元勇者は新米勇者達を育てます (souやがみん)
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始まりの召喚
「おはようヒナタ。」
母の声に私は寝ぼけ眼を擦りつつ大きく欠伸をすることで答えていた。洗面所に移動し鏡を覗き込む。そこにはまだ眠そうな目をした私が立っていた。日本人特有の童顔、寝癖のためにボサボサな茶髪は肩にかかるほどの長さで切り揃えている。
「ヒナタ!今日も朝練なんでしょう?早くしなさい。」
「はぁーい。」
母の声にだらだらと答えながら私は顔を洗い髪を整える。ぱっ、と顔を見ると何時もの自分の姿があった。頬を軽く叩きながらよし、と呟くと私はリビングへと向かった。
「おはようヒナタ。」
「うん、おはよー。」
リビングへと到着すると父に声をかけられた。父は40代後半のおじさんである。ただ、実質はそこそこの企業の課長を勤めているというかなりの努力家でもある。そのおかげで父と幼い頃に遊んでもらった記憶が少ない事が少し寂しくなる。
その隣では母が笑顔で手を降っている。母も40代後半のはずなのだが30代、いや20代後半と言っても信じられるようなプロモーションをしている。一緒に出掛けるとお姉さんに間違えられている。私もあんな大人になるというが私の夢だったりする。
「あ!時間ないんだった。」
朝ごはんを口にかきこむように流し込み立ち上がる。父と母は苦笑しつつも私にいってらっしゃいと言ってくれる。その事に心のなかで感謝しつつ言った。
「いってきます!」
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「おはようございます、ヒナタ先輩!」
学校の校門へと着く前に私に声がかかった。振り向くとそこには黒い髪をツインテールにしている少女が私を覗き込むように笑っていた。
「おはよう椎名ちゃん。」
はい!と声を大きくあげて返事をする彼女は加藤椎名。水泳部の後輩にあたる女の子だ。特徴となるのは黒い髪のツインテールとその顔の下にある大きな膨らみ、もとい胸の存在であろう。
「ど、どうしたんですか?ヒナタ先輩。」
思わず自分の胸に手を当てほんの少しの膨らみだけなことに落胆する。
はぁ、とため息をつきながら校門をくぐっていく。
「何朝からシケタ顔してんだよ。」
と声をかけてくれたのは背の大きな男の子だ。学校指定の制服を着崩しておりどこか思春期の男子にありがちなヤンキーを意識しているようにも見える。髪はオールバックにしておりその影響もありヤンキーに見える。
「朝からあんたほど馬鹿じゃないってことよ。」
んだと!と怒る彼の名は金川健介。ヤンキーなのは見た目だけで女の子に弱い草食系男子だったりする。
きゃんきゃん吠える健介を無視しつつ私はクラブ棟へと足を進めていた。健介を無視しながら椎名と話ながら歩いていく。途中で健介が泣きそうになっていたので会話に入れてあげる。
「健介先輩弄るのって楽しいですね。」
椎名の言葉に撃沈する健介を横目にクラブ棟へと到着する。
「あ、おはよー未来ちゃん!」
「おはようございます、未来先輩。」
「うん、みんなおはよう?・・・、健介死んでるけど?」
「何時ものことだよ。」
そう言えばそうねと納得する彼女は村川未来。この部活の部長を勤めている。優等生を絵にかいたような少女で勉強では学年2位、運動神経も抜群だ。大学も水泳の特待生枠か勉強の方の特待生枠で迷ってるのだとか。
背丈は私と同じで160ぐらい、体型も似たり寄ったりというところなのだがウエストは明らかに未来ちゃんの方が細い。
「ちょっと、ヒナタこそばゆいからやめて!」
自然と未来ちゃんのくびれに手を伸ばしていた。あはは、と笑ってごまかす。
「五郎くんは?」
「何時もギリギリにくるし何時も通りよきっと。」
それもそっかと言いながら私は健介を男子更衣室に投げ込み着替えるために女子更衣室へと足を向けていた。
「おはようございます。」
髪がモジャモジャな小柄の少年が水着姿で現れた。彼が五郎くんだ。
小さいながら引き締まった体は健介よりもいい体型に見える。まぁ、健介は見える筋肉よりもインナーマッスルが凄いらしいのだが。
「おはよう、五郎くん。遅かったね。」
