社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ (スパークリング)
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クロノスを喰らうもの
Part.1


 はい。皆さんおそろいのようですので始めてまいります。TRPG【クトゥルフの呼び声】のセッションを始めます。

 

「「「「「うぇーい」」」」」

 

 プレイヤーは5人。シナリオはクトゥルフ神話TRPGやろうず、青いくら様が作成された【クロノスを喰らうもの】です。少しだけアレンジが入っていますが、ほとんど同じです。気になる人は調べてみてください。と言っても結構有名なシナリオなのでご存じの方も多いと思いますが。

 さて、そんな有名なシナリオに関わらず知らなかったあなたたちに一言。今回のシナリオは難易度が高いです。ぶっちゃけ殺す気満々です。

 

「マジか」

 

 あなたたちも何回もクトゥルフをやっているのですから、たまには殺意に溢れているシナリオをやりたいでしょう?

 

「シナリオ背景と、推奨技能、推奨職業をプリーズ」

 

 舞台は現代日本。シティシナリオです。

 あなたたちはとある少年の依頼がきっかけとなり、大都会東京の暗部に渦巻く邪悪な陰謀を阻止し、そして闇に囚われてしまった1人の少女を追いかけていただきます。

 推奨職業はオーソドックスに【探偵】【警察】【記者】といったところでしょうか。だから技能もオーソドックスなもので大丈夫ですよ。ただ戦闘が発生しますので、戦闘キャラが最低1人はいることを強く推奨します。いつものハウスルールに則って自由に作ってくださいね。

 ハウスルールは《幸運》《アイデア》《知識》以外の技能値の上限は80で固定。そしてサプリメント【クトゥルフ2015】に記載されている特徴について。1つは自由に。さらに4の項……つまりバッドステータス欄から1D10で1つ、計2つの特徴を持ったキャラを作成していただきます。強制バッステ付与のため、60ポイントの技能ボーナスを付与します。

 それでは自らの分身となるPCを作成してください。

 

「「「「「はーい」」」」」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 ではPL1から自己紹介よろしくお願いします。キャラシートも公開しますよ。

 

「私は古美門研介だ。事務所兼自宅で探偵業を営んでいる」

 

 

古美門 研介

性別:男 年齢:38歳

職業:私立探偵 特徴:前職 夜に弱い

STR:13 《幸運》65    《言いくるめ》80 《忍び歩き》72

CON:18 《アイデア》75  《鍵開け》70   《説得》75

POW:13 《知識》90    《心理学》65   

DEX:10 《母国語》90   《追跡》63

APP:15 《回避》16    《信用》80

SIZ:8  《耐久力》13   《法律》75

INT:15 《MP》13    《隠す》70

EDU:20 《DB》0     《隠れる》70

SAN:65 《年収》5000万 《聞き耳》75

 

 

 探偵なんですか? 弁護士じゃなくて?

 

「推奨職業が《探偵》なのだろう。だからだ。探索系キャラに仕立てたぞ」

 

 確かにあの古美門なら探偵業もこなせそうな気がしますね。ですがその割には《目星》も《図書館》も初期値なんですが?

 

「はははおかしなことを聞くなGM。これはTRPGだあテーブルロールプレイングゲームだあ。《目星》も《図書館》もロールプレイと他の技能でいくらでもカバーできる。だから私はそのふたつは取らんのだあ。それで振るのも最後の手段と考えている」

 

 そういえばあなたは探索型のキャラを作る時はいつもそうでしたね。

 年収5000万の探偵……ああ、だからその名前にしたんですか。

 

「金さえあればどんな依頼も全て解決させてみせよう」

 

 転職して探偵になったらしいのですね。前職は何ですか?

 

「警察官だ。キャリア組だったが上層部との掛け合いが面倒臭くなったから退職した。ただ上手いこと言いくるめて退職したからいがみ合っているようなことはない」

 

 わかりました。所持品も特に問題なしです。ではPL2の自己紹介です。

 

「あたしは星熊勇儀だ。古美門に雇われた用心棒。住み込みで世話になってるよ」

 

 

星熊 勇儀

性別:女 年齢:30歳

職業:用心棒 特徴:格闘センスの持ち主 目つきが悪い

STR:15 《幸運》65    《こぶし/パンチ》75  《キック》75

CON:13 《アイデア》55  《隠れる》55      《頭突き》50

POW:13 《知識》75    《忍び歩き》55

DEX:16 《母国語》75   《心理学》45

APP:12 《回避》65    《マーシャルアーツ》78

SIZ:11 《耐久力》14   《鍵開け》44

INT:11 《MP》13    《拳銃》58

EDU:15 《DB》+1D4  《変装》75

SAN:65 《年収》1000万 《組みつき》75

 

 

 バリバリの戦闘型キャラですね。

 

「ああ。戦闘キャラを作りたかったからな。STRが高いからこれにした」

 

 持ち物も特に問題はないですね。強いて言うなら45口径のオートマティックくらいでしょうが、まあ用心棒ですし問題ないでしょう(?)。年収1000万の用心棒とはさすが古美門に雇われるだけありますね。

 

「優秀な人間に大金を支払うのは当然の義務でありマナーでありこちらが目の見える形で表すことのできる最大限の感謝の気持ちだ。金があるから金も人も集まってくるのだよ」

 

 御尤も。ではPL3、自己紹介をお願いします。

 

「私は十六夜咲夜。古美門の事務所に住み込みで勤めているメイドです」

 

 

十六夜 咲夜

性別:女 年齢:28歳

職業:メイド 特徴:投擲の才能 方向音痴

STR:17 《幸運》50    《説得》52   《ナイフ》70

CON:10 《アイデア》80  《応急手当》80

POW:10 《知識》80    《聞き耳》40

DEX:16 《母国語》80   《製作》80

APP:13 《回避》80    《精神分析》76

SIZ:12 《耐久力》11   《経理》80

INT:16 《MP》11    《目星》40

EDU:16 《DB》+1D4  《投擲》70

SAN:50 《年収》1000万 《隠す》60

 

 

 古美門あなた住み込み美人女性多くないですか?

 

「言っているだろう、私は金持ち、しかも優秀な探偵だぁ。あと星熊くんも十六夜さんも表向きは探偵事務所の従業員だつまり社員だ。優秀な人材をスカウトして何が悪い。それに」

 

 それに?

 

「こうすればシナリオに導入しやすいだろう?」←APP15イケメンスマイル

 

 それもそうですね(感動)。

 ええっと咲夜のステータスは……キャラ的には戦闘もできるサポートキャラですか。持ち物は……このファイティングナイフ6本ってなんですか?

 

「私は十六夜咲夜です(?)」

 

 それなら問題ないですね(?)。

 

「そうですGM」

 

 なんですか?

 

「私は十六夜咲夜です」

 

 はい、存じ上げています。

 

「特殊能力として時間停止と時間加速を認めてください」

 

 いいですよ。ではダイスを振る度にティンダロスの猟犬に遭遇するかの判定を――。

 

「はい、やっぱり結構です」

 

 ではPL4どうぞ。

 

「俺は不動遊星。ドライバーだ」

 

 

不動 遊星

性別:男 年齢:39歳

職業:ドライバー 特徴:プロ・ドライバー 寄せ餌

STR:9  《幸運》55    《運転》80    《電子工学》57

CON:10 《アイデア》70  《機械修理》72  

POW:11 《知識》75    《聞き耳》48   

DEX:17 《母国語》75   《重機械操作》60

APP:10 《回避》34    《電気修理》73

SIZ:13 《耐久力》12   《ナビゲート》80

INT:14 《MP》11    《コンピュータ》75

EDU:15 《DB》0     《目星》48

SAN:55 《年収》1200万 《追跡》80

 

 

 ど、ドライバーですか?……あ、この年収。

 

「私が雇っている」

 

 ですよね。

 

「ちなみに住まわせてはいない。女はともかく野郎は住まわせん」

 

「というわけだ。俺はこいつが呼び出せばいつでも車を出す。それからパソコン系も強く、たまに……というかしょっちゅう古美門に依頼されて監視カメラとか他人のパソコンとかをハッキングしている」

 

 所持品は……特に問題はないですね。では最後、PL5お願いします。

 

「ボクは京楽秋水。54歳の刑事だよ。階級は警部」

 

 

京楽 秋水

性別:男 年齢:54歳

職業:警察 特徴:鋭い洞察力 動物に嫌われる

STR:13 《幸運》55    《言いくるめ》80 《隠れる》50

CON:13 《アイデア》70  《聞き耳》75   《隠す》50

POW:11 《知識》90    《心理学》75   《追跡》40

DEX:10 《母国語》90   《説得》68

APP:12 《回避》75    《図書館》65

SIZ:10 《耐久力》12   《忍び歩き》50

INT:14 《MP》11    《目星》80

EDU:21 《DB》0     《信用》80

SAN:55 《年収》900万  《杖》75

 

 

 ステータス高いですね。万能型のキャラですか。

 

「うん。可もなく不可もない感じに技能を振ったよ」

 

 というか皆さん、年収が凄いですね。

 

「私は古美門だからな」

 

「その古美門に雇われているからな」

 

「同じく」

 

「同じだ」

 

「ボクは警部だからねぇ」

 

 まぁ、いいでしょう。それではシナリオ始めまーす。

 

「「「「「はーい」」」」」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 現在朝の9時くらいです。

 まずは古美門のシーンから。事務所に居ますか?

 

「ああ。デスクに向かって仕事をしている。高級な紅茶を飲みながらだ」

 

 勇儀と咲夜、遊星はどうしますか?

 

「あたしは事務所の隅っこにあるソファに瞑目しながらどっかりと座っている。仕事中のつもりだ」

 

「私は事務所のパソコンに向かって仕事をしています。メイド服を着ながら」

 

「俺は事務所にいない。自宅で新しいソフトを作っている」

 

 さいですか。ではあなたたちがいつも通り(?)仕事をしていますと、事務所のチャイムが鳴ります。

 

「お客様でしょうか、私が出ます」

 

「あたしは閉じていた目を開く」

 

「私は気にせず仕事を続ける」

 

 咲夜が玄関を開けますと、そこには1人の少年がいました。

 

「いくつですか? どんな少年ですか?」

 

 ウニのようなツンツンした髪形をした三白眼をした16歳の少年です。年の割には大きな体格をしていますね。SIZが14もあります。しかし顔立ちにまだ子供っぽさが残っています。

 

「上条さんですか。ではその上条さんは今、どんな服を着ていますか? 外傷はありますか? どんな様子ですか?」

 

(質問多いなぁ)服はありふれたもので普通に入手することができるでしょう。外傷も見たところ確認できません。様子に関してですがこれは《心理学》を振るまでもないですね。まるで藁にもすがるような感じの落ち着かない様子です。あと上条さんではありません。

 

「背が高いですね、見上げながら男の子に声をかけましょう。どうしましたか?」

 

 すると少年はあなたを見て言います。

 

「ここが古美門探偵事務所ですか?」

 

「はい。私は使用人でございますが。どうかいたしましたか?」

 

「あ、あのっ! そのっ!」

 

「おおっと、GM。ここで技能振っていいですか?」

 

 え、ここでですか?

 

「《精神分析》を男の子にかけます。落ち着いていないようですので冷静にさせましょう。さらに《APP》ロールも使用します。両方成功でこの男の子からの信頼を獲得させてください」

 

 ふむ……16歳の少年に対しての、メイド服を着た年上の美人さんによる《APP》ロール+《精神分析》ですか。いいでしょう。認めます。

 

 咲夜 《精神分析》76 → 24 成功

 咲夜 《APP》13×5 → 61 成功

 

 では両方成功により、少年は冷静さを取り戻しました。さらに1D100をどうぞ。

 

「(コロコロ)……87」

 

 ではあなたが少年に対して《信用》ロールを行う場合、+87パーセントの補正をかけます(真顔)。

 

「つまり自動成功になるんですね。言ってみるものです。さて、軽く落ち着かせたところで事務所の中に案内しましょう。どうぞ、こちらです」

 

 では少年は咲夜に案内されるままに事務所の中に入りました。

 

「あたしは咲夜が連れてきた人間を見ることができるか?」

 

「出来ると思いますよ。もうリビングまで案内しましたから。まだソファに座らせていませんが」

 

「じゃああたしはそいつを見る。GM、咲夜が連れてきた少年のSTRは?」

 

 11ですね。

 

「平凡だな。わかった。じゃあ警戒はそのままにするが、武器を構えたりはしない」

 

「古美門先生に声をかけましょう。先生、お客様ですよ」

 

「ではデスクから目を十六夜さんの方に向ける。そして隣の少年にも視線を送る。……なんだ十六夜さん、子供じゃないか。お引き取りいただきたまえ」

 

「なっ……」

 

「ですよね。古美門先生ですからね」

 

 少年は古美門の門前払いを喰らって一瞬固まるものの、すぐに問い詰めてきます(よかった……あのとき咲夜が《精神分析》をかけてなかったらすごく面倒くさいことになってた)。

 

「な、なんでだよ! まだなにも――」

 

「じゃあ聞くが、何でここに来た? 依頼内容を聞いているんじゃないぞ。なぜこの探偵事務所に来たのかを聞いているのだ」

 

「そ、それは……インターネットで調べて――」

 

「GM、こいつのINTはいくつだ? 数字次第で私の言葉は変わる」

 

 9ですね。

 

「インターネットで調べてきたのならわかるだろうが、物覚えが悪そうな君のために私が速攻でお断りした理由を丁重に教えてやる。いいか? 私は確かにどんな依頼も受けるしどんな依頼も完遂する名探偵だぁだがしかぁし! 私に限らず優秀な人間を雇い動かすにはそれにふさわしい対価を支払ってもらう必要が出てくる。具体的に言うと金だぁ。一応聞いておこうか、君は一体いくらで私を雇おうとしている?」

 

「ご、5万――」

 

「はぁーっ、お話にならんね! たったの5万でこの私を使おうというのか? それともこの私がはいわかった喜んでと快く承諾すると本気で思っているのかぁ? だとしたら驚きだぁ! 新発見の人種だあ! 今すぐ研究所に自己申告して人体実験の被検体となるがいい。緩むどころか吹っ飛んでしまったその脳内お花畑な頭のネジがバージョンアップして戻って少しはマシになるだろう。それで稼いだ金を持って再びここに来たまえ」

 

「こいつさすがだわ。だがそこがいいねい。ある意味まっすぐだ。ぶれがないところに好感が持てるよ。少年には気の毒だろうがねい」

 

「完璧なロールプレイにほれぼれしますが、このままではシナリオが始まりませんね。GMの胃に穴が開いてしまいますので仕方ありません。先生に対して《説得》を使います。主人への使用ですので+10パーセントの補正。62パーセントですね」

 

「おっと十六夜さんダイスは振らなくていいぞ。ロールプレイで説得してみせたまえ」

 

「先生。大金の定義は人によって変わります。先生は先程ふさわしい対価を差し出せと申し上げました。確かに5万円は先生にとってははした金かもしれません。しかし、この子の場合はどうでしょう。失礼ですが、歳はいくつでしょうか?」

 

「じゅ、16歳です……」

 

「高校1年生ですね。高校生といえば、お金を使って色々な物を買いたくなる衝動が強くなる年頃です。男の子ですし、友達と遊びたい気持ちもそれなりに強いことでしょう。しかし、この子はそれを我慢して恐らくバイトして仕事もしたのでしょう。そうして手に入れた5万円なのです。この子にとっては5万円とは大金です。人生に3年しかない高校時代の貴重な時間と1人でここに来た覚悟も含めれば充分、相応しい対価を払っているとこの咲夜は考えております。それでもお気に召さないのであれば、私がこの子の依頼を受けましょう。その間の先生への給仕は、申し訳ございませんが休業させていただくことに――」

 

「いいだろう少年依頼内容を聞かせたまえ。私は応接用のソファに移動して座る。十六夜さんの家事がなくなるのは流石にヤバい」

 

「そこに反応したのかい。あたしは警戒を解いて目を瞑る」

 

「ありがとうございます。さぁ、あなたも座りましょう。大丈夫ですよ。先生は一回引き受けた依頼はどんな理由でも投げだしたりはしませんから。と男の子に向かってにっこり微笑みます」

 

(……ほっ。ナイス咲夜)では少年は古美門の正面のソファに恐る恐る座りました。

 

「私は男の子の隣に座りましょう」

 

「さて、受けるのはいいがまだ私は君の名前を知らない。名前は?」

 

「あ、秋口。秋口理人……です」

 

「理人くんか。さて、まずは依頼料を差し出してもらおう」

 

 では理人はポケットの中からお札やら小銭やらを丁寧に出します。数えると丁度5万円あることがわかります。

 

「私が数えましょう。……先生、確かに5万円頂戴しました」

 

「ふん、まぁいい。それで、どんな依頼だ? これで近所の猫探しとかだったら怒るぞ」

 

「ね、猫探しじゃない。人探しなんだ。リコを……リコを探してほしいんだ」

 

「リコ? リコとは誰だ?」

 

「リコはリコだ」

 

「こいつ調子に乗って――」

 

「私が対応します。この子からの《信用》値は最大ですからね。えっと理人くん、そのリコちゃんの苗字を教えてくださいな」

 

「それはその……結構昔のことだし、俺もリコとしか呼んでいなかったから覚えがないんだ」

 

「それだけじゃあ手掛かりが少なすぎますね。そうですね。理人くんとリコちゃんの関係を教えてください。昔仲が良かった関係なのでしょう? どこでどう出会ったか、覚えている範囲で教えてください」

 

「実は俺……今は養子になっているけど、小学生に上がるまで児童養護施設で育った孤児だったんだ。リコともそこで知り合ったんだ」

 

「おっと……ゴメンなさい。ちょっと踏み込み過ぎましたね」

 

「い、いやそんな……もう気にしていないから。リコはなんというか、お姉ちゃんみたいな存在だった。結構慕っていたんだ。でも気付いたら忘れていて、最近になって思い出して会いたくなったんだ」

 

「そうだったんですね。その児童養護施設はなんていう施設なんですか?」

 

「埼玉の所沢にある【ぬくもりハウス】っていう施設だ」

 

「【ぬくもりハウス】ですか。そこにはもう連絡しましたか?」

 

「ああ、したよ。でももう施設を出た後だったんだ」

 

「ですからここに来たんですね。わかりました。それだけの情報があれば充分ですね。あとは顔写真を撮らせてください。聞き込みするのに使えるでしょう。理人くん。あなたの写真を撮らせてください。リコさんを探す手掛かりになります」

 

「あ、はい。それなら」

 

「パシャ。これで良しです。さて他に訊きたいことはありますか、先生」

 

「ああ、あるぞ。理人くん、君は【ぬくもりハウス】に問い合わせた際、そのリコちゃんとやらがどこの家に引き取られたかを聞かなかったのか?」

 

「……あ。そういえば聞いてない……」

 

「よしオーケー。聞きたいことはそれだけだ。もし聞いていて職員たちもわからないとなったらかなり厳しいからな。聞いていなかったのならそれはそれでいい。あとは特に聞きたいことはない」

 

「理人くん。あとは私たちに任せてください。大丈夫です。リコちゃんは私たちが必ず見つけてみせます。安心なさい。GM、私は最後に理人くんから携帯電話番号だけを聞いて家に帰します」

 

「ああ。それがいい。ついてきてもこっちが困るからな」

 

 わかりました。では理人は「お願いします」と頭を下げて事務所から出て行きました。

 

「なんだかずっと十六夜さんが喋っていたような。そして星熊くんがほとんど空気だったな」

 

「まぁあの場では完全に私がロールプレイしたほうが楽でしたからね」

 

「あたしはあくまで用心棒だからな。ただ古美門が調査に動くのなら、あたしも付いていって手伝うぞ。と言っても探索技能は軒並み初期値なんだけどねい。はっはっは」

 

 はい。では探偵組の導入はここまで。次は京楽のシーンです。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.2

 古美門達よりも少し時間が経って今は午前10時、えーあなたは警視庁でも特殊な任務に就く凄腕刑事です。

 そんなあなたがいつものように仕事をしていますと、あなたの上司にあたる人物から声をかけられます。

 

「京楽くん、ちょっといいかな」

 

「んー? あーはいはい。おつかれさまぁ。どうかしたんだい?」

 

「君にはとある組織の調査をやってもらいたいんだ」

 

「はいはい。んで、その組織ってどんな組織なの?」

 

「……思ったのだがね」

 

「なんだい?」

 

「私は君の上司だよ? 上司なんだよ?」

 

「知ってるよぉ?」

 

「その……敬語とか、態度とか、ね?」

 

「まあまあ、そんな堅いことは気にしなさんな。一緒に酒を飲む仲じゃないの」

 

「……まあいい。話を戻すぞ。今回君に調査して欲しいのはここだ」

 

 と言って上司はあなたに1枚のチラシを差し出します。

 

「受け取って見る。なんのチラシかな?」

 

 NPO法人【クロノスの光】のチラシですね。

 

「チラシからわかることは?」

 

 【クロノスの光】の住所と連絡先、責任者名、そして『未来のために今を生きる子供たちのために』というキャッチコピーが書かれていますね。

 

「もっと詳しく知りたい。どれ、《知識》で振ってみようかね。もしかしたらテレビやらなんやら、はたまたよからぬ噂話が流れているのかで知っているかをチェックする」

 

 京楽 《知識》90 → 63 成功

 

 では京楽は【クロノスの光】について一般常識の範囲で知っていました。

 【クロノスの光】は教育機会の均等化・教育に関する所得格差の根絶を唱え、恵まれない子どもたちに高等教育を提供するNPO法人のことです。貧困層ながら【クロノスの光】で勉学を修め、大学で博士号を取得するまでに至った子供の話がノンフィクション番組で取り上げられたことが記憶に新しいです。

 

「ああ、多分ボクはその番組を見ていたんだね。なんかマズい噂とかあるのかな?」

 

 京楽の知る限りはないですね。

 

「そうかい。じゃあロールプレイに戻ろう。【クロノスの光】かい。最近テレビにも取り上げられたNPO法人じゃないの。ここがどうかしたのかい?」

 

「先日奥多摩の山中で小学生の首吊り死体が上がったろう?」

 

「こう聞かれているってことはボクも知っているんだね。普通にニュースを見ていたら知ることができる情報かい?」

 

 はい。ただし首吊りのことは伏せられ、事件性はなく自殺であると報道されています。

 

「ということはボク以外のPCたちも知っている可能性があるということだね。続けよう。ああ、本当嫌になりますよねぇ。まだ小学生の子供が……。で、それとこの団体がどう関係しているんだい?」

 

「それがな。亡くなった児童が通っていた学校がここ、【クロノスの光】が経営する学校だったんだよ」

 

「……ほう」

 

「君には死亡した児童の交友関係と、【クロノスの光】そのものについて調べてほしいんだ」

 

「自殺じゃなかったのかい? ボクはその件に関わっていないから詳しくは知らないけど」

 

「報道には自殺と発表したが、他殺の可能性も実はあるんだ。ここだけの話。私たちは【クロノスの光】が何かヤバいものに関わっていると睨んでいる」

 

「その根拠は?」

 

「後で資料を送るからそれに目を通してくれ。そうしたら君もわかるはずだ。この事件の不審なところにな。資料に書かれていないことで気になることがあったらいつでも連絡をよこしてくれ。私の知っている範囲ならすぐに答えるし、そうでなければ私たちも調べよう」

 

「ふーん。いいよ、やろうか。すぐに資料を手配して欲しい」

 

「わかった。気を付けるんだぞ」

 

 というわけで京楽のシーンはお終いです。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 チーム古美門のシーンに移りましょう。3人はどうしますか?

 

「【ぬくもりハウス】について調べるぞ。まずはパソコンだ。ホームページくらいあるだろ?」

 

 ありますね。でも特にこれといった情報はありません。どこにでもある児童養護施設と同じようなホームページですね。

 

「じゃあ内容は確認しなくていい。住所と電話番号だけ頭に叩き込む。【ぬくもりハウス】に出発だ。遊星を呼ぶぞ。電話をかける」

 

「電話に出よう。古美門か。どうした? 仕事か?」

 

「そうだ仕事だ車を出せ」

 

「了解。10分持っていてくれ」

 

「よし。遊星が来るまで待つぞ」

 

 じゃあ10分後。

 

「ようやく俺の登場か。インターホンを鳴らす」

 

「きっかり10分。遊星だな。私が直々出よう。ガチャ。やあ遊星くん待っていたよ」

 

「久しぶりの仕事だ。どこに行く?」

 

「埼玉県の所沢だ。【ぬくもりハウス】という児童養護施設に向かう」

 

「それはまた……微妙に遠い距離だな。車で1時間といったところか」

 

「だから君に来てもらったんだ。いざとなったら調査協力もしてもらうぞ。金は弾む」

 

「毎度ありだ」

 

「で? そういえば遊星くん、どんな車で来たんだ?」

 

「新型のトヨタセンチュリーだ。しかもギリギリ合法な改造を色々して凄いことになっているぞ」

 

「素晴らしい。私に相応しい車だ。十六夜さん、星熊くん、行くぞ。私は後部座席右側に座る」

 

「遊星さん、こんにちは」

 

「ああ咲夜。どこに座る?」

 

「私は助手席に座りましょう。あ、GM。私はファイティングナイフを6本持っていきます」

 

 《隠す》で判定してください。

 

 咲夜 《隠す》60 → 09 成功

 

 では上手く隠せました。

 

「これで戦えますね」

 

「あたしも拳銃を持っていこうか。ただ《隠す》を取っていないから、こちらで上手く隠すとしよう。足首にあるホルダー内に入れる。スーツを着ているから見えない。《隠す》を使わくてもいいよな?」

 

 具体的に説明して頂けたのでいいですよ。

 

「よし。じゃあ私は古美門の隣だ。よう、遊星。久しぶりだな」

 

「そうだな勇儀。久々の仕事だ。俺にできることならほとんどなんでもするぞ。みんな乗ったな。じゃあ俺も車に乗る。出発だ」

 

 では1時間かけて、あなたたちは埼玉県所沢市にある児童保育施設、【ぬくもりハウス】に到着しました。

 

「車を【ぬくもりハウス】の門の前に停めよう」

 

「車の中から【ぬくもりハウス】の敷地内を見渡す。【ぬくもりハウス】は今どんな感じだ? なにか目に見えて分かるほどの異変はあるか? 《目星》は必要か? 必要なら使わない範囲でわかることを教えろ」

 

 《目星》は必要ありません。普通に見渡してみたところ特に変わった様子はありませんね。住宅街から少し離れたところにあるそこそこ大きい施設の中からは児童たちの楽しそうな声が聞こえてきます。

 

「なら《聞き耳》かねい? 普通に楽しそうな声かい? それとも何かヤバい感じの、完全に薬をキメてしまっている感じの声かい?」

 

 普通に年相応の遊びをして楽しんでいる声ですね。追いかけっことかだるまさんが転んだをしているとか。

 というかあなたたちは門の前にいるんですよね? だったら車から降りて普通に敷地内を覗けばどうです? 子供たちが楽しそうに遊んでいる光景が見ることができますよ?

 

「《目星》や《聞き耳》をするまでもなく、この施設は大丈夫そうですね」

 

「よし、【ぬくもりハウス】に入ろう。遊星くん、君は待っていてくれたまえ。いざとなったらすぐに逃げられるように。あとは入り口から誰かでてこないかの監視だ」

 

「わかった。いつでも出せるようにしておこう」

 

「あたしは古美門についていく。用心棒だからな」

 

「私もついていきます」

 

「よし。じゃあ施設内に乗り込むぞ」

 

 ではあなたたち3人が【ぬくもりハウス】の敷地内に入りますと、楽しそうに遊んでいた子供たちはあなた達を見るなり不思議そうに首を傾げています。

 

「ああ。大の大人3人が入ってきたらそうなるな。車の中にいる俺はともかく、おまえらは色々と濃い面子だしな。そういえばおまえたちはどんな格好をしているんだ? 俺は原作遊星の私服に白衣を着ている」

 

「私はスーツだ。ダル・ク○ーレの一張羅だ」

 

「私もスーツだ。サングラスもしている」

 

「私はメイド服です。主にナイフを隠せるように改造されています」

 

「みんな濃すぎだろう!」

 

「いや原作遊星の恰好をしている上に白衣着ているおまえもなかなかに濃ゆいぞ」

 

「というか勇儀さん、あなたはサングラスかけているのですか?」

 

「目つきが悪いからな。誤魔化しているんだ」

 

「悪化しているような気がするがまあいい。私たちはこのまま堂々と施設に向かおうではないか」

 

 ではそんな怪しさ満点のあなたたちが施設に向かって歩いていますと、子供たちと遊んでいたひとりの施設の職員女性が話しかけてきます。あなたたちが確認できる限りでは一番年を取っている印象の女性です。と言っても30代前半くらいの見た目ですが。

 

「えっと。あなたたちは……」

 

「おっと失礼。我々はこういうものです。名刺を胸ポケットから取り出して職員女性に渡す。GM、私の《信用》は80ある」

 

 はい。存じ上げています。

 

「つまり私は世間に知られている探偵であり、そこそこの知名度を持っているということだ。《信用》に成功したら職員からのある程度の信用を獲得させてくれ。加えて《APP》ロールだ。《APP》15のイケメン力はフルに活用しないとな」

 

 許可します。《信用》と《APP》でどうぞ。判定結果次第で女性職員の態度が変わります。

 

 古美門《信用》80 → 32 成功

 古美門《APP》75 → 60 成功

 

「探偵……ああっ、あの古美門研介ですか!? 名探偵の!?」

 

「私のことをご存知とはあなたは男を見る目があるようだ。どうもはじめまして、私が探偵の古美門研介です」←APP15イケメンスマイル

 

「本物だ……。あ、ではそちらの方たちは……」

 

「用心棒だ」

 

「メイドです」

 

「答えになっていそうでなっていないような気がしますがいいです。そ、それで、あの名探偵がどうしてこのようなところに?」

 

「よし。両方成功で脈絡するのに手古摺らずに済んだな。十六夜さん、写真を」

 

「はい。理人くんの写真を表示してスマホを先生に渡します」

 

「スマホを受け取りつつ職員と話を続ける。私たちはとある人間を探しています。と、そうです。この少年に見覚えはありませんか? と写真を職員に見せる」

 

「んー(コロコロ)……ん!? も、もしかして理人くんですか!? 秋口理人くん!?」

 

「ご存知でしたか」

 

「ええ。私がここに来たときに丁度入ってきた男の子ですから、よく覚えていますよ。顔もあんまり変わっていませんし、この特徴的なツンツン頭……ふふ、あのときといっしょだ」

 

「最近、理人くんから連絡は来ませんでしたか?」

 

「ええ。何か月か前に1回だけ電話がありましたね。……あの、理人くんの身に何かあったのですか?」

 

「いえ彼の身にはなにも。ただ彼が私を雇った依頼人でしてね。リコ、という少女を探しているのです」

 

「ああ、理子ちゃんですか。電話でも言ってました。理子ちゃんはいないかって? お姉ちゃんのように慕っていましたからね理人くん。多分思春期になって、会いたくなったんでしょうね。……少し話が長くなりそうですし、こちらへどうぞ」

 

 と言って職員女性はあなたたちを案内しようとします。

 

「私は施設に乗り込む。立ち話なぞまっぴらごめんだ。職員女性についていくぞ」

 

「古美門が行くならあたしもついていくぞ」

 

「私も行きます」

 

「俺は車で待機し続ける。見張りを続けよう」

 

 では遊星を除いた3人は職員女性に連れられて【ぬくもりハウス】内に案内されます。

 【ぬくもりハウス】はどこにでもあるような養護施設と同じような作りになっており、特に変わった様子はありません。すれ違いざまに出会った職員たちも子供たちも、温かな笑顔を浮かべて挨拶してきます。

 しかし数いる子供たちの中には、顔や脚、腕などに何かで焼き付けられたような跡や、具合からして古い傷が目立つ子供もいました。

 

「歩きながら女性職員に小さな声で話しましょう。あの、子供たちの傷は一体……」

 

「……ここにいる子供たちは、みんなここに預けられているわけじゃないんです。みんな、捨てられたり、逃げてきたりして、ここに来たんです。みんな両親から酷い虐待を受けたり、邪魔者扱いされて虐げられたり……理人くんも理子ちゃんもそういう子供でした」

 

「そうでしたか……。申し訳ありませんが、詳しくお聞かせ願いますか?」

 

「はい。理人くんは『赤ちゃんポスト』に捨てられた天涯孤独の孤児。理子ちゃんは両親のみならず学校でもいじめを受けていて……顔だけじゃなく身体中至る所に酷い傷跡が残っていました」

 

「2人とも訳有りの子供だったんですなぁ。親による子供虐待は日本のみならず世界中で注目されている社会問題だ。こんなことを言ってはなんですが、そう珍しいことではない」

 

「それもそうですね。ですが容認できる問題ではありません。理人くんはまだしも理子ちゃんは虐待のせいで心にも深い傷を負ってしまって……と、すみません。長くなってしまいました」

 

「いえいえ、そんな。こちらこそ辛いことを思い出させてしまって申し訳ありません」

 

「本当に辛いのは私ではなく、理人くんや理子ちゃんのような子供たちですから。着きました。こちらです」

 

 と言って職員女性は『応接室』と書かれた部屋のドアを開けます。

 

「入ろう。GM、テーブルと椅子はあるな?」

 

 部屋の中央にテーブルがありますね。椅子は4つあります。

 

「では私は一番入り口に近い椅子に座ろう」

 

「私は先生の隣に座ります」

 

「あたしは部屋の隅っこに腕を組んで立っていようかねい。ここは大丈夫そうだが念のためにな。いざというときに戦闘準備さ」

 

 では数分経ちまして、あなたたちを案内した女性がお茶と1冊の分厚い本を持って戻ってきました。

 

「お待たせいたしました。えっと……あなたは座らなくてよろしいのですか?」

 

「うん? ああ、あたしは座らなくて大丈夫だよ。でもせっかくお茶を入れてもらったんだし、頂こうかねい。行儀が悪くてすまないねい。何分性分なもんでさ」

 

「あはは、大丈夫ですよ。零さないように気を付けてくださいね」

 

「ああ。気を付けよう。お茶を受け取って飲む。確認するが、古美門も咲夜もお茶に口は付けてないよな?」

 

「私は付けていない」

 

「私も付けていませんね」

 

「じゃああたしが最初だな。飲んでみた感じどうだい? なにか身体に異変はあるかい?」

 

 ないです。普通においしい紅茶だなぁ、と思うことでしょう。

 

「よし」

 

 さて毒見チェックをしてもらったことですし、お茶を置き終えた女性は古美門の前の椅子に座って分厚い本を捲ります。どうやらアルバムのようですね。

 女性は何かを探すようにアルバムのページを捲ると、ある1ページで手を止め、そこから1枚の写真を取り出してあなたたちに見せます。

 

「どんな写真だ?」

 

 1人の少年と少女を中心に、他の子供たちが楽しそうに遊んでいる写真です。

 中心になっている男の子の顔に、あなたたちは見覚えがあります。今でこそ成長して子供っぽさが減りましたが、三白眼と特徴的なツンツンした髪の毛から、この少年が依頼人である秋口理人くんであることがわかります。

 

「この写真。ここに写っているのが理人くん、そしてこっちの子が理子ちゃんです」

 

 女性が指差したのは、中心に写っている理人くんよりも年上らしき少女。

 薄く綺麗に笑っている本来ならばAPPが16相当の美少女ですが、その美しい顔の左半分が痛々しい火傷傷に覆われてしまっています。

 

「この子が理子ちゃんか。なぜこのような……事故かなんかですか?」

 

「事故なんてとんでもありません。……この傷は両親の虐待によるものですよ」

 

「……これは酷いな。根性焼きとかそんなレベルじゃない。流石の古美門も言葉を失うぞ」

 

「この傷のせいで理子ちゃんは学校でもいじめを受けて……本当、どうしてこんなに可愛くていい子が……。この写真が最初この施設にやってきたときの理子ちゃんです」

 

 さらに1枚の写真をあなたたちに見せてきます。

 顔半分がやけど傷に覆われた少女のその瞳に光はなく、まるで人形のような無表情です。

 

「ここに来たときにはもう目が虚ろで、喋りかけても薄い反応を示すだけで声も出すことができなくなってしまって……。でも! 理子ちゃん、理人くんや他の子供たちと触れ合っていく中でちょっとずつですけど、感情を取り戻すことができるようになっていたんです。ここを出て行くときにはちゃんと、笑えるようにもなっていました……」

 

「そうでしたか……それで、理子ちゃんを引き取った里親の住所と連絡先は?」

 

「はい。それが随分前に引っ越しをしてしまったらしく、今はどこにいるのかもわかりません。連絡先も変えてしまったらしくて、連絡も付かないのです」

 

「念のためにその連絡先と住所を教えてください」

 

「わかりました」

 

 あなたたちは理子を引き取った里親の住所と連絡先を入手しました。

 

「ありがとうございます。ちなみに里親の名前は?」

 

「祟道夫婦です。たしか叡史さんと智代さん……だったはずです。中年の夫婦でした」

 

「祟道夫婦、ですか」

 

 おおっと、その名前を聞いた古美門は《知識》で判定を。

 

「む?」

 

 古美門《知識》90 → 66 成功

 

 では古美門は『祟道智代』の名前に心当たりがあります。

 祟道智代は現都議会議員であり、NPO法人【クロノスの光】の代表を務める女性です。

 

「成程、新聞やらなんやらを日常的に読んでいる探偵の私なら知っていてもおかしくない内容だな。一般知識の範囲内の情報だけだとそれが限界か。あとで調べないとな」

 

「ここで【クロノスの光】が出てきたか。ボクの方と繋がったねえ」

 

「【クロノスの光】について私は知っているか?」

 

 祟道智代のことを知っていますから、【クロノスの光】についても知っています。

 

「よし、ロールプレイに戻ろう。……祟道智代だと?」

 

「? 心当たりがあるんですか、先生」

 

「現職の都議会議員だ。同時に【クロノスの光】とかいうNPO法人の代表も務める大物だ」

 

 咲夜 《知識》60 → 64 失敗

 勇儀 《知識》70 → 83 失敗

 

「【クロノスの光】、ですか?」

 

「恵まれない子供たちに高等教育を提供するNPO法人だ。最近テレビでやっていたろう? 貧乏ながら【クロノスの光】で教育を受けた結果、大学で博士号を取得したという子供の話が」

 

 咲夜 《アイデア》80 → 69 成功

 勇儀 《アイデア》55 → 22 成功

 

「……ああ。そういえばそんな話がありましたね。というか凄い人が里親だったんですね。職員さんは知らなかったんですか?」

 

「は、はい。全くそんなことは……」

 

「理子ちゃんがここから出て行ったのは何年前ですか?」

 

「確か理人くんが引き取られて数年経ったくらいですから……3年前くらいですか」

 

「そうですか。よし、これだけの情報が集まればもうここに用はないか。ご協力ありがとうございました、と頭を下げて私は車に戻る」

 

 では職員女性も頭を下げて挨拶をしてきます。

 

「あたしも古美門の後に続くかねい」

 

「私も車に行きます。……あ。写真、貰っていってもいいですか? この、理人くんたちと笑顔を浮かべている写真です」

 

(お、今回は咲夜がいい仕事をするな)。

 

「ええ。それくらいなら大丈夫です。持って行って構いませんよ」

 

「では拝借しましょう」

 

「車まで無事に戻れるか?」

 

 無事に戻れますよ。というか今ですから言いますが、ここは本当に怪しい物とか怪しい人物とかはいませんよ。

 

「だろうねい。普通にロールプレイに徹すれば特にダイスを振る必要なかったし、多分祟道智代の情報もパソコン使えば一発だったろうしねい」

 

「じゃあ遊星の待つ車まで戻ってきたぞ。待たせたな遊星くん」

 

「戻ったかみんな。GM、怪しい人物は施設から出てきたか? それとも怪しい人物がこの施設を見ていたり、周囲を警戒していたりしていたか?」

 

 どちらもないです。

 

「遊星、おまえパソコン持っていたよな?」

 

「ああ。常時携帯している」

 

「よし。だったら早速【クロノスの光】について調べるぞ」

 

 はーい。では丁度いいところですので今度は京楽のシーンに行きまーす。

 

「お、ようやくボクのシーンかぁ。ボクだけ単独だから暇だったんだよねえ」

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.3

ここから《SAN》チェックの嵐です。
なおこのセッションは、本家シナリオ以上に《SAN》チェックが飛び交っています。まぁみんな《SAN》チェック大好きですので問題ないです。


 1時間後、小学生の不審死事件の捜査を受けた京楽のもとに、上司からその事件の資料が届きました。

 

「GM、今ボクの近くに人はいるかい? というか部下とかいないのかい?」

 

 いませんね。あなた1人です。

 

「寂しい。まぁ、変にNPCがいても困るし、それはいいかなあ。さて、まずは山中で発見された死体の検死結果の確認だ。何か不審なところはないかな?」

 

 検死はまだ終わっていませんので詳しい結果はわかりません。

 

「どれくらい時間がかかるのかな?」

 

 結果が出るまだ時間がかかりそうです。いつ終わるのかはわかりません。ただ発見された死体の簡易的な情報は資料に記載されています。

 

「よし、見よう」

 

 ではあなたが『奥多摩山中小学生首吊り自殺事件』の捜査資料に手を付け、そのページを開きます。

 死亡していたのは12歳の男の子。両親の確認も済み、身元もはっきりしています。奥多摩山中の木の幹にロープで首を吊られている状態で発見されました。死因はおそらく窒息死。死体の真下には倒れた脚立があったことから自殺である可能性が高い。しかし、その死体には不審な点が確認された。詳細は次のページに書かれています。

 

「ページを捲る」

 

 そのページは、発見された男子小学生の写真が上半分に乗っていました。

 生気を感じさせない、薄い乳白色に染まっている肌、紫色になってしまった唇。それらは何人もの人間の死体を見ている京楽にとっては見慣れてしまったものでしたが、ただ1つ、今まで自分が担当したどの事件にもなかった特徴がありました。

 それは発見された死体の両目。

 幼き男の子の、本来なら無垢な輝きに包まれていたであろうその小さな両目には、横一文字に引き裂いたような、凄惨な傷跡がありました。

 真っ当な人間ならば例え暴力を振るったとしても傷つけることはないだろう部位、目。それは容赦なく、完全に潰されてしまっており、例え生きていたとしても、もう二度と、その瞳で世界を見ることは叶わないであろう。

 このような写真を事前情報もなにもなく直視してしまった京楽は、0/1D3の《SAN》チェックです。

 

「まさかボクが《SAN》チェック1号になるとは思わなかったよ……」

 

 京楽 《SAN》55 → 64 失敗

 

「幸先悪いなぁ(コロコロ)……1。ちょっとびっくりしたくらいかな。おぉ、これは酷いねえ。GM、この傷跡はどんな感じだい? 動物とかに引き裂かれたみたいな感じかい? それともナイフか何か、刃物で一気に引き裂いた感じかい?」

 

 鋭利な刃物で斬り付けられたみたいですね。

 

「ということは人間の仕業か。なんて酷いことをするんだろうねぇ。うーん、この少年の両親からの聴取は終わっているんだよね?」

 

 終わっていますね。

 

「ご両親はこの傷跡に心当たりはあるかい?」

 

 まったくありません。男の子が失踪するまで、そんな傷はなかったと言っています。

 

「失踪したあとにできた傷ということだね。状況証拠からしたら自殺だけど、死体の損傷から他殺の可能性が高いっていうことか。…………。失踪前にこの男の子はどこに向かったかわかるかい?」

 

 【クロノスの光】が経営する学校に向かいました。勉強するためなのでしょう。

 

「なるほど。上が【クロノスの光】を怪しんでいる理由がわかったよ。GM、今度は【クロノスの光】に関する資料を見るよ」

 

 資料によりますと、【クロノスの光】は東京都多摩市にある施設です。学校というより、巨大なプレハブ小屋のような簡易施設です。

 活動としましては、学生ボランティアや有志の講師、更には有名な大学の教授までも集まり、貧困やそれ以外にも入り組んだ事情により、真っ当な教育を受けることのできない子供たちのために授業を行っています。代表を務めるのは『祟道智代』という、教育機会の均等化を唱える女性都議会議員です。

 ちなみにこれらの情報はインターネットで調べれば得られる情報です。

 

「ああ、だからあそこでシーンを切ったんだな。次に私たちのシーンに移った時、このことを知った上で行動してもいいか?」

 

 ええ、構いませんよ。その方がサクサク行きますし。

 

「他にはわからないのかい? 何か調べていたみたいだけど」

 

 はい。ですから上司はあなたに調査を指示してきたのです。

 

「それもそうか。じゃあ聞き込みに行ってこようかな。GM、ボクはこの住所に書かれている【クロノスの光】に向かおう」

 

 わかりました。では、京楽のシーンはここでお終いです。チーム古美門にシーンを移しましょう。

 

「……ボクのシーン、短くないかい?」

 

 それについてはごめんなさい。

 

「ああ、いやいや。まあボクだけ単独行動だからねえ。仕方ないかあ」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 京楽が【クロノスの光】に向かい出した同時刻、あなたたちは【クロノスの光】についての情報を入手しました。

 

「どうする? 俺たちも【クロノスの光】に向かうか?」

 

「いや、待て。まだ夫のことについて調べていない。妻が都議会議員をやるほどの大物なんだ。夫も何かをやっていてもおかしくない。遊星くん、今度は『祟道叡史』について調べるぞ」

 

「わかった。『祟道叡史』で検索だ。ググるだけだから《コンピュータ》はいらないよな?」

 

 遊星さんは現代人ですよね? ググるだけなら小学生でもできますよ。ですから結構です。

 

「よし」

 

 『祟道叡史』で検索しますと、彼は東京都中央区銀座の裏路地にある占いの館【ノーヴルヴェール】の支配人であることがわかります。

 

「【ノーヴルヴェール】について調べる。多分『祟道叡史』で検索していたらついでにホームページがあるページがあるだろう?」

 

 ありますね。では【ノーヴルヴェール】のホームページからわかる情報を端的に開示します。

 住所、電話番号、支配者名、そして完全会員制であり、会員の紹介を受けて【会員カード】を入手しない限りは受付に応じてはくれない。以上。

 これ以上の情報は《図書館》をお願いします。他の技能も理由づけによっては許可します。

 

「《図書館》か。私は初期値だ」

 

「あたしも初期値だ。戦闘キャラだからな」

 

「私も初期値です」

 

「俺もだ」

 

「チーム古美門《図書館》みんな初期値かい。ちゃんと取らないとだめだよう?」←《図書館》65

 

「GM、遊星の職業はドライバーだが、《コンピュータ》技能は75ある。つまり遊星はコンピュータに精通し、扱いに長けているということだ。扱いに長けているということは、どうすれば的確に情報をパソコンで入手できるかを知っているということだ。補正を与えることを許可して欲しい」

 

 いいでしょう。遊星限定ですが、《コンピュータ》の半分の値を《図書館》加えて判定してください。

 

「ありがたい。ナイス古美門」

 

「ふふん。さて、一応私も振るか。十六夜さんと星熊くんも振りたまえ。初期値で25もあればワンチャンスあるからな」

 

 古美門《図書館》25 → 90 失敗

 勇儀 《図書館》25 → 33 失敗

 咲夜 《図書館》25 → 44 失敗

 遊星 《図書館》25+75/2 → 47 成功

 

「危ないな。補正無かったら全員失敗だった」

 

 ではあなたたちは追加情報として、この【ノーヴルヴェール】には政財界の大物がひそかに通い詰める格式高い名店である、という噂をネット上から入手します。

 

「怪しさ満点だな。よし、今度は【ノーヴルヴェール】に向かおう。GM、今は何時だ?」

 

 現在午前10時半くらいです。

 

「京楽さんが【クロノスの光】の校舎に向かった時間が11時くらいですから、上手くいけば合流できますか?」

 

「ああ、できると思うよ。ボク車持っていないから」

 

「おまっ、電車と徒歩で向かうのかい」

 

「現職の刑事なのに。しかも単独行動PCなのに車がないのか」

 

「《運転》に技能振ってないからなあ」

 

「じゃあ多分ギリギリ合流できるな。流石に京楽1人で突貫させるわけにはいかないし、というかそれをさせないためにわざわざ時間をずらしたんだろうしな」

 

 まぁそれはお察しください。えっと、古美門一派は【ノーヴルヴェール】に向かうんですよね?

 

「ああ。遊星くん、車を出してくれたまえ」

 

「了解。だが念には念を入れておこう。GM、俺はプロのドライバーだ。《ナビゲート》で判定させてくれ。成功したら通常よりも早い時間で目的地に着かせてほしい」

 

 ああ、いいですよ。

 

 遊星 《ナビゲート》80 → 51 成功

 

 では本来1時間かかる距離でしたが、地理に詳しい遊星の運転により、40分で到着することに成功しました。

 都内最大級の買い物の街、銀座。その路地裏。ゴミ箱やらなんやら数多くの障害物が沢山ある薄暗い通り道の一角に、【ノーヴルヴェール】はひっそりと佇んでいました。

 さてはて、ここで皆さん。《幸運》をどうぞ。

 

 古美門《幸運》65 → 01 クリティカル

 勇儀 《幸運》65 → 60 成功

 咲夜 《幸運》50 → 34 成功

 遊星 《幸運》55 → 87 失敗

 

「あ、俺だけ失敗。これはマズいか?」

 

 いえ、1人でも成功していただければよかったので大丈夫です。というか古美門はクリティカルですか(だったらちょっと絡み方と与える情報を変えた方が良さそうかな。そうだな……よし)。

 

「ふっ、私のダイス運を舐めてもらっては困るな。で? 何が起きる?」

 

 ではあなたたちが【ノーヴルヴェール】の店前に来たとき、あなたたちの前にありとあらゆる障害物を、まるで平地を歩くように軽々と乗り越え、1人の女性が現れる。

 

「おおっとこんなところでお会いするとは、奇遇ですねえ古美門先生。そしていつもの皆さん」

 

 古美門がクリティカルを出してくれたので、この人物はあなたたち全員と面識があります。

 彼女は悪名高きフリーのパパラッチ、ペンネーム『飛田飛龍』。恵まれた身体能力とパンクールを悪用して、壁越え塀越え不法侵入まがいの潜入を繰り返すプロの情報屋です。

 

「ああ、だったら私と知り合いでもおかしくないな。おっと、これはこれは飛龍くんじゃないか」

 

「どうしてこのようなところに? 飛龍さん」

 

「いやぁ、こっちはこっちで面白い情報を掴みましてね? 今回はその調査のためにここにちょっと、ね?」

 

 そう言って【ノーヴルヴェール】をちらりと見ます。

 

「情報だと? おい飛龍。おまえの掴んでいる情報ってなんだい? 教えてほしいねい」

 

「いやいや星熊さん。こちとら商売ですからねぇ。タダで渡すわけにはいきませんなぁ。ねぇ? 古美門先生?」

 

「オーケー。金を30万飛龍に渡す。ほら飛龍くん、どうだ? これだと足りないか?」

 

「ふんふむ……はい毎度あり! では私が掴んでいる情報をお渡ししましょう!」

 

 ということで古美門一派は、奥多摩の男児自殺事件で死亡した男子児童が【クロノスの光】に通う学生で、死ぬ直前に出かけた先がその学校だった、という情報を教えてもらいます。

 さらにこの占いの館はどうも奇妙なカルトと繋がっているという噂があり、政財界の大物がこんな辺鄙な占い屋を訪れるのもそれが理由ではないかと考えている。

 

「しかも【クロノスの光】の代表と【ノーヴルヴェール】の支配人が夫婦の関係にあるんです。カルトと繋がっている可能性のある夫と、自殺した児童が通っていたNPO法人の代表である妻。これは凄いスクープが眠っていると思って、調査の第一歩としてここに来たんですよ」

 

「そうしたら偶然私たちがここに来た、と」

 

「なんだ凄くいい情報じゃないか」

 

「ぐう有能過ぎる」

 

「あ、そうですそうです。はいこれ」

 

 そう言って、飛龍はポケットの中から1枚のカードを古美門に渡します。

 

「これがこのお店の《会員カード》です。これで門前払いされずに入れますよ」

 

「ありがたくいただこう。そして追加ボーナスだ。10万を飛龍に渡す。またいいネタが入ったらよろしく頼むぞ飛龍くん」

 

「へへへっ、毎度ありでーす! これだから古美門先生は好きだよ。私の扱い方をよく理解していらっしゃる!」

 

「優秀な人間に金を払うのは当然のことだ。今後ともよろしく」

 

「こちらこそよろしくでーす。あ、そうそう。この店ドレスコードがあるらしいですよ。まぁ皆さんなら問題なさそうですが」

 

「だな。ある意味全員正装だ」

 

「俺の白衣がちょっと怪しいか?」

 

「大丈夫だと思いますよ? では私はここまで! どろん」

 

 と言って飛龍は身軽な体捌きで退散していきました。

 

「よし。【ノーヴルヴェール】に入るぞ。私が先頭を切る」

 

「ではあたしが2番目だ」

 

「私が3番目です」

 

「なんでパラノイアスタイルなんだ。まあいい。俺が最後尾だ」

 

 ではあなたたちが扉を開けると、目の前には受け付け台と、怪しげな雰囲気を醸し出している女性が座っていました。

 

「……おや、見慣れないお顔のお客様方ですね。《会員カード》の提示をお願いします」

 

「じゃあさっき飛龍からもらったカードを見せよう。さらにGM、私は《信用》を使うぞ。他の3人はカードを持っていないから入れない可能性があるが、私は有名な探偵だ。私の《信用》に成功したら3人の入店を許可して欲しい」

 

 いいでしょう。《信用》をどうぞ。

 

 古美門《信用》80 → 53 成功

 

「よし、成功。ロールプレイだ。《会員カード》と一緒に名刺を渡す。私は探偵の古美門研介だ」

 

「……成程。わかりました。《会員カード》です。皆さんどうぞ」

 

「貰っておこう」

 

「ではいただきます」

 

「これで俺も大物の仲間入りか」

 

「受け付けを過ぎて中に進む。中はどうなっている?」

 

 店内は赤や紫のミステリアスなランプやキャンドルがあちこちに灯され、多彩な色のヴェールが天井に壁に吊り下げられ、ザ・占い屋のような妖しげな雰囲気を醸し出しています。

 直線状の通路の両脇には幾つもの個室が並んでおり、その突き当たりに一際分厚いヴェールで覆われた一室があります。

 室内には過剰なほどのお香とアロマキャンドルが焚かれており、人によっては気持ち悪さを覚えるほど甘ったるい匂いの空気が漂っています。さて皆さんにはここで《聞き耳》を振っていただきます。強制チェックです。

 

 古美門《聞き耳》75 → 60 成功

 勇儀 《聞き耳》25 → 22 成功

 咲夜 《聞き耳》40 → 63 失敗

 遊星 《聞き耳》48 → 23 成功

 

「お、初期値で成功した」

 

 成功した皆さんは、この甘い匂いの中に、何かが腐ったような悪臭が混じっていることに気が付きました。成功者の皆さんは《CON》×5の値で判定してください。

 

 古美門《CON》18×5 → 52 成功

 勇儀 《CON》13×5 → 67 失敗

 遊星 《CON》10×5 → 60 失敗

 

 失敗した勇儀と遊星はこの甘い匂いと悪臭にやられ、気分が悪くなると同時に底知れない恐怖による悪寒が身体中を支配し始めます。鳥肌が立ち、どこか感じる殺気のような冷たさに小さく震える。

 勇儀と遊星、0/1の《SAN》チェックです。

 

 勇儀 《SAN》65 → 83 失敗

 遊星 《SAN》55 → 87 失敗

 

「……みんな、なにか変な匂いしないか?」

 

「……ああ。少し気持ちが悪くなっちまったねい……」

 

「ははははは情けないな2人とも。私は何ともないぞ。だが確かに、これは酷い臭いが混じっているな」

 

「え? そうですか? 確かに甘い香りはする気がしますが」

 

 えーあなたたちがそんな空間に辿り着きますと、1人の店員が現れます。手にはカタログらしきものを持っていますね。

 

「いらっしゃいませ。新規のお客様方ですね? 御所望の占い師の方はいらっしゃいますか?」

 

「ふむ……。…………。一番人気のある占い師を頼もうか。なんでも凄い女の子(・・・)がいるそうじゃないか」

 

「……!」

 

「ふっ、そういうことか。これでもしかしたら会えるかもしれないということか」

 

(大当たりだよ)では少女の単語を聞いた店員は「少々お待ちくださいませ」と言うと、店の奥へ早走りで駆けていきました。そして数秒後、ダンディな雰囲気の、黒服を着た大柄の男性がやってきました。

 

「初めまして、名探偵の古美門研介様。そしてお仲間の皆さん。私がこの【ノーヴルヴェール】の支配人、祟道叡史です」

 

「この人が祟道叡史さんですか。GM、この人に対して《目星》」

 

「俺も振ろう」

 

 咲夜 《目星》40 → 93 失敗

 遊星 《目星》48 → 06 成功

 

 良い服着ているなぁということがわかります。

 

「無意味だったな」

 

「【ヴェールの少女】を御所望な用で。どうぞ、こちらです」

 

 とあなたたちを案内します。

 

「「「「ついていこう(きます)」」」」

 

 ではあなた達は叡史によって通路の奥の個室に案内され、そこで薄いヴェール越しに【ヴェールの少女】と対面します。ヴェール越しではありますがあなたたちは【ヴェールの少女】の顔を見ることができました。

 本来ならばAPP16相当の美しい彼女の顔の左半分には、相当古いものでこそありますが、酷く痛々しい火傷の跡がありました。

 

「! ということはこの少女が」

 

「理子ちゃんですね。話しかけます」

 

 おっと、あなた達が何かを話しかける前に、【ヴェールの少女】は古美門を指差します。

 

「古美門研介38歳、職業《探偵》。前職は警察キャリア、夜に弱い」

 

「……は?」

 

 次に指をスライドして順番に指差します。

 

「星熊勇儀30歳、職業《用心棒》。本来は温厚な性格でこそあるが、目つきの悪いせいで怖がれやすい。ちなみに足首に拳銃を隠し持っている。十六夜咲夜28歳、方向音痴な古美門研介の《専属メイド》。メイド服の中には仕込みナイフを6本潜ませている。不動遊星39歳。プロのドライバーかつプロのハッカー。奇妙な存在に好まれる傾向がある」

 

「なっ!?」

 

「なにっ!?」

 

「これは……」

 

 そう。まだ何も話していないにもかかわらず、目の前にいる少女はあなたたちの職業、仕込んでいる武器、更にバッステまで正確に、ぴたりと言い当ててしまいました。しかもその声の中には、《心理学》を振るまでもなく感情の一切籠っていない、まるで機械のような、それでいて得体のしれない未知の存在のような、確かな不気味さと冷たさが感じられました。

 驚きのあまり見開いた目で【ヴェールの少女】を視界に入れてしまうあなた達。左半分に痛々しい火傷痕のある少女の双眸は完全に据わりきっており、覗き込めば沼の如く、沈みこまれてしまいそうな程に深く、重く、どす黒い、濁り切った輝きがあなた達を捉えていました。

 皆さん、0/1D3の《SAN》チェックです。

 

「連続《SAN》チェックか。いよいよGMが本気出して俺たちを殺しにかかってきたな」

 

 古美門《SAN》65 → 38 成功

 勇儀 《SAN》64 → 63 成功

 咲夜 《SAM》50 → 75 失敗

 遊星 《SAM》54 → 13 成功

 

「うっ、私だけですか(コロコロ)……1。ちょっとヒヤッとしただけですね」

 

「こら理子、皆さんに失礼だろう? すみません。ちょっと変わった子なんですよ」

 

「すみません」

 

「……いえ、大丈夫です。少し驚いただけですから」

 

「というか今、理子って言ったな。ということはこの子が理子ちゃんで間違いなさそうだな」

 

「でも様子が明らかにおかしいねい……。GM、今の理子ちゃんはどんな状態だい? 目に見えて分かる情報だけでいいから教えてほしい」

 

 【ヴェールの少女】は茫然自失の状態……まるで何かに操られているかのような、生気のない表情をしています。

 

「これはヤバいねい。GM、《心理学》で彼女を探るよ」

 

「私も振ろう」

 

 わかりました。《心理学》の結果は公表しません。

 

 古美門《心理学》65 → ??

 勇儀 《心理学》45 → ??

 

 古美門も勇儀も彼女から何の感情も読み取ることができませんでした。

 

「これは成功したのか失敗したのか、ちょっとわからないねい……」

 

「GM、《精神分析》を試みます」

 

 咲夜 《精神分析》76 → 72 成功

 

 では咲夜は、【ヴェールの少女】が誰かのマインドコントロールを受け、洗脳状態に陥ってしまっていることに気付きます。対処手段は現状思い当たりません。

 

「GM、今叡史さんはどこにいますか?」

 

 【ヴェールの少女】の隣に立っています。

 

「下手なことは出来ませんね。武器を持っていることも知られてしまいましたからなおさら」

 

「ロールプレイと《言いくるめ》《説得》で対処する。ここは占いを受けに来た客として接しよう。噂通りの素晴らしい占い技術だ。支配人、この2人の武器に関しては目を瞑ってくれないか? 2人とも私のボディガードなんだ。これでも私の命を狙う輩が多いものですからね困ったことに。と《言いくるめ》る」

 

 古美門《言いくるめ》80 → 36 成功

 

「ふむ、いいでしょう。時々お客様の中には、そういったものを持ち込む方もいますから心得ています」

 

「すまないねい。これでも性分なもんでさ」

 

「主の身を護るのもメイドの務めですゆえ」

 

「俺から最初に占ってもらおうか。君はもう知っていると思うが、俺は不動遊星だ。だけど俺は君の名前を知らない。名前を教えてくれないか?」

 

「そういえばまだGMは【ヴェールの少女】としか言ってませんでしたね」

 

「……理子。祟道理子です」

 

「よし確認完了だ。あとは占いをしてもらうだけだな」

 

 占い内容は1人につき1回でお願いします。

 

「1回か。そうだな……じゃあ理子ちゃん、定番かもしれないが、今日の俺の運勢を占ってほしい。最近運がないような気がするから心配なんだ」

 

「今日の貴方の運勢ですか(コロコロ)……残念ですが、今日の貴方の運勢はあまり良くないでしょう。外に出ず、家の中で静かに過ごすことをお勧めします」

 

 遊星、この占い結果を聞いたことによって今日1日、《幸運》で判定を行う場合10パーセントのマイナス修正をプレゼントします。

 

「なにっ!?」

 

「おい、これは容易に占いさせられないぞ。結果次第では何か有利になるかもしれないが、失敗したらバッステ付与とか危険すぎる」

 

「古美門はとりあえずそのままにしていてくれ。よし。次は私をお願いしようかねい。理子ちゃん、知っての通りあたしは目つきが悪い。こうしてサングラスをしているんだがどうも効果がないようなんで困っているんだよねい。何かいいアドバイスはないかい?」

 

「(コロコロ)……そうですね。そのままの、ありのままの貴女でよろしいでしょう。自分のことを理解してもらおうと努力をすることは素晴らしいですが、そのままの自然体での貴女が一番です」

 

「そうか。そいつは嬉しいねい。わかったよ。そうしよう」

 

 勇儀には特に何もありません。

 

「当たりだったのか? まあいい。次は私だ。理子くん。私は買い物を迷っているんだ。新しい別荘を買うか、それとも無人島を買うか。どっちを買えばいいと思う?」

 

「流石金持ちだ」

 

「(コロコロ)どっちも買うのがよろしいでしょう。思い立ったが吉日です。今日どちらも買えばいいことが起るでしょう」

 

 古美門は今日中に別荘と無人島を購入すれば、明日の《幸運》に10パーセントのプラス補正をプレゼントします。

 

「よし。今日中に買うとしよう。ちなみに別荘と無人島合計でいくらだ」

 

 えっとですねー(コロコロ)……9200万ですね。

 

「買った!」

 

「最後は私ですね。理子ちゃん、私はこの写真の少年を探しているのです。私はこの少年に今日見つけることは出来ますか? と言いつつ懐から【ぬくもりハウス】で借りた写真を理子ちゃんに見せます。勿論人差し指で理人くんを差しつつ、隣に写る理子ちゃんの姿は写真を折って隠します」

 

「この少年……ですか?」

 

 理子は写真の中の幼い頃の理人を見たとき、僅かですが無表情を崩しました。しかし、次の瞬間には元の鉄仮面に戻ってしまいました。

 

「(コロコロ)……はい。大丈夫です。きっとその少年と出会うことは出来るでしょう」

 

「でしょうね。もう知り合っていますし。ですが、これはいい情報を手に入れました」

 

「咲夜、ナイスロールプレイだ」

 

「よし、じゃあこれ以上ここに居る必要はないな。退散しよう」

 

 ではあなたたちがそう思った時、支配人である叡史が話しかけてきます。

 

「失礼ですがお客様方。そろそろお時間ですので」

 

「ああ、わかったよ。理子くん、今日はありがとう。またお願いするよ」

 

「あたしも感謝するよ。ありがとうな」

 

「ではまた会いましょうね、理子ちゃん」

 

「今日は言われた通り家でゆっくりするとしよう。失礼する」

 

 ではあなたたちは御代を払って店の外に出ると。

 

「遊星の車に乗り込もう。外で話し合うのはマズい」

 

 わかりました。では特に何も起こることなく、遊星の改造トヨタセンチュリーにあなたたちは乗り込みました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.4

「さって、情報を整理するかねい。まずはあの理子ちゃん。ありゃあ、相当ヤバいことをされているねい」

 

「《精神分析》によりますと、解除手段の分からないマインドコントロールをかけられているようです。そういえば最後ちょっと攻めてみましたけど、大丈夫だったでしょうか?」

 

「上出来だ十六夜さん。支配人である叡史は特に気にも留めていなかったからたぶん私たちが調査のために訪れたことは気付いていない。あの能面みたいな薄気味悪い無表情が理人くんの写真で僅かとはいえ崩せたのはかなりの収穫だ。理子くんにはまだどこかに理性が残っている可能性がある。そしてそこを突けば正気に戻せるかもしれない」

 

「だがあの力……俺たちの情報を正確に言い当てたあの能力は厄介だ。もし仮に戦闘になった場合向こうに理子ちゃんがいたらこちらの攻撃がすべて無効化されてもおかしくない。そうなったらかなり不利だ。はたして対処手段はあるのか?」

 

「サングラスかけていても言い当ててきたから目は関係ないだろうねい。というかあんな暗い目の持ち主だ。もしかしたら見えちゃいけないものを見ちまっているかもわからんねい」

 

「兎にも角にもだ。引き取った娘があんな風になっても涼しい顔で接客していたあの支配人が真っ当な人間であるわけがない。当然、その妻の方もだ。気の毒だが理子くんは巻き込まれた被害者である可能性が高い。飛龍くんの言っていた、奇妙なカルトと繋がっているというのは本当のようだ。遊星くん、急いで【クロノスの光】の校舎に向かおう。自殺した子供が通っていた学校だ。ここ以上にとんでもない秘密が隠れていてもおかしくない」

 

「ですね。流石にマインドコントロールされた状態で理人くんのところに連れて行くわけにもいきませんし、なによりあの支配人が許してくれないでしょう」

 

「わかった。GM、俺たちは【クロノスの光】の校舎に向かうぞ」

 

 そうですか。では遊星がハンドルに手を取った……その時。全員、《目星》をお願いします。

 

 古美門《目星》25 → 40 失敗

 勇儀 《目星》25 → 19 成功

 咲夜 《目星》40 → 89 失敗

 遊星 《目星》48 → 98 ファンブル

 

「あ」

 

「遊星くぅん?」

 

「す、すまん。これどうなるんだ?」

 

 今回は見逃します。というかチーム古美門、こうしてみると本当に《目星》が低いですね。重要な技能なんですよ?

 

「あたしは戦闘型のキャラだからねい……」

 

「俺は機械と運転に強いキャラにデザインしてしまったんだ……」

 

「誰かが取ってくださると思って……」

 

「ロールプレイと他の技能でカバーする」

 

 ……まあいいでしょう。では唯一《目星》に成功した初期値の勇儀。あなたは反対車線に黒塗りのベンツが通り過ぎていくのを偶然目撃します。その後部座席に件の少女である理子と叡史が乗っていることにも気付きました。

 

「なんだって!? おい、みんな今の黒ベンツ見たかいっ!?」

 

「うん? いや……」

 

「すみません外を見ていませんでしたので……」

 

「俺もだ。その黒いベンツがどうかしたのか?」

 

「乗っていたんだよ、理子ちゃんと支配人が」

 

「! それは本当か? どうする古美門」

 

「GM、その車は《追跡》可能か?」

 

 反対車線の上もう通り過ぎた後ですので、追跡は不可能ですね。

 

「じゃあもう仕方がない。というかどういうわけか支配人が動き出したということは、今後何かよからぬことが起るかもしれないということだ。全くたったの5万円で受けるような依頼じゃなかったな」

 

「じゃあ目的地は変わらないな。勇儀。あれは追跡できない。ここは諦めて【クロノスの光】の校舎に向かおう」

 

「そうかい……それならしょうがないねい」

 

「というわけで俺たちも【クロノスの光】に行くぞ。この住所の所に行けばいいんだな?」

 

「そうだ。よろしく頼むよ、遊星くん」

 

「お安い御用だ」

 

「ようやく合流できるねぇ。暇だったんだよ、ボク」

 

 そうですね。ようやっと合流です。では京楽のシーンに移りましょう。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 車を持っていない京楽は電車やバス、徒歩を駆使して住所通り、多摩市にある【クロノスの光】の校舎にやってきました。……が。そこを見たあなたは驚きに目を見張ることになります。

 ホームページに乗っていた住所通りにそこにやってきたあなたですが、目の前に広がっていたのは殺風景な更地。写真にあったプレハブ小屋など見る影もありません。

 

「どういうことだいこれは……」

 

 と唖然している京楽のもとに近づくなにかの音。エンジン音がほとんどなく気付きにくいですが、砂利道を走るタイヤの音から、それは車が近づいてくる音だとわかります。数秒も経たないうちにその車はあなたのそばに停まりました。真っ黒な新型センチュリーです。

 

「あ、それ俺たちの車だな。無事合流だ」

 

「でもこんなシチュエーションで来られたら身構えちゃうねぇ。持っていた杖を構えて警戒しよう」

 

「そんなこと気にせず車から降りる。そしてこの風景を見て声を上げよう。おいおいおいおいなんだねこれは一体どうなっている。遊星くん、本当にここで合っているのかぁ?」

 

「車から降りつつ古美門に言う。ああ、間違いない。ここがその住所だ」

 

「助手席から降りて口をぽかんと開けます」

 

「古美門の隣に立ちつつ苦笑いを浮かべる。あーあー、こりゃあ……」

 

 車から降りてきた人間は全員で4人。

 見るだけで高いとわかるようなパリッとしたスーツを着ている平均以下の身長であるものの美形の男。サングラスを掛けた全身スーツ姿の金髪女性。メイド服を着ているものの、見る人から見れば露出している腕や脚の筋肉の付き具合からタダ者では無いと一発でわかる銀髪の美人女性。奇妙な髪形をした白衣を着ている男。

 

「ヤバいね」

 

「ちなみに京楽はどんな服を着ているんだ?」

 

「ボクかい? 原作BLEACHの京楽隊長と同じ格好だよ?」

 

「おまえも充分やばいじゃないかい! 死覇装を堂々と着てんじゃないよ!」

 

「そんな恰好で電車とバスに乗っていたんですか」

 

「警視庁にもその服装で出入りしていたのか……」

 

「まあまあ、じゃあボクは車から降りてきた4人に話しかけよう。キミたちは何者だい? こんなところに何をしに来た?」

 

「他人に名前を聞くときはまずは自分の名前から名乗るのが筋だろう。ちなみに私はこういうものだ、と名刺を差し出す」

 

 京楽 《知識》90 → 21 成功

 

「ああ、あの有名な探偵の古美門先生でしたか。失敬失敬。ボクは京楽。こういうものだよ。と警察手帳を見せよう」

 

「……その恰好で刑事なのか? しかも警部なのか。おい、今の警察は大丈夫なのか?」

 

「ははは。まあボクが変わり者だっていうのは自覚しているけどねぇ。自分で言うのもなんだけど、ボクは優秀な刑事だよぉ?」

 

「だろうな。逆に無能なやつだったら速攻で解雇するくらいだ。ちなみにこの3人は私の優秀な仲間たちだ」

 

「メイドの十六夜咲夜です」

 

「用心棒の星熊勇儀だ」

 

「不動遊星。運転手だ。遊星と呼んでくれ」

 

「ははは、これはまた凄そうな人たちのお出ましだ。無礼を働いて申し訳ないねぇ、古美門先生。実はボクはとある事件を追いかけていてねぇ。その過程でここに来たんだがこの有様だよ」

 

「ふん。ちなみにとある事件とは奥多摩山中で発見されたという小学生男児の自殺事件のことか?」

 

「ははは、流石名探偵だ。ああそうだよ。あの自殺体には奇妙な点が多くてね、単独で調べるように命令されてこうして調査に乗り出しているんだよ」

 

「奇妙な点とは何ですか?」

 

「……話をしてもいいけど、1つだけ条件があるよ」

 

「条件?」

 

「うん。簡単なことさ。探偵だから守秘義務があるのはわかっているけど、そちらがどういう案件でここに来たのかを教えてほしいねぇ。ギブアンドテイクってやつさ」

 

「要するに情報を交換しよう、ということかい?」

 

「そうだよ。こうして同時に辿り着いたのも何かの縁だ。どうだい? 一緒にこの事件を追いかけてみないかい? ボクは刑事だから何かと便利だと思うよ?」

 

「……。……いいだろう。こちらの握っている情報と交換だ。GM、私たちが持っている情報を全て京楽に開示する」

 

「ボクも全部開示しよう」

 

 わかりました。ではそれらの情報をPCは知った体でロールプレイを進めてください。特に《SAN》チェックや《アイデア》チェックはありません。

 

「なるほど、確かにその目の傷は異常だな」

 

「だろう? それにそちらの理子ちゃんとやらもまずいものに巻き込まれているみたいじゃないの」

 

「ええ。あんなに可愛い子なのに、酷いですよね……」

 

「……ロールプレイはここまででいいか。GM、周囲を見渡すぞ。俺たち以外に人影はいるか?」

 

 はい、います。ここから少し遠いところにあるベンチに、更地を眺める初老の男性がいます。

 

「あ、居たんだね人。古美門くんたちが濃すぎて気付かなかったよ」

 

「おまえが言えたことじゃないがな」

 

「その人に話しかけよう。どんな状態だ? 《心理学》は必要か?」

 

 必要ありません。ベンチに座っていた初老の男性は物憂げな表情です。雰囲気から悲しそうな感じがビンビン伝わってきます。

 

「ボクが話しかけよう」

 

「私もフォローに回ります」

 

「じゃあ残った我々は更地を探索するとしよう」

 

「わかった。じゃあ警察手帳を見せながら話しかけようかね。失礼、こういう者です」

 

「はぁ……警察の方でしたか」

 

「はい。少し、お話を聞かせてもらってもよろしいかな?」

 

「はい……」

 

「まず、あなたは?」

 

「私はここにあった学校の……【クロノスの光】の元代表です」

 

「おや……では祟道議員が代表になる前の……」

 

「はい……」

 

「自殺した児童について何か知っていることはありますか?」

 

「あの子ですか……。いい子でした。ですがあの女が来てからは……」

 

「あの女、とは祟道議員のことですか?」

 

「はい。あの女が来てから、【クロノスの光】は狂い始めてしまったのです」

 

「詳しく聞かせてくれますかねぇ」

 

「かつての【クロノスの光】は私と同じ、有志を持った人間が恵まれない子供たちのために勉強を教えるだけの、本当に小さな営利目的なんてない、いわば慈善団体のようなものだったのです」

 

「ええ。それは把握しています。とても素晴らしい教育をしていたとか」

 

「そう言っていただけると嬉しいです。……ですが祟道議員が団体に参加してからその方針が狂い始めてしまったのです。都議会議員が参加していただけることはこちらにとって大歓迎でした。私たちの活動を評価していただいて、日本のみならず世界中の子供たちに真っ当な教育を受けさせられたらどんなに素晴らしいことか。そんな夢を見て、私たちは議員を迎え入れたのです。しかし……」

 

 元代表の男は怒りと苦悶の表情を浮かべ、こぶしを握ります。ぶるぶると震えていることからその感情の大きさは計り知れません。

 

「議員が来てから【クロノスの光】は徐々に、得体のしれない宗教儀礼に傾倒し、当初の理念を離れ【宇宙との交信】を目的としたカルトじみた組織に変貌していったのです。私は何回も抗議しましたが、気付けば私の権限の大半がなくなり、学校から遠ざけられてしまったのです……。自殺事件が起こったのはそれからしばらくしてからでした。名前を見て間違いなくあの女が何かしたと思った私がここにきてみればこの有様……。新しい校舎は長野県の面金村という廃村だそうです」

 

「そうだったんですか……それは酷いですねぇ」

 

「御気の毒に……」

 

 ではそのような情報を得たところで、京楽の携帯電話が鳴り響きます。

 

「誰から電話がかかってきたのかな?」

 

 あなたの上司です。

 

「出ようか。もしもし。京楽だよぉ?」

 

「やあ京楽。捜査は順調に進んでいるかね?」

 

「まぁ進展はありましたよ。まだ報告できるような段階ではありませんがねぇ。ところで何用で?」

 

「奥多摩山中で発見された自殺体の検死結果が出た」

 

「! 詳しく聞かせてもらおうかねぇ」

 

「ああ、説明する。まず男子児童の体内から麻薬の陽性反応が出た。濃さからして死ぬ前に摂取したとみて間違いない。それからもう1つ。死体の目の傷だが……検死官が言うには、これは他人が付けたというより、自分で付けた可能性が高いらしい」

 

「……麻薬を摂取したのち、何かがあって自分で自分の目を引き裂いた、と? 小学生の男児がかい?」

 

「ああ……京楽。これは思った以上に厄介な案件かもしれん。くれぐれも気を付けて捜査してくれ。限界ならば応援も手配しよう」

 

「わかったよ。それじゃあ。と電話を切る」

 

 さて、探索組にシーンを移しましょう。旧校舎跡を調べていたあなたたちはその足元に、埃を被った鉄板を見つけます。まるで観音開きの扉のようです。人1人分は通れそうです。

 

「開けるか。GM、鉄板は3人がかりでどかせそうかい?」

 

 はい。余裕でどかせるでしょう

 

「じゃああたしと古美門、遊星の3人がかりで開けよう」

 

「いいだろう」

 

「よし、いくぞ。せーのっ!」

 

 では鉄板を開けると、そこには地下へと続く階段がありました。

 

「京楽警部と十六夜さんを呼ぼう。京楽警部、十六夜さん! こっちに来たまえ!」

 

「呼ばれたので行きましょう。元代表に会釈して先生たちのもとに向かいます」

 

「ボクも携帯電話をしまって古美門先生の所に行こうかねぇ。そして足元に広がる階段を見る。これは……地下への入り口かい?」

 

「先程見つけたんだ。さて、入るかい?」

 

「全員で行くか、それとも見張り組と探索組に分けるか……悩ましいですね」

 

「全員で行った方がいいんじゃないか? 外に残っていたって、ここしか出口がないならあんまり意味ないぞ?」

 

「確かにそうかもしれないねぇ」

 

「じゃあ全員で行くか。GM、地下は暗いか?」

 

 薄暗い感じですね。《目星》に成功するか、懐中電灯を持っていれば探索できます。

 

「よし。じゃあ私はミニライトを取り出す」

 

「あたしもミニライトを点けようかねい」

 

「私もミニライトを持っています。取り出します」

 

「俺はカバンから大きめの懐中電灯を取り出す」

 

「ボクはスマホの電気を点けよう」

 

 全員で地下に行くんですね?

 

「うん」

 

 あなた達が鉄製の扉に隠されていた階段を降りていきますと、小さな地下室に辿り着きます。

 

「地下室には何がある?」

 

 古びた書籍が並ぶ本棚、鉛色の床にはチョークのようなもので描かれた五芒星の魔法陣がうっすらと残っています。部屋の奥は薄暗くてよく見えません。懐中電灯を照らせば見えるでしょう。

 

「部屋の奥を懐中電灯で照らす」

 

 部屋の奥には鉄格子があります。まるで牢獄のようです。そしてその中には1人の少女が閉じ込められていました。

 その少女は痩せ細り、肌は白く、衰弱してしまっていますが、それ以上にあなたたちはあるものに目を張ってしまいます。

 それは少女の目。

 少女の両目は鋭利な刃物で切り裂いたような傷で潰れてしまっており、彼女はもはや何も見えない目でぼんやりと虚空を眺めている。

 彼女の周囲には白骨化した死体が幾つも並んでおり、あなた達はその大きさから彼女と同じ年頃……小学生程度の子供の亡骸だと気付きます。

 たくさんの子供たちの白骨死体、及び尋常じゃない状態に陥っている少女を直視した皆さん。《SAN》チェックのお時間です。チーム古美門は2/1D4+1、京楽は事前知識により両目を刻まれた子供の姿を見ているため1/1D4の《SAN》値減少です。

 

 古美門《SAN》65 → 11 成功

 勇儀 《SAN》64 → 77 失敗

 咲夜 《SAM》49 → 90 失敗

 遊星 《SAM》54 → 80 失敗

 京楽 《SAN》54 → 27 成功

 

「(コロコロ)……4」

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……3」

 

 さて《SAN》チェックも済んだことですし、あなた達の足音で誰かがここに来たのを察知したのでしょう、「誰か……いるの?」と小さな声が聞こえます。どうやら衰弱した少女が喋ったようです。目が潰れてしまっているためあなたたちがどこにいるのかわからないのでしょう。キョロキョロと辺りを見渡しています。

 

「ボクが少女に話しかけようか」

 

「私も行こう」

 

「私も行きます」

 

「じゃあ俺は他の場所を探索しよう」

 

「あたしは地下の入り口で待機する」

 

 わかりました。では古美門と咲夜、京楽の3人のシーンから行きましょう。

 

「牢屋の中に入れるかい?」

 

 入れません。鉄格子越しに話しかけてください。

 

「じゃあボクから最初に話しかけるよ。やぁ、こんにちは。おじさんは刑事だ」

 

「次は私だ。私は探偵だ」

 

「最後に私です。そのメイドです。失礼ですがあなたのお名前は?」

 

「弓香……弓香っていうの」

 

「弓香ちゃんですか。どうしてこんなところに?」

 

「それは……私が『悪い子』だから……」

 

「どうして『悪い子』なんだい?」

 

「私……学校で勉強を教えてもらっていたの」

 

「学校というのは【クロノスの光】のことだな?」

 

「うん。……でも私は『悪い子』だったの。お勉強、あんまりできなかったし、【クロノス様】が怖くて怖くて、しょうがなかったから……。だからここでお仕置きを受けているの」

 

「【クロノス様】? なんだそいつは」

 

「この世の全てを知っている神様……って先生たちが言ってたよ。でも……私は怖かったの」

 

「怖かった? ということは、キミはその【クロノス様】とやらを見たのかい?」

 

「うん。でも【クロノス様】を見たらなんだか頭がおかしくなりそうになっちゃって……だから私、自分で目を潰したの。そうしたら楽になれたの……」

 

「……京楽警部、これは……」

 

「うん。奥多摩の山中で発見された子供も、その【クロノス様】とやらを見ちゃったんだろうねえ。更に麻薬の効果と合わさって錯乱状態になって……」

 

「自殺した、ということですか」

 

「刑事さん、探偵さん、メイドさん。奥の壁は見ない方がいいよ。見たら多分、頭がおかしくなっちゃうよ」

 

「……ということは、いるのかい? その【クロノス様】が」

 

「うん。いるよ……今は壁の中にいるけどね」

 

「……どうする?」

 

「私は見よう」

 

「私は見ません」

 

「そうかい。じゃあボクも見ておこう。この事件を解決するためには避けては通れなさそうだからねぇ。スマホの光を奥の壁に当てる」

 

(おやおや)では古美門と京楽が奥の壁に光を当てると、そこに描かれているものを見ることができました。

 そこには謎めいた図形が描かれていました。

 いくつもの半球体が長い円柱状の棒で連結されたその幾何学的な図形は、平坦な塊のようにも奥行きを持った立体のようにも見える。その図形を目の当たりにしたあなたたちは根源的な恐怖から咄嗟に目を逸らしたくなるような衝動に駆られますが、それは叶いません。

 なぜならあなたたちは、図形が孕んだ何らかの冒涜的な魅力、あるいは呪術めいた引力を視線で捉え、平坦な図形の奥行きの最奥へと引きずり込まれような感覚に一時といえど身を委ねてしまっているのですから。

 視線が滑る。半球を、それを接続する無数の棒の上を、探索者の視線がぐるぐると辿る。いや、知らず知らずのうちに辿らされていく。『それ』に関する知識が無くとも、あなたたちの魂が確信するであろう。

 この図形は、決して理性の世界に生きる人間が触れてはならない、恐るべき禁忌であるということを……。

 少女の語る【クロノス様】とやらを象ったその図形を目撃した古美門、京楽の両名は1D3/1D6の《SAN》チェックです。

 

「た、助かりました……」

 

 古美門《SAN》63 → 27 成功

 京楽 《SAN》53 → 51 成功

 

「(コロコロ)……1」

 

「(コロコロ)……1。2人とも最低値で済んでよかったねぇ」

 

 そうですね。ではシーンを移して遊星くん、君のターンです。どこを探索しますか?

 

「本棚があると言ったな。そこについて調べよう。だが俺は《図書館》を持っていない。《目星》で代用させてほしい」

 

 いいでしょう。《目星》でどうぞ。

 

 遊星 《目星》48 → 18 成功

 

 本棚の中に並んでいる本の中に特出すべき本はありません。しかし、遊星は並べられた本と本の間にきらりと光るものがあったのに気が付きました。それは……監視カメラでした。ちなみにまだその機能は生きていますね。

 

「は?」

 

「お、おい、これはマズいぞ! GM、俺はみんなにこのことを伝えて全力でこの場から離れ――」

 

 却下。遊星が監視カメラを見つけた丁度そのころ、古美門と京楽が壁に刻まれた【クロノス様】を見た後でした。その時……突如、地下室内に設置されたアラートが鳴り響き、天井のランプが激しく赤く点滅する。

 そして、部屋の奥に取り付けてあった小型スピーカーから女性の声が響きます。

 

「初めまして。そして、さようなら。見てはならないものを見たあなた方を、生かして地上に帰すわけにはいきません」

 

 そう女が言うと、次に冒涜的な呪文を読み上げる声が聞こえる。その最中、弓香が「祟道先生」と小さくつぶやきますが、状況はどんどんと進んでいきます。そして、呪文によって奥の壁の謎めいた図形が発光する。壁を透過するようにしておぞましき、謎の生命体が這い出してくる。

 暗闇の中で足を引きずりながらやってくるソレは、冒涜的なフォルムを有する怪物でした。

 その姿は巨大で、黒々とした体躯の生物。猿に似ていましたが、どこか昆虫のようなところもある。体からは皮膚がだらしなく垂れ下がっており、退化した目の痕跡のあるシワだらけの頭部が、酔っているかのように不気味に右へ左へと揺れています。長く伸ばした前肢の手の平には、大きく広がった鉤爪が付いている。

 顔には何の表情もありませんでしたが、異界的な錆のような臭いと共に、残忍凶悪な殺意をその体全身から漲るように強く、強く発していました……。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.5

 クロノスの肖像から現れた異形の怪物。それは手始めに弓香を鉤爪で引き裂き、先程まであなたたちと話をしていた小さな少女を無残な肉塊へと変貌させてしまいました。

 神話生物、残忍な悪意……空鬼の姿を直視してしまった皆さん。目の前で少女が惨殺されてしまったボーナスを含めまして1/1D10+1の《SAN》チェックです。おまけとしまして5パーセントの《クトゥルフ神話》技能をプレゼントしましょう。

 

 古美門《SAN》62 → 31 成功

 勇儀 《SAN》60 → 43 成功

 咲夜 《SAM》47 → 39 成功

 遊星 《SAM》51 → 70 失敗

 京楽 《SAN》52 → 06 成功

 

「俺だけ失敗か。1D10+1か。これは大変なことになりそうだな(コロコロ)……3。よし、助かった」

 

 ここまで結構チェック挟んでいるのに発狂なしとはやりますねぇ……。えー、空鬼は鉄格子をすり抜けるように通過した後、あなた達に襲い掛かります。

 ではここで、今出てきた1体の空鬼のステータスを決めましょう。(コロコロ)……決まりました。ステータスを公開します。

 

空鬼/残忍な悪意

STR:22 CON:14 POW:8

DEX:9  SIZ:24 INT:7

耐久力:19 DM :+2D6

 

「この空鬼脳筋だな。攻撃が当たったらひとたまりもないぞ」

 

 さて空鬼の設定も終わりました。さぁさ。戦闘開始です。

 

「《DEX》17。俺からか。だが特にやることはない。俺はこの場から離脱して車を持ってこよう。GM、できるか?」

 

 許可します。では遊星は車を持ってくるために、地下室から脱出しました。車を持ってきてここまで戻ってくるのに、2ラウンド後の最後までかかるものとします。

 

「待っていてくれみんな。車を持ってくる。すぐに逃げよう」

 

「頼んだぞ遊星! 次は《DEX》16。あたしか?」

 

「私も《DEX》16です」

 

 1D100をどうぞ。高い方が先に行動します。

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……78。わかっていましたけど私からですね。ファイティングナイフを1本取り出して《投擲》します」

 

 咲夜 《投擲》70 → 20 成功

 

 空鬼の《回避》判定です。

 

 空鬼 《回避》?? → 70 失敗

 

「よし、完璧に捉えました。ファイティングナイフのダメージ算出ですね」

 

 1D4+2+1D4/2 → 6

 

「6点のダメージです」

 

 咲夜の投げたナイフは深々と空鬼に刺さります。一瞬空鬼が怯みますが、何もなかったかのように戦闘態勢を整え直しました。

 

「次はあたしの攻撃だねい。45口径のオートマティックをぶっ放す。58パーセントだ」

 

 勇儀 《拳銃》58 → 02 クリティカル

 

「「「「クリった!?」」」」

 

「クリったぞGM。回避不能でいいな? 更に弾は貫通している」

 

 いいですよ。ダメージ計算です。45口径のオートマティックは1D10+2ですから2D10+2ですか。強烈ですね。

 

 2D10+2 → 6

 

「6か。ツイてないねい。どうだい?」

 

 弾丸は空鬼の身体を貫通しますが、あまり効果がないようです。

 

「ちっ。やっぱりオートマティックじゃ安定性がないか。次は近接格闘に切り替えるよ」

 

「次はどっちだ? 私は《DEX》10だ」

 

「ボクも同じだよ」

 

「残念だが私も特に攻撃に参加しない。部屋の隅っこに移動して遊星が来るのを待つ。だから自動で京楽警部のターンだ」

 

「よしボクの攻撃だね。《杖》で殴りかかろう」

 

 京楽 《杖》75 → 89 失敗

 

「失敗か。空ぶっちゃったねぇ」

 

 では最後、《DEX》9の空鬼の攻撃です。鉤爪で攻撃します。攻撃対象は……先程杖を空ぶった京楽、あなたです。

 

 空鬼 《鉤爪》?? → 21 成功

 

「当然《回避》するよ。75パーセントで成功だ」

 

 京楽 《回避》75 → 51 成功

 

「よし、《回避》成功だよぉ!」

 

 空鬼の大振りな攻撃は京楽がさっきまでいた地面を抉り、小さなクレーターを作り上げました。

 

「あ、危なかったねぇ……」

 

 2ラウンド目に突入です。

 

「俺は車を地下に続く階段の近くに停めて降りる。みんなのもとに向かうぞ」

 

「次は私です。2本目のファイティングナイフを《投擲》します!」

 

 咲夜 《投擲》70 → 65 成功

 空鬼 《回避》?? → 41 失敗

 

 1D4+2+1D4/2 → 4

 

「4点のダメージですか。ダメそうですね……」

 

「今度はあたしだねい。《マーシャルアーツ》+《キック》だ」

 

 空鬼のSIZが勇儀の倍以上ありますので、《跳躍》に成功してから攻撃判定になります。

 

「《跳躍》は初期値か……でもいい。《跳躍》だ」

 

 勇儀 《跳躍》25 → 03 クリティカル

 

「っしゃあ、またクリティカルだ!」

 

 んー……では回避不能ということで。攻撃を続けてください。

 

「よし。頭を狙うよ」

 

 部位狙いですか。ダメージボーナスを1段階上げることを認めますが、《キック》に10パーセントのマイナス修正を加えます。よろしいですか?

 

「ああ、構わないよ」

 

 勇儀 《キック》75-10 → 32 成功

 勇儀 《マーシャルアーツ》78 → 02 クリティカル

 

 なっ!?

 

「またクリティカル!?」

 

「勇儀ちゃん今日のダイス運冴えてるねぇ……」

 

 えー……マジですかぁ。で、では2D6を3D6にしてダメージ判定どうぞ。ダメージボーナスも1段階上げて1D6で。

 

 3D6+1D6 → 17

 

「じゅ、17点のダメージだ……」

 

「こ、これは……」

 

 あー……えー……じゅ、17点ですかぁ……。

 では勇儀の強烈なキックが怪物の頭部を捉えた……次の瞬間、ゴキリ、という生物の体内から聞こえてはいけないような音が静かに地下室内に響く。勇儀は嫌な感触がキックを放った足に伝わりました。

 そんな跳躍していた彼女の足が再び地に着いたとき、あなた達と対峙していた怪物の首はありえない方向へねじ曲がっていました。

 怪物は2本の脚がふらりとよろめかせると、遂には頭を曲がらせたまま、地面に向かってその巨体を力なく投げ出す。地面に接する刹那、怪物の身体はこことは違う空間に溶け込むかのように消えていきました。戦闘終了です。

 

「まさか勝ってしまうとは……」

 

「さすが山の四天王の名前を借りていることはある」

 

「クリティカルのせいだねい。撃退じゃなくて殺しちまうとは想定外だったよ」

 

 えー、空鬼を倒した光景を目撃した皆さん……あ、遊星は外でしたか。では遊星はタイミングよく空鬼が倒れたときに地下室に駆け込んできたということにします。

 

「みんな! 車を持ってきたぞ……て、へ?」

 

 まあそんなリアクションを取るでしょうね。では改めまして、皆さん、1D3を振ってください。振りたくない人は振らなくてもいいですよ。

 

「振っておこうか(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……1」

 

「(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……2」

 

 ではその数値から1を引いた分の《SAN》値を回復させてください。本当は撃退で上々なレベルの怪物に勝利して平静を取り戻したと判断します。

 

「このGM優しいですね。私は回復しませんでしたけど」

 

「騙されるな十六夜さん。ここで回復させても削り切る自信があるからこのGMは回復させているんだぞ? 私なんて1D6の《SAN》値回復イベントの直後にニャルラトホテプが真の姿を現して《SAN》チェックを課せられたことがある」

 

「結果はどうだったんだい?」

 

「《SAN》値直葬に決まっているだろう。1D100だぞ?」

 

「だろうな」

 

「ニャル様の真の姿を直視しちゃったらねぇ?」

 

 まあまあ、まだそんな酷いことは起きませんから安心してください。

 

「やる気ではあるんだ」

 

 さて、それはそうとロールプレイに戻りましょうか。

 

「露骨に反らしやがったねい。まぁいい。じゃあバケモンを倒しちまったあたしはさっきまでそいつがいた空間をぼんやり見ながらつぶやく。や、やった……のか?」

 

「私は部屋の隅っこで唖然としている」

 

「私は……そうですね。私も唖然とします。あまりにも呆気なさ過ぎましたので」

 

「ボクも開いた口が塞がらない」

 

「俺は戸惑いながらみんなに声をかける。み、みんな。車を……その……持ってきたぞ?」

 

「その声を聴いて私は平静を取り戻す。あ、ああ遊星くん、丁度いいところで戻ってきてくれた」

 

「あ、ああ……なんか……その……帰るか? みんな」

 

「……そうだな」

 

「……ああ」

 

「……そうですね」

 

「ボクはもうちょっとここに居るよ……。本当は帰りたいけど、刑事としてこの事実を明らかにしないわけにはいかないからねぇ。GM、ボクは地下室から出たら上司に連絡を入れる」

 

「私たちは帰るぞ。今日の行動は終わりだ。とりあえず無人島と別荘を購入して明日また調査を再開する」

 

 わかりました。ではあなたたちが地下から外に出ますと、遊星が乗ってきたセンチュリーを囲うように、3台の黒塗りの車が停まっていました。

 

「……これはマズいんじゃないか?」

 

 あなたたちの姿を確認するなり、車の中からサングラスを掛けたスーツの男たちが出てきます。ああ、すみません、1人だけサングラスかけていない男がいました。

 胡散臭い笑みを浮かべた金髪の男。顔立ちからして日本人ではありません。

 その男は他の黒服たちを手で制して後ろに下がらせると、あなたたちに近づき、話しかけてきました。

 

「警戒する。足のホルダーじゃなくて胸元に突っ込んだ拳銃に手を伸ばす」

 

「私もさっき回収したナイフをいつでも取り出せるようにしておきます」

 

「杖を少し構えておく」

 

「おやおや、そこまで警戒しなくとも、私たちはあなたたちと交戦するつもりは毛頭ありませんよ」

 

「信用できんな。ならどうしてそんな連中を後ろに控えさせている? もっとそれらしい対応のやりかたがあるだろう? そもそも君たちはどこの誰でどういう連中だ? ちなみに私は古美門研介。探偵だ」

 

「おやおや、これは失礼しました。私は加納三吾。私も探偵のようなものです。しかし、私はそこそこ高い地位に就いているものですから、こうして何人もボディガードが付いてきているのです」

 

「それにしても付いてき過ぎでは?

 

「それよりもおかしいところがあるぞ。加納三吾だと? GM、やつは日本人の顔立ちじゃないんだよな?」

 

 はい。欧米白人の顔立ちですね。ちなみにAPPは18です。

 

「アウトだな。明らかに神話生物だ。だが私たちは神話生物の確認をさっきのバケモノ以外を確認していないからそのままロールプレイに徹する。ふん、探偵か。守秘義務で話せないと思うが一応聞いておこうか。何を探っている? ちなみに私たちは公開するつもりはない」

 

「言ったでしょう? 探偵のようなものであると。つまり守秘義務は私たちにありません。なのでいいでしょう。知りたいと言うのならば教えます。私たちは訳有って祟道理子という少女を探しているのです」

 

「私たちと同じか。……あ、GM。今のはプレイヤー発言だ」

 

 はいはい。

 

「ところであなたたちは、ここの地下で妙な生物と交戦しましたか?」

 

「ああ、なんか意味の分からんバケモノがいきなり壁の中から出て襲ってきたな」

 

「猿と虫を足して2で割ったようなやつだったな」

 

「あたしが蹴り殺しちまったけどねい……」

 

「というかどうしてそれを知っているのですか?」

 

「予兆があったのでなんとなくですけどちょっと待ってください。け、蹴り殺したのですか!? 空鬼をっ!?」

 

「空鬼? あのバケモノの名前かな?」

 

「え、ええ。次元と次元の間を移動する怪物です。おそらくあなたたちが遭遇したのはその中でも弱い部類のやつだったのでしょう」

 

「STR22、SIZ24の空鬼が弱い部類なのか?」

 

 そういうことにしといてください。

 

「その怪物は壁の中から出てきたのですよね? その壁には何か、奇妙なものとかが描かれていませんでしたか?」

 

「あったな。ちょっと正気を失いかけたが。アレはただの絵じゃないな」

 

「絵というよりも図形に近かったかなぁ」

 

「そんなにペラペラしゃべって大丈夫なのかい?」

 

「こっちとしてもあれの正体がわからないわけだしな」

 

「向こうから喋らせて情報収集しようって魂胆さ」

 

「やはりそうでしたか。その壁に描かれていたのは、おそらくとある神を模して図形化したものでしょう」

 

「とある神? どんな神だ?」

 

「私もその神の名は知りません。ですがそれが『時』と『次元』を統べる存在であることだけは知っています。おそらく『時』と『次元』を統べる神の肖像が一種の『(あな)』となり、次元の彼方から空鬼が出現したのでしょう」

 

「何を言っているのかはさっぱりわからないけどねい、要するに地下の図形を描いた奴はその時の神様とやらと交信を取ろうとしていた頭のおかしい奴ということかい?」

 

「その認識でいいと思いますよ」

 

「理子ちゃんはそんな人たちに捕まってしまったのですか……助けてあげないといけませんね」

 

「その通りです。そこで私からの提案なのですが、どうです? 私たちと手を組みませんか? 私たちの目的とあなたたちの目的はおそらくほとんど一緒、あるいは目的を達成する過程で必要なことでしょう? 敵の敵は味方というやつです。どうですか?」

 

「うん、断る」

 

「即答かい。でもあたしもお断りだねい。おまえらは胡散臭すぎる」

 

「私たちが言えたことではありませんけどね。勿論私も反対です」

 

「どちらでもいい。俺はみんなの意見に従う」

 

「ボクも断ろうか。キミたちのバックの組織がどんなのかがわからないし、警察官としてそんな得体のしれない人間と行動することは出来ないねぇ」

 

「そもそもの話、どうしておまえたちは祟道理子を探している? 目的がわからん奴らのどこをどう信用しろというのだ」

 

 なるほど。じゃあ皆さんは加納と協力する気はないのですね?

 

「「「「「ない(ねい、ですね、よ)」」」」」

 

 それでは加納は困ったような笑顔を見せます。

 

「そうですか。それではしょうがないですね。では我々はこれで」

 

 と言ってこの場から去っていきました。

 

「全員?」

 

 全員です。

 

「車が全部見えなくなったら帰るか」

 

「そうだな。もう帰ろう。十六夜さんも星熊くんも遊星くんも、今日はゆっくりしたまえ。明日からまた頼む。京楽警部はどうだ? 今日はここで撤退して、明日また一緒に行動しないか?」

 

「ふむ……そうだね。それがよさそうだ。報告するって言ったけど、やっぱりやめておこうかな。怪しい連中が出てきたし、今ここを公表したら取り逃がしちゃう可能性が出てくるからねぇ。逃がしちゃったら理子ちゃんとやらも助けられないだろう? ならボクもここで帰る。車に乗れるかい?」

 

「5人までなら頑張れば乗れるぞ」

 

「じゃあボクも乗っていっていいかな。正直今は1人で帰るのは辛いからねぇ」

 

「ああ、いいぞ。家まで送っていってやる。遊星くん、車を出したまえ。GM、私たちはこれで行動終わりだ」

 

 了解しました。

 ではこの日の皆さんの行動を終了し、次の日に移行します。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.6

 では次の日になりました。おはようございます皆さん。現在時刻は朝の11時とさせていただきます。

 さて、必然的にチーム古美門と京楽に分かれる感じですが、皆さんはどう行動しますか?

 

「合流しておこうか。というわけでボクは古美門くんの事務所に来ているよ」

 

「俺も車に乗って来ているぞ」

 

 そうですか。ではそういうことにしておきます。ロールプレイを続けてください。

 

「さて、全員揃ってくれたところで今日の調査方針を決めようじゃないか」

 

「まぁ、調べるところなんて、あたしの考え付く限り1つしか思いつかないんだけどねい」

 

「クロノスの光の新しい校舎ですね」

 

「場所は長野県の面金村というところだよ」

 

「まずはその面金村について調べてみるか。GM、俺はノートパソコンで面金村を検索する。何かわかることはないか?」

 

 面金村は険しい山中にある、今は誰も住んでいない廃村であることがわかります。

 

「そんなところに移動するということは、何かよろしくないことを企んでいると考えていいだろうな。そういえば星熊くん、【ノーヴルヴェール】からの帰り道に支配人と理子くんが車でどこかに行くのを見たんだったな?」

 

「ああ、そうだったそうだった。忘れていたよ」

 

「わざわざGMが《目星》の強制チェックで与えてくれた情報ですから、きっと重要な情報ですね。もしかしたら理子ちゃんもその新しい校舎に向かったかもしれません」

 

「いずれにせよそこ以外に行ける場所がない以上、行くしかないか。GM、面金村への移動手段は車以外にあるか? 電車やバス、ロープウェイなんかが考えられるが」

 

 そういったものは一切ありませんね。行くのなら車で行くことをお勧めします。

 

「じゃあ遊星くんの車で行くとしようか」

 

「ナビを使えば行けそうだな。一応おおまかなルートを頭に叩き込んでおいたぞ」

 

「よし。じゃあ向かうとしようか」

 

 あ、面金村に出発しますか? ではちょうどその時、古美門事務所のインターホンが鳴ります。

 

「誰だ?」

 

「新しい依頼人……とは考えられないですね」

 

「となると敵か。拳銃を構えながら玄関に向かう」

 

「私もナイフを忍ばせて玄関に向かいます。そしてドアを開けます」

 

「じゃあボクも杖を突きつつ玄関に行こうか」

 

 では咲夜が玄関の扉を開くと、そこに立っていたのは見覚えのある少年。三白眼とツンツンとした髪の毛が特徴的な、高身長の少年です。

 

「理人くん……ですか?」

 

「あ、十六夜さん……。その……リコがいる場所がどこだか、わかりましたか?」

 

「……2人とも、ちょっとここは私に任せてくださいますか?」

 

「……銃を下ろす。んじゃあ、あたしは外の様子を伺うとするかねい」

 

「理人くん? キミたちに理子ちゃんの捜索を依頼してきた子かい?」

 

「ええ」

 

「じゃあわかったよ。ボクも外で見張りでもしていようかな」

 

「とりあえず理人くんに目を向けて答えましょう。ええ、今は移動している可能性もありましたが、実際に会いました。でもちょっと、まともに会わせられる状態ではない、と言いますか」

 

「え? それってどういう……」

 

「理子ちゃんにもいろいろある、ということです」

 

「……そう、ですか。あの、十六夜さん」

 

「はい?」

 

「今日もその、リコに会いに行ったりはしますか?」

 

「ええ。おそらくですが、会うと思いますよ。……敢えて訊きましょうか。それがどうかしましたか?」

 

「その、なんだかヤな予感がするんだ……。俺が行かなきゃいけない気がするんだ。どういうわけかわからないけど、俺が行って、理子に会わないといけないような、そんな気がするんだ」

 

「……はい」

 

「十六夜さん、お願いします。俺もその、リコのところに連れて行ってくれ。お願いだ!」

 

 と言って頭を下げてきます。

 

「……。……プレイヤー発言なのですが、どうしましょうか。私個人としては連れて行ってあげたいのですが」

 

「連れて行かせたいのは山々なんだけど、車に乗せられるのかい? たしか5人乗りなんでしょ?」

 

「あ、車は違うのを用意したぞ。前のセンチュリーはあの加納ってやつに知られているからな」

 

「ほう。では遊星くん、一体君はどんな車を用意してくれたんだね?」

 

「ベンツのトレーラー型のキャンピングカーだ。そうだな、GM」

 

 はい。把握しています。まぁ年収がアレですし、古美門の運転手ですから許可しました。

 

「というわけだ。違和感をなるべく消すためにキャンプ目的で面金村に向かおうってことで引っ張ってきた。理子ちゃんも助けて乗せる予定だったからな。10人くらいなら余裕だぞ」

 

「グレート! 流石だ遊星くん。報酬は奮発しようじゃないかぁ」

 

「毎度ありだ」

 

「高級すぎて逆に目立っちゃいそうですが……でもこれで理人くんも連れて行けますね。では改めて、反対意見はありますか?」

 

「「「「…………」」」」

 

「……特にありませんね。ロールプレイに戻ります。理人くんいいですか。これから私たちの行くところは、本当に危ないところです。何が出てきてもおかしくない、もしかしたら死んでしまうかもしれない、そんな場所に行こうとしているのです。いざというときに誰も助けてくれない、そんな場面があっても不思議でありません。それでも行きますか?」

 

 では咲夜がそう理人に諭すと、理人は首を縦に振りました。即答ですね。

 

「それでもいい。とにかく、俺は行きたいんだ」

 

「そうですか、わかりました。では行きましょうか。私がお守りしますから、くれぐれも私のそばから離れないようにお願いしますね。というわけで理人くんを連れて行きます」

 

 わかりました。では皆さん、そのトレーラー型のキャンピングカーに乗り込んで面金村に向かうのですね?

 

「ああ。当然俺は運転席だ」

 

「ボクは……そうだねぇ。助手席に座ろうか」

 

「じゃあ残りの私たちは全員後ろだな」

 

 了解です。ではあなたたちは4時間かけて長野県に移動しました。そして……面金村の近くに差し掛かります。

 面金村はサイトに載っていた通り、本当に山の中にある村らしく、あなた達を乗せたキャンピングカーはどんどん山の中に向かって進んでいきます。

 ここで皆さん、《幸運》判定を3回連続でお願いします。強制ロールです。あ、古美門は昨日無人島と別荘をご購入していただきましたので+10で、遊星は日にちが経過しましたのでマイナス補正を帳消しします。理人くんも判定しますよー。

 

 古美門《幸運》65+10 → 40 成功

 勇儀 《幸運》65 → 81 失敗

 咲夜 《幸運》50 → 56 失敗

 遊星 《幸運》55 → 86 失敗

 京楽 《幸運》55 → 72 失敗

 理人 《幸運》65 → 70 失敗

 

「おいこらこの無能共! 私以外失敗とはどういうことだ!」

 

「これ結構マズい……?」

 

 5人も失敗しちゃいましたかぁ。そうですかぁ。

 では遊星と京楽は遠くから乾いた音が聞こえた……その時、キャンピングカーに衝撃が走ります。運転手である遊星はハンドルが取られてしまいました。このままではガードレールを突っ切って谷底に真っ逆さまでしょう。

 

「おっとぉっ!?」

 

「うおっ!? 《運転》だ! 《運転》成功で整えるぞ!」

 

 5パーセントのマイナス修正をかけて判定どうぞ。

 

 遊星 《運転》80-5 → 22 成功

 

「うおおっ!」

 

 成功したので特にないですね。無事遊星はキャンピングカーのコントロールを取り戻しました。

 

「おい、遊星くん! なんだ! 何が起きた!?」

 

「どこからか攻撃を受けている! おそらく狙撃だ! タイヤもガラスも防弾仕様にカスタマイズしているが向こうも結構殺傷力のある物を使っているらしい! このデカい車体に当たっただけでこれだ! 真ん中に集まって動かないようにしてくれ!」

 

「狙撃だと!? くそ、狙撃銃なんて持ってないねい! 《拳銃》と《目星》で代用してこっちからも攻撃するかい!?」

 

「やめときたまえ! まだ《幸運》判定が2回残っている! おそらく同じ判定だ! もしファンブったら車狙いで撃った弾丸が君に直撃する可能性がある!」

 

「それに向こうを刺激して判定を増やしてくる可能性もあります。ここは大人しくしておきましょう。理人くん、こっちに」

 

「は、はい。十六夜さん」

 

「理人くん貴様! 十六夜さんは私のだ! 十六夜さんボクも構ってぇ!」

 

「はいはい、怖かったですね先生」

 

「まったく……」

 

 さてはて、幸先悪い皆さん。2回目の《幸運》判定です。特にマイナス補正は掛けません。どうぞ。

 

 古美門《幸運》65+10 → 69 成功

 勇儀 《幸運》65 → 47 成功

 咲夜 《幸運》50 → 71 失敗

 遊星 《幸運》55 → 39 成功

 京楽 《幸運》55 → 38 成功

 理人 《幸運》65 → 21 成功 

 

 5人成功ですか。ではあなたたちは特に何もなく山道を進んでいきます。遠くから銃声が聞こえた気がしますが、まあ気のせいでしょう。

 

「運よく回避できたようだな」

 

 では最後の《幸運》判定です。どうぞ。

 

 古美門《幸運》65+10 → 41 成功

 勇儀 《幸運》66 → 56 成功

 咲夜 《幸運》50 → 34 成功

 遊星 《幸運》55 → 61 失敗

 京楽 《幸運》55 → 49 成功

 理人 《幸運》65 → 87 失敗

 

 4人成功ですね。では特にありません。

 

「ふぅ、無事に乗り切ったな」

 

「全員微妙な数値だから不安だったんだけどな」

 

 まあまあ、それくらいが丁度いいくらいですよ。程よく緊迫感が出ますから。

 えー、ではまたしばらく車を走らせると1つの建物が見えてきました。住人がいなくなって久しい寂れた廃村にそぐわない立派な建造物です。

 

「GM、その建物は作られてまだ新しい感じか?」

 

 はい。まだ綺麗ですね。ちなみにもう夕方の4時です。地平線に落ちかけている陽の光が、建物を怪しく照らしています。

 

「ここみたいだねぇ」

 

「みんな着いたぞ、と少し離れたところに車を停める。そして降りよう」

 

「GM、校舎は今どんな状態だ? ダイスを振らない程度でわかることを教えてくれ」

 

 新校舎は学校というよりもグループホームを思わせるような作りです。【ぬくもりハウス】のような養護施設みたいな感じですね。子供たちが共同生活を送る施設と学校とが合わさってひとつの巨大な施設となっています。

 そんな校舎は四方が鉄製の柵で覆われており、乗り上げて侵入することはほとんど不可能です。どうしてもそうやって侵入したい場合は私を納得させてください。普通に中に入るには一箇所しかない正門を通らないといけませんが、2人の警備員が周囲を見張っています。

 

「警備員がいるのかい。どうかして見つからずに入ることは出来ないかい?」

 

 辺りには遮蔽物も少なく、身を隠しつつ忍び込むのは非常に難しいことでしょう。

 あ、そうですそうです。今警備員たちは何やら会話を交わしているようですよ。

 

「会話? それは聞こえますか?」

 

 今あなたたちは少し離れたところにいるんですよね? でしたら《聞き耳》成功で聞き取れることにします。もう少し近づけば自動成功にします。

 

「堂々と向かおう。私は名の知れた名探偵だし、京楽は警察だ。《信用》を使って事情を話せば普通に入らせてくれそうだ。ダメならロールプレイでカバーする」

 

「ですね。あ、理人くんは私の近くに居させます。私が彼を守ります」

 

「あたしは古美門の隣を歩く。それが仕事だ」

 

「ボクが一番前に歩くとしようか」

 

「それなら俺が最後尾だな。いざというときは真っ先に車を引っ張ってきて逃げる準備をする」

 

「自動で私と理人くんが真ん中ですね」

 

 これはクトゥルフですよ? パラノイアじゃないんですよ? まぁみんな普段パラノイア結構やってますからアレなんですが。

 えー、ではあなたたちが堂々と正門に向かっていますと、警備員たちの会話が聞こえてきました。

 

「……ったく、やれやれ。胸糞悪い仕事だぜ、本当」

 

「まったくだ。何でったってこんなきな臭い施設の警備員なんてしなくちゃいけないってんだ」

 

「きな臭いどころか真っ黒けっけだろ。あの子供の目ェ見たか、目。完っ全にキマっちまってたぞ? 薬をやってなかったとしても碌なことをされてねえよ」

 

「そうだな。いったいこんな山奥で何やってんだか。……む? 待て止まれ、おいおまえら。何者だ? なぜここを訪れた?」

 

「お、気が付いたみたいだね。じゃあ警察手帳を取り出しつつ話しかけよう。やぁ、仕事ご苦労さん。ボクはこういう者だよ」

 

「私も名刺を取り出しながら話しかける。そして私は名探偵の古美門です。まずは《信用》だ」

 

「ボクも《信用》だ」

 

 古美門《信用》80 → 24 成功

 京楽 《信用》80 → 09 成功

 

「……警察と探偵がここになんのようだ?」

 

「それはキミたちもよくわかっているんじゃないのかい? この施設の調査さ。悪いけどさっきのキミたちの会話を聞かせてもらったよ。キミたちも自分たちの仕事に納得していないんじゃないのかい?」

 

「どうだ、ここはひとつ。我々と手を組んで、ここが本当に真っ当な機関なのかを調べてみないか? 安心しろ。今なら私もこの刑事も君たちをどうこうするつもりはない。むしろ調査協力をしてもらったと判断して謝礼も用意しよう。GM、《説得》する」

 

「ボクもだ」

 

 古美門《説得》75 → 40 成功

 京楽 《説得》68 → 92 失敗

 

「あ、ボク失敗しちゃったけど大丈夫かな」

 

 古美門が成功したので見逃します。

 

「……いいだろう」

 

「お、おい相田……」

 

「いいじゃないか田中。探偵に加えて警察まで動き出したんだ。もうこの施設は真っ黒だ。このまま公務執行妨害やらなんやらで豚箱行きになるよか、仕事クビになったほうがマシだろ?」

 

「まぁ……それもそうか」

 

「てなわけで分かった。ここを通すことを許可しよう。いざというときは我々も駆けつける」

 

「感謝する。そうだ。警備員の……えっと?」

 

 相田と田中です。

 

「相田さんと田中さん。何かここについて知っていることはないか? なんでもいいんだ」

 

「そうだな。俺たちの仕事はこの施設の警備、そしてもう1つ。それはここで生活する子供たちが急に錯乱して暴れ出すことがあるから、即座に取り抑えて大人しくすることだ。そのためにこの通り、睡眠薬とそれを染み込ませて嗅がせるためのガーゼを常に携帯している」

 

「だがその錯乱している子供ってのがな、どうも恐ろしい幻覚を見て暴れちまってるらしいんだ。化け物がなんだって本当に怖そうな、か細い声でうわ言を話したり、叫んだり……。それにさっきの会話を聞いていたのならわかるだろうが、ここの子供たちは普段から目が据わっちまってて様子がおかしいんだ。まるでクスリか何かをキメちゃっているような、そんな虚ろな顔をしているんだ」

 

「そ、そんな……そんなところにリコが……!」

 

「そのリコちゃんも目が据わっちゃってたんですよね。《SAN》チェック受けるくらいに」

 

「そうですか、ありがとうございました。もう聞くことはないな。GM、校舎に乗り込むぞ」

 

 わかりました。ではあなたたちが上手く警備員を説得してグラウンド内に足を踏み入れた……その時。校舎の方から子供の甲高い悲鳴とガラスが割れるガシャンという音が聞こえます。

 

「おい、どうした! 何があった!」

 

「チッ、またかよ。こんなのが日常茶飯事さ。悪いが仕事だ。俺たちはそこに向かう。そっちはそっちで上手くやってくれ!」

 

 と言いながらレシーバーを片手に、2人の警備員は音がした方に走っていきました。

 

「……どうします? 私も彼らと一緒に向かいますか?」

 

「いや、俺たちは違う場所に向かったほうがいい。まだ情報が足りなさすぎる。なるべく人がいないところを中心に調べた方がいい」

 

「遊星くんの言う通りだ。叫び声が上がったところには大人がいる可能性が高い。ここは違うところに向かうとしよう。勿論全員で固まって探索だ。別れるのはマズい。GM、警備員たちはどこに向かって走っていった?」

 

 校舎の裏手あたりですね。

 

「ということは校舎内じゃないな。よし、俺たちは校舎内に突入するぞ」

 

 特に何もなく校舎内に入ることができました。

 校舎は1階建ての建物で横に広い造りです。今あなたたちがいるのは昇降口です。右側にはトイレが、左側には廊下が続いており、突き当りの所には扉があります。

 

「土足で入る。手当たり次第だ。まず一番近いところにある部屋はなんだ?」

 

 入り口付近に【教室】と書かれたプレートがあります。ここは子供たちが普段勉強する教室のようです。

 

「全員で《聞き耳》だ」

 

 古美門《聞き耳》70 → 44 成功

 勇儀 《聞き耳》25 → 39 失敗

 咲夜 《聞き耳》40 → 19 成功

 遊星 《聞き耳》48 → 40 成功

 京楽 《聞き耳》75 → 75 成功

 

「初期値のあたし以外は全員成功だねい」

 

 特に何の音も聞こえないですね。人の気配もないです。

 

「よし、入るぞ」

 

 全員で入りますか?

