士が合流する事となった。

 

レモンさんの護衛であるエキドナさんも一緒である。

 

ちなみに乗機であるが、レモンさんはヴァイスセイヴァー、エキドナさんはアンジェルグ・ノワールである。

 

ウォーダンさんは黒い参式、リシュウ博士は零式。

 

スレードはマシンセルの不具合で稼働不可なので斬艦刀のみ引継いで参式にて参戦した形である。

 

そして…

 

 

「お義父さん!どうしてここに?」

「久しぶりだな、ハスミ。」

 

 

シロガネにカーウァイお義父さんが乗艦していたのである。

 

話に寄ると治療の方は一区切りついたらしいが…

 

 

「JUDA系列の医療施設で治療中だった筈じゃ?」

「リハビリも一通り済んでいる、安心していい。」

 

 

続けてカーウァイは今回の乗艦の件について話し始めた。

 

 

「上の方で良からぬことが起きているらしい、そこで私にも白羽の矢が立った訳だ。」

「ジェネシス奪還作戦に何か?」

「いや、ホワイトスターの方でだ。」

「…情報ではそちらもインスペクターに掌握されたと聞いています。」

「ああ、どうやらお前が予想していた通りの事が起こる可能性が出て来た。」

 

 

私はその言葉で眉を潜めた。

 

そしてカーウァイお義父さんは耳打ちで私に伝えた。

 

 

(地球と太陽系各所での庭師達の配置が終わっている、後はお前の合図で動く手筈だ。)

(…判りました。)

 

 

私はお義父さんとのヒソヒソ話を終わらせた後、次の合流まで自室で待機する事にした。

 

ちなみにお義父さんの階級は中佐、イングラム大尉と同じく降格処分を受けたとの事だ。

 

合流先でも別行動になる為、必要な話だけをしてその後は別れた。

 

二度目のホワイトスター攻略の為にイングラム大尉とお義父さんの…ガルインの記憶が必要なのだろう。

 

念の為説明するが二人のお義父さんには例の事を話してはいない。

 

深入りする事は余計な悪意を引き寄せやすい。

 

二人には私がホルトゥスのエージェントをしている形で取り繕っている。

 

実はリーダーでしたと話せればいいが、それはまだ出来ない。

 

カーウァイお義父さんと別れた後…

 

もう一人の人物と私は再会する事となった。

 

 

「キョウスケ中尉。」

「ハスミ、無事だったか…」

「はい。」

 

 

あの第四エリアでの襲撃の後、宇宙に放り出された所を航行中だったロンド・ベル隊に救助され月のマオ社で機体修復後に北米のラングレー基地へ移動していたとの事だ。

 

 

「あの…エクセレン少尉は?」

「アイツはアインストに連れ攫われた。」

「…!?」

「既に何度か交戦している。」

「やはり、こちら側のアインストにも例のアインストと同じ特性が?」

「…そう言う事だ。」

 

 

流れのままにエクセレン少尉のアインスト化は止める事が叶わなかった。

 

それでもこの戦いは必要な事なのかもしれない。

 

私は何も言えず口を紡いだ。

 

 

「…万丈からお前の事情は聞いている。」

「…」

「無茶だけはするな、お前もまた戦うべき相手を追う為に戦っているのだろう?」

「はい。」

「次の戦いは激戦になる、どちらかになるかは判らないが…頼んだぞ?」

「了解です。」

 

 

私は次の作戦会議が始まるまでの間、キョウスケ中尉と行方不明の間の出来事を話した。

 

次のホワイトスターでの戦いはどちらかになるか判らない。

 

それは決着は白き魔星か蒼き孤狼なのかを意味している。

 

最悪の場合、あの戦いはゲストを加えてより苛烈になるだろう。

 

私はそれを恐ろしく感じてた。

 

 

「ハスミ!」

「ロサ、どうしたの?」

 

 

慌てた様子でこちらへ向かって来たロサ。

 

 

「フィフス・ルナが消えちゃったって!」

「!?」

「何だと…!」

「どういう事なの…?」

「それがアクシズの人達が衛星を警護して居たら黒のカリスマが突然現れてフィフス・ルナを奪取されたって…」

「奴か…!」

「…これは良からぬ事の前触れでしょうね。」

「ああ、奴だけは捨て置けん。」

 

 

私は残していた戦いの荒波を…

 

あの黒き道化との戦いを呼ぶ最終決戦の光景を今更になって思い出したのだ。

 

 

(迂闊だった。この世界ではユニウスセブンが健在している…だからフィフス・ルナがその代用にされたのか。)

 

 

Zの流れでは過去の世界樹攻防戦においてユニウスセブンは崩壊し数多くの死傷者を生み出した事件になっている。

 

そしてそこで家族を失った一部のザフト兵がテロを起こし地球にユニウスセブンを落下させると言う暴挙に出たのだ。

 

それも一つの切っ掛けでそれぞれの世界で起こった事件が連結し次元震が発生してしまうと言う結末を迎えた。

 

こちら側の世界では血のバレンタインは防がれユニウスセブンは健在しオーブ本土襲撃は免れている。

 

いずれネオ・ジオンによって落とされる予定だったフィフス・ルナにその白羽の矢が立ったのだろう。

 

セフィーロの激戦中に宇宙でラウ・ル・クルーゼが戦死しジェネシスが流れ通りに破壊された…

 

これで手打ち、こちらから手は出さないのだからまだマシだろうと思わせたいのか…無限力。

 

 

「キョウスケ中尉、私はこの答えに関してここで答える事は出来ません。」

「解っている。」

「この答えを知る者はその渦中に居た人達が握っています。」

 

 

そう、Zの流れでジ・エーデル・ベルナルを倒した者達がその答えを知る。

 

少々流れが異なってしまったが、恐らく気が付いてくれるだろう。

 

 

「ハスミ、お前はどこまでこの戦いを知る?」

「私は結末に至る流れから異なる流れを読み取りそれを伝えるだけです。」

「…(前に話していた変化の可能性による異なる事象の訪れの件か。」

「私はここに居る事を許されました、だからこそ手を取り合った未来を見たいのです。」

 

 

それぞれが違う正義を持ち合わせている。

 

常に重ね合う事はないだろう。

 

それでも重ね合わせた未来を取り合った未来を手に入れたい。

 

新しい可能性と未来が待つ世界へ歩みたい。

 

 

******

 

 

そしてまた奇跡を起こせた。

 

可能性を信じ希望を捨てなければ…

 

 

「エクセレン!」

「…」

 

 

アインストの罠によって戦艦から出撃不能となったノードゥス。

 

シロガネはその渦中に突撃した。

 

 

「どうして…ワタシはただ…」

「エクセレンは返して貰うぞ…!」

 

 

ライン・ヴァイスリッターの頭部の宝珠をアルトアイゼン・リーゼが貫いたのだ。

 

そして一瞬の刹那。

 

キョウスケは己の影を垣間見た。

 

蒼き孤狼とその影達を。

 

 

「過去が未来に勝てると思うのはここまでだ。」

「…(ああ、決着を付けよう。」

 

 

 

白き魔星。

 

そこが貴様の墓標だ!

 

 

=続=

 

 

 

 




再び始まる白き魔星での対決。

次回、幻影のエトランゼ・第三十五話 『来星《ライセイ》前編』。

古の孤狼はその眼で何を見る。


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第三十五話 『来星《ライセイ》前編』

再び始まる白き魔星での決戦。

戦いを変異させた存在は嘲笑う。

だが、諦めると言う言葉は今の彼らに存在しない。



セフィーロの激戦を終わらせたものの参戦する事が出来なかったジェネシス奪還作戦。

 

そのジェネシスは地球への発射直前と言う危機を孕んでいた為、即時破壊で終結した。

 

ノードゥスはその傷を引きずりながら奇襲を仕掛けて来たアインストと交戦。

 

救援に駆け付けたシロガネと合流し奴らを退けて今に至る。

 

そしてアインストに連れ攫われたエクセレンの奪還も成功し次の戦いに備える事となった。

 

この備えの為に修理と補給物資を積載したハルバートン率いる連合艦隊と合流。

 

その間に月と木星で無事勝利を収めたメンバーとも再会する事となった。

 

それぞれが無事であった事が何よりも救いである。

 

月ではラダム母艦と螺旋城は破壊されイバリューダーは前線司令官であるゾア総司令が倒された。

 

ラダムとガルファは地球侵略の要である中継基地を失った為に太陽系から撤退。

 

イバリューダーは復活したオーガンとリーブがその戦力を纏め、同じ様に地球から離脱していったそうだ。

 

木星では木星そのものを乗っ取った機械31原種の主が浄解した原種のコアを強奪。

 

木星のザ・パワーを吸収し猛威を振るった事により勇者一行は苦戦を強いられた。

 

だが、犠牲を出す事もなくその戦いを終わらせ地球へ侵攻しつつあったバルドーを打ち倒した。

 

双方もその戦いを終えて、こちら側へ移動を開始し修理と補給を受けていた。

 

この一連の行動に関して大統領であるエーデル・ベルナルはアラスカで手に入れた例の情報を元に戦線混乱を引き起こした罪で国際警察機構にその身柄を追われている。

 

現在解決すべき問題はインスペクターとアインストである。

 

エクセレン少尉は無事助けられたが、あのアルフィミィの事もあるので気が抜けない。

 

この数奇な巡り遇わせが何を生むのか…それはまだ誰にも判らない。

 

 

******

 

 

「ふう…」

 

 

私はブルーロータスから各方面へ派遣したエージェント達が無事目的を達成したと報告を受けて安堵していた。

 

Dボゥイの御兄弟であるケンゴさんはラダム母艦と同化していた為、ホルトゥスで預かる事にした。

 

同化部位を再生治療と組み合わせて除去したりと高度な医療技術が必要になってくる為である。

 

付き添いとして恋人であるフォンが同行している。

 

イバリューダーは治療を終えたオーガンとリーブが駆けつけた事で戦局は変異した。

 

彼らの定められた寿命を延ばす事は出来ないが、それでも寄り添って生きて欲しいと願う。

 

木星は心臓原種を木星のザ・パワーから引きはがす為にちょっとした荒業を披露して貰った事でJ一行の行方不明にならずに済んだ。

 

これはGGGに早期合流したルネ・カーディフ・獅子王…彼女の事があった為である。

 

恐らく、彼女はこの先に待つ結末を望まないだろう。

 

私はまた間違った選択を犯そうとしている。

 

それでも違う結末を見て欲しいと思ってしまうのだ。

 

バルドーに関しては完全に復活していなかった事もあり、再封印ではなく消滅に持ち込んだ。

 

再封印ではかつての繰り返しになってしまうので消滅させる方法を探していた。

 

結論から言えばそれが可能なのが『無垢なる刃』の力であり、二人を木星へ派遣したのだ。

 

これで永遠に戦い続ける運命を背負いそうになった彼らも少しは変わった未来を送れると信じたい。

 

流れは誰もが変えたいと願った未来へ突き進んでいる。

 

それでも手を伸ばしても届かなかった事もあった。

 

ここまでが人としての限界なのだろうか…

 

 

「ハスミ。」

「ロサ、どうしたの?」

「うん、ちょっと…」

 

 

メンバーが次の作戦までの間、一時の休憩に勤しんでいた頃。

 

例のくまさんパンツとかのアレです。

 

私は少しばかりの飲食を持って席を離れていた。

 

この時、展望エリアで私はロサと共に作戦前の話し合いを始めていた。

 

 

「それは本当なの?」

「うん、間違いないわ。」

「確かにダ・ガーン達は地球の意思によって生まれた勇者…アニムスの花を知っていても可笑しくは無いか。」

「それと命さんの事なのだけど…」

 

 

GGGの命さんが木星からの帰路の道中で体調を崩していた。

 

現在も病室で休んでいるとロサから聞かされた。

 

私はその事に眼を瞑った。

 

 

「そう、機界新種行きは免れないか…」

「…本当に大丈夫だよね?」

「それは凱さん次第よ、私達は彼らが浄解出来る様にサポートするしかないわ。」

「うん。」

「問題は次の作戦の事よ。」

「アインストだったね。」

「これから戦うアインスト達は恐らくアクセル中尉達の故郷である向こう側の戦力を複製してくる可能性がある。」

「エンドレスフロンティアで遭遇したアインストもそうだったよね…」

「一番恐ろしいのは向こう側の記憶を持つ人達を傷つけかねないと言う事よ。」

「傷つけかねない?」

「ロサ、貴方は…自分と親しかった人達と戦える?」

「…正直言うと怖い、でも止めなきゃいけないのなら戦う。」

「そう、なら…覚悟して置いて。」

 

 

私は覚悟を決めてロサに答えた。

 

 

「恐らく次の戦いでアインストが駒として動かすのは…」

「えっ!?」

 

 

それはハスミとロサの跡を追って隠れて会話を聞いていた者にも聞こえた。

 

ハスミは助言がてらに泳がせて置いたので特に気にしてはいない。

 

 

(何だと…!?)

 

 

同時に第一種戦闘配備の連絡が響いた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

本来ならインスペクターとアインストの混戦の最中を狙ってホワイトスターに奇襲をかける作戦であったが…

 

今回は様子が違っている。

 

理由はインスペクターが仲間同士で混戦していた為であった。

 

恐らくは既に彼らの司令官がアインストしての頭角を現したのだろう。

 

直接の確認が出来ない以上は接触するしかない。

 

出撃後、私達はインスペクターの幹部が搭乗していると思われる機体に接触を試みる事となった。

 

 

「…お前ら手を出すなよ。」

 

 

アインストに乗っ取られていない彼らの代表としてメキボスと言う青年が話し合いに応じてくれた。

 

他の三人は腑に落ちない様な様子であったが、自分達が追い詰められている状況は理解しているのだろう。

 

手は出さず、傍観を続けている。

 

なお、メキボスの話し合いに応対しているのは今回の戦いの中で交戦経験のある万丈とイルム中尉である。

 

 

「つまり君達の司令官がアインストに変異し暴走を始めたと言う訳か?」

「ああ、そっちには好都合な展開だろうがな…」

「…そう言う訳で言った訳じゃないんだけどよ。」

 

 

ホワイトスターに乗り込む準備の為に出撃準備を済ませていたノードゥス。

 

月と木星で合流した地球防衛軍や駆けつけた前回のL5戦役メンバーも多い為、大所帯は相変わらずである。

 

 

「見る限り、色んな星系の連中を取り入れているらしいからな…話し合いに応じてくれて助かったぜ。」

「中には君達に故郷を奪われた事で敵意を持つ者も居る事を承知して置いて欲しい。」

「その件はこっち側で色々と事情があるんでな、今回は省かせて貰うぜ。」

「…(情報通りインスペクターは複数の組織が絡んでいるのか。」

「俺達は先遣隊の誤情報が原因でお前達に戦争を仕掛けちまった、追々正式な通達があると思うが謝罪させてくれ。」

 

 

メキボスの謝罪告白に動揺するインスペクター側の幹部達。

 

 

「メキボス…!」

「そう怒んなよ、ヴィガジ…今回の戦闘は俺達側に非がある。」

「…しかし。」

「俺達は銀河の法を司る惑星ブレイブの住人達に手を掛けちまった時点で各方面から問題視されているんだぜ?」

「アタイ達も下手すれば奪われた命だったのに地球人に助けられたからね。」

「…」

「シカログもそうだってさ。」

「アギーハ、シカログ…お前達まで。」

 

四人中三人が共闘の意志を見せている以上、不本意ながらヴィガジはその提案を受け入れた。

 

 

「だが、ホワイトスターや一部の軍事施設占拠の尻拭いだけはさせて貰う。」

「つまり、僕らの戦列に加わると?」

「虫が良過ぎるが…そうなるな。」

 

 

戦いは更なる奇跡を呼び込み。

 

そして繋ぎ合う。

 

 

******

 

 

一方、ホワイトスターでは…

 

 

「クッ!」

 

 

たった一機でアインストの大群を退けている者が居た。

 

 

「…アクセルの言葉が正しければ我らの世界を滅ぼしたのは貴様らか!」

 

 

シャドウミラーの最後の一人となったヴィンデルは蒼き影に叫ぶ。

 

 

「アインスト…ベーオウルフ、そして…マーチウインド!!」

「各機、噛み砕け…!」

 

 

=続=

 

 




純粋に染まった者達は鏡合わせの自分達と戦う。

それが己の真意で在ろうとなかろうと。

次回、幻影のエトランゼ・第三十五話 『来星《ライセイ》後編』。


呼び込んだ奇跡の多さは禍をも呼び込む。

抗うのは己自身。


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第三十五話 『来星《ライセイ》後編』

取り戻す事は出来ない。

それでも解放する。

これはその痛み。

悲しみはその怒りだ。



ノードゥスが先遣隊としてホワイトスターに攻撃を仕掛けた頃。

 

地球では…

 

 

******

 

 

青き星は赤に染まる。

 

それは空を覆い尽くし、人々を不安へと導くかの様に。

 

カナダのとある片田舎では…

 

 

「シロー殿、空を!」

「ノリスさん、これは…!」

「何があったの?」

 

 

一組の夫婦とその付き人が先ほどまで星空に輝いていた空を見上げる。

 

それは紺碧の空を覆い尽くす紅だ。

 

 

「…(俺は…この光景を覚えている?」

 

 

シローの脳裏に朧げに蘇る記憶。

 

宇宙から視た地球を染める紅。

 

 

「シロー、一体何が起こっているの?」

「俺にも解らない…ただ宇宙で何かが起こっている。」

 

 

身重であるアイナの肩を寄せてシローは空を見上げた。

 

今も戦い続けている仲間達の安否を気遣いながら。

 

同じく日本の雷門通り近くの下町では…

 

 

「じっちゃん、空を見てくれ!」

 

 

15歳位の学生が紅に染まった空を見上げた。

 

その横で妹だろうか?

 

パグを抱き上げた少女と共に居た。

 

家の中に籠る祖父へ危機を知らせるが聞こえていない様子だ。

 

 

「…(鋼龍戦隊の皆、頑張ってくれ!」

 

 

この少年ことコウタ・アズマは戦えない歯痒さを抱えながら何れ共に戦うだろう仲間の安否を気遣った。

 

同じ様に浅草の観光地で騒めく観客達の中で店員用の制服を着た青年が…

 

龍神が住まうと伝承された池の前で10代の少年が…

 

 

「頑張って、エクスクロスの皆…!」

 

 

北海道の学園内で双子の姉弟が…

 

同じく北海道の郊外で紫色の髪の親子が…

 

オーブの街で紅に染まった空を見上げながら妹や友人達と共に祈りを送る赤い眼の少年。

 

 

「…(キラさん、アスランさん!」

 

 

とある遺跡が眠る孤島で蒼き巨人と共に空を見上げる少年が…

 

アースクレイドル跡地でクライウルブズ隊が…

 

地球各所で同様の事が発生しながらも諦めずに応戦する人々。

 

人類は諦めた訳ではない。

 

紡がれた奇跡は人々の心の中にも届いて居た。

 

ある者はそれを歌で伝え。

 

ある者は名も無き英雄として戦場で仲間達を鼓舞し。

 

ある者は戦いの渦中に居る者達の帰還を信じながら。

 

己の恐怖と戦っていた。

 

 

******

 

 

先のインスペクター組との話し合いの後。

 

ノードゥスは彼らの案内の元、警備が手薄となっているエリアからホワイトスターに侵入する事に決定した。

 

アインストに侵食されたとは言え、一部の戦力はこちら側で使用出来ると判った為である。

 

だが、それも時間の問題だろう。

 

インスペクターの前線司令官がアインストに侵食され、既に本人自身ではない以上。

 

この戦いも避けられないのだから…

 

 

「…(この状況、INの流れが強いか。」

 

 

ホワイトスター宙域に潜入したものの、予想を超えた激戦を繰り広げる事となった。

 

ホワイトスターを依代に顕現したシュテルン・レジセイアを中心にクノッヘン等の初期アインストが網を張っていた。

 

同時に戦闘指揮官的立場なのだろうかアインストの大群の中にウェンドロが搭乗するディカステスの姿も見えていた。

 

メキボスを皮切りにヴィガジとアギーハも話すが当のウェンドロは聞き流していた。

 

 

「…ウェンドロ。」

「煩いね、裏切り者さん達。」

「ウェンドロ様、何故この様な事を!」

「煩いと言っているだろう、君達は本当に分からず屋だね。」

「ウェンドロ様…!」

「君達は静寂を乱した、その償いはして貰うよ。」

「何時からだ?お前がそんな事になっちまったのは?」

「この衛星に来てから僕は彼らと解り合った…そして知ったのさ。」

「…!」

「君達は滅びる定めであるとね…!」

 

 

ウェンドロが本性を現したのかディカステスはその姿を変異させていった。

 

 

「こっちも最初からそのつもりだ…!」

「メキボス、アンタいいのかい!」

「もう腹は決まっている、アイツが変わっちまったのなら兄貴である俺が奴を倒すだけだ!」

「メキボス、お前。」

「俺達の戦いも最初から仕組まれていたのなら今が尻拭い時だって事さ。」

「…」

「シカログ判ったよ…腐れ縁らしくメキボスの手伝いをしてやるさ。」

「ふん、結局はこうなるのか。」

「お前ら、こんな兄弟喧嘩に付き合わなくてもいいんだぜ?」

「言っただろ?腐れ縁だってね。」

「ウェンドロ様は戦死された、ならば生き恥を晒させる訳にも行くまい。」

「…」

「礼は先に言って置くぜ、お互い生きていたら祝杯でも挙げようや。」

 

 

それぞれが因縁の相手と戦う中で一つの布石が始まっていた。

 

 

「アルフィミィ。」

「キョウスケ、エクセレン、今度こそは私と一緒に来ていただきますの。」

 

 

混戦の中でキョウスケとエクセレンはアルフィミィと対峙していた。

 

そしてエクセレンはアルフィミィの言葉の意味を理解し答えた。

 

 

「貴方はそれでいいの?」

「え?」

「私ね、貴方と一緒に居る時に何となく解っちゃったのよ。」

「何を…でございますの?」

「貴方は自分が消えたくないからキョウスケと私が必要と思ったんじゃない?」

 

 

アルフィミィはエクセレンの言葉に動揺したものの判らないと答えた。

 

 

「それは…私には判りませんの。」

「胸がモヤモヤするとか~ずっと言ってた割にまだ気が付かないのかしら?」

「エクセレン…?」

「貴方はアルフィミィでありたい、私達と家族になりたいって思っているのよ。」

「それがこのモヤモヤの意味ですの?」

「ま、私の結論って言うか考えだから…その答えはお嬢ちゃんが決めなさいよ。」

「私は…」

「エクセレン。」

「解ってるわ、こう言う時に限って邪魔者さんはやってくるものね。」

 

 

戸惑うアルフィミィを用済みと判断し処理しようと現れたアインスト。

 

それは予期せぬ新手の襲来でもあった。

 

 

「あれは…!」

「ちょっと、これ如何言う事よ!」

 

 

混戦の中でシュテルンレジセイアを一刀両断したダイゼンガーとアウセンザイターであったが…

 

蛹から成虫が羽化する様にシュテルンレジセイアの亡骸から現れた機体。

 

通称ノイヴォルフである。

 

ノイヴォルフ出現と同時に私達は例のアインスト空間へと閉じ込められてしまった。

 

崩壊したホワイトスターの残骸中でノイヴォルフの搭乗者であるベーオウルフは答えた。

 

 

「所詮は古きレジセイアの堕とし種、静寂を齎す事は出来ないか…」

 

 

巨大だった機体は白い装甲へとサイズダウンし四方に篝火の様な物を上げる。

 

 

「破壊は創造…滅びは新生…それが静寂なる世界へのトビラを開く…真の鍵!」

 

 

篝火と共に現れたのは同種のアインスト。

 

向こう側の遊撃部隊マーチウインドことノイ・マーチウインド。

 

これが今回の戦いで齎された悲劇の一つである。

 

 

「あれは!?」

「アクセル?」

「間違いない、アレは…」

「我々の世界の遊撃部隊マーチウインド…その成れの果てだ。」

 

 

アインスト空間の中で戦い続けていたヴィンテルの搭乗するツヴァイサーゲイン。

 

機体の所々に亀裂が入り、動かせるのがやっとの状態である。

 

 

「ヴィンテル、生きていたのか!」

「アクセル、お前の推測通りだった…我々の目指した理想は奴らによって捻じ曲げられた。」

「ヴィンテル…」

「アクセル、キョウスケ・ナンブ、奴を倒さねばこの世界に未来はない。」

「…共に戦うのか?」

「奴を倒す為に生き恥を晒す程度で済むのなら構うものか!」

 

 

この時、捻じ曲がった筈の道は繋がった。

 

これも奇跡なのだろう。

 

 

「全機、目標は白いアインスト!全員で元の世界へ生還する!」

 

 

ダイテツ艦長の発言を皮切りにノードゥスはノイ・マーチウインドへ攻撃を開始した。

 

 

「真の新生を前に抵抗するか…ならば!」

 

 

ノイヴォルフを倒す為に向かったATXチームの前に四機のノイ化したアインストが立ちはだかった。

 

 

「…(スーパーアークゲイン、スイームルグS、アシュクリーフ、ラーズグリーズ、64の主人公機勢揃いか。」

 

 

少々見た目は変わってしまっているが、彼らの機体である事は目視で確認した。

 

幼い頃に夢で視たマーチウインドの敗北がここで障害になってしまった。

 

 

「奴らの相手は私とロサが勤めます、キョウスケ隊長達は最終目標を追ってください!」

 

 

ハスミはATXチームのメンバーを先に行かせて四機へ応戦の構えを見せたが…

 

 

「ハスミ君、彼らの相手は僕らが引き受ける。」

「万丈さん、それにドモンさん、アムロ大尉、クワトロ大尉。」

「彼らは僕らが倒さなければならない。」

「…(そうか、万丈さん達は64のシナリオでも彼らと親しくしていたんだっけ。」

 

 

私は彼らと深く関わっていた人達を今更ながら思い出していた。

 

 

「知るからこそ、その手は鈍る…君が言っていた言葉の意味が判ったよ。」

「えっ?」

「我々は識っている、だからこそ躊躇いが残ってしまう。」

「だが、躊躇っていては本当に護りたいものを守れない。」

「アムロ大尉、クワトロ大尉、ドモンさん…」

「君は例の事情で遠回しだが僕らを助ける為に助言を送ってくれていた…今度は僕らもその痛みを受ける番だ。」

 

 

話を終えると万丈はスイームルグS、ドモンはスーパーアークゲイン、アムロはアシュクリーフ、クワトロはラーズグリーズにそれぞれが対峙した。

 

 

「ハスミ…」

「ロサ、キョウスケ隊長の跡を追おう。」

「うん。」

 

 

私達は万丈さん達の勝利を信じて、後追いとなったがノイヴォルフの元へ向かった。

 

 

「…」

 

 

己の現身。

 

己の在るかも知れなかった姿。

 

捻じ曲がった運命が対峙し最悪の形で繋がった。

 

止めようがなかった。

 

だからと言って歩みを止めるつもりはない。

 

ノイ化した機体を一機、一機と倒す毎に脳裏に過ぎる断末魔。

 

そのパイロット達の末路が蘇る。

 

ゴメンナサイ。

 

ごめんなさい。

 

御免なさい。

 

私はいつの間にか涙を流していた。

 

救えなかった人達を眠らせる為に銃を握り剣を振りかざした。

 

 

「過去が未来に…!」

「貴様の言う過去だからこそ未来は変えられる!!」

「ベーオウルフ!これが貴様の最後だ!!」

 

 

仲間の援護を受けてソウルゲインの拳がノイヴォルフの装甲を打ち破り、アルトアイゼン・リーゼの杭がベーオウルフを撃ち抜いた。

 

向こう側のアインストの首魁、ノイヴォルフを討ち倒しアインスト空間から脱出を試みるノードゥス。

 

念動者同士の共鳴と索敵により脱出に成功するものの事態は一変した。

 

 

「脱出出来たのか?」

「違う、これは!?」

「イングラム隊長、これは引き寄せられています!」

「何だと!?」

 

 

SRXチームのマイ、リュウセイ、アヤが状況の危機を悟った。

 

私はこの状況の先を知っていた為、あえて沈黙していた。

 

 

「…(これからZの流れの戦いが始まる。」

 

 

これが望みか、黒のカリスマ…

 

いや、ジ・エーデル・ベルナル。

 

望みとあらば始めよう、Zの聖戦の開幕を。

 

貴様と言う存在の一度目の敗北を。

 

全ては流れのままに。

 

 

******

 

 

同時刻、地上では。

 

 

「…そろそろ君らも諦めてくれないかな?」

 

 

悪戯に対して仕置きされる子供の様な態度で答える者。

 

 

「それを僕らが許すとでも?」

「そう言う冗談はあの世でやってくれるかい?」

 

 

それに対し彼らは許す気など無かった。

 

南米大陸の片隅、UNのネットワークを管理する軍事施設。

 

其処にエーデル・ベルナル達が潜伏していると突き止めた国際警察機構。

 

施設内に潜入したエキスパートと外部の守備に携わっているカイメラ隊に攻撃を仕掛けるBF団と孫光龍。

 

これは誤字ではない、前回の共闘宣言は続いてる為にこの様な形となっている。

 

外部ではBF団所有の怪ロボット軍団と孫光龍の応龍皇がカイメラ隊の機動兵器と交戦。

 

その多くを倒したが、隊長クラスであるレーベン、シュラン、ツィーネ、アサキムの四人によって暫く泥沼へと変貌。

 

だが、流石の四人でも荷が重すぎたのか痺れを切らせたエーデルが出撃した。

 

流石のビッグファイアもこの状況を良く思わなかったのだろう。

 

自らの護衛であるアキレス、ネプチューン、ガルーダの三体を呼び出して交戦を開始。

 

流石の彼女らも伝説と謳われたバビル二世を守護する三体には不覚を取ったのだろう。

 

ツィーネとアサキムは戦場から離脱。

 

レーベンとシュランは機体を破壊され脱出後にエキスパート達に逮捕された。

 

問題のエーデルは分が悪くなったのと同時に現れた黒のカリスマにバインド・スペルを使用され呆気なく倒されてしまったのである。

 

かつて聖女と謳われた彼女にとっては悲惨な最後であろう。

 

話は戻り、黒のカリスマもといジ・エーデル・ベルナルが搭乗するカオス・レムレースと対峙。

 

これもビッグファイアと孫光龍によって追い詰めたのだが…

 

 

「残念だけど君達に構っている暇はないんでね、この辺で失礼させて貰うよ。」

 

 

ジ・エーデルは次元震を発生させ、その場から離脱。

 

それと同時にその場から離れようとする応龍皇。

 

 

「…」

「光龍、何処へ行く気かな?」

「この場に僕は必要なさそうだからね、奴を追うよ。」

「行き先に宛があるとでも?」

「彼の性格が僕の予想通りなら、ね。」

 

 

黒のカリスマは僕同様のゲテモノ好きだからね。

 

そう言う輩は真っ先に特等席へ向かう筈さ。

 

 

「…この戦いの見届け人は君に任せておくよ。」

「珍しいね、君が直接見物しないなんて?」

「彼女の事が心配なのだろう?」

「それもあるが、僕は宣言した通りにするつもりなだけだよ。」

 

 

ビッグファイアに図星を突かれていたが、いつものポーカーフェイスで返した。

 

 

「…(さてと、僕もそろそろ君達の戦いに参加させて貰うよ。」

 

 

光龍は帽子を深く被り直すとその場から立ち去った。

 

そして応龍皇の操縦席で呟いた。

 

 

「黒のカリスマ、僕の大切な娘に傷を負わせた報いは受けて貰う。」

 

 

戦いの決着は見届け人の彼とノードゥスの手に委ねられたのである。

 

 

 

=続=

 

 




願わくば再会を願う。

私達は前へと進む。

次回、幻影のエトランゼ・第三十六話 『天災《ジ・エーデル》』。

這いつくばろうと私達は立ち上がる。



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賽の付箋

賽は投げられた。

巡り巡って。

その縁を辿って。

集結する運命へ。


二度目のホワイトスター戦が開始される前。

 

各々のノードゥスのパイロット勢が休憩を取っている最中。

 

その頃、態勢を立て直す為にGGGの拠点基地であるオービットベースにて最終決戦に備えていた。

 

オービットベース内の一室にて。

 

 

「では、定例の会議を始めたいと思う。」

 

 

ギリアムの声と共に始まった記憶保持者達並びにそれを知る関係者のみで構成されたメンバーでの会議。

 

表向きはギリアム少佐が今回の戦いに置ける情報収集の為に開いている会議になっている。

 

メンバーは前回のL5戦役で記憶保持者達に続き、今回の戦いで新たに判明したメンバーが集結している。

 

尚、L5戦役後に退役した者や今回の戦いに参加していない者は除外する。

 

事情が事情なので記憶保持者達の事を事前に説明された数名も在席している。

 

今回の戦いで記憶保持者と判明したメンバーは以下の通り。

 

 

GGGより獅子王凱、J、天海護、戒道幾巳。

 

その協力者であるヨウタ・ヒイラギ、ユキ・ヒイラギ、ファルセイバー、ブルーヴィクター。

 

VAREより芹沢瞬兵、坂下洋、バーン、スペリオン。

 

セフィーロより光。

 

プリベンターよりヒイロ。

 

ミスリルより相良宗介。

 

ラストガーディアンより秋津マサト。

 

 

同じく記憶保持者であるが、今回の戦いでベルターヌ化した世界に招かれた人々。

 

 

AT組よりキリコ・キュービィー。

 

TERRAより神名綾人。

 

ファクトリーより桂木桂、オルソン・D・ヴェルヌ。

 

パラダイムシティよりロジャー・スミス。

 

 

他にも存在するが、何分収容人数に限りがあるので割合する。

 

 

「それにしても俺達が宇宙で戦っている間に随分と人数が増えているな。」

「今回の戦いにしても黒のカリスマが関わって居る以上、変化が起きたと言うしかないだろう。」

「この場に居る全員で間違いないのか?」

「現時点で今回の記憶保持者と確認できたのはこの場にいる全員で間違いはない。」

「私の様に事情を知る者が在席している事を忘れて貰っては困る。」

「テンペスト少佐、貴方の義娘…ハスミ少尉の事は万丈君から伺っている。」

「申し訳ない…今回の本人不在の件はこの後説明させて貰う。」

 

 

記憶保持者代表でアムロとクワトロが会話を始め、ギリアムとテンペストがそれに続き今回の件についてまとめを話した。

 

今回のベルターヌ事件を皮切りにZ事変のブレイク・ザ・ワールドが発生。

 

他世界でも同様の事件が発生、これにより今の世界…多元世界が構築された。

 

今までの互いの戦いを整理したが、予想を超えた結果に誰しも驚いていた。

 

あの孫光龍がバラル所属ではなくホルトゥスに身を置いていると言う件。

 

セフィーロの戦いでクストースらしき三体が出現し脅威を祓った事。

 

問題は一部の記憶保持者の記憶に新たな記憶が出て来た事である。

 

これも幾つかの戦いの予兆を知らせる様な警告の様に…

 

ドモンからL5戦役時のDG事件でヴァンと遭遇した事。

 

光から朧げにゲシュペンストとVTX社と言う聞き慣れない社名を聞かされた事。

 

キラとアスランからL5戦役時に各地で行動していたホルトゥスのメンバーの一部に前世上で面識がある事。

 

ここまでの情報でホルトゥスは並行世界から渡って来た自分達の様な独立部隊の集まりではないかと言う結論に至った。

 

だが、結論は結論。

 

立証出来る様な情報がない為、一先ずこの話題は置いておく事となった。

 

目先の議題では木星での決戦でベルターヌ事件が終息したものの、未だ多元世界は不安定のまま続いている事。

 

そして先のアインスト戦の前に黒のカリスマによって奪取されたフィフス・ルナの事も説明された。

 

恐らく、ユニウスセブンの代用として使用されるだろうと推測されている。

 

 

「では、黒のカリスマ…ジ・エーデル・ベルナルによって今回の戦いは引き起こされたと?」

「元を辿れば間違いはないだろう、だが…他にも何者かの思惑が関わっている可能性も否定できない。」

「一体何が目的で…」

「今回の奴は…ある意味で言えば質の悪い愉快犯とでも言った方が正しい。」

「何だよ、その黒のカラスミって奴は!あっちこっち引っ掻き回しやがって!」

「銀河、黒のカリスマ…カラスミじゃないって…。」

「アハハ…」

「北斗も大変だな。」

 

 

凱の質問に対し応対するクワトロ。

 

それを聞いていた子供達の反応は辛口であるが、銀河の言い間違いで場が和んでいた。

 

逆に舞人はセフィーロで起こった戦闘に対してアムロとギリアムの質問に答えていた。

 

 

「では、舞人君…その三体はセフィーロの城を守ったと?」

「はい、間違いはありません…それでも何故あの三体が城を守ってくれたのか判らないままで…」

「情報画像にあった三体の姿を見たが、あれは間違いなくクストースで間違いないだろう。」

「そのクストースと言うのは?」

「クストースと言うのは我々側の名称でガンエデンを守護する三体の機動兵器の総称として付けられている。」

「俺達が出会ったのはナシムとゲベルがそれぞれ使役するカナフ、ケレン、ザナヴの三体。」

「その三体と同じ形状を受け継いでいる、関わりはあるだろう。」

 

 

アムロ達の説明によりそれぞれの座席に設けられたプレート状の端末からその映像を見ていた。

 

 

「この画像からであるとこのクストース達は恐らくバビル若しくはアシュラヤーのどちらかが使役しているものと考えられる。」

 

 

アムロの説明に対しドモンは発言しその発言にシュバルツや万丈が反応した。

 

 

「…アシュラヤーの間違いじゃないのか?」

「ドモン、如何言う事だ?」

「万丈、恐らくバビル・ガンエデンとはBF団首領…ビッグファイア本人、なら…奴を護る三体の護衛とこの映像の三体は形状が異なる。」

「そこまで察しがついているのなら隠す必要は無いか…君の推測通りだよ。」

「バビルがビッグファイアと推測しナシムとゲベルの動きは不明、差し向けたのが最後のアシュラヤーと推測するのが妥当だと思っただけだ。」

「ドモン…」

「今回の議題で三体のガンエデンの正体が判明したか。」

「だが、アシュラヤーの正体は…」

「孫光龍の言葉が正しければ既に僕らはその存在に出会っている。」

「出会っているって…?」

「常に僕らを護ろうとして遠回しの助言を送っていた人物。」

 

 

遠回しの助言で一同が察した。

 

 

「まさか…!」

「勿論、彼女からも話を聞いたが…呼び声らしき声は聞こえていないそうだ。」

「以前のイルイと同様に覚醒前と言う事か…」

「今は良くとも…いずれ彼女はアシュラヤーとして目覚めてしまうだろう。」

 

 

敵か味方か?

 

アシュラヤーはどちらに着くのか不明のまま。

 

 

「しっかし、あのわがままボディっ子がトンでもない事を抱え込んでいたとはね。」

「桂、親御さんの前でセクハラ発言は止めて置け。」

「はいはい、俺にはミムジィがいるからそんなつもりはないよ。」

 

 

余り会話に入った事のない桂とオルソンも見た感じの意見を話した。

 

 

「話していない事や抱えている事は多いと見ているがどう思う?」

「あるだろうね、あのアシュラヤーの事も余り話したがらないと見えた。」

 

 

ハスミノ正体を知っているロジャーと万丈は大人の対応で意見を話していたが…

 

話を聞いていたシンジとカヲル、銀河と北斗はそれぞれの感想を述べた。

 

 

「僕が彼女を見た時に懐かしい感じがしたのはそう言う事だったのか…」

「ハスミさんがアシュラヤーの巫女と言われるとそんな気もしなくもないね。」

「でも、ハスミさんはまだその巫女になっていないんですよね?」

「…まさかと思うけどもうなってたりして?」

「銀河、それは…」

「いや、銀河君の考えも当たっているかもしれない。」

「えっ?」

「その考えも視野に入れるとすれば…恐らく彼女は僕らの行動を見守っているのだろう。」

「…それは僕らが共に手を取り合うに値するがどうかですか?」

「だろうね、かつてのナシムがそうであった様に。」

 

 

L5戦役以前に関わりを持っていたリュウセイやその戦いで知り合ったマサキもまた何処か腑に落ちない表情で答えた。

 

 

「アイツ、昔っから自分で抱え込み過ぎなんだよ。」

「幼馴染としてどう思うんだ?」

「どうせなら話して欲しかったって言いてえ所だが、ユーゼスの野郎が生きている以上は話さないって選択は正しいだろうよ。」

「確かにな、奴のせいで大分俺達も後手に回されたもんな。」

「とにかく今はアインストにインスペクターと黒のカリスマって奴を倒さねえ事には始まらねえ!」

 

 

アクセルの手前、シャドウミラーの事を言わなかったのはリュウセイも成長していたのだろう。

 

 

「アクセル、恐らくホワイトスターには…」

「解っている…自分のケジメは着けるさ、これがな。」

 

 

キョウスケの問い掛けに対し覚悟を決めたアクセルの発言。

 

逆にアクセルもキョウスケに問い掛けた。

 

 

「キョウスケ、お前はどうする?」

「可能性があるのなら救い出すさ、アルフィミィを。」

「どうやら要らぬ心配だった様だな。」

 

 

飛び交う会話の中でアムロはギリアムに伝えた。

 

 

「ギリアム少佐、あの子にちゃんとぬいぐるみは届けておいた。」

「そうか…」

「次の作戦で無茶をする様なら…前と同じくお前を全力で止めるぞ。」

「…覚悟して置こう。」

 

 

それぞれの決意を胸に話はお開きとなった。

 

 

=続=



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第三十六話 『天災《ジ・エーデル》』

黒の道化は己の遊戯の為に踊る。

だが、それを許すつもりなど無い。

私達が進む未来はより困難な道へと向かっているのだから。


アインスト空間での戦闘後、元の宙域に戻ったノードゥス。

 

しかし目処前では最後の戦いが始まっていた。

 

地球への落下軌道に乗ったフィフス・ルナ。

 

それを破砕する為に各方面から集結した各組織の連合艦隊。

 

しかし、それを防がんとカイメラ隊の残存部隊や状況を見ても反応を示さない強硬派の艦隊が立ちはだかっていた。

 

だが、救いの手は差し伸べられた。

 

破砕を阻止しようとする敵勢力に対してホルトゥスが破砕妨害を行う敵勢力への攻撃を開始したのだ。

 

遅からず、阻止限界時間までに破砕活動は完了するだろう。

 

一方でノードゥスはUNステーションより離脱した黒のカリスマへの追撃命令が下っていた。

 

そこでノードゥスは地球防衛軍傘下の勇者部隊に破砕活動への参加を依頼。

 

残りは黒のカリスマの追撃へと向かったのであった。

 

 

******

 

 

しかし、航行道中にて…

 

往く手を遮る様に現れた黒い機体。

 

 

「あれは…!」

「照合確認、シュロウガで間違いありません。」

「周囲の機影はシュロウガ一体だけの様です。」

 

 

ハガネのブリッジにて行われる戦況報告。

 

 

「アサキム・ドーウィン、この期に及んでまだ我々の妨害をするのか?」

「黒のカリスマとの約束があるからね、邪魔はさせて貰うよ。」

「艦長、このままでは…」

「くっ!」

「ただ僕もそこまで愚かではない、君達に一騎打ちを申し込みたい。」

「一騎打ちだと?」

「ハスミ・クジョウ、彼女との一対一の決闘を申し込む。」

「名指しとは…。」

「彼女一人を置いて行けば、この場を通しても構わない。」

「艦長、どうされますか?」

「…」

 

 

アサキムの申し出に静まり返るブリッジに通信が入る。

 

格納エリアの待機室で待機していたハスミ本人からである。

 

 

『艦長、私からもお願いします。』

「ハスミ少尉。」

『このままここで立ち往生する訳にはいきません、お願いします。』

 

 

所々から反対の声も上がったが、緊迫した状況の為に納得せざる負えなかった。

 

 

「艦長…」

「判った、ハスミ少尉…アサキムの申し出を受けて貰いたい。」

『了解しました。』

 

 

私は念神エクリプスで出撃後、黒のカリスマ追撃の為に移動した艦隊を見送った。

 

 

「…アサキム・ドーウィン。」

「やっとだよ、君と本気で戦える…君もまた聖戦へ参加する者だからね。」

「成程、そこまで看破されてましたか…これも貴方の持つ『夢見る双魚』の力かしら?」

「知っているのなら話は早い、君の持つ『知りたがる山羊』を手に入れさせてもらうよ。」

「こっちが半殺しにしても飽き足らず、どこまでも風の様に自由な人ね…」

「さあ、始めようか!」

「どこまでも聞き分けの出来ない奴は嫌いなのだけど、仕方がないわね!」

 

 

互いに剣と刀を構えた後、黒き悪魔と白き武神は斬り合いを始めた。

 

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

「全く、君もしつこいね。」

「それはお互い様と言う奴さ。」

 

 

黒のカリスマが逃亡先である宙域では既に戦闘が始まっていた。

 

黒の道化であるジ・エーデル・ベルナル。

 

白の道化である孫光龍。

 

 

「地上でも話した通り、僕は君に恨まれるような事を一切していないのだけどね?」

「君にその気は無くても君は既に僕の逆鱗に触れていたのさ。」

 

 

孫光龍はいつものポーカーフェイスで話しているが、その腸は煮えくり返っていた。

 

 

「僕の考えが正しければ君は世界を面白可笑しく壊す事だろう?」

「そーだよ、その考えに至ったって事は君も同じ考えを持っていたんだね。」

「以前の僕なら君の考えに賛同していただろうね。」

「ん?今は違うって事?」

「そう、君と僕の違い…それは僕にも護るべき者が居る、ただそれだけだよ。」

 

 

長き時の中で怠惰に生きるだけの生。

 

そんな中で護るべき者が出来た以上、僕は別の未来を探す。

 

それを教えてくれたのは亡き妻レンゲと愛娘のハスミだ。

 

僕にまた熱い血潮を滾らせてくれた二人には感謝しきれない。

 

だからこそ僕らも本気をだそう。

 

応龍皇!

 

 

「これは…?」

「応龍皇…君は?」

 

 

この時、応龍皇の手に蘇ったものがある。

 

遥か遠き過去の大戦で失われた筈の龍玉。

 

それも一時の復活かもしれない。

 

それでもこの先の未来を目指す事を…

 

明日へ希望を見出す事を決意した彼に与えられた力なのかもしれない。

 

 

「応龍皇…判ったよ、僕もこの世界の未来の為に戦おう。」

「こんな時に限ってパワーアップアイテムを手に入れちゃうの?」

「君の表現で言うならそう言う事だろうね。」

「面白い展開だけど、そうは問屋が卸さないってね。」

 

 

怒涛の展開に痺れを切らせたジ・エーデル・ベルナルも乗機カオス・レムレースで攻撃を開始しようとしたが…

 

 

「天に昇れ、応龍皇!」

「天に上るって…ここは!?」

 

 

応龍皇ご自慢の天候を操る術である祈雨興嵐。

 

その力も龍玉を手に入れた事により疑似結界を生み出し、カオス・レムレースを閉じ込めていく。

 

 

「龍雲海にようこそ。」

 

 

更に雲の結界よって身動きが取れなくなったカオス・レムレースに龍の雷撃が轟く。

 

 

「受けたまえ、応龍の雷槍を!」

 

 

カオス・レムレースを応龍豪雷槍が貫き、その姿を掻き消す。

 

だが、カオス・レムレースに搭載された疑似スフィアの力によって少なからず原型は留めた様だ。

 

 

「あの一撃でも倒れないとはね、流石は次元力と言うべきか。」

「ふふっ…アッハハッハハハ!」

「頭でも打ったかい?」

「いや~随分と面白いものが見れたよ、これが超機人の力かい?」

「君が知る必要はない。」

「なら、僕も本気をだそうかな?」

 

 

ジ・エーデル・ベルナルは疑似スフィアの力を発動させ並行世界の自分を呼び出した。

 

その数は三機。

 

流石の応龍皇も疑似スフィアとは言え搭載機が四機となると分が悪い。

 

 

「成程、君も隠し玉を持っていたって訳か…」

「さあ、仕切り直しと行こうか?」

「君にその必要はない。」

 

 

この宙域に現れた機影。

 

数は三機、順にシュロウガ、念神エクリプス、エリファスことカオス・カペルである。

 

 

「アサキム、それにツィーネ…君達、裏切るつもりかい?」

「裏切ると言うよりは僕にとって君の考えが邪魔になっただけさ。」

「ジ・エーデル・ベルナル、アンタは私が倒して見せる。」

「ツィーネ、その様子だと真実を知った様だね。」

「お陰様でね、アンタの絡繰りを知った以上は止めさせて貰う!」

「…(ノードゥスがまだ来ていない、となるとエウレカの件で足止めを喰らっているのか。」

「おや、君も生きていたんだ。」

「お陰様で、色々と遠回りになりましたがね。」

「まあ、もう一度倒…!?」

 

 

呼び寄せた並行世界のカオス・レムレース三機が突如爆散。

 

その事にジ・エーデルは顔を歪めた。

 

 

「ノードゥスがこの場に到着していないのなら本気を出してもいいと思ったので…」

「!?」

 

 

念神エクリプスの背後に現れた巨大な機影。

 

 

「ナシムが護女神ならアシュラヤーは戦女神……貴様の言う娯楽とやらに付き合うつもりはない。」

 

 

この時、ジ・エーデルは娯楽に満たされていた筈の心に恐怖が芽生えた。

 

だが、愚かにも目覚めさせてしまったのだ。

 

聖戦に語られた御使いと対峙した人の手によって生み出された四体の神々。

 

その一体である蒼き女神を降臨させてしまったのだ。

 

 

「あ…アッハハハっ!ハハハッ!」

「鎮め、重力の水底に。」

 

 

蒼き女神の一撃。

 

それが最後の一体となったカオス・レムレースを超重牢の水底に沈めた。

 

 

「…」

 

 

ハスミが呼吸を落ち着かせるとその様子を見ていたツィーネから言葉が漏れた。

 

 

「アンタ一体…」

「伝承に語り継がれた四体の機械仕掛けの神々…その一体か。」

「伝承って…アサキム、貴方が前に話していた?」

「…それ以上は口を噤んで貰いたいのですが?」

 

 

アサキムがツィーネに事前に説明したのか続きを話そうとしていたのでハスミが制止させた。

 

 

「それよりも奴の分身を倒した位で過大評価はして欲しくないですけどね。」

「分身?」

「正確には奴の疑似スフィアから発生した次元力で奴自身が並行世界の自分を呼び出したが正解ですね。」

「じゃあ、奴は…!」

「まだ生きているって事かな?」

「やれやれ、あの道化君が一体何人出て来るのやら…」

 

 

孫光龍の発言に対して似た者同士に言われたくもないと思うハスミ。

 

 

「奴の本体は何処へ消えたって言うんだい?」

「今頃、司令クラスター救助中のノードゥスが鉢合せしている頃でしょう。」

「例のコーラリアン達が守っている場所だったわね?」

 

 

レントン達の世界にあったスカブ。

 

ブレイク・ザ・ワールド後、第五エリアにあったのがベルターヌ解放後に不安定宙域に引っかかった状態で再出現。

 

早く次元修復を行わなければスカブは崩壊。

 

例え次元修復を行ってもスカブを失ったレントン達の世界は滅びるしかない。

 

それにフィフス・ルナの落下も何とか破砕活動を続けているが妨害のせいで遅々として進んでいない。

 

どちらもタイムリミット付の総力戦。

 

これはジ・エーデル・ベルナルの思惑だけで出来る代物ではない。

 

とうとう奴らも手を出してきたか…

 

 

「所で…この後はどうしますか?」

「出来る事なら私は奴との決着を付けたいけどね。」

「…僕も同意見だ。」

「おやおや、こうも早く纏まるとはね…」

「今は利害一致が成立しただけです、お二人は大元が倒されればスフィア狩りと復讐の為に動くで合ってますか?」

「それはないね、ランドやセツコも覚醒を果たしたが望んだ力は発揮していない。」

「…(せめてサード・ステージに上がってからって事ね。」

「私はもう誰かに振り回されるのは御免だからね、ケジメは着けさせて貰うよ。」

 

 

アサキムもツィーネにも敵意は無いと判断し話を続けるハスミ。

 

 

「…判りました。」

「僕はどうすればいい?」

「孫光龍、貴方は先んじて地球へ戻ってください。」

「どう言う事かな?」

「奴以上に厄介な案件が始まる可能性があるからです。」

「……了解したよ。」

 

 

ハスミは孫光龍に命令を下した後、アサキム、ツィーネと共に決戦の地へと向かった。

 

 

(今は祝杯でも挙げていればいい、いずれ潰してやるわ…クロノの道化共。)

 

 

その後、私達はノードゥスと合流。

 

少々問題もあったが、何とか受け入れて貰えた。

 

そのジ・エーデル・ベルナルも最後の一人だったらしく怒り心頭のノードゥスに勝てる見込みはゼロに等しかった。

 

その断末魔もお粗末なモノであったし…

 

ジ・エーデル・ベルナルが仕組んだスカブ崩壊のカウントはシュウ博士の機転で妨害されており、レントンはエウレカを救出する事が出来た。

 

しかし、二人は月に相合傘を描いた後に姿を消してしまったとの事。

 

同時に襲撃を仕掛けて来た頭翅と共に消えてしまったアポロとシリウス。

 

急な別れは辛いだろうが致しかたないだろう。

 

地球へ落下しつつあったフィフス・ルナも破砕が完了し敵勢力も散り散りになったとの事だ。

 

流れ流れた結末は様々な要因を残して静かに戦いの終わりを告げようとしていた。

 

同時に新たな波乱もやって来る事を誰も知らずに。

 

 

=続=

 




世界は滅びる運命なのか?

否定する意志もまた未来に繋がる。


次回、幻影のエトランゼ・第三十六話 『浄解《ジョウカイ》』。


勇気ある誓いを胸に前へと進め。


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第三十七話 『浄解《ジョウカイ》』

その種子は人の中で目覚めようとしていた。

幾多の時を巡りそして芽吹く時を。

だが、人は愚かではない。

心の中に勇気と希望が無くならない限り。

人は何度でも歩めるのだから。


今回の戦乱の元凶であるジ・エーデル・ベルナルを打ち倒し次元修復を終えたノードゥス。

 

だが、時に運命は些細な悪戯を仕掛けていた。

 

文字通り次元修復は成功した。

 

しかし、それが完了するまでに多少の時間を要したのである。

 

互いに別れを告げるには少し長い時間が生まれたのだ。

 

いずれ帰還する人々が属する世界に。

 

それぞれが戻れるまで支える方針を政府上層部は滞在者達側の代表達と議論する事となった。

 

一部は属する世界への帰還をすぐに行える。

 

だが、何分にも失ったモノは多いので準備が整うまで滞在する国や組織も多かった。

 

後に地球連合政府は滞在国並びに滞在組織への不可侵条約を決定。

 

扱いはリクセント公国やスカンジナビア王国の様に特別自治区…

 

簡単に言うなら中立と言う立場で扱う様なものである。

 

滞在組織は地球連合政府からの依頼で太陽系復興の要請に協力。

 

それぞれが各方面へ異動する事となった。

 

大体、こう言う場合には異議を申し立てる者が少なからずいるのだが…

 

当面の衣食住、機体の整備、賃金の支払いなどが条件として盛り込まれているので簡単にOKを出したらしい。

 

チョロいと思ったのは自分だけか?

 

私達、ノードゥスは部隊解散の前にオービットベースにて待機が命令された。

 

戦いが終われば所属している場所へそれぞれが帰還する。

 

ある者は再び戦場へ。

 

ある者は再び日常へ。

 

ある者は再び航海へ。

 

私達は何時でも人生に明日と言う旅の途中である。

 

現在、機体の修復や今後の方針等が各部隊の代表と艦長らで今も議論中。

 

残りはオービットベース内のホールで祝勝パーティを行っているが…

 

人類滅亡のタイムリミットが迫っている事を誰も知らないまま。

 

その時を迎えようとしていた。

 

 

******

 

 

オービットベース内が祝勝パーティで賑わう中。

 

メディカルルームの一室でそれは起こった。

 

 

「凱兄ちゃん、命姉ちゃんが!」

「遅かったか!」

 

 

戦いを終えた者達を待ち受けた悲劇。

 

それはEI-01のイヤゲ土産とも呼ぶべき種子。

 

それが卯都木命に寄生し、長き時の中でGストーンやJジュエルへの耐性を身に着けていたのである。

 

毒を持って毒を制すとでも言うのか?

 

私としては早い内に接触し彼女から種子を摘出した上で無力化させたい所だったが…

 

その機会もなくアカシックレコードからも止められていたので何も出来なかったのである。

 

機界新種と化した命さん改め、ゾヌーダはオービットベース内の艦を奪取し地球へ降下。

 

始まり地であるGアイランドへ向かったのである。

 

こちらも手を子招いている訳には行かず、出撃可能な機体を箱舟に乗船させて後を追った。

 

理由は先のゾヌーダによってエネルギーを吸収され動けなくなったり修理自体が終了していない為に動けない機体も数多く存在したのだ。

 

その煽りを受けない機体が選出されゾヌーダの跡を追跡する事となったのである。

 

それがテッカマン、魔神、一部の勇者、KLF、修理が終わっていた小型のMSや特機などである。

 

ゾヌーダの物質分解オーラを受け止められるのは一度切り。

 

そして地球の機界消華までのタイムリミットはたったの15分。

 

再び地球が危機に陥ったのである。

 

だが、ノードゥスは戦えない仲間達の支援を受けられなくとも奮闘。

 

数々の戦いを戦い抜いた一人一人が一騎当千の戦士。

 

だからこそ振り返る事はない。

 

諦めず最後の一体になるまでその攻防は続けられた。

 

そして最優先修理を終えたスターガオガイガーとキングジェイダーが増援として参戦。

 

その身がボロボロになるまで続き、ついにゾヌーダの機体を対消滅覚悟で破壊。

 

だが、ゾヌーダの浄解はこれからだった。

 

勇気と希望を持って勇者達は幼き少年達と言の葉を紡ぐ。

 

愛した人を世界を救いたい思いと共に紡いだ。

 

 

「「クーラティオー、テネリタース、セクティオ、サルース、コクトゥーラ…」」

「「テンペルム、ムンドゥース、インフィニ、トゥーム、レディーレ…」」

 

 

機界消華の中心となったGアイランドを緑色の光と赤色の光が周囲を包み込んだ。

 

それは幾つもの生命が持つ命の輝き。

 

 

「…奇跡が起きたよ。」

「これが奇跡か…」

 

浄解モードの護と幾巳の前で彼ら彼女らが人としての姿を取り戻したのだ。

 

 

「凱、その姿は…!」

「神様が取って置いてくれたらしい。」

 

 

機界新種の姿から戻った命。

 

機界消華の果てにボロボロになった筈のサイボーグの肉体から生身の肉体へと戻った凱。

 

それは奇跡の証であり、これから始まる戦いへ赴く為に進化した姿でもあった。

 

多くの人はまだ知らないだろう。

 

それが人の根源が引き出す力の果てに起こる真化に由来する力である事を…

 

その余韻は戦いに参加していた者にも余波を与えた。

 

サイボーグ体であり肉体に銅鐸を宿した宙。

 

JジュエルとGストーンのサイボーグであるJとルネ。

 

DG細胞をその身に宿したドモンとレイン。

 

DG細胞によって生み出されたシュバルツ。

 

アインストとして滅びを迎える筈だったアルフィミィ。

 

彼らもまた有機物と無機物が融合し新たな存在となったのだ。

 

別の意味でエヴォリュダーとして。

 

 

「これも新たな選択肢に於いての結末か…」

 

 

私は瓦礫の山となったGアイランドの街並みの中。

 

勇気ある誓いが手にした奇跡の光景を眼にしながら静かに涙を流した。

 

彼らの帰還に祝福とこれから起こる戦いに巻き込む懺悔の為の涙を。

 

 

******

 

 

「一足遅かったけど、何とかなったみたいだね。」

「…」

「さっきも話した通り、これからが君達の本番だよ。」

 

 

瓦礫と化したビル街の影で話す二つの人影。

 

 

「例の奴は僕らの方で追っている、君は護るべき者と奴を倒す為の鍵を探すといい。」

「…」

「僕らの巫女様は約束を守る方さ、勿論裏切った場合の報復は凄まじいけどね?」

「アシュラヤーに礼を伝えてくれ。」

「じゃ、商談成立って事で…」

 

 

影の一つがビル街の影に溶け込む様にして消えた。

 

 

「またね、ソムニウムのラミア。」

 

 

彼は消えた存在の名前を静かに答えた。

 

同時にハスミからの念話を受ける光龍。

 

 

『光龍、そちらはどうですか?』

「何とかなったよ、ただ損害は君の予想通りだね。」

『そう、ですか…』

「アサキムとツィーネはこっちで身柄を預かっているけど大丈夫なのかい?」

『利害が一致している以上、その時までは何もしないでしょう。』

「ま、いいけどね。」

『一息つけたら調べて貰いたい事があります。』

「また調べ物かい?」

『ええ、GAILとバビロンプロジェクトと言うのは御存じでしょうか?』

「片方は国際コングロマリット…大手の複合企業でもう片方はデモばかりの土地開発プロジェクトだったね。」

『どうもキナ臭い感じがし始めているので調査をお願いします。』

「で、調査中のウォン重工業とモーディワープとかはどうするんだい?」

『私の方で調べます、丁度いい辞令がこちらに来る予定なので。』

「…君も抜け目がないね。」

『血は争えないと言った方が正しいのでは?』

「!」

『後でキッチリ決着を付けましょう…お父さん。』

 

 

その後、彼女の念話は一方的に遮断された。

 

 

「プッ…アッハハハ……流石は僕の娘だよ。」

 

 

彼の実の娘と悟ったハスミの言葉は光龍に笑いを与えた。

 

 

=第二章・完=

 

 




様々な思惑が飛び交う中。

傀儡師は目覚める。

次回、幻影のエトランゼ・第三章『修羅ノ詩篇』

踊ろう、この乱世の中で。


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決の付箋

秘密は漏れるもの。

だからこそ決意した。

これはその為の再会。

紅と蒼の会合の一端である。


Gアイランドでの一件から一週間後。

 

私は再び梁山泊へ出向する事となった。

 

それは望んでいた兆しが訪れる事を教えるかの様な出来事だった。

 

 

******

 

 

入室の際に断りを入れてから入室した私とテンペスト少佐、ロサ。

 

中では黄帝ライセを筆頭に九大天王の方々、孫光龍、BF団首領のビッグファイアと十傑集の数名が待機していた。

 

残りは恐らく本部警護の為に残っているのだろう。

 

色んな意味で修羅場中の私はにこやかな笑顔のビッグファイアに声を掛けられた。

 

 

「やあ、久しぶりだね。」

「お…お久しぶりです、ビッグファイア。」

 

 

梁山泊の執務室に入ったら既に爆弾設置済の有様です。

 

いや、最早…核弾頭とか次元震動弾投下済の様な修羅場へ突入する事となった。

 

 

「ハスミ君、済まない……今回ばかりは目を瞑る訳には行かなくなったのでね。」

「いえ、想定内の事です…十中八九こう来ると思ってましたのでお気に為さらず。」

「ハスミ、如何言う事だ?」

「秘密は漏れるもの…その時が少し早まっただけです。」

 

 

私は黄帝ライセの謝罪の言葉に謝罪で返した後、テンペストお義父さんの質問に隠していた事を話す意味合いで言葉を返した。

 

 

「既にお察しの通り、私がアシュラヤー・ガンエデンの巫女です。」

「そしてホルトゥスの真のリーダーでもあるかな?」

「…間違いはありません。」

 

 

私は自身がアシュラヤーの巫女である事、ホルトゥスのリーダーである事を肯定した。

 

 

「…ハスミ。」

「ホルトゥスの動きに手際が良く思えたのはそう言う事だったのか…」

 

 

何処かで真実でない事を祈りたかったテンペストだったが義娘の言葉を信用した。

 

国際警察機構とBF団、双方共に事前に説明がされていたのか腑に落ちない表情をされた。

 

 

「ネタ晴らしをした所で私達を呼び寄せた理由をお聞かせ願いたいのですが?」

「君が警告してくれていた組織が動き始めた。」

「結局そうなってしまいましたか…」

 

 

私が事前に警告していた組織や企業。

 

バイオネット、超人同盟、BPL、ウォン重工業、GAIL、そしてクロノ。

 

クロノに関しては構成員が既に各組織や企業に潜伏している。

 

一時期、国際警察機構やBF団にも工作員が入り込もうとしていたので助言して置いた次第である。

 

勿論、ホルトゥスの方も処理済みである。

 

 

「ハスミ君、クロノとは一体?」

「ガンエデンの名を継ぐ者にとって因縁の存在に関連する組織の名です。」

「そして人類が月に到達した時点で監視を始めた者達と言うべき者。」

「クロノとは神の名を語る曲者でエゴイストの塊の様な連中の下っ端の組織の事です。」

 

 

黄帝ライセの質問に私と助言がてらにビッグファイアが説明を始めた。

 

 

「彼らの上に立つ者の名は『御使い』、元は僕らの様に人だった者達だ。」

「最初は人々を見守る側だったのですが、何時しか自分達が神と判断し人類を滅ぼし始めたのです。」

「過去の大戦で古き民達は四体のガンエデンを創り上げ、御使いに対抗しようしたが…」

「彼らの生み出したZと呼ばれる神の誤作動に巻き込まれ双方共に痛み分けで終わりました。」

「それが四つの死海文書に刻まれた史実、僕らがその時まで護り続いていた人類史の秘密でもある。」

 

 

ビッグファイアは死海文書に刻まれた秘密の一端だけを説明したようなので、私もそれに続いた。

 

 

「つまり、クロノとは御使いの私兵と覚えて下されば結構です。」

「しかし、奴らがこちら側の世界に監視を入れ始めたのに変わりはないのだろう?」

「その通りです、こちらでも奴らの跡を追っていますがこちら側の世界に送られてきたのは下っ端の下っ端ですので有力な情報は得られないでしょう。」

「成程、敵も一筋縄ではいかないという訳か。」

「ですが、今回の空白事件の戦いでスフィア・リアクターが現れた以上…奴らの監視はより強くなるでしょう。」

 

 

空白事件。

 

原作のインスペクター騒動の名前が変わったものである。

 

今回はブレイク・ザ・ワールドやベルターヌ事件に転移騒動まで発生。

 

しまいには次元修復後に緩やかに戻りつつあるこの世界は何事もなかったの様にベルターヌ発生の日に時間が戻ってしまったのだ。

 

政府は一連の事件を空白事件として扱う事になった。

 

インスペクターも司令官の暴走やそちら側の調査師団の虚偽報告の問題もあり、正式な報告の為に本国へ戻った。

 

シャドウミラーは事実上の壊滅。

 

書類上では構成員は全員戦死したと言う公式記録にされており、密かに生き残った構成員はこの梁山泊に拘留中である。

 

ザフトはパトリック・ザラが今回の戦いの責任を取り議長の座を降りた。

 

後任としてアイリーン議長が代表に選ばれたが時間の問題だろう。

 

いずれ彼が表舞台に立つのだから…

 

連合政府はブライアン・ミッドクリッド大統領が再度大統領の座に落ち着いた。

 

どこまでこの状況が続くが判らないし未だ不安定な状況は続いている。

 

 

「今、解決すべき問題は闇黒の賢者に修羅、アルジャーノン発生の原因であるベストマンでしょうか?」

「闇黒の賢者…確か名前は。」

「…ダークブレイン、負の無限力の一端を担う存在です。」

 

 

ロアの宿敵であるダークブレイン。

 

奴がこちら側の世界に転移してくる事は確認済みだ。

 

この結果が今後どう響くかも…

 

 

「ダイブインスペクション計画の失敗で生まれたベストマン、いずれ人類に牙を剥くでしょう。」

 

 

計画失敗後、尊者ヤクスギを依代に顕現したベストマン。

 

生と死の循環の摂理に反した行いの結果に産まれた存在。

 

命ある全てを滅ぼす者。

 

捨て置けば多大な被害が予測できる。

 

 

「修羅の件はどうするつもりかな?」

「これは鋼龍戦隊に任せます、いずれ修羅の一人と接触する予定なので…」

 

 

手を出す事も可能だが、それでは後手に回ってしまうし…

 

この戦いで出る犠牲者の数が多すぎる。

 

 

「後はバイオネットが近々大規模行動を行う動きを見せています。」

「…彼らも懲りないね。」

「人を人として扱わない奇人変人の集まりです、慈悲の必要はないでしょう。」

「バイオネットに関しては僕らに任せて貰っても?」

「はい、再起不能になるまで追い込んで構いません。」

 

 

バイオネットは完膚なきまでに潰す気でいました。

 

精々十傑集の餌食となってください。

 

 

「その代わり、奴らと手を組んでいる曲者様方はこちらで後始末して置きます。」

「ハスミ君、後で所在を割り当てた情報をこちらにも渡して貰えるだろうか?」

「最初からそのつもりです、曲者様達も何かしらの手を打ってくる可能性があるので。」

 

 

まだ調査中で確信に至っていない情報もあるが、調べておいて損はないだろう。

 

どんな情報でも調べると真っ黒い情報がボロボロと落ちて来る。

 

知りたがる山羊には感謝しなければならないが…

 

検索エンジン並みの膨大な情報量を何とかしなければならないと言うデメリットがある以上は多用は出来ない。

 

それでもやるしかない。

 

情報の流れに飲まれず真実を追い求める事こそがこのスフィアの試練。

 

私は乗り越えて見せる。

 

 

「ハスミ君、前に話して置いた件だが…」

「そのお話ですが…お受けしたいと思います。」

「判った、先方にはこちらから伝えて置こう。」

 

 

前々から中条長官より長期出張の件が出ていた。

 

私はこれから起こる事件に対処出来る様に長期出張の件を受ける事にした。

 

暫くはATXチームの皆とお別れになるが致し方ない。

 

私は前に進むと決めたのだから…

 

 

=続=



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三章予告

数々の奇跡よって変異する事象。

これもまた奇跡によって変異する事象なのだろうか?

我々の戦いは続く。



 

 

世界に暗躍する影。

 

 

=目覚める赤き戦士=

 

 

「君は?」

「ファイターロア、こっから俺も参戦でぇ!」

「よろしく、ロア。」

「…(始まったのね、ザ・グレイトバトルが。」

 

 

=バルトール事件発生=

 

 

「ユルゲン博士が破棄した研究が何者かに盗まれたらしい。」

「まさか…!」

「ああ、君が予期していたODEシステムの研究だ。」

 

 

=バイオネット事件=

 

 

「やはり、お前か…鰐淵シュウ。」

「久しぶりだな、獅子王凱。」

「俺はお前との約束を果たし…お前を救ってみせる!」

 

 

 

不完全の落とし子達。

 

 

 

=デュミナス襲来=

 

 

「アタイ達の動きについてこられるなんて!?」

「貴方は一体?」

「ふん、如何にキサマらが子供の姿をしおってもワシには通用せんぞ!」

 

 

 

剣を模した建造物。

 

 

=ソーディアン出現=

 

 

「我らは修羅、戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ、それが我らの誇りにして掟だ。」

「ならば、俺達のファイターの魂をお前達にぶつけるまでだ!」

 

 

 

真夏の街で繰り広げられる騒動。

 

 

=人体消失事件=

 

 

「チカちゃん、かんげきぃ~!」

「今よ、叫んで!」

「任せろ、ヒノキ!!」

 

 

 

=日常の悪夢再来=

 

 

「ふもっふ!」

「ソースケぇ!!」

 

 

 

=勇者VS勇者=

 

 

「ファイヤーエン、何も言わずにその子を引き渡してくれ。」

「一体、ケンタが何をしたって言うんだよ!」

「その子は地球に居ては危険な存在だ。」

 

 

=季節外れの転校生=

 

 

「君は?」

「僕はキオ、キオ・アスノって言うんだ、よろしくね。」

「よろしくね、キオ君。」

 

 

=異例の遭遇=

 

 

「俺は稲葉翔って言うんだ、君は?」

「俺はトーヤ、トーヤ・シューン。」

「トーヤか、こっちは俺の弟の天音だ。」

「こんにちわ、トーヤさん。」

 

 

=真夏の奇跡=

 

 

「くそっ、あのタラコ野郎!」

「その意気や良し!」

「!?」

「我はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト!」

「我はウォーダン、ウォーダン・ユミル!」

 

「「我らは悪を断つ剣!推して参る!!」」

 

 

繋ぎ合う未来の為に転移する運命。

 

 

=蒼き幻想の歩み=

 

 

「お前さん、名前は?」

「私はハスミ、ハスミ・クジョウと言います。」

「俺はガドライト・メオンサム、よろしくな。」

 

 

 

平穏の中で戦い続ける者達はそれぞれの道を歩む。

 

 

 

「こんな状況下でガンダムファイトの再開だと!?」

 

 

「もうすぐ夏休み、楽しみだぜ。」

 

 

「ウォン重工業社製バルトール?」

 

 

「修羅にバルトール、デュミナス一味、バイオネット、アルジャーノン…調べる事はまた山ほどか。」

 

 

「自分のやりたい事を見つける為に俺はゲキガンガーをもう一度見る事にする。」

 

 

「例のボトム・ザ・ワールド…本当に行く気なの?」

 

 

「Anti・DCがまた動き出したそうだな。」

 

 

「僕はナシムの所には戻らないよ、僕には護りたい巫女様がいるからね。」

 

 

「宇宙海賊クロスボーン・バンガード?ガイスターズじゃなくて?」

 

 

「舞人、誕生日おめでとう。」

 

 

「悪いけど、その欠片は回収させて貰うよ…イェッツトを生み出させる訳には行かないんでね。」

 

 

「さてと、お膳立てはここまで…巻き返させて貰うよ!」

 

 

次回、幻影のエトランゼ・第三章『修羅ノ詩篇』。

 




変異する事象。

平穏な日常に見え隠れする闇。

それは明日への試練。


「これも運命なら私は突き進む!」


抗え、明日への希望を胸に進め。


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修羅ノ詩篇
第三十八話 『選道《センドウ》』


歩む道が違えどいずれ繋がる。

今は別の道を歩むだけ。


先の戦いから数週間後、季節は初夏。

 

真夏の暑い日差しが近づく中で人々は壊された街の復興に勤しんでいた。

 

元々の生活に戻った者や新たな新天地を求めて移動する者も多い。

 

戦いの傷跡が所々残る世界で人々は歩みを止めずに歩き続けるのだ。

 

 

******

 

 

「はぁ~」

「溜息をついてどうした?」

「だって、うちのチーム随分と寂しくなっちゃって…」

 

 

ロシア極東に位置するペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の分隊室にて。

 

ATXチームのエクセレンの愚痴を聞きつつ書類整理に勤しむキョウスケの姿があった。

 

 

「クスハとブリットは引き続きテスラ研で超機人の調査、ハスミとロサは国際警察機構に出張後ギリアム少佐の諜報部隊に異動、ゼンガー少佐はトロンべ隊に異動、ラミアも戦技教導隊に異動になったばかりだぞ?」

「だ・か・ら・よ~皆出張やら異動やらでお姉さん寂しくなっちゃうわ。」

「諦めろ、上からの命令もあれば望んで移動願いを受けているんだ…俺達が邪魔をするいわれはないだろう。」

「エクセレンは寂しがり屋ですの。」

「アタシの気持ちを分かってくれるのはミィちゃんだけよ~」

 

 

前回のGアイランドの戦いにて消滅を免れたアインスト・アルフィミィ。

 

現在、彼女の処遇や正式な登録手続きの関係でこのカムチャツキー基地に島流し状態を受けている。

 

平たく言えばこっちで正式な書類が出来るまで隠れていろと言う形でもあるのだが致し方ない。

 

ちなみにソファーに座っているアルフィミィの頬を同じく頬でスリスリしているエクセレンが未だに愚痴っている。

 

 

「兎に角、レイカー司令が何とかアルフィミィの存在がバレない様にギリアム少佐と動いている以上は俺達も静かに待つしかない。」

「それは判るけど、ミィちゃんだってこんな氷ばかりの所じゃ…嫌になっちゃわない?」

「私は雪とか氷は初めてなので大丈夫ですの。」

「ミィちゃんがピュアっ子すぎてお姉さん泣けちゃう。」

 

 

確認した書類を纏め上げたキョウスケはその様子を静かに見守っていた。

 

 

「全くこっちの気も知らんで呑気な奴らだ、これがな。」

 

 

当番制の基地周辺の巡回を終えたアクセルが分隊室の前で同じく愚痴っていた。

 

 

「アクセル、巡回が終わったのか?」

「相変わらず周辺の様子は変わり無しだ。」

「そうか…」

「所でキョウスケ、さっきから何を見ているの?」

 

 

先程の書類の束を片付けたキョウスケ。

 

次に見ていたのは新兵器トライアルに提出されるメーカーとその起動兵器の一覧表だった。

 

 

「これって今度の連合軍の新兵器トライアルに出る機体?」

「そうだ、戦技教導隊がこのトライアルに参加する予定だ。」

「戦車っぽいのもあれば、戦闘機っぽいのもあるわね。」

「性能面からJUDAコーポレーションの迅雷、GreAT社のヴァレイシリーズ、ウォン重工業のバルトールが有力候補とされている。」

「えー?アナハイムとかルオ商会にサナリィ、アクタイオン・インダストリーにモルゲンレーテ社とか大手も参加しているのに?」

「ネルガルはL5戦役の失態を抑えるのに大忙し、篠原重工とシャフト・エンタープライズはバビロンプロジェクト一択で参加を見送ったとの事だ。」

「最上重工とアシュアリー・クロイツェルはどうなった?」

「機体開発が滞っているらしくこちらも辞退したそうだ。」

「そう言えばマオ社とイスルギ重工は?あっちも良くトライアルに参加しているでしょ?」

「前回のトライアルで新型機を提出したばかりだ、ネタがないのだろう。」

 

 

度重なる異星人の襲来とブレイク・ザ・ワールドによる並行世界からの来訪者。

 

この事態に政府は太陽系防衛の為に新兵器の開発を進めていた。

 

 

「…(マサキによればユルゲン博士は既にビアン博士と共に行動している、この世界のバルトール事件は一体誰が引き起こす?」

 

 

変わりつつある事象にキョウスケは不穏な空気を読み取っていた。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

ギリアム少佐ら諜報部隊は詐欺メール騒動と共に起こった機動兵器関連企業の社長殺害事件を追っていた。

 

そしてその詐欺メールの出所が外州精機と呼ばれる中小企業である事が判明し潜入する所だった。

 

そのギリアムの部下の怜次、壇、光次郎。

 

光次郎からガイシャの頭部が何か鈍器の様なもので粉々に吹き飛んでいる状態の写真に対し『鉄のボクサーグローブで殴打とか?』と下らない発言をし。

 

怜次が『そんな事が出来るのはガンダムファイター位ですよ。』とツッコミを入れた。

 

今回の事件捜査に参加していたロサから『鉄球を撃ち出す様なものでないと無理がありますし犯人は人じゃないかもしれません』と説明。

 

その説明に壇はそんな馬鹿なと考えるがブレイク・ザ・ワールドやベルターヌ騒動でバケモノや魔物と言う存在を見てしまった以上、有り得ると肯定した。

 

同じく事件捜査に参加していたハスミはギリアム少佐に『万が一の事があるのでその手の相手が出たら自分達が応戦する。』と答えた。

 

ギリアムも危険と分かっていたが、空白事件の最中…アースクレイドルでの戦闘を見ているので許可を出した。

 

流石に女の子にそれはないでしょ?と怜次と光次郎が止めに入るも…

 

 

「言って置くが、ハスミ少尉とロサの戦闘能力は国際警察機構のエキスパートレベルだぞ?」

 

 

とギリアムが答えると…

 

『え?』と二人の顔が真っ青になったのは言うまでもない。

 

壇からは『君達、PTを生身で壊せるのかい?』とハスミとロサに話していた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

外州精機のビル入り口近くに止められた運送車。

 

その中で外州精機のネットワークに詐欺メールを送るウイルスを仕込み、犯人を特定する作業に入っていた。

 

ギリアム少佐と壇、ハスミ、ロサがビル内部に潜入。

 

ウイルスの発信を待って犯人を燻り出すのを待っていた。

 

そして作戦開始の合図音が響いた。

 

オフィスのPCに流れる詐欺メールの嵐。

 

サラリーマン達が各デスクでメールの嵐を止めようとしているが無駄な作業である。

 

流したウイルスはマオ社の技術者達が悪戯で作り上げたえげつない代物。

 

そんなものを止められるとしたらラーダさんやセロ博士位なモノだろう。

 

その混乱でお茶くみの女性がお盆を落とした様子を見たギリアムは彼女が犯人と確信し後を追った。

 

その後を壇、ハスミ、ロサが追って行った。

 

お茶くみの女性が避難経路にあるドアを開けようとした所…

 

ドアが爆発でも起こしたかの様に弾け飛んだ。

 

ギリアム少佐と壇が女性を確保した後、ドアの奥から現れたのは浮遊する鉄球を装備した鉄板の様な物体。

 

勿論、その物体に自己判断など出来る筈もない。

 

問答無用で襲って来たのだ。

 

 

「ギリアム少佐、奴はこっちで惹き付けますので屋上で合流しましょう!」

「ハスミ少尉、無茶はしないでくれ!」

「了解です。」

 

 

こっちの事情などお構いなしに鉄球を発射してくる鉄板もといモノリスモドキ。

 

余りにもしつこいので鉄球を斬り裂いて置いた。

 

屋上に出た後、ロサにはモノリスモドキに砲撃を仕掛けて貰った。

 

流石のモノリスモドキも煙を上げて地上に落下するのかと思ったが突如出現した機動兵器と合体しそうになった。

 

しかし…

 

 

「ギリアム少佐!今です!!」

 

 

反対側の工事中のビルに待機してあったゲシュペンストmk-Ⅱのメガブラスターキャノンにて合体途中のモノリスモドキを機動兵器ごと砲撃。

 

それによりモノリスモドキが本体だったらしく機動兵器は沈黙した。

 

 

「さてと、これを仕掛けたのがあっちか…」

 

 

私はロサにその場で待機を頼んでビルからビルへ飛んで今回の首謀者を追った。

 

暫く移動するとピンク色の髪をした少女が愚痴っているのが見えて来た。

 

 

「どっか壊れてたのかな、全然使えないし。」

「子供の玩具には随分と大きいわね。」

「アンタ、いつの間に!?」

 

 

私はこの事件の首謀者である少女の背後を取って話しかけた。

 

しかし、少女と言っても腕力は化物級。

 

その反撃を喰らわない為に少し移動する羽目になった。

 

ちなみに私は敵に顔を判別させない様に行動中は常に仮面を付けている。

 

 

「あの機動兵器を動かしていたのは貴方ね。」

「だったらどうする訳、お面さん?」

「さてね、悪い子にはお仕置きしなきゃでしょ?」

「悪いけどアンタの相手をしている暇はないし、今はバイバイするわ。」

「逃がすとおもっ…!?」

 

 

動きを封じようとした矢先、転移の様なもので逃走した少女。

 

気配も完全に消えており、その後を追跡するのは無理があった。

 

 

「ギリアム少佐…申し訳ありません、モノリスモドキの犯人を取り逃がしました。」

「そうか、こちらは詐欺メールの犯人を拘束する事に成功した…一旦戻ってくれ。」

「了解。」

 

 

私は仮面を外して溜息を付いた。

 

 

「はぁ、最初っから失敗する何て…幸先悪そうだわ。」

 

 

あの少女、ティスをここで逃がした以上…外伝のコンパチフラグは成立しそう。

 

 

「さてと、次はモーディワープ社に調査か……流石に仕事は多いわ。」

 

 

私は事後処理の為にギリアム少佐が居る現場に戻った。

 

 

=続=




梅雨入りの季節。

雨降る都心に蠢く影。

少年達は一つの悪意に晒される。


次回、幻影のエトランゼ・第三十九話 『覚醒《ベターマン》』。


それは戦いの兆し。


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縁の付箋

縁は繋がる。

エニシはツナガル。

そう、その時は来た。


空白事件の後、梁山泊での暴露をした後の事。

 

私はギリアム少佐率いる諜報部隊へ転属の前に外出届を出して墓参りをしていた。

 

申請受理されたその日が母の命日だったからだ。

 

私の誕生日の一週間前の日に母は事故死した。

 

加害者は轢き逃げで逃走、母は私を庇って亡くなった。

 

一瞬だったが憶えているのは血走った加害者の眼。

 

母はその時、体調を崩していた時期で力が使えなかった。

 

間の悪い事に父はその場にいなかった。

 

この父は本物ではなく光龍の影武者の役割を持っていた地機仙だったとの事。

 

護衛として母を守り切れなかった為に処分されたと後で聞かされた。

 

今思い返せば、あの惨劇は仕組まれたものだったのかもしれない。

 

加害者の血走った眼…恐らくは『血塗られた眼』だろう。

 

当時、こちら側の世界に潜入していたクロノは下の下の構成員。

 

何事もなければ監視程度に留めていた?

 

もしかして…奴らがガンエデンの存在を知ってしまったから?

 

だから母は亡き者にされた?

 

…もう少し冷静に調べる必要があると思った。

 

で、その結果がこれだった訳だ。

 

 

******

 

 

「つまり、母が引き起こした『約定事件』はクロノの監視の眼を国際警察機構とBF団、父さんから遠ざける為にやった一芝居って事だったのです。」

 

「「…」」

 

「その結果、母は亡くなりましたが…」

「…ハスミ。」

 

 

伊豆の一角にある集団墓地。

 

その奥にある墓石に新しく活けられた仏花の白百合の花と線香。

 

その前で合掌する私ことハスミ、テンペスト少佐、カーウァイ中佐、孫光龍。

 

私達は軍服だったが、光龍に関しては珍しく黒の喪服だった。

 

恐らくは母の為だろう。

 

 

「紹介が遅れてしまいましたが、こちらが私の血縁上の父親の孫光龍です。」

「始めまして。」

 

「「…」」

 

「この人が父親と知ったのはつい最近です、それまでは危険人物と認識していたので…」

「今もそう見えるかい?」

「………………………微妙ですね。」

「あらら。」

「それでも、母を愛してくれたのは間違いないのですよね?」

「そうだね。」

 

 

親が子を見る眼。

 

その視線で二人が親子なのだなと改めて認識する義父二人。

 

光龍はこれまでの礼を二人に伝えた。

 

 

「僕から礼を言わせて欲しい、この子を育ててくれてありがとう。」

「いや、事情があったとは言え義娘を持てた事を感謝している。」

「これからも家族の付き合いが出来れば、僕も安心出来る。」

「どういう事だ?」

「先もハスミが話していたと思うが、クロノの活動が活発になり始めている。」

「…」

「恐らく、何かしらの行動を起こしてくるだろう。」

 

 

遠回しに言えば、奴らが身近な人物を標的にする時が迫っているとの事。

 

 

「ハスミが常に奴らの魔の手が掛からない様に見守っているが限度がある。」

 

 

光龍はハスミの肩に手を添えて答えた。

 

 

「これからもこの子が無茶をしない様に支えて欲しい、同じ父親として。」

「…光龍。」

「僕自身も過去にやった事の後始末を終わらせた訳じゃない、きっと何かの縁でこちらに振ってくる可能性がある。」

 

 

そう、僕自身がバラルを離れた事で奴らが暴走しないと言う保証はない。

 

特に地機仙の連中と夏喃はね。

 

僕以上に総人尸解計画に固執している以上、もう僕の手には負えない。

 

バラルから出る時に泰北に押し付けてきたけど、今思えば悪い事したなぁ。

 

 

「僕も出来る限りこの子を支えていくつもりだ。」

「孫光龍、その言葉…信じてもいいのだな?」

「最愛の妻と娘の前で嘘は付けないよ、そんな事をしたら僕がレンゲにあの世ではっ倒されるよ。」

「…(尻に敷かれていたのだな。」

「…(ハスミの性格は母親譲りだったか。」

 

 

光龍の発言に同情の目と内心で納得した表情をした義父二名。

 

 

「えっと…この話の続きはいずれしましょう、今は防ぐべき事件を追わなければならないので。」

「そう言う事で今後とも宜しく。」

 

 

この日、父親同士の縁は繋がった。

 

それは来たるべき日への布石。

 

 

=続=




=オマケ・発覚の理由=


「所でハスミ、僕が父親だって如何して判ったんだい?」
「この前、応龍皇が教えてくれました。」
「…は?」
「良かったですね、応龍皇に好かれていて。」
「そうだね…(お節介なのは相変わらずか。」


光龍の脳裏に後光を出しながら応龍皇が爪で器用にGJしている姿が想像された。


「まあ、それが無くても貴方が父親だって何となく解りましたけどね。」
「…と言うと?」
「父さんの思念から察しました、最初は動揺しましたけどね。」
「僕、そんなに変な念を出していたかな?」
「それは秘密です。」


言えるわけがない。

レムレースの奇襲で負傷した私を助けようと必死になってくれた時に漏らした言葉を聞いていたなんてね。

それにV.Bの転生者の一人が母さんだった事にも驚いている。

お父さんは別れる最中にV.Bから本人の魂の欠片を貰った。

それが原因でV.Bの魂は欠片となって複数のV.Bの生まれ変わりが世に出る様になった。

その中でもV.Bの特徴を多く受け継いだのが母さんだった。

魂の欠片を持っていた父さんは母さんが生まれ変わりだって気が付く事が出来た。

だからこそV.Bは魂の欠片を父さんに残したんだって思える。

自分は消えるけど何時か出会える様にと…

気の長い話だけどロマンチックと思えてしまう。

私もそう言う恋をしてみたいと思ったけど、それは出来なさそう。

私は既に仕えるべき相手の片腕になる事を契ってしまったのだから…



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第三十九話 『覚醒《ベターマン》前編』

地の底で彼らは蠢く。

遺伝子に刻まれた目的の為に。

その身を刻み、自らを苗床にする為に。

古き盟約は再び始まる。


 

季節は再び流れ梅雨入りを始めた。

 

それと同時に奇妙な事件も始まりつつあった。

 

各地で多発するレイバー暴走事件。

 

都内で発生した失踪事件。

 

まるで解れた糸の様に。

 

それは何処かで糸巻きの様に引き寄せられる。

 

 

******

 

 

外州精機の一件後、詐欺メール配信で逮捕された女性は通信法違反と詐欺罪で逮捕される事となった。

 

事情聴取における本人からの説明によると…

 

開発部希望で夢を持って職場を探していたそうだが、何処も受け入れてくれず今の職場でもお茶くみばかりさせられていたそうだ。

 

世の中、夢だけではやっていけないと言う表れなのだろう。

 

ちなみに彼女が狙われた理由は送信メールに中二病なネーミングのデータを送付する等と記載したからである。

 

そのメールの一部に超時空転移ナンチャラ?と偶然にも記載してしまい、それが原因でモノリスモドキに狙われたのだ。

 

その女性もお金が振り込まれる事にタカが外れてしまったらしいが、やった事は犯罪なので良い薬になっただろう。

 

それからしばらくして台東区のレイバー暴走を期に都内各所で暴走レイバー事件が発生。

 

最初は土木用レイバーによる暴走、そして地球防衛軍傘下の陸上自衛隊が訓練中に無人レイバーが暴走と…

 

立て続けに発生し、原因は未だ分かっていない。

 

いや、解っていても手出しが出来ないと言うのが正しいのかもしれない。

 

 

「…」

 

 

私ことハスミは現在、伊豆基地の諜報部隊の分隊室のデスクにて報告書作成に勤しんでいた。

前回の詐欺メール事件とモーディワープ社への視察の件を纏めている。

 

モーディワープ社に関しては諜報部隊でも情報が回ってきている。

 

公式記録ではアルジャーノンと呼ばれる奇病の調査に乗り出した企業とだけ情報があるだけだが…

 

事の顛末を知っている身としてはどうにかしたいものである。

 

この視察の時はギリアム少佐と共に施設見学を行った。

 

その時にイルカの水槽でイルカの超音波の研究をしていたのを見せて貰った。

 

観察記録を録っていた研究員の一人にボソリと呟いて置いた。

 

 

『以前この水槽で泳いでいた十二匹のイルカは元気にしていますか?』

 

 

その研究員は何かに驚いていたが、私は普通にニッコリと笑みを返して置きました。

 

覚醒人の内部ユニットにイルカを使ったのはお前らだろ?と遠回しに言っただけだが…

 

流石に研究員の倫理観に触ったのか相当のダメージだったみたいだ。

 

伊達にサイコドライバーをしている訳ではないので。

 

 

「…(問題はアルジャーノン発生元が彼らと接点がある事かな。」

 

 

再び、書類整理をしながらの話に戻ろう。

 

記入処理を行いながら私は脳内でアルジャーノン事件で関わってくる一連の騒動を纏めている。

 

有限会社アカマツ工業製ニューロイド。

 

覚醒人一号、それは分析、調査を目的として製造された機体。

 

機体は兎も角、これに使用されている中枢ユニットがモーディワープ社製の物。

 

先も話した通り、この中枢ユニットには十二匹のイルカの大脳皮質が使用されている。

 

これは原作のフリーデンクルーが遭遇した白イルカ事件の『Dナビ』と同じモノである。

 

どちらもイルカが発する超音波を利用したのだろうが、イルカにとってはいい迷惑だ。

 

ちなみにモーディワープ社・フランス支部で製造されたティランはボノボ…チンパンジー十二頭分が生体ユニットとして使用されている。

 

このティラン一番機から三番機よりはマシと思いたいがどちらも命を軽んじている。

 

この一連に関してはまだ明かさない方が良いだろう。

 

問題はこのアルジャーノン騒動で暴走する超人同盟とBPLの方が厄介だ。

 

一方は超能力者の集まり、もう一方はUMAと呼ばれるバイオ生物を使役する集まりである。

 

まあ、妖機人よりはマシと思いたい。

 

ちなみに原作のきしめん騒動に出て来たメデューサと呼ばれる管虫型UMAがどうも苦手である。

 

しかも肉食で通風孔や排水溝を伝って移動するので質が悪い。

 

もし出て来たのなら対処法である実を早めに見つけておきたい。

 

アジャンター石窟に行く予定でもあれば別だが…

 

いや、そんな都合よくあの実が手に入る筈もないか。

 

 

「多くの犠牲の果てに芽吹く華は使うべきではないのかもしれない。」

 

 

所変わってギリアム少佐の執務室にて。

 

 

「ギリアム少佐、詐欺メール事件の事後報告書とモーディワープ社での視察報告書をお持ちしました。」

「ご苦労、ハスミ少尉…明日は休暇扱いで一日休んでくれ。」

「えっ…急にどうしましたか?」

「簡単に言えば根詰め…君は働き過ぎと言いたい。」

「…またテンペスト少佐に言われましたか?」

「相変わらず君が自分への加減をセーブ出来ていない…少佐からも『無理でも上官命令で休暇を取らせてくれ』とね。」

「過保護と言いたい所ですが…立て続けの捜査に資料整理に三徹明けなら仕方ありませんよね。」

「頼むからそうして欲しい、更にカーウァイ中佐にも釘を打たれているのでね。」

 

 

お義父さんは兎も角、カーウァイお義父さんの横槍は無茶振りがあるのだろう。

 

パパさん同盟の過保護加減は相変わらずです。

 

流石に例の事件から視察にアルジャーノン騒動とレイバー暴走事件の捜査で右往左往である。

 

表向きは連合軍の軍人に国際警察機構のエージェントと二束草鞋。

 

裏向きはホルトゥスのリーダーでガンエデンの巫女の仕事もこなしている状態。

 

確かに働き過ぎと言えば働き過ぎなのかもしれないけど…

 

結構栄養ドリンクで何とかなるもんですけどね、リボ様とチオさん、チョコラ女王を舐めてはいけない。

 

身体にも悪いのは間違いないので再び休暇を取る事となった私であった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃。

 

第3新東京市・第壱中学校にて。

 

一学期の中間試験を終えて一息ついた所である。

 

ちなみに午後は教師陣が会議の為に不在となる為、昼頃に生徒は解散出来る状態であった。

 

 

「じゃーん、ボトム・ザ・ワールドのプレオープン前の先行招待券。」

「どうしたんや、それ?」

「ミリタリー仲間の人が行けなくなったからって譲って貰ったのさ。」

「ボトム・ザ・ワールドって今度開園する地下遊園地だったっけ?」

「そ、丁度四枚あるし…俺達で行かない?」

「今日は訓練あらへんし、いいんやないか?」

「シンジは家の事…大丈夫か?」

「大丈夫だよ、ミサトさんは残業だしアスカも加治さんの所で泊まるって言ってたから。」

「綾波はどうするんだ?」

「彼女なら定期検査で先に帰ったよ。」

「となると、俺とトウジ、シンジにカヲルの4人か…」

 

 

閑散とした2-Aの教室でケンスケがいつものメンバーと談笑し、急遽遊園地に行く事が決定した。

 

試験中との事もありエヴァの訓練も入ってなかった為、四人は一度帰宅してからボトム・ザ・ワールドに向かった。

 

同じ頃、陣代高校にて。

 

2年B組の教室で『立てばシャクヤク座ればボタン歩けばユリの花』ではない千鳥かなめとツインテール眼鏡っ子の常盤恭子の二人が話をしていた。

 

 

「カナちゃん、今度遊園地行かない?」

「遊園地?」

「うん、ボトム・ザ・ワールドって地下遊園地なんだけと?」

「今度、オープン予定の遊園地か…いいよね。」

「私とカナちゃんと他に誘って中間試験明けにどうかなって?」

「となると詩織に小野D、風間君…あとは宗介か。」

「相良君、カナちゃんが行くって言ったら絶対行くよね?」

「肯定だ、地下遊園地となれば何が起こってもおかしくない。」

「だ・か・ら、そう言う考えを捨てなさいって言ってんの!」

 

 

本日も鋭いハリセンの音が教室内に響くのであった。

 

同じく隣の2年C組では…

 

 

「今、すっげーいい響きのハリセンが鳴ったな。」

「またB組の相良が怒らせたんだろ?」

「そんなに有名?」

「有名も何もB組の相良宗介って言えば戦場帰りのミリタリーマニアって呼ばれる問題児だぜ?」

「そーそーこの前なんて後輩のラブレターに気が付かずに下駄箱を爆破した…だもんな。」

「それってヤバくねえか?」

 

 

先の戦いで各所の校舎が破壊された事で学生間の疎開状態が発生。

 

この陣代高校は破壊を免れたので疎開状態となった学生の受け入れを行っている。

 

カモメ第二高校から疎開してきた蒼斧蛍汰もまたその一人である。

 

今は陣代高校の生徒らと慣れ親しんでいる。

 

 

「宗介って奴もミリタリー好きなら俺も話してみたいかも…」

 

 

この時、蛍汰は知らないだろう。

 

そう遠くない未来で彼と遭遇するのだから…

 

彼自身の未来を変える事となった地、ボトム・ザ・ワールドで。

 

 

=続=




それは闇に潜み、襲い掛かってくる。

しかし、その悪意は偶然と言う遭遇で一網打尽とされる。

次回、幻影のエトランゼ・第三十九話 『覚醒《ベターマン》後編』。

共鳴の響きは滅びの音色の序曲。


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第三十九話 『覚醒《ベターマン》後編』

闇の中で蠢く者。

光が一つまた一つ消えて逝く。

嗤いながら消えていく。

そして自らも。






ボトム・ザ・ワールドの一般開園を前に予約限定で手に入る先行招待券。

 

それを手にした者は文字通り夢の世界に行けただろう。

 

だが、時として夢は悪夢へと変わる。

 

そう、夢見た夢は悪夢の惨劇へと変異した。

 

 

******

 

 

ボトム・ザ・ワールドにて開園前作業中に事故が発生。

 

その入場門前にはパトカーのサイレン音、立ち入り禁止の黄色のテープ、野次馬の山が出来ていた。

 

雨が降り注ぐ曇天の空で一人の青年がその様子を伺っていた。

 

 

『我らの希望に危機。』

『ならば、行かねばなるまい。』

 

 

青年はその肩に乗せた鳥の様な生物と共に姿を消した。

 

その様子を現場に居た人々が気が付く事はなかった。

 

 

「彼らも向かったみたいだよ。」

「では、私達も動きましょう。」

「所で本職ほったらかして大丈夫かい?」

「軍務の方は現在休務扱いです、国際警察機構からの緊急指示とあれば致し方ないでしょう。」

「そう…ま、EVAのパイロット達がアレに巻き込まれているんじゃ仕方がないか。」

「いえ、他にも二人ほど巻き込まれています。」

「二人?」

「一人は2年B組の傘係兼ゴミ係、一人はミリタリー好きの少年です。」

「また妙なネーミングだね。」

「敵に本人特定されると不味いので…」

「とりあえず、話は程々に地下に潜ってみようか?」

「そうですね、お父さん。」

 

 

近くの喫茶店で野次馬の様子を店内から見ていた二人組。

 

遅めのティータイムを終わらせると代金を支払い、店を後にした。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方地下では…

 

 

「な、なんなんや一体!?」

「俺だって分かんないよ。」

「いきなり…河童に一つ目鎧に髪長女だもんね。」

「あれってお化け屋敷のパフォーマンスかな?」

「絶対違う!」

「カヲル君も解っていると思うけど、あれ僕達を…!」

「うん、確実に殺しに来ていたね。」

 

 

ボトム・ザ・ワールド内の障害者用トイレにて。

 

先行招待券で入園した四人を待ち受けていたのは凶悪な宴である。

 

アトラクションから従業員が突如襲い掛かって来たのである。

 

何とか命からがら逃げ果せた四人であるが、袋の鼠である事に変わりはない。

 

 

「まあ、渚が咄嗟にATフィールド張ってくれたおかげで助かったんやけどな…」

「ありがとう、カヲル君。」

「君の為なら僕も協力するよ、シンジ君。」

 

 

妙なエフェクトがシンジとカヲルの背面に出ているのを想像して頂きたい。

 

 

「おーい、御二人さん…間違ごうとも道踏み外すなよ。」

「トウジ…駄目だよ、二人の世界に入ってる。」

「おう、ナデシコのヒカルさんが見たら…喜びそうな光景やな。」

「うん…連載漫画のおかずにされるのは確実だと思う。」

 

 

いつもの事と言う事でツッコミを入れるトウジとケンスケである。

 

時を同じくして…

 

ボトム・ザ・ワールド内で行動する一つの人影。

 

場違いな着ぐるみが一つ目の鎧軍団と対峙していた。

 

その名は…

 

 

「ふもっふ!」

 

 

そう、ボン太くんである。

 

 

「ふもーふももふも!」

「…」

「ふーふも。」

 

 

ちなみに言語機能が故障しているのは相変わらず。

 

簡単に要約すると「これ以上の追撃を行うなら始末する。」である。

 

散弾銃からのスタンロッド攻撃に移り、前方の一体の行動を不能にしたのと同時にグレネードランチャーで一気に数を減らした。

 

が、増援として数が徐々に増えており…正に焼け石に水である。

 

ボン太くんこと中身の相良宗介は早期撤退を行い、煙幕弾で姿を散らした。

 

更に同じ頃、蒼斧蛍汰が髪長女こと濡れ女や河童と鬼ごっこをしている最中。

 

運が悪いのか良いのか整備区画の抜け穴に落ち、とあるトレーラーの前に辿り着いたのである。

 

蛍汰はそのトレーラーに乗っていた少女『紗孔羅』と出会った。

 

そして彼女より迫りくる危機を伝えられた。

 

 

******

 

 

その後、蛍汰は幼馴染である彩火乃紀と再会。

 

道中、覚醒人一号のヘッドダイバーで彼女のパートナーだったカクタス・プリックルがアルジャーノンを発症し死亡。

 

動かせる人間が居なかった為、急遽蛍汰が搭乗し再び稼働する事が出来た。

 

そして巨大植物型ロボットと巨大チカちゃんと呼ばれるロボットが遊園地内に出現。

 

前者は覚醒人のシナプス弾撃にて破壊する事に成功したが、リンカージェルの限界で覚醒人は沈黙。

 

絶体絶命の窮地に現れたのは黒ずくめのサングラスを掛けた青年。

 

 

「…」

 

 

薄暗いライトがドーム内で点滅する中、青年は懐からあるモノを取り出した。

 

そして喰らった。

 

ガリガリと捕食し終えると彼は咆哮と共に渦巻きの中へ消え…

 

代わりに現れたのは巨大な生物。

 

ベターマン・ネブラである。

 

生物の様で無機物の様な強固な鎧を持ったベターマンは巨大チカちゃんを翻弄し…

 

サイコ・ヴォイスで破壊し姿を消した。

 

その様子を影で伺っていた者達が居た。

 

 

「助かったんか?」

「そうみたい…」

「良かった。」

「…良かったじゃない!」

「は、ハスミさん。」

「貴方達、危うく奴らの餌食にされる所だったのよ。」

 

 

地下へ潜入したハスミは光龍、ロサと別れて内部を探索中に通路エリアの落盤で地下ホールに落下するシンジ達を発見し『浮月の羽衣』と言う浮遊魔法で落下する彼らを救出したのだ。

 

事情があったとは言え、危うく命の危機に陥った彼らを叱咤していた。

 

 

「い、いや…俺らもこんな事になるとは思わかったんや。」

「事情は相田君や渚君から聞いているから、もう怒らないけど…」

「そう言えばハスミさんはどうしてここへ?」

「一時間前、ここの作業区画で事故が発生して封鎖されたの。私はある事件の捜査でここに調査に来ていたのだけど…」

「事件?」

「それ以上は機密情報に触れるから言えないわ、ただ…貴方達が巻き込まれているとは思わなかったから。」

「…」

「あの、ミサトさんには…」

「もう報告はしてあるわ、事情が事情だったし免除してくれるかもしれないけど…ちゃんと謝っておきなさい。」

「ありがとう御座います。」

「私はもう少し調査しないとだから、貴方達はこの先の通路から地上に戻りなさい。」

「判りました。」

「ウルズ7、後は頼んだわよ。」

「了解した。」

 

 

シンジ達はハスミが指示した通路に案内されボトム・ザ・ワールドから脱出した。

 

彼らの姿が見えなくなった後、ハスミは呟いた。

 

 

「彼らがアルジャーノンへの耐性を持ってて良かった。」

 

 

EVAの呪縛がアルジャーノンを発症させない様に彼らを護っていた。

 

それだけでも今は感謝しなければならない。

 

 

「お父さん、そちらはどうですか?」

『順調だよ、君のロサ君がしっかり調査してくれたからね。』

 

 

私は周囲に気配がない事を確認してから念話は開始した。

 

 

「そちらのメインコンピューターはどうなっていますか?」

『…一言で言えば遊園地全体が処刑道具と言うか殺戮マシンになっているよ。』

「そうですか…」

『それに先に入場していた来園者と従業員全員が死亡していたよ。』

「…」

『アルジャーノンに感染した以上、救いようがないのは君の言う通りだね。』

「放って置けば次の犠牲者が出る事は確実です。」

『で、その彼らの行き先は解っているのかい?』

「BPL…の息が掛かった病院施設に搬送される予定です、恐らく調査に入った警官や自衛官達も手遅れでしょう。」

『いずれアルジャーノンを発症する、か…』

「私達念者や記憶保持者達はアルジャーノンへの耐性を持ち合わせていたので難を逃れましたが…」

『カーウァイとテンペストを内密に極東から離れさせようとしたのはその為かい?』

「現時点でアルジャーノン化を防ぐ装置の量産が済んでいない以上は触れさせたくありませんでしたから。」

『…空白事件の結果が響いていると?』

「言い訳をするならそう言う事です、アカシックレコードも伝えるのが遅くなったと謝罪を受けました…」

『嘆くのは後、今は成すべき事に集中する事だ…ハスミ。』

「…お父さん。」

『レンゲが生きていたなら、君の泣き言に叱咤する筈だよ。』

「はい。」

 

 

私達は調査を終えてからボトム・ザ・ワールドを後にした。

 

そしてボトム・ザ・ワールドは落盤事故により開園中止の末、諸々の問題で廃業となった。

 

だが、これは始まりの一端に過ぎない事が私の脳裏に不安を過ぎらせた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

後日、連合政府は各方面合意の末に一時頓挫していた「イージス計画」の再開を決定。

 

各軍事メーカーへ次期連合軍量産主力機の開発を依頼。

 

そのトライアルの開催が間近に迫っていた。

 

私達は一度、各方面の情報収集の為に一度別れる事になった。

 

私ことハスミとロサは極東エリアで情報収集。

 

孫光龍は中国・ロシアエリアで情報収集。

 

出向命令が出されたカーウァイ中佐とテンペスト少佐はインジリスク基地での一件後、アビアノ基地を含めたEUとアフリカ方面で情報収集する事となった。

 

 

「それで次はどうする?」

「そろそろ軍のトライアルで不穏な動きがあるので他のエージェントを動かして置きます。」

「僕は?」

「向こうでの情報収集中でもこちらと連絡を取れるようにお願いします。」

「了解したよ。」

「私達はインジリスク基地への出向時間が迫っているのでな、先に失礼させて貰う。」

「カーウァイお義父さん、テンペストお義父さん、気を付けて…」

「解っている、ハスミ…お前も気を付けるんだぞ。」

「はい。」

 

 

伊豆基地の屋上から義父二名を乗せインジリスク基地へ飛び立ったレイディバードを見送った後、次の行動に移った。

 

今の時間ならば、連絡をしても向こう側に迷惑を掛けないだろう。

 

 

「お久しぶりです、小父様。」

『お久しぶりです…空白事件以来ですね、ハスミ君。』

「例のトライアルの件はどうなっていますか?」

『君の言う通り、マウロ・ガット准将とやらがトライアルに横槍を掛けて来たよ。』

「では、ウォン重工業の動きに注意してください。」

『判っていますよ、例の出来損ないのシステムを使用している以上は油断出来ないからね…それと。』

「何か?」

『君があの事件の危険性は低くなったと話していましたが…その当事者の一人に動きがありましたよ。』

「まさか…!」

『例のネオホンコンの甘党君からガンダムファイトの再開申請が提出、つい先程受理されましたよ。』

「成程、これで裏が取れましたよ。」

『裏ですか?』

「はい、ネオホンコン首相ウォン・ユンファはバイオネットと繋がっています。」

『…どういう事ですか?』

「国際警察機構でもバイオネットの動きが最近になって活発化が目立っていると報告が上がっていまして…」

『…』

「現在フランス方面のシャッセールとGGGが対バイオネット対策に追われています。」

『それと彼に何の関係が?』

「…DG細胞です。」

『それは確か…!』

「空白事件でもシャドウミラーが使用して戦場に混乱を招き…その後も様々な手を巡ってばら撒かれてしまいました。」

『つまりDG細胞がバイオネットや彼の手に渡ったと?』

「はい、こちらでも捜索は行っていたのですが……ようやくピースが繋がりました。」

『そう言う事ですが…その為にガンダムファイトを開催するのですね。』

「私の不手際です…先の空白事件で動けなかったとは言え、ここまで野放しにしてしまったですから。」

『起きてしまったものは仕方がありませんよ、今は起きると確定した事件を収めなければね。』

「はい…」

『僕も国防産業理事として、あのチョビ髭君や甘党君のやり方には鬱憤がありましたし…お手伝いしますよ。』

「…ありがとう御座います。」

『今後調査に必要な伝手は僕の方でも弁座を図ります、随時事前連絡を頼みますよ。』

「お手数を掛けます。」

 

 

私は小父様に礼を伝えた後、通信を切った。

 

 

「お父さん、次の戦いが始まります。」

「とうとう始まるんだね。」

「はい、空白事件に続く戦い…」

 

 

そう、ディバイン・ウォーズとジ・インスペクターに続くユニファイド・ウィズダム…

 

無垢なる刺客と修羅の乱、邪神の呪縛を打ち倒す為に。

 

私は戦う!

 

 

=続=




動けなくなった身体。

動かす為に身体を器に入れた。

だが、魂はそれを望んだのか?

次回、幻影のエトランゼ・第四十話 『白霊《ウェンディゴ》』。

子を思う気持ちは誰も同じとは限らない。


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第四十話 『白霊《ウェンディゴ》』

揺り籠は踊る。

籠の中で子をあやす様に。

子を護る為に踊り続ける。






伊豆基地から飛び立った翌日。

 

トルコ地区のインジリスク基地へ出向したカーウァイとテンペストそしてカイの三名。

 

旧戦技教導隊の隊長と部下二名と言う取り合わせである。

 

三名の出向理由は同基地の新人兵士達への操縦技術の向上と覚悟を付けさせる為である。

 

L5戦役に空白事件と度重なる戦いで数多くの兵士が死亡した。

 

その兵士達の生存能力を上げる為に行われている。

 

 

******

 

 

元上官の手前、カイとテンペストは手を抜かずに旧戦技教導隊流で新人士官達を文字通りのスパルタ訓練を行っていた。

 

そのせいか、参加していた新人士官達の多くが悲鳴を上げている。

 

これが初日だけならまだしも既に三日目に突入、シミュレーターでも体力強化の訓練でも手を抜かない二人に絶望すら覚える新人士官達であった。

 

ちなみに機体は量産型ゲシュペンストmk―Ⅱ、ガーリオン・カスタムのカイ、テンペストのペアに対し新人士官達達は量産型ヒュッケバインmk―Ⅱの配置である。

 

 

『ハルーフ1、見境の無い近接は極力避けろ!』

『りょ、了解!』

『ハルーフ3、味方が混戦している…援護するなら敵だけではなく味方の動きも観察する事だ。』

『了解です。」

『ハルーフ4、被弾したぞ…後で基地周囲を4周だ!』

『ひ!?了解です!!』

『ハルーフ2、前にも話したが…むやみやたらに撃ってもこちらには当たらんぞ!』

「了解しました!」

 

 

その様子を初日から観察していた基地司令のムスタファとカーウァイの二名。

 

 

「中佐、ウチの士官達は使い物になるかね?」

「及第点はあげられませんが、徐々に成長しています…もう少し様子を見ない事には。」

「そうか…」

「先の戦いでも十分戦い抜いた者達ですが、これから先…何が起こっても可笑しくないのが現状です。」

「では、彼らは今度も生き残れる可能性は?」

「その為に我々が訓練に参ったのです、出来得る限りの事はする所存です。」

「後は己自身と言う訳か…」

「私もL5戦役では元部下達と義娘に辛い思いをさせました。」

「…中佐。」

「だからこそ悔いのない道を進む事を選んだのです。」

 

 

己の犯した所業。

 

それが今だカーウァイの中で傷跡として残っている。

 

何時かは決着を付けねばと囁く様に。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その夜、トルコ地区のバーにて。

 

 

「ふう。」

「いらっしゃいませ。」

「ショーチュー、出来るかい?」

「私はウイスキーを。」

 

 

カイとテンペストは酒の注文をバーテンダーに伝えるといつもの端のボックス席に案内された。

 

その後、世話話なのかバーテンダーが注文の酒を持ってきた後に話しかけた。

 

 

「ここの所、毎晩お二人でいらっしゃいますね。」

「俺と連れは仕事の同僚でな、新人教育でこちらに出張している。」

「そうですか、それならあちらの女性が毎晩一人で飲みに来て居る様なのでご紹介しましょうか?」

「いや、結構だ…追加で何か腹に入れる物を頼む。」

「はい、承りました。」

 

 

バーテンダーは注文の酒を置いていくと二人の席を後にした。

 

 

「レポートの方はどうだ?」

「まだまだだかアラドに比べれは丁寧な方だ。」

「候補生に選ばれただけはある…か。」

「所でカーウァイ中佐は?」

「中佐は今晩も司令の付き合い酒をされているよ。」

「恐らく、俺達が言いにくい事を司令と酒の席で話している…と?」

「そうかもしれん。」

 

 

しばらくしてバーテンダーから追加の注文を受け取ると二人は酒を飲みつつ明日の訓練の相談を交えた。

 

 

「テンペスト、彼らはラミア達の技量に追いついていると思うか?」

「ここ数日の訓練で思ったが……無理があるだろう。」

「そうか…」

「きつく言う様で悪いが、何が起こっても可笑しくない状況は続いている…ここで諦める様な輩であるなら軍を去った方が良い。」

「…お前も言う様になったな。」

「義娘の無茶振りよりはマシだ。」

「ハスミか…空白事件で色々と巻き込まれていた様だが?」

「ハスミの厄介事引き寄せ体質が変わる訳でもあるまい、それに自分でそれを受け入れている以上は俺もとやかく言うつもりもない。」

「まあ…その厄介事引き寄せ体質の御蔭か色々と役だった事もあるし、大目に見てるのだな?」

「時折、不安になる事もある……レイラとアンナの様にあの子も失ってしまうのかと思う時が。」

「テンペスト…」

「空白事件の時は運良く助かっただけだ、それが長く続くとは思えない。」

 

 

軍人としていつ戦死しても可笑しくない状況。

 

無事に帰って来たとは言え、それが長く続くとは思えない。

 

そしてあの義娘が軍を去ったとしても狙われる運命にある。

 

光龍が話していた例の組織やバラルの行動も気になる。

 

ハスミがアシュラヤーのマシアフである以上、その力を狙うモノ達が居る事を。

 

不安すぎると言いたい所だが…

 

白兵戦においてはあの九大天王や十傑集のお墨付きを貰っている以上は安心でもっと不安だ。

 

ましてやL5戦役時からの並行世界での旅や異世界セフィーロで得た魔法や念神と言う機動兵装による敵地への単独奇襲攻撃も可能としている。

 

その件に関してギリアムの諜報部隊へ転属になっているが…

 

軍内部で噂されている連合政府大統領直轄の特殊部隊の候補の一人に挙がっていると情報もある。

 

現在の特次副大統領のアルテウル・シュタインベックがL5戦役で戦ったエアロゲイターのユーゼス・ゴッツォである以上は油断出来ない。

 

 

「テンペスト、どうした?」

「…少し酔いがな。」

「ゼンガーなら兎も角、お前らしくもないぞ。」

「ああ、疲れでも出たかもしれん。」

「空白事件から碌に休む暇もなかったからな。」

「そんな格好でバーに来て、仕事するなんて……ジャパニーズがワーカーホリックって本当なのね。」

 

 

二人で話し合っていた所、一人で飲んでいた美女が彼らに話しかけた。

 

ちなみにカイ達の服装は軍服ではなく普通のスーツ、海外出張中のサラリーマンと勘違いされている様だ。

 

 

「…」

「お邪魔だったかしら?」

「いえ、そう言う訳では…」

「そう…良かったわ、ほら…ここの地区の人って信教の都合でお酒飲めない人って多いじゃない?」

 

 

一人で飲むのも飽きたと彼女は話を続けた。

 

 

「…失礼ですか、貴方は?」

「私はドナ…ドナ・ギャラガーよ。」

「私はテンペスト・ホーカー、連れはカイ・キタムラだ。」

「そちらはご旅行か何かで?」

「そうよ、ここへ来て一週間位かしら…そちらは出張か何か?」

「ええ、日本から…」

「ここで遇ったのも何かの縁だし、よろしくね。」

「よろしく…」

 

 

ドナとカイのやり取りにテンペストは静かに告げた。

 

 

「カイ、浮気はいかんぞ?」

「な!?」

「あら?もしかして妻子持ち?」

「ああ、カイと俺も妻子と子持ちだ…そう言う訳でカイを余り揶揄わんでくれ。」

「て、テンペスト…お前!」

「そうなの、私もよ…だから安心して頂戴?」

 

 

家族の話に入り、ドナは子供は病院に入院中と世話話をして来た。

 

そして三人は何かの縁と言う事でその晩だけ飲み明かした。

 

だが、テンペストだけは静かに状況を見守っていた。

 

理由は彼女が後日起こす騒動を義娘より伝えられていたからだ。

 

 

******

 

 

翌日、飲み過ぎたのか軽い二日酔いで軍務に入る事になったカイ。

 

ホテルに戻った後にテンペストからグレープフルーツ水と二日酔い用のウコン飲料を手渡されていたのでまだ軽い方である。

 

ちなみにこの取り合わせはよく飲み過ぎて干物になっているエクセレン用にハスミが調べた二日酔い用の対処法だ。

 

ムスタファ司令から軽く突っ込まれていたが、事前の対処で本日の軍務は難なくこなせていた。

 

その夜、再びバーに飲みに来ていたカイ。

 

しかし、先日出遭ったドナと言う女性に銃を突きつけられてしまい…そのまま姿を消してしまった。

 

更に翌々日、インジリスク地区にてテロ行動が発生した。

 

カイは廃工場跡地でテロリストと行動していたドナに話した。

 

 

「何故、この様な事を!」

「そうね…しいて言うなら神様なんていないって思ったからかしら?」

 

 

ドナはL5戦役時に軍の研究施設でマン・マシーン・インターフェイスの研究を行っていた。

 

だが、その時…エアロゲイターの襲撃に遭い息子は首から下の自由を失ったそうだ。

 

息子に再び自由を与える為に今の研究機関で成果を上げようとしたが、クビ同然の扱いを受けた。

 

そして新たなパトロンに鞍替えする為に成果を見せる必要があった。

 

ここ最近テンペストが調べていた機材強奪事件はドナ達が行ったと証言を得た。

 

そしてその成果がインジリスク基地へと迫っていた。

 

 

 

「奴の動き、まるで猿の様だ…このままでは。」

「…(やはりTC-OSに頼り切っている彼らでは分が悪いか。」

「カーウァイ中佐、テンペスト少佐、申し訳ないが…」

「我々も迎撃に当たりましょう。」

「…カイ少佐は?」

「奴は別件で不在です、もうすぐこちらへ到着する予定です。」

「分かった。」

 

 

インジリスク基地へ潜入した白い特機。

 

その動きは動物的でまるで霊長類の猿の様な動きで味方を翻弄していた。

 

このままでは基地の防衛部隊が全滅するのは時間の問題。

 

ムスタファ司令はカーウァイとテンペストに出撃要請をし迎撃に向かわせた。

 

出撃準備を終えてカーウァイのアルブレード、テンペストのガーバインが出撃。

 

その後に続けてカイの量産型ゲシュペンストmkーⅡが出撃した。

 

 

「カイ、間に合ったのか!」

「ああ、遅れてすまん。」

「カイが戻ったのなら我々で奴を迎撃する。」

「ブラボー並びにハルーフ各機へ、所属不明機はこちらで相手をする。」

「残りは奴への牽制に回ってくれ。」

 

 

「「「「了解。」」」」

 

 

「中佐、テンペスト、あの機体のパイロットは…!」

 

 

カイは今回のテロ実行者のメンバーであるドナの息子トニーが生体ユニットとして組み込まれていると話した。

 

何としてでも機体を沈黙させパイロットを救出したいと説明。

 

 

「判った、カイと私は奴の動きをテンペストは援護を頼む。」

「了解。」

 

 

旧連邦軍では伝説となった旧戦技教導隊の隊長と部下の戦い。

 

一度は相手を翻弄させるが、徐々に相手の動きも素早くなっており攻撃が当たりずらくなっていた。

 

 

「…(やはり、ハスミの言う通り…ウェンディゴに今までのモーションパターンは通用せんか。」

「カイ、お得意の旧戦技教導隊流の近接戦闘術を奴に打ち込め。」

「まさか…アレをやれと?」

「了解しました。」

 

 

カイは機体のOSをマニュアルに切り替えた。

 

 

「モーション・セレクト、マニュアル。トリガー用設定、ディレイ有り。パターンJM4、リアルタイムアレンジ。」

 

 

機体の動きが変わり、カイは機体で構えを取る。

 

 

「PTは伊達に人の形をしている訳ではない、その有用性と可能性を教えてやる!」

 

 

所属不明機の突進を柔道の構えで捕らえ、そのまま背負い投げを披露。

 

所属不明機は自らの重みと先程の攻撃によって機体が破損し沈黙した。

 

 

「凄い…」

 

 

牽制に入っていたパイロットの一人が声を漏らした。

 

その様子を見ていたパイロット達にテンペストとカーウァイは答えた。

 

 

「OSが無かった時代はマニュアルが基本だった、我々は最初からOSに頼っていた訳ではない。」

「今回の戦闘でそれが良く分かったと思う、その経験を忘れない事だ。」

「了解しました。」

 

 

戦闘終了後、テロリストとドナは基地の保安課に拘束された。

 

勿論、彼女の息子も無事である。

 

事情を知ったカーウァイはカイに『知り合いの伝手だが、再生治療のモニターを息子さんに受けさせないか?』とドナに伝えてくれと話した。

 

ドナは再生治療の説明を受け、その有用性を知ると一縷の望みがあるのならとその事を了承し保安課に連行されていった。

 

その後、ドナの息子トニーは極東のJUDA系列の病院に入院する事が決定。

 

時間は掛かるだろうが、何時か自らの意思で動ける様になった息子とドナが再会するのはそう遠くないだろう。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃。

 

極東エリア某所にて。

 

再び念話で会話を続けるハスミと孫光龍。

 

 

「お義父さん達の方も終わった様です。」

『それにしても良いのかい、連中を泳がせて置いて?』

「奴らがボロを出すまでは監視を付けて置きます、その後は…」

『煮るなり焼くなり好きにしろと?相変わらずの悪辣だね。』

「お父さんこそ…ほったらかして怨念塗れになった例の旧西暦時代の遺物をどうにかして頂きたいのですが?ま、暴走した元部下の部下がやった事ですし?その躾がなってなかったのは一部お父さんの責任ではないですし?これは目を瞑りましょう。」

 

 

売り言葉に買い言葉をした光龍は娘より三倍ほどキツイ毒舌を受けた。

 

その状況に『痛い所を突くね。』と内心ぼやきつつも静かに流していた。

 

 

『……それで次は?』

「頃合いを見て…奴らの『機珠』を奪取して貰えないでしょうか?」

『機珠を?』

「次の戦いで必要となる物です。」

『君の方の技術なら再現は可能じゃないのかい?』

「一から作るよりは奪って浄化した方が早いので。」

『ま、いいよ…後で捕ってきてあげよう。』

「済みません、お手数を掛けます。」

 

 

これも布石だ。

 

大切な人達を護る為の力を生み出す為の布石。

 

そして私の罪として刻まれる。

 

 

=続=

 




踊る傀儡。

その踊りは死の踊り。

ダンスマカブル。

人の死を糧に傀儡は動く。

次回、幻影のエトランゼ・第四十一話 『傀儡《ミロンガ》』。

これも始まりの予兆に過ぎない。


>>>>>>>


=もう一つの事件=


トルコ地区某所。

とある男性が街中ですれ違った壮年の男性とぶつかった。

声を掛ける間もなく、すれ違った男性はそのまま消えてしまった。

その直後、男性はスーツのポケットに入ったモノに気付いた。


「これは?」


その後、勤務を終えた男性は借り住まいのアパートに帰宅。

ポケットに入っていたメモリーファイルを備え付けのPCで開けた。

そこには一通のメールが添付されており、こう書かれていた。


*****


月の騎士へ。


文月の満月の夜。

悍ましき管蟲の群れによって紫の子の命が奪われる。

阻止したくば文月の弦月の夜までに極東の北の地に帰られたし。


蒼き睡蓮より。


*****


「ブルーロータスからの警告文だと…まさかトーヤの命が!?」


とある男性ことセルドア・シウン。

彼はブルーロータスからの警告文に不信感を持ちつつも息子の命の危機を知らせたメールの指示に従う事にした。


=続=


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第四十一話 『傀儡《ミロンガ》』

傀儡と人形。

何処か似ていて何処か異なる。

ただ同じである事がある。

それは人の手で操られる事だ。



前回のトルコのインジリスク基地へのテロリスト襲撃事件後。

 

カーウァイは引き続き新人訓練の為に同基地に滞在。

 

カイとテンペストはカイの新型機受領と試運転調整の為に南欧のアビアノ基地へと移動した。

 

そこで並行して戦技教導隊のメンバーと合流し新型機のトライアルを行う予定である。

 

同じ頃、北米エリアのコロラド地区にあるテスラ・ライヒ研究所である事が起こっていた。

 

 

******

 

 

テスラ研の超機人ケージの前で安西エリとソフィア・ネートの二人が話し合っていた。

 

 

「え……アースクレイドルへ戻れなくなった?」

「ええ、事後処理はミタール・ザパト博士のチームが単独で担当する事になったわ。」

 

 

気難しい表情でソフィアはエリとの会話を続けた。

 

 

「今思えば、あの後すぐに彼がこの私をテスラ・ライヒ研究所へ向かわせたのは…私をアースクレイドルから引き離す為の策だったのね。」

「やっぱりね、あの蛇ジジィ…やる事が相変わらず陰湿。」

 

 

ソフィアの会話に入って来たウィスティアリア・マーリン博士。

 

ミタールの事を知っているのか会話の始めから毒づいていた。

 

ちなみに彼女はエリとソフィアの後輩に当たる。

 

 

「ティアリー博士。」

「お久しぶりです、ソフィア先輩、エリ先輩。」

「貴方も着ていたのね。」

「ええ、私の場合はちょっと新作の製造に場所をお借りしている形ですけどね。」

「またドッキリ武装の制作かしら?」

「それもありますが…ガーバイン・クリンゲのフルメンテナンスが主です。」

「それならマオ社の方が…」

「色々とあって、あのAMはここで整備した方が良いとギリアム少佐から言われましてね。」

「あの子の機体は興味深いデータを持ち過ぎているからね、秘匿の問題もあってここで整備する事になっているんだよ。」

「と、カザハラ所長からもお墨付きを貰っています。」

 

 

世話話も程々にエリ達は話の軸を元に戻した。

 

 

「ミタール・ザパトか…噂ではツェントル・プロジェクトとやらの主幹を務めているらしいが…」

「ツェントル・プロジェクト?」

「連合軍の管轄で進められているらしいんだが、詳細は判らない。」

「あ、それ私が仕入れた情報ですと…メンテナンスフリーの自立型機動兵器の開発を行っていると聞いています。」

 

 

ティアリーの爆弾発言に驚くエリとソフィア。

 

 

「えっ!?」

「どこでそんな情報を?」

「この前にエリックのじい様にお会いした時にちょこっと。」

「もしかしてエリック・ワン博士の事?」

「はい、本当は機密事項なのですが…じい様本人から何か怪しいから内緒で伝えてくれって頼まれたんです。」

「…それでいいのかしら?」

「まあ、こっちにすれば好都合だったよ…あのプロジェクトに参加している科学者達は非EOTI機関、非DCの人間で占められてようなので伝手がなかったんだ。」

 

 

カザハラ所長はそのプロジェクトに自分の研究所の所員への引き抜きが入らず情報が手に入らなかった事を話した。

 

 

「もしかしてメンテナンスフリーの自立型機動兵器って…まさか。」

「あの蛇ジジィは恐らく第二、第三のUGの発展型を作ろうとしているのではないかと…あくまで推測ですけど。」

「待って、あの事件の件で軍は…」

「一度は手を引いた、けど…面白味があるから復活させようとしている輩が居るって事は私でも判りましたよ。」

「成程ね、アースクレイドルの一件もその為かな?」

「恐らく、ミタール博士達の狙いはフェフ博士の残した研究データ、クレイドルの中枢コンピューター・メイガスとマシンセルの回収と思われます。」

「…博士の思惑が判ったのに何も出来ないのが歯痒いわね。」

「クレイドルやツェントル・プロジェクトの件は折を見てギリアム少佐に調べて貰うよ。」

「お願いします。」

「…(やれやれ、ハスミちゃんが蛇ジジィの奴らにデータを引き抜かせない為に動いて居たのに例の連中も諦めが悪いね。」

「ソフィア…貴方はこれからどうするの?」

「手元に残っているアースクレイドル関連の資料を基にプロジェクト・アースの見直しを検討するわ。」

「確か、月にもクレイドルが一基ありましたよね?」

「ええ、あのクレイドルの為に何か役立てれば…」

「それなら引き続き、テスラ研に居て貰っても構わないよ?」

「宜しいのですか?」

「代わりと言っては何だが、今度二人で食事を…」

「………カザハラ所長。」

「所長、そんな事をしたらゼンガー少佐に斬艦刀でぶった切られますよ?」

「じょ、冗談だよ…エリ博士、ティアリー博士。」

 

 

流石親子と言うべきか、カザハラ所長のナンパ行為にエリとティアリーがしっかりと釘を刺した。

 

その後、ソフィアはエリから超機人の調査の話を聞きつつ彼女と共に超機人達が眠るケージへと向かった。

 

 

「…(ワンじい、ちゃんと博士達に伝えて置きましたよ……今必要な部分だけは、ね?」

 

 

ティアリーもまたハスミとの誓いを護りつつ彼女のガーバインのカスタマイズへと戻っていた。

 

動き出した思惑の中、不穏な空気を感じつつも何も出来ない歯痒さが博士達の心に残して…

 

 

******

 

 

そして同時刻。

 

極東のとある場所にて。

 

都内に位置する医療施設にて大規模火災が発生。

 

ガス爆発の可能性もあり、警察関係によって封鎖。

 

鎮火した医療施設からは焼け焦げ破損した遺体が数多く発見された。

 

数から医療施設に収容されていた入院患者と職員と確認がとれたとの事。

 

だが、有る筈の遺体の数が合わなかった事が次の事件を予想させた。

 

 

「ハスミ少尉、状況は?」

「少佐、先程ブレイブポリスより確認が取れました。」

 

 

私はギリアム少佐の元で『ある事件』を追っていた。

 

今もその事件の一環で調査を行っている。

 

私は調査の結果、判明した事だけを説明した。

 

 

「被害者は?」

「当日就業の病院関係者全員、当日まで入院していた患者が数名です。」

「生き残りが居るのか?」

「いえ、焼け跡から残りの死体が見つからず行方不明との事です。」

「そうか…」

「恐らく、次の事件は既に始まっているのかもしれません。」

 

 

医療施設の地下に残された不釣り合いな巨大貯水槽跡地の壁に残された穴。

 

それを目視した私は遅すぎたと確信した。

 

運び込まれた筈のボトム・ザ・ワールドでの死傷者の遺体が奪われてしまった。

 

リンカージェルに満たされた容器に付け込まれた遺体はいずれアニムスの花を咲かせる。

 

そう、地球の意思によってベストマンを倒す為。

 

種は撒かれ、花は咲き、花粉は飛び去り、再び種が育つ様に。

 

アルジャーノン化の蔓延は防げないのか?

 

それでも出来得る限りの事はして置こう。

 

 

「ギリアム少佐、別件で連絡が入ってしまったので少し外しますが…宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。」

「申し訳ありません。」

 

 

私は離れた場所に移動し携帯端末で連絡を取る振りをして念話を行った。

 

 

(リュウセイ、聞こえる?)

『おわっ、急に連絡寄こすなよ。』

(どうせ、報告書纏めている最中でしょ?)

『まあ、そうだけよ…所で如何したんだ?』

(そろそろ例の件でラトゥーニから連絡が入るだろうから忠告して置こうと思っただけよ。)

『まさか、例のトライアルで出て来るミロンガの事か?』

(そうよ、恐らくそっちでも遭遇すると思うけど…)

『こっちはまだ出遭ってねえ、護衛任務でも預かってねえし今回もこっちで引っかからないのかもしれない。』

(成程ね…国際警察機構でもウォン重工業の裏取引で捜査をしているけど晴海の式典に間に合うか不明よ。)

『そっか…で、俺に何させようってんだ?』

(次にミロンガと遭遇したら時間を引き延ばして欲しい。)

『どういう事だ?』

(ま、色々とね……答えはその時に解るわ。)

『結局、答えないんだな。』

(例の件で例外を除いて記憶を持つ者に真実を答えられない以上はヒントだけを渡すしかないもの。)

 

 

ハスミが『私はどこまでも中途だから…』と答えるとリュウセイは『気にし過ぎだぜ、お前って本当に自分で何でも抱え込み過ぎ。』と返した。

 

 

(ありがとう、気を付けるわ。)

『ハスミ…お前も無理するなよ。』

(そっちもね。)

 

 

私はヒントだけリュウセイに伝えると念話を閉じた。

 

 

「ふぅ。」

 

 

さてと、あのミロンガを奪取して奴らのトライアルを妨害しないと。

 

もしも奴らが別ルートから搬入しようとしても無駄だけどね。

 

小父様にルート差し押さえして貰ったので搬入出来ませんぜ?

 

念の為にアビアノ基地周辺はこちとらで網で張らせて貰いましたし。

 

問題のヘルゲートにはもう『地獄』と『将軍』達を向かわせたから色々と何とかなるでしょう。

 

これでも何か仕掛けると言うのなら大連の工場も爆破して於きましょうかね?

 

まあ、その時はブル・トレロを開発している企業に出向中の…とある少佐さん達を足止めしないと。

 

アハハ…私は本気で怒っているのですよ。

 

タダでさえ色々と厄介な案件がドバドバと山積みにされているので。

 

どこの誰ですか?Z後日談なオーバーデビルとか復活に忍者モドキを出現させた輩は?

 

人が色々と手を回して置いたのに無下にしましたね。

 

 

(さてと…傀儡の回収を頼みましたよ?『男爵』と『隠者』さん?)

 

 

手間を取らせた罰として奴らに度肝を抜かせてやる。

 

フッフフフフ…

 

 

「…(アレは何かをしようとしているな。」

 

 

ハスミの後姿を確認したギリアムは彼女から氾濫している陰湿オーラを感じ取り、冷や汗を流した。

 

 

******

 

 

それから数時間後。

 

鋼龍戦隊の片割れであるハガネはアビアノ基地に搬入予定の新型機の輸送を行っていた。

 

艦長は副長だったテツヤ・オノデラである。

 

元艦長のダイテツ・ミナセは空白事件後の定期健診の結果で引っかかり療養する事となった。

 

本人も『ワシももう歳だろうか…』と空しく呟いていたそうな。

 

ハガネには配備隊としてSRXチームが同乗しており、レイオスプランに関しての説明会が始まっていた。

 

その直後、リュウセイはラトゥーニから連絡が入り新型トライアルの四番目の機体に関して何か知っていないかと聞かれたものの…

 

前世と同様に今回も情報が入ってこなかったので判らないと告げた。

 

その直後、戦闘配備のアラートが艦内に鳴り響いたので通信はそこまでとなった。

 

連合軍のマーカーを出している輸送機がAnti・DCの残党に襲撃を受けていた所だった。

 

先んじて出撃したリュウセイのR-1とアヤのR-3、イングラムのエクスバイン・リヴァーレ。

 

他はメンテナンス中だった為と空中戦だった為に待機となった。

 

 

「相手はAnti・DCの残党か?」

「情報ではそうみたいよ。」

「リュウセイ、ここは俺とアヤが引き受ける…お前は輸送機に迎え。」

「了解!」

 

 

Anti・DCのリオン部隊の攻撃を掻い潜りリュウセイは輸送機へと向かった。

 

だが、伏兵なのか所属不明の機体が後続で現れた事で状況は一変した。

 

リュウセイは輸送機への道を阻まれる事となった。

 

 

「くそっ、後もう少しだってのに!」

 

 

その時、輸送機から一体の機体が出撃した。

 

PTでもAMでもMSでもない別のナニカが姿を現したのだ。

 

VTXシリーズのゲシュタルト…名はミロンガ。

 

 

「アレは…(とうとう出て来やがったかミロンガ…!」

 

 

ミロンガは出撃後にODEシステムの前身であるAMNシステムを作動しており、到底人間業とは思えない迎撃行動を行っていた。

 

システムが作動した以上はパイロットの命は無いだろうとリュウセイは悟った。

 

そしてミロンガは周囲に展開していたAnti・DCの残党と所属不明機群の殲滅が完了すると輸送機へと帰還した。

 

だが、ここで運命の女神は悪しき者達に冷ややかな笑みを向けた。

 

突如、戦闘空域に展開された広域ジャミング。

 

そして現れた二機の機動兵器。

 

一体はMS、もう一機はこれも所属不明の見られない機体だった。

 

広域ジャミングによって不可解な動きを発するミロンガ。

 

 

「成程、蒼い睡蓮からの情報通り…あの機体は電子攻撃に弱い様だね。」

「男爵、俺達が援護を…」

「その必要はない、君達には撃ち落とした機体の確保を頼みたい。」

「…了解しました。」

「さあ、道化達の人形劇はここまでにしようか?」

 

 

片方のMSはビームキャノンで両腕、両脚を撃ち落とすともう一方の機体がミロンガを奪取。

 

そのまま戦域を離脱してしまったのである。

 

 

「あの青い機体、まさかトールギスⅡ…!?」

 

 

片方の機体形状に見覚えのあるリュウセイはコックピットの中で静かに呟いた。

 

戦闘後、ハガネと共にアビアノ基地に着陸した輸送機。

 

ウォン重工業は試験機の一機を欠いた事でトライアルへの参加が中止となった。

 

理由は連合軍の時期量産期に成り得る機体が敵に奪取された事と敵に情報が知れ渡った機体を量産機に回す事は出来ないと上層部で決定した為である。

 

そしてトライアルに参加予定だったウォン重工業は本来提出する予定の機体が完成していない事もあり参加など到底無理だと判断されてしまったのである。

 

これに対しマウロ准将は問題の追及をハガネに押し付けようとしたが、軍の執行委員会と国際警察機構によって彼の裏取引の情報が開示された為にマウロ准将は泥沼に堕ちる事となった。

 

近々ウォン重工業に国際警察機構の強制調査が入る予定である。

 

この結果、軍のトライアルに参加見送りだったマオ社とイスルギ重工に強制参加の白羽の矢が立った。

 

傀儡の事件は終息を迎えた様ではあるが闇はまだ深く根付いていた。

 

そして新たな火種は炎の息吹を上げようとしているのだった…

 

 

=続=

 




目覚めの息吹。

彼の者によって赤き炎は目覚める。

少年よ、その時は訪れた。

次回、幻影のエトランゼ・第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》前編』。

この目覚めは黒き闇が迫る前触れ。


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第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》前編』

その戦いが起こる前にあった出来事。

関係ない様だが縁と言う糸で結ばれている。

そう、これは有り得たかもしれない出来事と…

彼らの滞在が引き起こした奇跡の前触れでもある。



浅草での事件が起こる一週間前。

 

ここ雪谷食堂では…

 

 

「じゃあ、二人は今GGGに?」

「ああ、出向と言う形でな。」

 

 

雪谷食堂の店長を務めるテンカワ・アキト。

 

その客としてD兄弟こと相羽タカヤと相羽シンヤの二人が彼の店に来店していた。

 

ちなみに二人ともラーメンを注文している。

 

 

「所で凱はどうしているんだ?」

「新型機の開発でGGG北米支部に出張中だってさ。」

「俺達もGGGで凱が戻って来るまでの保険だ。」

「まあ、新生スペースナイツ設立までの間だけどね。」

「そう言えば…例の事件で素体になった人達はどうなったんだ?」

「ちょっとややこしい事になっててね…」

 

 

口を噤んだタカヤに代わりシンヤが説明した。

 

例の事件とはゾンダーとの東京決戦の事である。

 

その事件で早咲ラダム樹の開花で素体テッカマンになってしまった人々が数多く存在した。

 

一部はスペースナイツで預かる形となったのだが、残りは日陰に隠れる者と反乱を企てる者に別れてしまったのだ。

 

空白事件後から数週間後に起こった『プラハの黒い月』が痕を引きずっている。

 

チェコ・プラハで起こった素体テッカマンによる暴動。

 

彼らは独自にテックシステムの開発に成功し自分達が優れた人類であると豪語し反乱を起こしてしまった。

 

旧スペースナイツがそれに対応したものの軍強硬派の行動で数多くの素体テッカマンが死亡する事となった。

 

生き残りはスペースナイツで引き取り、更生の道を進む事となったが抉られた傷は何時広がるか不明である。

 

 

(もしかして…例のあの子達を手元に置いているのか?)

(ああ、新生スペースナイツの次期候補生として今も訓練中だ。)

(巻き込みたくなかったけど、僕らでもどうしようもなかったからね。)

 

 

ヒソヒソと前世上での会話を続けるアキト達三人。

 

これも必要な縁である事を彼らはまだ知らない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

翌日、海辺に佇む西園寺邸にて。

 

先日より夏の長期休暇に入った為、子供達は夏の課題と格闘しながら夏の想い出を作っていた。

 

だが、ここに居る子供達はある目的の為に訪れていた。

 

邸の一室で子供達はある人物と再会していた。

 

 

「始めまして…アルテアさん。」

「今回は初めましてか…久しぶりだな、北斗、銀河。」

 

 

月での決戦後、ガルファの刺客して洗脳されていたアルテアは救出されたものの深手の為に今まで昏睡状態に陥っていた。

 

空白事件後、奇跡的に目覚めたのである。

 

そして彼にも子供達と同様にある異変が起こっていた。

 

 

「まさかアルテアさんまで記憶があるなんて…」

「私も驚いている、事情はドモン・カッシュより聞いているが……正直、慣れないものだな。」

「えっ、ドモンさんが来ているんですが?」

「いや、奴が訪れたのはほんの数日前の事だ。」

「きっと、ドモンさんも忙しいんだよ。」

「やっぱりか…例のガンダムファイト再開でややこしい事になってるもんな。」

 

 

色々と事件が始まっている事を口々に言う北斗と銀河。

 

その横でアルテアは静かに見守っていた。

 

 

「北斗、銀河、今回のガルファの事だが…」

「アルテアさん?」

「今回の暴走はデュミナス一派が関わっている。」

「アイツらが…!」

「ああ、間違いはない。」

「ヒューゴさん達やラウルさん達が居るからまさかって思ったけど…」

「どっちにしろ…ややこしい相手なのは変わんねえよな。」

 

 

アルテアより聞かされた真実。

 

それはある事件と繋がっている事を二人はまだ知らなかった。

 

 

******

 

 

浅草での事件が起こる二、三日前の事。

 

都内で『女性の髪形を針金とボンドで強制的にポニーテールにしてしまう』と言う悪趣味な事件が発生。

 

襲われた女性達は口々に『馬男』と『ぽに』と話した為、この通り魔の名を『ぽに男』と命名される事となった。

 

陣代高校でも同一の事件に巻き込まれた生徒が居た為に生徒会よりパトロールを命令された宗介と千鳥。

 

何度目かのパトロールでぽに男と遭遇し、対峙していたのだが…

 

その場にとある人物が来訪したのである。

 

 

「おや、相良君と千鳥君じゃないか?」

 

 

公園の敷地内でぽに男と対峙する宗介とかなめの前に現れた陣代高校・用務員の大貫善治。

 

夏の長期休暇に入ったばかりだが、しばらくぶりの再開である。

 

 

「お久しぶりです、大貫殿。」

「こんな夜にどうしたのかね?」

「はっ、自分達は夏期講習で帰宅が遅くなってしまい近道しようとこの公園を通ったまでです。」

「そうか、オジサン感心したよ。」

 

 

二人は『勉学意欲があるのはいいが帰りが遅くなるのは注意した方が良いよ』と大貫より小言を受けた。

 

 

「それで、あの変なのに遭遇して…」

「あの馬君の事かな?」

「はい、もしかしたら最近有名な通り魔じゃないかって…」

「通り魔?」

「はっ、夜更けに髪の長い女子学生を襲って無理矢理ポニーテールにしてしまう襲撃犯です。」

「私達のクラスでも何人かポニーテールにされて…それに針金とボンドで固められちゃうのでしばらく戻せないんです。」

「…ふむ、事情は分かった。」

 

 

大貫は宗介達の話を聞き終えると大きめのボストンバックを卸してあるモノを取り出した。

 

それは…

 

 

「ぽに男君だったかね?」

「ぽに?」

「ワシの可愛い生徒達を捕まえてポニーテールにしたそうだね?」

「ぽにぽに。」

「うんうん、ポニーテールは可愛いと思うよ。」

「ぽに~」

「でもね、無理矢理はちょっといけないよ?」

 

 

大貫は静かに今回の件を諭す様にぽに男に話した。

 

 

「ぽに?」

「だからね、ぽに男君…覚悟は出来ているね?」

 

 

大貫がバッグから取り出したのは愛用のチェンソー。

 

ゆっくりとぽに男に振り向いた大貫の表情は某海外映画の閃光のモードへと変貌し。

 

デハハハ!!と笑い、ぽに男に向かって一閃した。

 

 

「ぽにー!?」

 

 

「ダーイ!!」

 

 

ぽに男は暴走大貫に襲撃され、その場から逃走した。

 

 

「そ、ソースケ…」

「千鳥、何も言うな。」

「ぽに男、どうなるかしら?」

「恐らく、今回の事で二度とポニーテールをしたくなくなる程のトラウマとなるだろう。」

「何とかならないの?」

「無駄だ、先程ぽに男が逃走したルートは俺が仕掛けたトラップが満載しているエリアだ…移動が止まっていないとなると俺でもどうする事もできん。」

「あ、そう…」

「あの破損個所は後でロサに頼んで修繕工事する予定だ。」

「手際が良い事で…」

「何事も予防が第一だ。」

 

 

宗介はかなめに説明した後、彼女をマンションへと送り届けた。

 

このチェンソーが鳴り響く騒動は翌朝まで続き。

 

巡回中のブレイブポリスのパトカー君が黒焦げの半裸状態のぽに男を回収する羽目になったとか…

 

この騒動は後に都市伝説として語り継がれ、チェンソーが鳴り響く夜の犯罪率は急激に下がったとの事である。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

浅草事件前夜。

 

 

「いよいよだ。」

『ああ…コウタ、覚悟は出来ているか?』

「当然だ、もうあんな思いはしたくねえからな。」

『判った。』

「待ってろよ、ダークブレイン……今度こそ俺がぶっ倒してやる。」

 

 

とある研究施設の特機用ハンガーの前で少年は誓いを立てる。

 

明日は戦いへの道に進む。

 

だが、歩みを止める事は無い。

 

彼は戦士ロアの意思を受け継いだ。ファイターロアなのだから…

 

 

=続=




それは目覚めた。

赤き炎を纏って。


次回、幻影のエトランゼ・第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》後編』。


この目覚めは奇跡の伏線に至る行い。


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第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》後編』

目覚めし赤き戦士。

道化と相対する赤き戦士達。

これもまた奇跡の証なのだろうか?

だからこそ魂の縁は続くのだ。




ほおずき市。

 

七月の始めに行われる祭りの一種。

 

今回は空白事件のあおりもあり夏の長期休暇に合わせて行われた。

 

その為、開催日が七月の後半となっている。

 

その祭りの場である浅草では…

 

 

「それにしてもお兄ちゃんもほおずき市に来ているなんて…」

「ちょっと、ダチと会う為にな。」

「ふうん、お兄ちゃんに他のお友達が居たなんて…私知らなかった。」

「悪いかよ?」

「そう言う訳じゃないけど…」

「それに今日も祭りで人の出も多いから変な奴に突っかかるなよ?」

「もう解ってるわよ。」

 

 

ほおずき市の開催地である浅草雷門通り。

 

二人の兄妹、コウタとショウコの二人は偶然この場で遭遇した。

 

その後、しばらく話をした後に二人はほおずき市を散策する事となった。

 

 

「ジャータ、双子は元気?」

「ああ、もうお腹の中で元気すぎるってガーネットが話していた位だ。」

「そう、良かった。」

「もうすぐ生まれる予定さ、その時は見に来てやってくれよ。」

「うん、判った。」

 

 

同じく、ほおずき市を訪れていたラトゥーニ、アラド、ゼオラ、オウカ、ジャータの五人。

 

ラトゥーニはジャータより双子の事を聞いており、その横でアラドとゼオラの懐事情をオウカが仲裁していた。

 

 

「でもよ…」

「心配すんなって、焼きそば位俺が奢ってやるよ。」

「いいんすか?」

「ジャータさん、そんな…」

「例のトライアルの見送りで出来た折角の休暇なんだし楽しまないとな。」

「ありがとう御座います、ジャータさん。」

「ありがとう御座いますっス。」

 

 

ジャータが助け舟を出した事でアラドは念願の焼きそばを食べられる事となったが…

 

鉄板に乗っかっている量は約十人前。

 

その注文量にバイトの青年がプロか?と驚いていた事など気にもしていなかったアラドである。

 

そして同じく屋台で注文しようとしていた小学生二人からも驚きの声が上がった。

 

 

「じゅ、十人前って…アラドさん?」

「アレ?銀河に北斗じゃないっすか?」

「こんにちは、アラドさん。」

「今日はどうしたんすか?」

「銀河と僕の伯父さんと一緒に街を散策に来たんです。」

「オジさん?」

「始めまして。」

「えっと、北斗の母ちゃんの兄ちゃん…だから北斗にとっては伯父さんになるって事。」

「ああ、そっちのっすね。」

 

 

銀河と北斗に連れられたアルテアも軽く挨拶をしていた。

 

ちなみに髪色が目立つのでアルクトス製の染粉(黒)を使用している。

 

その為、閲覧側からすればかなりの違和感がある。

 

 

「その声はアラドか?」

「あっ!タカヤさん、シンヤさん、お久しぶりっす。」

「久しぶり。」

「お二人もほおずき市に来ていたんですか?」

「そ、息抜きでね。」

「アラド、その焼きそば…一人で食べる気なのか?」

「そうっす。」

 

 

屋台の店員の手によってパック詰めされていく焼きそば。

 

その光景に北斗と銀河が呟いた。

 

 

「店員さん、パックに詰めるのも大変そう。」

「仕事だけど…何か可哀想になってきたよな。」

「うん…」

 

 

喜んで焼きそばを食べようとしているアラドの表情に何とも言えない二人であった。

 

しかし、その直後。

 

 

「おわっ!?」

「わっと!」

「銀河、ナイスキャッチ。」

 

 

アラドにぶつかった禿頭の男性。

 

その拍子にアラドが焼きそばを落としてしまったが、銀河がパックを旨く挟んで落下を阻止したのである。

 

 

「アラド、大丈夫か?」

「大丈夫っす、銀河もありがとう。」

「いや~ヒヤヒヤしたぜ。」

「それに…」

 

 

その様子を見ていた少女は男性に注意した。

 

 

「ちょっと、そこのおじさん!」

「…」

「さっき、この子にぶつかったでしょ!」

「俺、大丈夫っすから。」

「良くないわよ、ぶつかって置いて謝りもしないなんて…!」

「ふん、この程度の理由で争うとは…この世界の人間も落ちたモノだな。」

「えっ?」

「凡人が、この俺に楯突いた事だけは後悔させてやる!」

 

 

禿頭の男の言葉に記憶保持者達は意味を察した。

 

アラドに介抱してくれた少女に北斗と銀河が話しかけ、禿頭の男の前に立ちふさがった。

 

 

「お姉さん、この人から離れて!」

「え?ちょっと…どうしたの?」

「銀河、この人…」

「ああ、このおっさん…そっちの姉ちゃんに殺気をビリビリ出してきやがって!」

「ほう、その年で俺の殺気を感じ取れるとは…」

「…では、どうするつもりだ。」

 

 

禿頭の殺気に気が付き、少女を離れさせる北斗と銀河。

 

既に止められない状態になってしまっている。

 

そして禿頭の行動が危険と判断し応戦態勢を取ったアルテア。

 

 

「さてな…(あの餓鬼もそうだが、この男も只者ではないようだな。」

 

 

禿頭の男ことアルコ・カトワールは修羅の本心に従い見極めた。

 

 

「だが、俺に楯突いた…その小娘だけは許さんぞ!」

「ああっ…」

「させっかよ!」

 

 

アルコの一撃を銀河が押し返す。

 

だが、大人と子供。

 

その差もあり空白事件でドモンに鍛えて貰っていた銀河でさえ怯んでしまう。

 

 

「痛ってえ!何つう堅さだよ!?」

「くっ、子供と侮ったのが間違いだったか…!」

「銀河、大丈夫!」

「何とかな…(アイツの打撃はチボデーさんよりも下位だけど…もう一発喰らったら俺でも防ぎきれねえ。」

「北斗、銀河とその娘を連れて離れていろ。」

「伯父さん、でも!」

「…刀が無くとも護身の心得はある。」

「それに僕らを忘れて貰っちゃ困るよ。」

「三対一…どちらが不利な状況なのは判るだろう?」

 

 

アルコと対峙するアルテアに手を貸すD兄弟。

 

 

「待ちな!」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 

そこに騒ぎを聞きつけて学ランを纏った少年が現れた。

 

会話から察するに少女の兄らしい。

 

 

「ショウコ、また余計な事に首突っ込んだろう?」

「ご、御免なさい…」

「言い訳は後だ、よくも俺の妹に手を出しやがって!」

「ふん、また余計なのが現れたか…!」

 

 

アルコは先程の銀河と同様に捻じ伏せようとしたが、逆に反撃を喰らう事となった。

 

 

「くそ、またしても…!」

「テメエの動きが見切ったぜ。」

「…」

「さあ、どうする?」

「くくく…」

「何がおかしい!」

「どうするか?か……どの道、貴様らに未来などないがな?」

 

 

アルコは捨て台詞を吐くとその場から去って行った。

 

 

「お兄ちゃん…」

「ショウコ、俺は前にも言ったよな?」

「御免なさい。」

「待ってくれっす、この子は俺の事で…」

 

 

かくかくしかじかとアラドが今までの経緯を説明。

 

その間に自己紹介もしていた。

 

 

「ありがとな、妹の事を助けてくれて。」

「怪我が無くて良かったです。」

「でも、銀河君が…」

「へーき、母ちゃんの拳骨より大したことないって。」

「…(言えない、銀河のお母さんが素手で木を吹き飛ばせる腕力の人だなんて…」

「済まなかったな、我々がもう少し早く動けて居れば…」

「いえ、私が勝手に口出ししてしまったのが悪いんですし。」

「でも、俺…すっごく嬉しかったです。」

「アラド君。」

「ショウコちゃん、ありがとうっす。」

 

 

騒ぎを聞きつけ、ジャータ達も合流し改めて自己紹介が行われた。

 

件の焼きそばに関しては無事確保されている。

 

しかし、アラドは少し冷めた焼きそばを頬張ることとなった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、浅草近辺の河川沿いにて。

 

二人の青年が話し合いをしていた。

 

片方は青い服装、もう片方は白と黒の服装である。

 

 

「どうやらアルコの奴はミザル様の命令で動いている様だ。」

「その様だ。」

「フン、修羅神に認められぬ半端ものがコソコソと…」

「奴の事など気にするな、俺達は俺達の命令を遂行するまでの事。」

「この温い空気で満ちた世界に俺達が求める闘争などあるのか?」

「別動隊からの情報に寄れば、ガンダムファイターと呼ばれる者達が居るらしい。」

「ほう?」

「俺達はこの世界に再び辿り着いた、それは何かの導きだろう。」

「ならば見極めさせて貰おう、この世界に戦いの狼煙を上げる為に。」

「待て、我らの新たなる居城『転空魔城』の機能が回復するまでは我慢しろ。」

「それは命令か?」

「いや、万全を期して攻め込むのも悪くはないだろう?」

「ああ…その提案は受け取って置こう。」

「…(俺達の真の目的の為に今は道化として演じさせて貰おう。」

 

 

白と黒の服装の青年ことフォルカ・アルバーグはある想いを抱きつつ修羅として行動していた。

 

だが、彼の纏う覇気が以前と異なる事を知るのは青の服装の青年ことフェルナンド・アルドゥクだけであった。

 

 

******

 

 

突如、緊急避難警報が鳴り響く。

 

浅草周辺に現れた四足歩行の機動兵器。

 

 

「これって…!」

「あれは、インスペクターの!」

「ありゃ、敵なのか!?」

「うん、インスペクターの使用していた無人の起動兵器。」

「ちょっと待てよ、インスペクターは前の戦いで…!」

「地球から撤退した筈、でも…どうして?」

「恐らく…何者かがインスペクターの機体を奪取して使用している可能性があるわ。」

「姉様、まさか…Anti・DCが?」

「その可能性もあり得なくはないでしょう。」

 

 

ゼオラとラトゥーニが目視した機動兵器。

 

それに対しジャータは機動兵器の所在を聞くとアラドがその後のオチを話した。

 

オウカはテロリストに使用されている可能性を視野に入れて話した。

 

 

「このままじゃ街が…!」

「ここは俺達が奴らを抑える。」

「皆は早くシェルターに!」

「判りました。」

「銀河君と北斗君も…!」

「俺達は大丈夫。」

「ショウコさん達は早く逃げて!」

 

 

この状況に軍の防衛部隊が到着するのに数分のタイムロスが発生する。

 

それを理解したD兄弟達が殿を務めると話した。

 

それと同時に銀河、北斗、アルテアもまた応戦すると目線で合図を送った。

 

ラトゥーニ達に促され、ショウコはシェルターに向かった。

 

 

「コウタ・アズマだったな…話はキョウスケ中尉から聞かされている。」

「成程、アンタ達が中尉の…」

「初対面のメンバーだけど同じ記憶持ちとしてよろしくね。」

「よろしく頼むぜ。」

「コウタさん、機体の方は?」

「悪いけど少し時間を稼いでくれないか?アレを呼び出すのに時間が喰うんだ。」

「…判った。」

 

 

ショウコ達の姿が見えなくなった後、アルテア達はコウタに正体を明かした。

 

コウタも事前に連絡を受けていたのですんなりと話が進んだ。

 

その後、コウタはアズマ研究所と連絡を取りバトルフォースロボの発進を急がせた。

 

周辺に民間人の姿が見えなくなった後、彼らはそれぞれの変身と愛機を呼び寄せた。

 

 

「「テックセッター!」」

 

「バーナゥ・レッジー・バトー!」

 

「「電童、出動!!」」

 

「凰牙、参る!」

 

 

 

かつてラダムを震え上がらせた白と赤の騎士ことテッカマンブレードとテッカマンエビル。

 

悪しき賢者を倒す為に目覚めた赤き戦士ファイターロア。

 

七つの光を宿した戦士・電童と騎士・凰牙。

 

今、戦士と騎士達の戦いが幕を開ける。

 

 

 

「ファイターロア、我々でコンパチプルカイザーが出撃するまでの時間を稼ぐ。」

「ロアは近づいてくる奴らだけ相手を頼む。」

「判ったぜ!」

 

 

到着した凰牙に搭乗し指示を出すアルテア。

 

遠くの敵は自身と電童で。

 

ブレードとエビルが追撃して来た空中の機動兵器を相手にする形となった。

 

 

「往くぞ!!」

 

 

空白事件を勝ち抜いた歴戦の戦士を偵察と防衛程度の戦力しかない機動兵器が止める術など持たない。

 

応戦はするものの成す術もなく斬り裂かれ撃ち落とされていく。

 

 

「まさか、この世界の者共が…ここまでの力を持つとは。」

 

 

この戦闘を仕組んだアルコは戦闘の光景を浅草のビルの屋上より見届けていた。

 

 

「くくく、これはミザル様にご報告せねば…」

「そこまでだ、ガイコツ野郎!」

 

 

其処へ変身を終えたファイターロアが昇って来たのである。

 

 

「貴様は…!」

「俺の名はファイターロア、テメエらをぶっ倒す奴の名前だ!」

「その声、あの小僧が…丁度いい今ここで先ほどの決着を付けてやる!」

「さっきまでの俺と思ったら大間違いだぜ…バーナゥ・ファー・ドラグ!」

「!?」

 

 

ロアは炎の龍を呼び出しアルコに差し向けるが…

 

 

「くっ、あの一撃を喰らったら厄介だな……勝負は預けるぞ、小僧!」

「待てっ!」

 

 

アルコは分が悪いと悟り撤退してしまった。

 

ロアはその後を追いかけようとしたが、キサブローより発進準備が整った連絡を受けた為に追撃するのを止めた。

 

 

『コウタ、バトルフォース・ロボの出撃が整ったぞ!』

「待ってたぜ、爺ちゃん……こい!ロボォオオオオ!!」

 

 

ファイターロアの掛け声と共に周辺で稼働音が響き渡る。

 

 

『オーバーゲート・エンジン、出力上昇!』

 

 

同時刻、アズマ研究所地下にてキサブロー博士がてんやわんやでシステムを起動していた。

 

 

『ハンガーロック解除!クレイドル、リフトアップ・スタンバイ!』

 

 

モニタールームでコンソールを操作しコンパチカイザーの射出準備が整う。

 

 

『地上部、安全確認!防御柵、煙幕噴射装置、作動!』

 

 

浅草のテーマパーク付近からスモークが噴出され姿が目視出来なくなる。

 

 

『フラワーハウスゲート、オープン!』

 

 

射出される赤き特機。

 

 

『出ませい、バトルフォース・ロボ!コンパチブルカイザー出撃!!』

 

 

煙幕が薄れ赤き装甲を輝かせて出現したコンパチブルカイザー。

 

ファイターロアもそれに合わせて移動し合身を果たす。

 

 

「こっからは俺も参戦だ!」

 

 

追撃して来た機動兵器群を相手にコンパチブルカイザー、電童、凰牙、ブレード、エビルが奮闘する。

 

 

「やっぱり、アレの合体機構はオミットされていたか…」

「珍しいね…君が今回見物とはね。」

「本来なら私はここに居るべきではありませんし、見物も悪くないでしょう。」

 

 

三機の特機と二機のパワードスーツの戦闘光景を浅草郊外より見物する二つの影。

 

 

「で、アレが例のコンパチブルカイザーかい?」

「そうです、元は自立AIを搭載していたり四体合体とか可能だったのですが…改修の関係でオミットされた様です。」

「逆にパワーダウンしちゃったとか?」

「どうでしょう、裏を返せば一人乗りにした方が運用しやすくなったと考えられますけどね。」

「それで敵の正体は掴めたのかい?」

「あの無人兵器を仕向けたのは修羅で間違いないでしょう…それに後から現れた機動兵器に関しても心当たりがあります。」

「見た感じ、君が話していた『火星の後継者』とやらかな?」

「ええ、お陰様で監視と保護の対象が増えましたよ…」

「ま、他のエージェントが失敗しない事を祈るしかないかな?」

「いや、失敗はさせませんよ……むしろ敵は芋蔓式にしょっ引きます。」

「あらら…彼らもご愁傷様だね。」

 

 

新たな敵の正体を把握したハスミと孫光龍。

 

他愛もない話をしながらも今後の道筋を決めていた。

 

そしてハスミは静かに勝利を収めたファイターロアにエールを送った。

 

 

「コウタ、ロア、お疲れ様。軽くエールを送るけど…君の戦いも始まったばかりだよ。」

 

 

そう、可能性の世界の戦いで現れるかもしれない宿敵。

 

君は彼らと戦う事が出来るか?

 

いや、心配する必要もないかな。

 

 

「さてと、あの骸骨さんはどうしたものかな…」

「とっくの昔に逃げ果せたみたいだよ?」

「それなら大丈夫ですよ。」

「え?」

「今頃、衝撃さんと楽しい楽しい鬼ごっこをしていますから。」

「…君もえげつないね。」

「さあ、どうですかね…フフフ。」

 

 

撤退したアルコ・カトワールは別行動をしていた衝撃のアルベルトに遭遇。

 

力量を考えずに敵対した為に死に物狂いで逃げ回っていた。

 

これに関しては元からの共闘関係からの協力になるので特に問題はないだろう。

 

但し、衝撃のアルベルトに関しては小物を押し付けられたので腑に落ちない様子だったりした。

 

 

「私はインドの厄介事を片付けて来ます。」

「無理はしない様にね、そろそろ北の方でも妙な動きがあるようだから…」

「判っていますよ、お父さん…例の蟲退治には間に合わせますから。」

 

 

その後ハスミは光龍と別れ、テレポートでインドに転移し出向先の調査部隊に何事もなく静かに戻って行った。

 

 

=続=

 

 




深き大地の奥底。

魔物の声が響き。

魂の花は揺れ動く。


次回、幻影のエトランゼ・第四十三話 『石窟《アジャンター》』。


古き約定を護るべく蒼き女神は動く。


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第四十三話 『石窟《アジャンター》』

深き大地に潜む魔物。

猛き産声を上げて。

己に与えられた使命を果たす為に。

だが、流れ通りには行かない。

これはその為の布石。


浅草での戦闘が行われた翌日。

 

連合軍は新型機のトライアル計画の見直しと延期を各メーカーに通達。

 

理由は計画の責任者のよる一企業への癒着事件が問題となった為である。

 

ウォン重工業に強制調査が行われ、CEOのリック・ウォン以下関係者全員が逮捕される事となった。

 

しかし、ミロンガ数機と製造中のバルトールが開発主任のジジ・ルー以下数名の研究者達と共に行方が掴めていない。

 

同じく大連の製造工場にも調査が入ったが、もぬけの殻だったそうだ。

 

結果的に軍の膿出しとウォン重工業の悪行を世に晒し、バルトールが連合軍の次期主力機になる事は避けられた。

 

その流れなのか、スカルヘッドと呼称されていた軍事プラント・ヘルゲートが何者かによって破壊された事が判明した。

 

修復作業を請け負っていたイスルギ重工若しくはウォン重工業のどちらかがAnti・DCの残党を招き入れていた事が追加の調査で分かった。

 

これによりイスルギ重工は、上層部との取引により次期トライアルへの参加件を剥奪され数か月の運営凍結を条件に罪に問われなかった。

 

これでもイスルギ重工にとっては大きな痛手である事に間違いないが、これ位で済んだ事を幸運に思って欲しい。

 

尚、ウォン重工業は諸々の罪状により倒産への道筋を辿る事となった。

 

だが、行方不明のジジ達や最近になって現れ始めた謎の機動兵器群の詳細が判らないまま日数だけが過ぎていった。

 

 

******

 

 

インド、マハラーシュートラ州北部。

 

私達はその州のワゴーラー川の湾曲部に沿ってアジャンター石窟へと向かっている。

 

アジャンター石窟とは川湾曲部を囲む断崖を550mにわたって断続的にくりぬいて築かれた大小30の石窟で構成される古代の仏教石窟寺院群のことである。

 

数年前にその地下からアニムスの花が発見された。

 

しかし、ここ暫く起こった戦争によって調査が中断されていたが最近になって再開された。

 

だが、再調査中に出現した謎の生物によって行く手を阻まれてしまい先の調査部隊は全滅。

 

これにより調査をしていたモーディワープは有限会社アカマツ工業へ調査の依頼を行った。

 

そして軍からの視察兼護衛としてハスミ・クジョウ少尉とロサ・ニュムパが同行している。

 

近年発生しているアルジャーノンの調査は軍でも行われている。

 

勿論、その危険性も兼ねてより調査されており…隙あらばと言うのが上層部からのお達しもあった。

 

ギリアム少佐曰く『要は発見次第それらを排除しろ』と言うのが上層部の結論との事である。

 

どうやら再三行ったブルーロータスの警告を漸く受け入れたらしい。

 

…全く、これでも遅すぎる位だ。

 

 

「ハスミ、そろそろ目的地に着くって。」

「判ったわ、ロサも準備はいい?」

「うん、大丈夫。」

 

 

移動用のトレーラーが発掘現場に到着すると私達はトレーラーから降りて他のトレーラーに乗っていたアカマツ工業の人達と合流した。

 

一応、自己紹介はある程度済ませてある。

 

モーディワープの監察部から出向している都古麻御からはかなり引かれているのは気にしない。

 

と、言うよりも彼女だけに近寄りがたいオーラをワザと出しているので。

 

超能力者の紅楓からは『すっごい力ね、私もびっくり~』と天然発言をされた。

 

これでも抑えているつもりなのだが、修行し直さないかな…

 

念の為、私は念動力者である事は説明しておいてあるが…イマイチ反応が薄い様だ。

 

逆にロサは蒼斧蛍汰にべったり張り付かれていた。

 

お願いだからロサに某アダルトな素体を進めないで欲しい。

 

マジで…インドアヒッキーになる位に再起不能にしてあげますけど?

 

そんな茶々もありつつ、私達は発掘現場へと向かった。

 

雇ったガイドの話に寄ると最近になって巨大なうねり声が発掘現場の奥地より響いてくるそうだ。

 

現地の人々は『ベヘモット』と呼んでいる。

 

ベヘモットとは別名ベヒーモスと呼ばれ旧約聖書では陸の魔物、イスラム教の神話ではバハムートと同一視されている神話の怪物の名前である。

 

元の姿を識っている私から言えば『ガネーシャ』の方が合っていると思うのは気のせいだろうか?

 

しかし、調査道中で地震が発生…それぞれが地下へと落下する事となった。

 

ご丁寧にガイドのオッサンは地震と同時にさっさと逃げました、チッ。

 

あのターバンオッサンめ、後で覚えてなさい。

 

ま、こっちとすれば…別行動の方が本来の目的を達成できるからいいのだけど。

 

そろそろ、彼と鉢合せしないといけないので。

 

 

「それにしても長い。」

「うーん、ハスミの念で周囲のエリアを調べて、私が地図化したけど…ここってかなり複雑になってるね。」

「まあ、地図化に成功しただけマシかもね。」

 

 

地下に落下してから一時間弱経過した頃。

 

私の念で周囲のエリアを反響させ、そのデータをロサが収集して地図化に成功した。

 

要は念による蝙蝠や梟と同じ方法である。

 

私達は目的の場所で鉢合わせる様にゆっくりと地下洞窟を進んだ。

 

そして彼らに出会った。

 

ベターマン・ラミアとベターマン・セーメの一人と一羽に。

 

 

「始めまして、ソムニウムの一族達。」

『お前は?』

「蒼き女神の器と言えば判ると思う。」

『貴様が今代の蒼き女神の器か…』

「希望の見護り、ご苦労様。」

 

 

リミピッドチャンネルを通して話を進めるラミアとセーメ。

 

念話に近いがちょっと慣れないと気分が悪くなるのは言わないでおこう。

 

 

『…器よ、何故ここへ?』

「昔の約束を守る為と忠告しに来た。」

『忠告?』

「ここにはフォルテの実が一つしかないからだ。」

『…』

「オルトスに至るにはフォルテが三つ必要になる…だが、希望を護る為にここのフォルテを使わざる負えないだろう。」

『それは巫女の予言か?』

「半分は…私の調べではフォルテと成り得る者は全員で六名。」

『…』

「全て揃えたとしても…チャンスは二度だけだ。」

『…かなり低いな。』

「私は過去に契約した約定通り、貴方達に手を貸す所存だ。」

『元凶なりしモノを倒せるのなら…』

「本当に申し訳ない、元はと言えば私達人が犯した事を貴方達に背負わせる事になってしまった。」

『…』

「一つ目のフォルテはこの先の大空洞の地下に眠っている、だが…」

『奴が目覚めたのか?』

「奴の名はベヘモット、ネブラでは倒しきれないだろう。」

『それでも戦わなければならない…』

「…そこでこちら側も手を貸す。」

『方法でもあるのか?』

「奴の名を識ると言う事はその特性や弱点を識っていると言う事だ。」

『ラミア…』

『…聞こう。』

「作戦は…」

 

 

私は単純であるが、行うにはそれなりの準備が必要な作戦を提示した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃、一人で地下を彷徨っていた蒼斧蛍汰が謎の少女にチャンディーと言う名を付けて別れた後。

 

彼は地下の大空洞で気絶していた彩火乃紀を発見するが、その奥から現れたのは…

 

 

「べ、ベヘモット…!!?!?」

 

 

ケータはヒノキを担いで逃げようとするが、体格上奴の動きが早く捕まりそうになった時。

 

彼が現れた。

 

 

「べ、ベターマン!?」

 

 

ベターマン・ラミアは懐からネブラの実を取り出すと一気に噛り付いた。

 

そしてベターマン・ネブラへと変貌。

 

ベヘモットに対峙するが、サイズと腕力に差があり徐々に押されていた。

 

 

「その間合い貰った、巨月落牙!!」

 

 

だが、それに援護する者の姿もあった。

 

巨大な刃がベヘモットの片耳を切断したのである。

 

 

「は、ハスミさん!?」

「ケータ、彼女を連れて早く逃げなさい!」

「で、でも…!」

「私なら大丈夫、伊達に魔物とタイマン張って来た訳じゃない。」

「あー確かに…」

 

 

先程の攻撃によりベヘモットは片方の耳状の部分を切断され、お得意の催眠音波が使用出来なくなっていた。

 

ハスミは前もってラミアに囮になった隙に奴の超音波を発する器官を潰す作戦を提案していた。

 

その為、ネブラへのサイコヴォイス封じが使えなくなったベヘモットに退路はない。

 

 

『…』

 

 

目線の合図でベターマン・ネブラはハスミに感謝の言葉を送った後。

 

ベヘモットをサイコヴォイスで一掃した。

 

が、同時に地下落盤を引き起こした為にケータ達は他のメンバーと合流し地上へ脱出した。

 

 

『ラミア。』

『セーメか…』

『この地のフォルテはあの小さき者より預かった。』

『判った。』

『言付けだが、次のフォルテは…あの島の北の地にあるらしい。』

『そうか…』

『だが、その地に忍び込むには次の満月を待てとの事だ。』

『その時まで休むとしよう。』

 

 

砂と化したネブラから這い出たラミアはフォルテの実を携えたセーメと合流し、崩れる大空洞から脱出した。

 

彼女達から次の道標と共に…

 

 

******

 

 

アジャンター石窟は象型UMAとの戦闘後、内部崩落を起こし侵入不可となった。

 

石窟内で発見した『アニムスの花』の原生地が失われた事でアルジャーノン治療の希望が消えた。

 

調査部隊は何も得る事が出来ずに『骨折り損のくたびれ儲け』となった。

 

だが、護衛に就いていたハスミだけは慌てる事も無くその光景を見ていた。

 

 

「ハスミ少尉、お前さんの上司から連絡が来ているぞ。」

「すみません、ありがとう御座います。」

 

 

私はアカマツ社長から取り次ぎ、調査用のトレーラーの通信室でギリアム少佐の連絡を受け取った。

 

 

『ハスミ少尉、急な話で申し訳ないが…このままホンコンに移動して欲しい。』

「何かあったのですか?」

『ああ、DG細胞と言えば判るだろうか?』

「!?」

『ホンコンへ向かうルートでテスラ研へ出向中のティアリー博士と合流し、その調査に赴いて欲しい。』

「了解しました。」

 

 

ギリアム少佐からの連絡を終えた後。

 

私はアカマツ社長達に次の任務が入った為と伝えて、そのまま別れる事となった。

 

 

「…北海道の事件に間に合えばいいけど。」

「ハスミ…」

 

 

私は再び起こった可能性の事件を止めるべくホンコンへと向かった。

 

可能性の事件…

 

あのデュミナスが現れた。

 

Rにおいての例の事件だって引き起こされる可能性があったのだ。

 

その事件の犠牲者が誰であるかは判らない。

 

ただ、Gアイランドシティでの機界新種戦に於いてドモン達の身に起こった事が原因であると私は推測する。

 

そしてホンコンにはもう一つの事件が差し迫っている事も視野に入れている。

 

 

「ロサ、そろそろ因縁と決着を付けるべき時なのかもしれないね。」

「うん。」

「大丈夫、貴方なら出来るわ。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

私はロサの安否を心配しつつ合流ルートへ急いだ。

 

 

=続= 

 




それは静かに起こった。

捻じ曲がった流れが引き起こした渦。

それは静かに渦巻きながら広がる。


次回、幻影のエトランゼ・第四十四話 『闘乱《トウラン》前編』。


蝕銀の呪い再び。


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第四十四話 『闘乱《トウラン》前編』

古き気配が残る地。

その地で発生する不可解な事件。

動き出す者達。

己の宿命に抗え。


前回、ギリアム少佐の連絡を受けた私達はアジャンター石窟から移動。

 

連合軍・インド基地でティアリー博士の搭乗するダウゼントフェスラーと合流。

 

その後、七月初めに開催された第十三回ガンダムファイト・決勝リーグが行われているホンコンへと向かった。

 

 

 

「凄い賑わいでしたね。」

「いや~相変わらずのお祭り状態で凄いね。」

「さっきの対戦も勉強になりました。」

「確かに…(相手がシュバルツさんじゃ…勝ち目ないよ、アレ。」

「まさか床を畳み返しに使うなんて忍者様様だったね。」

「どちらかと言えば相手の力技を流れる様に受け流していたのは流石でした。」

 

 

決勝リーグ開催地であるホンコンの街中を散策する私達。

 

予想以上の賑わいに驚いていた。

 

先程、ネオドイツ対ネオノルウェーの対戦を見終わったばかりである。

 

一応、表向きの休暇扱いになっているので少し楽しんでいた。

 

本格的に動くのは夜なのでそれまでの暇潰しを兼ねている。

 

今回の件は連合軍・諜報部と国際警察機構双方の合同捜査であり、極秘の為に現在は軍服ではなく私服である。

 

ロサに関しては私の肩掛けバックに隠れて貰っている。

 

 

「確か、ドモンのネオギリシャ代表選手とネオインド代表選手との対戦が終わった頃だから……凄く嫌な予感が。」

「ハスミちゃん、何か嫌な予感でも当たったかな?」

「思いっきり、どストレートに。」

 

 

他の事で手一杯ですっかり忘れてた。

 

これ、順番は違うけどGガンの原作ルート一直線に行っている。

 

SRWシリーズでは決勝リーグの件は有耶無耶になっていたり原作終了扱いで情報が少ない。

 

正直、扱っているシナリオ事例がないからキツイな…

 

他のエージェントの話だと、GGGも新型ガオマシーンを奪われてパリで行動中だし。

 

終着点であるホンコンで網を張っていれば向こうから当たってくると思う。

 

この調子だと北海道の事件に間に合うかな?

 

今日が新月だから約二週間って所だし。

 

約束の日までに間に合わせないと…

 

 

「ねえ、ハスミ…あれ。」

「え?」

 

 

バックからひょいっと顔を見せたロサが指差した先にあったのは…

 

運行中のバスの上でドモンとネオネパール代表選手が絶賛バトル中でした。

 

 

「…」

「あれ、ドモンさんだよね?」

 

 

正に『開いた口が塞がらない』とはこの事である。

 

真昼間の街中でアンタラ何しているんですかー!?

 

うん、原作視聴済みだからオチは解っているけど…

 

実際…生で見ると心の中で『エー!?』っと言いたくなったのは気のせい?

 

 

「あらま、すっごいね…」

「ティアリー博士、呑気にタピオカドリンク啜りながら言わないで下さいよ。」

 

 

近くの露店でタピオカミルクティーを購入して飲んでいるティアリー博士。

 

マイペースな所は変わらずである。

 

 

「止めた方が良いの?」

「どうするかな、ドモンなら何となく片付けそうだし…放って置こうと言いたいけど。」

「じゃあ、止める?」

「事の顛末を識る身としては…止めておいた方が一般の方達にご迷惑にならないと思う。」

「じゃ、ハスミちゃん…よろしくね?」

「はぁ、極秘捜査なのに始末書モノかな?これ…」

 

 

私は一歩踏み出すと戦闘中のバスの元へ向かった。

 

その動きは一瞬であり、一般の人には何事もなかった様にハスミの姿は景色に溶け込んだ。

 

 

******

 

 

一方、問題のバスの上では。

 

暗いトンネルの中でドモンは説得を続けていた。

 

 

「死神キラル、お前にファイターの魂はないのか!」

「ドモン・カッシュ…貴様には解るまい。」

 

 

キラルは告げた。

 

ファイターにとって大事な視力。

 

その光を失った自分が立たされた位置を。

 

泥水を啜る様な過酷な修行を遂げて。

 

残りの感覚を研ぎ澄ませ、ガンダムファイトに復讐を遂げる為に舞い戻って来た事を。

 

 

「まさか…貴様!」

 

 

ドモンは彼からにじみ出る憎しみが何かによって増幅されている事に気が付く。

 

既に終わっていた筈の呪いが再び目覚めた事を自覚した。

 

 

「闇の中であっても私には無意味だ…!」

 

 

ドモンはキラルの一撃を避けたのと同時に赤い鉢巻を取り外し、彼のアイマスクに直撃させた。

 

トンネルを抜けると彼の目元には呪いの証が刻まれていた。

 

 

「やはり、DG細胞か…!」

「フフフ、目の見えぬ私に再び立ち上がる力を…悪魔と契約を交わしたのだ!」

「キラル、一体誰がDG細胞を!」

「…貴様には関係のない事!」

 

 

キラルの長い錫杖の追撃が始まろうとした時、それを遮る様に一つの影が入り込んだ。

 

 

「様子見に来て正解だった。」

「お前は!?」

 

 

その影の名前を言いそうになったドモンに彼女は人差し指で他言無用の合図を送った。

 

 

「お久しぶりです、ドモン。」

「お前、インドに向かっていた筈じゃ…」

「訳有りでこっちに飛ばされましてね、まさか本命に当たるとは思いませんでしたけど。」

「ふん、斬る相手が増えようが構わ…!?」

「眼が見えない事と言う事は他の感覚で周囲の情報を得て要るようですけど、その周囲の気配を捻じ曲げればどうなると思いますか?」

「な、何も見えんだと!?」

 

 

キラルがこちらの動きを捉えられない状況に唖然としているドモン。

 

 

「今の内に撤退を…!」

「だが、奴を放って置けば!」

「今はその時ではないとだけ…伝えておきます。」

 

 

ドモンは彼女に促されてバスの上から撤退した。

 

暫くしてからキラルは動ける様になったが、その頃にはドモンともう一人の姿を見失う事となった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その夕方、撤退したドモン達は他の仲間達と合流。

 

港の中にある屋形船の一つの中で来日したハスミ達に今回の件に関して会議が行われた。

 

極秘捜査の為、船の持ち主には席を外して貰っている。

 

 

「何だと、DG細胞が流出した!?」

「正確には空白事件の最中、シャドウミラーを通じてバイオネットを始めとした犯罪組織にDG細胞が流出しました。」

「そんな頃に…!」

「おまけにドモンを襲ったキラル・メキレルが感染してたって…どう言う事だよ!」

「これに関してはまだ調査中ですが、国際警察機構はバイオネットとその協力者がこのホンコンで新型DG細胞の実験を行っている事を掴んだのです。」

 

 

ドモンの発言を始めにチボデーが驚きの声を上げていた。

 

ハスミは可能な限り、今回の情報を告げた。

 

それに対しサイ・サイシーが質問。

 

 

「その新型DG細胞って、今までのと違うの?」

「通常のDG細胞はライゾウ博士の手で治療方法が確立していますが、この新型は改良を重ねており女王感染者と呼ばれる感染者を媒体に他の感染者を意のままに洗脳出来る様に改造を加えられたそうです。」

 

 

今までのDG細胞はDG自身が他の感染者達に命令を下していたが、新型はDGではなく女王感染者が他の感染者を意のままに操れると言う厄介な改良が加えられている。

 

 

続いて、ジョルジュが質問。

 

 

「その女王感染者とは?」

「まだ調査中ですが、恐らく女王蜂と働き蜂の習性を利用したのではないかと推測されています。」

「詳しい経緯はまだ判明されていないと?」

「はい、先ほど入った情報によれば…この新型DG細胞は潜伏期間と発症期間も操作出来るようです。」

「それじゃまるで…!」

「…下手をすれば新型DG細胞による大規模パンデミックが引き起こされます。」

「…」

 

 

レインの荒げた声の後にハスミは静かに今回の危険性を告げた。

 

アルゴはその様子を無言のまま聞いていた。

 

 

「ただ、この新型DG細胞は旧型に感染した事がある人には効きにくいそうなのです。」

「それはこの場に居る全員が当てはまると言う事か?」

 

 

L5戦役に於いて感染経緯がある、チボデー、サイ・サイシー、ジョルジュ、アルゴ、キョウジ、ハスミ。

 

空白事件で感染経緯がある、ドモン、レイン。

 

DG細胞のアンドロイドから空白事件に於いてのGアイランドシティの一件で人の肉体を取り戻したシュバルツ。

 

ティアリーに関しては続けてハスミが説明した。

 

 

「ティアリー博士は初期段階ですが、防衛用のワクチンを投与済みなのでお気に為さらずに。」

「安全の為に裏方に回るんでよろしくー」

「話を戻します、その件で国際警察機構は貴方方に捜査の協力を求めています。」

「協力?」

「勿論、ファイトに専念してください。大体の事は私の方で捜査しますので。」

「だが、他のエキスパートでは捜査の手が回らないのだろう?」

「それでも誰かがやるしかないと…そう思います。」

 

 

今の所、感染経路が不明な時点で感染を気にせず捜査が行えるのは自分だけ。

 

ワクチンの製造は進んでいるけど、投与して完全に機能するには時間が掛かる。

 

もしかしたらワクチンが効かないかもしれない。

 

 

「治療方法はないのか?」

「それはまだ調査中です、私の目的は感染経路の発見と現物の発見ですので。」

「打つ手無し…か。」

「いや、一つだけある。」

「ドモン、まさか…」

「紋章の力、己の力と紋章の力である程度の発症は防げるだろう。」

 

 

ドモンは覚悟の上で答えた。

 

己の生命力と紋章の力で新型DG細胞を浄化する荒行。

 

下手をすれば自らの命も危うい。

 

現時点で他の方法が無い以上はその力に頼るしかない。

 

 

「次のキラルとの戦いでやってみようと思う。」

「ドモン、解っているな?」

「…覚悟は出来ている。」

 

 

シュバルツの問い掛けにドモンは迷いのない答えを告げた。

 

決行は明日の対戦。

 

そこで希望の光となるかはまだ誰にも判らない。

 

 

=続=

 




暴走する触銀の呪い。

対峙するGとZ。

いずれ巡り遭う運命。

この運命を変えられるのだろうか?

次回、幻影のエトランゼ・第四十四話 『闘乱《トウラン》中編』。

蒼き女神はただ見守るだけ。


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第四十四話 『闘乱《トウラン》中編』

呪われし蝕銀は蠢く。

静かにゆっくりと…

誰にも気が付かれずに。

大いなる黄金の光。

その解放は更なる波乱を生む。



前回の話し合いの後。

 

私はドモン達に国際警察機構からの協力要請の申し出の件について、急ぎではない事だけを伝えた。

 

今回の件は巻き込むべきではないと思ったのもあるが、下手をすれば二次災害へと発展する可能性もあるだろう。

 

ましてやガンダムファイト決勝リーグ中、変に不穏にさせてしまっては彼らも困るだろう。

 

場の空気でそう悟った私はティアリー博士達と共に船を後にした。

 

憂鬱な空気のまま夕餉を屋台で済ませた後、ホンコン国内に短期入居の契約をした別荘に戻った。

 

 

「それにしても…どう言う訳でDGの件が再発したんだい?」

「理由は未確定ですが、私なりの推測で宜しければ話しますけど?」

「おっけー。」

 

 

今回の戦いはユニファイド・ウィズダムの中で主軸となった修羅の乱と呼ばれる戦いに差し掛かっている。

 

この戦いは軍の次期主力機のトライアル機に成り得る筈だった『バルトールの暴走』を皮切りに『修羅』と呼ばれる別世界からの来訪者と『デュミナス一派』によって発生した戦い。

 

水面下では『ツェントル・プロジェクト』と『ガイアセイバーズ』設立の為の下準備が進められています。

 

最初のバルトールの暴走によって混乱した地球圏に修羅が乱入しAnti・DCなどの残党と小競り合いを起こす形となります。

 

しかし今回の戦いの流れに修羅とデュミナス一派が居る為に別の流れの戦いも含まれています。

 

それが修羅の『瞬転刀』による転移騒動とデュミナス一派による地球圏の混乱。

 

恐らくはアースティア、ペンタゴナワールドなどが含まれる並行世界にも干渉が予想される。

 

そして闇黒の賢者の襲来が差し迫っている事も注意しなければならない。

 

話を戻しますが、DGは本来デュミナス一派の戦力になる予定だったバルトールが使用出来なくなった為に代替品として流れに戻って来た可能性がある。

 

それに色々とやり過ぎて…イエッツトも出て来なくなった。

 

これから起こる諸々の厄介事にDG細胞が関わる可能性があります。

 

 

「ざっとこんな形です。」

「最早、何でもアリだね。」

 

 

別荘のリビングで屋台で購入したアイスティーを飲みながら私はティアリー博士達に話した。

 

 

「前回もそうだったけど、また転移騒動じゃ堪ったもんじゃないね。」

「手がない訳ではないのですが、アレを使うには早すぎるので成り行きに任せるつもりです。」

「ま、それはしょうがないか…」

 

 

今回の戦いはOG外伝の話だけど、これにRやCOMPACT3の話が混ざってしまっている。

 

それに所々でWの気配も感じる。

 

変えつつある流れに混ざりモノが入る事は仕方がない。

 

少し悲しい事件もチラホラ起こる予定もあるし…

 

やる事が多すぎて流石に疲れるわ。

 

イェッツトの発生源を抑えたらDG細胞が復活する羽目になった。

 

このままだとリアルロボットレジメントの流れも入って来そうで不安である。

 

本来なら彼らの行動を有利に進めさせるのが得策と思うが…

 

今の彼らにこちらで秘匿している『クロスゲート』を使用させる訳には行かない。

 

確実にアルテウルに感づかれる。

 

 

「先の連絡でホルトゥスが復活したシャドウVRとダイモンを壊滅させたのは好都合でした。」

「…彼らって空白事件中は火星の未開拓エリアで小競り合いしていたんだっけ?」

「協力者の五名は兎も角、残りの転移に巻き込まれ五名様がややこしくて説得に時間が掛かりました。」

「んで、苦労してダイモンとシャドウVRの大群を倒したと…?」

「これもフラグと言うしかないですね、機械化帝国の本陣とガルファの地球侵攻部隊を壊滅させたのが裏目に出ました。」

 

 

ちなみに協力者五名と言うのはチーフ、ハッター軍曹、フェイ・イェン、フェイ・イェンHD、クリアリア・バイアスデンらバーチャロン達の事である。

 

尚、巻き込まれ五名は薔薇三姉妹とギル少尉、レドン軍曹と難癖があるバーチャロン達の事だ。

 

フェイに関しては同名が二機もいるのでHDの方をハーツネと呼称。

 

呼称に関しては言わなくても判るだろう。

 

捻りがないのは気にしないで欲しい。

 

色々と…彼女の中で問題はあるものの多分大丈夫だと思う。

 

 

「それに他のエージェントの話では『火星の後継者』も動き始めたらしいので…そろそろユリカ元艦長達を雲隠れさせなきゃならんとです。」

「…彼らも諦めが悪いね。」

「ま、ボソンジャンプを封じられた奴らが大きな口を叩けないのは事実ですし…後で木端微塵にしておきますわ。」

「…ハスミちゃんのラスボスも真っ青なダーク発言がまた始まってるよ。」

「人聞きが悪いですね、私なんかよりももっと相応しい人が居ますよ。」

「うーん、確かにそうだけどさ…」

 

 

この世界でラスボスに大口叩ける人なんてごまんといますよ。

 

うん、閲覧している方々に該当を察して頂けると助かります。

 

 

「話を変えますが…本来ならパリに救援に向かえば良かったと思う事もあるんです。」

「パリ?」

「ええ、現在GGGが強奪された新型ガオーマシンの奪還する為に行動中です。」

「あちゃー、例のバイオネットの件かい?」

「そうです、念の為にホルトゥスのエージェント『魔術師』を向かわせていますが…何処まで抑えられるか。」

「魔術師って例の金欠探偵君だったっけ?」

「無垢なる刃に達している彼らなら油断する相手でもないでしょう。」

「ま、いつもの不運体質が無い事を祈るしかないだろうね。」

「実況中継を見たい所ですが、そろそろ出て来ます。」

「ん、任務頑張ってね。」

 

 

私はティアリー博士との話を切り上げ、別荘を後にした。

 

行き先はホンコン内のネオネパールの領事館。

 

試合前に彼らの悪企みを盗聴かつ録音してきます。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

別荘から出た私はネオネパール領事館へ忍び込んだ。

 

無駄に警備が多いが、梁山泊程ではない。

 

寺院を思わせる通路を進みつつ盗聴がしやすい場所へ隠れつつ本堂へ到着した。

 

 

「…(成程ね。」

 

 

蝋燭が揺らめく本堂の中で三名の男性が何やら話し合いをしていた。

 

一人はキラル、残りは服装を見る限りネオネパールの関係者だろう。

 

どうやら昼間のドモン襲撃を仕損じた件に関して咎められている様だ。

 

キラルが周囲の蝋燭を斬り裂いた後、姿を消した。

 

ちなみに私の目的はこの先からである。

 

二人の僧の話の内容から、ある人物からDG細胞を入手しキラルは知らぬ内に試験投与された様だ。

 

其処からDG細胞の驚異的な戦闘衝動が起こっているらしい。

 

この様子では他にもばら撒かれているだろう。

 

ドーピング様様である。

 

問題の相手があのウォン首相である事を聞く事が出来た。

 

推測からすればウォンはバイオネットと繋がっている。

 

DG細胞もそこから入手したのだろう。

 

首相官邸に忍び込みたいが、今回はここまでにして置こう。

 

騒ぎを大きくすれば奴らに感づかれてしまう。

 

 

「…(一旦戻ってこの事を伝えておこう。」

 

 

私はネオネパール領事館を後にしドモンが滞在する船場で彼に情報を渡した後、別荘に戻った。

 

 

******

 

 

翌日、ドモンの第三試合の日。

 

キラルがドモンの暗殺に失敗しリングに上げてしまった事でネオネパール側のスタッフは苛立ちを見せていた。

 

その様子を試合会場のメインストリートにて観客席と言うか廃墟となったビルの屋上から眺めていた。

 

試合開始と共にマンダラガンダムの猛攻にゴッドガンダムは攻撃を避け続け様子を伺っていた。

 

 

「貴様、戦う気があるのか!」

「あると言えばあった、だが…今の貴様に交える拳はない!」

 

 

ゴッドガンダムのリア部分のファンが広がり日輪を造り出す。

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利をつかめと轟き叫ぶ!」

 

 

黄金の光がゴッドガンダムを包み込む。

 

 

「ばぁぁぁぁくねつッ!ゴッドッ!フィンガァアアア!!」

 

 

ドモンのハイパーモード版ゴッドフィンガーの突撃が始まった。

 

しかし、原作を知るモノならそれが自殺行為である事を識っている。

 

マンダラガンダムの錫杖の仕込み刀を。

 

これを良しとしキラルは仕込み刀の鞘を引き抜きゴッドガンダムを斬り裂こうとするが…

 

 

「な!?」

 

 

ドモンはゴッドフィンガーと同時にゴッドシャドーを発動させ分身を生み出していたのだ。

 

その一体を斬り裂いたキラルはドモンの罠に嵌められていたのだ。

 

そしてゴッドフィンガーはマンダラガンダムの頭部を掴み圧した。

 

黄金の輝きが呪われた蝕銀を浄化する様に。

 

それは命がけの行為。

 

 

「ヒィィィトォ! エンドッ!!」

 

 

マンダラガンダムの頭部が破壊されゴッドガンダムの勝利が決定した。

 

それを目撃したネオネパールのスタッフ達はキラルの暗殺行為を隠蔽する為に自爆装置を発動させようとするが…

 

 

「そこまでだ!」

 

 

シュバルツの手裏剣が自爆装置のスイッチの近くに突き刺さる。

 

 

「キラルの暗殺行為並びに彼へのドーピング行為、見過ごせませんね。」

「ぐっ!」

「そちらの上層部の許可は取ってあります、国際警察機構の名の元に貴方達を拘束させて頂きます。」

 

 

極秘であったが、上からの指示もありましたので私も仕事はしました。

 

試合後、キラルは国際警察機構の手が回っている医療施設に運ばれ無事にDG細胞の除去が行われた。

 

だが、感染期間が長かった為にしばらくの入院を余儀なくされた。

 

キラルは持病の悪化による途中棄権と言う形で敗退する事となった。

 

詳しい経緯を聞きたいが彼の治療が第一である。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その夜。

 

私とロサはとある一悶着が発生する場所に向かっていた。

 

 

「ハスミ、ちょっといい?」

「どうしたの?」

「あのね…」

「…待って!」

 

 

ロサが話しかけた時、有る気配を感じその気配の先に視線を向けた。

 

 

「ホッホッホッ、漸くお会い出来ましたね。」

「お前は…?」

「私、バラルの神仙にお仕えする地機仙が一人…禁牙と申します。」

「バラル…過去にオーダーと対峙した集団か。」

「おやおや、随分と口を濁らせますね?」

「何が言いたい?」

「ハスミ・クジョウ様、貴方様がアシュラヤー・ガンエデンの巫女様で在らせられるからでしょうか?」

 

 

バラルは私がアシュラヤーの巫女である事を知っている?

 

いや、昔から知っていたのかもしれない…

 

そう言う諜報に関しては奴らの方が一枚上手だ。

 

だからと言って不用意に肯定する事はしない。

 

 

「もしも…そうだとしたら如何するつもり?」

「貴方様の真の御父上様が誰が知っておりますかな?」

「興味ない。」

「ふむ、興味がないですか……それはそれは困りましたね。」

 

 

相変わらずムカつく台詞ですね。

 

それに同志『八房』の動向も有耶無耶になっているし下手に動けないな…

 

 

「貴方様には是非とも我らバラルの元へ御出で頂きたいのですがね。」

「…」

「貴方様の御父上様がバラルを去られてから我らの計画も停滞しております。」

「計画?」

「そうです、この星を守護する為の崇高なる計画に御座います。」

 

 

えー御説明している所悪いんですけどね。

 

大体知っているんで前置きはいいです。

 

その計画で生き残れるのって念動者だけだし。

 

阿保らしくてどうしようもない。

 

そもそもそれが『御使い』とか『アポカリュプシス』の思うツボなのですけど?

 

 

「で?」

 

 

呆れた表情で答えたハスミに対し禁牙は焦りを見せた。

 

 

「崇高なる計画なのですよ?貴方様ならご理解なされるは…」

「その筋肉塗れの脳味噌を良く整理してから話をしなさい。」

「しかし!」

「…私は黙れと言っているのよ?」

 

 

流石に煩わしいので念動で地面に強制平伏させた。

 

ついでに奴の醜態を見たくないので地面に二重三重と奴の形をしたクレーターを作って置いた。

 

 

「勝手に賛同者にされたんじゃ堪ったもんじゃないわね…言って置くけど、私はその計画を容認する事は無い。」

「何故でへぶぅ!?」

「発言を許した覚えもない、私はそんな下らない計画よりも迫りつつある強大な脅威による禍を捩じ伏せるのに忙しいので。」

「ハスミ、あれだとあのヘンテコリンさんがペッチャンコになりそうだよ?」

「大丈夫よ、所詮は仙人が創り出した紛い物……そう簡単にくたばる確率は低いわよ。」

「うーん、でもね…そろそろ止めてあげないとミンチになっちゃうよ?」

「うぇ…見たくないから少し解除しておくわ。」

 

 

それに私は過去に禁牙が起こした殺戮を許すつもりもない。

 

オーダー設立時の同盟家系だったコウトク家が滅んだのも奴が原因だったし。

 

最後に奴のモザイクミンチなんか見たくないので念動の圧を緩めた。

 

 

「ひ、ひいぃいい…」

「帰ったらお前達を使役する上の連中に伝えなさい、妙な真似をするつもりならこちらも容赦はしないとね?」

「わ、解りました……ですが、必ず貴方様をバラルの園へお連れ致しますぞ。」

 

 

余計な事を話すので人睨みして念動の力量を見せつけると禁牙は踵を返し撤退していった。

 

 

「父さんが居なくなってからのバラルもかなり荒れているな……場合によっては鋼龍戦隊との接触が早まるかもしれない。」

「ハスミ…」

「覚悟は出来ている、ただその決断が早まるだけよ。」

 

 

まさかバラルから接触されるとは思わなかった、早い内に例のプランを立てて置くか…

 

 

「ハスミ、さっきの続き…いい?」

「そうだったね、話って?」

「あのね、私…ここに来てから感じるの。」

「感じるって気配の事?」

「うん、多分DG細胞の気配だと思う。」

「あり得なくはないわね、ロサは元々DGの制御AIだったもの。」

 

 

L5戦役のセフィーロでの旅でロサのAIは破損し消失の危機に陥った。

 

偶然にも地の神殿で発見した精霊石を使う事でロサは消失を免れた。

 

今のロサのAIチップは精霊石の中に埋め込まれている状態になっている。

 

それが原因なのかDG細胞の気配を感じ取れる様になったのね。

 

 

「どの位感じるの?」

「今は微弱だけどホンコン国内のあちこちで気配を感じる。」

「罹患者か、発症に至った時の気配と差はある?」

「うん、それも判る。」

「旨く使えば、女王感染者を特定出来るかも知れない。」

「私、もう…あんな事件が起きて欲しくない。」

 

 

DG細胞に感染した人間の脳に感染が到達した場合、治療する事は出来ない。

 

DG細胞によって機械の肉体と変異し戦う為だけの道具に成り下がる。

 

その場合はパイロット諸共破壊するしかない。

 

それを知っているからこそのロサの発言だった。

 

 

「ロサ、必ず女王感染者を見つけ出しましょう。」

「うん。」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

更に数時間後、ホンコン国内の廃墟エリアにて。

 

二つの機影が戦闘を行っていた。

 

片方はGGG諜報部所属のボルフォッグ。

 

もう片方はバイオネットに強奪されたガイガーの後継機ガオファーである。

 

どうやらパリでの奪還作戦が失敗したと見た。

 

しかし、私達が首を突っ込む事は出来ない状況だったので様子だけ伺う事にした。

 

薄情と思うがこれもアカシックレコードからの忠告を受けている為である。

 

流れ通りにボルフォッグがガオファーに敗れた。

 

 

「獅子王凱に伝えろ、この地で貴様との決着を着けるとな?」

「…」

「ふん、所詮はAIのガラクタか……例のシャッセールの娘モドキAIロボの強奪に失敗したのも一理あるな。」

 

 

鰐淵シュウの駆るガオファーが去った後、私達は破損したボルフォッグに近づいた。

 

超AI自体に破損は見られないものの外装や関節部は使い物にならない位に破壊されていた。

 

 

「ボルフォッグさん、大丈夫ですか?」

「その声…ロサ、貴方なの…ですか?」

「はい、そうです。」

「何故…貴方が?」

「私とロサは国際警察機構の指示でここに調査に来ていたの…まさか貴方と再会するとは思わなかったけど。」

「…ハスミ少尉。」

「兎に角、ここから離れるわよ?いつ奴が戻ってくるか判らないし。」

「申し訳ありません…お力添え…願え…ますか?」

「最初からそのつもりよ。」

 

 

私達はボルフォッグが無事である事を確認した後、別エリアで待機しているティアリー博士に連絡を取った。

 

 

「ティアリー博士、応答を。」

『どしたの?』

「急ですみません…ボルフォッグの修理を頼めますか?」

『んー破損規模を調べてからだけど、状態次第では応急処置になるよ?』

「判りました。」

「ロサ、大丈夫…?」

「うん、でも…ボルフォッグが。」

「大丈夫、彼の超AIが破損した訳ではないわ……貴方にも判るでしょ?」

「…うん。」

 

 

ここでバイオネットとの一悶着、か…

 

パスキューマシンの一件もあるし、例のキチガイその一を仕留めておかないと。

 

それに見た目は普通なのに変身すると歩く18禁こと禁牙が出て来た以上。

 

私の正体もいずれ知られる。

 

 

「また大仕事が始まるな…」

 

 

私は夜空に白く輝く三日月を見ながら、次の戦いのタイムリミットが差し迫っている事を自覚させられた。

 

 

=続=

 

 




一つの決着。

それは望まれた結末なのだろうか?

そして動き出す闇。

次回、幻影のエトランゼ・第四十四話 『闘乱《トウラン》後編』。

満る月の訪れは間近に。


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第四十四話 『闘乱《トウラン》後編』

かつて約束した誓い。

だが、それは叶わなかった。

噛み合わなかった歯車が重なり今動き出した。

黄金の獅子は約束を果たす為に立ち向かう。





禁牙の接触を受け、負傷したボルフォッグを回収した翌日。

 

ホンコン国内の廃墟エリアに侵入した帽子型機動要塞があった。

 

名はシャポー・ド・ソルシエール。

 

バイオネット所属のギムレットを指揮官とする空中要塞である。

 

この状況に対しGGGはホンコン政府にホンコン国内における戦闘行為の容認を求めたが…

 

ガンダムファイト中の為に中々容認が下りずにいた。

 

それに対し国際警察機構の発言もあり、ホンコン国内での戦闘行為が認められた。

 

なお、活動中のバイオネット幹部逮捕の為に現地に赴任しているエキスパートの参加も含めていた。

 

ホンコン国内での戦闘許可が下りた後、私とロサは国際警察機構の上層部からの指示を受けてホンコンに到着したGGGと合流する事となった。

 

なお、今回の戦闘行為に対して持ち込み厳禁だったNEWのAMも別ルートから搬入して貰っている。

 

そして今回の戦いに向けて私はロサと話をしていた。

 

 

「ハスミ、許可が下りて良かったね。」

「ええ、それに機体を持ち込めないんじゃ話にならないわ。」

「本当ならアレで戦う方が効率いいと思うけど…」

「そうね、だけどあの力はこの場で見せない方が良い。」

「そう…だよね。」

「…(ロサの正体が漏れてないからいいけど…あの力まで使ったらどうなるか。」

 

 

アレとは念神と機神の事である。

 

能力は凄まじいが出処が出処なので下手に出す事は出来ない。

 

空白事件の最中は状況が状況だったので仕方がなく手札を出した。

 

事件後に軍上層部に知られて接収されそうにもなったが…

 

生憎とそれらは契約した本人しか使えない上に運用もその本人のみとなってしまうので迂闊に手が出せない。

 

見事なまでの永久登録なワンオフ機体であり、それも相まって量産も不可能。

 

事情を知るコーウェン准将と小父様の伝手で有耶無耶にしたりサクラを入れて曖昧にして頂いている。

 

その為、軍は私達を元の部隊からギリアム少佐の諜報部隊に転属させて経過観察に決めたとの事だった。

 

頃合いを見て…

 

あの『それも私だ!』が政府直轄の特殊部隊に転属させる腹積もりだろう。

 

一部の役立たず共はあれだけ助言して置いたのに本当に振り落としが雑である。

 

私はその時が差し迫っている事を知りつつも流れのままに任せた。

 

これは変えてはいけないターニングポイントなのだから…

 

 

「ロサ、GGGと合流したら光竜達と会って来て良いよ。」

「いいの?」

「勿論、向こう側の了承を得てからだけどね。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

乙女なガールズトークにお姉さんは眼福眼福なので。

 

それにロサの精神不調メンテを兼ねている。

 

この決着はロサ自身が着けるべき事。

 

助言はするがそれ以上の手出しはしない事にしている。

 

 

「…(今頃、ネオ・ネパールの僧侶達…大塚式ウソ発見器の餌食になっているだろうな。」

 

 

僧侶達と言うのは前回キラルを自爆させようとした連中の事である。

 

リアルタイムで大塚署長の大塚式ウソ発見器が執行されています。

 

あのカツ丼の誘惑に勝てる人なんて数える程度しかないでしょうね。

 

念視から泣きながらがっついているのが視えます。

 

相変わらずえげつない。

 

で、彼らにDG細胞を提供したのがウォン首相の配下の者だった事が判明。

 

だが、彼らの発言だけで物的証拠がない。

 

暫くは様子見となるだろう。

 

引き続き、現地調査に入らなければならないが…

 

別の事件が差し迫っているので油断は出来ない。

 

 

「…(大元のバルトール事件は未遂で終わった、修羅とデュミナスの一件が終わった訳じゃない。」

 

 

バルトールに関してはジジ・ルーと共に何機か行方不明のままとなっているので何時再発するか判らない。

 

修羅も今回の出方が不明の為、下手な行動は取れない。

 

デュミナスに関しては横槍を入れては失敗に追い込んでいるのでいずれ痺れを切らせるだろう。

 

 

「いや、私が本流を捻じ曲げ過ぎた結果なのかもしれない…」

 

 

私は静かに呟いた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

GGGと合流後、私達は作戦会議に参加。

 

既にガオファーが出現したエリアの民間人の避難は終了している。

 

勇者チームがガオファーを拿捕する一方で凱が命の救出に入るとの事だ。

 

だが、これも敵の罠がある事を推測させた。

 

この時点で相手側はGSライド対応の対勇者用ウイルスを完成させている。

 

これでこちらの動きは封じられるだろう。

 

しかし、これだけではない。

 

同時刻にホンコン国内でガンダムヘッドとデスアーミーの大群が出現。

 

マスターガンダムを筆頭に各国のガンダムファイター達が応戦している状態だ。

 

現状、女王感染者の正体が判らないままだ。

 

DGいや子供の方が事を起こしていると推測も出来る。

 

と、成ればデビルガンダム四天王も生み出されても可笑しくはない。

 

更にバラルの禁牙もこの期に妖機人を出撃させていた。

 

災厄の三つ巴戦。

 

 

「ブチ切れてもいいですかね?」

 

 

会議終了後、出撃準備の最中。

 

私も大人気ないと思ったが、内密に彼らを呼び寄せる事にした。

 

 

「あの脳筋には『地獄』を見せてやるしかなさそうね。」

 

 

出撃後、私達は凱達と共に対バイオネット戦に参加する予定だったが…

 

DG軍団の件もあり、二手に分かれる事に決めた。

 

私はそのままバイオネット戦に。

 

そしてロサをDG軍団と戦闘を続けているガンダムファイター達の応援に向かわせた。

 

これはロサ自身が選んだ道である。

 

私が止める筋合いなど無い。

 

 

「…やっぱり、そう来たか。」

 

 

情報通り、バイオネットは対勇者用のウイルスを発動させ氷竜らGSライドの勇者ロボ達は戦闘不能となった。

 

 

「動けるのはお前だけの様だな?」

「だったらどうするつもりですか?」

「貴様の動きさえ止めればこちらの手の内だ。」

「そうですが…」

「!?」

 

 

私は操縦桿を握り絞めるとシュウの駆るガオファーに突撃を開始した。

 

 

「な!?」

「私、これでも切れてますので。」

 

 

そう、このエクスガーバイン・クリンゲの力を見せてあげるわ。

 

 

「ガーリオンのスペック上、こちらの方が上の筈…!」

「違うわ、この子の名前はエクスガーバイン…ガーリオンとヒュッケバインの力を併せ持った機体。」

「まさか…!」

「念動力者を甘く見るな!!」

 

 

エクスガーバインの武装が一つ。

 

 

「T-LINKフルドライブ…グラビティ・ドライバー!!」

 

 

重力の一撃がガオファーに突き刺さる。

 

 

「かはっ!?」

「続けて、アキュリス展開!!」

 

 

吹き飛ばされたガオファーに念動の槍が突き刺さる。

 

 

「重力の檻…ゲフェングニス・フォン・シュベラクラフト!!」

「う、動けん!」

 

 

念動による重力の檻となったアキュリスに囚われたガオファー。

 

 

「そのまま静かにしていてください。」

 

 

そして私は凱に合図を送る。

 

 

「今です、勇者王!!」

 

 

シャポー・ド・ソルシエールに潜入した凱達が反撃の牙を剥けた。

 

そして命とガオマシーンの回収が完了し要塞から撤退した。

 

度重なる現実に困惑するギムレットの心情は穏やかではない、そう任務失敗の文字が脳裏に浮かんでいたからだ。

 

同時に突如、ブリッジのモニターに通信が入った。

 

 

『ご苦労様です、ギムレット。』

「ウォン、貴様…我々バイオネットの技術提供を受けて起きながら!」

『そのバイオネット上層部より君に通達です、任務失敗の業は自ら受けて貰うとの事ですよ?』

「ヒヒッ!?」

『私も彼らの協力者として貴方の加勢は出来なくなりました、後はご自由にお願いします。』

 

 

各所より爆発を引き起こしている要塞のブリッジのモニターが切れると、ギムレットは追尾型ビーム兵装のコンソールを動かした。

 

 

「いけませんねぇ…アルエットちゃん、悪い子はお仕置きをしなければなりません。」

 

 

それはギムレットが任務失敗の汚名を晴らす為に行った愚行な行為だった…

 

 

「命さん、危ない!」

「!?」

 

 

作戦が失敗し要塞のビーム兵装を起動させ避難中の命達を狙ったギムレット。

 

アルエットによって庇われた命。

 

ビーム兵装の直撃を避けたものの爆風に巻き込まれた上に要塞から落下。

 

だが、ファイナルフュージョンを成功させたガオファイガーによって救出された。

 

 

「ギムレット、シュウとアルエットの運命を捻じ曲げ、命を攫ったお前達バイオネットを俺は許さない!!」

 

 

ガオファイガーのブロウクンファントムが要塞に居たギムレットごと艦橋を貫いた。

 

 

「い、いけましぇぇぇんん!!?」

 

 

崩壊する要塞と共にギムレットは消えて逝った。

 

 

 

「アルエット、しっかりして!」

「うっ…」

「アルエット、良かった…」

 

 

ガオファイガーの掌の上で命が気絶したアルエットを介抱。

 

アルエットも意識はなかったが、無事である事は確認された。

 

二人を回収した凱はコックピットの中でシュウに語った。

 

 

「シュウ、お前との約束は必ず守る…決着はその体を治してからだ。」

「ああ、済まなかった…凱。」

 

 

*******

 

 

一方その頃。

 

 

「…私はもう影に囚われない!」

 

 

再生を繰り返し無尽蔵に出現するDG軍団。

 

応戦するガンダムファイター達を支援する様にロサのエクスガーバイン・ピストーレが降り立った。

 

刃のクリンゲに対して銃撃戦特化に仕上げられた銃のピストーレ。

 

ロサの高度処理能力と反射速度計算が合わさる事でその効力を発揮する。

 

 

「計算完了、これ以上好きにはさせないです!」

 

 

ピストーレ専用の銃撃兵装、シュピルツォイグ。

 

 

「ミサイルの雨霰…ラケーテ・フォン・ナーデル!」

 

 

玩具箱と揶揄された兵装から発射されるミサイルの嵐。

 

的確に敵の発生源となっている機体をピンポイントで狙っていた。

 

 

「ドモンさん、マーカーを付けた相手がガンダムヘッドとデスアーミーの発生させているエネルギー源です。」

「ロサ、済まない。」

「こちらで援護は継続します、皆さんは発生源の破壊をお願いします。」

 

 

シャッフル同盟を先頭にデスアーミーの大群に突撃するガンダムファイター達。

 

ロサは弾薬が続く限り、支援と援護射撃を続けた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ギムレットと共に帽子型要塞が墜落した事によりバイオネットのガオーマシン強奪事件は幕を下ろした。

 

バイオネットのメタルサイボーグである鰐淵シュウは投降。

 

その後、拘束されGGGで治療を受けた後にその罪を問われる事となった。

 

凱と誓った思春期の約束を交わす為に、彼もまた新たな道へ進むだろう。

 

私達は今回の現場の引継ぎを行った後、もう一方の戦いを終えたロサと話をした。

 

 

「ハスミ、これで良かったのよね?」

「ええ、今の所はね。」

 

 

バイオネットは首領・Dr.タナトスが逮捕されない限り、活動を続けるだろう。

 

今回はギムレットを退けただけマシなのかもしれない。

 

後は伏線であるパスキューマシンが地球へ降り立つ日を待つだけである。

 

アルエット、貴方の頭脳は来たるべき日まで眠っていなさい。

 

在るかも知れない『覇界王の訪れ』の時まで。

 

 

「…次は釧路湿原での戦い、か。」

 

 

徐々に満る月の残像を黄昏の空から見上げながら私は次なる戦いに意識を向けた。

 

 

=続=

 




繋いだ縁と共に突き進む。

人の皮を被った人外達。

この出逢いは新たな可能性の導き。


次回、幻影のエトランゼ・第四十五話 『巡天《メグルテン》』。


古き時代に交わした盟約を果たそう。


※エクスガーバイン・クリンゲ
ガーバイン・クリンゲを改修した機体。
T-LINK兵装をリミッターを解除しているのでその馬力はすさまじい。
ピストーレとペアを組む事で真の本領を発揮する。

※エクスガーバイン・ピストーレ
ガーバイン・クリンゲの改修と並行して開発された機体。
銃撃特化型であると同時に武装使用時に高度処理能力を必要とされているので補助AI搭載が必須となる。
クリンゲとペアを組む事で真の本領を発揮する。


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拳の付箋

彼らは口で語るのでない。

互いの拳で語るのだ。


ハスミ達がバラルの刺客と遭遇した夜。

 

それとは別の場所でもある出来事が起こっていた。

 

 

******

 

 

ホンコン国内某所。

 

 

「…」

「ドモン、体の方は大丈夫か?」

 

 

本日の大戦でキラルを己の生命を燃やしてDG細胞の呪縛から解放した。

 

だが、その反動は凄まじくドモンの精神を疲弊させる事となった。

 

同じ様に感染者が出てくれば、彼は無理をするだろう。

 

 

「この位で立ち止まるつもりはない、っ…!」

「馬鹿者、少しは自分の心配をしろ!」

「ゴメン、兄さん…」

 

 

反動の名残で眩暈を起こしたドモンはシュバルツに叱咤され素直に自分の非を謝った。

 

ちなみにドモンはこの様なプライベート時はシュバルツの事を兄と呼んでいる。

 

 

「やはり、紋章の力でDG細胞を浄化するにはリスクが大きすぎるな。」

「自分でも判っていたよ、だけど…それをしなければならない時が迫って来ていると感じるんだ。」

「…」

「兄さんはこんな俺の考えを無謀だと思ったかもしれない。」

「前世の記憶…その記憶の旧シャッフル同盟の者達がその命を賭してDG細胞を浄化した荒業、文字通りの禁忌なのかもしれん。」

「新型DG細胞の治療法が見つからない以上…この方法に賭けるしかないんだ。」

「ドモン、解っているだろうが…」

「ウォンに連れ攫われたキョウジ兄さんを救う為にも俺はガンダムファイトを放棄するつもりはないよ。」

 

 

ドモンがガンダムファイト決勝リーグを棄権する事が出来ない理由。

 

DG細胞の事後処理で各地を転々としていたキョウジだったが、ウォン首相の要請でホンコンへ訪れた際に軟禁されてしまったのだ。

 

ホンコン自体は前回の第十二回ガンダムファイトの優勝国であり、連合政府に対する有利な発言力は続いていた。

 

それ故に手出しが出来ず、兄を救う為には正攻法として今回のガンダムファイトに出場しなければならなかったのである。

 

 

「解っているならいい、だが忘れるな…あの日私達の身に起こった出来事を。」

「ああ、あの日Gアイランドシティでの戦いで俺達は…」

 

 

浄解によってDG細胞が浄化され奇跡的に人の肉体を取り戻した。

 

呪いの様に蝕んでいた筈のDG細胞が身体から消え去った。

 

この状態が一体何を示すのか判らないまま今日まで過ごしてきた。

 

凱はエヴォリュダーの様な状態ではないかと推測したが、そんな後遺症は全く見られなかった。

 

ただ人に戻っただけなのかもしれない。

 

そう思っていた。

 

 

「…あの光を受けて何も無かったと片付けるには少々問題がある。」

 

 

予兆が無いだけで何時か判らないが、それは体現するだろう。

 

何かしらの行動によって…

 

 

「兄さん、恐らくキョウジ兄さんは…」

「キョウジは新型DG細胞の研究を無理矢理させられていると推測していいだろう。」

「そうだよね…」

 

 

判っていた、判っていたのに。

 

 

「ドモン…進展する情報や次の感染者が出て来ない以上はその浄化の力は不用意に晒してはならんぞ?」

「解っている、必ず護り通して見せるよ。」

 

 

シュバルツは忠告はしつつも当のドモンはその決意を答えた。

 

心配する必要はない。

 

ドモンもまた成長しているのだから…

 

 

「ふん、やはり貴様らも奴の計画を感づいたか…」

「!?」

「その声は…!」

 

 

ドモンはその声の主が誰なのか理解した。

 

 

「ドモンよ、流派東方不敗は!!」

 

「王者の風よ!」

 

「全新!」

 

「系裂!」

 

「「天破侠乱!」」

 

「「見よ! 東方は、紅く燃えている!!」」

 

 

掛け声と共に始まった演舞。

 

ドモンは声の主である東方不敗・マスターアジアとの演舞を終えると体制を整えた。

 

ちなみに言うが今は夜である、夜明け前ではない。

 

 

「久しいなドモン。」

「空白事件以来でしょうか、お久しぶりです師匠。」

「気付いておったか、まあ良い。」

「マスター、先程までこちらの会話を傍聴していたと見えるが?」

「お前達に忠告をして置こうと思ってな…だが、そんな必要は無かった様だな。」

「師匠、やはり師匠も記憶を…?」

「うむ、それ故に儂はL5戦役より各地でとある情報を集めておったのだ。」

「情報?」

「恐らくお前達も知っていると思うがデュミナスとあの幼子達が動き出しおったのでな。」

「やはりティス達が…」

「奴らもDGを欲していた様だが、現物は当の昔に破壊されておるし下手な行動はとらんのだろう。」

「まさかと思いますが、既に手合わせを?」

「あの時の儂では少々無理があったが今は違うぞ?あの程度の力量で儂に勝とうなど百年早いわ。」

「…大人気ないと思いますが、敢えて聞かなかった事にします。」

「ドモン、貴様も言う様になったのう。」

「俺も日々精進していますから。」

 

 

何通りもある記憶のせいか色々と悟り過ぎたドモンは静観しつつも東方不敗に反論した。

 

このやり取りでさえドモンにとっては一時の安らぎに感じるのだろう。

 

 

「マスター、話を戻すが…それだけではないのだろう?」

「うむ、お主達も知っていると思うが新型DG細胞の件は既に知っておるな?」

「はい、その筋の情報を手に入れたので…」

「では、ウォンの目的は判っているか?」

「前と同じであれば政府の実権を握る為に事を起こすと思われます。」

「残念だが今回の奴は違う。」

「…どういう事ですか?」

「今回の奴が求めているのは永遠の命だ。」

「まさか…その為にDG細胞を?」

「そしてバラルと言う組織が奴に接触を図っていた。」

 

「「!?」」

 

「やはりな、かつてお前達が共に行動していた者達の中にオーダーの設立に関わった一族が居った筈だ。」

「バラル、奴らも動き出したという訳ですか?」

「いや、そうでもないらしい…奴らは自分達の統率者の失踪により暴走していると思われる。」

「やはり、孫光龍が奴らとの関わりを断ったのは本当らしいな。」

「では、一体何が奴らの暴走の原因となったのです?」

「…奴らの目的は奴らが崇拝する巫女の依代となる存在の確保だ。」

 

 

東方不敗が語った情報。

 

それは新たな波乱を呼び寄せる発言だった。

 

 

「マシヤフは確か…」

「マシヤフ…ガンエデンの中枢ユニットとなる生体コアの事だったな。」

「だが、バラルにはその存在が居た筈。」

 

 

ドモン達は封印戦争の記憶を知るキョウスケ達よりバラルの存在や活動状況をある程度知っていた。

 

だが、異例の情報により何かが狂い始めている事に気付く。

 

 

「そのバラル側に存在した巫女が行方知れずとしたらどうだ?」

「!?」

「…ナシム・ガンエデンの巫女が行方不明と?」

「詳しい事は判っておらんが、それが奴らの暴走の原因と見ている。」

「まさか!」

「恐らく奴らは彼女に接触を掛けている可能性が高い。」

 

 

この地にバラルの刺客が来ているとなれば必然的にハスミが狙われる事を察したが…

 

 

「安心しろ、あの小娘…己の力で奴らからの刺客を退けおったわ。」

「…いつの間に。」

「伊達に梁山泊で修業を積んでいる訳ではない、か。」

「ドモン、ワシは今暫く奴の元で道化を続ける…お主らも油断するでないぞ。」

「判りました、師匠もお気を付けて。」

「うむ。」

 

 

東方不敗は告げる事だけ告げるとその場を去って行った。

 

 

「兄さん、この事は万丈達に伝えて置こう。」

「その方が良い、この情報の共有はして置くべきと私も思う。」

「それに師匠はヒントも残して行かれた。」

「ヒント…あの事か?」

「ハスミとクジョウ家が秘匿するバラルとの関係…それが今後の戦いに関係すると思う。」

「恐らくはそうだろう、だが…踏み込む事が何を意味するのか解っているのか?」

「人の家の厄介事に首を突っ込むのは理解している、それでも知らなければならない。」

 

 

少しずつ歪む。

 

それは大きな亀裂となって。

 

 

=続=

 



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第四十五話 『巡天《メグルテン》前編』

北の地を侵す蠱毒。

都市伝説の様な住民消失事件。

精霊の加護と共に騎士達はその地に降り立つ。



ホンコンにおけるバイオネットの戦いから三日後。

 

満月を迎える前日の事である。

 

魔法騎士達は夏の長期休暇を利用し、ここ北海道へと訪れていた。

 

伝手は旋風寺コンツェルンの社長からである。

 

そして同じくその地に降り立った金色の姫君の姿もあった。

 

 

******

 

 

光達は自分達の出身地を案内した後、エメロード姫の提案で自然が多い場所へ出かけたいと申し出があった。

 

そこで今回は北海道へ足を延ばしたのである。

 

ちなみに護衛兼引率者にザガートとランティスが請け負っている。

 

当のイーグルに関しては行きたがっていたが、セフィーロの守りが手薄になるので御留守番となった。

 

実際、Anti・DCなどの襲撃があった場合に機動兵器を動かせるのはイーグルらオートザム組しかいなかったのもある。

 

ちなみにエメロード達はいつもの服装ではなくこちら側の服装に変えている。

 

海に関してはエメロードにお飾りし放題とノリに乗っていたとの事。

 

素体が良いので服が中々決まらなかったが、淡いピンクと白のワンピースで収まった。

 

男性二名に関しては光の一番上のお兄さんより服のコーディネートを合わせて貰っている。

 

なお、エメロードとザガートの髪のサイズは魔法で変えているので悪しからず。

 

 

「姫、私達の世界はどうですか?」

「戦いが起こっているとは思えない程、静かな場所もあるのですね。」

「私達の国は元々侵略者の侵攻を受けやすい場所だったのですが…」

「二度の戦いの後と思えない程に今は落ち着いてはいるわね。」

「そうでしたか…」

 

 

光の会話から始まり、エメロードは静かな街並みの感想を伝えた。

 

しかし、未だ小競り合いが続いているのは事実である。

 

風と海はその件もまた自分達の世界の問題であると伝えた。

 

ランティスとザガートもまたその会話に質問の様な発言をした。

 

 

「それは柱が無くとも平和を護る者達が存るからこそと言う事か。」

「しかし、柱が無き世界もまた戦乱が起きているのは事実だ。」

「確かに柱が必要と思った人もいるかもしれない、でも…たった一人が犠牲になる制度なんて考えられなくて。」

「光。」

 

 

新たに柱の資格を受け継いだ光であったが、自分がやった事が正しいのかまだ不安の中に居たのである。

 

不安な表情をする光の手を取ってエメロードは答えた。

 

 

「光、私達は光達の誰かを助けたいと願う心に救われました。」

「姫。」

「光の取った行動もまた間違いではないと思いますよ。」

「ありがとう、エメロード姫。」

 

 

どんより空気を変える為に海と風は観光の続きへと誘った。

 

 

「光、湿っぽいのは止めて今は楽しみましょう。」

「そうですわ、せっかくエメロード姫達もこうして散策に来られたのですし。」

 

 

函館から札幌の間を散策した一行。

 

今後の予定では釧路市に足を延ばす予定との事だ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱ 

 

 

その夜。

 

北海道・某所にて。

 

ここシウン邸では家主であるセルドア・シウンの帰宅から騒々しい事が起こっていた。

 

 

「トーヤ、急な話で済まないがすぐに家を出られる準備をして置け。」

「父さん、帰って早々どうしたの?」

「訳は後で話す、今は家を出る準備をするんだ。」

「…」

 

 

リビングで寛いでいた彼の息子のトーヤ・シウン。

 

父親の急な話に最後は無言となっていた。

 

その様子に不満を抱えた息子の癇癪であると推測し誤解を解こうとしたが…

 

 

「トーヤ、確かに私のやり方は気に喰わないのかもしれない…だが。」

「それって父さんの隠し事と関係があるの…例えばフューリーの事とか?」

「っ!」

 

 

フューリーの言葉に驚くセオドア。

 

その様子を傍観しつつトーヤは話を続けた。

 

 

「…俺が気が付いてないと思ったの?」

「トーヤ…それは。」

「そうじゃないなら別件かな。俺をここから連れ出す理由は?」

「…」

「話せないなら俺はここから動かない、俺にだってやらなきゃならない事があるし。」

 

 

トーヤはかつてフューリーのハーフとして生を受けた複数の記憶を持っていた。

 

その記憶から既に父親がフューリーと呼ばれる異星人である事を理解し答えた。

 

今回の件がフューリー絡みの件でないと推測した上でここを動かないと告げた。

 

 

「それでも…お前をここへ置いておく訳には行かないのだ。」

「…父さんじゃなければ誰の差し金?」

 

 

それに対しセルドアは反論を続けたが、トーヤは誰かの差し金と察して話を逸らした。

 

梃子でも動かないと悟ったセルドアはある人物の名を出した。

 

 

「ブルーロータス、その者から明日の満月の日の前にここを離れなければ死が待つと告げられた。」

「…」

「信じて欲しい、一刻も早くこの地を離れなければならない。」

「なら、家の地下に隠してあるアレを使っても構わないよね?」

「トーヤ、如何言う事だ?」

「俺だって何もしていなかった訳じゃないよ、やる事はやっておいた方が良いと教えたのは父さんだろ?」

「それとこれとは話が…」

「その日に襲ってくるナニカの正体は見当が付いている……地下に置いてあるヴォルレントは使わせて貰うよ。」

 

 

淡々とトーヤはセルドアに話を続けた後、隠し扉より秘匿された地下の格納庫に籠ってしまった。

 

その後を追ったセルドアであったが、扉の電子ロック番号を書き換えたのか開かなくなっていた。

 

 

「トーヤ、一体どうしたと言うのだ……それに皇家の事を今まで覚えていたと言うのか?」

 

 

忘れていると思っていた過去と秘密を知っていたトーヤにセオドアは驚きを隠せなかった。

 

一方でトーヤは地下格納庫へと続く通路の中でとある人物へ連絡を送っていた。

 

 

「中尉、俺も動く時が来たようです。」

『そうか、判った。』

「例の蟲に関してはどうなっていますか?」

『駆除には俺達の仲間が跡を追っている、言って置くが…深追いはするなよ?』

「判りました、キョウスケ中尉。」

 

 

トーヤは通信端末をオフにすると速足で通路を進んだ。

 

 

******

 

 

翌朝。

 

北海道全域で謎の濃霧が発生。

 

事故防止の為に一部を除いて一般市民の外出は禁止された。

 

だが、この選択は半分正解で半分間違いでもあった。

 

ここ、地球連合軍・八雲基地にも霧に潜む者達に襲撃を受けた悲鳴が届いていた。

 

 

『こちら釧路戦術訓練所。繰り返す、こちら釧路戦術訓練所!』

「こちら地球連合軍・八雲基地です、応答願います。」

『至急応援を…訓練所内に…巨大な蟲が…ああっ!!?』

「応答願います、訓練所…応答願います!!」

 

 

先程、八雲基地の管制塔より釧路戦術訓練所より入電が入った。

 

救援要請の連絡であったが、オペレーターの断末魔を最後に通信が途絶してしまったのである。

 

その様子に応対する八雲基地側のオペレーター達だったが、通信は繋がったまま向こう側との連絡は途絶えてしまった。

 

 

「何があった!」

「釧路戦術訓練所より、エマージェンシーコールです。」

「何だと!?」

「先程通信は途絶、発信内容に巨大な蟲とありました。」

「…蟲だと?」

「司令、救援の手筈はどうなさいますか?」

「この濃霧では下手に出撃させた場合の二次被害が予想されます。」

 

 

八雲基地の司令は苦虫を噛み潰した様な表情であったが、すぐさま行動を取った。

 

 

「至急、樺太基地から救援要請が可能か通達を行え。」

「了解しました。」

「同じく地球防衛軍・釧路駐屯地にも注意を呼びかけろ。」

「了解。」

「同時に東北、関東方面の基地に応援要請を!」

「了解しました。」

「民間人への避難指示と避難所への待機通達を忘れるな!」

 

 

オペレーター達に指示を出し、出来得る限りの手を打った。

 

しかし、時既に遅く…

 

一部の市街では被害が出ている事を彼らは知る由もなかった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、札幌市内の旅館にて。

 

旅館の一室で稲葉駆、天音、シャーリィの三名が待機していた。

 

北海道のとある場所に安置したシグ・オニキスを回収する為に訪れていた。

 

その道中でトーヤ・シウンと言う少年に出くわし、意気投合。

 

目的を果たした後、彼とは別れた。

 

それらを先日に終えて、本日の国内線で関東に戻る予定だったが…

 

突然の濃霧にて運航が中止となり、立ち往生していたのである。

 

天音が濃霧で不鮮明な外の様子を見ながら話は始まった。

 

 

「兄さん、この霧…晴れそうにないね。」

「ああ、シグ・オニキスを回収した後で良かったな。」

「本当ね、それにしても…ここってこんなに霧が出るの?」

「いえ、異常気象が原因で稀に霧が発生していると旅館の人が話していました。」

「今日は特にその霧が濃すぎて軍から外出禁止令が出ているらしい。」

「本当に困ったわね。」

「大河長官が俺達にも緊急招集をかける位の何かが起こるって例のブルーロータスが話してちゃな…」

「戻りたいのは山々だけど、無断で機体に乗るのが禁止だとお手上げよね。」

 

 

空白事件後、地球防衛軍に在籍している勇者に関わりを持つ子供達は理由が無い限り機体の無断使用を禁止されていた。

 

これにより事件が無い限り、子供達は勉学に励む事となった。

 

 

「兄さん、これだと国内線が動くのは無理があるみたい。」

 

 

天音が付けたレトロなテレビより流れるニュース案内で関東地方に大型台風が接近しており、関東エリアの空港の全便が運航未定とアナウンサーが話していた。

 

 

「こっちは霧で向こうは台風かよ、ついてねえぜ。」

「霧が晴れるまで大人しくしているしかなさそうね。」

「…うん。」

 

 

三人は旅館の女将の計らいで国内線の運航が再開するまでの間、他の宿泊者と共に旅館で待機していた。

 

愚痴を言う二人を他所に天音は用意されたお茶を飲みつつも嫌な予感を感じるのであった。

 

 

******

 

 

数時間後、釧路湿原にて。

 

 

「…」

「ハスミ、怒ってる?」

「色々とね。」

 

 

やっとBPLの研究所へ強制捜査に入ろうとしたら何ですか?