椎名ちゃんの問いに五郎くんは少し顔を反らしながら答える。
「昨日の夜はゲームのイベントだったので・・・。」
ボソボソと答える五郎くんに椎名ちゃんはずんずん向かっていき手をとりプールへと落としていた。仲が良いなぁと思いつつ朝練を進める。
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時間は過ぎて放課後。朝練も終わり授業も終わった私たちはクラブ棟ではなく視聴覚室に集まっていた。理由は簡単だ。
「さぁ、新入部員ゲットするわよ!」
未来ちゃんのテンションが上がっている。その証拠に手にはハリセンを持っている。何故かは分からないが未来ちゃんはテンションが上がると健介を叩く癖があるのだ。健介には可哀想だがそういう役割なので是非とも我慢して欲しい。
「今年はせめて3人は入ってもらわないと廃部になっちゃうからね。」
そう、この高校のルールで五人以下のクラブは強制で廃部になってしまうのだ。
「だな。でさ誰か作戦かなんかあるのか?だから集まったんだろ?」
「だまらっしゃい!」
未来ちゃんのハリセンが発言した健介の頭に炸裂した。健介は慣れたように遠い目をしている。
「はぁ、馬鹿だなぁ。」
私が呟いた瞬間だった。健介が神隠しのように消えた。みんなが目を丸くする。
「あれ?健介先輩は?」
呟いた五郎くんも消える。椎名ちゃんも、未来ちゃんも消えて私は絶叫を上げようとして意識が途絶えた。
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「これで我々の計画も完璧だろう。」
「いや、しかしまだ分からん。」
「だからわざわざあの男の元に転送したのだろう?」
「あぁ、そうだ。あの男がいれば誰も死なずに目的を果たしてくれる。」
「それもそうだな。」
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「コウヤ、コウヤ、コウヤ!!」
耳元で大きな声を上げられて俺は飛び上がるように目覚めた。安眠を妨げられたことに対して文句を言うためにベッドの脇に立っている女を睨む。
「何時も起こしに来るなよ村長なんだろ?お前。」
そこに立っていたのは15,6歳の少女だった。金髪の長い髪は少し天然らしくところどころで跳ねている。肌は透き通るように白くちょっと神々しいほどである。
まぁ、俺の目から見るとペッタンコの少女という感想だ。
「なにか失礼なこと考えてますね?」
「はっはっは、良くわかったな。フィリスティラ・エルウィン。」
フィリスティラ・エルウィン。それが彼女の名前である。愛称はフィリ。この村、エルウィン村の村長である。何故彼女が村長なのかはまぁ、説明はしない。めんどくさいからな。
「なにか物凄く馬鹿にされている気分ですがまぁいいです。今日はサラと一緒にピクニックに行く予定なのですがコウヤも一緒に行きませんか?」
上目遣いで色気を出して誘ってくるフィリ。それを見て俺は素直に言った。
「いやいや、フィリの体型じゃ色気出てないから。むしろその地平線が俺を苦しめてるぅ!」
右の腕の間接を閉められる。それに苦痛の悲鳴をあげ地面を叩き降参を宣言する。
「それでなんと言いました?」
「いえ、全力で行かせていただきます。」
笑顔のフィリに敵うはずもなく俺はピクニックへと同行することになった。
この世界、エルガイアはトリルティン王国によって納められており魔族との戦争以外では基本的に平和な国である。
しかし、闇は存在する。まず王都では亜人族の奴隷制度が存在する。亜人族は人よりも体が強いため良い働き手になっている。そのため貴族でなくても一人は奴隷を持っているというのが実情だ。
さらに郊外の森には魔物が存在するため街の外に出るときは武器か護衛が必要となる。
ここ、エルウィン村はエルガイアでも珍しい自治体で存在している。亜人族も人並みの生活をしているためか通常の人族よりも亜人族の方が人数が多い。
また街や村には騎士団が王都より派遣されるのだがここには一人しかいない。それがフィリの後ろ、俺の横を歩いている女性、サラ・リナスターである。彼女はクリーム色のワンピースの上から藍色のロングロートを着ており彼女の抜群のプロモーションを際立たせている。
