FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS (マーベルチョコ)
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始まり
第1話 冒険の始まり


ここは永世中立国フィオーレ王国。

そこは魔法の世界。そこでは魔法を駆使し生業とする者達が居る。人々は彼らを「魔導士」と呼んだ。

彼らは様々なギルドに属し、仕事に応じる。

そして、あるところにあるギルドがある。かつて…いや、後々に至るまで数々の伝説を残したギルドがある。これはそのギルドに属する魔導士達の物語である。

 

 

フィオーレ王国、ハルジオンの街。その街の駅内のある列車で駅員が困っていた。

 

「あの…お客様、大丈夫ですか?」

 

駅員が見る先には明らかに気持ち悪そうにしている桜髪のツンツン頭に銀色の鱗のようなマフラーをしている少年、ナツと、その少年に肩を貸している若干オレンジ色がかかっている短い髪の青年、ハルト。その傍で心配そうにしている白と黒の毛色の模様があり、腰に帯をし木製のオモチャのような刀を差している猫、マタムネ。

駅員に事情を説明している青毛の猫、ハッピーがいる。

 

「おうぅぅぅ…」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「しっかりするでごじゃる」

 

「あい、いつものことなので」

 

 

四人(?)は駅を後にし、街を歩いていた。

 

「もう、ぜってぇ列車には乗らねぇ…」

 

「毎回乗る度にそれを言うよな、それよりお前ら今回はなんで俺たちの仕事に着いてきたんだ?」

 

ハルトがナツにそう問いかけると先程まで気持ち悪そうにしていたナツは目を輝かせ言う。

 

「この街に火竜(サラマンダー)がいるって、聞いたんだ! 絶対にイグニールに違いねぇ!!」

 

「あい! 火竜(サラマンダー)って言ったらイグニールしかありえないよね」

 

「そうでごじゃるか。よかったでごじゃるな〜」

 

ナツ、ハッピー、マタムネは嬉しそうに話をしているが、ハルトは一人苦笑いをしていた。

それもそのはずだ。ナツが探している火竜(サラマンダー)は本物のドラゴンなのだ。

街にいるはずがない。

ハルトはナツにそれを言おうとしたが、すぐ近くから女性達の声が響き、ハルトの言葉を遮る。

 

「キャーッ!! 火竜様よ〜!!!」

「噂をすればなんたらだ! おーい! イグニール〜!!」

 

「あっ、おい! 待てよ、ナツ‼︎」

 

ハルト達は女性達のほうに向かった。

 

 

(な…なに…? この胸のドキドキは⁉︎)

 

彼女は旅の魔導士、ルーシィ。

今はここ、ハルジオンの街に訪れていた。彼女は魔法屋で値切るのを失敗し、ふてくされているところに

火竜がいると聞き来てみたが、突然火竜と名乗る男を見ると胸が高鳴り出したのだ。

ルーシィはそのままふらふらと火竜に近づく。

だんだんと目の光がなくなりだし、まるで催眠にかかったようになってしまった。

すると、突然…。

 

「イグニール! イグニール‼︎」

 

桜髪の少年、ナツが女性達の群れの中を掻き分けて出てきたのだ。

その瞬間、ルーシィが目には光が戻り、正気に戻った。

一方のナツは火竜を見ると怪訝そうな顔をし、その男に話掛けた。

 

「誰だ? お前…?」

 

「フッ…、火竜(サラマンダー)と言えばわかるかい?」

 

男がそう言ったときにはナツはハルトのところに戻っていた。

 

「おっ、戻ってきた。どうだった?」

 

「ダメだ。ニセモノだった…。」

 

気落ちしてるナツにハルトが話かけていると、火竜?の取り巻きの女性達がナツと何故かハルトまでも引っ捕まえて火竜?の前に投げ出した。

 

「ちょっと! 火竜様はすごい魔導士なのよ!!」

 

「まぁまぁ、君たち彼らも悪気はなかったんだろう。」

 

「あ〜ん、やさし〜♡」

 

女性達は男がかっこよく振る舞うのを目をハートにして見ているが、その中でもルーシィは男を睨んでいた。

男は懐からペンと色紙を取り出して、ハルト達に人数分渡した。

 

「ほら、僕のサインだよ。 友達に自慢したまえ。」

 

「キャー♡ いいなー♡」

 

「いらん」

 

それをいらないと色紙をはたき落としたナツに女性達は猛火如く怒り、ナツと何故かまたハルトまで巻き込みボコボコにした。

 

「いてててててっ!」

 

「なんで、俺まで⁉︎」

 

2人は女性達の輪から投げ飛ばされ、男は女性達に今日、船上パーティーがあることを告げて、足元から紫の炎を出し空に浮かび、船がある港に向かった。

 

「いったい何だったんだ?」

 

「なんで俺まで巻き添えに…」

 

「ほんと、いけ好かないわよね。」

 

ハルト達は声がするほうに顔を向けるとルーシィが立っていた。

「さっきはありがとね。」

 

ルーシィが礼を言うとナツとハッピーは訳がわからないという顔をし、ハルトとマタムネは信じられないという顔をした。

すると、突然ハルトはルーシィの肩を掴み、叫んだ。

 

「エミリアッ!!?」

 

ハルト達はハルジオンにあるとあるレストランで、ルーシィのお礼で料理を奢ってもらっていた。

 

「あんふぁいいひほがぶぁ」

 

「うんうん」

 

「あはは…、ナツとハッピーにハルトさんとマタムネだっけ? わかったからゆっくり食べなって」

 

「悪いな奢ってもらって。 あと、ハルトでいいぞ」

 

「そう? じゃあ、そう呼ばせてもらうわね。それにいいのよ、こっちも助けてもらったし、それよりそんなにあたしって似てるのかしら。 その…、エミリアって人に?」

 

「あぁ…、まぁな。」

 

そのとき返事をするアルトの表情は悲しそうな顔をしていた。

ルーシィはそれ以上聞いたらまずいと思いそれ以上聞くのをやめた。

 

「む〜、確かに顔はにているでごじゃるが、おっぱいはルーシィ殿のほうが大きいでごじゃる」

 

この会話をしている間、マタムネはルーシィの膝の上に座って頭でルーシィの胸の感触を感じていた。

エロ猫である。

 

「おいっ! マタムネ降りろ‼︎」

 

「あはは…、いいわよ。 それよりも、あの火竜《サラマンダー》って男、魅了《チャーム》っていう魔法を使ってたの。人々の心を引き付ける魔法なのね。何年か前に発売が禁止されてるんだけど…。やらしい奴よね。」

 

「やけに魔法に詳しいんだな。」

 

ハルトはさっきのことを話すルーシィに聞くと、得意そうな顔をし嬉そうに話した。

 

「こー見えて、あたし一応魔導士なんだー。まだギルドには入ってないんだけどね」

 

「ほぼぉ」

 

「あっ、ギルドってのはね。 魔導士たちの集まる組合で魔導士たちに仕事や情報を仲介してくれる所なの、魔導士ってギルドで働かないと一人前って言えないものなのよ」

 

「ふが…」

 

「でもね‼︎ でもね‼︎ ギルドってのは世界中にいっぱいあってやっぱり人気あるギルドはそれなりに入るのはキビしいらしいのね。あたしの入りたいトコはね! もうすっごい魔導士がたくさん集まる所で、ああ…、どーしよ‼︎ 入りたいけどキビしいんだろーなぁ…」

 

「いや、そういう訳では…」

 

「あー、ごめんね〜。魔導士の話をしてもわからないよね!」

 

「そ、そうか…」

 

「ふが…」

 

「よく喋るね」

 

「ごじゃるな」

 

ルーシィのあまりの熱弁にハルト達は少し圧倒された。

 

「そーいえば、あんた達は何しにここにきたの?」

 

「あい、イグニールを探しに来たんだ」

 

「俺とマタムネは仕事でナツ達はついてきたんだ」

 

「はぁ…、だけどあの男イグニールじゃなかったな…」

 

「あい、火竜《サラマンダー》って姿じゃなかったもんね」

 

「火竜の姿って、人間としてどうなのよ…」

 

ナツとハッピーの会話に引き気味にコメントを言うルーシィにナツは不思議そうな顔をした。

 

「何言ってんだ? イグニールは本物のドラゴンだぞ?」

 

その言葉にルーシィは仰天してすかさずツッコミを入れた。

 

「本物のドラゴンがこんな街にいるわけないでしょ!!」

 

「…っは‼︎」

 

「オイィ! 今気づいたって顔すんなー!」

 

ツッコミを入れるルーシィの横ではハルトがやっぱりな、みたいな顔をしていた。

 

「って、おい! ハルト、お前知ってたのか⁉︎ なんで言わなかったんだよ‼︎」

 

「言ったら、お前怒るだろ」

 

「怒らねぇよ‼︎」

 

「怒ってんじゃねぇか… てか、マタムネお前気づかなかったのか?」

 

「気づかなかったでごじゃる…」

 

「あはは…、あたしはそろそろ行くけど… ゆっくり食べなよね」

 

ルーシィはマタムネをハルトに渡し料理の料金を置いた。

それを見てナツとハッピーは涙を流しルーシィに土下座した。

 

「ごちそう様でしたッ!!!」

 

「でした‼︎」

 

「おい! やめろって! 店の中だぞ⁉︎」

 

「キャー! やめて恥ずかしい!」

 

時刻は夜となり、ハルト達は海を一望できる公園にいた。

 

「ふぅー、食った食ったー」

 

「あい、いっぱい食べたね」

 

ナツとハッピーが満足そうにしてる横でハルトはルーシィのことを思い出しており、マタムネは心配そうに話しかけた。

 

「ハルト…大丈夫でごじゃるか?」

 

ハルトは心配をかけたなと思い、マタムネの頭を撫でた。

 

「大丈夫、ちょっとビックリしただけだ」

 

ハルトは撫で終わると海のほうを向いた。

すると海に船が一隻だけ出航しているのに気づいたナツは、

 

「あ〜、そういえばあの船で偽物のイグニールがパーティをやってんだな。 うぷっ、気持ち悪くなってきた…」

 

「想像しただけで気持ち悪くなるなよ…」

 

そう言いながらハルトは船を見据えていた。

すると、横で話をしていた女の子達の話が聞こえてきた。

 

「あれでしょ⁉︎ あれ! あの船で妖精の尻尾の火竜様がパーティをやっているんでしょ!」

 

「あ〜ん♡ 行きたかったな〜」

 

その話を聞いたハルト達は船を睨んだ。

 

「妖精の尻尾が…?」

 

「うっぷ…」

 

「だから、気持ち悪くなるなって」

 

ルーシィは船上パーティが行われている船の一室でピンチに陥っていた。

ハル達と別れた後、公園で魔導士雑誌である週刊ソーサラーで憧れる妖精の尻尾について読んでいると、突然火竜が現れ、妖精の尻尾に入れてあげる代わりに船上パーティに来てくれと言われきたのだが、なんとその船はフィオーレ王国の隣国、ボスコへ行く奴隷船だったのだ。

そして、ルーシィは火竜の手下に捕まってしまったのだ。

 

「ちょっと! 離しなさいよ‼︎」

 

「ふんっ。 威勢のいい小娘だ。…なんだ、お前星霊魔導士だったのか、しかし、これはいらないな。 契約を結んだ主(オーナー)しか使えないんだ、つまり僕には必要ないってことさ」

 

火竜はルーシィの腰にあった星霊の鍵を見つけ、船の窓から海に捨てた。

 

(これが妖精の尻尾の魔導士か‼︎!)

 

ルーシィは今まで憧れた魔導士がこんな最低な奴だと知り、悔し涙を流す。

 

「最低の魔導士じゃない…」

 

バキッ!!!

 

突然船の天井が破れ何者かが現れた。

 

「昼間のガキ⁉︎」

 

「ナツ⁉︎」

 

「おぷ、駄目だ。 気持ち悪い」

 

「えー⁉︎ かっこわるー‼︎」

 

天井からかっこよく現れたのはナツだったが、船に酔ってしまった。

 

「何やってんだよ、ナツ…」

 

声がしたほうを向くと翼が生えたマタムネとハッピー、そしてマタムネに抱えられているハルトがいた。

 

「ルーシィ無事か?」

 

「う、うん… あたし妖精の尻尾に入れてくれるって騙されて…」

 

「そうか…、まっ、細かい話は後だな」

 

ハルトは音をたてずに船の中に降りた。

 

「ほら、これ。 大事な物だろ?」

 

ハルトがルーシィに渡したのはさっき捨てられた星霊の鍵だった。

 

「あっ! これ! ありがとう‼︎」

 

「どういたしまして、マタムネ! ハッピー! ルーシィを連れて逃げろ‼︎」

 

「ぎょい!」

 

「あいさー!」

 

ハッピーがルーシィを掴み、マタムネは手下達を翻弄しながら船から離れた。

 

それを見届けたハルトは火竜とその手下達に顔を向けた。

 

「さてと、お前が妖精の尻尾の魔導士か…」

 

その顔は少し怒りをにじませていた。

 

船から離れたルーシィ達は空から船をうかがう。

 

(あんなのが妖精の尻尾の魔導士だったなんて…、いや、まずは船の中にいる女の子達をなんとかしないと…)

 

「ハッピー! 海に近づいて!」

 

「え? なんで?」

 

「いいから! 早く!」

 

海に近づいたルーシィはガキのホルダーから1本の鍵を取り出し、海につけた。

 

「開け! 宝瓶宮の扉! アクエリアス‼︎」

 

まばゆい光があたりを包み、なくなるとそこには下半身が魚である美女、星霊アクエリアスが現れた。

 

「アクエリアス! あの船をなんとかしたいの! お願い‼︎」

 

「チッ」

 

「ちょっと! 今舌打ちした!?」

 

「今そんなこと気にしてる場合じゃないでごじゃる!」

 

すると、アクエリアスは不機嫌そうな顔をし、ルーシィを睨む。

 

「おい小娘、今度私を落としてみろ…、殺すぞ?」

 

あまりにもドスがきいた口調で言うので、ルーシィは首を縦にカクカクと動かした。

ついでにマタムネとハッピーもビビっていた。

アクエリアスは自身の脇に抱えていた壺を海に降りおろと、壺の中から大量の水が出て、波になり、船を一気にハルジオンの港に押し戻した。

 

「あたしまで巻き込んでどうすんのよー‼︎」

 

「しまった… 船もついでに流してしまった 」

 

「あたしを狙ったの!?」

 

ルーシィはツッコミをするも、船の中にいるハルト達が気になり走った。

 

「ハルト! ナツ! 大丈… っ!?」

 

心配して入ってきたはいいがハルトが男達を睨む迫力に一瞬、言葉を失ってしまう。

 

「お前、妖精の尻尾の魔導士なんだよな?」

 

「じゃあ、妖精の覇王って知ってるか?」

 

ハルトは上着を脱ぎ捨て、質問しながら火竜に近づく。火竜は若干慌てながら答えた。

 

「あ、あぁ…、知っているとも! なんせ彼とは友人だからね!」

 

「そうか…… 悪いがお前なんて知らない。俺は妖精の尻尾の魔導士、ハルトだ!!!」

 

ハルトは右腕を前にいる火竜とその部下に見せるように前に出す。

そこには妖精の尻尾の紋章があった。

そのことに驚くルーシィと男たち、しかし、火竜は少し焦りながらハルトに怒鳴った。

 

「ハルトが妖精の尻尾の魔導士!?」

 

「フェ、妖精の尻尾の紋章があるからって、は、覇王ってわけじゃないだろ‼︎ やれお前ら!!」

 

「あっ、危ない!ハルト!!」

 

火竜は部下たちにハルトを襲うように命令し、部下たちはハルトに向かっていく、ルーシィはハルトに危険を伝えるが、ハルトはゆっくりと構えをとった。

向かってくる部下の1人がハルトに殴りかかるがその瞬間!

両腕に黄金色の魔力を纏わせ相手を殴った!殴られた相手は吹っ飛んでいき、他の敵を巻き込んでいき船の壁を突き抜けて海岸の壁にぶつかり、気絶した。

殴った威力が余りにも強いのか地面は少し抉れていた。

その様子を見て火竜の部下は足を止めたが、火竜は部下たちに叱咤する。

 

「なっ、何してんだ、お前ら!? 大勢かかっちまえばどうってことねぇ!!!」

 

それを聞いて部下は大勢で襲いかかるが、ハルトは躱し、捌く。

そして殴る、蹴る。

その様はドラゴンか蹂躙しているようだった。

唖然としている部下の1人がハッとし、口を恐る恐る開けた。

 

「ま…間違いねぇ… 黄金色の魔力にあの荒々しい闘いかた… あ、あいつは…」

 

「覇王…」

 

ルーシィの口からその言葉が漏れた。

マタムネは呆然としているルーシィの横にくるとハルトを自慢気に見ながら口を開いた。

 

「ハルトの魔法は太古の魔法《エンシェントスペル》、滅竜魔法でごじゃる。」

 

「め、滅竜魔法って、ドラゴンを倒すための魔法ってこと!?」

 

「そうでごじゃる。それに加えてハルトは武術の達人でごじゃる。荒々しく闘うその姿はまさに一騎当千。その様子から名付けられた二つ名が『妖精の覇王』でごじゃる。」

 

「そ、そうなんだ… って、ということは仕事についてきてたナツも…」

 

「妖精の尻尾の魔導士でごじゃる。」

 

ちなみにハッピーは船に酔って倒れているナツを起こしに行っていた。

 

「ど、どうすんだよ!? ボラさん!?」

 

「バッ、バカッ! その名前で呼ぶな!!」

 

「ボラ? 確か、巨人の鼻に所属してたよな?」

 

「ギルドの金を使って追放されたらしいでごじゃる。二つ名は紫炎のボラだったはずでごじゃる」

 

「紫炎ってことは火か…、つーことは…」

「はっ!! 覇王って言っても近接戦しかできないんだろう!!!

これでもくらえぇぇぇぇ!!!!」

 

火竜、いやボラは手から紫色の炎をハルトに向けて放った。ハルトは迫ってくる火を見ながら口を開く。

 

「…ナツ、出番だぞ」

 

その瞬間、今まで船酔いで倒れていたナツがハルトの前にに躍り出てボラの炎を食べてしまった。

ハルトたち以外はその光景を見て口をあんぐりと開けて驚く。

 

「ちょっ、ちょっと! どういうことよ!? ナツ、ひ、火を食べちゃったわよ!!?」

 

それはルーシィも例外ではなく驚いていた。するとハッピーが、

 

「あいっ! 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は自分と同じ属性の魔法は食べれるんだよ」

 

「お、同じ属性? って、ことは…」

 

「そうだ、ナツこそが妖精の尻尾の『火竜』なんだ」

 

全ての炎を食べきったナツは不満そうな顔をしていた。

 

「お前本当に火の魔導士か? こんなマズイ火初めてくったぞ…」

 

「ぐっ…、くそっ!!」

 

悪態をつくボラにハルトが右腕に魔力を纏わせながら近づく。

 

「俺はいなくなった女性たちの行方を探すのともし誘拐ならその主犯を捕まえるのが仕事だったんだ。だけどよ…まさか妖精の尻尾の名前を使って犯罪をしてるとは思わなかったぜ…」

 

ハルトはボラを睨みつける。

 

「それは絶対に許さねぇ…」

 

ハルトは一瞬でボラの懐に入り込み、腕を振るう!

 

「覇竜の剛拳!」

 

殴られたボラは風を巻き上げ、壁に激突し、気絶した。

 

「…すごい…これが妖精の尻尾の魔導士…」

 

ルーシィは驚きながらも、感動していた。ハルトはボラが気絶しているのを確認して身柄を確保してから、ルーシィのもとに行った。

 

「ルーシィ、ケガないか?」

 

「う…うん、大丈夫…」

 

「そっか…、よかった」

 

ハルトが安心して笑顔を見ると、ルーシィは若干頬を赤らめた。

 

「でぇきてぇるぅ」

 

「うっさい!!」

 

マタムネがルーシィを茶化す。ハルトはナツのほうを見るが…

 

「げっ!?」

 

「? どうしたの? ハル… えっ!?」

 

「オラァァァァァッ!!!!!」

 

ルーシィも後ろを見ると、ナツがボラの部下と戦い、港が見るも無惨な状態になっていた。

ハルトとルーシィは顔を引き攣らせてた。

 

「オイィィィ! 何やってんだよ! ナツ!!」

 

「何って敵を倒してんだろーが!!」

 

「やりすぎだ!! バカッ!!!」

 

ハルトはナツに詰め寄り、頭をはたく。

すると後ろのほうで大勢の足音が聞こえてきた。フィオーレ王国の軍隊がやってきた。

 

「これは何事かねー!!!」

 

「やっべ…! 逃げるぞ!!」

 

ハルトたちは大慌てで逃げた。その時、ハルトはルーシィの手を掴んだ。

「え…、えっ! な、なにっ!?」

 

「入りたいんだろ? 妖精の尻尾に?」

 

その言葉にルーシィは一瞬呆然とするが、嬉しそうに笑った。

 

「うんっ!」

 

ここから妖精の物語が始まる。

 



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第2話 妖精の尻尾

「ボスコに連れて行かれた女の子たちはどうするの?」

 

「あとは国に任せるさ。さすがに他国に攻めこむわけにはいかないからな。戦争になっちまう」

 

ハルジオンで騒動を起こしたハルトたちはルーシィを連れて自分たちが所属するギルド『妖精の尻尾』に向かっている。妖精の尻尾がある街、マグノリアの街なかを抜けながらそんな会話をしていた。

 

「見えてきたでごじゃる!」

 

「「「「ようこそ! 妖精の尻尾へっ!!」」」」

 

「わぁ…! 大っきいね」

ルーシィは喜びの声をあげながら見上げた。そこには妖精の尻尾のギルドがあった。ハルトたちはさっそく中に入る。

 

「ただいまー」

 

「ただいまでごじゃる」

 

「ただいまぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ただー」

 

ハルトたちが帰ってきたことに気づいた、ギルドメンバーの一人が振り向き挨拶をしようとするが、

 

「おー、帰ってき…、ぐぺっ!?」

 

「てめーっ!! 火竜の話嘘だったじゃねぇかっ!!!」

 

「えぇー!?」

 

火竜の情報がウソだったので、怒ったナツはすかさず跳び蹴りを情報を教えてくれた仲間にかましノックアウトにした。そのまま周りの人を巻き込んで乱闘が始まってしまった。

 

「あらハルト、ナツ、マタムネ、ハッピー、おかえりなさい」

 

その乱闘に気づいたのか銀髪の美女、ミラジェーンが迎えてくれた。

 

「おー、ただいま、ミラ」

 

「ただいまでごじゃる」

 

「きゃー! 本物のミラジェーンさんだ!」

 

ナツの突然の乱闘に驚いたルーシィは週ソラでトップグラビアアイドルとして有名なミラに会えて感動していると、ミラはルーシィに気づいた。

 

「あら? 新人さん?」

 

「あっ、はいっ!ルーシィです!よろしくお願いします!!」

 

「よろしくね」

 

ドガッ!! バキッ!!

 

すると乱闘がさらにひどくなり、もっと大勢を巻き込み、周りのイスやテーブルが破壊される。

 

「あらあら、ナツが帰ってきたらさっそくギルドが壊れそうね」

 

「いやもう壊れてるから」

 

ミラがそんな呑気な事を言うと、ハルトがすかさずツッコむ。

 

「ナツが帰ってきたてぇ? テメェこの間の決着つけるぞ!コラァ!!」

 

そんなやり取りに反応したのかパンツ一枚の変態、グレイが声を上げた。すると、

 

「グレイ…あんたなんて格好して出歩いているのよ」

 

「うおっ!? しまった!!?」

 

グレイの近くで酒を飲んでいた女性、カナがグレイに注意した。どうやらグレイは無意識に服を脱いでしまうらしい。露出狂だ。

 

「まったくこれだから品のないうちの男は…嫌だわ」

 

そう不満を言いながら、カナは樽で酒を飲んでしまう。カナにお前が言うなと言いたい。それを見て絶句するルーシィの後ろから大きな影ががでてくる。

 

「くだらん」

 

腕を組みながらそう言うのはエルフマン。

 

「昼間っからピーピーギャーギャーと子どもじゃあるまいし…漢なら拳で語れぇ!!」

 

(結局ケンカなのねぇー!?)

 

「「邪魔だっ!!」」

 

(しかもあっさり玉砕!)

 

ルーシィはそんなことを心の中で呟いていた。エルフマンはナツとグレイがケンカしている所に飛び込んで行くがあっさりと二人に倒されてしまったのだ。するとまた一人の男が現れた。

 

「ん? なんだか騒がしいな?」

 

「あっ!『彼氏にしたい魔導士』上位ランカーのロキ!!」

 

「混ざってくるねー♪」

 

「「がんばって〜♪♪」」

 

(はい、消えた!)

 

ロキが二人の女性とイチャつくのを見て、妖精の尻尾にいろいろとショックを受けてしゃがみこんでしまう。

 

「な…なによ、これ… まともな人がいないじゃない」

 

「いや、オレはまともだから」

 

「せっしゃもでごじゃる」

 

「あんたはネコじゃない…」

 

しゃがみこんでいるルーシィにミラは目線を合わせ励ますように言う。

 

「確かにめちゃくちゃだけど楽しいところよ?」

 

「ミラさん…」

 

そのときミラの頭に空ビンが飛んできて当たってしまった。

 

「ね? 楽しいところでしょ?」

 

(怖いです!)

 

頭から血を流しながらも、にこやかに笑いながらそんなことを言うミラに若干引いてしまっている。一方で、ケンカはどんどん過激になってきた。

 

「ね、ねぇ、ハルト! 止めなくていいの!?」

 

「いつものことだからな。止めてもキリがねぇよ。まぁ、落ちついて待ってようぜ? あっ、ミラ、コーヒーちょうだい」

 

「せっしゃはリンゴジュースが欲しいでごじゃる」

 

「は〜い」

 

「落ち着きすぎでしょ!!?」

 

ルーシィがツッコミをしていると、ケンカをしているナツ達はとうとうしびれを切らせたのか魔法を使い出そうとしていた。

 

「あんたら…いい加減にしなさいよ」

 

「アッタマきたっ!」

 

「ぬおおおぉ!!」

 

「困った奴等だ…」

 

「かかって来いっ!!」

 

カナ、グレイ、エルフマン、ロキ、ナツが魔法を使おうと構え出した。他のメンバーも構え、まさに一触即発の状況だった。

 

「あー、これは…」

 

「ちょっとまずいわね…」

 

「ちょっ、ちょっとぉ…やりすぎよぉ…」

 

そんな状況に少し冷汗を流すハルトたち、ぶつかりあおうとした、その時!

 

「止めんかバカタレどもぉーーーーー!!!!!」

 

ギルドの天井に届こうかというぐらいの背丈がある巨人が怒号を上げた。余りにもでかすぎるせいか影がかかってよく見えず、より威圧感が増している。その怒号のおかげかケンカをしていた全員ピタリと動きを止めた。

 

「あら、いらしたんですか? マスター?」

 

「マスター!?」

 

みんなはケンカを止められたのか白けたようにじぶんに用事に戻っていった。そんな中騒ぐバカが一人…

 

「だーはっはっはっ!!! みんなしてビビりやがって!!

この勝負、オレのか…ぴっ!?」

 

哀れナツ、虫の様に潰されてしまった。ズンズンとルーシィのほうに近づいてくる巨人。

 

「む? 新入りかね?」

 

マスターは問いかけるがルーシィはビビりすぎて声が出ずに口をパクパクと開け閉めしかできてない。

 

「ふんぬぅぅぅぅぅ…」

 

すると、巨人の大きさがどんどんと小さくなった。

 

「よろしくね」

 

「えぇーーー!?」

 

そこにはだいぶと背丈が小さい老人が立っていた。

この老人はマカロフ、妖精の尻尾のマスターである。

 

「とうっ!」

 

マカロフはその場で跳躍し回転をしながらギルドの二階の手すりに飛び乗ろうとしたが、頭を打ってしまい地味にいたそうだ。何事もなかったかの様に振る舞い、懐から紙の束を取り出した。

 

「ま〜たやってくれたのう貴様ら、見よ評議員から送られてきた文書の量を」

 

見せびらかせる様に紙を揺らす。そして、紙に書いてあることを、顔をしかめながら読む。

 

「まずは…グレイ」

 

「あ?」

 

「密輸組織を検挙したのはいいが、その後素っ裸で街をふらつき、挙句の果てには干してある下着を盗んで逃走…」

 

「いや、裸じゃまずいだろ」

 

「まずは裸になるなよ」

 

マカロフはため息を吐き次を読む。

 

「エルフマン! 貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」

 

「男は学歴よって言うからつい…」

 

マカロフは首を振り次を読む

 

「カナ・アルベローナ、経費と偽って某酒場で呑むこと大樽15個、しかも請求先が評議会」

 

「バレたか…」

 

「ロキ、評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所から賠償請求がきておる」

 

マカロフは大きなため息をついて、決心したように最後の紙を読む。

 

「そしてナツ…、デボン盗賊一家を壊滅させるも民家を4件も壊滅。

チューリィ村の歴史ある時計台を半壊。フリージアの教会の一部を火事に。ルピナス城一部損壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊」

 

(雑誌に載ってたのって、ほとんどナツだったんだ…)

 

余りの問題の多さに顔が引きつってしまうルーシィ。

 

「こうならないために! ハルト! お前やカミナがついているんじゃろうがっ!!」

 

「これでも頑張ったほうだわ!」

 

ハルトはマカロフに怒鳴るが流されてしまう。

 

「アルザック、レビィ、クロフ、リーダス、ウォーレン、ビスカ…etc…」

 

次々と名前を呼び、余りの怒りのせいか、マカロフの肩が震えている。

 

「貴様等ァ…ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ……」

 

ギルドメンバー全員が気まずそうにしている。しかし、

 

「だが…評議員などクソ食らえじゃ」

 

書類を燃やし投げすてる。マカロフはギルド中を見渡し語りかける。

その姿はギルドのマスターとして威厳が溢れるものだった。

 

「よいか、理を超える力はすべて理の中より生まれる。魔法は奇跡の力なんかではない。我々の内にある〝気〟の流れと自然界に流れる〝気〟の波長があわさりはじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂すべてを注ぎ込む事が魔法なのじゃ。上から覗いている目ン玉気にしてたら魔導は進めん。評議員のバカ共を怖れるな」

 

そう言い終わり、にんっと笑みを浮かべ、叫ぶ!

 

「自分の信じた道を進めェい!!!! それが妖精の尻尾の魔導士じゃ!!!!!!」

 

『オオオォォォォォ!!!!』

 

さっきまでケンカしていたのがウソの様に歓声をあげ、肩を組みあい、笑いあっていた。

 

(これが妖精の尻尾…!)

 

ルーシィは感動した。その光景は自分が憧れた魔導士を見た気がしだからだ。

 

 

「ここでいいのね?」

 

「はい! お願いします!」

 

ルーシィはミラにギルドのメンバーの証である、紋章を入れてもらい、嬉しそうにハルトたちがいるところに向かった。

 

「へぇー、じゃぁ火竜ってナツのことだったんだな。」

 

「らしいな。まぁぴったりだけど…」

 

「ナツがサラマンダーならオイラはネコマンダーがいいな」

 

「なんだよマンダーって…?」

 

「じゃぁ、せっしゃはサムライマンダーがいいでごじゃる」

 

「マンダーってつければいいってわけじゃないからな?」

 

 

ハルトとグレイがナツの食事をしている近くで談笑してるとルーシィがやってきて、

 

「ハルトー!見て見て!妖精の尻尾の紋章入れてもらっちゃった!」

 

これ見よがしに自分の右手の甲を見せてきて、話す。本当に嬉しそうだ。

 

「おー、よかったな。それじゃあ、さっそく初仕事に行ってみるか?

ナツ、お前はどうする?一緒に来るか? ん?ナツ?」

 

辺りを見回してもナツの姿が見えない。すると、グレイが頰杖をつきながら、

 

「バカ炎なら『腹いっぱいになったから帰って寝る』って言って帰ったぞ」

 

「あいつ本当に欲望に忠実だな…」

 

ハルトはナツの生き様に苦笑いをしてしまう。

 

「じゃぁ、オレとマタムネ、ルーシィで行くか?」

 

「うん!」

 

「ぎょい!」

 

ハルトたちはクエストボードを見ていた。

 

「最初は簡単な仕事がいいだろ?」

 

「うん、いきなり討伐系はちょっと…」

 

「じゃあ、これはどうでごじゃる?」

 

マタムネはある依頼書を出した。

 

「採取系のクエストか、まぁ簡単そうだしいいか。ルーシィこれでいいか?」

 

「うん! それでいいわ」

 

「決まりでごじゃる!」

 

こうしてルーシィの妖精の尻尾の魔導士としての冒険が始まった。

 

 




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第3話 薬草を採取せよ!

ハルトたちはルーシィの初仕事のためマグノリアにある駅に向かっていた。列車に乗り込み、座席に座ってるとルーシィがハルトに質問した。

 

「さっきはちゃんと依頼書を見てなかったけどどんな依頼だったの?」

 

「詳しくは書かれてなかったけど、薬草を採取する依頼なんだ。まぁ、難しければ報酬額ももっと良いはずだし、そこんところは仲介しが考えてくれてるだろ?」

 

「そうなんだ」

 

するとマタムネがハルトの袖を引っ張る。

 

「? どうしたんだ、マタムネ?」

 

「魔法をかけなくていいのでごじゃるか?」

 

「……あぁっ! ヤベェ!!!」

 

「ど、どうしたの?」

 

ハルトは何かを思い出したのか慌てて魔力を体内で練る。いきなり魔法を使おうとするハルトを見てルーシィも戸惑ってしまう。マタムネは仕方がないな〜という様子でため息をついていた。

 

「いや、じつはな…『発車致します』あぁっ!待ってくれー!」

 

ルーシィに説明しようとするがアナウンスが鳴ると情け無い声を出してしまう。

 

ガタン

「おぅふっ!」

 

「えぇー!?」

 

列車が発車し、揺れた瞬間崩れるように倒れてしまった。ルーシィは

慌ててハルトを抱きかかえ、様子を見る。

 

「ハルト!大丈夫!?」

 

「ぎ、ぎぼち悪い…」

 

「………へ?」

 

ルーシィは一瞬訳が分からないという顔をした。マタムネはいつものことなのか平然としながら話した。

 

「ハルトは極度に乗り物酔いがひどいのでごじゃる。いつもは乗る時に自分の体に浮遊魔法をかけて浮きながら移動するのでごじゃるが、

今日は話しをしていたから忘れていたらしいでごじゃる。」

 

「そ、そうなんだ…、よかった〜変な病気とかじゃなくて。

それでハルトはどうすればいいの?

このまま放っておくのもなんだし…」

 

ルーシィは訳を知り、安心したが尋常じゃない状態のハルトを見てやはり心配になってくる。するとマタムネは何か思いついたように言った。

 

「膝枕をしてあげてはどうでごじゃろう?」

 

「ひ、膝枕!?」

 

いきなりの提案に驚き、顔を赤くしてしまう。

 

「な、なんでよ!?」

 

「ギルドの酒場で『疲れてるときは膝枕をしてもらうと嬉しい』って言ってたでごじゃる」

 

 

「ハルトが!?」

 

「呑んだくれのオヤジでごじゃる」

 

「それただのオッサンの願望じゃない!!」

 

さすがルーシィ、ツッコミがうまい。

 

「じゃあこのままにしておくでごじゃるか?」

 

「う…わかったわよ…」

 

ルーシィはゆっくりとハルトの体勢を整えて膝枕をしようとする。

その顔には若干緊張が見られた。ハルトの頭を膝の上に持ってきたがそこで止まってしまった。

 

(だ、大丈夫よルーシィ、あくまでこれは看病なんだからどうってことはないわよ! 女は度胸よっ!!)

 

若干混乱している。

 

「えいっ!」

 

掛け声とともに頭を乗せてあげた。膝枕をしてあげたのはいいが、ルーシィはさっきよりも顔を赤くして固まってしまった。

 

「できぃてぇるぅ」

 

「うっさい!!」

 

 

 

ハルトたちは目的の村、クロソア村についた。そのころにやっとハルトの乗り物酔いが治った。

 

「あ〜、ようやく意識がはっきりしてきた。ありがとなルーシィ看病してくれて」

 

「い、いいのよ…仲間なんだし…」

 

「プクククク…」

 

そうは言うが顔は真っ赤にして俯いていた。マタムネはそんなルーシィを見てニヤニヤしている。

 

「さぁてと、依頼主のところに行くか」

 

「うん!」

 

「ぎょい!」

 

村長の家に向かうが村全体に活気がなかった。人々も痩せこけている人も多く、普通の状態ではないことがわかる。

 

「何があったんだろう?」

 

「……もしかしたらこの依頼、ややこしいかもしれないな」

 

ハルトは畑の跡地をみながら呟く。

 

 

村の中でも比較し大きな家についた。

 

「ごめんください」

 

「はいはーい」

 

ドアから出てきたのは若い娘だった。

 

「どうも、依頼の件で来た妖精の尻尾の魔導士です」

 

そう言いながらハルトは右腕、ルーシィは右手、マタムネは背中の紋章を見せる。

 

「あっ! あの件で、どうぞ上がってください!」

 

三人は家に招き入れられて客間に通された。

しばらくして待ってると初老の人とさっきの娘が部屋に入って来る。

 

「お〜!よく来てくださった!魔導士殿!! 村長のホックですじゃ」

 

「娘のシスカです」

 

「初めまして妖精の尻尾の魔導士、ハルト・アーウェングスです」

 

「ルーシィです」

 

「マタムネでごじゃる」

 

「ハルト・アーウェングス? それにそのオレンジ色の髪…

まさかあなたは…! 『妖精の覇王』!!」

 

「えっ!?」

 

ハルトの二つ名に気づいた二人は驚いていた。

 

「あ〜それは…」

 

「やっぱり有名なんだね」

 

「まさか覇王様が来てくれるとは!」

 

「すごいね! お父さん!覇王様が来てくれるなんて!!」

 

「あぁ!すごいぞ!覇王様が来てくださるなんて!」

 

「覇王様が来てくれたからもう安心だね!」

 

「「覇王! 覇王! 覇王!」」

 

「すごい陽気な親子ね…」

 

ハルトが来てくれたことにより、村長親子はテンションが上がりに上がって小踊りしそうな勢いで、ルーシィは若干引いている。

 

「あぁぁ〜、いやその名前はもうな、うん、やめてくれぇ…」

 

「どうしたのハルト!?」

 

ハルトはホックとシスカが覇王と言うたびに、身を悶えさせていた。

 

「覇王って恥ずかしいんだよぉ、なんだよ覇王ってぇ」

 

「えぇっ! この前は自分で名乗ってたじゃない!」

 

「あの時はあの時だよぉ普段は恥ずかしくてぜったい言えないってぇ

この名前だって仲間が酔った勢いで付け足しよぉ〜」

 

「あぁもうしっかりして!」

 

「「覇王!覇王!覇王!」」

 

「あんたたちはうるさい!!」

 

「カオスでごじゃる」

 

 

しばらくして全員が正常に戻って依頼の話になった。

 

「いや〜すいません。つい興奮してしまって」

 

「いや、こちらこそ情け無い姿を見せてしまって、すいません…」

 

「では、依頼内容を説明します。実はこの村はクロソエールの生産地なのです」

 

「クロソエール? あの有名なクロソエールですか? 俺アレ大好きなんですよ。でも、最近は生産されていないって聞いたんですが」

 

村長は苦い顔をした。

 

「ありがとうございます。えぇ実はそのクロソエールの原材料となるクロソ草が突然全て枯れてしまったのです」

 

「それじゃあ、また栽培すればいいんじゃないですか?」

 

ルーシィが質問するが、困った顔をしたままだ。

 

「栽培するにも野生のクロソ草が生えているところが危険なところでして、わしらが行くには厳しいのです。」

 

窓から見える山を見ながら言う村長。

 

「あの山は代々私の家系の者が受け継いできたのてすが、野生の動物が多くいて誰も入りません」

 

村長は頭を下げた。

 

「どうか、どうか薬草をとって来てくだされ。でないと、クロソエールに全ての収入を任せていたこの村は滅んでしまう…」

 

ルーシィの頭にさっきの村の様子が浮かんだ。するとシスカが突然立ち上がり大声で言った。

 

「絶対にあいつらのせいよっ!! エールの商権を渡さないからって…」

 

「これっ! 滅多のことを言うんじゃない!今は彼らのおかげでなんとか村の衆は生きていけるのだから…」

 

「でも! あいつらあんなにやりたい放題に…」

 

シスカの顔には悔しさが表れていた。

 

「あの…何かあったんですか?」

 

「いえ、何もないですじゃ」

 

ルーシィが聞くがホックははぐらかせてしまう。

その間ハルトはずっとシスカを見ていた。

 

 

 

「では、どうかお願いしますじゃ」

 

「はい! 任せてください!」

 

ハルトたちは村長の家をあとにし、山に向かった。

しかし、途中でハルトが立ち止まった。

 

「どうしたのハルト?」

 

「いい加減出てきたらどうだ?」

 

後ろを見ながら言うと建物の影からシスカが出てきた。

 

「シスカさん? どうしたんですか?」

 

「あの…私も連れて行ってください!奴らの悪事を暴いてやりたいんです!」

 

「奴ら? そういえばさっきも言っていましたけど誰なんですか?」

 

ルーシィが聞くとシスカは目をふせて、話した。

 

「2年前あいつらはアソット商会って言って、私たちのクロソエールの商権を寄越せと言ってきたんです。もちろん断りました。

そしたら、すぐにクロソ草が枯れてしまったんです。

仕事がなくなってしまった私たちに仕事を流してきてくれたのはあいつらなんですが、低賃金で大変な仕事をたくさん押し付けてきて、それにこの村でやりたい放題にしているんです…」

 

「アソット商会って…」

 

「悪徳で有名なところでごじゃるな」

 

「絶対にあいつらのせいなんです! だってこんなにタイミングが良すぎるんだもの! お父さんも村のみんなのためにってあいつらに頭を下げて、それすらをバカしてくるのにっ!」

 

シスカはあまりにも悔しいのか手を握りしめ、涙を浮かべていた。

 

「シスカさん…」

 

「………」

 

「うわぁぁぁぁっ!!!」

 

すると後ろのほうで叫び声が上がった。振り向くと男の子が三人の男に襲われていた。

 

「ニルくん!?」

 

シスカは少年、ニルのところに駆け付け、守るように男たちの前に出た。

 

「シスカ姉ちゃん!」

 

「おっ? なんだぁ?」

 

「こいつ村長のところの娘じゃね?」

 

「まじか、結構可愛いじゃん」

 

シスカは男たちの服のマークをみるとそれはアソット商会のものだった。

それを見てシスカは男たちを睨み、大声を出した。

 

「あなたたちいい加減にしてっ!! もうこの村から出て行って!!」

 

「おいおい、そんなこと言っていいのかよ?

この村はオレたちのおかげで食っていけてるんだぜ?」

 

「それによ、悪いのはそのガキだぜ? オレたちから食いモン盗っていったんだからな?」

 

「俺たちが大人のルールっての教えてんだよ」

 

その言葉を聞き、ニルが声を上げた。

 

「ウソだっ!! この食べ物はお腹を空かせて待ってる妹のために森で

取ってきたんだ! そしたらこいつらが小腹が空いたって言って…」

 

「最低ね…」

 

「ウソはいけないなー

だから、俺たちがルールを教えてあげるって言ってたんだよ。

まぁ? あんたが代わりに俺たちの授業を受けるってなら許してやる

けどよ〜

大丈夫だって俺たち大人だから優しくするって」

 

そう言って男たちはシスカの体を舐め回すように見た。

シスカは視線に気づき、逃げ出したくなるがこんな奴らに負けたくないのと、何よりニルを放ってはおけなかった。

ハルトは周りの村人が助けに来ないのか見てみると全員目をそらし、見て見ぬふりをしていた。

男の一人がシスカに手を伸ばすがルーシィが間に入って、手をはたく。

 

「あんたたちいい加減にしなさいよ!!

そんなの大人がすることじゃないわ!!」

 

「あぁっ!? なんだテメェ!!?」

 

「妖精の尻尾の魔導士よっ!」

 

「あ? 妖精の尻尾?」

 

「お…おいまずいんじゃねぇの?」

 

「あそこってよぉ、やばい魔導士が大勢いるって…」

 

男の一人が怯えたように仲間に話しかけるが、仲間は逆にニヤリと笑った?

 

「はっ! そんなの気にする必要はねぇよ!

俺たちには先生がいるんだからよ!!

ちょうどいいぜ! こいつにも相手をしてもらおうぜ!!」

 

男の子はルーシィに殴りかかるが、

 

「せいばいー!!」 ブスッ!

 

「アギャーー!!?」

 

後ろからマタムネがケツの穴に木刀を思いっきり刺した。

刺された男は白目を向き倒れた。

 

「ふっ、またつまらぬもの切ってしまった、でごじゃる」

 

「なっ!? この猫ぉ!!」

 

他の仲間がマタムネを捕まえようとするが、かわされてしまう。

マタムネはこっちに歩いてきてたハルトの足元まで逃げた。

 

「いやーすいませんねー

うちの仲間がやらかしてしまって?」

 

「ふざけんじゃねぇぞ!! ゴラァ!!!」

 

仲間二人がハルトに殴りかかる。

シスカとニルは目をつぶってしまうが

 

ゴスっ!!

 

シスカたちは恐る恐る目を開けると、殴りかかった二人は顔から地面に突っ込んで気絶していた。

 

「あと、女性には優しくしろよ? 大人なんだろ?」

 

気絶してる二人を睨みながら言うハルト。

前を向くとケツを刺された男がコッソリと逃げ出そうとしていた。

 

「おいお前」

 

「はっはい!!」

 

「こいつらも連れてけ」

 

ハルトが指を指す方向には気絶している二人がいた。

 

「ハイィィィィ!!!」

 

男は仲間を引きずって逃げていった。

 

 

場所を移して、ハルトたちはニルの家に来ていた。

 

「あの…ありがとうございました」

 

「いいんですよ、私ほとんど何もしてないし」

 

「せっしゃの一撃が決め手でごじゃたな」

 

「あんたも結構エゲツないことするわね…」

 

シスカからお礼を言われルーシィは恐縮してしまう。

ハルトは少し調べたいことがあると言ってどこかに行ってしまった。

 

「ふぅ」

 

「あっ、おかえりハルト」

 

「おかえりなさいハルトさん」

 

ハルトが帰ってきたが難しい顔をしたままだった。

 

「何かあったの?」

 

「いやな、なんで突然薬草が枯れたのか調べてたんだけどな…

これを見てくれ」

 

取り出したのは土だった。

 

「これ唯の土よね?」

 

「あぁ、見た目はな。だけど中に少量の毒が含まれてた。

この土は今使われてない畑の土なんだ。

多分水に毒かなんかを混ぜたんだろうな。

全部の畑がそうだった」

 

「そんなっ!」

 

あんまりな事実に口を手で覆ってしまうシスカ。

 

「どうしてわかったの?」

 

「この村に入ったときから変な匂いはしていたんだ。

もしかしてと思ってな。

だから、野生のクロソ草を取ってきてもここじゃ栽培できない」

 

「そんな…

それじゃあ、私たちは一体どうすれば…」

 

「…俺たちが依頼されたのは薬草の採取だ。

そこまでは知らない」

 

「ハルト!? そんなこと…」

 

「それにここの村人はほとんどの人が諦めている顔している。

そんな奴らがいるところなんて何やったってできねぇよ」

 

シスカは俯いてしまう。

ハルトは扉から出るときに顔だけをシスカに向けた。

 

「俺たちの仕事は薬草の採取だ。

それは必ずやってみせる。

だから、あとはお前たちがどうするかだ」

 

 

ハルトたちは山に続く道を歩いていた。

ハルトの後ろでルーシィは何か言いたげな顔をしていた。

 

「何か言いたいのか?」

 

「え…? …うん」

 

ルーシィはゆっくりと口を開いた。

 

「何もしなくていいのかなって…」

 

「薬草の採取はしに行ってるだろ?」

 

「そうじゃなくて!

その…アソット商会から村を守らなくていいのかって…」

 

「俺たちが守ったとしても、もしアソット商会みたいな奴らがまた来たらどうする?

また俺たちが守るのか?」

 

「それは…」

 

「あの村自体が立ち向かわないといけないんだ。

きっかけは作ったんだし、後はあいつらが根性を見せるかどうかなんだ」

 

それを聞いていたマタムネがルーシィに耳打ちする。

 

「本当は心配してるけど隠してるでごじゃる。

さっきあんなことを言ってしまったから素直になれないのでごじゃる」

 

 

「聞こえてるぞ」

 

それを聞いたルーシィは笑顔を浮かべた。

 

「ふふっ、そうなんだ」

 

「〜っ! ほら! 早く行くぞ!」

 

ハルトは照れ隠しなのか、歩くスピードを上げた。

 

 

その頃シスカはニルの家で考えていた。

 

「どうしたらいいの…?」

 

このままではいけないことはわかっているが、自分一人では何もできないこともわかっていた。

父親にはあんなことを言ったが対面したとき、恐怖が沸き起こってきたのだ

自分も諦めたのだろうか?

シスカは後ろ向きのことばかり考えていた。

するとニルとその妹がやってきた。

 

「お姉ちゃん!なにやってんだよ!

あいつらに立ち向かおうよ!!」

 

「ニル君… でも危険すぎるよ…

みんなに何かあったら私…」

 

そんなことを考えると手が震える。

 

「お姉ちゃんは立ち向かってくれたじゃないかっ!

それにもしお姉ちゃんが危険な目にあったら、僕が守ってあげる!」

 

 

「ニル君…」

 

「わたしも〜!」

 

「シルちゃんまで…」

 

周りに仲間がいてくれる。これだけで勇気が湧いてきた。

シスカは立ち上がり、二人を見た。もうその目には恐怖はない。

 

「二人ともついてきて! 考えがあるの!!」

 

今こそ立ち向かう時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第4話 鋼鉄の人形

ハルトたちはクロソ草が生えている山の頂上を目指していた。

すると、ハルトは立ち止まり、ルーシィたちを止めた。

 

「どうしたの?」

 

「?」

 

「…来る」

 

バッ!!!

 

「ゴアァァァァ!!!」

 

そう呟いた瞬間、両脇の草むらから人間の大人ほどの大きさの熊みたいな化け物が2体飛び出し襲いかかってきた。

 

「キャーー!!?」

 

「ふっ!」

 

ドガッ!

 

ハルトは化け物の頭上までジャンプし、足の裏から魔力噴出させて回し蹴りで倒した。

 

「ハァー ビックリした

ありがとうハルト」

 

「ふふん、た、大したことないでごじゃる」

 

「足震えてるわよ?」

 

「……」

 

ハルトは倒した化け物をじっと見ていた。

 

「どうしたのハルト?」

 

「これを見てくれ、番号札だ」

 

化け物の耳元には製造番号なのか数字が書かれた紙がつけられていた。

 

「え?つまりどういうこと?」

 

「こいつらは作られたかもしれないってことだ。

そうじゃないとしても何か人の手が加えられているな」

 

「それじゃあ、アソット商会が…」

 

「ますます怪しくなってきたな」

 

ハルトたちはさらに奥に進んでいく。

山の中腹でだいぶと開けた場所に出た。さらには奥に行く道が複数に分かれていた。

 

「広いところに出たね」

 

「どこに行けばいいんだ?」

 

とりあえずハルトたちは広いところの中心に行こうとする。

すると、ルーシィの頭上に影がかかる。

 

ゴシャッ!!

 

鎖に繋がれた鉄球を持った男が上から鉄球を投げてきたのだ。

男はルーシィを潰したと思ったが、後ろでハルトがルーシィをマタムネごと抱えこんて後方に避けていた。

 

「大丈夫かルーシィ?」

 

「あ…あのハルト…触ってる…」

 

よく見るとハルトはルーシィを横抱きにする際、手がルーシィの胸に当たっていた。

ルーシィは顔が真っ赤になり、ハルトも真っ赤にし慌てている。

 

「えっ!あっ!ご、ごめん!!」

 

「う、ううん大丈夫…」

 

「ラブコメってるでごじゃる」

 

敵の前だというのにだいぶと気楽である。

そんなことをしていると、鉄球が凄まじいスピードでせまってきた。ハルトはルーシィを抱えたままバク転し、かわす。

すると、鉄球の男が若干イラついた口調で話しかけた。

 

「いつまで遊んでいる?

お前たちは殺されそうになっているんだぞ?」

 

「いや…遊んでるわけじゃないんだけどな」

 

ハルトの後ろで何かが腕を振り下ろす。

ハルトはそれにいち早く気づき、ジャンプしてかわす。

腕を振り下ろしたのはさっきの化け物に似たような化け物がいたが、さっきのより体が大きくいたるところ角が生えている。

 

「へーよくかわしたね。

この『ベアーMk4』の速さに対応できるなんてさ」

 

草むらから熊の化け物を引き連れてる男が出てきた。

 

「猛獣使いか」

 

「いいや違うね。こいつらは僕が造ったんだよ」

 

「おいテティ、邪魔をするな」

 

「そんなこと言わないでよ、ランチア。

もし僕のベアーたちがあいつらを倒したとしても報酬は君にやるからさ」

 

 

2対2の状況だが、ハルトはあのランチアという男が強いということが

直感でわかった。

ルーシィを立たせ、ルーシィとマタムネだけに聞こえるように話しかける。

 

「いいか2人とも、俺があの2人を相手をしている間に後ろの道を進むんだ」

 

「え? でも相手が2人もいるんだし私も…」

 

「いや、あのランチアっていう男、多分強い。

お前らを守りながら戦えるかわからないんだ」

 

「私ってやっぱり足手まとい…?」

 

ルーシィは気落ちしたのか、悔しそうだった。

ハルトはルーシィの頭を優しく撫でた。

 

「そうじゃないさ。

ここは俺が戦ってる間にルーシィには薬草を取って来て欲しいんだ。

それに今回の仕事はルーシィの初めての仕事なんだ。

ルーシィが薬草を取りに行かないと意味がないだろ?

だから、お前にしかできないことなんだ…頼んだぞ、ルーシィ」

 

ルーシィはその言葉に一気にやる気がみなぎってきた。

さっきまでの様子が嘘の様に声をだした。

 

「まかせてっ!!」

 

パンッ!

 

ルーシィはハルトにハイタッチし、後ろの道に走った。

 

「マタムネ!お前も行け!」

 

「せっしゃはハルトの相棒でごじゃる。

一緒に戦うでごじゃる!」

 

ハルトは困ったように頭を掻く。

その気持ちは嬉しいが巻き込まれたら、心配なのだ。

すると、何か思いついたのかマタムネに出来るだけ威厳がでるように話しかける。

 

「マタムネ… お前は武士だ、

確かに仲間を守ることは大切なことだ。

だがっ!!

仲間の頼みを聞くのも、また武士として大切なことじゃないか?」

 

「そ、それは…」

 

ハルトの言うことに思うところがあるのか揺れているマタムネ。

だが、ハルトを思う気持ちは固いようだ。

さらにハルトは追い打ちをかける。

 

「それに女性を助ける武士ってカッコよくね?」

 

「行ってくるでごじゃる!!」

 

あっさりと行ってしまった。

マタムネが行ったことを確認すると2人に向き直る。

 

「待ってくれるなんて優しいじゃねぇか」

 

「お前が薬草を取りに行くならまだしもあの女一人なら後でどうとでもなる」

 

「まだ僕の作品もたくさんいるからね、それに頂上辺りには僕らのボスがいるし」

 

その言葉を聞き、拳に力を入れ、構える。

 

「そうか、なら…」

 

腕に黄金の魔力を纏わせる。

 

「さっさっとあんたらを倒してルーシィのところに行くとするか…」

 

 

ルーシィとマタムネは山道を急いでいた。

すると、目の前にテティが造った熊の化け物、ベアーが現れた。

 

「ルーシィ殿下がるでごじゃる!

ここはせっしゃが相手するでごじゃる!

せっしゃの愛刀、魂平刀が唸るでごじゃる!!

とりゃあ!!!」

 

マタムネは木刀を構え、ベアーを斬りつけるが斬るというよりは当てているので、ポコポコとしか音がなっていない。

ベアーはゆっくり手を上げ…

 

ビシッ!

 

デコピンをした。

マタムネの体が軽いのか、ベアーの力が強いのかはわからないがボールの様に飛んで行った。

数回地面にバウンドし、うつむきになった倒れたまま動かなくなった。

 

「マタムネ!? 大丈夫!!?」

 

ルーシィは心配してマタムネに駆け寄ると、マタムネはプルプル震えていた。

 

「い…」

 

「い?」

 

「痛いでごじゃるー!!」

 

マタムネはおでこを腫らし、泣いているだけで元気そうだった。

ルーシィは抱きついて泣いているマタムネに安心しながら、キーホルダーから金色の鍵を取り出した。

 

「次は私が相手よ!!

開け金牛宮の扉!タウロス!!」

 

「MOOOOO!!」

 

鍵から光が放たれると人型の牛が現れた。

ルーシィの星霊、タウロスである。

 

「どうしましたかな、ルーシィさん?」

 

「目の前にいる化け物を倒して欲しいの!」

 

「そんなのお安いごよ…

MOOOOO!!!?」

 

「ど、どうしたの!?」

 

タウロスがルーシィにサムズアップをしようと振り返えると、

突然悲鳴(?)をあげた。

ルーシィが聞いてみると、ワナワナと震える指をルーシィの胸、

いやその胸に抱きついているマタムネを指した。

 

「そのネコさんはオレの胸に何してるんですかー!!?」

 

「私の胸よ!!」

 

ルーシィがタウロスに事情を説明している間も、マタムネはずっと顔を胸に当てて堪能していた。

 

「むーそういうことですか。

しかし、マタムネさん!

その胸はオレのです!!」

 

「いーや、せっしゃのでごじゃる!」

 

「私のよ!?」

 

乗っかってきたマタムネにツッコミを入れながら体から引き離し、敵を見る。

 

「そんなことより、こんなことしてたら敵が…

あれ?」

 

ベアーを見てみるプルプルと震えて、顔を俯かせていた。

突然顔をあげ叫んだ。

 

「その胸はわしのじゃー!!」

 

「「「喋ったー!!!?」」」

 

「なんじゃい? 喋っちゃダメなのか?」

 

「いや、えっ? 喋れるの?」

 

ルーシィは戸惑いながら聞くとベアーは当たり前だという顔をする。

 

「当たり前じゃ。

わしは博士に造られた『ベアーMk5』じゃ、最も人間に近く造られとるんじゃ

だから、胸も好きなんじゃ」

 

「え〜」

 

なかなかカオスな状況になってきた。

最初の空気はいったいどこに…

 

「だからのう、お前らを倒してその胸をもらうんじゃー!!!」

 

ベアーMk5は腕を上げて、振り下ろすがタウロスがそれを食い止める。

 

「オレの胸はMO渡さない!」

 

「もう突っ込まないわ…」

 

ルーシィは心底疲れた顔をした。

すると、マタムネが話しかけてきた。

 

「今のうちに進むでごじゃる」

 

「そうね。

タウロス、後はお願いね!」

 

「MOお任せください!」

 

「行かせないで!

出てこい、子分共!!」

 

ベアーの号令で数匹のベアーが現れる。

 

「うそっ!?」

 

ルーシィは必死に逃げるがどんどんど追い込まれて、河原にでてしまう。

ベアーの一体がルーシィに襲いかかり、ルーシィは川の中に飛ばされてしまう。

 

「きゃあ!!」

 

「ルーシィ殿!!?」

 

「ルーシィさん!!?」

 

川に落とされたルーシィは水の中で悶えていた。

 

(痛っ! あんなにいたんじゃ、タウロス一体じゃ対抗できない。

どうすれば…ん? 川? 水!)

 

なにか思いついたルーシィは水の中から出て来て、タウロスに向かって叫ぶ。

 

「タウロス、閉門して!!」

 

「ルーシィさん!? しかしそれでは…」

 

「いいから! お願い!!」

 

タウロスはベアーを引き剥がし、しぶしぶ閉門する。

タウロスが閉門した瞬間、ベアーが襲いかかるが、それより早くルーシィがあの鍵を水につけ、叫ぶ!

 

「開け! 宝瓶宮の扉! アクエリアス!!」

 

現れたのはルーシィ最強の星霊、アクエリアスだ。

 

「お前よぉ一週間は呼ぶなって言ったよなぁ?