 

関東の湾岸でバビロンプロジェクトの最終直面?

 

北海道全域で虫型UMA共の住民拉致騒動?

 

オマケにホンコンの事件は解決していないし?

 

マジでキレていいですかね?

 

 

「拙いのはアカマツ工業のクルーがここにやってくるって事、どんなバッドタイミングよ?」

「確かにマズイよね?」

「この件は穏便に済ませるつもりだったのに無限力め、余計な事を…」

 

 

そんなに原作の流れをさせたいんですか、あーそうですか。

 

一応、ターニングポイントですもんね。

 

唯でさえ、アムロ大尉達が転移に巻き込まれて惑星ガイアに強制旅行中だし。

 

ゴブリン結社とかよく判らん連中が動き出してきたからBF団の皆様と一緒にフルボッコ巡回して貰ったり。

 

如何言う訳かキラー・ザ・ブッチャーが復活したから『地獄』に処刑して貰いに行ったりしたり。

 

パーフェクト・ピース・ピープル(P3)の連中も妙な動きをしてるからヒイロ達に助言送ったり。

 

出来れば協力者に成りそうな人がいるから回収しておかないとね。

 

ガルラ大帝国の偵察部隊もチラホラしてきたからそろそろカタつけないとかな?

 

今の所、修羅の方には動きが内から様子見。

 

デュミナスの行動もまだ不明な点が多い。

 

ごっちゃ混ぜに成り過ぎて整理しにくくなってる。

 

小父様の方も何か嫌な動きをしている人がいるから牽制しないとだし。

 

考えただけで問題点多すぎよね。

 

 

「はぁー。」

「ハスミ、そろそろ時間だよ。」

「判ったわ。」

 

 

私は深呼吸をして落ち着きを取り戻した後、戦闘準備を整えて配置に就いた。

 

釧路湿原奥地にあるBPL…正式名称、生工食料研究所への強制捜査。

 

と、言うのは表向きであり正確には掌握である。

 

私は今回の協力者達に声を掛けた。

 

 

「では、皆様方…ご準備は宜しいですか?」

「うむ。」

「いつでも?」

 

 

独特の葉巻を片手に持つ紳士。

 

中東の飾りを付けた社長。

 

赤い仮面の忍者。

 

幽霊の様に姿を掴ませない蟲使い。

 

指パッチンの人。

 

瓢箪の酒瓶を携えた人。

 

不死身の人。

 

元バラルの元締め。

 

機械仕掛けの私の親友。

 

 

「では、参りましょう。」

 

 

目指すはBPL最深部。

 

私はやれる事をやるだけだ。

 

 

=続=

 




それぞれの戦い。

明かされる真実。

そして迫りくる脅威。

それは此度の戦いの始まりだった。

次回、幻影のエトランゼ・第四十五話 『巡天《メグルテン》後編』。


呪いは重なりて傀儡となる。


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第四十五話 『巡天《メグルテン》後編』

霧の中の攻防。

蠢く蟲。

浮き彫りになる真実。

今までが前座。

これが本当の始まりだった。





前回から少し時間を戻そう。

 

私ことハスミはロサ達と共にギリアム少佐からの指示でホンコンへ調査に向かった。

 

そして新型DG細胞を追う最中に起こったGGGとバイオネットのガオーマシン強奪事件を解決した後の事。

 

私は事後報告の為にギリアム少佐と連絡を取っていた。

 

 

「ゴブリン結社?」

『ああ、万丈君と友好関係を結んでいた海商王・蘭堂氏の海洋牧場が何者かの襲撃を受けて一家共ども行方不明なのは知っているな?』

「はい。(うん、遺跡探索の度に遺跡を木端微塵にする一家ですよね。」

『蘭堂氏の牧場を襲ったのはそのゴブリン結社と呼ばれる組織が関わっていると判明した。』

「…名前の方は国際警察機構でも情報が入っています。」

『そう…か。』

「それと…」

 

 

私はいずれ知る事になると思ったので彼らが辿るであろう結末をギリアム少佐に話して置いた。

 

 

「暴露を承知でお話しますが、ゴブリン結社の目的は『地上への回帰』が目的…恐らくL5戦役で壊滅した恐竜帝国と何らかの接点を持っていると推測しています。」

『…何だと?』

「蘭堂一家とゴブリン結社が狙っている『クワスチカ』に関しては見当が付いているので何とかなると思います。」

『クワスチカ?』

「簡単に纏めますと…とある古代文明が残したリセットボタンです。」

『言葉通りであるのなら厄介な代物と言う事か?』

「その通りです、ですが…例の組織が諸々処分する予定です。」

『…判った、その件はそちらに任せる。』

 

 

私の例の組織と言う言葉に反応したギリアム少佐。

 

これに関しては『こちらで何とかするので手出しの必要はない』と言う合図でもある。

 

察して頂けて本当に助かります。

 

 

『では、ホンコンの件だが…進展具合はどうだ?』

「調査は継続中ですが…一部調査の結果、ホンコン在住の民間人に新型DG細胞が感染している事が判明しました。」

『規模は?』

「ロサの索敵の結果…ほぼ全域と見て間違いないでしょう、但し子供と老人は省きます。」

『何故、子供と老人が?』

「理由は新型DG細胞は潜伏期間から発症期間を任意に出来る反面、急激な変化に未成熟な子供と衰えた老人には耐え切れないからです。」

『…』

「旧型のDG細胞から変わった点は感染力と扱いやすさでしょうか?」

『では、ハスミ少尉…この件では君はどう考える?』

「新型DG細胞、まだピースが揃わないのでハッキリとした答えが出た訳ではないのですが…」

 

 

どうしてもこの条件下で私の脳裏に例の事件がチラつく。

 

終わった筈、終わらせた筈なのに。

 

これは警鐘なのだろうか?

 

 

「『始まっていない事件』が再発すると伝えて置きます。」

『始まっていない事件だと?』

「正確にはこの時点で発生している筈の事件…それが後者に発生する可能性があります。」

『…』

「ODEシステム、その弱点は何だと思いますか?」

『戦闘経験を共有し並列化する事が出来なかった…だったか?』

「では、ODEシステムに新型DG細胞を使えばどうなると思いますか?」

『!』

「そう言う事です。」

『…もしも、それが実行されれば!』

「可能性はなくもないですよ……所在が不明なバルトールの件や廃棄された筈のODEシステムの研究も密かに継続されていた痕跡もありましたし。」

『君は何処まで真実を知っている?』

「散らばった可能性と言う欠片を繋ぎ合わせただけです、それも貝合わせの二枚貝の様な…偶然を。」

 

 

私は一呼吸置いてからギリアム少佐に伝えた。

 

 

「無論、止めますよ。」

『…ハスミ少尉。』

「あの事件でも数多くの犠牲者が出ました、結末を識る身として放って置きません。」

『判った、だが…無理をするな?』

「肝に銘じます、無茶をすればお義父さん達が烈火の如く怒りますし。」

 

 

うん、あれは怖い。

 

 

「では、次の任務がありますので失礼します。」

 

 

私は一旦ギリアム少佐との通信を切った。

 

次の任務の為にホンコンから一度離れる事も話してある。

 

続いて別の通信が入ったので出た。

 

ちなみに私はDコン機種の中で旧西暦のレトロ型端末のスマホを愛用している。

 

別で皮膚に張り付けるタイプも使用しているが、これは個人連絡用だ。

 

通信を送って来たのはL5戦役以降から別行動中だった紅葉さんからだ。

 

 

『やほー、元気かしら?』

「お久しぶりです、紅葉さん。」

『頼まれていた仕事は何とか終わったわよ。』

「アキト達の回収は無事に終わりましたか…」

『何とかね、それにしてもあの北辰と六人衆とかって言う奴らを撒くのに手間取ったわよ。』

「ボソンジャンプが使えずとも奴らの暗殺者の能力は一流ですからね。」

『とにかく二人はこっちでしばらく預かった後に梁山泊へ引き取って貰う形でいいかしら?』

「その方向でお願いします。」

『じゃ、また後でね。』

 

 

私は通信を切ると一人安堵した。

 

火星の後継者によるクーデター。

 

その要となったのは演算システムとA級ジャンパーだ。

 

この世界の演算システムは普通の人では手の届かない場所に隠蔽したので手出しは出来ない。

 

それでもA級ジャンパーを捕えようとする動きがあったのでこちらで色々と動かさせて貰った。

 

アキト達も数日中にこの件で誘拐されてしまう結末だったがイラっとしたので変えさせて貰った。

 

しかし仲間に行方を告げずに消えた事に二人も不安であるだろうが、致し方ない。

 

ルリちゃんは現在、連合軍士官学校へ編入しているのでガードは固いだろう。

 

一応、監視も付けている。

 

そう言えば、僅か一年でTV版から劇場版に成長しているのは驚きました。

 

本人曰く『頑張って牛乳飲みました。』らしい。

 

まあ、年齢が14歳なのは変わらずである。

 

 

「アキト達の件はこれで良いとして…問題は。」

 

 

残された者がどう出るかだった。

 

だが、既に始まってしまった以上は止める事は出来ない。

 

今暫くは原作通り二人の死亡と言う誤認情報で通して貰おう。

 

 

******

 

 

数日後、約束の日。

 

ここお台場湾岸では警視庁特車二課によってバビロンプロジェクトの要である箱舟への破砕活動が進行していた。

 

篠原重工はレイバー用の新たなOS『HOS』を開発。

 

都心圏内のレイバーに書き換えを行っていた。

 

だが、これを期に各所でレイバー暴走事件が発生。

 

この不可解な事件に対して一部の警察関係者は真相を追っていた。

 

そしてバビロンプロジェクトの一環で建設された『箱舟』が『HOS』に書き換えられたレイバーを暴走させる現象を発生させる事が判明した。

 

間の悪い事にその現象を引き起こす大型台風の上陸も差し迫っていると言う最悪の事態。

 

これに対し警察庁並びに警視庁の上層部は『箱舟』の破砕を許可した。

 

だが、使用されているレイバーの殆どは『HOS』の書き換えが済んでしまった後だった。

 

そこで運良く免れた特車二課のレイバー隊とブレイブポリスによる共同活動が決定された。

 

一行は台風の影響で避難指示が終わった『箱舟』の中に潜入した。

 

整備用レイバー搬入用エレベーターから侵入しメインの指令所まで進む事となった。

 

 

「いいか、各自警備用レイバーとの戦闘は避けつつ移動するぞ。」

「向かってくる奴らも居るんだぞ!?その時は撃ちまくるからな!!」

「太田、レイバーの弾薬にも限りがあるんだぞ!今回はブレイブポリスも協力してくれているし俺達は一直線で指令室に向かうぞ!!」

 

 

指揮用の装甲車両から特車二課のレイバー隊を指揮する篠原とレイバー二号機の搭乗者である太田の会話から始まった。

 

同じく会話中の篠原の横でブレイブポリスの勇者達を指揮する勇太がデッカードらに命令を下した。

 

 

「皆、箱舟の中ではいつもの合体が出来ないから注意してね。」

「了解、ボス。」

 

 

念の為説明するが、立場上刑事である勇太の方が上官に当たるものの今回の作戦と現場の指揮権は篠原に一任されている。

 

レイバー事件に関する経験と大人の都合と言うモノである。

 

 

「おし、全員一気に中央エレベーターまで突破するぞ!!」

 

 

装甲車のアクセルを踏み、レイバーと勇者ロボ達を前衛と後衛に分けてから一行は内部に侵攻した。

 

同じ頃、この箱舟に別の侵入者達が訪れていた。

 

現在、この地球に転移してきた四機のAT乗り達である。

 

それぞれのATの片方の肩の装甲は赤く塗装されている。

 

 

「連中、動いたようだぜ?」

「判った、俺達も箱舟の暴走レイバーを片付けるぞ。」

「しっかし、ブルーロータスって奴も厄介な仕事を依頼して来たもんだぜ。」

「バイマン、文句を言うなら依頼料の金塊は三人で山分けにするぞ?」

「はいはい。」

「ムーザもよく協力してくれたな。」

「ふん、唯の気まぐれだ。」

「気まぐれね…ここをぶっ壊さねえと例のガキ共が住む街が破壊されちまうのが本音の癖に。」

「バイマン、お前!?」

「それに関しては俺も同感だ、こんな無法者の俺達に懐いてくれた瞬兵達を巻き込む訳にはいかねえ。」

「協力に感謝するぞ…グレゴルー、ムーザ、バイマン。」

「キリコ、礼なら仕事を片付けた後にしてくれ。」

「判った。」

 

 

各自、別ルートの搬入用エレベーターから内部に侵入するとATの脚部の加速装置を作動させ移動を開始した。

 

 

******

 

 

同時刻、北海道では。

 

濃霧によって視界を遮断され霧の街と化した札幌を始めとした各地で民間人達の失踪が始まった。

 

その多くは巨大で奇怪な蟲の大群による誘拐である。

 

札幌ではシグザリアスとメルヴェーユに母艦エオニアを中心に防戦が開始されていた。

 

連合軍と防衛軍の救援が期待出来ない以上は彼らも腹を括ったのだ。

 

同じくしてその郊外にて戦闘を続けている機影もあった。

 

 

「くそっ、こんなに数が増えるなんて!」

「トーヤ、焦らずに敵の数を徐々に減らす事に専念するんだ。」

「解っているよ、父さん。」

 

 

郊外に建てられた邸の近辺に現れた管蟲型UMAのメデューサと対峙する蒼いヴォルレント。

 

メデューサは本体こそ小さいが数多くの個体が一つに集合し巨大な管蟲へと変貌していた。

 

ヴォルレントの複座式のコックピットからぼやくトーヤと叱咤するセルドア。

 

前回の親子喧嘩を一旦休戦した上で共に行動していた。

 

 

「…(キョウスケ中尉の話していた人が間に合えばいいんだけど。」

 

 

非常時とは言え、ヴォルレントに装備された武装は護身用の最低限の物だけだ。

 

かつての様に行動していたなら撃墜されていただろう。

 

トーヤは勝機が見えるまで防戦を続けていた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、釧路湿原。

 

出現したキングベヘモットとベヘモットの大群と戦闘を続けている魔法騎士達が纏う魔神の姿があった。

 

ベヘモットが繰り出す超音波攻撃を退けつつ個体の数を減らしていた。

 

同じ様に魔神を生み出して援護するエメロード姫達。

 

自分達が引き下がればその背後にある街に被害が及ぶ。

 

光を始めとした彼女達は続く限りの防戦を続けた。

 

 

「…(この先は絶対に行かせない!」

 

 

同様に釧路湿原の上空。

 

アカマツ工業のクルーが搭乗する輸送機がバイオ羽虫の集合体のUMAのイカロスによる襲撃受けていた。

 

二機の輸送機は墜落しBPLに近い湿原へと不時着したが、イカロスの強襲によってモーディワープからの派遣者達が全員死亡する結果となった。

 

残されたアカマツ工業のクルーらは覚醒人一号とティランを動かして消息不明の都古麻御と八七木翔を探しにBPLへと向かった。

 

だが、この時BPLでは所長である梅崎博士の思惑を打ち消す様な光景が起こっていた。

 

 

「あれは…人間だと言うのか!?」

 

 

所長室のモニターから外部の様子を伺っていたが、彼の眼には恐るべき光景が起こっていたのだ。

 

巨大な怪虫を使役する幽霊。

 

岩の巨像を操る忍者。

 

湿原を走り、自身の手駒であるUMAヘラクレスを仕留める紳士達。

 

追撃させたイカロスを瓢箪酒で燃やし尽くす酔拳の様な使い手。

 

ベヘモットを刀で断ち切る少女とガトリング砲でハチの巣にする人間サイズの人型兵器。

 

余りにも場違いな背広姿の集団に驚愕するしかなかった。

 

 

「虫達をこんな目に遭わせた報いは受けさせてやる。」

「幽鬼、余りの光景に興奮でもしたか?」

「マスク…お前こそ、手が滑ってとか言って標的を殺ってしまうなよ?」

「…(他所でやってくれ。」

 

幽鬼とマスク・ザ・レッドのやり取りにやれやれと遠目で様子を見ていたヒィッツカラルド。

 

指パッチンで向かってくるメデューサを斬り裂きながら戦闘狂の二人に関わりたくないと心の中で呟いた。

 

 

「貴様ら、羽目を外し過ぎて目的を忘れた訳ではあるまい?」

「忘れてなどいないさ、アシュラヤーの巫女の護衛は続けている。」

 

 

戦闘に夢中の二人に対しアルベルトが叱咤し本来の目的を思い出させていた。

 

 

「先程、施設内に潜入した所だ。」

「うむ。」

 

 

セルバンデスの助言もありアルベルト達は周囲のUMA達を文字通りに血祭りに上げる為に動いた。

 

 

「我ら十傑衆をこの雑魚程度で止められると思うなよ?」

 

 

アルベルトは両手に衝撃の力を込めて更なる追撃で現れたUMAヘラクレスの身体に大穴を開けた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

それからしばらく経過してからである。

 

私は捕らわれていた民間人と都古麻御を村雨さんと戴宗さんに任せて施設の奥に進んだ。

 

道中で潜入したセルバンデスさんと合流しロサ達にメインコンピューターの捜査を任せた後。

 

私は所長室へと向かった。

 

そして私の目処前にはシリンダー型の調整槽から投げ出されて死亡した梅崎博士の死体が転がっていた。

 

山羊の眼で視た所、彼に手にかけたのはアジャンター石窟に居たチャンディーで間違いないだろう。

 

博士の顔面からは妖しく咲いたアニムスの花が開いていた。

 

実った実の形はフォルテ。

 

研究施設内の遺体管理室にあったカクタスの分を合わせると三つ目である。

 

私はフォルテの実をセーメが回収したのを確認すると博士の護衛のUMA・サラマンダーを倒したラミアに話しかけた。

 

 

「それで三つ目です。」

『…すまない。』

「それと…残念ですが、残りの三つに関しては今回の様にすんなりと手に入りません。」

『何故、残りの三つが手に入らないのだ?』

「一人は既にアルジャーノンを発症させていますが、残りの二人は未発症です。」

『可能性のあるモノが実を宿していないと?』

「その通りです、保険の利く残りの実は後一つと了承しておいてください。」

『判った。』

「…どうやら真実を求める者がここへやって来た様です。」

『ラミア、どうする?』

「姿を隠すなら私がして置きますよ?」

『頼む。』

「では…『幻影の蜃気楼』。」

 

 

ラミア達と話を続けているとこの部屋にやってくる足音を耳にしたので私は姿を変化させた。

 

ホルトゥスのエージェントとして動く時の姿と首のチョーカーから変声機を作動させる。

 

最後にラミア達を『幻影の蜃気楼』で姿を隠した。

 

そして部屋にやって来たのはアカマツ工業に出張している八七木翔。

 

部屋の惨状に彼は声を荒げた。

 

 

「梅崎博士…!」

「…博士はアルジャーノンを発症し先程何者かによって殺害された、博士お抱えのUMA達の暴走もこれが原因だ。」

「それを信じろと?」

「貴方は見た筈だ、この研究施設で何が行われていたのか?」

「くっ…!」

「私はブルーロータスの指示でここへやって来たが、既に終わっていた。」

「ブルーロータスだと!?」

「モーディワープ社フランス支部所属・八七木翔、貴方にこれを託す。」

 

 

私は彼にメモリーと装置に試薬の入ったケースを渡した。

 

 

「これは?」

「今回の事件に関わる調査資料とアルジャーノンの発症を抑制させる装置と試薬だ。」

「何だと…!」

「どう使うかはそちらに任せる、後者に関しては既にいくつかの医療機関にも譲渡済みだ。」

「…」

「ダイブインスペクション。」

「それは…?」

「貴方達を取り巻く元凶の始まり。」

「元凶?」

「それを知る者に聞くといい…」

 

 

それだけを伝えると私は魔法で姿を隠しているラミア達と共にその場を去った。

 

ラミア達とは研究所から脱出した後に別れた。

 

私は潜入メンバーと合流するべく集合場所へと向かった。

 

私が最後であり、全員が揃っていた。

 

 

「遅かったな。」

「すみません、少し野暮用を済ませて来ました。」

 

 

アルベルトさんが葉巻を吸いながら機嫌が悪そうに答えた。

 

私は彼に謝罪した後にセルバンデスさんから話を持ち掛けられた。

 

 

「あの研究所を潰したのはいいが、良かったのかね?」

「残っていてもアルジャーノン化の負の遺産しか残っていないので潰して大丈夫です。」

「ハスミ、BPLのメインコンピューターから例の研究資料と経過報告書を発見したよ…まあ、見なくとも判ると思うけど?」

「念の為、見せて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

 

私は光龍からメモリーカードを受け取ると端末で資料を拝見した。

 

その内容に私は例の件が再発した事を確認した。

 

 

「やっぱりか。(結局、真の群れ成す軍勢が始まる。」

 

 

私は止めた筈の事件が息を吹き返した事を改めて実感した。

 

奴らの決行の日は明日、場所はホンコン。

 

そう新型DG細胞はそのお膳立てだったのだ。

 

 

「ノードゥス再結成の時、か…」

 

 

私は濃霧より晴れた夜明け前の空を眼にして呟いた。

 

 

******

 

 

同時刻、ホンコン。

 

 

「何やら不穏な気配を感じる。」

 

 

ホンコン市街郊外の廃墟にて瞑想に耽っていた東方不敗が呟いた。

 

彼の傍に寄り添って居た愛馬もまた何かを感じ取り唸っていた。

 

 

「どうやら良からぬ事が起きそうだな。」

 

 

東方不敗の予感も的中しており、それは明日に迫っていた。

 

 

=続=




始まった奇襲。

応戦する者達。

変わった真実。


次回、幻影のエトランゼ・第四十六話 『群勢《バルトール》』。


呪いは呪いを喰らう。


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紡の付箋

それは紡がれる。

いずれ繋がり。

そして束ねる為に。



とある場所にて。

 

 

=???=

 

 

「…」

「浮かない顔だな?」

「…そう見えますか?」

「その疲弊した貌を見ればな。」

 

 

私ことハスミの目元に隈をうっすらとさせた疲弊する酷い顔。

 

その片方の頬に触れる大きな手。

 

私はその大きな手に触れて安堵する。

 

 

「予言された災厄を防ぐ為とは言え、お前自身が疎かになっていてはどうにもならんだろう。」

「仰る通りです。」

 

 

返す言葉もなくただ私は彼の温もりを感じていた。

 

だが、無理を承知で動かなければ因り大きな被害が出ていただろう。

 

物事を解決すればする程に無限力の提示する事象は複雑になっていく。

 

そしてバアルの脅威もまた増しているのだ。

 

 

「止める為の術を持つのなら止める事が私の宿命、私はこの決断を後悔したくありません。」

「己の身を削りながらも己の道を往くか…俺はそれを肯定する。」

「貴方の中のスフィアがそうさせているのですか?」

「そうかもしれん。」

 

 

彼のどんな苦境でも立ち向かう力。

 

そして反する強大な恐怖。

 

それこそが彼に与えられた試練。

 

 

「ハスミ。」

 

 

触れていた大きな手は私の身を抱き寄せた。

 

 

「ケイロン?」

「この場でその名を呼ぶ事は禁ずる。」

「ですが…」

「一言だけでいい、真の名で呼んで欲しい。」

「判りました、貴方の真の名で呼びましょう…」

 

 

彼の真の名を呼ぶ事でその腕が鼓動が私を包み込んだ。

 

ずっと、ずっと、愛おしかった温もりを。

 

 

「ハスミ、近々お前の世界へ出向く事になるかもしれん。」

「どういう事ですか!?」

 

 

その言葉に私は動揺した。

 

 

「お前の語った御使いか或いは無限力の遊戯とでも言うべきだろう。」

「一体、何故?」

「…お前が変えた未来の影響なのだろう。」

 

 

黒の英知がそう教えたのか?

 

それも断片だけを?

 

 

「…」

「呼ばれるのは俺自身だけだろうか?」

「恐らくは…それもまた無限力のお遊びでしょうね。」

「そう…か。」

「出来る事なら貴方と武を交えたくはないのですが…」

 

 

私の不安に彼は『その様な心配は不要だ。』と告げる。

 

 

「いずれにせよ、お前に会いに往く…その時は再会を祝そう。」

「はい。」

 

 

私は心が躍った。

 

彼と再び出会える事を。

 

 

「お待ちしております。」

「ああ。」

 

 

私は彼との再会を約束した後、スフィアリアクター同士の共鳴を止めた。

 

遠く離れていても『知りたがる山羊』のスフィアなら彼の存在する大体の位相空間は把握出来る。

 

最早、チートの域である。

 

 

「波乱は続く、それでも私は貴方との再会を望みます。」

 

 

私は思春期の乙女の様に顔を綻ばせた。

 

喜びに満ちている。

 

 

「ケイロン…いえ、次元将ヴィルダーク。」

 

 

きっとこの再会は記憶を持つ彼らにとって不都合かもしれない。

 

私はどこまでも最低な女である事は自覚している。

 

それでも彼に逢いたいと願うのはいけない事なのだろうか?

 

 

「…どうか私の我が儘を許して欲しい。」

 

 

私は彼から貰ったタンザナイトのペンダントを握りしめた。

 

 

=続=






ハスミ、お前は己の力量を過小評価をし過ぎている。

その力の使い所を識っていながらも表に出す事を避けている。


「だが、使い所を見極めている点に関しては優れている。」


一手の出し処を見極め、常に有利に駒を進める。

それこそがハスミの手だ。


「だからこそお前に俺の背を任せられるのだ。」


彼はそう呟くと彼女から預かったペンダントを握りしめた。

だが、彼はまだ知らない。

彼女との再会は己にとって切り離せない修羅場が待ち受けている言う事を。

そう、彼女を支えていた三人の父親と言う存在が待っている。

間近に迫る戦いに再度集結するノードゥスはその大人気ない親子騒動に巻き込まれる事を。

まだ知らない。

=続=


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第四十六話 『群勢《バルトール》』

砕かれた欠片。

本来なら合わない筈の欠片。

だが、欠片は変異と言う器に収まった。

あるべき事象を引き起こす為に。





可能性と言うモノは時により様々な事象を引き起こす。

 

それが吉と出るか凶と出るかは判らない。

 

気まぐれの様にその顔色を変える。

 

今回は後者を引いた様だ。

 

 

******

 

 

前回のBPLでの一件後。

 

北海道で発生した濃霧は消え去り、BPL製のUMA達も沈黙した。

 

どうやら定期的に何かの物質を投与しなければ生存出来なかったらしい。

 

これにより各所で連れ攫われた人々も無事救助された。

 

事前に医療機関にアルジャーノンへの対抗策も手渡してある。

 

後は連合軍と防衛軍に任せて置いて大丈夫だろう。

 

BPLの事後処理を村雨さん達が引き受け、私とロサはホンコンへとUターンする事となった。

 

と、言うよりはテレポートで戻るだけの事だが…

 

ごく普通に当たり前の手段を使っていれば間に合わなくなる。

 

ただそれだけの事だ。

 

ホンコンでのバイオネット騒動に続き、約一週間でクワスチカ探索、一晩のBPL強制捜査とかいろいろとお仕事やっていたので疲労困憊。

 

お陰様で精神と体重が減りました。

 

もはや栄養ドリンクで騙せるレベルじゃなくなっているのは自分でも判っている。

 

それでも今回の事件を止めなければならない。

 

無限力の陰謀とか御使いの悪戯とかが刻々と迫っている以上は油断する事はできない。

 

これから起こるバルトール事件の件もそうだ。

 

原作の流れは大体この様な形だった。

 

ヘルゲートを拠点に晴海で行われる筈だった新型機のお披露目と同時に奇襲。

 

そして地球各所にある連邦軍の基地施設を襲撃し大混乱を引き起こした。

 

今回の流れと違うのは拠点となった場所と奇襲する時間帯である。

 

アカシックレコードに因ると今回の拠点は破壊した筈のメンデルを拠点にガンダムファイトが行われているホンコンの会場へ奇襲。

 

同時に協力者が各所の連合軍並びに防衛軍の基地施設を襲撃する計画らしい。

 

オマケにODEシステムの欠点を克服する為に新型DG細胞に感染している民間人が拉致される流れだ。

 

既にホンコン国内に在住する民間人の殆どが新型DG細胞に感染済み。

 

発症していないのは奇襲と同時に発症させて逃がさない為の措置なのだろう。

 

不謹慎な言い方だか…

 

スパロボプレイヤー側で言えばEASYルートからHARDルートへ突入している。

 

状況打破しても熟練度が貰える訳でもない。

 

これが現実に起こっているのだから洒落にならない。

 

 

「つまり、本来ODEシステムに人間と言う素体は適合しなかったという訳かい?」

『その通りです。まさか今回の方法で欠点が改善されるとは思わなかったのですが…』

「君が教えてくれた情報には感謝するよ。それが無ければ敵の動きも予測が出来なかったからね。」

『いえ、結局後手に回る事になりました…それに例の組織も各地で行動出来る様に待機済みとの事です。』

「判ったよ…それじゃ僕も他のメンバーと共に極東エリアからバルトールの襲撃に備えよう、ハスミ君も気を付けてくれ。」

『判りました、万丈さん。』

 

 

私は夜明けを迎えたホンコンの港で万丈さんと連絡を取り、必要な情報を渡した後に通信を切った。

 

既にブルーロータスの警鐘は鳴らされた。

 

極東エリアはスーパーロボット軍団。

 

北米エリアはcross・DCと北米の連合軍の混成艦隊。

 

南米エリアは連合軍本部の主力部隊。

 

欧州エリアはリガ・ミリティアを中心にフリーデンの部隊。

 

ユーラシア北部エリアはエクソダス組とミリシャの部隊。

 

アフリカ・中東エリアは旧OZに元ジオンやザフトなどの混成部隊。

 

アジア・各諸島エリアはオーブ等の中立艦隊。

 

オービタルリングには新生スペースナイツやEDFの部隊。

 

月・コロニーには連合軍の宇宙艦隊が網を張っている。

 

銀河の彼方へ旅立った仲間達にも警鐘は鳴らしてある。

 

もうじき、ここへ再編された鋼龍戦隊がやってくる。

 

出来得る限りの策は試行錯誤を重ねて転じた。

 

 

「後はここだけだ…」

 

 

朝焼けの光が眩しいが少し眼を閉じた後、眼を見開いた。

 

 

「そろそろ茶番劇に決着を着けよう。」

 

 

私はいつもより低めの声で呟いた。

 

 

「行くのかい?」

 

 

その後ろで帽子を被り直す孫光龍の姿もあった。

 

どうやらテレポートで後追いして来た様だ。

 

 

「解っていると思うけど、このまま進めば戻れないよ?」

「…判っています。」

 

 

これから向かう場所には奴らが待ち構えている。

 

それは奴らに私がガンエデンである事を認めさせてしまう事に繋がる。

 

 

「ハスミ、後悔はないのかい?」

「無いとは言い切れない、それでもいずれは知る事だから…」

「そうかい。」

「若しくは早まり過ぎたと捉えるべきなのかもしれません。」

「僕は一向に構わないよ、君が進むべき道がどんなものなのか見せて貰うつもりだから。」

「相変わらず孔明さん張りの策士ですね。」

「いやいや、あの腹黒君と一緒にされちゃ困るよ。」

「あーそうですか。」

 

 

どう見ても似た者同士だと思いますけどね。

 

 

「ハスミ、いいの?」

「うん…今回は仕方がないよ、既にバラルにも私の正体は知られているし。」

「そっか、ハスミは決めたんだね。」

「心配しなくていいよ、ロサ。」

 

 

私は心配するロサに心配しなくていいと答えた。

 

 

「それじゃあ、行こうか?」

 

 

私は他の二人と共に昇る朝日を背にホンコン首相官邸へと歩みを進めた。

 

住民の姿は見えず、港では既に船出を済ませていた。

 

今日はガンダムファイト決勝リーグ最終決戦。

 

ランタオ島での戦いの日。

 

観光客や国民の危険察知能力が薄れる時。

 

呪いが芽吹く前に事を済ませよう。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃。

 

ハガネ艦内、グリーフィングルームにて。

 

 

「それじゃあアルフィミィも私達の部隊に?」

「そうなのよ、やっとミィちゃんも私達と動ける様になったのよ。」

「よろしくお願いしますの。」

 

 

クスハがアルフィミィの処遇を聞き、エクセレンがそれに応対していた。

 

表向きの戸籍上はエクセレン少尉の妹と言う事で通している。

 

その為、彼女の名前はアルフィミィ・ブロウニングとなった。

 

また、アインストの影響を受けている機体を所持と言う事でATXチームで預かる形になっている。

 

 

「では、ゼンガー少佐は正式にクロガネ隊へ?」

「ああ、エルザムがクロガネの艦長として動くに当たって部隊の戦闘指揮を執る者がいないのでな。」

「そうですか…」

「キョウスケ中尉、ATXチームの隊長はお前に任せるぞ。」

「了解しました。」

「ウォーダンに関してはこのままクロガネ預かりとなった。」

「うむ。」

 

 

ブリットの質問に答えるゼンガー。

 

その横でキョウスケとウォーダンが会話に混ざっていた。

 

 

「逆に私がATXチームの整備兼アドバイザーになったって訳。」

「レモン、お前も覚悟を決めたのか?」

「ええ、貴方が決めた道を見る為に私も出来る事をしようと思ってね。」

「そうか。」

 

 

今回の作戦から正式に参加する事となったレモンもアクセルとの会話を進めていた。

 

 

「そう言えば、ハスミとロサの奴はどうしたんだ?」

「二人なら一足先に先行してホンコンに居る。」

「どういう事だ?」

「数週間前に国際警察機構の任務でホンコン支部に赴任していたんだ。」

「相変わらずの二束草鞋も大変だな。」

「義親父さん達もアビアノ基地からこっちに合流したって言ってたし最初は一緒に来ると思っていたんだけどな。」

「ま、あっちの仕事じゃしょうがねえか…」

 

 

北米テスラ研での戦いで合流したマサキがリュウセイと会話をしており、ハスミの動向を聞き出していた。

 

 

「ギリアム、テンペスト、例の件だがどうだった?」

「カイ少佐…やはり、ブルーロータスの警告通りでした。」

「…!」

「近日中…いや、すぐにでも警告通りにバルトールによる襲撃が予想される。」

「大連の工場で行方知れずとなったバルトール数機が何者かに奪取された時点で事件は続いていたと思われる。」

「今回はオブサーバとしてユルゲン博士に同乗して貰っているが何処まで抑えられるか…」

「輸送中のミロンガを奪取した例のアンノウン機の事も気になる。」

「確か…一方はトールギスⅡだったらしいな?」

「パイロットまでは判らないが機体を目視したリュウセイ少尉の話ではそうだったらしい。」

「またブルーロータスの奇跡とでも?」

「かもしれません。」

「旧OZの旗頭だった機体、またややこしい事にならなければいいが…」

 

 

情報部のギリアムとテンペストの調査で判明した真実。

 

この真実が後に新たな波乱を呼び寄せるのではないかとカイもまた言葉にした。

 

 

『総員、第一種戦闘配備!繰り返す…総員、第一種戦闘配備!』

 

 

艦内アナウンスで第一種戦闘配備の命令が下った。

 

各員はそれぞれの機体に搭乗すべくグリーフィングルームを後にした。

 

最後に出ようとしたテンペストはカーウァイに呼び止められた。

 

 

「テンペスト。」

「カーウァイ中佐、どうされましたか?」

「妙な胸騒ぎがする。」

「…どういう事でしょうか?」

「何もなければいいが、恐らくは…途轍もない何かが起こるのかもしれない。」

「…それは自分もです。」

「やはりか…ハスミの影響なのかもしれないな。」

「そう思います。」

 

 

義理の父親二人もまた、待ち受ける戦いの不安な気配を感じ取っていた。

 

ナニカが起こると…

 

 

******

 

 

数時間後。

 

ホンコン首相官邸内・執務室にて。

 

執務室の入り口である中央の扉が爆発したかの様に破壊された。

 

その影響で瓦礫と共に切り刻まれた小機人の兵らも交じっていた。

 

それを行った相手が室内へと入って来たのだ。

 

 

「やれやれ、珍しい客人がやって来ましたね。」

「ホンコン首相ウォン・ユンファ、貴方にはバイオネット並びにアマルガムとの癒着と反政府活動による大規模反乱行為で逮捕状が出ています。」

「ほぅ、国際警察機構も目利きが早いですね。」

「ついでですけど、後ろに隠れている刺客さんとやらともお話を願えるといいのですがね?」

「ホッホッホ、漸く現れましたか…ハスミ・クジョウ様と……まさか!?」

 

 

ウォンの座するムーブ型座席の背後から現れた禁牙。

 

だが、空間に現れた気配で彼の顔は恐怖に陥った。

 

 

「久しぶりだね、禁牙?」

「そ…孫光龍様!!?」

「随分と派手にやってくれたね、そんなに天仙になりたかったのかい?」

「ひっ!」

「光龍、それだと奴らに問い正す前に気絶しますけど?」

「おや、これは失敬失敬。」

「はぁ…まあ、いいでしょう。」

 

 

大量の草でも生やしたくなる様な笑顔の光龍に呆れた表情で溜息を付いたハスミ。

 

 

「さてと、拘束の前に今回の事件のお話でもしましょうか?」

 

 

念の為、ハスミは執務室内に結界を張って離脱不可にしてから話を始めた。

 

 

「今回の真相はこんな感じでしょうかね…」

 

 

まず、大連の事件。

 

これはウォン…貴方が手引きし自らの領地内に隠蔽した。

 

そこで並行してODEシステムと新型DG細胞の研究を進めていた。

 

二つを合わせれば自らの忠実な下僕が出来上がるからです。

 

そしてバルトールと専属研究員の消失。

 

元々、ODEシステムの欠点は情報の並列化がコアである複雑な人間の脳では不可能。

 

だから、自己増殖、自己修復、自己進化を行えるDG細胞が必要だった。

 

DG細胞で脳まで感染させてしまえば進化理論を持つDG細胞がODEシステムの情報並列化がしやすいからです。

 

そしてコアとなる人間の脳の破損を抑える事も可能だからでしょうか?

 

まあ、貴方の事なら既にジジ・ルー達はバルトールのコアにされているのでしょうけどね。

 

しかもDG細胞感染なしで……口封じとはよく言ったものですね。

 

オマケにBPLでの研究にも加担していた様ですけど…こちらとしては良かったですよ。

 

一足遅ければ貴方もアルジャーノン化で今回の事件を立証出来ませんでしたからね。

 

それに関してはそちらのバラルの技術と言った所でしょうか?

 

アルジャーノンの正体は生体死滅インパルス・プリオン蛋白による脳内の書き換え。

 

それらが完了するとアニムスの花が咲く。

 

この行為は地球が自らを害する物を駆除する為の自然摂理。

 

ダイブインスペクションの出資者の一人であるウォン貴方には更なる罪状が付きますよ。

 

それは置いといて、ランタオ島でガンダムファイトを行い出場選手全てを新型DG細胞に感染させて手駒にするなんてよく出来たものですよ。

 

島周辺に集まった民間人らを強制的に新型DG細胞で発症させ、増産されたバルトールの部隊で拉致する手筈だったのでしょう?

 

出場選手らの逃げ道を塞ぐ為に。

 

でも、残念でしたね?

 

 

「ど、如何言う事でしょうか?」

「貴方が抑えていたメンデルとウルカノス、今頃スクラップになっていますからね?」

 

 

ハスミは動揺するウォンに対してニコッとブリザードスマイルで答えた。

 

その答えにウォンのサングラスが崩れた。

 

 

「多分…何処かの正義の味方と地獄の化身が黙っていなかったのでしょうね。」

 

 

不利と悟った禁牙がその場から脱出しようとしたので途中で拾った小機人の斧を念動で奴の貌擦れ擦れに投げつけていた。

 

 

「ひっ!?」

「まだ、話は終わってませんよ?」

 

 

今の彼女は沸点が最大に上がって一気に氷点下まで下がった所だ。

 

連日徹夜を繰り返した人間のストレスは時によって暴発する。

 

ハスミの場合は溜めに溜めこんだ末に一気に暴発したと言った所だろう。

 

それはタチが悪いとも捉えられる。

 

 

「ここまでの行動を貴方達だけでは出来ない筈です、恐らくは他の協力者でもいるのでしょう?」

「それを私が話すとでも?」

「いえ、察しが付いてるのでお構いなく。」

「…」

「アマルガムお抱えのウィスパードが例のモノリスモドキを差し向けた連中でしょうかね?」

「そこまで推測が付いているのなら何故?」

「いえ、あくまで察しですよ…ご本人様から直接回答が聞けるとは思ってませんでしたから。」

「謀ったのですか…!?」

「ええ、恐怖の余りに冷静さが欠けましたか?」

 

 

禁牙は退路を断たれた状況の中でウォンとハスミのやり取りを傍観していた。

 

彼は前回の遭遇でハスミは念動の力が優れているだけだと思っていた。

 

だが、今回の事ではっきりしたのだ。

 

彼女は間違いなく光龍の娘であると言う事を。

 

僥倖だったのだろうか若しくは災厄を呼び寄せたのだろうか。

 

その答えは禁牙の今の心境では測れない。

 

彼もまた目処前の恐怖によって判断力が鈍っているのだ。

 

 

「そうなると連鎖的に浅草で騒動を引き起こした例の勢力とも繋がりがありますね。」

「ハスミ様何故そこまで…やはり、貴方様は!」

「…さあ、何故でしょうね?」

「これ以上、彼女を怒らせない方が身の為だよ?」

「あら、私ってそんなに節操がありませんかね?」

「いや、彼らに対する忠告だよ…もっとも君はもう許すつもりはないのだろうけどね。」

「まあ、大体は当たりですね。」

「まさか私達を…!」

「いえいえ、某組織の様に暗殺までは致しませんよ…彼らも火星でお忙しいでしょうからね。」

「…」

「当てが外れましたか?そっちには華麗に事を済ませたい方達が出向いていらっしゃいますので。」

 

 

残して置いた数ある退路が一つずつ崩落していった。

 

彼女は数ある全ての逃げ道を塞いでいたのだ。

 

 

「もう一つ、HOS開発者である故・帆場暎一を使って極東エリアの攪乱を図ろうとした事も既に無駄ですので。」

 

 

ハスミは日の本を護る警察官達と四人のむせる方達が終わらせましたのでと告げた。

 

 

「以上です、これだけの罪状なら死ぬまで豚箱は確定ですね。」

 

 

ハスミが告げた彼らの罪状。

 

その全てが明かされた。

 

 

「一応忠告しますが…ここから無事に逃げても無駄だと思いますよ、九大天王の方々も動いていますので。」

「ぷっ、あっはっはは…見事に悪辣だね。」

「失敬ですね、私…これでも優しくご説明と弁論したつもりですけど?」

 

 

腹部を抑えながら抱腹絶倒する光龍とジト目でその様子を見るハスミ。

 

 

「ちなみに禁牙。」

「は、はい…」

「変身しても構いませんよ、その時は容赦なく細切れに出来ますので。」

「…」

 

 

退路を塞がれた状況で悪足掻きなど出来るのだろうか?

 

彼女に足掻きを見せた所でそれらが無駄であると理解した。

 

いや、女子の皮を被ったバケモノと比喩しても可笑しくはないだろう。

 

 

「さてと、そう言う事なのでおとなしく捕まって貰えますかね…!?」

 

 

勝機の空間に広がった一瞬の気配。

 

 

「成程、奴らもまた捨て駒だったって事か…」

「そうですね、ここまで用意周到にやられたのは初めてですよ。」

 

 

この時、首相官邸に対して攻撃を仕掛ける者が居た。

 

 

『役目ご苦労だったよ禁牙…だが、失敗続きの君にはもう用はない。』

 

 

女性的であるがハスキーな声が脳裏に響いた。

 

 

『裏切り者や邪魔者と共に朽ちてくれたまえ。』

 

 

そして首相官邸最上階に位置する執務室が爆発に飲まれた。

 

その様子を頭上の雲に隠れた機影が見物していた。

 

爆発と共に崩落した首相官邸を見届けた機影はそのまま転移した。

 

 

「ゲホゲホっ、派手にやってくれたわね…」

 

 

気配を隠し機影が去ったのを確認した後、瓦礫の一部を破壊し脱出したハスミ一行。

 

 

「全くだよ、夏喃め…とうとう本性を晒したみたいだ。」

「…囚われていた人達の脱出が終わった後で良かったです。」

 

 

私は話を長引かせて首相官邸地下に囚われていた人達の救助をロサに頼んでいた。

 

既に脱出済みで人的被害は出ていない、ただ一人を除いては。

 

爆発の中心に居た禁牙は跡形もなく消し飛んでいた。

 

済んでの所で事件首謀者であったウォンの確保だけで精一杯だった。

 

当の本人は気絶していたので拘束だけはしておいた。

 

 

「それよりも…」

 

 

ハスミは光龍の脇腹からにじみ出した赤い跡に眼が行った。

 

先程の攻撃から自身を守ってくれた結果だった。

 

 

「例の超再生とやらはどうしたのですか?」

「うーん、本当なら僕の目覚めはもう少し先だったんだけどね…君の事が心配だったから早めに起きちゃったんだよ。」

「つまり、第二次世界大戦前のオーダーとの戦いの傷が癒えていない不完全な状態で目覚めたという訳ですか?」

「…そう言う事だね。」

 

 

倒れつつある光龍の身体を支えたハスミ。

 

 

「あの時の傷の治療も無理していたんじゃないのですか?」

「アハハ…流石に隠せないよね。」

「いえ、泰北の結界崩しを見抜けなかった私のミスです。」

 

 

不安が入り混じりつつある感情の中でハスミは涙を流した。

 

父親の危機にただ言葉を告げた。

 

 

「…御免なさい、お父さん。」

「泣かせるつもりはなかったんだけどな…」

 

 

傷口から漏れ出す念。

 

ハスミは治療魔法の併用と共に彼の念の流失を何とか抑えていた。

 

ある程度の応急処置を済ませた後、ハスミはエクリプスを召喚した。

 

その手に光龍を拾い上げた。

 

 

「もう隠せない。」

 

 

駆けつけた国際警察機構のエキスパートにウォンを引き渡し、囚われていた人達の避難の完了を終えたロサと合流。

 

今も戦いを続けている仲間達が居るランタオ島を目指した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

島を覆い尽くそうとする新型DG細胞とそれに囚われた人達。

 

島に囚われたガンダムファイター達と乱入者達。

 

島への侵入を試みる鋼龍戦隊の姿があった。

 

だが、鋼龍戦隊は何者かによって差し向けられたバルトールの軍勢に阻まれていた。

 

 

「艦長、こちらへ向かってくる機影が二つ……エクリプスとエザフォスです!」

 

 

ハガネ艦内で信号をキャッチし艦長であるテツヤに報告するエイタ。

 

 

「二人に通信を繋げられるか?」

「判りました。」

 

 

通信を繋げようとしたが、既に繋がっていた。

 

 

『艦長、民間人二名の乗艦許可を願います…内一名は負傷しています。』

「二名だと…?」

『一名はキョウジ・カッシュ、もう一名はアラン・ハリス…現在負傷中です。』 

「艦長、どうされますか?」

「許可する、エイタ…急ぎ格納庫に救護班を回せ!」

「了解。」

「ハスミ少尉、急で申し訳ないが民間人の誘導後…ロサと共に戦列に加わってくれ。」

『了解しました……』

 

 

二機は乗艦し二名をハガネに輸送した後、再出撃した。

 

 

『艦長……アランを…お父さんをお願いします。』

 

 

ハスミは意味深い言葉を残してロサと共にランタオ島へ向かっていった。

 

その言葉に唖然とするブリッジクルー。

 

 

「お、お父さん…?」

「一体どういう……」

 

 

アズキとエイタが混乱する中で言葉を呟いた。

 

 

「訳はこの戦闘が終わってからだ!各員GGGの援軍が到着するまで持ちこたえるぞ!!」

 

 

テツヤが活を入れてクルーを戦場へと戻した。

 

 

=続=

 




修羅の宴。

引き起こされた戦い。

数奇な巡り遇わせ。

次回、幻影のエトランゼ・第四十七話 『乱舞《ランブ》』。

それは起こるべくして起こった戦い。


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第四十七話 『乱舞《ランブ》』

拭い去れない心の痛み。

それは己の心を蝕む毒。

だが、毒すらも清める力。

それは一つの可能性と脅威。



ハガネから離艦後。

 

私ことハスミとロサは戦場となっているランタオ島へと向かった。

 

先に向かった部隊との合流道中のロサの話によるとキョウジさんを含めた拉致された人達は無事に保護された。

 

彼らの無事は確認出来るのと同時に女王感染者の正体が判明したのだ。

 

それはドモンにとってはアレの再現。

 

急がなくてはと私の中に焦りも出ていた。

 

負傷した光龍の容態も気になるが、今は事を済ませよう。

 

 

「成程、女王感染者の正体が判明…か。」

「うん。」

「つまり、女王感染者とは一度DG細胞への感染を経験した女性の事を差していたって事ね。」

「それでレインさんは…」

「…ランタオ島での決戦前に奴らに捕まってしまった訳か。」

 

 

一度終わらせた事象でも再発は免れない。

 

前回の戦いと同様に何らかの形で代替わりすると思っていたけど読み違えてしまった。

 

若しくは代償を支払う上での対価が足りなかったのかもしれない。

 

三度目の大戦から対価の償被税が上がって来たのは気のせいじゃなかったみたい。

 

ちなみに『消費税』の誤字ではない。

 

『代償を被る為の税勤』の略である。

 

 

「兎も角、他のエリアでのバルトール強襲は防げているけど…問題が出ちゃったのよね。」

「問題?」

「バルトールに指示を出しているODEシステムのコアは本来ヘルゲートに設置されていたのは教えておいたよね?」

 

 

今回は生産プラントになったメンデルかウルカノスのどちらかに設置されたと推測したのだが…

 

二つとも大外れであったが、生産プラントの破壊は成功したのでこれ以上増産される事は無いだろう。

 

問題のコアはランタオ島の地中深くに設置されていたのだ。

 

オマケに新型DG細胞の影響を受けてバルトールはデビルバルトールになってしまっている。

 

何処の無理ゲーですかね?

 

ランタオ島の周辺はGGGの援軍が来るまで鋼龍戦隊が足止めをしているが、どこまで持つか…

 

 

「ハスミ、ODEシステムは…DG?と同化しているの?」

「間違いはないわ、『山羊の眼』で視たから確実よ。」

「…」

「ロサ、無茶な事を考えているでしょ?」

「えっ?」

「大方、DGに直接取り付いてODEシステムにアクセスしようとしていると思ったけど?」

「ハスミには解っちゃうか…」

「止めはしないわ。」

「ハスミ…」

「だから、必ず帰って来て…それが無茶をする条件よ。」

「ありがとう。」

 

 

ロサ、私は徐々に真実へと明確になりつつある『山羊の眼』で視た。

 

これから何が起こるのかを。

 

これも必要な対価だから。

 

私はあなたの往くべき道を信じる。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、地球・近海にて。

 

バルトール強襲による混乱の中で一つの次元震が発生した。

 

それは一瞬の事であり、第三の覚醒…サードステージ。

 

それに至っていないスフィアリアクターには察知出来ない程の微弱な揺らぎだった。

 

 

「…」

 

 

それは人であってそうではない存在。

 

識る者はその姿が一体何を示すのか理解出来ただろう。

 

だが、それ以上は詮索しない方が身の為だ。

 

彼はこの地に辿り着いてはならない時に世界を巡って辿り着いてしまったのだから…

 

 

「この世界がそうか…」

 

 

彼は何かを感じ取り確信した様に口元に笑みを浮かべた。

 

それは普段の彼を識る者達からは考えられないと思われる表情でもあった。

 

 

「…この俺と余興を共にするのは貴様らか?」

 

 

彼の前に立ちふさがったのは闘争を求める者達。

 

『修羅』である。

 

そのごく一部の者らあったが、戦いを求める者に退路はない。

 

いや、元から退路など無かったのかもしれない。

 

彼は全てに抗う事で戦い抜いてきた者。

 

彼自身にも退路などない。

 

 

「貴様達には何も判らぬだろう…貴様達が求める闘争を、その体現を、一瞬の刻に垣間見るのだからな。」

 

 

空間の暗礁宙域に存在する屑星に降り立った一人の存在。

 

機体に座する事なく生身の彼は圧倒的な威圧を広げた。

 

その場に存在した修羅達は余りの恐怖に追い込まれた。

 

勝てる相手ではない。

 

それ以前に逃げると言う考えを持たない彼らには判らない感情が脳裏に廻った。

 

 

「時に逃避と言う感情も必要だと思うが…貴様らには関係のない事だったな?」

 

 

彼は更に答えた。

 

 

「成らば刻み込んでやろう、真の『闘争』とはどのようなモノなのかをな?」

 

 

彼の指先が一瞬動いたかと思ったら周囲に点在していた修羅の烈級修羅神が一瞬の内に破壊された。

 

機体に搭乗していた者達は何が起こったのか理解出来ないまま敗北し冥府の道を歩んだのだ。

 

 

「この程度か、彼女が伝えた通り…この俺が出向くまでもなかったな。」

 

 

彼女はこちら側に飛ばされる前の俺に伝えた。

 

この世界は抗いに対する意思が熟していない。

 

貴方の鬱憤をただ煽るだけである。

 

それだけ『緩やか過ぎて反攻の意思が芽生えていない』とも話していた。

 

確かに求めていた戦いには程遠いだろう。

 

それも自分の責任と話してもいた。

 

 

「…絡繰り風情が盗み見とは呆れたものだな?」

 

 

先の光景を調査し各バルトールへ情報転送する筈だった偵察用のバルトール。

 

そのバルトールもまた一瞬の内に破壊された。

 

彼自身が知らない事であるが、先程破壊したバルトールは後の世に遺恨を残すモノだった。

 

故に放置すればより大きな戦いの火種になりかねないものである。

 

だが、静かにその脅威は防がれた。

 

その真実を識るのは山羊の眼とアカシックレコードに繋がる者達のみである。

 

 

「さて、予言された闘争の時が訪れるまで見定めさせて貰うとしよう。」

 

 

彼ことケイロンはその場を去り、彼女が指定した場所へ向かって行った。

 

 

******

 

 

一時間後、ランタオ島。

 

鋼龍戦隊がデビルバルトールを退け、ランタオ島へ接近したもの…

 

リングを形成するコーナーポストより強力なバリアが張り巡らされていると言うモノだ。

 

原作と同様であれば陸海空からの接近は不可能とされている。

 

だが、救援に駆け付けたGGG機動部隊によりそれは打破された。

 

 

 

「島のバリアはこちらで破壊した。」

「凱機動隊長、協力に感謝する。」

「いえ、それよりも島へ向かいましょう。」

「各機、島へ突入しODEシステムのコアを破壊せよ!」

「残りは艦の護衛と島周囲の民間人の避難誘導をお願いします。」

 

 

凱より島のバリアの破壊を確認した後。

 

テツヤとレフィーナは各機に指示を出して島への突入部隊と護衛部隊に分けた。

 

 

「凱隊長、島周辺の民間船舶はこちらで避難誘導します。」

「判った、頼んだぞ。」

 

 

主な避難誘導を行うのはGGG機動部隊である。

 

ビッグボルフォッグらGGG勇者ロボ軍団も前回の損傷より復帰したが本調子ではない為、後衛に回っている。

 

パワーダウンとはこの事である。

 

 

『ハスミ、向こうの方はどうだった?』

「首謀者であるウォン・ユンファの逮捕に成功はしましたが協力者の捕獲に失敗しました。」

『そうか…』

「ですが、気になる資料を手に入れる事が出来たのでこの戦闘後にお見せします。」

『判った、ご苦労だった。』

 

 

ハスミは上司であるギリアム少佐に前回のウォンの件を説明し簡易であるが事後報告を済ませていた。

 

まだまだ説明しなければならない事は幾つかあるが、目処前の問題に集中する事にした。

 

一度通信を切るが続けて別の通信が入った。

 

 

『ハスミ。』

「キョウスケ中尉。」

『あのバルトールは一体…』

「あれは新型DG細胞と融合したデビルバルトールです、かつてラウル達の物語で酷似した機体がありましたのでそのオマージュと思われます。」

『…』

「ODEシステムのコアがヘルゲートではなく…このランタオ島に安置されたのも何か理由がある筈です。」

『それがお前の推測か?』

「はい、ここまで後手に回されるのは癪ですが…」

『ドモン達はどうなっている?』

「最終リーグ開幕と同時にDG軍団の攻撃に晒されたままです、選手の多くが新型DG細胞で暴走して手の付けようがない状況です。」

『無事なのは?』

「確認できるのはドモン達シャッフル同盟、シュバルツ・ブルーダー、東方不敗・マスターアジアの七名です。」

『判った。』

「キョウスケ中尉、まさかキョウスケ中尉達も空白事件時の行方不明で『黒の英知』に触れる機会があるとは思いませんでした。」

『偶然と言うべきかお前の言う必然と言うべきか…』

「後者なのかもしれません、アカシックレコードもそうだと話してくれました。」

『…ハスミ、首相官邸で何があった?』

「それは…戦闘後でも宜しいでしょうか?」

『何故だ?』

「現時点で話す段階ではない事と場合に寄っては…」

『無理に話さなくてもいい…(話せる状況ではない、か。』

「キョウスケ中尉、恐らくですが…あの存在の介入も否定は出来ません。」

『デュミナスか…?』

「はい、私が外州精機の件でティスを逃がさなければ…こんな事には。」

『ハスミ、お前は十分に事を成し遂げている…』

「…」

『自分を責めるな、お前の協力がなければ俺達は後手に回り続けていただろう。』

「…はい。」

 

 

責めるなと言われたものの結果的に今回の失態を引き起こしてしまった。

 

もっと早くに動けていればと何度も悔やんだ。

 

何とか被害を最小限にしたが、犠牲は犠牲。

 

私の中でそれが毒の様に燻った。

 

光龍が負傷した件で引きずっているのかもしれない。

 

だからあの失態を引き起こしたのだ…

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

数時間後、ランタオ島内部。

 

新型DG細胞による選手の暴走はGGG機動部隊のマイク・サウンダーズ13世により鎮静化した。

 

新型DG細胞の研究をさせられていたキョウジより解決策の提示がされた。

 

それはGGGの雷牙博士との共同作業で新型DG細胞を鎮静化させる新型ディスクXを使用する事。

 

それを行うにはディスクへの転写にかかる時間である15分を稼がなければならなかった。

 

連戦で疲弊した体に鞭を打ち、私達は無限再生を続けるデビルバルトールの大群と戦闘を続けていた。

 

新型DG細胞により強化されたデスアーミーの部隊からの追撃も入り混戦状態は続いていた。

 

ODEシステムのコアは依然と無傷のまま指令を送っており、各地の防衛戦線も徐々に押されつつあった。

 

混戦による混戦が更なる悲劇を呼び込んだ。

 

 

「レイン!!」

 

 

継続する混戦の最中でODEシステムのコアを発見したものの、ODEシステムの生体コアにされてしまったレイン。

 

彼女を今の状態のまま引き剥がせば命は無いと判明したのだ。

 

新型DG細胞とODEシステムの強固なガード機能がより救出を困難にさせていた。

 

しかしODEシステムを止めなければ各地の防衛戦線が決壊するのは時間の問題だった。

 

ドモンに大切な者をその手で終わらせると言う残酷な選択が迫っていた。

 

 

「俺は…レインを!」

 

 

愛した存在をその手にかける。

 

それは彼自身の前世に行った業そのものの再現。

 

ドモンは苦悶の表情で拳を握り絞めた。

 

 

「待ってください!」

「ロサ…」

「レインさんを助ける方法があります。」

「どういう事だ?」

「外側からのアクセスが駄目なら内側からアクセスを行うんです。」

「ロサ、それはドモンに…新型DG細胞に感染しろと言っているのよ。」

「判っています、だから私もサポートに入ります。」

 

 

ロサの案はODEシステムのコアに直接取り付き、同化した上で内部からコアを鎮静化させる方法だった。

 

一歩間違えば、二人ともコアに取り込まれる可能性もある危険な賭けだった。

 

 

「判った、ロサ…手伝ってくれ。」

「判りました。」

 

 

ドモンは残り少ない時間の中で決断した。

 

そして戦い続ける仲間達に言葉を残した。

 

 

「お前達、俺が戻って来るまで外の事は任せたぞ!」

 

 

これは自分の我が儘。

 

 

「兄さん、シュバルツ、必ず帰ってくる。」

 

 

これは自分の決意。

 

 

「師匠、これが俺の決めた道です。」

 

 

これは自ら選んだ選択。

 

 

「往け、ドモン……お前が戻るまでこの世界の事は儂らが守って見せようぞ!!」

 

 

私も自身の決着に向かうロサにエールを送った。

 

 

「ロサ…」

「ハスミ、暫く一緒に戦えなくてごめんね。」

「いいのよ、その代わり必ず帰ってくる事…これが約束よ。」

「うん!」

 

 

混戦の中で露出したODEシステムのコアへゴッドガンダムとエザフォスが取り付いた。

 

二機が新型DG細胞の影響でODEシステムのコアに取り込まれてしばらくの後。

 

周囲のデビルバルトールや各地のバルトールの襲撃が止んだと通信が入った。

 

 

「行ってらっしゃい、ロサ。」

 

 

私は旅立った妹分に祈りを捧げた。

 

 

*******

 

 

こうしてバルトール事件は鎮静を迎えた。

 

しかし、各地で戦いの火種が芽吹き始めていた。

 

外宇宙ではギシン星間帝国とガルラ大帝国の同盟軍による大規模侵攻。

 

宇宙エリアではザフトで新造されていたMSがファントムペインによって強奪された上にプラントのコロニーが損傷すると言う事件。

 

オービタルリングでは『火星の後継者』と呼ばれる集団の襲撃。

 

極東エリアでは『修羅』と名乗る者達の介入を受け、コウタ・アズマの妹であるショウコ・アズマの誘拐。

 

そしてランタオ島での二人…いや、三人の犠牲によるODEシステムの鎮静化。

 

三度目の戦乱の火蓋は切られたのである。

 

 

>>>>>

 

 

後味の悪い戦闘後、私は定例会議と引継ぎを終わらせた後にメディカルルームへと向かった。

 

艦長命令による面会謝絶の名目で軍医と衛生兵の人達には出払って貰っている。

 

病室で治療から目覚めた光龍がベッドの上から半身を起こしていた。

 

やはり、治療後だが顔色が優れない。

 

体内の念の流れが戻るまで静養が必要だろう。

 

こちらの諜報活動に支障が出るが、致し方ない。

 

 

「無事、終わったみたいだね。」

「いえ、始まりです。」

「始まり?」

「今回の戦いを期にユニファイド・ウィズダムは本来の意味で開幕したのです。」

「そう…か。」

 

 

現在のメディカルルームに人気はない。

 

アカシックレコード経由の話をしているのはその状況の為である。

 

私は三度目の戦いが開幕した事を光龍に告げた。

 

 

「元々アカシックレコードに記された必然とも言える戦いの一つの発生時期を遅延させただけでもまだ良い方でしょう。」

「それで…これからどうするんだい?」

「それぞれの場所でそれぞれの戦いは続いています、私達は三手に別れて各地を巡る事になると思います。」

「随分と遠回りなやり方だね、君は今回の倒すべき敵の所在を把握出来ているんだろう?」

「私が予め答えを伝えても意味はないと思いますけどね、それに…」

「それに?」

「発生時期の遅延で倒すべき敵の出現時期もズレているので今暫くは各地の鎮圧に専念すべきでしょう。」

 

 

発生時期の遅延が発生したのは事件自体を無くそうとした結果の副産物である。

 

流れのままに事件を起こしていれば悪循環な戦いが続いていただろう。

 

今回は戦うべき相手が定まっている事と想定していた以上に連合軍の軍備が整っているので対応出来るのだ。

 

 

「それとお父さんには道化をして貰います。」

「道化?」

「ええ、アラン・ハリスの名で国防総省傘下のアクタイオン・インダストリー社から新型テスト機管理の名目でこの艦に乗艦して貰います。」

「いつの間に話を進めていたのかな?」

「もしもの隠蔽プランの一つです、戸籍に関しては小父様の方で手配して頂いているのでご安心を。」

「やれやれ、まあ…僕の表向きは武器商人って事になっているから間違ってはいないけどね。」

「当面の問題は…彼らの監視ですかね。」

「監視?」

 

 

会話の最中、自動ドアの開閉音と共にメディカルルームへ侵入する者達が居た。

 

ギリアム、キョウスケ、アクセル、マサキ、リュウセイ、凱の六人である。

 

 

「ハスミ少尉、入るぞ。」

 

 

ギリアムが一声書けてから仕切り用のカーテンを開けた。

 

ベッドの上でヘラヘラと『どうも。』と返事をする光龍に対しギリアム以外は彼の姿に驚愕の声を上げていた。

 

 

「!?」

「な!?」

「オイ…!」

「マジか…!?」

「…どういう事なんだ!」

 

 

メディカルルームで彼の姿に凝視する記憶を持つ者達。

 

彼ら記憶を持つ者なら一目で判るだろう。

 

目処前の人物が自分達の敵だった存在だと…

 

周囲の様子を察してギリアム少佐はこの件に関する説明をハスミに求めた。

 

 

「ハスミ少尉、説明して貰っても構わないだろうか?」

 

 

ギリアム少佐を始めとした記憶保持者達の刺さる視線。

 

自分で晒したのだ、責任は取ると決めている。

 

私はギリアム少佐達へ静かに話した。

 

 

「彼は君と何の関係を?」

「…血縁者と言うべきでしょうか。」

「血縁だと?」

「判りやすく言うのであれば親子…です。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「アラン・ハリス…いえ、孫光龍は私の実の父です。」

 

 

私は静かに眼を伏せて答えた。

 

彼らにとって前世の頃から戦って来た相手だ。

 

だが、今回は流れが違う事を理解して欲しい。

 

そしてその決着は次に続く。

 

 

=続=

 




世界に散らばった闘争。

それを防ぐ為に仲間は世界を巡る。

そしてこの騒動もまた起こるべくして起こった出来事。


次回、幻影のエトランゼ・第四十八話 『血縁《ケツエン》』。


絆に必要なのは血縁か心縁か?



<ある者達の思惑>


=???=


「ふう…結局茶番となってしまった様だね。」
「光龍の見出した道、それも流れのままなのだろう。」
「まあいいさ、これであのハスミ・クジョウが光龍の娘である事は明確となった。」
「潤よ、此度の事…後に強大な渦となるだろう。」
「泰北、どういう事だ?」
「あの娘が光龍の娘であると同時にクジョウの血を受け継ぐ者…此度の件はナシムの姉妹神たるアシュラヤーへの反逆行為。」
「それがどうしたと言うのだ、貧弱な人間を『在るがままの姿』で護る事を選んだ臆病者など大した事ではないだろう?」
「…」
「話が終わったのなら僕は失礼するよ。」


夏喃は話を終えるとその場を去って行った。

そして泰北は一人残された場で静かに告げた。


「生々流転……万物は絶えず生じては変化し、移り変わっていくのじゃ。我らの宿命もまた然り。」


彼はふぅと溜息をついた。


「潤よ、真の使命に反した者は天命によって滅する時が来ようぞ。」


泰北もまたその場を去り、主無き玉座の間は再び静寂の間へと変化した。



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償の付箋

何かを得る時は同等の対価が必要だ。

私は対価を支払っていたに過ぎない。

だが、支払い切れない対価は別の形で返ってくる。

対価とはそう言うものだ。



前回、私の語った言葉に反応した六人。

 

マサキとリュウセイの表情は相変わらずで残りの四人は沈黙していた。

 

 

「孫光龍がお前の…!」

「実の親父さんだって!?」

「言葉通りよ、それを知ったのは最近の事だけど…」

 

 

それは驚くよね、前世の世界で戦って来た相手とその娘が目処前に居るのだもの。

 

私だって最初は驚いたけど、もう受け入れた。

 

それが必然であるから。

 

 

「ハスミ、判っているのか…そいつは!」

「この人がバラルの元締めである事?但しそれは前世の記憶で判明した事であって…」

 

 

ハスミは『今回はバラルから去ったと明確にハッキリとしているでしょ?』と静かに答えた。

 

 

「けどよ、そいつをそのままにして置けねえ……そいつは!」

「いずれ例の計画を起こすから?」

「知っているなら!」

「マサキ、何か勘違いしている様だけど…彼は既にバラルを去っているのよ?」

「だからってそいつを野放しに出来る筈がないだろ。」

「はぁ…一から説明し直さないと判らないのかしら?」

「は?」

「それは前世の記憶であった出来事で今世の今の現状に関係していないし発生してないでしょ?」

「…つまり記憶よる誤認と言う事か?」

 

 

マサキのやり取りとハスミの言葉の意味にギリアムが答えた。

 

そしてギリアムの答えに反応したキョウスケが話に加わった。

 

 

「記憶の誤認ですか?」

「ああ、最も前世の記憶を持つ君達には判りにくいのかもしれないが…」

「判りやすく言うなら記憶に縛られているが正しいと思います。」

 

 

続けてハスミは『記憶の誤認』についての説明に入った。

 

記憶保持者達はかつての記憶を所持している。

 

但し、その記憶通りに同じ事が起こるとは限らない。

 

戦いも人物もその通りに事を起こす事もまた限らない。

 

変異した事象には必ず変動が引き起こされるから。

 

今回のケースもその結果の表れである。

 

一例として光龍の今の状況も今までの行動が原因と言える。

 

彼はいずれバラルを率いて『総人尸解計画』を実行する人物。

 

そう彼らの記憶に刻まれている。

 

刻まれた記憶通りに事がなるとは限らない。

 

見間違えると取り返しのつかない結果を引き起こす。

 

 

「だから受け入れた…と?」

「私は最初監視を視野に入れて共に行動していましたが、それでもお父さんには敵対の意思は見られなかった。」

「…」

「変わりつつある事象とそれに対する変異…それが予想もつかない結果を生み出したのかもしれません。」

 

 

私は光龍の手を握っていた。

 

私の決意と決断への不安だったのかもしれない。

 

触れる事で安心感を得たかったのかもしれない。

 

記憶に縛られた者の一人として決着は付けなければならない。

 

 

「私は真実を追い求めた結果、この結果を選んだだけにすぎません。」

「ハスミ…」

「私はこの選択を間違いと思いたくないんです。」

 

 

実の父親と敵対する運命だったのかもしれない。

 

それでも結果は違った、だからこそ新しい未来を模索出来る。

 

私はこの結果で良かったと思っている。

 

 

「孫光龍、貴方は本当にハスミ少尉の…」

「この子の父親だよ、何ならDNA鑑定でも何でもすればいい。」

 

 

ギリアムの問いに光龍は嘘偽りなく答えた。

 

 

「ハスミ、確かお前の実の親父さんって…」

「公式では行方不明って事になっているけど、実際は御爺様が仕組んだ茶番だったの。」

「茶番?」

「私の家系は旧西暦時代のオーダー関係と国際警察機構やBF団とも関係を持っていたから常に狙われていたわ。」

「じゃあ、おふくろさんが亡くなったのも!」

「そうよ、リュウセイ。私の母さんは暗殺されたの…私はそれを御爺様が臨終される間際に知らされた。」

 

 

そして私はやっと母を暗殺した組織の名を知った。

 

 

「母さんの命を奪った組織の名は『クロノ』…いずれ私達が戦うべき勢力の一つよ。」

「クロノって確か…!」

「万丈さんからも話していたでしょ?」

「例の『Z事変』の組織の事か?」

「そう、聖戦と呼ばれる戦いで関わる組織の一つ…『御使い』共の下僕達よ。」

 

 

私は光龍の手を一度放し、自分の手を握り絞めた。

 

 

「奴らは僕らも危惧していた『百邪』と呼ばれるモノ達の一つだよ。」

「お父さん…」

「僕から話させてくれないか?」

 

 

光龍は語った。

 

 

「話を遡る事…機人大戦と呼ばれる戦いが起こる前の時代の事だよ。」

 

 

君達で言う先史文明が栄えていた頃の事。

 

『テンシ』と呼ばれる存在が僕らの生きていた世界に降り立った。

 

そして突如争いが起こった。

 

テンシは僕らを互いに争い合う種族と罵り滅ぼそうとした。

 

だが、ある一族の中で強大な念の力を持つバビル、アシュラヤー、ゲベル、ナシムの兄弟姉妹が立ち上がった。

 

テンシの出現で人々の心は奴らによって支配されていた事が判ったからだよ。

 

何とか難を逃れた人々は彼ら彼女らに希望を託し四体の人造神を創り上げた。

 

それがガンエデンだ。

 

ガンエデンと共に各先史文明はテンシに対抗する為にムーからは『ライディーン』、国の名を忘れてしまったが『マジン』、ジパングと呼ばれる国から『ジーク』、古き中国大陸で『超機人』、独自に進化を遂げた種族『ソムニウム』、オーリンの戦士達など対抗する為の力が産み出された。

 

そしてテンシへの反逆の時が迫る中で各先史文明間で暴走が起こった。

 

君達がL5戦役から戦ってきた『ミケーネ』、『邪馬大国』、『妖魔帝国』らの軍勢だ。

 

そして超機人の中からも百邪に下る者達が居た。

 

混乱の中で僕も応龍王と共にナシムの配下として戦った。

 

これが機人大戦の一節でもある。

 

長き戦いの末に各先史文明が滅び去り、テンシとガンエデンが差し違える事で戦いは終わりを告げた。

 

そして生き残った人々の手で世界は再び平和を取り戻した。

 

 

「ここまでは良かったんだけどね…」

 

 

何とか生き残ったガンエデン達はそれぞれの銀河を守護する為に別れた。

 

何時か再び出会える様に『転移の門』を銀河の海に残してね。

 

それと同じ様にテンシ達も自分達の配下である『クロノ』を各地に散らばせていたのさ。

 

何時の日か自分達の復活と共に世界を彼ら自身が滅ぼす為にね。

 

全く、自分達は『救済者』とか自称するエゴな連中の考える事は判らないよ。

 

 

「まあ、旧西暦時代の僕らもその事を知って焦って空回りしちゃったって訳。」

 

 

『不謹慎な言い方で悪いけどね。』と付け加えて光龍の話は切り上げられた。

 

その話の後にリュウセイとマサキの感想が始まった。

 

 

「イルイのご先祖達はそんな連中と戦っていたのか…」

「じゃあ、ハスミの家系もイルイのご先祖に仕える一族の一つだったのか?」

「そいつは…」

「光龍が実の親父さんならそう言う事だろ?」

 

 

マサキの発言に呆れた表情で光龍が答えた。

 

 

「君、馬鹿だろ?」

「何だと!?」

「ここまで言って察しない何てとんでもない馬鹿としか言い様子がないよ。」

「どういう事だよ!」

 

 

喧嘩腰のマサキに対してギリアムが助言を入れた。

 

 

「つまり、我々の推測は当たっていたと言う事だ。」

「推測って…」

「ハスミ少尉、君の家系はアシュラヤーの巫女の直系の家系なのだろう?」

「…その通りです、ギリアム少佐。」

 

 

ギリアムの問いにハスミが答えた。

 

 

「…隠す気は無くなったのか?」

「無くなったと言うよりは素性が解明される日が近づいているので早期にと判断したまでです。」

「てことはつまり…」

「ハスミ少尉はアシュラヤー・ガンエデンの巫女でありホルトゥスの真のリーダーであると言う事だ。」

 

 

驚く事なく彼らは静観してギリアムの言葉に耳を傾けた。

 

そしてアクセルと凱もまた感想を告げた。

 

 

「とんだ爆弾が身近に存在したと言う事だ、これがな。」

「確かに隠す必要がある事実だ。」

 

 

ハスミは続けて説明に入った。

 

 

「バビルがBF団、ナシムがバラルと言う様にアシュラヤーはホルトゥスと言う組織を所持しています。」

 

 

自らの手の内を明かす。

 

それがどんなリスクを背負い込むのか理解した上で答えた。

 

 

「ハスミ…」

「これが私の隠していた秘密よ。最低だよね…今まで隠してきたんだもの。」

「そんな訳ねえだろ!」

「…リュウセイ。」

「そんな大事な事を誰にも話せねえよ!」

「でも…」

「ずっと抱え込んで来たんだよな、俺達の前で作り笑いする位によ。」

「うん。」

「他の義親父さん達はこの事を?」

「知っている、もうお父さんの事も含めて話もしてある。」

「そっか。」

 

 

リュウセイは『義親父さん達が知っているなら安心だよな。』と付け加えた。

 

 

「ハスミ少尉、この事は記憶保持者達の間で抱えさせて貰う。」

「ギリアム少佐…」

「この件を公にするには事が大きすぎる…その時が来るまで預からせて貰う。」

「いえ、ご配慮ありがとうございます。」

「何言ってんだよ。」

「マサキ。」

「お前の御蔭で今まで助かった奴は大勢居るんだぜ?」

「…」

「ずっと影で俺達の事を支えてくれていたんだろ?」

「私がそうしたいと思ったから…」

「いつかこの事が皆に判った時、きっと報われると思う。」

 

 

感謝の言葉をありがとうと…

 

 

「うん。」

 

 

私はつっかえた部分が抜けていく様に感じた。

 

私は安堵してしまったのだろう。

 

だが、突如私の脳裏にある情報が入って来た、

 

 

「!?」

 

 

今までにない酷い頭痛にハスミは座っていた椅子から転げ落ちた。

 

 

「お、おい…一体どうしたんだ!?」

「そ…」

「ハスミ?」

「そんな事って…」

 

 

痛みから解放されたのか頭を抑えつつハスミは立ち上がった。

 

彼女の目元から伝うナミダ。

 

 

「…スダ・ドアカワールドに転移中のアムロ大尉がダークブレイン軍団の手に堕ちました。」

 

 

彼女の危惧していた闇黒の魔の手は異世界にも及んでいた。

 

自らの正体を晒した代償とその対価は余りにも大きすぎたのだ。

 

 

=続=

 



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第四十八話 『血縁《ケツエン》』

時代を巡る縁

その身に流れる縁。

この縁はその証。

私達は違える事は無いだろう。


前回の事である。

 

突如、アカシックレコードからの警告が鳴らされた。

 

私は傷みと共にそれを語った。

 

 

******

 

 

「アムロ大尉がダークブレインに捕まっただと!?」

「はい、間違いありません。」

 

 

ギリアム少佐の確認に私は肯定した。

 

続けて聞き慣れない世界の名前にリュウセイはハスミに質問したが、前世の記憶で面識のある凱がその一部を答えた。

 

 

「そのスダ・ドアカワールドって何だ?」

「確か、騎士ガンダム達が住む世界だった筈。」

「正確には並行世界のアムロ大尉達の魂に繋がりを持つ者達が生きる世界です。」

 

 

 

スダ・ドアカワールド。

 

ガンダム族と人族が住まうラクロア王国を支配せんとするジオン族の攻防から始まった世界。

 

後に様々な神話が産み出された。

 

問題なのはスダ・ドアカワールドには武者の国アークと英傑の国ミリシャが融合していると言う事実である。

 

これが何を意味するのか判らないが、何かの思惑でも絡んでいるのだろうか?

 

だが、何処かで接点があるとすれば在り得るのかもしれない。

 

 

「ハスミ、アムロ大尉がダークブレインに拉致された理由に心当たりはあるのか?」

「奴らとの接点があると言えば騎士ガンダムの方なのですけど…」

「騎士ガンダムが?」

「ええ、ロアの物語で騎士ガンダムはダークブレイン軍団のデブデダビデによって奴の生体パーツにされた記述がありましたから。」

「何だって!?」

「恐らくアムロ大尉はそれに感づいて自ら囚われた可能性もあります。」

 

 

キョウスケの質問に応対したものの予想外の答えに凱が声を上げた。

 

 

「ただ、アムロ大尉も系列の違う物語で敵に洗脳された事がある記述もありましたので…」

「そんな事が…」

「その物語ではアムロ大尉は敵に洗脳されて『ガンダムを狩る者』と意味合いを持つハンターに成ってしまいました。」

「だが、一体どうやって…」

「恐らくスダ・ドアカワールドへ進軍しているのはダークブレイン軍団の幹部クラス…デブデダビデ達の仕業で間違いないでしょう。」

「しかし、どうしてそんな事まで?」

「アカシックレコードの実況中継によるものです。」

「それじゃあクリスタル・ドラクーンとスカルナイトも?」

「その二名はミリシャへ進軍したものの現地の戦力に阻まれて撤退したみたいよ。」

「…良かった。」

「手駒にラマリスを使用していたのが敗因の様ですね。」

「どういう事だ?」

「向こう側はこちら側と違って魔物、妖怪、幽霊などの魑魅魍魎と言った存在への対処をしやすいですから。」

「その辺はラ・ギアスと似ているんだな。」

 

 

次の話に進めない為に私達はスダ・ドアカワールドの状況説明を一度切り上げた。

 

これにしても多大な情報量なので一度で話すには無理がある。

 

 

「現状で私達が注意すべき点は『修羅』、『デュミナス一味』、『ダークブレイン軍団』、『ギシン、ガルラ連合』、『火星の後継者』、『ガルファ』、『ロゴス』です。」

「待てよ、ガルファは空白事件で銀河達が螺旋城を破壊しただろ?」

「あれは先遣部隊、本来の目的であるガルファ本星となっている『アルクトス』の解放には至っていないわ。」

「あれが先遣部隊?」

「ええ、そして本星はデュミナス達の拠点の一つと推測している場所でもあるわ。」

「火星の後継者は?」

「演算システム自体を誰にも発見されない場所へ移動させたので前世の記憶であった奇襲作戦の展開はないと思います。」

「ギシン、ガルラ連合と言うのは?」

「ギシン星間帝国とガルラ大帝国と呼ばれ、双方とも空白事件中に同盟を結んでいたようです。」

「どちらも捨て置けない勢力と見ているが?」

「はい、一方は超能力者を戦力とし…もう一方はバッフ・クランとも並ぶ戦力を保有しています。」

「俺も前世で戦った事があるが、戦略、戦力に関しても侮れない連中だ。」

「ロゴスは既にザフト所有のコロニーの一つアーモリー・ワンでMS強奪事件を起こしています。」

「奪われた機体は?」

「アクタイオン・インダストリー社から出資されたテスト機でガイア・アビス・カオスの三機です。」

 

 

機体の名前にピンと来たリュウセイがハスミに訪ねた。

 

 

「そのMSってフリーダムみたいなガンダムなのか?」

「そうよ、リュウセイ…前者は一号機で本命の二号機はテストパイロット達と共に補給艦隊がオーブ経由でこちらの艦に向かっているわ。」

「え?」

「今頃、小父様の伝手でこちらの艦で預かって欲しいとテツヤ艦長達に通達が入っていると思う。」

「その小父様って?」

「国防産業理事って言えば判るかな?」

「まさか…ムルタ・アズラエルの事か!」

「正解です、小父様も私の協力者なのでご安心を。」

 

 

平然と爆弾発言をするハスミに対してマサキが愚痴っていた。

 

 

「どこまで隠し玉持っているんだよ…お前。」

「マサキ、備えあれば憂いなしって言うでしょ?」

 

 

発言した内容に唖然としている周囲を他所にハスミは話を続けた。

 

 

「お父さん、傷の方はどうでしょう?」

「君に分けて貰った念である程度は動けるよ、ただ…応龍皇だけは前回のダメージで起動出来ないからそこは理解して貰いたい。」

「判っています。」

 

 

ハスミの会話に疑問を持ったキョウスケが呟いた。

 

 

「前回のダメージ?」

「お父さんには空白事件の際に『黒のカリスマ』の動向を追って貰っていました。その時の戦闘で応龍皇に無理を…」

「泰北の呪符でもあればすぐに癒えるけど、無い物ねだりしても仕方がないからね。」

「何を言っているんです、人造スフィア機からのダメージを侮ると後に響きますよ?」

「そう言う訳でフルメンテナンス中って訳。」

「…(もしや、あの時の戦いでも満身創痍だったと?」

 

 

前世の記憶に於いて…

 

旧西暦時代の大戦でダメージを負っていたとは言え、あの戦力は健在していた。

 

もしも完全復帰した『応龍皇』が戦線復帰した場合を想像したキョウスケは背筋に寒気を過ぎらせた。

 

 

「あ、そうそう…君達に言って置く事があったよ。」

「話す事?」

「僕も君達に協力しよう、但し…」

 

 

光龍は一息置いてから答えた。

 

 

「…もしもハスミの身に何かあったら僕は全力で娘を護る選択を取らせて貰うよ。」

「肝に銘じて置きます。」

 

 

普段の表情とは違う冷徹な表情で光龍は告げた。

 

自身の娘に何かあった時は先に述べた選択を取ると…

 

それが脆い結束であると揶揄されている。

 

その約束にギリアムが応対した。

 

 

「…(まさかの親バカかよ。」

「…(こう言う所はハスミとそっくりなんだよな…やっぱり親子同士って奴か。」

 

 

内心でマサキとリュウセイが光龍の発言にコメントしていた。

 

後者に関しては光龍より「聞こえているからね。」と付け加えられていた。

 

 

「孫光龍、貴方の協力…感謝します。」

「そう言う事で、よろしく。」

 

 

巡り巡った縁は新たな縁を結び付けた。

 

その結び目は固く振りほどけない様に結ぼう。

 

私は選んだ新たな縁を切れない様に護るだけだ。

 

 

******

 

 

その後、ホンコンでの事後処理を後任の部隊とGGG機動部隊に引継ぎを行った。

 

そのままハガネは補給艦と合流後に宇宙へと上がる事となった。

 

理由は突如出現した謎の巨大建築物の調査である。

 

残りの鋼龍戦隊は地球各所にて出現した謎の集団の対処に当たる事となった。

 

ハガネはアクタイオン・インダストリー社から受領したテスト機と共に…

 

私達は更なる戦いに飲まれる事となった。

 

例のお父さんの件は艦長らの間で秘密にして頂く事となった。

 

私の家系の御家騒動によるものなので余り話せないと説明したら納得して頂けた。

 

オーダー繋がりでエルザム少佐達には真実を話しておいたが、余りいい顔はされなかった。

 

後はリシュウ博士に話すのみだが、どう決着を着けるかは不明だ。

 

迫りくる早期の予兆の暗躍を気にしつつ私は巡り遭った縁を無駄にしたくない。

 

 

=続=

 




舞台は宇宙へ。

そして現れる建造物。

選択を見誤らない様に刻む。

次回、幻影のエトランゼ・第四十九話 『ソーディアン《刀船》前編』。

荒ぶる闘争の終わりは遠い。


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第四十九話 『刀船《ソーディアン》前編』

奇跡を巡った縁。

これもまた一つの出逢い。

在り得たかもしれない出逢い。

運命は変えられるのだと思えた。

だが、同時に変えられない運命もある事を実感する。


前回、ハスミが真実を告げ…記憶保持者達の協力者として決意した頃。

 

異世界、スダ・ドアカワールドが存在する宇宙の何処か。

 

そこに暗黒のオーラを纏った巨城が浮遊していた。

 

名をダークアイアンキャッスル。

 

いずれ戦地となる場所である。

 

 

******

 

 

城内の謁見の間にて。

 

 

「どうやら失敗して逃げ帰って来た様だなぁ~!」

 

 

嫌味たっぷりの笑みをしつつ大爆笑している存在。

 

名をデブデダビデと言う。

 

古代のファラオの様な風貌に半分が石像と言う謎の風貌を持つ。

 

ちなみに先の発言と同様に絶対に上司に向かないタイプである。

 

 

「ナレーション!一言余計だぞ!!」

「誰に向かって言っとんのや?」

「放ッテ置ケ。」

 

 

スダ・ドアカワールドの英傑の国ミリシャの侵攻に失敗し撤退を余儀なくされた同僚のスカルナイトとクリスタル・ドラグーンを嘲笑していたが謎のナレーションにツッコミを入れた事で罵倒大会は一旦流れを逸れた。

 

 

「まあ、確かにワイらが失敗したのはハッキリしておるしな…そこは言い訳せえへんで?」

「ダガ、アノ国ニハ容易ナラヌ気配ガアッタ…撤退ノタイミングハ間違イデハナイダロウ。」

「ああ、今のワイらでは手が出せへん…様子見をするしかないやろうな。」

「どういう事だ?」

「要はあの国はダークアイアンキャッスルを動かす為のエネルギー収集には向かへんって事や。」

「ふむぅ~つまり逆のエネルギーに満ちていると言う訳かぁ?」

「確か…『龍脈』って言うらしいで?気配もこっちが嘔吐する位綺麗すぎて気持ち悪くなったわ。」

「な~るほどぉ?なら~俺様が襲撃したラクロア王国の方がエネルギー収集に向いていると言う訳かぁ…」

「そう言えばデブ公…ワイらを罵倒したって言う事はそっちに収穫でもあったんか?」

「無イトハ言ワセンゾ?」

「フフフ、ガハハハッ!!俺様はあの騎士ガンダムを始末し手駒と成る人材を手に入れたのだ!」

「ほー。(どうせ、騙し討ちやろ?」

「フン。」

 

 

一人勝手に高笑いするデブデダビデを他所に二名は遠い目で傍観していた。

 

 

「で、その人材って言うのは誰や?」

「名はアムロ・レイと言う奴だ。」

「アムロ・レイ?」

「…どうやらそいつは転移でこの世界に飛ばされて来た一団の一人らしい。」

「転移?まさか…」

「恐らくロアの関係者と踏んで捕らえたのだが大当たりを引いたのだ。」

「つまり、ソイツはロアと接点を持っているという訳か?」

「しかし…奴もしぶといのでな、俺様特製の拷問で吐かせたのだ!」

「うわ…(相変わらずえげつないわ。」

 

 

サディスティックな表情でコンソールを弄り、モニターでその様子を映し出した。

 

 

『…』

「ふん、薬を入れ過ぎたか…まあいい。」

 

 

映像に映された人物は両手両足首を拘束され、長い間に電流攻めから何かの薬品攻めなどを受けていたらしく意識は飛んでいた。

 

電流の影響かパイロットスーツは所々焦げと破損が見られ拷問がより過酷だったと認識させた。

 

本人も眼光の終点が定まっておらずブツブツと何かを呟いている状態だった。

 

首元には青紫に変色した針負けの跡が痛々しく残っていた。

 

 

「俺様が見た所、いい腕の戦士と見ている…このまま俺様の手駒として使ってやろう。」

「まあ勝手にせえや、ワイらはワイらで動くんでな。」

「先ノ戦イデ大量ノラマリスヲ失ッタ、ココデ増強シナケレバ…」

「そう言う事で戦力供給はこのままデブ公に任せるで?」

 

 

スカルナイトはモニター越しではあるが、気絶したアムロに少なからず同情していた。

 

 

「…(堪忍なぁ、今回は運がなかったって事で諦めてくれや。」

 

 

逆にモニター先の拷問室で拘束されたままのアムロは変わらずブツブツと呟いていた。

 

 

「シャア…後は頼んだぞ。」

 

 

これから自身に起こる事を予想しながらも希望を捨てずにいたが…

 

アムロ自身は目処前で倒された騎士ガンダムの姿に絶望し、薬の影響で心は闇に飲まれていた。

 

救えなかった後悔と共にアムロは涙を流して意識を失った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

所変わって元の世界、何処かの場所の何処かの一室にて。

 

巨大な機影が座する空間。

 

空間への扉が開閉すると一人の少年と三人の少女が入室して来た。

 

 

「デュミナス様、例の者をお連れしました。」

「ご苦労様です。」

 

 

三人の少女の内の一人は虚ろな眼をしており、薬品か何かで意識が奪われている状態だった。

 

 

「デュミナス様、コイツが例のお宝を動かせる存在なんですか?」

「ええ、試して見なければ判りませんが…」

「では?」

「はい、早速…エミィ・アーマーを彼女に。」

 

 

二人の少女と一人の少年が虚ろな眼をした少女にエミィ・アーマーを渡すと…

 

アーマーが反応し少女へと装備されていった。

 

 

「これって成功したって事?」

「そうみたいね。」

「デュミナス様、次の指示はどうされますか?」

「この者と彼の者達らで出撃しオーバーゲートエンジン若しくは時流エンジンの確保を。」

「判りました。」

 

 

少年達はアーマーを着込んだ少女と共に室内を後にした。

 

 

「私は真実を知りたい…私が求める『答え』を…」

 

 

機影はそう答えると再び沈黙した。

 

 

******

 

 

補給艦と合流しテスト機の受け取り後、宇宙へと上がった私達。

 

特に目立った戦闘はなく、空いた時間にテスト機のパイロット達と友好関係を築いていた。

 

 

「私、ステラ・ルーシェ。」

「俺はアウル、アウル・ニーダ。」

「スティング・オークレだ…よろしく。」

 

 

三人の階級は曹長。

 

元々はアクタイオン・インダストリー社のオーブ支社でアルバイトで働いていたが、パイロット技術を見込まれてテスト機のデータ収集の仕事をしていた。

 

しかし、バルトール事件でテスト機を動かせる人材が負傷した為に急遽三人が選出されたのである。

 

原作と同様にステラがガイア、アウルがアビス、スティングがカオスの担当を務めている。

 

ラトゥーニ達と同じ出身であると言う事もあって歳の近いリュウセイ達が応対していた。

 

 

「確か、三人ともラトゥーニ達の知り合いだったよな?」

「うん、皆ここに居るって聞いて会えると思った…」

「ごめんな、ラトゥーニ達は前の再編でヒリュウ改に移動になっているんだ。」

「ううん…大丈夫。」

「じゃあ、アラドとゼオラのいつものアレも見られないって事か。」

「止めとけよ、アウル。」

「ケンカする程、仲がいいのは相変わらずだったけどね。」

「ハスミ、ロサ…どうしたの。」

「あ…」

 

 

ロサの名前を出された私は正直にステラ達に答えた。

 

 

「ロサは…別の任務に就いていて今はいないの。」

「そうなの…?」

「ごめんね、きっとステラ達に会いたがったと思うけど。」

「…うん、判った。」

「ハスミ。」

「気にしないで、ロサが任務なのは本当の事なんだから。」

 

 

ステラに悪気はないだろうが、いつも傍に居てくれたロサの喪失。

 

それは私には堪えた様だ。

 

リュウセイも声を掛けてくれたが、私は大丈夫と答えておいた。

 

残りの談笑をリュウセイ達に任せて私はその場を後にした。

 

 

「ハスミ。」

「クスハ、どうしたの?」

「ロサの事で無理してるでしょ?」

「クスハには誤魔化せない、か…」

「判るわよ、何年貴方の幼馴染をしていると思ってるの?」

「そうだよね。」

 

 

そのまま、私の後を追いかけて来たクスハと話を始めた。

 

 

「龍王機の方はどう?」

「うん、最近は龍王機の気持ちも少し判る様になってきたわ。」

「そう、良かった。」

「でも、どうしてか…ハスミと連携を取ろうとすると不機嫌になるの。」

「それは私にも…(きっと、私が光龍の娘って判ったから昔の因縁込みで執念深くなっているんだろうな。」

 

 

私は龍王機と虎王機が威嚇している様子を想像しながらクスハの話に応対していた。

 

 

「ハスミのお父さんの事、エルザム少佐から聞いたわ。」

「アラン・ハリスが私の実の父って事?」

「うん。」

「私も国際警察機構経由で知って…向こうでの任務の合間に数える程度しか会わなかったけど。」

「テンペスト少佐達はこの事を?」

「ちゃんと話して置いた、今でもテンペスト少佐達は私の義父に変わりないもの。」

「そう、良かった。」

 

 

ごめんクスハ、エルザム少佐達がお父さんの本来の姿の事を話さなかったのはきっと遺恨を残すと思う。

 

それでも真実に近づき過ぎる事を危惧した少佐達の判断をどうか恨まないで欲しい。

 

今はまだ知るべき時ではないから…

 

 

「っ!?」

「ハスミ!」

「ええ、何処かで戦闘が起こっている。」

 

 

ガンエデンの巫女であるハスミと徐々に念者として覚醒しつつあるクスハは戦闘の気配を察知した。

 

それと同時に艦内に第一種戦闘配備のアナウンスが入った。

 

 

>>>>>>

 

 

ハガネが到達した宙域では既に戦闘が起こっており、ザフトの新型艦と謎の幽霊戦艦が戦闘を続けていた。

 

ザフトの新型艦の名はミネルバ。

 

そのブリッジにてオペレーターより艦影接近の通達が行われた。

 

 

「艦長、この宙域に接近する艦影があります。」

「所属は?」

「地球連合軍です。」

「まさか例の艦と?」

「在り得るわね、メイリン…所属がハッキリするまで警戒を怠らないで。」

「了解しました。」

 

 

彼女達の会話後、宙域に現れた艦。

 

その姿に覚えのあった艦長らは声を上げた。

 

 

「アレは!?」

「鋼龍戦隊のハガネね、かつて連合軍・独立遊撃部隊ノードゥスの旗艦の一つ。」

「あれがL5戦役と空白事件の立役者…」

「彼らが来たと言う事は何かあるわね。」

『こちら地球連合軍極東方面伊豆基地所属艦ハガネ、応答されたし。』

「艦長、どうされますか?」

「繋げて頂戴。」

「了解。」

 

 

メイリンが応対し通信を繋げた。

 

 

「こちらザフト所属、戦艦ミネルバ…私は艦長のタリア・グラディスです。」

「自分はハガネ艦長、テツヤ・オノデラです。」

「そちらの要件は?」

「我々は現在、軍上層部の命令でこの先の宙域に出現した建造物への調査で赴きました。」

「では、あの艦の事は?」

「そちらは国際警察機構からの情報でテロ行為をしているブルーコスモス派の残党艦と情報が入っています。」

「残党艦ですか?(ハガネか…彼らなら連合軍の中でもこちらとの話が通じる相手、信用してもよさそうね。」

「はい、MS強奪の件はこちらにも通達が入っており…テスト機を出資したアクタイオン本社からも回収が不可能であれば破壊も矢も得ないと答えを貰っています。」

「判りました、元はこちら側の不徳ですが…助力を願えますか?」

「そのつもりです。」

「ご協力感謝します。」

 

 

その後、ミネルバ隊とハガネ配備隊との合同戦線が敷かれた。

 

同時に出撃したハガネ配備隊の中に自分達が追っていた機体の姿にミネルバ隊のパイロット達は驚きを隠せていなかった。

 

 

「ちょっと、あれって?」

「強奪された機体の二号機と情報が入っている。」

「紛らわしいわね、と言うより二号機なんてあったの?」

「恐らく地上での戦闘データを取る為のものだろう。」

 

 

ミネルバ隊のルナマリアとレイの会話から始まり、無言のまま様子を伺っていたシンにルナマリアが話しかけた。

 

 

「…」

「シン、どうしたのよ?」

「いや、ちょっと…」

 

 

通信で声の主が判ったハスミがシンに話しかけた。

 

 

「その声、やっぱりシンか…」

「もしかしてハスミさん!?」

「空白事件のオーブ以来だね。」

「お久しぶりです。」

「キラから貴方がザフトに入隊したって聞いたから驚いたけど…立派になったわね。」

 

 

しかしルナマリアは不機嫌になりシンに悪態を付いていた。

 

 

「知り合い?」

「ああ、オーブに居る友達のお姉さん。」

「ふうん…」

「な、何だよ?」

「別に。」

 

 

同じ様にステラ達も通信で話しかけていた。

 

 

「シン、また遭えたね。」

「その声はステラ…ステラなのか!」

「ステラだけじゃないぜ。」

「俺達も居るよ。」

「スティング、アウルもか!」

「もしかしてシンの言ってた友達?」

「ああ、三人ともオーブにいた筈じゃあ…」

「その話は戦闘の後で、ちょっとややこしい事に巻き込まれちゃってね。」

 

 

オーブで暮らしている筈の三人が戦場に出ている事に不安を持ったシンだが、ハスミの助言で一度は落ち着いた。

 

 

「あの艦…ロゴス所属のガーディ・ルーで間違いないわね。」

「ロゴス?」

「死の商人達の名称で一部の連合軍将官に賄賂を送って私腹を肥やしている連中よ。」

「そんな奴らが…!」

「国際警察機構でも行方を追っていたけど、連中…また戦争を起こしたい様ね。」

「くそっ、アイツらのせいで…」

「気持ちは解るけど、まずは連中の戦力を無力化して捕獲しないと…」

 

 

ハスミ達は一度話を切り上げて戦闘へと突入した。

 

 

******

 

 

同時刻。

 

地球のランタオ島にて。

 

先の新型DG細胞とバルトール事件の事後処理を行う一団が居た。

 

UGの開発者であるライゾウ博士とODEシステムの産みの親であるユルゲン博士。

 

そしてEOT機関の技術師団の一行である。

 

休止状態になったODEシステムのコア内部の状態を調べる為に現在も調査を続けていた。

 

コアにはライゾウ博士の御子息らが取り込まれている以上、細心の注意を払ってである。

 

 

「やはり二人…いや、三人は内部に取り込まれたままの様だ。」

「休止状態になったのも何か意味があるのでしょうか?」

「かもしれない。」

「父さん、ドモン達は…」

「キョウジ、やはり…コアを切り離してアイドネウス島に回収したいが無理に動かすのは危険だろう。」

「ドモン。」

「ホンコン本土で選手達の新型DG細胞の除去治療が旨く行っている分、こちらの解析が進まない…一体何が原因なのでしょう?」

「判らない、何か見落としている部分があるのかもしれない。」

「博士、別の方法で調査を行ってみます。」

「判った、カイル君…次の調査の準備を始めてくれ。」

 

 

ODEシステムのコア周辺に繋がった電子器具で内部調査を行う博士達。

 

原因不明のまま調査は難航するばかりであった。

 

そんな博士達の状況に突然の来訪者が現れた。

 

 

「ふうん、ソレの調査が遅れているんだ…だったらアタイ達が貰い受けるよ。」

「君達は…?」

 

 

コアの前に現れた三人の少年少女達。

 

容貌から察するに年齢は12~4位だろう。

 

 

「そう言うのは知らなくてもいいんじゃない?」

 

 

ニヤニヤと嫌味な笑顔をしていたピンク色の髪の少女。

 

彼女らは突如機体を呼び出してコアを奪取せんと破壊活動をおこなったのだ。

 

 

「テュガテール!」

「ヒュポクリシス!」

「来てエレボス。」

 

 

三体の戦機人形の出現により周囲は混乱状態に陥った。

 

 

 

「キョウジ、早く退避するんだ。」

「父さん、このままではドモン達が…!」

 

 

 

コアを奪取されれば内部に取り込まれたドモン達がどうなるか判らない。

 

最悪の結末が引き起こされる可能性が脳裏を巡ったキョウジはコアを護りたいと願った。

 

自分には弟達の様に戦う力はない。

 

 

「…(また俺は守られているだけなのか。」

 

 

彼の悲痛な思いに答えたのかコアが再起動を開始したのだ。

 

 

「…ドモン?」

 

 

一瞬であるが内部に取り込まれた筈の弟の声が彼の脳裏に過ぎったのだ。

 

そしてコアはあるモノを生み出したのだ。

 

 

「あれはUG!?」

 

 

コアから排出される様に出現したUG。

 

そのUGがティスらが搭乗する戦機人形に攻撃を仕掛けたのだ。

 

一度、彼女達を島の外へ引かせるとUGはキョウジに近づきコックピットのハッチを開けた。

 

 

「俺に乗れと?」

 

 

そう囁いたかの様にUGの頭部は軽く頷いた。

 

 

「判った。」

 

 

キョウジはUGの意思に従い、コックピットへと乗り込んだ。

 

 

「キョウジ、大丈夫か?」

「父さん、俺が援護するからユルゲン博士達と避難してくれ。」

「だが…」

「俺もただ守られているだけじゃない、俺も自分の意思で決めた。」

「判った、だが…無理はするなよ。」

 

 

キョウジはそのままUGに搭乗しティス達に応戦する構えを取った。

 

自分の戦闘経験は無に等しい。

 

それでも科学者の視点で奴らと戦える方法はある筈だと意志を強く持った。

 

 

「全く、機体を手に入れたからって調子に乗っちゃってさ!」

「ティス、どうするの?」

「このままアイツを潰してあの機体ごとコアを奪っちゃおうよ。」

 

 

子供とは思えない発言をするティスにデスピニスは不安な気持ちになるものの彼女の意思を尊重した。

 

 

「ふん、懲りずにまた現れおったか!」

 

 

同時に現れた黒い機影。

 

 

「その声はマスター!?」

「キョウジよ、自身の弟を護る意志は認めよう…だが、無謀な行動をドモンは求めて居らん事は理解しておけ!」

「は、はい。」

 

 

無謀な行動をする素振りがあったキョウジにマスターは叱咤を加えた。

 

 

「げ!またあの爺さん!?」

「ひっ!」

「ど、どうしよう…」

 

 

ティスらはバルトール事件が起こる前に一度マスターと対峙しており、完膚無きまでに干されていた。

 

その驚異的な戦闘能力に太刀打ちできない事は身を持って理解していた。

 

 

「さて、ワシの可愛い弟子に手を掛けようとした輩よ…覚悟は出来ているな?」

 

 

マスターの駆るマスターガンダムの背後に強大なオーラが漂っていた。

 

東方不敗・マスターアジア。

 

彼の逆鱗に触れた三人が敗走と言う名の撤退を余儀なくされたのは宣戦布告から僅か五分後の事である。

 

笑い声と共に三機を翻弄しマスタークロスで投げてはぶん殴りの連続拳ラリーをやってのけていた。

 

正に千切っては投げて千切っては投げての理屈である。

 

三機ともその連続拳ラリーから逃れられる筈もなく機体を損傷させるしかなかった。

 

その惨状にキョウジは「ドモン、よくあの修行に耐えていたな…」と心の中で呟いていた。

 

 

******

 

 

所変わって宇宙では。

 

ハガネ隊とミネルバ隊の合同作業でロゴス艦を鎮圧。

 

奪われた機体は破壊と言う形で幕を下ろした。

 

諸々の取り調べはプラントと国際警察機構からの出向者らで行う事となり、生き残りは合流したザフトからの後続艦に連行されていった。

 

戦艦ミネルバはギルバート議長からの指示でハガネと行動を共にする事が決定。

 

二艦は出現した建造物の調査へと向かった。

 

 

=続=

 




撤退を余儀なくされる一行。

だが、新たなる来訪者と共に世界は大きな揺らぎに巻き込まれる。

標と成る彼女達の瞬転もまた無限力の嘲笑。

次回、幻影のエトランゼ・第四十九話 『刀船《ソーディアン》後編』。

この旅路も未来を変える為の旅路。


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第四十九話 『刀船《ソーディアン》後編』

語られるのは新たな代償。

それは記憶を持つ者への禍。

選んだ選択肢が己の足枷となる。


前回の戦闘後、私達はミネルバ隊と共に合流し行動を共にする事となった。

 

現在はミネルバ隊との交流をしつつ調査対象である建造物が位置する宙域に向かっていた。

 

私ことハスミは前回のステラ達の件をミネルバ隊所属のシン・アスカに説明。

 

彼女達が自分の意思で戦っている事は判って貰えた。

 

 

「ステラ達が自分の意思で戦っているのなら俺は何も言いません。」

「ゴメン、本当ならあの子達を巻き込むつもりはなかったの…」

「事情はキラさんから話は聞いています、それに『御使い』の事もあるなら『仲間集め』はしておいた方がいいです。」

「ありがとう…それとステラ達はこのまま鋼龍戦隊が責任を持って預かる事になる。」

「そうですか。」

「ええ、場合によっては国際警察機構に就職させようと思っているわ。」

「…えっ?」

「この先の可能性のある戦いに巻き込まれる可能性も否定できない…安全の為と思って頂戴。」

「判りました。」

 

 

そして私はシンと別れ、目的地へ到着するまでの休憩を挟んで記憶保持者達と会議を行っていた。

 

シンが不参加なのは彼が黒の英知に触れていない為である。

 

後でギリアム少佐らに事情を説明して貰う形を取っている。

 

 

******

 

 

ハガネ艦内、第一グリーフィングルームにて。

 

ギリアムとハスミの応対から始まった。

 

 

「ハスミ、話したい事とは?」

「それは、バルトール事件が起こる前から私が独自に動いていた事に関してです。」

「それは諜報部が軍上層部と国際警察機構との連携時の指示で『アルジャーノン騒動』の事件を追っていた事と関係が?」

「それもありますが…今回話す事は違います。」

「例の報告書に記載されていない内容か?」

「はい、しかも現在進行形で起こっている事も含めてです。」

 

 

一つ目は異世界スダ・ドアカワールドでの状況です。

 

アムロ大尉がダークブレイン軍団の手に堕ちた事。

 

これによりアムロ大尉が今後敵として出撃させられる可能性があります。

 

これに関しては現地に滞在しているロンド・ベル隊が対処する形となります。

 

救いなのはダークブレイン軍団の居城ダークアイアンキャッスルがエネルギー枯渇と大規模破損によって転移が出来ないと言う事実です。

 

奴らは後のフューリーとの戦いで接触しますが、同じ様に遅延させる為の時間稼ぎを行ってもフューリー戦までが限度です。

 

兵器に寄生するマッドネットやラマリスに変わる戦力を増やす可能性も否定できません。

 

 

「マッドネット?」

「ロア達がEFに転移する際に襲撃を仕掛けて来たアメーバ状の寄生生物です。」

「例のPTやAMに取り付いていた奴らか…!」

 

 

マッドネットの言葉に反応したアクセル。

 

その正体を説明したハスミの言葉に合点していた。

 

 

「二つ目は先程説明した通り、現在進行形で起こっている事です。」

 

 

記憶保持者達に対する無限力の介入です。

 

これにより記憶保持者達の一部に被害が出ています。

 

 

「被害だと?」

「ドモンが新型DG細胞を使用したODEシステムのコアに取り込まれたのを被害の一つです。」

「他には?」

「確定しているのはアムロ大尉のダークブレイン軍団による拿捕、アキトの消息不明、GGG機動部隊の極端な戦力低下、外宇宙組との合流が遅れている事。」

「…それはお前が知る物語にもあったのか?」

「似ている状況であればあります。」

 

 

ドモンの状況はラウル達の物語と本来のバルトール事件の顛末からです。

 

但し、その話では配役が違いますがね。

 

 

「配役が違う?」

「本来その物語でDGに操られるのは死亡した東方不敗でした、そしてODEシステムに取り込まれる運命だったラミア少尉……状況が少し似ていませんか?」

「…」

「次にアムロ大尉には騎士ガンダムと魂の繋がりがある為にデブデダビデの手に落ちたのでしょう。」

「アキトの消息不明と言うのは?」

「本来ならアキトはユリカ元艦長と新婚旅行に向かった際に火星の後継者に拉致されて演算システム解明の為に人体実験の素体にされました。」

「それをお前が未然に防いだのか?」

「はい、ただ彼らのお店を燃やす結果となりましたが…」

「GGG機動部隊の戦力低下は一体?」

「それは彼らの因縁の相手『ソール11遊星主』との戦いが迫りつつあるからかもしれません。」

「ソール11遊星主って、あの連中もいるのかよ!」

「リュウセイ、前にも話したでしょ?未来を変える可能性が増える分…逆もあるって?」

「つまり、今回の事件には君の言う配役が入れ替わっている事と更なる不安定要素が入りつつあると言う訳か?」

「恐らくは…これも無限力の介入によるものです。」

 

 

無限力が求める余興に余りにも花が無いと言う理由から今回の水を差された。

 

何処までも虫唾が走る。

 

 

「君が空白事件で負傷したのも僕がバラルを裏切った事による夏喃達からの報復を受けたのも無限力の仕業って訳か…」

「その通りです。」

「無限力って確か…イデの連中の事かな?」

「はい、今回も同じ様に世界を本来ある闘争の世界に引き込もうとしています。」

 

 

光龍の説明と共に原因を語るハスミ。

 

そしてキョウスケらはハスミから更なる事実を告げられた。

 

「今回の戦いも私が無限力のお遊びで飛ばされるしか代償を支払う方法がないのかもしれません。」

「飛ばされる?」

「今までの九十九事件関与、セフィーロ召喚、EF転移、レムレース強襲、隔離空間騒動は私が代償を支払って来た結果です。」

 

 

飛ばされた先々で起こる事件を解決し私自身が傷つき苦しむ様を無限力らが見る事で代償は支払われる。

 

まるで演劇でアドリブ入りの台本通りに動く役者の様に。

 

 

「それがお前の無茶振りと厄介事引き寄せ体質の正体か…」

「はい、無限力に設定された私への呪いです。」

「呪いか…」

「例え呪いでも構いません、それに…飛ばされたからこそ様々な出会いや体験も出来ました。」

 

 

九十九事件で出会った森羅の仲間達。

 

セフィーロで光達と出会いエメロード姫達に明日を作ってあげられた。

 

EFでハーケンさん達との旅路。

 

レムレース強襲によって怪我もしたけど、光龍…お父さんと再会出来た。

 

隔離空間でロジャーさんやランドさん、セツコ達と手を取り合える事が出来た。

 

 

「私は飛ばされた事に意味があると思っています。」

「そうか。」

 

 

アカシックレコードは新天地へ飛ばされる事が私への呪いで在り試練であると答えた。

 

それは私自身の中で留めて置こう。

 

 

「では、これからの行動についての状況説明に移ります。」

「次の行き先は例の修羅達の居城…転空魔城だったか?」

「はい、前と同じであれば転空魔城には『絶界宝』と呼ばれる防御機構が備わっています。」

「絶界宝?」

「こちら側風に言うと『エネルギー遮断機構』を備えたシステムの事です。」

「それはどう言ったものだ?」

「様々なエネルギーの一切を遮断する事が出来る…超エネルギーである光子力やゲッター線もです。」

「だが、抜け道もある。」

「はい、あのシステムは生体エネルギーのみ遮断出来ないと言う弱点があります。」

「居城の主である修羅側の機動兵器・修羅神の動力源は生体エネルギー…厄介なのは変わらずか。」

 

 

ギリアムに対し修羅の居城・転空魔城の防御機構の説明をハスミ、キョウスケ、アクセルらが進める中。

 

光龍は冗談でもない発言をした。

 

 

「ふうん…応龍皇がメンテナンス中で無ければ、僕が奴らの城に一撃加えられたのだけどね。」

「お父さん、これも無限力の陰謀が絡んでいるので軽はずみな事はしないでください。」

「はいはい。」

「…冗談にも聞こえねえぜ。」

「あんなのぶっ放したらソーディアンがタダじゃ済まねえよ。」

「いやいや、僕も一応真面目に答えたつもりなんだけどね?」

「…お父さん。」

「これ以上は娘の機嫌が悪くなるから止めておくよ。」

 

 

恐らくフォルカ・アルバーグは既に城から離脱しているし。

 

ファイターエミィと化したショウコ・アズマはファイターロアと交戦中。

 

流れは原作通りにややこしくなっていく。

 

それでも他のノードゥスのメンバーがユーラシア大陸に現れたオーバーデビルの討伐に成功しただけまだ有難いか…

 

それにマスター達がODEシステムのコアを守ってくれた事でデュミナス一派への戦力供給は出来なくなっている。

 

ザール・ガルラ連合も外宇宙組のメンバーが止めているけど、ゾヴォークに不穏な動きがあるし。

 

今回はどこまで戦乱が広がる?

 

ユニファイド・ウィズダムの戦乱変異が多すぎて読みづらくなってる。

 

 

「ギリアム少佐、これを渡して置きたいのですが…」

 

 

私は軍服の内ポケットからUSB型のメモリーをギリアム少佐に手渡した。

 

 

「これは?」

「私が前世上で識る…こちらの事件の情報を纏めたメモリーです。情報漏洩を防ぐ為に今回の戦いに関係する事案のみが入っています。」

「何故これを?」

「また飛ばされる可能性がある以上、不在時に何かあった場合はそのメモリーから情報を抜き出してください。」

「…」

「中にはブルーロータスへ連絡を取れるアドレスも入っています、但し一度きりですが…」

「使い所を見誤るなと言う事か?」

「少佐でしたら、これの扱いを間違えないと思ったからです。」

 

 

ギリアムは少し考えてからハスミに答えを出した。

 

 

「判った、責任を持って預からせて貰おう。」

「宜しくお願い致します。」

 

 

その後、調査対象物へ接近したアナウンスが艦内放送で入った。

 

私達は調査対象物へ出撃を命じられたが…

 

既に新たな戦いが始まっていた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

パイロットスーツに着替えた後、格納庫の自機に向かう途中で特機用ハンガーに座する龍王機と虎王機の視線を感じた。

 

 

「「…」」

 

 

私は二機に念話で声を掛けた。

 

 

「…(私は暫く留守になる、その間…クスハ達を守ってあげて。」

 

 

二人は了承したかのように唸った。

 

私が出来るせめてもの声掛けだった。

 

私はそのままPT並びにAM用のハンガーへ移動し自機に搭乗した。

 

エクスガーバイン・クリンゲ。

 

ある事情から複座式にコックピットを改装しており二人乗りとしても使用する事が出来る。

 

私は乗り込んだ後、コックピットのハッチを閉めようとした所で後ろから声を掛けられた。

 

 

「ちょっと、いいかな?」

「ハリスさん!?」

 

 

既にエクスガーバインのコックピットの後部座席に搭乗していた孫光龍。

 

事情を伏せている艦長らには偽名であるアラン・ハリスで通してある為、偽名で呼んだ。

 

 

「僕も乗せてってくれないかな?」

「貴方には居住スペースで待機指示が出ていた筈です。」

「それは大丈夫、君の所の艦長さんに掛け合って上司命令で乗せてもらえる様に許可を貰ったからね。」

「…」

「それに僕に隠し事は無し…龍王機達の声は僕にも聞こえる事は忘れてないよね?」

 

 

どうやら先ほどの龍王機達との念話を聞かれていたらしい。

 

 

「…ドコヘ飛ばされるかも定かではない旅路へ一緒に往く気ですか?」

「それも楽しそうだからね。」

「判りました、但し怪我だけはしないでくださいよ?」

「それはハスミもだよ?」

 

 

私は静かに溜息をついた後、コックピットのハッチを閉めて出撃準備に入った。

 

 

>>>>>>

 

 

所変わって巨大建造物付近の宙域にて。

 

 

「アンタ、中々やるね?」

「…」

 

 

烈級修羅神の残骸が周囲に浮遊する中。

 

馬頭型の修羅神アガレスと対峙する蒼い特機。

 

 

「その機体、もしかして地球製?」

「…」

「アンタ、無口なんだな?」

「戯言はいい、早く始めないのか?」

「?」

「貴様ら修羅は闘争への思想に満ちていると思ったが?」

「確かに俺は修羅だ、だが自由に生きる事を誰かに指図されるつもりはない。」

「そうか…」

「ま、倒された仲間の仇討ち位はさせて貰うぜ?」

「構わん、俺はいつでも相手になる所存だ。」

 

 

アガレスと蒼い特機が組手をする様に相対し構えるが…

 

同時に宙域へ接近したハガネとミネルバ。

 

既に戦闘が始まっている事もあり、各艦からPT、AM、MS、特機の混合隊が出撃を開始した。

 

 

「艦長、例の蒼い特機の姿を目視しました。」

「各機、天臨社のテスト機が例のアンノウン部隊と交戦中だ…救助しつつ宙域より離脱する。」

「まさか…あの巨大建造物が例のアンノウン達のアジトだったとは。」

「ブルーロータスからの知らせが無かったらどうなっていたか…」

 

 

艦長からの指示もあり、代表としてキョウスケが蒼い特機に通信を繋げた。

 

 

「そちらの特機、応答せよ。」

「要件は?」

「そちらの所属と名を教えて貰いたい。」

「所属は天臨社、名はケイロンだ。」

 

 

ケイロンの名を聞き、反応するハスミ。

 

 

「ケイロン…まさかケイロンなの!」

「久しいな、ハスミ。」

「はい、空白事件以来ですね。」

「ハスミ、知り合いなのか?」

「はい、彼が天臨社の所属までは知りませんでしたか…」

 

 

ハスミとケイロンのやり取りにATXチームのメンバーがそれぞれの感想を伝えた。

 

 

「わぁお~♪ま・さ・か・のハスミちゃんの愛しのダーリンとか?」

「は?」

「まさかの問題が発生したか、これがな。」

「ハスミ…そうなの?」

 

 

そのやり取りに赤面中のハスミが答え、後ろの複座に着席していたハリスもニヤニヤ視線で眺めていた。

 

 

「…私がお慕いしている方です///」

「あらら…こりゃまた。」

 

 

「「…」」

 

 

「カーウァイ中佐、テンペスト少佐?」

「家の娘に…」

「良からぬ虫が…」

「お二人とも銃口を向ける相手が違いますが…」

 

 

尚、義父二名は不穏なオーラを背後にブツブツを呪詛を呟いていた。

 

ギリアムもその様子に出来るだけフォローを入れていた。

 

 

「あの、他の社員の人は?」

「俺を除き全滅した、やったのは奴らではないがな…」

「…判りました。」

「先も現れたヒラメの様な生物が訪れる前に立ち去った方が良い。」

 

 

ケイロンより忠告を受けたハガネとミネルバの混合隊は撤退戦をしつつ宙域より離脱を開始した。

 

 

「待てよ、俺との勝負は?」

「預けて置く、それまで貴様の拳を磨いておくのだな?」

 

 

アガレスの操者にリベンジ発言をした後、ケイロン機は混合部隊と合流し撤退した。

 

それを見送る形で取り逃がした彼は操縦席で呟いた。

 

 

「磨く?冗談じゃねえぜ…俺どころか修羅王よりアンタの方がヤバいだろ?」

 

 

彼こと、アリオン・ルカダは対峙した相手が次元を超えた相手であると認識していた。

 

そう、自分は命拾いしたのだと実感するのだった。

 

 

******

 

 

混合部隊が宙域離脱後、突如発生した次元転移のエネルギー。

 

各機が各艦に帰投する際に引き起こされた。

 

最後に帰投する筈だったエクスガーバイン二機、アルブレード・カスタム、救助対象の蒼い特機が『次元震』に巻き込まれ消息不明となったのは先の戦闘からほんの数分後の事である。

 

 

=続=

 

 




この再会は愛おしくそして波瀾。

彼の者を識る者は脅威と示す。


次回、幻影のエトランゼ・第五十話 『蒼拳《ソウケン》』。


巡るのは親の不安と説教の嵐。



=今回の用語=


※天臨(テンリン)社

CEOは普段顔を隠している為、秘書であるウィロウ・トランクが窓口として統括を執っている。
屋久島近辺の海域に建造された巨大人工島『六角柱』を拠点とする複合企業。
新参ではあるが他社とは違う開発コンセプトと発想で企業株が上昇中の企業である。
一時期、ライバル社からの吸収合併などの危機もあったが国防産業理事であるムルタ・アズラエル氏より企業間における一部企業による産業圧力の禁止案が決定されたので危機を逃れている。
他にも自社ブランドとしてSF(ソルジャー・フレーム)と言うMSやPTと同系統の機体も開発している。
また、それに対応した支援ビークルマシンやパワードパーツの開発も行っている。
テスト機の特機投入に関しては他者との違いをアピールするものとされている。
天臨社の機動兵器は独自のパイロット登録システムを使用しており、強奪や拿捕を防ぐ処置が施されているが、逆に言えば不測の事態によってパイロット登録された人間の解除手続きが困難である事を示している。
最後に個人負担であるがパイロットの思考や癖に合わせて個別カスタマイズも行っている。


※蒼雷(ソウライ)

L5戦役後に設立された『天臨(テンリン)社』の格闘戦用特機。
表向きはテスト機とされているが、実際は個別カスタマイズが施された特定パイロット用の特機。
マン・マシーン・インターフェイスと同様にパイロットの動きに合わせて操縦を行う。
特機とは思えないほどの高速戦闘と脚撃よる攻撃に特化している。
腕部は打撃戦闘も可能だがエネルギー放出による攪乱戦術機構を備えている。
登録パイロットはケイロン・ケシェット。


※ケイロン・ケシェット

天臨社のテスト機・蒼雷の専属パイロット。
年齢は推定29歳。
銀混じりの白髪を項に束ね、目元を隠す様にサングラスをした褐色の男性。
体格から白兵戦にも長けていると推測出来る肉体を持っている。
本人はほぼ無口で余り会話をする事はない。
本社からの指示で宇宙での実戦データ収集中に修羅との戦闘に巻き込まれた。
その後、本社命令で救援を申し出た鋼龍戦隊の戦艦ハガネにて実戦データ収集の為に乗艦する予定だったが…
突然の転移騒動に巻き込まれ機体ごと行方不明となる。
名称からも判る様にハスミが隠していた例の存在である。


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録の付箋


託された記録。

彼女はそれを希望とした。

そして少年は彼女の裏の顔を知る。



巨大建造物ことソーディアンと名付けられた施設から離脱して数時間後。

 

次元震によって行方不明になった五名の捜索困難の状況は続いていた。

 

次元震で転移経験のあるハスミ・クジョウ少尉が転移に巻き込まれた他四名の傍に居ただけ幸いと捉えていた。

 

 

******

 

艦長らが先の戦闘でアクタイオン社からの出向者と天臨社のテストパイロットが転移に巻き込まれた件を各本社へ報告していた頃。

 

報告の関係でハガネとミネルバを連結させ双艦で行き来出来る様になっていた。

 

次の指示があるまで動けないのもある。

 

シンはかつての記憶で『Z事変』と『次元震』に関して識る為、記憶保持者達の会議に初参加する事となった。

 

 

「くそっ、俺が次元震の予兆に気が付いていれば…!」

「シン、終わった事を悔いても何も出ないぞ?」

 

 

前回と同様に鋼のグリーフィングルームにて。

 

次元震の予兆を知っていたにも関わらず、何も出来なかった事にシンは苛立ちを覚えていた。

 

キョウスケやギリアムがフォローしつつ話を進めていた。

 

 

「判っています…だけど。」

「シン、ハスミ少尉はそれを承知の上で我々に情報を預けた。」

「情報を?」

「ああ、現状を打開する為の手順と今回の戦乱を終結させる為の作戦の発動日時だ。」

「それをハスミさんが?」

「今は俺達が出来る事をしていくしかない。」

「…解りました。」

 

 

ハスミさんが慕っているって言っていたケイロンって人。

 

多分、俺の知るあの人かもしれない。

 

今…その話をしていいもんかな?

 

きっと何か理由があったんだろうな…

 

俺がステラを助けたかったのと同じように。

 

ハスミさんはあの人を助けたいのかもしれない。

 

もう少し様子を見よう。

 

 

「シン、どうしたんだよ?」

「マサキ…何でもない。」

「ハスミの事なら心配要らないと思うぜ、アイツ…結構しぶといからな。」

「マサキ、それハスミの耳に入ったら生身念動フィールドでぶっ飛ばされるぞ?」

「…大丈夫だって!」

 

 

考え込むシンに話しかけるマサキとリュウセイ。

 

マサキに至ってはハスミの悪口を言った為にリュウセイから釘を刺されていた。

 

そのやり取りに混乱するシンにリュウセイが助言した。

 

 

「えっと…」

「ハスミから念動者って事は教えて貰っているよな?」

「あ、はい。」

「いいか、絶対にハスミを怒らせるなよ?」

「…何かあったんですか?」

「俺からは言えねえ…アレは絶対に。」

 

 

青ざめて冷や汗をダラダラ流しているリュウセイの様子に多々事ではないと確信したシン。

 

 

「知りたければ空白事件のファイルを閲覧するといい、これがな?」

「…アクセル。」

「俺達は一切話していない、資料を見ただけなら構わんだろう?」

「…どうなっても俺は干渉しないぞ。」

 

 

口で言うよりも見せた方が早いと答えるアクセル。

 

その様子にキョウスケが嗜めるが一理あるので余り深くは言わなかった。

 

 

「閲覧するのなら映像データがあるが…どうする?」

「え…遠慮して置きます。(それ、絶対見たらいけない奴だ。」

 

 

この時シンは確信した。

 

その映像データを見てはいけないと。

 

 

「念の為、説明しておくが…ハスミが切れるまでの合間は複雑だ。」

「ふ、複雑?」

「ああ、ある程度は自制している様だが……ストレスを溜め込み過ぎて限界値を超すと俺達でも止めようがない。」

「敵味方問わず口論となればその三倍の毒舌、素手であれば問答無用で念動力込みだ。」

 

 

ギリアム、キョウスケ、アクセルの説明。

 

 

「おまけに笑ってないブリザードスマイルだからな?」

「そのせいでL5戦役の時なんかケーンの奴ら悲惨な目にあってたぜ…」

「アイツら…それがトラウマになっちまって目を合わせると飼い犬状態に陥ってた。」

 

 

L5戦役時、その光景を眼にしているリュウセイとマサキは青ざめた表情で語った。

 

 

「…(俺がオーブに居た頃に一体何が起こっていたんだ?」

 

 

自由になったステラ達と出会わせてくれた恩人はとんでもない人だとシンは自覚した。

 

茶々を入れつつ、記憶保持者達は託された情報を頼りに次の行動への下準備を進めるのだった。

 

 

******

 

 

一方、その頃。

 

 

=???=

 

 

何処かの草原地帯に転移した四機。

 

各パイロットと機体共に異常はなく外にも出られる状況だった為、情報整理の為に機体から降りていた。

 

 

「皆、無事か?」

「ええ、何とか…」

「これがハスミの話していた『次元震』か…テレポートと違って慣れないモノだね。」

「ハリス、ハスミは?」

「本人が眼を覚ますまで今は寝かせてあげておいた方が良い、ここずっと働き詰めだった様だし。」

「そうか…」

 

 

カーウァイの会話から始まり、テンペストとハリスが会話に入った。

 

ハスミに関しては疲労の為、目覚めないのでそのままにして欲しいとハリスより告げられた。

 

 

「…」

「そちらは天臨社のテストパイロット、ケイロン・ケシェット中尉だったな?」

「ああ。」

「君がハスミの…ね。」

「ケイロン中尉、貴方とハスミに何の関係が?」

「彼女は俺と共に在る事を誓い合った仲だ。」

 

 

「「「…」」」

 

 

この時、父親同盟三人の脳裏に何かが破壊される様なSEが響いた。

 

 

「む?」

 

 

同時にケイロンは彼らへの説明が不足している事を理解していなかった。

 

そんな勘違いな発言をすれば彼らは黙っていないだろう。

 

 

「ケイロン・ケシェット中尉。」

「ハスミの事で折り入って話がある。」

「勿論、逃げないよね?」

 

 

漏れ出る呪詛の様なオーラを醸し出した三人の笑っていない業務スマイルに対し。

 

その気配を感じつつもケイロンは無言で答えた。

 

この場に常識人らが居たのなら口々に語っただろう。

 

修羅場が始まったと…

 

 

=続=

 



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第五十話 『蒼拳《ソウケン》』

その身は傷付いていた。

その心は壊れかけていた。

幼き日の彼女は答えた。

何時か必ず力になると。

約束の日は近い。


次元震によって並行世界に飛ばされた私ことハスミ。

 

私が目覚めたのは転移から翌日の事だった。

 

 

******

 

 

私は機体から降ろされており、緊急用のサバイバルキットから出された防寒用シートの上に寝かされていた。

 

ヘルメットは外されているが、パイロットスーツのままである。

 

 

「っ…」

「ハスミ。」

「…テンペストお義父さん?」

 

 

傍に付き添ってくれていたのかパイロットスーツのテンペスト少佐がこちらの様子を伺っていた。

 

上半身を起こして状況を確認しようとするが眩暈で再びシートに戻る事となった。

 

 

「疲れが溜まっていたんだろう、もうしばらく横になっていなさい。」

「済みません……他には誰が居ますか?」

「私にカーウァイ中佐、ハリス、ケイロン…後は転移とやらに巻き込まれなかった様だ。」

「そうでしたか…」

「事情はハリスから聞いている、例の無限力とやらのせいと言うのもな。」

「…隠すつもりはなかったのですが。」

「制約とやらが絡んでいるとなれば仕方がないだろう。」

 

 

今回の無限力からの御題は私達五人で事を成せと言うのか?

 

兎に角、お義父さん達に危害が加えられない様にしないと…

 

ギリアム少佐にデータを託したし後は向こう側で何とかしてくれると思いたい。

 

 

「あの…私が眠っている間に何かありましたか?」

「それは他の三人が帰ってからにしよう……色・々・と話したい事があるからな?」

「は、はい。」

 

 

私は少佐の表情で理解した。

 

ああ、彼が説明不足な会話をしたのだと…

 

別の意味で頭が痛いです。

 

それから三人が戻って来たのは夕刻の事である。

 

三人が偵察して来た所、民家は見当たらず平原が続いていたとの事。

 

私が目覚めたら、翌日に偵察範囲を広げると決めて戻って来た。

 

 

「…」

 

 

焚火を囲んで対面上で下座に私とケイロン。

 

上座で左からカーウァイお義父さん、テンペストお義父さん、ハリスこと光龍お父さんの並びである。

 

三人とも業務スマイルですが、滲む禍々しいオーラは依然と漂っています。

 

はい、俗に言う修羅場会合の開始です。

 

 

「じゃあ、二人の馴れ初めから説明して貰おうかな?」

「…少し長くなりますが、始まりは私が母の死を弔ってからの事です。」

 

 

あの日は私の誕生日の三日前の事。

 

母の葬儀を終えて、私は祖父母から次代当主を受け継ぐ儀を受けていました。

 

そしていつの間にか私はある空間にいました。

 

 

「ここは…?」

 

 

蒼い、何処までも蒼い空間が広がっていました。

 

空の様で夜空の様で水の様で河の様で湖の様で海の様で深海の様で銀河の様で。

 

そう表現するしかない場所。

 

何処までも蒼い世界が広がっていました。

 

周囲を煌く光はとても幻想的で時間を忘れる様でした。

 

そして彼女は玉座と思える場所で座していました。

 

 

「貴方は誰?」

「…」

 

 

その女性はとても綺麗な蒼い髪の女性でした。

 

目元は髪で隠れていたので風貌は判らなかった。

 

触れられて判るのは包み込むような思念。

 

まるで母親の様な…

 

 

「こんなに…」

「?」

「こんなに幼い子を残して彼女は逝ってしまったのね。」

「お母さんを知っているの?」

「ええ、ずっと傍に…それでも触れられず見えず不可視の姿では彼女を救えなかった。」

「お母さんの為に泣いてくれるの?」

「貴方は悲しくないの?」

「ううん、悲しい…でも御爺様は当主として涙を拭いなさいって。」

「そう、でもね…大切な人との別れの時は泣いてもいいのよ?」

「いいの?」

「泣いてあげなさい。」

「お母さん…おかぁあさんっ!!」

 

 

私は彼女と一緒に泣いた。

 

母の死を弔う為に。

 

私にとっては二度目の人生の母であったが、母に変わりないのだ。

 

幼い身体に慣れてしまった私は幼いまま泣き明かした。

 

暫く泣き明かした後、彼女に名前を尋ねられた。

 

 

「貴方の名前は?」

「ハスミ、クジョウ・ハスミ。」

「ハスミ、よく聞きなさい。」

「?」

「貴方もまた私達の血を受け継ぐ者、貴方には酷な選択を強いるでしょう。」

「選択?」

「選びなさい、ガンエデンの名を受け入れるか否かを。」

 

 

私は彼女を…アシュラヤーを受け入れた。

 

アシュラヤーは話してくれた。

 

レンゲと同じ真っ直ぐな眼で迷いのない意思を感じると。

 

そして受け入れた私は別の空間に飛ばされた。

 

そして彼に出会った。

 

 

「お前は?」

「私?」

「他に誰がいる?」

 

 

傷ついた彼に問われた私は名前を告げて彼に問い返した。

 

 

「怪我をしているの?」

「ああ…」

「苦しいの?」

「判らん。」

 

 

傷だらけの身体で彼は答えた。

 

私は未熟だったから傷の治療も満足には出来ない。

 

ただ生きる力を分け与える事は出来た。

 

それは傷を癒す為の活力となってくれた。

 

私は彼の手に触れながら話を続けた。

 

 

「どうしてここにいるの?」

「判らん、いつの間にかここにいた。」

「私と同じだね。」

「所で何故、俺の手に触れている?」

「貴方が痛そうだったから。」

「…」

 

 

彼は私が手を触れ始めた時から体の傷みが徐々に引いていくのが判ったのかそのままにしていた。

 

 

「…ここへ来る前に俺は二度も仲間と故郷を失った。」

「どうして二度なの?」

「俺の中には前の人生とやらの記憶があったからだ。」

「え…」

「俺はやり直したいと思った、その為に力を付けて来た……だが、何も出来なかった。」

「…」

「この生でも同じ過ちを繰り返してしまった。」

 

 

私はこの言葉で彼が記憶を持つ者であると理解した。

 

だから救いたかったのかもしれない。

 

何も出来ずに同じ過ちを犯してしまった彼は苦しんでいた。

 

私は答えた。

 

 

「過去は変えられないかもしれない、でも未来は変えられる。」

「何故、そうだと言える?」

「私は決められた未来を変えたいって願いがあるから。」

「…」

「その願いの為に私は動くって決めたの。」

「それが困難な道であってもか?」

「困難かもしれないし緩やかかも知れない…それでもこの願いは誰にも捻じ曲げられないと思う。」

「…(幼き身なれどその真っ直ぐな眼を信じたくなる。」

「絶望があっても希望もあるって信じているから。」

「そうか…」

「?」

「ならば、俺にも手伝わせて欲しい…お前の願いに。」

「いいの?」

「代わりにお前が俺の願いを叶えて欲しい。」

「貴方の願い?」

「そう、俺の願いは…」

 

 

耳元で囁かれた彼の願い。

 

私は彼の願いを叶える事を約束して誓い合った。

 

 

「私はいつか必ず貴方の力になる!」

 

 

その言葉を最後に私は儀を受けた場所に戻っていました。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「それがハスミと彼の馴れ初めか…」

「はい。」

「だが、その願いはお前にとって辛い選択でもある。」

「それを受け入れるのか?」

「もう、決めました。」

 

 

光龍の一言からカーウァイとテンペストが感想を告げた。

 

私は迷いはないと話した。

 

 

「信頼しているんだね、彼の事。」

「言葉足らずと言うのも問題だが、ハスミの事を任せても…」

「いえ、まだ様子見をした方が。」

「テンペスト、気持ちは解るが。」

「僕もそれに賛成。」

「光龍。」

「確かにハスミは君を信頼しているが僕らはまだ君の事を信頼している訳じゃない。」

「信頼には足りぬと言う事か?」

「そうだね、どうするかは今後の君の行動で示して貰うよ。」

「だが、忘れるな…ハスミの身に何かあった場合。」

「僕らが君を地の果てまでも追い続けるからね。」

「ケイロン中尉、それがハスミと交際する為の条件だ。」

「…承知した。」

 

 

過保護気質な発言をした父親同盟。

 

それに対して了承したケイロン。

 

最後にハスミは赤面で叫んで修羅場会合は終わりを告げた。

 

 

「お…お父さん達っ///!!」

 

 

******

 

 

翌日、私は新天地へ出発する前に彼と話した。

 

 

「ケイロン…いえヴィル、あの時の約束を覚えていますか?」

「覚えている。」

「辛くはありませんか?」

「ない、当に心は決めている。」

「…判りました。」

 

 

私達は互いの片手を重ね合わせた。

 

 

「今一度、誓いましょう。」

 

 

あの空間で誓った言葉。

 

あの空間で誓い合った願い。

 

あの空間で受け入れた呪詛。

 

あの空間で互いに想いを刻んだ。

 

この歩みは早すぎるのかもしれない。

 

それでも大切な縁を救う為に共に旅立ちましょう。

 

 

 

「誓います、私の刀に誓って…貴方の願いを叶えます。」

「誓おう、俺の拳に誓って…お前を護り通す。」

 

 

 

この誓いは呪われた誓い。

 

それでも縁を繋ぐ為に受け入れる。

 

私達は呪詛を抱える覚悟は出来ている。

 

望まれた願いでなくとも護る為に呪詛を抱える事を決意した。

 

互いの蒼はその為の証。

 

 

=続=

 




縁を繋ぐ為に巡りましょう。

何時か何処かで巡り合う為に。

そして忘れないで。

絶望がある程に希望もまた存在する事を。


次回、幻影のエトランゼ・第五十一話 『旅界《リョカイ》』。


そしてあの日の為に繋がれる。


******


=その日の真夜中=


私はセフィーロでの旅で使用していた同型のキャンピングトレーラーから出ると夜空を見上げた。

寝付けないのもあるが、少し気晴らしを兼ねて外へと出た。

ちなみにコレについては手甲の宝珠から取り出したので気にしない事。


「…」
「眠れないのか?」
「ヴィル…?」


父親達はコテージの中で眠っていたので聞かれないだろう。

私は本当の彼の名を呼んだ。


「起きていたの?」
「ああ、お前と同じだろうな。」
「そう……傍に寄ってもいいかしら?」
「構わん。」


私は焚火の余韻が残る場所で座していた彼の傍に寄り添った。


「先はお父さん達が失礼な事を話して済みません。」
「いや、父親ならば当然の反応だろう。」
「普段は真面目なのですが…時々過保護気質が出てしまって。」
「それだけお前が大切にされていると言う事だ。」
「…そう思います。」


正直に言えば、お義父さん達には随分と助けられた。

私が知る真実を話してもホラ吹き噺と思われそうと思ったが…信じてくれた。

だから、この縁も護りたい縁だ。


「ハスミ。」
「ヴィル?」


彼は私を傍へ引き寄せた。

彼の温もりがとても心地よい。


「会いたかった。」
「私もです。(この感じEF以来かな。」


肌寒い夜風が揺らぎ雲は薄れて星空を煌かせた。

どうやら月の様な天体が見えない時期の様だ。

防寒対策の為に互いにパイロットスーツのままだが、頬に触れる彼の手が暖かい。


「ハスミ、聞きたい事がある。」
「何でしょうか?」
「この地はお前が知る場所か?」
「はい、ここは惑星ジェミナイ…その辺境地域です。」
「もしや、尸空達が侵攻しているエリアの…?」
「はい。」


現在、私達が存在する時期はZ事変における物語「ラスト・デイ」が始まる数週間前である。

出来る事ならこの惑星の人々を救いたい。

あの悲劇を回避する為に。


「ガドライト・メオンサム…そしてあの者達への償いの時なのかもしれんな。」
「ですが、貴方の正体を知られれば…」
「…解っている。」


彼の本来の立場が償いの時への障害となり下がっていた。

打つ手のないと言っている彼の様子にハスミはある一案を提案した。


「あの…この様な策はどうでしょうか?」
「聞こう。」


私が提案した事。

それは私の中の蒼き女神の威光を使う事。

御使いに対する抑止力。

私は絶望の中でも輝く小さな希望となってみせる。


「その手は危険を被るぞ?」
「構いません、貴方の願いを叶える為に私が望む未来の為には彼らの力が必要ですから。」
「…判った。」
「必要であれば、私の所持する山羊の力の事も話して置いてもいいと思います。」
「それは任せる。」


私は一通りの策を彼に説明した後にキャンピングトレーラーへと戻ろうとしたが、彼に呼び止められた。


「ハスミ。」
「っ。」


振り向き様に唇に触れたのは暖かさと温もり。

それは一瞬の内に終わった。


「ヴィル…」
「必ず、事を成し遂げるぞ。」
「…はい///」


私は指先で彼の名残を感じながらトレーラーに戻った。



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第五十一話 『旅界《リョカイ》』

彼らとの出逢いはあの未来の為。

それは決められた運命を変える行い。

だが、時として運命は亀裂を生じさせた。

在るべきモノが二つに別たれたのだから…


仮設キャンプをした場所を後にして数日後。

 

機体を飛翔させ周囲を調査するが民家の一つも見えない。

 

もしかしたらと私は嫌な光景と予感を脳裏に過ぎらせた。

 

 

「…(もしかして例の件がもう始まってしまっている?」

 

 

山羊の眼で再度調べた結果は件の日から数週間前。

 

それから既に件の期日まで一週間も切っている。

 

この場所が惑星ジェミナイである事は確定している。

 

だが、予備で宝珠に積載した機体の燃料のストックも残り数が少ない。

 

最小限の移動で事を進めてきたが、もう余り消費は出来ない。

 

 

「…(それでも彼らや奴らの気配は徐々に近づいているのに。」

 

 

もう一度、私にあの光景を眼にしろと言うのか?

 

ラスト・デイ…

 

時獄篇においての最終決戦の前夜。

 

酒に逃げるガドライト・メオンサムが語った惑星ジェミナイの滅亡の日の出来事。

 

僅か一夜にして惑星ジェミナイはサイデリアルによって滅ぼされた。

 

そして巡り巡って二人の女児が生き残ると言う首の皮一枚の結末を迎えた。

 

完全母系遺伝によるジェミナイド人の繁栄にはかなりの時を要するだろう。

 

それに彼ら…『鬼宿』の人々も望んだ戦いではなかっただろう。

 

もしも戦う事があるのなら彼こと尸空と私は対極星座同士。

 

互いのスフィアの相性も最悪と言う欠点を抱えている。

 

 

「ハスミ。」

「お父さん、どうかしましたか?」

「…また考え事?」

「はい、唯の気のせいだと思いたい位ですよ。」

「…そうか。」

「理由を聞かないのですか?」

「知り過ぎると痛い目を見るって身に染みて覚えたからね。何かある…でもそれはハスミにしか判らないのだろう?」

「そうですね、事情を知っていれば平行線で説明は出来ましたよ?」

「ま、事の成り行きはハスミに任せるよ…それに今回の事情はハスミの恋人君にしか判らないだろうし。」

 

 

お父さんの言う通り、話せないが正論だ。

 

今回の件はお父さん達に話し様がない。

 

この件は彼と私が結末を変えたいと言う我が儘でしている事なのだから。

 

 

「お父さん、あの時キョウスケ中尉達の前では遠回しに言いましたが…」

「?」

「応龍皇の修復は既に終えています。」

「早いね、流石はガンエデン達の癒し場と言う訳かい?」

「必要とあらば呼び寄せる事も可能です。」

「そうしたいけど今の僕は完全に傷が癒えていない。」

「…でしょうね。」

「本領発揮の時はもうしばらくかかりそうだよ。」

「判りました。」

 

 

無理はさせられない。

 

なら、別の手を使うしかない。

 

 

「カーウァイお義父さん、何処かで全員一旦止まって貰ってもいいでしょうか?」

「何かあったのか?」

「このままでは埒が明きません、私の念動力で索敵範囲を広げてみます。」

「だが…」

「ベースキャンプの時に十分休めました。」

「判った、無理はするな?」

 

 

私達は一度、近くの高台へと機体を下ろした。

 

私はコックピットから念の波動を広げて索敵を開始した。

 

最初から使えれば問題なかったのだが…

 

前回の私の不調もあり、力を使う事を制限されていた。

 

十分休んだ事で力は戻っている。

 

スフィアを使えば早い話であるが…

 

私のスフィアの件はまだお父さん達に話していない。

 

これも話せばクロノの排除対象にされかねない。

 

遠回しであるが念の力で地道に探すしかない。

 

 

「…(落ち着いてゆっくりと思念を広げて。」

 

 

この星の人々も念の力を持つ。

 

もしかしたら気が付いてくれるかもしれない。

 

 

「…」

「光龍、そっちはどうだ?」

「僕の方も特には…もしかしたら意図的に向こう側が気配を隠している可能性もあるかもね。」

「警戒していると?」

「この星の人々が念者なら余所者が入った事位は察知出来るだろうし。」

「…(ガドライトの持つスフィアの気配が感じ取れんとはどう言う事だ?」

 

 

同じく念による索敵をする光龍に声をかけるテンペスト。

 

光龍は反応は捕らえられず空振りである事と意図的に隠している可能性もあると語る。

 

同時にスフィアの気配からガドライトらの気配を探るケイロン。

 

こちらも気配が微弱なのか感じ取れない事に困惑していた。

 

 

「!?」

「ハスミ…これはちょっとばかり拙いかもね。」

「ハスミ、光龍、如何言う事だ!?」

「正直にお話しますと既に囲まれています。」

「何だと?」

「ついでに言うと手出しをしない方がよさそうだ。」

「…」

 

 

エクスガーバイン二機、アルブレード・カスタム、蒼雷の周辺から姿を現した機動兵器。

 

数からして小隊と推測する。

 

私達は手出しをしない様に地面に機体の武装を置いた。

 

 

「おーし、そのまま静かにしてろよ?」

 

 

小隊長と思われる機動兵器がこちらに近づいてきた。

 

 

「お前ら何モンだ?ここ暫くの間に人様の星をウロチョロしていた様だが?」

「偶然、次元震に巻き込まれてしまい不可抗力でこの星に転移してしまったのです。」

「!?」

「私達は辺境銀河にある太陽系・第三惑星地球と言う星の住民です。」

「要は異星人って事か?」

「私達からすればそちらも異星人と言う事になりますね。」

「俺達は惑星ジェミナイの精鋭部隊ジェミニス、俺は隊長のガドライト・メオンサムだ。」

「我々は地球連合軍・極東方面所属伊豆基地所属の鋼龍戦隊。私はカーウァイ・ラウ中佐。」

「ご丁寧にどうも、そっちの若い子は?」

「同基地所属・諜報部のハスミ・クジョウ少尉です。」

「…」

「我々に敵対の意思はない、状況を把握する為に話し合いの場を持ちたいのだが?」

「隊長、どうされますか?」

「潔く武装解除したんだ、話位は聞いてやってもいいじゃないか?」

「了解しました。」

「そう言う訳だ、機体から降りて貰ってもいいか?」

「判った、そちらの指示に従おう。」

 

 

私達は惑星ジェミナイの精鋭部隊ジェミニスの指示で機体から降りた。

 

同じ様にジェミニスの人達も機体から降りて私達に携行銃を構えていた。

 

余所者の私達に対する念の為の措置なのだろう。

 

 

「さてと、先ずは…そっちの星の住民にも念者がいるのか?」

「え…?」

「お前さんだったかな、こっちの方に思念を飛ばしていただろう?」

「そう言う事でしたか……返答するなら私達の星に居る念者はごく一握りです。」

「つまり限られた人間しか使えないって事か?」

「はい、私と父は念者ですが…残りの三名は普通の人間です。」

 

 

ガドライトはハスミに質問し彼女から返答を得ていた。

 

 

「次の質問だ、そっちの地球とやらにサイデリアルって連中が攻めて来ているか?」

「…いえ。」

「辺境銀河なだけに連中は手を伸ばしていない…か。」

「…(この人、もしかして?」

「アンナロッタちゃん、もう少しこの子とお話があるから残りの連中の見張りを頼めるか?」

「隊長、しかし…!」

「そっちのガタイのいい兄ちゃんもついて来てくれ、それなら大丈夫だろ?」

「承知した。」

 

 

ガドライトは副長であるアンナロッタと部下にテンペスト達の見張りを頼んでハスミとケイロンの二名を連れて少し離れた場所に移動させた。

 

 

「ここなら他の連中に話は聞こえねえな。」

「…あの。」

「先ずは…何でテメエがここに居るんだ?」

「…」

「相変わらずのダンマリか?」

 

 

ガドライトはある理由を含めてケイロンの真の名を告げた。

 

 

「なあ…次元将ヴィルダーク。」

「ガドライト・メオンサム……まさかお前までも記憶を持っていたとはな。」

「スフィアをサードステージに覚醒させたら案の定って奴さ。」

「これも未来を変える為の変異か…」

「…やっぱり勘違いじゃなかったのですね。」

「勘違い?」

「多分、こうすれば分かって頂けると思います。」

 

 

ハスミはパイロットスーツ越しに手甲を出現させ、宝珠の部分に取り付けたリングを外した。

 

 

「!?」

「分かって頂けましたか?」

「ハスミ…お前もスフィアリアクターだったのか?」

「はい、私は『知りたがる山羊』のスフィアリアクターです。」

 

 

ハスミは再び宝珠にリングを取り付けると手甲を戻した。

 

 

「成程な、道理でこっちの意図を読めた訳か…」

「騙す様な事をして済みません。」

「いや、それよりも何でお前さんはヴィルダークと一緒に行動しているんだ?」

「最悪の結末を回避し御使いを倒す為です。」

「…」

「もしくは一族の使命とも言えます。」

「一族?」

「ハスミはかつて御使いに反旗を翻したと伝説にある四人のガンエデンの一人、アシュラヤー・ガンエデンの巫女だ。」

「!?」

 

 

ガンエデンの言葉に反応するガドライト。

 

彼女らの伝承は外宇宙でも広まっているらしい。

 

 

「ガンエデンの伝承が何処まで広がっているのかは私にも判りませんので普通に接して頂いても構いません。」

「お、おう。」

 

 

引き続きハスミはヴィルダークと共に御使いへの反攻の一手を目論んでいる事をガドライトに伝えた。

 

 

「成程な、アンタらも連中への反逆を考えていたって事か。」

「ああ、だが…俺の立ち位置は前と然程変わらん。」

「今回も皇帝アウストラリスの肩書を背負っているって訳か?」

「私も少しずつですが、御使いに対抗しうる戦力を集めています。」

「それで例のリングでスフィアリアクターの気配を隠していたのか。」

「この力を連中に悟られる訳にはいかないので。」

「確かに連中の元にあったらヤバイ代物だろうな。」

「ガドライトさん、あの…」

 

 

ハスミはこれから発生するジェミナイ滅亡のタイムリミットが迫っている事を告げた。

 

 

「今回も尸空の奴が部隊を引き連れて現れるって事か。」

「提案としてジェミナイの住民を何処かへ避難させようと考えています。」

「避難ね…何処にそんな場所が?」

「アシュラヤー・ガンエデンが守護する銀河に移住可能な惑星があります、一先ず其処へ。」

「…」

「勿論、故郷を捨てると言う事がどんなに悲しい事か理解しています。」

「だが、命あっての物種って奴さ……だが、こっちの政府は早急に対処はしないだろう。」

「馬鹿げていると?」

「それもあるが…女神様のお告げなら動くんじゃないか?」

「あーそう言う事ですね。」

 

 

ハスミはガドライトの話に納得した後、問題点の再確認を行った。

 

 

「残りの問題はサイデリアルの事です、目標のスフィアが無ければ連中の追撃が止む事はないでしょう。」

「ヴィルダーク、今回も俺達ジェミニスはサイデリアルに下ろうと考えている。」

「いいのか?」

「連中を欺く為には仕方がないだろう?」

「尸空とエルーナ、バルビエルに記憶が戻る兆しが無い以上は極秘裏に動ける者が居ると助かる。」

「では、手筈通りに?」

「ああ、一世一代の反逆の一手の一つを行うとする。」

 

 

それから数日の内にジェミナイの人々は蒼き女神のお告げにより女神が守護する領域の惑星へと移住。

 

後釜としてジェミニスがジェミナイの痕跡を削除しサイデリアルの侵攻を待った。

 

更に三日後、ジェミニスはジェミナイの生き残りとしてサイデリアルに投降。

 

反攻の一手の一つが成された瞬間でもあった。

 

その後、ガドライト・メオンサムらジェミニスの協力を得られた私達は別れの言葉を告げた直後に次元震によって次の世界へ旅立つ事となった。

 

次の世界では滅亡の危機に瀕した聖インサラウム王国へ転移し暴走する『次元将ガイオウ』を退けた。

 

どうやらこの世界でも『蒼き女神の伝承』は行き渡っていたらしく、こちら側の話を聞き入れてくれた。

 

何とか国の滅びを食い止めたが、キング・インサラウム72世の死は食い止める事が出来なかった。

 

ただ、遺児であるユーサー皇子には助言をしておいた。

 

 

「愛する事は民だけではなく全ての人々に…そして自分自身を愛し許す事を忘れないでください。」

「ハスミ君。」

「国は民が居れば何度でも再建出来ます、ユーサー殿下…どうか間違った選択はなさらぬ様に。」

 

 

それをどう受け止めるかは彼次第である。

 

そして再度強襲したガイオウを止めたもののユーサーらに別れを告げられずに次元震に巻き込まれてしまった。

 

何度目かの次元震で更なる世界に到着後、私は彼と二人で話し合った。

 

 

「ヴィル、遅くなりましたが報告して置く事があります。」

「どうした?」

「今世の『いがみ合う双子』は一つじゃなく、二つに分かれている可能性があります。」

「何だと…!?」

「双子座の特性がそうさせたのか若しくは今世の状況が変化を促したのかもしれません。」

「…」

「ヴィル?」

 

 

私は彼が何かに思い悩んでいた事を察して名を呼んだ。

 

 

「やはり、先のガイオウ…いえ、ヴァイシュラバの事ですか?」

「記憶を失っているとは言え、奴の戦闘力は健在だ。」

「ヴィシュラカーラを失っていない以上は再生能力も侮れませんね。」

「だが、いずれ奴との戦いは避けられんだろう。」

 

 

心苦しいだろうが、私は話の筋を戻した。

 

 

「私達が目指す未来……変えつつある未来の為に変容したとしか思えません。」

「では、スフィアが二つに別れた理由があるとすれば…」

「ヒビキ・カミシロとガドライト・メオンサムの二人の元へ巡り遭う為にスフィアが形を変えたのかもしれません。」

「どちらもか…」

「後のZ-BLUEとサイデリアル。ラースバビロンの戦いでスフィアリアクターが五名ずつ…帳尻は合うでしょう。」

「いずれ戦場で雌雄を決する時の為か…」

「はい。」

 

 

私やヴィルもいずれ戦う運命。

 

それが二人の約束の為で遭っても心苦しい。

 

正直に言えば怖い。

 

あの人をその手にかけてしまうのではないかと…

 

もしも失ってしまった私はどうなってしまうのだろうか。

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

 

 

不安な表情をした私を彼は抱きしめた。

 

 

「…」

「約束の為の戦い…どちらに転んでも俺達の願いは消えはしない。」

「…ヴィル。」

「例え、世界を敵に回す行為だったとしても……未来を紡ぎ出す為に何度でも立ち上がろう。」

「はい。」

 

 

それでも私は彼が折れてしまうのではないかと不安が過ぎる。

 

山羊の眼はそれを示していた。

 

玉座の地で赤く紅く朱く染まった矢が山羊の身体を貫く光景を眼にしてしまう。

 

だとしても彼の願いの為ならその結果も受け入れる事を決意した。

 

私が女であるが故に…この想いまでは歪ませない。

 

 

「ヴィル、もう少しだけ…」

「?」

「もう少しだけ、このままでいさせてください。」

「判った。」

 

 

今はただ、彼の温もりを感じたい。

 

私は彼の温もりと言う微睡に身を任せた。

 

 

=続=

 




彼は貌を仮面で覆う。

それは何の為?

偽る事?隠す事?


次回、幻影のエトランゼ・第五十二話 『狩人《カリビト》』。


悪意に絡め取られた意思に抗いの道はない。




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対の付箋

目指す未来の為に。

やるべき事は唯一つ。

彼らへの説得(物理)である。


話は少し遡り、インサラウムでの防衛戦に戻る。

 

私達は破界の王による激戦に晒された最中の聖インサラウム王国へと転移。

 

既にキング・インサラウム72世は破界の王によって戦死。

 

王国の首都も次元獣によって蹂躙されつつあった。

 

 

******

 

 

「…もう少し転移が早ければ!」

「ハスミ、悔いても仕方がないよ…今は出来る事をすべきじゃないのかい?」

「はい、判っています。」

 

 

破界の王ガイオウによる蹂躙の最中に転移した私達。

 

だが、大元の原因は根源的災厄こと御使いの仕業である事は理解している。

 

襲撃を行った理由はこの国に眠るスフィアの一つ『尽きぬ水瓶』の覚醒だろう。

 

そして『偽りの黒羊』のスフィアリアクターであるアイム・ライアードを差し向けた。

 

彼もまた御使いによって操られた被害者。

 

どこまで説得出来るかは判らないが…やるしかない。

 

 

「…(後方には王国の首都、前方には破界の王とアリエティス。」

 

 

国の旗頭とも言える機体が破壊された。

 

それだけでも国の防衛軍の指揮は一気に下がるだろう。

 

それでも鼓舞する事が出来る人材が存命なだけでも助かった。

 

 

「…(先ずは、この戦場の未来線を識る。」

 

 

『知りたがる山羊』の力。

 

膨大な情報を分別し因り確かな情報へ。

 

そして見えて来た答え。

 

ならば、やるべき事は唯一つ。

 

 

「カーウァイ中佐、テンペスト少佐、ハリスさんは首都に侵入した次元獣の相手をお願いします。」

「判ったが…その前にハリスの機体はどうするんだ?」

「私の機体を貸します、システムの調整は終わってますのでご心配なく。」

「…成程な、ハリスはどうする?」

「別に構わないけど、慣れない機体だから壊す可能性もあるよ?」

 

 

冗談にも程があるので私はハリスに遠い目をしつつ答えた。

 

 

「…面白がって貴方がハガネのシミュレーター弄ってたの知ってますけど?」

「あー」

「と、言う事なのでお願いしますね?」

「はいはい。」

 

 

拒否権はありません、しっかり働いてください。

 

 

「ハスミとケイロンはどうする?」

「真正面の親玉達を抑えます。」

「だが…!」

「無謀だと思いますが…」

「これは俺達にしか出来ぬ事。」

「ハスミ。」

「必ず戻ります。」

 

 

私はエクスガーバインの操縦をハリスと交代。

 

そのままコックピットから降りて蒼雷の手に乗り、親玉の元へと移動した。

 

 

「さてと、ハスミ達が戻るまで僕の念が何処まで持つかな…」

「ハリス、応龍皇と…勝手が違うかもしれないが無理はしないでくれ。」

「お気遣いありがとう、ま…僕もそろそろ暴れたいと思ったし邪魔にならない様にするよ。」

 

 

三人は機体を移動させ、首都へ侵入した次元獣の掃討へと向かった。

 

同じ様にこちらの転移に気が付いたインサラウムの兵士達だったが…

 

周囲の混乱でどうにもならない状況だった為に捨て置かれた。

 

同じ様に次元獣と戦う事で奴らと敵対している事は理解して貰えた様子だ。

 

 

******

 

 

「破界の王よ、こちらに接近する機影があります。」

「今度は何処の野郎だ?」

「判りません、ただ…インサラウムの機体ではない事は確かです。」

 

 

首都への進撃を止めていた破界の王ガイオウとアリエティスに搭乗するアイム。

 

自分達に接近する機影がある事をアイムが伝えたもののガイオウは静観していた。

 

 

「さてと何処の命知らずだ?」

 

 

ガイオウ達と相対する様にケイロンは機体を止めた。

 

 

「…幻の境界、それは現世にあって幽世にあらず、唱え、いざ往かん、仙郷の地へ。」

 

 

蒼雷の手で言の葉を紡ぐパイロットスーツ姿のハスミ。

 

言の葉を唱えた後、ガイオウ、アリエティス、蒼雷の周囲が光に包まれるとそれらの姿を掻き消した。

 

光が収まるとガイオウ達が居たのは曇天の空に広大な戦場を思わせる荒地だった。

 

 

「!?」

「ここは一体?」

 

 

動揺するアイムに対して答えるハスミ。

 

 

「ここは限仙境…云わば疑似結界の様なものです。」

「貴方がこれを?」

「ええ、ここならどんなに暴れても被害はありませんので。」

「暴れても…と言う事は我々と戦う気でいると?」

「それ以外に何かありますか?」

「疑問に思っただけですよ、貴方達が我々と戦うメリットは何ですか?」

「そうですね…しいて言うなら。」

 

 

アイムの問いにハスミは静かに答えた。

 

 

「単に貴方達を叩きのめしたいからです。」

「はい?」

「何だよ、そりゃあよ!?」

 

 

ハスミの答えに唖然とするアイムとガイオウ。

 

 

「言葉通りです、判りやすく言うなら……貴方達がムカついたからとも言えますね。」

「無様な醜態を晒すのが惜しければ負けを認めても構わんぞ?」

 

 

ハスミの会話の後に挑発めいた言葉を述べるケイロン。

 

 

「何だと?」

「聞き捨てなりませんね。」

「なら、戦いますか?」

「こちらは一向に構わんぞ?」

「ですが、そちらは一機…相手に不足では?」

「ああ…大丈夫ですよ。」

 

 

ハスミは蒼雷の手から飛び降りるとパイロットスーツ越しに手甲を出現させる。

 

そして埋め込まれた宝珠が呼び声と共に輝き始めた。

 

 

「念神顕現、エクリプス。」

 

 

白き輝きの中で黒と紫の煌くベールがハスミの鎧を形成し念神を呼び起こす。

 

 

「これで対等です。」

「成程、興味深い機体ですね……じっくりと調べてみたいものです。」

「そんな三流科学者の様なセリフが良く言えましたね?」

「!?」

「おや、図星でしたか?」

「どうやら貴方の相手は私で間違いないようですね?」

「ご自由に?」

「王よ、あの白い機体の相手…私に譲って頂いても?」

「構わねえよ、俺はそっちの蒼い機体の奴に用があるんでな。」

「…」

「判りました。」

 

 

戦う相手が互いに決まった事で限仙境での戦いが火蓋を切った。

 

 

>>>>>>

 

 

「自己紹介が遅れましたね、私の名はアイム・ライアード。」

「意味は『私は嘘吐き』か…随分な名前ですね。」

「まあ私の個性を兼ねてますから。」

「どうでもいいですけどね、私はハスミ・クジョウ。」

「ハスミさんですね、言って置きますが私も破界の王の様に一筋縄ではいきませんよ?」

「それは戦ってみてからでも遅くはないのでは?」

「おやおや、随分な自信ですね。」

「貴方の様に偽って逃げ出すのが旨い人程ではありませんけどね?」

 

 

ハスミはクスリと嫌味めいた言葉をアイムに告げた。

 

 

「…!」

「あらあら、これも図星の様ですね。」

「先程から貴方は…私の何が判ると言うのですか!」

「さて、何処まででしょうか?」

「くっ、もういいです…先ずは貴方から血祭りに上げて差し上げましょう。」

「出来るものならどうぞ?」

 

 

アイムは自分のペースが乱される様な話し方をするハスミに嫌気が差して戦闘を開始した。

 

 

「ブラッティ・ヴァイン!」

「…遅い。」

 

 

アリエティスより憎悪の血のツタが出現しエクリプスを襲うがハスミは瞬時に詩篇刀で薙ぎ払う。

 

何度か同じ手で攻撃をするが、見切られているのかエクリプスへの攻撃が貫通する事がなかった。

 

 

「それは唯の飾りですか?」

「…(何故だ?何故当たらない!?」

「嘘吐きな羊はその程度ですかね?」

「貴方は…!」

「ヒントを言うなら魔法を駆使する悪魔と言って置きましょうか?」

「悪魔ですか、貴方の言動にはピッタリの様ですね?」

 

 

引き続き、アリエティスの攻撃は続くがエクリプスは軽くあしらって流しの受け身に呈した。

 

呆れた様子でハスミは溜息を吐いた。

 

 

「…いい加減、認めたらどうですか?」

「何を?」

「貴方が自分を偽っている臆病者だと言う事をね?」

「!?」

「そうでなければ攻撃の一つ位は私に当てても可笑しくないじゃないですか。」

「何処までも私を!」

「おちょくっていると?」

 

 

ハスミは答えた。

 

 

「ええ……何度でも挑発しますよ。」

 

 

クスクスとハスミは続けてアイムを煽る様に答える。

 

ハスミは完全にアイムを自分のペースに引き込んでいた。

 

 

「…(何ですか、この恐怖は…アレは一体何なのですか!!」

 

 

アイムがハスミが与えたヒントに注目していれば、現状を打破出来たかもしれない。

 

だが、頭に血が上った彼が気付く事は無い。

 

 

「…(さて、ヴィルの方も説得が曖昧になったみたいだし…お開きにしましょうかね。」

 

 

ハスミはエクリプスの刀を構え直すと仕切り直しを始めた。

 

 

******

 

 

「テメェは一体!?」

「己の名を無くし、記憶を失ったお前に問われる必要はない。」

「くっ!(その声…何度も俺の頭をチラつかせるんだよ!!」

 

 

ゲールティランに座する破界の王ガイオウ。

 

相対する蒼雷。

 

二体の激戦は限仙境を崩壊させる勢いであった。

 

 

「破界の王よ、それは貴様の真の名か?」

「他に理由はいるのかよ?」

「己の使命を忘れ…奴らの意のままに動く悪鬼と化した今のお前には相応しくない名だろう。」

「テメエ、俺の名を知っているのか!?」

「言った筈だ、今の貴様には相応しくない名だと?」

 

 

ケイロンは破界の王が記憶を失い、幾多の世界を破界し尽くした事をハスミより聞かされていた。

 

それ故にケイロンは破界の王に名を返す事を拒んでいた。

 

己の醜態にケジメを付けられぬ者にこの名は相応しくないと。

 

 

「今回の貴様との茶番はここまでだ、そろそろお開きとさせて貰う。」

 

 

蒼雷の脚部にエネルギーを集中させるとケイロンは破界の王の顔面部分に目掛けて一蹴り加える。

 

その姿はあのドロップキックを彷彿させる一撃であった。

 

その勢いで破界の王はゲールティランより吹っ飛び頭部から地面に叩きつけられる事となった。

 

 

「己の犯した所業を思い返せ。」

 

 

先の一撃で動かなくなった破界の王をその場に放置すると戦闘中のハスミの元へ向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

「ひっ!?」

「まだやりますか?」

 

 

同時刻、アリエティスへ反撃を続けていたエクリプス。

 

まるで狼に追われた羊の状態の様にアリエティスはボロボロになっていた。

 

 

「性根は雑魚のまま虚勢を張って……まるで手の付けようがないお子様ですね?」

「ああ…」

「本来の貴方に足りないのは自信、忍耐、反抗心です。」

 

 

エクリプスは刀を振り上げるとアリエティスの左腕を斬り裂いた。

 

所々に罅割れと破損音が響く半壊のアリエティス。

 

 

「…まだ戦いますか?」

 

 

この時のハスミの眼差しは血を分けた父親と同じ眼だった。

 

圧倒的な他者への畏怖と冷徹な眼は狩る側の眼である。

 

 

「今日の所は…ここまでです!」

 

 

アイムは偽りの黒羊のスフィアを発動させ気絶している破界の王を回収しその場から消え去った。

 

ハスミはこんなもんかと自分で納得し限仙境を解除した。

 

 

「さてと、本体に揺さぶりは掛けたけど……いつになったら眼を覚ますかな?」

 

 

ハスミは意味深な言葉を発して一息ついた。

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル、そちらの方は?」

「今の奴に名を戻す事は出来ん、時が訪れるまで彷徨い続ける事が奴の贖罪だ。」

「アカシックレコードの予言通りですね。」

「ハスミ、奴らは今一度仕掛けて来るぞ?」

「その時は丁重にお相手するだけですよ。」

 

 

その後、二度目のインサラウム防衛戦にてガイオウを退けたハスミ達は再び転移を繰り返し。

 

何度目かの次元震によって運命の地スダ・ドアカワールドへと転移するのであった。

 

 

=続=

 



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第五十二話 『狩人《カリビト》』

望んだ結末でなくても進む。

抗う為に戦う。

そして異例の存在は問う。

目指す先の未来への意思を。


幾多の並行世界を巡り、私達はスダ・ドアカワールドへと転移した。

 

未だに侵略を続けるダークブレイン軍の噂を現地の人々より見聞。

 

そして数日前に陥落したと噂が入ったラクロア国へと向かった。

 

 

******

 

 

私達は転移したザーンの村から東に向かってセントーの町へと到着した。

 

だが、この城に近い町も既にダークブレイン軍の進軍によって陥落。

 

所々に不気味な結晶が点在し町全体を囲む様に覆っていた。

 

 

「ここも既に陥落していたなんて…」

「確か、この町を南に下るとラクロア城があるんだったね。」

「ハリスさん、その通りです。(昔見た設定集の地図と一致してるから間違いない。」

 

 

私達は機体から降りずに町周辺を調査。

 

住民は結晶に飲み込まれた者達以外は避難した様子だ。

 

結晶に取り込まれた人々。

 

中にはジム顔とかガンダンク顔の民族も含まれていた。

 

 

「ここまで。」

「…城に近いなら襲われても可笑しくないだろうね。」

「仰る通りです。」

「ハスミ、この結晶を生やした存在に心当たりは?」

「カーウァイ中佐、結晶の色から察するに町を襲撃したのはダークブレイン軍の三幹部の一人クリスタル・ドラグーンで間違いないでしょう。」

「例の水晶の竜か?」

「はい。」

 

 

アカシックレコードで調べた結果、城も陥落している様子が伺えた。

 

ただ、この世界の神々がこの状況を傍観し続けているのも気になる。

 

既にスペリオルドラゴンと関わりを持つ騎士ガンダムがこの世界に降り立ったのはアカシックレコードでも確認している。

 

問題は騎士ガンダム達は数週間にデブデダビデの攻撃によって負傷し生死の境を彷徨っている事。

 

今の彼らに無理強いは出来ないだろう。

 

オマケにミリシャやアークもダークブレイン軍の襲撃で援軍を送れる程の余力はない。

 

 

「ハスミ、今後の行動はどうする?」

「…先手を撃ちます。」

「まさか、敵の手に堕ちた城に向かうのか?」

「いえ、向かう場所はこの世界の宇宙に転移したダークブレイン城…奴らの居城です。」

「いきなり連中に殴り込みをする気かい?」

「誰かがやらなければならない事です。」

 

 

場合によってはスフィアの次元力で何処かの異空間に転移させる。

 

このスダ・ドアカワールドを救うにはそれしか手がない。

 

 

「…使う気なんだね。」

「はい、出来る事ならまだ使うべき時ではないと思いましたけど…」

 

 

ハリスの言葉に私は答えた。

 

蒼き女神の力を解放し奴らへの報復を行う。

 

危険だと分かっていてもやるしかない。

 

 

「ハスミ、先にこの世界に転移しているロンド・ベル隊と合流するのはどうだ?」

「…それは。」

 

 

私の様子に察したのだろう。

 

確かにテンペストお義父さんの言葉は正しい。

 

でも…合流すると言う事はハリスさんやケイロンの正体が記憶所持者達にバレてしまう。

 

クワトロ大尉達に隠し通せるか?

 

どんなに考えても嫌な結末しか見えない。

 

 

「ハスミ、結果がどうであれ…彼らと合流した方が得策だろう。」

「ケイロン…」

「これもお前が話していた無限力とやらのお遊びの一環かもしれんな。」

 

 

そんな事をすれば、私達の約束が…

 

ヴィルとの約束が遂げられなくなってしまう。

 

それは少しの亀裂で瓦解してしまう程に危険な約束なのに。

 

どうしたらいい…

 

 

「テンペスト、余りハスミを困らせないでよ。」

「ハリス、だが…」

「ハスミが前に話しただろう?」

 

 

ハリスは前回のハスミからの説明を復唱した。

 

 

「ハスミは絶対にケイロンを事情を知っている記憶を持つ者達に合わせたくないってね。」

「…ロンド・ベル隊で確認が取れている記憶保持者はクワトロ大尉のみ、危険はないと思ったのだが?」

「いや、あのクワトロ大尉だっけ?結構な切れ者だし…こっちの意図に気付くかもよ?」

「テンペスト、ハリスの言う通り…ロンド・ベル隊との合流は少し待った方いい。」

「カーウァイ中佐…」

「ハスミが提案の有無に関して回答を渋るのには必ず理由がある。」

 

 

ハリスとテンペストの会話にカーウァイも参加。

 

話し合いの結果、ロンド・ベル隊との合流は少し待つ事となった。

 

 

「テンペストお義父さん、すみません。」

「いや、俺も急かし過ぎた…すまなかったな。」

 

 

この時点でロンド・ベル隊との合流は正論。

 

それでも私は彼の存在を守らなければならない。

 

私は大切な人達を護る為に裏切りを重ねる覚悟は出来ている。

 

 

「!」

「っ!」

 

 

話し合いを続ける私達。

 

だが、有る気配を感じ取った。

 

澱んだ悪意を詰め込んだナニカを。

 

 

「ハスミ、ちょっとばかり厄介な相手が近づいている様だね。」

「はい…!」

 

 

いち早く悪意の存在に気が付いたハスミとハリス。

 

 

「敵襲か…!」

「はい、隊長格と思われる気配が2、残りは雑魚が14、十分気を付けてください。」

「今回も敵の数が多い。ハスミはエクリプス、ハリスは前回と同様にエクスガーバインで対応してくれ。」

「了解。」

「了解したよ、流石にウダウダ言っている暇はなさそうだからね。」

 

 

カーウァイの指示の元、各自戦闘準備を済ませ接近する敵影に対し臨戦態勢を取った。

 

 

「来ます!(この気配、やっぱり!?」

 

 

ハスミの声と共にセントーの町に出現した機影。

 

紫色の奇怪な生物。

 

そしてそれを引き連れた古代のファラオの姿をした巨人と赤いMS。

 

 

「妙なエネルギーを感知したと思ったが…また来訪者の様だな。」

「貴様らは一体何者だ!」

「だぁはっは!!教えてやろう!俺様の名はデブデダビデ…ダークブレイン軍団の最高幹部だぁ~!!」

 

 

カーウァイの言葉に自己紹介をしたデブデダビデ。

 

だが、デブデダビデの発言に毒舌で反論するハスミ。

 

 

「…下品で三流の様なセリフですね。」

「な!?」

「その様な物言いではそう取られても致し方ない。」

「ぐぬぬ!初対面で俺様を怒らせるとはいい度胸だなぁ!?」

「それに度胸も何も勝手に自己発言で自滅したのはそっちだろう?」

「…」

 

 

ハスミに続きケイロンとハリスもまたデブデダビデへの毒舌が炸裂する。

 

そのデブデダビデも出出しから馬鹿にされたのであっては彼の気も収まらないだろう。

 

 

「どいつもこいつも俺様をコケにしやがって…プランドラー!ラマリス共!奴らを血祭りに上げろ!!」

「了解…」

 

 

デブデダビデの号令により動き出すプランドラーと呼ばれた存在の機体とラマリス。

 

 

「カーウァイ中佐、あのプランドラーと呼ばれた機体ですが…」

「ハスミが知る存在か?」

「はい、名称は変わっていますがあの機体の名は『ガンダムキラー』…パイロットはアムロ大尉です。」

「確証はあるのか?」

「気配は濁っていますが、間違いなくアムロ大尉です。」

 

 

ハスミは戦闘開始する前に現れた敵影に混ざるMSの存在をカーウァイ達に伝えた。

 

 

「濁りか…ちょっと厄介だね。」

「はい、精神操作系でもあの濁りは一番対処がし難い案件です。」

「ハスミ、策はあるのか?」

「ありますが、先に機体の動きを止めない事には…!」

「判った、各自雑魚を片付けた後にプランドラーと呼ばれた機体の動きを封じるぞ!」

「デブデダビデとやらは俺が引き受けよう。」

「ケイロン、デブデダビデはダークブレイン軍の最高三幹部の中で一番残忍な相手です…お気を付けて。」

「善処しよう。」

 

 

各自段取りを決めた後にプランドラーと呼ばれた機体とラマリスの軍勢に対応した。

 

 

=続=




救うべく動き出す。

それは一つの伏線。

だから迷わない。


次回、幻影のエトランゼ・第五十三話 『奪還《ダッカン》』。


その好奇心は夢見た明日を目指す力。


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第五十三話 『奪還《ダッカン》』

救う為に必要なのは熱き言の葉。

その障害となるのは負の呪詛。

それは真実を覆い隠す為のモノ。

彼女は想いを包み込む。



前回、セントーの町を捜索中にデブデダビデと遭遇。

 

デブデダビデをを始め、配下であるプランドラー、ラマリスとの戦闘が始まった。

 

デブデダビデとラマリスに関しては耳にタコが出来る位に情報を知っているが…

 

ガンダムキラーことプランドラーと呼ばれた機体に関しては警戒しつつ行動しなくてはならない。

 

理由は搭乗者であるアムロ大尉の洗脳された度合いによるものだ。

 

念で感じた大尉に纏わりつく様なドス黒い濁りは尋常ではない。

 

そこで『山羊の眼』であの人がどれだけの仕打ちをされたのかは確認した。

 

…正直な気持ち、眼を背けたくなる位の光景だった。

 

彼の虚を突く様に助長させるダークブレイン特有の負の思念。

 

この負の思念からの濁りを取り除くのだけでも至難の業。

 

その件で導師クレフからもきつく説明を受けている。

 

 

 

『以前にも話した通り、対極にある二つの属性を使いこなすのは容易な事ではない。』

 

 

『何故、君がこの様な力に目覚めたのかは私にも理解出来ない。』

 

 

『恐らくは君の生い立ちが理由と推測しているが、私はそこまで干渉するつもりはない。』

 

 

『対極の力を宿し、今後もその力を使うのであれば覚悟して行使して欲しい。』

 

 

 

まあ…簡単に言えば『生きる力』と『死する力』の均衡を保ちながら術を使うのだから無茶振りにも程があるだろう。

 

今回はその両方を使わざる負えない。

 

生と死の狭間に存在する虚無と調和の力。

 

あの負の思念を浄化するにはその力を少し利用した方が良い。

 

結論を纏めた私は再び意識を戦場に戻した。

 

 

「ケイロン、デブデダビデは魔術による戦法を行使します…奴との戦闘は十分注意してください。」

「…判った。」

「カーウァイ中佐、ラマリスはこちらの武器でも対処は可能ですが…問題は一定時間を過ぎると互いに融合する可能性があります。」

「融合だと?」

「はい、融合によるラマリスの強化体には複数のラマリスの融合体であるカーナと複数のカーナの融合体であるイーダが存在します。」

 

 

同時にラマリスが融合した回数に応じてより手強くなる事も伝えた。

 

 

「つまり時間を掛ける毎に奴らも強くなると言う事か。」

「その通りです、対ラマリスとの戦闘はハリスさんを中心に動いてください。」

「僕がメインかい?」

「ラマリスは強大な念動力…つまり正念による攻撃で奴らの負念を相殺する事が可能だからです。」

「成程ね…」

「了解した、俺とテンペストはハリスを中心にラマリスを、ハスミはプランドラーを、ケイロンはデブデダビデの相手を頼む。」

 

 

「「了解。」」

 

「了解したよ。」

 

「承知した。」

 

 

ハスミからデブデダビデらの対処法と戦闘プランを提案されたカーウァイはそれを元に戦術支持を行った。

 

元々、話が通じる相手同士が今回の戦闘メンバーだった事が功を成した。

 

ちなみに五人中…敵に回すと厄介な存在が三名程存在した事をデブデダビデが知るのは戦闘後の事である。

 

 

******

 

 

同時刻、ラクロア国内某所。

 

広大な草原地帯を航行中のラーカイラム。

 

そのブリッジでの事。

 

ブリッジクルーのトーレスらからの報告に応対するブライト。

 

 

「艦長、この先のエリアで戦闘が行われている様です。」

「位置は?」

「前回の戦闘で撤退したセントーの町からです。」

「一体誰が戦闘など…」

「ここからでは反応が小さく捉え切れません。」

「判った。サエグサ、艦を旋回…これよりセントーの町に向かう。」

「了解。」

「トーレス、カミーユ達に出撃準備を急がせろ。」

「しかし艦長、前回の戦いでクワトロ大尉が…」

「判っている、地の利に詳しい騎士ガンダム達の助力が厳しい状況に大尉への無理強いは出来ない。」

「艦長…」

「今はこちらに残された戦力で状況を確認する!」

 

 

ブライトは各方面に指示を出し戦艦の進路をセントーの町へと向けさせた。

 

彼らに起こった戦いで今までに何が起きたのか。

 

往くべき戦いの場で何が起ころうとしているのか理解出来ぬまま。

 

疲弊するしかない今の状況を打開する為に彼らには進むしかなかった。

 

 

>>>>>>

 

 

デブデダビデとの交戦を開始してから約一時間が経過した頃。

 

デブデダビデの配下であるラマリス達が初戦で在りながらも徐々に数を減らされていた。

 

 

「この武装、龍鱗機達とはちょっと違うけど…扱いやすい事に越した事はないね!」

 

 

ハリスがハスミより借り受けたエクスガーバイン・クリンゲ。

 

その武装であるストライク・アキュリス。

 

その力は己の愛機である応龍皇と酷似した武装の一つを模していた。

 

 

「さあ、どんどんいくよ…!」

「テンペスト、俺達もハリスに続くぞ!」

「了解!」

 

 

ハリスがストライク・アキュリスでラマリスを翻弄し彼の正念でラマリスの負念を除去。

 

それに続くカーウァイのアルブレード・カスタムとテンペストのエクスガーバイン・アクスト。

 

二機のライフルが負念を取り除かれたラマリスを撃ち貫く。

 

その戦法に悪態付くデブデダビデ。

 

 

「くそぅ!ラマリスが…!!」

「俺を相手にし……余所見をしている暇は無いと思え!」

「ぐぬぅ!!」

 

 

デブデダビデもまたケイロンの蒼雷による脚撃からの追撃に応戦していた。

 

 

「プランドラーは何をしている!」

 

 

プランドラーもまたハスミのエクリプスによる対撃で動きが取れずにいた。

 

 

「くっ!」

「眼を覚ましてください!アムロ大尉!!」

 

 

プランドラー機からフィンファンネルを思わせる武装とエクリプスの旋転の日鏡による武器のぶつかり合いは続いていた。

 

どちらも遠隔操作系の武装の為、二機の周囲を武装の嵐が起こっていた。

 

 

「くそう!どいつもこいつも役立たず共…ぐべぇっ!?」

 

 

余所見をしていたデブデダビデの右側の顔面部分に蒼雷の脚撃が突き刺さる。

 

その一撃が強かったのか町の郊外にある防壁だった瓦礫の山に蹴り飛ばされたのだ。

 

 

「答えた筈だぞ、余所見をしている暇はないとな?」

「ぐふぅ…」

 

 

何とか起き上がるデブデダビデであったが、ギャグ要因らしく右側の顔面が膨れ上がり鼻の部分から血液?の様な物が流れ出していた。

 

 

「よくも…この俺様のカッコいい顔に傷をぉ!!」

 

 

倒されていくラマリス達はデブデダビデの発言に全員一致で『鏡見てから言ってください。』と思ったそうな。

 

 

「貴様、この俺様を本気にさせた事を後悔させてやる!!」

 

 

突如デブデダビデに蓄積された負の思念と撃破されたラマリスの負念が寄り集まり、デブデダビデに吸収され更なる力を与えた。

 

 

「…来るか!」

「ケイロン!下がって!!」

「っ!」

 

 

デブデダビデの様子に嫌な予感を察したハスミはプランドラーをカーウァイ達に任せてケイロンの蒼雷を護る為に前に出る。

 

同時にデブデダビデの腕輪から召喚されたサイコ・クラニウムによる攻撃がエクリプスを襲う。

 

 

「お前ら、往けぃ!」

「!?」

 

 

紫色の怨霊サイコ・クラニウム。

 

奴らがエクリプスに突撃し動きを封じると巨大化したクラニウムの巨爪がエクリプスを抉る。

 

ハスミは寸前の所でクラニウムの巨爪を機体をズラして避けるが引っ掻かれると言う軽微のダメージを受ける事になった。

 

 

「うっ…!?」

「ハスミ!?」

「大丈夫、少し引っかかれただけ…」

 

 

ハスミは無事と答えるが…

 

念神もセフィーロの魔神と同様に機体にダメージを受ければ、その傷はパイロットが直接受ける事となる。

 

今のハスミは衣服の様な鎧が裂けて両脇腹にうっすらと裂傷を作っていた。

 

ジワリと両脇腹から出血と痛みが出始める。

 

 

「…(迂闊だったわ。」

 

 

ハスミは治療魔法で出血を止めると戦線に復帰しケイロンと共に強化されたデブデダビデに対峙する。

 

 

「貴様も魔術を行使するのか、面白い!」

 

 

デブデダビデは蛇の様な舌を出しながらハスミに向かって答えた。

 

 

「貴様も俺の手駒にしてやろう!」

「…誰がなるものですか!」

「ふん、こいプランドラー!!」

「っ!(まさか!?」

 

 

デブデダビデはプランドラー機を呼び戻すとプランドラー機ごと自身に吸収してしまう。

 

その光景は前世の記憶でデブデダビデが騎士ガンダムを取り込んで強化したのと同じ状況だった。

 

 

「だぁはははっ!!」

 

 

デブデダビデにプランドラー機の外装が装着され、より禍々しい姿へと変貌。

 

名称するならデブデダビデ・プランドラーと呼ぶべきだろう。

 

 

「今のは…!?」

「…取り込まれた様にも見えたね。」

「ハスミ、アムロ大尉は?」

「アムロ大尉の気配を感じますが……最悪な事に奴の中です。」

 

 

私はデブデダビデ・プランドラーに取り込まれたアムロ大尉の様子を山羊の眼で視た所。

 

辛うじてコックピット部分が奴の体内に残っている状態だった。

 

 

「このままでは下手に攻撃が出来ん。」

「かと言って野放しにも出来ないよ?」

「万事休すか…」

 

 

カーウァイ中佐達が状況を纏めようとしたが、今回の出来事を対処するのには無理があった。

 

かつては戦士ロアがその命と引き換えて騎士ガンダムを救った。

 

同じ状況を行うにしてもその手段は無理がある。

 

他に手段があるとすれば『次元力』の行使だろう。

 

だが、それは彼と私がスフィアリアクターである事を露見する事になる。

 

どうしたらいい。

 

…どうすれば!

 

 

「ハスミ。」

「ケイロン…」

 

 

ケイロンは機体越しであるが私の肩に手を添えた。

 

彼の意思を感じ取った。

 

彼の強い思いが私を落ち着かせてくれた。

 

私は彼の手に手を添えた。

 

重ねた手が暖かく感じる。

 

 

「…(重ねる、そうだ!」

 

 

どんな結末にも抗う『反抗心』、どんな結末でも見届ける『好奇心』。

 

黄道十二宮のクオリティでも相性は悪くない筈。

 

二つのスフィアの力を重ねる。

 

やるしかない!

 

 

「ケイロン、お願いがあります。」

「ハスミ?」

「私を……纏ってください!」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

私の発言に反応するケイロンとカーウァイ中佐達。

 

 

「どう言う事だ?」

「言葉通りです、私のエクリプスを鎧とし蒼雷に装着させます。」

「そんな事が…!」

「私がデブデダビデの負念を浄化しつつアムロ大尉の反応まで導きます、大尉を救い…デブデダビデにダメージを与えるにはこの方法しかないんです!」

「…」

「お願いします、時間の猶予はありません!」

「判った。」

 

 

現状、エクリプスの鎧の力に耐え切れるのは特機であるケイロンの蒼雷しかない。

 

本来は…

 

いや、もう迷わない。

 

 

「行きます!」

 

 

魔神と同様に念神も纏うモノ。

 

だったら異なるものに纏わせる事も出来る筈!

 

どうか、旨く行きますように。

 

この術に名を付けるなら…

 

 

「…念装合身。」

 

 

この時、ハスミの所持する『知りたがる山羊』がこの事象に対し反応した。

 

本来存在した概念に新たな概念を加えて全く異なる概念を生み出す。

 

それは『知りたがる山羊』の『好奇心』を揺り動かした。

 

新たな概念への好奇心。

 

それはサードステージへ昇る意志の力。

 

エクリプスはその意志の力に応じて己を鎧と化し蒼雷へと纏う。

 

格闘戦特化の蒼雷へ装着される鎧は真の意味で武神と化した。

 

 

「成功したのか?」

「そうみたいだよ、ハスミの念にも乱れはない。」

「ハスミ、ケイロン…頼んだぞ。」

 

 

その光景を見届けた父親三人はデブデダビデとの決着をハスミとケイロンに託した。

 

 

「ハスミ、これはもしや…!」

「その話はいずれ…今はデブデダビデを!」

「承知した…まずは奴の動きを止める!」

 

 

新たな力を手にした蒼雷はデブデダビデ・プランドラーへと向かった。

 

 

「ぐぬぬ、俺様の真似を!」

「厳密に言えば真似ではないです。」

「な?」

「貴方は無理矢理融合したにすぎない、私達は互いを信頼し力を重ね合わせた!」

 

 

いずれ来たる日の為に。

 

私は彼と重ねる事を望んだ。

 

彼と共に戦う事を誓った。

 

これはその為の歩み!

 

 

「…(俺への枷とはいえ蒼雷の動きが軽い、ハスミ…お前の御蔭なのか?」

「この状態なら貴方への障害はありません、存分に力を奮ってください。」

「判った…アムロ・レイは必ず救ってみせよう。」

 

 

エクリプスの鎧は隠蔽しているスフィアの力の気配を隠していた。

 

その為、ケイロンの中に存在するスフィアの力もその気配を隠したまま行使する事が可能である。

 

ケイロンは『立ち向かう射手』の力を解放しスフィア・アクトを発動。

 

能力の『重圧による力の制限』によってデブデダビデの動きが鈍くなった。

 

 

「!?(な、何だ…この俺様が奴に怯えているだと!」

 

 

圧倒的な畏怖と恐怖がデブデダビデを襲う。

 

全く動けず冷や汗を流し続けていた。

 

正に蛇に睨まれた蛙の状態である。

 

 

「ケイロン、大尉の位置が判りました…奴の胸部を狙ってください!」

「狙うはその一点のみ!」

 

 

ハスミはその能力を駆使しナビゲートをケイロンに送った。

 

 

「く、くそっ!?」

 

 

デブデダビデも恐怖に怯えつつもプランドラー機由来の武装で応戦するが…

 

一迅の矢と化した蒼雷の追撃を止める事は出来ない。

 

デブデダビデの攻撃はエクリプスの鎧から出現した鏡の武装でほとんど弾かれてしまっている。

 

一言で言うなら魔法の鏡を携えた者。

 

『魔鏡の射手』である。

 

 

「これで…!」

「終わりだ!」

 

 

蒼雷の一撃がデブデダビデを貫いた。

 

それと同時にデブデダビデの胸部に取り込まれていたコックピットブロックを回収する。

 

よろよろと動きが鈍るデブデダビデ。

 

 

「ぐふぅ………」

「まだ生きていたか!」

「しぶとさはダークブレイン軍団特有と言った所です。」

「くそう。俺様をここまで……この借りは必ず!!」

 

 

致命傷に近いダメージを受けたデブデダビデはそのまま撤退し行方を眩ませた。

 

 

「ハスミ、無事か!」

「はい、何とかなったみたいです。」

「全く、ヒヤヒヤしたよ。」

「ケイロンも済まなかった。」

「約束は守ると話した。」

 

 

デブデダビデよりアムロ・レイの奪還は成功。

 

そしてセントーの町へ急行したラーカイラムと合流。

 

私は腹を括ろうとしたが、再び発生した『次元震』によって転移する事となった。

 

私達の縁を巡る旅路はまだ続くようだ。

 

 

=続=

 




答えるべき真実は必然によって覆い隠される。

今は偽りの言の葉で先陣を切る。


次回、幻影のエトランゼ・第五十四話 『惑心《マドウココロ》』


縁を繋ぐ私達の旅路はまだ続く。


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避の付箋

これは逃避なのかもしれない。

それでも伝えなければならない。

それは一つの結末の答えを示す。


ソーディアン調査中における次元震発生から数週間が経過。

 

ハガネ、ミネルバの両艦は地球近海で暫く活動後、合同任務の為に一度地球へ帰還。

 

そのまま任務拠点として選ばれたオービットベースへと向かった。

 

同時にオービットベースには旧ノードゥスメンバーも集結。

 

一部、護衛対象から離れられないメンバーは省かれている。

 

文字通り、事態収取の為にノードゥスメンバーが再編。

 

迫りくる脅威と戦う為に反撃の牙を研いでいた。

 

 

******

 

 

オービットベース内の一室。

 

各方面の情報を纏める為に記憶保持者達が集結。

 

尚、転移や失踪で行方不明のメンバーは省かれている。

 

そこでキョウスケ達はソーディアン調査前に起こった出来事を語った。

 

 

「「「「「えええええっ!!?」」」」」

 

 

先ず、記憶保持者の子供組からの叫びから始まった。

 

 

「ハスミさんがガンエデン!?」

「…そんな。」

「真実だ、彼女自身が明かした。」

 

 

シンジと光が納得出来ない状況で答え、キョウスケは真実だと告げる。

 

ハスミ・クジョウがアシュラヤー・ガンエデンにして秘匿されていたホルトゥスのリーダーである事が記憶保持者達に伝わった。

 

L5戦役以前からもホルトゥスの伝説的偉業は根強く残っていた。

 

そしてその奇跡を垣間見た者達も記憶保持者達の中に少なからず存在した。

 

 

「兄さん、僕らが無事にラダムから逃げられたのは…」

「ああ、彼女が裏で手を回していたんだな。」

「…ハスミさんはL5戦役で僕が初号機に取り込まれた時に綾波と一緒に助けてくれた。」

「エメロード姫達の説得や空白事件でデボネアの攻撃からセフィーロの城を守ってくれた。」

「プラントの核攻撃、ヘリオポリスの一件、世界樹攻防戦も全部…」

「あの人が防いでいてくれた。」

 

 

D兄弟、シンジ、光、キラ、アスランが思い当たる部分を語る。

 

同時にキョウスケとリュウセイ、マサキが助言した。

 

 

「…ハスミはホルトゥスを動かし連合内部の改革をしつつ敵勢力の大規模作戦を何度も失敗に追い込んでいた。」

「勿論、全部が成功した訳じゃねえ。」

「救えなかった命もあったって言ってたな。」

 

 

ハスミはアカシックレコードを駆使し無限力の陰謀に抗いながら世界を護ろうとした。

 

来たるべき日の戦いの為に。

 

 

「来たるべき日の戦い?」

 

 

舞人の疑問にキョウスケとアクセルが応対した。

 

 

「ハスミは霊帝と御使いの戦いは避けられないと話していた。」

「霊帝に御使い…その時が迫っていると?」

「ああ…今の所は修羅、デュミナス、ダークブレインとの決戦だろう。」

「…奴らとの衝突も免れないと言う訳だ、これがな。」

 

 

霊帝と御使い。

 

どちらも人類進化と存続のターニングポイントとして外せない戦い。

 

そしてある真実へと繋がっている事だけはキョウスケらに知らされていなかった。

 

これに関しては識るべき時ではないが理由である。

 

真実は必要以上に識り過ぎてはならないと言うハスミなりの配慮からだ。

 

 

「宗介、どうした?」

「…唯の一兵士の彼女が、まさか巨大勢力の頭目と言う事に俺も驚きを隠せない。」

「何言ってるんだ?宗介の所の大佐だって同じ様なものだろ?」

「確かにそうだが、大佐と彼女とでは規模が違い過ぎる。」

 

 

固まっていた宗介に声を掛けた桂。

 

宗介自身はその感想を桂に伝えた。

 

 

「銀河の予想、当たっちゃったね。」

「いや…俺も冗談で言ったつもりだったのに。」

「銀河の直感も時には信じてみるモノだな。」

「アルテアさんまで…」

 

 

GEAR組はいつもの調子。

 

 

「ホルトゥスは兎も角、ガンエデンって言われてもイマイチピーンとこない。」

『関わりを持たない私達には不明な存在としか言いようがない。』

『事前に伝えられた情報を信じるしかなさそうだな。』

 

 

ヨウタと彼の所持する二つに別れた運命の石からファルセイバーとブルーヴィクターが同様の感想を告げた。

 

 

「ウラキ、どうした?」

「ハスミの父親が孫光龍って……とんでもない人が仲間になっていた事にもう頭が痛い。」

「私は面識はないが、どの様な人物だ?」

「悪く言うなら愉快犯、反対に言うなら悪を無理矢理気取っていた人かな……四霊クラスの超機人の操者で強大な存在である事は間違いない。」

「応龍皇……映像データで見た限りだが、途轍もない存在である事は理解できた。」

「そりゃ…8,000km(推定)の…万里の長城の大きさの超大型機動兵器を乗り回している相手がいきなり仲間になれば脳内整理が追いつかないよ。」

「…胃が痛くなってきた。」

 

 

ある意味でカルチャーショックに陥り、顔色を悪くしながら頭痛と胃痛を引き起こすコウとガトー。

 

二人の会話を横で聞いていたD兄弟とトモルが「あー確かに。」とハモっていた。

 

 

「…」

「コウタ、どうしたんだ?」

 

 

一人黙っていたコウタに話しかけるリュウセイ。

 

 

「なあ、リュウセイ少尉…聞きたい事があるんだけどよ?」

「聞きたい事?」

「そのハスミ少尉って奴がガンエデンの一人なんだろ?」

「ああ…」

「もしも…その人がガンエデンに乗ったらイルイみたいに素っ裸になっちまうのか?」

「い!?」

「コウタ君だったっけ?その時のお話に詳~しくお兄さんに話して欲しいんだけど?」

「桂…お前な!」

 

 

コウタの発言に声を荒げるリュウセイ、素っ裸と言う言葉に反応する桂と桂の暴走を止めようとするオルソン。

 

 

「コウタ、そんな事になったら光龍やテンペスト少佐達が黙っていないぜ?」

「へ?」

「下手すればテンペスト少佐達からのハチの巣か光龍の応龍皇から雷撃を落とされるからな?」

「げ!」

「最後に本人から締め上げられる……それも梁山泊流にだ。」

 

 

青ざめた表情でマサキとリュウセイが先の発言の危険性をコウタに伝えた。

 

マサキとリュウセイは彼らの報復がどれだけ恐ろしい物かを脳内で想像。

 

その笑っていない笑顔な彼らの恐るべきシーンで更に土気色にまで顔色が変貌していた。

 

 

「そもそもリュウセイとマサキにコウタ、最後に桂は既に発言でアウトだと思うけど?」

 

 

「「「「は?」」」」

 

 

片頭痛を引き起こしていたコウが四人に処刑宣告な発言を付け加えた。

 

 

「彼女もイルイと同じでアカシックレコードを読み解けるのなら…ココの発言も全部筒抜けだと思うよ?」

 

 

青褪めた表情でコウはサラリと答えた。

 

 

「「「「…」」」」

 

 

ギャクの法則で言うと彼らは石化し砂埃となって消えて逝く様な位に沈黙していた。

 

コウの宣告は『情けは人の為ならず』に該当。

 

不憫に思ったのかガトーも遠回しに言い過ぎてあると伝えるが、事実である以上はどうしようもないと言う意味でコウは答えた。

 

 

「ウラキ、今の発言は流石にショックが大きすぎると思うが?」

「仕方がないだろ?先に事前通告しておいた方が被害が少ないと思う。」

「自業自得と言う訳か…」

 

 

記憶を何通りも持つコウもまたアムロ達の影響を受けて悟りからの腹黒さが増している。

 

ライバルで良き戦友でもあるガトーも本人らの発言ミスとして捨て置いた。

 

話は戻し、キョウスケらは極東エリアで戦闘を展開していたメンバーに状況を聞いていた。

 

 

「万丈、地上の方では何が起こっていた。」

「彼女が助言した通り、バルトール事件後に修羅とデュミナス一派による戦闘が地球各所で発生しています。」

「同時に火星の後継者やロゴスの協力者と化したアマルガムの介入によるテロも起こっている。」

「それだけじゃないぜ、ガルファやギシン・ガルラ連合とかって奴らも襲ってきやがった。」

「それにアルジャーノン感染者による大規模暴動も捨て置けない。」

 

 

地上に残っていた万丈、ロジャー、コウタ、凱より戦乱を起こしている勢力の名を告げられた。

 

そしてキラとアスランはシンにオーブで例の事件が起こった事を話した。

 

 

「シン、残念だけど…オーブに例の工作員が入り込んだよ。」

「まさか!?」

「うん、彼らはラクスの命を狙っていた…バルトフェルドさんやアイシャさん達の御蔭で今は安全な場所に避難して貰っているよ。」

「議長、今回もディスティニープランを…」

「その可能性はあるだろう。」

「アスランさん…」

「今回はカガリのプラントへの視察を中止させた事で俺達と議長との接点は無くなってしまったが、あの人は計画を実行する可能性は高い。」

「…」

「アスラン、シン、今は目処前の事件を終わらせる事に専念しよう。」

「そうだな。」

「…はい。」

 

 

マサキは地球防衛軍側のメンバーで姿が見えない面々がいる事に質問した。

 

 

「そういや、瞬兵達はどうしたんだ?」

「その事なんだけど…」

 

 

事情を知る舞人がマサキや事情を知らないメンバーに事の次第を告げた。

 

 

「何だって!?」

「そう言う訳でエクスカイザー達…宇宙警察機構の出身者達は管轄を越えた捜査や介入は出来ないと言う理由から惑星ブレイブに強制送還されてしまっている。」

 

 

エクスカイザーら宇宙警察機構はあくまで犯罪集団の検挙もしくは逮捕のみが権限で許されている。

 

しかし、地球に戦乱を持ち込んだ異星人を退ける戦力を保有する事が知れ渡った事でエクスカイザー達の保護対象惑星の管轄から除外されてしまったのだ。

 

これによりエクスカイザー達は惑星ブレイブの政府上層部からの命令で強制送還と言う形となった。

 

逆にバーンら大いなる意思アスタルから遣わされた者達はある理由により里帰りしていると言う状況だった。

 

これにより地球防衛軍の戦力が一気にガタ落ちとなり、中立の外部協力者を引き入れてバランスを取っている状態だった。

 

 

 

「ゾヴォーク側の連中からは?」

「まだ内部抗争の終息が終わっていないらしく追加報告は受けていない。」

「また面倒な事になってやがんな。」

「それと気になる事が…」

 

 

以前、舞人は外宇宙にガンエデンの逸話が残っていないかエクスカイザー達に話を聞いた所…

 

それに関係あるかは定かではないが似たような逸話を聞く事が出来たそうだ。

 

 

「俺が聞く事が出来た逸話は…」

 

 

白と蒼が眠りし星と黒と紅が眠りし星を何人たりとも踏み入れる事なかれ。

 

白と黒は人祖の育み手にして守護神。

 

紅と蒼は人祖の導き手にして戦神。

 

四つの神が揃いし時、終焉と破滅を齎す者達が目覚める。

 

かつて見守る者達が産み出した神は彼らの所業に抗い欠片となった。

 

破滅を導く者となった者達を退く為に。

 

四つの神と星に導かれし十二の宝玉が集う時、それらを退けるだろう。

 

それは最初であって最後の時。

 

心せよ、同じ事は繰り返す事は無い。

 

事を仕損じた時、永劫の牢界が訪れるだろう。

 

 

 

「俺が知るのはここまでです、恐らくガンエデンと万丈さん達が話していた御使いやバアル…スフィアの事を告げたモノと思います。」

「俺達の予想を超えた戦いが迫っている…か。」

 

 

 

先の逸話を略すならば、この世界に銀河大戦とZ事変の両方の戦乱が発生する事が伝えられている。

 

それらに引き寄せられる様に様々な戦いも集約されている事も…

 

 

「今の所、協力を得られるガンエデンは二名…その内の二名は判らない。」

「ハスミさんとイルイですね。」

「もう一方はビッグファイアとケイサル・エフェス……どっちも協力が得られるか判らねえ連中。」

「接触出来ているスフィアリアクターの内、ランドさんとセツコさんは兎も角…アサキムがどう出るか。」

「この伝承通りならビッグファイアとケイサル・エフェス、そして他のスフィアリアクター達の協力を得なければならない。」

 

 

事情を余り知らない面々…主にコウタと光はその様子に感想を告げた。

 

 

「何かややこしいな。」

「あの…その人達と話し合う事は出来ないんですか?」

 

 

光の発言も最もだが、説得しようにも我が強く癖の多い面々の為に流石に無理があるだろうと関係者達は口々に告げた。

 

 

「光、悪いけどそれは難しい。」

「残念だけどね。」

「アスランさん、キラさん。」

「ケイサル・エフェスに関しては死者の思念を統べるモノ……隙あらば僕らを取り込もうとするだろう。」

「ビッグファイアは人類に絶望してBF団を指揮している、その彼らが急に掌を返すとは思えない。」

「万丈さん、コウさん…」

「そして他のスフィアリアクター達も前回と同様に協力的かは不明だ。」

「十二人中…五人はサイデリアルとして御使いの手に落ちている可能性も否定できない。」

「ロジャーさん、オルソンさんまで…」

 

 

どの様な状況であれ、彼らは自分自身の思いと心に従って動いていた。

 

世界を救うと言う一つの目的に到達するには何かのきっかけが必要だろう。

 

それこそ奇跡と体現する何かが…

 

 

「私はそうだとは思えない……エメロード姫やセフィーロの人と解り合えたんだもの。」

「光。」

「それだけじゃない、敵だった人達とも解り合えたんだ……だから。」

「光君、君が言う様に信じたいのは判る……それでも譲れない想いも時として存在する事を忘れてはならない。」

 

 

光の言葉は万丈らにも伝わったが…

 

解り合えずに手を取り合えず違えた事もあった事を告げた。

 

全員がそうでない事。

 

異なる正義が重ね合うと言う事は真の意味で奇跡なのだと。

 

押し付けるだけが正義ではない。

 

時には解り合えない正義も存在する。

 

 

「光。」

「シンさん?」

「確かに光の気持ちも大事だと思う、でも考える時間も必要だと思うんだ。」

「考える時間?」

「うん、誰にだって譲れない想いとか願いもある……だからどうしても解り合えない時ってあると思う。」

「それは…急ぎ過ぎちゃ駄目って事?」

「そう、自分の気持ち相手の気持ち互いの気持ちを考えてから答えを出すんだ…きっといい答えが出るよ。」

 

 

シンは光に助言した。

 

かつての自分も迷いの中に居た。

 

だから、自分と同じような間違いをして欲しくないと言う意味合いを込めて。

 

 

「話の所、悪いがギリアム少佐から連絡だ。」

「何かあったのか?」

「セフィーロの城がある北米エリアでラーカイラムが転移して来たらしい。」

「ブライト艦長達が?」

「アムロ大尉もハスミ達も無事との事だ。」

 

 

ギリアム少佐からの通信で彼らに朗報が舞い込んできた。

 

そして悲報もまた告げられた。

 

 

「だが、ハスミ達はソーディアンズ・ダガー奪取の任務に就く為、こちらには合流出来ないそうだ。」

「いよいよか…」

「ああ、俺達の反攻作戦が始まる。」

 

 

戦いの流れを巻き返す為の作戦決行日。

 

その決行日までの猶予は一週間。

 

それぞれの戦いの地で互いに反逆の時を迎える時まで。

 

今は逃避し牙を研ぎ澄ませよう。

 

 

=続=

 





=とある真相=


情報交換を終えた一行は室内を後にし配属先の部隊へとそれぞれ戻っていった。

だが、一組だけは戻らずに静けさを増した室内で話し合いが設けられた。


「万丈さん、俺…話しておきたい事が。」
「話?」
「はい。」


シンは室内を後にしようとした万丈を引き止め、話を持ち掛けた。

それは自身の真っ直ぐな想いを正直に伝えたい意思からである。

残りのメンバーが去った後、室内に残ったシンは万丈にある話を告げた。


「実は…」


シンから告げられた事。

それはこの戦いを根本から覆す真実だった。


「…それは本当なのか!?」
「はい、俺も一瞬…他人の空似と思いましたけど。」
「では、彼女は…」
「本当はそっとして置くべきと思ったんですが…やっぱり話しておいた方がいいと思って。」
「まさか彼女が『次元の将』と関係を持っていたとは…」
「こっちの世界に来ている事に正直ビックリもしましたよ。」
「…彼女自身もL5戦役から数々の転移騒動に巻き込まれる事が多かった。」
「じゃあ、その時に?」
「出会った可能性も否定出来ないだろう。」


彼女はガンエデンにしてホルトゥスと言う組織の頭目。

そして国防産業理事とも秘密裏のバイパスを持っている。

彼の身分位は容易に準備も出来ただろう。

彼女は一体、何を考えているんだ?


「ハスミさん、あの人と再会した時……凄く嬉しそうだった。」
「嬉しそうだった?」
「何て言うか、大切な人に逢えたって感じで…」
「…」


何処か寂しそうで神経を張り詰めた表情のハスミさんがあそこまで穏やかな表情になったのは見間違いじゃない。


「シン、その話が本当なら彼女は彼の事を…」
「俺も万丈さんと同じ考えです。」


恐らくハスミ君は次元将ヴィルダークを愛している。

それが今後の戦いに影響を与えるのは確実。

最悪の場合、彼女は僕らの敵になるかもしれない。


「万丈さん、俺…」
「シン、よく隠さずに話してくれた。」
「いえ…これからどうします?」
「この話を誰かに話したかい?」
「いえ、万丈さんだけです。」
「判った、シン…この話は僕と君だけに留めて置いて欲しい。」
「判りました。」


誰かを愛する事に理由は要らない。

彼女は識っていたとしても彼を愛したのだろう。

それが裏切るきっかけとなっても。

彼女の性格上、彼の傍で寄り添う事を止めたりはしないだろう。

それは最悪の結末を物語る様に。




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第五十四話 『惑心《マドウココロ》』

語るべき真実は告げられた。

それは一つの結末に至るとしても。

私はこの歩みを止める事は無い。

それでも心の何処かが惑う。

私は愛する人と仲間をどちらを選べはいい?




セントーの町での戦いを終えた直後、ラー・カイラムと合流。

 

直後に次元震に巻き込まれ、元の世界への帰還から数日後。

 

私達は負傷した体を癒しつつ次の任務までセフィーロの城で待機命令が出ていた。

 

肉体の負傷はセフィーロの城で治療は可能だが、機体に関してはそうはいかない。

 

その為、ラングレー基地とテスラ研究所に修理用品並びに物資供給が到着するまでが待機期間となっている。

 

 

******

 

 

セフィーロ城、城内の応接の間にて。

 

 

「それではアムロとクワトロ大尉は…」

「肉体は兎も角、二人はその精神に深刻なダメージを受けている。」

「復帰には時間が掛かると?」

「恐らくは…私もここまで強力な負の力を感じるのは初めてだ。」

 

 

ブライトの問いに答える導師クレフ。

 

デブデダビデによって精神操作を受けたアムロとアムロを拉致された際に応戦したクワトロ。

 

両名はデブデダビデの魔術によって、その精神…心に深刻なダメージを負っていた。

 

今もセフィーロの魔術師達が彼らの精神を蝕んでいる負念を浄化する為に奮闘しているが遅々として進んでいない。

 

この為、彼らの戦線復帰は厳しいだろう。

 

 

「偶然とは言えハスミらの救出が早かった事が救いだろう。」

 

 

クレフは救出が遅れていれば…彼らはその精神を崩壊させ、廃人になっていたと告げた。

 

 

「彼らを含め、他の者達の治療もこちらで進めよう。」

「何から何までご協力に感謝します。」

「いや、光達と同様にハスミとロサには我々も返しきれない恩義がある。」

 

 

ブライトも報告書で知る程度だが、L5戦役の月面における月の絶対防衛戦線の奪還作戦後にハスミ、ロサの両名は謎の転移…後の次元震に酷似した現象によってセフィーロに転移。

 

そこで滅びに瀕したセフィーロを同じく召喚された光らと共に事態収束させた。

 

彼らにとっては故郷を救ってくれた伝説の英雄である事は間違いないだろう。

 

 

「ハスミは初対面とは言え、真摯に此方の事情を聞き察してくれた。」

「ええ、昔から周囲の空気を読むのに長けていると養父であるテンペスト少佐から伺っています。」

「成程、迷う光達を論し…道中の旅路を支えてくれたのも頷ける。」

「自分も遠目から見た程度ですが、他のメンバー同様に姉の様に年下の仲間達をまとめていました。」

 

 

時には勉学の課題に追われる子供達の勉強も見ていましたよ。

 

もしも幕張の事件が無ければ、文学の道に進もうとしていた様なので。

 

『教えるにしても半分は飴と鞭でしたがね。』と苦笑してブライトは答えた。

 

 

「彼女の思慮深さがあの時の私の深意とエメロード姫の本当の願いを見極めたのか…」

「洞察力に関しては私やアムロも人目置いています、彼女が念者だからと言う理由すら意味をなさない位に。」

「洞察力か…それで片付けるには少々気になる事が多すぎるのだが。」

「気になる事ですか?」

「ああ、彼女は…まるで前以って知っているかの様な素振りを見せていた。」

「それは彼女の念の力が原因では?」

「…そうか。」

 

 

クレフはハスミの不可解な行動をブライトに告げたが、何かあっての行動として話すのを止めた。

 

ブライトはクレフが納得し話を切り上げたとして対応した。

 

その後、滞在中の警備や政府からの補償などの話し合いが続けられた。

 

一方でラー・カイラムのクルーは交代で休憩を取りながらセフィーロ城で一時の安らぎを満喫していた。

 

転移騒動で様々な経験をして来た彼らであるが、そんな彼らにも休息と言うのは必要だ。

 

彼らの精神的支柱となっている人物達が今も負傷し病床に就いている今も不安は拭い去れない。

 

しかし、いつもの様に復活すると信じて今は待つしかない。

 

カミーユ達エゥーゴ組やジュドー達シャングリラ組も二人の帰還を信じていた。

 

道中で一同に加わった惑星ガイアの面々やラクロア騎士団も同様に負傷などで病床に就いているが、彼らも二人の再起を信じていた。

 

 

『信じる心が力になる。』

 

 

セフィーロ城で思いと願いが二人に届く様に祈りを送った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その夜。

 

私ことハスミは前回のデブデダビデ戦に於いて奴の攻撃を受けた。

 

それが負の力に由来する攻撃だった為に身体への安全を考慮して休養を余儀なくされた。

 

斬り裂かれた痕や出血の類はもう消えているが、後遺症なのか時折傷みが甦ってくる。

 

セフィーロ城の一室を用意された私はそのまま部屋の窓側で寛いでいた。

 

しかし、疲弊した私は室内に入る存在の気配を感じ取る事が出来なかった。

 

 

「傷自体が目立たないとは言え…己の身体を疎かにするな。」

「ヴィル、いつの間に?」

 

 

窓際に座っていた私は部屋の出入り口に顔を向けた。

 

声の主であるケイロンが気難しい表情でこちらを見ていた。

 

 

「こちらの気配すら感じ取れんとはな、お前の疲弊はこちらの予想を超えている。」

「恐らく…蒼雷に施した『念装合身』の影響だと思います。」

「…」

「ご心配をお掛けして申し訳ございません。」

「お前が謝罪する事は無い、今回の件は俺が奴の一撃を躱せなかった結果だ。」

「いずれ、貴方の片腕となる事を誓った身です。」

 

 

ハスミは『この程度こなせなければ意味はありません。』とケイロンに告げた。

 

 

「あの時の力、まさかと思うが…俺が失ったヴィシュラカーラの再現か?」

「はい、その通りです。」

「…」

「貴方は不本意と思いますが、あの現状でデブデダビデに立ち向かう方法はアレ以外思いつきませんでしたので…」

「いや、構わん。」

「ヴィル?」

 

 

ケイロンはその眼を伏せて答えた。

 

 

「…たった一人の女を護れん者が言えた立場ではないがな。」

「傷の事なら私が勝手に受けた事、貴方のせいでは…!」

「そうではない。」

「え?」

 

 

続けてケイロンはハスミに伝えた。

 

 

「俺は…お前が傷を負った時、その場から動く事が出来なかった。」

「…」

 

 

ハスミは話を続けるケイロンの元へ移動した。

 

 

「未だ、己の恐怖を克服すら出来ていない者が…この俺だ。」

「…何故です?」

「恐らくは俺の持つスフィアに課せられた新たな試練…なのかもしれん。」

「待ってください、スフィアはサードステージまでが覚醒範囲の筈……まさか!?」

「お前の言う様に変異したのだろう。」

「それは新たなステージへと上がる為の?」

「かもしれん。」

 

 

双子座のスフィアが二つに別れたのも私が山羊座のスフィアに選ばれたのも変異が原因?

 

アカシックレコードでも認識出来ない変異……一体何が起ころうとしているの?

 

 

「ハスミ、このままでは俺達の契約に支障が生じる。」

「判っています…新たなプランを立てて置く必要がありますね。」

「契約の為にもスフィアの新たなステージ…フォースステージへ各スフィアリアクター達を覚醒させなければならん。」

「…苦難の道ですね。」

 

 

サードステージ以上の力を引き出すフォースステージ。

 

それが一体何を齎すのか?

 

やっぱり…アカシックレコード通りにあの結末に進んでいるのだろうか。

 

その結末に近づくにつれて私は…

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

 

 

私はまた彼に抱きしめられた。

 

触れる感触、温かな彼の中に安堵している。

 

抜け出せなくなる位に優しい温もりを感じる。

 

そして彼の震える様な感覚もまた感じる。

 

彼は今も自分の中の恐怖と戦っている。

 

それでも彼はその膝を折る事はないだろう。

 

私は腕を通して彼を抱きしめ返すしか出来ない。

 

どうか、この願いだけは叶えたい。

 

彼との契約はその為の誓い。

 

 

「ヴィル、私は貴方を絶対に裏切りません。」

「判っている。」

「どうか、立ち向かってください。」

 

 

私はどんな時でも彼を支えよう。

 

例え、仲間を裏切る結果になったとしても。

 

 

>>>>>>

 

 

ハスミらが居る室内の外では。

 

 

(…困った事になった。)

(ああ。)

 

 

ヒソヒソと小声で話し合う三つの人影。

 

 

(ハスミとケイロンには救われたが…)

(今は様子を見るしかなさそうだな。)

 

 

娘の事が心配で覗きに来た父親同盟の姿があった。

 

流石の雰囲気に室内に入り込むと言う無粋な真似はしていない。

 

 

(ハスミ、これも君の成そうとしている事の一端なのかい?)

 

 

二人のやり取りを傍観しつつハリスは静かに呟いた。

 

 

=続=




決戦への道を作る為に必要なモノ。

手に入れる為に私達は対峙する。


次回、幻影のエトランゼ・第五十五話 『死鳥《シチョウ》』


死を告げる鳥は甲高く吠える。


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除の付箋


遺恨は全て排除する。

跡形もなく。

これは先を見据えた決定事項。

僕は大切な者達を護る為にその手を汚そう。




 

エクリプスの鎧を纏った蒼雷の一撃を喰らったデブデダビデ。

 

その一撃は致命傷に近く、当人は不本意ながらも撤退を余儀なくされた。

 

手駒を失い、自身らが求めた情報を手放す結果となった以上。

 

デブデダビデの立場は先に撤退を余儀なくされた二人と立場が均一となった。

 

そしてここ、ダークアイアンキャッスルでは…

 

 

******

 

 

「ようデブ公、随分と派手にやられた様やな?」

「ぐぬぬ…」

「誰ニヤラレタ?」

「あの手駒の仲間らしい……あの連中。」

「連中?」

「戦力に関してはアムロ・レイと変わりはないが、その内の一人は俺様と同じく魔術を行使する様だった。」

「何か気になる事でもあるんか?」

 

 

自身の研究室の一室で傷を癒しながら同僚二名と話し合うデブデダビデ。

 

半分は嫌味と小言であるが、自身らと同様の失敗を犯したデブデダビデに対して二人も寛容な態度で接した。

 

話を続ける中でデブデダビデ本人は何か腑に落ちない点があるかの様な素振りを見せたが…

 

ハッキリとした答えが出ないので有耶無耶にしていた。

 

 

「…奴らの情報が少ない以上は俺様もこれ以上の事は言えん。」

「なら、次の接触でデータを集めるしかないって事かいな?」

「役立タズガ。」

「ふん。」

 

 

そして彼らに更なる不運が舞い込んできた。

 

手を出した相手が予想以上の化け物であった事をその脳裏に刻みこむ様に。

 

 

「な、何や!?」

「城ガ揺レテイルダト!?」

「こんな時に!?」

 

 

ダークアイアンキャッスルを揺るがす事態が外で起こっていた。

 

娘を傷つけられた以上…彼が黙っている筈はないのだ。

 

 

>>>>>>

 

 

「さてと、あの不細工君は出て来るかな?」

 

 

ダークアイアンキャッスルから少し離れた場所にて小惑星帯を潜り抜けて城に進攻する存在。

 

無理を承知でこの世界に再度転移させて貰ったとの事。

 

それ相応の成果を出す事と個人的な怨みを兼ねて奴らの目処前に現れたのだ。

 

 

「俺らの城を襲ったのは何処のどいつや!」

「出テコイ!」

「言われずとも出て行くよ…」

 

 

高次元ステルスを解除し現れたのは城すらも飲み込む勢いの巨大な龍。

 

それはうねりながら骸骨騎士と水晶の竜を睨み付けていた。

 

 

「初めまして、ダークブレイン軍団?」

「な、何やねんオドれは!」

「僕の名は孫光龍、アシュラヤーを守護する者さ?」

「コノ城ニ何ノ様ダ!」

「その城に逃げ込んだ…不細工君にちょっとした御礼をね。」

 

 

淡々と答える光龍。

 

しかし彼の様子は普段とは異なっていた。

 

 

「…僕の大事な者に傷を負わせた報いは受けて貰おうか?」

 

 

先程の軽い口調とは違いドスの利いた声で告げた。

 

笑っている様で笑っていない表情と凍り付かせる様な気配。

 

 

「逆に抵抗しても無駄だろうけどね。」

 

 

復活を遂げた応龍皇より放たれるのは雷の豪槍。

 

 

「折角だから出血サービスで消してあげるよ……応龍皇!超新星召喚砲!!」

 

 

「「!?」」

 

 

星をも飲み込む雷の光。

 

それはスカルナイトとクリスタルドラグーンそしてダークアイアンキャッスルを飲み込んだ。

 

応龍皇の一撃が放たれ終わると半壊したダークアイアンキャッスルを残して二体の姿は消えていた。

 

 

「出てきたらどうだい?この程度で消える君らじゃないだろう。」

「こっちの動きもお見通しって訳かいな…!」

「グ、ウウウッ!」

 

 

先程の一撃を避けきれず、ボロボロと化したスカルナイトとクリスタルドラグーン。

 

その衝撃は凄まじさを物語る様に彼らの肉体をボロ布の様な姿へ変貌させていた。

 

 

「そうだよ?」

 

 

続けて『それに…君達が逃げると言う選択肢を僕があげると思ったのかい?』と付け加えた。

 

その表情はしてやったと言う様な表情で挑発していた。

 

 

「ん?」

「な、何やねん…!?」

「コレハ!」

「成程ね、手出しの必要はないって…この事だったか。」

 

 

負傷したスカルナイトとクリスタルドラグーンにダークアイアンキャッスルの周囲に引き起こされた現象。

 

そう次元震である。

 

成す術もなく二体と城はスダ・ドアカワールドより転移し消失した。

 

 

「さてと君のリハビリも済んだし、元の世界で控えめに暴れるとするかな?」

 

 

光龍の問い掛けに応龍皇も反応。

 

光龍は向こう側からの帰還準備が整うまでその場で暫く傍観していた。

 

 

******

 

 

同時刻、ランタオ島にて。

 

引き続き、東方不敗らによって守られているODEシステムのコア。

 

その島に新たな援軍が到着したのである。

 

 

「…」

「相変わらず、慌ただしい島なのは変わらずか。」

「悠長な事を言っている事態ではない事は確かだ。」

 

 

ランタオ島の北端にて島に上陸した二つの人影。

 

一方は赤のジャケット姿の男性、もう一方は青と白、赤が目立つ装甲の男性。

 

 

「連絡通りならドモンはODEシステムのコアの中でレインさんと…」

「その件でブルーロータスからの情報では今夜だと話していた。」

「一波乱の予感しかしない。」

「ロム、早い所…ドモンの眼を覚まさせないとな。」

「勿論、そのつもりだ…一矢。」

 

 

かつて、前世の世界で彼と拳を交えて友情を誓い合った友が訪れた。

 

必然とされた決戦の時は近い。

 

 

=続=



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第五十五話 『死鳥《シチョウ》』

知っているだろうか?