 

「「「「「入るぞ(ります、るよ)」」」」」

 

 わかりました。

 

「教室には何がある? ダイスを振らない範囲で何があるか教えてくれ」

 

 教室には黒板、机、椅子があります。ですが様子がどこかおかしいです。

 教室の窓ガラスはところどころ破損しており、応急処置として申し訳程度に木の板を足りつけて穴を塞いでいるような状態です。それ以外にも教室のあちこちに破壊の跡が見られ、床にはうっすらと血痕が残っています。

 

「黒板には何か書かれているか?」

 

 教室の黒板には、白いチョークで書かれた授業の内容がそのまま消されず残っています。

 

「内容を見る」

 

 黒板には犯罪・貧困・紛争等現代社会の諸問題がつらつらと列挙され、最後にあらゆる問題の根幹は『真実を知らない矮小な人類が世界を支配していること』と書き締まっています。人間社会の枠組みの外には、人智で計り知ることの叶わない真の支配者達が潜んでおり、世界を真の支配者達にお返しして正しき政を敷くことこそ世界平和の実現を果たす唯一の方法である、と。

 そして、長々と書かれた文章の中央に、探索者達が旧校舎の地下で目撃したあの不可能図形が描かれていました……。

 

「またこの図形か……」

 

「まったく……本当に気分が悪くなるねぇ……」

 

 この図形を直視してしまった皆さん、1D3/1D6の《SAN》チェックです。地下室でこの図形を見た古美門と京楽は1/1D3の減少です。

 

 古美門《SAN》63 → 80 失敗

 勇儀 《SAN》60 → 05 クリティカル

 咲夜 《SAN》46 → 40 成功

 遊星 《SAN》50 → 56 失敗

 京楽 《SAN》52 → 84 失敗

 理人 《SAN》65 → 27 成功

 

 クリティカルを出した勇儀は1点の減少で勘弁します。

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……2です」

 

「(コロコロ)……あ、6だ」

 

「(コロコロ)……1点」

 

 ちなみに理人くんは(コロコロ)……1点です。それでは5点以上減少した遊星くん、《アイデア》チェックです。

 

 遊星 《アイデア》70 → 24 成功

 

「よし! 一時的発狂だ!」

 

 嬉しそうで何より。では楽しい楽しい発狂の種類を決定しましょう。1D10をどうぞ。あと初発狂記念としまして6パーセントの《クトゥルフ神話》技能を贈呈します。

 

「(コロコロ)……4番」

 

 えーっと、4番は……意味不明の会話、または多弁症です。

 

「パニックのあまり平家物語の冒頭を早口で語ろう。こほん。祇園精舎の鐘の声諸行無常の響きあり沙羅双樹の花の色盛者必衰の理をあらはす」

 

(うわぁ、本当に暗記してるよこの人……)

 

「遊星さん、こちらへ……」

 

「お、おいアンタ、大丈夫か?」

 

「遊星くんは時々あんな風におかしくなるのだよ理人くん。なに少し経てば治る。気にすることはない」

 

「あ、ああ。わかった」

 

 発狂はあともう1つ探索エリアを探索し終えたらお終いでいいですよ。殺人癖とかだったら別でしたけど。

 

「GM、他に目ぼしいものは教室にあるかい?」

 

 特にないですね。

 

「よし、じゃあ次の部屋に向かおう。星熊くんは遊星くんを頼む」

 

「あいよ。ほら遊星、行くぞ」

 

「……おごれる人も久しからずただ春の夜の夢のごとしたけき者も遂にはほろびぬひとへに風の前の塵に同じ……」

 

「やれやれ……で、次に近い部屋はどこだい?」

 

 教室の真ん前にある部屋ですね。【休憩室】と書いてあります。

 

「遊星くん以外《聞き耳》だね」

 

 古美門《聞き耳》70 → 01 クリティカル

 勇儀 《聞き耳》25 → 44 失敗

 咲夜 《聞き耳》40 → 69 失敗

 京楽 《聞き耳》75 → 17 成功

 

「1クリだが……今は特にないか?」

 

 うーん……じゃあ古美門は1点の《SAN》値を回復させてください。

 で、《聞き耳》の結果ですが、特に物音はしませんね。人気もありません。

 

「ふぅ……よし落ち着いた。入ろう」

 

「あたしは遊星と一緒に部屋の前で待機する」

 

「楽しみを極め諫めをも思ひ入れず天下の乱れんことを悟らずして……」

 

「私も入ります。理人くんを連れて。行きましょうか、理人くん」

 

「あ、はい」

 

「ボクも入ろう」

 

 わかりました。では古美門と京楽、咲夜に理人の4人は【休憩室】に足を踏み入れました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.7

「さて部屋に入ったよ。部屋の中には何があるかな?」

 

 【休憩室】には表紙に青い犬が描かれた絵本と、『おやつ箱』と書かれたキャンディが詰め込まれたタッパーが備え付けてあります。床には子供たちの遊び道具であろうブロックが転がっています。

 

「絵本か。読もう」

 

 古美門は読むんですね。他には誰が読みますか?

 

「ボクも読もうかな」

 

「私も読みます。あ、理人くんはどうしましょう」

 

 んー……じゃあみんなが読んでいるということで一緒に見てしまった、ということにしましょう。

 

「……ん? 見てしまった、だと?」

 

「あ、これトラップだ。GM、やっぱりボクは遠慮して――」

 

 却下。では絵本の内容を教えましょう。絵本には次のような物語が描かれていました。

 

 むかしむかし、あるところに、おんなのこがいました。

 おんなのこは、ちいさなむらで、くらしていました。

 むらには、ぜったいになかをのぞきこんではいけない、ほうせきがありました。

 でも、おんなのこは、きれいなほうせきをてにとり、なかをのぞきこんでしまいました。

 ほうせきのなかには、たくさんのほしがキラキラとひかっていて、まるできれいなよぞらのようでした。

 ……でも、ほうせきのなかには、とてもとてもおそろしいかおをした、おいぬさんがいました。

 たちまちあたりにあおいけむりがたちこめます。

 おんなのこはきゅうにきもちがわるくなり、すわりこんでしまいました。

 でも、のんびりすわってなんかいられません。

 おんなのことめがあったおいぬさんは、ほうせきからとびだし、おんなのこをたべようとおいかけはじめたのです!

 おそろしいおいぬさんはどこまでもおんなのこをおいかけます。

 そう……どこまでも。

 どこまでも、

 どこまでもどこまでも、

 どこまでもどこまでもどこまでも、

 どこまでもどこまでもどこまでもどこまでも、

 どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも、

 どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも、

 どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも、

 どこまでもどこまでもおんなのこをおいかけます。

 おんなのこはとうとう、おそろしいおいぬさんにつかまり、

 はらわたをくいちぎられ、なきさけびながら、しんでしまいました。

 

 ……以上、児童書にしか見えないその絵本から何か名状しがたい恐怖を感じてしまった皆さん、0/1D3の《SAN》チェックです。

 

 古美門《SAN》61 → 30 成功

 咲夜 《SAN》44 → 83 失敗

 京楽 《SAN》51 → 31 成功

 理人 《SAN》64 → 67 失敗

 

「私だけ失敗ですか(コロコロ)……2」

 

 理人くんは(コロコロ)……2点です。

 

「プレイヤー発言なんだけどさ、この恐ろしいお犬さんって……あいつだよね?」

 

「間違いなくあいつだな。正確には犬じゃないが」

 

「な、何なんだこの本……気味が悪い……」

 

「怖がらないでください理人くん。大丈夫ですよ」

 

「そういう十六夜さんも顔色悪いがな。まぁでも、理人くんに関しては十六夜さんに任せておけば良さそうだ。我々はこの部屋を探索しよう。部屋の中には本以外には子供が遊ぶためのブロックがあるんだったな。それを調べるぞ」

 

「古美門くんがブロックを調べるならボクは『おやつ箱』を調べようかな」

 

 わかりました。では古美門のシーンから行きましょう。

 

「ブロックはどんなブロックだ? レゴとかダイヤとかそんな感じのかアレか?」

 

 いえ、そういう種類のブロックではありません。小さな金属球とマグネット付きの棒がセットになっていて、それらを繋ぎ合わせることで様々な構造の立体や平面図形を作ることができるタイプのマグネットブロックです。

 

「ああ。分子の構造図みたいなやつを作れるアレか」

 

 そうそう、そんな感じのアレです。

 そんなアレが五芒星を無理矢理立体化したような歪んだ立体型に組まれており、それがいくつも床に転がっています。……えー、このブロックを調べると宣言してしまった古美門くん、《アイデア》チェックでございます。

 

 古美門《アイデア》75 → 49 成功

 

 この立体を直視してしまった古美門の脳裏にあるものが浮かび上がります。

 それは、例の地下室とここの教室で見たあの図形。何度見ても背筋が凍り付くほどの悪寒が走る、あの図形を……。

 古美門くん、0/1の《SAN》チェックです。

 

「トラップだったか……」

 

 古美門《SAN》61 → 61 成功

 

 ギリギリですか。古美門は本当に《SAN》チェック強いですね。

 

「GMのボーナスが大きすぎるんじゃないか?」

 

 クリティカルボーナスを絶対に付けるのが私の流儀ですのでね。まぁいいでしょう。発狂させずとも方法はありますからね。

 

「期待する」

 

 さてと、では次は京楽警部です。『おやつ箱』を調べるんですよね?

 

「さっきの古美門くんのやつがトラップだったから怖いけど調べるよ。キャンディが入っているんだったね」

 

 はい。

 

「ふむ……。箱を漁ろうか。キャンディ以外に何か入っているかい?」

 

 特に何もありません。

 

「キャンディだけか。……キャンディはどんな感じのキャンディだい? 棒が付いたペロペロキャンディかい? それともビニールか何かに包まれたアメちゃんみたいなやつかい?」

 

 一口サイズのアメちゃんタイプですね。

 

「キャンディを直接見ることは出来るかい?」

 

 はい。袋は透明ですので直視できます。色とりどりで見た目は特に変わったところはありません。どこにでもあるような、普通のキャンディのように見えます。

 

「うーん、やっぱり見るだけじゃ何もわからないかぁ……。多分食べたら死んじゃうようなものじゃないと思うけど。……プレイヤー発言なんだけどさ。これ、多分《薬学》か《医学》で判定しないといけないよね?」

 

 まぁそうですね。

 

「じゃあなおさら食べたくはないなぁ。両方とも初期値だし。……匂いはどうかな、GM」

 

 《聞き耳》で代用したいと? うーん……京楽は刑事ですよね。しかも54歳のベテランですし……いいでしょう。認めます。ただしちょっと高めのマイナス補正をかけた上に《アイデア》チェックを挟みますよ?

 

「よし、それでいこう。じゃあ袋からキャンディを出して匂いを嗅ぐよ」

 

 何色のキャンディを御所望で?

 

「うん? じゃあ……紫にしようかな。ブドウが大好きなんだよね、ボク」

 

 《聞き耳》の1/3の値で判定どうぞ。

 

 京楽 《聞き耳》75/3 → 14 成功

 

「お、25パーセントで成功した。ラッキーだね。次は《アイデア》チェックか。補正は入るかい?」

 

 いえ、そのままの数値でどうぞ。

 

 京楽 《アイデア》70 → 56 成功

 

 では京楽はそのキャンディのブドウの匂いの中に麻薬に似た、明らかに違法なものであるとわかる薬物の匂いが混じり込んでいることに気が付きました。これを常用してしまえば間違いなく中毒症状を引き起こし、幻覚を見る、トランス状態に陥るなどの悪影響を及ぼすことでしょう。

 

「……これは間違いなくアレだね。こんなものを子供に食べさせるなんて、どうかしている」

 

 さらに追加情報をプレゼントしましょう。

 本当は《オカルト》で得られる情報なのですが、今回は《知識》で代用することを許可します。ただし半分のマイナス修正をかけますが。

 

「よし。もらえるものはもらおう。《知識》ロールだ」

 

 京楽 《知識》90/2 → 41 成功

 

「よしよし。ここにきてサイコロ運が冴えてるよ」

 

 えー、京楽は麻薬を使用したシャーマン文化があるという豆知識を思い出しました。麻薬はその昔、服用者を霊的存在との交信を可能にする神聖な薬であると信じられていたことがあり、それを用いたさまざまな儀式がヨーロッパを中心に行われていたのです。尤も、今となっては廃れてしまった古い文化ですが。

 

「なるほどねぇ。こんなものを使って何かの儀式をしていたってことかい。……なんとしても豚箱にぶち込もうか」

 

「えっと、探索は以上ですか? 私はずっと理人くんと一緒に居ましたけど」

 

「ブロックもキャンディも調べたし、他にないんじゃないのかな」

 

「一応部屋全体に《目星》しておこう。もしかしたら面白いものがあるかもしれない」

 

 古美門《目星》25 → 83 失敗

 咲夜 《目星》40 → 70 失敗

 京楽 《目星》80 → 72 成功

 

 特に目ぼしいものは見つかりません。

 

「よし、次の部屋に行こうか。【休憩室】から出る。遊星くん、そろそろ正気に戻りたまえ」

 

「近く本朝をうかがふに、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、これらはおごれる心も……はっ! お、俺は一体……」

 

「どんだけ暗記しているんだおまえは……」

 

「ちなみにこの間ずっとコイツ平家物語を暗唱してやがったからねい? リアルで」

 

 正直五月蠅かったですね。そんな人とずっと一緒に廊下で待機していた星熊さん? 《SAN》チェックしますか?

 

「ははは、遠慮しておくよ」

 

 そうですか残念です。では次はどの部屋に行きますか? 探索できる部屋はあと3つです。

 

「GM、教室といい休憩室といい、部屋ごとにネームプレートが掲げられているのだろう? ならば残りの3つの部屋がどんな部屋かがそれでわかるはずだ。教えてくれ」

 

 教室の隣の部屋は【職員室】、突き当りにある部屋は【校長室】、そしてあなたたちが先程探索していた休憩室の隣の部屋には何も書かれていません。

 

「とりあえず書かれていない部屋は後回しだな。一番危険だ。職員室に行こう」

 

 ではお約束の判定と参りましょう。

 

「「「「「《聞き耳》」」」」」

 

 古美門《聞き耳》70 → 26 成功

 勇儀 《聞き耳》25 → 42 失敗

 咲夜 《聞き耳》40 → 00 ファンブル

 遊星 《聞き耳》48 → 17 成功

 京楽 《聞き耳》75 → 77 失敗

 

「うっ、ファンブル……なにかありますか?」

 

 今回は免除します。えー、特に何も聞こえません。人の気配もありません。

 

「職員室に入ろう。私が先頭だ」

 

「狂気は去ったし俺も調べよう、2番目だ」

 

「あたしも続くよ。3番目」

 

「乗り遅れました、4番目です。理人くんも続きます」

 

「はいはい最後尾最後尾。杖を構えておこうかな」

 

 職員室は無人です。

 

「職員室には何がある? ダイスを振らない範囲で何があるか教えたまえ」

 

 職員用の机、本棚、隅っこの方には錯乱した子供の動きを止めるために使うのであろう刺股が1本置かれています。

 

「ほう、いいものだ。GM、私はこの刺股を持っていくぞ」

 

 どうぞ。

 

「本棚と引き出しが探索箇所みたいだねぇ。《目星》を使えば他にも見つかるかもしれないけど、とりあえずこの2つから調べてみよう。ボクは本棚を調べるよ。唯一の《図書館》技能持ちだからね」

 

「私は理人くんと手分けして引き出しを漁ります」

 

「あたしは探索しない。入り口付近に立って辺りを警戒する」

 

「俺も引き出しを調べよう。《目星》初期値の古美門よりも適任だろう」

 

「なら私は本棚を調べる。近くに刺股を立てかけよう」

 

 わかりました。では引き出し組からどうぞ。

 

「引き出しはどれくらいありますか?」

 

 5つです。

 

「つまり教師は5人いるということですね。では引き出しを片っ端から開けていきましょう」

 

「《目星》は必要か?」

 

 必要ありません。特に目ぼしいものは見つかりませんでしたが、引き出しの中には共通して、何らかの薬品が入った小瓶とガーゼがありました。

 

「小瓶には何か書かれていますか?」

 

 クロロホルムと書かれています。

 

「睡眠作用のある薬品だ。あの警備員たちもこれを持ち歩いているんだろうな」

 

「あ、それあたしにくれないかい? 人間相手の戦闘になったら使える」

 

「わかった。小瓶とガーゼをくすねて勇儀に渡す。俺も持っておこう」

 

 はい、では本棚組どうぞ。

 

「本棚に対して《図書館》を振ろう」

 

「待て京楽、それは最終手段だ。ロールプレイで得られる情報を根掘り葉掘り聞きだしてからでも遅くはない。GM、《図書館》で振らない程度で何があるか教えろ」

 

 各種教材、辞書、教育用マニュアル等、一般的な学校にありそうなものが一通り揃っています。

 

「怪しそうなタイトルの本はあるか?」

 

 技能を振ってください。

 

「じゃあ《図書館》を――」

 

「まだだ。まだ技能を振る時ではない。各種教材が揃っていると言ったな? 普通の教科書には背表紙に各教科の名前が書かれているだろう? それ以外の言葉が書かれた背表紙の本はあるか?」

 

 お見事です。えー、国語や算数などの教科書たちに混じって、【クロノス】と書かれた背表紙の本があります。

 

「ほら見たまえ、《図書館》なんぞに技能振らずとも情報は得られるのだぁ」

 

「それはこのGMが優しすぎるだけなんじゃ……」

 

 そうですか? クトゥルフはロールプレイングゲームですから、しっかりと具体的に行動を説明してくれればちゃんと情報は提供しますよ? 変に意地悪してシナリオ詰んだら困りますし。

 

「私はその【クロノス】と書かれた本を手に取る」

 

「ボクはそれを見て興味深そうに言う。ん? 先生、これは何の教科書だい?」

 

「わからん。わからんから私もこうして手に取ったのだ。GM、私はこの教科書を読む」

 

「ボクも読もう」

 

 はーい、ではその本を読んだPCに以下の情報を公開します。

 

 1、『その者』は立体的でありながら平面でもある図形として降臨する。人類の矮小な知識はかの不可能図形を解する術を持たない。

 2、『その者』は自らを奉ずる信者にすべてを与える。すべてとは過去であり、現在であり、そして未来でもある。そのすべてこそが、世界の真なる姿である。

 3、『その者』の招来には約束された『時』と『場所』を必要とする。然るべき『時』を選び、然るべき『場所』に『その者』の偶像、夜のゴーントの髑髏、2本の黒い蝋燭、金属性の杖を揃え、平面の五芒星を祭壇にて招来の儀式を行うべし。

 4、儀式は完全な形で行われなければならない。誤った儀式が行われた場合、『その者』は術者に災いを齎すであろう。

 5、呪文《その者の招来》。

 6、呪文《その者の退散》。

 

 以上、これらの情報を入手した古美門と京楽、1/1D3+1の《SAN》チェックです。さらに喪失した《SAN》値分の《クトゥルフ神話》技能をプレゼントしましょう。

 

 古美門《SAN》61 → 94 失敗

 京楽 《SAN》51 → 65 失敗

 

「ぐ、ここにきて失敗か(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……4だ。最大値かぁ。……気持ちが悪いねぇ、古美門先生」

 

「不覚ながらもこの私も気分が悪くなった。こんなものを理子くんや他の子供たちは読まされていたのか。道理でまともな目をしていなかったわけだ」

 

「それは私や遊星さんも読むことは出来ますか?」

 

 ええ、できますよ。《SAN》チェックします?

 

「はい。理人くんを勇儀さんに任せて、私もその本を読みます」

 

「俺も読もう。退散の呪文があるってことは、これが切り札になる可能性がある。不定の狂気は怖いが、役立たずにはなりたくないからな。しっかりと役割を持つようにしよう」

 

 では咲夜と遊星も6つの情報と《クトゥルフ神話》技能を入手して《SAN》チェックです。

 

 咲夜 《SAN》42 → 69 失敗

 遊星 《SAN》44 → 52 失敗

 

「みんな失敗しているねい……」

 

「(コロコロ)……3です。30台の大台に乗っちゃいました」

 

「(コロコロ)……よし、最低値の2だ。安い安い」

 

「さて、《SAN》チェックが終わったところで整理していくとしよう。まず、ここのやつらの目的。それはここに書かれている『その者』の降臨で間違いないだろう。そしておそらくここに書かれている条件はすべてクリアしていると見ていい」

 

「だろうねぇ。それでボクたちはどうにかして『その者』の降臨を阻止しないといけないってわけだ」

 

「気になるのは5番目と6番目の情報ですね。招来と退散」

 

「ここだけ詳しく開示されてない……ってことは」

 

「さっきとは別の《SAN》チェック必須の情報ってことだろうねぇ」

 

「どうする? 私は読むぞ。まだ《SAN》値に余裕があるからな」

 

「ボクも読もうかな。問題は咲夜ちゃんと遊星くんだよね」

 

「私は……どうしましょう」

 

「無茶するな咲夜。俺が読む。3人読めば充分だろう。ぶっちゃけ俺いなくても何とかなるからな」

 

「というわけで私と京楽警部と遊星くんで読む。十六夜さんは読まなくていい。さっきの4つの情報だけで充分だ。十六夜さん、ここは私たちに任せて君は理人くんの所へ向かいたまえ」

 

「はい」

 

「さて、見る人も決まったし、GM、6番目の情報を開示してくれるかい?」

 

 え、6番目だけでいいんですか?

 

「5番目の情報はなくてもよさそうだしねぇ」

 

「だな。遊星くんの《SAN》値も割と危険水域だからな。余計な《SAN》チェックは避けて行かないといけない」

 

 ああ、大丈夫です。両方とも読んでも《SAN》チェックは挟みません。強制的な正気度喪失は発生しますがね。

 

「なんだ。じゃあ両方とも読もう」

 

 では両方の呪文の内容を公開します。えーと、ああ、全員先程の《SAN》チェック失敗していましたね。成功者は1点で済んだんですが残念ですね。では1D3の正気度を喪失させて《クトゥルフ神話》技能を習得してください。

 

「(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……助かった、1だ」

 

「(コロコロ)……3。ここにきてボクと先生の正気度がガリガリ削れて行くなぁ」

 

 ではまず《その者の招来》から。

 この呪文を唱え、成功させると、『その者』が召喚され、特殊な五芒星の内部に出現させる。術者は1D10の正気度と、任意あるいは全てのMPを消費する。

 この呪文の基本成功率は1パーセントであり、消費されたMPと同じ値の分だけ成功率が上昇する。また、術者以外の呪文を知っている人間が詠唱に参加し、任意のマジックポイントを寄与することが出来る。

 次におそらくあなたたちが一番に知りたいであろう呪文、《その者の退散》。

 この呪文は招来された『その者』を退散させる。術者は1D10の正気度とMPを消費する。

 この呪文の基本成功率は1パーセントであり、消費されたMPと同じ値の分だけ成功率が上昇する。また、術者以外の呪文を知っている人間が詠唱に参加し、任意のMPを寄与することが出来る。

 ただし、他の術者によって招来されつつある『その者』を退散する場合、《その者の退散》の術者は《その者の招来》の術者のPOWを自らのPOWによって打ち負かす必要がある。複数の術者が《その者の退散》に参加する場合、対抗ロールに術者全員のPOWの合計値を用いてよい。

 以上です。

 

「うーむ……GM、本当にこれだけか?」

 

 はい。これだけです。

 

「《図書館》を振ろう。他に何かないか確認するぞ」

 

「俺も振ろう」

 

「ボクも振る」

 

 古美門《図書館》25 → 07 成功

 遊星 《図書館》25 → 78 失敗

 京楽 《図書館》65 → 52 成功

 

 特に目ぼしい本は見つかりませんでした。

 

「何もないのか……。招来の方はいい。召喚しようとしているやつはまともなやつじゃないから恐らく自動成功するだろう。問題は私たちが使う退散の方だ。君たち、MPはいくつだ? 私は13」

 

「11」

 

「ボクも11だね」

 

「術者が君たちのどちらかとしても最大成功率は35パーセント。だが術者は一時的発狂と不定の狂気を発症する可能性もある。それに成功する以前に対抗ロールに勝たないといけない」

 

「普通に考えて分の悪すぎる賭けになるな」

 

「あたしたちも見といたほうがいいかい?」

 

「いや、勇儀はメイン戦闘要員だ。この呪文を取得していても戦闘が同時に行われていたら唱える機会がない。よって意味がない。ここで《SAN》チェックに失敗して発狂されても困るし、見なくていい」

 

「そもそもここに居る全員のMPを掻き集めたとしても60パーセントあるかどうかでしょ? だから先生は《図書館》を振ったんだね。ほかに手段がないか探るために。でもそれでもなかった」

 

「最悪の場合はこの呪文を使うしかない。だが部屋はまだ2つある。もしかしたらそこに何かいい方法があるかもしれない。もうこの部屋に用はないだろう」

 

「では最後に《目星》をしましょう。40パーセント」

 

「俺も振っておこう。48パーセントだ」

 

「ボクも振るよ。80パーセント」

 

 咲夜 《目星》40 → 24 成功

 遊星 《目星》48 → 59 失敗

 京楽 《目星》80 → 38 成功

 

 特に目ぼしいものは見つかりませんでした。

 

「よし。部屋から出る。次は校長室だ」

 

「「「「「《聞き耳》」」」」」

 

 古美門《聞き耳》70 → 15 成功

 勇儀 《聞き耳》25 → 31 失敗

 咲夜 《聞き耳》40 → 63 失敗

 遊星 《聞き耳》48 → 07 成功

 京楽 《聞き耳》75 → 99 ファンブル

 

 ファンブルは見逃します。特に物音は聞こえません。

 

「部屋に入る」

 

 鍵がかかっています。

 

「その鍵は電子機器を使ったロック式か? それとも鍵穴か何かあるタイプか?」

 

 普通に鍵を差して開ける系のタイプですね。

 

「《鍵開け》をしよう」

 

 特殊なタイプの鍵を使っていますので半分の値で判定してください。

 

 古美門《鍵開け》70/2 → 54 失敗

 

「ぐ、失敗か。他に誰か《鍵開け》取っているやついるか?」

 

「あたしが一応。44パーセントしかないけどねい。振っておこうか」

 

 勇儀 《鍵開け》44/2 → 50 失敗

 

「はい。ダメだったねい……」

 

「仕方がないですね。なにも書かれていない部屋に向かいましょう」

 

「じゃあ全員で《聞き耳》だな」

 

 あ、ではあなたたちが何も書かれていない部屋の前で《聞き耳》をしようとしたその時、

 

「何か御用かしら? 鍵は開いているし、ここには私しかいないから聞き耳なんて立てずに入ってきてもいいわよ」

 

 という女の子の声が聞こえてきます。(コロコロ)……ちなみにその声が一体誰なのか、チーム古美門の4人に心当たりがあります。

 

「……何もしていないのにこちらの行動を先読みしてきた。ということは」

 

「ここに居るみたいですね、あの子」

 

 ああ、そうですそうです。この奇妙な体験を初めてした京楽と理人は0/1の《SAN》チェックです。

 

「ん、申請するよ。ボクは旧校舎跡で先生たちと情報共有している。つまり理子ちゃんの能力を知っている」

 

 《SAN》チェックは免除します。

 

「とにもかくにも、ここに居るんだね。向こうも入ってきていいって言っているんだし、入ろうよ」

 

「そうだねい。とりあえず、あたしが先頭か?」

 

「いや、私が先頭だ。星熊くんは続きたまえ」

 

「ん、わかったよ」

 

「俺は3番目だ」

 

「じゃあボクは4番目」

 

「私と理人くんは最後尾で結構です。やっぱりあんまりいい形での再会になりませんでしたね」

 

「それは仕方がない。ここから理子くんを力ずくでも連れ出して解決だ。GM、部屋に入るぞ」

 

 了解。ではあなたたちは何も書かれていない部屋……【理子の部屋】に足を踏み入れました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.8

 【理子の部屋】は装飾らしい装飾のない、殺風景な部屋です。部屋の隅に簡素なベッドと勉強机、真ん中には丸テーブルがぽつんと置いてあります。とても年頃の少女の部屋とは思えないほど、寂しいです。

 そんな部屋の真ん中、丸テーブルのそばに、その少女は立っていました。

 顔の左半分に大きな火傷の跡がある、焦点の合っていない虚ろな表情の少女は、大きな紺色のローブを羽織っており、その手に何かを持っています。

 と、その少女を見た理人が声を上げます。

 

「り、リコ……リコ!」

 

「おっと、待ってください理人くん。まだダメです。GM、理人くんの肩を掴んで押さえておきます」

 

 咲夜に対しての理人の信用は最大値ですので、大人しく引き下がります。

 

「よし。では話しかけよう。やあ昨日ぶりだね、祟道理子くん」

 

「そうですね。それにしてもこんなところで奇遇ですね、皆さん。見慣れない方々もいるようですが」

 

「連れだよ連れ。今日はここの近くでキャンプをする予定でねぇ。でもこんな辺鄙な村にこんな立派な建物があったから気になってしまってねぇ、こうしてお邪魔させてもらっているのだよ。いやぁそれにしても、先日は占ってくれてありがとう。君の言った通りに無人島と別荘を買ったよ。実に気分がいい」

 

「そう。それは良かったわ。で、そんな見え見えの嘘とどうでもいいことを話しに来たんじゃないんでしょう? 何か御用かしら?」

 

 質問は1人1回までです。

 

「じゃああたしから行こうかねい。その手に持っているものはなんだい?」

 

「ん? これかしら? これは【クロノス様】を模した偶像よ。これからの儀式に使うの」

 

 と言ってその像をあなたたちに見せてきます。皆さん、0/1の《SAN》チェックです。

 

 古美門《SAN》55 → 67 失敗

 勇儀 《SAN》59 → 75 失敗

 咲夜 《SAN》39 → 93 失敗

 遊星 《SAN》41 → 39 成功

 京楽 《SAN》44 → 13 成功

 理人 《SAN》62 → 85 失敗

 

「次はボクだ。初めましてだね。ボクは京楽。警察官をやっているよ。ところでそんな暑苦しい恰好をして、どこかに行くのかい?」

 

「ええ。これから私は【クロノス様】をこの世界にお招きする儀式を行うために、とある場所に行くの」

 

「俺が質問しよう。その場所はどこだ? 俺たちも暇つぶしにその儀式とやらに参加したいんだ」

 

「それは教えられないわ。これは神聖な儀式なの。選ばれていない人間を巻き込むわけにはいかないわ」

 

「トリは十六夜さんに任せた。GM、質問じゃなくて普通に話しかけることは出来るか?」

 

 それならご自由にできます。

 

「よし、ロールプレイだ。理子くん、君の過去を調べさせてもらったよ。第三者で君にとっては完全な赤の他人である私の言葉など薄っぺらいものだと思うがね、あえて言わせてもらおう。実に不幸な人生だったようだねぇ。いや違うか。君は今でも充分不幸だぁ。むしろ悪化していると言ってもいい」

 

「……なんですって?」

 

「度重なる両親からの虐待を受ける子供というのはそれほど珍しいことはない。言い方は悪いがありふれた不幸にすぎないのだよ。だが今の君はどうだ。かつての君の両親以上に質の悪いカルト思考をした頭のおかしいキ○ガイな大人に捕まって洗脳されて、そして今が幸せ自分こそ特別な選ばれた人間と思い込む始末。君を引き取った大人たちが君のことをただの使い捨ての道具扱いしていることにすら気付かない。ああ、そういう意味では君は幸せ者なのかもしれないなぁ」

 

「こいつエグイ正論をさらっと言いやがる」

 

「だけどそれこそ古美門だねい」

 

 あ、それ言っちゃいますか。その古美門の言葉を聞いた理子は、その虚ろな表情を崩します。その感情は《心理学》を振るまでもなく、怒りと憎悪であることがはっきりとわかります。

 

「お母様とお父様を馬鹿にしないで。お母様とお父様は私を助けてくれたのよ。どうして私ばかりがあんな酷い目に遭ってきたか……もうずっとずっと考えてきたわ。この顔の傷のせいで、どんなに酷いいじめを受けたか、あなた達に想像できるかしら? できないでしょう?」

 

「できないな。なにせここに居る全員、君と全く同じ経験などしていないのだからね。君の気持ちを1ミリたりとも外さずにピタリと理解できるなんてハナから思ってすらいない。だが君ばかりが酷い目に遭っているという認識は改めたまえ。さっき言っただろう? 両親から虐待を受けている子供など星の数を優に超えるほどいる。いや、両親がいないどころか、赤ん坊の頃から貧困街に捨てられてまともな食事すらできないような環境で今も尚生き続けている外国の子供たちもいるんだ。比較すべきことではないが、君と比べるとするならば彼らの方が酷い目に遭っていると言えるねぇ」

 

「黙れ。私はそいつらとは違うの。【クロノス様】が教えてくださったのよ。私は神に選ばれた特別な人間で、叡智を持たぬ猿どもには到底理解の及ばない崇高な存在なんだって。私が理不尽に痛みつけられ、踏みつけられ、虐げられ続けてきたのは、奴らが宇宙の真理を解せず、計り知れぬ私の器を恐れているからなのだとね」

 

「ちょっと何を言っているのかわからんぞ。日本人なら正しい日本語を使いたまえよ厨二病の電波娘くん」

 

「ふん。あなた如きに理解してもらおうなんて思ってない。私には使命があるの。【クロノス様】を地上にお招きし、歪んだ姿を本来のあるべき姿に正すという崇高な使命がね。【クロノス様】がこの世界に蠢く理不尽全てを正してくださるのよ」

 

「……ここで質問しようか。その君の崇拝する【クロノス様】とやらはどんな神様だ。君の持つ、その未来予知にも似た能力もその賜物か?」

 

「そうよ。この力は【クロノス様】が私に授けてくれた叡智そのもの。【クロノス様】は時と次元の全てを司る全知全能の存在。ほら。そんな【クロノス様】が力を授けてくれたのよ、この私に。ふふふ、やっぱり私は選ばれた人間だったのよ」

 

「……これはもうどんな言葉も通じないな。十六夜さん、任せた」

 

「任されました。質問の前に《精神分析》を試みます」

 

 咲夜 《精神分析》76 → 31 成功

 

 理子にかかっている洗脳が昨日以上に強まっていることがわかります。この洗脳は非常に強固なもので、咲夜がどれだけの時間を費やしても解くことは不可能です。

 しかし強まっているゆえにこの洗脳がどのようなものであるかがある程度特定することができました。よって、この洗脳を解く方法を開示します。

 この洗脳……ヒプノーシスを解く手段は2つ。

 1つは洗脳をかけた人物が直々に洗脳を解くこと。

 もう1つは洗脳された本人が、何かのきっかけで正気を取り戻すこと。ヒプノーシスは外からの干渉に強い半面、内側からの干渉に弱いため、本人が自我を取り戻し、抗うことができれば容易に洗脳を解くことができるでしょう。

 さらにもう1つ情報を提供します。理子はこの洗脳によって何かの記憶が抜け落ちてしまっていることがわかります。

 

「いい情報です。では私もロールプレイですね。理子ちゃん、先日はどうも。無事にあの写真に写っていた男の子を見つけることができました……と言いたいところですが、ごめんなさい。実はあれは嘘だったんです。私たちはあの少年を捜していたわけではありません。逆なんです。私たちはあの男の子にお願いされて、リコちゃん、あなたを捜していたんです」

 

「…………」

 

「ですがあれはもう何年も昔の写真です。今は立派に成長してほら、この子ですよ。この子があなたを捜していたんですよ。と言って理人くんを前に優しく押します」

 

「り、リコ……。俺だ。理人だ。覚えていないか?」

 

 そういう理人に理子は目線を移しますが、特に表情を変えることはありません。

 虚ろな目で理人を一瞥すると、

 

「……あなたは誰かしら?」

 

 という冷たい言葉が続けられます。

 

「これは……成程。洗脳の影響で抜けていた記憶というのは理人くんのことですね。おそらく洗脳が昨日以上に強まっていたのは、理人くんの写真を見せたときの影響を掻き消すために、改めて仕掛け直したからでしょう。GM、理人くんは今どんな状態ですか?」

 

 理子の無慈悲な言葉を受けて固まってしまっていますね。具体的に説明しますと、《SAN》値が5点失ってショック状態に陥っています。

 

「一時的発狂ですか。無理もないですね。本当にわかりませんか、理子ちゃん。この男の子とは昔、とある場所で長い間同じ時を過ごしていたんですよ」

 

 理子は訝し気に見つめ返すだけで特に反応しません。

 

「……【ぬくもりハウス】。覚えていませんか? あなたがここに来る前に、預けられていた児童養護施設のことです」

 

「……! ! !?」

 

 【ぬくもりハウス】の言葉を聞いた理子はピクリと眉を動かして反応します。そして、改めて理人を見た後になにか動揺しているようです。先程までの虚ろな表情が崩れかけています。

 

「お、これはここで《説得》すれば行けるかもしれないねい」

 

「だな。洗脳を解かすことができるかもしれない」

 

「ですね。GM、《説得》で判定します」

 

 おっと。残念ですがそうはいきませんね。

 動揺の色を見せた理子でしたがそれはすぐに収まり、元の無表情に戻ってしまいました。そして壁に掲げられている時計を見ます。

 

「……もう時間ね。あと1時間もすれば儀式が始まるわ。そろそろ出かけないと。じゃあ皆さん、御機嫌よう。【クロノス様】が作る新しい世界でまた会いましょう」

 

 と言って歩き出します。

 

「おっと、行かせるわけにはいかないな理子くん。と言って刺股を構える」

 

「ボクは入り口を塞ぐように立つ」

 

「あたしも前に出ようかねい」

 

「俺も前に出る。今のうちに睡眠薬をガーゼに染み込ませておこう」

 

「私は固まっている理人くんを守るように前に立ちましょう。あと先生たちとは少し離れた場所に移動します」

 

 わかりました。どうぞ続けてください。

 

「理子ちゃんは普通にこちらに歩いているのかい?」

 

 はい。なにも気にした様子もなく歩いてきます。戦闘開始です。

 

「俺が一番手だ。睡眠薬を染み込ませたガーゼを理子ちゃんに嗅がせる。《こぶし》で判定させてくれ!」

 

 どうぞ。

 

 遊星 《こぶし/パンチ》50 → 12 成功

 

 それでは理子の《回避》判定。

 

 理子 《回避》?? → 10 成功

 

 理子は遊星を躱して歩き続けます。

 

「なにっ!?」

 

「次はあたし。理子ちゃんに対して《組みつき》だ。ただし優しく、軽く動けないような感じでやる」

 

 勇儀 《組みつき》75 → 72 成功

 

「成功だ。もう《回避》できまい。動きを封じさせてもらうよい!」

 

 ところがどっこい。この理子はそんな常識通じません。再び《回避》判定。

 

 理子 《回避》?? → 82 成功

 

 勇儀が理子を取り押さえようと動きますが、やはり理子は難なく躱して歩いてきます。

 

「82で成功!? こいつの《回避》はどうなってんだい!」

 

「十六夜さんは理人くんを守っているし京楽警部は入り口を陣取っている。今度は私だ。刺股で理子くんの動きを封じる。……そういえば刺股ってなにで判定すればいいんだ?」

 

 50パーセントでどうぞ。

 

 古美門《刺股》50 → 98 ファンブル

 

「ぐっ、ファンブル!?」

 

 刺股を突き出したときに勢いをつけすぎたのでしょう、すっ転びました。そんな古美門を他所に理子は歩いていきます。

 

「最後はボクだけど……入り口塞いでいるし、このまま立っていればいいかな」

 

 ではそんな京楽のもとに何事もなく辿り着いた理子。しかし、彼女の歩みは止まりません。どんどんどんどん京楽に近づきそして……なんと理子は京楽の身体を透過して部屋から出て行ってしまいました。

 

「……え?」

 

「え? ボクの身体を通過していったの? ボクは大丈夫なの?」

 

 はい。京楽は特に何の体の異常もありませんね。ただ、理子が京楽の体など関係なしに通過しただけです。京楽の身体のど真ん中を通って。この現象を目撃した皆さんは1/1D4の《SAN》チェックです。

 

 古美門《SAN》54 → 35 成功

 勇儀 《SAN》58 → 96 ファンブル

 咲夜 《SAN》38 → 24 成功

 遊星 《SAN》41 → 30 成功

 京楽 《SAN》44 → 34 成功

 理人 《SAN》56 → 17 成功

 

「あたしだけ失敗……しかもファンブルかい」

 

 1D4+1で判定してください。

 

「(コロコロ)……3。まだ安いか。助かったねい。どうする? 追いかけるかい?」

 

「やめておこう。それよりもこの部屋を探索だ。まだ儀式に1時間も時間がある」

 

「だね。というわけで部屋を漁ろう」

 

「GM、勉強机の引き出しの中を漁る」

 

 引き出しの中にはアルバムがあります。

 

「アルバムを読む」

 

 アルバムの1ページ目には【ぬくもりハウス】前で優しそうな里親……祟道夫妻に挟まれて笑顔を浮かべている理子の写真が入っています。

 

「さらに捲っていく」

 

 アルバムには引き取られた後の理子の様子を収めた写真が収められています。しかし、ページを進めるにつれて最初こそ表情豊かだった理子の表情から感情が少しずつ少しずつ抜け落ちていく様を確認することができました。

 

「こんないい笑顔を作れるようになっていたのに……本当に酷いですね。許せません」

 

「そうだな。絶対に助けよう」

 

「GM、他に調べられる場所がないか《目星》だ」

 

「あ、ボクも振るよ」

 

 古美門《目星》25 → 70 失敗

 京楽 《目星》80 → 66 成功

 

 成功した京楽は扉付近にキラリと光るものがあることに気が付きました。

 

「それを手に取る」

 

 校長室、と書かれた鍵のようです。

 

「お、それで校長室に入れるねい。探索するかい?」

 

「するぞ。ここで出してきたということは、校長室を探索した後に理子くんを追いかけても間に合うということだろう」

 

 露骨にメタ読みしないでくださいよ。その通りですけど。じゃあ校長室に向かいますか?

 

「向かうよ。鍵を持っているボクが1番手ね」

 

「なら私が2番手だ」

 

「私と理人くんが続きます」

 

「その後ろに俺が付こう」

 

「じゃああたしが最後尾だねい」

 

「鍵を差してロックを解除。部屋の中に入ろう。【校長室】には何がある?」

 

 【校長室】には大窓を背にするようにして部屋の奥にデスクが置かれており、両脇には普通であればトロフィーやらメダルやら、はたまた賞状やらを飾るであろうガラス棚になっています。しかしガラス棚には、平面の円に囲まれた五芒星を無理矢理立体化したような形のオブジェがずらりと並んでいます。

 部屋の奥には少し大きめの黒塗りの金庫が置かれており、鍵がかかっています。

 

「デスクの上には何がある?」

 

 パソコンが置いてあります。

 

「机の下には何かありますか?」

 

 いえ、何もありません。

 

「デスクの引き出しを漁る。何か目ぼしいものは見つかるか?」

 

 特にありません。

 

「このパソコンと金庫くらいのようだねい。GM、あたしは金庫を調べるよ」

 

「私も金庫の方に行く。《鍵開け》を持っているからな」

 

「じゃあ俺はパソコンだ。ようやく出番って感じだ。張り切らせてもらうぞ」

 

「ボクはガラス棚を調べようかな。あ、そういえばあのオブジェ見たら《SAN》チェックあるかい?」

 

 ありません。もうさすがにそのネタで削りませんよ。見慣れてしまったということで。

 

「よし」

 

「校長室なのですからソファくらいありますよね?」

 

 あります。真ん中の長方形のテーブルを挟むように2つ。

 

「私は理人くんとそのソファに座って休憩します。これ以上《SAN》値を減らしたくありませんので」

 

 わかりました。じゃあどこからやりましょうか。遊星からやっていきましょうか。あんまり出番なかったですからね。

 

「よし。GM、パソコンの電源はどうなっている?」

 

 切ってありますね。

 

「じゃあパソコンを起動させよう。だが当然出てくるよな、パスワードが」

 

 はい。8ケタの暗証番号を入力しないといけません。それか《コンピュータ》で成功させてください。

 

「よし。《コンピュータ》は75ある。振るぞ。所持品の専用プラグインソフトを取り出して準備完了だ。行くぞ」

 

 遊星 《コンピュータ》75 → 09 成功

 

 ではあなたのハッキング技術により、パソコンを無事起動できました。

 デスクトップにはwebカメラでリアルタイム撮影された映像が流れています。その映像は、昨日あなたたちが探索した旧校舎跡の地下室の様子です。

 

「ああ、あのカメラか。ここから監視していたんだな。それで、他に目ぼしいフォルダはないか?」

 

 【日記】と書かれたフォルダがありますね。

 

「よし。それを読もう」

 

 わかりました。では、日記の大まかな内容を公開します。

 

◯月◯日

埼玉県所沢市「ぬくもりハウス」にて高い適正を持つ少女を発見した。

私達夫婦は少女を養女として引き取り、連れ帰る。今回は上手く行くといいのだが。

 

#月#日

理子の教育は順調に進んでいる。理子の幼少期の凄惨な体験は、世界の全てを憎むに至るに充分すぎる。もうすぐ理子は人類の繁栄など偽りでしかなく、この世界は真なる支配者にお返しすべきものだと理解するだろう。

 

@月@日

「マサト」とはあの施設の子供の名前だろうか?

理子の教育はもう一息で完了するというのに、この名前が理子の精神を繋ぎ止めているようだ。

やむを得ない。ヒプノーシスの心得はある。ここは多少手荒な方法を使ってでも……

 

×月×日

理子がその者との接触に成功。理子はその者の叡智を手に入れた。

我々は理子を通じ、約束の【時】を手に入れた。残る必要なものは【場所】である。

 

☆月☆日

また巫女候補の1人が自ら目を閉ざし、叡智を手放した。彼女……弓香の出来映えは理子に迫るものだっただけに残念でならない。

しかし、問題はない。弓香はスペアのようなもので、理子1人いれば元より計画に支障はないのだ。

脱走した真也の遺体を押さえられたのは痛手だが、新校舎の完成は間近だ。気取られる前に移転を完了させねば…

 

△月△日

約束の【場所】たる長野県面金村に新校舎を設立。しかし、新校舎はカモフラージュであり、兵隊を育てる錬成所に過ぎない。

儀式の要は村の外れに位置する公民館である。※月※日の夜、公民館にて儀式を執り行う。

我々の目的が成就する時が近づいている。大いなるクロノスにまみえ、世界をかの者の手にお返しするその時が。

 

$月$日

……まさか、ここまで早いとは。

時の彼方に存在する【角度の世界】の存在は知っていたが、よもやここまで早く理子が捕捉されるとは考えていなかった。

しかし、儀式を前倒しには出来ない。儀式には然るべき【場所】、そして【時】を要する。

約束の日は近い。【禁縛の宝珠】は手に入れたが、宝珠を使う前に猟犬を弱らせるための武器が必要だ。

猟犬には物理的な攻撃は意味を成さない。祝福されし武器だけがかの穢れたる怪物を傷付けることが出来よう。用意を急がねば……

 

 以上です。

 

「……このシナリオ、本当に殺意高いな。登場する神話生物の数が多すぎる上にどれも強力だ。だが対抗手段は用意してあるらしいし、それを見つけ出すことができればあいつとの戦いを有利に進められるな。それに儀式の場所もわかった。これで理子ちゃんの所に行けるぞ」

 

 というわけで遊星のシーンはお終いです。今度はガラス棚を調べると言っていた京楽のシーンです。

 

「ガラス棚に対して《目星》」

 

 京楽 《目星》80 → 80 成功

 

 特に目ぼしいものは見つかりませんでした。

 

「なんだ。無意味だったか」

 

 はいでは金庫組行きます。

 

「《鍵開け》を使用する」

 

 補正無しでどうぞ。

 

 古美門《鍵開け》70 → 39 成功

 

 無事開錠できました。

 

「金庫の中には何がある?」

 

 32口径リボルバー1丁と【クロノスの魔弾】12発、そして【祝福されし短剣】が5本です。

 

「ああ。多分それであいつを撃退するんだろうな。でも肝心の【禁縛の宝珠】はないか。とりあえずみんな探索に終わったと思うし、日記があったことを伝えよう。《SAN》チェックもないし、咲夜も来て目を通してくれ」

 

「そうですね。わかりました」

 

「リボルバーと弾丸はあたしが持っておくよ。技能取っているからねい。短剣はみんな1本ずつ渡しておく」

 

 では皆さんがパソコンの情報を共有したところで、閉まっていた校長室の扉がガチャリと音を立てて開かれます。

 

「申請します! 私はそれに反応して校長室の端っこ、窓からも遠いところに理人くんを連れて移動します!」

 

「あたしも戦闘態勢になっておく」

 

「私は刺股を構える」

 

「ボクも杖を構えておこう」

 

「俺だけ素寒貧か。短剣を構えるわけにもいかないし、とりあえず立ち上がっておこう」

 

 反応早いですね。流石パラノイアで鍛えられただけのことがあります。

 えー、ではその開かれた扉から校長室に小さな影が入ってきました。その正体は小さな子供。ただし目が虚ろで焦点が合っていません。明らかに正気の状態ではありません。どうやらこの【クロノスの光】で教育を受けていた子供のようです。

 その子はあなた達を視界に入れると、人差し指を差しつつ声を上げます。

 

「あー。いけないんだー。こうちょうしつにかってにはいっちゃいけないんだよー」

 

「おいこら、人を指で差すんじゃない。最低限のマナーだぞ、勉強しなかったのか」

 

 えー、その子供の声を聞きつけたのでしょう。続々と子供たちが校長室に入ってきます。勿論全員、正気の目をしていません。

 

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにいっちゃーおー」

 

 最初に入ってきた子供が感情の乗っていない大きな声を上げますと突如、点いていた部屋の電気が一気に消えます。部屋中が窓から差し込む夕日の薄い光によって辛うじて視界は封じられることはありませんでしたが、代わりに恐ろしいものがあなたの目に飛び込んできます。

 薄暗い闇の中に輝く無数の青白い光。それは、校長室に入ってきた子供たちの虚ろな瞳の中からぼんやりと浮かび上がっていました。

 

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにいっちゃーおー」

 

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにいっちゃーおー」

 

「「「「「いいーけけないんだだーいけけけななないんだだだだー、せせっせ――――んせーにいいいっちゃちゃちゃちゃおおおお――――――――」」」」」

 

 最初の子供の声に続くように、子供たちの声が統一性もなく、バラバラな不協和音を奏でる。

 青白い光を瞳に宿してしまった子供たちからの、感情の起伏のない、平坦とした、しかし確かにそこにある、狂気を帯びたあなた達に対する咎める言葉は、呪わしき輪唱となってこの校長室に響き渡り続けました。

 探索者の皆さん、1/1D3の《SAN》チェックです。

 

 古美門《SAN》53 → 07 成功

 勇儀 《SAN》55 → 53 成功

 咲夜 《SAN》37 → 32 成功

 遊星 《SAN》40 → 10 成功

 京楽 《SAN》43 → 71 失敗

 理人 《SAN》55 → 02 クリティカル

 

 クリティカルを出した理人くんは正気度減少を免れました。

 

「ボクだけか(コロコロ)……1。よし、ボクも1点で済んだ。ツイてるね」

 

 皆さんやっぱり《SAN》チェックに強いですねぇ。だからこそこっちも潰す気が起きてきますよ。

 えー、子供たちの断罪の輪唱が響く中、ドアを開けて1人の男性が現れます。その男性は占いの館【ノーヴルヴェール】の支配人、祟道叡史張本人です。

 

「ボスの1人のご登場か」

 

 叡史は不気味な笑顔を浮かべたまま、淡々とあなたたちに一方的に語りかけます。

 

「少しやりすぎてしまったようだね、薄汚い犬どもめ。君たちの骨はこの面金村の土に埋葬してあげよう。安心して死んでくれたまえ」

 

 というわけで、戦闘開始です。頑張って生き残ってくださいねー。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.9

 それでは戦闘開始です。そういえば読者の皆様には言い忘れていましたが、うちの卓では戦闘はかなり適当です。ノリと勢いでやってます。と話を戻しましょう。

 探索者の皆さん、相手は祟道叡史と【クロノス】の子供たち9人、計10人です。

 

「10人!?」

 

 全員の部屋での位置をここで確認します。

 

「あたしが先頭だ」

 

「私は理人くんと一緒に一番遠い場所に陣取ります」

 

「私は校長室のデスクの前で刺股を構える」

 

「俺もそこらへんだ」

 

「ボクも2人と一緒だね。あ、杖は使わないよ」

 

 オーケー確認を取れました。では第1ラウンド開始です。《DEX》17の遊星くんからの行動ですよ。

 

「GM、子供たちの耐久力はいくつだ? 公開情報か?」

 

 非公開情報です。

 

「下手に攻撃できんな。GM、俺は睡眠薬を染み込ませたガーゼを一番動きが鈍そうな子供に嗅がせる! さっき理子ちゃんに使おうとしたやつだ。使えるか?」

 

 使えます。ただし動きが鈍そうな子供を見つけるために《目星》判定を挟んでください。

 

 遊星 《目星》48 → 31 成功

 

 では遊星は動きの鈍い子供を見つけることができました。攻撃判定してください。

 

 遊星 《こぶし/パンチ》50 → 27 成功

 

 子供I《回避》?? → 80 失敗

 

 では一番《DEX》の低い子供を眠らせました。自動成功です。

 

「よし、まず1人目だ」

 

「次はあたしだ。GM、祟道叡史は今何か得物を構えているかい?」

 

 構えていません。手に物は何も持っていません。

 

「よし、《こぶし》だ。あたしは祟道叡史に殴りかかるよい! 子供を殴るのは気が引けるが、あいつは別だ」

 

「《マーシャルアーツ》は?」

 

「うっかり殺しちまうと困るから無しだ。手加減してやるから食らいやがれ!」

 

 勇儀 《こぶし/パンチ》75 → 09 成功

 

 では勇儀が叡史に殴りかかった瞬間、子供たちは叡史を庇いに勇儀の前に立ちはだかります。

 

「なっ!?」

 

 子供たちとの《DEX》対抗です。ちなみにこれは行動可能な子供たちの数だけ行います。

 子供たちの《DEX》を公開します。《DEX》11の子供が3人、《DEX》7の子供が2人、《DEX》3の子供が4人です。1人寝てますけどね。

 

 子供A《DEX》対抗 25 → 90 失敗

 子供B《DEX》対抗 25 → 48 失敗

 子供C《DEX》対抗 25 → 24 成功

 

「げっ!?」

 

 では子供Cに勇儀の拳が炸裂します。ダメージロールどうぞ。

 

「待てGM! あたしは《格闘センスの持ち主》だ! もう一度《こぶし》で判定させろ! 成功で飛び出してきた子供に反応して拳を引っ込める!」

 

 認めます。

 

 勇儀 《こぶし/パンチ》75 → 01 クリティカル

 

 1!?

 

「1!?」

 

「1クリ!?」

 

「っしゃあ! クリティカルだぞGM!」

 

 で、では子供Cの《庇う》が失敗したということで。では残り5人との《DEX》対抗です。

 

 子供D《DEX》対抗 05 → 39 失敗

 子供E《DEX》対抗 05 → 40 失敗

 子供F~H《DEX》対抗 自動失敗

 

「掻い潜ったぞ! てめえ! ガキに戦わせて庇わせて自分は高みの見物たぁ上等だゴラァ! 歯ァ食い縛りやがれ!」

 

 叡史 《受け流し》?? → 93 失敗

 

 1D3+1D4 → 7

 

 7!? えっ!? 7!?

 

「はっはぁっ! 最大値だねい! あたしのこの手が真っ赤に燃えるぅ!」

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

「吹き飛びやがれ! 三歩決殺!」

 

「ぐふわぁっ!?」

 

「ゴッドフィンガーじゃないのか。あ、俺だったらスクラップフィストだな」

 

「シリアスシーンのはずなのにめちゃくちゃだねぇ……」

 

「全部クリティカルってやつが悪い」

 

「今回勇儀さんのダイスが荒ぶっていますね……」

 

 あー……えー……7点ダメージですかぁ(コロコロ)……ほっ、良かった。叡史は勇儀の拳を受けて吹き飛びますが、殴られた頬を抑えながら立ち上がります。

 

「今のダイス……ショックロールを乗り越えたか? 運のいい奴め」

 

「次は私です。理人くんを庇い続けます。GM、子供たちがこちらに向かってきた場合は私の行動を先に処理させてください。《精神分析》を仕掛けます」

 

 いいでしょう。……おっと、次は《DEX》10の古美門と京楽ですか。では叡史と子供たちの行動を先に処理します。

 

「くそ、この野蛮なゴミが……!」

 

 と言って叡史は懐から拳銃を取り出します。

 さらに《DEX》11の子供3人の行動です。尤も近くにいる人間……この場合ですと勇儀ですね。勇儀に向かって3人がかりで《組みつき》を行います。

 

 子供A《組みつき》50 → 30 成功

 子供B《組みつき》50 → 07 成功

 子供C《組みつき》50 → 94 失敗

 

 では2人の子供が勇儀に組みつき、動きを封じようとしてきます。

 

「ぐっ、同じく《組みつき》で受け流す! 75パーセントだ!」

 

 10パーセントのマイナス修正を加えて判定してください。

 

 勇儀 《受け流し》75-10 → 37 成功

 

「舐めてもらっちゃあ困るねい。こちとら伊達に金持ちの専属ボディガードやってるわけじゃないんだよ。ガキなんぞに後れを取るかい!」

 

「でかした星熊くん! 今度は私だ! 今星熊くんを組みつこうとして失敗した子供がいるな。そいつの動きを《刺股》で封じる! GM、攻撃に失敗した子供は隙ができているはずだ! ボーナスを要求する!」

 

 認めます。《回避》不可にしましょう。

 

 古美門《刺股》50 → 16 成功

 

「よし。これで子供の動きを封じたぞ! 遊星くん! 次のラウンドでこいつに睡眠薬を嗅がせろ! この状態なら《回避》できまい!」

 

「わかった!」

 

「今度はボクだね。と言ってもやることがないからここは見に回る。今度の誰かの行動の時にすぐに援護できるようにしてほしいな」

 

 わかりました。では次は《DEX》7の子供DとEの行動。先程と同じように2人掛かりで《組みつき》ます。対象は勇儀さん、あなたです。

 

 子供D《組みつき》50 → 56 失敗

 子供E《組みつき》50 → 90 失敗

 

 2人とも失敗ですか。では最後、《DEX》3の子供3人で《組みつき》判定。対象は勇儀さんです。

 

「おおっと待った! ここでボクが行動する! 子供たちが勇儀ちゃんに向かっていくなら、ボクも勇儀ちゃんと一緒に子供たちに組みつかれよう! 《受け流し》判定を済ませちゃった勇儀ちゃんには厳しすぎる!」

 

 認めます。では子供たちは2手に分かれて勇儀と京楽に《組みつき》ます。子供FとGは勇儀に、子供Hは京楽に《組みつき》です。

 

「よし、助かる京楽!」

 

 子供F《組みつき》50 → 41 成功

 子供G《組みつき》50 → 18 成功

 子供H《組みつき》50 → 74 失敗

 

「なんてこった! 勇儀ちゃんに向かった2人が成功! ボクの意味がほとんどなくなっちゃったよぉっ!?」

 

「ぐっ、《回避》できるかい!?」

 

 出来ます。20パーセントのマイナス修正を加えて判定してください。

 

 勇儀 《回避》65-20 → 32 成功

 

「よっしよしよし! 今日のあたしのダイスは冴えてるねい!」

 

 うっそでしょう!? 勇儀さんのダイスどうなってんですか!? 狂ってんじゃないんですか!?

 

「第2ラウンド突入だ。古美門が押さえつけている子供に睡眠薬を嗅がせる。《刺股》で抑えているから《回避》できないな?」

 

 出来ません。

 

「よし。《こぶし》で判定だ」

 

 遊星 《こぶし/パンチ》50 → 12 成功

 

「成功だ。子供に睡眠薬を嗅がせたぞ」

 

 自動成功です。子供Cは眠りに落ち、戦闘不能になりました。

 

「よし、2人目だ。睡眠薬を入手したのは正解だったな」

 

「私の行動は変わりません。理人くんを守りつつ見に徹します」

 

「ってことはあたしの行動だねい。……GM! ここはあたしも見に回る! 叡史が銃をぶっ放したら動く! できるかい!?」

 

 認めます。では叡史の行動です。32口径リボルバーを勇儀に向けます。

 

「よくもやってくれたな女! 死ねぇっ!」

 

 叡史 《拳銃》?? → 99 ファンブル

 

 んなっ!? ファンブル!? しかも故障ナンバーですと!?

 

「むっ……むっ!? な、何で弾が出ない!?」

 

「勇儀おまえ運が良すぎだ。普通に子供を眠らせている俺がバカみたいじゃないか」

 

「ああ、シリアスがどんどん遠ざかっていきます……」

 

「チャーンス! ここだ! 行くぞ、《キック》でノックアウト攻撃だ! 安心しな、殺しはしないよ。その代わり豚箱がてめえを待ってるぜい!」

 

 勇儀 《キック》75 → 18 成功

 

 え、叡史を守るために子供たちが――

 

「待てGM、叡史はファンブったんだぞ。さっきの星熊くんのクリティカルで《庇う》を失敗しているのに、ファンブルの時に失敗しないなんておかしいとは思わないかね?」

 

 ぐ……で、では《受け流し》を――

 

「ジャムったことに動揺している人間……しかも狂人が、平常な判断をすぐに下すことなんて果たしてできるのかなぁ? ボクは出来ないと思うんだけどなぁ」

 

 ……半分の値で判定します。それ以上はダメです。

 

 叡史 《受け流し》??/2 → 67 失敗

 

 ですよねー……。

 

「失敗だな。ダメージロールだ」

 

 1D6+1D4 → 6

 

「ぐおらっはぁっ!?」

 

「こらまたどでかいダメージだねぇ……」

 

 の、ノックアウト判定……ですが……え、えー……成功しても失敗しても結果が同じですので省略します。自動気絶です。叡史が倒れたため、子供たちが困ったように右往左往し、やがて呆然と立ち尽くします。戦闘終了です。

 

「とりあえず子供たちには全員睡眠薬を嗅がせておく。眠っていてもらおう」

 

「叡史は何かで縛っておくか。あとで邪魔しに来られても困るからな」

 

「あ、それならボクの手錠を使おう。両手を後ろに回して手錠する」

 

「お、優秀。足と口も封じておこうかねい。タオルかなんかを適当に拝借して猿轡した挙句に足首を縛る」

 

「なんというか、その……呆気なかったですね」

 

 クリティカルとファンブルが荒ぶっていましたからね。本当なら遊星と古美門がやっていたような戦闘をするのがベストでした。叡史を直接攻撃するのはトラップだったんですよね。子供が庇ってきますから。まぁ成功したからこんなにあっさり戦闘が終わってしまいましたが。

 

「今だから聞くけどさGM、子供の耐久値はいくつだったんだい?」

 

 5です。

 

「ひっくいねいおい。一発殴っただけで死ぬ可能性があったのかい」

 

「危なかったんだねぇ……勇儀ちゃんの攻撃がヒットしていたらボクはキミも連行しないといけないところだったよ。まぁ罪を軽減できるようにしてあげるけどね」

 

「《SAN》チェックもあっただろうな。さて、公民館に向かうか。車を出そう」

 

「待て遊星。叡史の持ち物を物色しよう。何か面白いものを持っているかもしれない。というわけでGM、私は叡史のポケットの中を漁る」

 

 では古美門はジャムっている32口径リボルバーと【クロノスの魔弾】12発、後いらないと思いますが、校長室の金庫の鍵も入手しました。

 

「ジャムっているリボルバーなんだが、《機械修理》で直してもいいか?」

 

 どうぞ。

 

 遊星 《機械修理》72 → 25 成功

 

「よし、直った。これで使えるようになったぞ」

 

「それは遊星くんが持っていたまえ。これで少しは戦闘で役に立つだろう。【クロノスの魔弾】も6発渡す。あとの6発は星熊くんに渡しておこう」

 

「よし、これで18発か」

 

「他には特にやることはないですし、向かいましょうか。……おそらく、決戦の場に」

 

「だねぇ……というか古美門くんは大丈夫なのかい? 《夜に弱い》んじゃなかったかい?」

 

「大丈夫だ。深夜0時を回らん限りは余裕で行動できるぞ。案外軽いバッステなんだ。夜に行動を起こさないといけないシナリオでない限りはな。というわけで公民館に向かおう」

 

「よし、じゃあ車までみんなで行って公民館に向かう。GM、《ナビゲート》に成功したら少し早めに公民館に到着できないか?」

 

 うーん……あんまり意味ないんですよね。でもせっかくの申し出ですし、うーん。

 

「あ、別に無理しなくてもいいぞ、GM」

 

 ……いえ、いいでしょう。内容は秘密にしますが、《ナビゲート》成功であなた達にとって明らかに得になるような展開を用意します。ただし、失敗すると損な展開が待っています。まぁ普通にやっている分にはどこを弄ったかわからないところをちょっと変更するだけなので、振るのは全然ありっちゃありです。

 

「……どうする? 《ナビゲート》は80なんだが」

 

「80パーセントなら振る方がいいのでは?」

 

「あたしだったら振るねい。メタ読みになるんだけどさ、このGMのアドリブはかなり甘っちょろいから、成功したら多分GMが想像している以上にいいことが起る」

 

 そんなに甘いですか? 私のアドリブ。

 

「《SAN》チェック系はエグいけど、それ以外はマジで甘い。だからおまえがGMやるとあんまりキャラロスト起きないんだよ。シナリオが詰むことはないけどねい」

 

 マジですか。

 

「てなわけで、あたしは振ることを勧めるよい」

 

「ボクは……まぁ、リスクを考えるなら振らない方がいいかもねぇ。でも、結構いいことが起るらしいし、振っていいんじゃないかな?」

 

「ああ、振りたまえ。ここは少しでもいい方向にもっていきたいからな。多少のリスクは覚悟の上だ」

 

「よし。じゃあ《ナビゲート》だ」

 

 遊星 《ナビゲート》80 → 48 成功

 

 では遊星は地図通りにスムーズに車を走らせ、皆さんは村のはずれにある公民館に辿り着きました。

 

「公民館の様子はどうなっている?」

 

 見た感じは特に異常はありませんね。まぁ、廃村の今は誰にも使われていないはずの公民館の中に薄く明かりが灯っているのが異常といえば異常ですが。電気は点いておらず、蝋燭の炎らしき明かりがゆらゆらと揺れています。

 

「よし、公民館に突入だな」

 

「待て。ここは《忍び歩き》と《隠れる》で念入りに入ろう。私が振る」

 

 古美門《忍び歩き》72 → 54 成功

 古美門《隠れる》70 → 70 成功

 

「よし、成功だ。私についてきたまえ。当然先頭」

 

「古美門の後に私物の45口径のオートマティックを構えて続く。2番目だ」

 

「理人くんと一緒に続きます。3番目」

 

「俺は最後尾でいい。最悪ロストしても大丈夫なステータスだからな」

 

「じゃあボクは4番目で。杖を構えておこうか」

 

 ではあなたたちは音を立てずにろうそくの明かりを頼りに公民館の中を進んでいくと、やがて広く開けた場所に辿り着きました。ここは公民館の大講堂。デザインなのでしょう、ガラス張りになっている一部の天井から差し込む月の光が壇上を怪しく、しかしどこか神秘的に照らしています。

 どこか異様な雰囲気を醸し出す大講堂のステージの床には、白いチョークのようなもので書かれた巨大な五芒星が、そしてその五芒星の頂点にあたるところにはそれぞれ彫刻らしい物が丸い小さなテーブルに設置されています。

 その中の1つ……少し前にあなたたちが直視した【クロノス様】の偶像を両手で包むようにしながら、その少女は椅子に座っていました。紺色のローブを纏った、顔半分に火傷の後のある少女は瞑目しながらぼそぼそと何かを、まるで唱を謳うように呟いています。

 

「リコ! リコォッ!」

 

 その光景を見た理人くんは飛び出し、ステージの方に向かって走っていきます。

 

「これマズいんじゃないかい!?」

 

「マズいですね! 急いで理人くんを追います! 《DEX》16です!」

 

「俺も向おう! 《DEX》17!」

 

 えー、ではステージに向かい走り出した理人くんと彼を追う咲夜と遊星。大講堂とはいえ、所詮は村の公民館であるために入口からステージまでの距離は近く、少し走ればすぐにステージに行けます。このままいけば遊星と咲夜が理人くんを捕まえる前に、理人くんは理子のもとに辿り着けるでしょう。

 しかし、まるで鉄砲玉のように駆けだした理人くんの前に理子が着ているものと同じデザインの紺色のローブを纏った中年の女性が現れます。探索者の皆さんはその顔に見覚えがあります。

 直接会うのは初めてですが、テレビやらなんやらでメディアに進出している都議会議員にして【クロノスの光】の総帥、祟道智代です。

 祟道智代はあなた達と理子との間を塞ぐかのように立ちはだかり通せん坊をしてきます。理人くんは走るその足を止め、彼女を睨みつけています。

 

「黒幕のご登場か。よし、私もそこに向かうとしよう」

 

「ボクも行こう」

 

「あたしも行こうか」

 

「私は祟道智代から守るように理人くんを腕で制して話しかけます。理人くん、落ち着いてください」

 

「でも理子が!」

 

「ですから落ち着いてください。大丈夫です。絶対に助け出しますから。と言いつつ少しずつ後ろに下がらせて祟道智代と距離を取ります」

 

「俺は……ここに残ろう」

 

「というわけでロールプレイだ。やぁどうもお初にお目にかかる祟道議員。私は探偵の古美門です。当然、ご存知ですよねぇ? あんなに素晴らしい歓迎をしてくれたんですからぁ。さて自己紹介も済んだことですし本題に入らせていただこう。早速ですまないがこちらも時間がなくてねぇ。こほん。――今すぐ理子くんの洗脳を解き自由にしたまえミセスクレイジー」

 

「そうはいきません。……あの薄汚い児童養護施設で巫女を見つけ出してから数年……私たちの娘、理子はクロノスの巫女としてついに完成したのですから」

 

「洗脳して自分の都合のいい駒くらいにしか考えていない理子ちゃんをどの口が自分たちの娘とぬかしますか。御託はいりません。理子ちゃんを解放してください」

 

「都合のいい駒? いいえ、違います。理子は気が付いたのです。自分が受けたあらゆる理不尽。その原因が一体何なのかを。理子は自ら志願して私たちに教えを乞いてきたのです。ですから私たちはありとあらゆる教育を施しました。私たちは理子の願いを叶えたに過ぎないのです」

 

「おまえたちがそれと錯覚させるように仕向けたんじゃないのか? それが理子ちゃんの本当の願いだと、おまえの支持する【クロノス様】とやらに誓えるのか?」

 

「誓えますよ。言ったでしょう。理子はクロノスの巫女として完成した、と。理子は大いなるクロノス様を崇拝する完璧な信者となったのです」

 

「……クロノス様……クロノス様が全てをあるべき姿に戻してくださる……」

 

「そう、理子。あなたが幼少の頃から受けてきた理不尽は全て、矮小なる人類が世界の支配者を気取っているが故の不幸! 大いなるクロノス様だけが、あなたを幸せにしてくれるのです!」

 

「そんなことはありません!」

 

「あー、もういいよ。続きはいくらでも聞いてあげるから、とりあえず署までご同行願おうか?」

 

「ふふふ、それに私が首を縦に振ると思いますか? もとより私はあなた達に従うつもりも……そしてあなたたちを無事で帰すつもりもありませんよ。神聖なる聖域に土足で踏み込んできた罪……その身で味わうのがよろしい」

 

 そう言うと智代はぶつぶつと何かを唱え始めます。《聞き耳》を振るまでもなく聞こえてくる彼女の言葉の数々、そしてそのリズムから、地下室で聞いたあの冒涜的な呪文であることがわかりますが、もはや探索者のあなたたちに成す術はありません。

 やがて彼女の目の前の空間が歪んでいき(コロコロ)……そこから2体の空鬼が出現しました。

 

「2体!?」

 

 探索者の皆さん、そしてついでに理人も、その醜悪なバケモノを直視したことにより《SAN》チェックです。そうですね。全員初めに直視した時に減少した《SAN》値が少なかったですし、0/1D5+2で判定していいですよ。理人くんは1/1D10+2ですけどね。あ、不定の狂気カウンターはリセットしてください。GMが許可します。

 

 古美門《SAN》52 → 30 成功

 勇儀 《SAN》54 → 71 失敗

 咲夜 《SAN》36 → 32 成功

 遊星 《SAN》39 → 74 失敗

 京楽 《SAN》42 → 45 失敗

 理人 《SAN》55 → 32 成功

 

「ち、戦闘技能持っているやつらが軒並み失敗か」

 

「《精神分析》持っている私が無事ですから……あ、でも《精神分析》って1時間くらいかかるんですよね?」

 

 今回は1ラウンド消費することで作用することを認めてあげます。

 

「助かるよい。(コロコロ)……4。あたしは無事だねい」

 

「(コロコロ)……あ、5だ」

 

「(コロコロ)……マズいかな。6」

 

 5点以上、減少した遊星くんと京楽警部。《アイデア》チェックです。

 

 遊星 《アイデア》70 → 21 成功

 京楽 《アイデア》70 → 16 成功

 

「やっほい、一時的発狂だ。初発狂だから《クトゥルフ神話》技能5パーセント獲得だねぇ」

 

「また俺発狂したのか」

 

 では発狂の種類を決定しましょうか。1D10をどうぞ。

 

「(コロコロ)……9」

 

「(コロコロ)……あ、ボクも9だ」

 

「珍しい」

 

 9番はですねぇ……異常食です。

 

「……なぁ、京楽」

 

「……なんだい、遊星くん」

 

「俺、実は思ったことがあるんだ」

 

「ああ、ボクもだよ。奇遇だねぇ」

 

「じゃあせーので思ったことを言おうか」

 

「いいよ。せーのっ――」

 

「「――空鬼を調理して食べよう!」」

 

「はぁっ!?」

 

「なに言ってんだいこいつら!?」

 

「よくよく考えたら空鬼の肉なんて滅多に食べられるものじゃない。ここは確実に仕留めて食べてみよう。案外いけるかもしれない!」

 

「咲夜ちゃん、《製作》に技能振っていたよね? じゃあさ、あの空鬼倒したら調理してくれないかい?」

 

「え、ええっ!? 嫌ですよっ!? というかあんなバケモノ捌きたくないですよ!?」

 

 あ、そういう発狂しますか? じゃあこれは普通にロールプレイさせて大丈夫そうですね。では戦闘ラウンドに入りまーす。

 

「「よーし、頑張っちゃうぞー!」」

 

「マジでこいつらアレを食うつもりなのか……」

 

「私、アレの解体ショーをやらないといけないんでしょうか……」

 

「……まぁ、役に立たんよか断然マシだ」

 

 というわけで次回も戦闘です。物語はクライマックスを迎えていますよー。頑張ってくださいねー。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.10

 戦闘ラウンドに突入しますが、その前に色々と確認しておきましょう。各々やりたいことがあるでしょうからね。まずは2体の空鬼のステータスを決定します。(コロコロ)……はい、決まりました。公開します。

 

空鬼A/残忍な悪意

STR:23 CON:19 POW:8

DEX:9  SIZ:22 INT:7

耐久力:21 DM :+2D6

 

空鬼B/残忍な悪意

STR:19 CON:21 POW:11

DEX:9  SIZ:18 INT:6

耐久力:20 DM :+1D6

 

「こいつらも充分ヤバいステータスだな。あの婆さん、やけに強い空鬼を従えていやがる」

 

 次に理子と智代、それから理人くんの《DEX》を開示します。理子が8、智代が6、理人くんが9です。

 

「全員ひっくいな」

 

 えー、なお智代は2体の空鬼を従わせる呪文【空鬼の従属】を唱え続けているため一切の身動きが取れません。しかし理子の場合、現在【その者の招来】を唱え続けていますが、《回避》《受け流し》といった技能は使うことができます。攻撃することは出来ませんけどね。

 また召喚された空鬼は理子と智代を守る行動……先程の叡史に従っていた子供たち同様《庇う》を持っています。

 以上のことを踏まえ、行動してください。この戦闘の結果次第でエンディングが決まりますのでくれぐれも慎重に、よく考えて行動することをお勧めします。

 

「あたしは空鬼と戦闘するよい」

 

「俺も空鬼と戦闘するぞ! 俺はどうしても奴の肉が食いたいんだ! 祝福されし短剣を構えて戦闘に参加する!」

 

「ボクも空鬼と戦うよぉ! 空鬼のステーキかぁ、どんな味なのかなぁ、楽しみだなぁ! 杖をぶんぶんと振り回す!」

 

「空鬼はあのバカどもに任せるとして」

 

「あたしも馬鹿どもの中に入れるのはやめてくれないかい?」

 

「はいはい。まぁ、これで【その者の退散】を使って対抗することはほとんど不可能になったな。この呪文の内容を知っているのは私と遊星くんと京楽警部だけだ」

 

「あ、本当ですね。私読んでいませんし」

 

「ダメ元で聞こうか。GM、理子くんの《POW》と《MP》はいくつだ?」

 

 んー……まぁ教えてもいいでしょう。どちらも50です。

 

「50!?」

 

「ボクたちが大丈夫だったとしても成功率は低かったねぇ」

 

「やはり呪文を使って対抗するのはミスリードだったな。そもそも成功したとしても、もう1度【その者の招来】を使われたら元も子もない」

 

「あ、そういえばそうですね」

 

「ということでそれ以外の方法で何とかしてこの儀式を失敗させるしかない」

 

「うーん……とりあえず、ボクたちが空鬼を引き付けて、古美門くんたちが理子ちゃんのもとに駆け付けてなんやらかんやらする。それでいいんじゃないかなぁ?」

 

「……。……まぁ、それで行くしかないか」

 

「GM、決まったぞ」

 

 はーい。では戦闘開始です。

 

「発狂している俺からだ。斬るぞ斬るぞぉ! 空鬼Bに攻撃だ! セブンソードスラッシュ!」

 

「7本も剣持っていませんけどね」

 

「短剣は……何の技能で振ればいい?」

 

 《ナイフ》と同じでいいです。あ、遊星くんは発狂していますから狂人の洞察力を適用します。1D100をどうぞ。

 

「(コロコロ)……15。失敗か」

 

 では普通に判定どうぞ。ダメージは咲夜の持つファイティングナイフと同じ、1D4+2+ダメージボーナスです。

 

 遊星 《ナイフ》25 → 75 失敗

 

「く、失敗か」

 

「次はあたしだ。先に行動して咲夜が行動しやすいようにする。45口径のオートマティックで攻撃だ。対象は空鬼B」

 

 勇儀 《拳銃》58 → 10 成功

 

 空鬼B《回避》?? → 47 失敗

 

 1D10+2 → 10

 

 空鬼Bは被弾しますが、まだ余裕そうに立っています。

 

「次は私です。理人くんと一緒に理子ちゃんのもとに向かいたいのですが……修正入りますよね?」

 

 咲夜と理人くんの《DEX》を合計して半分に割った数値……この場合は13ですね。それで空鬼2体がかりで《DEX》対抗。成功で突破、失敗で空鬼たちの次の攻撃対象が咲夜と理人くんになります。

 

「成功率は70パーセントですか。行きます!」

 

 咲夜 《DEX》対抗 70 → 63 成功

 

「成功です! 理人くん、理子ちゃんの所に行きましょう!」

 

「あ、ああ!」

 

 咲夜と理子ちゃんは空鬼たちのガードを抜け、理子のいるステージに辿り着きました。

 

「ボクから行動させてもらうよぉ! 杖で空鬼Bに殴りかかるよぉ! 空鬼の味噌……鬼味噌、興味深いねぇ!」

 

 京楽も狂人の洞察力を適応してください。1D100です。

 

「(コロコロ)……89! 成功だよぉ! やっほーい! 空鬼の頭をかち割るぞぉ!」

 

「ヤバいなこの刑事」

 

 えー、では自動成功とします。空鬼Bの《回避》判定。

 

 空鬼B《回避》?? → 91 失敗

 

 1D6 → 2

 

 京楽の杖が空鬼に直撃しますが、まったくダメージを受けた様子ではありませんね。

 

「2じゃなぁ。装甲で完全ガードされちゃったかなぁ」

 

「私も理子くんのもとに向かうとする! 《DEX》対抗! 55パーセントだ!」

 

 古美門《DEX》対抗 55 → 47 成功

 

「よし、私もステージに辿り着いたぞ。運が良い」

 

 本当にですね。理想的な動きが出来ていると思います。ではお次は2体の空鬼の攻撃です。2体とも《鉤爪》で攻撃してきます。対象は理子に一番近いところにいる咲夜と古美門の2人です。Aは咲夜へ、Bは古美門に向ってその鉤爪を振るいます。面倒なので纏めて判定しちゃいますね。

 

 空鬼A《鉤爪》?? → 58 失敗

 空鬼B《鉤爪》?? → 64 失敗

 

 はい、両方とも失敗ですねぇ。

 続いてNPCたちの行動。といっても理子と智代は呪文を詠唱し続け、理人くんは理子に向かって「どうしちまったんだリコ!」「早く目を覚ませ!」と言っているだけですから次からすっ飛ばしますけどね。

 

「む? 次から?……GM、その理人くんは理子くんに話しかけているのだろう? 理子くんは反応しているか?」

 

 お、気付きましたか。ええ、反応しています。呪文を詠唱することこそ止めはしませんが、その表情に動揺の色が表れ始めています。

 

「ふむ……なるほどな」

 

 第2ラウンド……に向かう前にですねぇ。まずは遊星くんと京楽警部、一時的狂気から抜け出してください。1回戦闘を挟んで正気を取り戻したということにします。

 

「……はっ! 俺は一体!? なんで俺はあんな奴を食いたいなんて思っちまってたんだ!?」

 

「ボクもだよ……なんか気でも狂っていたのかな……」

 

「本当に狂っていましたよ」

 

 さてさて皆さん、《目星》判定です。強制チェックとなります。理人くんも判定しますよー。

 

 古美門《目星》25 → 53 失敗

 勇儀 《目星》25 → 43 失敗

 咲夜 《目星》40 → 70 失敗

 遊星 《目星》48 → 60 失敗

 京楽 《目星》80 → 23 成功

 理人 《目星》50 → 53 失敗

 

 成功者は京楽だけですか。チーム古美門はみんな《目星》が低いので救われましたね。

 皆さんはガラス張りになっている天井から差し込む光がどこかおかしいことに気が付きました。元から真っ白な綺麗な月光でしたが、その光は濃さを増し、まるで薄いヴェールのようにゆらゆらと、そして歪に屈折し、何度もあらゆる場所で見た、あの不可能図形を形成していく様を目撃します。そして《目星》に成功してしまった京楽警部。あなたの目に屈折した光の一部が飛び込みます。

 一瞬とはいえ白に包まれた京楽の視界。その白いヴェールの中に映し出された光景は、無数の星々と巨大な銀河。その間に存在する、我々人類には到底知りえない、理解することもできない不気味な深層の一部を垣間見るに留まりましたが、普通に、真っ当な人生を送って来たあなたにはその未知の真実を前に背筋が凍り付きます。

 京楽、1/1D3+1の《SAN》チェックです。

 

 京楽 《SAN》36 → 83 失敗

 

「ま、マズいかな。あと3点で不定の狂気入っちゃうよ(コロコロ)……あ、3だ。不定の狂気だよぉ」

 

 1D10どうぞ。

 

「(コロコロ)……5」

 

 5番はですねぇ……フェティッシュですね。人でもモノでもなんでもいいです。何かに対して異常な執着をします。

 

「よし。これも軽い症状だ。しかもネタもある。ボクは今再び、あの空鬼Bの肉を求めて行動しよう。いいや! ボクはやっぱりアレの肉が食べたい! うおおーっ!」

 

「ダメだこいつ」

 

 ということで第2ラウンド行きますよー。

 

「勇儀! おまえの拳銃をくれ! 俺はそれで攻撃する! 多分短剣で刺しても大したダメージを与えられないからな! 初期値だがマシだ!」

 

「……よし、わかった。あたしは遊星に銃を渡す。弾は5発だ」

 

「俺のラウンドはこれで終わりだ!」

 

「あたしだねい。徒手格闘に切り替える。申請していたメリケンサックを装備するよい。これであたしも行動終わりだ!」

 

「次は私です。理子ちゃんに対して《精神分析》です。さっきの理人くんの言葉に反応していたということは、かけられた洗脳を解く手がかりをこれで突き止められるかもしれません」

 

 《精神分析》ですか……でも新校舎で情報与えちゃったばかりなんですよねぇ。どうしましょうか。

 

「GM、私のラウンドの処理もここでさせてくれ。十六夜さんの《精神分析》を私の《心理学》でフォローする。両方成功で情報を提供してくれ」

 

 うーん……うん、いいでしょう。両方成功で情報を開示します。

 

 咲夜 《精神分析》76 → 13 成功

 古美門《心理学》65 → 51 成功

 

 両方成功ですね。では咲夜と古美門は理子が洗脳によって抜け落ちてしまった記憶の内容が、【ぬくもりハウス】で過ごした楽しかった日々であることがわかります。

 今の理子は【ぬくもりハウス】に逃げてくる前の両親からの理不尽な虐待と学校でのいじめの記憶を強く想起させられ、悲しみと憎しみに染まり、智代と叡史、そして【クロノス様】を除いたこの世の中の全てに絶望しています。そんな世の中を壊し、【クロノス様】をこの世界に導くことが正しいと信じ切ってしまっています。

 しかし一方、自分は本当に何にも恵まれることはなかったのか、本当は何か、大切なものがあったのではないかという小さな疑問を胸に抱いています。

 

「……なるほどな。次の行動が決まったな、十六夜さん」

 

「ええ、決まりましたね。多分これが正しい解決方法でしょう。GM、私たちはこれで行動を終わります」

 

「ボクの行動だ。GM、確かさっき空鬼たちは古美門くんと咲夜ちゃんを攻撃したんだよね? ということは今、ボクたちに背中を晒していると考えていいかい?」

 

 はい、それで結構です。

 

「よし。じゃあ《杖》で空鬼Bを殴るよ。背中を見せているってことは《回避》できないね?」

 

 出来ませんね。

 

「よしよし。これしか狂気に入っちゃったボクにできそうなことはなさそうだしね。あとで咲夜ちゃんに《精神分析》をお願いしないと」

 

 殴る前に1D100どうぞ。

 

「(コロコロ)……56。狂人の洞察力は失敗だねぇ。普通に判定するよ」

 

 京楽 《杖》75 → 16 成功

 

 1D6 → 4

 

 ほんのちょっとですけど、手応えを感じましたね。

 次は2体の空鬼の行動です。ターゲットも攻撃方法も変えませんよ。

 

 空鬼A《鉤爪》?? → 09 成功

 空鬼B《鉤爪》?? → 40 失敗

 

 咲夜に攻撃した空鬼が成功しましたね。

 

「《回避》します! 80パーセント! ここで死ぬわけにはいかないんです!」

 

 咲夜 《回避》80 → 44 成功

 

「そんな攻撃、私にはかすりもしませんよ」

 

 はーい。というわけで皆さん、2ラウンド目が終了しましたので《目星》の強制チェックです。

 

 古美門《目星》25 → 43 失敗

 勇儀 《目星》25 → 56 失敗

 咲夜 《目星》40 → 25 成功

 遊星 《目星》48 → 08 成功

 京楽 《目星》80 → 73 成功

 理人 《目星》50 → 39 成功

 

「初期値組以外は全員成功か」

 

 では成功者の皆さん、1D3/2D3の《SAN》チェックです。

 

「数値が上がってる!?」

 

 咲夜 《SAN》36 → 25 成功

 遊星 《SAN》35 → 73 失敗

 京楽 《SAN》33 → 77 失敗

 理人 《SAN》54 → 37 成功

 

「助かりました。(コロコロ)……2点」

 

「(コロコロ)……ぐあ、5だ」

 

「(コロコロ)……ボクは4」

 

 理人くんは……3点ですね。それでは5点以上減少した遊星くん、《アイデア》チェック……あ、それ以前に不定の狂気の発症ですね。遊星くん、《幸運》で判定してください。

 

 遊星 《幸運》55 → 33 成功

 

 では一時的狂気との同時発症は回避しました。不定の狂気の種類を決定します。1D10どうぞ。

 

「(コロコロ)……4」

 

 4番はですね……奇妙な性的嗜好です。これも軽いものですねぇ。

 

「奇妙な性的嗜好か……智代と理子ちゃんの恰好を見て、魔法使いの恰好をした黒魔術プレイに目覚めよう。だからあんまり意味はないな」

 

 そうですね。シナリオ終了した時に遊星くんの性的興奮を覚えるシチュエーションのジャンルにそれが根強く残るだけですからね。それにもう狂気に陥っていますので、完全発狂以外はどれだけ《SAN》値が減っても全く怖くないですよ。

 

「よし」

 

「よしじゃないよド変態」

 

 第3ラウンドに突入します。

 

「そういえば理人くんは何しているんですか? 理人くんがもっと踏み込んで説得すればすっと行きそうなんですが」

 

 理人くんは口下手ですので、「早く目を覚ませ!」くらいしか言えません。

 

「使えんなこいつ」

 

「俺の行動だ! さっさと解決して俺は黒魔術プレイができるお店に行くんだ!」

 

「そんなの出来るお店ないだろ、多分」

 

「勇儀から受け取った45口径のオートマティックで攻撃だ。対象は空鬼B」

 

 1D100からどうぞ。……というか不定の狂気を発症させた皆さん、狂人の洞察力を戦闘時に使ってから判定してください。成功で攻撃は自動成功とします。

 

「よし、これで攻撃が当たるチャンスが増えるな。(コロコロ)……46、失敗か。普通に《拳銃》で判定だ。初期値だ」

 

 遊星 《拳銃》20 → 47 失敗

 

「失敗か。まぁ仕方ないか」

 

「メリケンを装備したことだし、《マーシャルアーツ》+《こぶし》で判定だよい。空鬼Bを狙う」

 

 勇儀 《こぶし/パンチ》75 → 08 成功

 勇儀 《マーシャルアーツ》78 → 18 成功

 

「両方成功。空鬼たちは背を向けているから《回避》できない。ダメージロールだねい」

 

 2D3+1+1D4 → 8

 

 えー……勇儀の拳を受けた空鬼Bはまだ立ってこそいますが、弱っているのがその様子からわかります。

 

「今度は私です。理子ちゃんに対して《説得》します」

 

 どんな風に《説得》するのかを聞かせてください。

 

「このGMの反応からして当たりだな。やはりこのシナリオを攻略するには《説得》するのが正解だな」

 

「そうですね。そういえばGM、理子ちゃんとは会話することは出来ますか?」

 

 出来ます。呪文はもうほとんど完了していますので、理子はMPを五芒星に捧げることに集中しています。

 

「では話しかけます。理子ちゃん、理子ちゃんは自分は酷い目ばかり遭っていると言いましたね。ですが、それは間違いです。確かに理子ちゃんは普通に生活するほかの人間に比べたら酷い目に遭ってきたことでしょう。しかし、あなたはかつて、そんな理不尽から自力で抜け出して、幸せを掴むことができたのですよ? こんなところに来る前、理子ちゃん、あなたは確かに本当の幸せを掴むことができていたのです」

 

「……そんな記憶はないわ」

 

「思い出してください。あなたは行動したのですよ。今の自分の境遇から脱出するために、前に進むために、あなたは自分からとある施設に向かったのです。そこが【ぬくもりハウス】です。といった感じで《説得》します」

 

 ふむ……では10パーセントの補正をかけて《説得》してください。

 

 咲夜 《説得》52+10 → 58 成功

 

「……ううっ。……私はずっと虐げられてきた。楽しいことなんて1つもなかった。幸せなことなんて……そんなことはなかった。……私を幸せにしてくれるのはクロノス様だけ……クロノス様だけなんだ……!」

 

 理子は頭を押さえ、苦しげな表情で、まるで自分に言い聞かせるようにそう口走ります。あとほんの少し、あと1つ、決定的なきっかけさえあれば、彼女を呼び戻すことができるでしょう。

 

「【ぬくもりハウス】だけではダメみたいですね。……やはりここで切り札を切らないといけないようです。次のラウンドが勝負ですね」

 

「次は私の行動だ。今の十六夜さんの《説得》で効果があるかもしれないからやってみよう。五芒星を取り囲んでいる彫刻らしきものを手に取って破壊する。破壊できなければ遠くに投げる」

 

 おっと、そう動きますか。《アイデア》判定お願いします。

 

 古美門《アイデア》75 → 10 成功

 

 えー、古美門は今自分がやろうとしていたことがとても危険なことであったことに気が付きました。アーティファクトを破壊する、またはどこかに隠したまま理子が儀式を進めていた場合、儀式が正しく作用せずに暴走する可能性が高く、状況が悪化していたことでしょう。

 

「危ないな。GMからこうして忠告が来ただけでもいい収穫だったな。これで理子くんを《説得》すること以外にハッピーエンドに持ち込むことができないことが証明された。ただ私が《説得》しても逆効果になりそうだな。古美門だし」

 

 古美門だったらどちらかと言えば《言いくるめ》になるのでは? 《説得》だったら効きそうですけど……でも新校舎でのやり取りからしてマイナス補正は掛けますかね。

 

「だろうな。というわけで行動終わりだ」

 

「ボクの行動だ。空鬼Bに《杖》で攻撃! 鬼味噌鬼味噌ぉ! まずは洞察力ロールだ(コロコロ)……94、成功! 自動成功だよね?」

 

 はい。自動成功です。ダメージロールどうぞ。

 

 1D6 → 4

 

 まだ空鬼Bは健在です。次は空鬼2体で行動。執拗に咲夜と古美門を狙います。

 

 空鬼A《鉤爪》?? → 13 成功

 空鬼B《鉤爪》?? → 79 失敗

 

「また私の方が成功ですか! 《回避》します!」

 

 咲夜 《回避》80 → 60 成功

 

「ふぅ。咲夜を意識して技能振って本当によかったです」

 

 それでは3ラウンド目終了です。全員《目星》チェックでございます。

 

 古美門《目星》25 → 01 クリティカル

 勇儀 《目星》25 → 06 成功

 咲夜 《目星》40 → 10 成功

 遊星 《目星》48 → 35 成功

 京楽 《目星》80 → 19 成功

 理人 《目星》50 → 45 成功

 

「ぜ、全員成功……」

 

 おっと、クリティカルが出ましたか。……出ちゃいましたかぁ……。

 

「GMが凄い悪い笑顔をしているぞ」

 

「これはマズいんじゃ……」

 

 えー、本来でしたら無条件ですっごくヤバいことが起るのですが私は鬼ではありません。《幸運》に成功したら回避させて差し上げましょう。古美門くん、運命の《幸運》チェックです。

 

「ぐ……頼む成功しろ」

 

 古美門《幸運》65+10 → 12 成功

 

 成功しましたか、良かったですね。

 では《目星》に成功してしまった皆さん、1D3/2D6の《SAN》チェックです。

 

 古美門《SAN》52 → 04 クリティカル

 勇儀 《SAN》50 → 97 ファンブル

 咲夜 《SAN》34 → 34 成功

 遊星 《SAN》29 → 18 成功

 京楽 《SAN》29 → 71 失敗

 理人 《SAN》51 → 04 クリティカル

 

 おやおや。ではクリティカルを出した古美門、それから理人くんは1点の《SAN》値減少で良しとします。ファンブルを出してしまった勇儀は2D6+1で判定どうぞ。

 

「(コロコロ)……5」

 

「(コロコロ)……3点。あ、危ないですね。発狂から逃れました」

 

「よし、咲夜さえ乗り切れば大丈夫だな(コロコロ)……5」

 

「(コロコロ)……8。ボクはヤバいよぉ……」

 

 では5点以上減少した勇儀、《アイデア》チェックでございます。

 

「これ、発狂したほうが得なのかねい……」

 

 勇儀 《アイデア》55 → 38 成功

 

「あたしもついに一時的発狂かい。とりあえず5パーセントの《クトゥルフ神話》技能獲得。1D10か(コロコロ)……10」

 

 10番は……『昏迷』または『緊張症』の発作です。

 

「……『緊張症』を発症しておこう。4ラウンド目は行動不可って感じかい?」

 

 ですね。4ラウンド目のみ、一切の行動を封じます。

 

「《回避》も出来ないか。空鬼があたしを攻撃してきたらロストまであるかねぇ……」

 

「それは大丈夫だろう。奴らはこっちに意識を向けている。多分勇儀が発狂していることなんて気づいてないぞ」

 

 そうですね。空鬼たちは理子の一番近い場所にいる人間を狙いますので、勇儀は大丈夫です。多分ですがね。

 

「ほ、それならよかった」

 

「4ラウンド目だ。空鬼Bに向かって発砲する! 洞察力判定(コロコロ)……66。くそ、失敗か。普通に判定」

 

 遊星 《拳銃》20 → 13 成功

 

「お、おおっ!? 成功だ! しかも空鬼は《回避》できない! ダメージロールだ! 来い!」

 

 1D10+2 → 10

 

「よっし、ほぼ最大値! どうだ!?」

 

 空鬼Bの頭は吹き飛び、絶命すると同時にその身体を時空の彼方へ溶かしていきました。

 

「まず1体目だ!」

 

「あれ? あ、そうか。アレ、死んじゃうと消えちゃうんだった。ど、どうすれば食べられるんだろう……?」

 

「知るかアホ。あたしの番だ。と言っても緊張症じゃ特にロールプレイはないねい。とりあえず体をガチガチにして突っ立っておこう」

 

「私の番です。隣に立っている理人くんを前に出しつつ、さらに【ぬくもりハウス】で借りたあの写真を取り出して理子ちゃんに語りかけます。理子ちゃん、この写真を見てください! ほら、この写真に写っている自分の姿をよく見てください!」

 

「うぅ……あぁ……そ、それが……わた、し……?」

 

「そうです理子ちゃん。理子ちゃんはこうして、心の底から、みんなで笑い合うことができていたんですよ? この写真で楽しそうに笑うあなたの隣にいるこの少年、覚えていますか? 理人くんですよ」

 

「ま……さ、と……?」

 

「そうです。あなたのことをまるでお姉さんのように慕っていた理人くんです。そして、私の隣にいるこの子がその理人くんです。理人くんはあなたのことを数年たった今でも覚えていたんです。そして会いたいと、あなたのことを捜してほしいと、アルバイトで手に入れたなけなしのお金を全部使ってでもあなたとの再会を強く願ったのです。……ここでダメ押ししましょう。理人くんに小声で……いえ、堂々と話しましょう。理人くん、きっと理子ちゃんは私の言葉よりも、あなたの言葉を真に欲しているはずです」

 

「十六夜さん……」

 

「話しかけてあげてください。理子ちゃんは最後まで、完全に記憶を操作されてしまう寸前まで、あなたの名前と思い出を頼りに正気を保ち続けていました。理子ちゃんにとって、あなたはそれほどまでに大切で、そして大きな存在だったんですよ。あなたが語りかければ、あなたの言葉をありのままに伝えれば、きっと理子ちゃんに届くはずです。……理子ちゃんではなく、理人くんに《説得》を使います」

 

 ……いえ、そこまでロールプレイをしていただいてサイコロで判定なんて無粋でしょう。自動成功です。理人くんは咲夜の言葉を受け、変わり果ててしまった理子に向かって叫ぶように語りかけます。

 

「リコッ!!」

 

「……ま、まさ……と? マサト……なの?」

 

「ああ、そうだよリコ! 俺だ! 理人だ!……ずっと。ずっとおまえに会いたくて、捜していたんだ」

 

「うう……」

 

「でも1人じゃどうしても見つからなくて……それでも、ここにいる探偵さんたちや刑事さんのおかげでこうしてまたおまえと会えた!」

 

「うううっ……」

 

「遅くなっちまってゴメンな……何があったのかはわかんないけど、でも! おまえは1人じゃない! 俺がいる! クロノス様が何だ! そんな胡散臭い神様なんかよりも俺の方がおまえを、何倍も、何十倍も、何百倍だって幸せにできる! 幸せにしてみせる! だから……いい加減目を覚ませッ!」

 

「……っ!」

 

 ……その理人の説得により、理子の、濁り切った真っ黒な瞳に光が戻りました。ハッとした様子で改めて理人を視界に入れた理子の瞳から、1つ、また1つと大粒の涙が溢れていきます。《精神分析》や《心理学》を振るまでもありません。……理子は正気を取り戻したのです。

 

「……思い、出した……! 私は……私は不幸なんかじゃ、ない……神様なんかに縋らなくたって、私は幸せだった……!!」

 

 そういうと、理子は再び瞼を閉じ……ぶつぶつと呪文を唱え始めます。するとどうでしょう。浮かび上がる不可能図形がどんどん消え失せていくではありませんか。

 

「これは……この呪文は《その者の退散》か!」

 

 そうです。やがて天井から差し込む月光は元の美しいものに戻り、大講堂に召喚された空鬼の姿も見る見るうちに消え失せていきます。その光景を見た智代は声を荒げます。

 

「理子! 何をやっているの!? 今すぐやめなさい! あなたはクロノスの巫女! クロノス様をこの世界に導くことこそあなたの使命なのです!」

 

「五月蠅い! 私は理人さえ……理人さえいれば、後は何もいらない!――神様なんて、私に必要ない!!」

 

 張り裂けそうな、それでいて魂が籠っているその声が大講堂に響き渡る。するとそんな彼女の言葉が届いたのか、魔方陣は一気に消え、空鬼もそれに呼応するかのごとく時空の彼方へと消えていきました。

 マインドコントロールから完全に解き放たれ、数多くの呪文を唱えて力を使いすぎた理子は崩れるように倒れ込みますが、理人がそんな理子の体を抱くように支えます。戦闘終了です。

 発狂している皆さん、全員正気を取り戻してください。不定の狂気も解除します。

 

「……はっ! お、終わった……のかい?」

 

「ああ、終わった。……朝ドラみたいな三文芝居は嫌いだがまぁ、たまに見るのも悪くないものだ」

 

「……ボクは本当に何をしていたんだろう?」

 

「ぶっちゃけ俺も何をしていたか覚えていない。なにか、変なこと言っていたか?」

 

「ええ、言っていましたね。ドン引きです」

 

 そんな感想を各々抱く中、1人、心穏やかでない人物がいました。……儀式に失敗し、怒り狂っている智代です。

 

「この出来損ないが! 私の計画をめちゃくちゃにしてくれやがって! 殺してやる!」

 

 と、理人くんに抱かれている理子のもとに向かって駆けだします。

 

「このキチ○イ女、理子くんを殺す気か!」

 

「理子ちゃんを守ります! ナイフを構えます!」

 

「《DEX》的に間に合うかい!? 追い付いたら《組みつく》ぞ!」

 

「俺も手伝う!」

 

「ボクも向かおう!」

 

 と、あなたたちが智代を止めようと動こうとした瞬間……どこからともなく飛来した青い電撃が智代の体を包みます。それを受けた智代は青い炎に包まれ、上半身と下半身を真っ二つに割かれて死にました。

 

「……は?」

 

「何が起きた? 攻撃元はわかるか? わかるならそこを見る」

 

 電撃の起動から、それは大講堂の入り口から放たれたことがわかります。

 大講堂の入り口には幾何学的な、まるでハリウッド映画か何かに出てくるような電気銃を握る加納三吾と、その部下の黒服の男たちが立っていました。

 

「こいつら……ここでお出ましかい!」

 

「このタイミングって出てきたってことは……こいつら、面倒なことを我々に任せて美味しいところだけを取りにきたのか。やはり信用しなくて成功だったな」

 

「捨て駒ご苦労。君たちは実に役に立ってくれました。心から礼を言いいます。さて、祟道理子をこちらに渡しなさい。そうすれば君たちの身の安全は保障しましょう」

 

「ははは、君はどうやらあまり物事を覚えるのが得意でないようだぁ。昨日の言葉をもう一度言おうか。――目的が分からん奴らのどこのどう信用しろというのだ」

 

「理子ちゃんを渡した時点でボクたちはもう用済み。約束を破る可能性もあるし、それを差し置いても理子ちゃんを渡すつもりはないよ。警察官として、まだ若い子供たちの未来を潰そうとする輩は見逃せないねぇ」

 

「そうです。理子ちゃんはこれから理人くんと一緒に幸せな人生を送るんです。これ以上、彼女の人生を狂わすことは許しません」

 

「あたしはねい、悪いけどねい、おまえさんみたいな聞いただけで上っ面だけな言葉を吐く奴は大嫌いなんだよねい。――早く視界から消えろ。ぶち殺すぞ」

 

「俺は黙って銃を加納に向ける」

 

 では加納三吾と彼が率いる黒服――天狗衆との戦闘に入りましょう……と思いますよね? 皆さん、忘れていませんか?

 

「え?」

 

「なにを?」

 

 さぁ、なにをですかねぇ。すぐに答えがわかりますよ。

 理子を守るべく動く探索者たち、理子を奪うために未知の武器を使う加納率いる天狗衆。まさに一触即発。いつ暴力が暴力を生み出す大乱闘が起っても不思議じゃないそんな雰囲気が流れ始めた……その時! この大講堂内に異変が起こります。

 月の光が差し込む大講堂。しかし、月の光ではない、青い何かが煙のように漂う。まるで何かが腐ったような、明らかに不浄なものだとわかるほどの強い刺激臭を帯びた煙のような何かは、やがて霧となってこの大講堂を包み込んでいきます。

 

「……あ、そういえば」

 

「忘れてた……こいつがいたな」

 

 この霧の発生源は大講堂の隅の隅。おおよそ90度直角のその空間に亀裂が走り、そこから何かが飛び出してきました。その飛び出した何かは……倒れる理子のもとへ一直線。しかし、それは理子にあたることはありませんでした。とっさに理人くんが理子を庇ったために襲撃に失敗したのです。

 突如として現れた襲撃者。理子たちがいるところから少し離れたところにソレはいました。

 ソレは四足歩行の生物であることくらいしか、余すことなく正確に形容することのできないシルエットを有していた。人間のみならず、全ての生物に共通してあるはずのものがその生物にはない。

 それは曲線。

 原則としてすべての生物はそのフォルムに曲線を描いているものであるが、この生物にはそれがない。120度以下の角度を歪に、まるで子供が無作為に積み上げて出来上がった積み木のような、そんな鋭角の集合体のような姿をしていた。

 口にあたるであろう部分から伸びる長い注射器のような舌からは涎だろうか、青く発光させた液状の何かがドロドロと滴り落ちている。そこから少し上に視線をずらせば、そこには赤みのかかった2つの目。ギラリと光るその瞳に籠められていたモノ。

 それは、まるで狙いを定めていた獲物を見つけ、捕らえ、喰らいつくすまで、執拗に、しつこく、どこまでも追い続ける餓えた猟犬の如き執念に塗れた鋭い殺意でした……。

 

 

 

 

     ――To be continued…




次回、最終回。


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Part.11

 さてさて……クロノスを食らうもの、神話生物、ティンダロスの猟犬を直視してしまった探索者の皆さん? ダイスの準備は出来ましたか? もちろん1D100。

 

「GM」

 

 どうかしましたか、市民古美門。

 

「私たちは神話生物である空鬼に遭遇している」

 

 そうですね。

 

「それに加えて、私たちは全ての情報をできる限り共有している」

 

 そうですね。

 

「休憩室にあった絵本のこともみんなに伝えてある。当然、その内容もだ」

 

 そうですね。

 

「《SAN》チェックを免除してくれたまえ」

 

 はっはっは、ダメダメ。1D3/1D20の《SAN》チェックでございますよ。さらに5パーセントの《クトゥルフ神話》技能をプレゼントします。

 

 古美門《SAN》51 → 16 成功

 勇儀 《SAN》45 → 62 失敗

 咲夜 《SAN》31 → 31 成功

 遊星 《SAN》24 → 26 失敗

 京楽 《SAN》21 → 57 失敗

 

 チッ。古美門は本当に《SAN》チェック強いですなぁ。咲夜も後半のダイスの出目が荒ぶっていましたし……。

 

「はっはっは。私の悪運は尽きんな(コロコロ)……ほら見ろ、1だ」

 

「その悪運、ちっとでもいいから分けてくれよい(コロコロ)……うっは、あたしは最大値20。半分近く吹っ飛んじゃったねい……」

 

「え、それってマズいのでは(コロコロ)……3です」

 

「俺たちも油断できないぞ。信じるんだ、1/5を信じろ(コロコロ)……ダメだったか。9だ」

 

「頼むよボクの1D20(コロコロ)……やった! 2! やったよ! 狂気回避だよぉ!」

 

 では不定の狂気に陥ってしまった勇儀ちゃんと遊星くん、《幸運》チェックです。

 

 勇儀 《幸運》65 → 41 成功

 遊星 《幸運》55 → 27 成功

 

「良かったのか悪かったのか、一時的狂気との同時発症は防げたねい。1D10っと(コロコロ)……また10かい。不定の狂気の10番はなんだい?」

 

 えっとですね……強迫観念に取りつかれた行動です。例えば手を洗う際に爪の1つ1つの間も洗う、地面の割れ目を跨がない、特定のリズムで歩き続ける、とかですね。

 

「いまいちよくわからん発狂だな。どうしたものか」

 

 あ、じゃあ振り直します? いいですよ?