あぁん!?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

ルーシィはキレているアクエリアスに震えていたが、意を決してお願いした。

 

「お願いアクエリアス! あの化け物たちを追い払って!!」

 

「あぁ? ……ちっ」

 

アクエリアスは周りを見回し、傷ついたルーシィを見て舌打ちをした。

仕方がないといった顔をしながら、敵を見据える。

 

「今回だけだからな。オラァ!!!」

 

アクエリアスが水を巻き起こしたが、ルーシィを巻き込まなかった。

ベアーたちは残らず水の激流に巻き込まれどこかに流されてしまった。

 

「ありがとう!アクエリアス!」

 

「ふんっ、2週間は休みを貰うからな」

 

 

ルーシィ達はベアー達を退け、頂上に続く道を進んでいる。

頂上近くの林を抜けた先には大きな建物があった。

 

「なんでこんなところに建物が?」

 

「ルーシィ殿、ここから入れるでごじゃる」

 

マタムネが見つけた小窓から中に入り、明かりががある方に進むと、

そこには管理され、栽培、収穫されている大量のクロソ草があった。

 

「何よこれ…誰がこんなことを…」

 

「私だが?」

 

ルーシィが後ろを向くと、背が小さい初老の男が立っていた。

その顔には悪どい笑みを浮かべていた。

 

「あなたは誰?」

 

「人に名前を聞く時はまず自分から名乗ると教わらなかったのか小娘?」

 

「くっ… 私は妖精の尻尾の魔導士、ルーシィよ」

 

「せっしゃはマタムネでごじゃる」

 

「ふんっ、魔導士か… まぁ、名乗ったのだから私も名乗らなければな

私はアソット商会社長、ワルド・アソットだ!」

 

ワルドは両腕を高く上げ、そう高らかに言うがいかんせん背が低いので格好がつかない。

 

「ふんっ! 私の余りの格好良さに動けないか」

 

「いや違うけど…それより! なんでこんなことをするの!!」

 

「ふんっ! そんなこと、村の奴らが私に商権を譲らなかったからだ!

私の言うことを聞かないやつなど苦しめばいいのだ」

 

「そんなことをして商業ギルドや王国が黙っていないでごじゃる!」

 

「ふんっ! 奴らがそんなことを言う度胸があると思うか?

会ったんだろう? 村の連中に? どいつもこいつも諦めた目をしているわ!」

 

ルーシィは悔しそうな顔をするがワルドを睨みつけ、叫ぶ。

 

「そんなことない! 村の人達は絶対に諦めないわ!!」

 

「ふんっ!なんでも言え! どうせお前達はここで死ぬんだからなっ!

先生! お願いします!」

 

ワルドは後ろを向いて言う。

すると奥から上半身がほぼ裸の大男が現れた。

 

「なんだぁ? ただのガキじゃねぇか?」

 

「ふんっ! そんなことを言わずにお願いしますよぉ〜」

 

「まぁいいか。少しは遊べそうだしよぉ」

 

そう言い男はルーシィの体を舐め回すように見る。

ルーシィは嫌そうな顔し、体をかばう。

 

「なんであんた達はそいつに強力するの?」

 

「あぁ? そんなの金の為だろうが。

俺達は傭兵ギルド『鋼鉄の人形』(アイアンドール)なんだからよぉ

それに楽しいぜぇ、あいつらをいたぶるのはよぉ。

必死に許しを請う姿なんて爆笑もんだぜぇ!!」

 

「許せない! 人として最低よ!

開け金牛宮の扉! タウロス!」

 

「MOOOO!」

 

「星霊魔導士だったのかぁ」

 

「お願い、タウロス!」

 

「お任せMOーー!」

 

タウロスが自分の斧を構えて走り向かい斧を降り下ろすが、

 

ガキィィィィン!!

 

金属と金属がぶつかった音がした。

しかも壊れたのタウロスの斧だった。

 

「えっ!?」

 

「なんとぉ!?」

 

「オラァ!!」

 

男はタウロスを殴ると、タウロスは後ろまで吹っ飛んでいった。

 

「そういえば自己紹介がまだだったなぁ…

俺は鋼鉄の人形の魔導士、デュラガ様だぁ」

 

「デュラガ!? まずいでごじゃるルーシィ殿!!」

 

「どうしたの!?」

 

「デュラガは悪名高い魔導士でごじゃる。

戦った相手はグチャグチャになるまでつぶすとかなんとか…」

 

「そ、そんな…」

 

デュラガはゆっくりとルーシィに近づくが、タウロスが復活し、ルーシィの前に出て守る。

 

「ルーシィさんはやらせません!」

 

「タウロス…」

 

ドガッ!!

 

「え…」

 

デュラガはそれを見て鼻で笑い、一瞬でタウロスの懐に入りこんだ。

すると、タウロスがゆっくりと倒れ、星霊界へと帰ってしまった。

後ろにいたルーシィは何が起こったのか訳がわからず、呆然としていた。

デュラガはゆっくりとルーシィに近づく。

ルーシィは戦おうと立とうとするが、力が抜けてしまう。

 

(えっ…なんで!?)

 

「あぁ? 魔力切れかぁ?」

 

(そんな!? こんな時に!)

 

ルーシィは魔力が切れてしまい、デュラガを見上げるだけしかできない。

デュラガがルーシィに手を伸ばすが

 

バシッ!

 

「ルーシィ殿には手出しさせないでごじゃる!」

 

「マタムネ…」

 

「ふ〜んぅ」

 

デュラガはマタムネとルーシィを見て、何か思いついたのか笑みを浮かべた。

デュラガはマタムネの首を掴み持ち上げた。

 

「マタムネ!!」

 

「おいぃ!!嬢ちゃん!

この猫が死んでほしくないなら俺のものになりなぁ!!!」

 

デュラガは卑劣な事にルーシィがはい、としか言えない状況をつくった。

しかし、この男はマタムネを助ける気なんてさらさらなかった。

ルーシィがどう答えようとマタムネを殺し、絶望させる気だった。

 

「さぁ!! どうするぅ?」

 

「くぅぅ…」

 

ルーシィは悔し涙を流し、口をゆっくりと開いた。

 

「わか「ルーシィどのぉ…」っ!!」

 

マタムネは苦しそうにしながらも笑っていた。

 

「こんな…やつの…言う事なんか…聞かなくて…いいでごじゃる…。

せっしゃは…妖精の尻尾の1人で…ごじゃる…。

こんなやつ…大したこと…ないでごじゃる…」

 

「なんだとぉ! ごらぁ!!」

 

「ぐあぁ!」

 

「マタムネ!!?」

 

マタムネの言葉に怒ったのかさらに腕に力を入れる。

 

「それに…ルーシィ殿は…せっしゃらの仲間…でごじゃる…

仲間は絶対に守るでごじゃる!!!」

 

「マタムネ…」

 

「どうやらぁ本当に死にたいらしいなぁ?

ならぁ死ねぇ!!」

 

デュラガがマタムネの首をへし折ろうと、さらに力を入れるが、

 

ガシッ!

 

「あぁ?」

 

ルーシィはデュラガの足元にしがみついていた。

 

「それは私もだよ…マタムネ…

私もマタムネを、仲間を守る!!」

 

「ルーシィ殿…」

 

「どいつもぉこいつもぉ…」

 

デュラガは遂に切れたのか、ルーシィも首を掴み持ち上げた。

 

「そんなにぃ! 仲間が大切ならぁ! 仲良く一緒にぃ!

死んじまいなぁ!!!」

 

デュラガは今度こそ殺そうと力をこめる。

その瞬間!!

 

ドガアァァァァァン!!!!!!

 

ハルトが金色の魔力を全身に纏いながら、建て物の壁を破壊し、突入してきたのだ。

 

「俺の仲間に何してんだ」

 

ここに怒れるドラゴンが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第5話 覇竜の旋拳

現れたハルトはデュラガに一気に詰めより、マタムネとルーシィを掴んでいる腕に一撃ずつ加えることで解放させ、みぞおちに魔力を込めた一撃を放った。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

ドガアァァァァァン!!!!

 

吹き飛ばされたデュラガは壁を巻き込み、瓦礫の下に埋もれた。

ハルトはルーシィとマタムネに駆け寄った。

 

「ルーシィ! マタムネ!

大丈夫だったか!?」

 

「けほっ… なんとか」

 

「無事でごじゃるぅ〜」

 

すると、今まで横で見ているだけだったアソットが喚き始めた。

 

「ふんっ! 貴様ぁ!一体どうしてここがわかった!!?」

 

「親切な奴が教えてくれたんだよ」

 

「ふんっ!? 何ぃ!?」

 

 

春がルーシィ達と別れた後、傭兵ギルド鋼鉄の人形の魔導士、ランチア、テティと戦っていた。

 

「暴蛇烈破!!」

 

ランチアは巨大な鉄球を掌底で打ち、勢いをつける。

すると鉄球は蛇のような気流を作りながらハルトに突進してくる。

ハルトは見切って横に避けてかわすが、鉄球が不自然に軌道を変えて

ハルトを襲う。

ハルトは驚き、躱し損ねてしまい受けてしまった。

そのまま森に向かっていき何本かの木をなぎ倒し止まったが、すぐに

ハルトは上空に高く跳んだが、またランチアが鉄球を放つ。

 

(バカめ、上空では躱せないだろう… これで終わりだな)

 

ランチアはこれで終わると思っていたが、ハルトは腕を横に向けて魔力を放出した。

それによりハルトは空中での移動を可能にし、一気にランチアに詰め寄ったが、目の前にベアーMk4が2体立ちふさがった。

ハルトは足止めされ、ベアーが襲ってきたが、体をよじり躱しながら

ベアー2体を倒す。

その時にはランチアは遠くに移動し、テティの側には新たなベアーが数体現れていた。

ハルトは内心、焦っていた思った以上に2人の連携が取れており、中々攻撃が入らないからだ。ランチアに攻撃しようとすればテティのベアーが止めに入り、テティを攻撃しようとすればランチアが止めに入る。

ハルトはどう攻撃するか考えていた。

すると、テティが

 

「う〜ん、思った以上に強くはないかな?

ねぇ、ランチア。 一気に倒してしまおうよ?

あんまりデータも取れないし」

 

「そうだな…

先に行った女と猫も追いかけないといけないしな」

 

「好き勝手言ってくれるじゃねぇか?

そんな簡単にやられるかよ」

 

すると、ランチアは鉄球を自分の頭上で振り回し始めた。

徐々に巻き起こされた風は勢いを増し、竜巻のようになった。

直感で危険だと感じたハルトはランチアから遠ざかろうとするが、風がランチアを中心に集まろうとし、引き寄せられてしまう。

その勢いは周りの地面をめくりあげる程だ。

めくりあがった地面に足を取られ、バランスを崩してしまったハルトにベアーの多勢がハルトに襲いかかった。

ハルトは捌き、カウンターなどで応戦するが、ベアーの数が多すぎて目の前が見えなくなってしまった。

すると、ベアー達は一斉にハルトから離れて行った。

ハルトの目の先には今まさに鉄球を放とうとするランチアがいた。

 

「嵐蛇烈破!!」

 

ランチアが放った鉄球は風を嵐のように纏ってハルトに突っ込んできた。

ハルトは避けようとした瞬間、後ろからベアーがつかまってきた。

 

(しまった! 目の前の攻撃に集中し過ぎた!)

 

ハルトはなんとか脱出し、ベアーを足場にしてジャンプしたが鉄球はまた不自然に曲がりハルトに迫った。魔力を出して逃げようとしても

風が鉄球に寄せられるように集まるので逃げれない。

 

「終わりだ…」

 

ドゴオォォォォン!!!

 

ハルトは鉄球を喰らってしまい、鉄球が蛇のように軌道を変えながら地面に激突した。

そのせいで、土煙が上がりハルトの様子がわからない。

 

「終わったー?」

 

テティがランチアに近づきながら聞いてきた。

ランチアは鉄球を自分の手元に戻しながら答えた。

 

「あぁ、直撃だったからな…

死んでないとしても起き上がってこないだろう」

 

「そっか、じゃああの女と猫を追おうよ」

 

ランチア達が立ち去ろうとした瞬間、

 

「待てよ」

 

土煙の中から声が聞こえて来た。

ランチア達は勢いよく土煙が上がっているところを見る。

その顔には信じられないと言った表情が読めた。

土煙がなくなるとそこには腕をクロスし、袖の部分がなくなっており、その腕の周りには金色の魔力で形作られた竜の腕があった。

 

「覇竜の剛腕」

 

「ありえない… ランチアの嵐蛇烈破を防ぐなんてそんなことできるの

デュラガぐらいしかできないのに…」

 

「いや、すげぇ威力だな、さっきの技。

覇竜の剛腕を出したのに袖が破けた」

 

テティは冷や汗を流すが、ランチアは辛そうな顔をするだけだった。

 

「そうか、なら何回もやってお前を倒すだけだ」

 

「もうやられねえよ。

次からは少し本気になる」

 

「本気? 今まで本気じゃなかったのか?」

 

そう言われ、ハルトは困った顔をした。

 

「俺の悪い癖なんだけど、どうしても人と戦うときは手加減してしまうんだ。

だけど、あんた等強いから、少し本気を出す」

 

ハルトは覚悟を決めた顔をした。

それにより、ランチアはより一層辛そうな顔をした。

 

「やっちゃおうよ、ランチア。

こいつ、ここで潰しとかないとまずい」

 

「あぁ、そうだな… 、ふんっ!」

 

ランチアはまた鉄球を回し始めて、テティはベアーに命令しハルトを襲わせた。

ハルトは体を低くし、スタートダッシュの形をし、弾ける様に走り出した。

ベアー達と交戦するが、その勢いは止まらず、まるで嵐の様に進んだ。

ハルトがランチアの前に出たときには、またランチアが待ち構えていた。

 

「嵐蛇烈破!!!」

 

ランチアが放った鉄球はさっきよりも風も勢いも強く、確実にハルトを倒そうとしているのがわかった。

しかし、ハルトは避けようとせずにそのまま突っ込んで行った。

これには放ったランチアもベアーを待機させていたテティも驚いた。

あの技に突っ込んでいくなんて自殺行為と思ったからだ。

ハルトは拳に魔力を纏って鉄球を殴ったが、それでは鉄球の勢いは止まらない。

 

「覇牙連拳!!」

 

次々と拳を鉄球に叩き込んで行くハルト、すると鉄球は段々勢いがなくなっていき、ついには止まってしまった。

さらにハルトは鉄球に渾身の一撃をぶつける。

 

「覇竜の剛拳!」

 

鉄球は拳が打ち込まれたところを中心に罅が入り、粉々に砕けてしまった。

 

「あ…ありえない…」

 

「くそっ! 化け物には化け物をぶつけてやるよ!!

出てこい!ベアーMk10!!!」

 

テティの合図とともに森から巨大な影が見えてきた。

どことなく今までのベアーに似ているが体長を10メートルは越す巨大でおそろしさは一番だった。

 

「ハハハハハッ!! 僕が作ったベアーの中で最も強い個体だ!!

こいつに勝てるかな!!?」

 

ベアーMk10はハルトに近づき見下ろすとハルトに向かってパンチを出した。

ハルトはこれにも逃げもせずにその場で構え、向かえうった。

 

「覇竜の螺旋拳!!」

 

ハルトは腕をひねり、打つ瞬間に回転させる強力な一撃を食らわせた。

それによりベアーは腕から衝撃が伝わり後ろ吹っ飛んで行った。

 

「えっ…ちょ…うそ…ちょっとまっ」

 

ズドオォォォォン!!

 

テティは吹っ飛されたベアーの下敷きになってしまい気絶してしまった。

それを確認したハルトはランチアに向きなおった。

 

「さてと後はあんただけなんだけど…

ハッキリ言ってあんたとは戦いたくないんだ」

 

「何?」

 

「だって、あんた攻撃するときいっつも躊躇していただろ?」

 

「っ!!

そんなことはない!」

 

「それに攻撃を当てる瞬間、いっつも目を閉じてたし、それって人が傷つくところを見たくないんだからじゃないのか?」

 

「黙れ!」

 

ランチアはとつぜんの殴りかかってきた。

まるで図星を言われたかの様に。

 

「あんたはいい人だ。

ルーシィ達を攻撃しなかったのもそうだからじゃないのか?」

 

「黙れ黙れ黙れ!!」

 

ランチアはやたらめったらと殴りかかるだけで、ハルトには全く届きはしなかった。

ハルトは仕方がないと思い、鳩尾に一発叩き込んだ。

ランチアはたたらを踏み、しゃがみこんでしまった。

 

「仕方がないんだ…」

 

ランチアは声を震わせながら呟いた。

 

「妻や子供、仲間を救うにはこれをするしかないんだ!」

 

「どういうことだ?」

 

ランチアはポツリポツリと話し始めた。

ランチア自身も限界だったのかもしれない。

 

「俺は腕っ節が強かった正規ギルドの魔導士だったんだ。

同じギルドに所属していた女性と結ばれて子供もできた。

しかし、ある日、デュラガが率いる鋼鉄の人形が俺たちのギルドを襲ったんだ。

もちろん俺も戦った。 しかし、負けてしまい。妻と子供、それにギルドの仲間は全員が、奴が持っていた呪いの道具により石に変えられてしまった。

助けて欲しければ俺の部下になれと脅され、今はこんな状態だ。

酷いこともたくさんしてきた。

仲間の為だと言い聞かせてきたが、もうダメだ。

村の人達を傷つけるのはもう俺には耐えられない!」

 

ランチアが流した涙は地面に落ちていく。

 

「こんな弱い俺ですまない… みんな…」

 

ハルトは黙って頂上に続く道のほうを向く。

 

「そのデュラガってのはこの山にいるのか?」

 

「あ…あぁ」

 

「どこだ?」

 

「おそらく工場にいるはずだが…」

 

「どっちに行けばいい?」

 

「お前…まさか… よせっ!

奴は強い! いくらお前が強いからって奴には…」

 

「いいから教えてくれ」

「……左の道に行くと近い」

 

「ありがとな」

 

ハルトは左の道を行くが、途中で立ち止まり、ランチアに話しかけた。

 

「あんたは強いよ」

 

ランチアは何を言っているのかわからなかった。

 

「家族や仲間を救う為にここまで1人で頑張ってきたんだ。

それはあんたが強いってことじゃないのか?

1人でここまでやれる奴なんてそういないしな

少なくとも俺はそう思うぜ?」

 

その言葉にダムが決壊したかの様に涙を流し、震える声でランチアは礼を言った。

 

「ありがとう…」

 

 

「まぁ、そんなことがあったんだよ」

 

「そうなんだ…」

 

「だから、さっさと出てこいよ、デュラガ。

まだ、やられてねぇだろ?」

 

その言葉に反応するかの様にデュラガが埋もれていた瓦礫の山が弾け飛んだ。

 

「ハッハッハッハッハァッ!!!

ランチアのやつぅ家族がどうなってもいいのかぁ?

こんなガキに任せるなんてよぉ!!」

 

出てきたデュラガは多少傷が付いているだけで、健全だった。

そこに得意げなかおをして近づくアソット。

 

「ふん! いや〜先生ご無事でしたかぁ♪

てっきりやられてしまったかと…」

 

それを聞いてデュラガはアソットを睨む。

 

「あぁ? テメェ、俺が負けると思ってんのかぁ?」

 

「ふ、ふん。

そういう訳では…」

 

デュラガはアソットを殴り飛ばした。

 

「依頼人を殴り飛ばしていいのかよ?」

 

「俺が気に食わない奴らはどうなろうがどうでもいいんだよぉ

それよりガキィ、よくもやってくれたなぁ?

覚悟しろよぉ? あぁっ!!!?」

 

デュラガはハルトに突進してくる。

ハルトは身構え立ち向かう。

ここに最後の戦いの火蓋が切られた。

 

 

ランチアはハルトに貰ったダメージを回復させてからアソットの工場に向かった。

ハルトがああは言ってくれたが、デュラガの強さは自分がよく知っていた。

いざとなれば自分が不意打ちか相打ち覚悟で臨む気でいた。

ようやく入口が見えてきて、そこからぶつかり合う音が響いている。

ランチアは重い体を急かしながら、進み、自分の目に入ってきた光景は、

 

「覇竜の剛拳!!」

 

「ぐぅ!!?」

 

「…あのデュラガを圧してるのか?」

 

ハルトがデュラガを圧倒している光景だった。

 

「ちぃ! ただのギルドの兵だと思ったがなかなかやるなぁ!!」

 

「お前も案外大したことないな」

 

「油断するな!! デュラガはまだ本気を出してないぞ!!」

 

デュラガはランチアに気づき、悪どい笑みを浮かべた。

 

「よぉ、ランチアァ? テメェよくも負けてくれたなぁ

お前の家族や仲間が傷つくぞぉ?」

 

「くっ…」

 

「させるかよ。お前を倒せば終わりなんだからな」

 

デュラガはそれを聞き、吹き出してしまった。

 

「ハハハハッ! お前この俺を倒せると思ってんのかぁ?」

 

「さっきまでハルトに圧されてたじゃない…」

 

「そうかよぉ? じゃあ、ほらよぉ? 打ってこいよぉ?」

 

デュラガは上着をはだけさせ、地肌を見せ、ハルトに攻撃させる挑発をしてきた。

ハルトは挑発され、顔を顰めながらも魔力を拳に纏わせる。

次で決着を付ける気だ。

 

「後悔するなよ? 覇竜の螺旋拳!!」

 

ハルトは剛拳より威力の強い螺旋拳をデュラガの鳩尾に放つ!

 

ガキィィィィン!!

 

「ぐぅあぁぁ!?」

 

「「ハルト!?」」

 

倒れたのはハルトのほうだった。

拳を抑え蹲る。

デュラガの腹の部分を見るとダイヤモンドになっていた。

 

「さっきはよくも大口を叩いてくれたなぁ?」

 

デュラガは拳をダイヤモンドに変えハルトを殴る。

 

ドガッ!!

 

ハルトは顔が地面に埋もれてしまう。

立ち上がろうとするが、デュラガは立て続けに拳を叩き込む。

 

「離れるでごじゃる!!」

 

マタムネが木刀をデュラガの顔目掛けて飛び込んでくるが、顔をダイヤモンドに変え防ぐ。

ハルトはその隙に逃げ出す。

 

「ハルト!大丈夫!?」

 

「来るな!」

 

ハルトは頭から血を流しながら、駆け寄ってくるルーシィを手で制する。

マタムネもハルトに駆け寄ってくる。

 

「大丈夫でごじゃるか、ハルト?」

 

「あぁ、まぁな。

マタムネはルーシィを守ってくれ」

 

マタムネは何か言いたそうな顔したが、ハルトが頭を撫でる。

 

「頼むぞ」

 

ハルトの真剣な顔を見て、マタムネはうなづきルーシィに近づく。

 

「安心しろルーシィ。

負けないからさ」

 

ハルトはルーシィを安心させる為に笑顔を見せるが、デュラガに貰った攻撃が効いてるのか疲労が見える。

 

「別れの挨拶は終わったかぁ?」

 

ハルトはデュラガのほうを向き、飛び出し、殴り掛かるがデュラガは攻撃が当たる部分をダイヤモンドに変えて防ぐ。

攻撃が当たるが、鈍い音が鳴るだけだった。

 

「くそっ!」

 

ハルトはデュラガから離れる。

殴った拳はやはり青白く変色している。

 

「次はこっちから行くぞぉ!!」

 

デュラガはハルトに詰め寄り、ダイヤモンドに変えた腕を振るう。

ハルトは避けるが何故か傷が付いてしまう。

 

「ぐっ!?」

 

(何だ!? 何か飛んできた? これは…ダイヤモンド!?)

 

ハルトは傷がついた部分を見ると細かいダイヤモンドが刺さっていた。

デュラガが腕をダイヤモンドに変えて、突進してくるのをハルトは防ぐ。

 

「覇竜の剛腕!」

 

防ぐが剛腕はヒビが入り、砕け、ハルトに直撃する。

 

ドカアァァン!!

 

ハルトは工場の機械にぶつかり、止まる。

 

「がはっ!」

 

デュラガはゆっくりと座り込んでいるハルトに腕をダイヤモンドに変え、振り上げる。

 

「じゃあなぁ!」

 

その瞬間、デュラガの腕に鎖が巻きつく。

 

「やらせないぞ! デュラガ!」

 

ランチアが鉄球に付いていた鎖でデュラガの腕を防いだのだ。

しかし、それを腕を振ることでランチアを引き寄せ、顔を掴み地面に叩きつける。

 

「テメェら弱者はオレの様な強者に搾取されるだけなんだよぉ!!

この村の奴らみたいになぁ!!」

 

その言葉にハルトは起き上がり、デュラガの鳩尾に拳を叩き込む。

 

「そんなことはないぞ!!」

 

「ぐおっ!!」

 

「弱い奴らはな! 何時までもやられてばかりじゃないんだよ!!」

 

ハルトはそう言うが崩れるた

 

「はっ! 弱い奴らは弱いままだろうがぁ!」

 

デュラガはまた腕をダイヤモンドに変え、突進しようとするが、首と腰に鎖とムチが巻きつく。

 

「俺もだ。やられてばかりではいられるか! 家族と仲間は返してもらうぞ!!」

 

「この村の人達だって、いつまでも従ってばかりじゃないわ!!

必ず自分達で立ち上がる!」

 

ランチアとルーシィがデュラガの動きを止める。

 

「ぐぐぐ…」

 

「ハルト! 立つでごじゃる!!」

 

「おう…」

 

ハルトはゆっくりと立ち上がり、構える。

 

「うっとしいぞぉ!! 弱者どもぉ!!」

 

デュラガは鎖とムチを引き離し、腕をダイヤモンドに変え交差し、ハルトに突っ込んで行く。

 

「ダイヤモンドインパクトォ!!」

 

「言っただろうが…、いつまでもやられてばかりじゃねぇてっ」

 

拳、腕に魔力を纏わせる。

その勢いはどんどんと増していき、嵐の様にうねる。

デュラガとハルトがぶつかる瞬間!

デュラガの視界からハルトが消え、自身の体に凄まじい衝撃が襲う。

 

「覇竜の旋拳…」

 

ハルトの攻撃はデュラガの鳩尾に深く刺さっており、気絶し倒れた。

それと同時に機械がハルトが突っ込んだ衝撃により爆発が起きてしまった。

 

「逃げるぞ! この工場は持たないぞ!!」

 

ランチアはアソットを抱え、叫ぶ。

 

「ッ! ルーシィ急げ!!」

 

「ちょっと待って!」

 

ハルトもデュラガを抱え逃げようとするが、ルーシィは工場の奥に行ってしまう。

 

「どうするでごじゃる!?」

 

「…迎えに行くぞ!

ランチアは先に行ってくれ!」

 

「あ…おい!

くそっ! 死ぬんじゃないぞ!!」

 

ランチアにデュラガを渡し、ルーシィが向かった奥へと進んだ。

 

 

辺り一面が炎に包まれて、危険な状態だ。

 

「ルーシィ!どごだ!!」

 

「匂いでわからないのでごじゃるか!?」

 

「煙のせいでわからないんだよ!」

 

どんどん火の勢いが増してくる。

このままでは脱出が出来なくなってしまう。

すると、奥から走る音が聞こえてくる。

 

「ハルト!」

 

「ルーシィ! 何してんだ!?

早く逃げるぞ!!」

 

「こっちでごじゃる!」

 

逃げようとするが道が瓦礫が落ちて塞がれてしまう。

 

「きゃあっ!!」

 

「くそっ!」

 

「どうするでごじゃる〜!!」

 

周りは火の海で逃げることが出来ない。

 

「…2人とも俺に捕まれ!!

一か八かだ…!」

 

ルーシィとマタムネはハルトにしがみつき、目をつむる。

ハルトは腕を体の前で交差し、魔力を纏わせる。

爆発が起ころうとする瞬間、

 

「覇竜の剛腕・包!!」

 

爆発が工場を包んだ。

 

 

「ハルト君…!」

 

ランチアはアソットとデュラガを鎖で縛りつけると、工場の爆発が起こった。

それと同時に川が決壊し、水が流れ込み火事が消えていく。

ランチアは火事が消えたのを確認し、ハルト達を探しに行った。

 

「ハルト君! 無事かー!!」

 

何度呼んでも返事が返ってこない。

やはり、爆発に巻き込まれ死んでしまったと思ってしまう。

すると、瓦礫が落ちる音がした。

音が鳴ったほうを見に行くと不自然に瓦礫が積まれていた。

 

「あれは…」

 

瓦礫が徐々に崩れ始めると、そこにはハルトの覇竜の剛腕が何本も地面から、球状になるように生えていた。

徐々に魔法が消えていくと中にはハルトにしがみついたマタムネとルーシィがいて、無事な様子だった。

 

「ふぅ…

なんとかなったな…」

 

「死ぬかと思ったでごじゃる…」

 

「ごめんね…2人とも、私の為に…」

 

ルーシィは2人を爆発に巻き込んでしまい申し訳ない顔をした。

 

「気にすんな、仲間だろ?

それに助けて貰ったら、ありがとうだろ?

 

「そうでごじゃる!」

 

「うん! ありがとっ!! 」

 

「良かった、無事だったのか!」

 

ハルト達はランチアと落ち合い、辺りを見回した。

そこは焼け野原になってしまった。

 

「これじゃあ、クロソ草は全部焼けてしまったかもしれないでごじゃる…」

 

「そうかもな…

なぁランチア、他にクロソ草が生えているところを知らないか?」

 

「悪い、クロソ草はここにしか生えていないんだ…」

 

「そうか…どうしようか…」

 

「安心して! …これを見て!」

 

ルーシィは自分のカバンの中を見せた。

そこにはクロソ草が入っていた。

 

「あの時、クロソ草を取りに行ってたの!」

 

ルーシィは爆発が起ころうとした時、工場の奥で栽培されていたクロソ草を取りに行っていたのだ。

少ないがこれでクロソ草を栽培できる。

 

「よくやったぞ!ルーシィ!!

これで依頼達成だ!」

 

「やったでごじゃる〜!」

 

「うん!これで初依頼達成よ!!」

 

 




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第6話 立ち上がった者たち

今回は短めです。


ハルト達はランチアと共にデュラガを倒し、爆発寸前の工場から栽培されていたクロソ草を手に入れ、クロソ村へと続く道に進んでいた。

ルーシィ達にはランチアの事情を話してある。

 

「いやー今回は初仕事にしては結構ハードだったな」

 

「ふん!おい貴様ら! 今すぐ私を解放しろ!」

 

「そうだったけど、これで自信がついたわ!」

 

「ふん!今解放すれば許してやるぞ!!」

 

「ルーシィ殿には良い経験になったでごじゃるなー」

 

「ふん!おい聞いているのか!!?」

 

「そういえばランチア…さん?」

 

「ランチアで良い」

 

「そっか、じゃあランチアはこれから…「ふん!そうだ!貴様らに私の財産を…」うるせー!!」

 

「ぶぺっ!?」

 

今まで無視し続けてきたが、とうとう我慢の限界がきれ、ハルトはアソットを殴って黙らしてしまった。

アソットはハルトに殴られた反動で地面をバウンドして山を転がって行ってしまった。

 

「ひどいでごじゃるな」

 

「当然の報いよ」

 

「それでどうしたんだ?ハルト君?」

 

「デュラガに人質にされたアンタの家族や仲間はどうするのかなって思って」

 

「あぁそれなら安心してくれ。

デュラガは案外神経質な奴なんだ。

相手の弱みは必ず自分の手元に置いておくんだ。

だから、ほら、これを」

 

ランチアの手には黒い玉があった。

 

「これは相手を捕らえる呪具だ。

恐らくどこからか盗んで来たんだろうな。

あとは解術士(ディスペラー)にまかせればなんとかなるはずだ」

 

ランチアの顔はさっき戦ったときとは別人と思えるほど穏やかだった。

ハルトもそれを見て嬉しい気持ちになった。

 

 

ハルト達がクロソ村に着こうとしたとき、村の入り口では大勢の村人が集まっていた。

 

「おぉ!! 魔導士さん達が帰ってきたぞ!!」

 

村人の1人がハルト達に気づき、声を上げると全員、ハルト達に集まっていった。

ルーシィがカバンからクロソ草をとりだし、みんなにみんなに見えるように掲げる。

 

「じゃーん! クロソ草の採取完了しました!!」

 

それを見て村人たちは歓声を上げる。

ハルトとルーシィのところにシスカがやってくる。

 

「ハルトさん! ルーシィさん! 本当にありがとうございます!

これで、またエール作りができます!」

 

「礼を言うならルーシィに言ってくれ。

1人で危険なところからクロソ草を取ってきたんだ」

 

「そんなことないよ

ハルトが戦ってくれたおかげでできたんだし…」

 

「今回の仕事はルーシィの仕事だ。

もっと胸を張っていいんだぞ?」

 

それを聞いた村人はみんなルーシィにお礼を言っていった。

 

「えへへっ、そっか…」

 

それにルーシィは少し恥ずかしながらもとても嬉しそうににしていた。

すると、横から邪魔な笑い声が聞こえてきた。

 

「ふふふふふふんっ! クロソ草を取ってきたとしても無駄だ…

どの道この土地では栽培できないんだからなっ!

土には毒が染み込んでいる!

だから、お前たちは私を頼るしかないんだ!

ほれ! 何をしているお前たち!

早く私を解放しろ!!」

 

「お待ちくだされ!」

 

奥から村長のホックが現れた。

 

「もうアソット商会からの援助は必要ありません」

 

「ふん!? 何ぃ!!?」

 

「シスカがハルト殿から言われたのです…

諦めてる奴らが何をしてもダメだと、確かにワシらは諦めていたのかもしれません。

今まで生活の全てを頼ってきたものがなくなってしまったからでしょう。

あなたの援助にも甘えてしまった…

その結果村の者たちには辛い思いをさせてしまった…

全ては諦めてしまったワシらに責任がある。

だから、ここから復興していくのもワシらの責任です!

ワシらやるべきことなのです!!」

 

その顔には初めてあったときにはなかった覚悟が見えた。

アソットは少し狼狽えたが、それでもこちらが有利だと考え笑みを浮かべる。

 

「ふ、ふん! そうだとしても土地の汚染はどうするんだ!!?

畑が無ければ何も出来ないだろう!?」

 

「それには心配入りません」

 

「ふん!?」

 

「新しい畑をを耕したのです」

 

よく見ると村長、シスカや村人全員が土で汚れていた。

 

「ふん…くそぅ…」

 

ウオオォォォォォ!!!!

 

アソットはもうなす術がないのか、顔を俯かせて悔しそうに声を出した。

それと同時にクロソ村の人々は歓声を上げた。

人々は自分たちの手で立ち上がったのだ。

 

 

その後はとんとん拍子にことが進んでいった。

アソット商会はクロソ村以外にも不正を働いており、それを調査していた商業ギルドに見つかり、商会はつぶれ、逮捕された。

傭兵ギルド、鋼鉄の人形はギルドマスターであったデュラガの身柄が評議院に確保されたことに解散、そのことで一悶着があった。

それは評議院がランチアの身柄も確保しようとしたのだ。

確かにランチアは一時鋼鉄の人形に身を置いていたが、ランチアも被害者なので情状酌量の余地があるはずだとハルトは訴えたが、ランチアは自ら出頭したのだ。

何故なら、ランチアはクロソ村の事件以外にも犯罪を犯していた。

家族や仲間を救うためとは言え、犯罪に手を染めたのは悪いことだと言い、こんなことでは家族に合わせる顔がないと言ったのだ。

そのときランチアはハルトに伝言を頼んだ。

 

『もし解放された家族が俺の居場所を聞かれたらこう伝えてくれ…

仕事で遠くにいると、終わり次第すぐに家に帰るとな』

 

その顔は付き物が落ちたように晴れやかになっていた。

連行されるときハルトの方を向き、礼を言った。

 

『君に会えて良かった。

立ち向かう勇気を思い出させてくれたんだ。

ありがとう… また会おう…』

 

その後、クロソ村ではアソット商会から解放されたこととクロソ草の復活を祝って、宴が催された。

村人は全員、飲めや歌えのドンチャン騒ぎを起こした。

今までの苦しみからやっと解放されたのがよっぽど嬉しいのだ。

そんな光景をハルトたちは少し離れたところから見ていた。

ルーシィは嬉しそうだったが少し浮かない顔をしていた。

 

「どうしたんだルーシィ、嬉しくないのか?

全部終わったし、初依頼も無事達成できたんだ」

 

「うん…そうだけど…

ランチアさんがかわいそうで…」

 

「あぁ…そのことか

それなら心配いらないだろうさ。

評議院に知り合いがいるから便宜を図ってくれるように頼むよ。

それにランチアには家族や仲間がいるんだ。

その人たちも放って置かないだろうさ」

 

「そうだよね…」

 

「なにをしているでごじゃるー!

こっちで踊るでごじゃる!」

 

「ハルトさーん! ルーシィさーん!

踊りましょーう!!」

 

みんなと一緒に踊っていたマタムネがハルトたちに気づき声をかけると、ハルトは立ち上がりルーシィに手を差し出す。

 

「行くか!ルーシィ!!」

 

「うん!!」

 

ルーシィは手を取り一緒にみんながいるほうに走った。

その夜はずっと笑い声が絶えなかった。

 

 




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第7話 チーム結成!

クロソ村の一件が終わり、ルーシィもだんだんと妖精の尻尾に慣れてきた。

また、妖精の尻尾の魔導士マカオをハコベ山で捜索するときに活躍したりなどした。

そんなこともあり、ルーシィはようやく自分の家を借りることができのだ。

ここはそのアパートのシャワー室、今ルーシィがお風呂に入っていた。

 

「うーん、いいところ見つけたなー」

 

浴槽で気持ちよさうに手足を伸ばすルーシィ、最近は色々あって疲れがたまっていたのだろう。

体を乾かし、バスタオル1枚を体に巻き、リビングに向かう。

「家賃7万はちょっと高いけど間取りは広いし、収納スペースは大きいし、そして何より一番素敵なのは…」

 

1人で気に入っているところ挙げていくルーシィ、端から見れば、少し不気味だろうがそれほど気に入ったのだろう。

それはさて置き、ルーシィがお気に入りのリビングに出ると…

 

「よっ」

 

「あたしの部屋ー!!」

 

ナツとハッピーがソファにくつろぎながらお菓子を貪っていた。

すかさずルーシィはナツとハッピーに回し蹴りで壁に叩きつける。

 

「なんであんたたちがいんのよっ!!?」

 

「まわっ」

 

こんな対応ができるということは妖精の尻尾でのノリがわかってきたということだろう。

 

「ミラに住むところが決まったって聞いたからよぉ…」

 

「聞いたからって勝手に家に上がりこんでいいわけないでしょ!!」

 

「悪かったなルーシィ、勝手に家に上がって」

 

「ハ、ハルト!?」

 

キッチンからエプロン姿のハルトが出てきた。

だが、ここでルーシィはひとつ忘れている。

それは…

 

「あっ…ルーシィその格好は…」

 

「えっ…」

 

ハルトはすかさず顔をそらし、ルーシィは自分の格好を見るとバスタオル1枚でお風呂上がりなので若干体が濡れていて、扇情的だった。

それに気づいたルーシィは顔を真っ赤にした。

 

「キャーーーー!!!」

 

 

ルーシィが服を着て、さっきの続きを話すことになった。

 

「悪かったな。なんか色々と…」

 

「い、いいのよ…」

 

「人がいるのにタオル1枚で出てくるなんて非常識な奴だな」

 

「「お前(あんた)が言うなっ!!」」

 

すると、奥からエプロン姿のマタムネが出てきた。

 

「ハルトーできたでごじゃる」

 

「マタムネも!」

 

「こんばんはでごじゃる。ルーシィ殿」

 

「よし、よそるか」

 

「えっ、よそるってご飯を作ってくれたの?」

 

「あぁ、流石に勝手に上がりこんだから、悪いと思ってな」

 

次々と準備される料理はどれも美味しそうだ。

 

「さっ、早く食べようぜ!」

 

「ハルトの料理ってとっても美味しいんだよ!」

 

ルーシィはトマトソースのパスタを食べるとそこらのレストランより断然と美味しかった。

 

「!? 本当に美味しい!!」

 

「ハルトは時々、ギルドの厨房で働いているもんね」

 

「(なんだか複雑な気分だわ…)どこかで習ったの?」

 

「あぁまあな、昔色々あって…」

 

ハルトは微妙な顔をした。

 

「?」

 

「そんなことよりいっぱい食べてくれ!」

 

ハルトはこれ以上触れて欲しくないのか明らかに話をそらした。

その後、ご飯を食べ終え一服していた。

 

「ふぅ〜食った、食ったー」

 

「おなかいっぱい…」

 

「ごじゃるー」

 

ナツ、ハッピー、マタムネは膨れたお腹を満足気に押さえながらくつろいでいた。

ハルトとルーシィも片付けを終えて、くつろいでいた。

するとハルトは机の上に置いてあった紙の束に気づき、手を伸ばす。

 

「なんだこれ?」

 

「ダメェーー!!」

 

ルーシィはすかさずハルトから紙を取り上げた。

 

「何だよそれ?」

 

「な、何だっていいでしょ!」

 

「気になるなぁ」

 

「そ、それより今日は何しに来たの?」

 

ルーシィも明らかに話をそらしたが、まぁいいやと思い話し出す。

 

「ナツが星霊について知りたいって言ったから、ルーシィに見せて貰おうっと思ってきたんだ。

俺も気になるしな」

 

「おう! この前のハコベ山で牛に助けられたしな!」

 

ルーシィは合点がいき、カバンから銀色の鍵を取り出した。

 

「それならちょうどいいわ。

ここに『白い子犬座』の鍵があるから、星霊との契約を見せてあげる」

 

「おぉ!」

 

さっそく食いついたハルトたちだが、ナツ、ハッピー、マタムネがヒソヒソと話し出した。

丸聞こえだが。

 

「契約ってどうするでごじゃるか?」

 

「血判でも押すんじゃないかな?」

 

「痛そーだなケツ」

 

「んな訳ねーだろ」

 

「何でケツ…?」

 

気をとりなおして鍵を構えるルーシィ。

 

「我、星霊界との道をつなぐ者。汝、その呼びかけに応え門をくぐれ」

 

魔力が高まってきたのか、鍵先から鍵穴の形をした光が現れる。

 

「開け!子犬座の扉、ニコラ!」

 

パフン!

 

煙が立ち込め、その中には影が見えた。

だんだんと煙が晴れて行くと、そこには…

 

「プーン」

 

頭には耳がなく、全身は毛に覆われておらず白いまんじゅうのような体で、鼻なのか鼻があるところに角みたいのが生えている。

マスコットのように見えるが、犬には見えない。

 

「ド…ドンマイ」

 

「失敗じゃないわよ!!」

 

ナツが思っていたのと違うのか、それともあまりにもしょぼかったのか、ルーシィに励ましの言葉を贈るがルーシィは成功したといいはる。

ハルトは現れたニコラを懐かしそうに見ていた。

 

「……」

 

「プン?」

 

すると、横からルーシィがニコラを抱っこした。

 

「あ〜ん、可愛い〜」

 

「そ…そうか?」

 

「ニコラの門はあまり魔力を使わなくて済むから、愛玩星霊として人気なの」

 

「ナツ〜人間のエゴが見えるよ〜」

 

「うむ…」

 

唖然としている他は置いといてルーシィはメモ帳を取り出した。

 

「それじゃあ契約にうつるわよ」

 

「ププーン」

 

「月曜は?」

 

「プゥ~ウ~ン」

 

首を横に振っている。

どうやらダメなようだ。

 

「火曜は?」

 

「プーン」

 

今度は首を縦に振っている。

大丈夫なようだ。

その後も水曜、木曜と一週間の曜日を全て聞き終えた。

それを見ていたナツたちの感想は、

 

「地味だな」

 

「あい」

 

「ごじゃる」

 

3人はそんなことを言っているが、ハルトはさっきからずっと懐かしそうに見ているだけだった。

 

(エミリアもこんな感じで契約を取っていたのかな…)

 

「はい!契約完了!」

 

「随分簡単なんだな」

 

「確かに見た感じはそうだけど、大切なことなのよ。星霊魔導士は契約…つまり約束ごとを重要視するの。だからあたしは約束だけは破らないって決めてるの」

 

「そういうところも似てるな…」

 

「えっ? ハルト何か言った?」

 

「いや、何も言ってないよ」

 

「そう? それじゃあ、名前を決めてあげなきゃ」

 

「ニコラじゃないの?」

 

「それは総称でしょ? ちゃんと決めてあげなきゃ」

 

悩んでいるルーシィの横でハルトはニコラを眺め、ボソっとつぶやいた。

 

「プルー…」

 

「え?」

 

「いや、プルーはどうかなって思って…」

 

「プルーかぁ…

可愛くていいかも!

よし!今日からあなたの名前はプルーよ。

よろしくね、プルー!」

 

「プーン!」

 

喜びを表しているのか飛び跳ねている。

すると、プルーがハルトの足に寄ってきた。

 

「ん?」

 

「あはっ、さっそくハルトのこと気に入ったのかしら?」

 

「そっか…」

 

ハルトはゆっくりとプルーを撫でる。

プルーがハルトから離れ、しゃかしゃかと踊りのようなことをした。

ハルトとルーシィは何をしているかわからなかった。

 

「えーとっ」

 

「どいうことだ?」

 

「プルー!お前いいこと言うな!!」

 

「「なんか伝わってるし!」」

 

何故かナツだけには伝わったようだ。

 

「ハコベ山では星霊に助けられたしな〜」

 

「そうよ。

あんたは少し星霊に感謝しなさいよ」

 

ナツは少し考える素振りを見せた。

 

「よく考えたらお前、変な奴だけど頼れる奴だしなー」

 

(こいつに変な奴って思われた!)

 

「よし、決めた! プルーの提案に賛成だ!!」

 

「な、何のこと?」

 

「ここにいる俺らでチームを組もう!」

 

「なるほどー」

 

「チーム?」

 

聞きなれない言葉に首を傾けるルーシィにマタムネが詳しく教える。

 

「チームというのは同じギルド内のメンバーで結成されたグループのことでごじゃる。

難しい依頼でもチームですると簡単になったりするでごじゃる」

 

「へ〜面白そうね!」

 

「じゃあ決まりだな」

 

「ハルトも一緒よね?」

 

「そうだな。

ルーシィは実力もあるし、頼りにするよ」

 

そうハルトに褒められてルーシィは嬉しくなってしまう。

すると、ナツが懐からある依頼書を取り出した。

 

「さっそく仕事に行こうぜ!」

 

「もうせっかちなんだから〜」

 

ハルトに褒められ上機嫌のルーシィはナツの急な提案でも笑顔で許した。

 

「シロツメの街かぁ…。えっ!エバルー公爵って人の屋敷から本を取ってくるだけで20万J!?」

 

「へぇー随分と面白そうな依頼を見つけてきたな」

 

「だろ!?」

 

「あら?」

 

ルーシィが依頼書の下に注意書きを見つけた。

そこを読むと、

 

『注意!エバルー公爵はとにかく女好きでスケベで変態!ただいま金髪のメイドさん募集中!』

 

「ルーシィ金髪だもんね」

 

「ぴったりでごじゃる」

 

「だろ!メイドの格好で忍び込んで貰おうぜ」

 

「ハメられた〜!」

 

まんまとハメられたことに気づいたルーシィは嘆くが、ナツが意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「星霊魔導士ってのは約束を守るんだろ?

エライなー」

 

「うぐ… 、ハルト〜」

 

どうしようもなくなったルーシィはハルトひ泣きつくが、ハルトも仕方がないと言った顔をして苦笑いを浮かべていた。

 

「諦めろルーシィ」

 

「そんなハルトまで〜!

メイドなんてイヤ〜!!」

 

その日、マグノリアに悲痛な悲鳴が聞こえた。

 

 




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第8話 メイド&執事大作戦!

ルーシィが新しく契約を結んだ星霊ニコラ、もといプルーの提案によりチームを組むことになったハルトたち。

今はチームでの初仕事でシロツメの街に向かっていた。

 

「考えてみれば随分簡単な仕事よね」

 

「あれ?あんなこと言っていた割には結構乗る気?」

 

ルーシィは昨夜あんなに嫌がっていたのが、ウソのように余裕を見せていた。

 

「だってあたし達チームの最初の仕事じゃない!

ビシッと決めるわよ!」

 

「お〜やる気いっぱいでごじゃるな」

 

「頼りにしてるよ」

 

「任せて!

要は屋敷に潜入して本を一冊とってくればいいだけでしょ?」

 

「スケベオヤジのところでごじゃるが」

 

「これでも結構色気に自信があるのよ?」

 

意識してなのかどうかはわからないが、若干視線をハルトに向けるが、

 

「ハルトぉ助けてくれ〜」

 

「相変わらずだなナツの乗り物酔いも」

 

「なら浮かせてくれよぉ…うぷっ」

 

ナツの相手をしていて気づかなかった。

 

「無理だって1人しか浮かせれないからな。

ん? なにか言ったかルーシィ?」

 

「な、なんでもないわよぉ〜」

 

「「ぷぷぷぷ」」

 

ルーシィは自分でも何故、ハルトにあんなことをしたのか分からず、

顔を赤くしてごまかした。

それを見て、側でマタムネとハッピーは笑っていた。

 

 

シロツメの街はマグノリアと違い、建物が少なく自然が多いところだった。

 

「ついた〜」

 

「とりあえず腹減ったからメシにしようぜ!メシ!!」

 

「お前酔ってたんじゃねぇのかよ…」

 

シロツメの街に着くと、さっきまで乗り物酔いになっていたと思えないくらいに元気になったナツにハルトは呆れていた。

すると、ルーシィがハルトの腕を取る。

 

「あたしとハルトは用があるから、先に食べてて

じゃあ、行こう? ハルト」

 

「えっ? あ、おい!」

 

そのままルーシィはハルトを連れて行ってしまった。

 

「なんだよーみんなで食べたほうがウメーのにな?」

 

「ねー

? ねぇ、マタムネは一緒に行かなくていいの?」

 

マタムネはハルトについて行かず、ナツたちと一緒にいた。

その目は優しい目でどこかに行くハルトたちを見守っていた。

 

「せっしゃは応援するでごじゃる」

 

「あ〜なるほど〜」

 

「?」

 

ハルトを連れて行ったルーシィはとても嬉しそうだった。

 

 

ナツたちはとある店で食事をとっていた。

 

「うおっ! この肉スゲー脂っぽいな!」

 

「脂っぽいのルーシィにとってあげなよ」

 

「だな、あいつ脂っぽいの好きそうだしな」

 

「じゃあ、せっしゃはこの噛み切れないくらい硬い部分をハルトに残しとくでごじゃる」

 

「あたしがいつ脂っぽいのが好きって言ったのよ…」

 

「おぉ、ルーシィ遅かった、な?」

 

ナツたちが食事をしていると後ろからルーシィの声が聞こえたので振り向くと、

 

「じゃーん! どう?結構似合ってるでしょ?」

 

メイドの格好をしたルーシィが立っていた。

その後ろには執事の格好をした男も立っている。

 

「後ろにいるのはもしかしてハルトでごじゃるか?」

 

「そうだよ。 ハァ〜」

 

「似合ってるわよ! ハルト!」

 

ハルトはため息をついて、疲れた様子だった。

しかし、その格好は燕尾服を来て、いつも無造作にしている短髪をオールバックにして、執事の格好としては不思議と様になっていた。

 

「なんで執事の格好をしているの?」

 

ハッピーが聞くとポケットから依頼書を見せた。

メイドの募集が書かれているところの下を見ると、

 

『ついでに執事も募集中!!』

 

虫眼鏡で見えるくらいに小さく書かれていた。

 

「字小っちゃ!」

 

「そんなこんなで俺は執事になってしまった…」

 

「あたしたち二人でやればすぐに成功よ!」

 

意気消沈としているハルトと違い、ルーシィはやる気を燃やす。

するとナツとハッピーがひそひそと話し始めた。

 

「どうしよ〜ナツ。 冗談ってのは言ったのに本気にしてるよ〜」

 

「今更本当のこと言えねぇし… これで行くか…」

 

「おい、お前ら聞こえてるぞ」

 

それを聞き逃さなかったハルトはナツとハッピーの頭を掴む。

 

「げっ! ハルト!?」

 

「あっ!やば!!」

 

そのまま力を込めると、ギリギリと嫌な音を立て始めた。

 

「お前らふざけるのも大概にしろよ…」

 

「「いだだだだだだっ!!」」

 

 

一瞬、やる気に満ちているルーシィに視線を向け、仕方ないといった風にため息をこぼし、手を放す。

 

「ったく、まっ、ここまでしちゃったし、仕方ねぇか…」

 

「「ハルト〜!」」

 

「どうしたの?」

 

「なんでもねぇよ。 ほら、さっさと準備しろ、二人とも」

 

「「あいさー!」」

 

ナツたちが準備している間、マタムネがハルトに話しかけた。

 

「やっぱり似合ってるでごじゃるな」

 

「やっぱり? 前にも着たことがあるの?」

 

「えっ!? いや、その…まぁ、少し、な」

 

「へーそうなんだ」

 

「あの時は相当大変で…「おい! マタムネ! それ以上言うなよ」

わかったでごじゃる…」

 

(なんだろう…すごく気になる…)

 

どこか鬼気迫る感じでマタムネに言うハルトに気になってしまったルーシィだった。

 

 

ハルトたちはシロツメの街の丘の上にある大きな屋敷の前に来ていた。

 

「大きいお屋敷ね… ここがエバルー公爵の…」

 

「いや、依頼主の家だ」

 

「あ〜 20万Jも出す人だもんね。お金持ちの人なんだ」

 

そんな会話している間にナツが扉を叩くと、中から声が聞こえて来た。

 

「…どちら様ですか? 」

 

「依頼の件で来た、魔導士ギルドの妖精の…「!! しっ!静かに!」?」

 

妖精尻尾の名前わ聞いた途端、そんなことを言って来た。

ハルトたちは顔を見合わせ、不思議そうな顔をすると、また声が聞こえて来た。

 

「すいません…裏口から入っていただけますか?」

 

その言葉に従い、裏口に回り、ドアを開け中に入ると、

一人の男性にある一室に招かれた。

 

「先程はとんだ失礼を… 私が依頼をしたカービィ・メロンです。

こっちが私の妻」

 

「どうも」

 

「メロンって美味しそうな名前だな」

 

「ちょっと!失礼でしょ!」

 

「はははっ! よく言われます」

 

ナツの失礼な物言いでも笑って許してくれる優しいそうな人だ。

さっそくハルトが依頼の話を始めた。

 

「それで、依頼の話ですが…」

 

「はい… 私の依頼はただ一つ。 エバルー公爵が持つ世界にたった一つしかない本、日の出(デイブレイク)の破棄、または焼失です」

 

「え? あたしてっきり奪われた本を取り返して欲しいとかの依頼だと思ってた」

 

「……」

 

ハルトもそう思っていたらしく、黙って説明を待っていた。

 

「一体何なんですか、その本は?」

 

「……」

 

カービィは黙ったまま、なにも話さない。

 

「細けぇことはいいじゃねぇか! 報酬が20万Jなんだぜ!」

 

「? 報らせが届いていませんか? 報酬は200万Jをお支払いいたします」

 

「は?」

 

「えっ!?」

 

「に?」

 

「ひゃ?」

 

「く?」

 

「「「「「200万Jーー!!?」」」」」

 

カービィが軽く言った言葉にハルトたちは騒然となってしまった。

 

「に、200万つーと5人に分けるにはどうすりゃいいんだ?」

 

「あい、簡単です…おいら、ナツ、ハルト、マタムネで50万ずつ分けて、残りはルーシィの分です」

 

「な、なるほどでごじゃる!」

 

「計算できてないわよ!!」

 

ハルト以外がそんな漫才みたいなこおをしている側で、ハルトは1人考えていた。

 

(200万Jなんて難しい討伐系の依頼と同じくらいの依頼料だぞ!?

この仕事何かあるのか?)

 

するとカービィが誰にも聞こえないくらいの声量で独り言をつぶやいた。

 

「あの本だけは必ず消さねばならない… そう必ず…」

 

その言葉にはとてつもない恨みがこもっているように感じた。

 

 

カービィの家で依頼の確認を終え、ハルトたちはさっそくエバルー公爵の屋敷に向かった。

ナツ、ハッピー、マタムネを近くの茂みに隠れさせ、ハルトとルーシィは門を叩いた。

 

「すいませーん。 金髪のメイドと執事の応募で来た者なんですけどもー!!」

 

ルーシィが大声で屋敷に向かって言うと地面から音がし、土が盛り上がった。

 

「え!何!?」

 

すると、地面からゴリラのようなメイドが飛び出て、現れた。

 

「メイド募集?」

 

ゴリラメイドは睨みつけるようにルーシィとハルトを見る。

ハルトは何とも無いが、ルーシィはビビっていた。

 

「は、はい… あと執事も…」

 

(ん? こいつもしかして…)

 

ハルトが怪しんでると、ゴリラメイドは穴に向かって話しかけた。

 

「ご主人様! 募集広告を見てやって来たそうですが」

 

「うむぅ」

 

声がすると、穴から人が飛び出して来た。

 

「ボヨヨヨーン! 我輩を呼んだかね?」

 

((出たーーーー!!))

 

穴から出てきたのは、まるで卵に手足が生えた姿をしていて、今回の依頼で本を盗まないといけないエバルー公爵だった。

 

「ふむふむどれどれ」

 

さっそく、エバルーは品定めをするかの様にルーシィをジロジロと見る。

 

(う〜鳥肌が〜)

 

(我慢しろよルーシィ)

 

至近距離でジロジロと見られ、ルーシィは色々と限界だったが、我慢して耐えるが、

 

「いらん。帰れブス!」

 

「ブ…!?」

 

「は…?」

 

「我輩の様な偉〜〜〜〜〜い男には…」

 

その言葉を合図に、また地面から穴を作り人が出てきた。

 

「彼女たちの様な美しい娘しか似合わないのだよ」

 

現れた女性はお世辞にも美しいとは言えないモンスター級のブサイクだった。

哀れルーシィ。どうやら、エバルーは特殊すぎる美的センスの持ち主らしい。

 

「えーーーーー!?」

 

「マジか…」

 

すると、エバルーはハルトに目を向けた。

 

「む? 君は執事の募集で来たのかね?」

 

「は、はい…」

 

ハルトはこのセンスならどうせ落ちるだろうと思っていたが、

 

「君は採用だ」

 

「え!? 何でですか!?」

 

「君は我輩の若いころに似ている…」

 

((嘘だーーーー!!))

 

明らさまな嘘だ。

 

「さあ、さあ、こっちにいらっしゃい」

 

「色々と教えてあげるわ。たっ・ぷ・りね♡」

 

「ちょっ、え!? あ、あーーー!!?」

 

モンス、もといメイド2人がハルトの両腕を掴み一緒に地面に消えていった。

 

「ハルトーー!!」

 

「さっさと帰れブス!!」

 

「ブッ!?」

 

またブスと言われ固まってしまうルーシィ。

その隙にエバルーとゴリラメイドは地面に潜ってしまった。

ナツたちが茂みから出てくる。

 

「あ〜ぁ、ルーシィの方は失敗しちまったな」

 

「でも、ハルトが中に入れたから成功も同然だね」

 

「そうでごじゃるな。気長に待っているでごじゃる」

 

ナツたちは中に入ったハルトにあとを任せるつまりだったが、ルーシィは違った。

 

「屋敷に潜入してハルトを助けるわよ!!」

 

「「「なにーー!?」」」

 

「このまじゃハルトがあのモンスターたちに食べらてしまうわ!!」

 

ルーシィの頭の中ではハルトが泣きながらメイドたちに服を脱がされる光景が浮かんでいる。

 

「食べらてしまう…」

 

マタムネもルーシィの言葉聞いて、頭の中でハルトが調理され、ゴリラメイドに食べらてしまう光景が浮かんでしまう。

 

「ハルトは美味しく無いでごじゃるーー!」

 

「多分マタムネとルーシィの『食べらてしまう』は違う意味だと思うなー」

 

「えー面倒くせーなー」

 

ハッピーが冷静なツッコミをしている側で、ナツは面倒くさそうにしていた。

それでもルーシィとマタムネのやる気は変わらない。

 

「いくわよ!」

 

「「おーー!!」」

 

ここに乙女の負けられ無い戦いが始まった!

 




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第9話 エバルー屋敷に潜入せよ!