死を告げる告死鳥の啼く声を。

地獄の炎の中で踊り続ける死体の姿を。

正史では語られなかった人々。

彼らもまたその世界に生きる者である。



私達はセフィーロ城での静養の間、ラー・カイラム組と情報交換を行った。

 

惑星ガイアでの戦いとスダ・ドアカワールドでの戦乱。

 

ダークブレイン軍団。

 

様々な要因が重なったとは言え、彼らの流れはCOMPACT3の物語に近いらしい。

 

違うとすればジュドーの妹のリィナが生活班要員で乗艦していたもののフォルカと出会わなかった事だ。

 

やはりOGの流れが強いのか今回のフォルカの癒し系妹枠はショウコになっている。

 

ま、合流すればごちゃ混ぜになりそうだから気にはしない。

 

危険と言う訳でもないし…

 

ちなみにメカンダー組は外宇宙メンバー入り、バランバランの件は遭遇しておらず有耶無耶。

 

惑星ガイアに転移した神崎ひとみはこちら側の世界の住人である事はアカシックレコードで確認済み。

 

接点があるとすれば、山海高校のオカルト研究会のメンバーとである。

 

勧誘の理由をあげれば彼女の予知能力とダウジングだろう。

 

初対面とは言え、彼女から不思議な眼で視られた。

 

バァンとアレンさんからは私も伝説の魔法騎士の一人である事をセフィーロ側から説明を受けていた様なので色々と神聖視された事にツッコミを入れたい。

 

どちらかと言うとバァンの方がアトランティス人の末裔だし神聖視されても可笑しくないんだけどね。

 

アトランティス人繋がりで某万能戦艦を思い出したのは気のせいと思いたい。

 

騎士ガンダム達に関しては…手に触れた時に人の皮膚と同じ感じがしたのに驚いた。

 

あの見た目なのに本当に不思議だった。

 

カミーユ達からはハリスさんの事、ジュドー達からはケイロンの事を根掘り葉掘り聞かれる事となったが遠回しにはぐらかして置いた。

 

カミーユに記憶が戻った兆しはないし、ケイロンの事は『お慕いしている人』で通して置いた。

 

無駄な事は言いません。

 

正直に言えばプリベンター組が別行動中だったのが幸いだった。

 

ヒイロとゼクスさんが居たら殺気交じりの拳銃込みで泥沼討論会が始まる所だったので…

 

まあ…一応勝てるから大したことないけど余り事を荒立てたくないが本音である。

 

と、まあ色々ありましたが有意義な情報交換を行えたと思う。

 

そして静養を終えた私達は上層部の命令で作戦の要であるソーディアンズ・ダガーを求めて修羅の出現回数が多い地域へ出発する事となった。

 

内心、アムロ大尉とクワトロ大尉が眼を覚まさない現状でその場を去るのは心苦しい。

 

一応、あの人達には念話で軽く事情を説明しておいたが微妙な反応だった。

 

お二人ともスダ・ドアカワールドで愛機を全損し動かせる機体の到着に時間が掛かる。

 

ちなみにハリスさんとケイロンの事は二人には感づかれてないので大事にはなっていない。

 

だからと言ってこのまま何もせずに時を過ごす訳には行かない。

 

今やるべき事をするのが今の私が出来る事だ。

 

 

******

 

 

中欧エリア空域・ダウゼントフェスラー機内。

 

輸送機を自動運行システムに切り替えて、最終ミーティングを行っていた。

 

カーウァイの号令からハスミが説明を開始した。

 

 

「ハスミ、始めから説明を頼めるか?」

「了解です。」

 

 

今回の任務はソーディアンズ・ダガーの奪取。

 

目的地はドイツ地区のシュトゥットガルト基地、同基地を制圧した『修羅』の内部勢力の一つである『赤の兄弟』の殲滅。

 

同時に正規部隊FDXチームと非正規部隊DMXチームと遭遇する事となります。

 

このチーム双方共にダニエル社の私兵。

 

こちらの行動に何かしらの横槍を入れる可能性も視野に入れてください。

 

 

「ハスミ、赤の兄弟とは?」

「赤の兄弟とは修羅の中で力を持つ一派の一つです、赤く塗装した修羅神ゼパルを所持し『グレダス・ミモザ』を長兄として仰ぎ、力による恐怖で弟達と呼ばれる部下を率いています。」

「力による恐怖?」

「はい、グレダスは強き者には媚び諂い…逆らう者は容赦なく切り捨てると言う非情な男です。」

「…」

 

 

ハスミの説明に対してテンペストが質問を入れた。

 

質問に対して応対した所、ケイロンもその応対に答えた。

 

 

「成程、そのグレダスには統率力に関して隙があるのか?」

「勿論です、正直に言えばこのグレダスを倒してしまえば連中の統率は混乱しますし…」

「押さえつけられた力以上の力を持つ者の前には屈服せざるを得ないのだろう。」

「…そう言う事です。」

 

 

この話の流れでケイロンはこちらの意図を察してくれただろう。

 

奴に慈悲は必要ないし徹底的に潰しても構わないと。

 

正直に言えば、この手合いのやり方に異議を求めているのは彼自身だ。

 

次元の将として放ってはおけないと…

 

 

「ハスミ…今回の件、ちょっと気になるんだけど?」

「ハリスさん?」

「確か、君が前に話していたこの時期に…鋼龍戦隊がソーディアンズ・ダガーを手にしている筈だよね?」

「そうですが、今回は少し流れが変わってしまっています。」

「どういう事だい?」

「正史では鋼龍戦隊がソーディアンズ・ダガーを奪取しますが、今回はある存在によって防がれてしまいます。」

「防がれる?」

「はい、デュミナス一派のティスの介入によってソーディアンズ・ダガーを破壊され奪取が出来なくなってしまうのです。」

「成程ね、今回…僕らがソーディアンズ・ダガーを手に入れなきゃならない理由がそれって訳?」

「ええ、またも無限力のお遊びによるものです。」

「…連中も懲りないね。」

「余程、この戦乱の行く末に戯れを入れたいのでしょう。」

「君はそれを黙って見ているつもりはない…だろう?」

「勿論です。」

 

 

こうしている間にも地球にガルファ本星の侵攻、外宇宙組へのギシン・ガルラ連合の追撃が起こっている。

 

他の皆が足止めをしている間に何としてでもソーディアンへの突破口を作らなければならない。

 

火星の後継者とアマルガムは国際警察機構とホルトゥスのメンバーが抑えてくれている。

 

そして超人同盟をBF団が、カンケルが出現したモーディワープの決戦の地にはビッグファイアが動いてくれた。

 

私の視た未来を信じて動いてくれた人達の為にも道を示す。

 

 

「ここまで手の込んだお膳立てをされたのですから…綺麗に平らげるのが筋では?」

「…(これ、完全に怒ってるね。」

「ふっ、流石は…」

 

 

「「「我々の娘だ。」」」

 

 

「…」

「…お父さん達、最後の最後で彼に口論しないでください。」

 

 

ケイロンが言い掛けそうな合間に父親同盟が揃ってハモり、それを遮った。

 

そのケイロンも無言のまま沈黙し、空気の悪くなった状況に対してハスミが呆れ口調で告げた。

 

最後に隊長であるカーウァイがミーティング終了を告げた。

 

 

「では、今回が我々対神秘現象対策部隊・STXチームの初任務となる…くれぐれも死ぬな。」

 

「「了解。」」

 

「了解したよ。」

「承知した。」

 

 

兼ねてよりレイカー司令から設立を許可された対神秘現象対策部隊・STXチーム。

 

カーウァイ・ラウ中佐を隊長に副隊長にテンペスト・ホーカー少佐、念動者パイロットにハスミ・クジョウ少尉、補充要員としてアラン・ハリス中尉とケイロン・ケシェット中尉、この場に居ないがサポートロボのロサ・ニュムパがメンバーとなっている。

 

知る者であれば近親者で固められた部隊とも言えるが、ハリスとケイロンの正体は公にされていないので赤の他人と思われるだろう。

 

尚、ハリスが表向きに所属するアクタイオン社とケイロンが所属する天臨社には既に打診が行われており、引き抜きの手続きは終了している。

 

ハリスはテストパイロットとしてPT並びにAM操縦も可能と書類上の記録に記載されている形にしたので横槍はないだろうしケイロンは自社商品である特機の売り込みと言う形で体裁を取っていた。

 

それに二人はソーディアン出現宙域で発生した転移現象に巻き込まれているので情報漏洩防止の目的も含まれている。

 

結論から言うと伝手と言う伝手を辿って裏権力使いまくりました。

 

こうでもしないと次の戦いで色々と布石が作れないので…

 

内心で反省した後にハスミは出撃準備に取り掛かった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方、シュトゥットガルト基地では。

 

 

「弟達よ!死にたくなければ戦え!戦い尽くせ!血を滾らせろ!!」

 

 

既に戦いが始まっており、FDXチームとDMXチームの混合部隊が苦戦していた。

 

相手の修羅神の軍勢は戦術要素の欠片もない戦法で翻弄し動きが捕らえられないのだ。

 

独特の禿頭と髭が目立つ赤い轟級修羅神ゼパルを護る様に展開する烈級修羅神。

 

蝙蝠型のハルパス、カメレオン型のボフリィ、猛牛型のフラウス、アルマジロ型のグリモアの四種。

 

猫又型のシトリーが無いのは女性の修羅兵に慕われていないか逆に女は弱いと認識して傘下に加えていないと思われる。

 

しかし、戦力差は修羅側の方が有利なのは明白である。

 

 

「…予想以上に敵の数が多すぎる。」

「隊長さん、どーします?」

「撤退なんてアタシは嫌だよ?」

「私も同感です。」

「俺はどっちでも?」

 

 

FDXチームの隊長であるヴェスナーを筆頭に隊員のジマー、リェータ、ウタパル、オーセニが口々に感想を告げた。

 

 

「ミルトン、どうする?」

「俺達の様な部隊への援軍の期待はしない方がいい…」

 

 

DMXチームのライオネルとミルトンもまた現状に悲観しつつも出来得る事をする気でいた。

 

使い捨てとされた部隊に残されたのは死だけ…

 

それが死人とミイラと称された部隊に残された末路だったのかもしれない。

 

だが、死者に希望を齎す存在は居た。

 

 

「隊長さん、この空域に接近する機影…ダウゼントフェスラーですかね?」

「こんな所に?」

「まさか援軍?」

「そんなお膳立てをあのペテン師がするか!」

「では、あれは一体?」

 

 

シュトゥットガルト基地の上空から離艦する四機の機影。

 

一機目はPT、二、三機目はAM、四機目は特機、そして一つは人影である。

 

 

「あの…あーしの見間違いじゃなければ一人パラシュート無しでここにダイブして来てますけど?」

「は?」

「そんな事がある訳が…いや、本当らしい。」

 

 

機影の索敵をしたジマーが発言した言葉にリェータが素っ頓狂な声を発しオーセニが確認し真実であると答えた。

 

ダイブ中の人影に隣接する様に現れた特機の機影。

 

そして戦いの中間地点とも呼べる場所に粉塵を上げて着陸した。

 

 

「そちらのPT、聞こえるか?」

「貴方は?」

「こちら地球連合軍極東方面軍対神秘現象対策部隊STXチーム、私は隊長のカーウァイ中佐だ。」

「自分は地球連合軍南欧方面軍特殊作戦部隊FDXチーム、隊長のヴェスナー大尉です。」

 

 

二人の会話に一瞬の静寂が迎えた。

 

 

「…(カーウァイってあのカーウァイ?」

「…(例の旧戦技教導隊の総大将ですね。」

「…(妙にカスタマイズされたPTとAMに見た事もない特機が二機。」

「…」

 

 

リェータはカーウァイの名に反応、ジマーは納得、オーセニは現れた機体に注目、ウタパルは無言だった。

 

 

「極東方面の部隊が何故ここへ?」

「アビアノ基地に向かう道中でこの基地のSOS発信を感知し向かっただけだ。」

「では、援軍ではないと?」

「援軍ではないが、この状況を見過ごすわけにはいかない…助太刀させて貰おう。」

 

 

ヴェスナーらに味方であると告げるカーウァイ。

 

だが、この状況をひっくり返せる戦力ではない様子を見せるSTXチームにミルトンは無言のままでいた。

 

 

「助太刀って特機クラスが二機あってもこの軍勢じゃあ…」

「泣き言を言う前に戦う相手を潰してから言うのだな?」

「おい、如何言う意味だよ!」

「言葉通りだ。」

 

 

修羅の軍勢の前に無理があると判断したライオネルだったが、ケイロンは彼の発言を否定した。

 

 

「ハスミ、やれるな?」

「勿論です。」

 

 

既に臨戦態勢を整えたケイロンの蒼雷とハスミのエクリプス。

 

 

「ケイロンとハスミは周囲の敵の数を減らしつつリーダー格を目指してくれ、私達は零れた敵を相手にする。」

「承知した。」

「了解。」

 

 

カーウァイの合図と共に進軍を開始した蒼雷とエクリプス。

 

流石に特機二機では修羅の軍勢を相手にするには分が悪すぎると誰もが思った。

 

だが、その思い込みはものの数分で砕かれる事となった。

 

 

「…嘘だろ?」

「現実だ、ライオネル。」

 

 

蒼雷は脚撃を駆使し敵を翻弄しエクリプスは独自の戦法で混乱した修羅神を打ち倒していた。

 

そして漏れ出た修羅神をカーウァイらが迎撃し一気にその数を激減させていた。

 

 

「アタシ達は夢でも見ているのかい?」

「夢じゃなさそうですよ?」

「俺にもはっきり見えている。」

「流石は鋼龍戦隊の一員ですかね?」

 

 

エクリプスに関しては神秘的現象である魔法を駆使している。

 

あの少数精鋭で事を成せるのも理由の一つだ。

 

もしも相方であるエザフォスも加われば戦力差は歴然だっただろう。

 

 

「どうした、弟共!?」

「貴様ご自慢の肉壁は全て潰した。」

「後は貴方だけです、勿論……大口を叩いて置いて無様な醜態は晒さないと思いますけど?」

 

 

ゼパルの搭乗者であるグレダスはこの状況に混乱していた。

 

自身を護る肉壁である弟達が全て倒された上に残ったのは自分だけ。

 

そして目処前には自身が主と仰ぐ修羅の王以上の覇気を持つ者が立ち塞がったのだ。

 

 

「貴様は一体…!?」

「…低能な貴様に名乗る名などない。」

 

 

蒼雷の脚撃がゼパルのコックピット部分を蹴り砕いた。

 

あの衝撃では搭乗者は潰れて絶命しているだろう。

 

 

「…(良かった、FDXチームとDMXチームを護る事が出来た。」

 

 

敵修羅神の軍勢の殲滅を確認した後、私達はシュトゥットガルト基地を奪還する事に成功した。

 

基地内で強制労働を強いられた人々の解放も進んでいる。

 

そして奴らの置き土産であるソーディアンズ・ダガーを数機奪取する事が出来た。

 

 

「…(護れたのはいいが、結果的にFDXチームの人達の栄誉を奪ってしまった。」

 

 

事後処理でカーウァイ中佐達がやり取りをしている中で私は残骸となったゼパルを見ていた。

 

 

「アンタ、あの白い機体のパイロットかい?」

「はい、貴方は?」

「アタシはリェータ・ウィーバー少尉。」

「私はハスミ・クジョウ少尉です。」

「もしかして志願兵かい?」

「はい、L5戦役が初陣です。」

「ふうん、鋼龍戦隊のメンバーって聞いたからどんなのかと思ったけど案外普通じゃん?」

「はあ…?」

「ま、助けられたのは事実だし…ありがとね。」

「いえ、出来得る事をしただけです。」

「そう言う事にして置くよ、じゃあね。」

 

 

私はリェータ少尉と握手を交わした時に彼女の思念を読んでしまった。

 

やっぱり、あの人は怒っていた。

 

自分よりも年下に助けられた事に不甲斐無いと。

 

助ける為とは言え貴方達の正史を捻じ曲げてしまって御免なさい。

 

 

「決着は付けます…(戦いの地…ソーディアンいえラディ・エス・ラディウス4へ。」

 

 

移動し奪取したソーディアンズ・ダガーを見上げながら私は呟いた。

 

 

=続=

 




進むべき戦いは集約され最後の決戦に。

戦うべき宿敵は戦うべき相手に。


次回、幻影のエトランゼ・第五十六話 『転魔《テンマ》』


転ずる強大な魔。

そして一つの結末に。



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立の付箋

立ち上がれ。

そして結末に抗え。

それは目指した明日への誓い。

その手に掴め。


ハスミらが並行世界を渡っている頃に発生したそれぞれの戦い。

 

そしてそれは蒼の女神の予言と共に奇跡を呼んだ。

 

ここモーディワープの最下層エリアにて。

 

尊者ヤクスギを母体に目覚めたカンケル。

 

それと対峙するソムニウムのラミアともう一人の存在。

 

満たされたリンカージェルの中心の祭壇で拘束されたヒノキと助けにきたケータはもう一人の存在の名を答えた。

 

 

「君は二年B組の古見。」

「蒼斧君、よく頑張ったね。」

「どうして君が?」

「後は僕に任せてくれ、君は彩君と一緒に逃げるんだ。」

 

 

古見こと古見浩一はケータに逃げる様に告げると彼とヒノキをテレポートで逃がした。

 

勿論、彼らからここで出会った記憶を操作した上で…

 

 

『紅の器、感謝する。』

「構わないさ、尊者ヤクスギに関しては僕らの不始末が原因だからね。」

『分かった。』

「彼女から託された力を無駄にしないでくれ。」

 

 

念の力で宙を浮く古見浩一いやビッグファイアはラミアに告げた。

 

戦うべき存在に対抗する力を無駄にするなと。

 

そしてラミアは戦うべき相手に向けて三つのフォルテの実が合わさり生まれたオルトスの実を喰らった。

 

そして一迅の嵐と共にラミアはベターマン・オルトスへと変貌した。

 

 

「元十傑衆、密教のヤクスギ…君の最後は僕が見届けよう。」

 

 

ビッグファイアはカンケルとベターマン・オルトスの戦いを見届けた。

 

 

******

 

 

一方、ランタオ島では。

 

新型DG細胞を取り込んだODEシステムのコア。

 

例の襲撃後も沈黙を貫き、静かなほど何の動きを見せていなかった。

 

半球型のドームを形成した建造物を見上げる人物。

 

 

「…」

「フォルカ。」

「フェルナンドか…」

 

 

修羅の内部抗争により裏切りの烙印を押されたフォルカとフェルナンド。

 

フォルカはショウコを救う為に、フェルナンドはアルコの計略に嵌った為に。

 

それぞれの思いで修羅と言う群れから去った。

 

今回、フォルカとフェルナンドは何かの意思によりで神化への道に至っていなかった。

 

共に行動していた鋼龍戦隊から離れ、神化に至る修行をこのランタオ島で続けていた。

 

神化の糸口を掴む為に東方不敗並びにシャッフル同盟と手合わせを続けていた。

 

だが、掴むべき道へ至る事はなかった。

 

 

「俺達が神化に至らないのは…一体何が足らないと思う?」

「判らない、おそらくそれが俺達が知るべき事であり神化への道なのかもしれない。」

「こうしている間にもミザルの奴は事を進めているぞ?」

「解っている。」

 

 

焦りが二人の覇気とその拳を鈍らせた。

 

今回、彼らが神化に至らないのは新たな試練が課せられている事を二人はまだ知らなかった。

 

そしてそれは目覚めと共に識る事となる。

 

翌日、ODEシステムのコアを狙って再度強襲を仕掛けた火星の後継者とデュミナス一派。

 

ボソンジャンプの要である演算システムとA級ジャンパーの拉致に失敗した上での暴挙である。

 

同時に重震のマグナス率いる修羅の軍勢も現れ、戦況は混乱を極めた。

 

援軍としてロム・ストールと神崎一矢の協力があったとしても東方不敗らも人間である。

 

連日の襲撃でその疲弊は限界を越していた。

 

そしてこの御仁の溜め込んだストレスは最大値に上がっていた。

 

 

「この一大事にいつまで寝ているつもりだ!この馬鹿弟子がぁああああ!!!!」

 

 

その叫びと共に仲間の危機にODEシステムのコアは起動を開始した。

 

彼らが目覚めたのである。

 

 

「…」

「ようやく起きたか、この馬鹿弟子めが。」

「師匠、お前達…遅くなって済まない。」

 

 

軽い挨拶をした後、目覚めたドモンは戦うべき相手に視線を向けた。

 

 

「ぐふふ、どんな奴が出てくると思ったが……こんな弱っちい奴とは?」

「マグナス、貴様の目は節穴か?」

「なにぃ!?」

「貴様には判らんだろう、奴から溢れ出る覇気を。」

「!?」

 

 

目覚めたドモンから発せられる覇気。

 

それは明鏡止水の極意。

 

 

「今なら判る気がする、俺達に足りなかったもの。」

「ああ、俺達修羅が持たなかったもの……人と共に歩み他者を慈しむ心だ。」

 

 

ドモンの明鏡止水の覇気に引きずられる形でヤルダバオトとビレフォールもその覇気を強めた。

 

フォルカの『静かなる闘志』とフェルナンドの『荒ぶる闘志』は更なる高みへ。

 

金色の機神、純白の機神、紺色の機神が並び立ったのだ。

 

 

「フェルナンド、合わせるぞ!」

「ああ!」

 

 

神化に至った純白の機神ヤルダバオトと紺色の機神ビレフォールの二体の拳が合わさる。

 

己自身よりも高まった覇気に逃げの構えを見せるマグナスのアンドラス。

 

だが、ドモンの一手によってそれは遮られた。

 

 

「貴様を逃がすと思ったか!!」

「ひぃ!?」

「今が勝機だ!」

 

 

ドモンの合図と共に放たれる合わせ技。

 

 

「「真・覇・機神!双撃拳っ!!」」

 

 

アンドラスの巨体を二体の機神が貫く。

 

それは与えられた試練を潜り抜けた証だった。

 

 

「何とかなったみたいですね。」

「そうみたいね、ロサも助けてくれてありがとう。」

「いえ、レインさんが無事でよかったです。」

「でも、あの子は…」

「きっと目覚めてくれます、私待ってます。」

 

 

コアの中心地で彼らの戦いを見届けたレインとロサ。

 

二人にしか真実が判らない会話を続けていた。

 

 

>>>>>>

 

 

ガルファ本星こと惑星アルクトスの奪還作戦を開始した地球防衛軍。

 

斥候として一時ガルファと同盟を組んでいた機械化帝国の生き残りであるエンジン王から齎された情報によって一行は抜け道からガルファ本星へと侵入した。

 

ガルファ皇帝の鎮座する宮殿でGEARは最終決戦を迎えていた。

 

だが、今回は状況は違ったのである。

 

 

「やはりですか…」

「エンジン王?」

「アルクトスのシステムを乗っ取り…今まで生きながらえていた様ですね、機械神!」

『ふん、生き残っていたのは貴様も同じかエンジン王!』

 

 

ガルファのシステムを乗っ取り、ガルファとして今まで道化を演じていた機械神。

 

数十年前に起こったアルクトスの悲劇もデュミナスだけではなく自身も関わっていた事を機械神本人が告げた。

 

以前の大戦で倒したのも機械神本人だったが、アルクトスの管理システムにバックアップを残していたらしい。

 

この機械神はガルファに取り付いた云わば残滓の様なものである。

 

 

「だったら…こいつを倒せば!」

「アルクトスを救える!」

「やろう、銀河、拳一、アルテアさん!」

「ああ!」

「やってやろうぜ!」

「…往くぞ!」

 

 

幾多の戦いで『希望』を見失わなかった電童はフェニックス・エールの力により六体のデータウェポンの力を集約されたアカツキの大太刀を。

 

子供達の背に『希望』を見出した凰牙はフェニックス・エールの力により二振りの刀剣「雲噛」と「海鎚」を。

 

キングゴウザウラーはキングブレードをそれぞれ構えた。

 

ヤマタノオロチを想像させるガルファ皇帝のボディを乗っ取った機械神の残滓。

 

それぞれの剣がその残滓を切り裂いた。

 

 

『馬鹿な…』

「機械神、これが人の…命あるものの可能性です。」

 

 

ギルターボのコックピットからエンジン王はかつての主君に最後の言葉を告げた。

 

機械神の残滓に操られたガルファ皇帝のボディを破壊された事によりアルクトスの管理システムは停止したかに見えたが…

 

機械神の残滓に掌握される前にシステムの一部が人との関りと人の可能性を信じた心を腹心であるゼロの中に密かにバックアップしていた。

 

それによりアルクトスの管理システムは再起する事が可能と判明。

 

残されたガルファの重機士や機士らは芽生えた心に混乱し戸惑いの中にいた。

 

だが、アルクトスの人々との長年の隔たりはすぐには解消されないだろう。

 

それでも地球の心を持つ勇者達の言葉と共にゆっくりと時間をかけながら良好な関係を築いていけると…

 

新たな可能性を信じていた。

 

この戦いで惑星アルクトスの解放にはなったが、デュミナス一派の姿から痕跡は一切掴めなかった。

 

流れはソーディアンへと集まっているのだろう。

 

アカシックレコードから流れた情報を元に私ことハスミは更なる可能性が生まれた事を…

 

新たな未来が訪れる事を信じていた。

 

 

=続=

 

 



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第五十六話 『転魔《テンマ》前編』

目指すは刀船。

その中に潜む気配。

戦いは熾烈を極める。

これはその前の語り場。


ソーディアンズ・ダガーの奪取に成功した私達。

 

奪取した内の何機かを作戦に使用する事となった。

 

残りはダニエル社とEOT機関が修羅神ゼパル&烈級修羅神の残骸と共に回収。

 

戦いに参加していた企業に何のお零れもないのは腑に落ちなかったのだろう。

 

後の複線の為にも研究はご勝手に続けてください。

 

そして私達は作戦に使用する分のソーディアンズ・ダガーを携えて鋼龍戦隊の仲間達が待機しているオービットベースへと到着。

 

私達STXチームは鋼龍戦隊に組み込まれ、オペレーション・オーバーゲートに参加する流れとなった。

 

無論、修羅場も込みである。

 

 

******

 

 

STXチームの隊長であるカーウァイ中佐がテツヤ艦長、レフィーナ艦長、八木沼長官代理達と作戦会議を交えていた頃。

 

私は毎度恒例となった記憶保持者達との情報交換を行っていた。

 

再会したロサには既に正体を明かした事を告げると少し心配そうな声を掛けられた。

 

私は自分で必要と判断した上で明かしたと話して置いた。

 

今回の始まりは再びオービットベースの一室から始まる。

 

 

「初めまして、フォルカ・アルバーグ、フェルナンド・アルドゥク、コウタ・アズマ、戦士ロア。」

「!?」

「貴様、何故俺達の名を…!」

「アカシックレコードが教えてくれたのよ。」

「ハスミさん、やっぱりアンタは…」

「説明は受けていると思う、私はアシュラヤーの意思を継ぐもの。」

 

 

紹介をしていない相手の名を答えると先の三人は驚いた表情を見せた。

 

戦士ロアに関しては不可視の状態だか、マント越しからその表情に反応があったのは伺えた。

 

『知りたがる山羊』はサードステージに上がってから使用範囲を任意に出来る様になっている。

 

その為、普段の能力でさえ見えないものを視る事も可能だ。

 

 

「流れは変わってしまったけど、次の作戦に必要なソーディアンズ・ダガーの奪取は成功しているわ。」

「…」

「同時にフォルカ…貴方達の同胞であるグレダス・ミモザを手にかけた。」

「奴を…!」

「その事に謝罪をして置きます。」

 

 

私が告げた事に関してフォルカは何とも言えない表情で無言になった。

 

が、それを打ち破る様にフェルナンドはストレートに告げた。

 

 

「それは奴自身が弱かっただけだ、貴様が悔やむ事ではない。」

「奴自身も性格に難があった者、捨て置けば何をするか分かったものではない。」

 

 

フォルカは奴もまたミザル、マグナス、アルコ達と同様に倒すべき相手だと告げた。

 

 

「ハスミ、転移先で遭った事を説明して貰えるか?」

「判りました。」

 

 

私はキョウスケ中尉らに転移先で起こった出来事を告げた。

 

報告した内容にスフィア関連の事だけは秘匿した。

 

この時点で彼らにガドライトさん達との接触の件は告げられない。

 

今回の話し合いにZ事変に参加していたメンバーが不在だった事がせめてもの救いである。

 

 

「あのデブ公をボコっただと!?」

「ええ、デブデダビデを再起不能に追い込んだけど…後の事は不明よ?」

「いや、スカル野郎とクリきんがいなかっただけでも苦戦する奴だったし。」

「…人の脇腹に傷を負わせた奴をそのままお返しするつもりはなかっただけよ?」

 

 

アムロ大尉にした仕打ちを考えるとまだまだ物足りませんけどね。

 

あの鏡餅なメタボっ腹に大穴を空けても生きてましたし。

 

そう簡単にはご退場願えないでしょうね。

 

ギャグ要員の宿命って奴かしら?

 

 

「…」

「ラウル…流れ通り、ラージ・モントーヤとミズホ・サイキの両名はデュミナス一派に拉致された様ね。」

「二人は何処に?」

「アルクトス奪還を成功させた地球防衛軍が接触していない所を見るとソーディアンの内部と推測しているわ。」

「やっぱり…」

「ラウル、不本意と思いますがデュミナス3の説得を試みてもいいでしょうか?」

「…えっ?」

「状況が違うとは言え、デュミナス3は自分の生きる理由を探していた。」

「確かにそんな風にも思えた…」

「私はその答えを伝えてあげたいと思っているわ。」

 

 

説得が無理でもせめて『三人の子の母親として生きて』と伝えなければならない。

 

それが前世の惑星アルクトスでの決戦においてデュミナスに伝えたかった言葉だ。

 

 

「ハスミ、今回もダークブレインは現れると思うか?」

「キョウスケ中尉…現れます、そしてダークブレインを倒さなければソーディアンの出航など夢のまた夢でしょう。」

「やはりか。」

「他の方面でも戦いは継続中です、私たちも戦うべき相手と剣を交えなければなりません。」

 

 

そして別れの時も一刻と迫っている。

 

 

「ダークブレインの次はシュウの件もあるからな。」

「マサキ…シュウ博士とネオグランゾン、激戦は免れないわよ?」

「判っているさ、手加減なんかするつもりもねぇ。」

 

 

その前の騒動もまた必要な出来事。

 

 

「それに惑星エリアの事やEFの事もあるしな。」

「リュウセイ、おそらく私はまたEFに飛ばされる可能性がある。」

「んじゃ、そん時は惑星エリアの側に転移した連中と何とかするさ。」

 

 

修羅の乱と封印戦争の間に起きた出来事。

 

それは大きな流れとなっていつか本流へと流れるだろう。

 

 

「イエッツトの件ですが…」

 

 

私はホルトゥスにツェントルプロジェクトの研究が行われている施設の監視をL5戦役から続けていた事を告げた。

 

そしてアインストを母体としたと言う点は防いだがDG細胞とマシンセルのデータが流出した事によってAI1との戦いはいずれ起こると話した。

 

その事にアクセル中尉がいち早く反応した。

 

 

「待て、今回のクライ・ウルブズ隊…ヒューゴ達は無事なのだろう?」

「いえ、こちらの行動が遅すぎました。」

「どういう事だ!」

「ミタール・ザパトはツェントルプロジェクトのテストパイロットとして鎖を繋げる候補者を探していました。」

「まさか…」

「所謂、故意による事故で負傷したヒューゴの身柄はミタールに奪われてしまいました。」

「!?」

「ですが、こちらの方で同時期に負傷したアルベロ少佐とフォリア少尉の回収は出来ましたが…未だ治療中だそうです。」

 

 

防ごうとした事件の一つが転移騒動の最中に起きてしまった。

 

ホルトゥスの部隊に情報は伝えたが、情報以上のトラブルが起こった事により痛み分けの結果となってしまった。

 

何かを得ようとすると何かが犠牲となる。

 

こんな事を何度も続けているせいか、その感覚も次第に麻痺してしまったのだろう。

 

 

 

「…次の封印戦争は予想以上の荒波が起きると思われます。」

「…」

 

 

可能性の戦い。

 

いずれ現れるであろう勢力。

 

私はまた救える命を救うだけだ。

 

 

「ハスミ、聞きたい事がある。」

「何でしょうか?」

「あのケイロン・ケシェットとは何者だ?」

「私がお慕いしている方です。」

「奴の所属する天臨社はお前の協力企業の一つか?」

「いえ、前にお話しした通り…JUDAコーポレーションとGreAT社、小父様のアクタイオン・インダストリー社が協力を得ている企業です。」

「…そうか。」

「ケイロンとはキョウスケ中尉達と出会う前に出会いました。」

 

 

私は事前に考えて置いたケイロンとの馴れ初めを伝えた。

 

本当の事は言えない、ただ辻褄を合わせる為に告げた。

 

 

「ハスミ、後でエクセレン少尉に気をつけろよ?」

「どう言う事?」

「あのケイロンって人と再会してお前が親父さん達と飛ばされた後、合流したメンバーにほぼ虚偽交じりで言いふらしていたからさ。」

 

 

リュウセイから告げられたエクセレン少尉の所業。

 

不在中に『あのハスミちゃんに愛しのダーリンが居たのよ♪』と『今頃、パパさん達と恋人認定の面接しているんじゃない?』と『二人っきりじゃないけどカップルでよろしくやっていたりして…?』など斜め上の話を不在中のメンバーに話したらしい。

 

その行為に私は呆れるしかなかった。

 

通りでこっちに戻ってから行く行く先々で微笑ましい表情をされた訳だ。

 

 

「あの人はもう…」

「まあ、いいじゃねえか…本当の事なんだしよ。」

「それよりもリュウセイとマサキ、コウタ…この場に居ないけど桂さんには後で『楽しいオ・ハ・ナ・シ』をしないといけないと思ってたのよね。」

 

 

楽しいオ・ハ・ナ・シの辺りでハスミの表情が笑ってない笑みに代わっていた。

 

 

「は、ハスミ…さん。」

「ちょっと落ち着けって!」

「あれはその…」

「三人とも……そこにお座り!」

 

 

私の鶴の一声で三人は目処前にスライディング正座。

 

その後、前の三人の所業の件に関して『オ・ハ・ナ・シ』を開催。

 

三人とも決戦前だから加減するから、そんな死んだ魚の様な目をしなくても…ね。

 

さてと、作戦開始時間までどんな黒歴史を語ってあげましょうかね?

 

ウフフ。

 

 

「キョウスケ、彼女から得体の知れない覇気が…」

「気にするな、いつもの事だ。」

「奴は…ば、化け物か?」

「一理あるが黙っていろ、これがな。」

「さ、三人とも…ご愁傷様。」

 

 

何とも言えない表情で残された四人は目処前で開催されたハスミによる三人の失言報復を見ていた。

 

 

=続=

 




目覚める闇黒の賢者。

その目覚めは予言された事。


次回、幻影のエトランゼ・第五十六話 『転魔《テンマ》後編』


残滓は流れ。

破滅は産声を上げる。


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第五十六話 『転魔《テンマ》後編』

在り方を変える者と在り方を存続する者。

互いの拳はその拳を交え。

決着の果てにその未来を託す。

だが、託す筈の願いは共に歩む道へと変異する。

それは女神が示した可能性。


私達がソーディアンズへの強襲作戦を仕掛ける間にもそれぞれの戦いは続いていた。

 

アルクトスの奪還に成功した地球防衛軍であったが、逆に侵略せんとギシン・ガルラ連合が転移し交戦。

 

迷いの中にあったガルファもまた地球防衛軍と共に対処している。

 

転移に巻き込まれた外宇宙組と合流を済ませているので悪い様にはならないだろう。

 

一方、地球ではアルジャーノン騒動は終結し落ち着いたかに思えたが動きを見せていなかったオウストラル島にて異変が起きた為、地球で待機していた極東のスーパーロボット軍団と復帰したロンド・ベル組、シャッフル同盟が現地で戦い続けていたゲリラ一味と合流。

 

この島にも修羅の一軍や島の遺跡群を荒らす複合企業GAIL、L5戦役で決着を付けた筈の妖魔帝国までもが乱戦を続けているとの事。

 

太陽と月が廻り遇い始めているのか?

 

また火星では極冠遺跡を砦に火星の後継者とアマルガムがボソンジャンプに成り代わるシステムを開発している事が判明し元ナデシコクルーとプリベンター組、ミスリル、スペースナイツ、EDFが集結し対処している。

 

ちなみにアキト、ユリカ夫妻の死亡(公式上の)に火星の後継者が関係している事もある為、元ナデシコクルー達も躍起になっている点も見受けられる。

 

旧リガ・ミリティアの面々は国際警察機構とアルビオン隊&ドラグナーチームらと共に謎の軍勢によるアイドネウス島への防衛線に回っているので動く事が出来ずにいた。

 

もしもの展開も考えられるので島に在住している各方面の有望な博士達には避難する様にブルーロータス経由で通達してある。

 

そして前回の空白事件で転移してきたメンバーはそれぞれの方面の戦いに振り分けられている。

 

この結果、各所各所で引き起こされた戦いにより鋼龍戦隊はいつものメンバーでソーディアンズに乗り込む結果となったであります。

 

ちなみにホルトゥスのメンバーも各所に送り込んでいるので後々情報を聞く事にする。

 

BF団の皆様は引き続き、最近になってこの世界に入り込み始めたクロノの構成員らしき集団と戦闘中。

 

皆様…かなり楽しそうで何よりです。

 

 

******

 

 

ダガーの解析が終了するまで鋼龍戦隊にSTXチームの参加の件と補充パイロットのハリスとケイロンの紹介を行った。

 

二人の戦闘能力に関してはカーウァイ中佐からのお墨付きを頂いているので即戦力として期待出来ると説明。

 

私ことハスミはケイロンとの仲に関してエクセレン少尉に根掘り葉掘り聞かれそうになったが…

 

カーウァイ中佐とテンペスト少佐の笑ってない笑みと禍々しい後光オーラが漂っていたので早々に退散。

 

カイ少佐の呆れ顔を他所にタスクとコウタはその光景に対し『色々とおっかねえ。』とボソボソ話していた。

 

ケイロンは自身から滲み出る闘気を自在に制御する修行を行っているのでフォルカ達からは特に何も言われていない様子だ。

 

更にケイロンの説明不足発言が原因で色々と修羅場になった事は次の機会に話します。

 

ハリスさんはリシュウ博士と先祖絡みの因縁込みな話し合い。

 

長年培った因縁はすぐに緩和する訳ではない、これはハリスさんとリシュウ博士が決着を着けるべき事。

 

私は口出しする事は出来ない。

 

こうして戦う前から色んな意味で精神的に疲れました。

 

そんなやり取りの中でテスラ研並びにGGGの協力もありソーディアンズ・ダガーの解析は終了。

 

だが、転移が出来るのは一度きりと言う博打。

 

それに記された転移座標を利用し鋼龍戦隊は一気にソーディアンへと乗り込む形となった。

 

最初はカチーナ中尉の提案で中枢に転移と言う案も出ていたが…

 

フォルカ達曰く中枢区域である『奥の院』は調査されていない場所との事で情報がない以上。

 

下手な転移は出来ないと却下された。

 

タスク曰く下手に転移したら妖怪ぬりかべ状態になり兼ねない。

 

記憶の底でそれに近い状態になった原作での某指パッチンの人が思い浮かんだ。

 

そこでソーディアンの先端中央にある空洞区域に転移する事となった。

 

本来はそこで戦う筈だったマグナスの部隊との決着はランタオ島で終了済みなので前進あるのみ。

 

一気に奥の院がある中枢区域に向かう事が出来る。

 

私は念の為にホルトゥスのメンバーと連絡を取ってアサキムとツィーネの両名を呼び寄せて置いた。

 

こっちで正確な座標を送っておいたので後はスフィアの力を使えば次元力で転移位は出来ますし。

 

特に何もなければ問題はないだろうが…どうも胸騒ぎがして落ち着かない。

 

 

「各機に告ぐ、敵修羅神を迎撃しつつ中枢区域へ正面突破する!!」

 

 

転移後、テツヤ艦長の指示で各機は出撃を開始し部隊を展開。

 

現れた烈級修羅神を迎撃し遺跡と化した居住区画を突破する事となった。

 

艦長からエクリプスとエザフォスの使用許可は取ってあるので他の面々と一緒に最初からフルボッコ祭りと洒落込んでますが…

 

後々が色々と面倒なので力をセーブしつつ行動する事にしました。

 

烈級修羅神程度なら鋼龍戦隊の敵ではないので某太鼓のキャラの如く『フルコンボだ、ド〇!』の勢いで蹴散らしている。

 

中でも神化したヤルダバオトとビレフォール、ライトニングとエターナル、Gコンパチカイザーが参戦しているのだ。

 

今回の戦いの物語の中核を担う人物達が倒れない限りは大丈夫だろう。

 

 

「中枢区画はこの先だ。」

 

 

フォルカとフェルナンドの案内で私達は中枢区域へ向かって移動。

 

そして奥の院を守護する転空魔城ではフォルカ達の因縁の相手が待ち構えていた。

 

 

「…アルティス兄さん。」

「フォルカ、こうなる事は予測できた筈だ。」

 

 

超級修羅神マルディクトを中心に烈級修羅神の部隊が奥の院への道を守護する様に展開していた。

 

 

「来たな…フォルカ、フェルナンド。」

 

 

マルディクトの操者、閃光のアルティスが答えた。

 

 

「フォルカ、フェルナンド、そして地球人達よ…この先へ往くことはまかりならぬ。」

「それでも往くと答えれば?」

「修羅王と閃光の名において、お前達に制裁を下す。」

「制裁ね、まるで神様気取りじゃないか?」

「もはや退けぬ所まで彼奴らを追い詰めたと見える。」

「それでも我々は進まなければならない。」

 

 

アルティスの言葉にゼンガー、ハリス、ケイロン、エルザムが答える。

 

 

「退けませんか?」

「退けぬ、お前達にはお前達の理がある様に…我らには我らの理がある。」

「つまり、互いの拳で決着を着けろと言う事でよろしいですか?(どう足掻いても彼らは退かない、これは互いの信念のぶつかり合い。」

「その通りだ。」

 

 

ハスミはアルティスに質問するが却下され戦うしかないと肯定した。

 

 

「そいつを俺達に押し付けよってか!」

「マサキ、ああ言う手合いは拳でしか自分を語れないのよ。」

「ハスミ…」

「それはある意味で不器用なのかもしれない。」

「不器用にも限度ってもんがあるだろ。」

「確かにそうね、それでも彼らと語るには彼らの流儀に…しかないでしょうね。」

「つまり、奴らの流儀通りに戦うしかねえって事かよ?」

「…力には力で示さなければならない時もある。」

 

 

かつて惑星セフィーロの旅路で私が念神エクリプスに認められた様に。

 

マサキがラ・ギアスで風の精霊サイフィスと心を通わせた様に。

 

他者に力を借りるとは何かを示さなければならない。

 

その存在すらも動かす大きな在り方を。

 

 

「何だか暫く会わない内にハスミちゃんってばボスみたいな事を…」

「きっと悟りを開きましたの。」

「ふふっ…そうね、相手の流儀に合わせるのって中々出来ないことよ?」

 

 

毎度お馴染みのシリアスブレイカーなブロウニング義姉妹からの突っ込み。

 

 

「フォルカ、フェルナンド、周囲の敵は俺達が抑える…お前達は戦うべき相手を。」

「キョウスケ、済まない。」

「例え雑魚が群がろうとも向かってくるならば全て叩き潰す。」

 

 

フォルカ、フェルナンドの両名はアルティスのマルディクトを。

 

鋼龍戦隊は残りの烈級修羅神の大軍を相手にする事となった。

 

 

「…(さてと、私は奴の出現に注意しないとね…変震のアルコとやらの。」

 

 

私は戦闘の合間に山羊の眼とアカシックレコードをフルに使用し奴の姿を監視した。

 

個人的に奴だけは許せない。

 

奴のお陰で放置で済んだ事件まで穿り返されたし。

 

ただで楽になれると思わない事ね。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃、地球の某所。

 

天臨社のCEOのオフィスでは…

 

 

「初めまして、ビアン・ゾルダーク博士。」

「そちらが天臨社のCEO…ショウリ・オオマ氏で宜しいですかな?」

「博士の名声はこちらにも届いていますよ。」

「世辞はいい、そちらの要件を聞きたい。」

 

 

大海原を見渡せる天臨社の本社ビルが佇む六角島。

 

その最上階に位置するCEOのオフィスにてビアンとショウリは皮作りの豪勢なソファーに腰掛け話し合っていた。

 

軽い世話話を他所に二人は本題に入った。

 

 

「博士が推測する様に我々も滅亡した故郷からこの世界に転移してきました。」

「ふむ、やはりアシュラヤーの言葉通りか。」

「我々も故郷を滅ぼした存在と戦う為に日々ここで牙を研いでいると言う訳です。」

「それでご依頼とは?」

「博士に我々の牙を見て頂きたいのです。」

「牙を?」

「はい、そして博士からの見解とご指摘を願えればと思いまして…」

 

 

ショウリからの依頼。

 

それは故郷を滅ぼした存在に対抗する為の牙をより鋭くするもの。

 

それを聞いたビアンは少し考えてから話を再開した。

 

 

「受ける前に聞きたい事がある。」

「何でしょうか?」

「その牙は復讐の道具か?」

「博士の言う通り、その解釈も間違っていないでしょう。」

「…」

「ですが、我々に今一度生きる道を示してくれたアシュラヤーの為にも明日を見てみたいのです。」

「そう…ですか。」

 

 

彼らも何かの所業を犯した者。

 

だが、アシュラヤーと出会い新たな在り方へ変えたのだろう。

 

可能性の未来を見定める為に。

 

 

「力を貸そう。」

「博士、では…?」

「先ずはそちらの牙を見せて貰いたい。」

「ご協力に感謝します。」

 

 

天臨社とビアン博士との内密の取引。

 

それは次の大戦で巻き起こる奇跡の前触れ。

 

 

******

 

 

戻ってソーディアンでの戦いであるが…

 

フォルカとフェルナンドは無事アルティスを倒して力を示した。

 

その最中にアルティスの命を狙うアルコの姿もあったが、展開していた鋼龍戦隊に阻まれた。

 

尚、奇襲を仕掛けたアルコを仕留めたのはハスミである。

 

こうして奥の院までの道が開けた事により進攻する鋼龍戦隊。

 

その道中で修羅の将軍の一人メイシスと自由戦士を語るアリオンの姿もあったが、彼女らを引き留め姿を現したアルカイド。

 

前世とは異なり彼は奥の院と言う闘技場でフォルカとの一騎打ちを望んだ。

 

神化したラハ・エクスティムとヤルダバオトの闘気が衝突し合う。

 

それは修羅界二千年の歴史の中で最も誇れる戦いであっただろう。

 

 

「…」

「混じりたかったですか?」

「いや、戦うべき相手の好敵手を奪うほど自惚れてなどいない。」

「…でしょうね。」

「ふ、お前はいつも俺の意を汲んでくれる。」

「貴方の傍に居ると告げましたから。」

 

 

向こう側の修羅兵士と同様にその戦いを静観する鋼龍戦隊。

 

その戦いの中で同じように静観していたケイロンとハスミも戦いの行く末を見届けていた。

 

そして…

 

 

「見事だ…」

「アルカイド・ナアシュ。」

「フォルカ・アルバーグよ……貴様こそが次代を継ぐに相応しい。」

「…修羅王。」

「皆も聞け!余の代で古き修羅の掟は最後となる……これよりはフォルカ・アルバーグが次代の修羅の王!!」

「…」

「修羅の民達よ、これよりの修羅界は修羅王フォルカの掟が掟となる…!!」

 

 

告げる事を告げ終わったアルカイドはラハ・エクスティムと共に死と言う眠りに着いた。

 

新王となったフォルカ達の前に反逆者ミザルが立ちはだかるが鋼龍戦隊と共に打ち倒した。

 

野心だけでは真の王に勝利する事など到底不可能である。

 

同時にミザルに協力していたデュミナス一派との戦いも始まり、ラウル達の決戦が始まった。

 

一度は倒したもののティス、デスピニス、ラリアーの生命エネルギーを受け取り再度戦う事となってしまう。

 

もう一度動きを止める為に戦う鋼龍戦隊。

 

その最中にホルトゥスからの援軍として現れたアサキムのシュロウガとツィーネのカオス・カペル。

 

彼らの助力もありラージとミズホの救出に成功しライトニングへと引き渡された。

 

戦いは熾烈を極めてデュミナスの姿はプロートン、デウテロン、トリトンの三形態に至った後、初期のプロートンへと姿を戻した。

 

 

「デュミナス!」

「私は過ちを…」

 

 

ラウルが止めを刺すのを止めてデュミナスに説得の言葉をかけた。

 

 

「その過ちは何だ?」

「過ち…私が生まれた事…それこそが過ち…」

「お前が生まれた意味、それを今理解した!」

「では、私は何になれば良かったのですか?」

「母親として…あの三人の親になれば良かったんだ。」

 

 

ロサの持つ魔法にて生命エネルギーを分け与えられたティスらが再度復帰しデュミナスへ説得の言葉を掛けた。

 

 

「デュミナス様。」

「もうやめてください。」

「僕達が戦う必要なんてなかったんです。」

「貴方達…」

 

 

自身の生み出した子供達の言葉に耳を傾けた。

 

 

「私は何て事を……この染み出る液体は一体?」

「それは涙、悲しい時や嬉しい時に出るものです。」

「これが涙?」

「…姿は違っても貴方は人です。」

「そう…か。」

 

ロサに涙の意味を教えて貰い、デュミナスは再度自分が人であり続ける事を再認識した。

 

そしてデュミナスは三人の子と共に戦闘を放棄した。

 

ソーディアンでの戦いが終わりを告げるかと思ったが…

 

突如、空間が歪んだ。

 

同時にそれぞれが別の空間へと転移させられた。

 

戦いを続ける鋼龍戦隊とは異なる空間に飛ばされたSTXチーム。

 

それはとある意思が引きずり込んだ闘技場だった。

 

 

「…」

「ハスミ、どうやら僕達は…」

「はい、招かれたみたいです。」

 

 

ハスミとハリスのやり取りに周囲に居たメンバーが答えた。

 

 

「招かれただと?」

「一体誰が…」

「この気配はもしや…!」

「…アサキム。」

「ツィーネ、気を付けるんだ。」

 

 

テンペスト、カーウァイ、ケイロン、ツィーネ、アサキムがそれぞれ言葉を告げた。

 

 

「ハスミ、来るよ!」

 

 

ロサが索敵しその気配の存在が姿を現した。

 

 

「これ以上はお前達の好きにさせない…バアル!」

 

 

バアルと言う発言にそれぞれが臨戦態勢を取った。

 

 

=続=

 

 




それは視ていた。

それは待っていた。

それは襲ってきた。


次回、幻影のエトランゼ・第五十七話 『的殺《テキサツ》』


変異の先に忍び寄る影。

その姿は己の記憶の底に。


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第五十七話 『的殺《テキサツ》』

いずれは戦うべき相手。

破滅に染まる傀儡達。

変異が起こした悪意の矛先。

それらを討ち倒す。


まさか土壇場で対ダークブレインとネオグランゾンの戦いに手を貸す事を禁じられるなんて…

 

それでも信じるしかない鋼龍戦隊の仲間達を。

 

 

******

 

 

異空間に姿を現した異形の存在。

 

前回、ハスミが答えたバアルと言う言葉にテンペスト、カーウァイ、ハリスが答えた。

 

 

「あれがバアル…」

「以前、ハスミが話していた根源的厄災…か。」

「原型は違っているけど…元バラルだった僕が永い時の中で戦い続けてきた百邪共の正体だよ。」

 

 

バアル、人類の敵にして根源的災厄を振り撒く禍。

 

ハリスさんの言う通り…その戦いの歴史は古く、いつとも知れぬ過去から多元世界全てを舞台に戦いが繰り広げられてきた。

 

その在り方は『永遠の闇』若しくは『生命ある者の最大最強の敵』。

 

常にその姿と形を変異させつつ人類を脅かしてきた。

 

何度も引き起こされた宇宙消滅の運命を人類に促す為に。

 

だが、その運命を受け入れるなど到底出来ない。

 

今の人類は生きる力に満ち溢れているのだから。

 

 

「…アサキム。」

「ツィーネ、これが僕が戦う理由の一つだよ。」

「ええ、判っているわ。」

 

 

ツィーネもあらかじめ説明を受けていたが、奴らとの遭遇に対し冷や汗を流している。

 

こう言っては何だが…彼女が後のソーラリアンの護衛に就いたのは正しい判断だっただろう。

 

いくら地球連合軍で一部隊の隊長を務めていたからと言っても限度がある。

 

冷たい事を言うと…この程度で後ずさるなら御使いとの最終戦に参加しない方がいい。

 

そんな私の考え癖の間にバアルはその力を具現化し黒いアンゲロイと黒いシュムエルの部隊が形成した。

 

例外を除いて前者は兎も角、後者は私以外初見である。

 

 

「ハスミ、片方に見覚えはあるか?」

「はい、現時点では開発されていない機体ですが。」

「…そうか。」

 

 

後者に関してはバルマーが本格的に地球へ攻め入った時に使用される機体だ。

 

L5戦役で投入されたエゼキエルの発展型。

 

だが、生産コスト面を考えた上で弱体化しつつある機体。

 

バアルが生み出したとなると滅んだ並行世界からの逆輸入だろう。

 

それは幾多の並行世界の中でイデの結末と霊帝によって滅んだサルファのBADENDからかもしれない。

 

そうであるならその力は計り知れない。

 

バアルは常に人類の敵としての概念を持つ。

 

気持ちが悪いほどにこちらの手の内を読んでいる。

 

 

「と、言う理由ですが隊長…どうされますか?」

「この状況では戦うしかないのだろう。」

「カーウァイ中佐の言う通り…ここは戦うしかありません。」

 

 

私は異空間に現れた敵機体のスペックと出所をカーウァイ中佐らに説明。

 

そしてバアルが仕掛けた戦いである以上は避けられない事も伝えた。

 

 

「判った、互いにペアを組んだ上で奴らに応戦する!」

 

 

カーウァイの支持の元、それぞれがペアを組む。

 

編成の都合上、より相手の癖を知るもの同士がペアとなった。

 

 

「中佐、お供します。」

「テンペストすまんな。」

 

 

一組目はアルブレード・カスタムとエクスガーバイン・アクスト。

 

 

「ロサ、サポートを頼むよ?」

「はい、任せてください。」

 

 

二組目はエクスガーバイン・クリンゲとエクスガーバイン・ピストーレ。

 

 

「ケイロン、貴方と共に。」

「判った。」

 

 

三組目は念神エクリプスと蒼雷。

 

 

「アサキム、私が援護するわ。」

「ツィーネ、頼んだよ。」

 

 

四組目はシュロウガとカオス・カペル。

 

それぞれがツインでのペアを組み、応戦を開始した。

 

 

「…(今回のは無限力いやバアルのお遊びか?」

 

 

こちら側の手が少ないが、このまま奴らを放置すれば元の世界への影響は計り知れない。

 

出来るだけこの場のバアルの戦力を削ぐ。

 

いずれ来るこちら側の『終焉の銀河に至る戦争』への障害を少しでも減らす為に。

 

 

「…」

 

 

この気配、奴らの手の者ではないな。

 

だが、不在の俺が戻らぬ以上は奴らの追跡の手は拡がるだろう。

 

未だ予兆がないとはいえ油断は出来ぬ。

 

その時は別れの時か…

 

 

「ハスミ。」

「ケイロン、どうしたの?」

「奴らがこの地へ訪れたのならば…」

「はい、遠からず…あの戦いは引き起こされます。」

「やはりか。」

「その話は後程、今は奴らを!」

「承知した!」

 

 

別れの時は近い。

 

そう、あの光景が近づきつつある証拠。

 

互いに戦い遭うと言う光景は今も私の心を蝕む。

 

愛するが故にその手は鈍るのだ。

 

 

「…(そう言う事か、血は争えないって言うけど。」

 

 

戦闘を続ける周囲を他所にハリスはハスミの思考を読み取っていた。

 

念者である以上は彼女の思考は隠していても父親である彼には筒抜けである。

 

血は争えない。

 

それは歴代のアシュラヤーの巫女達の愛した者達が全て闇側の者だからである。

 

心に闇を持つ者、闇に生きた者など理由は様々であるが愛した存在達が闇の側に存在した事は確実である。

 

闇の側だからこそ光の側では判らないものが視えた。

 

闇の側と光の側を見比べ見極める事で真実を識る。

 

それがアシュラヤーの巫女達が世界を守り続ける為にやってきた事。

 

愛する事もまた彼女らは闇を受け入れる事を躊躇わない証なのだろう。

 

 

「…(レンゲ、今なら君の話していた事が分かる気がするよ。」

 

 

君が僕を愛してくれた様にあの子は彼を選んだ。

 

いずれ彼が星一つを支配する運命であってもその先の未来の為なのだろう?

 

己の命を彼に捧げる事になっても…

 

レンゲ、あの子は君に似て何処までも優しすぎるよ。

 

常に冷静に事を視ているかの様でその真意は力を持つには優しすぎる。

 

それでも手を汚さなければならない事を誰よりも知っている。

 

 

「…(奴の目覚めも近い上に例の計画も中途半端な状態で推し進められようとしている。」

 

 

ハスミ、君が言う様に次の戦いはかなりの修羅場だろう。

 

コソコソと影で何かを仕掛けようとしている連中の事も気にしているのは判る。

 

だけど、全部が全部…君だけの手に収まる状況じゃない。

 

君は奴らの足枷になるんじゃない。

 

戦士達を導く標にならなければならない。

 

その事を忘れないで欲しい。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、ソーディアン内部で起こった次元震によって鋼龍戦隊は異空間へと引き込まれた。

 

それは戦いを放棄したデュミナス一派や新修羅王となったフォルカに加勢したアルティスらを巻き込んだ。

 

彼らの前に現れたのは戦士ロアの宿敵ダークブレイン。

 

奴は一二の至宝を求めて転移していた。

 

その過程で何機ものソーディアンを破壊していた。

 

デュミナスの創造主だったが失敗作の烙印を押された彼女はエミィ・アーマーを強奪しこの世界に転移した。

 

そして転移の衝撃で記憶を失ってしまったらしい。

 

記憶を失った後に起こした悲劇は誰にも責められるものではないが、償う事は必要だろう。

 

戦士ロアが持つオーバーゲートエンジンを狙うダークブレインとの交戦は始まった。

 

今までの敵とは異なる気配を感じさせるダークブレイン。

 

それは闇黒の賢者と称されるに相応しい存在だろう。

 

だが、闇があるからこそ光もまた訪れるのだ。

 

 

「何故!? どうして!?」

「ダークブレイン、これが貴様の最後だ!」

「お、俺はこんな結果、認めない! 認めないぞ!!」

「な、何だ!?」

「たがが人間ごときに……! この私が敗れるなどあり得ん!」

「何か話している事がごちゃ混ぜになってるニャ。」

「うぬううう! 頭が! 頭が割れそうじゃ!!」

「まるで複数の人格を有している様にも思えますわ。」

 

 

フォルカの応対を始め、タスク、シロ、シャインが暴走するダークブレインの会話を聞き取っていた。

 

 

「あああ……! 消える……消えてしまうぅ……!」

 

 

頭を抱えて支離滅裂な言葉を言い続けるダークブレイン。

 

その最後にファイターロアとエミィが言葉を紡ぎ、ギリアム少佐は一人ダークブレインの目的を察した。

 

 

「何でやねん!? 何でワイがこないなトコで死ななアカンねん!!」

「自分の胸に手を当てて聞いてみやがれってんだ!」

「闇在る所に光在り! 光在る所に闇在り!!」

「お兄ちゃん、もう聞こえてないみたいよ…」

「ワシの頭が……! ワシの頭が割れる!! 忘れるな! 知的生命体在る所に、我らは存在する! お前達がいる限り……き、消える! 消えてしまうぅぅぅ!! 我らは叡智の結晶! 闇黒の思念集積体!」

「…(やはりハスミ少尉が話していた通り奴の目的、その正体は…。」

「おおおおお……! あおおおお……!! 十二の鍵! 至高天! 私が……  私が消えるぅぅぅぅ……! おああああああ……! あううおおおおおお……!!」

 

 

異空間で最後の断末魔を上げながらダークブレインは闇に散った。

 

だが、彼らの戦いは終わった訳ではない。

 

闇の牢獄より解き放たれた存在との戦いが残っているのだから…

 

 

******

 

 

戦える限りの弾薬とENを使い尽くし機体を酷使した。

 

ギリギリとも言える状況でバアルは頃合いと感じたのか撤退を始めた。

 

奴らのお遊びに巻き込まれた身として虫唾が走った。

 

異空間の果てに消えていく影を睨みつけながら私は答えた。

 

 

「私達は必ず…その喉元に喰らい突いて見せるわ。首を洗って待っていなさい!バアル!!」

 

 

これで私はもう日常には戻れない。

 

その時が差し迫っている。

 

機械仕掛けの神々が目覚めの時を迎えるから。

 

そして故郷を滅ぼそうとする者が目覚めるから。

 

私は全てを投げ討ってでも戦う。

 

 

=第三章・完=




機械仕掛けの神々の目覚めの時は来た。

それは悪しき者達を封ずる為に。

それは戦士達を導く為に。

次回、幻影のエトランゼ・第四章『封印ノ詩篇』

封印せよ、己の使命を全うする為に。




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纏の付箋

戦うべき脅威は去った。

だが、滅び去った訳ではない。

静かに忍び寄る。

それは人の手によって引き寄せられる。


私達STXチームが新手の敵集団と交戦し無事帰還したのと同時に彼らの勝利を知らされた。

 

鋼龍戦隊は戦いの元凶であるダークブレインと乱入してきたシュウ博士のネオ・グランゾンとの戦いに勝利した。

 

修羅に関しては内部抗争によって新たな修羅の王となったフォルカ・アルバーグにより修羅による戦いの全てを停止させ、地球政府への停戦打診の末に今回の騒動は終結する事となった。

 

空白事件から約三か月間に及ぶ不可解な事件から始まった此度の戦い。

 

一連の事件に修羅が結びついた事もあり今回の事件を総称して『修羅の乱』と命名された。

 

しかし、この戦いが次の戦いの伏線である事を誰も知る事はなかった。

 

ある人物達を除いて…

 

 

******

 

 

各方面の戦いを終わらせたノードゥス。

 

彼らを労う為に祝勝会がオービットベースで開かれていた。

 

しかし、STXチームは急な任務との事で参加する事は出来なかった。

 

理由は国際警察機構からの出頭指示である。

 

一連のアルジャーノン騒動についての終息報告と最近になって出没している謎の組織に関しての注意喚起等が含まれている。

 

今回の戦いは言い方は悪いが準備運動の様なモノ。

 

これから差し迫る戦いこそが封印戦争の幕開けである事を私ことハスミ・クジョウは国際警察機構の総本山である梁山泊にて告げた。

 

話し合いの場には前回と同様に黄帝ライセと九大天王にBF団の首領であるビッグファイアと十傑衆が数名参加している。

 

これにSTXチームが状況報告の形で出頭している。

 

ハリスこと孫光龍とケイロンは初参加の為に色々な目で見られていた。

 

そんな様子を他所にビッグファイアと私は次回に引き起こる戦いの説明と今回の紛争で起こった出来事を整理しつつ説明をしていた。

 

 

「封印戦争…君が危惧していた戦いの一つだね?」

「はい、ですが…その前にある騒動が起きようとしています。」

「騒動?」

「一つはデキム・バートンによる虚偽交じりのオペレーション・メテオ。」

「…」

「もう一つは犯罪界の重鎮が一人ブラックノワールによる全世界侵略作戦…クリスマスオペレーション。」

「ハスミ、それって…」

「どうもこっちで色々と犯罪系の事件を解決していたらブラックノワールの気に触れたっぽいのよね。」

 

 

ブラックノワールの件はロサにも話して置いたが、その戦いで破損する事となったガードダイバー達が気がかりだったのだろう。

 

最終的には修理されて復帰するが、壊されるのは御免被ると言いたそうな様子だった。

 

だが、ブラックノワールの真の目的は世界征服ではなく『バッドエンド』である。

 

絶対に奴のねじ曲がった真っ黒精神ごと地獄にSAN値直葬させてやる。

 

 

「二つの事件の発生時期は聖人生誕の日…これにアマルガムやバイオネットも絡んでくるでしょう。」

 

 

そう…そろそろ飛来するQパーツ争奪戦もこの頃に始まる。

 

あの悲劇は絶対に繰り返させない。

 

宇宙へ旅立った護君やJ一行がそう易々とやられる事は無いだろうが不安である。

 

監視を頼んだ聖女達からもまだ連絡が無いのが痛い。

 

 

「ハスミ君、結局新型DG細胞の件だが…」

 

 

中条長官には一応経過報告書は送っておいたのだが結末の説明を兼ねて答えて置く。

 

新型DG細胞の女王感染者候補としてネオスウェーデン代表のアレンビー・ビアズリーが感染源として利用されていた。

 

元々参加選手達は事前に検査という名の集団感染に巻き込まれていた。

 

しかし、耐性を持っているドモン達には通用する筈もない事を奴らも驚いていただろう。

 

アレンビーを含めて感染した選手達がクルーやスタッフと接触をする事で罹患したが…

 

結局は彼女らが無意識のまま香港の市街地を散策したものの多くの民間人には休眠状態のままで感染が広まってしまったのである。

 

休眠状態とは言え、私が元居た世界でもこの手の感染経路があったので冷や汗ものである。

 

結局、奴らが望む経過が得られずランタオ島での決勝戦が開催した。

 

だが、レインが奴らに捕まった件で事は急展開する。

 

レインは空白事件でデビルウルタリアの生体ユニットになった経験が災いしODEシステムと新型DG細胞のユニゾンコアの生体ユニットにされてしまった。

 

これが奴らの求める結果を生み出してしまったのである。

 

色々とあったが、コアは沈黙しODEシステムのコアの意思はロサ達の説得で眠りに就いた。

 

まだ目覚める兆しはないが、目覚めたらロサ達と良い交流が出来ればと願っている。

 

続いてはオウストラル島の件。

 

オセアニアの南太平洋上、サモア諸島東南2000キロに浮かぶ火山島。

 

旧西暦時代に旧オウストラル島の隣に突如出現。

 

極短い期間で旧島と陸続きになったが、現在まで影響力を持つ国際的な大企業GAILの圧力により秘密保持の為に地図上から消されていた。

 

その島の最深部で眠っていた異星人達は先史文明期の折に四体のガンエデン達と共にバアルと戦ってくれた一族だ。

 

その危機を現代の人々に伝え知らせる為に永き眠りに就いて居たがGAILの横暴が原因で助力を得らえずに終わるかと思ってしまった。

 

彼らの子孫である田神悠宇の説得もあり、今は停戦中である。

 

GAILはかつてカンケルを封印した湖をリゾート開発工事で汚染させ封印を解除した原因を作っている。

 

その他、色々と真っ黒い事をしていたので後日お縄に着いて頂く予定だ。

 

勿論、慈悲はない。

 

避難したアキトとユリカ夫妻はブルーロータス経由で国際警察機構に避難し隠れてもらっている。

 

例の機体と戦艦は既に配備が終わっているし戦うかは彼ら次第だ。

 

宇宙ではガルラ・ザール星間連合は一先ず撤退。

 

そう言えばシンクラインが黄金の声が何人もとか如何とか?

 

あー似たような声の人達が集まってたね。

 

ゴライオンのメインパイロットの黄金とかジョウとかいつの間にか剣狼の導きでロムさんとかエイジとか…

 

斥候でホルトゥスからディーバの面々も行かせて置いたから最低でも五人だね。

 

…そりゃ混乱するわ。

 

ザール星間帝国に関しては偵察レベルでまだ本気じゃないらしい。

 

やっぱりZ側の件が入らないと本格介入しないのかな?

 

火星の後継者は主犯格の草壁らの逮捕で組織は解体したものの北辰と配下はトンズラされました。

 

おそらくアマルガムかバイオネットに引っ込んだのだろう。

 

正直ややこしい。

 

例のボソンジャンプに代わる転移装置の件だが、Kのネタかあのクロスゲートもどきが設置されていたので我が神僕達で粉々に破壊しました。

 

連中の調査データも破棄したので再現は不可能だろう。

 

アイドネウス島の件はしてやられました。

 

何とか島民全員避難が完了しただけでも幸いだろう。

 

結局の所、例の連中の基地にされるのは阻止出来なかった。

 

一々ぶっ壊すのめんどくさいです。

 

十傑衆の皆様方のお陰でクロノ構成員達も壊滅状態で為りを潜めるだろう。

 

封印戦争開始の期限である半年後までに反逆の布石を作る。

 

半年後に私は鋼龍戦隊の前から姿を消さなければならないのだがら…

 

使命を果たす為とは言え心苦しい。

 

それでもあの約束の為に動く。

 

私の決意が鈍る事は無いから。

 

 

=続=



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四章予告

目覚めの時は来た。

抗えその運命に。

そして別れの言葉を。

平穏にさよならを。



暗き海辺で朱い炎が燃え上がる。

 

私は…

 

 

「ハスミ、ハスミ!」

「ハスミ!しっかりして!」

 

 

 

墜落したダウゼントフェスラーの残骸。

 

他の乗組員は襲撃を受けた際に生死不明。

 

生き残ったのはこの場に居る六名だけだった。

 

だが、重傷者も出ている。

 

 

「お…義父、さん…」

「ハスミ、私の声が判るか?」

「…生きてる、の?」

 

 

失神から目覚めたハスミはテンペストに支えられていた。

 

だが、自身が怪我を負っているのは理解した。

 

額から流れる血と脇腹に刺さった破片とその痛みが意識をより覚醒させた。

 

 

「他の…人達は?」

「残念だが、あの機体のライフル直撃を受けた時に…」

「…そう。」

 

 

爆発から護る為に咄嗟に念動の結界を張ったが時既に遅く。

 

テンペスト、カーウァイ、ティアリー、ロサと近くにいた後輩兵士三名だけ救えただけだった。

 

全員が何とか無傷だったが、所々埃と煙でボロボロになっていた。

 

墜落した場所が無人島だったばかりに助けを呼ぶ事は出来ない。

 

いや、助けを呼んだとしても謀殺されるだろう。

 

 

「ハスミ…」

「ステラ、アウル、スティング…貴方…達を巻き込…んでしまって…御免な…さい。」

 

 

自分自身よりも周囲の安否を気遣うハスミに対し、ボロボロと泣き崩れるステラを他所にアウルとスティングは虚勢を張り、口は悪いがハスミの安否を気遣った。

 

 

「オレ達の事よりも自分の事を心配しろよ!」

「俺達を庇ったせいでアンタは…」

「それだけ…元気な…ら、心配ない…か。」

 

 

ハスミの出血は続き、傍でティアリーとロサが応急処置を続けて止血は出来たが失血死の時間を引き延ばしただけだった。

 

 

「早いとこ…何処でもいいから医療施設に運び込まないとハスミちゃんの命が危ないわね。」

「私も出来得る限り治療を続けます。」

「ロサちゃん…」

「私は何度もハスミに助けられた、だから今度は私がハスミを助ける番です!」

「ロ…サ、ありがとう……でもね、私も…ここで終わ…る訳には…いかないよ。」

「ハスミ。」

「奴らの…ガイアセイバーズの…真意が判っ…た…以上は…私も…本当…の…意味で…本気…を出すよ。」

 

 

私は鎮痛剤を投与されつつもジワジワと来る傷みに耐えながらこの場の全員に答えた。

 

 

「私が…世界を…護る…為に…受け継いだ…蒼き…意思を…貫く…為に……一緒に…共犯…者になって欲し…い!」

 

 

世界を護る為に自分と共に共犯者になる事。

 

それは正義の女神の天秤にかける程の意味でもあった。

 

 

「…待たせたね、迎えに来たよ。」

 

 

龍達の長を従えた守護者たる存在と共に。

 

 

******

 

 

新西暦と呼ばれる時代。

 

修羅の乱から数か月後。

 

謎の転移騒動が勃発。

 

そして世界各地で引き起こされた二つのテロ。

 

事態の終息はしたものの指揮系統の混乱が続く連合政府。

 

これを期にグライエン・グラスマンが再び大統領へと返り咲いた。

 

そして大統領直轄の特殊部隊『ガイアセイバーズ』の設立を決定。

 

混乱する地球圏を守護する偽りの剣が産み出された。

 

この最中に同特殊部隊に転属予定の兵士を搭乗させた輸送機が相次いで襲撃を受けて失踪。

 

残骸が発見され、その多くは消息不明が戦死とされた。

 

仲間の死を受け入れる暇もなく新たな侵略者と戦う者達と転移世界で帰還の道を模索する者達とで別れた。

 

封印するモノ、封印されるモノ、閉じ込めるモノ、消失させるモノ。

 

混乱は続き、世界は再び戦火の危機に陥った。

 

地球の剣と成る者は誰なのか判らないまま…

 

人類は情報の混乱と共に絶望の時を向かえるのだった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

「貴方は誰?」

 

 

白き女神の器。

 

 

「私も貴方と同じ存在。」

 

 

蒼き女神との会合。

 

 

「私は…」

「答えを出すのは早いわよ、まずは世界を見つめましょう。」

 

 

二人の女神が歩む先にあるものとは?

 

 

「ナシム、アシュラヤー、それが君達の答えかな?」

「バビル、私は…私達はもう迷わない!」

「そう、この先の未来の為に…私達は目覚めた!」

 

 

白と蒼と紅は集う。

 

破滅の王と新人祖との決着を付ける為に。

 

 

次回、幻影のエトランゼ・第四章『封印ノ詩篇』。





「私はアシュラヤー・ガンエデン、今ここにその名を晒しましょう。」


そしてさよなら。

私は世界を護る為に貴方達と別の道を歩みます。

だから見守って欲しい。

何時の日か。

その道が交わる時を。

クロスゲートはその為の意味を。



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封印ノ詩篇
第五十八話 『流転《ルテン》』


それは一つの流れ。

それはうねりを上げて濁流となり。

全てを濁す。

交わりの時は近づく。




修羅の乱と呼ばれる戦いから数日後。

 

フォルカ達は生き残った修羅の民達を引き連れて転移の旅路を選んだ。

 

闘争によって戦乱を引き込んだ自分達がもう一度闘争と言う道からではない方法で交渉する事が出来る様にと選んだ道らしい。

 

転空魔城にて別れを惜しむ鋼龍戦隊の一行。

 

ショウコは『もう会えないのかな?』と惜しむ声を上げたが…

 

私ことハスミは『次元震が続く以上はどこかで再会出来るかもしれない。』と告げた。

 

それは不確かな慰めであるが、いつか再会出来るかもしれないとショウコはその別れを受け入れた。

 

修羅達が去った後の事である。

 

ジャータとガーネット夫妻の間に男女の双子が誕生した。

 

アレキサンドライトから名を取ってアレクとサンドラと言う名が付けられた。

 

アズマ研究所にて祝いの席が設けられ、色々とお祝いの品をそれぞれが持参していた。

 

シャイン王女から夫婦へ新しい住居の提供など度肝を抜く祝い品もあった。

 

デュミナス一派は連合政府へソーディアンに関する技術情報の提供と惑星アルクトスの復興に協力する事を条件に罪状を軽減。

 

保護観察の後にラウル達が立ち上げた会社に就職する予定である。

 

逆にアイドネウス島は謎の勢力によって島全体の機能が全損。

 

新たに大統領直轄の精鋭部隊の設立とその配備基地が建設される事となった。

 

今は主だった行動はされていないが、いずれ頭角を現すだろう。

 

この流れも止める事は出来ない。

 

封印戦争で引き起こされる戦乱は無限力によって提示された勢力が存在しなければならないからだ。

 

全くもって面倒な相手を残してくれたものである。

 

だが、修羅の乱後に移住先を求めてやってきたバーム星の人々との諍いを止められた事が救いだ。

 

和平交渉の場に選ばれたのは火星。

 

開拓惑星となった火星にも居住出来る土地が残っていた為の処置である。

 

後々、コロニーなどにも植民出来る様にコロニー連合とも会談が進んでいる。

 

例の如く、Aのシナリオな和平交渉の場でオルバンとゲロイヤーの二名による策略で毒殺されそうになったリオン大元帥。

 

リオン大元帥に盛られた毒物に関しては護衛を兼ねて国際警察機構から出向していた私とロサで除去した。

 

セフィーロの魔法騎士を甘く見ないで欲しい。

 

この毒物に関しても詰めが甘いのか地球に存在しない毒物を使用した為に奴らの首を絞める事となった。

 

立場が悪くなったオルバンとゲロイヤーは逃走を図ろうとしていたが、援軍としてアクセル中尉とシャッフル同盟の方々に国際警察機構のエキスパートが網を張っていたので後の祭りである。

 

反逆者オルバンとの密約でバーム星人らの戦力を取り入れようとしていたベガ星連合軍も奇襲を仕掛けてきたが…

 

内緒で控えさせていたバーチャロンメンバーにある程度仕留めて貰った。

 

色々と片付けた後、オルバンとゲロイヤーは反乱分子勢力と共に投獄。

 

リオン大元帥は毒物を処理したものの身体への安全を考慮して療養の形を取った。

 

後任としてリオン大元帥のご子息であるリヒテル氏が代役となった。

 

その妹であるエリカと一矢が急接近したのもあり、シスコンオーラが滲み出ていたのは気にしない事にする。

 

一方、地球の方では修羅の乱後に犯罪組織による事件が勃発。

 

舞人の誕生日の日には下らない理由で観光客に被害を与えていた犯罪組織の一つであるピンク・キャットなどが例である。

 

同時に地球へ飛来していたデアンドゾルと呼ばれる種族によって地球が滅亡の危機に瀕した。

 

だが、デアンドゾルの意思は自我に目覚めており…少ない期間だが交流していた炎らダグオンの面々によって解決された。

 

前の戦いで目覚めたソムニウム達もこれに対して様子見をしていたが、無事に終わった事を察して去って行った。

 

で、勝手に地球に飛来した宇宙警察機構に関してはデアンドゾルに関する注意喚起を怠った為に地球政府からクレームを受ける事となった。

 

国連事務総長であるロゼ代表からの案で地球圏に宇宙警察機構の地球支部を設立し対応出来る形をもぎ取った。

 

これにより地球に関して情報を持つエクスカイザーらが支部へ就任する形となった。

 

ロゼ代表は隙あらばとこれを狙っていたらしい。

 

流石、私のお婆様の親友兼ライバルです。

 

そして一か月後…

 

リュウセイはテスラ研の訓練エリアでART-1の戦闘データを取る為にキョウスケ中尉と模擬戦をする事となった。

 

だが、二人は突如発生した次元震によって転移。

 

同時刻、移動中だったマサキ一行もまた転移に巻き込まれ…

 

三名は惑星エリアへ飛ばされる事となった。

 

そして浅草に出現したマッドネットによって操られたAnti・DCのAM部隊とコンパチブルカイザーとGサンダーゲートが交戦。

 

援軍として伊豆基地からATXチームが介入したが、コンパチブルカイザーとソウルゲイン、ペルゼイン・リヒカイトが次元震による転移に巻き込まれた。

 

この三名は流れ通りにEFへ飛ばされる形となった。

 

ちなみに私はと言うと…

 

 

「と、言う訳でちょっとEFに行ってきます。」

 

 

別のエリアで敵部隊と交戦中にロサとケイロンにハリスと共に次元震に巻き込まれてEFへ転移する事となってしまった。

 

念の為、ホルトゥスからの援軍もSTXチームの救援に回せる様にしたのでお義父さん達の安全は確保している。

 

私が鋼龍戦隊から去るカウントダウンは始まった。

 

私はただその歩みを止めずに進むだけだ。

 

 

=続=

 




変異した事象と新たな異邦人。

そして失った記憶と欠片。

悲劇を転じて喜劇と化す。


次回、幻影のエトランゼ・第五十九話 『虹路《レインボーロード》』


それは新たな出会いと新たな奇跡。


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第五十九話 『虹路《レインボーロード》』

それは奇跡の道筋。

希望の光と共に。

赤き船は虹の道を進む。

全ては天に隠されし真実を追い求める為に。


前回の転移より私達はエンドレスフロンティアへ再び転移する事となった。

 

EFの世界はヴァールシャイン・リヒカイトとの戦いの後に大きく変わった様だ。

 

だが、大まかな状況は識っているので困る事はない。

 

流れに沿って彼らと合流を急ぐ事にしたいが、彼らと合流する事は後手に回される事になる。

 

それが原因で色々と遠回りをさせられたのは言うまでもない。

 

毎度お馴染みのEFでのご都合主義とやらである。

 

しかも旅路のメンバーは個性豊かなボケ役が多すぎて常識的な突っ込み役が少ない。

 

一番の頭が痛い難点でもある。

 

それにアクセル中尉とアルフィミイの記憶喪失にコウタの突っ込みが少ない所もまた何とやらである。

 

必然的に私ことハスミが説明役に回る事になるので久々に頭痛にノー〇ンをプリーズである。

 

念の為、熟練者方は兎も角初見の方は判らない部分があると思います。

 

今回の話に入る前に軽いご説明に入りたいと思います。

 

様々な“世界”、あらゆる“人”、そして“刻”さえも混ざり合う、通称「未知なる無限の開拓地」。

あらゆる存在を内包する混沌さ、そして無限の可能性を秘めた大地である。

 

がキャッチフレーズの無限のフロンティアが主軸となった話の世界。

 

今回のその続編にあたるEXCEEDにおける新生エンドレスフロンティアが舞台である。

先ほど話したヴァールシャイン・リヒカイトとの戦いの後に世界は再編され新生エンドレスフロンティアへと変貌。

 

クロスゲートによって異なる世界を行き来する世界は一つの世界へと変異したのだ。

 

だが、この世界には新たな影が忍び寄っていた。

 

新たなる来訪者である『修羅』と『アグラットヘイム』と呼ばれる勢力の登場である。

 

前者は修羅界の波国と呼ばれる国の人々で羅刹機と呼ばれる小型の修羅神を使役している。

 

後者はEFにあるフォルミッドヘイムと呼ばれる国が別れてしまった国。

 

詳しく言えばアグラットヘイムから切り取られた国がフォルミッドヘイムと名乗っているだけだが…

 

前回の戦いから三か月ほど経過しているとは言えややこしい事に巻き込まれすぎと思うのは気のせいと思いたい。

 

現在、私達が転移した地点はと言うと…

 

 

「…おかしい。」

「何が可笑しいんだい?」

「再編後の世界のエスメラルダ城塞にはクロスゲートが設置されていなかったのですが…また変異の様です。」

「でも、知り合いの居る場所に転移出来て良かったね。」

「それだけなら良いのだけど…」

「?」

「納得した。」

「確かに異様な気配がするね。」

「はい、どうやら…ややこしい時間軸のエスメラルダ城塞に転移した様です。」

「えっと…つまり?」

「ゲルダ一派のヘイムレン・シルバートと城の主であるドロシー・ミストラル…彼らと一戦交える可能性があるって事。」

 

 

エスメラルダ城塞の地下層に安置されたクロスゲートの前で話し合うハスミ、ハリス、ロサ、ケイロン。

 

城塞の説明を終えるも既に敵の手が回っている事を告げるとそれぞれの装備を確認した。

 

 

「前にも説明しましたが、この世界の制約により元の世界の機体は使えないので白兵戦が主となります。」

「ハリスさんはどうします?」

「そうだね、僕は後衛に回るとするよ…ドンパチやらかすのは三人が適しているしね。」

「それじゃあロサ、お父さんの護衛に付いて貰ってもいい?」

「うん、判った。」

 

 

私とロサはセフィーロの鎧と剣。

 

ケイロンは前回EFで旅をした時に士浪さんに受注し作成して貰った籠手。

 

ハリスには私が宗介に頼んで作成して貰った数種類の爆破物を積載した特注ジェラルミンケースと応龍皇から数機程剥がれてきた龍鱗機が五機。

 

サイズに関してはこの世界の制約を受けてバスケットボールサイズ程度に縮小されている。

 

龍鱗機達にも少なからず意思があるので小さくなった事に対し不貞腐れている様子だ。

 

更にデフォルメされているので、ちょっと可愛いと思ったのは内心だけに留めておく。

 

 

「ハスミ、入り込んだ城塞の敵はどうする?」

「ある程度潰しても構いませんが、先にドロシーの私室兼研究室に向かった方がいいかもしれませんね。」

「何かあるの?」

「あのバナナ帽子に一泡吹かせようかと…」

「ハスミ、何があったか知らないけど…念に怨恨が籠っているよ?」

「前世上で色々と。」

 

 

あのバナナ帽子のせいで遠回りしなくちゃならないシナリオだったし。

 

つか、奴の台詞がムカつくんですよね。

 

見知った声の主はエターナルヒヨコとかで十分です。

 

それに色々とストレス溜まってるしフルボッコしようっと。

 

城塞に侵入している錫華姫との合流はハーケンさん達に任せて置くとして…

 

顔だけナルシストよ、せいぜい首を洗って待っているがいい。

 

 

「…ハスミ、また怒ってる。」

「相当ストレス溜まっているみたいだったから、ここらで発散させてあげた方がいいかもね。」

「御義父上殿…」

「ケイロン、僕はまだ君に父親呼ばわりされる事を許した覚えは無い。」

「…」

「僕もテンペスト達と同様に君をまだ認めた訳じゃない…発言には注意してくれよ?」

「承知した。」

「…(ま、今までの行動を含めて及第点位は認めてあげるよ。」

 

 

辛口評価のハリスの言葉にケイロンは無言の後に肯定した。

 

親馬鹿は並行世界を跨いても続くのである。

 

 

「ハリスさん、茶番はそこそこにお願いします。」

「了解したよ、外で暴れている連中がこの部屋の存在に気が付いた様だからね。」

「迎え撃つか?」

「いえ、クロスゲートへの損傷は避けたいのでここから出ましょう。」

「撃つ準備はバッチリです。」

 

 

段取りと武器の確認を済ませた後、私達はクロスゲートが安置された室内を後にした。

 

それから数時間後…

 

 

「こいつはどうなっているんだ?」

 

 

エスメラルダ城塞に到着したハーケン一行。

 

城塞が何者かによって襲撃を受けたのは理解していたが、その襲撃者達が城塞内で倒れ伏している事に驚いていた。

 

理由は城塞の主であるドロシー・ミストラルだけで行える事ではないからだ。

 

彼女はドレスの下に隠している爆薬などを駆使した戦法を得意としている。

 

この為、それ以外の戦法による襲撃者達の負傷の仕方が不自然だった。

 

爆薬による負傷だけでなく打撃や斬撃に銃撃の跡が在った為、城塞に他の来客が訪れているとハーケン達は推測していた。

 

城塞調査の途中で再会した錫華姫の話では一瞬の事だった為、正体が掴めていないと話していた。

 

ドロシーが施した仕掛けを解きながら城塞の最深部である彼女の私室へと向かったハーケン一行。

 

それは新たな来客者と異世界の仲間達との再会を意味していた。

 

 

「さて、私の品を返して頂けます事?」

「…」

「事情はドロシーさんから伺いました、貴方の笛による精神操作の類への対策は出来ていますので。」

「大人しくお縄についてください。」

「これは困ったねぇ。」

 

 

城塞の主であるドロシーの発言からハスミとロサの会話が続き、城塞の侵入者であるヘイムレン・シルバートは困った様な表情で答えていた。

 

 

「ま、目的の物は手に入ったしこの場は下がらせて貰うよ。」

 

 

そう答えるとヘイムレンはドロシーの研究室より離脱した。

 

 

「逃げられちゃったね。」

「己の不利を悟った以上、撤退を選んだか…」

「…(オズマゴスを奪われた以上、後手に回るしかないか。」

「ハスミ、後を追う?」

「いえ、今は情報の整理が必要よ……追うにしても如何とでも出来るし。」

「どういう事だい?」

「奴との戦闘中にロサに発信機を仕込んで貰ったんです。」

「向こうも気が付いていないので跡追いバッチリです。」

「抜け目がないな?」

「あの手の手合いは逃げ足だけは早い様ですし…偶には狩りをするにも良いのでは?」

「悪辣どうも。」

 

 

無限力のやり口は大体理解しているので保険は付けておいた。

 

後は奴を追うだけである。

 

私は再会したハーケン一行と新たなメンバーの自己紹介を兼ねて会話を続けた。

 

 

「久しぶりだな、博識ガール。」

「お久しぶりです、ハーケンさん。」

「あの時以来だな?」

「皆さんとお会い出来て嬉しいです。」

「エトランゼファイターにリトルメカガールも一緒か…それと?」

「僕はアラン・ハリス、彼女達と同じ部隊のメンバーだよ…以後お見知りおきを。」

 

 

同時にネージュ・ハウゼンとアレディ・ナアシュの紹介を終えて、各自の情報整理へと進んだ。

 

どうやらヴァールシャイン・リヒカイトとの戦いから三か月が経過しているのは原作と同じ様子。

 

アレディ達と合流したハーケン一行はアグラットヘイムと名乗る組織とヘイムレンを追ってここまでやってきたとの事だ。

 

まだ再会出来ていないメンバーもいるが徐々に遇えるだろう。

 

ハーケンの話ではシュラーフェン・セレストのクロスゲートから転移した二人組が居る事。

 

現在はツァイト・クロコディールに引き取られたと伺った。

 

念の為、名前を伺った所…アクセルさんとアルフィミイである事が判明した。

 

最悪な事に記憶喪失と言う状況だ。

 

私達はヘイムレンを追う形でヴァルナ・ストリートへと移動。

 

そこでアグラットヘイムの刺客、ガンド三兄弟の長兄であるヴァナー・ガンドと対峙する事となった。

 

その戦闘後の事である。

 

 

「ハーケンさん、奴らはおそらく逢魔と何らかの関係を持っていると思います。」

「どういう事だ?」

「奴の背後にあった人が取り込まれた兵器…あれは逢魔が生み出した九十九と呼ばれる兵器に酷似していました。」

「!?」

「そしてあの兵器が発言した次元掘削ですが推測として空間を掘り進む事で別の場所に移動する事が可能な兵器と思います。」

「やれやれだな。」

「…今回の事件、かなり根本から深い様です。」

「うむ、ハスミのお陰でとんとん拍子で解る事が多いぞよ…どこぞのポンコツメカと大違いである。」

「黙っとれ、鰻腹姫。」

 

 

私とハーケンさんのやり取りを他所に錫華姫とアシェンの毒舌会話が入った。

 

 

「と、言う事は奴らは自由に何処へでも移動出来ると言う事で宜しくて?」

「いえ、それはないと思います。」

「どういう事ですか?」

「奴らが各地に出現したと言う情報が少ない様なので恐らくは限定的な使用しか出来ないと思います。」

「つまり、向こうも頻繁に使えないって事ね。」

「はい、それがこちらの攻め手に為り得ると思います。」

 

 

こう言う件に関して説明出来る相手が居ないのがネックなのよね。

 

ネージュ姫やアレディが話しやすい方で良かった。

 

 

「早い所、ドゥルセウス封墓へ向かわないとだな。」

 

 

ハーケンはテンガロンハットを深く被り直すと仕切り直しをして一行と共にヴァルナ・ストリートを後にした。

 

話す事が多すぎるので簡易的な事だけで後は締めくくろうと思う。

 

再編後世界の旅路で再会した仲間達と共に修羅の侵攻を止め、アグラットヘイムへと決戦が近づく中で…

 

W03のピート・ペインにロサが拉致されると言うハプニングに見舞われた。

 

理由はネバーランドの後部部分での出来事が関わっていた事とピート自身に自我が芽生え始めていたのが原因である。

 

色々とあってロサを奪還したが、ピート自身もロサとのやり取りで何かあったのか私達と同行する事になった。

 

その様子はピーターパンとティンカーベルの様なやり取りだ。

 

彼にも何かの変異が起こったのだろう。

 

記憶を取り戻したアクセルとアルフィミイに再会したファイターロアを仲間に加えて…

 

最終決戦の地シュテルベン・シュロスへと向かう事となった。

 

城の主であるガグン・ラウズはスヴァイサーへと変異。

 

世界は城に埋め込まれたヴェルトバオムの大樹によって食い尽くされる寸前だったが、アレディの一撃でそれは阻止された。

 

大樹に埋め込まれたスヴァイサーを二人の姫が封印しようとしたが奴の力が予想以上に強かった為に難攻していた。

 

 

「このままでは封印が…!」

「…」

「ハスミさん?」

「私も手伝います……恐らく私がこの世界に再び転移したのはこの時の為だったのかもしれないから。」

 

 

輝夜姫とネージュ姫の封印に私ことハスミも参加した。

 

ガンエデンの巫女の力、甘く見ないで貰おう。

 

三人の封印の力が合わさり、ヴェルドバオムの大樹はスヴァイサーと共に封印。

 

世界が食い尽くされる事を阻止したのである。

 

 

「ハスミさん、その力は…」

「…」

「彼女はガンエデンの巫女として役割を持っていてね、強大な念の力を所持している。」

「ガンエデンの巫女?」

「銀河を守護する四体の人造神、その一柱を司っている。」

「まさか博識ガールが本物の女神様だったとはね。」

「隠すつもりはなかったのですが…」

「それでも私達を幾度なく助けてくれました。」

「…私がそうしたいと願っただけです。」

 

 

輝夜姫の会話からハーケン、ネージュ姫と続き小牟と零児が続いた。

 

 

「相変わらず、主は謙虚じゃのう。」

「だが、明かすには強大な力と見える。」

「…そうじゃのう。」

 

 

つかの間のやり取りの後、城の崩壊が始まり脱出する一行。

 

後にエスピナ城にて祝勝会が開かれた。

 

英気を養った後、私達は本人の希望でピート・ペインを引き連れてシュラーフェン・セレストのクロスゲートで元の世界へと帰還。

 

道中で色々とハプニングに見舞われたが、アカシックレコードで転移が完了し無事に各々が帰還出来た事を識った。

 

惑星エリアの一件も解決した様なので少し安堵した。

 

だが、戦いはまだ続く。

 

私達が歩みを止める事はないのだから…

 

 

=続=

 




流れはそのままに。

世界は大きく揺れ動く。

終わらない円舞などない。

開演すれば終演も訪れるのだ。


次回、幻影のエトランゼ・第六十話 『円舞《ロンド》』


帰還の先に私の別れは一刻と差し迫る。




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癒の付箋

深々と根付いた古き傷は癒えず。

その身体を蝕む。

蒼き深淵の底で眠れ。

立ち上がるその時まで。


前回のエンドレスフロンティアから帰還後、私ことハスミはSTXチームの帰還命令により状況報告を兼ねて伊豆基地へと向かった。

 

新たな転移者であるピート・ペインの件をレモン博士に伝える為である。

 

彼の帰還に驚きを隠せなかった彼女だったが産みの親として彼を迎え入れた。

 

ロサとの出会いで無自覚ながら愛を学んだ事にも喜ばしいと話していた。

 

スヴァイサーとの戦いでW03としての躯体が予想以上に損傷していた事もあり、稼働していなかった後期型Wシリーズの予備躯体へ意識を移し替える処置が施された。

 

要はラミア少尉の様に生身の躯体になると言う事である。

 

最近の研究でWシリーズ間の移し替え自体は可能らしく早々に行われた。

 

ピート自身は元の躯体を名残惜しいと思っていた様だが、新たな任務の為に致し方ないと受け入れていた。

 

その後、ピートは本人の希望でSTXチームに少尉として着任する事になった。

 

正式な手続きはこれからだが、横槍が無い以上はすぐに終わるだろう。

 

ただ、向こう側のクロスゲートの転移時に共に帰還した筈のコウタやアクセル中尉達が居ないのは原作の流れと同様らしく少し不安である。

 

無限力はあのフラグでも立ててるつもりか?

 

そんな考えを他所に私達STXチームはピートの入隊手続きが完了するまで伊豆基地に滞在する事となった。

 

今の所、大きな戦闘は起こっていないとの事で休暇申請が取りやすくなっている。

 

私はこの辺で天鳥船島へ帰還する事を決めた。

 

封印戦争の開始合図は刻々と迫っている。

 

各々の古傷を今の内に治療して置かないと後々で支障が出るからだ。

 

 

******

 

 

EFから帰還後の翌週。

 

私達は伊豆基地の人事部に提出した休暇申請が通った連絡を受けて外出した。

 

カーウァイお義父さん達はピートの手続きの関係で残っている。

 

今回、天鳥船島へ向かうのは私とケイロンにハリスさんの三名。

 

理由は二人が過去に色々とやらかした頃の古傷が予想以上に深手である為だ。

 

今までは魔法で誤魔化していたが…これ以上は無理がある。

 

伊豆基地から街郊外へ移動した後、テレポートでランデブーポイントに向かった。

 

転移後、ランデブーポイントには迎えが到着していたので合流し天鳥船島へと上陸した。

 

普段は巨大人工島『六角柱』に隣接しつつカモフラージュして停泊しているが、今回はある建造物の調査で移動して貰っていた。

 

協力者達とエージェントらは出払っており、ブルーロータスと側近が残っている状況だ。

 

天鳥船島の中枢、立ち入り禁止区画の奥に移動。

 

その出入り口とも言える場所にブルーロータスが待機していた。

 

 

「巫女様、お帰りなさいませ。」

「ブルーロータス、留守番ご苦労様。」

「提示報告通り、癒場の準備は整っています。」

「ありがとう、早速使わせて貰います。」

 

 

私はブルーロータスに労いの言葉を伝えた後、二人を案内し立ち入り禁止区画内の医療施設に案内した。

 

二人の対応は医療施設の管理を行っている看護型ロボットに指示出しをした後、二人と別れた。

 

私はそのまま最深部の神殿へと向かった。

 

理由は天鳥船島の基底状態を解除し起動状態に戻す為である。

 

封印戦争ではこの拠点を利用せざる負えない状況がある以上、不測の事態に対応出来る構えをして置く為だ。

 

ビアン博士が建設した例の島の基地だけではノードゥスのメンバー全員を受け入れるには少々スペースが足りないと見ている。

 

半分はこちらで受け入れられる様に態勢を整えておく必要があった。

 

それと同時にアシュラヤーに小言を貰いに行くのも含まれている。

 

私は神殿の一角で禊を済ませた後、アシュラヤーの本体が座する玉座の間に向かった。

 

禊の水が変わらず冷たいのが正直辛い。

 

例として真冬の滝の水に打たれるのと同じ位に水温が低いのだ。

 

不浄を清めると言う意味合いでアシュラヤーとの謁見時は毎度の事ながらやっている。

 

先史文明期の古い因習が残した風習なのかもしれない。

 

 

「ハスミ、お帰りなさい。」

「只今戻りました、アシュラヤー。」

 

 

玉座の間にてアシュラヤー・ガンエデンの躯体のコアの一部が埋め込まれた玉座にて不鮮明な姿で現れたアシュラヤー。

 

私達クジョウ家の始祖になる方だけにその姿は亡くなった母さんに似ていた。

 

 

「随分と無理をした様ですね。」

「返す言葉もないです…」

 

 

早速、釘を打たれた。

 

L5戦役、空白事件、前回の修羅の乱に置いてかなりの無茶振りをしたのは判っている。

 

 

「今までは貴方の無理を見過ごしていましたが…今後は無下に出来ませんよ?」

「判っています。」

「南の極地より沸き上がる邪な気配を感じていますね?」

「はい、今の所は大きな動きはない様子ですが…」

「そしてこの星を護る大剣に澱みを齎す錆がこびり付き始めた事。」

「既に予兆はありました、いずれ大きな傷跡を後に生み出します。」

「今後、貴方はどう動きますか?」

「私は…」

 

 

私はアシュラヤーに答えた。

 

ガンエデンの巫女として表の世界に出る事。

 

それがどんな影響を齎すのか理解している。

 

人智を超えた強大な力の出現。

 

それはより大きな禍を齎すのかもしれない。

 

それでも止めなければならない存在がいる。

 

だからこそ私は一族の使命を果たす為に受け入れる。

 

それが彼らとの別れを意味していても…

 

ガンエデンと化した私と言う存在は彼らの足枷となってしまうから。

 

強大な力を持つ存在が遊撃部隊に居る事は不釣り合いなのだ。

 

もしもあの子が彼らと共に歩む道を選ぶのなら私が枷で繋がれる事位は安いもの。

 

 

「私はガンエデンとして彼らを影で支え、導きます。」

「判りました、では…その時が訪れた時は判っていますね?」

「はい。」

 

 

これは歴代のクジョウ家の女性達が受け入れた事。

 

私も一族最後の生き残りとして受け入れる。

 

例え、私と言う存在が消える可能性があったとしても…

 

 

******

 

 

数時間後。

 

天鳥船島・立ち入り禁止区画の医療施設内にて。

 

 

「全く、あの子は…母親譲りの無茶をする。」

「ハリス、どうされた?」

 

 

治療を終えて医療施設内で休憩を取っていたハリスとケイロン。

 

ハリスは何かを感じ取ったのか先の言葉を発した。

 

 

「…娘がまた無茶をしそうになっていてね。」

「一体何を?」

「…簡単に言えばあの子が受ける試練とでも言って置くよ。」

「試練?」

「そう、あの子の宿命……そしてクジョウの血族に生まれた事による使命かな?」

 

 

今は部隊の軍服でなく医療用の検査着姿だった。

 

ハリスは都合が悪い話をする時は帽子の鍔で目元を隠している。

 

それが出来ないので目を閉じた状態で話を続けた。

 

 

「何故それを?」

「君がスフィアとやらで娘と繋がっているのと同じ様に僕は思念で繋がっている。」

 

 

あの時、負傷した際に娘の念を分け与えられた事でより鮮明に娘の考えを読み取れる様になった。

 

それで君達が成そうとしている事の発端と結末を知った。

 

 

「いずれ君と娘が命を賭して戦う未来になる事も……これから何をやらかそうとしているのかもね。」

「…愚かだとお思いか?」

「いや?新地球皇国の皇帝と言う枷を着けられた君にこれ以上は侮辱するつもりはない。」

「では?」

「ハッキリ言えば娘を護る覚悟が君にあるのか?」

「…」

「一応、君のEFでの活躍を含めて及第点はあげているんだよ?」

 

 

カーウァイは兎も角テンペストは黙っていないだろうけど?と付け加えた。

 

 

「俺はあの時ハスミと契った……必ず約束を果たすと。」

「ならいいけど、少しでも弱音を言ったり揺らいだら僕は君を許さないし許す事は無いよ?」

「承知した。」

「もしも、あの子に何かあったら…僕と応龍皇が君を地の果てまでも追い詰めて八つ裂きにするからね。」

「必ず…約束は果たす。」

 

 

笑ってない笑みでハリスはケイロンに告げた。

 

見た目が推定年齢29歳の二名だが…

 

片方は先史文明期より生きる古代人、片方はリバイブ・セルによって己の時を捻じ曲げた次元将。

 

その正体を知る者であれば、この状況が途轍もなく恐ろしい状況であると理解出来るだろう。

 

二人の話は平行線の様でお互いに理解した様に終わりを迎えた。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、北米・デトロイト市内。

 

市内の大手企業で爆発騒ぎが起こっており、パトカーのサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 

それから遠ざかる普通の一般車の中で一人の男性がため息をついて運転手に話していた。

 

 

「いやいや、参りましたよ。」

「危なかったよね、まさかの爆弾テロなんて。」

「君達のお陰で命拾いをしましたよ。」

「当主の命令だからな。」

「そうそう、気にしないでね。」

 

 

後部座席の相手に運転席と助手席から話す二人の男性。

 

話から察するに兄弟らしい。

 

 

「例の組織もこちらの介入を疎ましく思っている様ですね。」

「当主の話ではブルーコスモス盟主の盟主替えを目的とした暗殺テロと見ている。」

「あのオカマ君は前から怪しいと思ってましたが、動きが予想以上に早すぎましたよ。」

「兄さんどうする?」

「盟主の身柄の安全確保が第一だ、このまま国際警察機構の北米支部があるフロリダへ向かう。」

「相変わらず遠くない?」

「途中で別の移動方法を利用する。」

「なら、早いか…アレなら早いしね。」

「所で彼女からは何と?」

「当主曰く『窮屈でしょうが、例の存在を社会的に抹殺する勢いで処理するまでお待ちください。』との事だ。」

「ハハハ、相変わらず母君と同様に悪辣が好きな様で…」

「いいんじゃない?面白そうだし。」

「ですね、僕をここまで追い詰めたお礼はさせて貰わないといけませんからね?」

「では、ムルタ・アズラエル氏……反攻までの逃避行の旅を楽しんでください。」

「ええ、彼女が起こす奇想天外な活劇を楽しませて貰うよ。」

 

 

後日、ワールドニュースの一覧にムルタ・アズラエル氏の死亡が大々的にピックアップされた。

 

世界は廻る。

 

より大きな波となって。

 

そして季節は美しい紅葉から灰色の雪の季節へと移り変って行こうとしていた。

 

先の事件から一か月後。

 

ベルギーの片田舎、こじんまりとした別荘にて。

 

 

「さて、我々も動く時が訪れた様だね。」

「男爵…」

「私は止めなければならない、あの終わり無き輪舞曲を。」

「我々もお供します、トレーズ閣下。」

「今の私は閣下ではないよ…」

「ですが、我々にとって閣下は閣下のままです。」

「済まない、今回の件は私は一個人として彼らを止めなければならなかったが…」

 

 

木枯らしがうっすらと吹いている別荘のテラスで話し合うトレーズとその部下達。

 

 

「私だけでは力不足故に君達の力も借りたい…よろしく頼むよ?」

 

「「「はっ!」」」

 

 

捻じ曲がった革命を止める為に彼女が作り出した布石は動き出す。

 

 

=続=



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第六十話 『円舞《ロンド》』

それは一時の舞台。

それは仮面舞踏会ではなく仮面武闘会。

お前達の薄汚い野心を晒す為の舞台。

さあ、反撃の幕開けである。


前回から更に一か月後。

 

私ことハスミは現在TR社へ潜入捜査を行っていた。

 

理由は梁山泊で宣告した戦いが迫っている為である。

 

雷張ジョーがTR社の地下施設内でヴォルフガングに匿われたのを確認した後に私は奴の研究室に潜り込んだ。

 

敵ではない事を話した後に彼らへ国際警察機構の証明証を提示した。

 

 

「ジョーだけではなく、国際警察機構も嗅ぎつけおったか。」

「お察しの通りです、博士。」

「どう言う事だ?」

「ジョーやお前さんらもエグゼブの事をマークしておったのだろう?」

「ええ、彼の正体を知ればね…」

「正体?」

「彼の正体は将来を有望された若手政治家のケン・エノモト氏、一五年前に東南アジアで失踪した後…その数年後にエグゼブとして表舞台に出てきました。」

 

 

私は電子端末でかつてのエグゼブ…一五年前のケン・エノモトの写真を二人に見せた。

 

犯罪とは無縁そうな冴えない容姿に二人は感想を述べた。

 

 

「何じゃい?今と違って随分と冴えない顔つきじゃのう。」

「別人の間違いじゃないのか?」

「確かにこんな事をする様な人物ではない様に見えますよね?」

「まさかエグゼブは…?」

「そう…彼もまたブラックノワールに操られた被害者です。」

「!?」

「例え…理由を知っても受け入れられる様なものではありませんけどね。」

 

 

舞人から私の事情を聴いていたのだろう。

 

察したのかジョーは私に答えた。

 

 

「…俺にどうしろと?」

「彼が償うべき罪は償わせる…それが彼に対する最も重い罰と考えています。」

「それもそうじゃのう、奴の命を奪えばそこまでじゃが…罪を背負って生きる事も奴に取って大きな罰に成り得るだろう。」

「ブラックノワールを倒せば、洗脳された人達に入り込んだ禍々しいオーラも消えると思いますし。」

「…」

 

 

年寄りの助言なのだろうか、ヴォルフガングは私の言葉に弁論した。

 

 

「一応助言として受け取って置きますが、貴方の今までの罪状が消えた訳ではありませんよ?」

「うっ…わ、分かっておるわい。」

「但し、今回の件でこちらの協力すると言うなら司法取引で罪の軽減はさせて頂きます。」

「…お主、最初からそのつもりじゃっただろう?」

「ええ、この件は上からの許可も取ってますからね。」

 

 

ジョーには国際警察機構より今回の件に協力する事を条件に民間からの有志としてブラックリストから登録削除する事を提示した。

 

流石のジョーもフリーランスで働いている分、国際警察機構からの警告には相当堪えていたのだろう。

 

先のヴォルフガングと共に双方には条件を快諾して貰った。

 

 

「今は感謝するぞ…ハスミ・クジョウ。」

「クジョウ…もしやお主は?」

「?」

「やはりお主はあのサザナミの孫娘じゃったか…」

「…御爺様をご存じで?」

「うむ、数十年前のある事件の折に救われた事があってのう。」

「そうでしたか…」

 

 

御爺様、御爺様達がやってきた事は今日も誰かの助けになった様です。

 

その後、私はヴォルフガング博士を残してジョーとTR社の地下施設を脱出。

 

博士は引き続き…ブラックノワールの魔のオーラに対抗する研究を継続する理由で残った。

 

無事に脱出を終えた後、ジョーとの別れ際に私は彼に言葉を贈った。

 

 

「ジョー、貴方に伝えておく言葉があります。」

「何だ?」

「弱さもまた強さ…力とはその人の在り方次第よ。」

「…」

「かつて力こそが全てと言う思想を持った貴方への問い…その答えです。」

「…覚えて置こう。」

 

 

ジョーは何かを察した表情で脱出先に隠してあったバイクに乗るとその場を去って行った。

 

 

「素直じゃないのは原作通りか…」

 

 

念の為、博士にはホルトゥスから護衛を送って置いたので悪い事にはならないだろう。

 

だが、研究が完成を迎える前に無限力からの圧力で早すぎる決戦の日を迎える事となった。

 

十二月二十三日…

 

前倒しされたクリスマスオペレーションが始まってしまったのだ。

 

地球各所でTR社から魔のオーラを受けた無人ロボットの大軍が軍施設を中心に襲撃を開始。

 

同じくして地球各所で地球連合軍やノードゥスの仲間達が対処に向かっていた。

 

だが、魔のオーラによる急速再生によって味方側の抵抗は徐々に削られていた。

 

日本国内・ヌーベルトキオシティにあるTR社の本社から突如として巨大要塞が浮上。

 

現地に待機していた勇者特急隊を始めとした地球防衛軍と極東スーパーロボット部隊が対処していた。

 

私達STXチームも伊豆基地から急行し状況介入する事となった。

 

鋼龍戦隊は宇宙に上がっており、ロンド・ベル隊やプリベンターと共に反乱を起こしたマリーメイア軍への対応に追われていた。

 

前回の爆弾テロ騒動のせいで小父様の助力が使えない以上は今のままで対処するしかない。

 

 

******

 

 

同時刻。

 

ヌーベルトキオシティ内でTR社の無人ロボット軍団に応戦する混成部隊。

 

地球防衛軍にセフィーロ側の有志として協力している魔法騎士達。

 

彼女達も無人ロボット軍団に纏わりついているオーラの正体に気が付いた様だ。

 

 

「やっぱりこのロボット達…!」

「ええ、間違いなくデボネアの時と同じですわ。」

「あの禍々しいオーラのせいで皆の攻撃が通用しないのは痛いわね。」

 

 

彼女達の近くで戦っていたハスミ、ロサ、ハリスもまた会話に加わっていた。

 

 

「なら、私達で道を切り開くしかない。」

「はいです。」

「それは僕も含まれているかな?」

「魔神と同様に念者の攻撃もあの光を剥ぎ取れる様子ですからね。」

「やれやれ…これは大仕事だね。」

「ちょっと!グダグダ言う前にちゃんと仕事しなさいよね、軍人でしょ?オジさん!」

「アハハ、オジさん…ね。」

 

 

流石のハリスも少女にオジサン呼ばわりされる始末。

 

見た目からでもギリギリお兄さんでも間違えられそうなものだが…

 

若作りな所を無自覚ピンポイントで言われたのだからグッサリと心にダメージを負っていた。

 

ちなみに光や風も言い過ぎだとオブラートに包んだ位で海を窘めていた。

 

海のストレート発言に苦笑いしつつも私は念の為、念話でフォローしておいた。

 

 

「…(お父さん、ここはこらえてください。」

「…(これには僕もちょっと傷ついたよ。」

「…(まだまだ戦いは続きますし頑張ってください、ぱ……パパ///」

「っ!、君からその言葉を聞くとはね…」

「少しは癒されましたか?」

「そう言う事にして置くよ。」

 

 

内心嬉しかったのかサラリと返しを寄越したハリス。

 

 

「…(本当に凄いわ。」

 

 

そんなにパパ呼びが嬉しかったのかと私自身ツッコミたい気分である。

 

カーウァイお義父さんもテンペストお義父さんもパパ呼びだと内心喜んでたし。

 

世の父親は娘に甘いものだと私は一人で納得した。

 

その後、先ほど話した光達の戦法で敵の数を減らす事に成功した。

 

だが、エグゼブらが現れていない以上は油断出来ない。

 

この戦いの希望とも言えるイノセントウェーブを放つ装置もまだ完成に至っていないのだから…

 

時間を稼ぐにしても長期戦で疲弊しつつある。

 

状況が改善しない事で仲間達も精神的に余裕がないのが現状だ。

 

正直に言えばガンエデンの力で魔のオーラを浄化すれば早い話だがアカシックレコードから今回の件も介入は出来ないと釘を打たれている以上は何も出来ない。

 

ただ彼らの助力に成れる様に陰ながら戦うので精一杯だ。

 

その後、ヴォルフガング博士の研究が完成し勇者特急隊へ届けられた。

 

今回は博士も軽傷はあるものの無事に脱出出来た様子だ。

 

本人曰く『何じゃ!あのキチガイ戦闘馬鹿共は!!』との事。

 

うん、あの地下施設から脱出するには地獄組が適任だったのよね。

 

と言うより貴方もマッドな方ではとツッコミたい。

 

さておき、緊急の作戦会議が開かれ議論の後。

 

要塞に侵入するのは勇者特急隊、ジョー、魔法騎士、STXチームとなった。

 

理由は察して貰う様に魔のオーラに対する対処方法を持ち合わせていたからだ。

 

勇者特急隊を筆頭に私達はフォローに入る事となった。

 

地上に他のメンバーは待機、増援として現れたTR社の戦闘ロボットの大軍に対処する形となった。

 

敵の包囲網を潜り抜け要塞に突入したが、その守りは強固であった。

 

奥へ奥へと進むに連れて魔のオーラの気配が強まっていた。

 

 

「これ以上、貴様達を通すわけにはいかん。」

 

 

中間エリアだろうか巨大な広間へ出た私達。

 

そこへ待ち構えていたのはエグゼブの搭乗するインペリアルであった。

 

エグゼブの登場に対してジョーが叫んだ。

 

 

「エグゼブ!」

「勇者特急隊にジョー…噂の魔法騎士に連合軍の部隊か?」

「エグゼブ、貴方には大規模テロ行為による逮捕状が出ている…その様子では素直に拘束される事は無いでしょうけど?」

「ふん、ブラックノワール様の創り出す新たな世界の為にも貴様達の存在は邪魔なのだ!」

「各機、勇者特急隊を援護し活路を開くぞ!」

 

 

毎度お馴染みの捨て台詞を頂き、カーウァイ中佐の活が入った後に戦闘開始となった。

 

 

「何なのよ!あのおっきなロボットは!?」

「こちらの機体の大きさをはるかに超えていますわ。」

「TR社はイスルギ重工やアナハイムエレクトロニクスなどと肩を並べる大手の兵器開発企業…秘密裏に開発する位造作もないでしょうね。」

 

 

海と風の疑問にハスミが助言。

 

 

「待ってください、それではヌーベルトキオシティで起こってたロボット犯罪事件は…」

「TR社が絡んでいる……ま、アマルガムの構成員と接触していた様子だったし叩けば埃が大量に出たでしょうね。」

「さらりとそう言う怖い事を言っちゃいます?」

「残念ながら事実よ。」

 

 

エグゼブから漏れ出す魔のオーラ。

 

この気配は紛れもなくあの気配と酷似していた。

 

恐らくブラックノワールも奴らから生み出された駒。

 

それはバアルの眷属を意味していた。

 

 

「…(ここにもバアルの介入があった以上、例の試練の時が迫ってきている。」

「ハスミ。」

「ハリスさん、どうしましたか?」

「悪い知らせだよ、他のエリアの防衛網が突破されようとしている。」

「!」

「早い所、決着を着けないと拙いね。」

「…」

「どうする?」

「カーウァイ隊長、折り入って相談があります。」

「ハスミ、どうした?」

「事前に説明したエリアの防衛網が瓦解しそうとの事です、そこで私と舞人に光の三人でここから中枢へ強行突破し早期決着に持ち込みたいと思います。」

「…解った、ハスミ少尉、舞人君と光君の援護に回ってくれ!」

「了解。」

 

 

既にタイムリミットが迫っている以上、躊躇う事を止めたカーウァイ。

 

即座に戦闘指揮と共に指示を出す。

 

 

「各機、グレートマイトガイン、レイアースとエクリプスを敵施設の中枢に向かわせる!攪乱と援護に回るぞ!!」

 

「「「「了解。」」」」

 

「承知。」

 

 

攪乱としてロサのエザフォスとピートのエクスガーバイン・ピストーレより援護射撃が入る。

 

 

「ロサ、頼むぞ。」

「はい、ピート。」

 

 

続けて各機より援護射撃が入る。

 

度重なる銃撃に一度だけ怯むエグゼブのインペリアル。

 

ハスミはそのタイミングを逃さず、舞人と光に告げる。

 

 

「二人共、今よ!」

「判りました!」

「はい!」

 

 

三機は隙を突いて中枢区画へと繋がるゲートを突破した。

 

続けてカーウァイは海と風にも追従する様に告げた。

 

 

「海君、風君、君達も行くんだ。」

「でも…」

「私達まで抜けたら…」

「そこのデカいだけのハリボテ君は僕とロサで引き付けるよ。」

「二人はハスミ達を追ってください。」

「判りましたわ。」

 

 

未だ怯んでいるインペリアルの隙を突いて突破するセレスとウインダム。

 

 

「ハリスさん、さっきはごめんさい…貴方は立派に仕事をしているわ。」

 

 

海は去り際にハリスに謝罪の言葉を述べるとゲートへと向かった。

 

 

「その言葉、素直に受け取っておくよ。」

 

 

年長者の余裕でゲートへ向かった海に返した。

 

 

「さてと、君の子供じみた人形遊びに付き合う為に残ったんだ……精々負け犬らしく抗ってくれ。」

「貴様…っ。」

 

 

ハリスはインペリアルに搭乗するエグゼブに込めに込めた苛烈な嫌味発言を送った。

 

 

>>>>>>

 

 

中枢区画へ向かったハスミ、舞人、光。

 

ゲートを通過したものの通路内に敵ロボット部隊が配置されており、隠し通路からグレートマイトガインに不意打ちされてしまった。

 

同時にパーフェクトキャノンモードで合体していたガンナーが負傷し接続用のコネクトが破損。

 

分離状態でも使用は可能だが出力が下がってしまうと言う誤算があった。

 

 

「舞人、済まねえ…」

「俺の方こそ済まない、ガンナー。」

「舞人さん、大丈夫ですか?」

「済まない、さっきの攻撃でガンナーが負傷した。」

「そんな…」

「…(これも無限力の仕込みか。」

「あと少しでブラックノワールの元に辿り着けるのに。」

 

 

配置された敵は倒したもののグレートマイトガインの必殺技の一つを封じられると言う騒動に陥った。

 

同時に後方から現れるセレスとウィンダム。

 

 

「光!」

「光さん!」

「海ちゃん、風ちゃん、どうして?」

「カーウァイさんに言われて貴方達の後を追ってきたの。」

「何があったのですか?」

「実は…」

 

 

光が先ほど起きた経緯を二人に説明。

 

 

「こんな時にロサがいてくれれば…」

「ロサさんは私達の中で無機物への修復魔法が使えますのもね。」

「無いものを強請っても仕方がないわよ。」

「海、風、来て早々悪いけどガンナーの護衛を頼めるかしら?」

「ハスミさん、ですが…」

「こうしている間にもブラックノワールの侵略作戦は続いている……私達が立ち止まる訳には行かないわ。」

 

 

私は二人を説得しガンナーを預けた後、舞人、光と共に中枢部へと向かった。

 

 

「ハスミさん、どうですか?」

「この先で合っているわ…奴の気配が強くなっているのが判る。」

「うん、デボネアと同じ嫌な気配が続いている。」

 

 

中枢部と思われる巨大なゲートの前に一度立ち止まる三機。

 

 

「ここがブラックノワールの…」

「…(間違いない、原作と同じ様に嫌な気配がする。」

「舞人、準備はいいな。」

「ああ、皆…力を貸してくれ!」

 

 

ガイン、光、ハスミがそれぞれ相槌を打つとゲートを破壊し内部に潜入した。

 

 

「ついに来たか、旋風寺舞人、魔法騎士達よ。」

 

 

巨大な装置から映し出されるブラックノワール。

 

バアルが生み出したエネルギー生命体。

 

 

「ブラックノワール、貴様の野望もここまでだ!」

「ふん、貴様の仲間とやらを分散させてもまだ戦うか。」

「例え、遠くに離れていようとも俺達の心は繋がっている!」

「確証もない言葉など私には通用せんぞ!」

 

 

ブラックノワールより渦巻く魔のオーラの波動。

 

それは三機を襲い、壁際まで後退させてしまう。

 

 

「くそっ…(かつてのブラックノワールの魔のオーラとは桁違いの強さだ。」

「これってまさか!」

「間違いない、光…貴方も感じた事があるでしょう?」

「ブラックノワール、お前…デボネアの力を取り込んだな!」

「何だって!?」

「魔法騎士なら判るか?私の魔のオーラを増幅させた恐怖の力の源よ。」

「…(空白事件の折…綺麗さっぱりに痕跡が無くなっていたと思ったけど、とんだ絡繰りね。」

 

 

このままだとサリーのイノセントウェーブだけではグレートマイトガインに勝機はない。

 

だったら…

 

 

「舞人、光、一度だけよ……賭けに乗ってくれる?」

「えっ?」

「ハスミさん?」

「これは滅多に使える技じゃないの…だから今回だけの奇跡を奴に叩き込むわよ!」

「…解りました!」

「お願いします!」

 

 

今回は二機、それでもやらなければならない!

 

 

「二人とも行くわよ!念装合身!!」

 

 

本来ならば在り得ない筈のその場限りの奇跡。

 

それはグレートマイトガインとレイアースに希望を齎した。

 

 

「グレートマイトガイン・エクリプスモード!!」

「天神・レイアース!」

 

 

エクリプスの持つ浄化の力を二機に与えたのだ。

 

 

「何だ…何だ、この輝きは!?」

 

 

二機の姿に狼狽えるブラックノワール。

 

今まで有利の位置に立っていた自身の足元が瓦解するかの様な感覚に見舞われたのだ。

 

 

「行くぞ!ブラックノワール!!」

「これが貴様の最後だぁ!!!」

 

 

浄化の輝きを纏った二対の剣が魔のオーラごとブラックノワールを切り裂く。

 

 

「馬鹿な…この私が…」

「悪を演じた道化は道化らしく舞台を降りなさい。」

「まさか…お前は…ガン!?」

 

 

ハスミに向けられたその言葉を最後にブラックノワールは消失。

 

一行は崩れ去る要塞を後にし脱出した。

 

 

 

******

 

 

Xー18999コロニーでの陽動作戦に嵌められた鋼龍戦隊とロンド・ベル隊にプリベンター。

 

陽動とは言え、放置すればコロニー落としの要となってしまう。

 

対応力として鋼龍戦隊とロンド・ベル隊が残留。

 

プリベンターは先んじてマリーメイア軍が占拠したブリュッセルに降下したのだ。

 

数時間後、ベルギーのブリュッセルにて。

 

リリーナ外務次官を誘拐し新たな指導者として名乗りを上げようとしているマリーメイア・クシュリナーダ。

 

彼女は地下シェルターに移動した官邸内にて唖然としていた。

 

降下したプリベンターのメンバーが圧倒的な敵MSの数を前にしても怯まず抵抗活動を続けていたのだ。

 

抵抗を辞めずに必死に抗うプリベンターのメンバーを目にし「何故?」と答えたマリーメイア。

 

リリーナは「貴方達と言う戦争がある限り、彼らは戦うのです…真の平和の為に。」と答えた。

 

しかし、デキム・バートンは「こんな事で我々の理想は…」と言いかけたその時。

 

突如、外部より音声通信が入る。

 

 

『成程。』

「誰だ!?」

『やはり、蒼い睡蓮の情報は正しかったと見える。』

「まさか…その声は!」

『私の亡霊が暴れていると言うのでね、直々に退治しに伺ったのだよ。』

 

 

戦場と化したブリュッセルの街に降下する機影。

 

青いトーラスの部隊とそれを指揮する一機のMS。

 

知る者であれば忘れもしないだろう。

 

彼こそ真の敗者にして平和の為に尽くした人物。

 

 

「トレーズ・クシュリナーダ…だと!?」

『久しぶりだね、諸君。』

 

 

嘗ての同胞達に言葉を掛けるトレーズ。

 

音声から映像通信に切り替わり映し出されたその姿は紛れもなく彼であった。

 

 

『そして…マリーメイアだったかな?』

「貴方がお父様…」

『残念だが私は誰とも子を成した事は無い。』

「!?」

『君はデキム・バートンの娘のクローン……愚かな者達が過去の栄光を隠れ蓑とする為に生み出された。』

 

 

トレーズは静かに告げた。

 

もしもトレーズが子供を成していたのならマリーメイアは彼が十八の頃に作った子供となる。

 

だが、正式な経歴からも解る様にそんな余裕すらない軍属時代を送ってきた彼には到底無理な事だ。

 

ホルトゥスが廃棄されたバートン財団の研究施設を虱潰しに捜索した上でこの真実にたどり着いたのだ。

 

コーディネーターすら生み出す時代なのだからクローン培養も可能である。

 

彼女は欲深な者達によって捻じ曲げられた運命を押し付けられて生まれた。

 

偽りのトレーズの娘として支配者になる為の駒として…

 

 

『デキム・バートン、私は貴方の所業を許さない。』

 

 

トレーズは答えた。

 

罪もない子供を愚かな大人の道具にさせてはならないと…

 

マリーメイア軍に所属していた兵士達はトレーズの言葉に動かされ武器を降ろした。

 

そして戦うべき相手をデキム・バートンと捉えた。

 

潜入したレディ・アンの助けもあり、リリーナとマリーメイアは救出され…

 

二人を狙ったデキム・バートンは部下達に射殺された。

 

これで贖罪が済むとは限らないがトレーズの理想を捻じ曲げた事に謝罪したいと部下達は答えた。

 

 

『マリーメイア。』

「おとう…いえトレーズか…」

『君が良ければ正式に私の養女として引き取りたい。』

「え?」

『君は今回の事で戦争とは何か?恐怖とは何か?を学んだ筈だ…』

「私は…」

『返事は今でなくとも構わない、よく考えてから答えを出すといい。』

 

 

トレーズは衰えを見せない手腕で鮮やかにマリーメイア軍の反乱を収めた。

 

 

「…」

「全く、美味しい所持っていきやがって。」

「ですが、これで反乱も終わりを告げるでしょう。」

「そうだな。」

「トレーズ、これがお前が求めた正義の形か…」

「新たな可能性の形でもあるが…かつてない波乱もあるだろう。」

「これから忙しくなりそうですね。」

 

 

ヒイロらプリベンターのメンバーはトレーズの生存に驚きを隠せていなかったが、一人の人間として戦争を止めた姿を静かに静観していた。

 

その後、マリーメイア軍による反乱は終息。

 

首謀者のデキム・バートンは死亡しバートン財団は解体。

 

後日にはマリーメイア・バートン改めマリーメイア・クシュリナーダは正式にトレーズの養女として迎え入れられた。

 

そしてトレーズ・クシュリナーダは地球連合軍の連合議員の一人として政治の舞台へと戻った。

 

二つの戦いは終息し人々は平穏を取り戻しつつあったが…

 

過酷な戦いが待ち受けている事を一部を除いて知る事は無かった。

 

空白事件の折に次元震によって転移してきた転移者達はそれぞれ元の世界へと帰還。

 

世界は再び平穏と言う嵐の前の静けさに包まれた。

 

 

=続=




消える事には慣れてない。

それでも消える事を覚悟した。

私は…

次回、幻影のエトランゼ・第六十一話 『離別《ワカレ》』

日々の平穏にさようなら。


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第六十一話 『離別《ワカレ》』

人は産まれ生きて老いて死する。

それが早いか遅いかはその存在次第。

私は別れを選んだだけ。


修羅の乱後に発生した二つの事件。

 

無事に反乱は終息し人々は安堵の表情で聖誕祭を祝った。

 

ヌーベルトキオシティを拠点とするTR社は大規模テロの先導容疑でCEOのエグゼブことケン・エノモト氏は逮捕。

 

内部調査により様々な犯罪組織にロボット兵器を売買していた裏帳簿が残っていた為、同社並びに系列社は解体。

 

その後の調査でケン・エノモト氏自身に精神操作の類が行われていた形跡があった事で情状酌量余地もあり現在も裁判が続いている。

 

尚、ヌーベルトキオシティの人気バントのパープルらのグループも戦闘に巻き込まれたとの事で休業している。

 

未だ、修復作業が続く日々の中…地球に謎の物体が落下。

 

名を『Qパーツ』と呼称された物体は各地の研究施設で保管される事となったが…

 

発見された五つの内の一つをバイオネットによって強奪された。

 

白き雪の名残を残すフランス・パリ市内を逃走する一味をシャッセールと新生GGGによってQパーツは奪還された。

 

二つの事件の前に起こった爆弾テロによりブルーコスモスの盟主だったムルタ・アズラエル氏の死亡が確認された。

 

新たなる盟主としてロード・ジブリール氏が就任し就任式の演説が埋まった溝を取り去る原因を引き込んだ。

 

爆弾テロの騒動の一端をコーディネーターが引き起こした反ブルーコスモス派によるテロと報道された事でナチュラルとコーディネーターの埋まっていた筈の溝が再び掘り起こされてしまったのだ。

 

その後、連合軍とザフトが再び険悪な仲になるのは時間の問題だった。

 

最後に元EOT機関があったアイドネウス島。

 

現在はグランド・クリスマスと改名され地球連合政府・大統領直轄特殊行動部隊ガイア・セイバーズの設立が決定した。

 

現在も各方面から優秀なパイロット達の引き抜きが行われ、ここ伊豆基地でもその手は忍び寄っていた。

 

 

******

 

 

伊豆基地の一角、私ことハスミは再会したクスハやエクセレン少尉と共に休憩がてら雑談をしていた。

 

 

「また異動命令?」

「うん、ようやく部隊ごと鋼龍戦隊に戻れると思ったのだけど…」

「ややこしいわね…所で今度の異動先って?」

「例のガイアセイバーズです。」

「それって、噂の大統領直轄の精鋭部隊!?」

「ええ、この件は中佐達も不吉な予感しかしないと話していました。」

「うーん、確かに設立されて間もないし精鋭部隊自体にも信頼性が無いものね。」

「…おまけに大統領直々の推薦と言うのが痛い所です。」

「じゃあ…」

「余程の理由が無ければ断れないって案件よ。」

「そこまでしてSTXチームを引き入れる理由は?」

「度重なる転移騒動に巻き込まれた件と軍内部で私とロサが唯一魔術を行使出来るからでしょうか。」

「その件はセフィーロ側との会談で緩和していたんじゃ?」

「強硬派の連中がまた動き出したって国際警察機構の中条長官から連絡受けていたけど…向こう側が早かったわ。」

「場合によっては私達もタダじゃ済まなそうね…」

「はい、他のノードゥスのメンバーにも引き抜きの件で動きがありましたし…地球防衛軍側は流石に管轄違いなので手が出されていないのが救いです。」

「キョウスケが言ってた通り、嫌な予感が当たっちゃったわね。」

「ピンポイント狙いの運に関してはハズレ無しですからね…キョウスケ中尉は。」

「まあ、偶にタスク君に持ってかれちゃうけどね。」

「そう言えば前にハスミもポーカーに誘われてなかった?」

「それね、悪いけど断って置いたわ。」

「どうして?」

「大体…感で解っちゃうから勝負の意味がないのよ。」

「そういう事だったの…」

「確かにハスミちゃんってリュウセイ君やクスハちゃんと並んでかなりの念動使いだもんね。」

「いくら力が強くても梁山泊の人達からまだまだだと言われてますよ?」

「…うーん、あれを基準にしない方がいいんじゃない?」

「物質界とEFへ行って来たせいか基準としか思えなくなってしまって…」

「それはそれで悲しいわよね、いろんな意味で。」

「兎に角、異動命令は破棄出来ませんので謹んで出向してきますね。」

「ハスミ、向こうでも頑張ってね。」

「ありがとう、クスハ。」

 

 

それが私ことクスハ・ミズハが見た最後のハスミの姿だった。

 

その数日後、グランド・クリスマスへ向かったSTXチームが搭乗したダウゼント・フェスラーが何者かに襲撃を受けて墜落。

 

破損状況から遺体の痕跡が発見出来なかった事もあり乗員全てが死亡したと報告が入った。

 

身近に居た私達でさえこの出来事に驚いていた。

 

実は生きていてひょっこり現れるのではと?思う事もあった。

 

それでも目処前の現実はそれを覆すかの様に私達に悲しみを与えた。

 

その後、私達は悲しみを癒す間もなく任務の途中でラ・ギアスに飛ばされる事となった。

 

マサキ君とその仲間達と共にヴォルクルスの復活を阻止し再び元の世界に戻った。

 

私達は元の世界に戻ってから何日かが経過して…すっかり状況が変わってしまっていた。

 

ガイアセイバーズによって捻じ曲がった正義が執行され、収まっていた筈の戦争の火種が拡大してしまった。

 

大統領より圧力を受けていた地球防衛軍。

 

Qパーツ騒動による内部抗争をきっかけにGGGに地球外への追放処分を受理し実行。

 

他のメンバーも強引な部隊の解体などで散り散りに。

 

今まで戦い続けてきた結果がいつの間にか塗りつぶされていた。

 

人々の期待はガイアセイバーズへと向けられて、私達は悪へと嫌疑を掛けられ追われる身となって…

 

私達の正義って一体何だったのだろう?

 

逃亡生活へ転じた私はそう思ってしまう。

 

ハスミ…

 

私、どうしたらいいの?

 

 

>>>>>>

 

 

平穏の均衡が崩れ、世界が混乱を始めた頃…

 

とある場所、床下を中心に青い薄灯りが灯る広間にて。

 

何かの液体に満たされた大型の容器の傍で座り込む光龍。

 

そこへ負傷したのか手当てを終えたテンペストが訪ねてきた。

 

 

「…」

「光龍、ハスミの様子は?」

「良くはないね、しばらくは療養が必要だよ。」

「…」

「君やカーウァイ達を護る為とは言え、いつも以上に無茶をしすぎたんだ。」

「また例の変異とやらが原因なのか?」

「…それで説明がつくならいいんだけどね。」

「どう言う事だ?」

「また無限力の一方的な圧力が原因と僕は見ている。」

「例の対価の件か…」

「そうだね、それもあるけど……今回は無限力側が契約違反のイカサマをしたと言えば?」

「イカサマだと…?」

 

 

光龍の言葉に反応するテンペスト。

 

光龍は普段のポーカーフェイスを止め、目を伏せたまま話を続けた。

 

 

「最初はハスミ達に起こった出来事は起きない筈だった……だが、奴らはサプライズと称してあの事象を引き起こした。」

「例のダウゼント・フェスラーの狙撃か?」

「そ、狙撃した相手はガイアセイバーズのオメガセイバーの隊長でアーマラ・バートンって言う子。」

「オメガセイバー…確かガイアセイバーズの最高位の部隊の名称だ。」

「ハスミの記憶に寄れば彼女はユーゼス・ゴッツォが生み出したバルシェムシリーズの一体…」

「やはりガイアセイバーズは…!」

「察しの通り、ナマズ髭の馬鹿共を利用したはぐれバルマーの連中だよ。」

「連中め…修正すら不可能まで腐り切っていたか。」

「どうせ、政府の実権を握らせるとか甘い汁を啜ろうとしたんだろうね。」

 

 

冷静ながらも憤激の意思をチラチラと見せる光龍とテンペスト。

 

光龍は狸と狐が合わさると本当に厄介だねと内心思っていた。

 

そこへ同じく治療を終えたカーウァイも姿を現した。

 

 

「その可能性はあるだろう。」

「中佐…」

「テンペスト、既に死者となった身の我々に階級は必要ないぞ。」

 

 

先のダウゼント・フェスラーへの狙撃による謀殺。

 

これにより自分達は表向き死亡していると軍には虚偽報告が入っているだろう。

 

偽りとは言え死者となった身に階級は必要ないとカーウァイは告げた。

 

 

「ですが、自分の中では中佐に変わりはありません。」

「お前は相変わらず律儀な奴だな。」

「…では、隊長と呼ばせて貰います。」

「それでいいんじゃない?元々上司の名前を部下が呼び捨てするには抵抗があるし。」

 

 

階級呼びの件を終えた後、これからの事を踏まえて本題に入る事となった。

 

 

「例のガイアセイバーズもそうだけとバラルやルイーナ…ゲストの件はどうする?」

「今の所は外宇宙で行動しているメンバーがゲストのゴライクンル派を抑えている。」

「当面の問題は地球側のバラルとルイーナか…」

「光龍、ハスミが話を進めていフューリーとの連携は?」

「向こうでも動きがあったみたいでね、彼らもルイーナの件は協力してくれるってさ。」

「そうか…光龍、バラルの事だが…」

「連中に関しては僕が担当するよ、今まで野放しにしてきた責任はあるからね。」

「判った、テンペスト…ハスミが伝えた通り鋼龍戦隊や無事だったノードゥスメンバーには監視を続けるぞ。」

「了解しました、監視も兼ねますが予定通りに?」

「ああ、連合内部の派閥争い、ザフト側との過度な混乱、ミケーネ、オルファン、ソール11遊星主らは彼らに任せるとする。」

「僕らはその補助と連中の力を削ぐ形だね、後は捕らわれの身になっちゃっているノードゥスメンバーの救出かな?」

「今もルド議員らやトレーズ達が政府内部で混乱を抑えている……これ以上は連中の好きにはさせんさ。」

 

 

三人は話し合いを終えた後、先程の大型容器に目を向けた。

 

 

「ハスミ、ケイロン、お前達の目覚めの時まで我々が封印戦争の動乱を抑えている。」

「僕らも後手に回るつもりはないからね。」

「必ず、約束は果たして見せる。」

 

 

カーウァイ、光龍、テンペストはそれぞれの想いを告げてその場を去った。

 

無限力の契約違反的イカサマ。

 

それは彼女らを再起不能に近い負傷を負わせた事。

 

契約に違反したものはそれ以上のペナルティが課せられる。

 

無限力らは自らの遊戯の為に逆鱗に触れたのだ。

 

未だ癒えぬ深手によって意識を失った二人はただ…

 

反逆の時まで眠るのだ。

 

 

=続=

 




我々は幽霊。

ならば幽霊らしく事を成そう。

世界を揺るがす悪意に対する怨嗟と共に。


次回、幻影のエトランゼ・第六十二話 『幽霊《ゴースト》』


蒼き女神の目覚めは程遠く。


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第六十二話 『幽霊《ゴースト》』

死人に口なし。

誰がそんな事を伝えた?

この世に科学的と非科学的が存在する様に。

それはコインの裏表と同じく切れない関係。

だからこそ目処前に現れた。

怨嗟を纏った幽霊らが歩み寄るのだ。


封印戦争。

 

それは一区切りでは出来ない程の戦乱が集約された戦い。

 

前世上の記憶を持つ者達が持つ知る記憶と差異が生じる為に大雑把に仕分けられた。

 

前者は四人の視点を主軸に起こった封印戦争の出来事。

 

異星人連合であるバーム星人、暗黒ホラー軍団、ボアザン星人が地球へ侵攻。

 

今回はベガ星連合と壊滅させた筈のガイゾックを中心としたスカルムーン連合に最近加入した暗黒ホラー軍団が戦乱を仕掛けている。

 

バーム星人らは既に地球との共存声明を発表、火星を拠点に植民地化の活動に協力している。

 

ボアザン星は現在上層部内で内部抗争が発生している為に今回の戦争には参加していない。

 

地下勢力のミケーネ帝国、恐竜帝国、邪魔大王国が地球制圧行動を取る。

 

今回の邪魔大王国は既に空白事件で壊滅、地下勢力はミケーネと復活した恐竜帝国に絞られる。

 

オルファン浮上を期にリクレイマーらが反乱を起こす。

 

これに関しては前世組の記憶からも対応策があったので改善案をホルトゥス経由で国連事務総長宛に送り、今も会談が続いている。

 

メガノイドが全人類のメガノイド化を目論む。

 

既に万丈がL5戦役時にフルボッコ済みの為に沈黙。

 

異星の機械種族であるゾンダーが地球人類の機界化を目論む。

 

空白事件で機界新種共に消滅しているが今回はソール11遊星主による戦乱が前倒しで起こっている。

 

ドクーガが独自の目的でビムラー奪取を目論む。

 

ドクーガに関しては国際警察機構がその動向を探っている。

 

シャア一派とハマーン一派のネオ・ジオンと木星帝国の連合でアクシズを地球へと落下させる。

 

今回はL5戦役後に連合政府となった時点でジオンやコロニーの自治権は認められているので特に問題はない。

 

だが、姿を現した木星帝国とザフト側との混乱が続いている以上は戦いは避けられない状況である。

 

後者の記憶はもう一つの記憶に記された封印戦争の記録。

 

ガイアセイバーズ、ノイエDC残党、バラル、ゲスト、ルイーナの五つの勢力によって起こった戦乱。

 

今回はガイアセイバーズ、Anti・DC、バラル、ゲスト、ルイーナの勢力となる。

 

この件に関してホルトゥスがBF団と共にバラルとルイーナに対応している。

 

ノードゥスは引き起こされた戦いのうねりに飲まれつつ、鋼龍戦隊は反逆者の烙印を押されようとも戦い続けなければならない。

 

最後に前者と後者の記憶に残るガンエデンの出現と地球封印の件。

 

ガンエデンに関しては未だその姿を見せていない事もあり動向は不明。

 

四体のガンエデンの内、修羅の乱で行方知れずとなったナシムとダウゼント・フェスラー襲撃事件で消息を絶ったアシュラヤーの巫女達は現在も行方知れずのまま。

 

最後に記憶保持者達の間で正体が判明しているバビル・ガンエデンことBF団首領・ビッグファイアの動向が不明の今…

 

人類と世界は予想を超えた混乱へと突き進んでいた。

 

 

******

 

 

幾度の次元転移騒動と度重なる戦いが続く中。

 

ガイアセイバーズが地球を守護する剣となり鋼龍戦隊がグライエン大統領殺害の汚名を着せられ逃亡する事態となった後の事。

 

現状で行動が可能なノードゥスメンバーは鋼龍戦隊から真実を伝えられたが、連合政府による圧力を切っ掛けに一時的に部隊名を『αナンバーズ』と呼称。

 

上層部に言われるがまま事態収拾に携わった。

 

鋼龍戦隊はそのままガイアセイバーズの動向を探る為に別行動を取る事となったが…

 

テスラ・ライヒ研究所への襲撃事件を切っ掛けにブリッドが虎王機ごと破壊され行方不明。

 

龍王機の破壊とブリッドの行方不明を目処前にした事でクスハも姿を消してしまったのであった。

 

前者の出来事は想定されていたが、後者に関しては何かの思惑が絡んでいると思われた。

 

プロジェクト・TDのメンバーはテスラ研襲撃時のフィリオの死によって関係が決裂し解散の危機。

 

教導隊のメンバーの内、アラドとゼオラはガイアセイバーズへの出向を期に行方知れず。

 

トロンべ隊・隊長のゼンガーはテスラ研襲撃の際に連れ去らわれたソフィア奪還の為にただ一人出奔。

 

αナンバーズに参加していない元ノードゥスのメンバーの多くも連合政府からの圧力で動けない状況が続いていた。

 

修羅の乱まで共に戦った平行世界のメンバーは既に元の世界へと帰還。

 

真相を知るも動けない現状はそれぞれに苛立ちを与えていた。

 

希望を捨てずに戦う事しか今の彼らには出来なかった。

 

いつしか希望は絶望へと変わり。

 

歪んだ力は欲望へと切り替わる。

 

心は燻り始めていた。

 

 

>>>>>>

 

 

テスラ・ライヒ研究所襲撃事件後の伊豆基地にて。

 

アビアノ基地から移送中だったSTXチームの機体が全て奪取される騒動が発生。

 

輸送機とパイロット達に被害は無く機体のみが消失していたとの事。

 

逃走中の鋼龍戦隊はイティイティの基地にてその件を聞かされた。

 

同基地内の一室にて。

 

ギリアム、カイ、エルザムの三人が話し合いを行っていた。

 

 

「どう見ますか?」

「…」

「自分はカーウァイ中佐らが何らかの手で生きているが表に出る事が出来ないと推測しています。」

「だとしても機体を奪ったのが別の者だったら…」

「残念ですが、カーウァイ中佐らの機体は天臨社製の生体認証コードが必要になっています。」

「無理に乗れば機密保持で自動爆破か…」

「あるとすればギリアムの推測が当たっていると思っています。」

「では、STXチームは生きていると?」

「可能性はあります。(そうハスミ少尉ならば可能な事。」

 

 

三人の中で真実を知るギリアムは内心であの状況下でも離脱は可能と推測していた。

 

残りの二人は『生きている可能性があるSTXチームが何かを知った為に表舞台に出てこないのでは?』と結論付けた。

 

 

「この事は今は伏せて置いた方が…」

「…ブリッドやクスハの行方不明もあいつらには相当堪えているからな。」

「では、知るべき時には話す…と言う事で?」

 

 

三人は立て続けに起こった仲間の失踪、死亡、離脱によって心身を疲弊した鋼龍戦隊に余計な希望を持たせる事はせずにいた。

 

だが、この願いも空しく瓦解する日が訪れようとしている事をまだ知らない。

 

一方その頃。

 

テスラ研襲撃事件後、太平洋沖合の某所にて。

 

 

「何とか間に合ったけど…重症だね。」

 

 

霊亀皇の内部にてため息を付きながら答えた光龍。

 

同内部の広間には回収した龍王機の残骸、ドサクサに紛れて回収したグルンガスト弐式。

 

調整槽で眠る数名の姿があった。

 

 

「でもまあ、ハスミの言う通り…これが無限力の契約違反越えのお遊びならタチが悪い。」

 

 

テスラ研襲撃はハスミより前々から伝えられていた。

 

そして死亡する人物のリストも添えられてと言う用意周到。

 

光龍は予告通りテスラ研襲撃の中へ潜り込み、負傷した人々を回収したのである。

 

あのままにしておけば助かる命も救えない。

 

瓦礫に圧し潰され生存不明と言う虚偽情報を敵味方双方に与える為にあえて行動したのだ。

 

 

「カーウァイは社長達と会談、テンペストは機体の回収……合流までに時間があるしガイゾックの緑ブタ君の相手でもしてこようかな?」

 

 

光龍は帰路の道中にある赤道直下の諸島群に戦闘を仕掛けているガイゾックへの報復を模索していた。

 

後にガイゾックはたった一体の機動兵器によって部隊を失い敗走せざるを得ない状況となる。

 

 

******

 

 

テスラ・ライヒ研究所襲撃事件から数日後。

 

天鳥船島の最下層、立ち入り禁止区画の最深部にて。

 

数週間前に光龍達が居た場所にあった大型容器が動き始めていた。

 

容器を満たしていた液体は抜かれ容器内部に敷き詰められていたコードが徐々になくなっていった。

 

全てが取り払われた後に起き上がる二人の姿。

 

気管内に残った液体を排出する為に多少咳き込んでいた。

 

不鮮明な意識が覚醒したのちに二人は会話を始めた。

 

 

「ヴィル…」

「ハスミ、どうやら後手に回った様だな。」

 

 

隣で液体に濡れた髪を梳く様に撫でるケイロンとその手に触れるハスミ。

 

 

「その様です。」

「どうするつもりだ?」

「手は打ってあります。」

「抜かりはない様だな。」

「あの様な手で嵌められた訳ですし、少し位のイカサマはしても良いと思いますよ?」

「それは俺も同意する、お前から滲み出る気配…尋常ではないからな。」

 

 

ケイロンは隣で起き上がったハスミの様子に一早く気が付いた。

 

冷静な様ではあるが、既に切れていると…

 

穏やかだった蒼い瞳は鋭さを増した刃の様な瞳に代わっていた。

 

普通の人間が居たのなら卒倒若しくは即死するレベルの殺気を出している。

 

自制し抑えてはいるものの滲み出る気配がそう感じさせた。

 

だが、心のどこかでその諦めないと言う反逆の姿勢を俺はハスミに求めていた。

 

ハスミは一度目を伏せると静かに答えた。

 

 

「TIME TO COME…時は来ました。」

 

 

目覚めの時が訪れた。

 

女神は世界を廻る。

 

ただ一つの結末から世界を護る為に。

 

あらゆる限りの手を尽くそう。

 

 

=続=

 




それは目覚め。

それは出会い。

それは決別。

それは反逆。


次回、幻影のエトランゼ・第六十三話 『幻想《アシュラヤー》』


真の目覚めは奇跡の始まり。


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第六十三話 『幻想《アシュラヤー》』

この時が訪れるのを恐れていた。

この時が来るのを拒んでいた。

それでも時は訪れる。

私はただ護りたい者の為に戦うと決めた。


テスラ研襲撃事件から数週間後。

 

混乱が続く中、地球に異変が起こった。

 

地球と宇宙との交信が突如途絶。

 

地球は太陽を失い、宇宙は地球の姿を失った。

 

地球側では太陽を失った事で地表の温度は急激に下がり光と暖を求めた人々によりライフラインの混乱が引き起こされた。

 

これにより連合政府は各都市部を中心にライフラインの確保に対応せざる負えなくなった。

 

暗い空は人々を悪夢に引き込む長い夜の始まりを告げた。

 

 

******

 

 

天鳥船島、立ち入り禁止区域・最深部。

 

玉座の間にて玉座に腰掛けるハスミの姿があった。

 

普段着と化していた軍服ではなく巫女装束に似た衣装を纏っていた。

 

その横に控えていたケイロンと会話を続けている。

 

 

「後手の後手に自分のターンが回ってくるとは思いませんでしたが、正直痛いです。」

「破滅の王…負の根源にして世界の消滅を司る存在だったか?」

「はい、現状ではクロスゲートの奥に押し返すしか手段はないですね。」

「十二のスフィアの共鳴ならば或いはと思ったがな…」

「無いもの強請りしても解決しませんし今は出来得る限りの最善策を取るしかありません。」

「…そうか。」

 

 

ハスミはため息を付いた後に次の話題に入った。

 

 

「お父さん達が頑張ってくれたのはいいのですが…張り切りすぎて色々と被害でちゃっているんですよね。」

「あの件か?」

「はい、悪く言えば記憶保持者の人達に要らぬ疑いを掛ける羽目になりました。」

 

 

如何言う訳か記憶保持者側で私が光龍お父さんに洗脳されて行動しているって思われているんですよね。

 

否定はしたいです。

 

何処を如何すればそうなるのか全く理解不能ですしハッキリ言って勘違いレベルを越しています。

 

また無限力の陰謀としか思えない。

 

クスハやブリットの失踪の件で鋼龍戦隊の皆も動揺しているだろうし。

 

ブリットめ…またクスハを泣かせるならエターナルヒヨコ改め『まるで駄目な男』と認定してやる。

 

L5戦役から口酸っぱくして念動の修行を怠るなって言って置いたのに。

 

修行のやり方を失敗して前世同様に念の質が微妙に上がってない。

 

元々ブリットの念の本質って真っ直ぐすぎるから洗脳されやすいんだよね。

 

クスハの念も未だ不安定だし無理強いは出来ないか…

 

 

「ガイアセイバーズ内部にも助けたい人達が居るので仕留める目標はアルテウルと側近に絞りたいですね。」

「お前の事だ、そう簡単に奴を引き摺り下ろすつもりはないのだろう?」

「勿論です。」

 

 

しかし、奴は何処からアゾエーブの情報を手に入れた?

 

クロスゲートパラダイムシステムの研究を継続していたのなら在り得なくはないけど…

 

流石にアゾエーブの残骸を回収されるのも困るし。

 

早々に破壊して置くか…

 

他の勢力にアゾエーブが全並行世界に干渉し破壊すら出来得る兵器って事を知られる前に。

 

 

「今回のゲストに関しても地球を狙う目的はバルマーへの抑止力が欲しいからですし。」

「規模に関してもサイデリアル程ではないらしいが?」

「サイデリアルが複数のスフィアを所持している時点で戦局は目に見えています。」

 

 

もしもゲストとサイデリアルが衝突する事があれば戦力差は目に見えている。

 

ゼル・ビレニウム二機程度で恒星間航行の可能な文明を破壊する事が可能な戦力を保有している。

 

スパロボ事情なオチで同じ星間軍事連合の中での戦力差は圧倒的に差がありすぎるのだ。

 

設定が作られた時期を照らし合わせても数年差だが時代の流れとは末恐ろしい。

 

そんな組織との戦いを控えるノードゥスには悪いが今回の戦乱も生き抜く事が出来なければ同じ土俵に立つ事すら不可能と言いたい。

 

私も単に甘い汁だけを啜らせるほど弛んではいない。

 

絞め所は決めている。

 

 

「今の所、フューリー側が秘密裏に共闘を結んでくれた事には感謝しないといけません。」

 

 

本来なら地球連合政府に難民指定で受け入れをして貰おうとしたが、現政権では非常に無理があるので保留のままにしている。

 

一応、移住先の惑星に心当たりがあるのでそれと引き換えと言う形で共闘して貰っている。

 

別に同化計画続行でもいいんですけどね。

 

 

「ヴィル、あの日の宣言通り…私はアシュラヤーとして動きます。」

「覚悟を決めたのだな?」

「はい、例え後ろ指を刺されようとも私は立ち向かい進みます。」

「ならば見せて貰おう、この俺の片腕と足るかをな?」

「ええ、失望はさせませんよ。」

 

 

そう、私はあの日誓った。

 

彼との誓いを果たすに私は戦うと。

 

 

「そろそろかしら?」

「?」

 

 

玉座の間に入る数名の人影。

 

光龍を先頭にカーウァイ、テンペスト、ロサ、ピート、クスハの順である。

 

ハスミの姿を見たクスハは安堵の表情で声を上げた。

 

 

「ハスミ、無事だったのね!…それにここは一体?」

「ここは天鳥船島、ホルトゥスの本拠地と言ってもいい場所よ。」

「えっ?」

「クスハ、これから話す真実は貴方に酷な選択を強いる事になる…それでも聞いてくれるかしら?」

「どういう事なの?」

「貴方やブリット…超機人を襲った組織とガイアセイバーズの正体についてよ。」

 

 

混乱するクスハに私は落ち付かせてから語った。

 

 

今まで姿を隠していた理由。

 

クスハとブリット…テスラ研を襲った組織であるバラルについて。

 

秘匿されたオーダーファイルの真実。

 

私の一族の真実。

 

ガイアセイバーズの正体と目的。

 

外宇宙からの新たな侵略者。

 

それらを事細かく語った。

 

 

「ハスミ、それじゃあ貴方は!」

「私がホルトゥスの真のリーダー……今までブルーロータスを介して助言を与えていた。」

「…」

「ずっと黙っていた事は謝るわ、それでも隠し通さなければならない秘密…軽蔑しても構わない。」

「そんな事は無いわ!」

「クスハ…」

「ハスミはずっと私達を見守ってくれた……ハスミのしてきた事は無駄じゃないわ!」

「…」

「私、前からずっとハスミが何かを抱え込んでいた事は知っていたの。」

「え…」

「打ち明けられない理由があるんだって思って…ずっと言えなかった。」

 

 

クスハは衝撃の事実に狼狽えながらも真摯に受け入れた。

 

ハスミが『軽蔑されても可笑しくない偽善者紛いの事をしてきた。』と告げてもクスハは反論した。

 

 

「でも、本当の事を話してくれてありがとう。」

「…クスハ。」

「ハスミ、私…ブリット君を取り戻したい。」

「…鋼龍戦隊に戻るのね?」

「ううん、ハスミ達と一緒に居させて欲しいの!」

「クスハ、それは…!」

「判ってる、軍から追われる覚悟は出来てる。」

「…」

「それでも私はブリット君を取り戻したい。」

 

 

クスハは鋼龍戦隊を抜ける覚悟でブリットを取り戻したいと言う意思を見せた。

 

ハスミはクスハの言葉は嘘ではない事を理解しホルトゥスに参加する事を許した。

 

 

「判った、でも…覚悟しておいてね。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

私はクスハとの話を切り上げて、ケイロンらと交えて本題の作戦会議を始めた。

 

復活の狼煙を掲げる為に。

 

相まみえる戦地に誘う為に。

 

 

>>>>>>

 

 

更に数日後。

 

引き続き鋼龍戦隊はグライエン前大統領殺害の罪を着せられたまま逃亡生活を続けていた。

 

だが、バラルの罠により限仙境へと囚われる事となった。

 

漆黒に染まった虎王機と仮面を付けたブリットとの遭遇。

 

バラルの神仙達による鋼龍戦隊への降伏宣言。

 

悪い事は重なり修理と補給を兼ねてイティイティ島へ帰還する道中に起こった出来事であり…

 

度重なる戦いで疲弊した彼らには既に余力はなかった。

 

 

「目的の青龍の操者が不在なのが残念だよ。」

 

 

バラルの神仙が一人、夏喃の言葉を最後に鋼龍戦隊に終止符が打たれようとしていたが…

 

 

「茶番はそこまでだ…!」

 

 

天鼓の音と共に限仙境に落ちる落雷。

 

 

「あれは!?」

 

 

落雷が消え去った後に現れた二つの機影。

 

グルンガスト弐式を取り込んだ龍人機と念神エクリプスの姿だった。

 

二人の生還に驚きを隠せない鋼龍戦隊。

 

二人に言葉を掛けるリュウセイとキョウスケ。

 

 

「クスハとハスミなのか!?」

「リュウセイ、再会を祝すのは後よ。」

「クスハ、その機体は…!」

「グルンガスト弐式の力を受け継いで復活した龍王機…いえ、龍人機です。」

「クスハちゃん、ハスミちゃん、無事で良かったわ…お帰りなさい!」

「御免なさいエクセレン少尉、私達…鋼龍戦隊には戻れません。」

「えと…どういう事?」

 

 

エクセレンの言葉の後に夏喃が話の間に入って来た。

 

 

「ようやく会えたね、青龍の少女…そしてアシュラヤーの巫女よ。」

「貴方は…」

「ああ、随分と派手に暴れてくれたようですね…南仙の夏喃潤。」

「!?」

「ホッホッ…してやられたようだな、潤よ。」

「そちらは北仙の泰北三太遊ですね。」

「ふむ、光龍が巫女様にワシらの名を告げましたかな?」

「…そんな所ですかね。」

「やはり裏切り者の行き先はアシュラヤーの元だったか。」

「夏喃、貴方には借りが山ほどあるんでね……ここで清算させて貰う。」

「古き時代からの同胞である僕らと敵対する気かな?」

「妹の無謀を止めるのも姉の役目と言った所でしょうか?」

「まあいい、ハスミ・クジョウ…君もクスハ・ミズハ共々バラルへ引き込んであげよう。」

「…戯言はそこまでにして貰おうか?」

 

 

ハスミは静かに答えると普段から付けていた形見のペンダントを外した。

 

同時に限仙界に強大な念の圧が降りかかる。

 

リョウトを始めとした鋼龍戦隊の念動者達は余りの圧に耐え切れず錯乱したり吐き気を催した。

 

リュウセイは辛うじて正気を保っていたがそれでも冷や汗を流していた。

 

バラル側の夏喃達も強大な念の気配に驚きを隠せていなかった。

 

 

「まさか既に目覚めて居たと言うのか…!?」

「フオッホッホッ…これも流れのままにか。」

 

 

強大な念の圧を出しながらエクリプスの背後に現れたアシュラヤーのクストースこと三体の念神官。

 

その三体はエクリプスの背後に控え跪いた。

 

そしてハスミは静かに告げた。

 

 

「私の名はアシュラヤー・ガンエデン、アシュラヤーの巫女にしてホルトゥスの盟主だ。」

 

 

それは己の正体を晒した言葉だった。

 

 

=続=

 




それは深淵の奥底より現れた。

それは大いなる禍の断片。

識るからこそ立ち向かう。


次回、幻影のエトランゼ・第六十四話 『破滅《ルイーナ》』


黒き衣は青の星を覆い隠す。


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第六十四話 『破滅《ルイーナ》』

善と悪。

聖と邪。

それはコインの裏表。

女神の天秤の器に盛られる時は均等。

器から漏れるのであれば消し去るのみ。


前回、私ことハスミは自身の正体を明かした。

 

それは決別の意味を込めて答えた。

 

強大な力を持つと言う事は人から恐れられ畏怖の対象となる。

 

私はホルトゥスのリーダーとして表舞台から脅威を退ける事を決めた。

 

もう逃げないと誓った。

 

 

******

 

 

妖機人の部隊を従えた雀武王に対峙する念神エクリプスと龍人機。

 

ハスミより告げられた言葉に動揺を隠せない鋼龍戦隊。

 

それは一つの亀裂を生みだした瞬間でもあった。

 

 

「ハスミ、お前…」

「言葉通りです、私がホルトゥスのリーダー…L5戦役より貴方達に助力してきました。」

「うそ…でしょ?」

「証明として背後に控えて貰っている三体がアシュラヤーの配下達です。」

 

 

ATXチームのキョウスケとエクセレンより言葉を掛けられたハスミ。

 

しかしハスミは冷徹な表情の敬語のみで淡々と告げた。

 

 

「私が今この時に正体を晒したのは理由があります…現在、銀河規模で存亡を賭けた一大事が起こっています。」

「えと…ハスミちゃん、冗談でしょ?」

「…冗談に見えますか?」

「そうね…それで一大事って?」

「忠告を無視して南極の扉をこじ開けたのが原因で例の存在が復活してしまったとだけ伝えておきます。」

「…(ルイーナとペルフェクティオの件か。」

「あれは百邪の一端を封印する為に使用された扉…ロストテクノロジーの類と勘違いしたようですが、そんな生易しいものではありません。」

 

 

南極の門の真実を伝えると同じ様に動揺の声を上げる二人組。

 

 

「それが本当なら父さん達は…」

「…(あれがキョウスケ中尉が話していた結末を識る人か。」

「ジョシュア・ラドクリフとクリアーナ・リムスカヤ…リ・テクの関係者の方達ですね。」

「えっ?」

「こちらの情報網で関係者の名前と南極での一件は既に周知してますので。」

「あの!父さん達は無事なの!?」

「残念ですが…南極から脱出出来たのは鋼龍戦隊に回収された避難艇一隻のみです。」

「そんな…」

「貴方はそれを黙って見ていたと言うのか!」

「再三の忠告を無視して扉が開けられた上に奴らが出てきた以上は下手に手が出せませんでしたからね。」

 

 

そう、ルイーナとの戦いは細心の注意を払わなければならない。

 

下手に攻撃すれば破滅の王へ『絶望』を送る事ととなってしまう。

 

だからこそ然るべき対処を怠ってはならない。

 

そして情報をむやみに渡すつもりもない。

 

 

「そちらの事情は後にして貰おうか?」

「…そうでしたね。」

 

 

夏喃により話を遮られた為、私は本題に戻る事にした。

 

 

「では、単刀直入に聞きます…貴方達は総人尸解化計画の実行を中止する事は無いですね?」

「ああ、それこそが僕らの願いであり使命でもあるからね。」

「これだから神仙は…ややこしい。」

「!」

 

私は呆れた表情でため息を付いて夏喃に言葉を返した。

 

 

「そんな計画もあの事象に遭遇すれば何も意味を成さないと言うのに…」

「フホッホッホ…アシュラヤー様、貴方は『万物の知識』より何を知られたのですかな?」

「悪く言えばSAN値が直葬される勢いのモノから色々と。」

「フム…はぐらかす所は光龍と瓜二つと見える。」

「まあ、血縁関係者ですからね。」

 

 

泰北は笑いつつもハスミの真意を探るべく話を続けた。

 

だが、ハスミは持ち前のポーカーフェイスで打ち破った。

 

 

「夏喃、ここは一度退くべきと思うが?」

「何故だ、泰北。」

「このままアシュラヤー様のお怒りに触れるのは分が悪いと思うが?」

「…そうだな、今回は下がるとしよう。」

「アシュラヤー様、此度は一度下がると致します。」

「だが、対価として白虎は預からせて貰うよ。」

「…」

「ブリット君!」

 

 

泰北は転移符の様なモノで雀武王と妖機人の部隊と共に撤退していった。

 

クスハの声も空しくブリットと黒い虎王機も…

 

 

「ハスミ、ブリット君が…!」

「今、奴らを刺激したら疲弊した鋼龍戦隊に被害が被る……また機会を待つしかない。」

「…そうよね。」

「焦る気持ちは解るけど、今は…」

「うん。」

 

 

撤退したバラルを追撃しようとしたクスハを静止させるハスミ。

 

深追いすればクスハがブリットの二度前になってしまう事を考慮しての言葉。

 

この時、ハスミはブリットと虎王機に掛けられた暗示系の呪符が簡単に解呪出来ないと判断していた為である。

 

 

「ハスミ少尉、クスハ少尉、こちらへの着艦し状況の説明をして貰いたい。」

「テツヤ艦長、それは出来ません。」

「どういう事だ?」

 

 

ハスミは自身がホルトゥスの当主でありこれ以上の接触は出来ないと告げた。

 

理由を尋ねられたが、必要以上の情報を与える事が出来ない事と今の鋼龍戦隊と合流しても成果が出せない事も付け加えた。

 

 

「確かに今の我々は戦犯扱いの身…だからと言って君達を放置する訳にはいかない。」

「でしたら敵勢力と思ってくださっても結構です。」

「…」

「私は覚悟の上で身の上を告げました、だからこそ悲劇を未然に防ぐ為に動くのです。」

「テツヤ艦長、ここは彼女達を行かせましょう。」

「レフィーナ艦長、ですが…」

「ここで彼女達ホルトゥスと敵対しても私達には何の意味もありません。」

「…」

「彼女達に状況を打開する策があるのなら進めて貰いましょう。」

「そうですな、今の我々では満足に動く事もままなりませんからね。」

「…副長。」

 

 

テツヤを静止するレフィーナ。

 

彼女達に策があるのならこのまま行かせた方が得策であると告げた。

 

助言としてショーンも現状をテツヤに開示した。

 

落ち着いたのを確認するとハスミは艦長達にある情報を告げた。

 

 

「…このままイティイティ島へ向かってください。」

「?」

「そこでルスラン・マカロフ氏に会ってください…その人に今後の貴方達に必要な情報の一部を渡してあります。」

「ハスミ少尉…」

「アイビス、いつか織姫と彦星が再会出来る事を祈ってる。」

「え…」

「イング、貴方は自分の生まれがどうであれ貴方自身である事を見失わないで。」

「どうして僕を名前を?」

「アリエイル、自分の運命は自分自身で決めるのよ。」

「あの…」

「トウマ、雷迅昇星…貴方は自分の決めた運命を突き進んで。」

「一体何を…」

「大丈夫、成る様になるだけよ。」

 

 

ハスミは意味深な言葉を残すとクスハと念神官らと共に去って行った。

 

限仙境が解除されるとハガネとヒリュウ改は大海原に放り出された。

 

 

>>>>>>

 

 

鋼龍戦隊と別れた後、私とクスハは鋼龍戦隊に追撃を仕掛ける予定のルイーナの一軍と遭遇した。

 

部隊長クラスが混ざっていなかったのが幸いだった。

 

 

「ハスミ、アレが…」

「ええ、前に話して置いたルイーナの部隊……今回は隊長クラスが混じっていないわ。」

「…」

「鋼龍戦隊の撤退の援護と龍人機のウォーミングアップを兼ねているけど無茶は禁物よ?」

「解ってる、撤退した鋼龍戦隊には近づけさせない!」

「貴方達も頼むわね。」

 

 

私はクスハに注意を促した後、念神官達に声を掛けた。

 

三機とも了承し臨戦態勢を取っていた。

 

 

「クスハ、例のプランで行くわよ!」

「判ったわ!」

 

 

例のプランについては試行錯誤が必要な為に詳細を話す事は出来ない。

 

私はクスハ達と共に練っていたプランでの戦闘を開始。

 

部隊長クラスがいなかったのが幸いだったが、もしも遭遇していたらこのプランは使えない。

 

この戦闘で別の策も必要だったと痛感した。

 

 

******

 

 

その後、私達はバラルの奇襲を打ち止めルイーナとの初戦を終えて帰還した。

 

ルイーナに『絶望』の概念を与えない方法での対処は私がアカシックレコードを読み解き重ねた結果だった。

 

だが、普通の方法では無理があるだろう。

 

出来得る限りはこちらでルイーナに対処する予定だ。

 

私はクスハに継続するガイアセイバーズの暴走について説明を行った。

 

そして調査の結果と言う名のアカシックレコード経由の情報を告げた。

 

 

「…それがハスミの知った事だったのね。」

「もう隠し通せる状況じゃない…ガイアセイバーズの上層部がバルマーの残党の集まりである以上は止める必要がある。」

「うん、鋼龍戦隊の皆やノードゥスの仲間達を助ける為にも。」

「クスハ、これ以上の介入は貴方にも危険に晒す事になる……それを踏まえて私達と行動を継続する?」

「…ブリット君を助けるまでの間だけじゃ駄目かしら?」

 

 

クスハは危険を承知で行動を共にするとハスミに伝えた。

 

その表情に偽りがない事を理解したハスミは同行の継続を認めた。

 

 

「判ったわ、その時が来たらノードゥスか鋼龍戦隊に強制合流をして貰うわよ?」

「うん、ありがとう…ハスミ。」

 

 

本当に私も甘い。

 

でも、心強いと感じてしまう。

 

私はクスハと話をした後、部屋を後にし演説の場へと向かった。

 

そして私は声明を発表した。

 

 

「ホルトゥスに所属する全ての人員に告ぐ!」

 

 

私は天鳥船島に残留するメンバーと各地に散らばるホルトゥスの構成員達に向けて声明通信を送った。

 

 

「ホルトゥスの当主アシュラヤー・ガンエデンの名の元…我々は本来の目的の為に動く!」

 

 

凛とした声と振る舞いは決意の証。

 

 

「バアルの一端であるルイーナ、歪んだバラル、偽りの剣ガイアセイバーズを倒し止め…希望の光であるノードゥスを導く為にホルトゥスは今この場を持って表舞台に出る事を宣言する!」

 

 

ホルトゥスの稼働、それは一つの奇跡でもあり新たな動乱を生む事となる。

 

だが、先の未来を識る当主の力により変異するだろう。

 

可能性の未来に向けて…

 

 

=続=

 




それは鋭く鋭利な牙。

敵の息の根を止める一撃。


次回、幻影のエトランゼ・第六十五話 『狼牙《オオカミノキバ》』


赤き巨獣は天に吠える。


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議の付箋

語られる庭園の真実。

そして目的。

それは未来に運ぶ命の為に。

女神は明日の為に祈る。


私が表舞台へ参戦する宣言を終えた後。

 

ホルトゥスの協力者達と会合を行った。

 

滅ぼされた並行世界からの来客達と出身世界での協力者達である。

 

中には行動中のメンバーも居る為、各方面の代表者達のみとなっている。

 

 

******

 

天鳥船島内部、会議用の広間にて。

 

広間の中心に巨大な円卓上の机と座席が設けられており会議に出席する代表者達が既に集結していた。

 

ハスミはその上座に座す前に代表者達に礼の言葉を告げた後に着席した。

 

 

「皆様、今回の収集に応じ…会議に出席して下さり真に有難うございます。」

「君には大きな借りがあるからね。」

「恩を仇で返すと言う事はありえんよ。」

「先の演説…君の宣言通りであれば我々の行動は公になっても構わないと言う意味でいいのだね?」

「ええ、最早躊躇っている状況ではなくなってきたので…」

「成程、秒読みにもなってきた訳か。」

「はい、それでは今後の活動についての会議を行います。」

 

 

ハスミは代表者達に今後の方針を伝えた。

 

宣言通りの表舞台への進出。

 

ガイアセイバーズ、ルイーナ、バラル、ゲストへの妨害の継続。

 

俗世で活動を続けるメンバー、同盟関係である国際警察機構、BF団、フューリーとの連携。

 

道中でノードゥス、鋼龍戦隊、連合政府の穏健派へ危機が生じた場合は助力する事。

 

引き続き、民間への被害が出ない行動を最優先とする。

 

最後に誰一人欠けてはならない。

 

 

「私からは以上です。」

「相変わらず無茶な方針だね。」

「私はホルトゥスに協力してくださっている皆さんの命を保証する義務があります、無駄な血は流させません。」

「君のアカシックレコードを読み解く力、それが成せる業か。」

「はい。」

「しかし、君は良かったのかい?」

「どういう事でしょうか?オオマ社長…いえ、ダイマ社長。」

 

 

私は他の代表者達と話し合う中で代表者の一人であるダイマ・ゴードウィン氏に話を持ち掛けられた。

 

天臨社のCEOであるオオマ・ショウリ氏とはこちら側における彼の偽名である。

 

あの世界から流れ着いたのを助けるのは構わなかったが、色々と問題があったので話し合いで何とか説得。

 

理解して貰った上でこちら側の大手企業の一つを経営して貰っている。

 

 

「君が例の演説をする前に起こした戦闘…古巣だった鋼龍戦隊に別れを告げたと聞くが?」

「そうですね、正直に言えば巻き込みたくなかったと言うのが本音です。」

「巻き込む?十分巻き込んでいると思うが…」

「正確には連合政府と言う枠組みからの圧力から遠ざける為と言った方が正しいですね。」

「成程、彼らが人質にされるのを防ぐ為か。」

「はい、今も連合政府内はアルテウル…いえ、ユーゼスの陰謀により揺れ動いています。」

 

 

もしも、あのまま鋼龍戦隊に帰還したら連合政府からの出頭命令と戦線離脱と言う戦犯扱いを受けるだろう。

 

その手の工作活動位は奴の立場なら可能だ。

 

無様に奴らの手中に収まるつもりもない。

 

あの謀殺未遂によって私がアシュラヤー・ガンエデンの巫女として覚醒した事にした方がやりやすい。

 

今の鋼龍戦隊やノードゥスにはやって貰わなければならない事が多くある。

 

現在も外宇宙でソール11遊星主と交戦中のGGGの事も気掛かりだが…

 

 

「だからこそカードを揃えました。」

 

 

私は指を鳴らすと各代表者達の前のディスプレイにある映像を映し出させた。

 

 

「彼はまさか…!」

「生きていたのか。」

「はい、あの現状でしたが何とか回収に成功しました。」

「成程ね、このカードなら奴も狼狽えるだろうね。」

 

 

映し出された映像には病室兼監禁室のベッドで負傷したグライエン・グラスマン氏が治療を受けていた。

 

あの状況下で救助したとは言え、多少なれど負傷は免れなかったらしい。

 

ハスミは映像を見せた後に各代表者達に今後の指示を与えた。

 

 

「ルド議員とトレーズ議員は穏健派の議員らと共に引き続き強硬派の足止めをお願いします。」

「判っている。」

「奴らの好きにはさせんよ。」

「後日となりますが、石神社長の元に破嵐万丈さんが訪ねてくると思います。」

「彼か…苦手なんだよね、私。」

「お気持ちは解りますが、何とか時間を引き伸ばしてください…お得意のジョーク悪戯でも構いませんので。」

「了解したよ。」

「我々戦闘部隊はどうする?」

「加藤司令、加藤機関はJUDAのメンバーと共に火星方面、真壁司令率いるアルヴィスはオルファンの監視、フリットさんらディーバと地獄組は行動を開始したミケーネの軍勢の対処に当たってください。」

「地上は兎も角、月方面は?」

「そちらは中継役の孫光龍氏とフューリーの方々が既に監視を行っています。」

「南極の方はどうするのかね?」

「アーニーさんら残りのアルティメット・クロスのメンバーが網を張っています、それに破滅の対処には無垢なる刃が一番ですから。」

「ハハ、相変わらず悪辣だねぇ。」

「クジョウ家の家訓の一つ『恩義は倍に仇討ちは完膚亡きまでにして返す。』ですので。」

 

 

本当に家の家訓って物騒だね。

 

某龍神様の四兄弟思い出しちゃった。

 

 

「ソール11遊星主戦対策で対応して貰っているクトゥルフの方達からの連絡もありましたし程無く準備が整います。」

 

 

漸く、向こう側のゴタゴタが落ち着くらしい。

 

彼らの帰還の援護も指示しているので戻ってくるのに時間がかかるだろう。

 

 

「問題は鋼龍戦隊とノードゥスに入ってしまった虚偽情報ですかね。」

「虚偽情報?」

「主に記憶保持者間での事ですが、私が孫光龍氏に洗脳されていると誤解されてしまっています。」

「それが問題でも?」

「下手をするとノードゥスによる他のメンバーとの乱戦が予想されます。」

「確かにノードゥスには血の気の多いメンバーが揃っていたね。」

「ええ、無駄な戦闘は避けたいですが…無限力の介入が原因で止めようがありません。」

 

 

正直、頭が痛い。

 

ま…思い通りにはさせませんけどね。

 

 

「だったら接触される前に逃げればいいんじゃない?」

「…ケロロ軍曹、もしも本気を出した東方不敗から貴方は逃げられると思いますか?」

「無理!何処の無理ゲー!?即死確定じゃん!!」

 

 

いつものやる気ない表情のケロロに対して遠い眼で私は例えを出した。

 

一例として生身でゴッドフィンガーとか爆熱ゴッドカレーパンを口に突っ込まれる拷問とかニュータイプの毒舌演説とか言って置いた。

 

ネタがネタだけにケロロの顔面が土気色になったのは気にしない。

 

 

「ま、接触予定のシャッフル同盟の方達にはヴァンさんらオリジナル7の方達や地獄組が死なない程度で対処しますので問題はないでしょう。」

「争い合う戦いではなければ、直に観戦したいメンバーだね。」

「…いつの日か見られますよ。」

 

 

今は手を取り合う事が出来ない。

 

でも、何時かは…

 

 

「では、各自…先の指示通りに動いてください。」

 

 

私は会議を終了させ、各代表者達を見送った。

 

円卓のテーブル席に一人残された私は静かに一息を付いた。

 

 

「終わったか?」

「はい、これで私は後戻りする事は出来ません。」

 

 

室内の柱の陰から出て来たケイロン。

 

そのままハスミの元へと移動しハスミも立ち上がりケイロンの元へ移動した。

 

 

「私は自分の使命から逃げませんよ。」

「そうか…」

「貴方との約束を果たす為にも私は逃げません。」

「それでいい、最もお前が逃げる事など有り得んだろう。」

 

 

ハスミはケイロンから触れられた。

 

 

「私達の願い…御使いを倒し、スフィアによる次元修復で滅ぼされた世界の再生と世界のバランスを整える新たな世界の構築の為に。」

「俺達は善にも悪にもなろう…その願いの為に。」

 

 

「「全てはバアル打倒の為に。」」

 

 

「この願いも祝福であり呪詛と化すかもしれません。」

「…判っている。」

「次元修復後の最後に私達がバアルの概念に成り代われば世界は守られる。」

「互いに一度は死した身、覚悟は出来ている。」

「はい、ですが…貴方を巻き込んでしまった。」

「構わん、元より可能性の未来の為にも往くべきものが行かねばならん。」

 

 

バアルを消し去る…それは悪が消える事。

 

だが、それは出来ない。

 

善と悪、聖と邪、生と死。

 

どちらも等しくなければならない。

 

バアルの意思を消し去った後、私達がバアルに成り代わり闇の存在と化せばもう誰も戦わなくて済む。

 

だが、同時に彼らの存在意義が無くなるかもしれない。

 

それでも願ってしまう。

 

仲間達の明日を…未来を。

 

私がやろうとしている事が間違った願いであったとしても。

 

私はあの光景を繰り返したくない。

 

絶対に…

 

 

=続=

 





<彼らが存在する理由>


「ハスミ、訪ねたい事がある。」
「何でしょう?」
「彼らは何故この世界に流されたのだ?」
「理由とすれば神に抗った為です。」
「抗った?」


彼らの世界にも高次元生命体と認識出来る存在が居ました。

世界構築の概念に干渉していたカリ・ユガとジスペル。

世界崩壊を招いたル・コボル、アウターゴッド。

多少なりとも存在意義が違いますが根本的な概念は高次元生命体と変わりません。

先ほどの述べた存在達は属する世界の人々の手によって倒されました。

理由とすれば彼らを放置すれば人類が滅びの一途を辿るからです。

人々は滅びの運命に抗っただけの事。

しかし、これが切っ掛けで奴らの干渉を許してしまったのです。


「何故だ?」
「その世界で多大な影響力を持つ高次元生命体が倒された事により外部からの干渉を受けやすくなったからです。」
「まさか…!」
「この好機を奴らも黙っている訳がありませんよ。」
「奴らは銀河の中心にして世界の中心より世界を監視する者、その存在達が消失したとすればあの者達にとって又と無い好機か。」
「ええ…この結果、倒された存在達の断片は取り込まれ…奴らの力となってしまいました。」


そして神に抗った人々の世界は外部からの干渉を受けて属する世界が消失。

次元の海を漂いながら生き残った欠片はこの世界に流れ着いたのです。

多くのモノを失いながらも抗う事を諦めるなとでも訴える様に。


「それをお前が救い上げたのか?」
「はい、戦うべき相手は同じ……そして奪われた世界を取り戻す為に。」
「…」
「私は奴らを許す事は出来ません。」


彼らもまた御使いによって奪われた者達だったか…

同胞を失った俺、父親の命を奪われたエルーナ、一族の誇りを取り上げられた尸空、全てを失ったバルビエル、母親の命を奪われたハスミ、故郷を滅ぼされたガドライト、御使いに呪われたアサキムらの様に。

皆、戦うべき相手に向けてそれぞれの意思の元で今も抗い続けている。


「ヴィル?」


俺は静かに彼女の体を抱きしめた。

それに察したのか彼女もまた細い腕で抱き返した。







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第六十五話 『狼牙《オオカミノキバ》』

狼達は吠える。

それは枷からの解放を望む声。

だが、呪われた身体はそれを許そうとはしない。

だからこそ牙を爪を研ぎ澄ませ。

反逆の時を待つのだ。


グライエン大統領の殺害によって未だ揺れ動く連合政府。

 

大統領殺害を期にガイアセイバーズはアルテウルによって彼の私兵と化し暴虐の限りを尽くしている。

 

それを逆手に取って行動を開始している木星帝国とデュランダル派のザフト。

 

ザフトは旧連邦軍が行ったとされる人体改造の施設に関しての政治カードを出していた為、連合政府は世論からの非難を受けている。

 

これに関してはL5戦役以前に問題視され旧連邦軍の穏健派による内部告発で明るみになっている。

 

そして、被害者の救助に出来得る限りの治療と社会復帰支援が施行されてもいる。

 

要はザフトが世論を味方に付ける為に解決した昔の出来事を蒸し返した訳である。

 

現在もハロルド・メインジャー率いる穏健派がブルーコスモスよりの強硬派の暴走を止めているが焼け石に水状態が継続していた。

 

これもクロノの構成員の仕業であるが、国際警察機構とBF団が秘密裏に処理している。

 

αナンバーズは引き続き、満足な人員が確保出来ないまま各方面の紛争を止める行動を行っていた。

 

旧ノードゥスとして以前も鋼龍戦隊と行動を共にした事で嫌味のネタにされるのもしばしば見受けられていた。

 

だが、αナンバーズになったとしても彼らは鋼龍戦隊がそんな事を起こさないと信じている為、いつの日か汚名の晴れた鋼龍戦隊との合流を待ち望んていた。

 

そしてGGGはソール11遊星主によって引き起こされた宇宙収縮現象を停止させ、ホルトゥスの援助を受けつつ地球への帰還を進めていた。

 

だが、地球と宇宙を隔絶させた結界はまだ覆われたまま…

 

沈黙が続き、それぞれの睨み合いは依然と続いていた。

 

 

******

 

 

鋼龍戦隊が大統領殺害の汚名を着せられる前の事。

 

ハワイ諸島にある地球連合軍のヒッカム基地。

 

そこでツェントル・プロジェクトの研究が進められていた。

 

修羅の乱以降、アビアノ基地での一件で雲隠れしていたプロジェクトの関係者達がそこへ避難していた。

 

TEアブゾーバーを搭載した試作6号機のサーベラスのパイロットの一人であるヒューゴ・メディオ少尉。

 

彼はある事件に置いて負傷しヒッカム基地に搬送されツェントル・プロジェクトの研究成果によって死の淵より蘇った。

 

だが、例の事件でクライウルブズ隊を失った事により彼は最後の生き残りとして生きていた。

 

その身を蝕む呪いと共に。

 

その後、プロジェクトの責任者であるミタール博士の指示により日本の伊豆基地へと出向。

 

特殊戦技教導隊の元でデータ収集が命令された。

 

だが、出発の直後だった…

 

何者かによって試作5号機であるメディウス・ロクスが強奪されたのだ。

 

急遽、ヒューゴと同じくパイロットであるアクア・ケントルム少尉が強奪されたメディウス・ロクスの奪還の任を受けたが…

 

奪われた機体の痕跡は消失してしまった。

 

この件に関してミタール博士が驚愕の表情であった事をヒューゴは見逃さなかった。

 

強奪事件後、ヒューゴらは伊豆基地への出向はそのままにメディウス・ロクスと遭遇した場合は捕獲或いは撃墜を命令された。

 

これが何を意味するのか?

 

ヒューゴは心の何処かで微かな希望を求めていた。

 

その答えは鋼龍戦隊と行動する事で明かされる事となった。

 

修羅の乱で引き起こされた事件後、自身とは別に二人がホルトゥスによって救われていた事を…

 

この世界の何処かで生きていると知ったのだ。

 

 

「隊長とフォリアが生きている?」

 

 

イティイティ島の基地の一室にてキョウスケとアクセルより告げられた真実。

 

ヒューゴはその言葉に驚きを隠せずにいた。

 

 

「ああ、確実な情報だ。」

「一体、あの状況でどうやって…」

「例の組織…ホルトゥスが救助したそうだ。」

「ホルトゥス…例のブルーロータスが指揮する組織!?」

「言って置くがL5戦役でお前の同僚と仲良くDG細胞に感染していたハスミがそのリーダーだ。」

「!?」

「そして彼女は四体存在するガンエデンの内の一体…アシュラヤー・ガンエデンの巫女だ。」

「彼女がガンエデン…イルイと同じ!?」

「驚くのも無理はない、奴はアカシックレコードとの制約があって俺達に打ち明ける事が出来なかったらしい。」

「制約?」

「アカシックレコード曰く記憶保持者は黒の英知とやらと接触しなければハスミから直接情報を得る事が出来ないとの事だ。」

「それが制約…」

「制約もそうだが奴が秘密裏に進めていた行動によって俺達もいずれ動きやすくなるだろう。」

「だが、あの時の彼女は俺達と決別すると…」

「本音と建前…ハスミは俺達に協力していると周囲に解る様な行動は取らなかった。」

「それが奴の狙いだ。」

「え?」

「俺達に協力していると周囲に知られればホルトゥスにも被害が被る。」

「双方の動きを封じられない為の奴なりの気遣いの言葉だ。」

 

 

言葉ではノードゥスと決別すると宣言したハスミ。

 

だが、それは仲間達の安全を想っての行動。

 

言葉の意味を。

 

その真意を。

 

理解出来ない仲間にとっては裏切りの言葉に聞こえるだろう。

 

それを踏まえつつハスミは覚悟を決めて発言した。

 

例え、裏切り者の烙印を押されようとも突き進む事を。

 

 

「…そんなやり方をしても彼女が報われる事は無い。」

「そうだな。」

 

 

ヒューゴの発言にキョウスケは目を伏せて答えた。

 

隣でアクセルは例の件を話し始めた。

 

 

「未だに肝心の奴の本当の真意が読めんのは変わらずだ、これがな。」

「本当の真意?」

「俺達に必要な情報や下準備はハスミが水面下で行動していたが…彼女の本来の目的が未だ掴めていない。」

「ハスミの目的とは一体?」

「真の敵を倒す事…それが誰の事を指して誰の出現を予期しているのかが判らん状態だ。」

 

 

該当が多すぎて絞り切れない、もしくはそれ以上の何かがその手の伸ばしつつあると推測するアクセル。

 

逆に告げた者達が鍵を握っているのは確かだとキョウスケは答えた。

 

 

「だが、舞人が知った四体の人造神…ガンエデンの伝説と万丈がZ事変で関わった十二の至宝こと十二のスフィアリアクターが関わっている事は理解した。」

「集結させるにも容易ではない連中をどうやって集める?」

「それを成そうとしているのがハスミの目的…その一つだと思う。」

「目的の一つ?」

「四体のガンエデンと十二人のスフィアリアクターを集めた後、何をする?」

「ガンエデンは兎も角、スフィアリアクターは俺も直接関わった訳ではないから何とも…」

「万丈の話では十二のスフィアが集結しリアクター同士が志同じくした時、事象制御の力を得るらしい。」

「事象制御?」

「例としてその力を使えば俺達の世界のL5戦役が無かった事に出来る。」

「それ以上に戦争そのものが無かった事も戦乱の世にも出来る代物…そういった事象への干渉を行えるものらしい、これがな。」

「そんなものが存在していた…いや、だとしたら綾人のラーゼフォンと同じ事が!」

「万丈曰く、それ以上に危険な代物だそうだ。」

「俺達は『調律』や『次元修復』とやらの現場に出くわしたわけでもない。」

「…」

 

 

再びキョウスケは目を伏せたまま答えた。

 

 

「ハスミが戦おうとしている存在、それは次元修復を必要とする程の相手なのだろう。」

 

 

徐々に明かされる理由。

 

それは新たな戦いへの警鐘。

 

そして本当の意味での別れへのカウントダウン。

 

 

******

 

 

同時刻、山岳地帯の某所。

 

未だ続く地球と宇宙を途絶させた結界。

 

現在はライフラインの断絶に怯える事もなく人々は偽りの平穏に安堵していた。

 

太陽もなければ星と月も視えない空を眺めながら彼は答えた。

 

 

「なあ、親父。」

「どうした?」

 

 

山岳の近くの森林地帯、そこで野営をする二組の人の姿があった。

 

一人は青年、一人は壮年の男性だった。

 

青年は焚火を挟んで壮年の男性こと父親に話しかけた。

 

 

「例の件だけどよ、奪取に失敗したって本当か?」

「ああ…」

「どうしてだよ!メディウス・ロクスの鹵獲は出来ている…なのに!」

「アレには肝心のモノが積まれていない。」

「え?」

「AI1…ブルーロータスから指示された重要鹵獲物がそれだ。」

「マジかよ…流石にヒッカム基地に再潜入は厳しいぜ?」

「判っている、だからこそ次の指示待ちをしているんだ。」

 

 

任務の失敗、これに関しては無限力の介入により失敗する事は確定している事項だった。

 

ブルーロータスは既にハスミより提示されていた任務の一部が失敗に終わると申告されていた。

 

その為、今回の一件は特に問題視する必要はないと任務直後の彼らに通信で告げた。

 

 

「…ま、連合軍にMIA認定か無断戦線離脱の嫌疑を受けている俺達が戻れる保証なんて何処にもないしな。」

「確かに軍に戻ったとしても例の奴らの駒扱いされる位なら、あの戦闘は退き際だったのかもしれん。」

「親父…」

「ヒューゴは未だ、ミタールの奴の枷を付けられている…ホルトゥスが提示する荒治療の時が来るまで大人しく待つしかない。」

「んな事言われてもよ、下手すりゃアイツ自身が…」

「通常の治療を受け…動けぬ身となって戦う力を失うか、枷を剥ぎ取り己の力とするかはヒューゴ自身にかかっている。」

「…結局は俺と同じじゃねえかよ。」

 

 

話し合う中で壮年の男性は通信を受けた電子端末から次の指示を指定されていた。

 

 

「あの戦闘でお前はあの力の残滓に救われた、ホルトゥス当主の言葉を借りるなら必然なのだろうな。」

「…」

「長話は終わりだ、次の指定ポイントに向かうぞ。」

「今度は何処に向かうんだ?」

「南欧、マオ社のオルレアン工場だ。」

「工場?」

「ああ、次の指示は破壊されるヒュッケバインシリーズの回収…既に別動隊も向かっているとの事だ。」

「ヒュッケバインシリーズ?確か鋼龍戦隊の艦に搬入されていたんじゃ?」

「いや、今は連中の手を離れてマオ社が管理をしているらしい…それに連中には後継機のエクスバインシリーズが搬入されている。」

「だったら何で?」

「恐らく、そこで戦闘があるのだろう…同時に奪取したメディウス・ロクスの試験運用もな。」

「相変わらず用意周到だな、俺だって戦えるのに親父とずっと複座じゃあ…腕が鈍っちまう。」

「安心しろ、別動隊と合流後にお前用の量産型ゲシュペンストMk-II改が搬入するそうだ。」

「…絶対、こっちの動き読まれてるだろ?」

「多分な…当主曰く、人手が足らんと言う事とお前のリハビリを兼ねているそうだ。」

「ま、遠慮なく使わせて貰うぜ。」

「フォリア、最後に当主からの通達だ…今は偽りの死者として生者と接触は避けろとの事だ。」

「…親父、まさかと思うがヒューゴ達もそこへ向かっているのか?」

「かもしれん。」

 

 

壮年の男性ことアルベロは『無駄口はそこまでだ』とフォリアに告げると奪取したメディウス・ロクスに二人は搭乗すると別動隊との合流ポイントへと向かった。

 

フォリアの体に残る残滓とは?

 

そしてホルトゥスが行おうとしている事が一体何なのか?

 

謎は残ったまま次の戦いへと続く。

 

 

*******

 

 

時は遡り、ハスミがガイアセイバーズに出向する前の頃。

 

天鳥船島、立ち入り禁止区画にて。

 

区画内にある一室では…

 

当主であるハスミと一人の少女が話し合いを始めていた。

 

 

「…」

「イルイ、貴方にも記憶があったのね。」

「うん、でも…殆どは私じゃなくてナシムの記憶だったからコーイチお兄ちゃんにお姉ちゃんの事を聞いたの。」

「説明する手間が省けると言うか何というか…まあ、いいかな。」

「ねえ、ハスミお姉ちゃんは何をしようとしているの?」

「今の所は地球に隠れているバルマーの残党の処理よ。」

「あのバラルの人達は…?」

「組織が暴走している以上は止める必要がある。」

「そうだよね…」

「イルイには悪いと思っている、それでも彼らを止めなければならない。」

 

 

今までイルイ=ナシムを守護していた組織だ。

 

出来る事なら暴走を止めなければならない。

 

 

「イルイはどうしたい?」

「判らない、どうしたいのか…はっきりと決められないの。」

 

 

今世のイルイは初代ナシムの子孫の末裔にしてその最後の生き残りだ。

 

アシュラヤーの一族の出である私と同様に一族の多くはクロノによって謀殺されたらしい。

 

今世のイルイの両親は幼いイルイを残して死去しており、イルイは孤児院を転々としながら今の養父母に引き取られた。

 

だが、その養父母も修羅の乱の戦乱で亡くなったとの事だ。

 

運良く身柄の安全を確保出来たのは良かったがイルイ自身は迷いの中に居た。

 

戸惑いの表情を向けるイルイに私は一案を告げた。

 

 

「成程、今のイルイには見聞が必要って訳ね。」

「見聞?」

「そう…ノードゥスか鋼龍戦隊のいずれかに入り込んで世界を見て回ると言うのはどう?」

「でも…」

「きっと、貴方が求めている答えが見つかると思う……行くと言うのなら護衛は付けておくわ。」

「ハスミお姉ちゃん……私、世界を見てみたい。」

「…判ったわ、接触のタイミングはこちらで何とかするから。」

「うん。」

 

 

イルイは記憶は無くともゼンガー、クスハ、アラド、アイビスとの再会を望んでいた。

 

それが彼女の新たな未来を築く道標になる事をまた彼女自身が知る事は無い。

 

 

=続=




それは悪意を断ち切るもの。

それは一つの可能性が導いた結論。

だが、忘れるな。

それは諸刃の力である事を。

次回、幻影のエトランゼ・第六十六話 『転装《テンソウ》』

可能性が導いた概念。

それは新たな在り方。


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第六十六話 『転装《テンソウ》』

これは概念の集大成。

可能性が導いた奇跡。

諸刃の剣であろうとも。

私は護る為に行使しよう。


前回の出来事から数日後。

 

南欧、マオ社・オルレアン工場にて。

 

 

******

 

 

修羅の乱より鋼龍戦隊に先行配備されたエクスバインシリーズ。

 

現在も続く逃亡生活によりエクスバインシリーズに必要な修復用部品の不足に陥った。

 

イティイティ島の基地でも外装修復は可能だが、肝心の内部部品のみはマオ社に保管されていた。

 

だが、偶然にもマオ社・上層部の指示でフランス支社へ部品が移送されていた。

 

その連絡を受けた鋼龍戦隊は急遽南欧へ向かう事となったのである。

 

しかし、オルレアン工場は既に敵の襲撃を受けている最中にあった。

 

本来ならばオーバーホール中だったヒュッケバインシリーズの鹵獲が奴らの目的だったが…

 

今回はその流れが変異したのである。

 

 

「メディウス・ロクスが…もう一体!?」

「そんな…情報では奪取されたのは一機の筈よ!」

「なら、向こう側のメディウス・ロクスは一体…」

「判らないわ、お尋ね者になっている私達には調べようがないもの。」

 

 

襲撃されたオルレアン工場に到着した鋼龍戦隊。

 

しかし敵の襲撃は既に彼らによって阻まれていた。

 

そう、何者かによって奪取された筈のメディウス・ロクスともう一体のメディウス・ロクスが対峙していたのである。

 

そして対峙していたメディウス・ロクスの傍らには僚機として黄銅色の量産型ゲシュペンストMk-II改が待機していた。

 

 

「…(まさか…あれは隊長とフォリアなのか?」

「ヒューゴ、どうしたの?」

「いや、何でもない…それよりもアクア、どうする?」

「メディウス・ロクスの事?」

「ああ、どちらかがヒッカム基地から強奪された機体だと思うが…」

「ええ、記録では一機だけだったものね…もしかして両方共って考えてる?」

「それもあるが、ヒッカム基地のメディウス・ロクスの強奪は仕組まれたのかもしれない。」

「えっ!?」

 

 

ヒューゴの発言に対し驚きを隠せないアクア。

 

メディウス・ロクスの鹵獲或いは破壊の命令自体が元から仕組まれたものであれば二つの説が上げられる。

 

一つはパイロットの存命の有無なく戦闘記録を取る為のモルモット扱い。

 

一つは関係者内部で渦巻く何かしらの思惑に巻き込まれた。

 

と、言うものである。

 

 

「…」

「それ、どういう事よ!」

「詳しい話は後だ、まずは二機を抑えるぞ!」

「わ…解ったわ!」

 

 

理由も判明しないままアクアはヒューゴに促され戦闘に意識を戻した。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、オルレアン工場に転移してきた黒い機体。

 

その機体のパイロットは静かに呟いた。

 

 

「どう言う事だ…?」

 

 

オルレアン工場に移送された筈の機体の姿が無かったのだ。

 

肝心の反応も何もかもが消え失せていた。

 

 

「…(まさか既にヒュッケバインシリーズが回収されたのか?」

 

 

パイロットは周囲の様子を探るが、鋼龍戦隊が到着したのはつい先ほどの事である。

 

考えられるのは、この基地で自軍と交戦を開始しているアンノウン部隊の仕業であると悟った。

 

パイロットこと彼女は口元を歪ませた後に答えた。

 

 

「役立たず共が…例の遺物どころかヒュッケバインシリーズもしてやられるとは!」

 

 

この覆された状況、その理由を知る者はこう答えるだろう。

 

『お前達の好きにはさせない。』と…

 

そしてこの戦場に新たな機影が現れた。

 

 

「あれは!?」

「アルブレード・カスタム…!?」

 

 

突如、オルレアン工場の敷地内に現れたアルブレード・カスタム。

 

現在、ロールアウトされているのは奪取された一号機と鋼龍戦隊に協力しているイングと言う少年が搭乗するアルブレード・カスタムの二号機のみ。

 

二号機を除いた場合、出現したのは一号機となる。

 

そして、一号機に搭乗しているのは…

 

 

「息災だな、カイ、ギリアム。」

「中佐、中佐なのですか!?」

「ああ、流石に五体満足とは言えんが無事だ。」

「…カーウァイ中佐、無事で何よりです。」

「ギリアム、その様子では既にハスミには会ったのか?」

「はい。」

「…」

「中佐、一体STXチームに何が起こったのです。」

「残念だが、それを話す事は出来ん。」

「!?」

「それに私はお前達と合流する為にここへ来たのではない。」

「では、一体…」

 

 

カーウァイは淡々とカイとギリアムに答えた。

 

だが、真実に至る回答ではなくごく僅かな情報程度である。

 

そしてその目的は…

 

 

「ガイアセイバーズのオメガセイバー…アーマラ・バートンだな?」

「そちらはSTXチームのカーウァイ・ラウ中佐…覚えているぞ?」

「ふ、仕留めそこなった相手の間違いではないのか?」

「っ!?」

「義娘の力の前では貴様の力など到底及ばなかっただけの事だ。」

 

 

黒い機体のパイロットであるアーマラ・バートンに対し告げるカーウァイ。

 

それはガイアセイバーズの陰謀で忙殺されかけた事を暴露する発言でもあった。

 

アーマラは再度表情を歪ませるがとある真実を確信する。

 

 

「納得が言ったぞ、あの方の予想通り…生きているのだな!アシュラヤーの巫女が!?」

「だったらどうするつもりだ?」

「貴様を捕らえて聞き出すだけの事だ、ガルイン・メハベル!!」

「出したな、貴様のボロを…!」

「!?」

「私をガルインと知るのは鋼龍戦隊とノードゥスのメンバーだけだ、そして逆を返せば貴様がバルマーの残党である事は明白。」

「くっ!」

「もう奪わせんぞ、義娘を!部下を!仲間を!そしてトロニウムもな!!」

「貴様、この私を敵に回した事を後悔させてやる!」

「僅か数年程度の戦闘経験しかないヒヨッコに負ける通りなどない!」

「言わせておけばっ…!!」

「…(何の策も無しに貴様を挑発したと思うなよ。」

 

 

挑発に挑発を重ね掛けたカーウァイの発言はアーマラの逆鱗に触れるには十分な威力だった。

 

相手はトロニウム・レヴと呼ばれる永久機関を備えた機体。

 

油断すれば待つのは死のみ。

 

だが、カーウァイの言う策が発動するのはもう少し時間を要した。

 

それまでの間、ガリルナガンとの戦闘を続けなければならなかった。

 

 

******

 

 

先の戦闘は別に対峙していたメディウス・ロクスともう一体のメディウス・ロクス。

 

前者は白いフレーム、後者は黒いフレームに量産型ゲシュペンストMk-II改がペアとなっている。

 

様子を伺っていたヒューゴは後者がアルベロ達であると察した。

 

だが、それは推測であり彼らが搭乗しているとは限らない。

 

その為、周囲の敵を倒しつつもう少し様子見をする事となった。

 

 

「…(ミタールめ、よくも質の悪いパイロットを寄越してくれたものね!」

 

 

白いフレームのメディウス・ロクスの操縦席で表情を歪ませた女性が搭乗していた。

 

彼女は複座式の後部座席でシステムの安定などの細かい作業に勤しんでいた。

 

彼女が言う様に前の座席で操縦を行っているパイロットは質が悪かった。

 

イスルギ重工経由で派遣された彼は規格が違うとは言えテストパイロットとしては優秀だった。

 

だが、テストパイロットはテストパイロット。

 

彼はこの様な状況に耐えきれるほど精神が図太い訳ではない。

 

想定外など想定内と言える修羅場に耐え切れないのだ。

 

急激な精神へのプレッシャーが彼の操縦を鈍らせていたのである。

 

 

「もう良いわ…貴方にはガッカリよ。」

 

 

彼女は拳銃を持ち出すと彼の後頭部を打ち抜いた。

 

史実を変えると誰かがその犠牲となる。

 

この流れは変えられない。

 

 

「さあ、AI1…レッスンの時間よ?」

 

 

彼女ことエルデ・ミッテは冷笑の表情でコンソールから指示を出した。

 

逆に白いメディウス・ロクスの動きが一度停止し様子が変異した事に気が付くアルベロ。

 

 

「…」

「親父、あっちの機体の様子が変だぜ?」

「フォリア、構えろ…来るぞ!」

「っ!?」

 

 

アルベロの言葉を察したフォリアも警戒に入った。

 

そう…AI1による蹂躙が始まったのである。

 

 

「…(まだ動きは荒いが成長するAIとは厄介だな。」

 

 

アルベロはメディウス・ロクスの奪取作戦に参加する前にブルーロータスより経緯を説明されていた。

 

メディウス・ロクスに搭載される予定のAI1と呼ばれる自立型AI。

 

それは地球防衛軍が認知する心を持った超AIとは違い、成長を続けるが純粋な戦闘型AIである事。

 

自分で考え成長する点は同じであるが、戦う為に作られたAIに心は搭載されない。

 

心は他者に慈悲を与えてしまう為である。

 

その感情こそ戦場では無意味と化す。

 

もしもそのAIに心を持つ事が出来るのであれば、救い出さなければならないと。

 

逆にそれが出来ないのであれば破壊して欲しいと告げられた。

 

 

「フォリア、一気にケリを着けるぞ!」

「了解だ、親父!」

 

 

黒いメディウス・ロクスと量産型ゲシュペンストMk-II改が連携し白いメディウス・ロクスを追い詰めていく。

 

これはパイロットが成熟していないAIとパイロットとしては役不足のエルデに代わった為である。

 

もしも先ほどのパイロットと協力していれば状況が変わったかもしれないが後の祭りである。

 

 

「…(やっぱりあの動きは!」

「ヒューゴ、どうするの。」

「アクア、黒い方の動きに見覚えがある。」

「えっ!?」

「黒い方は俺が元居た隊…アルベロ隊長の動きだ。」

「あの特殊作戦PT部隊クライ・ウルブズの…?」

「ああ、間違いない。」

「でも、どうして?」

「判らない、だが…その可能性がある。」

「もしかしてあのハスミ少尉の?」

「ああ、彼女はL5戦役で隊長やフォリアとも面識がある。」

「…救出された可能性は大いにあるって訳ね。」

「だとするとこの基地に現れた理由は…」

 

 

ヒューゴの推測が纏まる前にもう一つの戦いが圧倒的な脅威によって終わりを告げていた。

 

 

>>>>>>

 

 

「何故だ?」

 

 

私は完璧な勝利をあの方に?

 

なのに?どうして?何故?何故勝てない?

 

只の地球人に?

 

何が起こった?

 

奴は念者ではない筈!?

 

 

「何の策もないまま貴様と交戦すると思ったか?」

「!?」

 

 

ガリルナガンは武器を破損し片腕の状態で飛行していた。

 

破損した部分からは火花が散っており、その一撃が凄まじいものであった事を物語っていた。

 

 

「私は生まれながらの念者ではないが…やり方次第では力を引き出す事は可能だ!」

「何だと!?」

 

 

アーマラはカーウァイの発言に驚きを隠せなかった。

 

アルブレード・カスタムのブレードトンファーを包み込む思念を見逃さなかった。

 

パイロットは念者でもなければT-LINKシステムを搭載している訳でもない。

 

だが、現実にアルブレード・カスタムの機体は念動者と同じ力を体現していた。

 

 

「くそッ!(このまま撤退するのは癪だが、この事をあの方に伝えなければ…!」

 

 

アーマラは怨嗟の表情を浮かべながら残存している部隊と共に撤退した。

 

その中に白いメディウス・ロクスも含まれていた。

 

 

「…うぐっ!?(時限式とは言え転装機は起動した。」

 

 

ガリルナガンを含めたガイアセイバーズの部隊が撤退したのを確認したカーウァイだったが…

 

気が抜けたとの同時に凄まじい脱力感に見舞われた。

 

転装機と呼ばれるモノを起動した反動から来るものである。

 

それがどんなものであるのかはまだ明かされる事は無い。

 

カーウァイは息を整えるとカイ達から再度の通信が入った。

 

 

「中佐、どうか我々の方へ合流して貰えませんでしょうか?」

「それは出来ない。」

「やはりハスミ少尉の事が切っ掛けですか?」

「それもあるが、今のお前達だけでは戦乱を止める事は出来んとだけ告げておこう。」

「役不足であると?」

「ああ、まずは散らばったノードゥスの仲間達を集める事だ…一同が集結したのであれば打開策はいくらでも思いつくだろう。」

「…判りました。」

 

 

鋼龍戦隊と合流しないと伝えると他のホルトゥスのメンバーと共にヒュッケバインシリーズを奪取し撤退した。

 

その戦闘後、オルレアン工場の執務室に電子メールが届いた。

 

それはヒュッケバインシリーズが狙われていた事ととある内部機関を奪われるのを防ぐ為であると弁解された内容だった。

 

その事は鋼龍戦隊にも告げられ、今回の戦闘でガイアセイバーズがバルマーの残党である事だけが発覚した。

 

 

******

 

 

オルレアン工場の襲撃から数日後。

 

天鳥船島内部の通路にて。

 

 

「行かれますか?」

「ああ。」

 

 

格納庫へ向かうケイロンに声を掛けるハスミ。

 

 

「ケイロン、ゼンガー少佐の事…お願いします。」

「承知した。」

 

 

ハスミは言葉を交わした後、出撃するケイロンを見送った。

 

 

「黒き迅雷と武神装甲に穴馬…そして史実に存在しない蒼き閃雷の交わり。」

 

 

そう、誰にもこの流れは変えられない。

 

だからこそ立ち向かうのだ。

 

 

=続=

 




迫る黒き迅雷。

迎え撃つ武神装甲。

流れを変えるは蒼き閃雷。


次回、幻影のエトランゼ・第六十七話 『迅雷《ジンライ》』


怒りに身を任せるな。

己が立ち向かう先を見据えよ。


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第六十七話 『迅雷《ジンライ》』

史実には存在しない。

それは変異した証。

その遭遇は在るべき形なのだろうか。

それでも見過ごす訳にはいかない。


テスラライヒ研究所での事件の後、ただ一人…鋼龍戦隊から離脱し単独行動を続けているゼンガー。

 

現在も鋼龍戦隊が陥っている危機も知らぬまま、愛する者の仇討のみを胸に旅を続けていた。

 

そして時折ノードゥスのメンバーと再会する事があってもただ一人突き進む事を選んでいた。

 

だが、状況を打開する為にも彼の力は必要不可欠。

 

ホルトゥスはある報告を控えながら彼の行方を追っていた。

 

 

******

 

 

「…」

 

 

テスラライヒ研究所を襲った集団。

 

現時点で彼に正体は明かされていないが、その集団の正体は『バラル』。

 

彼らによる襲撃で一夜にしてテスラライヒ研究所は半壊状態。

 

その襲撃により研究所に在籍していた科学者の多くが行方不明…最悪の形では死亡となった。

 

現在も研究所は行方不明者の捜索と共に修復作業の真っ最中である。

 

彼はダイゼンガーのコックピットの中でひっそりと呟いた。

 

 

「ネート博士…」

 

 

もっと行動が早ければ、即座に現場に辿り着いていればとゼンガーは一つの呟きとその脳裏に後悔が過った。

 

その手から零れたものはもう取り戻す事が出来ないと解っていても…

 

彼は倒すべき相手を追い続けていた。

 

だが、彼の追撃生活が一変する出来事が起ころうとしていたのである。

 

 

「…無様な醜態だな。」

「!?」

 

 

移動中の荒野に現れた蒼い特機。

 

それは失った仲間の機体の一つであった。

 

忘れる筈もない独特の声と闘気を纏わせた存在。

 

 

「ケイロン・ケシェット…生きていたのか!?」

「この通りだ、あの状況に置いては五体満足とは言えん生還だったがな。」

「ならば、カーウァイ中佐らも?」

「存命とだけ伝えて置く。」

「…そうか。」

 

 

声の気配から仇討以外に意識が向いていないと悟ったケイロン。

 

ケイロンは彼女から戦う前に様子を見極めた上で『余りにも暴走しており更生の余地なしであればそこまでの人だっただけです。』と容赦無しでも構わないと告げられていた。

 

彼自身も仇討で腑抜けたゼンガーの様子にせめてもの情けと想って一戦交える事を決めた。

 

 

「話がそれだけならば、その先へ行かせて貰うぞ。」

「…ここは退かぬ。」

「どういう事だ?」

「言葉の通り、今の貴様は只の腑抜けた武人に過ぎん…そんな輩は進むだけ無駄だと言っている。」

「!?」

「俺と戦え…さすれば真の真相は視えてくるだろう。」

「戦え…だと?」

 

 

この発言に対しゼンガーは驚愕していた。

 

相手は民間の特機開発を目的とした一介の企業に所属するテストパイロット。

 

互いに特機乗りであり、相手に何らかの策が無ければ倒せない相手ではないと。

 

だが、それ以前にケイロンと言う男から滲み出る気配にゼンガーは戦慄していた。

 

戦いの中で忘れかけていた『恐怖』と言う言葉を思い出したのだ。

 

圧倒的な意思による闘気が彼らの周囲を包み込んでいった。

 

 

「…(この重圧は…一体!?」

「言って置くが、この程度の重圧…ハスミなら耐えきれたぞ?」

「…!」

「……少しは戦う気になったか?」

「例えどんな相手であろうとも…立ち向かうのみ!!」

「フ、腑抜けと言った事は訂正しよう……(だが、荒治療はさせて貰うぞ?」

 

 

ゼンガーが搭乗するダイゼンガーは斬艦刀を。

 

ケイロンが搭乗する蒼雷は己の拳を。

 

それぞれが構えた。

 

一迅の風が荒野に吹いた瞬間。

 

その初手は一瞬にして光速。

 

火花を散らしながら弾き合う刀と拳。

 

 

「…俺の攻撃を打ち返しているだと!?」

「己を見失った攻撃が俺に届くと思うな!!」

「!?」

 

 

ケイロンはダイゼンガーの斬艦刀による斬撃を躱し、時には蒼雷の拳と脚撃のみで斬艦刀の刃先を跳ね返していた。

 

一瞬の迷いが機体に多大なダメージを与える芸当だが、ケイロンはそれをやってのけたのだ。

 

ゼンガーの太刀筋を見極め、反撃のタイミングを見計らっての行動。

 

 

「…(地球に存在する体術の記述を見て置いて正解だった。」

 

 

ケイロンは傷を癒す間、ハスミより地球に存在する格闘術の情報を閲覧出来ないかと話をした事があった。

 

ハスミはその事を了承したが、手ごろなものだけで済ませる様にと告げられた。

 

全てを吸収するには時間が掛かり過ぎる点と合う合わないの相性もある為と語った。

 

ハスミは見せる条件として己の長所を引き延ばし短所を克服する方法での閲覧を薦めた。

 

これによりケイロンは決行の日まで有意義な時間を取る事が出来た。

 

 

「…(あの作品群はいいものだった…しかし、ハスミは何故落ち込んだ表情をしていたのだ?」

 

 

ケイロンは知らなかったがハスミは無限力の陰謀でケイロンに見せてはいけないハスミの前世で展開された格闘技の文献を見せてしまったのだ。

 

閲覧者側で言えば、某一撃パンチで敵を倒したり、星座をモチーフにした闘士とか、七つの龍の球を集める物語とか、秘孔で一撃ダウンなどの作品である。

 

当のハスミは『…(黄金のアフロ頭とかソーダ色のトコロテン人間が出てくる作品を見せなくてセーフだっただけでも奇跡よ。』と酷く落ち込んでいた。

 

だが、見たからと言って真似るのは誰にでも出来るが技術の真価を発揮する事は出来ない。

 

ケイロンは常にその技を技術を編み出した者に敬意を表しつつ己の技に組み込み磨き上げた。

 

この世界に訪れてから学んだ技術もその一つである。

 

 

「何度言わせれば判る?己の見失い…力に依存した戦いでは俺には勝てんぞ!」

 

 

何度も繰り返される剣戟。

 

だが、それすらものともせずに打ち返す拳。

 

迷いがある剣筋と迷いがない拳がその差を生み出していた。

 

 

「…(くっ、俺は!」

「私怨に飲まれ、友の危機に参じぬ貴様などにその刀は宝の持ち腐れの様だな…」

「危機だと?」

「今も鋼龍戦隊はガイアセイバーズによって大統領殺害の濡れ衣を着たまま逃走している。」

「!?」

「そして、銀河の彼方より現れし者達と南極から現れた軍勢によってこの星は新たな戦乱と恐怖に飲まれつつある。」

「…」

「貴様の刀は愛すべき者を護る事の前に…この星の明日を守護するものではないのか?」

 

 

蒼雷の一撃の拳がダイゼンガーの頭部に到達したものの衝撃は訪れなかった。

 

先の一撃が機体スレスレで止まっていたのだ。

 

 

「俺は…俺達は明日を目指す。」

 

 

ケイロンもまた己の心に秘めた想いを告げた。

 

嘗ての所業で繋ぎ合う事が出来なかった手を今世では手に取ると…

 

彼女は、ハスミはそれを教えてくれた。

 

それぞれの正義が重ね合う事が奇跡に近い事だと。

 

だが、行く先の思いは何時か繋がると信じていると。

 

彼女は願いの先を繋ぐ為に戦い続けていると。

 

その想いに答える為に誓ったと告げた。

 

 

「ケイロン、お前は愛しているのか…ハスミの事を。」

「だと、したら?」

「ハスミの宿命を知っていてもか…?」

「何が在ろうとも受け入れる。俺はハスミと誓った…共に進むとな?」

「そうか…」

 

 

真っ直ぐな想い。

 

どんな困難にも立ち向かう。

 

それは放たれた矢の如く突き進む様に。

 

それが奴の志。

 

 

「そろそろ構えろ、来るぞ!」

「!?」

 

 

ケイロンの咄嗟の言葉に反応したゼンガー。

 

現れたのは黒き迅雷。

 

荒野を駆け抜け、紅のマントを翻し、空中で一回転しながら荒野を一望出来る丘に降り立った。

 

 

「奴は…!」

「奪われたDGG三号機…ホルトゥスの情報からはそう伝え聞いている。」

「何だと!?」

「今はジンライと名乗っている自立型特機だ。」

 

 

ケイロンより機体の素性を知ったゼンガー。

 

 

「そして俺の機体…蒼雷の原型となった機体でもある。」

「どう言う事だ?」

「L5戦役の最中、人知れずDGG三号機は奪われた…これは残された半身から生み出された機体だ。」

「もしや、蒼雷の開発者は…!」

「ビアン・ゾルダーク博士、空白事件当時…秘密裏にこの機体は作り上げられた。」

「…」

「そして巡り巡って俺の手に渡っただけの事だ。」

「ケイロン、奴の目的は…」

「奴の目的…一人の科学者の私怨によるもの、兄弟たるDGGの破壊が奴に与えられた命令。」

「ならば!」

「生きて明日を目指すならば…奴の猛攻に抗え!!」

 

 

ダイゼンガーと蒼雷が態勢を整え直したのと同時に動き出すジンライ。

 

それは忍者を思わせる動き。

 

敵を翻弄し相手を仕留める。

 

 

「…(やはり奴の動きに追い着くには今の機体の状態では分があるか。」

 

 

ケイロンは先ほどの戦闘でやり過ぎたと痛感した。

 

ダイゼンガーの攻撃を全て打ち返したとは言え、機体にはそれ相応の負荷が掛かっていた。

 

パイロットによる機体のポテンシャルを超えた操縦は機体の寿命を縮める。

 

正に開発者本人から忠告された通りだった。

 

 

「こちらは二機とは言え、奴の動きを捉えるには…」

 

 

同じ様にゼンガーのダイゼンガーもまた負荷が生じていた。

 

永い追撃生活によってメンテが滞っていた為である。

 

その為、機体の関節部などに限界が来ていたのた。

 

だが、奇跡は起こった。

 

 

「その役目、私に任せて貰おう。」

 

 

粉塵を上げて戦闘エリアに入り込んだ一体の特機。

 

黒い外陰を纏ったDGG二号機・アウセンザイター。

 

 

「エルザム。」

「無事だったか我が友よ、そして…」

「再会を喜ぶのはまだ早い…今は。」

「…」

 

 

アウセンザイターの到着と同時にそれぞれの機体にジンライからのメッセージが入った。

 

意味はシンプルに『DGGの破壊』である。

 

 

「ゼンガー、機体の方は?」

「残念だが合わせるのは困難な状況だ。」

「やはり、全機撤退を…」

「その必要はない。」

「ケイロン、どう言う事だ?」

「奴の弱点は見抜いた、俺が隙を突く…合図と同時に狙え!」

 

 

二人の返答を待たずにケイロンは蒼雷と共にジンライに相対した。

 

勝負は一瞬。

 

隙を見せない構えをままケイロンはジンライの出方を伺った。

 

 

「…」

 

 

ジンライは高速で移動しお得意の突撃攻撃に移行した。

 

だが、それが命取りだった。

 

 

「…(思い出せ、あの構えを…刀の破壊を許された刀を使えぬ剣士の動きを!」

 

 

隙の無い動きと息を吐く様に一連された拳がジンライを打ち抜く。

 

 

「初手・始雷…続けて二手・旋雷から六手・昇雷!」

 

 

一撃目は重い拳、二撃目は回し拳を繋げつつ六撃目は拳でジンライを打ち上げた。

 

 

「今が勝機、繋げよ!」

「応!!」

「承知した!」

 

 

ダイゼンガーは飛燕の太刀、アウセンザイターはランツェ・カノーネの乱撃。

 

空中でジンライが落下を阻止されている間に蒼雷は天へと翔る。

 

そして奴を打ち抜くのは己の蹴り。

 

 

「…終手・滅雷!!」

 

 

雷撃を纏わせた脚撃がジンライを貫き、地面に直撃させた。

 

当たり所に寄るものかジンライはそのまま機能を停止し沈黙した。

 

 

「終わったのか?」

「恐らくは…後でクロガネに回収させよう。」

「…」

 

 

ジンライの機能が停止したのと同時に蒼雷のコックピットに備えられたモニターからアラートが鳴り響いた。

 

気が付いたケイロンはタッチパネルをスライドさせアラートを停止させるとある事を思い出した。

 

 

「む…(いかん、ハスミとの約束を忘れる所だった。」

 

 

ケイロンはハスミより『考えを改めたのであれば朗報の一つでも進呈してください。』と話し合った事を思い出していた。

 

ちなみに先のアラートはハスミから『理想の戦いになると熱中しすぎて周囲が見えなくなるのが貴方の悪い癖ですよ?』と注意喚起のアラートが鳴り響く様に事前に機体へセットされていたのである。

 

 

「ゼンガー、貴様に話して置く事がある。」

「?」

 

ケイロンはハスミとの約束通り、ゼンガーにとって喜ばしい朗報を告げた。

 

 

「…ソフィア・ネートは生きている。」

「なっ!?」

「我らホルトゥスがその身柄を保障しよう…貴様は成すべき事を成せ。」

 

 

ケイロンはその言葉を告げるとその場から撤退していった。

 

 

「博士が生きている…ならば、俺は?」

「ゼンガー…」

「エルザム、今更遅いかもしれんが…俺も鋼龍戦隊に合流しよう。」

「…その言葉を待っていた。」

 

 

ゼンガーは仇討と言う歩みを止め、成すべき事を思い出した上で鋼龍戦隊と合流する事をエルザムに伝えた。

 

だが、ゼンガーの中である燻りが残っていた。

 

 

「…(ケイロン・ケシェット…あの戦いは奴の本気ではない。」

 

 

ケイロン・ケシェットは自身と対峙した戦闘で本気を出していなかった。

 

その力の解放があれば、この場に居た全員が打ち倒されていたと…

 

それだけの実力を隠していた事に対し再び戦慄していた。

 

 

「…(もしも、奴が立ちはだかるのであれば今の鋼龍戦隊…いや、ノードゥスにも勝ち目はない。」

 

 

このゼンガーの推測が的中するのはもう少し先の事である。

 

 

=続=

 




応龍は天を翔る。

禍を齎すモノには天雷の音が響く。


次回、幻影のエトランゼ・第六十八話 『天翔《アマカケル》』


願うのは新たな可能性。

そして彼らの闘志を奮い立たせるべく告げる。

その逆鱗に触れる悪戯の言葉を。



=追記=

今回のゼンガーとケイロンのレベルの差(最大LV:200と仮定した場合)

ゼンガー、LV:30 → 暴走状態、気力170に固定、毎ターン時に必中、熱血、鉄壁が発動。
ケイロン、LV:100 → 真の姿封印、スフィア使用禁止のハンデあり。



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察の付箋

彼女は考察する。

それはとある真実を告げる。

それでも彼女は策を講じて反逆する。

その笑みは誰の為?


私が鋼龍戦隊と別れを告げた後の事だ。

 

南極より湧き出た破滅の軍勢。

 

奴ら…ルイーナとの攻防を続けていた。

 

同時にアートルム・エクステリオルによって地球は宇宙と断絶させられた。

 

まあ、私には関係ない。

 

だって…アレがあるもの。

 

だからこそ私達の進撃は止められない。

 

それは反逆の意思と立ち向かう為の力だから。

 

 

******

 

 

天鳥船島・立入禁止区画の玉座の間にて。

 

私ことハスミは鎮座した玉座から立ち上がり、彼の帰還を迎え入れた。

 

 

「お帰りなさい、ケイロン。」

「今戻ったぞ、ハスミ。」

「ゼンガー少佐の件、有難う御座いました。」

「いや、俺自身も気にはしていた……礼には及ばん。」

 

 

私は彼にお礼を告げた後、彼は自分からもアプローチをするつもりだったと告げた。

 

彼のやり切った表情に私も安堵した。

 

 

「御義父上達は戻っていないのか?」

「はい、カーウァイお義父さんはオルレアン工場での戦闘後は休養へ、テンペストお義父さんは化学要塞研究所に、光龍お父さんは宇宙へ上がって貰っています。」

「そうか…」

「ケイロン、帰還早々ですが…ルイーナの侵攻図に少し気掛かりな所があるので相談に乗って貰えないでしょうか?」

「判った。」

 

 

私は場所を変えて彼と数ある一室の一つで考察に入った。

 

 

「龍脈?」

「若しくはレイラインと呼ばれるものです、貴方には後者の方が判りやすいと思います。」

「かつてサイデリアルがZONEを利用し次元力を供給していた場所か…」

「ええ、地球にも該当する逸話が残っていまして龍脈は星の命…血管の様な役割を持っています。」

 

 

そう、嘗て勇者チームが戦ったオーボスもレイラインをを狙って侵略してきた。

 

だが、黄金の力を宿したダ・ガーン達によって未然に防がれた。

 

同じく宇宙皇帝ドライアスもマイナスエネルギーを利用してプラスの存在であるカタルシスエネルギーを抹消しようとしていた。

 

陰陽等しくどちらもなくてはならない事を理解する事が無かったドライアスはファイバード達の前に敗れ去った。

 

そして今回はルイーナからレイラインを死守しなくてはならない。

 

 

「こちらの対侵略予想通り、ルイーナは各地のレイラインの生命点を拠点として破壊活動を行っています。」

「例の破滅の王の現出に必要な餌を得る為にか?」

「恐らくは。」

「バアルの根源は何処までこの星に縋るのか分らんな。」

「それは地球自体が縁で繋がり過ぎてしまったせいもあります。」

「エニシ?」

「はい、地球に様々な力、意思、存在が集まるのはその縁に縁るものです。」

 

 

幾多の地球が想いを重ね続けた。

 

その願いが縁によって人の生命の強さの輝きが、どの銀河にも勝る力へと変貌した原因。

 

そしてバアルが危険視する理由でもある。

 

何時か人類がバアルを滅ぼす存在へと真化するから…

 

 

「そして不完全な真化に至った御使い達が嫉妬の対象とするものでもあります。」

「…」

「彼らも理解すれば良かったのですよ、不完全だからこそ人は幾多の真化をし続けられると…」

「お前らしい嫌味だな。」

「ええ、貴方や彼らに行った仕打ちを考えればまだまだ物足りませんからね。」

 

 

ハスミは『私、これでも結構…嫌味返しが得意なんですよ?』とケイロンに告げた。

 

それに対しケイロンはハスミの発言に静かに笑い返した。

 

 

「それでこそ俺が認めた片腕だ。」

「ですが、危険を孕んでいる事もまた事実…真化は危険と隣り合わせです。」

「高次元生命体の中で正の立場となるか真逆の存在となるかは…その者の在り方次第だったな?」

「はい。」

「鋼龍戦隊とノードゥス…お前はどちら側へと至ると思う?」

「それは彼ら次第です、私はただ助言するだけですから。」

「そうか。」

 

 

私が『助言するだけ』と告げると彼は肯定し私の髪に触れた。

 

それは静かに撫でる動作へと変わった。

 

 

「ヴィル。」

 

 

私はこの大きな手に縋ってしまう。

 

とても暖かい手。

 

その拳は破界する力を秘めているが、私にとっては安らぐ暖かい手である。

 

その揶揄に彼は驚いていたが、今は慣れてしまっている。

 

その手が生み出すのはその人の在り方次第。

 

破界だけではないのだと私は告げた。

 

 

「この手を恐れぬのはお前だけだな。」

「そんな事はありませんよ。」

「?」

「きっと、貴方を受け入れてくれる筈です。」

 

 

様々な人種、異なる時間を生き、互いに敵同士であっても手を取り合う事を諦めなかった彼らとならきっと…

 

 

「ハスミ、もう一つ気になる事があるのだが…」

「何でしょうか?」

「御義父上達の身に何が起こった?」

「それは…」

「言えぬ事か?」

「いえ、余りにも事例がなかったので…どう説明すべきかと悩んでいました。」

「事例がない?」

 

 

あのアーマラによる謀殺未遂によって私とケイロンは深手を負った。

 

カーウァイお義父さんとテンペストお義父さんも少なからず傷を負う事となった。

 

そして変異が起こった。

 

私が二人にお守りとして渡した護石が念の障壁を張った際の私の念に反応し砕け散ったのだ。

 

砕け散った欠片は二人の体に融け込んでいった。

 

あの護石は器として機能しており、私の念を込めて渡して置いた。

 

それが許容範囲以上の念に反応し砕け散ったのである。

 

そして…

 

 

「あの時の負傷と共に砕け散った護石を取り込んだお義父さん達は後天的念者として目覚めてしまったのです。」

「そうだったのか。」

「力に目覚めて間もないお父さん達は初期のクスハ達と同様の能力しか引き出せませんがやり方次第ではそれ以上の力を引き出す可能性があります。」

「想いの強さは人それぞれだったか?」

「はい、そして…更なる可能性を持つ事もまた必然と推測します。」

 

 

私は治療後に再会した二人に謝った。

 

また巻き込んでしまった事を謝罪した。

 

それでもお義父さん達は『お前と同様に誰かを護る力なのだろう?』に『お前ばかりに負担を抱えさせんよ。』と目覚めた力を肯定し受け入れた。

 

光龍お父さんも『力の使い方が判らなかったら僕がレクチャーするよ。』と先輩風を吹かせて私を安堵させてくれた。

 

私もまた周囲に助けられていたのだと実感した。

 

 

=続=

 

 




<あれの続き>


例の格闘術の資料を読み漁っていたケイロンがハスミに話しかけた。


「ハスミ、地球にはこの様な生物が存在するのか?」
「…」


あの…何で某巨人漫画と現時点で宇宙最強の胃袋を持つピンクの生物の資料が出てくるんですかね?

また無限力の陰謀か!!って突っ込み入れたくなった。


「ふむ、この戦国時代の武将だったか…随分と面白い技を使うな?」


今度はバ〇ラなのと戦〇無双ですか?

おいコラの無限力め、ちゃっかり彼で遊んでますよね?