 

「じゃあ振り直すよ(コロコロ)……9」

 

 9番は……お、リアルパラノイアですね。一時的偏執症です。

 

「お、それならやれそうだ。【クロノスの魔弾】を込めた32口径リボルバーを構える。出てきやがったねい猟犬! あたしがぶっ倒してやる! と言いながら周りの声なんて聞かずに勝手に突っ込む!」

 

「暴走したか勇儀。俺もヤバいな(コロコロ)……6」

 

 6番はですねぇ……制御不能のチックです。震えが止まらず会話で他人とコミュニケーションが取れなくなります……が、どうでしょう遊星くん。一時的発狂の方を発症しときます?

 

「え? 一時的発狂の方の6番ってなんだったか?」

 

 自殺癖or殺人癖でございます。

 

「そっちを選ぶぞ! 俺も32口径リボルバーを構えて猟犬に突撃だ! 野郎! 理人くんと理子ちゃんの幸せを邪魔するやつは許さん! うおおっ! ぶっ殺してやる!」

 

「お、おい! 星熊くん、遊星くん! 落ち着け! 戻ってきたまえ!」

 

「私の《精神分析》を受けてください!」

 

「五月蠅いぞ! あたしはあの猟犬を殺す! 撃って撃って撃ち殺してやるんだ! 邪魔すんじゃないよ!」

 

「同感だ! 理人くんたちの障害になるやつらは排除すべきだ!」

 

「ダメだ聞く耳持たないねぇ」

 

 さらに探索者の皆さん、《CON》×5で判定してください。

 

 古美門《CON》18×5 → 63 成功

 勇儀 《CON》13×5 → 35 成功

 咲夜 《CON》10×5 → 33 成功

 遊星 《CON》10×5 → 43 成功

 京楽 《CON》13×5 → 22 成功

 

 お、全員成功ですか。では特に何も起こりません。

 えー、拳銃持った2人が突っ込んでいったのと入れ替わりに、残ったあなた達のもとに加納がやってきます。

 

「私たちの利害は一致します。祟道理子が食われてしまっては元も子もありません。ここは私たちに任せて祟道理子を連れて逃げてください」

 

 と言いながら連れてきた天狗衆と共に猟犬に電気銃を放ちます。

 

「メタ発言だが確か、ティンダロスの猟犬に物理攻撃って効かなかったな?」

 

「効かないねい。そのための【クロノスの魔弾】と【祝福されし短剣】なんだろう」

 

「それにここで理子ちゃんを連れて逃げても、肝心の猟犬を完全に撃退させるか封印しないといつかは絶対理子ちゃんは食われる」

 

「ハッピーエンドにならないねぇ」

 

「封印ですか。封印させるための【禁縛の宝珠】がないんですよね」

 

 こーらこらこら。その情報はあなた達のクリアランスに開示されていませんよ? そのことを踏まえて行動してくださいね?

 

「GM、加納たちは電気銃を猟犬に放ったな。私はその光景を見る。《アイデア》で判定だ。成功であの猟犬に物理攻撃が通用しないことを思い付き、絵本の内容を思い出してどこまでもついてくることを思い出す」

 

 それならよろしい。判定どうぞ。

 

「あ、私も振ります。絵本見ましたから」

 

「ボクも振ろう。運良く発狂しなかったボクたち3人は全員絵本を読んでいたね」

 

 古美門《アイデア》75 → 51 成功

 咲夜 《アイデア》80 → 48 成功

 勇儀 《アイデア》70 → 10 成功

 

「よし、私たちはあの猟犬を封印に動くぞ」

 

 わかりました。では今回出現したティンダロスの猟犬のステータスを決定します。(コロコロ)……はい、決まりました。開示します。

 

ティンダロスの猟犬/クロノスを食らうもの

STR:16 CON:31 POW:19

DEX:7  SIZ:23 INT:24

耐久力:∞  DM :+1D6

 

 というわけで戦闘ラウンド入ります。PL達からどうぞ。

 

「待て待て待てぃ! 耐久力が無限ってどういうことだ!?」

 

 この猟犬は特別、強大かつ凶悪な猟犬ですので、完全に殺しきることは不可能です。そういう設定なのです。まぁ時の神の力を得た人間を狩りに来ているのですから、それなりに強い猟犬が現れた、ということにしてください。

 

「封印以外に対処手段がないな」

 

「俺からだ! 32口径リボルバーを猟犬に向けて発砲する! ガンキャノンショットだ! まずは狂人の洞察力判定(コロコロ)……14。失敗だ」

 

 遊星 《拳銃》20 → 76 失敗

 

「く、失敗か」

 

「次はあたしだ! 同じく32口径リボルバーを撃つ! 遊星の下手くそが! あたしの拳銃捌きを見て勉強しやがれ! 洞察力判定(コロコロ)……28! 失敗だねい! 普通に判定!」

 

 勇儀 《拳銃》58 → 55 成功

 

「成功だ! 喰らえ!」

 

 猟犬の《回避》判定。

 

 ティンダロスの猟犬《回避》?? → 59 失敗

 

 3D8 → 16

 

「どうだ、見たかい遊星! 拳銃はこうやって撃つんだ! で、GM。猟犬はどんな様子だい?」

 

 怯んだ様子ですが、まだ平気そうです。あ、それから今まで猟犬は理子や加納、天狗衆しか眼中になく勇儀の方を見ていませんでしたが、今の攻撃を受けて猟犬の赤い瞳が勇儀を捉えました。

 

「ターゲットの仲間入りかい。まぁいい。こいつはこのあたしがぶっ殺す!」

 

「次は私です! 祝福されし短剣で猟犬を斬りつけます! 《ナイフ》で判定していいんですよね?」

 

 いいですよ。

 

 咲夜 《ナイフ》70 → 27 成功

 

 ティンダロスの猟犬《回避》?? → 67 失敗

 

 1D4+2+1D4 → 7

 

 ダメージを負った様子ですが、猟犬は平気そうです。あと咲夜の方にもその眼光を輝かせました。

 

「次は私の行動だ! GM、私は祟道智代の服の中を探る! 猟犬対策の【禁縛の宝珠】を智代自身が持っている可能性が高い!」

 

 では古美門は死体となった智代の所に向かい、彼女の無残な姿を直視します。古美門、彼女の持ち物を物色する前に0/1D4の《SAN》チェックです。

 

 古美門《SAN》50 → 90 失敗

 

「失敗か、まったく最期の最期まで迷惑な女だ(コロコロ)……2。で、何を持っている?」

 

 ビンゴです。古美門はアーティファクト【禁縛の宝珠】を入手しました。【禁縛の宝珠】の情報を公開します。

 【禁縛の宝珠】はティンダロスの猟犬を封印するアーティファクトです。

 猟犬を封印するためには、《こぶし》《組み付き》《投擲》等の手を使った攻撃ロールに成功し、宝珠を猟犬の体に直接触れさせる必要があります。

 ですが猟犬は極めて強大な怪物。猟犬が全くダメージを受けていない場合封印術を振りほどいて脱出してしまう可能性があります。

 封印の確率を上げるためには、【クロノスの魔弾】や【祝福されし短剣】で攻撃して猟犬を少しでも弱らせる必要があります。猟犬を弱らせれば弱らせる程、封印の成功率は上がっていくことでしょう。これ以上の情報は《クトゥルフ神話》技能で判定してください。ちなみに技能振ってわかる情報は、具体的にどれくらい猟犬にダメージを与えればどのくらい成功率が上がるかです。

 

「GMが判定を要求してきたか……さすがにこれはロールプレイじゃ解決できんな。大人しく《クトゥルフ神話》で判定だ」

 

 古美門《クトゥルフ神話》16 → 19 失敗

 

「く、惜しいな。だけどまぁ、なんとかなるか。私の行動はこれで終わりだ」

 

「次はボクだ。古美門くんから【禁縛の宝珠】を受け取って咲夜ちゃんに渡すよ。ボクや古美門先生は手を使った攻撃技能を取ってないからねぇ。咲夜ちゃんは《投擲》あるし、適任でしょ?」

 

「ですね。勇儀さんは発狂していますし、私がやります。任せてください」

 

「今回は十六夜さんが主役だな。取った技能が全部機能しているんじゃないのかね?」

 

「ですね。まさかここまで役に立てるとは思っていませんでした。咲夜をイメージして作ったネタキャラクターなのに」

 

「ボクはその後に理人くんと理子ちゃんの壁になるように陣取るよ」

 

 はい、というわけですね。今度は猟犬の攻撃です。(コロコロ)……対象は星熊勇儀さん、あなたです。《前脚》で蹴りつけてきます。

 

 ティンダロスの猟犬《前脚》?? → 97 ファンブル

 

 え、えええぇぇぇぇ――っ!? マジですか!? またファンブルですか!? 90パーセントもあるのに!?

 

「今回GMのダイスの出目が腐ってるな」

 

「シリアスな戦闘シーンなんだけどねい、全部ファンブルで潰されているねい」

 

 ぐ、ぐぬぬ……。はぁ、当然猟犬の攻撃は失敗。さらに次のラウンドは《回避》不可とします。

 

「俺のターン! 32口径リボルバーで攻撃だ! まずは狂人の洞察力判定! (コロコロ)……22、失敗だ! 普通に《拳銃》で判定だ!」

 

 遊星 《拳銃》20 → 20 成功

 

「よし、ギリギリ成功だな! 理子ちゃんたちを傷つけるやつは許さないぞ! ダメージロールだ。来い!」

 

 3D8 → 23

 

「ほとんど最大値だ! これは効いているだろう!」

 

 めちゃくちゃ効いていますね。猟犬は怯んでいます。

 

「あたしも続くぜえ! 負けないよい! まずは洞察力判定だねい! (コロコロ)……63! 成功! 自動成功だ! ダメージロールだねい!」

 

 3D8 → 11

 

 猟犬の動きが鈍くなっているのがわかりますが、それでもその生命活動が止まる気配はありません。

 

「次は私です! 【禁縛の宝珠】を猟犬に向かって《投擲》します! 70パーセントです!」

 

 咲夜 《投擲》70 → 27 成功

 

 咲夜によって投げられた【禁縛の宝珠】は放物線を描いて宙を飛ぶ。そして、やがてそれは理子を襲う怪物のもとに向かっていき……怪物の身体に当たったその時。宝珠の中から光が溢れ、それはまるで鎖のように怪物を雁字搦めに縛り付けていきます。

 怪物はなんとかして逃れようと苦しそうにもがいている様子ですが、それは叶うことはありません。一際強くその光が輝くと、次の瞬間には猟犬の姿はなく、時計の針のような赤いものが刻まれた宝珠だけが転がっていました。戦闘を終了します。発狂している皆さん、全員正気を取り戻してください。

 

「……猟犬は封印したのか。これで理子ちゃんを助けることは出来たな。ふぅ」

 

「はぁ……はぁ……、す、すまないねい、なんかひとりで突っ走ってた気がするよい……」

 

「落ち着きましたかおふたりとも」

 

「うかうかしていられないぞ。理人くんと理子くんも連れてとっとと逃げるぞ!」

 

「そうだねぇ。早くここから逃げるとしよう」

 

 どっこい、そうはいきません。猟犬が封印されたのを見るや否や、加納と天狗衆があなたたちの周りを包囲してしまいました。

 

「くそ、囲まれたか」

 

「逃げ道がないねぇ……。ここまで、かなぁ……?」

 

「猟犬を封印してくださったこと、本当に感謝します。さて、祟道理子をこちらに渡してもらいましょうか? 一時とはいえ共闘したよしみです。……あなたたちとその少年の命は保証します。これは本当です。ですからおとなしく、祟道理子を渡しなさい」

 

「く……」

 

 理子を渡さなければ間違いなく自分たちは殺され、理子を渡したとしても助かる見込みは薄い。そして何よりあなたたちは理子を加納たちに渡すつもりはなく、もはや万事休す、絶体絶命。前に進もうが後ろに引こうが待っているのは地獄。

 ここまでなのか、いやなにか手はないか、様々なことを考えるあなた達。そんなあなたたちの前にある人物が進み出ます。それは、あなた達が助け出した理子です。彼女は何か、意を決したような顔つきで加納の前に出てきました。

 

「ふむ、自分から来ていただけましたか。どうやらあなたは聡明な人間みたいですね。さぁ、我々と共に行きましょう」

 

「り、リコッ! ダメだ、行くな!」

 

「……大丈夫マサト。大丈夫だから」

 

 と優しく微笑むと、理子は懐からキラリと光るものを取り出しました。……それは、探索者の皆さんが持っている【祝福されし短剣】と同じ剣でした。おそらく猟犬対策に持たされていたのでしょう。……《アイデア》チェックをお願いします。

 

 古美門《アイデア》75 → 75 成功

 勇儀 《アイデア》55 → 14 成功

 咲夜 《アイデア》80 → 34 成功

 遊星 《アイデア》70 → 19 成功

 京楽 《アイデア》70 → 09 成功

 

 《アイデア》に成功した皆さんは彼女が今からやろうとしていることに気が付きます。そしてその予想は的中し、理子は短剣の切っ先を自らの目のあるところまで持っていきました。

 

「ま、まさか! 理子ちゃん! それはダメだ!」

 

「お、おい! まさか自分の目を……!?」

 

「これはいかんな! 理子ちゃんに《組みつく》よい!」

 

「待て! 止めるな! 様子を見るぞ!」

 

「そんな悠長なことを言っている場合ですか!?」

 

「落ち着きたまえ、加納の動きを見てから行動しても遅くない! GM、加納は今どんな様子だ!?」

 

 あなた達と同じように理子の真意に勘付いた様子で、狼狽えています。そして叫びます。

 

「馬鹿な真似はやめなさい! あなたは自らの脳が如何なる価値を持つか分かっていません! あなたはクロノスの神から授かったその脳がどれだけ素晴らしいものなのか、まったくわかっていません! 我々ならそれを有効活用できます! あなたの力を十二分に発揮できる環境を用意することもできます! 不自由のない生活も送らせてあげられるのです! だからやめなさい!」

 

「奴のあの言いよう……奴の目的は理子くんの脳みたいだな。メタ発言だが、やはり奴の正体は神話生物ミ=ゴだったか。……ここは見守ろう」

 

「……そうだねぇ。目を背けないで、しっかり見届けてあげようじゃないか」

 

「ああ、そういう……。わかった。俺も彼女の覚悟を無駄にしない。見守ろう」

 

「そんな! 止めないんですか!?」

 

「よくよく考えてみたまえ。ここで理子くんの目を潰さずに済んだとして、そしてこの場を一時しのぎで逃げ切ったとして、加納の背後にある組織が理子くんをこのまま逃がすと思うか?」

 

「……そういうことかい。あの目がある限り、理子ちゃんはミ=ゴから狙われ続けるということかい」

 

「それに別個体の猟犬がまた来る可能性がある。あの目のせいで、いやでも理子ちゃんは過去と未来を見ることができるんだからね。先のリスクを考えるなら、彼女の選択は正しい。見守ってあげよう」

 

「……それもそうですか。わかりました……」

 

「え? え? な、なんだ……リコは何をしようと……ま、まさかそんな!」

 

「理人くん、ここは彼女を信じて……目を逸らさず、見届けましょう。と言いながら理人くんの肩を掴んで動けないようにします」

 

「そ、そんな! 放せ! 放してください! リコ! リコォ!」

 

 理人くんは必死の形相で理子を呼びますが、理子は動揺の色一つ見せず、希望を顕わに決然と答えます。

 

「大丈夫だよマサト。これで私は自由になれる。私の脳の価値? そんなの、興味ないわ。叡智なんていらない。神様なんていなくてもいい。たとえもう、二度とこの目が光を見ることができなくなったとしても構わない。だって……私が欲しかったものは、ずっと……ずっと、この手の中にあったんだから」

 

 ふわりと笑みを浮かべ、目を瞑った瞬間……理子は短剣を思い切り自らの眼球を貫かせ、切り裂いた。……目の前で1人の少女が自らの眼球を貫いた光景を目撃した皆さん、最後の《SAN》チェックです。0/1D6です。

 

 古美門《SAN》48 → 16 成功

 勇儀 《SAN》25 → 19 成功

 咲夜 《SAN》28 → 51 失敗

 遊星 《SAN》15 → 35 失敗

 京楽 《SAN》19 → 19 成功

 

「(コロコロ)……4。何とか発狂は回避しました。涙を流しながら両手で顔を覆います」

 

「(コロコロ)……俺も大丈夫だ。1」

 

「くそっ! くそぉっ!」

 

「リコォ!」

 

 無念の咆哮を上げる加納、咲夜の手から解放された理人は泣きながら理子の所へ向かいます。泣き叫ぶ理人の頭を撫でながら、自らの両目を切り裂いた理子は地面に膝を着きながらも心からの笑顔を浮かべました。

 

「これからはずっと一緒だね……マサト」

 

 ……と。

 

「……ボクは慟哭している加納の所に行くよ。そして話しかける。キミが目的にしていた彼女の目は……死んだ。もう彼女に固執する理由はないだろう?……お願いだからさ、諦めてくれないかい。ボクも古美門先生も、キミやキミの後ろに控えている組織と敵対するつもりはないよ。だからどうか、これ以上あの子たちを傷つけないでほしい。彼らには何の罪もないんだから」

 

「……くそが。まぁ、いいでしょう。無益な殺生は好みませんし、私たちの負けのようです。せっかく上質な脳を持ち帰ることができると思ったのですが……残念です」

 

 そう言って加納は、部下の天狗衆たちを引き攣れて大講堂から去っていきました。

 ……それではエンディングにいきます。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 はい、では探索者の皆様、全員無事生還おめでとうございます。終盤の猛烈な《SAN》チェックの嵐に一部メンバーが発狂しまくりましたがうまい感じに立ち回っていただけたため、シナリオをスムーズに進めることができました。さて、後日談と行きましょう。

 加納たちが立ち去って少しして、あなたたちは理子ちゃんと理人くんを連れて無事に帰ることができました。祟道叡史は逮捕され、邪悪なカルト組織が行っていた数々の犯罪が公の場に晒されました。

 この事件を解決したあなたたちの名声は一躍世に知れ渡り、今や古美門の探偵事務所は収入が倍になり、京楽も出世して階級が警部から警視になりました。

 そしてそれから数週間後、階級が上がったことで忙しくなった京楽は久々に古美門探偵事務所に訪れます。

 あの事件以降、碌に会うことがなかったチーム古美門と京楽は大通りを歩きながらとある場所に向かっていました。約30分ほど歩いたでしょうか、目的地にあなたたちは辿り着きます。

 そこはとある住宅街にある一軒家。表札には『秋口』の二文字が刻まれており、家の門には2人の人影。

 ぶっきらぼうだが心優しい三白眼とツンツン頭が特徴的な少年と、両目を包帯で覆った顔の左半分に火傷痕のある少女が手を繋いであなたたちを出迎えていたのです。

 少年と少女は余りに多くのものを喪いました。

 しかし、あらゆるものを喪ったその後に、確かに残ったものがあったのです。

 これからも2人は、あらゆる困難に立ち向かい、そして幸福を手にする、そんな人として当たり前な人生を歩んでいくことでしょう。

 ……以上で、COCシナリオ【クロノスを食らうもの】を終了します。

 お疲れ様でした。

 

「「「「「お疲れ様でした」」」」」

 

 

 

 

     ――Good end!!



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おまえがちょうどいい
Part.1


 あいよ、みんな揃ったねい。んじゃま、TRPG【クトゥルフの呼び声】のセッションを始めていこうかねい。

 

「「「はーい」」」

 

 プレイヤーは3人。GMはあたし、前回セッション星熊勇儀の中の人が担当するよい。いつものGMの人はプレイヤーとして参加しているねい。ちなみに話し方なんだが、小説書く人がキャラがわかりやすいようにわざとやっているらしい。どっちかって言うと咲の三尋木咏に近い気がするけどまぁ気にしないでくれ。

 話を戻そうか。今回はクトゥルフ神話TRPGシナリオ集【アカシック13】に掲載されているシナリオ【おまえがちょうどいい】をやっていこうと思う。大体2時間くらいで終わると思うよい。

 

「お、新しく出たサプリメントか」

 

「てかそれ、明日発売予定じゃなかったっけ?(現実セッション2018/3/30)」

 

 昨日書店行ったら売ってたんだよ。先行販売してたのか間違えたのかどうかはわからんが買うっきゃないだろ? で、とりあえずざっとシナリオ見て回しやすそうなやつを選んだ。

 本当はアレンジ加えたかったんだけどねい。でも1回元のシナリオプレイしたほうがいいかなと思ってさ。まぁちょっとだけ弄ってるけど。

 

「シナリオ背景はなに?」

 

 舞台は現代日本。みんなはとある高校の生徒になってもらって、そこで次々と起こる怪奇現象の原因を突き止めてもらう。

 

「生徒? ということは学生探索者で作らないといけないんですか?」

 

「たしか学生探索者って作るの面倒な上に弱いんじゃなかったっけ?」

 

 ああ、高校生の探索者の作り方がこの【アカシック13】に書いてあるから安心してくれ。

 まず高校生の探索者は《EDU》以外のステータスは普通の探索者通りにダイス振る。《EDU》は原則、プレイしたい探索者の年齢マイナス6で固定するんだ。例えば高校3年生の探索者を作りたい場合は18-6で《EDU》は12になる。誕生日を迎えておらず17歳である場合でも《EDU》は12になるよい。つまり《EDU》は10~12までになるわけだ。

 あとこれは昨日考えたハウスルールなんだが、まずは探索者を留年生とした場合。別に設定として選んでもいいけど、何年留年しても《EDU》は12で固定だ。おまけに教師や他の生徒からの信用は低いし、中には見下されていることもあるだろう。ただし任意の技能に留年した年×20ポイントのプラス修正を入れることを許可する。

 それから海外からの留学生、または帰国子女として入学した場合《EDU》を+3することを許可するよい。だがその場合、留学生は《日本語》を、帰国子女は任意の《外国語》を最低50ポイント、趣味的技能から技能値として習得してもらう。喋れない、読み書きできないのに留学するなんておかしいからな。

 

「つまり職業技能を上げる代わりに自由な技能が取り難くなる、ということか」

 

 その通りだ。

 そしてその職業なんだが、例えば【警察官】を選んだ場合は、そのPCは警察官を目指している生徒であって本物の警察官ではない。従来の【警察官】は《信用》を使う場合に警察手帳を見せれば技能値に修正が入るが、当然学生であるおまえらにそんなもんはないから修正は入らない。【医者】に設定しても手術することなんて当然できない。知識や素質があるだけで社会的な立場はないに等しいということだ。普段の通りに技能を振ると役に立たないどころか、逆に足を引っ張るかもしれんから注意してくれ。

 ただし【スポーツ選手】や【アイドル】【ディレッタント】【タレント】【店員】【使用人】といった職業を選んだ場合はその場限りでない。設定がしっかりしていれば技能ボーナスを許可する。ただしそれにふさわしい技能を取得することを義務とする。

 あと最大技能値なんだが、特別な理由がない場合は最大70までにすること。学問の場合は80ある時点で大学卒業クラスだからな。

 とまぁこんな感じだ。さぁさぁみんな、探索者を作ってくれ。別に必須技能とかないし、自由にPCを作ってくれて構わないよ。その間あたしはシナリオのおさらいしとくから。んじゃ、よろしくねい。

 

「「「はーい」」」

 

「お、私の《DEX》高いですね! じゃあキャラはこれです!」

 

「うえぇ、《SIZ》8……あ、でも《INT》は高い」

 

「俺は……普通だな。無難に作ろう」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 へいへい、みんな出来上がったみたいだねい。というわけでキャラ紹介ヨロ。

 

「はいどーも! 清く正しい射命丸文! 新聞部に所属しています! 職業は当然、ジャーナリスト志望!」

 

射命丸 文

性別:女 年齢:高校2年生

職業:ジャーナリスト 特徴:俊敏 夜に弱い

STR:14 《幸運》55   《言いくるめ》50 《聞き耳》53

CON:10 《アイデア》55 《説得》50    《隠れる》50

POW:11 《知識》55   《写真術》50

DEX:17 《母国語》55  《心理学》50

APP:13 《回避》85   《図書館》54

SIZ:10 《耐久力》10  《歴史》50

INT:11 《MP》11   《精神分析》50

EDU:11 《DB》±0    《目星》54

SAN:55 《年収》0    《応急手当》50

 

 おまえさんは……まぁいつも通りの割り振りだな。安定しているんだか不安定なのかよくわからん。

 

「50パーセントあれば何でもできます!」

 

 50パーセントの《応急手当》とか現実ならあたしは絶対ゴメンなんだがねい。まぁいいや。ほい次。

 

「萩村スズ。2年生、帰国子女。生徒会の会計です。《法律家》を目指して勉強中です」

 

萩村 スズ

性別:女 年齢:高校2年生

職業:法律家 特徴:バイリンガル 夜に弱い

STR:09 《幸運》50   《言いくるめ》70 《歴史》67

CON:08 《アイデア》85 《説得》70

POW:10 《知識》70   《法律》70

DEX:15 《母国語》70  《心理学》60

APP:15 《回避》30   《経理》65

SIZ:08 《耐久力》07  《聞き耳》70

INT:17 《MP》10   《隠れる》60

EDU:14 《DB》-1D4 《英語》80

SAN:50 《年収》0    《博物学》64

 

 おまえさんもまぁ、いつも通りだねい。《目星》《図書館》初期値。特に欲しい技能はないっつったけどよ、それでも重要な技能なんだよその2つ。

 

「ロールプレイでカバーするわ」

 

 《英語》が80あるけど帰国子女なら問題ないな。むしろこれくらいが自然なくらいか? んじゃあ最後。

 

「俺の名前は不動遊星。2年生。部活はやっていないが個人経営のカフェで週4のアルバイトをしているぞ」

 

不動 遊星

性別:男 年齢:高校2年生

職業:カフェ店員 特徴:鋭い洞察力 方向音痴

STR:14 《幸運》60   《言いくるめ》55  《図書館》60

CON:07 《アイデア》65 《聞き耳》65

POW:12 《知識》55   《経理》60

DEX:12 《母国語》55  《心理学》45

APP:13 《回避》24   《信用》65

SIZ:17 《耐久力》12  《コンピュータ》36

INT:13 《MP》12   《製作(料理)》80

EDU:11 《DB》+1D4 《目星》65

SAN:60 《年収》85万  《芸術(料理)》50

 

 お、唯一の年収持ち。このステータスからして厨房を担当しているのかい?

 

「厨房というか、まぁ、色々と全部だな。料理はするし接客も会計もこなすぞ。バイト歴は1年経ったくらいだ。1年の時からバイトを始めてある程度覚えたところで、今はメニューも一緒にマスターと考案している。料理は出来るが芸術的センスは勉強中だ」

 

 なるほどねい。ところでみんな2年生なんだがアレかい? クラスメイトってことでいいのかい?

 

「いいんじゃないですか? 仲良し3人組ということで」

 

「そうね。そっちの方がやりやすそうだし、いいんじゃないかしら?」

 

「ああ。俺も特に抵抗はない」

 

 よしオーケー。そんじゃあシナリオ始めるぜい!

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 おまえさんたちは東京のとある高校に通っている。とある高校っていってもまぁ、どこでもいい。そうだな、ここはあたしたちの母校のあの高校に通っているとしようか。

 

「俺たちの母校東京にないんだが」

 

 細かいことは気にすんじゃないよい。(コロコロ)……さてと、んじゃまぁまずは遊星、おまえさんの導入から行くよ。

 

「なんだ今の1D6」

 

 はっはっは、まぁシークレットダイスってやつさ。

 遊星は今、学校から下校しバイト先に向かおうとしている最中だ。普段なら特に何をすることもなく普通に下校する遊星だが、今日は日直の仕事やら教室の掃除やら先生の手伝いやらで遅くなってしまって今はすっかり夕暮れ時。午後4時45分。

 グラウンドから聞こえてくるスポーツ系の部活動に励む声を流しつつ、おまえさんは夕日が照らされオレンジ色に染まったタイル張りの廊下を1人で歩いている。周りには誰もいないよ。

 

「遅くなってしまったな。連絡はしておいたとはいえマスターには迷惑をかけてしまった。ちゃんと謝らないとな」

 

 と思いつつ廊下を歩いていた遊星、《聞き耳》で振ってくれ。

 

 遊星 《聞き耳》65 → 17 成功

 

 遊星は自分が何者かに見られている気配を感じる。具体的にどんな感情が込められているのかはわからないが、それが好意的なものではないことはなんとなくわかる。

 

「気持ち悪いな、辺りを見渡す。GM、その視線はどこからきている?」

 

 《目星》で判定ヨロ。

 

 遊星 《目星》65 → 97 ファンブル

 

「うおっ、いきなりファンブルか!」

 

 《目星》ファンブルかぁ……んじゃあ遊星はどこから視線が来ているのかわからなかったねい。辺りに人影はなく自分1人だけしかいないはずなのに確かに感じる視線は今もなお自分に向けられ続けている。一抹の不安と気持ち悪さを覚えた遊星は《SAN》チェックだ。

 

「く、ファンブルだから《SAN》チェックを入れてきたか」

 

 遊星 《SAN》60 → 78 失敗

 

 んじゃあ1点の《SAN》値減少だねい。まだまだ続くよ。

 誰かに見られている恐ろしさを感じ取った遊星の鼻に微かな甘い香りが漂ってくる。そしてその後……

 

「おまえはダメだ……」

 

 というどこか落胆したかのような呟きが小さく、おまえさんの背後から確かに聞こえた。それは大人の男性の声。そしてその声は遊星に心当たりがない。

 

「誰だ! と叫びつつ後ろを振り返って見る。誰かいるか?」

 

 誰もいないよ。すぐ近くから聞こえたはずなのにおかしいねい? てなわけで、この奇妙な出来事に遭遇しちまった遊星は《SAN》チェックだ。1/1D4。

 

「連続《SAN》チェックか。ファンブルのせいだな」

 

 遊星 《SAN》59 → 28 成功

 

「さっきの分と合わせてもビビった程度か。気味が悪いなと言いながら速足で歩こう」

 

 というわけで遊星の導入は終わり。ほんじゃあ次は萩村、おまえさんの導入行こうか。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 時間は進んで次の日のこと。時刻は朝7時半過ぎ。帰国子女、萩村スズは通学路を歩いて学校に向かっている。通学路にはおまえさんの他にも多くの生徒たちが友達と喋りながら、音楽を聴きながら、自転車に乗りながら、自分と同じ方向に向かって進んでいる。

 さて、校門が見えてきた。ここを潜れば学校の敷地に入る、というところでおまえさんは奇妙なものと遭遇した。体育館の陰の方に1つ、背の高い人影を見つけたんだ。

 

「誰かしら? その人影を注視するわ」

 

 その人影が誰のものなのか、皆目見当もつかない。なぜかってその人影は、全身真っ暗な影法師だったんだから。だけど目だけははっきりと見えた。視線をやや下に落とす影法師は酷く悲しげに見える。

 そんな影法師はおまえさんのみならず校門を抜ける生徒たちを目で追って見つめ続けている。それはまるで、誰かを捜しているかのような様子だった。

 

「不審者の可能性が高いわね。生徒会役員として見逃せないわ。そこにいるのは誰! 何をしているの! と体育館を指差しながら叫ぶ」

 

 その声に反応したのか、視線を泳がせていた影法師はしっかりとおまえさんを捉えた、その時。

 

「おまえもダメだ……探さないと、探してあげないと……」

 

 という成人男性の声がおまえさんの真横から聞こえてきた。さらにさっきまでいたはずの影法師が忽然と姿を晦ましていることもこの時をもって気が付く。《アイデア》チェックだ。

 

 萩村 《アイデア》85 → 02 クリティカル

 

「んげ、このタイミングでクリティカルはマズい……」

 

 マズいねい。じゃあ萩村はずっと見ていたはずの人影が気が付けばいなくなっていたこと、さらにさっきの真横からの声から、自分は人間ではない得体のしれないものと遭遇してしまったのではないかと考えてしまう。こちらが反応できないスピードで近づいてきた謎の存在に恐怖し、鳥肌が立つ。1/1D4の《SAN》チェックだ。

 

 萩村 《SAN》50 → 08 成功

 

「成功ね。じゃあその影法師がいたところまで向かうわ。なにか落ちているかもしれないし。恐る恐る警戒しながら近づく」

 

 無事に辿り着くことができたねい。さっきまで影法師が立っていたところにはなにも落ちていない。だけど、微かに甘い匂いか漂っている。《生物学》または《アイデア》でこの匂いについて調べられるよ。

 

「《生物学》はないから《アイデア》で判定するわ」

 

 萩村 《アイデア》85 → 82 成功

 

 じゃあ萩村はこの匂いが植物……何かの花の匂いだってことに気が付いたよ。何の花かはわからないけどねい。

 

「気味が悪いわね……今日の会議で報告しておきましょうか」

 

 てなわけで萩村スズの導入終わり。最後射命丸、おまえさんの導入行くよ。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 さて、時刻はさらに進んで1限目の授業中。おまえさんは現在歴史の授業を受けている。あ、おまえさんだけじゃなくて萩村と遊星も授業は受けていたねい。

 

「そうだな。俺は射命丸の後ろの席に座っていることにしよう」

 

「じゃあ私はその前に座っているわ。ちなみに席は最前列」

 

 わかった。じゃあそういうことにしておく。まぁ今は射命丸の導入だから2人はちょっと静かにしていてくれ。

 話を戻そう。歴史の授業は中年の男性教諭が担当している。淡々とした説明と板書ばかりの授業はとても退屈だ。その上先生の声もゆったりしたものであったがゆえにおまえさんは思わず眠気を催してきた。

 

「すやすや、こくりこくり」

 

 こっくりさんになっているおまえさん。あと少しで夢の世界に旅立つだろうまさにその時だった。突然、射命丸はポンっと誰かが自分の肩に手を置いたような感触がした。そしてその後耳元で、

 

「おまえがちょうどいい」

 

 というどこか満足げな声が確かに聞こえた。

 

「気持ち悪っ!? びっくりして飛び起きます。そして誰!? と声を上げて周囲を見渡します」

 

 おまえさんの周りの生徒は全員座って授業を受けている。立っている生徒なんていないし、後ろに座っている遊星は肩に手を置く程度のことは出来るだろうが、耳元で囁くことなんてできやしない。というか今の声は囁くなんてレベルの小さな声じゃない。はっきりとした声だった。

 

「どんな声でしたか? 男性? 女性?」

 

 大人の男の声だ。一瞬先生が居眠りしていた自分を驚かせようとしたのではと考えるだろうが、先生は教壇の前にいる。おまえさんに声をかけてからあそこに引き返すには少し時間がかかるだろうし、様子からして先生が犯人じゃないことがわかる。飛び起きたおまえさんの方をぽかんとした顔で見ていたんだから。

 

「あ、あれ? え、ええっと?」

 

 さて、状況からしてクラスのやつらも先生もおまえさんの肩に手を置き声をかけた人間ではない。じゃあ一体さっきの誰だったのか。不気味な体験をした射命丸は0/1D3の《SAN》チェックだ。

 

 射命丸《SAN》55 → 42 成功

 

「GM、さっき文に聞こえた声は俺たちにも聞こえているか?」

 

 うんにゃ、聞こえてないよ。射命丸にしか聞こえていない。

 

「どうしたの? と文に声をかけるわ」

 

「え、ええと? 今誰か私に話しかけませんでした? 肩に手を置いて」

 

「遊星? あんたなんかやった?」

 

「俺か? 何もやっていないぞ。というか誰もおまえに声なんてかけてないぞ」

 

「そ、そんな! そんなことありませんよ! だってしっかり聞こえたんですから! 『おまえがちょうどいい』って!」

 

 あー、正気度減ってないのにヒステリックになっちまっているおまえさんに歴史の教師が呆然とした顔のまま声をかけてくる。

 

「予坂、いったいどうした?」

 

「予坂って誰ですか!? 射命丸です!」

 

「え? あ、ああ、そうだったおまえは射命丸だったな。すまんすまん」

 

 そんなやりとりを見てクラスのやつらは吹き出したように笑い始める。どうやら先生は、わざと名前を間違えて呼び射命丸のツッコミを入れさせることでこの場を和ませようとしたんだろうねい。

 

「粋なことをする先生じゃないか。俺も少し吹いとこう」

 

「にしても予坂なんてのも珍しい苗字ね。普通に田中や佐藤でもよかったような気がするんだけど、そこんとこどうなのGM」

 

 そういう鋭いところに気付くかおまえさんは。んじゃあ先生に対して《心理学》しとくか? 公開で振ることを許可する。

 

「あ、じゃあ振っとくわ」

 

 萩村 《心理学》60 → 08 成功

 

 じゃあ萩村は、先生はどうしてそんな名前の間違い方をしたのか自分でもよく理解していないってことがわかった。少なくともさっきのやり取りは先生が狙ってやったものじゃあない。

 

「ふーん」

 

 話を進めようか。先生は軽く謝った後気を取り直して射命丸に話しかける。

 

「で、一体どうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたも……えっと? あの、さっき私の肩に手を置いた人……とか見ませんでした?」

 

「い、いいやそんなやつはいなかったと思うぞ? ちょうどおまえが飛び起きたときはみんなの方を見て話をしていたからわかるが、おまえの肩に手を置いたやつなんていない」

 

「こ、声は聞こえませんでしたか? 『おまえがちょうどいい』って」

 

「そんな声聞こえんかったぞ。はっはっは、予坂おまえ、寝ぼけているんじゃないか?」

 

「だから射命丸です!」

 

「え? あ、ああそうだった。おかしいな、先生も寝ぼけているのかもしれんな。さて、授業を再開するぞ。寝ないようにな」

 

 と言って黒板に向かってチョークを走らせる。周りの生徒も軽く笑った後授業に集中し直し始めたねい。

 

「おかしいですね。夢でも見ていたんでしょうか、と気を取り直して授業に望みます。もう寝ません」

 

 というわけで射命丸の導入終了。んじゃあ本編入っていこうかねい。

 

 

 

 

     ――To be continued…




射命丸文=前回セッションGMの人
萩村スズ=前回セッション古美門研介の中の人
不動遊星=前回セッション不動遊星の中の人


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Part.2

 時間を進めて1限目終了。気を付け礼の号令を委員長が終えると歴史の教師は教室を後にする。さて10分間の休憩時間だ。好きにロールプレイして構わないよ。頃合い見て時間進めるつもりだけど、やることなくなったら呼んでくれ。

 

「さっきの授業での文の身に何が起きたか聞きたいわ。くるっと回って文の方を見る」

 

「俺も聞きたい。席から立って話しかけよう。どうしたんだ文。尋常じゃない様子だったが、そんなに怖い夢を見たのか?」

 

「あやや……いやー、ははは。夢だったんですかねぇ。転寝(うたたね)してたんではっきりしないんですよ、と苦笑いしながら叩かれた肩を擦ります」

 

「ボケていたと言えばあの歴史の先生もそうよ。素で間違えていたみたいよ? あんたの名前」

 

「え? そうなんですか?」

 

「マジか。てっきりウケ狙いでわざと言い間違えたと思ったんだが……射命丸なんて名前のどこをどう間違えたんだ」

 

「しかもなんでしたっけ? よ……なんでしたっけ?」

 

 予坂だよ。

 

「そうそう予坂なんて、それもまた珍しい苗字ですし……変なこともあるんですね」

 

「変なことと言ったら俺も昨日変な出来事があったんだ」

 

「お、なんですかなんですか。せっかくですし新聞のネタにしちゃいましょう。自分の実体験もありますし、結構リアルに書けそうです」

 

「昨日の放課後のことなんだがな、廊下で変な視線を感じたんだ。でも周りを見ても誰もいない。そしたらなんか、妙に甘い匂いがしたと思ったら後ろから聞こえたんだ。『おまえはダメだ』って男の声がな。それで振り返ったら誰もいないんだ。なんというか、気味が悪かったな」

 

「あ、それと似たようなことが今朝あったわ。登校中に体育館の方に全身真っ黒な変な人がいてね、話しかけて目が合ったと思ったらもういなくて。それで真横から、真横からよ? 男の人の声で『おまえもダメだ』って。何かを探していたみたいだったわ」

 

「え、ちょっと待ってください待ってくださいよ。なんですか今の話物凄い共通点多いじゃないですか。え、私『おまえがちょうどいい』って言われたんですけど!?」

 

 あ、そうだ。今の話を聞いた射命丸は《聞き耳》で判定してくれ。

 

 射命丸《聞き耳》53 → 29 成功

 

 じゃあ射命丸は自分の掌から甘い匂いが漂ってくるのに気が付くよ。

 

「え!? くんくん、うわっ、何ですかこの甘い匂い!」

 

「ちょっと嗅がせて。すんすん……GM、この匂いは今朝私が嗅いだ匂いと同じ?」

 

 同じ匂いだねい。何かの植物のような、甘い匂いだ。

 

「だが一体どこでそんな匂いが付いたんだ。授業中はないからこの休憩中ということだ。……そういえばさっき、肩を擦っていたな?」

 

「あ、そこかもしれないわね。私が嗅ぐわ。どう、GM?」

 

 射命丸の肩にしっかりとその甘い匂いが付いていたよ。

 

「そ、そんなっ!? 自分も匂いを嗅ぎます!……う、うわっ!? 本当に匂ってます!」

 

 てなわけで射命丸。《SAN》チェックだ。0/1な。

 

 射命丸《SAN》55 → 43 成功

 

「特に心は揺るぎませんね。ま、まぁ、誰かとぶつかって偶然その人が付けていた香水が付いただけかもしれませんよ。うん、そうに違いありません」

 

「そ、そうだな。きっと偶然だ」

 

「だったらいいんだけどね……」

 

 とここで予鈴が鳴る。2時間目開始だ。一気に場面を飛ばすぞ。

 今は昼休みだ。1限目に変なことが起きたがそれからは特にこれといった異変はない。時間が経つにつれ朝の一件もただの勘違い、夢を見ていたと思うことだろう。

 さて、今おまえらは昼食を終えて適当に駄弁っている。そのときピンポンパンポーンと黒板の中央上に設置されたスピーカーから音がした。校内放送の時に使われるものだ。

 

「GM、俺は耳を抑えて聞こえないようにする」

 

 あん?

 

「いや、なんでもない」

 

 さてと、んじゃあスピーカーから男の声でアナウンスが流れる。

 

『2年D組、予坂文さん。2年D組、予坂文さん。お母さんが待っています。行ってあげてください』

 

 ピーンポーンパーンポーン、とここで校内放送が終わった。

 

「なんだ今の放送は。今どき小学校でもこんな放送しないと思うぞ」

 

「内容も変だけど確認しないといけないところもいくつかあるわ。まず始めに、2年D組って私たちの教室?」

 

 そうだよ。おまえさんたちのいるクラスは2年D組だ。

 

「俺たちの教室か。じゃあ予坂文なんて名前のクラスメイトはいるのか?」

 

 うんにゃ、そんな名前のやつはいないねい。

 

「……私以外に文って名前のクラスメイトはいますか?」

 

 いんや、おまえさん以外に文なんて名前の生徒はいない。もっと言うならここに通う2年生の中に『予坂』なんて苗字のやつはいないし、『文』という名前も射命丸、おまえさん以外にいない。いやぁ、不思議だねい?

 

「……なぁ、文」

 

「言わないでください遊星さん。大丈夫。私は平常です。今の放送はアレですよ。ただの間違い、そうに決まっています」

 

 じゃあ何もアクションを起こさないんだな? だったら5分後、また校内放送が流れる。

 

「ほうら。きっと間違いです失礼しましたとかなんかそんな感じのアナウンスですよ。間違いない」

 

『予坂文さん、予坂文さん、早く会いに行きなさい』

 

 以上、校内放送終わり。

 

「…………」

 

「黙っちゃったわね。ねぇGM、今の放送の声、もしかして私たちに心当たりあるんじゃない?」

 

 あるねい。この声は遊星と萩村に『おまえはダメだ』と言い、『おまえがちょうどいい』と射命丸に言った声と同一のものだ。

 

「ええ……ええっ!?」

 

「落ち着きなさい。誰もあんたのこととは言ってないわ」

 

「で、でも歴史の授業で先生が私のこと……」

 

「偶然よ、偶然」

 

 じゃあ3分後、また校内放送が流れる。さらに2分経ったらまた、1分経ったらまた。更にまた。更に更にまた。ダメ押しするように、何回も何回も何回も流れる。

 

『予坂文、早く会いに行け』

 

『早く、早く行くんだ! 予坂文!』

 

『予坂文! おまえが、おまえがちょうどいいんだ! さっさと行けっ!』

 

 最初こそ事務的な丁寧語を使った校内放送だったが徐々に大きく、荒く、切羽詰まったような、何かに取り憑かれてしまっているかのような、そして何かに言いつけるかのような、怒号のようなものへと変貌していった。

 誰かもわからない得体のしれない男の声は学校全体に響き渡り、アナウンスの間隔が短くなるごとに自分たちのいる教室に向かって近づいてくるような、気が付いたときには目と鼻の先まで迫ってきているような、そんな恐怖を味わい背筋が凍る。

 萩村と遊星は1/1D3、射命丸は1D3/1D6の《SAN》チェックだ。

 

 射命丸《SAN》55 → 56 失敗

 萩村 《SAN》49 → 87 失敗

 遊星 《SAN》59 → 82 失敗

 

「(コロコロ)……あ、5です」

 

「(コロコロ)……最大値、3」

 

「(コロコロ)……俺は2だ」

 

 5点以上減少した射命丸、《アイデア》で判定してくれ。

 

 射命丸《アイデア》55 → 91 失敗

 

 ちぇっ、一時的発狂は回避しやがった。

 

「だとしても5点の正気度喪失はデカいな」

 

「発狂しない正気度喪失ロールですか。やりにくいですね。とりあえず恐怖のあまり顔面蒼白にしつつ目尻に涙を滲ませて震えます」

 

「バンッと机を叩いて立ち上がるわ。気分は最悪、あんまりすぎる質の悪さに憤慨する。もうあったまきたわ! ちょっと放送室に行ってやめさせてくる!」

 

「俺は文を気遣いながら背中を擦ろう。大丈夫、大丈夫だ」

 

「うう、遊星さん……」

 

「遊星は文をお願い。私は放送室にカチコムから。生徒会役員としても友達としても看過できないわ。というわけでGM、私はダッシュで放送室に向かうわ。その前に、ここは何階?」

 

 2階だな。

 

「放送室があるのは?」

 

 3階だ。走れば2分もかからないで着く程度の距離だ。

 

「放送室に向かう手段は何通り?」

 

 右奥の階段、左奥の階段、中央階段、非常階段の4通りだねい。今おまえさんたちのいる教室から見て一番近い階段は左奥の階段だけど、放送室は右奥にあるから階段的には右奥階段と非常階段が一番近い。一方、左奥階段だと放送室から見て真逆の方向に走らないといけないから、僅かだがタイムロスが発生する。まぁ、あんまり気にしなくていいかもしれんがね。

 

「よし。だったら走って放送室に向かうわ。階段は中央階段を使う」

 

 おっと、んじゃあ《幸運》で判定してくれ。

 

 萩村 《幸運》50 → 07 成功

 

 成功か。なら何事もなく放送室に辿り着く。ちなみにまだ校内放送は続いているよ。

 

「ドアノブを回す」

 

 鍵が掛かっていて入ることは出来ないねい。

 

「《鍵開け》なんて技能取ってないし、職員室に行って鍵を取ってくる……と見せかけて物陰に隠れて放送室から誰か出てくるまで待つ」

 

 ああ、その必要はないよい。おまえさんが放送室のドアノブをガチャガチャしているときに何人かの先生たちが駆けつけてくる。おまえさん同様、この異常な校内放送をやめさせるべくこうして赴いたんだろうねい。全員物凄い表情をしている。先頭を走っていた体育の先生の手には鍵が握られていた。

 

「んっ!? おまえは萩村か! この悪戯はおまえの仕業か!?」

 

 ちなみにおまえさんがドアノブに手をかけてから校内放送はぱったりと止んだよ。放送室の真ん前にいた、しかもドアノブに手をかけていたおまえさんを先生たちが疑うのは当然だよねい?

 

「んなわけないでしょうが! 放送で流れていたのは男だったでしょう! 女子の私がどうやってあんな声出すってんのよ! 疑うなら調べてみてください! ボイスレコーダーはおろか、携帯電話もこの放送室の鍵も持っていませんから! 《説得》で判定!」

 

 萩村 《説得》70 → 57 成功

 

「む、むぅ……それもそうか」

 

「萩村さん、あなたが来たときに誰か放送室から出てきたかしら?」

 

「いいえ、ですから犯人はまだこの放送室に籠城していると思われます」

 

「よし、じゃあ入るぞ」

 

 体育教師が持っていた鍵を鍵穴に刺す。くるりと180度問題なく回転した。普通に開錠したようだ。扉を開けて先生たちが放送室になだれ込む。

 

「私も入るわ。で、誰がいるの?」

 

 それがどっこい、不思議なことに誰もいない。放送に使う機械類は動きっぱなしでほんの少し前までここで誰かがこの機器を使って校内放送していた痕跡こそ残っているが、その肝心の犯人の姿がない。

 

「放送室に窓はある?」

 

 校庭に面したところに1つだけ。でも鍵が掛かっているし、ここは3階だ。仮にそこから外に出ようものなら地面に向かって真っ逆さま。ベランダはないから壁をつたって隣の教室に逃げ込むことなんて出来ない。

 

「いったいどういうことよ……」

 

 きっとおまえさんと同じことを思ったんだろう、先生たちも困惑した様子だ。でもいくら考えてもわからず諦めたように放送室から出て行く。

 

「萩村さん、もう行きましょうか」

 

「あ、はい……戸惑いつつ放送室から出るわ。教室に戻る。今度は左奥の階段を使うわ」

 

 そうかい。んじゃあもう1回《幸運》で判定な。

 

 萩村 《幸運》50 → 74 失敗

 

 おっと、失敗かい。じゃあ萩村は教室に戻る途中の階段を下っている途中、背中をトンと叩かれる。階段を下っているときにそんなことをされたら、当然足を踏み外して落っこちまうだろうねい。《跳躍》で判定しな。成功で無傷、失敗でダメージ判定だ。あ、痛い目に遭いたいってんなら振らんでも構わんよ?

 

「当然《跳躍》するわ! 初期値で25パーセントもある!」

 

 萩村 《跳躍》25 → 05 クリティカル

 

「お、クリティカル! 犯人くらいわかるんじゃない?」

 

 そうだねい。そんじゃあ《跳躍》成功ついでに《目星》成功でわかる情報を公開しようかねい。

 すかさず跳躍し、着地に成功した萩村は自分の背中を押して階段から突き落とそうとした犯人が誰なのかを見るべく振り返る。

 振り返った先にあるのは階段中間地点の踊り場。そこには今朝萩村が目撃したあの影法師がいた。影法師は僅かに目線を動かすとその姿を晦ました。逃げたというより消えちまったという表現が正しいかな。煙のようにフッと消えちまったよ。追跡は不可能だねい。

 さて、この現象を目撃した萩村は0/1の《SAN》チェックだ。

 

 萩村 《SAN》46 → 10 成功

 

「特にビビったりしないわね。……ああそうそう。さっき押されたところに何か匂いとかついてない? 《聞き耳》してもいいかしら?」

 

 ああ、《聞き耳》はしないでいいよい。萩村は叩かれたところから仄かに甘い匂いがすることに気付いた。そいつはやっぱり、おまえさんが不審者を見つけ、そいつがいた場所に残っていた何かの植物の匂いと同じだ。

 

「やっぱりね。この一連の騒動の黒幕はその影法師と見て間違いはなさそうね。今度こそ教室に戻って2人と合流するわ。情報共有しないと」

 

 あ、その前にだ。叩かれた場所に匂いが付いていたことに気付いた萩村は0/1の《SAN》チェックだ。

 

「待ちなさいGM。私は確認するために匂いを嗅いだのよ。文の時とは違ってある程度確信した上で行動したわ」

 

 それもそうか。んじゃあ正気度喪失はなくていいや。教室に戻るんだっけか? だったら何事もなく2年D組に辿り着いたねい。

 

「おかえり萩村、どうだった?」

 

「一言で言い表すことはできないから順番に話すわ。ところで文は大丈夫?」

 

「は、はい。大丈夫です。あはは」

 

「空元気だがまぁ、落ち着いてはくれたぞ。おまえは唯一の《精神分析》持ちなんだから頑張ってくれ」

 

「厳しいですねぇ」

 

「というわけで私が体験したことを2人に伝えるわ」

 

 特に正気度喪失は発生しないかな。2人はそれを知った上でロールプレイしていいよ。

 ああそうだ。ここで遊星、おまえさんの携帯のバイブレーション機能が作動した。どうやら誰かからの着信が来ているようだねい。

 

「スマホを取り出して確認する。誰からの通知が来ている?」

 

 発信者不明と表示されているから誰から電話が来ているのかはわからないねい。で、どうする? 出るかい?

 

「明らかに罠だが出よう。ただしスピーカー機能を使って射命丸と萩村にも聞こえるようにする。もしもし」

 

 遊星が電話に出ると、男の声でこんなことを問いかけられる。

 

『おまえは予坂の友達だよな?』

 

「予坂? 誰だそいつは。そんなやつは友達にいないぞ。というかおまえは誰――」

 

 おっと、遊星がセリフを言い終える前に電話の男が叫ぶように言い放つ。

 

『そんなはずはない! あれは予坂だ! そうするんだ!』

 

 ここで電話が切れる。

 

「なんだったんだ今のは」

 

「今の男の声に聞き覚えは?」

 

 あるよ。おまえさんたちが聞こえた謎の声と酷似していたねい。まぁ、そんなことはもう気付いていると思うし、あんまし驚かないだろう。だが電話が切れた後スマホを見た遊星は驚愕に包まれる。あ、スピーカー機能使ってるってことは他の2人もスマホを見てるよねい?

 電話が終わった後に表示される着信履歴欄。そこには『予坂文』の文字がいくつか表示されていた。勿論遊星はそんなやつの電話番号を登録していない。んじゃあなぜ履歴欄にその文字があったのか。簡単さ。なんせ、その『予坂文』の電話番号は友人の射命丸文のものだったんだからねい。

 

「GM! 私も自分のスマホを取り出して確認するわ! どうなってる!?」

 

 萩村のスマホも遊星のやつと同様、射命丸文の名前が予坂文の名前に変わっていた。そんな風に登録した覚えも設定し直した覚えもないのに、いつの間にか名前が変わっていたんだ。まるでどこかの誰かが射命丸、おまえさんを『予坂』という人間に仕立て上げようと、じわりじわりと、洗脳するかのごとく働きかけているかのように。

 さぁ《SAN》チェックの時間だ。萩村と遊星は0/1D3、射命丸は1/1D6で判定してくれ。

 

 射命丸《SAN》50 → 44 成功

 萩村 《SAN》46 → 88 失敗

 遊星 《SAN》57 → 35 成功

 

「(コロコロ)……1」

 

「あの一応聞いておきますが、2人とも……わざとやっていませんよね?」

 

「やるわけないだろうこんなこと。本当にどうなっているんだ。とりあえず今すぐ電話帳を編集して、苗字を射命丸に戻しておく」

 

「私もそうするわ。そして今のではっきりしたわね。どうやら『予坂』って人間がこの事件のカギを握っていると見て間違いないわ。GM、今は何時かしら?」

 

 もう少しで昼休みが終わる時間だ……っと、予鈴が鳴ったねい。今まで友達と話をしていたクラスメイト達も自分の席に着き始めたよ。

 

「それじゃあ調べるのは放課後になりそうね。気持ち悪いし、この事件の犯人をさっさと突き止めちゃいましょうか」

 

「そうだな。俺も今日はバイトないし、手伝おう」

 

「ありがとうございます、2人とも」

 

 よしよし。じゃあおまえさんたちは席に着いたということでいいかね?

 予鈴が鳴るといつも通り、連絡事項を伝えるために担任の先生が入ってくる。担任の先生は岸和田先生。優しく、授業もわかりやすいと評判の数学の男性教師だ。だけど様子がおかしい。いつもの朗らかな愛想のいい笑顔はどこへやら、やけに顔色が悪く、何かに怯えた様子だ。

 教壇に立った先生は手に持っていた出席簿を開いてショートホームルームを始めた。

 

「ホームルームを始める……前に、だ。ちょっと確認したいことがあるんだ」

 

 と言って射命丸、おまえさんの方に目線を移す。

 

「なぁ……おまえの名前なんだがその……予坂、だったよな?」

 

「!? 《心理学》で判定するわ!」

 

「同じく!」

 

「低いが俺も判定する!」

 

 あーいよ。《心理学》の結果は公開しないよい(コロコロ)……おまえさんたちは明らかに先生の様子がおかしいことに気が付く。操られているというより、おかしなことが立て続けに起きて混乱しているみたいだ。具体的には《SAN》値が5くらい減ってる。

 

「これは成功したみたいですね。引き攣った表情で返事をします。そんな……私は射命丸です。予坂じゃありません」

 

 その言葉を聞いた先生はバンッと、手に持っていた出席簿を教壇に叩き付けた。勢いつけて叩き付けられた出席簿は宙を舞い、丁度遊星の席の近く辺りに落下する。

 普段は絶対にそんなことしないはずの先生は見る見るうちに表情が険しくなっていき、身体は震え大声を出してわめき始める。

 

「そんなはずはない! おまえは予坂だ! そうじゃなきゃダメなんだ!」

 

 見開かれた両目は血走り、口の端から泡を吹きながら先生は射命丸の座る席まで来ると、射命丸の肩を掴んで強く揺らす。それは射命丸に「自分は予坂です」と認めるように強要している一方で、どうして自分がこんなことをしているのかわからずに錯乱しているかのように見えた。

 温厚な先生の豹変ぶりを目撃したおまえさんたちは《SAN》チェックだ。萩村と遊星は0/1、射命丸は1/1D3の正気度喪失だ。

 

 射命丸《SAN》49 → 93 失敗

 萩村 《SAN》45 → 93 失敗

 遊星 《SAN》57 → 79 失敗

 

「うう、正気度がガンガン減っていきます(コロコロ)……うへぇ、3。あと1点で不定の狂気ですね。と、とりあえず動揺しながらも先生を正気に戻しましょう。《精神分析》を先生にかけます!」

 

 射命丸《精神分析》50 → 18 成功

 

「よし、成功です。先生落ち着いてください。私は射命丸ですよ? 予坂じゃありません。珍しい名前だなって言ってくれたじゃないですか」

 

「はぁ……はぁ……そ、そうだな……おまえは射命丸……だったな……はぁ……はぁ……」

 

「落ち着いたようだな」

 

 《精神分析》が済んだところで教室のドアが開かれる。すると2人の先生が入ってきた。さっきの騒ぎを聞いて隣の教室からすっ飛んできたんだろう。

 

「なんですか今の騒ぎは!」

 

「どうしたんだね!?」

 

「私が事情を説明するわ。《言いくるめ》と《説得》を併用して使う。両方成功で先生は悪くなく、ちょっと混乱していたように誤魔化す」

 

 いいだろう。じゃあその2つで判定な。結果次第で先生たちの対応が変わるぞ。

 

 萩村 《言いくるめ》70 → 89 失敗

 萩村 《説得》70 → 40 成功

 

 誤魔化しきることは出来なかったが《説得》には成功したか。それじゃあ……駆け付けた先生たちは萩村が担任教師を庇っていることに若干の違和感を抱くも納得はしたようだ。《精神分析》を受けて冷静になったとはいえまだ顔色の悪い担任教師を保健室に連れて行った。

 てなわけで今回はここまでだ。多分あと3話くらいで完結するんじゃないかねい?

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.3

 さてさて、ホームルームを終えて今は5時限目……なんだが。

 あー、5時限目はな、本当は担任の数学の授業だったんだ。だけどその先生があの調子だろ? てなわけで5時限目は自習の時間になった。副担任の先生もいないからある程度自由に行動できるが、他の教室は授業中だ。外に出る場合は慎重に行動するようにした方がいいかもしれないねい?

 

「ちょうどいいわ。GM、この学校に図書室はあるわよね?」

 

 あるねい。別館の多目的ホールの地下室が図書室だ。渡り廊下から移動して別館内で階段を使うのが一番近いねい。

 

「中央階段まで向かう間に授業中の教室はありますか?」

 

 2年C組とD組の教室があるが、D組は体育の授業中だから無人だ。

 

「よし。じゃあ図書室に向かうわ」

 

「あ、ちょっと待ってくれ。GM、さっき先生が叩き付けた出席簿は俺の席の近くに落ちているんだよな?」

 

 ああ。誰も回収していないからそのまんまだねい。

 

「中身を確認する。文の名前を探すぞ。射命丸だからさ行だな。どうなっている?」

 

 射命丸文の名前はないねい? だけど代わりに予坂文の名前がある。

 

「やっぱりな。さっきの先生が混乱していたのはこれを見たからでもあるんだろう。文に見せたら《SAN》チェックがありそうだし、そっと閉じて教壇の中に放り込んでおこう」

 

「なにしてるの遊星。行くわよ」

 

「ああ、すまんな。今行く。GM、図書館行くのに屈んで歩けば見えないから《隠れる》はいらないな?」

 

 だねい。だが《忍び歩き》で判定はしてもらうよ。廊下はプラスチック製のタイル張りだから音は響くからな。

 

「《忍び歩き》か……全員初期値なんだよな」

 

「GM、上履きを脱いで歩くわ。これなら音は出ないでしょう?」

 

 お、それもそうだねい。んじゃあ上履きを脱いで歩けば《忍び歩き》は振らんでいい。

 

「よしじゃあ図書室に向かいましょう。私は2番目」

 

「先頭は私」

 

「最後尾は俺でいい。《SIZ》17あるから壁にはなるだろ」

 

 特に何事もなく図書館に辿り着いたな。鍵はかかっていない。

 

「静かに扉を開けて図書室に入るわ」

 

 図書館は無人だ。高校の図書館ということもあってそこそこ広いが、きちんとカテゴリーごとに分別されているから目的の本を数分もかからずに見つけ出すことができるだろう。

 少し奥に行けば備え付けのパソコンが3台置かれている。本の検索用に設置されたものだが、普通にインターネットに接続されているから調べ物もできる。ただし学校に置かれているパソコンだから閲覧できるページもかなり限定されている。

 

「卒業アルバムがあるのはどこかわかるかしら?」

 

 【○○高校】と書かれたコーナーの一角、【歴代卒業アルバム】と書かれたプレートの隣にずらりと並んでいる。学校設立当初からずっと保管され続けられたもんだから数も膨大だ。手当たり次第に探すとするならば《図書館》に成功したとしても時間いっぱいまでかかる。ある程度のあたりを付けてから探したり、上手く分割したりすれば時間をかけずに済む。

 

「流石に30年前とか、そんなに古くはないでしょう。新しい年代から手分けして探しましょう。一気に数冊抱えて分担すると時間がかかる可能性がありますし、1冊ずつ被らないように読んでは戻して読んでは戻してを繰り替えすのが一番早いですよ」

 

「確かにそれが一番早いけど、もし《図書館》に失敗した人のアルバムに目的の予坂さんが居たら目も当てられないわ。というわけでGM、文が提案した方法でかかる捜索時間とダイスの判定方法を聞かせなさい」

 

 えっとねい……ん? ちょっと待て。なんで捜索時間を訊く? おまえさん、もしかして捜索時間から逆算して目的のアルバムが何年前のものかを突きとめようとしてないかい?

 

「ちっ、バレたか」

 

 油断ならねえなまったく。とりあえず捜索時間は詳しくは伝えん。ただ一番早い方法だってことだけは教えておこう。

 判定としてはまず3人で《図書館》ロール。全員成功なら問題なし。失敗者が出ると3人で《幸運》判定。失敗者の人数より上の成功で情報を得られる。

 

「一番安全な方法は1人アルバムをチェックしたらそれを順番にチェックしていくことだ。そうすれば3人がかりでチェックが入るから失敗する確率は一番低い。ただ時間がかかりそうだな」

 

 だねい。その方法で探すならまぁ、誰かが《図書館》に成功したら情報をやるよ。どれくらい時間がかかるかはそうだな。順番を決めてもらって《図書館》に最初に成功したやつによって決定するとしよう。

 

「……どうする? 時間をかけて石橋を叩いて渡るか、時間を優先するか」

 

「私は《図書館》初期値なのよねぇ。流石にこればっかりは他の技能の応用とか利きそうにないし、カマかけるのに失敗したからロールプレイでカバーも出来ない。時間もまぁ、そんな切羽詰まってないから慎重に行くのが得策かしらね?」

 

「じゃあ遊星が提案した方法で行きましょう。順番は《図書館》技能が高い人からでいいですかね」

 

「そうだな。萩村は初期値、文は50くらいだから一番高いのは60の俺か。よし、卒業アルバムを漁るぞ」

 

 あー、面倒だから一気に判定しちゃっていいよ。

 

 遊星 《図書館》60 → 55 成功

 射命丸《図書館》54 → 42 成功

 萩村 《図書館》25 → 42 失敗

 

 お、遊星が成功だねい。んじゃあおまえさんたちは30分かけて、ようやく『予坂』と言う名の人物を見つけることができた。

 その人物が写っていたのは16年前の卒業アルバム。おまえさんたちが生まれて1年ほどしか経っていない時代の人物だった。

 名前は予坂梨世。少しだけ気の強そうな顔をした女子生徒だ。なんとなくだが、本当に、少しだけだがどこか射命丸の顔が彼女に似ているような、そうでないような気がする。本当に言われてみればまぁ……程度だけどな。

 個人の写真だけでなく卒業式の集合写真の中にもその姿を確認できるがどこか、この集合写真に違和感を覚える。

 

「あ、これは《写真術》で判定ですね。任せてください」

 

 射命丸《写真術》50 → 78 失敗

 

「はい、ダメでした」

 

「はぁ……。GM、《目星》と《アイデア》で代用できる?」

 

 いいだろう。両方成功で《写真術》と同じ情報をやるよ。

 

「だってさ。遊星、頼んだわ」

 

「ああおまえそういえば《目星》初期値だったな」

 

 遊星 《目星》65 → 60 成功

 遊星 《アイデア》65 → 42 成功

 

 じゃあ遊星はこの集合写真が合成写真であることに気が付いた。

 当時の技術ではこれが精いっぱいだったのだろう、明らかにこの写真に写っている予坂梨世の姿が浮いている。恐らく別の写真から引っ張って来た彼女に制服の画像と合成させて、さらにこの集合写真に取り入れたんだろう。

 

「よし、2人にもこのことを伝えよう。む……これは合成写真だな。彼女の所だけ僅かだが違和感がある」

 

「え?……あ、本当ですね。本当に少しだけだったので気付きませんでした」

 

「ふん……。ということは実際にはこの写真には写っていないってわけね。病欠したか、それとも他に理由があったのか。いずれにしてもこの写真だけじゃこれ以上の情報はないわね。16年前ってヒントも貰ったし、ネット検索しましょうか。丁度パソコンがあるし」

 

「そうだな。GM、パソコンで調べものだ。ここの高校に裏サイトってあるか?」

 

 あるねい。16年前のもばっちりある。

 

「よし。じゃあそこに行って何かヒントになるようなものがないかを捜そう」

 

 《図書館》か《コンピュータ》の2倍の数値で判定してくれ。

 

「お。それなら《コンピュータ》で判定だ。72パーセント」

 

 遊星 《コンピュータ》36×2 → 41 成功

 

 じゃあ遊星は16年前の裏サイトの書き込みから関連性のありそうなものをいくつか見つけることができた。内容を提示しよう。

 ・女子生徒Yは家にいないらしい。

 ・女子生徒Yは行方不明らしい。

 ・原因は担任の先生らしい。

 ・女子生徒Yには男がいたが、そいつは逃げたらしい。本当に酷い奴だ。

 ・学校は知らんぷり。

 ・あのさぁ、もうその女子生徒自殺してんじゃね?

 ・その担任学校辞めたってよ。ざまぁみろ。

 ・学校の近くでその教師見たんだけどさ、すっごいやつれてやんの。

 ・クソ教師、呪われろ。

 

「この女子生徒Yってほぼ完全に予坂さんのことですよね。それで担任の先生が学校をやめたと……じゃあ卒業アルバムの先生は新しい先生ってことですね」

 

「でもそれ以上の詳しい内容はないわね。当時の先生か、生徒だった人たちに訊くしかなさそうよ」

 

「ですが当時の生徒なんて簡単に見つけられませんし、確か学校の先生って5年くらいしたら異動になるのでは?」

 

「事務員の人とか清掃業者の人とか食堂のおばちゃんとかなら16年前からずっと働いていてもおかしくないわ。もう行動できる時間もないだろうし、続きは放課後ね」

 

「だな。GM、俺たちは教室に戻る」

 

 オッケー。特に何事もなく教室に戻った。時間を進めるよい?

 5時間目の自習が終わって今度は6時間目。特に何事もなく授業は進んで現在放課後。時間は4時前だ。

 

「あ、GM。副担任の先生に16年前から働いている人がいないかを訊きたい」

 

 副担任の先生は教壇の前で荷物を纏めているよ。職員室に戻る用意をしているんだろうねい。先生の周りには特に生徒とかはいないし、話しかけることは可能だろう。

 

「よし。じゃあ訊こう。先生、ちょっといいですか?」

 

「なんだね?」

 

 で、どんな感じで訊くんだい? まさかストレートに聞くわけじゃあんめい?

 

「私が行きます。先生、実は今度の新聞でこの学校についての特集を組みたいと思っていて、遊星さんとスズちゃんに手伝ってもらっているんですよ。そこでですね、昔からこの学校で働いている人をご存じですか? インタビューをしたいんです」

 

「おお、それは次の新聞部の記事が楽しみだ。そうだなぁ。確か、スクールカウンセラーの宮城先生が昔から働いていたはずだ」

 

「スクールカウンセラーの宮城先生ですか。ありがとうございます。新聞、楽しみにしていてくださいね。というわけで宮城先生のところへ行きます」

 

「当然私もついていく」

 

「俺も行こう」

 

 スクールカウンセラーは職員室の奥、カウンセリング室にいるよ。

 

「よし、じゃあ宮城先生に尋ねるわよ」

 

「ここは私が訊ねた方がいいでしょう。新聞部なの私だけですし。というわけでカウンセラー室の扉をノックします」

 

 「どうぞー」と部屋の中から女性の声が聞こえる。

 

「じゃあ失礼しますと言って部屋に入ります。そして声をかけます。宮城先生、少々お時間よろしいでしょうか?」

 

 それじゃあデスクについていた女性が立ちあがって笑顔でおまえたちを迎えてくれた。

 

「あらあら、どういたのかしら? まぁまぁ、そこに座って座って、ね?」

 

 と言っておまえたちをソファに促す。彼女こそスクールカウンセラーの宮城和喜子先生。柔和な顔立ちが特徴的な40代のカウンセラーだ。学校との付き合いは長く、これまで何人もの生徒たちの悩みを解決してきた実績もある。

 

「……GMがこういう風に説明してくれているということは、この人に嘘は通用しなさそうですね」

 

 その通り。宮城先生はおまえたちが嘘の証言、または《言いくるめ》をするたびに80パーセントの《心理学》判定を行う。失敗か、同じ《心理学》による対抗ロールに勝たないと一発で嘘だと看破されるぞ。

 

「下手に嘘ついたりして信用を失うのは困る。素直に話すか、《説得》して聞き出すかの2択か」

 

「普通に素直に話しましょう。とりあえず全員の自己紹介は済んだことにしておいてロールプレイよ。というわけでソファに座りつつ話題を切り出すわ。さりげなく話を逸らせながら情報を引き出す。宮城先生、今日私たちのクラス……2年D組でとある騒ぎがあったのをご存知ですか?」

 

「ええ、訊いたわ。岸和田先生が取り乱して女子生徒に掴みかかったって……もしかしてあなたが?」

 

「いえ、私でなく隣に座る彼女がその被害に」

 

「射命丸さんといったかしら? 大丈夫? 怖かったでしょうに」

 

「ああはい、私はもう大丈夫です」

 

「そう……でもおかしいわねぇ、岸和田先生はそんなことをするような先生じゃ決してないのに」

 

「ええ、そのことは先生が担任の私たちも存じていることです。ですから私たちもどうして先生があんなことをしてしまったのか、私たちも私たちなりに調べていたところなんです」

 

「そう……」

 

「ところで、先生は昼休みの騒動をご存知ですか?」

 

「ああ、放送室の……確か萩村さんもそこに駆け付けたんですってね。先生たちも話していたわ」

 

「ええ、中に入って見たら誰もいなくて、まったく奇妙な出来事でした。その放送なのですが覚えていますか? 犯人が予坂文という人物をしきりに呼び出していたことを」

 

「覚えているわ。……そういえば、放送で言ってたのって2年D組だったわね。萩村さんたちと同じクラスじゃない」

 

「ですが不思議なことに、予坂文なんて生徒はうちのクラスにはいないんですよ。うちのクラスはおろか、他の組にもそんな人間はいません。……代わりにここにいる射命丸文ならいるんですけどね」

 

「それって……」

 

 宮城先生は射命丸の方をちらりと見るよ。

 

「俯きながら返事をします。はい、私がこの騒動の中心にいるみたいなんです」

 

「心当たりはあるの?」

 

「それが全くなくて……。岸和田先生にも予坂って言われたり、友達の電話帳のアドレスも変わっていたり……本当に不安なんです」

 

「先生、単刀直入にお伺いします。放送室の騒動の件、先生はあの犯人の声に心当たりがあるのではございませんか?」

 

 そう萩村が訊ねると、宮城先生は黙りこくってしまうねい。

 

「当たりだな。畳みかけよう。先生。萩村が言ったように、俺たちなりに調べて『予坂』という名前の人物に1人アタリをつけたんです。……16年前、といえばわかりますか?」

 

「…………」

 

「……あの声の主は、16年前に辞めた男性教師に酷似していたんじゃありませんか?」

 

「…………」

 

「先生、私たちは文を助けたいんです。文は怖がっています。なんでかもわからずに名前を変えられて呼び出されたり、錯乱した先生に掴みかかれたり……お願いします先生。知っていることがあれば教えてください」

 

「お願いします、と俺は頭を下げる」

 

「私も頭を下げます、お願いします」

 

 あー、うん。そこまでロールプレイしてくれたんだから判定は良いわ。本当、おまえらはこういう重要な場面でダイスに頼ろうとしないのな。

 

「萩村がロールプレイ重視派だから、俺たちがダイスで判定する隙が全くないんだ。気が付いたら説得終ってるし」

 

「そういうあんたらだってロールプレイ重視派じゃない」

 

「いやいやスズちゃんほどじゃありませんよ? ある程度のところまで言ったらダイス振りますし」

 

「面倒くさがらずに徹していればいいのよ」

 

 そこまでロールプレイに徹底するのはおまえか咲夜の中の人くらいだよ。まぁいいや。《説得》は自動成功ってことで、宮城先生が神妙な表情でおまえさんたちに話すよ。

 

「……本人たちの名誉もあることだからこのことは多言無用よ? それだけは絶対にね?」

 

「はい」

 

「勿論です」

 

「真実が知りたいだけですから」

 

「ふぅ……あなた達も知っての通り、16年前にこの学園で事件が起きたのよ」

 

「事件、ですか?」

 

「ええ。この学園の生徒……予坂梨世さんがね、妊娠しちゃっていたのよ」

 

「え……まさかその相手って……」

 

「早とちりしないでね。そうじゃないのよ。相手は誰だかわからないわ。ただ相談相手が辞めた先生だったのよ。賀川康史先生っていう歴史学の先生でね、真面目な性格の先生だったわ。当時予坂さんのクラスの担任だった賀川先生は予坂さんからそのことを相談されたみたいでね。でも真面目で、物事を人一倍深く考える性格だった賀川先生は予坂さんに強く叱っちゃったのよ」

 

 悲しい表情で語るのを見るあたり、その賀川先生は悪い先生ではなかったことがわかる。まだまだ続くよい。

 

「でも先生の叱責がショックだったんでしょうね。相談した先生に心無い言葉で叱られて、予坂さんは登校拒否になって、家出してしまったの」

 

「家出、ですか」

 

「ええ……。それから間も置かずに予坂さんの家族は引っ越ししてしまって……もう今、あの家族がどうなっているのか、わからないわ。当時の生徒たちの間では予坂さんが自殺したとか、そんな噂が流れていたけれどその真相は今でもわからない。消息不明、と言うのが的確かしら」

 

「これは……割と重い話だな」

 

「そうですね……下手ないじめ事件よりも大変ですよこれ」

 

「このことを賀川先生は強く責任を感じてしまって……たしかに強い言葉を投げかけてしまったのかもしれないけど、賀川先生もきっと予坂さんを想ってのことだったのだと思うわ。本当に真面目な先生だったもの。自分の言葉のせいで予坂さんを傷つけてしまったこと、それから他の生徒たちや先生たちに白い目で見られるようになって、どんどん病んでいってしまって……遂には学校を辞めてしまったわ」

 

「……その後の賀川先生の行方はご存知ですか?」

 

「風の噂で、今も学校の近くのアパートで独り暮らしをしているって聞いたことがあるわ。……確かにあのときの放送の声は賀川先生のものに似ていたけど、この学校に侵入してきた挙句に放送室の鍵を盗ってあんな放送するような人じゃないわよ」

 

「用務員の人に成りすまして侵入した可能性はないんですか?」

 

「用務員さんの身元はしっかり管理しているし、それはないわ。大体賀川先生が犯人だったとしてその理由がわからないわ。なんで今になって動いたのか、どうして射命丸さんを標的にしたのか、理由がわからないもの」

 

「……話はここまでにしておいた方が良いわね」

 

「え? どうしてですか? 住所くらい教えてもらっても」

 

「住所訊いたところで教えてもらえるわけないでしょ。危ないことに首を突っ込もうとしていることがバレたりしたら間違いなく止められるし、宮城先生に訊くのは得策ではないわ」

 

「それもそうだな……じゃあどうするんだ? 重要な情報は手に入れたし、次にやることと言えば賀川先生か、予坂梨世さんに会うくらいだろう?」

 

「別の先生に訊くのが一番よ。親が世話になった先生に手紙を書きたいから住所を教えてって《言いくるめ》れば教えてくれるでしょ。それか深夜の学校に忍び込んで資料を盗み見る。こういう個人情報は、どんな会社でもずっと保存されているものだからね。当然学校も該当するわ。出来るわよね、GM」

 

 勿論。ただし盗み見る場合は《図書館》か《経理》で判定してもらうがな。

 

「《言いくるめ》70、《経理》65の私に任せなさい」

 

「一応俺も《言いくるめ》と《経理》は取ってある。マイナーな技能だけど便利だよな《経理》。成功すれば帳簿からどういう流れで金が動いているのかわかるし、資料を簡単に纏められるし」

 

「ええ、あると便利よ。というわけでもうここに用はないわ。変に探って、私たちが危険なところに行こうとしていることを宮城先生に感付かれる前に退散しましょう。貴重なお話ありがとうございました宮城先生、と言いながら立ち上がって頭を下げる」

 

「俺も続く。ありがとうございました」

 

「私もお礼を言います。ありがとうございました」

 

「いいのよ……気をつけてね」

 

 と言って宮城先生はおまえさんたちを見送ったねい。

 

「よし。じゃあ早速賀川先生の住所の聞き込みだな。GM、俺たちの知る限り一番温厚な先生のもとに向かう」

 

 いいよ、そこらへんは適当に。

 

「じゃあその先生に話しかけよう。先生、ちょっとよろしいですか?」

 

「おお、どうした不動くん」

 

「実は俺の母がこの学校の卒業生で、当時お世話になった先生に会いたくなったと言ってて。もしよろしければ教えてくれませんか? と言いつつ《信用》で判定する。言いくるめるんじゃなくて、普段の俺の素行で勝負だ。真面目な生徒と印象つけていれば、嘘を吐いていないと判断されてもおかしくないだろう?」

 

 そうだな、それでいいぞ。

 

 遊星 《信用》65 → 11 成功

 

「おお、そうか。それなら構わないよ」

 

「よし、賀川先生の住所を手に入れたぞ」

 

「でかしたわ遊星。これで突撃できるわ」

 

「ですね……あ、GM。今何時ですか?」

 

 ん。えっとねい……だいたい5時半くらいだな。1時間くらい経過しているよい。

 

「だったらもう帰る時間ですね。探索は明日にしましょう。正直私は今すぐにでも調べに行きたいですけど、親を心配させてしまいますし、1人で行動はしたくないですからね」

 

「それもそうね。私は夜に弱いし、毎日9時には眠気が来ちゃうからね」

 

「子供だな」

 

「元ネタの萩村スズもそういう設定だししょうがないじゃない」

 

 まぁ明日でも大丈夫だよ。明日は土曜日で半日授業だしな。比較的自由に探索できる。

 

「よし、それじゃあ今日の探索はこれで終わりだな。念のために文を家に送ってから帰るとしよう」

 

「私も同行するわ。文、帰りましょう。私たちが送ってあげるから」

 

「今日はもう遅い。明日になったらまた一緒に調べよう」

 

「はい……2人とも、私のためにありがとうございます」

 

 んじゃあこの日の行動は終わりだねい。時間をすっ飛ばして翌日に移行するよい。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.4

 シナリオ3日目に突入だ。今は授業が全て終わって時間は12時過ぎ。土曜日ということもあっておまえたちは完全にフリーな状態だ。まぁ、好きに行動していいよ。

 

「特にバイトのシフトとかは入っていないし、ご飯を食べたら学校前に集合して賀川先生の家に向かおう」

 

「そうね、それでいいわ」

 

「こんな事件、とっとと解決しましょう。正直あんまり眠れていません」

 

「というわけでGM、俺は昨日入手した賀川先生の自宅の住所を頼りに向かうとする。《ナビゲート》は必要か? 初期値なんだが。というか俺方向音痴なんだが」

 

 まず《ナビゲート》はいらないかな。方向音痴も考慮しなくていいわ。おまえさんたちの地元っていう設定だし、土地勘があるから地図を見ながら行けば普通に着く。なんか理由があって早く突き止めたいならダイスを要求するが。

 

「早く解決したいのは山々ですけど、初期値の《ナビゲート》に失敗して迷子になっても困りますし、ここはグー◯ルマップ先生に頼りつつ賀川先生の家に向かいましょう」

 

「賛成よ。10パーセントにかけるのはリスクがあるし、ファンブルが出たら目も当てられない。普通に向かいましょう」

 

「よし、じゃあスマフォ片手に賀川先生の家に向かおう」

 

 住所頼りに賀川先生のアパートに向かうと。それじゃあ10分もかからずにそのアパートに辿り着く。

 

「アパートはどんなアパート? ダイスを振らない範囲でわかることを教えなさい」

 

 はいはい。

 アパートは木造2階建てのボロアパートだ。ここからおまえさんたちが通う学校が見えるくらい近い場所にある。部屋も6部屋しかなく、見るからに小さいから1人暮らしの人向けの安いアパートだということが自然とわかるだろう。

 

「……こんなアパートじゃ、管理人なんていやしないわよね?」

 

 いないねい。やったところで金と管理が釣り合いそうにないし。

 

「このアパートに見たらわかるくらいの明らかな異変はありませんか? アパート全体を見渡してみます」

 

 2階の窓際の一室。最初はカーテンだと思うかもしれないがそれは違う。びっしりと薄紫色の花が窓を埋め尽くさんとばかりに咲いている。あの咲き方からして手入れがされていないことくらいはわかるんじゃないか? 知らんけど。

 

「あそこだな。念のために確認だ。表札くらいはあるだろう? 郵便受けでもいいが。それでその住人の名前を確認する」

 

 その部屋203号室の表札には『賀川康史』と表記されている。郵便受けにはダイレクトメールやチラシが数枚残っている。ああそうだ。この部屋の前に来た全員、《聞き耳》判定をしてくれ。

 

 射命丸《聞き耳》53 → 26 成功

 萩村 《聞き耳》60 → 47 成功

 遊星 《聞き耳》65 → 13 成功

 

 お、全員成功か。いいねい。じゃあドアの向こう側から学校にいたときに感じたあの甘い香りが漂っていることに気が付いたよ。

 

「よし、ここに間違いはないな。見つけたぞ」

 

「チラシを手に取っていいかしら?」

 

 いいよ。

 

「チラシに書かれている日付を確認する」

 

 そのチラシは3日前の近くのスーパーの特売のチラシだ。

 

「学園に影法師が現れたのと同時期ね。GM、部屋のインターホンを鳴らすわ。反応はある?」

 

 反応はないねい。

 

「じゃあノックをしながら名前を呼びます。賀川さん、いらっしゃいませんかー? 反応はありますか?」

 

 いんや反応はない。

 

「ドアノブを回してみるぞ」

 

 施錠されていないようだ。ドアノブがいっぱいまで回っている。

 

「入る前にアパートの住人に訊き込みをしましょう」

 

 アパート全体に人がいるような雰囲気はない。全員仕事やらなんやらで出払っちまっているみたいだ。

 

「じゃあもう中に入るしかないな。俺が最初に入ろう。《SIZ》も《STR》もそこそこ高いしな」

 

「私は最後尾。文は2番目にしなさい、多分そこが安全よ」

 

「じゃあお言葉に甘えて部屋の中に入ります」

 

「部屋の中はどうなっている? ダイスを振らなくてもわかる情報を教えなさい」

 

 あいよ。

 部屋の中は甘い香りで充満している。充満していると言っても気分を害すほどの物じゃあない。爽やかな香りだからな。

 狭いアパートだから玄関から部屋の中は丸見えだ。玄関脇に小さなキッチン、8畳ほどしかない居間、ユニットバスとトイレがあるワンルームだ。電気は点いてなく、今日はそこそこいい天気だというのに部屋の中は薄暗い。窓に張り付いている薄紫色の花のせいで陽の光が部屋の中に入り辛くなっているからだ。

 

「電気を点けるわ。こういうアパートは玄関に一通りの電気のスイッチがあるのよ」

 

 あるねい。じゃあ部屋は明るくなったわ。

 

「靴を脱いで部屋の中に入る」

 

「私も靴を脱ぎましょう」

 

「……私だけ土足なわけにもいかないし、脱ぐとしましょう。居間に行きましょう。居間はどんな感じ?」

 

 折りたたみ式の机と本棚くらいしかない質素な部屋だ。

 居間にも窓際に張り付いていた紫色の花が咲いている。しかし、どういうことだろうか。その花々は床全体に広がっているのではなく、部屋の中央にある何かを苗床としているかのように異常に繁殖していた。例えるとするならばまるで棺桶のようだ。大の大人1人をかたどったように花々は生い茂っていた。その苗床……花々の下には根に覆われた肌色の何かがそこにあった。

 それは眼鏡を掛けた1人の男性だった。痩せこけた頬に無精髭、白髪交じりのぼさぼさな髪の毛、生気を感じさせないほど真っ白になった肌とやつれた姿のまま眠る男性。……いや、おまえさんたちは気が付いている。その男性がその眼を自力で開けることはないほどの、これ以上にない永遠の眠りについてしまっているということを。

 永遠の眠りにつく男性からは腐敗臭はなく代わりに花のものだろう、甘い甘い爽やかな香りをその身体から発していた。

 ……男性、賀川康史の異常な遺体を目撃した探索者諸君、1/1D4の《SAN》チェックだ。

 

「クトゥルフらしくなってきたわね」

 

 射命丸《SAN》46 → 42 成功

 萩村 《SAN》44 → 34 成功

 遊星 《SAN》56 → 92 失敗

 

「ぐ、俺だけ失敗か(コロコロ)……最大値4か。ヤバいな。口元を抑えて硬直する」

 

「遊星落ち着きなさい。一旦部屋から出て外の空気を吸ってきなさい」

 

「あ、ああ……すまん。俺は部屋から外に出て落ち着いてから戻るとする」

 

 で、どうする? 警察でも呼ぶかい?

 

「時間の無駄だしそんなのは後でいいわ。この事件が解決したら連絡する」

 

 そうかい。

 

「賀川先生……亡くなっていたんですね。チラシから察するに3日前でしょうか?」

 

「そのようね。私たちが相手にしていたものの正体は差し詰め、賀川先生の亡霊とかそんな感じのものでしょう。というかいい加減この甘い匂いのする花の名前を知りたいんだけど……《生物学》振らないとダメかしら?」

 

 あー、うん。それもそうなんだけどねい。《生物学》なんて誰も取ってないだろ?

 

「私はないわ」

 

「私もありません」

 

「俺もだ」

 

 だよな。……萩村、おまえ博識だし、《知識》でロールしていいぞ。成功でこの花の名前を知っていることにする。実物を見るのは初めてだが図鑑で見たことにしよう。

 

「助かるわ」

 

 萩村 《知識》70 → 39 成功

 

 よしオーケー。じゃあ萩村はこの紫の花の名前を知っている。カンパニュラという観葉植物だ。初夏から夏にかけて、釣鐘状の可愛らしい花をたくさん咲かせる姿が一般的の植物。花言葉は「誠実」で、窓際に鉢植えがあることから、元はそこで育てられていたんだろうということがわかる。

 

「そのことを文に解説するわ。遊星にもあとで教えておく」

 

「『誠実』ですか……多分先生は16年前にもっと誠実な態度で臨むべきだったと後悔していたんですね」

 

「GM、死体やカンパニュラのほかに異変はない? 《目星》は必要?」

 

 いや見えているし《目星》はいらないかな。ただ《アイデア》成功で情報が出る。

 

「よし、じゃあ《アイデア》ね。私の《INT》は17あるわ」

 

「めちゃくちゃ頭いいですね。私は11です。平凡ですよっと」

 

 射命丸《アイデア》55 → 34 成功

 萩村 《アイデア》85 → 80 成功

 

 おまえさんたちは賀川先生を中心に広がるカンパニュラが窓際以外にも別の場所にも大量の根が伸びていることに気が付く。まるで根が手を伸ばしているかのようだ。

 

「根っこの先に何があるの?」

 

 本棚があるねい。そしてその上には小さな黒い石像がある。

 

「石像ですか。気になりますけどそれは後回しでいいでしょう。変に動かして魔術が発動しても嫌ですしね」

 

「そうね。私もそれが良いと思うわ。石像以外のものを調べるとしましょう」

 

「ただいま。もう大丈夫だ。俺も部屋の探索を手伝うぞ」

 

 誰がどこを調べるんだい?

 

「俺は風呂を調べよう」

 

「私はキッチンを調べます」

 

「じゃあ私は居間ね。と言っても本棚くらいしか調べるものはなさそうだけど」

 

 あー、キッチンも風呂も特に目ぼしいものはない。本棚を調べていた萩村、ダイス振る気はあるか?

 

「ないわ。ロールプレイでカバーする。まず本棚にはどんな本が多い?」

 

 歴史や考古学に関する本が多いかな。

 

「とりあえずそれは除外ね。教材やマニュアル、辞典も除外するわ。そうねぇ、ここは定番中の定番。日記みたいなものはないかしら? 市販のノートブックを捜してみる」

 

 ちっ、本当にダイス振らずに見つけやがった。

 ああそうだよあるよ、賀川先生の日記。と言っても日記帳と書いてあるわけじゃあない。なにも題名もない市販のノートブックだ。

 

「中を一目見て手書きだということを確認したら文と遊星を呼んで一緒に読む」

 

 手書きのものだねい。

 

「文、遊星、賀川先生のノート見つけたわよ、と2人を呼ぶ」

 

「じゃあ呼ばれてバスルームからやってくる」

 

「私も来ます。先生のノートですか? 中身を見ましたか?」

 

「またちゃんとは読んでないわ。今からよ」

 

 お、ノートを読むんだな。

 このノートは日々の生活で感じていた不安から逃れようと自問自答を繰り返した言葉を乱雑に書き綴ったものだ。意味不明な言葉が多く、立て続けに、文脈すら安定していないことから、これを描いた人間の精神は相当弱くなっていたと推察できる。《母国語》《心理学》《精神分析》の中から好きなものを選んでロールをしてもらっていいぞ。

 

「私は《精神分析》を持っています。50パーセントですけど」

 

「《心理学》は取っているわ。60パーセント」

 

「じゃあ俺は《母国語》だな。55パーセントもある」

 

 あ、全員バラバラにダイス振るのか。ぶっちゃけ同じ結果が出るんだがな。それからこの《心理学》の結果は公開するぜ。

 

 射命丸《精神分析》50 → 82 失敗

 萩村 《心理学》 60 → 33 成功

 遊星 《母国語》 55 → 52 成功

 

「あやや、私だけ失敗しちゃいました」

 

 他の技能で再挑戦してもいいぞ。

 

「じゃあ今度は《心理学》で行きます」

 

 射命丸《心理学》50 → 45 成功

 

 これで全員成功だねい。

 じゃあこの日記とも形容しがたいノートを読んだおまえさんたちは、こうしてノートの文字と書いた主が会話と言えぬ会話をし続けてきたと思うことだろう。

 このノートを描いた主……賀川先生は予坂梨世が自殺したという噂に強く心を痛め、罪悪感を抱いていた。ノートには謝罪の言葉がずっと書き綴られていたことから、ずっとずっとその自責の念を抱いていたことが伺える。

 しかし、やがてその謝罪の内容はどうすれば罪を償うことができるのかという自問自答の嵐へと変わっていく。

 

 ――教師としてできることは、立派になった子供を彼女のもとに連れて行ってやることだけだ。出産の女神よ、私の願いをどうか……どうか……

 

 書く力さえ失ったかのように、細く弱々しい字で、最後にこう書かれていた。……この狂気に満ちたノートを読んだおまえさんたち、《SAN》チェックの時間だぜ。1/1D3な。

 

 射命丸《SAN》45 → 89 失敗

 萩村 《SAN》43 → 33 成功

 遊星 《SAN》52 → 88 失敗

 

「うへぇ(コロコロ)……1です。助かりました」

 

「(コロコロ)……2だ。地味に正気度が減っていくんだが」

 

「発狂してなきゃなんでも一緒よ。にしてもこれは大分精神をやられているわね。最終的に出た結論って、ぶっちゃけ予坂さんに似た子供を殺すって言うことでしょ?」

 

「ていうことは私、この事件解決しないと強制キャラロストですか。なんて理不尽な」

 

「とりあえず賀川先生の目的がはっきりした今、このノートはもう必要ないわね。ノートを閉じて元あった場所に戻すわ。次は石像を調べましょう。多分あとこれくらいしか調べるものはないでしょ」

 

「ですね。というわけで石像を調べます。どんな石像かわかりますか?」

 

 高さ11センチの黒い石を削って作成された石像だ。素人目でもかなり古いものであることがわかる。女性の豊満な体をモデルとしているが、乳房が5つもあり、かなり異形なデザインをしている。

 

「悪趣味だな」

 

 と、この石像を見た全員、《知識》《歴史》《考古学》で判定してくれ。

 

「「《知識》で判定します(する)」」

 

「私は《歴史》で判定してみるわ。《知識》の方が上だけど」

 

 射命丸《知識》55 → 36 成功

 萩村 《歴史》67 → 42 成功

 遊星 《知識》55 → 93 失敗

 

 知識のない遊星は悪趣味とバッサリ切り捨てちまったが、射命丸と萩村はこの像が意味することを知っている。

 5つある乳房は原始人にとっての多産の象徴であり、かつ地母神のイメージを形にしたものであるということを。

 

「なるほど……多産の地母神ですか」

 

「てことは……あの神様が顕現しちゃうのこのシナリオ。かなりヤバいじゃない」

 

 はいはいメタ推理はダメダメ。で、どうするんだいその像。壊すかい?

 

「うわGMが催促してきた。壊すって、そんな簡単に壊せるもんなのか?」

 

 床に叩き付ければ壊れるだろうさ。そんな頑丈なもんでもないし。で、どうする?

 

「……今壊すのは早計よ。でもGMがこの像の扱いを訊いてきたってことは、シナリオの都合上かなり重要なポジションにあることはわかる。ここは持っていきましょう」

 

「ですね。私が持っていきます。鞄に仕舞います」

 

「さて、もう調べることもなさそうだな。家から出るか」

 

「そうね。で、これからどうするかだけど」

 

「事情や重要そうなアイテムも手に入ったことですし、シナリオ的にはそろそろクライマックスでしょう。やることは1つだけでしょう」

 

「賀川先生の亡霊との真っ向勝負、ね。GM、文の身の回りに起きている異変はどこで起こるのが多いかわかる?」

 

 学校内……というか学校の敷地内以外で異変は起きていないねい。

 

「決定ね。みんな、学校に戻りましょう」

 

「だな。多分最終決戦の場所はそこだろう。時間はどうだ? 昼に出てきてすぐにここを突き止めたってことはそんなに時間は経っていないだろう?」

 

 現在時刻は夕方の4時ちょっと過ぎだ。学校に戻ったら運動系の部活動で残っている生徒や図書室で勉強している生徒が残っていることだろう。

 

「よし、学校に戻ろう。賀川先生の亡霊が出てきたときに勝負だな。この像を投げつければいいのか、破壊すればいいのかはわからないが、対決中になにかしら見えてくるだろう」

 

「というわけでGM、私たちは学校に戻ります」

 

 よしオーケー。いいねいいいねい、TRPGをやり慣れているやつらはこっちがやってほしいことをわかってくれて助かるねい。

 

「公式のシナリオだからほとんど一本道でわかりやすいだけよ」

 

「ですね。起承転結がくっきりしている分、自由度が低くて必然と次の行動が限られてしまったり。公式シナリオの特徴ですよね。GMには優しくて何よりですけど」

 

 まぁ最初に言ったように2時間程度で終わるように作られているらしいしな。多少の単純化もまた味ってやつだろ。先に進めるよい?

 おまえさんたちが学校の近くまで移動してきたとき、校舎を見つめている中年の女性と遭遇する。《アイデア》を振んな。

 

 射命丸《アイデア》55 → 05 クリティカル

 萩村 《アイデア》85 → 80 成功

 遊星 《アイデア》65 → 06 成功

 

「クリティカル出ました! なにかありますか?」

 

 じゃあ《SAN》を1回復させていいよ。

 

「女の人を見ただけで安心したとか、文あんたまさか」

 

「いやいやいやいや」

 

 あー、ちゃんと理由あるから安心しろ。

 ちらりとおまえらが女性の顔を見たとき、その女性が卒業写真の中にあったかつての予坂梨世にそっくりだったことに気付いた。射命丸は彼女が自殺したと噂されていた予坂梨世だと感じ、彼女が自殺していなかったことに気が付いて安心した。ということで《SAN》値回復だ。

 

「なるほどそういうことでしたか……って凄い情報くれませんでしたか?」

 

「まさかのご本人登場か。いやもしかしたら予坂さんの縁者かもしれない。ここは本人かどうかを確認するベきだ。というわけで俺はその女性に声をかけるぞ。予坂さん? もしかして予坂梨世さんですか? と訊ねよう」

 

 遊星が女性に声をかけると、女性は戸惑ったような顔をする。だがおまえたちを少し見て僅かに微笑んだ。

 

「ええ、私は予坂梨世よ。君たちはあの学校の生徒さんよね。その制服、16年前と何も変わらない。懐かしいわ」

 

「本人確認完了だ。間違いないな」

 

「でもなんで本人がこんなところに来たのかしらね」

 

 ああ、それなら本人が喋ってくれるよ。おまえさんたちの制服を見て懐かしんでいた彼女は優しい眼差しを向けながら続けた。

 

「ねぇ、もしかしてあなた達が私のことを調べている学生さんかしら?」

 

「……この口ぶりからして、私たちが彼女について調べていたことを知っていたみたいですね」

 

「素直に認めた方がいいんじゃないか?」

 

「そうね。ここは誠実な態度で臨むべきだわ。はい、そうです。私たちは訳有って、あなたのことを調べていました。勝手なことをしてしまい、申し訳ありません。と頭を下げるわ」

 

「私も頭を下げます」

 

「当然俺も下げる」

 

 おまえさんたちが頭を下げると、予坂さんは軽く笑って手を振りながら大丈夫大丈夫と言ってくる。

 

「わかっているわ。きっと誠実なあなたたちだったから宮城先生はお話ししたんでしょうね」

 

「宮城先生が連絡したみたいですね。訊いてみましょう。もしかしてあなたがここに来たのは宮城先生から連絡が来たからですか?」

 

「ええ。宮城先生が古い伝手を使って私の連絡先を調べたらしくてね、昨日の夜に連絡があったのよ。私が生きていてよかったって、泣いて喜んでいらしたわ。宮城先生から聞いたわ。必死な顔つきで私のことを調べている生徒さんたちがいて、16年前の出来事を喋ってしまったってね」

 

「私たちのせいで嫌な過去を思い出させてしまって、本当に申し訳ございません」

 

「だからいいのよ。あれはもともと私の自業自得だったし、それにあなたたちが私のことを調べてくれたおかげで、私は一歩前に踏むだす勇気を持てたの。16年前、逃げるように去ったこの学校に、もう一度来て心の整理を付けることができたんだから」

 

「……このタイミングね。予坂さん、本当に不躾な質問ですが、16年前の事件はどこまでが真実なんですか?」

 

 その萩村の質問に、予坂さんは嫌な顔1つせずに答えてくれる。

 

「自殺したっていう噂以外は、多分ほとんど全部真実なんじゃないかしら? 身籠ったこととか、賀川先生に相談したこととか、登校できなくなったとか、家出したとか、全部本当だもの。まぁ、家出したって言っても確か2日くらいで戻ったけどね。でも家族と相談して遠くへ引っ越すことにして、そのまま挨拶もなしに引っ越しちゃったから自殺なんて噂が出ちゃったのかもね」

 

「その……賀川先生のことは恨んでいますか? 厳しいことを言われたと俺たちは聞いたんですが」

 

「まさか、恨むなんてとんでもない。確かに賀川先生に相談して、凄く怒られたし、キツい叱責を受けたのは本当よ。でもね、考えてみたら全部私のことを案じていた言葉だってね、家出してしばらくして気が付いたの」

 

 そう話す予坂さんは穏やかに目を細めながら当時を思い出すように顔を上げる。《心理学》を振るまでもなく、その言葉が彼女の本心だということが伝わってくる。

 

「真面目な先生だったもの。だから私は賀川先生に相談したの。あの人ならきっと一緒に考えてくれるって。だからあんなに怒られた時は本当に悲しくて、傷付いちゃって。でもね、私が甘かったの。あの人は怒りながらだったけど、引っ越すのか、留まるのか、親にはもう話したのかとか、当たり前のことを言ってきただけだったのにね」

 

「……いい先生だったんですね」

 

「ええ。家出して頭冷やして、家族にも打ち明けて……それで私は引っ越してシングルマザーとして子供を育てようって決心できたの。相手の男は私が身籠った途端に突き放してきたから見切りもつけられたしね。本当は先生に挨拶していきたかったんだけど、学校に行くのが怖くて結局そのまま……」

 

「それがこんな事件にまで発展するとは。でも私が同じ立場だったらって想像すると仕方がないのかもしれませんが」

 

「でもあなたたちのおかげで、こうしてもう一度この学校に戻って来られたわ。賀川先生はやっぱりいらっしゃらなかったけど、それでも私はこれでようやく過去を清算できそうなのよ。ありがとう」

 

「い、いえいえとんでもない!」

 

「どんな事情であれ、私たちは私たちのためにあなたのことを調べていただけですから」

 

「ああ。あなたが礼を言うことじゃあありませんよ」

 

「私が言いたいから言うのよ」

 

 そういう彼女はすっきりとした晴れやかなものだった。本当に踏ん切りが付いたのだろう。

 

「そういえばあなたたちは今何年生かしら? 仲が良いみたいだし、同学年?」

 

「全員2年生です。1年生からのクラスメイトで、馬も合って、それで仲が良くなったんですよ」

 

「そう。じゃあ私の娘の1つ上ね。私の娘……杏里っていうんだけど、杏里も今日、一緒にこの学校に来たのよ」

 

「……え?」

 

「へぇ、そうなんですか。今はどちらに?」

 

「私の母校がどんなところか知りたいって言って、学校の中をぶらついているんじゃないかしら? 結構広いものね、この学校。それに部活動も色々やっているし、ゆっくり見ているんじゃないかしら?」

 

「予坂さん、その、杏里さんは貴女似ですか?」

 

「ええ。小さいときの私によく似ているわ。強気そうな顔なのに実は臆病で……ふふ、本当に私にそっくりな子よ」

 

「これマズいわね。文、遊星! 行くわよ!」

 

「……! ああ、そうか! マズいなこれは、早く杏里ちゃんを見つけないと!」

 

「はい? どういうことですか?」

 

「賀川先生の亡霊は確かにあなたを狙っているけど、あくまでそれはあなたが予坂さんに比較的似ている方だったからでしょ!? でも、もし、あなた以上に予坂さんに似ている子供が学校に現れたことに気付いたら……」

 

「そういうことですか! 標的は私から杏里さんに代わるってことですね!」

 

「さっきの予坂さんの話を聞く限り学校に残ってからずいぶん時間が経っているらしいから、もう襲われている可能性もある! 勘違いで賀川先生に人殺しなんてさせられないし、しかも殺したのが実は生きていた予坂さんの実の子供なんてあんまりだ。なんとしてでも止めるぞ!」

 

「そういうことなら急ぎましょう! 私の《DEX》は17あります! 全速力で走れば間に合うかもしれません! いえ間に合わせます!」

 

「私も《DEX》15あるわ」

 

「おまえらどんだけ早いんだよ。俺は12だ。Dホイールがあればなあ」

 

「まぁいいから早く探しに行くわよ!」

 

「ですね! 予坂さん! 少し走りますよ!」

 

「え? え? どうしたの?」

 

「娘さんの命が危ないんです! 詳しいことは後で話しますからとにかく急いでください! 《説得》で判定!」

 

 萩村 《説得》70 → 61 成功

 

「な、なんだかわからないけどわかったわ!」

 

「よし、役者は揃ったな。これからクライマックスだ。ハッピーエンドを目指すぞ」

 

 それじゃあおまえさんたちと予坂梨世は夕暮れの学校に駆け込んだとさ。

 次回がラストになるよい。更新が止まっててゴメンねい?

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.5

 で、杏里を探すんだったねい? どうやって探すんだい? 予坂梨世はおまえたちの方針で行動するぜい?

 

「まず手分けするかしないかだな」

 

「手分けは絶対ない、危険すぎるわ。全員で固まって探しましょう」

 

 ダイス振るなら《目星》や《幸運》、それから《DEX》×5で判定することを推奨しているねい。

 

「《DEX》だけで充分でしょう。校内にはまだ生徒たちはいるんですよね? でしたら生徒たちに訊き込みましょう。同い年くらいの私服の女の子と言えば伝わるでしょう」

 

「そうね。GM、私は生徒会役員ということで顔は広いはずよ。近くにいた学生に話を聞きましょう。ねぇあなたちょっといい?」

 

「あ、はい。なんですか? 制服はちゃんと着ていると思いますが」

 

「服装チェックじゃないわよ。今日校内で私服の女の子見なかったかしら? 同じ年くらいの」

 

「(コロコロ)……いえ、見てませんよ? 小学生の女の子なんて」

 

「その喧嘩買ったわ」

 

「冗談ですよ。ええ、見ましたよ。確かさっき旧校舎に向かっていきましたよ。文科系の部活動でも見に行ったんじゃないですかね」

 

「情報提供感謝します。GM、旧校舎に向かいます」

 

 あいよ。あ、ダイスは振る必要ないよ。ロールプレイで解決しちまったし。

 おまえさんたち一行は5分もかからずに目的の少女を見つけることができた。旧校舎2階、文科系の部活動をしている部室が唯一ない階層に私服の少女はいた。彼女はおまえさんたちに気付いた様子はなく珍しそうなものを見るように校舎内を見渡しながら歩いている。彼女が向いている廊下の先には夕日が差し込んでこそいるがどこか不自然に暗く、別世界に繋がっているように錯覚するだろう。……と、その時だった。

 

「おまえはもっとちょうどいい!」

 

 と廊下に男の大きな声が響いた。おまえさんたちについて来ていた予坂梨世は「賀川先生?」と首を傾げている。

 声が響いた途端、暗がりから異様に長い真っ黒な無数の影が少女を捕らえた。影の先はそれぞれ5つに分かれ、まるで人間の手のようだ。

 

「えっ、えっ、なに……ひっ!」

 

 少女、予坂杏里は影の手の先にある物を見て小さな悲鳴をあげた。廊下の先に広がる黒い闇。そこには悲しみの感情一色に染まった巨大な2つの目だけが浮かんでいた。

 現実離れしたこの光景を目撃してしまった探索者諸君、1D3/1D8の《SAN》チェックな。

 

 射命丸《SAN》45 → 62 失敗

 萩村 《SAN》42 → 31 成功

 遊星 《SAN》50 → 66 失敗

 

「(コロコロ)……うわ、6です」

 

「(コロコロ)……3点」

 

「(コロコロ)……4。ギリギリセーフだな」

 

 あっらら、射命丸の場合は今まで自分を狙っていたものの正体を目撃してショックがでかかったのかもな。ほら、5点以上減ったんだから《アイデア》チェックだぜ?

 

 射命丸《アイデア》55 → 16 成功

 

「これぞCOCですよね! 一時的発狂です! それから6パ-セントの《クトゥルフ神話》技能もいただきです!」

 

 喜んでいただいて何よりだ。さぁ、発狂の種類を決めようじゃないか。1D10を振んな。

 

「(コロコロ)……10! 幼児退行か緊張症ですね! 蹲って泣き叫びます! うえーん怖いよぉ! ママ助けてぇ!」

 

「使いもんにならなくなったわ。唯一の《精神分析》持ちなのに」

 

「文のことは今はいい。そんなことより杏里ちゃんを助けるぞ! GM、闇の手に捕まった杏里ちゃんを引っ張って救出するぞ!」

 

「私の手伝うわ!」

 

 それなら《STR》16との対抗ロールだ。2人の《STR》は?

 

「俺は14」

 

「私は9」

 

 80パーセントで成功か。そこそこだな。

 

 《STR》対抗 80 → 78 成功

 

 ギリギリだけど成功か。じゃあおまえたちは黒い手から杏里を引き戻すことに成功した。だが黒い腕は細長く伸び、杏里の身体に絡みついて離れないから完全に助け出すことは出来ないな。

 

「GM、私はこの状態で影に対して《説得》を試みるわ!」

 

 どんな感じで《説得》する?

 

「まずは影に対して呼びかけるわ。さんざん文に怖い思いをさせてこんな風にして、気が変わったから別の子に手を出すなんてちょっとどうなのよ。聞こえるなら返事をしなさい」

 

 そう呼びかけると、影は返事をしてくる。

 

「おまえに関係ない。その子よりももっとちょうどいい子がいた。だから私はその子を選んだだけだ。……そういえばおまえはあのときも邪魔してきたな。それに懲りずにまた邪魔するとは……」

 

「邪魔するに決まってんでしょうが。あんたの勘違いのせいで何の罪もない人間が死ぬなんて許せないわ」

 

「勘違い、だと?」

 

「あんた賀川先生でしょ? この学校の歴史を教えていた賀川康史なんでしょう? 調べたからわかるのよ、あんたが何をしたのかもあんたが何をしようとしているのかも!」

 

「知っているなら邪魔をするな! こうすることしか、これしか私には方法はないんだ! これこそが私にできる彼女への贖罪なのだ!」

 

「だっからそれが勘違いってんのよ! そんなにデカい目があんならよく見なさいよ! 私たちの後ろにいる人を!」

 

 萩村が影……賀川先生の亡霊に言うと、巨大な2つの目がおまえさんたちの後方……いったい何が起こっているのかわからずにおろおろしている予坂梨世の姿を捉えた。その時、杏里を掴んでいる影の力が少し弱まった。

 

「! もう一回《STR》対抗だ! 成功で杏里ちゃんを解放させるぞ!」

 

「当然私も協力するわ!」

 

「私役立たずですねえ」

 

 ああ、射命丸。おまえさんはこの《STR》対抗の処理が終わったら正気に戻ってくれ。さぁさ、《STR》対抗だ。

 

 《STR》対抗 80 → 75 成功

 

 杏里は影の腕から解放された。バランスを崩して倒れるねい。

 

「俺が受け止めよう。俺の《SIZ》は17ある。出来るな?」

 

 ああ、出来るねい。じゃあ杏里は遊星に受け止められた。一方影の方は動揺している。信じられないものを見たように巨大な目をさらに大きく開いていた。

 

「ロールプレイを続けるわ。どうやら気付いたみたいね。16年経って色々変わったかもしれないけど、あんたが一番思い続けてきた生徒だものね」

 

「嘘だ……そんなはず……自殺したって……」

 

「噂を鵜呑みにして事実確認していないから知らなかったのよ。彼女はあんたがずっと謝りたいと願っていた予坂梨世さんご本人よ。あんたと違って亡霊なんかじゃない、確かに生きているのよ!」

 

「じゃ、じゃあまさか……」

 

「そのまさかよ。……あんたが今さっきまで殺そうとしていたこの子は梨世さんの実の娘、予坂杏里さんよ」

 

 ……あー、もういいや。《説得》は自動成功とする。ったく、ロールプレイ重視派は本当にのめりこんじまうからダイス振らせる隙がないねい。

 萩村の説得を受け、自分の勘違いに気付いた影はさぁっと霧のように晴れていく。宙に浮かんでいた大きな目も眠りにつくように閉じ、消えて行った。

 異様な雰囲気だった廊下の闇が晴れ、オレンジ色の夕日が差し込みだしたそこには眼鏡を掛けた、ごく普通の中年の男性が立っていた。

 

「賀川……先生……!」

 

 ようやく状況を飲み込めたらしい予坂梨世が男性に向かって名を呼ぶと、男性は本当に嬉しそうに微笑む。そして男性こと賀川先生の亡霊は杏里を見て、頭を下げた。

 

「君が……予坂さんの娘さん、か。本当にお母さんに似た子だね。私はね、君のお母さんに酷いことを言ってしまった。そのことを悔やまぬ日なんてなかった。……けれど、私の過ちなどものともせず、君のお母さんは生きて、君はこんなに立派に育っていてくれたんだね。ありがとう。ここにいてくれて、生きててくれて本当にありがとう」

 

「は、はい……」

 

 状況が変わりすぎて戸惑うように返事をする杏里だが、そんな彼女を愛おしそうに賀川先生は笑う。しかし、一回瞳を閉じた後予坂梨世の方に目を向けた賀川先生は、とても真剣な表情に変わっていた。

 

「予坂さん、あのとき、私は君に酷いことを言ってしまった。教師ならば相談してきてくれた生徒と真剣に向き合わなければならないのに、私は厳しい言葉ばかりを君に言ってしまった。本当に、本当に申し訳ない」

 

「そんな……先生は充分向き合ってくれました。私の方こそ、先生に甘えていたんです。私の方こそ、謝らないといけなかったのに……」

 

「君が謝る必要はない。私は君が生きて、あのときの子供を立派に育ててくれたことが何よりも嬉しいんだ。こんな形の再会になってしまったけれど、消える前に君に会えて、良かったと心から思うよ」

 

 その後賀川先生の亡霊はおまえさんたちの方に向き合う。

 

「私の勘違いと勝手に付き合わせてしまってすまなかった。特に……射命丸文さん、だったかな。怖がらせてしまって本当にすまなかった。そして、こうして謝罪する機会を私にくれてありがとう」

 

「い、いえいえ。直接何かされたわけじゃありませんし、成り行きでこうなってしまっただけですから偶然ですし……先生も良かったですね、誤解が解けて」

 

「ああ……」

 

 他の2人も何か言いたいことがあったら言っていいよい?