ハルトは屋敷中を逃げ回っていた。モンスターの魔の手から…

 

「ウオオォォォォォ!!」

 

「待って〜イケメン♡!!」

 

失礼、メイドでした。

 

「ここにもか! 覇竜の剛拳!!」

 

「いや〜ん!」

 

ハルトは躊躇なくモン…メイドに魔法を放つ。

そのままメイドは気絶してしまった。

ハルトはようやく安心したのかその場に座り込んだ。

 

「何なんだよこいつら、屋敷に連れ込んだらいきなり服を脱がそうとしやがるしよー」

 

ルーシィの想像は少し合っていた。

ハルトはメイドを横目でチラッと見て、恐ろしそうに言った。

 

「それに、こいつら覇竜の剛拳をいくら当てても立ち上がってくるんだけど…本当に人間か?」

 

やっぱりモンスターかもしれない。

ハルトはモンスターを全て倒したので依頼の目的の本を探し始めた。

すると、ある部屋を見つけた。

 

「ここは…」

 

 

ルーシィたちは連れ去られたハルトを助けるためにエバルーの屋敷に忍び込んでいた。

 

「いい? 今回は侵入なんだから暴れちゃダメよ?」

 

「分かってるって忍者のようにだろ? ニンニン」

 

「ニンニン」

 

「せっしゃはサムライがいいでごじゃる」

 

マイペースなナツたちに頭を抱えたくなりそうだが、乙女の心情を傷つけられた恨みと、何よりハルトの為にやる気を取り戻す。

その瞬間!

 

「侵入者を発見! 排除します!!」

 

さっそく見つかり、地面からゴリラメイドが現れた。

 

「ニ、ニンジャーーーーー!!!」

 

ドゴオォォォォン!!

 

ナツは慌てて蹴りを入れ、ゴリラメイドは轟音を立てて気絶してしまった。

 

「ふぅ〜〜 危なかったぜー うごっ」

 

「なにしてんのよーー!」

 

しかし、ものすごい音を立ててしまったのでルーシィはナツのマフラーを引っ張りどこかの部屋に入った。

 

「も〜しっかりしてよねぇー」

 

「なははははっ! ワリィ、ワリィ」

 

ルーシィが文句を言ってるとマタムネが袖を引っ張る。

 

「ルーシィ殿、周りを見るでごじゃる」

 

「なに? これって…」

 

その部屋は壁一面に本が収納されている蔵書室だったのだ。

 

「ここなら依頼の本、日の出(デイブレイク)があるかも!

探すわよ!」

 

「「「あいさー!」」」

 

4人は探し始めた。

ルーシィはその本の多さに感激したのか少しエバルーを感心してしまう。

 

「エバルーって意外と読書家なのね。それにこれを全部読んでたとしたらちょっと感心しちゃう」

 

それからも探すも中々見つからない。

 

「んー無いねー」

 

「こっちも無いでごじゃる」

 

「もう面倒くせえから、屋敷ごと燃やさねえか?」

 

「ダメよ! いくらなんでもそれは犯罪よ!」

 

「侵入してることも犯罪だと思うけど…」

 

ルーシィがツッコミながらも探し続けていると本棚の上から声が聞こえた。

 

「お探しはこれでございましょか? お嬢様?」

 

顔を向けるとハルトが立っていた。

 

「「「「ハルト!」」」」

 

「よっ」

 

ハルトは本棚から飛び降り、持っていた本を掲げた。

その本は金色の本だった。

 

「「ハルトー!」」

 

すると、無事で嬉しかったのか、ルーシィとマタムネがハルトに飛びついてきた。

 

「うおっ!? 危ないって!」

 

「よかった! 無事だったのね!」

 

「どこかかじられてるところはないでごじゃるか!?」

 

「ル、ルーシィ…そんなに抱きつくな…

胸が当たって…」

 

ルーシィとマタムネは嬉しいのか、ハルトの声が聞こえてないようだ。そんな様子を見ていたナツとハッピーが一言。

 

「「でぇきてぇるぅ」」

 

 

ようやく落ち着いたのか、ルーシィはハルトから離れさっきのことを思い出して顔を赤くしていた。

 

(無事だったからって、いきなり抱きついちゃった〜!)

 

「まぁ、とりあえず依頼は成功だな」

 

若干顔が赤いハルトが空気を変えようとさっき掲げた本を見せた。

表紙にはDAY BREAKと書かれてあった。

 

「おー見つけたのか!」

 

「やったね!」

 

本をルーシィに渡し見せると、ルーシィは驚いた。

 

「この本の著者…ケム・ザレオンじゃない!!」

 

「ケム? 誰だそれ?」

 

「あーあの有名な小説家か」

 

「そう!あたし大ファンなの!

ケム・ザレオンの作品は全部読んだ筈なのにこれは見たことない…

もしかして未発表作!?すごいわ!」

 

「ボヨヨヨヨヨヨ…なるほど、なるほど」

 

ルーシィが驚くが地面から聞き覚えのある変な笑い声か、わからないが聞こえてくると、部屋の床からエバルーが現れる。

「貴様らの狙いはその本だったのか泳がせて正解だったわ!

だが貴様らはここでお終いだ!侵入者どもめ!!」

 

「「「「「エバルー!!」」」」」

 

最初は激昂していたが、本を見るとバカにするような態度をとった。

 

「全く、躍起になって何を探してるかと思えばそんなくだらん本だったのとはな」

 

(くだらない? 依頼主が200万Jも出す本だぞ?)

 

ハルトはエバルーのその発言に疑問を持ってしまう。

元からおかしいとは思っていたのだ、本を破棄するだけで200万Jをも出し、持っている本人も駄作と言っている。

本に目を向け、考える。

ルーシィも不審に思ったのか本を見て考えている。

 

「も、もしかしてこの本もらっていいのかな?」

 

「いや、違うだろ」

 

ルーシィのまさかの発言にツッコんでしまうハルト。

 

「ふん、どんなくだらん本でも、我輩の物は我輩の物。

やるわけがないだろう」

 

「ケチ」

 

「うるさいブス」

 

少し目的とズレてきたので、ハルトは本題に乗り出した。

 

「おい、話がズレてきてるぞ。

それに俺たちの目的はその本の破棄だ。燃やしてしまえばそれで終わる」

 

「え!? それはダメ!!」

 

「ルーシィこれは仕事だ。割り切れ」

 

ルーシィは悔しそうに唸る。

そして出した結果が、

 

「じゃあここで読ませて!」

 

「「「「「ここで!?」」」」」

 

また、まさかの返事をし、みんなが驚いた。

エバルーはハルトのほうを向いた。

とても残念だという表情だった。

 

「しかし、残念だよハルト君…

君なら我輩の財産を譲ってもいいと思っていたのに」

 

「悪いがそんなもんには興味ねぇよ」

 

「ぐぐぐ…気に食わん!!

来い!バニッシュブラザーズ!!」

 

ハルトの返答に怒ったエバルーは顔を真っ赤にし、叫ぶ。

すると、本棚の一角が扉の様に開き、2人の人影が現れた。

 

「やれやれ、やっと仕事か…」

 

「仕事もしねぇで金だけ貰ったはママに叱られちまうぜ」

 

「あの紋章は傭兵ギルド『南の狼』だよ!」

 

「また傭兵ギルドでごじゃるか…」

 

マタムネの頭には前に倒した『鋼鉄の人形』のメンバーが浮かぶ。

 

「こんなふざけたガキ共が妖精の尻尾の魔導士とはな」

 

「油断するなよ。噂通りならあの執事が妖精の覇王だ」

 

「マジかよ!?」

 

それにより、バニッシュブラザーズは警戒するが…

 

「ぐお〜〜… その二つ名はやめろ〜…」

 

激しく悶えていた。

 

「なんだ、またかよ

いいじゃねーか、二つ名なんて」

 

ナツはナツなりのフォローを入れるが、それを聞いたハルトはナツの襟を掴み持ち上げる。

 

「お前にわかるか!? 町中で覇王、覇王と呼ばれ続ける気持ちが!?

もう恥ずかしいんだよ〜!!」

 

「ぐえ!? や、やめろ!ハルト!」

 

「ナツを放してー!」

 

「落ち着くでごじゃる!ハルト!」

 

その後もハルトの暴走は続き、漸く落ち着いた。

 

「くっ! まさか俺の精神を乱して同士討ちさせようとするなんて…

あいつら中々やるな」

 

「いやハルトが勝手に暴走しただけでごじゃる」

 

「し、死ぬかと思った…」

 

「ナツ大丈夫?」

 

「「………」」

 

さすがの敵も勝手に自分たちのせいにされては言葉も出なかった。

 

「あっ!」

 

「どうしたルーシィ!?」

 

「つーか本当に読んでたのかよ!?」

 

白けた空気を破る様にルーシィは突然声を出した。

それは何かに気づいた様だ。

 

「多分、多分だけどこの本に何か秘密があると思うの!」

 

そう言い走って行くルーシィ。

 

「どこに行くんだよ!?」

 

「お願い!この本をちゃんと読ませて!!」

 

「おい!!」

 

「ナツ、あとはルーシィに任せよう」

 

「ったく、しゃあねぇな」

 

ハルトと渋った顔をしたナツはルーシィが走って行った道を守る様に立ちふさがった。

 

(秘密だと? 我輩が読んだ時は気づかなかった。まさか、宝の地図でも書いてあったのか!?)

 

「こうしてはおられん! 作戦変更じゃ、バニッシュブラザーズ!

我輩は小娘を追う! お前たちはその二人を消しておけ!」

 

宝のありかが書いてあると考えたエバルーは慌てて、バニッシュブラザーズに命令を出し、ルーシィを追いかけて行った。

ハルトはそれを見て、マタムネとハッピーに話し掛ける。

 

「マタムネとハッピーはルーシィの手助けをしてくれ」

 

「ぎょい!」

 

「あい!」

 

そう言われ、二人は背中きら翼を出し、ルーシィを追いかけて行った。

 

「じゃあ、こっちもさっさと片付けようぜ、ナツ」

 

「おう!」

 

その言葉にバニッシュブラザーズは癪にさわったのか、眉をピクリと動かした。

 

「どうやら妖精の尻尾の魔導士は自分たちが最強だと思っているらしいな。だが、所詮は魔導士、戦いのプロである我ら、傭兵には敵わん」

 

「うるせーなー

だったら、さっさとかかって来いよ」

 

ナツは指先から炎を出し、COME ONと形作り相手を挑発する。

 

「舐められたものだな!」

 

瞬時にバニッシュブラザーズの片割れは巨大なフライパンのような武器を振る。

ハルトは覇竜の剛腕を出し、防ぐ。

戦いの火蓋が切られた。

 




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第10話 紅金竜双乱舞

ハルトは腕を振るい、相手を引き離す。

フライパンを持った男が距離ができるとまた話しかけてきた。

 

「君達は魔導士の弱点を知っているかね?」

 

「乗り物に弱いことか!?」

 

「変な二つ名を呼ばれることか!?」

 

「よ、よくわからんが、それは個人的なことではないかね?」

 

「に、兄ちゃん!相手のペースに乗せられてるぜ!」

 

「はっ! ん、んん!」

 

この二人は兄弟なのか、もう一方の男に注意され、気をとりなおし、

話を戻す。

 

「答えは肉体だ」

 

「肉体?」

 

「魔法とは知力と精神力鍛えねば身に付かん」

 

そう言いながら、ハルトとナツに接近し、フライパンを振るう。

ハルトとナツは跳んで躱すが、ナツにもう一人の男が接近し蹴りを繰り出す。

 

「その結果、肉体の鍛錬が疎かになる」

 

すると、その隙にフライパンを持った男がナツの脳天を目掛けて振り下ろす。

 

ドゴォ!!

 

ナツは避けたがナツかいた場所は陥没していた。

 

「つまり、日々体を鍛えている我々には力もスピードも敵わないということだ」

 

「そう言うわりにはさっきから攻撃が当たってねぇぞ」

 

ナツは相手を茶化すような動きをする。

ナツの言うとおり、さっきからバニッシュブラザーズの攻撃は当たっていない。

 

「…確かにスピードは大したものだ」

 

「兄ちゃんアレなら避けられねえ!!」

 

「うむ!」

 

「「合体技だ!!」」

 

弟が兄の持つフライパンに乗る。

 

「何故、我々がバニッシュブラザーズと呼ばれるか教えてやる!」

 

「“消す”、そして“消える”からだ」

 

「「天地消滅殺法!!」」

 

そう言った瞬間、兄は弟を乗せたフライパンを勢いよく上へ振り上げた。

 

「ん?なんだ?」

 

ナツが空に飛んだ弟に目を向けると、

 

「ナツ!!」

 

「天を向いたら…」

 

ハルトがナツを呼ぶがナツに近づいていた兄がフライパンを突きだすのが早かった。

 

「地にいる!」

 

「うごっ!」

 

ハルトが本棚に突っ込んだナツを助けに行こうとすると上から声が聞こえた。

 

「地を見たら…」

 

空中にいた弟がハルトに向かっていた。

 

「天にいる!」

 

「ぐっ!」

 

弟はハルトに蹴りを当てるが、ハルトは腕をクロスして防ぐ。

 

「「これぞバニッシュブラザーズの合体技、天地消滅殺法!!」」

 

「ちっ…」

 

ハルトはナツが突っ込んで行った本棚を見た。

 

「ふむ…、流石は噂に名高い覇王だ。一度では倒せなかったか」

 

「だけど、兄ちゃん。一人は倒せたぜ?」

 

弟は得意気に言うが、ハルトが呆れたように言う。

 

「はぁ? ナツがこんなんでやられる訳ないだろ」

 

「ふん、そんな虚言、ある訳が…」

 

ガラガラ…

 

「「!!?」」

 

バニッシュブラザーズの言葉を遮るように、ナツが突っ込んだ本棚の瓦礫が崩れる音が聞こえた。

そこには多少傷が見えるが無事な姿のナツが立っていた。

 

「イテテ…、綺麗にくらちまった」

 

「大丈夫か、ナツ?」

 

「おう! 次はこっちからだぜ!!」

 

あまりにも元気な姿にバニッシュブラザーズは戸惑ってしまう。

 

「バカな!! まともにくらって無事だと!!?」

 

「くらえ! 火竜の…」

 

ナツが魔法を放とうとするのを気づき、兄はフライパンを構える。

 

「咆哮!」

 

「来た!火の魔法だ!」

 

「ふっ終わったな」

 

ナツが放った炎は兄が持つフライパンに吸い取られていった。

 

「対火の魔導士専用、火の玉料理《フレイムクッキング》!!」

 

「!?」

 

「私の平鍋は全ての炎を吸収し、威力を倍にして吹き出す。自分の炎で焼かれろ!」

 

吸収された炎はさっきのより勢いよく、ナツに遅いかかった。

しかし、そこにハルトが割り込む。

 

「俺がいることを忘れてんじゃねぇぞ! 覇竜の剛腕!」

 

「何!?」

 

ハルトは自分とナツを守れる程の大きさの腕を出し、炎を防ぐ。

それを見たバニッシュブラザーズは唖然とするだけだった。

 

「お、お前達は一体何者なんだ!」

 

その質問にハルトとナツは不敵に笑い、答える。

 

「「妖精の尻尾の魔導士だ、覚えとけ!!」」

 

「うしっ! ナツ、今度はこっちの合体技を見せるぞ」

 

「おっしゃあ!!」

 

「「!!」」

 

ハルトとナツは両手に魔力、火を纏わせ、同時に飛び出し、即座にバニッシュブラザーズに近づく。

ナツが縦横無尽に腕を振るい、拳を相手に当てて行くのに対して、ハルトはナツにスピードとタイミングを合わせ隙を埋める様に攻撃を繰り出す。

紅と金が綺麗に空中で線を描いている様にも見えるが、二人が攻撃を繰り出す様はまさしく二頭の竜が乱れ舞っている様に見える。

故にこの技の名は…

 

「「紅金竜双乱舞!!!」」

 

「「ぐわあぁぁぁぉぉ!!!」」

 

バニッシュブラザーズは一瞬のうちにボロボロになってしまった。

 

「ふぅ〜」

 

「じゃあ、ルーシィを迎えに行くか」

 

二人は大して疲れた様子を見せずに、ルーシィが進んで行った道を進んだ。

その様子を辛うじてまだ意識があったバニッシュブラザーズの兄の方は薄れていく意識の中、ハルトたちを見ていた。

 

(あれほどの大技を出してあの余裕。実力は本物だったということか。無念・・・)

 

それを最後に気を失ってしまった。

ハルト&ナツ、バニッシュブラザーズに勝利。

 

 

ここはエバルー屋敷の地下水道、ルーシィはここで本を風詠みの眼鏡という本を何倍ものスピードで読める魔法具で読んでいた。

その様子はとんでもないものを見つけてしまった顔をしていた。

 

「まさかこんな秘密が隠されていたなんて…

この本は燃やせないわ」

 

彼女はこの本の秘密を見つけ、決意を新たにする。

 

「早くカービィさんに届けなきゃ」

 

さっそくカービィに届けようと立ち上がるルーシィだが、彼女の背後にある壁が不自然に盛り上がる。

 

「ボヨヨヨ…風詠みの眼鏡を持ち歩いているとは、小娘、貴様を中々の読書家のようだな」

 

エバルーは壁から上半身のみを出し、ルーシィの両腕を掴む。

ルーシィは両腕を掴まれ、余りにも力が強いため身動きができない状態だ。

しかも、腰に付けていた星霊の鍵が入っているホルダーはエバルーに捕まった際に反動で落ちてしまった。

 

「さぁ、言え!何を見つけた!」

 

「誰がアンタなんかに教えるもんですか!アンタは文学の敵だわ!」

 

「ボヨヨヨヨ。我輩のように偉くて、教養のある人間が文学の敵だと?」

 

「あんな変なメイドを連れている人間に教養なんて・・・」

 

「我輩の“美人”メイド達を愚弄するでない!」

 

「痛っ!!」

 

怒ったエバルーはルーシィの腕を掴む手に、さらに力を加える。

腕からはギリリッと嫌な音がなる。

 

「さぁ、早く秘密を言え!でなければこの腕をへし折るぞ!」

 

エバルーはハッタリではなく、本気で折ろうとしているがルーシィはこんな奴に負けたくない、何よりこの本の秘密をカービィに伝えなくてはいけない、という気持ちがはっきりとあった。

だから、エバルーに対する答えもはっきりとしている。

 

「アンタなんかに……教える訳ないでしょ、べーだ」

 

舌を出し、反抗の意思を見せる。

その態度に遂に我慢の限界がきてしまったエバルーは顔を怒りで赤くし、さらに手に力を入れ、大声を出す。

 

「調子に乗るでないぞ小娘ぇ!その本は我輩の物!我輩がケム・ザレオンに書かせたんじゃからなぁ!つまり本の秘密も我輩のものじゃあ!」

 

「あぐ…」

 

(このままじゃ、本当に腕がぁっ…)

 

どんどんエバルーは手に力を入れる。

 

ボキィ!

 

とうとう嫌な音がなってしまったが、その音はルーシィの腕からではなかった。

 

「おおうっ!?」

 

「マタムネ! ハッピー!」

 

マタムネとハッピーがルーシィの腕を掴んでいた腕に全速力の飛び蹴りをくらわせた。

ハッピーとマタムネは反動を利用し、回転をして地面に着地しようとしたが、そのまま下水に落ちてしまった。

 

「……」

 

「何だこの猫どもは!?」

 

「ばばぶべべぼじゃぶ」

 

「ばっびぃでぶ」

 

「“マタムネでごじゃる”と、“ハッピーです”だってさ

というか、早く上がってくれば?」

 

「びぶきぼびいいでぶ」

 

「それ下水よ?」

 

「おのれぇ…」

 

「形勢逆転ね。見逃してくれるなら許してやってもいいけど?」

 

落ちたホルダーを拾い、一本の鍵をエバルーに向けて言うが、エバルーは直ぐに笑みを浮かべる。

 

「ほう、貴様星霊魔導士か。だが文学少女の割には言葉の使い方を間違えておる。形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆になること。

そして、猫2匹増えたところで我輩の魔法“土潜”《ダイバー》は負けん!!」

 

エバルーは再び地面に潜り姿を消す。

 

「あれって魔法具だったんでごじゃるか」

 

「ってことはエバルーも魔導士!?」

 

ルーシィは地面、壁から現れるエバルーの攻撃を躱しながら、話す。

 

「この本はアンタが主人公のヒドイ冒険小説だったわ」

 

「我輩が主人公なのは素晴らしい。しかし、内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせに駄作を書きおって!」

 

「無理矢理書かせたくせに、偉そうな事を!」

 

「偉そう?違う、我輩は偉いのじゃ。その我輩の物語を書けるなど光栄なことであろう!」

 

「脅迫して書かせたんでしょ!」

 

「それがどうした?結局ヤツは書いた!我輩がいかに偉大か気付いたのだ!」

 

その言葉にルーシィは怒り、さっきよりも大声を出した。

 

「違う!!彼はアンタから家族を守る為に書いたの!自分の作家としての誇りを捨ててでもね!」

 

「貴様が何故そこまで知っている?」

 

疑問に思ったエバルーは攻撃をやめ、地面から出てくる。

ルーシィは持っていた本をエバルーに見せつけるように出す。

 

「書いてあるからよ、この本に、全部ね」

 

「その本は読んだ。しかしケム・ザレオンを含めそんな事は何一つ書いてなかったぞ」

 

「勿論、この本は普通に読めば彼が書いたとは思えない程の駄作。だけどケム・ザレオンは元々“魔導士”」

 

ルーシィが魔導士の部分を強調して言う。

それにより、エバルーは気づいた。

 

「・・・まさか!?」

 

「そう、彼は最後の力を絞って・・・この本に魔法をかけた!」

 

「魔法を解けば我輩への恨みを綴った文章が現れる仕組みか!?」

 

エバルーがそう言うが、ルーシィは深いため息を吐くだけだった。

 

「発想が貧困ね。確かにこの本が完成するまでの経緯も書いてあった。 でも、ケム・ザレオンが本当に伝えたかった言葉はそんな事じゃない。本当の秘密は別にある」

 

「何ぃ!?」

 

「だからこの本は絶対にアンタに渡さない! “本当の持ち主”の元に届けるんだから!」

 

ルーシィは鍵を構え、魔力を込める。

その輝きは決意と共に強さを増していった。

 




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第11話 DEAR KABY

ルーシィが星霊の鍵を構え、叫ぶ。

 

「開け! 巨蟹宮の扉! キャンサー!!」

 

現れたの背中に蟹の足が生え、ハサミを両手に持つ美容師のような男だった。

 

「「蟹キターーーーー!」」

 

何故かマタムネとハッピーのテンションはが上がっている。

その興奮した状態でルーシィに話しかける。

 

「絶対に語尾に“カニ”ってつけるでごじゃる!」

 

「お約束だよね!」

 

「静かにしないと肉球つねるわよ?」

 

余りのテンションの高さに流石にイラッとしたのか脅した。

 

「ルーシィ…」

 

キャンサーは静かに声をかける。

マタムネとハッピーは期待した目で見つめている。

 

「今日の髪型はどうする“エビ”?」

 

「「エビーーーーー!?」」

 

「今はそんな状況じゃないの! 戦闘よ、戦闘! あのヒゲオヤジをやっつけちゃって!!」

 

「了解エビ」

 

まさかの語尾に驚き戸惑ってしまうマタムネとハッピー、しかし、もう一人戸惑う人がいた。

 

(秘密じゃと!?まさか…我輩の事業の裏側を書いたのか!? マズイ、アレが評議院に渡ったら、我輩は終わりだ!!)

 

「ぐおぉぉ! おのれぇぇぇぇ!」

 

自分で考えた結果、最早なりふり構わないといった様子で懐ろからあるものを取り出した。

 

「開け! 処女宮の扉!」

 

「えっ!?」

 

「ルーシィ殿と同じ星霊魔法でごじゃる!?」

 

「バルゴ!!」

 

現れたのは、あのゴリラメイドだった。

 

「お呼びでしょうか? ご主人様」

 

「こいつ星霊だったの!?」

 

ゴリラメイドが星霊だったことに驚くルーシィだが、あることに気づき、驚きが増した。

 

「え!」

 

「え!?」

 

「えぇ!?」

 

「ハルト!ナツ!」

 

ハルトとナツはバルゴの肩の服を掴んでおり、それで一緒に星霊界を経由して、ルーシィがいる下水道に飛ばされてきたのだ。

 

「何故貴様等がバルゴと!?」

 

「いや、なんかこいつと追いかけっこしてたらここに…」

 

「うぷ…」

 

「星霊界を通過してきたってこと!? っていうかナツ、また酔ってるし!」

 

驚きを隠せないルーシィだが、ハルトが声をかける。

 

「ルーシィ!こいつ、どうしたらいい!?」

 

「…!そいつやっつけちゃって!」

 

「オーケー!ハッピー、ナツを連れてけ!」

 

「あい!」

 

「うぷ…」

 

「覇竜の剛拳!!」

 

ハルトは上から、バルゴの顎に拳を叩き込んだ。

それにより、バルゴは地面に陥没し、動かなくなった。

 

「何だと!? バルゴがやられた!?」

 

バルゴがやられ、動揺している隙にルーシィが自分の鞭でエバルーを引っ張りあげる。

 

「これで地面に逃げられないわよ!」

 

「しまった!」

 

空中に出されてしまったエバルーにキャンサーは跳んで近づく。

 

「アンタみたいな奴は…」

 

キャンサーとエバルーが交差する。

その瞬間、目にも止まらない早さでキャンサーのハサミがエバルーを切り刻む。

 

「脇役で十分なのよ!!」

 

「ぽぎょお!?」

 

鞭から解放されたエバルーは気絶しながら地面に落ちるが、落ちる瞬間に頭と顔の毛が全て綺麗に切り落ちてしまった。

 

「お客様こんな感じでいかがでしょうか?…エビ」

 

「うん、結構いいんじゃないかしら」

 

エバルーのツルツルになった頭を見て、本をそっと抱きしめた。

 

 

ハルトたちはエバルー屋敷での一戦を終え、依頼の本は破棄ではなく

回収し、カービィの元に戻った。

 

「これは一体…どういうことですか? 私はこの本の破棄を依頼したはずです」

 

カービィは本をルーシィから手渡され困惑した。

 

「本を破棄するのは簡単です。カービィさんにだって出来る」

 

「だ、だったら私が焼却します。こんな本・・・見たくもない!」

 

カービィは大声を出し、棚からマッチを取り出す。

 

「あなたが何故その本を破棄したがっていたのか分かりました」

 

「!?」

 

「父親の誇りを守る為。あなたはケム・ザレオンの息子ですね?」

 

「「「なにーーー!?」」」

 

「なるほどな…」

 

ルーシィが告げた事実にマタムネ、ナツ、ハッピーは驚き、ハルトはこの不可解な依頼に合点がいった。

 

「何故それを・・・?」

 

「カービィさん、この本を読んだことは?」

 

「?いえ、父から話を聞いただけです。しかし読むまでもありません。・・・駄作だ。父がそう言っていました」

 

それを聞いたナツは激しく怒った。

 

「だからって燃やすことはねーだろ!父ちゃんの書いた本だろ!」

 

「ナツ!お前が言いたいことはわかるが落ち着け」

 

「ちっ」

 

ナツは自分の首に巻いてあるマフラーを握りながら悔しそうにした。

ナツは幼い頃に火のドラゴン、イグニールに育てられていたがある日突然何も言わずに何処かに姿を消してしまったのだ。

それ故にナツは家族にたいしてのことは大切にしているのだ。

 

「父はこれを書いたことを恥じていました」

 

カービィの口から語られるのは31年前のことだ。

カービィの父、ケム・ザレオンは3年間も音信不通だったが、ある日突然大金を持って帰ってきたのだ。

しかし、帰るなり小説家は引退すると言って腕を自分で切り落とした。

カービィは父が金に目がくらみ、家族を捨てたと思い、それで親子との間に亀裂が入ってしまった。

結局、和解もしないまま、ケム・ザレオンは息を引き取った。

しかし、カービィは父が死んだ後も、父を恨み続けた。

 

「ですが、年月が経つにつれ憎しみは後悔に変わっていった。もしかしたら私の一言が父を殺してしまったのかもしれない、とね。だからせめてもの償いに父が駄作と言ったこの本を、父の名誉の為にこの世から消し去りたいと思ったのです・・・」

 

その顔は全てをやりきったという表情をしていたが、何処か悲しそうだった。

カービィはマッチに火をつけ、燃やそうとするが、

 

「待って!」

 

カッ!

 

「「「!!!」」」

 

 

ルーシィが止めようとした瞬間、本は光を放ち空中に浮いた。

すると本の表紙に書いてあるDAY BREAKの文字が移動し始めた。

 

「ケム・ザレオン…本名ゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけました」

 

移動が終わりできた文字は、

 

「DEAR KABY(カービィへ)…」

 

「そう、彼のかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です。

表紙だけでなく、中身も全部」

 

表紙の文字の移動が終わると、勝手に本が開き一斉に文字が浮き出て、入れ替わりが始まった。

その光景はとても美しいものだった。

 

「文字が踊っているみたいだ!」

 

「ケム・ザレオンが作家を辞めてしまった理由は、最低な本を書いてしまったのと同時に、最高の本を書いてしまったからもしれません」

 

ルーシィがそう言い終わるのと同時に文字の入れ替わりも終わった。

そこにはDAY BREAKとは全く違ったほんができていた。

 

「それがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

カービィは震える手でページをめくっていき、新たな物語を読む。

 

「私は…私は父のことを理解できていなかったようですね」

 

カービィの目からは涙が溢れ出て、止まらなかった。

その言葉を聞いてルーシィは嬉しそうに返す。

 

「作家の考えていることが分かってしまったら、本を読む楽しみがなくなっちゃいますから」

 

「本当にありがとう…この本は燃やせませんね…」

 

「だったら俺たちは報酬いらねぇよ」

 

カービィが涙を流しながら感謝を述べると、ナツがそう返事をする。

 

「え?」

 

「ちょっとナツ! 何言ってんのよ!?」

 

「だって俺らの依頼って本の破棄だろ? それなら失敗したじゃねぇか

だから、報酬はいらねぇよ」

 

「うぐぐぐ…ハルトも何とか言ってよ!」

 

「ナツが今回の仕事を持って来たんだ。

ナツに従おうぜ?」

 

「ハルトまで…そんな〜」

 

こうして本と親子の絆をめぐる事件は終わった。

 

 

仕事を終え、ギルドに戻るハルトたちはナツの希望で徒歩で移動していた。

 

「はぁ〜せっかくの200万Jがパーかぁ…」

 

「そう落ち込むなって、それにカービィさんが払えたかはわからないしさ」

 

「そうだけどさぁ…」

 

ルーシィが報酬を貰えなかったことに不満を言っているをハルトが慰めていた。

すると、ナツがふっと思い出したように話し出した。

 

「あのケムとかいう魔導士って本当すげーよな」

 

「あい、魔法の効果か30年以上残っているなんてすごい魔力だよ」

 

「若いころは魔導士ギルドにいたみたいよ。

そこで冒険したことを小説にしたみたいよ。あこがれちゃうな〜」

 

ルーシィがそう言うとハルトはあることを思い出した。

 

「なぁ、ルーシィ」

 

「なに、ハルト?」

 

「もしかして、あの時隠した紙の束ってルーシィが書いた小説なのか?」

 

「!」

 

「その様子だと当たりみたいだな」

 

「絶対みんなには内緒にしといてよ!」

 

「えーどうしよかっなー」

 

「何が内緒でごじゃる?」

 

するとマタムネたちが会話に入ってきた。

 

「お?何の話しだ?」

 

「どうしたのー?」

 

「いやなルーシィがさ…」

 

ルーシィは顔を赤くして、怒鳴った。

 

「言っちゃダメーー!!」

 

そんな騒ぐ5人の様子を夕日が優しく照らしていた。

 




感想、誤字報告よろしければお願いします。


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設定

とりあえず主人公とあとこれからも出るキャラの設定です。
これからも話が進んだら加えていきます。


ハルト・アーウェングス

年齢 19歳

容姿 髪はオレンジ色の髪を短くしており、立たせている

顔は上の下くらい(皆様のご想像で)

背丈は少し背が高いくらい

服 上着はオーダーメイドで激しく動いても破れない、伸縮性が高く

色合いは白を基調にして所々にオレンジと赤のラインや模様が

入っていて(詳しくは皆様のご想像で)、魔法がかけらており、

色々な防御魔法がかけらている。

下着は黒で妖精の尻尾のロゴマークが入っている

下もオーダーメイドの黒の長ズボン

 

魔法 覇の滅竜魔法 : 特性は『統合』。自分以外の魔力を自分の物にし吸収する。しかし、攻撃など即座に吸収する際には3割程しか吸収できない。

覇竜の剛拳 : 魔力を拳に込めての正拳突き

覇竜の螺旋拳 : 魔力を拳に込めてのハートブレイクショット

覇竜の旋拳 : 空いてが迫ってきたのを回転しながら腰を落としし、懐に潜り込み覇竜の剛拳を放つカウンター技(躰道の旋体突き)

覇竜の旋尾 : 魔力を纏った足での回し蹴り

覇竜の断刀 : 魔力を纏った手刀

覇牙連拳 : 両拳に魔力を込め、連打して放つ技

覇竜の剛腕 : 腕に魔力を纏わせ、具現化し自身を守る防御技

覇竜の剛腕・包 : 覇竜の剛腕を自分の周りに何本も出し全方位から守る技だが、操作が難しく時間が掛かってしまう

浮遊魔法 : 乗り物酔いにならないために覚えた魔法だが、何故か1人しか浮かせることができないので、ナツに頼まれても助けてあげれない

合体魔法

紅金竜双乱舞 : ナツとの合体魔法で、ナツに合わせて攻撃を繰り出す。

 

備考 魔導士ギルド妖精の尻尾に所属している魔導士。ギルド内では暴走しがちな他のメンバーをなだめるか、鎮圧している。過去に何かあったのかルーシィをエミリアという人物と間違えてた。弱点は自分の二つ名の「妖精の覇王」と呼ばれること。執事に対して若干の苦手意識がある。

 

 

 

マタムネ

年齢?

容姿 白に黒の模様がある

腰にハルトが作ってくれた木刀を差している

魔法 翼

背中から羽を出し、飛ぶことができる。

備考

ハルトのパートナー。昔見た映画ラクリマの侍に憧れて口調などがごじゃる口調になっている。

 

 

ランチア・スザータ

年齢29歳

容姿 家庭教師ヒットマンリボーン!!のランチア

魔法 操作魔法

物体を自分の意思で操れる。ランチアは鎖や鉄球を操る。

暴蛇烈破 掌底で鉄球を打って相手に攻撃する技

嵐蛇烈破 鉄球で自分の周りに風を起こし、相手を引きつけ態勢を崩した所に風を巻き込んだ鉄球を当てる強烈な攻撃。

備考 傭兵ギルド鋼鉄の人形のメンバーだったが、実は鋼鉄の人形に襲撃されたギルドの一員で捕虜にされた家族と仲間を助けるために無理矢理従わされていた。現在は評議院に捕まっているが、情状酌量の余地があると見なされ、刑は軽くなっている。

 




感想お願いしますm(__)m


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鉄の森 篇
第12話 最強チーム


ここは魔導士ギルド、妖精の尻尾。

ギルドの中にある酒場では昼間なのに酒を飲んだり、騒いでる人が大勢いる。

そんな中で1人悩んでいる少女がいた。

 

「んー次はどっちの仕事にしようかなー?」

 

綺麗なブロンドの髪をサイドテールにした少女、ルーシィは次の仕事をどうするかカウンターで依頼書を見比べて悩んでいた。

すると横から、エプロン姿の青年が声をかけた。

 

「次の仕事はもう決まったのか?」

 

オレンジ色の髪を短く立たせている青年、ハルトだ。

 

「まだ決められないの」

 

「ゆっくりでいいからな。ルーシィが決めた仕事に着いて行くからよ」

「うん、ありがと」

 

ルーシィは他のメンバーと何度か一緒に仕事に行く機会があったが、

一番一緒に行く回数が多いのハルトとマタムネだった。

今回も一緒に行く約束をしている。

 

「そういえば今日マタムネはどうしたの?」

 

「今日は修行をしに行ったぞ。時々『秘密の特訓でごじゃるー!』って言っていなくなっちまうんだ」

 

「あははっ! あんまりマタムネの真似ができてないわね」

 

「うるせー」

 

「あら? 楽しそうね」

 

ハルトとルーシィが談笑をしていると、このギルドの看板娘ミラジェーンがやってきた。

 

「あっ、ミラさん! ハルトのマタムネの真似ができてなくて…」

 

「あっ、おい言うなよ」

 

「そうなの? 私もやってみようかしら…」

 

すると、ミラは手を顔にやり、

 

「はい!」

 

すると顔だけがマタムネになってしまった。

顔だけがマタムネになっているので気味が悪い。

 

「えーー!?」

 

「やっぱり…」

 

「どうかしら?」

 

「いや似てますけど…」

 

ルーシィも若干引いている。

 

「そういえばハルト、もうそろそろジャムが出来上がっているんじゃないかしら?」

 

「あぁそういえば忘れていたな。サンキューなミラ」

 

ハルトが厨房に行ったのを確認するとミラはルーシィに詰め寄った。

 

「ところでルーシィ?」

 

「ひいぃぃぃ!」

 

しかし、マタムネの顔のままなので怖がってしまう。

 

「あら、ごめんなさい」

 

ミラが魔法を解き話を続けた。

 

「最近ハルトとはどうなの?」

 

「え!? いやどうって…」

 

ミラに突然ハルトとの関係を聞かれて顔を赤らめてしまう。

 

「だってルーシィ、ハルトのこと好きなんでしょ?」

 

「うえ!? いや、なんで…」

 

「いつも見てればわかるわよ」

 

そう言われルーシィは俯いてしまう。

 

「最初は少し気になる程度だったんですけど…」

 

「そこからどんどん意識しちゃったのね」

 

「…はい」

 

「私はルーシィとハルトすごくお似合いだと思うけど…

ほらハルトとすごく仲がいいじゃない?

ハルトがここまで親しくなる女性なんて私見たことないもの」

 

「ミラさんでも?」

 

「そうね。私でも最初の頃はルーシィみたいによく仕事に誘ったりしてくれたことはなかったはね。 それに…」

 

「それに?」

 

「なんだかハルトがルーシィを見る時の目って何か…特別な様な気がするの」

 

「特別…ですか?」

 

「そう」

 

「女の勘ってやつでごじゃるな」

 

「「………」」

 

「っていつ間のにいたのよ!?」

 

いつの間にかまたがルーシィとミラの近くに座っていた。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいまでごじゃる」

 

「いや、ただいまじゃなくて…

ど、どこから聞いてたの?」

 

平常運転のミラに戸惑ってしまうが、マタムネには聞かれてはまずい話を聞かれてしまったことが大きかった。

何故ならマタムネはハルトと一緒に生活をしているので、どこでこの話が漏れるがわかったもんじゃないからだ。

 

「ルーシィが変な鳴き声をあげた時からいたでごじゃる」

 

「あれは鳴き声じゃなくて悲鳴よ…って、それよりも最初からじゃない! 絶対にハルトには言わないでよ! 今の会話のこと!」

 

「言わないでごじゃる。せっしゃはルーシィ殿を応援してるでごじゃるよ」

 

「え?そうなの?」

 

「そうでごじゃる。そろそろハルトも前に進まなくては…」

 

「?」

 

マタムネの後半の言葉は小さい声で言ってのでルーシィには聞こえなかった。

 

「そうでごじゃる! ルーシィ殿!ハルトをデートに誘ってはどうでごじゃろうか?」

 

「デ、デート!?」

 

「それはいいわね」

 

マタムネの突然の提案にルーシィはまた顔を赤くしてしまう。

 

「む、無理よ!」

 

「どうして? やってみなきゃわからないじゃない?」

 

「だって…ハルト、時々私ごしに誰かを見ている様な感じがするんです」

 

ルーシィがそう言った時の顔は、少し寂しそうな感じだった。

 

「誰を見てるかわからないけど、その時のハルト、なんかすごく大切な人を見てる顔をするんです…。

もしかしたら、恋人なのかもしれないし……

今思えば私ってハルトのこと何にも知らないなぁ」

 

ルーシィは少し落ち込んだ表情を浮かべる。

 

「だったら、これから知っていけばいいでごじゃる。

見てもらっていないなら、一緒にいて見てもらえばいいでごじゃる

弱気になってはダメでごじゃるよ!」

 

そんなルーシィにマタムネは励ましの言葉をかける。

 

「マタムネ…」

 

「そうね。私も応援するわ!」

 

「ミラさんも…そうよね。今弱気になってちゃダメよね!

私ハルトをデートに誘ってみます!」

 

「何に誘うって?」

 

「ひゃあぁぁぁぁ!!?」

 

ルーシィが気合を入れた直後に、ハルトが厨房から戻ってきた。

 

「えっ、いや、その…」

 

突然のことだったのでルーシィの心の準備ができず、慌てふためいてしまう。

 

「ハルトー、ルーシィのことどう思っているでごじゃる」

 

「ん?」

 

「ちょっ…マタムネ!」

 

「どうって…まぁ頼りになる奴だと思っているけど」

 

「そうじゃなくて異性としてむぎゅっ!」

 

「何言ってるのかしらこの猫ちゃんはー!?」

 

マタムネがルーシィにとって聞かれちゃまずいことを聞こうとしたので、遮る様にマタムネの顔を手で挟み、大声を出してごまかした。

 

「どういうことだ?いせ「やあ!何の話をしてるんだい?」」

 

すると、ハルトの言葉を遮る様にロキが話かけてきた。

ルーシィはこの時初めてロキに心の底から感謝した。

 

「ルーシィとハルトが最近いい感じだなーって話をしていたの」

 

「ちょっとミラさん!」

 

まさかのミラの追撃に顔を慌ててしまうルーシィ。

 

「そうなんだ。ルーシィ、僕とも仲良くなるために愛を語り合わないかい?」

 

「却下で」

 

「即答!?」

 

さっきまでの慌てぶりがウソの様に、冷静に言った

 

「そんなつれない君も素敵だけどね」

 

それでも諦めないロキはルーシィに近寄るが腰にかけてある星霊の鍵を見つけると態度が一変した。

 

「き、君!星霊魔導士だったのかい!?」

 

「そうだけど?」

 

「なんたる運命のイタズラ…!すまない僕たちはここまでにしよう!!」

 

そう言い残し、走り去って行ってしまった。

 

「なにが始まっていたのかしら…?」

 

「ロキは星霊魔導士が苦手なの」

 

「たぶん昔、女の子関連で何かあったでごじゃる」

 

「……」

 

去って行ったロキにミラやマタムネはそう言うが、ハルトはロキが行ったほうを黙って見ていた。

 

「そうなんですか…って、あんた達いつの間にケンカしてんのよ!」

 

すぐ横で騒いでいるなと思ったら、いつも通りナツとグレイがケンカをしていた。

 

「何でテメェはパンツ一丁なんだよ!」

 

「テメェが暑苦しいからだろうが、このクソ炎!」

 

「んだと、コラァ!」

 

「やんのか、コラァ!」

 

毎日、ケンカをしているのでみんなも止める気なんてさらさらない。

しかし、ルーシィは飛び火を恐れてか、ハルトに話かける。

 

「ね、ねぇハルト止めなくていいの?」

 

「大丈夫だろいつものことだし、それにそろそろあいつが帰ってくる頃だからな」

 

「あいつ?」

 

ルーシィが誰なのかを聞こうとしたら、さっき走り去って行ったロキが慌てて帰ってきた。

 

「ナツ!グレイ!まずいぞ!」

 

「「あ?」」

 

「エルザが帰ってきた!」

 

「「あぁ!?」」

 

“エルザ”と聞いた瞬間、ナツとグレイだけでなくギルド全体が慌て出した。

それと同時にギルドに重い物が移動する様な音が響いた。

その音が響くたびにギルドメンバーの顔には緊張が走る。

その音がするとほうを向くと、鎧を着た緋色の美しい髪の美女が人間より大きい角を肩に担いだ姿で現れた。

 

「今戻った。マスターは居られるか?」

 

「お帰りエルザ!マスターなら定例会よ」

 

「む、そうか。 急ぎの用事があるのだが…」

 

(あの人がエルザ…さん? ちょっとびっくりしたけど、綺麗な人だなー)

 

巨大な角を持ってきたことに多少驚いたが、エルザのその凛とした姿に見惚れた。

 

「あ、あのエルザさん? そのバカでかい角は何ですか?」

 

「討伐した魔物の角だ。地元の者が記念にと装飾してくれてな。綺麗だったので土産として持って帰ってきたのだ。迷惑だったか?」

 

「い、いえ!滅相もない!」

 

その態度を見るとエルザが相当偉い立場にいる様に見える。

 

「それよりお前達、また問題ばかり起こしているようだな。

マスターが許しても私は許さんぞ」

 

「「「………」」」

 

エルザが周りをぐるっと見回し、そう言うとギルドのメンバーは全員気まずい顔をした。

 

「まずはカナ、なんという格好で呑んでいる。ナブ、相変わらず依頼板の前でウロウロしているのか?仕事をしろ。それから・・・」

 

出るわ出るわギルドのメンバーへの小言でルーシィのエルザに対する印象がだいぶ変わっていった。

 

「今日のところはこれくらいにしておこう。まったく、世話が焼けるな・・・」

 

エルザは仕方がないと言った顔をしたが、他のメンバーはげんなりとしていた。

 

「そういえば、ナツとグレイはいるか?」

 

ガタッ!

 

さっきの喧しさをエルザが来た途端、抑えていたナツとグレイだが指名された途端、逃げ出したが、

 

「あい、こちらに」

 

ハッピーの裏切りによりあっさりと見つかってしまう。

 

「なんだお前達そんなところにいたのか」

 

「あい」

 

「お、おうエルザ、今日も俺たちは仲良くやってるぜ」

 

「あい」

 

「ナツがハッピーみたいになってる!?」

 

エルザに見つかった瞬間、肩を組み必死に仲が良いように見せている。

 

「あの二人どうしちゃったの…?」

 

「ナツもグレイもエルザが怖いのよ。

ナツは昔、エルザにケンカを挑んでボコボコにされたし」

 

「あのナツが!?」

 

ルーシィはナツの実力を知っているから驚いてしまう。

 

「グレイは裸で歩いているところを見つかってボコボコに」

 

「またボコボコ!?」

 

「ついでロキは口説こうとして半殺しになったでごじゃる」

 

「そこまで!?」

 

エルザの武勇伝をミラから伝えられるたびにルーシィのなかでは、

もはやどこかの鬼軍曹ではないかなと思えてしまう。

すると、ナツとグレイに話終えたエルザにハルトが話かけた。

 

「おうエルザ、おかえり」

 

「ハルトか、ただいま」

 

「甘い物食べるだろ? ちょうどジャム作ったところだからすぐにできるぜ?」

 

「そうか、ならいただこうか」

 

ハルトとエルザが長年の友のように接しているのをルーシィには別のように見えていた。

 

「ね、ねぇマタムネ、あの二人ってどんな関係なの?」

 

「ハルトとエルザ殿でごじゃるか? それは仲がいいでごじゃるよ。

恐らく、女性メンバーの中では1番多く一緒に仕事に行ってるでごじゃる」

 

それを聞いてルーシィは崩れ落ちそうになる。

さっきまで意気込んで、ハルトに積極的にいこうと思ったのに、もう落ち込んでしまった。

ルーシィには美人のエルザとイケメンのハルト(ルーシィ視点)はお似合いのカップルに見えたのだ。

 

「マタムネ…私もうダメかも…」

 

「どうしたでごじゃる!?」

 

ハルトが厨房から戻ってきた。

 

「ほれ、苺のタルトだ」

 

「うむ…、相変わらずハルトのスイーツは絶品だな

一家に一人欲しいくらいだ」

 

「ははっ、俺は家具じゃねぇよ」

 

エルザが冗談を言うがルーシィには致命傷になる。

 

「ほらぁ〜、今のは遠回しの告白じゃない〜」

 

「今のはただの冗談でごじゃる!」

 

エルザがスイーツを食べ終えるとナツとグレイに向き直った。

 

「ナツ、グレイ、そしてハルトにも話がある」

 

「ん?俺にもか?

 

「あぁ、3人に頼みがある」

 

「「「頼み?」」」

 

「仕事先で少々やっかいな話を耳にした。マスターの判断をあおぐつもりだったのだが、早期の解決が望ましいと判断してな」

 

「あー!じれってぇな!頼みって何だよ!」

 

遠回しに言われてるからなのか、短気なナツが痺れを切らした。

 

「単刀直入に言おう。3人の力を貸して欲しい。

着いてきてくれるな?」

 

その言葉にハルトたち3人は驚くが、それは他のギルドメンバーにもだった。

 

「な、何? みんなどうしちゃったの?」

 

周りがざわめき出したのを落ち込んでいたルーシィも気づいたようで、周りをキョロキョロと見ていると、ミラが驚いたような口調で声を出した。

 

「エルザにハルト、ナツとグレイ…今まで考えたことなかったけど、

これって最強チームかも…」

 

「!!」

 

その言葉には、状況がわからなかったルーシィをも驚愕させることだった。

 




感想…欲しいです。


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第13話 鉄の森

エルザからの頼みでハルト、ナツ、グレイは一緒について行くことになった。それで、マグノリアの駅で待ち合わせをすることになったのだが、先にナツ、ハッピー、グレイが集まっていた。

 

「なんでエルザみたいな化け物が助けなんかいるんだよ」

 

「知るかよ、つーか」

 

「「助けなら俺とハルトで十分だっての!!」」

 

見事にハモってしまい、端から見ると仲が良い様に見えるが当の本人たちは嫌だったのか険しい顔をして、掴み合いになってしまった。

 

「真似してんじゃねぇよ!」

 

「お前がしたんだろうが!」

 

ハッピーはやれやれと言った表情をしていて止める気は無いらしいが、周りの人達も止めたら巻き込まれるとわかっているのか近づかない。

するとそこに止めに入る人がいた。

 

「ちょっとあんたたち!周りの人の迷惑になるからやめなさい!」

 

ルーシィが止めに入ると二人はピタッとケンカを止めたがルーシィをジーっと見ていた。

ルーシィはその視線に少したじろいでしまう。

 

「な、何よ」

 

「本当に来たんだな、ルーシィ」

 

ナツがこう言うのは訳があった。

 

 

ギルドでエルザがハルトたちに頼むとルーシィが突然、手を挙げた。

 

「私も行くわ!」

 

ルーシィがそう言うと周りは止める様に説得しだした。

あのエルザが助けを求めるくらいなのだ、仕事が慣れだした今のルーシィには危険だと思ったのだ。

しかし、ルーシィにはそんな危険よりもハルトとエルザの関係が気になることと、ハルトに自分を見て欲しいという思いがあった。

 

「君は新入りか?」

 

「はい! 新人のルーシィです!」

 

「危険な仕事だが、大丈夫か?」

 

エルザはルーシィに少し威圧をかける様に言った。

ルーシィは声色で本当に危険だということが分かったが、自分の思いは本気だと示したかった。

 

「はい! お願いします!」

 

「……」

 

エルザはルーシィの目をじっと見て、口元を緩ませた。

 

「そうか、なら君の力も借りようとしよう。明日の朝、駅に集合だ。頼んだぞ」

 

エルザはそう言うとギルドから出て行った。

ルーシィは緊張したのか、よろよろと椅子に戻った。

するとハルトが心配した顔で話しかけてきた。

 

「なんで一緒に行くなんて言ったんだ? 」

 

「だって…」

 

ルーシィには言えなかった。

ハルトのことが気になるから行きたいなんて、本人に言えるはずがない。

そんな時、マタムネが助け船を出してくれた。

 

「まぁまぁいいではごじゃらんか、やる気があるのはいいことでごじゃる」

 

「そうかもしれないけど…」

 

「いざという時はせっしゃがルーシィ殿を守るでごじゃる」

 

マタムネの説得にハルトはしぶしぶと言った顔したが、真剣な顔をしてルーシィに言った。

 

「わかった。でも、なるべく俺から離れるなよ? 俺がルーシィを守る」

 

 

「えへへっ、ハルトにあんなこと言われちゃった〜」

 

ルーシィは昨日のことを思い出したのか、顔が緩みまくっていた。

周りの人も気味悪がって、遠退いた。

 

「なぁ、なんでルーシィはうれしそうなんだよ?」

 

「はぁ、だからお前はバカ炎なんだよ」

 

「んだとコラァーー!!」

 

「やんのかテメェ!!」

 

「青春だね」

 

ルーシィは自分の世界に入ってしまい、それをハッピーが見て感想を言ったり、ナツとグレイのケンカが再発してしまい、誰も止める人がいなくなってしまった。

そこに救世主が現れた。

 

「なんだこの状況…」

 

「カオスでごじゃる」

 

ハルトとマタムネだ。

 

「あっ! 二人ともおはよー」

 

「おはようハッピー」

 

「おはようでごじゃる」

 

いち早く二人に気づいたハッピーは挨拶した。

 

「えっ! ハルト!?」

 

ハルトの声に気付いたルーシィは自分の世界からやっと帰ってきた。

 

「あ、あのあの、は、ハルト!お、おはよう!」

 

昨日のことを思い出していたからか、恥ずかしくてどもりながら挨拶をしてしまう。

 

「なんで顔が赤いんだ?」

 

「えっ!? いやそれは…」

 

顔を俯かせて、誤魔化すルーシィにハルトは、まぁいいかと思い、ケンカしている二人に挨拶した。

 

「おはよう。ナツ、グレイ」

 

「「よお、ハルト!」」

 

「相変わらず仲がいいな、お前ら」

 

「「どこがだ!」」

 

しかし、そのままケンカを続ける二人。

 

「相変わらずだなこいつら」

 

そこにやっと整理がついたのかルーシィも来た。

 

「どうにかならないのかしら…」

 

すると、ルーシィは何か思いついた顔をして、大声で後ろを向いた。

 

「あ!!エルザさん!!」

 

ビクッ

 

「俺たち今日も仲良くやってるぜー」

 

「あいさー」

 

「あはははっ! これ面白いかも!」

 

「見事に騙されたな」

 

「「テメー!」」

 

そんなこんなで、エルザを待ってると巨大な影が見えてきた。

 

「待たせたな…少々荷造りに手間取った」

 

「荷物多っ!」

 

山の様に積まれた荷物を荷台に乗せてエルザがやってきた。

エルザはルーシィのほうを向く。

 

「君はルーシィだったな。今回は頼んだぞ」

 

「はい、お願いします」

 

「敬語なんて使わなくていい。同じギルドに所属しているのだからな」

 

ルーシィはそう言われ敬語を止める様にするが内心では気を抜けなかった。

もしかしたら自分の恋敵になるかもしれないからだ。

するとそこにナツが割り込んでくる。

 

「おいエルザ、何をするか知らねぇが今回は条件付きで付き合ってやる」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「帰ったら俺と勝負しやがれ!」

 

「お、おい!死にてえのか、お前は!?」

 

グレイはナツにやめるように言うが、ナツの真剣な眼差しを見て了承した。

 

「そうだな。…私はいささか自信がないが、受けてたとう」

 

「おっしゃあ!燃えてきたぁ!!」

 

「グレイはどうする?……そうか」

 

グレイにも決闘に誘ってみるが、激しく首を振り断った。

 

「ハルトはどうする?」

 

「俺はパスするわ」

 

「そうか、わかった」

 

ナツがやる気を爆発させながら声を高らかに上げる。

 

「よし! んじゃ、さっさっと仕事終わらせるぞ!!!」

 

こうしてハルトたちは勢い良く出発した。

 

 

「うぼぁ……」

 

さっきの勢いはどこにに行ったのか、ナツは列車の乗り物酔いでダウンしていた。

 

「たくっ! うっとしい… 乗り物くらいで情けねぇ、いっそのこと走れよ」

 

「グレイ、その言葉は俺にも突き刺さるから、やめてくれ」

 

ナツを見て悪態を付くグレイだが、その言葉に若干のダメージを受けてしまうハルト。

ハルトたちは列車で目的地を目指しており、ナツ、ハッピー、グレイ

エルザが同じ座席に座り、通路を挟んで、ハルト、マタムネ、ルーシィが座っている。

 

「まったく世話が焼けるな」

 

エルザが仕方がないといった顔をし、ナツの隣に移動した。

気持ち悪そうなナツの顔を慈愛の顔で見つめていたが…

 

ドスッ

 

「ぐふっ!」

 

『!!』

 

躊躇なくナツの腹に拳を叩き込み、沈めた。

 

「これで少し楽になるだろう」

 

「殴る必要があったのかしら?」

 

「メチャクチャでごじゃる」

 

「さて、どこまで話したか?」

 

「話続けるんだな…」

 

周りが唖然とするなかエルザは関係ないとばかりに話を続ける。

 

「確か鉄の森(アイゼンヴァルト)とかいう闇ギルドがどうしたとかの話だったな」

 

エルザが話した内容はエルザが仕事帰りに酒場でスイーツを食べている近くのテーブル席で数人の男達が声を荒げて暴れていたのだ。

話の内容が『ララバイ』、『封印』など物騒な言葉が飛び交っていたらしい。

 

「だが、それだけじゃ怪しいって限らないだろ? 仕事の依頼かもしれねぇしよ」

 

「あぁ、私もその時はなんとも思っていなかったんだ… エリゴールという名を思い出すまではな」

 

エリゴールは魔導士ギルド、鉄の森のエース。

二つ名は死神のエリゴール、暗殺系の依頼ばかりをこなしてついた名だ。

本来、暗殺依頼は評議会の意向で禁止されているが鉄の森は金を選んだことにより、6年前に魔導士ギルド連盟を追放され、現在は闇ギルド

にカテゴライズされている。

 

「ねぇ、闇ギルドって何なの?」

 

ルーシィがハルトにわからない単語が出てきたので質問した。

 

「まずギルドは地方ごとの連盟に所属していて、それを管理するのが評議会なんだ。だが、評議会が定めた決まりを破って殺しなどの依頼を受ける違法なことばかりするギルドもいるんだ。それが闇ギルドだ。今回の鉄の森も暗殺系の依頼ばかり受けているいたから闇ギルドになっちまったんだよ」

 

「それって、とっても危ない奴らじゃない!」

 

「だからこそ、そんな奴らを放っては置けん」

 

エルザの眼差しがより真剣になる。

 

「つまり俺たちが今回やることは…」

 

「鉄の森に乗り込みぞ」

 

グレイがエルザに聞くと、エルザは決心したように言った。

ハルトとグレイはそれを聞き好戦的な笑みを浮かべる。

 

「やってやろうじゃねぇか」

 

「面白くなってきやがったな」

 

しかし、そんな中、今すぐにでも頭を抱えたい人物がいた。

 

(来るんじゃなかったー!)

 

ルーシィだった。

いくら、恋ためとは言え命がいくらあっても足りない。

駅に着き、列車を降りるがルーシィは未だに後悔に苛まれていた。

そんな時ハッピーがルーシィの足を引っ張る。

 

「ねぇねぇ」

 

「ちょっと今は話しかけないで…」

 

「ナツ、列車に置いてきちゃったよ?」

 

それを聞いた全員が列車のほうを向くが、既に遠くに行っていた。

 

 

列車に取り残されたナツは再び乗り物酔いの苦しみを味っていた。

そんな中、ある男が話しかけてきた。

 

「いいなー正規ギルドかー」

 

 




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第14話 理不尽な悪意

ハルトたちは目的の駅に着いたのは良かったが話に夢中になり過ぎて、列車にナツを忘れてきてしまった。

 

「なんということだ!仲間を忘れてしまうとは…とりあえず誰か私を殴ってくれ」

 

「そこまでしなくても…」

 

エルザは自分を責め、訳のわからないことを言って、ルーシィが控えめにツッコミを入れる。

 

「そうか…おい!そこの駅員、列車を止めてくれ!」

 

「そんな無茶な!?」

 

「仲間の為なんだ」

 

「乗客1人のためにそこまでできませんよ」

 

「くっ…そうか…」

 

流石にエルザも無理なことを言っているのがわかっているようだが、この後まさかの発言が出た。

 

「ハッピー!あのレバーを引け!」

 

「あい!」

 

ハッピーが飛んで向かったのは駅に備え付けにされている列車の緊急停止レバーだ。

ハッピーはそれを躊躇なく引き、駅中にベルが鳴り響く。

あまりのことに駅員は絶句している。

 

「よし、これで列車は止まったはずだ。ナツを迎えにいくぞ」

 

「私……今まで見てきた妖精の尻尾のみんながまともに見えてきた」

 

「だろ?」

 

ハルトとルーシィはその光景を呆然と見ていた。

エルザは見知らぬカップルに多量の荷物を預け、魔導四輪を借りてきた。

それに乗り込むハルトたちだが、SEプラグが何故かハルトの腕に付けられた。

 

「え?なんで?」

 

「この中で1番魔力が多いのはハルトだ。 この後のことを考えるとこれが最善だ、出発するぞ!」

 

「いや、ちょっと待て!まだ浮いてな…」

 

ブオォン!