「この傭兵の入ったダンボールだったか、何か意味でもあるのか?」


…もう個人的に突っ込みが追いつきません。


=終=


<後天的念者について>


後天的念者とは先天的に念の力を持って誕生した個体ではなく、何らかの措置によって発現した人工的な発現者を指す。

在り方は強化人間に分類するが、今回のケースは肉体改造の処置はせずにとある現象によって誕生した。

過程としては以下の通りである。

※念動の力を集める器的物質を当人が所持していた事。

※当人の周囲に強念の力を持つ者が存在した事。

※器と呼ばれる物質が許容範囲以上の念動を受けて消失した事。

※器が強念者の力の発動時にその反動で強念の力によって思念化し当人に取り込まれた事。

以上の点から後天的念者が誕生したと推測される。

尚、当人由来の本来の能力ではないので師事者の下で修業を積む事が必要である。

しかし、新たな可能性として軍事転用の危険性がある為…この件は伏せて置く。



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第六十八話 『天翔《アマカケル》』

天の海をうねり泳ぐ。

新たな決意と想いを胸に。

彼は再び道化となる。

それは英雄達を奮い立たせる為の行為。


地上でいくつかの戦闘が終わった頃の宇宙での出来事である。

 

地球と宇宙を隔てる結界によって今も交信途絶が続いていた。

 

しかし、地球と隔離されても生きる術を持つ宇宙の民達には大きな支障は出ていなかった。

 

L5戦役以前から進められていた月・コロニー群に対する完全ライフラインの確立政策が事を成していた。

 

しかし、逆に言えば一つのコロニーを制圧すれば立派な軍事拠点にされてしまうリスクも生じていたが…

 

それに対する駐留部隊の配備も進められていたので大きなテロ行為はなかった。

 

ちなみにUNでも『蒼い睡蓮』の睨みも利かせていたもあると事静かに囁かれている。

 

情勢が変わりつつも宇宙は日々迫る脅威に晒されながらも同盟関係を結び対応していた。

 

 

******

 

 

地球近海にて隔絶させた障壁によって現在も宇宙側から地球の惑星を見渡す事が出来ていない。

 

その暗黒の海を漂う様に蒼い応龍が様子を伺っていた。

 

そしてその操者たる孫光龍は無音の宇宙空間で独り言を始めた。

 

 

「連中の訳でアートルム・エクステリオルだったっけ…実に厄介だね。」

 

 

ハスミの話によれば長き戦乱の退廃で果て無き戦いが続く世界の地球を覆った結界。

 

それは人々から太陽を奪い、人々の恐怖や不安を煽るには十分な現象。

 

逆にアクシズ落下中の地球を救った現象らしいけど…

 

ハスミの推測では連中が破滅の波動を集めるには隕石落とし程度では不十分だった為にあえて起こしたと言っていた。

 

おまけに僕がバラルに居た頃にしようとした『総人尸解計画』も連中にとって都合のいいものだった。

 

ハスミ曰く『貴方は地球を惑星型ゴキブリホイホイにする気ですか?』なんて揶揄がちょっと…って思ったけどね。

 

正直な話、あの子の言う通りだった。

 

もしも『総人尸解計画』を遂行していたら僕らの戦力だけじゃ連中に勝ち目はなかっただろうね。

 

内側から破滅に飲まれるか、外側から銀河ごと消失させられるか、スケールが大きいけど…袋の鼠とはよく言ったものだよ。

 

 

「本当、あの子には助けられてばっかりだよ……応龍皇もそう思わないかい?」

 

 

光龍の言葉に応龍皇も静かに唸った。

 

 

「さてと、僕らもお仕事を再開しようか。」

 

 

光龍の言葉に応じて応龍皇はその場から移動して行った。

 

静かな宇宙の海に見えたが、その一帯には機動兵器の残骸と思われる物体が浮遊していた。

 

その数は一艦隊分、所属はゲストと呼ばれるゾヴォーク…ゾガルからの新たな侵略者達だった。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃、ヘルゲートと対成すヘブンゲートと呼ばれる軍事拠点にて。

 

南極より現れた集団、通称『ルイーナ』と呼ばれる集団がヘブンゲートを占拠し軍備増強を続けていた。

 

その様子からヘブンゲートの駐留部隊は撤退若しくは壊滅したと思われる。

 

ヘブンゲートの内部、居住区内の司令室では…

 

 

「例の紅の神と蒼の女神が動き始めたか…」

「おかげでこっちの活動が全く捗らねえ…一体、どうなってやがる?」

「破滅の王に捧げる絶望が僅かしか取れないのは奴らの介入のせいだろう。」

「?」

「奴らはかつて…我らの破滅の王の根源となる存在と戦っていた者達だ。」

「んで、その連中が俺達の現出を素早く察知しやがったって訳か?」

「恐らくはな、地上で活動しているアクイラやウンブラの部隊が撤退を余儀なくされた原因と見ている。」

「ちっ、ムカつくぜ…」

「今の所、お前の部隊とグラキエースの部隊が事を成せているだけでも奇跡だろう。」

「…予想以上に破滅の王の復活が遅れているけどな。」

「お前達は引き続き絶望の波動を集めるのに専念して貰う。」

「コンターギオ、お前はどうする?」

「私は引き続き軍備増強を務める、何時かは判らんが連中がこの拠点ごと破壊かもしれんからな。」

「判ったよ、俺はラキの部隊と合流する…あの出来損ないも連れてくがいいか?」

「構わんが、イグニス…例の計画を実行するまでは『欠陥品』を残して置け。」

「はいよ。」

 

 

緑色の肌と蛇の様な眼光を持ったコンターギオと紫の肌に赤い炎の様な髪のイグニスが話し合っていた。

 

内容はシンプルに例の存在達が自分達の行動に支障を促す妨害を仕掛けてくる。

 

任務を遂行した仲間もいるがそれは微々たるものであると…

 

思惑を話し合う中で彼らの予想は的中する事となる。

 

 

「ん、何があった!?」

 

 

アラート音に気付き、コンターギオは近くのモニターで業務をしているミーレスの一体に告げた。

 

 

「侵入者を発見、数は戦艦級の機体が一体です。」

「コンターギオ、お前の予想が当たっちまったみてえだな。」

「くっ!予想よりも奴等の行動が早いとは。」

「どうするよ?」

「仕方がない、増産した戦力を持って施設を放棄する。」

「んじゃ、さっさとずらかる準備でもしておけよ…それまでは俺が時間を稼いでやる。」

「頼んだぞ、イグニス。」

 

 

イグニスはコンターギオに告げるとその場から去って行った。

 

だが、彼の奮闘空しく一瞬の内に終わったのである。

 

 

「消し炭程度じゃ終わらせないよ、精々抗ってくれたまえ?」

 

 

ヘブンゲートに向けて一筋の閃光が煌めいたのである。

 

 

******

 

 

同時刻、ヘブンゲート宙域に向かうルート付近にて。

 

ある艦隊がゲストの侵略部隊の一つと鉢合わせし交戦していた。

 

 

「各機、ヘブンゲートを目指し占拠したルイーナを叩く…指揮官機は可能な限り鹵獲せよ!」

「ブライト大佐、連合軍月面基地より入電…予定された月面艦隊によるヘブンゲートのへ核攻撃は中止との事です。」

「どう言う事だ?」

「ミスマル提督が私達に猶予を与えてくださった様です。」

「…ルリ艦長、その猶予を有効に使わせて貰おう。」

「はい。」

 

 

隔絶宇宙でも現状に抗い戦い続ける者達がいた。

 

現在は地球連合軍・独立遊撃部隊ブルースウェアと名乗っている。

 

地球側ではαナンバーズの呼称が使用されているが、こちら側では幾多の並行世界の一つで破滅に抗った部隊の名が使用されている。

 

 

「くそっ、もうすぐヘブンゲートだってのに!」

「ぼやくなリュウセイ、俺達も同じ気持ちだ。」

「ええ、ヘブンゲートを根城にしているルイーナの幹部を確保して次元断層の情報を得なければ…」

「皆、今も地球で闘っている。」

「…」

「イングラム、あの事を気にしているの?」

「その話は後だ……SRXチーム、ラーカイラムとナデシコCの部隊と連携し道を切り開くぞ!」

 

 

バラルとの遭遇後、数回の戦闘を終えた後に隔絶地球よりこちら側へ転移したSRXチーム。

 

運良く、ブルースウェアに救助され彼らと共に行動している。

 

SRXチームは地球側で起こった出来事を説明しガイアセイバーズの思惑で地球は混乱の一途を辿っていると伝えた。

 

そして行方不明だったSTXチームとホルトゥスの正体を知らせる事となった。

 

 

「…」

「リュウ、ハスミの事だけど…」

「アヤ?」

「もしも再会したら、どうするつもり?」

「今の状況じゃ…戻ってこいってのは無理がありすぎると思ってる。」

「クスハ達の事があるから?」

「それもあるけどよ、きっとアイツなら…ハスミならもっと良い考えがあると思うんだ。」

「信用しているのね。」

「幼馴染だからな。」

 

 

リュウセイはアヤとの会話を切り上げて一人物思いに耽った。

 

 

「…(とは、言ったものの。」

 

 

アヤ、悪いけどよ…

 

ハスミって味方の時はすっげー頼りになるんだけどさ。

 

敵に回すとその報復がえげつない位にヤバいんだよ。

 

本人には直接言えねえけど。

 

あの時の様子じゃあ相当怒りが限界値を通り越して暴走レベルまで行ってる。

 

流石に俺でも止められねえよ。

 

学生時代なんかDQN共があのお怒りに触れて急性胃潰瘍(胃に貫通レベル)に追い込まれてたもんな。

 

オマケにムーンクレイドルと月面都市を占拠する筈だったゲストの連中が仕掛けてこねえのも先手を打っただろうし。

 

やる事はやってるんだよな。

 

所でハスミさん、お仲間らしいんですけど…めっさカッコいい!!海賊戦艦と五体合体するガレオン船とお友達の様なので…

 

後で写真とか取らせて!マジで!!

 

 

「ライ、リュウセイが何か泣きながら拝んでいるみたいなんだけと…」

「いつもの事だ、気にするな。」

「マイ、いつもの事だから気にしちゃ駄目よ。」

「そうなのか?」

 

 

リュウセイの心境を他所にライ達は静かに放置と言う名の見守りをしていた。

 

しかし、そんなやり取りをしつつ迎撃準備を整えていたが…

 

ゲスト側の部隊に違和感がある為に戦闘開始の合図が一向に命令されなかった。

 

 

「艦長、あの様子ですと…」

「どうやら向こう側は手痛い反撃を受けた後の様だ。」

 

 

接触したゲストの部隊は既に半壊状態に追い込まれたものや辛うじて動ける程度の艦隊のみ。

 

その状況下にあるのか、こちらに見向きもしないままその場から撤退していった。

 

 

「彼らの進攻方向を逆算しました所、どうやらヘブンゲートから逃げ帰った様子です。」

「潜伏しているルイーナに反撃を喰らったと思うが…」

「恐らくは…答えはヘブンゲートにある様ですしこのまま進みましょう。」

「判った、各機…艦に帰還せよ。」

 

 

ラーカイラムとナデシコCは部隊を回収しヘブンゲートに向かった。

 

それから数時間後の事。

 

到着後にヘブンゲートは既に崩壊、潜伏中だったルイーナの姿が無くなっていたのである。

 

 

「これは一体?」

「遅かったね、諸君。」

 

 

崩壊したヘブンゲートとは真逆の位置に現れた青き応龍。

 

それに搭乗する人物をオモイカネを通じていち早く該当のデータから引き抜いて答えたルリ。

 

 

「貴方はSTXチームのアラン・ハリス中尉ですね。」

「ああ、それね…偽名だし改めて。」

「偽名だと?」

 

 

ルリの回答を翻しハリスは真名を告げた。

 

 

「僕の名は孫光龍、ホルトゥスのメンバーさ。」

「ついでに言うとあの人はハスミの実の親父さんだ。」

 

 

ハリスこと光龍の発言に続いて答えたリュウセイ。

 

 

「えっ!?」

「リュウ、どうしてそれを?」

「悪い、エルザム少佐から口止めされてたんだ。」

「兄さんから?」

「オーダーファイルに関係する人物って聞いた位で俺も詳しい事は聞いていないんだ。」

「ま、口止めもしたくなるよね……僕が先史文明期から生きている人間って冗談は。」

 

 

引き続き、光龍の爆弾発言によって二艦よりざわめきが生じる。

 

 

「ちょっと待てよ、てこたぁ古代人って事か!?」

「次の漫画のネタにしようかな?」

「古代人はここだいじん。」

 

 

ナデシコ三人娘の場を乱す発言から始まり。

 

 

「ギュネイ、あの人が古代人なら何で皺くちゃのおじいさんじゃないの?」

「俺にも解らない、多分昔の技術か何かだろうよ。」

「ふうん。」

 

 

ラーカイラム預かりでシャア大佐経由でネオ・ジオンから出向しているクェスとギュネイの会話。

 

 

「驚くのは無理もないよね、けど…君達だって該当する人物には会っているんじゃないのかい?」

「古代ムーの王女だった洸さんのお母様ですね。」

「ふうん、その様子だと王女様はご健在の様だね。」

 

 

話が脱線しつつあるので話を戻したアムロ。

 

 

「孫光龍、この惨状は貴方がやったのか?」

「そうだよ、奴らを放って置く訳にもいかなかったからね。」

「…地球が消えたのはお前達の仕業が?」

「それは不正解、実際にやったのは破滅の連中…ここで連中が戦力の増強をしていたから破壊しに来ただけだよ。」

 

 

光龍は『月から撃ち出す核兵器の無駄撃ちしなくてよかったね?』と付け加えた。

 

 

「俺達は地球を戻す手掛かりを失った、その件についてはどう責任を取るんだ?」

「それについては問題ないよ、そろそろ解決する頃だし。」

「何だと?」

「君達がノロノロとしている間にも僕らは地球いや銀河を守護する為の行動をしているのさ。」

 

 

嫌味を込めて光龍はアムロに返した。

 

 

「それと一言、言ってもいい?」

 

 

光龍は帽子の鍔で目元を隠すと口元をニヤリとさせながら告げた。

 

 

「君達ってさ、無能な上に役に立ってない…それにここに要る意味あるの?」

 

 

その言葉はその場に居た者達の逆鱗に触れる発言だった。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、隔離地球側。

 

南極エリアに位置する宇宙空間にて。

 

 

「人間にここまで追い詰められるとは!」

「…」

 

 

ルイーナが率いた部隊は壊滅し残存するのは二機のメリオルエッセ機。

 

パイロットである禿頭に眼帯を付けたアクイラと紫の包帯で全身を覆うウンブラが取り乱していた。

 

そう、たった二機の機動兵器によって壊滅状態に追い込まれたのだ。

 

 

「セプテンブルム…」

「!」

「その現象に関して私達には無意味。」

「そう、何の策もないまま…貴様らの前に現れたと思ったか?」

 

 

機動兵器の片割れに搭乗するハスミは彼らに係わりのある言葉を語った。

 

同じく傍に追従していたケイロンもまた意味深な言葉を告げた。

 

 

「まさか…!」

「鍵が無くとも開ける事は出来る……あるべき姿に戻せばいい事。」

「ハスミ、準備は?」

「ケイロン、いつでもどうぞ。」

「…承知した。」

 

 

互いに了承後、ハスミとケイロンはスフィアの力を解放した。

 

 

「これは一体!?」

「…理解不能。」

 

 

二機から発せられる力にその場に居たメリオルエッセ達は困惑した。

 

その力の根源は破滅の力と真逆に近いもの。

 

もしくはそれ以上のナニカである事を理解している様で事実上は不明での発言。

 

 

「この力を合わせ、今…この牢獄の結界の要たる要因を打ち破ります。」

「…新たな戦乱を呼び込むものかもしれんな。」

「ですが、この解放は彼らへ再起の時を訪れさせる為の行使です。」

 

 

サードステージに至ったスフィアの力を解放し二機はアートルム・エクステリオルを破壊した。

 

結界は罅割れた様に薄膜が弾け飛ぶ様に四散。

 

地球は太陽と朝を宇宙は青き星を取り戻したのである。

 

 

「馬鹿な!?」

「アートルム・エクステリオルが…結界が壊れた。」

「人間にこの様な力があったとでも言うのか!」

「見たもの聞いたもの感じたもの…それが今の結果です。」

「これぞ人類の反旗の時…今度は貴様らが狩られる番と知れ!」

 

 

早すぎる結界の崩壊。

 

それは更なる脅威を呼び込むかもしれない。

 

だが、志を共にする仲間達が地球へ戻りつつある今。

 

再起と反旗の時を迎える。

 

 

=続=

 




星の海で攻防する者達。

彼らに想いは伝わらずとも何時かの未来の為に。

私達は戦うだけ…

次回、幻影のエトランゼ・第六十九話 『願星《ネガイボシ》』


崩壊した結界、それは新たな戦乱を呼び込む。


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愉の付箋

道化は嘲笑う。

何も出来ずに藻掻く様を。

英雄に試練として与えた。

道化は道化らしく世界を欺こう。


引き続き、ヘブンゲートでの出来事。

 

光龍の発言によって周囲の空気がガラリと変わった。

 

 

「…どう言う意味だ!」

「言葉通りだよ、いい加減後手に回る癖…直した方が良いんじゃない?」

 

 

付け加えて『今まであの子が苦労して情報を集めて君達に流していたのにね。』と語った。

 

 

「あの人が今まで私達に情報を流して頂いていた事には感謝しています。」

「その様子なら彼らに無事会えたようだね?」

「はい、アキトさんもユリカさんも相変わらずでした。」

 

 

ルリの脳裏で『じゃーん、アキトとお揃い♪』といつものノリで能天気な発言をするユリカの様子を思い出していた。

 

ついでにアキトが同じ衣装(黒の王子版)を纏ったユリカの様子に呆れているシーンも含まれている。

 

 

「お二人ともまだ危機が終わった訳ではないと言って去って行きましたけどね。」

「ま、そうだろうね。」

 

 

大元が全部が片付いたわけじゃない。

 

何処かで繋ぎ合わされてまた災禍となる。

 

ややこしい終わり方をするしかないと言っていたあの子の苦労も解るよ。

 

 

「孫光龍、貴方はこれからどうするつもりだ?」

「ブライト艦長、僕はホルトゥスのメンバー…今回の命令は完遂したし古巣に戻るだけの事さ。」

「…」

「そっちに出頭して話を聞きたい…何て甘い考えは止めておいた方が良いよ?」

 

 

光龍は『場合によっては君達と一戦交えてもいいって許しは貰ってるからね。』と静かに答えた。

 

 

「状況を打開するならこちらと共に…」

「協力しろって?軍の飼い犬の様に首輪をまたあの子にさせるつもりかい?」

「それは…」

「今の状況じゃあ軍上層部はあの子の力を喉から手が出る程欲しがるだろうね。」

「…」

「それにあの子が君達の元から去った理由をもう少し考えるべきだね。」

 

 

結局はこうなる訳か。

 

あの子の言う通りだった。

 

彼らは混乱する情勢に対応しきれてない。

 

だからこそ目処前の強い力に惹かれる。

 

彼女の時も使うだけ使い古して用済みとした。

 

僕は彼らをまだ許せていないよ。

 

クロノの甘声に乗せられた連中をこの手でズタズタにするまでね。

 

 

「それとも君達はあの子の力がなければ何も出来ない無能者の集団だったのかい?」

 

 

光龍は最後に彼らを更に炎上させる言葉を告げた。

 

 

「そんな訳ねえだろ!」

「リュウ。」

「ハスミの親父さん、アンタが俺達を無能扱いするのは構わねえ…だけどよ、俺達も諦めた訳じゃねえ!」

「だったらどうするつもりだい?」

「辿り着いて見せるさ、アイツが…ハスミが伝えたかった真実に俺達は!」

「…(どうやら反旗の炎は消えていなかったみたいだね。」

 

 

彼はいいとして…

 

問題はアムロ・レイか…

 

あの子の言う通り、デブデダビデの精神攻撃が今も彼を蝕んでいる。

 

この様子だとシャア・アズナブルも危険か。

 

セフィーロでの治療で辛うじて繋ぎ止めているけど何時爆発しても可笑しくない。

 

早い内に回収した方が良いかもね。

 

 

「だったら精々足掻きなよ、この混沌とした世界で抗って貰おう。」

 

 

僕はもう間違えないよ。

 

あの子が指し示してくれた未来の為に。

 

過去の記憶に縛られるのは止めた。

 

前世の記憶にもなかった道筋を歩かせて貰うよ。

 

 

 

「抗いを見せた君達に助言だよ、ルイーナは各レイラインを拠点としている。」

「レイライン…!?」

「後は君達への宿題だよ…じゃ、再見。」

 

 

光龍はヒントを伝えると応龍皇と共に転移していった。

 

 

=続=



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第六十九話 『願星《ネガイボシ》』

それぞれが願う。

明日と言う名の未来を。

だからこそ戦う。

未来を勝ち取る為に。


前回の孫光龍の奇襲によりヘブンゲートは半壊し根城にしていたルイーナは増産した戦力の四分の三を失う事となった。

 

同時に次元断層によって地球侵略に踏み込めないゲストは月とコロニーの侵略を開始したものの予想もしなかった戦力に圧され敗走を余儀なくされた。

 

これはスカルムーン連合にも同様の事が起こっており、地球は支配を阻む星と誤認される結果となった。

 

だが、一筋の光が宇宙を煌めいた後に次元断層は修復され地球は元の宇宙へと帰還。

 

それぞれの場所で引き起こっていた情報整理の為に太陽系は一時期の混乱が巻き起こったのである。

 

宇宙収縮現象を止めたGGGと新生スペースナイツに外宇宙組の連合チームの帰還と共にノードゥスは再編された。

 

だが、現在も鋼龍戦隊の大統領殺害の疑惑が晴れた訳ではなく現在も反逆者の烙印を押されていた。

 

 

******

 

 

地球と宇宙の交信が復活してから二日後。

 

GGGの拠点であるオービットベースにて。

 

そこでは鋼龍戦隊以外のノードゥス関係者達が集結していた。

 

地上各所の防衛に当たる部隊は地球で待機中の為に全てではないが『修羅の乱』後の久しい再会である。

 

 

「では、ホルトゥスが大々的に表舞台に出て来たと?」

「ええ、そしてホルトゥスのリーダーはあのハスミ・クジョウ少尉との事でした。」

「…彼女が?」

「イティイティ島に避難している鋼龍戦隊が彼女と直接対話しています。」

 

 

オービットベースの司令室より大河長官並びにノードゥスの各部隊の上官が集まり情報整理を行っていた。

 

地上での状況を知る万丈の言葉に大河並びにブライトらは驚きを隠せていなかった。

 

 

「以前、エルザム少佐が提示されたオーダーファイルに寄れば彼女の一族はBF団の長であるビッグファイアと並ぶ何かを秘匿していたとの事です。」

「何かとは?」

「先史文明期の遺産との事です……それをガンエデンと呼称していたと記録にあります。」

「先史文明期か…ダ・ガーン君、地球の勇者である君は何か知っていないかい?」

 

 

司令室のモニターより格納庫で待機しているダ・ガーンに大河は質問した。

 

ルイーナの出現を期に再度の復活を遂げたダ・ガーンもその質問に答えた。

 

 

『遥か大昔、高度な文明を築いた人類は天から訪れた禍に対抗する為に四つの神々を作り上げた…その神々の名を総称しガンエデンと呼んでいた事に覚えがある。』

「神々か…その後はどうなったのかね?」

 

 

ダ・ガーンは自身が知るガンエデンの情報を大河達に伝えた。

 

ガンエデンには紅のバビル、蒼のアシュラヤー、白のナシム、黒のゲベルの四体が存在した事。

 

それぞれが巫女と呼ばれる器を必要とする事と地球の各所で塔を備えた神殿に秘匿されていた事。

 

ガンエデン自体が星を守護する存在である事を告げた。

 

だが、天から訪れた禍との最終決戦後の事は不明だと答えた。

 

 

『私達も禍を止める為に人類と共に立ち向かったが最後に力尽き…全てを見届けた訳ではない。』

「そうだったのか…」

「質問に答えてくれて有難う。」

『私は星史の命令によって答えただけだ。』

『ダ・ガーン、そう言う言い方すんなよ!』

 

 

真面目な部分は相変わらずの様で隊長である星史に突っ込まれていた。

 

 

「話を纏めるとクジョウ少尉はホルトゥスを指揮し何を起こそうとしていると思われる。」

「L5戦役時代からもホルトゥスの情報網には何度も救われていましたが…いきなり敵対すると思います?」

「まだ情報が少ない以上はホルトゥスを敵と認定するには少々問題がある。」

「…ホルトゥスの情報網は的確である上に開示速度も速いですからね。」

「おまけにこちらが解析不能だった情報の解決策も提示してますし。」

「本当に謎だらけデス。」

「パピヨン、君は何か感じたかい?」

「いえ、ただ大きな何かが地球へ迫っているのを感じた程度です。」

 

 

命らオービットベースの司令室クルーもそれぞれが口を濁した。

 

動揺に凱もまた心境を呟いた。

 

 

「あの時…レプリジンの護からパピヨンの命を救ってくれた手前、ホルトゥスの事を悪く言う訳にもいかない。」

「敵陣営からノードゥスへの参加者の多くはホルトゥスの情報と補助によって救われたものが多い。」

「我々ノードゥスに戦力を集結させる行動…彼女が行おうとしている事の一つなのかもしれない。」

「長官、オービットベースのシステムにハッキングです!」

「何だと!?」

「これは…!」

 

 

『ノードゥスの皆さん、お久しぶりです。』

 

 

「君はブルーロータス…!?」

 

 

ハッキングによりモニターに写された人物とはホルトゥスのメンバーでありリーダーの影武者であるブルーロータス。

 

彼女からの強制通信だった。

 

 

『我々ホルトゥスはルイーナに占拠された各レイラインの奪還に動きます。』

 

 

ブルーロータスは地球に点在するレイラインの位置を示した地図を提示する。

 

 

『そしてガイアセイバーズの思惑で大統領殺害の嫌疑を掛けられた鋼龍戦隊を解放する時でもあります。』

 

 

通信中の別枠でパリの大統領官邸にて負傷した姿のグライエン・グラスマンが無事であった声明と真の裏切り者はガイアセイバーズであると速報が発表されていた。

 

中継された会見の場にはブライアン・ミッドクリッドにトレーズ・クシュリナーダとルド・グロリアの姿も見受けられる。

 

 

『奇襲作戦と同時進行で外宇宙より行動中のゲストとスカルムーン連合はこちらで足止めを行っています。』

 

 

ブルーロータスは部隊を地上と宇宙に分けて二つの大規模作戦を提示した。

 

 

『行動を起こすかは貴方方次第、私は好機と呼べるこの時に情報を提示しただけです。』

 

 

ブルーロータスは最後に告げた。

 

 

『最後に当主より言伝です、どうか正しき決断が下る事を願いますとの事です。』

 

 

その言葉を最後にハッキングは途絶え、通信は途絶した。

 

 

「長官…」

「うむ、彼女が伝えた情報を無駄にする理由もないだろう…至急作戦会議を開く。」

「判りました、各関係者代表をミーティングホールへ案内します。」

 

 

大河は指示を出して作戦会議を開く旨を伝えた。

 

 

 

******

 

 

同時刻、天鳥船島。

 

立ち入り禁止区域の玉座の間では。

 

 

『希望通り、情報をノードゥスへ流しました。』

「ブルーロータス、言伝をどうもありがとう。」

『では、次のご指示があるまで待機しております。』

 

 

ハスミはモニターに映るブルーロータスに礼を伝えるとモニターを切り替えた。

 

そしてもっとも信頼する関係者達…ケイロン、カーウァイ、テンペスト、光龍、ロサ、ピート、クスハと共に作戦会議を執り行った。

 

 

「今から大規模作戦の会議を始めます。」

 

 

ホルトゥスはノードゥスに情報開示と同時にルイーナに占拠された地球各所のレイラインに奇襲を仕掛ける作戦に入る。

 

レイラインは前回の戦いで力を解放後…定期的に位置が変更しており、今回は南米、オーストラリア、日本、太平洋・ハワイ沖の四か所に移動している事が判明した。

 

これ以外のエジプト、イタリアの二か所は既に別の組織の部隊が交戦を開始し行動している。

 

ホルトゥスは残りの四か所へ部隊を分散し奇襲を行う流れとなる。

 

 

「…」

 

 

南米のエクアドル東海岸部…

 

そろそろ例のシナリオが訪れる頃か。

 

「クスハ、貴方はエクアドル東海岸のレイラインの奪還チームに入って。」

「判ったわ。」

「恐らく、位置的に鋼龍戦隊と鉢合わせになると思う。」

「大丈夫、私はブリット君を取り戻すまでは戻る気はないわ。」

「なら、心配ないわね。」

 

 

クスハ、そこでの戦いは貴方に酷な選択を強いる事になるかもしれない。

 

それでも貴方が立ち向かわなければならない戦い。

 

私は助言だけしか出来ないけれど無事に取り戻せる事を祈っている。

 

 

「これより、レイライン奪還作戦…作戦名シフルールを決行する。」

 

 

私は事前に立てていた作戦を決行する事に決めた。

 

各レイラインの奪還作戦。

 

そして来るべき決戦に備える為にも。

 

私は私自身に決断を下す。

 

 

「クスハ、もう一つ頼みがあるの。」

「何?」

「鋼龍戦隊と合流する時に連れていって欲しい子がいるの、おいでイルイ。」

「…」

「ハスミ、この子は?」

「この子はイルイ・エデン…私の遠縁に当たる子なの。」

「イルイちゃんね、よろしくね。」

「は、初めまして。」

 

 

私は激戦になる前に今世に置けるクスハとイルイの再会を遂げさせた。

 

イルイ、迷いを断ち切った貴方なら鋼龍戦隊やノードゥスを導いてくれる。

 

だから、来る日までお別れだよ。

 

 

=続=

 




それは願い、想い、望み。

想いだけでは届かない。

だからこそ手を伸ばす。

二度と手放さない様に。


次回、幻影のエトランゼ・第七十話 『逆鱗《ゲキリン》』


反撃の息吹を絶やすな。

それは意思の力の体現。


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契の付箋

それは古き契約。

それは確かな証。

だからこそ護らなければならない。

その先の願いの為に。



作戦決行を決定した私は各方面への出撃準備が整うまで彼と話し合っていた。

 

 

「浮かない顔だな。」

「ヴィル?」

「レイラインの奪還後…その後はどうするつもりだ?」

 

 

私は恐らく起こるであろう戦いの一端を説明した。

 

 

「ガイアセイバーズの悪行が明るみになった以上、それぞれが決着を着けるべき時が来ています。」

「お前は奪われた以上のモノを取り戻すつもりか?」

「いけませんか?」

「否定はしない。」

「私は自ら起こした戦いを放棄する事は出来ません。」

 

 

私はあの日…宣言した。

 

己の全てを賭して決着を着ける。

 

対面式の遊戯盤で駒を動かすように。

 

最後の一人に成り果てようとも戦う事を放棄する事はしない。

 

唯一の願いの為には自ら歩まなければならないから。

 

 

「願う事は誰にでも出来る…問題は叶える為に動けるかが重要。」

「…」

「私は幼き日より出来得る事をL5戦役から重ね続けていました。」

 

 

お前は何度も傷尽き倒れようとも手を伸ばし続けた。

 

これからもこの先の未来でもお前は手を伸ばし続けるのだな。

 

それが如何に過酷で修羅の道であろうとも。

 

 

「前にもお話ししましたが…同情なら必要ありませんよ?これは私自身が決めた事ですので。」

「…それは俺との約束に関係するのか?」

「はい。」

「ならば、忘れてはいないだろうな?」

「この世界で成すべき事を終えた時、貴方の片腕となる…でしたね。」

「その通りだ、偽りとは言え地球皇帝の名の元にお前はサイデリアルに組み込まれる事になる。」

「覚悟は出来ています。」

「後のZ-BLUEと雌雄を決す戦いと成してもか?」

「…彼らにはかつての友であろうとも戦う覚悟を持たせなければなりません。」

 

 

そう、いずれ毒の様に甘い声でエゴの塊である己の神徒へと導こうとするアドヴェントに対抗する為にも。

 

情け容赦なく戦う覚悟を…

 

 

「それに私はあのアドヴェントの性格は受け入れられませんので。」

「何故だ?」

「存在自体、気色悪いからです。」

「…」

 

 

私、ああ言うタイプって好きになれないんだよね。

 

真っ先に鳥肌立つって感じがする。

 

寧ろ顔面崩壊させてもいいですか?ってレベルでボコりたい位です。

 

世の乙女達はどうかは知りませんが…

 

 

「それに私はヴィルの方が…」

「俺が何だ?」

「…お慕いするに値する方と想っています///」

 

 

今は語れない。

 

この願いは諸刃の剣。

 

愛していると言う想いすらも敵に悟られてはいけない。

 

彼の足枷になってはいけない。

 

私は彼の為に戦う武器であり鎧であればいい。

 

 

「ハスミ、お前が何を考えているのか俺には解らんが…己を犠牲にする事だけは止めろ。」

「…ヴィル?」

「前世におけるヒビキ・カミシロの母親の選択がヒビキ自身に何を齎したのか判っているだろう?」

「…はい。」

「救う為とは言え、死を持っての犠牲は助けたものへの枷となる。」

「…」

「死と言う犠牲はお前が求めた結末ではないだろう?」

「理解しています。」

「ならば、先の約束に追加事項を告げる……決して死に至る犠牲を行わないと誓え。」

「それは貴方も同じです、ヴィル。」

「ハスミ…」

「私達は誰一人欠けずにあの戦場に皆を導かなければならないのですから。」

「そうだったな。」

 

 

契約による誓いは互いを縛る枷。

 

だが、枷は時によって引き留める役割を担うのだ。

 

 

=続=

 



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第七十話 『逆鱗《ゲキリン》前編』

龍の逆鱗に触れる。

虎の尾を踏む。

どちらも怒りの源。

さあ、反撃の時である!


ブルーロータスによって提示された大規模作戦の一案。

 

それは前回のGGGだけではなくノードゥスに関係する組織全てに伝達された。

 

既に各地のレイラインへ展開するルイーナと交戦を開始したホルトゥス。

 

地球連合軍・統合参謀本部はこの期を逃す必要はないと判断し漁夫の利に乗る事を決定した。

 

そして元帥であるギャスパル・ギラン氏は腹心であるダニエルの疑問に答えた。

 

 

「元帥…何故ホルトゥスの思惑に加担するのですか?」

「私の過去の贖罪と言えば判るか?」

「過去の贖罪ですか?」

 

 

ギャスパルは告げた。

 

ホルトゥスは歴史の影より世界の闇と膿を葬ってきた組織。

 

当時、その組織には政財界の闇の根源を葬ってきた『鬼神の漣』の姿もあった。

 

十数年前の私は表、漣は裏から世界を牛耳ろうとした。

 

だが、ある日…奴の娘が孫諸共暗殺されかけた。

 

孫の方は娘が身を挺して救った為に命に別状はなかったが娘の方はそれが原因で亡くなった。

 

その手を下したのは当時の私の部下達。

 

私自身が部下を御せなかった事と部下達の思想の行き違いによって起こってしまった事件だった。

 

娘の死後、漣は私とのバイパスを断ち切りホルトゥスは影へと消えていった。

 

以降、旧連邦軍は退廃と汚職に塗れる事となった。

 

後のL5戦役と呼ばれる戦乱が起きるまではな。

 

 

「まさか…L5戦役が近づく中で旧連邦の内部改革が急速に進んでいたのは?」

「再び、ホルトゥスが活動を再開した証でもある……かつての志を折らずにな。」

「…」

「私も出来得る限りの活動に目を瞑っていたのはその為だ。」

「自分達の偉業が世に示されなくても…ですか?」

「そうだ、表向きは連合軍が事を鎮めたと言う事にするのもホルトゥスが自由に動く為の免罪符。」

 

 

手柄はそちらに与える。

 

今後の自分達の活動には手を出さず時折は協力しろと言わんばかりにな。

 

 

「…規律を重んじる軍とは相寄れないでしょう。」

「いや…我々は規律で結束を生む、ホルトゥスは自由によって結束を生む……形は違えども理にかなっているだろう?」

「閣下がそう仰るのなら。」

 

 

腑に落ちない表情でダニエルはギャスパルに返答した。

 

ギャスパルは不敵な笑みで更なる回答を伝えた。

 

 

「それに我々が苦労せずともガイアセイバーズの悪行を世に知らしめたではないか?」

「グライスマン大統領の生還を含めてですが……如何しますか?」

「奴が復帰したとしても政治の道を踏めんよ…奴にはガイアセイバーズ設立の罪を償わなければならんのだからな?」

「…自滅も近いと?」

「そう言う事だ、次の大統領の席に座する人物にも心当たりがある。」

「…(もしや、この事を見通していたと?」

「だが、全てが終わった訳ではない…ジェイコブ、鋼龍戦隊の罪状を撤回しガイアセイバーズ追撃の任に就かせろ。」

「了解しました。」

「彼らには今日まで道化を演じさせた事もある…少し色を付けても構わんぞ?」

「と、仰いますと?」

「ノードゥスへ部隊ごと再編させ対処させても構わんと言う事だ。」

「その方が彼らを自由に動かせると?」

「無論、ノードゥスに参加させた場合の命令系統が少々厄介な事になるがな…」

 

 

現在のノードゥスは国連安全保障理事会と地球防衛軍、地球連合軍の三か所からの同時承認式命令系統となっている。

 

一例として一方が命令を出した場合、他の二方からの了承を得なければ命令を下せないと言うもの。

 

一時期、横暴な命令を下した各軍上層部を牽制する為に出された案件である。

 

これによりノードゥスは特異な命令系統を持つ部隊へと変わったのだ。

 

 

「だが、取れる獲物の数は多い方が得と言うものだ。」

 

 

ギャスパルは不敵な笑みのまま告げた。

 

 

>>>>>>

 

 

一方、その頃。

 

 

「あの、狸親父め…」

 

 

私ことハスミは現在、クスハ達と共に指示を出した南米の戦場へと向かっていた。

 

 

「ハスミ、どうかしたの?」

「リアルタイムで軍上層部が鋼龍戦隊への追撃の任を解いたらしいわ。」

「本当に!」

「このままノードゥスに再編される形になりそうよ。」

「よ…良かった。」

 

 

通信越しから安堵の表情で答えるクスハ。

 

 

「でも、まだ終わった訳じゃないわよ?」

「えっ?」

「鋼龍戦隊は自身の汚名を晴らす為にガイアセイバーズを追う任を与えられたわ。」

「そうなるよね…」

「ガイアセイバーズの主幹であるアルテウル・シュタインベックを拘束しなければ完全に汚名は晴れない。」

「ハスミ、皆…大丈夫よね?」

「大丈夫、ノードゥスに再編する事が決まっているのだから鬼に金棒よ。」

「そうよね?」

「早い所、南米のレイラインの奪還を済ませないといけないわ。」

「ええ。」

 

 

クスハ、これから貴方に試練が訪れる。

 

どうするかは貴方自身が決めるのよ?

 

超機人の操者に選ばれた意味をその理由を知る事になるのだから…

 

私はその試練を見守るだけよ。

 

 

「クスハ。」

「ハスミ、どうかしたの?」

「超機人に乗る意味を考えた事はある?」

「乗る理由?」

「長き時の中で彼らは歴代の操者と共に戦い、別れ、その意思は受け継がれていった。」

「…」

「超機人は意思を持ち生きている、その意味が如何言う事なのか…南米のレイラインに着くまで考えて置いてほしい。」

「判ったわ。」

 

 

その問いの答えを知った時、本当の意味で貴方は真の超機人達の操者となる。

 

如何か、夏喃の策略に惑わされないで。

 

もしも夏喃の策に嵌ってしまったのなら私は貴方を見限るしかない。

 

アカシックレコードとはそう言う約束だから。

 

 

「…ここで二手に分かれましょう。」

「ハスミ、どうしたの?」

 

 

ハスミは発言に尋ねるクスハ。

 

 

「予想以上にルイーナの破壊活動範囲が広い……一度分散させて彼らへの活路を開かなければならない。」

「だったら一緒の方が…」

「クスハ、私達はホルトゥス……連合軍じゃないのよ?」

「あ…そうだったわね。」

「破壊活動範囲に連合の基地がある、私とクスハはそこへ向かう…残りは南米のレイラインへ向かってください。」

「了解した、そちらも無理は禁物だぞ?」

 

 

移動道中で同行していた加藤機関のシャングリラと別れ、私達は南米のエクアドル基地へと向かった。

 

 

「ハスミ、一体何が?」

「…奴らの気配を感じる。」

「それって…!」

「クスハ、バラルが近くに居る……恐らくは奴らも連合の基地に向かっていると思うわ。」

「一体どうして。」

「判らないけど…そこに何かがあるのかもしれない。」

 

 

不安が過る中で私達は目的の基地へと向かうしかなかった。

 

 

=続=

 




龍の逆鱗に触れる。

虎の尾を踏む。

どちらも怒りの源。

選ばれし操者と志を共に。

前へと進め。


次回、幻影のエトランゼ・第七十話 『《ゲキリン》後編』


さよならは言わない。

これは一時の別れである。


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第七十話 『逆鱗《ゲキリン》後編』

魂魄を喰らう者。

暴虐の化身。

それは一つの例外で覆される。

本当の主は誰なのかを…


前回、航行道中で協力者である加藤機関のシャングリラから離脱。

 

南米・エクアドル東方面より上陸した私とクスハ。

 

移動中にも襲撃を仕掛けるルイーナの部隊を潰しながら目的地のエクアドルの基地へと向かった。

 

だが、既に想定していたシナリオは覆されていた。

 

 

******

 

 

「ハスミ、アレは!?」

「…っ(既に動かれていた様ね。」

 

 

基地の防衛部隊は既に壊滅状態。

 

そして六方から妖機人に囚われたアルトアイゼン・リーゼとライン・ヴァイスリッターの姿があった。

 

何度か撃墜している様だが、符術による連続再生の罠に嵌ってしまっている状況。

 

ルイーナの軍勢は既に撤退した様子からレイラインの防衛に戻ったと見ている。

 

そして雀武王、黒い虎王機に見慣れない超機人が二体出現していた。

 

 

「来たね、アシュラヤー・ガンエデンと青竜の少女。」

「夏喃…やはり今回の一件を先導したのは貴方の仕業か。」

「あの時は君の約束を守ったが、今回はそうはいかない。」

「キョウスケ中尉達はその為の人質か?」

「察しがいいね、君の推測通り…彼らは大事な贄さ。」

「ハスミ…」

「…条件を聞きましょうか?」

 

 

この巨乳ハンターは何処までも救いようがない。

 

既に四凶が出ている時点でキョウスケ中尉達の魂魄が狙われているのは確実だな。

 

 

「条件自体は察していると思うが、君の身柄と青竜の少女だ。」

「成程、ゴリ押しで四凶を出したのもその為か?」

「ホッホッホ、四凶の事も光龍の入れ知恵ですかな?」

「四凶?」

「クスハ、前に超機人にクラスがあるのは教えたわね?」

「うん。」

 

 

超機人には順に四霊、四凶、四罪、四神の四つのクラスが存在する。

 

中でも百邪に下った超機人が四凶と四罪の二つのクラスなの。

 

四凶の超機人は操縦者を喰らい、四罪は機人を喰らう。

 

超機人の中では扱いにくく開発後に百邪へと堕ちたらしいわ。

 

そして四凶の超機人は操縦者を喰らう事から『暴虐の超機人』と呼ばれているの。

 

 

「そんな超機人が存在していたなんて…」

「四凶と四罪の元となった神話生物は『善から悪に寝返った。』と『元から悪だった。』って言う逸話がある位だし。」

 

 

ハスミは『何でそんなものまでも創ったのか当時の人達が居たらをシバきたいと思ったわ。』と告げて説明を終えた。

 

 

「そう、だからこそ…元の位置へ戻す為に僕らが枷を加えて使役しているのさ。」

「枷か……(奴の中に内包された魂魄達を解放する為にも倒すしかないけど。」

「して、アシュラヤー様…どうなされますかな?」

 

 

泰北の回答に対して元から決めていた答えをハスミは告げた。

 

 

「答えは…拒否する。」

「な!?」

「ホッホッホ、切り捨てたお仲間を捨てると?」

「クスハ、私達が援護する…今の内にキョウスケ中尉達を!」

「判ったわ!」

 

 

たった二機だけでこの地を訪れた訳じゃない。

 

アシュラヤー・ガンエデンを守護する番人達は引き連れている。

 

さあ、アフ達の出番だ!

 

 

「この状況でも神僕ではなく神僕の模造兵らを引き連れてくるとは…」

 

 

夏喃は不服な表情でハスミらの出方を伺っていた。

 

エクリプスの後方に現れた鳥人のトフェル・アフ、人魚の二ヴ・アフ、獣人のラアマー・アフと呼ばれる機動兵器群。

 

それらはハスミの指示に従ってクスハを援護する為に対応した。

 

永続トラップに嵌っていたキョウスケらもクスハ達の援護で何とか離脱。

 

だが、予想以上の攻防戦で機体の武装類を使い尽くしていた。

 

 

「キョウスケ中尉、エクセレン少尉、大丈夫ですか!?」

「クスハとハスミか…」

「二人ともありがとう、グッドタイミングだったわよ。」

「良かった…」

「お二人とも相変わらずの様子ですね。」

「キョウスケの悪運が私にも移ったのかも?」

 

 

救助に成功したキョウスケ中尉らのいつものやり取りの後に私は話を戻した。

 

 

「ハスミ、状況は?」

「ブリットは変わらず奴らに洗脳されたまま…数は四機ですが、残りの二機には注意が必要です。」

「うーん、ハスミちゃんが連れて来た部隊があっても厳しいの?」

「今回はショメル達を引き連れていないので時間稼ぎ程度と思ってください。」

「ショメル?」

「アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の護衛の総称です。」

「ああ、あの三体のカワイ子ちゃん達ね?」

「…」

「あら…じょ、冗談よ。」

「ハスミ、ブリットの救助に心当たりは?」

「何度かこちらで接触し揺さ振りを掛けて来たので頃合いかと。」

「了解した。」

「ハスミ。」

「クスハ、今が頃合いよ…ブリットに貴方の想いをぶつけなさい。」

「うん、判ったわ。」

 

 

その後、私はクスハを援護する為に二機の四凶、キョウスケ中尉らは雀武王へ対応する形となった。

 

残りの妖機人らは引き連れて来た部隊に任せて置いてある。

 

後はクスハとブリットの戦いに水が差されない様に相手をするだけだ。

 

 

「それにしても…」

 

 

饕餮王、B級ホラー並みに顔がキツイし内包された気配が…吐き気がしてきた。

 

奴に喰われた魂は輪廻転生が出来ない。

 

その魂は次第に穢れてまつろわぬ霊と化す。

 

あれではネシャーマ製造機と言われても可笑しくないわね。

 

不念の溜め込み具合から察するに暴発寸前。

 

…これはバアルの仕業か。

 

窮奇王も居るけど、残りの二体が破壊された状態だったのは救いかもしれない。

 

あんなものが世に解き放たれたら地球がネシャーマだらけになってしまう。

 

最悪の場合、この世界もバアルの闇に飲まれていたかもしれない。

 

 

「…本当に厄介な。」

 

 

四凶の二機はより強い念動の魂魄に惹かれていた。

 

私自身が囮を買って出たのはこの為だ。

 

奴らは夏喃達の命令には逆らえない様に枷をされている。

 

だが、その枷すらも外しかけていた。

 

奴らに内包された負の念がバアルの気配と反応し相乗効果を生み出していた。

 

何時首輪を外せても可笑しくない位に…

 

 

「キョウスケ…どうして今頃になってハスミちゃん達が私達に接触してきたのかしら?」

「恐らく、俺達が大統領暗殺の件で不問になったからだろう。」

「それもあるけど…」

「クスハがブリットを取り戻す為の手助けをしている様にも思える。」

「まあ、廻り巡って私達も助けられちゃってるけどね。」

「だが、ハスミは文字通り…助ける為に俺達から離れたのは事実だ。」

「そうね、まあ…元気に部下の子達の指示もちゃんとしている様だし。」

 

 

キョウスケとエクセレンが会話を続ける間。

 

ハスミが引き連れたアフ達の一部がアルトアイゼン・リーゼとライン・ヴァイスリッターの補給物資を提供していた。

 

元々ATXチームに在籍していた頃にこの関係の書類も扱っていた関係もあったのか用意周到とも思える。

 

ちなみに各機の弾倉サイズから補給に必要なEN量もピッタリであるオチが付いていた。

 

本人曰く『節約&貧乏性が…』と嘆いていたのはまた別の話である。

 

 

「貴方達もありがとね。」

 

 

補給を終えたエクセレンは補給を行ったアフ達に冗談交じりでお礼を告げたが…

 

了承の意なのか、関わった三機が「「「…(ペコリ」」」」とお辞儀だけ返す反応を見せていた。

 

 

「あらーお辞儀してくれるなんて礼儀がいいのね。」

「話はそこまでにして置け。」

「そうね、第二ラウンドと行きましょうか?」

「ああ!」

 

 

補給を終えた二機は再度雀武王に対峙した。

 

引き続き、激戦を繰り広げる龍人機と黒い虎王機。

 

 

「ブリット君、今日こそ貴方を救って見せる。」

「…」

 

 

龍人機は如意金箍棒を構えて対峙するが対人戦闘で不利な状況は続いている。

 

スピードを生かした戦法に関しては虎王機が有利である為だ。

 

これは元々龍王機が所持していた身分身の術の符を虎王機に渡してしまった事にある。

 

旧西暦の第一次世界大戦頃に起こったバラルとの戦いで当時の操者達が窮地を脱する為に行った。

 

結果的に龍王機は身分身の術を永劫使えない事を承知で符を虎王機に譲った。

 

もしも龍人機が身分身の術を使えていたならばクスハ自身で窮地を脱していただろう。

 

 

「…(動きが速い、私だけじゃ動きを捉え切れない。」

「…」

「龍人機?」

「…」

「判ったわ、その手で!」

 

 

クスハは戦闘前のハスミの助言通りに龍人機と連携を取って虎王機を待ち構えた。

 

『貴方は一人で闘っている訳じゃない、パートナーを信じて。』と言う助言と共に。

 

 

「…」

 

 

動きを止めた龍人機に対して再び突撃攻撃を仕掛ける虎王機。

 

だが、思いもよらぬ戦法で反撃される事となった。

 

 

「ノリコとベンケイ君直伝!如意金箍棒ホームランっ!!」

 

 

L5戦役の頃、クスハは健康器具の普及を兼ねて二人の野球の練習に付き合っていた事がある。

 

その時のクスハの記憶を龍人機は覚えていた様で反撃の糸口にと一案で告げたのだ。

 

まさかの提案に驚いたクスハであったが、相手の意表を突く攻撃である事に変わりはないので了承。

 

その一撃は見事に虎王機の頭部に直撃したのである。

 

見事なクリーンヒットで怯む虎王機。

 

 

「ブリット君、お願い戻ってきて!」

「…ぐっ。」

 

 

同じ様に言葉を告げるキョウスケ達。

 

 

「ブリット!」

「ブリット君!」

 

 

その言葉に揺らいでいる様子も続いていた。

 

 

「クス…ハ。」

「ブリット君!」

「…」

 

 

しかし、術の効果で引き続き攻撃を仕掛けようとした様子にハスミは…

 

 

「クスハ、悪いけど前に話した通り…言わせて貰うね。」

「う、うん…」

 

 

ハスミは事前にクスハへ断りを入れてからブリットに告げた。

 

 

「好きな子を泣かせておいて正気に戻らないヘタレ男。」

「!?」

「最低、男の風上にも置けない奴…万年ヒヨコ、だからまるで駄目な男…略してマダオって言われるのよ。」

「は、ハスミちゃん?」

「始まったな。」

「虎王機、いい加減にしないとマタタビ宜しくで猫王機と改名しますけど?」

 

 

ハスミの毒舌は洗脳されたブリットだけではなく虎王機にも広まっていた。

 

その鋭さは普段の倍以上であり、グッサリと一人と一機の心に突き刺っている。

 

元ナシムの傘下とは言え姉に当たるアシュラヤーの言葉の苛烈さは恐ろしいものである。

 

その様子に二機の四凶と雀武王も動きを止めていた。

 

 

「「…」」

 

 

「何だい、この茶番は?」

「フオッホッホッホ、アシュラヤー様も中々の活舌であらせられるな。」

 

 

何とも言えない表情で夏喃らは感想を告げた。

 

 

「ハスミ、その辺にして置け…」

「そうよ、ブリット君達が相当落ち込んでる様子だし?」

「済みません、少々失言でしたね。」

 

 

ここでは言えない毒舌の数々ををブリットに演説したハスミ。

 

その様子にキョウスケらもブリット達が不憫だった様で止めに入った。

 

洗脳の術を覆す程の精神ショックは洗脳を解く為に必要な事だったが、当のブリット達には脱力で気力50までに下げられた状態までに陥っていたのである。

 

ハスミは失言しすぎたと反省し残りの説得をクスハに委ねた。

 

 

「ブリット君、私の事が判る?」

「…」

 

 

クスハ達は洗脳と正気の狭間に立たされたブリットと虎王機に説得を続けた。

 

どうか戻ってきて欲しいと『大好き』と言う感情を込めて。

 

 

「そろそろ下らない茶番は終わりにしようか?」

 

 

だが、空気を読まずに手を下す者が居る事を忘れてはならない。

 

夏喃は動きを止めた四凶を引き戻し、再度攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

饕餮王と窮奇王に異変が起こったのである。

 

 

「む、いかん!」

「!?」

 

 

その様子を察知した泰北だったが、時既に遅し…

 

神仙の枷を外し雀武王に喰らい付く饕餮王。

 

 

「夏喃っ!」

「ハスミ、あの人が!」

「…くっ!」

 

 

予想以上にバアルの行動が早かった。

 

饕餮王の飢餓を増幅させるなんて…

 

これでは無尽蔵に命あるものを喰らい尽くす。

 

ルイーナの絶望収集を防いだ結果がこれか…

 

無限力の介入があったとしてもやりすぎにも程がある。

 

 

「…」

 

 

饕餮王は雀武王の一部を喰い千切ると咀嚼音を響かせながら後退した。

 

どうやら夏喃は逃げ遅れたらしい。

 

奴は増幅された力で夏喃の念動をも吸収して離脱を防いだ様だ。

 

片方の操者を失った事で雀武王の動きも停止していた。

 

夏喃を失い、意気消沈する泰北にハスミは静かに答えた、

 

 

「…夏喃。」

「泰北、何故…四凶を黄帝獄から解き放った?」

「アシュラヤー様…?」

「奴らが黄帝獄に繋がれた理由は単に凶暴性だけの問題じゃない事は貴方も知っていた筈。」

「…」

「奴らはその属性故に負念の力を受ける器と化していた…だからこそ黄帝獄へ永久に封印する必要があった。」

「生生流転…ワシらは判断を見誤っただけの事、アシュラヤー様が常々仰られた通り…ワシらは事を急ぎたのじゃ。」

「貴方達が話していた大邪を滅ぼす為の行いですか?」

「己が宿命の歪み…ワシもまた弟子の夏喃や部下の禁牙を静止しなかった事への罰なのでしょう。」

「…」

「アシュラヤー様同様にナシム様もまた己の剣を見定めた、ワシらの様な古き思想は消えるべきなのでしょうな。」

「…(相変わらず考え方は仙人そのもの。」

 

 

生きる力を見失う事は死する力へ引きずり込まれる前兆。

 

私は腹を括って告げた。

 

 

「ならば、泰北いやバラルに告げる……我が傘下へと集え!」

「な!?」

「己の罪を認めるのなら新たな思想と新たな剣が目指す未来をその目で見届けよ!」

「アシュラヤー様…」

「人界へ齎された禍を…大邪を打ち倒す為にも貴方達の力は必要だ。」

 

 

ハスミの宣言に驚愕する泰北だったが冷静に戻ったと思いきや大笑いを始めた。

 

 

「フ…フォッホッホッホ! それも善哉!」

「…(やっぱり、拒否されたかな?」

「フワッハッハッハッハ!! 善き哉、善き哉!!」

「泰北。」

「これもワシらに架せられた天命なのかもしれませんな?アシュラヤー様…この泰北、バラルと共に新たな思想を求めて力を貸しましょう。」

 

 

その様子を伺ってたキョウスケ達もまた驚きを隠せなかった。

 

 

「えっと、つまり…味方になってくれたって事?」

「その様子らしい。」

 

 

泰北は改めてクスハに告げた。

 

 

「青龍の少女よ、白虎と青年の枷は外された……今こそ必神火帝・天魔降伏の時!」

「は、はい!」

 

 

促されたクスハは真言を唱え無敵青龍を顕現する。

 

 

「必神火帝!天魔降伏っ!!」

 

 

黒から白へと戻った虎王機と共に龍虎王は復活を果たした。

 

 

「無敵青龍!龍虎王!顕現っ!!」

「クスハ、俺は…」

「ブリット君、今は!」

「ああ、奴らを倒すぞ!」

 

 

 

これまでのやり取りで動きを封じていたアフ達も饕餮王と窮奇王の猛攻に耐え切れず、出撃した三割が撃破されていた。

 

 

「泰北、無茶を承知で言います……まだ戦えますね?」

「ですが、朱雀の操者を失った以上は無理強いは出来ませぬぞ?」

「一時的とは言え念者が一人要れば済むと言う事で宜しいですか?」

「アシュラヤー様、もしや?」

「私が一時的に代わりになる、今は四神の力を合わせる時です。」

「ならば、神農炎帝、来護我身、此刀一下、何鬼不走、何病不癒、急々如律令。」

 

 

泰北はハスミの考えを察して装符修復の真言を唱えた。

 

ハスミは念神エクリプスを異空間へと戻し、再生した雀王機の操縦席にテレポートする。

 

 

「…」

 

 

雀王機、貴方の選んだ操者を救えなくて御免なさい。

 

今は奴らを打ち倒す為に力を貸して欲しい。

 

いつの日か、貴方が再び志を共にする操者と出会う為に。

 

その時こそ人界を守護する超機人として立つ為にも!

 

 

「…」

「ありがとう、雀王機。」

「アシュラヤー様、往きますぞ?」

「頼みます。」

 

 

同じく真言を唱える。

 

 

「必神火帝!」

「天魔降伏!」

「武雀王、顕現っ!」

 

 

再起した武雀王の姿にクスハは驚くが、ハスミはそれを静止し連携の合図を送った。

 

 

「えっ?」

「クスハ、こちらと合わせて!」

「わ、判ったわ。」

 

 

龍虎王、アルトアイゼン・リーゼ、ライン・ヴァイスリッターが囮役を呈している間に武雀王は必殺技の形態へと変貌する。

 

 

「玄天大聖、後玄武避万鬼。」

「紛維衝天!上元天都東北方振動!天門忽開!」

「玄天衝天砲!!」

 

 

饕餮王と窮奇王を砲撃の着弾点へと移動させたのを見計らい発射。

 

 

「神州霊山! 移山召喚! 急々如律令!!」

 

 

着弾と同時に龍王移山法ことマウンテン・プレッシャーで動きを封じる。

 

 

「四神の力、今こそ合わせる時!」

「四心合一! 一意専心!」

「これぞ奇跡の象徴!」

「四神招魂・龍虎王!!」

 

 

四神の力を合わせ、四神は一つの神となった。

 

 

「龍王破山剣!」

「黒蛇刀!」

 

 

「「龍雀一閃!!」」

 

 

 

「虎王神速槍!」

「玄天衝天砲!」

 

 

「「虎玄撃砲!!」」

 

 

逆鱗と黒蛇の一閃が。

 

槍と砲撃の一撃が。

 

饕餮王と窮奇王を切り裂き撃ち貫く。

 

四凶とその内に潜んでいたバアルの闇は今一度因果地平の彼方へと葬られたのである。

 

 

******

 

 

青龍と白虎が再び集い。

 

再会を喜ぶ二人の姿があった。

 

 

「ブリット君、お帰りなさい。」

「ただいま、クスハ。」

 

 

饕餮王と窮奇王の暴走、そして夏喃の死。

 

これはバラルにとって大きな痛手でもあった。

 

弟子の死と二体の四凶の破壊を持って泰北はバラル代表として降伏を宣言。

 

後に話し合いの場へ訪れる事を告げると武王機、雀王機を回収しその場を去って行った。

 

ハスミは後続の部隊と合流し、その言葉を聞き届けると約束を果たす為に同じ様に去ろうとしていた。

 

 

「ハスミ…」

「クスハ、約束は約束よ。」

「…行ってしまうのね。」

「私の役目の一つは終わった…残りの役目を果たす為にも行かなければならないから。」

「お姉ちゃん…」

「クスハ、イルイの事をお願いね。」

「判ったわ。」

 

 

ハスミはそれを告げると残存していたアフ達を引き連れてその場から撤退した。

 

龍虎王の手に先程の後続の部隊と共に移動してきたイルイを託して…

 

 

「クスハ、何があったのか聞かせて貰えるか?」

「はい。」

「クスハちゃんお帰りなさい…ブリット君もね。」

「はい、只今戻りました。」

「キョウスケ中尉、俺のせいで色々ご迷惑を掛けたようで…」

「その件も含めて話は戻ってからだ。」

「はい…。」

 

各地のレイラインも同じく奪還に成功しルイーナの軍勢は南極へと追いやられる事となった。

 

そして宇宙で展開された戦いもまた終息の道を辿っていた。

 

 

******

 

 

エクアドルでの一戦を終えた夜の事。

 

天鳥船島内・庭園の一角にて。

 

 

「まさか黄帝獄に繋げていた四凶を解き放つとはね…」

「代償として夏喃はバアルによって力を付けた饕餮王に喰われました。」

「ま、身から出た錆って事だよ。」

「残った四凶の破壊と夏喃の死を持って…泰北からバラルの降伏宣言を受け取りましたよ。」

「雀王機の操者を失った以上は老師も下手な博打を打たないだろうね。」

「残りはルイーナとガイアセイバーズ…そしてゲストを含めた他勢力だけです。」

「で、今後の動きはどうするのかな?」

「少々、ノードゥスには茶番に付き合って貰います。」

「茶番?」

「ええ、内部に入り込んだ毒物を絞り出す為の茶番にです。」

 

 

光龍と話す中でハスミは静かに告げた。

 

 

「私は彼らの元には戻りませんし…いい加減、ノードゥスには危機感を持って貰わないといけないので。」

「言い方が悪いけど楽しんでいないかい?」

「まあ、少しばかりは。」

「…(敵に対して悪辣なのは彼女譲りだよ。」

「彼も茶番の提案には満更でもない様子ですので。」

「やれやれだね。」

 

 

『困った子だ。』と呟きながらも提案に乗った光龍。

 

 

(この世界を蝕む真の敵とは何なのか?そろそろ思い知った方がいい…ノードゥスそして鋼龍戦隊。)

 

 

目を伏せたままハスミは夜天を見上げた。

 

 

=続=

 




明日を求め集う絆。

彼女は護る為に拒絶する。

いつの日か繋がる道の為に。


次回、幻影のエトランゼ・第七十一話 『拒絶《キョゼツ》』


茶番は真の真実を曝け出す。



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酔の付箋

今宵だけは酔いしれる。

願うは明日の為に。

その前夜に酒を酌み交わそう。

成功を祈って。





お酒を嗜むのは何時振りだろうか?

 

前世では普通だったが、今世では未成年の身だった事もあり出来なかった。

 

軍属ともなれば規律も厳格になる。

 

大人連中に関しては緩和されているが、そう言う事はキッチリしていた。

 

この世界では高校卒業を迎えた十八歳が成人と法律改正が十数年前に出されている。

 

なので、前世の世界での二十歳を成人基準としていない。

 

L5戦役から約三年の経過…やっと十九になるのだと実感していた。

 

私ことハスミは天鳥船島の庭園の一角で彼と酒を飲み交わしていた。

 

 

******

 

 

「酒は嫌いか?」

「いえ、余り嗜んでいなかったので。」

 

 

私はクスハ達と別れた後、彼と酒を酌み交わした。

 

この転生した身体で酒を嗜むのは初めてであるのは変わりない。

 

 

「前世では逆だったと?」

「寧ろ楽しむ程度に嗜んでいましたよ。」

「そうか…」

 

 

満月や月の季節に月見酒をする為にわざわざお気に入りのお酒を探した位だ。

 

一人暮らしだったからこそ邪魔されずに楽しめた趣味の一つでもある。

 

 

「それも地球の酒か?」

「はい、梅酒って言います。」

「梅?」

「梅と言う果実を漬け込んだものです、梅と言っても色々調理法がありますけどね。」

 

 

良く洗った梅を専用の瓶に氷砂糖、白砂糖、梅を層になるように入れ、最後にホワイトリカーに漬け込んだものが梅酒。

 

この白砂糖を黒砂糖やキビ砂糖に変えるとまた違った味わいになる。

 

逆にリカーを入れずに傷が付いた梅に爪楊枝でいくつか穴を開けて、専用の瓶に砂糖と氷砂糖と一緒に入れて一日毎に数回瓶を振り続けるとシロップになる。

 

要はアルコールが入っているかいないかの違いであるが…

 

 

「梅の実が金色の海に沈んだ月の様でよく飲んでました。」

「俺のとはまた違うのか?」

「同じお酒でも材料が違いますね、ヴィルのは焼酎ですし。」

「焼酎?」

「芋や麦を原料とした酒の一種で先の梅酒とは熟成方法が異なります。」

「以前、渡された冷酒とは違うのだな?」

「それは米が主な原料ですから。」

 

 

そうかと呟くと焼酎の入ったグラスを飲み干した。

 

どうやら度数の高い酒が気に入った様子らしい。

 

ちなみに出したのは予め前割りした焼酎である。

 

それに伴い用意したお酒に合うお供も少なからず無くなっていた。

 

チーズと塩辛、ナッツは万能だったりするが…

 

彼はホタテのわさび醤油漬けが気になっている。

 

あのガイオウはジャンクフードが好みだったけど、ヴィルの様子を見て…次元の将の好みは様々であると改めて知れた。

 

 

「所でハスミ、酒だけの席で俺を呼び寄せた訳ではないのだろう?」

「勿論です、用件は例の茶番についてです。」

「あの件か。」

 

 

私は梅酒を軽く一飲みした後、話を続けた。

 

 

「茶番…現在ノードゥスが次の作戦の為に伊豆基地へ帰港しています。」

「次の作戦?」

「はい、その多くは前回の戦いと同じくパワーアップが目的ですけどね。」

「お前が話していた最終決戦の刻が近いと?」

「ええ、これまでの活動でオルファンは無事に宇宙へ、木星帝国の地球滅亡計画の阻止、異星人連合の瓦解、ミケーネ及び復活した地下帝国連合の壊滅と必要な事案は防ぎました。」

「残るはガイアセイバーズ、ルイーナ、ゲストの三勢力か?」

「いえ、プラントのギルバート議長がデスティニープランの宣言とアズラエル小父様から奪ったブルーコスモス…その盟主であるロード・ジブリールと協力者である軍人達が月軌道上で例の兵器の設置を行っています。」

「この星に害成す戦いはまだ終わりを迎えていないと?」

「はい、その対処でノードゥスは再び地上と宇宙に編成され対応する形となるでしょう。」

 

 

形は変わってしまったが、オペレーション・レコンキスタとオペレーション・アイスブレイカーの始まりでもある。

 

 

「イルイもまたガンエデンの使命とその身を狙う者達よる危険に晒されると思います。」

「手放して良かったのか?」

「私はあの子の意思を尊重しますし危険が迫った時は助けに行くと約束しましたので。」

「抜かりはないのだな…」

「はい、貴方や家族同様に妹分に何かしようと言うのなら因果地平の彼方まで赴いて始末しますので。」

「それもお前が成せる力なのだな?」

「まあ、私利私欲と言うのは控えてますけどね。」

「だが、お前の好奇心とやらはそれでは収まらんだろう?」

「でしょうね、言うならビルド系のMSにお義父さん達のPTやAMの追加武装の開発を園芸家達に許可してしまった位ですから。」

「今後の戦いに必要な手段であるのならば…俺は何も言わん。」

 

 

確かに過剰な戦力は更なる戦いを引き起こす。

 

だからこそ差し出す時を見誤る事はしない。

 

 

「いずれにしても必要な戦力です、ノーマルだけでは今後の戦いに生き残れませんから…」

「…」

「それよりもあの件…本当に宜しいのですか?」

「無論だ。」

「後戻りは出来ませんよ?」

「それはお前も同じ事だろう?」

「はい、貴方の傍に居ると誓った以上…約束を無下にする事はありません。」

 

 

私は一方の味方でもなければ敵でもない曖昧な存在。

 

ただ、戦いを終わらせる為に最前の方法を取るだけの事。

 

その過程で味方にもなれば敵にもなる。

 

私の在り方は受け入れられないだろう。

 

それでも泥を啜る行為を受ける身代わりは必要なのだ。

 

 

「ノードゥスの格闘家達がどの様な力を持つのか…腕がなる。」

「余り羽目を外しすぎないでくださいね?」

「善処はする。」

 

 

ま、彼らが一番…真化の力に触れる良い機会だし。

 

この程度で挫折するなら其処までの事。

 

これからはそう言った次元の違う敵との戦いも学ばなければならない。

 

私も告げる事は告げて次の作戦の計画でも練りますよ。

 

 

「さてと…向こうの準備も整った様なのでデブデダビデの呪いとガイアセイバーズの曲者退治と洒落込みますか?」

「異論はない。」

 

 

私は彼と待機していた人員と共にテレポートで日本・伊豆基地へと転移した。

 

 

=続=

 

 



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第七十一話 『拒絶《キョゼツ》前編』

それは誰の為の拒絶。

己自身か?

仲間の為か?

それでも涙は止まらず流れ落ちる。

拒絶を選んだ以上、その涙を流す事すら許されない。



エクアドル基地での一件から数日後。

 

鋼龍戦隊は大統領直々の証言もあり軍上層部の指示にて罪状を撤回された。

 

但し、汚名返上の名の元でガイアセイバーズ追撃の任務に就く事となった。

 

その一環としてノードゥスと合流。

 

前回のクスハ達との再会とブリット達の奪還はその最中に起こった出来事だった。

 

復活した龍虎王と共に再度戦線復帰したかと思いきや…

 

クスハとブリットは今までの行動もあった為に暫くの間、謹慎処分の命令が下った。

 

これは謹慎処分を受けた本人達も納得の上で受けている。

 

そしてハスミの手によって鋼龍戦隊に合流したイルイと言う少女と本人から齎された情報の件でノードゥスは一時の混乱が舞い込んでいた。

 

 

******

 

 

伊豆基地・執務室。

 

基地司令であるレイカーと副官のサカエ、鋼龍戦隊の艦長であるテツヤとレフィーナが招集されていた。

 

そして最も近くに居た人物としてカイとギリアム、エルザムも招集されていた。

 

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

イルイを通してノードゥスに齎された情報。

 

それは現在の戦乱を根本から変えてしまうものだった。

 

 

「では、情報が正しければ南極の遺跡にあるゲート…クロスゲートは開けてはならない扉だったと?」

「はい、彼女に寄ればホルトゥスはその遺跡を創ったとされるフューリーと接触し得た情報との事です。」

「ルイーナの発生源…『破滅の王』と呼ばれる存在を封印する扉であり遺跡自体も警告を示す為に創られたそうです。」

「司令、やはり…」

「うむ、彼女はかなりのやり手の様だったな。」

「どう言う事でしょうか?」

「そのフューリーが昨日…地球政府へ謁見し同盟を認可された。」

 

「「!?」」

 

「いくら何でも話が早すぎます!?」

「…この件に関しては既に空白事件後より交渉が行われていた。」

「そんな頃から…?」

「円滑に事を進めようとしたのだろう、惑星ラドリオやバーム星を含めた他星系からの火星並びにコロニーへの植民地入りが始まった頃から受け入れを徐々に進めていたと報告がある。」

「だが、フューリーには例外が発生している。」

「例外?」

「フューリーの一部は既に地球人との間に子を成している…あの剛博士の様に。」

 

 

レイカーより告げられた情報、それは史実を覆す言葉。

 

数十年前からフューリーの民の一部は既に地球へ溶け込んでいた。

 

それは共存が可能である確かな証でもあった。

 

 

「えっ!?」

「そんな事が…」

「異星人同士の子が存在する事は我々にも共存の道が歩める証でもある。」

「これにより政府は新たな同盟国家としてフューリーの民を受け入れる決定を下しました。」

「…」

「しかし、この様な状況で…」

 

 

早すぎる決断なのかもしれない。

 

だが、彼らの様に温厚な異星人達も存在する事を忘れてはならない。

 

一方的な悪意を広めてはならない。

 

そう戒める為の手段だと伝えた。

 

 

「そしてハスミ・クジョウ少尉…元少尉がガイアセイバーズが秘密裏に捜索していたマシヤフの一人である以上は保護もしくは捕獲の指示が上層部より通達が来ている。」

「やはりですか…」

「同じく元少尉の協力者であるカーウァイ中佐並びにSTXチームのメンバーにも同様に確保の指示が出ている。」

 

 

覆せない命令。

 

彼女達は今まで世界を護る為に動いていた。

 

だが、大元を返せば一軍人が勝手に行った軍法を多く反した命令違反。

 

そしてそれが知られればその力を手に入れようと野心に満ちた者達によってその生死を脅かされるだろう。

 

 

「彼女らには数多くの戦乱が阻止され…その過程で多くの命が救われた、上層部も非人道的な処罰を下さないだろう。」

 

 

非人道的行為は起こさない。

 

それは建前である事はその場に居た誰もが理解している。

 

最悪な形であれば一生軍の飼い犬同然の扱いを受けるだろう。

 

 

「…(結局は彼女が鎖に繋がれるのは変わりはない。」

 

 

それでも彼女は修羅の道を選んだ。

 

どう転んでも最悪の結末に至ろうとも…

 

ギリアムは無言を貫いていたエルザムとカイと同様に無言を貫いた。

 

 

>>>>>>

 

 

ハガネ艦内・独房にて。

 

 

「では、この子も?」

「はい、ハスミと同様にガンエデンの巫女とされている子です。」

「…」

「ハスミの話ではまだ『禊』を行っていないので正式ではないと聞いています。」

「そうか。」

 

 

独房に入っているクスハに話し掛けるキョウスケとエクセレン。

 

その横にはイルイが連れ添われていた。

 

同じくブリットも独房入りだが…

 

現在はメディカルルームで定期検査を受けている為に不在である。

 

 

「えっと…」

「イルイちゃん、どうしたの?」

「ハスミお姉ちゃんから伝言を預かっているの。」

「伝言?」

「また近い内に顔を出すって。」

 

 

イルイは少し心配した表情でその場に居た者達に答えた。

 

 

「あら、如何言う風の吹き回しかしらね?」

「俺にも解らん。」

「私にも…」

 

 

今まで対面する事を拒絶していた当人からの再会すると言う伝言。

 

その意図が不明なまま、別の話題へと話は切り替えられた。

 

 

「そう言えば、クスハちゃんとイルイちゃんは例の天鳥船島だったかしら…そこの位置が判るの?」

「いえ、私も所在は判らないんです。」

「…」

 

 

クスハは解らないと答え、イルイは首を横に振って答えを示した。

 

 

「何故だ?」

「ハスミは島自体が移動船の様なもので同じ場所には停泊していないって話していました。」

「移動拠点か…」

「通りで他の方で探して貰っても見つからない訳ね。」

「敵に察知されず人知れず行動するなら利点のある拠点だろう。」

 

 

其処がハスミがガンエデンとして所持する拠点。

 

最悪の形で接触する機会が無ければいいが…

 

 

「そう言えばキョウスケ、ハスミちゃんの愛しのダーリンがボスの事を助けてくれたんでしょ?」

「ケイロン・ケシェットの事か?確かにそうだが…」

「ハスミちゃんのパパトリオは当然として、そのダーリンさんとも鉢合わせするかしらね?」

「可能性はある、修羅の乱でも奴はハスミの事を気に掛けていた。」

「まあ、ボス以上に無自覚発言主だった事にドン引きしちゃったけとね。」

「その分、ハスミがフォローしていただろう?」

「あの時のハスミちゃん、顔真っ赤にして普段見れない位に慌ててたものね。」

「それを面白がっているのはお前位だ。」

「まあ、ハスミちゃんの素顔を見れたのはその時位だもの。」

「どういう事だ?」

「L5戦役の頃からずっと張り詰めた感じで日頃から作り笑いだったのよ?」

「…」

「あれだけの事を隠していたならそんな表情だったのも解る気もするわ。」

「エクセレン。」

「こう言うのを水臭いって言うのかしら?」

「水臭い?」

「もっと早くに打ち明けてくれたらなって思っただけよ。」

「もしも…打ち明けられない理由があったとしたらどうする?」

「どう言う事?」

「もしもだ、ハスミ自身に打ち明けられない理由があったとしたらどうする?」

「そうね、その理由が解消されるまで待つって事位しか出来ないわね。」

「そうか。」

「あら、勿論勿体ぶりをしたハスミちゃんにはスリット抜群のチャイナドレスとセクシーバニーちゃんのお仕置きが待ってるわよ?」

「…相変わらずですね。」

 

 

二人の会話に苦笑いをするクスハ。

 

その後もキョウスケの内心を他所にエクセレンのお節介話が延々と続いていた。

 

 

「お姉ちゃん…?」

 

 

イルイの呟きも知らないまま。

 

 

******

 

 

同時刻、某所。

 

 

「クシュンっ!」

「風邪か?」

「いえ、多分…噂でもされているのだと思います。」

 

 

エクセレン少尉、相変わらずですよ。

 

チャイナとバニーってどんな羞恥拷問ですか?

 

絶対に拒否します。

 

 

「では、今回の作戦を今一度ご説明します。」

 

 

今回の目的は伊豆基地に潜入しているガイアセイバーズの斥候の排除並びにクロノの崇拝者達の摘発です。

 

そして秘密裏にナシムのマシアフの護衛を第一としてください。

 

さり気無く程度でいいです。

 

預け先でも十分警戒して頂けているので。

 

 

「俺達は誘い出した奴らをぶっ倒せば言い訳だな?」

「そう言う事です。」

「割に合わないわよ、オマケでもあるの?」

「そうですね…この間、所有鉱山で発見したダイヤの原石で良ければ?」

「それ加工したので手を打つ!」

「…はは、相変わらずだね。」

「何よ、貰えるものは貰っておかないと損でしょ!」

「十分だと思うよ、僕らの衣食住まで賄ってもらってるし。」

「そうですね、私達の世界にも警鐘を送ってくださったのですから。」

「そうですよー!元の世界でも先輩達や後輩達が頑張ってくれてるんです!俺達がここで踏ん張らないと!!」

「アンタは暑苦っしいから黙って!」

「そ、そんな~」

「ま、俺達に喧嘩を吹っ掛けたクロノの奴らを燻り出すのも悪くねえ。」

 

 

伊豆基地を見渡せる場所。

 

監視エリアの外れでハスミは引き連れたメンバーと作戦の再確認を行った。

 

その内の個性豊かな六人組から色々と言われていたもののやんわりと返していた。

 

 

「クロノの連中もそうだが、ガイアセイバーズの特殊部隊の連中にも鉢合わせたいぜ。」

「ああ、ここの所…トカゲ連中と化け物共で腕が訛っていたからな。」

 

 

十分腕慣らしの連中なのですが…恐竜帝国の兵士とミケーネ兵って。

 

流石、このダイナミック系の地獄組…全く容赦ないですわ。

 

 

「そう言えば大将は如何しているんだ?」

「あの人は別の場所で別件を受け持っています。」

「別件?」

「はい、彼自身…やって置きたいと願ってましたので。」

 

 

そちらは頼みましたよ、ケイロン、光龍お父さん。

 

 

♰ ♰ ♰ ♰ ♰ ♰

 

 

次の作戦に向けてそれぞれがパワーアップを兼ねて所属基地へ帰還したり独自に修行を積む中。

 

ギアナ高地で修業を続けていたシャッフル同盟、ロム一行、ダイモスメンバーなどのノードゥスの格闘家達が集結していた。

 

今回はスペースナイツの旧メンバーと電童の二人組が参加している。

 

二人組に関しては更なる強敵との戦いに備えての実地指導との事だ。

 

残り少ない時間の中で修業がモノになる所で…

 

横槍と言うものは入るのである。

 

 

=???=

 

 

「いや、どうもお久しぶりだね。」

「お前は孫光龍!?」

 

 

中国の山脈を思わせる光景。

 

例の如く、限仙境の結界である。

 

その崖の一つから見下ろす様に結界に迷い込んだゲスト達を見下ろす光龍。

 

各自、周囲の状況から鋼龍戦隊の報告にあった結界に巻き込まれたのであると推測した。

 

 

「簡単にこっちの策に乗ってくれて大助かりだよ、ま…君達が修行で集まっていたのが功を為したって方が正しいかな?」

「孫光龍、俺達を結界に閉じ込めてどうするつもりだ?」

「正確には僕自身が用がある訳じゃないんだ。」

「何だと?」

「彼がね、どうしても君達と一戦交えたいって事でお膳立てしたまでだよ。」

 

 

光龍の言葉に反して答えたドモン。

 

だが、光龍はいつもの姿勢を崩さす特別ゲストを登場させた。

 

足音と共に現れた褐色の偉丈夫。

 

 

「お前はケイロン・ケシェット!」

「兄貴、アイツって…」

「ケイロン・ケシェット…鋼龍戦隊に在籍していたSTXチームのメンバーだ。」

「STXチーム…では。」

「奴も最初からハスミの仲間だったと言う事だ。」

「修羅の乱後、鋼龍戦隊との連携は殆ど取っていなかった…奴自身の素性も正確には解っていない。」

 

 

ドモンの発言に反応するサイ・サイシーとジョルジュに説明程度に話を進める一矢。

 

 

「戯れ言は終わったか?」

 

 

ケイロンの言葉に周囲の空気が一気に切り替わった。

 

 

「ケイロン、一戦交えると言ったな?」

「言葉通りだ、今の貴様らでは相手にならぬがな…?」

「如何言う意味だよ、それ!」

「待て!」

「あ、兄貴。」

「…(確かにそうだ、奴に関しては万丈からも危険視されていた…その意味を今知る事になるとは。」

 

 

周囲を射抜くような視線と殺気。

 

それは紛れもなく生死を掛けた戦いを望む意思。

 

どの様な相手でも立ち向かう意思の表れ。

 

 

「…(ハスミの言う通り、奴らならば目覚めが早いかもしれんな。」

 

 

ならば、見極めさせてもらうぞ。

 

お前達もまた真化に至る存在である者だとな?

 

 

=続=

 




拒絶の意味。

世界に隠された真の真実。

人類は月に到達した時点で支配されていた。

それを阻む為に戦い続けてきた存在達がいた事を知る。


次回、幻影のエトランゼ・第七十一話 『拒絶《キョゼツ》後編』


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第七十一話 『拒絶《キョゼツ》後編』

目覚めの片鱗。

真実を兆しに目覚めた者達に晒す。

それは始まりにすぎず、真化に至る道筋は未だ遠く。

それでも歩む事を諦めない。


前回の行動から一時間後。

 

伊豆基地内部に侵入者が入り込み、基地内は銃撃戦へと変貌した。

 

既に同基地には既に鋼龍戦隊と一部のノードゥスの艦隊が帰港していた為、動ける者は防衛戦に駆り出されていた。

 

そして侵入者の正体に気付いたアリエイル・オーグは侵入者がガイアセイバーズの実働部隊である事を基地内全域に警告要請した。

 

 

******

 

 

伊豆基地・通路内にて。

 

ノードゥスのメンバーが各方面で強化を終え、伊豆基地へ集合する中。

 

伊豆基地はガイアセイバーズの実働部隊による奇襲を受ける。

 

そしてイルイの姿を発見するや否や彼女を捕えようとしたが…

 

元ATXチームのサポートメカとEFからの来訪者によってそれは防がれたのである。

 

 

「やはり、奴らの狙いはイルイか!」

「キョウスケ、どうする?」

「ハガネに戻るぞ、イルイをこのままにしては置けない。」

「…っ!」

「ロサちゃん、ピート君、調子は?」

「はい、バッチリです。」

「躯体の肩慣らしには十分な相手だ。」

 

 

虎王機奪還後、イルイの護衛の為にハスミの手で鋼龍戦隊に合流したロサとピート。

 

一時期はホルトゥスからのスパイとされていたが、必要な情報の多くはノードゥスに引き渡された。

 

二人は事実上ホルトゥスから切り捨てられたとノードゥスに報告。

 

諸々の事情もあり、古巣であるATXチームで二名の身柄を預かる事となった。

 

ピートに関しては元の躯体の修理が終わったとの事でW03の躯体に戻っている。

 

 

「と、言う訳だけとキョウスケ。」

「このまま強行突破する、前衛はピート、後衛はロサが付いてくれ。」

 

「「了解。」」

 

「エクセレン、援護射撃を頼めるか?」

「モチのロンよ!その代わりイルイちゃんを頼むわね?」

「ああ!」

 

 

キョウスケらはそのまま敵の銃撃戦を掻い潜り、ハガネが帰港しているエリアへと向かった。

 

残りのエリアでも銃撃戦が繰り広げられており、各エリアで鋼龍戦隊とノードゥスの猛者達が奮闘していた。

 

その様子を基地内の排気口より除く人影があった。

 

 

「…連中が動いたよ。」

『分かったわ、貴方はそのままイルイ達の動向を追って。』

 

 

人影が付けているインカムから流れる言葉に対して返答していた。

 

 

「他の所はいいの?」

『ガイアセイバーズの目的はイルイだけよ、他の場所には斥候を送ってある。』

「判った。」

『外の様子も騒がしくなってきたからこのまま私はターゲットの二人に接触するわ。』

「うん、気を付けてね。」

『ありがとう、アリア。』

 

 

声の主ことハスミは人影の正体である少女アリアに礼を告げると目的の場所に向かった。

 

 

******

 

 

その頃、ギアナ高地に展開された限仙境では。

 

 

「あれじゃあ…怪獣と猛獣の争いだよ。」

 

 

ケイロンとノードゥスの格闘家メンバーによる乱戦。

 

その様子を遠目で観戦していた光龍。

 

先の呟きに習って観戦先は言葉通りの現場と化していた。

 

 

「…一撃自体に力がない故に数で攻めるか?」

 

 

サイサイシーら動きの速いメンバーによって翻弄させられるかと思ったが、ケイロンは一人ずつ容赦なく捕らえ投げ飛ばした。

 

続けてパワー重視のメンバーがその隙を突いて狙うがケイロンはそれすらも見抜いて逆手に取っていた。

 

 

「完全な防御は地に接する事で成り立つ…だが、浮いた状態ではどうだ?」

 

 

アルゴの様な巨体すら拳で空に浮かして回し蹴りにてはじき返したのだ。

 

同格の巨体に対しての回し蹴りであれば怯む程度だっただろうが、ケイロンは体格をものともせずに蹴り飛ばした。

 

 

「クソッ…奴に小細工は効かねえって事かよ。」

「その様です、こちらの手の内を読み逆手へと取っています。」

「…奴自身、本気すら出していない。」

「何だと?」

「あくまで様子見程度若しくは俺達の力量はその程度と認識されている。」

「あれで本気ではないと…?」

「何処までも俺達を舐めやがって!」

 

 

残りのシャッフルの仲間達もまた冷静に戦いを分析していたが、本領発揮すらしていないケイロンに怒りを覚えていた。

 

 

「さあ、次は誰が相手をする?」

 

 

理由は明かされないまま攻防は続いた。

 

その猛攻は鬼神の如く。

 

多勢に無勢の状況であったにも関わらずケイロンは己に課した状況に立ち向かった。

 

今も秘匿する己の立場がそうさせたのか。

 

或いは可能性の未来の為に礎と化す事も辞さないと表現するかの様に。

 

だが、相手となった彼らも幾多の戦いに勝ち抜いてきた猛者達である。

 

そう易々と倒される相手ではなかった。

 

しかし、ケイロンには彼らに存在しない力を有していた。

 

それが勝敗を決める結果となったのだ。

 

 

「言った筈だ、今のお前達では足元にも到達していないと?」

 

 

結界の中にある荒野と崖の外壁には至る所にクレーターが点在。

 

その多くが凄まじい打撃によるものであると推測させた。

 

そのクレーターを生み出した存在は息を整えると静かに告げた。

 

 

「だが、流石はガンダムファイターの頂点…シャッフル同盟。」

 

 

彼は先の戦いで外していたサングラスを付け直すと引き続き告げた。

 

 

「そして天空宙心拳の使い手に名のある格闘家達…この世界も捨てたものではないな。」

 

 

実に良き戦いだった。

 

ハスミの話していた通りの相手達だ。

 

どの様な状況下でも諦めず立ち向かう姿勢。

 

何度敗北しようとも這い上がる闘志。

 

その意思はこの俺をここまで高ぶらせてくれた。

 

 

「…ケイロン・ケシェット、お前は一体何者だ?」

 

 

クレーターとなった瓦礫の中から這い出してきたドモン。

 

先の一撃を喰らいながらも辛うじて気を失う事は避けた様子。

 

彼の発した言葉はケイロンにとっても正体を露見しつつある発言と捉えた。

 

 

「何者だと?」

「万丈の話ではお前の生きた証と言うものがこの世界に一切なかった。」

「…」

「経歴が紛い物である以上、恐らくは次元震で転移してきたのだろう?」

「だとしたらどうする?」

 

ドモンの発言に対して返答を返答で返すケイロン。

 

 

「…ケイロン、お前の目的は何だ?」

 

 

同じ様に失神を避けて瓦礫から這い出してきたロムと一矢。

 

後追いでDボゥイとシンヤが銀河と北斗を庇う形で瓦礫より這い出していた。

 

先の戦闘でその場に居た者達を己の拳と脚撃でクレーターに沈めた。

 

だが、自力で脱出したその殆どが記憶保持者であった事にケイロンも内心驚いていた。

 

 

「!?」

「お前と拳を交えた時、お前自身から悪意を感じなかった。」

「俺も同意見だ。」

「やろうとしているのはその逆。」

「かなりシンプルな答えだけどね。」

「アンタ、無理に悪を演じているだろ?」

「うん、銀河や僕もそれが理解出来た。」

 

 

先の拳を交えただけで俺の意思を理解しただと?

 

フフフ…。

 

ハスミ、お前の言う通りの結果になったな。

 

 

「これに関しては俺も予想外と伝えておこう。」

 

 

真化の兆しをその身で感じ取ったか…

 

これは予想もしない結果。

 

この世界には失望する必要がなさそうだ。

 

 

「ならば、貴様の真実…この場で話して貰おうか?」

 

 

周囲の瓦礫脱出に気を取られていたケイロンに影縫いで離脱を妨害するシュバルツ。

 

退路を塞がれた状態でさえも顔色一つ変えずにケイロンは話を続けた。

 

 

「真実か…それを知った所でどうする?」

「どう言う事だ?」

「この真実を知った所で今の貴様達に対抗策は存在していない。」

 

 

感じているのだろう?

 

貴様達の中に芽生えた兆しの片鱗を?

 

今の貴様達は兆しの始まりに辿り着いただけにすぎん。

 

その兆しを目覚めさせ、己の力をするには時を要するだろう。

 

 

「兆しを識る者はその力を真化と呼ぶ。」

 

 

真化の言葉に反応するドモンら一同。

 

 

「シンカ?」

「多元宇宙で闘う為の力、たった今お前達は平衡する天秤の中間に至った。」

「多元宇宙だと…?」

「後はその意味を知る者に訊くといい。」

「お前からは何も話さないと?」

「ああ、どの道…それよりも急を要する事を告げなければならないからな?」

「?」

 

 

それを伝えよう。

 

今、ノードゥスは伊豆基地でガイアセイバーズによる奇襲を受けている。

 

だが、ハスミの指示でホルトゥスが動いている以上は案ずる事は無い。

 

西の地で闘い続ける仲間達の元にも変化が訪れる。

 

破滅より産まれ出でし『風』と『氷』による助力によって道は開かれる。

 

闘うべきはルイーナの根源『破滅の王』とガイアセイバーズの首魁『アルテウル・シュタインベック』のみ。

 

そこに至り、生ずる危害は今のお前達なら看破出来るだろう。

 

 

「だが、心せよ……人類は月に到達した時点で監視される結末を迎えた。」

「…監視だと?」

「先の兆しへ目覚めた者を監視し勧誘か抹殺するかを決議する者達。」

「…」

「その者達の総称はクロノ…テンシの配下である真徒と呼ばれる者達よりも格下の者達だ。」

 

 

兆しに目覚めた者達はクロノに監視され、その命は明日をも知れぬ身となる。

 

それ故にハスミは兆しに目覚めた者達を認識させぬ様にクロノの構成員を影で倒していた。

 

 

「ハスミはクロノの手の者からお前達を護っていた……己の立場を晒す結果となったとしても。」

「そう…僕が宇宙で活動していたブルースウェアに後手に回り過ぎていると告げたのもそれが理由さ。」

 

 

今までの行動を静観していた光龍からも話しかけられた一行。

 

光龍の言葉も確かであるが共闘の道も歩めた筈だと答えるロムとケイロンのもの言いに戦力外と認識した一矢。

 

 

「…孫光龍。」

「クロノに関する情報を君達は秘密の仲間内で知っているだろう?それが如何言う結果を生み出すのかも…」

「猶更、共に戦うと言う選択も出来た筈だ。」

「共にか…兆しに目覚めたばかりのお前達と何故共闘出来ると思う?」

「お前にとって、俺達は戦力外と言うのか?」

「その言葉通りだ、真化の力を自由自在に扱えぬ以上は奴らと戦う事すらままならぬ。」

 

 

話がこじれぬ様に間に入って助言を告げる光龍。

 

その言葉に反応する銀河と北斗。

 

 

「それにハスミはこうも言っていたよ?」

「えっ?」

「誰かを救えた分と助けた分…君達は真化の道が遠のくとね。」

「救えた分と助けた分?」

「…」

 

 

君達は何かを失う時に守りたいと言う願いと想いの力によって途轍もない力を引き出している。

 

今回は君達が救いたいと願った人々が存命した。

 

それは君達の力を存分に引き出す事が出来なくなっている対価の一つ。

 

何かを得ると同時に何かを代償として支払わなければならないのと同じようにね。

 

 

「ま、誰かを助ける事は悪いことじゃないよ?」

 

 

世界の摂理とやらが決めた法則で在る事は確かだけど。

 

 

「それもアカシックレコードからの情報なのか?」

「どうだろう、さっきの兆しから僕らも感じ取れたって方が正しいかもね。」

「兆しへ完全に目覚めれば力の意味を理解するだろう、それだけの力を必要とするのだ……お前達がいずれ戦うべき相手にはな。」

「…」

「じゃ、大ヒントを告げた所でお暇しようか?」

「待てっ!?」

 

 

ドモンらの静止もままならぬまま…

 

ケイロンは光龍のテレポートでその場から転移し結界もまた同時に解除された。

 

 

「真化とその兆し…その力を必要とするまでの脅威。」

「…シュバルツ、どう思う?」

「やはり万丈の告げたテンシによる脅威が差し迫っているのだろう。」

 

 

ドモンとシュバルツの会話に続き、一矢とロムもまた心境を告げた。

 

 

「話を整理するにも不明な情報が多すぎる。」

「…今は伊豆基地の事も気掛かりだ。」

 

 

ホルトゥスの援軍を回している為に甚大な被害は出ていないだろうが、基地に残っている仲間達の事も心配だと吐露していた。

 

 

「兎に角、今は埋まっちゃってる他の皆を掘り起こさないと…」

「自力で出られるのはいいが、残りはそうもいかないだろう。」

 

 

D兄弟の発言にはもっともであり、クレーター行となった残りの仲間達を救出する作業に取り掛かった。

 

同じ様に騒ぎを聞きつけたクルーと合流し説明しつつ作業に加わった。

 

 

「…」

「銀河、どうしたの?」

「アイツ…半分楽しんでいたよな?」

「うん、ドモンさん達も気づいていたみたいだけど…」

 

 

作業に加わろうとしていた北斗であったが、相方の様子がおかしかったので声を掛けていた。

 

 

「アイツも言ってたけど、アイツが本気じゃないって事はさっきのは本気の一撃じゃないって事だろ?」

「そう、だよね。」

「もしも…本気を出していたら俺達は全員やられていたぜ。」

「まさかそんな…。」

「ムカつくけどよ、アイツの言う通り…今の俺達が束になっても勝てないって理解した。」

 

 

前の記憶はあっても今の自分は子供の姿である為にそれ以上の事は出来ないと銀河は付け加えた。

 

記憶が在るにせよ無いにせよ、嘗ての彼であれば言わない発言でもある。

 

その発言に北斗は関心半分と驚き半分で静観していた。

 

 

「銀河…」

「それはアイツからの忠告って事で受け取って置く、見た目はああだけど…悪い奴じゃなさそうだし。」

「うん。」

 

 

力量の違い、潜り抜けた修羅場の違い。

 

それは誰にでもある事。

 

ただ言えることは兆しへの目覚めは必然的に必要な事である事。

 

それだけの力を必要とする戦いが差し迫っている。

 

アイツことケイロンはそれを伝える為にあの様な行動を取ったのであった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方、伊豆基地では…

 

ガイアセイバーズの実働部隊による奇襲から数時間が経過した頃。

 

銃撃戦を避けて基地内の施設に足止めを喰らっていた二名の姿があった。

 

そしてそれに対峙するハスミの姿もあった。

 

 

「ラマリスの呪縛…」

「はい、それがお二人に仕掛けられたデブデダビデの策です。」

「あの時の攻撃がここまでとは…」

「最初は自覚症状が無かったにせよ、ルイーナとの接触でそれが発症したのは事実です。」

「…」

「ルイーナ出現以降、徐々に負念へ意識が転化しつつある事に自覚があったのでは?」

「確かに君の言う通りだ、私が戦場へ出る事を控えたのもそれが理由でもある。」

「シャア…」

「アムロが無理強いをしてでも戦場に出て居られたのは近くに念動者がいた事が理由か?」

「…はい、ブルースウェアの元へリュウセイ達が転移したのもそれが理由と思います。」

「負念を正念へ浄化を促す念者か…」

 

 

ビキビキと奇声を上げる小型の異形。

 

ハスミは手元に掴んでいた二匹の寄生型ラマリスを浄化し四散させると話を進めた。

 

 

「ラマリスの変異種が出ると予測出来なかったのはこちらのミスです…遠回りな事をさせてしまい申し訳ありませんでした。」

「…」

「先も尋ねられた通り、私はホルトゥスの当主としてここへ戻る事は出来ません。」

「君がガンエデンの巫女であるにしてもそれに縛られる必要はない…それは君自身が判っている事だろう?」

「もう時間がないのです…奴らの手が伸び始めてしまった以上は私はガンエデンとして戦う事を決めました。」

「奴ら?」

「…クロノ、その大元とも呼べる部隊がこちら側の世界に転移してきたのです。」

「!?」

「スフィアリアクターが不在の状況の上に真化へ至る兆しに目覚めていないノードゥスには荷が重すぎます。」

 

 

今までクロノの先遣部隊を秘密裏に処理していたハスミは何かしらの都合でこちら側の世界に転移してきたクロノ本隊の来訪を告げた。

 

 

「いずれ、アドヴェント達も動き始めると言う訳か…」

「転移したクロノ本隊もバアルの一部であるペルフェクティオの監視の為に訪れたと思いますが油断は出来ません。」

「連合軍上層部の一部に喰い込んでいるクロノの構成員、マーセナス議員とビスト財団が動くのはもう少し先と思っていたが既に事は始まっていたのだな。」

「だが、シャア…バナージ達はまだ10代未満の子供だぞ?ガンダムに乗る事すら不可能だ。」

「次元のるつぼ…かつてバトル7が引き込まれた現象がインダストリアルでも起こっていたとしたら?」

「まさか…!?」

「局地型次元震…それに引き寄せられる様に起こった時差の変動、可能性はあります。」

 

 

サルファでマクシミリアン・ジーナス艦長が指揮するバトル7はそれが原因で長い間宇宙を彷徨う事になった。

 

エクセリヲンのタシロ艦長らが数分程度の時差であればマックス達は数十年と言う時差のズレ。

 

何処か絶望にも似た希望を齎した結果だ。

 

 

「君はこの件に関して何処まで知っている?」

「今回に関しては可能性の伏線を繋ぎ合わせただけです。」

「伏線?」

「ユーゼスは手札の多くを部下の失態によって失いました、そして最終手段としてイルイを狙ってくる事も想定済みだっただけです。」

 

 

アダマトロンの顕現に必要なピースは絶対に揃えさせない。

 

奴を放って置けないが、それ以上の存在が手を伸ばしてきている以上は油断するつもりもない。

 

 

「今も基地を襲撃している実働部隊や基地の外で交戦中のエア・クリスマスも程無く陥落するでしょう。」

「君の同志とやらが動いているのか?」

「ええ、同志であると同時に同じ復讐を遂げる者達の集まりでもありますけどね…?」

「復讐?」

「私は…神と偽称し人類を縛り付ける御使いを許す事は出来ませんので。」

 

 

願うのは解放と明日。

 

それを願う事は許されないだろうか?

 

戦いが続く中、私は告げる事を告げた。

 

 

=続=

 




世界は破滅に向かって踊る。

だが、それを遮る者達がいる。

世界はどう動く?

己の未来と真の平和の為に向けて歩め。


次回、幻影のエトランゼ・第七十二話 『助力《ジョリョク》』


世界で闘うのは彼らだけではない。

多くの戦士達が存在る事を忘れてはならない。


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第七十二話 『助力《ジョリョク》』

私は決断した。

だからこそ布石を創る。

いずれ貴方達の障害として立ちはだかる事となるから。

私が女である故に。


前回、アムロとシャアに自身と同様に復讐を遂げる者達と告げたハスミ。

 

それは奪われたモノを取り戻す為に集った同盟。

 

ホルトゥスとは居場所を失ったモノ達を保護する為の庭園。

 

いつの日か再起の時を迎えさせる為に動いているのだと語った。

 

 

*******

 

 

「復讐か…。」

「復讐と言うよりも奪われたモノを取り戻す…が正論ですね。」

「…改めて聞くが君の進む道は修羅の道だな。」

 

 

修羅の道。

 

確かにそうだ、護る為に共に歩む道から外れたのだ。

 

その道は常に平行線であるが、時折…別れ道と言う分岐点が出来る。

 

私はその道に逸れただけの事。

 

 

「ハスミ、君はそれでいいのか?」

「如何言った意味で…でしょうか?」

「このまま君が共闘を拒めば連合政府は君達を政府混乱を目論む敵対組織として認識する。」

「でしょうね、あの世界のソレスタルビーイングの様に…」

「だが、君が忠告した様にクロノの介入があったのであれば影の者として潜み続けるのも一つの手だろう。」

「本来ならエルザム少佐率いるクロガネ隊がその役目を負う事になる筈でした……その役目を今世で私達が引き継いだに過ぎません。」

 

 

本来のL5戦役後を期にエルザム少佐…いや、レーツェル・ファインシュメッカー率いる戦艦クロガネとイティイティ島に集った元DCのメンバーが鋼龍戦隊とレイカー司令の秘密裏の協力者として動いていた。

 

だが、今世ではその流れが無くなってしまった為に誰かがその役目を受け継ぐ必要があった。

 

軍にとってガンエデンの巫女でありアカシックレコードと言う禁忌に触れる事が出来る人間が一番野放しする事が出来ない。

 

だからこそ私が囮の役目になる流れを生み出した。

 

イルイに関してはまだガンエデンの巫女としての目覚めとアカシックレコードへのアクセスが未発達である事もあり戦力としては不十分の流れを作った。

 

あの子を護る為とは言え、かなりの博打を打った。

 

それも焼け石に水…いずれ力に目覚めてしまう。

 

私は出来るのはあの子自身が自らの力と…どう向き合うのか時間を作ってあげる事。

 

同じ様な境遇を持つ地球防衛軍の彼らならあの子への良い刺激になるだろう。

 

 

「それもイルイを護る為なのか?」

「はい…出来る事ならあの子には普通の女の子として生活させてあげたいと思っています。」

「イルイ…今世ではイルイ・エデンと言う孤児として存在している事はギリアム少佐から連絡を受けている。」

「公式の記録ではイルイを残してご両親は事故で死亡したとあるが…」

「あの子の実の両親の命を奪ったのはクロノです、奴らはガンエデンに関りを持つ家系を根絶やしにする様子でした。」

「そして君の母親を手にかけたのも…」

「その件はキョウスケ中尉達から伺っていると思います。」

 

 

もっと行動が早ければあの子の両親を失わせる事なんてなかった。

 

五年前のあの日、力の封印と無限力の介入がなければ…

 

母さんの時もそうだった。

 

何処まで私は…肝心な時に無力なのだろう。

 

 

「ハスミ、もう一度考え直せないか?」

「…アムロ大尉。」

「君の立場は重々承知している、強い力を持った者が表舞台に出る事が如何言う意味を持つのかも…」

「かつてニュータイプとして連邦軍上層部へ進もうとした記憶を持つ人の言葉の重みは…違いますね。」

「俺の中では黒歴史だよ、君はどうする?」

「今は何とも…アルテウルいえユーゼスがイルイを狙ってきている以上は影で動ける存在は必要でしょう。」

「返答は遠回しと言う事か?」

「そうなります、バアルの一部であるペルフェクティオの件もありますし…あのゲートを封印する時に発生する犠牲を出さない為にも。」

 

 

ルイーナの根源であるペルフェクティオとの決戦。

 

その際、奴を封印する為に犠牲が伴った。

 

Dの物語ではトレーズ・クシュリナーダの犠牲。

 

OGの物語ではクリスとウェントスの犠牲。

 

前者は門を破壊する為に特攻、後者はその精神…魂を犠牲に門を閉じた。

 

そうならない為にも私は全力で結末を変える。

 

 

「私が答えられるのはここまでです。」

「行くのか?」

「はい、エア・クリスマスの陥落とガイアセイバーズの反乱は今回の一件で終息へと向かいますが…」

「まだあるのか?」

「ユーゼスとアーマラは取り逃がす事になります。」

「張本人そのものを逃がす事になるとは…」

「恐らくはグランドクリスマスでの決戦が無くなった事により戦うべき舞台で雌雄を決する事になります。」

「その舞台とは?」

「南極、その時…集うべき者達と共に戦う事になります。」

「あの時と同じか。」

 

 

ハスミは端末を取り出して通信先に指示を出す。

 

 

「ハーロック船長、ゴーカイジャーの皆さん、地獄の化身様、遠慮は要りません…襲撃中のガイアセイバーズを叩き潰してください!」

 

 

「「!?」」

 

 

最後にハスミはそれだけ語ると二人を残してテレポートで転移した。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃、伊豆基地・演習場付近では…

 

 

「聞いたか?」

「ああ、当主の解禁命令か。」

「なら、俺達も本気を出すか…」

 

 

 

ガイアセイバーズの実働部隊を基地外へ引きずり出した八人の姿。

 

その内の六人は赤、青、黄、緑、桃、銀とカラフルなプロテクターを纏い、残りの二人は軍服あり戦闘服の様な衣装を纏っていた。

 

其処へ現れた赤いガレオン風の移動戦艦とドリル戦闘機、爆音と共に現れた大型バイクを使役する髑髏の魔人。

 

それぞれが乗り込み、戦闘形態へと変貌する。

 

 

「「「「「完成、ゴーカイオー!!」」」」」

 

「豪獣神!!」

 

「髑髏の魔人皇帝様のお通りだ!派手にぶちかますせ!!」

「ああ!!」

 

 

そしてもう一隻の宇宙船が現れる。

 

それは髑髏の旗を靡かせた深緑の戦艦。

 

 

「アルカディア号、艦砲射撃で味方に援護をしつつ敵戦艦に艦対戦用意!」

 

 

髑髏を掲げた赤い海賊、髑髏の王冠を携えた魔人皇帝、髑髏の旗を靡かせる戦艦。

 

 

「まさに髑髏づくしってね…さて、ガイアセイバーズにはここでリタイアして貰いましょうか?」

 

 

基地の外へ転移したハスミはエクリプスを呼び出すと出撃してきたアーマラのガリルナガンと対峙した。

 

 

「ようやく見つけたぞ、ハスミ・クジョウ。」

「アーマラ・バートンか…相変わらず口が悪い。」

「ふん、まあいい…このまま貴様を捕らえてアルテウル様の元へ差し出すまでだ。」

「典型的な三下のセリフとは芸がない。」

「貴様…っ!」

「今の私は機嫌が悪い、そう簡単に撤退できると思わない事ね?」

 

 

ハスミはアーマラに対し挑発めいた言葉を告げた後、戦闘へと移行した。

 

基地内へ潜入したガイアセイバーズも基地内の戦闘部隊によって掃討され、撤退を余儀なくされた。

 

同時に演習場で闘うホルトゥスに属する髑髏を掲げる者達によって鎮圧されつつあった。

 

エア・クリスマスは陥落、外部の戦闘部隊も鎮圧。

 

その後始末を伊豆基地に任せる形で撤退を始めたホルトゥス。

 

最後に転移するハスミは伊豆基地へ言葉を贈った。

 

 

「…やるべき事はしました、次に会う時は南の果てでお待ちしています。」

 

 

今回の戦闘でガイアセイバーズは事実上の壊滅。

 

事後整理で部隊内で家族を人質に取られていた者と利害一致で協力していた者に分けられた。

 

扱いは同じであるが、情状酌量があれば復隊、無ければ軍事裁判にかけられる事となった。

 

闘うべき戦いが迫ってきている以上は誰であれ必要な戦力である。

 

しかし、ガイアセイバーズの首魁アルテウル・シュタインベックとアーマラ・バートンの両名は行方不明のままであった。

 

 

******

 

 

伊豆基地奇襲から翌日の夜、天鳥船島では…

 

それぞれが任務を終えて帰還。

 

二つの作戦と南極の決戦に向けて準備が進められていた。

 

玉座の間では会合が行われていた。。

 

 

「お父さん、ケイロン、ギアナ高地での件…ありがとうございました。」

「相手を揺さ振るのは僕らが適任、ほとんどは彼がやっちゃったけどね。」

「…」

「ケイロン、貴方から見て彼らはどうでしたか?」

「俺の想像以上に未知の可能性を秘めている。」

「未知の可能性?」

「真に覚醒したあ奴らと相まみえるのが楽しみだ。」

「…止めはしませんよ。(あー地球がタダじゃ済まなそうな某野菜人なバトルを繰り広げそう。」

 

 

内心、『駄目だ、この人…早くとかしないと。』的な名言がハスミの脳裏に浮かんだが慣れのスルーで放置。

 

その会話を横で静観していたカーウァイとテンペストも話に加わってきた。

 

 

「これで当初の目的を達成したのは良い事だろう。」

「はい。」

「ハスミ、これからどう動く?」

「揺さぶりは掛けました、後は覚醒するのを戦いの中で見守るだけです。」

 

 

真化の力は特別な縁を持つ者以外はスフィアリアクターと共に戦う事で自然に覚醒する。

 

Z-BLUEに在籍した者達の多くが目覚めに引きずられたのはその為だ。

 

だが、空白事件の折に共に戦っていたセツコ・オハラは現在次元振動によって飛ばされてしまっていた。

 

ランド・トラビスも属する世界に一度は戻ったが、同じ様に飛ばされてしまっている。

 

天秤と黒羊と水瓶が争う破界と再世の世界に…

 

私も立場上、彼らへ早期覚醒を促す事は難しいだろう。

 

本当に…歯痒い。

 

 

「ハスミ、考え事の最中で悪いが宇宙の方で動きがあった。」

「こちらでも確認しました、ゲストがインスペクターのあの人達に抑えられたみたいですね。」

「ああ、同時にメサイア攻略で宇宙に上がっていたメンバーによって収拾しつつある。」

「ゴライクンルの艦隊もシュウ博士らに抑えられた様ですし、残りはルイーナとエルデ・ミッテ、ユーゼスら残党だけですね。」

「テンペスト、地上の方はどうなっている?」

「αナンバーズによってミケーネの侵攻、オルファンの浮上はしたものの沈黙、トーチカでの戦いも収拾、例のメリオルエッセの二人組もノードゥスのメンバーに引き取られました。」

「起こるべき戦いはそれぞれの戦いで終息したって訳だね。」

「光龍、フューリーはどうなった?」

「ちょっとばかり怪しい連中は居たけど、あの皇女殿下もやり手の様でね…被害なく政府と同盟を結んでいたよ。」

「ハスミ、伊豆基地の件は?」

「ほんの少しですが…こちらの手の内を見せました、ですが…今の彼らではどうにもならないでしょう。」

「また隔たりを創ったんじゃないの?」

「かもしれませんが、私達が完全な味方ではない事を知らしめる為にも致し方ありませんよ。」

「やはり、伊豆基地にもクロノの手の者が?」

「はい、しかし…ガイアセイバーズの実働部隊による奇襲で潜入者達は死亡しました。」

「お気の毒に。」

「既に毒された人達です、助けようがありませんでした。」

 

 

クロノの手の者の多くはテンシによってその精神を無理やり歪ませられていた。

 

救ったとしても精神崩壊の末に廃人と化してしまう。

 

あの時、ヒビキがエージェント・ホワイトを救えたのはスフィアの根源である…いがみ合う双子だからこそ起こせた奇跡なのだろう。

 

私は神じゃない、ガンエデンの巫女でスフィアリアクターであったとしても限界がある。

 

だが、不完全だからこそ真化に至れるのだ。

 

 

「次の作戦は長期戦が予想されます、各自十分な休息を取ってください。」

「例の南極の件だね。」

「はい、そこでこの戦いの決戦が行われます。」

「イルイがノードゥスに居る以上は奴らも手出しは出来ないか…」

「だろうね、ナシム・ガンエデンの目覚めに必要な条件をあの子は満たしていないし老師の守りも堅いからお墨付きさ。」

「…」

 

 

このまま無事に終わればいい。

 

それでもどこかで引っかかるキーワードがチラチラと思い出される。

 

ゴーカイジャー達の世界を襲撃した存在、謎の巨大サークル型のプレシャス。

 

只の思い過ごしだといいのだけど…

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

 

 

カーウァイら三人が部屋を後にした後、残されたケイロンとハスミ。

 

ハスミは再び考え事の中でケイロンに呼びかけられた。

 

 

「気になる事であったのか?」

「いえ、ただ…貴方との約束を思い出していただけです。」

「そうか…。」

「あの日、私は貴方と約束しました。」

 

 

この世界で誰か一人でも真化の力に目覚め…完全覚醒する事が出来たのであればサイデリアルはこの世界への侵攻を止める。

 

それが出来なければ私が身代わりとして貴方の片腕となってサイデリアルと共に戦う。

 

 

それが貴方との約束であり違える事が出来ない約束。

 

 

これは私が望んだ自分自身に対する呪詛。

 

 

「それでもこの呪詛は祝福であると思えてしまう。」

 

 

私は貴方の敵になる事を拒んでいたから…

 

 

「私は誰かを愛する事が末恐ろしいと改めて実感しました。」

「ハスミ…。」

「私は何処までも最低な女ですよ。」

 

 

私は彼らの敵として立ちはだかる存在を愛してしまった。

 

それは過ちなのだろうか?

 

誰かを愛する事に理由は要らないと言うが…

 

見方を変えれば、脅威である事は間違いない。

 

物語を書く事をしていた身としては時折考えてしまう。

 

 

『物語の主人公が倒さなければならない強敵と結ばれるのはいけない事なのか?』

 

 

と…呪いの言葉の様に私の脳裏へ過った。

 

 

=続=

 

 




繋がる筈のなかった勢力。

それらが手を繋ぎ逢おうとしていた。


次回、幻影のエトランゼ・第七十三話 『同盟《アライアンス》』


可能性を否定するな。

それは在り得たかもしれない同盟。


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希の付箋

それぞれの戦い。

何を示し、何を示すのか?

語られる真実の絶望に抗え。

希望を絶やすな。


伊豆基地・奇襲事件から数日が経過。

 

迫るミッション・アイスブレイカーに向けてノードゥスのメンバーが再集結しつつあった。

 

だが、もう一つの戦いであるミッション・レコンキスタが未遂のまま終わりを告げた。

 

 

「では、インスペクターのメキボス・ボルクェーデ氏がウォルガの代表として特使派遣されたと?」

「その通りだよ、お陰でゲスト…ゾガルのテイニクェット・ゼゼーナンは捕獲され残りの三将軍も投降した。」

「でもって俺も記憶持ちって訳で今回の話に参加させて貰うぜ?」

 

 

伊豆基地の一角、普段使われないミーティングルームに集合した記憶所持者のメンバー。

 

その中でシャアらに説明する万丈とメキボスの姿があった。

 

 

「つまり、月での戦いは未遂のまま防がれたと言う事か。」

「若干の被害はあるが、それを帳消しにするモノを提供すると言う形で会談は進めている。」

「例のワープ装置の事かい?」

「それとウォルガは完全にお前らと手を組む事を決めた…ただし、冷却期間を過ぎた後の話だがな。」

 

 

冷却期間、元の流れではゲストが行った戦いの事もあり地球側の異星人への怒りが収まるまでの期間を指す。

 

被害は少ないものの亡くなった者は出ている。

 

それに伴い、今回も短いながらも冷却期間が設けられた。

 

同時にメサイヤとレクイエムによるナチュラルとコーディネーターの泥沼戦乱も収拾された。

 

ブルーコスモス代表のロード・ジブリ―ルは前当主ムルタ・アズラエル氏殺害未遂による殺人教唆の罪で捕縛。

 

同時にプラント議長のギルバート・デュランダルはとある内部クーデターによる負傷で捕獲された事により第二次戦乱は終息の一途を辿った。

 

 

「ギアナ高地のメンバーはあのケイロン・ケシェットと交戦したと?」

「ああ、奴は思った以上の兵だ。」

「STXチームに在籍し鋼龍戦隊と共に修羅の乱でソーディアン攻略作戦に参加した…だったな?」

「そのケイロン・ケシェットの全貌は判らず仕舞いの上に所属企業が提示した公式の記録もほとんどが偽造だったらしい。」

「銀河も抜け目がなかったね。」

「ああ、ただでやられる訳には行かねえし……レオ達を駆使してアイツの姿を撮影してきたぜ。」

「彼の画像に映像記録が不明な分、それはありがたい。」

 

 

修羅の乱当時からケイロン・ケシェットは艦内に取り付けられた監視カメラの映像を避けて行動していた。

 

その為、彼の姿を直視出来た者は共に行動していた鋼龍戦隊位なものだった。

 

言葉での説明ではどんな人物なのかハッキリとしない為にノードゥス離反後に隙あらば映像を取る事を仲間内で決めていたとの事。

 

銀河はミーティングルームに備えられたモニターにギアコマンダーを繋げて、例の映像を映した。

 

 

「…この男は!?」

「やはり、クロノの本隊がこの世界に転移してきたのはこの為だったのか…!」

 

 

アムロやシャアなどZ事変で活動してきた記憶所持者達は映像を見て告げた。

 

そしてシンは悲しい表情のまま静かに答えた。

 

 

「…やっぱりそうなんですね。」

「シン、如何言う事だ?」

「実は俺…修羅の乱当時、ミネルバで行動中に奴に遭遇していました。」

「何だと?」

「最初は他人の空似と思いました、だけど…皆の反応を見る限り本人で間違いないと確信しました。」

「シン…」

「万丈さん、ケイロン・ケシェットはアイツは…」

「シン、君の言う通り…彼はサイデリアルの長・アウストラリスにして次元の将ヴィルダーク、立ち向かう射手のスフィアリアクターだ。」

 

 

そしてハスミ・クジョウが愛してしまった人物と万丈は静かに告げた。

 

 

******

 

 

僅かな情報で彼を知られた。

 

そして悪い方向へと流れていく。

 

私は決起の時が近い事を悟った。

 

 

「…」

「如何した?」

 

 

私の表情に何かを悟った様だったが、あえて私からの返答を待っていたヴィル。

 

私は静かに告げた。

 

 

「ヴィル…遂に彼らは真実に辿り着きました。」

「そうか、予定よりも早いな。」

「はい、彼らも成長し続ける……井の中の蛙大海知らずの者達とは違いますから。」

「前世の俺を打ち倒した者達だ。そうでなくてはな?」

「今後は如何なされますか?」

「既にクロノの本隊が潜入している以上、俺も傀儡の立場に戻る時が来たようだ。」

「…修羅の道ですね。」

「偽りとは言え、友を裏切る立場となるお前の悲しみに比べればな。」

「覚悟の上です、彼らには裏切った友すらも退ける覚悟を付けて貰わなければなりません。」

「ならば、判っているな?」

「既にホルトゥスの全権も全てお父さん達に預けてあります、これで私自身が携えるのはアシュラヤー・ガンエデンとその直属の配下のみです。」

「それでいい、偽りの身分になるとは言え…過剰な戦力を奴らに与える必要はない。」

「ヴィル、ノードゥスに対する決起の時はどうなされます?」

「此度の戦いが全て終えた時、告げる。」

「…彼らに取っては一難去ってまた一難、修羅場の連続ですね。」

「そうでなければ、お前の言う火事場の馬鹿力など引き出す事は出来まい。」

 

 

偽りとは言え、彼らの敵となる事。

 

覚悟していたのにどうしても揺らいでしまう。

 

隠す事と護る為に裏切りに裏切りを重ねる。

 

このスフィアを持つ私の宿命と言える道筋。

 

それでも彼らに真化に繋がる兆しに導く為にも誰かがやらなければならない伏線。

 

私はそれを受け入れる、どちらにも手を伸ばし助けると誓った自分の意思に賭けて。

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

「正体を晒す以上は手加減は出来んぞ?」

「はい…それに彼らが早々に退場する事はないでしょう。」

 

 

この程度で潰れるのなら其処までの存在だっただけです。

 

 

「信じているのだな?」

「前世の私の中では彼らは英雄でしたから…」

「では、今世では?」

「…見極めなければならない存在。」

「見極める?」

「彼らがアドヴェントの誘惑に打ち勝つ事が出来るのか?をです。」

「…」

「もしも誘惑に負けるのであれば私はガンエデンとしてけじめをつけるだけです。」

 

 

上辺だけの言葉、彼なら気づいてしまうだろう。

 

私が仲間を失う事を恐れていると…

 

ましてや、今世で共に育った幼馴染までもいる状態だ。

 

私はそれだけ告げると広間を後にした。

 

 

「…」

「全く、強気な所は母親そっくりだけど…本当に無理してるよ。」

「光龍殿?」

「気配を消したまま話を盗み聞ぎするつもりはなかったけど、そうもいかないだろう?」

 

 

ハスミが去った後、広間の柱の陰から現れた光龍。

 

先ほどの娘の様子をさりげなく告げた。

 

 

「あの子に道化役は酷だ。」

「…」

「それでも君に付き従うと覚悟を決めたんだ、あの子の意思を無駄にしない様に。」

「理解している。」

「じゃ、決起の時を待っているよ…サイデリアル当主・アウストラリス皇帝陛下殿?」

 

 

ひらひらと片手を振って広間を去る光龍。

 

ケイロンことヴィルダークは己の拳を握り占めていた。

 

 

「無論、無駄にはせん……ガドライト、尸空、エルーナルーナ、バルビエル、そしてハスミの想いをな。」

 

 

静寂に包まれた広間で彼の言葉が静かに響いた。

 

 

>>>>>

 

 

私はとある疑念を晴らす為に天鳥船島に停泊しているゴーカイガレオンの元へ向かった。

 

杞憂ならそれでいい、でも確かめないといけない事だから…

 

 

 

「巨大サークル型のプレシャスの全容?」

「ええ、差し支えなければ見せて貰いたいのですが…」

「マーベラス、別に構わないよね?」

「減るもんじゃねえし、いいだろ。」

 

 

ゴーカイジャーのクルーの一人であるドン・ドッゴイヤーことハカセとキャプテン・マーベラスの了承を得て、ハスミは例のプレシャスの全容を閲覧する事に。

 

 

「えっと…あった、これこれ。」

「!?」

 

 

ハカセがゴーカイガレオン内のコンソールからモニターに写した映像を見るハスミ。

 

それは緊急を要する代物だった。

 

 

「これは…クロスゲート!」

「えっ?」

 

 

ハスミの発言に対しマーベラスの目付きが変わり、ダイニングでティータイムをしていたアイム・ド・ファミーユと隣のソファーでポーカーをしていたルカ・ミルフィ、ジョー・ギブケン、伊狩凱が反応する。

 

 

「クロスゲート?」

「何だそれは?」

「この世界に置いては通常空間や並行世界同士を繋ぐゲートです、起動には大規模のエネルギー源と生体キーであるサイコドライバーが必要ですけどね。」

「では、旅路の扉と言う事ですか?」

「その解釈でも合っています。」

「所でさ、それがどうして私達の居た世界にあった訳?」

「可能性として先史文明期の折に製造されたクロスゲートの一つがそちらの世界に流れ着いたとしか…」

「それが俺達の世界の地球に流れ着いて長い年月が経った頃に発見されたって事ですか?」

「経緯や状況を照らし合わせるとそうなります。」

「偶然にしても出来すぎている。」

「だよね……って事はあの時に扉が動いたのって!?」

「あの場所にそのサイコドライバーが居たって事だ。」

「…若しくはそれと同等の力を持った何かですね、マーベラス船長。」

「しっかし、古代人達も何で厄介なモノを残しやがるんだ。」

「あくまで推測ですが、先史文明期頃にこちら側の世界とそちら側の世界と何かの交流があったのかもしれません。」

 

 

そしてこの巨大サークル型プレシャスことクロスゲートを強奪したのが…

 

 

「そしてバルマーの残党がそちら側の世界に潜入していたようですね。」

「…どう言う事だ?」

「記録映像に写された機動兵器、あれはバルマーの使用していた兵器の一つです。」

 

 

プレシャス周辺で起こった戦闘記録の映像の中にメギロード、ゼカリア、そして…黒いジュデッカ。

 

 

「指揮を行ったのはユーゼス・ゴッツォ、恐らくクロスゲート・パラダイム・システムの起動実験とそれに必要なゲートの捜索を行っていた様子ですね。」

 

 

黒いジュデッカを使用していた所を見るとL5戦役から始めていた。

 

そして今回の様に横槍のせいで必要なピースが揃わなかった場合の保険を兼ねているだろう。

 

ナシム・ガンエデンの所持するクロスゲート、アシュラヤー・ガンエデンの所持するクロスゲート、アゾエーブにトロニウムエンジンやウラヌスシステム等、数えたらキリがない。

 

恐らくアダマトロンの顕現は阻止出来ない。

 

ペルフェクティオのファトゥームを相手にするだけでも厄介だと言うのに。

 

 

「今回の戦い…一筋縄ではいかないと思っていましたが相当な修羅場です。」

「てぇ事はドンパチやるって事だろ?」

「海藤、ノック位しろ。」

「わりぃな、何か面白そうな話してっからよ。」

 

 

ガレオン内に入って来た海藤剣と真上遼の二名。

 

二人の来訪にマーベラスは眉を顰めるが無言のままで通した。

 

 

「…海藤特務中尉、真上特務中尉。」

「当主、この戦い…総力戦となると見るが?」

「はい、ノードゥスや戦線に参加する予定の戦力だけでは荷が重いでしょう。」

 

 

また、手の内を晒す事になるか…

 

いや…既に晒したようなモノ。

 

あの人はどう出るかが一番の問題。

 

記憶を持つ彼らは今まで隠し通した秘密へ辿り着いた。

 

その壁は脆く繊細で堅牢だったが、私の行動で安易に崩れ去った。

 

私もまた隠し通した次元の力を使う時が来た様だ。

 

 

「強制はしません、この戦いに参加を希望するメンバーのみで南極の作戦…ミッション・アイスブレイカーに乱入します。」

 

 

それでもいい。

 

私はたった一人の…心から愛した人の為に尽くす事を選んだ愚かな女だ。

 

それを受け入れる。

 

 

=続=

 



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第七十三話 『同盟《アライアンス》』

結集する同盟。

密かに繋がれた縁。

それは手放す事は出来ない。


前回同様、記憶所持者達による伊豆基地の会議室にて会合が続いていた。

 

万丈によって語られた真実により周囲に混乱を齎したのは言うまでもない。

 

 

******

 

 

次元将ヴィルダーク。

 

Z事変に置いてサイデリアルを指揮し幾多の惑星と銀河を制した上に辺境銀河に属する惑星・地球の八割を制圧するまでに地球政府を追い込んだ手腕を持つ。

 

彼や彼の元に集ったスフィアリアクター達とZ-BLUEや所属スフィアリアクター達との激戦。

 

長きに渡る戦いの中で彼は己の志を折る事が出来ず敗北しZ-BLUEに後を託した。

 

…その志は道は違えと御使い打倒であった事は確かだった。

 

現在、彼は名を偽り…この世界へ転移し真意が不明を貫くハスミと行動を共にしている。

 

 

「アイツ、トンでもねえのとつるんでいやがったと思ったらそういう事かよ。」

「確かに修羅の乱で奴と共に行動している時も得体のしれない何かを感じ取れた。」

「敵の総大将と恋仲って…俺も言えた義理じゃねえけど。」

 

 

ケイロン・ケシェット改めヴィルダークと一時期行動を共にしていた鋼龍戦隊のメンバー。

 

マサキの愚痴から始まり様子を見ていたキョウスケとリュウセイ。

 

リュウセイの場合はレビだったマイとの件もあり何とも言えない表情だった。

 

そしてコウタとアクセルもまた各々の視点を述べていた。

 

 

「あのおっさんがそんな野郎だったなんて…」

「これで合点がいった、ハスミを通じて理由を知っていたからこそ早期にミチル・ハナテンやトウマ・カノウと接触し揺さぶりをかけていたのか…」

 

 

現在、鋼龍戦隊に外部協力者としてトウマ・カノウとミチル・ハナテンの二名が在籍していた。

 

元々は民間人であったが、前者はミナキ・トウミネを通してジンライのオリジナルである雷凰を動かしてしまった事。

 

後者はキサブロー・アズマ博士が搭乗する筈だったGバンカランのパイロットに博士自らが彼に任命した事。

 

これにより、鋼龍戦隊に組み込まれ現在に至った。

 

そしてこの二名には奇縁の出来事が引きこされていた。

 

接点として同二名は封印戦争が始まる前にケイロンと接触していた事である。

 

トウマの場合はアルバイト先の一つである天臨社で遭遇、ミチルの場合は大阪で少々荒れた時に出会ったとの事だった。

 

双方バトルスタイルが格闘メイン、ハスミはケイロンを通して彼らに揺さぶりを掛けたと推測している。

 

今回の彼らには鋼龍戦隊に協力する事となった接点である出会いや戦闘がなかった事を考慮しての行動。

 

そんなやり取りの中でラウルとジョッシュも己の考えを告げた。

 

 

「理由を知る…いや、元から知っていた彼女なら行動を起こしても不思議じゃない。」

「俺はハスミ・クジョウと言う人の事をよく知らない、ただ…その人が理由があって行動を起こしたのは今までの活動で理解しました。」

 

 

ジョッシュとヒューゴが参加していた戦いに置いてある人物が救出に訪れていた件をギリアムが答えた。

 

 

「君やリム達、グラキエースとウェントスの救出の際にテンペスト少佐を向かわせたのも後の行動があってだろう。」

「ギリアム少佐、やはり南極の決戦には…」

「彼女の介入がある事は間違いないだろう、そしてイルイが目覚めを迎えていない…南極を覆う例の結界を解くにも彼女の力が必要だ。」

 

 

ルイーナの首魁・ペルフェクティオが潜む南極の遺跡最深部。

 

その前を阻む結界の解除に現れる事は予想出来ていた。

 

続けて同盟の件に関して質問するジョッシュ。

 

 

「少佐、例の同盟の件はどうなりましたか?」

「その事だが…」

 

 

ギリアムは外で控えている人物に入室を許可すると話し合いの場にある人物が入ってきた。

 

 

「皆さん、お久しぶりです。」

「トーヤ、お前も記憶を?」

「はい、前の記憶を思い出したのは空白事件後ですけど…」

「アキミの方は?」

「何度か接触しましたが、まだ思い出せてないようです。」

 

 

トーヤ・シウンの紹介とフューリーの活動に関して関りを持った者達で周囲に説明。

 

その後、フューリー側の件に関してトーヤから説明が続けられた。

 

同盟を期に今回の南極作戦へ協力を申し出たフューリー。

 

元々遺跡の建築に携わり、その構造に詳しい彼らの協力は必要不可欠だろう。

 

南極遺跡の破壊を条件に今回の戦列に加わる事になっている。

 

ホルトゥスからも警告を受けていた為、軍上層部…ギャスパル元帥もこれを容認したのである。

 

トーヤはその出生と関りからフューリー側の有志として関わる事になったと告げた。

 

同じ様にフューリーと繋がりがあったカルヴィナ達もフューリー側での参戦となった。

 

当初は本人らの間で問題があったが、今では受け入れているとの事だ。

 

 

「シャナ=ミアや父さん達がやろうとしていた同化計画が露見…地球側にも異星の人々を受け入れる体制が整ってきた事も幸いしフューリー上層部は地球側との同盟を認可しました。」

「彼女曰く兆しが早まったのだろう。」

「それとホルトゥスが何度かフューリーに接触を…」

「ホルトゥスが?」

「はい、孫光龍と呼ばれる人がホルトゥスの代理人として何度かガウ・ラ・フューリアへ赴いていました。」

 

 

光龍自身も先史文明期の生き残り…フューリーの古き世代の中にも顔見知りが居た為に謁見が円滑に進められた。

 

ヴォーダの闇を封じた扉を開く厄介な存在出現。

 

ガンエデン達はその扉を破壊する事を決定したと報告した。

 

だが、ヴォーダの闇の一端を封じるだけであり完全な解決方法ではない事も説明付けられた。

 

 

「確かにクロスゲートの破壊にはフューリーの玉座機…若しくはガンエデンの力が必要。」

「例の一件でバラル側の助力も得られる以上は総力戦となるか…」

「その事だが…」

 

 

トーヤらの説明を無言で聞いていたアムロ達。

 

その件で可能性のある条件を告げた。

 

 

「…ペルフェクティオを対抗する方法が他にもある。」

「どう言う事ですか!?」

「シャア、まさか…」

「ヴィルダークの持つスフィアの力…次元力を行使する力ならば奴に対抗出来る。」

「次元力?」

 

 

初回参加のトーヤの頭が?になった為、事情を知るアムロや鋼龍戦隊のメンバーでかくかくしかじかの説明。

 

 

「そんな事が可能なんですか!?」

「ああ、だが…肝心の奴の出方が不明の状況だ。」

「確か…その人ってホルトゥスに所属しているんじゃ?」

「正直な話、それがさっき判明した問題っつうか…厄介な案件。」

「…後々、敵対する可能性のある奴に力を借りられるか?」

「難しいですよね…。」

「結局、トーヤが来る前に…この件は様子見で決まった所。」

 

 

触らぬ神に祟りなしとはこの事である。

 

真意が不明である以上は藪から棒と言う事は避ける方針へと話し合いで決定。

 

真相を知るには今回の戦いを終わらせなければならないだろう。

 

進展しない話し合いの中でシンは同行出来なかった後のハスミとヴィルダークの様子をリュウセイに尋ねていた。

 

 

「リュウセイ少尉、ヴィルダークを行動していたハスミさんはどんな感じでした?」

「俺も同行出来たのは修羅の乱の最終決戦位の時でハッキリとは言えない…ただ。」

「ただ?」

「素のハスミを見れたのは久々だったと思う。」

「素の?」

「ああ、ガンエデンの巫女って立ち位置を背負っているハスミが本当のアイツになれるのがケイロンいやヴィルダークの前だった…って言うのは確かだぜ?」

「…それだけ信頼されているんですね。」

 

 

このままだとハスミさんは間違いなくサイデリアルに与する。

 

あの人は絶対にヴィルダークの事を裏切らない。

 

ヴィルダーク自身も相手を誑かす様な気質じゃない…むしろ正々堂々を求めていた。

 

アカシックレコードを駆使し世界の記憶と異界の知識を使役するハスミさんとリヴァイブ・セルでスフィアを吸収し力と成せるヴィルダーク。

 

もしも、二人の力によって統率されたサイデリアルが侵攻を開始すれば…Z事変の戦いなんて比べ物にもならない。

 

どう足掻いても勝ち目がない采配…地獄絵図だ。

 

 

「お、おい…シン、何か顔色が悪いぜ?」

「えと…すみません。」

 

 

修羅の乱で自身がやってしまった選択に青ざめていたシン。

 

その様子にリュウセイも察して再び声を掛けた。

 

 

「嫌な事でも思い出したか?」

「…」

「複数の可能性がある分、前の記憶に縛られるな。」

「えっ?」

「ハスミが俺達に正体を明かした時に言った言葉だよ。」

「記憶に縛られるな?」

「俺達はどうしても前の記憶に感情とか観点が引っ張られやすい、だからアイツは物事が変わる分…周囲も変わる事もあるって意味を俺達に教えたのさ。」

 

 

物事が変化すれば周囲も変わる。

 

ハスミさんがヴィルダークと行動を共にする理由。

 

単に好意だけからじゃない…もっと別の何かが。

 

 

「済まない、今回の情報交換はここで終了とさせてもらう。」

 

 

リュウセイの言葉に対し考え事を始めるシン。

 

だが、その答えを出す前にギリアムが室内に居た全員に声を掛けた。

 

その声に反応し質問するシャア。

 

 

「少佐、何かあったのか?」

「先程、バラルの北仙・泰北がこちらに来訪したと連絡が…」

 

 

その名を聞き反応するキョウスケ。

 

 

「あの仙人…ハスミとの約束は守る様子ですね。」

「キョウスケ中尉、約束とは?」

「北仙・泰北はクスハ達が帰還したあの戦闘で降伏し来るべき日に助力すると…残存するバラルを纏め上げ、ハスミの元へ下りました。」

「しかし、罠の可能性も?」

「彼は元バラルの統括だった孫光龍の同胞であり、その娘であるハスミの元へ下った…罠であればハスミも気づいているでしょう。」

「ええ、もしも彼女に危害を加えれば光龍やカーウァイ中佐達が黙っていませんので。」

 

 

疑いを掛けるシャアに対しキョウスケに続きギリアムが助言。

 

その発言に青ざめた表情をするコウタとマサキ、リュウセイ。

 

 

「確かにありゃ…」

「敵に回したくねえよ。」

「寧ろ敵に回す方がおかしい話だよな、それ。」

 

 

三人の様子に?マークを浮かべるジョッシュとヒューゴ、トーヤ。

 

 

「ジョッシュとトーヤは知らないから分かりにくいんだけど…光龍はハスミの実の父親、カーウァイ中佐とテンペスト少佐は養父で三人ともハスミの件で怒らせると不味い。(本人もドン引きする位に親バカレベルを超える騒動になりかけた事もあるんだ。」

 

 

冷や汗をかきながら耳打ちで三人に説明するラウル。

 

説明を聞いた三人は何とも言えない表情になったのは言うまでもない。

 

更にキリがないので話は切り上げられ、各自持ち場へと戻る事となった。

 

 

>>>>>

 

 

所変わって伊豆基地内の一角。

 

泰北はその来訪と共に厳重な警戒で施設内へ案内された。

 

彼は護衛も付けずのたった一人で来訪。

 

彼自身も強力な念者である以上は護衛は必要なかっただろう。

 

しかし、姿勢は彼自身の贖罪の形だったと思われる。

 

 

「会合に応じて下さり感謝致す、その前にこちらの非を詫びさせて頂きたい。」

 

 

泰北からの謝罪の言葉から始まり。

 

テスラ・ライヒ研究所襲撃の件での謝罪の言葉が述べられた。

 

襲撃の理由は超機人の奪還と選ばれた念者の力量を見極める為。

 

襲撃の際に死亡されたと思われた研究員や作業員達はホルトゥスが回収し誰一人の死傷者を出していないと告げられた。

 

それを代表としてエルザムら旧オーダー関係者達が応対した。

 

 

「では、テスラ研の行方不明者達は…」

「現在も治療を受けている者達も大勢いるが無事である。」

「治療?」

「うむ、救出された者の中にこちらの非で負傷した者もおれば…発見時に既に負傷を受けた者達がおったのじゃ。」

「どう言う事だ?」

「ここは光龍殿の推測であるが、ワシらとは異なる何者かが忍び込んでいたと考えられると…」

「何じゃと…?」

「アシュラヤー様が光龍殿を忍び込ませたのも…その何者かの正体を知る為だったと告げられた。」

 

 

泰北の発言によってテスラ研はバラルの襲撃に乗じて別勢力の侵入が起こっていた。

 

それを防ぐ為にホルトゥスが水面下で動いていたと説明した。

 

この説明でゼンガーやリシュウも声を荒げていた。

 

 

「その正体は結局の所掴めず…故にワシらもその正体を知らぬ状況である。」

 

 

泰北の説明が終わると彼は来訪の本題に話を戻した。

 

 

「我らはアシュラヤー様のご指示により南の地に蔓延る百邪を滅する者達に助力せよと命ぜられました。」

 

 

要は戦列に加わる事を許して欲しいと言う意味である。

 

朱雀の操者を失った事で四神クラスの超機人を動かせぬ以上は妖機人による足止めが手一杯である事も付け加えられた。

 

 

「最低限の助力のみとなるが、どうかご理解頂きたい。」

「分かりました、こちらでも進言させてもらいます。」

「誠に申し訳ない。」

 

 

その後、艦長と部隊の代表者間で最終の会議が行われフューリー側の協力者とバラル側の協力者との連携が決定。

 

戦いは一刻一刻と迫っていた。

 

******

 

更に数日後。

 

ミッション・アイスブレイカーが発動してから数時間後。

 

交戦する地球連合軍と敵本拠地へ進むノードゥス。

 

南極遺跡の進攻ルートに出現したルイーナの軍勢を他の勢力が足止めし、ノードゥスが本拠地を叩く。

 

いつものパターンでの戦法が展開されていた。

 

そして南極遺跡の入り口となっている結界前にハスミは乗機であるエクスガーバイン・クリンゲで出撃していた。

 

 

「アートルム・エクステリオルと同類の結界か…」

 

 

本来ならばナシム・ガンエデンの神僕たるクストースが結界の件で介入するが…

 

今回はイルイが完全な覚醒に至っていない以上、私の方で処理するしかないだろう。

 

私はショメル達を呼び出し、結界を破壊する指示を下した。

 

私が各三機を通してエネルギーを微調整し結界に干渉させ、そのまま歪みへと導いた。

 

 

「お膳立てはここまで…後は彼ら次第と言う訳か。」

「結界の破壊自体はお前が手を出さずとも良かったのではないのか?」

「余計な力を使わせる訳にはいかなかったので…」

「…何かあったのか?」

「はい、一度倒した筈の相手が復活してしまいましてね。」

「復活だと?」

「ええ、それに『絶望』を糧とするのはルイーナだけではないので。」

「…」

「本当に厄介ですよ。」

 

 

同じ様に蒼雷で出撃していたケイロンとの会話。

 

その様子をショメル達は静かに静観。

 

 

「貴方の言う通り、決起の時は近い様です。」

「そうか。(やはり、スフィアを開放しなければならない時が迫っていたか…」

「私も隠していた真実を晒し出す必要があるみたいです。」

「バアルの侵攻ともなれば致し方ない。」

「はい、私はガンエデンとして…そしてスフィアリアクターとして戦います。」

 

 

ただ、それは新たな波乱を生む呪いの言葉。

 

それでも宿命から逃れるつもりはない。

 

 

=続=

 




閉ざされた氷の世界。

その奥に潜む負の化身。


次回、幻影のエトランゼ・第七十四話 『闇淵《ヤミノフチ》』


潜れ、深き深淵に。

そして終わりを告げよう。



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第七十四話 『闇淵《ヤミノフチ》前編』

潜れ。

深く、深く。

氷床下の奥へ。

そこは深淵の入り口。


ミッション・アイスブレイカーが開始してから数時間。

 

地球政府の呼び掛けによって集結した連合艦隊の護衛を受けてノードゥスは南極遺跡の最深部たるファブラ・フォーレスへと向かう。

 

しかし、ホルトゥスよって戦力が激減したとはいえレイラインよりエネルギーを供給し増産されたルイーナの軍勢に阻まれ遅々として進んでいなかった。

 

その絶望は再び破滅の王へ力を与える為に吸収されている。

 

だが、絶望を糧としているのは単に破滅の王だけではない。

 

それは暗い闇の中で目覚めの時を待っていた。

 

 

******

 

 

=?????=

 

 

並行世界の間には僅かではあるが異空間が存在した。

 

無数に存在し固定されている異空間もあれば繋がっている異空間も存在する。

 

その異空間の一つで闇が蠢いた。

 

 

「…ほぼ七割程度か。」

 

 

自身と同じく闇を思わせる深淵で不鮮明な闇は答えた。

 

 

「あの時の様な完全復活ではないとは言えないが、動く事は可能。」

 

 

不鮮明な闇は徐々に形作られ独特の鎧姿が形成される。

 

 

「相反する対極の根源は切り離せない……それはお前達も同じ事。」

 

 

鎧のマスクの奥で眼光がうっすらと輝いた。

 

 

「今は高見の見物とさせて貰おう。」

 

 

異空間に入り込み、彼の周囲に纏わりついたドロドロとした黒いオーラは彼によって吸収された。

 

そのオーラから感じ取れるのは黒い未来…恐怖に怠惰、諦めの絶望の感情だった。

 

 

>>>>>

 

 

同時刻、再び南極の地にて。

 

ミッション・アイスブレイカーは継続し行く手を阻むルイーナの軍勢と交戦を続けるノードゥス。

 

先の作戦説明時にメインとなる四艦を護衛、配属部隊は各艦で待機のまま出撃が出来ない状況となっていた。

 

メインとして選ばれたのは鋼龍戦隊のハガネ、ヒリュウ改、バトル7、ラーカイラム。

 

これはDの物語に繋がるメンバーとルイーナと因縁を持つメンバーでの構成。

 

四艦と言う編成なのはフューリー側の情報でファブラ・フォーレス内で活動出来るのは戦艦四艦位が限度と釘を打たれたからである。

 

残りの部隊はファブラ・フォーレスへの入り口を中間地点としファブラ・フォーレス破壊までの間の中継地点の護衛を継続。

 

そしてメインとなる艦の護衛の理由は万全の状態でファブラ・フォーレスへ四艦を突撃させる為である。

 

戦力を削られない為に残りのノードゥスの艦隊と部隊が現在もルイーナの軍勢と交戦。

 

どちらも歯痒い思いが心を揺らがせていた。

 

だが、水先案内人とも言える存在達がファブラ・フォーレスへの道を閉ざすメリデンブルムの前に待ち構えていた。

 

 

「艦長、メリデンブルムへのルート前方にショメルが展開しています。」

「何だと!?」

 

 

ハガネのブリッジにてエイタの言葉に反応したテツヤ。

 

 

先の様子からアシュラヤー・ガンエデンの直属の配下である三体のショメル達とその下に位置するアフ達が各小隊ずつに分かれて展開していた。

 

そしてノードゥスの大艦隊が接近した事に気が付くと各自移動しその道を開けた。

 

 

 

「道を開けた?」

「一体、どうなっている?」

 

 

同時に居住区で待機していたイルイがブリッジへやって来た。

 

その様子に驚くアズキを余所にイルイは告げた。

 

 

「…」

「イルイちゃん!」

「イルイ、一体どうしたんだ?」

「あの子達が言っているの。」

「えっ?」

「このまま進めって…扉は開いているって。」

「扉は開かれている、か…」

 

 

ショメル達から発せられる念を読み取り、その意思をテツヤ達に伝えるイルイ。

 

同時に案内人として出撃していたウェントスやグラキエースからも同様の言葉を受け取る事となった。

 

 

「その子を言うとおりだ。」

「ああ、メリデンブルムの結界が既に破壊されている。」

 

 

二人の言葉に反応するリアナとジョッシュ。

 

 

「本当なの!?」

「なら、このまま強行突破出来る。」

「ルートはこのまま、直進すればいい。」

「メリデンブルムのあった場所を抜ければファブラ・フォーレスまではそう遠くない。」

 

 

彼らの言葉に従い、ノードゥスはメリデンブルムを通り過ぎファブラ・フォーレスへと向かう。

 

その行く末をショメル達は見守る形で見送った。

 

 

******

 

 

メリデンブルムを通過しファブラフォーレスへと向かう一行。

 

その道中でノードゥスを殲滅させようと生き残っていた敵連合勢力が襲撃。

 

どうやら連合軍艦隊の包囲網を突破したか、或いは何かしらの方法で潜り抜けてきた様子だった。

 

ノードゥスは一部の艦隊を襲撃してきた勢力へ向けた。

 

今回の作戦に参加中のノードゥスの艦隊は以下の通り。

 

鋼龍戦隊よりハガネ、ヒリュウ改、クロガネ。

 

連合軍よりラー・カイラム、アルビオン、リーンホースjr、ドミニオン、ナデシコC。

 

他組織からの協力で大空魔竜、バトル7、マザー・バンガード、アークエンジェル、トゥアハー・デ・ダナン。

 

ザフトよりエターナル、ミネルバ。

 

地球防衛軍より方舟とイオニア、ジェネシックガオガイガーのツール艦である三艦が出撃。

 

ちなみにガンドールとVナデシコに関しては修羅の乱で起こった火星での決戦で破壊されている。

 

またエルシャンクやグラン・ガラン、ゴラオン、NSX等の外宇宙&異世界の艦隊は今回の戦いには諸事情より不在。

 

メインの四艦は省かれ、この場に残ったのはアルビオン、ドミニオン、大空魔竜、イオニア。

 

更に木星での決戦で死亡した筈のドゥガチもバイオ脳で増産されたディビニダド部隊を引き連れた状況にロゴスの残党がデストロイとサイコガンダム部隊を差し向けてきたのである。

 

続けてマザー・バンガード、トゥアハー・デ・ダナン、アークエンジェル、エターナル、核爆発対策でGGGの三艦も残る形が決定。

 

これも無限力からの圧力とアカシックレコードからの制約がかかっている事はこの場の誰にも解らないだろう。

 

艦隊の半数をその場に残し、残りのノードゥス艦隊はファブラ・フォーレスへと向かった。

 

 

「ふん、ようやくか…」

「予想よりも遅かったな。」

「まあいいだろう、その分…我らの王への供物は多くなる。」

 

 

ファブラ・フォーレスへと繋がる入口、南極基地の跡地周辺に部隊を展開させるとコンターギオとアクイラ。

 

戦いの気配を察し、臨戦態勢を取っていた。

 

彼らにとってメリデンブルムの結界が破壊されたのは一つとトラブルに過ぎないが、それも破滅の王への供物へと成り下がっていた。

 

 

「ふん、雑魚風情が吠えるとはこの事か…」

 

 

南極遺跡へと先に辿り着いたエクスガーバイン・クリンゲと蒼雷。

 

先のアクイラ達の会話に対して煽りの言葉を掛けた。

 

 

「漸く表れたか、蒼の女神とその従者よ。」

「従者とはな…貴様の目は節穴か?」

「…どう言う意味だ?」

 

 

ケイロンは蒼雷から降りると同時にもう一つの姿を晒した。

 

かつて先史文明期に置いて『バアル』と戦った白銀の戦士の姿へと変貌した。

 

 

「その姿、まさか…!?」

「我らの王と対峙した…!」

 

 

絶望の使者達が驚愕する中で彼の中のスフィアが鳴り響いた。

 

 

「フ……貴様らの糧である絶望すら感じる事無く終わらせてやろう、光栄に思うがいい。」

 

 

『音速』も『光速』も『刻』すらも超えた動き。

 

彼らは絶対に相手にしてはならない存在に獲物として眼を付けられたのだ。

 

 

=続=

 




希望の歌を。

未来への思いを。

明日への歩みを。


次回、幻影のエトランゼ・第七十四話 『闇淵《ヤミノフチ》後編』。


爆ぜる炎の歌は勇気と生命の象徴。


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ノードゥス・現戦力報告書

話数で不明な部分や説明不足を補う為のものです。

所々に封印戦争中に各自の行動図の説明。

微妙なネタバレも含みます。


=現戦力報告並びに各戦果報告書=

 

 

地球連合軍独立遊撃部隊『ノードゥス』は先の『修羅の乱』後に解体。

 

各部隊は各所属の地にて赴任。

 

現在発生している戦乱で再結成の声も上がるが『鋼龍戦隊』による大統領暗殺により頓挫。

 

ミスマル総司令ら有志により各部隊は別名称を使用し『ブルースウェア』と『αナンバーズ』による遊撃部隊として活動。

 

その後、『鋼龍戦隊』による大統領暗殺は未遂であり真の主犯は『ガイアセイバーズ』である事が露見した。

 

『鋼龍戦隊』は戦犯から軍属へと帰属し地球連合軍独立遊撃部隊『ノードゥス』に組み込まれる。

 

ルイーナによる『レイライン』の各ポイントの侵略、『地球防衛軍』より『レイライン』の奪還とポイントの危険性を主張する案件によりノードゥス並びに各部隊が対応。

 

各『レイライン』奪還後、『バラル』の降伏宣言と『ホルトゥス』の介入があった事が『ノードゥス』より情報提供され事態が収集した。

 

『ホルトゥス』より齎された情報により『ルイーナ』の本拠地である南極への奇襲作戦が展開。

 

同盟となった『フューリー』へ南極遺跡の最深部『ファブラ・フォーレス』の同行を許可。

 

遺跡の破壊を第一条件とし対『ルイーナ』戦へ一部隊が参加。

 

地球政府は地球連合軍と地球防衛軍並びに各有志国家と連携し南極遺跡へ部隊を展開。

 

道中で『ノードゥス』は部隊の一部を敵奇襲部隊に割き、残存部隊は南極遺跡へ突入し南極遺跡・最深部へ到達。

 

以降の情報は不明。

 

 

 

>>>>>

 

 

※地球連合軍独立遊撃部隊『αナンバーズ』

 

主に地上での活動任務に参加。

 

所属艦はリーンホースjr、大空魔竜、トゥアハー・デ・ダナン。

 

有志艦としてオーブ軍に移籍したアークエンジェル。

 

活動任務は地下勢力の復活に伴う地上侵略の阻止とオルファンの監視。

 

 

※地球連合軍独立遊撃部隊『ブルースウェア』

 

主に宇宙での活動任務に参加。

 

所属艦はラー・カイラム、アルビオン、ナデシコBのちにナデシコC、ドミニオン。

 

有志艦としてマザー・バンガード、バトル7。

 

活動任務は外宇宙からの侵略意思を示す異星人、並びに所属不明部隊の調査。

 

 

※方舟、エオニア、GGG所属艦は地球防衛軍傘下のまま極東を中心に守衛任務。

 

パイロットの未成年者(一部例外)は居住エリアで待機。

 

なお、秘密裏に国際警察機構のエージェントがパイロットの護衛に選出される。

 

新生スペースナイツとEDFは戦力半減した地球防衛軍の部隊へ協力。

 

ガンドール隊、ムートロン、TERRA、ネルフは強硬派の圧力で不参加。

 

エクセリヲン隊、ダンガイオーチームは外宇宙探査で地球圏不在。

 

地下世界、異世界の部隊は帰還した事とブラックカーテンことアートルム・エクステリオルの一件で連絡不可。

 

 

※鋼龍戦隊の逃亡帰還内の動向。

 

同戦隊所属のSTXチームはガイアセイバーズに転属の為、移動中に行方不明。

 

後に『ホルトゥス』へ所属。

 

STXチームに所属していたエクステンデットの三名はレイライン奪還の際にドミニオン隊に引き取られそのまま所属。

 

戦技教導隊メンバーのアラドとゼオラはガイアセイバーズへ出向道中に書類の不備あり。

 

一時期、中継基地に所属していたヤザン隊に引き取られ行動していたが『鋼龍戦隊』の汚名が晴れた事で再び『鋼龍戦隊』に所属。

 

ツェントルプロジェクトメンバーのヒューゴ、アクアは内部抗争並びにガイアセイバーズの思惑も絡んでいた事もあり、戦技教導隊預かりとなる。

 

ヒューゴはエルデ・ミッテが搭乗するメディウス・ロクス改めガルベルスのラズナリウムに取り込まれて行方不明となるが、『ホルトゥス』に保護されていたアルベロ、フォリア両名の助力もあり救出、同二名は『ホルトゥス』の指示で『鋼龍戦隊』へ協力。

 

リ・テク所属のジョッシュ、リムの両名は『鋼龍戦隊』に協力。

 

南極遺跡の事件後、SRXチームと共に次元震で転移。

 

別エリアで行動中だった『αナンバーズ』と『ブルースウェア』それぞれに救出され行動。

 

後にガイアセイバーズに奪われたウェポンボックスハンガー『ジェアン・エール』と『エクセルシオ・アルスノーヴァ』の奪還の際に襲撃してきたメリオルエッセのグラキエースとウェントスに遭遇。

 

何度かシュンパティアの共振が行われたのが原因かグラキエースとウェントス両名は捨て駒としてウンブラの部隊から攻撃を受け沈黙、そのままジョッシュらレース・アルカーナ搭載機の四機の間に次元震が発生。

 

別エリアに転移し各機破損するが、別行動中だったテンペストによって救助され地球へ降下していた『ブルースウェア』に引き渡される。

 

並びにレース・アルカーナ搭載機の不備箇所に対する改善案も引き渡される。

 

 

アズマ研究所より民間協力者として在籍中のミチル・ハナテン。

 

元ガイアセイバーズ所属研究員であるミナキ・トウミネに協力するトウマ・カノウ。

 

両名は現戦乱前にSTXチーム所属のケイロン・ケシェットに遭遇。

 

少々のいざこざの後に当人から「答えを求めるなら鋼龍戦隊に加われ。」と会話があったと説明、その言葉通りに『鋼龍戦隊』に協力中。

 

トウマ・カノウに関してはジンライとの一件で問題点の発見と改善点が発見された事で雷凰本来の機能を取り戻す事に成功、そのままトロンべ隊に所属。

 

魔装機神隊こと後のアンティノラス隊。

 

ラ・ギアスにおける春秋戦争とヴォルクルス戦後に地上へそれぞれが転移。

 

前述のアートルム・エクステリオルの影響でラ・ギアスに帰還不可能の為に『鋼龍戦隊』に協力。

 

シュウ一行の動向。

 

本人はラ・ギアスにて復活後、独自の行動に出る。

 

後に地上へ転移しゲストとガイアセイバーズの思惑を看破する為に行動中だったホルトゥスの助力を得る。

 

終盤に置いてゲスト艦隊とは別のクェパログ隊に接触し撃墜。

 

以降は『鋼龍戦隊』に接触し同行する。

 

なお、『修羅の乱』にて起こした戦闘に関してはアンティノラス隊より『ヴォルクルスの呪縛』によるものであると説明を受け、敵意はないと説明。

 

 

※ホルトゥスの動向。

 

秘密裏に『鋼龍戦隊』、『αナンバーズ』、『ブルースウェア』、『地球防衛軍』、『シュウ一行』に対して適材適所の人員を動員し陰ながら助力。

 

『バラル』との接触で『鋼龍戦隊』に対して正体を明かし、離別の形を取る。

 

『負の思念』を収集していた『ルイーナ』の作戦を悉く看破しそれぞれの悲劇を食い止める。

 

『バラル』の降伏宣言後、一部人員を『ノードゥス』へ帰還させる。

 

『ルイーナ』との最終決戦の地、南極遺跡での作戦で姿を現す。

 

 

 

 




抜けがあったり、気になった方面がありましたらご連絡ください。

可能な限りご説明に加えます。


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第七十四話 『闇淵《ヤミノフチ》後編』

強大な負の意思。

喰われた魂は何処へ?

器と化した肉体は枷。

願うは負の力よりの開放。

痛みと涙を拭え。




地球崩壊の危機の中、戦力を削られつつもファブラ・フォーレスに向かうノードゥス。

 

そしてジョッシュ達…リ・テクにとって始まりの地である南極遺跡へとたどり着いたのである。

 

だが、既に戦うべき相手は掃討されていた。

 

 

*****

 

 

「予定よりも少し遅かった様ですね。」

 

 

真新しいルイーナ機の残骸が点在する南極遺跡の入口。

 

そこにエクスガーバイン・クリンゲと蒼雷が待機していた。

 

声の主はエクスガーバインのパイロットであるハスミ。

 

普段の搭乗機である念神エクリプスではない。

 

何か理由でもあるのだろうか?

 

 

「事の詳細はショメル達を通して視ていますのでお構いなく。」

 

 

あくまでホルトゥスの代表と言う位置から鋼龍戦隊に言葉を伝えた。

 

 

「ハスミ少尉、この状況は君が?」

「はい、予想以上に負念の集まりが強くなっているの感じたので介入させて頂きました。」

 

 

テツヤ達は続けて話をしようとするが、ケイロンによって遮られた。

 

 

「話は後だ、ここで立ち止まっている暇はないのだろう?」

 

 

彼が告げた通り、人類に残された時間の猶予はない。

 

一刻も早くファブラ・フォーレス最深部へ向かわなければならなかった。

 

だからこそ、彼女らは先陣を切ったのだろう。

 

戦うべき戦士達に道を切り開く為に。

 

 

「グラキエース、コンターギオとアクイラの気配が…」

「ああ、恐らくは奴らに倒されたのだろう。」

「どう思う?」

「倒すべき相手だが、悲しいと感じる。」

「そう…だね。」

「だが、私達はジョッシュ達と共に行くと決めた。」

「うん、分かっているよ。」

 

 

残骸の名残からコンターギオとアクイラが倒された事に気が付いたウェントスとグラキエース。

 

悲しいと言う感情を感じるものの戦うべき相手と割り切った。

 

 

「では…予定通り、我々が案内を行う。」

 

 

ノードゥスはフューリー側からの協力者であるアル=ヴァン・ランクスらの案内でファブラ・フォーレス最深部へと向かった。

 

フューリー側の協力者は皇女シャナ=ミア・エテルナ・フューラの選出により使者として騎士アル=ヴァン・ランクス。

 

L5戦役以前よりフューリーと協力関係にあった企業のアシュアリー・クロイツェル社よりカルヴィナ・クーランジュ、カティア・グリニャール、メルア・メイナ・メイア、フェステニア・ミューズ。

 

王族直属・近衛兵団の聖禁士長エ=セルダ・シューンの子、トーヤ・シューンの五名である。

 

カルヴィナの除いた四名は純フューリー人と地球とフューリー人のハーフであるが、並行世界と言うものは事細かに変異を齎した。

 

この世界のカルヴィナ・クーランジュは先史文明期に地球へ降り立ったフューリー人と地球人のハーフの子孫である事だった。

 

彼女はアシュアリー社でサイトロン・システムに触れた事で自らが持つサイトロン感覚器が覚醒、以降はトーヤ達と共に地球がフューリーと共存出来る種族であると知らしめる存在になったとの事。

 

人の事は言えないが隔世遺伝とは末恐ろしい。

 

その様な情報を得つつ私ことハスミはケイロンと共にノードゥスの艦隊と追従した。

 

まあ、その間にカチーナ中尉達から野次を飛ばされたが三倍毒舌正論で返しておいた。

 

 

「おい、ハスミ…今までアタシ達の事を無視していたがどう言う風の吹き回しだ?」

「無視ですか?」

「そうだ、毎度肝心な事は話さねえで!」

「ああ、その件でしたら盗聴されている可能性も視野にお話ししただけですよ?」

「はぁ!?」

「鋼龍戦隊の艦にどこぞのスパイが紛れ込んでいましたので牽制の為ですよ。」

「イングとアリエイルの事か?」

「ハズレです、正解の艦に入り込んだ曲者は何処にでもいる一般兵に偽装された方ですよ。」

「…!」

「あれだけの騒動でしたから上手く欺かれていたのでしょうね?」

「分かりにくいんだよ!?」

「安心してください、その曲者様も先の伊豆基地騒動で再起不能となりましたので。」

「相変わらず…そう言う所は抜け目がないな。」

 

 

顔を真っ赤にしたカチーナ中尉を余所に私は会話を続けた。

 

 

「それにあの場で行動を移さなかったら各研究施設の代表者達やノードゥスが信頼している家族…人々が殺害されていましたから。」

「まさか、例のルイーナの行動か?」

 

 

私の発言に反応したギリアム少佐の後に私は続けて伝えた。

 

 

「はい、奴らが早期に『負の感情』を集めるにはどうすればいいか?と問うなら…策はあります。」

 

 

かつてL5戦役でナイトメアと呼ばれる兵器を使役したグランダークがそうであった様に。

 

より強い光…『希望』を持つ者達が最も慕う大切な者達に手を掛ければその『絶望』はより強いものになります。

 

ルイーナもその線で今日まで破壊活動を行っていました。

 

 

「憎悪も絶望も負の感情の一部です、もしも大切な何かを奪われ…負の感情を垂れ流し状態で戦闘を続ければ奴らの思うツボだったでしょう。」

 

 

と、私は出来得る範囲で事情を伝えて置いた。

 

腑に落ちない表情のカチーナ中尉にフォローを入れるのはいい。

 

だが、とばっちりを受けてラッセル少尉とタスクにミチルの明日はない的な表情だったのには同情しておく。

 

同じ様にケイロンに通信を送っているアムロ大尉達。

 

余計な混乱を起こす事は話さない様に『話す事は何もない。』でケイロンには通してもらっている。

 

アムロ大尉達は腑に落ちないだろうが、余計に知りすぎる事は無限力の災いを齎す。

 

そう言う緊張感のない複雑なやり取りが続く中で潜入は続いた。

 

道中、ルイーナ機の姿はめっきりと見えなくなり招き入れられている様にも思える不気味さ。

 

奴らも総力戦であると認識しているのだろうか?

 

今だ姿を見せないエルデとドゥバン、ユーゼス一派。

 

恐らく漁夫の利を得ようと高みの見物を決め込んだと思われる。

 

 

「…」

 

 

ユーゼスはアルテウルとして活動している時にフェリオ・ラドクリフ博士に南極遺跡の調査を依頼した。

 

その過程で博士は何も知らずにカルケリア・パルスティルゲム…T-LINKシステムを組み込んだ改良型シュンパティアによる実験を行ってしまった。

 

そして破滅の王に触れる結果となった。

 

それでも『人の想いを繋げ、束ね、破滅に打ち勝つための力と成すシステム』の側面を持つ以上、奴の思惑通りにさせるつもりはない。

 

ただ…私だけでシステムを?

 

いや、イルイの意思を聞いてからにしよう。

 

あの子もまた迷いの中で自分の答えに辿り着こうとしているのだから。

 

 

「ここが最深部。」

 

 

記憶にある風景と同じ場所。

 

無機質な機械仕掛けの遺跡の内部、所々に鼓動を打つ様に張り巡らされた配線。

 

その最奥にクロスゲートは安置されていた。

 

そしてここへたどり着いた事で一つ言える事がある。

 

負念の澱みが凄まじいと言う事だ。

 

メンタルの弱い人間なら失神する程の負の意思がクロスゲートから溢れようとしていた。

 

 

「…(予想以上にキツイ、生半可な能力者なら失神している澱みだ。」

「…(バアル、以前にも増して力を付けたのか?」

 

 

スフィアを通して同じ様に気配を感じ取ったケイロン。

 

 

「ハスミ、状況は?」

「扉自体が開かれつつある状態…言葉で表すなら後一歩手前と言う感じですね。」

 

 

破滅の王の現出は止める事が出来ない。

 

これは運命ではなく必然。

 

そうなる様に無限力が仕向けた結末。

 

 

 

「グラキエース、判るかい?」

「ああ…」

「ウェン、どうしたの?」

「リアナ…実はイグニス達の気配がないんだ。」

「えっ!?」

「何だと?」

「イグニスと同時期に生まれた私でさえ何も感じ取れない。」

「一体どうして?」

 

 

最深部に辿り着いた一行であったが、待ち構えている筈のルイーナの軍勢の姿が見当たらなかった。

 

各艦のセンサー類でも反応は無く、静寂過ぎる静けさが余計に不気味さを演出していた。

 

 

「…」

「ハスミ、もしや…。」

「私も…ケイロンと同じ意見です。」

「一体何が起こっているんだ!」

「既に目覚めてしまったと言っておくわ。」

「!?」

「目覚めた?」

「まさか!」

「既に遅かったと言うのか!」

 

 

ハスミの発言に対して問い詰めるジョッシュ達。

 

だが、目覚めは当の昔に終わっていたのである。

 

 

「ヒューゴ、あれを見て!」

「あれはガルべルスの残骸!?」

「こっちにはアレス・ガイストの残骸があります!」

「おいおい、どう言う事だよ?」

「…」

 

 

戦うべき相手もまた『破滅の王』に喰われた事を認識したヒューゴ達とアリエイル。

 

本来の筋書きであればアレス・ガイストとクロスゲートの力を取り込んだガルベルスが変異し異形の機体AI1となる筈だった。

 

理由は幾つかあるが、自身らの手で掌握する前に喰われたのだろう。

 

負の感情…欲望を曝け出したまま。

 

 

「奴にとっての贄は十分だったと言う事か…それも奴にとっては過ぎた事。」

「その様です…そろそろ正体を現したらどうですか?」

 

 

不気味に稼働音を響かせるクロスゲートに対して答えたケイロンとハスミ。

 

同時に禍々しい負念と共に扉より現出した一体の生命体。

 

 

「あれは人なの?」

「まさか…(あのジョシュアに似ている人物は!?」

「親父なのか…?」

「まさか…。」

 

 

その生命体は静かに告げた。

 

 

「否、フェリオ・ラドクリフの意思は消えた…この器はその名残を残した空の器に過ぎない。」

「…(リアナ、どう言う事なの?」

「…(クリス、親父は…。」

「つまり、貴方と言う意思に博士の魂は飲まれて消えた…そう解釈しても?」

「貴様の言葉通りだ。」

「今の貴様の呼称は何と言う?」

「人の認識…名を告げるのであれば、我が名はペルフェクティオと呼称すべきだろう。」

 

 

破滅の王・ペルフェクティオ。

 

バアルの一端であり負念の一部。

 

その器として選ばれてしまったフェリオ・ラドクリフ博士。

 

あの時の状況であれば、博士の魂は今も破滅の王の化身…奴と言う混沌の中を漂っている。

 

混沌と言う海に彼と言う魂を…例えとすれば一つの角砂糖を融かした様に。

 

このスフィアがなければ博士の融けこんだ魂の行方は分からなかっただろう。

 

だが、結果として博士の魂は意識の殆どを喰い尽くされ個を失った状態。

 

例え、無事に拾い上げても記憶が戻る保証はない。

 

奴に魂が喰われるとはそう言う事であると指している。

 

器を手に入れ顕現した奴を扉の向こうへ押し返すか?

 

若しくはスフィアの力で奴の力を相殺し倒すか?

 

例え、倒したとしても奴はバアルの一端…

 

いずれ別の存在として再復活するだろう。

 

 

 

「それじゃあ、親父はもう…」

「…」

 

 

ペルフェクティオと名乗った生命体の言葉に落胆するリアナとクリス。

 

 

「案ずるな、貴様達の破滅の波に呑まれる運命…だが、幾星霜の月日が流れたと言うのにあの邪魔者らも存在しているとは。」

 

 

 

ペルフェクティオが視線を向けた存在達。

 

 

「聖戦に導かれた蒼の女神と次元の将が手を取り合うとは悉く運命とは面白いものだな?」

「…(バアルの意思の一つであれば、前回…一万二千年前に引き起こされた戦いを知っていても可笑しくないか。」

「それがどうしたと言うのだ?」

「世代交代の末に己の役目を見失った訳ではあるまい?」

「時間の環…『存在しようとする力』と『消滅しようとする力』の衝突による宇宙が破壊と再生を繰り返して生まれ変わる周期がいずれ始まろうとしている。」

「その周期が近づいた事で貴様も目覚めたのだろう?」

「…公定しよう。」

 

 

それは一万二千年を1回のループとして死と新生を繰り返し何度か繰り返したところで真化の階梯が進む。

 

これが次の時代である『獣の時代』、『水の時代』、『風の時代』、『火の時代』、『太陽の時代』の事を指す。

 

そしてこれから『太陽の時代』に突入しシンカの最終階梯に人類は至る。

 

失敗すれば生命体は死に絶え絶滅する。

 

理由はシンカ出来なかった生命体が時間の環の再構築についていけないからだ。

 

しかし、今回はこれに対してある時代が抜けている。

 

アカシックレコードによれば『魂の兆し』と呼ばれる『魂の時代』が抜けているとの事。

 

それは先の五つの時代の様に順に巡るのではなく何処かの時代で隣接する様に時折現れる現象との事を指す。

 

延々と続くシンカの流れで破滅の力が強まった時にのみ発生する記憶の継承者達の出現の兆しである。

 

 

「…やはりか。」

「シャア、彼女達は…」

「アムロ…我々が想定していた通り、彼らは動いていたのだろう…この時の為に。」

 

 

記憶保持者達はこの戦いに入る前に互いに話し合った会合で想定していた事案を幾つか上げていた。

 

それはバアルの出現に伴う彼らの行動である。

 

バアルを倒す為に動くのか?それとも静観するのか?

 

どちらにせよ、彼らは『聖戦』に関係する力を持った者達。

 

放っておく事はないと結論付けていた。

 

 

「何か、かなり小難しい話に変わっちゃってるわね。」

「だが、ハスミ達に聞く事が増えたのは変わりない。」

「そうね、クスハちゃんはこの辺りは聞いていた事?」

「いえ、初耳です。」

「その辺はクスハちゃんを巻き込みたくなかった…って言うのがハスミちゃんの本音っぽいわね。」

「…」

「クスハ。」

「ブリッド君大丈夫よ、私達の事を思っての行動だったのは判っているから。」

 

 

元所属先だったATXチームは会話の内容をいずれ聞くべき事として静観していた。

 

今の状況で言葉を返しても二重三重の正論で返されてしまう為だ。

 

 

「さて、戯言はここまでだ。」

 

 

ペルフェクティオはゲートを操作し己の分身たる存在を出現させた。

 

負の概念にして破滅を呼ぶ力…ファートゥムである。

 

 

「…!(どう言う事?あの機体に纏わりつく力があの時とは状況が違う?」

 

 

ハスミはかつての戦闘シーンでファートゥム現出の際になかった力の流れを読み取った。

 

それは負念のオーラにして結界、予想以上に変異が起こっている事を悟った。

 

 

 

「貴様達と外部の者達ごと滅びの時を与えよう。」

 

 

 

遺跡が揺れ動き崩壊へと導かれる。

 

各自、急ぎファブラ・フォーレス内部からバトル7のフォールアウトにて一時撤退した。

 

 

*******

 

 

一方、外側では…

 

同じ様に空間が揺れ動く現象に待機していた各艦の艦長らは口々に答えた。

 

 

「これは?」

「地震?」

「いえ、周囲の振動は上空の艦にも届いています。」

「おそらく空間自体が揺れていると思われます。」

 

 

ドミニオンの艦長、ナタルを始めにアークエンジェル艦長のマリュー、ナデシコCのルリ、トゥアハー・デ・ダナンのテレサ達が状況を分析。

 

これが次元震に酷似した現象であると推測。

 

だが、次元震そのものではないとユーチャリスのユリカに説明するルリ。

 

 

「ルリちゃん、まさか次元震?」

「それとは違うパターン波形が出ています。」

「と、言う事は…」

 

 

遺跡付近にフォールドアウトしてきた突入艦隊。

 

状況を説明をマックス艦長が行い、これが破滅の王によるものだと説明。

 

同じ様にクロスゲートを転移浮上させ現れたファートゥム。

 

状況は変わりつつあった。

 

 

「あれは…!」

「あの存在こそ破滅の王にしてルイーナの当主…ペルフェクティオです。」

「ハスミ少尉!?」

「お久しぶりです、ノードゥスの皆さん。」

 

 

今回の戦乱中にノードゥスのメンバーと所々で再会はしたが、ほぼ全員が集合した状態での再会はこれが最初である。

 

周囲から感じる気配は動揺と不安に虚偽。

 

これは私が突き放す事で守ろうと招いた結果だ。

 

 

「マックス艦長、内部で一体何が?」

「内部に潜んでいたとされるルイーナの全部隊は既にペルフェクティオに取り込まれ消失していました。」

「そんな…。」

「密かにクロスゲートを抑えようとしていたエルデ・ミッテとドゥバン・オーグの機体も発見しましたが既に大破、恐らくは…」

「正確には奴に喰われたが正しいかと?」

「喰われた?」

「ペルフェクティオは根源的災厄…負の根源の一端、その負の感情に連なる意思を感じ取り二名も取り込まれたと思われます。」

 

 

エルデはAIへのねじ曲がった愛情と欲望、ドゥバンは強欲、どちらも負の根源に近い感情の意思。

 

それはペルフェクティオを復活させる贄として利用された。

 

これもユーゼスの計画の一部だろう、運が良ければクロスゲートを掌握し己のモノとした。

 

出来なければ私達が全力で止めに入る事を計算しての采配。

 

結局は奴と無限力の掌で踊らされる事になるとは…

 

 

「ハスミ少尉、何故そこまで詳しく知れた?」

「ナタル艦長、それは今回の状況に酷似した事例に遭遇しているからです。」

「事例?」

「修羅の乱の頃…転移による二度目のEFでの最終決戦に置いて、これと同様の状況がありました。」

「それで知っていたと?」

「はい。」

 

 

同じくEFでの事件を知るアクセルも助言に入った。

 

 

「あのスヴァイサーの時か?」

「はい、状況を照らし合わせると似ていませんか?」

「相手の魂を喰らうと言う点では似ているな。」

 

 

結局、喰われた魂が復元する事はない。

 

一度失った命を救う事が出来ない。

 

それでこそ奇跡でも起きない限りは…

 

 

「アニキ…」

「やるぞ…リアナ、クリス、ラキ、ウェントス。」

「…(うん」

「分かった。」

「終わらせよう、僕らの手で。」

「ああ、親父を奴から開放する為にも…!」

 

 

ペルフェクティオを倒す決断をしたジョッシュ達。

 

戦うべき相手にノードゥスのメンバーは体制を立て直し、ペルフェクティオのファトゥームに対峙した。

 

 

「いくら足掻こうとも同じ事、お前達の感情は揺れ動いている。」

 

 

ファートゥムより放たれる負の気配。

 

それは南極を覆い、再びブラック・カーテンことアートルム・エクステリオルの結界を生み出す。

 

希望の象徴たるノードゥスを全て逃がさず己が喰らう為に。

 

負の感情はメンタルの弱い人間から蝕み始め、徐々に気力を奪っていく。

 

 

「所詮は人間、己の感情に揺れ動き…一つの感情に呑まれる。」

 

 

忍び寄る負の感情…『絶望』と『恐怖』が戦う者達の意思を奪い取ろうとしていた。

 

次々に戦う為の気力を奪われるノードゥスのパイロット達。

 

 

「違う。」

「!?」

「どんなに人が感情に揺れ動いても人は何度でも這い上がれる!」

 

 

何度、負の感情に呑まれようとも互いに支え合い立ち上がってきた。

 

だからこそ、彼らは絶望の淵に恐怖のどん底に居ようとも戦える。

 

 

「イルイ、答えは決まった?」

「うん。」

 

 

ハガネ艦内で待機していたイルイも転移でハスミのエクスガーバインの近くに転移した。

 

この時の為に選んだ答えをイルイに告げて貰う為だ。

 

 

「選択次第では日常に戻れないかもしれない…それでも?」

「私、クスハやアラド、アイビスにゼンガーの…皆の力になりたい!」

「判ったわ、貴方の判断に任せる。」

「ありがとう、ハスミお姉ちゃん。」

 

 

イルイの選択はガンエデンとして共に立ち上がる事。

 

ナシムの巫女として覚醒する事はイルイが戦いの余波に巻き込まれる事と同じ。

 

力の扱いを、進むべき道を、間違えなければ本当の意味で守護神になれるだろう。

 

 

「何をする気だ!」

「キョウスケ中尉、私達の力でクロスゲートから奴への力の流出を抑えます。」

「だから、皆…諦めないで!」

 

 

正念の力で負念を浄化し抑え込む。

 

この行為がどれだけの念動を消費するかは分からない。

 

それでも出来る事をしなければ、この世界に未来はない。

 

 

「過激にファイヤー!!マイク、例のアレを!」

「OKだっぜ、バサラ!」

 

 

FIRE BOMBERのバサラ達とGGG機動部隊のマイクや兄妹たるサウンダーズ達が準備を整えて歌い始めた。

 

人の中に眠るアニマスピリチアの力と勇気の力。

 

ノードゥスを鼓舞する為に。

 

時を同じくして世界各所で活動するリン・ミンメイら音楽アーティスト達がライブ配信を行い、歌で人々に希望を送り続けていた。

 

心に響く歌。

 

胸の歌は誰にでも届く。

 

これもシンカの一つ『心歌』である。

 

 

「何が起こっている…!」

 

 

先程まで絶望に満ちていた筈の人類が歌の力で立ち上がった。

 

どんなに打ちひしがれても立ち上がれる心がある。

 

 

「貴様ですら想像出来ぬ力を人は秘めているだけの事。」

 

 

ケイロンもまた己の内に秘匿するスフィアの力を開放し抗いの力を分け与えていた。

 

重なり合った奇跡がペルフェクティオの力を奪い弱体化させていく。

 

その勝機を誰もが逃す筈はなかった。

 

互いの力を合わせてファートゥムに特大の攻撃が行われた。

 

ノードゥス全艦隊、全機体による総攻撃である。

 

 

「ライアット・バスターぁ!!」

「これで!!」

 

 

総攻撃後にジョッシュらのフォルテギガスとトーヤのグランティードの攻撃が止めを務めた。

 

顕現する為の肉体を失い、機体を維持出来ずに扉の奥への押し込まれていくファートゥム。

 

ジョッシュは最後に消失していく父親から笑顔を一瞬だけ感じ取った。

 

 

「親父…ごめんな。」

「アニキ…」

「…(お兄ちゃん」

 

 

己の手で父親を撃つ事になったジョシュア達。

 

それでも最後は自分達の手でと決めていた事だった。

 

 

「イルイ、このまま扉を封印するわよ。」

「うん。」

 

 

負念の流出が収まった事を確認したハスミ達はそのまま並行してファブラ・フォーレスのクロスゲートを閉じ封印を施した。

 

この過程でもかなりの念動力を消費している。

 

目処前が暗く霞んでいくのが解った。

 

 

「イルイ、一先ずハガネに…!?」

 

 

一瞬だった。

 

ペルフェクティオの消失と共にアートルム・エクステリオルが解除された隙を突いてアーマラのガリルナガンが奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

 

「油断したな、アシュラヤー、ナシム!」

「イルイ…っ!?」

 

 

しまった、さっきの開放で力を使い過ぎた…

 

このままじゃイルイが奴らの手に。

 

 

「イング、その者を連れてこい……“我が命に従うのだ”。」

「…了解。」

 

 

イングは迷いもなく強制通信から聞こえてきたアルテウルの指示に従い、行動不能となったハスミの機体を鹵獲。

 

そのままイルイを拉致したアーマラと合流し撤退した。

 

 

「イング、どうして…」

「…」

「まさか、バインド・スペル!?」

 

 

ハスミはイングの機体が自身の機体に触れた時にイングの身に起こった状況を知った。

 

それが『空白事件』の際にエーデル・ベルナルに仕込まれたコードだった。

 

 

「っ!?」

 

 

鹵獲の際に再度電撃を放たれ気絶するハスミ。

 

バインド・スペルの言葉だけは通信でノードゥスに届くように回線を開いて置いた。

 

 

「ハスミ!?」

 

 

ケイロンも鹵獲されたハスミの機体を追おうとしたが、先の戦闘で自身の機体も限界を超えてショートし動く事が出来なかった。

 

それはまるで何かの力が関わっているかの様に。

 

ノードゥスはフェリオ・ラドクリフ博士の犠牲によって『破滅の王』を退ける事に成功したが、ガンエデンの巫女であるイルイとハスミを鹵獲されると言う結末を迎えた。

 

起こるべき事象は何があろうとも妨げる事は出来ない。

 

変えた代償には同価値の代償が必要となるから…

 

 

>>>>>>

 

 

=???=

 

 

先の戦闘から数日後。

 

ノードゥスが存在する並行世界に隣接する異空間の一つでは…

 

 

「よくやったぞ、アーマラ、イング。」

「はっ。」

「…」

「念の為、イングに緊急コードを仕込んで正解だったな。」

 

 

アルテウル・シュタインベックの姿から本来の立ち位置であるユーゼスの姿に戻ったユーゼス。

 

その傍らで無言のまま控えるアーマラとイング。

 

そして背後には発光する液体に満たされた培養槽が設置されていた。

 

無数のコードに絡まれた状態で眠りに付いているハスミとイルイの姿。

 

意識はないもののハスミはイルイを抱きしめ離さずにいた。

 

これは彼女なりのイルイを守る為の抵抗の証でもあった。

 

 

「二対の依代…これで私は。」

 

 

ユーゼスは仮面の奥で絶対的勝利を成しえた笑みを浮かべた。

 

新人祖の目覚めの時は近い。

 

だが、ユーゼスは一つの誤算を起こしていた。

 

絶対に敵に回してはならない存在達の逆鱗に触れた事をまだ知る由もなかった。

 

 

=続=

 




人の新たな祖。

それは偽りである事を愚者は知らない。


次回、幻影のエトランゼ・第七十五話 『人祖《アダマトロン》』。


歌え、爆ぜる炎の魂と共に。

奇跡の歌を。


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第七十五話 『人祖《アダマトロン》前編』

深淵の淵で巫女達は願う。

大切な仲間の為に。

愛する人の為に。


愚かな新人祖は己の結末を選んだ。

禁忌に触れた者の末路は決まっている。

その時が来ただけだ。



破滅の王による危機は去った。

 

だが、残された問題がある。

 

それは…

 

 

******

 

 

前回の戦闘から数時間後。

 

事後処理の交代すべく後続の部隊を待つ為にその場に留まっていたノードゥス。

 

急なブラック・カーテンの出現やガイアセイバーズの残党によるガンエデンの巫女達の拉致。

 

怒涛の展開と巫女達の行方が不明の状況は続いていた。

 

後続部隊の到着まで各艦の代表が集まり状況報告を行おうとした時だった。

 

待機していたノードゥスの艦隊の前に現れた三機。

 

光龍の応龍皇、カーウァイのアルブレード・カスタム、テンペストのエクスガーバイン・アクスト。

 

ホルトゥスに下ったSTXチームのメンバーだった。

 

 

「つまり、君達はその様子を黙って見ていたと言う訳かい?」

 

 

合流した彼らへ状況説明を行った後、開口一番に告げられた言葉。

 

 

「光龍、彼らも破滅の王との戦いで疲弊していた……それは判っているだろう?」

「判っているよ、現場に居なかった以上は僕が言えた言葉でもない事もね。」

「カーウァイ中佐、今まで何を?」

「ギリアム…話せば長くなるが、アルテウルいやユーゼスの残した私兵が残存している事を知り…その対処を行っていた。」

「それも陽動だった事に変わりなかったけどね。」

「陽動?」

「ユーゼスの狙いは初めからハスミとイルイの身柄、確実に手に入れる為にノードゥスとルイーナの決戦に密かに紛れ込んでいた。」

「…」

「絶対に避けられない戦いであり、疲弊した瞬間への介入も見通しての奇襲…そちらもこちらもユーゼスの掌に踊らされたって訳。」

 

 

話し合いの代表としてギリアムが話を続け、カーウァイと光龍のやり取りが続き…

 

説明の締めくくりに光龍は『僕でさえ、かなり虫唾は走ったよ?』と低い声で静かに呟いた。

 

冷静を装っているが沸点を限界までに上げつつある光龍とカーウァイの様子にカイがテンペストに話した。

 

 

「テンペスト、お前も同じ意見か?」

「半分はな、だが…ここで功を焦っても何の得策もないだろう?」

「そうか…」

「それにハスミが奴に意図も容易く囚われたとは思えん。」

「それは僕も同意見だね。」

「光龍…」

「あの子は少ない手数で特大の火花を起こす手段を持っているからね。」

「手段?」

 

 

光龍の言葉にギリアムはルイーナとの決戦でのハスミの行動を思い出していた。

 

 

「…」

 

 

何故、あの戦闘で本領発揮を行える念神での出撃をしなかったのか?

 

クロスゲートの操作と封印を行う為か?

 

だとしてもイルイの協力があれば負担は軽減する筈?

 

彼女はアカシックレコードへのアクセスでペルフェクティオの動向を探る事によって弱点を見出した。

 

その後の采配や処置も手早かった。

 

もしや…

 

 

「光龍、ハスミの目的はユーゼスを表舞台に引きずり出す事か…!?」

「正解、但し厄介な相手と戦う事に変わりないけどね。」

「厄介な相手?」

「奴はL5戦役の頃に一か所だけらしいけど、別世界に転移する方法を手に入れたらしくてね…その成果とご対面しなきゃいけない。」

「成果?」

「そ、奴が手に入れたのは先史文明期に生み出され…既に廃棄されたクロスゲートの失敗品とガンエデンの成り損ないさ。」

 

 

光龍の告げた情報。

 

それは更なる決戦への掲示。

 

 

「バラルの園と天鳥船島に安置されたガンエデンの神体に動きが見られない所を考えると奴は前者を使う事にしたのだろうね。」

「…」

「それと…奴が使っていたとされる廃棄施設にある情報が残っていたよ、例のイングと言う少年に関するデータも発見する事が出来た。」

「彼の情報?」

「その少年は君達に潜り込ませ成長させる事で人造マシヤフに仕立てる為の人の手で生み出された念動者。」

 

 

君達が彼に接触した時…記憶がなかったのは元から記憶なんて組み込まれていないまっさらな状態だった。

 

そして君達と共に過ごす事で個を獲得し、ある意味で扱いやすい念動者として覚醒を促していたのさ。

 

で、今までの戦いで彼は成長しマシヤフと化す事の出来るレベルになった。

 

ただ、奴の命令を聞く事はないのを見通してあのジ・エーデル・ベルナルの残したバインド・スペルを彼に組み込んでいたって訳。

 

何処で接触したかは不明だけど恐らくは空白事件最中。

 

このせいで彼…イングも奴の被害者であるのは変わりないけどね。

 

 

「そんな絡繰りが…」

「ハスミの事だ、彼と接触した時にそれが視えていたのだろうね。」

 

 

全ては最初から決まっていた事。

 

L5戦役と言う戦いから進化を促す為に戦い続ける事。

 

それは切り離せない条件。

 

戦う事で生きる意志を未来を守る為に。

 

ノードゥスとユーゼスの戦いは延長戦と言う形で密かに続いていたのだ。

 

 

「兎も角、奴の居所はこちらでも判っていない。」

「光龍、ハスミ少尉達の気配を辿る事は出来ないのか?」

「話通りなら念動力を使い果たしている以上、その残滓すら今は感じられない。」

「奴もハスミ達の念動力が回復するまでは動かないと見ても?」

「恐らくはね、ガンエデンの成り損ないでも動かす為には膨大な念動力を要するし。」

「動けんのは双方同じと言う訳か…」

 

 

現在もペルフェクティオとの戦いで疲弊したノードゥスも動く事は出来ない。

 

その多くはファートゥムとの戦いで機体を損傷させある者は負傷もあり動けない者も出ている。

 

今の状態で部隊を再編成しても先の戦力の半分が動ける程度だろう。

 

 

「奴に時間を与える事を前提で部隊を整えるが今出来る最善の策だろう。」

「後手になる事は判り切っていた事ですが…」

「それにそっちもそろそろ真実とやらを知りたいんじゃないのかい?」

「真実?」

「そ、ハスミが何故君達と合流を拒んだのかを…ね?」

「話して貰えるのか?」

「潮時だからね、ちょっと位ならハスミも解ってくれるさ。」

 

 

今回の戦いが始まった少し前、STXチームにガイアセイバーズからの異動命令が下ったは知っているね?

 

グランド・クリスマスへの移動の際にSTXチームの乗ったダウゼント・フェスラーは狙撃されて墜落。

 

一部は何とか生き残ったけど、残りは狙撃の影響で死亡。

 

僕らを含めて邪魔者は最初から暗殺される事を前提で異動命令が出たって訳。

 

そこからはハスミも僕らも出し惜しみ無しでホルトゥスとして行動を開始したのさ。

 

このまま死んだって事にしておけば、色々と動きやすかったからね。

 

ハスミがアシュラヤーとして本格的に動き始めたのはその頃。

 

ガイアセイバーズを始めとした他の敵勢力は大目玉だったろうね。

 

なんせ、目の敵にしていた組織が表舞台に現れた。

 

更にこちらの介入で大規模な敗走を奴らは余儀なくされた。

 

それだけ影響力は凄いのさ…ホルトゥスはね。

 

 

「確かにホルトゥスの介入で被害は最小限にし、こちらの後手を覆す事が出来ている。」

「ちなみに言うけど、何故君達は毎回の戦闘で後手に回ると思う?」

「情報伝達の遅れでは?」

「いや、そう言う風に仕向けられているんだよ…君達ノードゥスはね。」

「仕向けられているだと?」

「可笑しいと思わないかい?君達と言う独立精鋭部隊を作り上げて置きながら必要な情報が瞬時に回ってこない事を?」

「確かにこちらに情報が送られてくるのが事が終わってからのモノも含まれていた。」

「…まさか!」

「所々で妨害されているのさ、危険な状況にならない程度に君達の行動を制限するかの様にね。」

「そんな事が…!」

「僕らが介入しなきゃ危機的状況に陥っていたと思うよ?」

 

 

オルファン浮上に置ける津波の被害を避ける為に特殊な金属繊維の防波堤を各所に設置。

 

ミケーネの各方面への侵略に対しての迎撃ネットワークの設置と対策。

 

外宇宙からのスカルムーン連合に対する追い打ち。

 

木星帝国とザフトへの監視。

 

政府間の誤情報による指揮系統の混乱の鎮圧。

 

ブラックカーテンことアートルム・エクステリオルの解除。

 

ルイーナの戦力増強の妨害。

 

各レイライン奪還の為の助力。

 

 

「やる事は多かったけど、君らへの被害は少なかったんじゃないかな?」

「…」

「勿論、この間にもガイアセイバーズの動きは監視していたよ?」

「その多くに陽動も含まれていたが、捨て置けばお前達への障害になっただろう。」

「そしてノードゥスを狙っていたのはガイアセイバーズだけではなく、別の存在もいた事を承知していてくれ。」

「別の存在?」

「その件に関しては口止めさせて貰うよ、この件はハスミから絶対に話さない様に念押しで言われているからね。」

「光龍、そろそろ…」

「判っているよ、これで僕らが話せる事は説明しきった。」

「ハスミ達の居場所はこちらでも捜索する、お前達は体制を立て直しこちらからの連絡を待ってくれ。」

 

 

出来る限りの経緯を伝えると三名は行動不能となっていた蒼雷とケイロンを回収して去っていった。

 

ケイロン自身は会話の中で無言のまま静聴していたが、その表情には微かに焦りの気配が存在した。

 

ちなみにロサとピートは引き続きノードゥスに残留。

 

ノードゥスは後続部隊と合流し引継ぎを終えた後に一先ず伊豆基地経由でオービット・ベースへと向かう事となった。

 

戦うべき相手、ユーゼスとの決着を着ける為に。

 

 

>>>>>>

 

 

数日後。

 

各艦、各機体の修復と改修作業が終了した頃。

 

待機場所であるオービットベース内では連日各艦の艦長と部隊の代表者達が会議を続けていた。

 

それは今回の戦乱で各方面で起こっていた不可解な出来事に関してだ。

 

どの方面でも何者かの暗躍があり、今回の戦乱が肥大化した原因である事を理解していた。

 

ホルトゥスはその暗躍していた存在を追っていた事が先の光龍の説明で判明された。

 

その存在とは一体何者なのか?

 

正体を知る敵陣営の代表者らは死の間際に口々に答えた。

 

 

『人類がどう足掻いても勝てる相手ではない。』

 

 

何に対しての答えなのかは未だ判っていない。

 

それを知るのは幾多の記憶を所持する者達だけだろう。

 

 

「やはり、あの人達が話していた『次元力』に関係している存在なのでしょうか?」

 

 

ルリの発言から始まり、ブライト、テッサ、マリューらが話し合いを続けていた。

 

 

「その可能性は否定できない、アサキムやジ・エーデルの発言にあったスフィアの事も気がかりだ。」

「残り十のスフィアにも何か理由があると思いますし。」

「十二の星座と十二の感情を元にスフィア創られたと話していましたね。」

「そしてスフィア争奪戦は我々の知らない所で未だ行われている。」

「ランドさんの『傷だらけの獅子』、セツコさんの『悲しみの乙女』、判明しているスフィアはその二つ。」

「残りのスフィアは牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座。」

「何れも人の感情を象徴し代償と共に次元力を操る術となる、か…」

 

 

今回の戦乱の折に遭遇する光龍らが時折話していたスフィアと次元力の関係性。

 

そしてそれを狙う組織と存在。

 

敵勢力の中にもその存在の事を知る者がいた事。

 

ハスミとケイロンが話していた一万と二千年の周期で訪れる宇宙崩壊とシンカの時代の流れ。

 

スフィアが絡んだ事件は空白事件から始まり、その全てが解決に至っていない。

 

いずれ訪れる全生命体の生存権を掛けた終焉戦争。

 

その戦いにはスフィアと伝承に在ったガンエデンが絡んでいる。

 

 

「事の真相を突き止めるにもハスミ君達を助け出す必要がある。」

「マックス艦長、彼女が話してくれるといいのですが…」

「残念ですが、それには無理があると思います。」

「テッサ艦長、どう言う事だ?」

「恐らく彼女は真実を知る事で私達が標的になる事を避けていると思われます。」

「避けている?」

「その存在は様々な敵陣営に暗躍し用済みと成せば意図も容易く壊滅に追い込んでいる…この事から今の私達だけでは太刀打ち出来ない相手ではないでしょうか?」

「馬鹿な!?連合軍でも選りすぐりの精鋭が揃っているのだぞ?」

「ナタル、もしかしたら軍の内部にその存在に協力する関係者がいるかもしれないわ。」

「確かに孫光龍の言葉通りなら内通者の存在も否定できないが…」

「マリューさん、軍だけではありません…恐らくは政府内にも。」

「そこから導き出される答え…私達の状況をいつでも引っ繰り返せる場所にその存在は居るのだと思います。」

 

 

深まる謎と導き出された答え。

 

真実は平行線の向こう。

 

今は知るべき事ではない。

 

抗う為の力が目覚めぬ限り。

 

 

「確かにザフトでもデュランダル議長に正体不明の内通者が居たとレイが話していたわね。」

「ネオジオン内部にも反逆分子を先導する存在の噂は耳にしていた。」

「…やはり、他の組織でも同様の事が起こっていたのか。」

「政府すら揺るがす存在…」

「ハスミ少尉いえSTXチームはその存在を知ってしまった事で雲隠れを余儀なくされたと考えても?」

「可能性はある、今までの行動と我々への極力接触を避けている点からそう取らざる負えないだろう。」

 

 

一時期、敵対関係を取らざる負えなかったタリアやハマーンが例の存在に対する噂を耳にしていたと語る。

 

前世の記憶を所持するシャアは該当する存在を知りつつも今は知らぬ存ぜぬで話を進めた。

 

 

「今はホルトゥスからの連絡を待つしかない状況か…」

 

 

締めくくりにブライトが一言語ると静聴していた他の艦長達も同意。

 

情報が定かではない議題をこれ以上長々と話す事は出来ないと結論だった。

 

戦いは一刻一刻と迫っている。

 

今は情報が入るまでに自分達の体制を整える事が先決。

 

それはこの場にいる面々も待機しているメンバーらもまた理解していた。

 

 

******

 

 

一方その頃の天鳥船島。

 

主無き玉座の間では当主の代理を務めている光龍ら三名とケイロンが会議を行っていた。

 

 

「流石に奴も用意周到だったね。」

「と、言うと?」

「ユーゼスは亜空間とも言える場所…そこにハスミ達が囚われている。」

「亜空間だと?」

「恐らくはジ・エーデルの置き土産も含まれているかもしれないけど、クロスゲート・パラダイム・システムの恩威である事は理解出来るよ。」

「そのシステムで疑似的に亜空間を生み出したと言うのか?」

「だろうね、前に説明した通り失敗作のクロスゲートで出来るのはその程度位だと思うよ。」

「この数日間でハスミ達の念の気配を感じ取れる様になった…頃合いだと思うが?」

「そうだね、野蛮に言うなら殴り込み時かな?」

「ノードゥスにこの事は?」

「僕らが出た後でいいだろう、先にやる事はやっておかないとね。」

「…」

「ケイロン、君はどうする?」

「…言われずとも答えは決まっている。」

「じゃ、決定だね。」

 

 

光龍達はブルーロータスにノードゥスへの情報伝達を任せると一足先にある場所へと向かった。

 

空白事件における戦乱の地の一つ、南米のUNの施設跡地。

 

そこにユーゼスらが潜む亜空間への道が隠されている。

 

同様に光龍らの出撃を終えた後、ブルーロータスはノードゥスに緊急連絡を送り指定した場所への座標を告げた。

 

此度の戦いに置ける決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

南米のUNの施設跡地。

 

空白事件の戦いの後、継続して使用されていたが修羅の乱に置ける戦いの余波で破損。

 

現在は別の場所へ移設されている。

 

そこへ部隊編成を終えたノードゥスが選出された艦隊で到着した。

 

ノードゥスの全艦隊を導入する事は出来ないのもあり、今回もいつもと同じ少数精鋭である事は間違いない。

 

理由は南極での戦いで疲弊した今の戦力に穴を開ける事は出来ない。

 

一部の戦力を導入し残りは防衛戦線に参加せよと上層部よりお達しが在った為である。

 

どちらにせよ認める事は出来ない命令であったが、事を起こせは首を絞められる事は理解していた。

 

 

「UNの管理施設、奴らの隠れ蓑の一つになっていたとは…」

「戦乱のドサクサで跡地となったからこそ隠れるには都合がいい場所だったのは確実だ、これがな。」

 

 

到着したノードゥスの一行。

 

ハガネよりキョウスケとアクセルが苦虫を噛み潰した様な言葉を告げた。

 

 

「ブルーロータスの説明ではこの施設の地下に奴らが秘密裏に接収したとされるクロスゲートが存在する。」

「私達はそのゲートを通過しユーゼス・ゴッツォの潜む空間に転移します。」

 

 

テツヤとレフィーナの説明を簡潔して言えば『心してかかれ』と言う意味合い。

 

L5戦役から密かに続いていたバルマーとの闘い。

 

その決着を着ける為に。

 

 

「ロサ、ゲートを動かせる人物が待っていると連絡を受けているが?」

「はい、こちらの姿を見せれば取り合ってくれるとの事です。」

「まさか、ハスミ少尉とイルイちゃんの他にゲートを操作する事が出来る人物が他にも居たなんて…」

 

 

ゲートの件で会話を続けていたテツヤ達だったが、突如…UN跡地の敷地内に一人の青年が姿を現した。

 

 

「待っていたよ、ノードゥス。」

「君は一体…」

「僕はBF団の代表……ビッグ・ファイアと呼ばれるもの。」

 

 

青年の語った言葉にノードゥスは動揺していた。

 

L5戦役の後、ぷっつりと活動が途絶えていた組織が表舞台に再び現れた。

 

それはある意味で更なる戦いを予兆させていたが…

 

 

「僕は君達と敵対する為に此処へ訪れた訳じゃない…あの存在が待つ扉の先へ向かうのだろう?」

 

 

敵対する為に現れた訳ではない。

 

倒すべき敵は同じ。

 

言葉だけの証拠も確証もない説得。

 

 

「此処であの者にアシュラヤーとナシム……妹達の子孫を渡す訳にはいかない。」

「妹!?」

「さあ、行くんだ…戦うべき相手が君達を待ち構えている。」

 

 

ビッグ・ファイアはUN跡地の地下施設に設置されたクロスゲートを起動させるとノードゥスの艦隊を亜空間へと転移させた。

 

 

「ゲベル、アシュラヤーとナシムの答えはこの戦いで決まる……君はどんな決断を下す?」

 

 

ビッグ・ファイアはバビル・ガンエデンとしての顔で今は銀河の果てに居る弟へ言葉を告げた。

 

届くかも判らない切なる願いを…

 

 

>>>>>>

 

 

「ここまでとは…」

 

 

亜空間に点在させた戦力。

 

たった四機の奇襲によって全てが鉄屑と化していた。

 

怒り心頭の彼らを誰が止められるだろうか?

 

 

「雑魚を集めた所で俺達を止めることは出来んぞ。」

「ガイアセイバーズの残存戦力を集めた所で意思なき戦力は烏合の衆に過ぎない。」

「…」

「さて、僕らを此処まで怒らせた事…後悔させてあげよう。」

 

 

一触即発。

 

触らぬ神に祟りなし。

 

龍の逆鱗に触れる。

 

どの言葉も正しいだろう。

 

 

「フ、倒せるのか?」

「何が言いたい?」

「実の娘を手に掛けられるのかと尋ねただけだ。」

「御忠告はさておき、僕らがその程度で動揺するとでも?」

「…そうだったな。」

 

 

覚悟を決めて敵地に突き進んだ。

 

戦うべき相手を容赦なく捩じ伏せる為に。

 

 

「戯れ言は此処までだ、ユーゼス…貴様の目論見もこれまでだ。」

「…それはどうだろうな?」

 

 

目覚める新たなる人の祖。

 

それは偽りの体現。

 

願うは…

 

 

=続=

 

 




語ることは出来ない。

私は既に此方側。

今はただ従うだけ。


次回、幻影のエトランゼ・第七十五話『人祖《アダマトロン》後編』


私は戻れない。

それが未来を護るための選択。


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第七十五話 『人祖《アダマトロン》後編』

隠された力は禁忌。

女神の目覚め。

戦いは続く。

星の輝きが真の使命を果たすまで。


ビッグファイアの手引きによって亜空間に転移したノードゥス。

 

その先に広がるのは命なき虚無の世界。

 

それはまるで原初の世界にして混沌の世界。

 

始まりを示す世界の再現だった。

 

 

******

 

 

亜空間と一言で言ってもユーゼスが作り出した空間の規模は不明。

 

その為、光龍らが先行し行ったと思われる戦闘で破壊された残骸の跡を頼りに一行は辿っていた。

 

その惨状にエクセレン、タスク、カチーナも愚痴を零していた。

 

 

「あらまあ…随分と派手に破壊されちゃってるわね。」

「親バカもここまでくるとマジで怖いっす。」

「…そりゃ言えてるぜ。」

 

 

即時出撃が出来る様にノードゥスの各戦艦のカタパルトデッキや艦砲のない甲板で各々の機体に搭乗し待機するパイロット達。

 

先の転移で亜空間に転移した艦隊は鋼龍戦隊に前世でガンエデンに関わった部隊が中心となって編成されている。

 

残りの部隊は各地の防衛戦線とUN跡地周辺のエリア防衛に当たっていた。

 

戦力上ならガンエデンと戦える戦力は集結している。

 

だが、余剰の戦力は与えないかの様な配置である事は間違いない。

 

 

「まるで迷路の中に居るみたいだ。」

「つまり、亜空間の迷宮…て事か。」

「恐らくはクロスゲート・パラダイム・システムを応用し異なる空間との隙間に新たな空間を生み出したのだろう。」

「隊長、奴の目的は一体?」

「L5戦役と同じであれば、奴の目的は神に至る事だろうな。」

「神?」

「文字通り、神に匹敵する力……恐らくは『次元力』の完全な掌握でしょうね。」

「次元力…空白事件で判明した次元を超える力の一つにして星の命の源。」

「それをユーゼスに掌握させる訳にはいかないわ。」

「その為に…ハスミとイルイを連れ去った。」

「…(これも無限力の仕業って事かよ、ハスミ…そろそろマズい状況だぜ。」

 

 

マイの発言からチーム内で会話が進むSRXチーム。

 

L5戦役後、今まで会話らしい会話がなかったのはユーゼスの生存が予期されていた事が関わっている。

 

アルテウル・シュタインベックの声とその手腕がかつてのユーゼスと酷似していると予感したイングラムとヴィレッタの行動によって修羅の乱後と封印戦争中は表立った行動は控えていた。

 

上層部命令に関してもホルトゥスの横槍もあった為だろう。

 

ノードゥスは一部の異動命令を除いて謀殺や暗殺などの事件に巻き込まれなかった。

 

それが功を成したのか水面下ではあったが、ノードゥスは密かにかつての仲間達を収集し迎撃部隊を纏め上げる事が出来た。

 

その迎撃部隊が必要な程、今回の戦いは重要な戦いだと言う事。

 

南極での戦いの折にハスミはケイロンと共に終焉へと繋がる世界崩壊のタイムリミットを告げた。

 

それを防ぐ為の術を知るのは彼女らだけである。

 

ビッグファイアの助力を経てノードゥスの突撃艦隊は迷宮の奥へと進むが…

 

 

「あれはガリルナガン!」

「アーマラ・バートンか…!」

「アルテウル様の命令だ、お前達はここで沈んでもらう。」

 

 

侵攻方向に現れたガリルナガンとガイアセイバーズの残党部隊。

 

どうやら迷宮と化した亜空間の中で先に潜入した光龍らと遭遇しなかった様だ。

 

 

「簡単に通れると思わん事だな。」

「各機、展開した敵部隊を迎撃せよ!」

 

 

無事に通れると思ってはいないブライトら艦長達は各機に指示を出してガリルナガンと残党部隊の迎撃に当たった。

 

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻。

 

 

「…」

「どうした、貴様達の力はここまでか?」

 

 

迷宮の奥底。

 

そこで対峙する光龍らとユーゼス。

 

戦いは優勢に見えたが『次元力』を有した巨大起動兵器の顕現によって劣勢に追い込まれていた。

 

何度攻撃を繰り返そうとも内蔵された機関によって修復してしまう為に…

 

 

「成り損ないでもガンエデンの素体か…。」

「アシュラヤーとナシムの直系はレビやアタッド以上の念動力を有している……あの愚帝の血筋なだけはあった。」

「愚帝だと?」

「…(ハスミが話していたゼ・バルマリィ帝国の霊帝の事か?」

「ふん、貴様らには関係のない事だ。」

「ま、どんなに力を振りかざしても君が神様とやらになった訳じゃないだろう?」

「…何が言いたい?」

「しいて言うなら他人の威厳で威張るなって事かな?」

 

 

ユーゼスに対し辛口の劣勢発言をするカーウァイとテンペスト。

 

その状況に光龍は挑発めいたの表情でユーゼスに答えた。

 

 

「君、あのイングって子を使って無理やりハスミ達から念動力を奪っているんだろ?」

「…!」

「全員じゃないけど僕らはアシュラヤーとナシムの力を受けた念者だよ?その位の流れは読めるさ。」

 

 

光龍はユーゼスの声色で彼の動揺を感じ取り、痛恨の発言を開始。

 

 

「それに君はガンエデンのコアに成り得ない、理由とすれば…君も彼と同様に造られたモノと言った方が正しいかな?」

「!?」

 

 

ユーゼスの更なる動揺と共にテンペスト達は会話を続ける。

 

 

「光龍、造られたとは?」

「言葉通りだよ、あのユーゼスも誰かの手の中で踊らされた人形って事さ。」

「そうか、あのハイブリットヒューマンを生み出した存在であれば…!」

「カーウァイ、察しがいいね。」

「隊長、どういう事ですか?」

「かつてL5戦役で戦ったラオデキヤはハイブリットヒューマンと呼ばれる人造人間だった…その技術をユーゼスを生み出した存在も奴へと転用したのだろう。」

「つまり、奴自身も人の手で造られた者と?」

「そう言う事、今まで本人自身が疑心暗鬼にならなかった事が不思議な位だろうね。」

 

 

傀儡と言う意味合いでは似た状況に陥っていたケイロンもまた言葉を漏らした。

 

 

「人形が人形を動かしていた…余りにも皮肉だな。」

 

 

茶番はそこそこに光龍らは再度抗いの言葉は告げた。

 

 

「さてと、そろそろ三人を返して貰おうか?」

「勝てぬと判っているだろう?」

「そうかな?」

「!?」

「君はあの子達を過少評価しすぎ、進化と成長を遂げた彼女達を止める事なんで出来はしないよ?」

 

 

光龍らが茶番を行ったのは時間稼ぎ。

 

異なる力の気配。

 

そして歪な人祖から離脱する決定的な方法を持ち合わせていた。

 

状況を覆す為の『次元力』を操る術は既に手の内に在った事を…

 

 

「まさか!」

 

 

巨大起動兵器『アダマトロン』を内側から破壊する様に這い出てきた機体。

 

取り込まれていたエクゼクスバインとエクスガーバイン・クリンゲが離脱を開始したのだ。

 

置き土産とばかりに制御コアを破壊してである。

 

 

「…」

「イング、大丈夫?」

「は、はい。」

「解除は出来たけど無理はしないで。」

「お姉ちゃん。」

「イルイ、怖いだろうけど我慢してね。」

「ん、大丈夫。」

 

 

アダマトロンと対峙していた光龍ら元へ急ぎ合流するハスミ達。

 

 

「ハスミ、無事か?」

「はい、ご迷惑をお掛けしました。」

「無事ならいい…だが。」

「彼ならもう大丈夫です、奴の繰り糸は自らの手で断ち切れていますので。」

「おやおや、男らしく根性を見せたね…君。」

「あの、鋼龍戦隊やノードゥスの皆は?」

「鋼龍戦隊やノードゥスのメンバーもいずれこちらに合流する、我々は先に侵入していただけに過ぎない。」

「そう…ですが。」

 

 

ユーゼスはアダマトロンに搭載したラズナニウムによる再構成で体勢を立て直してから告げた。

 

 

「一体、何故…私の枷から。」

「どの様な枷でも外せる…ただそれだけの事。」

「それだけだと?」

「まあ、賭けであったのは確かです。」

「…賭け?」

「念動力とは、すなわち思念…その思念により強い暗示と指示を掛けたとしたら?」

「…」

 

 

残留思念、死によって強まる思念、己の危機に反応して発動する思念。

 

やり方は様々であるが、私はユーゼスに操られたイングに拉致された際にある思念を強めて置いた。

 

それが私の答えた賭けである。

 

一定の条件下に置いて、己の念動力が少なくなった時に念晶石からストックして置いた念動力を補う事で危機より脱する事。

 

それが私が仕掛けた思念を用いた緊急措置だ。

 

結局、自力で離脱する前にノードゥスの到着は間に合わなかった様子なのは明白。

 

これで方針は決まった。

 

 

「後は状況を把握し内部から脱出した…それだけです。」

「それだけだと?」

「思念とは何か…その言葉の意味を理解し導き出された可能性を見出しただけの事。」

「…」

「さて、ここからが反撃開始と言いたい所ですが……貴方にはそれ相応の末路を迎えて貰います。」

 

 

周囲を巻き込む膨大な思念の高まりと覚醒。

 

それは機械仕掛けの女神を顕現する為の力。

 

最早、止める術はない。

 

 

「紛い物のガンエデンをこれ以上放置する訳にはいかない。」

「お姉ちゃん、私も一緒に…!」

「イルイ…」

「もう、守られるだけの私じゃない。」

「…そうだったわね。」

「お姉ちゃん。」

「一緒にやろう、イルイ。」

「うん!」

 

 

空間を揺さぶる振動。

 

響く女性達の祈りの声。

 

それは白き女神と蒼き女神の目覚め。

 

ここに神話に刻まれた守護神が降臨する。

 

 

「あれは…!?」

 

 

迷宮を潜り抜け目的地へ辿り着いたノードゥス一行。

 

だが、一足遅かった。

 

彼女らの顕現がもう少し遅ければ…

 

彼女は考えを変えたかもしれない。

 

 

「問答無用、ここまで世界を混乱させた対価は…ユーゼス、お前自身で支払って貰う!」

 

 

ハスミは告げた。

 

出現した弐基のクロスゲートを介して現れる機械仕掛けの女神達。

 

紛い物たるガンエデンを依り代としたアダマトロンとは異なる。

 

銀河を守護する真の守護神。

 

 

「あれがこの星に遺されたガンエデン…」

「ナシム・ガンエデンとアシュラヤー・ガンエデン。」

 

 

テツヤとレフィーナはブリッジの艦長席でそれぞれが答える。

 

全長は不明だが惑星の守護を司っていた事もあり巨大かつ威厳のある姿。

 

ナシム・ガンエデンは六枚羽の女神を模した姿だがアシュラヤー・ガンエデンは異なり鎧を身に纏った戦女神の姿だった。

 

その姿に各々の感想を告げたATXチーム。

 

 

「あれがガンエデン…」

「随分と大きな女神ちゃんね。」

「惑星…いや銀河の守護する為に生み出されたのならあの大きさは妥当だろう。」

「ハスミ、イルイちゃん、無事なの!?」

「クスハ、私達は大丈夫。」

「何とか最悪の事態だけは防いだわ。」

「よ、良かった。」

「イング、そっちは無事なのか?」

「はい、ハスミさんとイルイのお陰で助かりました。」

「さっすがハスミちゃんとイルイちゃん、やる事はやっちゃうわね。」

「いえ、正直賭けでしたよ?」

「あらま。」

「賭けだと?」

「イングに仕込まれたバインドスペルが完全ではなかったから出来た事です。」

「不完全だったからこそ開放出来たと?」

「その通りです。」

「ベーオウルフの賭け癖が移ったらしい、これがな。」

「フフフ、キョウスケも顔負けですの。」

 

 

ノードゥス艦隊の到着で僅かな焦りを見せるユーゼス。

 

 

「馬鹿な、アーマラの包囲網と突破したと言うのか?」

「流石の俺達もヒヤヒヤしたけどな。」

「迷宮の一部が牢獄になる罠…僕らも引っかかりそうになったけどね。」

「こちとら優秀な科学者達が勢ぞろいしているんだ。」

「力を合わせれば突破出来ない場所はない。」

「くっ…」

 

 

竜馬、万丈、甲児、凱らがユーゼスの問いに答える様に告げた。

 

 

「ユーゼス、貴方の目論見もここまでよ。」

「ふん、コアたる念動者を失ったとしても疑似コアがある限りアダマトロンは稼働出来る。」

「…ジ・エーデルが貴方に完全な次元力を行使出来る技術を与えると思ったのか?」

「どういう事だ…!」

「奴は貴方の様なプライドの高い存在を奈落に蹴落とすのが好きな気分屋…不完全な技術が生み出すのは欠陥品だけよ。」

「ふん、奴を出し抜けぬ私だと思ったか?」

「大アリです、貴方の性格を把握して一番効率の良い時にそれは発動する。」

 

 

会話を続けるハスミとユーゼス。

 

その時、ユーゼスのアダマトロンに変化が起こった。

 

機体を維持出来ずに各所より誘爆が始まったのだ。

 

 

「な…!?」

「やはり…(一定の念動力の供給が無くなると発動する様になっていたのか。」

「ジ・エーデルめ…死してなおも嘲笑うか!」

「…(まあ、別の姿で生きているんですけどね。」

 

 

ジ・エーデルが愉快犯であった事はこの時だけ感謝すべきなのだろうか?

 

ユーゼスの思惑とは裏腹にアダマトロンはその力を行使出来ずに崩壊を続ける。

 

 

「イルイ、イング、最後は私達の手で。」

「うん!」

「了解!」

 

これ以上、紛い物のガンエデンを悪用される訳にはいかない。

 

 

「「テトラクテュス・グラマトン。」」

 

 

女神達は守護聖霊へと変異する。

 

 

「「テフェリンの開放を。」」

 

 

二対の巨躯の竜は力を合わせて滅びを与える。

 

 

ナシムのフォロー・ザ・サンとアシュラヤーのリリース・ザ・サンが交差しアダマトロンを撃ち抜く。

 

 

「「クロス・ザ・サン!」」

 

 

むき出しになったコアをイングのエグゼクスバインのブラックホール・バスターキャノンが撃ち抜く。

 

 

「超重獄に堕ちろぉおおお!!!」

 

 

眩い光に呑まれた空間は消失。

 

二対の女神は戦士達を引き連れ帰るべき世界へと誘う。

 

 

 

=数時間後=

 

 

 

UN跡地にて待機していたノードゥスの残留組。

 

各地に散っていたメンバーも集結し突入したメンバーの帰還を待っていた。

 

そして出現したクロスゲートを通して二対の女神の手によりノードゥスの部隊が帰還。

 

事情を知らないメンバーは動揺したが、突入メンバーによって説明され落ち着きを取り戻した。

 

そして最後の問題が残っていた。

 

突入部隊を亜空間へと誘ったビッグファイアの事である。

 

彼もまた妹たるガンエデン達の帰還を待っていたのだ。

 

 

「ナシム、アシュラヤー、今なら彼女達を介して話せるだろう?」

「バビル兄様…」

「幾年ぶりでしょうか?」

「永い様でつい最近にも思える。」

 

 

イルイとハスミの身体を介してバビルと語るナシムとアシュラヤーの意思。

 

アシュラヤーは混乱するノードゥスに対して彼女達の身体を介して話しているだけであり彼女達の意思はあると説明。

 

聞くべき事は山程あるが、そのままバビル達の会話を静聴する事となった。

 

 

「君達は今後どうする?」

「イルイを通して人々を見定めていましたが、今の人類に希望を託そうと思います。」

「私も同意見です、ですが…」

「クロノとテンシの事だね?」

「ええ、彼らの手が迫っている以上…必要以上の干渉を控えるべきかと。」

「それは僕も同意見だ。」

「…」

「いずれ彼らの干渉を受けた世界に向かう事になるだろう。」

「目覚めるべき力に彼らが目覚めているのなら話は別だったのですが…」

「目覚めて間もない者もいる…今は見守るしかないだろう。」

 

 

今後の戦いに必要なヒントたる会話。

 

それを読み解くのは彼ら自身。

 

 

「では、その時まで私達は干渉を避ける事で?」

「その方がいいだろう。」

「長い道のりかもしれませんね。」

「いや…そうでもないと思っているのだろう?」

「ええ。」

「僕は僕で動く…君達は君達で動くといい。」

 

 

そう答えるとバビルの意思は眠り、ビッグファイアはその場から去っていった。

 

 

「ナシム、貴方にはこの世界の守護を任せます。」

「アシュラヤー姉様、貴方は?」

「私、いえ…ハスミ自身がやるべき事が残っています。」

「では、ご武運を。」

「ええ、貴方も気を付けて。」

 

 

ナシムとアシュラヤーも眠りに就き、再び意識はイルイとハスミへと戻っていった。

 

 

「お姉ちゃん、行っちゃうの?」

「うん、私にはやるべき事が残っている。」

「また会える?」

「それは判らない……それでもいつか会えるから。」

「判った、私…待ってるね。」

 

 

ハスミはやるべき事が残っていると告げると光龍達に指示を出した。

 

 

「二対のガンエデンは引き続きバラルの園と天鳥船島へ安置、誰にも触れさせないでください。」

「了解、老師にも伝えて置くよ。」

「そしてホルトゥスの全権を孫光龍、カーウァイ中佐、テンペスト少佐の三名に預けます。」

「行くのか?」

「約束は約束ですから。」

「そうか…」

 

 

静かに告げられた別れの言葉。

 

ハスミはガンエデンを天鳥船島へ転移させエクスガーバイン・クリンゲに搭乗し直すと待機していた蒼雷の元へ向かった。

 

彼女の取った行動はノードゥスとの決別と別れの意味を示した。

 

己の武器を収め跪く姿。

 

それは敗北者か?忠臣か?

 

どちらにせよ、彼女は彼の元へ集ったのだ。

 

 

「ケイロン・ケシェット、これはどういう事だ?」

「貴様はハスミの仲間では無かったのか?」

「一言で言うなら立ち位置が異なるだけだ。」

「立ち位置?」

「星の守護を司る者と星を支配する者がやる事はただ一つ…」

 

 

『すなわち決闘のみ。』

 

 

「まさか…!」

「俺との決闘で敗北、互いに勝敗を決した時の契約を守っているだけだ。」

「…」

「契約だと?」

「俺との戦いに敗北した時、その身を預かるとな?」

 

 

次元の将との決闘。

 

それがどれだけ熾烈な戦いであるかを前世で知るZ事変の関係者達。

 

それをたった一人で戦ったのだ。

 

余りにも無謀だと思っただろう。

 

互いの志が違う以上は戦うしかなかったのか?

 

別の道はなかったのか?

 

それは戦った当人達しか知り得ない事。

 

 

「ハスミ、君は…」

「彼の言葉通りです、私は勝負を挑み敗北した…それは偽りのない真実です。」

「…」

「あの時、もう少し到着が早ければ考えを変えていたかもしれません。」

 

 

アムロの言葉にハスミは真実と答える。

 

それは決別の言葉。

 

去り行く彼らに対して引き留めようとしたが…

 

 

「見所があったと思ったが…俺の勘違いだった。」

 

 

スフィア覚醒者の力。

 

その圧倒的な重圧を前にノードゥスは立ち上がる事は出来ない。

 

互いの覚悟の差が違う為に。

 

 

 

「俺の真の名はアウストラリス…サイデリアルの名と共にいずれ貴様達に宣戦布告させて貰おう。」

 

 

 

振り返る事もなくその場から彼らは去った。

 

 

「行くぞ…。」

「はい。」

 

 

理解されないまま蔑まれようとも私は…私達は進む。

 

それぞれの道がいずれ交わる時まで。

 

どんな荒波に呑まれ様とも歩みを止める事はない。

 

進むべき道は違えど往くべき先は繋がる。

 

それを忘れてはならない。

 

 

 

 

 

=第四章・完=

 

 




これは夢か?

これは幻か?

これは現か?


遠き日の夢と理想の幻は現実へと変貌する。


次回、幻影のエトランゼ・第五章『夢幻ノ詩篇』

目覚めの旅は始まった。

次なる戦いの為に進め。


******

<補足>

=ノードゥス側=

※指定ターン内に指定エリアまで到達…失敗。
※指定エリア到達後に発生する敵部隊を指定ターン内に撃破…失敗。


以上を踏まえて離別フラグが成立しました。



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五章予告

それは一つの夢から始まり。

それは多くの夢へと繋がる。

これは一つの願いが起こした。

大きな禍への伏線。

崩壊の夢はまだ終わらない。


封印戦争後、人々は戦乱によって破壊された地球並びにコロニー群、太陽系全域の復興に励んでいた。

 

しかし、ある日の事…

 

 

「何だ?あれは…」

 

 

突如、太陽系を中心に不可思議な空間に包まれた。

 

そして引き起こされた局地型時空振動。

 

地球に現れた謎の孤島や大陸。

 

人類は新たな光景を目撃する。

 

 

『見つけましたよ、スフィアを新たな真化へと導く兆を。』

 

 

******

 

 

 

=謎の遺跡島=

 

 

フォースに至る試練。

 

それは再会と言う名の現象を与えた。

 

 

「何故、私達が再び廻り遇ったのか…それも新たな試練の為なのかもしれません。」

「試練か…」

「しかしよ、俺達の繋がりがバレねえか?」

「どうだろうね…僕は兎も角、君らが素知らぬ顔をでもすれば話を合わせられるんじゃないのかな?」

「無駄だと思いますよ、彼らは僅かな断片でさえ見逃さず真実に辿り着きますから。」

「だろうね…今は君の組織の加護がある限り、彼らは手を出さないだろう?」

「無論出させませんよ、奴らの監視の眼が届かない以上は成すべき事は成しましょう。」

「問題はこの島がどうなっているかって事だな…」

 

 

局地型次元振動によって太平洋の中心部に現れた島。

 

南国を思わせる熱帯の植物に守られた聖域。

 

侵入者を阻む独自の生態系と聖域を守護する民族。

 

そして島の中心部に残る古い遺跡群。

 

黒き破壊王にして巨獣の咆哮が響く。

 

古のインファント島は伝承を記す。

 

 

 

=電脳世界の融合=

 

 

「僕達、もしかしてスパロボの世界に来ちゃってる!?」

「ええっ!!?」

 

 

彼らはログインする。

 

ネットゲーム、正式名称ガンプラバトル・ネクサスオンライン。

 

通称GBNに。

 

いつものログイン。

 

いつもの対戦バトル。

 

いつものミッション攻略。

 

変わらない日常の筈だった。

 

それは一つの兆によって変異した。

 

 

『君達の肉体はこちら側の世界では意識不明の形で医療施設に緊急搬送されている。』

「そんな…」

『私達は貴方達の状態を『未帰還者』と呼ぶ事になりました。』

「未帰還者ですか…言い得て妙ですね。」

『君達が現実世界に戻れるようにこちらでも手を尽くそう。』

「判りました。」

 

 

切り離された意識。

 

電脳世界での体は命ある体へと変貌。

 

一度の死で二度目はない。

 

彼らはそれを理解する。

 

 

=負念の再来=

 

 

一度は停滞した筈の禍。

 

だが、彼らもまた再起の時を伺っていた。

 

 

「ヒサシブリダナ、ロア。」

「漸く目的の地に辿り着けた~ぞ。」

「ワイらをコケにしよった例の奴にも礼をせんとな。」

 

 

復活した闇黒の頭脳の配下。

 

それは定められた戦い。

 

消失した可能性の戦いへの対価として。

 

 

 

=覚醒の兆し=

 

 

第四の覚醒。

 

それは呪詛か祝福か?

 

 

「聖戦に招かれし戦士達よ、何故滅びぬ?」

「人が負念の集積体を生み出すと言うのなら、それは大きな間違いよ。」

「何故だ。」

「人は可能性に満ちた生命体、その生命体が正となるか負となるかはその者次第。」

「…」

「テメエの勝手で悪者扱いされるのは御免だって事だ。」

「僕らは正も負も抱えて未来に進む、それを君に止める事は出来ない。」

 

 

負念に侵された神体。

 

その陰にはテンシの策略アリ。

 

私達は可能性の未来へ動き出す。

 

 

次回、幻影のエトランゼ・第五章『夢幻ノ詩篇』。

 

 




夢か幻か。

一時の出会い。

それは一つの伏線へと繋がる。

願うは存続の世界。


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夢幻ノ詩篇
第七十六話 『集合《シュウゴウ》』


志を共にする者が集う。

それは新たな道を模索する為。

それは新たな力を手にする為。

これは始まり。

加速する戦いへの宣戦布告。


破滅の王ペルフェクティオの現出。

 

異星人連合並びにゲスト侵攻。

 

アルテウル・シュタインペックことユーゼス・ゴッツォの暗躍による混乱。

 

そしてガンエデンと呼ばれる先史文明期の遺産の出現。

 

連合政府はこれらの出現と目的を纏めて今回の戦乱を『封印戦争』と名付けた。

 

戦時中の最中にあったフューリーと呼ばれる異星人達との同盟。

 

地球圏に出現した謎の存在。

 

問題は山積みのままである事は確かだった。

 

連合政府は独立遊撃部隊ノードゥスの活動を継続する事に決定。

 

地球圏並びに太陽系各所の防衛と監視を行う手筈となっている。

 

戦いは終わった訳でない。

 

ケイロン・ケシェットことアウストラリスが語ったサイデリアルの存在もまた危険視されたまま。

 

更に地球圏を中心に暗躍する影が迫っている事など誰も知る由もない。

 

往くべき道を違えた事は波乱を呼び込む。

 

 

******

 

 

前回の戦いから二週間が過ぎた。

 

諸事情で私ことハスミは行方不明となったが、諸々の片付け事を終えてどうにかこちらの世界に戻ってきた。

 

サイデリアルの本格的な宣戦布告がなされていない以上はあちらも手出しは出来ないだろう。

 

対抗出来るスフィアリアクターがいない事。

 

これが一種の抑止力になっている。

 

それでもいつかは戦わなければならない。

 

共に戦ってきた仲間に牙を向ける覚悟を決めなければいけないから。

 

何故か?

 

彼らが無限力の陰謀によって自然にシンカへ至らない為である。

 

このままではクロノとテンシの餌食となるだろう。

 

私は捨て駒になっても構わない。

 

彼らを導く為に敢えて敵対した。

 

 

「特に目立った動きはないようだな?」

「今の所は地球圏も混乱したまま、次の戦いである『ムーンデュエラーズ』の開始まで少し余裕があります。」

 

 

天鳥船島内部の神殿の一角で話し合うケイロン改めアウストラリスとハスミ。

 

 

「…(ちょっとした出来事が起こるし、それが終わってからが今回の本番だろう。」

 

 

ホルトゥスの全権をお父さん達に預けた事で彼らに天鳥船島への帰還を禁止。

 

現在進行形で各地に点在させた息のある企業に選り分けして雲隠れをさせている。

 

これはユーゼスとの決着を着ける前に予め決めて置いた案件だ。

 

三人から渋い顔をされたが、クロノの暗躍が強くなっている以上は誰かが監視をしなければならない。

 

 

「あの子には引き続き護衛も付けてありますし奴らの監視の目を私に集中させるだけで構わないでしょう。」

「…お前には酷な選択をさせたな。」

「私は貴方に敗北した時、陛下に仕えると…お約束した筈ですよ?」

「俺はまだ傀儡の玉座に戻った訳ではない、タダのアウストラリスだ。」

「では、アウストラリスとお呼びすれば良いですか?」

「それで頼む。」

「判りました。」

 

 

淡々と答えるハスミにアウストラリスは彼女の頬に触れた。

 

 

「ヴィル…」

「ハスミ、よくやったな。」

 

 

普段表情を余り変えない彼からは想像も出来ない笑み。

 

誰得?いや私的?得だろうか。

 

 

「いや~お二人さんお熱いね。」

「ガドライト、不謹慎よ。」

「///」

 

 

合流したジェミニスのリーダーであるガドライトとアンナロッタの登場により。

 

ハスミ、即離脱かつ両手で顔を抑えてプシューと効果音付き赤面中。

 

 

「無事に合流出来た様だな?」

「取り敢えずはな、まさか向こう側とで時間軸がズレているとは思わなかったがな。」

「そ、それに関しては後々にご説明します…今はご報告する事があるのでは?」

「おっと、そうだったな。」

 

 

合流を果たしたガドライトらと情報交換を行うアウストラリスとハスミ。

 

齎された情報は良い悪いが混在したものだった。

 

 

「いつかは言えねえが、エルーナと尸空の奴が記憶に目覚めた。」

「そうか…バルビエルの方は?」

「スフィアの影響か判らねえが、相変わらずだぜ?」

「御使いの影響下にある以上は下手な行動は出来んか…」

「恐らく無限力の影響もあると思います。」

「例の意識集合体の連中か?」

「ええ、最も近しい影響力を持つイデと遭遇していないので…こちらもどう出るかは不明です。」

 

 

スフィアに関しては私の推測も入るがある欠点を抱えている。

 

それは反作用とは異なる欠点。

 

スフィアは元々御使いが生み出した至高神ソルが彼らを否定し自害した事で十二の欠片となって生まれたモノ。

 

それが人の感情の一部と十二星座の名を冠する力を持った。

 

ここからが私の推測と補足である。

 

スフィアは十二星座と感情によって分類分けが可能。

 

 

喜びは尽きぬ水瓶、いがみ合う双子、揺れる天秤。

 

楽しみは知りたがる山羊、欲深な金牛、夢見る双魚。

 

悲しみは悲しみの乙女、傷だらけの獅子、沈黙の巨蟹。

 

怒りは立ち向かう射手、偽りの黒羊、怨嗟の魔蠍。

 

 

間違いでなければこのような分類が出来る。

 

御使いにより近い感情のスフィアの場合は同調し影響下に置かれやすくなってしまう。

 

私の場合は楽しみのテンプティの影響下に置かれやすい。

 

好奇心=娯楽…楽しみに繋がる為である。

 

ただ、気になるのはエレメント方式に置き変えるとまた違った目線で見る事が出来る事。

 

エレメント同士は互いの力を高め合いより強い力を発揮出来る。

 

 

火のエレメントは立ち向かう射手、偽りの黒羊、傷だらけの獅子。

 

風のエレメントはいがみ合う双子、揺れる天秤、尽きぬ水瓶。

 

土のエレメントは悲しみの乙女、欲深な金牛、知りたがる山羊。

 

水のエレメントは沈黙の巨蟹、怨嗟の魔蠍、夢見る双魚。

 

 

更に性質(クオリティ)で分類すると相性の悪いスフィアが解る。

 

 

カーディナル・サインでは白羊宮・巨蟹宮・天秤宮・磨羯宮。

 

フィックスト・サインでは金牛宮・獅子宮・天蝎宮・宝瓶宮。

 

ミュータブル・サインでは双子宮・処女宮・人馬宮・双魚宮。

 

 

同種のサインに含まれる星座は互いに相性が悪い。

 

このサインを利用すれば弱点対策が行えるのだ。

 

実際、前世で不明だった他の相性の悪いスフィアの分類が出来た理由でもある。

 

悲しみを糧に立ち向かうや夢見る心をいがみ合わせ、愛情は憎しみを増大させるなど…

 

サイン方式は今後の戦いで必要になるだろう。

 

 

「そこまで調べ上げていたのか…」

「ほとんどは手探り状態でしたけどね。」

「ま、助かると言えば助かるな。」

 

 

これからサイデリアルとして活動する以上はスフィアリアクター同士のスフィア争奪戦を阻止しなければならない。

 

これから起こる史上最悪の崩壊から世界を守る為にはスフィアの力は必須。

 

誰も欠けてはならない。

 

 

「それよりもアサキム、貴方も会話に入ったらどうですか?」

「気づいていたのかい?」

「アウストラリスもガドライトさんもとっくの昔に気づいていましたし。」

「話は聞いていたから別に構わないだろう?」

 

 

ハスミらが話し合う中で一人離れた場所で静聴していたアサキム。

 

ツィーネに関しては別件の為、今は別行動中である。

 

 

「問題が一つ、今回の戦いの開始前にある因果関係で私とアウストラリスは別世界に飛ぶ事になります。」

「…」

「それを片付けてからスフィアをフォースステージに上げる修行を開始したいと思います。」

「具大的には?」

「まず、この修行には危険が伴います。」

「危険?」

「フォースステージに上がった場合、私達の…後世の魂に影響がある事でそれはスフィアとより同化する危険性を孕んでいます。」

 

 

そうスフィアの力を引き出す為のステージ段階を十段階に置き変えるなら四段階は魂の融合に近い。

 

二段階なら肉体…そして十段階は完全なる融合。

 

それは別の意味でスフィアの番人たる高次元生命体への進化を意味する。

 

その危険を孕んでいようとも私達はステージを上げなければならない。

 

無限力が提示した戦いとバアルの侵攻が過酷である為に。

 

私は何処まで抗えるだろうか?