 

「賀川先生、警察には私たちが連絡しておきます。部屋にあるあなたのお身体についてはご安心ください」

 

「俺は……別に何もされていないし、こうして解決したんだ。言うことがあるとしたらただ1つ。ご冥福を祈っている。今まで散々苦しんできたんですから、ゆっくり休んでください」

 

「そうか……ありがとう」

 

 そう言って、深く頭を下げた賀川康史は、妄執に囚われた恐ろしい亡霊でなく、1人の教師だった。夕日に包まれ、賀川先生の亡霊は静かに消えて行った。……エンディングに行こうか。

 

 

     ―――・―――・―――・―――

 

 

 あーいよっと、まずは探索者諸君、全員無事生還おめっとさん。まぁキャラロストはしないだろうなとは思っていたシナリオだったし、おまえさんたちなら普通に解決できると思っていたけどここまでダイスを振らないとはな。ちょっとびっくりだ。

 

「ロールプレイでカバーってやつよ」

 

「多分萩村さんがいなかったらもっとダイス振ってたと思いますよ」

 

 まぁそれはいいや。後日談をしようか。

 学校での賀川先生の亡霊との対決後、萩村は言った通り警察に連絡し、賀川先生の遺体を発見させた。そこには予坂親子の姿も見え、杏里は戸惑うばかりだったが梨世は静かに涙を流し、自分たちがどんな体験をしたのかがわかったようだ。

 おまえさんたちは予坂親子と話を合わせ、世話になった教師の家に訪れたら遺体を発見し、そこを偶然歩いていたおまえさんたちも遺体を発見してしまった、と警察に話した。

 賀川先生の死因は衰弱死ではなく、病死だったようだ。末期性の膵臓癌だったらしい。

 その後おまえさんたちと予坂親子、宮城先生だけの小さな葬式が執り行われ、賀川先生はしっかりと供養された。未練を残して死んだ賀川先生だが、あの世に行く前に自分が苦しんでいたことと向き合い、真実を知ることができて本当に嬉しかったのであろう。棺の中で眠る彼の顔はどこか安らかだった。

 あ、そういえばあの像……ぶっちゃけ、シュブ=ニグラスの像なんだけどどうする? 確か持っていたのは射命丸だったよねい? 部屋にでも飾るかい?

 

「そんなことあるわけないでしょう。あんな気持ちの悪い置物、お寺かどこかに奉納しますよ。壊すのは怖いですので」

 

 なるほどねい、それなら大丈夫そうだ。

 ってなわけで、以上でCOC公式シナリオ集【アカシック13】より拝借したシナリオ、『おまえがちょうどいい』を終了させてもらうぜい。

 はい、お疲れさん。

 

「「「お疲れ様です」」」

 

 

 

 

     ――Good end!!



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大神村の怪異
Part.1


こんにちは。

仕事も正月休みに入りましたので、新しいシナリオを作成しました。なんとか休み中に終わると良いですなぁ。


 はい、ようやっと全員集まりましたので始めさせていただきます。TRPG【クトゥルフの呼び声】のセッションを始めます。

 

「「「「はーい」」」」

 

 プレイヤーは4人。GMは前回セッション射命丸文の中の人が担当させていただきます。

 PC作成はそれぞれ終了して頂いていると思いますので皆さん、自分の分身たるPCの名前と性別を教えてください。

 

「不動遊星、男だ」

 

「レミリア・スカーレット、女よ」

 

「十六夜咲夜、女性です」

 

「三尋木咏、女だ」

 

「夢幻の白夜、男だ」

 

 はい、ありがとうございます。

 

 さて、ここで読者の方々に説明させていただきます。

 今回のシナリオはああ、無情様作成の【大神村の怪異】に私なりのアレンジを加えたものです。

 このシナリオではPC全員、なにかしらの秘密、そして目的を持っています。PVPが発生する可能性が高いシナリオだよと説明しただけで、全員どんな秘密を持っているのか、どんな目的のために動いているのか、また、秘密を持っていない通常PCなのかすらわからない状態でセッションに臨んでいます。

 また、このセッションはオフセではなくオンセ、つまりパソコン上で行われている物であり、チャットを通じて各PCにそれぞれ個別に情報を開示、判定している場合がございます。

 要は、今回のセッションでは全員が全員、協力し合って探索に臨んでいるわけではなく、自分の目的や役割のために割と好き勝手に情報共有せずに単独行動をしているんです。パラノイアばっかりやっているから慣れているだけですので、良識ある人はこの形式のシナリオはやらない方がいいです。設定を大きくしやすいですが、アドリブ祭りですからね。胃がキリキリします。GMをやっていて実際かなり疲れました。その分、全部知っているGMとしては見ていて面白かったですけどね。

 

 閑話休題。

 

 えー、というわけですので、いつものように全員の行動をシーンに分けてまとめようとすると、このシナリオ、セッションの面白さが激減してしまいますので、今回はPC達の中の1人にスポットを当てて物語を描いていきます。

 スポットを当てるのはPC2、レミリア・スカーレットです。全員が公開で行動していることに加え、レミリアがどんな行動を秘密裏にしていたのかを描いていきたいと思いますのでご了承ください。

 それでは早速、本編セッション前日に行われた、レミリアの個別オープニングからスタートします。

 

 ――個別オープニング レミリア・スカーレット――

 

「で、今回のシナリオはどんな感じなの?」

 

 舞台は現代日本の山奥にある小さな村。あなたにはその村で行われるホラーツアーに参加していただきます。

 推奨技能は……特にはないですかね。強いて言うなら《目星》と《聞き耳》ですか。まぁ、自由にキャラメイクしていただいて結構ですよ。ただしPVP及び戦闘が発生する可能性のあるシナリオですので、簡単な戦闘技能を習得しておくといいかもしれませんね。

 

「ふーん、わかったわ。はい、キャラ出来たわよ」

 

 キャラ紹介お願いします。

 

「私の名前はレミリア・スカーレット。ディレッタントの占い師」

 

レミリア・スカーレット

性別:女 年齢:31歳

職業:ディレッタント 特徴:珍しい技能

STR:15 《幸運》55   《図書館》55     《精神分析》42

CON:09 《アイデア》75 《芸術(占い)》80   《聞き耳》63

POW:11 《知識》75   《信用》76

DEX:13 《母国語》75  《オカルト》45

APP:15 《回避》26   《法律》76

SIZ:13 《耐久力》12  《日本語》80

INT:15 《MP》11   《武道(空手)》72

EDU:16 《DB》+1D4 《ライフル》43

SAN:55 《年収》1400万《心理学》46

 

 2015のルルブには一応、占い師の職業はあるんですけど、ディレッタントなんですね。

 

「ええ。貴族のご令嬢が趣味で占いを始めたら大当たりしちゃった。だから勉強して占い業をやっている、みたいな設定でキャラを作ったわ。職業技能はディレッタントだけど、趣味的技能を使って占い師にも寄せているわ」

 

 確かに。《オカルト》《心理学》《精神分析》が中途半端にあるのがリアルですね。《日本語》をフルで習得したのは名前からして外国人だからですか?

 

「親日のイギリス人。今は日本で活動しているのよ。ちょくちょくメディアに出ているから《信用》もそこそこ。それからご令嬢だから稽古事として空手を嗜んでいるわ。《STR》が15あるし、不自然じゃないでしょ? あとライフルもね。空手は日本が好きだから真面目にやったけど、ライフルはまぁ、あったらちょっと使えるかな?って感じね」

 

 ふむふむなるほど……それではレミリア、あなたにはGMから1つ特殊能力をプレゼントしましょう。

 

「え?」

 

 あなたは生まれつき、他人とは違うある能力を持っていました。

 それは死者の魂と交流することのできる能力です。

 

「死んだ人と喋れるってこと?」

 

 はい。夜、夢の中であなたは死者と話すことが可能です。ただし3つの制限を設けますのでそれには注意してください。

 1つ。一度交流した死者と再び交流することはできません。

 1つ。一日の夢の中で交流できる死者は1人だけです。

 1つ。交流できる死者は、あなたと一度会話という会話を交わした人間でなければなりません。

 

「こちらから一方的に知っていたり、ただ会釈しただけの相手とじゃあダメなのね。ていうか、こんな能力くれるってことはさ、私の近くにいる人がシナリオ上で死ぬってことよね?」

 

 まぁぶっちゃけその通りですね。

 

「本当にぶっちゃけたわね。まぁいいわ。悪い役割を引き受けたわけじゃないし、こんなこと言っても信じてもらえないだろうから、普通の探索者としてシナリオ始まったら積極的に話しかけていくとしましょう。他の人たちのことも知りたいしねぇ。それに私が占い師として有能なことをロールプレイでうまく表現できれば、味方になりうるPCがきっと接触してくるはずだしね。どうせ私以外にもいるんでしょ? なんか変な秘密を持ってるPC」

 

 さぁ、それはどうでしょうね。

 あ、それからあなたは名の売れた占い師ということで、このシナリオ中3回まで《芸術(占い)》を使って指定した事柄を占うことを許可します。

 成功すればふわっとしたものではありますが、シナリオ攻略のヒントとなるような情報を差し上げましょう。ただし、この判定は《心理学》同様、非公開ロールとしてGMが執り行います。失敗した場合は偽の情報をプレゼントしますので、扱いには注意してください。

 

「いいわね。主役よりもサポートの方が得意だから、そういう能力は好きよ」

 

 あ。それからこれらの能力・技能を習得したことによって、《オカルト》に+50の補正をどうぞ。

 

「《オカルト》95……こんなにいらないわ。そうねえ。《オカルト》を55にして他の技能に40ポイント振り分けていい?」

 

 いいですよ。

 

「よし。それじゃあ《精神分析》と《心理学》に20ポイントずつ振り分けてと。うん、大分いいキャラができたわ」

 

 そういえば今回は珍しく《図書館》に技能振っているんですね。《目星》は相変わらずですが。

 

「設定的に占いやらオカルトやらは本で調べて興味を持ったことにしているのよ。まぁ、ポイントが余ったから振ったようなものだけどねぇ。シナリオ的に《運転》よりは使えそうだし」

 

 では個別オープニングを始めます。

 あなたはイギリスの資産家、スカーレット家の次女です。スカーレット家の当主は長男が、そして長女が別の資産家に嫁いだために、あなたは家の中で最もフリーなポジションを獲得していました。

 

「レミリアは長女なんだけど……フランドールに変えようかしら? いや、でもフランちゃんロールプレイとか無理だし、いいか」

 

 そんなあなたは5年前、両親の許しを得て、占い師として侍女を1人引き連れて日本へやってきました。

 

「侍女?」

 

 ええ。ああそうそう。この侍女はNPCではありません。列記としたPCです。

 

「そうなの?」

 

 侍女の名前は十六夜咲夜。あなたと同い年の少女です。彼女との主従関係は25年。気紛れとはいえスラム街で拾い、助けた彼女はそのままあなたの専属侍女として仕えています。

 

「咲夜って……それGMが名前決めたの? それとも本人?」

 

「本人が命名していました。役割とか決める前に」

 

「ってことはあいつもこのセッションに参加しているのね。そうねぇ、咲夜についてもっと詳しく知りたいわ。そんなに仕えてくれているんだったら彼女のこと、良く知っているでしょ? PCだからロールプレイ次第で崩壊しやすいけど、いつものあいつの咲夜ならその心配ないしね」

 

 はい、いつもの人の咲夜です。

 咲夜はあなたに対して忠誠を誓っている侍女です。家事も一通りでき、あなたが日本で占い業やメディア出演に専念できるように日本語を取得し、今は経理や裏方の仕事も自ら率先して引き受け、あなたのバックアップに日々走り回っています。

 

「な、なんて素敵な子なのかしら」

 

 ええ。美しく優しい、あなたにとって頼れる侍女であり、大切な友人。それが十六夜咲夜という侍女です。

 

「でも1つ気になることがあるわ。なんで咲夜の名前が日本人のそれなの? 拾ったのはイギリスのスラム街なのよね?」

 

 いいとこに気が付いていただきました。

 十六夜咲夜、この名前を命名したのは他でもない、レミリア、あなたです。

 

「え? 私?」

 

 はい。スラム街で拾った彼女はどこか不思議な少女でした。

 服はボロボロ、持っていたものといえば緑色に輝く石のペンダントくらいの、疲れ果てた状態で力なく壁にもたれかかっていた彼女は、見た目に反していたって健康な状態でした。そして自分が誰なのか、どうしてここにいるのかすらわからない、いわば記憶喪失にかかっていたのです。

 

「まぁ」

 

 そんな彼女に名前を与え、居場所も与えたのがあなたです。ゆえに、咲夜はあなたに対して並々ならぬ感謝の感情と絶対なる忠誠心を抱いています。例として挙げるなら、あなたが死ねと彼女に命じれば、喜んでその場で自害してしまうほどです。

 

「大分重いわね。でも私はそんなことは絶対に命令しないわ。こんないい子、これからも大切にそばに置いておくつもりよ。なんにせよ、この咲夜という従者は私にとっては完全な味方、と考えていいのね?」

 

 はい。その認識で大丈夫です。咲夜の人もあなたに合わせてロールプレイをすると言っていたので、大丈夫だと思います。

 さて、日本に来て早くも10年。仕事も順調で余裕も出てきたこの時期、オカルト好きなあなたは1つのパンフレットを手に取ります。

 

「なんのパンフレットかしら?」

 

 大神村と呼ばれる村で行われるホラーツアーについてのパンフレットです。

 

「ふーん」

 

 一目見て、面白そうだと直感したあなたは、従者の咲夜を連れてこのツアーに参加することにしました。

 これにてあなたの個別オープニングを終了します。続きは明日の本編でみんなと一緒にやりましょう。

 

「はーい、よろしくね」

 

 

 

 

     ――To be continued…




不動遊星=不動遊星の中の人
レミリア・スカーレット=古美門研介の中の人
十六夜咲夜=十六夜咲夜の中の人
三尋木咏=星熊勇儀の中の人
夢幻の白夜=初登場

【クロノスを喰らうもの】を参考


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Part.2

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願います。


 導入です。

 現代日本の夏のある日。あなた達は今、ホラーツアーの参加者としてマイクロバスに乗り合わせています。

 

「あ、GM」

 

 はい?

 

「私軽い有名人だからさ、所持品にサングラス追加してもいい?」

 

 それくらいならどうぞ。

 

「よし。じゃあサングラスを掛けてバスに乗っているわ」

 

「私も所持品に日傘を追加してよろしいでしょうか?」

 

 どうぞ。

 

「おまえらのロールプレイ用の小道具なんてどうでもいいぜ。GM、バスには何人乗っているんだい?」

 

 あなたたち5人、運転手、ツアーガイド、それからツアー客NPC6人の計13人です。それから1つ言うことがありますが、PC含め全員美形です。平均《APP》15以上です。

 

「ほほう」

 

「それはなかなかだな」

 

 さて、人数が揃ったのでバスが出発しました。ここでツアーガイドのお姉さんがマイク片手に挨拶してきます。

 

「皆様、おはようございます。この度は【九頭竜会】主催の【大神村ホラーツアー】にご参加していただきありがとうございます。私はこれから2日間、皆様とご一緒させていただきますツアーガイドの内藤ほてみ19歳です。平仮名でほてみと書きます。何か、お困りのことがございましたならば、いつでもお申し付けください。安全第一で行程管理に努めさせていただきますので、2日間、どうぞよろしくお願いします」

 

 と言って軽く会釈します。

 

「丁寧な挨拶ね。日本のバスガイドさんはこれだから好きよ。よろしくという気持ちを込めて拍手しましょう」

 

「では私も拍手します」

 

「俺も拍手しよう」

 

「私もな。よろしくお願いするよい!」

 

「俺も拍手しておこうか」

 

 ではそんなあなたたちに感化されてか、他の参加者たちも拍手を内藤さんに送ります。内藤さんは綺麗に笑ってもう一度軽く会釈します。

 

「11名様のものとは思えない大きな拍手、ありがとうございます。それでは本日の行程を簡単にご案内します。東京駅を出発しましたこのバスはこれより高速道路に入り約1時間後、途中のサービスエリアにて休憩を行います。この休憩後、目的地である大神村まで休憩はございませんのでご注意ください。大神村到着は正午、12時頃を予定しております。到着後、夕食までは自由に行動していただいて結構です。夕食は村の中央会館にて全員参加でお願いいたします。そこで大神村村長村岡長介氏による村に伝わる怪談を披露していただく予定になっております。本日の行程は以上となっております。詳細につきましてはその都度ご案内させていただきます。明日の行程に関しましては、明日ご案内させていただきます」

 

「訊こうとしたことを全部先に言われちゃったわ」

 

「これは有能バスガイドだな」

 

 私も楽ですよ。説明しないといけないこと全部ガイドさん喋ってますもん。あ、まだ挨拶は続きますよ。

 

「それから私より皆様に5つのご協力・ご理解のお願いがございます。1つ、時間厳守での行動をお願いします。1つ、車内は全面禁煙です。お煙草はご遠慮ください。1つ、走行中のシートベルトの着用をお願いいたします。1つ、貴重品は自己管理を、そして体調がもし優れないようでしたらすぐに申し上げてください。1つ、大神村は全域で携帯電話は圏外となっております。固定電話もございませんので、もしどこかに連絡が必要な場合は村に着く前に済ませていただくよう、よろしくお願いします」

 

「マジか。電波来てないのか」

 

 ちなみにこれは事前にパンフレットを見て確認済みの情報です。PLに言っていませんでしたけど、PCは全員このことを知っています。

 

「陸の孤島か。クローズド系シナリオの定番だな」

 

「さて、ここで皆様、親交を少しでも深めるべく軽い自己紹介と参りましょう。それでは前席に座っている皆さんから順番にお願いします」

 

 と内藤さんはあなた達に笑顔でお願いしてきます。

 

「あー、ここでPC全員が名前やらなんやらを知るのか」

 

「座り順はどうなっているのかしら?」

 

 バスの席は左列が1人掛け、右列が2人掛けとなっています。

 最前列左側に遊星、右側にレミリアと咲夜が、遊星の後ろに咏、レミリアの後ろに白夜が座っていますね。

 

「2人掛けなのに独占していていいのか?」

 

 ええ、人数も少ないですし、ほとんどの人が初対面ですしね。レミリアと咲夜は仲良く一緒に座っていますが。

 

「ふーん」

 

「PC順か。なら俺から自己紹介しよう。バスは当然運転中だな?」

 

 そうですね。ですから座ったままどうぞ。ただ顔が見えるように少し通路側に顔を出していただけると助かります。

 

「親交を深めるためだもんな。任せろ。じゃあ俺から挨拶をしよう。初めまして。俺は不動遊星、今年で43歳になった。公務員の仕事をしている。今回のツアーには気分転換のために参加させてもらった。オカルトとかホラーとか、仕事柄全く知識はないが、だからこそいい経験ができるんじゃないかと思っている。素人同然の身だが仲良くしてもらえると嬉しい。名前も下の名前で呼んでもらっていい。苗字だとまぁ、引っかかる人もいるだろうからな。以上だ」

 

「おーこいつやるねえ。誤魔化していたけど職業、年齢、ツアー参加の動機を全部言いやがった」

 

「これじゃあ続く私たちも同じ形式でやらざるを得ないわね。トップバッターがこんな丁寧な挨拶してきてくれたんですもの。まぁみんな疚しいことなんてないでしょうし、問題はないわよね。そうよね、咲夜」

 

「勿論でございます、お嬢様」

 

「だな。別に悪いことをするためにこのツアーに参加したわけじゃあないんだ。変に疑ったりしないで楽しもうぜ」

 

「まぁ、それもそうか」

 

「というわけで次は私ね。初めまして皆さん……おっと、サングラスしたままじゃ失礼ね。GM、私はサングラスを取り払ってにこりと笑うわ」

 

 ええー……そうですね。遊星と咏ちゃんは《知識》ロールをどうぞ。咲夜は当然知っているから除外、白夜は自動成功とします。

 

 遊星 《知識》80 → 81 失敗

 咏  《知識》65 → 57 成功

 

「うお、失敗した。80パーセントあるのに」

 

 では遊星は知りませんが、咏と白夜は彼女のことを知っていました。

 サングラスの女性は稀代の占い師、レミリア・スカーレット。その的中率は他の占い師と一線を画すレベルの腕前で、4年前くらいからメディアにも頭角を現し、バラエティ番組にもよく出るくらいの人気タレントです。

 

「マジか、結構な有名人じゃないか。仕事のせいでテレビを見る余裕がなかったということにしよう」

 

「私は普通に驚いとくぜ。おいおい、まさか、あのレミリア・スカーレットか」

 

「その通りよ。私の名前はレミリア・スカーレット。知っている人もいるとは思うけど、占い業を営んでいるわ。あとたまにタレントとしてもテレビに出ているわね。細かいプロフィールは検索してみて頂戴ね。一応ホームページもあるから。私がこのツアーに参加したのはねぇ、ただ単純に面白そうだと思ったからよ。深い考えはないわ。有名人だからって緊張しなくていいから、気軽に話しかけてね。……あぁ、そうだ。うん、いいアイデアね」

 

「どうかしたんですか?」

 

「ここは親交を込めて、このツアーがどんなツアーになるのかを占ってみましょうか。GM、私は《芸術(占い)》を使用するわ。所持品にタロットカードがあるでしょ? それを取り出してワンカードオラクルの占いをするわ」

 

「う、占いだと?」

 

「うん、そうよ」

 

「へぇ、ところでワンカードオラクルってなんだ?」

 

「一番簡単な占いよ。シャッフルしたカードの束の中から適当に1枚選んでもらって、そのあとカードを反転させるかどうかを選んでもらう。その選んだカードが正位置逆位置で占うのよ」

 

「ああ……俺は2枚でやるやつしか知らないけど1枚でもできるんだな」

 

「ツーカードオラクルね。他にもいろんなやり方があるんだけど、今バスに乗っているし、ワンカードでいいかなってね。カードをシャッフルしている途中でストップって言ってもらって、その一番上のカードで占うわ。選んでもらうのは遊星さん、お願いできるかしら。これを機に、オカルトは面白いって思ってほしいのよ」

 

「ならやろう。断る理由がないし、せっかく振ってくれたんだ。応えるものだろう」

 

「ありがとう。じゃあ《芸術(占い)》でダイスを振るわ」

 

 はーい。占い結果は公開しません。……が。読者の皆さんには公開します。《心理学》も公開しますよ。

 

 レミリア《芸術(占い)》80 → 45 成功

 

 えっと、結果はこれだからっと……では、遊星がストップを宣言し、正位置に選んだそのカードは大アルカナの18番、『月』の正位置でした。

 

「『月』の正位置ね……と声に出しつつ、私はそのカードを見て顔をしかめるわ」

 

「おいおい、どうしたんだ?」

 

「なにかその……ダメだったか?」

 

「うーん……うん、これはちゃんと言うべきね。ただしちゃんとフォローも入れて明るくなるようにロールプレイよ。遊星さんが選んでくださった『月』の正位置。その意味はサイキックな現象、嘘、変化、不安、曖昧、そして不誠実、よ」

 

「え?」

 

「ふふっ、どうやらこのツアー、私の占いじゃあ、平穏なものになることはないようね」

 

「マジか……」

 

「でもね、占い師の私が言うのもなんだけど占いは所詮占いよ。必ずその運命が待っているとは限らないし、もしその運命が待ち受けていたとしてもそれを変えられるだけの力が私たち人間にはあるわ。占いというのはその運命に導くために、また変えるためにどう行動するのかを今後の私たちに考えさせるための所謂1つの道標。危険な場所には絶対に行かない、単独行動をせずに団体行動を心がける、他人と揉めるような行動を起こさない、などのトラブル防止策をほんの少しでも頭の片隅に置いておく、または再認識することによって回避することだって可能よ。だから、この占いの結果を鵜呑みにしないで、この結果が出たから気をつけるようにしよう、そういう考えで受け取ってほしいわ。という感じで私の自己紹介終わり」

 

「次は私ですね。……あれ、私窓側にいるんですけど、どうやって顔を出しましょう」

 

 偶然にも今バスは信号待ちですから停まっていますよ。

 

「おやタイミングがいい。ではお嬢様の自己紹介から引き継ぐ形でシートベルトを外して軽く立ち上がって。信号待ちですから手短に済ますとしましょう。皆さま初めまして。レミリアお嬢様にお仕えしている侍女の十六夜咲夜というものです。今回はお嬢様のサポートのために参加させていただきました。よろしくお願いします。以上です。席に座り直します」

 

 わかりました。信号も丁度変わりましたのでバスが発進します。

 さて、咲夜の挨拶が終わったところでレミリアを除く全員、《目星》をどうぞ。

 

 遊星 《目星》55 → 38 成功

 咏  《目星》65 → 31 成功

 白夜 《目星》25 → 30 失敗

 

 それでは遊星と咏ちゃんは咲夜の首元に緑色の石のペンダントがあることに気が付きます。

 

「どんな石かわかるか?」

 

 《博物学》に成功したら情報が出ます。

 

「《博物学》か……取っていないな」

 

「一応初期値で振ってみるか。10パーセントもあるしな」

 

 咏  《博物学》10 → 65 失敗

 

「まぁダメだよねい」

 

「俺も振っておこう。損はないはずだ」

 

 遊星 《博物学》10 → 54 失敗

 

 まぁ初期値じゃそんなもんですよね。とにかく、緑色の石の付いたペンダントを彼女が付けていた、ということだけ気が付きました。

 

「後で近づいてよく見てみよう。遠目だったからわからなかったのかもしれないからな」

 

「っと、次は私の紹介だねい。私は三尋木咏。麻雀プロだよ。知っている人は知ってんじゃね? 知らんけど。参加理由は不動……ああ、下の名前でよかったけな。えー、遊星さんと同じ、ただの気分転換だよ。短い間だけど、みんなよろしくねい」

 

「んじゃまぁ、俺の番か。夢幻の白夜という者だ。夢幻白夜ってのが本名なんだけどゴロが悪いからそう名乗っている。白夜って呼んでくれて構わないよ。生物学の研究者をやっているよ。このツアーに参加したのは、他のやつらと同じただの気分転換さ。論文やらなんやらから離れた日常を少しでも味わいたくてな。だからこんな非科学的なホラーツアーに参加したってこと。まぁ多少のオカルトの知識はあるから、今日明日は気楽に楽しんで行こうと思うよ。以上」

 

 それでは次は皆さんと一緒にツアーに参加したNPC6人の自己紹介です。

 

「お、そいつらもするのか」

 

「NPCも重要なポジションなのかもしれないわね」

 

 さぁそれはどうでしょうね。ではまずNPC1から。

 NPC1は間違いなく美少女に該当するような高校生くらいの女の子です。良く言えば大人しそうな雰囲気、悪く言うならば自信がなさそうな感じの子です。

 

「えっと、水戸夏希です。高校2年生で、えっとえっと……私、ホラー好きでですね。ですからこのツアーに参加しました。意外と大人の人ばかりで緊張してますけど、なんとか頑張ります。よろしくお願いします」

 

 と挨拶しました。

 

『ふーん、ねぇGM。彼女に対して《心理学》するわ。占いであの結果が出ちゃったし、PCはともかく、NPCがどんなことを考えているのかを知りたい』

 

 はい、ここで読者の皆さんに説明があります。

 今のレミリアさんのセリフ、カギカッコが通常の「」ではなく『』と表記されました。こう表記された場合のレミリアさんの言葉は他のPCには公開されていません。私ことGMとの個別チャットでの会話となりますので、他のPCでは知りえない情報を彼女は引き出そうとしています。

 ちなみにこのとき、他のPC……というか全員、私に《心理学》ロールを要求してきました。PVPの可能性ありのシナリオと聞いて、みんな《心理学》をある程度用意してきたみたいです。考えることはみんな同じですね。

 でもPVP要素のあるシナリオの《心理学》ってかなりリスクあるんですよね。成功失敗次第で与えられる情報は違いますし、しかも《心理学》の結果は非公開ですので成功したのか失敗したのかわからないですから。

 さて、ここらでシナリオに戻りましょう。

 

 わかりました。《心理学》の結果は公開しません。

 

 レミリア《心理学》66 → 14 成功

 

 レミリアは水戸のその態度が演技であると思いました。オドオドしているのはふりで、本来の彼女はあんな大人しい彼女じゃない。そう思いました。

 

『成功したのか失敗したのかはわからないけど良いわ。とりあえず不思議に思う程度にとどめておくわ』

 

 さてはてお次はNPC2。NPC2は中年の大柄な男性です。スーツを着ていて、ダンディなお髭が特徴。おじさんというよりおじさまという感じの男性です。

 

「初めまして皆さん。私は美濃零。47歳のホラー作家だ。ネタ探しにこのツアーに参加したんだ。よろしくお願いするよ」

 

 と言いながら笑って挨拶を終えました。

 

『美濃零にも《心理学》』

 

 レミリア《心理学》66 → 65 成功

 

 レミリアは彼の台詞がどこか決められたものであるかのように聞こえました。こう聞かれたらこう答えると、あらかじめ想定して用意していたもののようだと思いました。

 

『いろいろな意味にとれる答えね。多分これは成功したでしょう』

 

 次はNPC3です。NPC3はタンクトップ一枚に短パン、筋肉隆々で活発そうなイメージの強いワイルドな男です。

 

「んじゃあオレだな! オレは狩生堂34歳! 山男をしているぜ。こう見えてホラーが大好きでな! この時期は毎回どこかのツアーに参加してんだ。今日明日って短ぇ間だけどよろしくな!」

 

『はいはい、《心理学》《心理学》』

 

 レミリア《心理学》66 → 44 成功

 

 レミリアは彼が嘘は吐いていないと思いました。

 

『あ、これは成功ね』

 

 え? なんでわかるんですか?

 

『嘘()って言ったでしょ? 普通は嘘()って言うのに。こんな含みがあるような文法表現をしたってことは、嘘は言っていないものの本当のことも言っていないって情報をくれたんでしょ? だったら成功よ、間違いなく』

 

 さぁ、それはあくまであなた個人の解釈ですからわからないですけど、与えられる情報はこれだけです。他にありません。

 ではお次はNPC4です。NPC4は若い女性です。今をきらめく女子、という言葉を体現したかのような容姿ですね。元気いっぱい活動的な感じがします。

 全員、《知識》ロールどうぞ。

 

 遊星  《知識》80 → 38 成功

 レミリア《知識》75 → 59 成功

 咲夜  《知識》55 → 25 成功

 咏   《知識》65 → 71 失敗

 白夜  《知識》80 → 09 成功

 

 あ。ではレミリアと咲夜は《幸運》どうぞ。

 

 レミリア《幸運》55 → 63 失敗

 咲夜  《幸運》45 → 71 失敗

 

 オーケーです。では咏ちゃん以外の全員は彼女が誰か知っていました。

 彼女は芸名、こころくるみ。アイドルグループ『グルグルミラクルガールズ』の不動のセンターです。まぁ《APP》が17もありますし当然でしょうね。

 『グルグルミラクルガールズ』はもともと秋葉原で活動していた地下アイドルグループの1つにすぎませんでしたが、3年前から人気が急上昇し、今ではテレビに引っ張りだこの日本で一番知名度の高いアイドルユニットとして頂点に君臨しています。

 

「あー、じゃあ私はアイドルのことは興味ないから知らなかったってことにしておこうかねい。日本で一番有名ってんだからユニット名は知っているけど、メンバーまで知らないってことでいいかGM」

 

 ですね、それが一番自然ですし、それで行きましょう。

 

「さっきの私とお嬢様の判定はなんですか?」

 

 テレビや楽屋で共演、または遭遇していないかの確認です。失敗したので生の彼女と会うのは今日が初めてですね。

 

「じゃあ次は私ですね! 私は『グルグルミラクルガールズ』のメンバー、こころくるみ24歳でっす! 実は私これでもホラーやオカルトが大好きで、今日はテレビでトークするためのネタを作りに参加しました!」

 

「へぇ、あなたオカルトに興味があるの? って感じで介入するわ。ある種の同業者だし、私を見た彼女の反応を知りたい」

 

 くるみはあなたに対してキラキラした目をしながら話しかけてきます。

 

「はい! スカーレット先生とも是非一度お会いしたいなと思っていたんです! お会いできて光栄です!」

 

『ここで《心理学》よ。このタイミングなら成功したか失敗したか判定しやすそうだしね』

 

 レミリア《心理学》66 → 34 成功

 

 あなたは彼女の目がちっとも笑っていないと思いました。彼女の言葉は上っ面だけで、あなたに会って光栄だなんて本心ではこれっぽっちも思っていないともいました。それどころか、あなたに対して強い敵意と警戒心を抱いていることに気が付きました。

 

『あー……成功したかどうかわからないわね。微妙に情報が多すぎるし、確信しているみたいな言い方してるし、露骨に敵ですアピールしているし。まぁいいわ。PCが思ったならそれで行動するしかないし、とりあえず社交辞令をしつつ彼女の言動に注目することにしましょう』

 

「そう。テレビに出たときに今日のこと喋るなら、私のことをネタにしてもいいからね。それから、もし今後私と共演することになったら、その時はその時でよろしくね」

 

「わぁ、ありがとうございます! 私の方こそ、共演できる日を楽しみにしていますね!」

 

『はい、ここでもう1回《心理学》よ』

 

 え? 同じ技能はあんまり連続して使ってほしくないんですが……理由次第で許可します。どうしてですか?

 

『私と共演したいと思っていない理由を知りたいのよ。そう、例えば、このツアーであいつは死ぬんだから、共演することなんて絶対ない、みたいなね』

 

 うん、許可しません。あまりにメタすぎです。あなたがこのツアー中に死ぬと思った根拠がないのに、その探りを入れるなんておかしいですからね。占いだって、あの結果だけで自分が死ぬなんて発想にはならないでしょうし。

 

『だよねぇ……』

 

 ではNPC5の紹介です。NPC5は理知的な顔つきの男性です。メガネがトレードマークですね。

 

「僕は木場研二34歳。研究職に就いています。僕もまた、研究に行き詰まってしまって気分転換にね」

 

「あんたも研究職なのか。理由から何まで俺とお揃いだなって感じで割り込む」

 

「ははは、そうですね」

 

「ちなみに専攻はなんだい?」

 

「人類学を専攻しているよ」

 

「へぇ、人類学か。俺の知り合いにも同じ苗字の人類学者がいるんだけどさ、もしかしてあんたの兄弟とかかい?」

 

「そうなんですか。でも無関係だと思いますよ。僕は一人っ子ですからね」

 

「そうか。まぁ、そんなことはいいや。研究者同士、今後もいい付き合いになるようにしようじゃないか」

 

「そうだね。よろしく頼むよ」

 

『ナイスね、白夜。こいつには《心理学》はいらないわ。明らかに嘘吐いているから』

 

 え? どうしてそんなことわかるんですか?

 

『研()って名前なんでしょ? 普通は次男に与えられる名前よ。なのに兄弟がいないって言ったわ。ということは名前か家族構成に嘘を吐いているってこと。間違いなく何かを隠しているわね』

 

(うわ、こんなところから情報引き出してる……これ設定そのままなのに。油断してたなぁ)ま、まぁありふれた名前ですし、そう付ける親もいるんじゃないですかね。ほら、父親が研一だとか。

 

『にしても長男に付ける名前じゃないわよ』

 

 はいはい、シーン進めますよ。

 最後、NPC6です。NPC6は長い黒髪が特徴的な少女です。結構な美人さんですね、《APP》が16あります。

 

「私がトリのようですね。私は大賀美保、大学1年生です。私も気晴らしで参加しました。よろしくお願いします」

 

『かなりシンプルな自己紹介ね。《心理学》よ』

 

 レミリア《心理学》66 → 24 成功

 

 彼女の仕草は自然で、ただ普通に挨拶をしただけだなと思いました。

 

『成功したんだかしてないんだかわからないわね』

 

 それではあなたたちツアー客が全員自己紹介を終えたところで、内藤さんが笑顔でマイクを手に取ります。

 

「はい、皆様ありがとうございました。最後にドライバーさんの紹介をさせていただきます。本日安全運転に努めていただくドライバーさんは大東バス会社の室岡さんです。それでは2日間、皆さんの良い思い出となるよう精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」

 

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

 はい、というわけでここまで。次回は大神村に着いたところから始めていきますよ。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.3

 大神村に向かうバスは途中休憩もありましたが、それ以外は特にバスは長く止まることもなく目的地に到着しました。時間は内藤さんが言っていたとおり、正午12時15分です。

 窓から外を見ますと、辺りに広がっていたのは緑一色。森の前にバスは停まっていました。バスのドア付近から降りれば、そこには森の中へと続く一本道。どうやらこの先に目的地があるようですね。

 

「皆様大変お疲れ様でした。お忘れ物がございませんようご注意ください」

 

 内藤さんがそうアナウンスして数分も経たないうちにバスは停車。ドアが開きます。到着したようです。内藤さんが先導してバスから降りて、ドア付近に立っています。

 

「到着したみたいだな。降りよう。俺はバスから降りる」

 

「最前列に座っている私だけど立たないで待つわ。こういうときは後ろの席に座っている人間がみんな降りるのを待つのがいいのよ。混み合わないでスムーズに降りられるからね」

 

「言われてみればそうだな。俺も待つべきだったか」

 

「いや、ほら。私って有名人って設定じゃない? 私はタレントだから、こういう小さな気配りができるかできないかのイメージがかなり重要になってくるのよ。加えて私は大富豪スカーレット家の娘。私の行動の1つ1つがスカーレット家の沽券に関わるの。だからこうして慎重に丁寧に行動しているわけ」

 

「金持ちとか有名人とかって大変なんだねい……って私も元ネタ資産家の娘だったな。じゃあ私もレミリアを見習って後ろから順に降りるのを待つ」

 

「俺は気にせずに普通に降りる」

 

「私はお嬢様が降りるまで降りません。というか降りられません」

 

「悪いわね、咲夜」

 

「いえいえ、スカーレット家に恥じぬお嬢様のご振る舞いに咲夜は感激しております。流石でございます、お嬢様」

 

「そんなに褒めても何も出ないわよ」

 

「お嬢様がいらっしゃるだけで、咲夜は幸福でございます」

 

 あの、そこの主従ロールプレイに徹している御二方、もうバスに残る乗客はあなた達しかいませんよ。

 

「あら、みんな出たようね。行くわよ咲夜」

 

「お供いたします。傘の準備をしつつ立ち上がります」

 

 全員バスから降りたみたいですね。ではその様子を確認したバスの運転手はドアを閉め、バスを発進させます。

 

「バスはもう行っちまうのかい? と内藤さんに話しかける」

 

「明日にまた迎えに来てくれますよ。さぁ皆さん、この先少し歩きましたところが大神村でございます。私が先導いたしますので、はぐれないように後に続いてください」

 

 と内藤さんは言いながらバスツアーの旗を片手に歩き出します。当然彼女に続くように他のツアー客たちは歩き出します。

 

「私も続くわ。2番目よ」

 

「では私は日傘を差してお嬢様に続くように歩きます。3番目」

 

「じゃあ私が先頭な」

 

「おっと遅れたか。4番目だ」

 

「俺は最後尾でいい」

 

 じゃあその順番で歩いていきましょう。

 木漏れ日が差し込み、空気も澄んでいる森を抜けると、そこにあったのは大きなつり橋。その前には「ようこそ、大神村へ」と書かれた木製の看板が立っています。

 

「つり橋はどんな感じかしら?」

 

 木とロープで作られた簡単な物です。ただ老朽化してなく、比較的綺麗に保たれているため、手入れをされていることはわかります。

 

「落ちることはないようだな」

 

「はは、このつり橋ですか? 大丈夫ですよ。ただ揺れますので、皆様、ゆっくりと渡るようにお願いします」

 

 ちなみにこのつり橋の下なんですけど、ええ。底が見えないくらい深い崖となっています。落ちたら間違いなく助からないでしょうね。

 で、この崖下なんですけど、もっとよく見ますか? 《目星》判定や《アイデア》チェックしますか? 《SAN》チェックしますか?

 

「「「「「ノーセンキュー」」」」」

 

 そうですか。ではあなたたち一行がつり橋を渡って少し歩くと、古い日本家屋が点々と佇む小さな村が見えてきました。畑やら水田やらもそれなりに広がっていて、どうやら自給自足が成立しているような村ですね。

 電線がないあたり本当に電気が通っていないみたいです。井戸もありますので、水道もないのかもしれませんね。

 

「本当にここは現代日本なのかい? 随分と時代遅れな村じゃないか。良く潰れないでこれたもんだ」

 

「だねい。面白そうだからいいけど、生活はしたくないかねい」

 

「長閑でいいところじゃない。古き良き日本を感じさせるわね。外国人だからかもしれないけど、結構好感を持てるわよ」

 

「そうですね」

 

「気晴らしに参加をしたと言ったが、まさかこんな村に来るとはな。貴重な体験をしそうだ」

 

 あなた達がいろんな思いをこの村に寄せているところに、1人の老人がやってきました。老人は朗らかな笑顔をした好々爺です。

 

「ようこそ大神村へいらした。私はこの大神村の村長、村岡長介のいう者じゃ。2日間、よろしくお願いしますぞ」

 

 と簡単に挨拶してきます。

 

『ふーん。まぁなにもしないわ』

 

 そうですか。

 

「さて皆さんお疲れじゃろうし、そろそろお腹も空いていますまい。会館に昼食を用意しとるから、さぁさいらしてください」

 

 村長はあなた達にそう言って村の中心部にある一際大きい日本家屋の中にあなたたちを招待します。会館の一室が比較的大きなホールになっており、そこには長い机と人数分の椅子。席の前には豪華とは言えないもののそれでも立派な日本料理が並べられています。

 

「この大神村で取れた山菜や川魚、それから動物を使ったこの村の伝統の料理じゃ。どうぞご賞味あれ。それと申し訳ないが、私は少々やることがあるので退出させてもらおう。食後は自由に散策してもらって結構じゃが、18時の夕食にはこの中央会館に集まってほしいのですじゃ。この村に伝わる怪談をご披露させてもらいますじゃ。それじゃあ皆さん、ごゆっくりなさってくださいですじゃ」

 

 と言って村長は退出すると、内藤さんが話しかけてきます。

 

「それでは皆さん、お好きな席に着いて昼食をいただきましょう」

 

「そうね。私は真ん中の方の席に座るわ。有名人だし、聞きたいこともあるでしょ? 答えられることなら答えてあげるわよ」

 

「私は従者ゆえにお嬢様のことへの質問はお答えしかねますが、芸能界の裏側のお話なら少しだけできます。こちらも答えられる範囲でお答えしますよ、と言いながらお嬢様のお隣に座ります」

 

 ではそのあとこころくるみがちょうどレミリアの正面の席に座りました。

 

「じゃあくるみも話せることは何でも話しちゃいます! レミリアさんともいろんなお話をしたいです! いいですか!?」

 

『《心理学》の結果をもとにロールプレイね。私に対してよくない感情持っているくせによくもまぁそんな笑顔でいられるわね。私は彼女にここまで敵視されるようなことをした覚えはないし、探りを入れながら対応するとしましょう』

 

「ええ、いいわよ。ネタを探しているんでしょ? 私もあなたたちのグループのことを知りたいし、これを機にお話ししましょう」

 

「ありがとうございます!」

 

 レミリアとくるみの芸能人同士の会話をしている中、他の人たちも食事するためにそれぞれ席に移動しています。まだ席に座っていない人は早く決めてくださいね。

 

「じゃあ俺はスカーレットさんの隣に座りつつ挨拶をする。先程はどうも、スカーレットさん」

 

「あら、あなたは確か不動遊星さんね。下の名前で呼んでいいんだったかしら? 私もファーストネームで結構よ。オカルトの知識はないんでしたっけ?」

 

「ああ。だから是非スカ……レミリアさんの話を聞きたくてな。出来ればなぜレミリアさんが占いに興味を持つようになったのかをお聞かせ願いたい」

 

『あらあらグイグイ来るわね。早速釣れたかしら? 私の味方』

 

 おっと、遊星がその話題を出すと正面に座るくるみも乗ってきます。と、その場面に行く前に咏ちゃんと白夜も席を決めてください。

 

「私は……そうだねい。遊星の正面の席に座るかねい」

 

「俺はNPC5、木場研二の隣に座ろうかな。木場はどこに座っているんだい?」

 

 えっとですね(コロコロ)……あぁ、咲夜の正面の席ですね。くるみの隣です。

 

「じゃあ咲夜の斜め前だな」

 

 はーい、じゃあ全員が座ったということでシーン進めていきますね。

 

「くるみも知りたいです! どうしてレミリアさんは占い師になったんですか? 会ったのは今日が初めてですけど実績は知っています! どういう経緯で占い師になって、どうしてそんなに的中するのか、気になります!」

 

 くるみが興味津々といった感じでレミリアに質問すると、他のNPC達もレミリアの方に注目します。みんなこの話題に食い付いたみたいですね。

 

「俺も興味あるな。レミリアの方を見よう」

 

「あたしも見るぜい」

 

「皆様、あんまりお嬢様を困らせないようお願いします」

 

「大丈夫よ、咲夜。こうなることはわかっていたし、そんなに迷惑でもないから」

 

「出過ぎた真似を」

 

「いいのよ。まぁまぁ皆さん、そんなに見つめられると照れてしまいますわ。そんなに急かさずともお話はしてさせあげますから、まずはお食事をしましょう。せっかくのお料理が冷めてしまいますわ。お話はお料理を食べ終わってからにしましょう。6時まで時間はたっぷりありますしね。と言いながら内藤さんの方をチラ見するわ」

 

 じゃあそのアイコンタクトを受け取った内藤さん……あ、内藤さんは一番端っこの席に座っています。えー、内藤さんは小さく頷いて声を上げます。

 

「そうですね。皆さん、先にお食事に致しましょう。それでは皆さん、いただきます」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

「GM、私は《製作(料理)》の技能を取っています。この料理がどんな料理なのか、探れますか?」

 

「あ、それ俺も気になるな。どんな料理なんだ?」

 

 まず見た目の描写をします。定番の日本料理が並んでいるようですが、ちょいちょい違う具材が混ざっているようです。創作日本料理みたいですね。

 次に味。とても美味しい料理です。ですが、どの料理もどこかピンとこない味付けをしています。美味しいことは美味しいんですが、あなた達が今まで食べてきた料理とは微妙に味付けが違うような感じがします。へぇ、こんな味もあるんだな。なかなかイケるな。みたいな感想を抱くことでしょう。

 

「私はそんなことは気にせずに食べるわ。全部残さずにね。日本は本当にどこに行っても食べ物が美味しいわね。祖国も美味しいところは充分美味しいんだけど、地雷が多いのがねぇ」

 

「GM、私はこの料理に対して《製作(料理)》で判定します」

 

 咲夜 《製作(料理)》70 → 16 成功

 

 咲夜はこの料理の中のメインディッシュなのでしょう、少し大きめのお皿に乗っているステーキは、とても美味しいのですが、やっぱり今まで食べてきたどの肉料理にもその味とマッチしないことに違和感を覚えます。

 

「このステーキ、何のお肉なのでしょうか」

 

「どうしたの? 咲夜」

 

「いえ、大丈夫です。お嬢様を不安にさせるわけにもいきませんので、この情報は私の中にとどめておくことにしましょう。ただPL達にはこの情報をお渡しします」

 

「サンキュー咲夜。まぁ私は知らんから気にせず食べるけどな。お、この肉美味いな」

 

 あの、時間経過して全員ご飯食べ終わったってことにしていいですか? 時間的には午後1時くらいまで。

 

「いいんじゃない? ご飯食べながら話すのはマナー違反だしね」

 

「そうだな。美味しいご飯も頂いたところで、改めて親睦を深めようじゃないか」

 

「まぁ全員……あ、レミリアさんと咲夜を除いたら初対面だ。仲良くしよう」

 

「そうね。さて、みんなも食べ終わったみたいだし、そろそろ私の話をしましょうか。と自分から切り出すわ」

 

 じゃあその話に興味を持ったNPC7人が反応します。

 

「7人? 6人じゃなかったか?」

 

 内藤さん。

 

「あぁ、ツアーガイドの内藤さんそういえばNPCだったな」

 

「注目してもらって何よりだわ。興味ない人がいたら申し訳なかったもの」

 

「いや多分あんたの話に興味ない人このツアーの参加者の中にはいないんじゃね? 知らんけど」

 

「あらそう? いずれにしても嬉しいわ。さて、なにをお話ししましょうか。話せることは結構いっぱいあるし……そうね、ひとり一回まで何でも聞いて良いわよ」

 

 あ。

 

「どうしたのGM。何かマズかったかしら?」

 

 いや、その。こういう形式のシナリオって、あんまりGM喋らないなーって思いましてね。質問はPC同士で大体終わっちゃいますし、小説にすると地の文が少なくなりそうだなって思いまして。

 

「心底どうでもよかったですね」

 

「話を戻すわ。ほら、聞きたいことを聞いて頂戴。答えられる範囲で答えるわ」

 

「じゃあ俺からでいいか?」

 

「いいんじゃね、知らんけど」

 

「あんたから始まったんだし、俺は特に不満はないな」

 

「よし、じゃあ質問しよう。最初の通りだ。レミリアさんがどうして占いに興味を持ったかが知りたい」

 

「ああそういえば、遊星さんはそうだったわね。家の図書室にあった占いの本を読んだのがきっかけよ」

 

「家の図書館?」

 

「私はイギリスのいわゆるお嬢様でね、家に学校と同じくらいの図書室があるのよ」

 

「お嬢様ってことは知っていたけど……でもなんで占いの本なんかあったんだ?」

 

「ふふ、らしくないわよね。実はね、私のお母様が買ったものらしいのよ。興味を持ったみたいで買ったのは良いけどすぐに飽きてしまってそのままお蔵入りに。それを私が偶然見つけたのよ。珍しくってつい手に取っちゃったのよねぇ。それがきっかけよ」

 

「なるほどな」

 

「あとこれは補足なんだけど、これだけじゃ占い師になろうだなんて思わなかったわ。見つけた当時ね、見様見真似で占いをやってみたのよ学校の友人たちに遊び半分でね。そしたら言ったことが全部的中しちゃっていたし、その後どうなったのかも占い通りになっちゃったのよ。そこからね、私が占い師になろうって決めたのは。私には兄も姉もいたからスカーレット家は安泰だったし、私は比較的自由に過ごせたからその道を歩もうと思ったのよ」

 

「そうだったんだな。丁寧に答えてくれてありがとう」

 

「いいのよ。テレビで話したことも数回あったから抵抗なんてないわ。さぁ、あとは何かないかしら?」

 

「じゃあ次は俺が行っていいかい?」

 

「あなたは……夢幻の白夜さんだったかしら?」

 

「ああ。覚えていてくれて何よりだ。白夜で構わないよ。変な名前だしな」

 

「そう。なら私も……というかみんなファーストネームで結構よ。それで白夜さん、なにかしら?」

 

「十六夜さんだっけか? 彼女とは主従関係なのかい? 同い年に見えるんだけどさ」

 

「同い年……なのかしら? 私たち。と首を傾げつつ咲夜を見るわ」

 

「おそらくそう……かと、とお嬢様に返します。自信なさそうにです」

 

「え? なんだその反応は」

 

「実はね私も咲夜も、咲夜自身の歳が正確にわからないのよ」

 

「どういうことだいそりゃあ」

 

「私はその……幼いときの記憶がなくてですね。お嬢様に出会った時からの記憶しか、ないんです。ですから私が正確に何歳なのか、わからないんですよ」

 

「……聞いちゃいけないような話題だったか?」

 

「咲夜」

 

「私は大丈夫です。隠す必要はございませんし、むしろ言いふらしたいくらいなのです。……お嬢様はスラム街で死にかけていた私の命を救ってくれた、気高く優しいご令嬢なのだと」

 

「2人の世界に入っているところ悪いがその話、聞かせてくれないか? 余計興味が出てきた」

 

「私が説明してもよろしいでしょうか、お嬢様」

 

「勿論よ。私よりもあなたが話すべき内容だからね。ただあんまり煽てないでね、照れちゃうから」

 

「心に留めておきます。夢幻様、あなたのご質問には私が対応します。よろしいですか?」

 

「夢幻様って……まぁいいや。よろしいも何もそれしか選択しなさそうだし、いいぜ」

 

「ありがとうございます。こほん。私とお嬢様が出会ったのは25年前のことです。イギリスのスラム街で屍のようだった私をお嬢様は拾ってくれたのです。他の人たちが素通りし、お嬢様のそばで控えていた人たちに止められながらも、お嬢様は私を救ってくれたのです。こんな身寄りどころか記憶すらない私を、お嬢様はずっとそばに置くと、専属の侍女にすると仰って下さったのです」

 

「はぁ……それはまた」

 

「それ以来、私もお嬢様の期待に沿えるよう努力し、お嬢様の専属侍女として正式に認めていただき、こうして共に日本に来ました」

 

「あん? おいおいちょっと待ってくれ。何で名前が日本のそれなんだい? 今の話を聞く限り生まれはイギリスだよねい?」

 

「お嬢様に頂いた名前だからです。イギリスではサクヤ・イザヨイで通していました」

 

「名前の由来はねえ、拾った日の夜が日本で言う十六夜で、その時に見た月がまるで夜に咲く花のように綺麗だったからよ。スカーレット家は親日一家だから日本語も英語と一緒に幼いときから覚えさせられていてね。名前を付けるなら綺麗な名前にしたかったから、そうしたのよ。それに漢字ってかっこいいじゃない?」

 

「この名前は私の誇りです」

 

「ふふふ、あなたこそ私の誇りよ。私のために日本語を覚えて、経理やら家事やら何もかもあなたに任せっきり。私がやりたいことに専念できるのも、すべてあなたがいるからこそだわ。咲夜のいない人生なんて、考えられないんだから。絶対に私より先に死なないこと、これは命令よ? いいわね?」

 

「勿論でございます。この咲夜、お嬢様よりも先に旅立つことなど決してないと断言いたします」

 

「というわけで納得して頂けたかしら、白夜さん」

 

「ああ、痛いほど伝わったよあんたらがめちゃくちゃ仲が良いってことはな。……そういえば十六夜さん。そのペンダント、とても綺麗だな。何の宝石なんだい?」

 

 《目星》失敗しているのに……ああ、でもこうして話を聞いているなら気が付きますか。

 

「それが……わからないんです。お嬢様達によると拾った時からずっと私が付けていたものらしく、何の石なのかもわからないそうで」

 

「まぁでも、確かに綺麗だけどそんなに高い物じゃないんじゃないかしら? 綺麗で安い物なんて他にもいっぱいあるしね」

 

「ふーん……まあいいや。じゃあ俺からの質問は終わりだな」

 

「じゃあ次は私かい? うーん。ぶっちゃけ特にないんだよねい。遊星と白夜が気になってたこと大体訊いちまったし。私はいいや」

 

 あーやっと終わりましたか? じゃあシーン少し進めましょうか。他のNPC達からもレミリアは色々と質問されましたが、レミリアは難なく答えることができました。

 

「どんな質問されたのかを端的に教えてくれないかしら?」

 

 占いの的中率、どんな人を占ってきたのか、日本とイギリスの違い、年収はどれくらいか、などの定番なものから、人間以外に占うことは出来るのか、何か特別な力とかないのか、などの面白可笑しいものまで、計5つです。

 

「5個だけだったのね。まぁ定番の3つは普通に答えるわ。特別な力なんてないわね、ただ占いと私の相性が良かっただけなんじゃないのかしら、って答えましょう。動物に占いを使えるのか、についてだけど、どうなのかしら?」

 

 過去一度だけかけたことがあります。友人のペットだった犬に対してです。占い結果は良好だったものの、その次の日の朝、なぜか犬は死んでいました。死因は病死らしいのですが、特に前兆もなく発症するタイプの物でも即死性のあるタイプの病気ではなかったので、おかしいと獣医は語っていました。それ以来、レミリアは動物に対して占いをしていません。

 

「ふーん、じゃあそのことも正直に話したことにしましょう。私の占いと動物は相性良くないのかもねって少し悲しそうに笑いながらね」

 

 ああ、レミリアさん、《目星》どうぞ。

 

『え?』

 

 レミリア《目星》25 → 66 失敗

 

 特になにも気が付きませんでした。

 

『なにかしら、今の判定。《アイデア》で代用できないかしら?』

 

 《アイデア》ですか。うーん。

 

『あ、待って頂戴GM。今の判定って、誰かの雰囲気が変わったのがわかるとかかしら? なら《聞き耳》でどう?』

 

 うーん……うん、いいでしょう。《聞き耳》でどうぞ。

 

 レミリア《聞き耳》63 → 29 成功

 

 ではレミリアはそのエピソードをしたときにPC3……三尋木咏が僅かに反応したのに気が付きました。

 

『《心理学》……いえ、今回は《精神分析》も併用して判定するわ。そっちなら確実な情報がくるでしょう?』

 

 いいでしょう。《精神分析》成功で《心理学》の結果も公開します。

 

 レミリア《精神分析》62 → 07 成功

 

『よし、じゃあ《心理学》を振るわね』

 

 レミリア《心理学》66 → 45 成功

 

 それではあなたは、三尋木咏が自分に対してどこか恐怖を抱いていると思いました。《精神分析》成功特典として、憎悪などの自分自身の対しての負の感情からくるものではない、ということもわかります。

 

『つまり私に対して何も恨みはないけど、警戒しているってことね。まったく、どんな秘密を持っているのかしら。それとも私が嘘を吐いているって思っているのかしら? どちらにしても、彼女はまだグレーゾーンだし、意識しないといけないわね。あ、そういえばなんだけど、私この時間内で全員と喋ったことになるの?』

 

 そうですね。能力の条件はクリアしています。誰が死んでも夢の中で話せますよ。

 

『そんなことはないといいんだけど……でも一応目標は達成ね。何か事件が起こる前に話せてよかったわ』

 

 さて、レミリアの話は終わりましたけど、この機会にほかに喋っておきたいPCはいます? ちなみにNPCからはあなた達に話しかけませんよ。

 

「俺は特にない」

 

「あたしも特にはいないかねい」

 

「私もいません」

 

「うーん……私もいいかしらね」

 

「俺もいないな」

 

 ではシーン進めましょう。昼食と簡単な親睦会が終わって今はお昼の3時です。6時の夕食まで少し時間がありますね。村の散策なり、なんなり好きに1回まで行動なさって結構ですよ。どうしますか?

 

「村の散策できる場所を教えてほしいね」

 

 家が数軒、あなたたちが泊まる民宿、今あなたたちがいる中央会館、つり橋、森、崖、墓地の7ヵ所です。

 

「私は民宿に向かいましょう。疲れちゃったわ。咲夜、あなたも付いてきなさい。私は《目星》初期値だから一緒に探索するわよ」

 

「仰せのままに」

 

「俺はつり橋を見に行こう」

 

「私はここに残って見学をしようかねい。中央会館ってことは何か展示してんだろ? 興味があるねい」

 

「じゃあ俺は森に行ってみよう。どんな生物や植物があるのかが気になる」

 

 みんなばらけるんですか。まぁ、いいですけれどね。誰からシーン進めますか?

 

「じゃあ私からでいいかい? PLだってここにあるものの情報くらいほしいだろ?」

 

「確かに欲しいわね。それを知っているだけでもロールプレイの幅が広がった上に、注目できるところが増えるしね」

 

「俺も知りたいな」

 

「俺も特に異議はないし、いいんじゃないかな」

 

 では咏ちゃんのシーンから行きましょうか。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.4

 じゃあ咏ちゃん、中央会館を探索するんでしたね。

 

「そうだねい。とりあえず見取り図みたいなのはないかい?」

 

 見取り図はありませんが、どこにどの部屋があるかは簡単な構造の建物なのですぐにわかります。

 

「お、そうなのかい? じゃあここの構造を簡単に教えてくれ」

 

 まず中央会館がどんな建物なのかを簡潔に説明します。

 大きいだけで外にある他の住居と同じような古い日本家屋の1階建てです。近代的なライフラインはないに等しく、電気は勿論水道すらありません。格子の窓と蝋燭で光を確保しているみたいです。

 次にこの中央会館の施設構造について説明します。施設内は土足で出入りができます。入って右側には数個の椅子があるのみで何もありません。左側に木造の扉が6つ、それぞれ間隔を空けてありますが、まず奥にある2つは間隔と、扉に男女マークがそれぞれ書かれているところから察するにトイレなのでしょう。よって部屋は4個あることがわかります。

 今咏ちゃんたちが食事していた部屋は真ん中、3番目の扉の向こうの部屋でした。

 

「まず建物全体に《目星》を使うかねい。なんかおかしいところとか、特徴的なところがないかを見つけたい」

 

 咏 《目星》65 → 93 失敗

 

 普通の日本家屋だなぁって思うことでしょう。違和感は特に覚えませんでした。

 

「ちぇ、しょうがないか。とりあえず外に出て、一番入り口に近い部屋から調べてみよう。ドアはどんな感じだい? 多分ドアノブなんてない木製の引き戸かなんかだろ?」

 

 ですね。

 

「じゃあ部屋に入るとするか。ノックなんてしない。普通に入るぞ」

 

 では1番の部屋に咏ちゃんは入りました。1番の部屋は畳の間です。そこそこ広く真ん中には囲炉裏が、部屋の端には小さい下駄箱、奥には1枚の掛け軸が飾っています。

 その部屋には村長の村岡が囲炉裏を囲うようにして座布団を並べていました。

 

「おや、どうしました? ええと、あなたは確か三尋木さんでしたかな」

 

「対応する前にGM、部屋の様子を教えな。ノックもなしにいきなり入ってきたんだ。隠せるものも隠せまい? 時間的に《目星》は無理だろうから使わない程度に教えてくれ」

 

 特に変な動きを村長はしていませんし、妙な道具もありません。普通に準備をしていたようですね。

 

「ふーん、ならいいか。対応しよう。へぇ、私の名前知ってるんだねい? 私は名前を言った覚えはないんだけど」

 

「ツアー参加者の皆さんの顔と名前は、ここに到着なさったときに内藤さんからきちんと伝わっていますからな」

 

「真面目なこったねい。この様子じゃあ、ここで夕食があるみたいだねい」

 

「ええ。とっておきの鍋料理をご用意しておりますぞ」

 

「それは楽しみだ。期待しているよい。ところでこのツアーは今回で何回目なんだい? 初めてにしては慣れているような感じだったから気になったんだ」

 

「これで2回目でございますじゃ。前回も好評で終わりましたから、今回も気合を入れて臨んでいるのですじゃ」

 

「そうかい。ところでどうしてこのツアーを企画したんだい? 言っちゃあなんだが、ツアー会社がちょっとした伝説のある程度のこんな辺鄙な村でやるようなことじゃああんめい?」

 

「ああ、理由は簡単ですじゃ。お金が欲しかったんじゃ。村の経営と維持のためにの。だからこっちから無理を言って企画してもらったんじゃ」

 

「なるほどねい。悪いねい、不躾なこと聞いちまって」

 

「ははは、こんなことでは怒りませぬぞ。訊かれてもしょうがないことですからな」

 

「そいつは良かった。それじゃあ準備を頑張ってねい。私はここで見学しているから、まぁ、手伝えることがあったら手伝うから、声をかけてくれよ」

 

「お気遣い感謝しますじゃ」

 

「というわけで部屋から出る。んじゃあ次は隣の部屋に行くかねい」

 

 2番の部屋ですね。2番の部屋も畳の間です。1番と特に違うところはありません。……あ、掛け軸は違うかもですが。

 

「ふーん。まぁいいや。2番の部屋から出る。3番の部屋は食事してた部屋だよねい? じゃあ4番の部屋に向かおう」

 

 4番の部屋ですね。4番の部屋は3番の部屋に比べたら狭いですが、1番、2番の部屋よりは広い部屋です。本棚が並んでおり、古い本や資料書、それから何やら古めかしいものが陳列していることからここはこの村の資料がある資料室のようです。

 ホラー作家の美濃零が資料の一冊を手に取って立ち読みしていますね。

 

「先客がいたか。というかここは資料室みたいだねい。とりあえず近くにある資料を手に取って読んでみる」

 

 まぁ大した情報はないから適当に処理しますよ? 村の歴史などが書かれていました。

 

「内容はほとんど意味なしかい。じゃあ何冊かパラパラ捲った後に《目星》を使おう」

 

 半分の値で判定してください。

 

 咏 《目星》65/2 → 20 成功

 

 では咏ちゃんは、いくつか捲って見た資料に違和感を覚えます。書いてある内容などは古めかしいのですが、資料自体は汚れてこそいますがそこまで古そうに見えません。

 

「ふーん、まあいいや。美濃に話しかけよう。よぉ、あんたもここの資料を見ていたのか?」

 

「えっと、あなたは……」

 

「三尋木だ。あんたは確か美濃さんだったな」

 

「ええ。三尋木さんもこの村の資料にご興味が?」

 

「ああ。どうだい? 面白いものとかあったかい?」

 

「まだ少ししか読んでいないからなんともね」

 

「そうかい。ところでよ、ここの資料、ちょっとおかしくないかい?」

 

「え?」

 

「なんていうか、言うほど古いもんに見えないっていうか、わざとらしいっつうんかな。あんたはどう思う?」

 

 おっと、そんな風に訊きますか。ではその言葉を訊いた美濃は怪訝そうに顔を顰めます。

 

「そうですか?……すいません、私にはそうは見えなくて」

 

「《心理学》だ。《心理学》で美濃の反応の真意を探るぜ」

 

 咏 《心理学》75 → 63 成功

 

 一瞬ぎくりと、気が付かれちゃいけないことに気が付かれてしまったような反応をしたと思いました。

 

「ふーん、まぁいいか。そうかい。まぁ私は素人だからな、なんとなくそう思っただけだ。あんた作家なんだろ? だったらいろんな本を読んだことあるだろうし、あんたが言うなら違いないだろ。気にしないでくれ」

 

「そうですか……」

 

 と言って美濃は視線を資料書に移しました。どうやら小説のネタになりそうなことがないかを探すのに戻ったみたいですね。

 

「邪魔したな。私は資料室から出る。これで私の行動を終わりにする」

 

 はーい。じゃあ次は誰行きましょうか。

 

「じゃあ私と咲夜でいいかしら? みんな自分たちがどんな宿に泊まるのか知りたいでしょ?」

 

 それじゃあレミリアと咲夜のシーン行きましょうか。

 中央会館から少し歩いたところに、『大神旅館』と書いてある看板が掲げられている建物がありました。建物は中央会館と同じくらいの大きさの日本家屋です。

 

「《目星》がいらない程度に……は咏が掴んでいる情報になっちゃうわね」

 

「では《目星》ですね。《目星》を振ります」

 

 咲夜 《目星》45 → 82 失敗

 

「申し訳ございません、お嬢様」

 

「しょうがないわね。重い腰を上げましょうか」

 

 レミリア《目星》25 → 92 失敗

 

「私たちダイスの出目高いわね。普通に旅館の中に入りましょう」

 

「旅館の中はどうなっていますか。入り口付近からわかることを教えてください」

 

 まず目に入るのは受け付け台です。そこには1人、若い女将さんが立っています。右側には靴入れになっていてスリッパも入っています。左側は廊下になっていてそのまま。

 

「女将さんはどんな方かしら?」

 

 和服を着た20代の女性です。あととても美形です。具体的には《APP》16。

 

「今日のセッション美形だらけですね。GMの趣味ですか?」

 

 あー……メタなんですけど、そういう設定のシナリオなんです。

 

「なるほど。とりあえず女将さんに声をかけましょう。こんにちは、ホラーツアー客のレミリア・スカーレットです」

 

「その従者の十六夜咲夜です」

 

「はい、伺っております。ではスカーレット様は2番のお部屋、十六夜様は3番のお部屋へどうぞ」

 

「む、私はお嬢様の従者です。お嬢様と同じ部屋で結構でございます」

 

「いえ、そうおっしゃられましても」

 

 女将さんは困っています。

 

「いいのよ、咲夜。察しましょう。多分部屋が狭いから2人も入らないのよ。大丈夫よ。私だってもう30過ぎたんだし、隣なだけで充分よ」

 

「そうですか、では大人しく引き下がります」

 

「ご理解感謝します。どうぞ右手側の通路をお進みください」

 

「わかったわ。とりあえず靴を脱いでスリッパに履き替えるわ」

 

「私もそうします。部屋に向かいましょう」

 

 ではあなたたちは普通に部屋に辿り着きました。部屋は全部で12部屋。左側と右側に6部屋ずつあります。部屋の扉の近くにはそれぞれ漢数字が振られています。左側が1から6、右側が7から12の部屋です。突き当りにはお風呂がありますね。男湯、女湯で別れています。混浴はないです。トイレは大浴場の入ってすぐのところにあります。

 

「それぞれ部屋に入りましょう」

 

「では少し別れましょうか。咲夜、あなたの部屋から調べてみて頂戴」

 

「了解しました。さてGM、私は3番の部屋に入りました。どんな部屋でございましょうか」

 

 8畳程度の畳の部屋です。真ん中に小さな机があり、部屋の隅には座布団が6枚置いてあります。部屋の隅には小さな暖炉があり、その上には蝋燭と湯飲み、それから茶葉の入った筒がいくつか置いてあります。暖炉の隣には薪が積み上げられており、向かい側には押入れがあります。

 

「押入れの中を確認します」

 

 中には1人分の敷布団と掛布団、それから枕など寝具が入っています。

 

「特に怪しそうな感じはないですね。押入れ以外に収納はありますか?」

 

 ありません。

 

「暖炉の中を覗き込んでみます」

 

 特に何も入っていないです。季節も季節ですからね、薪とかも一切入っていません。

 

「何もないみたいですね。では部屋全体に《目星》です」

 

 咲夜 《目星》45 → 82 失敗

 

 何にも見つかりません。

 

「また82ですか……ダメですね。大きな荷物は置いて最低限のものと貴重品だけ持ってお嬢様の部屋に行きましょう。……あれ? そういえば鍵はないんですか?」

 

 ありません。

 

「防犯対策がなっていませんね。色々心配なのですが……まぁ諦めましょう」

 

「じゃあ次は私ね。部屋は……咲夜の部屋と同じかしら?」

 

 はい。というか部屋は全部これですからもう説明しません。

 

「私も《目星》よ」

 

 レミリア《目星》25 → 90 失敗

 

「どうして私たちは《目星》に成功しないのかしらね」

 

「マックス80まで上げていても成功しないなんて……」

 

 2人ともまともに《目星》取りませんからね。

 

「私は取っていますよ?」

 

 それでも40程度じゃないですか毎回。ロールプレイとかキャラ作りのために技能振っているばっかりに《目星》を取る枠がないのは納得できますが。

 

「あんたは毎回50前後だもんね。技能全部」

 

 50パーセントあれば何でもできるが私の持論です。実際それで結構乗り切っていますしね。

 

「私たちはロールプレイで乗り切るからいいのよ。まぁでも多分この部屋には何もないでしょう。咲夜と合流しましょう」

 

「私はすでにお嬢様のお部屋の前にいます。ノックをしましょう。コンコンコンコン。お嬢様、お迎えに参りました」

 

「待たせたわね、咲夜。さて何をしましょうか」

 

「とりあえずこの宿にいる人たちの所に向かいませんか? 何人かはもう寛いでいることでしょうし」

 

「そうね。誰がどの部屋に泊まるのかも知っておきたいし、挨拶しに行きましょうか」

 

「ということでGM。私とお嬢様の2人で旅館の部屋巡りをします。1番の部屋から行きましょうか」

 

「順番でいいわ」

 

「では1番の部屋をノックします」

 

 ノック以前に扉が開いています。誰もいないようです。

 

「人がいない部屋は開きっぱなしのようですね。では扉が閉まっている部屋はありますか?」

 

 6番、8番、9番、11番、12番の部屋の扉が閉まっています。

 

「じゃあ6番の部屋から順番に行きましょう」

 

「では6番の扉をノックします。反応はありますか?」

 

 扉の向こうから女性の声で「ど、どうぞ」とどもるような返事がしました。

 

「じゃあ入りましょう。失礼するわ」

 

「お嬢様に続いて入ります」

 

 6番の部屋には大人しそうな雰囲気の少女がいました。ツアー客NPC1、水戸夏希です。

 水戸は机の上に雑誌を何冊が取り出している。手に開いた状態の雑誌を持っていることから、それを読んでいたみたいですね。

 

「え、えっと……レミリアさんと十六夜さん。どうしましたか?」

 

「ただの挨拶回りよ水戸さん。個人で挨拶はしていなかったからね」

 

「そうですか……。2日間、よろしくお願いします」

 

「ええ、よろしくね。それじゃあまたね」

 

「私からも、よろしくお願いします」

 

「はい、また……」

 

「GM、6番の部屋から出るわ。特に怪しい雰囲気はなかったわね。次は6番に一番近い部屋に行くわ」

 

 12番の部屋が近いです。

 

「では12番ですね。ノックをしましょう」

 

 「はい」と綺麗な声ですぐに反応が返ってきます。ツアーガイドの内藤さんの部屋ですね。

 

「失礼するわ。こんにちは内藤さん」

 

「お世話になっております」

 

「こんにちは。レミリアさんと十六夜さんですね。どうかなさいましたか? 何かご不明な点がございましたか?」

 

「内藤さんの部屋はどうなっているのかしら? 《目星》を振らない範囲でわかることを教えて頂戴」

 

 机の上に急須と緑茶の入った湯飲みが置いてあり、その前に座布団が1枚置いてあったことから休憩していたことがわかります。

 あと部屋が少し暑いです。内藤さんも汗を流しています。

 

「お疲れのところ邪魔してごめんなさいね。ただの挨拶回りよ」

 

「そうだったんですか。大丈夫ですよ、お気遣いなくです」

 

「そう。ところでお茶を飲んでいたのね。冷たいお茶かしら?」

 

「いえ、温かいお茶ですよ。電気のポットがないから暖炉で沸かしていたんです。新鮮だったんですけど暑くて」

 

「ああ、だからこんなにこの部屋だけ暑かったのね」

 

「そうなんですよ。もう暖炉の火は消したので少ししたら常温になるはずなんですけどね」

 

「沸かす水はどこから持ってこられたのですか?」

 

「旅館を出てすぐ左側に行ったところにある井戸からです。桶もそこにありますから自由に借りていいらしいですよ。歩いて3分くらいの所です」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

「邪魔したわね、内藤さん。素晴らしいガイドだったわ。テレビに出たときにうっかりあなたのこと喋っちゃってもいいかしら?」

 

「え、私は普通のことをしていただけなのですが……いいですし、嬉しいんですけど少し照れくさいです」

 

「私が勝手に感謝しているだけよ。それじゃあ、ゆっくりね。邪魔したわ」

 

「はい。また夕食の時にご案内しますね」

 

「12番の部屋から出るわ。いい人ね、内藤さん」

 

「そうですね。では次は11番でしょうか」

 

「そうね。11番の部屋に行きましょう」

 

「ノックします。反応はありますか?」

 

 反応はありません。

 

「ふーん。《聞き耳》を立ててみましょう」

 

「お嬢様、まずは私が。お嬢様の体裁のために」

 

「そうね。じゃあ先に頼むわ」

 

 咲夜 《聞き耳》45 → 96 ファンブル

 

「あ」

 

「あ」

 

 ふぁ、ファンブルですか。うーん……じゃあ扉に耳を翳したら丁度ささくれだったところが耳に刺さったことにしましょう。1点のダメージです。

 

 咲夜 《耐久力》14 → 13

 

「いっ!?」

 

「ど、どうしたの咲夜、耳を抑えて。って血が出ているじゃないの!」

 

「だ、大丈夫です、お嬢様。ちょっとそこのささくれに刺さっただけですから。お気をつけてください」

 

「あなたこそ気を付けなさい。でもそのおっちょこちょいなところも可愛いわ。今度は私が《聞き耳》するわ。ささくれの所は避ける」

 

 レミリア《聞き耳》63 → 99 ファンブル

 

「……え?」

 

「え?」

 

 ま、またファンブルですか……じゃあレミリアさんは咲夜とは違うささくれが耳に刺さってしまいます。1点のダメージです。

 

 レミリア《耐久力》09 → 08

 

「あいったぁい!」

 

「お、お嬢様ぁーっ!」

 

「さ、咲夜……痛いわ。痛かったわよ……」

 

「す、すぐに私のお部屋に! 応急キットがございますから治療を!」

 

「なんだいこいつら」

 

「さっきから《目星》も《聞き耳》も1回も成功してないな。しかもファンブル天丼しているし」

 

「おまえら大丈夫か? 勝手に自爆しているが」

 

「五月蠅いわね。ロールプレイで乗り切るからいいのよ」

 

「とりあえず部屋で治療しましょう。消毒しなければ。病原菌が体の中に入ったら大変です。GM、私はお嬢様に応急手当てします! 応急キットがあるので補正を要求します」

 

 +20で判定どうぞ。

 

 咲夜 《応急手当》50+20 → 46 成功

 

 じゃあレミリアさんの怪我の処置が完了しました。《耐久力》を戻していいですよ。

 

 レミリア《耐久力》08 → 09

 

「あ、ありがとう咲夜。今度は私が咲夜の傷の手当てをしてあげるわ。GM、私も応急キットを使うわ」

 

 レミリア《応急手当》30+20 → 98 ファンブル

 

「え?」

 

「ちょっ!?」

 

 で、では……咲夜は応急処置を受けたのはいいですが、消毒液が染みたガーゼを思いの他強く押し当てられてしまったのでしょう。傷に染み込んでしまって激痛が走ります。1点のダメージです。

 

 咲夜 《耐久力》13 → 12

 

「あだだだだだっ! お、お嬢様! お嬢様! もう結構です! 大丈夫ですからそんなにガーゼを押し当ていだだだだだだっ!」

 

「さ、咲夜ぁーっ!」

 

「酷いねいこれ」

 

「地獄絵図だ」

 

「こいつら今回ダイス腐ってんな」

 

 あー……ファンブルを3回も出してしまったということで探索のことを忘れてしまったことにします。2人のシーンはこれでお終いです。次は誰行きますか?

 

「俺が行こう。つり橋に行くぞ」

 

 了解。じゃあシーンを遊星に移しましょう。どこからにしますか?

 

「つり橋の所からでいい」

 

 わかりました。

 

「つり橋はどんなものだ? 詳しく教えてくれ」

 

 あれ? 最初の方に言いませんでしたっけ?

 

「忘れてしまったんだ。だからここに来た」

 

 なるほど、ちゃんとメモ取ってくださいね。よくあるタイプのものです。丈夫な縄と木の板で出来ています。比較的綺麗で老朽化していないことから、手入れがされていることがわかります。

 

「橋の長さはどれくらいだ?」

 

 5メートルくらいです。

 

「もし落とされてしまったら逃げ場がなくなってしまうな。……橋に対して《目星》してみよう。振って損することは……多分ないだろう」

 

「頼むからファンブル出して落とすようなことはしないでくれよ」

 

 遊星 《目星》55 → 30 成功

 

「よし、成功だ」

 

 では遊星はこの橋が綺麗なのは手入れされているからではなく、最近新しく作られたからだと気が付きました。

 

「……そうか」

 

 ああ、そうです。橋を調べていた遊星くん、《聞き耳》をどうぞ。

 

「む?」

 

 遊星 《聞き耳》56 → 64 失敗

 

 じゃあ特に何も気が付きませんでした。

 

「そうか。とりあえず調べることは出来たからいい。俺のターンはこれで終わりだ」

 

 では白夜のシーン行きましょう。森を調べるんでしたっけ?

 

「ああ。森ってどこにあるんだっけ?」

 

 遊星が向かったつり橋周辺が森になっています。

 

「じゃあ遊星と鉢合わせたってことにして2人で探索してもいいか?」

 

 どうぞ。

 

「あ、会う前に1つ確認させてくれ。村には家畜小屋みたいなところはあったか? 中央会館から出たあたりで見渡してみる。小さい村ならわかるだろう?」

 

 そんな施設はないように見受けられます。

 

「よし、じゃあ森に入ったぞ」

 

「じゃあ帰る途中で白夜に会う。あんたは確か白夜さんだったか」

 

「あんたは遊星さんだったね。どうしたんだい、こんなところで」

 

「つり橋を見に行っていたんだ。気になることがあってな。まぁ俺の気にし過ぎだったみたいだが。あんたこそどうしてこんな森の中に?」

 

「俺は生物学者だからな。この村の生態系や自然を少し見てみたかったのさ。ほら、料理で出された山菜とか、どこに生えているのかなって気になってね。それに肉料理だって出たじゃないか」

 

「ああ、確かにあのステーキは美味しかった。《アイデア》振っていいか、GM」

 

 ……ああ、いいですよ。どうぞ。

 

 遊星 《アイデア》55 → 42 成功

 

「そういえばあの肉、食べたことない味付けと食感だったな。なんの肉だったんだ?」

 

「あんたも気が付いたか。俺も気になってな。村を調べても家畜はなかった。つまりこの自然のどこかに住み着いている生物の肉ということだ。気にならないか?」

 

「村長もこの村で取れた動物を使った料理って言ってたな。なるほど、確かに気になる」

 

「てなわけでさ、俺と一緒に森を散策してみないか? 目的を果たせなくても都会から離れた自然を満喫するだけでもリフレッシュにはなるぜ。あんた公務員なんだろ?」

 

「ああ。職務に追われて疲れていたんだ。ここなら確かに、いい空気が吸えそうだ」

 

 えっと、2人で森を散策するってことでいいですか?

 

「ああ」

 

「俺はそのつもりだ」

 

 では特に何も見つかりません。また森は村へ続く道付近は開けていて見通しがいいですが、人間の手は一切入っていないために深く入ると迷子になってしまう危険性があります。

 

「白夜さん、ここまでにしないか?」

 

「ああ。これ以上は迷っちまうかも知れないからな。にしても、動物1匹も見かけやしない。夜行性なのか?」

 

「だが綺麗な自然だったな」

 

「ま、それだけで儲けもんか。せっかくだし、宿まで一緒に戻らないか? ちょっとしたオカルト話ならできる」

 

「ああ、お願いする」

 

 皆さん探索終了ですね。

 では次回は時間を飛ばして夕食の所から始めていきますよ。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.5

ここからクトゥルフらしくなっていきます。


 はい、では夕方の6時になりました。皆さん勿論中央会館に集まっていますよね。……集まっていますよね?

 

「どんだけ信用無いのよ私たち。居るわよちゃんと。ねえ咲夜」

 

「お嬢様あるところに咲夜ありでございます」

 

「居るぞちゃんと」

 

「私もいるねい」

 

「俺もいるぞ」

 

 ありがとうございます。それでは皆さんは今、中央会館の1番の部屋にいます。他のNPC達もみんないます。

 

「ああ、村長が準備をしていた部屋だねい」

 

 はい。適当に囲炉裏を囲うような感じで座っていてください。並び順とかは特に意味がありませんので。まぁ、イベント的にそれぞれ怪談話に自信のある人が怪談を披露するという企画はありますが、シナリオ的に不要なのですっ飛ばします。

 

「皆さん全員お集りのようで何よりですじゃ。さぁさ、夕食も出来上がっておりますぞ。冷めてしまう前に食べてしまいましょう。そのあとで、この村に伝わる怪談話を披露しましょうぞ」

 

 といった夕食の鍋料理を催促してきます。

 

「お料理の鍋にはどんな食材が入っていますか?」

 

 目に見えるのは鍋の定番ともいえる具材です。違和感は全くありません。香りも普通に美味しそうな鍋料理のものです。

 

「その鍋なんだが、入っているよな? 肉が」

 

 そうですね。海鮮鍋ではなく肉の鍋ですから。

 

「それでは皆さん、いただきましょう。取り分けますぞ」

 

 村長は大振りの丼の中に鍋の具材や野菜を丁寧に均等に分けていきます。食欲を誘いますね。

 

「PL的には全く食欲を誘われないんだが?」

 

「そう? 私はそんなこと気にもせずに食べるわ。お味はいかがかしら、GM」

 

 美味しい鍋だなぁ、と思うことでしょう。

 

「美味しいわ村長。このお料理は誰が作ったのかしら?」

 

「私が丹精込めてお作りしたのですじゃ。喜んでいただいて何よりですじゃ」

 

「あなたが。もしかして、昼食もあなたが作ったのかしら? 味付けの特徴が似ていたからふっとね」

 

「ええ、その通りですじゃ。いかがでしたかな?」

 

「勿論美味しかったわ」

 

「よし、いいバトンだ。私が続けてロールプレイするぜ。私も気にしないで料理を食べるからな。いや、本当美味しいぜ村長さん。ところでこの肉なんだけどよ、一体なんの肉なんだ? 食べたことないからこの村のブランド肉かなにかかい?」

 

「お肉を食べつつ《アイデア》振っていいかしら?」

 

 いいですよ。

 

 レミリア《アイデア》75 → 22 成功

 

「あら、本当ね。食べたことないお肉の味だわ。興味があるわね。これでも高級食材は食べ慣れているから、知らないものは本当に安いものか、マイナーな食材ぐらいだもの。そうよね、咲夜」

 

「当たり前でございます。お嬢様はイギリスの名門スカーレット家のご令嬢。真に美味しいものを召し上がっていただければなりません」

 

「ふふっ。ということでね、私は良いものしか食べていないということなのよ。その私の舌が美味しいと認めているということは、これはさぞ素晴らしいお肉に違いないわ。秘境みたいな村だから市場に出ていないだけで、もし出るなら私も太鼓判を押すわよ。どうかしら? テレビでこの村を紹介してみましょうか」

 

「主従コンビは本当にロールプレイが上手いねい。あそこからここまで持っていくか。じゃあ私がもっと追い込んでやるよ。そりゃあいい。村長、あんた紹介してもらえよ。色々困ってんだろ? って村長の肩を叩きつつ小さい声で村長の耳元で囁く」

 

 うっわ、そこまでするんですか?

 

「よくやったわ咏。もっともっと追い込んでやるわよ。ロールプレイでカバーしつくしてきた私を舐めないでちょうだい。咲夜、あなたも出来るわね?」

 

「この咲夜、お嬢様にどこまでもついていく所存でございます」

 

「よし、行くわよ。あら、どうしたのひそひそ話なんてして。ああ、いいのよ。私は占い師だからね。大体想像つくわ。いいわよ。今度テレビに出たら宣伝してあげるから。咲夜」

 

「はいお嬢様。そうですね、こういうお話はバラエティよりも朝の情報番組の方がよろしいかと。お嬢様が出演しています占いコーナーの手前はいかがでしょうか? それから出演者の楽屋でその話題を出して、大神村のことを皆さんに知っていただきましょう。そこからちょっとずつ他の番組で出していきましょう。楽屋でお話しした方と共演できる番組が出来ましたらフリートークで話題に出していただきましょう。これでお嬢様が大神村の将来について占っていただいたら最高ですね。どんな結果であれ、放送を見た視聴者やテレビ関係者、芸能人の方は興味を持たれることでしょう」

 

「間違いないわね、流石よ咲夜。それで行きましょう。これで村長の様子を探りつくしてやるわ。さぁ、誤魔化すの? それとも乗ってくるの? どうするのかしら村長」

 

 ロールプレイヤーの本気怖いんですけど。ま、まぁ大丈夫です。私だって伊達にあなた達と一緒にクトゥルフやらパラノイアやらをやってきてはいませんよ。対応します。

 村長はいやいやといった感じで笑いながら手を振っています。

 

「そこまでせずとも大丈夫ですじゃ。こんな村、そこまでする必要はございませぬ。なにせこの肉は森の奥で取れる猪のものなのですじゃ」

 

「え? 猪だったの?」

 

「《知識》と《製作(料理)》を併用します!」

 

 認めます。両方成功で情報を開示します。

 

 咲夜 《知識》60 → 11 成功

 咲夜 《製作(料理)》70 → 23 成功

 

 猪の肉という言葉に咲夜は疑問を抱きます。記憶にある猪の肉のどこの部位をどう味付けしてどう調理したらこんな味になるのか、咲夜には思いつきません。

 

「本当ですか? とても猪のお肉だとは思えませんが」

 

「皆さんが今まで食べていらした猪肉がどのようなものであるかはわかりますぬが、この村で取れる猪はこういう味なのじゃ。味付けにもコツがありましてな、秘伝のものなのじゃ」

 

「《心理学》よ。《心理学》で村長の言葉の真意を探るわ。ここ割と重要よ! みんなも振っときなさい!」

 

 ところがどっこい、その判定の前に村長は言葉を続けます。

 

「しかもなかなか取れない貴重なお肉でして、特別な日のために熟成保存してある物ですじゃ。じゃからテレビで紹介していただいても皆さんに提供することなんて出来ませんし、何より私はこの村の伝統を守っていきたいと思っているのですじゃ。気遣いだけでも充分。出来ることなら次回のツアーの参加者を増やしていただける方がありがたいのですじゃ」

 

 ということで村長はあなた達の《心理学》に対して村長自身の《心理学》で対抗します。あなたたちが《心理学》でこれ以上の情報を得たいのであれば、村長との《心理学》対抗ロールを行ったうえで改めて《心理学》で判定を行い成功していただく必要がございます。

 

「かなり重要な情報らしいなこりゃ。《言いくるめ》より難易度が高い判定だぞ。大人しく従っておくかい?」

 

「従いましょう。村長の《心理学》の値はいくつ?」

 

 80パーセントです。ちなみに1回きりの判定です。失敗したら日を跨いでも判定させません。

 

「ちょ……無理じゃない」

 

「私も無理です」

 

「無理だ」

 

「手打ち無し、だねぇ。ご愁傷様だ」

 

「一応、私が行ける。25パーセントだけどな。振るだけ振ってみるぜ」

 

 咏 《心理学》対抗 25 → 66 失敗

 

「ダメだったぜい」

 

 残念ながら皆さんは村長の表情、言葉から、料理に疑問を持ちつつもその言葉に信じてしまいます。変わった猪肉だなぁって思うことでしょう。

 

「ここまでね。上手く誘導できると思ったのだけど普通にいなされちゃったわ。シナリオ終ったらこのお肉の正体教えてね。想像はつくけど」

 

 後にいくらでも。シーン進めますよ?

 とても美味しい夕食を済ませ、鍋が空っぽになったのは夜の7時。村長がこの村に伝わる怪談、人狼伝説について語りだします。えー……説明欲しいですか? ぶっちゃけた話、ただの人狼ゲームの説明をおどろおどろしく語るだけです。村長の話し方が上手いおかげで怪談らしくなっていますが、内容はほとんど変わりません。

 

「じゃあ私は聞かなくていいや」

 

「私もいいわ」

 

「俺もいい」

 

「俺もいいや」

 

「私もそれで構いません、が。役職に関してだけ訊いておきましょう」

 

 ありがとうございます。それからいいことを聞いてくださいました。怪談話の中に出てきた単語のいくつかを解説します。

 人狼。完全な人間に化けることのできる怪物であり、夜な夜な人間を襲います。

 看破の術師。誰が人狼であるかを看破する能力を持った人間です。

 降霊術師。亡くなった人間との交信をすることのできる人間です。

 防衛術師。人狼から唯一人々を救うことのできる力を持つ人間です。……以上でございます。

 

「裏切り者とかはないんだな。普通の人狼以下だな」

 

 村長によりますと、かの人狼ゲームもこれと同じような伝説から作られたゲームであり、人狼と呼ばれる怪物は世界中のどこかに今も存在するのかもしれない。という感じでしまりました。

 

「感想を言おうか。俺は人狼ゲームをやったことはないから、新鮮な話だった。面白かったぞ」

 

「ほっほっほ、ありがとうございますですじゃ。さぁさ、皆さんもご自慢の怪談話がございましたならばご披露してくだされ。今夜は存分に怪談に花咲かせましょうぞ」

 

 という感じで皆さんは10時くらいまで怪談をしました。その後皆さんは民宿へ戻り、お風呂に入って就寝します。時間を一気に進めていきます。

 朝になりました。現在時刻は午前5時です……皆さん、《聞き耳》判定をよろしくお願いします。

 

 遊星  《聞き耳》56 → 29 成功

 レミリア《聞き耳》63 → 39 成功

 咲夜  《聞き耳》45 → 04 クリティカル

 咏   《聞き耳》35 → 02 クリティカル

 白夜  《聞き耳》25 → 68 失敗

 

 あらら。じゃあクリティカルを出した咲夜は1日寝て昨日の怪我が回復したことにしましょう。《耐久力》を元に戻してください。

 

 咲夜 《耐久力》12 → 14

 

 咏は……どうしましょうか。起きたときに寝癖がついてなかったということで。朝の手間が少し省けて良かったですね。

 

「くっそどうでもよかったぜ」

 

「そんなことより《聞き耳》成功だ。どうしたんだ」

 

 そうでしたそうでした。えー、《聞き耳》に成功した皆さんは女性の悲鳴が聞こえて目を覚まします。白夜は気付かないでぐーすか寝ています。

 

「呑気なやつだ。俺は悲鳴のした方へ向かうぞ。どうした!? なにがあったんだ!?」

 

「私は飛び起きて部屋の外に出ます。何事ですか!? お嬢様!? お嬢様!?」

 

「私も起きて部屋から出るわ。なによ、騒々しいわねって感じで目をこすりながらね」

 

「私も部屋から出ようかねい。なんだ? どうしたんだ? すげー声したけどよ」

 

「GM、悲鳴はどこから聞こえた! 誰の声だかわかるか!」

 

 旅館の女将さんのものです。それから12番の部屋の扉が開いています。今の悲鳴を聞きつけたのはあなた達だけではないらしいです。ほかのNPC達も部屋から眼を誘いながら出てきています。というか白夜以外の全員が起きています。

 

「12番……内藤さんの部屋ですね」

 

「そこか! どうしたんだ! と言いながら部屋の中に入るぞ!」

 

「「「遊星(さん)に続いて部屋に入(るわ、ります、るぜ)」」」

 

 その部屋、入ってすぐのところに女将さんはへたり込んでいました。腰が抜けた様子で土間に膝をつき、震える指を12番の部屋の真ん中に向けています。

 その指の先にあった色は白と赤でした。

 飾り気のない白い布団は皆さんの部屋にあった布団と同じ物でしたが、そこには真っ赤な染みが乱雑に飛び散っていました。

 その布団で眠る女性は女将の悲鳴に動じずに眠り続けていました。布団と同じくらいまで肌を真っ白にし、腹部から赤いものを流した、変わり果てた姿で……。

 バスガイドの内藤さんの無残な姿を目撃した探索者の皆さん、0/1D6の《SAN》チェックでございます。クトゥルフらしくなってきましたね。

 

 遊星  《SAN》60 → 71 失敗

 レミリア《SAN》55 → 63 失敗

 咲夜  《SAN》45 → 69 失敗

 咏   《SAN》50 → 58 失敗

 

 ぜ、全員失敗ですか……。

 

「(コロコロ)……2だ」

 

「(コロコロ)……1よ」

 

「(コロコロ)……1です」

 

「(コロコロ)……やっば、5だ」

 

 あらあらまあまあ。では5点以上減少した咏ちゃん、《アイデア》をどうぞ。

 

 咏 《アイデア》65 → 80 失敗

 

「よし、一時的狂気は回避だな。お、おい……これって……うっぷ。口を押えて部屋から出るぜ」

 

「これ……もしかしなくても、内藤さん、その……」

 

「お嬢様、あまり見てはなりません。それから私のそばから離れぬように」

 

「全員動くな! この部屋にもこれ以上入るな! と大声を上げて内藤さんのもとに向かう。首で脈を測るぞ。どうだ、GM」

 

 脈はありません。すでに亡くなっています。

 

「遊星さん、内藤さんは……」

 

「残念だが亡くなっている。俺は寝間着からアレを取り出そう。俺はこういう者だ、と言いながら警察手帳を見せる」

 

「! け、けい……警察……あなた警察官だったの?」

 

「ああ、公務員と誤魔化していたがこうなってしまった以上、隠す必要がなくなった。すまないがここは俺の指示に従ってもらうぞ」

 

「……そうね。あなたに従うわ。何をすればいいかしら? 手伝えることがあれば手伝うわよ」

 

「そうか。じゃあ今すぐ村長の所に行ってこのことを知らせてくれ」

 

「わかったわ。咲夜、向かうわよ」

 

「お供します、お嬢様」

 

「GM、内藤さんはどんな死に方をしている! 《SAN》チェック覚悟で死体を見るぞ!」

 

 内藤さんの腹部に何かに噛みつかれたような、巨大な歯形がありました。

 

「その傷を詳しく見る。《目星》で判定だ」

 

 あ、《目星》でなく《アイデア》で判定をお願いします。

 

 遊星 《アイデア》55 → 31 成功

 

 では遊星はこの噛み傷は致命傷でないことに気が付きました。確かに大きな傷でしたが、あまり深くは噛まれていませんし、抵抗したような跡がないことから一撃で何も抵抗もないままに内藤さんは殺害されたと思うことでしょう。それを踏まえた上で《目星》をどうぞ。

 

 遊星 《目星》55 → 22 成功

 

 それでは遊星はこの噛み傷に上手く隠れてこそいますが、鋭利な刃物で刺されたような刺し傷が胸にあることに気が付きました。その傷は心臓を一撃で仕留めた後背中まで貫通しており、相当長い刃物で刺されたことがわかるでしょう。凶器は見つからないことから、犯人が持ち去っていったのでしょう。

 

「みんな聞いてくれ。これは殺人事件だ。そして犯人はおそらくまだこの村に潜伏している可能性がある。一箇所に纏まって単独行動は控えるように。……ん? 1人少ないな……白夜さんがいない。まさか……! みんなはこの部屋から動かないように! ただし現場には入るな! 保存しないといけないからな! 俺は白夜さんの部屋に行ってくる! もしかしたら彼も……! ということで俺は白夜の部屋に向かうぞ!」

 

「廊下に出ていた私が合流する。部屋から出てきた遊星を呼び止める。お、おい遊星さん。その……内藤さんは」

 

「亡くなっている。それよりも白夜さんがいないんだ。もしかしたら彼も殺されている可能性がある。今から確かめに行こうとしていたんだ」

 

「……ふぅ、わかった。私も行くよ。1人よか2人の方がいいだろ? それにこれでも喧嘩には強いぜ?」

 

「…………わかった。行こう!」

 

 白夜の部屋は5番の部屋です。12番の部屋の斜め前の部屋ですね。

 

「引き戸を乱暴に開いて部屋の中に入る!」

 

 白夜は普通に寝ていました。生きています。

 

「良かった。白夜さん、白夜さん、起きてください! と体を揺する!」

 

「じゃあ起きようか。んあ? ふぁーあ、あ? なんだ遊星さんか。どうした、こんな朝っぱらから」

 

「呑気なことを言っている場合じゃない。落ち着いてよく聞け。ツアーガイドの内藤さんが部屋で何者かに殺害されている」

 

「……なんだって?」

 

「ここに来たのはあんたの安否確認のためだ。無事でよかったよ。早速で悪いが遺体には不審な点がある。生物学者のあんたの意見も聞きたい。辛いだろうが一度、内藤さんの遺体を見てくれないか?」

 

「俺には医学的知識はないぜ?」

 

「詳しい検死はまだだが遺体と現場の状況からして大体のことはわかった。言ったろう? 不審な点があるって。それをあんたに見てほしいんだ」

 

「ふーん。わかった。俺にできることなら協力しよう」

 

「感謝する。じゃあついて来てくれ」

 

 えっと、遊星たちは再び12番の部屋に戻るということでよろしいでしょうか?

 

「ああ」

 

 それではそのタイミングで村長を連れたレミリアと咲夜が戻ってきました。

 

「連れてきたわよ遊星さん!」

 

「な、内藤さんがなくなったと聞いて、何が起こったのじゃ!?」

 

「詳しい状況は部屋を見てからにしてくれ! 行くぞ!」

 

 それでは内藤さんの遺体を直視した白夜、遊星からの事前情報を考慮して0/1の《SAN》チェックです。

 

 白夜 《SAN》41 → 33 成功

 

「こいつは……で、どこだ。不審な点って」

 

「この歯形だ。とても大きいだろう?」

 

「……ああ。まさか、これが致命傷か?」

 

「いや、これじゃあない。上手く隠れているが、長い刃物で付けられた刺し傷がある。胸を一突き。これが致命傷だ。この歯形はおそらく、犯人が内藤さんを殺害した後に付けたものだ。あんたに訊きたいのは、この歯形がなんの歯形かだ。何かの生物のものだとは思うが、俺にはわからない」

 

「なるほどな。わかった。《生物学》で判定するぜ」

 

 白夜 《生物学》80 → 55 成功

 

 それでは白夜はこの噛み傷が大型の犬のような生物によってつけられたものが特徴から推測できますが、これほど大きな口を持つ犬種の動物を知りません。未知の生物の存在をこの歯形から予見した白夜、0/1の《SAN》チェックです。

 

 白夜 《SAN》41 → 41 成功

 

「こいつは犬か狼のものだな」

 

「犬か狼だと?」

 

「ああ。歯形が似ている。……だがこりゃあ、相当大きい奴だな。もののけ姫なんかに出てくる山犬クラスだ。とても現実的なものじゃあない」

 

「おいおい、冗談はやめてくれよ。そんなオカルトありえるかいって」

 

「俺だって信じたくはないさ。だがこの傷がそれを証明している。何かのトラップのものかとも思ったが、これは明らかに生物のものだ。生物学者の俺が言うんだから間違いないよ。まぁ俺自身もにわかに信じがたいことだけどね」

 

 とそこまであなたたちが話していたところで、村長の村岡がガクガクと震えながら叫びます。

 

「ま、まさか……そんな……で、伝説じゃ……伝説の人狼が現れたんじゃぁっ!」

 

「村長、落ち着きなさい! そんなものいないわ! 《精神分析》よ!」

 

 レミリア《精神分析》62 → 52 成功

 

 効果的なレミリアの《精神分析》ですが、それでも村長はガクガクと震えるばかりです。

 

「あらら、これはマズいわね」

 

「お嬢様下がってください。ここまで動揺した人間は何をしでかすかわかりませんので。お嬢様を守れるように立ちます」

 

「俺も村長のそばに行こう。村長! しっかりするんだ! 今は警察に連絡をするのが先決なんだ! 電話は、電話はこの村にないのか? 衛星電話のようなものだったら使えるんだ。それはないのか!」

 

「ご、ございませぬ……」

 

「それじゃあ迎えのバスが来るのを待つしかないな。今日でこの村を離れる予定だから、少なくとも日没までにはバスが来るはずだ。それまで全員固まって行動するように! 絶対に単独行動はとるな! いいな!」

 

「私は遊星さんに賛同するわ。そうね。まさか私の占いの結果がこんな形で実現するなんて思わなかったわ。残念だけど、こうなってしまっては、私は咲夜以外の全員を信用できないわ。まぁ、警察官の遊星さんは咲夜に及ばないけど一応信用できるけどね。多分みんな、そうでしょう?」

 

「だな。私は正直誰も信じていないぜ。だからこそ全員固まり合うのが得策だろ。全員で全員を監視し合うんだ。そうすりゃあもしこの中に犯人がいるとしても動けないだろうし、ここに犯人がいなくて潜伏しているとしても襲撃は出来まい」

 

「私はお嬢様の意見についていくのみです」

 

「だな。それが一番だ。俺も遊星さんの意見に乗るよ」

 

 えー、PLの皆さんはそういう結論に達したみたいですが、村長は首を勢い良く振ります。

 

「ダメじゃダメじゃ! そんな生ぬるい方法じゃあこの身が危ないんじゃ! 一刻も早く人狼を! 人狼を見つけ出さなくちゃいけないんじゃ!」

 

 その言葉を聞いてNPC達はざわつきます。人狼というワードに反応したみたいです。

 

「村長! この場を混乱させないでくれ。そんな伝説、あるわけないだろう!」

 

 遊星がそう村長に怒鳴りかけますと、村長は今までの動揺はどこへやら。真剣な顔立ちでギンッと遊星を見ます。

 

「昨日の怪談話では隠しておったが……実は、昨日話した伝説は本当にあった出来事なんですじゃ」

 

「どういうことかしら?」

 

「待て、話が長くなりそうだ。いつまでもここにいてもしょうがない。中央会館に行こう。そこで話を聞こうじゃないか。今はみんな、昨日まで話していた人間が亡くなって動揺しているはずだ。中央会館に着くまでなんとか心を落ち着かせて、話を聞こう。《説得》で判定だ」

 

 遊星 《説得》58 → 25 成功

 

 では遊星のその鶴の一声でNPC達の混乱も何とか収まりました。遊星の言葉に従ってくれそうです。他のPCの皆さんもよろしいですか?

 

「「「「大丈夫(よ、です、だ)」」」」

 

 結構。ではあなたたちは12番の部屋から出て中央会館に向かいました。

 

 

 

 

     ――To be continued…




このセッションが終わり次第【ある学校の階段の怪談】を台本形式から今のキャラ形式にリメイクする予定です。

感想お待ちしています。


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Part.6

 さて、中央会館に到着しました。

 

「あ、ちょっと待ってGM。移動前に荷物を纏めてきてもいいかしら? さすがに寝巻のまま移動なんてしたくないし、早く帰りたいしねえ」

 

 ああ、そうですね。では皆さんは自分の荷物はちゃんと全部持ってきたことにしましょう。さて、話を戻します。

 あなた達は中央会館にいます。全員です。今、この村にいる人間全員が中央会館の3番の部屋、昨日あなたたちが昼食をとった部屋に集められています。といってもツアー参加者11人と村長、そして旅館の女将さんだけですが。

 

「村長に問い詰めよう。おい村長、話を聞く前に1つ確認しないといけないことがある。他の村人たちはどうした。まさかあんたと女将さんだけの村ってことはないだろう」

 

「他のものは出払っているのですじゃ。前回のツアーに行儀の悪いお客様がおっての。それで村の者たちは外からの観光客が信用できなくて、ツアー中は町に出るようにしたんじゃ。じゃから私と女将以外に村人はいないのですじゃ」

 

「……そうか。ならいい」

 

 では皆さんが部屋の椅子に座ったところで村長が本題を切り出します。

 

「昨日お話しした怪談、人狼伝説は、この村に古くから伝わる伝説。……歴史に埋もれてしまっていましたが、紛れもない、事実なのですじゃ」

 

「……それが事実だとして、だ。具体的にどうするつもりだ。まさか怪談通りの儀式とやらをするつもりじゃあるまい?」

 

「おいおい、リアル鬼ごっこならぬリアル人狼ごっこかい? 馬鹿馬鹿しいねい?」

 

「じゃがこうして犠牲者が出てきてしまった以上、人狼がいるのは間違いない。生き残るためには仕方ないのじゃ。処刑の儀を執り行うしかありますまい」

 

「ふざけるな! よくも警察官の俺の前でそんなことが言えたものだ!」

 

「でもそうするしか方法がないのじゃ!」

 

 えー、遊星と村長がそのような言い争いをしていますと、バンッと机を叩いて1人のNPCが立ち上がりました。NPC6、大賀美穂です。彼女の様子は……《心理学》を振るまでもありませんね。心を取り乱しまくっています。具体的には《SAN》値が5くらい減ってパニックに陥っています。

 

「冗談じゃないわ! 内藤さんが亡くなって、伝説が本当で、人狼は実在して、加えて殺し合いですって!? 狂ってる! 狂ってるわ! 付き合ってられないわ! 私は村から出るわ!」

 

 と言って飛び出していってしまいました。

 

「死亡フラグをバリバリまき散らして出て行っただと!? いけない! 単独行動をとるな! 俺は追いかけるぞ!」

 

「私も付き合うぜ!」

 

「俺も行こう!」

 

「じゃあ私と咲夜で残ったNPC達の監視をしておくわ」

 

 えっと、美穂を追いかけるのは遊星と咏ちゃんと白夜の3人ですね? ではあなたたちは部屋から飛び出した彼女の後を追います。彼女が入口に一番近いところに座っていたこと、そして突然の出来事に反応が遅れたあなたたちは、どうしても彼女と距離が出てしまいます。が、決して追いつけない距離ではありません。

 美穂が中央会館から出ると、森へと続く道の方に行きます。その道の先にはつり橋があります。

 

「本当にこの村から出るつもりか!? というか森は危険だ! 入るな! と彼女に呼び掛けてみるが」

 

 そんな忠告聞きません。彼女は森の中をどんどん進んでいきます。どうしますか?

 

「「「追いかける」」」

 

 わかりました。それではあなたたちが森に入った瞬間、美穂の悲鳴が聞こえてきます。

 

「! 急ぐぞ!」

 

「どうした、なにがあった! と叫びながら悲鳴が聞こえた方に走る!」

 

「嫌な予感しかしないねい! 死ぬんじゃないよい!」

 

 あなたたち3人が悲鳴の聞こえた方に走ると、そこには美穂がいました。つり橋の前でへたり込んでいます。

 

「大丈夫か! と彼女の体を抱く!」

 

「あ、あ……は、橋……橋が……」

 

「橋はどうなっているGM!」

 

 つり橋が落ちてしまっています。ええ、もう完全に。

 

「なにっ!? つり橋を調べるぞ! ロープの所はどうなっている! 昨日まではちゃんと固定されていたろう!」

 

 ロープが固く結ばれていたところがズタズタに切り刻まれています。鋭利な刃物で切られたみたいです。

 

「《生物学》で判定するぞ。こうなっているのが想像できたからついてきたんだ」

 

 白夜 《生物学》80 → 39 成功

 

 では白夜は、これは刃物というよりも動物が爪でひっかいたような傷だということに気が付きました。

 

「こりゃあ、村長の言うことも嘘じゃないかもしれないぜ。これ、爪痕だ。動物のな。村長の言う、人狼ってやつが落としたんだろうぜ。……俺たちをこの村から逃がさないためにな」

 

 はい、この事実を知った皆さん、《SAN》チェックのお時間です。0/1でどうぞ。

 

 遊星 《SAN》58 → 29 成功

 咏  《SAN》45 → 35 成功

 白夜 《SAN》41 → 03 クリティカル

 

 クリティカルですか……じゃあ次の判定に+10で判定してどうぞ。

 

「とりあえずこれ以上ここにいるのは危険だ。中央会館に向かおう」

 

「私が大賀さんを背負っていこうかねい。ちっこいけど力持ちだからな。軽い軽い」

 

「じゃあ俺と遊星さんが護衛だな。俺だってそこそこ強いんだぜ」

 

 特に何事もなく、あなた達は中央会館まで戻って来られました。

 

「つり橋のことをみんなに話す。みんな、落ち着いて聞いてくれ。……この村と外を繋ぐつり橋が落ちていた。どうやら俺たちはこの村に閉じ込められてしまったようだ」

 

「あらあら……村長さん。あのつり橋以外にこの村から出る手段はあるのかしら?」

 

「いえ、ございませんのですじゃ。あのつり橋だけがこの村のライフラインじゃというのに……ところで、そのつり橋はどうして……まさか! いや、人狼が落としたに違いない! 爪か何かで引き裂かれていたのではないかの!?」

 

「《心理学》80の村長に嘘なんか吐けねえよなぁ、素直に話すとしようか。ああ、何かの生物による爪痕が残っていたよ。人狼かどうかは知らないけどねぇ。あんなのいくらでも偽装は出来るし」

 

「いいや、人狼の仕業に違いありませぬぞ! やはり処刑の儀を……」

 

「なんですぐにその考えに落ち着くんだ。迎えのバスが来たら事情を説明して脱出すればいいだけの話だ。村長、迎えのバスは何時に来る予定になっている」

 

「そ、それは……」

 

「おっと、知らないなんて言わせないわよ? あなた責任者なんでしょ? だったら今日の予定の概要を知っているのは当然よね? 内藤さんが死んじゃった今、このツアーの日程を知っているのはあなただけなのよ。さぁ教えなさい」

 

「じゅ、11時に出立の予定になっていますのですじゃ。じゃから10時半にはバスは来るはずですじゃ」

 

「それなら話は早いですね。つり橋前で何人か待機してバスが来るのを待ちましょう。バスが来たら事情を説明して、レスキュー隊が来るのを待つ。それでよろしいのでは?」

 

「そうね。咲夜の言うとおりだわ」

 

 ではあなたたちはバスが来るまで待つ、と。つり橋で待機するのは誰ですか?

 

「俺はここで見張りをするぜ」

 

「私も中央会館で待機するわ」

 

「お嬢様と行動を共にします」

 

「俺はつり橋に行く。事情を説明しないといけないからな」

 

「だねい。私も付き合うぜ。腕っ節には自信があんだ」

 

 では遊星と咏ちゃんがつり橋で待機、レミリアと咲夜、白夜は中央会館で待機ですね。それではNPC3の狩生堂とNPC5の木場研二もつり橋組と同行します。時間を進めます。

 えー、ただいま時刻は10時半です。バスはいまだにやってきません。不安に駆られるあなた達。いやな予感は的中してしまいます。時間が経過し11時になっても、11時半になっても、12時を過ぎてもバスはやってきません。

 

「どうなってるんだ……どうして……」

 

 どうしますか? もうちょっと待ってみますか?