「コウヤ。君は服装をもう少し気を付けた方が良いのではないか?」
サラが俺を頭から足まで眺めてから言った。まぁ、普通はそう思うだろう。俺の格好は黒く長い髪を首もとで纏め縛っている。黒のノースリーブ型のロングロートに黒いパンツに赤いインナーを着ている。
「うーん、俺の場合はお前と違って動き回って戦うだろ?だからどうしても機能性重視になっちまうんだよなぁ。」
ふむ、とサラが頷く。彼女は騎士とは思えないほど頭の柔軟がきく。そのためか騎士の中では変わり者扱いされていたそうだ。
「騎士も大変だよなぁ。」
「?」
頭にはてなマークを浮かべるサラに苦笑しつつ3人で歩いていく。ここは村の外れの森。もちろん魔物も出てくる。
「あ、あれ此方を狙ってますね。コウヤ、ちょっと殺してきてください。」
「あぁ、フィリは何時からこんなに言葉遣いがわるくなっちまったんだ。」
肩を落として落胆する。そして次の瞬間に俺は地面を蹴っていた。一足で十メートルの距離を積める。そして魔物が接近する俺に気づいたがもう遅い。
体の内側から力を手のひらに集中させる。その力を形にしていく。片刃の剣、刀だ。居合い斬りの要領で腰の位置から引き抜くように刃を滑らす。刃は狼に似た魔物の首の付け根に引き込まれて頭と胴体を切り離した。
「いつ見ても見事なものだなコウヤの魔法は。」
サラの言葉に笑いかける。このエルガイアでは魔法は一般的なもので俺の故郷、地球ではあり得ない力だ。此方では科学並みに信憑性の高いものとされている。
「まぁ、俺だって始めからこんなに早く起動できた訳じゃないさ。これでも血の滲むような特訓はしてきたつもりだぜ。」
そうだろうねぇと頷くフィリを先頭に森を抜けていく。
森を抜けた先には洞窟が存在している。俺にとっては始まりの場所であり、フィリにとっては運命が回りだしサラにとっては人生の分岐点だ。
灰色ながらもどこかオーラのようなものを纏うその洞窟は召喚の間と呼ばれている。
「俺がフィリとサラに出会ったのってここだったよな。」
「えぇ、あのときは勇者が来たと喜んだものですが今では隣で馬鹿やってる異性、という感覚です。」
あぁ、そうだろうなと思いつつ辺りを見渡す。6年前と何も変わっていない。それは良いことなのか悪いことなのか、分からないがそれでもやはり俺の第2の人生のスタート位置なのだ。感慨深くなる。
「きゃー!」
フィリでもなくサラでもない悲鳴が響く。
「誰かこの辺にいるのか?!」
俺の声に二人は首をかしげる。それもそのはずだ。この場所は神聖な物とされているため許可が降りた人間しか入れないのだ。
俺は最悪の可能性を頭のなかで否定しつつ悲鳴の方へと走り出していた。
「くっそ、くんじゃねぇ!」
そこには五人の少年少女がいた。全員がフィリと同じような年齢だ。そして俺は自分が考えていた最悪の可能性が当たってしまったことに苛立ちを感じていた。
何故なら彼らは制服を着ていたからだ。まず確実にこの世界の人間ではない地球から召喚された人間だ。また戦いが始まることに内心で恐怖を感じるが今はそんなことを言っている余裕はなかった。
「くそが・・・。」
一人の大柄の少年が他の四人を守るように前でて構えている。一目で空手の構えだと見抜きつつ俺はその少年の前に飛び降りていた。
「おい、死にたくなかったらそこを動くんじゃねぇぞ。」
少年少女にそう声をかけてから俺は両手に両刃の剣を生み出していた。剣を投げ捨てるように投合しまず一匹先ほどと同じ狼型の魔物を殺す。
その魔物が倒れる前に投合した剣を回収し近くに迫っていた魔物を投げた剣とは逆手に持つ剣で横凪ぎにする。横凪ぎにした遠心力を使い剣を両方同時に投げる。
これで四体。あと目の前にいる魔物は6体。
「めんどくさいなぁ!」
俺は叫んでから大きく震脚を叩き込み魔物の動きを止めると刀を作り出し6体全体に辻斬りのようにすれ違い様に全て切り落とした。
戦闘が終わり少し血のついたロングロートをパンパンと叩きながら少年少女に近づいて聞いた。
「お前ら地球の日本から来たのか?」
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