 

 

=続=




変異する戦い。

異界からの侵略。

求めるのは旅路の扉。


次回、幻影のエトランゼ・第七十七話 『金貨《ワンダラー》』


それは望んだ再会だろうか?


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涙の付箋

流す涙は心の奥底。

誰の為の拒絶。

敗北した者の末路。

それは決まっていた。



時は遡り、封印戦争終結直後。

 

サイデリアルの名称と共に去ったケイロン・ケシェットことアウストラリスとハスミ。

 

敗北の意味は何を示すのか?

 

それを知るのは前世でZ事変に関わった者達だけである。

 

再びオービットベースに集結したノードゥス。

 

今回の戦いは集結したものの新たな組織サイデリアルの名と共に混乱は続いていた。

 

ユーゼス打倒を決した祝勝会も開かれたが、お通夜モードである事は言うまでもない。

 

それを余所に記憶保持者達はオービットベース内の一室に集まれるメンバーのみを収集。

 

中継役として滞在している光龍から真実を聞き出す為に。

 

 

******

 

 

「「「…」」」

 

 

彼らに思い出させるのはZ事変に置けるラース・バビロンでの戦い。

 

Z-BLUEの総力を持って挑んだ地球開放の戦い。

 

サイデリアル側にスフィアリアクターが四名。

 

Z-BLUE側にスフィアリアクターが四名。

 

スフィアリアクターの人数は互いに等しく戦いは熾烈で苛烈。

 

多元世界の地球上に置ける激戦であっただろう。

 

 

「話通りなら彼女はたった一人で奴と対峙した。」

 

 

ハスミの言葉を聞いたアムロは一人呟いた。

 

実力を知る彼女ならそれが無謀である事は知っていただろう。

 

だが、それでも彼女は戦う事を選んだ。

 

選び抜いて戦い、敗北した。

 

そしてサイデリアルに下った。

 

 

「光龍、彼女はサイデリアルとどの様な繋がりを持っているんだ?」

「何処から話した方がいいのか…口止めされている事は結構多いし。」

「茶化さないで貰いたい、この件は我々にも重要な事だ。」

 

 

何度もはぐらかされた事で普段冷静なアムロやシャアも言葉に怒りが籠っていた。

 

その様子に光龍は冷たい視線で答えた。

 

 

「あのね、僕だって君らに全部話して娘が取り戻せるなら…いくらでも話すよ?」

「…」

「それが出来ないのが今の状況、君らだって判っているんだろう?」

 

 

頭では理解はしているが心はそうはいかない。

 

その場のメンバーの心の中で彼女は敵なのか味方なのか二つの選択肢に揺れ動いていた。

 

 

「目の上のたん瘤だったユーゼス・ゴッツォは倒したし…君達に話せる事が少し増えた事は教えてあげるよ。」

「例の口止めの内容か?」

「それね、これで君らが不明だった情報が少し解明するんじゃない?」

「シャア。」

「…話して貰おう。」

 

 

腑に落ちない点は幾つがあるが静聴する事にした一行。

 

今、ここで事を構えれば余計に情報が引き出せなくなる。

 

何処までももどかしい。

 

 

「じゃ、口止め案件の中で解禁となった情報だけ説明させて貰うよ。」

 

 

光龍は周囲が落ち着いたのを確認してから解禁されたと言う情報を話した。

 

 

「まずは、君らに対して無限力がちょっかいをかけ始めた事から…」

 

 

始まり始めたのは今回の戦い…封印戦争の初め頃。

 

丁度、STXチームがアーマラ・バートンの狙撃に巻き込まれて謀殺されそうになった件が開始時期。

 

STXチームはこの時、何事も無ければグランド・クリスマスへ向かう筈だった。

 

無限力はそれが面白くなかったんだろうね。

 

はっきり言えば正史通りに戦いを起こしたかった。

 

だからハスミや僕らを謀殺しようとしたんだよ。

 

で、それに気づいたハスミは無限力への契約違反ペナルティに対してホルトゥスとして動く事を決めた。

 

 

「契約?」

 

 

破嵐万丈君、ハスミが今まで戦っていたのは無限力の意思。

 

あの子はアカシックレコードの使者として無限力の陰謀と戦っていた。

 

さっき話した契約内容は不明だよ?

 

そして負念の集合体であるバアルの件も無限力にとっては好都合な連中だった。

 

 

「好都合?」

 

 

無限力はバアルの侵攻が続けば、自分達は存在し続けられると思っているのさ。

 

正念と負念…人類とバアルの戦いが続く限り、自分達が神聖視し続ける為にね?

 

ここまでド屑な神が存在すれば君らだって抗うだろう?

 

ハスミはその絡繰りを自身の経験とアカシックレコードの記録を通して気づいたのさ。

 

その輪廻を終わらせなければ人類の未来はない、とね。

 

 

「…」

 

 

ここまでは話す事が許可されている事。

 

で、無限力はハスミや君らが自分達を脅かす危険分子に成りかけていると悟った。

 

今まで君らと接触を控えたり敵対行動を取ったのは君らへの妨害を防ぐ為。

 

ハスミがサイデリアルに下った理由は今は話せない。

 

何か理由があるのは判っているけど、無理強いでそれを知る事をしない事だね。

 

 

「無限力…イデの意思か。」

「やはり、あの存在が関わっていたとは…」

「…どんな世界でも奴らは変わらない。」

 

 

無限力ことイデの意思を知るメンバーはその意思に翻弄され、渦中にいた彼らの事を思い出した。

 

今回も接触するなら彼らは自分達の意思でまた潜り抜けなければならないだろう。

 

先の三人はそんな言葉を零した。

 

 

「お次はクロスゲートの事。」

 

 

ユーゼスの使用していたクロスゲートは消失を確認したのだけど…

 

悪用の危険性はないと思いきや別口のクロスゲートが地球近海に出現しちゃったのさ。

 

恐らくは無限力が関わっていると思う。

 

今の所、ゲートが動いた気配はないよ。

 

これを連合政府がどうするのか見物だねぇ。

 

 

「今も連合政府の内部にはクロノの構成員が潜んでいる。」

「イルイが狙われる危険性が残っていると?」

「そう言う事、まあ今のあの子にはゲートを動かせる力は戻ってないから無理な話だけど。」

「シャア、イルイの件を後で…」

「ああ、分かっている。」

 

 

話が早いねえ、前世でムゲ・ゾルドバスの連中や地下組織の件でイザコザあったのを教訓にしたんだね。

 

感心、感心。

 

 

「光龍、アウストラリスの事について知っている事は?」

「さてね…娘を奪った男の事を詮索すると思ったかい?」

 

 

いつどこで知り合ったか知らないけど。

 

どこの馬の骨とも分からない輩に娘を奪われたんだよ?

 

娘の手前、父親として物凄く我慢はしたんだよ?

 

妙な真似をしたら容赦無く消し炭にしてあげる予定さ。

 

これ、カーウァイとテンペストも容認済みだからね。

 

 

「それって殆ど本音じゃ…」

「リュウセイ、君は娘の幼馴染みだから許しているけど口が過ぎるよ?」

「ス、スイマセンデシタ。」

「…(親馬鹿に拍車がかかってコエェ。」

「…(やるなら他所でやれ、これがな。」

 

 

光龍の発言にツッコミを入れたリュウセイは自滅。

 

その様子をマサキとアクセルが傍観していた。

 

 

「それと不味い事が起ころうとしている。」

「不味い事?」

「さて問題、破滅の王が現出した際に溢れた負念の残滓は何処に行ったでしょうか?」

「どっかに逃げたとか?」

「銀河、流石にそれは…」

「正解だよ、君…突発的な事を言うけど本能かい?」

「多分、何となく。」

「…銀河の言う通りなら負念って自分の意思を持っているんですか?」

「単純な意思なら持ち合わせているよ。」

「北斗、単純って事は…」

「うん、戦うとか逃げるとか単語で行動が出来る程度って事だよね。」

「それに逃げた先により強い負念の化身が居た事が不味い事の原因だよ。」

 

 

ハスミの話では以前倒した存在が負念の残滓を受けて復活を果たしたらしい。

 

これも無限力のお遊びの一環だろうね。

 

対価はフューリーとの早期同盟の件かな?

 

兎に角、敵が増えた事に変わりはないよ。

 

 

「以前、倒した存在と言われると該当が有りすぎる。」

「半分以上が該当してると思うよ。」

「おまけでヒントあげるからそれで推測しなよ。」

「ヒント?」

「宇宙開発公団、シャトル事故、未帰還者、以上。」

 

 

光龍が示したヒントに対し各自考察する。

 

先に声を上げたのはシンジとカヲル。

 

 

「宇宙開発公団はGGGの表向きの組織で…」

「シャトル事故と未帰還者はそこの出身者って事かな?」

「凱さん、行方不明になっている人っているんですか?」

「…心当たりならある。」

「えっ?」

 

 

凱の言葉に全員が注目した。

 

 

「その人は俺の先輩に当たる人で今もシャトル事故で行方不明になっている。」

「その人の名前は?」

 

 

凱が答えようとした時、もっとも知る人物達が答えを告げた。

 

 

「その人の名前は相羽真人…菜々子のお兄さんでお姉ちゃんの恋人だった人です。」

「瞬兵、まさかと思ったが…」

「洋、僕も同じ答えだよ。」

「答えは見つかったかい?」

「光龍さん、復活した相手は絶望の化身セルツ・バッハ…菜々子のお兄さんはアイツに囚われているが答えですね?」

「ピンポン、正解。」

 

 

光龍はクラッカーがあったら鳴らそうか?と冗談めいていたが、場の空気でそれは取り止めた。

 

 

「ハスミに感謝しなよ、僅かな情報でそこまで調べ上げてくれたんだからね。」

「光龍、その法則が正しければ負念を糧にする他の存在が復活をし始める可能性があるのだな?」

「そう言う事、今後も注意した方が良いよ。」

 

 

更なる情報を告げた後、光龍は艦長らと今後の話し合いがある為、室内を去った。

 

新たなる戦い兆しと負念の残滓。

 

戦いは激化する事を物語っていた。

 

 

=続=

 



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第七十七話 『金貨《ワンダラー》』

一つの金貨が落とされた。

異界の乱入者と共に。

それは新たな旅路。




封印戦争と呼ばれた戦いから更に一か月後。

 

季節は初夏を迎えた。

 

地球を旅立つ者、去り行く者、新たな試みを求める者と別れた。

 

宇宙へと飛び立ったオルファンは新天地を求めて果て無き銀河の旅路へ。

 

繰り返される戦いに対しオービタルリングの防衛設備再改装の決議案が可決。

 

封印戦争時における連合政府内の戦犯への処罰。

 

新たな政府体勢と異星国家同盟とのやり取り。

 

それらの話題が世間を賑わせていた。

 

しかし、目処前に迫る危機を知らないまま…

 

時は静かに刻んでいた。

 

 

******

 

 

程良い初夏の風と日差し。

 

勉学を励むには良い日和の天気だった。

 

 

「どうやら無事に元の立ち位置に戻れたみたいですね。」

 

 

アミューズメントパークを含む大型商業施設にて。

 

施設内の展望テラスタイプのカフェにて無料ニュースを配信するモニターにタッチして話題となっている項目を閲覧するハスミ。

 

話題の項目は大きな字で見出しをアップさせ、主なおススメとして強調していた。

 

ピックアップされた動画にはムルタ・アズラエルの国防総省への復帰の件がキャスターによって説明。

 

一方で戦犯としてロード・ジブリールや暴利を振るっていた軍幹部らの軍事裁判の初公判が行われると報道された。

 

但しこれもトカゲの尻尾切りである事は明白。

 

 

「あの財団、やっぱりトカゲ尻尾切りを…」

「ビスト財団か?」

「はい、正確にはマーサ・ビスト・カーバインが裏で手を引いていたと思われます。」

 

 

現にニナ・パープルトンが所属していた時のアナハイムの社長さん(カッパヘアの)が数日前に暗殺された。

 

今は就任した新社長の下で新たな方針に従って製造行っているって聞いてたけど、向こうも早いですねー

 

 

「あの女性も『男性社会』と言う闇に蝕まれた人ですけどね…」

「己よりも有能な人間ほど妬みの要因となる…か。」

「…アウストラリス。」

「いずれ対峙するだろう、覚悟は決めて置け。」

「判ってます。」

 

 

アウストラリスの言葉に私は呑んでいたコーヒーが酷い位に苦く感じた。

 

私もいい加減、甘さは捨てるべきだろう。

 

 

「ガドライトらとアサキムは如何している?」

「二組はそれぞれ別行動中です。」

「そうか。」

「理由は…聞かないのですか?」

「俺が直接指示した訳でもない。」

「…」

「お前が語った戦いの前だ、戻るまでの間は自由にさせて置け。」

「判りました。」

 

 

ガドライトさん達とアサキムにはこちら側の世界に待機と私達の帰還までの間の自由行動を許している。

 

勿論、諸々やりそうな事を禁止した上であるが…

 

自身らの身に何かあれば独自で動いても構わないと付け加えて置いた。

 

何事も無ければ記憶保持者達が彼らを追う事はないだろう。

 

無限力の監視の力が戻るまでの間に出来得る事をしよう。

 

 

「しかし、ハスミ…俺達の監視が甘すぎではないか?」

「その事ですが…下手にこちらと事を構えるよりマシと思ったのでしょう、ちなみに使用中の偽装IDは小父様の伝手で正式なコードを使ってますのでバレません。」

「小心者…と言いたいが妥当な判断をしたのだな?」

「規模が判らない敵であり、宣言のみで行動を開始していない敵を相手にするよりは目の前の問題を解決する事を選んだ結果ですよ。」

 

 

そもそも監視が厳しいエリアの民間施設で普通に行動していたら間違いなく拘束されます。

 

恐らくはあの狸爺も一枚噛んでいるだろう。

 

あの狸爺め、あわよくば…また漁夫の利でもやらかす気ですかね?

 

正直、こちらが色々と動けば結果的に向こう側に旨い状況になるのは必須だし…

 

逆に言えばこちらへの追跡を少し加減(泳がせるの略)してくれるかもしれませんがね。

 

この状況に関しては有難く使わせて貰いますけど。

 

マジな話でイラっとしました。

 

 

「さてと、予定より少し早いですけど目的の場所に向かいましょう。」

「…何かあったのか?」

「得にはありませんが、念の為です。」

「念の為?」

「予言とは時として早期に若しくは後期に訪れるものです。」

「無限力の介入であれば、動く必要があるのは確実か。」

「はい。」

 

 

私達は一時の暇を満喫した後、目的の場所へと向かった。

 

奴らが現れる場所、カモメ第二小学校へ。

 

 

 

=一時間後=

 

 

イルイ・エデン。

 

現在、本人の希望もありカモメ第二小学校で勉学中。

 

同じクラスの護らと溶け込んで早、三週間が経過した。

 

今日は学校の都合で午前授業のみ。

 

生徒の殆どが下校した頃。

 

掃除当番で残っていたイルイと護、戒道、華の四人が戸締まりされる学校を後に校門前に出た所だった。

 

 

「待って。」

「イルイちゃん、どうしたの?」

「何か来る。」

「えっ?」

 

 

校門前に現れた猿の様な風貌と蛇の様な風貌の怪人。

 

それぞれが『我が主の為。』と答えるとイルイ達を襲い始めたのだ。

 

護と戒道が浄解モードでサイコキネシスを発動させ、逃げ仰せた。

 

騒動に気付き、校外で待機していたボルフォックらと合流。

 

だが、先のサイコキネシスをものともしない怪人達。

 

怪人達の追撃が始まるかと思いきや…

 

 

「…やらせはしない。」

 

怪人の一体を切り伏せるハスミと拳で貫くアウストラリスが姿を現したのだ。

 

 

「お姉ちゃん!」

「ボルフォック、イルイ達を連れて逃げて!」

「しかし!」

「ハスミ、あれは一体!」

「ロサ、キーワードは九十九事件とワンダラー。」

「!?」

「判ったわね?」

「う、うん!」

 

 

ロサはハスミの言葉を察しボルフォックらに撤退を促す。

 

ボルフォックのビークルモードであるパトカーにイルイらを乗せるとその場を撤退した。

 

 

「くそっ、逃がしちまったか。」

「人の妹に何か用かしら?」

「妹?ならオメェでもいいぜ!」

「ハスミ、来るぞ。」

「はい。」

 

熊かトドの様な風貌の怪人が更なる部下を引き連れて現れた。

 

「オレはオロス・プロクスのベラノス兄弟…ドライ・ベラノスってんだ。」

「ご丁寧に自己紹介どうもです。」

「ワリィがオレらと来て貰おうか?」

「嫌だと言ったら?」

「そんなら無理やりだな?」

「ほう、俺からハスミを奪うとな?」

「だったら止めてみるんだな?」

「その言葉、忘れん事だ。」

 

 

戦闘開始から五分後。

 

オロス・プロクスの怪人らで屍の山を築くアウストラリス。

 

その頂点にはフルボッコされたドライ・ベラノスが「膝がぁ…」と唸っていた。

 

 

「口程にもない。」

「…」

「高見の見物を決め込もうとしている様だが、隠れても無駄だぞ?」

 

 

アウストラリスの言葉に反応し校舎内の樹木から姿を表す風船の様なピエロと鬼の仮面を付けた剣士の集団。

 

 

「おや、バレてましたか?」

「お前はジョーカー?」

「ワタクシ、貴殿方に名を名乗りましたかね?」

「?」

「これでも初対面の筈のですが?」

「では、貴方の主ゾウナに心当たりは?」

「知りませんね、ワタクシの主はガディウス様ただお一人だけですが?」

「…(まさか?」

 

 

全くの別人?

 

一体、何が?

 

 

「ハスミ!」

「!?」

 

 

アウストラリスの言葉に反応し接近した一人の鬼の仮面を付けた剣士の剣戟を切り払いするハスミ。

 

 

「えっ?」

 

 

ハスミが剣士の一人と剣を交えた時に見えたもの。

 

それは走馬灯の様に映写機のフィルムに転写された映像の様に脳裏を駆け巡った。

 

それはお日様の温もり。

 

 

「まさか…貴方達なの?」

「おや?お知り合いですか?」

「…」

「それなら好都合です、貴方に悪夢を見せられたのですから!」

「!?」

「どうですか?鬼退治をされていたと言う剣士達と戦えるなんて、悪夢の様でしょ?」

「黙れ…」

 

 

ハスミは最後の一言でプツリと理性の糸が切れたのが理解出来た。

 

その際に周囲に強念の思念が周囲を包んだ。

 

同時に展開していた鬼の仮面を付けた集団は倒れ伏し、ジョーカーもまた焦りの声を上げた。

 

 

「あの…顔が笑ってませ、あべッつ!?」

「黙れ、口を開くな、言って良いのは叫び声と謝罪のみよ。」

「アベベ…へブゥ!?」

「お前達は妹達に危害を加えただけでは飽きたらず、彼らを侮辱した…」

「ブベホッ!」 

 

 

私は捕まえたジョーカーを地面に叩き付け袋叩きの末、モザイク加工な位に連続顔パンをお見舞いした。

 

自分の手が切れようが腫れ上ろうが関係ない。

 

奴が起こした事は私の逆鱗に触れるには十分だった。

 

 

「ハスミ、止めておけ。」

「…アウストラリス?」

「これ以上はお前の手が汚れる。」

 

 

無言でジョーカーの顔を殴り続けていたハスミの手を掴み制止させるアウストラリス。

 

気が付いた時にはハスミの手はボロボロで自分のかジョーカーのか判別出来ない位に赤く染まっていた。

 

ジョーカー自身もヒューヒューと呼吸するだけの虫の息である。

 

 

「折角。」

「?」

「静かに生きられたのに蒸し返されなきゃならないの…」

 

 

やっと掴んだ筈の幸せを壊されなきゃならないの?

 

それを脅かす権利は誰にもない。

 

それなのに…!

 

 

「…(い、いべのぼちに。」

「!?」

「こぼかべはぜっばいに…!」

「待てっ、ジョーカー!!」

 

 

顔面がめり込み呂律の回らないジョーカーは鬼の仮面を付けた集団を回収、一瞬の隙の内に撤退。

 

ハスミの叫びも虚しく悪夢は続く。

 

同時に空間が揺らいだ。

 

更なる転位者達である。

 

先程、アウストラリスが相手をし文字通り袋叩きにしたドライが同じ勢力のメンバーに答えた。

 

 

「アイン…すまねぇ。」

「ア、アニキ!?」

「おや、お仲間でしたか?」

「テメェらか?アニキらをやりやがったのは?」

「何処の馬の骨とも判らない組織にこちらの世界を蹂躙させる訳にはいかないだけよ。」

「おんやぁ?オレらが組織を動かしているって何で分かった?」

「部隊の統率力と各兵員の配備配分に部下の潔さ、そして効率良く動けている。」

「成程、こっちの動きを読んで推測したって訳か?」

「まあ、貴方達が『逢魔』と繋がっている事は判りましたので…」

「っ!?」

「かく言う私も九十九事件の関係者でしたので、まさかと思いましたけど。」

「あんまり知りすぎると痛い目を見るぜ…お嬢さん?」

「…どうでしょう?」

 

 

何だ、あの女。

 

この状況で動じていないだと?

 

こっちの状況を全部把握しきったと思ってるのか?

 

…いや、そういう感じじゃねえな。

 

寧ろこれは『最初から全部知ってます』って顔だ。

 

 

「お前達は戦いを続けるのか?」

「…」

「こちらとしては完膚無きまでに潰す事にしてますので。」

「わりぃがオレも歳なんでな…ここは引かせて貰うぜ。」 

 

 

アイン・ベラノスは分が悪いと悟り負傷したドライを支えて残存する部下と共に姿を消した。

 

その後、オロス・プロクスと名乗った集団が撤退した後の事。

 

今回起こった戦いで転移してきたかつての九十九事件の仲間と新入りメンバーと状況を確認を行った。

 

そんな中で春鈴へ問うハスミ。

 

 

「今度は何が原因ですか?またソウルエッジや黄金の種とか?」

「残念だけど、私達もよく判っていないの。」

「…そうですね、さっき話したアーティファクトの気配は感じられなかったので。」

「ハスミ、今回の転移騒動について何か知っているの?」

「あくまで推測…ここで話すのは不味い事なので私の持つ拠点に来て貰えますか?」

「拠点?」

「天鳥船島…私が管理している拠点です。」

 

 

=一時間後=

 

 

拠点へと転移後。

 

事の経緯を説明する前に春鈴達から今までどうしていたかと尋ねられた。

 

なので包み隠さず、必要最低限の経緯を説明した。

 

同時に物質界で起こった経緯の説明を聞くことも兼ねている。

 

 

「それじゃあ貴方が…!」

「はい、私もガンエデンの巫女の一人でクロスゲート呼ばれる次元転移門を動かせる者です。」

「なら、私達は元の世界に戻れるのね?」

「ええ、物質界の座標は知っているのでそれは可能ですが……何者かの思惑となると話は別です。」

「それは一体どういう事?」

「恐らく貴方達は何者かの手によって意図的にこちら側の世界に転移したと見ています。」

「はっきりとした原因は判らないのね?」

「原因の一つとして、近年…こちら側で発生した次元震と呼ばれる現象によって隣接する並行世界同士の次元の壁が脆くなってしまいました。」

「次元震?」

「文字通り、空間を揺るがす現象で時折その現象に巻き込まれてしまうケースがあります。」

「それじゃあ私達もその現象に巻き込まれたって事?」

「現時点では、そう解釈するしかないですね。」

 

 

クリスの発言から美依と小吾朗も愚痴めいた感想を告げた。

 

 

「話が大きくなりすぎて頭が混乱してきた。」

「確かに、詳しい経緯とすればそちら側の九十九事件も事の発端なので起こるべくして起こったとしか…」

「もう、逢魔もそうだけどオロス・プロクスもいい迷惑ってね。」

「お嬢、いない連中に悪態ついても無駄と思うが?」

「…それもそうねー。」

 

 

小牟との会話と共にハスミはある事を聞き出した。

 

 

「暫く会わない内に主も主でややこしい立場になっとるのう。」

「…小牟、少し聞きたい事があります。」

「何じゃ?」

「物質界や他の世界で眠り病事件が再発した事はありませんか?」

「!?」

「やはり、再発したんですね?」

「主、何で知っておるんじゃ?」

 

 

ハスミは小牟達と他のオロス・プロクスが転移してくる前、ドライ率いるオロス・プロクスの他にジョーカーと鬼を模した仮面を付けた集団に鉢合わせた事を説明した。

 

 

「実は皆さんと再会する前、ドライ・ベラノスが率いるオロス・プロクスの他にジョーカーと遭遇しました。」

「あの風船ピエロ、生きとったんかい!?」

「はい、確認は取れています。」

 

 

同時にジョーカーの様子がおかしい事を説明した。

 

九十九事件の事や対峙した自分達の事を覚えていない事。

 

己の主を『ガディウス』と呼ばれる人物であると語った事。

 

夢を悪夢へに導く為にと最後に語っていた事を話した。

 

 

「それにしてもジョーカーが生きていたなんて…」

「ああ、奴は俺達が九十九事件で倒した筈だぞ?」

「それについてなのだけど…」

 

 

混乱するクロノアとガンツの二人にハスミは推測を説明。

 

 

「あのジョーカーは恐らく並行世界の別人だと思うわ。」

「どういう事?」

「九十九事件で出会ったジョーカーとは異なる別のジョーカーって事よ。」

「あんなのが何人もいるのかよ!?」

「並行世界にはそう言う法則もあるの、存在したりしなかったり思想が逆転していたりと千差万別。」

「あれ?そういえばガディウスって名前…何処かで聞いた事があるような?」

「…本当か?」

「でも、僕もよく思い出せないし…勘違いかも。」

「…(いいえ、勘違いじゃないのよ…クロノア。」

 

 

これは貴方の夢が関係している事。

 

夢の旅人が持つとされる『異の夢』。

 

恐らく、それがジョーカー達が狙っているモノ。

 

どうやら負念の災いはかなり広範囲で広がっているらしい。

 

 

「このまま、奴等を放置する訳にはいかない。」

 

 

零児の言葉に賛同の意思を示すハスミとアウストラリス。

 

 

「私達も出来得る限りの協力をします。」

「いいのか?」

「乗り掛かった船だ、彼奴らを捨て置く訳にもいかんのだろう?」

「私も個人的に調べたい事があるので…」

「判った、宜しく頼む。」

 

 

早い内に解決しないととんでもない事になってしまう。

 

往くべきは揺らぎの国。

 

そして私達の戦いも並行する。

 

 

=続=

 




戦いは変異する。

形を変えて乱入者と共に。

巨獣の王は嘆く。

誰の為に?


次回、幻影のエトランゼ・第七十八話 『聖島《インファント》』


切なる願いを聞き届けよ。


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怒の付箋

その怒りは誰の為?

平穏と言う静寂を破った者への業。

彼女の心は刃となって切り裂く。

それは罪人へ向ける怒り。



前回のオロス・プロクスの襲撃から一週間が経過した。

 

クロスゲートは今の所、変化は見られず静かすぎる位に落ち着いている。

 

逆に世界各地に次元震と酷似した現象が起こりオロス・プロクスを始めとした転移者達が出現する様になった。

 

だが、転移者の殆どがオロス・プロクスの協力者であり…各自各々の目的の為に動いている事が判明した。

 

彼らはFDXチームの手でアビアノ基地に回収された『瞬転刀』こと『ソーディアンズ・ダガー』やテスラ・ライヒ研究所で眠っている『超機人』など、先史文明期に関連したアーティファクト関連の遺物を保管する施設を狙う様に襲撃。

 

その展開は読めていたので、こちらも行く行く先々で先回りし妨害して置いた。

 

今の所、それと言った被害は出ていない。

 

お目当てであろうクロスゲートは三体のガンエデンがそれぞれ守護する三か所を除いて、今は地球近海に漂っている。

 

ガンエデンが守護する地は強固な結界が張られているのでちょっとやそっとでは壊せません。

 

それに宇宙での活動を制限される彼らでは、そう易々と手出しは出来ないだろう。

 

寧ろ…

 

梁山泊とバビルの塔に潜入した事の方が問題だと思う。

 

お陰様で双方から嫌味感満載のお小言を貰ったので経緯の説明と敵意があるなら容赦なく始末していいと伝えて置いた。

 

まあ、双方共に久しぶりの侵入者に対して楽しんでいる節があったのでグッサリと釘を刺して置いた。

 

ちなみに何故、彼らと普通に連絡を取り合っているのかを説明する。

 

私ことハスミは予め何度かの話し合いの際に本来の目的と御使いの目論見を瓦解させる為に敵対行動を取る事をあらかじめ説明。

 

サイデリアルの主導者であるアウストラリスが御使いに対して反旗を狙っている事も語って置いた。

 

この事から敵対行動の件は双方の組織の主導者とごく少数が真意を知る程度に留めてある。

 

表向きはサイデリアルのメンバーとして活動しているが、行動次第では亡くなる筈だった人達を救う手立てになると考えた為だ。

 

バアルの力が増している以上は戦力確保は必須。

 

願いと想いの力を強める為に私は出来得る限りの事をすると決めた。

 

それでも戦争には様々な思惑に絡んだ正義も悪も存在する。

 

戦争に正しき行いはない、在るのは自分の立ち位置を揺るがず事無く他者と戦えるかだ。

 

私は一番嫌いな戦争に加担している…

 

言葉ではどうとでも言えるが結局は詭弁だろう。

 

私はどこまでも最低で最悪な決断をしている。

 

ただゲームの様に敵を倒せばいいだけでは片付けられない。

 

私はスフィアの影響で様々な情報を…他者の思惑を感じ取ってしまう。

 

善意も悪意も関係なく、だ。

 

今も感じ取ってしまい、気分は最悪の状況である。

 

 

「…」

「動けんか?」

「アウストラリス…」

「そのままでいい、お前の持つスフィアの影響なのは理解している。」

「オロス・プロクスへの警戒をしなければならないのに申し訳ございません。」

「構わん、お前に頼りすぎるのは些か問題がある…島の結界の維持も含めて休める時は休んで置け。」

「そうさせて頂きます。」

 

 

天鳥船島の神殿内部。

 

その奥に存在する私室で休んでいるハスミの姿があった。

 

連日の念動力やスフィア過剰使用で精神を擦り減らしてしまい、ベッドの上で動けなくなっていた。

 

その部屋へ訪れたアウストラリスの言葉もあり、今は身体を休める事に専念している。

 

 

「他の方達はどうしていますか?」

「これと言った情報が無い以上は下手に動けん、各々が武器の調整、訓練、修行、休憩を取っている。」

「…余計な苛立ちを与えてしまいますね。」

「自分のせいとでも思っているのか?」

「そう思ってしまう……頼りない自分が情けなくて。」

「戦場とはお前が思っている以上に変異する、何時も先手を取れる訳ではない事はお前も理解しているだろう?」

「…ですよね。」

 

 

私は貧血にも似た眩暈と怠さで言葉を発するのが精一杯だった。

 

 

「お前はよくやっている、感謝してもしきれん位に恩威を受けている。」

「お約束しました、貴方の為に…願いの為に尽くすと。」

「俺と願いか…」

 

 

では、お前の幸せとは何だ?

 

何度説いても答えは聞き出せなかった。

 

ハスミ、お前は何を願う?

 

 

「…」

「ハスミ、感じたのか?」

「はい、これは…」

「恐らく次元震だろう…俺達の知るモノとは規模が違うがな。」

「極地型次元震……これが私達に与えられたスフィアからの試練の始まりです。」

「判っている、あの者達とは別行動になるが致し方無い。」

「ガドライトさんとアサキムも気づいているでしょう…帰還する様に指示を出して置きます。」

「……無理はするな?」

「お気遣い頂きありがとうございます、ですが…横になっている状況ではないので。」

 

 

ハスミはふらつく身体に鞭を打ち、ベッドから起き上がり部屋を後にしようとするが…

 

アウストラリスの言葉によって歩みを止めた。

 

 

「あの二週間に置ける行方不明の件、ジョーカーと名乗る得体の知れん奴の手駒が関わっているのか?」

「だと、したら?」

「取り戻すのだろう?」

「はい、永い悪夢を終わりにしなければなりませんから。」

「…そうだな。」

 

 

未来永劫、夜の闇の中で戦い続ける悪夢。

 

四肢が千切れようとも血反吐を吐こうとも何度も続く。

 

その悪夢の巡りを終わらせる。

 

 

「その怒りは奴らへ向ける為のモノか?」

「でなければ何だと?」

「何も出来ない自分への苛立ち…と、思った。」

「駄々こねする様な子供地味ていますか?」

「いや、アレよりはマシとは思っている。」

「アレとは?」

「旧友だ、かつての……どこまでも自由で己の意思を曲げん奴の事だ。」

「…あの人の事を信じているのですね?」

「ああ、俺もまたお前の言う可能性とやらを信じて見たい。」

「叶いますよ、その願いは…」

 

 

寄り道はしてしまいましたが、次のターゲットが動く時間です。

 

行きましょう、次の戦地CITY-NO.5へ。

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

「また現れたか…」

「それはこっちの台詞だぜ?」

「どちらにせよ、倒す事に変わりませんよ。」

「へっ、あの空飛ぶ鎧野郎共の相手にお前らまで来やがったとはな…」

「敵の敵は味方、戦うべき相手が被っただけですよ。」

「まあいいさ、お嬢さんさえ手に入れば俺らの目的は達成されるってな。」

「オロス・プロクス、これ以上はこちら側の世界に手出しはさせない。」

 

 

シティ内部で戦闘を行っていたEDFとアイン率いるオロス・プロクス。

 

その戦いに差があったが、オロス・プロクス側には魔術や妖術を扱う者が居た為に劣勢に追い込まれていた。

 

そして現場に急行した物質界からのメンバーとハスミ達。

 

会話の後にオロス・プロクスは増援として自身の手駒の他に出現させると厄介な相手を出してきたのだった。

 

姿を知っているクリスとジルのペアが叫んだ。

 

 

「B.O.W.だと!?」

「こんな街中で奴らを解き放たれたら…!?」

 

 

ネメシスタイプ、ハンタータイプ、ウーズタイプに他に変異種なのか複数の甲殻類が合体したドラギナッツォと呼ばれるB.O.W.が含まれていた。

 

 

「どうだ?こんな街中でT-ウイルスやT-アビスなんてばら撒かれたくもないだろう?」

「……」

「おんやぁ?」

「ハスミ、遠慮はいらん……やるぞ?」

「はい。」

 

 

周囲の気配が変わる。

 

殺気の混じった異様な気配。

 

それは敵味方問わずに圧倒する。

 

 

「…(どう言う事だ…周囲の空気が変わりやがった?」

「力はあるようだか、理性のない力はただの化け物と変わりない。」

 

 

周囲に展開していたネメシスタイプの一体が頭部を潰されて倒れ伏し、残りのネメシスタイプがミサイルランチャーをアウストラリスに向けるものの…

 

発射されたミサイルは素手で弾き飛ばされ、上空で爆発四散した。

 

 

「対処方法が判っていればどうとでもない。」

「成程、俺も練習してみるか…」

「クリス、冗談でも止めて。」

 

 

同じ様にラリアットでハンターを吹っ飛ばすクリスの言葉にマグナムで応戦するジルが突っ込みを入れた。

 

 

「そんなんだから皆からゴリスって言われるんじゃぞ?」

「…俺はもう知らん。」

 

 

様子を見ながら戦闘中の小牟や零児も各々の感想を述べた。

 

 

「お前らといい、この世界の連中はどうなってやがんだ?」

「馬鹿正直に考えたら負けと言う事で。」

「そうかよ…」

「どちらにせよ、この世界で生身で最高の戦力を持つ総本山に喧嘩を売った事は認めます。」

「…あの山ン中の連中や妙な格好の連中、マジで死ぬかと思ったぜ。」

 

 

アインのナックル攻撃を刀で切り返すハスミ。

 

 

「私もそこで修行していた身、その異常さは知っているつもりですよ?」

「そうかい。」

 

 

その後、部隊の全滅を受けてアインは撤退。

 

B.O.W.の痕跡を跡形もなく消した後、ハスミらも撤退。

 

彼らが何故、あの地を戦闘場所へ選んだのか不明のまま。

 

だが、その理由は数日後に判明した。

 

研究都市から薄っすらと目視出来るエリアに新たな島が次元震によって出現。

 

島より響くのは巨獣の叫びだった。

 

 

=続=

 



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第七十八話 『聖島《インファント》前編』

変異する次元。

そこに現れたのは交わる事がなかった事象。

これはある意味では娯楽たる現象。

無限力が指し示すのは人と言う駒を使った遊戯。




前回の戦いから翌日。

 

突如、CITY-NO.5が存在する海域に不可侵が出来ない島が出現。

 

次元震の反応もあった為、新たな領域が出現したと捉えられた。

 

連合政府は調査部隊の派遣を行おうとしたが…

 

島は次元震の影響で発生した多元領域によって隔たれており、侵入が困難である事が判明。

 

現時点では周囲海域での監視が手一杯の状況である。

 

手があるとすれば、クロスゲートによって多元領域を通過する手段であるが…

 

現時点でイルイは力を失い、ハスミはサイデリアルの手に落ちている。

 

…結局は如何する事も出来ない。

 

だが、現地に赴いている調査部隊は知る由もなかった。

 

監視を掻い潜って島へ上陸した者達が存在した事を…

 

 

******

 

 

島の海岸付近で会話は始める小牟と零児に説明を付け加えるハスミ。

 

そして周囲には同じ様に上陸した者達が集合していた。

 

 

「漸く、島に辿り着いたのう。」

「まさかあのクロスゲートの転移がここまで可能とは…」

「稼働や微調整までに色々とありましたけどね。」

 

 

政府や他勢力が血眼で監視や上陸方法を模索している島に上陸した者達がいた。

 

現在、活動中の物質界メンバーとハスミ達である。

 

天鳥船島の神殿深部に秘匿してあるクロスゲートを利用し島まで転移したのである。

 

島の座標自体は判っていたので後は島周辺に張り巡らされた多元領域を超えるだけと言う状況。

 

もしも今回の件が知れれば不味い状況であるが今は考えないで置こうとハスミは思った。

 

 

「島の状況からしてジャングル…熱帯系の島だろうか?」

「恐らくは…どんな状況なのかは分からないけど。」

 

 

こう言った島やエリアを捜索する事が多かったクリスとジルのペア。

 

 

「ジャングルを見るとあの事件の事を思い出すな…」

「ま、あれは凄かったよな。」

 

 

九十九事件からの関係者であるリュウとケンのペア。

 

 

「本当ね、まさかと思うけどアレが出てきたりしないわよね?」

「そうね、今は判らないわよ?」

 

 

同じく九十九事件後から互いのペアが変わってしまった春鈴とモリガンのペア。

 

 

「あーあれか…」

「アレって何だ?」

 

 

新たなペアでレイレイと新参者のフランクのペア。

 

 

「アイビス島に出現した恐竜しかありませんわ。」

「あの時は僕達もビックリしましたー!」

「しましたー!」

「したー!」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情で答えるトロンとコブン40体のペア。

 

 

「きょ、恐竜だと?」

「ハリウッド映画の間違いじゃ…」

 

 

新参ペアそのアキラとパイのペア。

 

 

「九十九事件の最中、米軍が秘密裏に行っていた研究が原因でアイビス島と呼ばれる島に恐竜が出現したと事件に関わったレジーナさんから伺っています。」

「あのときはおっかなかったですぅ。」

「ぐすん。」

「ボクたち、たべられそうになりました。」

 

 

ハスミの説明の後に当時の悲惨な状況を伝える他のコブン達。

 

 

「マジだったのか…」

「流石に本物はハリウッド映画に使えないわね。」

「会えたならいっぺん戦ってみたかったな。」

 

 

唖然とするアキラ達を余所に盛り上がっているバン。

 

 

「話は後だ、ハスミ…気配が正しいなら俺達の時と同じ転移反応が島にあったんだな?」

「はい、間違いありません。」

「ここではぐれたメンバーとも合流出来るといいのう。」

「…では、明るい内に進めるだけ奥へ進んでみましょう。」

 

 

はぐれたメンバー。

 

それは零児らが魔界から別の場所へ転移した時に起こった出来事。

 

こちら側に転移した現在も行方が掴めておらず、安否が心配されている。

 

 

「…(本来の流れなら彼らは物質界の秋葉原に出現したクロスゲート付近に転移する筈だったのに…また無限力の仕業?」

 

 

この流れを知るハスミは彼らに真実を答えずに出来得る限りの助言と手助けをする事を心に決めた。

 

 

~数時間後~

 

 

「巨大昆虫に食人?植物…この島、一体何なのよー!!」

「お嬢、今更言ってもどうにもならないぞ。」

「そうだけど…」

 

 

島を探索中に島の生態系の恩威とも呼べる生物と交戦した一行。

 

その数と不気味さに文句を垂れる美依と諫める小吾郎。

 

 

「それでも距離は稼げましたし目的のピラミッドまで辿り着けた様です。」

「一帯のジャングルで隠れていたが、規模は大きいな。」

「…(このピラミッド、何処かで?」

 

 

労いの言葉を掛けるハスミと目処前のピラミッドに感想を答えるアウストラリス。

 

しかし、ハスミはピラミッドの全容を見ると何処かで見た事を不意に思い出していた。

 

周囲を調べた後、特に変わった様子はなかったのでピラミッド内部に潜入する話が出ていた。

 

 

「周囲には何もなかった、後はピラミッドの中に入ってみるしかないか?」

「危険…と言いたいけど調べる必要があるものね。」

「レッツ、大冒険じゃあ~!」

「ふう、結局はこうなるのか…」

 

 

クリスとジルからピラミッド内部への調査の案があったので内部に入る事を決めた一行。

 

順にピラミッドの内部に入っていく一行。

 

そして、最後に侵入しようとしたハスミとアウストラリスのペアを遮断する様にピラミッドの扉は閉じてしまったのである。

 

 

「扉が!?」

「遮断されたか!」

「…こんな所で!」

 

 

何とか扉をこじ開けようとするものの座標が変異し向こう側とこちら側が完全に遮断された事をハスミは感じ取った。

 

 

「残念ですが、完全にこちら側とは遮断されました。」

「…」

「恐らくは無限力の…」

「今回の一件も仕組んだと?」

「はい、その通りです。」

 

 

無限力は新たに出現させた駒だけではこちら側での戦いに面白みがないと判断したのだろう。

 

更なるメンバーの分断を行う為の次元震現象。

 

では、残された私達に降りかかるのは一体…

 

 

「っ!」

「これは!」

「スフィアが反応している?」

「…どういう事だ?」

「判りませ……これは!」

「どうした!?」

「転移です!」

 

 

島の上空に転移してきた二体の機体。

 

 

「おいおい、一体どうなっているんだ?」

「僕にも判らない。」

「そりゃそうだけどよ…て、あそこにいるのは。」

 

 

突如、島内部に転移してきたジェミニアとシュロウガ。

 

島中心部に位置するピラミッドに見知った相手が居た為、その近くに機体を下した。

 

そして、機体から降りたガドライト達はハスミ達と合流し今まで経緯を整理した。

 

同行していた仲間がピラミッドの中で消えてしまい取り残された事。

 

スフィアの謎の共鳴反応の事を…

 

 

「俺達は島で待機中にスフィアが反応しやがったと思ったらいきなり機体に乗ってるわ転移するわで…何があったんだ?」

「私達にもまだ…ただスフィアが反応しだしたとしか。」

「こちらも突然だったと言う事だ。」

「それで原因は?」

「……恐らくはアレです。」

 

 

各自に双眼鏡を手渡して位置を伝えるハスミ。

 

現在居る島の北部に位置する場所で唸り声を上げる一体の巨獣。

 

知る者は絶対に手を出してはならない伝説の怪獣である事が解るだろう。

 

 

「な…」

「随分と…」

「ハスミ、あれは一体?」

「かつて世界を震撼させた怪獣の王…その名もゴジラです。」

 

 

恐竜を思わせる黒い巨体、先端を赤く染める背ビレ、島全土を響かせる雄叫び。

 

 

「全長は150から300m位、様子から察するに何かで暴走してますね。」

「ハスミ、呑気に解説している所悪いけどよ…」

「はい。」

「アウストラリスが奴に眼を輝かせているんだが?」

 

 

ハスミの説明に対して途中で遮るガドライト。

 

とんでもない事になっている状況を伝えた。

 

双眼鏡を下げてアウストラリスの様子を伺うハスミ。

 

 

「…」

「これは…無理ですね。」

「と、言うと?」

「ゴジラに対して襲撃態勢に入ってます。」

「うぉい!」

「二人の戦いね…僕は見て見たいよ。」

「いや、止めろよ!?」

「そもそも、この状態になったアウストラリスを止められますか?」

「…」

 

 

ガドライトは突っ込みを連発し二人の同意を得ようとしたが…

 

マイペースなアサキムと悟りすぎて遠い眼をしたハスミの発言により沈黙。

 

 

 

「「「無理です(だな、だね。)」」」

 

 

 

三名は色々と悟りすぎて遠い眼な笑顔で静かに答えた。

 

 

 

「貴様がゴジラと言うのか?」

「!?」

「たかが人間と思うな、俺はお前と戦いたい。」

「…」

「貴様が何故此処に現れたのか…理由を知る為にな?」

 

 

 

ゴジラが暴れる場所へ移動したアウストラリス。

 

互いに火花が散る。

 

白銀の次元将と怪獣の王の決闘。

 

無限力が望んだカードによる対決が開幕したのだ。

 

 

=続=




その島は何故現れたのか?

その島は何を求めているのか?


次回、幻影のエトランゼ・第七十八話 『聖島《インファント》後編』


交じり合った伏線が新たな災いを呼ぶ。


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第七十八話 『聖島《インファント》後編』

語られる真実。

変異した結末。

新たな生命を守る為に。



前回の件から更に一時間弱の経過。

 

次元領域に隔てられた島で巨獣と次元将のバトルが繰り広げられていた。

 

因みに島の北部に位置する荒地はある意味でリングと化している。

 

 

「熱線をその様に使うとは…知恵が回るな?」

「…」

「だが、その程度で怯む俺ではない!」

 

 

尻尾による叩き付けの攻撃を耐え、その尻尾を掴んで投げ飛ばしたアウストラリス。

 

だが、地面に叩き付けられる前に先程の熱線をジェット噴射と同じ原理で使用し衝撃を和らげた。

 

 

「まだ終わりではないぞ?」

「…」

 

 

この状況にアウストラリス自身は楽しんでいるが…

 

当のゴジラは暴走しているものの本能なのか怒りとドン引きの表情をしていた。

 

 

******

 

 

引き続き、ピラミッドから観戦するガドライト、アサキム、ハスミの一行。

 

ゴジラVSアウストラリスの様子に各自が感想を告げていた。

 

 

「怪獣にもドン引きされるって…」

「ハハッ、面白い光景だね。」

「特技のドロップキックが出てない所を見ると長期戦に持ち込む様子ですね。」

 

 

暫く双眼鏡で観戦を続ける中、ガドライトがハスミに話しかけた。

 

 

「あのゴジラ、ちょっかい出されて相当怒ってるぜ?」

「まあ、そのゴジラには申し訳ないのですが…暫くはアウストラリスの鬱憤晴らしになって貰います。」

「ハスミ、お前…随分と会わねえ内に腹黒くなってねえか?」

「色々とありましたので。」

「色々って…」

「勿論、言葉では語り切れない色々です。」

 

 

ハスミは笑みを浮かべて答えるが後光から漏れ出す怒りの思念が尋常ではない事をガドライトは肌で感じていた。

 

 

「…(こいつは地球で言う『触らぬ神に祟りなし』って奴か?」

「さてと、アウストラリスがゴジラの相手をしている間に調査を再開してきます。」

「調査?」

「どう言う事だい?」

「あのゴジラの全長や暴走する事に違和感がありましてね……何か理由があると判断しました。」

「そう言えば、君はあのゴジラの事を知っている様子だけと…?」

「それを説明するにはかなり膨大な量になりますけど…聞きますか?」

「出来れば簡潔に頼む。」

 

 

ハスミはガドライトらにゴジラの誕生から戦歴と後の結末を説明。

 

可能性がある部分を解り安く丁寧に説明した結果。

 

簡潔にしたものの膨大な量である事には変わらず、静聴していた二名はゲッソリと顔を青くしていた。

 

 

「ゴジラの情報は以上ですが、何かご質問は?」

「わりぃ、俺はもういい…」

「僕も…まさかそんなに情報があるなんて。」

「こちらのご説明でゲッソリしている所で悪いのですが…アウストラリスの見張りを頼みます。」

 

 

離れる際にハスミは『このまま放置すると羽目を外し過ぎて島を全損させそうな勢いなので。』と付け加えて置いた。

 

 

~数十分後~

 

 

ピラミッドから離れて北部に隣接するエリアへ足を運んだハスミ。

 

地上は先程の巨大昆虫や食人植物と言う名の吸血植物の温床だったので密林の太い枝を伝って移動していた。

 

道中で巨大昆虫や食人植物に出会わなかったのでは念動力で索敵し避けていた為である。

 

この能力も相まってハスミは過去にギリアム少佐率いる諜報部隊で重宝されていた。

 

 

「妙な気配がするのはあの岩山か…」

 

 

私はアウストラリスがゴジラと交戦を始めた頃、島の北部で妙な気配を感じ取っていた。

 

それが今まで感じ取った事のない気配。

 

その気配を感覚として表現すれば力が沸き上がる様な気配を思わせた。

 

恐らくは何かのエネルギー物質の影響ではないかと思い、足を運んだのである。

 

本来のゴジラの全長は大体50mが私が知る設定上の大きさなのだが…

 

あのゴジラは胸部の異常発熱と発光に三倍から六倍の大きさになっていた。

 

放置すれば、この島がゴジラのメルトダウンに巻き込まれて崩壊する。

 

それだけは阻止しなければならない。

 

この島があの島であると確証出来る要因と出会えたのだから…

 

 

「待ってください。」

「…貴方達は?」

「私達はこの島を守護するモスラと共に生きる者…」

 

 

北側の山に点在する洞穴に入り込み、奥へと進む。

 

その道中で出会った二人の妖精の様な存在。

 

彼女らから経緯聞く事となった。

 

 

~数分間のかくかくしかじか説明後~

 

 

「成程ね。」

 

 

モスラと共に生きるコスモスと呼ばれる二人の小美人。

 

二人の話によると地殻変動でインファント島の北側に隣接する様に荒地の島が出現。

 

因みに三式機龍を所持する特生自衛隊との諍いの件だが、三式機龍はゴジラと共に日本海溝に沈んだ筈だった…

 

所が何かしらの影響で復活したゴジラがミニラとゴジラが親代わりとして卵から孵った双子の幼生ガルドラスを引き連れて島に上陸。

 

ちなみにこのガルドラスは異常変異で幼生でもミニラと同サイズ。

 

暫くの間は何事も無く平穏に暮らしていたとの事。

 

所がある日、地震と共に現れた紫の結晶体が荒地の島に出現。

 

それに触れたゴジラは突如巨大化し暴れ始めてしまった。

 

暴走に巻き込まれそうになったミニラと双子のガルドラスを守る為にモスラを呼んだものの…

 

力の差は歴然でミニラと双子ガルドラスを逃がす道中で傷を負い、ここに不時着した流れである。

 

流れとして…この島のモスラは二体存在し双子の姉弟で姉の方は産卵期を迎えて動けないとの事。

 

 

「その結晶体はまだ残っていますか?」

「はい、島の一部に自生するかの様に。」

「残っています。」

「…もしかしたら、その結晶体の事を知れるかもしれません。」

 

 

洞窟の奥に自生する結晶群。

 

透き通るような紫色の色彩を煌めかせていた。

 

 

「これは…」

「この結晶をご存知なのでしょうか?」

「ええ、これはガルバストーンと呼ばれるエネルギー鉱石の一種です。」

 

 

ガルバストーンとはファイターロアの出身世界であるニューコンパチネイションに存在するモノ。

 

その世界の銀河にある惑星ガルシアでのみ産出される鉱石だった。

 

だが、ガルバストーンを掌握する為に惑星を支配しようとダダとその意思に賛同したゴロツキによって争いが激化。

 

バトルフォースの一員であったロアと惑星ガルシアで知り合った有志らと共にダダを撃破し協力関係にあった宇宙海賊とゴロツキを逮捕。

 

復活したガルドラスを倒し、惑星ガルシアは再び平穏を取り戻した。

 

それが私が知るガルバストーンにまつわる物語である。

 

 

「恐らくゴジラは…このガルバストーンを取り込んだ事によって過剰なエネルギー暴走を引き起こしたと思われます。」

「では、このままゴジラを放っておけば…」

「暴走したゴジラのメルトダウンに巻き込まれて島諸共壊滅します。」

「そんな事になったら島もモスラと卵も…」

「今も私の仲間がゴジラを抑え込んでいます、この事を仲間に伝えなければ…」

「判りました。」

「それと…傷ついたモスラにガルバストーンの欠片を持って行ってください。」

「何故です?」

「ガルバストーンは扱いを間違えなければ生物の傷ついた体を癒す事が出来る筈です。」

「そんな事が…」

「最後にこの事は誰にも口外してはいけませんよ?」

「はい。」

 

 

コスモスらはモスラに似たフェアリー呼ばれる生物と共にガルバストーンの欠片をモスラへ届ける為に別れた。

 

私もこの事を伝える為に洞窟を後にした。

 

 

>>>>>>

 

 

引き続き、島の北部にて。

 

ゴジラとの戦いを継続しているアウストラリス。

 

そのゴジラはお得意の熱戦を何度も吐き続けてゼイゼイと息切れを起こしていた。

 

何度かのエネルギー消費で胸部の発光が若干薄れてきている。

 

 

「そろそろ終りか?」

「…」

「ない、と?」

「…」

「だろうな、貴様は怪獣とやらの王だろう?」

 

 

貴様がここで引く事など在りはしない。

 

それがお前の闘争心。

 

強き者がより強い者に立ち向かう様。

 

貴様の本能と呼べるものがそうさせている。

 

 

「俺はまだまだ戦える…さあ、続きを始めるか?」

「…」

 

 

一方で一匹と一体の戦闘を監視するガドライトとアサキム。

 

 

「なあ、アサキム?」

「何だい?」

「アウストラリスの奴、ゴジラとフツーに会話が成立してやがるんだが?」

「見た感じそうだね。」

「…もうツッコむ気力もねぇよ。」

「彼女曰く、気にしたら負け…だろうね。」

 

 

引き続き監視を続ける二人であったが、双眼鏡越しの目処前の光景に『もうドウニデモなれ。』な様子でドン引き顔を披露していた。

 

そんな中で調査に出ていたハスミが戻ってきた。

 

 

「遅くなりました。」

「ハスミ、戻ったか。」

「はい、それと原因が判明しました。」

 

 

~かくかくしかじか説明中~

 

 

「つまり、そのガルバストーンってのが原因だったのか?」

「大まかに言うとそう言う事です。」

「それで解決策は?」

「取り込んだガルバストーンを切り離すか、使い切るかのどちらかです。」

 

 

後者に関してはゴジラの取り込んだガルバストーンの容量が不明な為。

 

下手に消費させるとゴジラの命が危うい。

 

 

「後者はゴジラの負担が大きいので前者のガルバストーンを取り除く方が賢明だと思います。」

「取り除くにしてもどうするんだ?」

「ゴジラは機械ではなく生物です。」

「と、言うと?」

 

 

ハスミは戦闘中のアウストラリスへと叫んだ。

 

 

「アウストラリス!ゴジラの腹部に五割強で打撃をお願いします!!」

「招致した!」

 

 

一撃必殺。

 

アウストラリスの一撃がゴジラの腹部に直撃。

 

その衝撃でゴジラはガルバストーンの欠片を吐き出したのだ。

 

 

「これが奴の怒りの原因か…」

 

 

衝撃で足元に転がったガルバストーンの欠片をアウストラリスは踏み砕いた。

 

戦闘後、ゴジラはガルバストーンを吐き出した後に元のサイズへと縮小した。

 

様子に気が付いたミニラ達も出てきて気絶したゴジラに集まり大音響で泣いていた。

 

コスモスらに頼んで事情を説明して貰った所、何とか納得。

 

この一件でゴジラに関しては『ガルバストーン恐怖症』になったとか…

 

 

 

******

 

 

その後、無事にピラミッドから出てきた零児らと合流した私達。

 

彼らも行方が掴めなかった仲間達と無事に合流出来たとの事だった。

 

その後、島が転移する事を知った私は急いで離脱用の転移の準備を整えた。

 

ピラミッド周囲の様子を遠くからゴジラとミニラ、双子の幼生ガルドラス、復活したモスラが見守っていた。

 

問題を解決したこの島は元の世界に帰るのだろう。

 

私達はクロスゲートの転移で島を後にした。

 

転移の瞬間に彼らの雄叫びが聞こえる。

 

いつかまた出会えるだろうか?

 

 

=続=

 




平凡な日常を暮らす者達。

これは夢ではなく現実。

語られる物語は彼らに受け入れられるだろうか?


次回、幻影のエトランゼ・第七十九話 『潜者《ビルドダイバー》』


想像の力は波乱の呼び水と化す。



=その後のインファント島=


平穏を取り戻した島でモスラの卵が誕生し暫く経過した頃。

漸く、卵が孵り双子の幼生モスラが誕生。

そのモスラが成虫になった時、羽の色が紫色になっていたのはまた別の話。



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平の付箋


これは平行線。

言葉で語れない。

今はその時ではない。

彼女の願いの真意は届かない。

今は届いてはならない。


 

インファント島からの帰還。

 

そして九十九事件以来の仲間との再会。

 

同時にあの人との再会でもあった。

 

 

******

 

 

天鳥船島の神殿内部にて。

 

 

「ハスミ、久方振りだな。」

「…お久しぶりです、ゼンガー少佐。」

 

 

こうなる事は予想していた。

 

オロス・プロクスの事件でゼンガー少佐が巻き込まれる事は確定済みだった。

 

その再会が早まった。

 

一触即発。

 

周囲はある程度の事情は聞いているとは言え、口出しするのを控えた。

 

 

「封印戦争後以来、音沙汰がなかったが…ここに潜伏していたか。」

「ここに潜伏してもガンエデンを動かす事はありません……これは私自身が架した自戒です。」

「…」

「ガンエデンは銀河を守護する者、私利私欲な扱いは出来ません。」

「だろうな、ガンエデンの意志達は未だ人類を認めるに値するかを見定めている状況。」

「アシュラヤー達の説明ではそうだと話しています。」

「その監視の眼であるお前やイルイを通して人類が進むべき道を…辿る道を監視しているのだろう?」

「…その通りです。」

「ハスミ、お前の…ガンエデンが語った人類史上最悪の災厄とは何だ?」

「それは今語る事は出来ません。」

 

 

語る為には次元力を行使する力。

 

シンカの力を手に入れなければならない。

 

その術がなければ災厄から訪れる脅威に立ち向かう事は出来ない。

 

 

「以前話したシンカとやらの力が必要なのか?」

「そうです。」

「では、そのシンカとは何だ?」

「その答えは少佐達自身が探し出し解き明かす必要があります。」

「答えられんと?」

「それがシンカの力を得る条件だからです。」

「条件?」

「シンカの意味をその根源を自身の意思で識る事がシンカの根源へ辿り着く唯一の方法。」

 

 

シンカの道筋は己の意思で切り開かなければならない。

 

求める力の道筋。

 

強い意思の道筋。

 

それが正と負の枝分かれへと至る。

 

間違った力と意思は負念へ転じ、正しき力と意思は正念へと転ずる。

 

 

「ならば、お前がサイデリアルへ転じた理由は?」

「彼に挑み敗北した……それがサイデリアルに転ずる条件でした。」

「サイデリアルに属する意味は?」

「戦うべき時が訪れれば、いずれ真意は解ります。」

 

 

自分でも抑えられない衝動。

 

本当なら全て話してしまえば楽になるだろう。

 

しかし、それでは今まで隠し続けてきた意味がない。

 

来るべき時に全てを明かす。

 

その時まで私はこの真実を内に秘めたい。

 

 

「…その辺にしておけよ。」

「何だと?」

 

 

不穏な空気が続く中、ガドライトはゼンガーを静止させた。

 

 

「そっちの都合何てどうでもいい様にな…こっちにもこっちの都合があるんだよ?」

「都合?」

「元上司と部下の間柄って言ってもな、言えねえ事情ってのがあるだろうが!」

「貴様に何の関係があってい…」

「俺達が今の仲間で同志だからな、そん位は判り合ってんだよ。」

「…」

 

 

決別の意味を込めて去った。

 

今は敵同士である事を再確認させる発言。

 

ハスミは落ち着きを取り戻した後、ゼンガーに告げた。

 

 

「ゼンガー少佐、ここでの休養は認めますが…これ以上の追及は止めて頂きたい。」

「ハスミ…」

「少佐と私達はオロス・プロクス打倒と言う利害一致の関係で休戦体制を敷いているだけです。」

「何処まで拒絶すれば気が済む!」

「それは貴様らが弱いからだ…」

 

 

ゼンガーの言葉に反論するアウストラリス。

 

一度、刀と拳を交えた仲であるが互いの信念の道筋が異なる為。

 

交わる事はないと先の戦いで理解していた。

 

 

「弱いだと?」

「これまでの戦いは幾多の力を重ね合わせた事で勝利を成し得た…だが、戦うべき災厄に対しては弱者のままだ。」

「…」

「シンカの力を理解し手にするまでは同じ立ち位置に立てると思わん事だ。」

 

 

ハスミは静聴していた他のメンバーに告げた。

 

 

「各自の休養、武器の整備など指定区画内の施設利用はご自由に行ってください。」

 

 

最後に『失礼します。』と告げるとアウストラリスらと共に奥の区画へと去って行った。

 

 

「ミスター親分、今回ばかりはそっとして置くのが無難だと思うが?」

「私もそう思います。」

「…ハーケン、輝夜。」

 

 

共にエンドレスフロンティアで旅をしたハーケンと輝夜もまたハスミの様子に対して静観する事にした。

 

かつてエンドレスフロンティアの危機を共に戦い二度救った仲間として…

 

 

******

 

 

奥の区画への通路にて。

 

 

「ガドライトさん、アウストラリス、嫌な役回りをさせてしまって申し訳ありません。」

「気にすんなよ、お前の元上司…聞いてた以上の堅物だな。」

「それが少佐の強さなので。」

「だが、ある程度の融通が利かんのもどうかと思うが?」

「恐らく少佐も迷いの中にいるのだと思います。」

「迷い?」

「戦うべき真の敵の姿が明確にならない事と新たな負念の意思の暗躍。」

 

 

あのゴジラ達の出現もまた何かの兆し。

 

脳裏にちらつく関係者達。

 

最悪の事態にならなければいいのだけど…

 

 

「ハスミ、これからどうするんだい?」

 

 

アサキムの言葉にハスミは返答した。

 

 

「引き続き、オロス・プロクスの動向調査を平行して行いつつ…こちら側での次元震による変異現象を追います。」

「早いとこ、オロス・プロクスの一件が片付けばいいがな。」

「残念ですがまだまだ続きます、それが無限力の提示したお遊びですから…」

 

 

四度目の戦い、ムーンデュエラーズ開始までの空白期間。

 

無限力は何処まで茶番を入れる?

 

私は迷う事は出来ない。

 

選んだ結末を辿るだけだから…

 

 

=続=

 



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第七十九話 『潜者《ビルドダイバー》』

言葉だけで語られる夢物語。

だが、現実は残酷で悲劇である。

彼らは英雄の影に隠れる悲しみを知らない。

それでも彼らは夢を諦めない。


前回のインファント島におけるゴジラ騒動から数日後。

 

再会したゼンガー少佐との諍いも平行線のまま…

 

オロス・プロクスの新規情報も入らない状況が続いていた。

 

そんな時、天鳥船島付近に謎の転移反応を確認。

 

私ことハスミは機体を操縦出来る人員で転移反応先へ向かう事となった。

 

 

******

 

 

天鳥船島のクロスゲートから転移反応先であるカリブ海・近海へと到着した私達。

 

連合軍の基地再開発計画が継続中の事もあり、カリブ海付近にはまだ連合軍の監視は行き届いていなかった。

 

計画終了後は滅多に近づけなくなるが致し方ない。

 

 

 

「…」

「なあ、ハスミ?」

「どうしました、ガドライトさん?」

「元上司に機体を渡しちまって良かったのか?」

「今は人手が必要です、向こうに待機させるよりも余計な事をしない様に監視をした方がマシです。」

「あー、元部下なら元上司を理解してるってか?」

 

 

現在出撃しているのは私ことハスミ、ガドライトさん、アウストラリス、アサキム、ゼンガー少佐の五人である。

 

ガドライトさんの部下であるアンナロッタさん達は天鳥船島にて待機中である。

 

余計な戦力を晒す事は出来ない為である。

 

機体はエクスガーバイン・クリンゲ、ジェミニア、蒼雷、シュロウガ、グルンガスト参式。

 

この参式は元々開発データを光龍が前回の戦いでテスラライヒ研究所から勝手に持ち出してしまった経緯がある。

 

そのデータから天鳥船島にて復元したのでオリジナルと全く大差ない。

 

しいて言うなら斬艦刀は再現出来ないので天臨社で開発した特機用の実体剣を装備している。

 

何もなければ戦闘に支障はないだろう。

 

 

「転移反応があったのはこの付近です。」

「…特に何も見えねえな?」

「近くの島に潜伏は?」

「いえ…気配はここで強く出ています。」

「では、転移中かもしれんな。」

 

 

転移後に接触する事は良くあったが、転移中と言うのは久しぶりに思える。

 

ここから出てくる招かねざる客は何者なのか…

 

アカシックレコードは答えてくれず、知りたがる山羊もボンヤリとシルエットを見せるだけだった。

 

 

「…(何となく厄介な案件なのは解るけど口に出したくない。」

 

 

口は禍の元と言うが、現実はそう甘くはない。

 

招かねざる客が目処前に転移した事で状況はややこしくなったと悟った。

 

 

「ここは一体?」

「他の皆と一緒にミッションの開始エリアに移動していたのは覚えているけど…」

「何だかさっきと雰囲気が違うような?」

「ねえ、あの機体達は?」

「ガンダムじゃないね…一機は多分解るけど。」

 

 

転移直後から駄々洩れの会話を拾ったが、状況を理解出来ていない様子だ。

 

大体はそうなるわね。

 

私は混乱を収める為に声を掛けた。

 

 

「貴方達、何処から来たの?」

「何処って…ここGBNじゃないんですか?」

「GBN?ここはカリブ海のど真ん中よ。」

 

 

私の説明に驚愕する転移者一行。

 

 

「カリブ海ってあのカリブ海!?」

「じょ、冗談よね!?」

「冗談ではないわ、連合軍が再開発中のエリアに貴方達の様な子供が機体に乗っている方がおかしいけど?」

「連合軍?」

「…旧連邦軍の今の総称よ、連邦軍やジオンと言った太陽系の組織同士が再構築された新政府の組織だけど?」

「ちょっと、これってミッションの開始合図?」

「そうではないっぽいけど…」

「リク、あの人が言っている事は本当…嘘じゃない。」

「サラ、本当なのか?」

「うん、ここはGBNじゃない…違う場所。」

「なら、あの光に巻き込まれて私達は…」

「やっぱり、貴方達…外からの転移者の様ね。」

 

 

話が長すぎるので区切りを入れる為に切りやすい場所で言葉を掛けた。

 

 

「転移者?」

「こちら側で起こった空白事件を皮切りに並行世界から転移者が時々現れる様になったの。」

「並行世界?」

「ただでさえ封印戦争後で連合軍がピリピリしている状況よ。」

「封印戦争って…もしかして!」

 

 

転移者メンバーの中で眼鏡を掛けたエルフの風貌の青年が何かに気が付いたようだが、詳しい事は後回しになった。

 

もう一つの招かねざる襲撃者…ラマリスの集団である。

 

 

「あれは…!?」

「ラマリス、もうこちら側でも…!」

「ハスミ、奴らは?」

「ゼンガー少佐、あれが負念の化身・ラマリスです。」

「修羅の乱で接触した奴らか?」

「はい。」

 

 

スダ・ドアカワールドで接触したラマリスがもうこちら側に出現し始めるなんて…

 

もうカウントダウンが早まったのか?

 

早急に彼らを元の世界に戻さないと!

 

 

 

「貴方達、今から指定するエリアまで避難して!」

「でも…」

「これは遊びではないわ、生半可な覚悟なら出しゃばらないで頂戴!」

「リク…」

「サラ…ユッキー、モモ、アヤメさん、コーイチさん、俺達も戦いましょう!」

「リク君!無茶だよ!?」

「そうよ!」

「ここが何処なのかも判らないまま消えるなんて出来ない!」

「そうね、事情を知る為にも奴らを倒さないと。」

「でも、気を付けた方がいい…向こうの戦闘データは一切ないから注意して戦おう。」

 

 

私は彼らに逃げる様にと伝えたが、彼らは戦う事を選んだ。

 

自ら泥沼に足を踏み入れた愚か者だと思う。

 

逆に覚悟を決めた事には認めようと思う。

 

 

「答えは決まったのね。」

「はい、俺達も戦います…えと。」

「さっきは怒鳴ってしまって御免なさい、私はハスミ…ハスミ・クジョウよ。」

「俺はリクです、隣にいるのはサラとモル。」

 

 

リクを始め、他の転移者も軽い自己紹介だけを済ませた。

 

 

「リク君、貴方達はラマリスをかく乱して動きを止める事に専念して。」

「動きを?」

「ラマリスは特殊な能力を持った相手でないと完全に殲滅出来ないの。」

「…判りました。」

 

 

迷いなくこちらの指示に従ってくれる事に感謝したい。

 

あの子の隣にいた女の子には後でお礼をして置こう。

 

 

 

「んじゃま、負念退治と行くか?」

「僕らに手を出した報いは受けて貰うよ。」

「…」

「推して参る!」

 

 

ガドライトさん達も戦闘を始めた。

 

余程の事がなければやられはしない。

 

出現したのが初期ラマリスだけだったのは幸いだった。

 

 

「…(兎に角、あの子達の監視もしておかないとね。」

 

 

私はリクら転移者達の様子を伺いながら戦闘を開始し初期ラマリスを蹴散らしていった。

 

彼らのチームワークには驚かされるが、互いを理解し合っている証拠だと思った。

 

そして…

 

 

 

「とりあえず、私達の拠点に来て貰えるかしら?」

「どうして…?」

「今の連合軍に貴方達を引き合わせるのは危険と判断したからよ。」

 

 

そう、危険なのだ。

 

貴方達の機体は連合軍の余計な戦力のヒントを与えてしまう。

 

彼らの機体は鹵獲されてはいけないし姿を見せない方がいい。

 

私はそう判断し、彼らを引き連れてクロスゲートの転移で天鳥船島へと帰還した。

 

 

>>>>>>

 

 

数時間後、天鳥船島の個室にて。

 

 

「「「ええええええ!!?」」」

 

 

私はリク達にこの世界の状況を説明した。

 

最初は眼を輝かせていたが、徐々に眼の色が変わっていった。

 

それもそうだ。

 

ここは君達の世界で認識される『スパロボの世界』なのだから。

 

そして本当に生死を掛けた戦いが繰り広げられている事も理解して貰った。

 

エルフ姿のコーイチとくのいち姿のアヤメは自身らの持つ通信機に元の世界との通信が取れる事が判明した為、状況を整理していた。

 

向こう側では彼らの肉体が意識不明の状態に陥っていると声が漏れていた。

 

そのまま放置する事は出来ない。

 

早急に明日にでもクロスゲートでお帰り願おうと思った。

 

 

 

<その夜>

 

 

 

天鳥船島の地表部分の庭園にて。

 

一人近くのベンチに座り込むリクの姿があった。

 

 

「…」

「眠れないのかい?」

「貴方は?」

「僕はアサキム、君が転移した場所に居た黒い機体のパイロットとでも言えば解るかな?」

「あの時の…」

 

 

一人で移動していたリクの姿を追ってきたアサキム。

 

個人的な興味があったらしくリクの隣に座った。

 

 

「君の機体は刹那・F・セイエイとシン・アスカの機体を合わせたものだね?」

「二人の事を知っているんですか?」

「うん、これでも敵として戦った事があるからね。」

「敵…」

「正確には仲間でもないし僕にも目的があったからね、敵対するしかなかった。」

「…」

「絶望したかい?」

「いえ、戦争ならそう言う事もあるんだなって理解しました。」

「それでも僕は彼らに希望を託して一度滅んだんだ。」

「えっ?」

「そして、僕は再度その記憶を引き継いで同じ生を受けた。」

「…(それってコーイチさんが言っていたなろう系の小説の主人公の様な?」

「今は未来を変える為に動いている。」

「未来?」

「君にもあるだろう、大きな夢とか?」

「は、はい。」

「誰にだって叶えたい夢がある、僕は求めた夢を叶える為に動いているんだ。」

「アサキムさんの夢って?」

「自由になる事さ、僕を縛り付けている呪縛を解く為にね。」

 

 

シュロウガと共に不死に縛られた存在。

 

これがアサキムの正体であり、邪神を倒した事で神殺しを背負った並行世界のマサキの成れの果て。

 

そして、今世のアサキムに架せられた呪いである。

 

 

「呪いですか?」

「うん、詳しくは言えないけど…僕はシュロウガと共に死ねない呪いを掛けられている。」

「…」

「僕はこの呪いを解く為にずっと彷徨い続けてきた。」

「じゃあ、アサキムさんは呪いを解いたらどうするんですか?」

「そうだね…風の呼ぶままに自由に旅をしてみたい。」

 

 

いつの日か己を縛る鎖を断ち切り、自由になる事を。

 

 

「旅か…」

「リクの夢は何?」

「俺の夢?」

「そう、君の夢。」

「今はGBNを通して色んなガンプラバトルをして色んな場所を巡りたい。」

「それは既に叶えられているんじゃないのかい?」

「はい、なので将来はGBNやガンプラに携わる仕事に付こうと思っているんです。」

「それが君の目指す夢かい?」

「これからもいろんな事が学んでいかないといけないけれど…きっといつか叶えて見せるって思っています。」

 

 

理想の夢、夢を諦めない心、未来を描く想像力。

 

ああ、そうか…

 

だから僕のスフィアは惹かれたんだね。

 

『夢』と言うキーワードに。

 

 

「目指すといい、君の求める未来を夢を…絶対に諦めないでくれ。」

「はい、アサキムさんの夢も叶う事を俺も願ってます。」

「ありがとう。」

 

 

アサキムさんは礼を告げるとその場を去って行った。

 

俺も区切りが良かったので用意された個室に戻った。

 

翌朝、俺達はクロスゲートって言う扉で元の世界に帰った。

 

眼を覚ますと病院で両親が揃って泣いていた。

 

その後、GBNから長期ダイブの注意点が報道され程々にと言うキャッチフレーズが世間を賑わせた。

 

俺達の昏睡状態は秘密にされ、GBNが厳重に情報を管理する事となった。

 

GBN側は何処かの電脳仮想空間に俺達の意識が流れ込んだ事が昏倒の原因と思っている。

 

俺はそうは思わない。

 

あのリアルな感触は仮想で表現するには難しい。

 

もしもがあるならもう一度、あの世界にいけるのだろうか?

 

 

=続=

 




知られざる結末。

本来の在るべき形。

これは自称・神の雷。


次回、幻影のエトランゼ・第八十話 『彼方《カナタ》』


光と影は笑い合う。

絶望と狂気の果てに。


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第八十話 『彼方《カナタ》』

彼らが往くべきはゼウスの守護惑星。

天罰を下す神の雷は偽り。

彼女はただ扉を開くだけ。





前回の騒動から一週間後。

 

様々な転移者騒動が起きる中、戦いは紛争程度の規模で続いていた。

 

オロス・プロクスの足取りを掴んだハスミ一行は物質界メンバーを転移先へ転送。

 

だが、諸事情でハスミ達はこちら側の世界に残る事になった。

 

理由は『神の雷』と呼ばれる戦いが迫っている事である。

 

それを阻止するにも現在のノードゥスは各所の紛争を止める為に散り散りになっており集結に時間が掛かっていた。

 

インスペクター…ウォルガより提供された転移装置の限定増産と搭載に時間が掛かってしまった事も理由の一つである。

 

イルイも相変わらずクロスゲートへのアクセスに必要な念動力が回復していない事もあり、八方塞がりになっていた。

 

外宇宙へ旅立ったメンバーとの連絡は付いたもののメンバーの全員が太陽系外へ居る為に戻ってくるのに時間が掛かってしまう。

 

頼みの綱のサナリィで開発されていた『レコードブレイカー』と呼ばれる機体は木星帝国の新指導者の一人『闇のカリスト』によって破壊。

 

残された『スピードキング』による少数精鋭部隊の電撃作戦に切り替えられた。

 

もしも『シンヴァツ』を発射させられれば太陽系は壊滅、別勢力に奪取されても同じ結末を辿るだろう。

 

希望は彼らに託されたのである。

 

そして詳細を知ったハスミらも独自で動く算段を立てていた。

 

 

******

 

 

天鳥船島・神殿内部。

 

物質界メンバーが旅立った後、残ったハスミ達はコーヒーを片手に神の雷事件に付いて話をしていた。

 

開口一番、アウストラリスの発言からハスミが説明を始めた。

 

 

「ハスミ、神の雷事件とは一体…」

「本来の正史ではシャアの反乱から43年後、マフティー動乱だと25年後に引き起こされた海賊クロスボーン・バンガード対木星帝国との戦いです。」

 

 

木星帝国、秘密裏に地球圏で戦乱を起こそうとする者に武器の供与や経済援助を行っていた組織。

 

木星圏のコロニーを拠点としL5戦役頃では『木連』や『C・V』とも繋がりを持っていました。

 

また、外部侵略者の監視の為に設営されたイカロス基地すら度々彼らに奪われる事もしばしば…

 

前回の封印戦争で総統クラックス・ドゥガチが死亡した事で暫くの間は成りを顰めていました。

 

が、新たな新総統して光のカリストと影のカリストが選出。

 

彼らの指揮の元、コロニーレーザー『シンヴァツ』が開発され、太陽系は危機に陥っている状況と言う事です。

 

 

「正直な話、ガンエデンの守護塔からの長距離砲撃で破壊すれば済む話なのですがね…」

「訳は?」

「ガンエデン達は今回の件を人類が自らの手で立ち向かわなければならない危機と判断し、本格的な協力はしない方針を決めました。」

「ガンエデンの手を借りる程度では奴らに太刀打ち出来んからな。」

「そう言う事ですね、軽い手助け程度はする様子ですけど。」

 

 

ハスミは微妙な表情でコーヒーを啜った。

 

 

「軽い手助け?」

 

 

妙な言い方にガドライトが反応する。

 

 

「簡単に言えば転移の件ですよ。」

「成程な、ノードゥスの連中をコロニーレーザーのあるエリアに転移させるってか。」

「そう言う事です、手を出すかは…アウストラリスの判断に委ねます。」

「…そうだな。」

 

 

表向き、ハスミはサイデリアルに敗北しアウストラリスの配下となっているので彼女自らの行動は制限されている。

 

御使いの眼を誤魔化す為にクロスゲートの使用はアウストラリスの指示の元で行うしかない様に見せなければならない。

 

ややこしいがそう言う手筈なので変える事はほぼ不可能である。

 

 

「ハスミ、史実ではどうなった?」

「たった七人でシンヴァツを破壊し光のカリストらを倒したものの生存者は七人中二人…連邦軍はこの事から各コロニーの配置転換を行い地球圏に対してコロニーレーザーを使用出来ない様に動きます。」

「…余りにも遅すぎる対応だな。」

「シャアの反乱後、ラプラス事件、マフティー動乱……大規模な戦争は無くなったものの徐々に連邦軍は腐敗の一途を辿りましたので。」

「だが、今は違うのだろう?」

「その通りです。」

 

 

アウストラリスは少し考えてから答えを出した。

 

 

「……声明を出そう。」

「宜しいので?」

「このまま連中の好きにさせる訳にもいかんのだろう?」

 

 

彼は『機体が無ければ碌な戦闘力もない総統など雑魚に等しい…』とボソリと呟いた。

 

 

「彼ら一応、厄介なサイキッカーなのですが?」

「それが如何したと言うのだ?」

「…心配する必要ありませんね。」

 

 

圧倒的な力と戦略でZ-BLUEや地球圏を壊滅にまで追い込んだ貴方なのですから、彼らすら小物に見えるのですね。

 

物凄く酷い扱いですが、清々もします。

 

彼らの性格は虫唾が走るので。

 

 

「では、声明の準備を進めますね。」

「頼む。」

 

 

軽いコーヒータイムは終わり、戦うべき相手と対峙する為に動く事にした。

 

 

>>>>>>

 

 

数時間後、日本・極東方面。

 

鋼龍戦隊が帰港している伊豆基地にて。

 

それは突如として伊豆基地の司令部へ届けられた。

 

 

『サイデリアルのアウストラリスだ、既にお前達の元にもある戦乱の情報が齎されている事を視野に伝える。』

 

 

『現在、木星帝国がコロニーレーザーによる照射で太陽系壊滅を目論んでいる。』

 

 

『既にお前達の仲間が先行し危機に立ち向かおうとしている。』

 

 

『ここで黙って見ている気がないのであれば、指定した日時の場所へ集え。』

 

 

『……以上だ。』

 

 

そこで通信は途切れた。

 

淡々と語られた情報と反撃の兆し。

 

この好機を逃す必要はないと判断しノードゥスに招集命令が下された。

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

アウストラリスからの通信の後、現時点で動く事が可能な部隊がオービットベースへ集結。

 

そして指定された時間まで残り二時間を切っていた。

 

この状況なら急ぎ指定エリアまで移動しなければならないが…

 

アウストラリスが指定したエリアはオービットベースの目処前。

 

この為、作戦会議を含めて瞬時に出撃し指定エリアへ移動出来る状況になっていた。

 

封印戦争後の復興支援で動ける部隊は数える程度の規模。

 

それでも何時もの四隻の戦艦による電撃作戦は可能だった事は救いだろう。

 

現時点では動ける戦艦は鋼龍戦隊のハガネとヒリュウ改、ラーカイラムとナデシコC。

 

残りは各地の防衛と復興支援に動いているので動かせない状態だ。

 

グリーフィングルームでの作戦会議後、オービットベース近海へ出撃。

 

指定された時間まで待機となった。

 

そして…

 

 

「やっと準備が整ったのか…待ちくたびれたぜ?」

「お前は?」

 

 

空間転移でオービットベース近海に現れた二機の機体の内、紫色の機体のパイロットが答えた。

 

そのパイロットに対してキョウスケが訪ねた。

 

 

「自己紹介がまだだったな、俺の名はガドライト・メオンサム…サイデリアルのメンバーとでも言っておこうか?」

「サイデリアル…アウストラリスの仲間か?」

「ま、そう言う事だ……それとそこの子の監視も兼ねているぜ?」

 

 

もう一体の機体はエクスガーバイン・クリンゲ。

 

転移能力を持つが故に水先案内人としてアウストラリスの命により出撃させられたのだろう。

 

 

「…」

「ハスミ、無事…と言う訳でもなさそうだな?」

「私がここに訪れたのは転移先へノードゥスを送る事だけを許されただけ……それ以上の事は語るなと命令されていますので。」

「余計な事は話せない、俺達に話す事も出来ない処置をされたか?」

「…」

 

 

通信越しであるが、いくつかの問いに対し頷いて肯定と伝えるハスミ。

 

 

「それは俺達と敵対する道を選んだとしてもか?」

「…そう捉えられても仕方ないかと。」

「そうか。」

 

 

あくまでポーカーフェイスを貫くキョウスケ中尉。

 

こちらの事情の一部は既にZ事変を経験したメンバーから齎されているだろう。

 

解っていても苦しくて泣きたい位に胸が痛む。

 

 

「さてと、話は終わりだ……クジョウ、景気よくやってくれよ?」

「了解。」

 

 

同じ様に通信越しで私の心境を察したガドライトさんは話を切り上げ、本題の行動に移させた。

 

申し訳なくなったので後で謝罪して置こう。

 

私はクロスゲートを起動させ、ノードゥスの艦隊を木星にあるシンヴァツを確実に狙える位置へと転移させた。

 

既に先行した部隊が交戦しているが、十分に間に合うだろう。

 

 

「とりあえず、俺らの仕事は終わりだ。」

「…」

「安心しな、あのオービットベースだったか?アレを狙えとは命令されてないから安心しろよ。」

「いえ、先程は申し訳ありませんでした。」

「おいおい、さっきの事…気にしていたのか?」

「次はしくじりませんので。」

「…(全く、無理ばっかする子とは聞いていたがアウストラリス並みの堅物かもな。」

「戻りましょう、私達にはやるべき事が残っています。」

「そうするかね、木星の戦線を引っ掻き回しているアサキムが羨ましく思えるぜ。」

「単機による奇襲から緊急離脱が行える機体はアサキムの十八番ですので。」

 

 

私達もまた、クロスゲートで転移し行方を眩ませた。

 

GGGに在籍する優秀な研究者達でも次元力の解析が遅延しているので追う事は不可能だろう。

 

天鳥船島へ帰還した私達は知りたがる山羊のスフィアの力で木星の状況をリアルタイムで監視。

 

多少の危機はあったものの無事に勝利を収めた様だ。

 

ノードゥス艦隊に参加していたシーブックはトビアにお説教を噛ましていたが放っておく。

 

気持ちは解らなくもないが、相談なしなら怒るのも当然と思える。

 

そして、今回の戦いでテテニスことベルナデットの義母であるエウロペは生存。

 

光と闇のカリストが戦死した事で木星帝国の自治権はエウロペとベルナデットが握る事となった。

 

後の事は二人が相談して木星帝国内部の諍いを鎮めていく事になるだろう。

 

 

=続=




揺れ動く電脳世界。

彼らは電子の生命体。


次回、幻影のエトランゼ・第八十一話 『魔扉《マジカルゲート》』


幾多可能性を求めて彼は戦う。


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第八十一話 『魔扉《マジカルゲート》』

交わる事のなかった世界。

それは静かに歩み寄る。

0と1の羅列と共に。


前回、木星帝国の地球圏へのコロニーレーザー照射を防ぐ為に編成されたノードゥス艦隊を木星に送った私達。

 

それから更に数週間が経過した。

 

物質界メンバーは変わらず、オロス・プロクスと協力者達の動向を追っている。

 

私達は情報が入るまで小競り合いの元となる紛争を秘密裏に止めていた。

 

クロノにとって今は有益であるが、後に不利益に繋がる紛争なので問題はない。

 

ノードゥスからは完全に敵対する方向にしたので、なるべく鉢合わせにならない様に心掛けている。

 

ぶっちゃけ言うなら出逢ったら無視&撤退するか不定期に現れるラマリス倒している位だ。

 

こう言った事が続く中で一言だけ言わせて貰いたい。

 

ラマリス多くない?

 

 

******

 

 

ガドライト・メオンサムだ。

 

今現在、奇妙な場所に居る。

 

 

「ここは何処だ?」

 

 

周囲を散策した後、ここが開発が進んだ島である事は理解した。

 

だが、転移の感覚もある。

 

この場所が別の世界である事は判った。

 

ダイバーランド、それがガドライトが居る場所の名である。

 

 

「しっかし、妙だな…」

 

 

ガドライトはある違和感を覚えていた。

 

島の案内パンフレットや島の全容が閲覧可能な観光案内所で得た情報によれば…

 

島民500名、ワールドリンクと呼ばれる国際規模のネットワークの管理を行う施設が存在する。

 

その過程で技術者や管理を行う者達の家族も移住しているとの事。

 

違和感とはここから来るものである。

 

 

「子供の姿が見当たらねえ、どうなってんだ?」

 

 

島に在住している筈の子供の姿が全く見えないのだ。

 

塞ぎこんでいる親世代の人々の姿は散策で素通りする時に見えるが異常である事は確かだ。

 

 

「首を突っ込むつもりはないが、少し探る必要がありそうだな。」

 

 

ガドライトも前の世界で双子の娘を授かった事もあり気になっていた。

 

その後、島の観光客を装いながら監視しつつ様子を伺う事にした。

 

 

「おじさん、見ない顔だね?」

「オジ……初対面の人にそれはなくね?」

「ケント、ちょっと失礼よ。」

「いや、だって無精ひげ?だっけ…どうみてもおじさんにしか見えないし。」

「…(好きでひげ生やしている訳じゃないんだけどな。」

 

 

公園で二人組の子供にぶつかったガドライト。

 

謝罪の後に世間話にシフト。

 

二人の自己紹介も兼ねて島について聞いていた。

 

二人組の名は男の子はケント、女の子はアオイと名乗った。

 

 

「そう言う事だったのか…」

「俺の弟も巻き込まれたんだ。」

 

 

この島に子供の姿がないのは仮想ネットワークで発生した大規模バグが原因。

 

仮想世界に意識を送り、世界中と繋がれる子供だけの遊び場。

 

その世界にバグが発生し多くの子供の意識がそこに閉じ込められる事となった。

 

現実世界に肉体はあるが意識が戻っていない状態。

 

島で見かける親世代の顔に陰りがあったのはそのせいだろう。

 

バグが取り除かれなければ子供の意識は戻ってこない。

 

親はいつ戻るか判らない子供の為に待ち続けるしかない状況だと言う。

 

 

「慰めにもならないが、無事に戻れる様に祈って置く。」

「…ありがとうございます。」

 

 

>>>>>>

 

 

数日後、予測通りに島で異常現象が発生。

 

ネットワークを通じて島を管理しているシステムが暴走を始めた。

 

例えば、水道管理局だと水道管の放水システムのバグだったりガス管理局からはガス管の放出制御のバグだ。

 

今回は港の運行システムの異常で早期にバグが止められなければ、この島の港に入港する予定の貨物船がシステムエラーで航行不能のまま港に激突する事となる。

 

管理局の様子を盗聴していたガドライトは一連の現象を理解した。

 

 

「成程な、あの暴走もネットワーク内のバグと連動で起こっているって訳か。」

 

 

状況を察したガドライトは原因を呟くが止める事が出来ない。

 

元凶が存在するネットワーク内部に行く事が出来ないからだ。

 

そんな事が出来るのは仲間の一人位だろう。

 

 

「そんな都合のいい事が起こる訳…」

『ご…無事ですか、ガド…ライトさん。』

 

 

その時、所持していた電子端末に連絡が入った。

 

 

「すんげーグッドタイミング。」

『何か?』

「ちょっとな、それよりも早急に頼みたい事がある。」

 

 

ガドライトは連絡を寄越したハスミに事情を説明。

 

ハスミは該当する名称に反応していたが、即座に転移座標の割り出しを進めた。

 

それらはすぐに終わり転移の準備を進めてくれた。

 

 

『ガドライトさん、此方の素性は伏せた状態での行動を願います。』

「判ってる、こっちの無茶な要件を聞いてくれて助かったぜ。」

『指定ネットワーク内部の座標に転移後、速やかに原因のバグを破壊してください。』

「了解した、ナビゲートは引き続き頼むぜ?」

『了解。』

 

 

ガドライトは人気のない場所へ移動し転送された小型クロスゲートから転移を始めた。

 

 

******

 

 

港の運行システムを管理するネットワーク内部。

 

ネットワーク内もそれに反映しネットの海に港が設置された造りになっている。

 

 

「さってと、お目当ての敵は……ってあれは!?」

 

 

運行システムを監視するプログラム。

 

それを立体化した港に見覚えのある敵が引っ付いていたのだ。

 

 

「ありゃラマリスじゃねえか!」

『情報取集は此方で続けます……今は処理に専念してください。』

「ったく、奴らも見境ねえな!!」

 

 

ネットワーク内部に転移したジェミニアのコックピットで叫ぶガドライト。

 

本来なら飛ばされる前の世界に出現していた敵がこの世界に現れた事に驚愕していた。

 

ハスミからの助言後、すぐさま攻撃行動へと移った。

 

 

「港から引き離さねえとだが、出力の大きい武装は不味いな…」

 

 

光粒子ブラストで一掃しようと考えたが、ネットワーク内部で立体化された施設はシステムの命そのものと言ってもいい。

 

もしも破壊すれば、現実世界でも連動し運行システムは停止してしまうだろう。

 

その旨をハスミから説明を受けていたので別の意味で苛立ちが増えていた。

 

 

「面倒だが、全部たたっ斬るしかねえ!」

 

 

ジェミニアから光粒子ブレードを形成し戦闘を開始した。

 

仮想世界の港に取り付いたラマリスらもその動きを察知し此方へ攻撃に転じた。

 

 

 

一方その頃。

 

 

 

戦闘が開始された港のサーバーに移動する一体の機関車型の機体の姿があった。

 

 

「グラディオン、さっきの話…本当なのか?」

「ああ、何者かが港のサーバーに現れた新種のバグを取り除いている。」

「デリトロスじゃないバグって一体何だろう。」

「それは此方でも判らない、ケント…今は港のサーバーを正常に戻さなければならない。」

「うん、判ってるよ。」

 

 

機体の搭乗者達は港のサーバーで起こっている戦闘の話を薦めながら現地へ移動を続けた。

 

 

「つったくよ、ラマリスの次はモノホンのウイルスか?」

 

 

港に取り付いていたラマリスを一掃したガドライト。

 

正常化すると思われたサーバー内部に新手の敵が出現したのだ。

 

 

「ん?」

 

 

同時に先程の機関車型の機体もゲートらしき空間を通って現れた。

 

 

「グラディオン、あれは?」

「あの機体か…」

「あれもグランナイツなのか?」

「いや、グランナイツにあの姿をした仲間はいない……ウェブソルジャーと交戦している様だが。」

「グランナイツでもない存在って…」

「ケント、まずは周囲のウェブソルジャーを倒してからだ。」

「判った。」

 

 

機関車型の機体は人型へと変形し武装らしき実体剣で攻撃を開始した。

 

 

「ハスミ、奴が例の?」

『はい、このネットワーク世界を守護するグランナイツの一人グラディオンです。』

「あれにケントが乗っているのか…」

『正確にはシンクロ…融合していると言った方が正しいです。』

「その辺の細かい事は気にするなよ。」

『先程も説明しましたが、彼らとの接触は控えてください。』

「へいへいっと。」

 

 

知りたがる山羊の力である程度の情報を収集したハスミ。

 

その過程で得た情報をガドライトに共有し引き続き接触を控える旨を伝えた。

 

互いの認識が不鮮明な状況の中でウェブソルジャーは一掃。

 

港のサーバーは無事に正常化し貨物船のシステムも回復した。

 

 

「…(さてと、肩入れはここまでにしておくかね。」

「待ってくれ、君は一体?」

「ちょっとした野暮用って奴だ、あとはそっちに任せるぜ。」

 

 

グラディオンがガドライトの機体に通信を送るが、ハスミからの指示通りに言葉を閉ざした。

 

同時にクロスゲートからネットワーク世界を離脱し現実世界へと戻って行った。

 

 

「今の声…何処かで?」

 

 

ケントは聞き覚えのある声に頸を傾げながら拠点であるマジカルステーションへと戻って行った。

 

 

 

>>>>>>

 

 

数時間後。

 

 

『…こちらの世界に残ると?』

「おう、ラマリスがこっちのネットワーク世界に出た事も調べねえとだろ?」

『確かにそうですが…』

「それにお前なら判っているんだろ?」

『致し方ないですね、アウストラリスにはこちらから説明して置きます。』

「わりいな。」

『いえ、アサキムも似た様な状況で例の世界に滞在すると言っていましたので。』

「姿が見えねえと思ったらそう言う事か。」

『滞在中に必要な物資並びに偽造IDは此方で準備が済み次第転送します。』

「判った、アンナロッタちゃん達によろしく伝えてくれ。」

『了解。』

 

 

ガドライトは通信端末を切るとすっかり夜となった空を見上げた。

 

 

「99%の絶望の中に遺された1%の希望…か。」

 

 

 

******

 

 

同時刻、天鳥船島にて。

 

島の神殿内部の一室で話し合うアウストラリスとハスミの姿があった。

 

 

「そうか、アサキムに続きガドライトもか。」

「はい、ラマリスの出現もありましたので監視を兼ねてその世界に滞在するとの事です。」

「監視の件は了承しよう、それよりも此方の問題を片付けねばならんのだろう?」

 

 

オロス・プロクスと行動を共にしていたジョーカーや降魔の殺女らが離反。

 

ジョーカーは主君であるガディウスの指示で様々な世界から集めた悪夢を利用しナハトゥムと呼ばれる存在を復活させようとしていた。

 

その事を知った私達は奴らが逃げ込んだ夢世界へ向かう手段を発見し準備を進めていた。

 

クロノアも夢世界での記憶らしき断片が蘇り情緒不安定気味だが、悪夢に囚われた人々を開放する為にも事は急がなければならない。

 

 

「ハスミ、判っているな?」

「はい、悪夢を終わりにしましょう。」

 

 

血と恐怖の夜の闇に囚われた彼らを救う為にも私は決着を着ける。

 

 

 

=続=

 




悪夢を終わりにしよう。

その先に願うのは開放だけ。


次回、幻影のエトランゼ・第八十二話 『再涙《サイルイ》』


ありがとう、悲しみよ。


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第八十二話 『再涙《サイルイ》』

悪夢は人それぞれ。

夜の闇に囚われた彼ら。

だからこそ取り戻す。

鋼の魂と共に。


前回と同様の事を説明する。

 

オロス・プロクスとの戦いが終盤を迎える頃。

 

彼らに協力していたジョーカーや殺女達が急遽離反。

 

各々が行動していた際に別の意味の悪意を感じ取っていた。

 

恐らくはそれぞれの目的の為に必要な材料が揃ったのだろう。

 

殺女の目的は未だに不鮮明だが、それに関しては因縁の相手である帝国華撃団の大神さん達に任せる事にした。

 

彼らも彼女の開放を望んでいる事なので。

 

私ことハスミはジョーカー達の件で介入予定だ。

 

理由はシンプルに奴が再び引き起こした『眠り病』に知り合いが巻き込まれたからだ。

 

彼らは今回の事件以前に知り合った人達とは遠く離れている上に無関係に近い存在だが出来得る事なら救出したい。

 

夜の闇の中で血と恐怖に抗いながら彼らは戦い続けた。

 

その子孫を巻き込んだ奴らを許す事は出来ない。

 

 

「あのゴムまり道化師め、原型が無くなるまでミンチにしてやるわ。」

 

 

と、私が無意識に吐露してしまう位だ。

 

 

「ジョーカーの奴、確実に命ねえだろうな。」

「う、うん…」

 

 

先程の発言に対し、ジョーカーと因縁のあるクロノアとガンツ達でさえドン引きし物陰に隠れている位である。

 

そうこうしている内にジョーカー達の潜伏先が判明したので、準備を整えた後に突撃を開始するのだった。

 

 

******

 

 

私達が転移したのは夢が原動力となる世界ファントマイルの空に浮かぶ太陽の神殿コロニア。

 

朧げに記憶を思い出したクロノアの話では月の王国クレスへ向かうにはここである操作をする必要があるらしい。

 

 

「えっと、大神官さん達の話ではここは祭壇?でクレスの道を開く場所って言ってたんだ。」

 

 

零児達からの質問に答えるクロノア。

 

 

「クロノア、必要な条件とは一体?」

「太陽があるのに暗くなった時に祭壇に月のペンダントを置くだったかな?」

「つまり日食が起こった際にその祭壇へ月のペンダントを奉納するって事かしら?」

「月のペンダントはハスミが風船ピエロをボコった時に拾ったんじゃっけ?」

「これの事ね。」

 

 

数回程、ジョーカーと交戦しその度にミンチになる勢いでボコボコにした時に拾ったペンダント。

 

シンプルな造りで月の形をした飾りにワンポイントで菱形の宝石が付いている。

 

 

「急いで祭壇の間に向かいましょう、こうしている間にも敵は動いているわ。」

「うん!」

 

 

ハスミの提案に誰もが否定せずにクロノアの案内の元…祭壇への道へと向かった。

 

祭壇の間へ到着後。

 

月のペンダントを祭壇へと奉納。

 

同時に祭壇のエレベーターが起動し外へと出る事となった。

 

外は晴れ間が広がっていた筈だったが、既に陰りを見せており日食を迎えようとしていた。

 

 

「皆さん、ここまで来てしまったんですね?」

「ジョーカー!」

 

 

浮上した祭壇の間の付近に現れたジョーカー。

 

 

「いっつもワタシの邪魔ばかり!!」

 

 

普段のジョーカーとは違い、地団駄を踏んだ後に意味深い言葉が出た。

 

 

「そろそろワタシも本気を出さなければならない時が来てしまいましたよ。」

 

 

ハスミはその言葉に反応しクロノアに告げた。

 

 

「クロノア、奴は本気よ。」

「えっ?」

「奴に纏わりつく気配が強くなった。」

 

 

突如、ジョーカーは巨大化し祭壇の周囲に展開していた黄金のサークルが分離し上昇していった。

 

そのサークルに乗っていたメンバーを持ち上げ、他の祭壇の床に残っていたメンバーと分断させられた。

 

下に残されたメンバーも上のメンバーと急ぎ合流しようとしたが、ジョーカーの配下が現れた事で乱戦へと突入してしまったのである。

 

上のメンバーは零児&小牟、小吾郎&美依、ハーケン&輝夜、ハスミ&アウストラリス、クロノア&ガンツ、クリス&ジル、デミトリー&ダンテ、サポートの沙夜、レディ、ゼンガー、ねねこ。

 

残りは下の祭壇の間で交戦中となった。

 

 

「では、始めますよ?」

 

 

巨大化ジョーカーは一礼をしてから攻撃を開始。

 

飛行能力を持たないメンバーは浮上したサークルが足場代わりである。

 

奴の攻撃に注意しつつ落下しない様にしなければならない。

 

そして銃器や飛び道具が無ければ苦戦を強いられるだろう。

 

 

「そーれそれーれーっと!」

 

 

お決まりのロケットパンチモドキの攻撃を仕掛けるジョーカー。

 

但し、サイズアップしているので一度でも喰らえばサークルから落下させられるだろう。

 

 

「体がデカくなった分、余計にタチが悪い。」

「風船の癖に生意気じゃぞ!!」

 

 

零児達の愚痴ももっともである。

 

 

「ハスミ、今の状況をどう見る?」

「今の所…こちらの攻撃が効いている以上、このまま攻撃の続行し経過観察を薦めます。」

「承知した。」

 

 

アウストラリスは戦闘状況をハスミに尋ねると攻撃続行の答えを出された。

 

 

「これならどうですか?」

 

 

ジョーカーの言葉と共に日食の様な陰りが周囲を包む。

 

同時に姿を変えるジョーカー。

 

 

「あの風船め、変身しおったぞ!」

「っ!?各自奴の攻撃に注意してください!」

 

 

闇の空間へと変貌した戦場。

 

同時に変身したジョーカーに攻撃が通用しなくなったのだ。

 

 

「攻撃が効いていないです!」

「一体どうなっているんだ?」

 

 

ハーケンらも攻撃が無効化された事に気づき焦りの表情を見せた。

 

 

「無駄ですよ、この闇の空間では貴方達のハエの様な攻撃なんて無意味なのです。」

 

 

ジョーカーも周囲の状況に対して煽りを入れた。

 

 

「闇の空間?確か…闇のモノは日食で強くなるって言っていた様な。」

「クロノア、他に何か思い出せないかしら?」

「えっと…このサークルは太陽を司るって言ってたと思う。」

「太陽?」

「もしかして…(日食の影響で色の変わったブロックを戻せば。」

 

 

ハスミはクロノアのヒントを元に足場の変色ブロックを数回踵で叩いた。

 

すると変色していたブロックは元の黄金の輝きに戻っていった。

 

 

「全員!敵の攻撃を避けつつ変色ブロックに振動を与えて元の黄金色に戻してください!!」

 

 

ハスミの発言を察した一同は変色ブロックに振動を与えて元の色に戻していった。

 

同時に闇の空間は取り払われ元の夕焼けの空へと戻ったのである。

 

 

「えーっ!!!そんなのーありーですか!?」

「このサークルは太陽を司る…恐らくは闇を退ける効力を持っていたのね。」

 

 

サークルが再び輝きを取り戻した事でジョーカーは元の姿に戻り、弱体化。

 

その状況に対してハスミは更に告げた。

 

 

「対処法が判った以上、奴を袋叩きにすれば終わりですね?」

「あーん、やっぱりうちに入らない?」

「申し訳ありませんが、別口に所属しているので無理な話です。」

 

 

その声色は容赦ない腹黒な様子だった。

 

沙夜はその様子に毎度の事でスカウトを掛けてくるが、ハスミはさらりと返した。

 

 

「クロノア、風玉を当てまくれ!」

「うん、今までのお返しだ!!」

「ねねこもばんばんうつのだー!」

 

 

クロノア達の反撃を皮切りに他のメンバーもジョーカーに攻撃を開始。

 

攻撃の最中に何度か闇の空間にされたが、先程の方法で解除。

 

ジョーカーはジワジワと追い詰められていった。

 

 

「そんな…こんな事があって…」

「ここまでだ、ジョーカー!」

「テメェとの因縁もこれで最後だぜ!」

「人の夢を散々利用した報いよ。」

「ワタシを倒しても次が…」

「ガディウスだろうと何だろうと俺達は戦う。」

「うん、皆の夢は僕達が取り戻す。」

 

 

強化されたジョーカーは失意のまま爆散した。

 

主の名を叫んで…

 

同時に下層で戦っていたメンバーと合流し今後の事で話し合いとなった。

 

 

「ジョーカーを倒したもののクレスに行くにはどうすれば…」

「クロノア、祭壇にペンダントを置いた後はどうなったの?」

「確か…ドーン!って何か飛ばしてたよ。」

「飛ばしていたって…」

 

 

「「「…」」」

 

 

さくらとジェミニの質問の後にクロノアは能天気な発言をする。

 

その答えに経験者達は察した。

 

 

「えー全員、身構えの準備をお願いします。」

 

 

ハスミはご都合主義な展開を予期し全員に警告を行った。

 

同時に祭壇周辺が振動し文字通りクレスまで弾き飛ばされたのである。

 

 

「あー死ぬかと思った…」

「勘弁してくれよ、吹き飛ぶのはビル爆破の方がマシだ!」

 

 

青褪めたフランクと何故か服がボロボロのブルース。

 

 

「クロノア!こういう事はさっさと思い出しとけっ!!」

「ご、ゴメンー!!」

「やれやれ、慣れって言うのは恐ろしいモノじゃ。」

「…全くだ。」

「ハスミ、いつもこうなのか?」

「九十九事件からよくある展開と思ってください。」

 

 

ガンツを筆頭に新参メンバーは九十九事件関係者あるあるの展開に対してクロノアへ文句を飛ばしていた。

 

その様子を見ていた小牟と零児は呆れた表情で傍観、ゼンガーからの質問へはハスミが対応していた。

 

コロニアの祭壇から打ち出されたビームの様なモノはクレスを覆う結界を破壊。

 

結界破壊と同時に夜闇の空に浮かぶ神秘的な城が出現した。

 

余波で飛ばされた私達は何とかクレスの城のエントランス部分に落下し着地した。

 

その関係でエントランスの天井をアウストラリスの蹴りでぶち破る結果となったのは言うまでもない。

 

 

「全員居るか?」

 

 

零児の点呼から始まり、全員の安否が確認を取った。

 

無事、全員が着地に成功した…

 

ちなみにアーサーだけが上半身だけ埋まる着地方法だったのは何故だろう?

 

 

「全く、酷い目に遇うばかりだぜ。」

「私、スカートの中が視えちゃいそうで吃驚極まりなかったです。」

「大丈夫ですよ、あのフランクさんでさえ…そんな余裕なんてないと思いますから。」

「ミスターのお陰で無事に着地出来た事だしな。」

「はい、感謝感激です。」

「礼は不要だ、必要と思っただけの事。」

 

 

ハーケン、輝夜、ハスミ、アウストラリス達の雑談の後、一行はガディウスが居るとされる玉座の間へ向かう事となった。

 

その道中で禍々しい卵の様な物体が安置されているのを見かけたが、事情を知らない、思い出せないクロノアは素通りしてしまう。

 

一方でそう言った気配を感じ取れるメンバーは気掛かりであるものの玉座の間に向かう事を促された。

 

そして…

 

 

「…」

「ガディウス…!」

 

 

玉座の間に辿り着いた一行。

 

玉座の元で鎮座する金色の仮面と黒いローブを纏ったガディウスの姿があった。

 

 

 

「来たか、異の夢を視る黒き旅人よ。」

「旅人?」

「ふん、まあいい……もうすぐナハトゥムが復活する、貴様らなどムシケラにすぎん。」

 

 

ガディウスが答えるとその身はボコリと膨れ上がった。

 

這い出てきたのはあのラマリスである。

 

 

「あれはラマリス!?」

「ハスミ、まさか…」

「はい、これまでの戦況と今の状況…これで辻褄が合いました。」

 

 

直視したハスミは状況を察して声を上げ、同様にゼンガーも理解した。

 

小牟と零児の問い掛けにハスミとアウストラリスは答える。

 

 

「どういう事じゃ!?」

「今回の『眠り病事件』はバアルによる侵略…負念の侵攻です。」

「負念?」

「正しき念で正念、負なる念で負念……陰陽、聖邪の様な関係です。」

「…そう、不浄の念が強まりつつある事象とも言える。」

「こうして悪夢を集める事で負念の力を高めようとしたのでしょう。」

「なら、これまで倒した敵が復活したのは?」

「奴らはバアルの眷属になった事で復活を果たしたのだと思います。」

 

 

言葉通りの悪夢が目処前で起きている。

 

それは捨て置けない状況だった。

 

ガディウスはラマリスに吸収され分散すると何処かへと飛び去って行った。

 

 

「きゃっ!」

「パープルゴースト共は何処へ行った?」

「恐らく、下に安置されたナハトゥムの卵へ向かったのでしょう。」

「どう言う事ですか?」

「道中で見たあの禍々しい気配の卵…あれがナハトゥムだとしたら辻褄が合います。」

「ハスミ、ラマリスの気配は?」

「この下からです、徐々に強くなり始めています。」

 

 

まるで膨れ上がり破裂する様だとハスミはハーケン達に告げた。

 

 

「なら、さっさとその卵を壊してしまえば…」

「いえ、奴はもう殻を破ろうとしている。」

「まるで孵化だな…」

「取り込まれた夢を喰らい尽くして…今、爆ぜた。」

 

 

振動するクレスの城。

 

悪夢の集合体は城ごと彼らを呑み込んだ。

 

同時にそれぞれがナハトゥムの体内の各所に分散されてしまったのだ。

 

 

「ここに飛ばされたのは私だけか…」

 

 

ナハトゥムの体内の何処か。

 

ハスミはその空間の一つに落とされていた。

 

 

「敵はラマリスだけじゃないと思うけど、油断は出来ないわね。」

 

 

ハスミは刀を下げたまま茫然と立っていたが、迫る気配を感じ取り切り払いを行った。

 

 

「判っていたとは言え、全員を相手にするのは骨が折れる。」

 

 

元の世界でジョーカーを遭遇して以来、彼に操られていた彼ら。

 

聞こえてくる言葉『鬼は斬る』と言うフレーズ。

 

 

「…(そうか、今の彼らには私が鬼に見えるのか。」

 

 

解っていたとは言え、辛い。

 

それでも、彼らを開放する為にも。

 

 

「…ナハトゥムが倒れるまでのタイマンと行こうか?」

 

 

ハスミは覚悟を決めて刀を構えた。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻。

 

クロノアとガンツの二人はナハトゥムの急所である部分に飛ばされていた。

 

 

「クロノア、どうやらアイツが本体っぽいぜ?」

「うん、アイツを倒せば!」

 

 

ガンツは両手拳銃を構え、クロノアはリングで風玉を生み出す。

 

ナハトゥムはそれを嘲笑うかの様に笑いを木霊させた。

 

同じ様にナハトゥムの各所で攻撃を仕掛けている仲間達。

 

幾度と攻撃を仕掛けても再生する為に徐々に疲弊していく。

 

ボロボロになりながらもクロノアは最後の一撃をナハトゥムの急所に打ち込んだ。

 

 

「ナハトゥム、これで終わりだ!!」

 

 

同時に各所で戦っていた仲間達を襲撃していた敵は消え去って行った。

 

一部を除いては…

 

ある場所では堕天使が天使へと変わり。

 

ある場所では仮面が外れて元の姿に戻った。

 

悪夢は終わった。

 

だが、彼らの戦いはまだ続くのだった。

 

 

******

 

 

それから連戦は続き、オロス・プロクスとの戦いも終止符を迎えた。

 

彼らの主であるメーデン・トローレは仲間達と共に経界石の中に戻る事を約束した。

 

新たな世界を求めるのではなく故郷をよりよい世界にする事を誓ったのだ。

 

同時に九十九事件関係者達との別れの時でもあった。

 

去り際に逢魔の沙夜は『百一胎計画』の事も例の如く漏らしていたので別の機会に決着をつけるしかないだろう。

 

ナハトゥムによって吸収され様々な世界から集められた『夢見る精神』は悪夢から解放された。

 

解放した夢見る精神らは幻想界の大巫女様と神界のイシター様経由でそれぞれの世界に戻して貰える事となった。

 

但し、返すべき世界が不明な夢見る精神だけは私が責任を持って返す事を告げた。

 

夢見る精神の繋がりを見れば、戻すべき世界は直ぐに解るので。

 

 

「着いたわよ。」

 

 

私はある世界に転移した。

 

そこが彼らを返すべき世界である事を知っていたから。

 

 

『…』

「うん、気持ちは解るけど……このままこの状態でいたら戻れなくなってしまうから。」

『…』

「それにね、私にはまだやるべき事が在る。」

『…』

「ずっと傍には居られない。」

『…』

 

 

独特の輝きを持つ夢見る精神らは目覚めない自身の肉体が搬送されているだろう病院へと向かっていった。

 

一人、一人、名残惜しそうに。

 

そして最後の一つが語りかけた。

 

 

『…』

「ありがとう、ただ約束はさせて。」

『?』

「いつかは判らないけど、貴方達と同じ様に転生した私がこの世界の何処かにいる。」

『!?』

「来世の私が貴方達にきっと会いに行くから。」

『…』

「だから…今はさようならよ。」

『…』

 

 

私は約束を告げて最後の一人を見送った。

 

 

「さようなら、炭治郎君。」

 

 

無事に夢見る精神が在るべき宿主の元へと戻ったのを確認してから私は転移でその世界を後にした。

 

どうしても涙が流れたままで止まらなかったけど。

 

 

=続=

 




それは静かに忍び寄る。

形は違えど定められた戦。

運命は再び繰り返される。


次回、幻影のエトランゼ・第八十三話『昏天《アンテン》』


それが運命ならば抗い覆す。


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第八十三話 『昏天《アンテン》』

悪意の気配。

終わらせた筈の戦乱の兆し。

全てが平和を望んでいる訳ではない。

ソレが求めるモノは己の我欲だけ。


前回のオロス・プロクスとの戦いから一週間が経過した。

 

世間を騒がせていた『眠り病事件』は終息し世界は静けさを取り戻した。

 

変わらずと言えば、不定期に現れるラマリスの出現位だろう。

 

ただ、この静けさの中で違和感を感じている。

 

何事もなければいいのだが、そうもいかないのが今回から開始する戦乱の経緯である。

 

 

******

 

 

ここ天鳥船島では。

 

 

「はぁ…」

 

 

私ことハスミは現在自室でため息を付いている。

 

理由はオロス・プロクスとの戦いで負った傷が完全に癒えていない為だ。

 

今は負傷の多くが完治しているが、問題の念動力が回復していないので療養中。

 

出来る事は情報をかき集めて纏める事だけである。

 

 

「…(眠り病事件の真相はゼンガー少佐を経由して情報を渡して置いたからいいとして。」

 

 

こちら側の世界でも発生した眠り病事件。

 

バアルの暗躍であり、こちら側では子供から心に不安を抱える人達が巻き込まれた。

 

不安が悪夢に反映する以上、バアル側も扱いやすかったのだろう。

 

原因となったナハトゥムを倒した事で悪夢に囚われた人達は無事に解放された。

 

あのまま放って置けば、永久に目を覚ます事が出来なくなっていただろう。

 

その旨をゼンガー少佐に経緯と共に情報を渡して置いた。

 

こう言った現象への対処はこっちの方が行う方がいいと判断したと告げて置いてある。

 

 

「…(何より、イルイ達にも悪夢の被害が出てしまった以上…捨て置けなかったが正解だけど。」

 

 

今は当面の問題に目を向けるか…

 

考えるべき問題、一つ目はゴライクンルとフューリーの諜士達が裏で暗躍している事。

 

恐らくフューリー内部でクーデターが発生しグ=ランドン派達による戦乱が起こる。

 

封印戦争時の謁見で光龍お父さんを通して彼らを見ていたけど、あの野心の塊はどうしようもない。

 

なら、やるべき事は一つかな?

 

 

「…(まずはクーデターは確実に発生するから御姫様の亡命の手助け。」

 

 

次はガディソードの移民船の来訪。

 

こちらもヘルルーガ派がゴライクンルとの結託で戦乱を引き起こす。

 

あのジジイは爆発アフロにでもしてやろうか?

 

 

「…(こっちはマルム派への援護が必要ね。」

 

 

そして戦乱を巻き起こそうとしているゴライクンルのゴモウドッカ。

 

あれはイスルギ重工の女狐さんより曲者だ。

 

MD時点でゴライクンルを全て掌握していないとなると…ポセイダルっぽい立ち位置の気もしなくもない。

 

公式から情報自体が公開されてなかったし、追々調べるしかないか。

 

 

「…(ダークブレインの三馬鹿に関しては鋼龍戦隊に任せるとして。」

 

 

ラマリスは此方でも消滅は出来る。

 

地球圏に入り込んでいるバルマーの密偵には目を光らせないと…

 

今は調査程度だけど、アレとの決戦の後に本隊が攻めてくる可能性がある。

 

アウストラリスには例の件を進言して置いた方がいいかもしれない。

 

何処まで負念の侵攻を止められるかが今回の戦いの鍵。

 

 

「…(油断する気はないけど。」

 

 

危惧していたセフィーロやアースティア側の宇宙…ペンタゴナワールドとの混合宇宙にも何かしらの戦乱が起こる。

 

同時に何処かの戦いで破界戦役に巻き込まれる可能性も視野に入れておかなければならない。

 

例の電脳世界の一件もガドライトさんとアサキムが対応し一旦は終息に向かっている。

 

それでも何かの兆しである事は確か…

 

 

「…(戦うべき敵はまだ残っている、負念の…バアルの眷属と化した存在達。」

 

 

私はまた布石を作らなければならない。

 

バアルから世界を守る為の対抗策を。

 

 

「やる事が多すぎて頭が痛くなってきた。」

 

 

ハスミは一通りの考察を行い、独り言を呟くとベッドに横になった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

引き続き、天鳥船島の施設内にて。

 

 

「はぁ、また面倒な事になってやがんな。」

「そうだね…バアルも随分と粘着体質らしいし。」

「それ、お前が言える事か?」

 

 

それぞれが電脳世界での激戦を終えて帰還したガドライトとアサキム。

 

こちら側での事情を聞き、面倒な事になった事を知った。

 

 

「兎も角、バアルの侵攻も微々たるものだが放っては置けん。」

「ま、あの監視者のテンシ共がバアルって自覚していない以上はこっちの事に手を突っ込んでくる事はないだろうさ。」

「今すべき事をする……それが君の答えであり彼女の答えだろう?アウストラリス。」

「その通りだ。」

 

 

現状、バアルに反撃の意思を見せつつサイデリアルと言う傀儡を演じなければならない。

 

そしてノードゥスが無事にシンカへ辿り着けたのならいい。

 

逆に失敗するのであれば、サイデリアルとして侵略を行い抗いの力を引き出す必要がある。

 

ハスミは結果的に後者に陥ると告げていた。

 

度重なった戦いと今回の戦乱で地球圏は完全に疲弊する。

 

そこへバルマーの横槍や復活した地下勢力に他の星間国家群が隙を突いて地球へ攻撃に入る事を予期していた。

 

本人もそうならぬ様に道化を演じつつ行動はすると答えていた。

 

 

「第二のガイア・エンパイア…もう一つの新地球皇国をこの地に築く事も必要なのだろう。」

「そうは言ってもよ、築城するのはいいが…こっち側の統治者はどうする気だ?」

「君は向こう側の世界で皇帝を名乗らないといけないだろう?」

「…既に目星は付いている。」

 

 

「「!?」」

 

 

「いずれは落城する、ならば相応しい者をあの者達への障害として置けばいい。」

「んで、その候補って誰だ?」

「今は語る事は出来ん、時が来たら話そう。」

 

 

アウストラリスが語ったもう一つの新地球皇国の設立とその玉座に座する偽りの皇帝。

 

それはまだ秘匿されたままとなった。

 

迫る新たな戦乱の兆しと影の暗躍者達を燻り出す為の計画は進行しつつあった。

 

 

「失礼します。」

「ハスミ、何かあったのか?」

 

 

休養を命じられていたハスミが室内へ入室した。

 

何かしらの変異があれば、アウストラリスらに報告する事も命令に入っていたので違反ではない。

 

 

「月内部に潜伏しているフューリーの母艦…ガウ=ラ・フューリアで近々内乱が起きます。」

「何時だ?」

「本日より三日後、早ければ二日後です。」

「捨て置けばどうなる?」

「地球側とフューリー側との戦乱が発生し下手をすれば異星間戦乱が再発、これに関してはクロノの暗躍も関わっています。」

「そうか…」

「対抗策としてシャナ=ミア・エテルナ・フューラ皇女殿下とその臣下達の鋼龍戦隊への亡命を薦めます。」

「正確には秘密裏に…だろ?」

「勿論です。」

「それならサイデリアルがフューリーの掌握行動へ移ったと見せた方が混乱させられそうだね?」

「奴らを引っ掻き回すと言うのであれば、それも……面白そうですね。」

 

 

私としてはあの変態糞ジジイと脳天禿ジジイに一泡吹かせたいと思っていましたので。

 

あの小物臭満載の馬鹿も早々に退場させるのも悪くなさそうですし。

 

うふふふ………さて、どんな方法でボロボロにしてあげましょうかね?

 

 

「…(ヤベ、まーた良からぬ戦術を考えてやがる。」

「楽しそうだね、僕も一役買うから混ぜて欲しいな。」

「それに関しては少し待て。」

 

 

盛り上がる中でアウストラリスは周囲を静止させた。

 

同時にハスミはアウストラリスに尋ねた。

 

 

「どうかなさいましたか?」

「その戦い、この星で言うデモンストレーションとして………奴らの相手はストラウスとハイアデスを招集し進軍する。」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「あの者達にもこちらの意思が紛れもない覚悟がある事を示す為に……良いな?」

「了解しました。(大きなカードを切りましたね、ヴィル。」

 

 

アウストラリスの宣言により戦いは苛烈と成すだろう。

 

サイデリアルの司令官を務めるストラウスと部下であるハイアデス隊。

 

その部隊がこちら側の世界へ訪れるのだ。

 

 

「ハスミ、早々に転移の準備を。」

「承りました。」

 

 

ハスミは指示を受けた後、アウストラリスに進言した。

 

 

「アウストラリス、一つ願いを聞き入れて貰えないでしょうか?」

「願い?」

「はい、私もストラウス司令と同様に鎧を纏う事を許して頂けないでしょうか?」

「…理由は?」

「貴方が皇帝陛下と言う立場に戻った際に女が陛下の護衛…側付きでは敵勢力から嘲笑を買います。」

 

 

ハスミの進言にアウストラリスは少し考えてから答えを出した。

 

 

「ストラウスと同様に鎧を纏う事は認めよう、鎧を纏った際の名をファウヌスと名乗れ。」

「願いを聞き入れて頂き感謝致します。」

 

 

ハスミは一礼をした後にその場を去り、クロスゲートの間へと向かい転移の準備へ入った。

 

 

++++++

 

 

二日後、引き続き天鳥船島の神殿内部。

 

その長々とした通路に響く鎧の擦れる音。

 

神殿を管理する案内役の機械人形の一体の案内の元。

 

鎧の主とその部下数名は広間へと通された。

 

 

 

「…」

「久しいな、ストラウス。」

「…」

「用件はお前好みの戦い、指定した戦場を攪乱し蹂躙するだけだ。」

「…」

「そうだ、隙あらばフューリーと呼ばれる者達の移民船を掌握せよ。」

「…」

「この者は新たな同志、お前にも紹介しよう。」

 

 

金色の鎧の主ストラウスとの再会と呼びだした理由を告げたアウストラリス。

 

傍で控えている白銀の鎧を纏った存在の紹介を行った。

 

 

「この者の名はファウヌス、俺の片腕として認めた者だ。」

「!?」

「実力もお前達に匹敵し主に諜報と戦況予報を担当、アルシャト隊を指揮している。」

「…」

「お前と同様に鎧を纏っている……この意味は理解出来るな?」

「…」

「早速だが、ファウヌスを引き連れ指定の戦場に赴け。」

「…」

 

 

ストラウスは電子音の言語発生器で応対し命令を了承。

 

この世界におけるサイデリアルの初陣が開始されるのも時間の問題だった。

 

 

=続=

 




皇女は願う。

明日への希望に。

だが、願いは届かず追われる身となる。


次回、幻影のエトランゼ・第八十四話『落月《ラクヅキ》』


まだ鳥籠に入る時ではない。


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第八十四話 『落月《ラクヅキ》』

形は違えど闇に蠢く暗躍者。

それらを圧倒的な欲望で圧し潰す。

暗躍者達を超えた欲望が輝く。


反乱が起こると宣言した当日。

 

私ことハスミはアウストラリスの指示により、あちら側の世界からサイデリアルの総司令官ストラウスとハイアデス隊を転移させた。

 

当初、彼らは突発的な事で驚いていたがアウストラリスの指示である事を伝えると納得した。

 

次元震による転移に慣れているから出来る事なのだろう。

 

天鳥船島でアウストラリスと共に事情を説明、その足で月へと向かった。

 

 

******

 

 

月軌道周辺。

 

クロスゲートによる転移で移動したハイアデス隊。

 

部隊が転移したのと同時にそれは開始した。

 

予期されたフューリーの内部クーデターはハスミの予言通りに発生。

 

月にある空洞から数機の機動兵器が地球へ向かっていく姿が補足された。

 

 

『あれかい?』

『はい、あの集団は捨て置いて結構です。』

『じゃ、残りはこっちでパーティとしゃれこもうか。』

『お好きに。』

 

 

ハイアデス隊の旗艦プレイアデス・タウラのブリッジでストラウス総司令と会話する軍師ファウヌス。

 

互いに鎧を纏っている間は声で女と認識されない様に電子端末で会話を続けていた。

 

そこへ追従している艦隊の一つから部下である男性が通信を送って来た。

 

 

「ストラウス様。」

『ん、ダバラーンどうしたんだい?』

「ファウヌス殿と少々…その。」

 

 

本来自由奔放な性格のストラウスが皇帝の片腕とも称された相手と馴れ馴れしく話している。

 

この様子に嫉妬するダバラーンはファウヌスが男性と勘違いしていたのだ。

 

それを察したストラウスはダバラーンに告げた。

 

 

『何か勘違いしているみたいだけど、この子…女の子だよ?』

「は?」

 

 

同時に通信を聞いていたハイアデス隊の一部の兵士達。

 

ストラウスのカミングアウトには素っ頓狂な声を上げていた。

 

 

「What!?」

「Is it false!?」

「Are you serious!?」

 

 

カミングアウト後に私の横で鎧越しにお腹を押さえて震えているストラウス。

 

様子を表現するなら大草原を発生させている。

 

同時にノリが海兵隊なハイアデス隊の人達の混乱する様子に私は突っ込みを入れたい気分だった。

 

 

『…何か勘違いさせてしまってすみません。』

「いえ、此方こそ軍師殿に申し訳ない!」

 

 

盛大な勘違いをして落ち込んでいるダバラーンさんに私は謝罪をしておいた。

 

確かにあの人達は戦う事が好きだが、こういった事にも積極的らしいので単に悪い人達ではない。

 

一区切りで考えてはいけないと今更ながら思う。

 

 

『そう言えば、何で鎧なんて着けてるんだい?』

『理由はストラウス総司令が鎧を纏っているからです。』

『アタシ?』

『はい、建前はアウストラリスが仰る通りに威厳の関係ですが…同じ女として私だけ鎧無しと言うのは良くないと思いましたので。』

『……』

『ストラウス総司令?』

『いい子ちゃん過ぎてアタシ…涙出そう。』

 

 

あーノリがもうエクセレン少尉と同じタイプと悟ったファウヌス。

 

流れのまま、静かにストラウスから鎧越しで頭を撫でられていた。

 

そんなやり取りの後、お目当ての部隊が月面より現れた事を通信担当より報告された。

 

 

「ストラウス総司令、月面から敵部隊が出撃し此方へ向かっています。」

『じゃあ、始めようかね。』

 

 

ストラウスは鎧越しで各部隊に宣言する。

 

 

『野郎共!この世界でのアタシ達の初陣だ!!準備はいいかい!!?』

 

 

「「「おおおおお!!!!!」」」

 

 

『…(間近で見るけど覇気が凄い。』

 

 

プライドの高い騎士団とフリーダムな戦闘集団。

 

相寄らない相手同士、お手並み拝見としましょう。

 

 

『ファウヌス、相手のスペックは…』

『はい、相手の情報はお教えしない方向でよろしいですね?』

『判っているじゃない?』

『ストラウス総司令のお楽しみの邪魔は出来ませんので。』

『やっぱ、アウストラリスが選んだ事だけはあるね?』

 

 

本来であれば戦場を有利に進める情報を与えるべきだろう。

 

だが、根っからの戦闘狂には不必要な事。

 

今回は相手の力量を知る為の戦いであり、短期決戦に持ち込むつもりはなかった。

 

 

『一つだけ聞いていい?』

『何でしょうか?』

『アイツらの性格ってどんなの?』

『しいて言うなら他者を見下すプライドの高いエリート集団ですね。』

『なら、そいつらの出鼻を挫いてやるとするかね。』

 

 

先に攻撃を開始し始めたフューリーのフューリア聖騎士団。

 

その多くがグ=ランドン派の騎士達、残りは何も知らされていない末端だけだった。

 

相手はラフトクランズを筆頭にヴォルレント、リュンピー、ドナ・リュンピー、ガンジャールの混成部隊。

 

機体の一部にゾヴォーク製も含まれていたので既にゴライクンルと手を組んだのだろう。

 

交戦が始まった頃、最初は相手側の優勢に見えたが早い段階からこちら側へと戦況は有利になっていった。

 

この点に関してはストラウス総司令の戦術構築力が優れていると伺える。

 

 

『…(それでもラフトクランズの相手は彼らに荷が重すぎる。』

 

 

いくつかのラフトクランズがハイアデス隊のアンゲロイへ切り込みを始めた。

 

その様子にファウヌスはブリッジを後にしようとした所、ストラウスに引き留められた。

 

 

『ファウヌス、何処に行くんだい?』

『露払いへ行きます、宜しいですか?』

『まあ、アンタの実力も見たかったし…出るならこっちの射線上に気を付けておくれよ?』

『了解しました。』

 

 

戦況を巻き返そうとしたフューリア聖騎士団。

 

だが、たった一体の機体によってそれは覆された。

 

 

「アレは一体!?」

『…』

 

 

ハイアデス隊の旗艦から出撃した機体は戦場のど真ん中へと向かった。

 

その状況に気が付いたフューリーの騎士の一人が止めようと動き出すが…

 

 

『遅い。』

 

 

コックピットブロックを残してラフトクランズの一体が行動不能へと陥った。

 

それは一瞬の斬撃。

 

 

「あの動き、只者ではない。」

 

 

戦闘指揮を任された騎士のフー=ル・ムールーは自身のラフトクランズ・ファウネアから戦況を見ていた。

 

彼女はこの時点で知る由もなかった。

 

自身の部隊へ攻撃を仕掛けている相手もまた騎士の称号を持った存在である事を。

 

 

『まずは一体。』

 

 

黒い鎧に紫のラインが施された機体。

 

名をアルゲティオスと呼ぶ。

 

サイデリアルの軍師ファウヌスの乗機である。

 

 

『…(ラフトクランズは全て殲滅、後はラースエイレムを使用させて陥落させれば任務は終了。』

 

 

彼らを陥落させるには最も神聖で希望の象徴とされたラースエイレムが封じられる事。

 

それを起動するエネルギーをスフィアの力で奪ってしまえば、彼らもどうする事も出来ないだろう。

 

 

『切り札が離脱して頼みのラフトクランズがほぼ壊滅状態じゃ勝敗は決まったモノか…』

 

 

どの道、グ=ランドンはズィー=ガディンを出すつもりはないだろう。

 

この時点で出撃させてもアウストラリスには勝てない。

 

差があり過ぎる。

 

なら、今の所は大人しくしてもらって置こう。

 

 

『ファウヌス、向こうさんが降伏したから引き上げだよ。』

『了解しました。』

 

 

この日、地球政府と同盟を結んでいたフューリーがサイデリアルと名乗る存在に降伏した。

 

それは太陽系だけではなくサイデリアルの名を知る星間国家や星間組織にも影響力を与えた。

 

サイデリアルの出現により…この世界に置ける多元世界からの侵略は始まったのである。

 

 

******

 

 

木星から帰還した鋼龍戦隊の混成部隊。

 

彼らに齎された情報はガウ=ラ・フューリアがサイデリアルによって陥落した事である。

 

これによりフューリーからサイデリアルへ降伏宣言を行われた。

 

次の指示が下されるまでオービットベースに待機となった彼らも動揺を隠せなかった。

 

本来なら月軌道上の中継基地へ移動するのだが、サイデリアルによる月内部のガウ=ラ・フューリア掌握の件もあるので動けない状況が続いていた。

 

また、月面に点在する都市や基地を掌握される危険性がある以上は下手に行動出来ないが正しいのかもしれない。

 

木星帝国のシンヴァツによる地球への攻撃を阻止しなければ、結果的に地球に被害が出ていただろう。

 

それを見越してガウ=ラ・フューリアを掌握したのであれば、彼らの手の上で踊らされたと認識するしかない。

 

しかし、記憶保持者達はそうではないと理解していた。

 

理由は三つ。

 

 

『既にガウ=ラ・フューリア内で内乱が起こっていた事。』

 

『サイデリアルにハスミが居る事で事の次第は筒抜けである事。』

 

『彼らの切り札であるラースエイレムを使用されても対処方法がある為、陥落するのは時間の問題だった事。』

 

 

以上を踏まえて、今回の件は起こる事を前提で引き起こされた戦いであった。

 

時を同じくして地球に降下し伊豆基地に保護されたシャナ=ミア・エテルナ・フューラ皇女殿下。

 

彼女が信頼する臣下のエ=セルダとアル=ヴァン、トーヤ達の五人。

 

現在は政府上層部の方針が決まるまで身柄を置く事となった。

 

横槍が無ければ、流れ通りに鋼龍戦隊へ身柄を預けさせる事となるだろう。

 

それと同時に監視役となる二名の将校が選出される。

 

 

『流れのまま、真実を求めて戦い続けろ。』

 

 

それがハスミの残した新たなメッセージではないかと彼らは思った。

 

代償としてサイデリアルの出現が新たな戦乱を呼ぶ事になろうとも…

 

 

=続=

 




宣戦布告しよう。

ひ弱な意思を高ぶらせる為に。


次回、幻影のエトランゼ・第八十五話『布告《フコク》』


私はそれでも抗い続ける。


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第八十五話 『布告《フコク》』

これは必要な事。

これは目覚めさせる為の行為。

脅威となれば、反逆の意思は高まる。


サイデリアルによってガウ=ラ・フューリアが制圧されてから一か月後。

 

彼らは星間軍事連合サイデリアルと名乗りを上げた。

 

突如として出現したサイデリアルは手始めに月面に点在する施設を制圧。

 

事実上、月を自身らの拠点へと作り替えた。

 

彼らは月面都市並びに施設の住民への侵略行為は行わず静観を続けていた。

 

但し、地球政府並びに同盟を結んでいる異星人や組織への侵略は一切行っていないが…

 

それ以外は別の話である。

 

地球圏に侵略行為を行っている勢力へは積極的に戦闘行動を行っていた。

 

サイデリアル代表のアウストラリスは地球政府に声明を出し、こう告げる。

 

 

『脆弱な種よ…圧倒的な力へ抗う意思があるならば、かかってくるがいい。』

 

 

言葉の意味としては多種多様の種への宣戦布告。

 

彼らは抗う力を持つ者と戦う事を望んでいる。

 

その気になれば、現在の地球圏を手中に収める事が可能な戦力を秘匿していたとしても。

 

前回と同じ行動は控えつつ戦いの牙を研ぎ澄ましていた。

 

 

******

 

 

サイデリアルから宣戦布告を受けて数週間後。

 

地球政府は連合軍を始めとした同盟組織に対しサイデリアルへの攻撃を中止させた。

 

その理由はサイデリアルの情報を知る同盟組織からの忠告からだった。

 

 

『サイデリアルの中核を担う者達はスフィアを所持している。』

 

 

スフィア…空白事件でも名が出て来た謎のアーティファクト。

 

それは尋常ならぬ力を発揮し、戦場を引っ繰り返す事さえ可能な代物。

 

独立機動部隊ノードゥスに協力していた二名のスフィアリアクターは一方は所属する世界へ帰還し、一方は行方不明の状態。

 

スフィアに対抗するにはスフィアしかなく、現状では総攻撃を仕掛ける事が困難であると上層部で中止決定が下った。

 

もしも、上記のスフィアリアクター二名が残っていたのなら無謀とも言える総攻撃作戦は遂行されていただろう。

 

これにより地球側の行動はこの様な形となった。

 

問題は地球圏へ侵略行為を行っている勢力である。

 

此方に関してはほぼ惨敗し撤退を開始している勢力も出ている状態だった。

 

理由は説明するまでもないだろう。

 

閲覧者側から見れば、システムエラーを起こした無理ゲー状態なのだから。

 

言い方が悪いが、戦闘狂その壱、戦闘狂その弐、腹黒巫女、泥酔隊長、電波狂人の五名のスフィアリアクターが集結。

 

知らなかったとは言え、そんな連中の相手など誰もしたくもないだろう。

 

それはさておき…

 

月面にターミナルベースを構えたサイデリアルの一行。

 

彼らは現状報告と次の行動に移る為に会議を行っていた。

 

 

「それでは、定例会議を行います。」

 

 

私ことハスミ。

 

流石になぜなにナデシコなノリは無理なのでごく普通に事務的に行っている。

 

ナデシコクルーがやってこそのアレだと思っているので。

 

私はアウストラリス達にフューリー側の現状報告と皇女の亡命成功の件を伝えた後…

 

地球政府の状況を報告した。

 

 

「引き続き、こちら側の地球政府はサイデリアルと事を構える事はせず静観を続けています。」

「正しい判断と言うべきか…自分達の力量と現状を把握した上での決断だろう。」

「いえ、政府内で厄介な動きが起こったと思われます。」

「理由を話せ。」

「政府の行動がやけに大人しいのです、いつもなら馬鹿なタカ派が無謀な行動を取る…今回はそれが一切ない。」

「…」

「あのサイガス・エイロニーはそちら側の地球に居る……それにより行動を起こせる人物達は絞られる。」

「正体は?」

「元タカ派だった三輪、真空管ハゲと言った連中です、現在も梁山泊の最下層監獄へ収監されているのですが妙な気配が…」

「成程な、では…お前はどう見る?」

「バアル、負念の一部になったバラオの仕業かと…」

「奴らが動く理由は?」

「こちら側のスフィアの気配に感づいた、サイデリアルの侵攻を危険視した、御使いからのいつもの横槍のいずれかかと。」

「無事に疑似餌に掛かったようだな?」

「ですが、奴らを燻り出す為にはノードゥスが動く必要があります。」

「ならば、奴らに情報を与え…泳がせる必要がある。」

「アウストラリスのご指示前ですが、既に手は打ってあります。」

「ファウヌス、後の手段は任せる。」

「心得ました。」

 

 

アウストラリスとファウヌスのやり取りを静観していた三名。

 

その会話の後、ストラウスから感想を告げられた。

 

いや、正確には鎧を外したストラウスことエルーナルーナ・バーンストラウスからである。

 

 

「何か凄い事になっているけど…」

「いつもの事だ、ファウヌスの先を視ると識るは下手をすれば戦況を引っ繰り返せる代物だぜ?」

「そう、彼女が生まれつきアカシック・レコードからの情報を識る人間だからかな?」

「成程、こっちや向こうさんの動きも全部お見通しって事かい?」

「それはない。」

「へっ?」

「ストラウス総司令…私はアウストラリスとの決闘に敗れた時、敗者として知り得た記憶や知識の公表を制限されています。」

「あらーま…」

「…ストラウス総司令も決定された勝ち戦などされたくもないでしょう?」

「そうだね、判っているじゃないか?」

「私はアウストラリスの指示通りに行動し障害となる状況に対処するだけです。」

 

 

呆れた表情でガドライトは突っ込みを入れた。

 

 

「…そもそも命令云々前にお前はアウストラリスにゾッコンの癖によ。」

「///」

「え?マジ?」

「ガドライトさん…!!」

「ぷっwww。」

 

 

会議の最中の茶番、更に混乱へと突き進む。

 

 

「…フッ。」

「…(え、今…笑った?」

「…(すっげー違和感。」

「…(へえ、彼も笑うんだね。」

「アウストラリス、話がそれましたが……先程の条件で残りの作戦を進めても?」

「構わん、お前の采配に任せる。」

「承知しました。」

 

 

アウストラリスは最後にファウヌスにこう告げた。

 

 

「軍師、頼むぞ。」

「はい。」

 

 

その言葉を最後に会議の場を去った。

 

 

「さてと…皆さん、やる事は山ほどありますよ。」

「…(不味い予感が。」

「特にガドライトさんには…頑張って貰わないとですので?」

「そう来るかよ。」

「フフフ、口は禍の元って言うよね?」

「アサキム、お前もそう来るか?」

「まあ、面白いものが見れたしアタシはどっちでも?」

「では、複数の作戦とそれぞれの作戦の実行役を決めます。」

 

 

バアル、頸を洗って待っているがいい。

 

その先端を全て切り裂いてあげるわ。

 

 

=続=

 




突如として引き起こされた。

三つの結界は何を齎すのか?


次回、幻影のエトランゼ・第八十六話『異球《イキュウ》』


更なる悪意達を払う為に。


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第八十六話 『異球《イキュウ》』

因果律。

無限力が求めるモノは何か?

それは新たな力と時の流れによって変化する。



サイデリアルの月制圧から更に二週間が過ぎた。

 

未だ、サイデリアルは月とは別のエリアの侵攻を行っていない。

 

ある意味で静観し、逆に月を制圧しようとしている勢力を返り討ちにしている位だ。

 

それは地球政府にとって半信半疑の体制で注意深く監視しなければならない。

 

油断すれば、足元を掬われるのは自分達だから…

 

 

******

 

 

まず、今回の第一声はこれである。

 

 

「ねえ、アイツら弱くない?」

 

 

ビールジョッキを片手に敵の戦力が弱い事を告げる金髪の女性。

 

 

「正直に言うなら…奴らは地球圏の戦力を甘く見ていますので致し方ありません。」

「ふうん…成程ね。」

 

 

月のターミナルベースの基地内。

 

その一室にて休息を取っているエルーナルーナとハスミ。

 

表向きの鎧姿はしばしの休憩中である。

 

今まで進軍を行って来た相手に対して愚痴を言い合う仲に進展していた。

 

 

「私ならこう言いますけど、『一昨日きやがれ糞野郎!』とね。」

「ぶっ、アンタもそんな事を言うんだwww」

「その程度の連中への礼儀はこれ位でと思いましたので。」

「いいじゃん、もっと言ってやんなよ。」

「口は禍の元ですので必要以上には言いません。」

「…その毒舌でウチの部下が悲鳴をあげたけどね。」

「そうですか?飴と鞭は使ってますよ。」

「…(まー面白かったし多めに見て置くかな。」

 

 

エルーナはジョッキに残ったビールを飲み干した。

 

 

「ハスミ、おかわりは?」

「お酒はその辺で、これから次の作戦についての会議をします。」

「アウストラリスも人使い荒いね…ま、戦うなら大歓迎だけど。」

「戦う事は確かです、次の目標は…少々厄介ですよ?」

 

 

ハスミの発言に眼の色を変えるエルーナ。

 

 

「どんなのだい?」

「ゴライクンルの妨害です。」

「泳がせて置くんじゃなかったの?」

「その予定でしたが、話が変わりました。」

 

 

ハスミはコンソールを動かし室内に設置されたモニターにその詳細を映し出した。

 

 

「これを。」

「っ!?」

「奴ら、他に契約した別スポンサーと合流した様です。」

 

 

映像からズールら星間連合に物資を供給する状況が映し出されていた。

 

それらを手引きしているゴライクンルの幹部の姿も見えている。

 

 

「あらまあ、いろんな組織がチラホラとねぇ…」

「奴らもいがみ合っているつもりはないが建前で本音は……少し崩せば足の引っ張り合いは起こりますけど。」

「へぇ…面白そうだね。」

「倒すべき悪意が集中している所ですし…大元を叩いてしまえば、どうとでもなります。」

「苦戦を強いられる戦いは好きだよ……その分、達成感がある。」

 

 

狙ったモノは逃さない。

 

それが彼女、エルーナの欲望であり心情。

 

 

「植物型惑星…ディラドも進行しつつありますが、アレはノードゥスの獣機戦隊を中心とした部隊が行いますので手出しは無用です。」

「えー別に倒せばいいんじゃない?」

「人体に寄生する厄介な物質を奴らは扱う、貴方の部下に被害が及びますので避けたいが本音です。」

「そこまで…」

「調べるべき情報は調べ尽くし託して次に繋げる……それが私のやり方です。」

「いいんじゃない?それがアンタの決めたやり方ならね。」

 

 

やり方は変えない。

 

これから先も変わる事はないだろう。

 

それが私の決めた在り方なのだから。

 

 

「……知る事は出来ても止める事が出来ない事案もありますので万能とは言えませんよ。」

「どういう事だい?」

「これを見てください。」

 

 

ハスミはカーソルを移動させ、次の映像へと切り替える。

 

 

 

「地球だよね……あの辺に現れたのは一体?」

「次元断層の一種です。」

「で、あの中で何が起ころうとしているんだい?」

 

 

ハスミは極東エリアに現れた二つの異空間について答えた。

 

それは予言を伝えるかの様な語り方だった。

 

 

「一つは鳥の巨人は太陽だけにあらず月がその背に重なる、それは神鳥の巫女の目覚め。」

「…」

「もう一つは銅鐸を巡る戦乱、それは戦うべき時の訪れ。」

「…」

「最後は星の海より白き一角獣は黒き獅子と共に禁断の箱を巡る。」

「…」

「何人たりとも目覚めの時まで時のゆりかごを開けるな、これは定められた眠り。」

 

 

語られた事の前半は不明確だが、後半は理解したエルーナ。

 

 

「最後のはユニコーンとバンシィ…インダストリアル7のことだね、時のゆりかごはあの現象って事かい?」

「その通りです、察して頂いて有難いです。」

「所でアカシックレコードからの情報ってそんな感じなの?」

「そうですね、ほとんどが予言の様な内容で信託?が降りますから。」

「それじゃ解読するのも一苦労ってもんだね。」

「そうとも言えますが、ある程度の言葉をキーワード化すれば何とか解読しやすいと判っているので。」

「キーワード?」

「はい、先程の白き一角獣をユニコーンと言う様に特定の言葉をキーワードに置き変える感じですね。」

「それでアンタが知っている情報からキーワードに置き変えてるって訳かい?」

「そう言う事です。」

「…(アウストラリスがアンタを引き込んだ理由も何となく察したよ。」

 

 

ムトロポリスを含めた地区、ビルドベースを含めた地区、インダストリアル7を中心とした宙域。

 

以上のエリアがTOKYO JUPITERと酷似した現象に巻き込まれたのだった。

 

 

=続=

 




暗黒の脳髄が遺した災い。

それらが迫り来る。


次回、幻影のエトランゼ・第八十七話『闇兵《アンヘイ》』


恐怖を植え付けられたのはどちら?


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第八十七話 『闇兵《アンヘイ》前編』


闇の淵に潜む者。

彼らは復活の時を待った。

これはその証。

だが、彼らの復活は悪夢の始まりだった。

彼らにとっての悪夢の…



 

並行世界より齎された情報の一つTOKYO JUPITERに酷似した現象が発生してから一週間が経過した。

 

これにより三つのエリアとの連絡が遮断され途絶。

 

ムトロポリス、ビルドベース、インダストリアル7…

 

そのエリアに在籍、滞在中の仲間の安否は不明のままだった。

 

 

******

 

 

一方、その頃。

 

 

パリにある領事館に滞在中のメキボスの元へ現れた光龍。

 

その二人が鋼龍戦隊からの連絡を受けていた。

 

理由はサイデリアルと発生したTOKYO JUPITERの件である。

 

サイデリアルに関してはインスペクター…ウォルガでも危険視されていた。

 

前者に関しては次元力の研究が進まない以上は手出しが出来ない為、後者の話に進んでいた最中だった。

 

 

「成程な、噂のサイデリアルの本隊が出張ってくるとはね。」

『メキボス氏、そちら側でサイデリアルの情報は何処まで掴んでいますか?』

「正直、封印戦争で総大将の顔を拝めたのは奇跡に近い…こちらも奴らの兵力や規模を完全に把握できて居た訳じゃない。」

『そうですか…』

 

 

レフィーナとテツヤがメキボスに通信で話し合う中。

 

メキボスはある情報を告げた。

 

 

「だが、金色の戦艦の件に関しては情報がある。」

『その情報とは?』

「金色の戦艦の主はストラウス…サイデリアルの総司令官だ。」

『総司令官が自ら前線に出て来たと?』

「ああ…恐らく総大将もこちら側にまだ居るのなら戦力を呼び寄せている可能性がある。」

『向こう側はスフィアも所持している、やはり…事を構えるのは危険か。』

 

 

テツヤの判断は間違いではない。

 

スフィアに関しては現時点で情報が少なすぎる。

 

最も記憶保持者達が腹を割って話していれば事は進んだだろう。

 

だが、彼らにも理由があって話す事が出来ない状況だった。

 

知り過ぎれば、その喉元に刃が向けられるのだから…

 

 

「そうだな…俺からすれば、そっちの協力者…スフィアを持っている奴らと合流を条件で行動した方がいい。」

『サイデリアルの所持するスフィアがどの様な効果を持つ力なのかも未だ不明のままですからね。』

 

 

既に記憶保持者達からスフィアの所持者の情報を得ていたメキボス。

 

現時点で勝敗が掴めない以上は流れに任せていた。

 

 

「…(アイツらの話だと向こう側のスフィア持ちはアサキムを含めて六名…正直、分が悪い。」

 

 

話は継続し続けて質問されるメキボス。

 

 

『メキボス氏、もう一つ聞きたい事がある。』

「もう一つ?」

『一度撤退したザール率いる星間連合が再び進軍を開始した、その中にゲスト…そちら側の起動兵器が混じっていたとの事だ。』

「……そいつは厄介な案件だな?」

『と、言うと?』

「恐らくゴライクンルの連中だ、こちら側で言えば武器商人の様な役割を持っている。」

 

 

メキボスはゴライクンルの情報と同じ星間連合でも派閥の違う組織の為に手出しが出来ないと告げた。

 

 

「成程、それなら裏側の動きはこちらで調べようか?」

 

 

今まで静観していた光龍が提案を上げた。

 

 

「いいのか?」

「ハスミなら状況打開の為にそのゴライクンルや他の敵勢力の情報を虱潰しに調べる方針を告げると思うからね。」

「だったらゴライクンルと深く繋がっている連中を調査してくれ、他の方はゼフ達に調査させる。」

「艦長のお二人もそれでいいかな?」

『はい、情報は多い方が助かります。』

『お二人共、頼みます。』

 

 

テツヤとレフィーナは二人に礼を告げると通信を終える。

 

通信が終わった後、メキボスと光龍の話し合いが引き続き行われた。

 

 

「調べると言っていたが、アテはあるのか?」

「艦長の二人には申し訳ないけど、確実な事は既に判明しているよ?」

「どういう事だ?」

「君が言っていたゴライクンル…彼らもクロノと繋がりを持っている。」

「!?」

「ハスミも『利害一致からの同盟関係を前提としているが、何処かポセイダルと似た雰囲気が漂っている感じがする。』って言っていたし。」

「それは言葉通りに受け取ってもいいのか?」

「どうかな、ミスリードを含ませているかもしれないし…まだハッキリとしていないのかもしれないよ?」

「自分の娘の情報だろ…なら、信じるしかないんじゃないのか?」

「そうだね。」

 

 

酷似した状況を照らし合わせて情報を構築する。

 

経験し似た状況であれば、呑み込みが早く理解され安いからだ。

 

ハスミは照らし合わせる事で、必要であり与えられる情報を開示する方法を取っている。

 

 

「…正直な所。」

 

 

光龍は空気を読まない発言をボソリと答えた。

 

 

「僕としては、月のサイデリアルに殴り込みをして娘を連れ戻したいけどね。」

「…殴り込みの件は聞かなかった事にする。」

 

 

四霊の超機人が猛威を振るう事。

 

それは月を星図上から抹消する勢いである事を理解したメキボスは遠い眼でスルーを決め込んだ。

 

光龍は再び何時ものノリで話を続ける。

 

 

「と言う冗談半分はさておき、さっきの調査とは別件で現れる三馬鹿トリオのお相手をしなければならないから…一先ずはそっちに専念するよ。」

「三馬鹿トリオ?」

「そ、修羅の乱で僕が消し炭位にコテンパンにしておいたんだけど…案外しぶとくてね。」

「…(消し炭かよ。」

「流石は負念の一端と思ったよ、復活する為の負念が変わらず漂っている状態じゃ同じ事の繰り返しだし。」

「漂っている?」

 

 

光龍は負念についての新たな情報をメキボスに答えた。

 

 

「破滅の王・ペルフェクティオがこの世界に残した負念の残滓…アレが負念を糧にする連中の復活に必要な力を十分に持っている事は前の会議で話したよね?」

「ああ…」

「負念は本来…死の概念や負の感情とかネガティブな死者側のイメージが強い。」

 

 

光龍は続けた答える。

 

 

「時間は掛かるだろうけど、ばら撒かれた破滅の王の負念はこの世界に漂っている残滓に引っ付いて復活する。」

 

 

ケシカス程度の連中が力を経て天狗になる様に。

 

奴らは同じ負念の力を持つ存在と同調し融合の末に一つの存在に変異する。

 

あの破滅の王とまではいかないけど、それなりの奴が顕現するだろう。

 

 

「それが危険視している案件の一つか?」

「そ、で…もう一つは純粋な器が狙われる可能性がある事。」

「純粋な器?」

「生まれつき正念と負念の両方に至らない中間的な存在だよ。」

「…」

「そこへ負念の塊が入り込んだらどうなると思う?」

「真っ先に負念側に堕ちるって事か?」

「そう言う事。」

 

 

純粋な器。

 

それが誰の事を示すのか?

 

それを知るのは光龍の娘である彼女だけだろう。

 

 

=続=

 



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第八十七話 『闇兵《アンヘイ》後編』


最も自我を確立した者。

類は友を呼ぶ。

属する領域は違えど同じ概念を持つだろう。


 

メキボスとの話し合いを終えた光龍。

 

彼はパリの領事館から転移し、とある場所へと移動した。

 

それは封印戦争後、侵入不可となった筈の場所だった。

 

 

******

 

 

天鳥船島内部・ライブラリー区画にて。

 

 

「数か月ぶりだけど、中はそんなに変わっていないか…」

 

 

区画内は管理用の作業ロボットが数機ほど清掃をしている姿が見える程度。

 

以前はホルトゥスのメンバーが滞在し賑わいがあったのが懐かしい。

 

 

「彼らの避難場所を移動させちゃったし、静かになるのは当たり前だよね。」

 

 

現在のホルトゥスは光龍、カーウァイ、テンペスト、この三人の指揮下の元で行動。

 

外部とのバイパス役として光龍が交渉役、必要な組織内統率や各配備の手配はカーウァイとテンペストが行っている。

 

 

「それで、今後はどうする?」

「例の奴らが入り込んだのは確認しているが…」

「その件も含めて話そうか?」

 

 

同じ管理者であるカーウァイとテンペストの二名が合流。

 

光龍は鋼龍戦隊からの依頼の件も含めて情報交換へと入った。

 

 

「僕の方はクロノと手を組んだ組織の調査依頼を鋼龍戦隊から受けたよ。」

「また現れたのか?」

「…まあ、足の引っ張り合いが目に見えているけどね。」

「その組織とは?」

「ゴライクンル、ウォルガとは別系統の指揮下にある武器商人らしい。」

「…」

「そのゴライクンルがフューリーのクーデター組と同盟を結べない様にサイデリアルに仕掛けさせた…それがハスミの予防線の一つだったみたいだね。」

「ハスミが視たと言う時系列では、今回の戦いはフューリー…グ=ランドン側が地球側へ戦闘行為を行った。」

「更にガディソードやダークブレイン軍団の侵攻…」

「最後にバルマー本星からの偵察部隊の暗躍、例外は各所で起こった次元断層位かな。」

「光龍、更に別の組織からの侵略若しくは侵攻の気配はあったのか?」

「それも調査中…ただカーウァイの言う様に僕らも把握しきれていない組織や現象も出てくる可能性もある。」

 

 

無限力の意思は前回の件で動きを見せていなかったが、再び干渉し始めた。

 

ハスミの言葉を借りるなら必然であり時期を見ての行動だろう。

 

 

「新たな組織の発見は兎も角…現象に関しては厄介でしょう。」

「…そうだな。」

「二人共、悲観している余裕はないよ?」

「判っている。」

「今は我々に出来得る事を進めよう。」

「そーそー、何事もハッピーに…ね?」

 

 

ネガティブな感情は負念を助長させてしまう。

 

希望の象徴となる彼らの負担を避ける為にも自分達も己の希望を絶やす事をしてはいけない。

 

 

「ん?」

「これは…」

「光龍。」

「二人も感じ取ったみたいだね。」

 

 

後天的念動力として覚醒したカーウァイとテンペスト。

 

封印戦争開始前の覚醒から時間が経過している為か念の扱いに慣れつつあった。

 

 

「何者かがクロスゲートが開いたのか?」

「…いや、勝手にこじ開けられたが正解。」

「光龍、まさか…」

「そ、二人も感じ取った通り…この気配はセントーの街で出会った奴だよ。」

 

 

「「…(ビキ。」」

 

 

光龍の言葉にカーウァイとテンペストの空気が一瞬で凍り付いた。

 

それもその筈、修羅の乱で遭遇し義娘に傷を付けた相手なのだから…

 

 

「テンペスト。」

「何でしょうか、隊長?」

「奴に遭遇したとすれば、どうする?」

「…その回答に言葉は要らぬでしょう。」

 

 

その回答に言葉は不要。

 

その意味は既に言葉にせずとも決まっていた。

 

 

「この世界に来訪した事を後悔させてやるだけです。」

「無論、跡形もなく消し炭にする事も忘れるな?」

「そうそう、そう来なくっちゃね……僕らの娘に傷を負わせた鏡餅君には痛い眼に遭って貰わないとね?」

 

 

二人の会話に光龍もまた揚げ足を追加する様な発言を加えた。

 

悪い事にこの会話が如何に末恐ろしい事であるかを表現する者はこの場に存在しない。

 

そう、残念な事に…

 

 

>>>>>>

 

 

先程の光龍らのやり取りから数時間前の事である。

 

ここ伊豆基地では鋼龍戦隊のメンバーが集結していた。

 

が、全員ではない。

 

ヒリュウ改は主力級を引き連れて『ラブルバイラ』と呼ばれる拠点と共に転移してきた異星人ガディソードとの会談の為に転移装置で宇宙へ上がってしまっている。

 

更にサイデリアルの出現により、元ノードゥスのメンバーも各方面に駆り出されている状態だった。

 

最も戦力を集中させているのは獣機戦隊を中心とした部隊だろう。

 

地球へ接近しつつある植物型惑星ディラドの襲来に備え、一部の外宇宙組と合流し対処に当たっている。

 

クロガネは軍とのつながりが緩いメンバーと共に『クロスゲート・バースト』による現象で地球に落下したと思われるアンノウンの捜索。

 

更に現在行方不明中であるゼンガー・ゾンボルトの捜索中の為、こちら側に訪れる事が出来ずにいた。

 

封印戦争後、友好的な同盟を結べたと思われていたフューリー。

 

その内部でクーデターが発生、グ=ランドンによるフューリーの反乱が行われつつあったが…

 

突如出現したサイデリアルにより完全降伏する事となった。

 

理由は彼らの切り札とも言える『ラースエイレム』が封じられた事が切っ掛けだった。

 

クーデターの最中、サイデリアルの襲撃もあり皇女シャナ=ミアはエ=セルダとアル=ヴァン、カルヴィナの手で難を逃れる事となった。

 

因みに禁士団所有の決戦兵器だったクストウェル・ブラキウムはシャナ=ミアの指示で一度強化外装を外されメンテナンス中だったのをカルヴィナが脱出の際に搭乗。

 

その為、グランティード、クストウェル、ラフトクランズ・アウルンでの脱出となった。

 

だが、グランティードとクストウェルの強化外装は未だガウ・ラ・フューリアの中である。

 

ベルゼルートは地球側で修復中だった事もあり実質四機での運用可能と言う形となった。

 

そして地球政府との会談でシャナ=ミアは鋼龍戦隊と共に行動、後にフューリー奪還を目指す事となる。

 

その懸け橋としてリリーナ外務次官らの協力もあったとの事だ。

 

 

「そう言う事があったなんて…」

 

 

伊豆基地の食堂スペースにて。

 

再会したフューリー組はそれぞれの動向を確認し合っていた。

 

因みにシャナ=ミアはリリーナ外務次官らと話し合いの為に不在。

 

先程の発言の皮切りはテニアからだ。

 

 

「けど、シャナ=ミアや父さん達が無事で良かった。」

 

 

無事であった事を安堵するトーヤと三人娘達。

 

しかし、カルヴィナやアル=ヴァン、エ=セルダの表情は複雑なままだった。

 

 

「間一髪って言いたいけど…アリー。」

「…ああ。」

「どうしたんですか?」

 

 

二人の様子にカティアが質問。

 

その問いにエ=セルダが答えた。

 

 

「あの時、サイデリアルの襲撃がなければ全員無事に地球へ降下する事は出来なかった。」

「それって…」

「あのハスミ・クジョウが関わっているって事よ。」

「でも、あの人ってサイデリアルに無理やり投降させられたんじゃ?」

「そうですよね?」

 

 

カルヴィナは脱出に一役買った仕立て人の正体を告げた。

 

その答えにテニアとメルアは?マークを浮かべる。

 

 

「…あの時、私はそうには見えなかったわ。」

「どういう事ですか?」

 

 

カルヴィナはその答えを渋った。

 

確証がない答えに意味がないから。

 

 

「ただ…何となく、ね。」

「…(カルヴィナさんも気づいたんだ。」

 

 

答えを渋ったカルヴィナの様子にトーヤは静かに悟った。

 

彼女がサイデリアルへ下った理由の一つを知っている為だ。

 

 

「トーヤ、先の話し合いの通り機体運用の件についてだが…」

 

 

長引く話を切り上げ、エ=セルダは本題へと移した。

 

 

「やっぱり、父さんがグランティードに?」

「いや、クストウェルを使わせて貰う。」

「エ=セルダ様、グランティードは…」

「皇国の剣であるが、次代を担う者へとシャナ=ミア様と決めた事だ。」

「…」

「トーヤ、修羅の乱でお前が見せたヴォルレントの動き……悪くはなかったぞ?」

「父さん。」

「だが、トーヤ…訓練の難易度を今以上に上げて行くが覚悟はあるか?」

「…覚悟は出来ている。」

 

 

前世と同様にグランティードと共に戦う事を決めたトーヤ。

 

封印戦争時、臨時で搭乗していたものの…

 

その覚悟は既に出来ていた。

 

彼の表情に一片の曇りを感じられなかったのを確認したアル=ヴァンもまた彼を認めた。

 

 

「…」

「まだ、反対する?」

「いや、彼の決意は本物だ…否定はしない。」

「そう、なら私はベルゼルート、アリーはラフトクランズの配置でいいのかしら?」

「ああ、乗り慣れた機体の方が扱いやすいだろう。」

「父さん、テニア達は?」

「引き続き、状況に応じて各機体に乗り換えて貰う。」

 

 

エ=セルダの言葉に疑問状態になる三人娘達。

 

 

「あれ、全部で四機だよね?」

「でも、ラフトクランズとクストウェルは一人用で…」

「グランティード、ベルゼルートは複座。」

「一人余るよね?」

 

 

三人娘の複雑な反応にエ=セルダは助言する。

 

 

「それは安心していい、クストウェルは元々有事の際に玉座機の護衛として扱う機体…アシュアリーに複座式する手配は既に行っている。」

 

 

「「「よ、よかった。」」」

 

 

「通りで一人用のコックピットにしては広すぎる感じがした訳ね。」

「元々は皇族護衛の任を持つ機体の一つだ、建造当時は複座だったと思われる。」

「…成程。」

 

 

そんなフューリー組の話し合いが続く中でハガネに残った部隊。

 

戦技教導隊やクライ・ウルブズの話し合いも続いていた。

 

封印戦争時、ホルトゥスに救助されたアルベロとフォリア。

 

後にガルべルスのラズムナニウムに取り込まれてしまったヒューゴを救う為に協力し、そのまま鋼龍戦隊に下った。

 

封印戦争後、再びクライ・ウルブズを再結成し今に至る。

 

戦技教導隊はカイを筆頭にラミア、オウカ、アラド、ゼオラ、ラトゥーニ、ATXチームよりアリエイルが参加している。

 

尚、ATXチームはヒリュウ改の方へ移動しそちらの任へ就いている。

 

アリエイルが戦技教導隊へ移ったのは地球軌道上に現れた変異アレス・ガイストの件である。

 

封印戦争後、ファブラ・フォーレスで撃墜された筈の機体が何故復活し現在も逃亡中。

 

行方を追うにもアレス・ガイストも地球に降下している事もあり、アリエイルが地上側に残った訳である。

 

続けてクライ・ウルブズはアルベロを筆頭にヒューゴ、アクア、フォリアそして…

 

 

「アクア、どうだ?」

「うーん、まだ緊張しているわね。」

「やっぱり、ゲシュペンストの外装が不味かったか?」

「…」

 

 

食堂のテーブルの上に鎮座するオレンジ色でゲシュペンストmkⅡの姿をした1/144のロボット。

 

アクア、ヒューゴ、フォリアの三人に見られた状態で動きを見せていない。

 

 

「元AI1だったとしても根はまだ子供、自分でもどう接していいのか良く分かっていないのだろう。」

「んで、親父ならどうする?」

 

 

このゲシュペンストは封印戦争後にファブラ・フォーレスより回収されたAI1。

 

母親だったエルデ亡き後、そのコアはクライ・ウルブズに引き取られた。

 

エルデの最後を知る存在で彼女より『生きて、未来を…』と言う言葉を残された。

 

その言葉の意味を知ろうと本人の希望もありクライ・ウルブズと共に行動している。

 

 

「AI1の名のままが良いのならそのまま呼称する、生まれ変わった以上は新しい名前で生きる事も選択の一つと思うが?」

 

 

アルベロは静止したままのAI1に告げた。

 

自分自身で道を選ばせる事もまた本人の為だと。

 

 

「…」

「やっぱり、まだ怯えているのかしら?」

「いや、親父の顔が怖いからじゃ…あでっ!?」

「お前は一言余計だ。」

 

 

アクアの心配を余所にフォリアの茶化しが入るが、余計な一言でアルベロより拳骨を喰らう事となる。

 

 

「つけて…」

「え?」

「つけて…なまえ。」

 

 

AI1は静かに言葉を発した。

 

 

「この子、今…名前を付けてって。」

「名前かぁ…」

「元の名前がAI1…とすると。」

 

 

アクア達がAI1の新しい名前を考えているとアルベロが一案を出した。

 

 

「母親の名前からEと元の名前のL…イルはどうだ?」

「イル?」

 

 

その言葉にAI1は少し考えてから答えた。

 

 

「イル……ボクは…イル。」

「結局、親父が決めちまったか…」

「でも、気に入っているみたいよ?」

「それじゃ、イルに決定でいいか?」

「…」

 

 

ヒューゴの返答にAI1改めイルは了承の意で首を縦に振った。

 

 

「イル、これからもよろしくな。」

「はい。」

 

 

イルは引き続き、クライ・ウルブズのサポートメカとしての立ち位置で行動。

 

クライ・ウルブズで使用している機体はガルムレイド・ブレイズ、サーベラス・イグナイト、メディウス・ロクスの三機。

 

ガルムレイド・ブレイズとサーベラス・イグナイトはヒューゴとアクアのペア、フォリアとイルのペアで使い分けている。

 

アルベロは一人乗りに改修したメディウス・ロクスに搭乗。

 

複座式の機体が多いので結果的に三機での運用になっている。

 

そんな話し合いの中で第一種戦闘配備の連絡と警告音が鳴り響いた。

 

 

******

 

 

大阪・梅田地区。

 

封印戦争後、更に数日前の新宿、浅草方面で出現し日を追う毎に出現する様になったラマリス。

 

そのラマリスが西日本方面でも姿を見せる様になったのだ。

 

現場に居合わせたミチル・ハナテンはショウコのGサンダー・ゲートで輸送されたGバンカランに搭乗し応戦。

 

続けてハガネの到着も間に合い、ラマリスの掃討が継続した。

 

だが、同時に予期せぬ来訪者達が現れた。

 

 

「久しぶりだなぁ~ロア?」

「…」

「ホンマや、久しぶりやなあ?」

 

 

ゲートらしき現象で現れたダークブレイン軍団。

 

順にデブデダビデ、クリスタルドラグーン、スカルナイトと名乗った。

 

この時点で出現していたのはクリスタルドラグーンとデブデダビデの二体。

 

スカルナイトの出現は早期すぎた。

 

 

「大仏に栗金団にスカル野郎の登場かよ!?」

「デブデダビデ、クリスタルドラグーン、スカルナイトだからねお兄ちゃん。」

 

 

Gコンパチカイザーでいつものやり取りをするコウタとショウコ。

 

緊張感がないのは変わらずである。

 

 

「ラマリスに続いてダークブレイン軍団ってキリがないじゃない。」

「それでも奴らを止めるしかない。」

「そうは言うけどよ、ラマリスは同時破壊…おまけに幹部級の登場だぜ?」

「きけん…?」

 

 

クライ・ウルブズの実況が始まり…

 

 

「カイ少佐、ラマリスの同時掃討とダークブレイン軍団の迎撃に部隊を分ける必要があるが?」

「そうだな、避難民の誘導が続いている以上は…こちらも足止めになる。」

 

 

アルベロとカイで状況打開の為の通信。

 

他は狙ってくるラマリスを掃討に専念していた。

 

 

「だぁはっは!!ロア、さっきまでの威勢はどうした?」

「うるせぇぞ!」

「ふん、減らず口もそこまでだぁ~!!」

 

 

Gコンパチカイザーへ再度攻撃を仕掛けようとするデブデダビデ。

 

だが、奴の企みは新手の存在によって防がれる事となった。

 

 

「炎の…矢!!」

「氷の…刃!!」

「碧の…疾風!!」

「金剛の弾道!!」

「隙だらけだ…!」

 

 

デブデダビデへと向かう魔法の総攻撃。

 

 

「な!?」

 

 

その攻撃が放たれた先に現れたのは…

 

 

「やっぱり、鋼龍戦隊の皆だ!」

「一体、これ…どうなっているの?」

「判りません、私達がセフィーロに居た間に何が…」

「その話は後で説明するから合流を急いで。」

「イルイ、ハガネへ一度降りて貰うぞ?」

「うん。」

 

 

順に光のレイアース、海のセレス、風のウィンダム、ロサのエザフォス、ピートのアシュセイヴァー。

 

 

「あれは魔神に機神…ロサ達か?」

「副長、彼女達は?」

「彼女達は味方です、所属は防衛軍の扱いになりますが。」

「そうか。」

 

 

テツヤは彼女達に艦周辺へ移動して貰い簡易的な状況を伝えた。

 

その間にイルイはアシュセイヴァーよりハガネのブリッジへと転移した。

 

 

「事情は分かりました、そちらの指示に従います。」

「テツヤ副長、イルイの保護を願います。」

「判った。」

「皆、気を付けて。」

 

 

イルイの無事を確認した後、彼女達は戦闘中のコウタらの元へ急行する。

 

 

「ショウコ、大丈夫?」

「光、海、風、三人共…今までどうしてたの?」

「それは後で話すね、今は…」

「ああ、この大仏野郎共をぶった倒さねえと!」

「くそぅ、奴らも魔術を使うのか…!」

「魔術と言うよりも魔法が合っていると思いますけど?」

 

 

魔術は術式を組み込んで行う、魔法は精霊などから力を借りて行う。

 

その違いを律儀にデブデダビデへと説明するロサ。

 

 

「…」

「なので、デデデさん訂正してください。」

「デデデだとぅ!?」

「デブデダビデ、略してデデデさんです!そのお腹…グルメレースでメタボリックシンドロームまっしぐらみたいですしダイエットをお勧めしますよ!!」

「で!?」

「ぶっ!デデデやて…ぶっはっはははは!!!デブ公、随分と良い仇名付けられたもんやな?」

「ナサケナイ。」

「ぐぬぬぬぬ~っ!!!うるさーい!!」

 

 

続けて真面目な忠告のつもりで発言したロサだったが、どう見ても火に油を注ぐ発言である。

 

その発言に噴き出すスカルナイトと呆れた声を出すクリスタルドラグーンに地団駄を踏むデブデダビデ。

 

 

「ロサさん、相変わらずですね?」

「寧ろ天然度がアップしているわよ?」

「アハハ…」

「だが、敵の動きが乱れた…巻き返すのなら今だ。」

 

 

その様子に苦笑い気味のマジックナイト達と正論を答えるピート。

 

ピートの言葉通り、動きに乱れが生じたデブデダビデ達はこのまま一気に巻き返される事となる。

 

 

「く、くそぅ!」

「フカク…。」

「潮時やな、ワイらもやるべき事をやらんと?」

 

 

スカルナイトの言葉で三体は撤退を開始。

 

同時に残存していたラマリスを回収していった。

 

 

「デデデさん、今度会ったら地獄のダイエットメニューです!」

「ロサ、方向性が違う方に行ってるわよ?」

「ロサさんの天然も時に役立つ事もありますわね。」

「ロサ、それよりも…」

「えっと、御免なさい…大事な事を言いそびれそうになりました。」

「光、お前ら今までセフィーロに居たんだろ?」

「その事なのですが…」

「どうしたんだ?」

「…セフィーロ、オートザム、チゼータ、ファーレンがサイデリアルに降伏したんだ。」

「何だって!?」

 

 

光達の発言は新たな戦乱を呼び込む言葉だった。

 

 

>>>>>>

 

 

大阪での激戦の末に撤退するダークブレイン軍団。

 

この時、ハガネに一通のメールが届いていた。

 

その内容を確認したオペレーターの一人であるエイタは素っ頓狂な声を上げてしまう程だった。

 

 

「ひっ!?」

「どうした!」

「副長…ホルトゥスの孫光龍より入電、『あの鏡餅達の後始末はこちらで引き受ける。』との事です。」

 

 

「「「…」」」」

 

 

エイタの発言でギント艦長以外の副長以下全ブリッジ要員達が表情を青褪めさせた。

 

 

「テツヤ副長、どうした?」

「いえ、少々……悪寒が。」

 

 

艦長らのやり取りにアヅキらブリッジ要員らは心の底でボソリと呟いた。

 

 

「…(言えないですよね。」

「…(そうだよな。」

「…(こぇえええ。」

「…(実際見ていないと説明しにくいと言うか何と言うか。」

 

 

そして『知らぬが仏』と言う言葉は彼女らの脳裏を過ぎるのだった。

 

 

******

 

 

鋼龍戦隊と交戦し撤退中だったダークブレイン軍団。

 

その拠点への帰還道中の事である。

 

突如、海上で発生した現象に巻き込まれた三人。

 

その場所とは『限仙境』と呼ばれる異空間だった。

 

 

「そこの三馬鹿トリオ君達、お久しぶりだね?」

 

 

異空間の中で応龍王に搭乗した光龍からの発言。

 

 

「お、お前は!?」

「僕だけじゃないよ、君達に恨みがあるのは?」

 

 

光龍が両手で左右に視線を案内させると怨念の籠ったオーラを纏った二体の機体が待機していた。

 

 

「「…」」

 

 

アルブレード・カスタムとエクスガーバイン・アクストに搭乗したカーウァイとテンペストを紹介。

 

但し、二体の形状は封印戦争時よりも様変わりしていた。

 

所謂バージョンアップされた機体での登場である。

 

 

「あ、そうそう…」

 

 

光龍は取って付けたかの様な台詞を答えた。

 

 

「ここで簡単に逃げられると思わない事だね?」

「セントーの街では随分と後手に回された。」

「ここで貴様らを仕留めても文句はないだろう?」

「そう言う事で……もう少し粘って貰うよ?」

 

 

光龍、カーウァイ、テンペストの三名から告げられた処刑宣告。

 

只でさえ鋼龍戦隊と事を構えていたダークブレイン軍団の三将軍。

 

ある程度のダメージを引きずりながら次の交戦を余儀なくされた。

 

 

「…」

「おーい、デブ公。」

「…泡ヲ吹イテイルゾ。」

 

 

彼らの怒りの原因を造った張本人であるデブデダビデに関しては情けなく白目顔からの泡を吹き気絶しかけていた。

 

その様子に二人もウンザリと諦めに近い表情で発言を告げた。

 

 

「…ワイらもタチの悪い相手を敵に回した様やな。」

「…ソウダナ。」

「…(ブクブク。」

 

 

今後もこんなフレーズの『教訓・地球の親バカには手を出すな』と言う名言が浸透するだろう。

 

これによりダークブレイン軍団は更なるダメージを蓄積し拠点あるダークアイアンキャッスルへと引きこもる事となった。

 

流れの予定だったダークブレイン軍団によるバラルの園や天鳥船島への襲撃を止める為の茶番劇であろうとも。

 

そして、ペンタゴナワールド、ドキドキスペース、セフィーロ側の世界へ進軍を開始したサイデリアル。

 

新たな戦乱と共に世界の混乱は続くのだった。

 

 

=続=

 





砂塵に潜む深淵。

その淵に堕ちたのは罪人。

彼らの悪意もまた奴らの糧。


次回、幻影のエトランゼ・第八十八話『牢獄《プリズン》』


穢れを仕留めよ。


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伏の付箋


伏線は繋がる。

それはある意味で答えを導き出す。

そう必要な答えを…


 

大阪・梅田地区での戦闘を終えたハガネ。

 

戦闘後に合流したマジックナイト達から情報を提供して貰う為に伊豆基地へ移動。

 

同時にラブルバイラでの会談を終えてパリ経由で帰還したヒリュウ改。

 

二艦は『鋼龍戦隊』として活動する為に伊豆基地へと合流していた。

 

更にクロガネも遅れて合流し『封印戦争』の頃の足並みが揃いつつあった。

 

それは『無限の開拓地』からの異邦人と言う新たな仲間と共に一つの真実を携えて…

 

 

******

 

 

伊豆基地にある会議スペースの一つに鋼龍戦隊のメンバーが集められた。

 

一つは新たに加わった仲間の紹介。

 

一つは帰還したゼンガーがサイデリアルのアウストラリスらと一時期行動を共にしていた事。

 

そして各地で起こった不可解な事件の真相を説明する為だった。

 

先に自己紹介からの流れとなった。

 

 

「俺はハーケン・ブロウニング、向こうでは陸上戦艦の艦長を務めていた。」

「アシェン・プレイデル、そこのむっつりW03と同じ戦闘アンドロイドだ。」

「ハーケン艦長、アシェンさん、お久しぶりです。」

「久しぶりだな、リトルメカガールにブラザー03。」

「相も変わらずの天然だな。」

「天然?」

「ロサ、疑問に思うのはそこではないと思うが?」

 

 

かつてエンドレス・フロンティアに転移経験のあるロサとその世界で数年間稼働していたピートも話に入っていた。

 

 

「お二人がここに居るって事は…シュラーフェン・セレスト辺りの転移装置が原因ですか?」

「よく分かったな?」

「以前もアクセルさんとアルフィミィさんもそのゲートで転移していたので…半分は推測です。」

「こういう所はお前も見習って欲しい所だな?」

「ほっとけでやんす。」

 

 

ハーケン達の話からアグラットヘイムとの戦いの後に新たな転移者が現れる可能性もあるので定期的に転移装置のある施設へ監視を開始。

 

旧ロストエレンシア側の転移装置は担当はハーケン達、残りのエリアの転移装置は手分けして監視する様になったとの事。

 

その最中にゼンガーがシュラーフェン・セレストの転移装置で転移、ひと悶着の末に更に転移に巻き込まれ物質界の秋葉原に転移したとの事。

 

この流れから巡り巡ってオロスプロクスの戦いに巻き込まれた形となる。

 

 

「だとすると、ハスミ達と合流出来たのも偶然じゃなさそうですね。」

「どういう事だ?」

「ハスミは以前遭遇した九十九事件からの繋がりで一定の縁が出来ている…って話していました。」

「確か、空白事件の次元震もその前兆だった可能性もあると言っていた。」

「ピートの言う通り、転移騒動には何かの大きな力が関わっているかもしれないって。」

「そのビックな力って言うのは?」

「判りません、ただハスミは…物凄い怨念の籠った声で『潰す』って毒づいてました。」

「そこは相変わらずか…」

「辞書娘の敵味方問わず毒舌連撃は艦長もタジタジでやんす。」

 

 

再会の言葉もそこそこに『眠り病事件』に関わっていたオロスプロクスと呼ばれる集団との戦いの説明が行われた。

 

 

眠り病はラマリスに支配されたガディウスとジョーカーよって復活したナハトゥムにより引き起こされ、奴らを倒した事で終息を迎えた。

 

問題は並行世界にもラマリスやそれに近しい存在が出現していた事である。

 

ゼンガーはある人物から情報を託された事を伝えた。

 

 

「では、各地で起こった眠り病と言うのは負念…ラマリスが関わっていると?」

「はい、更にこちら側でも出現しているラマリスの現出…その原因についてをハスミから託されました。」

「何だと?」

 

 

鋼龍戦隊の新司令官に着任したマイルズ・ブースロイドを始めとした上官達も驚きの声を上げた。

 

 

「ラマリスの出現…その原因が曰く付きの土地に澱む負念が原因あるとの事です。」

「曰く付きの土地?」

「あの…その事で私も説明に入っても宜しいでしょうか?」

 

 

ロサが挙手し説明に加わって良いかの判断を貰おうとした。

 

 

「発言を許可する、何か知っているのか?」

「はい、皆さんと合流する前…丁度ラマリスが新宿で出現した後の事なのですが…」

 

 

ロサは答える。

 

新宿を含む東京の各所に現れたラマリスの出現場所に心当たりがあると。

 

その出現場所は鎧神社、水稲荷神社、築土神社、神田明神、地名を答える事やむやみに行ってはならない場所、兜神社、鳥越神社である。

 

光達の協力で調査した所、その場所の塚が全て破壊されていた事だった。

 

 

「先程答えた場所は北斗七星を象ったレイラインとも呼ばれる場所で古き怨念を鎮める塚が点在しているエリアです。」

「…あの有名な武将の。」

「他にもこの事から世界各地のラマリスの出現場所が歴史上で曰く付きの土地だと推測出来ます。」

「ふむ…ならばジャカルタに出現した事も頷けるな。」

「はい、旧西暦の歴史の中で『東洋の墓場』と言う側面もありますので…ただ本来なら負念があのラマリスへ象る事は本来出来ない筈なのですが。」

「その理由は?」

 

 

本来負念は霊的概念と似たもので位相差の違いからこちら側の物質…人やモノ様に象る事はごく稀である。

 

今回の様に負念の多くがラマリスと言う形に至れたのはある事が原因であると。

 

 

「破滅の王の残した負念の残滓とこの前の大きなエネルギーの爆発…あのクロスゲートバーストも原因の要因だと判断します。」

 

 

ロサの回答に対しテツヤとレフィーナも納得の声を上げた。

 

 

「確かに、あの現象で地球に無数のエネルギーの束が地上に落下した。」

「それがラマリスの出現原因の一つだったなんて…」

 

 

続けてロサはそう言った霊的な事象に詳しい人物から情報を得ていた。

 

 

「その事でバラルの泰北さんにクロスゲートバースト発生時のエネルギーの流れのデータを頂いて、それを元に調べてみました。」

「何か判ったのか?」

「はい、あのクロスゲートバーストで流出したエネルギーは純粋な水そのもの…負念と結びついて負念側にエネルギーが変換されてラマリスに変化したみたいです。」

 

 

簡単な説明にすると只の水をエネルギーとし負念と言う泥を混ぜると濁ってしまう様なものである。

 

泥を例えとしたのは沈殿すると砂と水に分離する様に浄化する事が可能な為だ。

 

 

「ハスミは以前発生した次元震でも同様のエネルギーの流れがあったと話していたのでクロスゲートバースト前に現れたラマリスはそれが原因だと思います。」

「ラマリスの発生原因並びに眠り病事件の真相は分かった、問題はサイデリアルがこちら側の政府と同盟を結んでいる異世界の国家を侵略した事だが…ゼンガー少佐、それについては何か話していたか?」

「いえ…自分が託されたのはラマリスと眠り病事件の真相についてです、時期的に見て異世界侵攻に関しては自分が別れた後からの活動と思われます。」

「ふむ、奴らの目的は判らず仕舞いか…」

 

 

サイデリアルによる異世界侵略。

 

その過程でセフィーロと同盟を結んでいる国家三国、王制度から共和国体制に切り替わったペンタゴナワールド、惑星アースト、アースティア、アララ王国、エドン王国が次々とサイデリアルによって侵略された。

 

そちら側への転移も抑えられている事もあり、手出しが出来ずにいた。

 

例え救援を出せたとしても、こちら側の戦乱が収まった訳ではないのでどうしようもない。

 

事情を知る者達でなら感づいたであろう。

 

彼らの目的が『レイライン』と『ターミナルベース』の設置、ある理由からの『霊子結界』の確立なのだから…

 

 

「だが、得られた情報も多い…我々は引き続きラマリス討伐の任に。」

 

 

会議スペースに入る緊急通信。

 

レイカー司令からである。

 

 

「会議中の所申し訳ない、至急鋼龍戦隊の出撃準備を急がせて貰いたい。」

「レイカー司令、一体何が?」

「国際警察機構本部・梁山泊にラマリスが出現し……サイデリアルが現れた。」

 

 

=続=



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第八十八話 『牢獄《プリズン》』


裁きが下るのを待つ悪意が繋がる地。

それはある者達への糧。

より巨大な悪意へと変貌する為の供物。



 

梁山泊からの救難連絡を受けて急行を急ぐ鋼龍戦隊。

 

三艦の空間転移装置の装備も完了し準備が整い次第出撃を開始した。

 

猶、前回合流したマジックナイト達はラマリス掃討協力と異世界侵略に関する緘口令の為に鋼龍戦隊が預かる形となった。

 

地球防衛軍・上層部へは事情説明を行っており、表向きはラマリス討伐協力と言う形になっている。

 

この現状でサイデリアルの異世界侵略の件が余計な不安を与える切っ掛けとなってしまう。

 

統合参謀本部は現在進行形で起こっている戦いが収まるまでと打開策案を平行して模索する形を取ったのだ。

 

前線で戦う彼らには不満の声を出されるだろうが…

 

異世界へのゲートが全て封鎖された上にラマリス出現や新たな戦乱が収まっていないこの状況で援軍を出す事は自身の頸を絞めるに等しい。

 

更にクロスゲートバーストが起こったゲートはエネルギーを失い沈黙したまま。

 

ガンエデンの所持するゲートを使用するにもイルイは念動力が本来の力まで戻っておらず、ハスミはサイデリアルに囚われたまま、最後の一人ビッグ・ファイアは犯罪組織の頭目の為に協力を仰げない。

 

この為、ゲートが使える状況になるまでは緘口令を敷く決断となった。

 

 

******

 

 

「それで、エメロード姫は私達にこの事を伝える様にって元の世界に戻されたんだ。」

「最初は私達もサイデリアルと戦おうとしたのだけど…」

「多勢に無勢…それにハスミさんの事もありましたので。」

「…三人共、前にも言ったがエメロード姫達の判断は正しい。」

「うん、例え私達が戦っても…結果は最悪な事になってました。」

 

 

伊豆基地での会議を終え、梁山泊へ向かうルートの道中。

 

転移装置のテストも兼ねていたので目的地への直行はせず、少し離れた距離から転移し侵攻となった。

 

ハガネの食堂スペースにて。

 

セフィーロでの出来事を語る光達とロサ、ピート。

 

魔神四機とPT一機だけで拠点を防衛し一個大隊と戦うのはリスクが大きすぎる。

 

三人の心情を理解しつつもロサとピートは軍人としての目線で答えた。

 

 

「でも、私達だけ逃げるなんて…」

「海ちゃん、今は私達に出来る事をしよう。」

「光さんの言う通りですわ、私達が出来る事を考えするべきです。」

「光、風………そうね、ここでウジウジしてても変わらないものね。」

 

 

セフィーロに残してきた人々の安否を気遣う海。

 

光と風は自分の出来る事を進めるべきだと主張。

 

海も現状では何も出来ない事を理解し出来る事をするべきと方向転換した。

 

 

「それにしても、どうしてサイデリアルはこっち側じゃなくて異世界に侵攻したのかしら?」

「向こう側にはハスミが囚われている、侵略関係で尋問された可能性も否定出来ない。」

 

 

所変わってATXチームの会話。

 

始めにエクセレンとキョウスケの会話に始まり、疑問に思うクスハに問うブリッド。

 

 

「それだけかな?」

「クスハは違うと思うのか?」

「うん。」

「確かにハスミならクロスゲートとガンエデンを使えば、月からの脱出は可能な筈…それをしていない。」

「若しくは何か理由があってガンエデンを使えない?」

「そうだと思う。」

「確実なのは愛しのダーリンを止めたくてあっちに留まっているんじゃない?」

「少尉、それは…」

「ブリット君は鈍すぎ、修羅の乱の時だってハスミちゃん…あのダーリンさんの事を。」

「止めて置け、エクセレン。」

 

 

エクセレンの言葉を止めるキョウスケ。

 

その理由を語れば、ここに居る全員がある回答へと至ってしまう。

 

ハスミがアウストラリスを愛してしまい敵対する道を選んだと…

 

それが間違った結論である事を誰も理解出来ないままに。

 

 

「それってエメロード姫とザガートの…」

「そうよね。」

「状況がお二人の時と似ていますね。」

「三人共、向こう側のお姫様に何かあったの?」

 

 

光達の様子にエクセレンが気づき問いかける。

 

三人は浮かない顔をしながら、L5戦役で起こった異世界召喚の出来事を話した。

 

マジックナイトになった経緯。

 

ザガートがエメロード姫を攫った本当の理由。

 

マジックナイトと魔神が『正常な祈りが出来なくなった柱』を消す為のシステムである事。

 

その絡繰りに気づいたハスミの機転で悲劇は食い止められた。

 

 

「一歩間違えれば、私達は二人を…」

「そうだったのね。」

「エメロード姫とザガートがやっと愛し合える様になったのに…」

「平和になった世界へ侵攻されてしまいました。」

 

 

再び、落ち込んでしまった三人に対してエクセレンは助言をする。

 

 

「…ハスミちゃんの事だから、何か理由があって情報を流したのかもしれないわよ。」

「えっ?」

「その理由を知る為にも遭遇したらお姉様達が問い詰めてあげないとね?」

 

 

何時ものノリで三人を落ち着かせるエクセレン。

 

それと同時に出撃命令のアラートが鳴り響いた。

 

 

>>>>>>

 

 

鋼龍戦隊が転移装置で梁山泊に移動中の頃。

 

ラマリスの出現で防戦一方の状況になっていた。

 

九大天王の半数以上は各地に出現したラマリスの痕跡を追う為に不在。

 

現在は大作のジャイアントロボと組織解体し移籍したラストガーディアンに鉄甲龍の八卦衆が対応していた。

 

前者は兎も角、後者に関しては空白事件後に戦犯として裁かれる予定だったが…

 

修羅の乱と封印戦争時に置ける地球防衛の助力と木原マサキと言う一人の科学者の被害者である事も考慮され梁山泊預かりとなった。

 

結果的に梁山泊防衛の戦力になっているが、犯罪行為があれば各地にエキスパートとして派遣されている。

 

猶、ゼオライマーを含めた八卦ロボはシュウ博士や世界十大脳と呼ばれる科学者達の手により遺伝子と連動した呪いは外されている。

 

なので各自が暴走する事はない。

 

話は戻り、ラマリスとの戦闘が続く中でサイデリアルが出現。

 

サイデリアルも出現したラマリスを撃墜した後、梁山泊に対して降伏の指示を出した。

 

勿論、それを受け入れる事は出来ないと中条長官はサイデリアルの総司令官ストラウスに返答。

 

代わりに副官ダバラーンが指示を仰ぐ為にストラウスへ告げた。

 

 

「ストラウス様、奴らは徹底抗戦の構えの様です。」

『…(ま、こっちはこっちで派手に暴れさせて貰おうよ。』

「では、攻撃を開始します。」

 

 

サイデリアルの攻撃部隊の一つハイアデスと交戦を開始する梁山泊。

 

だが、それはサイデリアル側が嗾けた陽動であり…

 

本命は既に内部へと侵入していたのだった。

 

 

 

~梁山泊・内部~

 

 

 

「ここへ来るのも久しぶりだな?」

「はい、ここへお連れするのは二度目でしたね。」

 

 

手薄となった梁山泊の山道の一つで身を潜めていたアウストラリスとハスミ。

 

ハスミの案内で梁山泊の内部にある件の場所へと向かっていた。

 

 

「ハスミ、奴の気配は?」

「既に内部へ潜入しています。」

「判った、先に進むぞ。」

 

 

梁山泊の内部へと潜入する二人。

 

それは別の曲者を追っていた為である。

 

バアル側に堕ちた存在と対面する為に…

 

 

「此処が説明をした最下層の牢獄です。」

「警戒が厳重と言うは頷ける。」

「はい、元々は九大天王が分担制で監視を定期的に行っている場所ですから。」

 

 

梁山泊の最下層にある牢獄。

 

ここは世に出す事が出来ない重罪人を繋ぐ為の牢獄。

 

その牢獄には今までの戦乱で罪を犯した者達が収容されていた。

 

だが…

 

 

「既に何名かは犠牲になったみたいです。」

「その様だ。」

 

 

最下層へ下りる道中にある檻の中で息絶えた遺体。

 

檻の柵に縋りつくように、部屋の隅で怯える様に干からびた遺体が転がっていた。

 

 

 

「ハスミ、この現象は霊子…命を抜き取られたのか?」

「その通りです、父さんも似た術を使えますが……これは域を脱しています。」

「…悪意の命を搾り取り力を付けぬ内に奴らを消さねばらならぬな?」

「はい。」

 

 

ラマリスに次ぐ悪意の存在。

 

亡霊、悪霊、その類に近い存在。

 

古き世代からの因縁の相手。

 

その澱んだ気配が下層に進むにつれて強くなっていった。

 

 

「…漸く会えましたね?」

 

 

干からびた遺体が複数転がる最下層の最終牢獄。

 

そこへ辿り着いたハスミはその気配の正体の名を告げた。

 

 

「妖魔大帝バラオ。」

「ほお、その気配……小娘、ガンエデンか?」

「お察しの通りで。」

 

 

岩石で造形された手の姿。

 

その指先には人の顔が刻まれていた。

 

そう、この獄中で息絶えた者達の顔である。

 

 

「随分と悪食を働いた様子ですね。」

「破滅の王とやらが齎した負念のエネルギーが我らを復活させたのだ。」

「我ら?」

「そうだ。」

「成程、そちらの様に悪食に走っている悪意達が複数いると言う事で?」

「…博識は結構だが、身を亡ぼすぞ?」

「どうとでも、それにエゴなテンシよりかはマシな方と思ってくださいな?」

「やはり、あの者達も動き出したか。」

「誰を指しているかは察しますが、似た様なモノでは?」

 

 

言葉には言葉を、皮肉を皮肉で返す。

 

その様な会話が続いた。

 

 

「此処に最早用はない、ガンエデンよ……我らの邪魔をすると言うのなら覚悟するのだな?」

「それはお互い様では?悪食をしなければ弱ったままの其方を相手にするとでも?」

「…減らず口が。」

「どちらがでしょうか?」

「ふん、頸を洗って待っているがいい。」

 

 

バラオは怯えた表情の祭祀長ベロスタンを引き連れて姿を消した。

 

今まで無言だったのはアウストラリスの闘気に恐れていた為である。

 

 

「あのまま放置して良かったのか?」

「バラオを倒すには太陽と月…日食のライディーンが必要です、後は時のゆりかごの中で戦う彼らの宿命なので。」

「そうか。」

「奴が撤退した事で幻妖斉さんの結界も持ち直した様子ですし、後はストラウス総司令の仕事が終わり次第撤退致します。」

「…判った。」

 

 

私達の今回の目的はバラオの目的を知る事と妨害。

 

今頃、外では戦いを楽しむハイアデス隊と鋼龍戦隊、梁山泊の防衛隊にラマリスの三つ巴が始まっているし。

 

もう一つの仕事が終わったら撤退の予定である。

 

 

「…(ライセ総司令官、曲者が入り込んでいるのに貴方は何をしているんですか?高みの見物?私達が潜入したから体の良い厄介払いをさせてませんか?」

 

 

まぁ、私が秘密裏にサイデリアルと協力して御使いを仕留めるって言う無茶な方法取っているから仕方がないけど…

 

真実を知らないフリの敵対している芝居迄させているし。

 

その位の雑用はやってくれと言わんばかりの無視を現在進行形でされてます。

 

国際警察機構並びにBF団の皆様方、本当にすみません。

 

 

******

 

 

ハスミらとバラオのひと悶着が終わった頃。

 

鋼龍戦隊が梁山泊に到着し戦闘態勢に入っていた。

 

ラマリスは未だに出現しサイデリアルも加わって三つ巴の戦いが続いていた。

 

到着と同時に各戦艦の艦長らが感想を述べた。

 

「あれがサイデリアルの部隊。」

「金色の戦艦…総司令官ストラウスの旗艦ですね。」

「メキボス氏から情報通りです。」

「うむ、各機…梁山泊の防衛隊と共に基地の防衛をしつつラマリスの排除とサイデリアルを退ける。」

 

 

マイルズの指示により戦闘が開始されようとしたが、それをサイデリアルの副官ダバラーンによって止められた。

 

同時に各艦に映像通信が繋がった。

 

 

「貴様らが鋼龍戦隊だな?」

「そちらは?」

「星間軍事連合サイデリアルに属するハイアデス隊、自分はダバラーン…副官を務めている。」

「鋼龍戦隊のマイルズ司令だ、その鎧の人物がストラウス総司令と見受けるが?」

「地球人にしては情報が早いな、如何にもこちらがストラウス総司令官だ。」

「…(こんななりだけどね…ダバラーン、連中に降伏するか聞いて?」

「ストラウス様からの言伝を伝える、降伏するか否か?」

「断る、こちらもそちらが侵略した同盟国家フューリーの開放を求める。」

 

 

マイルズの言葉に呆れるストラウス。

 

表情は見えないが、ストラウスの愚痴を電子音声から様子をくみ取ったダバラーンは進言を待った。

 

 

「…(やれやれ、あんな裏切り者満載の所を返して欲しいなんて…物好きだね。」

「如何なされますか?」

「…(アウストラリス達が戻るまでもう少し遊ばせて貰おうよ。」

「承知しました、迎撃態勢に入ります。」

 

 

部隊を展開するハイアデス隊。

 

同時に一部のメンバーには面識のある機体が出撃させられていた。

 

 

「あれは!?」

「我らの同胞を戦場に駆り出したのか…」

 

 

出撃していたトーヤとアル=ヴァンは驚きと苦虫を噛み潰したような表情で答えた。

 

出撃させられたのはヴォルレントを筆頭にリュンピー、ドナ・リュンピー、ガンシャールの混成部隊…

 

そう、フューリーの同胞達だった。

 

 

「…(じゃ、始めようか?」

「ストラウス、時間切れだ……帰還するぞ?」

「…(えー、今いい所なのに。」

「ここで鋼龍戦隊と事を構える事は俺が許さん。」

「…(へいへーい。」

 

 

出撃を確認し攻撃を開始しようとした所、戻っていたアウストラリスに静止させられるストラウス。

 

当初の予定通り、フューリーの部隊を嗾けさせて自分達は撤退する手筈だった。

 

理由としては此方の手の内をまだ明かす事は出来ない為である。

 

ストラウスはダバラーンに指示を送り、フューリーの機体のコントロールを設定し鋼龍戦隊に差し向けた。

 

その隙に次元転移で部隊は撤退。

 

鋼龍戦隊は操られたフューリーの部隊と戦う結果となった。

 

 

 

~更に数時間後~

 

 

 

サイデリアルが撤退しフューリーの衛士達を救助した後、艦長らは状況確認の為に梁山泊内の司令室へと赴いた。

 

そこで中条長官と挨拶を交わした後、本題に移った。

 

 

「これを見て貰えるかね?」

 

 

中条長官の指示でモニターに映されたのはとある場所。

 

 

「ここは『カナーリの牢獄』と呼ばれる場所、BF団の拠点の一つだ。」

 

 

牢獄と呼ばれる場所でありながら、映像を見るに様子がおかしい事が解る。

 

 

「数日前、この牢獄が何者かに襲撃され…BF団も撤退を余儀なくされ牢獄を放棄した。」

「何故、そうだと?」

「牢獄に潜入していたエキスパートからの連絡では、あのラマリスが関わっているとの事だ。」

 

 

「「「!?」」」」

 

 

驚く艦長らを余所に中条長官は続けて答えた。

 

 

「更に牢獄に囚われていた一部の者達やBF団の団員…その遺体が発見された。」

「遺体で、ですか?」

「それも干からびたミイラの様な状態でだ…新宿で襲われた状況とはまるで異なる。」

「…同じラマリスでも何か違いがあると?」

「いや、潜入したサイデリアルはこの干からびた死体を作り上げた存在を追っていた様子だった。」

「サイデリアルが?」

「理由は未だに不明、だが…奴らにとってもその存在が危険である様子だ。」

「中条長官、サイデリアルの行方は?」

「例の存在が消えた後、部隊を引き上げさせ撤退して行った……恐らくは月の拠点へ戻ったと思われる。」

「…」

「もう一つ、そちらに伝えなければならない事がある。」

「それは一体?」

「梁山泊への潜入を奴らが容易に出来た事…恐らくはハスミ君が手引きしたのだろう。」

「確かに…彼女は国際警察機構に在籍していた。」

「なら、梁山泊の手薄な場所を知っていても可笑しくはありませんね。」

 

 

テツヤとレフィーナの言葉を余所にマイルズは軍人らしく視野の狭い言葉を放った。

 

 

「中条長官、それは彼女が裏切り者と言う証拠…と捉えても宜しいですかな?」

 

 

「「!?」」

 

 

「それだけで決まった訳ではないのでは?」

「ですが、実質そちらに被害は出てしまっている…それが何よりの証拠でしょう?」

「…」

 

 

中条長官はマイルズの言葉に沈黙した。

 

何故、彼女がサイデリアルの元へ下ったのか?

 

その真実を知る数少ない者達の一人である。

 

話すべきだろうが、いつどこで綻びが生じるか不明。

 

故に沈黙するしかなかった。

 

 

「マイルズ司令、そう捉えるには早急過ぎると思いますが?」

「ギント艦長、では…彼女が裏切り者ではない証拠はあるのか?」

「証拠と呼べるかは判断材料が少なすぎますが、サイデリアルがその気になれば梁山泊は我々が到着する前に壊滅していたと思われますが?」

「…」

「サイデリアルはそれを実行しなかった。」

「他に何かあるとでも?」

「恐らくは…」

 

 

展開していたサイデリアルの戦力であれば、梁山泊は陥落していた。

 

出来た筈の侵略行為を行わなかった。

 

それは何を示すのか?

 

 

「判断材料としてサイデリアルの命令で動かされていたフューリーの衛士達に事情聴取をしてからでも遅くはないと思われますが?」

 

 

ギントの提案に少し考えてからマイルズは次の行動を起こした。

 

 

「では、中条長官…統合参謀本部からの指示があるまでこちらでの滞在を許可して頂きたい。」

「滞在の件は了承しました、それと衛士達の身元もこちらで預かる事は可能ですが?」

「その件は彼らの事情聴取後に…」

 

 

サイデリアルに占領されたガウ=ラ・フューリア。

 

フューリーの衛士達の持つ情報はある状況へと繋がっていた。

 

それが一体何なのか?

 

答えを知るのはZ事変の記憶を持つ者達だけ…

 

 

=続=

 





悪意は何処へ。

悪夢より目覚めた者達へ迫る危機。


次回、幻影のエトランゼ・第八十九話『絶望《ギルティ》』


それは絶望の目覚め。

それは必然たる戦い。

スフィアは強き意思の元で輝く。


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第八十九話 『絶望《ギルティ》』


消えた筈の悪意。

それは心の奥に潜んでいる。

だが、同時に相反する心もそこにある。


 

梁山泊での戦闘を終えて、月のターミナルベースへと帰還したサイデリアル。

 

一部隊が出撃した形に偽装しているので他の勢力も手出しはしていない状況。

 

手を出せば、どの様な報復が待ち受けているかを理解しているからの沈黙でもあった。

 

 

******

 

 

ターミナルベース内、円卓の席が準備された空間にて。

 

各自、コーヒーを片手に経過報告が行われていた。

 

 

「ふーん、じゃあ泳がせたって事?」

「はい、勿論…罠は仕掛けさせて貰いましたがね。」

「トラップ?」

「奴の驚愕した様子を直接見れないのが残念ですけど。」

 

 

鎧を脱いだエルーナの質問に答えるハスミ。

 

話の顛末は梁山泊で対峙したバラオの件である。

 

ガドライトはハスミの発言に突っ込みを入れ、ハスミは静かにスルーしてエルーナとの会話に戻った。

 

 

「相変わらずエグ…」

「エルーナさん、ガウ=ラ・フューリアの民間人の移送はどうなっていますか?」

「全員セフィーロに移送して置いたよ。」

「アレの解除は?」

「まあ、言われた通りに連中のステイシス・ベッドだったっけ?それを解除して放り込んどいた。」

「了解しました、後は彼ら次第ですね。」

「所でさ、そのステイシス・ベッドって何なの?」

「それはエイテルムと呼ばれる鉱物を利用した時のゆりかご。似た構造としてはエタニティ・フラットの様なものです。」

 

 

エタニティ・フラットが話に出た事で反応するガドライト。

 

 

「つまり、連中は時を止めていたって訳か?」

「はい、フューリーも長い間…外宇宙を彷徨っていたので民が生き残るには適切な判断だと思います。」

 

 

似た様な現象ではバラルの『総人尸解計画』やヨーナンテイの『静死の柩』も該当する。

 

何れも時の流れが止まり、その中では人は生きられない。

 

文字通りの緩やかな死が待つ。

 

例外は霊子化しているアストラル体や尸解で転化した仙人だけだろう。

 

それでもいずれ御使いの餌食になるのは目に見えている。

 

あの襲撃は彼らフューリーをステイシス・ベッドから解放させ弱りきった生きる力を回復させる為だ。

 

Z事変経験者からすれば、霊子結界の燃料タンク扱いと思っているだろう。

 

御使いの監視を避ける為とはいえ、その意図を理解出来ないなら…そこまでだったと言う話である。

 

 

「それでもエイテルムが有限である以上、ステイシス・ベッドも完全ではなく緩やか死が待ち受けている。」

「放って置けば…揃って全滅って訳か。」

「だからこそ彼らも地球と言う第二の故郷を手に入れたかったのでしょう。」

 

 

話し合いと言う『相互理解』と『共存共栄』を目指せば事は静かに済んだが…

 

血統を重んじるプライドの高さがそれを跳ね除けてしまった。

 

人の思想はそう簡単に変わるものではない。

 

なので、腐りきったプライドをへし折って置いた。

 

 

「そう言う事でエルーナさん達に伸びすぎた彼らの出鼻をへし折って貰ったって訳です。」

「アタシらも退屈しなかったからいいけどねw」

「…(これが類は友を呼ぶってか。」

 

 

事後報告がてら説明するハスミとストレス解消出来てスッキリな表情のエルーナ。

 

遠い眼をしているガドライトを余所に質問をするアサキム。

 

 

「…ハスミ、そういえばディラドの方はどうなっているんだい?」

「それも時期に解決予定です、アレも始まりつつありますし。」

「アレ?」

「破界と再世ですよ、どうやらこちらと時差のズレがあったらしくてディラド戦に参加中の部隊のいくつかはアビスの向こう…あの世界へ飛ばされる予定です。」

「成程、アイム・ライアードが仕掛けたプロジェクト・ウズメの後に発生した時空振動がそこで…」

「…(これで終焉の銀河と時獄戦役が同時期に発生するのは必然…確定してしまった訳だけど。」

 

 

ハスミはアサキムらへの説明を終えた後、アウストラリスに予定していた行動プランを告げた。

 

 

「アウストラリス、私はこちら側のXN-Lの件を片付けた後…予定通りアビスを通りアサキムと共にガイオウ並びに『偽りの黒羊』、『尽きぬ水瓶』のスフィアリアクターの動向を追います。」

「ああ、『揺れる天秤』、『傷だらけの獅子』、『悲しみの乙女』の監視も忘れるな?」

「はい。」

「僕は別行動で彼らに揺さぶりを掛ければいいかな?」

「ええ、流れ通りに事を進めるには致し方ないので。」

「それは…君を攻撃する事になっても?」

「…そうですね、その時は猫のじゃれ合い程度にはお相手しますよ。」

 

 

アサキムの発言に対して返答するハスミ。

 

猫のじゃれ合いと話しているが、そのじゃれ合いがドン引きレベルの戦闘である事を理解するのは難しい。

 

ハスミなりにやんわりと告げた。

 

それは『下心のない信頼関係』を築く為に必要な返答でもあった。

 

 

「つか、お前らのはじゃれ合いのレベルを越えているだろ!?」

「へぇーどんな感じ?」

 

 

再びツッコミに戻るガドライトと興味本位で聞くエルーナ。

 

呆れたくもなる表情でガドライトは説明を続けた。

 

 

「ハスミはアウストラリスに生身で相手が出来る。」

「へ?」

「解り安く言うなら生身でMSと戦えるって話だ。」

「あらまー。」

「私なんてまだまだですよ、精進はしていますけど?」

「…(人間止めてるバケモン連中の巣窟で修行していたお前がヤバイんだよ。」

 

 

ガドライトの心情を余所に謙遜な態度で話すハスミ。

 

茶化し程度の話を終えると次の方針の下で各自動く事となり解散の流れとなりつつあったが…

 

 

「ハスミ、どっかでラーメン食べたい。」

「はい?」

「あの時、アタシも鋼龍戦隊と戦いたいのを我慢したんだからさ~いいよね?」

 

 

エルーナの突然の願いに対して声を上げるハスミ。

 

その提案に関してハスミはアウストラリスからの了承を得る為に進言した。

 

 

「…アウストラリス、どうなさいますか?」

「済まんが労いを頼む。」

「判りました、エルーナさん…ラーメンの件はどうにかしましょう。」

「楽しみにしているよw」

 

 

流石のアウストラリスもエルーナの鬱憤を溜めて置く訳にもいかないのでハスミに対処を命じた。

 

この提案が後に必然の再会を生み出す切っ掛けとなる出来事。

 

無限力が提示した悪戯の時でもあった。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

 

<???>

 

 

封印戦争集結後。

 

悪意の吹き溜まりとも呼べる空間にて。

 

 

「漸く絶望の意思が満ちた。」

 

 

その意志は負念の力によって象られたラマリスを吸収しながら答える。

 

捕らえられたラマリスは一体、また一体と断末魔をあげながら喰われていった。

 

 

「今こそ復讐の時。」

 

 

意志の背後に出現した無数の機動兵器群。

 

 

「始めよう、更なる糧を喰らうために。」

 

 

背に巨大な斧の様な鎌を携えた鎧の姿へと変化した存在は告げた。

 

 

「勇者の神話に終焉を。」

 

 

危機は再び迫りつつある兆し。

 

そしてそれも人の意志に出された試練。

 

絶望の目覚め。

 

 

=続=

 





それは目覚め。

変異の事象。


次回、幻影のエトランゼ・第九十話『双児《ソウジ》』


重なる魂は何をもたらす?


∴∵∴∵∴∵

とあるスレにて。

【悲報】お化けモドキで世界滅亡の予感を語る【終末】

1:名無しのニート 絶望したい 。

2:名無しのアルバイター 草

3:名無しのニート  草ヒドッ⁉

4:名無しの社畜 スレ立てたの学生かな? 社会に貢献してから言おうぜ?

5:名無しのフリーター 言えてる wwwwwwwwwwww

6:名無しのアルバイター  大草原はヤメレやれ。

7:名無しのニート  真面目に語りたいだけなのに。

8:名無しのハンター  語るとして具台的には?

9:名無しのニート  このままだと人類どうなるかって話。

10:名無しのDK 何もしなければ滅亡は正しい。

11:名無しのアルバイター 今は軍人さんらが頑張っているし俺らが出来そうなことって少なそう。

12:名無しのハンター 祈る事も出来ますよ?

13:名無しのニート 12は宗教家?

14:名無しのハンター 正直に言えば天使とか嫌いな方です。

15:名無しのDK 同じく天使は好かんぞ


しばらくグダグダな話が続いた後、残ったスレ民によって意味深な言葉が残された。


30:名無しの花屋 星の鍵は散らばった、いがみ合う心は二つ。

31:名無しのハンター ⁉

32:名無しのDK ⁉

33:名無しの花屋 希望と絶望、勇ましき者達への危機

34:名無しの花屋 相反する心がそれを救う

35:名無しの花屋 日常の中の平穏と天の河の見える雪の谷

36:名無しの花屋 答えを求めるなら歩め

37:名無しの花屋 砂時計は止まらない

38:名無しの花屋 牢獄の体験者らへ告げる

39:名無しの花屋 光が注ぐ半球の中間の時を待つ


そこでスレは途切れた。


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第九十話 『双児《ソウジ》前編』


相反する心。

それは二つに分かれた。

それは強大な力を分かつ為。

それは可能性の兆し。




サイデリアルによる梁山泊侵攻から数日後。

 

鋼龍戦隊は引き続き梁山泊で次の命令が下るまで待機の形となった。

 

梁山泊で防衛戦力となっていたジャイアントロボとゼオライマー以下八卦ロボはラマリスの定期出現もあり、引き続き防衛の形で残る事となった。

 

鋼龍戦隊でもラマリス討伐の件以外にフューリーやガディソードの案件を抱えている為もある。

 

いずれは合流するだろうが、今はまだその時ではない事は確かだ。

 

 

******

 

 

そしてラマリスの出現が最も確認された日本では戦況を打開する兆しが現れていた。

 

それはノードゥスが木星へ向かった頃の話に遡る。

 

 

「ヒビキ・カミシロ、久しぶりだな。」

「宗介…お前なのか?」

 

 

何気ない言葉。

 

その言葉はある意味を指していた。

 

かつての記憶を持っていると言う証。

 

複雑な思いを余所に複数の感情に呑まれた。

 

 

「ああ、最も…この場では初めましてが正しいだろう。」

「いや、久しぶりでいい。」

 

 

共に戦った戦友との再会。

 

この少年ことヒビキ・カミシロは安堵感を抱いた。

 

だが、これから宗介の口から語られる現在の状況に対して選択を迫られる事に変わりはなかった。

 

 

「再会を祝したい所だか、お前に話して置く事がある。」

「話?」

「…既にサイデリアルがこの世界へ転移している。」

「!?」

 

 

それは何気ない平穏な日常が崩れる言葉。

 

そして戦いの火蓋が切られる言葉だった。

 

 

「どういう事だ!?」

「その話をする前に場所を換えるぞ、ここでは目立つ。」

「っ…」

 

 

ヒビキは宗介に案内されて近くの食堂へと入った。

 

繁忙を終えた昼過ぎである為か客足は殆どなかった。

 

店内でテーブルを拭いている青年は店のドアが開く音で来客だと察して振り向き、声を掛けた。

 

 

「いらっしゃい、ソースケ…とそちらさんは?」

 

 

入った店の名は雪谷食堂。

 

封印戦争の初めに火星の後継者の襲撃を受けて全焼したが、仲間の多大な融資もあり無事に再建する事が出来た。

 

店の規模をバージョンアップする事も可能だったが、実力で店を広げていきたいと店主の意向も考えて前と同じ状態に立て直されている。

 

話は戻り、宗介は店主のテンカワ・アキトに事の詳細を説明した。

 

 

「彼はヒビキ・カミシロ、例の話の中心人物だ。」

「君がか…」

「はじめまして、えっと。」

「俺はテンカワ・アキト、ソースケとは前の戦いで一緒に戦った戦友って所かな?」

「よろしくお願いします。」

 

 

二人はアキトの案内で店内に入り、カウンターの席へ着いた。

 

店はアキト一人であり、妻となったユリカは父親であるミスマル・コウイチロウの元へ里帰りしている

 

数少ないA級ジャンパーである事も変わらず、ネルガル・シークレットから派遣されている少数の護衛が店の外で待機していた。

 

その護衛もソースケが来店した事で警備が少々緩くなっている。

 

ミスリル所属の有能な傭兵である事がある意味で免除されているのだろう。

 

 

「では、ジェニオンはまだ…」

「ああ、AGからの接触がない以上は何とも言えない。」

「スズネ先生にも記憶があった事だけ救い、か。」

「以前、試しにジェニオンを呼び出そうとしたが…元々起動していないらしく呼び出せなかった。」

「だが、今ジェニオンを呼び出せても危険である事は変わりはない。」

「どういう事だ?」

「連合軍の統合参謀本部が対サイデリアル戦に向けて、各方面の特務部隊にスフィア・リアクターの捜索を行わせている。」

「っ!?」

「但しターゲットになっているのはセツコ少尉とランドの二名、お前は含まれていないがスフィアを起動させる事が出来ると判明すれば…」

「俺も巻き込まれるって話か。」

「肯定だ。」

 

 

ソースケはかつての戦いで共に戦い、背を預ける戦友へ注意喚起を行った。

 

育ちの関係で特殊な能力を有するアキトもまた他人ごとではないと判断し助言を告げた。

 

 

「俺も人の事は言えないけど、そのジェニオンを発見しても迂闊に出現させない方がいいのかもしれない。」

「それでも俺は…」

 

 

悩んだ末に迷いのない表情を見せるヒビキ。

 

その様子にアキトは背を押す形で答えを返した。

 

 

「戦う事を決めた、それなら俺も止めない……もっとも今の状態をどうにかするには君の力が必要な事は確かだし。」

「アキトさん…」

 

 

洗った食器を業務用乾燥機へ入れ直しながら話すアキト。

 

更に乾燥し水気の無くなったグラスを布巾で丁寧に拭き上げていた。

 

 

「ソースケ、ヒビキ達の事はどうするんだ?」

「サイデリアルが動いている以上はヒビキ達を確実に確保する行動に出る……何処へ逃げようともだ。」

「ああ…そうか、あっちにはハスミちゃんがいたんだった。」

「若しくはスフィアの共鳴で感づかれる。」

「あの…そのハスミって人は一体?」

 

 

宗介とアキトの話の中で出てきた人物の名前に反応するヒビキ。

 

 

「ハスミ・クジョウ…元地球連合軍・鋼龍戦隊所属だった軍人、世間で騒がれていたホルトゥスの当主にしてガンエデンの巫女、そして次元将・ヴィルダークの片腕だ。」

「えっ!?」

 

 

宗介とアキトはこれまでのハスミの情報をヒビキに伝えた。

 

L5戦役からの軌跡、空白事件の可能性、修羅の乱の暗躍、封印戦争の覚悟、そして今を…

 

 

「以上が彼女の経歴だ。」

「かなりの生涯だったみたいですね。」

「表向きはサイデリアルに囚われているって形になっているけど、実際は違う。」

「アキトさん、それは一体?」

「彼女は初めからサイデリアル側だったと俺達は推測している。」

「ソースケ、それは君の主観だろ?」

「…」

「あの…」

「今、俺達の間では二つの考えに別れているんだ…宗介の言う通り敵だった側と敢えてサイデリアル側に下った味方側って云う風に。」

「…」

「仲違いしている場合ではないのは理解しているが、読みを間違えればやられるのは俺達だ。」

 

 

記憶を持つ彼らの中での不安と半信半疑が仲違いの亀裂を生み出していた。

 

だが、これも敵の思う壺である事は判っていた、判っていても不安が過る。

 

その時、ヒビキはある事を思い出していた。

 

 

「なあ、ソースケ。」

「ん?」

「そのハスミさんって人…さっきアカシックレコードを読めるって言っていたよな?」

「肯定だ、覚醒したサイコドライバーの一人である彼女はアカシックレコードから先を読み解く事が出来る。」

「それは、ほぼ全部なのか?」

「いや、同じサイコドライバーであるイルイの話ではアカシックレコードでも読めない記録があるらしい。」

「読めない記憶?」

「俺達はそれを『深淵の記憶』…アビス・メモリーと呼んでいる。」

「アビス・メモリー?」

「以前はアカシックレコードからでも情報を引き出せたらしいが、アビス・メモリーと呼ばれる制約があり読めない記憶が出来た…それも前世からじゃなく今世からだ。」

「…」

「イルイも今は力を封印されている、ハスミ達の動向を調べるにもナシム・ガンエデンが封印を解かなければ調べようがない。」

 

 

八方塞がりの状況に宗介とアキトの表情は暗い。

 

更にヒビキは続けた。

 

 

「それは『知りたがる山羊』のスフィアがあれば、打開出来るのか?」

「確かに同じアカシックレコードを読めるスフィアがあれば、打開は可能だが…」

「そのスフィアが何処にあるかって事がネックかな?」

「元々、そのスフィアはアサキムが再世戦争でZONEから得たモノだ。」

「探すとしてもアビスの向こうADW世界、か…」

 

 

打開の切っ掛けであるスフィアの行方は今では辿り着けない場所にある。

 

そしてそれを手にする存在も運命付けられている。

 

しかし、そのスフィアにはある秘密があるのでは?とヒビキは答えた。

 

 

「アビス…待てよ?」

「どうした、ヒビキ?」

「以前、占星術…星座関連の知識を調べていた事がある。」

「それがどうかしたのか?」

「山羊座の神話の一説に『深淵に入り込んだ』若しくは『呑み込まれた』と言う記述があった。」

「まさか!?」

「多分、山羊座のスフィアはアビス・メモリーを無力化する事が出来る筈だ。」

「…だが。」

「アサキム・ドーウィンはサイデリアルと行動しているし、いずれは…」

「いや、俺が言いたいのはそうじゃない。」

「どういう事だ?」

「今回の山羊座のスフィアリアクターはアサキムじゃなく別にいるんじゃないのか?」

 

 

「「!?」」

 

 

「恐らく山羊座のスフィアを覚醒させられるのはサイコドライバー、そのサイコドライバーがサイデリアルに居る。」

「まさか彼女が!?」

「今までの行動を見る限り、彼女は何処かでスフィアを手に入れ…そして知ってしまったんだろう。」

 

 

ヒビキは結論を答える。

 

 

『この宇宙…いや全多元世界で起こっている事を。』

 

 

それは真実に近い言葉。

 

それは確証は無い言葉。

 

照らし合わせた答えが、導き出された答えが、今…晒された。

 

 

 

>>>>>>

 

 

 

時は戻り、梁山泊襲撃後から数日後。

 

ハスミはエルーナとの約束を果たす為に日本に訪れていた。

 

 

「戦いでピリピリしてるって言うのに穏やかな場所だね。」

「世界が滅亡する様な現象を何度も経験していますから、耐性ついているんですよ。」

 

 

この星は特に肝が据わっている者達が多い。

 

動じない心、抗える心を絶望を知っても希望を絶やさないから。

 

 

「…(それもエタニティ・フラットの影響下に入ったらどうにもならない。」

 

 

まあ、今回は対策…切り札はあるのだけどね?

 

人類舐めた事を精々驚愕するといいわ。

 

 

「あらま…ハスミ、また何か企んでるでしょ?」

「色々とサプライズを。」

「相変わらず、えげつねえな。」

「ガドライトさんがそう言われるのは仕方ありませんよ、但し……バアルや御使い達を痕跡も残らずに根絶やしにするのは、例外が発生しない限り確定事項です。」

 

 

ハスミは半分言い終えた後の言葉に重みを乗せた。

 

それは理不尽な連中を許さないと言う証。

 

 

「…アウストラリスがアンタに興味を持った理由もそうだけど、アタシも一戦交えたいかもね。」

「それはアウストラリスの許可を頂いてからにしてください、恐らくはリアクター機での勝負は禁止されますけどね。」

「えーいいじゃん。」

「契約は守ってくださいね?」

 

 

戦闘狂人と戦闘中毒。

 

似たり寄ったりの『物理は正義』の構図である。

 

 

「ん?」

「ガドライトさん、どうかされましたか?」

「いや、俺のスフィアがな。」

 

 

ガドライトの持ついがみ合う双子のスフィアが共鳴した。

 

そう、兆しは近くまで訪れている。

 

この選択は何を齎すのか。

 

そして迫る負念が静かに息をひそめていた。

 

 

=続=

 





光と闇。

常に等しく。

溢れ出た闇はいがみ合う心が相殺する。



次回、幻影のエトランゼ・第九十話『双児《ソウジ》後編』



真実の果てに真の敵は何処へ?


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第九十話 『双児《ソウジ》後編』



求めた答えと早すぎる決断。

それは何を生み出すのか?

目覚めの時は訪れた。

神の依代は何を求める?