 

「……遊星さん、こりゃあ期待しない方がいいぜ。どういうことか迎えのバスが来ないときたか。私たち、本当にこの村から出られないみたいだぜ」

 

「……そう、みたいだな。中央会館に戻ろう。面倒だからこの説明をしたってことでいいか?」

 

 どうぞ。

 

「そ、そんな。バスが来ないってどういうことかしら、村長」

 

「わ、わかりません。わからないのですじゃ……」

 

 と言って泣き出してしまいます。

 

「……来ないものは仕方ない。村長、この村の異変を外部に知らせる方法はないのか?」

 

「……村から出た者たちが帰ってくれば。じゃが、彼らはこれを機に旅行に行ってしまったからあと数日は帰ってきませぬ。郵便配達の人が週一でこの村に訪れるのじゃが……次に来るのは4日後じゃ。今すぐは無理じゃ……」

 

 そこまで村長が言いますと、NPC1……水戸夏希が震える声で叫びます。

 

「4日なんて待てるわけないじゃないですか! もし人狼伝説が本当なら、何もしないと1人ずつ死んじゃうかもしれないんでしょ!?」

 

「落ち着け! そんなことあるわけない!」

 

「じゃあ内藤さんの死体にあった何かに噛まれたような傷はどう説明するのよ!」

 

「あれは偽装工作だ! 内藤さんの死因は鋭利な刃物による刺殺であって噛まれたことじゃない!」

 

「検死官でもないあなたにそんなことわかるんですか!?」

 

「そ、それは……」

 

「もう生き残るためなら人狼を見つけ出して殺すしかないんでしょ!? だったらもう処刑の儀とやらをやるしかないじゃない! そうでしょ!?」

 

 と夏希が言うと、他のNPC達も「そうだ!」「それしかない!」と言い出します。

 

「マズいわね。みんな落ち着きなさい。村長が言うことを鵜呑みにしないで。なにもこの中に犯人がいるとは限らないでしょう?」

 

「だがいる可能性もあるだろうが!」

 

 NPC3の狩生堂が声を張ってレミリアを掴みかかってきます。

 

「あなた……その手をお放しなさい! このお方はスカーレット家のご令嬢、レミリア・スカーレットお嬢様でございます! といって狩生堂とお嬢様の間に割って入ります! 《STR》対抗です!」

 

 咲夜 《STR》対抗 40 → 39 成功

 

 では狩生はレミリアを放します、が。勢いは止まりません。

 

「今はそんなこと関係あるか! というかおまえらイギリスから来たんだろう!? おまえらが人狼なんじゃないか!?」

 

「なっ……それはスカーレット家が意味の分からない化物一族である、と仰っておられますか。あなたはレミリアお嬢様のみならずスカーレット家まで愚弄するおつもりですか!」

 

「うるせえ! 占いだかなんだが成功しているみたいだがよお、それも全部おまえらが人間じゃないナニカだから予見できんじゃねえか!? 俺たちの運命が自分の手の内にあると思って笑ってんじゃねえのか!?」

 

「……これ以上、お嬢様を侮辱することはこの私が許しません。次に何か仰いなさい、もう二度とその口を聞かせなく――」

 

「――咲夜、黙りなさい」

 

「しかし……っ!」

 

「いいのよ、あなたが私のために怒ってくれていることはわかっているの。だからこそもう黙ってちょうだい。……これ以上、私の前で無様な姿を見せないでちょうだい」

 

「……! 申し訳、ございませんでした」

 

「はぁーあ。まぁこうなるのは予想できたわ。でもみんな、一度落ち着きなさい。冷静に考えてみなさい。……ロールプレイを続けるとGMが全部回収しそうだからダイス振るわ。《信用》……はこの雰囲気じゃあ無理よね。《言いくるめ》も《説得》も初期値だし、どうしようかしら」

 

「俺が行こう。俺は警察だ。多分一番説得力があるだろう。《説得》を振るぞ」

 

 遊星 《説得》58 → 84 失敗

 

「みんな、落ち着いて聞いてくれ――」

 

「うるっせえ、こうなったらやるぞ! やらねえと死んじまうんだ!」

 

「ダメみたいだねえ。聞く耳も持たねえし。じゃあさ、多数決で決めようぜ? 民主主義だろ。文句ねえな?」

 

「白夜さん!」

 

「もう無理だよ遊星さん。こいつらは冷静になれてねえ。自分の身を守ることしか考えてないのさ。やけになって皆殺しを選ばれるよか、こっちのほうがマシだろ?」

 

「……随分落ち着いているな」

 

「色々あったのさこっちも。こういうのは慣れてる。濁流の中生き残るにはその流れに任せちまうのが一番なのさ。案外それで何とかなる。それに俺はいざというときのために身を守れる。結構腕には自信があるんだぜ」

 

「……俺は警察官だ。みすみす人を殺させるわけにはいかない。だが……これしか方法がないなら、仕方がないのか」

 

「おいおい、マジかよ。笑えないねい?」

 

「じゃあ多数決で決めるぞ。おーい、みんな聞いてくれ! 今から10分後、処刑の儀をするか、しないか、多数決を取るぞ! この10分のうちに頭を冷やしてよく考えな。これは決定事項だ。この多数決で全てを決める。いいな!? って感じで《説得》をする」

 

 あ、《説得》しなくて結構です。NPC達はそれでいいと言って引き下がります。殺伐とした雰囲気こそ変わりませんが、多少は落ち着いたようです。時間を進めて10分後、多数決の時間がやってきました。

 

「10分経ったな。多数決の時間だ! 文句はなし! 行くぜ! まずは処刑の儀に反対するやつ、手を上げろ! と言いながら手を上げる」

 

「当然俺も手を上げる」

 

「私も手を上げるわ。こんな馬鹿馬鹿しい茶番に付き合ってられないもの」

 

「私も手を上げます」

 

「勿論私も手を上げる。PCは全員反対派だ。他はどうなんだいGM」

 

 NPL6……大賀美穂が小さく手を上げています。他は誰も上げていません。

 

「6人反対か。じゃあ賛成の人、手を上げろ!」

 

 他のNPCが全員手を上げます。ツアー客の水戸夏希、美濃零、狩生堂、こころくるみ、木場研二の5人、村長、そして旅館の女将の7人です。

 

「……決まったようだな。遊星さん、あんたもいいな?」

 

「……決定事項だからな。もういいさ」

 

「はぁ、じゃあ殺し合いをするのね」

 

「気になったんだけどねい? 降霊術師とか看破術師とかどうすんのさ。いないと流石にキツくないか?」

 

 その咏の質問には村長が答えてくれます。

 

「文献によると各術師の能力は処刑の儀が決まって数時間以内に覚醒するらしいのですじゃ。もともとそういう能力を持っていた人もいた、という記述もございますが」

 

「……レミリアさん。あんた、本当に占い師……看破術師じゃないのかい?」

 

「違うわよ。私は看破の術なんて持っていないわ(降霊術ならあるけどね)」

 

「では、処刑の儀の取り決めを説明させてもらいますじゃ」

 

 処刑の儀のルールをここで説明します。

 朝7時と、夜7時に全員中央会館に集合すること。朝7時には生存者を確認し、夜7時に誰を処刑するのかの会議を開く。処刑者は決まった瞬間、隣の2番の部屋で処刑される。

 夜はしっかりと自分の部屋で寝ること。

 防衛術師の防衛術は部屋全体、その主の身を護るだけなので、1つの部屋に集まっていても意味はない。絶対に1人で寝るようにすること。

 以上です。

 

「それだけか。簡単っちゃ簡単だな」

 

「みんなで固まって交代交代で寝ればいいだけの話のような」

 

「咲夜、もう私たちはこの儀式に乗っちゃったのよ。素直に従いましょう。私たち人狼の容疑かかっちゃっているんだから」

 

 じゃあその……探索とかします? 特にないようであるなら夜7時まで飛ばしますけど。

 

「探索って……あと私たちが探索していない場所ってどこでしたっけ?」

 

 普通の家、崖、墓地の3ヵ所です。

 

「俺は調べない。気になりはするが、行く気がない」

 

「私もないかねい」

 

「俺も特には」

 

「私はお嬢様に従います」

 

「私もないわ……でもね。みんな、旅館の私の部屋に集まってくれる? あと大賀さんも私の部屋に呼ぶわ」

 

「ん? どうしてだ?」

 

「話があるのよ。来てくれる、かしら?」

 

「……わかった。行こう」

 

「俺も行くぞ」

 

「私も行こうかねい?」

 

「私はお嬢様に付き従うのみ」

 

「ありがとう。GM、大賀さんにも声をかけるけど、どうかしら?」

 

 ええ。普通に乗ってきます。ただ処刑の儀が執り行われると聞いて精神が不安定になっていますが。

 

「よし、じゃあ私の部屋に全員集まってくれたところでロールプレイよ。みんな、集まってくれてありがとう。なんで私がみんなを集めたのか……理由は想像つくかしら?」

 

「何の話をするかはわからないが、この面子が儀式反対派だってことはわかる」

 

「それだけわかってくれるなら充分よ。GM、私の秘密を公開するわ。実は私ね……この村の伝説にある降霊術師のような能力を持っているのよ」

 

「……え?」

 

「そっち?」

 

「え、何よこの反応。どういうこと?」

 

「いや、てっきりマジモンの占い師だと思ってたからよ。霊媒師の方だったのは少し意外だったんだよ」

 

「……で、信じてくれるの? どうなの?」

 

「私は信じますよ、お嬢様」

 

「ありがとう、咲夜。黙っていてごめんなさいね」

 

「私などに頭を下げる必要はございません」

 

「で、他のみんなはどうなのかしら?」

 

「……信じられないな。信じられないが……今までのあんたの行動からあんたは俺たちの味方と考える。だから一応、信じる」

 

「もうこうなっちまった以上、殺されないためにはこういう発言は信じる以外ないんだよなぁ。ということで信じる」

 

「私も信じるぜ」

 

「意外とすんなり受け入れられたわね。大賀さんはどうかしら?」

 

 大賀美穂は戸惑った様子でレミリアに言います。

 

「ほ、本当に降霊術師なら……寝たら死んだ人と会えるんですよね? なら今すぐに寝て、内藤さんに会ってくださいよ。内藤さんなら犯人を知っているでしょう?」

 

「ああ。そうね。そうよ。だから私は今から寝て、内藤さんと話してくるわ。それまでの間、私のこと守ってくれるかしら? 無防備になっちゃうから」

 

「……そういうことか」

 

「ええ。こう見えて私はあなた達を信用しているのよ。あの状況で冷静に物事を見て、どう考えても狂気の沙汰とも思える処刑の儀に賛同しなかったあなたたちをね。私はみんなで無事に帰りたいの。もう誰かが死ぬなんてまっぴらなのよ。だから、今から私が犯人を突き止めるから、6時までに証拠とかをすべてそろえて真犯人を捕えましょう」

 

「……そうだな。今ので俺はあんたを信用することに決めた。やりかたはオカルト染みていて俄かには信じられないがそれでも構わん。目の前で人が殺されるのを黙って容認するよりかはマシだ」

 

「安心しな。私は強いからねい。扇子を取り出して扇ぐ」

 

「俺も一応、自分で守る手段はある。任せな」

 

「私はお嬢様にすべてを捧げております。ご安心ください」

 

「ありがとう、みんな。というわけでGM、私は寝るわ。能力も使う」

 

 了解しました。では10分ほど経ち、レミリアは夢の世界へと旅立ちました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.7

ここからは完全にアドリブ祭りとオリジナル展開の嵐です。
元のシナリオ表には結末などは各卓のキーパーに任されていますので、これは完全にこちらが考えた展開とシナリオですね。

本当に難しいシナリオでした。


 レミリアは夢の中、真っ白な空間で1人の女性と対面します。その女性は、今朝がた遺体となり果てていた内藤ほてみです。

 彼女は驚いたような表情でレミリアを見た後、悲しそうな顔になります。

 

「こんにちは、内藤さん。こんな形で会うなんて、私は悲しいわ」

 

「レミリアさん……もしかして、あなたも?」

 

「いえ、私は生きているわ。信じられないかもしれないけど、ここは私の夢の世界なの」

 

「え?」

 

「私には生まれつきある能力を持っていてね。……夢の中で死んだ人と話せるのよ。一回だけだけどね。昨日の村長の怪談で降霊術師っていうのがあったでしょ? それと酷似した能力を持っているのよ。ま、あれ以上に使い勝手は良いだろうけどね」

 

「そうなん、ですか」

 

「ええ。……単刀直入に聞くわ。あなたを……あなたに酷いことをしたのは誰? 顔、見ていないかしら?」

 

「…………」

 

「私ね、許せないの。この事件の犯人はこの村の伝説を使って私たちに殺し合いをさせようとしているのよ。犯人はそんなことのために、あなたを殺した。しかも殺した後に、人狼の仕業に見せかけるために、刺し傷を隠すように噛み傷を残したのよ。……どう? 私のこと、信用できないかしら?」

 

 ……いえ、本当にあなたのロールプレイが一級品ですね。充分あなたの言葉は、内藤さんの信用を獲得することに成功しました。

 

「私を殺したのは……村長です。村長の村岡さんです」

 

「そう……」

 

「一瞬ですけど、確かに見たんです。痛みを感じたとき、見たんです。……薙刀で私を突き刺している村長の顔を……。それで私……私……!」

 

 自分の身に何があったのかを再認識した内藤さんは泣き崩れてしまいます。

 

「わからないんです……! なんで……なんで私が殺されないといけなかったのか! まったくわからないんです……!」

 

「側に行って肩を擦りながら言うわ。悔しいわよね、悲しいわよね。あなたはしっかり仕事をしていたのに、何にも悪いことをしていないのに、まだやりたいことがあったでしょうに。……最後に1つだけ質問するわ。あなたを貫いた薙刀、見覚えはある?」

 

「あ、あの薙刀は……確か、中央会館の資料室に立てかけてあったものでした……」

 

「しっかり展示物まで覚えていたのに……許せないわね。ありがとう内藤さん。必ず村長を捕まえてみせるわ」

 

「お願い……します。レミリアさん……」

 

 という夢を見て、レミリアは目を覚まします。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

「……起きたわ。会ってきたわよ、内藤さんに。と涙を少し流しながら起きるわ」

 

「そうか……それで、犯人は誰だって言っていた?」

 

「村長の村岡よ。凶器は中央会館の資料室に展示されていた薙刀らしいわ。多分、照合したり、ルミノール反応で調べたり、DNA鑑定や指紋とかを調べれば一発で捕まえられるわ。でも、この村でそんなことは出来ないしねえ」

 

「思えばあの村長が人狼だ何だって言ったからこんな展開になっちまったからな。どう考えてもあいつが怪しかったわけだ」

 

「でも動機が全くわからないねい? どうして内藤さんを殺した? 内藤さんはどうして自分が殺されたのか言ってなかったかい?」

 

「わからないって言っていたわ」

 

「犯人も凶器もわかった。だが、今すぐに叩きつけられる証拠と、動機が分からないな。これじゃあこの状況で村長を捕らえられない。むしろ人狼とみられて逆に処刑される可能性がある。こっちは6人で向こうは7人だ。どうあっても勝てない」

 

「……GM! 占いよ! 《芸術(占い)》で判定するわ!」

 

 いいですよ。ではレミリアは持ち物のタロットカードを取り出して準備を始めます。

 

「ん? どうしたレミリアさん」

 

「……占いよ。どこを調べたら証拠があるか動機がわかるかを占うわ。あ、これPL発言なんだけど、私3回まで《芸術(占い)》を使えるのよ。成功したら情報が来るわ」

 

「バスの中のアレもそうだったのか?」

 

「ええ。どうやらあれは成功したみたいね」

 

 はーい。ダイス目は公開しません。

 

 レミリア《芸術(占い)》80 → 53 成功

 

 ではレミリアは村長の家を探索すべきだという啓示を得ました。

 

「村長の家を調べたらいいかもしれないわね……ってこれ占いする意味ないわ。普通のこと言ってんじゃない」

 

「お、おお? 普通のことを言ってる」

 

「だがその通りだねい。よし、みんなで村長の家に向かうか」

 

「待て、待ってくれ。ここだ。ここで俺も秘密公開だ」

 

「うん? ここでかい?」

 

「ああ。俺が刑事だってことは知っているな? 実は俺は潜入捜査官としてこのツアーとこの大神村についての調査をしていたんだ」

 

「潜入捜査? 確かこのツアー2回目よね? 1回目に何かあったの?」

 

「ああ。実は1回目のこのツアーに参加した客のうち3人の消息が途絶えているんだ。参加した日から、だ。捜索願いが出されていないものを含めるとさらにいるかもしれない。俺はこのツアーで何かが起こったんじゃないかと思って参加者として潜入したんだ。俺が旅行から1日経っても帰って来なかったら助けに来るように部下に伝えた。だから明日か、明後日には助けが来る」

 

「ああ……なるほど。そういう秘密ね」

 

「俺はここにいるみんながまともな人間だということを信じる。だからこのことを打ち明けた。もう隠し事は無しだ」

 

「他に何か掴んでいる情報はないのか?」

 

「知っていることはこのツアーで雇われたバスの運転手もガイドの内藤さんも派遣社員だったってことだ。つまり、あんまりこのツアーについて詳しく知らされてなかったということだ。1回目の運転手は今回の運転手と別人で、しかも前のガイドさんは消息不明の人物の内の1人だ」

 

「それは……偶然とは思えませんね」

 

「そうだろう。あとは……この大神村について。地図や県の資料をずっと調べてみたが、そんな名前の村はなかった。かなり昔の資料にそれらしいものはあったが、現在は住所も何もかも県に報告されていない。つまり、この世にあってこの世にない村というわけだここは」

 

「……きな臭いわね。ということはこの村は何かの目的で作られた架空の村で、それを総括しているのがあの村長、ってことかしら? いや、あの旅館の女将もグルの可能性があるわね」

 

「そういや、資料館で見た資料。あれ内容はともかく妙に綺麗だったというか、わざとらしく汚れていたように見えたっていうか……。最近作ったものを古く見せていただけなのかもしれないねい」

 

「お嬢様がテレビで紹介すると言った時に断ったのも、この村そのものを知られたくなかったからでしょうか。本来存在しないものを紹介されては困りますからね」

 

「とにもかくにもだ。こうして話していても出てくるのは空想だけだ。この事件の鍵は村長が握っている。ていうかレミリアさん曰く犯人なんだから、村長の家に行ってなにかしらの情報を掴まないとしょうがない。それに……内藤さんの体にあったあの歯形。アレをどうやって付けたのか、何の生物を使ったのかの謎が解けていない」

 

「そうだな。その謎を突き止めるためにも村長の家に向かおう。勿論、大賀さんも一緒に連れてな」

 

 話は終わったようですね。全員、村長の家に向かう、ということでよろしいですか? それでは皆さん、《聞き耳》で判定してください。白夜はさっきのクリティカル特典で+10で判定してくださいね。

 

 遊星  《聞き耳》56 → 92 失敗

 レミリア《聞き耳》63 → 32 成功

 咲夜  《聞き耳》45 → 74 失敗

 咏   《聞き耳》35 → 34 成功

 白夜  《聞き耳》35 → 67 失敗

 

 では成功者の皆さんは自分たちが誰かに監視されていることに気が付きます。

 

「……ちらっと流し目で後ろを見る」

 

「私は横を見てみようかねい」

 

 レミリアは後ろの物陰にこころくるみがいることに気が付きました。

 

「こいつ……面倒ね。敵と確定したわけじゃないけど、もし敵だったら面倒よ。咲夜、私と一緒にあいつを妨害するわよ。みんなは村長の部屋に向かってちょうだい。私と咲夜であいつを足止めしているから」

 

「了解しました。皆さん、お先に」

 

「すまん、恩に着るぞ!」

 

「遊星、白夜! こっちでも戦闘なら任せな! 探索技能もあるから私は案外役に立つぜ!」

 

「俺も何かと使えるぞ。まだ言わないが」

 

「いいのよ」

 

 ではまずレミリア、咲夜のシーンから行きましょう。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 くるみを見つけたあなた達ですけど、具体的にどう行動しますか?

 

「彼女の所に行くわ。それでわざとらしく挨拶する。あらぁ、あなたはこころくるみさんじゃない。どうしたの? こんなところで」

 

 レミリアがそうくるみに話しかけますと、怪訝そうな顔でくるみはレミリアを見ます。

 

「……先程皆さんがあなたの部屋に入っていくのが見えたので、気になってついてきたんですよ」

 

「あらあら、昨日はあんなに元気いっぱいだったのに今日は随分と静かね。もしかして、さっきまでの私たちのお話聞いていたのかしら? 《心理学》」

 

「私も《心理学》です」

 

 レミリア《心理学》66 → 44 成功

 咲夜  《心理学》63 → 42 成功

 

 えっとですねぇ、2人は彼女の反応からして、彼女は先程までの部屋での会話を盗み聞きしていたと思いました。

 

「ダメねぇ、社会人としての礼儀がなっちゃいないわ。どこまで聞こえていたのか、誰の指示でこんなことしていたのかは知らないけど、自分の身を守ることばかりで冷静になれない頭の悪いのと違ってね、私たちは理性的なのよ。私たちはこれ以上誰も犠牲にせずに、犯人を突き止めて助けを待つ予定なのよ。人狼? 冗談じゃないわ。そんな馬鹿馬鹿しい生物がいるわけがないのに、まともな思考を捨て去ったあなたたちに用はないの。邪魔しないでくれないかしら?」

 

「流石でございます。さぁ、これで彼女が自分の意志でつけてきたのか、誰かの指示で動いたのかがわかりますね。上手くいけばどこまで聞こえていたのかもわかりますよ」

 

 さて……そうロールプレイをしますか。するとくるみは顔を真っ赤にして睨みつけてきます。特にレミリアに対しては憎しみの感情さえ浮かんでいます。

 

「《心理学》なしにそこまで情報くれるのね」

 

「レミリア・スカーレット。おまえ、バスでの挨拶の時からずっと邪魔だったのよね」

 

「何の話をしているのかしら? というか漸く本性を現したわね。怖いわぁ」

 

「じゃあアイドルモードって喋ってあげる。あーあ、レミリアさんってば本当に面倒な人だよねぇ。頭がいいし、凄い能力持ってるし? 困っちゃうんだぞ。本当は駄目なんだけどー、レミリアさんをここで消しちゃった方がぁ、いいかなって。あとでどうとでもなるしぃ? レミリアさんと十六夜さんには容疑かかってるしぃ? あんたら2人なら許してくれるだろうしぃ? あはっ!」

 

 子供のような無邪気な笑顔で人間とは思えない台詞をつらつらと述べるくるみ。アイドルユニット不動のセンターであるレベルの高い顔が変化していく。

 ソレは犬に似た全く別の生物の顔だった。しかしそれは顔だけで、身体は人間と同じ二足歩行の生物のものであったが、前かがみで姿勢の悪い。つやつやでシミひとつなかった健康的な肌はぶよぶよとしたゴムのようなものに変わり、ネイルをしていた爪は鋭いかぎ爪に変わった。耳障りな鳴き声を発しながら力を入れるように大きく身体を仰け反る。

 神話生物……嘲る屍肉喰らい、食屍鬼(グール)の姿を直視したレミリア、咲夜、0/1D6の《SAN》チェックです。

 

 レミリア《SAN》54 → 48 成功

 咲夜  《SAN》44 → 07 成功

 

「!?」

 

「な、なっ!?」

 

 さぁ、こころくるみだったもの……食屍鬼はかぎ爪をあなたたちに向けて威嚇しています。戦闘ラウンド突入です。《DEX》の値を教えてください。

 

「13」

 

「11です」

 

 それでは《DEX》13の食屍鬼の行動です。攻撃対象はレミリアです。かぎ爪で攻撃してきますよ。

 

 食屍鬼《かぎ爪》?? → 39 失敗

 

「相変わらず成功率低いわね」

 

 ぶっちゃけ30パーセントですからね。単体じゃそんなに強くないです。

 

「次は私ね。《武道(空手)》+《こぶし》で攻撃よ。なによあんた! なんだかわからないけど、人間じゃないなら本気で行くわよ! 喰らいなさい!」

 

 レミリア《武道(空手)》72 → 12 成功

 レミリア《こぶし/パンチ》50 → 24 成功

 

「よし、私の拳は痛いわよっ!」

 

 2D3+1D4 → 8

 

 8ダメージ!? ぐ、食屍鬼の回避判定です。

 

 食屍鬼《回避》?? → 50 失敗

 

「スカーレット家のご令嬢を舐めんじゃないわよ!」

 

 食屍鬼のショックロールです。

 

 食屍鬼《CON》??×5 → 60 成功

 

 食屍鬼は気絶判定を乗り越えました。しかし、レミリアの拳が与えたダメージは強烈です。ふらふらしています。

 

「お嬢様、ここは私が……」

 

「殺すのは後よ? 気絶させて生け捕りにするわ。そしてこいつをみんなの前に突き出すのよ」

 

「了解しました。それではノックアウト攻撃です。《こぶし》で攻撃です」

 

 咲夜 《こぶし/パンチ》50 → 43 成功

 

 1D3+1D4 → 4

 

 4点ですか。ではノックアウト判定はしなくていいです。残り《耐久力》が2以下になりましたので自動気絶します。戦闘終了です。

 

「ふぅ、久し振りに身体動かしたわ」

 

「お嬢様、お怪我は」

 

「大丈夫よ。なんにもされていないもの。それより、ナイスよ咲夜。オーダー通りだわ」

 

「お嬢様のお望みのままに」

 

「さて、GM。こいつは元のこころくるみの姿に戻っているのかしら?」

 

 いいえ、戻っていません。その醜い姿のまま、気絶しています。

 

「よし、縄を持ってきて縛り上げましょう。あと猿轡も忘れないでね。そしてこいつをみんなの前にしょっ引くわ。そして仲間がいるのかを吐かせる。これで村長が共犯だと言わせれば解決よ」

 

「写メも撮っておきましょう。圏外でも写真くらい撮れますからね。縛り上げたうえでこの写真を撮れば、例えこころくるみの姿に戻ってなんやらかんやら言いだしても証拠になります」

 

「そうね。それでいくわ。私たちのシーンは終了よ!」

 

 それでは遊星と咏ちゃん、白夜のシーンに移ります。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 それではお待たせしました。3人のシーンに入ります。

 

「さっきまで俺たちを付けていたやつがいるからな、慎重に行動するぞ。《聞き耳》だ」

 

 遊星 《聞き耳》56 → 11 成功

 

 特にあなたたちを監視している人物はいないと判断しました。

 

「よし、じゃあ村長の家に向かおう。というかどこが村長の家なんだ?」

 

「ああ、そういえば村長を呼びに行ったのはレミリア達だったねい。ちょっとずつ調べるっきゃないか。GM、普通の家は何軒ある?」

 

 4軒です。

 

「それらの場所は近いのか?」

 

 近いです。小さな村ですからね。歩いても3分も経たずに着きます。

 

「それなら1軒ずつ回ってみるか。鍵はないだろうし、生活感が残っている家が村長の家だ。他の住民は出払っているらしいからな」

 

 では1軒ずつ回るのですね。ではあなたたちが家を回って5分も経たないうちに村長の家に辿り着きました。まぁノックしたら村長が家から出てきたんですからそこが村長の家だってわかりますよね。

 

「おやおや皆さん、どうかなされたのですかな」

 

「村長が邪魔だな」

 

「私に任せな。これでも《言いくるめ》が高い。あと1人欲しいねい」

 

「GM、大賀さんは《言いくるめ》か《説得》の技能あるか?」

 

 《説得》に50ありますね。

 

「よし、ここは私と大賀さんで村長を引き付けよう。大賀さん、協力してくれよい」

 

「は、はい」

 

「よぉ、村長。ちょっと処刑の儀について確認をしたいんだ。中央会館の方で説明してくれないかい? って感じで《言いくるめ》る」

 

 じゃあ大賀美穂はそれに続くようにして「お願いします」と《説得》させることにしましょう。

 

 咏  《言いくるめ》65 → 22 成功

 大賀 《説得》50 → 94 失敗

 

 どちらかが成功すればいいので大丈夫です。ふむ(コロコロ)……。

 

「確認するのはよろしいのじゃが、なぜ中央会館の方に行かなければならないのですじゃ?」

 

「あ、さっきの判定は《アイデア》ロールだな。成功しているぞ」

 

「面倒くせえなぁ。本当に伝統のやり方なのか、この村の資料と照らし合わせてみようって話し合ったんだよ。ほら、私たちは反対派だったろ? 最後の足掻きみたいなもんさ。今更やらないって言うつもりはないが、ちゃんとした方法なのかが知りたいんだ。もし仮にやり方が違くて意味のなかったらいやだからな」

 

「そういうことでしたか……わかりました。では参りましょうぞ」

 

 と言って村長は家から出てきます。

 

「……おや? 不動さんと夢幻さんは来ないのですかな?」

 

「ああ。俺たちは村の見回りだ。怪しい奴がいないかを調べているんだ。犯人が村に潜伏している可能性を捨て去ってはいないからな」

 

「7時にはしっかり会館に戻るから心配すんなよ」

 

「そうですか。では三尋木さん、大賀さん、こちらへ」

 

「おう。じゃあな、なるべくグダらせるから証拠を揃えておいてくれよ? GM、私の行動は大賀さんと会館で資料を漁って細かく村長に歴史を聞いて時間稼ぎをするだけだ。私のシーンはいらないよい」

 

 わかりました。それでは(コロコロ)……はい、どうぞ。遊星と白夜のシーンを続けましょう。

 

「村長の家に入るぞ」

 

「俺も手伝うぜ」

 

「家の中はどうなっている?」

 

 土間と畳の部屋に分かれています。土間には台所や釜があり、畳の間には囲炉裏があります。小さな古民家ですね。あと机や引き出しもありますね。

 

「机の上には何かあるかい?」

 

 古い冊子と羽ペン、それからインクビンが置いてあります。何かを書いている途中だったのでしょう。

 

「GM、俺はその冊子を読む」

 

「俺も見ようか」

 

 流し読みをしますか? それとも詳しく読みますか?

 

「流し読みでいいだろう。こっちも時間がない」

 

「だな。変に時間をかける必要はない」

 

 了解しました。それでは流し読みをしたということで。冊子は日記……というより、この村の村長だった人物がその日の出来事を纏めるために使っていたものでした。途中から筆跡が変わっているので、今の村長の前の村長もこの冊子に何かを書きこんでいたことがわかります。

 さて……その肝心の内容なのですが、そこに書かれていたのはとんでもない真実でした。

 遥か昔、この村は戦争で亡くなった人たちが埋められる巨大な墓地であったこと。そしてこの地がちょうどいいと思う集団がここに移住し、秘境の村としてひっそりと暮らしてきたこと。なぜこの地がちょうどよかったのか。それは自分たちの食糧である人間の死体が大量に埋められているからであったこと。前半のページにはそのようなことがつらつらと書かれていました。

 後ろになるにつれて筆跡も変わり、内容にも変化が訪れます。

 

 移住した時に比べて食糧である死体が減少し、時が経ち村人の人数も増えてしまったばっかりに、このままいけばそう遠くない未来に食糧が底をつく。村を移すにしても、現代日本では自分たちが安泰できるようなところを見つけるには至難の技だ。

 そこで、外の世界から生きた人間を何とかこの村に呼び寄せ、殺害することで食糧を確保しようという案が出される。しかし、この村は国に許可を得ていない状況で自分たちが勝手に作り出したものだ。大々的に報道して観光スポットにするわけにはいかないし、もし観光スポットとなってしまっても、失踪者が続出する村として警察が動きかねない。

 ならば小さな旅行としてひっそりと特定の層の人間の興味を誘い、この村に来させればいい。そうだな、ミステリー……いや、ホラーツアーの方がいいか。なにせ私たちの存在そのものが人間にとってはホラーなのだからやりやすい。

 

 そこで適当な伝説をでっちあげ、ホラーツアーを開催して参加者を殺すことに決まった。伝説はどうしようか、人狼伝説でいいか。簡単だし、自分たちもそれに近い姿をしている。ツアー客の中に仲間を半分以上忍び込ませれば合法的に殺すことができるし、こちらに疑いの目がかかる心配もない。殺す人間の人数が少なくとも大丈夫。私たちは少食だから5人ほど死体を確保できれば、あとは残って保存してあるものと合わせて充分足りる。

 新しくそれらしい建物を建てねばならない。歴史を偽装するために資料も作らねば。あと何人かの同胞を人間社会に忍ばせて、客として紛れるときに説得性を出すようにしなければ。

 

 という情報をあなたたちは得ます。遊星、白夜、《SAN》チェックのお時間です。0/1D3でどうぞ。

 

 遊星 《SAN》58 → 45 成功

 白夜 《SAN》41 → 60 失敗

 

「(コロコロ)……1だ」

 

「まさか……これが動機、なのか? こんな、こんなことが……」

 

「……なぁ、GM。《クトゥルフ神話》技能で判定するぜ。27パーセントだ」

 

「はあっ!?」

 

「えっ!?」

 

「なんですってっ!?」

 

「なんでおまえそんなに高いんだ!?」

 

「いやぁ実は俺、継続探索者なんだよな。だからこういう現実離れをした現実には慣れているってこった。これが俺の秘密な」

 

「な、成程……何か役立つかもって言っていたのはそういうことか。あと《SAN》値が41なんて中途半端な数値から始まっていた説明も付く」

 

「そういうこった。いいな、GM」

 

 《オカルト》の半分の値も加えて判定どうぞ。

 

 白夜 《クトゥルフ神話》27+65/2 → 17 成功

 

 それでは白夜は自分の経験、知識から、この文化を持つ怪物の存在がわかりました。

 人間の死体を食らい、時に人間の子供とその生物の子供をすり替えることもする、食屍鬼と言われる、世界中で言い伝えのある不吉の象徴を。

 

「遊星さん、俺、この怪物の話聞いたことあるぜ。有名な怪物だ。まさか実在していたなんてな。流石の生物学者の俺でも知らなかったよ」

 

「そんな……! だが、これが本当だとしたら納得できる。信じられん……が、レミリアさんの能力のことも考えると、本当に存在するのか? 死体を貪る怪物が……!」

 

「それはまだわからない。もしかしたら村長が書いていた新しい怪談話のメモ帳なのかもしれないし断言はしないさ。だが人1人殺されて暢気にこんなのを書いている時点で、どっちにしてもあの村長はまともなやつじゃないってことだ」

 

「……そうだな。だがこれが真実だとするなら……半分以上、俺たちツアー客の中にその怪物がいることになる」

 

「それはわかりやすいだろ。処刑の儀に賛成したやつら全員だよ。村長と女将を人数に入れて計算していたんだ。だからツアー客に紛れるのは5人でよかった」

 

「……決まったようだな。わかった。ここまで証拠が揃っているなら信じざるを得ない。とりあえず、この冊子のページを写メしておく。冊子自体を持ち帰ったら気付かれるからな」

 

「俺も写メっておこう。これで証拠ができた……が、状況は最悪の方向に向かっているな。7人も化け物がいる状態で俺たちは助けが来るのを待たないといけない。上手く説得すれば見逃してくれるかもしれないが」

 

「無理だろう。この真実を知った時点で、生きて俺たちをこの村から出すはずがない」

 

「だよなぁ……。なぁ遊星さん。ちょっと驚かないで見てくれよ。といって胸元から拳銃を取り出す。45口径のオートマチックだ」

 

「んなっ!? なんてものを持ち込んでいるんだおまえは! 銃刀法違反だぞ!」

 

「護身用さ。以前もこういう体験をしたからな。それに今は緊急事態だ。目を瞑ってくれよ」

 

「……今回だけだぞ。弾は何発ある?」

 

「フル装填で7発。マガジンが3つの合計28発だ。こんだけあれば充分だろ。というかさ……遊星さん、あんたも持ってんじゃないか? その足元に、さ」

 

「!?……気が付いていたのか」

 

「ああ、物騒なもん持ってんなぁとは思っていた。で、そっちはなんの銃だ?」

 

「普通の拳銃さ。ベレッタM92FSだ。俺もフル装填で15、予備のマガジン1つで30発だ」

 

「よし、これで俺たちは戦えるな。見た感じあのお嬢様も鍛えられているし、十六夜とかいう従者もそれなりに強い。三尋木も意外と力があるから戦闘は乗り越えられるだろう」

 

「大賀さんだけだな。彼女だけは守りながら戦わないといけないな」

 

「彼女まで化け物だったら恐ろしいが……まぁあの様子じゃ違うだろ。あれが全部演技だったら流石にヤバい」

 

「そうだな。決戦はいつにする?」

 

「7時でいいだろう。全員が中央会館に集まるその時に。これが山場だ、乗り切ろうぜ」

 

「ああ。というわけでGM、俺たちのターンはこれで終わりだ」

 

 わかりました。では時間を飛ばしますが、それまでの間にやっておきたいことはありますか?

 

「みんなで情報を共有しましょう。あと捕らえた怪物は目を覚ます度に気絶させるわ。縄で縛っているし、出来るでしょう?」

 

 それは可能ですね。他の皆さんもそれでよろしいですか?

 

「お嬢様に従うのみです」

 

「俺もそれでいい」

 

「俺もだ」

 

「私も入れてくれよ。私だけ何にも知らないんだからな」

 

「じゃあまずは俺の情報を開示する」

 

 了解しました。それでは遊星と白夜の言葉を聞き、写メを見たレミリア、咲夜、咏ちゃんの3人、《SAN》チェックです。咏ちゃんは0/1D3、レミリアと咲夜は0/1で勘弁します。

 

 レミリア《SAN》54 → 88 失敗

 咲夜  《SAN》44 → 23 成功

 咏   《SAN》45 → 05 クリティカル

 

 じゃあ咏ちゃんは次の《SAN》チェックにボーナスつけます。

 

「次は私ね。実はね、心して見て欲しいものがあるんだけどねぇ……その怪物、捕まえちゃったわ。と言って食屍鬼を見せる。現物よ」

 

「なっ!?」

 

 それでは気絶している食屍鬼の姿を直視した遊星、咏、白夜は《SAN》チェックだ。本当は0/1D6なのですが、遊星と白夜は事前情報を知っているため0/1D3で、咏ちゃんはクリティカル効果で0/1でいいですよ。

 

 遊星 《SAN》58 → 14 成功

 咏  《SAN》45 → 26 成功

 白夜 《SAN》40 → 10 成功

 

 あんたら本当《SAN》チェックに強いですなぁ。特に心は揺るがないですね。

 

「ふーん、そいつがその化け物か」

 

「成程、その牙で噛みついたわけか。で、そのかぎ爪で橋を落としたんだな」

 

「興味深いな、調べてみたいね」

 

「これで情報開示は終わりね。作戦は遊星さんの考えたものに従うわ」

 

「私も乗ります」

 

「私も乗るぜい」

 

「よし、合流完了だ。7時まで飛ばしていいぞ」

 

 はーい。それでは夜7時になりました。夏とはいえこの時間になれば陽は落ち、電気のない村は暗闇に包まれます。

 さぁ、1回目の処刑の儀の会議の時間がやってきました。

 

 

 

 

     ――To be continued…




恐らく次回が最終回です。今夜中に投稿予定。


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Part.8

これが最終回だと言いましたがそんなことはありませんでした。

次回で最終回です。多分10時くらいに投稿します。


 では皆さんは中央会館に集合しています。……あれ? 食屍鬼(グール)化しているこころくるみはどうしますか?

 

「部屋の外に拘束して放置してあるわ」

 

 なるほど。じゃああなたたちが最後に部屋に入ったってことでいいですね。

 

「あ、GM。この部屋全体を見渡す。凶器の薙刀は置いてあるか?」

 

 あります。村長の近くの壁に立てかけてあります。どうやらあれで処刑するつもりのようですね。

 

「皆さんお揃いのようで……おや、こころくるみさんはどちらにいらっしゃるのじゃ?」

 

「ああ、彼女ならさっき会ったぞ。トイレに行くんだと」

 

「そうでしたか。それなら先に始めてしまいましょうぞ」

 

「まずは成り行きを見守りましょう。タイミングを見計らって畳みかけましょう」

 

「だな。あとみんな、大賀さんも含めて固まって座るぞ。出口に近い席にな」

 

 そうですか。では会議が始まっていの一番に手を上げたのは水戸夏希です。

 

「私! 私が看破術師です!」

 

「白い目で見ておくわ」

 

 では村長は「おお」と感心しつつ夏希に話しかけます。

 

「やはり伝説は本物だったんじゃ。して水戸さん、どなたを見た?」

 

「はい。大賀さんを見ました。彼女が人狼です!」

 

 と興奮した様子で大賀さんを指差して言います。

 

「はい確定」

 

「これではっきりした。大賀さんはこちら側だ。大方GMが用意した初日に処刑される役目のNPCだったんだろう」

 

「待ちなさい。もっと弁明の余地もないところまで追い込んでから突き付けましょう。もうこっちは全部知っているってことを強調させるわ」

 

 そうですか。ではNPC達の視線は大賀に向かいます。そして向けられた大賀は動揺しています。

 

「わっ、私は化け物じゃありません!」

 

「してその証拠は?」

 

「そ、それは……あ、あなた! あなた嘘吐いているでしょう!?」

 

「嘘じゃないわ! 確かに見たもの! 見えたもの!」

 

「GMが1人コントしてる」

 

 正直恥ずかしいので介入してください。

 

「じゃあ私が介入するわ。水戸夏希に話しかける。ねぇ、あなたはどんな方法で彼女が人狼だってわかったのかしら?」

 

「それは看破の術を使って……」

 

「ああ、それはわかっているわ。でもね、どんな風にその術を発動させたのか、気になってね。ちなみに私はどうだったの? 人狼だった? 人間だった?」

 

「そ、それはわからないわよ。術を使ってないもの」

 

「そう。ちなみに他の人は?」

 

「だからわからないわよ! 使ってないんだもの!」

 

「ふーん。まぁそれは良いわ。で、それを踏まえて聞くわ。どうやって大賀さんが人狼だってわかったの?」

 

「そ、それは……」

 

「言っとくけどね、これはゲームじゃないのよ? あのゲームは役職がある前提でやっているから誰も疑問に思わないけど、これは現実よ。まさか天からの声が聞こえた、みたいなことを言うんじゃないわよね? それなら誰だって看破術師を騙れるわ。もっと具体的に、どのように彼女を占って、その結果人狼だって見破ったの?」

 

「み、見て分かったんです! 彼女を見ながら効果を使って見破ったんです!」

 

「ん? それならおかしいな。彼女は俺たちの誰かと常に行動を共にしていたぞ」

 

「どこかで術を使って彼女を見たとしたなら、他の誰かも巻き込んでいてもおかしくないですね」

 

「だな。なのにあんたは能力を使っていないからわからないと言った。その看破の仕方は納得できないぜ?」

 

「ひ、1人しか見破れないのよ! なんで信じてくれないのよ!」

 

 水戸夏希は興奮しています。よくよく見れば、処刑の儀賛同組はみんな不機嫌そうな顔をしています。

 

「確認完了したし、もういいんじゃないかねい?」

 

「そうね、もう頃合いでしょう。さぁ、刑事の出番よ」

 

「いや、ここはレミリア頼む。俺おまえほどロールプレイに自信がない」

 

「えー……わかったわよ。じゃあお嬢様らしく優雅に謎解きしましょう」

 

「謎解◯はディナーの後でかな?」

 

「それだったら咲夜の人が謎解きするんじゃないんかねい?」

 

「ご飯食べてから謎解きするんですか? 悠長過ぎではありませんか?」

 

「あんたら黙ってなさいよ。こほん。あのねぇ、もう茶番はやめましょう? こっちは全部わかっているのよ。どうせあなたたちは私たちを生かしてこの村から出す気なんてないんでしょう?」

 

 レミリアがそう語りかけると、村長たちは目を見開きます。

 

「私ねぇ、お昼くらいに面白いもの見つけちゃったのよ。皆さんにもお見せするわ。咲夜」

 

「はい、お嬢様。返事をしてから立ち上がり、廊下に放置していたこころくるみだったものを部屋の中に持ってきます。《STR》16ですから余裕ですよね」

 

 ではそれを見た賛成組は、激しく動揺しています。「ど、どうして」「なんで」と声を漏らす人もいますね。

 

「びっくりしたわぁ。皆さん聞いて頂戴よ。この化け物、こころくるみさんなのよ」

 

「そ、そんな……!」

 

「本当よ? あのあと解散した時にね、私と咲夜にいきなり襲い掛かってきたのよ。びっくりしちゃってね。思わず殴り倒しちゃったわぁ」

 

「凄い度胸のお嬢様だ」

 

「あ、殺していないわ、気絶しているだけよ。起こしましょうか。咲夜」

 

「はい、お嬢様。水の入ったコップを食屍鬼の顔にかけます」

 

 ではこころくるみだったモノは目を覚まします。そして少しすると、自分がどんな状況に置かれたのかを認識したらしく、かなり動揺した様子で慌てて縄を解こうとしています。

 

「おはようこころくるみさん。あなたと番組共演できなくて悲しいわぁ? まさか化け物だったなんてねぇ? ほら村長、人狼よ。早く殺さないと。人狼と疑わしいものを殺すんでしょ? これなんて疑わしいを通り越してまんまよ? ほら、やっちゃいなさいよ。……内藤さんを殺った時みたいに一撃で、その後ろに立てかけてある薙刀を使って貫いてねぇ。あ、歯形も付けるかしら?」

 

 そのレミリアの言葉を聞いた村長は口をパクパクさせ始めます。顔は真っ赤で怒りやらなんやら色んな感情が混じり合っているようです。

 

「私ねぇ、占い師である前にね、亡くなった人と会話できるのよ。ほら、人狼伝説にあったでしょう? 降霊術師ってやつよ。あれと同じ力があってね、夢の中で内藤さんと会って話したわ。内藤さん、死ぬ前に目を開いたんですってね。しっかり見ていたわよ、あなたの顔をね」

 

「なっ、なっ……」

 

「許せないわよねぇ? 自分たちの餌のために楽しみにしていたお客を騙して殺して、あなたツアーの責任者に相応しくないわよ? はい遊星、バトンタッチよ」

 

「任された。あんたの家でこんなものを見つけた。もう言い逃れできないぞ化け物どもめ、と言いながら冊子の写メを見せる」

 

 ……いいですね。そこまで徹底的にやってくれたら大丈夫です。

 えー、レミリアと遊星に証拠やらなんやらを突き出された村長は怒りの形相を浮かべて立ち上がります。いえ、村長だけではありません。村長側に付いていたNPC達も全員立ち上がります。

 

「「座っていた私(俺)も立ち上がる!」」

 

「……せっかく残り短い人生を楽しませようと思っとったのに……バカな奴らじゃ。そこのバカもじゃ。あれほど人前でその姿になるなと忠告したのに、破った結果がこの様。溜息も出ぬわ」

 

 ゆらりと、嫌な風が吹きます。蝋燭に灯っていた炎は揺れ、中には消えるものもありましたが、まだ部屋には光があります。

 

「もうそこまで真相に気が付いていらっしゃるならなるほど、これ以上の茶番は無用のようでございますね」

 

「あーあ、もっとあんたたちが慌てる姿を見たかったのになぁ」

 

「良い小説が出来そうだったのですが、こんなシナリオはボツです。美しくない」

 

「だぁー、めんどくせえ! だから最初からこうしとけばよかったのさ!」

 

「まぁまぁ、これも人間の賢さです。私はわかりますよ」

 

 それぞれ薄く笑いながら、その姿を変えていきます。……レミリアの足元で転がっている、こころくるみと同じ姿……醜き怪物の姿に。《SAN》チェックです。最大正気度喪失ポイントである6点に達するまで、イベントごとに判定します。0/1D6で判定どうぞ。それから、ここからは味方NPCの大賀美穂も判定に加えます。彼女は自由に使っていただいて構いません。

 

 遊星  《SAN》58 → 04 クリティカル

 レミリア《SAN》53 → 63 失敗

 咲夜  《SAN》44 → 13 成功

 咏   《SAN》45 → 65 失敗

 白夜  《SAN》40 → 83 失敗

 大賀  《SAN》40 → 03 クリティカル

 

 クリティカルが出た遊星と大賀は、次のイベントでの《SAN》チェックを0/1で済ませます。

 

「(コロコロ)……あ、6」

 

「(コロコロ)……やっべ、私も6だ」

 

「(コロコロ)……1だ」

 

 5点以上減少したレミリアと咏、《アイデア》をどうぞ。

 

 レミリア《アイデア》75 → 15 成功

 咏   《アイデア》65 → 20 成功

 

「あらぁ、一時的発狂よ」

 

「私もだぜ」

 

 初発狂記念として《クトゥルフ神話》技能6パーセントどうぞ。あと他の人も1パーセントプレゼントします。さて、1D10どうぞ。

 

「(コロコロ)……6」

 

「(コロコロ)……レミリアとダイスが合うなぁ、6だ」

 

 6番ですか。自殺癖あるいは殺人癖です。一番美味しい発狂を選ぶとはダイスの女神に好かれていますねぇ。

 

「やっぱりそうだったのね! ぶっ殺してやるわ! あんたたちを殺して生き残るのよ! 食屍鬼の群れの中に突っ込むわ!」

 

「どこまでも気が合うねい! 知らねえや! てめぇらみんなぶっ飛ばぁすっ! 扇子を構えつつ私も突っ込むぜ!」

 

「お、お嬢様ぁーっ!」

 

「ダメだ、咲夜も発狂しているようなもんだ! 白夜さん! ここでやるぞ! 脚のホルスターに隠していた拳銃を取り出す! ベレッタM92FSだ!」

 

「本当は外のホールでやりたかったんだけどしょうがないか。俺も拳銃を取り出すぜ。45口径のオートマチックだ」

 

 それでは戦闘ラウンド突入です。レミリアと咏さん、1D6をどうぞ。

 

「(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……2」

 

 ではレミリアは戦闘ラウンド3ターン目に、咏は2ターン目の最初で正気を取り戻してください。

 戦闘に参加する食屍鬼は7体。内1体は捕らえられているので行動できません。トドメはさせます。また、助けられた場合はこの食屍鬼も戦闘に参加します。

 行動順を決定します。それぞれ《DEX》値を教えてください。食屍鬼は全員《DEX》13で統一します。食屍鬼と同等の場合は自動的に食屍鬼から戦闘を行います。大賀美穂は10です。戦闘技能はありません。

 

「12だ」

 

「13よ」

 

「11です」

 

「20だ」

 

「12……っておいこら待て! 三尋木今なんつった!?」

 

「私の《DEX》は20だぜ。めっちゃくちゃ速いぜ」

 

「そんな次元じゃないんだが」

 

 それでは戦闘ラウンドに入ります、咏からどうぞ。

 

「一番近くにいる食屍鬼に攻撃だ。扇子を振り落とす。この扇子、実は鉄扇なんだ。列記とした武器なんだぜ?」

 

 狂人の洞察力判定を挟みます。《アイデア》の値以上の数値で自動成功です。

 

「(コロコロ)……34、失敗だ。普通に判定」

 

 咏 《鉄扇》80 → 05 クリティカル

 

「ひゃっはー! こっちのほうが良かったぜ! 食屍鬼は消毒だぜ!」

 

 なんであなたは戦闘ラウンドでそうクリティカルを普通に出しますかねえ!? 《回避》不可とします。

 一番近くにいた食屍鬼に攻撃でしたね。飛び出したということは縛られている奴ではありませんね。木場研二だった食屍鬼Fに咏の鉄扇がクリティカルヒットです。ダメージ判定どうぞ。鉄扇のダメージはタクティカル・バトンと同じ判定方法でお願いします。1D8+ダメージボーナスです。

 

 1D8+1D6 → 7

 

 えー、ショックロール入ります。

 

 食屍鬼F《CON》??×5 → 46 成功

 

 まだ健在ですね。

 

「ショックロールを乗り切ったか」

 

 では続いて食屍鬼たちの行動です。近いのはレミリアと咏ですね。

 まず食屍鬼A……村長食屍鬼は立てかけてあった薙刀を構えます。他5体の食屍鬼の行動です。BとCはレミリアへ、DEFは咏に向かってかぎ爪で攻撃してきます。面倒ですので纏めます。

 

 食屍鬼B《かぎ爪》?? → 78 失敗

 食屍鬼C《かぎ爪》?? → 85 失敗

 食屍鬼D《かぎ爪》?? → 87 失敗

 食屍鬼E《かぎ爪》?? → 71 失敗

 食屍鬼F《かぎ爪》?? → 19 成功

 

 大分腐っていますねぇ……それでは食屍鬼Fの爪が咏を捉えました。

 

「《回避》するぜ、80パーセントだ!」

 

「おかしいだろそれ」

 

 咏 《回避》80 → 09 成功

 

「さっきの仕返しってかい? んなもん喰らうかっての!」

 

「《DEX》13、私ね。食屍鬼Bに殴りかかるわ。化け物はぶち殺す! 慈悲はないわ! まずは洞察力ロールね(コロコロ)……86! 成功ね! これってどっちが成功になるの? 《武道(空手)》と《こぶし/パンチ》を併用するつもりだったんだけど」

 

 どちらとも成功で構いません。食屍鬼Bの《回避》判定です。

 

 食屍鬼B《回避》?? → 73 失敗

 

 2D3+1D4 → 9

 

「ほとんど最大値よ。どうかしら?」

 

 食屍鬼B《CON》??×5 → 92 失敗

 

 軽く5メートルほど吹き飛ばされた食屍鬼Bは壁にめり込んで気絶します。

 

「すげえお嬢様だ」

 

「《DEX》12の俺だ。ここからじゃ狙いが定まらないから近くまで移動する!」

 

「俺は大賀美穂の護衛につく! 嬢ちゃん無理すんな。ここは大人に任せとけ。部屋の隅から少し離れたところに移動するぜ」

 

 では大賀美穂は白夜の指示に従います。

 

「あ、ついでに食屍鬼Gにとどめを刺す。縛られているから抵抗できねえな? 攻撃も外しようがねえよな? 《回避》も出来ねえよな?」

 

 何にもできませんね。食屍鬼Gは息絶えました。

 

「私はお嬢様のもとに向かいます。反撃はしません。ひたすらお嬢様への攻撃に対して《庇う》を使用します。そばにいますから《DEX》対抗は挟みませんよね?」

 

 挟みません。ただしその場合《庇う》は自動成功とする代わりに確実にダメージが来ます。よろしいですか?

 

「大丈夫です。私が一番役に立ちませんからね」

 

 了解しました。では第2ラウンドに行きまーす。咏ちゃん、正気に戻ってくださいね。

 

「でもやることは変わらないぜ! 食屍鬼Fにとどめを刺しに行く!」

 

 咏 《鉄扇》80 → 10 成功

 食屍鬼F《回避》?? → 47 失敗

 

 1D8+1D6 → 8

 

 はい。食屍鬼Fは息絶えました。

 食屍鬼たちの行動です。ACはレミリアに、DEは咏に向かって攻撃します。なお、食屍鬼Aは薙刀で攻撃してきます。

 

 食屍鬼A《薙刀》?? → 95 ファンブル

 食屍鬼C《かぎ爪》?? → 70 失敗

 食屍鬼D《かぎ爪》?? → 93 失敗

 食屍鬼E《かぎ爪》?? → 25 成功

 

 んなっ!?

 で、では薙刀が空振った挙句勢いが強くてすっこ抜けてしまいました。次のラウンドの食屍鬼Aの行動は薙刀を拾うに固定し、このターン《回避》不可とします。

 

「相変わらずあなた、戦闘ラウンドだとダイス腐るわね」

 

 おはらいにでも行きましょうかね……おっと、食屍鬼Eは成功していました。咏ちゃん喰らっときますか?

 

「拒否するぜ」

 

 咏 《回避》80 → 35 成功

 

「だっから遅いっての」

 

「発狂中の私のターンよ。食屍鬼に生きる価値なしよ! 咲夜の制止なんて聞かずに全速前進! 食屍鬼Aに攻撃よ。洞察力判定は(コロコロ)……100! 怖いけど無事成功! 食屍鬼Aは《回避》できないからそのままダメージ判定!」

 

 2D3+1D4 → 7

 

 食屍鬼A《CON》??×5 → 80 失敗

 

 村長食屍鬼は気絶します。

 

「俺のターンだ! 気絶している食屍鬼Bに銃撃だ! とどめを刺すぞ!」

 

 何発撃ちますか? 3発まで撃てますけど。

 

「1発……いや、2発だ」

 

 遊星 《拳銃》75 → 33 成功

 

 2D10 → 9

 

 食屍鬼Bの額に風穴が開き、息絶えました。

 

「よし」

 

「俺の番か。こっちに食屍鬼は来ているか?」

 

 来ていません。

 

「なら待機する」

 

「私も何もせずにラウンドを終えます」

 

 では第3ラウンドに入ります。レミリアさん正気に戻ってください。

 

「……私としたことが、つい取り乱しちゃったみたいね」

 

「私の番だ。食屍鬼Eをぶっ飛ばす!」

 

 咏 《鉄扇》80 → 04 クリティカル

 

「そら来た2回目のクリティカル! 《回避》出来ねえな? そのままダメージだ!」

 

 1D8+1D6 → 14

 

「はっはぁ、最大値だぜえ!」

 

 嘘でしょう……食屍鬼Eの頭が割れ、そのまま崩れ落ちました。息絶えています。

 食屍鬼2体の攻撃です。Cはレミリアへ、Dは咏に向かいます。

 

 食屍鬼C《かぎ爪》?? → 37 失敗

 食屍鬼D《かぎ爪》?? → 48 失敗

 

 ダメだこりゃ。

 

「私のターンね。咲夜、悪いけど私は戦うわ」

 

「……では私がお嬢様の盾になります」

 

「ごめんなさいね。食屍鬼Cに向かって《武道(空手)》+《こぶし/パンチ》よ」

 

 レミリア《武道(空手)》72 → 37 成功

 レミリア《こぶし/パンチ》50 → 08 成功

 食屍鬼C《回避》?? → 10 成功

 

 お、おおっ! 回避! 回避しました! やっと成功しましたよ!

 

「躱されちゃったわ」

 

「俺の番だ。今《回避》した食屍鬼に3発ぶち込む。もう《回避》出来ないだろう」

 

 遊星 《拳銃》75 → 58 成功

 

 3D10 → 17

 

 食屍鬼C《CON》??×5 → 11 成功

 

 食屍鬼Cはまだ立っています。

 

「くっ。食屍鬼は飛び道具のダメージが半減されるからな……」

 

「俺は特に何もしない」

 

「同じく」

 

 そうですか。それでは第4ラウンド……に入る時ですね。あなた達は外から複数の足音がこの部屋に向かっていることに気が付きました。

 バンッと乱暴に扉が開きますと、そこにいたのは今あなたたちが戦闘を行っていた生物と同じ怪物でした。それがですね(コロコロ)……なんと10体、いるではありませんか。

 

「増援だと!? しかも10体!?」

 

「どこに隠れていやがった!?」

 

 それでは食屍鬼の最大正気度喪失ポイントに達していない遊星、咲夜、白夜、それからNPCの大賀美穂。《SAN》チェックのお時間です。

 

 遊星 《SAN》58 → 44 成功

 咲夜 《SAN》44 → 70 失敗

 白夜 《SAN》39 → 14 成功

 大賀 《SAN》40 → 23 成功

 

「(コロコロ)……あ、5です」

 

 おやおや、では5点以上減少した咲夜さん、《アイデア》判定をどうぞ。

 

 咲夜 《アイデア》55 → 94 失敗

 

「一時的発狂はなしですね」

 

「GM! 今全員のいる場所はどうなっている!」

 

 10体の食屍鬼に一番近いのは遊星と白夜、そして大賀美穂です。他3人は今から急げば間に合うでしょう。

 

「咏さん! あなたは向こうに行きなさい! 残り2体は私と咲夜で何とかするから!」

 

「了解した! このラウンドは遊星の隣に移動して終わりにするぜ!」

 

 それでは12体の食屍鬼たちが攻撃態勢に入ります。食屍鬼CDはレミリアへ、H~Kが咏に、L~Nが遊星に、O~Qが白夜の方に襲い掛かります。

 

「ちっくしょ、数が多すぎる! 1D20で決めやがって!」

 

 面倒なのでスマフォの判定アプリ使いますね。

 

 食屍鬼C《かぎ爪》?? → 85 失敗

 食屍鬼D《かぎ爪》?? → 20 成功

 食屍鬼H《かぎ爪》?? → 82 失敗

 食屍鬼I《かぎ爪》?? → 82 失敗

 食屍鬼J《かぎ爪》?? → 96 ファンブル

 食屍鬼K《かぎ爪》?? → 48 失敗

 食屍鬼L《かぎ爪》?? → 50 失敗

 食屍鬼M《かぎ爪》?? → 02 クリティカル

 食屍鬼N《かぎ爪》?? → 73 失敗

 食屍鬼O《かぎ爪》?? → 39 失敗

 食屍鬼P《かぎ爪》?? → 80 失敗

 食屍鬼Q《かぎ爪》?? → 48 失敗

 

 食屍鬼Jはこのターン《回避》不可とします。食屍鬼Mの攻撃には《回避》できません。

 

「お嬢様に向かう食屍鬼がいますね。《庇う》を使用します!」

 

 それではダメージ判定行きます。

 

 2D6+1D4 → 6

 2D6+1D4 → 9

 

 咲夜 《耐久力》14 → 8

 遊星 《耐久力》12 → 3

 

「くはぁっ!」

 

「さ、咲夜!? 咲夜ぁ!」

 

「ぐっ、俺はショックロールか!」

 

 遊星 《CON》10×5 → 03 クリティカル

 

「よし、気絶はなしだ!」

 

 クリティカルですか。ではひっかきどころが悪かったということでダメージを半減していいです。

 

 遊星 《耐久力》3 → 7

 

 さて……ダメージを食らった咲夜、《幸運》で判定してください。

 

「はい?」

 

 咲夜 《幸運》45 → 01 クリティカル

 

 ……え? ま、まぁいいです。それでは《幸運》に成功した咲夜……この紙をどうぞ。

 

「え? なんですか、これ」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

十六夜 咲夜 秘密:『豊穣の善神』

 

 あなたはシュブ=ニグラスの化身だ。

 気紛れで地上に現れたあなたであったが人間の姿に擬態してしまったばっかりに、記憶喪失となり全ての力を失ってしまう。

 

 あなたが神話生物、あるいは超常現象を目撃して一時的狂気・不定の狂気に陥った時、または神話生物によるダメージを受けて《耐久力》が減少した場合に《幸運》判定を行い、成功した場合、緑の石……シュブ=ニグラスの力の結晶が弾け、失った記憶を取り戻す。

 あなたが真の力を取り戻し理性が残っているのであれば、善の心を持つ豊穣神としての全ての力を使うことができるだろう。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

「え、ええ!? これって……」

 

 はい。そういうことです。それがあなたの本当の秘密です。

 

「おい、なんだ。何が書かれているんだその紙には」

 

 それはすぐにわかりますよ。それではこのセリフを咲夜、お願いします。

 

「……わかりました。では庇った後、小さく笑いながらお嬢様に微笑みかけます」

 

「え?」

 

「――思い出しました。お嬢様、この咲夜、この身、この力の全てを以ってあなたをお守り致します」

 

 芯のある強い言葉がこの中央会館に響いた。音響効果などないこの建物でも、小さく静かな口調であったものの、その存在感のある美しい声は確かにこの場の全ての生物の耳に届いた。

 全ての生物の動きが止まり、その声がした方へ顔を向ける。そこにいたのは仕えるべき主を守るべく戦っていた美しき銀の従者……十六夜咲夜であった。

 

「え? 咲夜?」

 

 ピシリッ。

 まるで池に張った氷に亀裂が入った音がする。

 ピシリッピシリッ。

 それは彼女が首から提げている緑色の石の付いたペンダントから発せられている。何もしていないのに石に皹が入り、その緑色の輝きは皹が入れば入るほど強く強くなっていく。

 ピシリッピシリ……パシッ!

 やがて石が砕け、パラパラと破片が地面に散らばる。欠片が散らばった更地だった土間には緑色の草が生え、色とりどりの花が咲き誇り、それは植物の生えていない空間全体に広がっていく。

 

 変化はそれだけでは留まらず……十六夜咲夜の身体にも起き始めた。

 

 優しい白いヴェールを纏った緑色の光が彼女の体を包み、灰色だった瞳は緑色に輝き、銀色だった髪の毛にも薄い緑の色彩が加わる。そして……彼女の髪の毛に隠れるように、しかし確かにそこに生えている2本の山羊の如き白い角。背中には2対の薄緑色の翼が花咲くように生え揃っていた。

 

 明らかに人間の姿ではなくなった咲夜。しかし、『あのとき、自分を助けてくれた愛おしき主を守る』というその誓いは清き豊穣の神の姿となっても変わることはない。

 仕える主であるレミリアを映す翠色の双眸には、決意と覚悟、そして何よりも純粋な強い忠誠の感情が込められていた。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.9

 咲夜の秘密……神話生物、もとい神、《忠誠を誓いし清き豊穣神》の姿を直視したレミリア・スカーレット以外の皆さん、《SAN》チェックでございます。0/1D3です。なおこの正気度減少による不定の狂気は発症しません。

 

 遊星 《SAN》58 → 23 成功

 咏  《SAN》39 → 02 クリティカル

 白夜 《SAN》39 → 46 失敗

 

 クリティカルを出した咏は1D3の正気度を回復させてください。

 

「(コロコロ)……3点だ」

 

「(コロコロ)……俺は3点減少だ」

 

「そんなことはどうでもいい! なんだ! 十六夜さんの身に何が起こった!? 《SAN》値は減っていないけど大パニックだぞこっちは!」

 

「さ、咲夜……? 呆然と咲夜を見つめるわ。PL的にも割と呆然としているわ」

 

「ご安心を。私もです。お嬢様……記憶を無くした私を救っていただき、ありがとうございました。今度は私が恩返しをする番でございます。GM、私は異空間から【豊穣神の蔦】を取り出します」

 

 了解しました。さぁさ、皆さん。戦闘ラウンド中ですよ。皆さん呆然としているということで5ラウンド目に移行します。《DEX》20の咏さん、どうぞ。

 

「え、ああうん。とりあえず近くにいる食屍鬼をぶん殴る。へっ、なんだかわっかんねえけど……敵じゃねえならどうでもいいってね!」

 

 咏 《鉄扇》80 → 34 成功

 

 食屍鬼たちは茫然としています。そのままダメージロールどうぞ。

 

 1D8+1D6 → 8

 

 食屍鬼H《CON》?? → 58 成功

 

 食屍鬼Hは気絶こそしてはいませんが、いまだ呆然と立ち尽くしています。では次は《DEX》が16に跳ね上がった咲夜のターンです。どうぞ。

 

「お嬢様に近い食屍鬼2体に対して攻撃を仕掛けます」

 

 自動成功です。そのままダメージロールを2回どうぞ。

 

 2D6+1D4 → 10

 2D6+1D4 → 10

 

 食屍鬼D《CON》??×5 → 97 ファンブル

 

 では咲夜の攻撃を受けた2体の食屍鬼は絶命しました。

 続いて食屍鬼たちの攻撃ですが……このラウンドのみ一切の行動をとれませんので飛ばします。

 

「……はっ! さ、咲夜。咲夜なの?」

 

「ええ、あなたの咲夜です。長い間、申し訳ございませんでした。……驚きましたか?」

 

「驚くに決まっているじゃないのよ! ああ、今は良いわ! あとで色々問い詰めてあげるから覚悟なさい!」

 

「なんなりと。さぁ、彼らのお手伝いをしましょう」

 

「そうね。でもその前に……」

 

 レミリア《武道(空手)》72 → 42 成功

 レミリア《こぶし/パンチ》50 → 39 成功

 

 2D3+1D4 → 8

 

「この村長食屍鬼にきっちりとどめを刺さないとね」

 

「……ですね」

 

「さぁ、次のラウンドで手伝いに行くわよ、咲夜」

 

「承知しました」

 

「ちっ、よくわからんが今はあの化け物を倒すチャンスだ!」

 

 遊星 《拳銃》75 → 18 成功

 

 3D10 → 22

 

 的確に急所を打ち抜かれた食屍鬼Lは崩れるように倒れます。自動気絶です。

 

「俺の番か。今のうちに食屍鬼たちと距離を取って安全な場所に大賀さんと移動する。次のラウンドから俺も《拳銃》で攻撃するぞ」

 

 では第6ラウンドに移行します。……が、えー、読者の皆さん、ぶっちゃけこの状態になった瞬間にどう足掻いても食屍鬼たちに勝ち目はありません。よって戦闘はカットさせていただきます。

 その、なんというか、この戦闘ラウンドかなりグダグダになりまして、なんと14ラウンドまでかかる長期戦に。途中白夜の《耐久力》が2になったりしましたけど。咲夜の力で回復したりなんやらかんやらして無事食屍鬼たちを全滅させることに成功しました。

 

「……ふぅ、なんとか全員倒したみたいね」

 

 ごめんなさい。いや、理由はあったんですけど、食屍鬼を10体も追加注文しちゃってごめんなさい。

 

「まぁ、いいんじゃないか。無事にみんな倒せたんだしよ」

 

「というか色々聞きたいことがあるんだが1つに絞ろう。十六夜さん、あんたは一体何者だ?」

 

「それは俺も気になる」

 

「私もだ」

 

「あー……GM、これ誤魔化した方がいいでしょうか? 《SAN》チェックとかありませんか?」

 

 いえ、ありません。お好きに喋っていただいて結構ですよ。

 

「あったとしても私が許さないわ。咲夜、これは命令よ。主の私に隠し事は許さないわ」

 

「……はい、お嬢様。この咲夜、全てを語らせていただきます」

 

 では咲夜に代弁してGMから真相をお話しします。

 咲夜はとある神の分身体の1体であり、人間の姿に擬態した時に記憶を失ってしまいます。その時にレミリア、あなたに拾われ今日まで記憶を無くした状態で人間として過ごしていました。

 レミリアを守る一心で彼女を庇い、ダメージを受けたときに記憶が戻り、こうしてすべての力を取り戻したのです。

 

「じゃあ……なに? あなたは神様なの?」

 

「そういうことになります」

 

「ふーん。で、あなたもう人間の姿に戻れないの?」

 

「えっと?」

 

 戻れますよ。

 

「ええ、戻れます。戻れますが」

 

「じゃあ早く人間の姿に戻りなさい。眩しいのよ、もう」

 

「あ、はい。元に戻ります」

 

 では咲夜は元の姿に戻りました。角も翼も消えますが、銀色の髪の毛の中に緑色のメッシュがいくつか入っています。

 

「よし、それでいいわ。さぁ、疲れたわ咲夜。お茶にしましょう。ここじゃあ落ち着かないし、別の場所で休みましょう」

 

「え……よろしいのですか? お嬢様、私は……」

 

「人間じゃなくてもあなたは私の咲夜よ。私の満月なのよ。あなたを手放すなんて考えられないわ。あなたこそ、勝手に私の前から消えるなんて許さないわよ」

 

「……はい、この咲夜。この命尽きるまでお嬢様のおそばにおります」

 

「あのさぁ、レミ咲劇場を開いているとこ悪いんだが、1つ聞いていいか?」

 

「ああ、ごめんなさいね。いいわよ」

 

「十六夜さん、あんたその……神様なんだろう?」

 

「ええ、まぁ、そうですね」

 

「じゃあさ……ここから脱出できる魔法とか、ないか?」

 

「……あ、ありますね。私、呪文【門の創造】を持ってます。これで一応、この村から脱出できます」

 

「よし、これで出られるぞ」

 

「それぞれ帰りたいところにワープさせてもらおう。出来るか、十六夜さん?」

 

「ええっと、私の《MP》はあと58ありますから、出来ると思いますよ」

 

「それじゃあ脱出しましょう。この分じゃあ、助けなんてこないでしょうし。そういえば、遊星さんはどうするの?」

 

「俺か……俺はこの事件の真相をできれば公表したい。だが、こんなことをしたら日本中が混乱する。……ここは黙っておこうと思う。真相は闇の中だ。だが、せめて内藤さんだけでも供養させてやりたい」

 

「大丈夫よ。私が最期に会って、話をしてきたから。ただ、ご家族の所に連れて行ってあげたいわ」

 

「でもどう説明するつもりだ? 刺し傷ならなんとかなっても歯形は誤魔化せないぜ?」

 

「……ダメか。じゃあせめて埋めてあげよう。彼女は本当に被害者なんだからな」

 

「だな。内藤さんは埋めてやろう。こんな場所に埋めちまうのは正直可哀そうだけどねい……」

 

「仕方がない。俺たち6人だけの秘密だ。咲夜のことも永遠の秘密だ。いいな?」

 

「「「「頷(きます、くわ、く)」」」」

 

「というわけでGM、俺たちは内藤さんを埋葬してこの村から立ち去る」

 

「あ、俺は食屍鬼の死体を1つ持っていきたい。研究したい。勿論秘密裏にだけどな」

 

「好きにしてくれ。これで全員無事生還だ!」

 

「ハッピーエンドね」

 

 はーい。ではエンディング行きます。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 はい、探索者の皆さん、全員無事生還おめでとうございます。ぶっちゃけですね、このシナリオはグッドエンドかバッドエンドかの天国と地獄シナリオでしたから、大丈夫かなと思って私もハラハラしていました。

 ではそれぞれの後日談と行きましょう。

 まずは遊星の個別エンディングです。

 えー、不動遊星捜査官。真相にはたどり着くことは出来ましたが……とても公表できない出来事でしたね。

 

「ああ。さすがに無理だ。誰にも報告せずに墓で持っていくとする」

 

 ですね。警察官として、事件の真実を公にできない悔しさこそあるでしょう。ですがあなたは、警察官としてこれ以上の犠牲を一切出さずに無事に生還できました。

 よってGM的にはミッションコンプリートとします。おめでとうございます。成功報酬としてこのシナリオで喪失した《SAN》値及び《耐久力》を回復させてください。

 

「ありがとう」

 

 続いてレミリア、そして咲夜の主従コンビ。文句なしのグッドエンドです。おめでとうございます。

 

「ありがとう」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

 えー、2人とも遊星と同じく《SAN》値をマックスにしておいてください。あ、咲夜は《SAN》値超越していますけどね。

 では三尋木咏のエンディングです。

 

「逃げ切ったぜい」

 

 逃げ切りましたね。無事、あなたは秘密を誰にも悟られずに生還できました。文句なしのグッドエンドです。喪失分の《SAN》値を回復させてください。

 それでは最後、白夜のエンディングです。……はい、クリアできておめでとうございます。

 

「ていうかさ、これ無事にエンディング向えたら全員クリアできるミッションじゃねえか?」

 

 そうでもないですよ? 遊星のミッションも案外難しいものでしたし、咲夜の《MP》が少なかったりしたらあなたのミッションはクリアしにくいですし、咏の人なんて正直厳しいくらいでしたよ?

 

「そうかい。まぁ俺の目的は達成した。報酬も同じの貰っていくよ」

 

 そうですね。

 それでは以上をもちまして、COCシナリオ【大神村の怪異】を終了とさせていただきます。皆さん、お疲れ様でした。

 

「「「「「お疲れ様でした」」」」」

 

 

 

 

     ――Good end!!




次回の投稿は未定ですが、各PCの秘密と個別OPを公開します。

出来ればどんな秘密を持っていたのか、考えてみてくださいね。


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Part.Extra

各キャラのステータス、秘密、個別オープニング集です。

次回も未定ですが、セッション終了後のぶっちゃけトークをまとめたものを投稿したいと思います。


 ――個別オープニング 不動遊星――

 

 

「久し振りのセッションだな。楽しみにしているぞ」

 

 楽しみにしていてください。今回のセッションはいつもとは少し違う形式のものを用意していますよ。

 

「とりあえずキャラを作ろう。キャラシートを貰えないか」

 

 (コロコロ)……あ、すみません。ちょっと待ってもらっていいですか?

 

「なんだ今の1D6」

 

 えっとですね、このシナリオ、場合によってはPCに役割があるものなんですよ。

 

「シノビガミみたいなものか」

 

 そうそう、そんな感じです。

 

「で、俺の役割はなんなんだ?」

 

 えー、あなたの職業は強制的に【警察官】になります。以上。キャラを作ってください。続きは個別オープニングで色々説明します。

 あ、PVP及び戦闘が発生する可能性のあるシナリオとなっておりますので。戦闘技能を持っていることを推奨します。

 それからですね。遊星くん、あなたはこのシナリオ中、持ち物欄に書いていなくても拳銃を所持していて結構ですよ。

 

「マジか? かなりドンパチするシナリオじゃないか。よし、オーケー。主人公みたいだな。……キャラ出来たぞ」

 

 キャラ紹介お願いします。

 

「俺の名前は不動遊星。43歳の警察官だ」

 

不動 遊星

性別:男 年齢:43歳

職業:警察官 特徴:鋭い洞察力

STR:14 《幸運》60   《言いくるめ》60   《拳銃》75

CON:10 《アイデア》55 《聞き耳》56

POW:12 《知識》80   《心理学》65

DEX:12 《母国語》80  《説得》58

APP:14 《回避》60   《追跡》60

SIZ:13 《耐久力》12  《法律》50

INT:11 《MP》12   《目星》55

EDU:18 《DB》+1D4 《武道(空手)》76

SAN:60 《年収》500万 《こぶし/パンチ》70

 

 堅実ですけど面白味のない普通の万能キャラですね。何かに寄せてロールプレイを楽しむあなたらしくない。

 

「酷い言われようだ。役割が与えられて警察官だから、出来る限り何でもできるように作った。経歴的にはまぁ、普通のベテラン刑事ってところかな。この年収なら良くて警部補か?」

 

 そのくらいですかね。それでは個別オープニング行きます。

 舞台は現代日本の夏の日のこと。あなたは警視庁捜査一課の刑事です。そんなあなたのもとに課長が話しかけてきます。

 

「不動くん、ちょっといいかな?」

 

「呼ばれたから行こう。どうしましたか課長、事件ですか?」

 

「まぁ事件……といえば事件なんだがな、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「課長についていくぞ」

 

 では課長は奥の部屋、誰もいない部屋にあなたを連れて行きます。

 

「聞かれたくない事件なのか? 危ない案件なのですか?」

 

「それすらもわからん……わからんからこそ、君を呼んだんだ。君は階級とかを気にしないで刑事としての職務を全うする男だからな」

 

「褒めているんですか?」

 

「褒めているんだよ。そして私はそんな君の手腕を買っている」

 

「それはどうも。それで、どんな事件なんですか?」

 

 あなたが訊ねると、課長は難しそうな顔で概要を説明し始めます。

 

「実はな……1年前のこの時期に、3件の謎の失踪事件が発生したんだ」

 

「失踪事件?」

 

「知らなくて当然だろうな。失踪なんてざらにある事件だし、我々もつい最近までは気にも留めていなかった」

 

「でも失踪事件と銘打つものまで大きくなったということは……何か進展があったんですね?」

 

「ああ。その事件で失踪した3人は……これだ」

 

 と言って胸元から1枚のチラシを君に渡してきます。

 

「受け取って内容を確認する」

 

 第2回大神村ホラーツアー、という見出しが大きく掲載されています。どうやらこの時期お馴染みのツアーの1つみたいですね。

 

「開催日時は?」

 

 約1ヶ月後です。参加期限は明日までですね。

 

「ギリギリじゃないか。これが事件と関係があるんですか? まさか被害者が全員?」

 

「察しが早くて助かるよ。そうだ。この3人とも、このツアーに参加した日から行方が分からなくなっている。内1人はこのツアーのツアーガイドだ。関係がないとは思えないだろう?」

 

「ですね。というかよくこんな情報入手できましたね」

 

「日頃の捜査の賜物ってことさ。それで不動くん、君にはこのホラーに客として参加して、なにかしら情報がないかを探ってきてほしいんだ」

 

「潜入捜査というやつか。わかりました。ところで、これ以外の情報はないのですか?」

 

「すまないが、この案件をしていたやつらは今、とても重要な事件にかかりきりになっている。だからこっちに回ってきたんだ。君は丁度抱えていた案件に区切りをつけて空いていたからな」

 

「成程、そういうことでしたか。やってみます」

 

「頼んだぞ」

 

「はい。というわけでGM、俺はこのツアーに参加するぞ」

 

 わかりました。では遊星はこのホラーツアーに参加することになりました。

 

「まだ1ヶ月あるんだろう? それまでこの事件についていろいろと調べておくぞ。まずはこのホラーツアーについて詳しく知りたい。概要を教えてくれ」

 

 今回の大神村ホラーツアーは見出しに書かれている通り2回目で、このツアーは正式な旅行会社の企画ではなく、九頭竜会というオカルト団体が主催したイベントです。バス運転手やツアーガイドは派遣された人です。

 前回のツアーはツアーガイド合わせて参加者10名で開催されていて、その内3人が行方不明となっていることが最近になって判明しました。届出がなかったものやツアーとの因果関係が不明なものを含めればもっと多い可能性があります。

 

「九頭竜会とは具体的にどんなオカルト団体なんだ?」

 

 どこにでもある普通のオカルト団体だと思うことでしょう。その会員の中に、この大神村の村長もいるらしく、その伝手でこのツアーが開催されるようになったようです。

 

「第1回ツアー客の詳細は?」

 

 記録が残っていないようです。

 

「管理がなっていないな。仕方がない。失踪者リストと第1回ツアーの開催日時を照らし合わせてみる。何かわからないか?」

 

 わかりませんね。失踪者なんていくらでもいますから。

 

「だよなぁ。このホラーツアーが開催される村……大神村について調べよう。まずはインターネットで調べる。えっと、何県にあるんだ?」

 

 うーん、埼玉県ってことにしといてください。

 

「どこでもいいようだな。じゃあ『埼玉県 大神村』で検索してみる。なにかしら出てくるだろう」

 

 そう調べても、何も出てきません。

 

「おかしいな。他に大神村についてわかることはないか? ツアーのチラシからでもいい」

 

 人狼伝説のある村、とは書いてあります。

 

「じゃあ『人狼伝説 大神村』で検索だな」

 

 ホラーツアーの情報は出てきました。それ以上の情報は何も出てきません。

 

「どういうことだ、おかしいぞ。埼玉県に向かう。役所にだ。大神村について職員に訊いてみる」

 

 職員の人は少し眉を顰めたのちパソコンに向かいます。1分もせずに困ったような顔で対応されました。そんな村は県に登録されていません、と。

 

「そんなことはないだろう。GM、ホラーツアーのチラシには当然行われる場所の住所が掲載されているはずだ。その住所を見せて問いただす」

 

 確認しますと職員の人が奥に行って数分後、やはり困ったような顔をして戻ってきました。確かにこの住所は存在し、かつて村のような人里があったという資料があったのですがそこは山奥で、現在は人は1人も住んでいないとのことです。電気も水道も通っていませんので、生活なんて成り立つはずがないと言います。

 

「本当に怪しい村だな。実際にこの村の住所に向かってみる」

 

 《ナビゲート》で判定してください。

 

「《ナビゲート》は初期値だから無理だ。ファンブル出して遭難する方がマズい。近くまで行ったがわからないから引き返したことにしていいか?」

 

 それでいいですよ。

 

「他に調べられることは……特にないな。俺の行動はこれで終わりにする。あとはツアーが始まるまで待つぞ」

 

 了解しました。それでは遊星の個別オープニングを終了します。

 

 

不動 遊星 秘密:『潜入捜査官』

 あなたは潜入捜査官だ。

 過去、大神村で行われたツアーの参加者10人のうち3人が行方不明になっているという情報をあなたは仕入れ、真相を知るべく今回のツアーに参加している。

 あなたは所持品に拳銃を書き込まずとも、拳銃を所持品とすることができる。その場合、拳銃はベレッタM92FSでなければならない。

 また、あなたは事前調査により、大神村やホラーツアーの概要を大まかではあるが知っている。

 

 あなたの使命は、この失踪事件の真実を突き止め、これ以上の被害者を出さないように解決することだ。

 

 ベレッタM92FS

 ダメージ:1D10 攻撃回数:3回 射程距離:15m 装弾数:15

 

 

 ――十六夜咲夜 個別オープニング――

 

 

「来ましたよGM。久し振りですね」

 

 お久し振りです。お互い忙しくて何よりですね。

 

「社会人はお金があっても時間はないですからね。ですから、こうしてみんなで遊べるだけでも楽しいものです。それでどんなシナリオを用意しているんですか?」

 

 現代日本の夏。とあるホラーツアーに参加してもらう、みたいなシナリオです。

 

「ありがちなクローズド系シナリオですか」

 

 ただしPVPや戦闘が発生する可能性のあるシナリオとなっています。

 

「物騒ですね。まぁ私のキャラは決まっているのでいいですよ。というかPVPって……クトゥルフなんですよね?」

 

 そうなんですけどPCは秘密を持っている、という特殊なシナリオなんです。

 

「それって全員持っているんですか?」

 

 それはこの1D6で決まりますよ。あなたはですねえ(コロコロ)……ああ、なるほど。あなたのPCは無事秘密を抱えるPCになったみたいですね。

 

「やりました。どんな秘密を抱えていているんですか?」

 

 あなたは『記憶喪失』にかかっています。

 

「え?」

 

 という設定です。キャラシートを作成してください。自由に作成していただいて結構ですよ。あなたの場合はちょっと今から色々考えますから。あ、それからあなたの特徴は『大切なもの』でよろしくお願いします。強制バッステ付与の為、60ポイントの技能ボーナスをプレゼントしましょう。

 

「太っ腹ですね。とりあえず名前は十六夜咲夜で。職業は……殺し屋にしましょうか」

 

 こ、殺し屋ですか?

 

「はい。咲夜はヴァンパイアハンターだったっていう二次設定がありましたから、そこから拝借しまして。記憶喪失の殺し屋ってかっこよくありませんか?」

 

 ちなみに今回のPCでレミリア・スカーレットにするって言ってる人がいるんですけど。

 

「メイドにします!」

 

 えっと、確かレミリアの人は外国人という設定ですので、《日本語》をある程度習得しておいてください。あ、名前はそのままで構いませんよ。

 

「そうなんですか?……はい、キャラ出来ましたよ」

 

十六夜 咲夜

性別:女 年齢:30歳

職業:メイド 特徴:大切なもの

STR:16 《幸運》45   《言いくるめ》63

CON:16 《アイデア》55 《応急手当》50

POW:09 《知識》60   《聞き耳》45

DEX:11 《母国語》60  《製作(料理)》70

APP:17 《回避》22   《経理》60

SIZ:11 《耐久力》14  《心理学》63

INT:11 《MP》09   《目星》45

EDU:12 《DB》+1D4 《日本語》80

SAN:45 《年収》500万 《運転》60

 

 これは……どんな感じでデザインしたんですか? 《投擲》とか《ナイフ》とか取っていないようですけど。というか戦闘技能がないようなんですが? 戦闘が発生するシナリオって言いませんでしたっけ?

 

「はい? 何を仰っているんですか? 私はお嬢様を御守りするメイドです。戦闘ラウンドに入ったら庇う以外の行動をするつもりはありませんよ。場合によりますけど。それに《STR》が16もありますし、なんとかなるでしょう」

 

 あー……なるほど、そういうことですか。なら……こんな感じの設定で行きましょう。

 それではあなたの個別オープニングに移らせていただきます。

 十六夜咲夜、あなたはスカーレット家に仕える侍女です。とある事情であなたとお嬢様であるレミリア・スカーレットは日本に訪れています。

 あなたとレミリア・スカーレットとの出会いは25年前に遡ります。

 当時、あなたはイギリスのスラム街にいました。小さなあなたは記憶がなく、名前も、どこから来たのかも覚えていませんでした。気が付いたらスラム街にいた、という表現の方が正しいのかもしれません。

 ボロボロの服と、緑色に輝く石のペンダントだけが所持品だったあなた。当然お金などなく、日に日にあなたは(やつ)れていきました。

 そんなある日のことです。あなたの前に素人目でもわかるくらいに高い服を着た少女がいました。疲れ果てていたあなたは薄く目を開いて見つめるだけでしたが、目の前の少女は慌てた様子です。あなたの意識はそこで暗転しました。

 ……そして次に目を開けたとき、今まで感じたことのないくらいに柔らかくて心地よいものが自分を包み込んでいることに気が付きました。起きてみるとそこは今までとはまるで違う世界が広がっていました。

 清潔に保たれた、品の良い家具が並べられた一室。ボロボロだった服はきちんとした服に変わっていて、鏡を見れば汚れていた自分の顔も綺麗に拭き取られていました。

 呆然としたあなた。しばらくして、ノックの後に1人の少女が部屋に入ってきました。あなたが気を失う前に見た、あの少女です。

 その少女はまず起きたあなたを見て喜び、その後に行く当てがないならここで働かないかと手を差し伸べます。この少女こそ、あなたが敬愛する主人、スカーレット家の次女、レミリア・スカーレットでした。

 

「とても素晴らしい人格者じゃないですか。これは一生かけてでもお仕えするでしょうね」

 

 はい。あなたは自分を助けてくれたレミリアに絶対の忠誠を誓います。例えるならば、自殺しろと言われたら喜んで舌をかみ切るレベルです。

 

「大分凄まじいですね。でもそれこそ王道のレミ咲ですよね。テンション上がってきました。気合いを入れてロールプレイに徹するとします」

 

 あなたはその後、自分の名前がわからないことをレミリアに伝えた後、十六夜咲夜と名づけられました。和名なのはスカーレット家が親日家であり、レミリア自身、すでに日本語と英語が両立できる環境で育てられたからです。多分漢字の方が格好いいからとかそんな理由だと思います。

 

「居場所と名前を一遍に貰ってしまってはなるほど、そのレベルの忠誠心を抱いていてもおかしくありませんね」

 

 そうでしょう?

 さて現代に話を戻して、えー、ある夏の日のこと、あなたはレミリアと一緒に日本にいました。

 ふと、レミリアは面白そうだからという理由でとあるホラーツアーのチラシをあなたに見せてきます。

 

「なんというホラーツアーでしょうか」

 

 『蘇る人狼伝説 大神村ホラーツアー』というツアーです。お嬢様であるレミリアは参加すると意気込んでいますが。

 

「勿論私も参加します。お嬢様いらすところ咲夜ありです」

 

 ありがとうございます。それではあなたはレミリアの付添人としてこのツアーに参加することになりました。

 

 

十六夜 咲夜 秘密①:『記憶喪失』

 あなたは記憶喪失にかかっており、主人であるレミリア・スカーレットとの出会いまでの記憶がない。レミリア・スカーレットに拾われた際のあなたの所持品に服以外で緑色に輝く小さな石があり、今はペンダントとして首から提げている。

 あなたはレミリア・スカーレットに絶対の忠誠を誓っている。彼女の為ならば率先して自らの身を盾にするだろう

 あなたの特徴は強制的に《大切なもの》になる。強制バッステ付与につき60ポイントの技能ボーナスを与える。

 

秘密②:『豊穣の善神』

 あなたはシュブ=ニグラスの化身だ。

 気紛れで地上に現れたあなたであったが人間の姿に擬態してしまったばっかりに、記憶喪失となり全ての力を失ってしまう。

 

 あなたが神話生物、あるいは超常現象を目撃して一時的狂気・不定の狂気に陥った時、または神話生物によるダメージを受けて《耐久力》が減少した場合に《幸運》判定を行い、成功した場合、緑の石……シュブ=ニグラスの力の結晶が弾け、失った記憶を取り戻す。

 

 あなたが真の力を取り戻し理性が残っているのであれば、善の心を持つ豊穣神としての全ての力を使うことができるだろう。

 

《忠誠を誓いし清き豊穣神》

STR:18 CON:24 POW:70 DEX:16

APP:18 SIZ:11 INT:21 EDU:12

《耐久力》18 《MP》70 《DB》+1D4

 

《忠誠を誓いし清き豊穣神》の姿を直視したレミリア・スカーレット以外の者は0/1D3の正気度ポイントを失う。この正気度喪失による不定の狂気は発症しない。

 

 あなたは1ラウンド中に2回行動することができる。

 

武器:【豊穣神の蔦】100%

 《耐久力》20の蔦を異空間から召喚できる(※《MP》は消費しない)。対象に2D6+DBのダメージを与えるか、捕縛しラウンド終了時に1D6の《POW》を吸収するかを選べる。

 

呪文:

【治癒】

 《MP》を12消費することで、傷・病気・毒などの症状を全て癒し、2D6の耐久力が回復する。倍の《MP》を消費した場合、対象を自由に増やすことができる代わりに回復量が2D3になる。

 

【門の創造】

 《MP》を消費することによって対象を任意のポイントにワープさせることができる。

 

 

秘密③:【豊穣の邪神】

 あなたはシュブ=ニグラスの化身だ。

 

 もし、記憶を取り戻す前に緑の石が破壊されるか、身体から半径100メートル以上離れた場合、またはあなたの《耐久力》か正気度ポイントが0になった場合、あなたは豊穣神としての真の力を全て取り戻す。

 

 ……理性を失い、自分の欲望のために全てを破壊し、新たな生命を誕生させんとする黒き邪神の姿となりて。

 

 ――思い出した。全テ、なニもカモ、おモイだシタ……ウは、アハはッ、アハハははハはハッ!!

 

 歓喜と狂気が入り混じった嗤い声がこの小さな村全体に響き渡った。

 その嗤い声は嬌声のようで悲鳴のような、聞き心地はいいが耳障りで、壊れた大型スピーカーのノイズのようで高級な和楽器の奏でる静かな音色のような、あらゆる矛盾に満ちた完全にして歪なものであった。その音ともいえぬ音の発生源は銀色の髪の毛を靡かせる異国の従者であった。

 

 声高々に嗤う美しかった顔は無残に爛れ、口が、鼻が、耳が、目が、溶けるように落ち、顔のなくなった顔の内側からぼこぼこと黒い液体が泡立ち、それはやがて彼女の四肢を覆いつくすように広がり、人間のものであった体の原型もない巨大な雲海のような姿へと変貌した。やがてその雲海は凝縮し、別れ、バラバラになりながらも別の生き物のフォルムを描いていく。

 

 黒い無数の触手にはそれぞれ人間の手のような指が5つ、鋭い爪の生えた状態でのたうち、短いながらも長寿の木の根のように曲がりくねった4本の足の先には黒い蹄がある。

 その姿は山羊のようであったが、明らかに山羊ではないという違和感が先行してしまう、とても地球上の生物であると思えない冒涜的なシルエットを有していた。

 

 顔のない頭部にある異臭を帯びた粘液を滴れ落とす巨大な口から人間の女性の上半身が出てきた。彼女はかつての十六夜咲夜の顔に近いが目は赤く発光し、銀色だった髪の毛の中に黒いものが混じり、口が裂けた恐ろしい以外の言葉では言い表せないほどの姿となり果てていた。

 

《黒き山羊 シュブ=ニグラスの化身》

STR:72 CON:170 POW:70 DEX:28

APP:21 SIZ:120 INT:21 EDU:∞

《耐久力》145 《MP》70 《DB》+11D6

 

《黒き山羊 シュブ=ニグラスの化身》の姿を直視したレミリア・スカーレット以外の者は1D10/1D100、レミリア・スカーレットは1D100/2D100の正気度ポイントを失う。

 

 

 ――三尋木咏 個別オープニング――

 

 

「おーっす、来てやったぜ」

 

 どうも、今3人ほど個別オープニングを終わりましたよ。

 

「へぇ、誰が来ているんだ?」

 

 古美門と咲夜と遊星の人です。

 

「和マンチとロールプレイヤーと常識人か。ルーニーのあいつは来んの?」

 

 あの人は都合が合わなかったみたいです。まぁあんまりルーニー向きのシナリオではないのでちょうどよかったかもしれませんが。あ、でもあなたは好きかもしれませんね。戦闘及びPVPが発生する可能性のあるシナリオですから。

 

「おお、戦闘か! よっしゃ、じゃあ戦闘キャラを作るぜい」

 

 んー……じゃああなたはこの秘密をプレゼントしましょうか。

 

「秘密?」

 

 このシナリオ、各PCがそれぞれ秘密を持っているかもしれないものになっていますからね。本当は1D6で決めるんですけどあなたには特別です。

 

「秘密ねえ。で、どんな秘密よ?」

 

 まず初めに、あなたは人間ではありません。人間社会に解け込み、ひっそりと生きる化け狐です。

 

「化け狐?」

 

 はい。あなたは平穏な生活を望む化け狐です。人間として生きているのは、単純に人間として生きていきたいというあなたの願望からであり、特に深い理由はありません。

 そんなあなたのキャラ作成なのですが、まず身体の基礎が人間のそれとは異なります。《STR》《CON》《DEX》は3D6ではなく2D6+12の値で決定してください。

 

「お、おお?」

 

 さらに《こぶし/パンチ》《キック》《組みつき》は60パーセントからスタートして結構です。《回避》も《DEX》の2倍ではなく4倍の値で算出していただきます。

 

「よっしゃあ! 一度作ってみたかった探索できる戦闘キャラがやっと作れるぞ!」

 

 ただし! そんな強靭な体と圧倒的な戦闘能力を誇るあなたですが、呪術的な攻撃には滅法弱いです。もしあなたが何か呪術的な攻撃を受けた場合、どんな数値であっても一発で即死します。

 また、あなたの秘密はそれこそ秘密にしなければならないことです。人間ではないということが知られてしまったら、ただでは済まされないでしょう。

 

「なるほどねい。じゃああんまりこのステータスを見せつけられるようなロールプレイは出来ないねい。じゃあそれを踏まえてキャラを作るとするか。……よし、出来たぜ」

 

 自己紹介をお願いします。

 

「私の名前は三尋木咏。プロ雀士だ」

 

三尋木 咏

性別:女 年齢:28歳

職業:プロ雀士 特徴:鋼の筋力

STR:20 《幸運》50   《言いくるめ》65  《こぶし/パンチ》60

CON:22 《アイデア》65 《隠す》55     《キック》60

POW:10 《知識》65   《聞き耳》35    《組みつき》60

DEX:20 《母国語》65  《芸術(麻雀)》80

APP:15 《回避》80   《心理学》75

SIZ:08 《耐久力》15  《目星》65

INT:13 《MP》10   《鉄扇》80

EDU:14 《DB》+1D6 《忍び歩き》60

SAN:50 《年収》1200万《跳躍》65

 

 あれ? 星熊勇儀じゃないんですか?

 

「《SIZ》が8しかなかったからな。だからこっちにしてみたぜい。プロ雀士はギャンブラーの技能に則って作ったから《心理学》もある。《聞き耳》よりも《目星》を高くしたのは麻雀で飯を食っているからだ。私の身体能力は人間のそれを凌駕しているからな、それを隠すためにこの職業にしたんだ」

 

 成程。じゃああなたの導入……なんですけど、その、申し訳ありません。あなたの導入、めちゃくちゃ適当なんです。

 あなたはたまたま手に取ったチラシに書いてあるホラーツアーに興味を持ちました。だからそのツアーに参加することにしました。以上です。

 

「おいおいおいおい、なんだそりゃ」

 

 ごめんなさい。いや、この秘密を抱えるPCの導入だけはどうしてもいいのが思い浮かばなくてですね。職業見て決めようと思ったんですけどプロ雀士じゃあどうも。

 

「あー……なんかすまん」

 

 いえいえ。というわけであなたの個別オープニングは終了です。今日は物足りなかったでしょうが、明日は思う存分暴れてください。

 

「おう、楽しみにしているぜ」

 

 

三尋木 咏 秘密:【妖狐】

 あなたは人間社会に紛れ込む化け狐だ。

 

 妖であるあなたは平穏な生活を望んでおり、人間社会に溶け込んで過ごしている。その秘密は決して他の人には知られてはいけない。

 あなたの身体能力は人間を凌駕している。《STR》《CON》《DEX》は3D6でなく2D6+12で算出する。また、技能特典として《こぶし/パンチ》《キック》《組みつき》の初期成功率が60パーセントとなり、《回避》は《DEX》×4の値になる。

 

 あなたは人間よりも強靭な体を有しているが、呪術系には滅法弱く、例え弱い呪いであってもあなたにとっては致命傷となる。

 

 

 ――夢幻の白夜 個別オープニング――

 

 

「よぉ、来たぜ」

 

 いやぁ、あなたが来るとは正直思いませんでした。よく時間取れましたね。

 

「たまたまさ。楽しみにしていたぜ? 早速キャラを作ろう。おすすめ技能と職業を教えてくれ」

 

 ちょっと待ってくださいねー(コロコロ)……あぁ、すみません。あなたの職業は決まっています。

 

「ん? 役割がある系のシナリオか?」

 

 ええ、そんなもんです。

 

「へぇ。で、俺の職業はなんだ? 警察とかか?」

 

 いえ、あなたの職業は【狂信者】です。

 

「は? 【狂信者】? それはまた……なんの【狂信者】だ?」

 

 あなたは所謂マッドサイエンティストです。専攻は生物学。

 

「ああ、そういう【狂信者】か。で、なんでったって狂信者になっちまったんだ俺は」

 

 あなたは生物学者として様々な生物についての研究を行っていました。しかしある日のこと、あなたはとあるものを手に入れてしまいます。

 

「……待て、ちょっと待て。それって魔導書じゃあないだろうな?」

 

 御明察。あなたは偶然、魔導書……『屍食教典儀』のフランス語版を手に入れてしまいます。その狂気の内容と、未知の生物の魅力にあなたは虜になり、堕ちてしまいました。

 

「なんてこった……こりゃあ面倒な立ち位置だな」

 

 自由に振舞っていただいていいと思いますけどね?

 さて……あなたにはせっかくのキャラ作成に制限をかけてしまったお詫びとして、色々な特典がございます。

 

「特典?」

 

 はい。まず、あなたの《フランス語》の技能を強制的に80パーセントになるように修得していただきますが、その代わりに15パーセントの《クトゥルフ神話》技能をなんとタダでデメリット無しでプレゼントいたします。

 

「マジか」

 

 さらにそれ+20パーセントまで《クトゥルフ神話》技能をお好きに習得していただいて結構です。この場合は1パーセントにつき2パーセントの正気度を失った時点でゲームに臨んでいただくことになりますが。

 

「まぁんなもん読んでいて正気を維持することは出来ないしな」

 

 そしてあなたは神格以外の神話生物を直視したときや、現実離れした怪異に遭遇した場合の《SAN》チェックを0/1にします。

 

「なるほど。それで発狂しにくくするわけだ。《クトゥルフ神話》技能に割り振りやすくなったな」

 

 さらにさらに豪華特典としまして、あなたは4つの呪文を使用できます。

 

「そ、そんなにかい? 何を使えるんだ?」

 

 【ニョグタの招来/退散】【シュブ=ニグラスの招来/退散】【ヴールの印】【食屍鬼との接触】です。

 

「全部何かに使えそうだな。でもどれも使いたくはないなぁ。だがいつもと違う観点からロールプレイできるのは面白そうだな」

 

 そうですね。新しい視点でシナリオに参加してみてください。

 それからですね、あなたは拳銃とかライフルとか所持していても構いませんよ。GMが許可します。戦闘やPVPが発生する可能性がありますからね。

 説明は以上です。キャラを作っていただいて結構ですよ。あ、特徴は『前職(生物学者)』でお願いします。

 

「わかったよ。……ほら、キャラ出来たぞ」

 

 キャラ紹介お願いします。

 

「俺は夢幻の白夜だ」

 

夢幻の白夜

性別:男 年齢:42歳

職業:狂信者 特徴:前職『生物学者』

STR:12 《幸運》65   《隠す》70     《フランス語》80

CON:12 《アイデア》75 《隠れる》64    《オカルト》66

POW:13 《知識》80   《心理学》54

DEX:12 《母国語》80  《説得》45

APP:15 《回避》24   《クトゥルフ神話》27

SIZ:12 《耐久力》12  《薬学》59

INT:15 《MP》13   《拳銃》55

EDU:18 《DB》±0   《生物学》80

SAN:41 《年収》5000万《忍び歩き》40

 

 はい、ありがとうございます。それではあなたの個別オープニングです。

 フランス版の『屍食教典儀』を手にして数年、解読に成功したあなたはその本に書かれている未知の生物や物質の研究をしたいという欲求に駆られます。

 そこであなたは表向きに発表する論文を作成しつつ、様々な伝説のある地域や祭り、心霊スポットなどに赴くような生活をしていました。

 そんなあなたは人狼伝説のある村がホラーツアーを開催していることを知ります。人狼伝説と言えば夜な夜な人狼が人間を殺害し食らうという話で有名であり、『屍食教典儀』となにかしら関係があるのではないかと考えたあなたは、このツアーに参加すればもしかしたら自分の求めるモノが手に入るのではないかと思います。

 未知なる伝説の生物と物質を求めて、あなたは人狼伝説のある村……『大神村ホラーツアー』に参加することにしました。

 

 

夢幻の白夜 秘密:【マッドサイエンティスト】

 あなたは生物学者であったが、ひょんなことから魔導書『屍食教典儀』のフランス語版を手に入れてしまう。その内容に釘付けになったあなたは『狂信者』となり、あわよくば人外の存在や未知の物質をサンプルとして持ち帰り、研究しようとしている。

 

 あなたの職業は『狂信者』、特徴は『前職(生物学者)』になり、《フランス語》を80パーセント強制的に習得する。

 《クトゥルフ神話》技能に+15パーセントの補正を加え、それに加え20パーセントまで《クトゥルフ神話》技能に職業・趣味的技能から割り振ることができる。16パーセント以上の《クトゥルフ神話》技能を有している場合、15パーセントを超えた値×2パーセントの正気度を失う。

 

 あなたは神格以外の神話生物を直視したとき、また、現実のものとは思えない生物による怪異に遭遇した場合の《SAN》チェックを0/1で済ますことができる。

 

 また、あなたは呪文【ニョグタの招来/退散】【シュブ=ニグラスの招来/退散】【ヴールの印】【食屍鬼との接触】を使用できる。

 

呪文:

【ヴールの印】

 《MP》と正気度をそれぞれ1ポイント消費する度に、クトゥルフ神話の呪文の成功率を5%上昇させる。

 

【ニョグタの招来/退散】【シュブ=ニグラスの招来/退散】【食屍鬼との接触】

 ルルブ準拠。

 

 

 

 

     ――Extra end




 ――おまけ。レミリア・スカーレットの秘密――

レミリア・スカーレット 秘密:『霊能力者』
 あなたは死者と交信する能力を所持している。
 あなたは生前に会話した人間の霊魂1人と一度だけ、夢の中で交流することができる。

 シナリオ3日目より《MP》を1消費することで、1人の霊魂を1日限定で誰の目にも見える状態で召喚することができる。この霊魂はすでに夢の中で交流している霊魂であっても構わない。

※追加技能
 あなたは優秀な占い師だ。

 シナリオ中《芸術(占い)》を使用することで3回まで占いを行うことができる。なお、これは通常の《心理学》同様、非公開ロールとしてGMは判定する。
 成功した場合、端的ではあるが適確な情報を手に入れることができる。失敗した場合、それとは逆の情報を与えられる。

 この2つの技能習得により、技能ボーナスとして《オカルト》に+50。


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Part.Extra2

 それでは以上をもちまして、COCシナリオ【大神村の怪異】を終了とさせていただきます。皆さん、お疲れ様でした。

 

「「「「「お疲れ様でした」」」」」

 

 ……あー、ようやっと終わりました。どうでした、今回のシナリオ。お借りしたものをアレンジしまくってアドリブで繋ぎに繋いだ結果こんな感じになったんですけど。

 

「面白いことは面白かったんだけどね、これ要は咲夜が完全にキーマンになるわけよね?」

 

「そうですよ。私がこのシナリオのエンド要因だったなんて思ってもいませんでしたよ」

 

 いや、一応咲夜が覚醒しなくても迎えられるエンディングもあったんですよ? ただまぁ、あなた達のプレイングからしてそれはないと思っていましたけどね。

 

「どんなエンディングだったんだ?」

 

 食屍鬼たちを説得させる、という方法です。

 

「は? どうやったらそんなこと出来んだよ。向こうはこっちを殺す気満々だったんだぜ?」

 

 真実を突き止めた後に《言いくるめ》なり《説得》なりを繰り返せば可能でした。白夜もいましたし、不可能ではなかったかなと思います。

 

「白夜が? おまえの秘密って確か、継続探索者だったって設定じゃなかったか?」

 

「うんにゃ、それ嘘。俺は狂信者だったぜ? 生物学のマッドサイエンティストだ」

 

「は?」

 

「あとフランス語版の『屍食教典儀』を持ってた。呪文もいくつか使えたし、確かにここで食屍鬼と接触して仲間に誑し込めば何もしなくても全員生還できたかもな」

 

「なんてもんPCに渡しているのよ」

 

 元のシナリオにもそういう設定の秘密がありましたよ。ネクロノミコンの部分写本持ってるっていう。

 

「マジか」

 

 それをさらに弄ったのが白夜の秘密ですね。並の神話生物程度だったら《SAN》チェックしても1しか減りませんし。

 

「そういえばあなた、全然《SAN》値減らなかったわね。ダイスが冴えているのかと思ってたわ」

 

「振りだけはちゃんとしてたからな」

 

「というかもう1つ疑問があるぞ。三尋木、おまえはなんなんだ? 物凄い身体能力を発揮してたじゃないか」

 

「《DEX》20ってなんなんですか? びっくりしましたよ」

 

「私かい? まぁねい。だって私人間じゃなかったし」

 

「やっぱりか。なんの神話生物だおまえ」

 

「んな大したもんじゃないよ。しがない化け狐さ。人間に化けてひっそり暮らしていたんだ。だから身体能力なら人間以上なんだぜ」

 

「これも元のシナリオに?」

 

 ありました。ただし元のシナリオではこの特徴が2つに分割されていました。『孤高のヒーロー』と『不死身の怪人』って設定で。今回はその2つを合体させて、それから人狼を彷彿させるような生物として『化け狐』という秘密を設定しました。

 

「なるほどね。じゃあ、まぁ、ある程度全員の秘密がわかったところで、ぶっちゃけトークをしましょう。みんなどうせチャットでGMと秘密裏に何かやってたでしょ? みんな何やってたの? ちなみに私は本当に何もやってないわ。最初のバスシーンでNPC全員に《心理学》仕掛けた程度よ。あとは味方になりそうな人がいないかを様子見してたわね」

 

「私も特には何も。お嬢様と情報を共有したかったですし、『記憶喪失』って設定だったので隠す必要もなかったですしね」

 

「俺も特に何もしていないな。そういえば白夜。なんで俺が拳銃持っているのを知ってた? そんな仕草見せてないだろ」

 

「バス紹介の時に公務員っておまえが言った瞬間に、おまえのことを警察って悟ったからな。《隠す》と《目星》を併用してロールしたらGMから情報を貰った」

 

「そういうことか」

 

「私はレミリアのことをずっと警戒してた。私、肉体面じゃ最強だけど呪術系には弱いんだ。人狼だったら狐は占い師に占われたら死んじまうだろ? だから秘密公開するまではあんまり関わらないように徹底してた。それに私のクリア条件は誰にも秘密を悟らせずに無事生還だからな。目立たないように戦闘以外は大人しくしていたんだ」

 

 咏の場合は正体がバレたら食屍鬼たちの良い的でした。生け贄用のNPCを無視してあなたから殺しにかかっていましたよ。加えて村長の持っていた薙刀には呪文【刀身を清める】が掛かっていましたので貫かれたらお終いでした。

 

「あっぶねえな。……そういえば白夜、おまえの目的はなんだったんだい?」

 

「俺の目的は神話的な物質や生物を持ち帰ることだったから最後に食屍鬼の死体を回収したんだ。最初は咲夜のペンダントを盗もうと思っていたんだよ」

 

「え? そうだったんですか?」

 

「俺もレミリアか咲夜が神話生物じゃないかと思って警戒していたんだ。占いとかやっているし、吸血鬼って設定でそのキャラにしたんじゃないかなってな。ほら、昼食のシーンでおまえたちの、特に咲夜のことを結構訊いてただろ?」

 

「言われてみればそうだったわね。あなただけは私たちに結構グイグイ質問していたかも」

 

「ああ。ペンダントの話題を持ち出したときに《クトゥルフ神話》技能使ってみて失敗しちまったから結果はただの石ころ止まり。断念せざるを得なかったよ。ちなみに成功していたらどうだったんだい?」

 

 しっかり情報を渡していました。あのペンダントからは豊穣神の力の波動に近い力が込められていると。

 

「じゃあ間違いなく盗んでたな。夜寝静まり返った時にでも。《隠れる》も《隠す》も《忍び歩き》も技能取ってたし。盗んでたらどうなってたGM」

 

 咲夜の身体から100メートル以上離れた瞬間にシュブ=ニグラスの力が暴走し、咲夜は邪神シュブ=ニグラスに変貌して、大神村の生物全てを滅ぼしていました。恐らくクトゥルフ史上尤も腑に落ちないバッドエンドに直行です。

 

「失敗してよかった」

 

 確か内藤さんが殺害されているのを発見後、レミリアと咲夜は村長の家に向かっていましたよね? その道中で咲夜はシュブ=ニグラスになっていました。

 目の前で大切にしていた従者が化け物に変貌した様を見たレミリアは1D100/2D100の《SAN》チェックが、宿にいたあなたたちはなんだかよくわからないままに全滅するという愉快な結末を迎えていました。

 

「本当に失敗してくれてよかったわ」

 

「白夜に続くけどな、俺も正直おまえのこと疑ってたぞ。咲夜もだ」

 

「え? なんで?」

 

「咲夜が記憶喪失って言ったからだ。本当に記憶喪失だったならじゃあ咲夜の正体はなんだ?って感じになって、人狼伝説の話で裏切り者の役職だけ省かれてただろ? じゃあ咲夜は実は食屍鬼で敵側に渡るかもって思ったんだ」

 

「なるほど。ではなぜお嬢様を疑いに?」

 

「咲夜を都合のいい駒にするために何かの魔術を使って記憶を消したんじゃないかってな。咲夜が余りにもレミリアに絶対服従過ぎたから猶更だ。それにレミリア、夕食に出された肉を何も疑わずに食べてたし」

 

「大体見当はつくがGM、あの肉って何の肉だ?」

 

 人肉です。遊星と白夜はあの記録帳を読んだ際にその肉の話題を出したら《アイデア》チェックを挟んで成功したのち《SAN》チェックが待っていました。

 

「だろうな、知ってたぞ。で、そんな得体のしれない肉を普通に食べてたおまえが怪しく感じないわけがないだろう。あのロールプレイも俺たちに信用させておいて裏を掻くためのものなんじゃないかとギリギリまで悩んだ」

 

「それは私も考えたねい。なんていうか、おまえの行動の1つ1つが怪しすぎた。露骨に村長を敵視するような行動取ってたし、バスの中で不吉な占い結果を出すしでな」

 

「食屍鬼と戦闘するまでの下りまでずっと疑っていたぞ。霊媒師の能力持ってるとか言った時点でもう怪しかったしな」

 

 ちなみにレミリアの夢での出来事はGMとの個別チャットによって行われていたため、他のPC達にはどんなやり取りが行われていたからわかりませんでした。食屍鬼との戦闘は咲夜がいたので公開としてました。なんというか、レミリアと咲夜のチャットルーム新しく作るの面倒くさかったので。

 

「そんな……私は能力貰っただけで特に目的とかなかったから、味方が欲しくてああいうロールプレイしてたのよ? 私のみんなからの信用低くない?」

 

「「「いや、日頃の行いのせいだろう?」」」

 

 あなたのロールプレイっぷりには感服されますけどね、そこまでの域に達すると味方だと頼もしいんですけど敵側に回ると一番厄介なんですよ。

 

「おまえアレだよな。人狼やって役職なしになったら間違いなく最初に吊るされるタイプだよな」

 

「面倒くさいから吊っちゃえってノリでな」

 

「酷いわ……」

 

「私も同じ穴の狢ですから気を落とさないでください、お嬢様」

 

「いや咲夜はただのロールプレイヤーだからそいつと違うぜい? そいつはただの和マンチだから」

 

 咲夜は咲夜で違うベクトルの和マンチ化してますけどね。レミリアに感化されていませんか?