 

「ぐおっ!」

 

ハルトが言い終わる前に魔導四輪はフルスピードで発進したことにより、ハルトは一瞬で酔ってしまった。

しかも、固定も何もされていないので慣性の法則により吹っ飛ばされてしまったので……

 

ムニュン

 

「キャア! ちょっとハルト!?」

 

対面に座っていたルーシィに突っ込んでしまった。

しかも、顔がちょうどルーシィの顔に突っ込む形でだ。

 

「やったでごじゃる!ここでハルトにアピールするでごじゃる!」

 

「それどころじゃないわよ!」

 

マタムネはルーシィにここぞとばかり応援してするが、ハルトとこんなに近づけた嬉しさと胸を触られている恥ずかしさでパニックになっていた。

その状況に気付いたグレイとハッピーがニヤニヤしながら茶化してくる。

 

「おうおう見せつけてくれねぇ。お前ら何時からそんなに仲が良かったんだ?」

 

「でぇきてぇるぅ」

 

「うるさい!」

 

結局、ハルトはルーシィにまた膝枕をしてもらうことになった。

魔導四輪を走らせると漸く自分たちが乗ってきた列車が見えてくる。

 

「見えた!あの列車だ!」

 

「もう発車しているよ!」

 

すると列車の窓から見覚えのある桜色の髪が見えた。

しかし、それは列車から飛び降り、車体の上にいたグレイの方にまっすぐ向かってきた。

 

「ぐはっ!」

 

「あだっ!」

 

ナツとグレイのおデコがキレイにぶつかり、2人は車から落ちてしまった。

 

「なにすんだテメェー!?」

 

「お前誰だ?クセェ」

 

「ナツ無事だったか!」

 

「あっ!エルザ、ルーシィ、ハッピー、ハルト、マタムネ!お前らよくも俺を置いて行きやがったな!」

 

「おい…随分と都合のいい記憶喪失だな…」

 

分かれたナツと合流できたのは良かったが、どうやら列車の中でちょっとした事件があったらしく、知らない男に襲われたそうだ。

 

「そういえばそいつがなんか言ってたな…たしかララバイとかなんとか…」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

「バカものぉ!!」

 

「ぐへっ!」

 

エルザの鉄拳がナツの頬にぶつかる。

ララバイは今回の事件に関係することなのだが、ナツは聞いてなかったといより、聞けなかった。

 

「何故私の話を聞いてなかった!」

 

「お前が…気絶…させたんだろ…が…」

 

息絶えそうになりながらも突っ込みをするハルト。

 

「くっ! とにかくあの列車を追うぞ。ナツその男はどんなやつだった」

 

「んー特徴はあんまなかったな。そういえば気味の悪いドクロの笛を持ってたな、三つ目の」

 

「三つ目のドクロ!?」

 

「どうしたでごじゃる?」

 

「その笛、その笛がララバイだ!呪歌(ララバイ)…死の魔法!」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

エルザは魔導四輪の限界のスピードを出し続けていた。

少しでも列車に追いつくためだ。

 

「おい!エルザ!飛ばし過ぎだ!!」

 

「こうでもしないとあの列車には追いつけん!」

 

「そうだけどよ…ハルトが…」

 

グレイが悲痛そうな顔をし、視線をハルトに向ける。

そこには干からびたハルトがいた。乗り物酔いと急速に魔力が奪われ続けるため、よくわからない症状が起こっていた。

 

「……ぅ……」

 

「ハルト!しっかりして!」

 

「死んじゃダメでごじゃるー!」

 

「いざという時は私がハルトの分まで戦うさ」

 

「いや、そうじゃなくてだな…」

 

グレイはハルトが復活できるか心配だったが、とりあえずは頭の隅にやった。

列車を追って駅に着いたが人で溢れていた。

 

『只今、列車の脱線事故により運行の停止、及び駅への立ち入りを禁止にしております』

 

アナウンスがそう言ってるが列車を追ってきたエルザたちには直感的に鉄の森の仕業だと感づいた。

駅の構内に入ろうとするがここに二人動けない人がいた。

 

「ちょっと!ハルトとナツどうするの?」

 

「しゃーねぇな、担ぐぞ」

 

グレイがそう言うとハルトに肩を貸し、立たせた。

 

「えー! 私ナツ!?」

 

「仕方ねぇだろ。ハルトの方が重いんだからな」

 

「そうだけど…ぐぬぬぬ…」

 

結局グレイがハルトに肩を借しルーシィがナツを背負うことになった

 

「ルーシィ…気持ち悪い…」

 

「失礼ね!? 落とすわよ!」

 

 

駅に近づくが人混みが激しすぎて、構内の詳しい状況がわからなかった。

エルザが近くで人を誘導していた駅員に話しかけた。

 

「駅の構内では何が起こっている」

 

「なんだねキミは?」

 

次の瞬間、エルザは駅員の胸ぐらを掴み、頭突きを当てる。

 

「ぐわっ!」

 

駅員はそのまま気絶してしまい、エルザは次の駅員に話しかけた。

しかし、突然の質問にすぐに返せるわけでもなく次々に死体(死んでない)が出来上がっていく。

 

「めちゃくちゃね…」

 

ルーシィの言葉が全てを物語っていた。

漸く話が聞けて、エリゴール率いる鉄の森が駅を占拠したらしい。

軍も駆けつけたが、未だに応答はない。

エルザたちが無理矢理中に入ると、そこには傷ついた軍の兵士が大勢いた。

 

「やはり魔導士相手に兵士だけでは相手にならんか…」

 

幸いにも兵士には死者がおらず、後は救護に来る人に任せ、ホームに進んでいく。

 

「よぉ、待ってたぜ妖精の尻尾」

 

そこには数十人の男たちがいた。

 

「貴様がエリゴールか」

 

エルザは睨みながら、列車の上で座っていた男、エリゴールに話かける。

 

「何が目的でこんなことをする」

 

「最近仕事がなくて暇でよぉ、退屈しのぎに遊びてぇんだよ」

 

その言葉に鉄の森のメンバーが大声で笑う。

明らかにこちらをバカにしている。

すると、エリゴールは空中を浮いた。

 

「浮いた!?」

 

「風の魔法だよ!」

 

「またわからねぇか、駅には何がある?」

 

エリゴールはアナウンス用のスピーカーに近づき、持っていた大鎌で小突く。

それを見たエルザはエリゴールの恐ろしい意図がわかった。

 

「ララバイを放送する気か!?」

 

「ええ!?」

 

「なんだと!?」

 

驚愕するエルザ達を見て面白そうに笑う。

 

「この駅の周辺には何百、何千もの野次馬どもが集まってる。いや…音量を上げれば町中に響くかな、死のメロディが」

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに権利を掲げ生活を保全している愚か者どもへのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって、死神が罰を与えに来た。死という名の罰をな!」

 

エリゴールが訴えるように言うが、その内容は滅茶苦茶で、理不尽な悪意そのものだ。

それに我慢できなくなったルーシィはエリゴールに向かって言った。

 

「あんた、バカじゃないの!

そんなことをしても権利は戻ってこないわよっ!!

それに元々、アンタたちの自業自得じゃない!!」

 

しかし、それを聞いても動じず淡々とエリゴールは話す。

 

「ここまで来たらほしいのは権利じゃない、権力だ。権力があればすべての過去を流し、未来を支配することだってできる」

 

あまりののことにエルザ達は言葉を無くした。

その隙に列車でナツを襲った男、カゲが魔法を発動する。

 

「残念だな、妖精ども。闇の時代を見る事なく死んじまうとは!!!」

 

ルーシィにまっすぐカゲが伸び、ルーシィの間近で影から拳が現れ、ルーシィを襲った。

 

「しまった!!」

 

反応が遅れてしまい誰もルーシィを助けれない。

ルーシィは迫りくる拳に目を閉じてしまうが、いつまでたっても痛みが来ない。

恐る恐る目を開けると影の拳を手に黄金の魔力を纏わせ、掴んでいるハルトが前に立っていた。

 

「ハルト!」

 

「言ったろルーシィ。俺が守るって」

 

すると、後ろからいつものの元気な声が聞こえた。

 

「ありがとなルーシィ。よっしあ! こっからは地上戦だな!燃えてきたぞ!!」

 

ナツも復活し、睨み合う妖精の尻尾と鉄の森。

しかし、その中でエリゴールだけが不気味な笑みを浮かべていた。

 

 




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第15話 妖精女王

睨み合う妖精の尻尾と鉄の森、まさに一触触発の状況だった。

 

「………うぷっ、やっぱダメだ」

 

「えー!?」

 

さっきはカッコよく決めたのにまだ酔いが抜けないのか顔を青くし、膝をついてしまうハルト。

それを好機と見たのかエリゴールはゆっくりと上昇した。

 

「あとは任せたぞ。オレは笛を吹きに行く。身のほど知らずの妖精ハエどもに…鉄の森アイゼンヴァルトの…闇の力を思い知らせてやれ」

 

そう言いガラスを破りどこかに行ってしまった。

 

「逃げるのか!エリゴール!!」

 

「くそっ!向こうのブロックか!?」

 

エルザ達が追うとするが鉄の森のメンバーがその行く手を塞ぐ。

 

「ナツ、グレイ!二人で追うんだ!」

 

「「む」」

 

二人で行くのが嫌なのか顔を見合い、睨む。

 

「おまえ達二人の力を合わせればエリゴールにだって負けるはずがない」

 

「「むむ…」」

 

「ここは私とルーシィでなんとかする」

 

「なんとかって…女子二人であの人数を…?」

 

エルザのとんでも発言にルーシィは冷や汗を流す。

 

「エリゴールは呪歌(ララバイ)をこの駅で使うつもりだ。それだけはなんとしても阻止しなければならない」

 

エルザはそう言うがナツとグレイは睨んだままだ。

 

「聞いているのか!!?」

 

「「も…もちろん!」」

 

エルザの一喝ですぐに肩を組み、返事をする。

 

「行け!」

 

「「あいさー!」」

 

ナツとグレイは横道に向かい、エリゴールを追った。

その後を鉄の森の魔導士、レイユールとカゲヤマが追った。

 

「こいつらを片付けたあと、私たちも後を追うぞ」

 

「うん」

 

エルザの言葉にルーシィも鍵を取り出して、戦闘態勢をとる。

 

「お…おれも…ぐふっ!」

 

「ハルトは無理をしないでくれ。私がハルトの分まで戦う」

 

「わ、私だって!」

 

戦えないハルトに代わってエルザが前に出るが、それに対抗してルーシィも前に出る。

 

「女子二人で何が出来るやら……それにしても二人ともいい女だな」

 

「殺すには惜しいぜ」

 

「とっつかまて売っちまおうぜ?」

 

「待て待て妖精の脱衣ショーが先だろ?」

 

明らかにルーシィとエルザを下心のある目で見ている。

 

「下劣な」

 

「かわいいってのも罪ね〜」

 

「ルーシィ帰ってきてー」

 

エルザは鉄の森に明らかな嫌悪をみせ、睨んでいるがルーシィは調子に乗ってるのでハッピーにツッコまれている。

エルザが手を前に出すと何もないところから剣が現れ、手に収まる。

 

「剣が出てきた!魔法剣か!」

 

「珍しくもねぇ!!」

 

「こっちにも魔法剣士はぞろぞろいるぜ!!」

 

「その鎧ひん剥いてやるわぁ!」

 

鉄の森が一斉にエルザに飛びかかるが、エルザは一瞬で相手を切り裂き倒しで行く。

その手に剣ではなく槍が握られていて、その槍でまた一瞬で敵を一掃すると次は斧、ハンマー、双剣と一瞬で武器が代わっている。

 

「こ、この女……なんて速さで『換装』するんだ!!?」

 

「換装?」

 

ルーシィが聞きなれない単語をつぶやくとハッピーが答えてくれた。

 

「換装はルーシィの星霊と似てて、別空間にストックされている武器を呼び出す原理で、持ち換える魔法を換装って言うんだ」

 

「へぇ〜…すごいなぁ」

 

するとハルトの看病をしていたマタムネがルーシィ達の近くにやってきて不敵に笑う。

 

「エルザ殿のすごいところはここからでごじゃる」

 

「え?」

 

「エルザ?」

 

マタムネの言葉にルーシィは首を傾け、たまたまその言葉が耳に入ってきた鉄の森の魔導士の1人、カラッカはどこかで聞いた名前に疑問を持った。

その間にもエルザは次々と敵を倒して行くが敵の数が多すぎて減った気がしない。

 

「まだこんなにいるのか。面倒だ、一掃する」

 

すると、エルザが装着していた鎧がひかる。

 

「魔法剣士は通常、武器を換装しながら戦うのでごじゃるが、エルザ殿は自分の能力を高める魔法の鎧にも換装できるのでごじゃる。

それがエルザ殿の魔法、『騎士』(ザ・ナイト)でごじゃる」

 

マタムネが説明し終わると光が収まりエルザは天使の様な鎧、『天輪の鎧』を纏い、両手に剣を握っていた。

鉄の森の魔導士達は一気に勝負をつけようとほとんど全員でエルザに突貫した。

エルザは剣を構え、動き出す。

 

「循環の剣(サークルソード)!!」

 

「「「「ぐわあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 

エルザは攻撃する瞬間に多くの剣を空中に出し、回転させることで斬撃を生み出し、ほとんどの敵を倒してしまった。

その姿は美しくも見えた。

 

「こんのヤロォ!!オレ様が相手じゃぁ!!」

 

残った敵の中からビアードが片手に魔力を込めエルザに突撃してくる。その瞬間カラッカは思い出した。

 

「ま…間違いねぇ!! こいつ妖精の尻尾の最強の女魔導士!『妖精女王(ティターニア)』のエルザ!!」

 

ザンッ!!

 

エルザはビアードを一瞬で倒した。

 

「ビアードが一撃かよっ!?」

 

「すごおーーい!!」

 

カラッカはありえないものを見ているかのように動揺し、その対照的にルーシィは歓喜する。

エルザが残ったカラッカを睨むとびびってしまい、

 

「ひぃーー!!」

 

逃げ出してしまった。

 

「ルーシィ! ここでハルトと待機しておいてくれ!私が奴を追う!」

 

「えっ? ちょっとエルザ!」

 

エルザはルーシィが呼び止める前に追いかけて行ってしまい、ルーシィは今も少し気持ち悪そうにしているハルトの近くに向かった。

 

「どうするハルト?」

 

「とりあえず…もう少ししたら…俺も治るから…そしたら…駅前にいる住人を…避難させようぜ…」

 

「うん!」

 

 

ようやく酔いから治り、ハルト達はしたらが集まっている駅前に来ていた。

すると、中の様子が気になるのか駅員の1人がハルトに話しかけてきた。

 

「中はどうなっているんだね?」

 

ハルトは何も答えず、その駅員が持っていたメガホンを奪いとった。

 

「命が惜しい奴は今すぐここから離れろ!!駅は闇ギルドの魔導士に占拠されている!!奴らは多くの人間を一度に殺せる魔法を放とうとしている!!できるだけここから離れるんだ!!」

 

それを聞いた人々は我先にと駅から離れていった。

 

「き、君!なぜそんなパニックになるようなことを!!」

 

「人が大勢死ぬよりマシだ」

 

「それに今言ったことはウソじゃありません。あなたも早く避難してください」

 

ルーシィの言葉に駅員も慌てて駅から離れて行った。

人がいなくなったのを確認してハルトたちはこれからどうするか話し合いを始めた。

 

「そういえば少し気になるんだけどさ…」

 

「どうしたでごじゃる?」

 

ハルトは乗り物酔いのせいでその時に言えなかった疑問を話し始めた。

 

「あいつらララバイを放送するって言ってたけど、それって仲間を巻き込まないか?」

 

「「「あっ!」」」

 

ルーシィたちは合点がいったようだ。

ララバイを放送して人々を殺したいだけなら、わざわざこんな騒ぎを起こさず隠れて放送したほうが効率的だ。

それに仲間が多くいてはララバイに巻き込んでしまい、明らかにデメリットのほうが大きい。

 

「まるで俺たちをおびき寄せたような感じが…」

 

もう少しで何かわかりそうな時にハルトの頬を強い風が撫でる。

 

「!!」

 

ハルトが駅を見ると駅全体が風に包まれていた。

まさにそれは巨大な竜巻に見えた。

 

「何これ!!?」

 

「すごい風でごじゃる!」

 

ハルトたちが驚愕していると後ろから声を掛けられる。

 

「ん? なんで妖精(ハエ)が2匹外に出ているんだ?そうか…野次馬を逃したのはお前らか、覇王と女」

 

「「エリゴール!!」」

 

「おいらたちも数に入れてよ!」

 

「ひどいでごじゃる!」

 

振り返るとエリゴールが空を飛んでいた。

 

「噂を聞く限り、お前とは一度戦ってみたかったんだけどなぁ…さっき見たが大したことなさそうだったなぁ…まぁ…念には念をだ」

 

そう言ってハルトに向かって突風を当てるが、ハルトはそれを魔力のこもった手で打ち払う。

 

「!」

 

「がっかりせずに済みそうか?」

 

まさかこれが打ち払われるとは思ってなかったのか、エリゴールは驚く。

ハルトはそれに挑発的な笑みを浮かべる。

エリゴールはそれに嬉しそうにするが、残念そうに話す。

 

「なるほど、噂どおりって訳かだが、悪いがここまでだ…」

 

「何言ってやがる。ここでお前を倒してしまえばそれで全部終わりだろーが」

 

その言葉にエリゴールは不敵な笑みを浮かべまた突風を出そうとする。

ハルトはいつでも対処できるように構えるが、エリゴールが魔法を放つ瞬間、わずかに腕を上にずらした。

 

「きゃあ!」

 

「うわぁ!」

 

「ごじゃるー!!」

 

エリゴールが風を当てたのはハルトの少し後ろで待機していたルーシィたちだった。

ルーシィたちは突風の勢いに負け、駅を包む風の中に入ってしまう。

 

「ルーシィ!!」

 

「いいのか?その風の中に入った奴はズタズタに引き裂かれるぞ?」

 

いつものハルトならもう少し冷静に考えることができただろうが、何故か何も考えず風の中に飛び込んでいった。

 

「ルーシィ!無事か!?」

 

「ハルト?」

 

「大丈夫か!?どこか怪我はないか!?」

 

「だ、大丈夫だから落ち着いて」

 

中に飛び込むと無傷のルーシィたちがいた。

しかし、それでも執拗にルーシィの安否を気にしてくるハルトに戸惑ってしまうルーシィ。

そこでハルトは騙されたことに気付いた。

すると、風の壁越しにエリゴールの笑い声が聞こえる。

 

「ははははっ!そんなにその女が大切だったのか!!それならもっと強く風をあてればよかったな!!」

 

「エリゴール…! テメェ!!」

 

ハルトは怒りを込めて、覇竜の剛拳を風の壁を殴るが拳が傷つき、跳ね返されてしまう。

 

「ぐっ!」

 

「やめておけ、この魔風壁は外からの一方通行だ。中から出ようとすれば風が体を切り刻む」

 

「そんな!? 一体これは何の真似よ!?」

 

「鳥籠ならぬハエ籠ってわけか、にしても少しデケェけどな…はははっ!」

 

ルーシィの問い詰めにも真面目に答えるわけも無く、ふざけたことを言うエリゴール。

 

「テメェらのせいでだいぶ時間をくっちまった。俺はこれです失礼するよ」

 

そう言いエリゴールはどこかに言ってしまった。

 

「この駅が標的じゃなかったらあいつらの目的って何よ…?」

 

「むー鉄の森の誰かが知らないでごじゃろうか?」

 

ハルトはマタムネの一言を聞いて、先程エルザが戦っていたホームに戻り、倒れていたビアードに問い詰めた。

 

「答えろ、お前らの目的は何だ」

 

「へ…へへ…誰が言うかよ…」

 

「……」

 

しばらく何かを殴る音や、苦しむ声が聞こえた。

 

「俺たちの目的はララバイの放送なんかじゃありません。本当の目的はクローバーっていう町なんです。すいませんでした…」

 

そこには簀巻きにされ、顔中が腫れたビアードが腕を組み仁王立ちしているハルトの前で泣きながら淡々と自分たちの目的を話していた。

 

「ハルト怖いんだけど…」

 

「今不機嫌でごじゃるからな」

 

「あい…キレたハルトは怖いです」

 

キレたハルトの拷問に恐怖を感じてしまうルーシィたちだった。

ハルトはビアードの話を聞き、驚愕した。

 

「クローバーの町…まさか…!?」

 

「ギルドマスターたちが定例会をしている町でごじゃる!エリゴールの目的はギルドマスターたちの呪殺でごじゃるか!?」

 

驚愕するハルトたちを見て、ビアードは気を強く持ったのか、口調を戻した。

 

「へ、へへへ……もう手遅れだ……エリゴールさんが呪歌ララバイでギルドマスターどもを殺せば……!!」

 

「……」

 

また、苦しむ声が響く。

 

「あの風の壁を解除する方法を教えろ!!」

 

今度はビアードの体に亀甲縛りをし、天井から吊り下げている。

 

「いだだだっ!だ、誰が…」

 

ぐいっ

 

「ぎゃあー!!言います!言います!!

カゲヤマならあの魔法を解けます!!」

 

ようやく答えたビアードは吊り下げから解放された。

 

「カゲヤマを探すぞ

多分ナツが追っているはずだ」

 

「うん!」

 

「ぎょい!」

 

「あいさー!」

 

ハルトたちはナツたちが進んでいった通路に向かった。

 

 

ハルトたちがいなくなったのを確認するとビアードは壁を越えに向かって話掛けた。

 

「そこにいるんだろカラッカ?」

 

すると壁から逃げ出したカラッカが現れた。

 

「す、すまねぇ…俺怖くて…」

 

「まぁそれはもういい…それよりお前にやってもらいたいことがある…」

 

「な、なんだよ」

 

ビアードは邪悪な笑みを浮かべ、言った。

 

「カゲヤマを殺せ…」

 

「えっ!!?」

 

「あいつが魔風壁を解除したら全てが水の泡だ…だから…殺せ…」

 

「で、でも…」

 

「いいからやれって言ったんだろうがぁっ!!」

 

「…わ、わかった」

 

その一言にビビってしまったカラッカは渋々受けることにした。

 

「そ、その格好じゃキツイだろ?解放してやるからな」

 

カラッカが亀甲縛りのまま放置されているビアードを不憫に思え解放しようとするが、

 

「やめろ!! 今…ちょっと良いところなんだ…」

 

「…えー」

 

 

ハルトたちはナツたちを探して走り回っているがなかなか見つからない。

 

「ハルト!ナツみたいに匂いでわからないの!?」

 

「そうしたいんだが風のせいで匂いが流されて、どこにいるかわからないんだ」

 

ドガアァァァン!!

 

そんなことを話しているとどこからか爆発音が聞こえた。

 

「この爆発音は…」

 

「あい! ナツに違いないね!」

 

ハルトたちはその音を頼りに通路を進んで行くと、そこには血を流して倒れているカゲヤマに声をかけているエルザとグレイ、そして気絶しているカラッカの胸ぐらを掴んで怒りの表情を見せているナツが怒鳴っていた。

 

「ど、どういう状況なの…?」

 

「あい」

 

「ごじゃる」

 




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第16話 ナツVSエリゴール

遅くなって申し訳ありません。


外の魔風壁に気づいたのはハルトたちだけでなく、エルザとグレイも気づいていた。

さらにグレイが倒した敵から本当の目的に聞き出し、どうするか悩んでいた。

その時、エルザがカゲヤマが解除魔導士(ディスペラー)であることを思い出し、恐らくナツを追っていったと考え、探していた。

二人が見つけたときはちょうどナツがカゲヤマを倒し、あとは解除させるだけだったのだか、その時カゲヤマの背後からカラッカが現れカゲヤマをナイフで刺したのだ。

カゲヤマは重傷でとても魔法を解除してもらえる状態ではなかった。

自分自身の仲間を傷つけたことに激昂したナツは壁に逃げたカラッカを壁ごと殴り倒した。

ハルトたちが合流したのはそんな時だった。

 

「カゲ!しっかりしないか!!」

 

「ダメだエルザ…意識がねぇ…」

 

「死なす訳にはいかん!!やってもらう!!」

 

「やってもらうって、こんな状態で魔法は使えねぇだろ!!」

 

唯一の突破口が閉じてしまい、だんだんとヒートアップしてしまう。

そこにハルトが止めに入った。

 

「落ち着けお前ら」

 

「「ハルト…」」

 

「ナツもそんなやつ放っておけ。 カゲヤマを助けるにはお前の力が必要だ」

 

「…くそっ!」

 

エルザとグレイは落ち着きを取り戻し、ナツは悔しそうに気絶したカラッカを投げ捨てた。

 

「とりあえず応急処置だけはしとくぞ。ナツ、マカオにやったみたいに火で傷口を塞ぐんだ。だけど今回は慎重にな。思った以上に傷がひどい」

 

「お、おう」

 

ナツはハコベ山でマカオの傷を塞ぐために火で傷口を火傷させたみたいにやったが今回は慎重にやった。

そのあと救護室で見つけた包帯を巻き、これからどうするか話しあった。

 

 

 

「エリゴールの狙いはじっちゃん達なのかよ!?」

 

「ああ、だからまずこの魔風壁をどうにかしないとな」

 

事情を知らなかったナツにエリゴールの本当の狙いを伝えると魔風壁に突っ込む。

 

「ぎゃああああっ!」

 

「な?」

 

やっぱり跳ね返されてしまう。

 

「カゲ…頼む…目を覚ましてくれ…」

 

エルザがカゲヤマに頼むが意識を取り戻さない。

 

「くっそぉ!こんな風ぶち破ってやらぁ!!」

 

ナツは諦めず風に突っ込んで行くが跳ね返されてしまう。

 

「バカヤロウ…力じゃどうにもなんねえんだよ」

 

「急がなきゃマズイよ!! あんたの魔法で凍らせたりできないの!?」

 

「できたらとっくにやってるてーの…」

 

グレイの魔法は氷の造形魔法で自分がイメージした物を氷で作り出せるのだ。

ルーシィがグレイに提案してみるがどうやら無理なようだ。

すると、今度はハルトのほうを向く。

 

「ハルトは!? ハルトならこんな魔法吹き飛ばせるんじゃないの?」

 

「微妙だな…もし吹き飛ばせたとしても周りの町の被害がどこまで出るかわかったもんじゃない…」

 

「そんな…」

 

まさに万事休すといったところだ。

みんなが頭を悩ませているなかで一人だけがひたすら行動を起こしていた。

 

「ぬああああっ!!」

 

「ナツ何やってるの!?」

 

ナツはひたすら魔風壁を突破しようと突っ込むが体が傷付くだけだった。

 

「やめなさいって!!」

 

ルーシィがナツのマフラーを引っ張り、強制的に止める。

そのときナツの頭にひらめきいた。

 

「そうだ!星霊!!」

 

「え?」

 

「エバルーの屋敷で星霊界を通って移動できただろ!?」

 

ナツはルーシィの肩を掴み、力説するがそれは不可能だ。

 

「いや…普通は人間が入ると死んじゃうんだけどね…息が出来なくて。それに門ゲートは星霊魔導士がいる場所でしか開けないのよ。つまり星霊界を通ってここを出たいとした、最低でも駅の外に星霊魔導士が一人いなきゃ不可能なのよ。それにもう一つ言えば、人間が星霊界に入ること自体が重大な契約違反!!あの時はエバルーの鍵だからよかったけどね」

 

その言葉を聞きハッピーは何かを思い出しそうになった。

 

「エバルーの…鍵…あーーーっ!!」

 

突然ハッピーが大声をあげ自分の荷物がある袋をあさる。

 

「ど、どうしたのよ…」

 

「これ」

 

近くにいたルーシィはびっくりしながら聞くとハッピーはエバルーが使っていた黄道十二門の一つ、処女宮のバルゴの鍵を取り出した。

 

「これって…バルゴの鍵!!ダメじゃない!! 勝手に持ってきちゃ!!」

 

「違うよ。バルゴ本人がルーシィにって」

 

「ええっ!?」

 

ルーシィが驚くのにグレイとエルザは事情知らないの首を傾ける。

 

「何の話だ」

 

「こんなときにくだらない話をしてんじゃねぇよ!!」

 

「バルゴって…」

 

「あぁ、エバルーが契約してた星霊だな」

 

「バルゴ…あのメイドゴリラか!!」

 

「エバルーが逮捕されて契約が解除されたんだって。それで今度はルーシィと契約したいからってオイラん家を訪ねてきたんだ」

 

「あれが訪ねてきたのね…」

 

ルーシィの頭の中ではあの巨体がわざわざ訪ねてきている光景が思い浮かび、若干顔が引きつってしまう。

 

「ありがたい申し出だけど…今はそれどころじゃないないでしょ!?ここから出る方法を考えないと!!」

 

「でも…」

 

「うるさいっ!猫は黙ってニャーニャー言ってなさい!!」

 

「ひどいでごじゃるな」

 

ルーシィもこの状況に焦っているのか、ハッピーの意見に訳の分からない返しをしてしまう。

すると、ふとハッピーがこぼした。

 

「バルゴは地面に潜れるし…魔風壁の下を通って出られるかなって思ったんだ」

 

その言葉を聞き、ルーシィも合点がいく。

 

「あっ…そっか!地面の下なら抜けれるかも!!」

 

その言葉を聞き、全員が期待の目でルーシィを見る。

 

「そっかぁ!! やるじゃないハッピー!! もう、何でそれを早く言わないのよぉ!!」

 

「ルーシィが遮ったから」

 

ハッピーは皮肉を言うも、ルーシィの耳には届いておらず、鍵を受け取る。

 

「貸して!! 我、星霊界との道を繋ぐ者。汝、その呼びかけに応え門ゲートをくぐれ」

 

ルーシィは鍵を構え、呪文を唱えるとそれと同時に目の前に魔法陣が現れ、輝きを増していく。

 

「開け!!処女宮の扉!バルゴ!!」

 

そこに現れたのは、エバルーの屋敷で見たゴリラではなく、淡いピンクの髪をした可愛い美少女だった。

 

「お呼びでしょうか?ご主人様」

 

「えっ!?」

 

ルーシィは以前との見た目のギャップで目を見開き、驚く。

 

「やせたな」

 

「いや、やせたと言うより別人だろ?」

 

「それに関しましては私はご主人様が望まれる姿になれるのです」

 

「前の方が強そうだったぞ?」

 

「では以前の姿に…」

 

「コラー!余計なこと言わなくていいの!」

 

ナツがバルゴにいらないことを教えるのを無理矢理遮り、さっそく本題に入る。

 

「時間がないの!契約は後回しでもいい!?」

 

「わかりました、ご主人様」

 

「てか、ご主人様はやめてよ」

 

そう言われバルゴの目にルーシィが腰から下げている鞭が映る。

 

「では女王様と」

 

「却下!」

 

「では姫と」

 

「そんなところかしら」

 

「そんなところでごじゃるのか!?」

 

「いいから早くしろよ!!」

 

何だか段々と話がずれてきたので、みんなが催促してくる。

 

「では!行きます!!」

 

バルゴは地面に向かって飛び込むと、全身でドリルのように掘り進んで行った。

 

「よし!あの穴を通ってここから出るぞ!!」

 

「うん!」

 

ハルトの合図でみんなが穴に入っていく。

 

 

穴を抜けるとちょうど後ろに魔風壁に包まれた駅が見えた。

ハルトたちと一緒にカゲヤマも治療を受けさせるために連れてきたのだが途中で目を覚ました。

 

「う…ここは…」

 

「目ぇ覚ましたのか」

 

グレイが気づき、カゲヤマが周りを見ると薄ら笑いを浮かべた。

 

「ふん…今更、魔風壁から出ても意味がない…今から出発してもエリゴールさんには追いつけないさ…僕たちの勝ちだ…」

 

「うるせぇ! とにかくクローバーに急ぐぞ!!」

 

「あれ?ナツは!?」

 

「ハッピーもいないでごじゃる!」

 

周りを見るとナツとハッピーだけがいなかった。

 

「あいつら先に行きやがったな…でも、ハッピーの全速力なら追いつけるかもな」

 

それを聞いてカゲヤマは悔しそうにする。

 

「ハルト! マタムネと一緒にナツの応援に行ってくれ!もしものことがあっては不安だ!」

 

「わかった!マタムネ行くぞ!!」

 

「ぎょい!」

 

エルザの提案により、ハルトとマタムネは先にナツたちを追った。

 

「では私たちをも追うぞ!」

 

「おう(うん)!!」

 

 

ナツたちを追っているハルトたちだが未だに姿が見えない。

 

「線路沿いに行ったの確かだと思うんだけどな…」

 

「ハッピーのMAXスピードはせっしゃより速いでごじゃるからな」

 

マタムネがそう言った瞬間に微かに衝突音と爆発音が聞こえた。

 

「この音はナツ殿ではごじゃらんか!?」

 

「ああ、近いな。飛ばすぞ!」

 

「ぎょい!」

 

マタムネはMAXスピードで音がする方向に向かうと、そこにはエリゴールと対峙したナツがいた。

 

「ナツ!」

 

「おおっ!ハルトじゃねぇか」

 

「ちっ…ハエがもう一匹増えやがった」

 

悪態をつくエリゴールを見定めて助太刀に入ることを決める。

 

「ナツ、一緒に戦うぞ」

 

「ハァ!? ふざけんじやねぇ!!あいつは俺が倒すんだ!!」

 

ナツの言ったことに一瞬呆然としてしまったが、何とか意識を戻した。

 

「バカかお前は!今回の件はじいさんたちの命がかかってるんだぞ!それにお前とエリゴールじゃ相性が悪過ぎる!」

 

「へっ!!そんなの関係ねぇよ!」

 

「あっ待て!」

 

ハルトの言葉を聞かずナツはエリゴールに突っ込んで行ってしまう。

 

「どうするの?」

 

ハッピーも不安なのかナツを心配そうに見ながらハルトに聞いてくるが、ハルトは仕方ないと言った顔をして答えた。

 

「仕方ねぇ…本当に危なくなったら助けに入るか。今割り込んだらナツに殴られる」

 

ほとんどの魔力を使い、立っているのがやっとのハッピーと共にハルトとマタムネはナツの戦いを見ていたが、苦戦になると思っていたがナツの実力がエリゴールより上なのか、属性的には最悪の敵なのだが

攻撃が通用し、ナツが優勢になってきた。

 

「ちっ…ハエがなかなかやるな…」

 

「そんなもんかよ!」

 

エリゴールの顔には若干の焦りが見えてきたが、それと同時にナツと同様に楽しそうな顔をしていた。

 

「どうやら俺も本気にならなければいけないようだな…」

 

「あぁ?」

 

そう言うと風がエリゴールに向かって吹いていき、鎧の様に体にまとわりついていく。

 

「暴風衣(ストームメイル)」

 

「へっ、それがどうしたって言うんだよ!」

 

ナツがエリゴールに火竜の鉄拳を放つが片手で止められてしまう。

止められる直前でナツが出していた火は消えた様に見えたが。

 

「!」

 

「そんなものか?」

 

さっきの意思返しなのかナツと同じようなことを言う。

ナツがいったん離れるが、エリゴールはそれを許さず風の刃を放ち、ナツを追い詰めていく。

 

「くそっ!」

 

なんとか風の刃の間を縫って反撃するが、火は風によって消されてしまう。

 

「これでわかっただろう。火は風に勝てねえんだよ!!」

 

突風を発生させ、ナツを引き剥がすとてをナツに向けて構える。

 

「もう終わりにしてやる…この翠緑迅(エメラ・パラム)でなぁ!!」

 

「翠緑迅だって!? そんなのくらったら体がバラバラになっちゃうよ!」

 

「ハルト助けなくていいでごじゃるか!?」

 

マタムネがそう言うがハルトは黙って見守るだけだ。

 

「くらえ…翠緑迅!!」

 

エリゴールから翠色の風刃が嵐のようにナツを襲う。

それと同時に砂塵が吹き荒れ、視界を潰してしまう。

ハルトたちは覇竜の剛腕をだし、しのいだが、視界が明るくなるとそこにはボロボロになって倒れているナツがいた。

 

「ナツー!」

 

「驚いたな…この魔法を受けて原型を留めているなんてな…だが、このガキもここで終わりだな」

 

エリゴールは余裕の表情で言うが、ハルトはそれに耳を貸さず、倒れているナツに話しかける。

 

「ナツ、このままなめられたままでいいのか?妖精の尻尾の魔導士として情けないぞ」

 

「ふっ…無駄だ。そのガキはもう「わかってるてーの!」っ!?」

 

翠緑迅を受けても立ち上がったナツに驚くエリゴール。

ナツは体はボロボロだが力強くエリゴールを指差す。

 

「こっからが本番だ!」

 

ナツは駆け出しエリゴールに火竜の鉄拳を浴びせるが、やはりエリゴールに攻撃は届かない。

焦った顔をしたエリゴールはそれを見て余裕を取り戻す。

 

「はっ! さっきは驚いたがやはり火は風に勝てねぇんだよ!!」

 

エリゴールはまた突風を出し、ナツを引き離す。

ナツは耐えるが飛ばされてしまった。

 

「だぁっーー!!なんで攻撃が効かねえんだよーー!!」

 

全身から炎を出し、怒りを表すナツ。

それを見てエリゴールは不思議に思った。

魔法とは確かに使う人の感情によって力が発揮されるが、ナツの場合はそれが顕著すぎるのだ。

 

「くっそぉーー!!!」

 

とうとうナツの怒りは炎が高く燃え上がり、路線を引きちぎるほどまでに高まっていた。

その時、エリゴールが纏っていた暴風衣の風の動きが不可思議に動いているのにハッピーは気づいた。

 

(もしかして…)

 

「ねぇー!!ナツー!!」

 

「あぁん!?なんだ!!?」

 

「無理無理、ナツじゃ勝てないよ。グレイに任せようよ」

 

できるだけハッピーはナツをなめきった顔で言ったら、ナツの何かが切れた音がした。

 

「んだと、コラー!!!!」

 

今までで1番の炎が立ち上がる。

 

「よーしっ!じゃあ見てろよ!! アイツを倒して俺がグレイより強いってことを証明してやるよ!!」

 

その時、ハルトは最初ハッピーが何故ナツにあんな事を言ったのか、

わからなかったが今、合点がいった。

 

(ナツが最も力が出る感情は…怒りだ)

 

するとエリゴールの暴風衣はナツに吸い込まれる流れていく。

 

「なっ!?これはっ!?」

 

「なにが起こってるでごじゃる?」

 

驚愕するエリゴールもだが、マタムネもまた何が起こってるいるのかわからなかった。

そこにハッピーが得意気に話す。

 

「ナツの炎が周りの空気を温めて、ナツを中心に上昇気流ができて、

そこにエリゴールの風が吸い込まれているんだ」

 

「ははっ…偶然とは言え、流石だなナツ…」

 

ハルトもまさかの戦法に驚く。

とうとうエリゴールを守っていた風は消え失せ、無防備になる。

ナツは立ち上がった炎を纏い突撃する。

エリゴールにはその姿が、炎を纏ったドラゴンが襲いかかってくるように見える。

 

「火竜の劍角!!」

 

ナツの渾身の一撃により、エリゴールの野望は潰えた。

 

 




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第17話 ゼレフ書の悪魔

ようやくアイツが活躍します!


エリゴールを倒したナツは勝利の雄叫びをあげた。

 

「かーかっかっ!どうだエリゴールを倒したぞ!」

 

「あい!流石ナツです」

 

「あぁ、すげぇよ」

 

ハルトも素直に褒めるが、すぐに不機嫌な顔になり、ハッピーに向かって怒鳴る。

 

「おいハッピー!お前オレをバカにしなかったか!?」

 

「猫の記憶力はショボいので」

 

「オレがエルザに負けるとかどうとか!」

 

「えー猫よりしょべぇ〜」

 

「なんだと!?」

 

余りのナツの記憶力の無さに、さっきまで感心していたハルトもツッコマざる得なかった。

さっきまでの緊迫した空気がなくなり、いつも通りの空気が流れていた。

すると、そこにものすごい速度で魔導四輪がやってきた。

そこにはエルザ、グレイ、ルーシィ、カゲヤマが乗っていた。

 

「ナツ!無事だったか!」

 

「げっ!?エルザ!!」

 

みんなが降りてくるがカゲヤマは車内で外の様子を伺うと、そこには信じられない光景があった。

あの鉄の森最強のエリゴールが再起不能の状態だったのだ。

 

「そんな!? あのエリゴールさんが!?」

 

しかし、カゲヤマにはもう一つ目に入った物があった。

 

「なんだよボロボロじやねぇか、情けねぇな」

 

「あぁ!?余裕だったつーの!」

 

「実際は?」

 

「あい、微妙なとこです」

 

「だが、倒したのは事実だ。よくやったぞナツ」

 

「かたっ!」

 

エルザが感動してナツを胸に抱き寄せるが、鎧を着ているため柔らかい感触などせず、鉄の硬さしか伝わらない。

 

「でも、これでこの一件は終わりよね?」

 

「あぁ、鉄の森の野望を阻止したんだ」

 

ルーシィとハルトの話を聞き、全員笑顔になり、喜びを分かち合う。

しかし、そこに邪魔が入った。

怪我をして動けないはずのカゲヤマが誰も乗っていなかった魔導四輪を動かし、ハルトたちが話しをしていたところに突っ込んできたのだ。

 

「危ねぇな!何すんだ!!」

 

「ハハハッ!残念だったなぁ!!妖精どもぉ!!ララバイは頂いたぁ!!!」

 

カゲヤマはハルトたちに突っ込むと同時に魔法でハルトたちの足元に落ちていたララバイを取っていった。

 

「しまったでごじゃる!」

 

「何よー!助けてあげたのにー!!」

 

「そんなこと言ってる場合か!追うぞ!!」

 

ハルトたちはクローバーに向かったカゲヤマを追いかけた。

 

 

辺りはすっかり暗くなってしまい、クローバーにある集会所近くの森でカゲヤマは荒い息を整えていた。

 

「ここまで来れば…あともうちょっとだ…」

 

しかし、その時カゲヤマのうしろのに人影が見える。

ゆっくりとカゲヤマの肩に手を乗せると、驚いたカゲヤマは振り向くと肩に置かれた手が指差しており、カゲヤマの頬に当たり、変な顔にしてしまう。

 

「ぶひゃひゃひゃひゃっ!ごほぉっ!?ごほっ!ごほっ!!」

 

それをした犯人は妖精の尻尾のマスター、マカロフだった。

まさかカゲヤマも目的の人物がこんな近くにいるとは思わなかった。

 

(こいつがマスターマカロフ…)

 

自分でしたのにむせて、死にそうになってるマカロフを見て拍子抜けしてしまうが油断はできなかった。

 

「いかん、いかん…こんなことをしておる場合ではないわい…お前さんは怪我人じゃろ? 早く病院に戻りなさい。それにしても、いくらハルトがいたとしても、あの3人を抑えこめる かどうか…」

 

マカロフがブツブツと呟きながら何処かへ行こうとするのを、カゲヤマは慌てて止めた。

 

「まっ…待ってください!」

 

「んーなんじゃ〜? ワシは忙しんだがの〜」

 

「い、一曲聞いていきませんか? ずっと病室に篭りっきりで嫌になってたんですよ」

 

カゲヤマは努めて穏やかそうに話しかける。

 

「む〜一曲だけじゃぞ?」

 

「ありがとうございます!」

 

(勝った…!)

 

カゲヤマは内心で歓喜した。

丁度その時にハルトたちも森に到着し、目の前でカゲヤマがララバイを吹こうとしていた。

 

「見つけた!」

 

「まずい!カゲヤマを止めるんだ!」

 

エルザの号令で全員が駆け出そうとするが、それを止める人物がいた。

 

「しっ、今良いところなんだから黙って見てなさい」

 

謎のオカマに止められた。

 

「マスターボブ!!」

 

「お久しぶりです」

 

「あらーお久しぶりねぇー、エルザちゃんもキレイになっちゃってー

ハルト君もさらにカッコよくなったわねぇー!」

 

「ははっ…近いです…」

 

「誰?」

 

「魔導士ギルド、『青い天馬』(ブルーペガサス)のマスターでごじゃる」

 

ジリジリとにじり寄ってくるマスターボブにハルトは後ずさりをしてしまう。

 

「どうした?早くせんか」

 

そんなことをしている間にも、カゲヤマはララバイを吹こうとしている。

今度こそ止めようとするが、また止めが入る。

 

「いかん!」

 

「黙ってなって。面白ぇとこなんだからよ」

 

「マスターゴールドマイン!!」

 

すると、今度は初老の男性が止めに入った。

彼は『四つ首の猟犬』(クアトロケルベロス)のマスターだ。

妖精の尻尾と比較的、親しいギルドのマスターがこうも何度も止めに入るととマスターたちはとっくに気づいていたのではないかと、ハルトは思った。

よく見ると集会所から各ギルドのマスターがこちらの様子を伺っている。

 

「さあ」

 

「……!」

 

緊張の余りララバイを吹けないカゲヤマはマカロフの射抜くような視線に怖じ気付いてしまう。

 

(吹けば…吹けばいいだけだ…それで全てが変わる!!)

 

笛に口を近づける瞬間、ナツとエリゴールが戦うところに向かうときにグレイやルーシィに言われたことが頭によぎる。

自分でもこんなことをして変わるのかどうかわからなくなっていたのだ。

 

「何も変わらんよ」

 

「っ!!」

 

マカロフはカゲヤマを見透かしたかのように話しかける。

その目は威厳がありながらも優しいものだった。

 

「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし弱さのすべてが悪ではない。もともと人間なんて弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だからギルドがある、仲間がいる。強く生きるために寄り添いあって歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶつかるし、遠回りをするかもしれん。しかし明日を信じて踏み出せば、おのずと力は沸いてくる。 強く生きようと笑っていける……そんな笛に頼らなくても……な」

 

「……!!」

 

それを聞いたカゲヤマは手が震え、ララバイを地面に落とし、

 

「参りました……!」

 

泣き崩れた。

マカロフの語りかけはカゲヤマの心に響いたのだ。

 

「マスター(じっちゃん)(じーさん)!!」

 

それを見たハルトたちは一斉にマカロフに駆け寄る。

それを見てマカロフは驚いた。

 

「ぬぉおぉっ!? なぜこやつらがここに!?」

 

「さすがです!今の言葉、目頭が熱くなりました!!」

 

「いたっ!」

 

エルザがマカロフに抱きつくがやっぱり痛い。

 

「じっちゃんスゲェなぁっ!!」

 

「そう思うならペシペシせんでくれ…」

 

「これで一件落着だな」

 

「だな」

 

今回の事件の終息に苦労を労わり合う。

 

「ほら…あんたは医者に行くわよ」

 

「よくわからないけどあんたも可愛いわ〜」

 

ルーシィはカゲヤマを心配したり、和気あいあいとしているとどこからか不気味な声が聞こえてきた。

 

『カカカ…どいつもこいつも情けねぇ魔導士どもだ…』

 

全員が声のするほうを向くとララバイが煙を吐き、髑髏の部分がカタカタと動いている。

 

『もう我慢ができん。ワシ自ら喰らってやろう…貴様らの魂をな』

 

すると、ララバイから出ていた煙がどんどんと大きくなり、形を成していき、ついには木の体の巨人の化け物が現れた。

 

「な!!」

 

「何コレーー!!?」

 

「化け物でごじゃるーー!!」

 

「なっ、僕はこんなの知らないぞ!」

 

ルーシィたちは突然現れた化け物に驚いた。

それは今回の事件を引き起こした鉄の森も知らないようだったあ

 

「あらら…大変」

 

「こいつぁゼレフ書の悪魔だ!」

 

ギルドマスターたちはあの化け物がなんなのかを知っているのか、慌てていた。

 

『腹が減ってたまらん…お前たちの魂を喰わせてもらうぞ…さあてどいつから喰ってやろうか…』

 

「何ー!?魂って食えるのか!?うめぇのか!?」

 

「知るか!今はそれどころじゃねぇだろ!!」

 

「一体…どうなってるの? なんで化け物が笛から…?」

 

震えるルーシィは化け物を見上げる。

 

「あれはゼレフ書の悪魔だ。あの怪物自体が魔法なんだよ、つまり生きた魔法ってことだ」

 

「生きた魔法…」

 

ルーシィの問いにハルトは答えるが、ルーシィは目の前にいる生きた魔法に驚愕した。

ララバイが何かをする前にナツ、グレイ、エルザが飛び出そうとするが、それをハルトが止める。

 

「な、なにするんだ!ハルト!!」

 

「あいつは俺に譲ってくれ」

 

「「「はぁ!!?」」」

 

「無茶よ!いくらハルトだからって…」

 

「大丈夫だって、それにこのままじゃ今回俺、乗り物酔いしたぐらいしかしてねぇし…」

 

ハルトは若干、顔を引きつらせながら言う。

エルザはハルトを真剣な眼差しで見る。

 

「任せていいんだな?」

 

「おう! 任せろ!」

 

それに対してハルトは快活に笑って答える。

エルザはそれを見て口元を緩めて微笑んだ。

 

「わかった。後はハルトに任せよう」

 

「なにーー!? 俺と戦えーー!!ハルトーー!!」

 

「なんでそうなんだよ…」

 

エルザはハルトに任し、後ろに下がっていく。

ナツの訳のわからない申し出にグレイが引っ張って下がっていき、ハッピーもそれについていった。

残ったのはハルト、ルーシィ、マタムネだけだが、なかなか下がろうとしない。

 

「? どうしたんだ。ここは危ないから下がってろ」

 

「私も一緒に戦うわ!」

 

ルーシィが言ったことに驚いたが、すぐに笑って返した。

 

「ありがとうな、俺のことを心配してくれてんだろ?でも大丈夫だって、俺が強いことは知ってるだろ?」

 

「そうじゃないわ! いや、心配なのもあるけど…そっちじゃないの!ハルトはいつも私を助けてくれるけど、私は何もしてあげれてないじゃない…。助けられてばかりは嫌なの!私もハルトを助けたい!」

 

ルーシィは今回の件の前にギルドでミラとマタムネに話していたことをずっと意識していた。

だから、こんなことを言い出したのだ。

ハルトは若干だが困った顔をしたが、内心は嬉しかった。

自分のためにここまで言ってくれるなら嬉しいに決まっている。

しかし、今回の敵はルーシィには荷が重い。

 

「そっか…ありがとうな。そこまで言ってくれて。でも、あの怪物は俺にやらせてくれ。ルーシィにはまだキツい」

 

「だけど…」

 

「ルーシィ、頼む」

 

ハルトが真剣な目でルーシィを見つめると、何も言えなくなってしまう。

ルーシィは悔しそうに了解した。

 

「……わかった」

 

「よし、マタムネ後は頼むぞ」

 

「ぎょいでごじゃる」

 

ルーシィはマタムネに連れられてナツたちがいるところまで下がる。

途中でハルトのほうを向くとハルトの背中が見えた。

その背中はとても遠くに感じられた。

 

『決めたぞ。まとめて全員だ』

 

ハルトたちが話し合っている間にララバイは決めたのか、口に多量の魔力が集められる。

 

「いかん!呪歌じゃっ!」

 

「ひーーー!」

 

他のギルドマスターが逃げるなか、ハルトはララバイに立ち向かう。

 

「覇竜の……咆哮!!」

 

口から出された金色のブレスはまっすぐララバイの口に向かう。

 

『ぶほぉっ!? 貴様ぁ…!!』

 

呪歌の邪魔をされたララバイはハルトに怒りを向けた。

 

「いやー久しぶりに人間相手じゃねぇから思いっきり戦えるぜ」

 

『何を言っている人間?』

 

ララバイの怒りは凄まじいにもかかわらず、ハルトはどことなく嬉しそうな口調だ。

その態度が余計にララバイの怒りを買う。

 

『邪魔をするなぁ!!人間ごときがぁっ!!』

 

ララバイは口に魔力を集めハルトに放つ。

 

「いかん!! 巻き込まれるぞ!!」

 

ハルトの後ろにいたナツ達以外の人達は逃げようとするが間に合わない。

 

「覇竜の剛腕!!」

 

ハルトは金色の腕を出し防ぐが、その大きさは今までの何倍もあった。

 

「あれ? なんかいつもより大きくない?」

 

ルーシィはそのことに気づき不思議に思い、またに聞いてみる。

 

「ハルトは力が強すぎるでごじゃるから人と戦うときは無意識のうちに魔力をセーブしちゃうのでごじゃる。でも今回は化け物が相手でごじゃるから魔力をセーブする必要はないでごじゃるりつまり今から戦うハルトは本来の力を出せる状態で戦うのでごじゃる」

 

ハルトはララバイの攻撃で砂塵が舞うが、その中からハルトは飛び出しララバイに向かっていく。

ララバイはすかさず右腕をハルトに向かって振るうがハルトはそれを腕に跳び移り、躱す。

腕を伝ってララバイの顔に向かっていくハルトに、ララバイは左手で襲う。

 

「ハルト危ない!!」

 

ルーシィがハルトに向かってそう叫ぶが、ハルトは攻撃が来ていることにとっくに気づいていた。

ハルトはすかさず右手を手刀にし、居合斬りの構えをとりララバイの左手に向かって振るう。

 

「覇竜の断刀!!」

 

手刀から伸びた金色の魔力はまるで刀のような形をつくり、ララバイの腕を上下真っ二つに切り裂く。

 

『ギャアァァァァ!!!』

 

ララバイは叫びながら切り裂かれた腕を抑える。

ハルトはその間にララバイの顔まで移動し、拳を振るう。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

『ぐおぉっ!!?」

 

ララバイは地に倒れた。

 

「おぉっ!!すごいぞ!」

 

「あいつ本当に魔導士か…?」

 

あまりにも一方的な戦いに、後ろで待機していたギルドマスターたちは騒ぎ立つ。

 

「やはり流石だな」

 

「だーー!!俺と戦えー!!ハルトー!!」

 

「お前はそれしか言えねぇのか!?」

 

エルザたちもハルトの戦いに感心する。

しかし、ここに1人誰とも違う感情を持つ人がいた。

 

「………」

 

「どうしたでごじゃるか?」

 

ルーシィは黙って戦うハルトを見つめていた。

その顔はどことなく悲しそうだった。

 

「ううん……ただ遠いなぁって思って…」

 

「ルーシィ殿…」

 

ハルトは地に倒れたララバイを見る。

 

「長引かせるのもなんだし、そろそろ終わりするか…」

 

ハルトは右手に魔力を集中させると、そこにハルトの金色の魔力が螺旋状に集まり始める。

すると、右手には渦を巻いて高速回転する魔力の玉ができた。

 

「滅竜奥義……」

 

ハルトは立ち上がろうとするララバイに向かって駆け出す。

そして跳び上がり、ララバイの胸に魔力の玉をぶつける。

 

「竜牙弾!!」

 

『ぐおぉぉぉぉぉぉっ!!?』

 

滅竜奥義・竜牙弾が当たると同時に竜牙弾は膨張し、ララバイの体をドリルのように削っていく。

そして最後には爆発を起こしララバイの体にあなたを開けた。

そのままララバイは倒れて動かなくなった。

 

「ゼレフの悪魔がこうもあっさりと……」

 

「こりゃたまげたい」

 

「かーかっかっかっ!」

 

「す…すごい」

 

ハルトの圧倒的な力に驚くギルドマスターたち、マカロフは誇らしいのか高笑いをし、カゲヤマは感動さえもした。

 

「いやぁ、いきさつはよくわからんが、妖精の尻尾フェアリーテイルには借りが出来ちまったぁ」

 

「なんのなんのー!!ふひゃひゃひゃひゃ!!!ひゃ…ゃ……は……!!!」

 

ゴールドマインの言葉に余計気をよくしたのか、さらに高笑いをあげるがあることに気づき、笑いが引きつり、目を見開く。

 

「久しぶりに思いっきり戦えたからスッキリしたぜ」

 

「ご苦労だったな」

 

「やっぱスゲェな。竜牙弾の威力。」

 

「今度は俺と戦えー!ハルト!」

 

「今の状態じゃすぐに負けちゃうかもよ?」

 

ハルトがエルザたちと話していると後ろから、少し複雑そうな顔をしたルーシィがきた。

それに気づいたハルトは優しく笑った。

 

「ただいまルーシィ」

 

それを見たルーシィも優しく笑って返した。

 

「うん、おかえりなさい。ハルト」

 

「おかえりでごじゃる!」

 

まだ心の奥にモヤモヤとしたものがあるが、とりあえずは無事に終わりに安心した。

 

「さて、そろそろ帰るか……げっ!」

 

ハルトが振り返ってみるとクローバーの集会所どころかクローバーの町全体がララバイが倒れたせいで半壊している。

 

「ははっ!!! 見事にぶっこわれちまったぁ!!」

 

「笑いごとじゃないよ、ナツ」

 

ナツは快活に笑っているがその他の妖精の尻尾のメンバーは顔が青ざめている。

ルーシィは恐る恐るハルトに尋ねる。

 

「ど、どうするの…ハルト」

 

「………逃げるぞ!」

 

「「「えーーー!?」」」

 

ハルトが先導して逃げるのをみんな追いかけて行く。

 

「捕まえろーーー!!!」

 

「おしっ! 任せとけ!」

 

「お前は捕まる側だー!」

 

「結局こうなるのでごじゃるな…」

 

「じーさん、すまん…こんなことになって…」

 

「いーの、いーの、どうせもう呼ばれないでしょ?」

 

マカロフはそう言うが額からは冷や汗が流れていた。

せっかく活躍したのにこんな終わりかたは妖精の尻尾らしいと言えばらしい終わりかただった。

 




感想待ってます!


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第18話 ナツ VS エルザ

ここはルーシィの家、鉄の森の一件から一夜経ちルーシィはなかなか疲れが取れないのか、もうすぐ昼だと言うのに寝ぼけた格好をしていた。

ルーシィは寝ぼけた目で歯を磨きながら昨日のことを思い出す。

 

(結局昨日の一件ではハルトの役に立たなかったぁ。 それにエルザとの関係もよく分からなかったし…なんか自信なくしちゃうなぁ…)

 

俯きネガティブなことばかり考えてしまうルーシィだが、頭を振ってその考えを消す。

 

「ダメよルーシィ! 弱気になっちゃっ!!これからも何度もチャンスはあるんだし、ハルトに近づける! そしたらハルトも私のこと見てくれるかもしれないしっ!!」

 

ルーシィのいいところはこのポジティブに考えられるところだろう。

 

「そういえばマタムネがデートに誘ってみたらどうとか言ってたわね。 ど、どうしようかしら…」

 

独り言を言っては顔を赤くしたりと朝から大変だ。

すると玄関のドアを叩く音が聞こえた。

 

「誰かしら?」

 

ドアを開けるとそこにはハルトとマタムネがいた。

 

「よぉルーシィ」

 

「こんにちはでごじゃる」

 

「ハルトにマタムネ!」

 

ルーシィはついさっきまでハルトのことを考えていたので、いきなりのことで戸惑ってしまうが、そこは恋する乙女、ここはチャンスだと言わんばかりにハルトをデートに誘ってみる。

 

「あ、あのねハルト。今日もし予定がないなら…」

 

「あ〜その前にだな…」

 

「?」

 

「着替えてきたらどうだ?」

 

今のルーシィの状態は寝起きの姿でだらし無いものだ。

それにやっと気づいたルーシィは慌てて部屋に戻った。

 

「ご、ごめん! ちょっと待ってって!!」

 

(あ〜もうっ!!私なにやってんのよー!!)