 

前回のハスミ達の日本でのやり取りの直後の事である。

 

突如、ガドライトの持つスフィアより共鳴反応が引き起こされた。

 

それは必然たる再会の兆しでもあった。

 

 

******

 

 

私ことハスミはエルーナさんへの労いを兼ねて雪谷食堂へと向かっていた。

 

勿論、私の幻影魔法で変装してでの来店である。

 

魔力感知が出来ない相手なら感づかれる事は無いだろう。

 

 

「いらっしゃい、何名様で?」

「三名で。」

「カウンター席でも大丈夫ですか?」

「大丈夫です。」

 

 

平日であるが、客足は上々らしくカウンター席を始め客足が途切れる事はなかった。

 

席に案内された後にカウンターに置かれたお品書きからメニューを選び、早速注文。

 

予定通り、一番人気のテンカワラーメンとハーフサイズのボソンチャーハン付き。

 

L5戦役で同行している時は良く食べられたが、今となっては久々のラーメンである。

 

脂肪と糖分の暴力であるが、この後の食後の運動には丁度いいエネルギー補給として置く。

 

暫くするとラーメンと半チャーハンのセットが運ばれてくる。

 

全員分揃った所で頂いた。

 

 

「頂きます。」

 

 

あの時と変わらない味。

 

懐かしい匂いと温もり。

 

私自身、少し涙腺が緩んだ。

 

 

「…(変わらないな。」

 

 

段々と食事を終えた客達が店を後にし店主とカウンター席の私達だけが残った。

 

頃合いと思った私は店主に告げた。

 

 

「ご馳走様でした。」

「お粗末様でした。」

「前より腕を上げた様ですね、アキトさん。」

「何処かであったっけ?」

「今、偽装を解きますよ。」

 

 

店の店主であるアキトの前で偽装を解いた私。

 

その様子に驚いたアキト。

 

 

「ハスミちゃん!?」

「お久しぶりですね、封印戦争以来でしょうか?」

 

 

動揺するアキトに対し淡々と告げるハスミ。

 

 

「…」

「左右の方達はお気になさらず、事情を知る知り合いですので。」

「ラーメンを食べに来ただけって訳じゃなさそうだね。」

「その通りで、既に接触している事を前提でお話しします。」

「接触?」

「ヒビキ・カミシロ…いがみ合う双子のスフィアリアクターと接触しましたね?」

「!?」

「何故解ったのか?理由はサイデリアルに所属するスフィアリアクターの共鳴によるもの、最も彼が力を顕現させる為の機体を持っていないので微弱な反応でしたけど。」

「…(ソースケの言う通り、奴らの方が一枚上手だったか。」

「今の私はサイデリアルに身を置く事で、ある程度の自由を許されています。」

「君がサイデリアルに下った理由は判らないし何か理由があるのは解る……それは今も話せない事?」

「知り過ぎれば身を滅ぼします、特に貴方はユリカ艦長やルリ少佐達を守る王子様なのでしょう?」

 

 

守るべきものがいる事を忘れてはならない。

 

貴方も頸を突っ込んで犠牲になっていけないのだから。

 

ただ、これだけは伝えて置こう。

 

 

「私は守る為にノードゥスを去った、それは真実です。」

「守る為…それは何から?」

「……バアルと堕落した無限力の一部からです。」

「バアルと堕落した無限力?」

「無限力の中でバアル側に鞍替えした一部の意思達が『相互理解』と『共存共栄』の道を阻んてしまっている。」

「相互理解に共存共栄?」

「それはシンカの道へのヒントとして留めて置いてください。」

「教えてもいいのか?」

「ドモンを始めとした格闘連合辺りが悟って気付いているので、その内に彼らの中から覚醒者が出てくるでしょう。」

「ああ、頃合いって事か。」

「ええ、銀河大戦と時獄戦役が同時期で起こる可能性が出て来てしまっている以上は…」

「ちょっ!それはどう言う事!?」

「奴らは本気で人類を殲滅する行動に出てしまっている…なりふり構わずにはいられない。」

「ハスミちゃん、その事を俺経由で皆に知らせて欲しいって事でいいのかな?」

「はい、切羽詰まってしまうでしょうが…危機的状況が差し迫っている事はご理解ください。」

「そうは言うけど、フューリーやガディソードにラマリスとダークブレイン軍団の件で皆ゴタゴタしている。」

「更にザール率いる星間連合の暗躍、バルマーの偵察部隊の潜入、ディラドやラダム本星の侵攻、負念による悪霊の出現。」

「あのTOKYO JUPITERの現象については?」

「一言で言えば、アレは時のゆりかごです。」

「時のゆりかご?」

「来るべき戦いに備えて引き起こされた現象、流石に私にもどうする事も出来ません。」

「…」

「そろそろでしょうか、特別ゲストが到着するのは?」

 

 

長々と話を終えた後、ハスミは店内の時計を見て来訪者の出現を告げた。

 

 

「特別ゲスト?」

 

 

アキトはその言葉に?マークを浮かべたが、すぐに理解する事になった。

 

店のドアをスライドさせて入ってくる二人の学生。

 

それは宗介とヒビキの二人である。

 

 

「SNSで流したヒントを無事に解読出来た様ね?」

「ハスミ・クジョウ、俺達を呼び出した理由は何だ?」

「ウルズ7、私はヒビキ・カミシロに用がある…それだけよ?」

「貴方が…」

「初めまして、もう一人のいがみ合う双子のスフィアリアクターさん。」

「…(何だろう、不思議な感じがする人だ。」

 

 

ヒビキは初対面であるハスミの姿を見て、自身の感覚で雰囲気を感じ取った。

 

そんな彼の呆気にとられた姿を見た後、ハスミは答えた。

 

 

「貴方にあの方からの言葉を伝えるわ。」

「あの方?」

「アウストラリスの言葉よ、『我らの同志と成れ』と。」

「!?」

「勿論、その言葉に貴方は振り回されないでしょうけど。」

「…」

「返答は?」

「答えは決まっている、NOだ。」

「…(ま、回答は変わらずね。」

 

 

既に決まっている返答に対してハスミは静聴。

 

逆にヒビキはある質問を返した。

 

 

「ハスミさん、俺も貴方に聞きたい事がある。」

「聞きたい事?」

「貴方は……山羊座のスフィアリアクターですか?」

「何故、そうだと?」

「ソースケ達から貴方のこれまでの行動を聞いて俺なりに考えた結論です。」

「そうね、アカシックレコードを読めると言う点は合っているけど…それが私をスフィアリアクターと確定させるには材料が足りないわよ?」

「いえ、貴方がリアクターで間違いないです。」

「その自信あり気な根拠は?」

「貴方が転生者と言う点です、貴方は俺やソースケ達とは異なる転生者である以上は俺達とは異なる記憶や知識も持っている筈です。」

「…」

「それが深淵に飲まれたと言う山羊座の神話に当てはまります、スフィアも元となった神話に綱なる要因を持つ以上は該当者が貴方以外に在り得ないんです。」

 

 

ハスミはその考察を静聴し結論を告げたヒビキに対して辛口の助言を告げた。

 

 

「…駆け引き上手なのは認めるけど、その軽薄さは身を滅ぼすわよ?」

「では、認めるんですね?」

「なら、聞くけど…それでYESと答えた後に貴方はどうするの?」

「それは…」

 

 

意地悪を言うつもりはないが、君の決意はまだ希薄。

 

ハッキリして貰わなければ、君の求める答えは得られない。

 

 

「かつての記憶を持ち、新たな未来を描くのならもう少し周りを見てから答えなさい。」

「周りを?」

「言葉で伝えても解らないなら感じる事で理解は出来る筈よ?」

 

 

そう答えるとハスミはカウンター席から離れてヒビキの前に移動し彼の手に触れる。

 

 

「…(これが君の選択が選んだ答えよ?」

「!?」

 

 

ハスミからヒビキに流れた記憶、記録、記述、その果ての結末。

 

彼が今選択した行動が軽薄だった事、その結果に辿った道を示した。

 

早すぎる回答。

 

それによる混乱。

 

仲間同士の不和。

 

御使いの横槍。

 

そして希望の全てが全滅すると言う破滅。

 

可能性の一つの未来への道を示したのだ。

 

 

「判ったかしら?」

「…ああ。」

 

 

口は禍の元と言うのは理解して貰えた様子だ。

 

後は話を続けよう。

 

 

「あの方から今回も『力で示せ』と貴方に伝えよと言われているわ。」

「力で?」

「そ、志は言葉で伝えられるけど…あの方はひ弱な相手の下には就けないと遠回しに言っているのよ。」

「それがアウストラリスの意思?」

「不器用である事は確かよ、それでも鋼龍戦隊いえノードゥスと一戦交えたい戦いたいと願っている。」

「…」

「それがサイデリアルの総意、私達は天使達のグランギニョルではない。」

「ハスミさん。」

「伝える事は伝えたわ……後は貴方次第よ。」

 

 

ヒビキの問いに対して明確な答えを出さないままハスミは話を切り終えた。

 

 

「ハスミ、少し意地悪しすぎじゃない?」

「そうでしょうか、危機感がなさすぎるので忠告しただけですよ?」

「アンタがそれでいいならアタシは構わないけど?」

「俺もノーコメントだ。」

 

 

先程、ハスミが座っていたカウンター席の二人が声を掛けた。

 

どちらも見覚えがなく、初対面の筈である。

 

しかし、ヒビキはどことなく感じる懐かしい雰囲気で驚きの顔を見せた。

 

 

「そこの二人は…まさか?」

「お二人共、偽装解きますけど…いいですか?」

「異議なしw」

「ややこしいから早く頼むわ。」

 

 

ハスミは偽装の魔法を解くと二人の真の姿が現れた。

 

 

「ガドライト・メオンサムにエルーナルーナ・バーンストラウス!?」

「よう、相変わらずだな?」

「やっほー久しぶり?だね、ヒビキ。」

 

 

開いた口が塞がらないとはこの事である。

 

ヒビキは思考停止、アキトはある意味で絶望、宗介はさり気無くフォローしていた。

 

 

「…」

「俺の店が敵さんホイホイになってるのか?」

「そこは否定すべきと思う。」

 

 

アキトに関しては自身の店に敵対中の相手が来ているので気が気でない状況でもある。

 

 

「俺の事を覚えているって事は…二人も?」

「まあ、そう言う事になる。」

「アタシはヒビキの驚いた顔が見れたからいいけど。」

「…」

 

 

ハスミは気が緩んだヒビキに対して告げた。

 

 

「ヒビキ君、貴方が思っている以上に世界の状況は悪くなりつつある。」

「なら、何故サイデリアルを…」

「奴らに裏切りを悟らせない為よ、今ここで反旗を見せれば…判っているでしょ?」

「ある意味で人質を取られていると?」

「そうね、世界と言う人質を取られている以上は下手な行動は取れない。」

 

 

その気になれば、御使い達はこちら側の世界に干渉し銀河を滅ぼす事位は可能だ。

 

世界を守護する守りを確固たるものにする為にも…

 

次元力を行使するシンカの力を手に入れて貰わなければならない。

 

 

「気になるのは、アドヴェント達にも同じ様に記憶があるんじゃ…」

「それは不明だけど在り得ないとだけ伝えて置くわ。」

「?」

「理由の一つとしてガドライトさんは故郷を、エルーナさんは父親を、私は母を御使いの干渉で失った。」

「…それが結論ですか?」

「記憶が戻ったとしても長年身に沁みついた性格が直るとは思わない。」

 

 

サイデリアルのメンバーは前回と同じく大切なモノを失っている。

 

先程のヒビキの記憶を覗き見た時も彼にも『血塗られた眼』の発症と『母親の死』が起こっている。

 

 

「もう一つ忠告、今世ではバアル側に鞍替えした人間達が政府や軍に存在する。」

「えっ!?」

「奴らは自分達がバアルと化せば世界を意のままに出来ると騙されている…要は愚か者の集まりね。」

「そんな連中が…」

「戦うべき敵が多い以上は周囲の状況を理解し良く見て行動する事をお勧めするわ。」

 

 

状況を見誤れば自身の頸を絞める。

 

彼には少し緊張感を持って貰った方がいい。

 

 

「ウルズ7、ヒビキ君…カナメとスズネ先生に危機が迫っているけどいいの?」

 

 

「「!?」」

 

 

「ボランティア部だったかしら、その活動で他校や近くの中学に小学の子達と外部活動中なのでしょ?」

「ハスミさん、何が起こっているんですか?」

「…簡単に言えば、勇者がらみの一件よ。」

「まさか、防衛軍に何か起こったのか!?」

「正確にはその子供達を狙った絶望の化身の暗躍……元グランダークの幹部の一人だったセルツ・バッハが動き出した。」

 

 

奴の気配は忘れはしない。

 

L5戦役で奴を仕留める筈だったのに無限力の横槍で仕留め損ねたのだから。

 

 

「彼女達の活動している場所へ急いだ方がいいわよ…手遅れにならない内に。」

 

 

ハスミの忠告を受けた後、二人は店を飛び出していった。

 

 

「アキトさん、北辰がアマルガムと共に動き始めている…黒の王子様に戻る日は近いかもしれません。」

「…そうかもしれないね。」

「勘定はここに置いて置きます、ご馳走様でした。」

「毎度あり。」

 

 

ハスミはカウンターへ戻ると支払いを置いてからガドライトらと共に店を後にした。

 

アキトも情報を得た事を対価にその跡を追う事はしなかった。

 

彼女達もまた別の意味で戦い続けている事を知ったから…

 

 

>>>>>>

 

 

それからしばらくしてからの事。

 

ハスミの予告通り、郊外でボランティア活動を行っていたカナメ達と防衛軍に協力している子供達が謎の異空間に囚われていた。

 

スズネに関しては場所が良かったのか、ただ一人巻き込まれなかった様だ。

 

それを発見したヒビキらと合流し発生した異空間にカナメ達が巻き込まれた事をスズネは説明した。

 

 

「くそっ、千鳥!」

「…スズネ先生。」

「…ヒビキ君。」

 

 

絶望の中でも諦めない強い意思。

 

それがトリガーとなったらしい。

 

 

「これって…」

「ヒビキ君、もしかしたら!」

「はい、来い!ジェニオン!!」

 

 

ヒビキの呼び掛けに答えて出現したジェニオン。

 

ヒビキの中に潜んでいたスフィアが別の空間で停止していたジェニオンと反応し無理やり呼び寄せたらしい。

 

理由として元々スフィアを奪取し搭載する事を目的とした機体だった為に無防備なスフィアに反応したと思われる。

 

そんな事情はさて置き、ヒビキとスズネの両名は出現したジェニオンに搭乗。

 

宗介もアルとの通信を終えて光学迷彩で移動して来たアーバレストへ搭乗し共に行動を開始した。

 

 

「機体に搭乗したとはいえ、この異空間をどうすれば…」

「手ならありますよ?」

 

 

ジェニオンとアーバレストの前に転移して来たエクスガーバイン・クリンゲとジェミニア。

 

エルーナに関しては、アウストラリスの指示で先に月のターミナルベースへ戻っている。

 

 

「よう、手こずっている様だな?」

「ガドライトと…そっちの機体は?」

「あれはエクスガーバイン・クリンゲ、ハスミ・クジョウの機体だ。」

「あの…手があるってどう言う?」

「いがみ合う双子のスフィアで異空間を安定させている現象に干渉するのです。」

「干渉?」

「つまり、俺らのスフィアで異空間の安定を崩す。」

「ねえ、ヒビキ君…一体何が?」

「説明は後で、今は異空間を。」

 

 

目処前にサイデリアルの出現。

 

何故が親しげに話し合うヒビキに対して疑問の表情を見せるスズネ。

 

ヒビキは今の状況を解決してから説明するとスズネを論した。

 

 

「双子座のスフィア同士で異空間を崩すぞ?」

「ああ。」

 

 

スフィア同士の同調と共にいがみ合う力…異空間を安定させている力に干渉し均衡を崩した。

 

それにより異空間はその現象を保てずに崩壊し異空間に囚われていたカナメ達の姿を発見し無事である事を確認する。

 

だが、彼女らは気絶し動ける状態ではなかったので危機的状況は続いていた。

 

 

「ソースケ、救助を頼めるか?」

「ああ、任せてくれ。」

「それには及ばないわ。」

「えっ?」

 

 

ハスミは念動力で気絶したカナメ達を安全な場所へ転移させ、戦場から引き離した。

 

 

「あの…」

「巻き込むつもりはない、倒すべき相手は目処前に居る。」

 

 

ハスミの声通りに異空間崩壊と共に現れたセルツと乗機デスマレフィック。

 

 

「ふ、聖勇者共を誘き寄せるつもりが別物が群がったか…」

「随分と早い復活の様ですね。」

「この気配、貴様は…ガンエデンか?」

「ご想像にお任せします、バラオに続いて貴様も復活した…バアルはとことん悪食の様で?」

「あの存在を知っているのか…興味深い。」

「話はさて置き、子供達を巻き込んだお礼はさせて貰うわよ?」

 

 

三対一の構図。

 

三機とも臨戦態勢だったが、セルツは別の目的の為に撤退の意思を見せた。

 

 

「貴様達を滅ぼすのに少々手間が掛かる、私の目的は勇者の抹殺…それだけだ。」

 

 

そう答えるとセルツのデスマレフィックは何処かへと転移し行方を眩ませた。

 

 

「ちっ、逃げやがったか。」

「…追跡は不可能、負念の気配が強すぎて感じ取れない。」

「無理はすんなよ?さっきの転移で力を使い過ぎているんだからよ。」

「ご配慮ありがとうございます。」

 

 

ガドライトとハスミのやり取りの後。

 

ハスミはヒビキらに答えた。

 

 

「ヒビキ・カミシロ…貴方が彼らと共に戦うにはまだ早い。」

「っ!」

「貴方は戦いの中で目覚めなければならない。」

「目覚め?」

「第四のステージ、それが世界を転臨させる為の鍵。」

 

 

ハスミはそれだけを告げるとガドライトと共に空間転移で去って行った。

 

 

「ヒビキ君。」

「スズネ先生、俺達はまだ知らない事が多そうです。」

「そうね。」

「…(その時まで俺達は強くなる。」

 

 

全てを指し示し目指す場所は同じなのだから。

 

 

=続=

 





得体の知れない何か?


次回、幻影のエトランゼ・第九十一話『警告《ケイコク》』



言葉は狂いだす。


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第九十一話 『警告《ケイコク》』



それは何か?

それは概念なのか?

理解しがたい何か?





 

前回の戦いの後、宗介の伝手で地球防衛軍に接触したヒビキとスズネ。

 

ジェニオンを開発したDEMコーポレーション所属のエージェントこと次元商人のAGの登場により少々の厄介事が発生。

 

当事者であるヒビキ達と防衛軍側に対するAGの建前上の話によると…

 

ジェニオンは本来DEMコーポレーション所有の機動兵器であり、起動テスト中の事故でこちら側の世界に流れ着いてしまった。

 

転移場所へ偶然居合わせたヒビキとスズネ両名が危機的状況の為に搭乗。

 

登録を解除しようにもAG自身も転移の誤作動で本社と連絡が取れず、八方塞がり。

 

帰還出来る手段が見つかるまでこちら側で商人として活動する事を伝えた。

 

なお、ヒビキとスズネに関してこのままDEMコーポレーションのテストパイロットとして防衛軍に協力する形となった。

 

そして証人として現場に居合わせた宗介が事の状況の詳しい経緯を説明した。

 

L5戦役で倒したグランダーク一味の幹部であるセルツが復活し郊外でボランティア活動していた子供達が襲われた事。

 

同じくボランティア活動に加わっていたカナメ達も巻き込まれた。

 

しかし、とある乱入者達によって無傷で子供達を救出する事が出来た事。

 

乱入者であるサイデリアルがセルツと敵対していた事が要因の一つ。

 

この事からサイデリアルは負念…ラマリスと敵対し殲滅活動を行っている様子だった。

 

 

******

 

 

Gアイランドシティ内の宇宙開発公団の所持する大型施設。

 

その地下にある旧GGGの基地での対談。

 

宇宙のオービットベースが主な拠点になっているが第二施設として現在も使用されている。

 

ヒビキらと共に呼び出しを受けたソースケは一連の出来事を淡々と簡潔に説明した。

 

 

「以上がご報告出来る内容になります。」

「そうか…サイデリアルもラマリスを。」

「それ以前にセルツが復活していたなんて…」

 

 

オーダールームの分割されたモニターでそれぞれの感想を漏らす防衛軍の関係者達。

 

防衛軍からは総司令に当たる高杉大佐、その実働部隊の指揮官の武田長官。

 

有志機関としてブレイブポリス、旋風寺コンツェル、VARS、GEAR等の面々。

 

GGGからは同じく大河長官とオーダールームの面々。

 

因みに宗介達の側は八木沼長官らが滞在している。

 

その中でヒビキとスズネは子供達のその後を質問した。

 

 

「あの、子供達の様子は?」

「全員、意識を失っていたが外傷等は見られない…時期に眼を覚ますとの事だよ。」

「良かった…」

 

 

子供達の無事に安堵する二人であったが、二人がやった事が許される訳ではない。

 

人道支援活動であるが、無断で企業所有の機動兵器を使用した事に変わりはないのだから…

 

話し合いの結果、代表として大河がヒビキらに決定事項を告げた。

 

 

「君達の処遇は防衛軍側、AG君と相談して防衛軍の次期主力機のテストパイロットとさせて貰ったよ。」

「判りました。」

「やけに素直だね、君位の歳なら納得がいかずに口論になると思っていたが…」

「こんなご時世です、なってしまったものは仕方がないかと…俺やスズネ先生も次元漂流者でもありますし。」

「…ヒビキ君。」

「…君らもか。」

 

 

次元漂流者、空白事件後より発生している時空振動からの漂流者達の事である。

 

本来の属する世界が崩壊した、偶然に巻き込まれたなどのケースが多い。

 

漂流者達は全員戻る術がない以上は政府から認定調査を受けたのちにこちら側の市民権を与えられている。

 

現在も時空振動の研究が進められているが遅々として進んでいない。

 

ヒビキとスズネもその帰還する術を待つ漂流者達であった。

 

 

「君達にこちら側の厄介事に巻き込んで申し訳ない。」

「いえ、謝って貰う必要はありません。」

 

 

ヒビキは長官の謝罪は不要と告げた。

 

 

「そうです、私達は偶然巻き込まれただけ…誰かのせいではありません。」

 

 

漂流者達の出現の最中。

 

誰もが元の世界に帰りたい、帰るべき世界もないのにどうしたらいい、と絶望の淵に立たされた。

 

誰かのせいにしなければ、その精神面は保てなかった。

 

誰かが受け皿にならない内には…

 

 

「大河長官、セルツが復活した以上は彼らの協力も仰ぐ必要があります。」

「その件に関しては、既に各所に話を通してある…だが。」

「長官、何か?」

 

 

VARSの司令官である愛美からの提案に対し通達済みと答える大河だったが…

 

何かあると感じ取った高杉大佐から質問をされた。

 

 

「各地のラマリスの発生と例の植物惑星の一件で鋼龍戦隊とノードゥスは前回の様に集結する事は困難と言う事です。」

 

 

封印戦争時の様に部隊を集結させるのは困難な状況が続いている。

 

解り安く纏めるとラマリス討伐に関しては鋼龍戦隊、植物型惑星の侵攻にノードゥス。

 

各地で頻発している無差別テロや紛争鎮圧に他が駆り出されている状況だった。

 

 

「サイデリアルが地球圏に対して侵攻を行っていないのが救いと言いたい。」

「確かに、逆にサイデリアルが他の侵略組織への抑止力になっている様子も伺える。」

「ケイロン・ケシェット…いえ、アウストラリスの目的は一体何なのでしょうか?」

 

 

宣戦布告した筈のサイデリアル。

 

しかし、その行動はラマリスの殲滅や他の侵略組織への妨害のみ。

 

国際警察機構の総本山である梁山泊への侵攻もあったが、実質的な被害は出ていなかった。

 

サイデリアルの代表であるアウストラリスの言葉通りなら最も強い者との戦いを求めている。

 

その過程でスフィアを覚醒させられる者を集めている状況。

 

スフィアが戦いの鍵である事は変わらず、現在も連合軍や他の勢力も残りのスフィアを捜索している始末。

 

戦況は混乱するばかりである。

 

 

「ベガ副指令、アルクトスの方では何かあったかね?」

「いえ…兄上からは特に何も、惑星復興の協力者としてデュミナス達とエンジン王が滞在してますし。」

「ガルファも取り付いていた機械神が消え去った事で元の状態に戻り、今は惑星の人々と共に共存の道を歩んでいます。」

 

 

GEARの話からオービットベース側のオーダールームの防衛軍側の近状会話へとスライドしていった。

 

 

「スペースナイツとE.D.Fは惑星ファルスの一件で不在、光君達はイルイ君の護衛でセフィーロに…」

「ファルセイバー達はGGG北米支部への支援で遠征に出ていますし。」

「何処も人手不足で八方塞がりデス。」

 

 

人手不足、現状で当てはまる言葉がそうだろう。

 

封印戦争後の復興も進みつつあるが、完全ではない状況。

 

それらが人々の不安を余計に掻き立てていた。

 

 

「…(希望と絶望が入り混じった感情、ハスミさんは周囲をよく見ろって言ってたな。」

 

 

彼らの会話に不安が入り混じるが、決して絶望している訳ではない。

 

それは彼らが希望を見失う事がないからだ。

 

彼らが支える者達もそう言った側面が強い存在達だからである。

 

 

「あのすみません、俺達はまだここに居た方がいいですか?」

「ああ、すまないね。」

 

 

事情聴取を終え、関係者達との話し合いを終えたヒビキ達。

 

一度自宅への帰宅を許され、何かあれば連絡を行うと告げられた。

 

スズネは学園への対応、宗介はミスリルへ今回の顛末と事後報告書の作成等でそのまま現地解散。

 

ヒビキは学寮へ帰宅後に雪谷食堂へ向かったが、店は休業案内の看板を下げておりアキトから詳しい話は聞けなった。

 

既に夜を迎えた事もあり未成年者の外出が禁止されている時間帯に切り替わりつつあった。

 

 

「…(自分で考えろって事なのか?」

 

 

まるで誰とも相談させない様な巡り合わせ。

 

今後の事は自分で考えて行動すべしと言わんばかりに。

 

ヒビキはそう思えてしまうのだった。

 

 

「昼間より随分とシケた面だな?」

「ガドライト!?」

「よ、また会いに来たぜ?」

「…」

「安心しな、例の連中の監視はない。」

「わ、判った。」

 

 

閉店した店の前に現れたガドライト。

 

二人は場所を移し、近くの公園に移動した。

 

 

「昼間の件で聞きたい事があった。」

「だろうな。」

 

 

自販機の飲み物を片手に話し合う二人。

 

 

「何故、双子座のスフィアが二つあるんだ?」

「その件に関しては俺も驚いている。」

「えっ?」

「ハスミの話では何かが引き金となって変質した…って位だがな。」

「理由は不明だと?」

「例のアカシックレコードでも不明らしい。」

「それじゃあ一体…」

「ハスミの推測だと神様のイタズラ…そのレベル並みの変異らしい。」

「!?」

「流石のアイツもその変異に頭抱えていたけどな。」

「…(あの人が頭を抱える姿って、想像出来ない。」

 

 

ヒビキは想像しにくい案件を余所に缶コーヒーに手を付けた。

 

続けてガドライトはある情報をヒビキに告げる。

 

 

「それは兎も角、この双子座のスフィアに厄介な案件があるらしい。」

「厄介?」

 

 

厄介な案件に関してガドライトは説明を続けた。

 

 

「二つに分かれた双子座のスフィア、一つは希望と絶望に一方ずつ別れている、二つは前者のパターンが無く前回の状態で弱体化して別れている、三つめはスフィアの完全起動には二つが同じ場所に存在する必要があるって事だ。」

「…そんな事が。」

「ま、昼間の一件でその案件は全部潰れた。」

 

 

厄介な案件と思いつつも全部総崩れの結果となった事にヒビキはツッコミを入れた。

 

 

「話した意味がないだろ!?」

 

 

最終的に判明した結論をガドライトは答える。

 

 

「んで、判った事は…恐らく俺らの双子座のスフィアは適合者一人が持つには強大な力を秘めちまっている。二つに分かれたのはそれが原因かもしれないって事だ。」

「待ってくれ、昼間の同調では前の時と同じで…」

「お前、まだサードステージ前だろ?」

 

 

昼間のスフィア同調時にどのステージに上がっていたのかを見抜かれたヒビキ。

 

「っ、そうだ…」

「俺との同調もあったとは言え、サード前で前回と同じ力を発揮していた…これが解るか?」

「俺がサードステージに上がれば、スフィアは?」

「前回以上の力を引き出す可能性がある…それはもう人であるかも不明な位にな?」

 

 

そして双子座のスフィアを中心に他のスフィアも連動しナニカへと変異する。

 

ヒトではないナニカへと。

 

 

「ま、俺らはその力を使わねえといけねえ相手と戦うんだけどな?」

「例のバアル?」

「ああ、本格的に俺ら人間を潰しに掛かっている…まだ猶予はあるが期待しない方がいい。」

「なら、今のサイデリアルのしている事は…」

「御使いの眼をそらす事とバアルと対等に戦える奴らを育てる為の試練役って所だ。」

「…」

「他にもバアル側に堕ちた連中の討伐も含まれている。あのラマリス…負念の件もあるしな。」

「…道化ですね。」

「そうかもな。だが、人類はこうでもしねえと動かねえって判っているだろ?」

「判っている。」

 

 

前回と同様に人類が一つに纏めるには、それなりのフローチャートを踏む必要がある。

 

今は出来る事すべき事をしなければならない。

 

 

「後、ハスミからお前に忠告…サイガス・エイロニーをこちら側の軍内部で発見した。」

「!?」

「今は他の重鎮がポジションを守っているが、いずれは奴が動く。」

「こっちも動きにくくなる…か。」

「ま、こちら側の連中に任せて見るのも一つの手だぜ?」

「えっ?」

「俺もお前も前の世界では出会えなかった連中が数多くいる、そいつらと接点を持ってもいいんじゃないか?」

「…」

「さてと、話は終わりだ。」

 

 

ガドライトは飲み終えた空き缶を近くのごみ箱に投げ捨てるとヒビキに別れを告げた。

 

 

「ガドライト、これからどうするんだ?」

「前と同じくサイデリアルとして動くのと、後…お前がヤバくなった時のフォローは秘密裏にする。」

「いいのか?」

「アウストラリスからお前の監視を任されている…俺の好きにしたって構わねえって事だ。」

「…」

「じゃあな。」

 

 

それだけ答えるとガドライトは去って行った。

 

 

=続=





揺れ動く戦場。

世界は揺らぐ。


次回、幻影のエトランゼ・第九十二話『揺界《ユレルセカイ》』


世界は流れのままに。


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第九十二話 『揺界《ユレルセカイ》』


世界は揺れ動く。

新たな脅威と共に。

新たな可能性と共に。

だが、出会いは妨げられる。


 

前回、極東方面で起こった事件。

 

それは後日となったが、ノードゥス関係者に速やかに通達された。

 

だが、宇宙へ上がったノードゥスのメンバーにトラブルが引き起こされた事もまた通達されたのであった。

 

植物型惑星の侵攻を止めたノードゥス艦隊。

 

突如、時空振動が発生し一部の部隊が巻き込まれる事態が発生。

 

その巻き込まれた部隊が皮肉にも前世で飛ばされた世界に関わった人物達だった。

 

混乱するノードゥス艦隊だったが、時空振動による転移では手が出せず…

 

仲間の安否も不明のまま地球への帰還を余儀なくされた。

 

彼らが戦うべき相手は他にも存在する。

 

ノードゥス艦隊は飛ばされた仲間達の無事を祈るしかなかった。

 

 

******

 

 

極東での事件発生から二週間後、引き続き鋼龍戦隊は発生したラマリスの対処に当たっていた。

 

この二週間の間に鋼龍戦隊に新たな協力者が加わった。

 

ガディソードの軍人であるジーク・アルトリートとサリー・エーミルの二名である。

 

表向きは最上重工の社長秘書、裏側ではクロスゲート・バースト発生時に地球へ降下したドリフト・ウィング改めアリアードのパイロット…

 

フェアリ・クリピアの行方を追うと同時にヘルルーガ・イズベルガの計画を探る為に鋼龍戦隊へ接触。

 

そのまま協力者として行動している。

 

二人の話とフェアリの話を照らし合わせた結果、ヘルルーガの行動が黒と判明。

 

ゴライクンルとの結託も判明しているので、今後は敵性勢力として襲撃してくるだろう。

 

問題はマルム・クイスードと彼を支持する穏健派に真実を知らない民間人達の身の安全。

 

マルムの人柄は以前にヒリュウ改のクルーと接触した政府関係者らにより理解されている。

 

戦うべき相手はヘルルーガと彼を支持する強硬派。

 

フューリーの一件と同様に鋼龍戦隊が中心となって対処する事が統合参謀本部から通達された。

 

現在はパリとカラチに出現し占領したラマリスの件があるので今はその期ではない。

 

戦力が整い次第、対処する形である。

 

 

******

 

 

月のターミナルベース、内部の円卓が設置された会議の間にて。

 

私ことハスミは二週間の間に起こった出来事をアウストラリス達に報告していた。

 

 

「最後にアカシックレコードからの警告通り、ノードゥス艦隊の一部がADW世界へ転移しました。」

「時差があるとは言え、早すぎる転移だな?」

「はい、例の如く無限力の陰謀ですよ。」

 

 

ちなみに前回のヒビキとスズネの発見とヒビキに釘を刺して置いた件を伝えて置いた。

 

その件でヒビキ達の監視はガドライトらジェミニスに一任された。

 

 

「ヒビキ達に関してはガドライト、引き続きお前に任せるぞ?」

「了解した。」

 

 

軽い応対をし終えたのを見計らってハスミはアウストラリスに進言した。

 

 

「アウストラリス、パリとカラチの件なのですが…」

「何かあったのか?」

「以前話して置いたゴラー・ゴレム隊がこの頃にイタリア方面で行動しているので接触を試みたいのですが?」

「…それは構わんが、単独行動であるのならファウヌスの姿で行え。」

「了解しました。」

「アタシはいつも通りで?」

「ああ、エルーナは引き続きターミナルベースの警護を頼む。」

「へーい。」

「アサキム、お前はどうする?」

「そうだね…先行してADW世界に行きたいけど、どうだろう?」

「ハスミ、転移は可能か?」

「次元境界線の方にまだADWへ続く支流の流れが残っているので転移は可能ですが…」

「何か問題でも?」

「僅かですが、転移中に時差変動が起こる可能性があるのでどの時間軸に飛ばされるかは不明です。」

「そこは運次第って事か……僕にとっては時間の流れは関係ないからいいけど。」

「アサキムにはカラチ方面への出向を頼みたかったのですが…無理強いは出来ませんね。」

「ハスミ、カラチの件に関しては俺が出る。」

 

 

アウストラリスの言葉に動揺する一同。

 

 

「おいおい、総大将が自ら出ていいのかよ?」

「構わん、それに二分された鋼龍戦隊…一時的とは言え関りを持った者達の様子も見て置きたい。」

「あーあー、何時ものアレ出ちゃったね。」

「ハスミ、お前は先述通りにファウヌスとしてパリ方面の件を頼む。」

「了解しました。」

 

 

ガドライトとエルーナからの口論があったものの、アウストラリスは自らパキスタン・カラチ方面への出撃を決定した。

 

理由はケイロン・ケシェットとして鋼龍戦隊に潜伏していた時に使用していた特機・蒼雷…その強化版の試運転だろう。

 

サイデリアルの次元力研究の成果を組み込んだ機体で鋼龍戦隊と一戦交えたい気持ちが強く出てしまっている。

 

これは止めようがないので全員一致でそのままになった。

 

結果的に地球圏への侵略行為ではなくラマリス討伐がメインであるので被害を受けるのは実質的に鋼龍戦隊である。

 

これも試練と思って鋼龍戦隊には耐えて欲しいと思うハスミだった。

 

 

「では、ガドライトさんはヒビキ達の監視と極東エリアでの活動、エルーナさんは月・ターミナルベースの防衛、アサキムはADWへの先行、私はイタリアを経由しフランス・パリでの活動、アウストラリスはパキスタン・カラチでの活動に決定、異論はありませんね?」

 

 

ハスミが復唱し一同に異論がない事を確認した後、会議は終了した。

 

それから数時間後。

 

 

「…」

 

ガドライトらジェミニス隊は先に出撃。

 

アサキムも準備を終えて、破壊された植物型惑星の残骸の場へ転移、更に次元転移でADWへと移動した。

 

エルーナはストラウスの姿でハイアデス隊と共にターミナルベースに待機。

 

アウストラリスは数名の側近を連れて後から出撃。

 

私ことハスミ…いや、ファウヌスはアルシャト隊を引き連れてイタリアへと転移した。

 

アルシャト隊は全て私が組み上げた自立型AIで構成された部隊。

 

元となったそれぞれの思考は…例の彼らを元にしている。

 

それぞれが個性豊かであるが、それも懐かしい思いが込み上げた。

 

共に背を預け、刀を振るい合った。

 

その志は今も続いている。

 

彼らを夜の道へ歩ませてしまったのは私の罪だ。

 

それは受け入れよう。

 

 

「ファウヌス様、出撃の準備が整いました。」

『判った、我々はこれより地球へ降下しイタリアからパリで行動を行う。』

 

 

アルシャト部隊に数名であるが末端のサイデリアル兵が配備された。

 

共に私もまた出撃を開始した。

 

 

 

=続=

 





それは偽りの変異。

接触の時は来た。


次回、幻影のエトランゼ・第九十三話『接触《セッショク》』


それは必要な処置。


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第九十三話 『接触《セッショク》』


それはある意味で叶う筈のない現象。

変異する事象。

敵に回したのはどちら?


 

二週間前、梁山泊での戦いの後。

 

鋼龍戦隊はサイデリアルに指示され戦闘を余儀なくされたフューリーの兵士達と情報交換を行った。

 

代表として、彼らの部隊長を務めていた騎士とシャナ=ミア達は対談していた。

 

彼から聞かされた真実。

 

それはサイデリアルの目的が一つ解明された瞬間でもあった。

 

 

******

 

 

梁山泊の一室、投降したフューリーの騎士の一人がシャナ=ミアに対し剣を向けた事を謝罪。

 

余りの後悔にその騎士は地球で言う切腹をやらかしそうだったので数名で取り押さえて静止。

 

少々トラブルはあったものの話し合いへと戻った。

 

 

「それでは刻旅の社で眠っていた民達は…」

「民達は全員、何処かへ移送されました。」

 

 

騎士の話からフューリーの非戦闘員並びに民間人…刻旅の社で眠っていた者達全員が目覚めさせられた。

 

そして何処かへと移送された。

 

ガウ=ラ・フューリアに残されているのは最低限の管理を行える人員のみ。

 

騎士や諜士などの戦闘員は、引き続きサイデリアルの先兵として動かされていた。

 

 

「何処へ移送されたのか分かりませんか?」

「いえ、聖禁士長の不在の中で末端となった我々には情報が入らず…」

 

 

エ=セルダやアル=ヴァンと言うシャナ=ミア側の穏健派中心人物が不在となったフューリー。

 

その中で好機と思った存在達が強硬派のグ=ランドンとカロ=ラン達である。

 

シャナ=ミアの脱出を逆手にフューリーらの先導者としての地位を得た二人は地球人抹殺を目論むだろう。

 

 

「そうですか…ですが、皆が無事であった事がせめてもの救いと思いたいです。」

「皇女殿下…」

「貴方達もここまで良く耐えてくださいました。」

 

 

皇女からの労いの言葉、それは何よりも彼らの心に響き渡った。

 

希望はまだあると知らしめる様に…

 

 

「中条長官、彼らをこちらで待機させて頂いても宜しいでしょうか?」

「その件に関しては、、統合参謀本部からも通達があったのでご安心を。」

「ありがとうございます。」

 

 

騎士達はシャナ=ミアと共に戦う事を望んだが、鋼龍戦隊を狙う敵は多く…

 

理由として前回の一件もあり同行させる事は出来ないとマイルズらに判断されてしまった。

 

その為、梁山泊で待機し後にアシュアリー・クロイツェル社に引き取って貰う形となった。

 

彼らが戦うにしても、機体の多くが損傷し使用出来る状態ではない事も確かだ。

 

いずれはガウ=ラ・フューリアの奪還の際に協力を仰ぐ事となる。

 

それまではしばしの別れとなった。

 

 

~二週間後~

 

 

梁山泊での一件後、鋼龍戦隊は中国の連合軍・上海基地にて補給。

 

統合参謀本部からの指示でフランス・パリを奪還する作戦『オペレーション・トリオンフ』への参加とパキスタン・カラチで異常発生したラマリス掃討の為に部隊を二分する事となった。

 

話し合いの結果…

 

パリルートへはSRXチームや超機人…念動力者を中心としたハガネ隊。

 

カラチルートへはラースエイレム搭載機並びにシュンパティア搭載機を中心としたヒリュウ隊。

 

それぞれに残りの部隊が振り分けられる形である。

 

部隊分散の関係で極東エリアは地球防衛軍にミスリルやネルガル重工と言ったフリーで動ける戦力が防衛。

 

宇宙での行動は植物型惑星の壊滅を終えたノードゥス艦隊が火星で補給を終えた後、地球圏近海を中心とした監視任務を行う事が決定した。

 

ノードゥスに協力しているホルトゥスは彼らがカバーしきれないエリアの防衛と監視。

 

悪霊の脅威は去った訳ではない、絶望せずに希望を胸に戦うべき時であるのだ。

 

油断大敵、絶望こそが奴らの糧なのだから…

 

 

>>>>>>

 

 

イタリアとスイスの境にある山脈にて。

 

問題の戦域であるモンテ・ディルーポへ赴く前の段取り通り。

 

連合軍の監視衛星を掻い潜り、サイデリアル所属・アルシャト隊はこの地へ訪れた。

 

部隊長であるファウヌスは各員に点呼と共に注意喚起を行った。

 

 

『全機、隊員並びに機体の不備はないか?』

「隊長…各員並びに各機の異常はありません。」

『了解、これより地球へ降下したとされるバルマーのゴラー・ゴレム隊と接触する。』

「了解しました。」

『相手がこちら側を攻撃する事は明白。各自臨戦態勢のままで行動…相手は光学迷彩を使用している、油断するな?』

「了解。」

 

 

配備されているサイデリアル産の機動兵器はアルシャト隊用に配備された人型兵器のアンゲロイCAP、無人兵器にティアマート、戦艦にアドラティオが一隻。

 

アンゲロイCAPはアルシャト隊で運用され機体色は黄土で統一されている。

 

更にアルシャト隊が独自に持つ起動兵器があった。

 

名はディミオス、刀による近接主体であるが応用戦闘を行える機動兵器。

 

基本構造は同一であるが、見分けがつくように一部のパーツがそれぞれ異なっている。

 

代表としてディミオス・ヴラフォス…岩の処刑者を意味する。

 

リーダー格のヴラフォスを含めて計十二機を製造し配備。

 

アルシャト隊は人ではなく独立型AIが主体である。

 

機体の多くに搭乗しているのは人ではない。

 

これにより直属のディミオスはファウヌスが独自に管理しているので詳細は不明と言う形にしている。

 

 

『ヴラフォス機からフォティゾ機へ、調子はどうか?』

 

 

ファウヌスの呼び掛けに応じてディミオス各機が言葉を放った。

 

 

「ヴラフォス、問題は無い。」

「イーコス、派手に問題ねぇ!!」

「フルトゥナ、問題ねぇ。」

「プロクス、うむ!良好だ!」

「ヒュドール…問題ない。」

「オピス、ダラダラは好かない。」

「エ、エラスティス…大丈夫です!」

「プシュケー、問題ありませんよ?」

「オミクレー…得には。」

「ブロンテー、ああ…帰りたいよー!」

「うっせぇぞ!クティノス様はこの通りだぜ!」

「フォティゾ、問題ありません!!」

 

 

ファウヌスは彼らの応答に対し、少し動揺した様子を見せつつも答えた。

 

動揺の理由は彼らの思考パターンをある人物達に似せた事によって統率が危ういかもと思った為だ。

 

 

『異常が無くて何よりだ、今回の任務は君達の運用テストも兼ねている…気を抜かないでくれ。』

 

 

ファウヌスは声を掛けた後、今回の目的を整理し直した。

 

モンテ・ディルーボの山中に落下した未確認物体。

 

それを現地の登山者が発見し軍に通報。

 

後に調査団とAMの護衛部隊が現地へと向かう。

 

だが、落下物を手に入れる為にゴラー・ゴレム隊が乱入し調査団と護衛部隊は壊滅。

 

生き残りはいなかった。

 

更に調査団の捜索に現れたギント支隊ことハガネ隊が転移し光学迷彩で隠れていたゴラー・ゴレム隊と交戦。

 

奴らの手に入れた落下物は恐らく…破壊したアダマトロンかラ・ギアスに潜んでいた巨人族の欠片と推測している。

 

若しくは別の何か、アゾエーブの様な例外も出ているので落下物の奪還若しくは破壊は確実にしなければならない。

 

正体を知りたいけど、また無限力のフィルターが原因で視れないし何とも言えない。

 

…ん、そろそろか。

 

 

『反応があった、各員…指定ポイントまで移動する!』

 

 

ファウヌスは自身のスフィアで例の存在達を感知し行動を開始した。

 

同時にディミオス達に別行動の指示を出す。

 

 

『ディミオス達は第二ポイントへ移動しラマリスの殲滅…殲滅後は指定ポイントへ撤退し帰還せよ。』

「了解。」

『忘れては無いと思うが……全員帰還を第一とする、無理強いはするな。』

 

 

一部であれば使い捨てのAIに掛ける言葉ではない。

 

その言葉にはファウヌスの危うい優しさが滲み出ていた。

 

 

******

 

 

一方、その頃。

 

モンテ・ディルーポの山中で連合軍から派遣された調査団はほぼ全滅し護衛部隊も残り僅かとなった。

 

 

「隊長…」

「生き残りは俺とお前か。」

「その様です。」

 

 

AMで構成された護衛部隊の隊長と副官が何とか生き残っていた。

 

敵は光学迷彩で姿を隠し、手数と変調した攻撃で彼らの部下達を全滅させた。

 

調査団も隙を突かれて全滅し発見された異物も持ち去られてしまう始末。

 

事実を知った彼らに退路は無い。

 

 

「随分と粘った様だけど、これで終わりよ。」

 

 

敵の行動隊長らしき人物の合図で二機のレリオンが撃墜される瞬間…

 

 

『ほぉ、アレを狙う者が他にも居たとは…』

「!?」

 

 

光学迷彩で隠蔽された機体を数体撃ち抜く黒と紫色の機体。

 

その機体のパイロットが敵の部隊長へと音声通信を送った。

 

 

『機体は地球製だが、乗り手は地球の者ではないな?』

「…」

『だんまりで結構。私には関係ない事……そうだろう、ゴラー・ゴレム隊の諸君?』

「っ!?」

 

 

自身らの正体を看破した存在。

 

答えた以上はこちらを狙ってくる事は必須。

 

ファウヌスはそれを見越して奴らに挑発を掛けたのだ。

 

 

『さて、君達が回収したモノを渡して貰おうか?』

「素直に渡すとでも?」

『建前上の礼儀は大事だよ。察するに君の飼い主…いや創造主は少々抜けていると見る。』

「なっ!?」

『驚いただろう?だが、種明かしはここまでだ……真実を知りたくば戦うしかない。』

「…各機、あの機体を抑えるぞ。」

 

 

部隊長である仮面の女ことスペクトラ。

 

彼女は相手が何故自分達の正体を看破したのか理解不能だった。

 

一度も接触もしていない相手が何故と?

 

 

『それでいい。私の好奇心を満たす為にも…我らサイデリアルが君達のお相手をしよう。』

「サイデリアルだと!」

 

 

スペクトラはサイデリアルの言葉を聞き、驚く。

 

部隊内でも危険度最大と認識されている組織。

 

その一つが目処前に現れたのだ。

 

 

『こちらの名を伝えてなかったな、私の名はファウヌス……サイデリアルの軍師を担っている。』

「軍師が自ら前線に?」

『君らには不可解だろうが、興味深いだろう?』

「…そうでもないわ。」

 

 

ユーゼスと言う前例が居る以上は前線に出るバルマーの軍人が居ても可笑しくはない。

 

例えとして科学者や祭司長の位を持つ者達でさえ、戦場に出ているのだから…

 

 

「全機、あの機体を捕らえる!」

『各機、散開…パターンAへ移行する。』

 

 

スペクトラとファウヌスは互いに部下へ指示を出し攻撃を開始する。

 

その間、レリオンに搭乗していた連合軍のパイロット達はその隙に戦場から離脱。

 

事の次第を近場の基地に知らせる為に移動しようとしたが…

 

 

「逃がすと思って?」

「しまっ!?」

 

 

光学迷彩で待機していた別動隊のキャニス数体に囲まれた。

 

その先に待つのは先の調査隊と同じ運命と思われたが…

 

 

『…』

 

 

それを遮ったのはサイデリアルの軍師の機体だった。

 

敵対しているのであれば、この行動は不可解なものである。

 

 

『行かれよ、鋼の方舟はすぐ其処だ。』

「…隊長。」

「判った。」

 

 

ファウヌスはレリオン二機の離脱を手助けし二機の撤退を確認した後。

 

再度、戦場へと戻った。

 

 

「どういう事かしら?」

『女神との契約と言えば解るかな?』

「?」

『こちらにもこちらの事情があると言う事だ……不可解が更に増えて面白いだろう?』

「そうね…人を煽るのも貴方の趣味かしら?」

『その方が面白いだろう?』

 

 

ファウヌスの煽りに煽った行動に対しスペクトラもその冷静さを失いつつあった。

 

これはファウヌス自身に勝算があってこその行動である。

 

相手がヴァルク・ベンとキャニスだったからこその対応である。

 

 

「何が起こっている?」

 

 

ゴラー・ゴレム隊とサイデリアルのアルシャト隊が交戦して暫くしてからの事。

 

モンテ・ディルーボから届いた救難信号を元にアビアノ基地から転移したギント支隊。

 

ギント支隊はその交戦の最中に入り込む事となったのだ。

 

 

「鋼龍戦隊か…」

『まだ続けるかな?』

「…今日の所は引かせて貰うわ。」

『賢明な判断だよ、またの機会に…美しいお人形さん?』

「っ!」

 

 

隠蔽用のキャニスを破壊され、これ以上の戦闘行為は危険と判断したスペクトラは部隊を撤退させた。

 

去り際にファウヌスからの煽り言葉を受けたのもあり、スペクトラのファウヌスに対する復讐心が見え始めた。

 

 

『…(目的のモノは入手出来なかったが、確認は取れた。』

 

 

ファウヌスは目的のモノの正体を掴めた事だけ救いと認識しその場を撤退しようとしたが…

 

お約束通り、ギントに呼び止められる事となる。

 

 

「こちら地球連合軍・統合参謀本部所属の鋼龍戦隊、そちらの所属を答えよ。」

『お初御目にかかる鋼龍戦隊。私はサイデリアル所属のファウヌス…軍師を務めている。』

「サイデリアルだと!?」

『忠告だが、ここで立ち止まっている暇はないぞ?』

「どういう事だ?」

『君達が滞在していた基地に乱入者の影……既に片付けてしまったがな?』

「!?」

 

 

ファウヌスの忠告と同時にハガネのブリッジに緊急通信が入る。

 

 

「アビアノ基地より入電!同基地にラマリスが出現しましたが、サイデリアルの乱入により沈黙したそうです。」

「!?」

「…」

 

 

エイタから告げられた報告に驚くギント達。

 

その様子を通信から見終えたファウヌスは告げた。

 

 

『今回は興味深いものが見れた、その礼だ。』

「…」

『もう一つ、ハスミ・クジョウはこちらで丁重に預からせて貰っている。』

 

 

ファウヌスは引き続き答える。

 

 

『その対価として我らの地球圏への侵略を停止させているがな…』

「!?」

『あの戦いの後、疲弊したそちら側に戦う余力があれば…その結末は違っていたのかもしれない。』

「それを我々に話した理由は?」

『不穏は負のスパイラル…負念の意思を呼び寄せやすい。』

 

 

我々としてもラマリスは邪魔な存在。

 

殲滅出来るのなら情報を流した方が効率がいい。

 

 

『私は好奇心が旺盛なのでな、君達の今後を知るのが楽しみだよ。』

「…(好奇心だって!?」

『では、またの機会に。』

 

 

そう答えるとファウヌスは転移で部隊と共に去って行った。

 

 

「…(ハスミ、これがお前の戻れない理由なのか。」

 

 

リュウセイはファウヌスが新たなリアクターであると認識し複雑な事情を察するのだった。

 

 

=続=

 





待つだけじゃない。

戦う為の意思もまた。

己の強さ。

次回、幻影のエトランゼ・第九十四話『白光《ハッコウ》』


少女の決意と神僕。


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鋼龍戦隊・現状情報

パリ、カラチへの分散状態での戦力並びに現状情報。

 

<ハガネ>

 

フランス・パリを占拠しているラマリスを殲滅する『オペレーション・トリオンフ』への参加。

並びに欧州方面での戦況対応。

 

 

※SRXチーム

 

リュウセイ:R-1

ライ:R-2パワード

アヤ:R-3パワード

マイ:ART-1

ヴィレッタ:R-GUNパワード

イングラム:エクスバイン・リヴァーレ

 

エクスバイン・リヴァーレ=エクスバインにリヴァーレの武装を流用した実験機体。

 

封印戦争時よりガイアセイバー並びにアウテウルの手からSRXチームを守る為に行動を制限。

ガイアセイバーの瓦解とアウテウルの正体発覚後、表舞台に戻る。

イングラムはアウテウル=ユーゼスの正体を察していたがL5戦役での戦いのショックで詳しい経緯はうろ覚え。

殆どはリュウセイの前世記億頼み状態。

マイはα基準なのでレビのアレンジペルソナは現出していない。

 

 

※PTXチーム

 

イルム:グルンガスト改

リオ:エクスバイン・ガンナー

リョウト:エクスバイン・ボクサー

イング:エグゼクスバイン

 

 

※戦技教導隊

 

カイ:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプN

ラミア:アンジュルグ

オウカ:ラピエサージュ

アラド:ビルドビルガー

ゼオラ:ビルドファルケン

ラトゥーニ:フェアリオン・S

シャイン:フェアリオン・G

ラーダ:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプC

 

オウカ、アラドらと共にL5戦役時に早期救出されたのでノイエDCフラグは立っていない。

ラピエサージュはアクセルからの案(前世上の記憶より)で開発されている。

記載されていないが、クエルボはラーダと共に医療班として健在。

 

 

※クライ・ウルブス

 

アルベロ:メディウス・ロクス(第一形態)

ヒューゴ、アクア:サーベラス・イグナイト

フォリア、イル:ガルムレイド・ブレイズ

 

ホルトゥスの介入であの悲劇は起こっていない。

封印戦争中に合流し現在に至る。

残りの旧クライ・ウルブスのメンバーは治療中や戦えなくなったものの生き残っている。

メディウス・ロクスは制限はあるものの第二形態に変化可能。

 

 

※最上重工

 

アキミ、アケミ、フェアリー:ソウルセイバーFF/GG

ジーク:レオニシス・ハーガ

サリー:レオニシス・ヴァーガ

 

ジーク、サリーはアビアノ基地での共闘後、協力者として乗艦。

監視付きであるものの最上重工のクルーと共に行動。

 

 

※クロガネ隊

 

ハーケン、アシェン:ゲシュペンスト・ハーケン

トウマ:雷鳳

 

 

※諜報部

 

ギリアム:ゲシュペンスト・タイプRV

ヨン:プファイルIII

 

 

※チームTD

 

アイビス、ツグミ:アルテリオン

スレイ:べガリオン

 

 

<ヒリュウ改>

 

パキスタン・カラチ周辺に発生しているラマリスの討伐、敵による作戦の妨害防止の為の囮活動。

並びに中東方面での戦況対応。

 

 

※ATXチーム

 

キョウスケ:アルトアイゼン・リーゼ

エクセレン:ライン・ヴァイスリッター

クスハ、ブリッド:龍虎王

アクセル:ソウルゲイン

アルフィミィ:ペルゼイン・リヒカイト

アリエイル:フリッケライ・ガイスト

 

アルフィミィ、空白事件後の機界新種出現の際の浄解の余波で生存。

別口よりエネルギーを供給しているので自立は可能、結果としてアインストであってアインストではなくなった。

アリエイル、レモンの協力とホルトゥスから齎されたテロメア研究の成果で延命は続いている。

 

 

※オクトパス小隊

 

カチーナ:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプG

ラッセル:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプC

タスク:ジガンスクード・ドゥロ

レオナ:ズィーガーリオン

 

 

※リ・テク

 

ジョッシュ:ジェアン・シュヴァリアー

リム:デア・ブランシュネージュ

ウェントス:ストゥディウム

グラキエース:ファービュラリス

 

フォルテギガスは状況に応じて乗り換え。

ウェントス、グラキエース、アリエイルと同じく研究成果で延命は続いている。

 

 

※アシュアリー・クロイツェル

 

トウヤ、テニア:グランティード

カルヴィナ、カティア:ベルゼルート

エ=セルダ、メルア:クストウェル

アル=ヴァン:ラフトクランズ・アウルン

シャナ=ミア(最重要護衛対象につき戦艦待機)

 

エ=セルダ、修羅の乱から続くホルトゥスからの警告によってクーデターを早期予想し死を回避。

トウヤ達と共にアシュアリー・クロイツェル社所属のテストパイロットと言う形で行動。

この為、トウヤ達四人は同社への入社条件の一つである高卒業認定取得の関係で必死に勉学中。

アシュアリー社としての出向ではエ=セルダ…セオドア、アル=ヴァン…アリスターで通している。

 

 

※コンパチチーム

 

コウタ、ショウコ:Gコンパチカイザー

ミチル:Gバンカラン

 

 

※クロガネ隊

 

ゼンガー:ダイゼンガー

エルザム:アウセンザイター

ユウキ:ラーズアングリフ・レイヴン

カーラ:ランドグリーズ・レイヴン

リシュウ:グルンガスト零式

 

L5戦役に置けるDC戦争自体に変化があり、エルザムがレーツェルになる流れがない。

レーツェルの偽名を使用する際は表向きの行動が出来ない場合のみ。

カトライアに関してはエルピス事件にホルトゥスか介入した事で人質は無事だったが、新種の毒素が利用された事が原因で被害者全員は現在も意識不明のまま。

ホルトゥスの協力者であるGreAT社並びにJUDAコーポレーションを筆頭に再生治療と併合で新種毒素の解毒研究が続いている。

 

 

※L&Eコーポレーション

 

ラウル:エクサランス・ストライカー

フィオナ:エクサランス・フライヤー

デスピニス、ラージ、ミズホ:エクサランス・レスキュー

 

修羅の乱後に置ける自衛措置の為、ライトニングとエターナルのフレームは原作通り破棄。

惑星アルクトス復興の依頼でティス、ラリアー、デュミナスは不在。

彼女達が使用していた戦機人形は全て破棄、エクサランスシリーズでの業務活動を行っている。

 

 

※地球防衛軍・セフィーロ組

 

光:炎神レイアース

海:海神セレス

風:空神ウィンダム

 

オロス・プロクス強襲によるイルイ護衛の関係で共にセフィーロに転移。

後のサイデリアルの侵略でエメロード姫の意思により逃がされる。

緘口令により鋼龍戦隊と共に行動。

 

 

※地球防衛軍・護衛組

 

ロサ:機神エザフォス

ピート:アシュセイヴァー

イルイ:???

 

エクスガーバイン・ピストーレはメンテ中に付き、GGG・オービットベースにて保管。

 

イルイ護衛任務の継続、流れで鋼龍戦隊と共に行動。

別枠ではあるが、古巣であるATXチームと行動を共にしている。

 

 

<クロガネ>

 

現在別行動中、現待機メンバー。

 

ヴォーダン:スレードゲルミル

レモン:ヴァイスセイヴァー

エキドナ:アンジュルグ・ノワール

ククル:マガルガ

 

シャドウミラー勢は空白事件で壊滅、その多くが梁山泊へ。

一部はクロガネに引き取られて行動中。

首謀者のヴィンテルはアインストとの決戦後、思う所があり刑に服して梁山泊に引き籠っている。

サイデリアルの強襲でエキスパート達と共にツヴァイサーで共闘したが、再び引き籠りへと戻った。

バラオの誘いを容赦なく蹴ったので光墜ちも間近かも?

ククル、饕餮王の破壊後に解放された両親と国の民達の魂…その意思より存命。

現在も罪滅ぼしの意味でホルトゥスとバラルの援助を受けている。

 



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サイデリアル・現状情報

 

パリ、カラチの作戦展開中でのサイデリアルの戦力並びに現状情報。

 

 

 

<皇帝直属・アルナスル隊>

 

視察目的:ヒリュウ改の動向監視、中東方面の敵勢力の妨害並びにラマリスの殲滅。

 

アウストラリス:蒼雷迅

サイデリアル直衛部隊:アンゲロイSAG/アドラティオ

 

※蒼雷迅

元々の機体である蒼雷はSTXチームが鋼龍戦隊在籍していた頃、天臨社からテスト機として配備されていた特機。

本来の姿はダイナミック・ゼネラル・ガーディアン三号機の片割れであり、もう一つの雷鳳。

ケイロンの偽名で搭乗していたアウストラリスの手によりサイデリアルに持ち込まれ皇帝専用機として改修された。

本来あるOSのJINKI-3XとMMIのDMLシステムに加えて新たにアウストラリスの持つスフィアとユニゾンが加えられた事で基本スペックから逸脱した行動を可能としている。

本人の意向に沿う様に近接…蹴撃主体であるが、雷鳳よりジンライのベースに近い。

 

※直衛兵

その多くはAI搭載の機械兵であるが、一体だけ統括用の自立型AIが組み込まれたカスタム躯体が存在する。

思考パターンはとある平行世界でアウストラリスが酒を酌み交わす事を許した戦友の思考パターンを転写されている。

 

 

部隊名のアルナスルは射手座を構成する恒星の一つで『矢の先端』を意味する。

 

 

<ハイアデス隊>

 

任務:月・ターミナルベースの防衛とガウ=ラ・フューリアの監視、月周辺に出現した敵勢力の殲滅。

 

ストラウス:プレイアデス・タウラ

ダバラーン:バン・アルデバル

ハイアデス兵:アンゲロイHIA/アドラティオ/アルデバル

 

 

エルーナ自身が姿を晒した訳ではないので鎧姿のストラウスの状態で活動。

直属のアルデバル艦隊は切り札の為、アドラティオ艦隊での行動で制限している。

今の所は無敗記録を更新中。

 

 

<ジェミニス隊>

 

任務:地球防衛軍の動向監視、極東方面の敵勢力の妨害並びにラマリスの殲滅、双子座のスフィア・リアクターの監視。

 

ガドライト:ジェミニア

アンナロッタ:ディオスクA

ジェミニス兵:アンゲロイGEM/アドラティオ

 

 

普段は極東エリアに近い無人島群に雲隠れし偵察、隠密行動を心掛ける。

ジェミニス兵らが愚痴っていたアンゲロイGEMにハスミ経由で念動コントロールを行えるシステム(T-LINKシステム)を導入したのである程度は解消された。

切り札のディオスクは使用せず、部下の多くはアンゲロイでの行動で制限している。

 

 

<アルシャト隊>

 

任務:ハガネの動向監視、欧州方面の敵勢力の妨害並びにラマリスの殲滅、ゴラー・ゴレム隊への追跡。

 

ファウヌス:アルゲティオス

エクスキューナー:ディミオス

アルシャト兵:アンゲロイCAP/アドラティオ

 

 

ハスミがサイデリアルで行動する際の裏側の姿であり軍師・ファウヌスの部隊。

エクスキューナーは直属の部下でありハスミが組み上げた自立型AIを搭載。

その思考パターンはとある平行世界で共に戦った戦友達の思考パターンを転写している。

アルシャト兵の一部はサイデリアル内部の一般兵の中でハスミ=ファウヌスが選出した者達で構成。

表向きはアウストラリスより監視名目で置かれている。

 

※アルゲティオス

エクスガーバイン・クリンゲに山羊座を彷彿させる外装を施した軍師専用機。

エクスガーバインの最大の持ち味である高機動戦闘を封じる結果となったが、魔法を彷彿させる分離式遠隔操作型の武装で補っている。

 

※ディミオス

基本スペックはエクスバイン、エクスガーバイン、ゲシュペンスト、シュッツバルド、アルブレードの五機をベースとした機体。

その姿はそれぞれの自立型AIに芽生えた個性に沿ってカスタム使用にしている。

 

 

アルゲティオスは山羊座を構成する恒星の一つで最も明るいデネブ・アルゲティより。

若しくは『仔山羊』を意味し二重星の側面を持ち分離可能なα星のアルゲティから。

 

部隊名のアルシャトは山羊座の構成する恒星の一つで『屠殺者の羊』を意味する。

 

 

<アルファーグ隊>

 

任務:ADW世界の情勢偵察、現地のスフィア・リアクターの監視。

 

アサキム:シュロウガ

ツィーネ:エリファス

アルファーグ兵:アンゲロイPIS/アドラティオ、カイメラ隊・配備機体群。

 

 

アサキムが指揮するサイデリアルの部隊。

アサキム自体は部下を持つ事をしないので多くはAI制御の機械兵で構成されている。

副官のツィーネは別任務で行動中の為、不在。

アルファーグ兵は空白事件の折に無事だったツィーネの元部下達と機械兵の構成。

また、使い捨て感で空白事件でジ・エーデルが使用していた機動兵器群を使用している。

 

※アンゲロイPIS

基本スペックは他のアンゲロイと同じ機体色は紺。

PISは魚座のPiscesより。

 

 

部隊名のアルファーグは魚座を構成する恒星の一つで最も明るい恒星にして『水の流出』を意味するアル・ファーグより。

 



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第九十四話 『白光《ハッコウ》』


鳥籠から出る準備。

小鳥が親鳥の元から離れる様に。

巣立ちの時は来た。



 

上海基地でハガネと別れパキスタンエリアへと転移したヒリュウ改。

 

その目的はオペレーション・トリオンフを実行する部隊の囮役。

 

サイデリアルの支配下にあるフューリーやその技術を狙うガディソードとゴライクンルの眼をこちらへ逸らす為だ。

 

また、中東エリアにもラマリスの異常発生は報告されているので浄化活動もその任務の一つである。

 

ギント支隊がモンテ・ディルーボでの接触を行っている頃。

 

レフィーナ支隊はインド・デリー近郊にて起こったラマリスとの襲撃に対し対処。

 

その後、ヒンダン基地にてTD滞空のまま補給を受けていた。

 

 

******

 

 

補給中の間、レフィーナ艦長は同艦でブリーフィング・ルームにパイロット達を集めて会議を始めていた。

 

 

「では、今回の作戦行動中はレフィーナ支隊機動部隊の指揮をキョウスケ・ナンブ中尉…貴方に任せます。」

「…他に適任者がいるのでは?」

 

 

キョウスケは辞退しようとしたが、エルザムとゼンガーより自身らが不在の際に部隊を指揮する者がいなくなる事も踏まえての措置と伝えた。

 

同じ様に部隊指揮に適したエ=セルダやアル=ヴァンもいたが、所属先や軍属でないので指揮権を与える事が出来ない。

 

その為、エルザムらより階級が下で同じ中尉であるキョウスケとアクセルが交互に部隊指揮を行う形を取った訳である。

 

カチーナに関しては自身の性格やチームの指揮で手一杯の為に自ら却下した。

 

 

「そう言う事なので今回はキョウスケ中尉にお願いしたいと思います。」

「了解しました。」

 

 

レフィーナの説明より現地のヒンダン基地からの情報でラマリスの出現が最も集中しているのはパキスタン・カラチ。

 

カラチで連合軍の別動隊によりラマリス群の封じ込めが辛うじて成功したが、膠着状態。

 

但し、カラチ外周部の住民避難をホルトゥスが助力した事で完全避難は済んでいる。

 

問題は避難最中に逃げ遅れた上に襲われた住民の負の念をラマリスが吸収し一気に増殖する可能性あり。

 

と、ケンゾウ・コバヤシ博士からの見解も含めて説明された。

 

 

「…(そうなれば、連鎖被害もありえるな。」

 

 

レフィーナの説明にエルザムは更なる被害拡大を予想した。

 

 

「そこで、我々は補給作業終了後にカラチ上空へ空間転移しラマリス群を掃討します。」

 

 

だが、戦隊を分割した事で戦力が半減している。

 

T-LINKシステムやシュンパティア搭載機、魔神でラマリスを誘導し効率よく殲滅する必要があった。

 

念動力者が六名、シュンパティアを扱う者が四名、魔神が四名、全員出撃で対処は可能だろう。

 

 

「あの…」

「イルイちゃん、どうしたの?」

 

 

居住区の一室で待機する様にと言われていたイルイ。

 

どうやら光達の陰に隠れて入室したらしい。

 

イルイ自体、短距離であるがテレポートが可能なので鍵を掛けた所で無意味な事だが…

 

 

「私もお手伝いしたいの。」

「確かに貴方の念動力は優れていますが…」

 

 

ガンエデンによって力を封じられているとは言え、この場に居る念動力者の中でイルイが優れている。

 

ラマリスを浄化する力も強いが、彼女はまだ子供…

 

戦場に出す事をこの場の誰もが危険だと判断し彼女の申し出を断った。

 

 

「私、もう誰かに守られるだけじゃ…嫌。」

 

 

かつて、破滅の王・ペルフェクティオの力を抑え込む際にハスミとイルイの協力により勝利した。

 

その功績は計り知れない。

 

イルイはこの現状で共に戦いたいと願ったのだ。

 

 

「イルイちゃん、私達はその申し出に答える事は出来ません。」

「…」

「今回の作戦はラマリスの討伐だけではなく、サイデリアル、監視下におかれたフューリー、ガディソード、ゴライクンル、ダークブレイン軍団のいずれかが仕掛けてくる可能性があります。」

「…」

「分散した戦隊では貴方に何かあった時、守り切れる保証はないのです。」

 

 

更にフランスで展開中のオペレーション・トリオンフの妨害を防ぐ為にレフィーナ支隊にフューリー製の機体があるのだ。

 

様は囮役を完遂しなければならない。

 

イルイの…たった一人の少女の願いは聞き入れられなかった。

 

同時に警報が鳴り響き、戦闘配備の流れとなった。

 

 

>>>>>>

 

 

ヒンダン基地の直上に空間湾曲現象が確認された。

 

同時に発生する光輪はダークブレイン軍団の出現の兆しでもあった。

 

ヒンダン基地周辺に転移して来たラマリスとダークブレイン軍団の幹部の一人・スカルナイト。

 

 

「ふふん、ドンピシャのタイミングやったな。」

 

 

何かが的中した意味合いで告げるスカルナイト。

 

 

「おどれがラマリスを連れて来たんかい!」

「やっぱり、ジャガルタでデブデダビデがラマリスを捕獲したのは、ラマリスを戦力として使う為だったのか…!」

 

 

同じく出現と同時に出撃したレフィーナ支隊。

 

出現したラマリスの大群に対して愚痴るミチルとブリッド。

 

コウタに関してはスカルナイトに宣言していた。

 

 

「それで俺達を倒そうってんなら、ちゃんちゃら可笑しいぜ!」

「いちびんなや、ガキや。軽ぅ相手したるから、かかってこいや。」

 

 

面倒臭そうな意味合いで答えるスカルナイト。

 

 

「えっと、カルシウム不足ですか?」

「あんときの嬢ちゃんか、何でそうなるんや?」

「軽ぅ相手って言ったので…骨が脆いのかなって思いました?」

「…」

 

 

同じく出撃したロサの発言に対して固まるスカルナイト。

 

 

「ダークブレイン軍団の人って…生活習慣病の集まりですか?」

「いや、ちょっとまてぃ!?」

「メタボのデデデさんに骨粗鬆症のスカルさんに内臓不良のドラゴンさん……福利厚生って考えてます?」

「いや…何でそう言う真面目な話になるんや!」

「怒りっぽくなってますし骨が脆いなら…カルシウムは大事ですよ?」

「もうこの嬢ちゃん…ほんっっっと!!に苦手になりそうやで。」

 

 

以前のデブデダビデに対するメタボリックシンドローム心配発言で爆笑した事のあるスカルナイト。

 

いざ、自分がそう言うギャク路線扱いになるとウンザリする事を改めて自覚したのだった。

 

真面目かつ天然の発言は一種の脱力要因でもある。

 

 

「あらら、ロサちゃんってば…早速、ホネホネナイトを餌食にしてるわね。」

「相手もタジタジですの。」

 

 

その光景にあららと苦笑いのエクセレンと楽しそうな表情のアルフィミィ。

 

 

「…(向こうも戦隊が二分された事を気付いている筈よ。」

「…(奴らがこうも動いたとなると何かあるな?」

「…(恐らくは。」

 

 

カルヴィナとアル=ヴァンは敵の様子から何かあると予測。

 

警戒を続けた。

 

 

「アサルト1より各機。手間を取るとカーナタイプが出てくる…速攻で叩くぞ。」

 

 

その空気を壊す様にキョウスケが全機に戦闘開始合図を送った。

 

 

******

 

 

ヒンダン基地に出現したラマリスを順調に撃墜していく中で…

 

ヒリュウ改の居住区の一室。

 

 

「…」

 

 

先程の発言もあり、部屋での待機を伝えられたイルイ。

 

大人しく部屋の中に引きこもっているが、不安が続いていた。

 

 

「…(皆が必死に戦っているのに。」

 

 

室内のベッドの上で座りながら縮こまっている。

 

何も出来ない事が不安へと更に駆り立てていた。

 

ガンエデンとしての力を封じられている上に神僕たるクストース達を呼び出す事も出来ない。

 

 

「…(待つのは嫌、そんなの嫌!!」

 

 

一緒に戦いたい、その想いがイルイの思念をより強くさせた。

 

そう思った瞬間、イルイはある事を思い出した。

 

 

『何かあった時は鳥籠の中の白い鳥が貴方を守ってくれる。』

 

『胸の想いを強く持てば、鳥籠の鍵は開かれるわ。』

 

『ただ、忘れないで…鳥は貴方を守るだけじゃなくて傷付ける事もある。』

 

『よく考えて鳥籠の鍵を開けてね。』

 

 

封印戦争時、天鳥船島に居た頃にハスミから告げられた言葉。

 

想いを強く念じればと…

 

 

「想いを…強く。」

 

 

イルイは自身の念の力を強めた。

 

それが鳥籠を開く鍵であると理解したから。

 

 

======

 

 

「…(さぁて、そろそろか?」

 

 

尚も戦闘が続く中で、スカルナイトは頃合いと察して仕掛けた罠を発動。

 

それは手薄となったヒリュウ改の周辺にカーナタイプのラマリスを出現させたのだ。

 

 

「艦長、艦の周囲にラマリス出現!!」

「回避行動を!」

「間に合いません!!」

 

 

周辺に散らばっていたキョウスケ達もヒリュウ改の元へ移動するも新手のラマリスの出現で足止めを喰らっていた。

 

 

「テメェ!卑怯だぞ!!」

「何とでも言うとけ。人を馬鹿にしたツケやで?」

 

 

スカルナイトと交戦をしていたコウタは逆切れを起こす様な発言をするが、スカルナイトはそれをさらりと返した。

 

しかし、スカルナイトの目論見は一筋の白い光によって掻き消される事となる。

 

ヒリュウ改の周囲に現れたラマリスはその光によって消滅したのだ。

 

 

「な、何やアレは…!?」

 

 

それはクロスゲート経由の転移。

 

ヒリュウ改の直上に出現した一体の白いPT。

 

形状からエクスバイン系統だろうが、背部の追加パーツは鳥をイメージしていた。

 

 

「艦長、イルイちゃんが甲板に!!」

「えっ!?」

 

 

ユンの発言で驚くレフィーナ。

 

現れたPTを出迎える様に甲板へとテレポートして来たイルイ。

 

 

「…」

 

 

白いPTは甲板へと着地しイルイの前へと跪く形で停止。

 

更にコックピットのハッチが開かれる。

 

操縦席には誰も乗っておらず、無人機の様子だった。

 

 

「乗ってって?」

 

 

イルイは告げるかの様に静止したままのPTのコックピットに乗り込んだ。

 

 

「大丈夫、お姉ちゃんと一緒にした時と同じ様に。」

 

 

白いエクスバインに乗り込んだイルイは座席に座るのと同時に脳裏に操縦方法が流れ込んだ。

 

 

「教えてくれてありがとう。」

 

 

イルイは白いエクスバインにお礼の言葉を告げた後、行動を開始した。

 

 

「えっと、武器は…お守り?」

 

 

モニターに映し出されたタッチ画面で武器選択を行う。

 

項目の一番下にあったアイコンにタッチする。

 

タッチと同時に武器が選択され、エクスバインの追加パーツが分離し周囲に展開される。

 

 

「お願い!」

 

 

展開された武装はラマリスを追撃しその存在を消滅させる。

 

武装が接触するだけでラマリスを浄化する様子に周囲は動きを止めていた。

 

 

「…(不味ったな、今頃クリ公も引いてる頃やし…ここは撤退するか。」

「逃げんのか!?」

「軽ぅ相手するだけやって言ったやろ?続きはまた今度や。」

 

 

分が悪いと状況を悟ったスカルナイト。

 

コウタに再戦を告げると残りのラマリスと共に撤退して行った。

 

 

「…(ありがとう、お姉ちゃん。」

 

 

イルイは自身が搭乗するPTのコックピットのモニターを見る。

 

そしてディスプレイにはこう記載されていた。

 

 

 

『イルイへ、白い凶鳥…エクスバイン・アミュレットを目覚めさせた貴方に戒めの言葉を送ります。』

 

『しっかりと相手の眼を顔を見なさい、それは貴方が戦う相手であり血を流す相手。』

 

『貴方が戦う事は誰かを傷付ける事もある、それは相手も忘れない。』

 

『戦う力を得た意味と持つ事の意味を忘れないで。』

 

『ハスミより。』

 

 

 

イルイの目覚め。

 

これもまた変異の兆し。

 

史実になかった白き凶鳥は鳥籠から巣立ったのであった。

 

 

=続=

 





一閃の矢。

放たれるは光速の一撃。


次回、幻影のエトランゼ・第九十五話『射手《シャシュ》』


その決闘は再起への敗北と圧倒的な重圧の証。


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第九十五話 『射手《シャシュ》前編』


揺るがぬ反抗心。

それは一直線に放たれた矢の様に。

確固たる意志の矢が落ちる事は無い。


前回、ヒンダン基地での戦闘後。

 

ヒリュウ改に降り立った白いPTことエクスバイン・アミュレット。

 

調査の結果、イルイに合わせて調整された機体であり対負念特化武装を装備したワンオフ機体である事が判明した。

 

出所に関してはアラビア半島のナフード砂漠にあるバラルの園。

 

一段落付いたレフィーナ支隊は現バラルの園の管理者となった泰北より連絡を受ける事となった。

 

 

******

 

 

ヒリュウ改のブリッジのモニターにて泰北より事情説明を受けるレフィーナ達。

 

 

「では、あの機体はイルイちゃんの為の機体なのですね?」

『うむ、アシュラヤー様がもしもの為に自衛を兼ねて製造されナシム様の手により封印しておられたのですが…』

 

 

少々困った表情で答える泰北。

 

その姿は以前の様な隙を見せない様子ではなく孫の悪戯に悪戦苦闘する様である。

 

余談だが、一時期…イルイにその蓄えられた白髭をモフモフの餌食にされて間も無かった。

 

 

『先の通り、イルイ様の強い呼び掛けで封印が解かれた様です。』

「突然の事だと思いますし仕方がありません。」

『…重ね重ねご迷惑を掛けた。』

 

 

泰北より機体の方は自衛を兼ねてイルイの元にあった方が良いとレフィーナ達ヒリュウ隊で管理する事となった。

 

機体自体がラマリスの様な負念の存在に対する兵装を持ち合わせていた事もあり、軍で研究もされる可能性も視野に入れられている。

 

これに関しては今後の事を踏まえた技術提供の形であると説明された。

 

 

「お預かりの件は兎も角、本当に良いのですか?」

『はい、こちらの事情として…この地へ不届き者が入り込む様になったのが主な理由。』

「侵入者…と言う事で宜しいですかな?」

 

 

レフィーナと泰北の話し合いに助言する副官のショーン。

 

 

『うむ、イルイ様を狙う輩が現れた事も含めてイルイ様自身にもご自身で身を守って貰う必要が出てきた次第。』

「では、ガンエデンとクロスゲートはどうされるおつもりですか?」

『御神体と転移門は我々が命を懸けて死守する所存、それ故にイルイ様はアシュラヤー様とナシム様がお認めになられた新たな剣たる貴方達に託したいと思っておる。』

「判りました、統合参謀本部にも今回の件はお伝えしておきますので…皆さんはバラルの園の警護を強めてください。」

『では、早々に失礼致します。』

 

 

泰北は礼を伝えると通信を切った。

 

バラルの園の一室にて通信を終えた泰北は弟子である蓬瓜尊と話し合いを続けた。

 

 

「師父、よろしかったのでしょうか?」

「うむ、イルイ様も自ら戦う意思を決められた…この時に封印が解かれたのもハスミ様が手を加えられたからだろう。」

「…」

 

 

泰北は先程の人の良い表情とは裏腹に険しい気配を出しながら蓬に告げた。

 

 

「蓬よ、引き続き…この地の守護を強めるぞ?」

「はい、既に符による結界の強化を進めております。」

「光龍もホルトゥスから護衛を選出すると話を伺った…ハスミ様が予期された戦いが近づいているやもしれん。」

「…師父。」

「…(ハスミ様、貴方が目指す可能性の未来…共に見られる事は無いのやもしれませぬが、この命に代えても全身全霊で尽くしましょう。」

 

 

泰北は蓬に指示を出し、新たに入り込んだ曲者の始末に専念するのだった。

 

 

>>>>>>

 

 

ヒンダン基地での一戦を終えたレフィーナ支隊。

 

改めてヒンダン基地からパキスタン・カラチへと移動を開始した。

 

前回の一件もありパリへ航行中のギント支隊にもダークブレイン軍団の襲撃があった事が伝えられた。

 

そしてここでも鋼龍戦隊の動きを監視する者達の姿があった。

 

 

「…」

 

 

サイデリアル所属艦・アドラティオのブリッジにて。

 

 

「アウストラリス様、鋼龍戦隊のヒリュウ隊が動き始めました。」

「判った、奴らに気配を悟られずに跡を追え。」

「了解。」

 

 

艦長席に隣接するゲスト席に座するアウストラリス。

 

艦長に指示を出し、追跡航行を続けさせた。

 

 

「…何か言いたそうだな、ティグリス?」

 

 

アウストラリスは控えていた統率用の自立型AIを搭載された機械兵の名を告げた。

 

彼を守護するのに相応しく紅の甲冑を纏った武人と捉えられる姿をしていた。

 

 

「…座に戻っていないとはいえ、大将自ら敵地に出向くとは。」

「不服か?」

「少しは皇帝の自覚を持って欲しいと思う。」

「傀儡の皇帝に戻るまで暫く時間がある……少しの余興だ。」

「その余興を通り越して楽しんでいるのは何処の誰だ?」

 

 

ティグリスと名付けられた機械兵はアウストラリスに対して答える。

 

それはアウストラリスが戻るべき立ち位置関係なく話を進めていた。

 

本来であれば、不敬罪で処理されても可笑しくない程に…

 

これに関してはアウストラリスが許している事なのでタメ口な発言が続いている。

 

 

「これでも抑えているのだが?」

「全く抑えていないぞ、少しはファウヌスの心労も考えたらどうだ?」

「…」

 

 

アウストラリスとティグリスのやり取りを聞き、何とも言えない恐怖感を覚えるサイデリアル兵達。

 

逃走不可の場に居る彼らの身中は余り良いものではない。

 

 

 

「しかし、追跡を始める前に立ち寄ったギアナ高地だったか…あの地で修行する者らをほぼ壊滅させた上に挑発めいた伝言を残して良かったのか?」

「奴らなら来る、あの者らはそう言う者達だ……封印戦争の終わりに最もシンカの覚醒に近づいた者達。」

「…」

「新たな力を得たあの者らと拳を交える事が楽しみで仕方がない。」

 

 

アウストラリスは獲物を得た獰猛で獣の様な視線で笑みを浮かべた。

 

その様子に溜息を付きたい様子でティグリスは答えた。

 

 

「程々にして置け、後に閊えるぞ?」

「…善処はする。」

 

 

ティグリスはファウヌスが製造した自立型AIの一体。

 

その思考はアウストラリスがとある平行世界で知り合った戦友の思考パターンを転写されている。

 

故にアウストラリスへのタメ口発言が出来るのはこの為だ。

 

彼に二度と会う事も叶わない戦友の名残を感じ取っていたのも理由の一つである。

 

 

「艦長、追尾の方はどうなっている?」

「今の所、次元航路の支流の利用で向こう側には察知されておりません。」

「判った、奴らの向かった先へ到着する前に各自機体への機乗配備を。」

「了解しました。」

 

 

アウストラリスは艦長らに指示を出し、戦闘準備を急がせる。

 

ファウヌスの情報ではラマリスの密集地帯である事もあり、油断は出来ない。

 

先手必勝、そして鋼龍戦隊…ヒリュウ隊と戦う為にも邪魔者の排除を優先する決断を下した。

 

 

「ティグリス、艦の指揮を任せるぞ。」

「到着と同時に出るのか?」

「ああ、サイデリアルを纏める者として顔出し位はしないとな?」

「判った…(接触と同時に戦うの間違いだろう?」

「なるべく控える様にはする、ここで潰れてしまっては元も子もない。」

 

 

ティグリスはアウストラリスの様子から『駄目だ此奴早く何とかしないと。』と言う思考になりつつあった。

 

が、止めようがない事も察していたので暴走しない様にフォローする事にした。

 

 

=続=

 






放たれた矢。

飛び交うは一迅の雷撃。

蒼き雷撃は一直線に。


次回、幻影のエトランゼ・第九十五話『射手《シャシュ》後編』




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第九十五話 『射手《シャシュ》後編』



闇夜を切り裂く雷光。

その矢は躊躇いもなく放たれる。

全ては来るべき未来の為に。

その礎となろう。


前回、パキスタン・カラチへと向かった鋼龍戦隊のレフィーナ支隊。

 

先程まで滞在していたヒンダン基地の総司令部よりカラチのラマリス集積地帯にデブデダビデが出現したと連絡を受けた。

 

ヒリュウ改は転移準備に入り、カラチへと急行する事となった。

 

ヒンダン基地に出現したスカルナイトの襲撃が陽動であると悟った為である。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

パキスタン・カラチのラマリス密集地帯にて。

 

夜を迎えたカラチの街並み。

 

民間人の避難は終了し、現在街を占領するラマリスとこの地へ封じ込めを行っている連合軍の部隊だけだった。

 

だが、先の通り…デブデダビデが出現した事で状況は変異しつつあった。

 

 

 

「だぁあはっはっは~!!」

 

 

カラチの市街でラマリスを増殖させ、更にその個体数を増やしているデブデダビデ。

 

一方でカラチにラマリスを一点集中させ、被害を食い止めている連合軍の部隊。

 

 

「ハッサンもやられた!」

「イマーズ、く…くそっ!」

「隊長、もう弾が…」

「各機、ここでラマリスを抑えなければ…今まで作戦で散って逝った仲間に申し訳が立たん。」

 

 

現地の部隊がデブデダビデと増殖したラマリスを相手にカラチから逃がさない様に戦い続けていた。

 

 

「皆に悪いが…もう少し付き合ってくれ。」

「隊長…」

 

 

絶望的状況で仲間達を鼓舞し戦いを継続する現地部隊。

 

その様子にデブデダビデは再度攻撃を仕掛けようとするが…

 

 

「その意気、しかと見届けた!!」

「な、なんだぁ!?」

 

 

夜闇を切り裂く蒼き雷撃。

 

その機体の姿を目視したデブデダビデは阿鼻叫喚する事となる。

 

外見は少々変化しているが、紛れもなく奴だとデブデダビデは確信した。

 

 

「き、貴様はぁ!!?」

「セントーの街で仕留めたと思ったが…懲りぬ奴だな?」

 

 

カラチの市街に転移し出現したサイデリアル艦隊。

 

そして先に強制出撃したアウストラリスの蒼雷迅。

 

鋼龍戦隊の跡を追っていたが、カラチで激戦を繰り広げる現地部隊が壊滅するのが先と見通しての行動。

 

実際、連合軍の勢力の低下を妨害する行為である。

 

逆を返せば、サイデリアルにとって不利益な状況な為に…

 

 

「結局…先走るんかい!あの戦闘狂がぁああああ!!?」

 

 

アドラティオのブリッジで頭部を両手で抱えたティグリスが怒りのツッコミを披露。

 

周囲に居たサイデリアル兵達も何とも言えない表情で『ご、ごもっともで。』と心の中で呟いていた。

 

何処の世界でも中間管理職は胃潰瘍予備軍化な光景である。

 

 

「ふん、上司にぃ~恵まれないとはぁ~この事だなぁ?」

 

 

先程の様子を笑い飛ばすデブデダビデだったが…

 

彼の腕輪に潜んでいたサイコクラニウムこと紫の悪霊達は全員一致で『アンタが言える立場かよ。』とため息と遠い眼で見ていた。

 

 

「さて…鋼龍戦隊がこの地へ急行するまで貴様には俺の相手をして貰おう。」

「なっ!?」

「伝えて置くが、逃げると言う選択肢はないぞ?」

「ぐぬぬぬぬ…」

「いや、怖気ついたか?」

「ふざけるなぁ~あの時はぁ~油断しただけだぁ、今度こそぉう~俺様がぁ~貴様を倒してやるぅ!」

「ほう?」

 

 

デブデダビデの発言に対しアウストラリスは口元をニヤリと歪ませた。

 

 

「この俺を倒す…とな?」

 

 

アウストラリスはこの時『戦える口実が出来て好都合だ。』と言う意味で笑みを浮かべたのだ。

 

言い方を変えれば、サイデリアルに戦闘行為を行うと捉えられるものなので…

 

この時点でデブデダビデ…いや、ダークブレイン軍団は本格的にサイデリアルを敵に回したのだ。

 

 

「鋼龍戦隊と拳を交える前だ……精々耐える事だな?」

 

 

アウストラリスが動くと蒼雷迅も同じく構えを取り、戦う態勢へと移行する。

 

 

「ふん、一対一とはぁ言っていないぞぉう?ラマリス共っ~行けぇい!」

 

 

デブデダビデの卑怯とも言える行動。

 

確かに彼の言葉を借りれば一対一とは伝えていない。

 

この戦闘は相手全員対アウストラリスが正論とも言える。

 

だが、こんな状況になっても怯まないのがアウストラリスだ。

 

 

「あのクソデ…ゴホン、肥満体が……余計な事を。」

 

 

ティグリスは先程のやり取りを見ていたが、冷静に『…奴は止めて置くべきだったな。』と思った。

 

理由とすれば、この後に展開される結果である。

 

 

「…」

 

 

アウストラリスは呼吸を一定の流れにすると己の動きをトレースさせた。

 

街に煌めく蒼き閃光。

 

市街の通路に沿ってそれは輝いた。

 

一迅の雷撃が負念の化身を薙ぎ払う。

 

 

「なっ!?」

 

 

一瞬の内にカラチに増殖していたラマリスの大群の一部が消失したのだ。

 

 

雷纏装(ライテンソウ)…俺自身が雷の矢であり全てを貫く。」

 

 

ビリビリと帯電する蒼雷迅の装甲。

 

光速で動くソレに触れれば…相手は動きを封じられた後に消し炭にされ貫かれるのだ。

 

その動きはかつて並行世界で出会った戦友の動きを模したものである事をアウストラリス以外は知らない。

 

但し、その戦友は炎を纏っていたが…

 

 

「そんなっ馬鹿なぁあ!?」

 

 

デブデダビデに最早猶予はない、何故なら…

 

 

「さて、貴様には何時ぞやの礼をせねばならんな?」

 

 

ゴキリとアウストラリスがコックピットで指先を鳴らした。

 

普段よりも低い声と気配の圧もまた尋常ではない。

 

 

「っ!」

 

 

次元将としての気配がそうさせているのか、あるいは…

 

 

「セントーの街で貴様は俺のモノに傷を付けた……その礼を今返させて貰おう?」

 

 

今のアウストラリスは悪い意味で腹癒せと言う八つ当たりをする一歩手前。

 

そしてデブデダビデが傷を付けたモノは誰のモノであるかを知らしめる為に。

 

 

「連合軍の部隊に告ぐ、あの脳…ゴホン、戦闘狂の攻撃に巻き込まれたくなければ街から撤退する事を薦める…これは警告だ。」

 

 

ティグリスは呆れた様子をしつつも厄介事に発展しない様に展開していた連合軍の部隊に即時撤退を促す通信を送った。

 

ちゃっかり脳筋と言いかけたが、何とか呑み込んでいる。

 

但し、戦闘狂という言葉だけは呑み込んではいないが…

 

 

「隊長…」

「各機、街から撤退の準備を。」

「…ですが。」

「俺の感だが……アレは相当拙い状況だ。」

 

 

部隊長はティグリスからの警告を聞き、部下達に市街からの撤退を促した。

 

自らの直観に従い、部下を退けさせた部隊長の判断は正しかっただろう。

 

幸いにもカラチ市街の民間人は全て避難完了している。

 

もしも、これで市街に民間人が残っていたらと…部隊長は冷や汗を流した。

 

それだけの危険を察知したのである。

 

 

>>>>>>

 

 

カラチ市街での戦闘が始まって暫く経過した頃。

 

鋼龍戦隊・レフィーナ支隊はヒンダン基地からカラチへと空間転移し到着した。

 

 

「艦長、カラチへの転移…無事完了しました。」

「現地部隊からの緊急通信ではサイデリアルが現れたと話していましたが…」

「艦長、恐らくはあの艦がそうではないかと?」

 

 

ユンからの報告を聞き、カラチ市街の状況を確認するレフィーナ。

 

未確認の戦艦を確認したショーンより、サイデリアルの部隊を目視する事となった。

 

 

「あの機体は…!?」

「あらま…まさかハスミちゃんのダーリンさんが来てる訳?」

「少尉、その言い方から離れません?」

 

 

転移と同時に出撃したATXチームのキョウスケらの発言。

 

 

「あっ、あれデデデさんです!(お腹周りが前より二センチ増えてますけど…太ったのかな?」

「あんのにゃろう…!」

「でも、何だか様子が変よ?」

 

 

ロサの発言と共にコウタとショウコがその様子を確認。

 

 

「コウタ、トウマ……やっこさんボコボコに捻られとるで!?」

「マジかよ…」

「あのデブデダビデが…」

 

 

ミチルからデブデダビデの有様を聞いたコウタとトウマ。

 

デブデダビデは文字通りダークブレイン軍団の幹部の一人。

 

その実力はロアから聞かされており、卑怯ではあるが独自の魔術を行使した強者である。

 

所が、デブデダビデはアウストラリスが駆る機体の前に指一本触れる事が出来ずに瀕死状態へ陥っていた。

 

言葉で表すならボロ布状態、更に全身殴打から複数の陥没が目立ち血反吐を吐いた後に意識を失いかけていた。

 

 

「ぐふぅ…」

「ふん、口ほどにもない。」

「…(屈辱だぁ…だが、今はぁ撤退するしかない。」

 

 

デブデダビデは転移魔法でカラチより撤退。

 

ラマリス強化の成果を手放した上の無様な敗北でもあった。

 

 

「袋叩き…容赦ねぇとはこの事ですぜ、艦長。」

「…エトランゼファイターのバーサーカーっぷりは相変わらずだな。」

 

 

同じく出撃していたハーケンとアシェンの声に気づいたアウストラリス。

 

 

「その声、アシェンとハーケンか?」

「オッス、ガチムチ君おひさ!」

「ミスター…いや、今はアウストラリスとネーミングを変えた方がいいかな?」

「…どちらでも構わん。」

 

 

エンドレスフロンティアメンバーは相変わらずのテンションで再会の挨拶を交わす。

 

同じくロサも引き気味な感じでアウストラリスに質問を投げかけたが…

 

アウストラリスはその質問の答えを先んじて答えた。

 

 

「ケイロンさん…いえ、アウストラリスさん…あの。」

「ロサか、ハスミの事は案ずるな…身の安全は俺が保証する。」

「…は、はい。」

 

 

ロサがアウストラリスに対してケイロンの名を含めて伝えたのは僅かながら仲間意識がある為だ。

 

理由とすれば、ロサは事の真実をハスミから教えられている。

 

その進行状況は不明のままだが、遠回しに無事である事は伝えられた。

 

 

「さて、鋼龍戦隊……この雑魚共の始末はこちらで済ませた。」

 

 

アウストラリスの言葉通り、デブデダビデは戦闘不能の末に撤退、封じ込めをしていたラマリスの大群は消失。

 

更にカラチ市街への損傷は軽微だった。

 

 

「お久しぶりですね、STXチームのケイロン・ケシェット中尉…今はサイデリアルのアウストラリスと通した方が宜しいですか?」

「それで頼む、レフィーナ艦長。」

 

 

今までのやり取りに対してティグリスが言葉を発しようとしたが、アウストラリスより静止された。

 

現在はアウストラリスが対応を進めている。

 

 

「では、貴方達サイデリアルの目的は何ですか?」

「…シンカの見極めだ。」

「シンカ…封印戦争でも仰っていた?」

「数ある星の中で最もシンカの目覚めに近いのはこの星の者と繋がりを持つ者達だ。」

「…」

「あの時も答えた筈だ、シンカの道を辿った時…真実は明らかになると?」

 

 

アウストラリスは告げる。

 

シンカの道へ辿る事が真実を知る唯一の方法。

 

これに関してはクロノの二つの派閥から鋼龍戦隊…いや、ノードゥスを守る為の処置だ。

 

シンカへ至らずに今の状況でクロノと接触すればどうなるかを知っている為に…

 

 

「更なる真実を知りたければ、お前達もシンカの兆しに目覚める事だな?」

 

 

アウストラリスはティグリスに合図を送るとヒリュウ改と出撃していたヒリュウ隊を含めて何処かへと転移させた。

 

アウストラリスがティグリスに指示を出して発動させたのは次元結界の闘技場。

 

これはバラルが使用していた限仙境を次元力で再現したものである。

 

 

「ここなら被害はあるまい、あるのは……お前達の命だがな?」

 

 

アウストラリスは蒼雷迅で構えを取り戦闘態勢に移行する。

 

 

「戦え!鋼龍戦隊!!お前達が求める答えはここにあるっ!!」

 

 

サイデリアルを纏める当主たる威厳とそれにふさわしい気配。

 

本来の力を引き出していないだけ、手加減をしているのだが…

 

二分された今の鋼龍戦隊には荷が重かった。

 

 

「各機、アウストラリスの動きを止めてください!」

 

 

レフィーナは無理な行動であるが、部隊に指示を出した。

 

アウストラリスは本気であると今までの経験で悟った為だ。

 

 

「キョウスケ、今回の博打は大外れだな?」

「…俺もそう思う。」

 

 

アクセルとキョウスケ達は普段とは異なり冷や汗を流している。

 

アウストラリスの真実の姿とその実力をZ事変に関わった仲間達から事前に知らされていた。

 

彼は地球を事実上征服する事に成功した唯一の存在なのだから…

 

 

そして…

 

 

ハガネ支隊がヒリュウ支隊の壊滅を知らされるのはオペレーション・トリオンフが終了してからの事だった。

 

 

=続=

 









次回、幻影のエトランゼ・第九十六話『再夢《サイム》』


それはある意味でシンカへの目覚め。

恐怖へ立ち向かえ。


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第九十六話 『再夢《サイム》』


それは生と死の狭間。

それは一瞬の刹那。

それらの境地の果てに。

兆しは目覚める。



 

前回の戦闘の最中。

 

デブデダビデは撤退しラマリスの大群が消滅した後に展開された戦い。

 

サイデリアル代表のアウストラリスによる戦闘。

 

周囲への配慮を考え、カラチ市街への被害を減らす為に次元結界による闘技場を展開。

 

その意味は鋼龍戦隊が標的であると知らしめる行為だった。

 

 

******

 

 

引き続き、次元結界によって展開された闘技場。

 

その中心に立つアウストラリスの蒼雷迅。

 

一騎当千の戦士達を前に引かぬ堂々とした姿はサイデリアル当主の姿でもあった。

 

 

「さて、誰でもいい…戦う意思のある者から掛かってこい。」

 

 

かつて刀と拳を交わしたゼンガーもアウストラリスの殺気で本気である事を察し。

 

同時に当時危惧していた予想が現実と化した事に内心冷や汗を流していた。

 

 

「多勢に無勢と思っているのなら…見当違いだぞ。」

 

 

アウストラリスは煽る様に告げた。

 

 

「ノードゥスの一端を担う部隊がこの程度か…?」

「何だと!?」

「そいつは聞き捨てならねぇ!」

 

 

頭に血の上ったコウタやトウマは声を荒げた。

 

 

「アタシらの力を見てからいいやがれ!」

「中尉、まずいですよ。」

 

 

同じくカチーナのブチ切れとラッセルの静止も入りつつある。

 

 

「そうだ、それでなくてはな?」

 

 

アウストラリスの闘気が満ちる。

 

彼の臨戦態勢は整いつつあった。

 

 

「それでこそ、あの者が認めた鋼龍戦隊!」

 

 

そこからは一方的な蹂躙と呼べる程の戦いが行われた。

 

初手で交戦したコウタとトウマは瞬く間に蹴り飛ばされ…

 

同時に殴りかかったミチルも同じ末路を辿った。

 

触れれば帯電する装甲で攻撃が鈍り、一瞬の隙を作ってしまう。

 

それに感づいた銃撃戦を得意とするメンバーでの高機動&遠距離攻撃を仕掛けるが…

 

 

「その手の攻撃対処法は既についている。」

 

 

彼は生粋のインファイター。

 

彼が考える手は在り得ない方法だった。

 

放たれたビーム兵装のビームを駆け上がったのだ。

 

特に大火力を放つ事が出来るライン・ヴァイスリッターやジガンスクード・ドゥロは痛い反撃を喰らう。

 

 

「うっそぉ!?」

「マジモンかよ!!」

 

 

エクセレンとタスクの嘆きも空しく、二機も墜落。

 

空中で隙が出来たと判断したレオナも攻撃に転じるがその手も見透かされていた。

 

 

「そ、そんな…!」

 

 

墜落するジガンスクード・ドゥロを足場にしてズィーガーリオンをも蹴り飛ばして足場に転じたのだ。

 

その光景は因幡の白兎を連想させる。

 

 

「ユウ!?」

「カーラ!下がれ!!」

 

 

砲撃体制を整えていたユウとカーラも次の攻撃の餌食となり遭えなく落下。

 

地上に降りた所をカチーナらが攻撃を仕掛けようとするが、落下したのと同時にユウらが落とした武装をカチーナ達の方へ投げ飛ばし…

 

その反撃の手である銃撃を利用し誘爆させた。

 

ビーム兵装だった為に運悪くカードリッジに武装が貫通し爆発。

 

目晦ましに利用され、距離を詰められたカチーナ達も蹴り飛ばされる結末を迎えた。

 

 

「弱すぎるな…あの時の奇跡はこの程度のものだったかのか?」

 

 

たった一人の奮戦にレフィーナ支隊は壊滅状況に陥った。

 

最後の防壁だったダイゼンガーとアウセンザイターも撃破。

 

残ったアルトアイゼン・リーゼとソウルゲインのみが対応していたが…

 

 

「成程、兆しはここにあったか…」

「!?」

「どういう事だ?」

「お前達が皆の指針となれ、兆しはすぐ其処だ。」

 

 

その言葉を最後に二機も撃墜された。

 

 

「「!?」」

 

 

一瞬の出来事、スフィアを利用した攻撃による壊滅。

 

 

 

「さらばだ、次に会う時はシンカの目覚めを上手く使いこなせている事を願おう。」

 

 

アウストラリスらが去った後、鋼龍戦隊・レフィーナ支隊は次元結界から解放された。

 

ヒリュウ改自体は航行がある意味で可能な範囲の損傷で済んでいるが…

 

出撃していた部隊は壊滅に近い状況だった。

 

最も被害が少なかったのはフューリー製の機体やシュンパティア搭載機位だろう。

 

今後の活動に支障が出ない程度の配慮なのだと思われる。

 

機体もそうだが、パイロット達も負傷し動ける者が限られてしまった。

 

急ぎ、ヒンダン基地へ急行し修理と治療依頼を申請。

 

これによりハガネ支隊はヒリュウ支隊との合流を遅延する事となった。

 

ヒリュウ改に関しては応急処置後に伊豆基地へ移動し修理と言う形になった。

 

一方の艦が動かせない状況に陥った為、統合参謀本部は別行動中だったクロガネに合流の指示を行った。

 

現状で鋼龍戦隊の機能を失わせる訳にはいかないのも理由の一つ。

 

戦いは日に日に過激になって行く。

 

それはまるで何かを再現する夢の様に広がっていた。

 

 

~数週間後~

 

 

伊豆基地にて。

 

大手医療メーカーであるJUDAコーポレーションから発展し正式に民間運用へ認可が下りた『再生治療』。

 

これによりカラチで負傷したメンバーの多くはほぼ完治しつつあった。

 

しかし、再生治療は個人差も含まれるが一部はそうもいかず安静を余儀なくされている。

 

今だ病室入りをしているキョウスケらの元へパリから帰還したリュウセイらが立ち会っていた。

 

現在、病室に入院しているのはキョウスケとアクセル、リュウセイとギリアムが見舞いに来た形である。

 

 

「そうか、パリ方面にもサイデリアルが…」

「それどころか、シン達から聞いていたサイデリアルのメンバーの他に別の奴が現れやがった。」

「何だと?」

「そいつの名前はファウヌス…サイデリアルの軍師って名乗ってたぜ。」

「ファウヌス…か。」

「ギリアム少佐、どう思いますか?」

「恐らく、ハスミ少尉がサイデリアルに居続ける理由の一つだろう。」

 

 

ギリアムの推測…

 

それはハスミがサイデリアルに居続ける理由。

 

ファウヌスと言う例外が出た事やサイデリアルの内情を知る為だろう。

 

アカシックレコードから閲覧制限が出ている以上、そうせざる負えなかった。

 

それが今のギリアムが出した結論だった。

 

 

「無茶しやがって…」

 

 

その言葉で何とも言えない表情のリュウセイ。

 

サイデリアルへ潜り込む為にガンエデンの力を利用しての行動。

 

最もな理由は不明だが、これからの事を考えてのハスミなりの動きなのだろう。

 

 

「流石にガンエデンの力を条件に敵の懐に入り込むとは思わなかったが…」

「大胆な行動だが、あのアウストラリスには効果があったのだろう。」

「…そうだな。」

 

 

キョウスケらはカラチで起こった出来事をリュウセイらに説明。

 

イルイの件、デブデダビデの戦線離脱、アウストラリスの行動。

 

アウストラリスの目的はシンカの兆しを見極める事。

 

その事に対してキョウスケら数名はシンカの兆しが見え始めていた。

 

 

「シンカの兆し?」

「ああ、封印戦争でもハスミやアウストラリスが説明していた真実を知る為の条件。」

「て、事は…」

「アウストラリスとの戦いで俺達にもその兆しが訪れた。」

「俺達はハスミ達が戦っている奴らの正体と危機を知る事が出来た、これがな?」

 

 

但し、彼らが目覚めたのはシンカの始まりであるが…

 

その流れを知り、その先に待つ正しきシンカに至れれば真実は明らかになる。

 

 

「ハスミ達が追っているのはバアルで間違いない。」

「だが、ややこしい状況に陥っている…これがな?」

「ややこしい?」

 

 

キョウスケとアクセルは険しい表情で事の次第を告げた。

 

 

「そのバアルは俺達が想像していた以上の存在……云わば、因果を覆せる存在。」

「結果的に奴らと戦うにはシンカの力が必要だと言う事は確かな話だ。」

 

 

二人の言葉に対してギリアムは一つの結論に近い言葉を放った。

 

 

「実験室のフラスコに注がれた無数の薬液は混ざり合い一つになりつつあるか…」

「少佐、それってハスミが話していた?」

「ああ、実験室に残された最後のフラスコ…そのフラスコに無数の薬液が注がれ一つになる。」

 

 

最後のフラスコはこの世界を構成する銀河を示し、無数の薬液は可能性を示している。

 

その結果が齎すもの…それは。

 

 

「彼女達が話していた一万と二千年の周期…節目の年である一億と二万年の周期が差し迫っている事だ。」

 

 

言葉通り、終焉の銀河の開戦が始まる兆し。

 

平行して発生しているもう一つの戦いである時獄戦役と天獄戦役。

 

文字通りの人類滅亡のカウントダウン、それらが起ころうとしていた…

 

 

「そしてシンカの目覚めを迎えた人類もまた危機を覆す為の選択を強いられるだろう。」

 

 

共存共栄による種族を超えた同盟。

 

それが成す事が出来るのか?

 

託された想いと願いが晩成に向かうのはもう少し先の話である。

 

 

=続=

 

 





変異する。

それは流れが変わりつつある。


次回、幻影のエトランゼ・第九十七話『介入《カイニュウ》』


それは無限力の陰謀か?

それは生命録の慈悲か?


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壊の付箋


壊変された時系列。

全てはあの戦いへと変異する。

そして…


 

パリ、カラチでの戦いが終わってから数週間後。

 

更なるフューリーとガディソードの反乱にゴライクンルの暗躍。

 

また、鋼龍戦隊の一角が行動不能に陥っていた。

 

だが、サイデリアルは再び不可解な行動を起こした。

 

その結果…更に一か月後。

 

ラブルバイラを事実上支配していたヘルルーガ率いる強硬派は鋼龍戦隊の電撃作戦によって敗北。

 

穏健派と民間人らがラブルバイラに残っている事もあり、連合軍の駐留部隊が護衛の形で火星に移送。

 

火星の移民団や植民中だったバーム星や他の星々の人々らに混じり行動する事となった。

 

そしてサイデリアルは折角手に入れたフューリーの支配を手放した。

 

一度はガウ=ラ・フューリアへ拉致されたトーヤ達だったがある人物の手によって離脱。

 

グランティードの真の姿であるグランティード・ドラゴデウスの目覚め。

 

その結果が齎したのは早期した鋼龍戦隊による二度目の電撃作戦。

 

ガウ=ラ・フューリアはサイデリアルの手によってエイテルムを使用する事が出来なくなっていた事もあり…

 

苦し紛れに反抗したグ=ランドンらクーデター組を倒し、ガウ=ラ・フューリアの奪還に成功した。

 

安全の為にガウ=ラ・フューリアも火星へ移送。

 

ガディソード同様に監視付きであるが、反乱続きだった彼らの内情が収まるまでの間を考えての措置である。

 

そして、ゴライクンルはと言うとホルトゥスの反撃を受けて地球圏から撤退。

 

大々的に暗躍していた事が彼ら側の銀河で公にされた事により…

 

インスペクターことウォルガの方でも問題視され、彼らを匿っていた組織も芋づる式に宇宙警察機構に逮捕されつつあるそうだ。

 

他の侵略組織もサイデリアルの出現とホルトゥスの暗躍でズタボロにされ地球圏から撤退し暫くは侵攻する事もないだろう。

 

戦うべき相手はダークブレイン軍団と負念によって復活した悪意達のみ。

 

だが、地球連合軍はこれにサイデリアルも対処案件に組み込んでいる。

 

それは地球連合軍に入り込んだ毒によって徐々に引き起こされようとしていた。

 

 

****

 

 

月のターミナルベースにて。

 

施設内、玉座の間の奥に設置された円卓の一室で幹部による緊急会議が行われていた。

 

アウストラリスを始めとした五名のメンバーに加えて更に二名の姿が加わっていた。

 

 

 

「で、僕らまで呼び出した理由ってなんなのさ?」

「…」

 

 

円卓の席で愚痴を言っているヴィジュアル系の青年と無言のサングラスを掛けた男性が控えていた。

 

二人の様子にアウストラリスが理由を告げた。

 

 

「急を要する事が始まろうとしている…故にお前達にも召集をかけた。」

「そう、理由の一つはそのアサキム・ドーウィンとその子の自己紹介かな?」

「その通りだ、まずは新たな同志としてアサキムそして俺の片腕を紹介する。」

 

 

アウストラリスの発言に少し動揺する二人。

 

 

「「!?」」

 

 

そんな様子の二人を余所に言葉は続けられた。

 

 

「ハスミ、同志のバルビエルと尸空だ。」

「お初御目にかかります、私の名はハスミ・クジョウ…知りたがる山羊のスフィアリアクターとして選ばれました。」

 

 

ハスミは一度席から起立し二人にお辞儀をして自己紹介をした。

 

 

「隣席のアサキムは夢見る双魚のスフィアリアクターとして覚醒、訳あってアウストラリスに協力する形となりました。」

「よろしく頼むよ。」

「ご心配の監視の目は彼に御座いませんのでご安心を。」

 

 

アサキムの挨拶に続きハスミは事務的な自己紹介を済ませた後、席に着席した。

 

 

「ふうん、君がアウストラリスの片腕ね……それなりの実力があるって事でいいのかい?」

「そうですね、実際に見て頂いた方が解りやすいと思いますので機会があれば…」

 

 

ハスミの提案にエルーナが静止を掛けた。

 

 

「あーそれ…止めといた方がいいよ?」

「何だよエルーナ…戦い事に興味がある君が珍しいね?怖気づいたのかい?」

「…そう言う問題じゃないって事さ。」

 

 

バルビエルの嫌味に対して鞘に収まった軍用ナイフをクルクルと弄りながら空しく呟いていた。

 

 

「何が遭った?」

 

 

尸空は事情を知っていそうなガドライトに質問するが似た様な答えを出された。

 

 

「俺もエルーナと同意見って事だけさ。」

 

 

二人の様子にバルビエルと尸空は『不在中に何が遭った?』と混乱しつつも今までの双方の活動報告と共に話し合いを継続した。

 

 

「話を戻す、バルビエルと尸空を呼び出したのは俺達の計画が大きく変わる事を告げる為だ。」

 

 

アウストラリスは静かに告げた。

 

 

「俺達は…サイデリアルは捨駒にされた。」

「っ、どういうことだよ!?」

 

 

アウストラリスの発言に動揺するガドライト。

 

 

「正確には御使い共がスフィアに代わる代用を発見しそちらを利用する決断を下した。」

「つまり、僕らは用無しって事?」

「その通りだ、流れは変わりつつある。」

 

 

代用品の発見。

 

人類に残された希望はスフィアとそれぞれの時代で培われたシンカの力…人機一体の術。

 

 

「俺達は決断しなければならない、今後の歩み方をな?」

「その決断とは?」

「道化を続けるか、反逆するかだ。」

 

 

その発言に周囲は無言を突き通した。

 

判断を誤れば待つのは滅び。

 

だが、微かな希望を捨てたわけではない。

 

 

「アウストラリス、想いは皆も同じ様ですよ?」

「そうか。」

 

 

沈黙を破る様にハスミは告げた。

 

答えるべき総意は同じであると…

 

 

「ならば、不退転の道はないと思え…これから先の戦いは抗いで在ることをな。」

 

 

早急する此度の決戦。

 

負念に穢れた巨人の出現は間もなくである。

 

 

=続=

 



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第九十七話 『介入《カイニュウ》』


先の願いは届かず。

介入によって変異する。

求める答えは共存共栄の道。


 

早期に起こったガディソード、フューリーの内乱終息とゴライクンルの地球圏撤退。

 

そしてサイデリアルの新たなメンバーらの登場。

 

ゴラー・ゴレム隊によるバラルの園への襲撃。

 

ラ・ギアスからの帰還者達。

 

中でもラ・ギアスからの帰還者であるマサキ、シュウ、リューネらより語られた情報。

 

ペルフェクティオを倒した後に発生した負念の波動がラ・ギアスにも影響を与えた。

 

負念の波動により目覚めた巨人族のカドゥム・ハーカームによって侵略を受ける事となった。

 

激闘の末、マサキ達は巨人族を退けたが…こちら側で発生したクロスゲート・バーストの一端を引き起こす事となった。

 

発生した時期や時差は違えど、隣接する世界同士に影響を与えたのは事実だった。

 

どちらも捨て置けば滅びの運命を辿っただろう。

 

それらもバアルの計略であった事を知るのはサイデリアルの幹部らのみである。

 

様々な思惑が巡る中で此度の戦いは終局を迎えつつあった。

 

 

*****

 

 

地球近海・クロスゲート付近にて。

 

クリスタルドラグーンの襲撃を退け、クロスゲートへと到着した鋼龍戦隊。

 

既に事は始まっており、デブデダビデがアレス・ガイストことエントリヒ・ガイストとクロスゲートを利用しラマリスの大群からラマリス・イーダを増産。

 

それらを使い彼らの主たるダークブレイン復活を果たそうとしていた。

 

同時に彼らがこの世界へ訪れる要因となったのはグランドレッド・フェノッサと呼ばれる化神艦との戦い。

 

STXチームが修羅の乱の頃にスダ・ドアカワールドへ転移し交戦後…

 

光龍の応龍皇による奇襲によって転移時期をずらし遅延させたが、結果的に奴らを引き寄せてしまった。

 

デブデダビデらの行動を止める為に鋼龍戦隊とダークブレイン軍団の交戦が開始。

 

奮闘し召喚されたラマリスの数を減らしたものの…

 

スカルナイトの妨害もあり、エントリヒ・ガイストと四体のイーダタイプを依代にダークブレインの復活が行われ様としたが…

 

強大な負念はある存在を引き寄せてしまったのである。

 

消滅させられるイーダタイプとデブデダビデ。

 

周囲に点在していた鋼龍戦隊をも巻き込んだ一斉掃射攻撃。

 

因みにエントリヒ・ガイストはクロスゲートからの何者かの攻撃のショックでパイロットであるドゥバンが目覚めた。

 

彼はその目覚めと今の状況を知った事で鋼龍戦隊と行動を共にする決断をした。

 

協力者が加わった鋼龍戦隊であったが、危機的状況は変わっていない。

 

クロスゲートより出現する化神艦グランドレッド・フェノッサ。

 

無差別攻撃を終えた化神艦は告げた。

 

 

『化神艦の使命は、負念の想念集積体の掃討…』

 

 

生念と負念、どちらも生み出す事が可能な生命体の殲滅。

 

化神艦は人類の殲滅を開始し始めたのだ。

 

 

『我が名はXN-L…』

 

 

XN-Lは答える。

 

グランティード・ドラゴデウスの中に居る創世神フューレイムは同族でありながら人類に助勢する道を選んだ事。

 

大いなる試練に挑む前に人類とそれらに与する存在らを全てを破壊する事を…

 

 

「破損したと同時に負念まみれの場所に堕ちて暴走した巨人様が言う台詞ですかね?」

『!?』

 

 

XN-Lの言葉を遮る様に現れるサイデリアル艦隊。

 

同時に出撃するアウストラリス達とハスミ。

 

 

「サイデリアル!?」

「こんな時に…!」

 

 

鋼龍戦隊はサイデリアルの出現でXN-Lとの三つ巴戦に移行すると焦ったが…

 

 

「待て、こちらはお前達と事を構える為に訪れた訳ではない…」

 

 

アウストラリスの言葉で静止が入った。

 

理由を問うマイルズの言葉を余所に目的は同じであると答えた。

 

 

「では、一体?」

「目的は同じ、奴を止めに来ただけにすぎん。」

 

 

ガドライトからも援軍が来たと告げられた。

 

 

「おっと…もう一人、特別ゲストのお出ましもあるみたいだぜ?」

 

 

クロスゲートに単機で現れたジェニオン。

 

ヒビキは通信で状況説明を行った。

 

 

「こちら地球防衛軍所属のジェニオン、鋼龍戦隊への合流許可を願います。」

「合流を許可する、援軍は君らだけかね?」

「はい、他の仲間は地球各地で出現したラマリスの対応に追われており俺達だけが…」

「事情は分かった、これより此方の指揮下で行動して貰うぞ?」

「了解。」

 

 

ヒビキ達とジェニオンの経緯は事前に地球防衛軍側から通達されていたのでスムーズに指揮下に入って行った。

 

ヒビキらの合流後にキョウスケは事情を知っているハスミに問質した。

 

 

「ハスミ、暴走しているとはどう言う事だ?」

「言葉通りですよ、あのXN-Lはダークブレイン軍団との戦いの後にペルフェクティオの影響下で負念だらけになったクロスゲートの内部を漂っていた…それが暴走の原因です。」

「!?」

「戦いの影響で破損し抗えない状態で長期間負念の中を漂っていれば……見当は付きますよね?」

「…」

「XN-Lに内包した大量の負念を浄化するのは骨が折れますけど…してしまえば奴を止める事が出来ますがどうされますか?」

 

 

更なる爆弾発言をするハスミ。

 

XN-Lを無力化させる手がある事を告げた。

 

流れ通りならフューレイムの力を借りてクロスゲート諸共に破壊する方法しかなかった。

 

だが、今は違う…

 

 

「御協力願えれば…スフィアとガンエデンの力を総動員してXN-Lを沈静化させます。」

 

 

この先で引き起こされる戦いに置いて、早期に化神艦グランドレッド・フェノッサの力を借りる事も可能。

 

その決断は迫られつつあった。

 

 

「…」

「これ以上、負念の根源……バアルの計略を広げさせない為にも!ご決断を!!」

 

 

アウストラリスの目配りで了承を得たハスミは答える。

 

正義の為に悪を演じていた自身らに終止符を打つ様に。

 

今度こそ共存共栄の道を切り開く為に新たな道を模索したのだ。

 

 

「今まで真実を語らず不安定な態度を取っていた私にも責任はあります。」

 

 

真実を語れなかった理由もあった。

 

だが、それを隠す事も出来ない状況に陥った。

 

真実を曝け出さなければならない事情を抱えた為に。

 

 

「ハスミ少尉、条件に一つ…君が知る真実を全て語る事。」

「それがそちらと共同戦線を組む条件だ。」

「判りました、但し…真実を知った以上、戻れない事は了承してください。」

 

 

マイルズとギントが条件を告げた。

 

ハスミは了承したが、その際に注意点も答えた。

 

 

『真実を知れば戻れない。』と…

 

 

それだけの闇を抱えている事をたった一つに纏めて答えたのだ。

 

かつて交わされた制約は既に破棄され真実を紡ぐ事を許された。

 

そう、全てが無に帰す前に…

 

 

『その気配…まさか十二の至宝!?』

 

 

XN-Lはサイデリアル艦隊に視線を向けるとその気配で驚愕の声を上げた。

 

同時にアウストラリスとハスミは真実の一つを開示した。

 

 

「そうだ、既に聖戦は始まり…選択の時は訪れた。」

「貴方が語った『大いなる試練』は人類の『シンカへの目覚め』でしょう?」

 

 

いずれ、人類の中から太極へと至る存在が現れる。

 

その先駆けがスフィアリアクターとシンカの力に目覚めた人類。

 

だが、XN-Lはそれを認めず拒絶した。

 

 

『認めぬ…未熟な生命体が!』

「みっともない嫉妬だね?そんなに僕らがその力に目覚める事が嫌なのかい。」

『!?』

「正確には自分達がそれらに至れなかったからこその発言だろう。」

 

 

バルビエルが嫌味と尸空が正論を告げる。

 

 

「俺らも諦めが悪いんでな…それをアイツらから学んだのさ?」

「ガドライト…」

「ヒビキ、俺らに迷いはない…お前も自分の中で燻ぶっている答えを出したらどうだ?」

「ああ、判った。」

 

 

ヒビキの答えはサードステージへの覚醒。

 

もう一人のいがみ合う双子のスフィアの覚醒の時でもあった。

 

ここに八つのスフィアが覚醒を果たし、Gコンパチカイザーとグランティード・ドラゴデウスの中のフューレイムへ力を与えた。

 

 

「俺達が力を貸す……往けっ!そして己の使命を果たせ!!」

 

 

アウストラリスの号令の元、スフィアリアクター達はスフィアを起動させ二体に力を与える。

 

それは強大な次元力となってXN-Lごと化神艦をも包み込んだ。

 

負念によって毒された穢れは取り払われつつあった。

 

 

『…』

 

 

力の奔流が治まるとXN-Lは停止し化神艦も沈黙した。

 

 

「止まったのか?」

「そうみたい。」

 

 

同時にラマリスは消え、クロスゲートも機能を停止し沈黙していた。

 

 

「このままクロスゲートの破壊も続行してください。」

「…何故だ?」

「負念の力で基底している以上、何が起こっても不思議じゃないからです。」

 

 

引き続き、グランティード·ドラゴデウスによるクロスゲートの破壊が行われた。

 

だが、破壊と同時に次元震が発生。

 

鋼龍戦隊とサイデリアル艦隊を巻き込む形で転移現象が引き起こされた。

 

残る者と往くべき者と分けられ流れはまた変えられつつあった。

 

 

=第五章·完=





巡れ、深淵の底に閉ざされた世界へ。

継接ぎの世界で何を求める?


次回、幻影のエトランゼ・第六章『巡界ノ詩篇』


強大な力は偽りの崩壊。

星々の力は集う。


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六章予告


閉ざされた世界。

深淵の果てに築かれた継接の世界。

嘘と偽りにまみれた世界で正義の女神は何を思う?




 

真実の告白。

 

世界を暴いた結果。

 

齎されたのは世界と言う構造の絡繰。

 

 

=女神の告白=

 

 

「全ては一つに繋がっていた、それが真実です。」

 

 

秘匿し続けた女神の告白。

 

 

「全ては集約され一つに束ね纏められた。」

 

 

その先の戦いで指し示される結末。

 

 

「このままではバアルの思う壺です、私達は…人類は選択を迫られています。」

 

 

淡々と語られる幾多の並行世界で引き起こされた戦乱。

 

それらの目的が酷似しとある存在らの力へと集約された。

 

 

滅ぼされた世界。

 

閉ざされた世界。

 

抗い続ける世界。

 

再誕を阻まれた世界。

 

 

それらの世界を監視するクロノの暗躍。

 

クロノを操る、御使い達。

 

だが、壮絶な存在もまた存在した。

 

 

その存在を知ったとしても語ってはならない存在。

 

語れば最後、待つのは滅び。

 

 

「私は宣言しました、知れば最後…元には戻れないと?」

 

 

元には戻れない。

 

それが差す真意とは?

 

 

 

=可能性が体現した奇跡=

 

 

「ヒビキ・カミシロ…あの約束を果たせる時が訪れた。」

「約束?」

「かつての天獄戦役の折、俺達は再び集い共に戦うと…」

 

 

語られた真実の後に傀儡の皇帝は答える。

 

戦いそして分かり合えずに魂となって見守り続けた結末を…

 

それらを覆し本当の意味で共に戦う事を選んだ。

 

 

「この世界へ辿り着いた以上、奴とも決着をつけねばならん。」

「…そうですね。」

 

 

変異した深淵の底の世界に齎される新たなる破壊と再生。

 

彼らの出現は大きな波乱を引き起こす。

 

 

=天秤に捧げられた硬貨=

 

 

「どういう事だよ!?」

 

 

己の意思に従い背負った責め苦。

 

その借金の果てに手に入れた力。

 

だが、彼らの登場は予想を超えた戦乱を招く。

 

 

「エルーナさん、笑い過ぎですよ。」

「だって、プ…くっ!!!」

「誰だって生活費が苦しければ、維持費を削りますよ。」

 

 

それが無料配布されているガムシロップを大量に入れた砂糖水であっても。

 

毎度の事で借金を返済し弁済が嵩む運命は最早憑きモノである。

 

 

「これも無限力とやらの遊びなのだろうか?」

「説得力があり過ぎて何とも言えないです。」

「…ある意味でヒデェな。」

「僕は見るに堪えないよ、無惨過ぎるし。」

「同感だ。」

 

 

天秤の物語に介入する者達の哀れな視線。

 

 

「お前らなぁ!!そんな顔すんなら恵んでくれよぉ!!」

 

 

貧乏金無し暇無しの体現は転生しても続くのである。

 

 

=嘘吐きは絶望の始まり=

 

 

「何故、こんな事が…!?」

 

 

偽りの力を暴く力。

 

それは真実を求めるモノ達の力となる。

 

 

「あの時、答えた筈ですよ?」

「!?」

「狩られるのはどちらでしょうね?」

 

 

冷徹な女神の微笑み。

 

 

「さあ、お仕置きと逝きましょうか?」

 

 

 

=愛情の果てに=

 

 

「私は…」

「自分を偽って人を愛せても自分を愛せない…辛いですね。」

「っ。」

「誰かを愛すると言う事は自分も愛する事を忘れてはならないのでは?」

「…」

「愛は誰かに与えて貰うだけではなく自分で見つけて育んで行くものです。」

 

 

求めた可能性の果てに築かれる絆。

 

それは真の敵への反逆の力となる。

 

 

次回、幻影のエトランゼ・第六章『巡界ノ詩篇』。






星々の輝きの元。

偽りと愛情。

そして天秤の采配。

早期たる覚醒は第四の目覚め。


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巡界ノ詩篇
第九十八話 『告白《コクハク》』



告げる真実。

戻れない真意。

世界は監視されていた。

月の境界線を越えたが故に。

人類は…


 

サイデリアルの協力の元、XN-Lを沈黙させた鋼龍戦隊。

 

だが、その後のクロスゲート破壊と同時に発生した次元震…時空振動により部隊は引き裂かれた。

 

在るべき形を変化させた為に彼らは導かれた。

 

深淵の果てに存在する継接ぎの世界へ。

 

 

******

 

 

強制転移が終了し周囲状況を確認する鋼龍戦隊とサイデリアル艦隊。

 

サイデリアル艦隊からの通達で、この場所が自身らが居た地球ではない事が発覚した。

 

この世界は並行世界に存在する地球の一つであり、アビスと呼ばれる空間の先に繋げられた多元地球である事が伝えられた。

 

そして状況整理の為に話し合いの場を持ちたいとサイデリアル艦隊より通信が続けられ、鋼龍戦隊もまたその申し出を了承した。

 

 

~数時間後~

 

 

多元地球のとある無人島。

 

その島は元の世界でイティイティ島があった場所と同じ緯度に存在していた。

 

手付かずかつ未開発だった為に先遣隊であるアサキムの部隊が転移し島の要塞化を進めていた。

 

ここもまたサイデリアルの所有するターミナルベースである事は変わりない。

 

 

「こちらの申し出並びに会談への参加、感謝する。」

「いえ、此方の艦の修理と補給の手配、物資配備の援助…有難うございます。」

「話し合いの条件の一つを果たしただけに過ぎない。」

 

 

島の施設の一室に集められた部隊の司令官達。

 

信用されていないのもあり、室内の外では警備&護衛のメンバーが待機している。

 

潤滑に話し合いの場を設ける為にアウストラリスが許可した形だ。

 

最もそんな事をしても無意味なのだが…

 

 

「では…そちらの事情を含め真実を語る約束は守って頂きたい。」

 

 

話し合いの場にはサイデリアル側より当主アウストラリスと総司令官ストラウス、ハスミ。

 

鋼龍戦隊からはマイルズ司令、ギント艦長、レフィーナ艦長、テツヤ副長、ショーン副長の五名。

 

レフィーナから礼の言葉を受け取り応対するアウストラリス。

 

マイルズからは話し合いの条件を守る様にと念を押された。

 

 

「そのつもりだ、秘匿する必要も無い…寧ろ急を要する事態へと発展しつつある。」

「急を要するだと?」

 

 

アウストラリスは目を伏せて答えた。

 

 

「我らサイデリアルは…奴らによって頸を斬られた。」

「つまり、捨て駒にされたと?」

「言葉通りだ。」

「何故、捨て駒に?」

「我々が奴らに対して反逆を行う事が悟られたからだ。」

「反逆?何故反逆する必要が?」

 

 

アウストラリスが答える奴らと奴らに対する反逆行為。

 

鋼龍戦隊側はサイデリアルの内情が一枚皮ではないと判断した。

 

 

「アタシらは訳アリでサイデリアルに首輪を付けられてたのさ。」

「えっ!?」

 

 

ストラウスから出た女性の声色、その姿とは裏腹の状況にレフィーナは驚きの声を上げた。

 

 

「アウストラリス、全部話す気なったんだし…この鎧は今の所必要ないよね?」

「ああ、今まで済まなかったな。」

「しょうがないじゃん、相手を油断させる為にはさ。」

 

 

ストラウスはフルフェイスの鎧兜を外した。

 

ふいーと自慢の金髪を掻き上げたストラウス改めエルーナルーナ。

 

 

「漸く、このクソ重たい鎧とオサラバ出来るわ。」

「…」

「んじゃ改めて…アタシはエルーナルーナ・バーンストラウス、サイデリアルの総司令官ストラウスの本当の姿だよ。」

 

 

彼女の余りにも軽いノリに鋼龍戦隊側は唖然としていた。

 

その空気を霧散させる意味でハスミは静かに息を吐いた。

 

 

「エルーナさん、皆さん驚いてますよ?」

「だよね、まあ…こういう事のがあるから正体隠すのも案外悪くないかもね?」

「ハスミ少尉、これは一体?」

「マイルズ司令、私はもう少尉では…」

 

 

マイルスの質問に対してハスミは訂正を言いかけるが…

 

 

「ハスミ少尉、君が所属していたSTXチームは元帥閣下より直接極秘任務を与えられている形を取っている。」

「えっ?」

「それは君がホルトゥス…ガンエデンとして成した功績に対する元帥閣下自ら下された措置だ。」

「司令…私達は現在も極秘任務中と言う形のままで連合軍に在籍しているのですか?」

「その通りだ、この件は君が戻り次第話す予定だったが…」

「いえ、寛大な処置…ありがとうございます。」

 

 

裏切り続けた自分が今更戻る事なんて出来ないと考えていたハスミだったが…

 

今まで遠回しに築き上げた縁がそれを繋いでいたと感じ取った。

 

ハスミはその想いに答える為に真実を告げる覚悟を決めた。

 

もう言葉を遮り隔てるモノは無い。

 

 

「では、お話しします…何が起こっているのか?を。」

 

 

ハスミは告げた。

 

事の始まりは今から先史文明期が始まる前の宇宙から起こっていた事。

 

宇宙は一万と二千年の周期で生まれて滅び、その境目となる一億と二万年目に大災害が起こる流れに陥っていた。

 

それを『真戦』と呼び高次元生命体同士による戦いを指す。

 

高次元生命体とバアルによる『神と悪魔の果てしなき闘争』を意味しています。

 

以前、お話ししたシンカはこの真化に該当します。

 

真化に至るための五階梯である『獣の血』、『水の交わり』、『風の行き先』、『火の文明』、『太陽の輝き』を経て、高次元生命体は自ら神を名乗るが、神であるが故に他の神の存在を許さず…滅ぼそうとする。

 

その戦いを『真化を遂げた神同士の戦い』を『真戦』と呼ぶそうです。

 

ですが、自らを神と名乗る者達は総じて『歪んだ真化を遂げた者』で『正しい真化を遂げた者』は真化の真理たる『相互理解』と『共存共栄』を理解した存在である為、正しい真化を遂げた者同士が争う事はない。

 

ある宇宙の一万二千年…いえ一億二千万年前にも一度真戦が発生しており、この戦いでは『根源的な災厄』と『バアル』それに立ち向かう並行世界の戦士達が戦いました。

 

しかし、各並行世界の戦士達は根本的災厄の圧倒的な力やバアルの大物量の前に敗北しました。

 

 

「まず、この根本的災厄の正体をご説明します。」

 

 

ある惑星が滅亡の危機に瀕した時、その星の生命は四体の存在となる事で滅亡の危機から脱した。

 

彼らは『御使い』と呼称しそれぞれが喜、怒、哀、楽の感情を司っている。

 

シンカの先に待つ高次元生命体と呼ばれる存在へと変貌した。

 

彼らはその力を持って銀河の安定を行っていたが、何時しか彼らは『神』を自称する様になった。

 

その最中で滅ぼされた銀河は数知れず…

 

滅ぼされかけた銀河の中に私達の祖先…先史文明期の地球もまた奴らによって滅亡の危機に陥った。

 

滅びに反逆し立ち上がったガンエデンと同一の意思を持ったそれぞれの高度文明の一族ら。

 

戦いは日に日に激しさを増し、戦いの最中で滅んだ文明も存在しました。

 

当時の結末として御使いが生み出した『至高神』が自らを否定し崩壊した事でガンエデンらは御使いと引き分ける形で滅びの結末を退けた。

 

力を失った四人のガンエデンらは何時しか復活を果たす『御使い』や『バアル』に対して対策を行う為に様々な文明に危機を知らせる為に様々な並行世界へと去りました。

 

この御使いが先程話した『根本的災厄』の正体にして私達が対立している存在です。

 

 

「そして奴らはスフィアを求めていました。」

 

 

スフィアとは空白事件でその名が広まり、独自の力を行使する為のアーティファクトの扱いを受けていました。

 

実際は違い『根本的災厄』が生み出し、自我を持ち自壊した『至高神』の心の欠片がスフィアです。

 

人造神である『至高神』は自分を生み出した御使いを『根本的災厄』と認識し崩壊した時に生み出されたモノがあります。

 

『心の欠片』であるスフィア。

 

『記憶の欠片』である黒の英知。

 

そして『コア』、『残り火』、『抜け殻』の五つに別れました。

 

 

「ネタバレしますが、この至高神いえ至高神ソルこそジ・エーデル達が話していた『太極』の存在でもあります。」

 

 

その中で陰陽の概念からなる至高神ソルのあり方は、矛盾を孕みながら生きていく人間そのもの。

 

スフィアのうち「いがみ合う双子」はその側面を持ち、スフィアの中心を担っています。

 

今はその巨大すぎる力を維持する為に二つに分かれていますが…

 

 

「全てのスフィアを手に入れ、再び至高神ソルを復活させる事が奴らの目的だったのですが…」

 

 

奴らはある日突然…至高神ソルの復活を取り止めた。

 

そして手駒としていたサイデリアルを認識しているスフィアリアクターごと滅ぼし始めた。

 

少々遅くではありましたが、私は協力者に成り得るサイデリアルの崩壊を止める為に別の並行世界へ逃がす算段を立てました。

 

また、植民地化された文明の人々や戦えない人々も被害を受けていない銀河に居住させ…暫くの安全確保は行いました。

 

それも周期化された大災害からの大崩壊を防ぐことは出来ず持たないでしょう。

 

 

「奴らの方向転換に関しては…一つだけ心当りがあります。」

 

 

その目的は『弱った高次元生命体を取り込む事で力を増す』だったのです。

 

時代は違えど、幾多の銀河で鋼龍戦隊と同じく滅ぼす存在に抗い立ち向かった並行世界の人々の手でバアルの眷属と化した『高次元生命体』は倒された。

 

そこを狙ったのでしょう。

 

弱った高次元生命体は云わば次元力の残りカス…

 

塵も積もれば山となる…なのでしょうか、奴らによって数多くのバアルがその存在を失いました。

 

ですが、彼らも餌の様なモノです。

 

 

「バアルの存在の一つ、魔獣神エンデ…と呼ばれる存在が裏で糸を引いている事が発覚しました。」

 

 

奴はある世界で神として信仰されていますが、その世界と関りを持つには情報が少なすぎます。

 

今はサイデリアルの別動隊の方達が情報収集の為に行動していますので後に判明するでしょう。

 

 

「今の私達が行うべき事はスフィアリアクターを集める事が最優先事項です。」

 

 

御使いの影響を受ける前に最後の希望を絶やさない様に。

 

そして、スフィアの反作用に藻掻き苦しむ彼らを救う為に。

 

 

「ですが、鋼龍戦隊の皆さんが今後どう動くかはそちらの判断に委ねるべきと思います。」

 

 

サイデリアルはサイデリアルとして…

 

鋼龍戦隊は鋼龍戦隊として…

 

 

「アビスの影響で向こう側…特に統合参謀本部と連絡が取れないこの状況で下手に動くのは危険と判断します。」

「確かに向こう側がどうなったかを知る術もない以上は…」

「それに関してはお教えする事は可能です。」

「…ハスミ少尉、貴方のアカシックレコードを読み解く力ですか?」

「はい。」

 

 

向こう側の状況。

 

化神艦グランドレッド・フェノッサが出現したクロスゲートはグランティード・ドラゴデウスによって破壊に成功。

 

化神艦はいずこかへと姿を消し、行方不明。

 

フューリーのガウ=ラ・フューリアとガディソードのラブルバイラは引き続き火星で待機。

 

その後の処遇は地球連合政府との会談で内乱の早期終結もあり、風当たりは少ない。

 

主無きダークアイアンキャッスルは悪用を防ぐ為にホルトゥスが監視。

 

サイデリアルの不可解な行動に関しては未だ不明のままとされている。

 

月のターミナルベースも消失し月の覇権は地球連合政府へと戻っていた。

 

向こう側に残された鋼龍戦隊のメンバーであるアシュアリー・クロイツェル、最上重工、クロガネクルー、アリエイルとドゥバン。

 

緊急ではあったが、光龍らにも状況を念話で伝えてあるので例の襲撃の理由と事後処理に影響はない。

 

急遽共闘したスカルナイトやラマリスもあの浄化の光で消失し姿は見えていない。

 

 

「例え、再度発生したとしてもホルトゥスのメンバーが網を張っていますのでご心配なく。」

 

 

ホルトゥスはシンカの目覚めを迎えたにも関わらず、根源的災厄の手によって属する世界を奪われ失った人達を保護する組織。

 

それでも彼らは希望を絶やさず諦めない意思を秘めている。

 

彼らもまた鋼龍戦隊…ノードゥスと同じ在り方を持つから。

 

 

「これが私が独自で動き、知り得た情報です。」

「…」

 

 

ハスミは知り得た情報を艦長らと鋼龍戦隊に告げた。

 

それはこの場の言葉だけではなく、ある力を垣間見せたのもある。

 

 

「あの、ハスミ少尉。貴方が話した事以外の情報もあるのですが…これは一体?」

「それも私が手に入れたスフィアの力の一端です。」

「えっ!?」

「それが私がサイデリアルへ転じた理由で在り、今まで秘匿していた事情です。」

 

 

知りたがる山羊のスフィアリアクターとなれば、全てを曝け出す情報の暴露が反作用として発生する。

 

それは鋼龍戦隊…いや全ての人々の内情を晒してしまう危険性があった。

 

空白事件の最中、反作用が起こる前にそれらを遮断するフィルターを使ったが限度がある。

 

自身の念動力の多くをフィルターへ流して抑えなければならない、ここぞと言う時に念動力を使えなかった理由だ。

 

だから、デビルウルタリア事件解決後に譲渡された念動力を蓄積できる念晶石の存在は有難かった。

 

それから、このスフィアと対話をしつつサードステージへと登り詰めた。

 

今だからこそ力の加減が出来る様になった。

 

 

「特に修羅の乱の頃は不安定で…力の暴発が起こりそうになった時はアウストラリスの持つスフィアで抑えて貰っていた位です。」

「では、事前に解っていた事態を防ぐ為に?」

「それもありますが、クロノの監視が強くなったのも理由の一つです。」

 

 

かつてサイデリアルが保守派を支援していたが、ある日突然バアルに毒されてしまい機能しなくなってしまった。

 

そこで第三のクロノとしてツィーネを派遣しバアルに毒されていない数名を救助し今に至る。

 

現在の保守派はバアルの意思に従って暴走の限りを尽くしている。

 

改革派に関してはエルガン・ローディックが死亡していないしアドヴェントの加入がまだないので今後次第である。

 

クロノはこの大戦で壊滅する末路は変えられないので時期を見て解体するしかない。

 

元々は各並行世界の人類を監視する役割を持っていた組織。

 

これから共存共栄の道を歩む人類の足枷になって貰う必要もない。

 

 

「以上、これが皆さんの知りたがっていた真実です……何か質問は?」

 

 

 

「「「「…」」」」

 

 

 

「…流石に暴露し過ぎました。」

「ハスミ、説明しすぎて全員動揺してるよ?」

 

 

~数分後~

 

 

気を取り直して…

 

 

「では、我々の方で今後の方針を決めてから其方との活動に関して会談したい。」

「判った、猶予は設けないが…此方は此方で行動を開始する。」

 

 

話し合いの後、マイルズ司令はサイデリアルとの共闘の申し出に他のクルーとの話し合いをしたい旨を告げた。

 

アウストラリスもそれを了承し、サイデリアル側は目的の為にこの世界の情勢を知る為に行動を開始すると話した。

 

サイデリアルはこの世界に存在するスフィアリアクターの捜索と次元獣…そしてこちら側でも発生しているラマリスの討伐を開始する事となった。

 

 

=続=

 






継接ぎの世界で引き起こる紛争、戦乱、内乱、侵略、支配、差別。

それらを決して許しはしない。

私達はサイデリアルとして介入する。


幻影のエトランゼ・第九十九話『天秤《ライブラ》』


天秤の目覚めと接触。


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結の付箋


役割は果たす。

約束の為に。

契約の果てに。

私は真実を告げた。

そして繋がりは結ばれた。


 

前回の会談から数日が過ぎた。

 

元の世界へ戻る為には次元転移装置が必須。

 

そしてアビスと呼ばれる宇宙の影響で元の世界への道は閉ざされたまま。

 

再び道が開かれるにはこちらの時間で約一年後を要するとの事。

 

共に行動をするのを避けるのであれば、このターミナルベースを離れなければならない。

 

拠点もない右も左も不明な世界で行動を起こすにはリスクが多すぎた。

 

鋼龍戦隊はサイデリアルの申し出を受けて行動を共にする事を決定した。

 

元々、サイデリアルも自身らを纏める御使いから切り捨てされているので利害は一致している。

 

元の世界で暗躍するバアルや御使いに毒されたクロノの暗躍もまた放置出来ない。

 

彼らもまた共に帰還し脅威に立ち向かおうとしていた。

 

 

******

 

 

この数日間、サイデリアル側は拠点の防衛とこの世界の情勢を含め多方面の情報収集に呈していた。

 

鋼龍戦隊側からもギリアム少佐とヨン少尉が情報収集に協力している。

 

その為、嘘偽りはない。

 

 

鋼龍戦隊側並びにサイデリアル側の主要者らはターミナルベース内のグリーフィングルームへと集合。

 

理由はこの世界の状況…世界情勢が判明した為である。

 

 

「では、この世界に関する情報が纏まったのでご説明に入ります。」

「なぜなにナデシコならぬ、なぜなにハスミちゃんのお時間ね。」

「エクセレン少尉、毎度の事ですが…真面目に聞いて下さい。(やっぱり言うと思った。」

 

 

久しぶりのエクセレンのボケを聞くハスミ。

 

途中参加のヒビキ達とサイデリアル側は『何それ?』的な顔をしていた。

 

毎度の事なのでさらりと受け流したハスミである。

 

 

「改めまして、こちら側の世界情勢ですが……かなり深刻です。」

 

 

ハスミは続けて告げた。

 

この世界も次元振動弾によって生まれた多元世界の一つ。

 

こちら側の世界では既に誕生から二十年が経過している。

 

繋ぎ合わさった世界同士で政府が作られているが、状況は余り良くはない。

 

 

「深刻とは?」

「この多元地球の誕生後に三つの国家に別れ対立し今も戦乱が起こっています。」

 

 

マイルズの質問に対して答えた後にハスミはスクリーンにこの地球の世界地図と地球近海の状況を図面で映し出した。

 

 

「おいおい、月と日本列島が二つあるぜ!?」

「恐らくは多元世界の影響じゃないかしら?」

 

 

地図を見て驚くタスクとレオナ。

 

ハスミは続けてそれぞれの国家群に支配された地域を色付けして公開。

 

 

「成立した国家群は大きく分けて三つあります。」

 

 

青は北米を中心とし連合国ユニオンと神聖ブリタニア帝国と合併したブリタニア・ユニオン。

 

赤は中華連邦を中心にアジア各国とロシアが連合を結んだ人類革新連盟、通称人革盟。

 

緑はヨーロッパ各国の連合であるAEU。

 

以上の三国は三大国家と呼ばれ、現在も世界の覇を握る為に睨み合いが続いている。

 

国際的な意思決定機関である国際機関も存在しますが…

 

事実上、世界は三大国家に統治されており、スペースコロニーも三大国家によるコロニー宗主国連合…

 

通称CMCに管理の名の元に支配されています。

 

無色はどの国家間にも所属していない紛争地帯。

 

近年ではアストラギウス銀河の軍隊が転移し傭兵として利用されており紛争に拍車を掛けています。

 

 

「文字通りこれらも深刻な理由の一つであります。」

 

 

ハスミは大体の国家間の説明と無所属のエリアの説明を続けた。

 

キョウスケが黒に着色されたエリアに気づき質問する。

 

 

「ハスミ、黒い部分は?」

「黒のエリアは暗黒大陸と呼ばれており、この世界が生み出されてから二十年間誰も立ち入る事が出来ないとされている未開の地です。」

 

 

また、現在のこちら側の世界の科学力では到達が困難である事も告げた。

 

エクセレンはハスミに対して『状況判別は終わっているのでしょ?』と質問した。

 

 

「でも、どう言う所かは山羊座のスフィアちゃんで判っているんでしょ?」

「はい、暗黒大陸は獣人と呼ばれる存在によって人の生存圏が地下に追いやられた世界で構築されている場所です。」

「て、事は…」

「世界観からすれば、ランドさん達やジロン達ブレーカーやガロード達バルチャーの居た世界に近いですね。」

「つまり、アウトローヨロシクな荒廃した世界って事ね?」

「成程、それならハーケンさん達向きの世界かもな?」

「もしも偵察に行くなら俺らは構わないぜ。」

「任せてくれでやんす。」

 

 

エンドレスフロンティアで行動していたコウタやハーケンらにはお誂え向きのエリアでもあった。

 

 

「威力偵察をするかは今後の活動次第なので今は様子見だけで十分でしょう。」

 

 

ハスミは下手に戦力晒しをするのは得策ではない事を視野に答えた。

 

その発言にゼンガーとエルザムが質問した。

 

 

「何故だ?」

「この世界にもクロノの監視、もう一つヴェーダと呼ばれる広範囲監視施設があるからです。」

「そのヴェーダとは?」

「まだ行動を起こしていませんが、ソレスタルビーイングと呼ばれる組織が用いている量子型演算処理システムの事です。」

 

 

このシステムによって世界中のコンピューターは監視され下手にアクセスすれば、瞬く間にソレスタルビーイングへ情報が入ってしまいます。

 

 

「このシステムの欠点はネットワークに繋がっていないスタンドアローンの端末には干渉不能と言う点です。」

「ターミナルベースはそのネットワークから外れている、後者と見ても?」

「はい、そしてこの欠点を解決する為の策がイノベイトと呼ばれる生体端末です。」

「生体端末だと?」

 

 

生体端末の言葉に反応するラミア。

 

 

「彼らを介してヴェーダはネットワークが配備されていない地域の情報収集を可能としています。」

「成程、下手をすれば地下にスラムと言った紛争地域の情報も筒抜けと言う訳か?」

「はい、この事もありますので各自の行動…特に偵察に出る際は言動などにも注意してください。」

 

 

ハスミの言葉を推測したアクセルは目を伏せて答えた。

 

 

「話を戻すが、ソレスタルビーイングとは?」

「武力による紛争根絶を掲げる私設武装組織……真の目的は恒久的平和を目的とした組織です。」

「まるで矛と盾だな?」

「そうですね、詳しい内情は後でレポートに纏めて置きますし随時私がご連絡します。」

 

 

ハスミはキリが良い所で話を纏め上げた。

 

 

「以上の事からこの世界は三大国家による冷戦が続いており…現在も各地の小競り合い、小国同士の争い、政府軍とレジスタンスの対立、テロの横行が続いています。」

 

 

同時に戦乱によって難民、支配、差別が発生している状況も引き起こされていた。

 

 

「最後にこの世界の人類共通の敵…次元獣と呼ばれる存在です。」

 

 

この世界ではイマージュ=スカブコーラルの襲撃が減少する一方で増加傾向にあります。

 

 

「この次元獣に関してですが…」

「ハスミ、その先の説明は俺が話す。」

「アウストラリス…」

「次元獣に関しては俺の責務でもある。」

 

 

口ごもったハスミに対してアウストラリスは言葉を告げた。

 

それが自身と関連した事であり、己の犯した所業でもあると…

 

 

「次元獣とは次元将のリヴァイブ・セルによって生み出されたものだ。」

 

 

それは人機一体を行う為の人為的な措置であり、その力を持ってしても御使いに敗北したとアウストラリスは答えた。

 

リヴァイブ・セルは人機一体を行えない人と機体を強制的に次元獣へと変貌させた。

 

滅びを前にして事を急かしたアウストラリス達の文明は結果的に滅んだ。

 

四人存在した次元将は二名が散り、一名が行方不明…そして自身を残すだけとなった。

 

 

「恐らく、こちら側へ出現しているのは生き残った者が嗾けているのだろう。」

「アウストラリス殿、貴方もその力を?」

「持ってはいるが、俺自身使う事を禁じた……同胞を否定する事になるが考えを改めなければならんと思った次第だ。」

 

 

強制的に次元獣へと変貌させてしまう力はある意味でバアルと変わらない。

 

共存共栄の道を外れてしまっていると悟ったアウストラリスはその力を使う事を禁じた。

 

 

「アウストラリス殿、逆に出現している次元獣を貴方自身が止める事が出来るのか?」

「次元獣はその次元獣を生み出した次元将が管理している、同じ力でも他の次元将の持つ次元獣への介入は出来ぬが…」

 

 

アウストラリスは目配せしてハスミに対策案を答えさせた。

 

 

「解決策はあります、相性の良いスフィア同士の同調による次元力の行使です。」

 

 

相性の良いスフィア同士の同調により、次元力で次元獣を元の人と機体に分離させる方法。

 

但し、次元獣になって時間が経ったり、次元獣化の際に死亡や破壊されている場合は助からない。

 

単に分離させるだけの方法だった。

 

 

「次元獣への対処手段は出来たが、問題はこの世界情勢にどう対応するかでしょう。」

 

 

ギント艦長の言葉も最もだ。

 

一刻も早くスフィアリアクターと接触し協力を仰がなければならない。

 

約二名ほど戦闘を繰り広げる結果になるが致し方ない。

 

 

「だが、やらねばならん……大崩壊を迎える前に人類は共存共栄の道を辿らなければならない。」

 

 

アウストラリスは告げた。

 

全てのスフィアリアクター達と共に世界崩壊の末路を阻止する事。

 

その為に手を取り合ったのだと。

 

 

「問題は次元獣だけではありません、こちら側に出現したラマリスの対処もしなければ…」

 

 

ハスミも続けて答えた。

 

負念の意思を増長させているこの世界情勢はラマリスの恰好の餌食であると…

 

 

「バアルの野望を食い止める事も私達にしか出来ない事です。」

 

 

いずれ転移して来るだろうZEUTHのメンバーや飛ばされたノードゥスの仲間達と再会する時に共存共栄の道への答えが出る様に。

 

出来る事をやるしかないのだから…

 

 

=続=



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第九十九話 『天秤《ライブラ》』


天秤は揺れる。

新たな波乱と共に。

悪意は更なる脅威となって…


 

真実を知った鋼龍戦隊がサイデリアルとの同盟を結んでから数日が経った。

 

依然と世界の内情は変わらず、三大国家による介入で世界各所で紛争が起こっていた。

 

特に紛争地帯や小国同士を衝突させて潰し合いをさせている。

 

あわよくば、疲弊させ自身らの陣営に取り込み勢力を拡大しようとしているのだろう。

 

そして、最近になって出現した一切の攻撃を受け付けない悪霊の存在。

 

こちらの世界でも名称をラマリスと呼称し対応に追われている。

 

次元獣よりも質が悪く、出現した場合…遭遇した人間の命の保証はない。

 

文字通り、この世界では奴らに対して戦う術がない状況だった。

 

そう、あの日までは…

 

 

*****

 

 

~更に数日後~

 

 

ブリタニア・ユニオン領。

 

シカゴ郊外にて行動する五名の姿があった。

 

 

「ここにあの人がいるの?」

「ハスミさんの話では、あの人が身辺整理で金無し宿無し無職状態で借金取りに追われているって事ですけど…」

「想像したくもねえ話だな。」

「…そうね。」

「実際、そう言う状況だったんですよ…アカシックレコードで様子を視た時はドン引きしましたけど。」

 

 

ハスミの魔法で一般の白人に見える様に姿を偽装したヒビキ、スズネ、ハスミ、ガドライト、アンナロッタが行動を共にしていた。

 

特にアジア系のヒビキらがブリタニア・ユニオン国内で動くには少々問題がある為、先程の偽装魔法はその措置である。

 

周囲には白人に見えているが、互いの姿は何時もの姿に見える様にハスミが調節していた。

 

 

「確か、この辺りの筈…」

 

 

ハスミは例の存在が借金取りと借金返済の話を交わしていた広場へ辿り着いたがそれらしい人物は見当たらない。

 

 

「姿がありませんね。」

「やっぱりすれ違ったのかしら?」

 

 

ヒビキとスズネの不安を余所にハスミはある手段を講じる事にした。

 

 

「この手は余り使いたくなったのですが…致し方ないですね。」

「どうするんだ?」

 

 

ハスミはため息を付いた後に静かに告げた。

 

 

「文字通り、餌で釣る作戦です。」

 

 

その発言に対して四人は納得した表情で無言状態となった。

 

 

「「「「…(そうきたか。」」」」

 

 

釣りの生き餌に丁度いい物として…

 

それは広場に店を開いた移動販売車で売られていた。

 

シカゴ名物の一つ、シカゴ風ホットドッグである。

 

 

「正直言うと…これで釣れそうですね。」

「マジで言ってんのか?」

「えーと、あの人の事だから背に腹は代えられないって感じで寄ってくると思うわ。」

「元軍人と聞いていたが呆れるわ。」

「右に同じく。」

 

 

アメリカンサイズのホットドックを人数分+三つに飲み物を購入し目的の人物が現れるまで近くのベンチで待機していた。

 

ヒビキの答えに対してガドライトは引き顔。

 

スズネが苦笑いでフォローしアンナロッタとハスミが呆れた顔を見せている。

 

早めの昼を済ませる事も考慮しているので黙々と昼時タイムに突入した。

 

 

「…来たみたいですね。」

 

 

暫く経過しホットドックが三つ残った状態になった時、それは現れた。

 

 

「腹減った…」

 

 

その人物は見事にホットドックの匂いに釣られて目処前で倒れてくれた。

 

まるで某か○うまゾンビの様である。

 

 

「「「「…(本当に釣れた。」」」」

 

 

余りにも情けない有様にヒビキら四人は遠い眼をし…

 

事の結末を知っていたハスミはモグモグと静かに自分の分のホットドックを食べ終えた。

 

 

~数十分後~

 

 

「ごっそさんでした。」

 

 

先程購入したホットドック三つに更に二つ追加し完食した先程の男性。

 

 

「二週間ぶりのマトモな飯だ~生き返る。」

「に、二週間!?」

「それまでは!?」

「金もねえし水だけだ。」

 

 

偽装魔法で一般の白人の姿をしたヒビキらと話している状態の男性。

 

 

「つか…どんだけ金がねえんだよ。」

「最小限でも働く事は出来ただろう?」

「軍を退役して退職金は全部亡くなった親父の借金返済に回しちまったんだよ。」

「返済プランが悪徳すぎると言いたいけど…親族間でも支払いは免除されるのでは?」

「悲しいかな、俺が知った時は既に返済日当日だったのさ。」

 

 

男性は自身の父親の事業失敗の折…

 

給料未払いで困窮していた従業員らを救う為に致し方なかったと答えた。

 

 

「…成程、そう言う事でしたか。」

「そんな訳でさっきのホットドックの支払いは今は出来ない…すまん。」

「では、そのホットドック代の代わりとして…私達と話をしましょう。」

「話?」

「こう言えば解りますか…揺れる天秤?」

 

 

ハスミは男性にスフィアを知る者であれば解るキーワードを答えた。

 

 

「!?」

 

 

顔色を変える男性。

 

その視線は腐っても元軍人である事を示した。

 

 

「お前ら何モンだ?」

「少々お待ちを。」

 

 

ハスミは自分達の周囲に隠蔽と防音結界を張り巡らせると元の姿へと戻った。

 

 

「ヒビキとガドライト!?」

「お久しぶりです、クロウさん。」

「よう、また会ったな?」

 

 

二人の両隣で軽く会釈するスズネとアンナロッタ。

 

本来であれば、この場に存在しない筈の者達。

 

その理由は言わずとも答えは出ている。

 

 

「お前らも記憶を?」

「はい。」

「んで、ハスミの力でお前ん所に来た訳だ。」

「…何があった?」

「それもご説明します。」

 

 

〜斯々然々の説明後〜

 

 

自己紹介を含めて一通りの説明を終えた後、男性改めクロウ・ブルーストはハスミに質問した。

 

 

「じゃあ、尸空達もこっちに来ているのか?」

「ええ、尸空さんとバルビエルはセツコ、アサキムとエルーナさんはランドさん達に接触している頃です。」

「後者のペアが物凄く不安なんだが?」

「そこは割り切って貰ってますので大丈夫かと。」

「あ…そう。」

 

 

ハスミは逆にクロウの近状を聞くと少し考えてから答えた。

 

 

「クロウさん、ホットドッグ代金二つ目として貴方にやって貰いたい事があります。」

「やっぱり五個分の支払額が出てきたか、タダより安いものは信用出来ねぇな。」

 

 

流れとして代金分の依頼はこなそうと思ったクロウ。

 

それは前世で経験した戦いの再現だった。

 

これから世界解放戦線・WLFがこの街でテロ活動を行う。

 

そのターゲットは同じくこの地にあるスコート・ラボだ。

 

 

「このままWLFの仕掛けるテロの混乱に乗じてスコート・ラボでブラスタを入手してください。」

「ブラスタの件は俺も同意するがその後は?」

「こちらの事情を伏せてソレスタルビーイングと接触を。」

「まさか?」

「貴方が察する通りニール・ディランディ達を救う為に。」

「…ああ、出来る事ならな。」

「この戦乱で死亡したメンバーを救う、それが三つ目の依頼であり代金の代替です。」

「残りは?」

「今は三つ目の代金までで結構、残り二つは後にお話させて頂きます。」

「嫌な予感しかしねえが、悪い様にはしてくれるなよ?」

「善処はします。」

 

 

私達は用件だけ告げるとクロウさんと離れた。

 

これから彼は借金取りのゼニトリー・マッセに追いかけられる。

 

借金返済の為にPMCへの就職の話をする最中、WLFの襲撃を受けるのだ。

 

そして天秤は揺るがぬ支柱となって戦場に現れる。

 

 

~約一時間後~

 

 

シカゴ郊外に展開した世界解放戦線・WLFのテロ部隊。

 

機体は敵対する財団がシェアをしている機体…アクシオである。

 

元々、WLFへ秘密裏に機体供給を行っているのが…とある小国と敵対している財団なのだから何とも言えない。

 

彼らが掲げる『理想も信念も打ち砕かれた者が世界を変える下で集った』と言う理念を守っているのなら手助けする理由もあったが…

 

ただ単に民間人への被害と戦乱を広げている彼らに慈悲は無い。

 

性根を叩き潰すのみである。

 

 

「やっこさんら出て来たぜ?」

「敵は三体…あの位ならクロウさんでも大丈夫そうですね。」

「この後に次元獣が出現するが、問題は…」

「ハスミが話していたラマリスね?」

「ええ、クロウさんがこのままスフィアを起動させるのは不味いので援軍に入ります。」

「何時もの機体じゃないのはキツイですけどね。」

「確かにな。」

「姿を隠す事も考慮しているので暫くはそのままでお願いします。」

 

 

シカゴ郊外の更に外側。

 

ハスミの隠蔽結界で待機しているヒビキら。

 

彼らの言葉通り、本来の機体に搭乗していない。

 

理由は早期にスフィアリアクター機やサイデリアル側の機体での戦闘を控える為である。

 

ヒビキらの戦闘スタイルが似ている機体をチョイスし現在に至る。

 

ヒビキ&スズネは量産型アルブレード、ガドライトは量産型ゲシュペンストmk-Ⅱ、アンナロッタは量産型ヒュッケバインmk-Ⅱ、ハスミはガーリオン・カスタムの四機である。

 

ちなみに量産型アルブレードはシャドウミラーが使用していたエルアインスの逆輸入版。

 

これを複座式に改装した上でヒビキは操縦を担当し砲撃武装はスズネが担当している。

 

問題の機体の出処は封印戦争時にハスミがガイアセイバーズに加担していたテロリストへ下げ卸しされる前に補給物資運搬中の部隊を襲撃し奪った形だ。

 

人道的に相手人員の被害は出していない。

 

 

「そろそろ頃合いの様です。」

 

 

スコート・ラボから出撃したブラスタ。

 

たった一機によってWLFのアクシオは撃破された。

 

その後、次元獣の出現と同時に現れたシェンロンガンダム。

 

どちらも初対面同士なのだが、倒すべき敵は理解しているので諍いはなく…

 

二機の協力で次元獣も駆逐されたが、問題の相手が新手で現れた。

 

 

「ちっ、今度は幽霊もどきか!?」

「…(今の武装だけではラマリスを倒す事は!」

 

 

街へ襲撃を開始するラマリス。

 

だが、その襲撃はたった四機の増援によって退けられた。

 

 

「あの機体は…!」

「…(まさか!?」

 

 

クロウらが動揺する中でラマリスは全滅。

 

ラマリスの残りが確認されないと解ると即座に撤退。

 

幻影の様に消えて行った。

 

 

~シカゴ騒動から数日後~

 

 

シカゴ郊外で発生した戦闘で出現したラマリスが駆逐された。

 

それは各国に途轍もない衝撃を与えた。

 

理由として今まで対処方法が無かったラマリスを迎撃した存在。

 

各国はその機体とパイロットを確保する為に行動を開始。

 

同じ様に各国や紛争地帯に潜むゲリラ組織やテロ組織らも同じ考えであり…

 

彼らもまたラマリスを倒した存在らの追跡を開始するのだった。

 

だが、彼らの中に潜む一部の次元漂流者達は違った。

 

それを行える存在を知っているが為に…

 

出現したPTとAMを扱う者達が『鋼龍戦隊』の関係者である事を察したのだった。

 

 

=続=





それは世界を変える為に降り立った。

白き衣を纏った四天使達はそれぞれの想いの先に何を思う?


次回、幻影のエトランゼ・第百話『天使《ソレスタルビーイング》』


負念の悪霊と共に彼らもまた現れる。


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記の付箋

それは記す事。

記録、記述など様々。

記憶として脳裏に魂に刻まれる。


 

シカゴ騒動から数日後。

 

クロウがAEUの軌道エレベーター付近で行われる新型機のお披露目会に乱入する為に移動中の頃。

 

クロウは毒舌&ウザ晴らしの入ったトライアとのやり取りの後、秘匿通信である情報を語った。

 

 

『…って事だ。』

「では、トライア博士が?」

『ああ、バッチし記憶を持っていた…この様子だと他の奴らも記憶を持っていそうだ。』

「いえ、クロウさんの方ではトライア博士だけかと…」

『どういう意味だ?』

 

 

ハスミは知りたがる山羊を駆使し前世上の記憶を持つ人物らの追跡を行っていた。

 

その結果、ある法則性に辿り着いたのである。

 

スフィア覚醒者の覚醒に最も関わった人物達が引き寄せられるように記憶が呼び起されると…

 

 

『つまり、俺の場合は博士だったって事か?』

「そう言う事です。」

『なら、ランドやセツコ達の説得が上手く行った理由も頷けるな。』

「二人は現時点で破界戦役に関わっていませんし、私達同様に裏側から行動する予定です。」

『となると人類側のスフィアリアクターはアイムと皇子さんを抜いて十一人、ほぼ揃えた形か…』

「問題はアイム・ライアード…いえ、ハーマル・アルゴーがどう出るかですね。」

『…』

「お察しの通りアイムの本名、スフィア起動時にバルビエルと同じく名前を失ったか捨てたかのどちらかでしょうけど…」

『詮索する様な事でもねぇか。』

「いえ、そう言う訳にもいきませんよ。」

『?』

「前回と同様にアイムの持つスフィアは御使いによって少し手を加えられたらしく、今後の活動でも用心しなければ。」

『前回もって?』

 

 

ハスミの語った内容で気になった部分を訪ねるクロウ。

 

その事についてハスミは語った。

 

 

「前回も砕け散ったソルの魂の一つを御使いが手に入れ、そのスフィアに改良を加えたのです。」

 

 

アサキムと同様に御使いが仕掛けたもう一つの保険。

 

偽りの黒羊を手に入れた存在が他のスフィアを捜索し適合者を覚醒させる役割を強制させた。

 

それぞれのスフィアの覚醒条件が余りにも酷な条件である事は知っていますよね?

 

正に牡羊座のスフィアリアクターへ条件に当てはまる行動を仕向けていたのです。

 

結果的にユーサー皇子の皇国が記憶を失ったガイオウ…ヴァイシュラバに襲撃された原因の一つ。

 

覚醒者達をいずれ御使いの元へ誘う為に…

 

 

『…遠回しに言えばアイツも犠牲者だったって訳か。』

「ええ、前回と同様にスフィア起動時に自分を偽る為の別人格が生まれた様です。」

『前に知りたがる山羊が見せた光景がアイツ本来の性格って…何か違和感だらけだぜ。』

「でしょうね、私も一度対面していますが……見事に尻尾巻かれましたよ。」

『は?』

 

 

ハスミは答える。

 

自身の世界で起こった修羅の乱と呼ばれる戦乱の最中。

 

次元震による強制転移で様々な世界に飛ばされた事。

 

その転移した世界の一つが聖インサラウム皇国だった。

 

最悪な事に転移したのがガイオウによる侵攻で混乱した戦場と言う状況。

 

 

『マジか…』

「飛ばされた時に対応したのが私が所属していたSTXチーム…戦力上ギリギリの対応でした。」

『ギリギリって、どうやったかは詮索しないが一個小隊?で対応したのか?』

「ええ、偽名で潜伏していたアウストラリスもいらっしゃったので…どうにか。」

『地獄絵図だな。』

 

 

この時、クロウはまだ知らなかった。

 

インサラウムへ侵攻したガイオウとアイムがどうなったかを。

 

後に知る事となるのでハスミは聞かれなかったで通して話を進めた。

 

 

『おっと、そろそろ予定の場所に着きそうだ…また後でな?』

「判りました、ご武運を。」

『ああ、まだ99万9999Gの支払いが残っているからな。』

「…(見事な借金額。」

 

 

クロウは答えると通信を切った。

 

 

「…と、言っても現地で合流しますけどね。」

 

 

ハスミは通信を終えた後、静かに呟いた。

 

 

「ラマリスの出現回数が向こう側と桁違いだし……それにこちら側の世界は負念の澱みが酷い。」

 

 

溜息を付いた後、私は書類の入った記録媒体を持って通信室を後にした。

 

 

=続=

 



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第百話 『天使《ソレスタルビーイング》』


これは百番目の話。

天使は混乱する世界に鉄槌を下す。

それは世界を一つにする為の始まりの物語。

だが、それをあざ笑うかのように流れも変わりつつあった。




 

流れは変わる。

 

時に優しく、時に荒々しく。

 

異常災害もまた発生していた。

 

 

******

 

 

前回から数日後。

 

クロウが輸送機でAEUの領土圏であるアフリカ大陸へ向かっている頃。

 

ここでも、異常事態を知らせる情報が入っていた。

 

 

~多元地球内・ターミナルベース~

 

 

ターミナルベース内の会議スペースに緊急招集で集まった各部隊のパイロット勢の面々が揃っていた。

 

開口一番に言葉を発したのはATXチームのクスハである。

 

私ことハスミはその状況に関しての説明を行った。

 

 

「スタンピード?」

「それもラマリスによるものよ。」

「一体どうして…」

「この世界の紛争は勿論の事…人種差別、領土問題、侵略行為が私達の居た世界とは桁違いの頻度で発生しているのが原因。」

「…」

 

 

その多くが積もり積もってラマリスを発生させる負念を生み出している。

 

ラマリスの発生するべきエネルギー源が多ければ多い程に発生率も上昇していた。

 

例えラマリスになり得ないほんの少しの幼生でもこれだけの負念に当たればラマリスへ変貌してしまう。

 

前の世界と違う点は負念を生み出す要因が多すぎる点である。

 

重大な点とすれば、対処出来る部隊もなければ人員も存在しない事だ。

 

 

「ハスミ、このまま捨て置いた場合どうなる?」

 

 

アウストラリスは状況説明を続けるハスミに告げた。

 

それに対してハスミも最悪のケースを答えた。

 

 

「放置すれば、増殖と吸収を繰り返し…結果的に破滅の王に近い存在が現出します。」

「ならば捨て置けんな……こちら側の出撃を許す。作戦立案と部隊配備を頼む。」

「了解しました。マイルズ司令、鋼龍戦隊はどうされますか?」

「我々も人道的支援として行動する。問題はラマリスの出現先と出撃の手筈だが…」

「それに関しては、既に出現点の絞り込みと各方面への移送準備は進めてあります。」

 

 

ハスミは続けて出現点の絞り込みを行った先をモニターへ移し出した。

 

一つはアフリカ大陸、一つは中国大陸、一つは二つとなった日本列島の片割れ…エリア11、最後は地球軌道上にある高軌道ステーション周辺である。

 

 

「以上、四つのエリアでラマリスの異常発生を確認しました。続けて移送に関してですが…」

 

 

高軌道ステーション方面は偽装したアドラティオ数艦による輸送後、動きの速い機体による電撃作戦。

 

地上の三つのエリアに関してはハスミからとある映像の開示にある策を告げられた。

 

 

「地上の三つのエリアに関しては、この次元滑空列車を利用します。」

 

 

地上で鋼龍戦隊の戦艦を使用した場合、ソレスタルビーイング…イノベイター達によって情報拡散が起こる危険性を考慮。

 

そこでL5戦役時代にホルトゥスで使用していた輸送列車を使用する提案を上げた。

 

以前は限定的な空間転移程度しか出来なかったが、ホルトゥス側の次元力研究が進んだ事で独自の路線を発見し利用する方法を編み出した。

 

次元の中に存在する無数の支流を通り、あの御使いにも察知されずに行動出来る様に改良を施してある。

 

アビスの外へは出る事は叶わないが、アビス内の次元支流は問題なく行動出来た事も話しておいた。

 

 

「ハスミ、この列車は?」

「ギリアム少佐、これは私がホルトゥスで運用していた輸送列車です。」

「…これを選んだ理由は?」

「改良を重ね…次元の中の支流のみを行き来し行動する事が可能だからです、通常転移では即座に位置がバレてしまいますので。」

「つまり、御使いやヴェーダの眼を掻い潜る事も兼ねているのか?」

「その通りです、現状で単独次元転移が可能なリアクター機を晒すのは危険すぎます。」

 

 

リアクター機による早期行動は御使いの思う壺にさせてしまう。

 

この次元滑空列車はそれらの問題をクリアした輸送手段。

 

使い所が限られている以上は…

 

 

「輸送コンテナの積載数はPTの場合は八機、特機の場合は四機、これは1コンテナ分の積載可能数です。」

「輸送コンテナは九両編成…三両ずつが各エリアへ配備可能と言う事か?」

「はい、機体配分はラマリスの発生状況とエリアの状態によりますが…」

「念動者とシュンパティア搭載機は出撃対象、残りは援護が可能な機体に絞られるな。」

「不足に関してはサイデリアル側からも出撃可能な人員を配備します。」

「マイルズ司令、人員選出に関してですが…」

「ギリアム少佐、今回の作戦は君に任せよう。」

「了解しました。」

 

 

ギリアム少佐ならこちらの都合をある程度理解してくれるし助かります。

 

次の問題はサイデリアル側の人選。

 

性格を考慮して…ATXチームとPTXチームにアンタレス、SRXチームとコンパチ組に鬼宿。

 

オクト小隊とリ・テクにハイアデス、戦技教導隊とクライウルブズにジェミニスが妥当か…

 

アルシャトは仲介役として各方面に配置の形を取っておこう。

 

 

「ギリアム少佐、部隊の配置先なのですが…この布陣で予定しています。」

「現時点でのラマリスの出現エリア状況は?」

「此方が現在の状態です。」

 

 

私は作戦立案を行う中で部隊配備と作戦エリアの状況を映したモニターをギリアム少佐に提示する。

 

出現したラマリスによって撤退に追い込まれてる各国の部隊。

 

場所によっては植民地の難民を見捨てて自国の人間のみ逃がしている非道な連中も多々見えた。

 

この行為には正直…虫唾が走る。

 

全ての命を守れる事は出来ないのは理解しているが、助けられる命を見捨てる事は別だ。

 

 

「ハスミ少尉。」

「済みません、実際に感じ取っていると虫唾が走ってしまって…」

 

 

自分でも自制はしているが、怒りの抑え所が限界に近いのかもしれない。

 

前世でも破界戦役と再世戦役の内情は毛嫌いしていたから…

 

怒り任せのこんな状態じゃイルイに顔向け出来ないかな。

 

 

「出撃準備を急ぎましょう…こうしている間にもラマリスは増殖を繰り返しています。」

「ああ。」

 

 

 

緊急招集から始まった会議と並行してラマリスのスタンピードを阻止する作戦。

 

それらの配置先が決定し、双方共に急ぎ出撃準備へと移った。

 

 

******

 

 

一方その頃。

 

アフリカ大陸の軌道エレベーター付近に設置されたAEUの基地敷地内にて。

 

AEUの最新鋭機イナクトのお披露目が行われていた。

 

射出された的に訓練弾を当てていくイナクトのパイロット。

 

お察しの通り、コーラにサワーとか炭酸飲料系の名称を彷彿させる人物。

 

パトリック・コーラサワーである。

 

今のままだと、挫折を経験せずに天狗になっているので親近感を沸かない状態である。

 

 

「全弾命中!やっぱ、俺ってば天才!」

 

 

その様子を設営されている観客席にて観察する人物達。

 

 

「AEU初の太陽エネルギー対応型MS、イナクト…ね。」

「AEUは軌道エレベーター開発で後れを取っている、モビルスーツだけでもどうにかしたいのだろう。」

「おや、いいのかい?MSWADのエースがこんな場所にいて?」

「勿論よくはないさ…」

 

 

眼鏡をかけた男性がMSを観察し後から来た金髪の男性に声をかけられた。

 

続けて金髪の男性は眼鏡の男性とのやり取りを続けた。

 

 

「アフリカ北部では、我がブリタニア・ユニオンが支援するギザン共和国とAEUのバックアップを受けたマラニアが…連日戦闘を続けている。」

「ですが、それはギザンとマラニアの問題。ブリタニア・ユニオンとAEUが戦争に入った訳ではありません。」

「貴方は…?」

 

 

二人のやり取りに入った人物。

 

 

「ブリタニア・ユニオンのグラハム・エーカー中尉とビリー・カタギリ顧問ですね。」

「私はゼクス・マーキス上級大尉、AEUに軍席を置いていますがCMCより出向している身です。」

 

 

ゼクスは相手の名前を確認した後に自身の紹介を行った。

 

 

「この度は我がAEUの新型機発表会によくおいで下さいました。」

「貴方がOZのライトニングバロンですか。噂はこちらにも届いております。」

「私も中尉のお名前を聞き及んでいています。ご一緒しても宜しいでしょうか?」

「我々は構いませんが、いいのですか?関係者席にいなくても?」

「今回のお披露目は私の管轄とは異なりますので今回は純粋に一見物客ですよ。」

「…(成程、あのMSの製造はコロニー側とは別の筋なのか。」

 

 

ビリーはゼクスの話からお披露目を行っているMSの製造先を推測。

 

ゼクス達の使用するMSはこの世界に置いてMS開発が遅れているAEUの国力を補っている部分がある。

 

この世界に転移したコロニー群を取り纏めた現コロニー群代表のトレーズ・クシュリナーダ議長の手腕によるものである部分も多いが…

 

AEUの謎の一つである特務部隊OZ、未だ未開の部分が多いのは確かだった。

 

 

「如何です?新型MSのご感想は?」

「上級大尉の前で迂闊な事は言えませんよ?」

 

 

グラハムは皮肉を込めてデザインが独特的であると謙虚を込めて伝えた。

 

 

「そこ!聞こえてっぞ!今、イヤミをいいやがったな!?」

 

 

お披露目の演習中だったパトリックにもグラハム達の会話を聞き留めれらしくコックピットから出てギャンギャンと吠えていた。

 

 

「集音声は高いようだな?」

「みたいだね。」

 

 

流石のグラハム達もこれには失敬の表情はしつつ内心は苦笑いであった。

 

 

~その頃のクロウは?~

 

 

「…(おーおー、やってるな?」

 

 

 

AEUの演習会場をブラスタの中で監視するクロウ。

 

トライア博士お手製のステルス機能が効いているのもあり、会場から近距離に居るにも関わらず未だ発見されていない。

 

 

「…(しっかし、チーフも容赦ねえな。」

 

 

トライアはソレスタルビーイングのMSによってお手製のステルス機能が解除された事を未だに根に持っていた。

 

なので、前世の知識を駆使して絶対に敗れない様に改良を施したそうだ。

 

デモンストレーションをぶち壊すヒール役をする以上はステルス機能が機能していなければ意味がない。

 

クロウは貧乏くじを引く事になりつつも、この事は目を瞑っていた。

 

 

「…(ん、そろそろか。」

 

 

AEUの演習会場に程近い軌道エレベーター周辺に緑色の発光する粒子を巻きながら飛行する機影。

 

クロウはそれをモニターを操作し拡大後に目視する。

 

ちなみにブラスタの探知機能その他もトライア博士の怨念の籠った改良でバージョンアップしている。

 

 

「…(久しぶりだな、ガンダムエクシアと刹那。」

 

 

クロウは今だステルスを解除されていないブラスタの中で演習会場へ降り立った機体とパイロットの名を呟いた。

 

 

「エクシア、目標地点に到達…GN粒子の散布状況は作戦通り。」

 

 

演習会場に降り立ったMSに反応するパトリック。

 

 

「あぁん、アンノウンだと!?どうして、こんな時に…!?」

 

 

同時に会場内の席にて降り立ったMSに反応するビリー。

 

 

「MS!?凄いな、もう一機新型があるなんて…」

「いえ、あの機体はデモンストレーションの機体ではない!ここまで接近を探知出来なかったのか!?」

「えっ!?」

「…」

 

ゼクスの慌てぶりに動揺するビリー。

 

だが、グラハムだけは無言のままだった。

 

 

「…(来たか、刹那!」

 

 

グラハムは心の中でこの時点で知る筈のないパイロットの名前を叫んだ。

 

 

「…(まさか、彼もか?」

 

 

ゼクスは仮面越しであったが、グラハムの落ち着き様を見逃す事はしなかった。

 

 

「目標対象を確認。予定通り…ファーストフェイズを開始する。」

 

 

混乱する会場。

 

刹那は指定された作戦項目を確認後に行動を開始。

 

前方のパトリックの搭乗するイナクトの撃墜を行った。

 

 

「おいおい、何処のどいつだ!?ユニオンか!?人革連か!?」

 

 

動揺するパトリックであったが、目処前の相手に対して戦闘モードへ切り替える。

 

土足で自身の所属する陣地に足を踏み入れたMSを捨て置く事は出来ない。

 

只では済まさないと行動を開始した。

 

 

「イナクトのパイロット、仕掛ける気か…!?」

「彼の名はパトリック・コーラサワー。AEU正規軍のエースでありますが…」

 

 

しかし、ゼクスの説明が終わる前にイナクトは文字通りエクシアによってボコボコにされたのであった。

 

 

「俺は!スペシャルで!?二千回で!?模擬戦なんだよ。」

 

 

情け容赦なくイナクトはエクシアの大型対剣で切断され沈黙。

 

パトリックの支離滅裂な空しい声がコックピットに広がった。

 

 

「…(あーあー、刹那も容赦ねえな。」

 

 

その光景を目視していたクロウも『ひっでぇ…』と言う空しい表情をするしかなかった。

 

 

「コーラサワー少尉…」

「…」

 

 

仮面越しであるがゼクスは頭を抱え、グラハムは先程のパトリックの負け台詞に対して笑いを抑えている。

 

ビリーに関しては余りの状況に唖然としていた。

 

パトリックに関しては無事に脱出出来ているものの本人は今もギャンギャン嘆いていた。

 

 

「エクシア、ファーストフェイズ終了。続いてセカンドフェイズに移行する。」

 

 

刹那は目的を達成し演習会場から離脱すると姿を隠していたブラスタと鉢合わせする事となった。

 

 

「…(クロウ、お前も来ていたのか!?」

「さてと、少し遅れたが…ヒール役はしないとな?」

 

 

同時にAEUの演習会場に現れるAEUのMS部隊。

 

構成はAEUのヘリオンとOZのリーオーが各五機。

 

 

「やはり、非武装と決められている軌道エレベーター内に軍事力を配備していたか…」

「聞こえるか、テロリスト!大人しく武装を解除し投降せよ!」

 

 

出撃したAEUのヘリオンの一機から投降勧告の通信が流れる。

 

 

「…(そろそろか?」

 

 

クロウは同時に反対方向から狙撃体制に入ったMSの存在を確認した。

 

 

「長距離射撃!?新手か!」

 

 

一撃でヘリオンの一機を倒すとエクシアの元へ移動。

 

 

「ははは、こりゃ流石の刹那でも手を焼くかぁ?」

「ガンダムデュナメス、ロックオン・ストラトスか。」

「…んで、そっちの機体もAEUの新型か?」

「そうではないようだが?」

 

 

合流したロックオンは刹那と会話し状況把握を行ったものの…

 

 

「各機、攻撃を開始しろ!!奴らを逃がすな!?」

 

 

AEUとOZのMS部隊の追撃が始まった。

 

 

「さってと俺も言われたお仕事しなくちゃな?」

 

 

クロウはブラスタを移動させエクシアとデュナメスの様子をデータ取りしつつ行動を開始した。

 

今のトライアには必要はないだろうが、念の為である。

 

 

「…(今の状況でスフィアを起動させるのは不味いが仕方ねえ。」

 

 

クロウはVXを起動させSPIGOTを発射する。

 

 

「!?(あの武装はまさか!」

「何だありゃ!」

 

 

ブラスタに展開されたSPIGOTを目視した刹那とロックオン。

 

特に刹那はある確信を得る事となった。

 

 

「即撃破してボーナス追加させて貰うぜ!」

 

 

ブラスタのSPIGOT-VXによって出撃したAEUとOZの混成部隊は壊滅状態に陥った。

 

チャクラムと化したSPIGOTによって相手を一直線に追い込み、刀身は使用せず銃撃で戦闘不能に追い込んだのだ。

 

撃破と同時にクロウのコックピットにコインの音が鳴り響いた。

 

 

「これだけやれば、カルロスの奴もチーフに文句は言わねぇだろう。」

 

 

ソレスタルビーイングの目的はAEU側の軌道エレベーターに隠された戦力を曝け出す事。

 

AEUは非武装とされている軌道エレベーターに武力を隠していた事が露見。

 

ソレスタルビーイングにすれば発起の糸口である。

 

これとは別に…

 

正体不明のテロリスト(自身の商品)に秘匿部隊を撃破されたとすれば、面目丸潰れだろう。

 

今頃、アクシオン財団の当主カルロス・アクシオン・jr.も抱腹絶倒中に違いない。

 

 

「…(そろそろデュオの奴も来る筈だが。」

 

 

クロウが早期に展開していたMS部隊を退けてしまった事もあり、偵察に来ているであろうデュオなら即時退散するだろう。

 

 

「!?」

 

 

この時、クロウは自身の持つ揺れる天秤のスフィアより警告された。

 

 

「…(来るだと?」

 

 

演習会場に予告なしに出現したラマリスの大群。

 

これには演習会場は混乱状態に陥った。

 

 

「例の幽霊共か!」

 

 

クロウも事前にハスミらに聞かされていたが、実際に実物を拝むのはこれが初めてである。

 

 

「刹那、ここは撤退だ!」

「だが…!?」

「気持ちは解るが、俺達の武装じゃ奴らは…!」

 

 

同じ様に混乱する刹那達だったが…

 

 

「あれは!?」

 

 

突如、演習会場に現れた大型輸送列車。

 

列車は徐行運転へ移行するとコンテナ三両より機動兵器を射出し撤退。

 

 

「…(あれはヒュッケバインにグルンガストだと!?」

 

 

刹那は展開したPT部隊を目視。

 

何れも本来であれば、こちら側の世界にない筈の機体だった。

 

ちなみに展開中の部隊にはガーリオンタイプやゲシュペンストタイプも含まれている。

 

 

「各機散開し各自ラマリスへダメージを…止めは此方で行う!」

 

 

赤に塗装された量産型ゲシュペンストMk-II改より各機へ通信が入る。

 

 

「そうさせて貰うよ、こっちもそっちの実力を見たかったからね。」

 

 

同じく赤に塗装されたガーリオン・カスタムがゲシュペンストに通信を送る。

 

 

「キョウスケ、向こうの機体はどうする?」

「イルム中尉、ハスミの話では無視で構わないとの事です。」

「了解、さっさと片付けて離脱するぞ!」

「いやいや、皆さん…やる気があって凄いですね。」

「サルディアス、和んでないでとっとと手伝え。」

「はいはい、判ってますよ…隊長。」

 

 

ほぼ、量産型の機体が多いが部隊としては成り立っている。

 

今回AEUのスタンピード防止に派遣されたのはATXチーム、PTXチーム、アンタレスの混成部隊。

 

機体は本来の機体ではないが、乗り慣れている機体をチョイスしているので問題は無い。

 

戦力上、それを補う形の配備なのでラマリス・カーナだけの出現なら対処は可能だった。

 

 

「何時もの機体じゃないけど、クスハちゃん、ブリッド君、止めは任せたわよん?」

「エクセレン少尉、分かりました。」

「こちらも了解。」

 

 

手慣れた様子でラマリスを弱体化させ念動者による攻撃でラマリスを駆逐していく。

 

その様子にAEUの軌道エレベーターに設置された司令室からもあっけらかんとした表情がチラホラと出ていた。

 

 

「あの列車といいあの部隊は?」

 

 

傍観しているクロウのブラスタに秘匿通信が入る。

 

 

『御無事の様ですね、クロウさん。』

「その声はハスミか?」

『そちらに展開している部隊は此方側から出撃した部隊です、目的はあのラマリスのみなので今の内に撤退を。』

「判った、落ち着いた後でラマリスのデータをくれるか?」

『それは勿論の事です、トライア博士にもお渡しください。』

「OKだ。」

 

 

クロウはハスミからの通信を終えると演習会場から離脱し安全圏まで移動した。

 

それと同時にラマリスの掃討が終了し混成部隊は指定のエリアまで各自離脱を開始。

 

ラマリスは再び謎の集団によって駆逐されたのだった。

 

 

~後日~

 

 

AEUの軌道エレベーターと人革連の高軌道ステーションで起こった戦闘。

 

武力による紛争根絶を目的とした武装組織ソレスタルビーイングによるものと報道された。

 

しかし、各地に出現したラマリスを掃討した武装集団については謎のまま。

 

長年、顔を変えなかった世界は天使によって変革を迎えつつあった。

 

 

=続=

 





幽鬼の存在。

それらを駆逐する者。

名を改めよう。

我らは…


次回、幻影のエトランゼ・第百一話『名変《ナガエ》』


ここに我らは存在する。


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囁の付箋


囁かれる情報。

それは静かに広がる。

最早止まる事は無い。


 

ソレスタルビーイングの発起に伴い、ラマリスを迎撃するだけに現れた謎の部隊。

 

彼らもソレスタルビーイングのメンバーと思われたが、それは各国の技術者達から否定された。

 

理由はシンプルに使用されている技術が異なる事とラマリスを迎撃出来たと言う点である。

 

現時点で各国が欲している技術を謎の部隊…アンノウンはそれを所持している。

 

これにより各国並びに紛争地帯のテロリストやゲリラと言った組織もその捜索に乗り出した。

 

センセーショナルにソレスタルビーイングの発起が行われている筈がアンノウンの同時出現によって影に追いやられてしまったのだ。

 

流れは変わりつつある。

 

だが、アンノウンの存在をいち早く気付く組織も存在した…

 

 

******

 

 

それはここ、コロニー群の一つであるCMCの本部が置かれたコロニーにて。

 

 

~CMC・本部~

 

 

「成程…」

『それよりもトレーズ、先程の話は本当なのか?』

「ああ、間違いない。」

 

 

執務室でAEU・アフリカ支部からの通信を受け取っているトレーズ。

 

相手は仮面を脱いで姿を晒したゼクスである。

 

 

「あの列車はホルトゥスが使用していた輸送列車だ。」

『まさかホルトゥスがこの世界に?』

「…いや、ホルトゥスにしては動きが違う。」

『と、言うと?』

 

 

トレーズが戦場に現れた列車の情報をゼクスより受け取るとその詳細を伝えた。

 

ホルトゥスが使用していた輸送列車であると…

 

同時に行動パターンが余りにも違い過ぎる事も伝えた。

 

そのゼクスの疑問にトレーズが答えた。

 

 

「推測だが、彼女自身がこちら側に転移している可能がある。」

『彼女?』

「ホルトゥスの真の当主…そうなれば、あれはサイデリアルの手にあると見ていい。」

『!?』

「高軌道ステーションのテロと同時に起こった各地のラマリスの襲撃で出撃していた部隊…そこから導き出される答え。」

『トレーズ、それは…』

「彼女は漸く成したのかもしれない……反逆の一手を。」

 

 

トレーズは封印戦争時の事を振り返る。

 

L5戦役終盤でクロノに暗殺されかけたのを救助され庇護下に置かれてからの付き合いだ。

 

ホルトゥスの当主であるハスミより伝えられた言葉。

 

自身がバアルを討ち倒す為に懐へ潜り込む事を…

 

そして巡り巡って反逆の意思を纏めると伝えられていた。

 

行動を共にしていると思われるリ・テクの機体…

 

鋼龍戦隊と共に行動しているのもそれが成された事なのだろう。

 

 

『トレーズ、これからどうする?』

「特務部隊OZは引き続きAEUで活動、クロノの動向には注意してくれ。」

『了解した。』

「ヒイロ達には引き続き各地での潜伏活動を行って貰おう。」

『それはZEXIS設立まで…か?』

「その通り、クロノの行動を掴みやすくするにもかつての流れがいいだろう。」

 

 

トレーズはかつてと同じ流れで行動する事をゼクスに話した。

 

クロノが同じ行動へ移る事でより行動が判別しやすいからである。

 

これも保守派であるエルガンが同じ動きだろうと推測しての話だ。

 

 

『トレーズ、コロニーへの圧力は?』

「今の所はない、だが…今後の動き次第だろう。」

『ソレスタルビーイング…イノベイター達がどう動くか。』

「それも彼女らが訪れた事で覆されるだろう。」

 

 

ある意味で向こう側の常識に恐怖する。

 

並行世界にはそう言った規格外の存在も存在するのだと…

 

 

『…(素手でMSを倒せる人間は早々に居ない。』

 

 

ゼクスは空白事件から封印戦争まで行動していた頃の事を思い出していた。

 

過去の記憶で知っていたとは言え、改めて彼らの能力に驚かされる。

 

 

「彼らも一度は彼女らに戦いを挑めばいいと思っている。」

『…(確実に泥沼になる。』

「彼らが見下す人類…人の可能性を彼らもある意味で秘めているからね。」

 

 

並行世界と言う進んだ技術や価値観の違い。

 

ちょっとした行き違いや流れで諍いも起きてしまうだろう。

 

それでも手を取り合い互いに協力する事こそがバアル打倒への道筋。

 

 

「時間も押している。今回の長話はここまで……ゼクス、君の健闘を祈るよ。」

『ああ、任せてくれ。』

 

 

トレーズは長話の後に今後の活動に対して説明をし終えた後、通信を終えた。

 

 

「さて、これで良かったのかな?」

「ええ、お手数をお掛けしました。」

 

 

トレーズは執務室の応接スペースで待っている人物に声を掛けた。

 

 

「まさか鋼龍戦隊とサイデリアルが手を組むとは…事は早急になりつつあるのか?」

「残念ですが、こちら側の戦いを終わらせ…元の世界で起こる戦乱に介入しなければならないので。」

「そうか…終焉の銀河と呼ばれる戦乱と天獄戦役の同時勃発は避けられないのか?」

「あのアポカリュプシスによって定められた戦いである以上は防ぐ事は不可能です。」

「ならば、君が齎した可能性の未来へ進んでみよう……アシュラヤー・ガンエデン、いやハスミ君。」

 

 

トレーズは覚悟して話し相手の名を告げた。

 

ハスミは異空間からあるケースを取り出した。

 

 

「トレーズ代表、貴方にお渡ししたいものがあります。」

「…それは?」

「DDコミュミケーター。ある時代の並行世界で使用されていた通信機です。」

「通信機?」

「これで並行世界を跨いで通信する事が可能、試験的に天鳥船島と通信を行った結果…繋ぐ事に成功しました。」

「向こう側と通信が行えたのか?」

「はい、ですが…アビスの影響が薄れた時にクロスゲートを経由していますので頻繁には使えません。」

 

 

ハスミは色別コードで使用可能時が解ると続けて説明した。

 

敵に利用される事を避ける為にごく少数の仲間に預けると伝えた。

 

 

「渡す相手は此方で決めても?」

「はい、お願いします。」

「判った、君の努力を無駄にはしない。」

 

 

トレーズはDDコミュニケーターの入ったケースを預かると礼を告げた。

 

 

「次の連絡は追ってしますので、今は大きな動きはお避け下さい。」

 

 

ハスミはそれだけ告げるとテレポートでその場を去って行った。

 

 

=続=



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第百一話 『名変《ナガエ》』


名を変える。

それは首輪からの脱却。

自由を求め開放する為に。




 

各地のスタンピードを収めてから数日後。

 

メディアは私設武装組織ソレスタルビーイングのビデオレターやそれらに該当するニュースで持ちきりだった。

 

ここターミナルベース内でも、そのニュース類は自由に閲覧出来る。

 

鋼龍戦隊とサイデリアルの休憩中や非番のメンバーが入り混じり情報収集がてらフリースペースでニュースを見ていた。

 

 

******

 

 

「ソレスタルビーイング…か。」

 

 

フリースペースに置かれたソファーでリューネが呟いた。

 

武力による紛争根絶、最終目的は恒久的平和を掲げる組織。

 

成り立ちに関して自身の父親であるビアン・ゾルダークが起こそうとした戦いにどことなく似ている事に痛感していた。

 

今回はその戦乱がホルトゥスの介入によって未然に阻止されたので痛い所は無いが…

 

ハスミから実際にそれが起こってしまった並行世界もあると告げられた。

 

結果的に人類は纏まったがビアン率いる組織は壊滅し、その思想を捻じ曲げた末にテロを引き起こす組織へと成り下がってしまった。

 

他に聞こうとしたものの…

 

主にエクセレンが他のメンバーの黒歴史に該当する話を聞きたいと、てんやわんやした事で有耶無耶となったのである。

 

 

「リューネ、どうしたんだよ。」

「マサキ、あのソレスタルビーイング…ってさ。」

 

 

リューネはフリースペースにやって来たマサキに話しかけた。

 

父親が目指そうとした思想と複雑な思いと共に。

 

 

「確かにこのやり方じゃ、拙いだろうな。」

「…だよね。」

 

 

現実にマサキは前世の世界でDCとして蜂起したリューネの父親をその手に掛けている。

 

今世ではそれが起きていないが、知る以上。

 

同じ過ちが起きない様に伝えなければならないのだ。

 

 

「ソレスタルビーイングの内情も一筋縄って訳でもなけりゃアードラみてぇな連中が居たって可笑しくねえよ。」

「うん。」

「俺らが介入するかは様子見するしかねえよ、俺らは人様の情勢に軽く頸を突っ込める立場でもねえ。」

「…そうだね。」

「ただ言える事は間違った行動をしたら俺らで止めればいいって事だけだ。」

「マサキらしいね。」

 

 

ハスミは二人のやり取りに静観をしていたが、特に問題はなかったのでそのままにしておいた。

 

フォローすべき所は出来得る人達が行っているからだ。

 

自身が全部に頸を突っ込む事はしない。

 

 

「ふぅ…」

 

 

そんな状況の中でハスミはプレートタイプの電子機器から纏めた資料とにらめっこしていた。

 

 

「…(向こう側の状況がほぼ解るとは言え、バアル側に協力している連中が曲者揃い。」

 

 

梁山泊の最下層牢獄に投獄されていた罪人の殆どがバラオに霊子を喰われた。

 

表向きは衰弱死と老衰で処理された。

 

 

「…(連合の方もキナ臭いを通り越して危険な感じだったし、曲者リストをピックアップして光龍父さん達に情報を渡して置いて正解だった。」

 

 

ハスミはその組織の名を見た後、片手を握りしめた。

 

 

「…(NT教団、マフティー設立を阻止した事で出来てしまった狂信者の集団。」

 

 

文字通りNTを捻じ曲がった思想で崇拝する連中でありスポンサーがクロノと言うややこしさ。

 

構成員の多くはNT能力者でないもののNTの素養を持つ者や強化人間を秘密裏に拉致洗脳を施そうとしている。

 

下手をすれば、向こう側に居るジュドー達も危険であると言う事だ。

 

 

「…(早い所、山羊座のスフィアのレベルを上げてアビスの呪いを無効化しないとどうしようもない。」

 

 

いっその事、リモネシアに単独潜入してアイムをフルボッコって手もあるんだけど…

 

うーん、それだとガイオウの動きが余計に収拾付かなくなるし…

 

いや、ガイオウを捻じ伏せた方が早いかも?

 

とは言うものの…ガイオウの耐久性がヴィルと同じと考えると貫通ダメージを考えないと。

 

前の特訓で全力の念動フィールド張った拳で殴ってもヴィルってば軽い感じで『痛い。』だったし。

 

遭遇しても腹パンは無理でも顎パンはワンチャンあると思いたい。

 

え?説得しないんかって?

 

脳筋への説得=物理が相場と思いますが、何か?

 

うん、銀鈴さん達もそう言ってましたし。

 

 

要約<分からず屋の野郎共は拳で黙らせる。>→注:梁山泊&国際警察機構の女性エキスパート達だけの常識です。

 

 

と、言う事をハスミは一般常識として間違って学んでしまっていたのであった。

 

 

「…」

 

 

色々と問題点を纏めてハスミの思考はオーバーヒートの末に…

 

 

「…何だろう、無性にアイム・ライアードをボコボコにしたい気分。」

 

 

本人が居れば、慈悲深い常識人達によって全力で踵を返せと叫ばれるだろう。

 

 

「ハスミ、大丈夫?」

「大丈夫と言えないかも…ここ最近は資料とにらめっこしてたし。」

「そう、ならコレを飲んで元気出してね。」

 

 

衛生管理の手伝いを終わらせたクスハがハスミを訪ねて話しかけた。

 

しかし、彼女が持って来たのは例のアレであった。

 

 

そう鋼龍戦隊の裏名物クスハドリンクである。

 

 

「あ、ありがとう…(暫く飲んでなかったしヤバイかも。」

 

 

相変わらず薄紫色の液体にボコボコと泡立つ栄養ドリンク。

 

ハスミは静かに唾を飲み込んだ。

 

ドリンクの威力を知るマサキとリューネは顔を青褪めさせ、クロとシロに至っては尻尾を巻いて隅っこに蹲っている。

 

何も知らないのはサイデリアル側の人々のみだ。

 

その彼らも?マークを浮かべながら恐る恐る見ている。

 

クスハドリンクの恐怖を改めて知って貰うにはいい機会と思う。

 

体力回復には問題ないが、暫く気絶するのと味が問題と言う点である。

 

 

「…ご、ご馳…走さ、ま。」

 

 

舌触りがメッチャザリザリしてグミっぽくてううっ…

 

コレ呑み込むのがキツイ。

 

 

「どう?」

「舌触りに違和感…あるからもっとなめらかが良いかも?」

「やっぱり…ごめんね、漢方の百足を入れすぎちゃったかもしれない。」

「…(クスハー!!それ言ったらアカンって!?」

 

 

ハスミの心の声も空しく。

 

 

「む、ムカデって…」

「マジでヤベェって。」

「やっぱりニャね。」

「あのクスハドリンクに耐えきれるのはハスミや少佐達位ニャ。」

 

 

クスハの発言で戦慄し小声で話し合うマサキ達。

 

 

「そうそう、さっきアウストラリスさんにも持って行ったの。」

「え?」

「前に出したのは効力が薄かったみたいだから、今回は十倍の濃さで。」

 

 

「「「「…」」」」」

 

 

「念の為に言うけど…そこの二名と二匹、アウストラリスなら大丈夫だから。」

 

 

寧ろ本人も耐久訓練がてらに呑んでたし。

 

次元将の胃袋ってどうなっているの?って思ったわ。

 

ジャンクフード食べまくっても平気な脳筋もいるしアレが普通なのかな?

 

まあ、ヴィルは和食に慣れさせちゃったからそっちが好みになっちゃったけど。

 

試しに作ったエルザム少佐直伝の焼きおにぎり(醤油&味噌)で興奮してたし。

 

そのせいかお酒も清酒系とか好みっぽいね。

 

 

「ん、招集か…」

「ハスミ、どうしたの?」

 

 

ハスミはスフィアの力で共振が起こっているのを感じた。

 

これはリアクターだけでの会議を行うと言う知らせである。

 

 

「アウストラリスが招集をね、何かあったみたい。」

「戦闘?」

「そうじゃないよ、各地に情報収集に入っていた人員からの定期報告を纏めるだけだから。」

「ならいいけど…最近、疲れ気味みたいだったから。」

「暫くは大丈夫と思う…クスハのドリンク飲んだし。」

 

 

あれ以上に強力なアイテムってEFにあったファッティ・ヘンゼルのお菓子位かな。

 

ゲームと違って実際に食べられたし……本当に体重計が不味かった。

 

暫く会ってないけど、他のEFの皆も元気にしてるみたいだし。

 

ヴェルドバオム&スヴァイサーの封印も解かれてないから暫くは平和かな。

 

 

「要点が纏まったらマイルズ司令官達の方にも連絡に行くよ。」

「無理はしないでね。」

「ありがとう。」

 

 

ハスミはそれだけ答えるとプレート機器を仕舞い、室内を去って行った。

 

ベース内の玉座の間の奥へと移動すると既に他のリアクター達は全員集合していた。

 

入室しアウストラリスから声を掛けられたハスミは応対する。

 

 

「ハスミ、済まなかったな。」

「いえ、遅れましたか?」

「…これから行う所だ。」

 

 

議題は各地に潜伏しているサイデリアルの人員達からの情報整理。

 

ハスミが居る以上は嘘偽りは出来ない状況なので解りやすく配分するだけだ。

 

現在、起こっている事は…

 

・変わらずの世界解放前線「WLF」によるテロ行為。

・人類全体の敵である次元獣、インベーダー、イマージュが地球に襲撃中。

・私設武装組織ソレスタルビーイングが世界中から武力を根絶するべく行動を開始。

・ドクターヘルとヘテロダインの活動が活発化。

 

大雑把に纏めるとこんな感じである。

 

ある程度の情報整理が終わったので次の議題に入った。

 

 

「名を変える…ですか?」

「その通りだ。」

 

 

アウストラリスからの提案で組織名を改名する話が出ていた。

 

 

「流石に連中に付けられた名前のままってのもな…」

「新しいネーミングにしようってのもいいね。」

「…」

「名前を変えるにしてもネーミングにインスピレーションがなくてさ。」

「君にも一案を出して欲しいって事になったんだ。」

「済みません、俺達も頑張ったんですけど…」

 

 

ガドライトら他の六人も思いつかないの体でハスミに名付けに関して振られた。

 

 

「…ああ、成程。」

 

 

こんだけ揃って案がないって…どっかで見た事あるデジャヴ。

 

サイデリアルと似た意味合いだとトロピカルになっちゃうし…

 

かといって星座に関した名前だとネタバレに陥いる。

 

なら、シンプルな意味合いの方が良いかもしれない。

 

 

「イグジスタンス…地球の言葉で『存在』と言う意味でどうでしょうか?」

「存在?何故それを…?」

「私達が存在となる事…それはこれからの戦い次第で移り変わります。」

 

 

どんな時でも変化する存在になる様な意味合いを持たせた。

 

私達は常に存在し、ここに居るのだと知らしめる為に。

 

 

「認識の意味合いか…成程な。」

「他に異論はありますか?」

 

 

ハスミの名付けに関して特に反論は無かった。

 

意義の申し立てが無いのでハスミの提案が認可。

 

この時を持ってサイデリアルは改名しイグジスタンスと名乗る事を決定。

 

後日、その一件は鋼龍戦隊にも伝わり。

 

志を新たに活動を継続するのだった。

 

 

=続=

 





世界は戦乱に晒されている。

各地で芽吹く反逆の意思。

志を新たに彼らも暗躍する。


次回、幻影のエトランゼ・第百二話『覆影《オオウカゲ》』


世界の影を生み出す元凶を見定めよ。


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鋼龍星群同盟・報告書


現在の双方戦力状況。

旧サイデリアル側で起こしていた戦いの詳しい真相。

メモ書きの形です。


 

鋼龍戦隊とイグジスタンスの同盟=鋼龍星群同盟

 

 

 

<鋼龍戦隊>

 

現在ハガネとヒリュウ改はターミナルベースに滞在中の為、双方の艦への部隊配備は省く。

 

後に統合参謀本部との連絡を行う事が可能となったが、滞在中の多元地球からの離脱が時期的に不可能である事も含めイグジスタンスと行動を共にし監視する任務を受けた。

 

同世界で起こった戦闘に関してはマイルズ司令と艦長達の判断に任された。

 

また、同盟を組んだ組織への情報流出を極力避ける事も含まれている。

 

 

※SRXチーム

 

リュウセイ:R-1

 

ライ:R-2パワード

 

アヤ:R-3パワード

 

マイ:ART-1

 

ヴィレッタ:R-GUNパワード

 

イングラム:エクスバイン・リヴァーレ

 

 

※PTXチーム

 

 

イルム:グルンガスト改

 

リオ:エクスバイン・ガンナー

 

リョウト:エクスバイン・ボクサー

 

イング:エグゼクスバイン

 

 

※戦技教導隊

 

 

カイ:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプN

 

ラミア:アンジュルグ

 

オウカ:ラピエサージュ

 

アラド:ビルドビルガー

 

ゼオラ:ビルドファルケン

 

ラトゥーニ:フェアリオン・S

 

シャイン:フェアリオン・G

 

ラーダ:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプC

 

 

※クライ・ウルブス

 

 

アルベロ:メディウス・ロクス(第一形態)

 

ヒューゴ/アクア:サーベラス・イグナイト

 

フォリア/イル:ガルムレイド・ブレイズ

 

 

※諜報部

 

 

ギリアム:ゲシュペンスト・タイプRV

 

ヨン:プファイルIII

 

 

※チームTD

 

 

アイビス/ツグミ:アルテリオン

 

スレイ:べガリオン

 

 

※ATXチーム

 

 

キョウスケ:アルトアイゼン・リーゼ

 

エクセレン:ライン・ヴァイスリッター

 

クスハ/ブリッド:龍虎王/t虎龍王

 

アクセル:ソウルゲイン

 

アルフィミィ:ペルゼイン・リヒカイト

 

 

※オクトパス小隊

 

 

カチーナ:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプG

 

ラッセル:量産型ゲシュペンストMk-II・タイプC

 

タスク:ジガンスクード・ドゥロ

 

レオナ:ズィーガーリオン

 

 

※リ・テク

 

 

ジョッシュ:ジェアン・シュヴァリアー

 

リム:デア・ブランシュネージュ

 

ウェントス:ストゥディウム

 

グラキエース:ファービュラリス

 

乗り換え用空席:フォルテギガス

 

 

※コンパチチーム

 

 

コウタ/ショウコ:Gコンパチカイザー

 

ミチル:Gバンカラン

 

 

※クロガネ隊

 

 

ゼンガー:ダイゼンガー

 

エルザム:アウセンザイター

 

ユウキ:ラーズアングリフ・レイヴン

 

カーラ:ランドグリーズ・レイヴン

 

リシュウ:グルンガスト零式

 

ハーケン/アシェン:ゲシュペンスト・ハーケン

 

トウマ:雷鳳

 

 

※L&Eコーポレーション

 

 

ラウル:エクサランス・ストライカー

 

フィオナ:エクサランス・フライヤー

 

ティス:エクサランス・ガンナー

 

ラリアー:エクサランス・Dダイバー

 

デュミナス:エクサランス・ドライバー

 

デスピニス/ラージ/ミズホ:エクサランス・レスキュー

 

 

ティス、ラリアー、デュミナスはアルクトス復興中の業務から休務へ移行し鋼龍戦隊へ。

 

対ラースエイレム用の機関として時流エンジン搭載機と共に合流。

 

デュミナスは修羅の乱後、本体をサイズダウンし艦内行動を行える形へ。

 

エクサランス・ドライバー:宇宙用のコスモドライバーを大気圏内…地上でも使用可能にしたフレーム。

 

エクサランス・Dダイバー:水中用のダイバーを地上でも使用可能にしたフレーム、Dはディメンションの略。

技術提供で次元力を使用する機関を搭載している。

 

 

※ラ・ギアス

 

 

マサキ:サイバスター

 

リューネ:ヴァルシオーネR

 

シュウ:グランゾン

 

アーマラ:ガリルナガン

 

 

アサキムの介入によってカドゥム・ハーカーム戦で認識出来なくなった風の精霊サイフィスを始めとした精霊達は今回現存している。

 

しかし、サイフィスらも無事ではなく力を失い眠っている状態なので例のコンバーターを使用している。

 

アーマラは原作と同様に記憶喪失状態。

 

 

※天鳥船島&バラル組

 

 

ロサ:機神エザフォス

 

ピート:アシュセイヴァー→???

 

イルイ:エクスバイン・アミュレット

 

 

エクスガーバイン・ピストーレは空席、GGG・オービットベースより移送し鋼龍戦隊へ搬送済み。

 

???:現在各部パーツ組み上げ中。

 

 

※不在チーム

 

アシュアリー・クロイツェル、最上重工、クロガネ待機組、アリエイル、ドゥバン

 

 

 

<サイデリアル改めイグジスタンス>

 

 

名の由来は『存在』より。

 

御使いから文字通り放逐…首を斬られた。

 

理由はスフィアより扱いやすい代用品が発見された為であるが、その代用品に関して詳細を知る事が出来ない。

 

スフィアを使用しても判明出来ない所を見ると埒外的現象によるものと思われる。

 

五体満足で放逐されたのは奇跡に近く…何かの思惑が絡んでいるとされているが、それもアカシックレコードからの制限で読み取れない。

 

クロノ保守派の一部が救助されたが、多くはバアルによって毒された。

 

クロノ改革派の動向はエルガンが手綱を握っている以上、例の存在による介入は無いと思われる。

 

サイデリアルに所属していた他の部隊は御使いの私兵である真徒らの暴虐を阻止する為に各方面に配備されている。

 

 

 

※アルナスル隊

 

 

アウストラリスがサイデリアルの傀儡の皇帝ではなくなったが、当主と言う形で収まっている。

 

様は続役状態。

 

 

アウストラリス:蒼雷迅

 

ティグリス:???

 

アルナスル兵:群雷/アンゲロイSAG/アドラティオ

 

 

ティグリス:アウストラリスの副官に任命されたAI搭載の独立型躯体、白兵戦から機体への搭乗も可、ハスミ不在時は戦略&戦術補佐や事務経理を行っている。

アウストラリスへのタメ口は変わらず、正論ツッコミをしつつ本音で話せる有能部下。

問題はオイル癖が悪く特定のメンテナンスオイルを使用すると性格が360度変わる。

 

群雷:蒼雷をベースとした量産型、基本スペックは体術による格闘戦が主体となっている。

 

 

※ハイアデス隊

 

 

エルーナ:プレイアデス・タウラ

 

ダバラーン:バン・アルデバル

 

ハイアデス兵:アンゲロイHIA/アドラティオ/アルデバル

 

 

エルーナが正体を明かしたもののイグジスタンスとして行動する際は壊れるまで鎧姿のままで行動。

 

和解後はエクセレンと酒飲み仲間と化している。 

 

再会したランドをエルーナが自分の部隊に引き入れようとしていたが、ランドより現在進行形で拒否されている。

 

 

※ジェミニス隊

 

 

ガドライト:ジェミニア

 

アンナロッタ:ディオスクA

 

ヒビキ/スズネ:ジェニオン

 

ジェミニス兵:ディオスク/アンゲロイGEM/アドラティオ

 

 

話し合いの結果、ヒビキとスズネはジェミニス隊預かり。

 

基本はスフィア強奪阻止を兼ねてアルシャト隊と合同で行動する事が多い。

 

オマケで付いてきたAGの処遇は現在保留。 

 

 

※アルシャト隊

 

 

ハスミ:エクスガーバイン・クリンゲ/念神エクリプス

 

ファウヌス:アルゲティオス

 

エクスキューナー:ディミオス

 

アルシャト兵:ディミオス/アンゲロイCAP/アドラティオ

 

 

ハスミが告白と同時に正体を明かしたもののイグジスタンスとして動く場合はファウヌスの姿を取る。

 

副官はロサとピートが兼任。

 

公式には潜入捜査任務中のままだが、イグジスタンスとして鋼龍戦隊とのバイパス役を請け負っている。

 

 

※アルファーグ隊

 

 

アサキム:シュロウガ

 

ツィーネ:エリファス

 

アルファーグ兵:アンゲロイPIS/アドラティオ、カイメラ隊・配備機体群。

 

 

現在はアサキム一名のみ、ツィーネと部下達は無事だった保守派と合流し行動しているので不在。

 

アサキムは呼び戻しが無い限りは単独で各地を放浪中。

 

 

※鬼宿

 

 

尸空:尸逝天

 

尸刻:尸冥天・絶

 

鬼宿兵:尸冥天/アンゲロイCAN/アドラティオ

 

 

MD戦乱の後半で本隊と合流。

 

バラルの園へ現れたゴラーゴレム隊の侵入を阻止する為に協力。

 

クロウとは和解しつつも平行線状態のままを保っている。

 

尸刻に関してはロサとイルイの純粋さに惹かれて頭を撫でて和んでいる姿が見受けられる。

 

 

※アンタレス隊

 

 

バルビエル:アン・アーレス

 

サルディアス:シャウラス・リーダー

 

ギルター/アンタレス兵:シャウラス/アンゲロイANT/アドラティオ

 

 

MD戦乱の後半で本隊と合流。

 

鬼宿と合同でゴラーゴレム隊の侵入を阻止する為に協力。

 

平穏を脅かす者を憎むと言う形で『堕ちる』の方向性を変えた為に配下達の精神状態はそこまでやられていない。

 

サルディアスの部下達も生存し混ざっているので憎しみの原動力が少し弱まっている節がある。

 

ギルター=安定の隊長&副隊長のサンドバック状態。

 

和解したセツコにバルビエル自身の部隊へ編入して貰いたいと思っているが本人の意思を尊重しているので無理強いはしていない。

 

 

 

******

 

 

<元の世界でサイデリアルが侵攻を行った理由>

 

 

※ガウ=ラ・フューリア襲撃

 

エイテルムを使用したスティシスベッドが原作よりも限界を迎えそうになっていたので襲撃し眠っていた全民達を侵略したセフィーロへと移送。

 

セフィーロで想いの力による生命力の回復を図った。

 

 

※セフィーロ並びに異世界侵攻

 

バアルによって暴走したクロノ保守派による各所テロ行為を防ぐ為に表向きは侵略。

 

後に秘密裏に処理していた。

 

また、キナ臭い連中の排除も行っている。

 

侵略後はラースバビロンと同じ霊子結界を生み出す装置の配備を行わせた。

 

 

※梁山泊への奇襲

 

バラオの潜入によって多くの悪意の霊子を喰われるのを防ぐ為。

 

しかし、潜入が遅かった事で半数がその餌食となった。

 

 

※外宇宙からの侵略組織への対応

 

バアル側に堕ちている者達を中心に処理。

 

主にズールやムゲなど。

 

 

<ADWでの主な行動>

 

 

残りのスフィアリアクターの捜索と監視。

 

ZEXISの成長を見守り。

 

他協力を仰げる組織への説得。

 

次元獣の捕獲可能個体の捕獲。

 

ラマリスの率先的討伐。

 

 



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粛の付箋


粛清される。

それはさり気無く行われる。

全ては馬鹿の修正の為に。


 

各地で後に Z EXTRE INTERNATIONAL SAVERS(特別国際救助隊)の略…

 

通称、ZEXISとなる存在達が反逆の兆しを見せ始めた頃。

 

設立に関しては国連平和理事委員会代表であるエルガン・ローディックの手回しであるが…

 

AGが『あーそう言う事になってたんですね?』と興味津々な所を見ると詳しい詳細は知らされていなかったらしい。

 

並行世界の同一体でも差はあると言うのは理解出来た。

 

もう一人のスズネさんであるアムブリエルも『今回もアレと同一体と言うのが癪だ。』と毛嫌いしているし。

 

既に統合された状態でも偶に出てくる様だ。

 

解りやすく言えば、ウェンディとテューディやクリスとリアナの様な感じに近いのだろう。

 

で、余計な事を秘密裏に行おうとしたので毎度恒例化しつつあるAG説教会が行われている。

 

 

「此度は何を行おうと企んだ?」

「えーっと、ちょっと…」

 

 

ターミナルベース内の謁見の間で説教会が行われる中。

 

アウストラリスの圧で顔面蒼白のAGが口ごもっていた。

 

 

「別に貴方が言わなくても解っているんですけどね?」

「だったら、何でワタシを呼び出すんですかー!!」

 

 

ハスミが状況を説明すると涙声で反論するAGだったが…

 

全員一致で毎度同じ決断を下した。

 

 

「「「「「兎に角、黙れ。」」」」」

 

 

その場に集まったリアクター十名の眼が狩る状態である事を察したAGはビビり声を上げた。

 

 

「はひっ!?」

 

 

わざとやっているのかどうかは置いといて、ガタブル状態のAG。

 

何時ものSM体質も今回はフォローしないらしい。

 

 

「テメェには散々振り回されたし、ここらでぶっ壊しても構わねえんだぞ?」

「…覚悟は出来ますか?」

 

 

話し合いの関係で合流を果たしたランドとセツコの恨みの圧が感じ取れた。

 

うん、人の事は言えないけど…正義の味方の表情じゃないね。

 

真相はしりつつも『殴りたいこの衝動』って止められないし。

 

 

「…ひぇえ、誰かぁ止める人は居ないんでスカ!?」

「いないわよ。」

 

 

かく言う私もそうだから…

 

 

「私も貴方に言いたい事があったし。」

 

 

ハスミはAGの脳天を鷲掴みすると念動の圧を掛けた。

 

 

「あの…ランドさんとセツコさんよりもお怒りが。」

「そうだね、大きいね?」

「空白事件の件は誠心誠意に土下座しましたよね!?」

「その件じゃない、貴方の預かり知らぬ事であり貴方のろくでなし残滓が起こした事。」

 

 

握力が凄まじいのかAGのヘッド部分よりミシミシと軋む音が響く渡る。

 

 

「あだだだっ!!こわれ!壊れますって!?」

「そうだね、何で怒っているのかの理由を話すよ。」

 

 

ハスミは語る。

 

とある世界でAGの残滓であるジエー博士の姿をした同一体が事件を起こした。

 

その結果、ある世界の史実が改変される危険性が確定してしまった。

 

成り行きでハスミはその世界で秘密裏に行動していた組織と共に事件を追い…やっとの事で終息させた。

 

だが、世界の秩序が乱れない様に力の制限があった為に少なからず犠牲者が出てしまった。

 

最悪な事にこちら側の技術が悪用された事件も起こされた為に数多くの被害者を残した。

 

終わってしまった事に如何こう言える様な事ではないが…

 

それなりのケジメを付けて貰うと答えた。

 

 

「と、言う訳よ。」

「あの…ワタシの同一体がちゃっかり嬉し美味しい事をしているのが共有できな、あだだだだ!?!?」

「はーい、そこは気にしなくていいと思う。」

「ひどっ!!」

 

 

握力が更に倍増しついにヘッド部分の装甲に指先がめり込んだ。

 

あの細い指先でミシミシとAGの装甲が悲鳴を上げさせている。

 

知らない相手が見れば、とんでもない馬鹿力を発揮している様に見えているだろう。

 

 

「へぇ?酷い?」

 

 

その時のハスミの笑っていない笑顔は相当な怒り様であった。

 

ストレス蓄積を起こしている状態の強烈なお怒りである。

 

 

「え、あ…す、済みませんでしたーーーー!!!」

 

 

命の危機を察したAGは涙目で謝罪の言葉を並べる。

 

が、何度も問題行動を起こしてるので今回ばかりは文字通り釘を打たれるだろう。

 

 

「ハスミ、僕らにも残して置いてくれよ。」

「…善処はします。」

 

 

バルビエルは指先で針状のダガーをクルクルさせて答えた。

 

 

「にしても、ハスミのサーチ&キャッチからの速攻デストロイは面白いよね?」

「やられる当人は地獄だけどな。」

 

 

エルーナは拳銃の銃弾装填数を確認し、ガドライトは遠い眼をしていた。

 

 

「自業自得だろう。」

 

 

尸空は変わらず静観。

 

表情には出していないが、AGの問題行動にウンザリしている節があるらしく。

 

ハスミのAGデストロイに関しては満更でもないようだ。

 

 

「AG、今度は何をしたんですか?」

「ろくでもない事なのは判るけど…」

 

 

合流直後でまだ事情は知らなかったヒビキらが訪ねる。

 

その事にアサキムが答えた。

 

 

「僕も聞いたばかりだけど、彼女に断り無しで鋼龍戦隊の情報を外部に流出させようとしたんだよ。」

「それは色々と拙い事じゃあ…」

「そうだよ、彼女に仕置きされるのを判っているのにね?」

「触らぬ神に祟りなしと言いますが…アレは故意でやってるんじゃないのか?」

「だろうね、今回は仏の顔も三度までを越したけど。」

 

 

状況を聞いて呆れ顔のヒビキと楽しそうなアサキム。

 

 

「寧ろ、アウストラリスの微笑ましい表情に驚きなんだか?」

「そうだね、彼にとって彼女の殺気は可愛いの部類に入るらしいから。」

「ええー…」

「良くあるじゃないか、彼にとっては猫のじゃれ合いの様なモノだよ。」

 

 

ヒビキは何度か戦場で戦う機会があったのでハスミの殺気に関しては知っているものの…

 

アレは度を越している。

 

解りやすく言えば、怒らせてはならない相手に手を出してはならないと改めて察した事だ。

 

 

「…(そもそもあの人の殺気を可愛いって…良く分からない。」

 

 

ヒビキは器が広いと言うかポジティブ寄りな考えのアウストラリスに改めて悩むのだった。

 

 

「…(ヴィルの馬鹿///」

 

 

ハスミはスフィアの力でアウストラリスの考えを感じ取っているのでどう言う状況なのか理解している。

 

今のやり取りを可愛いと表現している事に赤面を隠しつつAGデストロイを続行するのだった。

 

 

「もうしません、本当にすみませんでしたぁ!!!」

 

 

その後、AGはスフィアリアクター勢よりフルボッコ粛清を受けて不用意な行動を避ける様になった。

 

一応、表向きは…

 

 

=続=

 



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第百二話 『覆影《オオウカゲ》』


世界を覆う影。

それらを形作るもの。

世界の闇は深い。


 

ADWにおける戦乱。

 

その引き金となっているのは三大国家の関係だろう。

 

細かく分類するなら様々な組織の影響が多くあるが…

 

紛争の要因となっている存在を根こそぎ取り除くが最良だろう。

 

出来れば、早急に統制の効かなくなったクロノことバアルに毒された改革派を鎮めたい。

 

が、そう簡単には行かないだろう。

 

最近になって無限力の横槍がここぞとばかりに再開し始めた。

 

アポカリュプシスの予兆が始まりつつあるのだろう。

 

正直、胸糞悪いと言いたい。

 

何処まで人を…人類を見下せば気が済むのかと?

 

 

「人類史全ての存続も滅亡も大元は一つから繋がっていた……アポカリュプシスと言う試練の名の元に。」

 

 

私ことハスミは誰も居ない玉座の間で静かに呟いた。

 

 

******

 

 

ソレスタルビーイングの紛争介入。

 

これにより各国は対ガンダム調査部隊を設立し、戦いは激化する。

 

世界各所に乱入する五機のガンダム。

 

プリベンターの隠れ蓑にして新生OZの大元であるトレーズさんの仕込みなので放置。

 

エリア11に現れた黒の騎士団。

 

例のオレンジ事件でブリタニアの第三皇子が殺害されていない所を見ると騎士団にも何らかの動きがあったらしい。

 

それぞれの目的の為に動き、独自の特機を配備する経営企業。

 

これは様子見。

 

犯罪組織ブランチを追うICPOこと国際警察機構。

 

テロリストによる紛争に介入するダンクーガと名乗る特機乗り。

 

インベーダーの危機を世界に対し宣言する早乙女研究所。

 

機械獣からの侵略に対抗する光子力研究所。

 

前半四つに関しては原作のままであるが…

 

後半四つに関しては少し流れが変更しているようなので補足する。

 

まず、ICPOこと国際警察機構。

 

これは梁山泊の一部エキスパートらが建設中の支部と共に数年前に起こった次元転移に巻き込まれた。

 

もう一人の草間大作とも言える金田正太郎と鉄人28号が主な戦力となっている。

 

元々は大作君と友人同士だったが、数年前の時空転移で離れ離れになってしまった。

 

因みに梁山泊の九大天王の一人である大塚所長とICPOの大塚所長は従兄弟らしい。

 

従兄弟とは言え、ICPOの大塚所長はあのカツ丼攻撃は出来ませんので。

 

次にダンクーガ組。

 

これは獣機戦隊が第二部隊として新型ダンクーガの製造を行う案が立ち上がっていた。

 

その計画中に計画の中心人物達が次元転移で行方不明となった。

 

どうやら転移先で計画は密かに続けられていたらしい。

 

原作の二百年なんちゃらはゴミ箱ポイされたっぽいです。

 

続けて早乙女研究所。

 

転移した早乙女研究所は出現したインベーダーに対抗する為に行動中。

 

月面戦争勃発前なので何とかしなければならない。

 

場合によってはTのシナリオで猛威を振るった万能細胞の出番をして貰うつもりである。

 

最悪の時はハイアデス隊でサーチ&デストロイな介入も考えています。

 

元の世界ではゲッター線の管理が厳しくなったのでプラズマエネルギーを応用したネオゲッター計画が進行中との事。

 

ちなみに『全国の女子高生のみなさーん♪』のボイスの敷島博士が天井に銃ぶっ放して開発してます。

 

最後に光子力研究所。

 

甲児らは母親の経営するくろがね屋で生活をしつつ行動中。

 

物語が色々とごっちゃになり過ぎてどう話せばいいのか不明な位になってしまっている。

 

甲児の母親が鉄也の姉と言う事情が判明したり、ドクターヘルがミケーネの遺産とごっちゃで色々やらかしたりと

収拾が付かない位に面倒くさい流れにされています。

 

まあ、原作同様にバアル側として仕掛けてくるならガンエデンでお仕置きしますわ。

 

何度目かの節目の頃、ご勝手に喧嘩売って返り討ちに遭ったらしいので。

 

但し、ガンエデンはあくまでも緊急時の手段として司令官らとアウストラリス以外に話していない。

 

ガンエデンはあくまで人類の敵であるバアルとの戦い以外に干渉しないと宣言している。

 

それ以上の無理強いは協力関係の決裂を意味するので。

 

例の如く、次元獣とラマリスの発生からのランダム出現は継続中なのは変わらなかった。

 

これがアフリカ事件から数週間の間に起こった出来事である。

 

 

~更に二週間後~

 

 

引き続き、ターミナルベースにて。

 

双方へ纏めた情報を開示する準備をしていたハスミ。

 

クスハはその手伝いとして指定されたファイルを情報端末へ移していた。

 

 

「PMCトラスト?」

「AEUと取引をしている民間軍事会社の総称、その中にはAT乗り達も混じっていた。」

「って、事は…」

「事情を知るキリコさん達と遭遇したという事ね。」

 

 

修羅の乱の頃、キリコさんらレッドショルダー組とはホルトゥスからの依頼を通して金銭取引をしていた事がある。

 

バビロンプロジェクトの阻止に一役買って貰っているので事情を話せば取り合って貰えるだろう。

 

問題は彼らの状況…特に親族や立場などである。

 

修羅の乱の頃は原作開始前の状態だったから話を受けて貰えた。

 

場合によっては荒れている可能性があるだろう。

 

それが起こる前なので親族の保護やバックアップをするのを条件に協力を仰ぐ事も可能だ。

 

キリコさんの場合は小惑星リドでの罠をどうにかしないといけない。

 

原作と同様にフィアナさんと出会う場所でもあるので。

 

これに関してはジェミニス隊に動いて貰った。

 

続いては人革連の基地制圧にWLFが絡む事件。

 

基地を設置した場所の民族弾圧が横行しており、文字通り現地の少数民族達はWLFの口車に乗せられて小競り合いを起こしている。

 

テロリストであるWLFは主要基地を持たない故に占拠出来る基地を狙っていた。

 

現地のテロリストを誘導するのもその手口だろう。

 

これもソレスタルビーイングの介入があるので注意しなければならない。

 

あの基地には超兵計画の被験者達がいるので開放を兼ねて乱入。

 

ここはアルシャト隊で行動しソレスタルビーイングに例のダンクーガと鉢合わせをする事となった。

 

クロウさんは見習いの立場だろうが、ソレスタルビーイング入りを果たしていた。

 

最後はブリタニア・ユニオン領のニューヨークにある国連本部で行われている議会。

 

外来生物対策委員会の件である。

 

これには既にインベーダー側となったコーウェンとスティンガーの暗躍が始まっている。

 

議題はインベーダーの件と共にラマリスの件も話し合いが行われてるものの…

 

トレーズさんがコロニー群の代表として話し合いの場に出ているので二人の暗躍に横槍を入れてくれるだろう。

 

エレガントは偉大と称えたい。

 

ま、ラマリスの一件はトレーズさんにも情報を与えているし場合によってはコロニー群の有志として鋼龍戦隊が表舞台に出る必要があるかもしれない。

 

表向きは次元獣、インベーダー、イマージュ、ラマリスの殲滅を目的としたデモンバスターズ的な立ち位置だが…

 

エルガン・ローディック率いる平和維持理事会は当初の予定通りZEXISが設立しなければならないので立場を奪う訳には行かない。

 

あくまで検討中の範囲内に収めて置こう。

 

とまあ、こんな感じで色々と裏で動いていました。

 

 

「ハスミ、栄養ドリンクでも作ろうか?」

「今はいいよ、この間飲んだばっかりだし耐性付いて利きが悪くなりそうだから…気持ちだけ貰っとくね。」

「そう…」

 

 

こんな感じでクスハドリンクの威力がイグジスタンス側にも広まった頃。

 

因みにアンタレス隊のギルターさんは名前を聞いただけで卒倒する勢いである。

 

バルビエルとサルディアスさんが悪意満載な表情をしていた所を見ると、既にやられた様だ。

 

可愛そうなので合掌位はして置こう。

 

まあ、例外はハイアデス隊の人達が服薬後に某栄養ドリンクのCM張りの勢いだった事位かな。

 

ファイトなんちゃらってね。

 

 

「…(クロウさんには念の為、ゲッターチームとの合流時には注意喚起をして置いたけど。」

 

 

あの場所のWLFの武器取引ってアイムが嗾けた罠の一つだったりするんだよね。

 

多分、クロウさんが揺れる天秤のスフィアを覚醒させているかの確認行動だと思うけど…

 

………顔面殴り飛ばしたくなってきた。

 

まあ、インベーダーもスフィアの気配に感づいて寄ってきたものだし…

 

纏めて始末した方が良いでしょう。

 

 

「…(問題はエリア11のアクシオン財団保有の第六防衛研究所での戦闘。」

 

 

あの戦闘もアイムがクロウさんのスフィア覚醒を促す為に嗾けて来た。

 

そしてマルグリット卿の弟さん…白い次元獣ことMDとの戦闘。

 

出来れば早期回収も視野に入れるかな?

 

なるべく禍根は残したくない。

 

 

「…(で、その後にフロンティア船団の転移。」

 

 

因みにこのフロンティア船団は私達が居た世界の船団が時空のるつぼの影響で早期出現してしまった。

 

なので本来の年齢が変動している。

 

この事から同じ世代にミンメイ、ファイアボンバー、銀河の妖精が勢揃いしてしまう奇跡が起こった。

 

また無限力の陰謀説を唱えたい。

 

で、このフロンティア船団へ滞在していたクロウさん達国連チームにアイムが次元獣を嗾けて来るのである。

 

 

「…(この戦いの後にアイムはクロウさんを戦う相手と認識する。」

 

 

そしてボートマンことエルガン・ローディックの招集にて災害対策チームZEXISのメンバーが龍牙島のドラゴンズハイヴに集結。

 

 

「…(宇宙から地上へ右往左往しつつ再びWLFの暗躍。」

 

 

ま、何処かのスットコドッコイのせいで煽られてしまったリモネシアの外務大臣…シオニー・レジスの手回し。

 

伝手が伝手だからエリア11のフジ基地で行われるサクラダイト配分会議も知る事が出来たんだろうね。

 

ここで黒の騎士団も動きを見せる。

 

太陽光発電もサクラダイトもこの世界のエネルギー資源物資としてに欠かせない代物。

 

国連に加入していないアザディスタン王国を始めとした砂の国々も砂から電力を得る技術を齎せばマシになりそうだけど…

 

この時点でジルクニスタンやマーティアルが動いていないのは様子見と傭兵稼業で潤っているからだろうな。

 

後々、戦乱を起こす癖にすっごくめんどい。

 

で、色々とあって黒の騎士団もZEXISへ加入し足並みは揃ったのである。

 

 

「ハスミ、これからどうするの?」

「私達は継続して次元獣の捕獲とラマリスの殲滅に専念する…まだ表舞台に出る時期じゃないから。」

「ZEXISを信じているから?」

「彼らには学びは必要だから、力の矛先を向けるべき先を…見極めが必要なのよ。」

「…」

「但し、そろそろ顔出しの時期と言う事はアウストラリス達にも進言するわ。」

「どういう事?」

「アイム・ライアード達が行う計画、『プロジェクト・ウズメ』への乱入が絶好のタイミング。」

「?」

「奴らの計画を圧倒的な力で捻じ曲げる事…それが新たな破壊であり再生への一歩なのよ。」

 

 

ま、少数精鋭でちょっとばかり偵察はしてくるけどね。

 

ハスミは仕分けを終わらせるとクスハに礼を伝えてその場を後にした。

 

 

「さてと、アイム・ライアード……ファウヌスの姿で少しばかりイタズラさせて貰うわね?」

 

 

ハスミは真っ黒いオーラを醸し出しながら円卓の間へと歩みを進めた。

 

常識人が発言を聞いたのなら満場一致で答えるだろう。

 

 

『逃げろ!』と…

 

 

 

=続=

 






ファーストコンタクト。

それは知りたがりの接触。


次回、幻影のエトランゼ・第百三話『興味《キョウミ》』


抗えない衝動は何の為?