 

「ロールプレイヤーの行きつく先が和マンチなだけよ。咲夜ももう少しで私のいるところまで来るから大丈夫よ」

 

「それはまぁ……」

 

 あと他に訊きたいこととかありませんか?

 

「あ、そういえばなのですが、私が神になる前に《幸運》判定挟みましたよね? あれに失敗したらどうなっていましたか?」

 

 もう1回《幸運》判定に移行していました。

 最初の《幸運》が記憶を取り戻すか取り戻さないかの判定、2回目がペンダントを落とすか落とさないかの判定です。

 2回目の判定に失敗してしまうと咲夜はペンダントを落とし、クリティカルを出すともう一度記憶を取り戻すかの判定を、ファンブルを出すと落とした石を偶然食屍鬼が踏んでしまって粉々に。邪神になってバッドエンドでした。

 

「一発でクリアしてよかったです」

 

「んー……あとは特に訊きたいことはないかしら?」

 

 そうですか? 他の人は?

 

「俺はない」

 

「私も特には」

 

「私もないねい」

 

「俺もないな。というか裏でいろいろして他の俺だけだったみたいだな」

 

 わかりました。それじゃあ今日はこれでお開きということで。また集まれたらセッションしましょう。

 改めまして、お疲れ様でした。

 

「「「「「お疲れ様でした」」」」」

 

 

 

 

     ――Extra end…




はい、これで【大神村の怪異】の投稿終了です。

これから第1回セッション、【ある学校の階段の怪談】の書き直しを行います。と言っても内容は同じで形式を変えるだけなのですが。

書き直しが終了しましたら、まず最初に【ある学校の階段の怪談】をすべて削除し、改めて投稿します。ご了承ください。

ここまでのご愛読、ありがとうございました。


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ある学校の階段の怪談
Part.1


はい、まず1話目の修正が終わりました。
キャラシート引っ張り出したり、ディレクターズカットしたところを書き足したりして文字数が増えています。

なんていうか、あのときはシリアスな感じを全面的に出していたんですけど、改めて書くにあたってネタ部分も色々採用しています。ご了承ください。


 さてさて全員揃いましたし、そろそろ始めていきましょう。TRPG【クトゥルフ呼び声】のセッションを始めます。

 

「「「「はーい」」」」

 

 今回のプレイヤーは4人。GMは私、射命丸の中の人が務めさせていただきます。

 シナリオはpixivに掲載されております、あぁ無情様作成の【ある学校の階段の怪談】を私なりに少しアレンジしたものとなっております。

 

「シナリオ背景とお勧め技能を教えてくれ」

 

 舞台は2015年の日本、夏の夜の廃校となった高校の校舎です。時刻はそうですね、午前2時としましょうか。

 

「丑三つ時の廃校、しかも季節は夏か。肝試しに来たみたいだな」

 

 そうですね。肝試しでも誰かからの依頼でも取材でも構いません。あなたたちがなにか、ごく自然な理由で同時にそこに訪れることができるのならば動機は割とどうでもいいです。

 さて、まずあなたたち4人にキャラクターシートを作成していただくわけなのですが、1つ制限を加えさせていただきます。

 

「制限?」

 

「職業縛りとかかな?」

 

 まぁそんな感じです。制限というより、シナリオを円滑に進めるための処置ですね。

 あなたたち4人……まぁ正しくは私のほうで用意したNPCを含めた5人は全員顔見知りでそこそこの交友がある、もしくは過去に交友があったという設定にしてください。自然な物であれば職業はバラバラでも構いませんが、ある程度纏まっていた方が楽かもしれませんね。

 推奨職業は【学生】【探偵】【犯罪者】【ジャーナリスト】です。技能も普通の探索技能を推します。《目星》《聞き耳》《図書館》ですね。

 

「なるほど」

 

 ただそれはGMである私の単なる我儘。ある意味TRPG一番の楽しみであるPC作成に制限を掛けてしまうお詫びとしまして、今回のセッションはいつものキャラ作成時に決めていただくPCの特徴2つを、1つは自分の好きなもの、もう1つは1D6と1D10でランダムに決めていただきます。強制バッステ付与がなくなるということです。

 

「なるほど、いいですね」

 

「探索者にとってもそうしてもらった方がありがたいし、ちょっと気合を入れるとするわ」

 

 ご協力感謝します。では皆さん、自分の分身となるPCを作成してください。

 

「「「「はーい」」」」

 

「……あ、自分の《STR》3だ」

 

「粗大ゴミがいるわね……あ、私の《SIZ》9ね。お子様体型だわ……」

 

「あんたらは……あ、俺の《APP》5だ。《STR》も平凡だし、どうしようもないな……」

 

「私は普通なんだけど……みんな、ステータスが極端だね」

 

 ……大丈夫なんでしょうかね。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 はい。決まったようですね。

 ふむ……なるほど。設定からしまして皆さんはかつて同じ高校に通い一緒に遊んでいた同級生で、最近同窓会で再会したのを機にこの肝試しに参加したと。いいですね。これなら職業で喧嘩することもなさそうです。

 では順番に自己紹介をお願いします。

 

「ちょっと待ってほしいでヤンス」

 

 どうかしましたか? というかなんですかその喋り方は?

 

「こっちにもいろいろあるでヤンスよ。それで1つ確認したいことがあるでヤンスが、小生以外のみんなの性別はどうなっているでヤンスか? 小生は男でヤンス」

 

「その喋り方で女だったら本当にヤバいわよ。私は女ね」

 

「自分も女」

 

「私も」

 

「《APP》はどうでヤンス?」

 

「12」

 

「17」

 

「13」

 

 美女がいっぱいですね。良かったじゃないですか、ハーレムですよ。

 

「あー、そうなんでヤンスが……小生のキャラシートを見てもらうでヤンスか。小生の名前は滝谷誠。34歳のジャーナリストでヤンス」

 

滝谷 誠

性別:男 年齢:34歳

職業:ジャーナリスト 特徴:鋭い洞察力 眼鏡を掛けている

STR:14 《幸運》65   《言いくるめ》65 《こぶし/パンチ》70

CON:12 《アイデア》50 《説得》65

POW:13 《知識》80   《写真術》80

DEX:07 《母国語》80  《心理学》60

APP:05 《回避》14   《図書館》65

SIZ:12 《耐久力》12  《歴史》70

INT:10 《MP》13   《聞き耳》80

EDU:17 《DB》+1D4 《目星》80

SAN:65 《年収》300万 《英語》56

 

 《APP》が5ですか……。というかその喋り方ということはオタクモードですね。

 

「そうでヤンス。一応設定としては原作の滝谷と同じで、そこそこのイケメンでヤンスけど瓶底眼鏡に出っ歯、この喋りのせいで一気に偏差値が下がった感じに作ってみたでヤンス」

 

 なるほど。

 

「それで、なんで小生と仲良くしてくれているんでヤンスか? 《APP》高めの美女さんたちが」

 

「いや、知らないわよ。適当に幼馴染だったからとかでいいんじゃないの?」

 

「自分は……うん、設定的に誠が自分のファンで、良くしてくれていたからってことでいいか。悪い人じゃないしな」

 

「私も普通に友達ってことでいいと思うな。……あ、職業柄今も頻繁に会っているってことでいいかしら?」

 

「勿論でヤンス。申し訳ないでヤンス、ちょっと面倒なキャラになってしまって」

 

 あなたも不運ですね、シナリオ中ずっとその喋り方で行くんですか。

 

「大丈夫でヤンス」

 

 《APP》以外は比較的纏まっていますね。探索技能系もしっかりとっていますしよろしいでしょう。……どうして《こぶし/パンチ》に技能を?

 

「余ったからというのが1つ。あと職業柄多少とはいえ物騒なものに巻き込まれやすいでヤンスからねぇ、護身用として少し嗜んでいるんでヤンスよ」

 

 なるほど。それならよろしい。では次の人、お願いします。

 

「八意永琳。年齢33歳の大学教授。専攻は医学と化学よ」

 

八意 永琳

性別:女 年齢:33歳

職業:医科大学教授 特徴:愛読家 親の七光り

STR:12 《幸運》70   《信用》80  《薬学》66

CON:09 《アイデア》65 《説得》65

POW:14 《知識》85   《図書館》59

DEX:10 《母国語》85  《心理学》66

APP:12 《回避》20   《医学》80

SIZ:09 《耐久力》09  《化学》74

INT:13 《MP》14   《聞き耳》60

EDU:18 《DB》±0   《英語》53

SAN:70 《年収》1000万《目星》65

 

 今回の肉体面でのヒーラーはあなたですか。それにしても随分と小さな永琳さんですこと。

 

「148センチ程度ね」

 

「ちっさいな、中学校低学年レベルだぞ」

 

「いいのよ、その分頭がいいから。親のコネもあるけどそれに負けないくらいの成績で大学の教授になったわ。精神科の知識はあんまりだけど患者さんの気持ちを理解できるように《心理学》を齧っている。あとはバランスよく纏めてみたわよ」

 

 特に問題はないですね。それでは次どうぞ。

 

「我那覇響。33歳の元アイドル。今はタレントをしているぞ」

 

我那覇 響

性別:女 年齢:33歳

職業:元アイドル 特徴:芸術的才能 おしゃれ

STR:03 《幸運》50   《跳躍》65

CON:17 《アイデア》85 《芸術(ダンス)》80

POW:10 《知識》50   《芸術(歌唱)》80

DEX:16 《母国語》50  《心理学》65

APP:17 《回避》32   《信用》60

SIZ:14 《耐久力》16  《聞き耳》80

INT:17 《MP》10   《目星》80

EDU:11 《DB》±0   

SAN:50 《年収》1500万

 

 《芸術》が2つともMAX値というところにロマンを感じさせますね。結構好きなキャラですよ。尤もこのシナリオにはあってないようなスキルですが……まぁ、無難に《目星》と《聞き耳》も取っていることですし、いいでしょう。

 というかあなたですか《STR》3って。お箸を持つのにやっとですのにマイクなんて持てるんですか?

 

「特注品のマイマイクを使っているから大丈夫だぞ」

 

「というか《STR》3の人がまともに踊れるんでヤンスか?」

 

「体力や健康状態は《CON》を参照するから問題ないはずだぞ。自分の《CON》は17あるからな」

 

 元気いっぱいですね。

 

「じゃあなんで《STR》が3なのよ」

 

「それはダイスの女神のお導きだから仕方がないぞ」

 

 ある意味異常体質のビックリ人間として引っ張りだこになっているでしょうね。体力は有り余っているのにお箸持つのでやっとなんですから。

 ではラスト、お願いします。

 

「毛利蘭。34歳の現職刑事よ」

 

毛利 蘭

性別:女 年齢:34歳

職業:刑事 特徴:俊敏 目つきが悪い

STR:16 《幸運》55   《言いくるめ》46  《キック》80

CON:12 《アイデア》70 《聞き耳》80

POW:11 《知識》70   《心理学》56

DEX:13 《母国語》70  《説得》45

APP:13 《回避》65   《追跡》60

SIZ:15 《耐久力》14  《法律》51

INT:14 《MP》11   《目星》65

EDU:15 《DB》+1D4 《組みつき》70

SAN:55 《年収》500万 《武道(柔道)》68

 

 ああ、やっとまともなステータスのキャラが出てきました。安心感が半端ないですね。というか目つき悪いんですか蘭ねーちゃん。

 

「お父さんの影響もあって刑事になったら目つきが刑事のソレになったって感じかな」

 

 それにしても珍しい。あなたが《目星》を取るなんて。

 

「今回のシナリオは探索系って言っていたからそれなりにね」

 

 いつものようにロールプレイでカバーするとか言わないんですか?

 

「職業が刑事だから仕方ないよ。全体的に面白味のない技能ばっかりなんだし」

 

 じゃあなんでその職業にしたんですか。

 

「刑事をやってみたかったの。私実は初めての刑事なんだから。どんな風にロールプレイしようかなって」

 

 ああ、お試し的な感じですか。まぁそんなに難しいシナリオではないので大丈夫かと。

 さて皆さんの自己紹介も済みましたし、早速シナリオの方に……おっと、忘れるところでした。まだ紹介していなかったPCが1人いました。

 

「誰?」

 

 今回肝試しに行こうと言い出した発起人であるNPCです。

 名前は田中俊。職業は決めていませんが、適当な力仕事を専門とした職業ということにします。性格は……ぶっちゃけテンプレなチャラ男。三十路を過ぎてもそれは変わらずちょいちょいうざいですが、根は決して悪いやつでなく親しみやすいそこそこ優秀な人間です。

 

「咲の池田氏みたいなお人と思っていいでヤンスか?」

 

 ああ、それで構いませんよ。

 これで役者は出揃いましたし、早速シナリオの方へ移らせていただきましょうか。あ、これはちょっとしたGMからの忠告なのですが……くれぐれも悪い行動は控えるようご注意ください。

 

「「「「え?」」」」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 都心から離れた山奥。

 現在時刻午前2時、辺りはすっかり暗くなり、時折吹く風の木を揺らす音くらいしか耳に入らないほどに静まり返った、妙に不気味な雰囲気を感じさせる夏の夜のある日のこと。

 あなたたちは友人の田中に誘われて肝試しをするために、そんな山奥のとある廃校の前に集まりました。

 

「校舎はどんな感じなのかしら?」

 

 小さな2階建ての古い校舎です。ちなみに体育館はありません。あなたたちはそんな古い校舎の前にある小さなグラウンドに集まっています。

 さてさて、ここで皆さんに《知識》ロールをお願いします。

 

 滝谷《知識》80 → 69 成功

 永琳《知識》85 → 85 成功

 響 《知識》50 → 12 成功

 蘭 《知識》70 → 16 成功

 

 お、全員成功ですか。幸先良いですね。ではあなたたちは田中を含めて全員、この廃校のことをある程度知っています。

 なんでも高度成長期に余った予算を使って作られたものの、山間部の人口の減少によって20年前に廃校になったそうです。

 とにかく校則が厳しいことで有名で、風紀を乱す違反者には社会問題に発展しかねないレベルのキツい仕置きをしていたこともあるという噂まであります。おそらくそれが廃校になった理由の1つだったのでしょう。

 ではなぜそんなことをあなたたちが知っているかといいますと……この学校にはある有名な怪談があったからです。

 

「怪談でヤンスか?」

 

 はい。その怪談とは、『この学校の屋上には死を招く彫刻がある』というもの。気に入らない人間の名前をその彫刻に刻むとその人間は呪われてしまうらしいのです。

 

「何だその怪談は。今度出るテレビのトークネタを作りに来たつもりだったのに」

 

「小生はもともとその彫刻について記事を書こうとしていたでヤンスし、実に興味深いでヤンス」

 

「私はみんなの目付役で来たんだからね? あんまり変なことしちゃダメだよ?」

 

 あなたたちはその事前知識を思い出しつつ改めて、廃校となった校舎を見つめます。

 夜の闇に包まれて暗く、当然電気も点いておらず、割れた窓ガラスをそのままにしている、壊れて時が止まった時計が掲げられている校舎は、怪談を抜きにしても気味が悪いことこの上ありません。そんなあなたたちの身体に言葉では形容しようのない悪寒が走り、それと同時に夏らしくない冷たい風が軽く吹き、鳥肌が立ちます。

 ……あなたたちには挨拶代わりに《SAN》チェックを受けていただきます。

 

「ええーっ!」

 

「え、早すぎじゃないかな!?」

 

「実際に夜の廃校なんて見たことを考えると仕方ないような気がするでヤンスが……なんか腑に落ちないでヤンス」

 

 滝谷《SAN》65 → 05 クリティカル

 永琳《SAN》70 → 41 成功

 響 《SAN》50 → 30 成功

 蘭 《SAN》55 → 82 失敗

 

「あ、私だけ失敗。何点の正気度減少かな?」

 

 挨拶代わりって言ったでしょう? 挨拶は1点と相場が決まっていますよ。蘭は1点の《SAN》値減少です。成功した3人に減少はありません。クリティカルの滝谷は……まぁ特にないですね。

 

「それにしてもなんだかその……怖いよここ、って感じで震えるよ。原作の毛利蘭もホラーは苦手って設定だしね」

 

 では蘭がそう怯えますと、軽く笑った田中が煽ってきます。

 

「なんだよ毛利、もうビビってんのか?」

 

「だって……」

 

「田中氏、あんまり女の子をイジメるのは良くないでヤンスよ」

 

「そうだぞ。大丈夫だぞ、蘭。完璧な自分が付いているからお化けなんて怖くないぞ」

 

「第一そんな非化学なものが存在するわけないでしょう、と蘭の背中をさすってあげる」

 

 さてさて廃校の前でいつまでもロールプレイしていないで進めますよ。と、その前に1つ。ここであなたたちの持ち物をチェックさせていただきます。

 

「持ち検? どうして?」

 

 この後のシナリオ展開に大きく左右するからです。あ、ちなみに絶対に持っていないといけないようなアイテムはありませんので、ふと思い浮かんだ肝試しに持っていくものを言ってくだされば結構ですよ。

 

「では小生から。懐中電灯、ライター、携帯電話、財布、カメラ、メモ帳にボールペン、それから煙草でヤンス。小生、喫煙者でヤンスから」

 

 なるほど。他の皆さんはどうですか?

 

「私も滝谷君と同じかな」

 

「蘭あなた喫煙者だったの?」

 

「お父さんがヘビースモーカーだから」

 

「何でもかんでも小五郎のおっちゃんのせいにするのはどうかと思うぞ。自分は煙草とかライターはないぞ。御守りも追加して……あ、あとマイマイクを持っているぞ。音楽プレイヤーもだ」

 

 マイク!? 音楽プレイヤー!? なんでそんなもの持ち込んでいるんですか!?

 

「歌うからに決まっているぞ。心霊スポットで単独ライブだ。無料だぞ」

 

「それは楽しみね。あ、私はマイクとか音楽プレイヤーとか以外、響と同じよ」

 

 ふむ……そうですか。わかりました。

 

「なんでこんなチェックを今更してきたのかが気になるでヤンスが……ま、後々わかるでヤンスね」

 

「GM、私たちは肝試しに来たんでしょう? 早く学校内に入ろう。私は懐中電灯の明かりを灯すわ」

 

「あ。じゃあ私も懐中電灯をスタンバイさせるわ」

 

「勿論自分もだぞ」

 

「同じくでヤンス」

 

 そうですね。ある程度の処理も終わりましたし、敷地に突入しましょう。

 

「あ、敷地に入ったところでマイクを取り出してライブするぞ」

 

 えっ。

 

「《芸術(ダンス)》と《芸術(歌唱)》で判定だ。蘭、自分のライブを聞くんだ! 元気付けてやるぞ!」

 

 響《芸術(ダンス)》80 → 04 クリティカル

 響《芸術(歌唱)》80 → 54 成功

 

 それでは響は音楽に合わせてマイクを片手にライブを始めました。

 持ち前の歌唱力もテレビで見るよりも元気でそれでいて綺麗な品のあるものでしたが、それ以上に音楽に乗って踊る彼女のダンスが別次元でした。

 その姿は翼を広げて大地を翔るクジャクのように華々しく、同時に湖から飛び立つ白鳥のように優雅でした。一曲歌い終わるときには田中は無意識のうちに拍手をし、学生時代から応援していた滝谷は感激の涙を流し、蘭は廃校への恐怖を忘れて笑顔を浮かべ、永琳は冷静を装っているものの目に見えて感動しているのがわかります。蘭ねーちゃんは正気度を元に戻しておいてください。雰囲気ぶち壊しですよ全くもう!

 

「ふぅ、久しぶりに踊ったけど楽しかったな!」

 

「我那覇氏……小生、感激でヤンス……まだ、まだ現役でもいけるでヤンスよ!」

 

「凄いよ響ちゃん! 私本当に感動しちゃった!」

 

「素晴らしかったわ」

 

「えへへ、そうかぁ? でもこれは友達のみんなの前だから出来たんだぞ。かっこ悪いところなんて見せられないし、何よりも怖がっている友達を元気にさせるのもアイドルだからな!」

 

 天使でしょうか?

 

「どっこい我那覇くんだぞ。さて、ライブも終わったし行こう。いつまでもここにいたらシナリオ始まらないしな!」

 

 誰のせいだと思っているんですか、このルーニーが。はぁ……シーン進めますよ。

 悪寒を感じつつもあなたたちは田中を先頭として校舎に向かって歩き出し、玄関まで辿り着きます。

 

「じゃあ私は最後尾でいいかな。みんなのことを見守りたいし」

 

「自分は3番目だ!」

 

「小生は2番目どヤンス」

 

「じゃあ私が4番目ね」

 

「で、玄関はどうなっているの? 《目星》がいらない範囲でとりあえず教えてくれる?」

 

 この学校のほとんどの窓はガラスが割られていますが、この入口の窓ガラスだけは綺麗に残っておりぴったりと閉まっています。鍵もかかっていて開けることはできません。

 窓ガラスを隔てて向こう側に下駄箱があることを確認することはできますが、それ以上は中が暗くてよく見えません。《目星》を試みても仕方がありません。

 

「入らないと何も始まらないみたいでヤンスね」

 

「でもみんな《鍵開け》なんて持ってないわよね?」

 

「蘭、扉に向かって《武道》+《キック》だ!」

 

「ちょっとふざけないでよ! やるわけないでしょそんなこと!」

 

「困ったでヤンスね。GM、なんとか校舎内に入る方法はないでヤンスか?」

 

 ご安心を、ありますよ。

 《鍵開け》せずとも鍵は簡単な物ですからガラスを割って手を突っ込めばすぐに開錠できます。というか扉自体も老朽化していますので、近くに落ちているなにかで壊すこともできますよ。

 

「そうでヤンスか……それじゃあ早速ガラスを割るところでヤンスが」

 

「まぁその気になるよな。ゲーム開始前のGMの忠告がさ」

 

「くれぐれも悪い行動をしないように、だったよね。この学校が風紀に五月蠅い学校だったことも言ってたし、なんか抵抗感じるよね。窓ガラスを割るとか、扉を壊すとか」

 

「GM、ここ以外に入口はないのかしら? 確かこの校舎の窓ガラス、割れているのよね?」

 

 割れてはいますがとても人が入れるような大きさではありません。裏口の鍵はかかっているので結局入ることは出来ません。この玄関から入るのが一番でしょう。

 で、どうしますか? 壊しますか? 壊しませんか? 壊すのなら誰がどう壊すのですか?

 

「……小生は壊さないでヤンスよ」

 

「私も壊さないわ」

 

「《STR》3の自分に壊せるとでも?」

 

「勿論私も壊さないわよ。肝試しっていったって、法に触れるようなことをみんなにさせないためについてきたんだから」

 

 入ったらその時点で不法侵入なんですけどね。では誰も壊さないんですね? ならば……田中に壊してもらいましょう。

 いつまで経っても扉を壊そうとしないあなたたちを見て待ちきれなくなった田中は近くにあった石を拾ってガラスを割り、そこから手を突っ込んで鍵を開けました。

 

「あ、そういえばいたでヤンスね、田中氏」

 

「おめーらなにぼさっと突っ立ってんだよ。ほら、中に入ろうぜ」

 

 そう言って田中は持っていた石を放り投げて校舎内へ入っていきます。

 

「……とりあえず入るでヤンスか。田中氏だけを行かせるわけにもいかないでヤンスし、みんなもそれでいいでヤンスか?」

 

「ええ。それでいいわ」

 

「友達を放って逃げるなんて自分はそんなことはしないぞ。入るよ」

 

「あんまり荒らしちゃダメだよと言いつつ入るわ」

 

 了解しました。ではあなたたちが玄関から校舎内へ入って少し広い昇降口に集まります。ここでこの肝試しの言い出しっぺである田中が肝試しのルールを提案してきます。

 

「ルールは1人ずつ、屋上にあるらしい『死を招く彫刻』に自分の名前を刻んで戻ってくる。ただそれだけだと簡単すぎるから、途中でどこかの教室に寄り道してなにか1つを盗んでくること。以上だ」

 

「盗む……ですって?」

 

「怖い目で見るなよ毛利、言葉の綾だって。まさか本気で持ち出すわけじゃねえよ。終わったらもとにあった場所に戻すさ」

 

「……ならいいけど」

 

「じゃあ俺から先に行くぜ! 次に行くやつを決めておけよ!」

 

 そう大きな声を出して田中は1人で土足のまま階段を駆け上がっていきました。……とそのとき。全員、《聞き耳》判定をお願いします。

 

 滝谷《聞き耳》80 → 80 成功

 永琳《聞き耳》60 → 31 成功

 響 《聞き耳》80 → 51 成功

 蘭 《聞き耳》80 → 59 成功

 

 成功したあなたたちは先程入ったばかりの玄関の扉から音がすることに気付きます。見てみると誰も触れていないのに玄関の扉が勝手に、ひとりでに閉まっていきます。

 腐った木の音を鳴らしながら少しずつ、しかし確実に閉まっていく扉。あなたたちはその異様な光景に釘付けになってしまい動くことができません。

 そして……バタン、という音を立てて扉は閉まり、さらに鍵までも動き出しガチャンという金属音をこの廃校の玄関ホールに響かせます。田中が石を使って割った窓ガラスも、まるで時が巻き戻るかのごとく元通りに戻っていきます。

 この不気味な現象を目の当たりにしたあなたたちは0/1D3の《SAN》チェックです。

 

 滝谷《SAN》65 → 72 失敗

 永琳《SAN》70 → 78 失敗

 響 《SAN》50 → 92 失敗

 蘭 《SAN》55 → 19 成功

 

「(コロコロ)……1」

 

「(コロコロ)……2ね」

 

「(コロコロ)3……ってそういう流れいらないぞ!」

 

 ルーニー的には美味しいのでは?

 

「まぁな!」

 

「とりあえずショックを受けていない私が確認するわ。扉に近づいてみる」

 

 何事もなく扉まで辿り着きました。

 

「鍵のロックを外そうと試みるけど」

 

 鍵はロックがかかったまま動きません。びくともしません。

 

「取っ手を握って押したり引いたりしてみる」

 

 開きません。どれだけ力を込めても扉が開くような手ごたえはありません。

 

「《STR》16でビクともしないの……じゃあ体当たりをするわ。滝谷君、手伝って!」

 

「は、小生としたことが。ごめんなさいでヤンス。すぐに行くでヤンス。毛利氏と一緒に扉に向かって体当たりをするでヤンス!」

 

「「せーのっ!!」」

 

 ふたりがかりでタックルをしても、やはり扉は開きません。

 

「ダメでヤンスか」

 

「GM、この近くに武器として使えそうなものは?」

 

 ありますよ。近くに置き傘が何本か入れられた傘立てがあります。

 

「じゃあそこにある1本を使って窓ガラスを叩き割ろうとするわ」

 

 窓ガラスは割れません。それどころかぶつけた傘は骨が折れて使い物にならなくなってしまいました。

 

「……最後の手段ね。こうなったら扉を蹴破るわ。《武道》+《キック》よ。滝谷君、離れてて」

 

「毛利氏から距離を取るでヤンス」

 

「ハアァッ!!」

 

 蘭《武道(柔道)》68 → 54 成功

 蘭《キック》80 → 09 成功

 

 2D6+1D4 → 7

 

 人間なら吹き飛ぶダメージを受けた扉ですが、何事もなかったかのようにそこに佇んでいます。とても先ほど田中が石を使って破った扉と同じ物とは思えません。

 

「……鍵はかかっていて、扉は開かないし壊れないし、窓すら割れない……か。ダメ元で聞いてみるけど、携帯電話はどう? 取り出して確認してみる」

 

 圏外です。

 

「そうよね……」

 

 おっと、ここで終わりにしませんよ。携帯電話の画面を見た蘭は圏外の文字を確認した直後、ディスプレイが不自然に歪み始めたことに気付きます。やがてその歪みから何かが表示されました。

 それは不気味な白い腕。掌に牙の携えた裂けた口がおぞましくも開き、赤く滑る舌がまるでヘビのようにうねる。

 この恐ろしい画像を目撃した蘭は1D2/1D6《SAN》チェックです。

 

 蘭《SAN》55 → 42 成功

 

「(コロコロ)……2。一瞬引き攣ったけど、隠して何事もなかったかのように装って圏外だということをみんなに伝えるわ」

 

「どうしたでヤンスか毛利氏。何かあったでヤンスか?」

 

「う、ううん、なんでもない。圏外なのを見て引き攣っただけだから……」

 

「こ、これってつまり……そういうことか?」

 

「そうね……閉じ込められちゃったてことよね?」

 

「ははは、これはとんだ記事になりそうでヤンスね……」

 

 そう、あなたたちは閉じ込められてしまったのです。しかも決して人間の仕業でなく、何か得体のしれない力によって、おそらく誰も近づかないであろう人気のない夜の廃校舎内に。

 自分たちが置かれた状況、及び恐ろしい力の片鱗を目撃してしまったあなたたち。《SAN》チェックのお時間です。1/1D3+1です。

 

「連続チェックか……今回のシナリオは正気度をガリガリ削っていくスタイルらしいな」

 

 滝谷《SAN》64 → 57 成功

 永琳《SAN》68 → 82 失敗

 響 《SAN》47 → 93 失敗

 蘭 《SAN》53 → 81 失敗

 

「(コロコロ)……4。ぐ、最大値ね」

 

「(コロコロ)……ほっ、2だ」

 

「(コロコロ)……2」

 

「さってと、これはどうやって脱出するでヤンスかねぇ」

 

「そうね。こんな怖いところから脱出できる手段を捜しましょう」

 

「2人とも切り替え早すぎじゃないかしら? 特に蘭」

 

「原作じゃもう少し動揺してただろ?」

 

「刑事になって少しはマシになったからってことにしておいてくれる?」

 

「小生はオタクモードの滝谷でヤンスからねぇ。ファフくんも普通に家に泊めちゃう人間でヤンスよ?」

 

「まぁ……そうね。いつまでもここで震えていたって仕方ないし、脱出手段を探しましょう。怪我したら私に頼って頂戴」

 

「……そうだな。元とはいえアイドルの自分が元気ないのは駄目だよな。というわけでGM! 自分はここでライブをするぞ!」

 

 え、ちょ……。

 

「怖いのなんて払拭するためによりダンサブルなものを歌うぞ! 《跳躍》も交えて判定だ!」

 

 響《芸術(ダンス)》80 → 34 成功

 響《芸術(歌唱)》80 → 72 成功

 響《跳躍》65 → 38 成功

 

 それでは響は廃校の昇降口でライブを始めました。

 夜のしんとした校内で元気いっぱいな響の歌声が名前の通り響き渡る。持ち前の身体能力をフルに活用したダンスは動きの1つ1つは激しいのに、それ出ていてバタバタとした靴音を立てないように気を使えた上級者でないと踊れないものでした。ポニーテールを揺らして高く飛び跳ねる姿も非常に愛らしく、とても三十路過ぎに見えないくらいのフレッシュな彼女。一曲歌い終った後も笑顔を崩さず、息も切らしていない彼女はとてもお箸を持つのがやっとな貧弱女子には見えない輝かしいものでした。

 そんな彼女の歌を聞き、ダンスを見たあなたたちは今自分たちが割と危険な状況下に置かれていることも忘れ、ただただ彼女の声仕草1つも逃さないように食い入るように見ていました。皆さん《SAN》を1回復させていいですよ。

 

「よっしゃあ! みんな一緒に元気に家に帰るぞー!」

 

「その意気でヤンス! このことはしっかりと記事にするでヤンスから期待しているでヤンスよ!」

 

 はい、では今回はここまで。次回から本格的な探索をしましょうね。

 

 

 

 

     ――To be continued…




滝谷誠=不動遊星の中の人
八意永琳=京楽秋水の中の人
我那覇響=初登場
毛利蘭=古美門研介、萩原スズ、レミリア・スカーレットの中の人


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Part.2

 さてさて、響のライブが終わったところで、皆さんどうしますか?

 

「一曲5分くらいかかるよな、GM。これだけ時間が経っていれば田中が戻ってきていてもおかしくないはずだぞ。田中は戻ってきていないか?」

 

 田中は戻ってきていません。

 

「遅いね、田中君。そんなに時間がかかる距離じゃないはずなんだけどな」

 

「とりあえず2階に行ったと思われる田中氏に声を掛けるでヤンス。おーい、田中氏ー! 聞こえるでヤンスかー! と大声で叫ぶでヤンス」

 

 大声で、ですか。では滝谷がそう田中に呼び掛けますが、その声が木霊となって校内全体に響き渡るだけで、田中からの返事はありません。

 

「これだけ声が響くのに返事なしでヤンスか。本当に聞こえていないか、それとも……あ」

 

 おっと、それを声に出して言ってしまいましたか。

 

「ああああっ、いらないことを言ってしまったでヤンス!」

 

「このバカ……!」

 

 さてさて、全員《アイデア》チェックと参りましょう。

 

 滝谷《アイデア》50 → 03 クリティカル

 永琳《アイデア》65 → 26 成功

 響 《アイデア》85 → 65 成功

 蘭 《アイデア》70 → 24 成功

 

「うわあああああ! さっきからなんでいらないところでクリティカルを出してしまうでヤンスか!」

 

「いやー、なんでさっきの《SAN》チェックはさんざんなのに、ここではみんなきっちり成功しちゃうんだろうな!」

 

「なんで嬉しそうに言うのよ」

 

 はい。ではあなたたち全員は滝谷の「それとも」の後を想像してしまいます。それは、さっきまで自分たちと仲良くしていた友人の無残な姿。クリティカルを出した滝谷は他の3人以上に無残な姿になってしまった彼の姿を想像してしまいます。

 《SAN》チェックのお時間です。女性陣は0/1、滝谷は1/1D3でどうぞ。

 

 滝谷《SAN》64 → 84 失敗

 永琳《SAN》65 → 29 成功

 響 《SAN》46 → 02 クリティカル

 蘭 《SAN》51 → 44 成功

 

 あらら、言い出しっぺの滝谷だけが失敗ですか。

 

「(コロコロ)……1。なんとか最低値で回避したでヤンスね」

 

「もう、このGMはこういうシナリオだと隙を見せるとすぐに《SAN》チェックしてくるんだから下手なこと言わないでよ」

 

「連続《SAN》チェックは勿論、トラップ《SAN》チェックに加えてアドリブ《SAN》チェックまでこなしてくるからな。気を付けないとダメだぞ」

 

「いやー、本当に申し訳ないでヤンス」

 

「はぁ……まぁ、田中が反応してくれないんだけどどうする? 2階行く?」

 

「……ううん、田中君は後回しにしよう。さっきの呼びかけに反応を返さなかったってことは多分もう……」

 

「おいおい蘭、あんまり縁起でもないことを言うなよ」

 

「あ、ごめんね、そんなつもりはないし、私だって田中君の安否を知りたいよ。でも今はそれ以上にやることがあるよね。田中君を見つけたところで、この変な現象を作り出している理由がわからないと何も解決しないよ」

 

「それにいつかは2階に上がるでヤンス。田中氏はその時に助ければ大丈夫でヤンス。もしかしたら、小生たちを驚かそうと隠れているのかもしれないでヤンスし」

 

「うん。田中君ならあり得るかも。だから今は全員で固まって情報収集をしよう? ね?」

 

「……わかったぞ。じゃあ自分も1階の探索をするぞ!」

 

「私も皆と一緒に探索するわ」

 

 話が纏まったようですね。では探索していただきましょうか。学校1階部分の間取りを確認しますか?

 

「したいでヤンス」

 

 では大まかに説明します。

 あなたたちが今いるのは校舎内中央部の玄関です。その真正面には先ほど田中が駆けあがっていった2階へと続く階段があります。その階段を中心として左右に2つずつ探索エリアが存在します。どんな部屋なのかは行ってみてからのお楽しみです。ちなみに2階も同じような間取りになっており、さらに上に行くと屋上に出ます。

 

「昇降口は探索できるの?」

 

 出来ます。よって探索エリアは全10エリアです。

 

「じゃあまずは昇降口から調べるでヤンス」

 

「そうだね。じゃあGM、昇降口には何があるのかな? ダイスを振らない程度でいいから情報をくれる?」

 

 はいはい。

 昇降口には下駄箱と掲示板があります。

 下駄箱は生徒と教員用の下駄箱と、来客用の下駄箱の2つに分類され、昇降口一帯に並んでいる金属でできた生徒及び教員用の下駄箱は錆び付いていて本来のカラーであったグレーはほとんど消えて茶色くなっています。来客用の木でできた下駄箱は埃が被っており、薄いピンクのカーテンが覆っていて中に何が入っているかわかりません。

 掲示板はゴム製の緑の板は辛うじて残っているものの、周りの木でできた縁は朽ち果て黒く変色してしまっています。

 

「私は掲示板を見るよ」

 

「では小生は生徒と教員用の下駄箱を片っ端から調べてみるでヤンス」

 

「でも結構量があるんでしょ? 私も手伝うわ」

 

「じゃあ自分は来客用の下駄箱を調べてみるぞ」

 

 いいでしょう。ではまず蘭から。掲示板でしたね。見ますか?

 

「見るよ」

 

 掲示板には次のような校則が張り紙しています。

 

 ・『廊下と階段は走るな』

 ・『       』

 ・『土足厳禁』

 ・『    』

 ・『屋上に行くな』

 

「なにも書かれていない張り紙があるんだけどどうして?」

 

 大分昔に書かれた物ですからね。掠れちゃって読み取り難いのです。《日本語》に成功すれば読めますよ。

 

「ふーん、じゃあ振ってみようかな」

 

 蘭《日本語》70 → 32 成功

 

 では蘭は見づらい2枚の張り紙を読むことが出来ました。

 

 ・『大声で騒がない』

 ・『暴力厳禁』

 

「うーん、普通なんだけど少し徹底しすぎだね。にしても、こんなわかりやすいところにあるなら守ったほうが良さそうだね。このことはすぐにみんなに知らせようかな。……そういえば田中君は大丈夫なのかな? もう3つも破っちゃっているけど」

 

 そんな心配を蘭がし始めたところで今度は下駄箱組の探索です。

 まず滝谷と永琳。2人は協力して反対から下駄箱を開けて調べてみますが、何も見つけることができませんでした。《目星》を振るまでもありません。

 ただ、来客用の下駄箱を調べた響は中から綺麗なスリッパが5セットあることに気付きます。

 

「スリッパ? しかも綺麗なのか?」

 

 ええ、綺麗です。

 

「……スリッパに対して《目星》をしてみるぞ」

 

 響《目星》80 → 70 成功

 

 そのスリッパは何年も放置された廃校にある物とはとても思えないほどに綺麗で清潔な物であるということがわかります。まるで新品のようです。……そして、その5セットのスリッパの大きさが全部バラバラであることも気付きます。

 そのことに気付いた我那覇くん、《アイデア》チェックをお願いします。

 

「あ、やばい。これアレだ。トラップだ」

 

 響《アイデア》85 → 59 成功

 

 成功した我那覇くんはさらにあることに気付いてしまいます。

 このスリッパ、5セットあるうちの1つが自分の足にジャストフィットする大きさだということに。そして今日ここに訪れた人数が、このスリッパとセット数と同じ5人だということに。

 ……そう。まるで自分たちがここに訪れることを知っていたかのように、全員分のスリッパが用意されていたのです。

 偶然とは思えない不気味な出来事に気付いてしまった我那覇くん、0/1D3の《SAN》チェックです。

 

「やっぱりトラップだった! いらないこと調べちゃったぞ!」

 

 響《SAN》46 → 52 失敗

 

「(コロコロ)……1。よかった……とりあえずみんなに知らせよう。でも《SAN》値が減っちゃうかもしれないから、ここは4つだけ出して数は誤魔化すことにしよう。みんなー! スリッパ見つけたぞー! と大きな声で伝える」

 

「じゃあ呼ばれたから来るでヤンス。おお、スリッパでヤンスか」

 

「私も響の声がしたほうへ行くわ」

 

「ああ、そんなに大声出したらダメだよって頭を抱えながら響ちゃんの方へ向かうよ。あれ? なんか凄い綺麗な気がするね、そのスリッパ」

 

「なるべく綺麗なやつを選んだからな、みたいな感じで誤魔化すぞ」

 

「そうなんだ。でもこれで問題が1つ解決したよ。みんな、このスリッパを履こう」

 

「え? どうしてかしら?」

 

「掲示板に書かれていたんだよ。土足厳禁、ってね」

 

「ああ成程でヤンス。このまま入ったら悪いことになっちゃうわけでヤンスね。他に何か書かれていなかったでヤンスか?」

 

「大声禁止、廊下と階段を走るの禁止、暴力厳禁、屋上に行くの禁止、だったかな」

 

「あ、やっば。自分さっきから大きな声出しまくりだぞ」

 

「あんだけ歌って踊ってたらねぇ……」

 

「小生も大声を出していたでヤンスね。これはちょっと気を付けた方が良さそうでヤンス。些細なことがとんでもないミスに繋がっている可能性が高いでヤンスよ」

 

「うん。だからみんな、ここにいる間はなるべく慎重に行動しようよ」

 

「そうでヤンスね、と言いつつスリッパに履き替えて、元々履いていた靴は綺麗に揃えて靴箱側に置いておくでヤンス」

 

「有言実行の早いやつね。私も同じことをするわ」

 

「自分もやるぞ」

 

「当然私もそうするわ」

 

 良識を持つ探索者たちでGMも感激ですよ。

 さて、あらかた昇降口を探索し終えたところですが次はどこへ向かいますか? ちなみに今は校舎に入ってから20分程度経過していますよ。

 2手に分かれて探索するもよし、4つ部屋がありますから1人ずつ探索するもよし、はたまた全員固まって1か所を集中的に探索するもよしです。

 

「遠回しに時間を忠告してきているでヤンスな。どうするでヤンス? 安全に行くなら固まって行動する方がいいでヤンスが」

 

「2人ずつのチームに分かれて、それぞれ探索するのが賢明なんじゃないかな?」

 

「まだ単独行動しても大丈夫な気がしないでもないけど?」

 

「いや、2人なら相方が失敗した時にフォローができるし、何かあったときにできることが増えるぞ。自分は2手に分かれて行動することに賛成する。それにそっちの方がふざけやすいしな」

 

「それもそうね。じゃあ私もそれに乗っかるとするわ」

 

「だったら小生も乗るでヤンスよ。変に意見はっても仕方ないでヤンスからな」

 

「決定ね。じゃあチーム分けをしよっか。私と永琳、そして滝谷君と響ちゃんでどう?」

 

「順当でヤンスね。色んな意味でヤンスが」

 

 ではその2チームに分かれて探索をする、と。ではここでシーンを切りましょう。

 まずは滝谷と響のシーンからです。西側と東側、どちらを調べますか?

 

「そうでヤンスね。東側はどうでヤンスか、我那覇氏?」

 

「あまり変わらなさそうだし、いいんじゃないか?」

 

「よし、それでは小生たちは東側を探索するでヤンス。じゃあまた後でヤンスと小さな声で毛利氏と八意氏に言いつつ手を振りながら向かうでヤンス」

 

「自分もまたなといって手を振る。誠に続くぞ」

 

「うん、じゃあまたねって小さな声で返すよ」

 

「無言で手を振るわ」

 

「さて、毛利氏たちと別れたことで、我那覇氏。どの部屋から探索するでヤンスか?」

 

「奥の部屋から探索しよう。奥から順番に」

 

「そうでヤンスか。じゃあそうするでヤンス。あと我那覇氏、あんまりはっちゃけたロールプレイは自重して欲しいでヤンス。このシナリオ、多分ルーニーに向いていないでヤンス」

 

「まぁ、程々にしておくよ。一番奥の部屋の前まで来たぞ、GM」

 

 東側の一番奥のエリアはトイレです。当然男子トイレと女子トイレの2つに分かれています。

 

「いきなりこれでヤンスか。流石に女子トイレに男子が入るのはまずいでヤンスね、廃校とはいえ」

 

「だろうな。でも調べないといけないだろうし、仕方ないぞ。自分が女子トイレを見るから、誠は男子トイレをお願いするぞ。ここでまた合流しよう」

 

「了解でヤンス。小生からシーンを貰うでヤンスよ。男子トイレに入るでヤンス」

 

 男子トイレは全部旧式です。スイッチを押しても蛇口をひねっても当然水は流れません。小用の便器が3つと、大用の便器がある個室が2つ、奥には掃除用具が入れられているであろうロッカーがあります。

 

「小用の便器を見てみるでヤンス。なにか異変はあるでヤンスか?」

 

 いいえ、特にはありません。

 

「じゃあ個室に入ってみるでヤンス」

 

 個室の壁一面にたくさんの落書きがあります。どれも汚い字で解読は難しいです。

 

「《目星》で判定でヤンスか?」

 

 いえ、《日本語》でお願いします。

 

 滝谷《日本語》80 → 08 成功

 

 では滝谷は数ある落書きの中から唯一、この落書きを見つけて読むことが出来ました。

 

 ・『どうしよう。もう3回も校則違反……あと7回、消えたくないよ……』

 

「……つまり10回、校則違反を犯したらマズいことになるってことでヤンスね。このことは合流したらみんなにも話すでヤンス。もう1つの個室を見るでヤンス」

 

 同じように汚い文字の落書きがあります。どれもすり減ってしまっていて真っ黒です。読むことは出来ません。

 

「ふむ。じゃあロッカーの所に行くでヤンス。開いてみるでヤンス」

 

 おっと、ロッカーですか。では滝谷は《幸運》判定どうぞ。

 

「お。何かアイテムでも獲得できるのでヤンスか?」

 

 滝谷《幸運》65 → 54 成功

 

 えー、滝谷が掃除ロッカーを開けると、そこから1本のモップが倒れてきました。滝谷はそのモップに驚き思わず声が出そうになりますがなんとか飲み込み、男子トイレに響いたのはカンッという乾いた木の音だけです。あ、ちなみにロッカーの中にはそれ以外何もありません。《目星》するまでもないのであしからず。

 

「なんだただのトラップでヤンスか。もう探索する場所はないでヤンスね。一応トイレ全体に《目星》をしておくでヤンス」

 

 滝谷《目星》80 → 84 失敗

 

 特に気になる者は目に入りませんでした。

 

「失敗でヤンスか……でも多分大丈夫でヤンスね。小生は男子トイレから出て我那覇氏が出てくるのを待つとするでヤンス」

 

 わかりました。続きまして響のシーンです。

 女子トイレも男子トイレと同じく、水は流れません。トイレは個室が5つのみ。えー、ぶっちゃけやることは滝谷と同じです。探索しますか?

 

「するぞ。あたりまえじゃないか。個室全部を探索した後に《日本語》だな」

 

 響《日本語》50 → 72 失敗

 

「あ、失敗しちゃったぞ。ダメだ読めないなぁ……。仕方ないか。自分も《目星》をしてトイレから出よう」

 

 響《目星》80 → 30 成功

 

 あー……うん、じゃあ先程の《日本語》の判定をクリアしたことにします。先程の個室にこんな落書きを見つけることができました。

 

 ・『あんな不気味な像さえなければ……いっそ壊せたらどんなに楽か……』

 

「不気味な像……あぁ屋上の。まぁ、これでどんなシナリオなのかは大方検討が着いたぞ。GM、自分もトイレから出る。誠と合流だ」

 

 了解しました。

 

「よし、合流でヤンスね。どうでヤンス、なにかあったでヤンスか?」

 

「見つけたと言えば見つけたぞ。どうやらここの生徒、屋上のその呪いの彫像だったか? それに対して相当の嫌悪感があったらしい。壊したくてたまらなかったみたいだぞ。そう落書きしちゃうくらいにだ」

 

「そっちにも落書きがあったでヤンスね。こっちにもあったでヤンス。どうやらこの学校、10回校則違反をすると何か恐ろしいことが起きるらしいでヤンスよ」

 

「そうなのか? 10回か……自分たち、どれだけ悪いことしているんだろうな」

 

「さぁ、どうなんでヤンスね。考えたところで仕方ないでヤンス。これから気をつけるしかないでヤンスよ」

 

「そうだな。じゃあ次の部屋に行くか」

 

「そうでヤンスね。隣の、階段の横にある教室を調べるでヤンス」

 

 わかりました。トイレの隣の教室は、1年生が利用していた教室のようです。2つある出入り口の一方に『1年』と書かれたプレートがあります。扉は開いています。

 

「じゃあ入るでヤンス」

 

「その後に続いて入った後、教室のドアを閉めるぞ」

 

 1年生の教室は古ぼけており、30個ほどしかない埃を被った机と椅子がめちゃくちゃに並んでいます。それ以外には前後にある黒板と掃除ロッカーが目に入り、前にある黒板の隣には玄関にあったものと同じ掲示板があります。

 

「掲示板でヤンスか。気になるでヤンス」

 

「自分は黒板が気になるぞ」

 

 それぞれ別の所を調べるのですね。では滝谷から行きましょう。掲示板でしたね。

 

「そこには何か貼られているでヤンスか?」

 

 1枚だけ掲示物が貼られていますが、掠れていて読むのが困難です。

 

「解読は《日本語》でヤンスか?」

 

 そうですね。それでお願いします。

 

 京太郎《日本語》80 → 75 成功

 

 張り紙にはこう書かれています。

 

 ・『教室に出た後と入った後はドアを閉める』

 

「あぶないでヤンスね……。我那覇氏、ナイスプレーでヤンス」

 

 次は響のほう行きましょうか。黒板ですよね?

 

「そうだぞ。黒板に何か書かれていないか?」

 

 後ろの黒板に小さく文字が書かれているのを見つけます。しかし小さくて読めません。解読したい場合は《目星》をお願いします。

 

 響《目星》80 → 56 成功

 

 では黒板には小さな文字でこんなことが書かれています。

 

 ・『僕をいじめてた奴らはもういない。あの彫像さえあれば悪い奴はみんないなくなる。ここはまさに理想郷。みんなが幸せになれる最高の学校だ!』

 

「ふーん、なんというのかな。これを書いた本人は大分可哀想なやつだと思うぞ。こんなガチガチの校則で固められた学校を理想郷と呼べる時点で相当だけど、みんなが幸せになれるって……。というか、『いなくなる』ってどういうことなのだ? 退学処分か? それとも……なにかに消された、とかか?」

 

 あ、それ考えちゃいますか。考えちゃいましたね?

 

「あっ……」

 

 響ちゃん、《アイデア》チェックのお時間ですよ。

 

 響《アイデア》85 → 78 成功

 

 えー、響は『いなくなる』の意味を勝手に想像してしまいます。もしかしたらこの子をいじめていたイジメっ子たちは、この現象を引き起こしているなにかによって消されてしまったのではないか、と。

 恐ろしいことを想像してしまった響は0/1の《SAN》チェックです。

 

 響《SAN》44 → 11 成功

 

「あ、危なかったぞ……。GMのアドリブ《SAN》チェックも注意しないといけないな。とりあえず情報共有をしようか。誠を呼んでこれを見せる」

 

「呼ばれたから来たでヤンス。そして見るでヤンス。ふむふむ……やっぱりこの彫像っていうのが気になるでヤンスね」

 

「まぁ割とシナリオ始まってから察してたけど、その彫像ってやつを壊せばこの廃校から脱出できるっていう情報なんだろうな」

 

「フェイクの可能性もあるでヤンスが、呪いの彫刻といいこの厳しすぎる校則といいこの書き込みといい、どうもその彫像という物が何らかの形で関わっているのは間違いないでヤンスね。壊せばいいのかどうかはわからないでヤンスが、壊すことも視野に入れて動いたほうがいいかもしれないでヤンスね」

 

「じゃあ武器になるものが必要だな。確か彫像って名前彫れる程度には柔らかいんだろ? 簡単な物で壊すことは可能なはずだ。ちょっと探してみようか」

 

「そうでヤンスね。あと調べていないのは掃除用ロッカーでヤンス。開けてみるでヤンス」

 

 お、掃除ロッカーを開けますか。では開けた滝谷は《幸運》判定です。そうですね。+10パーセントでどうぞ。

 

「……あれ? これって」

 

 滝谷《幸運》65+10 → 32 成功

 

 では滝谷がロッカーを開けた瞬間、そこから箒が倒れてきました。またかよ、と思いながら躱すことでしょう。

 

「本当にまたでヤンスか」

 

「というかロッカーは多分全部これなんだな。誠、多分おまえ次の判定は+20だろうからロッカーは全部おまえの担当な」

 

 あ、ロッカーは全部調べてもこれですからもう開けなくていいですよ。

 

「じゃあもう開けないでヤンス。さて、もうほとんど調べたでヤンスね。我那覇氏、この教室でほかに気になるところはないでヤンスか? と聞きつつ倒したモップを掃除ロッカーに戻すでヤンス」

 

「うーん、ないかな。ぶっちゃけもう適当に武器を手に入れたら屋上に行ってもいいくらいだと思うぞ?」

 

「まぁまぁ、田中氏を捜す意味でも2階もしっかり探索するでヤンスよ」

 

「それもそうか。じゃあ教室から出るぞ。後に続いて入ってきたドアから教室から出て、ドアをしっかり閉める」

 

 了解です。あなたたちは何事もなく教室から出ることが出来ました。

 

「さて、もう調べ終わったでヤンスし八意氏と毛利氏を待つでヤンスか」

 

「だな。本当はライブやりたいけど自重しとくよ。さすがにキャラロストはしたくないからな」

 

 はい、では永琳と蘭の西側探索チームのシーンに移ります。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.3

 1階東側の滝谷と響の探索が前回終わりましたし、次は1階西側組の探索を始めましょうか。どっちの部屋から調べますか?

 

「滝谷君たちと同じで奥から調べて行こうかな。どう? 永琳」

 

「良いんじゃないかしら? どっちから調べるかとかあんまり関係なさそうだし」

 

 わかりました。一番奥の部屋ですね。

 そこの教室の入り口部分に『校長室』と書かれたプレートが掲げられています。滝谷たちが探索した教室のスライド式の扉とは違って、この部屋の扉はドアノブ式で出入り口も1つしかありません。

 

「校長室ねぇ。とりあえず入るとしましょう。ドアノブをひね――」

 

「待って永琳。その前にノックよ。4回ノックをしたあと失礼しますと言って、そしてドアノブを捻ろう」

 

「……あぁ、そうか。校長室ならそうやって入るのが普通ね」

 

 ドアノブを捻っても、扉は開く気配がありません。鍵がかかっているみたいです。

 

「あら、鍵が掛かっているみたいだよ」

 

「そう? でも壊すわけにもいかないしねぇ」

 

「だね。どこかに鍵はあるはずだし、後回しにしよう」

 

「最悪の場合はあなたの《武道》+《キック》で蹴破ればいいしね」

 

「それだけは避けたいんだけど……じゃあ後回しね。GM、隣のクラスに向かうよ」

 

 隣の部屋は職員室です。ここもドアノブ式ですね。

 

「あら、職員室なのね」

 

「ここを調べれば鍵が見つかりそうだね。ノックを4回して、失礼しますと小さく言ってドアノブを捻る」

 

 鍵は掛かっていませんので入れます。

 

「よし。じゃあ入りましょうか」

 

「蘭に続いて失礼しますと言って職員室に入る。そしてドアを閉める」

 

「GM、職員室はどんな感じ? ダイスを使わない程度でわかる情報をちょうだい」

 

 教員用の机が並んでいて、その上には古い電話機や教科書が積まれ、プリントなどが床まで散乱しています。教員用の掲示物を掲示するためでしょうか、ここにも昇降口にあったものと同じ掲示板があります。

 

「校長室の鍵がないかを調べたいな」

 

「じゃあ鍵探しは蘭に任せて、私は違うところを探索するとするわ」

 

 そうですか。では永琳から先に進めます。どこを調べますか?

 

「電話があるって言ったわよね? もしかしたら電話線が繋がっているかもしれないし、ダメ元で取ってみるわ。受話器を取って耳に当ててみる」

 

 電話ですか。《聞き耳》でどうぞ。

 

 永琳《聞き耳》60 → 72 失敗

 

 受話器から何も聞こえず、通じていないことに気付きます。

 

「まぁそうよね。諦めて受話器を戻す。じゃあ次は掲示板ね。何か張り紙してある?」

 

 ありますね1枚だけ。しかし文字が掠れてしまっていて読み取りづらくなっています。

 

「読み取りたいわ。《日本語》で判定かしらね」

 

 永琳《日本語》85 → 05 クリティカル

 

「あら、クリティカル。なにかある?」

 

 『職員室と校長室に入る時はノックをする』とプリントに書かれていることがまずわかります。さらに床に落ちているプリント類の中から老朽化した画鋲の刺さった紙を見つけます。おそらくこの掲示板に貼り付けてあったものが何かの拍子に落ちてしまったのでしょう。

 『借りた物は必ず元にあった場所に戻す』と書かれていました。

 

「とことん校則にうるさい学校だったのねここ。こんな掲示物にわざわざ書くあたり凄い徹底ぶりだわ」

 

 さて、蘭のシーンに行きましょうか。校長室の鍵を探すんでしたっけ?

 

「うん。とりあえず机から調べようかな。中身と上を隈なく探したいかな。でも机の上も中も散かっているんだよね?」

 

 ですね。普通に探すとしたら時間がかかるでしょう。

 

「じゃあ《目星》に頼るしかないね。目に留まるくらいは気になる物がないかを捜してみるよ」

 

 蘭《目星》65 → 57 成功

 

 それでは蘭は校長室の鍵を見つけることは出来ませんでしたが、代わりに1つのハンマーを見つけることが出来ました。鉄製の丈夫なハンマーです。

 

「ハンマー……持っていこうかな。バッグの中に入れておくね。でも肝心の鍵が見つかっていないから探索を続けるよ。机の上や中がダメなら床かな? 床に何か落ちてないかを調べる。これも《目星》で判定しようかな」

 

 蘭《目星》65 → 54 成功

 

 床にライトを向けて注意深く探索すると、途中できらりと何か小さなものが光ったような気がします。気になって見てみますとそこにあったのは小さな鍵。小さな黒いキーホルダーが付いていて、それには『校長室』と書かれたシールが貼られています。

 

「やった、鍵が見つかったわ。永琳ー、鍵見つけたよーって小さな声で呼ぶ」

 

「校長室の鍵? と聞きながら蘭のもとに行くわ」

 

「うん。これで校長室に入れるよ。あとなんか、こんなのまで見つけちゃった」

 

「……なにそれ? ハンマー?」

 

「うん。なんかこれだけ浮いてたんだよね。何かに使えそうだからちょっと鍵と一緒に借りようと思う」

 

「いいけど、ちゃんと返すのよ? 書かれてたのよ張り紙に。借りた物は必ず元にあった場所に戻せってね」

 

「え、本当に? 他に何かそんな張り紙はあった?」

 

「職員室と校長室に入る時はノックをしろ、だって」

 

「そっか。じゃあ私たちのやっていたことは正しかったということだね。うん、わかった。校長室の鍵やハンマーは使ったらすぐに元の場所に戻すよ」

 

「それがいいわ。さぁ、校長室に行きましょう。もう調べることなんてないでしょう」

 

「そうだね。じゃあGM、私たちは職員室から出て校長室に向うよ」

 

「蘭が出た後に私も職員室から出てドアを閉めるわ」

 

 わかりました。何事もなく校長室の前まで戻ってこられました。

 

「鍵穴に鍵を差し込んで捻ってみる」

 

 ガチャと言う音がしました。鍵は開錠されたようです。

 

「よし。ノックをして失礼しますと言って、校長室に入るよ」

 

「続いて小さな声で失礼しますと言って校長室に入るわ。そしてドアを閉める」

 

 校長室は職員室と比べると綺麗に整理されています。

 来客用の席が部屋の中央部に設置された少し高そうなテーブルを隔てて2つずつ設置されており、その奥には校長先生の机があります。部屋の両サイドには大きな本棚があり、教育本や教科書などがびっしりと並んでいます。

 

「本棚ねぇ。GM、その本棚を調べてみるわ。《図書館》を使う」

 

「私は校長室の机の中を物色しようかな」

 

 分かれて探索するんですね。ではまず蘭から。えー、特に引き出しからこれと言って気になる物は見つかりませんでした。

 次は永琳ですね。《図書館》をどうぞ。

 

 永琳《図書館》59 → 26 成功

 

 左側の本棚を調べていると、隅っこに置かれていたある1冊の本を見つけました。いえ、本ではなく市販のノートブックのようです。気になって手に取って見たところ、それは当時校長先生が書いた日記のようです。

 

「読むことは出来るかしら?」

 

 はい。普通に読んでもそんなに時間はかかりません。

 

「じゃあ読むわ。でもその前に蘭に日記があったことを伝えましょう。蘭、こんなものを見つけたわよ」

 

「なにもないなぁ……ん、永琳? それは……日記?」

 

「ここで校長先生をしていた人のみたい。もしかしたら何か書かれているかもしれないわよ」

 

「本当? じゃあちょっと読んでみましょう」

 

 流し読みをするのと、事細かく詳しく読むの、どっちがお好みですか?

 

「何か違うの?」

 

 詳しく読むと流し読み以上に時間がかかるのと……《SAN》値が大きく減る可能性があります。

 

「大人しく流し読みしようか」

 

「そうね」

 

 わかりました。ではあなたたちは校長先生の日記の流し読みをします。

 日記を読むと、最初こそ普通の学校だったものの日に日に生徒や教師が失踪し、そのことに校長先生が怯えていたことがわかりました。最初に消えたのが不良生徒だっただけに、ただサボっているものだと思っていたらしいのですがどうやらそうでもないようです。

 普通に学園生活を送っていてちょっとやんちゃだっただけの生徒が次に消え、生徒たちに人気だったものの少し行動に問題があった教師が消え、性格が良くても成績が悪かった生徒が消え、軽い校則違反をしていただけでそれ以外は善良な生徒だった人間も消え……どんどんエスカレートしていきます。

 さて、この日記を流し読みした2人は《アイデア》チェックです。

 

 永琳《アイデア》65 → 21 成功

 蘭 《アイデア》70 → 03 クリティカル

 

「うっそでしょ、どうしてこんなところでクリティカルなのよ!?」

 

 運がいいのか悪いのか。サイコロの神様の悪戯ですな。

 ええ、《アイデア》チェックに成功した2人は日記を通じてこのときの校長先生の恐怖を想像してしまい、クリティカルを出した蘭ねーちゃんはその校長先生とシンクロしたかのごとく校長先生が感じていた恐怖をそのまま感じてしまいます。

 気味の悪い出来事が綴られた日記を読み、恐ろしい想像してしまった2人は《SAN》チェックです。

 

「だよねぇ」

 

「まぁ、少しなら覚悟してたし、いいよ。いくつかな?」

 

 永琳は0/1D3、蘭は1/1D3+1でどうぞ。

 

 永琳《SAN》64 → 09 成功

 蘭 《SAN》52 → 54 失敗

 

 「(コロコロ)……3点。ちなみに詳しく読んでクリティカル出したらどうなってたの?」

 

 1D3+1/1D6+1の《SAN》チェックが待っていました。

 

「一発発狂まであったんだね。……さて、もうこれ以上調べる必要なさそうだし、滝谷君たちと合流しない?」

 

「そうね。日記を元あった場所に戻して校長室から出るわ。永琳が出るのを待ってから鍵を……あ」

 

「どうしたの?」

 

「ねぇ、私たちさ、さっき職員室から出たときに……『失礼しました』って言ったっけ?」

 

「……あ」

 

 あ、気付きましたか。ちなみにさっきの職員室でのシーンでは言っていませんでしたよ。

 

「ちょっとどころか凄くマズいことをしてたかもだね。次に校長室や職員室に入る時は気を付けようか」

 

「そうね。とりあえず失礼しましたと小声で言いつつ校長室から出る」

 

「私も失礼しましたと頭を下げた後鍵をかける。そしてその鍵を元あった場所に戻すよ。当然職員室に入る時にはノックをして挨拶。出たときも挨拶をするよ」

 

「私は職員室に入らずに廊下で待機しているわ」

 

「よし、鍵を戻したところで滝谷君たちと合流しよっか」

 

 わかりました。では2チームの探索が終了しましたので合流しましょう。同時に合流したことにしますね。

 丁度あなたたちは階段前で落ち合えました。時間にして40分、あなたたちは探索していたことになります。

 

「まぁ、教室の机を隈なく調べてたならそうなるだろうね」

 

「こっちは日記も読んでたしね」

 

「情報交換をしようよ。それぞれのチームで見つけた情報を共有したいな」

 

「賛成でヤンス。こちらがわかったものをすべて開示するでヤンス」

 

「私も全部言うよ。《SAN》チェックとかあるかしら?」

 

 ありません。ではあなたたち4人は皆情報を包み隠さず共有しました。少し整理しましょうか。色々いっぱい情報有りますしね。

 えー、まず張り紙に書かれていたことだけを纏めてあげましょう。

 

 ・『廊下・階段は走るな』

 ・『大声で叫ばない』

 ・『土足厳禁』

 ・『暴力厳禁』

 ・『屋上に上るな』

 ・『教室に出た後と入った後はドアを閉める』

 ・『職員室と校長室に入る時はノックをする』

 ・『借りた物は必ず元の位置に戻す』

 

「こんなに張り紙してたんだね」

 

「10回校則違反をすると恐ろしいことが起るってことも気になるね。私たちの知らないところでいくつ校則違反を犯しているのかもわからないし、気を付けようっか」

 

「てかなんてもん持ってきてんだ。ハンマーとか。それで彫像を破壊するつもりか?」

 

「壊すかどうかはさておいてなんとなく気になっちゃってね。ちゃんと返しておけば大丈夫だと思うな」

 

 さて、1階の探索が終わって情報交換も済んだところで、どうしますか? 2階にでも行きますか?

 

「もう充分1階を調べたし、いいんじゃないか? 田中が心配だしな」

 

「そうでヤンスね。2階に行くでヤンス」

 

「私も行くわ」

 

「私も付いていくよ」

 

 皆さんは2階に行くと。了解しました。

 ではあなたたちが2階へ続く階段を上り始めた瞬間、異様な気配とこの校舎へ入る前に感じたものと同じ寒気を感じます。身の毛もよだち、鳥肌が立ってしまうほどの、とても夏とは思えないほどの寒気です。

 あなたたちには《幸運》判定をお願いします。

 

 滝谷《幸運》65 → 07 成功

 永琳《幸運》70 → 98 ファンブル

 響 《幸運》50 → 74 失敗

 蘭 《幸運》55 → 03 クリティカル

 

「おや、珍しい。全部揃ったでヤンス」

 

「いや確かに凄いけど私ファンブル……大丈夫なの?」

 

 んー……じゃあ永琳は階段から足を踏み外して転んでしまいます。1D3のダメージです。

 

「(コロコロ)……2点」

 

 永琳《耐久力》09 → 07

 

「あいったぁ!?」

 

「大丈夫か永琳」

 

「ちょっと足を踏み外しちゃったのよ」

 

「気をつけるんだぞ?」

 

 さって《幸運》に成功した2人は、この寒さに耐えられず小さくくしゃみをしてしまいます。滝谷は4回、蘭は5回です。

 

「……なんだったんでヤンス? 今のロールとその結果は?」

 

「わからないけど……まぁ、多分害のある判定じゃないよ」

 

 さて、そんなこともありつつあなたたちは無事に2階へ上がることが出来ました。

 2階も1階と同じような作りになっていて、東と西に2つずつ教室が用意されています。ちなみに教室は全部鍵が開いていますので自由に探索可能です。それから現在時刻は午前3時。肝試しが始まって1時間が経過しました。

 

「さてどうしようか。またさっきの2チームに分けて探索するか?」

 

「そうだね。また私と永琳で西側を調べるよ」

 

「了解でヤンス。じゃあ行くでヤンスよ我那覇氏」

 

「うん。じゃあ行くか誠! あ、これは小さい声だぞ」

 

 はい。

 

「全く……じゃあまたよろしくお願いね、永琳」

 

「ええ、よろしくね」

 

 では東側を探索する滝谷と響のシーンから行きましょう。どっちの部屋から探索しますか?

 

「1階のときと同じ奥からでいいでヤンスか?」

 

「自分はどっちでもいいぞ」

 

「じゃあ奥から行くでヤンスよ」

 

 わかりました。一番奥の教室は音楽室です。出入り口はスライド式で2つあります。ピアノが1台教室の中心に鎮座しているだけの殺風景な部屋です。教室の壁には掲示板と黒板があります。

 

「とりあえず入ってドアを閉めるよ」

 

 あ。それなのですが、あなたたちはどちらのドアから教室に入りましたか?

 

「え? 後ろからでヤンスよ。わざわざ前から入るのなんて面倒でヤンスし」

 

「あ、自分は前から入るぞ」

 

 却下。響も後ろから入りなさい。

 

「なんか嫌な気がするんだが……まぁいいか。教室に入ったら私は田中を探すよ。人が隠れられるような場所はあるか?」

 

 掃除ロッカー程度です……あ。あとは教壇の下とかですか。

 

「掃除ロッカーはあのトラップが待っているからいいや。教壇の下はどうだ? 見てみるぞ」

 

 もぬけの殻です。当然田中はいません。

 

「だろうな」

 

「GM、小生は我那覇氏が田中を探している間に掲示板を見るでヤンス。今までの流れで大抵ここには重要なことが書かれているでヤンスからな」

 

 掲示板には1枚の張り紙があります。文字が掠れてしまって――

 

「じゃあ《日本語》でヤンスね」

 

 滝谷《日本語》80 → 45 成功

 

 『ピアノを勝手にいじらないこと』という張り紙を見つけました。

 

「あのピアノでヤンスね。じゃあ触れないようにするでヤンス。我那覇氏、そのピアノに触っちゃいけないでヤンスよ。プリントに書かれているでヤンス」

 

「ふーん、わかったぞ。じゃあ触らないことにする」

 

「して、田中氏はいたでヤンスか?」

 

「いや、見ての通りだ」

 

「そうでヤンスか。あと調べられるのは……黒板くらいでヤンスか。なにか書かれているでヤンスか?」

 

 黒板には何も書かれていません。

 

「じゃあもうないな。音楽室を出て隣の教室に向かおう」

 

「そうでヤンスね。音楽室から出た後ドアを閉めて隣の教室に入るでヤンス」

 

 音楽室の隣の部屋は2年生の教室です。

 1年生の教室と同様、バラバラに並べられた埃の被った椅子と机、掃除ロッカーが目につき、壁には掲示板と教室の前後に設置された2つの黒板があります。

 

「田中を探すぞ。教壇の下を覗いてみる」

 

 田中はいません。

 

「うーん。やっぱりいないかぁ。どこ行っちゃったのかな」

 

「引き続き探索するでヤンス。まずは掲示物の確認でヤンスね。掲示板を見るでヤンス」

 

 1枚の掲示物があります。文字が――

 

「皆まで言わなくていいでヤンス」

 

 滝谷《日本語》80 → 84 失敗

 

「あ、初めて《日本語》失敗したでヤンス。ふむ、読みにくいでヤンスね。我那覇氏、ちょっと来てくれるでヤンスか?」

 

「ん? なんだ、どうした?」

 

「ここに書かれているの読めるでヤンスか? 掠れすぎていて情けないでヤンスが小生では読めないんでヤンスよ」

 

「わかったぞ。えっとどれどれ……」

 

 響《日本語》50 → 64 失敗

 

「うーん、ごめん。自分もここになんて書いてあるか読めないぞ」

 

「そうでヤンスか。では仕方ないでヤンスね。諦めて黒板を調べるでヤンス」

 

 前の黒板には何も書かれていませんが、後ろの少し小さめの黒板には隅っこの方に小さく何かが書かれています。《目星》でどうぞ。

 

 滝谷《目星》80 → 41 成功

 響 《目星》80 → 11 成功

 

 『みんな何かに怯えている。まるで地雷を避けるように慎重に動いている。息が詰まりそうだ。この世に聖人君子はいないんだ。もうまっぴらだ……』。そう黒板に書かれていました。

 

「可哀想に。高校生っていったら人生である意味一番自由で楽しい時間なのにな。まぁ自分はアイドルやっていたけどな」

 

「そうでヤンスね。こんな校則で縛られた挙句、怯えながら過ごす高校生活になんの意味があるのやら。激しく同情するでヤンスよ」

 

「もう調べるところはないよな? 掲示板も黒板も見たでヤンスし、後はこの机の中とロッカーくらいでヤンスが……まぁ、多分大丈夫でヤンスね」

 

「じゃあもう教室から出よう。2人と合流するまで怪談の所で待機だな。GM、自分たちは教室から出るぞ」

 

 音楽室寄りのドアと階段寄りのドア、どちらから出ますか?

 

「階段寄りかな。そっちの方が近いし。な、誠」

 

「そうでヤンスね。それでいくでヤンスよ」

 

 わかりました。では次は西側を探索する香々美と薫のシーンに移ります。どの教室から調べますか?

 

「私たちも1階の時と同じで奥からでいいんじゃないの?」

 

「だね。奥から調べてみようか」

 

 西側の奥の部屋は理科室です。

 入るとそこには実験台や薬品が並んだ棚があります。そこにある薬品は《化学》でロールせずとも一般に知られているポピュラーな薬品です。アンモニアや硫酸、みたいなものですね。

 

「硫酸……。GM、その薬品の中から硫酸を持っていくことってできる?」

 

 薬品棚には鍵がかかっていて開きません。

 

「また鍵……西側は鍵が必要な部屋が多いね。でも永琳、なんで硫酸が欲しいの?」

 

「さっき屋上にある彫像を壊すことも視野に入れた方がいいって話があったでしょう? だから硫酸で少しでも溶かしてハンマーで壊そうかなって」

 

「……そうね。出来れば私も素手でその彫像を触りたくないし。でもこの薬品棚の鍵を見つけないと取り出せないね」

 

「ハンマーで叩き割ったらどう?」

 

「もう、そんなことするわけないじゃない。薬品棚の鍵なら理科室のどこかにあるでしょう? GM、理科室を探索するわ。普通教室のどこかに鍵をかけておくためのフックがかかった場所があるはずだよね。例えばメインで実験をする場所とその準備をする場所の境の壁とか、後はこの薬品棚の側面とか。そこを中心に調べるわ」

 

 お見事です。準備室の手前の電気のスイッチの隣にあったフックに薬品棚の鍵が掛かっていることに気が付きました。

 

「よし、開けて硫酸を持っていくわ。鍵はそのままにしておく。硫酸を戻したらいっしょに元あった場所に戻しておけばいいでしょう」

 

「ううん、ダメよ。細かいけど校則違反だから、大人しくルールに従っていた方がいいよ」

 

「面倒ねぇ、本当。じゃあ鍵を閉めて元あった場所に戻しておくわ」

 

「必要そうなものは手に入ったし、面倒だから最後に部屋全体に《目星》してから隣に行かない?」

 

「そうね。それだけしていきましょうか」

 

 永琳《目星》65 → 21 成功

 蘭 《目星》65 → 54 成功

 

 特に目ぼしいものは見つかりませんでした。

 

「よし、探索終了ね。理科室から出ましょう」

 

「私も理科室から出てドアを閉める」

 

 前と後ろ、どちらのドアから出ましたか?

 

「前じゃないかな。そうすればすぐに移動できるし。ねぇ?」

 

「どっちでもいいわ。今更だと思うし」

 

 わかりました。では隣ですね。隣は3年生の教室です。

 永琳と蘭は見ていませんが、滝谷と響が探索した1年と2年の教室同様古ぼけており、埃が被った乱雑に置かれている机と椅子、掃除ロッカーが目につき、壁には掲示板と教室の前後に設置された黒板があります。

 

「掲示板には何か貼られているのかな?」

 

 あります。1枚だけ張られておりますが、なんて書いてあるのかは――

 

「《日本語》ね。わかったよ」

 

「私も振るわ」

 

 永琳《日本語》85 → 77 成功

 蘭 《日本語》70 → 41 成功

 

 『教室は必ず教壇寄りの前ドアから入って、後ろドアから出ること』と紙に書かれていました。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ねぇ、蘭」

 

「うん……やっちゃったね」

 

「私これで自分がどれだけ校則違反しちゃったのかわかんなくなっちゃったんだけど……」

 

「私もだよ。まさか、今更になってこんな校則が出てくるとは思わなかったし」

 

「というかそれ、小生と我那覇氏が一番まずくないでヤンスか?」

 

「1階で教室に入っちゃったもんな自分たち。たしか入ったのは前からだったけど、出るのも前で校則違反だったぞ」

 

「で、2階は……ああダメでヤンス。思い出せないでヤンスよ」

 

 まぁまぁ、今更ながらの後悔はこの辺にしておきましょう。大丈夫ですよ、まだ何にも起こっていないんですから。探索している2人は他に教室のどこかを探索しますか?

 

「黒板を調べる」

 

「じゃあ私はロッカーを」

 

 蘭から行きましょう。黒板を調べるんですよね。あなたは後ろの黒板の端っこに何か書かれているのを見つけました。小さくて読み取れません。

 

「スマフォを取り出して写真を撮って、それで拡大して読む」

 

 本当に《目星》振ろうとしないですね。いいですけど。

 『屋上の像は怪物の腕。あれさえ壊せば救われる。屋上にさえ上がれれば……』と書かれていました。

 

「よし、確定する情報が来たわね」

 

 では永琳のシーン。掃除ロッカーを調べるんですよね? では《幸運》……はいいです。滝谷から情報がきていると思いますし。開いていてもそこにあるのはモップや箒、塵取りにバケツ、雑巾だけで田中の姿はありません。

 

「田中……どこにいったのかしら。もしかして屋上?」

 

「永琳どう? 田中君は……」

 

「いないわ。滝谷たちの方もいなかったらもう屋上しかないわね」

 

「そっか……。ね、ちょっと見て。あの黒板に書かれていたんだけど……って感じで永琳にスマフォを見せる」

 

「……つまり、アレね。読み通り、その彫像を壊せってことね」

 

「そういうこと。行きましょう。早く壊して田中君見つけ出して帰ろうよ」

 

「そうね。私は教室の後ろ側のドアを開けて教室から出るわ」

 

「私も続いて教室から出てドアを閉めるよ」

 

 探索終了ですね。

 では両チームとも探索が終わったということで合流しましょうか。

 

 

 

 

     ――To be continued…




次回、最終回です。


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Part.4

10年ぶりのインフルエンザは死ぬほどつらい……皆さんもお気をつけて。


 さて、30分探索したことにしましてですね、合流したのはいいですがどうしますか?

 

「とりあえず情報を共有するでヤンスよ」

 

「そうだね。そうしよっか」

 

 了解です。10分かけて情報共有を終えたことにしましょう。

 

「ふむ……つまり屋上に行って、その怪物の腕だとかいう像を壊せば脱出できるかもしれない、というわけでヤンスか?」

 

「うん。壊すためのものはこっちで調達しておいたから大丈夫だと思うよ」

 

「私が硫酸で像の一部を壊しやすくして、そこに蘭のハンマーを撃ち込む。そうすれば壊せるはずよ」

 

「でも《STR》16のやつが打ち付けたハンマーで壊せなかったら詰みだよな? もし壊せなかったらどうするんだ?」

 

「その時は《武道》+《キック》よ」

 

「まぁ、うん。それも選択肢には入れておくよ。とにかく今はあの像を壊して脱出できるかできないかを検証しないと」

 

「今更校則違反を気にしてもしょうがないし、屋上に行くか」

 

「よし。じゃあみんなで屋上に行くでヤンスね」

 

 屋上に行くようですね。では階段の隣にある階段を上ってあなたたちは屋上へと向かいます。……が。

 階段を上り始めるとすぐにあなたたちは異様な気配を感じ取ります。先程2階へ続く階段を上った時よりもさらに強い冷気と悪寒。その正体はあなたたちの目に映るような形で現れました。

 フワリ、フワリと階段を上るあなたたちの前に現れる提灯大の宙を浮遊する青白い光。それは定番の心霊現象『人魂』でした。《SAN》チェックです。1/1D5です。

 

 滝谷《SAN》64 → 92 失敗

 永琳《SAN》64 → 91 失敗

 響 《SAN》44 → 52 失敗

 蘭 《SAN》49 → 18 成功

 

「(コロコロ)……3でヤンス」

 

「(コロコロ)……1」

 

「(コロコロ)……あ、ヤバいぞ。5だ」

 

 5点以上減少した響、《アイデア》でどうぞ。

 

 響《アイデア》85 → 94 失敗

 

「危ないぞ……なんとか発狂はしないで済んだ」

 

「マズいでヤンスね我那覇氏。《SAN》値30台でヤンスよ」

 

「いつもならセルフ発狂しているんだけどこのシナリオじゃあできないからなあ。にしても、なんなんだこの人魂は」

 

 人魂は見る人によって数が違います。滝谷と永琳、響が6個、蘭が7個です。

 少しの間階段を上るあなたたちの周りを浮いていた人魂ですが、屋上に出るためのドアに差し掛かった瞬間霧散し、消えてしまいました。

 

「多分破った校則の数なんだと思うよ今の。じゃないとその説明がつかないし」

 

 お、正解です。皆さん結構ギリギリでした。細かいところでちょこちょこ校則違反していましたね。あと昇降口でライブとかしていましたし。

 

「仕方ないだろ。あんなの可愛いくらいだぞ」

 

 いっそあなたがずっとそんな調子でしたらもっと面白いことが起っていたかもしれませんけどね。

 さてさて、屋上の階段を上り切ったあなたたちは扉の前まで来ました。鍵は開いています。出られますよ。

 

「じゃあ男の小生が先頭に出るでヤンスよ」

 

「じゃあ私は3番目」

 

「自分は2番目な!」

 

「はいはい最後尾最後尾。私は背が低いから何も見えないわ」

 

 では扉を開け屋上に出た瞬間、生ぬるい風があなたたちを包みます。夏らしいじめっとした湿気と僅かに温かいその風の中に、この世の物とも思えない寒気が混じっています。

 

「田中氏らしい人影はないでヤンスか? 屋上を見渡してみるでヤンス」

 

 田中の姿はありません……が。その代わりに屋上の中心にある1体の彫像が鎮座していました。

 それは人間の左腕の肘からその先の部分が彫られている不気味な彫像です。

 

「あれが呪いの彫像でヤンスか」

 

「近づいて確かめるよ」

 

「硫酸の入った瓶を取り出しつつ、私も行く」

 

「自分も見に行くぞ。触っても大丈夫か?」

 

 大丈夫ですよ。

 えー、彫像はただの左腕ではなく、掌には獣のような恐ろしい歯がむき出しの口が彫られています。それは携帯電話で圏外を確認したときに蘭が見た、あの不気味な画像によく似ていました。さて、この彫像を見てあの不気味な画像をフラッシュバックしてしまった……あのときあの恐ろしい画像を見てしまった蘭は1/1D3の《SAN》チェックです。

 

 蘭《SAN》48 → 35 成功

 

「刻んでくるね。それで他に何か特徴とかはある?」

 

 彫像の肘部分にあたる土台は柔らかい粘土のようになっていて、そこには今まで刻まれたのであろう大勢の人たちの名前が書かれています。

 その名前の中に……ありました。今日あなたたちとこの学校に肝試しにやってきて今なお行方不明になっている友人、田中俊の名前が。傷が比較的新しいことからおそらくその友人が書いたものとみて間違いないでしょう。

 いまだに姿が見えない友人と、刻んだ名前の持ち主を呪う彫像……この2つから友人の身に何が起こったのか。《アイデア》チェックをお願いします。

 

 滝谷《アイデア》50 → 53 失敗

 永琳《アイデア》65 → 76 失敗

 響 《アイデア》85 → 15 成功

 蘭 《アイデア》70 → 88 失敗

 

「そんな! 成功したの自分だけか!?」

 

「滝谷はともかく、

 

「これがサイコロ神のお告げなんだね……」

 

「クソルーニーは死ねって言っているようでヤンスね」

 

 いやー、よりにもよって《SAN》値ピンチのあなたが成功してしまうとは。

 ええ、《アイデア》チェックに成功した聖花は鮮明に想像してしまいます。田中がこの彫像に自分の名を書いたその瞬間、この彫像が動き出し、掌にある恐ろしい口の中に彼が呑み込まれていくその光景を。1/1D6の《SAN》チェックです。

 

 響《SAN》39 → 57 失敗

 

「(コロコロ)……2。悪運は強いのかな。減少値は小さいから助かるぞ」

 

「そういえばさっきの一時的狂気もブロックしていたでヤンスし、ある意味凄いでヤンスね」

 

「でもあと1点《SAN》値失えば不定の狂気だよ」

 

「響。あんたはもう目を瞑ってなさい。どんなことが起きても目を開けてはだめよ? 余計な想像もしなくていいから心を無にしてなさい。いいね?」

 

「アッハイ。とりあえず扉の近くまで行って彫像から距離を取って何も見ないように蹲る。聞こえないようにイヤホンを耳に当てて結構な音量で音楽を流す」

 

 わかりました。で、残った3人はどうしますか? 壊しますか?

 

「「「壊す」」」

 

 ではどう壊しますか?

 

「手筈通りよ。私がまず硫酸をぶっかけるから、蘭はそのあとハンマーでやっちゃって頂戴。一思いに思いっきりね」

 

「うん、わかったよ」

 

「待つでヤンス。女性ばかりに危ない橋を渡らせるわけにはいかないでヤンスよ。硫酸は小生がかけるでヤンス」

 

「……わかった。頼んだわよ」

 

「頼まれたでヤンス。……さて、いくでヤンスか。と硫酸の瓶から蓋を外して不敵な笑みを毛利氏に向けるでヤンス」

 

「うん。両手でハンマーを握って構えるよ」

 

「……よし、いくでヤンス。瓶の中身を彫像にぶっかけるでヤンス!」

 

 瓶の中に入っていた透明な液体……硫酸が彫像にかかります。従来の硫酸よりも強い硫酸だったのでしょうか。かけられた彫像はジューッと音を立て、ボロボロと崩壊が始まります……そのとき。

 硫酸をかけた滝谷は《幸運》判定です。

 

 滝谷《幸運》65 → 77 失敗

 

 滝谷が硫酸をかけた瞬間、彫像は突然動き出して滝谷を襲います。

 コンクリート色だった彫像は真っ白な毛皮に覆われたものに変化し、それは滝谷の腕をがっしり掴み、土台部分に向かって物凄い力で引き摺っていきます。そしてその土台部分はいつの間にか、吸い込まれるほど暗く深い闇が広がっている人一人程度ならば通れる程度の穴ができあがっていました。《SAN》チェックのお時間です。1D3/1D6でどうぞ。

 

 滝谷《SAN》61 → 43 成功

 永琳《SAN》63 → 88 失敗

 蘭 《SAN》47 → 82 失敗

 

「(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)あ、6だ」

 

 お、おやおやまあまあ。では5点以上減少した蘭ねーちゃん、《アイデア》チェックです。

 

 蘭《アイデア》70 → 49 成功

 

「ゴメンね滝谷君、一時的発狂だ。《クトゥルフ神話》技能6パーセントもらうね」

 

 響以外にも1パーセントプレゼントします。

 

「い、いやいやいや、呑気に技能貰ってられないでヤンスよ!?」

 

 ま、まだ希望はありますよ。発狂の種類を決定します。1D10どうぞ。

 

「(コロコロ)……5」

 

 えーと、一時的発狂の5番は……『探索者をその場に釘つけにしてしまうかもしれないような極度の恐怖症』です。……あ。

 

「蘭らしい発狂だね。あ……あ……ご、ごめん滝谷君……私その……体が動かない……」

 

 恐怖のあまり固まってしまっている蘭ですが、そんな彼女などお構いなしと言わんばかりに、腕は滝谷をどんどんどんどん暗闇の方に向かって引き摺っていきます。

 滝谷も抵抗しているようですが《STR》対抗なんてしても意味ないくらいに力に差がありますので、あと数秒もしないうちに闇の中に連れ込まれてしまうでしょう。

 

「あ、あ……どうしよう……ポロリと手に握っていたハンマーを落とす……永琳! 後は頼んだよ!」

 

「! 了解したわ蘭! 勝負よ! 蘭が落としたハンマーを取って滝谷を掴む手を破壊するわ!」

 

 良いでしょう。《幸運》に成功したら認めます。

 

 永琳《幸運》70 → 60 成功

 

 永琳のとっさの行動は功を奏し、蘭が落としたハンマーを彼女は手に取り、滝谷を掴む彫刻に向かって振り落とされました。

 振り落とされたハンマーは彫刻に直撃し、硫酸がかけられていたこともあったせいかあっさりと粉々に破壊されました。滝谷を引っ張っていた物凄い力もなりを潜め、彼は解放されます。滝谷を取り込もうとしていた漆黒の穴も、どんどん小さくなっていき、元の彫刻が置かれていた石造りの台に戻っていきます。

 そんな光景を呆然と見つめるあなたたちの耳に、恐ろしい声が響いていきます。

 

『アクイアルトコ ワレアラワレル イツカマタ カナラズ ……』

 

 怪物の断末魔にも似たその声は、穴が完全に閉じるのと共に止みました。そしてこの学校を包んでいた寒気や悪寒も霧散し、あなたたちはずっと感じていたような雰囲気から解放されます。そして……夜は明け、夏ということもあって少し早い時刻ですが太陽が昇り、眩しい光があなたたちを包みます。

 あなたたちはその太陽の光を見て思います。ああ、恐怖の夜は終わったのか、と。

 一時的狂気で固まってしまっていた蘭も、あと一歩で不定の狂気にさらされるところだった響、恐怖から解放されて安堵の溜息を吐きます。

 1階に降りてみれば普通に開いている出入口。あなたたち4人は靴を履き替え無事この廃校から脱出。家に帰ることが出来ました。

 ではエンディングに行きましょう。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 えー、まずは探索者全員生還、おめでとうございます。最後の最後で肝が冷やされましたが、無事で何よりです。

 日常に戻ったあなたたちは警察に行きました。あの夜、一緒に肝試しに行った田中がいまだに行方不明だからです。

 警察官である蘭も時間が出来れば捜索し、捜査状況を何度も聞くほどです。ジャーナリストの滝谷も芸能人の響も大学教授の永琳も、それぞれの人脈を使って田中のことを探しますが一向に見つかる気配はありません。

 そして数か月後、あの学校が取り壊されることが決まりました。もうあのような恐ろしい怪談を聞くこともないでしょう。

 それからまた少し時間が経ち、何事もないそれぞれ違うありふれた日常に戻るあなたたち。そんなあなたたちはまた再び4人で集まることが出来ました。最初こそ現状報告の話題でしたが、本題は田中のことでした。田中を見かけなかったとか、捜査状況はどうなっているとか、それぞれ話し合いますが、何もわかりませんでした。

 それから少し世間話をして、帰るために駅へ向かう4人。夜のネオンライトがあふれる街の人ごみの中、ふとあなたたちは今まで自分たちの話題上に上がっていた人物の顔を見たような気がします。

 

「どこだって、人の欲、不満や悪意は渦巻く。次はどこへ行こうか」

 

 あの日の夜に消えた友人はそう呟き、口元に笑みを浮かべた気がしました。……そう。顔と両掌の3つの口元に。

 しかし気が付くと、その友人らしき人物は人混みの中へと消えて行ってしまいました。

 気のせいだったのだろうかと思いつつ、あなたたちはまたありふれた日常の中へと戻っていくことでしょう。……すでにこの世にあってこの世のものではない、友人のことを心配しながら。

 以上をもちまして、COCシナリオ【ある学校の階段の怪談】を終了させていただきます。

 お疲れ様でした。

 

「「「「お疲れ様でした」」」」

 

 

 

 

     ――Good end!!




これで書き直し終了です。

一応小説化できるセッションはまだまだあるんですがいかんせん時間がとれず……社会人は時間を作るのが難しいですな。

次回はちょっと人数多めのセッションを小説化します。それでは。


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生命の木
Part.1


新シリーズです。

週一で投稿できたらいいなぁと思います。


 はい、皆さん揃いましたね。TRPG【クトゥルフの呼び声】のセッションを始めさせていただきます。

 

「「「「「「よろしくー」」」」」」

 

 GMはいつもの射命丸の中の人が担当させていただきます。プレイヤーは4人……だったのですが、飛び入り参加者が出ましたので6人でやらせていただきます。

 えー、そこで大変申し訳ないのですが、キャラシートが2人分足りません。なんでこの家にはコピー機がないのでしょうか。

 

「さりげなく我が家をディスるのやめてくれませんか?」

 

「近くのコンビニでコピーすればいいんじゃないか?」

 

 それも考えたんですけど……外、出たいですか? 今雨凄いことになっていますけど。

 

「それは嫌だな。止むまでは出たくない」

 

 そうでしょう? 一応時間のかかるシナリオを用意してきましたし、クトゥルフ以外のキャラシートならあるので時間は潰せるんですけど、クトゥルフだけ足りないことに今さっき気が付いたんです。

 そこで、えー、大変申し訳ございませんが、この中の誰か2人は以前やったシナリオの中からなんでもいいですので継続探索者を選んで使っていただいてよろしいですか?

 

「あ、だったら私それでもいいわよ。新しく作るの面倒だったし」

 

「私もいいですよ。大体全部似たり寄ったりですから」

 

 ありがとうございます。

 

「念のために訊いておくけど、なんでもいいのよね?」

 

 ええ、キャラロストしていないのであればどのキャラシートを使っていただいても結構ですよ。

 

「わかったわ」

 

「じゃあ俺たちはキャラ作るか。シナリオ背景とお勧め技能と職業を聞かせてくれ」

 

 シナリオはクトゥルフ神話TRPGやろうず、青いくら様の【生命の木】です。

 舞台は現代日本。あなた達は夏の長期休暇を利用して知られざる秘島【出雲の秘島】の観光ツアーに参加していただきます。何人か個別オープニングをこちらで用意しておりますが、特に秘密にしなければならないことではございませんので、全員公開で行います。

 お勧め技能は《ナビゲート》《生物学》《歴史》といったところでしょうか。あとは《目星》《聞き耳》《図書館》ですね。戦闘技能は特に必要ありません。あってもおそらく無駄でしょうから。

 お勧め職業は特にありませんが、警察やジャーナリスト、ゴーストハンター、オカルト作家といったものを選ぶならば個別オープニングが用意されています。まぁあってもなくても特に変わりはありませんので強要はしません。

 それからあなたたちPCの中から誰か1人、所謂主人公的な役割を担っていただきます。丁度6人いますので1D6で決めようかなと思いますが、やりたい方がいらっしゃれば今ここでどうぞ。ただキャラロストする可能性が高くなりますし、割と慎重に、かつそれっぽい行動をしないと詰んでしまう可能性がありますので、自由にロールプレイしたい人にはあんまりお勧めしません。

 で、誰かやりたい人はいますか?

 

「私は遠慮したいわ。主人公よりサポート向きだしね。あと自由にロールプレイしたい」

 

「私も出来れば」

 

「オレも今回は遠慮したいですね」

 

「私も遠慮する」

 

「私もちょっと……」

 

「なんだおまえら……じゃあいいぜ、俺が引き受けるよ」

 

 ありがとうございます。特にキャラ作成で要求することはありませんので、自由にどうぞ。個別オープニングがあったり、ちょっとしたアイテムがあったりするだけですから。

 

「お、そうなのか?」

 

 はい。さぁさ、後はシナリオが始まってから詳しくお話ししましょう。皆さん、自身の分身となるPCを作成してください。

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

「さて、どの継続探索者を使おうかしらね」

 

「あの……これはいいのでしょうか?」

 

「……あ、いいんじゃない? あなたがそれ使うなら私もこれね。ねぇGM。私の継続探索者特徴1つしかないんだけど、大丈夫?」

 

 バッステのみならご自由に1つ、バッステがないならバッステを追加して60ポイントの技能ボーナスをどうぞ。

 

「わかったわ」

 

「ステータスが変化しているんですけど、趣味的技能を上げてもいいですか?」

 

 《INT》が上がっているんですか? じゃあ上がった分×10ポイント振り分けてどうぞ。

 

「ありがとうございます」

 

「よし、ステータスは高いな」

 

「お、それじゃあ万能キャラにするのかい?」

 

「何を言っている。ステータスが高いからこそふざけるんだ。私のキャラは……これだ」

 

「お、そのキャラで行くんですか? じゃあオレのキャラはこれですね」

 

「じゃあ私もそれに乗っちゃおうかな。職業はどうしよっか。学生にする?」

 

「学生探索者作るのがな……」

 

 【アカシック13】に掲載されている物を応用してもいいですよ。

 

「それなら簡単だな」

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 出来上がったみたいですね。それでは順番にどうぞ。

 

「じゃあ俺から行くぜ? 俺は夢幻の白夜。36歳の公安警察官だ」

 

夢幻の白夜

性別:男 年齢:36歳

職業:公安調査官 特徴:鋭い洞察力 夜に弱い

STR:15 《幸運》55   《心理学》62 《聞き耳》63

CON:10 《アイデア》65 《説得》72  《隠す》65

POW:11 《知識》95   《追跡》67  《説得》65

DEX:08 《母国語》95  《図書館》75

APP:15 《回避》16   《目星》62

SIZ:11 《耐久力》11  《英語》59

INT:13 《MP》11   《法律》62

EDU:20 《DB》±1D4 《隠れる》67

SAN:55 《年収》500万 《忍び歩き》62

 

 ほう、公安警察ですか。

 

「ああ。普通の警察官よりもクトゥルフに関わりやすいかなって思ってな。それに俺が一応主役のポジションを引き受けたことだし、オーソドックスにな」

 

 いいですね。頼りになりそうなPCです。所持品もとくに問題ないですね。では次は……ああ、あなたたち3人は友人同士で普通に旅行しに来たんでしたっけ。じゃあ纏めてどうぞ。

 

「天草シノ。法学部大学3年生だ」

 

「津田タカトシ。文学部大学の2年生です」

 

「七条アリア。経済学部大学の3年生だよ」

 

天草 シノ

性別:女 年齢:21歳

職業:法学部大学3年生 特徴:勉強家 不思議ちゃん

STR:08 《幸運》45   《言いくるめ》65 《隠れる》56

CON:10 《アイデア》85 《経理》70    《目星》63

POW:09 《知識》75   《心理学》55

DEX:08 《母国語》75  《聞き耳》55

APP:14 《回避》16   《説得》63

SIZ:14 《耐久力》12  《法律》75

INT:17 《MP》09   《英語》63

EDU:16 《DB》±0   《追跡》58

SAN:45 《年収》0    《ナビゲート》58

 

津田 タカトシ

性別:男 年齢:20歳

職業:文学部大学2年生 特徴:芸術的才能 眼鏡を掛けている

STR:12 《幸運》45   《オカルト》55    《登攀》60

CON:16 《アイデア》60 《芸術(詩的表現)》80 《製作(料理)》62

POW:09 《知識》70   《心理学》76

DEX:11 《母国語》80  《説得》60

APP:14 《回避》22   《図書館》65

SIZ:16 《耐久力》16  《跳躍》55

INT:12 《MP》09   《歴史》64

EDU:14 《DB》+1D4 《目星》52

SAN:45 《年収》0    《聞き耳》52

 

七条 アリア

性別:女 年齢:21歳

職業:経済学部3年生 特徴:親の七光り 不思議ちゃん

STR:07 《幸運》45   《経理》70  《聞き耳》50

CON:15 《アイデア》55 《博物学》60

POW:09 《知識》75   《信用》75

DEX:15 《母国語》75  《図書館》56

APP:15 《回避》30   《法律》75

SIZ:12 《耐久力》14  《英語》80

INT:11 《MP》09   《写真術》40

EDU:15 《DB》±0   《乗馬》65

SAN:45 《年収》0    《目星》50

 

 役員共から3人ですか。一応聞いておきますけど、皆さん同じ大学ですよね?

 

「ああ。学部は違うがな。私は将来検事になるつもりだから、そんな風に技能を振ってみたぞ」

 

「オレは小説家になろうかと」

 

「私は実家を継ぐために勉強中だよ。職業技能はディレッタントで作っているけどね」

 

 なるほど、いいですね。……ってあれ? タカトシは眼鏡かけているんですね。

 

「先輩たちと同じ大学に通おうと無理な勉強し続けた結果、目が悪くなっちゃった。って感じの設定で行こうかなと」

 

 そういうことですか。まぁあなたが眼鏡かけてもかっこいいと思いますからいいでしょう。所持品も特に問題なしです。ただあんまり暴れないでいただけるとありがたいですね。特にシノの人。

 

「それは私の気分によるな」

 

 お願いしますよ。はい次……は、ああ、継続探索者の方々ですね。あなたたちも纏めてどうぞ。

 

「レミリア・スカーレットよ」

 

「その従者の十六夜咲夜です」

 

レミリア・スカーレット

性別:女 年齢:32歳

職業:ディレッタント 特徴:珍しい技能 不思議ちゃん

STR:15 《幸運》55   《図書館》55     《精神分析》62

CON:09 《アイデア》75 《芸術(占い)》80   《聞き耳》63

POW:11 《知識》75   《信用》76      《クトゥルフ神話》6

DEX:13 《母国語》75  《オカルト》55    《天文学》61

APP:15 《回避》26   《法律》76

SIZ:13 《耐久力》12  《日本語》80

INT:15 《MP》11   《武道(空手)》72

EDU:16 《DB》+1D4 《ライフル》43

SAN:55 《年収》1400万《心理学》66

 

十六夜 咲夜

性別:女 年齢:31歳

職業:メイド 特徴:手先が器用 大切なもの

STR:18 《幸運》350  《言いくるめ》63  《芸術(料理)》70

CON:24 《アイデア》105《応急手当》50   《ナビゲート》65

POW:70 《知識》60   《聞き耳》45    《機械修理》50

DEX:16 《母国語》60  《製作(料理)》70  《電気修理》30

APP:18 《回避》38   《経理》60     《クトゥルフ神話》99

SIZ:11 《耐久力》18  《心理学》63

INT:21 《MP》70   《目星》45

EDU:12 《DB》+1D4 《日本語》80

SAN:350《年収》500万 《運転》60

 

 え、ちょ。

 

「あ、この探索者って」

 

「……ああ。あのシナリオのやつですか」

 

「え? 咲夜さんのステータスはどういうことかしら?」

 

「人間のそれじゃないな」

 

「あたりまえじゃない。だって咲夜神様だもの」

 

「はい。私はシュブ=ニグラスの分霊です。今は訳有ってレミリアお嬢様に仕えています」

 

「自覚のあるシュブ=ニグラスとか強すぎるな」

 

 レミリアはともかく咲夜は……まぁいいか。それはそれで。律儀に1年経過していますし。でも咲夜の人大丈夫ですか? 《SAN》チェックがないのでクトゥルフ特有のスリルとか全くないですよ?

 

「これはこれで面白そうですし、このキャラ使うのこれっきりにしますからやりたいです」

 

 さいですか。ならまぁ、いいですよ。でもネタバレになっちゃいますのであんまり《クトゥルフ神話》技能使ってほしくないのですが。

 

「それは勿論」

 

 ならいいです。あとレミリアがロストしたらあなたも強制的にロストさせますから、そのつもりで。

 

「その場合のロストってさ、ただ死ぬだけじゃないよね?」

 

「絶対に邪神になるやつだな」

 

「私たちまで巻き添えじゃないか」

 

「大丈夫よ。私が死んだり発狂したりしなければいいだけだから」

 

 それではまぁ、色々と心配な面子なのですが、シナリオ始めていきまーす。

 まずは個別オープニングがある人からです。該当者は白夜ですね。

 

 

     ――――・――――・――――・――――

 

 

 まずは白夜の個別オープニングから。少し長いです。

 あなたは警視庁公安部に所属している刑事です。部署の都合上、あなたは身分をある程度隠さなければならない立場にあり、そして、あまり表沙汰にできない案件を担っています。そんなあなたはとある案件を上司から任されます。

 隠岐島の近くにある、知る人ぞ知るパワースポット【出雲の秘島】の黒い噂の調査です。

 

「黒い噂?」

 

 はい。出雲の秘島を訪れた観光客が、メイン観光スポットである神樹の森で行方不明になり、後日死体となって発見される、という事件が多発しているというものです。

 

「噂ということは、本当かどうかはわからないんだな?」

 

 そうですね。

 あなたは秘島の噂の真偽を確かめ、もし本当ならば失踪・変死事件についての真相を解明し、上手くいくのであれば解決せよと上司から指示を受けて行動を開始します。

 あとですね、なぜあなたがこの大役を任されたのか、なのですが。それはあなたが幼少期に一度だけ、両親に連れられてその島を訪れたことがあるからです。

 

「お、そうなのか」

 

 はい。と言っても記憶はうっすらで、本当になんとなく憶えている程度なのですが。

 以前雑談で仲間たちとパワースポットについて話をしていたときにあなたがこの島について口にしていたことを上司が見ていて、それが理由であなたに頼んだということです。一度とはいえ、島に行ったことのある人間を向わせた方が何かを掴んでくるだろうと考えたのです。

 

「刑事の勘ってやつだな。しかも公安警察官のだ。説得力が違う」

 

 ということで、あなたは夏に開催される出雲の秘島観光ツアーに参加することにしました。

 

「事前に調査をある程度済ませておくことにする。とその前にだ。さっきうっすらとだけどその島に行った時の記憶があるって言ったな? その内容を聞かせてくれ」

 

 神樹の森に訪れた際、あなたは両親とはぐれてしまいます。途方に暮れていたあなたですが、そこでこの世のものとは思えないほど美しい銀髪の少女と出会った、というものです。顔はぼやけてしまっていてはっきり思い出せません。

 

「ふーん……その少女と会った後にどうなったか、覚えているか?」

 

 過程は覚えていませんが、気が付いたときにはあなたは両親と再会を果たしており、その手の中には古い御守りが握られていました。

 

「その御守りは今も持っているか?」

 

 今も大切に持っています。左胸ポケットの中にありますよ。

 

「御守りの中身を確認するぜ。何が入っている?」

 

 銀色に輝く何かの金属片です。

 

「成分は?」

 

 調べたことはないので詳しくはわかりませんが、見た感じ鉄のようなものなのではないかと察します。

 

「《アイデア》ロールしてもいいか?」

 

 どうぞ。

 

 白夜《アイデア》65 → 77 失敗

 

「ちぇっ、ダメか。じゃあ次だ。出雲の秘島について調べるぞ。観光ツアーがあるってことはそこそこ有名なんだろ? 普通にグー◯ル検索だ」

 

 壱岐島の近くにあるパワースポットで、「生命の木」と呼ばれている巨大な神木とそれを取り巻く「神樹の森」が主な観光スポット。なんでも「神樹の森」で果実を口にすれば身も心も若さと潤いを取り戻し、「生命の木」の根元から湧き出る霊泉の水を飲めば精神が清められ生への活力が漲る、という謳い文句があります。

 ネットの評判では、実際に「神樹の森」で採れた果物はどれも絶品で、島の水は全て井戸水でやはり美味しいということです。

 

「《図書館》を使ってもっと詳しく調べてみよう」

 

 白夜《図書館》75 → 17 成功

 

 では時々霊泉が虹色に輝くことがありその光景は幻想的である、という書き込みがあったのを見つけました。

 

「それだけか。じゃあもういいや。俺の行動はこれで終わりにする」

 

 わかりました。それではタカトシ、レミリア、咲夜のオープニングに行きましょう。

 

「え? オレ、レミリアたちと知り合いなの?」

 

 いえ、知り合いじゃなくてもいいですよ。個別オープニングと言っても共有の情報あげるだけですから。2人とも《オカルト》高いので。咲夜は《クトゥルフ神話》技能ですけど。

 あなたたちは夏の長期休暇を利用して、どこかに行こうという話になりました。そこで出てきたのが出雲の秘島でした。

 出雲の秘島の「神樹の森」には「生命の木」の化身とも呼べる霊的存在が住んでいて、ごくまれに森に入り込んだ人間の前に現れるというものです。

 

「お、なんか俺の昔話と繋がりそうだな」

 

「霊的存在……妖精みたいなものかな?」

 

 そうですね。木の精は人間に対して非常に友好的で、可憐な少女の姿で現れるらしいです。ただその怒りに万が一でも触れてしまうと真っ黒な恐ろしい怪物となって牙を剥くという言い伝えもあります。

 

「可愛い少女の姿で現れて、怒ると黒い怪物になるって……咲夜」

 

「GM、その……それって《クトゥルフ神話》技能で判定できますか?」

 

 自動成功とします。咲夜はその存在が自分と同じ神の分霊の1つだと確信することでしょう。

 

「咲夜の家族みたいなものね。どうなの咲夜」

 

「どうでしょうか。今の出雲の秘島は平和なようですので友好的だと思いますが、もし何かの拍子で邪神になられたら大変ですね」

 

「そうね。ちょっと会いたくなってきたわ。咲夜の家族ですもの、さぞかし可愛らしいのでしょうね。どうかしら咲夜。せっかく仕事もオフだし、一緒に行かないかしら?」

 

「お嬢様が参られるところに、咲夜はついていくのみです」

 

「もう、違うわ咲夜。私はあなたと一緒に旅行に行きたいのよ。あなたも楽しんでもらわないと困るの。私はあなたが行きたくないところには行きたくないわ。正直に言ってちょうだい」

 

「……正直な話、あまり行きたくはありません。お嬢様が危険な目に遭うリスクが生じますから。しかし、私と同じ存在がどのようにこの世界に存在しているのか、気にはなります」

 

「私のことは大丈夫よ。これでも鍛えているし。それに……あなたが私を守ってくれるんでしょう? 咲夜」

 

「勿論でございます。私がいる限り、お嬢様の身に危険が及ぶことはございません」

 

「なら大丈夫ね。行きましょう」

 

「はい、喜んで。という感じで私とお嬢様はツアーに参加します」

 

「じゃあオレは妖精ってフレーズにつられて旅行に行こうって思うかな。その際に高校時代からよくしてくれている先輩たちも誘ってみる。ひとりよりもみんなで行った方が楽しそうだから。萩村は海外に留学中だから誘うに誘えなかったということにする」

 

「それなら私は乗るぞ。旅行か、久しく行っていなかったな。津田が折角誘ってくれたんだ。行こうじゃないか」

 

「私も行くよ。みんなで旅行って楽しいし、何より出雲の秘島には前々から興味はあったんだ」

 

「天草先輩も七条先輩もありがとうございます。ということでオレたちは旅行することになりました」

 

 話は纏まりましたね。ではこれでそれぞれのオープニングを終了します。さて、導入行きます。

 夏のある日のこと、あなたたちは二泊三日の観光ツアーに参加すべく、島へと向かう定期船に乗り合わせています。快晴の青空の下、潮風を感じながらの船旅は気持ちいいことでしょう。

 

「とりあえず人数確認だ。私たち以外に何人乗り合わせている?」

 

 男性NPCが6人です。全員一箇所に集まって話しています。仲が良さそうなことから全員知り合いのようですね。

 

「ということは12人で旅に来ているのね」

 

 ああ、ちなみにこのツアーはAグループとBグループで別れていて、それぞれ泊まる場所は同じですが、スケジュールが違います。探索者のあなた達は全員Aグループです。

 

「あら、じゃあここは自己紹介もかねて挨拶に行きましょう。他のみんなはどこにいるの?」

 

「俺は甲板の所にいる。ある意味俺は仕事しに行くようなものだからな。潮風にあたって気分を落ち着かせている」

 

「オレたちはどうしましょうか」

 

「定期船には個室みたいなのはないの?」

 

 4人が入る部屋がいくつかあります。皆さんには基本的にこの部屋で島に着くまでそれぞれ過ごしていただきます。

 

「それじゃあ全員で部屋にいることにしよう」

 

「そうなの? それじゃあ白夜から挨拶しましょうか。後ろから声をかけるわ。もし、ちょっとあなたよろしいかしら?」

 

「ん? 俺かい? なんだ?」

 

「同じツアー参加者同士の挨拶をしに来たのよ。これから3日間、よろしくね」

 

「よろしくお願いします」

 

「ああ、こちらこそ。というかGM、《知識》ロールしていいか?」

 

 どうぞ。

 

 白夜《知識》95 → 74 成功

 

「ああ、よくよく見たらあんた、もしかしてレミリア・スカーレットさんか? 占い師の」

 

「あら、私のことを知っているのね、と言いながらサングラスを取るわ。改めまして、レミリア・スカーレットよ。親しみを込めてファーストネームで結構よ」

 

「レミリアお嬢様の侍女の十六夜咲夜と申します」

 

「俺は夢幻の白夜という者だ。というかあんたら日本語が本当に上手いな」

 

「私たちスカーレット家一族は代々親日家でね。小さいときから日本語の教育も受けていたのよ。私個人も日本という国は大好きだから、こうして日本で活動しているのよ」

 

「そうかい。日本人の俺としてはこんなに嬉しいことはないね。これからも日本を贔屓にしてくれると嬉しいよ」

 

「あなた結構愛国心のある方なのね」

 

「まぁな。仕事柄ってのもあるけど、純粋にこの国のことを愛しているのは事実さ」

 

「へぇ。ちなみにご職業は?」

 

「あんまり口外できないからぼかすが、日本の公務員ってことだけは教えとくよ」

 

「ふーん。まぁ深くは訊かないでおくわ」

 

「そうしておいてくれると助かるよ。にしても俺はあんたみたいな有名人と旅行できるのか。嬉しい誤算だな」

 

「これも何かの縁よ。GM、《芸術(占い)》ってこのシナリオでも有効?」

 

 うーん、うん。今回はやめておきましょう? ね?