 

ルーシィはさすがにこの時は泣きたくなった。

 

 

身支度を急いで整えたルーシィを連れてギルド前に向かっているハルトたちはなんでルーシィに会いにきたかを説明した。

 

「いやな、ルーシィもしかして忘れてるんじゃないかと思ってさ」

 

「忘れてる?」

 

「ナツ殿とエルザ殿の決闘でごじゃるよ」

 

ナツはエルザと今回の件に協力する代わりに決闘の約束をしたのだ。

それを聞いて僅かにがっかりしてしまうルーシィ。

 

「あはは…そうなんだ…純粋に私に会いに来た訳じゃないんだ」

 

「なんでガッカリしてるんだ?」

 

「ハルトは鈍感でごじゃるなぁ」

 

「なんだと?」

 

マタムネはハルトの肩から降り、ルーシィに近づく。

 

「大丈夫でごじゃるよルーシィ殿。ハルトは今日、決闘が終わった後、何も予定を入れてないでごじゃる。決闘が終わったらデートに誘ってみるでごじゃるよ」

 

「本当に!?」

 

「既にリサーチ済みでごじゃる」

 

今のマタムネは侍というより忍者だ。

ルーシィはそれを聞いて俄然やる気が溢れる。

 

「よーし!やってやるわよー!!」

 

「その意気でごじゃる!」

 

「なんで決闘出る訳でもないのにあそこまで気合いが入るんだ?」

 

 

そんなこんなでギルドの前にある大通りに来た。

既に大勢の人が集まっていた。

 

「お、来たか」

 

ハルトたちに気づいたのかグレイがあいさつをしてくる。

 

「もう始まったのか?」

 

「いいや、まだだ」

 

グレイが中央に目を向けるので、そっちに向けると真剣な表情のナツと、どこか楽しそうにしているエルザが対峙していた。

 

「ちょっ、ちょっと二人とも本当に戦うの!?」

 

「何だ?冗談だと思ったのか?」

 

その声に気づいたのかミラや他のメンバーも気づいた。

 

「あらルーシィ」

 

「本気も本気。本気でやらねば漢ではない!」

 

みんなそんなことを言うがルーシィはそうではなかった。

 

「だって…最強チームの二人が激突したら…」

 

「最強チーム? 何だそりゃ?」

 

グレイがとぼけるのでルーシィは大声を出す。

 

「あんたとナツとエルザ!それにハルトだって!妖精の尻尾のトップ4でしょ!?」

 

「はぁ? くだんねぇ!だれがそんなこと言ったんだよ!」

 

それを言った瞬間ミラが手で顔を覆って泣いた。

 

「あっ…ミラちゃんだったんだ…」

 

「あー泣かしたー」

 

「最低でごじゃるー」

 

「カミナにバレたら半殺しだな」

 

「ぜってぇカミナには言うなよ!」

 

グレイは焦ってハルトの肩を掴み、揺さぶる。

そんなにカミナという者に知られるのが嫌なんだろうか。

 

「確かにナツやグレイの漢気は認めるが……〝最強〟と言われると黙っておけねえな。妖精の尻尾にはまだまだ強者つわものが大勢いるんだ。オレとか」

 

エルフマンがそう言うのに対して、ハルトが付け加える。

 

「最強の女はエルザで間違えないと思うけどな」

 

「最強の男となったら、ミストガンやラクサス、それにハルトとカミナもいるしな、それにあの男も外すわけにはいかねぇな」

 

「何にしても面白い戦いになりそうだけどな」

 

「そうか?オレ的にはエルザの圧勝なんだけどな」

 

ハルトの言葉にグレイはぶっけらぼうに返す。

そのころナツとエルザはお互いの思っていることを話した。

 

「ふふふ…お互いこうやって力をぶつけ合うのは何年ぶりだろうな」

 

「あの頃はガキだった! 今は違うぞ!今日こそ勝つ!!」

 

「私も本気でいかせてもらうぞ。久しぶりに自分の力を試したい。すべてをぶつけて来い!」

 

そう言うとエルザは鎧を換装をし、赤と黒が基調の鎧になった。

 

「あれは『炎帝の鎧』じゃねぇか!!」

 

「あれじゃナツの炎は半減されちまう!」

 

「エルザのやつ本気だな…」

 

周りが口々にそんなことを言う。

同じギルドの仲間だろうとナツとエルザは本気なのだ。

 

「炎帝の鎧かぁ……そうこなくっちゃなぁっ!!これで心置きなく全力が出せるぞ!!」

 

ナツも両手に炎を灯し、戦闘準備が整う。そして互いに睨み合い……

 

「始めいっ!!」

 

マカロフの合図で両者はどうじに駆け出した。

エルザが鋭い剣撃を放つが、ナツはギリギリかわし、足元を狙うが、

それをエルザは跳んで躱す。

距離ができたのでナツは詰め寄って攻撃するが当たらず、それにエルザも応戦する。

エルザの攻撃が勢いを増し、ナツが避け続けているとさっきナツがやったみたいに足払いをしてきた。

それに引っかかってしまったナツは転んでしまい、そこにエルザの攻撃が迫ってくるが、

 

「火竜の咆哮!!」

 

逆さまの状態からブレスを放つ。

とっさのことでもエルザはそのブレスを防いだ。

しかし、ナツは自分が放ったブレス紛れ込み、晴れた瞬間にはもうエルザの目の前にいた。

 

「っ!!」

 

さすがのエルザもこれに驚き、防御が遅れてしまう。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「ぐっ!!」

 

ナツの攻撃を無理矢理防いだが、少しはダメージをくらってしまった。

また距離ができてしまい、お互い睨み合うがその表情はどこか楽しそうだ。

 

「結構いい勝負してんじゃねぇか」

 

「けっ!どこが…」

 

「ナツー!ガンパレー!!

 

ハルトたちがそれぞれ感想を言ったり、応援をして、さらに場を盛り上げる。

再びナツとエルザがぶつかろうとしたときに…

 

パアァン!!

 

「そこまでだ。全員その場をうごくな。私は評議会の使者である」

 

現れた評議会の使者と名乗る二足歩行のカエルが現れたことによりギルド全員がざわつく。

 

「評議会だと!?」

 

「いったいなんなようなんだ?」

 

「みんなあのビジュアルに対してはノーコメントなのね…」

 

周りは評議会がわざわざこちらに出向いたことに驚いており、カエルが二足歩行していることにルーシィ以外誰も気にしていない。

 

「先日の鉄の森アイゼンヴァルトのテロ事件において、器物損壊罪、他11件の罪の容疑で……エルザ・スカーレット並びにハルト・アーウェングスを逮捕する」

 

「「なにぃぃぃぃぃ!!!」」

 

ナツとルーシィの叫びが響き渡った。

 

 

ここは評議会の本部があるERA。

ハルトとエルザは手錠をされて評議会のカエルに裁判所まで連行されていた。

その途中である男が壁に寄りかかっていた。

青髪に顔に刺青がある美青年だ。

 

「よぉ、エルザ、ハルト」

 

「貴様は…ジェラール……!」

 

「だから、違うって言っているだろう?ジェラールは生き別れの兄で、俺はジークレインだって」

 

「貴様が今回の件で私たちを呼んだのか?」

 

「あぁ、まぁな。何人かのじーさんたちは妖精の尻尾を潰そうとしたんだぜ?俺の助けがなければ今ごろ潰れていただろうな。感謝して欲しいくらいだぜ」

 

「貴様っ……!」

 

ジークレインの余りにも恩着せがましい発言にエルザは怒り、詰め寄ろうとするがハルトが止める。

 

 

「やめとけ…思念体だ」

 

「くっ…」

 

「その通りだ。向こうにいるじーさんたちも全員思念体さ」

 

そのままジークレインはエルザに近づいてきた。

 

「それと、向こうじゃ俺とは初対面ってことにしとけよ?

そうしたほうがお互い都合がいいだろ?」

 

「っ!!」

 

ジークレインは耳元でささやき、エルザはジークレインを睨む。

ハルトには何を言ったのか聞こえなかった。

 

「それじゃあなエルザ、ハルト。

向こうで会おう」

 

ジークレインの姿は霧のようにに消えた。

すると、ジークレインの姿を見て即座に膝まついたカエルが恐る恐るハルトたちに質問した。

 

「お…お前たち、すごい方と知り合いなんだな…」

 

「闇だ」

 

エルザがその質問に簡潔に答え、ジークレインが消えて言ったほうをじっと睨んでいた。

二人はそのあと連れられ、裁判所の大きな扉の前で待たされていた。

そこでふとエルザが質問してきた。

 

「聞かないのか? 私とジークレインの関係を」

 

「聞いて欲しいのか?」

 

「……いや」

 

「俺は待つよ。お前が話そうと思う時まで。その時はお前がスッキリするまで聞いてやる」

 

「……そうか」

 

エルザはさっきまで険しい顔をしていたが、ハルトにそう言われ穏やかな顔をした。

 

「被告人、エルザ・スカーレット並びにハルト・アーウェングス入れ」

 

中に入ると被告人が立つ証言台が2つ用意されており、そこに入るハルトとエルザ。

その前には評議会の評議員が座る席が用意されており、二人を見下ろすようになっている。

 

「被告人エルザ・スカーレット並びにハルト・アーウェングスの両名は先日の鉄の森アイゼンヴァルトによるテロ事件において、オシバナ駅損壊、リシュカ峡谷鉄橋破壊、クローバーの建物の半壊…以上の破壊行為及び市民への不用意な注意喚起、鉄道の交通停止に荷担した容疑がかかっている。」

 

「「……」」

 

議長が口を開き、そう告げるのを二人は特に何も言わず聞く。

すると、背後にあった壁が爆発を起こし破壊された。

煙が晴れるとそこには二人の人物がいた。

 

「オレがハルトだ!何の罪だか言ってみやがれ!!」

 

「わ…私がエルザよっ! ほら!髪だって赤いしっ!!」

 

口から火を吹きながらハルトと名乗る男とやたら髪が赤いことを主張してくるエルザと名乗る女が現れたことによりハルトやエルザはもちろん、評議員も驚き固まった。

 

「そこの2人もまとめて牢に連れていけ……」

 

「申し訳ございません…」

 

かろうじて議長の口から出た言葉にエルザは恥ずかしそうに顔をうつむかせ、了承した。

 

 

ハルトとエルザは二人に扮したナツとルーシィと共に、牢に入れられてしまった。

 

「全くなんで来たんだお前たち…」

 

エルザが呆れてながら聞くとルーシィは申し訳なさそうにするが、ナツは怒っていた。

 

「ごめんなさい…」

 

「別にハルト達は悪いことしてねぇーじゃねぇか!それなのに連れて行かれるとか納得いかねぇ!!」

 

ナツがそう言うとハルトは仕方がないといったため息を吐き、答えた。

 

「今回の逮捕は形式だけのものだったんだ」

 

「どういうことだよ?」

 

「本来ギルドを管理するのは評議会の役目だ。だけど、今回は俺たちが解決してしまっただろう?それじゃあ面子が立たないから俺たちを逮捕して保とうとしたんだ。わかったか?」

 

「お…おう」

 

ナツは戸惑いながら頷くが、絶対わかってない。

 

「本来なら今日中に帰れたんだ」

 

「なにっ!?」

 

「本当にごめんなさい……」

 

さらにエルザが付け足した言葉に驚愕するナツとさらに申し訳なさそうにするルーシィ。

 

「そ、そうだったのか…すまねぇ…」

 

流石のナツも申し訳なく感じたのか、しおらしく謝った。

それを見てハルトとエルザはクスッと笑った。

 

「しかし、私は助けに来てくれて嬉しかったぞ」

 

「いたっ!」

 

エルザはナツを胸に抱き寄せるが痛そうだ。

ハルトは落ち込んでるルーシィに話す。

 

「ルーシィもありがとうな。心配して来てくれたんだろ?」

 

「ハルト……」

 

そう言われルーシィは少し嬉しい表情を見せた。

それからどんどんと時間が過ぎ、夜になるとナツはいびきをかきながら寝てしまった。

すると、エルザが突然話題を振ってきた。

 

「そういえばハルトとルーシィは随分と仲がいいが、どうなんだ?」

 

「えっ!?」

 

「んー そうか?」

 

「あぁ、ハルトがここまで女性と親しくしているのを見るのは初めてだ」

 

「そういう風に見えるのか?」

 

ここでルーシィは思いきってみた。

 

「あ、あの!ハルトとエルザこそどんな関係なの?」

 

「私たちか?」

 

「どうって言われてもなぁ」

 

ルーシィはエルザが現れてからずっと気になっていることを聞いてみた。

ルーシィのよく当たる感(自称)が二人の関係は普通じゃないと告げているのだ。

 

「俺からしてみれば大切な仲間だしな」

 

「私もそうだ」

 

「えっ!恋人とかじゃなくて!?」

 

余りにも普通の答えが返ってきて思わず、そんなことを言ってしまうルーシィだが、

 

「なっ! そんなわけ無いだろう!!」

 

エルザは恋人と聞いて顔を赤くして言い返すが、ルーシィにとってはその反応が怪しく思えてしまう。

 

「エルザはこの手の話が苦手だからな。すぐに顔に出ちまう。ルーシィが考えているような関係じゃねぇよ、俺たちは。エルザがギルドに入ってきた最初の頃は俺が指導役としてよく一諸にいたんだ。それで、今でもよく一緒に仕事に行ったりするんだよ。」

 

「な、なんだ、そんなんだぁ…」

 

ハルトにそう言われ、力が抜けるルーシィ。

どうやら、考え過ぎてたようだ。

 

「ゴホンッ、そういえばルーシィとは余り話せていなかったな。これもいい機会だ。お互いよく知り合おう」

 

「うん!」

 

その晩は牢屋から場違いな楽しそうな声が聞こえ続けた。

 

 

また評議会に呼び出され評議員が並ぶ目の前に立たされる。

しかし、今回はハルト1人だ。

 

「ハルト・アーウェングス。貴殿に依頼を頼みたい」

 

「どうせ断ってもギルドの問題だとかで脅してくるんだろ?」

 

ハルトかそう皮肉を言うと評議員の何人かは顔をしかめる。

 

「詳しいことは後日ギルドに迎えに行かせる者から聞くといい。それでは解散だ」

 

 

ハルトは本部の長い廊下を歩いていると声を掛けられる。

 

「ハルト君」

 

「ナミーシャさん」

 

初老の女性で優しい雰囲気を出している彼女はナミーシャ、評議員の1人だ。

 

「毎回ごめんなさいね。あなた達ばかりに難しい依頼を任せてしまって…」

 

「いいんですよ。いつものことです。それなアンタには恩がある…」

 

そう言うハルトの香りは何処か寂しそうだった。

 

「ねぇ、ハルト君。 あの事件はあなたのせいじゃ…」

 

「それじゃ、仲間を外でまたせているので俺はこれで。また会いましょう」

 

ハルトはナミーシャの話を無理矢理遮るようにそう告げ出口に向かった。

ナミーシャはその姿を悲しそうに見つめる。

 

「やっぱり、まだ引きずってるのね…」

 

 




感想待ってまーす。


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悪魔の島 篇
第19話 S級魔導士


お待たせしました


「自由だぁーーっ!!」

 

解放され、ギルドに返ってきたナツははしゃぎまくっていた。

周りのみんなが鬱陶しそうな顔をするぐらいだ。

 

「あー鬱陶しいなぁ。もう少し牢屋に入っておけばよかったんだよ」

 

グレイは隠しもせずに悪態をつくのがナツに聞こえた。

 

「あぁ?何だよグレイやんのか?」

 

「騒がしいって言ってんだよバカ炎」

 

睨み合う2人だが、ナツが突然思い出した。

 

「あっ、そういえば!おい!エルザ!!」

 

「おい…こっちはスルーか…」

 

置いてけぼりにされたグレイは何処か哀愁が漂っている。

 

「なんだ?」

 

「前の勝負の続きをするぞ!!」

 

「よせ、疲れているんだ」

 

流石のエルザも連日の働きに少し参っているようだ。

 

「その後はハルトな!」

 

「なんで俺まで戦うんだよ…」

 

カウンターでコーヒーを飲んでいたハルトに振り、困惑してしまう。

 

「よっしゃあぁぁぁっ!!行くぞぉっ!!」

 

「やれやれ仕方ないな…」

 

ナツが両手に火を灯し、エルザに突進する。

しかし、近づいたのと同時にエルザは換装したハンマーを振り上げナツの顎に一撃を与え、気絶させてしまった。

 

「さて、始めようか」

 

「終了ーー!!」

 

ハッピーの終了宣言が響き渡るとナツのあっさりした負けにみんなに大笑いが起こった。

 

「あっはっはっ! ダセェぞナツ!」

 

「瞬殺かよ!」

 

すると、カウンターにいたマカロフの様子が変なことに受付をしていたミラが気づいた。

 

「どうしたんですか、マスター?」

 

「いや…眠い」

 

ハルトもそれに気づき、視線を入り口に向ける。

 

「あいつか…」

 

「え?…あっ……」

 

「すぴーー」

 

「おっと」

 

ハルトが呟いたのをルーシィが聞き返そうとするが突然の眠気に襲われ、気絶するように眠ってしまう。

ハルトは眠ってしまったルーシィとマタムネを倒れる前に受け止め、ギルドの入り口を見る。

周りは全員気絶するように眠っており、その中をゆっくりと歩く男がいる。

顔を布で隠し見えないようにしている男、彼の名はミストガン、妖精の尻尾の最強の男候補に入っている1人である。

ミストガンはクエストボードの貼ってある依頼書を一枚とり、眠そうにしているマカロフに渡す。

 

「この仕事を受ける」

 

「こりゃっ! 眠りの魔法を解いていかんかっ!」

 

「じきに解ける」

 

「落っこちて怪我するやつもいるかもしんねぇから、次から気をつけろよ」

 

「……あぁ、次からは注意する」

 

ミストガンは入り口に向かって歩く。

 

「5…4…3…2…1……0」

 

ミストガンは数を数え終えると同時に姿が消え、眠っていたみんなが

目を覚ます。

 

「今の魔法…ミストガンか!?」

 

「相変わらずスゲェ眠りの魔法だな…」

 

ハルトに支えられていたルーシィも目を覚ます。

 

「ん〜なに…何があったの?」

 

「ミストガンよ…」

 

「ミストガン?」

 

「最強の候補の1人でごじゃる」

 

「そうなの!?」

 

「でも誰も顔を見たことがないの」

 

「いいや俺は見たことがあるぜ」

 

ミラが言った言葉に返すように言ったのは上の方から聞こえた。

その声はみんなに響くように聞こえたのか、一斉にそっちを向く。

ギルドの二階から見下ろすように見ている男、名前はラクサス、彼も妖精の尻尾の最強候補の1人だ。

 

「ミストガンはシャイなんだ。あんまり詮索をしてやんなよ」

 

「ラクサスー!! 俺と勝負しろー!!」

 

復活したナツがラクサスを見て嬉々として勝負を仕掛けるがカウンターに座っていたマカロフが拳を巨大化させ、ナツに振り下ろし、行かせないようにする。

 

「二階には行ってはならん。まだな…」

 

「ハハッ!止められてやんの!」

 

「ラクサスも挑発すんのはやめとけよ」

 

ハルトがラクサスにそう言うとハルトを睨む。

 

「はっ! お利口さんになったつもりかよ、暴れん坊… 似合わねえんだよ」

 

「あぁ? やんのか」

 

ハルトもラクサスを睨みつける。

一触即発の空気が流れ始めた。

隣にいるルーシィはびびって縮みあがってしまう。

 

「やめんか二人共!」

 

「フンッ」

 

「ちっ」

 

マカロフに言われ、二人は視線を外す。

 

「これだけは言っておくぜ。妖精の尻尾最強候補だがなんだが知らねぇが、最強の座は誰にも渡さねぇよ。エルザにも、ミストガンにも、カミナにも、あのオヤジにも…… もちろんハルト、お前にもな! 俺が最強だ!!」

 

ギルド全体に聞こえるように言い放ち、ラクサスは奥へと消えていった。

 

 

一悶着があったがみんな各々の時間を過ごしていた。

ルーシィはふと疑問に思ったことを聞いた。

 

「上には何があるんですか?」

 

「二階には一階に貼られてある依頼とは比べものにならないくらい難しい依頼書があるの。私たちはそれをS級クエストって呼んでいるの。でも、その依頼に行けるのはギルドの中でもマスターに認められた実力のある人しか行けない。認められた人たちはS級魔導士と呼ばれているわ。カミナにエルザ、ミストガンやラクサス、ハルトも入ってるわね」

 

「S級魔導士!? 」

 

ルーシィはミラに教えられ驚いてしまう。

そして横にいるハルトに目を向ける。

 

(あんなハルト見たことなかったな…)

 

思い返してみれば、ハルトはルーシィに対していっつも優しくてラクサスに向けた表情は見たことがなかった。

 

(ちょっと格好良かったかも…)

 

ハルトの見たことのない表情を見れて顔がにやけてしまう。

側から見ると不気味だ。

 

「おーいルーシィどうしたー」

 

「なっ、なんでもないわよ!? そっ、そういえばミラさん!気になってことがあるんですけど!!」

 

ルーシィはハルトにニヤケ顔を見られたのが恥ずかしく、誤魔化す様に話しかける。

 

「何かしら?」

 

「カミナっていう人は誰なんですか?時々名前は出るけど私見たことないんです」

 

「そういえばルーシィは会ったことがなかったわね。本名はカミナ・ハクシロって言う名前で妖精の尻尾のS級魔導士の 一人で最強候補の1人なの。今は依頼を掛け持ちしてて帰ってきていないのだけれど…。忙しいのはわかるけど偶には帰ってきてもいいんじゃないかしら? こっちだって心配してるし、せめて連絡ぐらい寄越してもいいのにカミナったら何も連絡を寄越さないのよ? 強いのは知ってるけどもし万が一のことがあったら……」

 

ミラは後半から目が座り、ブツブツと言い始めた。

若干怒りが滲み出ており、ルーシィは突然の変わり様に戸惑ってしまう。

 

「あ、あの…ミラさん?」

 

「あ〜ぁ、また始まっちまった」

 

「ハルト、ミラさんどうしちゃったの?」

 

ハルトは面倒くさそうな顔をしながら、ルーシィに言った。

 

「カミナとミラは恋人同士なんだけど、あいつが長期の仕事に行っているときは会えなくなって、カミナの話をするといっつもこんな風に不機嫌になっちまうんだ」

 

「へーそうなんだ……って恋人ぉぉぉぉぉ!!?」

 

まさかの事実に驚きの声を上げるルーシィ。

 

「なんだ知らなかったのか? うちでは結構有名なんだぜ?」

 

「初耳よ……」

 

ハルトとルーシィがそんなことを話している間もミラはずっとブツブツとカミナに対する不満を言っている。

 

「まずいな、このままじゃ一週間この状態だぞ」

 

「そんなに!?」

 

2人でなんとかしてミラの機嫌を戻したが、ルーシィは疲れてしまい、

心の中でこの話題をするときは気をつけようと決めた。

すると、ギルドに評議会のマークが入った制服を着た女性が入ってくる。

 

「評議会から参りました。クルシェ・エモンドです。依頼の件でハルト・アーウェングス様を迎えに参りました」

 

それを聞くとギルド全体がまたざわめき出し、ハルトは側に置いてあった鞄を持ち、席を立つ。

 

「じゃっ、行ってくるわ」

 

「すまんな毎回…」

 

「いいって気にすんなよ」

 

ハルトは済まなそうな顔をしているマカロフにそう言うと、出口に向う。

 

「ハルト、仕事なら私も…」

 

「ダメだ」

 

「えっ?」

 

ルーシィはいつも通り誘ってみるがハルトはすかさず却下する。

その表情は真剣そのものだ。

 

「今回の依頼は評議会が他のギルドで失敗した依頼を回してきたものだ。もしかしたら、S級クエスト以上かもしれない…。ルーシィを連れて行くのは危険すぎる」

 

それを言われたルーシィはハルトに追いつきたい一心でお願いした。

 

「そんな……私頑張るから!お願い!連れて行って!」

 

ルーシィがそう言うもハルトは首を横に振る。

 

「ルーシィ我儘を言っちゃいけないわ…」

 

「ミラさん…」

 

ミラにそう言われ、ルーシィはしぶしぶイスに戻った。

その顔は悲しそうだった。

 

「ありがとうな、ミラ」

 

「ううん、気をつけてね」

 

ハルトが今度こそ行こうとするが、止まり、鞄の中をあさると中からマタムネが出てきた。

 

「マタムネは今回も留守番だ」

 

「いやでごじゃる!一緒に行くでごじゃる!!」

 

「危険なのはお前が1番わかってるだろ?」

 

「それでも付いて行くでごじゃる!」

 

頑なに付いて行こうとするマタムネに困ったハルトはルーシィにマタムネを渡した。

 

「ルーシィ俺がクエストに行っている間、マタムネを頼まれてくれねぇか?」

 

「え、うん…わかった」

 

ハルトは今度こそ出発しようと、出口に向う。

ルーシィは立ち上がり、背中を向けているハルトに向かって言った。

 

「ハルト!……… 行ってらっしゃい」

 

ハルトは振り向き笑顔を浮かべて返事をした。

 

「行ってくる!」

 

 

ハルトが出発した後、ルーシィとマタムネは落ち込んでいた。

それを見かねたミラが話かける。

 

「元気を出してルーシィ、マタムネ」

 

声をかけられたルーシィはゆっくりと顔を上げる。

 

「ミラさん……私ってやっぱりハルトの迷惑になっているのかな」

 

「ルーシィ……そんなことはないわよ」

 

「えっ?」

 

「ハルトが受けた仕事ってね、とても危険なの。死人が出るくらいだわ。ハルトはそんな危険なところにルーシィとマタムネを連れて行きたくないのよ」

 

「そうなのかな…」

 

「……カミナもね。評議会から同じくらいの依頼を受けたことがあるの私もついて行こうとしたわ」

 

「ミラさんも?」

 

「だけど、頑なに連れて行ってくれなかった。私も落ち込んだわ。好きな人の役に立てない、隣に立てないってね。だけど、それは私を守るためだったの」

 

ミラがそう言うがルーシィは複雑な表情だった。

 

「頭ではわかってるけど、心じゃ納得いかないのよね?」

 

ルーシィは首を小さく縦に振る。

 

「ゆっくりでいいの……その人を思う気持ちさえあればいつか必ず、追いつけるわ」

 

ルーシィはその言葉に少し元気が出た。

時間はすっかり夜になり、ルーシィはマタムネを連れて自宅に向かっていた。

 

「ハルトは毎回、評議会の仕事には1人で行っているでごじゃる」

 

「?」

 

突然マタムネが独り言のように話始めた。

 

「せっしゃは毎回留守番させられているでごじゃる。それが悔しくて仕方ないでごじゃる。自分でパートナーと名乗ってはいるでごじゃるが、実際はお荷物になっているでごじゃる……」

 

「マタムネ……」

 

ルーシィの胸にマタムネの言葉が突き刺さる。

マタムネをフォローしようにも自分も思っていたことなので何も言えなかった。

 

「だからルーシィ殿…」

 

マタムネは振り向きルーシィを見る。

 

「一緒に強くなってハルトの後ろに立つのではなく、隣に立てるように頑張ろうでごじゃる!」

 

「マタムネ……うん!そうね!!頑張ろう!!」

 

「それじゃあ明日は一緒に仕事にいって実力をつけるでごじゃる!」

 

「よーしっ!やる気がみなぎってきたわ!!」

 

ルーシィは明日の準備をしようと勢い良く玄関を開けると、

 

「フンッフンッ!」

 

「あ、おかえりー」

 

「私の部屋ーーー!!」

 

「あっ、ナツ殿とハッピーでごじゃる」

 

何故かナツとハッピーが部屋にいて、筋トレをしていた。

ルーシィは慣れたかのようにナツに回し蹴りをぶつける。

 

「何してんのよ!!」

 

「いや、何って……筋トレだ」

 

平然と言うナツにこめかみがピクピクと痙攣してしまう。

 

「だからって、なんで私の家でするのよ!!もう早く帰ってよ。明日は早くから仕事に行く予定なんだから」

 

それを聞いてナツとハッピーは嬉しそうな顔をする。

マタムネはこの時のナツとハッピーの笑顔を見て、また良からぬことを考えてるなと思った。

 

「なら丁度いいや! この仕事行こうぜ!」

 

ナツは取り出した依頼書を見せた。

ルーシィの目に入ってきたのは依頼の内容ではなく、大きく『S』と書かれた文字だった。

 

「えっ…これって…」

 

「そうだ!S級クエストだ!!S級クエストを成功させりゃあじっちゃんだって、オレらのことS級って認めてくれるだろ?」

 

「オイラが取って来たんだよ!」

 

ルーシィは依頼書を手に取って見る。

ナツの言うように認められるかどうかは考えればわかることだが、その時のルーシィの心の中では再びハルトに置いていかれたくないという思いが強くなっており、正常な判断を鈍らせていた。

マタムネもどうやらその気らしく、ルーシィと目を合わせ、うなづく。

 

「いいわ。一緒に行く」

 

「せっしゃもでごじゃる!」

 

「よっしゃぁ!!なら明日の朝には出発だ!!」

 

こうしてナツたちは掟を破り、S級クエストに向かった。

 

 

時間は戻って、ハルトは評議会からの使者、クルシェ・エモンドと今回の依頼のことで話していた。

クルシェ・エモンドはまだルーシィより1つ2つ年上に見えるのに仕事ができる女性と思える印象を与える雰囲気を出している。

「今回の依頼はある村の調査と行方不明者の捜索を行って欲しいのです」

 

「調査?と捜索? 調査や捜索くらいなら俺みたいな武闘派じゃなくて、もっと適任な魔道士がいるだろう?」

 

ハルトはあくまで戦闘

 

「ええ、評議会も最初は自分たちのほうで謎の魔力の調査のため、調査員を派遣をしましたが連絡がつかなくなってしまいました。不審に思った評議会はギルドに調査と共に、消息を絶った調査員の捜索を依頼しましたが、その依頼を受けた魔導士も消息を絶ってしまいました。色々なギルドに頼みましたが、次々と消息を絶ってしまい、とうとう依頼を受けてくれるギルドがなくなってしまいました。この事態を危険に思った評議会はアーウェングス様に今回の依頼を頼んだわけです」

 

「なるほどな…何人が行方不明になってるんだ?」

 

「約100名以上です」

 

「そんなにか!」

 

ハルトは今回の依頼もややこしいものだなと思った。

すると、クルシェが少し顔を赤らめ、モジモジとしだし、控えめに声を出した。

 

「それで……あと……お願いがあるのですが……」

 

「なんだ? まだ他に依頼があるのか?」

 

「いえ…その……」

 

クルシェはどこからか色紙とペンを出した。

 

「あの…ファンなんです! サイン頂けませんか?」

 

「お、おう」

 

「あと、できればクルシェへ、と書いて頂ければ…」

 

ハルトはサインを書いたことがなかったのでとりあえず適当に書いとけと思い、適当に書き、渡した。

 

「ありがとうございます! あの…よろしければ握手も…」

 

「いいけど…」

 

ハルトは戸惑いながらも手を出すと、クルシェはすかさず握手する。

 

「キャー!! ありがとうございます!! 一生手を洗いません!!」

 

さっきまでの様子とはギャップが激しすぎてハルトは顔が引きつってしまう。

こうして別々のところでそれぞれの冒険が始まった。

 




感想待ってまーす


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第20話 人を喰らう洞窟

ハルトは評議会が寄越した馬車で今回の依頼をだした村、マロウ村に着いた。

使者であるクルシェは危険なため、名残惜しくも評議会に戻り、ハルトは門から入る。

 

「ようこそいらっしゃいました!魔導士殿!私はこの村の村長をしていますルベトと申します」

 

「どうも依頼を受けて来ました。妖精の尻尾のハルトです。さっそくですが、詳しいことを聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、では私の自宅で」

 

ハルトはルベトに連れられ奥に見える大きな屋敷に連れられた。

その途中で村人がハルトを見るがあまり期待しているわけではなさそうだ。

 

「また来たぜ」

 

「どうせすぐいなくなってしまうわ…」

それが聞こえたハルトはこの村は相当参っていると思った。

 

「申し訳ありません…皆もこの事態に相当参っているのです」

 

「いえ…」

 

村長の家に着き、家に入るがハルトは足を止める。

 

「どうなさいましたかな?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

ハルトは横目で部屋を隅々まで見ながら応接間に案内され、詳しい情報をもらった。

 

「事の始まりは1年前でした。村のはずれにある小さな山の洞窟に入っていった子供が帰らなくなってしまったのです。最初は大人が探しに行きましたが、その大人たちも戻って来ず、不気味に思った私たちはギルドに頼み、魔導士殿が来てくれたのですが、その魔導士殿も戻って来ませんでした。何度も頼みましたが全員が戻って来ませんでした。ついには評議会の調査員の方々も来てくれましたが結果は……」

 

「戻ってこなかった」

 

ルベトは静かに首を縦に振る。

ハルトはしばらく考え、立ち上がった。

 

「その洞窟までの道を教えてもらえませんか?ちょっと見て来ます」

 

「えぇ、よろしいですが…夜までには戻って来てください。あの洞窟でいなくなるのは決まって夜ですから…」

 

その後、ハルトは村人の1人に案内され、洞窟にやってきた。

森に囲まれた小さな山にある洞窟だが、何故か洞窟付近の木は全て枯れ木で薄暗く不気味だった。

 

「ここか…」

 

「魔導士様、夜までには戻ってきてくださいよ…俺らも助けにはいけないんで…」

 

「まだ日も高いし、大丈夫だろ?」

 

ハルトがそう言うと村人は顔が青ざめ、体が小刻みに震え始めたのだ。

 

「いや…この洞窟の恐ろしいところは人がいなくなる他にもあるんだぁ…この洞窟に入ったら時間の感覚がなくなっちまう… この洞窟に入って百年の時が過ぎたっていう伝説があるぐらいだぁ…」

 

ハルトはそれを聞き、洞窟の奥を見つめる。

 

(特に怪しい感じはしないけどな)

 

「とりあえず行ってきます」

 

「お気をつけて…」

 

洞窟は一本道でハルトは道なりに進んで行く。

中は暗く何も見えないが、滅竜魔導士特有の鋭い五感でなんとか洞窟の中が見えていた。

しばらく進んで行くと開けた場所に出たが、先に続く道が無く、ここで行き止まりだった。

 

「ここまでか…」

 

ハルトは周りをよく見てみると、隅に何かを見つける。

 

「これは…」

 

拾ってみると、それは子供用の靴だった。

恐らく行方不明の子供の靴だと思い、それを持って洞窟の外に出る。

 

「お待たせしました」

 

「何やってたんだぉ!心配しただよ!!」

 

「はぁ? っ!?」

 

ハルトが洞窟に入ったのは正午を少し過ぎたくらいだ。

ハルトは洞窟を探索したのは1時間くらいだと感じていたのに、外はもう日が沈みかけている。

 

「どうなってんだ…」

 

ハルトの呟きが静かに響いた。

 

 

その後、ハルトは村に戻った途中で拾った靴を案内してくれた村人に見せると、酷く怯えた様子を見せた。

 

『それは行方不明になった子供の靴に違ぇねぇ……やっぱりあの洞窟は伝説通り『人を喰らう洞窟』なんだぁ!!』

 

「人を喰らう洞窟、か…」

 

ハルトは難しそうな顔をして村長の屋敷に戻ってきた。

 

「おぉ、ハルト殿。遅い帰りでしたな」

 

「えぇ、ちょっと…」

 

ハルトは村長に調べてわかったことを話す。

 

「そうですか…その靴は私が明日、子供の親に渡しておきましょう」

 

「お願いします」

 

「それでは明日もあることですし、食事としましょうか」

 

食堂に案内されるとそこには、質素ながら豪勢な食事が用意されていた。

 

「申し訳ありません。本来ならもっと豪華な食事を用意したかったのですが、今はこんな状況で収入が少ないのです」

 

「いえ、食事を用意してくれるだけで嬉しいですよ。それじゃあ、いただきます」

 

ハルトはスープからいただこうとスプーンですくって口に運ぶが途中で止めてしまう。

 

「どうかされましたか?」

 

「いえ…」

 

ハルトはそう言い、スープを口に含んだ。

 

 

食事を終えて、ハルトはすぐに眠くなってしまいそのまま寝室に案内され、眠ってしまった。

すると、夜遅くにローブを着た数人の男がハルトが眠る寝室に入ってくる。

ベッドまで近づくと手にもっていた剣や斧をハルトが眠るベッドに勢いよく振り下ろす。

木片や綿が飛び散るが血はまったく出てこない。

男がベッドをめくるとそこには毛布を丸めて、人が眠っているように見せたのだ。

 

「やっぱり来やがったか」

 

後ろから声がしたので男たちは後ろを振り向くとハルトが立っていた。

 

「スープの中から薬の匂いがめちゃくちゃしたぞ。もっと上手く隠せ…」

 

ハルトが話している途中で男たちは武器で攻撃してくる。

 

「最後まで言わせろよ」

 

ハルトはそう言いながら、四方八方から来る攻撃を余裕で躱し、男の1人を殴って窓を割り吹き飛ばし、ハルトはそのまま窓から飛び降りた。

すると、後ろから残りの男たちが降りてくるが、ハルトは男たちが降りてくる場所に先回りし、真上に向かって魔法を放つ。

 

「覇竜の咆哮!」

 

咆哮は残りの男たちを巻き込んだ。

空から服が焦げた男たちが落ちてきて、騒ぎ過ぎたのか村人が集まってくる。

 

「お騒がせして、すいません。すぐに終わらせますから」

 

ハルトが倒れている男たちの中から1人に聞こうとすると、後ろにいた村人が農業用に使われる鎌をハルト目掛けて振り下ろした。

 

「っ!? くそ!」

 

ハルトはとっさに腕でガードするが魔法を使う暇がなかったので、腕から血が出てくる。

 

「どういうつもりだ!」

 

ハルトは切り付けてきた男を蹴り離し、顔を見ると顔に根がはっているような筋が伸びており、目は生気がなかった。

他の村人も全員そのような感じで、囲まれてしまう。

 

「ちくしょうがっ……!」

 

操られてるだけの村人を傷付けるわけにはいかないので、ハルトは躱し、武器を掴み破壊し、退けていた。

すると隙ができたのでそこを縫うように走ると目の前に小さな女の子が現れ、大きなホークをハルトに突き出した。

ハルトは難なく掴むがその顔は怒りに染まっていた。

 

「こんな子供までもかっ……!」

 

ハルトはホークを奪い取り、捨てるが女の子はすかさずハルトに抱きつき、動けないようにすると、他の村人が女の子ごとハルトに攻撃してくる。

ハルトは女の子を掴み、高く跳躍し、女の子を干し草が積まれているところに投げ、ハルトは囲まれたところから離れ村人たちの前に出た。

 

「覇竜の剛拳!」

 

ハルトは土煙が出るように地面を殴り、目くらましをして洞窟に向かった。

 

 

洞窟の中を走っているハルトはひしひしとこの洞窟の異変を感じ取っていた。

 

「やっぱりだ、最初きた時は気にならなかったけど、あっちこっちに小さなラクリマがありやがる。これが感覚を鈍らせていたんだな」

 

洞窟の辺り一面に特殊なラクリマが埋まっており、その影響で感覚ぎおかしくなっていたのだ。

子供の靴を見つけた開けた場所に出ると真ん中まで行き、立ち止まる。

 

「いい加減出てきたらどうだ? 匂いでわかっているぞ」

 

「ふふふふ……」

 

ハルトは辺りに聞こえるように言うとハルトの背後の地面から男が出てくる。

 

「やはり気づいていたか…」

 

「滅竜魔導士の嗅覚舐めんなよ? 村長」

 

なんと現れた男は村長のルベトであり、ルベトは不気味な笑みを浮かべている。

 

「いつから気づいていた?」

 

「最初は屋敷に入ったときに違和感を感じた。屋敷に染み付いていた匂いがお前の匂いと違っていたからな。確信を持てたのはこの洞窟に来てからだ。あっちこっちにお前の匂いが染み付いていやがる。行方不明の人間を探しに来るのにこの匂いの濃さは異常だ」

 

「なるほど」

 

「今すぐ村の人たちを元に戻せ。そしたら何もせずに評議会に突き出してやる」

 

「フフフ…ハハハハッ! 何を言うかと思えばそんなことか!そんなことする必要なんてないだろう!! お前も私に操られるんだからなぁ!!」

 

その言葉を合図にルベトの背後から村人が全員現れ、ハルト目掛けてて突進して来た。

ハルトは仕方なく迎え討つため構える。

一人がハルトを殴るが難なく受け止められた。

反撃しようとハルトは拳に力を入れるが、拳を受け止めていた腕が徐々に押され始める。

ハルトはなんとかおし返そうとするが相手の腕力が強くなりすぎ、ハルトは飛ばされてしまう。

 

「ぐっ…!」

 

(どうなってんだ? ただの人のはずだぞ?)

 

「気になるか?」

 

ハルトの考えていることがわかっていたかの様にルベトは笑みを浮かべ話しかける。

 

「この村の人間にはある種を植えつけてある。俺の命令に絶対服従する様にな。しかも、身体能力まで俺の思い通りにできる代物だ」

 

「そんなものどこで…」

 

ハルトがその苗の出所を聞くとルベトはより一層笑みを深くた。

 

「全てはゼレフ様のおかげさ!!」

 

「お前ゼレフ教の人間だったのか!」

 

ゼレフ教とは大昔に存在した最悪の黒魔導士、ゼレフを崇める教団のことであり、数々の犯罪を犯している。

 

「あぁ、そうだ。神ゼレフを蘇らせるためにお前の魔力を寄越せ…」

 

ハルトはさらに力が強くなった村人に襲われるが、何とか捌ききる。

しかし、ハルトの背中に魔法弾が打ち込まれる。

 

「があっ!?」

 

目を後ろに向けるとルベトが手をこちらに向けていた。

ハルトは咲きにルベトを倒そうとするが村人が盾になって中々近づけない。

するとルベトは前に村人がいるのにも関わらず、魔法弾を打ち込んでくる。

ハルトはそのことに驚いたがすかさず村人を庇う。

 

「ぐっ!」

 

しかし、村人は庇われたことなんてわからないからハルトに追撃してくる。またそこにルベトは魔法弾を打ち込んできてハルトは守るため

に庇う。

村人を利用した嫌らしい攻撃の仕方だ。

しかし、それはハルトに効果的で身体中が傷だらけになってくる。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「だいぶ疲れてきたようだな。これで終わりだ。行け!!」

 

疲労してきたハルトに村人が全員突撃してくる。

村人に隠れて見えないがハルトは抑え込まれて動けないようだ。

ルベトはそこにさっきとは比べられないほどの魔力が込められた魔力弾を作り打ち込もうとした瞬間、村人が全員倒れる。

 

「何っ!?」

 

「ふぅ〜、やっと終わったぜ」

 

ハルトは倒れた村人達の真ん中に倒れていた。

 

「いったい何をした!」

 

「お前、種を植え付けたって言っていただろ? だから種を見つけて壊したんだ」

 

(さっきまで良いようにやられていたのは種を探すためだったのか)

 

「だが、どうやって…」

 

「俺の魔力を直接流したんだよ」

 

ハルトは全員が突撃してきたた時、素早く種が植えつけてあった後ろの首筋に魔力を流し破壊したのだ。

 

「さてと、さっきはよくもやってくれたな」

 

ハルトは不敵な笑みを浮かべながら近寄る。

ルベトの顔には焦るが見え始める。

 

「く、来るな!!」

 

ルベトは大量の魔法弾を放つがハルトは全て拳で破壊し、一気に近付く。

 

「じゃあな、覇竜の剛拳!!」

 

ハルトがルベトを殴り、壁に叩き付けると洞窟の壁にひびが入り崩れる。

 

「何だこれ…?」

 

その先には湖があり、真ん中に葉がなく頂上には木で作られた繭がある白い木があった。

ハルトが見続けるとその木は脈打つように動いた。

 

 




題名変えました。
これからもよろしくお願いします。


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第21話 覇を轟かせすべてを統べる

少しグリフィドとの戦いを変えました。


ハルトは評議会の依頼で行方不明の調査をしていたが、村長のルベトにの策略で村人を人質にとられ追い込まれるが、なんとかルベトを倒したがその先には奇妙な木があった。

 

「何だこれ…」

 

よく見ると枝には何かが簀巻きにされたものが何体もぶら下がっていた。

 

「ヒヒヒ…それはゼレフ書の悪魔だ…」

 

湖の近くで顔が腫れたルベトが言う。

ハルトは近付き、胸ぐらを掴みあげる。

 

「あれがゼレフ書の悪魔だと?」

 

「ぐっ…あぁ、そうだ。 たまたま見つけてなぁ。丁度人目がつかない村があったんで、ここで儀式をしたんだよ」

 

「儀式だと?」

 

「あぁ、あれは魔力を栄養にして復活するんだ。見えるだろ? あのぶら下がってる繭が。あれは行方不明になった魔導士や評議会の人間だ。まだ魔力を吸ってる途中だ」

「何故こんなことを?」

 

ルベトは嫌らしい笑みを浮かべ大声で言う。

 

「全てはゼレフのため!! この世界を浄化するためさ!!ハーハッハツハッ!!」

 

その笑いが気に食わなかったハルトはもう一度ルベトの顔を殴り黙らせる。

 

「この木をぶっ壊して、お前を評議会に突き出せば終わりだ」

 

殴られたルベトはうつ伏せになりながらも不敵な笑みを浮かべる。

 

「それはどうかな?」

 

「何?………がはっ!?」

 

ハルトと後ろの地面から鋭く尖った白い枝がハルトの腹を貫いた。

その枝には血がべったりとついていた。

 

「これ……は……あの木か……!」

 

すると、ハルトを貫いているところから根のように身体に侵入し、魔力を吸い始める。

 

「ぐく…くそ!」

 

ハルトは体から力が抜けながらも、何とか覇竜の断刀を後ろに向けて放ち魔力の吸収を阻止したが、元からダメージを受けた状態で多くの魔力を吸われてしまい、危険な状態になった。

 

「ハァ…ハァ……」

 

「ヒャハハハハ!! いいぞ!! 素晴らしい!!流石、滅竜魔導士の魔力だ!! もうほとんどの魔力が溜まったぞ!これであともう少しだ!残りの魔力も貰おうか!!」

 

ルベトの合図で白い木から尖った枝が一斉に飛び出してくる。

しかし、それはハルトを貫くのではなくルベトを貫いた。

 

「な…なぜ……」

 

『ご苦労だったな、ルベトよ』

 

低い声が洞窟に響くなか白い木が薄く光りだす。

 

「ど、どういう……?」

 

ルベドは口から血を流しながら、聞く。

 

『お前は私を操るつもりでいたが、操られていたのはお前だというわけだ。 誰がその種を与えたと思っている?』

 

どうやらルベトはこの木から生えていた種を使って村人を操っていたようだ。

 

『最後の仕事だ、その命を我に捧げよ!!』

 

「があぁ……ぁ…」

 

ルベトの魔力がどんどんと吸われていき、ルベトはミイラみたいに干上がって死んでしまった。

 

『フハハハハッ!! 魔力が溜まった! 漲ってくるぞ!!』

 

木から放たれる光がより増していき、その光が頂上にある巨大な繭に集まっていく。

すると、繭にヒビがはいり割れる。

そこにいたのは巨大な翼を4枚持ち、頭が鳥の化け物だった。

 

「ようやくこの姿に戻れたか…。まだ名を名乗っていなかったな。我はゼレフ書の悪魔、グリフィドだ。しかし貴様の魔力は良かったぞ。今まで吸収してきた中で1番だ」

 

グリフィドは自身の体を大切に撫で上げながら、ハルトに話す。

 

「何でルベトを殺した?」

 

「あの男は元から使い捨てるつもりだったのだ。生かしておいても何の利益もない」

 

ハルトはグリフィドの物言いに嫌悪感を露わにする。

ハルトは痛む腹を抑えながら立ち上がる。

 

「繭に捕まえている人達を解放しろ…」

 

「それはできん、奴らは我の魔力となるのだからな」

 

「じゃあ、テメェをぶっ倒して助けるだけだ」

 

「それも無理だな」

 

グリフィドは羽を広げハルトに向かって構えを取る。

 

「貴様も我の一部となるのだからな!!」

 

木の頂上から低く滑空しハルトにすごい速さで向かって行く。

あまりの速さにハルトは防御も何も出来ずに体当たりをもろに受けてしまい、吹き飛ばされ地面に転がりながら止まる。

 

「ぐぅ…」

 

「まだだ」

 

グリフィドはハルトの頭を掴み高く飛上り、ハルトを地面に向けて投げつける。

ダメージが大きく、ハルトは思うように体を動かせない状態で地面に激突し、そこにグリフィドが追い打ちをかけるように落下しハルトを踏みつける。

 

「がはっ…!」

 

「これで仕上げだ!」

 

グリフィドが口に魔力を溜め、放つのをハルトは寝転がった状態からバク転の要領でその場から飛び退き、グリフィドに向かって魔法を放つ。

 

「覇竜の咆哮!」

 

しかし、グリフィドはハルトの咆哮を飛んで躱す。

しかも、咆哮も弱々しい。

どうやら思った以上に魔力を吸われたらしい。

 

「どうした?弱々しいぞ?」

 

「うるせー…ハァ…まだまだこっからだ…ハァ…ハァ……」

 

「そうか、だがもう終わりだ」

 

ハルトの背後から白い蔦が体中に巻き付いてくる。

ダメージを負いすぎて反応が出来なくなってしまって気配に気づかなかった。

 

「なっ!?」

 

「そろそろ次の魔力が欲しいのでな。終わりにしよう」

 

蔦からハルトの魔力が吸われていき、ハルトは次第に項垂れていく。

 

「やはりな、滅竜魔導士の魔力は格別だな。それに貴様の魔力はさらに違うようだ」

 

グリフィドは舌舐めずりしながらハルトを見る。とうとうハルトは気を失ったように頭を落としてしまう。

 

「もう終わりか……万全の状態ならまた結果は変わっていたかもしれないな」

 

しかし、突然蔦に流れている魔力がハルトに向かうように逆に流れ始めた。

 

「何!? 何が起きてる!!?」

 

グリフィドが狼狽えるのをよそに、次第にハルトの傷が癒え始めてくる。

 

「ふう〜なんとか出来たな」

 

「貴様何をした!!」

 

ハルトは体の調子を確かめながらグリフィドに向かって言う。

 

「魔法って属性ごとに特徴があるだろ? 俺の魔力は無属性なんだけど

ある特性がある」

 

「特性だと?」

 

「『統合』って俺は呼んでる。相手の魔法に俺の魔力が加わるとその魔法の魔力を俺の魔力にして吸収しちまうんだ。さっきお前の魔力を吸収したのはお前が吸い取った俺の魔力が他の魔力を統合して俺のものにしたってわけだ」

 

「そんなバカなことが…っ!!」

 

「現にお前の目の前で起こっただろーが………覇を轟かし全てを統べる……これが俺の魔法、覇の滅竜魔法だ」

 

グリフィドは睨んで来るハルトの後ろに覇気溢れる竜を幻視してしまう。

僅かに後ずさりしてしまうが未だに自分が有利な立場にいることに気づき強気になる。

 

「例え魔力と体力が癒えたとしても貴様に勝ち目などない!!人間と悪魔では超えられない壁がある!!」

 

グリフィドは急降下してハルトに体当たりをしてくる。

ハルトはなんとか防ぐがグリフィドの攻撃の余波で地面にヒビが入る。

ハルトはグリフィドを見据えて足に魔力を集中させ、グリフィドの目の前まで一気に跳躍し、グリフィドを睨みながら拳を握りしめる。

 

「人間と悪魔では超えられない……何だ?」

 

魔力を纏わせ思いっきり殴る!

 

「覇竜の剛拳!!」

 

「ぐはぁっ!!?」

 

グリフィドは地面に向かって落ち、余りの力にグリフィドが落ちたところには穴ができ、そこから這いずり出てくるとハルトを睨む。

 

「どうした? こんなもんかよ?」

 

グリフィドはハルトにそう言われ怒り、上空に飛び上がり翼に魔力を溜めると風が生み出された。

 

「失敗したな人間!! 我にこれを使わせるとは!我が呪法『崩風』をとくと味わえ!!」

 

「呪法…?」

 

翼をハルトに向かって羽ばたかせると翼に纏っていた風は唸りながらハルトに向かってくる。

ハルトは防御しようとするが、ぶつかる瞬間横に飛び退いた。

風が当たった場所はドリルのように削られている。

 

「よく躱したな!我が呪法は全てを崩す風!! いかにお前の魔法がどこまで強くなろうとも無意味だ!!」

 

グリフィドはさっきよりも速い竜巻を生み出しハルトに向ける。

避けようとするが風の勢いが強くその場から動けず、竜巻に飲み込まれてしまう。

竜巻が止み、ハルトの姿が見えるが服はズタズタに切り裂かれ、体中に傷ができており、血だらけだ。

 

「ぐっ……」

 

「ハハハッ! さっきまでの威勢はどうした!? まだまだいくぞ!!

人間!!」

 

グリフィドはまた竜巻を生み出し放とうとした瞬間、ハルトの体から魔力が溢れ出す。

 

「流石ゼレフ書の悪魔だな……この前のとは大違いだ」

 

「これで終わりだ!!人間!!」

 

グリフィドは竜巻をハルトにむける。

 

「だからこっちも本気でいくぜ」

 

その目には覚悟の火が灯っている。

 

「覇竜の剛腕!!」

 

ハルトは両腕に剛腕を出して防ぐが少しずつ削られていくのがわかる。

 

「どこまで持ちこ耐えれるか見ものだな!」

 

どんどんと剛腕は削れて行き、ハルトも苦しそうな顔をする。

ここでハルトは勝負をかけた。

両腕に全力をかける!

 

「ウオォォォォォォッ!!!!」

 

両腕を振るい風をそらしグリフィドに続く道ができる。

ハルトはそこに飛び出し拳を振るうが、空を自由に移動できるグリフィドは容易く躱す。

 

「くそっ!」

 

「拳を振るうことしかできない貴様に勝ち目はないぞ!!」

 

ハルトはそれを聞き、不敵な笑みを浮かべる。

 

「誰が拳は飛ばないって決めた!!」

 

ハルトは空中にいるグリフィドに向かって拳を振るうとグリフィドに

拳から飛んだ魔力が当たった。

 

「ぐっ!!?何だ!?」

 

「威力は幾分か落ちるが空中にいる相手には効くな。覇竜の飛燕拳ってところか?これでお前が空中にいようと関係なくなったな」

 

「っ!舐めるな!!」

 

グリフィドは風を飛ばしてくるが、ハルトはそれを躱し飛燕拳を連打で当て続け翻弄する。

 

「ぐおぉぉぉぉっ!?」

 

余りの速さにグリフィドの視界は閉ざされてしまう。

煙を晴らすとハルトは地面の何処にもいなかった。

 

「何処だ!?」

 

「ここだ!」

 

空中から声がきこえ、そっちに目を向けると落ちてくるハルトがいた。

 

「バカめっ! 空中では躱せまい!!」

 

グリフィドは風をハルトに向かって放つが、ハルトはそれに突っ込んで行く。

 

「滅竜奥義……」

 

ハルトは全身に魔力を滾らせ、空中て全身を高速回転をする。

 

「覇牙竜螺旋!!」

 

ハルトの攻撃は風と拮抗するが突き破りグリフィドに向かって行き、体に風穴を開けた。

 

「そんな……バカな……」

 

グリフィドはあり得ないと言った顔をしながら湖に落ち、塵となって消えた。

 

「ハァ…結構ヤバかった…」

 

ハルトは全身から煙のようなものを出し、その場に座り込み、安心した顔をした。

 

 

そのあとはハルトが評議会に知らせ、行方不明者の救助と操られた村人の治療を頼んだ。

行方不明者はミイラみたいに枯れていて一見死んでるように見えたが湖の水が魔力が液状したものだとわかり何とか一命は取り留めた。

さらに今回の事件の主犯がゼレフ書の悪魔だと伝えると評議員は頭が痛そうな顔をした。

依頼自体は1日で終わったがその後の事情聴取に丸1日かかってしまい、ハルトがギルドに帰って来たのは2日後だった。

 

「ただいまーいやー今回の依頼は早く済んだぜー」

 

ハルトが気楽にギルドに入るが全員何かを話しこんでおり、反応してくれない。

 

「………」

 

誰も反応してくれず、ハルトは片腕をあげた状態で固まってしまう。

その反応にハルトは若干泣きそうになった。

 

「それでは行ってまいります」

 

「う、うむ。ほどほどにの…」

 

すると、カウンターでマカロフと話していたエルザがこちらにやってくる。

 

「ハルト、戻ったのか」

 

「お、おうエルザ。みんな反応してくれないから無視されているのかと思ったぜ」

 

ハルトに気づいたエルザが挨拶をしてくれたので、なんとか持ち直したが目尻にキラリと光るものが見えた。

 

「ちょうどいい、一緒に来てくれ」

 

エルザは有無も言わさずハルトの腕を掴みギルドの出口に向かう。

 

「お、おいっ! どういうことだよ!? 説明しろ!」

 

「それは後で話す」

 

エルザの表情は鬼気迫るもので、ハルトはこれ以上聞くのは無理だと思い、マカロフのほうを見るがハルトに向かって全身でジェスチャーをした。

 

『ま・か・せ・た・ぞ』

 

「どういうことだー!!」

 




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第22話 1人じゃない

おまたせしました!


ハルトはエルザに無理矢理連れられ、港町ハルジオンに列車で向かっていた。

その途中で何故連れられたかを説明された。

 

「はぁ!? ナツ達がS級クエストに行ったぁ!?」

 

「あぁ、まったく…」

 

エルザは腕を組み、目を閉じて心底失望したと言った顔をし、ため息を吐いた。

ハルトはあまりのことに開いた口が塞がらない。

 

「で…それを連れ戻しに行ったグレイも戻らずと…」

 

「そうだ」

 

ようやく落ち着いたのかハルトは少し考え、エルザに聞こえないくらいの大きさで呟く。

 

「もしかしたら俺のせいなのかもな…」

 

「何か言ったか?」

 

「いいや、なんでもない。 取り敢えずあいつらを見つけ出さないとな

あいつらが行った場所はどこなんだ?」

 

エルザは閉じていた目を開き、真剣な目でハルトを見る。

 

「悪魔の島、ガルナ島だ」

 

それを聞いたハルトは深いため息を吐き、座席の背もたれに深くもたれ外の景色を見ながらこぼした。

 

「また悪魔かよ…」

 

 

ハルジオンに着き、さっそくガルナ島に行こうとするが、どの船乗りに頼んでもあんな恐ろしい島に行きたくないと言い、乗せてくれなかった。

 

「どの船も乗せてくれねぇな」

 

「あぁ、しかし船乗り達が言うには前にも乗せてくれと言って来た者たちがいたらしい。 恐らくナツたちだ」

 

そう言うエルザは顔を険しい。

 

(じいさんが俺に頼んだのはこういうことか…)

 

マカロフが頼んだ理由がエルザがナツ達にやり過ぎないように止めるためだな、とハルトは思った。

 

「だけどどうする? 船が無いんだったら泳いで行くか?」

 

「いや、あそこにちょうどいい物がある」

 

エルザが指さす先には明らかに海賊船だとわかる船があった。

 

「いや、流石にあれは…って聞けよ!」

 

ハルトが流石にやめたほうがいいと言おうとするが、エルザはハルトの言葉を聞かず海賊船に向かって行く。

ハルトは乗り物に乗りながらの戦いは苦手なため待っているだけだが

悲鳴が絶えず船の中から聞こえるので、顔を引きつらせてしまう。

悲鳴が止み船から降りてくるエルザはどこかやりきった顔をしていた。

 

「さて、私の交渉でガルナ島に行くことができるようになったぞ」

 

「……交渉?」

 

「さぁ、行くぞ」

 

 

ハルトたちが船に乗り込み、ガルナ島に向かうが船の乗組員はエルザによってほとんどが倒されており、船長が船を操っているがすでにボロボロだ。

 

「あ、あんたら……一体あの島に何の用なんだ…あの島には誰も近づくねぇんだぞ……!」

 

「いいから黙って船を操縦しろ」

 

エルザは無情に船長に剣を突き立て急がせる。

ハルトはそれを苦笑いをし、船長に同情しながら島に目を向けると波が不自然に大きくうねり、砂浜にぶつかるのが見えた。

それと同時にある匂いも漂って来た。

 

「っ!! エルザ! あそこにルーシィがいるぞ!!」

 

「何!? おい! もっと船を急がせろ!」

 

「む、無理だ! さっきの波で船のバランスをとらねぇと…」

 

ハルトはそれを聞き、船から飛び降り、魔力を足に集中させ海を蹴りながら島に向かった。

 

 

ルーシィ達は止めに来たグレイを巻き込み、無断でS級クエストの依頼場所であるガルナ島に赴き、そこにあった村の村長から月を破壊してくれと依頼された。

到底無理だと思いながらも近くにある遺跡が怪しいと言われ足を運んだが、そこには零帝率いる一味が島の地下に隠された氷漬けの化け物、ゼレフ書の悪魔デリオラを氷の封印から月の魔力を用いて解放しようとしていた。

それを阻止しようとルーシィ達は立ち向かったが、グレイは零帝の正体が自分の兄弟子であるリオンだと知り今回の事件はグレイの所為だと言われ、動揺し負傷してしまった。

ナツも氷漬けにされ、碌に動ける状態ではなかったが、なんとかグレイを助け出し逃げてきたが零帝の部下であるシェリー、ユウカ、トビーが村を襲ったがナツがユウカとトビーを倒し、ルーシィはシェリーをアクエリアスの自分に向けた攻撃に巻き込み、両方ともフラフラになったところでルーシィはラリアットを決め、倒した。

 

「アンジェリカ……私の仇を取って……」

 

「大袈裟ね! 死ぬ訳じゃないんだから!」

 

シェリーは倒れる間際に遺言みたいな言葉を残し、ルーシィは勝った喜びから笑いながらシェリーに言う。

すると森から巨大なネズミ、シェリーのペット、アンジェリカが現れ

シェリーの言葉に答えるためルーシィに襲いかかる。

 

(逃げなきゃっ!……!? 体が動かない!?)