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属の付箋


星座は星群と共にある。

彼らもなくてはならない。

人は一人では生きていけないから。


 

これは、各地で紛争やテロが横行する中。

 

国連による平和維持対策チームことZEXISに黒の騎士団が加入してから起こった出来事。

 

ターミナルベースに滞在中のイグジスタンスでは副官による話し合いが行われていた。

 

 

~ターミナルベース・グリーフィングルーム~

 

 

「新たな次元湾曲現象?」

「ええ、それも我々が遭遇した事もない反応でしてね。」

 

 

ハイアデス隊のダバラーンの反応を皮切りにアンタレス隊のサルディアスが説明を続けた。

 

 

「私達で調査を…と指示を受けました。」

「だが、調査人員は最小限に収める様にと言付かっている。」

「はい。」

 

 

鬼宿の尸刻とジェミニス隊のアンナロッタにアルシャト隊代理副官のロサが頷いた。

 

 

「本当ならギルターさんらに任せようと思いましたけど、私自身興味がありまして…それに直接指示を受けましたし。」

「しかし、副官全員が出撃する理由は…」

 

 

サルディアスは乗り気だったが拠点防衛に携わるダバラーンとしては複雑だった。

 

事の理由を聞いてきたロサが補足話をした。

 

 

「ハスミからアウストラリスさんにお伺いした話だと『それぞれが副官の座に居る以上はそれなりの実力を有して貰わなければならん。』と言ってました。」

 

 

要は何が起こっても指定した人員のみで対処しろと言う事である。

 

 

「元陛下…いえ、当主には困ったものですな。」

「だが、力試しと言われた以上は応じなければならない。」

「…」

「所でロサ、ツィーネはどうした?」

「別件で不在ですけど、後で合流するそうです。」

 

 

他の四人は前世上の記憶があるので難無く連携は取りやすい。

 

ロサだけは初回なので不安要素もある程度予想は出来たが、特に問題は無い様子である。

 

 

「…」

「尸刻さん?」

「…」

「ナデナデしますか?」

 

 

この様な形でロサはイグジスタンスでも癒しマスコット化になっていた。

 

かつてミスリルでソースケが勝手にマスコットキャラとして進めていたボン太くんの件もあるので動揺はないだろう。

 

ボン太くんを用いた戦術は前世上でもアンナロッタ達が身を持って経験している。

 

その有能性は言うまでもないだろう。

 

 

「…(以前、ツィーネがロサの事を苦手だと話してたが。」

 

 

アンナロッタは尸刻によってナデナデされているロサを見ながらある事を思い出していた。

 

空白事件の終盤、ジ・エーデルの元でカイメラ隊に属していたツィーネ。

 

彼らによるノードゥスの内部分裂の工作を看破したのは別行動中だったハスミとロサの二名だった。

 

この頃、前世で同一の事件の詳細を知っていたメンバーは次元転移で行方不明だった。

 

その事もあって再び内部分裂を引き起こされそうになったが、二人の活動でそれは防がれた。

 

その後、ランドとセツコのスフィア覚醒を伴ってカイメラ隊は手痛い反撃を喰らい壊滅した。

 

この戦闘のショックで記憶を取り戻したアサキムとツィーネはハスミからの秘密裏の説得を受けて協力体制を取る様になったのである。

 

ツィーネがロサと戦ったのはその時だけであり、二度と再戦したくないと青褪めた表情で愚痴を漏らしていた。

 

 

「さて、皆さん…話し合いはここまで。各自の準備が整い次第、調査地への出撃をしましよう。」

 

 

>>>>>>

 

 

数時間後、出撃準備を整えた副官らは指定ポイントへ出撃。

 

道中でツィーネのエリファスと合流し調査地点へと到着した。

 

その場所はソレスタルビーイングのヴェーダですら監視が不能な領域だった。

 

 

~多元地球近海・Cエリア~

 

 

「ここが…」

「見た所、只の宙域の様ですね。」

 

 

ダバラーンとサルディアスが宙域の様子を目視で確認するものの…

 

特に異常は見られなかった。

 

 

「…ですが、気配を感じます。」

「恐らくはバアルの眷属達の気配だろう。」

「はい、間違いないです。」

 

 

だが、気配を感じ取れる尸刻達は静けさだらけの領域の違和感を見透かした。

 

その言葉と同時に出現する青銅の装甲を纏った異形の存在。

 

 

「調査とは言え、本来の機体での出撃は間違いなかったみたいね。」

 

 

ツィーネは出現した存在に対して戦力配分に間違いはない事を答えた。

 

 

「あの機体……確か、どこかで?」

 

 

ロサは出現した異形の存在の姿に見覚えがあると答える。

 

その言葉に反応するアンナロッタ。

 

「ロサ、それは本当か?」

「はい、あれは……ルーン・ゴーレム、ゴーレムの一種です。」

「ゴーレム?」

「解りやすく言うと魔法で生成された岩人形です。」

「魔法…まさかセフィーロから転移してきたというの?」

 

 

魔法と言う言葉でツィーネも多々事ではないと判断した。

 

だが、ロサはセフィーロからの転移ではないと答えた。

 

 

「セフィーロからじゃないです、生成に使用されている魔素の気配が違う。」

「では、一体?」

「サルディアスさん、データ収集をお願い出来ますか?」

「…判りましたよ。ロサさん、何か理由があるんですね?」

「はい、もしかしたらハスミが危惧している事に関係あると思ったので。」

 

 

サルディアスにデータ収集を依頼するロサ。

 

これは化学面と非科学面の両面でのデータ収集を行う為である。

 

多元世界でその考えが必要な状況である事は確かだ。

 

様々な側面から調査する事で答えは明白になるだろう。

 

 

「では、あのルーン・ゴーレムの殲滅で構わないか?」

「ええ、一部でも持ち帰れば調査は出来ます。ですよね、ロサさん?」

「はい、残りは木っ端微塵にしちゃってください。」

 

 

お掃除らんらん気分に発言するロサ。

 

本人無自覚の天然オーラが凄まじく醸し出されている。

 

 

「ああ、判ったよ…(この子、本当に苦手。」

「後、金色のルーン・ゴーレムを倒す時は気を付けてください。」

「と、いいますと?」

 

 

ツィーネは天然オーラに押されて引き気味状態で答えた。

 

同時にロサが注意を促し、それに対してサルディアスが返答を求めた。

 

 

「あのルーン・ゴーレムは金鉱石…つまり金の塊なので資金調達が出来ます。」

「成程、それならば…なるべく形を残して倒しませんとね。」

「うむ、ならば…周囲の雑魚は此方で仕留める。」

「なら、細かい作業は此方でやろう。」

「…」

「調査のつもりがまさかのお宝発掘になるなんてね。」

「適材適所。皆さん、頑張りましょうです!」

 

 

戦術はダバラーンで展開しているルーン・ゴーレムに波状攻撃を仕掛けて分散。

 

被弾したルーン・ゴーレムをアンナロッタらが対応。

 

被弾せずに回避したルーン・ゴーレムを対魔力戦術を持つロサが対応する事となった。

 

 

「これはこれで良かったのかもしれませんね。」

「うむ…」

「…」

「あの借金持ちの言葉を借りるつもりはないが…」

「人の事はいえないわね。」

「節約も大事ですよ。」

 

 

現在のイグジスタンスは資材並びに金銭的に余裕がない。

 

サイデリアルだった頃はそれなりに供給に困る事は無かったが…

 

今は御使いから放逐を受け、纏め上げていたサイデリアルの部隊はこちら側の本隊を除いて別世界へバラバラに転移し動けずにいた。

 

その動けない部隊が物資から資材の供給に携わる者達だった。

 

これによりハスミが現在も帳簿とにらめっこしながら手元にある物資やり繰りを行っている。

 

またアルシャト隊が物資供給の為に各地に潜伏し供給可能なプラントを捜索していた。

 

元の世界の天鳥船島に蓄積されている物資を供給する事が出来れば、ここまでの節制は行わない。

 

現在もクロスゲートが使用できない以上は節約に勤しむしかない。

 

世知辛いとは良く言ったモノだ。

 

 

「これは…銀と白金ですかね?」

「色々混じっている様だ。」

「これも全部回収でいいのだろう?」

「はい、見分はこちらでします。」

「これ、まさか宝石?」

「…」

 

 

一行はルーン・ゴーレムの集団を殲滅し残骸から金塊などを選別しバン・アルデバルへと搬入していた。

 

中には銀、白金、宝石の類も含まれていたので暫く金銭面に困らないだろう。

 

 

「クロウさんがこの場にいたら泣いて喜んだでしょうね。」

「…そうなんですか?」

「ええ、そりゃあもうね。」

 

 

ロサはまだ会った事がないのでクロウがどう言う人物か不明であるが、サルディアスの困り顔を見ると金銭面で容赦ない人物であると認識した。

 

 

「お金にがめつくて、貧乏性で、元軍人…どんな人なんだろう?」

「こういう時、天然は便利よね。」

「…そうね。」

「…」

 

 

本人がどの様な言われ方をするのか察したツィーネとアンナロッタ、変わらずロサの?を可愛いと思う尸刻。

 

天然無自覚の発言がクロウにグッサリと刺さる事だろう。

 

 

「私、経過報告してきますね。」

「ええ、残りはこちらで搬入して置きますよ。」

「お願いします。」

 

 

ロサはその場を後にし通信を行った。

 

場所はターミナルベースである。

 

 

「そう、ルーン・ゴーレムが。」

『うん、ハスミが言ってた通りだったよ。』

「判ったわ、戻り次第…詳しく聞くわね?」

『うん。』

 

 

ハスミへ経過報告を行うロサ。

 

調査任務を終えて戻ると告げた。

 

 

 

「魔従教団…エンデの下僕達、来るなら遠慮なく仕留めさせて貰うわ。」

 

 

ハスミは静かに答えた。

 

 

******

 

 

後日、ルーン・ゴーレムから採取した金塊を元手にイグジスタンスは滞っていた物資供給を行った。

 

だが、それも一時しのぎに過ぎない。

 

改めてターミナルベースに続くセントラルベースの候補地の確保。

 

建設を急ぐ事となった。

 

全ては破界と再世の戦乱を鎮める為に。

 

 

=続=

 





とある場所では。


「なんでしょう、急に寒気が…?」


『私は嘘つき』と呼称する人物が南国の地で寒気に身震いした。

彼はまだ知らない。

途轍もない恨みが忍び寄っている事に…


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第百三話 『興味《キョウミ》』


その興味で相手を蹂躙する。

知る筈のない言葉は相手を惑わす。

暴露と言う恐怖の名の元に。


夢は続く。

 

子供達はネバーランドへと導かれる。

 

出来得る事ならそのポケットが虹の光で溢れますように。

 

そう、願わずにはいられない。

 

 

******

 

 

今頃、レントンはドミニク先生との約束を思い出している頃だろう。

 

この世界に居るレントン達は別の並行世界の人物で第303独立愚連隊として活動している。

 

空白事件で知り合ったゲッコーステイトではない。

 

レントンとエウレカは八年前の雪の降る日にドミニクに雪月花ことゆきづきのはなの由来を聞く事になる。

 

百年に一度、星の粉が降る日に虹色の光を放つ花が咲く。

 

その虹色の光の中で願い事をすると願いが叶うとされている。

 

レントンは一週間後に先生を失い、軍の行動でエウレカと離ればなれになった。

 

彼は八年間の孤独の中で自問自答を繰り返し、幼馴染であるエウレカを取り戻す手段を得た。

 

そうして来るべき日は訪れた。

 

 

~人革連・インド中央部~

 

 

この日、ZEXISは第303独立愚連隊が追っている最重要機密の確保の補助をする様にとエルガン代表より依頼を受けた。

 

表向きは対イマージュ戦略の最重要機密とされている。

 

だが、不自然である事は確かだ。

 

元々、対イマージュは国連の平和維持理事会の管轄。

 

正規の手続きを取れば、何ら問題は無いのだが…理由がある。

 

その理由は狂言強盗の依頼だった。

 

エルガン代表はある人物へ最重要機密を非公式に譲渡したいのだ。

 

要は火事場泥棒をZEXISへやらせようとしている。

 

黒の騎士団は正義を貫くと言うスタンスを取りたかったが、代表であるゼロは部下達を抑えて説明し何かの思惑があると思うで締めくくった。

 

話し合いを続ける中で目的の輸送団がイマージュに襲撃されている報告を受け、急ぎ現場へと急行するのだった。

 

 

<数刻後>

 

 

「隊長、何か来ます!」

「っ!?」

 

 

イマージュに襲撃された輸送団を保護しつつ戦闘を続行中の第303独立愚連隊。

 

強襲艦月光号より出撃中のKLFはホランドのターミナス type B303、レントンのニルヴァーシュ。

 

数としては少ない方であるが、ZEXISとの共同作戦である以上は斥候と考えるべきだろう。

 

イマージュの襲撃に応戦中の第303独立愚連隊へZEXISのプトレマイオスが到着。

 

各自出撃しイマージュへの攻撃を仕掛けた。

 

 

「安心しろ、アイツらは味方だ。」

「えっ?」

「あれが国連の対策チーム・ZEXISだ。」

「あれが…ZEXIS。」

 

 

ホランドは救援であるとレントンに告げた。

 

月光号の艦長であるタルホがZEXISと連絡を行い、連携を開始。

 

各機に襲撃中のイマージュへの攻撃を命じた。

 

ソレスタルビーイング、コロニーの有志、黒の騎士団を中心としたメンバーによってイマージュは掃討されつつあった。

 

だが、次元境界線の歪曲現象の反応を感知。

 

次元震が発生し発生と同時に次元獣も出現。

 

その中にはエリア11で遭遇した白い次元獣…MDも含まれていた。

 

出現と同時にMDは輸送団の戦艦を襲撃。

 

更に墜落した戦艦に攻撃を加えようとした為、ホランドとレントンが対応。

 

この時、レントンは輸送団の戦艦から幼馴染のエウレカと再会。

 

避難も兼ねて彼女を乗せたレントンだったが、ニルヴァーシュに変化が起きた。

 

白と灰色だったニルヴァーシュに鮮やかな赤いラインが加わったのだ。

 

そして追撃して来た別の次元獣へ反撃し倒す事に成功。

 

彼は虹の道を歩み始めた瞬間だった。

 

 

「…(うっし、無事にレントンはエウレカと再会…俺は俺の仕事をこなすぜ。」

 

 

クロウはレントン達の再会が無事に終わった事を確認するとMDの元へ移動し依頼を完遂しようと行動を開始した。

 

 

「…(MD、悪いが仕留めさせて貰うぜ。」

 

 

MDの件はエリア11で知り合ったエスターとの約束であるが、MDはいずれ出会うマルグリットの弟の命を奪う行為でもあった。

 

今の状態で次元獣を人と機械に分離する方法は手元にない。

 

それこそ、事情を知る彼らが現れない限りは…

 

 

 

「MD…そろそろ決着を着けさせて貰う。」

 

 

ACPファイズを仕掛けるクロウだったが、予想通り次元境界線の歪曲が発生。

 

二度目の次元震が発生、それは一点に集中し出現した。

 

出現と同時にクロウのブラスタへ急接近する謎の機体。

 

 

「誰だ、てめぇ…(また会ったな、アイム。」

「初めましてと言っておきましょう。」

「次元獣…なのか?(何を言っても嘘ってのはお見通しだがな。」

「ええ、少々特殊なタイプのね。クロウ・ブルースト…貴方の命を貰います。」

「堂々と宣戦布告か…何が目的だ?」

「この世界を救う為です。」

 

 

アイムがお決まりの台詞を答えたと同時に更に次元震が発生。

 

それも同じ様に一点に集まり、出現する機体。

 

かつて在り得なかった新たな来訪者の出現だった。

 

 

「おや、来客ですか?」

「…」

「アイツは…?」

 

 

クロウらはやり取りを一度中断すると出現した機体に通信を送った。

 

 

「お初御目に掛かる、私の名はファウヌス。」

「ファウヌス?」

 

 

通信中のモニターから見えたのは全身白銀の鎧を纏った人物である事とボイスチェンジャーで声色を変えているので性別が不明である事だ。

 

 

「このエリアで戦闘が確認出来たのでね、様子見に来ただけだ。」

「…」

「その甲斐で面白そうなものが釣れたのは好都合だよ。」

 

 

ファウヌスは機体の向きをアイムのアリエティスへと移動させた。

 

 

「ファウヌスといいましたね、貴方は何者なのですか?」

「そうだね、君にはこう告げた方がいいだろう。」

 

 

ファウヌスはアイムにだけ通信を制限すると電子音の声でこう答える。

 

それも電子音からでも判る悪戯めいた口調で…

 

 

「…あのレポートはどうしたかな、ハーマル君?」

「!?」

 

 

その言葉を耳にしたアイムは硬直した。

 

自信あり気な表情は一気に氷点下に堕ちた。

 

そう、在るのは耐え難い恐怖だった…

 

 

「…(何故、その事を…?あの上司はこの手で…!?」

「おや、答えられない…と?」

「貴方は一体…!」

 

 

アイムは揺さぶり出された動揺を隠しつつ話を続けた。

 

余裕だった心情は瞬く間に焦りに変わった。

 

もしもファウヌスが自分の知る人物だったら?

 

全ては薄っぺらな偽りが暴露される。

 

このスフィアで虚偽を覆す事は出来ない限りは…

 

いや、虚偽を引っ繰り返す策があったら?

 

焦りは焦りを呼び、アイムの手は冷や汗でびっしょりになった。

 

その混乱がスフィアの同調を鈍らせているとも知らずに…

 

 

「それは君のご想像にお任せするよ?」

「答えはしないと?」

「そうだね、君が求めた回答が正しいかは君自身に任せるよ?」

 

 

ファウヌスはまるでアイムの過去を知っているかの様な話し方を進めた。

 

それは当事者でなければ、知る由もない情報。

 

アイムはファウヌスの正体が自分の過去を知る人物であると錯覚する事となった。

 

 

「答えは必要ありませんよ、貴方をここで始末すれば良いのですから!」

「…単調だが、判断の速さは認めよう。」

 

 

鎧を纏っているファウヌスの表情は不明の為、彼がどの様な表情なのか理解出来ない。

 

アイム自身は焦っている様に聞こえただろう。

 

だが、彼にとってそれも想定内の行動だった。

 

 

「だが、詰めの甘さは前と変わらない。そう…前とね?」

「!?」

「君は何処までも甘いから、あのレポートのミスにも気づかない。」

 

 

ファウヌスは気配だけでアリエティスの動きを読み取った。

 

アリエティスのブラッティヴァインを避けると装備された杖状の武装から拡散用のミラーを射出し変曲的なビーム攻撃を仕掛ける。

 

それらも本来であれば、アリエティスの偽りのスフィアの力で退けられる筈だったが…

 

ファウヌスのアルゲティオスはそれらを無力化したのだ。

 

 

「どうした?その程度かい?」

「貴方は…何処まで人を煽れば!?」

「何を今更、本当の事だろう?」

 

 

偽りの力を使うアイムの行動を読み取っての行動。

 

それはある意味で逸脱した行為であり規格外である。

 

本来であれば在り得ないのだ。

 

最も彼が偽りを相殺するナニカを持ち得ているのであれば別であるが…

 

現状、それを知れるのはクロウとアイムだけだろう。

 

 

「アイツ、アイムの攻撃を見切ったのか!?」

「クロウ、どうだ?」

「あのファウヌスって奴からスフィアの気配は感じねぇ…マジで素でやってんだろうよ。」

「そんな事が…!」

 

 

クロウはヒイロと刹那からスフィアの気配を感じられないかと聞かれたが答えはNOだと答える。

 

 

「…(奴がスフィアを使ってねぇなら、どうやって動きを読んだ?」

 

 

クロウはスフィアの力で偽り惑わす力を持つアイムの偽りの黒羊の力は身を持って知っている。

 

だが、ファウヌスからスフィアの気配は感じれなかった。

 

ならば、どうやってアイムの動きを読み取ったのか?

 

謎は残るばかりである。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

そうこうしている内にアイムはファウヌスとの一騎打ちに敗れた。

 

現状で自分達が倒せない相手よりも力量の差が違い過ぎると認識されたのだ。

 

ファウヌスは沈黙しているMDに接近し静かに告げた。

 

 

「さて、戦利品としてこのMDは貰っていこう。」

「それをどうするおつもりですか?」

「君なら判るだろう、調べるのさ…徹底的にね?」

 

 

それだけを告げるとファウヌスはMDを次元結界に密閉すると、共に次元転移で撤退して行った。

 

 

「私もここは引かせて貰いましょう。」

 

 

余裕の表情を見せていたアイムは苦虫を噛み潰したような表情で次元獣と共に撤退した。

 

 

「…(後でハスミの奴にファウヌスの件を聞かねえとな。」

 

 

この後、クロウは危惧していた事が杞憂に終わる事になる事を知る由もなかった。

 

戦闘終了後、第303独立愚連隊はZEXISに加入。

 

薄氷の様で薄っぺらな嘘を引き連れて共に行動する事となった。

 

 

=続=

 





想いは交差しそれぞれの正義を示す。

それは悪意を戦う意思。

そして真実と脅威もまた存在する。


次回、幻影のエトランゼ・第百四話『声明《セイメイ》』


名を告げよう。

我らの名は…



=追記=

アンケート引き揚げます。
ご協力ありがとうございました。


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晒の付箋


ほんの少しのやり取り。

それが一つの伏線へと繋がる。




 

前回、ZEXISの前に現れクロウへ揺さぶりを掛けようとするものの…

 

乱入者たるファウヌスによってMDを奪われ敗走を余儀なくされたアイム。

 

彼は任務失敗の件を上司たる破界の王へと告げた。

 

 

******

 

 

次元震を生み出す歪曲の隙間。

 

そこに生み出された異空間で彼らは話し合いを行っていた。

 

 

「随分と派手にやられた様じゃねえか、アイム?」

「お恥ずかしい限りです。」

 

 

破界の王と呼称される人物。

 

かつて、聖インサラウム王国を蹂躙し壊滅へと追い込んだ存在。

 

そして彼らの存在する世界への扉を開こうと今か今かと待ち望んでいた。

 

だが、扉を開く為の準備を行うアイムが失態を犯した。

 

それは責められるべき事だが、破界の王はその失態に追い込んだ相手に興味を示していた。

 

 

「破界の王よ、その話は本当なのですか?」

「ああ、あの次元獣は例の鎧野郎の結界で気配が完全に遮断されちまっている。」

 

 

当人も面倒くさそうな表情で悪態ついていた。

 

使役していた次元獣を奪われた上に気配すら辿れないのだ。

 

明らかに鎧野郎ことファウヌスが一枚上手である事を示している。

 

 

「本来の使役者である王でも気配を辿れないとは…」

「そんだけ鎧野郎は用意周到ってだけだ。」

「…鎧の者は名をファウヌスと名乗っておりました。」

「ファウヌス……アイツ、改名したのか?」

「は?」

 

 

破界の王はファウヌスが改名したと答えた。

 

その言葉にアイムは混乱した。

 

 

「王よ、それはどういう事ですか?」

「テメェ、アイツと戦って何も気づかなかったのか?」

 

 

破界の王はアイムに貸し与えた次元獣達を通してファウヌスとの戦闘を見物していた。

 

機体や使用する得物は違っているものの破界の王はファウヌスの正体を察したのである。

 

それも僅かな動きや癖だけでだ。

 

 

「まさか、ファウヌスの正体が私が出会っている人物だと?」

「そう言うこった。」

 

 

破界の王はニヤニヤと楽しみが増えた様な気分で答えた。

 

 

「あの国で俺達に手傷を負わせた連中と再会するなんてな……!」

「!?」

 

 

アイムは破界の王の言葉で全てを察した。

 

ファウヌスの正体が誰なのかを。

 

 

「一度目だけではなく二度目も屈辱を……次に会った時は容赦しませんよ。」

 

 

アイムは憎しみの声でファウヌスの正体である人物の名を告げた。

 

 

「ハスミ・クジョウ……クロウ・ブルーストと共に貴方の命も私が頂きましょう。」

 

 

この時、アイムは知らなかった…知る筈もなかった。

 

命を狙った相手がどんな存在であるかを?

 

それは属する世界で機械仕掛けの女神の依代たる存在。

 

紛れもなく相手が悪いと言う事を…

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

アイムの襲撃を受けた日から数週間後のADWは既に丑三つ時を迎えていた。

 

アイムの襲撃の日から既にアザディスタン王国でのテロ、タクラマカン砂漠での戦い、ギシン星人による暗躍と言う三つの事件が起こった。

 

一方で回収したMDの次元獣化をスフィアの力で解いたもののパイロットは重症の為に現在も意識不明の状態が続いている。

 

機体も動かせる状態ではないので修復は行うが、乗り手が使うかは目覚めてからになるだろう。

 

ラマリスや次元獣の対応で連戦を続けている彼らも疲弊は蓄積する。

 

無理のないローテーションでターミナルベースの警備が行われる中。

 

鋼龍戦隊やイグジスタンスの実働部隊は強制的に休息を取っていた。

 

常に敵に狙われると言う状態ではないのでほぼ半休に近くなっている。

 

元の世界での最終決戦から連戦が続いていた彼らには丁度良い気休めだろう。

 

寝静まったターミナルベースの居住区の一室にて、ある二人の会話が続いていた。

 

 

「どうやらこちらの正体が判明された様です。」

「そうか…」

「驚かないのですね?」

「破界の王…いや、ヴァイシュラバは見極める事に関しては鋭かった。」

「…」

 

 

褥で語り合うハスミとアウストラリス。

 

当主への癒しも彼女の仕事の一つである。

 

ハスミの知りたがる山羊の力で破界の王達の動向を探っていた所…

 

ファウヌスの正体を相手に悟られた事が判明した。

 

 

「アウストラリス、申し訳ありません。」

「…お前の失態を責めている訳ではない。」

「いえ、私自身も目的の為に少々お遊びが過ぎました。」

 

 

MD回収の為に油断した事へアウストラリスに謝罪するハスミ。

 

 

「お前は相変わらず律儀だな。」

「…」

 

 

目を伏せたままのハスミの顔に触れるアウストラリス。

 

 

「ヴィル?」

「承知しているとは思うが、ガンエデンの力を開放する必要があるやもしれん。」

「はい…人類の敵と言う認識がある以上はガンエデンも力を振るう事は出来ます。」

「済まぬ、だが…ガンエデンと言う名はバアルにとっても脅威だ。」

 

 

その名が世に知らしめる時、奴らはどの様な顔をするだろうな?

 

神話の中で語られるだけの存在が現実に復活しているのだ。

 

 

「名の開示はお前を危険に晒す行為でもある……許してくれ。」

「ヴィル、私は決闘の時に決めた契約の際に約束しました。」

 

 

貴方との決闘の末に敗北し貴方の軍門に下った。

 

この選択に後悔はありません。

 

 

「心配ご無用ですよ。」

「そうか。」

 

 

顔に寄せられた手は背を支えて彼の元へ引き寄せられた。

 

眠れる時は眠る。

 

僅かな疲れが鈍らせてしまうから…

 

 

「もう休むぞ。予定通り…後日、リモネシア共和国への戦闘介入を行う。」

「了解しました。」

「…(ヴァイシュラバ、お前が記憶を取り戻さず悪鬼羅刹であり続けるのなら…俺はお前を討たねばならん。」

 

 

微睡の中で決意を新たに。

 

イグジスタンスとして戦う事を。

 

それが元皇帝として起こしてしまった惨劇への償い。

 

これは束縛から自由を得る為の戦いなのだ。

 

 

=続=

 



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第百四話 『声明《セイメイ》前編』


彼らは認識する。

強大な力を晒しつつも。

戦うべき標的は見定めている。

この声は世界へ向けられる。


ZEXISにリモネシア共和国がWLFの隠れ蓑となっている情報が舞い込んだ。

 

エルガン代表からの依頼でテロの温床となっているリモネシア共和国へ向かう事となった。

 

ZEXISは表部隊と裏部隊が合流後、三大国家によって同盟が組まれた連合軍に追撃されながら…

 

目的の地であるリモネシア共和国へと到着。

 

一方で国連本部では連合軍をリモネシア共和国の領海付近で待機させ、ZEXISとリモネシア共和国の出方を静観する構えを取った。

 

何かが起こるか、若しくは起これば…双方への介入手段となり得るからだ。

 

国連に加盟する各国の大使達が繰り出した漁夫の利。

 

だが、その考えは浅はかで愚かな上に余りにも遅すぎたのだ。

 

理由とすれば、それ以上の脅威が現れる事を…

 

その事実を知るトレーズだけは、ただ思惑を張り巡らせる周囲を静観し口を閉ざした。

 

 

******

 

 

引き続き、ターミナルベースにて。

 

リモネシア共和国への介入の件でイグジスタンスは鋼龍戦隊と話し合いを行う予定だったが…

 

イグジスタンス代表のアウストラリスが既に出撃したという事件が発生していた。

 

それも単独でだ。

 

話し合いをする所の騒ぎではなくなった以上。

 

緊急事態体制が取られ、イグジスタンスと同時に鋼龍戦隊にもいつでも出撃出来る様に準備に取り掛かって貰った。

 

出撃準備が進められる最中、アウストラリス不在の幹部だけで開かれた緊急招集からの会議。

 

クロウはZEXISで任務中、セツコとランドは別行動中の為にこの場に居ない。

 

リアクター七名が集まった円卓の間で語られた真実は…

 

 

「つまり、アウストラリスはかつての戦友を?」

「ええ、破界の王…ガイオウことヴァイシュラバを止める為に。」

「前の時はクロウ達が倒しちまった後だ…割り切ってはいたんだろうよ。」

「ただ、違うのは…」

「今回はソイツが生きているって事かい?」

「その通りです。」

 

 

ハスミからの説明を受けたリアクター達。

 

理由を知ったヒビキ、ガドライト、エルーナから疑問や返答を述べられた。

 

 

「アウストラリスなりのケジメだろうな…」

「ええ、尸空さんの言う通りです。」

「ケジメですか?」

 

 

アウストラリスの真意を察し、それを酌んだ尸空の発言と納得するハスミ。

 

その言葉にヒビキは疑問を告げた。

 

 

「あの人は根が素直ですし、せめて最後は自身の手で…と思っているのでしょう。」

「…」

 

 

共に居た時間は短くともハスミはスフィアの力を使わずにアウストラリスの心情を読み取っていた。

 

止められぬのなら自身の手で決着を着けようとしている事も…

 

 

「で、向かった先はリモネシア共和国で間違いないんだね?」

「はい、同時にZEXISも到着している頃でしょう。」

「それは…鉢合わせって事にならないかい?」

「念の為、リモネシア共和国に潜入調査を行っているクロウさんにも伝えてあります。」

「問題は何処まで誤魔化せるかって事か?」

 

 

バルビエルの質問にアサキムからの警告の後にガドライトから時間の問題であると察して貰っていた。

 

ZEXISにも前世の記憶に目覚めた者達が少なからず存在する。

 

クロウには先んじてヒイロやキリコ、この世界で再会した刹那…黒の騎士団の団長ゼロことルルーシュと連携を取っていた。

 

こちら側の事情は伏せてでの接触は行って貰っている。

 

理由として…

 

刹那=ヴェーダ経由でこちらの情報が筒抜けにならない様にする事。

 

そしてルルーシュに掛けられている皇帝の呪いも否定出来ないからだ。

 

 

「偽造IDである程度は誤魔化せると思いますが、直接となるとどうにも…」

「早い所、迎えに行った方が良くねえか?」

「プラン上、もう少し先にしたかったですが…致し方ありませんね。」

 

 

ハスミは踏ん切りがついた様子で答えた。

 

 

「鋼龍戦隊にも通達し出撃準備は行って貰っています、イグジスタンスも総じて出撃しましょう。」

「ハスミ、殴り込みって事?」

「その通りです、場合によってはガンエデンで奴らを始末する事も視野に入れておりますので。」

 

 

ハスミの冷静を通り越した冷徹な声でのガンエデン発言に反応するガドライトとエルーナ。

 

実際にガンエデンの力を見ているアサキムも同様に答えつつ監視も兼ねて同席させているAGの様子を見る。

 

そのAGに関してはガタブル状態で隅っこで震えていた。

 

 

「…いや、拙くねえか?」

「それ、速攻でケリついちゃうよ?」

「そうだね、空白事件でもジ・エーデルの同一体が手出し出来ずに倒されていたし。」

「もうしません、もうしません、もうしません、あばばばば…」

 

 

その様子に実際にガンエデンの力を見ていないヒビキ、尸空、バルビエルも察した様に答えた。

 

 

「敵に回してはいけないと言う事は理解出来ました。」

「…否定はしない。」

「そうだね。」

 

 

ヘラヘラして他人にストレスを与える様な態度を取るAGの怯え方が尋常ではないからだ。

 

どれだけの恐怖を与えられたのか想像も出来ないが、察する事は出来る。

 

ヒビキ達三人は余計な発言を避ける為に他人事の様に答えるしか出来なかった。

 

 

「では、出撃準備が整い次第…リモネシア共和国への介入を行います。」

 

 

ハスミが話を切り上げると各自離席し出撃準備へと向かった。

 

円卓の間に残ったハスミは静かに答えた。

 

 

「ヴィル、どうか無茶だけは…」

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

リモネシア共和国の本土内。

 

観光業とDEC産出で成り立っている小さな国。

 

この国がWLFの隠れ蓑となっていた。

 

理由として外務大臣シオニー・レジスが他国から自国を守る為に試行錯誤を行ったが…

 

それから来る不安や緊張の重ね重ねのストレスがある意味で限界を迎えて引き起こした結果だった。

 

悪魔の囁きとも言える甘言に乗せられた末路。

 

それが刻々と迫っていた…

 

 

「…(この国を守る為にプロジェクトを成功させなければ。」

 

 

共和国を見渡せる場所でシオニーは一人誓いを立てていた。

 

だが、それは他者の思惑が絡んだ偽りの思想。

 

まるで脆く崩れる砂の城の様に。

 

シオニーの選択が愚者へと変貌する時は刻々と迫っていた。

 

 

~共和国内・市街地~

 

 

「な、な、な、な…!?!?!」

 

 

ZEXISの偵察任務でロックオンと共に市街へ出ていたクロウ。

 

WLFに在籍する元テロ集団のリアルIRAとラ・イデンラの構成員。

 

ヴェーダの照合で構成員データが合致。

 

先の二つの組織は国際テロ組織でありどちらもソレスタルビーイングによって壊滅していた。

 

僅かな生き残りが巡り巡ってWLFに下ったらしい。

 

接触したクロウ達をICPOの関係者と勘違いしたが、クロウ達は文字通りの言葉…

 

 

『ぶっ潰しに来た。』

 

 

続けて…

 

 

『良心があるのなら市街地の外で迎え撃て。』

 

 

更に…

 

 

『民間人を盾にするような真似をすれば、それ以上の地獄を見せる。』

 

 

と、答えた。

 

 

「わ、判った。」

「必ず、伝える…」

 

 

構成員達は身震いしつつ上層部に伝えると答えて逃げて行った。

 

無差別テロを憎むロックオンとその心情を察して入り込み過ぎない様に距離を取るクロウ。

 

クロウは野暮用と言ってロックオンと別行動を取ると話した。

 

「WLFに知り合いでもいるのか?」

「いや、そうじゃねえ……どうもアイツの気配を感じたんでな。」

「アイツ?」

「気のせい…と思いたいが念の為だ。」

「判った、スメラギさんには俺から言って置く。」

「済まねえ。」

 

 

その後、ロックオンに告げて別行動を取っていたクロウだったが…

 

散策中の市街地でとある人物の姿を発見する。

 

それはこの場に居る筈のない存在だった…

 

 

「久しいな、クロウ・ブルースト。」

 

 

クロウは光速で周囲を確認すると速攻で路地裏に彼を引き入れ、小声で会話を開始した。

 

スフィアによる共振では潜伏中のアイムに感づかれる可能性がある為だ。

 

 

(おい!何でここに居るんだ!?)

(理由は察しているだろう。)

(…ガイオウの事か?)

(その通りだ。)

 

 

クロウは手身近なBARに入り、店の隅で話を始めた。

 

 

「で、単独でここに来たって事か?」

「その通りだ。」

「ケイロン・ケシェット…アンタの偽造IDは出来がいいな?」

「ああ、優秀な片腕がいる。」

「成程、察しはついた。」

 

 

クロウは店内にWLFの構成員や民間人に紛れ込んでいるイノベイトの姿がない事を確認してから本題に入った。

 

 

「これからどうするつもりなんだ?」

「破界の王を止める事に変わりはないが、今のお前達に協力する気はない。」

「品定めって事か?」

「その通りだ、あの時の様な力を持つには記憶を持たぬ者達にも試練が必要だ。」

「ルルーシュの奴が聞いたらヒステリーを起こしそうだぜ。」

 

 

ウンザリした表情でクロウは答えた。

 

これまでの行動とヒイロから聞かされたサイデリアルの早期侵攻。

 

その事情を知らない素振りを続けるクロウも…

 

彼らが真実を知った時、確実に貧乏くじの結末を辿るだろう。

 

 

「クロウ、お前に伝えねばならん事がある。」

「伝える事?」

「ゼロにルーンゴーレムを知っているか?と尋ねろ。」

「そいつは一体?」

「ある者が嗾けた岩人形がこの世界にも現れた。」

「…ゼロなら知っている案件って事か?」

「事情はゼロから聴け、おおよその結末は理解するだろう。」

 

 

偽名ケイロンで通しているアウストラリスは更なる脅威がこの世界に転移していると告げた。

 

恐らくはこれからの行動を捻じ曲げる故の結果だろう。

 

 

「どう伝えるかはお前に任せる。」

「判った、悪いが…俺からも頼みがある。」

「何だ?」

「破界の王が現れた後、この国の人間をどうする気だ?」

「その件は既に準備を進めている…安心しろ。」

「悪い様にしねぇなら俺は構わねえ。」

 

 

かつて皇帝として支配した者達への安全保証は確実にやり遂げたアンタだ。

 

今回も任せるぜ。

 

 

「クロウ、お前は引き続きあの者達と共に行動しろ……恐らくは。」

「ああ、判っている。」

 

 

流れは変わりつつも立ち位置はそのままに。

 

新たに現れた可能性に対応する為に。

 

 

「…そろそろここを出た方が良い。」

「ああ、次は戦場でな。」

「どう転がるかは状況次第って事か。」

 

 

クロウは話を切り上げるとBARで彼と別れた。

 

 

「…(そうならない事を祈るしかない、か。」

 

 

クロウは待たせているロックオンと合流しプトレマイオスが待機しているエリアへと戻って行った。

 

 

>>>>>

 

 

翌日、夜明けと共にWLFとの決戦が始まった。

 

都市部の外で部隊を展開するWLF。

 

数からして本隊でありWLFの最大戦力がそこで陣形を組んでいた。

 

後方で待機している特機らしい起動兵器の中でWLFを纏めるリーダーと部下が最後の話し合いを行っていった。

 

 

「宜しかったのですか?」

「何をだ?」

「都市部内で構えていれば、ZEXISでさえ手出しは出来にくくなると思ったのですか?」

「不服か?」

「いえ、そう言う訳では…」

 

 

戦略的に負けに行くような陣形を取ったリーダーに異議を申し立てた部下。

 

リーダーは部下に答えた。

 

「別にメッセンジャーの言葉を恐れた訳ではない。」

「では、一体。」

「我々は遊戯版の駒の様に振り回されていたにすぎん…アクシオンとリモネシア共和国と言うプレイヤーによってな?」

「何故、そうだと?」

「アクシオンとリモネシア共和国が何を考えてスポンサーとなり拠点を譲渡したと思う?」

「紛争が彼らにとって利益と成り得るからでは?」

「いや、それが彼らの表向きの考えだったら?」

「裏があると?」

「今となっては判らん事だ、今出来るのは潔く戦い散る事だけだろう。」

「…」

「戦えぬなら投降も許可するが?」

「いえ、最後までお供させてください。」

 

 

リーダーの考えを察した部下も共に逝く事を願い出てその場に残った。

 

世界に混乱を撒き散らしたWLFと言うハリボテの組織を終わらせる為に。

 

何処で信念を捻じ曲げてしまったのだろう。

 

何処で愚かな暴挙へと転じてしまったのだろう。

 

それも過ぎた事…

 

過去は変えられない、そう…変えられないのだ。

 

 

「隊長、ZEXISが現れました!」

「了解した、各員攻撃準備を!」

「了解。」

 

 

リモネシア共和国の外側の海岸線より現れたZEXIS。

 

主力戦艦としてプトレマイオス、月光号、マクロス・クォーターの三隻。

 

表部隊と裏部隊の混成部隊。

 

ここにZEXISの総戦力が集っていた。

 

 

「各員、都市部への攻撃は極力避けてWLFを叩き潰すぞ。」

「WLFの最後となればいいのだけど…」

 

 

各艦の艦長であるジェフリーとスメラギが口々に答えた。

 

 

「…(ホランド。」

「…(ああ、判ってる。」

「…(こっちは任せて置いて。」

 

 

ただ、月光号のクルーらだけは静観して戦闘準備へと移って行った。

 

各艦より出撃するZEXISのメンバー達。

 

 

「…(兄さんを攫って行ったのは一体?」

「タケル君、戦えるのか?」

「任せてください、兄さんと誓った願いの為にも。」

 

 

ギシン星人との戦いで諍いがあったマーズことタケルだったが信念を新たに戦う事を改めて誓った。

 

それを表部隊の戦術アドバイザーである城田は心配無用だったと捉えた。

 

 

「WLF!お前らとの縁はここまでだ…片を付けさせて貰うぜ!!」

 

 

出撃したブラスタの中でクロウもまた決意を新たに答えた。

 

 

「…(これからテメェら以上の奴とケリを付けねえといけないからな!」

 

 

WLFとZEXISに戦闘が始まった頃。

 

その戦いを監視する者達がいた。

 

 

「…」

「派手に始まったね。」

「ハスミ、アウストラリスは何だって?」

「エルーナさん、現状維持のまま待機せよ…との事です。」

「はいよ。」

「俺らの出番はもう少し先って事か?」

「はい、私は私の仕事を行いますので皆さんは傍観しつつお待ちください。」

「…見張りはして置く。」

「では、尸空さん…後はお願いします。」

 

 

彼らもまたZEXISの戦闘が終わるまで静観し続けた。

 

そして、時は訪れた。

 

DECを使用した次元歪曲による大時空振動が始まったのである。

 

それは大規模なエネルギーを生み出し、この世界に顕現したのだ。

 

破界の王と呼ばれる存在が…

 

=続=






在るべきはずのない集結。

それは圧倒的な力と真実と共に。


次回、幻影のエトランゼ・第百四話『声明《セイメイ》後編』


世界を満たす虚偽を覆れ。

真実は目処前にあるのだ。


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第百四話 『声明《セイメイ》後編』


本来であればもう少し先の未来。

それが早期に現れた。

彼らは告げる。

本当の敵は誰なのかを?


前回のWLF壊滅直後。

 

突如現れた巨大要塞ことグレート・アクシオンとアイムのアリエティス。

 

彼らが引き起こした次元歪曲…次元震によって破界の王が待つインサラウムへの扉が開かれた。

 

リモネシア共和国そのものを呑み込む次元震に対してZEXISは機体を回収後に一時撤退。

 

若干の損傷を抱えたまま…

 

再度リモネシア共和国へ足を踏み入れる事となった。

 

だが、次元震が引き起こされる中で…

 

彼女は残されたリモネシア共和国の人々と生き残ったWLFの者達を転移させていた。

 

 

「…(アイム、貴方の考えは良く分かった。」

 

 

それは冷静を通り越した静かな怒り。

 

 

「…(だが、浅はかな思惑は私には通じない。」

 

 

ガンエデンの力を駆使し安全な場所へ人々を強制転移させた。

 

 

「…(さて、貴方やあの脳筋馬鹿を蹂躙するお祭りはこれからだ。」

 

 

ハスミの眼は笑っていない。

 

あるのは父親譲りの残酷さを示した眼差しであった。

 

 

******

 

 

プロジェクト・ウズメによって抉れたリモネシア共和国の領土。

 

先程まで存在した美しい姿の島国はもう存在しない。

 

あるのは滅びに満ちた廃墟だけである。

 

 

「ああ…」

「シオニーちゃん…ど、どうしたの!?」

「私の…私のリモネシアが…」

 

 

プロジェクト終了後、グレート・アクシオンのブリッジから崩壊した共和国の惨状を目の辺りにしたシオニー。

 

余りの動揺で震える彼女に声を掛けるのは同伴していたスットコドッコイことカルロス。

 

 

「落ち着いてください、シオニー。」

「ア、アイム…これはどういう事なの!?」

 

 

アイムは説明する。

 

リモネシア共和国の惨状はDECを使用した次元震の反動によるものだと…

 

そして『若しくは、あの方の力でしょうか?』と答えた。

 

 

「あの方?」

「シオニー、貴方が求めていた世界を変える力ですよ?」

 

 

自身の言葉に疑問視するカルロスを余所にアイムは告げた。

 

 

「さあ…共に喜びましょう。」

 

 

意味深な言葉で『破界の王の降臨を…』と。

 

 

~リモネシア共和国内の次元震発生から数刻後~

 

 

一時撤退していたZEXIS。

 

崩壊し何も残らない荒地と化したリモネシア共和国と戻っていた。

 

その光景に誰もが驚くZEXISのメンバー。

 

 

「なんじゃ、こりゃ!?」

「さっきの綺麗な街が大穴だけになっちまった!」

「それがこんな…」

 

 

ダイガードのパイロットの赤木、トライダーG7のパイロットのワッ太、紅蓮のパイロットのカレンが口々に答えた。

 

 

「さっきの時空振動でどっかの土地と入れ替わったのか?」

「いや、違う。こいつは何らかのエネルギーで抉られた跡だ。」

 

 

甲児の疑問に答える隼人に更なる回答を加えるゼロ。

 

 

「…恐らくはDECだろう。」

「えっ!?」

「元々リモネシア共和国は国連でも少数のDECと呼ばれる希少物質の産出国だ。」

「まさか…それが原因だってのか!?」

「可能性とすれば、それしか思い当たらない。」

「確かにDECが原因なら、この現状にも納得がいく。」

 

 

ゼロの回答に同意するティエリア。

 

 

「じゃあ、リモネシアの人達は…!?」

「…」

「巻き込まれたって事かよ!?」

 

 

この惨状でリモネシアの人々が犠牲になったと察したゲッターチームの面々。

 

逆に取り乱さず冷静な判断で答えるクロウ。

 

 

「…あの巨大戦艦とアイムの野郎は何処へ行った?」

 

 

その内に秘めた怒りを抑えつつ原因を引き起こした相手を捜索していた。

 

 

「まって、あそこに人がいる!?」

「生き残りか!?」

 

 

大穴の中心に生体反応を見つけるカレンとミシェル。

 

ジェフリーは反応があった場所の映像を送らせた。

 

 

「彼が爆心地の動体反応か…」

 

 

生き残り…

 

この場の誰もがそう思っただろう。

 

だが、記憶を持つ者達はそれが間違いであると認識していた。

 

あれだけの規模の大時空振動が引き起こされた。

 

運が良くても次元震で無傷のまま無事である事はない。

 

 

「獲物か…」

 

 

その存在は口元を歪ませた。

 

あろうことか生身でマクロスクォーターへ攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

「な、何なの!?」

「右舷に被弾!第一次装甲に被弾!!」

「被弾って…どこからの攻撃なの!?」

 

 

突然の攻撃に驚くクォーターのブリッジクルー達。

 

順に操舵担当のボビー、オペレーターのミーナとキャシーだ。

 

 

「あの男だ…!あの男が素手でクォーターにダメージを!」

 

 

攻撃を仕掛けた相手に気が付くジェフリー。

 

その言葉に更なる動揺が広がった。

 

誰もが在り得るのかと?

 

 

「何処の東方先生とかシャッフル同盟とかロムさんだよ!?」

「この世界にも似た者野郎がいやがったのか!?」

「この場合、九大天王や十傑集の方が妥当だろう。」

「言えてるな、それ。」

「うぉい!真面目に観察するなよ!?」

「いや、そっちの方が余計にヤバいだろ!」

「み、皆…落ち着いて。」

 

 

だが、元居た世界でMSやら戦艦に生身で攻撃を仕掛けられる存在を認識している彼ら…

 

Zチーム、ゲッターチーム、ヒイロ達には悪い意味での茶番で片付けられてしまう。

 

慣れと言うのは時に厄介な錯覚を生み出してしまうのである。

 

 

「最大エネルギー量の奴を…って、何言ってやがるコイツら?」

 

 

マクロスクォーターに取り付き攻撃を仕掛けた存在だったが…

 

一部の暴走に対して呆気に取られていた。

 

その暴走すら余裕の態度に見れたのか悪い気はしないと存在は思った。

 

 

「ま、喰いでがあるのは違いねえか。」

 

 

グレンラガンのサブパイロットのシモンがメインのカミナへ答える。

 

本来挙動不審だったシモンがある日肝の座った表情を取る様になった。

 

カミナは男として一歩成長したと認識するが、それは違う意味を示していた。

 

 

「それよりアニキ…あいつ!」

「ああ、気を付けろ…アイツ只モンじゃねぇ!!」

「判ってる!」

 

 

同じ様に気を取り直した謎の存在。

 

 

「さてと…!」

 

クォーター周辺に展開していた他の戦艦から機体に攻撃を加えた後に元の出現位置へと戻った。

 

 

「何だ…アイツは…?」

「人間じゃ…ない?」

 

 

突発的かつ在り得ない攻撃に他のZEXISのメンバーは恐怖した。

 

鬼、悪魔、正真正銘の死神か?と答える者も居た。

 

そう答えるしか出来ない相手が目処前にいるのは確かである。

 

 

「美味そうな獲物が揃ってやがる。」

 

 

存在の視線が語るのは品定めの視線。

 

 

「悪くない世界の様だな?」

 

 

その声はZEXISのメンバーにも伝わっていた。

 

機器を通していないにも関わらず、その声は通信を通していた。

 

この状況にダイガードのサブパイロットのいぶきは訳が分からず混乱する。

 

 

「嘘でしょ…一体どうやって?」

 

 

会話の中で獲物と言う言葉に反応するダンクーガノヴァのメインパイロットの飛鳥。

 

 

「獲物って、あたし達の事!?」

「だろうよ、あの野郎…さっきから殺気を隠そうとしやがらねえ!」

 

 

存在が放つ『殺気=臨戦態勢』であると悟る竜馬。

 

 

「撃て!やらねば此方がやられる!!(ここで奴を止めなければ!」

 

 

ゼロは先の存在を人の形をした異形の存在であると認識し攻撃の合図を送った。

 

その状況に黒の騎士団の団員である扇と玉城が戸惑いの声を上げた。

 

 

「相手は人間だぞ!?」

「そ、そうだぜ!」

「人間にあの様な事が出来るか!?」

 

 

ゼロの言葉は最もだが、それが出来てしまう人物らが並行世界に存在する事を知らない。

 

城田は人の姿をした存在への発砲に戸惑うが、ジェフリーはゼロの言葉を信じて発砲許可を告げた。

 

 

「だが…」

「全責任は私が請け負う!!発砲を許可する…やるんだ!!」

 

 

発砲許可と同時に攻撃を開始するZEXISのメンバー。

 

ありったけの攻撃を存在へ撃ち込むものの…

 

土煙を上げて地表に無数の爆撃痕を残すだけだった。

 

つまり…

 

あの存在はあの攻撃の最中でも無傷で立っていた。

 

本来の姿である次元獣の姿で再度現れた。

 

 

「な、何だあのデカブツは!?」

「次元獣…なのか?」

 

 

その姿に驚くデュナメスのロックオンとゴッドマーズのタケル。

 

 

「やるじゃねえか!思い切りの良さは合格だ。」

 

 

更に先程の集中砲火の中で生きていた事に驚くホランドとレントン。

 

 

「アイツ…!生きていやがったのか!?」

「いつの間にあの怪物に乗り移ったんだ…!」

 

 

この時点で次元獣に乗り移ったと認識されていた。

 

知る者は変身したと言った方が正しいだろう。

 

 

「俺の隙間を埋めて貰うぜ…お前らの全力でな!!」

 

 

相手は戦う意思を見せている。

 

相手の戦力が不明のまま戦う事を極力避けたいティエリア発言を余所に…

 

逃がすつもりはないと悟ったキリコ。

 

ゼロも『やるか、やられるか。』と二つに一つの選択を強いた。

 

周囲の空気からやらなければやられると悟ったZEXISのメンバー。

 

 

「全機、攻撃を開始!アンノウンを排除するわよ!」

「持てる最大火力を叩き込め!一時も油断するな!!」

 

 

意を決してスメラギとジェフリーも攻撃開始の合図を送った。

 

 

「全力で来いよ!お前達の魂ごと喰らってやる!!」

「…(くそっ、この状況でも黙って見ているつもりかよ…アウストラリス!!」

 

 

合図を認識した存在と最悪の状況になりつつある展開に内心悪態を付くクロウ。

 

ZEXISは先の戦いから疲弊した状況下で連戦を強いられる事となった。

 

その後、暫く戦闘が続き…混乱が続いた後。

 

存在は飽きた様な口調で答えた。

 

 

「それじゃあ、足りんな?」

 

 

今出し切れる最大火力をつぎ込んだZEXIS。

 

だが、存在にはビクともしなかった。

 

唯一、ダメージを与え続けたクロウのブラスタも弾数からEN不足で戦闘不能状態に陥ろうとしていた。

 

 

「…(くそっ!スフィアで次元力を使えば…いや、奴に余計な情報を与えちまう!」

 

 

正真正銘の化け物と言える存在。

 

圧倒的な力の前に首を垂れるしかないのか?

 

誰もがそう思った時…兆しは現れた。

 

 

「艦長!もう一つの動体反応が!?」

「何だと!?」

 

 

もう一つの生体反応を発見したクォーターのクルー。

 

先の存在と同じ様に生身で戦場に現れたのだ。

 

この状況下でそれは自殺行為である。

 

 

「おい!?」

「アイツは!?」

「っ!」

「まさか!?」

「…(何故、ここに!?」

 

 

前の世界で姿を見知っている甲児らは声を荒げた。

 

目元を隠す為にサングラスをしている様だが間違いなかった。

 

本来であれば、居る筈のない存在が…

 

 

「相変わらず無様だな。」

「て、テメェは!?」

「久しいな、あの国での戦い以来か?」

 

 

かつて蹂躙しつつあった国。

 

その国だけを滅ぼしそこなった事がある。

 

理由は邪魔をした存在が目処前に現れたからだ。

 

 

「まあいい、アイツらは収穫時期じゃねえし……今はテメェの相手をしてやる!」

「…」

 

 

サングラスの人物…アウストラリスは生身の状態で存在の顔面にドロップキックを炸裂。

 

息まいていた存在は玉座型の次元獣から見事にバランスを崩して落下した。

 

その様子に声も出ないZEXISのメンバー。

 

同時に現れたグレートアクシオンとアリエティス。

 

 

「ちょ、どうなってるの!?」

「破界の王が…」

「お、王よ!?」

 

 

同じく目処前の状況に驚愕するカルロスとシオニーに焦るアイム。

 

 

「一体何が!?」

「アイム!例の奴も現れやがった!!」

「な!?」

 

 

ドロップキックを終えて地面に着地したアウストラリスの姿を発見したアイム。

 

 

「あの者は…!」

「貴様もこの地に辿り着いていたか…大ほら吹き者?」

「ひっ!」

「…(アイムの奴、もの凄ぇビビッてやがる。」

 

 

クロウも今惹き起こされた現状にウンザリした表情で思った。

 

規格外の化け物を蹴り飛ばした化け物を目処前にすれば当然の結果だろう。

 

そのアイムも元の上っ面の表情に戻すとアウストラリスへ質問をした。

 

 

「…お連れ様はご一緒ではないのですか?」

「俺が呼べは来る……今は必要ない。」

「成程、では…貴方は一人でここへ訪れたのですか?」

「理由はいるか?」

「いえ、ただ…命知らずだと思いましてね。」

 

 

アイムは破界の王の力と次元獣の力を結集すれば勝てると見越していた。

 

それも浅はかな考えてだとも知らずに…

 

 

「貴方一人だけならこちらにも勝機があるとね…?」

 

 

それを告げるとアリエティスを移動させ無防備になっているアウストラリスへ攻撃を仕掛けるアイム。

 

ある意味で地雷は踏み抜いた瞬間でもあった。

 

 

「ハスミ、あの策士の相手は頼むぞ?」

「は?」

「…」

 

 

アウストラリスへ接近し攻撃を仕掛けるアイム。

 

アウストラリスの合図と共にそれは遮られた。

 

アイムの…目処前のモニターへ映ったのは華奢な人影。

 

それも身の丈以上の巨剣を携えた存在。

 

先と同じくアリエティスも巨剣の一撃を喰らって地面に叩き付けられた。

 

 

「な、何が?」

 

 

叩き付けられ仰向けになったアリエティスのコックピットハッチの上に立つ人影。

 

 

「貴方は…ハスミ・クジョウ!?」

「お久しぶりですね、嘘つきさん?」

 

 

剣の鍔を肩に掛けてニッコリと笑みを浮かべるハスミ。

 

勿論、その笑みは笑っていないが…

 

 

「相変わらず、嘘を振りまいてて楽しいですか?」

「…」

 

 

アイムは今の状況に開いた口が塞がらない。

 

思考の混乱が続いているからである。

 

理由とすれば生身で機体に攻撃を仕掛けて沈黙させたからだ。

 

この状況はアイムだけではない。

 

双方共に戦場へ乱入した存在達を凝視していた。

 

それは一部を除いてだが…

 

 

「は、ハスミ!?」

「あら、甲児…久しぶりね。」

「何でお前がここに!?」

 

 

向こう側の世界出身者代表で甲児がハスミに呼び掛けた。

 

 

「事情があるのよ、それよりも竜馬達…ちょっと老けたんじゃない?」

「うるせぇ!こっちにも事情ってもんがあるんだよ!!」

「老けたか?」

「まあ、四~五年?ここに居りゃ老けるかもな?」

 

 

ゲッターチームの老け顔に対してツッコミを入れるハスミにツッコミで返す竜馬。

 

同時に何が言いたそうなヒイロらにツッコミを入れるハスミ。

 

 

「ヒイロ…念の為に言って置くけど、こっちも巻き込まれてあのゲートは使えないから。」

「!?」

「マジか!」

「ハスミ、君は…」

「…サイデリアルに囚われていた筈だ。」

「貴方達が行方不明になった後にややこしい事が起こった事だけは伝えて置くわ。」

 

 

サイデリアルに囚われたままの認識状態のヒイロ達。

 

それもややこしい事態が起こったで返したハスミ。

 

 

「詳しい事情を話す前に…この大嘘吐きと上にいる脳筋の阿保を止めないとね。」

 

 

ハスミはかつての仲間達に優しい笑みで静かに答えた。

 

足元のアイムを大嘘吐き、玉座型の次元獣に戻った破界の王を脳筋の阿保と…

 

それは怖いもの知らずと言える発言だろう。

 

周囲は余りにも酷い失言であると認識するが…

 

甲児達だけは違った。

 

 

「何処までも私達を…ひっ!?」

 

 

アイムは自身に向けられた視線に恐怖した。

 

先程とは異なる異常までの殺気。

 

それがあの華奢な女性から放たれていた。

 

 

「黙れ、お前の薄っぺらな虚偽は聞き飽きた。」

 

 

理解出来るのは目処前の存在が破界の王や王を蹴り飛ばした相手と同じ化け物だと言う事。

 

 

「その声、あん時の鎧野郎か?」

「間違い…ではないですね?」

「そこのアイツと同じで随分と喰い応えがあるじゃねえか!」

 

 

次元獣…いや次元将化していてもニヤニヤと笑っている破界の王。

 

 

「アウストラリス、どうなさいますか?」

「構わん、奴に見せてやれ。」

「では、お構いなく。」

 

 

ハスミはアウストラリスに了承を得ると静かに念動の圧を強めた。

 

 

「…がっ!?」

 

 

余りの念動の圧に超能力者のタケルが過呼吸を引き起こした。

 

 

「おい!タケルどうしたんだ!?」

「いかん!?誰か!ゴッドマーズを近場の戦艦へ!」

「ど、どうなってやがんだ!?」

 

 

クラッシャー隊のクルーがタケルの状況に混乱し城田が救援を要請。

 

タケルの変わりように動揺する赤木。

 

 

「いけない、圧が強すぎた。」

 

 

ハスミは気配を強くし過ぎたと感じて範囲を狭めた。

 

同時に過呼吸状態から解放されたタケル。

 

 

「ううっ…」

「タケル君、一体何が?」

「城田さん…彼女…は念動…力…者です。」

「!?」

 

 

自身と同様に超能力を秘めた存在であると城田に説明するタケル。

 

 

「そちらにも能力者が居た様で…すみません。」

「…」

 

 

ハスミは彼に謝罪を告げた。

 

 

「あーあーあれだけの殺気出して置いて…勿体ねぇ。」

「別にそちらを楽しませる為に出した訳ではありませんけど?」

「なら?」

「…お分かり頂けませんか?」

 

 

楽しむ為じゃなく確実に仕留める為であると?

 

 

「面白れぇじゃねえか!!」

 

 

破界の王は楽しみたいが…ある気配を察して撤退を促した。

 

 

「アイム、撤退するぞ。」

「破界の王よ、しかし…」

「美味いもんは最後に取って置くもんだぜ?」

 

 

アリエティスは機体を立て直し、破界の王の元へ移動。

 

体制を立て直す為に破界の王の一行は撤退。

 

撤退と同時に次元震で現れたアウストラリスの率いる部隊と鋼龍戦隊。

 

 

「アウストラリス、来ますよ?」

「ラマリスか?」

「はい、恐らくこの地で亡くなったWLFの負念に引きずられたのでしょう。」

 

 

ハスミの警告と同時に出現するラマリスの集団。

 

出現と同時に周囲の負念の澱みが一層酷くなった。

 

 

「ならば、叩くまでの事!!」

 

 

アウストラリスは部隊に目配せし指揮を促すと攻撃を開始した。

 

それは圧倒的な力による殲滅。

 

この世界で誰もが成し得なかったラマリス討伐を行える戦力。

 

その正体が目処前に現れたのだ。

 

ラマリス制圧後に現れた連合軍の艦隊。

 

アウストラリスは連合軍側の申し出に対して告げた。

 

 

「我らはサイデリアルと言う傀儡たる名は捨てた!」

 

 

アウストラリスは新たな名称と共に答えた。

 

 

「我らの名はイグジスタンス!我らは侵略と言う介入は行わん!」

 

 

それは侵略者ではない。

 

 

「だが、向かってくる者が存在するのなら誰であろうと相手をしよう!」

 

 

対話を求めず武力行使を行うのなら徹底的に抗う。

 

 

「我らは他者の侵略と他者の支配に屈しない!許さない!」

 

 

支配と侵略を許さず、屈しない意思。

 

 

「我らが倒すべき存在…貴様達が過小評価している人類の敵!」

 

 

標的は人類の敵たる存在のみ。

 

 

「心せよ…愚かな思惑は我らには届かん!仕掛けたのならそれ相応の破滅が待ち受けているだろう!!」

 

 

力強いアウストラリスの声明。

 

それは中継役を担った連合軍を通して全世界に向けられた。

 

ZEXISと同じく世界に変革を齎す存在。

 

思惑の絡んだ虚偽は打ち払われる。

 

 

~リモネシア共和国の崩壊から後日~

 

 

リモネシア共和国はアイムが仕掛けた『プロジェクト・ウズメ』によって国は失ったが住民は生きている。

 

潜伏していたWLFの本隊も壊滅状態に陥り、彼らも世界の歪みに利用され続けた以上は二度とテロを行う事は出来ないだろう。

 

イグジスタンスは無防備となった彼らと会談しリモネシア共和国跡地にセントラルベースを建設する事を決定。

 

この国を新たな拠点としバアル対抗の足掛かりにする事となった。

 

リモネシア共和国の住民らはイグジスタンスの庇護下で安全保障は約束され、生き残ったWLF残党は国を防衛する傭兵として雇い入れる形を取った。

 

この国に現存するDECが全て消失し産出され無くなった以上は利用される事はない。

 

新たな利用価値としてイグジスタンスの規格外な戦力とラマリス退治に特化した鋼龍戦隊が標的となるだろう。

 

それらを手に入れる為に各国が黒い思惑を巡らせるのも時間の問題。

 

だが、忘れてはならない。

 

破界の王を退けた彼らがそれ以上の異常すぎる存在である事を…

 

そう、手懐ける事など不可能であると自覚するのはもう少し先の話である。

 

 

=続=






滅びた大地に新たな拠点。

それは世界への侵略ではない。


次回、幻影のエトランゼ・第百五話『建国《ケンコク》』


興した国は美しき国を守る為の行為。

そして黒い思惑の標的となる為に…


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第百五話 『建国《ケンコク》』


これは守る為の力。

これは足掛かりの為の場。

扉は開かれた。

半開きのまま。

彼らと対話する為に。


 

リモネシア共和国で起こった大時空震動から数時間後。

 

次元の王にして世界を破壊する者の現出。

 

その者の名は破界の王と名乗った。

 

次元獣を使役する破界の王はリモネシア共和国跡地を去り…

 

その後、世界中のネットワークをジャックし放送を開始。

 

映像に映ったのはリモネシア共和国の外務大臣だったシオニー・レジス。

 

筆頭執政官と名乗った彼女の宣言によって新帝国インぺリウムの名が公表された。

 

インぺリウムは領土を持たない国家。

 

移動要塞グレートアクシオンとそこに属する者達が全てと宣言。

 

彼女は答える。

 

一国家の主権として何者にも冒されない自由を要求し宣言すると…

 

今後、彼らの進路並びに行動を邪魔する者はその自由を侵害する者として武力を以って排除すると答えた。

 

グレートアクシオンはポイント1271を南西に向けて航行中と説明。

 

進路上にあったハルネス連邦がその見せしめとして滅ぼされた。

 

新帝国インぺリウムは次元獣を戦力として有している。

 

これにより二時間後…

 

連邦は停戦を求めたが、要求は受け入れられずに敗北し滅亡した。

 

これからは先のハルネス連邦の様に国や国家を失い…

 

その生き残りの多くが難民か傭兵…最悪の場合はテロリストと化すだろう。

 

そうなれば、国連など何の意味もなさない。

 

国家も法も秩序も全てインぺリウムの前に討ち滅ぼされるだろう。

 

例えるなら海に落ちた隕石が巨大な高波を広げる様に。

 

多元地球の誕生から二十年間。

 

今日まで薄氷の上に築かれた沈黙の平和が今…打ち破られようとしていた。

 

 

******

 

 

ハルネス連邦の壊滅報告から数日後…

 

時を同じくして新たな兆しもまた現れた。

 

それは破界の王の出現と共に…

 

イグジスタンスと名乗る集団が時空震動で出現。

 

彼らは侵略の一切を行わないと宣言。

 

次元震で国が崩壊したリモネシア共和国跡地に国を再建。

 

跡地には再びリモネシア共和国の民間人達が生活を開始。

 

驚く事は代表である大統領も含め住人達は全員無事に生還した事だった。

 

イグジスタンスによって救出され難を逃れた。

 

これまでの事実がリモネシア共和国の大統領の緊急国放によって発表された。

 

またDECがアイムと名乗る人物がアクシオン財団との結託によって全て消失。

 

あの大時空震動の影響で文字通り産出されなくなった件も説明された。

 

国連での有力な発言権を失ったリモネシア共和国だったが…

 

新たな策としてイグジスタンスとの同盟契約を結んだ事を発表。

 

これにより、リモネシア共和国は現在も出現しているラマリス対策の特権を会得。

 

僅か一日にしてリモネシア共和国は国家として返り咲いたと言うべきだろう。

 

正に破壊からの再生とも言える状況だった。

 

最後に国連は各国ごとに自国防衛の為に同盟が瓦解した。

 

この事から国連らしい機能はしないだろう。

 

なので一国家としてやりたい事はやらせて貰おうと思っている。

 

 

~リモネシア共和国・政務室~

 

 

「リモード大統領、ご苦労だった。」

「いえ、私を含め国民を救ってくださった貴方達に比べれば些細な事です。」

「では、大統領…これからの本題に入りましょう。」

 

 

イグジスタンスや鋼龍戦隊の協力で共和国の再建が進む中…

 

リゾート地ではなく防衛の為の拠点であるセントラルベースへの改築が進んでいた。

 

全てが終わった後は元のリゾート地として戻す事も視野に入れているので複雑な造りになっている。

 

最も先の『プロジェクト・ウズメ』こと『カラミティ・バース』の発生によってリモネシアの地中から古代遺跡が発見された。

 

後の観光名所として利用する手立ても構築中である。

 

但し、公式的な調査が終わってからであるが…

 

 

「私が至らぬばかりに彼女に酷な選択を強いてしまいました。」

 

 

リモネシア共和国大統領のリモード・モブックス氏は答える。

 

外務大臣だったシオニーに外部の諍いの多くを委ねてしまった事。

 

結果、美しい国を守りたいと言う純粋な思いをアイムに利用された。

 

スフィアを通してこの場に同席していたハスミも理解していた。

 

彼女も巡り巡って世界の歪みによる被害者であると…

 

 

「ハルネス連邦の難民もこちらで引き受けたいのですが…」

「では、リゾートエリア外にギガフロートの建設を含めましょう。」

「主に海運…海洋牧場と海中農場への労力を増やす事になるが構わないか?」

「はい、産業問題や食糧問題に更にはエネルギー問題の解決になるのなら…ただ。」

「防衛の件ならお気になさらず…三度の食事より戦闘好きな方達が暇を持て余していますので。」

「は、はぁ…」

 

 

リモード大統領の申し出にアウストラリスや元サイデリアルの執政官や文官達にハスミが国政に対応。

 

国防に関してはエルーナと元サイデリアルの軍部やマイルズ司令官にギント艦長らが対応。

 

同じ様にリクセント公国と言う小国を治めているシャイン王女の経験もあるので国としては前より成り立っている方である。

 

 

「問題は国連の連合軍が国家ごとに部隊を解散し引きこもっている事だ。」

「破界の王の現出によって何処の国も自国防衛の為に苛立っているのでしょう。」

「陛下。いえ、代表…どうなされるのですか?」

「破界の王を止めるのはZEXISだ。我々が直接手を下す事は出来ん…ある理由がない限りな?」

「理由?」

「バアルの介入があれば即座に動くと言う意味ですよ。」

「ファウヌス様がそうおっしゃるのなら…」

 

 

国連直属の連合軍の解散。

 

これはある意味で世界が一つになった証でもあった。

 

だが、破界の王の出現によってそれは瓦解。

 

文字通り、戦乱の世に戻ったのである。

 

再び戦乱によって各国で混乱は続くだろう。

 

同時に睨みを聞かせていたテロ組織も決起しより一層の混乱が蔓延する。

 

 

「警備担当、国内のイノベイトの様子はどうですか?」

「以前、動きを見せていません…民間イノベイトへのマークと政庁に勤務するイノベイトも全て総入れ替えを行いましたので。」

「これで奴らの監視は一先ず落ち着くか…」

「おっしゃられた通り、国外と国内を繋ぐネットワークにもフィルターを設置し監視を続けています。」

「そのまま継続で監視を続けてください。」

「了解しました。」

 

 

ハスミは公安担当と警備担当に外部への情報流出が行われない様に徹底した。

 

外部からの物資や映像の類に郵便物を含めて全てである。

 

元リゾート地と言う事もあり修復を兼ねて監視用の機材を隠蔽して潜ませてある。

 

見た目は只の飾りだが、異世界の技術で偽装しているので見分けは付かないだろう。

 

 

「ハスミ、ZEXISへの説明は?」

「次元獣は破界の王が出現させている事と止めなければ世界は終わるとだけ説明して置きました。」

「そして国を去ったか…」

「元仲間に説明と彼らからZEXISへの説得でスムーズとは行きませんが早々にご退場はして貰いました。」

「インぺリウムも滅ぼした筈のリモネシア共和国が健在でハルネス連邦の人々も無事だったと知れば大目玉でしょう。」

 

 

ハスミは事前にスフィアで狙われる国を検索し先んじて救助を行っていた。

 

その為、ハリボテの様な国と戦う羽目になったインぺリウム。

 

世界にはハルネス連邦が滅んだと報道されているだろう。

 

結果として連邦が滅んだ事に落胆するリモード大統領だが、ハスミはある言葉を告げた。

 

 

「ですが、国が…」

「大統領、国民が居るからこそ国であり国に国民が居なければ…それは只の飾りです。」

「…」

「国は国民が居れば何度でも再建出来ます。ですが、失った命はどんな事をしても戻らないのですよ?」

「そうでしたな、弱気な失言をしてしまい申し訳ない。」

「いえ、その命があれば…やり直しは何度でも出来ますから。」

 

 

同時にハスミはある事に気づく。

 

 

「!?」

「ハスミ、どうした?」

「先程、インぺリウム側で破界の王の名が決まりました。」

「名は?」

「破界の王ガイオウ、座する玉座型次元獣はゲールティランとの事です。」

「…そうか。」

「彼らの目的は闘争…進行先の障害全てを根絶やしにすると宣言しました。」

「…」

「ZEXISの動きですが…」

 

 

ハスミはスフィアを通してマクロスクォーターで開かれているグリーフィングの様子を伺う。

 

WLF打倒が成された事で黒の騎士団が離脱宣言。

 

本来の目的であるブリタニア・ユニオンによるエリア11の開放の為に潜伏するとゼロは答える。

 

ソレスタルビーイングも本来の目的である紛争根絶への活動に戻ると答えた。

 

今は敵勢力から身を隠す為に宇宙に上がるとスメラギはジェフリーに伝えたが…

 

マクロスクォーターも船団からの指示を仰ぐ為に共に宇宙へ上がると答えた。

 

この事からZEXISは三つのグループに分かれる事となった。

 

 

~マクロスクォーター・グリーフィングルーム~

 

 

代表でゼロが話を一通りに纏めて説明を行った。

 

 

「では、こうなるな…」

 

 

一つは、引き続き地上で国連の平和維持理事会に協力するグループ。

 

Zチーム、ゲッターチーム、クラッシャー隊、21世紀警備保障、竹尾ゼネラルカンパニー、保護下にグレン団、月光号のクルーである。

 

二つは、宇宙に上がるグループ。

 

S.M.S、ソレスタルビーイング、チームD。

 

三つは、エリア11へ戻るグループ。

 

黒の騎士団、キリコ、コロニーのガンダムチーム。

 

 

「クロウ、貴方はどうするの?」

「俺は…」

「貴方は元々フリーランスだし強制はしないわ。出来ればこっちに残ってくれると助かるのだけど…」

 

 

部隊が分散する中、スメラギから行き先の選択を尋ねられるクロウ。

 

戦力が乏しい事もありスメラギからの誘いも含まれていた。

 

所が…

 

 

「艦長、リモネシア共和国からメールの入電です!」

「共和国からだと?」

「はい、内容を読み上げます。」

 

 

クォーター宛に届いた電子メール。

 

差出人はリモネシア共和国の大統領からである。

 

しかも、ZEXISから代表となるメッセンジャーを一名寄越して欲しいと言う内容だった。

 

 

「スメラギさん、これで四つ目だな。」

「…その様ね。」

「そのリモネシア共和国の申し出は俺が行こう。」

「だけど…」

「俺はフリーランスだ。自由に動ける以上は適任だと思うぜ?」

「判ったわ、四つ目の申し出にはクロウに任せるわ。」

 

 

先の分散に続いて新たに発生した四つ目のグループはクロウが単独で行う事となった。

 

クロウは元軍人であり、この手の交渉に慣れている事が選ばれた理由であり適任だった。

 

他のグループはどうしても動かせない事情もあり、流れ的に決まった様なものである。

 

グリーフィング解散後、クロウはプトレマイオスの個室に戻ってトライアと通信を行っていた。

 

 

~プトレマイオス・個室~

 

 

「成程ね、インぺリウムが動き始めたか…」

「ああ、リモネシア共和国にはサイデリアル…いやイグジスタンスが居座って国を再建してるしな。」

「リモネシア共和国か…あそこには。」

「例の遺跡があったんだろ?その事はハスミから厳重に保管してあるって連絡が来たぜ。」

「そうかい、出来る事ならもう一度調査したいもんさね。」

 

 

前の世界でリモネシア共和国跡地から出現した古代遺跡を調査したトライア。

 

もう一度と言う願いがポロっと出ていた。

 

 

「それよりも…ハスミって子から受け取ったデータは宝の山と厄介事の山だね。」

「どういう事だ?」

「この世界に前回の私達が戦った事の無い連中が介入してる。」

「マジか?」

「流石の私も魔法やら錬金術やら…ファンタジー系の物質に触れる日が来るなんてね?」

 

 

トライアはニヤリ顔をしつつ舞い込んだ報酬に喜んでいた。

 

 

「特にルーンゴーレムの残骸なんて面白いもの提供してくれるんだから、有難いよ。」

「で、成果は?」

「ブラスタの改造調整もあるしラマリス対応の武装も加えたからそれを差し引いて…」

 

 

今回の返済額は39万G。

 

残りの借金額は50万G。

 

 

「うげっ、借金が増えてやがる。」

「文句ならラマリスってバケモンに言うんだね?」

 

 

新たな厄介事と共にクロウの借金地獄はまだまだ続くのだった。

 

 

=続=






暗躍する者。

対話を望む者。


次回、幻影のエトランゼ・第百六話『遂行《スイコウ》』


ねじ曲がった世界。

彼らもまた変革を望む者。


<余談>

※リモード・モブックス

初老の男性、リモネシア共和国の大統領。
名前が不明だったので勝手に名付け。
原作では全く活躍がないが、こちら側ではシオニーへの贖罪を兼ねてフル活用の予定。



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扉の付箋


半開きの扉は開かれる。

それは一方通行。

だからこそ対話を望むのだ。


イグジスタンスによるリモネシア共和国の再建計画から数週間後。

 

文字通りセントラルベースへと変貌しつつあるリモネシア共和国。

 

中心部の遺跡を覆う様に政庁が建設され、周囲のエリアには分離式の避難ブロックを設置。

 

何かあれば各ブロックごと切り離して避難する事が可能とした。

 

尚且つ、避難後の生活もある程度行える備えもしている。

 

余程の事が無い限りは使用する事もないが念の為だ。

 

 

******

 

 

翌日、メッセンジャー到着予定日。

 

 

~リモネシア共和国・政庁~

 

 

ZEXISが三つのグループに分かれた事を切っ掛けに…

 

彼らにとって第四の選択肢を増やした。

 

それはリモネシア共和国へZEXISからメッセンジャーを送る事。

 

これを利用しクロウをリモネシア共和国に呼び寄せる事にした。

 

前世上の記憶を持つ者達の要件や要求も携えてくるだろう。

 

それも含めてである。

 

そして記憶保持者達へDDコミュニケーターを渡す判断も話の内容によって決めようと思った。

 

私ことハスミは政庁の休憩スペースに設けられたテラスでその考えを纏めていた。

 

 

「…(そろそろ元ZEUTHのメンバーも時空震動でこちら側に訪れ始める頃か。」

 

 

地上の国連に協力する第一グループは神ファミリーを始めとしたZEUTH側のスーパーロボット軍団。

 

宇宙ではカミーユやシン達の様なガンダム乗り。

 

暗黒大陸方面ではアクエリオンチーム、他の地域ではジロンらブレーカーにエクソダス組と遭遇。

 

詳しく説明するとキリがないので空白事件で関係した転移組が来たと纏めて置く。

 

前とは違って若干のズレがあるだろうが致し方ない。

 

 

「…(問題はシン達の持っている私達の情報が敵対したままの時の状態。」

 

 

あの時の声明でサイデリアルがイグジスタンスとしての改名宣言。

 

更に鋼龍戦隊と共に行動している事はZEXISを通してZEUTH側にも伝わっているだろう。

 

そしてメッセンジャーとしてクロウが出向いている事も…

 

一応、ZEUTH側の転移先で何かあると困るので監視は付けて置いたし何事もなければいい。

 

そう願いたいが無限力はここぞとばかりに厄介事を連れて来る。

 

 

「…(アレは絶対に狙っているとしか思えない。」

 

 

ルーンゴーレムの他にガーディムのアールヤブもこちら側の世界に出現していた。

 

あの気配はバアルのモノだったし注意しないと…

 

 

「…(こちら側で起こる戦いの一部を変異させた代償と言うのは理解出来る。」

 

 

最近判明した事だが、リモネシア共和国で発見された古代遺跡からクロスゲートが発掘された。

 

但し、一方通行…直通型で元の世界に戻る為には利用出来ない。

 

唯一通れるのはゲートの先にある聖インサラウム王国の世界のみ。

 

プロジェクト・ウズメ…これは天の岩戸を開くと言う意味合いのもの。

 

現に、このゲートはDECをエネルギー源として起動。

 

その後の流れ流れでアイム達はガイオウを呼び寄せた後、起動状態で放置していった訳だ。

 

更に開けっ放し状態であり、ラマリスの要因である負念も駄々洩れしている事を示している。

 

一応、イルイと一緒にゲートの浄化を急いだので最悪のケースは防いだ。

 

まさかのクロスゲートが発見されるとは思いもしなかったが…

 

これも無限力のお遊びの一環だろう。

 

 

「じゃあ、遺跡の地下にクロスゲートが?」

 

 

鋼龍戦隊の念動者女子組達とテラスでプチ女子会を開催している。

 

因みにアヤ大尉とマイは別件で不在、先の話の質問はカーラから尋ねられた。

 

 

「そう言う事、この多元地球が構築された際に紛れ込んだと思うわ。」

「偶然?って事もあるのね。」

「偶然と言うよりは必然かもしれない。」

「それは一体?」

「今も姿を見せていない黒幕さんが仕掛けたナニカとしか…」

 

 

カーラへの返答、リオとレオナへの疑問返しをしつつ…

 

クスハにクロスゲートの対応はどうするのか聞かれた。

 

 

「ハスミ、あのゲートはどうするの?」

「修羅の乱の時、例の訪れた世界に繋がっているかの確認も兼ねて調査する予定よ。」

「たしか、聖インサラウム皇国…だったっけ?」

「破界の王の侵攻に乱入して途中まで皇国側に参戦した後、どうなったか判らず仕舞いだったから…」

「それよりもどうしてあの世界に繋がっていると?」

「それもスフィアの力?」

「違う、アイムが引き連れていた二機の機体で潜伏先が判ったのよ…」

 

 

あれは聖インサラウム皇国の精鋭騎士団であるアークセイバーの機動兵器とハスミは答えた。

 

 

「アークセイバー?」

「世界統一国家である聖インサラウム皇国の秩序維持と防衛の全てを担っていた騎士団の事よ。」

「規模はどの位だったのかしら?」

「そうね…」

 

 

レオナの質問にハスミは解説出来る範囲で答えた。

 

アークセイバーの組織形態としては聖王直属の親衛隊という側面を持つ。

 

中でも、特に秀でた力を持つ二十五名の『ハイナイト』と呼ばれる騎士達。

 

彼らはインサラウムにおける名誉姓『テール』を名乗ることを許され、専用機を受領されている。

 

騎士団長として頂点に立つのは最強の騎士であるナンバー1『ナイトオブナイツ』と呼ばれる存在。

 

聖王国で開催されていた御前試合の優勝者が、その名誉姓『ガルス』を名乗ることを許された上で与えられる位階。

 

この位置に立ったハイナイトはそれまでの専用機から、団長機であるディアムドへと乗り換える。

 

その授与式まである位だ。

 

 

「って位かしら?」

「その国家には王族制や貴族階級が残っているのね?」

「その世界の秩序を守っていたって事は精鋭揃いって事でしょ?」

「連合軍に匹敵する精鋭が居たのに…」

「…それだけ、破界の王ガイオウと率いる次元獣の力は凄まじかったって事よ。」

 

 

あの時、スフィアの力やガンエデンを使えていれば王国崩壊を防げたかもしれない。

 

過ぎた事であっても…不甲斐ないと今でも考えてしまう。

 

 

「ハスミ、アウストラリスさんも…」

「彼は御使いとの戦いでガイオウと同じ玉座型の次元獣を失った…」

 

 

それは次元将が身に纏う鎧を失った事を指している。

 

 

「戦うとしてもスフィアの力を使わざる負えない。」

 

 

アウストラリスがガイオウと戦う事を決めた以上は口出し出来ないとハスミは語った。

 

本来であれば、次元将の力だけで決着を着けようしただろう。

 

かつての本領が発揮出来なくても、それが彼なりのケジメだから…

 

 

「…お姉ちゃん。」

 

 

隣の席でフルーツパフェを食べていたイルイ。

 

この子の一番好きなイチゴではないが、南国フルーツのパフェに満足している様だ。

 

 

「イルイ、心配してくれたの?」

「うん。」

「ありがとう。」

 

 

私はイルイの口元に付いたクリームを備え付けのナプキンで拭き取りながら答えた。

 

 

「クスハ、イルイの事を頼める?」

「それはいいけど、どうしたの?」

「これから例のお客様と会談の時間なのよ。」

 

 

それはクスハ達の休憩時間がそろそろ終わりを告げる合図だった。

 

イルイも丁度パフェを食べ終えたので一緒に鋼龍戦隊の戦艦が停泊するエリアへと移動を開始。

 

私はクスハ達を見送った後、ふと思う。

 

彼女達との談笑が出来たのはギリアム少佐達の配慮だろう。

 

私が他の隠し事を話すと踏んで…

 

私は渡せる情報の一部をクスハ達を経由して渡して置いた。

 

 

「さてと、クロウさんも到着したし…お話の時間と行きますか?」

 

 

私はイルイが食べ終えたパフェグラスの後片付けをした後、政庁内の応接室へと向かった。

 

 

~政庁内・応接室~

 

 

会議室にはZEXISの代表として来訪したクロウが待機していた。

 

また食事を取れなかったらしく、事前に用意して置いたお茶と軽食が綺麗に無くなっている。

 

 

「クロウさん、忙しくても食事は大事ですよ?」

「悪いな…急ピッチでこっちに来たもんでよ。」

「仕方がないですね。それで…ZEXIS側ではどの様な状況で?」

「まずは甲児や刹那達の経緯を話すぜ?」

「判りました。」

 

 

ちゃっかり軽食のお代わりを応対中の職員に頼んでいるし。

 

後でトライア博士経由で請求書でも送って上げようかしら。

 

…ま、可哀そうだから目を瞑って置く。

 

 

「成程、鉄也さんとジュンさんは別件で合流していないしミチルはまだ健在なのね。」

「所でよ、お前がICPOの総本山の出身って本当なのか?」

「甲児達から聞いた様ですね?それは本当です…親族がらみの事情もあったので。」

 

 

ICPOの総本山である国際警察機構。

 

知性から体術に秀でている者や異能の力を持つ者達で構成された集団。

 

多分、九大天王やBF団の十傑衆なんて見たら白目モノね。

 

出身世界には素手でMSを倒せる人材がゴロゴロ居る者で…

 

多分、暗黒大陸に放り込んだら獣人達が涙目で降参するわ。

 

 

「ソレスタルビーイングの内情は?」

「そっちは刹那が調べている。あのグラハムが記憶を持っていた事もあってか助かっているぜ。」

「ブリタニア・ユニオンのエイフマン教授がそろそろ狙われるから監視を付けて置いたけど…大丈夫そうね。」

「その教授がどうしたんだよ?」

「エイフマン教授はGNドライブの構造からトリニティが使用しているガンダムのGN粒子の毒性にいち早く気が付いた人物です。」

「つまり、イノベイトの連中に狙われるって事か…」

「そう言う事です、前回はリボンズの暗躍もあり謀殺されましたが…」

 

 

ハスミはそれと同時に悪代官も真っ青な表情で答えた。

 

 

「あのトリニティとひろ…じゃなかったサーシェスは再起不能なまでに仕留めますので。」

「…(敵に同情したくなったのは気のせいか?」

 

 

クロウはポーカーフェイスのまま遠い眼の心根で答えた。

 

 

「トリニティが起こした戦いでどれだけの人達が犠牲になったか……身を持って判らせるいい機会ですし。」

「…」

「サーシェスはニール・ディランディだけではなく沙慈・クロスロードの姉を殺害した実行犯でもあります。」

「マジかよ。」

「そして刹那が幼少期の頃、彼や他のクルジスの少年達を炊き付けて紛争に介入させた…云わばクソ野郎です。」

 

 

奴は『聖戦』とふざけた事を抜かし、子供達に親殺しを仕向けさせた。

 

何も知らない子供は銃を持って戦場を掛けて散った…

 

それは幼少期のソースケが所属する事となった組織に近いのかもしれない。

 

理由も無い、ただ…大人の道具にされる行為は虫唾が走る。

 

そんな連中には罵声を浴びせつつ糞野郎と罵りたい。

 

 

「ルルーシュがゼロとして黒の騎士団を立ち上げたと言う事は記憶が戻るのが遅かった…が理由でしょうか?」

「どうして判る?」

「記憶が戻るのが早ければ皇族の立場で行動するのが得策でしょう?」

 

 

神聖ブリタニア帝国。

 

その歴史は血みどろと解釈してもいい。

 

政権を求めて腹違いの兄弟姉妹がその手に掛け合う。

 

それは世代を超えて継続し信じていた実の兄弟姉妹ですら…

 

現皇帝シャルルもその渦中に生を受けた瞬間に晒された。

 

その兄であるギアス教団の教主V.Vもまた犠牲者なのかの知れない。

 

結果、彼らが求めたのは嘘のない世界。

 

アーカーシャの剣…

 

文字通り、アカシックレコードにアクセスする事が可能な遺物。

 

だが、このアーカーシャの剣も元凶になりつつある。

 

そうアーカーシャの剣を構成している意識体達が負の無限力の集まりだからだ。

 

取り付かれれば最後…死後の魂はバアルに縛られる。

 

 

「…恐らくマリアンヌ皇妃が一番の理由なのでしょうけど。」

「マリアンヌってルルーシュの?」

「そう、皇帝が最も寵愛した妃であり秘密裏にV.Vに暗殺された。」

 

 

ルルーシュの妹ナナリーが眼の光と足の自由を失った事件。

 

そしてルルーシュとナナリーが日本に送られる経緯となった出来事。

 

これに関しては皇帝の親心もあったのかもしれない。

 

母無き子達の行く末を願って…

 

 

「死した後、彼女の精神はアーニャ・アームストロングの中に潜んでいた。」

 

 

V.Vか教団のギアス使いにでも精神操作を受けていたのだろう。

 

だが、マリアンヌはC.Cから受け取ったギアスで精神のみが生き残った。

 

その後、彼女は自分を手に掛けた存在に復讐する為に夢の実現の為に動き始めた。

 

既に彼女自身が怪異と化していたと気づきもせずに…

 

 

「…それにマリアンヌは既にマリアンヌではなくなっているわ。」

「どういう事だ?」

「この世界で感じた悪意の気配…あれはマリアンヌの皮を被ったエンデの意思でしょうね。」

「エンデ?」

「ある次元世界を支配している高次元生命体…御使いと同じくバアル化している。」

「それもルルーシュが正体を知っているのか?」

「彼は前世でエンデの一部に実際に立ち会っている。」

「!?」

「ある程度のキーワードを話せば察してくれるでしょう。」

 

 

ハスミは職員が入れてくれたお茶を一口飲んだ。

 

 

「クロウさん、本題に入ります。」

「確か、呼び寄せた本当の理由だったな?」

「はい、この政庁の地下にクロスゲートと呼ばれる次元転移門があります。」

「なっ!?」

 

 

これにはクロウも驚いていた。

 

事前に説明は受けているだろうが実物があるとすれば別問題である。

 

 

「アイムが解放したままの扉を通り…ユーサー皇子へ対話を行います。」

「交渉役に俺も出向けと?」

「その通りです。」

「…判った。」

 

 

クロウの即答に驚くハスミ。

 

 

「良いのですか?」

「四の五の言っている暇はねえんだろ?」

「…」

「行ってやるよ、聖インサラウム皇国にな?」

「ありがとうございます。」

 

 

対話は新たな共存共栄を齎すのか?

 

それとも…

 

 

=続=

 



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第百六話 『遂行《スイコウ》』


異なる戦い。

それは遂行しなければならない。

私達は立ち止まれないのだから…


 

引き続き、リモネシア共和国・政庁にて。

 

政庁の最下層に古代遺跡が存在した。

 

造りはガンエデンを祀った遺跡に近かった。

 

恐らくは私達の世界の先史文明期に廃棄された遺跡の一部がこの多元地球と融合したのだろう。

 

それでもクロスゲートに変わりはないので使用する事にした。

 

既に安全性の調査は済んでいる。

 

 

******

 

 

ハスミは最下層へ案内する前に鋼龍戦隊のマイルズ司令にクロウを引き合わせた。

 

クロウ自身、元軍人だったので司令の怒りを買う事はないのが救いだった。

 

続けて彼が天秤座のスフィアである『揺れる天秤』のリアクターであると説明。

 

インぺリウムに在籍しているアイムを除き、これで十一人目となる。

 

最後の一人はこれから対話し協力を仰げるかは説得次第だ。

 

クロウの自己紹介もそこそこに…

 

今後もZEXISで行動する事を彼自身が伝えた。

 

 

「では、君は引き続きZEXISに?」

「アイムの奴が俺にちょっかいを出すのは判っている。解りやすい囮が居る事に越した事はねぇ。」

「念の為、ハスミ少尉が君をスフィアで監視するが…構わないか?」

「ああ、そっちと協力体制を取るには時間が必要だからな。」

「出来れば穏便に済ませたいが…」

 

 

ZEXISの組織系統が政府に認可された組織と反政府組織の混成部隊と言う側面がある以上。

 

鋼龍戦隊の一部クルーから協力出来ない声も上がっているので同盟を結ぶのは先延ばしとなった。

 

イグジスタンスは元々サイデリアルと名乗り、あちら側の地球連合政府の同盟国家に侵略行為をした経緯もある。

 

そのイグジスタンスも過剰な戦力は同盟結束の瓦解の元となるので避ける構えだ。

 

 

「ハスミ少尉からも聞いていると思うが、ZEXISの周囲に例の影がちらつき始めている。」

 

 

遠回しに警告を促されたクロウは察して答えた。

 

 

「…ご忠告どうも。」

「では、クロウさん…例の区画にご案内します。」

「頼むぜ。」

 

 

謁見を終えた後、ハスミはクロウをクロスゲートが安置された区画へと案内。

 

そこには既にクロスゲートで移動する者達が集まっていた。

 

 

~政庁・最下層区画~

 

 

「来たか、クロウ。」

「久しぶりだな、アウストラリス。」

 

 

再会したクロウに対して挨拶を交わすアウストラリス。

 

 

「他の連中は来ていないのか?」

「陰で良からぬ事をしでかした輩に…灸をすえにな?」

「…何となく察しが付いたぜ。」

 

 

インぺリウムの出現後。

 

このインぺリウムの暴走を利用し暗躍する者達が動き始める。

 

事前に鋼龍戦隊との話し合いで部隊を複数に分けて行動する事となった。

 

ブリタニア・ユニオン方面へはアンタレス隊。

 

人革連方面へは鬼宿部隊。

 

AEU方面へはギント支隊。

 

多元地球の近海方面はハイアデス隊。

 

暗黒大陸の獣人軍団は先の三大国家へ襲撃を掛けているので様子見。

 

アサキムは単独でインぺリウムの動向を探っている。

 

残りはリモネシア共和国の防衛と言う形となった。

 

アルシャト隊、アルファーグ隊、ジェミニス隊、レフィーナ支隊もここに組み込まれている。

 

 

「それでガドライトとヒビキが残っているって訳か。」

「本当ならソレスタルビーイング号の調査に出る予定だったんだけどな…」

「アイムへ余計な情報を与えない為に此処の調査チームに組み込まれたんです。」

 

 

ヒビキ達にはゲート起動に備えて機体へ搭乗し待機して貰っていた。

 

いがみ合う双子のスフィア強奪を防ぐ為に敢えてゲート調査に携わって貰う形である。

 

 

「残りのメンツで考えると妥当な判断か…」

 

 

皇子さんはどうか知らねえが、アイム以外の全員がサードステージ上がり。

 

アイムの野郎がサードステージに上がれねえ限りは心配する事はねえか。

 

まあ、こっちに手を出せば…どうなるかは察した。

 

 

「…それで、皇子と関係があったクロウさんを呼び寄せたのも理由の一つです。」

「つまり説得要員って訳か?」

「記憶があるにせよ、穏便には行かないと思いましたので。」

「…(確かにな。」

「慈愛の王子となるか黄金の王子となるかは…これから次第でしょう。」

 

 

ハスミは事前にクロウにも機体に搭乗して貰い、ゲート付近へ待機。

 

各自、機体に搭乗後にスフィアを発動させゲートを起動。

 

問題なくゲートの先へ向かう事となった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

ブリタニア・ユニオン領域のオーバーフラッグス基地にて。

 

例の如く、トリニティチームのガンダムの襲撃を受けていた。

 

前世と同様にインぺリウム襲撃の対応に大部隊を動かしてしまった事が原因。

 

オーバーフラッグス部隊の一部隊で隊長を務めるグラハム…

 

彼も別動隊の奇襲を視野に基地防衛の強化を上層部に進言したものの…

 

あっさりと却下され、ガラ空きに近い状態で基地を離れる事となってしまった。

 

そしてオーバーフラッグス基地はトリニティの襲撃を受ける結果を迎えた。

 

暴走したクロノの暗躍も絡んでいるのでなるべくしてなったが正しいのかもしれない。

 

 

「二人共、今回のミッションは判っているな?」

「勿論、あの基地をぶっ壊せばいいんだろ?」

「アタシ達なら簡単よね?」

「仲間が誘導している今が好機だが…油断するな?」

 

 

チームトリニティの三兄妹。

 

ヨハン、ミハイル、ネーナの三人はヴェーダからの指令を受けてオーバーフラッグス基地を襲撃。

 

これに関しては例の胡散臭い存在によるものだが、それを知れている者は指で数える程度である。

 

その事情を知る人物の一人が提案した『お仕置き』が発動しつつあった…

 

 

「バルビエル様、部隊展開の準備は済みましたよ。」

「なら、少し待とうか?」

 

 

オーバーフラッグス基地より少し離れた場所でアンタレス隊を待機させたバルビエル。

 

ブリタニア・ユニオン方面の対応は彼の担当である。

 

副官であるサルディアスに部下の配置を命令し今に至る所だ。

 

 

「と、言いますと?」

「ハスミの話ではあの基地にラマリスが出る予兆があるらしい…例の教授を助ける絶好のタイミングにね?」

 

 

バルビエルは期を見てトリニティに奇襲を掛けると告げた。

 

それに対してサルディアスはその期が訪れるまで話を続けた。

 

 

「…同時に我々の行動が侵略行為ではないと言う証拠になりますね。」

「それを見越しての助言だろうさ。」

「流石は当主が認めたお相手…でしょうか?」

「サルディアス、ガンエデンの名に聞き覚えはあるか?」

「ガンエデン…」

「そう言った星系の歴史を調査するのが、以前のお前の仕事だっただろう?」

「…確かに聞き覚えがありましたよ。」

 

 

バルビエルの発言に答えるサルディアス。

 

 

「ですが、星によっては伝承の仕方が様々でしたよ。」

「例えば?」

「星を滅ぼす者、星に救いを与えた者、神々の戦い…簡単に言えばそんな感じのばかりでしたよ。」

「より正確には伝わっていなかったって訳かい?」

「恐らくは伝承によっては御使いの敵と判断されるのを恐れての事でしょう。」

「…」

「まさか辺境惑星の地球にガンエデンが遺されていたとは思いもしなかったですが…」

「当事者が聞いたら怒り出すだろうね?」

「は?」

「ハスミと彼女の従妹がその現ガンエデンの巫女だよ。」

「…先程の失言、聞かれてますよね?」

「当然だよ。」

 

 

ニヤニヤとしてやったりのバルビエルの表情にサルディアスは内心でいつかやり返そうと密かに思った。

 

話も程々に期が熟したのを見計らいアンタレス隊はオーバーフラッグス基地へ乱入しトリニティチームと出現したラマリスを排除した。

 

 

~人革連・インド方面~

 

 

オーバーフラッグス基地の襲撃と同時刻。

 

ここインド方面に出現した螺旋王配下の獣人部隊。

 

 

「…雑魚に用はない。」

「な!?」

「獣は獣らしく逃げ惑う事だ。」

 

 

敵部隊を取り纏めるリーダーに対して鬼宿隊の尸空は答える。

 

それは力量の違いと無益な戦いを終わらせる為の言葉でもあった。

 

だが、血の気の多い獣人達はそれを拒否した。

 

彼らもまた抗う意思を持つ者達である為に…

 

 

「チミルフ様、如何なさいますか?」

「構わん!螺旋王様に歯向かう者達は全て蹴散らし倒すだけだ!!」

「…忠告はしたぞ?」

 

 

螺旋王配下の四天王の一人・チミルフが乗艦するダイガンザンを中心とした陸戦部隊。

 

怒涛と言う二つ名を持つ以上は新手であろうと引けない。

 

その意を酌んで尸空は自身の半身たる機体を呼び出す。

 

 

「こい、尸逝天。」

 

 

イグジスタンスの戦力の一端として尸逝天を呼び出した尸空。

 

それは巨大な生物の死骸。

 

それは死を齎す積尸気からの使い。

 

尸逝天より尸獄門を発動させ、展開していたチミルフの部隊の半分を消失させた。

 

 

「な!?」

「螺旋王に伝えろ、俺達は奴らに反逆する…イグジスタンスの名と共に。」

「ぐっ!」

 

 

脅しではないと判断したチミルフ。

 

残存部隊を取り纏めてインド方面から撤退して行った。

 

 

「…尸空様、あの件を伝えなくて良かったのですか?」

「…」

「尸空様?」

「…伝え忘れた。」

 

 

尸空の言葉で戦場に沈黙が広がった。

 

 

「「「…(それは忘れてはならないのでは?」」」

 

 

副官の尸刻より要件の伝え忘れがあった事を指摘された尸空。

 

彼は静かに伝え忘れたと答えた。

 

それに対して部下達は無言で通したのだった。

 

 

~AEU・アフリカ方面~

 

 

ラマリスの出現を受けて出撃したギント支隊。

 

ラマリス対応の機体を中心とした部隊編成を行っているので余程の事がない限りは混乱は起きないだろう。

 

だが、ここぞと言う所で空気を読めない輩は現れるのであった。

 

ラマリス対応を行っていたギント支隊に対して攻撃を仕掛けるAEUの部隊。

 

指揮官は…

 

 

「AEUのお偉方がお前らに用があるとさ?」

「断ると言ったら?」

「力づくで引っ張っていくしかねえな?」

 

 

PMCトラストより出向しているゲイリー・ビアッジことアリー・アル・サーシェス。

 

AEU上層部からの指示でリモネシア共和国と同盟を結んだイグジスタンスの動向を探るのが本来の目的だったが…

 

彼は命令違反とも言える行動を取った。

 

そう…鋼龍戦隊への攻撃である。

 

それは鞍替えの時期を見通しての行動でもある。

 

 

「最も俺は戦争が出来ればそれでいいがな?」

 

 

サーシェスの本音とも言える発言。

 

 

「…(奴がアリー・アル・サーシェスか。」

「キョウスケ、奴は俺が仕留める。」

「アクセル、いいのか?」

「奴も『永遠の闘争』に惹かれた輩だ。」

「頼む。」

 

 

ギント支隊に組み込まれていたキョウスケとアクセルの会話。

 

サーシェスの在り方がかつてのシャドウミラーの様であると察するアクセル。

 

外道の始末は自身で着けると答えた。

 

 

「気を付けろ、ハスミの話では倒しても舞い戻ってくる奴らしいからな?」

「なら、這い出れぬ様に地中に深く沈めてやるさ。」

 

 

ハスミの見解からのサーシェスは『戦争を好み、狂気じみた発言で敵味方問わず荷電粒子砲をぶっ放す某主任の様な基地外野郎』である。

 

戦争の闇と戦いに縛られながらも悪を貫いた悪らしい悪。

 

その様な輩を放って置く程、甘くはないが…

 

 

「イグジスタンスってのは随分と面白れえ機体を持っているじゃねえか?」

「…」

「ん?黙ってねぇで何か喋れよ?」

「失せろ、雑魚が!」

「!?」

 

 

アクセルはこの世界に来てから苛立ちを覚えていた。

 

この世界にもかつてのシャドウミラーの様な思想を持った連中が存在した事を…

 

それは『理想無き永遠の闘争』である。

 

それが齎す結末を知るからこそ、アクセルはサーシェスの相手をするのだった。

 

 

「逃さん!!」

 

 

ソウルゲインの拳が唸る。

 

それは連撃からの一閃。

 

ソウルゲインの必殺技の一つである舞朱雀。

 

 

「マジでヤベぇ!?」

 

 

サーシェスは機体のスペックが段違いであると察して機体を破棄し撤退。

 

残ったAEU側の部隊も隊長機の破壊を受けて蜘蛛の子を散らした。

 

倒すべき相手を一点に絞った結果だった。

 

こうして各所で引き起こされた戦いは終息を迎えつつあったが…

 

ゲートの向こう側では新たな事件が発生していた。

 

 

~聖インサラウム王国・王宮~

 

 

王都跡地に出現したゲートとそれに伴う反応で応戦体制を取る聖インサラウム王国の兵士達。

 

だが、私達の来訪でそれは止まる事となった。

 

出撃していたウェイン・リブテールの対応の後に王宮へと案内された。

 

玉座の間でユーサー皇子らと再会。

 

話によれば修羅の乱の頃の私達の来訪後…

 

破界の王の進撃は王都半壊でとどまり、前回よりは被害を少なく出来たそうだ。

 

だが、事態は一転。

 

次元力を抽出するZONEを使用していないにも関わらず、この星から急速に次元力が消失。

 

そして大時空振動からの次元震動が発生し別の世界に転移。

 

同時にその世界にある惑星と同化してしまったとの事だった。

 

その惑星の名はアル・ワース。

 

 

「まさか、こちら側の世界がアル・ワースに取り込まれていたなんて…」

「ハスミ、何か知っているのか?」

 

 

アウストラリスの質問に対してハスミは答えた。

 

 

「以前にお話した魔獣エンデに関係する事です。」

 

 

ハスミはアル・ワースの成り立ちとそれに関わる魔獣エンデの詳細を答えた。

 

魔従教団はオドを糧に魔法を行使する集団にしてエンデの私兵。

 

その名の通り、魔が従える教団である事も…

 

 

「では、この星の次元力が急速に失われたのは…!」

「先のエンデの仕業…そしてマナの国に暗躍するエンブリヲも関わっています。」

 

 

ZONEを使用していないにも関わらず、星の次元力が消失したのはエンデが喰らったのが原因。

 

そして残滓となったこの星もエンデの世界に取り込まれた。

 

いずれ、膨れ上がった人々の負の感情を喰らう為に…奴の狩場へ放り込まれたのだ。

 

 

「それがスフィアを辿って辿り着いた真実です。」

「…陛下。」

「…」

 

 

ユーサー皇子の護衛で付き添っていたジェラウド・ガウス・バンテールが陛下の動揺振りに声を掛けた。

 

 

「…(皇子様も動揺はするだろう、生き残った民に新たな危険が迫っている。」

 

 

クソ鰤だ…いや、エンブリヲの対処方法はアルゼナルの人々とアウラの民の協力が必要。

 

問題はエンデの方だ。

 

奴もまた御使いと同様の負の高次元生命体。

 

迂闊な方法は取れない…ならば。

 

 

「ただ、希望はあります。」

「それは一体?」

「希望の要になるのはエンデと同質の存在…ゼルガード。その操者であるイオリ・アイオライトとアマリ・アクアマリン、精霊ホープの協力が必要です。」

 

 

聖インサラウム王国で発生した出来事。

 

これは更なる敵の出現を暗示していた。

 

そしてこの国の人々を守る為に私達は二つの世界を行き来する必要が発覚した。

 

破界と再世にアル・ワース事件…

 

本来の世界への帰還はまだ先になりそうだ。

 

 

=続=





早すぎる遭遇。

そして共鳴する星々の鼓動。


次回、幻影のエトランゼ・第百七話『共鳴《キョウメイ》』


それらが齎すのは何か?


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説の付箋


知らされた真実。

事の次第と説明。

それはある意味で審議。




 

話は遡り、破界の王出現後の事である。

 

イグジスタンスの出現、連合軍のからの追撃を避ける為に撤退したZEXIS。

 

損傷を抱えたZEXISはエルガン代表との連絡が取れず、更なる危機に直面。

 

だが、イグジスタンスからの申し出で指定エリアに身を隠す提案をされた。

 

その指定エリアに一時身を隠すZEXIS…

 

通信越しであるが、イグジスタンス代表のアウストラリスより改めて連絡を受けた。

 

 

******

 

 

『この様な形であるが、改めて…俺はイグジスタンスの代表アウストラリス。』

「自分はマクロスクォーター艦長のジェフリー・ワイルダー。」

「黒の騎士団のゼロだ。」

「21世紀警備保障の戦術アドバイザーの城田志郎です。」

『ソレスタルビーイングの代表を外して貰った事に感謝する。』

 

 

この通信の前に通達が行われた。

 

イグジスタンスから指定エリアでの修理と補給を受ける代わりに対談を要求された。

 

ZEXISは修理と補給のアテが無かった為に了承するしかなかった。

 

修理用の備品や補給物資は事前確認も検分もZEXIS側に確認を取って貰っている。

 

騙す事もなく嘘偽りはない事は理解して貰えただろう。

 

そして対談を行う際はソレスタルビーイングの関係者を省く事も加えられた。

 

ゼロはソレスタルビーイングを外した理由をアウストラリスに質問した。

 

 

「何故、ソレスタルビーイングを外す必要が?」

『理由か?それは奴らを取り巻くヴェーダの眼だ。』

「…(やはり、この男は!」

『ヴェーダの眼は信用ならない…故に席を外して貰った。』

「判った。話し合いの結果はソレスタルビーイングに伝えても構わないか?」

『ああ、但し…他言無用で艦長のみ限定とする。』

「了解した。」

 

 

ゼロはアウストラリスの発言である事を確信した。

 

彼もまた記憶を持つ者であると…

 

 

「では、イグジスタンスの目的は何だ?」

『あの時に宣言した。』

「人類の敵を打ち倒す為だったか?」

『その通りだ。』

「その敵とは?」

『その多くについては今は明かせん…瓦解し掛けた者達には荷が重い。』

 

 

瓦解し掛けた者達はZEXISを指している。

 

部隊として立て直しがままならないものに教える事は出来ないと告げた。

 

 

「イグジスタンスはインぺリウムを追うのか?」

『奴らが仕掛けて来るなら対応する構えだ。』

「では、追う事はしないと?」

『この世界で起こった事はこの世界の者達が事の次第を収めるべきだ…余計な手出しはしない。』

「だが、世界はそちらを放って置く事はないだろう。」

 

 

ゼロは答える。

 

突如現れた災害級の災厄と対等に戦える戦力が現れた。

 

三大国家のみならず、その力を求めて見境なく攻め込んでくるだろう。

 

 

『では、どうしろと?』

「我々と協力体制を…」

『断る!』

 

 

ゼロの提案を全て聞く前に拒否の構えを取るアウストラリス。

 

 

「!?」

『それでは三大国家やそこらの俗物と同じく虎の威を借る狐と変わらん!』

「では、どうしろと?」

『行動で示せ。お前達ZEXISが我らの背を預けるに値するかをな?』

 

 

アウストラリスは今回の救援はその為のスタート地点であると答えた。

 

 

「成程、これから先で起こる苦難を自らの力で切り拓けと?」

『その通りだ。』

 

 

ジェフリーや城田も腑に落ちない表情であるが、今回ばかりはどうしようもない。

 

今の自分達は彼らの救援を受けた身であり、これ以上の要求は出来ない。

 

協力をしない代わりにアウストラリスは一つだけ約束をした。

 

 

『出現したラマリスに関してはこちらで対処する。あの脅威が少なければインぺリウムに立ち向かえるだろう。』

「そのラマリスとは一体?」

『あれは悪霊の一種…純粋な力が負の念に干渉して出現する存在だ。』

 

 

城田の質問にアウストラリスは答えた。

 

ラマリスとはその名の通りの存在であると…

 

死者の怨念が純粋な力に反応し生まれる存在。

 

負の感情が多ければ多い程に現出する。

 

この世界は特に負の念に満ち溢れていると告げた。

 

 

「俄かに信じがたいが…」

『別の世界では既に実例がある…現にラマリス退治を行える戦力も存在しているだろう?』

「別の世界?」

『元々、我々はその者の思惑によってこの世界に閉じ込められた……俺達が追う存在とはそう言う輩だ。』

 

 

意味を察すれば大時空振動をいとも簡単に行える存在。

 

破界の王はDECを利用しなければ扉を開く事はままならなかった。

 

現時点でZEXISがこの事に関しての詳しい詳細を知るのは後の事だが…

 

 

「では、もう一つ…そちらのハスミ・クジョウと言う人物と話をしたい。」

『話か…』

「彼女の仲間だった者達が事情を聞きたいと気にしているのでな。」

『判った。』

 

 

アウストラリスは控えていたハスミに目配せし通信に出させた。

 

 

「君がハスミ・クジョウか?」

『はい、初めまして…ZEXISの皆さん。』

「まず、聞きたいのは君はサイデリアルに囚われていたと言う件だ。」

 

 

ハスミはジェフリーらに問われた質問に一つずつ答えた。

 

事情があってサイデリアルに囚われていた事。

 

サイデリアルはある事情で現在のイグジスタンスへと改名し独自の行動を取っている事。

 

この世界に飛ばされたのはそれが理由の一つである事。

 

共に居る鋼龍戦隊には事情を話して共闘関係を築いている事。

 

リモネシア共和国の人々は生存し無事である事。

 

最後にクロスゲートの事。

 

 

「甲児君達が話していたクロスゲートに関してだが…」

『確かにクロスゲートがあれば…どこへでも転移は可能です。』

「あれば…とは?」

『この世界に強制転移させられた事で本来使用していたクロスゲートとの繋がりが途絶えてしまっています。』

 

 

この多元地球から出られない理由の一つ。

 

クロスゲートさえあれば何処へでも転移は可能だった。

 

現在はそれが出来ずにいる。

 

 

『他者の悪用を防ぐ為、元の世界のゲートに封印を施したのでどうしようもない状況です。』

「…(転移による戦法は攪乱どころが敵の意表を付く事となる。」

 

 

それが一方的に悪用されれば世界は地獄絵図と化すだろう。

 

いつどこで己の頸を狩られても可笑しくはないのだ。

 

 

『こちらでもこの多元世界を構築する事象を調査するのと同時に黒幕を追います。』

「黒幕?」

『あのアイムが単独でここまでの行動を起こす事は不可能です。』

「それを動かしている真の黒幕が存在すると?」

『その通りです。』

「何故、そこまで知れた?」

『アカシックレコードからの予言。』

「アカシックレコード?」

「…(まさか、アーカーシャの剣と同質の力か?」

『…と言っても断片しか判りませんけどね。』

「断片とは言え、奴らの目的が判るのだろう?」

『ええ、後か先かは運次第ですけどね。』

 

 

曖昧な発言。

 

予言は断片でありつつも災厄を防ぐ天啓。

 

使い方次第では狂信者すら生み出すだろう。

 

 

『既に甲児達が見境なく喋っていると思いましたので…事前にお教えした次第です。』

「そ、そうか…」

 

 

これに関してはハスミ自身も苦笑いで対応しゼロも同感して答えた。

 

後に口が軽いと言う理由でヒイロからソースケ愛用のゴム弾無双喰らった甲児だったりする。

 

ついでに歳を四~五年喰った竜馬達から拳骨の嵐も加わっていた。

 

 

『それにどんな小細工を仕掛けようとも…こちらは蹴散らす構えですので。』

「…(あの眼、油断ならないな。」

「…(生身でアイム・ライアードを抑えた逸材である以上は気を付けなければならない。」

 

 

ハスミの発言と視線は話をしていた三人に脅威であると知らしめた。

 

敵に回してはならないと本能が告げる様に…

 

 

『他に御質問がなければ、アウストラリスにお繋ぎしますが?』

「ああ…頼む。」

 

 

ZEXIS側の判断により…

 

ZEXISはイグジスタンスとの協力体制を勝ち取る為に自らの力で行動すると宣言。

 

その決定にアウストラリスは了承した。

 

 

『可能な限りだが、ハスミからそちらへの情報提供と注意喚起はさせる。』

「情報?」

『あのラマリス以外に何者かがこの世界への偵察を行っている。』

「新たな転移者と?」

『その可能性も視野に入れてはいたが、接触した存在は見境なく攻撃を仕掛けてきた。』

「侵略…いや、殲滅の可能性も?」

『情報が入り次第そちらにも提供する…今はインぺリウムやZEXISを取り巻く敵に対応する策を考えるのだな?』

 

 

アウストラリスは必要な事だけを告げると通信を終えた。

 

通信を終えた一行は更なる話し合いを続けた。

 

 

「敵対の意思はないが、彼らの協力を得るには我々も同等の力を持つ必要がある。」

「同等の力と言っても現時点で集結している戦力がZEXISの最大戦力…」

「他にアテがあればいいが…」

「あるだろう?」

 

 

ゼロの発言に二人は驚いた。

 

 

「それは一体?」

「恐らく、今後もこの世界に転移者が現れる。」

「まさか…」

「我々も新たな転移者の捜索を行うべきだ。」

「転移者の協力を仰ぐ事で有力な戦力を得ると?」

「それしか道はない。」

「だが、彼らが拒否すれば…」

「それでもやるしかない、我々が取れる行動が残されてる今を。」

 

 

ゼロは前世の記憶を頼りに転移者の協力を得る事を提案。

 

いずれ現れるZEUTHと再び共闘関係を結べれば、インぺリウムと対抗出来ると…

 

そしてゼロが予測した通り、同一の事象が起こるのはこれより数週間後の事だった。

 

 

=続=

 



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第百七話 『共鳴《キョウメイ》前編』


早期の集結。

それは共鳴。

そして一つへと繋がる。


 

前回、調査チームはゲートの向こう側にある聖インサラウム王国のある世界へと辿り着いた。

 

だが、王国は既に異世界アル・ワースに取り込まれていたと言う厄介な事が判明。

 

今後はこの一方通行型のクロスゲートと言う抜け穴を駆使し行動するしかない。

 

アル・ワースに潜む暴食の魔獣が動き出す前に…

 

 

******

 

 

前回と引き続き、ユーサー皇子らと対談を進めた。

 

対談の相手にかつて戦ったクロウさんが居てくれた事で流れ的にスムーズに済んだ。

 

ガイオウを止める事はこちらとしても同じ考えなので、彼の生死は今後の動き次第だろう。

 

長々と小難しい話し合いは一言に纏めるとこうなった。

 

 

「では、こちらと共闘関係を結んで頂けると?」

「国の存亡が掛かっている…そしてかつての様に滅びの運命を覆す為に。」

 

 

ユーサー皇子もまた記憶に目覚め、愛情と言う意味を理解した。

 

かつての様な怯えはない。

 

共に立ち向かう姿勢は聖王たる証に相応しかった。

 

 

「殿下、我らも志は同じ…共に戦いましょうぞ。」

「ありがとう、ジェラウド。」

 

 

皇子自身が抱える事を最も信頼した部下であるジェラウドに話していたのだろう。

 

皇子の意志の強さを見抜き、その命を懸けて仕える姿勢だった。

 

私ことハスミは皇子の意思に嘘偽りがない事は能力で判ってしまうので無礼が無いように礼を告げた。

 

 

「ユーサー殿下、ご協力感謝いたします。」

 

 

礼を告げた後、ユーサー皇子よりアル・ワース側の国家並びに勢力圏の解読を求められた。

 

私は変異してしまったアル・ワースに分散された各勢力を説明した。

 

 

「まず、アル・ワースの勢力圏は大きく四つに分けられます。」

 

 

東部に神聖ミスルギ皇国を中心としたマナの国。

 

西部に階層ごとに独自の世界を持つ創界山。

 

南部に聖インサラウム王国。

 

大陸の中心地に魔従教団の聖地である『真実の世界樹』の樹が存在。

 

宇宙空間に該当するエリアには動きらしい動きがないので省きます。

 

 

「本来、南部に位置していたのは獣の国と呼ばれる国家だったのですが…恐らくは無限力の悪戯でしょう。」

 

 

聖インサラウム王国の位置する場所。

 

多元地球ではリモネシア共和国。

 

私達が存在した世界ではマヤン島。

 

それらの国や島が隣接する様に同座標に存在している。

 

これが何を意味しているのか…詳しく調べる必要がありそうだ。

 

 

「その獣の国とは?」

「破界戦役後の多元地球に立国するカミナシティの事です。」

「!?」

 

 

ハスミの説明で驚きを隠せないユーサー。

 

そんな状況でもハスミは冷静に解説を続けた。

 

 

「そしてこの世界では魔獣エンデはアンチスパイラルと対立している様です。」

「対立?」

「魔獣エンデは例の大災害で生き残ったバアル側の高次元生命体だからでしょうか?」

「…」

「今回もアンチスパイラルはスパイラルネメシスを危惧している。」

 

 

元々、天獄戦役終盤でもスパイラルネメシスで滅びるか御使いが故意に滅ぼすかで終焉が定められていた。

 

更にザ・パワーの根源たるオウス・オーバー・オメガことトリプルゼロの存在もあるし…

 

ぶっちゃけ、これがスパイラルネメシスの発生の要因の一つだったりする。

 

トリプルゼロから発せられる次元力が人の子孫繁栄と文明発展をコントロール。

 

つまり、人のDNAを目印に例の生誕と終焉を管理していると言う訳だ。

 

偶に例外とも言える現象としてシンカを迎えた存在が現れる。

 

これに関してはまだ結論を出す事は控えよう。

 

他に解決すべき問題が果てしなく山積みなので。

 

 

「流石にアンチスパイラルと共闘は考えにくいですけどね。」

「アンチスパイラルと共闘だと?」

 

 

敵対していた存在と手を組む。

 

余程の例外が無ければ成し得ないだろう。

 

特に前の大災害で敵対していたアウストラリスもこの言葉には驚きを隠せなかった。

 

 

「こちら側はスパイラルネメシスの絡繰りを理解し対処方法もある…交渉出来る条件は揃っていると思いますが?」

「…問題は奴が交渉を行うか、か?」

「その通りです、恐らくは戦うしか道はないと思いますけどね。」

 

 

ま、人の意思によるアル・ワースの再誕シーンでも見せれば気が変わるかもしれませんけどね?

 

それは最後の最後まで伏せて置きます。

 

 

「話を戻します、他にも脅威となる危険人物は多いので。」

 

 

ハスミは引き続きマナの国と創界山、魔従教団の状況を説明。

 

マナの国を影で支配するエンブリヲと創界山を侵略したドアクダーに関する注意点。

 

上記二名と他の意思によって召喚される存在。

 

協力関係を結べると思われるエクスクロスと呼ばれる義勇軍。

 

シンカの果てに正しき進化を迎えたアウラと神部七龍神と呼ばれる神獣。

 

後者の二つと協力体制を結べば、打開策に繋がる事を告げた。

 

 

「判った、協力関係を結べる様に出会い次第交渉をしよう。」

「殿下、協力関係を結ぶのは良いのですが…全面的はお控えください。」

「何故だ?」

「彼らにも成長が必要だからです。」

 

 

恐らくエクスクロスもZEXISと同様に芽吹いたばかりの若木である。

 

ただ力を貸すのではなく見守る事も必要であるとハスミは答えた。

 

 

「要は飴と鞭です。」

「…(言えない、ハスミさんの飴と鞭の境目が余りにも酷過ぎる事を。」

「…(どう見たってありゃえげつねぇ飴と鞭だろ。」

「…(わーすっごい言われようだけど、お二人様…後で覚悟してくださいね?」

 

 

ヒビキとクロウの内心ツッコミをスフィアで聞いていたハスミ。

 

後に二人にはある意味でお仕置きが待ち構える事となる。

 

アル・ワースに関する情報を一通り話し終えたハスミはユーサーよりある事を尋ねられる。

 

 

「ハスミ、インぺリウムにはシュバルとマルグリットが囚われている。」

「お二人の救助ですね…そろそろZEXISがZEUTHのメンバーと合流し行動を開始する頃合いなので早期救助を考えています。」

「その戦場には余も出陣する。」

 

 

ユーサーの発言にその場の全員が反応した。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

王自らの出陣に対してジェラウドが静止しするも紛れもない本心で在るとハスミが説明を加えた。

 

 

「殿下、しかし…!」

「余にも借りを返さねばならない相手がいる…二人を救うのは余の義務だ。」

「ジェラウド卿、今の殿下の意思は曲げられません…覚悟を決められたのです。」

 

 

王自ら配下である二人を救いに出向く姿勢を変えられないと悟ったジェラウドは了承の言葉を述べた。

 

 

「…承知しました。」

「済まぬが余の留守の間…国を頼む」

「この命に変えましても死守いたしましょう。」

 

 

ユーサーはジェラウドに国の守護を任せる命令を下した。

 

同時にジェラウドはイグジスタンスと共に多元地球へ向かうユーサーの安全をアウストラリスに願い出た。

 

 

「アウストラリス殿、どうか殿下を…」

「共に戦う同志を見捨てる事はせん、無事に返すと約束しよう。」

 

 

 

話し合いを終えた私達はクロスゲートから多元地球へと帰還。

 

反撃の狼煙となる戦いへ向かう為に散っていた他のスフィアリアクター達と連絡を取り集結。

 

総勢十二人のスフィアリアクターの出陣。

 

それがあの様な結果を生み出す事になるとは思いもよらなかった。

 

 

=続=





暗躍の果てにそれは共鳴した。

楔は切り離され解き放たれた。


次回、幻影のエトランゼ・第百七話『共鳴《キョウメイ》中編』


始めよう。

反逆の狼煙を。


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第百七話 『共鳴《キョウメイ》中編』


破界する者に躊躇いはない。

あるのは前に進むだけ。

その先にある障害が何であろうとも。

歩みを止める事はないだろう。


 

前回、ユーサー皇子より協力関係を結べたイグジスタンス。

 

その条件の一つとしてインぺリウムに囚われている二名のハイナイトの奪還を行う。

 

シュバル・レプテールとマルグリット・ピステールの救助を行う為に私達は…

 

総力戦になると踏み、リアクター機での出撃を決行。

 

流れではインぺリウムがZEXISとZEUTHの混成部隊と激突する。

 

その真っ只中に私達が介入し入り込む事となっても…

 

 

******

 

 

現在インぺリウムの軍勢はニューヨークにある国連本部に移動。

 

そこでエルガン代表は現在のインぺリウムの無法行為の停止を求めたが…

 

逆に執政官のシオニーは国連安全保障理事会のエルガン代表らに要求を行っていた。

 

インぺリウムを国として認めよと…

 

 

「ミス・レジス…国連は現在、インぺリウムを国家として承認していません。」

「外務調停次官、国際紛争の調停役である貴方にしては無礼ではありませんか?」

「え…?」

「私はシオニー・レジス筆頭執政政務官です。こう言った場所では互いに役職で呼び合うのがマナーですよね?」

「国家として認めていない組織の役職など、国際社会では何の意味も持たん。」

 

 

外務調停次官の動揺を余所にエルガンは姿勢を崩さす反論する。

 

 

「他者の自由を踏みにじり、自己の欲望だけを押し通そうとする者に権利を主張する資格はない。」

「なら、三大国家にそれを言う資格はございまして?」

「?」

 

 

エルガンの言葉にシオニーは答える。

 

 

「三大国家も裏で同じ様に他者の自由を脅かしていたのは事実でしょう?」

「…」

「特に神聖ブリタニア帝国や人革連もそれに該当するではありませんか?」

 

 

ブリタニア・ユニオンとして国が纏まる前のブリタニアは国を侵略し植民地を増やし続けてきた。

 

人革連は秘密裏に超兵と呼ばれる強化人間を開発していた。

 

 

「AEUも各地の紛争地帯も己の自由を守る為に小国同士が団結し虐げられた者達によるテロは収まらない。」

 

 

AEUも自由を奪われない様に小国同士が纏まる必要があった。

 

各地で紛争を行う者達も己の自由を勝ち取る為に武器を捨てる事が出来ない。

 

それも他者の自由を奪う行為ではないのかと告げた。

 

 

「この世界は壊すべきなのですよ。あなた方の泥濘に嵌った様な平和と秩序を振り払う為にも…」

 

 

薄氷の上に築かれた秩序は長くは続かない。

 

何処かで破壊し新たな秩序が必要なのだとシオニーは答える。

 

それは守れなかった美しい故郷の為の罪滅ぼしなのだろう。

 

 

「…この国連本部を次元獣に襲撃させるのか?」

 

 

シオニーの話で察したエルガンは答えた。

 

だが、シオニーの答えは更に上を行っていた。

 

 

「私の怒りが国連本部程度で収まるとでも?」

「…」

「ブリタニア・ユニオンも慌ただしい様ですしね。いい機会ですので…」

 

 

この大陸の10%程は灰になって貰うと答えた。

 

 

「三大国家と正面から戦うつもりなのですか!?」

 

 

外務調停次官の言葉も最もだが、それが出来てしまうのが今のインぺリウムだ。

 

インぺリウムの次元獣の脅威は既に全世界に周知済み。

 

この行為にZEXIS若しくはイグジスタンスが動かなければ止まる事はないだろう。

 

正に滅びの一歩手間である。

 

 

「言った筈です。我々の自由を侵害する者は武力を以って排除すると?」

 

 

シオニーは例の如くアレをエルガンに強制させた。

 

そう土下座である。

 

エルガンは少し考えた後に土下座を行った。

 

それはこの状況を収める為の対応であり、グダグダと子供じみた行動をするシオニーには理解出来なかっただろう。

 

今まで安寧の立場に居た相手を屈服させたと思い込んでいる内は…

 

この時、執政室の扉を乱暴に蹴り破る存在が訪れた。

 

 

「よう、随分とつまらねえ事しているな…女?」

「ガイオウ様…!!」

 

 

シオニーが次なる要求を答える前に現れたのはガイオウ。

 

ガイオウの登場に対し外務調停次官は驚きの声を上げた。

 

 

「この会談は厳重な警護の下で行われている筈…一体何が!?」

「警護ぉ…あんなので守っていたつもりだったのか?」

 

 

次官の言葉にガイオウは呆れた声で答える。

 

 

「けっ、準備運動にもならねえよ。」

「…」

 

 

ガイオウの発言に対し、外務調停次官は言葉を発する事が出来なかった。

 

彼で言う厳重な警戒態勢をガイオウは意図も容易く突破した。

 

一言で言えば今回ばかりは相手が悪すぎた。

 

ガイオウは銃弾程度で止められる様な相手ではない。

 

世界に喧嘩を売った相手が尋常ではない存在であると理解出来ていなかった為に…

 

 

「ひ、控えなさい!この方は新帝国インぺリウムの統治者、破界の王であるぞ!!」

「今はガイオウと名乗っているがな。」

「破界の王…ガイオウ…そうか。」

「ん?」

 

 

エルガンの発言に気づくガイオウ。

 

 

「リモネシア共和国から事の詳細は届いていたが…」

「お前…何だ?嫌な臭いがしやがるな…」

「…」

 

 

無言のままになったエルガンに対し外務調停次官が対応に動いた。

 

 

「ミスターガイオウ、貴方はインぺリウムの指揮官として…この会談に出席したのですか?」

「そんな所だ、そっちの女が…あんまりにもノロクサしてやがるんでな?」

 

 

要はしびれを切らして暇つぶしにも訪れた様な口振りだった。

 

 

「ガイオウ様…!私は筆頭執政官として…」

「黙ってろ。」

「ひ…」

 

 

シオニーは正当性を伝えるもガイオウの一言で縮こまったペット状態へと陥った。

 

 

「アイムの奴がお前を使うって決めた以上、俺に文句はねぇ。」

 

 

ガイオウは面倒事を力で抑える形で答えた。

 

 

「だが、俺の邪魔になるんだったら…殺すぞ?」

「は、はい…!」

 

 

ガイオウの視線は躊躇いはないと告げている。

 

反論すれば命はないと判断したシオニーは口を閉ざした。

 

様子を見つつエルガンはガイオウに質問を行った。

 

 

「では、ガイオウ…そちらの望みは何だ?」

「政治やら外交やら何て言う面倒な事は止めようって話だ。」

 

 

様は見え透いた懐柔案は止めろと遠回しの回答。

 

 

「俺は闘う為に、この世界に来た。」

 

 

ガイオウの答えはシンプルに戦う事だけ。

 

 

「俺は気の向くままに闘う。」

 

 

自身を止めたければ、暗殺でも奇襲でもなんでもすればいいとガイオウは伝えた。

 

 

「そっちの女みたいなやり方はしねぇし…向かって来た奴らは、その場で殺って終わりだ。」

 

 

ついでにお礼参りは省くと答える。

 

 

「事実上の宣戦布告と言う訳か…彼らやあの国はどう出るかな?」

「彼ら?あの国?」

「ZEXISと再生したリモネシア共和国だ…彼らはお前の侵略に対し立ち向かうと話しているが?」

 

 

エルガンの発言にガイオウはニヤリと口を歪ませた。

 

 

「成程な…俺と言う面倒事は奴らに押し付けるって腹か?」

「…」

「いいぜ?」

「!?」

「特にイグジスタンスの奴らは骨がある連中ばっかりだ…いい闘いになりそうだ!」

 

 

エルガンは並行世界の同一人物であるAGとの共振でイグジスタンスの異常性を伝えられていた。

 

同時に現時点で確実にガイオウを止められるのはイグジスタンスであると…

 

しかし、今回の一件ではZEXISがガイオウを打ち倒せなければならない。

 

力を示せと答えたイグジスタンスの真意はそこにある。

 

他力本願では力を貸す所か、これから惹き起こされる災厄に立ち向かう事は出来ない。

 

恐らくは様子見の末に彼らも知らない異常があれば、イグジスタンスはココへ訪れるだろう。

 

AGからの言葉もあったが、エルガンはガイオウの発言がハッタリではない事を確認する為…

 

懐から抜いた。

 

 

「ならば…!」

 

 

エルガンはZEXISが戦うべき戦場に誘う為に…ガイオウを拳銃で撃った。

 

 

「エ、エルガン代表…会談の場で何と言う事を!」

「これでインぺリウムを倒せるのなら、全ての責は私が負う!!」

「いい覚悟だ。おまけに思い切りもいい。」

 

 

当然の如く、拳銃の弾程度で倒れるガイオウではない。

 

ガイオウは避けもせずに放たれた弾丸を指先で掴み取り、ゴミの様に潰して床にポイっと落とした。

 

その様子に外務調停次官も顔を青褪めさせていた。

 

 

「そんな…銃弾を素手で…!?」

「言ったろ?こんなもんじゃ俺は取れんってな。」

「暗殺、奇襲…そんなものではお前を倒せんようだな?」

 

 

あくまで確認のつもりだったのだろう。

 

エルガンはガイオウの言葉の真意を改めて知り答えた。

 

 

「宣言通りに私をこの場で潰すか?」

「そんな気はねえな。」

 

 

ガイオウはエルガンの覚悟に答える。

 

 

「お前は銃を撃つより、兵を動かす方が本職らしい。」

「ここに出し尽くせる最高戦力を集結させ、お前と戦えと?」

「そう言うこった、お前の得意なやり方で来い。」

 

 

最後に『それを潰す方が、ずっと意味がある』と意味深くガイオウは伝えた。

 

それは絶望の始まりであり希望の終焉を意味していた。

 

だが、エルガンは何かを察して静かに答えた。

 

 

「…承知した。」

「言いたい事はそれだけだ…じゃあな。」

 

 

ガイオウは伝える事を伝え終わると動揺するシオニーを連れてその場を去って行った。

 

 

「破界の王ガイオウ…我々が超えなければならない災厄的存在か。」

 

 

この会談の後、インぺリウムが戦いの場に指定したのはサンクキングダム。

 

かつて世界平和主義を謳い、世界のあるべき姿を模索した国。

 

本来はハスミらが住まう世界にあった国家だったが、次元震によって国家ごと切り取られ行方知れずとなっていたが…

 

この多元世界に転移しAEU領域の一つになっていた。

 

現在はトレーズが代表を務めるコロニー連合と同盟を結び地上におけるOZの拠点と化していた。

 

勿論、国の在り方である平和主義を貫いているので独自兵力は定められた規定配備しかなく…

 

その多くがコロニー連合から選出されている。

 

元の世界に戻れた場合の措置も含めてトレーズとサンクキングダム代表のリリーナが決めた取り決めでもある。

 

マリーメイアの一件もあったのでリリーナ本人も平和の在り方をまだまだ模索している最中でもあるが…

 

 

「いいだろう、インぺリウム。」

 

 

エルガンはインぺリウムの挑戦を受ける構えを取った。

 

そして指定日時にZEXISとZEUTHの混成部隊はサンクキングダムへ集結。

 

決闘の火蓋は切られようとしていた。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

フランス・パリに支部を置くOZの執務室にて。

 

地上へ下りていたトレーズがブリタニア・ユニオンのシュナイゼル・エル・ブリタニアと通信を行っていた。

 

 

『…インぺリウムによるサンクキングダム攻撃に対しAEUはどう動く?』

「あの国はAEUにとって外様扱いだ。AEU総裁は遺憾ながら、サンクキングダム首都の放棄を決定したよ。」

『貴方の部下のライトニングバロンはそれを良しとするかな?』

「それについては彼に一任している。それにピースクラフトの名は妹に譲り…彼は影で支える事を決めた以上は口出し不要だよ。」

『では、彼に道案内をお願いしたいのだが頼めるかな?』

「了解した。いい兵を送ってくれる事を期待している。」

『済まないな…代表。詳細は…後程連絡する。』

 

 

シュナイゼルはそれだけ伝えると通信を切った。

 

 

「事の次第は流れのままに…彼女の情報通り、か。」

 

 

トレーズは目を伏せて言葉を紡いだ。

 

 

「今回も彼は貴方の同志なのか?」

「表向きは…ユーサー殿下との対談に向けて動く為にも必要だと思うが?」

「必要な手段である以上は此方からは何も言えない…特にサイデリアルいやイグジスタンスの動きが判らない以上は。」

 

 

執務室に供えられた客間スペースから話す二人の人物。

 

 

「アムロ・レイ、シャア・アズナブルいや…その姿の場合はクワトロ・バジーナと呼んだ方がいいかな?」

 

 

トレーズはシャアの偽名であるクワトロに呼び直した。

 

その対応に答えるクワトロ。

 

 

「出来れば、そうして貰えると助かる。」

「トレーズ代表、貴方は今後どうするつもりだ?」

「彼女の示した時が訪れるまでは道化を演じさせて貰う、それが彼女との約束でもある。」

「彼女?」

「君達が良く知る人物だよ。女神様と呼んだ方が良いかな?」

「…」

「その彼女からの連絡は?」

「予定通り、インぺリウムのサンクキングダム襲撃に乱入するそうだ。」

 

 

トレーズは説明する。

 

サンクキングダムで彼女達は対峙する。

 

この世界も喰らい尽くそうとする魔獣の兆しが現れた。

 

星座は集う。

 

そして…

 

彼の意思もまた現れると答えた。

 

 

「君達はどうする?」

「俺達も様子見をしたいと思っている。」

「我々はまだ答えを出し切れていない…彼女の真意を掴むまでは。」

 

 

アムロとクワトロは前回と同様にZEXISと合流せずに様子見の構えを取った。

 

だが、彼らはこの判断を誤った。

 

往くべきだった戦場に赴かなかった事を…

 

後悔しても遅い事を認識するのだった。

 

 

=続=

 

 





逸脱した現象。

定められた事象。

それらが根本的に覆される。


次回、幻影のエトランゼ・第百七話『共鳴《キョウメイ》後編』


個は融け合い。

たった一つの意思へと変換される。


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第百七話 『共鳴《キョウメイ》後編』


割れた欠片は一つへと戻る。

あるべき姿へと。

それは願いの先に求められた姿なのだろうか?


ZEXISとZEUTHのメンバーがインぺリウムによるサンクキングダム襲撃に備えて出撃した頃。

 

私達は予定通り、リアクター機での出撃を決行。

 

そうしなければならない事態が差し迫っていた。

 

リモネシア共和国にはイグジスタンスの部隊が防衛の為に待機。

 

鋼龍戦隊は別区域で出現したラマリスの討伐に向けて出撃。

 

多元地球における各所の座標表は既に構築済みなので、何かあれば空間転移で合流する予定である。

 

 

******

 

 

リモネシア共和国、政庁最下層・遺跡内部にて。

 

クロスゲートが安置された場所でイグジスタンスのリアクター機…

 

並びに協力体制を取っているリアクター機が勢揃いしていた。

 

開口一番にクロウがハスミに尋ねていた。

 

 

「しっかし、そのエンデって奴が動き出したのは本当なのか?」

「ええ、間違いありません。」

 

 

因みにエンデの姿と大きさは大雑把であるがスフィアを使ってこの場の全員に知らせてある。

 

大体こんな感じの奴って風に…

 

まあ、大体は驚かれたが耐性が付いているとそうでもないらしい。

 

 

「…(問題はこの件に無限力が手を出していた事。」

 

 

この件に関してはインサラウム皇国と同盟を結んだのが切っ掛けではない。

 

既にエンデによって多元地球はターゲットの一つにされていたらしい。

 

アイム…いや間接的に御使いがインサラウム戦で引き起こした大時空振動は多大な影響を及ぼしていた。

 

それがエンデにとって良き餌場を発見させてしまう結果となったのだ。

 

 

「ランドさん、セツコ、申し訳ないのですが…」

「ZEXISとZEUTHの危機って言うんなら仕方ねえよ。」

「サンクキングダム。あの国がまた戦火に晒されるなんて…」

 

 

緊急事態に付き招集に応じてくれたランドとセツコ達。

 

インぺリウムの他に脅威が現れると発覚した以上、協力は惜しまないと告げてくれた。

 

 

「ハスミ、急ぎ…サンクキングダムへの転移を。」

「了解。」

 

 

ハスミはアウストラリスに促されて転移の準備を進めた。

 

この地に安置されたクロスゲートだが、次元転移が限定的である事以外は空間転移に支障はなかった。

 

よって、黒の騎士団のゼロが危惧した『転移による奇襲戦法』が幕を開ける。

 

 

~数時間後~

 

 

サンクキングダムはAEU上層部の判断によって見捨てられたものの…

 

前もって国民達はトレーズとリリーナの指示によって避難命令を受けていた。

 

それにより民間人は既に退避完了の末、残っているのは国防の任を受けたOZの部隊だけである。

 

その部隊もZEXISとZEUTHの混成部隊の邪魔にならない様に撤退。

 

文字通り、決闘の場と化した場所にには混成部隊とインぺリウムの軍勢のみとなった。

 

希望と絶望が戦い合う中で介入する存在もまた現れた…

 

 

「けっ、誰だよ…俺達の闘いに水を差す馬鹿野郎は!」

 

 

ガイオウの憤慨振りからして奴の仕業ではない。

 

記憶を持つ者達もまた同じであり、現れた軍勢に見知った存在が混ざっていた為である。

 

 

「あれは!?」

「キラさん!アスランさん!」

「彼らは…!?」

「…(まさか、例の魔従教団の他にガーディムも介入しているのか!?」

 

 

ZEUTHの側のガンダムチームであるシン達の発言。

 

アールヤブは兎も角…

 

ルーンゴーレムに関しては他の仲間達からの情報であるが、実際に見るとでは違う。

 

 

「次元獣だけでも厄介だってのに、このままじゃジリ貧だぜ!」

「小父様にも会えていないのに…!」

 

 

桂とアテナの二名も乱戦と化しつつある戦場に不安の声を上げた。

 

続く戦いに新たな火種。

 

新たな介入者によって混成部隊の危機が加速すると思いきや、兆しは平等に齎された。

 

 

「この反応は…!?」

「おいおい、マジか!?」

 

 

ヒイロとデュオの発言に反応する刹那とロックオン。

 

 

「何が遭った!」

「また何か起こるってのか!?」

 

 

その答えを告げるトロワとカトル。

 

 

「これはクロスゲートの反応だ…!」

「はい、間違いありません!」

「!?」

 

 

この事にゼロも反応。

 

イグジスタンスとの会談でクロスゲートの件を聞いていた為である。

 

それが反応すると言う事はクロスゲートの先から転移者が現れる事を指していた。

 

そして…

 

巨大な円形のゲートが戦乱渦巻く上空に出現し降り立つのは星座の加護を持つ戦士達だった。

 

 

「あれは!?」

「まさか!」

 

 

記憶を持つ者達は口々に答えた。

 

その中に見知った機体や初めて遭遇する機体や戦艦の姿があった為に。

 

流れは変わりつつある。

 

 

「来やがったか、重ぇ腰を上げてよ…!」

 

 

ガイオウもまたこの光景に歓喜していた。

 

狙っていた獲物が雁首揃えて現れたのだから…

 

 

「こりゃ…またえらい騒ぎになってやがるぜ。」

「うん、次元獣の他に見た事がないのも混ざってる。」

 

 

巨大な工具を抱える獅子、ガンレオン。

 

 

「前は間に合わなかったけど、今度こそ…」

 

 

稲穂の束を抱える乙女、バルゴラ・グローリー。

 

 

「相変わらず、上の目線かよ…インぺリウム。」

 

 

常に公平で平等たる天秤、ブラスタ。

 

 

「本当にバアルも懲りないね。」

 

 

黒き旅人が持つ夢の双魚、シュロウガ。

 

 

「大盤振る舞いに敵数が多いねぇ、倒しがいがある。」

 

 

黄金の戦艦はまるで牡牛、プレイアデス・タウラ。

 

 

「…」

 

 

冥府の大河より現れた巨蟹、尸逝天。

 

 

「騒々しい事も含めてさっさと終わらせてあげるよ。」

 

 

猛毒の針を携えた深紅の天蠍、アン・アーレス。

 

 

「ヒビキ、ぬかるなよ?」

「判っている。」

 

 

何処か似て異なる紫と蒼の双子、ジェミニアとジェニオン。

 

 

「シュバル、マルグリット…」

 

 

王冠を掲げる白き宝瓶、聖王機ジ・インサー。

 

 

「転移は無事完了、状況は変わらず混戦状態です。」

 

 

英知をその身に綴る山羊、念神エクリプス。

 

 

「…最悪の状況を防げた事に変わりはない。」

 

 

全てを射貫く闘志を秘めた射手、蒼雷迅。

 

 

「だが、脅威が去った訳ではない。」

 

 

それぞれが語った後に締めくくったのはイグジスタンスの代表アウストラリス。

 

イグジスタンスの総戦力がここへ投入された。

 

それはある意味で脅威であると伝えるには十分な光景だった。

 

 

「ハスミ、この状況はやはり…」

「ええ、例の悪食の仕業で間違いないでしょう。」

 

 

アウストラリスはハスミに確認を取った後。

 

悪食と呼んだ相手が嗾けた存在に眼をやった。

 

乱戦と化した戦場に現れたルーンゴーレムとアールヤブ。

 

狙いはこの戦場で戦う者全てである事は間違いない様子だった。

 

 

「セツコさん!」

「…久しぶりね、シン君。」

「どうしてイグジスタンスに!」

「貴方達に危機が迫っているって聞いたのよ…事情説明は受けているわ。」

「…」

「俺らもセツコとおんなじだ。」

「うん、助けに来たのはホントだよ。」

 

 

セツコのバルゴラ・グローリーとランド達のガンレオンを出現したイグジスタンス側の陣営で目視したシンからの発言。

 

 

クロウのブラスタの姿を目視した刹那達ソレスタルビーイングもまた彼に声を掛けた。

 

 

「クロウ、何が遭った?」

「ちぃとばかし、ややこしい事があってな…結果がこの状況って訳だ。」

「それがイグジスタンスの戦力か?」

「もっと解りやすく言えば、総戦力…が正しいぜ?」

「あれが総戦力!?」

「たった一部隊だぞ!」

「そいつは実際に見てっから言った方がいい。」

 

 

クロウは何時もの様子と打って変わって冷静に答えた。

 

 

「ハスミ、クロスゲートを使える様になったのか?」

「…今の所、限定的だけどね。」

 

 

クロスゲートを目視したゲッターチームから質問されたハスミ。

 

ある意味で限定的である事だけを伝えた。

 

 

「しっかし、どうやって…」

「こちら側にもクロスゲートが存在していたのは幸いだったわ。」

「つまりそれを見つけたって事か?」

「そう言う事。」

 

 

その発見方法。

 

使用方法は限定的。

 

間違ってはいない。

 

それも真実であるから。

 

 

「それに…インぺリウム以上の脅威がこの場に現れる事を知ったから介入の形を取ったのよ。」

「次元獣の他に現れた奴らの事か?」

 

 

ハスミは通信越しで正解の相槌を取った。

 

 

「あれもバアルの一種と見ていいわ。」

「厄介な野郎の次は厄介な相手の登場って訳か。」

 

 

長々と話をするつもりはない。

 

 

「よう、俺らの挑発を散々無視しやがった癖に…何の気まぐれだ?」

「気まぐれ…と思うか?」

「?」

「貴様も、いい加減本来の目的を思い出せぬか?」

「目的?そうかよ…やっぱりテメェは俺の過去を知ってやがるな!?」

「だとしたら?」

「俺達が言葉を交わすのなら闘いだ…俺の中のソレがそう叫んでいる!!」

「…よかろう。」

 

 

ガイオウとアウストラリスの会話。

 

この会話を聞いていたエルーナは『面白そうなのにね。』と参戦出来ない事を愚痴っていた。

 

大事な所を弁えるのは彼女らしい。

 

 

「ガイオウ達の相手は俺とユーサー、クロウで行う。」

「残りは新手の相手を?」

「頼む。」

「判りました、数も多いですし…油断は出来ませんからね。」

 

 

アウストラリスはハスミらに指示を与えた後、ある行動へ移した。

 

 

「ZEXISとZEUTHは引き続きインぺリウムの相手をせよ!現れた軍勢は此方が引き受ける!!」

 

 

イグジスタンスは出現したルーンゴーレム、プラーマグの混成大群へ各機攻撃を仕掛ける。

 

その中でインぺリウム側へ残ったのは蒼雷迅、聖王機ジ・インサー、ブラスタの三機。

 

 

「イグジスタンス、協力に感謝する。」

「聞いたわね、今の内に私達も続くわよ!」

 

 

ジェフリーの感謝の言葉とスメラギの戦術指揮が混成部隊へ指示された。

 

 

「さぁて、ひっさしぶりの大群だ!派手に撃たせて貰うよ!!」

 

 

プレイアデス・タウラの一斉掃射から始まり。

 

 

「お前達の逝くべき場所へ…」

 

 

尸逝天から出現する死骸によって喰い尽くされ。

 

 

「こうも大群だと骨が折れるけど…ウザ晴らしには丁度いいね。」

 

 

アン・アーレスのシックルに絡め捕られ召喚兵装によって破壊。

 

 

「バルビエル、援護はこちらで!」

 

 

撃ち漏らした相手をバルゴラ・グローリーが的確に撃墜し。

 

 

「こっちの固てぇのは俺達が!」

「仕留めるよ。」

 

 

ガンレオンとシュロウガのペアがルーンゴーレムを。

 

 

「俺らも負けてられねぇな?」

「勿論!」

 

 

負けじとジェミニアとジェニオンの連携攻撃。

 

 

「…(異形を断ち切る呼吸は鋼!」

 

 

鋼の呼吸を整えたエクリプスは刀を構えて大群に一閃。

 

それぞれの攻撃が出現した大群を一掃。

 

だが、増援は止まらず動きを止めるのに呈する状況は続いていた。

 

 

「…予想以上にかなりの物量だよ。」

「私達を殲滅する為にそれなりの軍勢を送っています。」

「よっぽど僕らの持つスフィアを恐れているんだね。」

 

 

エルーナの状況説明に答えを示すハスミ。

 

奴らの目的が自分達のスフィアである事を事前に聞かされていたバルビエルは嫌味を告げた。

 

スフィアの言葉を聞いたZEUTHのメンバーは口々に答える。

 

 

「スフィアだって!?」

「まさかランドさんやセツコさん以外に!」

 

 

ジロンやゲイナーの当然の反応だろう。

 

今回の破界と再世の戦乱でZEXISとZEUTHのメンバーが知れるスフィアは牡羊座、天秤座、水瓶座、山羊座、魚座の五つ。

 

その前の空白事件で出現した獅子座と乙女座の二つである。

 

変異によって他のスフィアがこの場にある事も無限力の御遊びが関わっていた。

 

この混乱状態でスフィアを集結させたらどうなるか?

 

その結果を見たいが為に…

 

 

「しかし…スフィアの気配は!」

 

 

この件に関してはアイムも想定外だっただろう。

 

彼の驚愕した声がそれを物語っている。

 

 

「…単に気配を出していないだけだ。」

「偽りが十八番だった君でも判らないだろうね?」

「…っ!」

 

 

尸空とアサキムが挑発めいた発言をアイムに向けた。

 

 

「アウストラリス、もうバラしちゃってもいいよね?」

「構わん、どの道…この場の誰もが知る事だ。」

「…(もう少し先延ばしにしたかったのですが、サプライズには丁度いいでしょう。」

 

 

エルーナらはアウストラリスの了承を得たのを期に自己紹介を兼ねて答えた。

 

ハスミ自身はスフィアの件を先延ばしにする予定だったが、これ以上は誤魔化し切れないと悟って流れに沿った。

 

 

「んじゃ改めて、アタシはエルーナルーナ・バーンストラウス…欲深な金牛のスフィアリアクターだよ。」

 

 

エルーナさんの自己紹介で通信越しにバッファローとかホルスタインとか言ってる桂さん。

 

うん、判っていたけど自重しよう。

 

どうせ、戦闘終了後にアテナにセクハラ撃沈の平手打ち喰らう予定だし。

 

 

「僕はバルビエル・ザ・ニードル、怨嗟の魔蠍のスフィアリアクターさ。」

「…」

「そこの無口なのは尸空。」

「俺が持つのは…沈黙の巨蟹。」

 

 

まあ、尸空さんなりの自己紹介なのかな?

 

気配を感じ取れるタケル辺りには警戒されているけど…

 

 

「んで、俺はガドライト・メオンサム…こっちは。」

「ヒビキ・カミシロです。」

「俺ら二人でいがみ合う双子のスフィアリアクターだ。」

 

 

アルトや刹那の驚き様には同意して置く。

 

流石に一つだったスフィアが二つに分かれている状態に驚くのも無理はない。

 

ちなみにアルトも記憶を持っているで確定っと。

 

 

「ランドさんの傷だらけの獅子にセツコさんの悲しみの乙女…これで六つ。」

「僕も忘れて貰っては困るよ?」

「アサキム…!?」

「僕自身もスフィアリアクターとして目覚めた…今は夢見る双魚のリアクターだよ。」

「マジかよ、スフィア狙いだったアサキムも!」

「うそでしょ!?」

 

 

合流したグランナイツのエイジや瑠菜も驚きの連続を強いられた。

 

 

「リアクター同士は惹かれ合う…情報通りだった。」

「クロウさん?」

「俺もそのスフィアの持ち主らしい……揺れる天秤って名のな?」

 

 

知る者は事前に知っていたが、記憶を持たぬ者は初耳の状況だった。

 

 

「じゃあ、流れならそっちの二人も?」

 

 

カレンらはアウストラリスらの方へ眼を向けた。

 

 

「余の名はユーサー・インサラウム…破界の王ガイオウによって国を滅ぼされたものだ。」

「…」

「アウストラリス殿の協力で今は一君主ではなく一人の戦士としてここにいる。」

 

 

救うべき臣下を救う為に訪れた事を告げるユーサー。

 

 

「余も尽きぬ水瓶のスフィアリアクターとして戦う。」

 

 

次々と現れるスフィアリアクター。

 

そして彼もまたその名を告げた。

 

 

「改めて告げる…俺の名はアウストラリス、立ち向かう射手のスフィアリアクターだ。」

「イグジスタンスの代表も!?」

「マジか!?」

 

 

イグジスタンス側のスフィアリアクターが総勢十一名の名乗り上げを行った。

 

こんな状況でもアイムは冷静さを取り戻してお決まりのポーカーフェイスで対応していた。

 

 

「アイム、これだけのスフィアリアクターだ…テメェの偽りの黒羊のスフィアでもどうしようもないだろう?」

「そうでしょうかね?」

「…」

「この場にいがみ合う双子のスフィアリアクターを寄越してくれた事には感謝します。」

「成程、二人を倒して奪うつもりか?」

「ええ、スフィアの相性は貴方も知らされていると思いますが?」

 

 

この期に及んでスフィアの相性で起死回生を狙おうとしていたアイム。

 

その心意気は認めよう。

 

だが、この場にいるスフィアリアクターの中で紹介を終えていない者が答えた。

 

 

「12の鍵がアリエティスへ集う…宣告通り、ね。」

「ハスミ・クジョウ……貴方も私が倒すべき相手です。」

「…」

「一度ならず再三の屈辱は忘れたとは言わせませんよ!」

 

 

脳味噌に血が上り過ぎてもね…

 

でもね、私が戦いたいのは貴方を隠れ蓑にして楽しんでいる輩だよ。

 

 

「指揮そっちのけで戦うと?」

「こちらとしても貴方を倒す事が出来るのなら儲けものです。」

 

 

乱戦と混戦の続く最中。

 

アイムは指揮すべき部隊を放置し単独でこちらと戦う意思を見せた。

 

 

「…(あの人だったら『判断が甘い!』って言っただろうな。」

 

 

御山の天狗様はさて置き。

 

この馬鹿は判断ミスをした。

 

正直に言えば、この場で機体にハンデのあるクロウさんを狙った方が勝算はあっただろう。

 

中身の存在が勝っても負けても面白ければそれでいい的な考えだからこそ至った決断か…

 

 

「手加減はしないわよ?」

「この期に及んで手加減ですか?それは…お優しっ!?」

 

 

余裕めいていたアイムの表情が歪んだ。

 

 

「言った筈よ、手加減はしないと?」

 

 

ハスミは気配と同様に氷の様に冷徹な声で答えた。

 

それは理不尽な行為を許さず、ただ戦いを楽しむ輩を嫌う性分から来る声だった。

 

 

「これは外さない、使えば最後……貴方が数秒で終わるから。」

 

 

ハスミは手甲の宝珠にはめ込んだリングを指先で軽く触れた。

 

純粋に自身の力だけで圧倒する為にスフィアの制限を掛ける。

 

 

「アイムの相手は私が、エルーナさん達は引き続き新手の迎撃をお願いします。」

「はいよ、そっちは任せた!」

 

 

場の空気を読み、質より量を取る選択をしたエルーナ。

 

他のリアクター達も何かを察したのか拒否する者は出なかった。

 

 

「協力者を求めなくていいのですか?」

「必要ない。」

「これは甘く見られたもので…」

「人の殺気で怯えていたのは何処の誰ですかね?」

「どこまでも…!」

 

 

これでも抑えている方なんですけどね…

 

もういいや。

 

 

「黙れ、フェイク野郎。」

「っ!」

「その三枚舌を引っこ抜いて細切れにするぞ?」

 

 

普段と違う言葉遣い。

 

怒りの頂点がMAXに至って上で更に氷点下に下降した。

 

この状態の上で口が悪くなるのもハスミの悪い癖の一つである。

 

 

「竜馬…これ拙いよな?」

「拙いの問題じゃねぇ…!」

「そりゃな、しかもボスの奴が泡吹いてるぜ?」

 

 

戦闘の最中。

 

元同級生で東城学園OB勢である甲児達も顔を青褪めさせた。

 

 

「久々に見たけどあの怒り様じゃ手が付けられないわね。」

「どういう事?」

 

 

さやかの言葉に反応するカレン。

 

 

「ハスミは軍に入る前は私達と同じ学園の生徒だったの。その頃にある生徒が彼女に難癖付けて…ある日に我慢限界を超えたの。」

「向こうが100%悪いの確実でな…ハスミの報復でその野郎は社会的抹殺の末に後日病院送りになった。」

「しゃ、社会的抹殺!?」

「オマケに病院送り!?」

「あー病院送りって言っても急性胃潰瘍(胃に穴レベル)に追い込んだ位だぜ?」

「十分怖いわよ!!」

 

 

隼人と武蔵のオチでカレンに続きダイガードのパイロットの赤木達が見事なツッコミを披露した。

 

 

「あの一件以降、学園じゃハスミにちょっかい出す奴はいなくなった。」

「ついでにその頃のボス達も更衣室の隠し撮りで極寒の山中に吊し上げの刑だもんな…」

 

 

余計なオチを付ける竜馬と甲児。

 

ボス達に関しては自業自得と言う事で放置。

 

 

「あのアイムって野郎…命があっただけでも奇跡になりそうだって事か。」

「だよな…」

 

 

次元のるつぼが原因で年齢に差が出てしまっている二人であるが、学園時代の息ぴったりのノリはまだ残っていた。

 

戦闘中に起こった雑談は置いといて。

 

本題に戻ろう。

 

 

「言葉通り…と、言う訳ですか?」

「…」

 

 

遠距離戦に持ち込み、ブラッティヴァインからの攪乱攻撃を繰り返すアリエティスはエクリプスへの猛攻を止めない。

 

近接戦闘は刀による戦闘を得意とするハスミに対して分が悪い。

 

インサラウム戦で手痛い反撃を喰らった事で近距離からの攻撃を控えているのだろう。

 

 

「あの時は油断しましたが、今度はやられませんよ?」

「…」

 

 

ハスミはアイムの出方を観察し余計な言葉は紡がなかった。

 

それをアイムは余裕がないと判断したらしい。

 

 

「それでは、一つ手品をお見せしましょうか?」

 

 

アイムはアリエティスのスフィアを発動させ、自身の幻影を作り出す。

 

偽りの黒羊は己を偽り相手を偽り世界すら偽る力。

 

同質のアリエティスと同じ幻影を作り出す事も可能であった。

 

 

「…」

「驚きの余り、言葉も出ませんか?」

「鬱陶しいと思っただけ。」

「貴方を困らせただけでも僥倖ですよ。」

「…」

「では、どれが私か判らないまま朽ちて頂きましょう。」

 

 

出現したアリエティスの幻影と幻影に紛れた本体からの総攻撃。

 

それらがエクリプスへと向けられるもハスミは静かに防御魔法を展開した。

 

 

「反転の月鏡。」

 

 

一度目の総攻撃はそれらで防げたが、次は無いとアイムが告げた。

 

 

「一度は防げても二度目は…どうですかね?」

「…」

 

 

ハスミはアリエティスからの攻撃が一瞬緩んだのと拍子に呼吸を整えた。

 

それは並行世界で培った人の世を乱す異形を断ち切る技術。

 

一撃必殺の剣技。

 

 

「鋼の呼吸・陸の型……弾鋼っ!!」

 

 

エクリプスから放たれる剣技は周囲に点在したアリエティスの幻影のみを切り裂いた。

 

 

「は…?」

「蠅みたいにバカスカ幻影を増やせばいいってものじゃない…ウザいにも程がある。」

 

 

アイムはハスミの発言が耳から通り抜けていた。

 

それ以上にある事に驚いているからだ。

 

アリエティスの本体以外の幻影を瞬時に判別し一掃したと言う点だ。

 

 

「…サイコドライバーを舐めるな!」

「まさか、在り得ない!?」

 

 

スフィアの影響下で人が感じ取れる認識全てを偽っている状況に驚愕するアイム。

 

 

「スフィアで偽りの力を発動させている…なのに全て一撃だと!?」

「そのスフィアは様々な認識に影響し偽りの現象を与えているのでしょう?」

「!?」

 

 

エクリプスの斬撃が油断したアリエティスに直撃し地面へ落下。

 

機体の喉元に刃先を向けてコックピットブロックを足蹴にするエクリプス。

 

 

「…何故そこまで知れたのか?」

「貴方はまさか…!?」

「本当の自己紹介がまだだったわね。」

 

 

ハスミは静かに答えた。

 

 

「私の名はハスミ・クジョウ、貴方が最も恐れている知りたがる山羊のスフィアリアクターよ。」

 

 

そこにあるのは、冷徹な視線の悪魔の笑顔。

 

ハスミの自己紹介でこの場に十三のスフィアリアクターが集った事が宣言された。

 

ハスミの爆弾発言で言葉が出ないZEXISとZEUTHの混成部隊。

 

それを余所にアイムは叫んだ。

 

 

「貴方がリアクター?ですが気配が!?」

「ああ、自分でスフィアの力を抑えていただけ……使ったら貴方を速攻フルボッコにしか出来ないし?」

 

 

寧ろ、文字通りに速攻で終わるからウザ晴らし出来ないもの♪

 

てへぺろ♪と内心で答えるハスミ。

 

 

「別にスフィアに頼らなくても…生まれつきアカシックレコードを見れるから必要最低限しか使ってなかっただけ。」

「…」

 

 

うーわーやりすぎたかな?

 

ものすっごく絶望した顔してるけど、別にいいよね?

 

あれだけの事件起こしてくれたし?

 

後、彼の中に潜んでいた『楽しみのピンク娘』は何だかピーピー泣きながら出て行ったよ。

 

ついでにあの娘…濡らしちゃってたからお風呂入った方が良いかもね。

 

 

「アイム、随分と面白れぇ事になってやがんな!」

「ガ、ガイオウ様…」

 

 

アウストラリス達と交戦していたガイオウ。

 

アイムの戦闘が一通り終わったのが判ったのか此方へ侵攻してきた。

 

 

「…そいつの相手はテメェには荷が重すぎるぜ?」

「何故ですか…!?」

「その女がガンエデンの巫女だからだ。」

「ガン…エデン?」

 

 

ガイオウの言葉に反応したアイム。

 

聞き慣れない言葉に動揺していた。

 

 

「…何者なのですか?」

「俺と同じ位の強さを持った連中って言えば解るか?」

「!?」

 

 

あんまり暴露されたくない情報なのですけどね。

 

ま、事情説明されてそうだから別にいいかな。

 

 

 

「イグジスタンスは全員喰い応えのある連中ばっかだぜ。」

「メインは最後に…と言う貴方の意思はどうしたのですか?」

「んなもん、俺の勝手だ。」

 

 

自由過ぎて清々しい位に。

 

逆に言えば気まぐれかしら。

 

 

「アイムの奴も碌に動けねぇだろうし…俺がテメェの相手をしてやる。」

「アウストラリス達との戦いはどうしたのですか?」

「それも後だ。」

 

 

どうしよう。

 

まあボコボコにしてもいいんですけど…

 

アウストラリスの反応はと…あ。

 

 

「ハスミ、遠慮は要らん………全力で仕留めよ。」

 

 

メッチャ不穏なオーラが醸し出しています。

 

これにはバルビエルも遠い眼でドン引きしているのですが?

 

 

「アウストラリスの奴………僕が言うのも野暮だけど、憎しみを通り越して嫉妬まみれだよ。アレ?」

「そうなの、バルビエル?」

「うん。」

 

 

セツコの言葉に答えるバルビエル。

 

 

「これは君への愛が重いのだろうね。」

「ユーサー皇子、それは言わないでください。」

 

 

余りの愛の重さを感じた苦笑い気味のユーサーがハスミに告げた。

 

 

「そりゃ、惚れた女に手を出されたんじゃ黙ってられない…よな?」

「…ええ、まぁ。」

 

 

そんなニヤ顔と憐みの眼で見ないでください、ガドライトさんにヒビキ。

 

 

「無駄話は終わりだ。精々楽しませろよ!!」

 

 

ガイオウはどこぞのガキ大将?何処のジャイアニズム?

 

二度目のもういいやをするわ。

 

 

「…うっさい。」

 

 

その場の全員が目玉をドコーや両目元をゴシゴシして二度見していた。

 

驚くのも無理はないだろう。

 

エクリプスは素早く動き、高笑いしていた次元将ガイオウの顎にアッパーを仕掛けたのだ。

 

文字通り玉座型次元獣のゲールティランから落下。

 

 

「人の事を物扱いしないで頂きたい。」

「…いい一撃だな。」

「これでも鍛えてますので。」

 

 

この様子に口元に笑みを浮かべたアウストラリス。

 

 

「流石は俺が認めた者、そうでなくてはな?」

「貴方はこの戦闘狂よりも律していますから…」

「俺との決闘で引き分けに追い込んだと言うのに、何を今更。」

 

 

アウストラリスの発言にリアクター勢が反応。

 

 

「ちょっとアウストラリス!それ初耳だけど!?」

「引き分けってハスミはお前に敗北しただろう!?」

「後で説明を求める……今は。」

 

 

エルーナとバルビエルの反応もそうだが、戦闘は継続中なので尸空が諫めた。

 

同時にアウストラリスの表情も険しくなった。

 

 

「あの新手共らの親玉のお出ましの様だ。」

「マジかよ!?」

 

 

戦場の空気の変わった。

 

世界が罅割れ歪む。

 

世界を食い破ろうとする魔獣の牙。

 

 

それらが差し迫ろうとした時、集ったスフィアは反応し始めた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

偶然にも重なりあった一つの意思によりスフィアは共鳴。

 

それは予想以上の力を生み出した。

 

惹き起こされたのは『事象』と始原神ソルの意思の『目覚め』である。

 

ソルの意思の元にリアクター達は文字通りスフィアによって異空間へ取り込まれた。

 

この現象が発生したのと同時に別地区でのラマリス掃討を終え空間転移で現れた鋼龍戦隊。

 

 

「何が起こったんだ?」

 

 

周囲が動揺する中でイルイが答えた。

 

 

「うん、お姉ちゃん。」

「イルイ、何か判るのか?」

 

 

状況を察したイルイはこくりと頷いた。

 

同時に何が起こったのかを理解出来る範囲でキョウスケらに説明した。

 

 

「お姉ちゃん達はソルに呼ばれたって。」

「ソルに?」

「…ソルとお話ししてくるから心配しないでって。」

 

 

イグジスタンスとインぺリウムの指揮官不在により、これ以上の戦闘継続は無意味だろう。

 

インぺリウムは介入したイグジスタンスの戦力によって軍勢は総崩れ。

 

この状況で同盟国を見捨てたAEUが介入したとしても無駄骨になるだろう。

 

事前にサンクキングダム一帯に張られた限仙境の結界。

 

それをハスミからイルイが引継いで維持している以上、外部の手出しは出来ない。

 

イグジスタンスの副官代表のティグリスはマイルズから提案を受けた。

 

 

「ティグリス殿、其方の当主達が戻るまでインぺリウム並びにZEXISに停戦を申し込みたいのだが…」

「マイルズ司令…こちらも双方の手出しが無い以上、その提案に同意したい。」

 

 

ティグリスとマイルズは事前に決められた取り決めの一つが必要な状況だと判断。

 

イグジスタンスと鋼龍戦隊はインぺリウムとZEXISに一時停戦の通信を送った。

 

ZEXISはZEUTHメンバーの事もあり同意。

 

インぺリウムは執政官であるシオニーの戦意喪失を受けて同乗していたカルロスが代理に同意の判断をした。

 

戦いは変異し史実もまた変異しようとしていた。

 

それは戦うべき相手が切り替わりつつある兆しなのだろう。

 

 

「シオニーちゃん、停戦と話し合いに同意してくれるよね?」

「…ええ。」

「じゃ、同意する件を伝えるよ。」

 

 

今の状況に呆然とするしかないシオニーは生気の抜けた声でカルロスに答えた。

 

 

「…(同意しなかったら意地でも止めていたけどね。」

 

 

カルロスの判断は間違いではない。

 

ここで彼らに敵対しても勝敗は確定している。

 

スフィアリアクターであるアイムが例の意思に取り込まれ…

 

引きずり込まれる形でガイオウも姿を消した。

 

同時に次元獣の動きも停止。

 

戦力に収めていたシュバルとマルグリットが離反し奪還された以上…

 

インぺリウムは戦力を失ったに等しかった。

 

 

「ハスミ・クジョウ…」

 

 

シオニーは、ぽつりと彼女の名を答えた。

 

 

「あれは覚悟を決めた眼。」

 

 

己の力を駆使し災厄に立ち向かおうとする姿勢。

 

例え、己が滅びを迎えると判ろうとも歩みを止めないだろう。

 

でなければ、単独でガイオウやアイムに戦いを挑まない。

 

ガイオウと同一の力を持つアウストラリスに認められた戦士。

 

ただ、ガイオウの力に縋る自分とは違っていた…

 

 

「きっと…いえ、私は既に負けていたのね。」

 

 

その後、サンクキングダムは限仙境の結界が展開した状態のまま。

 

事の次第が終わるのを待つ事となった。

 

同時に結界の外側では三大国家が漁夫の利を狙おうと軍備を集結させて待ち構える時間を与えるには十分だった。

 

逆にソレスタルビーイングのチームトリニティとPMCより離反したサーシェスがイグジスタンス不在を狙い…

 

殲滅行動へ移る為にリモネシア共和国に向かっていた。

 

 

=続=

 





逸脱した現象。

定められた事象。

それらが根本的に覆される。


次回、幻影のエトランゼ・第百八話『星喰《ホシグイ》』


これは余りにも変わり過ぎた運命。




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第百八話 『星喰《ホシグイ》』


古の記憶は蘇る。

超越した筈の始原神は語った。

真の敵の存在を。


前回の戦いの直後。

 

突如として世界が罅割れた現象。

 

その現象が停止しリアクターと名乗った者達とガイオウが別で出現した謎の異空間に閉じ込められた。

 

漁夫の利を得ようと軍を率いて侵攻して来た三大国家。

 

だが、限仙境の結界が展開されたサンクキングダムへの侵攻は誰一人として行う事は出来ない。

 

結界は星を守護する存在が生み出した結界だけに悪意ある者の侵攻を阻んでいる。

 

今は話し合いと言う場所が設けられた今の状況。

 

結界に守られた者達は出来得る限りの相互理解へ歩みを進めるだけだった…

 

 

******

 

 

一度、スフィアは一つに戻ろうとした。

 

だが、相互理解の末に別れて独立する道を選んだ。

 

相互理解は他者と他者が居なければ成立しない。

 

たった一つの孤独よりも共栄の道を選んだ…

 

それは、今まで眠っていたソルの中に芽生えた人としての意思だったのかもしれない。

 

 

「これがソルの知る記憶…」

 

 

ヒビキの開口一番の言葉。

 

今の今まで眠っていたソル。

 

スフィアの共鳴により目覚め、リアクター達に語り掛けた。

 

かつて起こった前回の十億と二万年前の大災害の記憶を…

 

経緯は今までと同じだったが、若干違う点がある。

 

それは四体のガンエデン達の介入だ。

 

 

「初代達の記憶を受け継いだ私でもここまでの規模とは思わなかったわ。」

 

 

ハスミもまた歴代のガンエデンの巫女達の記憶を引き継いでいる。

 

その中でソルの語った記憶と初代の記憶を照らし合わせた。

 

ソルの崩壊、早期による御使いの暴走、バアルの暗躍。

 

当時の大災害に抗った戦士達の末路…

 

 

「当時の俺やガイオウ…いや、ヴァイシュラバ達も奴らに抗ったが…」

「結果的には負けちまった。今更…思い出す事になっちまうとはな。」

 

 

先の戦いで殴り合いを繰り返したアウストラリスとガイオウ。

 

殴り合いの果てに消えた筈の記憶は蘇った。

 

今は真の名であるヴィルダークと記憶を取り戻したヴァイシュラバと呼ぶべきだろう。

 

同じくしてクロウらはアイムより事情を受けていた。

 

 

「で、テメェは憑りついた御使いの奴を欺く為に偽り続けたって訳か?」

「ええ、アリエティスの中のスフィアと共鳴した瞬間に奴らに眼を付けられてしまったので…」

 

 

アリエティスを建造し完成直後に前世の記憶に目覚めたアイム。

 

だが、完成と同時に御使いの『怒りのドクトリン』と『楽しみのテンプティ』に眼を付けられてしまい…

 

彼らを欺く為に自分自身を偽り続けなければならなかった。

 

何度も偽りを重ね重ねした結果…かつてと同じ末路を迎えた。

 

アイムの言葉は真実であるとハスミからのお墨付きを得たユーサーはアイムより謝罪の言葉を受けた。

 

前回の即死スレスレの攻撃が響いているのかハスミに対して少し後ずさっている。

 

 

「アイム・ライアード…」

「皇子、理由はどうであれ…貴方の国を再び襲撃してしまった事は間違いありません。」

「スフィアの反作用や能力の影響がどういうモノなのか余も理解している。」

「…」

「その沙汰はいずれ話し合おう。今はやるべき事を行う事が君への許しに繋がるだろう。」

 

 

敵すら許す愛情。

 

愛情の何たるかを識る事でユーサーもまたサードステージに上がれたのだろう。

 

逆にアイムも己の所業を忘れず世界を時に優しく偽り、愚かな神すらも欺く意思を貫く事を選んだ事でサードステージへ急成長を遂げていた。

 

定められた必然が今の状況を生んだかのように…

 

 

「ねえ、ハスミ。」

「エルーナさん、何でしょうか?」

「ここに居るのって全員リアクターだよね?」

「まあ…一名違いますけど。」

「何でそうなる訳?」

「単にソルが話をしたかったから呼び寄せたのでは?」

 

 

確かにリアクターを除けばガイオウは例外である。

 

ヒビキやガドライトさんの様にスフィアが二つに分かれた状態で所持している例外を除けば…

 

 

「もしかして…?」

 

 

ハスミはガイオウを引き入れた理由をソルに問質した。

 

その答えにソルはとんでもない事を告げた。

 

 

「ガイオウを引き入れたのは新たなスフィアリアクターへ!?」

 

 

ソルを構成する定義はどこ行ったの!?

 

 

「はぁ!?」

 

 

これに関してはガイオウも驚愕顔である。

 

ソルは理由を語った。

 

 

「えっ…成り立ちが変異した?」

 

 

この件に関してはヒビキの発言に同意したい。

 

ソルを構成していたのは…

 

ソルの記憶である黒の英知。

 

ソルの心を司るスフィア。

 

ソルの外観である黒い太陽。

 

ソルの内観であるプロディキウム。

 

ソルの姿たるヘリオース。

 

この五つが構成してソルは顕現していた。

 

だが、ソルは生まれた瞬間に己の在り方と御使いに反旗を起こして崩壊。

 

崩壊後も己の残骸が利用される末路を辿った。

 

ソルは前回と同じ末路を犯さない為にある手段を取った。

 

 

「それがソルが起こした反旗の結果だったと?」

 

 

アウストラリスもこれには気難しい表情をしていた。

 

ソルは十二のスフィアがリアクターと再会し集結した時に復活する様に仕掛けを施して置いたらしい、

 

ややこしい事にリアクター全員がサードステージに上がっている事が条件かつトリガーだったとの事。

 

 

「よくもまあ…今まで御使いの連中に気が付かれなかったな?」

「巧妙に隠されていた…」

「…それしかねえか。」

 

 

同じくソルの行動に反応するクロウと尸空。

 

 

「ソル、それなら私を選んだ理由は?」

 

 

この場に居るリアクターの中でハスミだけは初回である。

 

ソルはガンエデンの末裔で在りアカシックレコードと最も近しい存在である事を理解した上で…

 

流れ流れでその子孫に行きつくように動かしたとの事だった。

 

 

「成程…(別のリアクター候補の元に渡るよりはと考えた結果だったのね。」

 

 

話を戻し…

 

ソルは自身を崩壊させる時に惑星エス・テランに残される筈だった黒い太陽、プロディキウム、ヘリオースをそれぞれのスフィアに分解し融合させ隠した。

 

黒い太陽=風のエレメントを持つ星座。

 

プロディキウム=火のエレメントを持つ星座。

 

ヘリオース=水のエレメントを持つ星座。

 

それらを封印する楔として地のエレメントを持つ星座。

 

いずれかのスフィアが悪用された場合の保険として最後のスフィアが生まれた。

 

 

「そいつが俺に託すって言うスフィアか?」

 

 

ガイオウに託すのは、彼の誰にも縛られず自由である意思に惹かれたからだと言う。

 

 

「それぞれのスフィアでソルの神骸を隠した…確かに理に適っている。」

「ハスミ、どういう事なの?」

「セツコ、これはね…」

 

 

黒い太陽はソルの外観、風のスフィアで巻き上げ覆い隠す。

 

プロディキウムはソルの中身、火のスフィアで燃やし力を奪う。

 

ヘリオースはソルの姿、水のスフィアで輝きを屈折させ打ち消す。

 

そして地のスフィアは生命を生み出す豊穣で他のスフィアへ力を与える。

 

若しくは鎮めの力として効力を発揮している。

 

 

「こうやってある法則に当てはめるとしっくりくる。」

「それって…前に話していた星座の法則の事?」

「他にも色々な分野に当てはめたりはしているけど根本的な考えは同じよ。」

 

 

風のスフィアは双子座、天秤座、水瓶座。

 

火のスフィアは獅子座、射手座、牡羊座。

 

水のスフィアは蟹座、蠍座、魚座。

 

地のスフィアは牡牛座、乙女座、山羊座。

 

それぞれの星座とスフィアの感情が属性と合っている点。

 

風は揺るがない風の様に流れは一定。

 

火は火事場の馬鹿力で常に燃え上がる。

 

水は止まらぬ流れは溢れ出る意志。

 

地は力を奪う鎮め。

 

同時に同じ属性同士のスフィアは力を高め合う。

 

しかも同属性内の性格も相性がいいと来た…

 

 

「確かにその通りだよ。」

「だな?」

 

 

バルビエルとガドライトも納得する。

 

 

「以前、君が創った結界で模擬戦をした時もそうだったね。」

「あの時はご協力感謝致します、皇子。」

「スフィアで判ったとしても実証も必要だろう、私としても良い経験だった。」

 

 

ユーサー皇子の言葉を借りるならサンクキングダムへの殴り込みを仕掛ける前…

 

他のリアクター達も巻き込んで、ある実証実験を願い出た。

 

それが先の性格相性の実験である。

 

実証の結果、予想通りの大当たりを引いた。

 

今更ながら思うが…

 

本当にこの設定を提案した人は正直凄いと思った次第。

 

でも、おかしな事が一つある。

 

前世で得た情報が今世でも反映されていると言う事。

 

誰が?何の為に?

 

これもバアルの仕業?

 

いや、奴らの影でコソコソしている輩の仕業か?

 

スフィアを以てしても感知不可能な相手。

 

この存在が様々な世界に干渉している事は掴めたが、それ以上の事は掴めなかった。

 

一瞬、どこぞのハーレム鰤と思ったがちょっと毛色が違う。

 

 

「んで、ソルはガイオウ…いやヴァイシュラバにスフィアを渡すのか?」

「渡す事は決定事項で後は本人の意思次第だと。」

 

 

ランドさんも決定事項に特に何も意見は言っていない。

 

 

「わーったよ、俺にスフィアを渡したとして…ソル、テメェは何をさせる気だ?」

 

 

即決な態度のヴァイシュラバであるが、ソルに最もな質問をした。

 

 

「世界を守れ?」

「真の敵?それは一体…」

 

 

ソルの答えにアサキムとアイムが疑問視する。

 

真の敵は御使いとバアルだけではないのかと?

 

 

「それは常に何処にでも存在している?」

「まさか…幽霊か何かか?」

「認識が曖昧…?」

 

 

ユーサー、クロウ、尸空の言葉で明確な姿は認識出来ない。

 

 

「でも、アタシらを監視しているんだろ?」

「監視…でもどうして?」

「私達がソルを目覚めさせられるから…?」

 

 

エルーナ、セツコ、ハスミへの言葉で危険が迫っている事を通告される。

 

 

「全くハッキリしねえな…」

「それには同意する。」

「ソル、その存在は一体何だ?」

「いい加減、グダグダには飽き飽きなんだけど?」

 

 

この状況にガドライト、ヒビキ、アウストラリス、バルビエルも痺れを切らしそうな状況。

 

ソルは静かに答えた。

 

 

『この世界の成り立ちを壊す者…その名は…』

 

 

ソルの最後の言葉を聞いたのと同時に異空間は消失し元の戦場へと引き戻された。

 

同時に世界が罅割れた現象も再開。

 

食い破ろうとする暴食の魔獣の姿を目視した。

 

 

「ソル…お前の意思は俺達が引き継ぐ!!」

 

 

再びこの場のスフィアがリアクターがその意思を一つにした。

 

事象への干渉ではなく。

 

御使いが目覚めさせようとした存在の復活。

 

神であり人でもある。

 

新たな始原の存在。

 

それがソルの望んだ共存共栄の果ての姿。

 

 

「俺達は抗う…待っていろ!お前の喉元に喰らい付いて見せる!!」

 

 

ソルの代弁者としてヒビキが答える。

 

いや、ヒビキの身体を借りてソルが答えているが正しい。

 

感情も話し方もヒビキを知る為にトレースしているので似通っているが…

 

 

「…」

 

 

かつてZ事変の最終決戦で再誕した神。

 

それとは違う新たな概念。

 

それぞれがソルの力を宿した存在。

 

それらがかざした次元力が一点に集中し食い破られそうになった罅割れに向けて放たれた。

 

反対側の世界で雄叫びを上げる魔獣。

 

己を滅びへと導く次元の奔流。

 

目覚めてしまった。

 

目覚めさせてしまった。

 

 

「俺達はいずれ…」

 

 

魔獣の撤退を確認したのを確認した直後。

 

リアクターの機体は全機オーバーヒートを迎えて停止。

 

この状況に混乱する混成部隊並びに鋼龍戦隊は対応に追われる事となった。

 

 

=続=





始原神の目覚め。


次回、幻影のエトランゼ・第百九話『解告《カイコク》』


それは脅威なのか?

それは奇跡なのか?


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迎の付箋


迎え撃つ。

お前達を。

狙った獲物が牙を向く事を忘れるな。


 

イグジスタンスの総戦力であるリアクター機がサンクキングダムへ出撃した頃。

 

現時点で行動を水面下で起こしていたイノベイトの一人…

 

リボンズの指示でチームトリニティはリモネシア共和国へと移動。

 

彼らに下されたミッションはリモネシア共和国の殲滅。

 

リモネシア共和国内の内情を把握する事が出来なくなったのが主な理由だ。

 

これに関してはハスミが共和国内の全イノベイト達を強制退去させたのが関わっている。

 

ちなみにイノベイトだけではなく外部への移転を求めた人達も混じらせて行った。

 

周囲には違和感のない様にしたが、意図的にイノベイト達には認識出来る様に行動した。

 

ハスミとしては『お前達の行動は全て読めているぞ?』と認識をさせる為でもあったのだが…

 

未だ彼女の恐ろしさを知らないイノベイト達は外部からの監視を継続していた。

 

いつかリモネシア共和国へ行動を起こせる様にする為に。

 

そして利用出来ないのなら殲滅を目的に切り替わった。

 

狙っていた流れに至った事に笑みを浮かべていたのはハスミだったりする。

 

最もな理由で奴らを殲滅する事を出来るのだから…

 

 

******

 

 

リモネシア共和国、防衛ラインにて。

 

後のセントラルベースと化したリモネシア共和国に現れたチームトリニティのガンダム。

 

それに続いて赤いイナクトも追従していた。

 

 

「二人共、準備は良いな?」

「何時でもいいぜ?」

「あの国を壊すんでしょ?」

 

 

ミッションの内容を確認するトリニティ達。

 

順に長男のミハイル、次兄のヨハン、末子のネーナである。

 

 

「…」

「貴方がアリー・アル・サージェスですね?」

「ああ。」

「自分はチームトリニティの代表のミハイル、今回のミッションから一緒になります。」

「どうも。」

「テメェ、マイスター候補の癖に兄貴に!」

「ヨハン、ミッション前だ…言葉を慎め。」

「…判ったよ。」

「ヨハ兄、さっさとミッション終わらせちゃおうよ?」

 

 

トリニティに新参のマイスター候補が入った。

 

それが先程話していたサージェスである。

 

だが、サージェスには特命で命令が下されていた。

 

それは後に解る事だが…

 

 

「…(箱入りのおこちゃま共…精々、粋がっていろよ。」

 

 

ポーカーフェイスを貫くサージェス。

 

彼の悪意が周囲に振り巻かれるのはもう少し先…

 

 

~リモネシア共和国・監視エリア~

 

 

イグジスタンスのリアクターと鋼龍戦隊が不在の中。

 

国内に待機していたイグジスタンスの部隊。

 

監視エリアから転送された映像を司令室で目視するダバラーンとサルディアス。

 

 

「やはり、代表らの不在を見据え攻めて来たな。」

「さて、我々も国防の為に出撃しますか?」

「…」

 

 

留守を任されているイグジスタンス各部隊の副官達。

 

その中でロサは分析に呈していた。

 

 

「敵は四機、疑似GNドライブ搭載のガンダムと例のややこしい人による強襲。」

「ロサさんは何かあると?」

「そうですね、ハスミの読み通りなら…恐らく仲間割れを起こします。」

「仲間割れ?」

「それだけソレスタルビーイング…いえ、反乱イノベイト達の内情は複雑って言ってました。」

「成程、では…その仲間割れの理由は?」

「あの赤いイナクトが理由の一つです。」

 

 

ロサは映像に映し出された赤い塗装のイナクトに視線を向けた。

 

 

「あのイナクトがどうかしましたか?」

「このまま迎撃をしつつ様子見をしていけば解ります。」

「それは先程の仲間割れと関係が?」

「そう言う事です。」

 

 

不確定な情報は伝えず、いずれ起こる可能性がある事だけを伝えたロサ。

 

 

「今回の迎撃部隊は…」

「あの…私が単機で出ちゃ駄目ですか?」

「ロサさんお一人でですか?」

「はい。」

「だが、相手は四機とはいえ荷が重いのでは?」

 

 

迎撃を行う部隊は状況に応じてローテーションで行っており、今回はジェミニス隊だったが…

 

ロサが単機で出撃すると申し出をした。

 

これにはサルディアスとアンナロッタも引き留めをするものの…

 

 

「私のあの力が錆びついていないかの確認なのです…今後必要だと思うので。」

「あの力?」

 

 

ロサの言葉に疑問を持つ尸刻。

 

 

「使い方次第では呪いにも祝福にも変わるってハスミにも言われてます。」

 

 

ロサは改めて他の副官達に単独出撃させて欲しい事を告げた。

 

 

「ご迷惑をお掛けしますが、お願いします。」

 

 

ダバラーン達は少し考えてから答えた。

 

 

「確かに代表らが不在の間は最低限の戦力で共和国を防衛する必要がある。」

「何事も臨機応変にですね。」

「貴方の事だから策があるんでしょ?」

「ロサ、無茶だけはするな。」

「…貴方の無事を祈ります。」

「皆さん、ありがとうございます。」

 

 

ロサは一礼すると出撃の為に司令室を後にした。

 

 

******

 

 

リモネシア共和国側から出撃したロサの機神エザフォス。

 

たった一機の出撃にブーイングをするネーナとヨハン。

 

 

「えーたった一機?」

「これならさっさと終わるな?」

「油断するな、二人共。」

「そうだぜ、お兄さんの言う通りだ。」

 

 

ミハイルとサージェスの言葉もあり、渋々了承した。

 

 

「ソレスタルビーイングのガンダム、この国をどうする気ですか?」

「殲滅する、総戦力が出撃した今…その国を守れる戦力は存在しない。」

「立ち直った国を亡ぼす気ですか?」

「元はテロリスト共を匿っていた国じゃねえか?」

「そうよ、無くなって当然じゃない!」

「そちらもテロリストなのにですか?」

「その通りだ、私達は理想の為に…」

「結局は同じ穴のムジナですね。」

 

 

ロサはミハイル達の話を聞き、溜息を付いた。

 

 

「そちらのお嬢さんは良く分かってらっしゃる。」

「変人さんの言う通りですね。」

「は?」

 

 

「「ブブッ!!!?」」

 

 

「赤い機体に乗る男性の人って変人が多いってよく聞きましたので。」

 

 

ロサの発言にサージェスは思考停止しヨハンとネーナは盛大に拭いた。

 

若干、偏見にも似た間違いも含まれているが事実もあるので致し方ない。

 

 

「冗談はさて置き、戦うのなら容赦はしませんよ?」

「自分で言って置いてそりゃねえだろうが!!」

 

 

流石の変人発言に苛立ちを覚えたサージェス。

 

先行してエザフォスに攻撃を仕掛けるものの…

 

 

「砂塵の迷衣!」

 

 

ロサの扱う魔法の一つ、砂の粒子を操り砂の竜巻を生み出す。

 

文字通り磁気を含む竜巻なので実弾系は全てのみ込まれる。

 

 

「晶石の弾奏!」

 

 

続けて二丁銃型に変形した魔法剣から放たれる銃撃技。

 

銃口からではなく周囲に魔法陣を展開させそこから発射させるタイプである。

 

これにより弾幕の嵐が勃発する。

 

 

「なんじゃありゃ!?」

「実弾系やファングは使えねえって事か!」

 

 

サージェスのイナクトの装備とファング頼りのヨハンのガンダムでは分が悪い。

 

 

「ミハ兄、長距離なら!」

「ネーナ、頼む!」

 

 

ミハイルは自身の機体に装備された長距離キャノンで狙う戦法に移ったが…

 

ネーナの機体とドッキングした瞬間を狙われた。

 

 

「ミハ兄!?」

「な!?」

「これがミサイルロデオです!」

 

 

ロサは金剛の弾道でダイヤモンドミサイルを生み出し、上に乗って一気に距離を詰めた。

 

爆発のタイミングは任意で行えるのもこの魔法の利点である。

 

二人はミサイルが爆発する前にドッキングを解除し緊急離脱を行った。

 

この時、接続部分を無理に解除したので接続部に異常が出ていた。

 

 

「アイツ、なんなのよ!」

「たった一機で出て来た以上は手練れであると推測していた…」

「要はバケモンじゃねえか!」

「だからこそ、インぺリウムの相手を出来た連中って訳だ。」

 

 

ロサは元の位置に戻ると静かに答えた。

 

 

「もう終わりにしないといけない。」

 

 

ロサはあの力を使う事を選んだ。

 

 

「私の前身…私の始まり…私は忘れない……だってこれも私だから!」

 

 

機神エザフォスの眼孔が赤く光る。

 

それは己の内に潜む悪魔の目覚め。

 

かつてそれが猛威を振るえば星を生かす事も滅ぼす事も可能な力。

 

 

ーその名はUG細胞ー

 

 

「起きて…みんな!」

 

 

ロサは両手から結晶体を出現させる。

 

それが弾けると無数の種子型の結晶となり地面に接触と同時に更に弾け飛んだ。

 

それは人型へと形作られ数を増やしていった。

 

姿に名残を残すもののその形状は違う。

 

知る者はこう答えただろう。

 

デスアーミーと…

 

 

「あの機体、兵力を瞬時に増産出来るのか!?」

「ミハ兄、さっきのでGNタンクの接続に異常が…どうする?」

「残念だがミッションは失敗…撤退するぞ!」

「俺はまだまだやれるぜ!?」

「ヨハン、深追いはするな!」

 

 

形勢逆転出来ずに混乱するチームトリニティ。

 

だが、この状況を狙ったかの様に行動を起こした存在が居た。

 

 

「テメェ、何しやがる!?」

「戦えねえガキのお守は終わりだ。」

 

 

突如、サージェスの機体がヨハンの機体に取り付いたのだ。

 

理由は一目瞭然でヨハンのガンダムを奪取する事。

 

 

「あばよ、クソガキ?」

 

 

一時的に制御不能となったヨハンのガンダムのコックピットのハッチが開閉。

 

サージェスは拳銃を突き付け、ヨハンを撃ち抜いた。

 

被弾の影響で気絶したヨハンはそのままサージェスの手でコックピットの外へ投げ出された。

 

ガンダムを奪ったサージェスの次の狙いは他のガンダム。

 

 

「小娘、碌な技術もねえのに…今までよくも悪態ついてくれたな?」

「ひっ!?」

 

 

サージェスはスローネツヴァイのファングでスローネドライを行動不能に追い込む。

 

 

「ヨハン!ネーナ!?」

「おっと、今までご苦労さん…お前さんらのスポンサーはお前らの事を用済みだとさ。」

「なん、だと…?」

「テメェらのお陰でより世界は混乱に導けたと?」

「…」

「じゃあな。」

 

 

サージェスは混乱するミハイルのスローネアインをファングで攻撃し撃墜。

 

そのまま戦場を離脱していった。

 

 

「みんな、あの人達を助けて。」

 

 

ロサは彼らの通信を傍受。

 

そのやり取りから仲間割れを起こしたと判断。

 

出現させた分身達に救助の指示を与えた。

 

 

「やっぱり、ところがぎっちょんの人…裏切ったねハスミ。」

 

 

ロサは静寂となった戦場で言葉を紡いだ。

 

 

=続=

 





=その頃の司令室=



「…」
「アレがロサさんの本気ですか?」
「心配する必要はなかった…な。」
「空白事件の時、アタシもあれで死に掛けたからね。」
「ロサさん…」


順にダバラーンは思考停止、サルディアスは唖然、アンナロッタは驚き、ツィーネは恐怖、尸刻は心配。



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第百九話 『解告《カイコク》』


齎された真実。

真の敵の正体。

語るには余りにも悲惨な…

創造主の求めた末路。


 

サンクキングダムのでの戦いの後。

 

私達は眠りから目覚めたソルからの忠告を受けた。

 

 

『真の敵の名は…ナルーダ・タドーケ』

 

 

真の敵の名はナルーダ・タドーケ。

 

創造主であり創生と滅亡を司る…云わば始まりの高次元生命体。

 

幾多に別れた様々な世界を構築した人物。

 

長きに渡ってこの世界も構築し成り立ちを与えた。

 

此処も彼の遊戯盤であり救済もあれば破滅も与えられる。

 

平等であり不平等。

 

彼は何故…

 

生み出した幾多の世界の消滅を望んだのだろう?

 

私達はそれを知らなければならない。

 

 

******

 

 

あの日から三日が経過した。

 

サンクキングダムでの戦闘の後。

 

混成部隊に援軍として現れたブリタニア・ユニオンのスザク達と共に…

 

イルイの力で一度リモネシア共和国へ転移。

 

そこで一通りの話し合いを行う事にしたそうだ。

 

例の終焉に関しても秘匿と言う事で制限を掛けている。

 

実際、混成部隊はいずれもシンカに至っていない。

 

シンカの兆しが出た頃を皮切りに話す予定だ。

 

 

<リモネシア共和国・政庁内>

 

 

政務室で話し合いを行うアウストラリスとリモード大統領。

 

 

「大統領、やはり国連…いや、三大国家が動き出したか?」

「ええ、ファウヌスさんのお話通りで破界の王ガイオウを引き渡せと。」

「ふん、自らの手で制圧できぬ臆病者共が…」

 

 

サンクキングダムでの戦闘後、イグジスタンスがガイオウを捕獲した事を遠回しに知った三大国家。

 

ガイオウの身柄を国連に引き渡せ。

 

指示に従わない場合はリモネシア共和国を国連加盟国より除名。

 

反国連国家として武力制圧すると圧力を掛けていた。

 

碌に戦う事もせず、巣籠状態になっていた国連加盟国の国々。

 

イグジスタンスが手に入れた成果を横から攫う姿勢にアウストラリスは苛立ちの表情が見えていた。

 

 

「大統領、引き続き共和国の安全は保障する…三大国家からの通達の延長を頼む。」

「判りました。しかし再三の返事で拒否を行ったので…いずれは強硬手段に出て来るでしょう。」

「こちらにも策はある。奴らの驕り高ぶった意思をへし折り敗北を知らしめる必要があるだろう。」

 

 

掛かってくるのなら容赦はしないとアウストラリスはリモード大統領に答えた。

 

 

「…(問題は一部の機体が使えん事か。」

 

 

目覚めたソルの力を開放した事によってリアクター機はオーバーヒートを迎えた。

 

現在は最優先で修復作業を行っている。

 

尸空の死骸とハスミの念神は異空間で自己修復中の為に召喚は不可能。

 

問題はクロウの機体。

 

元々、他の機体とは違って初期型から許容範囲以上の力を引き出してしまった。

 

これによりブラスタは機能不全に陥った。

 

現在はトライア博士に引き渡し、リ・ブラスタへの改修作業を進めて貰っている。

 

 

「この状況を生み出した存在…やはりあの者の手引きか。」

「あの者とは?」

「ファウヌスが話していた危険人物の一人が動き出した様だ。」

 

 

アウストラリスは目を伏せて答えた。

 

危険人物が動き出した事を認識し改めて今の状況を対処しなければならないと…

 

同時に危惧している事も含まれていた。

 

 

「…(エンブリヲ、貴様と相対する時…貴様の命運は尽きたと思え。」

 

 

~数時間後~

 

 

リモネシア共和国・政庁内の遺跡。

 

現在も改装工事は続行中であり、ようやく完成した円卓の間でリアクター勢が会議を開始。

 

ややこしい事になった案件が多いので一部を除いたほぼ全員が雁首揃えてネガティブなオーラを放っていた。

 

 

「ナルーダ・タドーケ…それが此度の戦いの元凶。」

「その存在が自壊した直後のソルが遭遇した。」

「…奴は一体何者なんだ?」

「世界を消去すると考えている以上は碌な高次元生命体ではなさそうね。」

 

 

アウストラリスは目を伏せて答え、ユーサー、ヒビキ、ハスミの順に答えた。

 

 

「ハスミ、スフィアで奴の詳細は解るか?」

「いえ、恐らくはスフィアでも認識出来ないナニカで隠蔽されている様子です。」

「そうか…」

 

 

アウストラリスはハスミにスフィアで詳細を探れないかと尋ねるが不可能と答えた。

 

元々スフィアでアビス・メモリーが解禁されただけでそれ以上の存在である以上は識る事が出来ない。

 

相手も事象制御を行える為、こちらの覗き見の度に何度も書き換えをされてしまえば調べようもない。

 

 

「救いだったのはこちら側への事象制御が行えない事。」

「僕らの持つソルの護りがある以上は手出しは出来ないだろうね。」

 

 

今回の会議から参加したアイムの発言とアサキムの返答。

 

アイムの行った行為は許されないが、御使いの影響からの自己防衛による暴走である以上深くは言えない。

 

現在は監視と言う名目でこちらで預かっている。

 

同時に呑気にコーラ飲みながら話すガイオウも含まれている。

 

 

「おい、鎧女…これからどうするつもりだ?」

「ナルーダの事は今後も調査を継続しますし…当面の問題は貴方の行動ですかね?」

「…」

「別に責めている訳ではありませんよ。」

「なら、どういう意味だ?」

「やった事への責任は取って貰うのが筋では?」

 

 

ガイオウより鎧女と呼ばれたハスミの発言は正論であるが…

 

何処か棘があり物凄く機嫌が悪い事を示していた。

 

 

「ガイオウ、悪い事は言わねえ…今は黙って置いた方がいいぜ?」

「…」

 

 

クロウのヒソ声で無言になるガイオウ。

 

ハスミの尋常ではない気配を察して黙っている事にした様だ。

 

 

「ハスミ、シェーヌを始めとした民達の治療…感謝する。」

「皇子、その事ですが…まだ安心は出来ません。」

「理由は?」

「かつてのエスターの状況に陥る人も少なからず出てくる可能性があります。」

「今後も経過観察が必要だと?」

「はい。」

 

 

次元獣と化したエスターの時と同様に次元獣化した人々の治療を行った。

 

同時にあの現象に陥る可能性も否定出来ないので経過観察を続行中。

 

マルグリット卿にはその事を伝えて了承して貰った。

 

 

「完全な治療に至らず申し訳ありません。」

「…前回の情報を元に治療法を模索している、これ以上の貢献はない。」

 

 

いくらスフィアで解決方法を検索しても限度ある。

 

私は完全な治療法が確立するまで研究は続行し…

 

治療を施した人々の経過観察は継続していく事を約束した。

 

話を戻し、次の議題へ進める。

 

 

「アウストラリス、混成部隊への対応はどうされますか?」

「…」

「破界の王と言う世界共通の敵がこちらの手にある以上、彼らはそれぞれの戦いに戻る形となります。」

「ハスミ、例の存在はどうなった?」

「私達が目覚めさせたソルの力で奴は自身の巣へ帰還、復活まで時間を要するでしょう。」

「そうか。」

 

 

世界共通の敵が早期に倒された。

 

ZEXISの存続の意味を無くす事になる。

 

新たな害悪が出現しない限り…

 

 

「流れは変わった…」

「尸空さんの言う通り、破界の王の早期退場によって戦うべき存在が消えた。」

「実際、ガイオウが暴れていた方が統制が取れてたかもね。」

 

 

尸空の言葉の意味をハスミが解りやすく説明しエルーナも意見を告げた。

 

その意見に何故?と言う表情を示したヒビキ。

 

 

「…」

「ヒビキ、こちら側のAC世界…多元地球で引き起こされた戦乱にガイオウの破壊活動も大きく作用された。」

 

 

より強大な敵が現れた時、少なからず一致団結し脅威に立ち向かおうとする人々が出てくる。

 

その強大な敵が居なければどうなるか?

 

かつての様に紛争や小競り合いを続けて不安定な日常が続いたでしょう。

 

こちら側に地球連邦軍が設立の目処が立たない以上は…

 

 

「それに邪魔を仕掛ける存在もいる…裏切りのイノベイト達や戦乱を求める者達。」

 

 

ソレスタルビーイングはそう言った人々の悪意を集中させるハリボテ代わりになる筈だった。

 

私達側の世界に存在したクロスDCやアンチDCの元の姿であるDCもそれに該当する。

 

後者は私がホルトゥスとして介入しちゃったから有耶無耶になってしまったけど…

 

 

「あの存在も介入し始めた以上は例の一件も絡んでくる。」

「あの存在に例の一件?」

 

 

アイムの言葉に魔獣エンデとネバンリンナとハスミは答える。

 

 

「ハスミ、魔獣の一件は俺も聞いているが後の奴は?」

「ガーディムと呼ばれた人々が建造した独立型躯体。」

「ガーディム?」

 

 

クロウの質問に答えるハスミ。

 

 

「別の並行世界の銀河に存在した異星の人々、彼らも大災害の影響で滅んだ。」

「…」

「詳しい経緯はスフィアで直接視て貰った方が…かなりの情報量なので。」

 

 

ハスミ、VとXで起こった戦乱をスフィアで各自に脳内再生。

 

ある程度、簡略化しているものの…情報量は多い。

 

それにより頭痛を引き起こしたメンバーが数名程続出した。

 

 

「何と言うか一部の阿保と変態の襲撃は避けられないかと…」

 

 

ハスミ、VとXで遭遇するだろう一部の阿保と変態の襲来を告げた。

 

 

「ハスミ~あのガミラス艦隊と戦ってみたい~!!」

「…(エルーナさん、確実に言うと思った。」

「ハスミ、あのエンブリヲと言う女の敵は何処にいますか?」

「…(セツコ、顔が拙い事になっていますが?」

 

 

ハスミの服の裾を持ってフリフリするエルーナと般若顔になっているセツコの相手をするハスミ。

 

ハスミもまたどうしようもない表情で応対していた。

 

 

「あの世界の雑魚は馬鹿なのか?」

「…(バルビエル、創界山の階層ボスは大体何処か抜けてる人達です。」

「…」

「…(尸空さん、分かりにくいですが青褪めて思い詰めた表情しないでください。」

「マナの国、碌でもない思想国家だったか。」

「…(ユーサー皇子、それにはエンブリヲも絡んでいるのでお気持ちは察します。」

 

 

続けてバルビエル、尸空、ユーサーの状況にツッコミを入れた。

 

 

「何処の世界にも碌でもない連中は居るって事か。」

「クロウ、それ…お前が言える事か?」

「うぐっ!?」

「ランドの言う通りです。」

「…言えてるな。」

 

 

クロウの失言にツッコミを入れるランドと同調するヒビキにガドライト。

 

 

「…やれやれです。」

「楽しそうでいいんじゃないかい?」

 

 

現在のやり取りを傍観中のアイムとアサキム。

 

少しばかりの茶番の間、コーラの飲みつつ黙っていたガイオウはアウストラリスに話した。

 

 

「…テメェの集めた連中、骨のある奴らばかりだな?」

「そう思うか?」

「ああ、こんな状況でも慌てねえ…肝が据わってる連中だ。」

「それぞれが修羅場を潜り抜けた…ここに集った者達は志を一つにする同志だ。」

「お前、変わったな?」

「変わった?」

「堅物のお前がこうも許す連中だ、お前自身が変わったのもあるだろうよ。」

「そうかもしれん。」

 

 

戦友を取り戻したアウストラリスの表情は何処か憑き物が落ちた様に素直だった。

 

ガイオウの言う様に憂いの一つが無くなったのもあるだろう。

 

アウストラリスは無自覚に笑みを浮かべていた事に気づかず、ただ変わったとガイオウが告げるだけだった。

 

 

「ハスミ、ナルーダに関する現状報告は鋼龍戦隊のみとし混成部隊への緘口令を敷け。」

「判りました。」

「並びにインぺリウムは崩壊、ガイオウらの身柄はイグジスタンスが貰い受けると声明を出す。」

「問題は国連が納得するか…ですかね?」

「ガイオウが今後も事を起こさぬのなら奴らも黙る。我らと事を構える意志があるのなら別だがな?」

「成程、燻り出しですね?」

 

 

アウストラリスの言葉の意味を察して答えるハスミ。

 

 

「燻り出し?」

「混乱に乗じて三大国家を陰で動かす連中を燻り出す…それこそ表沙汰に出来ない情報もリークする予定。」

「表沙汰に出来ない情報?」

「国家…いや、現政府の混乱に政治家連中の汚職から蓋しておきたい事まで虱潰しに暴露するのかい?」

「正解。」

 

 

ヒビキの質問に対して答えるハスミ。

 

その答えに頸を傾げるもアサキムのフォローに正解と答えた。

 

 

「…半分はスフィア頼りになりますがね。」

 

 

スフィアを使えば大体の情報は丸裸に出来る。

 

それこそ、某政治家の裏金から下着の色に周知されたくない性癖迄何でもござれ。

 

証拠品は私の部隊の部下達が洗い浚い収集したので有無は言わせません。

 

 

「最初はトカゲの尻尾切りに右往左往するでしょうけど…切る為の尻尾はいずれ無くなる。」

 

 

政治家も国を維持する為の候補者は多い訳ではない。

 

 

「何時までも小競り合いばかりで目を向けるべき方向に人々を導けない政治家は不要です。」

 

 

ハスミの眼は笑っていない。

 

最もな意見を静かに答えた。

 

 

「中途な理想では人は導けない…実践し動ける方が相応しいと思います。」

 

 

恐らく、政治家連中を全員イノベイト達に置き変える可能性も否定出来ないが…

 

場合によってはフェレシュテの奇声基地外に情報を流しましょうかね?

 

あのサージェスでさえ恐れた輩ですし。

 

後は例の五人のイノベイト達とアポを取って協力を仰ぎましょう。

 

 

「君は上に立つと言う意思はないのか?」

「ユーサー皇子、私は上へ立つ意思はありません。」

 

 

私の思想は政治家に不向きだ。

 

私の知識は誰かの支えになる事で効力を発揮する。

 

例え、私が政治家になったとしても緩やかな怠惰へ変わるだろう。

 

 

「私の力は何かしらの状況になった時の抑止力程度でいいのです。」

「謙虚なのだな?」

「自分自身を知る事は大事な事ですよ?」

「…(いや、あれは彼に尽くす為の意思だろう。」

 

 

ハスミの返答にユーサーは察して納得。

 

この話し合いの最中に三大国家の進軍が発覚したので対応へと移った。

 

 

「エルーナ、バルビエル、アサキムはハイアデス隊、アンタレス隊、アルファーグ隊を率いて予定通り三大国家の攻撃が行われ次第対処しろ。」

「オッケー、派手にやらかしても?」

「手を出せぬ程度にして置け。」

「了解したよ。」

「判った。」

 

 

アウストラリスはエルーナを始めとした各部隊へ指示を出す。

 

 

「尸空とガドライト、ヒビキは先の混乱に乗じて国内に入り込むであろう輩共の対処を。」

「了解した。」

「はいよ。」

「判った。」

 

 

順に指示が出された後、円卓の間を後にして行った。

 

 

「ハスミとセツコは司令部にて戦況対応。」

「了解。」

「判りました。」

「残りは待機せよ。」

 

 

待機の指示があったが、ランドはそのまま格納エリアへ移動。

 

 

「んじゃ、俺は機体整備の助っ人に行ってくる。」

「アウストラリス、皇子さん達は?」

「一国家の君主をこちら側の戦場に出す訳にはいかん、今回は待機して貰おう。」

「だ、そうだ。」

「アウストラリス殿、申し訳ない。」

 

 

鋼龍戦隊と混成部隊は今回の戦いに巻き込めないので待機。

 

混成部隊に関しては独自に動くと告げて国家から離脱。

 

国連から内部混乱を引き起こせと言う理不尽な命令を受けたのもある。

 

人の命を軽んじる様な行為は出来ないと告げてリモネシア共和国から撤退。

 

彼らの進む道は険しいだろうが致し方ない。

 

 

=続=





巡れ世界を…

変異した世界で私達は闘わなければならない。


次回、幻影のエトランゼ・第百十話『再廻《サイカイ》』


謝罪の言葉。

それは償いの証。


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輪の付箋


円環は無数に存在する。

それは悪意の輪。



 

とある多元世界にて。

 

 

~???~

 

 

認識する事も不明な色彩の異空間で複数の人物達が話し合っていた。

 

 

「いや~今回の戦乱も楽しませて貰った。」

 

 

ヘラヘラと笑っている緑ローブの人物。

 

 

「だが、これで彼らのシンカの要因たる戦いは遅延する。」

 

 

寡黙に答える赤ローブの人物。

 

 

「次はどんな戦いを仕込む?」

「ナルーダ、あの世界の担当である其方が決めるべきでは?」

 

 

ナルーダと呼ばれた白ローブの人物は答えた。

 

 

「期は熟していない。」

「成程、暫くは泳がせるって事か?」

「視る事に制限はないが、互いの領域には干渉もしない。」

 

 

緑と赤のローブはそれぞれの考えを答えた。

 

互いの領域は見る事は構わない。

 

但し、領域に手を加える事は許されない。

 

制約を破った者はそれ相応の罰が下される。

 

 

「自分達が育てた世界を他からの干渉を受けたくないし。」

「だからこそ制約は守られねばならない。」

「その割には君のお人形さんはいい働きをしているみたいだけど?」

「…」

 

 

緑のローブが飽き飽きした声で答える。

 

 

「早い所、あのオークションを開きたい。」

「それぞれの世界で覚醒したシンカの道を極めた者達…」

「そして高次元生命体。」

「多元オークションによって様々な戦乱に新たな兆しを与える。」

 

 

多元オークション。

 

彼らにとっての祭典。

 

そして…

 

 

「前回の目玉は『記憶』だっけ?」

「記憶の譲渡によって様々な世界へよりシンカの道を極めた者達が増え始めた。」

「次回は何を?」

「噂では『存在』だと聞いている?」

 

 

存在と言うカテゴリに対してナルーダを除いた二人は動揺する。

 

 

「存在?」

「ヤバいじゃないそれ?」

「スポンサー達は娯楽を求めている。」

「ややこしいね。」

「右に同じく。」

「最もな目玉商品は…ソル。」

 

 

白のローブが指を鳴らして一部の空間に映像を映し出す。

 

それは先の始原神ソルの力を引き出した戦士達の姿だった…

 

 

「彼らが?」

「そうだ。」

「面白そうなカードだね?」

 

 

ナルーダを含め、二人も映された映像を見る。

 

 

「彼らの真の覚醒をもってオークションは開催される。」

「その時が待ち遠しい。」

「それまではこっちも品定めしておかないと。」

 

ナルーダは開催の期日を答える。

 

彼らに時間の概念はない。

 

一瞬の戯れなのだから…

 

 

「以上で解散か?」

「ああ。」

「次に会う時はもっと楽しいイベントを期待しているよ。」

 

 

ナルーダを残して二人のローブの存在は去っていった。

 

 

「ふう。」

 

 

ナルーダはため息をついた後、座席を呼び出し座り込む。

 

 

「ソル、どう足掻いても彼らの覚醒は止まらない。」

 

 

そして天井に当たる部分に顔を向けて呟いた。

 

 

「そう望んだのは紛れもないお前なのだからな?」

 

 

彼らこそ世界の終焉たる鍵なのだから。

 

 

=続=



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第百十話 『再廻《サイカイ》』


世界を巡る。

それは私達が決めた戦いの始まり。

再会と謝罪の意思。

想いは願うだけでは示せないから。



 

前回の三大国家の強硬手段から一週間が経過。

 

ソルの力を引き出した事で主戦力の半数以上が出撃不可能だったイグジスタンス。

 

現時点の三大国家の総戦力でも簡単に陥落する事は出来ずに戦力の多くを失って撤退。

 

そもそも破界の王を仕留めた組織と戦う意思がある事は認めるが…

 

無茶ぶり過ぎる強硬手段には呆れるしかない。

 

見事に惨敗した三大国家は武力による制圧が不可能と判断し再び会談の席へと戻った。

 

最初からそうすればいいのに…と溜息をする私ことハスミであった。

 

 

******

 

 

更に数週間が経過。

 

リモネシア共和国は国連…いや、三大国家といくつかの取り決めを行った。

 

破界の王が現出させた次元獣が今後破壊活動を行わない様にイグジスタンスが手綱を握る。

 

新たに出現した、ラマリス、ルーンゴーレム、アールヤブへの対応。

 

現時点でラマリスへの最も有効な打撃を与えられるのはイグジスタンスと鋼龍戦隊位だ。

 

更にこちら側が独自に転移装置を兼ね備えている事も遠回しに漏れていた。

 

緊急事態に付き、致し方ないと思っている。

 

漏洩の出所はブリタニア・ユニオンから来たあのメガネプリン伯爵辺りだろう。

 

その事を踏まえてイグジスタンスと張り合う国家は出てこないだろう。

 

例外を除いてはだが…

 

それ以上に問題は他にもある。

 

 

「…(エンブリヲ、とうとう現れたか。」

 

 

国連の呼び出しの際、リモネシア共和国の代表護衛と言う形で出席したファウヌス姿の私だが…

 

案の定、国連の新参議員としてエンブリヲが同席していた。

 

どうやら伝手はイノベイト側かららしい。

 

初対面ではあったが、あの品定めをするかの様な見透かした眼は嫌悪を感じた。

 

イグジスタンス代表の護衛と言う形で同席していたストラウス姿のエルーナさんも会談後に気色悪いと話していたし…

 

人数制限があったとは言え、セツコの同席は避けて正解だった。

 

理由として奴の行動は最大限注意しなければならない。

 

声聞いただけであの黒ワカメを思い出しちゃった…

 

 

「…」

 

 

会談の結果。

 

リモネシア共和国は引き続きイグジスタンスとの協力の元で破界の王の監視を続ける事。

 

ZEXISと共に人類共通の敵が出現した場合は率先して行動する事。

 

それらから得られた情報を国連間で共有を行う事。

 

以上の案件で収めた。

 

最初の案件以外はほぼ国連側にとって都合のいい案件だが…

 

此方としても破界の王の件を捥ぎ取るにはこうするしか方法はなかった。

 

まあ、三大国家側も此方に手出しをすれば国そのものを滅ぼす事が可能な戦力を有している事は理解されている。

 

下手な三下芝居をしない限りは目を瞑るつもりだ。

 

 

~半月後~

 

 

目まぐるしく日々は過ぎた…

 

まず、クロウのブラスタが無事リ・ブラスタへと改修作業を終えた。

 

ちなみに武装に関しては例の如くレッドとブルーの両方を換装出来る様に取り計らって貰った。

 

何時もながら資材とお金は大事です。

 

余談だが、資材代を抜いて改修作業費用としてクロウの借金に上乗せされたのは言う迄もない。

 

本人曰く『理不尽だろうがぁ!!!?』と叫んでいる始末。

 

クロウさん、貴方のスフィアは借金と斬っても切れない縁で離れられないんですよ。

 

諦めてください。

 

説明し忘れたMDとエスターの一件であるが…

 

次元獣が人と機体が変異した存在である事とMDの襲撃前に町は既に壊滅していた事をエスターに報告。

 

マルグリットとMDと化していた本人からも謝罪の言葉もあったので彼女なりに決着を着けたらしい。

 

で、エスターも開発中の量産型ブラスタのテストパイロットになる事を告げた。

 

今は戦線に出すのは厳しいが、セツコがみっちりと訓練をサポートすると話していたので参戦が近いだろう。

 

ちなみに展開早すぎない?と思われる方もいらっしゃると思われる。

 

…そうも言ってられない事が起きてしまった。

 

グレン団のカミナとタケルの兄であるマーグが倒された。

 

文字通りではなく本当にだ。

 

別行動中だったZEXISは螺旋王の軍団の一つであるチミルフの軍勢と戦闘。

 

その最中にカミナは死闘の末に…

 

結果、グレン団は拠点となる戦艦ダイグレンを入手するも支柱を失った事に変わりはない。

 

マーグに関してはズールの横槍が切っ掛けである。

 

同じ堕ちた筈の次元将が欲していた力を手に入れ反旗を翻した事が気に食わなかったのだろう。

 

タケルと兄弟同士で戦わせ相打ちの末にゴッドマーズに搭載された爆弾を起爆させようとした。

 

だが、戦闘中に洗脳が解けたマーグは弟を守ろうとして爆弾ごと自身をテレポートし未然に防いだ。

 

マーグの生死は不明であり消息不明となった。

 

ZEXIS側から詳細を追えないかと進言があったので『この世界に彼の反応はない』と告げて置いた。

 

この言葉をどう捉えるから彼ら次第だ。

 

更に月光号のメンバーの離反の際に語られたドーバーの悲劇。

 

フロンティア船団で行われたランカのアイドルデビュー時のテロ。

 

多くの事案が発生する中で最悪な事件が発生した。

 

行政特区日本…

 

エリア11を取り纏める第三皇女ユーフェミアが行おうとした思想。

 

そして『血染めのユフィ』と後世まで語り継がれる事となる大量虐殺。

 

だが、その事件はある事が切っ掛けで形を変える事となった。

 

 

『血塗られた眼』

 

 

行政特区を訪れた人々が全員この現象に巻き込まれ発症。

 

式典に参加していた第三皇女も倒れたと言う事態はブリタニア側に大きな波乱を呼んだ。

 

この現象を引き起こしたのは誰なのかを追求する為に…

 

血塗られた眼の現象は私達側の世界でも認識されているし半発症しているヒビキもいる。

 

解決策が次元力しかないのは理解しているが、人々が絶望に打ち勝ち希望を取り戻さない限りは戻ることはないだろう。

 

現時点で回復策が判明していない奇病と言う形で取り持っている。

 

問題は誰があの血塗られた眼の現象を引き起こしたか?だ。

 

あの時、御使いの気配は感じられなかった…

 

なら、誰が?

 

 

「エンブリヲでは現象を引き起こす事は出来ない……他のバアルが起こした。」

 

 

私はそう結論付けた。

 

アル・ワース側に新たなに転移したセフィーロ王国の一件もある。

 

やるべき事は多すぎる。

 

私は謝罪する、あの国を巻き込んでしまった事への償いの為に…

 

 

=続=





この言葉は誠意で示そう。


次回、幻影のエトランゼ・第百十一話『謝罪《シャザイ》』


振り払った手をもう一度握る事は苦痛であっても取り合う事を忘れてはならない。


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第百十一話 『謝罪《シャザイ》』


それは言わなければならない言葉。

許しは得られなくても。

これは私の意思だから…


 

仲間の死を受けて複雑に混乱が生じるZEXIS。

 

彼らの戦いは彼らが進まなければならない。

 

私ことハスミはアル・ワース側の世界にセフィーロ王国が転移した事を知り…

 

ユーサー皇子らの一時帰還を兼ねて同行する事にした。

 

ガイオウ達に関する経過報告も兼ねている。

 

彼らの一件で混乱が生じる事も踏まえて尸空さんに同行して貰った。

 

穏便に済めばいいがそうもいかないだろう。

 

聖インサラウム皇国はガイオウらによって一度戦火に見舞われているのだから…

 

 

******

 

 

ユーサー皇子はアル・ワースに転移した国に帰還後、重鎮達を集めて緊急会議を執り行った。

 

ガイオウの一件、彼らを先導した存在、真の敵の正体、スフィアの宿命の為にイグジスタンスと共に聖戦へ参戦する旨を語った。

 

一部の発言に関して数名の重鎮達は口々に反論する。

 

 

「ですが、殿下…」

「あの者らが国を襲ったのは紛れもなく余の持つスフィアが事の発端。」

 

 

理由を知らずとも国へ戦火を招いたのは紛れもなく王族の末裔たる自分自身も関わっている。

 

罪を償うのなら国を守り切れなかった自分も含まれていると…

 

 

「余もまた民達の為に贖罪をせねばならん…それにはあの者達の力が必要だ。」

「…殿下。」

「どうか判って欲しい。それが初代から先代の意思を継いだ余の覚悟だ。」

 

 

愛情を持って敵対した他者を許す御心。

 

闘う事に臆病な昔の皇子は存在しない。

 

臣下に対し自らの宿命に立ち向かう意思を示した。

 

 

「殿下、我々も殿下の意思に従いましょう。」

「ジェラウド…」

「イグジスタンスには我々も恩義があります。」

「…すまぬ。」

「王の御意思がお決まりなら我らも忠義を尽くしましょう。」

 

 

ジェラウドの言葉も最もだと同意し他の臣下達も同意した。

 

会談は荒れる事無く幕を閉じた。

 

後日、改めて国は民達に今後の意思を告げた。

 

一部からは反乱もあったが、皇子の人徳でそれは収まりつつあった。

 

皇子単独で反乱を止める意志を見せたのも理由の一つだろう。

 

 

~数日後~

 

 

聖インサラウム皇国・王宮の一室にて。

 

執務席にユーサー皇子、ゲスト席に私と尸空さんが通された。

 

 

「国の件は収まったが、ハスミ…君は調査に向かうのか?」

「はい、こちら側の世界にセフィーロ王国が転移した以上は放って置く訳にはいかないので。」

「君はその国では騎士だったのか?」

「正確には魔法騎士と呼ばれていました。」

「魔法騎士?」

「異世界より召喚される存在……それには裏がありました。」

 

 

何処にでもあるおとぎ話の様な設定。

 

蓋を開ければ、それは残酷な末路。

 

魔法騎士は柱の使命を全う出来なくなった存在を消す為の存在。

 

だが、その命運を変えた。

 

ハスミはそれらの出来事をスフィアを通して説明した。

 

 

「先の通り、柱の意思を変質させ悲劇は回避されました。」

「君もまたその国にとって英雄なのだね…」

「ですが、私はその国に牙を向けました。」

 

 

イグジスタンスがサイデリアルから名を変える前に起こした出来事。

 

クロノの暗躍があった為にサイデリアルが表向き国を侵略した。

 

巡り巡ってその国には療養中のフューリーの人々も避難している。

 

彼らの恨みも受け止めなければならない。

 

 

「守る為に侵略した…か。」

「その通りです。」

 

 

尸空さんの言う通り、理由を知らない者には一方的な侵略にしか見えない。

 

だからこそ私は謝罪しなければならない。

 

 

「偽る必要が無い以上は真実を明かすつもりです。」

「そうか…」

「ユーサー皇子は国の事もありますでしょうし私が単独で赴きます。」

「一人でいいのか?」

「はい、尸空さんもゲート防衛の為に残って頂けますか?」

「…理由は?」

「多元地球で行われた先の国連議会でエンブリヲが現れたからです。」

「君の話していた危険人物の一人だね?」

「…」

「はい、奴の狙いは優秀な女性…狙いを一点に絞らせる。」

「成程、セフィーロ王国を守護するエメロード姫の事を考えれば…狙われる危険性があると?」

「その通りです。」

 

 

あの拙僧無しの事だ。

 

恐らく光達もセフィーロへ転移していれば確実に狙われる。

 

奴は自分以外の男を認めず、女と言う女を集める変態野郎。

 

事と次第に寄ってはボコボコにしてモノホンの鰤大根にしちゃる。

 

うん、鰤大根に罪はないけど…お酒のお供で合うし。

 

 

「…猶更、お前だけを行かせられん。」

「尸空さん?」

「彼の言う通りだ。」

「ユーサー皇子…」

 

 

二人は私の単独行動に関して否定の意を告げた。

 

 

「敵の狙いに君も含まれている以上は単独行動は避けた方が良い。」

「ですが…」

「…アウストラリスからお前の事を任されている。」

「えっ?」

「無茶をするなら引きずってでも連れ戻せと…」

「あの人らしいですね。」

 

 

ユーサー皇子の言葉も最もだし…

 

尸空さん、何だか今回口数多くないですか?