 

「仕方ないわね。まぁなくてもいいわ。白夜さんはどうしてこのツアーに参加されたのかしら? 私たちは『神樹の森』とその噂が気になってね」

 

「噂?」

 

「ほら、『生命の木』には精霊がいて、なんでも可愛らしい少女の姿で現れるって言い伝えがあるじゃない? 私たちはそれに興味があって参加したのよ」

 

「『生命の木』の精霊ねぇ。もしかして俺が見たのはそれかもしれないなぁと遠い目をしながらぼそっと呟く」

 

「聞き逃さないわよ。見た? もしかしてあなた、その精霊と会ったことがあるの?」

 

「精霊かどうかは知らないが一度だけな。俺がまだガキだった時のことさ」

 

 白夜はこのタイミングで《アイデア》ロールどうぞ。

 

 白夜《アイデア》65 → 23 成功

 

 では白夜はレミリアが連れている咲夜を見て、前にどこかで会ったことがあるような印象を覚えました。

 

「公安警察の俺が顔に覚えがあると感じたのか。これは頼れる情報だ。話は変わるが、十六夜さんだったか。前に俺と会ったことはないかい?」

 

「……実際はどうなのですかGM。返答に困るのですが」

 

 会ったとしても街中ですれ違ったかどうかでしょう。咲夜には全く覚えがありません。

 

「記憶違いではございませんか? 私はお会いした記憶はございませんが」

 

「……そうか。いや、悪いな。なんとなくそう思っただけだ。気にしないでくれ」

 

「そうですか」

 

「あらあら、咲夜を口説いちゃって。ダメよ、この子は私だけの満月なんだから」

 

「ははは、そんなつもりはないさ。ただどうも気になっちまってな。深い意味はないさ」

 

「さて、他の人達にも挨拶をしたいし、ここで一回お別れしましょう。続きは島に着いてから、ね?」

 

「ああ。じゃあな、と言いながら海の方に視線を戻す」

 

「じゃあGM、次は役員共の所に挨拶に行くわ」

 

 わかりました。ではレミリア達は津田一行のいる部屋まで来ました。えっと、大学生組はみんな部屋にいますか?

 

「オレはいるかな」

 

「私はいるぞ」

 

「私も」

 

「みんなでなんでもない話をしていよう。大学は同じだからよく会いはするが、こうしてみんなで旅行するのは久しぶりな感じがするな。高校生の時は結構自由にできたんだが」

 

「そうですね。主に七条先輩に連れられてですが」

 

「津田くんの方から誘ってくれたのは珍しいんじゃないかな? 妖精伝説だっけ? 津田くんもそういうのに興味があったんだね」

 

「なんとなくですけどね。小説やエッセイのネタになるかなって。思えばオレがこの道を選ぶきっかけになったのって生徒会に入ったからなんですよね。当時の会長の天草先輩と出会えたから、目指す将来が見えたんです。天草先輩との出会いはオレにとって、ある意味運命の出会いと言っても過言じゃありませんね」

 

「な、なっ」

 

「凄い。津田くんのロールプレイがまんまだ。さらっとシノちゃんを口説き落としに来てる」

 

「顔を赤くしつつ返事をするぞ。そ、そんな大層なことじゃない。津田が自分の才能を見つける過程は確かに私との出会いがあったのかもしれないが、それを将来の目標として頑張っているのは今の津田自身だ」

 

「じゃあ会長はオレが自分の才能に気付くきっかけになった人ですね。もしオレが小説家になってベストセラー作家になったら、真っ先に天草先輩にその本をプレゼントしますよ。勿論サイン付きで。一応、練習しているんですよ」

 

「そういえば津田くん、大学の文学科主催のコンクールに入賞したって聞いたけど、もしかしてその時もサイン書いたの?」

 

「はい。でも経験がなくって下手くそになっちゃって。だから今は練習しているんです。驕りじゃないですけど、結構自信が持てるようになったんですよ」

 

「そうか……チ◯トレの成果が出たんだな!」

 

「オレ、サインと小説の話をしてたと思うんですけど」

 

「それにな津田。なんだって初めてはみんな下手なものさ。もちろん性行為の時もな!」

 

「だからサインと小説の話をしていたんですってば」

 

「わかっているよ津田くん。マーキ◯グと官◯小説の話だよね」

 

「あなたはオレのことを一寸たりともわかってくれていませんね」

 

「……凄く入りたくないんだけど、挨拶はしないとね。ノックをするわ」

 

「はーいって返事をしようかな」

 

「じゃあ入るわ。失礼するわね。同じツアーに参加する者同士の挨拶に来たわ。ちなみにサングラスは外しているわよ」

 

 シノ  《知識》75 → 49 成功

 タカトシ《知識》70 → 98 ファンブル

 アリア 《知識》75 → 20 成功

 

「オレ、ファンブル出したんだけど……」

 

 本当に彼女のことを知らなかったということにしてください。

 

「じゃあ素で挨拶しようかな。ああ、それはどうも、よろしくお願いします」

 

「いやいや津田! なに普通に挨拶しているんだ! この人レミリア・スカーレットさんだぞ!」

 

「え?……ごめんなさい、わからないです」

 

「本当に知らないの津田くん。テレビじゃあ引っ張りだこの有名な占い師だよ?」

 

「……ごめんなさい、本当に知らないです」

 

「もう津田くんったら……失礼をしてしまってすみません、スカーレットさん」

 

「いいのよ、気にしなくって。堅苦しいからファーストネームでいいわ」

 

 レミリア《知識》75 → 52 成功

 

「ってあら? もしかしてあなた、七条アリアさんではなくて?」

 

「はい、そうです。七条アリアです」

 

「やっぱりね。七条グループっていったら日本の数ある財閥の中でもトップクラスだから覚えていたわ。私も一応、これでも財閥一家の娘だからね」

 

「スカーレット家に関しましては私もよく耳にします。相変わらずのご手腕ですね」

 

「父や兄たちが優秀なだけで私は日本で遊んでいるけどね。どうかしら? こうしてあったのも何かの縁だし、今度うちに遊びに来ないかしら? あんまり大きなパフォーマンスは出来ないけど歓迎するわ」

 

「まぁ、でしたら是非お願いします。機会が出来ましたら父や友人たちも連れて行ってもよろしいですか?」

 

「勿論よ。七条会長もあなたのお友達も大歓迎だわ。ところであなたは友達たちと旅行しに来たのかしら? それとも今から行く島にリゾート地にするとかなんかの視察かしら?」

 

「前者です。友達たちと旅行にきたんですよって感じでシノちゃんと津田くんにアイコンタクトを送るよ」

 

「助かる。改めまして後輩が大変失礼しました。彼女とは高校時代からの付き合いの天草シノという者です」

 

「いや、本当にごめんなさい。津田タカトシです」

 

「大丈夫よ。改めて……というかちゃんと自己紹介してなかったわね。勝手に話してしまってごめんなさい。私はレミリア・スカーレット。ファーストネームで呼んでちょうだいね。そしてこっちが侍女の十六夜咲夜よ」

 

「十六夜です。よろしくお願いします。と頭を下げます」

 

「これから3日間よろしくね。さて、ここでこれ以上話すのもあれだし、続きは島についてゆっくりしてからにしましょう。私たちはこれで失礼するわ」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

「大学生組の部屋から出るわ。さて、同じグループの人たちに挨拶は済んだし、私の行動はこれで終わりよ。部屋に戻ってゆっくりするわ」

 

「私も特に行きたいところはありませんので、お嬢様についていきます」

 

 了解しました。他の人は何か行動しますか?

 

「俺は特に。甲板でボーっとしているぜ」

 

「オレも特には」

 

「私もない」

 

「私も」

 

 了解しました。それでは出雲の秘島についたところまでシーンを飛ばしますね。

 

 

 

 

     ――To be continued…




夢幻の白夜=夢幻の白夜の中の人
津田タカトシ=不動遊星、滝谷誠の中の人
天草シノ=我那覇響の中の人
七条アリア=京楽春水、八意永琳の中の人
レミリア・スカーレット=古美門研介、毛利蘭の中の人
十六夜咲夜=十六夜咲夜の中の人

【クロノスを喰らうもの】【ある学校の階段の怪談】を参考


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Part.2

やっぱりレミリアと咲夜の人はダイスを振ろうとしない(主に《図書館》)。


 あなた達観光客を乗せた船は無事に出雲の秘島に到着しました。時刻は午後2時です。

 

「とりあえず船から降りるか。多分俺が先に降りているだろ。ずっと甲板のとこで突っ立ってたしな」

 

「じゃあ次に私と咲夜が降りましょう。あら、緑がいっぱいな素敵な島ね。潮風も心地良いわ」

 

「ええ。空気が澄んでいていい島です」

 

「最後はオレたちですね。着きましたね先輩。見てください、自然豊かな島ですよ」

 

「青◯のベストスポットだね津田くん!」

 

「そうだな津田!」

 

「話を振っといて申し訳ないんですが、オレに同意を求めないでください」

 

 それぞれ思い思いに島に上陸し、最後に6人のNPCの男たちが降りてきます。感じからして全員が知り合いらしく親し気ですが、どこかちゃらちゃらとして印象を受ける若い男たちです。

 

「お、あれレミリア・スカーレットじゃないか? あの占い師の! すげー本物だ。綺麗だなぁ」

 

「連れている銀髪緑メッシュの人も相当な人だぜ!? スタイルも抜群じゃんか!」

 

「あっちの娘達も可愛いぜ!」

 

「胸が小さい娘は俺が貰うな」

 

「あ、でも男連れじゃねえか」

 

「2人も美人連れやがって……ちょっと顔がいいからってよ」

 

 といった感じで6人はタカトシたちのもとに近づいてきます。

 

「よぉ兄ちゃん、2人も美人さん連れていい御身分じゃねぇか」

 

「よかったらどっちか片方俺らに紹介してくれよ」

 

「どっちでもいいぜ?」

 

「どっちもでもいいぜ?」

 

 とか言って絡んできますが。

 

「面倒なのに絡まれちゃいましたね。一応聞いておきますが、先輩たちは乗り気ですか?」

 

「嫌に決まっているだろう。私はみんなで旅行を楽しみたいんだ」

 

「私もだよ?」

 

「じゃあ追い払います。悪いですけど話しかけないでくれませんか? 先輩たちも嫌がっています。拒絶している彼女たちを無理に連れて行っても印象は良くないですよ。他をあたってください、という感じでやんわり追い払います」

 

 タカトシがそう言うものの、往生際が悪いらしく男たちは詰め寄ってきます。

 

「おいおい兄ちゃん。んなこたねえよ。ただ恥ずかしがっているだけだっての」

 

「いいから兄ちゃんはどっかに行けよ、な?」

 

「あー……本当に面倒くさいタイプだ」

 

「助けてあげましょうか。咲夜行くわよ」

 

「またお嬢様は……あまり騒ぎを起こさぬようにお願いします」

 

「わかっているわよ。あらあら、男の人が6人も群がるなんて、あなた達は人気者ねぇ」

 

「あ……レミリアさん」

 

「さっきぶりね津田さん。天草さんに七条さんも。えっとあなたたちもこのツアーの参加者なのかしら? ってDQN共に話しかけるわ」

 

「そっす、俺らもなんすよ。あんた占い師のレミリアさんっすよね?」

 

「ええ、その通りよ」

 

「じゃあどうっすか? 俺たちと遊びませんか?」

 

「あらあら、私があなた達のような女の子の気持ちも汲み取れないようなお子様に用があると思っているのかしら? 用があるのはこっちの3人よ。悪いけどあっちに行っててくれないかしら? と言いつつシッシと手でジェスチャーするわ」

 

「は? いきなり割り込んできてなんだよ。有名人だからって――」

 

「咲夜、と呼びながら側に落ちていた固そうな石を咲夜に渡すわ」

 

「はい、お嬢様。お嬢様から石を受け取って握りつぶします」

 

 シュブ=ニグラスが石ころを粉砕することなんて造作もないことですね。きっと石は咲夜の手の中でボロボロに砕けてただの砂となっていることでしょう。

 

「咲夜、この人たちは美しい女性に目がないみたいよ。どう? せっかくだし、握手でもしてあげたら? きっと喜ぶわ」

 

「御命令ならば喜んで。すっと右手を差し伸べます」

 

「鬼だ……」

 

「これ手が粉々にされるやつね」

 

 えー、その一連の流れを見ていたDQNたちは顔を真っ青にさせて逃げるように立ち去っていきました。

 

「まったく、こんなに美しい咲夜との握手を断るなんて見る目のない奴らね」

 

「レミリアさん、その、ありがとうございました」

 

「いいのよ。ああいう面倒な連中はちょっと脅してやるのが一番効果的だもの。あなたじゃ厳しいでしょう? 彼女たちの前で暴力なんて出来なさそうだし」

 

「まぁ、そうですね」

 

「というかああいう数にものを言わせて迫ってくるような連中は男じゃなくて女が直接拒否するのがいいのよ。明確に拒絶する意思を言葉にするだけでも違うわ。あんまり男に頼ってばっかりじゃダメよ。……好きなら尚更ね、って天草さんの耳元で囁くわ」

 

「な、ななななっ……」

 

「ふふっ、バレバレよあなた。気付かぬは当の本人くらいかしらね?」

 

「レミリアさんその……」

 

「あなたもお子様ね。一目見ただけでわかったわ。彼、結構モテるでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「ああいう落ち着いている紳士的で、しかもちょっとかわいい子って今じゃ貴重よ?……彼の方から告白されたい気持ちはわかるけど、こういうのは言ったもん勝ちなのよ。ま、頑張りなさい。って感じでまたねと言いつつ少し距離を取るわ」

 

「どうしたんですか天草先輩。レミリアさんと何か話していたようですけど」

 

「なっ、なんでもないぞ津田! その……なんていうか……大人の女性だなと思っただけだ」

 

「?」

 

 さてまぁ、特に意味のないシーンを挟んだところでですね、船から降りたあなたたちのもとに2人の人物が近づいてきました。

 人の良さそうな初老の男性と、まさに絶世の美少女としか形容できないほどの美しさと抜群のスタイルを兼ね備えた茶髪の女性です。具体的には《APP》18。このセッションの十六夜咲夜並です。

 

「うわっ……」

 

「凄い美人さんね」

 

「綺麗な方ですね」

 

 えー、レミリアは《クトゥルフ神話》技能を、白夜は《アイデア》をどうぞ。咲夜の《クトゥルフ神話》技能は自動成功とします。

 

 レミリア《クトゥルフ神話》06 → 61 失敗

 白夜  《アイデア》65 → 02 クリティカル

 

 ふぇっ!? く、クリティカルですか……うーん。じゃあクリティカル効果は後程。

 まずは白夜の《アイデア》成功の情報について。ええー、白夜は彼女を見たとき十六夜咲夜と会った時と同じような疑問を抱きます。どこかで会ったことがあるんじゃないか? と思うことでしょう。

 

「だがおかしいな。十六夜さんも彼女も一度会ったら到底忘れないような美貌の持ち主だぞ。なのにこんなふわっとしているなんて。うーんと首をひねるな」

 

 そして《クトゥルフ神話》に自動成功している咲夜。あなたは確信するでしょう。今、あなた達の前に現れた彼女こそ、あなたと同じ神が生み出した分霊の内の一体だということに。彼女から邪気は一切なく、清く澄みきった温かい気を発していることから、彼女の邪神としての力が消え、今はただの人間として暮らしていることがわかるでしょう。

 

「……お嬢様に伝えましょう。お嬢様、彼女……」

 

「咲夜?……ああ、なるほど。彼女がそうなのね? 道理であんなに綺麗なわけだわ」

 

「はい、間違いないかと。あの様子からして1年前までの私と同じような状態だと思います」

 

「つまり記憶もない可能性がある、ってこと?」

 

「はい。下手に記憶を取り戻してしまったら危険です。ここは刺激を与えず様子を見ることが先決ですね。最悪私がどうにかします」

 

「お願いするわよ、咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

 さて、シーンを進めます。

 2人はあなたたちに一礼して朗らかに笑いながら自己紹介してきます。

 

「皆さん、今回はこの出雲の秘島観光ツアーに参加していただきありがとうございます。私は皆様が宿泊していただく民宿『くしなだ』のオーナーの串灘武彦です」

 

「若女将の串灘咲耶です」

 

「サクヤ? 彼女もサクヤっていうの?」

 

 はい。漢字は違いますけどね。『夜』ではなく『耶』の字です。

 

「ああ、そっちの字の方が女の子に使われるわね。というかこれは偶然なのGM」

 

 偶然です。シナリオに本当にこの名前で載っていますから。面白いくらいに重なってしまいましたね。

 閑話休題。

 自己紹介を終えた2人は笑顔であなた達を民宿『くしなだ』に案内します。民宿『くしなだ』は船着場から5分も歩かないところにある小さな宿屋さんです。木造の古き良き日本家屋のようですが綺麗に保たれており、この島の観光ツアー始まって以来、客は皆ここに下宿しているみたいです。

 さて、何事もなく宿屋に到着したあなたたちに、オーナーの武彦がこの民宿『くしなだ』についての説明をします。

 

「皆さん、ここでのお食事、そしてご入浴のお時間を説明させていただきます。朝食が8時、夕食が18時です。ご入浴時間は16時から23時まででございます。時間厳守でお願いします」

 

 次にこのツアーの注意事項の話をします。

 

「それからこれは必ず守っていただきたいのですが、この島のメイン観光スポットの『神樹の森』には必ずガイドを同伴させてください。それから日没後の『神樹の森』は絶対に入らないようお願いします」

 

「はい、質問したいわ」

 

「なんでしょうか?」

 

「ガイドを連れても入っちゃいけないの?」

 

「はい。ガイドに頼んでも応じることはないでしょうが、絶対に入らぬよう、よろしくお願いします」

 

「あらあら。じゃあなんで入っちゃいけないのかしら? なにか訳ありなのかしら?」

 

 レミリアが武彦に訊くと、彼は真面目な顔をして告げます。

 

「夜の神樹の森は『ミツクビ様』が活動する場所。不用意に森に入ろうものならば『ミツクビ様』の祟りを受けてしまいます。よって、夜の森への立ち入りを禁止しています」

 

「まぁ、それは怖いわね」

 

「『ミツクビ様』の祟りねぇ……」

 

「その『ミツクビ様』とはなんですか?」

 

「『ミツクビ様』はこの島に古くから存在する荒神様です。詳しくは郷土資料館に立ち寄って調べてみてください。資料館には他にもいろいろな資料や文献が展示されていますので、きっと楽しんでいただけるはずです」

 

 ちなみにあなたたちAグループのツアー2日目は完全に自由行動ですので、好きな場所に行くことができます。1日目はプログラムが組み込まれていますので、あんまり自由行動はできません。

 

「そうか。じゃあ明日にでも行かせてもらおう」

 

「そうねシノちゃん。興味が出てきちゃったわ」

 

「是非とも足を運んでください。そして何度も言いますが、夜の神樹の森には行かないようによろしくお願いします。私からの話は以上です。Aグループの方は1時間後、このロビーに集合してください。メイン観光スポットの神樹の森に向かいます。Bグループの方は本日、自由行動となりますので、どうぞ自由に島を散策なさってください」

 

 といった感じで解散します。さて、1時間ほどあなたたちAグループは自由時間が設けられますが、何かやりたいこととかありますか?

 

「とりあえず荷物を置きに行きましょう。自分の部屋に行きたいです」

 

 あ、それは全員済ませたことにしといてください。部屋に関してなんですけど何か要望はありますか? 基本的に1人1部屋ですけど、希望するなら複数人で泊まることができますよ。

 

「あ、そう? じゃあ私は咲夜と一緒の部屋に泊まるわ」

 

「お供します、お嬢様」

 

「俺は1人でいい。連れはいないしな」

 

「オレたちは……オレだけが1人部屋ですかね」

 

「いやいや津田、そんな寂しいことを言うな。みんなで一緒の部屋にしよう」

 

「うんうん。私もシノちゃんも津田くんのことを信用しているからね。大丈夫だよ。……あ、でも私達と一緒だと津田くんソロ活動できないね」

 

「私の配慮不足だったか」

 

「あーオレ先輩達と一緒に泊まりたいなー!」

 

 じゃあその部屋割りにしておきましょうか。それでどうしますか?

 

「民宿のロビーには新聞とかが設置されているでしょう? メジャーなやつからその地域特有のものまで。そこでこの島のことが多く取り扱われている新聞を手に取って読むわ。こういうところって結構古い新聞なんかも残っているわよね? 可能な限り新聞を読んで情報収集しながらこの時間を潰す」

 

「では私もお嬢様と一緒に読み物をしましょう。お嬢様が新聞なら私は雑誌です。本棚もあるでしょうから、この島のことについて取り扱っている雑誌を手に取って読んでみます」

 

「さて、新聞には何か書かれていないかしら? 例えば『ミツクビ様』の祟りについてとか」

 

 ではレミリアは新聞を読んでいると、『観光客の変死体発見 ミツクビ様の祟りか』『観光客が行方不明 夜の神樹の森に入ったのか』などの見出しを過去の新聞からいくつも見つけることができました。

 記事や島民の反応からして、こういった事件は日常茶飯事らしく、警察も匙を投げている状態でまともに捜査していないことが見て取れるでしょうが、この失踪・変死事件は、この島の観光客に対して夜の神樹の森に決して入らないことを呼びかけ、徹底し始めたことをきっかけに、言いつけを守る観光客の協力もあって、減少傾向にあるようです。それでもちまちま起こっているのは、失踪や変死した観光客が素行の悪い客で言いつけを守らずに夜の森に足を踏み入れたからだと記事に載っていました。

 

「あらあら……物騒なことね。まぁ、要は夜の神樹の森に入らなければいいだけでしょう? こんな危険を冒してまで行く必要はなし。大人しく言いつけは守るわ」

 

「私の方からは何かありませんか? 私はこの島の精霊に関する記事がないかを探ります」

 

 では咲夜は雑誌の1ページに島に伝わる精霊に関する記事を見つけることができました。

 精霊は神樹の森にある巨大な御神木である生命の木に宿るとされている、いわゆる木の精で、その木の精の行動は生命の木の意志であると掲載されています。

 邪な木の精は黒き子山羊の姿で現れ、森に迷い込んだ人間を贄として喰らい、聖なる木の精は銀色に輝く長い髪の毛を靡かせる絶世の美少女の姿で現れ、森に迷い込んだ人間を森の外に無事に返してくれる、と書かれています。

 

「これ完全に私のことですね。正しくは私と同じ存在のことですが。なんにせよ、この生命の木を一度見てみないことにはまだ何とも言えませんね」

 

 さて、レミリアと咲夜はロビーで調べ物をしていますが、他の人はどうしましょうか?

 

「私は特に何もしないな」

 

「私も特には」

 

「オレもないですね。ロビーで談笑しながら時間でも潰していましょうか」

 

 わかりました。白夜はどうします?

 

「俺は咲耶……ああ、串灘咲耶に話しかけようかと思う。彼女は今、どこにいる?」

 

 ロビーで接客中……というか絡まれていますね。港で役員共に絡んでたDQN共に。困った顔をしながら対応しています。

 

「はぁ……面倒だけど出来るだけ早く彼女と話をしておきたい。噂の真偽も確かめるためにも、島民と親しくしておいた方が話してくれるかもしれないからな。というわけで俺は串灘咲耶に近づいて話しかける。DQN共はいないものとしてな。あのちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「え、ええ? あ、はい。なんでしょうか?」

 

「今日これから神樹の森に行くんだが、明日も行くことってできるのかい?」

 

「あ、ああ、ツアーのことですね。今日行くということはAグループのお客様でしょうか?」

 

「そうそう。俺は夢幻の白夜っていう者だ。3日間よろしくお願いするぜ」

 

「こちらこそ、串灘咲耶です。まだ至らぬところもありますが、精一杯ご奉仕させていただきます。よろしくお願いします」

 

「ああ。それでさっきの質問なんだがどうなんだい?」

 

「えっと、それはですね――」

 

 とここら辺であなたと串灘咲耶のやり取りを見ていたDQNが割り込んできます。不機嫌そうな顔でですね。

 

「おいおいオッサン、今は俺たちと咲耶ちゃんが喋っていたんだぜ? 割り込んでくんじゃねーよ」

 

「オッサンって……まだこれでも30代だぜ? 四捨五入すりゃあ40だけどよ。年上には敬意を払いな。それから、今俺と彼女の会話に割り込んできた君にはその台詞を言われたくはないぜ」

 

「いいからすっこんでろよ。んなこと咲耶ちゃんじゃなくってオーナーとかに話せばいいだろ?」

 

「近くにいたのが彼女だったから尋ねたまでさ。それに彼女は見るからに困っていたからな。男6人に絡まれてよ。人助けってやつだぜ?」

 

「は? てめえいい加減に――」

 

「じゃあ彼女に話を聞いてみようぜ? 串灘さん、この人たちに何されてた? どう感じた? という感じで《説得》してみよう」

 

 白夜《説得》72 → 08 成功

 

「そ、その……はい。その、私仕事に戻ろうとしていたところだったんですけど囲まれてしまって……それで、今日暇だから友達を紹介してくれって言われて、でも私にはお友達なんていないからって断ったんですけどそれでも……」

 

「ぶっちゃけた話、迷惑してたんだな?」

 

「……はい」

 

「だってさ。彼女は嫌がっている。しつこい男と馴れ馴れしい男は嫌われるぜ? ほら、どっか行った行った」

 

「……ちっ、つまんねえの」

 

 男たちはぶつぶつ文句を言いながら立ち去りました。

 

「ふぅ、面倒な連中だぜ全く。観光ツアーをお見合い大◯戦かなんかと勘違いしてんじゃねえよっと。さて、話を戻そうか。今日行った後に明日また神樹の森に行けるかい?」

 

「あ、えっとですね。申し訳ございません。それは出来ません。案内してくれる人が1人しかいらっしゃらなくて、明日はBグループのお客様のみのご案内になります。ですのでAグループのお客様は申し訳ございませんが本日のみの観光となります」

 

「ふーん、わかった。わざわざ答えてくれてありがとうな。それじゃあまた。これで俺の行動は終わりだな。とりあえずいい印象は与えられただろう。明日は自由行動だし、ゆっくり調べるとするぜ」

 

 あ、白夜が立ち去ろうとするとですね、串灘咲耶があなたを呼び止めます。

 

「あ、あのっ、その……夢幻さん」

 

「ん? なんだ? ていうか白夜でいいぜ。変な名前だしな」

 

「では私も咲耶で構いません。父も串灘ですから。困っているところを助けてくれてありがとうございました」

 

「ああ、いいってことよ。こういう性分だしな」

 

「それでですね、あの……ちょっとこっちに来てもらっていいですか?」

 

 と串灘咲耶は人差し指を民宿の一角に向けてお願いしてきます。彼女が指差す先には従業員以外立ち入り禁止の張り紙が貼られている扉がありました。

 

「他人に聞かれたくない質問ってか? まぁいいや。ああ、いいぜと言いながらその扉の向こうに行く」

 

 扉の向こうは小さいソファーが2つ対になるように机を隔てて設置されている簡単な作りの一室です。従業員専用の休憩所のようですね。

 

「そちらにおかけください」

 

「じゃあ座ろうか。それで、どうして俺をこんなところに?」

 

「あの……変な質問になっちゃうんですけど……。白夜さん、昔、私とどこかでお会いしたことはありませんか?」

 

「! まさか向こうからその質問をしてくるとはな。どう返すか。……。…………。……決めた。ここは俺も話すとしよう。ああ……実も俺も同じことを考えていたよ。君とどこかで会ったことがあるんじゃないかってな」

 

「! じゃ、じゃあっ!」

 

「でも多分そりゃ気のせいだ。俺は職業柄、記憶力が良い方だ。一度会った人の顔だったら間違うことはほとんどないと言っても過言じゃない。そんな俺がだ、君みたいな絶対に忘れるはずもないほど綺麗な女性を忘れるはずがないんだよ。だから気のせいさ」

 

「そ、そんな……」

 

 串灘咲耶はしょんぼりとしてしまいます。

 

「そこまでショックを受けることなのか? というかなんで君は俺と昔会ったことがあると思うんだい? 歳だって離れているだろう? 俺は36だぞ。君はいくつだ?」

 

「じゅ、17……だと思います」

 

「だと思う? どういうことだ?」

 

「実は私……1年以上前の記憶がないんです。気が付いたら森の中で倒れていて……」

 

「待て待て待て。そんなこと、俺に話していいのか? 今日会ったばっかりの赤の他人だぜ?」

 

「でもなんとなく思うんです。白夜さんは昔私と会ったことがあるって。きっと私のことを知っているって。きっと以前、この島に訪れたことがあるんじゃないですか? きっとその時に!」

 

「……確かに俺は一度だけ、この島に来たことはある。だがそれは俺がまだガキだった頃の話だ。30年ほど前の昔だ。その時にはまだ君は生まれていない。どうやっても会えないんだよ」

 

「え……」

 

「君にとってとても大事な話をしてくれたのはわかる。だが俺は君に協力できそうにない。一応聞いておくが、君はお父さんから虐待でもされているのかい?」

 

「そんな! 虐待なんてとんでもない! お父さんは確かに、私の本当のお父さんじゃありません! でも、私のことを本当に大切にしてくれる良い人です!」

 

「だろうな。俺から見ても君のお父さん……武彦さんは良い人そうに見えたよ。失敬な質問しちゃって申し訳ない。でもこの質問で君がこの状況に不満を持っていないって言うことはわかったよ。お父さんからは大切にされているし、君自身もとても魅力的だ。昔の記憶がなくても充分幸せになれるだろう。なのになぜ過去のことを思い出そうとする? 記憶喪失はよほどのことがない限り起こりえない重い精神疾患だ。過去のことを思い出せば君自身が苦しむかもしれない。それでも思い出したいのかい?」

 

「……はい。同じことをお父さんに言われましたけど、それでも知りたいんです。私が誰なのか、どうして森の中で倒れていたのか、何があったのか、知りたいんです。そんな何も覚えていない私ですけど、白夜さんを一目見たときから直感ですけど思ったんです。きっとこの人とどこかで会ったことがあるって、この人と話してみたら記憶が戻るんじゃないかって。だからお願いです。この島にいる間だけでも結構です。私の記憶を取り戻すためのお手伝いをしてくれませんか?」

 

「はぁ……こう頼まれちゃあ、断れないよなぁ。手伝いって、具体的にどうすりゃいいんだ? 俺はそういう医療知識は持ち合わせていないぜ?」

 

「その……私と会ったことがないかどうか、もう一回思い出してもらってほしいんです。きっとどこかで会ったことがあるとおもうんです。お願いします。

 

「それだけでいいのか? じゃあ、まぁ、わかった。部屋でゆっくりしている時とかに思い出してみるよ」

 

「ありがとうございます。私も協力できることがあったら協力しますから、どうか、お願いします」

 

「……一応、俺としてもありがたい言質は取ったな。わかった。そういうことなら協力する。とりあえず今はこれくらいにしておこう。あと何分もしないうちに俺は神樹の森に行くからな。そこで何か思い出すかもしれないし、まぁ、期待しないで待っていてくれよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「ということで、今度こそ俺の行動終わりだ」

 

 わかりました。では時間がやってきました。

 Aグループに所属している皆さんは全員ロビーに揃っていますね。ではオーナーの串灘武彦が笑顔で対応してきます。

 

「皆さんお揃いみたいですね。ご協力ありがとうございます。それではこのツアーの目玉スポットの神樹の森にご案内します。皆さん、私の後に続いてください」

 

 というわけで、武彦はあなたたちを案内します。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.3

週一は無理でした……


 民宿『くしなだ』から歩いて15分くらいの所、武彦先導のもとあなたたちが辿り着いた場所はこの島唯一の神社、『花宮神社』でした。この神社の先が神樹の森となっていて、一般開放はされていないようです。

 ツアーに参加してこの島にやってきた人間と、島民以外の立ち入りを固く禁止しているらしく、その旨が記された看板が設置されています。見れば日本語以外にもさまざまな言語で同じ内容を掲載しているようですね。

 

「随分厳しく規制されているんですね」

 

「まぁ御神木だし、この島の宝のような場所だろうからな。観光客……特に外国人観光客に森を荒らされるのを防ぐための処置だろう」

 

「ごみを捨てたり木に登って写真撮ったり落書きしたり枝を折って持ち帰ったり、後は勝手に森になっている木の実を食べたりとかかな? そういうことを平気でする人っているんだよね」

 

「私たちはそんなことしないわよ? ねぇ、咲夜」

 

「もちろんでございます。そのような低俗な真似をする方々とスカーレット家のご令嬢であるお嬢様を一緒にしないでいただきたいのですが」

 

「いっ、いやっ! オレたちはそんなつもりはまったくないですよ!」

 

「冗談でございます、と軽く笑いながら言います」

 

「心臓に悪いですよ……十六夜さんのようなクールなお顔の人が言う冗談は冗談のように聞こえませんよ」

 

「うむ……有名なAV女優が前技だけで喘ぎまくっているのと同じだな」

 

「違うよ」

 

「……あなたその……彼女はいつもこんな感じなの?って津田さんに話しかけるわ」

 

「ええ、まぁ。ほとんどこんな感じです。ちょっと遠い目をします」

 

「……彼女の恋も前途多難ね、って感じで小さく溜息を吐くわ」

 

「でもいい人なんですよ。ちょっと思春期すぎるところを除けば性格もいいですし、料理は上手だし、文武両道だし。あとやっぱりかわいいんですよね。旅行の前とか楽しみで眠れないところとか」

 

「へぇ、そうなの?」

 

「はい。高校生のときからなにも変わっていなくて。今日も待ち合わせ場所で合流した時なんて目をくわっとさせていましたから」

 

「あらあら」

 

「オレがそれを指摘したら拗ねちゃって。オレが旅行に誘ったことが嬉しかったんだって。その時は思わずドキッとしちゃいましたよ。あはは」

 

「前言撤回ね。彼女の恋、多分あと一歩で成就するわ。必要なのは彼女の勇気だけね。ふっと笑って青春ねぇって津田さんに返すわ」

 

「たく、甘酸っぱい話だ。40手前の独身のおっさんが聞くような話じゃねえぜ。というか……ああ、懐かしいな。そういえばこの神社だっけか? 俺が銀髪の女に出会って帰されたのって」

 

 そうです。えっと、シーン進めますね?

 あなた達がそんな話をしながら武彦についていきますと、やがて神社の境内へと歩を進めていきます。そしてそこには1人の男が仁王立ちしていました。熊のようにずんぐりとした大男です。

 

「Aグループの皆さん、紹介します。彼は私の古くからの友人で、神樹の森の唯一の案内人の叉木義春さんです」

 

「叉木だ、よろしく」

 

 と手短に挨拶をします。

 

「とこのような口下手で寡黙な男ですが、神樹の森のことは誰よりもわかる頼りになる男です。叉木さん、注意事項を皆さんに説明してください」

 

「絶対に俺の後ろについてくること、それから森は毒蛇が湧くから充分に気をつけること。以上だ」

 

「らしいです。皆さんの方から叉木さんになにか質問したいことはありませんか?」

 

 質問は1人につき1回までとさせていただきます。

 

「じゃあ私からいいかしら?」

 

「はい、スカーレットさん」

 

「ファーストネームで結構よ。叉木さんもね。レミリア・スカーレットよ、よろしく。それで質問なんだけどね、神樹の森の果物ってあるじゃない? それは食べることは出来るの?」

 

「今の時期で採れるものもあるが森で食べるのは厳禁だ。『くしなだ』で出されるデザートがこの森で採れた果物を使っているから、それで我慢してくれ」

 

「わかったわ」

 

「俺からも1つ。変な質問になっちまうが、30年前もこういう形式で神樹の森に入っていたのかい?」

 

「本当に変なことを聞くお客さんだ。いや、この形式をとり始めたのは10年前からだ。迷子になったり失踪しちまったり、後は森を勝手に荒らされたりと色々な苦情と要望があって、こういう形式でのツアー案内となっている。観光客は減ったが、変な事件も少なくなったし、神樹の森が荒らされなくてすむしで、島民としては嬉しいことだよ」

 

「そうかい、ありがとう」

 

「他に訊きたいことは?」

 

「蛇が出たときの対処方法を知りたいです」

 

「蛇が出たら俺が対処する。大きな声で呼んでくれればいい」

 

 と言いながら叉木は蛇取り棒をあなたたちに見せます。蛇取り棒は通常1メートルほどの細長い棒なのですが、叉木が取り出したのは1.5メートルほどの長さ、人の腕ほどに太い、通常よりもはるかに大きいものでした。

 

「随分と大きい蛇取り棒ですね。どうしてそんなに大きいんですか?」

 

「単純明快だ。この森の蛇は大きい。俺が見た中で一番の大物は2.5メーターくらいのやつだったな。流石にあれを対処するのは面倒だった」

 

 と真面目な顔で言います。嘘は言っていないようで、本当にそれくらいの大物が出るかもしれませんね。

 

「まぁ……でもどうしてそんなに大きくなったんですか?」

 

「詳しくは知らん。が、この森に棲んでいる生物は大抵全部そんなもんだ。おまえたちが今まで見てきた生物の常識が通じんかもしれん。今までもそれを見て腰を抜かしてきたお客さんを何人も見てきた。一々驚かないで、この森の生物はこういうものなんだという気持ちで流してくれると助かる」

 

「では最後に私から。叉木さんは生命の木の精霊とやらを見たことはございますか?」

 

「俺か? いんや俺は見たことはない。きっといるとしたらお姉さんみたいなとびっきりの美女なんだろうな。……そういや武彦。おまえはガキの頃に見たことがあったんだっけか?」

 

「ええ、私はあります。と言っても会ったのは幼い頃でもうどんな姿だったのか思い出せませんがね」

 

「《心理学》を振ります。彼の娘が私と同じ存在である以上、その言葉を疑わずにはいられません」

 

「あ、じゃあ私も振っておくわ。咲夜と情報を共有しているし、良いわね?」

 

「俺も判定させてもらうぜ。串灘咲耶との約束の為でもあるが、俺自身も昔精霊に会っているんだ。何か掴めるかもしれない」

 

 了解です。3人に《心理学》を許可します。ただし結果は公開しません。

 

 白夜  《心理学》62 → ??

 レミリア《心理学》66 → ??

 咲夜  《心理学》63 → ??

 

 おっと、これはちょっと意外な結果ですね。えー、3人にはそれぞれ別の情報が与えられます。

 まず白夜。あなたは武彦の仕草から、彼は精霊関連で何かを隠していると感じました。

 次にレミリア。あなたは武彦の娘である串灘咲耶の正体を知っているので武彦の言葉に引っかかりは覚えましたが、嘘は吐いていないなと感じました。

 最後に咲夜。あなたは自分と同じ存在を娘にしている武彦の言葉は嘘だと確信することでしょう。木の精霊の正体が串灘咲耶である以上、彼はなにか事情を知っていると感じました。

 

「これは……多分私は失敗したわね。で、白夜が成功、咲夜がクリティカルって感じかしら?」

 

「わからないですよ? 人間に変身したシュブ=ニグラスの思考能力は人間と同じ程度になりますし、ファンブルの可能性もあります」

 

「まぁ、いいか。とりあえず話のとっかかりは見つけられたし、タイミングを見計らって問いただしてみようか」

 

 ではシーンを進めます。

 質問の時間が終わり、いよいよあなたたちはガイドの叉木を先頭に神樹の森の中に入っていきます。

 

「あ、ちょっと待ってくれ。《ナビゲート》で判定してもいいか? 念のためにここからの道を覚えておく」

 

 お、なるほど。いいでしょう。《ナビゲート》成功で、次に1人でこの森に入った時に更に補正を加えることを許可します。

 

「私も判定していいですか?」

 

 どうぞ。

 

 シノ 《ナビゲート》58 → 06 成功

 咲夜 《ナビゲート》65 → 88 失敗

 

「よし」

 

「うーむ。今回の私のダイスは腐り気味ですね」

 

「ロールプレイヤーはダイスが腐る。七不思議のひとつだよな」

 

「ロールプレイでカバーするからいいのよ」

 

 じゃあ今度こそシーンを進めさせていただきますね。

 神樹の森の空気は済みきっていて、木漏れ日が心地よく、急な坂や大きな石なども落ちていないのでとても歩きやすいです。夏だというのに蚊のような害虫は飛んでおらず、草もそれほど生い茂っていないので、あなた達は気分よく森の中を散策できることでしょう。色とりどりの様々な果物がなっており、どれも大きく実っていることからすぐにでも手に取って食べたい衝動に駆られるでしょうがどうか自重してください。ガイドさんとの約束です。

 さて、森の中を歩きながらあちこちを見ていたであろう皆さん、《目星》で判定してください。

 

 白夜  《目星》62 → 91 失敗

 シノ  《目星》63 → 95 ファンブル

 タカトシ《目星》52 → 21 成功

 アリア 《目星》50 → 46 成功

 レミリア《目星》25 → 56 失敗

 咲夜  《目星》45 → 96 ファンブル

 

「げ、62あって失敗すんのかよ……って俺よりヤバいのが2人もいる」

 

 ファンブルですかぁ。じゃあシノと咲夜は森を見ながら歩いていると突然、目と鼻の先に蜘蛛が糸に吊らされながら落ちてきます。

 それは今まであなたたちが見てきた蜘蛛とは比較にならないほど大きいです。体長15センチはあります。その8つある目と目が合ってしまうことでしょう。《SAN》チェックです。1D3/1D6でどうぞ。

 

「でっかいな!?」

 

 15センチの蜘蛛が突然目の前に現れたんですよ? 気絶したとしても不思議ではないでしょう。ですから一時的発狂は1番の気絶or金切り声、2番のパニック状態、5番のあまりの恐怖ゆえの硬直からお好きなものを選んでどうぞ。あ、咲夜はやらないでいいですよ。ただびっくりしてなにかリアクションは取っていただきますが。

 

 シノ 《SAN》45 → 86 失敗

 

「(コロコロ)……1。うわぁっ!って声を上げて津田に抱きつく」

 

「私は硬直します」

 

「わっ、どうしたんですか天草先輩」

 

「どうしたのシノちゃん」

 

「あ、あれ……あれって指を震えさせながらさす」

 

「じゃあその方を……あ、やっぱオレは見ないで――」

 

 却下。シノがそういうリアクションをするならタカトシもアリアも指差す先を見てしまうでしょう。今もまだいる、巨大な蜘蛛を。《SAN》チェックです。1/1D3でいいですよ。シノの場合と状況が違いますからね。

 

 タカトシ《SAN》45 → 41 成功

 アリア 《SAN》45 → 71 失敗

 

「(コロコロ)……2。きゃあっ!?って私も津田くんに抱きつくよ」

 

「うおおっ!?……凄く大きいですね」

 

「……そのリアクションはどっちに対してのだ?」

 

「あ、もう調子戻ったんですね。それからその質問は黙秘します」

 

「どっちも反応していたのね。咲夜? どうしたの固まっちゃって」

 

「いえ、なんでもございませんよ。なんとなく気になったほうを見ていただけですから」

 

「ふーん」

 

「はぁ……で、成功したオレと七条先輩は何か見つけたんですか?」

 

 ああ、そういえばそうですね。タカトシとアリアはクワガタムシやカブトムシ、アゲハチョウなどのベタな生物を見つけることができましたが、そのすべての生物のサイズが桁違いに大きいことに気が付くでしょう。

 

「具体的にどれだけ大きいかわかりますか?」

 

 体長20センチはあるんじゃないでしょうか。遠目から見ても普通に見つかるほど大きいです。

 

「そんなに大きいんですか。じゃあ気を取り直して、見てください皆さん。あのカブトムシ、凄いですよって声をかけます」

 

「ふぅ……本当、凄く大きいね。津田くんのカブトムシもあれくらいあるのかな?」

 

「風情に欠くリアクションはノーセンキューです」

 

「まったく、叫んだり下ネタ飛ばしたり賑やかね。と呆れながら津田さんが言った方向を見るわ。あら本当ね。あんな大きなカブトムシは初めて見たわ」

 

「俺も見ておくぜ。おー、すげえなありゃ。いくらで売れるんだか」

 

「……言っておくが勝手にここの生物を捕獲することは許さんぞ」

 

「わかってるって叉木さん。ちょっと疑問に思っただけだよ。にしてもあんなデカさのカブトムシが生息している森だ。大物の蛇が出るのも頷けるな」

 

 という感じでハプニングが起こりつつも森の中を進み、あなた達は無事に生命の木まで辿り着きました。

 根は物語に出てくる巨人の脚のごとく大地を踏み締め、その頂が天を衝くかと錯覚するほどに生命の木は巨大です。鬱蒼と茂った深緑の傘に日光が遮られ、生命の木の周囲は薄暗くひんやりとした空気が漂っています。

 生命の木の根元からこんこんと澄み切った泉が湧き出していて、沢となって流れていくその様は、まるで夏の天の川のような美しさに満ちているでしょう。

 さて、きっと生命の木を見ているであろう探索者の皆さん、《目星》判定のお時間です。

 

「またか」

 

 白夜  《目星》62 → 00 ファンブル

 シノ  《目星》63 → 46 成功

 タカトシ《目星》52 → 87 失敗

 アリア 《目星》50 → 85 失敗

 レミリア《目星》25 → 99 ファンブル

 咲夜  《目星》45 → 57 失敗

 

「うわ、次はこっちにファンブルが来た」

 

「あらら」

 

 ファンブルですか……特に何もないんですよねぇ。うーん。じゃあこれでいいです。

 レミリアと白夜は生命の木の陰に隠れてよく見えなかった霊泉を見つけることができました。光が届かず薄暗いので様子をうかがうことは出来ません。あなた達はその霊泉に興味を持ちます。あとで見に行ってくださいね。

 

「怖いわね。明らかにトラップですもの。まぁ仕方ないわね」

 

「私が成功したな。なにか見つけたのか?」

 

 そうです。シノは生命の木の幹の所に何か剣のようなものが刺さっているのに気が付きました。詳細はわかりません。また、《跳躍》で届くような高さにありません。頭上数メートルのところに刺さっているため、手に取るには木に登る技能である《登攀》に成功するか、私が納得する方法を提示してもらう必要があります。ただし今はガイドの叉木が目を光らせていますので、とてもじゃないですが木に登るなんてことは出来ないでしょう。

 

「そうか……とりあえずこの情報はみんなに渡そう。まずは津田とアリアにだ。おい、あれはなんだ? なんか刺さっているぞ。と少し大きな声を出して指をさす」

 

「近くにいたオレは反応してその方を見る」

 

「私も見るよ。……あ、本当だ。何か刺さっているね。叉木さん、あれはなんですか?」

 

「あれは別天羽々斬っていう剣だ。詳しくは明日にでも神社に行って調べてくれ。俺はあんまり詳しく知らないんだよ」

 

「へぇ、そうなんですか。じゃあ調べてみましょう。という感じで興味津々に声を上げながら眺める。これで失敗した人も見つけられるでしょう」

 

「よし、じゃあ今度こそ注意深く見てみるぜ」

 

「私も見るわ」

 

「私も見ます」

 

 全員見ましたか。では白夜と咲夜にそれぞれ別の情報を与えます。

 まず白夜から。白夜は高いところに刺さっている別天羽々斬を見て、この光景を見たことがあると思うことでしょう。

 次に咲夜。確信するでしょう。この生命の木こそ、自分と同じ神の分霊が依り代であることを。そして、あの突き刺さっている剣のおかげで清められ浄化されているということを。しかしどういうわけか、浄化されているとはいえ強大な力を持つはずの生命の木の力が弱まっているということに気が付くでしょう。原因は不明です。

 

「なるほど。いい情報ですね」

 

「いい情報どころじゃねえよ、まんまネタバレじゃないか。まぁ知らない体でロールプレイするけどよ」

 

 いや、正直皆さんクトゥルフに慣れていますし、大体は予想付くでしょう? さてさて、ではさっきファンブルを出してしまった白夜とレミリアのシーンに行きますよ。えっと、咲夜はちょっと介入しないでいただけると嬉しいです。

 

「じゃあ介入しません。空気は読みますよ」

 

 ありがとうございます。では白夜とレミリアは生命の木のすぐ近くにある霊泉が気になって勝手にそこに行きます。霊泉に近づくのは普通にオーケーですので叉木は止めません。咲夜は自分の分霊の依り代である生命の木を観察して守るべきお嬢様が近くにいないことに気が付きませんでした。

 

「とりあえず霊泉を見るわ。ダイスを振らない程度に何があるか教えて頂戴」

 

 綺麗な霊泉で特に不審な点は見つかりません。……ですがですねぇ。

 さぁ、おふたりとも。《目星》の強制判定です。

 

「おまえ本当に強制判定好きだなぁ」

 

「今回は成功したほうがいいのかしら。失敗したほうがいいのかしら。怖いわねぇ」

 

 白夜  《目星》62 → 07 成功

 レミリア《目星》25 → 48 失敗

 

 まぁこうなりますよね、予想できていました。では成功した白夜から。

 霊泉を覗き込んだ白夜は泉の底でなにかがキラキラ光ったような感じがしました。しかし改めてよく見てもその光ったものの正体がつかめず気のせいだと思うことでしょう。

 

「ふぅ、今回は成功していいパターンだったか」

 

 そうですね。そして失敗したレミリアはちょっとマズいですね。

 失敗したレミリア、あなた《INT》はいくつでしたっけ?

 

「え? 15よ。頭は良い方だわ」

 

「発狂街道まっしぐらだな」

 

「このタイミングでのステータス確認ってことは……もしかして、対抗ロール? 《INT》で?」

 

 はい。えっとですねぇ(コロコロ)……あ、すみませんレミリアさん。自動失敗となります。えーっとですねぇ(コロコロ コロコロ)……わお。レミリアさん、あなたの《MP》及び《SAN》に4点のダメージです。

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 レミリア《MP》11 → 07

 レミリア《SAN》55 → 51

 

 さらにレミリアさん、《MP》×5で1D100を振ってください。

 

 レミリア《MP》7×5 → 80 失敗

 

 あらら失敗ですか。ではレミリアさんはこの泉の神秘さに取りつかれ、ここから離れたいと思えなくなってしまいます。もうずっと、この泉を眺めて穏やかな感傷に浸っていたいと考えてしまうことでしょう。

 

「せ、精神攻撃よ! 精神攻撃を受けているわっ!? これ凄いマズいんじゃない!?」

 

 マズいですねぇ。しかもレミリアには自覚症状がありません。本当にただなんとなく、しかし頑なにここから動きたくないと思ってしまうことでしょう。と、その時。

 白夜、なぜかあなたの内ポケットが発光しています。小さなものですが、明らかに自然なものではありません。

 

「!? なんだ! 俺は内ポケットにある物を取り出してみる!」

 

 それはあなたがずっと持っていた古びた御守りでした。御守りは今でも断続的に淡く発光し続けています。

 さらに咲夜、このタイミングで守るべきお嬢様が近くにおらず、霊泉を食い入るように、前のめりに覗き込んでいるレミリアを見つけることができるでしょう。

 

「はっ! お嬢様!? 小走りしながらお嬢様の所に向かいます。お嬢様、危ないですよ。行きましょう」

 

「え? あ、ああうん。もうちょっと。もうちょっとでいいからここに居たいわ。って咲夜に目もくれずに泉を眺め続けるわ」

 

「えぇ……ではあと少しだけですよ」

 

「うん、少しだけ。少しだけ……」

 

 それでは3分ほど時間を進めます。もう少しだけというレミリアお嬢様ですが、一向にそこから動く気配を見せません。やがてガイドの叉木が移動を開始すると割と大きな声で言い出しますが、それでもレミリアは動こうとしません。

 

「お嬢様、時間です。行きましょう」

 

「もう少し、もう少しだけでいいのよ。もう少しここにいさせて」

 

「……これはもうまともな状態じゃありませんね。《精神分析》は持っていませんし……霊泉に対して《目星》で判定したいです」

 

 成功しようが失敗しようが結果は変わりません。何も見つけられないでしょう。《クトゥルフ神話》技能も無効です。

 

「困りました。大っぴらに魔術なんて使えませんし。……そういえば夢幻様はどこにいますか?」

 

「俺も動いてないぜ。今も発光している御守りを手に見つめているだろうな。それからせめて白夜様にしてくれ。夢幻様は嫌だ」

 

「では白夜様で。ふっとそこにいた白夜様の方を見て彼が持っている御守りが発光していることに気付きます。《クトゥルフ神話》技能でよろしいですか?」

 

 自動成功とします。

 白夜が持っている御守りから感じる力は咲夜、あなたの持つ神の力と近い力を感じます。属性は加護であり、神話生物による精神的な攻撃から持ち主を守る効力があるようです。

 

「失礼します白夜様と短く断りを入れて白夜様のお守りを奪い取ります」

 

「あっ! お、おいっ!? あんた!」

 

「すぐにお返しします! と言って御守りをお嬢様の身体に触れさせます!」

 

 ではそこでレミリアは正気を取り戻します。ハッとして、霊泉を眺めていたときの間だけ記憶が飛んでいることでしょう。

 

「……あ、あれ? 私なにをしていたんだっけ? 咲夜? どうしたの?」

 

「いえ、なんでもありませんよ。白夜様、ありがとうございました」

 

「ったくいきなりひったくりやがって。って愚痴りながら御守りを受け取る」

 

 御守りはもう発光していません。

 

「……なぁあんた。血相変えてお嬢様にこの御守りを触れさせていたけど……なにか知ってんのか? というかこのお守りが光るなんて今日が初めてだ。中に入ってるのは金属みたいなもんだからそんなギミックはない。なんで光ったのか、もしかしてあんたは知ってんじゃないか? 前にあんたとどこかであったような感覚も俺にはある。知っているなら答えてくれ」

 

「さぁ? お嬢様の様子がおかしかったのでどうしようと追い詰められまして。そこでその不思議な御守りを見つけたので、なにか効果があるのかと思ったので拝借しただけですよ。私はなんにも」

 

「こいつさらっと躱してきやがる。本当にレミリアの中のやつに似てきたな」

 

「にしても、どうしてその御守りは光っていたんですか? そもそもその御守りはどちらで?」

 

「さぁな。ガキの頃からずっと持ってたもんだし詳しくは知らない。ただまぁ、凄く大切なもんだってことだけはわかってんだ。ったく、それをかっさらうもんだから焦ったぜ」

 

 ではこのタイミングで叉木があなた達のもとにやってきます。

 

「あんたらなにやってんだ。もう行かねえと日が暮れる。いくらこの森のことを知り尽くしている俺でも日が暮れちまったら正直厳しい。早く行くぞ」

 

「ああ、すまねえな。俺は行くぜ」

 

「心配かけたわね、何が起こったのかはわからないけどもう大丈夫よ」

 

「とりあえず大丈夫なようですね。ほっと胸を撫で下ろして合流します」

 

「オレたち役員共組はほぼ完全に脇役になっちゃってますね」

 

「ガヤとして盛り上げていけばいいさ。それに向こうは今ダイスがあまり仕事していない。いざって時にフォローを入れてあげればシナリオもスムーズに進むだろう」

 

「そうだね。私たちはいわば浣◯プレイのガラス製注射器のようなものだね!」

 

「うむ!」

 

「うむじゃないっすよ」

 

 さてさて、これで森の散策シーンを終了します。

 あなたたちは叉木の後をついていき、一通り神樹の森を散策してから民宿『くしなだ』に戻りました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.4

遅れてしまって申し訳ございません……。


 神樹の森の散策が終わったあなた達Aグループが民宿『くしなだ』に戻ってから1時間後。時刻は18時、夕食の時間がやってきました。えっと、食べたくない人とかはいますか? 強制じゃないので島にあるコンビニとか外食店とかで済ますことができますけど。勿論自腹ですが。

 

「なんでそんな質問をするんだ。普通に出されたものをいただくに決まっているだろう」

 

「オレも特に抵抗はないです」

 

「私もだよ」

 

「俺も食べるぜ」

 

「勿論いただくわ」

 

「いただきます」

 

 わかりました。では食事シーンに参ります。

 皆さんは食堂に集まって料理を楽しんでいます。民宿『くしなだ』で出されたのは島で採れた野菜や肉、魚介類を使った豪勢な日本料理で、見た目も味も量も、あなた達を充分に満足させることができるくらいに素晴らしいものでした。

 そしてお待ちかねのデザートです。

 皆さんの前に出されたのは様々な色、形に整えられたフルーツの盛り合わせです。馴染みのある物からマイナーなものまで色々な種類のものが盛られています。

 さて、このフルーツなんですけど……食べる方はいらっしゃいますか? ちなみに全員、同じタイミングで配膳されましたので現状誰も手を付けていません。

 

「なにかあるわねこれ。まぁ食べるわよ。ある意味これを楽しみにしていたんだから。美味しそうね咲夜、と続けて一切れ頂くわ」

 

「では私も返事をしつつ一口」

 

「オレも食べます。タイミング的に先輩たちよりも前がいいです」

 

「あ、じゃあ私は津田が食べた後に口にするとしよう」

 

「なにかあったら任せてね」

 

「俺は……いや、食べようか」

 

 ではレミリア、咲夜、タカトシ、白夜はすぐに食べたということにします。えー、フルーツを食べたあなたたちの感想ですがそれは……。

 

「ぶっふえっ!?」

 

「なっ、なんだこれっ!?」

 

「苦えっ!? 不味いっ!?」

 

 と、よほどの味音痴でない限り向かいの机に座るBグループのメンバーたちと全く同じ物になることでしょう。

 フルーツはどれも、何を食べても苦く、渋く、とても食べられた物ではありません。

 

「……あら? 私の舌がおかしくなったのかしら? 咲夜。って暗い顔をしながら訊くわ」

 

「でしたら私の舌もおかしくなったようでございます。奇遇でございますね。と苦笑いしつつ返します」

 

「……あん? なんだこれ。眉間にしわを寄せつつ飲み物に手を伸ばすぜ」

 

「こ、これは……顔を真っ青にさせながら目を見開きます」

 

「どうした津田」

 

「津田くん?」

 

「せ、先輩たちは手を付けないでください。GM、串灘さんたちはどこか近くにいますか?」

 

 串灘咲耶が食べ終わった食器類を片付けて部屋から出て行こうとしていましたが、Bグループの人たちが上げた声に反応して立ち止まっています。

 

「じゃあ咲耶さんを呼びます。咲耶さん、ちょっとって感じで――」

 

「はい?」

 

「あなたじゃないですよ」

 

「わかっています」

 

「じゃあ気を取り直して咲耶さん、ちょっとって感じで手招きします」

 

 串灘咲耶がタカトシのところまでやってきます。

 

「は、はい……あの……」

 

「これ、ちょっと食べてみてくださいってフルーツの盛られたお皿を咲耶さんに差し出します」

 

 では串灘咲耶は失礼しますと断りを入れ、皿に盛られている果実のうち1つを手に取り口の中に入れます。すると顔を顰め、狼狽した様子でオーナーを呼びに走っていきました。

 少しして武彦が到着し、真面目な表情のまま頭を下げます。隣に立つ咲耶も怒られたのでしょうか、しょんぼりした様子で頭を下げます。

 

「味の確認をしないまま、皆様に提供してしまい大変申し訳ございませんでした。実は1年前から酷く苦い果実が混じりはじめチェックをしていたのですが、今回はそれを怠っていたようです。私の方からきつく言い聞かせておきました。今後このようなことが起らぬよう努めてまいります。ご迷惑をおかけしたお詫びとしまして皆様には、この島の最高級地酒である稲田酒造さんのお酒を1杯提供します。改めまして、大変申し訳ございませんでした」

 

 と言うと、後ろに置いてあったカートを動かしてあなたたち全員の前に御猪口が配られます。中には透き通った液体が入っています。稲田酒造の地酒です。

 

「香りを嗅いでから一口呑むわ」

 

 香高くこれ以上ないほどに美味な日本酒です。この場に居る全員、美味しいお酒を飲み慣れているであろうレミリアまで、これよりも美味しい日本酒を飲んだことはないでしょう。口にするたびに体が温まり、そこから力が沸き上がるような感覚を覚えます。

 

「……これは素晴らしいお酒ね」

 

「ええ……御見逸れ致しました。稲田酒造とはどこに?」

 

「村のはずれにある酒屋です。老夫婦が経営しておりまして、お土産屋さんとしても有名なんですよ。是非足を運んでみてください」

 

「明日は確か自由行動だったわね。立ち寄らせていただくわ」

 

「オレたちも行きましょう。これは良いお土産になりますよ」

 

「ああ、私はあんまりお酒を嗜まないがこれは良いものだ。いくつか買っておきたいな」

 

「津田くんはお酒と言ってもわかめ――」

 

「言わせねえよ?」

 

「んま、俺も行くからよ。Aグループ全員で行こうぜ? せっかく知り合ったんだしな」

 

「そうですね。みんなで行った方が楽しいですし」

 

 ということで食事シーンはここまでとさせていただきます。さてここから2時間、皆さんは自由に行動できます。出来ることは他のPC、NPCに話しかける、新聞や雑誌を読む、部屋で寛ぐ、お風呂に入るからお好きにどうぞ。旅館内の探索は特にないです。

 そうですね……2回まで行動することを許可します。

 

「どうしましょうか。オレたち」

 

「そうだな、お風呂に入りたいが全員一緒がいいな」

 

「そうだね。他のみんなはお風呂どうする?」

 

「俺も一緒がいい。ある程度同時にみんなで入るようにしないか?」

 

「いいわね。そこで親睦を深めつつ情報を共有しましょう」

 

「では2回目の行動はお風呂ということにして、1回目はどうしましょうか? 個人的には串灘咲耶と接触したいのですが」

 

「じゃあ私は別行動をとるわ。白夜とお話をしたい」

 

「俺とか? なんで?」

 

「神樹の森の時の礼をしたいのよ。あとついでに御守りのことも聞きたいしね」

 

「なるほどな。じゃあ俺はロビーで新聞でも読んでいるから来てくれよ」

 

「わかったわ。というわけで咲夜は自由に行動してちょうだいね」

 

「では宣言通り串灘咲耶に接触します」

 

「オレは部屋で寛ぎます。勉強しないとなので」

 

「私も勉強しよう。津田、わからないところがあれば聞くと良い」

 

「私も勉強するよー。あ、でも部屋行く前に売店行かない? 軽食とか、あとお土産とか見てから行こう」

 

「うむ、そうだな」

 

「いいですね」

 

「こいつら普通に旅行を楽しんでいるな」

 

 ベースは日常系TRPGなので自然な行動ですけどね。とりあえず決まったようですのでシーンに入ります。役員共はまぁ、飛ばしますよ。特に何にもありませんので。

 ではまず白夜のシーンからロビーで新聞を読むんでしたっけ?

 

「ああ。レミリア達が使っていた手段を使って情報収集しているぜ」

 

 さらっと判定飛ばしてきますね。じゃあレミリアと咲夜が集めた情報を共有したということで。

 

「よし。津田には風呂でこの情報を渡してやる」

 

「ありがとうございます」

 

「スタック組んで私が乱入するわ。ああ、いたわ。白夜さん少しよろしいかしら? と言いながら彼の正面の椅子の隣に立つわ」

 

「なんでMTG用語? まぁいいや。ん? ああ、レミリアさんか。なにかようか? 手に持っている新聞を畳んでレミリアさんと向き合うぜ。ついでに椅子に座るように手で促す」

 

「じゃあそれを確認してから椅子に座るとするわ。森でのことでのお礼をね。ありがとうね、助かったわ」

 

「俺はなんもしていないがな。てかなにがあったんだ?」

 

「それが私もさっぱりなのよ。あの泉を見ていたら、なんか知らないけどずっと見ていたくなっちゃってね。でもあなたの御守りを握ったら目が覚めたような感覚がしてね。自分でもなんであの泉を見ていたいと思ったのか、まったくなのよ」

 

「本当あのときはびっくりしたぜ。御守りは光り出すしそれをあんたの侍女がひったくるしで」

 

「咲夜が無礼を働いてごめんなさいね」

 

「いいさ、彼女も必死だったみたいだしな」

 

「そういえばあの御守り、一体何なの? 光り出したって言ってもそんなギミックのある御守りじゃないんでしょう?」

 

「勿論さ。中に入っているのは何かの金属片でな、光るなんてことは今までになかったよ」

 

「でも光っていたし、何かあるわよね。その御守りはいつどこで手に入れたのかしら?」

 

「さぁな、物心ついたときには持っていたよ。婆ちゃんか誰かからもらったのかもな」

 

「そう。それじゃあ失礼したわね。ただ礼を言いたかったから」

 

「気にすんなよ。残り二日もよろしくな」

 

「ええ。じゃあまたね。ということで私の行動は終わり」

 

 わかりました。では咲夜のシーンに行きましょう。串灘咲耶と会うんですよね?

 

「はい。彼女を捜しに民宿内をうろうろしています」

 

 では食堂で後片付けをしている咲夜を見つけることができます。

 

「近づきつつ声をかけます。お疲れ様です、串灘さん」

 

 咲夜に声をかけられた串灘咲耶は申し訳なさそうな顔をしながら謝罪してきます。

 

「あ……十六夜さん。あの、先程は……本当に申し訳ございませんでした」

 

「私は気にしていないので大丈夫ですよ。それよりも片付け中でしたか。お手伝いをしましょう」

 

「えっ!? そんな……大丈夫ですよ。私の仕事ですから」

 

「でも私が話しかけては仕事も進まないでしょう。仕事の邪魔をするのは私ですので、手伝いをするのは道理というものです。それに私はこれでも家事は得意ですから。一緒に来ているお嬢様の侍女をしているのですよ」

 

「侍女……というとメイドさんですか?」

 

「はい」

 

「わぁ……本物のメイドさんなんですね。十六夜さんって綺麗でかっこいい人ですし、できるメイドさんって感じがします」

 

「実際にできるメイドさんですよ。ですからこの程度の手伝いはなんでもないのです。さぁ、時は金なりです。お手伝いさせていただきますので、終わった後に少しお話をさせてください。という感じで《言いくるめ》ます。今までの話の流れからして《説得》というより《言いくるめ》のほうがしっくりきますでしょう?」

 

 むむむ、確かに。《説得》に技能振っていないからそういうロールプレイをしてきましたか。お見事です。

 

 咲夜《言いくるめ》63 → 80 失敗

 

「いえ、それとこれとは話が違いますので……これは私の仕事ですし、十六夜さんはお客様なのですから手伝いは結構ですよ」

 

「御尤も」

 

「串灘咲耶ちゃんは賢いわねぇ」

 

「手伝うことは出来なさそうですが話しかけることは出来そうですので続行です。そうですか。出過ぎたことを言ってしまって申し訳ございません」

 

「大丈夫です。それでお話とはなんでしょうか?」

 

「大したことではないですよ。ただ……あなたとはどうも他人の気がしませんでしたので少々気になりまして。お嬢様も似ていると仰られていましたし、名前も同じ『さくや』ですから。そういうこともあって2人になれるところを見計らって声をかけたのです」

 

 それを聞いた串灘咲耶は目を丸くしてやや興奮気味に返します。

 

「……実は私も、十六夜さんとはなにか縁みたいなのを感じていたんです。外国の方なのは見たときから察していましたけど……あの、私たち、昔どこかで会ったことはないでしょうか?」

 

「《心理学》を要求します。最初から思っていたのか、はたまた取り乱して思い込んでいるだけなのかを探りたいです」

 

 許可します。《心理学》の結果は公表しません。

 

 咲夜 《心理学》63 → ??

 

 おおっとこれは……ええー、咲夜は確信します。彼女は本当に自分と縁を感じていたのであろうと。

 

「おや、クリティカルでも引きましたか? まぁどう転んでもロールプレイは変わりませんが。事務的に返しましょう。さぁ? 私はイギリスのスラム街の出ですからなんとも。お嬢様に拾われてからはずっとお嬢様にお仕えしていましたし、日本に来たのも6年前からですし、この島に来たのも今日が初めてです。あなたがこの島から出たことがないのであれば、私と会うことは絶望的でしょう」

 

「そう……ですか……」

 

「とはいえ、私自身もあなたとの間に何かを感じたのは事実。困っていることや、悩みがあるなら相談に乗りたいと思っています。様子からして、何かあるのでしょう?」

 

 落としてから吊り上げますなぁ。

 

「本当は手伝いしながら仲良くなりつつ話題にもっていこうと思ったんですけど失敗しちゃったので。さて、彼女の反応はいかに?」

 

 串灘咲耶は咲夜の言葉を聞いてどうしようか迷っているように目を動かした後、無理しているような笑顔を作ります。

 

「いえ……大丈夫です。心配していただいてありがとうございます」

 

「ふむ……断ってきましたか。単純に私が白夜さんよりも信頼度が低いのか、はたまた白夜さんに頼んでおいて私にも頼むことに気が引けたのか。《言いくるめ》に失敗したツケがここにも回ってきてしまったのか。なんにせよ引き際ですね。そうですか。では用件はそれだけですのでこれで失礼します。お仕事、頑張ってくださいね」

 

「はい。お気遣いありがとうございました」

 

「というわけで私の行動終了です」

 

 ではこれで全員の1回目の行動を終わりにします。2回目に入ります。えっと、全員お風呂に行くんですよね?

 

「そうだな。ようやく私もロールプレイできるぞ。おっと、もうこんな時間か。勉強は切り上げてお風呂に行かないか?」

 

「そうですね。キリがいいですし、行きましょうか」

 

「この旅館混浴とかあるのかなぁ? あるのかなぁ津田くん」

 

「なっ、津田! おまえというやつは!」

 

「支度終わりましたんで先行っていいですか? 男湯に。という感じでオレたちはお風呂に向かいます」

 

「じゃあ俺は腕時計を見たあとに新聞紙を閉じて部屋に戻ろう。風呂にでも行くかこんな時間だし、ってな」

 

「私は部屋で寛いでいるわ。咲夜遅いわねぇ」

 

「ではここら辺で部屋に戻ります。お嬢様、ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい咲夜。早速だけどお風呂に行くわよ。もう遅いもの。今日はもう寝ましょう」

 

「はい。詳しい報告はお風呂でゆっくりつかりながらお話ししましょう」

 

「じゃあ支度していきましょう」

 

「お供いたします、お嬢様」

 

 では奇しくもAグループの皆さんは同時に大浴場の前に集まりました。

 

「あらあら、皆さんお揃いのようで。気が合うのねぇ私たち」

 

「驚きの白々しさですね」

 

「PC的には違和感がないセリフだからセーフだな。ロールプレイに参加するぜ。Aグループ全員が集合かい。本当に奇遇だな。津田って言ったか?」

 

「え? ああはい、そうですよ。えっと……夢幻さん?」

 

「白夜でいい、苗字は呼びづらいからな。それから変に気を遣う必要もないぜ? 年上ってったってこんなんだし、たった2人の野郎同士、仲良く背中でも流そうぜ」

 

「……そうですね。よろしくお願いします」

 

「じゃあ女同士、こちらも仲良くいきましょう。昔話でもしながらゆっくりとね」

 

「僭越ながらお嬢様。お嬢様の昔話はこの前の番組がきっかけで広く伝わったのでは?」

 

「……ああ、確かに。もう放送されたんだっけ? 覚えていなかったわ。えっと……見てくれた? って苦笑いしながら訊いてみようかしら」

 

「芸能人からの圧力を感じるぞアリア」

 

「こういうときは《知識》を振るに限るよ」

 

 シノ 《知識》75 → 

 アリア《知識》75 → 

 

「改めて見てもおふたりは《知識》が高いですね」

 

「ていうか嘘吐いてでも『あります』って言えばいいだろ?」

 

「レミリアの中の人が嵌めてくる可能性があるから嫌だ」

 

「パラノイアじゃないんだからそんなことしないわよ」

 

「あと私はダイス振りたい」

 

 あなたはダイスを振るのが好きですもんねぇ。

 

「まぁな!」

 

「ということで判定するよー?」

 

 シノ 《知識》75 → 84 失敗

 アリア《知識》75 → 80 失敗

 

「…………」

 

「…………」

 

「……あら?」

 

「一気に気まずい雰囲気に」

 

「十六夜さん、フォローを頼むぜ? ロールプレイヤーの本気を見せてくれ」

 

「…………えっと……」

 

「厳しいでしょうね。だって言い出しっぺですもん、十六夜さん」

 

「自分の言葉がとことん裏目に出ちゃった形だもんね」

 

「主におまえらのせいだけどな」

 

「《言いくるめ》で判定したらどうだ? 御主人への判定は確か補正があったはずだろう?」

 

 そうですね、10パーセントの+修正が掛かります。

 

「……ではそうしましょう」

 

 咲夜《言いくるめ》63+10 → 84 失敗

 

「あっ」

 

「……みんなが私を苛めるわ……。ま、まぁ、うん。そうね、そんなこともあるわよね。ええ、大丈夫よ。さぁ、もうお風呂に行きましょう。……咲夜、あなたはとりあえず掛湯を水で埋めないで一発行きなさい」

 

「……仰せのままに、お嬢様」

 

「凄い声が聞こえてきそうですね」

 

 いやぁロールプレイヤーのダイスは腐りますねぇ。まぁ、あの状況だとダイスに頼りたくもなりますが。

 さぁさ、いつまでもお湯場の暖簾の前で突っ立ってないで中に行きましょう。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.5

 さて、入浴を終えたあなた達。多分最初に出てくるのは男性陣だと思いますので2人がどこまで情報を共有したのかを確認します。

 

「オレからは特に何も。あんまり関わっていませんからね」

 

「俺が喋っただけだな。串灘咲耶が訪ねてきたことは言ってないが、俺が昔この島に来たことがあることや、昼間のレミリアの異変のこととかは話した。御守りのこととかもな。あ、それからこの島で観光客の謎の失踪事件が起こっていることも話したな」

 

 結構色々喋りましたね。まぁいいでしょう。ではあなたたちが待つこと10分、女性陣が出てきました。そちらはどんなことをお話に?

 

「世間話や芸能活動が主だけど、この島に関しても色々とね。失踪事件や島の伝説に関する話をしたわ。串灘咲耶と白夜さんに関しては特に何も話していないわ」

 

 なるほど、では合流したところでシーンを続けます。役員共たちの情報共有は自室で適当に住まておいてください。

 さて、あなたたちがお風呂から上がって自室で帰る途中、Bグループの6人組とすれ違います。なにやら話しているようですね。歩いていく先には民宿の玄関。どこかに出かけようとしているようです。

 

「……とりあえず《聞き耳》してみるぜ? 仕事柄こういうのに敏感なんだ」

 

 白夜《聞き耳》63 → 06 成功

 

 では白夜は彼らの会話の中から、神樹の森、肝試しというワードを耳に入れました。どうやら肝試しに向おうとしているみたいです。

 

「そいつはいけねえな。おい、おまえらちょっと待てって呼び止める」

 

「ん? どうしたの白夜さん? とりあえず立ち止まるわ」

 

「「「「同じく」」」」

 

「ちょっとな。それよりおまえら、なにしようとした?」

 

 白夜が訪ねますと、Bグループの面々はめんどくさそうな顔をしつつ答えます。

 

「なにって、別になにも」

 

「確かに聞こえていたぜ? 正直に言え、おまえらこれから肝試しに行くつもりだろ? しかも神樹の森に」

 

 それを聞いて誤魔化しきるのは無理と判断したのか、舌打ちしつつ返します。

 

「ちっ、そうだよ。何か悪いか?」

 

「何か悪いかってねぇ、あなた達串灘さんの話を聞いていなかったのかしら? 夜の神樹の森には入っちゃいけないって言っていたでしょう? 私も割り込むわ」

 

「大人2人に任せて静観するとします」

 

「私も黙っていよう」

 

「私もー」

 

「お嬢様に危害が及ばぬように警戒しつつ待機します」

 

 レミリアが割り込んできますと、更に面倒そうな顔をしつつ返事をします。レミリアにも白夜にもいい感情を持っていないからでしょう。

 

「だから?」

 

「だからってなぁ、この島のルールを破るなってんだ。それに知ってるか? 夜の神樹の森に行った奴は行方不明になるってよ。日常茶飯事らしいから警察も動いてくれないって話だ。行かない方が身のためだぜ?」

 

「それに森には神様がいらっしゃるわ。変に刺激して怒らせちゃあダメよ?」

 

「は? なんだそりゃ。神様とか行方不明とか、噂かなんかだろ?」

 

「聞く耳持ってないわよ、どうする? こうなったらもうダイス振ったほうが良さそうだけど。ちなみに私は説得系に一切振ってないから」

 

「マジか。じゃあ俺が振るか。《説得》だ。素行が悪い奴らとはいえ、危険なところにはいかしゃあしねえよ」

 

 白夜《説得》72 → 32 成功

 

 白夜は彼らに尤もなことを言ってのけますが、それでも聞く耳を持とうとはしません。

 

「は? 振るだけ無駄かよ」

 

「《心理学》振っていい? 《精神分析》でもいいわ」

 

 振るまでもなく正常であることがわかるでしょう。ただ聞く気がないだけです。

 

「ああこれもうダメね」

 

「はっ、話はそれだけかとおっさん、おばさん。俺たちは行くぜ。じゃあな」

 

 と言いながら彼らはそそくさと旅館から出て行ってしまいました。

 

「おばさんって……私まだ31よ? 最近の若い子たちにとって三十路を過ぎたらおばさんなのかしら?」

 

「俺も36だし、そうなんじゃねえか?」

 

「そんなことはないですって」

 

「はい。まだ若いですよおふたりとも」

 

「そうかしら? じゃあもう少しお転婆してても大丈夫かしら?」

 

「御自重くださいませ、お嬢様」

 

「もう、咲夜ったらわかっているわよ。にしても行っちゃったわねぇ、大丈夫かしら? 占っておく?」

 

 やめてくださいおねがいします。

 

「じゃあしょうがないわねぇ。無事に帰ってくることを祈りましょうか」

 

 えっと、念のためにお聞きしますが、夜の神樹の森に行きたい人はいますか? 別に行っても構いませんよ?

 

「いや行かないわよ。言いつけは守るわ」

 

「お嬢様が行くと言ったら《説得》でもなんでもして止めていました。行かないです」

 

「んー、正直あいつらのことが心配だから行きたいんだが……こんな真っ暗な中行ったところで迷子になるのがオチだし、俺も行かないでいい」

 

「私たちも行かないぞ。そうだな?」

 

「危ないから行かないよ。ちょっと興味はあったけどね。青か――」

 

「言わせませんよ。ええ、行かないですよ」

 

 そうですか。それでは旅行1日目を終了……する前にですね。えー、レミリアさん、1D100をお願いします。

 

「え? (コロコロ)……25よ」

 

 25ですか。では深夜12時。寝ていたあなたは目を覚まします。上体を起こして布団から出て、ふらふらと部屋の扉に手をかけた途端、意識がはっきりします。きっと自分がどこかに行こうとしていたことに不思議に思っていることでしょう。

 

「……あら? どうして私咲夜も連れずに出かけようとしていたのかしら。……まぁ、いいか。寝るわ。ふああ……。と言いつつ布団に戻るわ。ついでに咲夜はいる?」

 

 隣に敷かれた布団に寝ています。静かな寝息が聞こえてくるでしょう。

 改めましてこれにて1日目が終了です。レミリアさんは《MP》を戻しておいてください。

 

 レミリア《MP》07 → 11

 

 ではシナリオ2日目に突入します。おはようございます。ごはんの時間ですから食堂に全員集合です。おや? なんか人数が少ないですね。半分ほど。具体的にはBグループの皆さんが座る席だけまるまる空席です。不思議ですね。

 

「ああ、やっぱ死んだか」

 

「いやまだ迷子になっているだけかもしれませんし」

 

「とりあえず心配だけしておこうか。ひょっこり帰ってくるかもしれないしね?」

 

 そんなあなたたちと同じように、串灘親子も心配そうにBグループの机を見つめていました。結局食事中、Bグループの人が帰ってくることはありませんでした。ちなみに今日出されたフルーツの盛り合わせはとっても美味しいものでした。これぞ秘境の果実って感じのものです。

 

「あーらら勿体ない」

 

 さて、食事が終わって午前9時。ここからAグループは各自自由行動となります。個々に回るのもよし、グループを作って回るのもよし、全員で回るもよしです。

 

「どうする? 俺はどう行動してもいいが」

 

「GM、行動回数に制限とかありますか?」

 

 ありません。探索場所は、花宮神社、郷土資料館、稲田酒造、叉木の家の4ヵ所です。1日で全て行くことができますが、叉木の家に行った場合そこで自由行動を終了します。神樹の森を探索したい場合は叉木の家に向かってください。一応昼間なら叉木のガイドがなくとも探索できますが、後でしこたま怒られます。注意事項として、夕方5時以降に叉木の家に訪れても、危険だからという理由で神樹の森に入ることはできません。

 行動制限は設けませんが、時間制限は設けさせていただきます。行動次第で各地点での探索時間が変動しますので、時間を意識して探索して頂かないと満足に調べものをすることができませんのでご注意ください。

 

「……どうする? 個々に分かれて時間決めて叉木さんの家に集合、とかがいいかしら?」

 

「団体行動でもはぐれないでしっかり固まって行動していればロスはないと思いますよ」

 

「津田の言うとおりだ。ここであったもなにかの縁、よろしければAグループ全員で回っていきませんか?」

 

「うーん……まぁ、いいわね。せっかくだしみんなで回りましょう?」

 

「お嬢様の意のままに」

 

「反論はないな。いいぜ、みんなで行こう」

 

 全員で行動するのですね。了解しました。

 えー、あなたたちが民宿から出て行こうとしたとき、私服姿の串灘咲耶がやってきました。

 

「あ、あの、すみません。よろしければ、ガイドをさせていただけませんか?」

 

 と聞いてきます。

 

「え……? 嬉しいですけどどうして? と聞きます」

 

「昨日のお詫びです。その、気が済まなくって、自分勝手なのは承知ですがどうか、ガイドをさせていただけないでしょうか?」

 

 ちなみに彼女が同行する場合、探索時間に補正を掛けます。彼女は優秀なガイドを熟すため、意図してゆっくり見回らない限りは早く観光を済ますことができます。

 

「連れて行こう」

 

「連れて行きましょう」

 

「連れて行くしかないな!」

 

「是非お願いします。よろしくお願いします」

 

「はっ、はい。私こそよろしくお願いします。それでどこから参りましょうか。ご希望はございますか?」

 

「GM、彼女にガイドを一任した場合は全部の場所を回ることは出来る?」

 

 できます。

 

「よし、ならこう頼もうかしら。串灘さん、私たちは遅くても3時には叉木さんのお家に向かいたいのよね。そうなるようにできるだけ全ての場所に案内してもらえないかしら?」

 

「3時までにですか? ええ、それなら大丈夫そうです」

 

「じゃあその予定で案内してもらえるかしら。ああいけないわ、私ひとりで決めちゃって。みんなもそれで大丈夫かしら?」

 

「「「「大丈夫(だ、です)」」」」

 

「では案内させていただきます。どうぞ、ついて来て下さい」

 

 串灘咲耶はそう言うと、あなたたちを島の観光地に近い順から導いていきます。

 あなたたちが最初に訪れたのは郷土資料館です。

 

「ここは郷土資料館です。この島の歴史や伝説についての書物が展示、そしてその内容を翻訳したものの掲載がされています。一応私は内容をすべて頭に入っているので簡単な解説でしたらできますが、さらに堀下げたい方は展示物をご覧になってください」

 

 と、串灘咲耶は断りを入れてきます。さて質問タイムを設けます。1人につき1回だけ、彼女にこの島の歴史や伝説、またはそれに関連する出来事に対して質問をすることができます。話せる範囲のことでしたら彼女は答えてくれます。

 

「トップバッターを貰いますね。この島にはどんな伝説や歴史があるんですか?」

 

「上手いわ津田」

 

「これで訊けることや調べることがある程度把握できますね。お見事です」

 

「メジャーなものではミツクビ様や生命の木の精霊伝説ですが、八岐大蛇に関する伝説もこの島にはあるんですよ。この島の歴史はかなり長いですが、なんと言っても一番の出来事は太古の大災害でしょう」

 

「じゃあ次は私ね。まぁ、八岐大蛇伝説というとあの有名な八岐大蛇伝説ですか?」

 

「そうです。たった一振りで山を薙ぐ強靭な8つの尾、その怒りの咆哮は河川が氾濫し大水害を引き起こすと言われる8つの頭を持つ伝説の怪物、八岐大蛇。ちなみにミツクビ様は八岐大蛇の落とし子と言われています」

 

 ちなみに八岐大蛇伝説に関して詳しく調べる場合はその前に知識ロールを行い、成功した場合は調べるまでもなく知っていることにします。というか皆さんリアル知識である程度ご存じだと思いますからダイス振らなくてもいいですけどね。

 

「次は俺が行くぜ。んじゃあそのミツクビ様について簡単に教えてくれないかい?」

 

「ミツクビ様は神樹の森の最深部にある洞窟にいらっしゃると言われておりますこの島の荒神様です。八岐大蛇には劣りますが、人間を一呑みできるほどの顎に、一振りで巨木を薙ぎ倒せる尾を持っています。ミツクビ様は夜行性の神様であり、夜の神樹の森を徘徊します。ですから夜の神樹の森には絶対に立ち入ってはいけないと言われています。また、この神様は無類の酒好きであり、特にお神酒を愛し、月に一度、お神酒が入った樽3つを奉納しています。お神酒の元のお酒を作っていますのが昨日私の不手際の際に提供しました、稲田酒造です。今日これから向かう予定ですし、安価なものでも充分美味しい日本酒もございますので、お土産にお勧めですよ。他に何か質問はありますでしょうか?」

 

「掘り下げさせていただきます。そのミツクビ様とやらは実在するのですか?」

 

「俄かには信じられませんが実在すると言われています。誰も姿を見たことがないので私は半信半疑ですが、この島で多発する失踪事件のみならず、ミツクビ様に捧げられたお神酒も次の日には綺麗になくなること、さらに神樹の森に生息する生き物たちの大きさなどから、そのような生物がいてもおかしくはないと思います」

 

「私が質問するわ。伝説も興味深いけど歴史の方も気になるわ。太古の大災害って、いったいこの島に何があったのかしら?」

 

「時期は明確ではないのですが、実はこの島は過去一度破滅した島なんです。とある日のこと、島の中央に聳える巨木、現在の生命の木が自然のものとは思えないような冒涜的な輝きを纏う異変が起こります。森が枯れ、土壌は荒れ、大樹自身すら枯れ果てた後、冒涜的な光は天へ昇り、その姿を消したといいます」

 

「誰か所持品にガイガーカウンター持ち込んでいないかしら?」

 

 そんなものを持ち込んでいるPLはいませんね。ちゃんと所持品チェックはしていますよ。

 

「あるぞ。電卓と間違えてガイガーカウンター持ってきてしまったんだ」

 

 天草さんはどうしてそんなものを購入したんですか? 大学じゃあ使わないですよね? というか間違えて持ち込みなんて認めませんよ? そもそもの話、市民レミリアはどうしてガイガーカウンターが有効だって知っているのですか? そんな情報はあなたのクリアランスに開示されていないはずなのですがね?

 

「冗談よウルトラバイオレット様。へぇ、そんなことが起った島なのね」

 

「最後は私だな。生命の木の精霊について教えてください」

 

「お父さんから聞いた話ですととても美しい女性の姿をしていたとか。でも精霊の姿は生命の木の意志が善であるか邪なものかによってその姿が変わると言われています」

 

 以上です。

 

「まぁその情報なら共有済みだし、多分それ以上は掴めないだろうからいいか」

 

 さて、質問を終えたあなたたちは一通り郷土資料館内を見て回りました。なにか詳しく調べたいこととかありますか? ロールプレイングか、調べたい内容に対して《図書館》、または私を納得するような他の技能を用いて判定することで調べることができます。ただし成功しても失敗しても時間は経過しますし、同じ人が複数の調べ物をする場合はさらに時間がかかります。

 

「どうする? なにか調べたい物とかあるか?」

 

「正直彼女の解説だけで充分だよね」

 

「まぁ強いて言うなら太古の大災害についてかしら? まぁ深く掘り下げたところであんまり意味はなさそうだし、調べなくてもいいと思うわ。あの神話生物が絡んでいるってわかっただけでも充分でしょ」

 

「じゃあもう移動しましょうか? 時間も圧していますし」

 

「そうですね。次に行きましょう」

 

「というわけでGM、私たちは移動するぞ」

 

 わかりました。では郷土資料館から出立したあなたたちが次に向かったのは、島の中心街から少し離れたところにあるこじんまりしたとある商店。

 外からでもわかるくらいに店内に陳列している大量の酒瓶と、堂々と掲げられた看板があることから、ここがこの島のお土産スポットである稲田酒造だということがわかるでしょう。

 

「ここがこの島唯一の酒屋、稲田酒造です。作られているのは日本酒ですが、それ以外のお酒も取り寄せられて――」

 

「おおっ! 咲耶ちゃんじゃないかい! ほら来なよ爺さん!」

 

「本当かい婆さんや! おー、咲耶ちゃん!」

 

 串灘咲耶の解説中に割って入った元気過ぎるほどに大きな声の主たちは酒屋の中から出てきました。70代後半の男性と女性です。男性は足が少し長く、女性の方は腕が少し長いように感じられます。

 

「紹介します。こちらは稲田昌三さんと奥さんのハツさん。この稲田酒造の店主さんです。島の人たちからは足長ジジイと手長ババアと呼び親しまれているんですよ」

 

「咲耶ちゃんからはそう呼ばれたことはないけどねぇ!」

 

「つまり儂たちは咲耶ちゃんに嫌われているってこった! 困った困った!」

 

「い、いえっ、そんなことはっ!」

 

「冗談さね咲耶ちゃん。相変わらず可愛いのう」

 

 みたいな感じで串灘咲耶を猫可愛がりしています。

 

「元気過ぎるなこの老夫婦」

 

「して、そちらさんたちはお客さんかい?」

 

「はい。今回のツアーに参加していただいた方たちです。今日は私がガイドを務めているんです」

 

「ほう……おまえさんたちいい感じに若いのう!……よし、おまえさんたち、この儂と勝負じゃ!」

 

「え? 勝負?」

 

「うむ。ここからあそこにある木まで丁度50メートル、往復100メートルじゃ! 儂よりも先にここに戻って来たやつにはそれはもうすんごい酒を馳走してやるわい! かの蛇王、八岐大蛇さえも酔わせた至高の美酒じゃ!」

 

 がっはっはと笑いながら足長ジジイは提案してきます。

 

「それはありがたいが……いいのかい? いくら元気っつっても無理しちゃいけないぜ爺さん」

 

「大丈夫じゃい! 儂はまだまだ元気が有り余っておりし、なによりおまえさんたちのように健康的で若いやつを見るとどうしても勝負したくなるんじゃ!」

 

「若いって……俺は36だぜ?」

 

「50超えてなきゃ若いもんじゃろ! どうじゃ? 受けるか?」

 

 さて皆さんどうしますか?

 

「勝負の方法を教えてちょうだい」

 

 足長ジジイと《STR》+《DEX》の対抗ロールを行ってもらいます。

 

「お爺さんの数値を教えてください」

 

 《STR》14の《DEX》13です。

 

「めちゃくちゃ元気ね。とりあえず私は勝負しましょうか。お酒は好きよ」

 

「私も参加します。伝説の怪物を酔わしたお酒……気になります」

 

「……私はどうやっても勝てんが参加するだけしよう」

 

「オレは参加します」

 

「私も」

 

「んじゃあ俺も参加すっかな。おっさんも頑張っちゃうぜ」

 

「うむ、全員勝負に挑んでくれるようじゃな! 若いやつはそうでないとな! じゃあ婆さん!」

 

「はいよ! 位置について、よーい……ドン!」

 

 白夜  《STR》+《DEX》対抗 30 → 01 クリティカル

 シノ  《STR》+《DEX》対抗 自動失敗

 タカトシ《STR》+《DEX》対抗 30 → 02 クリティカル

 アリア 《STR》+《DEX》対抗 25 → 07 成功

 レミリア《STR》+《DEX》対抗 55 → 39 成功

 咲夜  《STR》+《DEX》対抗 85 → 83 成功

 

 うっそでしょちょっと!?

 

「自動失敗の私以外全員成功か……」

 

「がんばったよー」

 

「なんの問題もないわ」

 

「一番高いはずの私がギリギリですか……なんでしょう、この敗北感は」

 

「野郎どもの本気を見せつけてやったぜ」

 

「なんとか面子は立てられましたね」

 

 さて、そんなあなたたちの素晴らしい走りっぷりに足長ジジイも楽し気です。気分良く笑いながら話しかけてきます。

 

「やるなあおまえさんたち! 気が変わったわい! おまえさんたち全員に振舞ってやろう! ひとりだけ仲間外れなんて酷いことはせんし、嬢ちゃんも最後まで走り切ったしな! 御褒美ってもんじゃ! 待っとれ!」

 

 そう言って足長ジジイは手長ババアを連れて店の中に行ってしまいました。そして5分くらい経過したのち、御猪口が6つ乗ったお盆を持って戻ってきました。

 

「これが秘蔵の酒、純米大吟醸・稲田彦じゃ! さぁ、ご賞味あれ!」

 

「それじゃあ頂くとするわ。勝利の後の一杯……素敵だと思わないかしら? 咲夜」

 

「その通りでございます。では私も一杯」

 

「いただくぜ」

 

「オレもいただきます」

 

「いただきます」

 

「寛大なあなたに感謝します。いただきます」

 

 ではあなたたち全員、お酒を同時に口にしました。

 まず咲夜。あなたはこのお酒を呑むと、今まで飲んできた日本酒がただの水であるかのような感覚に陥るでしょう。

 まるで果実酒であるかのような仄かな甘い香り、辛口ながらも口の中いっぱいに包み、コーティングしていくかのようなまろやかな呑み心地、そして、最後に残るのは良質な米の甘い味。アルコールが齎す多幸感と身体の奥の奥から漲ってくるような不思議な力。

 そして気が付く。この酒は原酒ではなく、水によって何倍にも稀釈されたものであると。もしこれをストレートで呑んだものなら一体どうなってしまうのかと、人ならざる身であるあなたは戦慄しつつもこの酒を造った稲田酒造の老夫婦を尊敬することでしょう。

 

「……素晴らしいお酒です。八岐大蛇を泥酔させる秘蔵の美酒と謳うだけのことはあります」

 

 この咲夜の反応に串灘咲耶のみならず稲田夫婦も驚いていますが、咲夜はそれに今は気が付きません。酒を口にしたレミリアたちは幸せそうな顔をしながら目を閉じ、ばたりと倒れ込んでしまったのですから。

 

「おっと、お嬢様は私が支えます。どうして倒れたのかは……普通に酔ってしまったからでしょうか?」

 

 はい。普通の人間である彼らにとって、稀釈されているとはいえこの美酒の強さには敵いません。(コロコロ)……そうですね。2時間は目を覚ますことはないでしょう。

 

「寝てしまったようですね。どこか、寝つけられるところはございますか?」

 

「店の中に布団を用意してあるからそこに寝かしてあげよう」

 

「ああなるほど。ですから少し時間がかかっていたんですね」

 

「うむ。まぁ、あの酒を呑んだらこうなるのは普通じゃからの! あっはっは!」

 

「ところであんた、よく普通にしていられるねぇ。本当に人間かい? もしかして女神様だったりしないかい?」

 

「そんなオカルトありえませんよ。とりあえずお嬢様を抱えてお布団のあるところまで連れて行きます」

 

「あの、私も手伝いましょうか?」

 

「大丈夫ですよ、鍛えていますから。他の人達も私が運びます。案内は皆さんが目覚めてからまたお願いします」

 

「は、はい。ごめんなさい、ありがとうございます」

 

「というわけで皆さんを布団に運んで起きるのを待ちます。適当に雑談をしつつお土産を物色するとしましょう」

 

 はーい。では2時間後まで時間を進めましょう。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.6

 時刻は12半頃。眠っていた探索者の皆さんは目を覚ましてください。

 

「うーん、あれ?」

 

「……布団?」

 

「なんで俺ら寝てたんだ?」

 

「咲夜はどこかしら?」

 

「お目覚めのようですね皆さん」

 

「ああいたわ。咲夜、どういうことかしら? あとここはどこかしら?」

 

「稲田酒造です。お嬢様達はお酒を呑んだ後に眠ってしまったのですよ」

 

「……ああそうだ思い出した。そういやそうだ。呑んだ後の記憶がねえや」

 

「なんかすっごく幸せだったのだけは覚えているんですけどね」

 

 そんなやり取りをしていますと、串灘咲耶と稲田夫婦もやってきました。

 

「おはようございます」

 

「皆さん起きたようじゃな!」

 

「おはようさんだねえ! ところで気分はどうかのう!?」

 

 咲夜を除いた全員、1D3をお願いします。

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……1」

 

「(コロコロ)……2」

 

「(コロコロ)……3」

 

 えー、タカトシは《STR》が、白夜とシノ、そしてアリア《CON》が、レミリアは《DEX》が永久的に1上昇します。なお、このステータス変化による他のステータスの変動は起こりませんのであしからず。対抗ロールが少し有利になった程度の強化だと思ってください。

 

「そりゃそうでしょ」

 

「ステータス書き直すの面倒だし、このまんまでもいいや」

 

「ていうかなんで酒呑んだだけで強くなれるんだ?」

 

 そこはほら、クトゥルフ神話TRPGですから。食べただけで強くなったり回復したりするものなんて腐るほどあるでしょう?

 

「それもそっか」

 

 さて、シーンを進めます。

 あなた達が目を覚ますと、上機嫌な手長ババアが八岐大蛇退治の伝説について語ります。大まかな内容は郷土資料館で串灘咲耶が語ったことと同じですが、

 

「八岐大蛇の子孫であるミツクビ様は神樹の森の奥の奥にある洞穴に住んでおってのう、今でも儂らは月に1回、さっき皆さんが呑んだお酒を3樽奉納して祀っておるのじゃ。ああ、そういえばもうそろそろ、奉納する時期じゃのう」

 

 と言って締めくくりました。

 

「へぇ。じゃあ私たちが呑んだお酒はその神様のためのお酒だったのね?」

 

「そうじゃよ。特別なものだから売りに出してはいないが、どうしても自慢したくてのう! じゃから儂とかけっこで勝った人だけに呑んでもらっているんじゃ! 美味かったろう!?」

 

「いや、あれはもう美味しいとかそんな次元じゃないですよ」

 

「あれには負けちまうが、売っているものでよければお土産に買ってってくれると嬉しいのう!」

 

「勿論買うわ」

 

「いいお土産が出来そうです」

 

 さて、このままロールプレイングをさせていてもいいんですけどぶっちゃけこれ以上の情報やイベントはなにもないのでここで一度切りますね。

 目が覚めたあなたたちは稲田夫婦と話した後土産の酒を何本か購入して稲田酒造から出ます。時刻は午後1時。昼食の時間です。

 こうなることは予想できていたのでしょう、串灘咲耶はお土産が邪魔にならないように気を利かせて、民宿『くしなだ』に一度戻って昼食にしようと提案してきます。えっと、一応訊きますけど、昼食を他の所で取りたい人はいますか?

 

「俺はどこでもいいし、せっかく食わせてくれるって言っているんだからお言葉に甘えるとするぜ」

 

「私も異論はないわ。ご厚意に甘えて『くしなだ』で取るとするわ。ねぇ、咲夜」

 

「勿論です」

 

「私たちも別にいいよな?」

 

「オレは問題ないです」

 

「私もー」

 

 わかりました。ではあなたたちは民宿『くしなだ』に向かいます。とりあえずお土産のお酒を部屋に置いてきたということにして、えー、なにか行動を起こしたい人はいますか?

 

「朝見かけなかったBグループの面子が戻って来ているかを確認したいわ。オーナーの武彦に尋ねるわ」

 

 まだ帰ってきていない、大丈夫だろうかと心配そうに返されるでしょう。他にはなにかありますか?

 

「特にないな。足りなさそうな情報はこれから行く場所で補完されるだろうし」

 

「だろうね。私も特にはないかなー」

 

「私もない」

 

「「同じく」」

 

 わかりました。では昼食を取り終えて、皆さんは移動を再開します。向かったのは神樹の森の近くにある大きな神社、『花宮神社』です。

 串灘咲耶に連れられて神社の境内に足を踏み入れたあなたたち。そこには巫女服を着た黒髪ショートボブの若い女性が掃き掃除をしています。

 

「ちなみに聞くが、その女性のAPPは?」

 

 えっとですね……14ですね。

 

「美人な巫女さんだな」

 

「別嬪さんですね」

 

「津田君は髪が短い方がタイプなのかな?」

 

「……あれ? 原作の津田ってどんなタイプの人が好きなんだっけ? 返事ができない」

 

「え? ごめんなさい私役員共詳しく知らないのでわかりません」

 

「確か明記されてなかったはずよ。というかどうでもいいわそんなの」

 

 えっと、進めますよ? 巫女服の女性はあなたたちに気が付くと箒を動かしていた手を止めてにっこり笑って会釈してきます。

 

「今回のツアーの皆さんですね。ようこそ、花宮神社に」

 

「皆さん紹介します。こちらはこの花宮神社でアルバイトをしている岩永千世さんです」

 

「岩永です。今日は私がこの神社の案内をさせてもらいます。よろしくお願いします」

 

「「「「「「よろしくお願いします」」」」

 

「この時期は神社の宝物殿が一般公開されております。ですので皆さんにはそこに収められているものをご覧になってもらいます」

 

「岩永さんは物知りですので、興味をお持ちになられた方は何でも訊いちゃってくださいね」

 

「ええ。おしゃべりは大好きですので、どうぞ気安く話しかけてくださいね。それではこちらへどうぞ」

 

 あなたたちは岩永千世と串灘咲耶の案内の元、花宮神社の宝物殿に着きました。宝物殿は境内から少し離れたところにある小さな建物です。

 入って部屋のど真ん中にあるショーケースの中に3つのものが展示され、名前が書かれたプレートの隣に細かい字で書かれた説明欄があります。また、奥の方には南京錠で厳重に施錠された扉がひとつあり、『関係者以外立ち入り禁止』の看板がその前に設置されています。

 あなたたちは最初に少し大きな日本刀のような刀の前に案内されます。

 

「順を追って説明させていただきます。こちらの剣は霊剣『別天羽々斬』のレプリカです」

 

「生命の木の幹に刺さっていたあの剣ね」

 

「ええ、そうです。現在の島根県にあたる出雲の国を根城にしていた恐るべき邪神、八岐大蛇を切り殺したとされる神剣『天羽々斬(アマノハバキリ)』。しかし、その神剣は八岐大蛇を斬ろうとした際、刀身を欠けさせてしまったのです」

 

「ああ、知っています。確か八岐大蛇は『天羽々斬』以上に強い神剣を持っていたんですよね」

 

「その通りです。八岐大蛇の尾には『草薙剣(クサナギノツルギ)』……別名『天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)』と呼ばれる日本で最強とされる神剣が眠っていたのです。『天羽々斬』は八岐大蛇の尾を斬り落とそうとした際、その『天叢雲剣』にぶつかり、刀身を欠けさせてしまいました。そして邪神が倒れた後、その跡地を通りかかったひとりの鍛冶職人がその神剣の欠片を見つけ持ち帰りました。そして、自分が鍛えた刀にその欠片を溶かして練り込むことで完成したのが『別天羽々斬』です。オリジナルの『天羽々斬』には劣りますが、その能力の一部を使役することができ、破邪の霊剣としての力でもって、邪な魔物を祓ったとされています」

 

 続きまして、と岩永千世が少し歩くと、そこには一枚の円形の鏡が展示されていました。

 

「こちらはこの花宮神社に代々伝わる神鏡、『日輪の神鏡』……のレプリカです。残念ながら本物は現存していませんので、文献に基づいて再現したものがこちらになります。太陽の神、天照大御神を祀る祝詞を読み上げることで、太陽の輝きを発するとされています。この輝きを浴びたものは日輪の加護を受けることができ、人間であれば強い精神エネルギーを、物であれば太陽光の性質を秘めた宝具として使用できると伝えられています」

 

「この鏡を使って祭事を執り行っていたんだな」

 

「昔はですけどね。今は存在していないので、少し違う形式で祭事を執り仕切っています」

 

 白夜の台詞に答えた岩永千世は、「最後に」と皆さんを古めかしい壁画の前に案内します。

 壁画の中心には巨大な枯れ木のようなものが描かれていますが、その枝の一本一本が真っ黒な触腕のように蠢いており、逃げ惑う人々を捕らえては木の幹に大きく開いた穴の中に放り込んでいるようです。

 

「ああ……なるほどね」

 

「これ私ですよね。別の分霊とはいえ」

 

 主従コンビは……というかクトゥルフをやりなれているあなたたちにはすぐに想像できてしまうと思いますがまあそういうことです。

 でもPCたちは基本的に知らないと思いますので説明させていただきます。

 

「この壁画はこの島の名物、生命の木に纏わる伝説が描かれています」

 

「生命の木の伝説? ということはこの化け物のような木が生命の木なのですか?」

 

「はい。かつてこの出雲の秘島にあったものは一本の巨大な枯れ木。しかし、その枯れ木は恐ろしい邪神が顕現した姿だったのです。時に千の枝を伸ばし、時に黒い山羊の仔を召喚し、時に美しき女性の姿となって次々と人間たちを襲い、食らっていました。しかしある日のこと、出雲の国から来た英雄が邪神に立ち向かったのです。戦いは三日三晩にわたり、ついに英雄は枯れ木の邪神の木の幹に霊剣を突き付けて邪神の邪気を祓いました。すると邪気を祓われた邪神は豊穣の善神と生まれ変わり、この出雲の秘島に恵みを与えるようになったのです。この豊穣の善神が生命の木であり、邪気を祓ったのがオリジナルの『別天羽々斬』とされています」

 

「なるほど、こういう伝説なのですね。なかなか面白い言い伝えです」

 

「ちなみに岩永さんはこの言い伝えを信じていますか?」

 

「ははは、まぁ、本当は言っちゃいけないと思いますけど信じていませんよ。現代っ子ですから。でもこの伝説自体は好きです。悪い神様が英雄によって良い神様になるって、素敵じゃありませんか?」

 

「それはわかりますねぇ」

 

「私からの解説は以上です。今の説明はさわりのものですので、さらに詳しく知りたい方がいましたらショーケース前の資料冊子をご覧になってください。また、その冊子はお持ち帰って結構ですので、よろしければこのツアーの思い出として受け取っていただけると幸いです」

 

 ちなみに詳しく読んだところで特に意味はありません。この伝説に対して博識になる程度です。いまの岩永さんの説明だけでシナリオ的には目的を達成しています。

 

「ああ、じゃあ詳しい説明はいらないな。ただこれで終わりというのは味気ないし、適当に話して終わりにしようぜ」

 

「そうだな。ところどころ詳しく岩永さんに説明を求める。描写はいらないが、そういうことをしたことにしてほしい」

 

 わかりました。ではあと30分ほど経過しまして、あなたたちは花宮神社の見学を終えます。

 

「岩永さん、ありがとうございました」

 

「「「「「ありがとうございました」」」」」」

 

「いえいえ、私も久しぶりにここを案内できて楽しかったです。引き続き出雲の秘島ツアーをお楽しみください」

 

 そう言ってにっこりと岩永千世はあなたたちを見送ってくれます。

 郷土資料館、稲田酒造、花宮神社と、神樹の森以外の観光スポットがすべて回り終えました。

 

「ということはいよいよか?」

 

 はい。最後に串灘咲耶は皆さんを神樹の森に連れて行ってくれます。時刻は3時ほど。充分な時間です。

 

「では皆さん、最後に神樹の森に行きましょう。この時間ならまだ叉木さんが案内してくれるはずです」

 

「流石串灘さん。完璧な案内だったわ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 微笑みつつ串灘咲耶はあなたたちを花宮神社の奥……神樹の森へ導きます。

 さて、神樹の森の手前に案内人の叉木が住む小屋があります。こんこんと串灘咲耶がノックするとすぐに叉木が出てきました。

 

「咲耶ちゃんか。それにツアーの皆さんも」

 

「こんにちは叉木さん。昨日に引き続き、皆さんを神樹の森の生命の木まで案内してくれませんか?」

 

「ふむ……それは構わないが、今日は違う客が来るのではなかったか?」

 

「え? あ……その、Bグループの人達はやっぱり来ていないのですか?」

 

「ああ。今日ここに来たのは咲耶ちゃんたちだけだ……まさか、行方不明なのか?」

 

「はい……」

 

「ふむ……まぁいい。案内だったな。すまない、少し待っていただきたい」

 

 串灘咲耶とあなたたちツアー客に一言断りを入れて小屋の中に戻った叉木ですが、数秒もかからないうちに蛇取り棒を持って外に出てきました。普通に案内してくれるらしいです。「案内する」と言葉少なめに神樹の森へと向かっていきます。

 

「じゃあ着いていきましょう。私は後ろの方に行くわ」

 

「では私はお嬢様の後ろに」

 

「白夜さんは串灘さんの近くにいた方がいいんじゃない?」

 

「ん? ああ、そうだな。GM、彼女は先頭か?」

 

 そうですね、叉木の半歩後ろにいます。

 

「じゃあ俺が一番目だな」

 

「オレたちは真ん中の方にいましょう」

 

 ではそういう並びであなたたちは神樹の森に入っていきました。

 生命の木までの道を叉木の案内の元進んでいくあなたたち。一応言っておきますが、《ナビゲート》で判定せずとも叉木が生命の木に向かっていることはわかります。

 

「別に疑ってないわよ」

 

 まぁ一応の確認ですよ。2回目の案内だからでしょうか、昨日よりも気持ち早くあなたたちは生命の木の御神木に辿り着くことができました。生命の木の前にやってきたあなたたち。御神木の力強さに見とれているのも束の間、すぐに異変が起きます。

 なんと生命の木がうっすらとですが光を発しているように見えるのです。日光を浴びているとか、霊泉の水面の乱反射を受けてとか、そんな光り方ではありません。チカチカと、木そのものから光が発せられているように見えます。

 

「おい津田、アリア、私の目がおかしいのか? 木が光っているように見えるんだが……」

 

「い、いえ俺もですよ先輩。木が光ってます……」

 

「私もそう見えるよ?」

 

 不思議な現象は続きます。次に白夜。あなたは自分の胸ポケットから生命の木と同じような光が灯っていることに気が付きます。

 

「胸ポケットというと……あの御守りか。びっくりして御守りを取り出して確認してみる」

 

 光源はまさにその御守りでした。生命の木以上に強い光をチカチカと発しているその御守りは、まるで生命の木の輝きに反応しているかのようです。

 

「これは……」

 

「白夜さん、その御守り……」

 

「また光ってやがる……なにがどうなってんだ?」

 

 まだまだ続きますよ。役員共は生命の木に、白夜と主従コンビは御守りの方に目を奪われていると、「だ、誰?」という声が近くで聞こえてきました。あなたたちがその声がした方を見ると。

 

「いや、見ません」

 

 見ろ。

 

「はい」

 

 あなたたちが声がした方を見るとそこには困惑した表情を浮かべた串灘咲耶がいました。

 しかしどういうことなのでしょうか。彼女の体もまた、生命の木のようにチカチカと発光しているのです。

 

「生命の木のように? 一応訊いておこうかな。生命の木と彼女の光は連動しているように見える?」

 

 はい。生命の木がチカチカ光ると同時に、彼女の体が光っています。

 

「この現象って……私の咲夜に異変はある? 彼女の体を見てみるわ」

 

 いいえ、十六夜咲夜の方には異変はありません。

 

「どうやら本体だけで別の分霊には影響はないようね。安心……している場合ではないわね」

 

 さてさて、生命の木、白夜の御守り、そして串灘咲耶から発せられている謎の光に混乱するあなたたちですが、あなたたち以上に取り乱しているのは串灘咲耶です。

 彼女はさっきから「誰?」「誰なの!?」とあなたたち以外の何者かに話しかけられている様子です。自分の体が光っていることにも気が付いていないようで、首を動かして彼女に話しかけている何者かを探しています。

 

「とりあえず訊いておきますが、私にもその声は聞こえないのですよね?」

 

 そうですね、別の分霊であるあなたには何にも聞こえません。続けます。

 何が何だかわからず、あなたたちには聞こえない何者かの声に戸惑う串灘咲耶は、

 

「どういうこと? わかんないよ! 代わってってどういうことなの!?」

 

 と叫んだ途端、串灘咲耶の体にさらなる異変が起こります。

 彼女の長い茶色の髪の毛からどんどんと色素が抜けていきます。変色していく彼女の髪は完全な白髪にはならずやや黒みを帯び、そして透き通るような光沢を纏う銀色のものになりました。

 すると先程まで取り乱していた彼女はどこへやら、落ち着いた様子で白夜の方に目をやった彼女は、

 

「逃げて。今すぐこの島から離れて。でないとみんな、奴らに殺されてしまう」

 

 と、串灘咲耶の声であって彼女の口調ではない、弱々しくもしっかりと伝えてきました。

 串灘咲耶が変化した銀髪の彼女の姿に咲夜は気が付くでしょう。彼女は間違いなく自分と同じ存在の分霊であり、そしてその力が昨日以上に弱まっていて、あと数日と経たないうちに力を失ってしまうことに。

 

「はい? 弱まるスピードが速すぎませんか?」

 

 そうですね。それほどの異常事態がこの御神木に起こっているということです。

 そして白夜は彼女の姿を見て、遠い昔に出会った彼女の姿が思い浮かぶことでしょう。そう、まだあなたが少年だった時、この島に訪れた際に迷い込んだあなたの前に現れた、あの銀髪の少女の姿に。

 銀髪の少女は伝えたかったことを伝え終えたらしくゆっくりと目を閉じると……また髪の毛の色が変わっていきます。今度は赤みがかかり、もとの串灘咲耶の姿に戻っていくようです。

 

「待て、まだ戻るな! これだけ答えてくれ、あんたは何者なんだ!?」

 

「私は……サクヤヒメ。生命の木の意志、そしてその化身」

 

 白夜の問いかけにそれだけ答えると同時に変化は終わり……そこには元に戻った串灘咲耶が立っていました。白夜の御守りも生命の木も串灘咲耶の変化が終わった途端に光が失われ、今は普段の通りに佇んでいます。

 

「あっ、あれ……? わた、私……。う、うそ……いや……っ! いま私誰かに……! 誰かに体を……!」

 

 目を閉じていた彼女ですが先程までの確かに彼女ではない何かに取り憑かれ、体を乗っ取られていた感覚が残っているのでしょう。守るように両手で体を掴み、顔を真っ青にした彼女は、短く悲鳴をあげて震え上がってしまいます。自分の身に起こったことを理解したと同時に戦慄し、取り乱してしまっています。具体的には《SAN》値が6減ってパニック状態に陥っています。

 

「落ち着きなさい! 《精神分析》をかけるわ!」

 

 レミリア《精神分析》62 → 16 成功

 

 それでは5分後、レミリアの精神分析が効き、串灘咲耶は落ち着きを取り戻します。だいぶ体力を使ったらしく疲れた様子で肩で息をしている彼女は、落ち着いたと同時に糸が切れたのか、ぱたりと倒れて気絶してしまいます。

 

「おっと。近くにいるのは私ね。倒れる彼女を支えるわ。ちょっと、あなたどうしたの!? 大丈夫!? って揺らしてみるけど、どう?」

 

 レミリアのその声には明らかに具合の悪そうな串灘咲耶の呻き声が返ってきます。表情も苦しそうに歪んでいて、ただ気絶したわけではないことはわかりました。

 

「彼女の額に触れてみるが、どうだ?」

 

 かなりの高熱を発症していることがわかります。ゆっくり冷やすなどの適切な処置を急いだほうがいいでしょう。

 

「ひでぇ熱だ」

 

「私も額を触るわ。そしてその熱さに驚く。本当、凄い熱……今すぐ戻りましょう!」

 

「ああ、俺が背負う。こんな状態じゃあ目を覚ましてもまともに歩けないだろうからな」

 

「頼むわ」

 

「途中でオレに交代してください。一応力はある方なんで」

 

「私もお手伝いしましょう。私の力が強いのは御存じでしょうし」

 

「ああ、ふたりとも頼んだぜ」

 

「私の持ち物にウエットティッシュがある。これで彼女の汗を拭こう。高熱なら適度に拭いた方がいいからな」

 

「私も持ってきているから使って、と言いながらシノちゃんにウエットティッシュを渡すわ。それから叉木さんに声をかけましょう。叉木さん、『くしなだ』に近い道を案内をしてくれませんか?」

 

「あ、ああ……ここからなら引き返すよりもそのまま進んだ方が『くしなだ』に近い。このまま行こう」

 

 叉木は状況が呑み込めていないものの冷静に判断を下し、小走りに案内を始めます。

 

「一応私が叉木に続くわ。なにか出てきて戦闘になったらいけないしね」

 

 了解です。では体調が悪い串灘咲耶を気遣いつつあなたたちは叉木に早走りでついていきます。ここから出口まではほぼ一本道。道なりに走っていると、前方の草木の間からふらりとひとつの人影が道に出てきました。

 

「誰!? 敵!?」

 

 いいえ、敵ではありません。その人物はあなたたちがよく知る人物です。

 あなたたちと一緒にこの出雲の秘島にやってきたツアー客、行方不明となっていたBグループのメンバーのひとりです。しかし、尋常じゃない状態になっています。

 健康そうだった姿は見る影もないほど痩せこけ、目は血走り、何か大切なものを吸い取られてしまったかのごとく石のような灰色に肌は染まり、萎縮しきっています。

 さらによくよく見ると彼の体は色とりどりに輝いていることがわかります。しかし、先程の生命の木などが発していたどこか神聖さのある温かみのある光とは違い、その光は彼の体に纏わり取り囲むように光っており、目にしただけで触れてもいないのに得体のしれない寒気を感じると同時に、今にもあなたたちに襲い掛かってくるような、生物としての本能が警報をあげるほどの酷く冒涜的なものでした。

 彼はあなたたちに気が付くと力なく腕を伸ばし、

 

「ひ、ひか、ひかりにくわ……れ……」

 

 と言い残して倒れました。瞳孔が開ききっており、ピクリとも体は動いておらず、さらに先程の彼の言葉からあなたたちは察することでしょう。

 彼は今、自分たちの目の前で纏わりついていた光によって死に至ってしまったことを。

 さぁさ皆様。ついに死者が出てしまいました。《SAN》チェックのお時間です。1/1D8でお願いします。

 

 白夜  《SAN》55 → 93 失敗

 シノ  《SAN》44 → 63 失敗

 タカトシ《SAN》44 → 60 失敗

 アリア 《SAN》43 → 63 失敗

 レミリア《SAN》51 → 27 成功

 

「ちょっとぉ!」

 

 おやおやまあまあ、これは大惨事。では失敗した人は1D8をどうぞ。

 

「(コロコロ)……げ、6。串灘咲耶背負っているのに」

 

「(コロコロ)……3だ」

 

「(コロコロ)……2です」

 

「(コロコロ)……あ、私御令嬢だからこういうの弱かったみたい。7よ」

 

 5点以上減少したおふたりさん、《アイデア》どうぞ。

 

 白夜  《アイデア》65 → 98 失敗

 アリア 《アイデア》55 → 20 成功

 

「あっぶな!? というか怖い出目だなおい!」

 

「あらぁー、一時的発狂だわぁ」

 

 初発狂記念として7パーセントの《クトゥルフ神話》技能をプレゼントします。

 続きまして発狂の種類を決定します。種類は1番から3番、5番、10番のうちのどれかです。1D10をどうぞ。

 

「(コロコロ)……1番」

 

 1番は気絶あるいは金切り声です。

 

「気絶しておくわ。起こすか、負ぶって運んでね。……ふぅ」

 

「おっと七条先輩!」

 

「アリア!」

 

「……気絶してしまったようです。オレが背負っていきますよ」

 

「そ、そうか……だが、これは……」

 

「私が脈をとるわ。……あ、ちょっと待って。彼の体ってまだ光っているの?」

 

 彼の体を纏っていた光はもうありません。

 

「ふむ……まぁ、触っても大丈夫でしょう。最悪咲夜に助けてもらうわ。というわけで首で脈をとる。どう?」

 

 亡くなっています。

 

「どうだレミリアさん」

 

「残念だけど……と言いつつ首を横に振るわ」

 

「そうかい……」

 

「このままにしておくわけにもいきませんし、私が彼の亡骸を運びましょう。お嬢様に運ばせるわけにはいきませんので」

 

「感謝するわ。白夜さん、交代要員2人の手が塞がっちゃったから、私も手伝うわ。これでも力はある方なのよ」

 

「恩に着る。急ごう」

 

 それでは咲夜が遺体となった男を、タカトシが気絶したアリアを、白夜とレミリアが串灘咲耶を背負うということですね。

 状況は混沌としていますが、とりあえず民宿『くしなだ』に向かうということで全員の意見が一致したようなので、皆さんは比較的何も考えないようにしつつ引き続き叉木のガイドで神樹の森を抜け、民宿『くしなだ』に戻りました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.7

 さて……民宿『くしなだ』に戻ったあなたたち。いろいろありまして今は5時。夏ですのでまだ日は昇っていますが、厚い雲に覆われていて薄暗くなっています。あと一時間もすれば真っ暗になってしまうでしょう。

 謎の光によって息絶えてしまったツアー客は別室に寝かされており、この島の警察と医師が検死をしています。アリアさんは『くしなだ』に着く直前に目を覚ましたということにします。

 そして、熱に浮かさせている串灘咲耶は、彼女の部屋の布団の中に入っています。医師の診断によると原因は不明で安静にさせて様子を見るしかないとのこと。要するにお手上げ状態です。

 

「とりあえず俺たち探索者は全員彼女の部屋にいるとしてだ。他に誰がいる?」

 

 オーナーであり彼女の父親である武彦と、案内人の叉木がいます。

 

「そのふたりがいるなら話は早い。とりあえず俺の職業を明かすとするぜ。みんな聞いてくれ。今まで黙っていて悪かったが、実は俺は警察官なんだ」

 

「え? 白夜さんが?」

 

「あらまぁ。まぁ、なんとなくわかっていたわよ。私も本物の警察官にあったことがあるし、公務員をしているってぼかす人は大体相場は決まっているからねぇ」

 

「それで、あなたが警察の方だったとして、どうして今になってそれを告白したんですか? まさか、何かの調査でこのツアーに?」

 

「ああ。天草さんの言う通り、俺はこの島の謎の不可解な変死事件の調査に来たんだ。裏に何かあるんじゃないかってな。ぶっちゃけ考えすぎだと思っていたし、こっちの警察だって最初はきっちり捜査をしていたことも確認しているから観光半分仕事半分できたことは否定しないよ」

 

「でもそうじゃなかった、と」

 

「ああ。目の前であんな風に人が死んだんだ。本腰を入れざるを得なくなった。そして、この事件には彼女……串灘咲耶さんが関与していると俺は考えている」

 

 おっと? ではそう白夜が切り出すと、武彦が怒りの形相で怒鳴りつけてきます。

 

「何を馬鹿なことを言っているんです!? 咲耶が人殺しをしているとでも!?」

 

「落ち着け親父さん、関与してるっつっても犯人とは言ってねえ。だが仏さんになっちまった彼の死に方は普通じゃない。そして、この島では普通では考えられないことが起こっている。生命の木の御神木然りあなたの娘さん然りだ。そして俺の持っているこの御守りもな」

 

「まぁ確かに? あの死に方はいくらなんでもおかしいわよね。生命の木と彼女、そして彼の御守りがシンクロしているように光り輝いていたことも常識では考えられない。ましてや娘さんに至っては目の前で変化していたのよ? 信じられないなら御友人の叉木さんに聞いてごらんなさいな。彼の言うことなら信用できるでしょう?」

 

 では話を振られた叉木が頷きつつ武彦を訪ねます。

 

「ああ、確かに俺も見た。咲耶ちゃんの変化もあの客の死ぬ姿もだ。武彦、いったい咲耶ちゃんはなんなんだ? 拾ってきて養子にしたことは知っているがそれ以外の詳しいところは知らない。話してくれないか」

 

 あまりプライベートな話をしない友人の叉木に問い詰められた武彦は、瞑目したのち「わかりました」と重い口を開きます。

 

「たしかに咲耶は……普通の人間ではありません」

 

「発熱する前、変化した彼女は確かに言ったわよ。自分は生命の木の意志でその化身、サクヤヒメであると」

 

「レミリアさんのおっしゃる通り、彼女は……咲耶はこの島の伝説の存在である、生命の木の精霊です」

 

「信じられない……が、信じるしかないな」

 

「そうですね。なにせオレたちのこの目でばっちり見ちゃったわけですし」

 

「咲耶さんが木の精霊さん、ねぇ?」

 

「私も最初は信じられませんでした。御伽噺の中の存在と思っていて本当にいるなんて思うわけがないじゃないですか。ですがたしかに、彼女は生命の木の精霊だった。自分が小さい時に初めて彼女に会ってから、森に入るとたびたび彼女は私の前に姿を見せてくれた。こんなおじさんになったつい最近までも」

 

「……その木の精霊とやらは何でったって、この旅館で働いているんだ? しかも記憶がなかったらしいじゃないか」

 

「これは一年前の話です。私が神樹の森の清掃を終えて帰る途中、生命の木の前を通りかかったとき……彼女は倒れていたんです。ずっとずっと元気だったのに力なく倒れていて……。助け起こすと彼女は『私をお願い』と頼んできたんです。するとどういうことか……美しい銀色の髪が茶髪に変わって、体を覆っていた綺麗な緑色の光も消えてしまって……。次に目を覚ました時には、彼女はすべての記憶と精霊としての力を失っていました」

 

「だから彼女を家族として招き入れた、と」

 

「はい。彼女はあの生命の木の精霊。そんな彼女が弱っているとなると、生命の木に何かの異変に起こっているのは間違いない。だが、私にはその異変を解決する力もなければ、どこに異変が起こっているのかもわからなかった。それならば私がやることはただひとつ、記憶を失って行き場のない彼女を守ってあげることだけでした」

 

 武彦は涙を浮かべつつ、悲しそうに語ります。

 

「詳しくはわからない。わからないのですが……嫌な予感がするのです。このままでは咲耶も……サクヤヒメも死んでしまう、そんな予感がするのです。ですが、私にはどうすることもできません。こうやってただ、手元に置いて保護することしかできないんです」

 

「……もういい、よくわかった。あんたを見りゃわかる。今の話に嘘偽りはない。俺は信じるぜ、あんたの話を」

 

「まぁ、私は最初から信じているわよ。なにせ過去に似たような経験をしているからね。ねぇ、咲夜?」

 

「ええ。そうでございますね」

 

 まぁ、咲夜自身が神話生物ですからねぇ。レミリアにとっては茶番もいいとこだったでしょう。

 

「そんなことないわよ? 武彦がラスボスの可能性もあったし、誰が敵か味方かを判断するためにもこのやり取りは必須だったわ」

 

 そうですか。役員共はどうですか?