 

ルーシィは波に巻き込まれ目を回し、うまく体を動かすことができなくなってしまったのだ。

 

(嘘……ここで死んじゃうの…? ハルト……)

 

迫り来る巨体にルーシィは本当に死の覚悟し、目を閉じるとハルトの顔が思い浮かんでくる。

しかし、いつまで経っても痛みが来ない。

目を開けると……ハルトがアンジェリカの顔を殴り、吹き飛ばしていた。

 

「ハルト!!」

 

ルーシィはハルトに会えて喜び、動かなかった体が動きハルトに近づくがハルトはルーシィを厳しい目で見るだけだった。

ルーシィはその視線に気づき、足を止め、自分がやってしまったこととハルトがここにいる訳がわかった。

 

「………」

 

「ハ…ハルト? あ、あの…その…これは……」

 

ルーシィは何とか弁解しようとするがハルトの視線で何も言えず、縮こまってしまう。

 

「ルーシィ殿ー!大丈夫でごじゃるかー!!」

 

「怪我とかしてないー!?」

 

そこにマタムネとハッピーが飛んできたが、こちらに視線を向けるハルトを見ると慌てて引き返すが…、

 

「ルーシィを見つけたのか、ハルト」

 

森の中からエルザが頭にコブをつけたマタムネとハッピーの尻尾を掴み、ぶら下げた状態で運んできた。

 

「エ、エルザも…」

 

「とりあえずグレイがいるところに行こうぜ」

 

「そうだな。 案内するんだ」

 

「ぎょい…」

 

「あい…」

 

ハルトがそう言い、皆が村に向かって進んだ。

 

「ハルト! あのね…私…」

 

「詳しいことは村についてから聞く」

 

「あ……」

 

ルーシィは思いきってハルトに話そうとするが、ハルトはそれをにべもなく切り捨て進んで行った。

ルーシィは手を虚しく空振るだけだった。

 

 

ガルナ島には依頼者が住んでいた村があったのだが零帝率いる一味のせいで破壊され、住人たちは外れにある物置に避難していた。

そこに負傷したグレイが運び込まれており、目を覚ますまで待つことにした。

ハルトはルーシィに目を向けるが顔を俯かせるだけで、目を合わせようとしない。

ハルトはため息を吐き、エルザのほうを向いた。

 

「悪いエルザ。 しばらく俺とルーシィの二人っきりにしてくれ」

 

「何?………わかった」

 

ハルトにそう言われエルザは不可解な顔をするが、ハルトとルーシィを見て了承し、簀巻きにされているマタムネとハッピーを連れて、外に出て行った。

それを確認したハルトはルーシィに話かける。

 

「さて……何でこんなことをしたんだ?」

 

「…………」

 

しかしルーシィは黙ったままだ。

 

「まぁ、何となくわかるけど…俺が関係してるんだろ?

何でルーシィがそこまで俺にしてくれるかはわからねぇけど、こん

な危ないことは二度としないでくれ」

 

ハルトはルーシィに厳しめ言うと、ルーシィの肩が震える。

 

「……って……」

 

「?」

 

「だってハルトに追いつきたいんだもの……!!」

 

ルーシィは目から涙をポロポロと出しながら声を出す。

それは今まで我慢していたものが壊れたような感じだった。

 

「私はハルトの隣に立って対等の立場になりたいの……!

置いていかれたくないの……!

一人ぼっちは嫌なの……!!」

 

ルーシィの頭によぎるのは幼少の頃の記憶、母親が死んで父親は仕事ばかりで自分に構ってくれずいつも一人ぼっちだった。

もしかしたらルーシィがハルトのことを好きになったのは面倒を見てくれたのが父親に甘えているみたい思え、より親近感がわいたからかもしれない。

「面倒くさい女だって思われていいの……

だって私、ハルトのことが……!」

 

その続きを言おうとした瞬間、ハルトはルーシィを抱きしめていた。

「誰もお前を置いていったりなんかしねぇよ。

俺たちは仲間(かぞく)なんだ。

ルーシィが俺と対等になりたいっていうなら俺も手伝う。

みんなが手伝ってくれる。

お前は一人ぼっちなんかじゃない」

ルーシィの目からは涙が溢れ、ハルトをギュッと抱きしめた。

ハルトもそれに答えるように強く抱きしめる。

しばらくしてからルーシィも落ち着き、お互い離れたが抱きしめ合っていたのでお互い顔が赤い。

 

「ありがとうハルト」

 

「お…おう。どういたしまして」

 

気恥ずかしいながらもルーシィは今までで一番の笑顔でお礼言い、ハルトはそれを見ると余計顔が赤くなった。

 

 

そのあとはエルザたちとグレアが起きるまで待っているがルーシィは付き物が落ちたみたいにスッキリした顔をしており、エルザは疑問に思ったが聞いては野暮だと思い聞かなかった。

朝方になるとグレイは目を覚まし、ハルトたちが待つテントに向かった。

 

「エルザ!ハルト!」

 

「よっ、グレイ」

 

「グレイ呆れて物が言えんぞ。 連れ戻しに行った者が逆について行くとは」

 

ハルトは普通に挨拶をしてくるが、エルザは鋭い眼光でグレイを睨む。

その睨みで少し後ずさりしてしまうが前に出る。

 

「聞いてくれ!ハルトたちが俺たちを連れ戻しに来たのはわかる。だけど、 今回の件を放って置くわけにはいかねぇっ!!」

 

「興味がないな」

 

あっさりあと言い捨てるエルザにルーシィも異議を申した。

 

「そ、そんな! ここまで関わっちゃったんだし、せめてこの事件を解決しても……」

 

ルーシィが言い切る前にエルザは喉元に剣を添える。

 

「何か勘違いしているようだから言っておくぞ。

私達がここに来たのは、お前たちを連れ戻しに来たからだ。

それ以外のことなどする気はない」

 

エルザの睨みはより鋭くなり、ルーシィは震えてしまう。

 

「放っておけっていうのかよ!!」

 

「正式に受理された依頼ならともかく今回はそうではない。

よって仕事をする義理もない。

それにお前たちが仕出かしたことは明らかに違反行為だ」

 

それを聞いてグレイは怒りに震えてしまう。

 

「見損なったぞ!! エルザ!!」

 

「なに?」

 

「グレイ! エルザ様になんでことを!!」

 

「いや、様って…」

 

「今すぐエルザ女王に謝るだごじゃる!」

 

「女王って…お前ら反省してるか?」

 

ハッピーとマタムネの言ったことはともかく、エルザはグレイの喉元にも剣を突き立てる。

 

「お前まで掟を破る気か、グレイ?

ただでは済まさんぞ」

 

グレイは傷つこうが構わず、素手でエルザの剣を掴む。

 

「勝手にしやがれ!! これは俺が決めた道なんだ!!

俺がやらなきゃいけねぇんだ!!」

 

グレイは掟を破るのはわかっているが、自分の兄弟子であるリオンを止めるため、何より師匠であるウルの意志を受け継ぐため止まるわけにはいかなかった。

エルザたちに背を向けテントから出て行こうとする。

 

「っ! 待て!!」

 

「………最後までやらせてもらう。切りたきゃ切れよ」

 

エルザが止めるがグレイの目には決意が宿っており、だれも、止められなかった。

グレイが出て行き、テント内は静かになるハルトは仕方がないといった顔をし、エルザに話かける。

 

「どうするエルザ? このままじゃあいつら戻ってこないぞ?」

 

「くっ…」

 

エルザは少し悔しそうな顔をし、マタムネとハッピーを縛っていた縄を切った。

 

「グレイを追うぞ、このままでは話にならん。

だが忘れるな罰は受けて貰うぞ」

 

エルザはそう言い、テントを出て行った。

それを聞いたルーシィたちは嬉しそうな顔をしハルトを見る。

 

「まぁ、そう言うことだ。全部は依頼を解決してからだ」

 

「うん!」

 

「ぎょい!」

 

「あいさー!」

 




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第23話 時のアーク

色々忙しかったので遅れちゃいました。


遺跡に続く道を進むハルトたちは道中でグレイから今回の詳しい事情を聞かされた。

「つまり、そのリオンって奴はお前たちの師匠を超えるために封印されたデリオラを復活させて倒すってことなのか」

 

「あぁ……だけどそんなことをしたってウルは超えられねぇ!

それにウルはまだ生きてんだ……なのに、あいつは……」

 

グレイとリオンの師匠ウルはデリオラを封印するため絶対氷結(アイスドシェル)を使い、封印したが、その魔法は使用者自身を氷に相手を封印する捨て身の魔法だったのだ。それによりリオンが氷を溶かすということはウルを殺すということなのだ。グレイはそのことで辛そうな顔をする。すると目の前に仮面を被った多くの人が現れた。

 

「なんだこいつら?」

 

「こいつらリオンの仲間か!?」

 

「零帝様のところに行かす訳にはいかん。 皆のものやってしまえ!」

 

一斉に襲いかかってくる手下達、ハルトたちは難なく倒していくが、数が多く、さらに何度倒してもゾンビの様に起き上がってきては再びハルトたちに襲いかかってくる。まるで執念で動かされてるようだ。

 

「ちっ!キリがねぇな…グレイ!お前は先に行け!!

ここは俺たちが引き受ける!!」

 

「いいのかよ!?」

 

「お前はリオンという者と決着を付けに行け!」

 

「気をつけてね!」

 

「ファイトでごじゃる!」

 

「頑張ってね!」

 

みんなからの激励にグレイは嬉しくなってしまう。

 

「……すまねぇ」

 

「馬鹿野郎! 仲間にはこういう時、礼を言うんだろうが!」

 

ハルトがそう言うとみんな、笑みを浮かべてグレイを迎え出してくれる。

 

「あぁ……ありがとうなっ!お前ら!!」

 

グレイが遺跡に向かおうとするとそれを塞ぐ様に立ちはだかる手下達。グレイと手下達の間にハルトは入り込み、手のひらを頭上で合わせると魔力が剣の様に伸び、手下達に振り下ろす。

 

「覇竜の断刀!!」

 

断刀を振り下ろしたことで発生した衝撃で手下達は吹き飛んでいき、

グレイが進む道ができた。

 

「さてと……なんとか行かすことができたな」

 

ハルトがそう言うも、手下はなお立ち上がる。

 

「しつこいな」

 

「これも零帝様の計画通りだ……」

 

「何?」

 

手下の中でも一番偉い様に見える男は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

そのあと、しばらく戦いが続いたがS級魔導士が2人もいるハルトたちに手下は全員倒された。

 

「ふぅ、やっと全員倒したな」

 

「あぁ、グレイを追うぞ」

 

その時、手下の1人が僅かだが体を動かし、ハルトたちの行く先を塞ごうとする。

 

「れ…零帝様の……ところには……行かせない……」

 

「見上げた忠誠心だな。 だがリオンがやろうとしていることは悪だ」

 

それを見てエルザは感心しない様に言うが、手下はそれを皮肉気に笑う。

 

「忠誠心なんてないさ……俺たちはデリオラに故郷を破壊された奴や家族を殺された奴の集まりだ…… だがリオン様はそんな俺たちの恨みを晴らしてくれると言ってくれた……だから従っていたんだ……!」

 

悔し涙を流しながらそう言うと、遺跡からゴゴゴ……という音が響いた。

 

「なんだ、この音は?」

 

エルザが遺跡の方を向くと地面に埋まる様に遺跡の片方にだけ傾き始めたのだ。

 

「なにが起こっているの……?」

 

「ナツだな、ありゃ」

 

「うん、あんなことをするのナツくらいだもんね」

 

「壊すの得意でごじゃるからな」

 

ルーシィが呟くがすかさずハルト、ハッピー、マタムネは平然とそう返す。

 

「とりあえず遺跡を目指して進むぞ!」

 

 

ハルトたちが遺跡に辿り着く頃にはもうひが沈み始めていた。

 

「誰もいないな」

 

「そうだな」

 

ハルトは辺りを見回している。

 

「どうした?」

 

「いや……(なんでアイツの匂いが……)」

 

するとまた遺跡が揺れ始めた。

 

「何!? 何が起こってるの!?」

 

「ちょっとルーシィ! 揺らさないでよ!」

 

「私じゃないわよ!」

 

傾いていた遺跡がどんどんと元に戻っていく。

 

「遺跡が元に戻った……」

 

あまりの事態に全員が呆然としてしまう。

すると遺跡の奥から光が差し込んできた。

 

「あれって月の光!?」

 

「どうして!?」

 

「誰かが儀式を続けているのか?」

 

「まずいな…ルーシィとエルザは上に行って儀式を止めてくれ」

 

「ハルトはどうするの?」

 

「俺はもし封印が解かれていたらまずいからな。本体を叩きにいく」

 

そう言うとルーシィたちは驚く。

 

「危険よ! デリオラってすごい化け物なのよ!?」

 

「大丈夫だって、それじゃ後でな」

 

ハルトはそう言い残し、穴から地下に降りていった。

 

「あっ! ハルト! もう……」

 

「ハルトの言うことにも一理ある。私たちは上に向かうぞ」

 

「ぎょい!」

 

「あい!」

 

エルザたちは上を目指して進むが、ルーシィは途中で振り返り、ハルトが降りていった穴を見た。

 

「気をつけてね……ハルト……」

 

 

ハルトは遺跡にできた地下へと続く穴を降り続けているが、降りるたびに顔が険しくなる。

 

(あいつめ……いったい何が目的なんだ……)

 

そんなことを考えながら降りていくとひらけた場所に出た。

そこではナツと奇妙な仮面を被った男、ザルティが戦っており、ナツが苦戦していた。

 

「クソッ!! 攻撃が当たんねぇーっ!!」

 

「ホッホッホッ、それではいつまでも終わりませんぞ〜?」

 

ザルティが手をかざすとナツの足元が崩れ、そこに水晶玉を使い、背後ががら空きになっているナツに向かって攻撃しようとするが、ハルトがその間に割り込み水晶を砕いた。

 

「ハルト!?」

 

「ホッホッ……これはこれは……」

 

「よぉナツ 、苦戦してるみたいだな」

 

「してねぇーよ!!」

 

ナツが怒鳴るがハルトは無視し、ザルティを見据える。

 

「ナツ、アイツと戦うの俺と代われ」

 

「はぁ!? なんでだよ!」

 

「お前苦戦してたからいいだろ?」

 

「苦戦なんかしてねぇっ!! こっから有利になってくんだ!!」

 

「苦戦してんじゃねぇか……」

 

ハルトは困ったように頭をかくが、何か閃いた。

 

「ナツ、今回お前らを連れ戻しに来たのは俺だけじゃない、エルザも来てるんだ」

 

「…………マジかよ」

 

「マジだ」

 

それを聞いた瞬間、ナツは顔が青ざめ体が震える。

 

「そこでだ。俺はアイツと戦いたい。お前はエルザにしばかれたくない。もし、お前が譲ってくれるならエルザに言ってやっても……」

 

「おしっ! そいつは任せるぜ、ハルト!! 俺はデリオラを倒してくる!」

 

ハルトが言い切る前にナツは下に続く道に進んだ。

 

「ホッホッホッ、行かせませんぞ?」

 

仮面の男がナツに水晶玉を向けてくるが、またハルトが阻止する。

ナツがいなくなった後、ザルティはハルトに話しかけてくる。

 

「よくもやってくれましたな。貴方よりあの少年の方が倒しやすかったのに……」

 

「下手な芝居はよせよ。 とっくに気づいてるぞ? ウルティア」

 

するとザルティの姿が煙のように消えていき、代わりに美しい女性が現れた。

彼女はウルティア。評議員であるジークレインの秘書をしている。

 

「あら? よく気づいたわね? さっきのサラマンダー君も私の匂いに気づいていたぽかったけど?」

 

「騙すんなら防臭剤でもかけとけ。 女の匂いがプンプンすんだよ」

「嫌だわ、エッチ」

 

「言ってろ」

 

お互いに軽口を叩くが、隙を見せず、すぐに動けるように構えている。

 

「何が目的でここにいる?」

 

「聞きたかったら力づくで聞いてみれば?」

 

ウルティアは怪しい笑みを浮かべ、水晶玉をハルト目掛けて操りぶつけてくる。

ハルトはもう一度壊したが、

 

「がはっ!?」

 

壊したはずの水晶玉は何故かハルトの腹にめり込んでいる。

 

「ぐっ……」

 

「ふふふ……」

 

次はハルトの周りに無数の水晶玉が現れる。

 

「!!」

 

「フラッシュフォワード」

 

一斉に水晶玉がハルトを襲うが、真上に隙がありジャンプしてかわすが、突然天井が崩れ落ちてきた。

ハルトは迫ってくる岩を砕き、難を逃れる。

 

「なんだよ、結構強ぇじゃねぇか」

 

「フフ……ありがとう。お礼にもっと激しくしてあげるわ!」

 

また無数の水晶玉が現れ、ハルトに迫ってくる。

 

「ありがた迷惑だわ!!」

 

ハルトはかわしていくが突然足場が宙に浮き、上にのぼった。

 

「くそっ!」

 

突然足元が崩れたため体勢を整え前に水晶玉がぶつかってくる。

全部防ぎきれず水晶玉がハルトごと地面にぶつかり、煙が上がる。

しばらく煙が立ちこみ、姿が見えなくなるが中から石がウルティアに向かって飛んでくる。

ウルティアはそれを空中で止め崩す。

 

「なるほど再生と破壊って訳じゃねぇのか。

てことは……時間系の魔法か。遺跡を直したのもお前だろ?」

 

煙の中からハルトが出てくるがグリフィドとの戦いでできた傷を巻いた包帯には血が滲み出ている。

余裕そうな顔をしているがダメージが大きいのはわかってしまう。

ウルティアはそれを聞き、一瞬驚いた顔をするがすぐにいつもの妖しい笑みを浮かべる。

 

「フフ……そうよ。 ほんの数回しか使っていないのによくわかったわね。 私の魔法は『時のアーク』、失われた魔法(ロストマジック)の1つよ。でも、私の魔法がわかったからって私に勝てるかどうかは別だけどね!」

 

そう言ってまた、無数の水晶玉を出現させる。

ハルトはそれを見て、目を閉じ精神を集中させる。

 

(連戦が続いたからな……体がそろそろ限界だ)

 

ハルトの体はグリフィドの戦いで大きいダメージが残っており、ウルティアという強敵と戦うには不利な状態だった。

 

(だけど……やらなきゃいけねぇ)

 

頭に浮かんでくるのは今も戦い続ける仲間の姿、ここで倒れては仲間を裏切ってしまう。何よりも……

 

「俺は妖精の尻尾の魔導士なんだからなぁ!!!」

 

目を開き、ウルティアを睨む目は気迫に溢れており、ウルティアはそれに後退りしてしまう。

 

「……っ! フラッシュフォワード!!」

 

水晶玉がまたむかってくるが今度はハルトもそれにむかって行った。

むかってくる水晶玉を魔力を込めた拳で次々と殴り壊していくが、数が多く、取りこぼしがハルトの体に突き刺さって行く。

しかし、ハルトは止まらない。

体が傷つきながらもウルティアに近づく。

その勢いは止まらず、距離が短くなってくる。

それを見てウルティアは少し焦りの表情を見せ、後ろに大きく飛び退く。

それと同時に水晶玉を消し自分の手元に引き寄せる。

ハルトはその隙を見逃さず、一気に距離を詰める。

しかしウルティアもただ見てる訳ではない。

 

「パラレルウェーブ!!」

 

今度は水晶玉が動く訳ではなかったが、1つの水晶玉から無数の水晶玉が出てきて波の様にハルトに迫ってきた。

 

「滅竜奥義……」

 

ハルトは右手に魔力を集中させる。

 

「竜牙弾!!」

 

ハルトはボール状に超圧縮された魔力である竜牙弾を投げ、水晶玉の波にぶつけた。

竜牙弾は水晶玉の波を割いて進んでいきウルティアに迫って行く。

しかしウルティアは間一髪のところで避けて服は竜牙弾の勢いで破れてしまい肌の露出が多くなってしまったが傷はない。

竜牙弾は壁にぶつかったが勢いは止まらず壁を削っていき、遂には爆発を起こし、壁にクレーターができてしまった。

それを見てウルティアは目を見開き、その破壊力に驚く。

しかし、その隙にハルトはすぐ近くまで来ていた。

 

「しまっ……っ!」

 

「これで終わりだな」

 

ハルトは左手の手刀でウルティアの首に魔力を突きつけ、動けない様にする。

 

「さて、話してもらうぞ。お前の目的を」

 

ウルティアは危機的な状況にもかかわらず、その顔に浮かんでいるのは妖しい笑みだった。

 




感想待ってます。


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第24話 師匠と弟子

ハルトはなんとかウルティアの猛攻に打ち勝ち、追い詰めるがウルティアの顔から余裕が消えない。

 

「いいわ、教えてあげる。

私は封印されているゼレフ書の悪魔、デリオラが欲しいのよ」

 

「あれはリオンって奴が倒すために協力してたのじゃねぇのか?」

 

「リオンにデリオラを倒すことなんて不可能だわ。

…… 絶対氷結(アイスドシェル)を使えば別だけどね」

 

「見殺しにする気か?」

 

「利用してただけだもの。そこまで思い入れなんてないわ」

 

ウルティアの言い方にハルトは顔が険しくなり、腕に力が入ってしまう。

 

「お前の目的はわかった。 デリオラはナツとグレイがなんとかしてくれる」

 

「……グレイにできるかしら?」

 

「お前グレイのこと知って……」

 

『グゥオオオォォォォォォォォォォッ!!!!!!!』

 

ハルトが聞き返そうとした瞬間、島中に叫びが響き渡った。

 

「何だ!?」

 

ハルトはその叫びに気をとられ、隙ができてしまい、ウルティアはハルトに一撃をくらわせ離れる。

 

「ぐうっ!?」

 

「フフフ……今回は負けちゃったけど、次は本気で戦いましょ?

お互い本調子でね?」

 

(こいつ気付いてやがったのか……)

 

ウルティアはハルトに背中を向け出口に向かおうとして、何かを思い出したかのように振り向いた。

 

「そうだわ。 今回私に勝てたご褒美に後で何かしてあげる♡

じゃあ、またね♡」

 

「待て!!」

 

ハルトが追うとしたが瓦礫が突然落ちて来て、遮られてしまった。

 

 

ハルトはウルティアを追うのをやめ、ナツたちの元に急いだ。

ハルトが一番下のところに着くと半身だけ氷漬けにされている化け物が叫びながらもがいており、ナツたちはそのすぐ下にいた。

 

「ナツ!!」

 

「ハルト!」

 

「おっ! ハルト!

あの仮面の男倒したのか?」

 

「まぁ、そんな感じだ。 それより……」

 

ハルトは叫ぶデリオラに目を向ける。

 

「ここまで来たらやるしかないなま……」

 

「おい!さっきは俺が譲ったんだから今度は俺にやらせろよ!」

 

「………エルザ」

 

「仲間だからな! 一緒に倒そうぜ!!」

 

あまりの変わり身にさっきまでの真剣な空気がなくなってしまう。

しかし、デリオラはそんなのに関わらず腕を振り上げる。

ハルトとナツが構え、デリオラが振り下ろそうとした瞬間……。

 

ビキッ

 

「「!!」」

 

デリオラの体にヒビがはいり、それは徐々にぜんしんに広がり、ついにはデリオラは粉々に砕けてしまった。

 

「長い間氷に閉じ込められてたおかげで徐々に生命力を奪っていたのかもな………」

 

舞い落ちる結晶を見ながらハルトはそう言う。

それを見てグレイとリオンの胸にはそれぞれ師匠に対する思いがあった。

 

「敵わん………俺にはまだウルを超えられん……」

 

リオンはグレイに負け、砕けるデリオラを見て改めて師であるウルの凄さがわかった。

グレイは自身のトラウマであるデリオラが砕けるのを見ながら、ウルが死ぬ前に残した言葉を思い出していた。

 

『お前の闇は私が封じよう』

 

目から流れる涙を抑えることができなかった。

 

「ありがとうございます………師匠……!!」

 

 

その後、ハルトたちはリオンたちを捕まえ、この島にかかる呪いについて聞き出していた。

元はガルナ島にいる住人が月の呪いで悪魔になってしまうのを調査、解決して欲しいという依頼だった。

しかし、リオンから出て来た答えは、

 

「俺たちは何も知らんぞ」

 

「なにぃーーー!!?」

 

まさかの何も知らないという返事にナツは声を上げ驚き、ハルトたちも驚く。

リオンは関係ないとばかり話を続ける。

 

「そもそも俺たちはデリオラを復活させるために3年間儀式を続けてい

た。ということは少なくても俺たちは3年間月の光を浴びていること

になる。しかしその間に悪魔になった人間なんて俺たちの中にはい

なかった」

 

それを聞き、エルザは考えた。

 

「ということはつまり……」

 

「村人たちがウソをついている」

 

リオンがそう言うが、納得がいかないとナツが詰め寄る。

 

「おめーウソついてんじゃねぇだろうな!!」

 

「ちょっと! リオン様に近づかないで!」

 

「やめろナツ」

 

ケンカになりそうな空気の中、エルザは月を見上げる。

すると何かに気づいたようで、村人たちがいるところに走り出した。

 

「住人たちがいるところに戻るぞ!」

 

「えっ!? うん!」

 

「じゃーな! リオン!!」

 

エルザに続きみんなが走って行く。

 

「ほら、ナツも行くぞ」

 

「いーや、まだこいつから聞き出してねぇ!」

 

「はぁ……仕方ねぇな」

 

「ぐぼっ!?」

 

「じゃーなー」

 

ハルトは腕を振りかぶりナツの首にエルボーをくらわせ、そのまま走って行った。

 

「やれやれ騒がしい奴らだったな……」

 

「まったくですわ!」

 

リオンは疲れたように息を吐き、走り去って行くハルトたちの背中を見る。

それはどこか眩しいものを見るように見えた。

 

「なぁ……ギルドって楽しいところか?」

 

 

エルザたちは村人がいる物置き場に走って行く。

 

「おい!エルザ何がわかったんだ!?」

 

ハルトがナツを引きずりながらエルザに質問する。

 

「それはついてから話す」

 

物置き場に着いたが、村人は誰一人としていなかった。

 

「どういうことなんだ? どこに行った?」

 

「は……ハルト……放してくれ……」

 

「あっ、わり」

 

首がずっとしまっていたナツは虫の息だ。

すると、そこに村人の一人が現れた。

 

「みなさん! よかった! 無事だったんですね!!」

 

「みんなはどこに行ったの?」

 

ルーシィが聞くとハッとし、慌てた。

 

「それがとんでもないことが起きたんです! とにかく着いて来てください!!」

 

村人に連れられて村があった場所に向かった。

村はリオンの仲間の一人であるシェリーのペット(?)のアンジェリカが持って来た溶解性のあるゼリーで跡形もなくなくなってしまい、

その為、外れにあった物置き場に避難していたのだ。

村の周りにあった柵を越えると、そこにはなくなったはずの家屋が全て元通りになっていた。

 

「どういうことなんだ……?」

 

呆然とするハルトたちに村長が近づいて来た。

 

「おぉ! 魔導士殿! 村をよくぞ戻してくれましたな!」

 

「いえ……私たちは……」

 

そのときハルトの頭の中でウルティアの言葉がよぎった。

 

『私に勝てたご褒美に後で何かしてあげる♡』

 

「あいつか……!」

 

「ハルトどうしたの?」

 

「いや……なんでもない」

 

ルーシィは呟いたハルトに聞くがはぐらかされてしまう。

すると、喜んでいた村長は突然険しい顔になった。

 

「それで……いつ月を壊してもらえますかな!?」

 

今回の依頼は村に降り注ぐ呪いの原因である月の破壊だったのだが、いくらナツ達でもそれは不可能だ。

しかし、村人達を悪魔の姿に変えていることは未だに解決していない。

 

「いや、それはいくらなんでも……」

 

対応に困っているルーシィの横をエルザが割って出てくる。

 

「わかりました。月を破壊しましょう」

 

『なにぃーーー!!!?』

 

エルザの一言に全員が驚く。

 

「おい! エルザでもそんなことできんのかよ!?」

 

「わかんねぇけど、あいつならやりそうな気がすんな……」

 

「バケモンじゃねぇか……」

 

ナツ、ハルト、グレイが思ったことを口に出していく。

エルザは全員が見えるところに立ち歩きながら説明を始めた。

 

「今回の依頼は村人たちが月の呪いで悪魔に変えられたの解決することだ。 そしてその悪魔に変化するのは3年前からだ。さらに、リオンたちもの月の雫の儀式を始めたのも3年前だ。しかし、リオンたちには影響がなかった。つまりキャアッ!!」

 

突然エルザが可愛いらしい悲鳴をあげて何故か作られていた落とし穴に落ちた。

 

「お、おい…落ちたぞ……」

 

「あ、あぁ……結構可愛い悲鳴だったな」

 

「あ〜ぁ」

 

「私あんな穴なんて知らない、知らない!!」

 

「ルーシィ殿のせいでごじゃるな」

 

「ルーシィのせいだね」

 

しかしエルザは何もなかったように出て来た。

 

「つまりこの呪いの影響はこの村の住人だけにしかないということになる」

 

(何事もなかったように出て来た……)

 

(健気だな)

 

「だからって月を壊すことと何の関係があるんだよ?」

 

グレイがそう聞くとエルザは笑みを浮かべた。

 

「壊せばわかる。ハルト」

 

「ん?なんだ?」

 

エルザは換装で鎧と槍を出した。

 

「月を壊すのを手伝ってくれ」

 

ハルトは一瞬目が点になったが了承した。

 

「わかった」

 

エルザとハルトは村で一番高い見張り台に登った。

 

「この巨人の鎧は投擲力を高める。さらにこの破邪の槍で月を破壊するが私の力だけでは無理かもしれん。そこではるとに手伝ってもらいたい」

 

「具体的に何すればいいんだ?」

 

「私が投げる瞬間、槍の石突きを全力で殴ってくれ」

 

エルザは槍の刃が付いているほうの逆の先端部を見せながら説明する。

 

「いいけどよ……いくら俺の全力を出したからって月に届くかどうかはわかんねぇぞ?」

 

「構わん。やってくれ」

 

準備が整い、いよいよ月の破壊が始まる。

 

「本当にやる気かよ……」

 

「できるのか?」

 

周りからは不安の声が上がっている。

エルザが投げ用とした瞬間、

 

「今だ!!」

 

「覇竜の螺旋拳!!」

 

エルザの投擲にハルトの攻撃が加わった槍は勢い良く月に向かっていく。

 

「「いけぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 

エルザとハルトがそう叫んだ瞬間、月にヒビが入った。

 

「嘘っ!?」

 

「マジかよ!?」

 

しかし、ヒビは月の面積を超え空全体に広がり、割れた。

その先には紫の月ではなく、綺麗に光る月があった。

 

「なっ!どういうことだ!?」

 

「何が割れたの?」

 

見張り台から降りて来たエルザが説明を始めた。

 

「私たちが破壊したのは儀式で作り出された呪いの膜だったのだ。

月の光がその膜を通って月の雫ができていた」

 

すると、悪魔の姿だった村人たちが光出す。

 

「おぉ、呪いが解けるぞ!」

 

「いいや」

 

グレイがそれを見て嬉しそうにするがエルザは即座に否定する。

光が収まるが村人の姿は変わらない。

 

「どういうこと……?」

 

「呪いは解けなかったのか?」

 

「いいや、違う。リオンたちは3年間同じ、環境にいたが何の影響もなかった。つまり人間には影響がなかったということだ。しかし、そうではない者には影響があったようだな」

 

「てっことは……」

 

「つまり……」

 

「そう、彼らは元から悪魔だったのだ」

 

「「「「「「何ぃーーーー!!!!?」」」」」」

 

エルザ以外が驚いた。

それはそうだろう、人間と思っていた人が悪魔だったなんて思いもしなかった。

 

「あっ、そういえば……」

 

「だんだん思い出してきた……」

 

「そうだ俺たちは悪魔だったんだ!」

 

村人たちは徐々に記憶が戻ってきたのか呟きはじめる。

 

「そして月の雫は悪魔に記憶障害を起こさせる副作用があったようだな」

 

みんなが騒然としているとある男が現れた。

 

「みんなやっと思い出してくれたようだな」

 

「あっ、あなたは……!」

 

「おっちゃっん!?」

 

現れたのはナツたちをガルナ島に案内したポポという名の漁師だった。ナツたちがガルナ島に行こうとしたがハルトたち同様、誰も乗せてくれなかったが、魔導士だと知るとガルナ島の事件の解決を約束に島まで運んでくれたのだが、海のど真ん中で突然姿を消してしまい、

村に着くと何と彼は死んでしまった村長の息子だと言われたのだ。

 

「ま、まさか……」

 

「ゆ、幽霊でごじゃるか……」

 

「え”っ!!!?」

 

「なんでハルトがそこまでびっくりするの?」

 

「えっ!? いや、その……」

 

そんなハルトたちを尻目に村長がポポに近づいてくる。

 

「ぽ……ポポなのか……?」

 

「あぁ、みんな記憶が混乱しちまって危なかったからよ。

姿を消してたんだ。悪かったなみんな」

 

「ポ……ポポーー!!」

 

「ハハッ、親父ー!」

 

村長は堪え切れず翼を出し、ポポに抱きついた。

ポポも翼を出し、抱きしめ、空を飛んだ

みんなポポが帰ってきたことに大喜びし、空に飛んで、祝福した。

 

「みんな悪魔なのに、どっちかって言うと天使みたいだね」

 

「だな」

 

ルーシィが言う通り、夜空に飛び回り、喜びを祝福している姿は光り輝き天使のようだった。

 

 

ポポが帰ってきたことと妖精の尻尾が事件を解決してくれたお礼に宴が行われている村を一望できる木の枝に座りながら、その様子を見ている1人の影があった。

 

「今回は随分と気前がいいんだな、ウルティア」

 

彼女はウルティア、水晶玉こしに誰かと話しているようだ。

 

「たまにはいいことをしたいと思ってもいいじゃないですか」

 

「フッ、まぁいい。しかし、デリオラが絶対氷結で命を落としているとは予想外だったな。なぁ、ウルティア(ウルの涙)」

 

それを言われたウルティアは一瞬無表情になり、どこか遠くを見てたがすぐに水晶玉の向こうにいる男に返した。

 

「嫌だわ、意地悪をしないでください。ジェラール様」

 

ジェラールと呼ばれた男はフッと笑みを浮かべ、水晶玉から姿を消した。

ウルティアはそれを確認し、笑みを浮かべた。

 

「利用できるものは何だって利用してやるわ……

貴方もね、ジェラール様……」

 

静かに、そして誰にも気づかれぬように悪意は動き出していた。

 




感想待ってまーす。


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第25話 デート

今回一番長いっす


ガルナ島の一件が終わり、ハルトたちは帰路に付いていた。

結局今回はナツたちの勝手な行動なので報酬はもらわなかったが、せめてものお礼で黄道十二門の一つ、人馬宮の鍵をもらい、ルーシィは大喜びしていた。

マグノリアに着いて、ギルドの向かうなか、ナツが話し出した。

 

「でもよーS級クエストは達成できたわけだから、じっちゃんも許してくれんだろ?」

 

「だよね、もしかしたら一気にS級に行けたりして」

 

「そんな訳あるわけないだろう。しっかりと罰は受けてもらう」

 

ナツとハッピーが期待を込めて話すがすかさずエルザがバッサリと切る。

罰と聞いた瞬間、ルーシィを除く違反した者は肩を落とし、この世の終わりのような顔をした。

 

「なっ、何!? そんなに怖いの!?」

 

「今のうちに遺書を用意しとくでごじゃる……」

 

「そこまで!?」

 

しかし、ナツは諦めていなかった。

 

「は、ハルト! エルザに話してなんとかしてくれる約束だろっ!」

 

「えぇっ、マジで……」

 

ナツの泣きそうな顔に流石に居たたまれなくなったハルトはエルザを説得してみる。

 

「あのよ〜エルザ……今回はこいつらも頑張ったわけだし、少し多目に見るってのは……」

 

「あぁん? 何か文句でもあるのか?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

ハルトはエルザの凄みに負け、直角にお辞儀し、そのまま後ろに下がった。

そしてナツのほうを向き、

 

「ごめん、無理だった」

 

「アホーー!!」

 

「あんなの無理だろ!? 人殺しの目つきだったぞ!! 怖いわ!!」

 

「そこをなんとかしてくれよ!! ぐわっ!?」

 

いつの間にかナツの後ろに回り込み、襟を掴み引きずりながらギルドに進む。

 

「ふふっ、腕がなるな」

 

「いやーー!!」

 

「何!? 何が待ってるの!?」

 

「骨は拾ってやるよ」

 

 

ガルナ島の一件が終わり、数日後ルーシィはハルトの家の前にいた。

ハルトの家は住宅外にある一軒家だ。1人暮らしの男が住むには些か大きいような気がするが。

それはさておき、何故ルーシィがハルトの家の前にいるかと言うと、

それは数日前に戻る。

お仕置きが終わった後、マタムネが話したのだ。

 

『暫くハルトも療養するらしいでごじゃるから……

デートに誘うチャンスでごじゃる………がくっ………』

 

マタムネの遺言(?)を機会にマタムネとずっと考えていたハルトをデートに誘おうと思ったのだ。

しかし、いざ誘おうと思ったら、緊張してしまい数日たってしまったのだ。

しかし、今日は決心し、家まで来たが扉の前で止まってしまった。

 

(ど、どうしよう……なんて誘おうかしら……!?)

 

また頭がパニックになってしまっている。

頭を振り、気合いを入れ直す。

 

「ルーシィがんばるのよ! 私ならできるわ!!」

 

ルーシィが扉に手を掛けようとしたら勝手に扉が開き、中からハルトが出て来た。

あれだけ騒いでいれば家の中にいる人は気づくだろう。

 

「あっ」

 

「ん? よぉルーシィ、どうした?」

 

「えっ、いや、そのっ!」

 

予想外のことに頭がパニックになってしまった。

苦し紛れに出した言葉は、

 

「き、来ちゃった♪」

 

「………」

 

(何言ってんの私ーー!?)

 

ハルトは呆然とした表情でルーシィを見て、ルーシィは内心失敗したと慌てている。

ハルトは表情を崩し、少し笑いながらルーシィを招く。

 

「何やってんだよ。とりあえず入るか?」

 

「う、うん」

 

ルーシィはリビングまで招かれ、ソファに座りながら、さっきのことを後悔してた。

 

(絶体変な奴って思われた………)

 

「気にすることないでごじゃる。印象には残ったでごじゃる」

 

「そうだけど……………なんでいるの?」

 

いつの間にかマタムネが隣座ってルーシィを励ましていた。

 

「それはせっしゃもここに住んでるでごじゃるからな。

それよりここまで来れば、あとは誘うだけでごじゃる」

 

「そ、そうだけど……」

 

すると、ティーセットを持ってハルトが戻って来た。

 

「紅茶でよかったか?」

 

「え、うん! ありがとう!」

 

紅茶を飲み、一息つくとハルトが話を振ってくる。

 

「それで今日は何のようなんだ?」

 

「うぇっ!? う、うん。実は………」

 

ルーシィがマタムネに助けを求めるように視線を送ると、マタムネはガッツポーズを取って応援した。

 

「よし、今日一緒に出かけようと誘いにきたの!」

 

「なんだそんなことか。 いいぜ、行こうか」

 

(やったーーー!!!!)

 

ルーシィの心の中では天にまで上っている気分だ。

 

「じゃあ、少し待っていてくれ。準備してくる」

 

「うん!」

 

ハルトがリビングからいなくなるとルーシィはマタムネと喜びで抱きしめあった。

 

「「やったーーー!」」

 

「やったわよ!マタムネ!!」

 

「よかったでごじゃるな! ルーシィ殿はクソヘタレでごじゃるから

一時はどうなるかと………」

 

「あんた結構口悪いわね………」

 

喜びも落ち着き、ハルトとマタムネの家を見渡す。

するとリビングに置いてある本棚に目が入った。

 

「へぇーー結構ハルトも読書家なんだぁ」

 

その本棚にはいろいろな本があった。

本を見ているとある本がルーシィの目に止まった。

 

「これって……!?」

 

するとそこにハルトが戻ってくる。

 

「待たせたな。行こうか……どうした?」

 

「ルーシィ殿があの本を見てから固まったでごじゃる」

 

マタムネが指差す方には本を見つめて離さないルーシィがいた。

ハルトは近寄り肩を叩く。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「あっ、ハルト! ねぇ、これって……」

 

「ん? あぁこれか」

 

ルーシィが差し出してきた本はとても古いもので、表紙には英語で

『SEVEN KNIGHTS』と書かれている。

 

「これどこで手に入れたの!? この本ってもう絶版されてるから滅多に手に入らないんだよ!!?」

 

「お、おぉう……一旦落ち着け」

 

ルーシィは興奮が治らず、ハルトに詰め寄り、ハルトは気圧されてしまう。

そこにマタムネが入ってくる。

 

「そんなにその本はすごいのでごじゃるか?」

 

「勿論よ! この本って歴史的にも価値があるらしくて歴史研究家からしたら喉から手が出るほど欲しい見たいなのよ! それで読書家の間では伝説的なものになってるの! まさかこんな近くにあるなんて……」

 

「へぇ、そうなのか……だからレビィのやつあんなに嬉しがってたなか」

 

「レビィちゃんが?」

 

「あぁ、一度この本を借したんだ」

 

レビィは妖精の尻尾の魔導士の1人で、本が好きで本好きのルーシィとは仲が良い。

 

「そうなんだ……、ねぇ私も借りていいかな?」

 

ルーシィは若干上目遣いでハルトにお願いすると、その仕草にハルトは顔を少し赤くした。

 

「あ、ああ、いいぜ」

 

「ありがとーー!!」

 

「照れてるでごじゃる」

 

「うるせー!」

 

 

そのあと、2人は出かけたがマタムネは、

 

『急用ができたので2人で行ってくるでごじゃる』

 

と言い、どこかに行ってしまった。ルーシィは内心マタムネもいてくれて助けてくれると思っていたのだ。今はハルトとルーシィの2人きっりでのお出かけ、つまりデートだ。

 

(ハルトと2人きっりだなんて……!)

 

ルーシィは心臓が爆発しそうだった。

 

「それじゃあ、どうする?どっか行きたいところとかあるか?」

 

「うぇえっ!? あっ、そ、そうね……」

 

突然話しかけられ変な声を出してしまったルーシィは恥ずかしくて少し顔を赤くしながら返事をした。

 

「買い物に付き合って欲しいの。新しい服が欲しいんだけどマグノリアのお店ってあまり知らなくて」

 

「それならいい店を知ってるぜ」

 

2人は店が建ち並ぶ商店街を目指して歩き始めた。

そんな2人を建物の影から窺う影が3つ。

 

「ふむふむ、取り敢えずは出かけたでごじゃるな」

 

「ルーシィはヘタレだからね、ハルトがリードしないと……」

 

「なぁ……なんで俺らこんなとこで隠れてんだ?」

 

さっき出かけたはずのマタムネに加え、ナツとハッピーが影からハルトたちをみていた。

ナツが不思議そうにそう言うとマタムネとハッピーは呆れたように息を吐いた。

 

「もうわかってないなーナツは面白いから隠れているんじゃないか」

 

「そうでごじゃるよ。これをネタにしばらくは弄れるでごじゃる」

 

何気にひどいことを言うハッピーとマタムネ。

それを言われてもやはり納得がいかないナツは首をかしげる。

 

「面白いなら、みんなと遊べばいいじゃねぇーか。おーい!ハル…」

 

「ダメだって!ナツ!! それじゃあ意味がなくなっちゃうよ!!」

 

ハッピーがナツの口を抑えるがそれをどかして言おうとする。

 

「なんだよ? いいじゃねぇーか。おーいハル……」

 

「ちょいやー!!」

 

「ぐはっ!!?」

 

台無しになってしまうと思い、焦ったマタムネはナツのケツに木刀を刺した。

 

「ダメでごじゃるよ!! 全て無駄になっちゃうでごじゃる!!」

 

「止めたのはいいけどむごすぎるよ……」

 

ナツは白目をむいて倒れ、痙攣している。

 

「今回はただ見ているだけなの?」

 

「いいや、恋にはトラブルが付き物でごじゃる! ハルトたちにはいく先々で大変な目にあってもらうでごじゃる!もしかしたら吊り橋効果があるかもしれんでごじゃる!」

 

マタムネは握り拳を作り、力説する。

 

「因みにどこ情報なの?」

 

「この前見た映画でそんなことを言っていたでごじゃる」

 

最初から心配だ。

 

 

ハルトとルーシィはハルトが知っている洋服店で服を買い、歩きながら話していた。

 

「ありがとうハルト。いいお店を紹介してくれて」

 

「いいってことよ。それにしても結構派手目なものを買ったな」

 

「こ、これから暑くなるし、ちょっと涼しめなのをね」

 

ルーシィは自分が欲しかったものとハルトの意識を惹こうと露出がいつもより少し多めの服を買ったが、試着で着た姿を見せたが余りハルトは惹かれなかったように見え、失敗したと思ったが、ハルト自身少し恥ずかしくて直視できなかったのだ。

 

「これからどうする?」

 

「まだ昼まで時間があるし、本屋に寄ってもいいかな?」

 

「おう、わかった」

 

2人は本を目指して歩き始めた。

その後ろをついているマタムネたちは、

 

「次で仕掛けるでごじゃるよ」

 

「あいさー!」

 

「け、ケツが痛ぇ……」

 

 

ハルトたちは本屋に来ており、ルーシィからオススメの本を紹介されていた。

 

「この本の作者はね、恋愛の心理描写を書くのがすごくうまいの。

恋愛ものを読むときはこの作者の本がオススメかな」

 

「へえー」

 

「こっちの本なんかは……」

 

ルーシィは自分が好きな本を紹介できてすごく楽しそうだ。

ハルトも興味深くルーシィの話を聞いている。

そして、その本棚の逆側でマタムネたちは作戦を立てていた。

 

「ハルトたちはこの本棚の逆側にいるでごじゃる。そこでせっしゃ達が本棚を倒してルーシィ殿を危険な状態にするでごじゃる。そこに颯爽と助けに入るハルト。その吊り橋効果で2人の仲は一気に進展するでごじゃる」

 

「なるほどー」

 

「じゃあナツ殿お願いするでごじゃる」

 

「俺がやんのかよ……」

 

ナツは渋ったがマタムネが木刀をちらつかせるとケツを庇いながら渋々やることにした。ハルトたちがいるところの本棚の逆側に回ったナツたちはは気づかれないように本棚を押した。迫る本棚にルーシィは最初気づかなかったが、迫る影でようやく気づく。しかし、避けることはできない。

 

「へっ? ……きゃあっ!!」

 

ルーシィは目を閉じ、本を落とし、しゃがんで痛さに備えようとしたがいつまでたっても痛さがこない。恐る恐る目を開けるとハルトが本棚を支えていた。

 

「ハルト!」

 

「ルーシィ大丈夫か?」

 

ハルトはルーシィが無事なことを確認すると本棚越しに逆側の方を少し見て、勢いよく本棚を戻した。ナツたちは作戦が上手くいって喜んでいたがハルトが勢いよく本棚を戻したので本が飛び出し、ナツたちの頭に直撃した。

 

「「「いでっ!?」」」

 

「なんの音?」

 

「気のせいじねぇか?」

 

 

本屋をあとにしたハルトたちは昼食のため近場の喫茶店に寄っていた。そこには頭にたんこぶをができているナツたちもいた。

 

「次の作戦に移るでごじゃる」

 

「次はどんな作戦するの?」

 

「次はナツ殿にこのラブラブジュースなるものを持っていって貰うでごじゃる」

 

マタムネは事前に用意した二人で一緒に飲まないと飲めないストローが付いている飲み物を出した。

 

「また俺かよ!?」

 

「仕方ないでごじゃる。せっしゃらが変装してもバレるでごじゃる」

 

ナツはマタムネとハッピーに無理矢理変装させられて、ハルトたちが座っている席にジュースを持っていった。

 

「お、お客さま!」

 

「ん?」

 

「こ、こちら俺の、じゃなくてマタムネの、じゃなくて当店のサービスでござる!」

 

「ござる?」

 

ナツは慣れない口調をなんとか誤魔化しながらもジュースをおき、戻っていった。

 

「なんだたっんだ?あの店員?」

 

「………」

 

ハルトが店員が進んだほう見てそんなことを言うが、ルーシィはそんなことより目の前にあるジュースのほうが気になっていた。

 

(こ、これって恋人たちとかが飲むようなものじゃない……! しかも

いらないものもあるし!!)

 

そのジュースに刺さっているストローはハート型に形作られており、添えてある果物にはハルトとルーシィの顔の絵がハートの中にあるし絵が旗のように刺さっている。ルーシィはそれを見て口をアワアワと動かしていた。

 

「まぁ、サービスだしありがたく頂くか」

 

「へっ!? そ、そうね!!」

 

ルーシィはハルトがジュースを見る前に旗を抜き投げ捨てた。

 

「今何したんだ?」

 

「なんでもないわよ!?」

 

旗は勢いよく投げられ、覗いていたマタムネの額に突き刺さった。

 

「ぅぼあっ!?」

 

「「ま、マタムネーー!?」」

 

「ん?なんだ?」

 

ハルトが声のしたほうを向いている間にルーシィは覚悟を決めた。それにこんなチャンスは滅多にないのだ。ここで決めるしかない。そう思った瞬間あることに気づいた、いや気づいてしまった。ハルトの背後の席にカナが座っていたのだ。カナはニヤけながらルーシィたちを見ており、ルーシィは冷や汗を流した。まずい、絶対にまずい、その考えしかルーシィの頭の中にしかなかった。それに気づいたハルトは後ろを向こうとする。

 

「なんか後ろにいるのか? うごっ!?」

 

ルーシィはハルトに見られてはまずいと思い、ハルトの頬を手で挟んでストローに口を突き刺し、自分もジュースを飲んだ。しかし、これで二人の顔は一気に近くなり、側から見ればルーシィがハルトの顔を掴んでキスをしているようにしか見えない。

 

(ち、近いーー!!)

 

ルーシィは顔を真っ赤にしてハルトの顔を見てしまう。ハルトも突然のことで驚いたが顔をルーシィの顔を見て真っ赤にしてしまう。カナはさっきよりもニヤけながら二人を見ていた。

 

 

マタムネは額に旗が突き刺さったため、夕方まで目を覚まさなかった。

 

「……はっ!」

 

「おっ、目ぇ覚ましたか」

 

「よかったー白目向いて倒れたんだよ?」

 

マタムネは夕焼けの空を見て慌ててナツたちに聞いた。

 

「ハルトたちは!?」

 

「もうデートも終わりっぽいよ」

 

「なにーー!?」

 

マタムネは驚いたが、すぐに考え出した。

 

「仕方ないでごじゃる……最後の作戦に移るでごじゃる」

 

「最後の作戦?」

 

マタムネは紙袋をどこからか出し、ナツに渡す。

 

「ナツ殿、これに着替えて欲しいでごじゃる」

 

「これか?」

 

「それに着替えて、チンピラに成りすまし、ハルトたちを襲って欲しいでごじゃる」

 

「はぁ!? 襲うのかよ!!?」

 

「そうでごじゃる」

 

マタムネはあっさりそう言うがナツは嫌そうな顔をする。

 

「ハルトと戦うのはいいけどよ……襲うってのはなぁ……」

 

「何も本当に襲うのではなくフリだけでいいのでごじゃる」

 

ナツはそれを聞き、嫌そうな顔をしたが仕方なく引き受け、紙袋の中身を確認した。

 

「おい! こんなの着んのかよ!?」

 

「そうでごじゃる」

 

「絶対に嫌だわ!!」

 

駄々をこねるナツにマタムネは仕方ないと言った表情をした。

 

「エルザ殿に言っちゃうでごじゃるよ?」

 

「あ? なにをだよ?」

 

「ケーキ」

 

それを聞くとナツは滝のように冷や汗が出る。

 

「いやーしかし、あのケーキはエルザ殿が予約して、一ヶ月も前から楽しみにしていたものだったのにまさかナツ殿が……」

 

「わかった!わかった!やればいいんだろ!」

 

ナツは悔し涙を流しながら建物の影に行った。それを見てマタムネは黒い笑みを浮かべる。

 

「フフフッ……これでハルトとルーシィ殿の仲は一気に良くなるでごじゃる」

 

「やることえげつないね……」

 

ハッピーはそんなマタムネを見て若干引いてしまう。

そんなことを言ってるとハルトたちがチンピラに絡まれ出した。

 

「もうでごじゃるか!早いでごじゃるな」

 

「あれ?なんかおかしくない?」

 

ハルトたちに絡んでいるのは明らかにナツではない。

 

「おうおう兄ちゃん! 見せつけてくれんじゃねぇか!!」

 

「まるで台本通りのセリフだな」

 

「あぁ!?んだとぉ!?」

 

その男は若干酔っ払ているのか顔が赤い。

 

「テメェ、彼女の前だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

「か、彼女!?」

 

ルーシィはチンピラの言葉に反応してしまう。

 

「面倒くせぇーな……行こうかルーシィ? ……ルーシィ?」

 

「彼女……彼女……」

 

ルーシィは顔を赤くして、壊れたラジオみたいに言葉を繰り返す。

 

「無視してんじゃねぇぞ!!」

 

チンピラは無視されたことに怒って殴りかかってくるがハルトは余裕で避けることができるがトリップしているルーシィはまだ殴り掛かられてることに気づかない。ハルトはルーシィの腕を引っ張って自分のところに連れてくる。その際、ルーシィは意識がはっきりしてなかったので足がもつれハルトの胸に飛び込んでくる形になった。

 

「ご、ごめん!」

 

「あぁ、大丈夫……だ……」

 

ハルトとルーシィの身長は頭一つ分くらい離れているが、偶然にもキスをする形になってしまい、自然と両者の顔が赤くなる。

 

「イチャついてんじゃねぇーよ!!」

 

「なっ!? イチャついてなんかねぇーよ!!」

 

ハルトは慌ててルーシィに離れるが、ルーシィは少し残念そうな顔をした。するとそこに数人の男たちが現れる。

 

「おい!何やってんだよ」

 

「あぁ!?」

 

どうやらチンピラの仲間で全員が顔が赤い。そこでハルトはその男たちの体にあるマークに気づいた。

 

(まずいな……)

 

「ルーシィ行くぞ!」

 

「えっ!?」

 

ハルトはルーシィの手を握り、走り出す。

 

「あっ!おい、待て!!」

 

ハルトたちが逃げ出したのに気づいたチンピラたちは追いかけ出した。その一部始終を見ていたマタムネたちは慌てていた。

 

「ど、どうしよう!?」

 

「どうするって……」

 

そこに変装したナツが戻ってきた。

 

「なんだ? 何かあったのか?」

 

それを見てマタムネは閃いた。

 

「いい考えがあるでごじゃる」

 

 

ハルトたちが走るが、後ろからチンピラたちが追ってくる。

 

「どうして逃げるの!? いつも見たいに倒せばいいのに!?」

 

「 それができねぇー理由があるんだよ」

 

ハルトは逃げ出したのはいいがその後どうするか悩んでいた。ギルドに行ってもいいがこっちの分が悪くなるかもしれない。すると横道からチンピラの仲間が現れた。

 

「いたぞ!」

 

「ちっ!」

 

引き返そうとするが後ろからも来ており、挟み撃ちにされた。

 

「もう逃げらんねぇぞ!」

 

「ん? おい、あの女……」

 

「あぁ、間違いねぇ……」

 

何やらチンピラたちはコソコソと話し合い、こちらを向いた。

 

「兄ちゃん、痛い目に遭いたくなかったらそこの嬢ちゃんを置いていきな」

 

「なんだと?」

 

ハルトは訝しむ。嬢ちゃんとはルーシィしかいない。

 

「いいから置いて行けって!俺たちはなぁ! ファン……」

 

チンピラたちが言葉を続けようとした瞬間、上から炎が落ちて来た。

 

「なっ、なんだ!?」

 

煙が晴れるとそこに居たのは、

 

「俺は正義の味方サマーマン! えーとっ、なんだ……とりあえずお前らをぶん殴る!」

 

「正義の味方なのか悪役なのかわかんない発言だなナツ」

 

「なっ!?ちげー!!サマーマンって言ってんだろーが!」

 

「それよりお前……何て格好してんだ……」

 

サマーマンの格好は顔に変な仮面をつけて、褌一丁の姿で、側から見たら、ただの変態だ。

 

「うるせー! 俺だってこんな格好したくねぇんだよ!」

 

仮面でわからないが若干肩が震えてるので泣いているのだろう。

そこにチンピラの1人が割って入ってきた。

 

「何がサマーマンだ!変態やろ……ワパッ!?」

 

ダサいと言った奴をナツは即座に殴る。

 

「誰が変態だぁ!! 俺だってしたくてしてんじゃねぇんだよ!!」

 

ナツもとい、サマーマンはチンピラを相手に圧倒していく。

ハルトはこの隙に行こうとした。

 

「ルーシィ行くぞ」

 

「えっ、うん」

 

「ナツ任せたぞ!」

 

「おう、って俺はナツじゃねぇ!」

 

 

ハルトたちはマグノリアにある広場に来ていた。

 

「ふぅ、なんとかなったな」

 

「そうね。でもなんだったのかしら、あの人たち?」

 

ハルトはそれを聞いて思い返すが今はルーシィと出かけているのだ。

ハルトはとりあえず頭の中にある考えを払った。

 

「今日はありがとう」

 

「ん?」

 

「買い物に付き合ってくれて」

 

「いいって、俺もいい気分転換になったし」

 

ルーシィが笑顔で話しかけるのを見るとハルトも自然に笑顔になった。夕焼けに照らされた広場は綺麗に色づき、ムードは最高だった。

 

(もしかして今ってチャンス……?)

 

ルーシィは夕焼けを見ているハルトの横顔を見ていると鼓動が早くなるのを感じた。今日一日一緒にいて、少し嬉し恥ずかしいことがあったがハルトとずっと一緒にいたいと思った。

 

(やっぱり私ハルトのことが好きだ……)

 

ルーシィは告白しようと決心した。

 

「ハルト!」

 

「どうした?」

 

「あ、あの……私……ハルトのことが……!」

 

ルーシィが次の言葉を言おうとした瞬間、後ろで爆発音がした。

 

「なんだ?」

 

ハルトがそっちを向くと、ナツもといサマーマンが大暴れしていた。

 

「俺は変態じゃねぇー!! 誰がグレイだぁ!!」

 

ナツは変態と呼ばれ、さらに今回のマタムネの作戦でストレスが溜まりすぎて爆発してしまったのだ。やたらめったら暴れるので広場が滅茶苦茶になってしまう。

 

「あーまずいな……このままじゃ、またじーさんに始末書が来るな。

止めるか…そういえばルーシィ、さっきは何を言おうとしたんだ?」

 

ハルトがナツのほうに向かって歩きだすが、振り向きルーシィが言おうとしたこと聞いた。

 

「えっ!? えーとっ、その……」

 

ルーシィはハルトを見ていると、顔が熱くなってくる。

 

「なんでもないです……」

 

結局ムードも勢いも無くなってしまったルーシィは言葉が尻しぼみになってしまった。

 

「そうか。じゃあ俺、ナツを止めてくるわ」

 

「うん」

 

離れていくハルトの背中を見ながらルーシィは少し思った。

 

(そんなに焦らなくてもいいよね? でもいつか……)

 

ルーシィは暴れているナツを止めているハルトを見て少し残念そうな顔をしたがすぐにいつもの元気のいい笑顔を浮かべ二人に駆け寄った。

 

 

後日、ルーシィはギルドでカナに絡まれていた。

 

「いったい、いつの間にあそこまで仲良くなったんだい?