 

アウストラリスもなんやかんやで心配性なのは仕方ない事ですけど…

 

 

「判りました。改めて殿下と尸空さんにご同行願えますか?」

 

 

私は改めて二人の協力を得てセフィーロ王国へと向かった。

 

場所はインサラウム聖王国の位置する南西エリア。

 

そこへセフィーロ王国は転移した様だ。

 

 

>>>>>>

 

 

空間転移でセフィーロ王国を目視出来る位置まで転移した。

 

出撃したのは私を含めてユーサー皇子、尸空さんの三人。

 

聖インサラウム皇国の守りを手薄に出来ない為に最小限に留めた。

 

 

「城が…!」

「…既に手が回っていたか。」

「恐らくは…」

「あれはルーンゴーレム、それに…」

「ディーンベル、魔従教団の使用するオート・ウォーロックです。」

「魔従教団。君から素性は聞いていたが…これでは!?」

「セフィーロは生きる意志と正しき想いが強い…エンデも危険と判断したのでしょう。」

 

 

魔従教団によって城は襲撃されてしまっている。

 

国の守りがFTOと魔術師頼みとなると限界があった。

 

どうやら国の監視を行っていた旧サイデリアル兵や療養中のフューリー達も協力している様だが、限度がある。

 

 

「…」

 

 

王国を防衛する戦線が崩壊する直前。

 

三人は国を守護する様に転移で出現した。

 

王冠を携えた白い機体。

 

死骸で構成された冥府の使い。

 

セフィーロを守護する魔神の一体。

 

 

「お初御目に掛かる、魔従教団。」

「お前達は…」

「我々はイグジスタンス。」

「イグジスタンス?」

「貴様達に語る事はただ一つ…」

「?」

 

 

教団へシンプルな質問をハスミは投げた。

 

 

「何故、この国を襲った?」

 

 

帰ってきた返答は狂信者らしい言葉だ。

 

 

「法と秩序を守るのが我ら教団の教義……我らの神の御意思によってあの邪教たる国を滅ぼす。」

「…バアルを崇拝する輩の戯言だな?」

「貴様…!」

「我らの神を愚弄する気か!?」

「黙れ。」

 

 

静かな怒りを秘めた低い声が戦場に響いた。

 

 

「自分達の教えに従わない連中は狂信者?ふざけるな……!」

 

 

一方的な教えは時には悪意になってしまう。

 

それを理解しているからこその発言。

 

怒りの矛先は余計な口を開いた教団の者達へと向けられた。

 

 

「ひっ!?」

 

 

ハスミは召喚した刀を握り直すと臨戦態勢へと移った。

 

 

「この国を襲った狂信者共が…覚悟は出来ているだろうな?」

 

 

エクリプスを通して告げたハスミの言葉は本気だった。

 

友人となった姫や年下の少女達と出会った国を汚した者達を許す事はない。

 

 

「五体満足で帰れる事が如何に奇跡で幸福なのを知るといい。」

 

 

正直に言えば、ハスミの言動は騎士道から外れている。

 

寧ろ、893的な脅しの発言だろう。

 

 

「尸空殿、彼女を止めるのは?」

「無理だ…あの怒りは止めるべきではない。」

 

 

ハスミの逆鱗に触れた魔従教団。

 

その怒りは凄まじいが止めるべきではないと尸空はユーサーに告げた。

 

それは慕ってくれた者達への恩義と無抵抗な国を蹂躙しようとした者達への報復。

 

奴らは断罪すべきであると理解した故の発言だ。

 

 

「ハスミ、国の守りはこちらに任せてくれ。」

「…闘いは任せた。」

「お二人共、感謝します。」

 

 

ハスミは二人に礼を告げると近場のディーンベルへと斬りかかった。

 

それは息を吐く様に洗練された太刀筋。

 

異形を断つ鋼の呼吸はここでも効力を発揮した。

 

ハスミは切断したディーンベルの一体の頸を持ち上げて答えた。

 

 

「さあ、喧嘩を売った相手がどの様な存在であるか……知って貰おうか?」

 

 

圧倒的に蹂躙しほぼ壊滅状態に追い込んだ戦闘後…

 

ハスミらは城内へ案内された。

 

そこで導師クレフらから現状を聞く事となる。

 

 

「導師クレフ並びにこの場の方々に改めて謝罪をしたい。」

 

 

ハスミは今までの無礼な経緯を説明し謝罪した。

 

それを踏まえてクレフ達は致し方ない事だったと初めて理解した。

 

ハスミの行為は謝罪程度では済まされない。

 

だが、国を守る為にはこうするしかなかった。

 

それはクレフ達も理解した上で謝罪を拒否した。

 

寧ろ感謝の言葉をハスミらへ送った。

 

クレフは改めて先の戦いが始まる直前に起こった出来事を語った。

 

 

「姫と光達が連れ去られた!?」

「この国へ赴いていたファーレンの皇女アスカとチゼータのタトラ、タータ姫達もだ。」

「導師…全員を連れ去ったのはエンブリヲと言う男でしたか?」

「何故、その名を?」

「それを説明するにはこちら側の事情を説明する必要があります。」

 

 

長いのでかくかくしかじか的な勢いで説明。

 

 

「成程、では多元地球と呼ばれる世界にもエンブリヲが…」

「はい。」

「奴の居所を掴む事は出来ないのか?」

「…今は様子見をするしかありません。」

「どういう事だ?」

「恐らく奴はこれからも女性達を攫う可能性があります。」

「犠牲者が今後も増えると?」

「はい、奴が油断しきった頃を見計らって救助に赴きます。」

 

 

今の状態で光達を救助しても奴が次の犠牲者に手を出す事は判っている。

 

後のエクスクロスのメンバーが奴と戦える力を持つまでは手出しは出来ない。

 

 

「旧サイデリアル…イグジスタンス兵達はこの国の防衛力として引き続き滞在際させます。」

「協力が必要であれば、余の国と連携を取って欲しい。」

「ハスミ、彼は?」

 

 

クレフからユーサー皇子の事を尋ねられたのでハスミは答えた。

 

 

「この方はここから北東に位置する聖インサラウム皇国の君主…ユーサー・インサラウム殿下です。」

「君主自ら…」

「王国を取り纏める姫君の不在にご心中を察する。」

「ご配慮感謝する、ユーサー殿下。」

 

 

自己紹介を兼ねた軽い挨拶の後に今後の事を相談した。

 

 

「導師、これからの事ですが…」

 

 

その後、セフィーロ王国は聖インサラウム皇国と臨時同盟を結んだ。

 

前回の戦乱に関して光龍お父さんの通達もあってか滞在中のフューリー達からの恨みを買う事はなかった。

 

内乱でクーデターが引き起こされた事や刻者の社が限界を迎えていた事への処置に対する恩義だろう。

 

旧サイデリアル兵達は尸空さんの説得もありセフィーロ王国の防衛を継続。

 

問題は姫と光達を救う為にザガートとランティスの二人が国を離れてしまった事である。

 

全く似た者双子め…こういう所に関しては似ていると言うか何と言うか。

 

流れでは、いずれエクスクロスと行動を共にするだろうし。

 

事情を知る勇者特急隊も居るので悪い様にはならないと思う。

 

私達は向こう側でまた大きな事が動き始めた様子なので一旦多元地球へ帰還する事にした。

 

 

=続=





暴走は止まらず。

ただあるのは見えない暗躍。


次回、幻影のエトランゼ・第百十二話『悪流《アクリュウ』


悪意の流れは止まらず広がる。


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第百十二話 『悪流《アクリュウ》』


悪意の流れ。

これは暗躍者達の勝利。

だが、その悪意に立ち向かおうとする存在もいる。

それを忘れるな。


 

ZEXISは第303独立愚連隊の離反、カミナとマーグを失った。

 

黒の騎士団は行政特区で起こった『血塗られた眼』の直接的な犯人として仕立て上げられていた。

 

だがそれは余計にブリタニア・ユニオンへのヘイトを上げる事となった。

 

原因は既にイグジスタンスが国連を通して次元力の暴走で起こる奇病であると判明している事。

 

原因が判明している以上、全ての責任を黒の騎士団に押し付けるには無理がある。

 

しかし、世論は黒の騎士団を糾弾しゼロも姿を消す事態も起きて事実上機能不全へと陥った。

 

俗に言う形を変えたブラックリベリオンが引き起こされたと言っていい。

 

更に別行動中だったソレスタルビーイングはヴェーダとのリンクが途切れた上に反乱者の汚名を着せられ…

 

所在地を晒された上に三大国家でも強硬派の部隊に襲撃を受けた。

 

三大国家に疑似GNドライブが行き渡っていたらしく裏切り者の暗躍が早期に起こったらしい。

 

これによりロックオンは効き目を負傷した状態で戦った為に行方不明、他のマイスター達も敵に捕縛されたり戦闘不能へと陥った。

 

同じく別行動中だったZEXISが最悪の状況になる前に救助したがプトレマイオスは一部の人員を失った上に航行不能。

 

ZEXISは引き続き仲間と戦力の一部を失ったのである。

 

 

******

 

 

怒涛の出来事から二週間後。

 

 

<リモネシア共和国・政庁内>

 

 

政庁内に設けられた地下施設。

 

イグジスタンスの基地として利用されており、リモード大統領を含めた数名のみが入る事を許されている。

 

その医療施設として使用されてる研究エリアにて。

 

 

「…」

 

 

ソレスタルビーイング崩壊を受けてZEXISと別行動を取っていたクロウ。

 

ロックオンとペアを組んでいたオレンジ色のハロは彼が引き取っている形だ。

 

そのハロはリンクから外れているとはいえ、ヴェーダからの監視の危険性も含めてリンクを阻害するフィルターを搭載。

 

オレンジハロ自身も簡易的な思考だけのAIとは言え、ある程度は理解したらしい。

 

 

「クロウ、ゲンキナイ?」

「解るか?」

「ロックオン、オキナイ、オキナイカラ。」

「…当分は無理そうだとさ。」

 

 

隔離されたエリアを通路の窓越しに見るクロウとオレンジハロ。

 

そのエリアは医療施設の一角で無数の調整槽が均一に設置。

 

数槽程使用されているが、内部確認の為の窓が封鎖された状態。

 

ロックオンが入っている調整槽だけは眠っている本人を確認する事が出来ている。

 

負傷が激しい効き眼部分には治療用のパットが当てられ治療は継続中だった。

 

 

「…(刹那、悪りぃ…お前らを騙す結果になっちまった。」

 

 

現時点でロックオン達が無事である事をソレスタルビーイングやZEXISに知らせる事は出来ない。

 

仲間の死を超えて自らの足で歩む事…

 

それこそが彼らの成長を促す事に繋がる。

 

お小言を貰うヒール役はするとクロウは心に決めていた。

 

 

「クロウさん…ここでしたか?」

 

 

医療施設へ訪れたハスミとセツコ。

 

 

「ハスミとセツコか。何かあったのか?」

「実はロックオンさんの機体は回収しましたが…」

「これを期に機体へ改修を施そうと思いましてね。」

「対アロウズ用って訳か…」

 

 

先のソレスタルビーイングを襲撃した強硬派の部隊は後のアロウズと化す部隊。

 

手引きはリボンズ・アルマーク率いるイノベイト達だろう。

 

ヴェーダ奪還まではリンクを遮断する必要がある為、デュナメスの改修作業に時間を要する。

 

此度の戦いには間に合わないが、アロウズが舞台に立つ頃には間に合わせる予定だ。

 

 

「成程、格納エリアにあったあの機体とかもその改修作業に入るのか?」

「…今後の戦いで必要になるのは判り切っていますからね。」

「だな、俺らが戦った奴らの他に別の並行世界で暴れていた連中も出て来た以上は…」

 

 

クロウが話していたあの機体の詳細はさておき…

 

彼の言う通り、イグジスタンスはアル・ワースでの戦いも控えている。

 

戦力を二分し双方の世界の戦いへ介入する事が決定した。

 

但し、メインはZEXISとエクスクロスが戦いの中心になるので露払い程度だ。

 

積極的に戦いへ加入を進めて来るだろうが、断固拒否する。

 

彼ら自身がシンカの道を進み会得する為には私達が影から促す事しかないのだから…

 

 

「ハスミ、ブラックリベリオンとソレスタルビーイングの崩壊が起こってしまったけど…」

「アカシックレコードは成るべくしてなったと言っていた…いくら私でも止めようがない。」

「前に話していた止めてはならない流れの事?」

「…そうよ。」

 

 

無限力の意思も復活してチラホラと動きを見せているし。

 

この破界の先に再世の時代が訪れる。

 

そして終焉へと導く時獄と天獄が始まる。

 

 

「捻じ曲がってしまったけど、こちら側の地球連邦軍が設立される。」

「アロウズ…ティターンズの設立を思い出すわね。」

「今回は設立を阻止したから違和感があると思う。」

「実際にこれからあの事件が起こると思うと…」

 

 

アロウズが引き起こす一方的な武力介入。

 

正義と言う暴力の果てに力無き者を蹂躙するだけの行為。

 

 

「それを阻止するのがZEXISでありソレスタルビーイング。」

「…」

「直接的な介入は出来ないし彼らの為にならない。」

「それでも。」

「悲しみを広げたくない…でしょ?」

「あ…」

「だから、私達が裏側から彼らの手助けをするのよ。」

「ハスミ。」

 

 

ハスミもこの謀略に屈する彼らを救う手筈を整えていた。

 

流れを知るからこそ、救うべき命を救う道を模索していると…

 

セツコはそれを察して安心した表情を見せた。

 

 

「ハスミ、頼みがあるんだが?」

「頼みとは?」

「沙慈の恋人と姉ちゃん達を救いたい…間に合うか?」

 

 

クロウもまた悲劇を繰り返させない為に動きたいと答える。

 

ハスミはそれに応える様に答えた。

 

 

「無論です。その為に尋ねたのですから。」

「…済まねぇな。」

「私は以前に言った筈です…あのサージェスは潰すと?」

 

 

ハスミの視線は冷徹さを秘めていた。

 

理不尽な暴力を振りかざす相手に対して鉄槌を下す為に。

 

 

「リボンズにとって資産家であるハレヴィ家の経済力と財力は手に取る程に欲しい筈です。」

「それであの時…トリニティに狙わせる為にしたのか?」

「ええ、あのリボンズの事です…沙慈・クロスロードの姉が嗅ぎまわって手に入れた情報は消したい案件でしょう。」

 

 

前世上の流れになる。

 

絹江の死によって各国のジャーナリスト達はソレスタルビーイングに関する報道から手を引いた。

 

このまま報道を続ければ、自分達の命が危ういと察した為に…

 

だが、密かにソレスタルビーイングの真実を追って報道を続ける者達も存在した。

 

アロウズに対抗しようとしたレジスタンスの一つカタロンもそうであった様に。

 

 

「…奴が行動を起こすのは今夜です。」

「例の結婚式は?」

「そちらは私の部下達が監視を行っているので、動きがあれば動く様に指示してあります。」

「…」

「今はあの無精ひげを仕留めるのが先です。」

 

 

~数時間後~

 

 

夜も更け、都心には消えない灯りが灯るビル街。

 

その街の中にも闇は存在する。

 

下層エリア…ダウンタウンの様な光景が広がる場所。

 

沙慈の姉である絹江はゲイリー・ビアッジと言う男性と接触し情報を得ようしていた。

 

だが、その行動は浅はかだった…

 

 

「アンタは踏み込み過ぎたんだ…この世界の闇にな?」

「ひっ!?」

 

 

人気のないダウンタウン。

 

そこで助けを呼ぶ事は出来ない。

 

絹江は腹部を拳銃で撃たれて身動きが取れない状況。

 

出血も酷く、治療しなければ命はない。

 

弱肉強食の…喰うか喰われるかの状況の最中。

 

だが、最悪の状況でも正義の女神は平等に奇跡を迎えさせた。

 

 

「いい加減にしろや、この髭達磨?」

「テメェらは…?」

 

 

ゲイリーことサージェスが向けていた拳銃をアーミーナイフを投げ付け弾いたクロウと…

 

打刀を携えたハスミの姿があった。

 

 

「PMCトラストのゲイリー・ビアッジ…いや、アリー・アル・サージェスと呼んだ方が?」

「っ!?」

「私達はソレスタルビーイングではない。そうね…独特な奇声を上げる青年に聞いたと言えば解るかしら?」

 

 

ハスミは間髪入れずにサージェスの名を答えた。

 

サージェス自身も自身の素性を知られた

 

 

「テメェ、あの基地外野郎の知り合いか?」

「顧客と言った方が正しいです。」

「へぇ~アイツも随分と偉くなったもんだぜ?」

 

 

嘘と真実を織り交ぜて答えるハスミ。

 

嘘の様で真実に近い言葉はサージェスを油断させる為の話術である。

 

 

「さてと、彼女を狙ったのは…大体は察していますので。」

「だったら…テメェらも纏めて始末するだけだ!」

 

 

サージェスはダウンタウンの廃屋に隠れていた仲間に指示を出してクロウ達に銃を向けさせた。

 

 

「あーあー、止めとけばいいのによ?」

「へっ?」

 

 

クロウの発言にサージェスは間抜けな声を上げた。

 

クロウ達に銃を向けていた仲間が瞬時に倒されたのだ。

 

 

「ったくよ、全然手応えねえぜ?」

「暇つぶしとしてそちらに渡したのですから善処はしましたよ?」

「これなら獣人かあのバケモン連中を相手にしていた方が…まだマシだぜ?」

 

 

崩壊する廃屋と山積みにされたサージェスの部下達。

 

その主犯が呆れた口調で現れたのだ。

 

 

「は?」

 

 

これにはサージェスも驚愕せざる負えない。

 

目処前に現れたのは破界の王と呼ばれた存在なのだから…

 

 

「話が逸れましたね、貴方をここで仕留めさせて頂きます。」

「この俺を仕留めるってか?随分と大きく出たな…イグジスタンス!!」

「はぁ、口五月蠅いですよ……無精ひげ。」

 

 

サージェスの悪あがきにハスミの毒舌が開始する。

 

 

「ああ、ついでですけど?身綺麗にしても体臭が酷いですね……特に足とか?」

「はぁ!?」

「あら?図星ですか?」

「俺は臭くねぇし!!」

「否定すると余計に本当になりますけど?」

「そういや…テメェから嫌な臭いがするな?」

「俺も同意するぜ?」

 

 

ハスミの発言でサージェスの体臭がピックアップ。

 

同じ様に同意するかの様に答えるクロウとガイオウ。

 

この場で勝ち目のないサージェスが取った行動は…

 

 

「て、テメェら……くそぉおおおおお!!」

「裏切り者の監視者達によろしくお伝えくださいね?」

 

 

体臭(特に足)が臭いと言う不名誉なレッテルを貼られたまま撤退したのである。

 

ちなみにガイオウに仕留められた部下達も散り散りに退散した様だ。

 

出血が止まらない絹江は自身を救ってくれた人達に声を掛けた。

 

 

「あの…貴方達は?」

「絹江・クロスロードですね?」

「はい。」

「私達はイグジスタンス。」

「イグジスタンス…貴方達…が!?」

「貴方のジャーナリストとしての協力が必要です…まずは治療が最優先ですね。」

「…」

 

 

その後、絹江・クロスロードは何者かに襲われ死亡したと報道された。

 

それは偽りの力で彼女を守る為の言葉だった。

 

 

 

=続=





悲劇の果てに。

彼らは強くならねばならない。



次回、幻影のエトランゼ・第百十二話『改始《カイシ》』



さあ、改めて始めよう。


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第百十二話 『改始《カイシ》』


目まぐるしく変わる世界。

それは悪意の流出と噴出。

始めるのは再生への世。





 

ブラックリベリオンによる黒の騎士団の一方的な失墜と壊滅。

 

ソレスタルビーイング・実働部隊の崩壊。

 

例の如くのドーバーの悲劇の再来。

 

本来の正史では第303独立愚連隊は時空振動を引き起こせるインぺリウムと手を組む筈だった。

 

だが、イグジスタンスがインぺリウムを仕留めた結果…

 

彼らはその道を断たれた。

 

そして、彼らを利用しようとある存在が協力を申し出た。

 

それがあのエンブリヲでだった。

 

こちら側の説得が早ければ、こんな事を引き起こす必要もなかったのだが…

 

無限力の横槍が早期に起こってしまった。

 

だが、二人はそんな困難の中でもZEXISの協力の元で奇跡を起こした。

 

 

「エウレカ、僕は…!!」

「レントン、私も!」

 

 

虹の光がポケットから溢れ出たのだ。

 

暴走するイマージュ達はエウレカから全ての記憶を貰って消えた。

 

全ての記憶を渡した事で記憶喪失になったエウレカだったが…

 

歌姫達の歌とZEXISで過ごした時間が彼女の記憶を戻した。

 

そして…イマージュ達は記憶と引き換えに彼女に奇跡を残していった。

 

奇跡の後にもう一つ解決しなければならない事がある。

 

彼らの起こした事は許される事ではない。

 

だが、償う事は出来る。

 

ホランド達の身体を急激に成長させている現象。

 

その流れはドーバーの悲劇…不安定な時空振動によって引き起こされたモノ。

 

経過してしまった彼らの時間を戻せないが、スフィアの力で元の流れに戻す事は出来る。

 

ホランド達も治療方法がある事を理解し投降を了承して貰った。

 

こうして、第303独立愚連隊はZEXISに舞い戻る事となった。

 

 

******

 

 

虹の奇跡の日から更に数週間が経過した。

 

早乙女研究所での悲劇とインベーダーの本格的な襲来。

 

ギシン率いる星間連合の一時撤退。

 

偽りの果てのバジュラとの戦い。

 

月に隠れていたムーンWILLとの決着。

 

キリコの因縁。

 

それらのいざこざの収拾を収めて…

 

この多元世界を訪れてから半年程が経過した頃の事。

 

国連のエルガン代表が例の如く拉致監禁を受けそうになったので対処。

 

原因の根源であるリボンズの配下達もとある事で尻尾巻いて逃げて行った。

 

…そんなに生身でMSを切断したのが可笑しかったのか?

 

あっちでは普通の事なのだが?

 

で、平和理事会は並行してエルガン代表が手綱を握れる様にイグジスタンスより護衛を送って置いた。

 

知る限り、まともなジ・エーデルは彼とスズネ先生位なので退場はしないで欲しいです。

 

なので、アロウズも下手な行動を取る事は出来ないだろう。

 

人道を無視した暴走を行うのであれば、容赦なく仕留めるだけだ。

 

一通りの流れで今の状況を察して頂く様に再世の話に入った状態になる。

 

これに並行してアル・ワース事件の解決も行っていく形だ。

 

いい加減、いざこざを解決して終末の日を潜り抜けなければならないので…

 

 

<リモネシア共和国・政庁>

 

 

最下層の円卓の間で各方面の経過報告を行う中。

 

アロウズや裏で暗躍する存在達の動きも警戒しなければならない。

 

そんな最中であるが、あの世界の一件も話に上がった。

 

経過報告の後に声を上げたアウストラリス。

 

 

「アル・ワースへ?」

「はい…アル・ワース側の状況も変わりつつありますし、威力偵察を兼ねて向かいたいと思います。」

「私も国との定期連絡と状況を把握しなければならない。」

「ハスミとユーサーはこのままアル・ワースへ転移か…他に行く者はいるか?」

 

 

現時点でスフィアリアクターは一四名。

 

更にニ、三名がアル・ワース向かっても戦力上のバランスは取れる。

 

 

「では、私が向かいます。」

 

 

軽く挙手しアル・ワース行きを志願するアイム。

 

 

「アイム?」

「私やガイオウ自身、今も表向きは首輪を付けられている扱いでしょう?」

 

 

リモネシア共和国の元、インぺリウムだったガイオウとアイムらはイグジスタンスが現在も監視。

 

本人や次元獣による破壊活動をさせない様に手綱を握っている状況は継続中。

 

表立って動けないのであれば、制限のない別世界で行動するのも悪くないと判断したらしい。

 

 

「ガイオウ、貴方も同行しますよね?」

「そうするか…ここで燻ぶっているよりはな?」

「アウストラリス、暇を持て余す位なら彼に仕事をして貰っては?」

「…そうだな。」

 

 

アイムも上下関係から同僚と化したのでガイオウを様呼びでしなくなった様だ。

 

ガイオウもこの所…思う様に動けない事に窮屈だったらしい。

 

ハスミの助言もあり、アウストラリスは二人のアル・ワース行きを認めた。

 

 

「でもさ、監視の件はどうすんの?」

「国連にはダミーの監視データでも渡して置けばいいでしょう。」

「流石にバレないか?」

「寧ろ…碌な仕事してないし、前回の向こう側のヘマに対する対価にして貰います。」

「あ~成程。」

 

 

エルーナやクロウの疑問も最もだが…

 

国連の平和理事会…例のエルガン代表拉致未遂事件の尻拭いをこちらでしている。

 

そのネタで今回の監視の件に目を瞑って貰う事にした。

 

アロウズの暴走をある程度止められないなら、その位はして貰わなければ困る。

 

 

「ハスミ、鋼龍戦隊はどうしている?」

「…事情を説明し元の世界に帰還して貰っています。」

「次に会う予定は?」

「それは向こう側の上層部次第でしょう。流石に直属の部隊となると動きが制限されてしまうので…」

「制限は避けたいが、向こう側の暴走も捨て置けんからな。」

 

 

鋼龍戦隊は軍上層部…ギャスパル元帥らに紛い物のクロスゲート破壊からの経緯を説明。

 

この事から元帥は軍内部に潜む曲者の正体がクロノである事を理解する。

 

奴らの暗躍に混乱を生じさせ一括りに捕らえる為に秘匿の流れに持って行って貰った。

 

早い話が、こちら側のイグジスタンスの件を知らぬ存ぜぬで通して貰う形に収めたのだ。

 

 

「鋼龍戦隊が去った後、こちら側のラマリスが激減したのも無限力の思惑でしょうし。」

「本来ならば過剰戦力だった者達…彼らの帰還でラマリスを現出させる必要も無くなったと?」

「無限力の横槍がまた飛び火するかもしれませんが、今は様子見をするしかありません。」

「…奴らの気まぐれに付き合わされるのも気に喰わんな。」

「本当ですね。」

 

 

鋼龍戦隊の一時帰還。

 

向こう側での彼らの行方不明は一か月程度。

 

それでも十分な妨害である事も確かだ。

 

今後、彼らはラマリスの痕跡捜査の為に地球圏を右往左往する事となる。

 

イルイに関してはラマリスの気配をいち早く察知出来るのもあるので鋼龍戦隊預かり。

 

あの子の護衛はハーケンさん達に頼んでおいたし…悪い様にならないと思う。

 

 

「…(そろそろ貴女の協力が必要になってきたよ。」

 

 

私は己の身に潜むあの子に静かに語り掛けた。

 

 

=続=





魔獣の潜む世界。

交差するXの名を持つ戦士達。

彼らの出遭いに彼女は静かに答える。


次回、幻影のエトランゼ・第百十三話『交遭《コウソウ》』


彼女の問いは彼らに対するモノと成長を促す為のモノ。


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歪の付箋


変える程に流れは変わる。

代役は誰?

静かにゆっくりと…

奴らは笑みを浮かべる。


一通りの区切りがついた所である現象が起こった。

 

インぺリウムの早期退場後、代用として発生した破界の現象。

 

ラマリスの異常現出。

 

出所は破界戦役での最終決戦地となった陰月。

 

そこにペルフェクティオの残滓が残るファートゥムの残骸が鎮座していた。

 

それがこの世界におけるラマリスの発生原因だった。

 

今までスフィアの感知に引っかからなかったのも無限力の横槍が要因だろう。

 

だが、ソルの覚醒に伴い無限力に抗う力を手に入れた以上は倍返しする。

 

今までの分…頸を洗って待っているがいい。

 

と、言う形で鋼龍戦隊と共に駆除に向かいましたとさ。

 

 

******

 

 

問題のブラックリベリオン後の事。

 

エリア11では行政特区での一件に伴う黒の騎士団への弾圧が継続。

 

関りを持つ者や持たぬ者の分別を付けずにイレブンは処理されていった。

 

その処理に関してリモネシア共和国はイレブンを含めたナンバーの人々を緊急避難民として…

 

受け入れる方針を定めた。

 

勿論、ブリタニア・ユニオン側は抗議したが…

 

 

「確証もない一方的な弾圧は虐殺…只のヒトゴロシと変わらない。」

「だが、現に証拠が…」

「よくもまあ上手く造ってますね…コレはB級映画か何かですか?」

 

 

提示されたブリタニア・ユニオン側の証拠映像。

 

その映像に加工されたフェイクフィルターを一つずつ外していく。

 

元の映像は単なるフェイク映像へと変貌した。

 

 

「それにしてもこんな嘘の証拠で世論を動かせましたね?」

「…それは。」

「一方の利益でどれだけの人々が貧困に苦しんでいたか…貴方達が苦しい土下座しても無理でしょう。」

「…(鎧のせいで表情が見えない、彼はどんな表情をしている?」

 

 

更にブリタニア・ユニオンの強制執行への矛盾点を大量に指摘してぐうの音を持たせない様に仕留めた。

 

これに対してユニオン側の外務担当は土気色で絶望した表情。

 

ブリタニア側の外務担当のシュナイゼルも青褪めた表情で顔を引きつらせていた。

 

リモネシア共和国大統領の護衛兼外務代理のファウヌス姿の私がズバズバと腹の痛い所を言ったのが余程堪えたのだろう。

 

 

「…(本気の彼女を敵に回したのが運の尽きだったね。」

 

 

様子を見ていたトレーズさんも困ったような表情を見せていた。

 

まあ、執行しろと言ったのが他の連中である事は理解しているので酷く寝込まない程度にはやってやりました。

 

黒の騎士団代表のゼロの身柄は今の所は行方不明と表向きに公表されている。

 

流れは知っているのでそろそろユーロ・ブリタニアの方へ彼と共に向かっている頃だろう。

 

ジュリアス・シーザーの名で。

 

こっちの地球連邦も出来たてホヤホヤだから仕方がない。

 

方針が切り換わっても外務で互いに小競り合いを続けているのでどうしようもない。

 

アッシュフォード学園にも全生徒の総入れ替えが始まっているし…

 

黒の騎士団やその友人達が真実を知るのはもう少し先になるだろう。

 

 

「それで?まだ続けますか。」

「…いえ、そちらの方針は判りました。」

 

 

衣食住込みで避難民の受け入れをこっちでしてやるんだからさっさと許可しろや?

 

やらねえとその澄まし顔を三枚下ろしにしてやるぞ?

 

と言いそうになったのは気の所為ダヨw

 

 

「所で其処の博士達は隠し事を曝露する気になりましたか?」

 

 

ファウヌスが次の獲物としてコーウェンとスティンガーに視線を移す。

 

 

「隠し事?」

「何の事ですか?」

 

 

ファウヌスは仮面越しであるが、冷徹な視線のまま静かに答えた。

 

 

「ああ、インベーダーに何を言っても無駄でしたね?」

 

 

ファウヌスの発言に議会に出席していた者達はどよめきの声を上げ、当人らも焦った表情をしていた。

 

図体と顔がデカい分…ものすっごく分かりやすい。

 

 

「い、一体何を根拠に?」

「う、うんそうですよ。」

「獅子身中の虫…何処も小競り合いで本質を見抜けないのは置いといて、議会の方達も戦うべき敵を招いてどうするつもりだったのですか?」

 

 

コーウェンとスティンガーは焦りを隠せずにいた。

 

この場の誰も知る筈のない事をファウヌスは理解し徐々に自分達を追い詰めようとしている。

 

 

「早乙女研究所での一件…貴方達が仕組んだ事であるのは知っていますので。」

 

 

同級生のミチルにインベーダーを寄生させ早乙女博士を脅迫しようとしていた事。

 

黙って見過ごすと思ったか?

 

結局、あの悲劇は別の形で起きてしまう未来。

 

それでも救えるのなら救いたい。

 

 

「…」

「戦うのであれば、我々イグジスタンスを敵に回す事になるのはご理解頂けましたか?」

「…コーウェン君。」

「この場はおとなしく去ろう、いずれ真実を知る事になるがね。」

 

 

二人は白衣の中からぐにゃりとインベーダーの眼を現出し周囲にちらつかせて去って行った。

 

インベーダーと同化している基地外博士ズも本能で判っていたのだろう。

 

この場で事を構えても勝ち目がない事を…

 

議会の行われているニューヨーク本部には別室でコーラ飲みながら不貞腐れている次元将も来ている。

 

最初から彼らの正体を暴露して貰う為の茶番劇に付き合わせたのだ。

 

 

「エルガン代表、奴らの後始末はこちらでさせて頂いても?」

「まさかインベーダーの研究を行っている博士達が既に寄生されていたとは…」

「あの見た目な奴らですが、意外に知恵は回る。」

 

 

実際、襲われた人々に寄生し無事だった人々に寄生する。

 

単純であるが、人の心理を理解した上での増殖行為。

 

前世で関りのあったジョッシュ達から経緯を聞いていたが、実際にやられると胸糞悪い。

 

 

「リモード代表…こちらの危険行為に付き合わせてしまい申し訳ありません。」

「いや、私もインベーダーを軽視していた…皆さんも考えを改めてはどうでしょう?」

 

 

もう一つの目的はデモンストレーションとしてインベーダーの危険性を周知して貰う事。

 

誰しもいつどこで寄生され襲われる状況は溜まったものではない。

 

流石の旧三大国家も理解した様だ。

 

 

「…(無限力の圧力か…結局、アロウズの設立は阻止できなかった。」

 

 

…人類が成長する為の流れでは必要な措置なのだろう。

 

彼らでも止められない暴挙に出そうなら所々で妨害して置く。

 

完全に介入するのでは意味が無いから…

 

長々と他勢力の利益目的の議題は終わりを迎えた。

 

 

>>>>>>

 

 

世界が虚偽の世界になりつつある中で芽吹くのは悪意だけではない。

 

 

~ゼロの行方不明から1週間後~

 

 

ブリタニア・ユニオンが植民地化したユーロ方面へ向かう護送列車にて。

 

 

「ルルーシュ、大丈夫?」

「ああ…」

「いくら何でも無茶が過ぎるよ…」

「奴らを欺くにはあれしか方法はなかった。」

 

 

ルルーシュことジュリアス・シーザーの監視兼護衛の任を任されたスザク。

 

彼はゼロを捕らえて皇帝の前に引きずり出した事でナイト・オブ・ラウンズへ昇格。

 

一方で親友を売った裏切り者と呼ばれる末路が待っていても…

 

 

「盗聴や監視の方はない、今なら話せるよ?」

 

 

護送列車の客車の一つ。

 

豪奢な客室の席でルルーシュは片目元だけの仮面を外して一息ついた。

 

そして客室に隠れていた存在に声を掛けた。

 

 

「そちらにも感謝するぞ…アイム・ライアード。」

「…」

「でも、どうして貴方達が協力を?」

「私もまた誰かに利用されるのはまっぴら御免ですので。」

 

 

ゼロとしての姿をルルーシュを皇帝の前で引きずり出した後。

 

彼に新たなギアスがかけられたが…それを彼が偽ったのである。

 

ルルーシュは皇帝のスフィアに掛かったように見えて実は掛けられていない。

 

ギアスを妨害する術はいくらでもある…ただそれだけだ。

 

 

「世界すらも偽るスフィアもあるのなら真実を白日の元に晒して開放するスフィアの存在していただけですよ。」

「…」

「それに見て見たいじゃないですか、あの連結したちくわの様な頭の皇帝がうろたえる姿を?」

「…」

「…」

 

 

あのアイムが嘘ではない発言をする姿に驚く二人。

 

 

「かつての私なら出来なかった事です、偽る事で守れるものがあるのなら私は偽りましょう。」

 

 

白日の元に晒しても意味はない真実ある。

 

優しい嘘もまた必要であると…アイムは彼女に告げられた事を思い出した。

 

 

「今後の連絡役は私とアサキムが行います……それに子供の姿をした曲者にも一泡吹かせたいでしょう?」

「V.Vの事か?」

「ええ、所々でエンデの意思も関わっていると彼女も仰ってましたので…」

「な!?」

「エンデって!」

「その様子では気づいていなかった様子ですね?」

「…」

「エンデの一件はこちらでも対処します。今はすべき事に専念してください。」

「判った。」

「頼みます。」

 

 

その後、ルルーシュはゼロ復活の日までジュリアス・シーザーの傀儡を演じた。

 

 

~ブラックリベリオン後、アシュフォード学園では~

 

 

「えっ、沙慈が?」

「うん…」

「お姉さんが亡くなって学園に通えないからって…うちの学園でも制度利用が出来たのに。」

 

 

ルルーシュ達が学園に来なくなってから目まぐるしく変わった学園。

 

テロ行為を受けて学生の多くが本土へ帰国し残っている学生のはごくわずかとなった。

 

生徒会のメンバーは変わらず通学しているが、ここでも変化が起こった。

 

生徒会のメンバーだった沙慈が退学届を出して学園を去って行った事。

 

従兄の結婚式を無事に終えたルイスが彼のマンションを訪ねた事で発覚した。

 

退去時に大家から彼から預かったと言われた婚約指輪を目にして彼女は涙するしかなかった。

 

 

「私、何も知らなくて…絹江さんが殺されたなんて。」

「沙慈のお姉さん、ジャーナリストだったもんな。」

「シャーリィ…そう言えばルルーシュ達は?」

「ルルも留学先で戦闘に巻き込まれて暫く戻れないって…スザク君も現地で。」

「…ゴメンね。」

「いいの。私もルイスと同じ気持ちだから。」

「ニーナも行政特区の一件であれっきり姿を見せなくなって…」

「皆…バラバラだね。」

 

 

シャーリィからルルーシュが留学先で戦闘に巻き込まれた事。

 

怪我をしエリア11へ戻れない事、スザクも留学先で現地配属が決まり戻れなくなった。

 

妹のナナリーは流れ流れで本国へと戻された。

 

カレンはブラックリベリオンの一件で自身がハーフである事と理不尽に故郷を奪われた民族の怒りを口にして去って行った。

 

流れは変わりつつあった。

 

 

=続=





アンケート撤去しました。

ご協力ありがとうございました。


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第百十三話 『交遭《コウソウ》』


救世主と言う言葉。

それは縛りの言葉。

君は担ぎ上げられた生贄。

人々は己の力で立ち上がる意思を見せない。

他力本願。

それはどうにもならない程の違和感。


 

多元地球での地球連邦設立後。

 

アル・ワースでも大きく事が動いていた。

 

魔獣の掌の中であるが…

 

アル・ワースを支配しようと企む者達へ立ち向かう救世主一行の集団。

 

名を改め、エクスクロスの誕生である。

 

現在は戦艦三隻が母体となって行動している形だ。

 

それらを構成している人員にも若干の変化がある。

 

分かりにくいので正史に近い形で説明入ろうと思う。

 

 

まずは戦争の世界から召喚されるメンバー。

 

 

現時点でアムロ大尉達は多元地球から元の世界へ帰還していない点。

 

シャア大佐もクワトロ大尉と名を偽ってアムロ大尉達と行動しているのでそちら側には居ない。

 

アル・ワースへ飛ばされたロンド・ベル隊はシャングリラチームとキンゲトゥから戻ったシーブック達。

 

これにアルビオン隊が代わりに追加されている状態である。

 

で、クロスボーン・バンガードのトビア達…鋼鉄の七人。

 

状況はまだ調査中だが、リギルド・センチュリーと呼ばれる時代の人々が参加している。

 

これ、絶対狙ってるだろう…無限力。

 

 

続いて革命の世界。

 

 

召喚されたのはバイストン・ウェル組のみ。

 

万丈さん達やプリベンターと黒の騎士団関係はまだ多元地球のいざこざが終わっていないので不参加。

 

恐らく、異世界セフィーロが代理で参加させられた形だろう。

 

今の所、光達は攫われたままなのでザガートとランティス達が部隊に協力中。

 

 

三番目は平和の世界。

 

 

勇者特急隊とブレイブポリスが召喚された。

 

また、ガンバーチームに勇者ラムネスらと同級生の少年で戦部ワタルと言う子が一緒に召喚された。

 

彼が後の救世主様である。

 

 

21世紀の世界。

 

 

自由条約連合が参加。

 

 

19世紀の世界。

 

 

旧ノーチラス号のメンバーが参加。

 

 

アウラの世界。

 

 

アウラの民が参加。

 

少し早い展開だが、色々とあったのだろう。

 

 

戦隊の世界。

 

 

帰還した筈のゴーカイジャーのメンバー。

 

調べた所、所属する世界へ戻る道中で歯車の音がして弾き飛ばされたらしい。

 

………全力全開ネタが成立しちゃったよ。

 

 

新西暦の世界。

 

 

で、何故か帰還させたマサキ達にE&Rコーポレーションがこの部隊に参加している形である。

 

マサキは兎も角シュウ博士達は何の巡り合わせ?って正直思った。

 

 

問題のアル・ワース側の世界の人々。

 

 

創界山の協力者、アルゼナル、魔従教団からの離脱者達。

 

獣の国であるカミナシティは多元地球で建造中でこちら側に存在していない。

 

代替わりで聖インサラウム皇国が召喚されているので。

 

こんな感じで抜けには抜けを補う形で代役が立てられている様子だ。

 

 

******

 

 

一通りの説明を終えた後、私達はエクスクロスが航行中のエリアへと辿り着いた。

 

ユーサー皇子は国の事もあるのでそちらで待機して貰っている。

 

正直に言うなら今回のメンツでも過剰戦力すぎるので戦力バランスを考えての布陣だ。

 

 

「エンデめ…また余計に戦力を呼び寄せるとは。」

 

 

私ことハスミはイライラを募らせながら集めた情報を集約していた。

 

思ったより負の感情を喰えない事が原因で余計な争いを持ち込んだ様子。

 

ただでさえ、多元地球にも横槍入れている癖に…あの全身の毛皮剥いで敷物にしちゃろうか?

 

 

「思った以上に荒れていますね?」

「色々と。」

 

 

アイムさんの言葉通りで血圧上がって血管が切れそうな位に怒り心頭気味です。

 

 

「此方としては極力介入を控えるつもりでしたが、少し暴れて置きたいと思います。」

「大々的に壊すのか?」

「その予定です。」

「いいぜ…俺は暴れられるのならな?」

 

 

正直な話、ガイオウ…貴方のストレス発散も兼ねていますので。

 

アウストラリスからも『エクスクロスの力量を見定めよ。』と指示を受けていますし。

 

シンカの力の兆しに目覚めていない場合は彼らと闘わせて貰う。

 

何人かは大丈夫だろうが、これも試練と思って欲しい。

 

そんな考えをしていると近場の街で異変が起こっていた。

 

 

「アレは一体?」

「何だ?戦艦に街も何もかもが逆立ちしてるぜ?」

「これは…」

「ハスミさん、状況は解りますか?」

「大体は…(成程、様子から察するに逆さまにされた街の時の状況か。」

 

 

第一階層のボス、クルージング・トムが敗れた事で出張ってきた奴がいる。

 

ドアクダー軍団の第二階層を支配するちばし…じゃなかったデス・ゴッドだ。

 

奴の手により創界山の秘宝の一つである真実の鏡を奪われた模様。

 

その真実の鏡を曇らせた事で逆転の力が発動。

 

周囲の街は逆さまの上にエクスクロスの戦艦が行動不能に陥ったのである。

 

本来であれば、ここでルルーシュの仲間であるジェレミアとアーニャの二人がドアクダー軍団として仕掛けている形であるが…

 

配役がいないので別の誰かが差し向けられるだろう。

 

 

「少々、様子を見てからの方が良いかもしれません。」

 

 

私は彼らが自らの手で問題を解決するまで時を待った。

 

 

~一日が経過~

 

 

ユーサー皇子との定期連絡後、皇国の方は変わらずドアクダー軍団が嗾けているらしい。

 

防衛力に関しては問題はないのでそちらの件はそちらに任せて貰う事にした。

 

私達は引き続き真実の鏡を取り戻そうとしているエクスクロスのメンバーを監視。

 

頃合いを見て出撃した。

 

 

「これだけの軍勢に勝てるかな?」

「くそっ!」

「救世主の伝説もここまでだ!!」

 

 

 

更なる増援を呼び寄せた事で勝敗が決まった。

 

この様子に高笑いをするデス・ゴッドを余所に…

 

 

「馬鹿はどっちだ?」

 

 

破壊する存在によって放たれた殴り砕く音。

 

それと共に崩壊する高台。

 

増援の量産型ゲッペルンの大群は足場である高台が崩れた事で崩壊に巻き込まれて布陣は壊滅。

 

その状況に驚くデス・ゴッド。

 

 

「何っ!?」

「スカスカの足元に大群を呼び寄せやがって…さっさとやられろって意味かよ?」

 

 

残っていたのは空戦タイプの量産型ヘルコフターのみ。

 

だが…

 

 

「やれやれ…頭が足りないのは部下も同じと言う訳ですか?」

 

 

偽りの力で接近しブラッティ・ヴァインで周囲に展開していた量産型ヘルコフター部隊を総殺。

 

 

「…ああ言うのは永遠の脇役で良いのでは?」

 

 

ドアクダー軍団によって操られたBD連合。

 

その戦闘ロボット達を一閃して破壊。

 

更生を目指しているパイロット達に非はないので命までは奪っていない。

 

 

「だ、誰だ!?姿を見せろ!!」

「見せてやるよ…テメェの無様な姿を拝む為にもな?」

 

 

崩壊した戦線とは違う位置から出現した存在。

 

破界の次元将ヴァイシュラバ、偽りの存在アリエティス、光と闇の魔神エクリプスが姿を現した。

 

 

「あれは!?」

「ガイオウ!?それにアイムとハスミじゃねえか!!」

 

 

エクスクロスと行動を共にしていたラウルとマサキの発言。

 

 

「…どうやら彼らもアル・ワースに来ていたらしいですね。」

「一体どうやって!?」

 

 

シュウ博士の言葉に反応するリューネ。

 

 

「もしかしてクロスゲート?」

「若しくはソルの力でしょうね。」

 

 

マサキ達からある程度は説明されているだろう。

 

護る為に真実と嘘を練り込ませた事情を…

 

イグジスタンスはある意味で協力者ではない。

 

旧サイデリアルであり、御使い打倒を掲げる独立組織であると伝えられた筈だ。

 

 

「事情はさて置き、私達は調査中に奴らと出くわしただけです。」

「調査?」

「私達には私達の…と、言った方が良いですか?」

 

 

シュウ博士の疑問に答えるハスミ。

 

 

「な、何だ貴様らは!?」

 

 

この状況に混乱しているデス・ゴッド。

 

タイミングが良いのか悪いのかこちらの話を遮られた。

 

逆にデス・ゴッドの問い掛けに反応したガイオウ。

 

 

「テメェこそ何だ?」

「我が名はデス・ゴッド!ドアクダー様に第二階層を任された者だ!」

「はぁ?ドアクダー……何だ奴か。」

「何だ貴様!!その態度は…ドアクダー様に向かって!?」

「何が様だよ…大災害の頃にアイツらから真っ先に逃げた腰抜け野郎じゃねえか?」

「な!?」

「えっ?」

 

 

次元将モードではあるが…

 

あきれ顔で耳ホジポーズのガイオウはドアクダーの名をデス・ゴッドから聞くや否や腰抜けと言い捨てた。

 

それに驚くワタルにエクスクロスのメンバー。

 

 

「ついでに言えば、この世界に隠れている奴らは大体がそうだぜ?」

 

 

アル・ワースは設立から三千年が経過している。

 

例の大災害の一件も長命な者にとっては最近の出来事。

 

実際に前回の大災害で戦って生き残った者の言葉は重みが違うのだろう。

 

 

「雁首揃えて生き残っている割には諦めやがって…」

「…それには同意します。」

 

 

一部には同胞を逃がす為に戦えなかった者達も居るのは理解している。

 

だからと言って生きる為の戦いを放棄するのは宜しくない。

 

 

「ぐぬぬ…おのれ!!」

 

 

デス・ゴッドは曇った真実の鏡を天に掲げた。

 

同時に動けていた機体が鏡の影響下に晒されて行動不能ととなる。

 

例外を除いて。

 

 

「これでは動けまい!ふはははっ!!」

「で?」

「へ?」

 

 

真実の鏡の発動の最中、平然としているガイオウにアイムとハスミ。

 

その様子に阿保な声を上げたデス・ゴッド。

 

 

「き、貴様ら!何故影響を受けない!?」

「その鏡は曇っている事で真実を覆い隠しているのでしょう?」

「その通りだ!だが…何故!?」

「私達にまやかしは通用しない…それだけ。」

 

 

ソルの力が目覚めた影響なのだろう。

 

ガイオウの埒外の蛇者のスフィアは他のスフィアの力を発動させる事が出来る。

 

この為、影響に関係している事象を無効化していた。

 

アイムも偽りの黒羊のスフィアで全てを覆い隠し偽る。

 

自身に降りかかる影響を偽って無効化していた。

 

ハスミの知りたがる山羊のスフィアは真実を白日の元に晒して暴露する。

 

どんな呪いでも影響を無くす事が可能なのだ。

 

 

「油断したのはどっちかしら?」

 

 

ハスミは油断したデス・ゴッドの機体に攻撃を加えた。

 

ついでに斬られた時に真実の鏡も落としたので…

 

一時的に鏡の効果が薄れたのだろう。

 

ポジティブに動いていたヒミコちゃんに返却して置いた。

 

 

「かがみちょうだいなのだ。」

「もう無くさないでね?」

「おねーさんありがとなのだ。」

 

 

で、例の如く真実の鏡の曇りを取り除くと街は元通りになり各艦の航行も回復した。

 

 

「真実の鏡がぁ…」

「テメェ、あの逆立ちさせる鏡がなけりゃあ只の雑魚じゃねえか?」

「う、煩い!この鬼!悪魔!化け物!!?」

 

 

ブチンと何かが切れる音が聞こえたのは気のせいじゃない。

 

 

「ピーピーうるせぇ…」

 

 

ガイオウの眼光でデス・ゴッドは蛇に睨まれた蛙状態に陥った。

 

蠅程度の相手にグダグダ言われればそりゃー怒るよ。

 

それに…敢えて言おう。

 

中盤に出る様な小物感満載の中ボスが高難易度でEXステージにも出る様なラスボスに単機で勝てるとでも?

 

 

「あわわわわ…」

「どうした?さっきまでの威勢はどこ行った?」

「え…えと。」

「戦わねえのか!おい!?」

「ひっ!!」

「クソが!ハズレじゃねえか!!」

 

 

余りの小物風情にガイオウは怒りのボルテージを上げた。

 

同時に白旗を上げようとしたデスバッドを追い詰めると景気よく殴り飛ばした。

 

何時もの次元結界すらぶっ壊す勢いでない事を有難く思えばいい。

 

 

「ご、ごめんなさぃいいいいいい!!!!!」

 

 

キラーンとSEが掛かる様に恐怖で号泣のデス・ゴッドは汚いお星様となりました。

 

ついでに余りの恐怖で洗脳が解けて元の姿に戻ったっぽい。

 

 

「見事なまでに哀れですね。」

「ああ言うのはしぶとく生き残るので…ま、運が良ければの話ですけど。」

 

 

ホームランされたデス・ゴッドの末路を哀れな眼で見るアイムとハスミ。

 

奴の持つギャグキャラの宿命は一生逃れられないと改めて理解した。

 

戦況が落ち着いたと同時に私達は礼の言葉を彼女から受けた。

 

 

「あの…助けて頂きありがとうございます。」

「大したことはしていないわ、奴か勝手に自滅しただけよ。」

 

 

今回のゼルガードのパイロットはアマリ・アクアマリンらしい。

 

ちなみにイオリ・アイオライトも同乗している。

 

此処でも変異は起きているらしい。

 

 

「それと、お小言をして置きたい。」

「えっ?」

「ザガートとランティス…貴方達が不在中にセフィーロが魔従教団に襲撃受けた。」

「なっ!?」

「セフィーロが…!」

「導師クレフ達の防御結界もFTOやNSXでの防戦にも限りがある…念の為、援軍は配置して置きました。」

「済まない。」

「事情は導師達から伺っている……姫や光達の事も。」

 

 

二人にも事情があるのは理解している。

 

だからと言って国の防衛を疎かにするのは頂けない。

 

なので、釘打ち程度のお小言はさせて貰う。

 

 

「セフィーロを邪教と抜かした魔従教団…こちらとしても文字通り殲滅させて貰うわ。」

「おいおい、マジでやる気かよ!?」

「マサキ、どっち道いいんじゃニャいか?」

「シロ、冗談でも言葉にしちゃ駄目ニャ。」

「光達を連れ去った存在もね……生きている事を後悔させてやるつもりよ?」

「やりかねない…彼女なら。」

「それが出来ちゃう戦力も持っているしね…」

 

 

ハスミの魔従教団殲滅宣言に反応するマサキ達。

 

同じくラウルとフィオナも青ざめた表情で答えた。

 

 

「どちらにせよ、ガンエデンに次元将も来ていますし叩く事は物理的に可能でしょう。」

「シュウ、サラっと危ねぇ事言うなよ!」

 

 

シュウの言葉は正しい。

 

前回の大災害で負傷したもののバアルや御使いを撤退させたのは事実だ。

 

更にソルの力を目覚めさせている…

 

ベルフェクティオ級程ではないが、バアルの一体位はやろうと思えば出来なくはないだろう。

 

 

「念の為に言って置きますが、其方のクロスゲートでの帰還は不可能です。」

「不可能とは?」

「この世界に召喚した輩がエクスクロスの転移者達に楔をしている…その召喚者をどうにかしないと転移もままなりません。」

「…判りました。貴重な情報をすみませんね。」

 

 

シュウ博士は本当に理解が早くて助かる。

 

要は彼らをこの世界に繋ぎ止めている楔を外さないと帰還させる事は出来ないと告げて置いた。

 

 

「凄い、イグジスタンスが仲間になったら百人力だ!」

 

 

何時もの流れで…な勘違いしている救世主様に一喝して置いた。

 

 

「おい、餓鬼…勝手に勘違いしてんじゃねぇぞ!」

「えっ?」

「今回は利害関係が一致したので協力しただけですよ。シンカの力を会得していない貴方達を支援するとでも?」

「シンカ?」

 

 

ワタルの予想を引っ繰り返す様に発言するガイオウとアイム。

 

 

「…貴方は何も理解していない。」

「えっ?」

 

 

更にハスミの言葉にワタルは疑問に思った。

 

 

「そんなに救世主に選ばれた事が嬉しい?」

「僕が出来る事があるのなら…」

「なら、どうして貴方達だけに闘わせるの?」

「…」

「本来なら創界山の人々が立ち向かわなければならない事、貴方はこの件に関して余所者…巻き込まれた人に過ぎない。」

 

 

私がワタルの物語で違和感を持っていた事。

 

それはワタルが中心となって戦っているものの創界山の人々は救世主頼みと言うスタンスだ。

 

一部は違うがその多くは他力本願の様な姿勢で正直違和感しかなかった。

 

 

「だって、皆が…」

「力が無いから戦えない?違う……恐れが人々の動きを鈍らせているだけよ。」

「…」

「救世主って言うだけで終わればそれまでの事。」

 

 

戦いが終わればワタルは元の世界へ返されて何時もと同じ生活に戻るだけ。

 

 

「創界山やアル・ワースの人々に必要なのは、貴方やエクスクロスが戦う事以外にも出来る事を見出す事よ。」

 

 

そうでなければシンカへの道は夢のまた夢。

 

 

「おい、クジョウ…助言はそこまでだ。」

「…」

「そうですよ。代表からも必要以上の事は語るなと仰ってましたでしょう?」

「危うく口を滑らせる所でした…済みません。」

 

 

考えるべき事は彼らエクスクロスへの出題。

 

後は彼らに任せるしかない。

 

 

「そう言う事だ、精々足掻けよ?」

 

 

ガイオウの言葉を最後にして私達は混乱する彼らを余所にその場を撤退した。

 

 

>>>>>>

 

 

彼らは私の問いに対してどう思うだろう。

 

そこで挫けるのならそこまでだ。

 

それでも彼らの立ち上がる意思を信じたい。

 

 

「おい、クジョウ。」

 

 

戦いが終わり、先程の場所から撤退した後。

 

一息付ける場所へ転移し話し合いをするハスミ達。

 

その中でガイオウは答えた。

 

 

「何ですか?」

「まだこっちの世界に居るのか?」

「嫌な程に引っ掻き回して置いておきましたし…暫くは大丈夫でしょう。」

 

 

ハスミの応対の後、ガイオウの表情は何処か険しいままだった。

 

それは此方を監視している者の視線を感じ取った為である。

 

 

「…」

「まだ何か?」

「…どうも胸糞悪ぃ感じがする。」

「やはりですか。」

「お二人も感じている視線…しいて言うなら例の品定めを行っている人物ですかね?」

 

 

アイムさんの言葉も最もだ。

 

あの鰤大根め。

 

また監視してるな?

 

無残に散った黒ワカメ同様に気色悪い。

 

コソコソとエルーナさんやセツコの事も監視していたし…

 

張り手を通り越して念動フィールド込みの拳一発でもあの顔面にしておきたい。

 

 

「今は手出しをしないでしょう…して来たのなら徹底的に仕留めるだけです。」

「あの小心野郎が出来るのならな?」

「貴方達が言っては流石に出れないのでは?」

 

 

容赦なくエンブリヲを殲滅するぜ発言をしている三人。

 

これに対して異空間で監視している本人は…

 

 

「…やはり欲しいな、あの娘。」

 

 

=続=





再臨する天使達。

それは捻じ曲がった世界を正す為に。

新たな天使の射手と共に。


次回、幻影のエトランゼ・第百十四話『天場《テンジョウ》』


交じり合った天使もまた彼らを射貫く。


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剥の付箋


剥がれる理。

お前達の天狗は何処から?

圧倒的な力の前に伏せよ。

己の立場を理解せよ。

そして敗北は平等に…


 

前回のデス・ゴッドがお星様になって早数日が経過。

 

私ことハスミはアル・ワースの戦線の混乱を起こした。

 

魔従教団とドアクダー軍団に連戦を繰り返し、奴らの協力者らをほぼ壊滅に追い込んだガイオウ達と共に一度多元世界へと帰還。

 

例の如くあの奪還作戦と復活の日を迎えた後…

 

ある事件が発生するが終盤で説明する。

 

今回はその事件後にアル・ワースで起こった出来事。

 

神聖ミスルギ皇国の闇と黒幕についてだ。

 

 

******

 

 

今回の話は前回に続いてアル・ワースでの出来事。

 

エクスクロスに参加するアルゼナルのノーマの一人アンジュ。

 

元は神聖ミスルギ皇国の第一皇女アンジュリーゼ。

 

成人式の日にノーマと発覚しアルゼナルへと落とされた。

 

ノーマとはマナと呼ばれる魔法を生まれながらに使えない人々の事。

 

その多くは女性が多くアルゼナルも構成員の多くが女性だ。

 

実際は調律者と名乗るエンブリヲが仕掛けた事が原因だが…

 

アルゼナルはドラゴン退治の為にノーマに架せられた刑罰の流刑地。

 

ドラゴンの中にあるドラグニウムと呼ばれる物質を手に入れると極秘裏に皇国へ送っていた。

 

そのドラグニウムをマナの根源にされているアウラと呼ばれるドラゴンへ変換し循環させる事でマナの魔法は成り立っていた。

 

ドラゴン達は元々アウラを崇拝する人々でアウラの民と呼ばれている。

 

エンブリヲによって滅ぼされた地球の人々の生き残りであり、ドラゴンの襲撃もアウラ奪還の行動でもあった。

 

巡り巡ってエンブリヲと言う存在に気付いたアンジュ達はアウラの民と手を組み立ち向かう事となる。

 

今回の出来事はその道中で発生した彼女の妹を救う為に起こした行動であるが…

 

実際は罠であり国民の前でアンジュを処刑する為のものだった。

 

このアンジュも前世の記憶を取り戻しており、何かあって誘いに乗ったのだろう。

 

私達もユーサー皇子と共に神聖ミスルギ皇国に出向く形だ。

 

使者として向かったマルグリット卿の安否確認の為に…

 

 

~エクスクロスの陽動作戦から数時間が経過後~

 

 

神聖ミスルギ皇国に近い国境付近。

 

陣形を組んで待機するインサラウムのAS部隊。

 

 

「ハスミ、どうだろうか?」

「残念ですが、マルグリット卿は既に…」

「…そうか。」

 

 

マルグリット卿は既にエンブリヲによって連れ去らわれた後だった。

 

奴の事だ、気に入った女性をそう易々と手放す気はないのだろう。

 

同時に嫌な予感は的中した。

 

 

「陛下、ミスルギ皇国の部隊の様です。」

「通信が入っておられますが…」

「此方に回してくれ。」

 

 

自身の護衛として出撃したウェインとシュバルの問い掛けに答えた。

 

 

「聖インサラウム皇国のユーサー殿下とお見受けするが?」

「神聖ミスルギ皇国のジュリオ皇帝…」

 

 

通信の相手は現在の申請ミスルギ皇国の皇帝…ジュリオ。

 

あのアンジュの兄だった。

 

 

「そちらへ使者として送ったマルグリット卿の件について話したい。」

「彼女は謁見を終えて自国へ戻られた筈だが?」

「戻ってきた配下の話ではそうではない……それにはどう答える?」

「…マナも使えぬ卑しい者達が。」

 

 

そこからの展開は早い。

 

話は通じずジュリオは勝ち目のない戦を先に仕掛けたのだ。

 

 

「殿下!?」

「構わん!各機応戦しこの場を乗り切る!!」

「待ってたぜ!!」

「承知!」

 

 

ユーサーはシュバルとウェインらに攻撃の指示を与えて応戦する。

 

 

「ヒビキ、ガドライト、ハスミ、君達は先行して皇国へ向かってくれ。」

「えっ?」

「おいおい…マジか?」

「皇子…ですが。」

「この布陣で機動力があるのは君達の機体だ……頼む。」

「判りました。代わりにアルシャト隊を置いていきます。」

「なら、俺んとこの部隊も置いていくぜ…手数は多い方がいいだろう?」

「済まぬ。」

 

 

今回の敵の部隊は機動力がある機体が多い。

 

重量級の機体である皇子やアークセイバーに手間を取らせてしまう。

 

 

「アルシャト隊!皇子を護衛しアークセイバーと連携の上で敵を蹴散らせ!!」

 

 

ハスミは連れて来たアルシャト隊に指示を出して連携体制を取らせた。

 

 

「お前らも俺らが戻るまでヘマすんじゃねえぞ!」

「頼みます!」

 

 

同じくガドライトもジェミニス隊に指示を出す。

 

同じ部隊に所属するヒビキもまた声を掛けた。

 

 

「俺達が道を切り開く!!」

「行かれよ!!」

 

 

シュバルとウェインの協力の元で戦線が切り拓かれた。

 

同時に三機は隙間を抜けて神聖ミスルギ皇国へと向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃。

 

神聖ミスルギ皇国では…

 

 

「やっぱりね。」

 

 

陽動作戦によって皇宮へと侵入したアンジュ、アマリ、イオリの三人。

 

皇宮内の護衛を掻い潜りアンジュの妹であるシルヴィアを再会した。

 

 

「私を呼び戻してどうするつもりだったの?」

「アンジュリーゼお姉様、何を?」

「惚けるな…!」

 

 

アンジュは茶番劇を終わらせる為に声を荒げた。

 

 

「どうせあのクソジュリオの入れ知恵でしょう?」

「良く気が付いたな、ノーマよ。」

 

 

皇宮の広間に絞首台が設置されていた。

 

公開処刑を行う為の舞台は整っている。

 

現れたジュリオはシルヴィアと合流し侮辱の声を告げた。

 

アンジュは気にせず嫌味で返した。

 

 

「足らないお頭のアンタの考える事はお見通しよ。」

「貴様…」

「お兄様を侮辱…ひっ!?」

 

 

アンジュはシルヴィアの乗る車椅子を撃ち抜いた。

 

 

「アンタもいい加減、か弱い女の子の振りを止めたら?」

 

 

アンジュは銃で威嚇したままシルヴィアの車椅子を蹴り上げ彼女を振り落とした。

 

 

「ひっ!…私の足は貴方が…!」

「貴方の足はもう治っているのよ…問題は貴方が歩こうとしないだけ。」

 

 

アンジュは皇女時代に宮廷医より経過報告を聞かされていた。

 

シルヴィアが歩けないのは自分自身の問題であると…

 

 

「さっさと歩きなさい!自分の力で!!」

 

 

アンジュは弾が尽きるまで銃を放ち威嚇し続けた。

 

 

「あ、いや…いやぁあああ!!!」

 

 

目処前の死に反応しシルヴィアはゆっくりと体を動かして立ち上がった。

 

そして舞台から落ちると物陰に逃げて行った。

 

 

「…馬鹿妹。」

 

 

そして、銃撃の音で足元が竦んでいるジュリオに顔を向けた。

 

 

「さてと…アンタの相手もしないとね?」

 

 

アンジュはジュリオに銃を突きつけた。

 

 

「ひいぃいい…護衛は…護衛はどうした!?」

 

 

ジュリオは隠れていた護衛を呼び寄せようとしたが…

 

 

「それはコイツらの事か?」

 

 

控えていた護衛は全員気を失って倒れており動く事が出来なくなっていた。

 

新たな来訪者によって…

 

 

「そ、そんな…」

 

 

護衛の一人の首根っこを掴んで現れた存在。

 

 

「神聖ミスルギ皇国の皇帝ジュリオ……貴様に聞きたい事がある。」

「エンブリヲとの関係と連れ去った女性達を何処へ移送した?」

「返答次第じゃタダじゃ置かねえぞ?」

 

 

この場に現れた来訪者達…順にヒビキ、ハスミ、ガドライトである。

 

 

「イグジスタンス!?」

「どうしてここに…?」

「事情は先の通りよ、この干物皇帝が私達の仲間を連れ去った奴と繋がっている。」

 

 

今まで手を出していなかったイオリとアマリの問い掛けにハスミは答える。

 

 

「馬鹿な…護衛の他に我が国の民達が!」

「それなら俺らの力で黙って貰っているぜ?」

「むやみに傷つける必要もない。」

 

 

護衛の他に見物客として集まっていた民衆達。

 

それらはガドライトとヒビキのスフィアいがみ合う双子の力で沈黙していた。

 

 

「視させて貰うぞ…お前の持つ真実を!」

 

 

ハスミもまた知りたがる山羊のスフィアを開放しジュリオの知る情報を得た。

 

 

「…そう言う事か!」

「ハスミさん、どうしましたか!?」

「先手は打たれた…国から撤退する!」

「ちっ無駄骨って訳か!」

「ここまで来て…!」

 

 

ハスミはスフィアで得た情報を共有すると周囲に国から脱出する様に促した。

 

 

「エクスクロス、そちらも撤退を!」

「…判りました。」

「アンジュさん、妹さんは…」

「…連れてくわ。」

 

 

アマリ達に促されたアンジュは物陰に隠れていた妹を気絶させると合流したメイドのモモカとタスクを引き連れて脱出。

 

 

「タスク、来てくれてありがとう。」

「俺は何もしてないよ。」

「でも、来てくれたでしょ?」

 

 

アンジュは危機を察知し救援に来たタスクに礼を伝えた。

 

 

~皇宮から脱出後~

 

 

陽動作戦を済ませて合流したエクスクロス。

 

皇国の部隊は国境付近に出現したアークセイバーへの攻撃で戦力を集中させた結果、無防備になりつつあった。

 

脱出した様子を目視したワタルから声を掛けられた。

 

 

「アンジュさん、妹さんは?」

「助けたけど…後で説教が必要って所よ。」

 

 

気絶したままではパラメイルに乗せる事は出来ない。

 

なので手足を縛った状態でモモカと共にゼルガードに預けた形である。

 

同時に出現するジェニオン、ジェミニア、エクリプス。

 

 

「イグジスタンス!」

「どうして彼女達が?」

「事情は後だ!早く国から撤退を!!」

「えっ?」

「黒幕野郎が次元嵐で国ごと俺らを消滅させる気だ!」

「次元嵐?」

「次元力で発生する嵐です…巻き込まれればタダでは済みません!!」

 

 

ミスルギ皇国に次元嵐が発生すると告げるイグジスタンス。

 

彼ら…特にハスミの言葉に嘘はないとゴーカイジャーのマーベラスが答えた。

 

 

「アイツらの言葉通りだ…早い所、逃げた方が良いぜ!」

「キャプテンマーベラス、彼らを頼みます。」

「任せて置け。」

 

 

アンジュ達を回収後、ゴーカイガレオンに先導されエクスクロスは撤退した。

 

 

「ハスミさん、この国の人々は?」

「もう次元嵐の届かない範囲に転移させた。」

「仕事が早いことで…っ!」

 

 

その時、国を覆っていた次元力の流れが変わった。

 

同時に転移者の姿をあった。

 

 

「漸く会えたね。」

「エンブリヲ…!」

 

 

黒幕の一人であるエンブリヲが漆黒のパラメイルと共に現れた。

 

ハスミは冷静さを失わない様に黒幕の名を呼んだ。

 

 

「おや?私の名を知るとは…イグジスタンスは情報共有が早い。」

「お世辞は要りませんよ。」

「すまし野郎!アンナロッタ達を何処へやった!!」

「スズネ先生、セツコさん、エルーナルーナ達も!」

「エメロード姫や光達、マルグリット卿もお前に拉致されたのは判っている!!」

 

 

不在中にエンブリヲに連れ去られた仲間の名を叫んだ。

 

 

「彼女達は丁重に預からせて貰っているよ?」

「…」

「勿論返せと言われても返す気はない。」

「テメェ…!」

「なら、奪い返すまでだ!」

 

 

エンブリヲも奪い返される事を考慮して答えた。

 

 

「これでも戦えるかな?」

 

 

エンブリヲが用意したのは呪いを込めた人柱だった。

 

機体に見覚えのあったヒビキとガドライトは叫んだ。

 

 

「あれは…!」

「他の世界の戦力を呼び寄せやがったのか!」

「そんな…まさか!」

 

 

そしてハスミはスフィアで知った。

 

目処前に出現した機体のパイロット達の正体を…

 

 

「エンブリヲ…!!」

「君にも判るだろう…従順な私の選んだ美しい乙女達を?」

「彼女達をDG細胞で無理やり従わせたのか!」

「その通りさ、あの細胞はとても役立っているよ。」

 

 

この分だと連れ去られた女性達はもう…

 

 

「ハスミ…?」

「ステラ…フォウ…クスハ…皆。」

「私達はいいから…」

「あの人を…」

「…」

 

 

判断が鈍る。

 

これじゃあ彼に顔向けできない。

 

決断しろ…私が出来る決断を…!

 

 

「君が大人しく来れば彼女達を引き下げよう。」

「…」

「ハスミさん、駄目だ!?」

「ヒビキ、ガドライトさん……後の事を頼みます。」

 

 

ハスミの決断は彼女達の安全を確保する事。

 

 

「では、案内しよう。」

「…」

 

 

エンブリヲは出撃させた機体を撤退させ、エクリプスと共に転移した。

 

コックピットでハスミは静かに呟いた。

 

 

「ゴメンなさい…ヴィルダーク。」

 

 

敗北に屈する事への謝罪の言葉と愛する人の名を…

 

 

=続=





~その頃、新西暦の世界では~


天鳥船島である異変に気が付いた存在達が居た。


「カーウァイ、テンペスト。」
「光龍…」
「…」
「ちょっと…あの次元将にお小言をしに行こうか?」


笑っていない顔の三人。

アビスは緩んだ。

多元世界への道は開かれたのだ。


「調律者とやら…僕らの娘に手を出した報いは受けて貰うよ?」


アル・ワースに嵐の前の静けさが広がりつつあった。


=続=


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父の付箋


彼らとの再会。

援軍が齎すのは再起の兆し。

愚かな者への反撃。

その時はまだ遠く…



 

スフィアリアクターが連れ去りを受けてから数日が経過した。

 

 

〜リモネシア共和国・政庁〜

 

 

円卓の間では、重苦しい状況が続いていた。

 

状況報告を終えたヒビキ達は謝罪の言葉を告げた。

 

 

「エルーナやセツコに続いてハスミまで…」

「俺達がいながら面目ない。」

「ドジ踏んじまった。」

「先行させた私にも責任はある。」

 

 

ランドやアイムは作戦参加者に否はない事を話した。

 

 

「人質がいたんなら仕方がねぇ。」

「ええ、貴方達の責任ではないですよ。」

 

 

早期による奪還作戦は失敗。

 

主犯であるエンブリヲによって犠牲者は増えつつあった。

 

で、残りのリアクター勢は拉致事件でメンタルをやられた数名のフォローに入っていた。

 

 

「セツコ、セツコ、セツコ…………」

「バルビエルもこんな状態だしな。」

「…スズネを奪われた時のヒビキと同じかよ。」

「うっ、すみません…………」

「クロウ、傷口に塩を塗るな。」

「おっと、ランドわりぃ。」

 

 

偶に逆のパターンもいる。

 

 

「アウストラリス、今後はどうする?」

「…」

 

当人は尸空の声掛けに沈黙したまま。

 

何も語らなかった。

 

 

「クロスゲートを封じられた以上はアル・ワースでも活動に支障が出るでしょう。」

「ハスミのゲートの力に頼り過ぎてた節があるからな…俺等も。」

「今後の活動は埒外の蛇者で対応するしかありませんね。」

「その本人は其処で漫画読んでだらけてる。」

「…」

「こういう時、一番冷静なのは彼だろう。」

 

 

アイムが不在中の流れを説明し、流れの中心人物のだらけ振りにクロウが愚痴をこぼしユーサーがフォローしていた。

 

そんな中で…

 

 

「おいおい!」

 

 

ガドライトは何かを感じ取り驚きの声を上げた。

 

その反応にクロウが声をかけた。

 

 

「ガドライト、どうしたんだ?」

「ここのクロスゲートが反応してやがる!」

「マジか!?」

「!?」

 

 

最下層にある遺跡群のクロスゲートが突如として起動。

 

リアクター勢はクロスゲートの安置された最下層へと移動。

 

そこから現れたのは…

 

 

「久しぶりだね…アウストラリス?」

 

 

開口一番。

 

この状況で最も遭って欲しくない事が起きた。

 

 

「光龍殿…御二方もご現存で何より。」

「事情は察していると思うけど、僕らが言いたい事は判るよね?」

 

 

来客達がアウストラリスに向ける表情に圧があるのが判る。

 

更にアウストラリスの表情が固まっている事が何よりの証拠だった。

 

 

「や…ヤベェのが来た…」

「うん…」

 

 

状況が判らない他のリアクター勢に対して答えるガドライトとアサキム。

 

その表情はこの世の終わりかと言う程に青褪めている。

 

 

「ガドライト、アサキム…あの人達は一体?」

 

 

ヒビキの一言で二人は重い口を開けた。

 

 

「正面から孫光龍、左がカーウァイ・ラウ、右がテンペスト・ホーカー。」

「あのハスミ・クジョウの父親と養父だよ。」

 

 

これに対してクロウら他のリアクター勢は察した上で意思が一致した。

 

 

「「「「「「「…(天敵(アウストラリスの)が登場した。」」」」」」」

 

 

特にランドは親方のメールLOVEで親馬鹿を嫌と言う程に経験している。

 

三人も何かしらの力を持った人物である事は間違いないと思った。

 

更にクロウも何とも言えない表情で話し…

 

 

「嫁姑問題は聞くけどよ、まさかの逆パターンを拝む日が訪れるとは…」

「こりゃ、かなりの修羅場になるな。」

 

 

と嫌そうな顔でボソリと告げた。

 

 

〜約一時間後〜

 

 

「なるほどね~ぇ。」

「…」

「…」

「申し訳ない。」

 

 

経過報告&状況説明後。

 

親馬鹿三人衆によって婿イビリが開始され早一時間が経過した。

 

アウストラリスの表情は堅いままだが、メンタルへの攻撃は受けていた。

 

聞いていた周囲も精神や胃をやられており動ける状態ではない。

 

ガイオウだけは二ヤニヤと面白そうな表情で眺めていた。

 

 

「君を信頼して僕らの娘を預けたんだけどねぇ?」

「俺の失態だ。」

「ま、反省しているようだし多めに見てあげるよ。」

「申し訳ない。」

 

 

長々と説教の後、ここから本題へと移った。

 

 

「判っていると思うけど、娘達の奪還には僕らも参加させて貰うよ。」

「あのエンブリヲと言う輩には教えねばならない。」

「愚か者と言う言葉がどの様なモノかをな?」

 

 

光龍らの言葉から判る様に。

 

愛娘を奪われた父親の怒りは凄まじい。

 

とばっちりを受ける外野も怯えを通り越して恐怖しかない。

 

だが、愚か者が地獄よりも苦痛な制裁を受ける日が訪れるのは…

 

そう遠くないがまだ先の話である。

 

 

=続=






イグジスタンスに以下の機体が搬入されました。


※真・応龍王

※エクスアルブレード・カスタム

※エクスヴァルバイン・アクスト


6月中には決着をつけたいです。



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第百十四話 『天場《テンジョウ》』


天使達は目覚め。

魔王は降臨する。

本当の歪みは何なのか?

それを示す為に。


 

時間を少々戻し…前回のアル・ワースにて。

 

ドアクダー軍団の第二階層ボス・デス・ゴッドを打ち倒した。

 

それと同時にアル・ワースの戦力バランスを混乱へと導いた。

 

これにより敵の戦線は総崩れとなり暫くの間は睨み合いが続くだろう…

 

一時的な冷戦状態となったアル・ワースを後にし多元地球へと帰還。

 

天使達の目覚めと魔王の復活を手助けする為に私達は動いた。

 

だが、二つの大きな動きの後…あの事件へと繋がっていくのだった。

 

 

******

 

 

地球連邦政府が設立されても世界は変わらない。

 

それは臭い物に蓋をする様な感じにも似ている。

 

不安定な政治にその強硬策を良しとしない小国や紛争地域。

 

力でねじ伏せようとするアロウズの横暴な活動が続く中…

 

アッセンブルEX-10ことクメン王国の内乱。

 

犯罪組織ブランチの破壊工作。

 

次元獣に変わり暴走するルーンゴーレムとアールヤブの混成集団。

 

大元を叩いた事で沈静化しつつあるラマリス。

 

暗黒大陸での戦いを期に活発化したインベーダー。

 

再起を目標とする黒の騎士団の活動。

 

瓦解したソレスタルビーイングの生存。

 

最後に才色兼備で優秀な女性の相次ぐ失踪。

 

これらが陰月での決戦後に起こった主な出来事である。

 

 

~リモネシア共和国・政庁~

 

 

最下層の円卓の間にて待機中のリアクター勢が集結し今後の方針を話し合っていた。

 

鋼龍戦隊は約束通り、アビスの影響が少ない時期に元の世界へと帰還。

 

向こう側で発生している事件を追って貰う形で情報を経由して置いた。

 

勿論、DDコミュニケーターは預けて置いたので話す事は可能である。

 

余程の事が無ければ使わないだろうが念の為だ。

 

 

「ハスミ、ロックオンの状態は?」

「リハビリに専念して貰ってますが、経過は良好です。」

「そうか…あの時はヒヤヒヤしたけどよ。」

 

 

情報共有の為の話し合いによるクロウとハスミの対話。

 

アロウズの前身である強硬派の部隊によるソレスタルビーイングに壊滅後の出来事。

 

ほぼ虫の息だったロックオン・ストラトスが運ばれてきた際のクロウさんの慌て振り。

 

…アレには眼を向けられなかった。

 

お金絡みになると残念な所もあるが、常に冷静な雰囲気を保っていたクロウさんの余裕のない部分。

 

誰だって失う事に慣れるなんてない…

 

大小違えど残された者の心には必ず傷は残るのだ。

 

 

「大体の説明はして置いてありますので、暴走はしないと思うのですが…」

「アイツのハロにも制限掛けてあるし…何かあれば俺から言うさ。」

「クロウさん、引き続きカタロンへのアプローチをお願いします。」

「判った。」

 

 

現在、クロウは次元獣バスター改めデモンバスターとして各地で活動中。

 

新参バスターのエスターにスットコドッコイことカルロスがマネージャーをしているので大丈夫だろう。

 

そんな彼女も黒の騎士団のカレン達と行動を共にする為にアッセンブルEX-10へと向かった。

 

 

「エルーナさんも面白そうって言って便乗しちゃいましたし…(今頃、バニースーツでも着てるのかな?」

 

 

表向きは神聖クメン王国の付近で出現しているルーンゴーレムとアールヤブの殲滅。

 

暫く殲滅行動を現地で行うので、気休めに仲間達と共にクラブファンタ厶に酒飲みに出かけているとの事。

 

まあ、エルーナさんは金髪でチャームポイントも相まって似合ってるし大丈夫だろう。

 

流れでダバラーンさんは安定の鼻血で卒倒は置いといて…

 

手を出した輩の命の保証はしませんが、自己責任って事で。

 

ハイアデス隊のノリが某世界蛇とか特攻野郎〇チーム張りだし。

 

 

「…(セツコはICPOで犯罪組織、ランドは遮断された暗黒大陸へ調査。」

 

 

現在、非公式でイグジスタンスとして外部へ行動に出ているのはセツコ、ランド、クロウ、アサキムの四人。

 

その内の二人、クロウとアサキムは定期報告の為に戻っている形である。

 

他に公式で国連からの依頼をしているのはストラトス姿のエルーナ、ガドライト、ヒビキの三名。

 

外部組は以上の七人、残留組は以下の七名。

 

国防の関係で尸空、バルビエル、ハスミ。

 

同盟国家と言う形でユーサー。

 

ガイオウ、アイムらインぺリウムの監視としてアウストラリスが残っている。

 

代表が外部へ遠征に出るのは稀である事は理解して貰いたい。

 

 

「ユーロ方面の諍いは片付いた訳だな?」

「ジュリアスはルルーシュに戻されてエリア11に帰還…その後の調整はしておかないとね。」

「いずれにせよ、あの連結ちくわ頭の皇帝の慌てぶりを見て見たいですよ。」

 

 

ユーロ方面でルルーシュ達に協力していたアサキムとアイムからの報告。

 

ルルーシュが行ったのは秘密裏にレイラ・マルカル率いる部隊と協力体制を取る事。

 

彼女らも皇帝の行動に不信感があったらしくゼロの関りをチラつかせたらあっさりと協力してくれた様だ。

 

他にも反ブリタニアの勢力と連携を取り、着実に黒の騎士の再生を図っているルルーシュ。

 

帝国の失墜とマリアンヌの姿を借りたエンデの暴虐に立ち向かう為にも必要な措置だ。

 

戦いの後、ブリタニアは貴族制を廃止し国家解体の後に共和制へと移行する形になるので出来ればその後の協力者を集めている。

 

 

「で、ガイオウは?」

「アル・ワースでの遠征で敵部隊を壊滅寸前まで追い込みました。」

「相変わらずエグいな。」

「長く生き過ぎて腑抜けになった腰抜け連中だ。別にいいだろう?」

 

 

アサキムとクロウの発言もそうだが、当の本人であるガイオウも十分怠惰になっている。

 

円卓の間には彼用の座席を用意して置いたが、現在は端に用意したごろ寝マットで漫画を読みふけっている。

 

ちなみに読書中の漫画は北〇の拳と聖〇士星〇でハスミが前世上の記憶から再生したもの。

 

アウストラリスもお気に入りらしく絶対に汚損&破損禁止と圧を入れている位だ。

 

 

「ガイオウの活動で奴らも立て直しに時間を要するだろう。」

「この隙に多元地球での混乱に対応する形になります。」

 

 

予定通りの流れに持ってこられた。

 

だが、流れは何時も何処かで変わっていく。

 

 

「クロウさん、ロックオンさんがここから飛び出しそうです。」

「は?」

「どうやら病室を抜けて格納エリアに忍び込んだ様です。」

「あの馬鹿!」

「機体には鍵を掛けてありますので動かす事は出来ない…」

「?」

「後の事はクロウさんに一任します。」

「ああ、判ったぜ。」

 

 

クロウはそのまま円卓の間を後にし格納エリアへと急いだ。

 

脱走したロックオンは修復されたMSと共にリモネシア共和国を離脱。

 

それを追ったクロウと合流しゴビ砂漠へと向かった。

 

ハスミは流れで知っていたのだ。

 

止められないのなら好きにさせてしまえばいいと…

 

そしてソレスタルビーイングの復活を示す戦い。

 

ゴビ砂漠の戦いからのアロウズの政敵犯収容所襲撃後の事。

 

戦いを終えたロックオンはクロウと話した。

 

 

「いいのか?」

「俺はもう亡霊だ、新しいロックオンが居るのなら…俺は影で動くさ。」

「そうか…」

「てな訳で、ハロと共々宜しくな?」

「クロウ、ヨロシク、ヨロシク。」

 

 

ロックオンはソレスタルビーイングに新たなロックオン・ストラトスが誕生した事を知り合流を止めた。

 

彼はニール・ディランディではなく亡霊のストラトス…ファントム・ストラトスとして活動すると宣言。

 

イグジスタンスいやクロウと共に着いていく事を選んだ。

 

もう一つの目覚めはここにも起きた。

 

エリア11で彼は宣言した。

 

 

『我が名はゼロ…この誤った形の世界を壊す者だ!!』

 

 

高らかに宣言したゼロと黒の騎士団の復活。

 

エリア11を含めた植民地では奇跡の復活に喜ぶ声。

 

ブリタニア帝国を含めた支配地域では強敵の復活に苦い顔をした。

 

 

「これで私達の仕事も一段落ですね。」

「後は彼次第か…」

 

 

エリア11に作られた街、その人混みの中でゼロの演説放送を見るアイムとアサキム。

 

本来の姿であれば周囲から奇異の目で見られただろうが…

 

アイムの偽りの力で姿を偽っていた。

 

 

「ん?通信ですか。」

 

 

所持していた通信機に応答するアイム。

 

相手はハスミであり、緊急を要しているのか慌てた声だった。

 

 

『お二人共!』

「ハスミ、どうしたんだい?」

『至急、リモネシア共和国へ帰還してください。』

「何か起こったのですか?」

『エンブリヲが行動を起こし…セツコ達が攫われました。』

 

 

二人は急ぎ、リモネシア共和国へと帰還した。

 

 

>>>>>

 

 

常に勝利と同時に敗北も平等に齎される。

 

 

「…私の失態です。」

 

 

ほんの一瞬だった。

 

別の戦線に出撃していたセツコ達が連れ去られた。

 

イグジスタンスは一四名中二名のスフィアリアクターを奪われた事となる。

 

此方の内情を知らない勢力からは只の戦力削りと思われるだろう。

 

調査の結果、あの残滓は残っていた。

 

奴が動いたと言う決定的な痕跡が…

 

私は救助プランを上げてアル・ワースへ向かう事をアウストラリス達に進言。

 

早期に向かえば、奴の行動に障害を与える事が出来ると…

 

この私の焦りは驕りとなって自身の失態を招く事となった。

 

私は何も出来ないままエンブリヲに連れ去られた。

 

その真実が無惨に残ったのだ。

 

 

=続=





奪われた自由。

彼らの怒りは頂点に達する。

向けられる矛先は愚者へと続く。


次回、幻影のエトランゼ・第百十五話『人形《ヒトガタ》』


愛する者は人形となり着飾り踊らされる。


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籠の付箋


鳥籠の鳥は鳴かない。

飾り立てた鳥は飾り。

それは彼女達も…


 

エンブリヲによる集団拉致事件。

 

それはアル・ワースだけに留まらず、多元地球や新西暦の世界にも及び…

 

念願のスフィアリアクターを手に入れた事で過激さは日に日に増していた。

 

エンブリヲの箱庭とも言える閉鎖世界には続々と各世界から女性達が運び込まれている。

 

彼女達は…飾り物の様に保管されていた。

 

 

******

 

 

アル・ワースでの拉致から数週間後。

 

 

~エンブリヲの城・城内テラス~

 

 

エンブリヲはお気に入りの女性達を集めて午後のお茶会を開いた。

 

彼好みもあるが、その女性達に似合うドレスも指定している徹底ぶり。

 

文字通り籠の中の鳥を愛でる様に…

 

 

「…」

「君達のお陰で私のコレクションは着実に増えつつある。」

「…そりゃどうも。」

「…」

 

 

テラスに供えられたテーブルにアフタヌーンティーが用意され、エンブリヲと拉致されたリアクター三人が着席していた。

 

ごく普通のお茶会なら楽しめただろう。

 

目処前の存在が居なければだが…

 

 

「これは君達への労いも兼ねているのだが…お気に召さなかったかな?」

 

 

労いと都合の良い言葉が告げられた。

 

人攫いの片棒を担がされた…気分が悪いに決まっている。

 

目処前のチョコレート系のケーキに罪はない。

 

 

「…(我慢しなきゃ。」

「…(セツコ、本音が駄々洩れ。」

 

 

セツコも敵が出した食事に手を付けたくないのは判る。

 

それが好物のチョコレート菓子でもだ。

 

本人の意思とは別に食べたい欲求が強いのが犇々と伝わってきた。

 

 

「…(エルーナさんは普通に食べてるし、何時でも余裕な点は見習いたい。」

 

 

エルーナは出されたお茶とケーキに手を付けている。

 

長年の経験で毒が入っていないと見抜いたのだろう。

 

それは私も見抜いている。

 

奴が此処で私達の命を奪う事はしない。

 

絶対安全な枷を私達に付けている以上は…

 

 

「…(お茶に使われている茶葉がこのケーキに合うのが腹立つ。」

 

 

私ことハスミもお茶とケーキに罪はないので食べてしまっている次第。

 

アフタヌーンティーなので礼儀作法は守るけど。

 

 

「お、美味しい…ぐすっ。」

 

 

流れでセツコも我慢できずにチョコレートケーキに手を出してしまったのである。

 

悔し泣きか食べるかはセツコに任せた。

 

 

「エンブリヲ、単刀直入に聞きます。」

 

 

ハスミはお茶で一息ついた後、質問に入った。

 

 

「女性達を集めてどうするつもりですか?」

「シンプルだが解り易い質問だね。」

「貴方が女性を集めると言う点は理解しました…問題は集めてどうするつもりだったのか?」

「…君達は人類の滅びが迫っている事は知っているね?」

 

 

エンブリヲが語ったのは一万と二千年の周期で起こる大災害の事。

 

その災害の前の時期にエンブリヲは属する世界で実験を行った結果。

 

この世界へと辿り着いた。

 

次元力の干渉や影響のない閉鎖世界。

 

此処が新たな楽園に成ると…

 

その楽園に自分以外の男は不要。

 

それ故に優秀な女性達を各世界から連れ出したらしい。

 

 

「…(奴の考えは原作と同じか。」

 

 

ハスミは目元を伏せてお茶を口にした。

 

 

「悲しみを癒す乙女、全てを欲する金牛、英知を識る山羊。」

 

 

エンブリヲは告げた意味の順に私達の顔を眺めた。

 

 

「君達を手に入れた事は私にとっても大きな好機だよ。」

「…」

 

 

私も二人も奴に眺められて嫌な気分だろう。

 

誰がアンタみたいなクソ鰤に協力したいと思う?

 

人質となった皆の為だ!

 

それを忘れるな…今なら奴をダロル湖かナトロン湖に沈めたい気分だ。

 

いや、因果地平の彼方へ飛ばすのが正しいか…

 

 

「君達には次の仕事も頼みたい…逆らえば解るね?」

「!?」

「い、いやっ!?」

「また、かい…っ!」

 

 

エンブリヲの言葉と同時に座席から崩れ落ちる三人。

 

全身に広がるDG細胞を利用し一部の痛覚が過敏にされた。

 

 

「…(こんな事で、屈したくないっ!」

 

 

どんなに抗っても全身の発熱がそれを遮ってしまう。

 

今回はどれ位我慢すればいい…?

 

 

「さて、何処まで持つかな?」

 

 

エンブリヲは優雅で悪魔めいた笑みで三人の様子を観察していた。

 

解放されたのはそれから数時間後だった…

 

 

「…」

「セツコ…大丈夫?」

「良く耐えたよ。」

 

 

日々行われる責め苦によってセツコの精神は徐々に擦り減らしていた。

 

与えられた一室のベッドの上で顔を覆ってすすり泣くセツコ。

 

私とエルーナさんでセツコのフォローをする日々を送っていた。

 

 

「ハスミ、いつまで続きそう?」

「アウストラリス達が打開策を見つけるまでは何とも言えません。」

 

 

城の地下には囚われた女性達が次元力で作られた牢獄に閉じ込められていた。

 

奴が改造したDG細胞を感染させられ身動きかとれず眠り姫の様に安置されていたし。

 

それはまるで博物館の見世物の様に…

 

丁重に保管されている。

 

ある程度の自衛が出来る女性は牢獄で眠りに就かされているし…

 

一部はDG細胞の影響下で城の管理を行っていた。

 

彼女達の自我は無く、さながら着せ替え人形の様である。

 

現時点で全員を救い出す為にはDG細胞の影響緩和と陽動作戦が必要。

 

私達自身もここへ到着後に感染させられた以上は下手な動きは取れない。

 

人質が居る以上、奴への協力を強制させられている。

 

ちなみに一度反抗して痛覚10倍の刑や口では言えない数々の折檻は既にやられており、地獄を見てしまった。

 

エルーナさんや私は兎も角セツコは余りの羞恥に発狂し掛けたのでフォローするのに手間が掛かった。

 

正直…生きた心地はしない。

 

エンブリヲは嬉々としてこの事を彼らに告げるだろう。

 

その時こそ奴の最後と思いたい。

 

 

=続=

 







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第百十五話 『人形《ヒトガタ》』


白銀のドレスを纏い。

美しい人形は主人に従う。

それは組み込まれたシナリオの様に。

だが、抗いもまたその心に秘めていた。


 

エンブリヲの用意したパラメイルで構成された部隊。

 

ダイヤモンドローズ騎士団…

 

金剛の薔薇とは、いい感じに燃えそうな名前だ。

 

騎士団筆頭はサリアと言うツインテールの少女が指揮を執っていた。

 

他にも彼女と同じノーマの少女や女性達が騎士団に組み込まれている。

 

どうやら囚われている間にアルゼナルが襲われたらしい。

 

だが、アンジュの采配でアルゼナルで亡くなる死傷者は少なからず減らせたようだ。

 

それでも彼女達がここで騎士団になっていると言う事はエンブリヲの仕業か…

 

 

******

 

 

油断しているのか分からないが…

 

エンブリヲの城で余計な事をしなければ、最低限の自由は許されている。

 

私ことハスミは日課の鍛錬に勤しみながら私の中のあの子と対話を続けた。

 

 

 

「…(どう?」

 

 

ーマダ、カカルー

 

 

「…(ゴメンね、こんな事をさせてしまって。」

 

 

ーダイジョウブ、ヘイキダヨー

 

 

「…(解析が終わっても感染はそのままで。」

 

 

ーワカッター

 

 

 

私には一度DG細胞に感染した経緯がある。

 

自我を持ったもう一人のこの子は私と共に生きる事で様々な知識と耐性を会得しつつあった。

 

これもシンカなのだろう。

 

優しさを学んだ事で別世界で瀕死の重傷を負った時もこの子に助けられた位だ。

 

今は時間が必要だ。

 

 

ガキン!!

 

 

奴を油断させる為の時間を…作らないと。

 

 

 

「精が出るねぇ?」

「体を動かしていた方が気が紛れるので。」

「…」

「セツコ、大丈夫?」

「もう大丈夫よ…心配かけて御免なさい。」

 

 

鍛錬の様子を見ていたエルーナとセツコ。

 

セツコに関しては日々の折檻が負担になっている為か調子が悪い。

 

酷い時は三人して全裸で吊し上げもある。

 

アル・ワースに近いせいか突如としてEXマン達が出現。

 

見せられないよの看板を用意するので危ないシーンはカットされている。

 

慣れる様なものでもない…ただ平気であると彼女は告げた。

 

 

「無茶は失敗の元…セツコ、無理な時はちゃんと言う事。」

「…うん。」

 

 

ハスミはセツコの負担を理解し無理をしない様にと答えた。

 

同時に見張はどうなったかをエルーナに質問した。

 

 

「エルーナさん、見張は?」

「見張の子達もハスミの鍛錬見てれば手を出す気も起きないさ…」

「そうですかね?」

 

 

ダイヤモンドローズ騎士団の子達は青褪めた顔でこちらを見ていた。

 

そんなに怖いのかな?

 

 

「ハスミ、アンタ少しは自覚しなよ…普通の女の子は片手で大剣振り回して馬鹿デカい岩をスパスパ斬らないって。」

「並行世界ではこれが普通の所もあるんですけどね。」

「…アウストラリスがアンタの事を惚れる訳だ。」

 

 

エルーナさんの呆れた表情を余所に。

 

まあ、ストレス発散も兼ねて勢い余って岩石を斬りまくっていたからしょうがないか。

 

 

「ま、アンタのそう言う所…嫌いじゃないけどね。」

「?」

 

 

>>>>>>

 

 

ダイヤモンドローズ騎士団が帰還した。

 

どうやらアンジュを捕らえて連れて来たらしい。

 

同時に私達も場所を移された。

 

場所は神聖ミスルギ皇国、あのビビり皇帝ジュリオはエンブリヲによって暗殺された後らしい。

 

エンブリヲは私達にダイヤモンドローズ騎士団に強制加入させた。

 

三人してあのコスプレ制服を着用している始末。

 

この制服のお陰か感染した部分を隠せているので何とも言えない。

 

加入の件に関しては戦力上MSと特機が各一機と戦艦一隻なので一個隊として動くなら妥当なのだろうか?

 

直属のラグナメイル五機じゃ手が足りてないと見える。

 

他にもミスルギ皇国軍には大ゾギリア共和国やキャピタル・アーミィ、トワサンガ、ジット団、ネオ・アトランティスなどが加わっている。

 

一部は元の世界への帰還を条件に加わっている派閥もあるので何とも言えない。

 

拉致られる前、イグジスタンスは戦線を一時的な冷戦状態に持ち込む為にドアクダー軍団、魔従教団、神聖ミスルギ皇国に仕掛けているので風当たりが酷い。

 

寧ろ恐怖の対象になっているらしく余り話しかけられないのが幸いだった。

 

そんな中で私達はアンジュと話すタイミングを得られた。

 

エンブリヲとの会話の後、自室に戻されたアンジュの様子を見に来室した私達。

 

開口一番、向けられたのは敵意だ。

 

 

「貴女は…!」

「この間はどうも。」

 

 

妹さんの救出作戦で顔合わせした位で余り接点はない。

 

事情を知るマサキ達が軽く説明した位だろう。

 

 

「どうしてエンブリヲに…!?」

 

 

アンジュの疑問は最もだ。

 

だから素直に答えた。

 

 

「…奴に仲間を奪われたからよ。」

「えっ?」

「アイツは他の世界から女達を集めて自分の隠れ処に保管しているのさ。」

「その中に私達の仲間も捕らわれているの。」

 

 

ハスミを含めエルーナやセツコの言葉に動揺するアンジュ。

 

 

「でも、貴方達はどうして…」

「私達自身も奴に枷を付けられて逃げられない状態なのよ。」

「そうだったの…」

「でも、貴方はまだ何もされていないから逃げる事は出来る。」

 

 

ハスミの説明の後にアンジュは声を上げた。

 

 

「えっ?」

 

 

アンジュに脱走を促すエルーナとセツコ。

 

 

「アンタが脱走するなら手伝うって話だよ。」

「…」

「余り時間は残されていないわ、どうするの?」

「お願い出来る?」

 

 

アンジュの即答と共に私達は行動を起こした。

 

同時にアンジュを救出する為に現れたアルゼナルのメンバーやアウラの民の先行隊。

 

彼女らの援護もあってアンジュはメイドのモモカと共に脱出した。

 

 

******

 

 

アンジュ達を逃がした事で折檻を受けた私達。

 

DG細胞を応用した口にしたくない程の酷い折檻だった。

 

数時間の折檻を受けた後、エンブリヲは私達に指示を出した。

 

 

「君達に仕事を頼みたい。」

「仕事?」

「ああ、ホーリーウッドについて知っているかな?」

「いえ…」

「情報を集めた上で、そのホーリーウッドを再生させる根源を奪取して貰いたい。」

 

 

ホーリーウッドは聖なる力の宿る大樹…

 

エンブリヲは何に使う気だ?

 

 

「それを奪取すれば…今回の無礼行為の一件は不問とし眠っている者の命を保証しよう。」

「…了解。」

 

 

ホーリーウッドの土壌を正常に戻すヨカッタネの在処は判っている。

 

ドアクダー軍団の第五界層のボスであるアック・スモッグルが所持している筈だ。

 

この事をエクスクロスに知らせられればいいのだけど…

 

今は流れのままに進むしかない。

 

 

=続=

 





汚染された大地。

それはひっそりと芽吹きの時を待っている。


次回、幻影のエトランゼ・第百十六話『光樹《ホーリーウッド》』


語るべき事を語ろう。


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滓の付箋


残された後悔の残滓。

彼女達もまた戦い続けていた。

枷を付けられつつも反逆の時を。



 

前回の脱走後…

 

無事にエクスクロスと合流したアンジュ達。

 

アンジュはこれまでに起こった事や各地で発生している集団失踪事件の真相を語った。

 

 

******

 

 

アンジュからの説明の後、開口一番に声を上げたのはマサキとシュウだ。

 

 

「何だって!?」

「成程、これまでの集団失踪にそんな裏が…」

「シュウ、こりゃ不味いんじゃないか?」

「確かにそうなりますね…特に彼らが知った場合は。」

 

 

マサキとシュウの会話に出て来た彼らに関してアンジュは質問する。

 

 

「彼らって?」

「エンブリヲがイグジスタンスを敵に回したと同時にあの人らも敵に回した。」

「それがホルトゥスの孫光龍達の事です。」

「その組織に…どう言う人物なの?」

 

 

アンジュの返しにシュウとマサキはいずれ嫌でも知るだろうと思い語った。

 

 

「ホルトゥスはハスミ・クジョウが現在のイグジスタンスに加入する前に指揮を執っていた私設部隊です。」

「で、二人の名前はカーウァイ・ラウとテンペスト・ホーカー。」

「ハスミ・クジョウの実父と養父……それも質の悪い過保護です。」

「ああ、親馬鹿って事?」

「そんな言葉で済めばいいですけど、特に光龍を敵に回したら最後…災害級の天変地異を覚悟した方がいいです。」

「え?」

 

シュウの意味ありげな言葉に反応するアンジュ。

 

 

「光龍の搭乗する四霊の超機人・応龍皇…あの機体には今で言う気象コントロールシステムを供えられています。」

 

 

先史文明期に製造された超機人・応龍皇。

 

その最高位に位置する四霊の一体…応龍の超機人である。

 

応龍皇は今で言う気象コントロールシステムを備えており、猛威を振るえば大陸一つを水没させる事も容易い力をを持っていた。

 

新西暦の世界の過去の時代に水神様の怒りなどで逸話が残っている正体ともいわれている。

 

ハスミが鋼龍戦隊やイグジスタンスで共闘関係を結んでいる間は手出しをしなかったが…

 

 

「娘の危機とあれば、その報復は恐ろしいものになります。」

「ああ、俺らも敵に回したくない候補に上がる位のな…」

 

 

実際の能力を見ているからこその発言。

 

一緒に居たリューネとアーマラも口を閉ざしていた位だ。

 

 

「実際、その力は人界守護の為の力…そして銀河を守護する人造神ガンエデンと共にバアルに対抗する為に生み出された。」

「…ハスミが手綱を握っている以上は悪い様にはならなかったけどよ。」

「恐らく、既に光龍達にもこの件は伝わっているでしょう。」

 

 

勝利者にでもなったかの様に振舞うエンブリヲ。

 

自称調律者の末路は目に見えている。

 

どう足掻いても愚か者に逃げ場はない。

 

 

「そう言えば…モモカ、皆にお茶の用意をお願い出来る。」

「はい、お任せください。」

 

 

アンジュはふと思い出した事を話す前にモモカにお茶の準備を頼んでグリーフィングルームを退室させた。

 

モモカが退室した後、アンジュは答えた。

 

 

「そのハスミから預かりものがあったのよね。」

「預かりものですか?」

「これよ。」

 

 

アンジュは自身の髪の中からヘアアクセサリーを外してシュウへ渡した。

 

シュウは飾りの部分を取り外して中から小さなチップを取り出した。

 

 

「成程、記録媒体の様ですね。」

「流石ギリアム少佐仕込みの元諜報部…やる事はやってたらしいな。」

「ええ、これでエンブリヲの狙いが洗い浚い解る筈です。」

 

 

流れが変わって事で敵の行動も変異していた。

 

同じ様に行動を出来ない為に後手に回っていた記憶持ちのエクスクロスのメンバー。

 

この事でハスミからの情報で多くが判明したと説明すれば、先んじての行動も起こせる。

 

反撃の糸口が大口へと変わる瞬間だった。

 

 

「では、中身を覗いてみましょうか。」

 

 

シュウはチップの中のデータをグリーフィングルームのモニターに反映させた。

 

 

「…かなり大事になっているようですね。」

「ああ…」

 

 

シュウとマサキの表情もそうだが…

 

新西暦の世界に関わりを持つ者達も険しい表情をしていた。

 

 

「何か判ったの?」

「ええ、状況打開の為にイグジスタンスの助力が必要だと言う事です。」

 

 

シグナスの艦長の倉持を始め他の艦長らもその言葉に動揺していた。

 

それぞれの問いにシュウは答えた。

 

 

「イグジスタンスと?」

「ええ。」

「彼らの助力が必要なのは何故だ?」

「エンブリヲの本拠地は独自の次元結界で守られた閉鎖世界…その結界を壊す為にはイグジスタンスの助力が必要です。」

「博士…他にもある。」

「シナプス艦長、DG細胞ですね。」

「あれは危険所の騒ぎではない…ましてや感染者が女性だとすれば。」

「…時間の猶予はありません。」

「更にドアクダー軍団や魔従教団も大規模な行動に移る様ですし…危機的状況なのは間違いないです。」

 

 

齎された情報は今後の活動に大きく関わるものだった。

 

エクスクロスはセフィーロ王国が同盟を結んだ聖インサラウム王国へと移動を開始。

 

助力を得る為に行動を開始した。

 

 

=続=



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第百十六話 『光樹《ホーリーウッド》』


不浄により天を覆い隠す。

草木も生えぬ不毛の大地。

それらは仕組まれた罠。

だが、待っている。

芽吹きの時を…


引き続き、アル・ワースにて。

 

アンジュの帰還から数週間が経過した。

 

エクスクロスはイグジスタンスの助力を得ようと聖インサラウム王国へ来国したが…

 

国王であるユーサーの不在と魔従教団の対応で手一杯であると説明を受けた。

 

更にイグジスタンスは別勢力への対応で不在の上に連絡不能である事が判明した。

 

エクスクロスは助力の件を伝えて他の勢力の影響を受けている地域の開放へと向かった。

 

結果、ドアクダー軍団の第三界層ボスから第四界層ボスに直属のザン兄弟を倒す事に成功。

 

その流れからエクスクロスは第五界層ボスであるアック・スモッグルの潜むホーリーウッドへと移動していた。

 

 

******

 

 

~ホーリーウッド・ヘドロ御殿~

 

 

アック・スモッグルの指示で稼働する工業地帯。

 

空気は汚れ、水源はヘドロ、大地は草木も生えない不毛の大地と化していた。

 

そのアックが居を構えるヘドロ御殿の社長室で本人が通信を行っていた。

 

 

「…ワタル達が、此方に?」

 

 

アック・スモッグルと話をしているの上司に当たるドアクダー四天王のドン・ゴロー。

 

 

「そうだ。エクスクロスはホーリーウッドを目指している。」

「まあ、当然でしょうな。」

 

 

アック・スモッグルの言葉通り。

 

ドアクダー軍団が進行中の大気汚染作戦。

 

その中枢たるヘドロ御殿がここに存在する。

 

 

「ドン・ゴロー様、ご安心を…このアック・スモッグル、奴らを返り討ちにしてやります。」

 

 

アック・スモッグルの発言に油断の気配を感じたドン・ゴローは口を酸っぱくして答える。

 

 

「エクスクロスを侮るなよ、第一から第四の界層のボス達からザン兄弟まで奴らにやられたのだ。」

「それにつきましては、ワシの方で用意した切り札もございますので。」

 

 

対抗策の切り札もあると答えるアック・スモッグル。

 

だが、彼は別の勢力に対して危険視の声を上げた。

 

 

「気掛かりなのは魔従教団と神聖ミスルギ皇国の動きです。」

 

 

前者は大地を汚した件、後者は新たな戦力による侵攻。

 

智の神エンデの守護する大地を汚した事で魔従教団も動きを見せるだろう。

 

後者は以前現れたイグジスタンスに該当する戦力を中心に活動している。

 

どちらにせよ、二つの勢力を敵に回す事。

 

これもドアクダーの狙いなのはアック・スモッグルも理解していた。

 

続けてドン・ゴローはアック・スモッグルの疑問に返答した。

 

 

「魔従教団に関してはドアクダー様の狙いなのだろう。」

「では…!」

「ドアクダー様はこの作戦を足掛かりに本気で教団と事を構えるおつもりと見ている。」

「おお…!ついに目障りな教団を叩き潰す日がやって来るのですな?」

「だが、大地を汚染する事はそこに住む者達を事を考慮し余り望ましいと言えない。」

 

 

いくら作戦が成功しても汚染による不毛の大地を会得しても意味はない。

 

ドン・ゴローは作戦終了後、アック・スモッグルに例の品で…と告げる。

 

 

「判っております…ワシの管理しております秘宝『ヨカッタネ』の力で速やかに大地を元通りにしましょう。」

「うむ。では、頼むぞ…アック・スモッグル。」

 

 

アック・スモッグルは告げる事を終えたドン・ゴローとの通信を切った。

 

だが、ドン・ゴローの意思とは裏腹にアック・スモッグルは不貞腐れた表情で呟いた。

 

 

「ふう…ドン・ゴロー様と喋ると肩が凝る。」

 

 

ドン・ゴローの頭の固さに悩まされるとアック・スモッグルは愚痴る。

 

 

「ま、ワシの工場がある限り…大地を元通りにするのは不可能だがな。」

 

 

太巻き位の葉巻を吹かして真っ黒い副流煙を周囲に撒き散らしていた。

 

恐らく、周囲に人が居れば真っ先に逃げただろう。

 

アック・スモッグル。

 

この界層を支配してから洗浄と名の付く行為を一切していない。

 

お気づきの通り…体臭から服の臭いが余りにも不潔なのである。

 

最早、ゴム手袋をしても触れたくないレベルの不潔だろう。

 

どこぞの加齢臭+足が臭いレッテルを貼られた戦闘狂と良いレベルだ。

 

 

「切り札を使い…エクスクロスごと救世主ワタルを始末してくれるわ!」

 

 

アック・スモッグルはその不潔に相まって汚らしい笑い声と表情でゲラゲラと笑っていた。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃…

 

 

「じゃあ、ハマーンも攫われたって事か?」

「その通りだ、面目ない…」

「いや、そんな相手じゃマシュマーさんでも無理があるって。」

「…」

 

 

ホーリーウッドの街へ偵察しに来たエクスクロス。

 

ワタル一行、アマリ、イオリ、マサキ、シャングリラ組と言う形である。

 

街で聞き込みをする中でネオ・ジオンのマシュマーと遭遇。

 

新西暦の世界でエンブリヲらに襲撃を受けて、ハマーンを攫われたと話す。

 

 

「一刻も早くハマーン様を救い出さねばならない。」

「現時点でネオ・ジオンの手綱を握れる人物がいないのでしょ?」

「!?」

 

 

マシュマーの言葉に対して答える様に現れた存在。

 

声の主に気づいたマサキは名を答える。

 

 

「ハスミ!?」

「待って、その場から動かないで。」

「っ!」

「ゴメン、奴に監視されているの…そのまま聞いて頂戴。」

 

 

物陰からハスミは彼らを静止させた後に新西暦の世界で起こっている出来事を説明した。

 

シャア大佐やハマーンが不在な事で沈黙していたネオ・ジオン。

 

不在を期にフル・フロンタル率いる袖付きによって反乱が起こってしまっている件。

 

再び、連合とネオ・ジオンの戦争が起こされようとしていた。

 

フル・フロンタルは並行世界で生まれたシャア大佐のクローンでアクシズを地球へ落とす計画を立てている。

 

並びにNT教団の暗躍が開始。

 

ニュータイプや強化人間の拉致監禁からの精神操作で世論を混乱させようとしている。

 

連合のキルケー部隊が対応しているが、内部の裏切り者によって遅々として進んでいない。

 

裏切り者の名はクワック・サルヴァーと言う連合の士官で戦乱を引き起こす為にマッチポンプを企てている。

 

現在はゲリラ組織・マフティーがミスリルと合同でNT教団や奴の動向を追っているが状況次第で泥沼化するだろう。

 

多くの暗躍の陰で動いているのはバアルによって暴走したクロノ…いずれ仕留めなければならない組織。

 

 

「ホーリーウッドの状況を元通りにするヨカッタネはこの界層のボス、アック・スモッグルが持っているわ。」

「だったら…」

「今は忍び込まない方が良い、奴の切り札がヘドロ御殿に網を張っているの。」

「切り札?」

「その切り札はこっちで対処するわ……貴方達は何とかしてアック・スモッグルを倒してヨカッタネを取り戻して。」

 

 

ハスミはヘドロ御殿を破壊すると汚染物質が拡散してしまうのでヨカッタネを奪取してから破壊する様に付け加えた。

 

 

「ハスミ・クジョウ、ハマーン様は何処に?」

「エンブリヲの本拠地…既にDG細胞を感染させられ厳重に保管されているわ。」

「ハマーン様…」

「気を付けて、エンブリヲもヨカッタネを狙っている。」

 

 

マシュマーにハマーンの居場所とエンブリヲの狙いを伝えると去って行った。

 

 

「ハスミの奴、無茶しやがって。」

「マサキさん、あの人。」

「ハスミは突き放しているようで実際は仲間想いだ……ああやって助言もくれるしな。」

「…」

 

 

マサキから聞かされたハスミの助言。

 

ワタルは以前出会った時に告げられた言葉が脳裏に深く残っていた。

 

偶像にさせられるのではなく本当の救世主と言う意味をよく考えなさいと… 

 

 

「…(ハスミさんの言う通り、戦えない人達は他力本願な所があった。」

 

 

ワタルはエクスクロスと出会い彼らの助言から考える事で自分が成りたい救世主の姿を形作っていた。

 

 

「ワタル、平気か?」

「うん、ちょっと考え事……でも、あの人に言う答えは出来てるから。」

「なら、大丈夫か…」

 

 

吹っ切れた表情のワタルを見てマサキも大丈夫だろうと判断した。

 

 

******

 

 

その後、エクスクロスは援軍であるマシュマーを加えてヘドロ御殿へ侵攻。

 

シャングリラ組から少年少女達を筆頭に『工場経営者なら賃金未払いすんなよ!』、『成金親父』、『下品親父』、『俗物成金親父』、『汚物親父』、『頭から足先までくっさいオッサン』、『くさや臭…いやシュールストレミング臭ジジイ』、『風呂ぐらい入れよオッサン』、『歯磨きしないと虫歯になるよ?』、『借金親父』、『違法経営者』、『廃棄処分法違反者』等々の煽り言葉を連発。

 

これに怒ったアック・スモッグルを上手く誘き出して戦いを続行。

 

その中でアック・スモッグルが隠していた切り札が既に倒されていた。

 

 

「そんな…ワシの切り札がぁ。」

 

 

慌てるアック・スモッグルに止めを刺すワタル。

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

龍神丸の強化版…龍王丸の必殺技である必殺登龍剣でアック・スモッグルの搭乗機体コンボスを切断。

 

ワタルの単純な煽りやアマリの色仕掛け?戦法が功を奏した。

 

これによりアック・スモッグルを倒したエクスクロスだったが…

 

更なるゲストの出現でそれは阻まれた。

 

 

「ハァイ~エクスクロスの皆さん?」

「アンタは…!」

 

 

正体を知るサリアにアンジュは声を掛けた。

 

 

「サリア、知っているの?」

「ええ、私達の後釜…新しくダイヤモンドローズ騎士団の団長を務めている女よ…!」

 

 

脱走時、アンジュの説得でエンブリヲの元を去ったサリア、エルシャ、クリス。

 

だが、ターニャとイルマはエンブリヲの元に残ったとサリアが告げている。

 

その為、二人のラグナメイルがマリリンと同行していた。

 

 

「そんな燃え尽きそうな名前は止めてくれない?」

「え?」

「私達はダイヤモンドローズ騎士団改めてヘルガーデン騎士団…覚えてくれなくてもいいわよ?どうせ殺しちゃうから。」

 

 

自己紹介を続けるゴスロリ風の衣装を纏った女性。

 

騎士団の名前通り発言も残虐らしい。

 

 

「でもって、私の名前はマリリン・キャット…よろしくね。」

 

 

通信で見る限り、引き連れた団員達よりも年齢が低く見えている。

 

だが、彼女の放つ気配がそうではないと本能が語っていた。

 

 

「顔見せはこれ位にして…このヨカッタネだったかしら?預かって行くわね。」

「あっ!」

 

 

通信でヨカッタネを見せるマリリン。

 

それに対してワタルは叫んだ。

 

 

「それがないとこの街が!」

「そっちが欲しいものをこっちも必要なのよ…じゃあね、ボウヤ♪」

 

 

マリリンは部隊を引き連れ撤退して行った。

 

置き土産と言わんばかりにヘドロ御殿を破壊して…

 

 

「そんな…」

「ヨカッタネが奪われるなんて。」

「…この街はもう。」

 

 

ワタルとアマリは落胆した声を上げる。

 

アック・スモッグルを倒したエクスクロス。

 

だが、エンブリヲの指揮下にあるヘルガーデン騎士団によってヨカッタネは奪取された。

 

ヘドロ御殿は破壊された事で破損部分から漏れ出た汚染物質が流出され続けていた。

 

流出が止まらなければ街は重度の汚染区域となり、いずれ人も住めなくなるだろう。

 

 

「…どうすれば。」

「諦めるな!」

「えっ?」

 

 

汚染が進むホーリーウッドの街に現れたイグジスタンスの部隊。

 

旗艦であるプレイアデス・タウラが不在の為、主要機体だけでの出撃らしい。

 

 

「イグジスタンス!?」

「何故、彼らが…?」

「判らん…」

 

 

シグナス・艦長の倉持とメガファウナ・艦長のドニエルも彼らの出現に驚きの声を上げた。

 

その中でN-ノーチラス号・船長ネモだけはイグジスタンス出方に静観していた。

 

 

「救援が遅れて済まない。」

「君達の話は臣下より受け取った。」

 

 

ヒビキとユーサーの声掛けから始まり。

 

応対する艦長達。

 

「では…」

「イグジスタンスは君達と期間限定の同盟を結びたい。」

「期間限定?」

 

 

ユーサーは代表から預かった言葉をエクスクロスへ告げた。

 

同時に期間限定の意味をバルビエルと尸空が答える。

 

 

「…エンブリヲを倒すまでって事さ。」

「俺達の目的はそれだけだ。」

 

 

エンブリヲの一件で後手に回っていたイグジスタンス。

 

奴に対して報復の準備が整ったらしい。

 

 

「今は街が…」

「安心しな、それなら助っ人を呼んでいる。」

「助っ人?」

 

 

援軍が加わる事に異議はなかったが…

 

目処前の光景にワタルは落ち込んだままだった。

 

だが、クロウは助っ人を呼んだと話す。

 

 

「UG、周囲の汚染物質を分解し浄化を急ぐぞ!」

「…」

 

 

クロウの話した助っ人によってヘドロ御殿は突如変異し汚染物質を回収し始めた。

 

 

「アレは!?」

「DG!?」

「ちょちょっと大丈夫なの!?」

 

 

シャングリラ組のジュドー達の言葉も最もだが…

 

 

「安心しろ、今のUGに敵意はない。」

「兄さん、浄化の方は?」

「UGが施設を改造して分解処理をしている…もう汚染物質の流出はないよ。」

 

 

UGを引き連れた助っ人三名。

 

順にシュバルツ、ドモン、キョウジの三人である。

 

 

「ドモンさん!」

「助っ人が強力すぎるだろ!」

「全然いいって!マジで!」

「逆に草一本も残らなそう…」

 

 

これに勝つると判断し喚起するシャングリラ組並びに彼らを知る少年達。

 

ここで疑問が残る。

 

彼らはどうやってアル・ワースへ訪れたのか?

 

 

「間に合って良かったね?」

 

 

上空より姿を現した応龍皇。

 

余りの巨大さに声も出ないエクスクロスの初対面の面々。

 

察して彼の事を知っているメンバーは静観していた。

 

 

「ホルトゥスの孫光龍!?」

「どうも、久しぶりだね?」

 

 

マサキの発言で自己紹介は省かれた。

 

相変わらずヘラヘラな態度で話す光龍。

 

 

「助っ人の転移は僕らの手助けだよ……ちょっとばかり奴への仕返しを兼ねて呼び込んだのさ。」

 

 

奴と言うのは恐らくエンブリヲの事だ。

 

アンジュがハスミから渡された情報では新西暦の世界の地球にもエンブリヲの手を伸びていた。

 

多くの逆鱗に触れたエンブリヲへの報復は凄まじいものになるだろう。

 

 

「他は周囲に点在しているドアクダー軍団だったかな?そいつらの妨害に出ているよ。」

「孫光龍、其方もイグジスタンスと同盟を?」

「一応ね、娘の事もあるし……戦力は多いに越した事はないよ。」

「…」

「ま、そっちにもシンカの力に目覚めたのが何人か居るらしいし…頃合いって事だよ。」

 

 

アルビオン・艦長のシナプスの対応で反感を買わない様に話を進めた。

 

光龍の言葉通り以下の条件をエクスクロスは満たした。

 

イグジスタンスが同盟を結ぶ条件で必要なシンカの力。

 

それに目覚めさせる事で彼らと肩を並べる戦力へと切り替わる。

 

期間限定なのは全員が目覚めを迎えていない為だ。

 

 

「積もる話は皆で集まってしちゃった方がいいかもね。」

 

 

光龍の進言もあり、エクスクロスとイグジスタンスは合流。

 

汚染が除去された一角で顔合わせと自己紹介を済ませた。

 

そしてイグジスタンス代表の決定を告げた。

 

イグジスタンスは多元地球に防衛可能な戦力を残した状態で…

 

アル・ワースの戦線を担っている戦力の一角。

 

エンブリヲ率いる神聖ミスルギ皇国軍への侵攻を決定したと…

 

同時に期間限定と言う形でエクスクロスと共闘し神聖ミスルギ皇国に繋がるエンブリヲの本拠地へと向かう。

 

他の助っ人達も合流し反撃の手順を告げられたエクスクロスだった。

 

 

=続=

 





反逆の時は来た。

お前の命運もここまで。

死へ直結する闘いを…


次回、幻影のエトランゼ・第百十七話『死闘《シトウ》』


さあ、始めようか?


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飾の付箋


それは飾られる。

身動きは取れない。

願いは届かない。

だって飾られるのだから…


 

エクスクロスがイグジスタンスと期間限定の同盟を結んだ。

 

神聖ミスルギ皇国に潜む黒幕たるエンブリヲを討つ為に…

 

それは元の世界に帰還する事を条件に彼に従う者達を停戦させる事に繋がる。

 

神聖ミスルギ皇国へ進軍するエクスクロスとイグジスタンスの混成部隊。

 

だが、更なる怒りを落とす行為をエンブリヲは移行しようとしていた…

 

 

*******

 

 

~???・エンブリヲの城~

 

 

ここエンブリヲの拠点である城の最下層にてエンブリヲは前回ヨカッタネを奪取したマリリンと話していた。

 

 

「ありがとう、私の可愛いお姫様。」

「これ位はお安い御用ですわ。」

 

 

姫と呼ばれた事が嬉しかったのだろう。

 

マリリンは話の流れである事をエンブリヲに質問した。

 

 

「エンブリヲ様、お聞きしたい事が…」

「何かな?」

「先程のヨカッタネで何をなさるのですか?」

 

 

マリリンの言葉にエンブリヲは静かに答えた。

 

 

「浄化するのさ…全ての不浄をね?」

「不浄…汚れですか?」

「新しい世界には清浄なモノしか必要ないからね。」

「…」

「マリリン、君には引き続き護衛を頼みたい。」

「護衛ですか?」

「ああ、清浄へと導く女神達の目覚めまで…のね?」

 

 

エンブリヲはメイドとして扱っている女性達にマリリンへ労いを指示すると去って行った。

 

マリリンは何時もの猫かぶりの顔を止めると静かに呟いた。

 

 

「愚かな人……そんな事じゃ何も手に入らないのに。」

 

 

意味ありげな言葉を呟いた後、テラス席へ移動。

 

マリリンはメイド達が用意したアフタヌーンティーを堪能した。

 

マリリンと別れたエンブリヲは城の最下層へと移動。

 

目的の場所へ進むにつれて機械でありながら細胞様な質感の場所が広がって行った。

 

目的の場所に安置されているのはある存在の周囲に点在する無数の調整槽。

 

既に調整槽の確認する事は出来ないが、何かが起こっているのは理解出来るだろう。

 

 

「さて、いい加減…君達にも素直になって欲しいな?」

「…」

「空かし野郎が…」

「貴方になんか…」

 

 

ある存在に埋め込まれた三人。

 

順にハスミ、エルーナ、セツコである。

 

話し方に違和感があるのは自身の意識が途切れ途切れになりつつあるからだ。

 

 

「大地の守護を受けたスフィアとヨカッタネ…そしてそれらを紡ぐ白銀の悪魔の力。」

 

 

エンブリヲは手に入れたヨカッタネを最後の存在に向けて差し出した。

 

それに反応しその存在はヨカッタネを受け取ると己の中に埋め込んだ。

 

 

「これで新世界の為の浄化の始まる…君達がその礎になるんだ。」

 

 

三人の途切れ途切れだった意識が更に朦朧とし途絶え始めた。

 

 

「こんな事で…」

「ごめんなさい。」

「エンブリヲ…お前に言って置く。」

「何かな?」

 

 

耐性を持たない二人とは違い、ある程度の耐性で意識を繋いでいたハスミはエンブリヲに告げた。

 

だが、最後の悪あがきとエンブリヲは見ている様だが…

 

 

「…」

 

 

鋼の守護者達は愚かな楽師に抗う。

 

光と風は永遠を語り、新たな星の産声となる。

 

星々は大地を求め、還元し世界を構築する。

 

翼を持った真の調律者は歌声と共に世界を調律する。

 

愚かな楽師は恐怖の元で真の滅びに嘆くだろう。

 

 

「覚えて置くがいい…」

 

 

ハスミはそれだけを告げると白銀の膜に覆われて沈黙した。

 

それはスフィアを通じて視たエンブリヲの滅びへのカウントダウンの予言だった。

 

 

=続=



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第百十七話 『死闘《シトウ》前編』


怒りの矛先。

反逆の闘志を胸に。

愚か者は一片も残さない。

ただ消え失せるのだ。


 

エクスクロスとの同盟を結んだイグジスタンス。

 

期間限定の同盟とは言え、一国家を討ち取るには十分すぎる戦力である。

 

エンブリヲは神聖ミスルギ皇国を中心に並行世界から呼び寄せた軍勢を皇国に配置し防衛して来るだろう。

 

エクスクロスはミスルギ皇国内に捕らえられているアウラを開放を最優先。

 

その後、アンジュとサラマンディーネの歌とアウラの力でエンブリヲの潜む本拠地に殴り込みを仕掛ける事となった。

 

念の為、本拠地移動までの妨害が出た場合に踏まえて助っ人の助力も使用する手筈だ。

 

だが、これを期にドアクダー軍団や魔従教団も仕掛けてくる事も踏まえて戦力を分散する事となる。

 

話し合いの結果…

 

エクスクロスとイグジスタンス、エンブリヲによって仲間の拉致を受けているメンバーを主力部隊。

 

残りは陽動と他の勢力への妨害行動に出る事となった。

 

 

******

 

 

そもそも、光龍らが何故…イグジスタンスの元へ訪れる事が出来たのか?

 

その理由を説明する。

 

イグジスタンスがサイデリアルとして行動していた頃。

 

ハスミはある条件で天鳥船島のクロスゲートの起動を可能とする処置を施した。

 

それが念動者三人をキーとした緊急起動方法である。

 

条件はメインキーとなるマシヤフに危機が迫った時…

 

マシヤフの近親者と他二名で起動キーの代理とする事が可能と言うモノだ。

 

危険性が高いので普段は使えない手であるが致し方ない。

 

また、ハスミはエンブリヲによって拉致される前…

 

事前にDDコミュニケーターで光龍達に助っ人確保の指示を行っていた。

 

この為、迅速に動けたのである。

 

 

「じゃあ、手筈はこんな感じかな?」

 

 

光龍達の進言もあり他勢力の敵部隊への陽動はホルトゥスが行う事となった。

 

助っ人がほぼ主力級のメンバーを選りすぐって来たらしくので本気と見ていい。

 

陽動に参加する助っ人メンバーは天臨社改め新生VTX社のメンバー、GreAT社のメンバーである。

 

規格外なティラネード・レックスやダイガイアンとイーファスの部隊、ラッシュバート、ストレイバードやガルドデウスとヴァレイシリーズの部隊の配置。

 

ちなみに新生VTX社で生産ラインにゲシュペンストは使用せず代替としてイーファスを使用。

 

新西暦の世界では既にゲシュペンストに続いて発展型が出ているのが理由の一つである。

 

問題はハスミがこれだけの戦力を開発並びに増産の協力をしホルトゥスと言う組織で隠蔽していた件だ。

 

他のホルトゥスのメンバーは新西暦の世界の事件対応で動けないが十分すぎる戦力だった。

 

 

「で、主力部隊に協力するメンバーは…」

 

 

エクスクロスとイグジスタンスの同盟部隊に協力するのは…

 

DG細胞の件でドモンら三人にクスハ達を奪われたブリット達、TREEAのメンバーらに加えてエンブリヲに親しい女性を奪われたZEXISの一部メンバーである。

 

ZEXISへ事情を説明し、一部のメンバーと共にこちら側へ渡って来たのだ。

 

向こう側での戦いは残留中のイグジスタンスの他メンバーが別個で対応する形なので戦線の総崩れは無いだろう。

 

手は足りている位が良いとハスミが偶に言うのもこう言う事態の時の為だ。

 

事前通達があったとは言え、規格外の戦力をかき集めた光龍の発言。

 

 

「あの自称調律者君が調子に乗って色々とやり過ぎた……この位の報復はいいだろう?」

「我々が来た以上は大船に乗ってくれ。」

「過剰と思われるが何が起こるか判らない…その為の戦力は集結させたよ。」

 

 

助っ人の各部隊の代表であるダイマとルドの言葉。

 

ちなみに二人は新西暦の世界でクロノによる暗殺未遂があった為に一時的な避難をしている。

 

まあ、暗殺しようにも逆にやり返せそうな人達なのだが…

 

話を戻し、規格外は当たり前であり想定外も想定内が前提としているのがホルトゥスの在り方。

 

そもそも…これだけの規模の戦力を隠し持っていたハスミの手腕もまた末恐ろしいと感じ取られただろう。

 

 

「…有難いですかね?」

「…どう言えばいいのか。」

「…敵の意表を突くにはいいのでしょう。」

「皆さんも…慣れてしまえば気にはなりませんよ。」

 

 

順に倉光、ドニエル、ネモ、シナプスの発言。

 

エクスクロスの艦長らは青褪めた表情で開いた口が塞がらない状態だったが…

 

その艦長の一人であるシナプスだけは何時もの事で遠い目をしつつも冷静さを保っていた。

 

慣れとは恐ろしいものである。

 

 

「…」

「アマリさん?」

「イオリ君、ちょっと驚いただけ。」

「確かに驚くよね。」

「うん。」

 

 

エクスクロスの中核になりつつあるアマリとイオリも同様の感想を告げていた。

 

規格外も想定内が常に当たり前のイグジスタンスやホルトゥスの在り方。

 

その在り方も今後も必要なのだろうと…

 

 

「新しい世界からの来訪者達も中々興味深いですね。」

 

 

アマリらの仲間であるホープ、彼は彼でマイペースに答えていた。

 

一方で旧サイデリアルことイグジスタンスが行った行為。

 

新西暦の世界では侵略行為であったが…

 

影で暗躍し暴走を繰り返すクロノを止める為の措置とシンカへ導く為の行動である事は光龍らによって説明された。

 

その代表がエンブリヲへの粛清の為にここへ訪れていた。

 

 

「…」

「アウストラリス。」

 

 

周囲の様子を静観していたアウストラリス。

 

彼に声を掛けたのは…以前、拳を交えた者だった。

 

 

「ドモン・カッシュか…」

「事情は孫光龍から聞いている。」

「…」

「お前も助けに行くのか?」

「組織を纏める者として先陣を切る事は出来んが…言葉通りだ。」

「そうか。」

 

 

代表を務める以上、個人の感情を優先する事は出来ない。

 

それでも愛する存在を救いたいと言う意思も見え隠れしていた。

 

 

「ドモン・カッシュ、あの時はあの様な形で拳を交えてしまったが…」

「…」

「事の全てが終わった後…お前や他の者達と改めて拳を交えたい。」

「それは俺も同じだ。」

 

 

幾度と拳を交えた事で真意は通じていたのだろう。

 

負けのまま終わらせる訳にはいかないとドモンは告げた。

 

それに対してアウストラリスは静かに返した。

 

 

「…楽しみにしている。」

 

 

>>>>>>

 

 

作戦決行の時が訪れた。

 

陽動の為にVTX社のメンバーとGreAT社のメンバーにホルトゥスが先行して行動を開始。

 

ミスルギ皇国の部隊は陽動部隊の戦力に油断していたのだろう。

 

だが、知る者は知っている。

 

彼らもまたエクスクロスと同等の部隊と最終決戦で雌雄を決した存在である事を…

 

 

「やる気のない者は…去れ!!」

 

 

陽動作戦でドアクダー軍団と対峙したVTX社メンバー…

 

先陣を切ったのはダイガイアン一号機のダイマである。

 

 

「あれはストレスを相当溜め込んでいるわね。」

「確かに。」

 

 

二機のティラネード・レックスよりサギリ・サクライとサイゾウ・トキトウの会話。

 

 

「社長一人で突っ込んでますけど…いいんですか?」

「ああ言う時は自由にやらせて置くのが一番ですよ。」

 

 

二機のサブ・パイロットを務めるラミィ・アマサキとルーディー・ピーシーザルトが愚痴っていた。

 

 

「すまん、何分…ダイマも暗殺未遂で逃亡生活していた期間が長すぎてな。」

「エイムさんのせいじゃ…」

「そうですよ、ハスミさんに思いっきり駄目出し説教されて関心したのに悪い癖は出るモノですね。」

「あれじゃあ、どっちが悪者何だか…」

「関心と言うならあの悪趣味なパイロットスーツを止めた事だけだろうな。」

「あ、悪趣味…(カッコいいと思うのだが。」

「ハスミさんからも機能性も欠片もないダサいスーツ発言されてましたからね。」

 

 

同じくダイガイアン二号機のエイム・プレズバンドも会話に加わり、戦闘中ではあるが会話の余裕があるらしく…

 

攻撃の手を緩めない程度に話を続けていた。

 

最もストレス発散するかのように大剣ぶん回して攻撃をするダイマの様子に周囲がツッコミを入れる始末である。

 

敵陣は陣形を崩された上に立て直した戦力を激減させる事となった。

 

 

一方、その頃…

 

 

同じく陽動作戦でGreAT社のメンバーVS魔従教団が展開していた。

 

ルーンゴーレムとディーンベルの混成部隊。

 

ドアクダー軍団と同じく、この期を逃すまいとミスルギ皇国へ侵攻して来たらしい。

 

だが、圧倒的な戦力によって軒並みに陣形を崩される事となる。

 

 

「さて、狂いに狂った狂信者達…この場を去るならこれ以上の攻撃はしないと約束しよう。」

「…邪教の者め!」

「我らの神の御神託によりお前達をほろぼ…!?」

 

 

魔従教団…その彼らの前に出現したの起動要塞ガルドデウス。

 

防御機構を備えたコアフォートレスを引っ提げての登場である。

 

 

「残念だよ、もう少し聞き分けが良いと思ったが…致し方あるまい。」

 

 

レジスレイトレーザーによる攻撃は魔従教団の陣形を崩すには十分な効力を持つ。

 

最もレボリューションカノンまで使ったらアル・ワースの一地域が焦土と化すので控えている。

 

 

「なあ、悠兄…」

「言うな、一鷹。」

 

 

この光景に対して共に出撃していたラッシュバートの南雲一鷹とストレイバードの悠凪・グライフ。

 

圧倒的な戦力に成す術がない魔従教団に対し同情しそうになっていた。

 

こちらもまた『どっちが悪者?』的な思考になりつつある。

 

二機のサブ・パイロットであるHL-0 ハルノとAL-3 アリスも何とも言えない表情をしていた。

 

 

更にもう一方…

 

 

陽動作戦でミスルギ皇国軍をたった一機で相手にしていた存在。

 

 

「さてと、先陣を切らせて貰った以上は…しっかりやらせて貰おうか?」

 

 

上空より飛来する真・応龍皇。

 

龍玉を取り戻した姿であり本気モードを披露出来る状態になっていた。

 

娘を奪われて怒りが臨界点突破中の光龍とのコンビは計り知れない。

 

 

「因みにゲストは僕だけじゃないよ?」

 

 

光龍は兵器サイズの呪符を応龍皇の周囲に数枚程展開すると呪言を唱えて妖機人召喚を行った。

 

 

「油断すると機体諸共…君らも喰われるよ?」

 

 

旧西暦時代の頃の部下の一人だった偃師。

 

彼が率いた七体の妖機人を再生し復活させ顕現したのだ。‎

 

 

「僕も本気だよ……隠れて見ている自称調律者君?」

 

 

応龍皇だけでも過剰な戦力なのにも関わらず妖機人まで出現。

 

暴君時代の光龍が一時的に復活した瞬間でもあった。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、エンブリヲの居城。

 

 

「…エクスクロスにイグジスタンスも本腰を上げて来たか。」

 

 

アル・ワースからの映像でミスルギ皇国に後がないと悟ったエンブリヲ。

 

 

「彼らには時間稼ぎをして貰おう。」

 

 

元の世界への帰還を条件に同盟を結んだ勢力をあっさり切り捨てたのだ。

 

 

 

「私の作り上げた女神達の目覚めの時まで…」

 

 

エンブリヲは自身の背後に潜む巨大なナニカを見上げた。

 

脈打つ金属のソレは胎動し目覚めの時を待っている。

 

贄となった三人を染め上げる白銀。

 

物言わぬ装飾品と化した彼女達を目視した時。

 

エンブリヲは悟る。

 

最も手を出してはならない存在達を敵に回した事を…

 

 

=続=





世界を繋ぐ歌。

竜の願い。

光と風の歌声は調律される。


次回、幻影のエトランゼ・第百十七話『死闘《シトウ》後編』


立ち向かえ。

己の心と共に。


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第百十七話 『死闘《シトウ》後編』


拳よ届け。

愛する者へ。

本当の想いと共に。

そして、永き戦いは続く。


各エリアで起こした陽動作戦によって…

 

ミスルギ皇国の首都へ潜入する事に成功したエクスクロス、イグジスタンス、ZEXISの同盟部隊。

 

損傷もなく首都への侵攻が出来たのはほぼ確定事項である。

 

先行した陽動部隊の過剰戦力による陽動が効き過ぎているのも理由の一つであるが…

 

エンブリヲ自身が別の事に気を取られすぎたのも関わっている。

 

本当の意味で彼らを敵に回してはならないと認識していない為に…

 

 

*******

 

 

鬼の形相の同盟部隊がミスルギ皇国の残留部隊と交戦しアウラの奪還をしている頃。

 

エンブリヲは本拠地にて例の作業を継続していた。

 

 

~???・エンブリヲの居城~

 

 

異空間の海に佇む孤島。

 

一見してみれば只の島だろう。

 

だが、この島には別の名前があった。

 

その名はアルゼナル。

 

アンジュ達が拠点としていたオリジナルのアルゼナルである。

 

エンブリヲは前回の大災害の頃…

 

ある実験によってたった一人でこの島に辿り着いた。

 

最悪な事は続き、実験の最中に大災害の影響で自身の所属する世界と人類が滅んだ。

 

エンブリヲはこの実験を行った事で運良く生き延びたのだ。

 

更にエンブリヲは実験の影響で限定的な不老不死を会得。

 

そこから三千年後の現在までマナの国を含めたいくつかの実験場を造っては壊し続けた。

 

自身の認めた女性達と共に永遠に暮らす為のユートピアを目指す為に…

 

三千年と言う長い年月はエンブリヲの性根を捻じ曲げるには十分過ぎる時間だっただろう。

 

最も、これらもとある存在によって仕組まれた茶番劇であった事をエンブリヲが知る事もない。

 

 

「星座の加護を持つ者達…この姿は実に美しいな。」

 

 

DG細胞によって全身コーティング状態のハスミらの顔を輪郭に沿って撫でるエンブリヲ。

 

意識を失い、肉体を動かせない以上は相手のやりたい放題状態である。

 

 

「あの者の言う通りにスフィアを持つ者を核にしてみたが…中々の出力だな。」

 

 

エンブリヲは未だに彼女らの意識がない事をいい事に…

 

誰も聞いていないと踏んで真実を曝け出していた。

 

何故、アル・ワースの中でしか行動が出来なかったエンブリヲが外界へ干渉出来たのかを?

 

本来であれば、エンデの干渉でアル・ワース内でしか活動出来ない筈。

 

外界に干渉出来たと言う事は彼に対して次元力を有した協力者が居ると判断出来る。

 

その決定的な言葉がエンブリヲによって答えられた。

 

 

「あの者はナルーダの眼を盗んだと話していたが…仲間割れでもない。」

 

 

テオロ・オキハ。

 

あの者の介入によって私の夢は実現する。

 

だが、どうも腑に落ちない…

 

 

「その先の末路…」

 

エンブリヲが言いかけた時、自身の住まう居城に地響きが広がった。

 

 

「!?」

 

 

これに関してはエンブリヲも表情を歪ませた。

 

それは、この異空間に潜入した存在が出現したと言う合図でもあった。

 

 

「エンブリヲ様!」

「侵入者です!」

「…判った、騎士団も出撃を急いで欲しい。」

「ええ、お任せくださいな。」

 

 

エンブリヲの元へ駆けつけたヘルガーデン騎士団。

 

ターニャとイルマの発言。

 

二人の発言で冷静さを取り戻したエンブリヲ。

 

団長のマリリンに出撃を命じ、それに彼女も返答した。

 

 

~真・アルゼナル周辺~

 

 

アンジュとサラマンディーネの歌とアウラの力。

 

それに対して進むべき道を指し示したラーゼフォンの二人。

 

彼女らの歌と真の調律者の力によって…

 

無事に転移を終えた同盟部隊。

 

 

「…本当にアルゼナルとそっくりね。」

 

 

アンジュはエンブリヲに囚われた際にマナの国の真実を聞かされていた。

 

脱出後にアルゼナルの仲間達にも伝えたが…実際に見るとでは印象は違っていた。

 

異空間に一部の海辺を残して浮遊する浮遊島。

 

違う所と言えば、慣れ親しんだアルゼナルにエンブリヲの居城がある事だ。

 

 

「エンブリヲ!来てやったわよ!!」

 

 

声色でも怒っている様に聞こえるが、アンジュは冷静である。

 

搭乗したヴィルキスから居城に向かってアンジュは叫んだ。

 

 

「ようこそ、アンジュ…エクスクロスの諸君。」

 

 

エンブリヲのヒステリカを中心に出撃したヘルガーデン騎士団の面々。

 

 

「サリア、クリス、エルシャ…君達には失望したよ。」

「それはこっちの台詞よ。」

「…もう騙されない!」

「アンジュちゃんのお陰で私達も大事な事に気づけたから…」

 

 

一度、エンブリヲの元へ下った三人も大事な事に気づけたと話してエンブリヲに反論していた。

 

 

「エンブリヲ!スズネ先生達をどうした!?」

「返答次第じゃタダじゃ済まねえぞ…!」

「僕らもお前の行動にはウンザリしているんだ!」

 

 

仲間を奪われたイグジスタンスのヒビキとガドライト、バルビエル達の発言に他の男性陣も怒りを露わにしていた。

 

 

「君達に言われずとも会わせてあげよう…彼女達にね?」

「!?」

 

 

エンブリヲが指を鳴らすとアルゼナル全域が変化を始めた。

 

一見しても美しかった島が徐々に生物にも似た機械化が進み、要塞へと変貌したのだ。

 

 

「あれは!?」

「…間違いない、DG細胞だ。」

「ドモン…!」

「既に攫われた誰かがDGのコアにされている。」

 

 

DG細胞による変質を知るブリット、キョウスケ、アクセル達の発言。

 

DG細胞と最も関りを持つドモンが最悪の結果を告げた。

 

攫われた誰かがコアにされていると…

 

 

「流石は当事者の発言かな?」

 

 

エンブリヲはどこぞの誰かと似た様な発言をしドモンを煽った。

 

ヘイトを上げるのはお手の物かと言う位に…

 

 

「っ!」

「君の父上は素晴らしい研究を行ってくれた。」

「侮辱するな…父さんはこんな事の為に研究を行った訳じゃない!!」

「だが、結果的に戦乱を招く技術を生み出した。」

「…」

「そのお陰で私は理想郷を作り出す事に成功した…彼女達のお陰でね?」

 

 

エンブリヲが目配せすると変質したアルゼナルことデビルアルゼナルより出現するコアと化したDG。

 

かつての姿と異なりDGと言うには不明な姿へ変貌していた。

 

 

「あれって…!?」

「DGなのか?」

 

 

シンやカミーユの発言。

 

空白事件のデビルウルタリアや修羅の乱のランタオ島での事件で情報は入って来ていたが…

 

以前よりも姿が変質している以上は驚きの声を上げていた。

 

 

「エンブリヲ…!」

「紹介しよう、彼女達が新たなDGの女神だよ。」

 

 

ヒステリカでDGの元に移動するとDGはコックピット部分を開いた。

 

そこに収められていたのは…

 

 

「セツコ…?」

「…エルーナ様。」

「…!」

 

 

銀膜に包まれた三人の変わり果てた姿を目視し…

 

バルビエル、ダバラーンの混乱と無言のままのアウストラリス。

 

 

「…エンブリヲ、彼女達をコアにしたのか!?」

「その通りだよ、DGとスフィアを持つ彼女達との相性は実に良い。」

 

 

彼女達の扱いにユーサーが声を荒げた。

 

エンブリヲの発言通り、彼女達のスフィアは相性がいい。

 

互いの力を循環させ巡る流れ。

 

地の属性を持つスフィア同士故に次元力の発動も油断出来ない状況だった。

 

 

「他の者達もこの通りだ。」

 

 

エンブリヲは更なる状況を生み出した。

 

デビルアルゼナルから生み出された多種多様な機体。

 

解り易く言うのであればデストロイやサイコガンダムなど攫われた女性達が搭乗していた機体が出現したのだ。

 

 

 

「まさか…ステラ!?」

「し…n?」

「フォウなのか!?」

「か…」

 

 

DG細胞によって操られた上に戦う事を強要された彼女達。

 

この行動は同盟部隊のヘイトを上げるには十分な効力を発揮した。

 

 

「彼女達の憂いは彼女達自身で掃って貰おう。」

 

 

エンブリヲによって一方的に戦う事しか出来ない彼女達。

 

だが、同盟部隊は意を決して行動した。

 

答えはもう決まっていた…

 

 

「各機!彼女達を止めつつDGへと向かう!!」

 

 

コアを止めれば、周囲の機体も一時的に機能を失う。

 

何時ものパターンだが、救う為にも手段は選べない。

 

アウストラリスの指示の元、先に先行するイグジスタンス。

 

同時にエクスクロスら他の同盟部隊も続いた。

 

 

「おやおや、彼女達をその手に掛けるかな?」

「…」

「随分と君には安いのだな?」

「黙れ。」

「っ!」

「貴様の行動は目に余る。故に貴様の存在すら残さんぞ?」

「…」

 

 

エンブリヲはアウストラリスの発言と漏れ出ている闘気に恐怖した。

 

不死性を得ていても本能は理解している。

 

不死すらも覆す力を彼は持っていた。

 

その怒りが凄まじくこのままだと世界を崩壊させる勢いだろう。

 

 

「アウストラリス、こっちの戦いは俺らがやる。」

「ガイオウ…」

「テメェが本腰入れなかったら俺がテメェを殴っていた。」

「…頼むぞ。」

 

 

イグジスタンスの指揮はガイオウらが引き受けると答えた。

 

それはアウストラリスの後押しする為の発言。

 

そう…迷いを捨てた戦友の為に答えたのだ。

 

彼らは行動を開始しデビルアルゼナルへの攻撃を開始した。

 

 

「あれは…!?」

 

 

エンブリヲは同盟部隊に配置された翼の生えた機体を目視した。

 

 

「まさか、そんな筈は…」

 

 

言わずもがな、調律者と名乗っていた本人がまさか本当の調律者と遭遇するとは思いもしなかっただろう。

 

だが、エンブリヲも調律者と名乗った以上は引き下がれなかった。

 

 

「自らの役目を放棄した者が調律者の前に現れるとは?」

「そうだね、僕らは大事な人達の元で生きる為に調律者の役目を放棄した…でも!」

「!?」

「お前の様な調律者を放って置く訳にはいかない!」

 

 

ラーゼフォンのパイロットである神名綾人の叫び。

 

捻じ曲がった調律者を正す為に再び調律者として立ち上がった。

 

 

「貴方も世界の調律を捻じ曲げた…それは駄目。」

 

 

ベルゼフォンのパイロットの如月久遠も同意する。

 

共栄共存の道を歩む為に独裁の調律は不要だと答えた。

 

 

「その通りだよ?」

 

 

時を同じくして次元転移で現れた陽動部隊の面々。

 

 

「っ!?」

「どうも、自称調律者君?」

 

 

陽動部隊の一角である孫光龍の発言から始まり…

 

 

「貴様が配置した部隊は全て俺達が壊滅させた!」

「漁夫の利を得ようとした愚か者達も手出しは出来ないだろう。」

 

 

ダイマとルドの発言で陽動作戦で仕掛けてきた敵陣営を壊滅させたと告げた。

 

やりすぎ都市伝説級にやり過ぎだと思われるが、敵がぐうの音も出ない様に撤退させるには致し方ない。

 

そもそも仕掛けてきたエンブリヲや魔従教団にドアクダー軍団が悪いので情状酌量余地はないのだ。

 

 

「それに人の娘を破廉恥な姿で周囲に晒した君を……僕は許さないよ?」

 

 

何時もよりトーンを落とした低い声で話す光龍。

 

囚われたハスミを目視した結果である。

 

そもそも、空白事件で治療のためとはいえ全裸になった娘を見た本人が言える事でもないが…

 

 

「エンブリヲの奴、消し炭確定だな。」

「消し炭どころか塵芥でしょう。」

「…確かに。」

「父親と言うモノは何処までも娘には甘いものです。」

 

 

エンブリヲの末路が確定した瞬間をマサキとシュウは互いに愚痴っていた。

 

 

「…」

 

 

エンブリヲは理解した。

 

手を出した存在達のバックに付いている存在達が如何に凶悪な存在なのかを…

 

テオロの発言はこの事を指していた。

 

ハスミの予言は今まさにこの瞬間の事を告げていたのだ。

 

お前の退路は塞いだ。

 

逃げ場などない。

 

お前は犯した罪が逃げるお前の足枷となっているのだから…

 

 

「…(この私が恐怖しているのと言うのか?」

 

 

ぞくりと背筋が凍る。

 

目処前に現れた絶対的な戦力。

 

罠に嵌ったのはどちらなのか?

 

 

「…潮時ね。」

「マリリン?」

「もう少し粘ると思ったけど……もういいわ。」

「?」

「判らない?貴方の様な薄汚いジジイに従う義理はもうないって事。」

「!?」

 

 

ヘルガーデン騎士団の団長を任せたマリリンの裏切りとも言える発言。

 

マリリンのパールファングはターニャとイルマの搭乗するラグナメイルを戦闘不能に追いやっていた。

 

 

「貴方達も目が覚めたでしょ?」

「…」

「…」

「これで良かったのよ、碌でもない男の駒になる必要なんてないの。」

 

 

マリリンの発言で沈黙したターニャとイルマ。

 

エンブリヲの発言と行動で何か思う事があったのだろう。

 

何も言わず、マリリンの言葉に耳を傾けていた。

 

 

「マリリン、ご苦労だった。」

「いえ、ユーサー皇子…黒い燕ちゃんはこれ位出来ませんと?」

「だが、君も危険に晒した事は事実だ…許して欲しい。」

「…本物の皇子様は格が違いますこと。」

 

 

ユーサーの発言でマリリンはイグジスタンスが放った密偵だった事が判明。

 

同時にエンブリヲを使役するラグナメイル二機を沈黙させる手腕。

 

かつて『放火魔』と呼ばれた部隊の隊長である名残は消え失せていた。

 

 

「マリリン…」

「フラフラちゃん、さっさとお姉様と子猫ちゃんを助けに行きなさいよ。」

「言われずともな!」

「ほんと、可愛げないのは変わらずだけど……一皮剥けた事は認めてあげるわ。」

 

 

元部下だったクロウの尻を叩いたマリリン。

 

一皮剥けたのは彼女も一緒である。

 

 

「在り得ない…」

 

 

続々と離反と自身の陣営が崩壊する様を見せつけられたエンブリヲ。

 

同時に更なる崩壊が彼に降りかかった。

 

 

「考えが…甘かったようね。」

「…!?」

 

 

デビルアルゼナルの中心部。

 

その核であるDGの元で、意識を取り戻した彼女は告げた。

 

 

「…意識が戻ったのか?」

「私には一度、感染の経験がある……意識を取り戻すのに手間を取っただけよ。」

「っ!?」

 

 

コーティング部分が一部剥がれて意識を取り戻したハスミ。

 

これにはエンブリヲも顔を歪ませた。

 

 

「……罠に嵌ったのはお前だ!」

「ハスミ・クジョウ!」

「エクスクロス…!今の内に取り込まれた人達を!」

 

 

だが、異変に気が付いたデビルアルゼナルも再び洗脳する為にハスミへの感染を再開した。

 

それに気が付いたハスミも持ち前の精神で抗っていた。

 

 

「制、御権を…奪われ…る前…に早…く!!」

 

 

一時的に意識を取り戻したハスミ。

 

事前に対改造DG細胞の制御権を奪う手筈を仕込んでいたのだ。

 

これにより周囲の機体が一時停止。

 

ハスミは転移能力でコアにされていたエルーナとセツコを移動させ救助を優先。

 

この隙が出来た事で各自機体から囚われた女性を続々と解放して行った。

 

 

「こんな事が…!?」

「エンブリヲ、言った筈だ……予言の成就は、すぐ其処まで…来ているぞ!」

「くっ!」

 

 

今まで静観していたのはこの期を逃さない為。

 

ハスミは苦渋しつつも反逆の時を待っていたのだ。

 

 

「どうやら君達を甘く見ていた様だな…だが!」

「っ!?」

 

 

感染の速度が速まり、再び沈黙したハスミ。

 

同時に一時的に沈黙したデビルアルゼナルも再起動し攻撃を再開した。

 

 

「アンタだけは!!」

「アンジュ!」

「この女の敵が!」

 

 

ここでアンジュの名台詞とも言えるエンブリヲへの罵倒が開始した。

 

 

「何が愛よ! キモい髪型でニヤニヤしてて、服のセンスもなくていつも斜に構えてる、恥知らずのナルシスト!」

「そうよ!そうよ!」

「気色悪!」

「超が付く変態っ!!」

「サブイボもんでしょ!」

 

 

他女性陣からも同意のエールが叫ばれる。

 

 

「女の扱いも知らない、千年引きこもりの変態親父の遺伝子なんて生理的に絶対無理!」

「同感!うっわー引くーって叫ぶ!!」

「サイテー!!」

「キモイ!鳥肌立つ位にキモイ!!」

「絶対に結婚とかカップル成立に向かない!!」

「一生変態は治らないわね。」

「変態人生に生きてるって感じ?」

「いや、変態そのものでしょ?」

 

 

良識のある女性陣から追撃のエールが告げられた。

 

 

「ここで塵に還れぇぇぇぇぇッ!!」

「やっちまえ、アンジュ!!」

「俺らの分も頼む!!」

「消し炭にしちまえーっ!!」

 

 

女性陣を連れ去られた男性陣より殺って良しの攻撃と共に…

 

 

「私を抱こうなんて、一千万年早いわぁぁぁ――――ッ!!」

 

 

エンブリヲのヒステリカはヴィルキスのエネルギーソードで縦一閃からのディスコードフェイザーで絞められた。

 

同時に…

 

 

「お前にアンジュは渡さない!」

 

 

サラマンディーネより貸し与えられた刀でタスクはエンブリヲ本人白兵戦を繰り広げており…

 

タスクはエンブリヲを切り裂き貫いた。

 

これによりエンブリヲの不死性が失われた事で再生できない筈だったが…

 

 

「アンジュ、奴が!」

「あのデビルアルゼナルがエンブリヲを繋ぎ止めているのね!」

 

 

エンブリヲのヒステリカとエンブリヲ本人を同時に倒した筈のアンジュとタスク。

 

だが、デビルアルゼナルは破壊されたヒステリカと死体となったエンブリヲを取り込み再生し始めていたのだ。

 

そして、アウストラリスへ彼らは後押しをした。

 

 

「…」

「アウストラリス…トドメはお前に譲る。」

「良いのか?」

「ここはお前が行くべきだろう。」

「それは同意するわ、アンタも奴に殴り足りないでしょ?」

「アウストラリスさん、行ってください。」

「ドモン、アンジュ、タスク……済まぬ!!」

 

 

因縁の相手は因縁を持つ者にと予め決めていた。

 

だが、今回ばかりは譲って貰った。

 

お前に誓った誓いを果たそう。

 

 

「ハスミ、お前に伝えねばならない。」

 

 

蒼雷迅のコックピットから降りてデビルアルゼナルの足元に降り立った。

 

自殺行為に見えただろう…

 

だが、知る者は知っている。

 

彼が本来の姿で対峙する事を選んだのだと…

 

それは破界の王と同一の姿を晒した瞬間だった。

 

そして彼は告げた。

 

 

「ハスミ、あの日を事を覚えているか?」

「…」

「互いの背を守り合う戦友であり続けたいとお前は願った。」

「…」

「俺は違う…」

「…」

「お前と共に歩み続けてようやく理解した。」

「…」

「お前を手放したくないと…」

「…」

「改めて告げる。」

「…」

「俺はお前を……愛している。」

「…!」

「二度と離さん!ハスミ…お前は俺の唯一無二の存在だ!!」

「!?」

 

 

姿を晒した次元将ヴィルダークは己の次元力とスフィアの呼応させた。

 

その蹴撃は更なる力を得て…

 

目処前の悪魔を討ち滅ぼしたのだった。

 

 

「貴方が…助けに来てくれる事を信じていました。」

 

 

次元将ヴィルダークの姿を晒したアウストラリスことヴィルダーク。

 

それはある意味で新たな波乱を呼ぶかもしれない。

 

だが、その事に当人は気にも留めていなかったのである。

 

闘いに勝利したものの目処前の処理する案件の多さにハスミは静かに呟いた。

 

 

「帰って早々にやる事が多いですね…」

「致し方あるまい。」

 

 

闘いに勝利した者のけじめであるとヴィルダークが答えた。

 

 

「ヴィル…あの。」

「どうした?」

「…降ろして貰えませんか?」

 

 

ハスミは救出された後。

 

元の姿に戻ったヴィルダークによって姫抱きにされている状態だった。

 

ハスミ本人もいつまでも姫抱きにされているのは申し訳ないと答えたのだ。

 

 

「構わん、このままで居ろ。」

 

 

しかし、ヴィルダークはあっさりと拒否。

 

どうやら離す気はないらしい。

 

 

「二度と離さんと言った筈だ?」

「ヴィル…」

 

 

ハスミは無理であると悟り、諦めつつも何処か嬉しそうにヴィルダークに身を預けた。

 

そして彼の気持ちに応じた言葉を告げた。

 

 

「ヴィル、愛しています。」

「…俺もだ。」

 

 

二人が本当の意味で笑顔を取り戻した瞬間だった。

 

余談だが、このネタで暫く弄られるのは別の話である。

 

 

「…」

 

 

しかし、塵芥はしぶとい。

 

デビルアルゼナルは取り込んだヨカッタネを利用し再び再生しようしていた。

 

この様子にヴィルダークはある一計を告げた。

 

 

「皆の者………どうやらこの者は此方と闘い足りぬ様だが?」

 

 

デビルアルゼナルはエンブリヲと同化し彼の意思の元で稼働していた。

 

救うべき者達を救い出した後にする事と言えば…

 

 

「なら、再生が出来ねえ様に仕留めるだけだな?」

 

 

ヴィルダークの言葉にガイオウも同意する。

 

仲間を奪われた男性陣の機体の眼が赤いのは気にしない事。

 

最早、止める事はしなくていいだろう。

 

 

「永遠と再生するのなら再生を拒むまで破壊するだけだ…」

 

 

デビルアルゼナルと同化したエンブリヲはこの世で最も恐ろしい報復を受ける事となった。

 

同盟部隊による圧倒的な蹂躙。

 

再生させては破壊し再生させては破壊を延々と続くサドンデス戦闘が開幕した。

 

ちなみにエンブリヲの精神と魂が崩壊するまでそれは続いた。

 

この様子をこっそり見ていた存在達は戦慄し恐怖したとの事。

 

 

>>>>>>

 

 

この日を持ってエンブリヲは討ち取られた。

 

自称調律者の呆気ない最後と共に…

 

だが、エンデ復活の為の贄になったのは明白だった。

 

神聖ミスルギ皇国は使えるべき君主を失ったと思われたが…

 

アンジュの妹であるシルヴィアが国の崩壊、マナとノーマの関係性を説明。

 

これらは成るべくして起こったと…

 

勿論、反感もあったがドアクダー軍団や魔従教団と言う脅威を目処前にして何も成せない事は事実だ。

 

シルヴィアはアルゼナルの一行を…ノーマを認める事を民に進言した。

 

マナを失った自分達もいずれノーマと同じ存在になりつつあるのだから、いがみ合っても意味はない。

 

これから共存する為にも必要であると説いたのだった。

 

これは早期にエクスクロスと共に行動した事で国や自身の在り方を考えさせられたのだろう。

 

俗に言ういい薬である。

 

シルヴィアは皇女として国家復興とノーマやアウラの民達と交流する事が出来る国作りを行っていくと答えた。

 

アンジュもアルゼナルの代表となったのもあり、これからは姉妹で新たなマナの国を構築していく事になるだろう。

 

ちなみに神聖ミスルギ皇国に元の世界へ戻る条件下で従っていた勢力であるが…

 

イグジスタンスが責任を持って返すのでエンデ打倒に協力しろと説き伏せた。

 

ほぼ強制であるが、エンデの領域で制限なく転移能力を持っているのはイグジスタンスであるので理解して貰っている。

 

一部、離反者が出てしまったが…各勢力の代表らにより離反者は反逆者として倒しても構わないと方針を告げた。

 

この一勢力だったネオアトランティスはエンブリヲが倒された後、さっさと雲隠れし姿を見せてない。

 

拮抗する三大勢力の内、一角が崩れた事で更なる波乱を呼ぶと思われたが…

 

エクスクロスとイグジスタンス、先の勢力によるレコンギスタ同盟が一角として加わり戦況は戻りつつあった。

 

ホルトゥスは助っ人と共に連れ去らわれた女性達を引き連れて元の世界へ送還。

 

一部希望者はイグジスタンスを通して多元地球に居るZEXISへ送り届ける事となった。

 

そして最後の問題。

 

エンブリヲが倒された事で奴の恐怖を取り込みエンデは一時的な復活を遂げた。

 

これにより多元地球とアル・ワースを隔てる境界が崩壊。

 

正に世界同士が野ざらしにされてしまったのだった…

 

 

「良いもの見させて貰ったよ、もっとカオスになるのが楽しみだw」

 

 

異空間の歪で野ざらしにされた世界を閲覧する存在。

 

ナルーダ・タトーゲと同一の存在の一人。

 

緑のローブの存在こと、テオロ・オキハはケラケラと笑っていた。

 

 

「その方が僕的にお得だし。」

 

 

=続=





響いた永遠の歌。

不安定な世界は守られた。

だが、世界は思惑と共に歪みの果てで繋がった。


次回、幻影のエトランゼ・第百十八話『連界《レンカイ》』


早すぎる世界同士の遭遇。


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滅の付箋


本番はここから。

お前は許されない。

さあ、始めようか?


 

前回、アウストラリスことヴィルダークによってハスミが助け出された後。

 

デビルアルゼナルと同化したエンブリヲ。

 

薄皮一枚の命を繋ぎ止めたと思われたが…

 

それは彼にとって恐るべき恐怖の始まりだった。

 

 

*******

 

 

「皆の者…この者は俺達との戦いを継続する様だ。」

 

 

アウストラリスの発言によって恋人や仲間を攫われた男性陣の矛先をエンブリヲへ向けさせた。

 

デビルアルゼナルをただ倒すだけで終わる筈がないのだ。

 

 

「アウストラリス、徹底的にやっちまっていいんだな?」

「ああ…再生する事が如何に苦痛であるかを知る良い機会だろう?」

 

 

殴り足りないガイオウの発言に同意するアウストラリス。

 

体の良いサンドバックが目処前に存在するのだ。

 

ここぞとばかりに使わなければ意味がない。

 

 

「…ハスミ達を侮辱した奴に慈悲は必要ない。」

「なら、遠慮は要らないな?」

「同感。」

「あの変態にはそれ相応の苦痛を与えてやるよ…」

「…消す。」

「今日だけは俺もクラッシャーを名乗ってやるぜ!」

「同意するぜ、あの糞野郎を仕留める。」

 

 

アウストラリスの号令の下に…

 

ガドライト、ヒビキ、バルビエル、尸空、ランド、クロウの恨みの声。

 

イグジスタンスの男性リアクター勢を筆頭に気力は臨界点突破済みである。

 

 

「僕らも続こうか?」

「…彼女を辱めた者を余も許さん。」

「自分はリアクターではないが、エルーナ様に…あの様な事を!」

 

 

アサキム、ユーサー、ダバラーンの怒りの声。

 

 

「あの自称調律者君はやり過ぎた……何度でも仕留めて上げよう。」

 

 

パパ同盟の一人である光龍ですら止めようない状態である。

 

ちなみにカーウァイとテンペストはミスルギ皇国から離脱し反乱を起こしたゾギリア軍が衛星兵器を使用しようとしていたので牽制に出ている。

 

本来であれば、ここへ赴きたかっただろうが…

 

娘奪還の役目を実父である光龍に譲ったのである。

 

 

「よくもステラ達をっ!!」

「修正じゃないな……抹消してやるよ。」

 

 

シンとカミーユを筆頭に怒りが沸点へと到達済みのガンダム組。

 

彼らを始めとした他の面々も続々と気力限界突破を迎えた。

 

目処前のデビルアルゼナルはヨカッタネを取り込んだ事で無限再生を可能としていた。

 

なら、する事はただ一つ…

 

再生が出来ない状態までありとあらゆる攻撃を加えるだけだ。

 

何度も破壊され再生を繰り返す。

 

延々と続く恨み辛みを発散させる戦いの幕開けである。

 

 

「まずは俺達からだ!」

 

 

イグジスタンスの先行。

 

順に各機体の必殺技を叩き込んだ。

 

天変地異から次元崩壊を引き起こすレベルなのでHP10位にズタボロにされる。

 

 

~デビルアルゼナル・再生その1~

 

 

「テメェのやり方にはウンザリなんだよ!!」

「……此方としても鬱憤は晴らさせて貰いましょう。」

 

 

凶悪顔となったマサキとシュウの表情。

 

サイ・フラッシュとブラックホール・クラスターの同時攻撃で再びHP10へ。

 

 

~デビルアルゼナル・再生その2~

 

 

「いやいや、ここでくたばって貰うと困るんだよね?」

 

 

顔は笑顔であるが笑っていない光龍の念動の圧。

 

応龍轟雷槍による攻撃でギリギリHP1へ。

 

 

~デビルアルゼナル・再生その3~

 

 

「カミーユ、同時に!!」

「ああ!」

 

 

ZEXISのガンダム組による攻撃。

 

 

「ハマーン様の仇っ!!」

「ルーやリィナを狙いやがって!!」

「トビア、合わせろ!!」

「了解です、シーブックさん!」

 

 

エクスクロスのガンダム組による追撃。

 

再びHP10へ。

 

 

~デビルアルゼナル・再生その4~

 

 

「まだまだ終わらねえぜ?」

 

 

ガイオウによる鬱憤晴らしによってHP10へ。

 

 

~閑話休題~

 

 

この様にギリギリ削っては再生させるループが延々と続いたのである。

 

その様は恐るべきと言ってもいいだろう。

 

恋人や仲間と無理やり戦わさせられたのだ。

 

これ位の怒りが収まる筈がない。

 

ちなみに攻撃に参加していない艦長達の気力は真っ白に燃え尽きている。

 

こんな光景を見せられたのだ現実逃避しようにも既に胃が限界を超えた。

 

 

「ねえ、アンジュ…」

「ヴィヴィアンどうしたの?」

「これってさ?いつまで続くの?」

「気が済むまでじゃない?」

「えー!!」

 

 

役目を終えて戦闘に参加せず待機していたアルゼナルのメンバー達。

 

 

「でもいいじゃない?」

「へ?」

「あの糞ジジイを何度もいたぶれるのだから…」

「えげつねぇ!」

 

 

アンジュとヴィヴィアンの会話に対し。

 

 

「あのね…気持ちは解るけど。」

「サリア、それは言いっこなしだぜ?」

「そうだよ。」

「私達がエンブリヲに騙された分もやってくれてるし。」

「私達は高みの見物かしらね?」

 

 

呆れたサリアにヒルダ達の観戦モードな発言が続いた。

 

 

「…」

 

 

変わり果てた疑似DG事件騒動の末路にドモンは静かに溜息を付く。

 

 

「奴の精神が木端微塵になるまで続くだろうな。」

 

 

救助し回収された女性達のDG細胞の除染作業が科学者組によって続く中…

 

このデビルアルゼナルの再生からの破壊作業は日没まで続いた。

 

最後のトドメは全員で必殺技を叩き込み、消し炭いや細胞の欠片すら残さず破壊しつくされたのである。

 

 

「…私もユーサー殿下達側に就いて正解だったわね。」

 

 

このエンブリヲとデビルアルゼナルの末路にマリリンは冷や汗を流すのだった。

 

ちなみにマリリンがスパイとしてエンブリヲの元へ下る前。

 

彼女はイグジスタンスがインペリウムを壊滅させたのを期にリモネシア共和国へ接触した。

 

それから話し合いの末の付き合いである。

 

 

「これだけの戦力を集めて銀河崩壊を防ぐって言うんだから…世界もまだ捨てたモノじゃないわね。」

 

 

一度は絶望し恨み辛みを抱えたまま破壊行動を行っていたマリリンらしからぬ発言。

 

彼女がまた悟った事も変異であった。

 

 

「…(エンデの復活に手を貸した存在。」

 

 

アウストラリスことヴィルダークによって避難し姫抱きにされたままのハスミ。

 

除染の順番待ちの為、先程のままの姿が続いていた。

 

 

「…(そして境界線の崩壊、か。」

 

 

ハスミはエンブリヲの茶番劇を観戦しつつ次の戦いを危惧していた。

 

 

 

=続=

 





=戦後報告書=


※エンブリヲ並びにデビルアルゼナル消滅。

※拉致された女性達の救助成功。

※同時にDG細胞の除染を開始。

※陽動部隊による他勢力の壊滅。

※ミスルギ皇国の崩壊から新たな君主による国家再生。

※アル・ワースと多元地球を隔てる境界線が崩壊。

※各世界の政府混乱につき状況収拾へ。

※エンブリヲと裏で繋がっていた存在を確認。




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第百十八話 『連界《レンカイ》』


暴食の魔獣の目覚め。

世界の境界線は崩された。

全てを喰らい尽くす為に。

隣接し連なる世界は繋がった。


 

デビルアルゼナル事件後。

 

エクスクロスは回収したヨカッタネをホーリーウッドに使用し元の自然あふれる街へ戻した。

 

助っ人して参加したドモン達は他の女性達のDG細胞の除染や事後処理の為…

 

事件後にアル・ワースへ転移したデビルアルゼナル跡地で活動を続けるとの事。

 

除染が終えても心に傷を抱えた者達はセフィーロ王国とインサラウム皇国が治療の為に場所の提供を進言。

 

そして救助されたエメロード姫らはユーサー皇子と正式に国家間の同盟を決定した。

 

エクスクロスは三勢力の内、旧ミスルギ皇国軍ことレコンギスタ同盟となった者達の協力を得てドアクダー軍団と魔従教団、離反した反勢力に対抗する事に決定。

 

猶、崩壊したミスルギ皇国は再建の為…

 

破壊したダイマとルドを筆頭にある程度の修復活動に携わるとの事で居残る事となった。

 

光龍らは中継役として活動するが…一旦、新西暦の世界へ帰還。

 

事後報告と今後の行動に対して統合参謀本部との話し合いに戻って行った。

 

勿論、新西暦の世界に所属する除染を終えた女性達と共に…

 

ただ、エクスクロスとZEXISに協力したいと申し出た女性達は引き続き双方の部隊に振り分けられて所属する事となった。

 

エンデが異世界人召喚の際にマーキングした楔が無いのですぐにでも戻れるが、彼女達の希望に沿った。

 

そして多元地球に所属している女性達も除染を終えてイグジスタンスとZEXIS経由で帰還する形となった。

 

この事で一波乱が予測されているが、最もな理由が目視出来ているのだからぐうの音も出ないだろう。

 

何せ、多元地球とアル・ワースの多元境界線が崩壊し互いの星が目視出来る位置に現れたのだから…

 

これもエンブリヲの事件と平行して起こっていた騒動であり…

 

ハスミはこの仕掛け人の名前を会議で告げた。

 

 

******

 

 

エンブリヲの事件から半月後。

 

 

~リモネシア共和国・円卓の間~

 

 

「テオロ・オキハ…あのナルーダ・タトーゲと同じ高次元生命体です。」

 

 

ナルーダに続く新たな存在であるテオロ。

 

エンブリヲがエンデの支配下の中でも自由に活動する手助けをした仕立人だ。

 

 

「要は倒す奴が増えたって事だろ?」

 

 

ガイオウの言う様にシンプルに言えばそうだ。

 

テオロの行動がまだ不明な以上はその行動を追うしかないだろう。

 

 

「奴の今後の行動は不明ですが、此方が行動すれば自ずと出て来るでしょう。」

「クロノを含めて御使いと同様に厄介な相手だ…油断は出来ん。」

「…」

「ガイオウ、何か言いたいのか?」

 

 

ハスミとアウストラリスの発言の後、ガイオウは遠い眼で答えた。

 

 

「お前ら…距離近くねぇか?」

 

 

デビルアルゼナル事件後の円卓の間での会議でもそうだが…

 

カップル成立が済んでいるメンバーの距離が縮まった。

 

その一件でイチャイチャ率が凄まじいのである。

 

 

「「…」」

 

 

会議へ参加していない者を含めても距離が近いのは…

 

バルビエルとセツコ、アウストラリスとハスミのペアである。

 

ただ甘い所の騒ぎではないしこれでもかと言う位に次元級に甘い状態が続いていた。

 

 

「周囲に晒した以上は隠す必要もあるまい?」

「いや、そうだけどよ…」

「やらんぞ?」

「…」

 

 

ガイオウ曰く『何時か尻に敷かれるな。』と思いつつもアウストラリスの表情に何とも言えなかった。

 

 

「それで、あの次元境界線が壊れた後…どうなった訳?」

「此方の政府も大慌てだろうし…」

 

 

バルビエルとセツコの言葉も最もだが…

 

 

「多元地球とアル・ワースへの移動方法が双方無い以上は互いに様子見の判断をした様です。」

「向こう側でも内乱が起こっている以上は手出しは不要とな。」

「そもそも、イグジスタンスしか次元移動が出来ない以上は何も言えないでしょうし。」

「何も出来ぬ奴らに加担する必要もあるまい。」

 

 

ハスミとアウストラリスの説明に納得するヒビキ、ガドライト、尸空。

 

 

「まあ、そうですね。」

「こっちも色々とやらかしされたからな。」

「余計な世話だ…」

 

 

イグジスタンス経由で多元地球の国連にはオブラートに包んだ形で状況説明を行った。

 

議会に参列していたエンブリヲの悪行も含めてである。

 

拉致された女性達を此方で救ったのだから余計な事は言えないだろう。

 

調査師団を組みたいとか言い出しそうなので…

 

アル・ワースの内乱が激化しているので手出しはしない方が良いと説明した。

 

権力振りかざしての漁夫の利は出来ないよ?

 

やるならイグジスタンスがお相手しますが?

 

的な圧力はして置いてある。

 

 

「一先ず、此方の騒動を解決していかないと…」

 

 

エンブリヲの引き起こした女性拉致とデビルアルゼナル事件で多元地球のいざこざに手を出せずにいたが…

 

此方は此方で何とか持ちこたえた様だ。

 

ソレスタルビーイングの再生、黒の騎士団の復活等々…

 

行われるべきシナリオは順調に事が進んでいた。

 

だが、変異した事もある。

 

姉を失った沙慈・クロスロードがカタロンに加入しアロウズと敵対している事だ。

 

ルイス・ハレヴィはエリア11のアシュフォード学園に通学し彼の帰りを待っている。

 

ちなみにソレスタルビーイングからあの件で何度か打診があった。

 

イグジスタンスの活動と同時に出現したGNドライブを所持したガンダムの集団は何者か?と。

 

その他にもグレンラガンと同タイプのガンメンやゴッドマーズに似た機体の所持に関しても問われているが…

 

これに関しては知らぬ存ぜぬで通してある。

 

理由は言わずもがな彼らZEXISの成長の為だ。

 

種明かしはもう少し先にさせて欲しい。

 

 

「当面の問題はアロウズが仕掛けた軌道衛星にある戦略兵器でしょうね。」

 

 

軌道エレベーターが狙われピラー崩壊からのアフリカ本土への散乱騒動。

 

これをクリアしアロウズの暴虐を食い止めなければならない。

 

やるべき事は増えたのだ。

 

=続=

 





それは宇宙より齎された。

地表へ落下し災禍となる。


次回、幻影のエトランゼ・第百十九話『落禍《ラッカ》』


反逆の果てに正しき真実を世に晒せ。



※アンケート設置しました。
期限は次回話投稿までです。


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第百十九話 『落禍《ラッカ》前編』


堕ちる悪意。

それらは正義の為に。

揺れ動く策略に…

彼らも抗い反逆する。


 

多元地球の地球連邦軍内でクーデターが発生した。

 

理由は言わずもがなアロウズの暴虐な活動に対してである。

 

昨日、タリビア共和国に対してアロウズは低軌道リングに隣接された大出力レーザーを照射。

 

これによりタリビア共和国の主都は壊滅。

 

イグジスタンスは先のエンブリヲの騒動で行動が遅延してしまっていた為にタリビア共和国から人々を避難させるので手一杯だった。

 

元々、破界事変でブリタニア・ユニオンからの離脱を考えており…

 

アロウズの一件で多元世界の地球連邦からの離脱の動きを見せている。

 

アロウズとして離脱の火種になる前に消し去りたかったようだ。

 

話を戻し…

 

クーデター組はアフリカに設置された起動エレベーターの地上ターミナルを占拠。

 

同時にターミナル内の関係者並びに当日利用をしていた民間人が人質となった。

 

現在もクーデター組の代表ハーキュリー大佐に交渉が行われているが…

 

イノベイターのリボンズ達はこれを利用するべく仕立人のサーシェスを派遣。

 

施設内の人々を殺人ドローンで全員消去しそれらを行ったのがクーデター組であると虚偽の真相を作り出そうとしていた。

 

勿論、人道的にこれを放って置く訳にはいかない。

 

戻って来た以上は好きにさせない。

 

貴方達の思惑が全て捻じ伏せる。

 

 

******

 

 

イグジスタンスはメメントモリへ強襲を仕掛けるZEXISとは別行動を起こしていた。

 

理由は先も述べた通り、大量虐殺を防ぐ為と地上に降り注ぐであろう大量のピラー対策だ。

 

そして、地上ターミナル施設内にて…

 

 

「お久しぶりですね、加齢臭さん?」

 

 

今回の騒動の下請人であるサーシェスに悪辣な挨拶をするハスミ。

 

礼儀正しく挨拶はしているが、顔は笑っていない。

 

あるのは相対する相手を仕留める為の殺意だけだ…

 

 

「もう嗅ぎ付けやがったのか!イグジスタンス!?」

「いえいえ、これでも遅い方ですよ?」

「だろうな、殺人用のオートドローンはもう放った後だ。」

「それで?」

「判らねぇのか?この施設に居る人間は皆殺しって事だ。」

「それが…リボンズ・アルマークの思惑通りに進んだらいいですね?」

「…」

 

 

サーシェスはハスミの言葉に冷や汗を流した。

 

何処まで知っている?

 

何処まで手を出している?

 

異常なまでの恐怖がサーシェスを覆い尽くそうとしていた。

 

 

「確か…殺人ドローンでしたっけ?」

 

 

ハスミがニコリと指先でモニターを差した。

 

そこに映っていたのは…

 

 

『どっかーん!!派手にやっちゃうよ?いやん~まいっちんぐ!!』

 

 

コードDTDによって熱暴走を発動させているアシェン。

 

 

『フルハウスと行こうか?』

 

 

カード型爆弾で牽制し携行銃でドローンを貫くハーケン。

 

 

『任務は遂行する。』

『了解。』

『戦闘開始。』

 

 

コードPTPで引き連れた量産型Wシリーズに指示を出すピート。

 

 

『これ以上は好きにさせませんよ!』

 

 

ツインガトリング砲で殺人ドローンの集団を一纏めに駆逐し壊滅に追いやるロサ。

 

 

「…」

 

 

ハスミは軌道エレベーター事件の事態収拾の為…

 

更なる助っ人を新西暦の世界から呼び戻して置いたのである。

 

 

「どうですか?」

「マジか…」

 

 

開いた口が塞がらないとはこの事である。

 

サーシェスは殺人ドローンが使い物にならず、あっと言う間に収拾された事に思考停止した。

 

 

「後は……貴方だけですね?」

 

 

背後から忍び寄る殺意。

 

ハスミは刀を構え直すとサーシェスへ襲撃を開始した。

 

これによりサーシェス逃走。

 

 

「くそがぁああ!!!」

「あらあら?逃げないでくださいね?」

 

 

軌道エレベーター内でサーシェスにとって理不尽な逃走中と言う鬼ごっこが開始された。

 

 

「な、何で壁が壊れんだよ!?対MS用の硬化材が使用されてんだぞ!?」

「あらー?こちらの世界ではいらっしゃらないのですか?」

 

 

サーシェスを追跡中で周囲の壁ごと切り裂くハスミ。

 

その光景にサーシェスは叫んだ。

 

 

「普通じゃねえし!ありえねーから!?」

「可笑しいですね?私達の世界ではMSを素手で壊せる方もいらっしゃるのですが?」

 

 

ハスミは惚ける様に自身の所属する世界では当たり前と告げる。

 

その言葉にサーシェスは反論する。

 

 

「バケモンかソイツらは!?」

「いえいえ、ごく普通の国際警察機構やガンダムファイターの方達ですよ?」

「なんじゃそr!ぎゃぁああああああ!!!?」

 

 

戯言を言う前にサーシェスは頸と胴体が仲良くお別れしそうになる。

 

なりそうになったがスレスレで本人が回避するも頭部の髪の毛が少々お別れする事となった。

 

 

「ついでに全身脱毛しますか?全身の皮ごとですけど?」

「テメェ!エグイだろっ!!」

「悪臭を垂れ流す…人でなしの戦闘狂に言われたくもありませんよ?」

「ぐっ!!」

 

 

正論かつ毒舌三倍返しでサーシェスを貶すハスミ。

 

日頃のストレス発散を兼ねているのは気にしないで貰いたい。

 

変わらず体臭で弄るのも忘れない。

 

 

「くそっ!あれからテメェらのせいで加齢臭やら悪臭のレッテル貼られるわ……お陰で消臭系デオドラントに気い使う様になっちまったじゃねえか!!?」

「良かったじゃないですか、身だしなみチェックは大事ですよ?」

 

 

ハスミは戦場でサーシェスと対峙する事があれば彼に対する悪臭被害を広める事を仲間内で取り決めをしていたのである。

 

その結果、知らず知らずのうちにサーシェス=加齢臭&悪臭のレッテルが定着したのだ。

 

最早、それはスピーカーおばさん以上の広まり具合である。

 

サーシェス本人はプルプルと怒りを露わに叫んでいた。

 

 

「それにまだまだ終わらないわよ?」

「どう云う意味だ?」

「さっさとMSに乗れ……お前の頸を狩る為の死神達が待っているぞ?」

 

 

ハスミは外で決着を着けろと言う意味合いで告げた。

 

 

「へっ…後悔すんなよ!?」

 

 

サーシェスは好機と見做して撤退。

 

だが、サーシェスもまた判断を誤ったのだ。

 

死者は何も語らないが死者は復讐の為に動くのだと…

 

その事を知るのはそう遠くない。

 

=続=





降り注ぐ悪意。

それらを消し去る為に。


次回、幻影のエトランゼ・第百二十話『落禍《ラッカ》中編』


人類統一…

共存共栄の意味を知らしめる為に…

だが、その道程は遠く険しく…


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考の付箋


考察し作戦を立てる。

知らぬ戦いは本番。

だが、対抗出来るのであれば…

考えるべきである。


 

メメントモリからの低軌道レーザー照射による理不尽な破壊。

 

アロウズに楯突くもの達を射貫く為に。

 

それはリモネシア共和国も含まれていた。

 

 

******

 

 

ZEXISによるメメントモリ破壊ミッションが行われる数時間前。

 

 

<リモネシア共和国・政庁>

 

 

最下層の円卓の間でクロウ、ランド、セツコ、ユーサー、アサキムを除いたリアクター達が集結。

 

クロウら三人はZEXIS、ユーサーとアサキムはアル・ワースでの事後処理で別行動を取っている。

 

前世で発生した多元世界のメメントモリで引き起こされた騒動に関して話し合っていた。 

 

ハスミから齎された情報。

 

多元世界の連邦軍内でクーデターが発生。

 

クーデター組によってアフリカ本土にある起動エレベーターのステーションが占拠される。

 

当日、施設を利用していた六万人の民間人の人質を利用しアロウズの悪行を世に知らしめる為である。

 

だが、裏を返せば彼らこそアロウズの強硬介入を許してしまう行為だった。

 

その結果、イノベイターが仕掛けたシナリオ…

 

彼らがクーデターを引き起こして六万人の人質を虐殺すると言う暴挙に出た。

 

と言う最悪の結末を付け加えられる。

 

ソレスタルビーイングがレーザー管制を行う司令フロアを破壊したのと同時に起動エレベーターを掠める形でレーザーが照射。

 

これにより起動エレベーターを構成する箇所が破損し地上へ大量のピラーが落下する。

 

この時はその場の武器を持つ者達がピラー破壊に協力し邪魔をする者をZEXISが排除した形だ。

 

だが、一部で悲劇が起こり…アロウズの優位性が確立されてしまう結末を迎えた。

 

 

「以上が私の知るメメントモリ攻防戦における事の顛末です。」

「何処の世界にも愚か者は存在する…か。」

 

 

ハスミの説明を聞き終わり、開口一番に言葉を漏らすアウストラリス。

 

 

「既に起動エレベーター内部に殺人ドローン…オートマトンが搬入されている頃でしょう。」

「仕立て人は例のサーシェスって奴か?」

「その通りです。」

「ハスミさん、見殺しにはしないんですよね?」

 

 

ガドライトさんとヒビキの質問通り…見捨てる事はしない。

 

既に手は打ってある。

 

 

「アイムさん、ハーキュリー大佐の様子はどうでした?」

「貴方が話した通りの状況でした…ある程度の揺さぶりを掛けたら話に応じて貰えましたけど。」

「彼の身辺を固めていた軍人にイノベイト型が居なかった事が幸いでした。」

「でしょうね、イノベイト型が居ればイノベイター側に情報は筒抜けでしょう。」

「ですが、クーデターを起こした事で情報は漏れている。」

 

 

彼らがクーデターを起こした直後、アイムさんに偽装した姿でイグジスタンスの使者を演じて貰った。

 

その場にロシアの荒熊ことスミルノフ大佐も居たので仲裁役を頼んだ形だ。

 

偽装したアイムさんよりある程度のオブラートに包んだ状態で事の顛末を説明。

 

このクーデターによってアロウズは更なる優位性を確立してしまう事を…

 

逆にアロウズの失態を世に知らしめるのであれば、別の形で協力すると告げて貰った。

 

 

「クーデターに参加した軍人のリストに偽名でしたが…サーシェスがいたので介入する形を取りました。」

「で、僕らはどうすればいい?」

「…様子見か?」

「クロウさん達がメメントモリからのレーザー照射を食い止める手筈ですが、何者かの介入を踏まえて地上で待機し対応する形を取ります。」

 

 

バルビエルと尸空の質問にハスミは答える。

 

 

「出るのは良いが…国連の連中が黙っていると思わねえけどな?」

「口だけの相手には言わせておけばいいでしょう…碌な対応もしない屑に用はないです。」

 

 

ガイオウの言う通り、これを期にリモネシア共和国とイグジスタンスのやり方に異議を唱える者が出るだろう。

 

ありきたりな事だとクーデター組と手を組んでいたと言うワンパターンである。

 

 

「そうだね、撃ってくるならこっちも構えるだけさ。」

「世間はどちらを支援するでしょうね…碌な対応もしなかった自分達か、率先して動いた此方か?」

 

 

エルーナとハスミは冷徹な声で告げる。

 

エルーナはもっとな理由で戦う口実を得た事。

 

ハスミは理不尽に対する静かな怒りである事は間違いない。

 

 

「何にせよ、我らが出向く必要があるだろう。」

 

 

イグジスタンス代表のアウストラリスの宣言により…

 

イグジスタンスはメメントモリ攻略戦に介入する形となった。

 

 

=続=

 



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第百二十話 『落禍《ラッカ》中編』


宇宙の攻防。

天使達の抗いが続く中…

白い悪魔が帰還する。

双子の星と共に。


 

ZEXISは低軌道上に設置された大型レーザー照射施設を破壊するべく行動。

 

ソレスタルビーイングを中心に高機動タイプの機体で部隊を編制。

 

軌道上に設置されたメメントモリを破壊ミッションを開始した。

 

攪乱と陽動の為にマクロス・クォーターが別行動。

 

アクエリオンの無限拳によってアロウズの防衛部隊の混乱を引き起こす。

 

防衛部隊が混乱する中でソレスタルビーイングが強襲しメメントモリの管制フロアを破壊する形だった。

 

新西暦の世界にもオービタルリングは存在し何処を攻撃すれば危険を共わないかは所属していた者達から齎されている。

 

奴らによる無差別照射が行われる前にケリを付けなければならない。

 

 

******

 

 

ソレスタルビーイングによるメメントモリ攻略ミッションが開始した頃。

 

彼もまた動き出していた…

 

 

「…」

 

 

イノベイト達が根城としているソレスタルビーイング号。

 

その施設より一機のMSが脱出。

 

しかし、脱出したMSを追って追撃部隊が差し向けられた。

 

追撃部隊の機体は全て自分の世界で猛威を振るった機体のデータを流用されたもの。

 

弱点は解るが、数が多い分…脱出までの時間を喰うだろう。

 

 

「…そう易々と逃がさない訳か。」

 

 

脱出したMSことνガンダムを操縦するアムロは苦虫を噛み潰したように応えた。

 

今回の彼は協力を求められたリボンズ・アルマークに対してボロクソと表現してもいい毒舌嫌味を披露している。

 

リボンズ自身も己の尊厳がズタズタにされたのが気に喰わなかったのだろう。

 

その結果の報復であった。

 

だが、この危機を察知し送り込まれた者達も存在する。

 

 

「ったく、様子を見に来てみれば…ニュータイプ一人にどんだけ戦力割いているんだ?」

「ややこしい事になっているのは間違いない。」

 

 

次元転移で乱戦となった区域に出現したジェミニアとジェニオン。

 

 

「お前達は…!?」

「よう、陰月での決戦以来だな?」

「お久しぶりです、アムロ大尉。」

「ガドライトにヒビキ、スズネ先生…どうしてここに?」

「ハスミからお前さんが危機だって事で援軍に来た。」

「…アムロ大尉、いくら何でも相手に毒舌はやり過ぎだと思います。」

「そう言う訳で…こちらに赴いた形です。」

「成程、彼女には見られていた様だね。」

 

 

状況を伝えたガドライトとアムロのやり過ぎに注意するヒビキとスズネ。

 

そのアムロも援軍にホッとしたらしく苦笑して答えた。

 

 

「ヒビキ、このガラクタ共を片付けて…アムロ・レイを例の戦場に送り届けるぜ?」

「判った。」

「…(彼女が進めて来た行いは間違いではなさそうだな。」

 

 

危惧していたサイデリアルはイグジスタンスに改名し終焉が迫る世界を救おうとしている。

 

その懸け橋をずっと行っていたハスミの行動は少なからず良好な関係を築き上げていた。

 

 

「それと、今までの経緯と例の事は合流した連中から聞いてくれ。」

「例の事?」

「それは聞いてからのお楽しみって奴さ。」

「…確かに。」

「後者はちょっと…デリケートな話ですからね。」

「?」

 

 

ガドライト達は例の事に関しては口を閉ざした。

 

三人も戦闘中である事も踏まえて早期に会話を終わらせたのだろう。

 

だが、例の事が気になったアムロはお決まりの腹黒オーラを醸し出して答えた。

 

 

「その話を詳しく聞きたいから…さっさと奴らを潰そうか?」

「…マジか?」

「うーん、諦めて話をしちゃう?」

「それしか…なさそうですね。」

 

 

元祖ニュータイプのオーラに押された三人は言うがままに追撃部隊を掃討した。

 

その般若顔を拝んだ三人はしばらくの間はトラウマとなったらしい。

 

 

~追撃部隊掃討後に安全区域に到着直後~

 

 

先程の戦闘でエネルギーと弾薬を使い果たした三機は補給部隊の到着まで待機。

 

その間、アムロは先程の経緯を詳しく聞いていた。

 

 

「ハスミの話通り、さっきまでイノベイトに囚われていたんだな?」

「結局、流れを変える事は出来なかった…」

「ハスミさんの話ではリボンズ・アルマークはエンブリヲとも手を組んでいた…」

「あの変た…エンブリヲを前に倒した事でイノベイト達も躍起になり始めたって事よね?」

「ま、そっちが事を起こす前に奴らがやらかす事は決定していたって事だな。」

「俺も直接遭遇出来た訳じゃないが…奴らの同盟も利害一致の関係だったと思う。」

 

 

互いに情報交換を行い、今までの経緯を整理する。

 

アムロも陰月の決戦後から今までの間、イノベイトに囚われていたとの事だった。

 

その頃にエンブリヲの暗躍も加わり、イグジスタンスも早期救出が出来ずにいたのである。

 

結果として正史通りの流れとなった。

 

 

「所であのアル・ワースが現れた原因は?」

「ハスミがアカシックレコードで視た所、エンデって奴が本格的に動き出しやがったらしい。」

「…だが、奴は前回の戦いでヒビキ達のソルの力で深手を負わせた筈だろう?」

「俺達の行動……エンブリヲの恐怖を取り込んで復活したそうです。」

「…」

「理由があるんだろう?」

 

 

ヒビキ達は重い表情で答えた。

 

エンブリヲによって並行世界を跨いで優秀な女性達が拉致された事。

 

同時にハスミ達、女性陣も人質となった女性達を盾にされ連れ去られた。

 

更にDG細胞によってデビルアルゼナルが生み出された事。

 

危機を知った助っ人達とエクスクロスの援軍を得て、事態は収束に終わったものの…

 

エンデはエンブリヲの恐怖を取り込んで復活してしまった。

 

エンデ復活によって境界線が崩壊し、アル・ワースと多元地球が惑星ごとむき出し状態へ変貌。

 

結果、エンデ早期殲滅はプラマイゼロとなったのである。

 

 

「成程、俺が幽閉された間にそんな事が…」

「あの…驚かないんですか?」

「ハスミの件は気づいていたし、立場上は表沙汰に出来なかっただろう。」

 

 

驚くヒビキに対してアムロは語った。

 

ハスミは元々ガンエデンとしてホルトゥスと言う組織を率いていた。

 

そこへ旧サイデリアル…イグジスタンスに協力している以上は同盟を結んだと思われても仕方がない。

 

下手をすれば連合政府を転覆させる事が可能な能力と戦力を保有している。

 

別の角度から見れば危険視されても可笑しくないだろう。

 

 

「悩んだ末に彼女とアウストラリスは選んだ……それがどの様な結果に繋がるかは俺にも判らない。」

 

 

下手に角を突くよりは静観した方が良いだろうと長年の経験を元にアムロは締めくくった。

 

 

「その件をカミーユ達も知っている以上、ZEXISにも伝わっているだろうな。」

「大方、ゼロ辺りが頭抱えているんじゃね?」

「確かに…」

「何とも言えないわね。」

 

 

これには互いに苦笑いするしかない。

 

組織の総大将同士が恋仲でくっ付いたなんて…敵対同士ならあって欲しくない結果だ。

 

 

「おっと、アンナロッタちゃん達が到着したな?」

 

 

話している間に補給部隊としてジェミニス隊が到着。

 

 

「隊長、到着が遅れて申し訳ありません。」

「いや、早い方だぜ?」

「皆さん、ご苦労様です。」

 

 

労いの言葉を掛けるガドライトとヒビキだったが…

 

アンナロッタは急ぎの要件を伝えた。

 

 

「それよりも補給を終えたらすぐにZEXISと合流を…!」

「何かあったのか?」

「メメントモリにイノベイトとは別の者によって細工が施されていたらしく、既に軌道エレベーターの一部が破壊された。」

「ちっ、アッチが早かったか…!」

「破損と同時に地上へ落下したピラーは現場に居た全ての連合軍と他の部隊のメンバーが対応している。」

「アンナロッタ、軌道エレベーター内部のオートマトンはどうなった?」

「ハスミと彼女の呼んだ助っ人にロサが対応している…其方はカタが付いたとの事だ。」

「よ、良かった…」

「後は落下するピラーだけだな。」

 

 

一行はジェミニス隊と合流し補給を受けた後、急ぎ二機のリアクター機による次元転移で地上へと向かった。

 

緊急事態の為、スフィアによる次元転移は致し方ない。

 

 

******

 

 

ヒビキらがアムロ・レイと合流中の頃。

 

早期にメメントモリから突如レーザーが照射されてしまい、掠める様に起動エレベーターを破損。

 

結果、軌道エレベーターは一部破損しアフリカ本土へ崩落した無数のピラーが落下。

 

規模の小さいモノは途中で燃え尽きるだろうが…

 

それでも一つでも地表へ落下すればより被害は拡大する。

 

ZEXISはメメントモリの中枢を撃墜。

 

統率を失って散り散りになったアロウズをそのままに…

 

地球・アフリカ方面へと降下した。

 

 

 

=続=





落下する災厄。

それらを駆逐する。


次回、幻影のエトランゼ・第百二十話『落禍《ラッカ》後編』


齎されるべき真実を世に晒せ。


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第百二十話 『落禍《ラッカ》後編』


人々の危機に立ち上がる意思。

戦うべきは何の為?

世界は何を知るべきなのだろうか?


 

軌道エレベーターの一部崩落による残骸落下。

 

その多くは地表へ落ちる前に燃えつきるが、質量の多い残骸は燃え残り地表へ落下する。

 

落下する位置の多くはアフリカのターミナル付近。

 

放置すれば大災害を引き起こすだろう。

 

これに対し国連はピラー破壊を最優先しクーデター組は放置する判断を決定した。

 

彼らも場合はアロウズのやり方に異議をもって抗議しただけであり、目処前の脅威を放置する事はない。

 

彼らもまたピラー破壊の為に行動を開始した。

 

 

******

 

 

人の意思が一つになり掛けているにも関わらず邪魔をする者は現れるのだが…

 

 

「そう言う馬鹿を相手にするのがアタシらの役目だよ!」

 

 

アフリカの軌道エレベーターに現れたルーンゴーレムとアールヤブの混成部隊。

 

更に周囲の負念に反応し出現したラマリス。

 

その脅威に対して行動を起こしたのがイグジスタンスである。

 

開口一番にハイアデス隊のエルーナが部隊を展開し混成部隊へ攻撃を仕掛けていた。

 

一方でラマリスの対応を行っているのが尸空率いる鬼宿隊である。

 

 

「…負念の化身は鎮める。」

 

 

同時刻、ZEXISは地表へ降下。

 

周囲と同様にピラー破壊を開始した。

 

 

「イグジスタンスが一足早く動いてくれていたのね。」

 

 

同じくメメントモリの司令フロアを破壊し降下したソレスタルビーイング。

 

スメラギは周囲の様子を確認し答えた。

 

 

「おいでなすったか、ソレスタルビーイング!」

 

 

更に厄介な相手は出現する者で…

 

 

「アリー・アル・サージェス!」

「奴も来ていたのか!?」

 

 

刹那とティエリアが奴の存在を認識し答えた。

 

サーシェスは前回の戦乱でミハエル・トリニティから奪った機体を改造したアルケーガンダムに搭乗していた。

 

 

「もう一人、特別ゲストも連れて来たぜ?」

 

 

サーシェスが声を掛けると姿を現す赤いGN粒子を纏った巨大MA。

 

姿を知る者は『レグナント』と呼ぶ機体。

 

問題は搭乗者である。

 

 

「…(ルイス・ハレヴィはアッシュフォード学園に居る、一体誰が?」

 

 

刹那はイノベイターとしての力で搭乗している相手が誰であるかを知った。

 

本来ならば、オーライザーの搭乗者だった人物である。

 

 

「まさか、沙慈…なのか?」

 

 

今回の沙慈は姉の絹江を失った事でソレスタルビーイングを憎んで失踪。

 

実戦経験を積む事と後にソレスタルビーイングが接触しそうな組織…

 

カタロンへ加入したもののアジト崩壊の戦闘に伴い行方不明になっていた。

 

それは巡り巡って最悪な形で戦場に現れたのだ。

 

 

「そんな…」

 

 

イグジスタンス経由で保護され、ソレスタルビーイングで通信クルーとしてプトレマイオスⅡに乗艦していた絹江は驚きの余りその声を引きつらせた。

 

 

「戦場で死に掛けていたのを拾ったが、まさかここまでの適性があるとはな?」

「サージェスっ!!」

「刹那…元学友同士で殺し合えよ?」

 

 

その時だった。

 

 

「久しぶりだな、基地外野郎…」

「誰だ、テメェらは!?」

 

 

見慣れないGN粒子を放出するGNドライブを所持する機体。

 

その一機はかつて散った仲間の機体だった。

 

 

「あれはデュナメス!?」

「一体誰が…?」

「ひっさしぶりね、刹那。」

「ネーナ・トリニティなのか!?」

「アタシだけじゃないよ?」

「ソレスタルビーイング、以前の軽率な行為…済まなかった。」

「俺らも戦うべき相手はもう間違えていないぜ?」

 

 

長距離射撃による割り込みで出現した新生トリニティ。

 

彼らが搭乗していた機体。

 

これはハスミの協力関係者からである。

 

以前、彼女が偶然知り合ったビルドダイバーズに機体データの製造依頼を彼らに打診していた。

 

最も、このデータが戦いに使われて誰かの命を奪う事になる事も想定してである。

 

彼らも戦うにしても誰かの助けになるなら…と協力を取り付ける事に成功。

 

吟味した結果、彼らの機体にソレスタルスフィアが使用した三機を再現する事に決定。

 

この為、チーム戦を得意とする彼らに打って付けだったのも理由の一つである。

 

トランジェントガンダムにヨハン、ガンダムジエンドにミハエル、G-ポータントにネーナの取り合わせだ。

 

更にデュナメスの改修機であるデヴァイスデュナメスにもう一人のロックオン・ストラトス。

 

闘いを求める彼に対して亡霊と言う名の死神が舞い戻って来たのだ。

 

 

「アリー・アル・サージェス…!」

「良くもやってくれたな!」

「お返しに来たわよ!」

 

 

油断したとはいえ、彼らもサージェスに恨みを持っている。

 

今回は利害一致としてソレスタルビーイングに協力する為に訪れていた。

 

今後…彼らがどう動くかは彼ら次第であるが、悪い方向にはいかないだろう。

 

彼らもまた強制された理由によって縛られていたから…

 

同じ境遇のスクールの出身者であるオウカらとの接触で考えを改めたとの事だ。

 

 

「まさか、俺の後継者に弟を引き入れるとは思っていなかったがな。」

「兄さん、どうして…」

「死に掛けの所をイグジスタンスが保護してくれたのさ、つい最近まで予断を許さない状況だった。」

「クロウ・ブルーストめ…後で彼には聞かなければならないな?」

「ティエリア、クロウに口止めさせたのは俺だ…穏便にな?」

「…判っている。」

「なら、彼らも?」

「そう言う事だ。」

 

 

二代目ロックオンやティエリアにアレルヤの質問に答える初代ロックオンことファントム。

 

トリニティと同様にイグジスタンスによって救われたと答えた。

 

 

「共存共栄…俺達だけじゃ成し得なかった事をアイツらはやってのけちまったよ。」

 

 

感動の再会は程々に。

 

ソレスタルビーイングは目処前の問題に目を向けた。

 

 

「ったく、折角拾った命をわざわざ捨てに来るとはな!」

「自分達がサージェスを抑える!」

「そのデカイのを頼むぜ!」

「刹那、また後で!」

 

 

トリニティはサージェスの相手をする為に戦場を離れた。

 

 

「沙慈…」

「刹那、おそらくは。」

「判っている、あの機体を止める!」

 

 

イノベイトによって洗脳されている可能性をティエリアは濁すように刹那に答えた。

 

レグナントを止める為に行動を開始。

 

 

「アレルヤ。」

「マリー、他の皆と一緒にピラーの破壊を頼む。」

「判ったわ。」

 

 

アレルヤはGNアーチャーに搭乗するマリーにZEXISと行動を共にするように答えた。

 

単機で行動するよりは安全と考えたのだろう。

 

 

「兄さん。」

「ライル、いや…二代目ロックオン。」

 

 

「「俺達が狙い撃つ!!」」

 

 

ソレスタルビーイングもまた世界の歪みによって狂わされた存在を救うべく行動する。

 

同時刻、アフリカのターミナル内ではオートマトンが一掃され落ち着きを取り戻した頃。

 

民間人の中に一人の少女が紛れ込んでいた。

 

 

「ソレスタルビーイング…それにあの機体は?」

 

 

外の様子をターミナルを利用していた報道関係者達によって生中継され、ネットワークを介して全国配信されていた。

 

その様子をルイスは他の民間人らと見ていたものの…

 

戦いを見続ける内に違和感を感じた。

 

彼女は意を決して外に繋がる通路へと向かった。

 

 

「っ!?」

 

 

彼女が出た瞬間、彼女の横を擦れる様に落下するレグナント。

 

 

「ぐっ!」

 

 

レグナントに搭乗した沙慈は衝撃からくる昏倒から回復し周囲の様子を確認すると…

 

ここに居るべきではない彼女の姿があった。

 

 

「あ…」

「ルイ…ス?」

「その声、沙慈なの?」

「あ、ああああああああ!?!」

 

 

ルイスの姿を見て混乱する沙慈。

 

 

「ちっ、潮時か!」

 

 

サージェスも引き時と察して遠隔操作でレグナントを誘導し戦場から撤退した。

 

 

「沙慈……なんで、なんでぇええええ!?」

 

 

好きだった人は戦いに身を置いていた。

 

理由が分からない彼女はただ泣き叫ぶしかなかった。

 

そこへダブルオーガンダムに搭乗した刹那がルイスに話しかけた。

 

 

「ルイス・ハレヴィ。」

「刹那…なの?」

「頼みがある。」

 

 

刹那は悟った。

 

沙慈を救うには彼女の力が必要なのだと。

 

 

「頼み?」

「沙慈を取り戻す手助けをして欲しい。」

「…」

 

 

流れは配役を変えて進む。

 

軌道エレベーターで起こったクーデターは収束を迎えた。

 

連邦軍から反乱分子を出してしまった事で国連では大きな波紋を呼んだ。

 

だが、元の原因であるアロウズのやり方に世間は漸く疑問視する様になった。

 

イノベイト側が用意した証拠は文字通りイグジスタンスによって全て崩され、逆にメメントモリからのレーザー照射が問題視され責任の追求が行われた。

 

戦いはより大きく激化する。

 

その前触れかの様に静けさがしばらくの間、続いた。

 

 

=続=

 





語られる事件の真相の一部。

静かに過ぎ去った筈の過去が紐解かれる。


次回、幻影のエトランゼ・第百二十一話『夏語《ナツカタリ》』


ただ話したかっただけなのかもしれない。


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第百二十一話 『夏語《ナツカタリ》』



与えられた一時の休暇。

語られるのは過去の記憶。

ただ話したかっただけなのかもしれない。


※少ないですが、アンケート結果の水着シーンも含みます。


 

メメントモリにおけるレーザー照射問題。

 

軌道エレベーターで起こったクーデターを皮切りに連邦軍内でアロウズのやり方に反発する軍人が増え始めた。

 

世界を守る為に暴挙の力で押さえつけても何も意味を成さない。

 

特にイノベイトの情報が公に明るみとなってからアロウズの存在に陰りが見え始めた。

 

歪みの根源であり、怒りの矛先が変わった為に…

 

 

******

 

 

メメントモリ騒動から一週間後…

 

 

~リモネシア共和国・政庁~

 

 

メメントモリでの一件が片付いた後。

 

経過報告の為に全員が集結し話し合いが行われた。

 

その中でハスミら三人はアウストラリスから突如休暇を告げられたのである。

 

 

「エルーナ、セツコ、ハスミ、お前達は休暇を取れ。」

「どういう風の吹き回しだい?」

「ですよね?」

「アウストラリス、メメントモリの一件が片付いてもまだ問題が…」

 

 

順にエルーナ、セツコ、ハスミの疑問に対してアウストラリスはため息交じりで答えた。

 

 

「お前達…定期検査を受けていないだろう?」

 

 

定期検査の言葉に三人は黙った。

 

 

「「「…」」」

 

 

デビルアルゼナルの一件でDGのコアにされていた三人。

 

期間が短いとは言え、何かしらの変化があっても不思議ではない。

 

理由の一つとして彼女達に感染したDG細胞が彼女達の持つスフィアを通して次元力に触れている点。

 

その影響も考えて定期検査が設けられていた。

 

ここ最近は立て続けに起こった案件で右往左往していた為に定期検査を受けていない。

 

その為の強制命令らしい。

 

 

「あ…そう言えば。」

「受けてないです。」

「失念してました。」

 

 

エルーナに関してはサボり、セツコとハスミは別件の仕事を処理していたので受けられていなかった。

 

 

「今後の戦いに支障が出ても意味がない…アル・ワースへ向かい、定期検査を受けてこい。」

「へーい。」

「判りました。」

「了解しました。」

 

 

こんな流れで定期検査を兼ねた強制休暇を取らされた訳である。

 

それから数時間後の事…

 

 

~アル・ワース内、旧ミスルギ皇国~

 

 

デビルアルゼナル事件後、崩壊した国家は多くの難民で溢れていた。

 

事後処理としてシルヴィア皇女とアルゼナルのアンジュ司令官を筆頭にある程度の生活が行えるまで安定していた。

 

マナの力を失った反動で暴動が起きそうになってもエクスクロスや協力者達が圧を掛けているので少なからず起きる気力もないそうだ。

 

目処前の絶望にマナの力を失った後に対してどうするか?

 

それがマナの国…旧ミスルギ皇国の人々の今後の問題だろう。

 

今だ、ドアクダー軍団や魔従教団に反乱軍の一件が片付いた訳ではない。

 

解決すべき課題は残っているのだ。

 

 

「定期検査は兎も角、休んでいる暇はないのですがね。」

「休むに休めない…落ち着かない。」

 

 

旧ミスルギ皇国の一角に建設途中であるが、新たなアルゼナルが建設されている。

 

戦いが終わった訳ではないが、後の彼女達の安住の地が生まれつつあった。

 

現在進行形でハスミ達は定期検査をそこで受けている。

 

デビルアルゼナル跡地が近いのもあるが、エンブリヲの残した施設を検査の為に再利用。

 

猶、検査を受けて安全が確認された女性達は…

 

順にセフィーロ王国とインサラウム皇国で療養後に各自元の世界へ帰還している。

 

その女性達もほとんど残っていないのでハスミらは定期検査の順番待ちをする事はなく検査結果待ちをしていた。

 

 

「二人共、適度に休まないと潰れるよ?」

「したいのは山々だけど…」

「…どうも抜けなくて。」

「全く、野郎共が頼りにならないと…こうなるか。」

 

 

エルーナに心配されるが、ワーカホリックが抜けないハスミとセツコには少し無理がある。

 

信頼はしているが、何処か抜けている男性陣の事を心配しての発言だった。

 

 

「所で、どうして私達が水着に?」

 

 

セツコの質問にハスミが答えた。

 

 

「エンデを倒して平穏が戻ったらアンジュ達がここに店を開く予定、この水着も商品らしいわ。」

「その一環って訳ね?」

 

 

用意されたの水着は多種多様だが、選んだのは全員ビキニ。

 

エルーナは白系で金の金具がアクセントになったもの。

 

セツコはピンクと紫系で控えめのリボンとフリルでフェミニンをイメージしている。

 

ハスミは青と黒系で腰に薄水色のパレオを巻いている。

 

爆盛と特盛&特盛の為に一部アルゼナルの女性達から羨望の眼差しを受けていた。

 

見事なまでにスイカとメロンがたゆんとしている。

 

 

「…(うーん、ちょっと視線が痛いがこれに関しては体質だからゴメンね。」

 

 

納得したセツコにビールを飲むエルーナ。

 

 

「ま、お陰でビールも飲めるし最高だよ。」

「所でアンジュ達は?」

「エクスクロスと行動中。ここに残っているのはアルゼナルの非戦闘員や防衛に残された中隊だけよ。」

「確かに全員でエクスクロスにお邪魔する訳にはいかないものね。」

「あの子らを残してアンジュ達もエクスクロスと一緒にドンパチの最中って訳か…」

 

 

今回は救えた命が多い分、アルゼナルには幼い子達の賑わう声が多い。

 

今日も勉強を終えると監視役の女性達と共に海に出ている様だ。

 

 

「それに…余計な事をしそうな輩が居るみたいだから、護衛は付けて置いたわ。」

 

 

ハスミの言葉を察するに下種な考えに至る旧ミスルギ皇国の住民も少なからずいる。

 

マナの力を失っても体格差で何とやらだが…

 

それに対して、ハスミが冷徹な眼で近づきつつある下種に対して報復を行った。

 

ハスミが指を鳴らすと潜んでいた部下達が行動を開始。

 

所々から悲鳴が響き渡った。

 

 

「ウチの戦闘員を舐めて貰っては困る。」

 

 

無事、御縄に就いた下種な考えを起こした輩共。

 

アルゼナルを通してシルヴィア皇女に通達が行われるので後々に処罰が行われるだろう。

 

 

「皆、ご苦労様。」

 

 

護衛として控えていたアルシャト隊のエクスキューナー達。

 

潜んでいた曲者を縛り上げてハスミの前に引っ立てた。

 

 

「この阿保共、派手に爆殺させなくていいのか?」

「イーコス、そこまでやると人道的に引っかかるから却下で。」

「へいへい。」

 

 

エクスキューナーの一人、イーコスに指示を出したハスミ。

 

一部で騒いでいる馬鹿が居るが、全員の圧でビビりを通り起こして失神しているので気にしていない。

 

 

「なら、全身の毛毟ってやろうぜ?」

「その位は許す。」

「うし!」

「駄目だって!?」

 

 

クティノスの判断にさり気無く許可を出すハスミであったが、可哀そうと言うフォティゾの言葉もあり止めた。

 

 

「全員、さっきの阿保共を引き渡したら監視に戻って頂戴。」

「御意。」

 

 

ハスミは次の指示を彼らに伝えると休憩へと戻った。

 

先程の様子を見ていたエルーナ達から質問を投げられた。

 

 

「随分と癖のある連中だね?」

「知り合いの人格をベースにしているので各自の個が強いんです。」

「知り合い?」

「…それも、もう会えない人達のよ。」

「そう。」

 

 

ハスミの言葉にセツコは理解し納得した。

 

会えないと言う事は既に亡くなっている人物達の人格をベースにしたのだろうと…

 

 

「アウストラリスの所に居るティグリスも彼が信頼を置いた知り合いの人格をベースにしているわ。」

「なら、ティグリスの人格のモデルになった人も?」

「うん、二度と会う事は出来ない人。」

 

 

生きている間は二度と会う事も叶わない。

 

解ってはいたが、どこか寂しいと思う。

 

だからこそ彼らの意思を人形に写して傍に置きたかったのかもしれない。

 

 

「そう言えば、ハスミ…アウストラリスと何処で知り合ったの?」

「アタシもそれが気になってた。」

「話すと長くなるんですけど…」

 

 

ハスミはアウストラリスと出会う経緯となった出来事を話し始めた。

 

 

「彼と出会う事になったのはアシュラヤー・ガンエデンの継承を受けた直後…継承の儀を終えた時だった。」

 

 

当時の私は十も満たない幼子。

 

母が御使いの手によって亡くなり、次代のガンエデンとして継承の儀を受けていた。

 

その継承の儀を終えた直後にあの異空間に飛ばされた。

 

 

「異空間に?」

「それが何なのかは今でも判らない、でも…そこで御使いに敗れてボロボロになったアウストラリスと出会ったの。」

 

 

その異空間で別の道を歩もうとしたアウストラリス。

 

結果的に仲間を失い、失意のどん底に陥っていた。

 

それでも決して諦めない意思を示していた。

 

 

「当時の私は何時か出遭う事があるなら力になりたいとアウストラリスに告げた。」

「…」

 

 

小さな女の子の言葉に何処までの信憑性があるかは理解されないだろう。

 

彼自身は私が纏っていた気配で何となく察していたらしい。

 

いつの日か戦場に立つ位に化けるだろうと…

 

 

「それがハスミとの出会いだったって訳か…」

「元々、私も御使い打倒の意思を見せていたし共感?されたと思う。」

「でも、それだと年齢が合っていないんじゃ?」

「それは…次に彼と再会したのは空白事件で一度目のEFに飛ばされた頃だったの。」

 

 

恐らくアカシックレコードの采配や無限力の陰謀も絡んで時差が出たのだろう。

 

 

 

「セフィーロでの厄介事を片付けた後だったし戦う事は出来たから…」

「あーそれがハスミ無双の始まりかい。」

「エルーナさん、鍛錬は大事です。」

 

 

魔神同様に念神も自分が強くならないと乗りこなせないので。

 

 

「完全に合流を果たしたのは修羅の乱、ソーディアンの調査に赴いた時です。」

「確か、アウストラリスもガドライトの出身惑星の制圧した頃から姿を消していたね?」

「そこから封印戦争と今に至るまで行動を共にしていました。」

「それはサイデリアルとして?」

「…結果的にはそうなるかな。」

 

 

自ら決闘を申し込み敗北し…

 

結果的にサイデリアルとして彼らに手助けをしたのは事実だ。

 

 

「所で…何で引き分けになったのに負けたって言ったのさ?」

「それは私が彼にトドメをさせなかったから…」

「えっ?」

「好きと言う感情が勝って手を鈍らせてしまった。」

 

 

自ら決闘を申し込んで置いて別の感情を戦いに持ち込んでしまった。

 

真剣勝負にそれはご法度だ。

 

だからこそ敗北したと答えた。

 

 

「ハスミ…」

「セツコ、あの時の私が未熟であったのは本当よ。」

 

 

ちゃんと勝負をして勝敗を決めてあの人の背を守ると誓いたかった。

 

私が愛していると言う感情を見せなければ彼の弱さにならなかったのに。

 

 

「私の想いは彼の弱点を生み出してしまった。」

「それ、後悔しているのかい?」

「今はないです、私が彼を愛していると言う感情は確かです。」

「一途だねぇ?」

「フフッ。」

 

 

エルーナさんとセツコ、判っていましたがニヤニヤしないでください。

 

恥ずかしいので。

 

 

「話の最中の所で悪いけどいいかな?」

「キョウジさん、例の検査結果ですか?」

「…エルーナルーナとセツコの二人には異常はなかった。」

「…」

「理由を話して貰えるかな?」

 

 

検査結果を携えて現れたキョウジ。

 

ドモンとシュバルツの二人はデビルアルゼナル跡地の監視で不在。

 

検査結果を伝えに来た所、エルーナさんとセツコには異常は見られないと告げる。

 

私を覗いては…

 

 

「当事者には話す必要がありますものね。」

 

 

ハスミは封印戦争後に別の並行世界に飛ばされた時の出来事を告げた。

 

敵対勢力によって強制的に眷属化させるウイルスを受けてしまった。

 

だが、体内に残っていたDG細胞によって防がれた。

 

その影響で眷属化ウイルスは不安定になった。

 

紆余曲折、眷属化ウイルスを放った親玉を倒して解毒に成功。

 

体内のDG細胞は共存共栄の道を選んで時折話をする仲になっていたと話した。

 

 

「君の中に居るDG細胞は自我を持っていると?」

「ほぼ幼い子と同じ思考ですが、善悪の区別はついています。」

「そうか…だが、君の中のソレはDG細胞と言うよりは別の形に変異していると思う。」

「変異ですか?」

「次元力の影響を受けたDG細胞…通称Dセルと呼ぶ事にする。」

「…」

「君の身体組織は人と何ら変わりもないし、そのDセルは本当に必要な時だけ出て来るみたいだね。」

「そう、ですか。」

「シュバルツやロサの様な一例のあるし…様子見でいいと私は思っている。」

「えっ?」

「排除すべきだと言うと思ったかな?」

「覚悟はしていましたけど…」

「ただ異物として消すのではなく対話も必要だと君に気づかされたからね。」

 

 

まあ、対話が可能な相手限定ですけどね。

 

 

「Dセル自体、君と同居している隣人の様なものだし敵意はないのだろう?」

「そうですね。」

「なら、Dセルに関しては私達は一切の介入はしないよ。」

「ありがとうございます。」

 

 

正直、気が楽になった。

 

色々とありすぎて溜め込み過ぎていたのかもしれない。

 

話す事で心が軽くなると言うが…本当である。

 

 

「じゃ、検査も終わったし!」

「泳ぎに行きましょう!」

「ちょ、ちょっと二人共…!?」

 

 

ハスミはエルーナとセツコに引っ張られて浜辺に移動していった。

 

ただ一人、残されたキョウジは彼女達の居た席に検査結果の入った封筒をテーブルに置き重石を置いてその場を去って行った。

 

 

「ハスミ君、君の説教で私達も助けられたんだよ。」

 

 

キョウジは正体を明かした後のハスミに時々会う事があり説教を受けていた。

 

 

「…」

 

 

実の弟に兄弟殺しの汚名を着させて何が世界平和!?

 

一番悲しいのは実の師匠と兄二人を自分の手で失ったドモンでしょ!?

 

それも主犯に踊らされての行為で…あの後、どれだけ苦しんだと思っているの?

 

ドモン自身がDG細胞で変異したゴッドガンダムで暴走する位に精神を病んだんだぞ!?

 

そんな事も予測出来ないのは……兄失格でしょ!!

 

それ以前にアンタら家族はコミュニケーション不足!!

 

ちゃんと家族会議でも何でも話し合う機会を増やしなさい!!

 

 

「…(正直、アレは怖かった。」

 

 

ハスミの正論と毒舌混じりで身震いしたキョウジだった。

 

 

=続=






配役は入れ替わり。

救うべき人を救う為に。


次回、幻影のエトランゼ・第百二十二話『紡想《ツムグオモイ》』


彼女は想いを込めて翼となる。


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髪の付箋


それは願掛け。

たった一つの願いの為に。

彼女は髪を切った。


 

メメントモリ騒動からの軌道エレベーター損傷。

 

並びにクーデター鎮圧後。

 

この事件をブレイク・ピラー事件と呼称された。

 

事態を引き起こしたパング・ハーキュリー率いるクーデター派の軍人達は逮捕された。

 

アロウズは例の如く一連の騒動のパング率いるクーデター派に全ての責任を押し付けようとしたが…

 

異議ありと宣言したリモネシア共和国とイグジスタンスの正論と証拠によって覆された。

 

更にイノベイト達によって掌握されていたヴェーダがワイズマンと呼ばれる存在によってハッキングを受け、アロウズがこれまで行って来た大量虐殺の証拠がネットワークを通じて露見。

 

最終的にイノベイトの正体も世界に晒される事態が発生した。

 

アロウズを陰で操り、世界を遊戯盤の様に転がしていたイノベイト。

 

晒された事実に世界はアロウズへ憎しみの矛先を向けた。

 

 

******

 

 

<リモネシア共和国・政庁>

 

 

諸々の事後処理を終えたイグジスタンス。

 

現在は修理と補給を兼ねてZEXISが滞在している状態である。

 

経過報告もあり、最下層の円卓の間でリアクター全員が集合していた。

 

 

「はぁーしんどー。」

 

 

今回の開口一番はクロウである。

 

名前通りに一苦労状態を受けていた。

 

 

「クロウさん、お疲れ様です。」

「ヒール役をやるにしても、あの毒舌はしんどい…ぜ。」

 

 

ウンザリした顔のクロウ。

 

これに関しては前回の一件が絡んでいる。

 

ソレスタルビーイングに対して初代ロックオンの安否を隠蔽していた為だ。

 

実際、助かるか不明な状態のまま彼らに伝えるのは酷である。

 

理解して貰ったが、その矛先がクロウに向けられたと言う事だ。

 

 

「スメラギさんとの話し合いでアイツはトリニティの引率を兼ねて第二チームとして活動するって形になった。」

 

 

実際、今回は早期にトリニティがサージェスによって戦闘不能に陥った事。

 

それが功を奏した事でトリニティは現在のソレスタルビーイング…

 

イノベイトのやり方に疑問を感じて離反した。

 

更に彼らが使用していたプトレマイオス級戦艦も無事である。

 

イグジスタンスの技術提供の機体もあるので彼ら側の所属と言う形で行動して貰おうと決定したらしい。

 

要は協力者である此方の動きを監視して貰う形にした…が正解だろう。

 

まあ、隠している情報は多々あるので何とも言えない。

 

 

「取り敢えず、一つ目の案件は良いとして…ルイス・ハレヴィのその後は?」

「沙慈を取り戻すって事でソレスタルビーイングに同行した。」

「その件に関してカレンは納得しましたか?」

「正直、戦場に出る事は納得はしていないが…同行だけは認めていた。」

 

 

共に過ごした学園の学友が戦いに巻き込まれてしまった。

 

ゼロ…ルルーシュやカレンにとってもそれは納得出来ないだろう。

 

だが、彼を取り戻すにはダブルオーライザーの機能は必要である。

 

配役が入れ替わった以上は可能性のある人物に奇跡を委ねるしかない。

 

 

「シモンとタケル達は何か言ってきましたか?」

「カミナやマーグが生きている…お前の采配か?って竜馬達が怒り狂ってたぜ。」

「そうね、禿げない程度には放って置きましょう……努力のご褒美と思って欲しい。」

 

 

復活したカミナとマーグがZEXISに合流しないのはシンカによる記憶からの警告。

 

今は接触してはならないと注意を受けているからだ。

 

合流が許されるまで彼らには影で行動して貰う。

 

何時か必要な時に出て貰える様に。

 

 

「今回は配役が少し変わってきている分、敵の行動パターンも変異しているからね。」

「例のギャラクシー船団によるバジュラの洗脳。」

「反乱イノベイト達の人類掌握。」

「エンデの暗躍…」

「ゲシュタルトを駆使し各方面で反乱を引き起こすズール皇帝。」

「姿を見せてねぇアンチスパイラルも居るぜ?」

 

 

アサキムの話から始まり、ヒビキ、クロウ、ユーサー、ガドライト、ガイオウの順である。

 

 

「それに関して更に厄介な案件を入れたい。」

「ハスミさん、何かあったんですか?」

「光龍父さん達からの情報で新西暦の世界に地球艦隊・天駆の転移が確認されたわ。」

「ハスミ、それって例のガーディムとドンパチやってたって言う?」

「はい、接触した彼らの話によるとネバンリンナとの和解に成功したものの彼女がエンデに連れ去られたと…」

「はぁ!?」

 

 

ヒビキとエルーナの疑問に対して答えるハスミ。

 

ランドの驚きも最もだ。

 

ハスミの発言はTの物語…EXシナリオに出て来た鉄の器フラグは立った事を示している。

 

不安定な肉体ではなく完璧な肉体を手に入れた奴との戦いはより激化するだろう。

 

 

「へっ、敵がパワーアップしようが俺達が仕留めればいい。」

「その楽観的な考えに至れるのはガイオウ、貴方だけですよ。」

 

 

激化すると言う事は戦場の規模が拡大する事を示している。

 

最悪な展開とすれば、強制的な世界融合からの崩壊。

 

それに伴う多くの負念を取り込む事がエンデの思惑なのだろう。

 

負念の意志達は誰もがバアルの頂点を目指している。

 

全てを手に入れる為に彼らは独自の行動に移すだろう。

 

足の引っ張り合いをしてくれている方がまだマシだが、統率者が現れればそうも言ってはいられない。

 

一億二千万年の周期である銀河崩壊のタイムリミットが刻々と迫っている以上は気を引き締めていかないと…

 

 

「ハスミ、我々も本腰を入れねばならんな?」

「はい。」

「ZEXISのシンカを促す為にも奴らに試練を与えねばならん。」

「大案件を彼らに?」

「その通りだ、先の情報通りならエンデの一件が今回の騒動の要因となったのだろう?」

「仰る通りです。」

 

 

アウストラリスの話す通り…

 

ガイオウが関心しこちら側に移った事で配役が変わった。

 

魔獣エンデこそ人類が討つべき敵としてバアルによって配置されたのだ。

 

終焉の銀河は迫り時獄と天獄が始まる。

 

予言通りカウントダウンは始まってしまっている。

 

エンデを倒した時、それはカウントされるのだ。

 

人類滅亡の刻が刻まれる…

 

 

「御使い共も何処で暗躍しているかは解らん…皆も注意せよ。」

「今日まで此方に手を出していない事自体が不自然ですね。」

「あの日、ソルの目覚めと同時にソルの鍵となった私達に手を出しにくくなったせいもあります。」

「私達が抑止力になっている…って事?」

「疑似的とはいえ、ソルの力を開放した時だけ私達は高次元生命体と同じ状態になる。」

「…奴らと同じか。」

「言葉通りです。」

 

 

アイムやセツコ、尸空の疑問に対してハスミが答えた。

 

それが御使いやバアルを食い止める抑止力となっている。

 

問題はソルの力を使い続ければ…

 

私達はヒトには戻れないだろうと。

 

 

「決断すべき時が来た時、俺達は決めなければならない。」

 

 

アウストラリスも察してしまっている。

 

この戦いの先に待つ私達の末路を…

 

私達が往くべき道が決定してしまった事を悟った。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃、リモネシア共和国国内。

 

ZEXISの滞在許可が下りている指定区域。

 

そこで話す絹江とルイスの姿があった。

 

 

「ルイスちゃん、本当にいいの?」

「もう決めました。」

 

 

民間人でありクーデターに巻き込まれただけのルイス。

 

あのまま軌道エレベーターに居れば、被害者として元の生活に戻れただろう。

 

だが、事情を聞いた以上は彼女も自分の意思で決めたのだ。

 

 

「ブラックリベリオンの時、カレンの怒りを聞いてずっと悩んでいたの。」

 

 

故郷を人としての尊厳を奪われた人の気持ちを考えた事があるのか?

 

いざ、自分達が同じ立場に晒された時にそう言ってられるのか?

 

 

「私、ブリタニア・ユニオンで偏見とかそう言うのに全然眼を向けなかった。」

 

 

沙慈やお姉さんがハーフだからって理不尽に八つ当たりされているのを見ていたのに…

 

ニーナと同じで怯えて何も知ろうとしなかった…

 

 

「ううん、世界の在り方に眼を向けていなかったの…自分の幸せばっかりで。」

 

 

財閥の一族と言う立場があった為に何不自由なく生きて来たから…

 

世界が抱える闇を知ろうとしなかった。

 

 

「私、沙慈を救いたい……私に出来る事があるならやりたいの!」

「ルイスちゃん、ありがとう。」

「…絹江さん。」

「一緒に沙慈を救いましょう。」

「はい。」

 

 

ルイスは沙慈を絶対に救うと言う証として長かった髪を切った。

 

彼女の何も知らない少女だった証との決別を込めて…

 

配役を変えてイグジスタンスとZEXISの戦いは激化する。

 

新たな仲間達と共に戦うべき敵へ向かうのだった。

 

 

=続=

 



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第百二十二話 『紡想《ツムグオモイ》』


誰もが願う想い。

紡がれた想いは一つへと向かう。




 

メメントモリ騒動から数か月が経過した。

 

今回の様に報告が出来なかったのも色々と立て込んでいた事が原因だ。

 

水面下で行動を行っていたギャラクシー船団、イノベイトに取り込まれたアロウズ残党、ムゲ・ゾルトバス。

 

アンチスパイラル、インベーダー、ゲシュタルトことザール星間連合が一手に動き出したのだ。

 

よっぽど地獄すら生温い…手痛い目を見たいらしいので部隊編成を行いZEXISへ援助を行った。

 

結果、再世戦争で主な勢力はその威力を失い敗退していった。

 

 

まずアロウズは此方側での世界での地球連邦軍によって逮捕され数多くの余罪と共に解体の道を辿った。

 

史実とは異なる方法。

 

沙慈・クロスロードに代わりルイス・ハレヴィがOO・ライザーに搭乗し刹那を補助。

 

逆にイノベイトに洗脳され、レグナントに搭乗させられた沙慈を救うべく奮闘。

 

ユーサー皇子の協力もあり、尽きぬ水瓶の力を発動。

 

相乗効果で引き起こされた真のGN粒子の拡散。

 

これによりイノベイトの放った制御ナノマシンを沈黙させ、沙慈を救助した。

 

サージェスもダブルロックオンの奮闘で遭えなく撃沈した。

 

さよなら、消臭デオドラントスプレーを貴方の墓前にでも供えて置こう。

 

リボンズに関してはキッチリ刹那が引導を渡したので、ヴェーダの奥に居るオリジナルが暴走しない限りは引っ込んでいると思われる。

 

 

ギャラクシー船団は和解の道があると判断されたバジュラを操った事で敵対勢力と見做され殲滅。

 

生き残りも軒並み捕縛され、処罰を待つだけだった。

 

イツワリノウタヒメ?サヨナラノツバサ?させるかボケぇ!!と言いたい。

 

 

アンチスパイラルは一度だけ動きを見せたが…

 

ガイオウやアウストラリスの姿を見るや姿を消してしまい、その後の行方は掴めていない。

 

螺旋王の娘・ニアに関しては特に変化はなく…シモンと慎ましく行動している。

 

え?X-Ωネタが降臨しちゃった系ですか?と言って置く。

 

 

インベーダーは覚醒した竜馬やゴウ達の奮闘もあり、此方側に転移していた奴らは殲滅。

 

但し、早乙女博士と言う犠牲は免れなかった。

 

スフィアの力を使えば、助けられた。

 

だが、博士はそれを拒否した。

 

長い一言で言えば“終焉の銀河の為に旅立った”としか言えない。

 

コーウェンとスティンガーの奴らも手駒を失った以上、補充が済むまでは動けずにいるだろう。

 

 

******

 

 

所変わって、アーカーシャの剣が安置された空間。

 

 

ゼロがブリタニア皇帝・シャルルと対峙していた。

 

ゼロの背後にスザクとC.C…何故かシュナイゼルと私ことハスミが立ち会っている。

 

理由は私達のゼロ・レクイエムルート妨害に伴い…

 

ブリタニア帝国が植民地とする全てのエリアで同時内乱が発生。

 

どうやら求めていた結果を出せなかった無限力からの厭らしい八つ当たりである。

 

 

現在、ZEXISとZEUTHに超合衆国が内乱を抑えている状態。

 

イグジスタンスもこれに介入している。

 

その中で神根島へ向かったシャルルを追い込むべくゼロ達が向かったのである。

 

V.Vに関しては既にコードを奪われて戦死。

 

これはマリアンヌに扮したエンデの思惑だろう。

 

エグイ位にシャルルから絶望を取り込もうとしている。

 

どうやら、アル・ワースのタルテソス王国跡地から交信中の様だ。

 

 

長々しい話の後、史実通り…

 

シャルルは今を、ゼロが明日を、それぞれ求めた。

 

私は話の切りが良い所で、さり気無く伝える。

 

 

 

「シャルル皇帝、その隣にいる方は貴方の大切な人ですか?」

「愚問だな。」

「…本当にですか?」

「戯言を…マリアンヌは世の!?」

 

 

私はスフィアの力で真実を晒した。

 

シャルルの横にいるマリアンヌの本当の姿を見せたのだ。

 

 

「マリアンヌ…ではない?」

「…」

 

 

そこに居たのはマリアンヌの皮を被っていただけの得体の知れないナニカ。

 

エンデが生み出した偽物…マリアンヌの姿を投影しただけの影だ。

 

 

「成程、知りたがる山羊の力か…?」

「ええ、頃合いと思ったので。」

 

 

これにはゼロことルルーシュも納得した表情で答えた。

 

 

「シャルルよ、その化け物を母マリアンヌだと思うか!?」

「…」

「皇帝、貴方の愛した妃は既に喰われていたのです。」

「喰われた、だと?」

「この多元地球を生み出した存在……エンデによって。」

「陛下!?」

 

 

エンデの名を告げると同時に影に襲われるシャルル。

 

これにはシュナイゼルやスザクもC.Cも一足遅くシャルルは負傷した。

 

私は被害が拡大しない内に影を断ち切った。

 

 

「陛下!」

「…」

「シャルル…!」

 

 

シュナイゼルとC.Cが駆け寄るが、傷が深く手遅れである事は事実。

 

ただ一つ違う点があった。

 

それはルルーシュを庇った事だ。

 

あの影はルルーシュを狙っていた。

 

それに感づいたシャルルが庇ったのである。

 

ルルーシュは血反吐を吐くシャルルに問い詰めた。

 

 

「何故だ…?」

「今が明日へ…切り替わっただけの事…」

「っ!?」

「絶望…の明…日やも…しれん、ぞ?」

「それでも俺達は明日を求める…!」

「みずから、いばらのみちを、あゆむか…」

 

 

シャルルの不死のコードが機能していない所を見ると既に…

 

 

「ゆけ、ていこくは……おわる。」

「シャルル…」

「ルル…シュ…ナナリー…シュナ…イゼ…この場に居ぬ我が…子らよ…」

 

 

シャルルは最後の言葉を告げて息絶えた。

 

帝国の終焉と実の子供らへ幸あれと告げて…

 

 

「…父上。」

「ルルーシュ、陛下は崩御された。」

「ああ…」

「帝位継承権争いは免れない。」

 

 

このまま帝国が続けば、生き残った者達で利権争いが起こるだろう。

 

シュナイゼルはルルーシュに告げる。

 

 

「君はどうする?」

「…帝国を解体し共和国へ転換させる。」

「判った。」

「兄上、何故?」

「トレーズから君らの事は聞かされていた…後はルルーシュ、君次第と思っただけさ。」

「…(成程、兄上…貴方もまた記憶を。」

 

 

スザクとC.Cは今後の方針をルルーシュに尋ねた。

 

 

「ルルーシュ、このまま帝位を継ぐのかい?」

「それをするにも内乱を止めねばなるまい。」

「帝位を継いで、帝国自体を解体するのでいいのか?」

「ああ…黒の騎士団・ゼロにも一芝居売って貰う必要があるがな?」

 

 

ルルーシュの言いたい事は理解している。

 

晒していい真実と隠すべき虚偽。

 

彼もまた業を背負う覚悟を決めたのだろう。

 

 

 

「ゼロ、アーカーシャの剣をどうする?」

 

 

私は念の為、例の件をルルーシュに告げた。

 

 

「無論、ここを破壊する。」

「…ジルクニスタンの一件を抑える為?」

「ああ。」

「それでも止められなければ?」

「止めるさ、絶対にな?」

「…(相変わらず、アンジュといい勝負の悪顔だ事。」

 

 

私はアーカーシャの剣の件をゼロ達に託してその場を去った。

 

その後、内乱は収拾され。

 

ブリタニア皇帝の崩御を切っ掛けにブリタニア軍は停止。

 

シュナイゼルが指揮を執って帝国へエリアに分散した戦力を引き戻した。

 

事後処理はシュナイゼルが行い、帝国解体を皇族へ戻ったルルーシュが進めるだろう。

 

これで再世編の戦いは終わりを迎える。

 

残るは暴食の獣だけだ…

 

 

=続=

 





目覚めた暴食の獣。

鉄の器に収められた悪意を断ち切る為に。

戦士達は集結する。


次回、幻影のエトランゼ・第百二十三話『暴獣《エンデ》』


戦い抜け、最終審判の日は近い。


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