 

「さっき言ったとおりだ。信じるしかない」

 

「ですね、オレも信じます」

 

「私も信じるよー」

 

「信じられないやつがいたらキャラロストしたも同然の扱いになるだけだからな。そう言うしかない」

 

 脅迫はよくありませんよ。でもまぁ、乗ってきてくれないとGMの私が困るだけなんでうれしい配慮です。

 

「話を進めるぜ。串灘咲耶さんが生命の木の精霊だってことは信じるし、彼女が人に害をもたらす存在じゃないことも信じる。なにせこの御守りは彼女が俺にくれたものだからな」

 

「え? 咲耶がですか?」

 

「ああ。俺がチビだった頃、この島で迷子になっちまってな。その時彼女とあって、この御守りをもらったんだ。俺がこの島を調査しに来たのだって、この御守りがあったからなんだぜ」

 

「そうだったんですか」

 

「で、話は変わってあの変死体に関してだ。昔っからこの島では神樹の森に勝手に入った奴は死体になって発見されるとかそんな噂があるだろ? それは本当のことなのか?」

 

 その白夜の質問に叉木が「俺が話そう」と口を開きます。

 

「それは本当のことだ。人の忠告を聞かず、夜の神樹の森に入った奴らはみなミツクビ様の祟られる」

 

「ミツクビ様……木の精霊がいるんだし、そんな化け物がいてもおかしくねぇ。とりあえず信じるとして、そのミツクビ様の祟りのなれの果てがあの変死体かい?」

 

「いや、あんな死体が発見され始めたのはここ最近だ。数年前まではあんな死体でなく、もっと普通の……大きな口で噛み切られたかのようなものだった。それにミツクビ様は凶暴だがあの森の守護神であることに変わりはない。生命の木を害するなど、ミツクビ様がするはずがない」

 

「なるほど。ってことはだ」

 

「神樹の森に招かれざる客が隠れ潜んでいるってことね。生命の木に影響を与え、本来ならミツクビ様とやらに祟られてもおかしくないはずなのになぜかまだいるバケモノが」

 

「お嬢様のおっしゃる通りです。串灘咲耶さんが生命の木と連動しているなら、急に容体が急変するのはおかしいです。もっと緩やかに症状が進行していくはずなのにいきなり悪化したということは、昨日から今日の間に何か大きな出来事が起こった、または……時が来たと考えていいでしょう」

 

「そうね。ついさっき顕現したサクヤヒメの話によると時間はないようだし、タイムリミットは今晩か、明日の昼くらいまでってところね」

 

 さて、あなたたちがそこまで結論を出したとき、熱に浮かされていた串灘咲耶が「うう……う……」と呻き声をあげています。武彦は心配そうに彼女に付く中、弱々しくですが彼女の口が開きます。

 

「そっ……か。私はあなたで……あなたは私……。私なら、あの人やお父さんを救えるんだね……? うん……わかった、待ってて……今すぐ、行くから……」

 

 と、夢でも見ているのか、誰かと話をしているような寝言を言っています。

 

「確定ね。タイムリミットは今晩よ」

 

「みたいですね。準備をしないと」

 

「だが私たちだけで助けられるとは思えん。なにか武器になるようなものを用意しないと」

 

「……一応切り札はあるんだけど、使わないほうがいいわよね?」

 

 いや、使っちゃってもいいですよ? TRPGは自由が売りのゲームですし、その場合はこちらがちょっと調整をするだけなので、任せてください。皆さんはあくまでこのゲームの世界のキャラクターになりきってプレイしていただいて結構です。

 

「やだこのGM、かっこいい……けど、それって咲夜さんの真の力を発揮しても殺せる自信があるってことだよね?」

 

「面白いじゃないの。このスーパーアルティメットメイドの力を見せつけるときよ」

 

 た・だ・し! 魔術の使用は全面禁止とさせていただきます。門の創造でワープしたり、回復魔法連打で無敵状態になったり、理不尽な呪文唱えてケリが付いたりとかはつまらないですから。

 なぜ魔術が使えないのかですが、それはこの島がもとはあの神様の支配地でいろいろいじくられているからということにします。この島で魔術が使えるのは支配者である神様だけとします。

 

「充分です。こっちもそれをやるつもりはありませんよ。では秘密公開しましょうか、お嬢様」

 

「そうね。んんっ、みんなちょっと、ものすごく大切な話があるから聞いてちょうだい」

 

「ん、なんだ?」

 

「なんですか?」

 

「どうしました?」

 

「なんです?」

 

「さっき天草さん、武器になるものがないって言ったわよね?」

 

「え? ええ、言いましたが」

 

「それがね……あるのよ、とっておきのものがね。……咲夜」

 

「――はい、お嬢様」

 

 すぅ……。レミリアに名を呼ばれた従者は静かに息を吸う。

 するとどうしたことか、窓も扉も締まりきっているはずのこの部屋に一瞬とはいえ風が吹く。その風は空調によるものではなく、明らかにその従者に向かったものであり、緑色のメッシュの入った銀色の髪が靡く。

 彼女の頭部に風が通過すると、どんどんと彼女の髪の毛が薄い緑色に染まっていく。髪が染まりきると、今度は瞳が、指先の爪が薄緑に染まり、耳の少し上がぽこんと少し盛り上がる。そこにあったのは真っ白な曲がりくねった2本の山羊のような角。さらに背中には2対の翼が生え揃い、きらきらと緑色の光沢を放つ。

 

「……は?」

 

「え、ちょ……ええっ?」

 

「これは……」

 

「?……???」

 

 はい、レミリア・スカーレットの従者、十六夜咲夜の正体……忠誠を誓いし清き豊穣神の姿を直視した皆さん、0/1D3の《SAN》チェックです。この《SAN》チェックで発狂することはありませんのでご安心ください。

 

 白夜  《SAN》49 → 58 失敗

 シノ  《SAN》41 → 36 成功

 タカトシ《SAN》42 → 08 成功

 アリア 《SAN》39 → 29 成功

 

「(コロコロ)……2。とりあえずショックを受けておくぜ。まさか、こんな身近に未知がいたとはな」

 

「あの……もしかしてレミリアさんも?」

 

「私? 私はただの人間よ。由緒正しきスカーレット家の御令嬢よ」

 

 あ、ちょっとロールプレイ挟む前にですね、驚愕の表情を浮かべている武彦が咲夜に問いかけます。

 

「あ、あの……あなたは、サクヤヒメ……なのですか?」

 

「いいえ? 私は十六夜咲夜です。確かに同じサクヤの名ですが、これはレミリアお嬢様からいただいたもの。ただの偶然です」

 

「で、ですが、あなたはまるで……生命の木の……」

 

 この武彦の反応は白夜にはわかるものです。たしかに今の十六夜咲夜は、先ほど見たサクヤヒメに限りなく近い雰囲気を纏っているのですから。

 

「ちょっといいかい十六夜さん」

 

「なんでしょう?」

 

「色々聞きたいことはたくさんあるが、とりあえずひとつだけ答えてくれ。あんた、何者だ?」

 

「そうですね。簡単に説明するなら、そちらの串灘咲耶さんと同じ存在によって生み出された分身体です」

 

「つまり、十六夜さんは串灘さんと全く同じ、という解釈で大丈夫か?」

 

「種としては全く同じですが、個としては全然違うとお答えします。私はレミリア・スカーレットお嬢様に拾っていただいた、ただの従者にすぎません。ここの土着神とは違います」

 

「つまり……別個体であってこの串灘さんではない、ということか?」

 

「はい」

 

「……なるほどな、通りであんたに親近感を抱いたわけだ。なにせ、ガキの頃にあった生命の木の精霊と同じ存在だったんだからな」

 

 さてさて、咲夜の正体が判明しました。いやぁ、一気に戦力アップですよ。よかったですね皆さん。

 

「シナリオの難易度もアップしているだろう……。十六夜さんに質問だ。あの、十六夜さんはその……神様なのですか?」

 

「簡単に言うとそうですね。ただそう緊張しなくて結構です。私はレミリアお嬢様の侍女にすぎません」

 

「そうですか……じゃあもうひとつだけ質問を。あなたの力でこちらの咲耶さんの体調を戻すことはできませんか?」

 

「色々試していますが、どうもこの島では私の魔術は使えないみたいです。おそらくここの土着神だったかつての邪神が、ほかの神にこの島を荒らされないように妨害工作を仕掛けていたらしいです。しかし、戦闘能力と武器には問題はないみたいですね」

 

「えっと……具体的にはどれくらい強いんですか?」

 

「さぁ? 私自身生まれたての分霊ですし、この力を使うことなんて基本ありませんのでわかりませんが……神にすらなっていない生半可なバケモノ程度なら普通に勝負できるのでないでしょうか?」

 

「基準がわからないんですが……要するにめちゃくちゃ強いってことで合ってますか?」

 

「油断はできませんが、その認識で大丈夫かと」

 

「……じゃあ、簡単に言うとアタッカーは十六夜さんだけで充分ということですか?」

 

「そうね。咲夜がいれば何とでもなるわ。だから必要なのは私たちが自分の身を守る術だけね」

 

「必要以上に私から離れず固まっていれば大丈夫ですが、対処法があるならそれも用意した方がよろしいかと」

 

「それもそうだ。串灘さん、叉木さん。これから俺たちが戦う敵について何か知っていることはないか? 神樹の森に関わりの深いあんたたちなら何か掴んでいるんじゃないか?」

 

 白夜がふたりに問いかけると、叉木が口を開きます。

 

「多分そいつは強い光に弱い。夜に数回あの光のようなものに遭遇したが、持っていた大型の懐中電灯の光を浴びせ続けたら撃退できた。だから懐中電灯を持っていけば問題はないはずだ」

 

「なるほど、それはいい情報です。森に入るときはみんなで光を放つものを持っていればよさそうですね」

 

「俺の小屋には松明なら沢山あるが、大型ライトは2つしかない。人数分は確保できん」

 

「それならこの民宿にもあります。ひとつだけですが」

 

「問題ない。3つもあれば充分だ」

 

「それに今ならスマートフォンのライトもありますからねぇ。あれ結構明るいんですよ?」

 

「ほかに情報はあるかしら?」

 

「……すまない。思い当たるのはこれくらいしかない」

 

「ふぅん、まあ充分ね。その光に対しての現状対抗手段はこれしかないみたいだし、ほかに何をやっても無駄でしょう。あとほかに危惧することはあるかしら?」

 

「思ったんですけどミツクビ様の対策はどうなんですか?」

 

「ミツクビ様は森にもともと住んでいる神様だし、私たちはミツクビ様にケンカを売るつもりはないんだろう? 何もしなければ襲い掛かってこないんじゃないか?」

 

「まぁそうね。ミツクビ様に関しては大丈夫と信じたいわ。むしろ森にいる侵入者を排除してあげるんですもの。咲夜もいるんだし、力を貸してくれてもおかしくないはずよ」

 

「なるほど、じゃあ大丈夫そうですね。考えすぎちゃっていたみたいです」

 

 話は纏まりましたか? 今までの話から察するに、今晩あなたたちは神樹の森に入って決戦を挑む、ということですね。咲夜の力を解放させて、大型ライトなどの明かりを片手に。

 

「まぁそうだな。行くのはもっと夜遅くでいいだろう。敵が堂々と行動し始めるのは夜中だろうし、叉木さんも協力してくれるんだろ?」

 

 そうですね。ここまで話を聞いていた叉木も積極的に協力してくれます。自分はどうすることもできないと弱さを嘆いていた武彦も、あなたたちならサクヤヒメを助けてくれると信じて決戦に協力してくれます。

 具体的に何をするかですが叉木は生命の木までの道案内を、武彦は大型ライトで光のような生物の迎撃をしてくれます。《STR》は叉木が17、武彦も11ありますのでいざとなれば物理的な戦闘にも参加してくれるでしょう。また叉木は猟銃を使うことができます。

 

「よし、なんだかんだで使えるわ。さすがにこれ以上人数を増やしたら脱落者が出そうだし、これ以上の増援は不要ね。というか認めない。咲夜の本当の姿を晒すのはこのメンバーだけにとどめておきたいから」

 

「まぁな。この島の警察を総動員させる手も考えたんだが、どう考えても十六夜さんの力を頼ったほうがいいからヤメだ。もう決めることはないか?」

 

「ないんじゃないですか? とりあえず夕食にしません? 腹が減ってはなんたらって昔の人も言っていましたし」

 

 現在時刻は6時半です。武彦の昔話やら十六夜咲夜の正体やら今後の方針やらの話をしていれば一時間半くらい時間は消費するでしょう。ちょうど夕食時です。

 

「うむ、ではアリアの言う通りご飯にしよう。いい時間だ」

 

「そうね。ちょっと重くなった雰囲気を軽くするために私が言いましょう。ふぅ、なんだか真剣なお話をしていたらお腹が空いちゃったわね。あら、もうこんな時間」

 

 ではそのレミリアの言葉を聞いて武彦が立ち上がります。

 

「そうですな、夕食にしましょう。本当は豪勢なものを用意したかったのですが……消化の良いものを用意させていただきます」

 

「だな。胃がもたれて動きづらいなんて笑えねえし、それで頼む」

 

「あ。私人間の姿に戻っていいですか? 万が一誰かに見られたら嫌ですので」

 

「ああ、そうね。神樹の森に入ったらまたその姿になってちょうだい」

 

「かしこまりました」

 

 それでは皆さんは英気を養うための一環として全員で食堂に向かい、武彦が作ってくれた夕食を腹に詰め込みます。確かに豪勢なものではありませんでしたが、食べやすく活力の付きやすい食材を選んで調理してくれています。

 味付けもずっと民宿を経営し、料理まですべてこなしていることもあって洗練されており、とても満足のいくものでした。レミリアお嬢様もアリアお嬢様も大満足です。

 

「こんな時でもしっかり料理してくれる武彦さんはオーナーの鑑ね」

 

「とってもおいしかったわぁ」

 

 さて、ではちょうど全員が夕食を食べ終わろうかとしていた時、外から誰かが走ってくるような足音が聞こえます。それはこの食堂に近づいてくるようです。

 足音の主は武彦でした。しかし、酷く狼狽し慌てた様子です。武彦は食堂を見渡すとさらに顔色を悪くさせます。

 

「問いかけようか。串灘さんどうした、そんな血相変えて」

 

「なにかあったんですか?」

 

「咲耶が……咲耶が部屋にいないんだ……!」

 

「……は? とりあえず彼の近くに行って詳しい話を聞こう。続けてくれ」

 

「軽いものを作って咲耶の部屋に行ったら布団を抜け出していて……机の上にはこんな手紙が」

 

「手紙? 受け取って内容を確認する。全員に聞こえるように読み上げるぞ」

 

 了解です。では白夜は武彦から手紙を受け取って内容を確認します。そこには、女性特有の若干丸っこい字でこう綴られていました。

 私はすべてを思い出しました。私はこれから“私”を助けに行きます。お父さん、私を育ててくれてありがとうございました。夢幻の白夜さん、そしてツアー客の皆さん、巻き込んでしまってごめんなさい。そして、逃げてください。この島は明日の日没と同時に死ぬでしょう。

 手紙は以上です。まるで遺書みたいだと思うことでしょうね。

 

「まるでじゃなくてまんまですよコレ」

 

「迂闊だったわね、誰かひとりを部屋に残すべきだったわ」

 

「本音は?」

 

「こうなるだろうなと思っていたからPL的には大して驚いていないわ。誰かが部屋に残ってもこうなっていたでしょ?」

 

 はい。何らかの手段を使って部屋から出して抜けさせる手筈でした。

 さて、どうしますか?

 

「彼女を探すのは当たり前だけど……これ間違いなくあそこだよね?」

 

「だな。間違いなく神樹の森だろう。というかそこしか考えられないんだが」

 

「同感だな。急いで神樹の森に向かおう。もしかしたら合流できるかもしれない」

 

 では皆さんは神樹の森に向かうということでいいですね。

 それではあなたたちは民宿から出て……夜の神樹の森に向かいました。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.8

 串灘咲耶が行方不明になり、神樹の森に向かったと考えたあなたたちは夜の島を走ります。

 時刻は8時になろうとしており、いくら夏といっても太陽は沈み、すっかり暗闇に包まれています。島ということで街灯も少なく、相変わらず厚い雲に覆われているため月明かりもなくいつにも増して暗いです。

 

「全員でライトを点けて走っているから大丈夫だろう」

 

 そうですね。探索者の皆さんはスマフォで、武彦は大型のライトを、叉木は何も持っていませんが道は覚えているので問題なく神樹の森に向かっています。島を走り抜け、わずか5分足らずで花宮神社に辿り着くことができました。花宮神社の奥……神樹の森と叉木の家に向かう道は心なしか、今まで走ってきたところよりもさらに暗く感じます。

 あと少しで神樹の森に着く……というところで、あなたたちは前方に緑色に光る人型を見つけます。暗がりのためしっかり確認することはできませんでしたが、確信することでしょう。あの人型は間違いなく串灘咲耶であると。

 しかし様子がおかしいです。おそらく真っ先に声をあげた武彦に反応せずゆっくり、ゆっくりと神樹の森に歩を進めています。近づくにつれ、彼女の髪の毛が茶髪から銀髪に変わりつつあることにあなたたちは気が付くでしょうが、いったいどういうことでしょうか。

 こちらは走って追いかけていて、向こうはゆっくりと歩いているのにもかかわらず一向に追いつくことができません。距離感覚がおかしいのでしょうか。さっきまで彼女がいたと思われる場所に辿り着いた時には、彼女はすでに神樹の森の中。神樹の森の前に着いた時にはもう彼女の姿は見えなくなってしまっていました。

 それからもうひとつ。また白夜の胸ポケットが光っています。例の御守りが光を発しているのです。

 

「……とりあえず冷静になろうか。そうだな、まず叉木さんには大型ライトを持ってきてもらおう」

 

「松明は?」

 

「火なんて危なっかしいもん使えるか。スマフォで充分だろ」

 

「同感ね。それから咲夜、もう大丈夫だから変身してちょうだい」

 

「かしこまりました。……はい、変身完了です。ついでに武器の豊穣神の蔦も装備します」

 

 では少しの間叉木の小屋の前で待機していますと、数分経って叉木が小屋から出てきました。森に紛れるための服を着て猟銃を背負い、大型ライトを2つ。そして4人分の蛇取り棒を持ってきます。

 

「大型ライトは嬢ちゃんたちが使うといい。男にはこの蛇取り棒を渡そう。蛇も出るからないよりかはマシだ。使い方を説明する。十六夜さんには……いらんだろう」

 

 白夜とタカトシの両名は叉木からレクチャーを受け技能《蛇取り》を40ポイント差し上げましょう。それを使って成功すれば追い払うことができます。叉木の《蛇取り》は自動成功、武彦は80パーセントで成功です。

 また万が一毒蛇に噛まれた場合はすぐに叉木に話しかけてください。彼は応急手当て用の薬を持っていますので、言えば適切な処置をしてくれます。ただし噛まれた場合、初回限定として0/1D3の《SAN》チェックが待っています。不定の狂気にも充分注意するように徹底してください。

 ところでこちらが勝手に役割分担させちゃいましたが、大丈夫ですか? リアルを想定した配分なのですが。異議のある方はいますか?

 

「「「「「「異議なし」」」」」」

 

 ありがとうございます。それでは……参りましょうか、夜の神樹の森に。

 さて、ここからスタートして生命の木を目指すわけなのですが……当然、簡単に辿り着かせはしません。特殊ルールに則り、辿り着くかどうかの判定をこちらが下します。

 特殊ルールの説明をします。

 

 ここから夜の神樹の森の探索をするわけなんですが、逐一《ナビゲート》で判定をしていただきます。ただし、夜の森の探索ということで、皆さんには-50パーセントの修正を受けてもらいます……というのがもとのシナリオなのですが、ちょっと修正値が大きすぎるので今回は-30パーセントで行かせていただきます。

 よってシノと咲夜の両名が判定に参加することができます。NPCでは叉木が判定に参加します。叉木の《ナビゲート》の成功確率は60パーセントで固定です。

 今回は全員が照明器具を持っているためPCに限り+10パーセントの修正を、また、シノは神樹の森に来た際《ナビゲート》で成功しているのでさらに+15パーセントの修正を許可します。

 

 先へ進むには《ナビゲート》で成功していただく必要がありますが、それはすべて非公開ロールとしてGMが処理します。叉木は確定で判定に参加します。叉木に一任するもよし、みんなで議論するもよしです。時間制限はありませんのでご安心ください。

 判定の結果は非公開ロールなのでお教えしません、『あっち』と『こっち』、さらに3人で判定し特殊判定が出た際には『そっち』を追加して、どの方向に進むべきだと思ったかだけをお伝えします。

 

 《目星》《聞き耳》の判定を認めます。《ナビゲート》判定後に希望があるならダイスロールしていただいて構いません。成功した場合は情報を与えます。失敗した場合は何もわかりません。クリティカルもファンブルも何もありません。

 ただし《目星》判定は暗闇につき-20パーセントの修正をかけます。

 

 ※ここからは読者様のみに説明します。実際のセッションでPLには説明していません。

 生命の木に辿り着けるかどうかですが、《ナビゲート》判定を3回クリアし、正しい道を進まなければいけません。何回失敗しても構いません。

 ……しかし、このセッションでは十六夜咲夜が神様モードになっているので、難易度を上げて倍の6回成功しなければ辿り着かせないようにしています。

 

 また、向かう先の道で発生するイベントがありますが、これも難易度を上げています。本家では40パーセントで何も起こらないのですが、このセッションではどの目が出ても絶対にトラブルが起こるように設計しています。

 GMはここでレミリアの正気度や体力を削ってキャラロストさせようとしています。レミリアをキャラロストさせてしまえば、咲夜も自動的にキャラロスト(バッドエンドに直行)するので、それを狙っています。殺意高いですね。

 まぁ、巨大な力にはそれなりのリスクがあるということです。……と、いうのは建前で、本当は咲夜の力に安心しているであろうPLたちに緊張感を与えるためにGMが厳しめに調整をしているだけです。

 皆さんは変に難易度を上げたり、使い勝手のいい神話生物をPCに加えたりはしないでくださいね。説明終わり。

 

 以上です。まぁ、実際にやってみた方が理解するのも早いと思いますので、さっそくやっていきましょう。

 あなたたちは夜の神樹の森に足を踏み入れました。しばらく道なりに歩きます。

 ……さぁ、最初の判定に行きましょう。聞いておきますがふたりは《ナビゲート》に参加しますか? シノは53パーセント、咲夜は45パーセントなんですが。

 

「参加しよう。50以上なら大丈夫だ」

 

「私も参加します」

 

 了解しました。では以降ふたりもずっと判定に参加していただきます。さて……(コロコロ)(コロコロ)……ふむ。

 それでは判定に行きます。読者の方にはダイス結果を公開します。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 07 成功

 咲夜 《ナビゲート》45 → 07 成功

 叉木 《ナビゲート》60 → 30 成功

 

 それでは最初の判定では『あっち』だと思いました。3人の意見が一致しての決定です。自信をもって進むことができるでしょう。あなたたちは『あっち』の方向に進みます。

 それでは皆さん、《目星》による強制判定の時間です。-10パーセントでお願いします。

 

 白夜  《目星》52 → 14 成功

 シノ  《目星》53 → 93 失敗

 タカトシ《目星》42 → 38 成功

 アリア 《目星》40 → 83 失敗

 レミリア《目星》15 → 75 失敗

 咲夜  《目星》35 → 82 失敗

 

 誰かひとりでも成功していたらオーケーな判定なので大丈夫です。成功者の皆さんは自分たちの足元に何かが迫ってきていることに気が付きました。……蛇です。

 

「うおっと、《蛇取り》で判定するぜ」

 

「オレもします」

 

 この判定は武彦も参加します。誰かひとりでも成功すると、成功者の皆さんの蛇は全部撃退できます。

 

 白夜  《蛇取り》40 → 24 成功

 タカトシ《蛇取り》40 → 69 失敗

 武彦  《蛇取り》80 → 07 成功

 

 それでは叉木、白夜、武彦によって皆さんに迫っていた蛇たちを撃退することができました。

 

「ちょっと落ち着け兄ちゃん。慣れちまえば大したもんじゃねえよ」

 

「ごめんなさい」

 

 (コロコロ)(コロコロ)……さぁ、2回目の《ナビゲート》判定です。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 58 失敗

 咲夜 《ナビゲート》45 → 32 成功

 叉木 《ナビゲート》60 → 95 ファンブル

 

 おおっと、今度はばらけました。シノは『あっち』、咲夜は『こっち』、叉木は『そっち』に進むべきだと思っています。

 

「これ誰かやらかしていないか?」

 

「クリティカルじゃないと思うな。クリティカルだったら正解ルート確定な気がするし」

 

「じゃあ……ファンブったやつがいるなこれ。慎重に行動した方がいい」

 

「こんな時こそ《目星》《聞き耳》でしょう。《聞き耳》の方がいいんじゃないかしら? 《目星》で得られる情報なんてたかが知れているでしょ?」

 

「おまえが《目星》取ってないだけだろうが。……まぁいい。《聞き耳》しよう」

 

「私もやるわ」

 

「私もやります。というか、取っている人は全員やった方がいいのでは?」

 

「ふむ。じゃあ私も振ろうか。ダイスを振るのは好きだ」

 

「オレも振りますね」

 

「私もー」

 

「……全員《聞き耳》は取っていたんだな」

 

 あ、この判定なんですけど、それぞれ判定してもらいますよ? 『あっち』『こっち』『そっち』で。

 

「それは面倒ね。6人いるんだし、分けて判定しない?」

 

「だな。平均して公平に分けよう」

 

『あっち』

 白夜  《聞き耳》63 → 64 失敗

 アリア 《聞き耳》50 → 18 成功

 

『こっち』

 シノ  《聞き耳》55 → 15 成功

 タカトシ《聞き耳》52 → 36 成功

 

『そっち』

 レミリア《聞き耳》63 → 76 失敗

 咲夜  《聞き耳》45 → 67 失敗

 

「……私たち相変わらずダイスの出目大きいわね」

 

「元気出しましょう、お嬢様」

 

 えっと、判定結果なのですが。全員、何も聞こえません。

 

「え? 何にも聞こえないんですか?」

 

「それなら『そっち』には行かない方がいいわね。私と咲夜が大切な何かを聞き逃している可能性があるから」

 

「それなら『あっち』か『こっち』のどちらかですね」

 

「『目星』でも判定しておく?」

 

「いや、これ以上判定しても混乱するだけだろう。《ナビゲート》が高い方を当てにした方がいいんじゃないか?」

 

「それじゃあシノちゃんの『あっち』かしら?」

 

「そうね。それが妥当でしょう。『あっち』に行きましょう」

 

 『あっち』に向かっていいですね? わかりました。それではあなたたちは迷ったのち『あっち』の方向に歩を進めます。全員、《目星》で判定お願いします。ちなみにこの《目星》判定ですが、《ナビゲート》判定の後に必ず起こる強制イベントですので、あんまり身構えなくていいですよ。

 

「いや、身構えなくて大丈夫な要素がないんだが」

 

「むしろ不安になってきたんですが」

 

 白夜  《目星》52 → 52 成功

 シノ  《目星》53 → 33 成功

 タカトシ《目星》42 → 15 成功

 アリア 《目星》40 → 53 失敗

 レミリア《目星》15 → 50 失敗

 咲夜  《目星》35 → 95 ファンブル

 

 咲夜のファンブルは見逃します。というか、この判定ではファンブルもクリティカルもないものとします。

 成功者の皆さんは今進んでいる道の脇に何かが転がっているのを見つけてしまいます。

 視線を落として見てみると、それは人の手でした。しわくちゃで、冷たそうな灰色に変色していた人の手。そのまま視線を動かしていき、その手の主が何かを無意識に確認してしまうあなたたち。それがなんなのかわかっている、そしてそれは見てはダメだ、無視した方がいいとわかっていても、不思議なことにあなたたちはそれを確認してしまいます。

 ソレは、親しい間柄ではないとはいえ見知った顔でした。……そう、あなたたちと一緒に島にやってきて行方不明になったツアー客のひとり。夕方に発見した死体同様、生気を吸い取られたかのように痩せ細り、開ききった瞳孔を晒していました。《SAN》チェックのお時間です。1/1D6です。

 

 白夜  《SAN》47 → 24 成功

 シノ  《SAN》41 → 35 成功

 タカトシ《SAN》42 → 08 成功

 

 誰も心を痛めずですか。薄情ですね。

 

「ほっとけ。夕方に見たから耐性が付いたんだろうさ」

 

「嫌な耐性ね。というかさ、この死体発見イベントなんだけど、最高あと4回よね?」

 

 そうですね。あと見つかっていないのは4人ですので、起こるとしてもあと4回です。あと正気度喪失の数値は変わりませんのであしからず。

 

「はいはい」

 

「あれ、津田くんどうしたの? シノちゃんも。顔色悪いよ」

 

「なんでもないですよ。ちょっと大きめの蛇を見ただけですよ。ねえ天草先輩」

 

「あ、ああ、そうだぞアリア」

 

「そう?」

 

「変に教えて《SAN》チェックさせるわけにはいかねえからな。それが正解だと思うぜ」

 

 そうですね。失敗した人は特に死体に気づくことなくスルーします。誰か発狂したりしたら気づいてしまうかもしれませんけどね。

 

「武彦さんと叉木さんの判定はしないんですか?」

 

 してほしいならしますが、いいんですか? 大の大人ふたりが発狂したりしても。叉木に至っては猟銃持っているんですが?

 

「やめておきましょう。GMの心遣いに甘えましょう」

 

「そうですね。そうしましょう」

 

 わかっていただけて嬉しいです。さてさて(コロコロ)(コロコロ)……3回目の判定のお時間ですよ。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 31 成功

 咲夜 《ナビゲート》45 → 86 失敗

 叉木 《ナビゲート》60 → 07 成功

 

 シノと叉木が『こっち』、咲夜は『あっち』に進むべきだと思いました。

 

「この場合は多数決でいいでしょう。私は2人に従います。他の人はなにかありますか?」

 

「私は大丈夫よ」

 

「俺もそれでいいと思う。外れても恨みっこなしだ」

 

「オレも文句ありません」

 

 わかりました。では咲夜は自分が間違っているかもしれないと身を引き、『こっち』の方向に歩いていきます。《目星》判定のお時間です。

 

 白夜  《目星》52 → 87 失敗

 シノ  《目星》53 → 67 失敗

 タカトシ《目星》42 → 28 成功

 アリア 《目星》40 → 18 成功

 レミリア《目星》15 → 78 失敗

 咲夜  《目星》35 → 19 成功

 

 では成功者の皆さんは行方不明になっていたBグループのツアー客の変死体を発見してしまいます。咲夜は免除しましてタカトシとアリア、1/1D6の《SAN》チェックです。

 

 タカトシ《SAN》41 → 07 成功

 アリア 《SAN》36 → 20 成功

 

 また成功ですか。もうちょっと騒いでもいいんですよ?

 

「ダイスの女神様に好かれているんですよ。……あれは、また……」

 

「あれって……っ! み、見なかったことにしましょう……」

 

「私は特に心は揺るぎません」

 

 それでは(コロコロ)(コロコロ)……4回目の判定に入ります。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 38 成功

 咲夜 《ナビゲート》45 → 50 失敗

 叉木 《ナビゲート》60 → 79 失敗

 

 シノは『あっち』、咲夜と叉木が『こっち』に進むべきだと思いました。

 

「私が引こう。『こっち』に進もう」

 

 わかりました。では皆さんは『こっち』の方向に歩いていきます。続きまして《目星》判定です。

 

 白夜  《目星》52 → 88 失敗

 シノ  《目星》53 → 11 成功

 タカトシ《目星》42 → 57 失敗

 アリア 《目星》40 → 04 成功

 レミリア《目星》15 → 71 失敗

 咲夜  《目星》35 → 15 成功

 

 では成功者の皆さんは自分たちの足元に近づいてくる細い影を見つけます。……蛇です。毒蛇が数匹あなたたちに牙を剥いて迫ってきます。

 

「「津田(くん)、蛇!!」」

 

「えっ!? 蛇ですか!?」

 

「見つけたので私も蔦を使って応戦します。ただしお嬢様に向かってくる蛇を優先して迎撃します」

 

 咲夜は自動成功ですので男性陣の《蛇取り》判定が失敗したとしても、レミリアにはノーダメージとします。それでは男性陣《蛇取り》で判定どうぞ。

 

 白夜  《蛇取り》40 → 11 成功

 タカトシ《蛇取り》40 → 20 成功

 武彦  《蛇取り》80 → 03 クリティカル

 

「こうっ、ですかね」

 

「そうそうそんな感じだ」

 

 頼りになりますね。気持ち低めの数値なんですが。武彦に至っては無駄にあらぶっていますし、多分サクヤヒメを助けようと躍起になっていそうですね。

 (コロコロ)(コロコロ)さぁ、5回目の判定の時間です。

 

「ねぇ、まだ着かないの?」

 

 まだ着きませんよ。難易度を最高レベルに調整していますから、簡単には辿り着かせません。ちなみに難易度ノーマルでもまだ辿り着いていません。

 

「マジか、結構険しい道のりだなぁ」

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 81 失敗

 咲夜 《ナビゲート》45 → 55 失敗

 叉木 《ナビゲート》60 → 42 成功

 

 シノと咲夜が『あっち』、叉木が『こっち』に進むべきだと思いました。

 

「多数決か経験者の意見に従うかだな」

 

 叉木は反対されても特に気分は害しません。自分も間違うことはあるので、柔軟にあなたたちの意見を受け入れてくれるでしょう。

 

「……どうする? 個人的には叉木さんに従いたいんだが」

 

「ふむ……では私も引きましょう。叉木さんの方が《ナビゲート》の補正が高いですし」

 

 わかりました。ではここは叉木の言うことが正しいと信じて『こっち』へ向かいます。(コロコロ)……さぁさ、《目星》の強制判定の時間ですよ。

 

「? 1D6を挟んだ? 新しいイベントか?」

 

 白夜  《目星》52 → 22 成功

 シノ  《目星》53 → 76 失敗

 タカトシ《目星》42 → 13 成功

 アリア 《目星》40 → 81 失敗

 レミリア《目星》15 → 65 失敗

 咲夜  《目星》35 → 24 成功

 

 チッ、一発で気が付きましたか。

 それでは成功者の皆さんは一瞬ですが、前方で何かが虹色に光ったことに気が付きます。そして白夜、あなたはそれに反応して咄嗟にその場から離れます。するとさっきまで白夜が歩いていた場所には、虹色に光る何かが蠢いているではありませんか。

 

「うおっと、奇襲かよ! あっぶねえな!」

 

「ついに向こうが直接手を出してきたわね」

 

 白夜の反応とその生物が放つ輝きにより皆さんはソレを直視してしまうでしょう。

 ソレは固体なのか、液体なのか、はたまた気体なのか、どれにも該当しそうでどれにも当てはまらない矛盾に満ちていました。掴めば捕まえられそうですが、捕まえた瞬間にするりと指と指の間から滲み出てしてしまいそうな、有体の表現で表すとするなら「ふわり」としたなにか。

 虹色に光っていると思ったあなたたちですが、よく見るとその色合いはあなたたちの知るどの色とも合致しない。撹拌していない淡色の塗料たちをごちゃ混ぜにしてそのまま宙に浮かせた、という表現が適切であるかも怪しい、常識では理解しえない取り合わせの色をソレは放っている。

 しかしひとつ、わかってしまうことがある。それはソレが生物であるということ。

 だけどあなたたちは知らない。定まった形がなく、明確な実体があるのかすらもわからず、見たことのない様々な色を発している生物など。

 どこか別の星からやってきた、地球のすべてを冒涜するような色彩を放つなにか……。名付けるとするなら、あなたたちは全員共通してこう名付けるであろう――『宇宙からの色』と。

 『宇宙からの色』は光る。その輝きは、極上の獲物を見つけた野生の肉食獣のごとく獰猛な笑みのように思えた。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.9

 さぁやってまいりました、神話生物『宇宙からの色』でございます。そして《SAN》チェックです。0/1D4です。しかしレミリア、あなたは昨日この宇宙からの色に攻撃されているので1/1D6とします。発狂してもおかしくありませんからね。

 

「はーい……」

 

 白夜  《SAN》46 → 38 成功

 シノ  《SAN》40 → 02 クリティカル

 タカトシ《SAN》40 → 26 成功

 アリア 《SAN》35 → 96 ファンブル

 レミリア《SAN》50 → 71 失敗

 

 クリティカルですかぁ。では次の戦闘ラウンドに突入した場合シノを標的にするのは最後にするとします。ファンブルを出したアリアは1D6で判定してください。ショックが大きかったということにします。

 

「(コロコロ)……あ、ごめんなさい。6だわ」

 

「(コロコロ)……やっば、5」

 

 盛り上がってまいりました。ふたりとも《アイデア》で判定をお願いします。それからアリア、あなたはあと1点正気度を失ったら不定の狂気を発症します。気をつけてください。

 

「気を付けられるものじゃないと思うんだけどな……」

 

 アリア 《アイデア》55 → 81 失敗

 レミリア《アイデア》75 → 51 成功

 

「女神様ぁ!」

 

「チッ、まぁそうよね。頭いいもの私」

 

 初発狂記念としまして5パーセントの《クトゥルフ神話》技能をプレゼントします。まぁ、ほかの人達にも3パーセントの《クトゥルフ神話》技能を差し上げましょう。

 それではレミリア、発狂の種類を決定します。1D10をどうぞ。

 

「(コロコロ)……5」

 

 5番は極度の恐怖症です。これから戦闘ラウンドに入りますので1D6を振っていただき、出目と同じラウンド数行動不能とします。1D6をお願いします

 

「(コロコロ)……1。よし、まだ女神は私を見放していないわ。とりあえずロールプレイしましょうか。あ、あれって……咲夜」

 

「お、お嬢様?」

 

「ご、ごめんなさい、その、動けないの。怖くて……」

 

「ご安心を、咲夜があなたを御守りします」

 

 はい、というわけでみんな大好き戦闘ラウンドに入ります。《DEX》を教えてください。

 

「8」

 

「8」

 

「11」

 

「15」

 

「14」

 

「16です」

 

 確認しました。シノと白夜は1D100をお願いします。

 

「90」

 

「32」

 

 了解です。戦闘を行う順番は咲夜→アリア→宇宙からの色→レミリア→叉木→津田→武彦→白夜→シノという順番です。NPCである叉木と武彦は基本的に私が操作しますが、やってほしいことがあるのならそちらを優先します。

 続きまして、各PCの場所について伺います。どういう並びで行動していますか?

 

「間違いなく私と叉木さん、十六夜さんが先頭だろう。《ナビゲート》やってるんだしな」

 

「異論はありません。ただ私が一番の戦力なので、ふたりよりも少し前ということにします」

 

「私は咲夜の後ろについて行っているわ」

 

「オレは天草先輩と七条先輩の近くにいます」

 

「じゃあ私は津田くんの後ろでいいかな」

 

「ってことは状況的に俺が最後尾、その前に串灘さんがいるってことにしよう」

 

 ふむ、いいですね。特におかしなところはなさそうです。宇宙からの色は白夜を襲ったので、白夜がいる場所……最後尾付近にいます。つまり先頭に歩いていた人が最も宇宙からの色から遠いです。

 

「待ってGM、固まって移動しているのだから密集陣形のはず。そこまでみんなとの距離はないでしょう?」

 

 そうですね。大型ライトを照らす、《投擲》で物を投げて攻撃するなど遠距離攻撃はラウンド中に移動せずともできるものとします。

 最初のラウンドですが、レミリアは緊張症によって動けません。咲夜はレミリアを守ることを最優先としているので、緊張症が解けるまでレミリアのそばから離れることができません。

 以上、この状態で戦闘ラウンドに入ります。

 

「まずは私から……ですが、怖がっているお嬢様を守るのでパスします。もし宇宙からの色がお嬢様を狙ってきたときは迎撃します」

 

「次は私ね。巨大ライトを宇宙からの色に照射するわ。効果はどう?」

 

 宇宙からの色は巨大ライトを当てられると、その光を嫌がっているらしくぬるぬると動き回っています。効果はあるようですが消滅する気配はなく、撤退もしません。

 さぁ、宇宙からの色の攻撃です。(コロコロ)……宇宙からの色は津田くん、あなたに向かっていきます。

 

 宇宙からの色《エサにする》?? → 22 成功

 

 成功です。攻撃から逃れるには《回避》で成功する必要があります。ダイス振ります?

 

「振るに決まっているでしょう!」

 

 タカトシ《回避》22 → 81 失敗

 

 まぁ技能に振っていないとそうなりますね。津田は宇宙からの光に取り憑かれ、ヌメヌメした気持ち悪い感触に包まれます。肉体的ダメージ判定に参ります。1D6のダメージです。

 

 1D6 → 2

 

 タカトシ《耐久力》16 → 14

 

「いっ……!?」

 

「津田ぁっ!」

 

「津田くん!」

 

 まだまだ攻撃は止まりませんよ。津田くん、あなたの《MP》はいくつですか?

 

「え? 9ですね」

 

 ではあなたは《STR》《CON》《POW》《DEX》《APP》をそれぞれ1ポイント失います。

 

「はぁっ!?」

 

 いやぁ、宇宙からの色の攻撃をまともに受けたのっていつ以来でしょうか。まぁそういうリアクションになりますよね。

 津田は宇宙からの色に纏わりつかれズキズキとした痛みを全身に感じます。しかしそれ以上に、肉体的なダメージ以上に、自分の中のなにか大切なものが吸い取られていくような感覚を味わいます。一刻も早く、この光を遠ざけなければいけませんが自分ではどうすることもできず、こうしている間にもどんどん何かを吸い取られていくような感覚に襲われていきます。

 《SAN》チェックです。1D3/1D6でお願いします。

 

 タカトシ《SAN》40 → 94 失敗

 

「(コロコロ)……3。う、うわぁああ、って情けなく叫ぶ!」

 

「まぁ、そうなるわよね。仕方がないわよ」

 

「いいから助けてください!」

 

「次は私なんだけど、ごめんなさいね。緊張症になっているから動けないわ。パスよ」

 

 続きまして叉木の行動です。……てちょっと待ってください。津田は眼鏡をかけていましたよね? 眼鏡が外れたかどうかの判定をします。《幸運》でロールしてください。

 

 タカトシ《幸運》45 → 01 クリティカル

 

 なんでこんなどうでもいいところで良い目を出すんです? じゃあ津田くんはこのシナリオでは眼鏡が壊れるかどうかの判定を免除します。面倒だったのでGM的にも嬉しい誤算です。

 さて、叉木の行動でしたね。彼もアリアに倣い、津田を助けるために急いでスマフォのライトを宇宙からの色を照射します。しかしまだ、宇宙からの色は津田の体から離れることもしません。

 津田の番になりましたが、宇宙からの色による攻撃を直に受けていますので飛ばします。武彦の番です。

 武彦も自分が持っていたスマフォのライトを宇宙からの色に照射します。すると、宇宙からの色は耐えきれなくなったのか、津田の体を離れて森の奥へと逃げていきました。戦闘終了です。レミリアさんは緊張症から解放されます。

 

「……ごめんなさい。体が固まっていたわ」

 

「ああ、お嬢様。御無事で」

 

「私のことはいいわよ。津田さん、大丈夫なの?」

 

「はぁ……はぁ……ええ、なんとか……」

 

 まだ軽傷ですね。顔色が悪くなっていますが、すぐに良くなるでしょう。宇宙からの色に吸収されたものは戻りませんが。

 

「あれはとんでもないやつです。なにか、オレの中から大切なものが吸い出しているようでした」

 

「……なぁ、本当に大丈夫なのか?」

 

「歩ける?」

 

「……こういうことを言うとすぐにボケそうな先輩たちがガチで心配してくれている」

 

「流石にふざけている場合じゃないからな」

 

「緊急事態だからね、真面目にいくよ。いつにも増してGMの殺意が高いしね」

 

 えー、そうですか? 結構あなたたち私に殺されていません? 小説にしているのは全員無事に生還しているからアレですけど。

 

「難易度的には高い方だろ。まぁ、ヤバかったがいい情報が来た。奴は大型ライトひとつとスマフォのライトふたつを照射すれば逃げる。多分大型ライトをふたつ照射させても同じ効果が得られるだろう」

 

 あ、気付きました? そうですよ。意外と簡単でしょう?

 

「いや、不意打ちがあるから何度も繰り返されたら流石にマズい。ライトを照らすだけだから何の技能もいらないだろうが、何かの拍子にライトが壊れたりしたらたまったもんじゃない。加えて俺は夜に弱いんだ。時間かけていると眠気に襲われちまう」

 

 あ、そういえばそんな設定ありましたね。でも大丈夫です。眠気に襲われ始めるのは10時半からですから。まだまだ全然平気ですし、眠気が吹っ飛ぶようなことが起きれば万事解決ですよ。さて、ではそろそろ先に進みましょうか。

 自分たちを狙う敵がついに正体を現し、仲間が襲われたあなたたち。不安な気持ちを募らせつつ夜の森を進んでいきます。(コロコロ)(コロコロ)……さぁ、6回目の判定です。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 50 成功

 咲夜 《ナビゲート》45 → 79 失敗

 叉木 《ナビゲート》60 → 45 成功

 

 シノと叉木は『あっち』、咲夜は『こっち』に進むべきだと思いました。

 

「「「「「「『あっち』に進みましょう(むぞ)」」」」」」

 

 わかりました。(コロコロ)……では続きまして《目星》をお願いします。

 

「ここでダイスを振るってことはだ」

 

「また来るみたいね」

 

 白夜  《目星》52 → 05 クリティカル

 シノ  《目星》53 → 16 成功

 タカトシ《目星》42 → 08 成功

 アリア 《目星》40 → 27 成功

 レミリア《目星》15 → 55 失敗

 咲夜  《目星》35 → 16 成功

 

 あらら、なんかこの判定の時は皆さんダイスが冴えていますね。宇宙からの色が襲来します。不意打ち対象は天草シノ、あなたです。ただし《目星》が成功しているので不意打ちを回避しました。

 戦闘ラウンドに入ります。《DEX》値の変動がありますので、津田と武彦の行動順が入れ替わります。今回は先頭を歩いていた人が宇宙からの色に近いです。

 

「私から行動です。豊穣神の蔦で攻撃します。ダブルストライクです。捕らえて《POW》を吸収します」

 

 宇宙からの色は逃れようと動き回ります。《DEX》対抗です。成功すると捕縛します。

 

 咲夜 《DEX》対抗 60 → 97 ファンブル

 

「なっ!?」

 

 あららファンブルですか。本当は二段攻撃なんですがそれも失敗したものとします。宇宙からの色は咲夜の攻撃を華麗に回避しました。

 

「じゃあ次は私ね。大型ライトを照射するわ」

 

 了解です。宇宙からの色は嫌がっています。まだ撤収しません。

 宇宙からの色の攻撃です。攻撃対象は(コロコロ)……おやまあ、味を占めたみたいです。津田くん、君にラブコール。どこか嬉々とした感じで迫ってきます。その勢い、かつての生徒会顧問教師、横島ナルコのごとし。

 

「貞操の危機を感じるんですが……ってマジですか!」

 

 宇宙からの色《エサにする》?? → 14 成功

 タカトシ 《回避》20 → 64 失敗

 

 はいはい、ダメですねー。上から5つのステータスを1減少させてください。さらに肉体的ダメージ判定参ります。

 

 1D6 → 6

 

 ……あっ、やっば。本気出しすぎたかも。

 

 タカトシ《耐久力》14 → 08

 

「ぐはっはっ!?」

 

「津田さん!? 今助けるわ! 大型ライトを照射する!」

 

 それでは2つの大型ライトを当てられた宇宙からの色は撤収します。しかしどこか満足気です。戦闘終了です。

 

「ひ、酷い目に遭った……」

 

「なぁ、GM。津田は大丈夫なのか? ダメージ6って結構ヤバいダメージじゃなかったか?」

 

「パンチやキックで人がぶっ飛ぶのが5からだったはずだから相当なダメージよ。というか気絶の一歩手前じゃない」

 

「GM、このダメージは《応急手当》できますか?」

 

 できるはずです。そういえばあなた、治癒魔法なくても《応急手当》はありましたね。

 

「そうです。純粋なヒーラーなんですよ。それに持ち物に応急キットもあります」

 

 よろしい。+20で判定してください。

 

 咲夜 《応急手当》70 → 20 成功

 

 1D3の耐久力回復です。

 

「(コロコロ)……よし、3です」

 

 タカトシ《耐久力》08 → 11

 

「ふう、これで少しはマシになったでしょう」

 

「ありがとうございます……これでなんとか歩けそうです」

 

「いえ、肝心のアタッカーである私が攻撃をスカしたせいですから……申し訳ございません」

 

「大丈夫ですって」

 

 ああ、よかった……ちょっとやりすぎたかなと寒くなりましたよ。瀕死でもまだ生きててもらわないと。まだまだボス戦が待っているんですから。

 連続での戦闘、そして傷つき弱っていく津田を庇いつつ、あなたたちは先に進みます。……あ、一応撤収することはできますよ? 時間はかかりますが。

 

「そんな悠長なことしていられるか。だったらこのまま進んだ方が安心だろう」

 

 そうですね。私としてもそっちの方がいいと思います。ですのでこのまま続行させていただきます。(コロコロ)(コロコロ)……ふむ。では7回目の《ナビゲート》判定に参りましょう。

 

「まだ着かないのか……」

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 96 ファンブル

 咲夜 《ナビゲート》45 → 86 失敗

 叉木 《ナビゲート》60 → 29 成功

 

 おやおやおや。意見が割れました。シノは『あっち』、咲夜は『こっち』、叉木は『そっち』に進むべきだと思いました。

 

「また誰かがやらかしたな」

 

「《聞き耳》で決めていいんじゃないか?」

 

「宇宙からの色のことも考えると《目星》も併用すべきだろう」

 

「ああ……そうね。《目星》、必要ね確かに」

 

 どちらもやるということでいいですね? ではまず《聞き耳》から判定しましょう。

 

『あっち』

 白夜  《聞き耳》63 → 33 成功

 アリア 《聞き耳》50 → 19 成功

 

『こっち』

 シノ  《聞き耳》55 → 00 ファンブル

 タカトシ《聞き耳》52 → 92 失敗

 

『そっち』

 レミリア《聞き耳》63 → 20 成功

 咲夜  《聞き耳》45 → 98 ファンブル

 

 怖い出目がいっぱいですが何もありません。えー、まず『そっち』ですが何も聞こえません。『こっち』も当然何も聞こえません。そして……『あっち』なのですが、その……シュルルルッという蛇の声らしきものが微かに聞こえます。足元を見ても蛇らしいものがいないのに、なぜかそんな音が耳に入ってきた気がします。

 

「これは天草さんがやらかしたな。『あっち』は危険だ。絶対に行かない方がいい」

 

「シノちゃん、『あっち』は違うんじゃないかな? って忠告してみるよ」

 

「ん? そうか。アリアが言うなら違うのかもしれんな。私は引くぞ」

 

「じゃあ残りは『こっち』と『そっち』なんだけど……どっちに行く?」

 

「《目星》で決めようぜ。宇宙からの色に遭いたくないし、この感じじゃあ違う道なら何回も選んで大丈夫そうだしな」

 

「それもそうね。じゃあまた分かれて《目星》をしましょうか」

 

 -20パーセントの補正をかけて判定してください。

 

『こっち』

 白夜  《目星》42 → 11 成功

 アリア 《目星》30 → 34 失敗

 レミリア《目星》05 → 30 失敗

 

『そっち』

 シノ  《目星》43 → 24 成功

 タカトシ《目星》32 → 13 成功

 咲夜  《目星》25 → 85 失敗

 

 オーケーです。では『こっち』ですがチラリと虹色の光が見えたような気がしました。『そっち』は何も見えません。

 

「おい、『こっち』は行かない方がいい。奴がいるのをちらっとだが見えた」

 

「本当? 全然見えなかったわ」

 

「だって《目星》たったの5ですものレミリアさん」

 

「『そっち』は何も見えませんし、大丈夫そうです」

 

「ああ、津田の言う通り。『そっち』には何もないと思うぞ」

 

「私にも何も見えませんでした。しれっと失敗したことを誤魔化して便乗します」

 

「決まりだな。叉木さんの言う通り、『そっち』に行こう」

 

 不気味な蛇の気配と宇宙からの色を避け、あなたたちは叉木の言う『そっち』の方向に歩きだします。……それでは《目星》をどうぞ。こちらは-10パーセントですよ。

 

「知っているぜ」

 

 白夜  《目星》52 → 09 成功

 シノ  《目星》53 → 88 失敗

 タカトシ《目星》42 → 48 失敗

 アリア 《目星》40 → 09 成功

 レミリア《目星》15 → 12 成功

 咲夜  《目星》35 → 39 失敗

 

「あらぁ、初めて《目星》に成功したわぁ」

 

 おめでとうございます。良いものを見つけましたよ。行方不明になっていたBグループのツアー客の変死体です。見つけた御褒美の《SAN》チェックです。成功者全員、1/1D6でお願いします。

 

 白夜  《SAN》46 → 39 成功

 アリア 《SAN》29 → 02 クリティカル

 レミリア《SAN》45 → 37 成功

 

 クリティカルですか。じゃあアリアは《SAN》値減少はさせないでいいです。《目星》が失敗したということにしましょう。

 

「……チッ。やっぱいなくなっちまったやつらはダメか。ぼそっと小さく悪態をつくぜ。後ろにいんだし聞こえねえだろ」

 

「……私は心の中で、お気の毒にと合掌するわ。本当に残念よ」

 

 (コロコロ)(コロコロ)……それでは8回目の判定です。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 77 失敗

 咲夜 《ナビゲート》45 → 81 失敗

 叉木 《ナビゲート》60 → 99 ファンブル

 

(あ、これヤバいかも)えっと、シノと咲夜は『あっち』、叉木は『こっち』に進むべきだと思いました。

 

「さっきと同じでいいんじゃないか?」

 

「そうですね。叉木さんに従いましょう」

 

(ああ……やっぱり。あと一回成功したら到着だったのに)ではあなたたちは『こっち』に進みます。(コロコロ)……さぁ、《目星》判定です。

 

 白夜  《目星》52 → 38 成功

 シノ  《目星》53 → 92 失敗

 タカトシ《目星》42 → 90 失敗

 アリア 《目星》40 → 52 失敗

 レミリア《目星》15 → 09 成功

 咲夜  《目星》35 → 39 失敗

 

「私のダイスが本気を出してきたわね。さぁ、かかってきなさい」

 

 もう何が来るかわかっているようで結構です。ところがどっこい、宇宙からの色の標的はレミリアではなく天草シノ、あなたです。1D100をどうぞ。《INT》の4倍以内の出目が出たら不意打ちを回避できます。ああ、攻撃を食らいたいなら振らなくてもいいですが。

 

「嫌に決まっているだろうが」

 

 シノ 《INT》×4=68 → 29 成功

 

「むっ……うわっと! あっぶないな!」

 

 ナイス回避です。さぁ、戦闘ラウンドに入ります。ステータスに変動はありますが行動順の変動はありません。今回も先頭を歩いていた人たちが宇宙からの色に近いです。

 

「今度こそ攻撃を当てます。蔦で縛り上げます」

 

 自動成功です。それでは宇宙からの色との《DEX》対抗です。

 

 咲夜 《DEX》対抗 60 → 43 成功

 

 オーケーです。咲夜の攻撃は宇宙からの色に届きました。宇宙からの色は実態を持ちませんので、咲夜は蔦で縛ることを一度諦め、蔦を使って《POW》に直接ダメージを与える戦法に切り替えます。ダブルストライクですので、二回目の行動で宇宙からの色の《POW》にダメージを与えます。1D6のダメージです。

 

 1D6 → 4

 

 おおっと、このダメージは宇宙からの色に効いたらしいです。思わぬダメージを受け、驚いた様子の宇宙からの色は逃走します。戦闘終了です。

 

「まさかダメージを与えてくる敵が来るとは想定していなかったようですね。ふぅ、仕事をしました」

 

「でかしたわ、咲夜」

 

 いやぁ、よかったですね。宇宙からの色を撃退し、少し安心した様子で『こっち』に進むあなたたち。やがてその道は少しずつ狭くなっていき……ぽっかりと空いた大きな洞窟のある場所にあなたたちは辿り着きました。

 

「あん? 洞窟? 生命の木じゃなくて?」

 

 はい。洞窟です。

 

「……ねぇ? 私すっごく、すっごく嫌な予感がするんだけど」

 

「あのGM? ちょっと聞いてもいい?」

 

 どうしましたか? 市民七条。

 

「さっきの《ナビゲート》なんだけど……もしかして叉木さん、やらかしていた?」

 

 さぁ? それはあなたのセキュリティクリアランスに開示されている情報ではないので何とも。

 

「いや絶対やらかしているだろう!?」

 

「なにやってんのこのおっさん! 神樹の森にいったい何年関わっているのよ!」

 

 しかしこの道を選んだのはあなたたちです。あなたたちの意志で、この場所に来たのです。

 この洞窟に辿り着いたとき、あなたたちを先導していた叉木の顔が真っ青になっています。武彦も「お、おい……ここって……」とガタガタ震えています。

 なぜふたりがこんなリアクションをしているのか、いきなりでよくわからないあなたたちですが洞窟に浮かび上がる6つの光を見て、体から温度がなくなっていくような感覚に陥っていきます。

 洞窟の中の6つの光。それらはすべて何かの生き物の眼球でした。しかしその大きさと、背筋の凍るギラギラした輝きから、それがとんでもなく危険な生物であることを本能が全力で告げ警報を鳴らしています。

 そして思い出すのは今日の昼間に聞いた手長ババアのあの言葉。神樹の森の奥の奥にある洞穴。そこにいったいなにが棲みついていると言っていたのか、思い出したくないのにあなたたちは嫌でも思い出してしまうことでしょう。あんなに楽しそうに、自分たちの信じる伝説に出てくる神様の話をされたのですから。

 硬直しているあなたたちの前に絶望が形を成してその姿を現す。信じたくない衝動に駆られるだろう。こんな見上げるほどに巨大な蛇がこの世に存在するなんて。そして人間ひとりを軽く一呑みしてしまうほどの巨大な頭部を3つも持っているなんて。

 3つの頭からテラテラと光る唾液を纏わせる舌を震わせる大蛇。この大蛇こそかの伝説の怪物、八岐大蛇の落とし子であり、この神樹の森の守り神……ミツクビ様であると。

 悟るだろう。伝説は本物であり、こんなバケモノは人の手でどうにかなるような、そんな生易しいものではないと。そして、自分たちは死地に迷い込んでしまったのだと。

 

 

 

 

     ――To be continued…



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Part.10

 さぁ、黙って死ね(頑張って生き延びてくださいね)。

 

「逆ゥー!」

 

 おっと、これは失礼。改めまして蛇王の落胤……ミツクビ様を直視した探索者諸君、《SAN》チェックです。1D3/1D20です。

 

 白夜  《SAN》45 → 53 失敗

 シノ  《SAN》40 → 14 成功

 タカトシ《SAN》37 → 62 失敗

 アリア 《SAN》29 → 79 失敗

 レミリア《SAN》44 → 23 成功

 

「(コロコロ)……10」

 

「(コロコロ)……3」

 

「(コロコロ)……うわ、17です」

 

「(コロコロ)……7」

 

「(コロコロ)……1よ」

 

 大惨事大戦ですね。失敗した皆さん、一時的発狂以前に不定の狂気が発症します。発狂の内容を決定します。順番にどうぞ。

 

「(コロコロ)……8」

 

 8番の不定の狂気は……幻覚や妄想、常軌を逸した振る舞いです。ロールプレイが楽しいでしょうが致命的ですね。

 

「(コロコロ)……9番」

 

「(コロコロ)……あ、私も9」

 

 9番はリアルパラノイア……一時的偏執症です。具体的な症状は被害妄想癖、誇大妄想癖、攻撃性の激化、ナルシシズム、支配欲の増加、サタニズム、被愛型妄想性障害等々です。全部一気にロールプレイしても構いませんが、どれかひとつに絞ってもいいです。お好きにどうぞ。

 続きまして、一時的狂気が発症するかを決定します。まずは《幸運》で判定をどうぞ。

 

 白夜  《幸運》55 → 13 成功

 タカトシ《幸運》45 → 81 失敗

 アリア 《幸運》45 → 17 成功

 

 《幸運》に成功したふたりは《アイデア》チェックは必要ありません。一時的発狂は回避されました。失敗した津田くんは《アイデア》チェックをしてください。

 

 タカトシ《アイデア》60 → 12 成功

 

 あっらら、では津田くんは一時的発狂も併発してしまいます。発狂の種類を決定します。1D10をどうぞ。

 

「(コロコロ)……6番」

 

 おめでとうございます。みんな大好き、自殺癖or殺人癖でございます。

 

「それとリアルパラノイアとのコンボですか……これはもう、絶望しきって自殺するしかないみたいですね。もう……ダメだ。何度もあの光に襲われて、こんなバケモノまで……。あいつに食われて死ぬなら、いっそ……!」

 

「あ、じゃあ私も津田くんに便乗しよう。そうね津田くん……こうなったらふたりで一緒に行きましょう。そうすれば寂しくないわ」

 

「俺も参加するぜ。よし、なら俺が手助けしてやろうじゃねえか。安心しな、急所の捉え方は理解してやる。――なるべく苦しませずに殺してやるぜ」

 

「おいィ! あんたら勝手に死のうとすんじゃないわよ! ひとりずつ《精神分析》してあげるから大人しくしてなさい!」

 

「津田、アリア! 正気に戻れ!」

 

「だ、大丈夫です。交渉の余地があるはずですし、ダメだったら私がなんとかしますのでその隙に逃げてください!」

 

 あー、もうめちゃくちゃですね。カオスなことになっているあなたたちの頭の中に恐ろしい声が響きます。

 

『汝らは酒を持っているか?』

 

「「「「「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」」」」」」

 

 いや、喋ってはいませんね。大蛇はテレパシーのような能力を使って頭の中に直接語りかけているようです。

 

「こいつ直接脳内に……! ていうかネタやっている場合じゃなかったわ。これヤバい状況なのよね。とりあえず咲夜と天草さんはあの大蛇と喋って説得していてくれるかしら? 私はこいつらを治療するわ」

 

「私、《言いくるめ》しかないのですが」

 

「ロールプレイでカバーしなさい、得意技でしょう?」

 

「大丈夫だ。私が《説得》を持っている。なるべく長引かせるように頑張るから、津田たちを頼む」

 

「任されたわ」

 

 やるべきことが決まったようで何より。私は鬼ではないので問答無用で殺しはしません。擬似的な戦闘ラウンドに突入します。それぞれそのラウンドでやりたいことをしてください。と、その前に津田、1D6をどうぞ。

 

「(コロコロ)……2」

 

 では津田は第3ラウンド目で一時的狂気から解放されます。それでは、改めまして擬似戦闘ラウンドに入ります。

 ミツクビ様からの行動です。再度あなたたちに『汝らは酒を持っているか?』と問いかけてきます。

 

「とりあえず私が応じます。初めましてですね、神樹の森の主様。十六夜咲夜という者です」

 

 咲夜のその姿をしっかりと見たミツクビ様は、彼女の方に意識を集中させます。6つの瞳を咲夜に向けるミツクビ様はどこか警戒しているようです。

 

「次は私ね。津田くんとふたりでどこか悟ったような顔をしているわ。白夜さんに殺されることを望んでいる。パスよ」

 

「次は私。とりあえず白夜を正気に戻すわ。《精神分析》よ。あなた警察官でしょうが! 何の罪もない民間人を手にかけようだなんて思うんじゃないわよ!」

 

 レミリア《精神分析》62 → 39 成功

 

 白夜はこのラウンド終了時に正気に戻ります。そして、このラウンド中はレミリアと白夜は一切の行動を禁止します。

 

「助かった。サンキューレミリアさん」

 

「まったく、手を焼かせないでちょうだい」

 

 次は叉木なのですが……なにかさせます?

 

「津田に組み付かせてちょうだい。自殺なんかさせないわ」

 

 了解です。では叉木は「落ち着け」と言いながら津田に組み付きます。えっと、叉木の《組み付き》は……ありゃ、初期値ですか。あると思ったんですがね。

 

 叉木 《組み付き》25 → 82 失敗

 

「とことん使えないわね。次は確か串灘さんでしょう? 組み付かせなさい。対象は津田よ」

 

 武彦も初期値ですね。

 

 武彦 《組み付き》25 → 53 失敗

 

「ええい、この卓の男性PCはどうなっているのよ。情けないわね」

 

「発狂中のオレの番です。所持品の中にカッターナイフがありますのでそれを取り出します。これで……これでオレはっ!」

 

「なんてものを持ち込んでいるんだ、津田ぁ! ちょっと津田が本気で死にそうだから、説得は十六夜さんに任せて私も津田に組み付くぞ!」

 

 シノ 《組み付き》25 → 37 失敗

 

「くそっ! 津田! 死のうとするんじゃない!」

 

「俺の番だがレミリアさんの治療を受けているからスルーだ」

 

 では第2ラウンドに突入します。白夜は正気を取り戻し、1D3の正気度ポイントを獲得してください。

 

「(コロコロ)……よし、3点。……はっ! 俺はいったい何を……」

 

「正気に戻ってくれてなによりだわ。咲夜がバケモノを引き付けているからあの自殺志願者どもを何とかするわよ。手伝いなさい」

 

「あ、ああ……」

 

 それではミツクビ様の行動です。ミツクビ様は咲夜と会話をします。

 

『汝は……あの大樹の意志か?』

 

「最大限の敬意を払いつつ応じるとします。いいえ、私は生命の木とは別の個体でございます」

 

『ほう、あやつと同族か。して、我の質問に答えよ。汝らは酒を持っているか?』

 

「申し訳ございませんが、あなた様に捧げる御神酒は持ってはおりません」

 

『そうか。ならば神聖なるこの場に土足で踏み入れた罪、その命を以って償うとよい』

 

 ミツクビ様が臨戦態勢に入ります。このままでは次のラウンドでミツクビ様は全力であなたたちを排除しに動くでしょう。

 

「いきなり交渉決裂ですか。魔術が使えない今、こんなバケモノが暴れだしたら犠牲者が出てしまいますね。私のラウンドでロールプレイによる説得を試みます」

 

 ふむ、いいでしょう。私としてもメインの最終決戦を迎えずにゲームオーバーにしたくはありません。ロールプレイ次第では暴れだすまでの時間を長引かせる、あるいは見逃してくれるかもしれません。足掻いてみてください。

 

「ではミツクビ様を説得しましょう。とりあえず戦う意思がないことを伝えるために武器はしまいます。あとはどんな切り出し方をするかですが……よし。ミツクビ様、申し訳ございませんが今はあなた様に命を捧げることはできません。あなた様が君臨するこの森を、あなた様を信じるこの島の人々を守るためにも、そしてあなた様を守るためにも、ここで命を散らすわけにはいかないのです」

 

『……なに? この森を、我を守るだと?』

 

 まだ臨戦態勢を維持したままですが、ミツクビ様は咲夜の言葉に耳を傾けています。

 

「私は戦闘ラウンドで2回行動できますよね? 《心理学》で判定していいですか?」

 

 ……許可します。本来はこういった怪物に対しては意味をなさない《心理学》ですが、ミツクビ様は理性のある怪物なのでこの頭に響く声色から感情を読み解けることにしましょう。

 

 咲夜 《心理学》63 → 05 クリティカル

 

「来ましたよ神のクリティカル」

 

 めちゃくちゃタイムリーなクリティカルの出し方をしますねあなた。ミツクビ様は咲夜の言葉を受けて動揺しているようです。生命の木の意志であるサクヤヒメと同格の個体であるあなたを一応は高く見積もっているミツクビ様は、まだ半信半疑ですが予想もしていない危機が自分に迫っているのではと本能を刺激されています。

 

「よし、正しいロールプレイを選択できたみたいですね。本当のことしか言っていませんから私は。これ以上宇宙からの色が力を付ければ太古の大災害と同じことが起こるのは明白。そうなってしまえばミツクビ様も無事では済まないですからね」

 

「ナイスロールプレイよ、咲夜」

 

「悪いんだけど次は発狂中の私。十六夜さんがなんか喋っているけど当然耳に入らない。だってもう終わりだって信じ込んでいるんですもの。津田くん! 死ぬ前に私を先に殺して! って訴えるわ」

 

「面倒なことをしてんじゃないわよ! 自殺志願者のことはとりあえずほっといて刺し殺そうとしているやつから正気に戻すわ! 《精神分析》で津田を正気に戻すわ! 一時的狂気はもう終わるし、不定の狂気をなんとかするわよ!」

 

 レミリア《精神分析》62 → 99 ファンブル

 

「……あ、やっば!」

 

「おいなにやってやがるこのエセ占い師!」

 

 状況が状況、ついつい言葉を間違えてしまったレミリアは津田の精神を安定させることはおろか、さらなる追撃を与えて追い込んでしまいます。津田、1D6の正気度ダメージです。

 

「(コロコロ)……3点。えっと、たしか《精神分析》がファンブルするともう通じなくなるんでしたっけ?」

 

 はい。もうあなたはその人のことを信用できなくなり、《精神分析》は通じません。仮に正気に戻ったとしても関係は冷え込んだものになる……んですが、代わりに一時的狂気を続行させます。《精神分析》は許してあげましょう。二度目はありませんが。

 

「あ、あなたもオレを殺そうとしているんだな……! やっぱりオレはもう死ぬんだ! だったらやっぱりこの手で!……その前に七条先輩も救わないと! レミリアさんを突き飛ばしてカッターナイフを七条先輩に向ける!」

 

「ああ……これは私も強く言えないわね。次は丁寧にやるわ。ごめんなさいね」

 

 叉木と武彦はそんな津田を見て仕方ないと思ったのでしょう。まずはその手に持つカッターナイフを取り上げようとします。《組み付き》で判定します。今回はふたり同時でかかるため+10の補正をかけます。

 

 叉木 《組み付き》25+10 → 13 成功

 武彦 《組み付き》25+10 → 32 成功

 

 両者ともに成功。武器を取り上げてはいませんが、とりあえず津田を抑え込むことには成功しました。

 

「ふたりの組み付きから逃れる! 《STR》対抗です!」

 

 自動失敗です。

 

「離せ! 離せぇっ! 死なせろぉっ!」

 

「俺はパスだ、やることがねえ」

 

「津田……アリア……私もパスだ。《説得》じゃあ正気に戻せないしな。こんな状況でミツクビ様の相手なんてしている余裕がないし」

 

 第3ラウンドに入ります。

 

『木の意志の同族よ、どういうことだ?』

 

 ミツクビ様は咲夜に話しかけてきます。

 

「嘘偽りなく答えます。現在この森には邪な意思を持つ者が潜伏しております。奴は大変狡猾で、自らの力を高めるためにこの森に潜み、人を襲い、生命の木を蝕んでおります」

 

『それは知っているが、それがなんだというのだ』

 

「ミツクビ様は古来よりこの島で人々に祀られていた御方。ならばお耳に入れたことがあるはずです。……この島がかつて大災害に見舞わられ破滅したことを」

 

『……確かに聞いたことはある。我がこの島に来る前の話だったはずだ』

 

「太古の大災害が起こった時の文献が残っております。そこには自然のものでない恐ろしい光が大樹と周りの木々を枯らし、その地に住む生命を刈り取りながら天に昇ったと記録されていました。……あなた様が守護なされている神聖な森を侵した侵入者と類似しておりませんか?」

 

『…………』

 

 ミツクビ様は黙り込んでいます。なにやら思案をしているようです。

 

「では私の番ですね。このまま説得を続けます。私たちはこの地に再び起こるであろう大災害を防ぐため侵入者を排除し、そして私の同類の生命の木を助けにこの森にお邪魔しております。生命の木はすでに弱り切っており限界です。このままではこの島に恵みを齎していた生命の木が枯れ果て……充分に力を蓄えた侵入者はこの地に住む全ての命を奪い去ることでしょう。その中にはミツクビ様、あなた様も含まれていると私は愚考します」

 

『…………』

 

「森の守護神であるあなた様がなぜ侵入者に手を出していないのか。高尚かつ思慮深いあなた様のお考えを察することができない若輩者でございますが、今のこの状況が私たちはおろかあなた様にとっても非常に危険であるということは理解しております。この異変を解決するため、寛大なるあなた様の御心を以って、聖域を侵した私たちをどうか一度お見逃しください。この事件を解決した暁には改めまして、あなた様に捧げる御神酒を携えてここに参上すると約束いたしましょう」

 

『…………』

 

 ミツクビ様は咲夜の言葉を吟味しているらしく、巨大な6つの眼を閉じて唸っています。

 

「次は私ね。ああ、津田くん……あなたが私を殺してくれないなら誰が私を殺してくれるの……?」

 

「誰も殺さないわよ! 生きなさいな! 《精神分析》を津田に仕掛けるわ! 一時的狂気の方を治療するわ! さっきは怖いこと言ってごめんなさい津田さん! お願いだから正気に戻って!

 

 レミリア《精神分析》62 → 25 成功

 

「よし、一時的狂気の方は治療できたわ。あとは不定の狂気ね」

 

 叉木と武彦は津田を組み付いたままです。カッターナイフを取り上げるため《組み付き》で判定します。+10の修正です。

 

 叉木 《組み付き》25+10 → 62 失敗

 武彦 《組み付き》25+10 → 05 クリティカル

 

 おおっと、叉木がクリティカルですか。……ふむ、次は津田のラウンドですがどうせ何もできないでしょうし、代わりにレミリア、追加で行動を許可します。

 

「あら、いいの? じゃあ《精神分析》でチャチャっと治しちゃいましょう」

 

 レミリア《精神分析》62 → 34 成功

 

 オーケーです。津田くんはこの次のラウンド開始時に正気に戻ってください。それからその際、不定の狂気の治療に成功しましたので1D3の正気度を回復していいですよ。

 

「俺はなにもしない。パスだ」

 

「私もパス」

 

 第4ラウンドに入ります。津田は正気度を回復させてください。

 

「(コロコロ)……2点。……すみません、取り乱していたみたいです」

 

「いいのよ。私もキツい言い方してしまって悪かったわね」

 

「いえいえ……ただまだ不安定のようです。次に暴れだしたら気絶させてください」

 

「わかったわ。さて、最後は七条さんね」

 

 その前にミツクビ様のラウンドです。ミツクビ様は閉じていた6つの瞳を開きます。しかし、そこには険悪な雰囲気はなく、理性のある落ち着いたものでした。

 

『……よかろう、木の意志の同族よ。汝の言葉を信じてやろう。今すぐ我の森で好き勝手をしている者を排除しに行くがよい』

 

 ミツクビ様に攻撃の意志はありません。咲夜の真摯な態度と言葉から信用するに値すると判断したのでしょう。住処である洞窟の方へ戻っていきます。擬似戦闘ラウンドを終了します。

 

「はぁ……なんとかなりました」

 

「よくやったわ咲夜。そして七条さん、あなたも正気に戻りなさいな」

 

 レミリア《精神分析》62 → 27 成功

 

「(コロコロ)……3。はぁ……ごめんなさい落ち着きました」

 

「本当、ご迷惑をおかけしました」

 

「津田……アリア、もう死ぬなんて言わないでくれ。本当に悲しかったんだからな!」

 

「ごめんねシノちゃん」

 

「すみません、天草先輩」

 

「ふん、わかればいいんだ!」

 

 いやぁ、よかったですね。とりあえずミツクビ様に喰い殺されることはなくなりましたよ。本当なら問答無用で全滅させていましたが、咲夜という存在のおかげで命拾いしましたね。

 

「元を辿ればあんたがファンブル出すのが悪いんじゃないの」

 

 繰り返しになりますが、それを選んだのあなたたちです。私は強要していませんし、止める義務もありません。まぁいいじゃないですか、結果的に全員無事で済んだんですから。さぁさ、シナリオを進めましょう。

 なんとか狂気に陥っていた人は正気に戻り、咲夜の説得でミツクビ様に見逃された皆さんは、すぐに引き返して元の道あたりに戻り、生命の木に向かって進みます。(コロコロ)(コロコロ)……さぁ、《ナビゲート》の時間です。

 

 シノ 《ナビゲート》53 → 39 成功

 咲夜 《ナビゲート》45 → 07 成功

 叉木 《ナビゲート》60 → 45 成功

 

 お、満場一致で『こっち』に進むべきだと思いました。

 

「なら言うことなしだな」

 

「ですね。『こっち』に行きましょう」

 

 了解です。(コロコロ)……はい皆さん、《目星》のお時間です。

 

 白夜  《目星》52 → 55 失敗

 シノ  《目星》53 → 79 失敗

 タカトシ《目星》42 → 69 失敗

 アリア 《目星》40 → 99 ファンブル

 レミリア《目星》15 → 36 失敗

 咲夜  《目星》35 → 54 失敗

 

「あっらら……」

 

「よりにもよってこの判定で全員失敗……」

 

 まだチャンスはありますよ。アリアは《INT》の4倍でお願いします。

 

「あ、これ私が標的なんだね」

 

 アリア《INT》×4 → 60 失敗

 

 失敗ですか。それでは白夜、《INT》の7倍で判定してください。

 

「ん? 俺か?」

 

 白夜 《INT》×7 → 34 成功

 

 では白夜は森に入ってからずっと光り続けている御守りがより一層強く光った予感がします。そして、その光が細く七条アリアに向かっているように見えました。なんとなくですが嫌な予感がしたあなたは、アリアに回避するように叫ぶことでしょう。

 

「七条さん、右に飛べ!」

 

「え? あっはい」

 

 言われるがまま、アリアは右に飛びます。すると、先程までアリアがいた場所に忌まわしい色彩を放つ光が蠢いていました。間一髪、白夜の直感がアリアを宇宙からの色の不意打ちから守りました。

 

「あ、危なかったわ……」

 

 それでは戦闘ラウンドに入ります。

 

「私からです。蔦を使って攻撃をします。もうコツは掴んだのでダブルストライクを決めさせていただきますよ」

 

 宇宙からの色との《DEX》対抗です。言い忘れていましたが、一度成功すれば追撃は自動成功です。

 

 咲夜 《DEX》対抗 60 → 48 成功

 

「捉えました。喰らいなさい!」

 

 1D6+1D6 → 8

 

 宇宙からの色は咲夜の操る蔦による攻撃を受け、ダメージの入ったように変形し……そして逃げていきました。戦闘終了です。

 

「本当はこれを当てにしていたんだけど、なかなか綺麗に決まらないものね」

 

 綺麗に決まりにくいように設定しているからですよ。鬼畜GMをしている自覚はありますが、そうでもしないと殺せないほど咲夜が強すぎるので致し方なしです。

 咲夜の活躍によって宇宙からの色を撃退したあなたたちは『こっち』の道を進んでいきます。……するとやがて広い空間に出たあなたたちは、光を放つなにかを見つけることができました。

 それは、この神樹の森の御神木……生命の木でした。

 

 

 

 

     ――To be continued…




この時のGMこと射命丸の中の人は、「シナリオがブレイクしまくってる……またアドリブで乗り切らないといけないのか」と胃がキリキリしぱなっしだったそうです。


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苗字ランキング
咲-Saki-編


注意:このゲームはクトゥルフとは一切関連がありません。


 はい皆さん、お揃いですね。

 『苗字ランキングゲーム』を取り仕切らせていただきます、射命丸の中の人です。どうぞよろしく。

 

「「「「よろしくー」」」」

 

「ってちょっと待ってくれ。なんだ、『苗字ランキングゲーム』って。TRPGじゃないのかい?」

 

 ああ、そういえばあなたはやるのを初めてでしたね。ではルールを説明します。

 苗字ランキングゲームとはその名の通り、順番に苗字を出していくゲームです。ただし、次に答える人は直前に答えた苗字よりもマイナーな名字でなければいけません。

 ランキング1位の『佐藤』から始まり、それよりもマイナーに、そしてそれよりもマイナーな苗字を言っていかないといけません。

 

「簡単に説明するならね、私が『高橋』と答えたとするじゃない? それなら次の人は『鈴木』は答えちゃいけないのよ」

 

 『高橋』はランキング3位ですからね。ランキング2位の『鈴木』と答えてしまったらその人は失格となってしまいます。それ以降の順位の苗字を答えなければいけません。ただし、答えられる苗字の範囲を設けます。

 範囲は直前の人が答えた苗字の順位の10倍までの順位の範囲でなければなりません。『佐藤』から始まりますので、最初の人は2位~10位までの苗字を答えます。その人が『高橋』と答えたならば、次の人は4位~30位までの苗字を答えなければいけません。

 

「なるほどな。いきなりマイナーすぎる苗字を言ったら駄目ってことだな」

 

 その通りです。少しずつマイナーな苗字を言っていかなければいけません。下に行けば行くほど答えられる苗字の数は増えますが、逆に答えられない苗字の範囲も広がっていくのでご注意を。

 また、ランキングが1000位を超えた場合、答えられる範囲を10倍から3倍に縮小します。ここら辺からほぼ安心して答えられることが多かったのでそのための処置です。

 

「へぇ、面白そうだな」

 

 ただですねぇ、今回はある縛りを入れます。

 

「縛り?」

 

 はい。初めてプレイするあなたには申し訳ないのですが、他の4人は割とこのゲームを嗜んでおりましてね、ある程度順位を覚えてしまっているんですよ。

 

「少なくとも自分の苗字が何位なのかは覚えたな」

 

 というわけですね、よりスリリングなゲームを体験していただこうということで今回は縛りプレイをしていただきます。

 

「その縛りって何?」

 

 はい。今回皆さんに答えてもらう苗字は、大人気麻雀漫画『咲-Saki-』に登場するキャラの苗字のみに限定します。

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

「待て待てGM、確かに俺たちは全員『咲-Saki-』のアニメは見ているが、苗字なんてそこまで覚えていないぞ」

 

 でしょうね。なので皆さんにはこれから10分だけ時間を設けますので、覚えてください。

 

「マジか」

 

 皆さんにお答えしていただくキャラクターは『清澄高校』『龍門渕高校』『風越女子高校』『鶴賀学園高等部』『阿知賀女子学院』『白糸台高校』『臨海女子高校』『姫松高校』『千里山女子高校』『永水女子高校』『宮守女子高校』『新道寺女子高校』『有珠山高校』の生徒および教師、そして、麻雀プロのみに限定します。

 

「ああ、なるほど。他の高校の生徒の名前とかアナウンサーの名前とかはダメなんですね?」

 

 そこまでは覚えられないでしょうからね。主要キャラクターの名前ならうっすら覚えていると思いますし、覚えるのに苦労はしないでしょう?

 

「うっかり『荒川』とか『萩原』とか言っちゃダメなわけね?」

 

 そういうことです。

 事前に調べてリストを作ってみた結果、この縛りはなかなか難しいので1回まで誤答してもオッケーです。2回誤答した人はその時点で失格です。

 あとこれは注意事項なのですが、架空キャラゆえに存在しない苗字があるかもしれません。

 

「十六夜とかね」

 

「東方キャラの苗字は大体架空の苗字ですよね」

 

 はい。もしも架空の苗字を答えてしまった人は一発退場、ドボンですのでご注意を。

 最後まで残った人が優勝です。さぁさ皆さん、頑張って覚えてきてくださいね。

 

「「「「「はーい」」」」」

 

 

     ――10分後――

 

 

 さぁ、10分が経ちましたのでゲームスタートです。最初のお題は『井上』の16位です。

 

「『井上』……ああ、井上純ね。龍門渕の」

 

 はい。つまり160位までの咲キャラの苗字を白夜→レミリア→遊星→咲夜→勇儀の中の人の順で、お答えしてください。

 

「初心者の俺からか。『井上』が一番多かったんだな、てっきりこれが一番多いと思っていたぜ。俺の答えは池田華菜の『池田』だ」

 

 『池田』……お見事! 23位です。

 続いて、レミリアさんは24位~230位の範囲でお答えください。

 

「まだ余裕ね。これは大丈夫でしょう。片岡優希の『片岡』」

 

 『片岡』……お見事! 『片岡』は206位です。

 

「あ、あら? 結構ギリギリだったわね」

 

「逆になんで安心と思ったんだ? 『片岡』なんて聞かないだろ?」

 

「私の高校の同級生にいたのよ。だからそこそこいると思っていたんだけど……思ったより下だったわね」

 

 続きまして遊星くん、207位~2060位です。

 

「……もう難しいんだが」

 

「難しいですね。というか咲キャラって珍しい苗字の人多くないですか?」

 

「正直あまり聞いたことない人が多いねい?」

 

「2060位までか……もう答えちゃいけない苗字があるかもしれないんだよな。さてどうするか……よし。これにしよう。『須賀』だ。須賀京太郎の『須賀』」

 

「『須賀』……良いとこね」

 

「他の苗字に比べたら確かにいそうですね」

 

 『須賀』……お見事! 『須賀』は750位です。

 

「よしよし上手いぞ俺」

 

「これは上手いわねぇ。大分答えられない苗字が増えちゃったんじゃない?」

 

「厳しいですね。751位~7500位ですか……。『久保』……は危険そうなんですよね」

 

「『久保』?……ああ、コーチか」

 

「確かに『久保』はもう答えられなさそうね。意外といるでしょう」

 

「うーん……じゃあこれで行きましょう。……渋谷尭深の『渋谷』でお願いします」

 

「……怪しくないかい?」

 

「地名ですしそこそこいるかと。1000位台を狙ってみました」

 

 『渋谷』……は残念!

 

「ええっ!? ダメでした!?」

 

「やっぱな。これアレだろ。結構順位上だろ?」

 

 上ですね。『渋谷』は226位です。『須賀』さんよりもいます。

 

「それは……意外でした。『須賀』の方が聞くイメージでしたから」

 

「メジャーな地名の苗字は意外と多いのよね。まぁ、しょうがないわよ」

 

「というか範囲は変わらず私の番かい。そうさなぁ……『竹井』なんてどうだい? 竹井久の『竹井』」

 

「『竹井』はいるんじゃないか?」

 

「武士の武のほうの『武井』さんは多いイメージだけど、こっちってそんなに聞かなくないかい? かといってシンプルな漢字の組み合わせだからマイナーすぎやしないと思うんだ」

 

「まぁ、言われてみれば」

 

「もう正直わかんないし、自分が思ったのを言うしかないわよね」

 

「だよな。よし、じゃあ『竹井』だ」

 

 『竹井』……お見事! 『竹井』は1328位です。

 

「おおおっ!? これはいいんじゃないかい!?」

 

「上手いなぁ……」

 

「1000位を突破してきたか。早かったな」

 

「へぇ、もうちょっといるかと思ったけれどそんなもんなのね」

 

 一周しました。それでは夢幻の白夜さん、1329位~13280位……なんですが、1000位を突破しましたのでルールが変更されます。1329位~3984位でお願いします。

 

「くぁー……こりゃあきっついな。『竹井』よりもマイナーだけど聞き覚えのある苗字だろ?」

 

「厳しいわね大分。私も考えておかないと」

 

「……よし、決めた。宮永姉妹の『宮永』だ」

 

「『宮永』……? いるんじゃないか?」

 

「でも俺の知り合いに『宮永』さんはいないし、さっきの勇儀のやつと同じロジックでいくとここらが妥当じゃないか? いそうでいなくて、シンプルな字の組み合わせが強いと見た」

 

 『宮永』……お見事!

 

「よっし、よしよし。順位はどうだ?」

 

 『宮永』は1608位です。

 

「刻むなぁ……おまえさん本当に初心者かい?」

 

「いや、本当に初めてだよ。だがこれは上手いだろ」

 

「上手いですね。範囲も広がっていませんしこれはお嬢様、厳しいのでは?」

 

 続いてレミリアさん、1609位~5424位です。

 

「ふーん。まぁ、正直白夜が外れる前提で考えていたし、ほぼ問題ないわ。私の回答はこれよ。石戸霞の『石戸』よ」

 

「『石戸』……そういえば全然聞きませんね。『石井』とか『石神』は聞きますけど」

 

「『石戸』って色んな読みがあると思うのよ。漫画だと『いわと』だけど普通に『いしと』って読む人もいるだろうから、統合されてこれくらいかなって」

 

 『石戸』……お見事! 『石戸』は2907位です。

 ちなみにこのサイトで見ると『石戸』と書いて『いわと』と読む苗字はないらしいです。幽霊苗字ではないのですが実在しない読み方です。なぜ『石戸』を『いわと』と読んだんでしょうね。

 

「さぁ? そのサイトに載ってないだけで本当はいるのかもしれないわよ?」

 

 その可能性はありますね。

 さて、次は遊星。2908位~8721位です。

 

「10000が見えてきたな。まだ1回失敗しても大丈夫だし、ちょっと攻めよう。赤土晴絵の『赤土』。これでどうだ」

 

「?……ああ、阿知賀のレジェンドね。一瞬わからなかったわ」

 

「『赤土』は攻めたな」

 

「ああ、攻めた。でも『赤土』って『石戸』よりはいなさそうじゃないか?」

 

 『赤土』……お見事! 『赤土』は8021位です。

 

「危ないなっ!?」

 

「うわー……上手いなぁ……」

 

「なんなんだ遊星おまえ、このゲーム上手かよ」

 

「割とな。不思議と勝ち数も多いし、勘がいいのかもしれない」

 

 続いて咲夜、8022位~24063位です。それからもう間違えられませんのでご注意ください。

 

「多分大丈夫です。『赤土』さんがそこまで低いならコレも低いでしょう。『赤阪』。赤阪郁乃の『赤阪』です」

 

「なんでコーチの名前が連続するのよ」

 

「『赤阪』はどうだ、怪しくないか?」

 

「『さか』の字が『阪』でしょう? 坂道の『坂』なら多いと思いますがこの『阪』なら大丈夫でしょう。『赤土』よりも少ないと思います」

 

 『赤阪』……アウトー!

 

「ええっ!?」

 

「あっはっはははは!」

 

「遊星は上手いけど咲夜は下手くそかよ」

 

「嘘でしょう……。『赤土』より多いんですか?」

 

 全然多いですよ。『赤阪』は5809位です。ちなみにあなたの読み通り、坂道の『坂』の字を使った『赤坂』さんはかなり多いです。844位でした。

 

「私の認識よりも沢山いらっしゃいましたね……。もう私は見守るだけですか。もっとクイズしたかったのですが……」

 

 残念ながらここで脱落です。続きまして星熊勇儀、8022位~24063位です。

 

「範囲だけ見れば結構いるんだけどねい。でもマイナーすぎるとドボンだし……10000位台を狙ってみるか。よし、小瀬川白望の『小瀬川』だ。これもよくある感じの組み合わせだが3文字。いい感じで少ないんじゃないかい?」

 

 『小瀬川』……お見事! 狙い通り10000位台、11497位です。

 

「うっしゃぁっ! 上手い! 上手いぞあたし!」

 

「……楽しそうですね。羨ましい」

 

「悲しそうにしないでちょうだい咲夜。泣けてくるわ」

 

 3週目。夢幻の白夜、11498位~34491位です。

 

「もう何言っても大丈夫な気がするな。『愛宕』で行ってみよう。姫松の愛宕姉妹、ついでに千里山の監督の『愛宕』だ。俺これ艦これと咲でしか聞いたことないし」

 

 『アズールレーン』の愛宕を御存じでないとは……まぁいいでしょう。

 『愛宕』……惜しい! 10958位です!

 

「ぶっ!? 500位くらいしか離れていなかったのか!?」

 

「狙いはよかったが……これは惜しいな。そして勇儀が上手過ぎた」

 

「くそぅ……なんだこれ。意外と悔しいぞ」

 

「でしょうよ。だってこんな惜しい外し方しているんだもの。と、次は私ね。うーん、どうしましょうか」

 

「地名はもう危険だな。『愛宕』も実は地名だ」

 

「いや、地名じゃない苗字はドボンな気がするのよね。勇儀のように攻めた方がいい気がするわ。それを考慮すると……決めたわ。『東横』よ。ステルスモモこと、東横桃子の『東横』よ」

 

「あー……それは上手いかもしれん」

 

「どっちも苗字に含まれがちですが、その組み合わせは確かに聞き覚えはないですね」

 

 『東横』……レミリアさん、悲しいお知らせです。

 

「……え?」

 

「……おい、まさか」

 

「……嘘でしょう?」

 

 はい……『東横』さんは存在しません! 架空の苗字です! ですのでレミリアさん、一発ドボンです。お疲れさまでした。

 

「はぁー……うっそでしょう? え、本当にいないの?」

 

 私が今使っているアプリによりますと、『調査中』『確認されていません』と表示されていますので存在していないということになります。私も驚きでした。

 

「苗字までステルスとかなによ……そりゃあ、存在しない苗字の人ですもの。あんなにレベルの高い子でも存在感が薄くて当然だわ」

 

 さぁ、咲夜に続いてレミリアも脱落です。遊星くん、11498位~34491位です。どうぞ。

 

「怖くなったな。まさか咲キャラで架空苗字があるとは……。だからと言って聞き覚えのある苗字で行くと範囲外だろうし、どうしたものか」

 

「攻め方自体は合っていたと思うのよ」

 

「まだ、この組み合わせは聞いたことない、で攻められると思うぜ。3文字ならなお良し」

 

「……信じるぞ。俺が言うのは……『船久保』。船Qこと船久保浩子の『船久保』だ」

 

「愛宕家の親戚ね」

 

「『久保』の組み合わせの中でも『船久保』はいないだろう」

 

 『船久保』……お見事! 『船久保』は16348位です。

 

「……天才か?」

 

「刻むねい……」

 

「上手すぎだろう……」

 

「ねぇ、あんたら結託しているんじゃない?」

 

 してないですよ失礼な。いやぁ、本当にお見事です。上手いですねぇ。

 

「傾向はある程度掴んでいるからな。やっぱり俺はこのゲームが得意みたいだ」

 

 なんかかっこいいですね。意味わかりませんが。

 それでは勇儀、16349位~49044位です。

 

「範囲が一気に広がったな。……じゃあ行こうか。辻垣内智葉の『辻垣内』」

 

「ガイトさんはどうだ……?」

 

「まず架空の苗字じゃないだろう。あの3文字で『つじがいと』なんて普通読めない。絶対知っているからキャラ名に付けたんだって」

 

 『辻垣内』……お見事! 『辻垣内』は26407位です。

 

「よっしよしよし。いいぞいいぞ」

 

 それでは4週目。白夜さん、26408位~79221位です……と、ここでお知らせです。

 えー、私の方で調べましたところこのランキング、最下位の順位が61527位です。よって、この61527位の苗字を答えた方が優勝です。

 2回範囲から外れているか、実在しない苗字を答えてしまった場合に脱落のルールも引き継がれますのでご注意ください。

 それでは改めまして白夜さん、26408位~61527位です。お答えください。

 

「……これ言ったら勝ちじゃないか?」

 

「やめろ。それはやめてくれ」

 

「?……! ああ! それか! うわぁ、それがドベかよ! 許せんマジで!」

 

「いいや、言うね。行くぜ……『龍門渕』。龍門渕透華の『龍門渕』だ。どうだ!」

 

 『龍門渕』……白夜さん、『龍門渕』は存在しません! アウトです!

 

「えっ!?」

 

「……よし、作戦勝ちだ。俺もこの苗字が実在するか怪しいと思っていたから、あえて言わせるように仕向けたわけなんだが、やっぱりなかったな」

 

「というか冷静に考えればこんな苗字嘘っぽいと思いません? さすがの私も疑ってかかりますよ?」

 

「いやだって……なぁ? 言えば絶対勝てるって思うじゃんか? 聞いたことねえしこんな苗字」

 

「そりゃあ聞いたことないでしょうよ。実在しないんだもの」

 

「はー……終わった。でも楽しかったぜ」

 

「で、次は俺か。もう実質最下位を当てるゲームだな。本当に聞き覚えのない苗字、かつ実在しそうなものをピックしないといけないか。なら……『高鴨』なんてどうだ。高鴨穏乃の『高鴨』だ。これはいると思うし、少ないだろう」

 

 『高鴨』……残念! 『高鴨』は25035位です。

 

「『辻垣内』よりはいるのか……。マズいな、次誤答で負けじゃないか」

 

「こうなるとあたしが有利だねい。さてじゃあ行くか。『三尋木』だ。あたしもよく借りている三尋木咏の『三尋木』な」

 

 『三尋木』……も残念! 『三尋木』は15505位です。

 

「は!? 『船久保』よりもいるんかい『三尋木』!」

 

「単純に難易度が高いわね」

 

「苦しい戦いになってきたな」

 

「『辻垣内』よりない苗字だろう……難しすぎるぞ。……あ、だがこれはどうだ? 『薄墨』。薄墨初美の『薄墨』だ」

 

「あら、割といい感じじゃない?」

 

「問題は存在するかしないかですね」

 

「でもなんかいそうな感じはするな。創作名字で『薄墨』はないだろう」

 

 『薄墨』……『薄墨』は37835位です。お見事!

 

「よしよし。危ない。珍しい苗字だから覚えたが……なんとか引き出せたな」

 

「でも最下位じゃないのねこれ」

 

「えー……これより珍しい苗字なんかあったかぁ? 37836位からだろう?……あ! あるあるある! これだ! 園城寺怜の『園城寺』!」

 

「……『園城寺』は嘘っぽくないですか?」

 

「いいんだよ。どうせ外せば負けだし、ワンチャンに賭けるしかない。だからあたしは『園城寺』で勝負するぜ」

 

 『園城寺』……『園城寺』は39455位! お見事、クリアです!

 

「上手い上手い上手い! でも最下位じゃないんかい! ちょっと自信あったんだがなぁ」

 

「う……追い詰めたと思いきやだな。思い出せ、珍しい苗字。『園城寺』より珍しい苗字だろ?」

 

「ちなみにGM、『園城寺』よりも珍しい咲キャラは何人いるの?」

 

 ……いいでしょう。お教えします。『園城寺』よりも珍しい苗字を持つ咲キャラは、あと……3人です。

 

「3人!? 3人もいるの!?」

 

「もっと訊いていいか? 全員人気キャラか?」

 

 pi○ivの人気投票によりますと1人は人気キャラです。残り2人のうち1人は有名、もう1人は……ちょっとどうかな? ってキャラです。

 

「バラバラだな。人気キャラで珍しい苗字……じゃあこれか?……よし。じゃあ、『天江』。天江衣の『天江』だ」

 

 『天江』……『天江』は……29374位! というわけでアウトー!

 

「うわああぁっ!?」

 

「ってことは」

 

 優勝は星熊勇儀!

 

「よし粘った。粘り切ったぜ。ちなみに有名な奴ならわかった気がする。『福路』じゃないか? 福路美穂子の」

 

「あぁ……それか」

 

 はい、そうです正解です。『福路』は45604位ですね。

 

「全然いないのな。いそうなのに」

 

 あと2人……『福路』よりもマイナーな苗字のキャラがいるのですがわかりますか?

 

「誰? 『姉帯』とか?」

 

 『姉帯』じゃありません。『姉帯』は10303位です。それに豊音は明らかに人気キャラクターじゃないですか。

 

「じゃあ、『野依』?」

 

 『野依』も違います。10675位ですね。

 

「『三尋木』よりもいるんかい。じゃあ誰?」

 

 弘世菫の『弘世』、48332位です。

 

「あぁ、それね」

 

「確かに『ひろせ』って苗字はいっぱいあるけどその漢字は見ないな。頭から抜けてた」

 

 あと1人は狩宿巴の『狩宿』。これが咲キャラ最下位苗字、61527位でした。

 

「……誰だっけ?」

 

 永水女子の次鋒を務めたキャラクターです。ポニテ、眼鏡、赤毛、巫女と属性てんこ盛りのキャラですよ。

 

「印象薄すぎだろ。なんか活躍してたか?」

 

 可愛そうなことにエイスリンとまこに食われていました。

 ここで問題ですが、第2戦次鋒戦で卓を囲んでいた姫松高校のキャラは誰でしょう?

 

「え?……ええっと、誰でしたっけ?」

 

「ネキと恭子先輩は絶対に違う。ネキの妹は副将だから違う。あと2人だが……あれ?」

 

「名前が出てこないわ。顔は辛うじて思い出せるのに」

 

「爆発する子は違うんじゃないか?」

 

「だな。ということはアレだ、金髪の子。ええっと、名前が出てこねぇ……」

 

 真瀬由子です。「のよー」とか間延びした喋り方をするキャラですよ。

 

「ガチで思い出せなかったわ。ファンのみんなには悪いけどちょっとアニメ見て齧った程度の私たちにはレベルが高い問題ね」

 

 私も名前を調べる際に思い出したレベルだったので、まぁ10分で覚えなおすのは至難の技でしたね。

 ただまぁ、ある程度のところまで皆さんいけていましたし、これはまた新しい縛りで遊んでもいいかもしれませんね。調べてリスト作るのは大変ですが。

 

「次はリベンジさせてください。1回も正解しなかったのはさすがに悔しいです」

 

 そうですね。あなたは今回全然活躍できませんでしたし、また新しく企画しますので頑張ってください。

 はい、以上を持ちまして『苗字ランキング 咲-Saki-』を終了します。お疲れさまでした。

 

「「「「「お疲れ様でした」」」」」

 

 

 

 

     ――The End!



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