見てるこっちが恥ずかしくなるくらい大胆じゃなかったか〜」

 

「いや、その……」

 

「へぇー、ルーちゃんハルトとデートしたんだ!」

 

「れ、レビィちゃん……声が大きい……」

 

カナが弄りはじめたことで近くにいたレビィも騒ぎだす。

 

「それで、どこまでいった? キスはしたの?」

 

「き、キス!?」

 

「あら? 何を話しているの?」

 

給仕をしていたミラも気になり話に混ざる。

 

「あ、ちょっと聞いてよミラ! ルーシィたらねぇ……」

 

「わー!わー!ミラさん!何でもないです!!」

 

その近くで頭にタンコブができたナツにグレイがからかっていた。

 

「おめー、褌一丁で暴れまわってたんだってな? まさか変態だったのかよ?」

 

「あれは仕方なくやってたんだよ!! それに変態のお前に変態っていわれたくねぇー!!」

 

「んだとコラァーー!! やんのか!?」

 

「どっちもどっちだね」

 

「服が脱げてるでごじゃる」

 

それを横で見ているハッピーと原因。

 

ハルトはそれを見て苦笑いして、マカロフに話しかける。

 

「じーさん、ちょっといいか?」

 

「ん? なんじゃ?」

 

「ちょっと話しておきたいことがあって……」

 

 

高級感があふれる部屋で一人の男が椅子に座り、紅茶を飲みながら新聞に書いてある記事を読んでいた。その記事は妖精の尻尾の活躍について書かれてあった。それを読むと顔が怒りに染まり、カップを持っていた手が震え、カップ全体にヒビが入り砕け紅茶が溢れる。

 

「おや? また割ってしまいましたねぇ」

 

すると部屋に二人の男が入ってくる。

 

「マスター、偵察に行かせた奴らからターゲットの確認が取れた」

 

それを聞き、口を三日月みたいに歪ませる。

 

「そうですか。ご苦労様です、ルシェド君。

それではガジル君……手筈通りにお願いします」

 

「ギヒッ」

 

静かに悪意は動き出す。

 




感想待ってます。


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幽鬼の支配者 篇
第26話 幽鬼の支配者


おくれました。


ハルト、マタムネ、ルーシィ、ナツ、ハッピー、グレイ、エルザは仕事を終え、ギルドに帰っていた。

 

「いやー今回の仕事は楽勝だったな!」

 

「あい!」

 

ナツは今回の仕事を思い返し、元気よく言う。

 

「まあ、俺がいたから楽にできたな」

 

「でしゃばってくんじゃねぇよ! グレイ!」

 

「あぁ? やんのかナツ!」

 

いつものようにケンカを始める二人に止めに入るエルザ。

 

「じゃれるな」

 

「「うごっ!」」

 

「いつも通りだね」

 

「お前らも飽きないな」

 

「ケンカするほど仲がいいでごじゃる」

 

それを見て呆れるハルトと、マタムネ。すると、ずっと眉間に皺を寄せていたルーシィが声を出した。

 

「あのー今回の仕事は私とハルトたちで行こうって決めてたのになんでナツたちがついてくるの?」

 

口元をひくつかせながら、若干言葉に怒りを乗せて言うとナツはあっけらかんに答える。

 

「だって俺らチームだろ!」

 

ルーシィは晴れやかに笑うナツを見て毒気を抜かれてしまい、仕方ないといった風に一息つき、笑顔を見せた。

 

「それもそうね」

 

ルーシィがそうナツに返事をするとハルトが周りをキョロキョロと見ていることに気づいた。

 

「ハルトどうしたの?」

 

「いいや……なんか見られてるなって思って……」

 

ルーシィも周りを見ていると確かにマグノリアの住人たちは遠巻きにハルトたちを見て、ひそひそと話している。しかし、その視線はどこか憐れみを含んでいるように感じた。

 

「なんだ?」

 

「奇妙だな……」

 

するとギルド周辺に人だかりができている。ハルトたちは人をかぎ分け進んで行くと目に入ったのは、いつものギルドではなく、いたるところに鉄柱が刺された無惨な姿だった。

 

「俺たちのギルドが!!」

 

「なんだよ……これ……」

 

「そんな……まさか……」

 

「誰がこんなことを……」

 

「ひどいでごじゃる……」

 

みんながギルドを見て、悔しそうに言うがハルトは何も言わずにいたことにルーシィは気づいた。

 

「ハルト?」

 

「………」

 

ハルトギルドに近づき、鉄柱に触れる。鉄柱に僅かに残っていた魔力を感じ取ると自分やナツによく似ていることに気づき、眉間に皺を寄せ怒りが溢れる。

 

「あいつらか……!」

 

「そう、ファントムよ……」

 

そこにミラが現れた。いつもの明るい笑顔はなく、悔しそうに目を伏せていた。

 

「悔しいけど…やられちゃったの……」

 

 

ハルトたちはミラに連れられ、ギルドの地下一階にある酒置き場についた。そこには他のメンバーもいており全員、悔しそうな表情をしていた。しかし、その中でいつも通り酒を飲んでいるマカロフがいた。

 

「よっ、おかえり」

 

「ただいまじーさん」

 

「ただいま戻りました」

 

「じっちゃん!酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ!!」

 

ナツがそうまくし立てるがマカロフは表情を変えず、酒を煽る。

それを見て流石のエルザも我慢の限界が来たのか、詰め寄る。

 

「マスター!! 今がどんな事態かわかっているんですか!!?」

 

「ギルドがこわされたんだぞ!!」

 

マカロフは一息つくと2人を宥めるように話す。

 

「まぁまぁ落ち着きなさいよ。そう騒ぐことでもないでしょ」

 

「!!」

 

「何ぃ!?」

 

マカロフの言葉に全員が驚く。

 

「ファントムだぁ? あんなバカタレ共にはこれが限界じゃ。誰もいないギルド襲って何が楽しいやら」

 

「襲われたのは夜中で、誰もいなかったの」

 

「不意打ちしかできんような奴らに目くじら立てることはねぇ。放っておけ」

 

マカロフは何もするな全員に聞こえるように言った。詰め寄ったエルザもとりあえずはマカロフの言葉に従ったがナツはそうもいかなかった。ナツはテーブルを叩き、抗議する。

 

「納得いかねぇよ!!俺はアイツら潰さなきゃ気がすまねえ!!」

 

「この話は終わりじゃ。上が直るまで仕事の受注はここでやるぞい。 ハルト、後で話がある。ここに残っといてくれ」

 

「仕事なんかしてる場合じゃねぇだろ!!」

 

マカロフはこれ以上取り合わないと話を遮る。ナツはまだ納得がいかないと詰め寄るがハルトが肩を掴み止める。

 

「やめろ」

 

「ハルト! お前は悔しくねぇのかよ!!?」

 

「悔しいに決まってんだろ!………だけどそれはここにいる全員がそうだ。 もちろんじーさんもな。じーさんには何か考えがあるんだろ。だから、ここは我慢するんだ。ナツ」

 

ナツは自分の肩に置かれている手が若干震えていることに気づき、ハルトも我慢していることがわかった。そのまま全員が悔しそうにしながら解散となった。

 

 

夜になりルーシィは自宅に帰っていた。しかし、その顔はくもっていた。

 

「なーんか大変なことになっちゃったな〜」

 

「プーン」

 

ルーシィの言葉に答えるように鳴くプルー。

 

「ファントムって妖精の尻尾と仲が悪いって有名だもんね。私本当はどっちに入ろうか迷ってたんだー」

 

「プーン?」

 

「だってこっちと同じくらいぶっ飛んでいるらしいし。でも、今はこっちに入ったよかったって思ってる。だって妖精の尻尾は……」

 

そう言いながら、家のドアノブに手を掛け、中に入ると、

 

「おかえり」

 

「おかー」

 

「おかえりでごじゃる」

 

「いい部屋だな」

 

「よぉ」

 

「おかえり、ルーシィ」

 

「サイコーーーー!!!?」

 

何故かいたハルトたちに出迎えられた。

 

「多過ぎるってのーー!!」

 

ルーシィは怒りに任せ、荷物をナツに投げつけた。

 

「ファントムの件でな。奴らがここに来たということは我々の住所が調べられているかもしれん」

 

「えっ?」

 

エルザはルーシィになぜ集まっているか説明する。それを聞いてゾッとしてしまう。

 

「だから、こうやってみんなが集まっている方が安全っていうミラの考えなんだ」

 

ハルトが付け足すように言う。

 

「そ、そうなの」

 

(まぁ、俺はそれだけじゃねぇんだけどな)

 

ハルトは心の中でそう独り言を言った。真意はわからないがハルトは別の目的があるようだ。すると少し顔をしかめたエルザが男たちのほうを向いた。

 

「お前も年頃の娘だしな。ナツにグレイ、ハルトだけをここに泊まらせるのは気が引けてな。だから同席してることにしたわけだ」

 

「別にハルトだけでもいいのに……」

 

「何か言ったか?」

 

エルザが理由を説明するがルーシィとしてはハルトと近づくいいチャンスだったのだが、そうはならず周りには聞こえない小さい声で不満言い、エルザの質問に首を横に振って誤魔化した。

 

「プーン」

 

「おぉ、プルー! なんだその食べ物!! 俺にも食わせてくれ!」

 

「俺はもう寝っからよぉ。起こすなよ?」

 

「エルザ見て〜エロい下着見つけちゃった」

 

「す、すごいな……こんなものをつけるのか……」

 

「ハルトも見てみるでごじゃる」

 

「こっちに向けなくていいっての」

 

「清々しいほど人ん家エンジヨイしてるわね」

 

ルーシィは諦めたようにため息を吐いた。

 

「それにしてもお前たち汗臭いな。風呂に入れ」

 

エルザはハルトたちをしかめっ面で見る。

 

「いいや。今日は面倒くせぇし」

 

「眠みーんだよ」

 

「ふぉれほひはれ」

 

ハルト、グレイ、ナツが答える。ナツは口にペロペロキャンディーをくわえて何を言っているかわからない。エルザは仕方がないと言った風に首を振り、ナツとグレイの肩を組むように手を置き、驚きの発言をした。

 

「仕方ないな……昔みたいに一緒に入ってやってもいいぞ? ハルト、お前もどうだ?」

 

「お前は羞恥心を学べ」

 

「「……」」

 

ナツとグレイは何も言えず黙るが、ハルトはエルザの天然発言に冷静に返す。そしてここにもう一人、黙っているのがいる。

 

(ハ、ハルトとお風呂………!)

 

それに気づいたマタムネとハッピーはニヤニヤしながら近づく。

 

「ルーシィ殿も一緒にお風呂どうでごじゃるか?」

 

「えっ!? ハルトと一緒なんてそんな……!」

 

「誰もハルトと一緒なんて言ってないよ?」

 

ルーシィは嵌められた怒りからか、それとも恥ずかしさから顔を真っ赤にした。

 

「と、とにかく! 私は後で入るから!!」

 

「ヘタったね」

 

「ごじゃるな」

 

 

そんな一悶着があったが女性陣は全員お風呂に入り、ルーシィは髪を拭きながらハルトたちに聞いてきた。

 

「ねぇ、例のファントムはなんで急に襲ってきたの?」

 

「さあな、今までも小さな小競り合いはあったけど、こんな直接的なのは初めてだ」

 

「じっちゃんもビビってねぇでガツンとやっちまえばいいんだ!」

 

「じーさんはビビってるわけじゃねぇだろ。一応、聖十大魔導士なんだからよ」

 

「ってか、何読んでんのよ!!」

 

ルーシィはグレイが読んでいた自分の書いた小説の原稿を取り返した。

 

「あっ!おい、気になるだろーが。このあとイリスはどうなんだよ」

 

ルーシィはグレイを無視し、ハルトのほうを向く。

 

「ねぇ、聖十大魔導士って?」

 

「魔法評議会議長が決めたこの大陸で最も優れた10人の魔導士につけられた称号だ」

 

「へぇーすごい!!」

 

ルーシィが興奮しているところにハッピーが一言付け足す。

 

「ファントムとマスター・ジョゼも聖十大魔導士なんだよ」

 

その言葉に反論するかのようにナツは大声を上げる。

 

「ビビってんだよ! ファントムって数だけは多いし!」

 

ナツは怒りに任せてテーブルを叩くが、それをグレイは冷静に返す。

 

「だから違ぇだろ。マスターもミラちゃんも2つのギルドが争えばどうなるかわかってるから、戦いを避けてんだろ」

 

「魔法界の秩序のためにな」

 

ハルトは神妙そうな顔をし付け加える。ルーシィはそれを見て恐る恐る聞いてみた。

 

「そんなに強いの? ファントムって?」

 

「たいしたことねーよ!あんな奴ら!」

 

「いや……実際争えば潰し合いは必至。戦力は均衡している」

 

そう言って、ファントムの戦力を挙げていく。

 

「マスター・マカロフと互角の魔力を持つと言われている聖十大魔導士のマスター・ジョゼ。そして向こうでのS級魔導士にあたるエレメント4。そしてハルト、ナツと同じ滅竜魔導士である黒鉄のガジル。今回のギルド強襲の主犯。鉄の滅竜魔導士」

 

「滅竜魔導士!!?」

 

ルーシィはハルトとナツ以外に滅竜魔導士がいることに驚いた。ナツはそれを面白くないのかフンっとそっぽを向いてしまう。

 

「ハルトとナツ以外にもいたんだ……」

 

「まあな、それよりもそいつらより厄介な奴がいる。マスター・ジョゼを抜いてファントム最強の男、指揮者(コンダクター)っていう二つ名を持つ奴なんだが、どんな魔法を使うかわからないんだ。ただそいつはたった1人で5つの闇ギルドを相手にして無傷で圧勝したらしい」

 

ハルトは真剣な顔をして言うとルーシィは慄いて喉をならす。

 

「な……なによそいつ……無茶苦茶じゃない……」

 

 

一方、今回の主犯である『幽鬼の支配者』(ファントムロード)では妖精の尻尾を襲ったことに騒いでいた。そんな中で男が1人テーブルを占領し、その上には大量の鉄が置かれており、その男はガジガジと音を立てながら食い散らかせていた。この男こそ妖精の尻尾のギルドを破壊した本人鉄の滅竜魔導士、ガジルだ。そこにファントムのメンバーが酔っ払ってガジルに話しかけてきた。

 

「よぉ、ガジル! 聞いたぜ〜妖精の尻尾に攻撃を仕掛けたんだって?

うはぁスゲェ!!あいつら今頃ブルーだろうなっ!! ザマぁみろってんだっ!!」

 

ベラベラとしゃべる男にガジルは、

 

「うるせぇ」

 

「ごっ!!!?」

 

自身の腕を鉄柱に変え、男の顎にぶつけた。男は顎から鈍い音をたて血を流し気絶した。しかし、周りは傷ついた男を助けるでもなく冷やかすだけだった。

 

「あいつバカだなぁ!」

 

「ガジルが飯食ってるときに話しかけんなよ〜」

 

ガジルは鉄を食い終わり、その男だけでなく全員に聞こえるように言う。

 

「妖精の尻尾が何だってんだ。強えのは俺たちだろうがよ」

 

「相変わらずだな」

 

そこにルーシィより淡い金髪をキッチリとオールバックで固めた男が近づいてくる。

 

「ルシェドか」

 

「やりすぎだ」

 

「はっ、飯のときに話しかけたのが悪い。俺は言ったぜ? 飯のときに話しかけんなってな」

 

ルシェドは倒れた男に視線を向けると、手を向け魔法陣を出した。すると傷ついたところがわずかに治った。

 

「治したのか?」

 

「いいや、自己治癒力を促しただけだ」

 

「お優しいことで」

 

ガジルは若干バカにするように言うがルシェドは無視をした。すると、幽鬼の支配者のギルドマスター、ジョゼが近づいてくる。

 

「火種は撒かれた。見事ですよガジル君」

 

「甘ぇよ、マスター。それじゃあ、あのクズ共は動かねぇよ。だからもう一つプレゼントを置いて来た」

 

それを聞いたジョゼは口を三日月みたいに歪める。

 

「それはそれは……ただし間違っても“奴”だけは殺してはいけませんよ」

 

「ギヒッ」

 

 

朝、マグノリアの南口公園は騒然としていた。中央にある大木の前に多くの人だかりができていた。

 

「すまん通してくれ。ギルドの者だ」

 

エルザを始め、多くのギルドメンバーが集まった。そしてその目に入ってきたのはあまりにも悲惨なものだった。妖精の尻尾のメンバーであるレビィ、ジェット、ドロイがボロボロの状態で大木に張り付けにされている姿だった。

 

「レビィちゃん……」

 

「ジェット!ドロイ!」

 

「ファントム……!」

 

ナツを始め、妖精の尻尾は仲間を傷つけられて怒りに震える。そこにマカロフがゆっくりと大木に歩み寄りレビィ達を見上げた。片手で顔を覆い、肩が震える。

 

「ボロ酒場までなら許せたんじゃがな……ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ……」

 

あまりの怒りにマカロフは持っていた杖を握り潰す。そして怒りに染まった声でこの場にいる妖精の尻尾に聞こえるように宣言した。

 

「戦争じゃ」

 

 




感想待ってまーす。


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第27話 戦争開始!!

フィオーレ王国の北東にある街、オーク。そのはずれに幽鬼の支配者のギルドがあった。

 

「だっはーー! 最高だぜー!!」

 

「妖精の尻尾(ケツ)はボロボロだってよ!」

 

「ガジルの奴、その上3人もやったんだってよ」

 

「ヒューーー!!」

 

「そういや、マスターが言ってた“奴”って誰だよ?」

 

「さぁ?」

 

「手を出すなとか言ってたな」

 

「どうでもいいさ。みじめな妖精に乾杯だ!」

 

「今頃羽をすり合わせて震えてるぜ!」

 

ファントムは妖精の尻尾を襲った悲劇を肴に酒を飲む。

 

「あ! いけね、もうこんな時間だ」

 

「なんだ?女か?」

 

1人の男が何かを思い出し、立ち上がった。

 

「まあまあいい女だ。依頼人だけどな。脅したら報酬を2倍にしてくれてよぉ」

 

「俺なら3倍はいけるよ」

 

「言ってろタコ」

 

男たちは下衆な表情を浮かべながら話をする。荷物を持った男は扉に向かい手をかけるが、突然扉をぶち抜き、男の顔に拳が叩きこまれ、男は吹っ飛んでいき壁にぶつかった。ファントムのメンバーは突然のことに驚き、破壊された扉のほうを向いた。

 

「妖精の尻尾じゃあぁぁぁっ!!!」

 

マスターマカロフを筆頭とした妖精の尻尾の魔導士が怒りの表情で立っていた。

 

 

「おおおらぁっ!!」

 

ナツは先駆けて敵の中に突撃し、炎を立ち上げ敵を倒していく。

 

「誰でもいい!かかって来いやぁ!!!」

 

「調子にのるんじゃねえぞコラ!!!」

 

「やっちまえーー!!!」

 

ファントムも突然のことで驚いたが武器を取り、応戦してくる。

 

「ア?」

 

グレイは敵を次々と凍らしていく。

 

「ぬぉおおおっ!」

 

エルフマンは片腕をテイクオーバーして、なぎ倒していく。

 

「オォッ!!!」

 

ハルトは一瞬のうちに敵を倒していく。カナやロキなど他のメンバーもファントムに対して優位に立ち向かっていく。

 

「マスターマカロフを狙え!!!」

 

数人のファントムの魔導士がマカロフを狙うが、

 

「かぁーーーーーっ!!!!!」

 

マカロフは一瞬で巨大化し敵を叩き潰す。

 

「ぐあぁあっ……!」

 

「ばっ……バケモノ!!!」

 

「貴様等はそのバケモノのガキに手ェ出したんだ。人間の法律で自分を守れるなどと夢ゆめ思うなよ」

 

「ひっ…ひぎ……」

 

マカロフの凄まじい迫力にファントムの魔導士は戦慄する。

 

「つ……強ぇ!!」

 

「兵隊どももハンパじゃねえ!!」

 

「こいつらメチャクチャだよ!!」

 

次第にファントムの魔導士は不利な状況になっていき混乱し始める。

 

「ジョゼーー!! 出てこんかぁっ!!!」

 

「指揮者はどこだ!!」

 

「どこだ!! ガジル、エレメント4はどこにいる!?」

 

マカロフはジョゼを探し、ハルト、エルザはファントムと主戦力を探す。それを上から眺めている影が複数あった。

 

「あれが覇王のハルト、ティターニアのエルザ……。凄まじいな。どの兵隊よりも頭1つ2つ抜けているな」

 

「ギルダーツ、ラクサス、ミストガン、カミナは参戦せず……か、なめやがって」

 

ルシェドはハルトとエルザが戦う様を見て感想を言い、ガジルは大きい戦力であるラクサスたちが参加していないのに対して悪態を吐く。

 

「しかし、これほどまでマスター・ジョゼの計画通りに事が進むとはな……せいぜい暴れ回れ、クズどもが…」

 

その言葉と共にガジルは不気味な笑みを浮かべる。

 

 

時間は少し遡り、ハルトたちがファントムと戦うためにオークの街を目指しているときルーシィはレビィたちの見舞いに来ていた。ルーシィもファントム戦に参加したいと思っていたがハルトに強く言われ参加することができなかった。

 

「ハルトもなんで連れて行ってくれなかったのかしら?」

 

少し不満気な顔をしながら独り言を言いながら、自宅に帰っていると突然雨が降り出した。

 

「何もう!? 通り雨?」

 

「しんしんと……」

 

するとルーシィの目の前に傘をさした女が現れた。その女はルーシィを見つめて動かず、ルーシィもその視線で動けなかった。

 

「それではご機嫌よう。しんしんと……」

 

「え!? 何なの!!?」

 

突然、振り返り帰ろうとしルーシィは戸惑ってしまう。すると男の声が響いてきた。

 

「ノンノンノン。ノンノンノン。ノンノンノンノンノンノンノン。3・3・7のNOでボンジュール」

 

次は地面から奇妙な男がニョキっと現れた。

 

「また変なの出たっ!!」

 

ルーシィは変なのがまた現れ、対応できなくなってきた。

 

「ジュビア様、ダメですなぁ仕事放棄は」

 

「ムッシュ・ソル」

 

「私の眼鏡がささやいておりますぞ。そのお嬢さん(マドモアゼル)こそが愛しの標的(シブル)だとね〜〜え」

 

「あら……この娘だったの?」

 

「え?」

 

ルーシィは2人の会話から何を言ってるかわからなかった。

 

「申し遅れました。私の名はソル。ムッシュ・ソルとお呼びください。偉大なる幽鬼の支配者よりお呼びにあがりました」

 

「ジュビアはエレメント4の1人にして雨女」

 

2人はファントムの魔導士と知るとルーシィは臨戦態勢に入る。

 

「ファントム!? あ……あんたたちがレビィちゃんたちを!!」

 

「ノンノンノン。3つのNOで誤解を解きたい。ギルドを壊したのもレビィ様を襲ったのも全てガジル様」

 

ソルがそう言った瞬間、ルーシィは突然湧き出てきた水に包まれ、その拍子に鍵をおとしてしまった。

 

「!!!」

 

「まぁ、我々のギルドの総意である事にはかわりませんがね」

 

「んっ、ふ、ぷはっ! な……何……これ!!!」

 

ルーシィはどうにかして水面から顔を出すが水は意志を持ったかのように動き、ルーシィを逃さない。

 

「ジュビアの水流拘束(ウォーターロック)は決して破れない」

 

ジュビアが手を動かすと水球は大きさを増し、ルーシィを拘束した。ついにルーシィは空気がなくなり気絶してしまい、囚われてしまった。

 

「大丈夫……ジュビアはあなたを殺さない。あなたを連れて帰る事がジュビアの任務だから、ルーシィ・ハートフィリア様」

 

 

「ハルト、エルザ!! ここはお前たちに任せる!! ワシはジョゼの息の根を止めてくる!!!」

 

「気をつけろよ。じーさん!」

 

「お気をつけて」

 

マカロフは上の階に繋がる階段を登っていった。それをガジルは見ていた。

 

「へへっ… 1番厄介なのが消えたとこで… ひと暴れしようかね?

ルシェドはどうすんだ?」

 

「俺はここで見ている」

 

「チッ… ビビりが… まあ、いいか」

 

ガジルは不気味な笑みを浮かべ飛び降り、着地と同時に腕を鉄に変え、自分の仲間ごと巻き込み攻撃した。

 

「来いい!! クズども!! 鉄の滅竜魔導士、ガジル様が相手だ!!」

 

そこにエルフマンが片腕をテイクオーバーしながら突撃してくる。

 

「漢はァーー!!! クズでも漢だぁっ!!!」

 

エルフマンは殴りかかるがガジルが腕を鉄に変え容易に防ぐ。

 

「ギヒッ」

 

ガジルは反撃でもう片方の腕を鉄柱に変え、エルフマンに襲いかかる。次々と手や足を鉄柱に変えて攻撃していくがエルフマンは躱し、受け止めて対応していく。

 

「ほう……なかなかやる。 じゃあこんなのはどうだ?」

 

エルフマンが受け止めた足の鉄柱から多くの鉄柱を出して攻撃する。エルフマンはかわすが周囲にいたファントムの魔導士や妖精の尻尾の魔導士に当たってしまう。

 

「貴様!! 自分の仲間を!!」

 

「何よそ見してやがる」

 

エルフマンがよそ見しているすきにガジルは一撃を加える。吹き飛ばされたエルフマンの体を利用しガジルに近づく人影が、

 

「ガジルーー!!!」

 

ナツが火竜の鉄拳でガジルを殴り吹き飛ばした。

 

「オレが妖精の尻尾の滅竜魔導士だぁ!!!」

 

「ああ!! 知ってるよ!!!」

 

ガジルは態勢を整えすかさずナツの体に攻撃を加えるが、ナツは受け止める。

 

「こいつがギルドやレビィたちを……!」

 

鉄柱を掴み持ち上げ、ガジルを投げ飛ばした。

 

「くだばれぇっ!!!」

 

「何!!?」

 

ガジルは態勢を整えるが目の前にナツが詰め寄ってきて、炎を纏った拳で殴りつける。またも吹き飛ばされたガジルだが効いてないとばかり、また態勢を整え足裏から刃を出し天井にある支柱の裏側に引っ掛け、立ちながらナツと睨み合う。

 

「で?それが本気か? 火竜」

 

「安心しろよ。ただの挨拶だ。竜のケンカの前のな」

 

ナツも腕から炎を出しながら睨む。両者が睨み合っていると突然ギルドが揺れ始めた。

 

「な……何だ?」

 

「地震!!?」

 

ファントムの魔導士たちは戸惑うが妖精の尻尾の魔導士は笑みを浮かべるがそれはどこか恐怖に似た表情を見せる。

 

「これはマスターマカロフの“怒り”だ。 巨人の逆鱗……もはや誰にも止められんぞ」

 

エルザがそう言うとファントムの魔導士はさらに焦り始める。

 

「ひ……ひぃ!!」

 

「ウソだろ!? ギルド全体が震えて……」

 

「それがウチのマスター・マカロフだ。 覚悟しろよマスターがいる限り俺たちに負けはない」

 

ハルトがそう言うと上の階から爆発音がし、何かが落ちてきた。

 

「な……何だ?」

 

「何かが落ちて……」

 

煙が晴れるとそこにはマカロフがいた。ボロボロの姿で体が震えていた。

 

「わ……わしの魔力が……」

 

「ま、マスター?」

 

呆然とするマカロフからは魔力が感じらなかった。

 

「じーさんどうした!?」

 

「じっちゃん!!」

 

「マスター!!」

 

「ちぇっ…お楽しみは終わりかよ」

 

妖精の尻尾の魔導士たちは最強のマカロフが倒されたことに動揺士気が下がり始め、逆にファントムの魔導士たちはマカロフが倒れたことに士気が上がってきた。

 

「今だ!!ぶっ潰せ!!」

 

一気に形成逆転されてしまった。

 

(いかん……!! 戦力だけではない…… 士気の低下の方が深刻だ)

 

「撤退だーー!!!! 全員ギルドに戻れーーー!!!!」

 

エルザの号令に全員が反論するが明らかに不利になっている。

 

「オレはまだやれるぞ!」

 

「私も!!」

 

「じーさん無しじゃジョゼには勝てねえ!! 俺が殿を務めるからそのうちに戻れ!!!」

 

ハルトが反論する仲間を黙らせる。それを見ていたガジルが皮肉気に笑う。

 

「あらあら、もう帰っちゃうのかい? ギヒヒ」

 

するとガジルの近くにマカロフの魔力を奪った男が空気のように現れる。

 

「アリアか……相変わらず不気味なヤローだ。 よくあのジジイをやれたな」

 

「全てはマスター・ジョゼの作戦。素晴らしい!!!」

 

何故かアリアは号泣する。

 

「いちいち泣くな。で……ルーシィとやらは捕まえたのか?」

 

「!!」

 

ガジルがアリアに聞いたことは殿を務めていたハルトの耳に入ってきた。そこに今まで静観していたルシェドもやってきて、答える。

 

「“本部”に幽閉しているらしい」

 

「何!!? 」

 

「どうしたでごじゃる。ハルト!?」

 

「どういうことだ!!!?」

 

ハルトが叫びを聞いたルシェドは振り向き冷たい目でハルトを見下ろした。

 

「またな覇王」

 

アリアが腕を広げるとアリアたちは消えていった。

 

「ルーシィが捕まった?」

 

「え!!?」

 

ハルトは怒りをにじませ手に魔力を貯める。それを他所に妖精の尻尾の魔導士たちは撤退を始め、ファントムは追撃を始めた。

 

「撤退だ!!!! 退けぇ!!!!」

 

「逃がすかぁ!!! 妖精の尻尾!!!!」

 

ハルトは追いかけてきたファントムの魔導士を1人捕まえると、その手に竜牙弾を作り、迫り来るファントムの軍勢に向かって投げつけた。竜牙弾は軍勢にぶつかると凄まじい衝撃波を放ち、一気に敵を減らした。ハルトは捕まえたファントムの魔導士を引きずりながら出口を目指した。

 

「来い!」

 

「へっ?」

 

「ハルトどうするでごじゃるか!?」

 

「ルーシィを助けにいく!!」

 

ハルトのおかげでファントムの敵を一気に減らしたとはいえ、それでも追ってくる敵は多い。撤退を始めた妖精の尻尾だが、グレイは立ち向かおうとした。

 

「こんな所で退けるかよ!!! レビィたちの仇をとるんだ!!!」

 

グレイは立ち向かおうとするがエルザがそれを止める。

 

「頼む……」

 

「エルザ……」

 

エルザの肩は震えていた。

 

「今は退くしかないんだ…… マスターの抜けた穴は大きすぎる……」

 

そのころハルトとマタムネはみんなと違う方向に向かっていた。

 

「言え。ルーシィはどこだ?」

 

「し…知らねえよ…誰だそれ……」

 

その瞬間、ハルトはファントムの男を地面に力任せに叩きつけた。

 

「ぐはっ!!」

 

ハルトは怒りを露わにし、男を睨みつける。

 

「言え…… これ以上仲間を傷つけられたら、お前を殺してしまいそうだ」

 

男はそれに恐怖を感じてしまう。

 

「ひっ… し…知らねえ!! そんな奴は本当に知らねえ!! けど…俺たちの“本部”はこの先の丘にある!! そ…そこかも!!」

 

 

オークの外れにある幽鬼の支配者の本部。その中にある牢屋の一室にルーシィは幽閉されていた。

 

「ん? え? え!!? 何これ!!? どこぉ!!?」

 

目を覚ましたルーシィは突然の事態に驚き、状況が飲み込めない。

 

「お目覚めですかな? ルーシィ・ハートフィリア様」

 

「誰!!?」

 

すると鉄の扉越しから声が聞こえてくる。

 

「初めまして、幽鬼の支配者のギルドマスター。ジョゼと申します」

 

入ってきた男は今回の黒幕、ジョゼ・ポーラだった。

 

「ファントム……!? (そうだ…私、エレメント4に捕まって…)」

 

「このような不潔な牢と拘束具……大変失礼だとは思いましたが、今はまだ捕虜の身であられる。理解のほどをお願いしたい」

 

ジョゼは紳士のような振る舞いを見せる。

 

「これを解きなさい!! 何が捕虜よ!! よくもレビィちゃんたちを!!」

 

ルーシィは相手がギルドマスターだからといって、傷つけられた仲間を思うと臆せず反抗する

 

「あなたの態度次第では捕虜ではなく〝最高の客人〟としてもてなす用意も出来ているんですよ」

 

「何それ……」

 

一瞬ジョゼの言っている意味がわからなかった。呆けていると足元からムカデが這い上がってくる。

 

「ひゃあっ!!」

 

「ね? こんな部屋は嫌でしょう? 大人しくしていればスイートルームに移してあげますからね?」

 

ジョゼの言っている意味がますますわからなくなってきたのでルーシィは話題を変える。

 

「な…何で私たちを襲うのよ?」

 

「私たち? ああ、妖精の尻尾ですか…ついでですよ、ついで」

 

ジョゼはルーシィの疑問に意地の悪い笑みを浮かべながら答える。

 

「私たちの本当の目的はある人物を手に入れる事です。その人物がたまたま妖精の尻尾フェアリーテイルにいたので、ついでに潰してしまおう……とね」

 

「ある…人物?」

 

ジョゼはバカにするような笑みを浮かべた。

 

「あのハートフィリア家のお嬢さんとは思えない鈍さですねぇ。あなたのことに決まっているでしょう? ハートフィリア財閥令嬢……ルーシィ様」

 

それを聞いたルーシィは顔を赤くし、恥ずかしそうにする。

 

「な…なんでそれを知ってるの?」

 

「あなた、ギルド内では身分を隠していたそうですね? この国を代表する資産家の令嬢がなぜ安く危険な仕事するかは知りませんがね」

 

「誘拐ってこと?」

 

「いえいえ滅相も無い。貴女を連れてくるように依頼されたのは他ならぬ貴女の父上なのです」

 

それを聞いたルーシィら驚いた。

 

「そんな…ウソ…なんであの人が…」

 

「それはもちろん可愛い娘が家出をしたら捜すでしょう?」

 

「しない!! あの人はそんな事を気にする人じゃない!! 私は絶対に帰らないから!! あんな家には帰らない!!!」

 

ルーシィの頭の中では幼い頃のつらい記憶が呼び起こされる。ジョゼはそれを聞いて少し困った表情をした。

 

「おやおや困ったお嬢さんだ」

 

「今すぐ私を解放して!」

 

「それはできません」

 

ルーシィの申し出をきっぱりと却下する。するとルーシィはもじもじと恥ずかしそうにした。

 

「てか…トイレ行きたいんだけど……」

 

「これはまた古典的な手ですな」

 

「いや…まじで……うぅ……助けて〜」

 

「それでは、これをどうぞ」

 

ジョゼはルーシィが逃げる手段だと思い、ボロいバケツをよこした。

 

「えーっ!?」

 

「ほほほ……古典的ゆえに対処も多いのですよ」

 

「バケツかぁ…」

 

「って、するんかい!!?」

 

ジョゼは余裕の表情だったが、ルーシィが予想より斜め上の行動をしだしたので驚く。見張っておかないといけないが紳士として、それを許せなかった。

 

「な…なんてはしたないお嬢様なんでしょう!! そして私はジェントルメン!!」

 

顔を赤くしたジョゼはルーシィに背を向ける。ルーシィは下着を下ろすフリをしてニヤリと笑い、すかさずジョゼの背後に近づく。

 

「えいっ」

 

「ネパァーーーーー!!!!」

 

ルーシィは男の最大の弱点を思いっきり蹴り上げた。いくら聖十大魔導士の1人であろうと抗えない痛さだったのだろう。ジョゼは床に倒れこみ、ルーシィは出口に向かう。

 

「古典的な手もまだまだ捨てたもんじゃないわね。今度小説で使おうっと!」

 

「ぬぽぽぽぽぽ!!!」

 

「それじゃあ、お大事に♪」

 

ルーシィは苦しむジョゼにウィンクをし、勢いよく扉を開けるがそこに広がるのは道ではなく、地面が遠くに見える空中の光景だった。

 

「え?」

 

ルーシィがいたのは1番高く孤立する塔の中だったのだ。とても飛び降りれる高さではない。

 

「残念だったねぇ……ここは空の牢獄……逃げられるはずがない…」

 

ジョゼは腰を叩きながら立ち上がり、ルーシィに詰め寄ってくるがその姿は情け無いものだった。

 

「よくも…やってくれましたねぇ…」

 

「う……」

 

目の前にはジョゼ、後ろは断崖絶壁、もはや逃げられる道は無い。

 

「さあ……こっちへ来なさい…お仕置きですよ…ファントムの怖さを教えてやらねばなりませぬ」

 

ゆっくりと歩み寄ってくるジョゼ。ルーシィは焦ってしまうが何かを決心し、何と後ろに飛び降りたのだ。

 

「な!!?」

 

突然の凶行に驚くジョゼ。

 

(声が聞こえたんだ! 絶対……いる!!)

 

ルーシィは落下しながら、聞こえた声の人物の名前を叫んだ。

 

「ハルトーーー!!!!!」

 

「ルーシィーーー!!!!」

 

地面ギリギリのところで滑り込んできたハルトにルーシィは受け止められた。ルーシィがゆっくりと目を開けると息を切らせて心配そうな顔をしたハルトが見えた。

 

「ハァ……ハァ……大丈夫か、ルーシィ?」

 

「やっぱり……いると思った!」

 

ルーシィは今頃になって幽閉されていた恐怖とハルトに助けられた嬉しさにより、ハルトに抱きついた。

 

「おうっ!? る、ルーシィ? ど、どうした?」

 

ハルトが聞いてもルーシィはハルトに抱きついたまま離れない。

 

「あーあ、イチャついてるでごじゃる。場所を考えて欲しいでごじゃるな」

 

「ま、マタムネ! ち、ちが、これは、そういうことじゃなくてだな…

ルーシィもいい加減離れろって……」

 

後からやってきたマタムネに茶化されて慌てるハルト。

 

「それでこれからどうするでごじゃるか?マスターも倒れて、みんなもケガをしてるでごじゃる」

 

「!」

 

「とりあえず、ここから離れるぞ。 敵の本拠地だからな。ルーシィ行くぞ」

 

ハルトがルーシィを立たせようとするが、ルーシィは俯いた状態で立たない。ルーシィは今回の事件は自分が原因だと今更に実感と罪悪感湧いてきたのだ。すると、小さな声を出した。

 

「ごめんなさい……」

 

「何でルーシィが謝んだよ? 悪いのは全部ファントムだろ?」

 

「違うの……私が……全部悪いんだ……」

 

ルーシィの目には涙がたまっている。

 

「それでも…私……ギルドにいたいよ……妖精の尻尾が大好き…」

 

とうとうルーシィの目から涙がこぼれ出した。

 

「あ〜あ、今度は泣かしたでごじゃる」

 

「俺のせいかよ!?」

 

ハルトは頭をかいて困った表情をしたがルーシィに目を合わせ、優しくルーシィの頭に手を置き、撫でた。

 

「何があったかわからねぇけど、お前がいたいならいればいいじゃねぇか。それにお前が困ってるなら俺たち、仲間が助ける。それが俺たち妖精の尻尾だろ」

 

「ハルト……」

 

それを聞いたルーシィは少し元気になり、立ち上がった。

 

「よし、それじゃあ戻るぞ!」

 

「ぎょい!」

 

ハルトたちはルーシィを連れ、ギルドに戻った。

 

 

そのころルーシィがいた牢屋ではジョゼがルーシィを追おうとするが痛みが走り崩れ落ちてしまう。ジョゼはコケにされた怒りが沸き起こり、牢屋の壁や床がひび割れ、欠片が宙に浮くほど魔力が膨れ上がる。

 

「よくもやってくれたなぁ……小娘ぇ……」

 




メリークリスマス!


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第28話 反撃の幽鬼

今年も残り僅かですね。できるだけ投稿したいと思っています。


妖精の尻尾のギルドでは皆が慌ただしくしていた。

 

「痛て…」

 

「あーくそっ!!!」

 

「まさか俺たちが撤退するハメになるとは!!」

 

「ギルドやレビィたちの仇もとれてねぇ!」

 

「ちくしょぉ!!」

 

悔しがる者もいれば、

 

「奴らの本部はここだ」

 

「南西の高台から遠距離魔法で攻撃すれば…」

 

「今度は爆弾魔水晶をありったけ持って行くんだ!!」

 

「所持系魔導士の強力な魔法書を倉庫から持ってこい!!!」

 

次の戦いに備える者もいた。そんな様子をルーシィは浮かない表情で見ていた。

 

「どーした? まだ不安か?」

 

そこにグレイとエルフマンがやってくる。

 

「ううん…そういうのじゃないの…なんか…ごめんね…」

 

「まあ金持ちのお嬢様は狙われる運命よ。そして、それを守るのが漢の務め」

 

「そんなことを言うなよ」

 

エルフマンは自分なりにルーシィを励まそうとするが空ぶってしまい、グレイに注意される。

 

「でも驚いたよ。ルーシィがあのハートフィリア家のお嬢様だったなんて。何で黙ってたの?」

 

一緒に座っていたハルト、マタムネ、ナツ、ハッピーの中でハッピーがルーシィに質問すると、ルーシィは少し困ったように苦笑いしながら答えた。

 

「隠してたわけじゃないんだけど…家出中だからね…あまり話す気にもなれなくて……一年間も家出した娘に関心なかったクセに…急に連れ戻そうとするんだもんな……パパがあたしを連れ戻すためにこんな事したんだ…最低だよ。でも…元を正せばあたしが家出なんかしたせいなんだよね……」

 

ルーシィは悔しくなり膝の上で拳を握る。

 

「それは違うだろ! 悪いのはルーシィのパパで……!」

 

「おいバカ!」

 

「あ…いや……」

 

ルーシィは落ち込んだ顔したがすぐに取り繕った顔をした。

 

「あたしの身勝手な行動で……まさかみんなにこんなに迷惑かけちゃうなんて…本当にゴメンね…あたしが家に戻れば済む話なんだよね」

 

「そうか?」

 

ハルトはすかさずルーシィに聞き返す。

 

「別に帰りたくないなら帰らなくてもいいんだぜ。ルーシィはここで笑って冒険してたほうが似合ってると思うしな」

 

「それにお嬢様ってのも似合わねえよな」

 

「だね」

 

「ごじゃる」

 

「ハルト…みんな…」

 

ハルトたちがそう言うとルーシィはまた涙ぐむ。

 

「あーまた泣かせたでごじゃる」

 

「俺かよ!? …いや、まあ俺なんだけどさぁ」

 

そんなやり取りもあり、みんなが笑う。いつもの日常が帰ってきたようだ。その頃、カナとミラは依頼でどこかにいる他のS級魔導士と連絡を取っていた。

 

「ダメ!!! ミストガンの居場所はわからないっ!そっちはどう?」

 

タロットカードでミストガンの居場所を探していたカナはお手上げの状態でミラに聞く。

 

「そう…残念ね。こっちもカミナとは連絡が取れなかったわ」

 

「ルーシィが目的だとすると奴らはまた攻めてくるよ。怪我人も多いし…… ちょっとマズイわね」

 

「マスターは重傷。ミストガンは行方不明。カミナとは連絡が取れない。 頼れるのはあなたしかいないのよ…… ラクサス」

 

「あ?」

 

ミラが話しかける通信用魔水晶には、ふてぶてしい表情のラクサスか写し出されていた。

 

「お願い…… 戻ってきて。妖精の尻尾のピンチなの」

 

「あのクソジジィもザマァねえなぁ!!! はははっ!!!」

 

ミラは真剣に頼んでいるのにも関わらず、ラクサスはふざけたように笑う。

 

「俺には関係ねえ話だ。勝手にやっててちょうだいよ。だってそうだろ? ジジイの始めた戦争だ。何で俺たちがケツを拭くんだ?」

 

「ルーシィが…仲間が狙われているの」

 

「あ? 誰だそいつ? ああ…あのやたらハルトにくっついてた奴か。それにハルトに媚び売っとけは助けてもらえんだろ」

 

「そんな言い方……」

 

「それでも助けてほしいならジジイにさっさと引退して、おれにマスターの座をよこせって伝えな」

 

「あんたって人は……」

 

カナは余りの発言にラクサスを睨む。

 

「オイオイ…それが人にものを頼む態度かよ。とりあえず脱いでみたら? おれはお色気には……」

 

ラクサスの言葉は魔水晶が割れたことで中断された。

 

「ミラ……」

 

ミラは怒りに震えていた。

 

「信じられない…こんな人が… 本当に妖精の尻尾の一員なの…?」

 

ミラは涙を流す。

 

「こうなったら次は私も戦う!!!」

 

「何言ってんのよ!!」

 

「だって…私がいたのにルーシィはさらわれちゃって……!!」

 

悲痛な叫びをあげるがカナは落ち着かせるようにミラの肩に手を置く。

 

「ダメよ。今のアンタじゃ足手まといになる。 たとえ、元・S級魔導士でもね」

 

その時、突然大きなゆれが襲った。

 

「な、なんだ?」

 

「地震か!?」

 

「いや、違う。外だ!」

 

全員が慌てて外に出るとそこには信じられないものがあった。なんとファントムの本部に6本の足が生え、妖精の尻尾のギルドの後ろにある巨大な湖を渡ってきたのだ。

 

「な…何だあれ」

 

「ギルドが歩いて…」

 

「ファントム…なのか」

 

みんなが余りの光景に絶句する。

 

「そ…想定外だ……こんな方法で攻めてくるなんて……!」

 

みんなが唖然とするのをファントムのギルドにある高台から見ていたジョゼは命令した。

 

「魔導集束砲『ジュピター』用意」

 

すると、ファントムのギルドの前部分が開き、砲台が出てきて魔力を集め始めた。

 

「消せ」

 

「砲台!!?」

 

「あれって魔導集束砲か!!?」

 

「ギルドごと私たちを吹き飛ばすつもり!?」

 

みんなが戸惑っている間にどんどん魔力は充填されていく。

 

「クソッ!!」

 

「ハルト!?」

 

「お前ら全員退がれ!!」

 

ハルトはみんなの前に出て、魔力を全力で練りあげる。すると全身に金色の魔力がみなぎる。

 

「滅竜奥義……!!」

 

ハルトは腕を顔の前で交差し叫ぶ。

 

「剛覇竜凱甲!!!!!」

 

ハルトの前に分厚い鱗に覆われた半透明の巨大な竜の腕がクロスした状態で現れた。

 

「あれって……!」

 

「ハルトの1番の防御魔法でごじゃる!!」

 

「受け止めるつもりかよ……」

 

「ハルト!!」

 

「ナツ!! ここはハルトを信じるしかねえんだ!!」

 

「うぁ…」

 

「ふせろォオ!!!!」

 

エルザが叫ぶのと同時に放たれたジュピターはハルトの魔法とぶつかる。

 

「ぐうぅっ!!」

 

ぶつかった瞬間、凄まじい風が巻き起こる。ハルトの魔法とジュピターは拮抗していると思われたが、ハルトの魔法にひびがはいり始めた。ひびは全体に行き渡り、ついには閃光が走り、ハルトを巻き込んで大爆発が起きた。

 

「うわあぁぁっ!!」

 

「きゃあぁぁぁっ!!」

 

爆風がやむとそこには全身がボロボロの状態のハルトが倒れていた。

 

「ハルト!!!」

 

「しっかりしろ!!!」

 

みんなが駆け寄りハルトを見るが、辛うじて意識はあるが全身にひどい怪我を負っていた。もう戦える状態ではない。

 

『マカロフ……そしてハルトも倒れた。いくらエルザがいようとも貴様らに凱歌はあがらねぇ。ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐにだ』

 

その言葉にギルドメンバーは憤慨する。

 

「ふざけんな!」

 

「仲間を敵に差し出すギルドがどこにある!!」

 

「ルーシィは仲間なんだ!!」

 

「そーだそーだ!!」

 

「ルーシィは渡さねえ!!」

 

ギルドのみんながジョゼに対して反発する。それを聞いてルーシィは罪悪感に押し潰されそうになる。

 

「あたし……」

 

ルーシィが耐えられなくなり名乗り出ようとするが、仲間がそれを止めた。

 

「仲間を売るくらいなら死んだ方がマシだっ!!!!!」

 

「俺たちの答えは何があってもかわらねえっ!!! お前らをぶっ潰してやる!!!」

 

「ルーシィは俺たちの大切な仲間だ……。お前らに渡すわけねえだろ!!!!」

 

エルザたちの強い叫びに妖精の尻尾は全員雄叫びを上げる。ルーシィはそれに涙が流れてしまう。

 

『ほう……。 ならばさらに特大のジュピターをくらわせてやる!!!装填までの15分、恐怖の中であがけ!!!!』

 

しかし、それはジョゼの怒りに火に油を注ぐだけだった。

 

「何!?」

 

「ジュピター……また撃つのか…!?」

 

「ぐぅっ……」

 

みんなが戦々恐々としていると、とうとうハルトは意識を失ってしまった。

 

「ハルト!!」

 

それと同時にファントムのギルドから無数の兵士が現れた。

 

「な…兵士が出やがった!!」

 

「バカな!! ジュピターを撃つんじゃねえのかよ!!」

 

「容赦ねぇ……」

 

『地獄を見ろ妖精の尻尾。 貴様らに残された選択肢は二つだけだ。我が兵に殺されるか。ジュピターで死ぬかだ』

 

ジョゼの声は怒りに染まっていた。

 

「あ、ありえねぇ…仲間ごとジュピターで殺す気なのか」

 

「お…脅しさ…撃つハズがねぇ……」

 

1人は気丈に振る舞うがカナは否定する。

 

「いや…撃つよ。あれはジョゼの魔法『幽兵』(シェイド)……人間じゃないのさ。ジョゼの作り出した幽鬼の兵士。ジュピターをなんとかしないとね……」

 

そこにナツが立ち上がった。

 

「俺がぶっ壊してくる!!! 15分だろ? やってやる。ハッピー!」

 

「あいさー!!!」

 

ナツはハッピーに抱えられ、いち早くファントムに乗り込んだ。

 

「私も行くぞ!」

 

「ナツばっかにいいとか取られてたまるかよ!」

 

「漢ーー!!」

 

ナツに続き、エルザ、グレイ、エルフマンが乗り込んで行った。

 

「頼んだよ、みんな。あたしたちはここで食い止めるよ!」

 

『オオォォォォォっ!!!』

 

カナの号令で妖精の尻尾は雄叫びを上げた。

 

 

一方ミラたちは負傷したハルトをギルド内に運んで、治療していた。

 

「ひどい怪我でごじゃる……」

 

「そうね……ここにある救急セットで足りるかしら……」

 

傷ついたハルトを見てルーシィはこぶしを痛いほど握りしめ、ミラを見た。

 

「ミラさん! 私も戦う!!」

 

「何を言ってるの!? ルーシィが出て行ったらダメだわ!! そんなことより、ルーシィはどこかに隠れないと……」

 

「でも!!……みんなが戦っているのにあたしだけ隠れるなんてできません!! レビィちゃんやマスター、みんなも傷ついて……それにハルトも……」

 

ルーシィはハルトに目を向ける。

 

「全部あたしのせいなのに……」

 

目に涙を貯めるルーシィを見て、ミラは優しく微笑む。

 

「それは違うわルーシィ。誰もそんなこと思ってないわ。やられた仲間のため、ギルドのため、そしてあなたを守るためにみんな誇りを持って戦っているの」

 

「ミラさん……」

 

「だから言うことを聞いてね」

 

ミラはルーシィに手をかざすとルーシィは眠ってしまった。

 

「リーダス!ルーシィを連れて隠れ家にいって!!」

 

「ウィ!!」

 

リーダスは魔法で作った馬車にルーシィを乗せ隠れ家に向かった。

 

「ミラ殿は隠れ家に行かなくてもよかったでごじゃるか?」

 

「うん……私も私なりにルーシィを守るために戦いたいの」

 

「そうでごじゃるか」

 

「マタムネはルーシィについて行かなくていいの?」

 

「せっしゃはハルトの相棒でごじゃる! ハルトが目を覚ました時に側にいてやらないとハルトが困るでごじゃるからな」

 

「そっか……」

 

みんなそれぞれに決心し、この戦いに挑んでいる。

 

(私は…私にできることを……!!)

 

ミラはルーシィに変身し、この戦況を見守った。

ジュピター発射まであと14分。

 



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第29話 激化する戦い

新年明けましておめでとうございます。
これからも頑張って面白くかけたらなと思っています。
よろしくお願いします。


戦況は妖精の尻尾がやや不利だった。先のファントム戦で負傷者も多く、さらにはジョゼが作り出した幽兵は言わば人形だ。疲れを知らず襲いかかってくる。戦いは続き時間はどんどんと過ぎていく。

 

「ナツは何してんだ!!」

 

「もう時間がねえぞ!!」

 

「あんた達!黙って戦いな!! ナツを信じるしかないんだよ!!」

 

カナが仲間に叱咤するが時間はもうない。徐々に砲台に魔力が集まり始める。

 

「やべーぞ!!」

 

「みんな伏せろー!!」

 

撃たれようとした瞬間、砲台は内部から爆発し、破壊された。

 

「よっしゃー!!!」

 

「ジュピターは壊されたぞー!!!」

 

「これで恐れるものはなくなったよ!! 敵を殲滅しろォオ!!」

 

ジュピターがなくなったことで勢いがつき、幽兵を倒していく。

 

「マ、マスタージョゼ……」

 

「クソガキどもが……」

 

それを見ていたジョゼはさらに怒りで震える。そして次の指令を出す。するとファントムのギルドは突然立ち上がった。

 

「な、なんだ……?」

 

「次は何だってんだよ……」

 

次々と変形していくギルドはついには人の形、超魔導巨人ファントムMk-Ⅱになった。

 

「何よこれ……冗談じゃないわよ……」

 

妖精の尻尾のメンバー冷や汗を流す。ファントムMk-Ⅱはまっすぐギルドに向かってくる。

 

「ギルドを踏み潰すつもりかっ!!!?」

 

「マジかよ!?」

 

怯えるメンバーにカナは喝を入れる。

 

「目の前の敵に集中しろ!! あの巨人はナツが必ず止めてくれる!!!」

 

「いやでも……ナツは乗り物に弱いんじゃ……」

 

「あっ」

 

 

一方ナツはジュピターの発射を阻止したが、ファントムMk-Ⅱになり、動き出したことで乗り物酔いになってしまった。

 

「う…うぷ……」

 

「こいつ乗り物に弱いのか! チャンス!!」

 

ファントムのエレメント4の1人、『大火の兎々丸』はナツに攻撃しようとするが突然全身が凍りつき、巨大な腕に掴まれ投げられた。その先にいた剣士が剣を振り、斬り伏せられた。

 

「情けないぞ!ナツ」

 

「何してんだよ。ナツ」

 

「漢なら逆に酔わせてやれぇ!!」

 

そこにはエルザ、グレイ、エルフマンが立っていた。

 

「お、お前カッコ良すぎだぜ……」

 

「しかしなにが起きてんだ?」

 

「おいら見てくる!」

 

グレイが動いているファントムのギルドを見て疑問を持ち、ハッピーが里に出て様子を見に行った。

 

 

ファントムMk-Ⅱはギルドの前に立ち、右腕を上げ空中に魔法陣を書き始めた。

 

「な、何だ!?」

 

「これは……」

 

「魔法陣だ!! この建物自体が魔導士だというのかい!!?」

 

驚く妖精の魔導士を他所に巨人は魔法陣を書き続ける。

 

「この魔法陣は煉獄砕破……!!? 禁忌魔法の1つじゃない……!」

 

「このサイズはマズイぞ!! カルディア大聖堂辺りまで暗黒の波動で消滅する!!」

 

 

「大変だーー!!ギルドが巨人になって魔法を使って街を半分消そうとしているよー!!」

 

「嘘つけー!!」

 

「嘘なんかつくかー!!」

 

「しかし、それならマズイな。どうにかして魔法を止めねば…… 手分けしてこの巨人の動力源を見つけて、破壊するんだ!」

 

エルザたちはそれぞれ別れ行動に移した。しばらくしてエルザはファントムMk-Ⅱの下のほうを探索していると白い扉を見つけた。警戒しながら入ると突然扉が閉まり出れなくなってしまった。

 

「ようこそ妖精女王」

 

声が響き、その方向を見るとそこにはレイピアを腰に携えたルシェドが立っていた。エルザはすぐに構えを取る。

 

「貴様は……」

 

「あぁ…まだ名乗っていなかったな。俺の名前はルシェド・マクガイア。まぁ、巷では指揮者(コンダクター)と呼ばれたいる」

 

「貴様があの指揮者か。なら話は早い。この巨人の動力源はどこだ?」

 

「煉獄砕破のことか? あれは火、水、土、風の四元素の魔法を元にしている魔法だ。このギルド内のどこかにいるエレメント4を全員倒せばあの魔法は止まる」

 

「聞いといてなんだが……いいのか? そんなに話してしまって」

 

「別にいいさ。何故なら……」

 

ルシェドは腰のレイピアを抜き、エルザに向ける。

 

「俺が勝つからな」

 

 

その頃、外で戦っているカナたちは迫る魔法の完成に緊張していた。

ミラとカナはギルドの

 

「ミラ、あの魔法どれくらいで完成する?」

 

「約10分ってところかしら…」

 

「中に入ったエルザたちに任せるしかないね…」

 

「入ったのは誰なの?」

 

「ナツにハッピー、エルザ、グレイ、そしてエルフマンよ」

 

「エルフマン!? 何でエルフマンがいるの!!? カナは知っているでしょ!!エルフマンは……!!」

 

「そんなこと言ったて仕方ないでしょ。……エルフマンだって前に進んでるんだよ」

 

ミラはそれを聞いて考えてしまう。2年前の悲惨な事故から自分は前に進んでいるのか、と。弟のエルフマンが1番辛いのにみんなのために戦いに参加している。ミラは決心しファントムMk-Ⅱの前に躍り出た。

 

「ミラ!! なにしてんの!?」

 

「早く戻って!」

 

みんなの制止を無視して、ミラは両腕を広げ叫んだ。

 

「あなたたちの狙いは私でしょ!!!今すぐギルドへの攻撃をやめて!!!」

 

ファントムの狙いはルーシィであり、ルーシィに変身しているミラが前に出てくれば攻撃を躊躇してしまうと考えたミラだったが、

 

『消えろニセモノめ』

 

ジョゼがら言われたの全てを看破した言葉だった。

 

『初めからわかっていたんですよ。ルーシィがそこにいないことは。狙われている本人がこんな前線にいるはずがない……とね』

 

それを聞いて、変身が解けてしまったミラは膝をついて涙を流し自分の無力を恨んだ。

 

(私はなんて無力なの……!)

 

すると突然ファントムMk-Ⅱの腕が伸びてきてミラを掴み上げた。

 

「きゃあっ!!」

 

「ミラ!!」

 

カナたちが助け出そうとするが幽兵がそれを邪魔をする。

 

「うぅ……」

 

『我々を欺こうとは気に入らん小娘だ。潰してしまえ』

 

腕に力が入り、ミラを潰そうとする。

 

「くぅっ……!」

 

すると突然、ファントムの前の部分が爆発し、壁が破壊された。そこにはうつ伏せに倒れたエルフマンがいて、その後ろにエレメント4の1人ムッシュ・ソルがいた。エルフマンはムッシュ・ソルと戦ったがムッシュ・ソルの方が強く、勝つには自身のトラウマである全身接収をする必要があった。しかし使おうとした瞬間、脳裏に自分が全身接収を失敗したために死んでしまった自分の妹、リサーナの顔がよぎった。そのためトラウマが蘇り、接収は失敗し魔力を大幅に失うだけになってしまった。そこにムッシュ・ソルの魔法が放たれ今の状態になってしまった。

 

「おや? あれは貴方の姉上ではありませんか?」

 

「ぐぅっ…… !! 姉ちゃん!!? なんで姉ちゃんが!!」

 

立ち上がってミラを助けに行こうとするエルフマンだがムッシュ・ソルがそれを許さない。

 

「ノンノンノン。敵を前に背を向けるとはいけませんぞ!!」

 

ムッシュ・ソルはエルフマンに強烈な蹴りを浴びせる。

 

「がはっ!!」

 

ミラとは真反対の方向に蹴られ、壁に激突して倒れてしまう。ミラのほうに目を向けると苦しそうにしていた。

 

「姉ちゃん……」

 

エルフマンは自分に問いかける。また家族を死なせてしまうのか、何もできずに終わってしまうのか、エルフマンの中ではまた理性を失ってしまう恐怖とミラを助けたいという気持ちが葛藤している。

 

「あぁ……」

 

ミラの苦しむ声にエルフマンは覚悟を決めた。立ち上がり、全身に魔力を行き渡させる。

 

「俺は姉ちゃんをカミナのように守れる漢になりたいんだっ!!!!

姉ちゃんを放せええぇぇぇえっ!!!!」

 

徐々に体はその姿を変えていった。全身から毛が生え、頭には威圧感のある角が2本ある。かつて各地で暴れ回った凶悪な怪物“ビースト”へと姿を変えたのだ。

 

「へ…?」

 

「オオオオォォォォォォッ!!!!!」

 

ビーストへと変身したエルフマンはその圧倒的な強さでムッシュ・ソルを一方的に攻撃し、戦闘不能にした。

 

「エ、エルフマン?」

 

ミラがエルフマンに呼びかけるが何も反応せず、倒れたムッシュ・ソルのほうを向いたままだ。そして近づき、ムッシュ・ソルを殴り続ける。その姿に恐怖を覚えたミラは今度はエルフマンを大声で呼んだ。

 

「エルフマン!!」

 

すると、エルフマンは攻撃をやめ、ミラのほうを向く。その目には理性が宿っているかは分からなかった。破壊された壁から腕を伝ってミラに近づく。

 

「エ、エルフマン…… あなたまだ理性が……」

 

ミラに手を近づけると、ミラは反射的に目をつぶってしまう。しかし、それはミラを拘束していた指をどかすだけだった。

 

「ごめん姉ちゃん……俺のせいでリサーナは……」

 

ミラはエルフマンの顔を見るとそこにはちゃんと理性があった。エルフマンがトラウマを克服し、前に進めたことに喜び、慈しむように抱きしめる。

 

「ううん、あれはあなただけのせいじゃないわ。それに貴方は前よりも強くなって私を守ってくれたじゃない…… ありがとう、エルフマン」

 

それを聞いたエルフマンは大泣きしてしまった。

 

「うおおぉぉおっ!! よがっだー!! 姉ぢゃんが無事でよがっだー!!」

 

「もう、そんなに泣かないの。強い漢になるんでしょ?」

 

「だっで……だっで……」

 

ミラは仕方ないなぁ、といった顔したが、ふと魔法陣に目が行った。そこであることに気づく。

 

「あれ……?」

 

「ど、どうしたんだ、姉ちゃん?」

 

「魔法陣を書くスピードが遅くなってる……」

 

そうファントムMk-Ⅱが魔法陣を書くスピードが明らかに遅くなってるのだ。ミラはそれを見てブツブツと何かを独り言を始めた。

 

「煉獄砕破……四元素の魔力……エレメント4……もしかして……」

 

ミラはエルフマンのほうを向き聞いた。

 

「エルフマン! エレメント4はあと何人残ってるの!?」

 

「え? えっと…ナツのところで1人倒して、さっきもう1人倒したから、あと2人だ。それがどうしたんだよ?」

 

ミラは描かれている魔法陣を見て言う。

 

「多分あの魔法はエレメント4がいてできている魔法なんだと思うわ。だからエレメント4を全員倒せば止まるはず」

 

「マジかよ!? じゃあ他のやつも探さねえと!!」

 

「ええ!急ぎましょう!!」

 

ミラとエルフマンは奥へと走って行った。

 

 

そのころナツとハッピーは廊下を走っており、突然ナツが思いついたように話し出した。

 

「なぁ! いいこと思いついたぞ!」

 

「なぁに?」

 

「ジョゼを倒しちまえばこの戦い終わんじゃねえのか!!」

 

「何バカなこと言ってんのさ!! 出来るわけないよ!! ジョゼはマスターと同じくらいの魔力を持ってんだよ!!」

 

「でも、じーちゃんいねぇじゃねえか」

 

あっけらかんに答えるナツに衝撃を受けてしまうハッピー。

 

「ナツのバカー!! 考えないようにしてたのにー!!」

 

ハッピーはナツに怒鳴るがすぐに元気が無くなってしまう。

 

「そうだよ……煉獄砕破を止めて、エレメント4を全員倒して、ガジルを倒してもジョゼがいるんじゃ意味がないよ……」

 

落ち込むハッピーの頭にナツは手を置き、いつもの陽気な笑顔を見せた。

 

「俺がいるだろーが!!」

 

ハッピーはその笑顔を見て、絶望的な状況なのに頼もしく思えてしまう。するとそこに声が響く。

 

「悲しい…」

 

「!!」

 

ナツは素早く後ろを見ると、突風が吹き、溶け込むかのようにゆっくりとエレメント4の中で最強の男、アリアが姿を現した。

 

「炎の翼は朽ちて堕ちてゆく…嗚呼……そこに残るのは竜の屍……」

 

「こいつは……」

 

「エレメント4だ!!」

 

 

グレイはファントムMk-Ⅱの肩部分を探索していた。外に出ると何故か雨が降っていた。

 

「雨なんか降ってたか?」

 

「しんしんと…」

 

声がするほうに目を向けるとそこには傘を差した女、エレメント4の1人、ジュビアがいた。

 

「なんだ?」

 

「しんしんと……」

 

 

ここはエルザとルシェドがいる部屋、部屋というにはあまりに広くなにてもない。ただ白い壁に覆われている。

 

「ソルがやられたか……あいつも中々強かったんだがやるな。それにあっちこっちで魔力の衝突を感じる。……そろそろ終わりにするか?なぁ、妖精女王?」

 

「はぁっ……! はぁっ……!はぁっ……!」

 

そこには荒い呼吸で剣を杖にして片膝を付き、鎧が所々破損し、傷だらけの状態のエルザとそのエルザの首元にレイピアを突きつける無傷のルシェドがいた。戦いはより激化していく。

 



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第30話 何のために

エレメント4が残り2人となったとき、ハルトは意識を取り戻した。

 

「う……ここは……」

 

「ハルト!目を覚ましたでごじゃるかー!!」

 

「いでっ!?」

 

目を覚ましたハルトのマタムネは飛びつく。嬉しがるマタムネに心配かけたなと思い苦笑いしつつ、ゆっくりと放す。

 

「マタムネは今どんな状況だ? ルーシィは? ジュピターが撃たれた後どうなった?」

 

「ルーシィは隠れ家に行って守られてるでごじゃる。リーダス殿がついているでごじゃるから取り敢えずは大丈夫だと思うでごじゃる。ハルトがジュピターを防いだあと、もう一度撃とうとされたでごじゃるがナツ殿とハッピーがジュピターを破壊して防いだでごじゃる。だけどそのあとファントムのギルドが変形して巨人になって魔法を放とうとしてるでごじゃる!」

 

「はぁ?」

 

ハルトはジュピターのとこまではわかったがギルドが巨人になったことが分からなかった。

 

「取り敢えず外に出るか」

 

「その傷でごじゃるか!?」

 

「少し寝たらスッキリした!」

 

「そういう問題じゃないでごじゃる〜」

 

フラフラとギルドから出ようとするハルトを慌てて追いかけるマタムネは心の中では戦って欲しくなかった。ハルトはこう言っているが明らかに重傷だ。だが、こうなってしまっては止められないの何年も相棒として側にいるのでわかっていた。自分にできることは精一杯ハルトの相棒としてサポートすることだけだ。

 

 

あれからずっと戦いが続いており、みんな疲労が色濃く現れていた。

 

「あれから10分以上経ってるのにまだ眠い完成しねぇのか……」

 

「心臓に悪いぜ」

 

煉獄砕破の魔法陣は本来なら10分程で完成するはずだったのが、動力源であるエレメント4が2人も抜け、未だに完成していなかった。

 

「あんたたち! 無駄口叩くなら戦いに集中しな!! エルザたちが必ず止めてくれる!!」

 

『おうっ!!!』

 

カナの叱咤で再び戦いに戻るメンバーたち、それを見たカナは片膝をついて崩れてしまう。

 

「カナ!?」

 

近くで戦ってたマカオがカナに駆け寄ろうとするが、それよりも早く幽兵がカナに攻撃を仕掛けてくる。反撃が間に合わず、とっさに目を瞑ったカナだがいつまで経っても攻撃がこない。目を開けると幽兵を殴り飛ばすハルトの姿が見えた。

 

『ハルト!!?』

 

「おう、お前ら。無事か?」

 

「ハルト、あんた大丈夫なのかい!?」

 

「ん? ああ、傷か? それなら大丈夫だ」

 

あっけらかんに答えるハルトだが服がボロボロになり隙間から見える包帯は痛々しかった。

 

「それより、ここは任せていいか? 俺は中に行く」

 

「中にって……中にはもうエルザたちが……」

 

「わかっているけどよ……それじゃあ足りねえだろ。ジョゼを倒すには」

 

そうこの戦いを終わらすにはジョゼを倒すしかないのだ。エルザたちがファントムに突入したがそれでも心配なのだ。なにせ相手は聖十大魔導士の1人、ジョゼなのだ。

 

「……わかった。ここは私たちに任せな」

 

「おう、頼んだぜ! マタムネ!!」

 

「ぎょい!!」

 

マタムネがハルトに捕まり、翼(エーラ)を出して、ファントムに向かった。

 

「頼んだよ……」

 

 

グレイとジュビアの戦いは最初グレイが有利のようだった。というのも、最初に出会い、お互い睨みあっていると突然ジュビアが頬を赤くし、始終戸惑っているようだったのだ。しかし、そこはファントムのエレメント4なだけあって自身の体を水に変え、物理攻撃を無効にしたのだ。さらにジュビアが何を勘違いしたのかグレイはルーシィを愛していると思い、攻撃が激しくなる。しかしグレイは自分の魔力を全力で使い相手をその水ごと凍らす。その時に偶然にもグレイはジュビアの胸をわし掴んでしまい!慌てて魔法を解く。その行動にジュビアの乙女心は輪にかけて大きくなり、最早降伏してもいいと思うくらいだった。しかし何気なくグレイが言った言葉がジュビアを怒らせた。

 

「しかし鬱陶しい雨だな…」

 

その言葉にジュビアの過去のトラウマが蘇る。幼い時は雨女といじめられ、恋人ができてもデートで雨ばかりなので嫌気がさし別れてしまった。ジュビアはそんな自分が嫌で仕方なかったが、唯一自分を求めてくれた幽鬼の支配者に身を寄せているのだ。

 

「あなたも……」

 

「あ?」

 

「あなたも同じなのねーー!!!」

 

感情が高まり、ジュビアの水はさらに熱を持つ。ジュビアが自身を水に変え、すごい勢いでグレイに突進してくる。グレイは落ち着いてぶつかってきたところを凍らせようとするが、

 

「熱っ!!? さっきよりも温度が高くなって……うおっ!?」

 

ジュビアの怒りはグレイが抗えない程の力を爆発させた。それにより水の中に巻き込まれてしまい、このままでは

 

(ジュビア、もう恋なんてしない!!)

 

ジュビアはもう自身の恋を諦めたように心の中で叫ぶ。しかしグレイは絶体絶命のなかでも諦めない。

 

「ぐはっ!!」

 

グレイはなんとか水流から抜け出せたが、すかさずジュビアが追撃してくる。グレイは迫り来る水流を睨む。

 

「これで終わりよっ!!」

 

「負けられねえんだよぉーー!!!」

 

相手に手を向け魔力を全開にした。グレイの氷とジュビアの水がぶつかる。せめぎ合う両者だがグレイの魔力はジュビアによって作られた水蒸気を凍らし始めた。

 

(周りの水蒸気を凍らせるなんて、なんて魔力なのっ!!?)

 

「凍れぇぇぇぇっ!!!」

 

徐々に水が凍りつく。まずいと思ったジュビアは一度距離をとったが、グレイは即座に懐に入る。

 

「氷欠泉(アイスゲイザー)ァ!!!」

 

「きゃああぁぁぁっ!!!!」

 

地面から巨大な氷塊が現れ、ジュビアごと凍らせる。ジュビアは解放されるがダメージが大きく動けない。

 

「負けた……」

 

ジュビアの心の中では負けた悔しさより、何故か清々しさがあった。すると雨雲から光が差し込む。ジュビアの魔力で雨が降るため晴れることなんてなかったが空が晴れた。

 

「きれい……」

 

そう呟くジュビアに気づいたグレイは目を向け、微笑んだ。

 

「で……まだやんのかい?」

 

ジュビアは胸がときめいてしまい、幸せそうに気絶した。

 

 

グレイとジュビアの戦いが決着が着くまえ、エルザは窮地に立たされていた。首に突き付けられたレイピアのせいで動けないのだ。どうにかしないと、と思ったとき部屋が少し揺れた。

 

「真上からか?確かホールがあったはずだが……」

 

ルシェドが上を向いた瞬間、エルザは隙を突き、レイピアを剣で弾いて斬りかかる。しかし、ルシェドはその場から消えたように動きエルザから少し離れたところに移動した。エルザはすぐさま追撃するが、ルシェドは構えをとらず、エルザを見据えるだけだ。そしてゆっくりと口を開く。

 

「気をつけろ。そこは地雷が埋まってるぞ」

 

そう言った瞬間、エルザの足元が爆発した。立ち込める煙の中から転がるように出てきたが、剣は半ばから折れてる。

 

「咄嗟に剣を盾にしたのか。やるな」

 

「はぁっ……!はぁっ……! くそっ!! せめて換装が使えれば……!!」

 

「無駄だ。この部屋では換装の魔法だけが使えないようにしてある」

 

それでも諦めず立ち向かってこようとするエルザを見て、少しため息を吐いた。

 

「何故そこまでやろうとする?」

 

「何?」

 

「はっきり言ってしまえば、今回はお前たちはハートフィリア家の家族喧嘩に巻きこまれた側だ。それなのに何故、原因のルーシィ・ハートフィリアを守ろうとする?」

 

エルザは毅然とした態度でルシェドを見て、はっきりと答える。

 

「仲間だからだ」

 

「それだけか?」

 

「ああ、それだけだ。それで充分だ」

 

ルシェドは呆れたように息を吐く。

 

「はぁ、俺にはわからないな。その仲間やら、絆やらは」

 

それを聞いたエルザは笑みを浮かべる。

 

「ならお前は一生、私たちに勝てないな。想いの力は何よりも人を強くする」

 

ルシェドは眉間に皺を寄せた。

 

「この状況でよくそんなことが言えるな」

 

「私が負けても妖精の尻尾は負けない!」

 

ルシェドはこんな状態でもエルザの勝つ気でいる眼差しに不快感を覚えた。

 

「なら、その想いの力とやらを見せてみろ!!」

 

ルシェドの周りに赤い光球が3個現れ、レイピアをエルザに向かって振ると一斉にエルザに向かいだした。その光球は速く、エルザは必死に逃げる。逃げた先に光球の1つが先回りし、退路を塞ぐ。エルザはすぐに判断し、後ろから来る光球に剣を投げつけると光球は爆発し、進行方向にいたエルザは爆発の余波で吹き飛ばされた。前から迫り来る光球にエルザはピアスを投げつけ爆発させた。何とか光球の爆発に直接当たらなかったが余波だけでもボロボロのエルザには大きいダメージになり、倒れた状態になってしまった。それでも立ち上がろうとするエルザに近づき、冷たい眼差しで見下ろし、赤い光に包まれたレイピアを構える。

 

「これで終わりだ」

 

レイピアをエルザに突き刺そうとした瞬間、開かなかったはずの扉は吹き飛び、マタムネに抱えられたハルトが現れ、ルシェドを殴り飛ばした。

 

 

ファントム内をマタムネと移動していたハルトたちは道を迷っており、薄暗い十字路で立ち止まっていた。

 

「なんでこんな時に道に迷うんだよ」

 

「うう……申し訳ないでごじゃる……」

 

ハルトとマタムネは意気揚々と出発したがマタムネが張り切りすぎて先導して行ったがご覧の有り様だった。

 

「ここはどこでごじゃろうなぁ?」

 

「さっきから扉どころか人すら見てねぇよ。それよりこの奥から妙な匂いがするんだよな」

 

「じゃあ、そこを目指すでごじゃる」

 

すると奥の方から響く音が聞こえた。

 

「なんでごじゃるか?」

 

「とりあえず進むぞ」

 

進んで行くとハルトはあることに気づく。

 

「ッ!! マタムネ!! 俺を抱えて全速力で飛べ!!」

 

「え? なんで……」

 

「いいから!」

 

ハルトに強く言われたマタムネはよく分からなかったが言われた通り、ハルトを抱え全速力を出して廊下を進んだ。すると、目の前に白い扉が見えてくる。

 

「ハルトどうするでごじゃるか!?」

 

「このまま突き進め!」

 

ハルトは両手に魔力を纏わせ拳を作る。ぶつかる瞬間左拳で扉を殴り壊し、その奥にいたルシェドを右拳で殴った。

 

「大丈夫か、エルザ!?」

 

「おおっ! エルザ殿!」

 

「ハルトにマタムネ! もう動いて大丈夫なのか!?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。お前は相当やられたみたいだな」

 

ハルトに見られたエルザは悔しそうにする。

 

「くっ、すまない……。 この部屋に入った途端魔法が使えなくなったんだ」

 

「魔法が?」

 

ハルトは部屋を隅々まで見る。

 

「敵を前によそ見と話しか、余裕だな」

 

声がするほうを向くと煙の中から無傷のルシェドがいた。

 

「そんな!? ハルトの攻撃は当たったはずでごじゃる!」

 

「確かに効いたな。盾が消えてしまった」

 

ハルトはルシェドの言葉に疑問を覚える。

 

「エルザ、ここは俺に任せてお前はマタムネを連れて他の奴の援護に行ってくれ」

 

「いや、ここは2人で……」

 

「魔法が使えないんだろ? ならやめた方がいい。 それに怪我であまり動けねえだろ」

 

「くっ、すまない……」

 

「気にすんな。仲間だろ?」

 

ハルトはフッと笑みを浮かべて見ると、エルザらも笑みを浮かべる。

 

「マタムネ頼むぞ」

 

「ハルト……」

 

「大丈夫だって! 俺を信じろ」

 

マタムネは何か言いたげだったがエルザと共に部屋から出て行った。それを見送ったハルトはルシェドと対峙する。

 

「少し聞いていいか?」

 

「なんだよ?」

 

「さっき妖精女王にも聞いたが、何故戦う? この戦いはお前たちにとって何の利益もないだろう?」

 

「仲間のためだ」

 

ハルトはハッキリと答えた。

 

「利益なんかなんも関係ねぇ。俺たちは傷付けられた仲間、仲間がいる場所を守るために戦っているんだ」

 

ルシェドはそれを聞くと眉間に皺を寄せ、不快感を露わにした。

 

「お前もそう答えるのか…… くだらない。人間というのは結局自分を優先する。お前らも奴らと同じだ」

 

「どういうことだ?」

 

ハルトはルシェドが何を言っているか分からなかった。ルシェドはレイピアを構えて静かにハルトに言う。

 

「聞きたかったら俺を倒してみろ」

 

ルシェドは飛び出し、ハルトにレイピアを突きつけた。戦いの火蓋が切られた。

 

その頃、ジュビアとの戦いの疲労を休めていたグレイにミラとエルフマンが合流した。

 

「グレイ!!」

 

「エルフマン!ミラちゃんも!なんでここに?」

 

「それは後で言うわ。この子は?」

 

ミラは気絶しているジュビアを見る。

 

「エレメント4の一人だ」

 

「なんか幸せそうに気絶してんな」

 

「やったわ!!これで残るエレメント4は1人! 煉獄砕破を止められるわ!!」

 

「マジかよ!」

 

「早く探しに行きましょう!」

 

煉獄砕破の完成は刻々と迫っていた。

 




感想待ってます。


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第31話 指揮者

おまたせしました。


ハルトはルシェドのレイピアを剛腕で弾くと、懐に入り込もうとするがいつの間にか目の前に赤い光球が現れ、爆発した。煙の中から煙で少し汚れただけのハルトが出てきてルシェドに拳に魔力を込めて殴りかかる。

 

「オラァッ!!」

 

しかし、拳は何かを殴った音が響き、寸前で壁に阻まれたかのように止まってしまった。ハルトは一瞬それに驚くが視界に赤い光球が入り、爆発する寸前で慌てて距離を取った。ルシェドが自爆したかと思われたが煙が晴れるとそこには無傷の姿でいた。

 

「テメェ、シールドはってるのかよ」

 

「ずるいなんて言うなよ? これも立派な戦法だ」

 

ルシェドはレイピアを振るうと新たに光球が数多く現れる。

 

「行け」

 

ルシェドの号令で一斉にハルトに襲いかかる。

 

「チッ!」

 

ハルトは距離を取ってかわそうとするが足を踏み出した瞬間、足元から爆発を起こし、その中に光球が合わさり大爆発を起こした。立ち込める煙はハルトが腕を振るってかき消したが、爆発に巻き込まれたせいで怪我が増える。

 

(いつ爆弾なんて仕込みやがった!?)

 

「ほら、次行くぞ」

 

ハルトが頭で考えるがルシェドは新たな光球を生み出し容赦なく攻撃を続ける。ハルトはかわそうにもどこに地雷が仕掛けてあるか分からず動けなかったが地面を見ると何かに気づき、思いっきり左にかわす。

 

「覇竜の咆哮!!」

 

そのまま光球はハルトがいた場所を素通りし、迂回してハルトを襲おうとするがハルトはブレスでかき消した。

 

「何故地雷に気づいた?」

 

「匂いだ」

 

ルシェドが聞くとハルトは得意気な顔をし、自分の鼻を指差し答える。

 

「俺ら滅竜魔導士は元々匂いに敏感なんだが、俺はその中でも魔法の匂いに敏感だ。だからお前が仕掛けた地雷の魔法に気づけたんだ」

 

「なるほどな……なら今度はもっと爆弾を増やそう!」

 

ルシェドはレイピアを振るうと今までの5、6倍の数の光球が現れた。

その数にハルトも冷や汗を流す。

 

「マジかよ……」

 

「行け」

 

迫り来る光球をハルトは即座に顔を引き締め自分から突っ込んで行った。

 

「何!?」

 

ルシェドもハルトの行動に驚いた。

 

(奴の魔法は光球の爆弾だ。それを操ってるのもだ…… 逃げ回ってもあいつの思うつぼだ。なら突っ込んで考えさせる暇を与えねえっ!!)

 

縦横無尽に迫り来る光球をかわしていくハルト。その手には練りこまれた魔力があった。そしてついにルシェドに近づいたハルトは攻撃を当てる。

 

「竜牙弾っ!!!」

 

輝く魔弾を当てようとするがルシェドの前に光球が現れる。竜牙弾は光球に当たり爆発を起こした。ハルトとルシェドは爆発に巻き込まれるが、ルシェドにも多少だがダメージをくらう。

 

「くそっ(ダメだ……あいつの不意を突くように動かないと防がれちまう)」

 

「今のは少し肝を冷やしたぞ……」

 

ルシェドの顔には冷や汗が流れるが、慌てることなくまた光球を出す。

 

(一か八かやってみるか……)

 

ハルトは再び竜牙弾を作り出そうとしたとき、ルシェドは光球を操りハルトを襲う。ハルトはまた逃げ回るのではなくルシェドに突っ込んでいく。次第に縮まっていく距離にルシェドは自分から距離をあけ、竜牙弾の射程範囲から離れる。もしハルトが竜牙弾を投げてもそれよりも早く光球を操作し盾にするの速い自信がルシェドにあった。ハルトはもちろん同じことをしても防がれるだけだとわかっている。そこでハルトは賭けに出たることにした。

 

「チッ」

 

ハルトが避けて、突っ込むという行動を続けて来たが、流石に数が多く、それにルシェドはもうハルトの行動パターンがわかったのかハルトが避けにくいところばかり狙ってくるので、疲れてしまい足を止めてしまった。

 

「そこだ!」

 

ルシェドはハルトが足を止めたのを見逃さなかった。ハルトを囲うように円状に並んだ光球は順番にハルトに迫った。ほぼ一斉に迫ってくる光球を見てハルトは好戦的な笑みを浮かべた。

 

「それを待ってたんだよ!!」

 

ハルトは光球の僅かな隙間を縫ってルシェドに近づく。ハルトが光球の包囲網を抜けたときには光球は後ろに密集していた。ハルトは駆け出しながら後ろの光球に向かって飛燕拳を放ち、爆発させた。そしてその爆風を利用し、一気にルシェドの懐に入った。

 

「何!?」

 

「これなら爆弾を盾にできねぇだろ!」

 

ハルトは右手の竜牙弾をぶつける。

 

「竜牙弾!!!」

 

何かにぶつかる感触へあるが、ルシェドには当たらずその手前でシールドによって防がれてしまう。ハルトは全身に魔力を滾らせ一気に押し通す。ルシェドもシールドに魔力を送り続ける。

 

「おおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「ぐうぅっ!!」

 

鍔迫り合いのに勝ったのはハルトだった。凄まじい衝撃に襲われたルシェドは部屋の壁まで吹っ飛び、ぶつかった。その力があまりに強かったのかぶつかった際に壁にヒビが入り壊れ、煙が上がる程だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

竜牙弾を放ったハルトはその場に座り込むと全身から煙みたいなのがで出来た。ジュピターを防ぎ、ルシェドとの戦闘でひどいダメージがきているがなんとか終わったことに苦しそうだが笑みを浮かべる。

 

「へへ……やったぜ…… 早くみんなと合流しないと……」

 

立ち上がろうとしたとき煙の中から信じられない声が聞こえた。

 

「侮っていた。妖精の尻尾は脳筋ばかりだと思っていたが、まさか捨て身の攻撃をしてくるなんてな」

 

「なっ!?」

 

煙の中を悠然と歩いて姿を見せたルシェドは多少傷があるが、あの攻撃を受けたにしては傷が少なすぎる。

 

「な、なんで…」

 

「なんで必殺技が当たったのにそんなに元気なのか、か? 確かに当たりはしたがダメージを逃したんだ」

 

ルシェドがなんとなく言う言葉に驚く。自分の中で最も強力な技を当てたのにそのダメージを逃したと言ったのだ。初めて戦うのにそんなことができるはずがない。

 

「お前の強さに敬意を評して、ここからは本気を出そう」

 

「本気って……今まで本気じゃなかったってことかよ!?」

 

「当たり前だろう? 最初から手札を全て見せる奴がいるか」

 

ルシェドは服を換装し、鎧を身に纏った。

 

「そう言えば、お前は『覇王』という二つ名があるんだな?」

 

「はぁ?」

 

「じゃあ、なんで俺が『指揮者』という二つ名かわかるか?」

 

突然の質問にハルトは戸惑ってしまう。ルシェドもその反応がわかっていたのか構わず続ける。

 

「それを今教えてやろう」

 

ルシェドがレイピアを振るうと光球が現れるが今度は青と緑、黄、茶色の光球があった。

 

「!!」

 

「さぁ、第二幕だ」

 

 

その頃、ミラたちは最後のエレメント4であるアリアを探していた。そこでミラがアリアのことを説明するが、

 

「危険? 危険ってどういうことだよ?」

 

「アリアは普段目を特殊な布で覆い隠すことで自身の巨大な魔力を抑えているの」

 

「じゃあ、そいつが1番強いのか?」

 

エルフマンがそう言うがミラはどこか恐れたような表情で否定する。

 

「いいえ……確かにアリアも強いけどそれ以上に恐ろしいのが『指揮者』のルシェドよ。彼が本気を出せば戦場は彼の独壇場になるわ」

 

 

その頃ナツはエレメント4最後の1人、アリアと戦っているが不利な状況だった。攻撃を仕掛けようとしても強風で当てるどころか近づくこともできない。

 

「ハァッ……ハァッ…… くそっ!!」

 

「空域……“絶”!!」

 

「ぐわあぁぉぁぁっ!!」

 

「ナツーーー!!!」

 

アリアの容赦ない攻撃がナツを襲い、ハッピーの叫びが響く。

 

「上には上がいるのです!」

 

そう高らかに言うアリアにナツはブレスで応戦する。

 

「火竜の咆哮!!」

 

しかし、アリアは空気に溶け込むように姿を消し、避ける。

 

「どこだ!?」

 

ナツがあたりを見渡すがどこにもいない。するとナツの背後に音もなく現れる。

 

「ナツ!後ろだよ!!」

 

「何!?」

 

「もう遅い…… 空域"滅"!! あなたの魔力は空になる!!

 

「うああぁぁぁぁっ!!」

 

「あなたもマカロフと同じ苦しみを味わうだろう……」

 

徐々にナツの魔力が消えていく。その瞬間、斬撃がアリアの魔法を食い止めた。

 

「何っ!?」

 

「うっ……」

 

ナツが倒れそうになるのを受け止めたのはエルザだ。

 

「無事かナツ?」

 

「「エルザ!!」」

 

「せっしゃもいるでごじゃる!」

 

「マタムネ!」

 

エルザはナツを座らせアリアを睨む。

 

「こいつがマスターをやったのか」

 

ナツたちは睨まれてもいないの背筋に悪寒が走る。

 

「フフフ…… これはこれは。かの有名な妖精女王ではありませんか。

マカロフに続き、あなたも倒せるとは…… しかし、傷がひどい。その傷はルシェドにやられたのですか?」

 

「答える必要がない」

 

「フッ、まぁいいでしょう…… しかし、あなたが相手なら私も本気を出しましょう」

 

アリアは自身の目を覆っている布を取り、目を開く。その瞬間ホールに風が吹き荒れる。

 

「死の空域“零”発動!この空域は全ての命を食い尽くす」

 

「命を食い尽くすだと? 何故お前たちはそう簡単に命が奪える!!?」

 

エルザは激昂し、アリアに突貫する。アリアは風を操り、エルザを襲うが、エルザは迫り来る風を全て切り倒していく。

 

「バ、バカな!!!? 風を切るだと!!? そんなことできるわけ……!!」

 

アリアは最後まで言い終えることなくエルザに斬り伏せられた。

 

「バ、バカな……」

 

「お前のような男にマスターが負けるはずがない。即刻自身の武勇から消すんだな」

 

エルザがそう言い終えるとアリアは気を失った。エルザも限界だったのか片膝をついて崩れる。

 

「「「エルザ!!」」」

 

「だ、大丈夫だ」

 

みんなが駆け寄ってくる。すると建物が突然大きく揺れた。

 

「なんだ?」

 

「ファントムが止まったんだ……」

 

 

外で戦っていた妖精の尻尾のメンバーもファントムが止まったことに喜び、勢いを増していった。

 

「煉獄砕破は止まったよ!! 今が逆転のチャンスだ!!」

 

『おおぉぉぉぉっ!!』

 

 

時間は少し戻り、ルシェドとハルトの戦いでは、ハルトは迫り来る光球を避けるため後ろに飛び退くが着地した瞬間、足を何かに掴まれこけてしまった。

 

「なん……」

 

ハルトが足を見ると足は土の塊に覆われ動けない状態だった。抜け出そうとするがすぐ目の前に光球が迫り、爆発が起きた。爆煙からハルトが転がるように出てくる。その腕には剛腕が展開されていた。すぐさま他の光球が迫りくるとハルトも逃げようとするが今度は背中に凄まじい衝撃が走り、後ろを見ると緑の光球が当たっていた。その光球が輝くと竜巻が発生し、突然のことに態勢を整えてなかったハルトは上空に打ち上げられた。

 

「ぐわぁぁぁっ!?」

 

するとその竜巻中に赤い光球が竜巻の風に沿って並んで入ってきて、ハルトを螺旋状に囲み、ルシェドが呟く。

 

「ボムストーム」

 

それを合図に下から順に爆発が起こり、竜巻の力もあり凄まじい炎の渦が出来上がった。それが収まると上からハルトがおちてくる。

 

「がはっ!」

 

服はボロボロで、傷がさっきよりもひどくなってる。

 

「ぐ……くそ……」

 

それでも立ち上がるハルトにルシェドは感心したように呟く。

 

「魔力を吸収してダメージを逃したのか」

 

「はぁ……はぁ……」

 

ハルトは腕に魔力を込め、ルシェドに走って行く。

 

「テメェの弱点は分かってんだ!そこを突けばすぐに終わる!!」

 

「弱点?」

 

しかし、光球をそれを阻む。さっきは単発で爆発してきたのに、今度は連続して爆発するため全く近づけない。ハルトは意を決して両腕に豪腕を出し、ジグザグに動きながら突っ込む。

 

「お前はシールドを出している時は爆弾を操れねぇだろ!!」

 

光球はハルトに追いつけず、ルシェドの懐に入られる。

 

「それと! 光球とシールドの切り替えに時間差があるとかなぁっ!!」

 

ハルトは竜牙弾をぶつける凄まじい衝撃波が部屋を揺さぶる。しかしルシェドは全く微動だにせず、ハルトを静かに見据える。

 

「なっ…!」

 

「確かにそうだな。俺は爆弾とシールドの切り替えはまだうまくない。だからこの鎧を着ているんだ。この鎧は『守護霊の鎧』。着用者を盾で守る。これで俺は爆弾の操作を集中すればいいだけだ」

 

すぐさま距離を取るハルトは右腕を抑えながら戦慄する。

 

(竜牙弾を止めるなんて、なんて硬い盾だ…!!)

 

「ああ…それと… お前、俺の弱点がわかったって言ってたな? 俺もだ」

 

「……何がだ?」

 

「俺もお前の弱点がわかったんだ、と言ったんだ」

 

「何言って……」

 

「まず1つめがお前の身体だ。さっきから思っていたことなんだが……お前は自分の魔法に身体が耐えられないんじゃないか?」

 

ハルトはそう言われると驚いた顔をした。

 

「図星か…… さっきから身体から出ている煙。それは身体に負荷がかかっているからじゃないのか?見ている限り、お前の魔法、魔力はとても強力なものだ。しかし、余りにも強力なため身体が耐えられないんだろう。竜牙弾を連発して使ったのは限界が近いから短期決戦に持ち込むためだ」

 

「………」

 

「2つ目がお前の特性である統合だ。確かに敵の魔力を吸収できるのは強力だ。しかしそれにも限度があるんだろう? 使えるなら俺の魔法を全て吸収すればいいんだからな。……よくて3割が限界か。それに竜牙弾か? 確かに強力な魔法だが、使う度に体に凄まじい負担がかかっているな。動きが著しく鈍くなってる」

 

(ほとんどバレてやがる…… こいつ確かに強いがそれだけじゃねぇ、頭と観察眼が凄えんだ……)

 

確かにルシェドはエルザと戦った時も事前に対策しておくなど、相手をよく観察していた。ルシェドがレイピアを振るうと光球は動く。その中でも緑の光球は凄まじい速さで迫ってくる。ハルトは防御もできず、腹にまともに入る。

 

「がっ…!」

 

腹に入った瞬間、風を発生しハルトを打ち上げる。打ち上げた場所には赤い光球がありハルトを爆発に巻き込む。爆発に巻き込まれたハルトが落ちてくる先には青の光球があり、ハルトが当たると水になりハルトの全身を包み込む。

 

「……!?……!!」

 

突然のことに驚くハルトは水球から出ようとするができない。すると水球の周りに緑の光球が現れ、取り囲む。すると光球から鎌鼬のような風発生し、水球ごとハルトを切り裂く。防御もできず攻撃されてしまうハルト。水球にハルトの血が滲む。水球が割れ解放されるハルトは倒れこむ。

 

「がはっ……!! ごほっ!ごほっ……!!」

 

咳き込むハルトの周りに黄色と茶色の光球が取り囲む。ハルトはそれに気づくとすぐさま立ち上がり剛腕を出し構える。光球が光ると石のかけら、金属のかけらが次々と降り注ぐ。

 

「ぐああぁぁぁっ!!」

 

剛腕で防ぐも足に何本か刺さってしまう。足が崩れて倒れてしまう。ルシェドはそれを見るとゆっくりと近づく。

 

「出せる魔法も弱くなってきたな。もう限界か?」

 

ルシェドが近づくとハルトは足から血が吹き出しながらも立ち上がり、魔力を込めた左手を握りしめルシェドに目掛けて殴る。

 

「覇竜の螺旋拳!!」

 

剛拳の数倍の威力がある螺旋拳は盾にひびを入れる。

 

「竜牙弾!!」

 

すかさずハルトは右手の竜牙弾を盾にぶつけると盾は粉々に砕け散った。ハルトは今度こそ当たったと思ったが、さらにもうひとつの盾があり、竜牙弾は防がれてしまった。

 

「ぐっ……!!」

 

突き出している右腕をルシェドを掴み、ハルトに話しかける。

 

「今のが最後の攻撃だな。もうお前は竜牙弾を使えないだろう?さっきよりも威力がだいぶ落ちてる」

 

ルシェドはハルトの腹に蹴りを入れて距離を離し、光球を向ける。ハルトは防御もできずに爆発を受ける。身体が地面を滑り、転がるが、すぐさま立ち上がり走る。

 

(爆発を受け入れ魔力を吸って足を回復したのか……)

 

ルシェドがそう分析すると今度は五色の中で最も速い緑の光球をハルトに向ける。ハルトは避けられないと思い、迎え打つことにした。手刀から魔力の刃を伸ばし切る。しかし切った瞬間、暴風が吹き荒れハルトは飛ばされてしまう。飛ばされた先にはルシェドが前もって作った血が石の壁がありハルトはそれに背中からぶつかる。すると次は壁の中から鉄柱が現れ、ハルトの背中に突き刺さる。そのまま飛ばされたハルトは痛みに悶える中何かに気づき動こうとするが、

 

「もう遅い」

 

ルシェドがそう言った瞬間ハルトがいた場所が爆発した。煙が晴れるとそこにはピクリとも動かないハルトが倒れていた。そこに歩み寄るルシェドは意識のないハルトに伝えるように言う。

 

「さまざまな爆発魔法を縦横無尽に操り、相手をも操る。故に俺につけられた二つ名が『指揮者』だ」

 

ルシェドはハルトを見下ろすが動く気配がない。

 

「まぁ、言ってもわからないか」

 

ルシェドが後ろを向いて去ろうした瞬間、後ろから音がした。振り向くとハルトが体を震わせながら立ち上がろうとしていた。しかし、度重なるダメージによりハルトは立ち上がれない。ルシェドはレイピアを構える。

 

「終わりだ」

 




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第32話 仲間のために

だいぶ遅れました。すいません。


レイピアを構え、突き刺そうととするが、剣先はハルトの頭の寸前で止まった。

 

「やはり俺には分からん。何故仲間のためにそこまでやれる? そんなに大切なものなのか?」

 

それを聞いてハルトは笑みを浮かべる。

 

「……あんたおかしいな」

 

「……何?」

 

「仲間や……絆のことを……否定してるわりには……どこかそれを……欲しがってるように……聞こえるぜ」

 

「………」

 

「図星か……?」

 

「……黙れ」

 

レイピアを掴む力が強くなる。

 

「過去に……何かあったのか?」

 

「黙れ」

 

どんどん声に力が入る。

 

「仲間と何かあったか?」

 

「黙れ!!!」

 

触れられたくない何かに触れられ激怒したルシェドは叫ぶと同時にハルトを蹴り上げ、遠くに飛ばす。ルシェドはハルトに向かってレイピアで五芒星を書くように空を切ると、そこに光の線が走り、五芒星が出来上がる。

 

「五つの属性よ! 禁忌の交わりを行いて、その真価を示せ!!」

 

ルシェドが詠唱すると五芒星は大きくなり、それぞれの頂点に五色の光球が現れる。するとそれぞれの光球から五芒星の真ん中に向かって光の線が集まると、そこに白色の光球が現れる。

 

「ペンタグラム・イクスプロージョン!!!」

 

その瞬間、部屋全体を覆う白い光が爆発した。そしてハルトに白く巨大な光線が襲う。その光線は部屋の壁を突き抜け、ファントムMk-Ⅱの外装も突き抜けた。

 

 

その威力はファントム全体を大きく揺らした。

 

「きゃっ! 何!?」

 

「大丈夫か!? ネェちゃん!!?」

 

「おいおい……どんだけ揺れんだよ……」

 

 

「うおっ!? なんだ!!?」

 

「下の方からだよ!」

 

「ハルトとルシェドが戦っているところだな……」

 

「ハルト……」

 

マタムネは心配そうにハルトの名前を呼ぶ。

 

 

外で戦っている妖精の尻尾のメンバーもルシェドの魔法の余波に驚いた。突然ファントムの体から白い大きな光線が出てきたのだ。

 

「おい!! 何だよあれ!!?」

 

「ハルトたちは無事なのかよ!?」

 

仲間は突然のことに慌てる。カナもそうだった。

 

「無事でいなよ。みんな……」

 

 

ハルトたちが戦っていた場所は風景が変わってしまった。ルシェドから扇状に地面が抉れており、ファントムの建物は大きな穴ができておりマグノリアの街が見えており、ルシェドの魔法の威力を物語っている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ルシェドは少し息を荒げながら地面の抉れたところに倒れているハルトを複雑そうに見ていた。

 

 

少し時は戻りアリアが倒され、ファントムMk-Ⅱの動きが止まったことに操縦室で待機していたジョゼも気づいていた。

 

「エレメント4は全員倒されたのか……」

 

「ま、マスタージョゼ……」

 

怒りに震えるジョゼに恐る恐る話しかけるファントムの魔導士。

 

「ありえん!! エレメント4がたかが兵隊に負けるだと!?」

 

「し…しかし、ファントムMk-Ⅱの動きは止められましたし、じ…事実かと……」

 

「ぐぅ……ガジルとルシェドは何をしている!!?」

 

ジョゼが怒鳴っていると後ろから声が聞こえた。

 

「待たせたなぁ、マスター」

 

「ガジル……」

 

ガジルが現れたのだ。しかもその肩には気絶したルーシィが抱えられていた。

 

「よくルーシィの居場所がわかったな」

 

「滅竜魔導士の鼻を舐めないでくださいやぁ。なんか邪魔してくるデブがいたから、とりあえず片付けておいたが……ありゃ死んでるかもな」

 

ルーシィを乱暴に下ろし、物騒なことを笑いながら話すガジルに同じギルドの魔導士たちでも顔を引きつってしまう。そんな中、1人がガジルに質問する。

 

「あ……あのガジルさん? そいつ死んでませんよね?」

 

さっきからピクリとも動かないルーシィにガジルが殺してしまったのではないか思ってしまった。

 

「う〜ん?」

 

顎に手を添え、わざとらしく考えるふりをした。突然ルーシィの腹を思いっきり蹴り上げる。

 

「がはっ!!」

 

「ほら生きてんじゃねぇか?」

 

「が、ガジル! やめろ!! 死んでしまう!!」

 

一回蹴った後も容赦なく蹴り続けるガジルに流石のファントムも止めに入るが、そんな中ジョゼはほくそ笑む。

 

「良くやりましたよガジルさん。これであのクソガキどもに王手を打てる」

 

「ギヒッ!」

 

 

ルシェドの強力な魔法の後、ファントムのギルド内と外で戦っている者たちに聞こえるように放送がされた。

 

『妖精の尻尾の皆さーん。私たちはルーシィ・ハートフィリアを確保しました』

 

それを聞いて全員が驚く。

 

「そんな……!!」

 

「ハッタリだ!!」

 

何人かは自分たちを撹乱するための嘘だと思った。

 

『キャアァァァァァッ!!』

 

しかし、何か鈍い音の後に響く悲痛な叫びは間違いなくルーシィのものだった。

 

「そんなルーシィが……」

 

「隠れ家の場所がバレだんだ」

 

『これでテメーらの運命は決まった…… 殲滅だ』

 

すると途端に幽兵の姿が荒々しくなり、攻撃の勢いが強くなった。

 

「がっ!? 何だこいつら!!?」

 

「突然強くなったぞ!!」

 

事態は悪い方向へと向かっていった。

 

 

一方、ファントム内のナツたちもその放送を聞いて一気に焦る。

 

「どうしよう!!? ルーシィが!?」

 

「今すぐ助けに行くぞ!!」

 

「せっしゃも行くでごじゃる!!」

 

ナツが駆け出そうとするがエルザがナツを止める。

 

「待て……ナツ」

 

「どうしたエルザ?」

 

「力を解放しろ…… お前にはまだ眠っている力がある。私を超えて行け!!ナツ!!!」

 

ナツはギルドを壊された、仲間を傷つけられた怒りがエルザの激励で解放された。

 

「ウオォォォォォッッッ!!!」

 

感情で吹き出た炎はナツを包み、ドラゴンのように炎翼を広げた。

 

 

ジョゼの放送はハルトとルシェドが戦っていた場所にも届いていた。

 

「マスターめ、いつの間に…… 」

 

ルシェドは落ち着いたようで、いつも通りの冷静な声だ。ハルトに背を向け、放送に耳をすましている。

 

『キャアァァァァァッ!』

 

ルーシィの叫びが聞こえた瞬間ハルトの指がピクリと動く。

 

『それとルシェド君。煉獄砕破をもう一度再開してください。虫の数が多く、面倒くさいので一掃したいのです』

 

「エレメント4は全員倒されたのか…… まぁいい」

 

ルシェドが腕を振るうと巨大な魔法陣が展開された。

 

 

幽兵の猛攻に耐えている妖精の尻尾の魔導士たちは絶望に打ちひしがれていた。止まったはずの巨人が再び動き出し魔法陣を描き始めたのだ。

 

「おい!? 何でまた動き出してんだよ!!?」

 

「知るか!!」

 

「ねぇ、さっきよりも早くない?」

 

ファントムMk-Ⅱの魔法陣を描くスピードはエレメント4を原動力としてた時より断然早くなってる。

 

「このままじゃ全滅だぞー!!!!」

 

それを操縦室で見ていたジョゼは上着を脱ぎ、出口に向かっていく。

 

「どこに行くんだよ、マスター?」

 

「中にいる虫どもを潰してくる」

 

「マスター自らしなくてもいいでしょう?」

 

「この俺に泥を塗ったんだ。俺の手で絶望の底に落としてやらねぇと気が済まねぇ」

 

その顔は怒りに染まっていた。

 

 

「何で煉獄砕破が復活してんだよ!?」

 

「ルシェドってやつのせいか!!」

 

グレイとエルフマンは慌てるが、ミラは別のことに戦慄していた。

 

「たった1人であんな巨大な四元素の魔力を補っているの……? どれほど巨大な魔力を持っているのよ……」

 

 

「全くマスターも後先考えずに動きすぎだ。街ごと消したら、それこそ俺たちが犯罪者だ。せめて妖精の尻尾までの範囲にしておくか……」

 

ルシェドが魔法陣に手を向け操作していると後ろから、砂利を踏む音が聞こえた。ルシェドはまさかと思い、振り向くと全身にひどい傷を負いながらもフラフラと立ち上がるハルトがいた。それを見たルシェドはひどく狼狽した。

 

「あ……あり得ない…… ペンタグラムを受けて、立つことができるなんて……」

 

「フーッ……フーッ……フーッ……」

 

ハルトは一歩ずつゆっくりとルシェドに近づいてくる。俯いているせいで表情がわからない。ただ何か圧倒するような気配をハルトから感じられた。ルシェドはそれに少し恐怖を覚えた。だがハルトの状態はあと一撃で倒せる状態だと思い、ルシェドは光球を放った。しかし、それよりも早くハルトは足に魔力を纏わせ、一気に近づいた同時に剛拳を食らわす。

 

「オラァっ!!」

 

「ぐっ!!?」

 

ルシェドはシールドをはっているのにも関わらず、大きく飛ばされた。さっきとは桁違いの威力だ。

 

(煉獄砕破に魔力を割っているとは言え、威力が違いすぎるぞ!? 一体どこからそんな魔力が……?)

 

その時ルシェドはハッとした。

 

「お前まさか……? ペンタグラムをもろに受けて魔力を全回復したのか?」

 

ハルトは何も言わなかったがルシェドはそうだと確信した。

 

「そんなの自殺行為だ…… 何故だ……何故そこまで仲間のためにやれる!!?」

 

ルシェドは再び光球で攻撃するがハルトは全て剛腕で受け止める。 その際に爆煙があがり、ハルトの姿は見えなくなる。

 

「………そんなの大切だからにきまってるだろーがっ!!!」

 

ハルトがそう言うと同時に煙から飛び出てルシェドに殴りかかる。ルシェドは避けれず、シールドで受けるが押し飛ばされてしまう。

 

「俺は仲間が危ないめにあってたら、命をかけても助けんだよ」

 

ハルトの目にはさっきよりも決意が固められている。その目を見て、ルシェドはさらに困惑し、怒りが募る。ルシェドは魔力を高め、また五芒星を描く。ハルトは前に踏み出そうとするが足に力が入らず、片膝をついてしまう。

 

(あいつのシールドを破るには竜牙弾じゃダメだ…… もっと威力を集中させないと……)

 

竜牙弾は確かにハルトの中では最も強い魔法だが、竜牙弾は中心から全方向に魔力の衝撃を放つ魔法であり一つの方向に威力が集中しているわけではないので分散して弱まってしまう。それがルシェドのシールドを破れない理由だ。ハルト自身もそこに気づいていた。

 

「試してみるか……」

 

ハルトは立ち上がり、左手に竜牙弾を作る。

 

「また竜牙弾か? 芸がないな」

 

ルシェドはそう言いつつもさっきの魔法を作っていく。しかし、ハルトはボロボロの右腕を突き出し、竜牙弾を近づけた。

 

「付加(エンチャント)………!!」

 

 

ミラたちは煉獄砕破の魔力源であるルシェドを探すために走り回っていると、ホールに出た。そこには傷ついて倒れたエルザがいた。

 

「「「エルザ!!」」」

 

ミラたちは近寄り抱き起す。

 

「う……お前たちか……」

 

気がついたエルザはゆっくりと目を開ける。

 

「あなたがこんなにもなるなんて……そんなにアリアは強かったの?」

 

ミラは倒れているアリアを見ながら聞くが、エルザは首を横にふる。

 

「いいや、違う。この傷は全てルシェドにつけられたものだ。今はハルトが戦っているはずだ」

 

「ハルトが!? あいつ倒れてたはずだろ!?」

 

「こうしちゃいられねぇ!今すぐ助けに行くぞ!!」

 

グレイとエルフマンは助けに行こうとするがエルザが待ったをかける。

 

「待て……ハルトを信じよう」

 

「信じようって……ハルトはジュピターを受け止めてボロボロなんだぞ!? それにルシェドってやつは相当ヤベー奴なんだろ!? だったら助けに行かねぇと……」

 

「だからこそだ」

 

エルザの目は自信に満ちていた。

 

「ハルトは必ず勝つ……あいつは仲間のためなら命を張る男だ。だからその仲間である私達があいつを信じて待っていよう」

 

 

その頃、ルーシィが捕らえられている操縦室ではガジルがルーシィを張り付けにし、ナイフを投げて痛ぶっていた。ガジルが投げたナイフはルーシィの顔のすぐ横に刺さる。

 

「…………」

 

「お〜今のは危なかったな!」

 

それをケラケラと笑いながら、次のナイフを投げようとしたガジルをファントムの仲間が止めた。

 

「な、なぁガジル……もうそろそろやめとこうぜ? 傷でもつけたらマスターに怒られちまうよ」

 

それを聞いたガジルは手を止め、止めに入った男の近くに寄り、腹に蹴りを入れた。

 

「がぁっ……!?」

 

「ゴチャゴチャうるせえんだよ…… テメェら雑魚の言うことなんかマスターが信じるわけねぇだろ」

 

仲間を仲間と思わない所業を見たルーシィは口を開いた。

 

「かわいそうね」

 

「あ?」

 

ガジルがルーシィをみるとその目には何故か自信が満ちていた。

 

「仲間を大切にしないあんた達になんかに妖精の尻尾は絶対に負けない。あんた達はこの世で1番敵にしちゃいけないギルドを敵に回したのよ!」

 

ルーシィが強気でそう言うのが気に入らなかったのか、舌打ちしたガジルは手にナイフを作る。

 

「じゃあその強さを見せてみろよ!!」

 

ガジルは今度はルーシィの顔スレスレのところではなく、顔を狙って投げた。他のメンバーも止めに入ろうとするが間に合わない。しかしルーシィは怖がりもせず、目を開き迫るナイフを見据えている。その瞬間、操縦室の床が盛り上がり、弾け飛んだ。そこにはガジルが投げたナイフを咥え止めた。ナツがいた。

 

「ナツ!!」

 

「やっぱりか、匂いでわかったぜ」

 

着地したナツはすぐガジルを見据えた。

 

「ガジルゥゥゥゥッ!!!!」

 

そして、すぐさま飛びかかり、炎を纏った拳で殴った。咄嗟のことで受け身も取れなかったガジルは吹っ飛び、機材に突っ込んで行ってしまった。

 

「痛っぇな……」

 

ガジルが前を向いたときにはナツは既にガジルの目の前にきており、こぶしを振りかぶっていた。

 

「オオオォォォォッ!!!!」

 

ナツはこれまで貯めてきた怒りを爆発させたかのように殴りかかる。しかし、ガジルもやられてばかりではなく、腕を鉄柱にしナツを引き離す。

 

「鬱陶しいぞ!!」

 

飛び退いたナツは後ろで拘束具を外していたハッピーとマタムネに指示を出した。

 

「マタムネはルーシィを助け出したらここから離れろ!」

 

「ぎょい!」

 

「えっ!?いいの!?」

 

ルーシィはナツの姿を見て、マタムネに聞き返す。ナツもアリアとの戦いで少なくないきずを負っている。

 

「せっしゃたちがいたらナツ殿は本気で戦えなくなってしまうでごじゃる」

 

ナツとガジルはどちらとも滅竜魔導士、強力な魔法を使うがその余波も凄まじいものだ。

 

「仲間を信じるでごじゃるよ」

 

マタムネの目には不安など一切見えていない。ルーシィもその目を見て力強く頷いた。

 

「うん!」

 



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第33話 絶望の果てに

すいません! だいぶ遅れてしまいました。またこれから頑張って書いていきたいと思うので、拙い作品だとはいえ思いますがよろしくお願いします。


「付加(エンチャント)……だと?」

 

ハルトは右腕に竜牙弾に付加したのだ。本来付加魔法は対象の物体に属性や効果を与える魔法だがハルトは魔法を直接体に付加させたのだ。一度体外に出した魔法は体の許容量を超えた魔力を流し続けることで成り立っているが、その許容量を超えている魔力を体の一部に留めておくことは危険なのだ。しかも、竜牙弾は爆発的な魔力を上手く一つの形に留めている魔法なのである。その危険性は跳ね上がる。

 

「ぐぅっ………!!」

 

現に付加したハルトは黄金に輝く右腕を抑え、苦しそうにしている。

 

「自殺行為だぞ……」

 

「だけど、これでお前を倒せる……!」

 

そう言ったハルトは地面を踏み込んで、ルシェドに近づく。それと同時にルシェドの魔法も完成した。

 

「ペンタグラム・イクスプロージョン!!」

 

さっきよりも光の大きさは小さいがそれでも十分に今のハルトを殺せる攻撃力だ。ハルトは迫る光に向かって右腕を振りかぶる。

 

「いっけぇぇぇっっ!!!」

 

腕から発射された竜牙弾は腕のおかげで方向性を持ち、ルシェドが放った魔法に一直線に向かって行った。やがてぶつかり、激しい火花と風を起こして拮抗する。

 

「ぐうぅ……!」

 

「うぅ……ウオオォォォォォッ!!!」

 

ハルトが雄叫びをあげると魔力をさらにあがり、竜牙弾はルシェドの魔法に打ち勝ち、ルシェドの体に直撃する。

 

「ガハッ!!」

 

その衝撃はルシェドの体を突き抜け、後ろの壁にヒビを入れ崩壊させた。

 

その衝撃はファントムのギルド全体を揺らした。

 

「うおっ! またか!なんだこの揺れ!?」

 

「下の方からだぞ!」

 

「ハルトがいる辺りかしら?」

 

ミラたちは少し不安そうにするがエルザだけは安心した笑みを浮かべた。

 

「流石だな……ハルト」

 

その揺れはルーシィたちにも伝わっていた。

 

「きゃっ! なにこの揺れ!?」

 

「ルーシィ殿……怖いのはわかるでごじゃるがビビりすぎてごじゃる」

 

「あたしじゃないわよ!?」

 

同じく戦っていたナツにも伝わった。

 

「ウオッ!? なんだこの揺れ!?」

 

「ヘヘッ ハルトだな」

 

「あぁ? ルシェドと戦っている覇王か……そいつがやったていう証拠でもあんのかよ?」

 

ガジルは侮蔑の笑みを浮かべるが、ナツは不敵な笑みを浮かべるだけだ。それを見たガジルは気に入らなかったのか笑みを消し、ナツを睨む。

 

「何がおかしい?」

 

「いや……テメェらには分かんねぇだろなって思ってよ。証拠があるから分かるっていうもんじゃねぇんだよ。仲間だから信じられるんだ」

 

 

ハルトとルシェドの魔法が激しくぶつかりあった部屋ではようやく煙が晴れてきた。そこには倒れて動かないルシェドと肩で息をしているハルトがいた。

 

「ハァ…ハァ…終わった……」

 

ハルトはその場に座り込んで一息ついた。倒れているルシェドに目を向けると立ち上がって近づき、胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、まだ意識があるんだろ? 今すぐ煉獄砕破を止めろ」

 

ルシェドは目をゆっくり開けた。

 

「煉獄砕破は……じきに消える…… 使った俺が……こんな状態だからな……」

 

 

ルシェドがそう言った瞬間、ファントムのギルドは激しく揺れ始めた。

するとファントムMK-Ⅱの目の光が消え、腕や足が崩れ落ちた。

その瞬間、外から歓声が聞こえる。一番の脅威が去り、みんな喜んだ。しかし、その歓声が聞こえる中で怒りに震える者がいた。

 

「ルシェドすらやられたというのか!? ガキどもめぇ……!!」

 

 

ハルトはその歓声が聞こえ、安心したように一息つき、ルシェドを掴んでいた手を放し、座り込んだ。

 

「それじゃあ聞かせて貰うぞ。お前が仲間を信じられない理由を」

 

「………覚えていたのか?」

 

「当たり前だ。半分くらいそのために戦ったくらいだからな」

 

あっけらかんに答えるハルトに、ルシェドは呆れたとため息を吐いた。

 

「お前、馬鹿なんじゃないか?」

 

「んだと?」

 

ルシェドの率直な意見にハルトは額に筋を浮かべる。

 

「まあいい……どうせつまらない話だ。 ある男は魔法に夢を抱いていたんだ。将来は魔法で多くの人を救おうと息巻いていた。そして魔法学園都市ラナンキュラスを首席で卒業したが、小さなギルドに入った。まぁ、そこをスタートとして大きくなってやろうなんて考えていたんだろうな?そこで多くの仲間と出会い、数々の以来をこなし、ついには『指揮者』などと言われるようになった。しかし、そこであることに気づいた。自分が所属していたギルドは闇ギルドに繋がったいたんだ。そして多くの依頼は不正のこと繋がる物ばかりだった」

 

「なりすましってやつか……」

 

「ああ、そうだ……間違っていると思った男は仲間を頼ろうとしたが、もちろんその仲間も全員、闇ギルドのメンバーだ。愕然としたよ。信頼していた仲間に後ろから刺されたのは」

 

そう言ったルシェドは力なく笑うが、どこか悲しげだった。

 

「結局その男は仲間と思っていた奴らにその魔法だけを利用されていたんだ。そのギルドは激昂した男に壊滅され、それ以来その男は自分と自分の魔法以外を信じられなくなった……というわけだ」

 

ルシェドの頭の中で思い浮かぶのは血を流しながら、廃墟の中で静かに泣く自分の姿だ。

 

「………」

 

「これを聞いてもお前は仲間を信じられるのか? もしかしたら騙されているということを考えないのか?」

 

ルシェドは目だけをハルトに向ける。その目は真意を確かめようとする強い目だ。

 

「あぁ、信じる」

 

それにハルトは即答した。

 

「……何故だ?」

 

「信じられずに裏切られるより、信じて裏切られた方がつらいに決まってる。だけど俺は仲間を信じられなくなったら俺はそこで死ぬんだと思う。今の俺があるのは仲間のおかげなんだ」

 

ハルトも目に力を入れ、そう語る。ルシェドはそれを見て何か心に安心したようなものが広がった。

 

「そうか……」

 

「じゃあ、俺はもう行くぜ。仲間が心配だ」

 

そう言ってハルトは空いた穴から、上の階に行ける道を探しに行った。そして1人残されたルシェドは1人呟く。

 

「仲間がいたから今の俺がいる、か…… 。そんなこと仲間に裏切られたことがない甘ちゃんが言える言葉だ」

 

そのときルシェドの頭の中でハルトの仲間を欲しがっているという言葉が繰り返される。ルシェドはそれを否定することができなかった。そしてまた呆れたように笑みを浮かべる。

 

「結局、俺も甘ちゃんってことか……」

 

しかし、何か憑き物が落ちたかのようなスッキリしたようだった。

 

 

エルザたちがファントムが止まり、安心していると足音が聞こえてきた。全員が身構えると角から現れたのはルーシィとマタムネだった。

 

「みんな!」

 

「ルーシィ!」

 

「無事だったか……」

 

みんなが一様に喜んだ瞬間、その場一帯におぞましい空気が流れる。

 

『ッ!?』

 

全員が嫌な汗を流し、震える。そして鳴り響く靴音がする方に顔を向けると、そこには怒りで表情を歪めたジョゼがゆっくりと階段を降りてきた。

 

「よくもやってくれたなガキども……覚悟はできたんだろうな?」

 

その怒りは魔力となって現れ、体から溢れ出ている。周りの建物を震わせ、小さな石などは浮かび上がるほどだ。

 

「テメェを倒せば終わりだろうが!!」

 

「ウオオォォォッ!!」

 

グレイとエルフマンは意を決して、攻撃を仕掛ける。しかし、ジョゼは手を挙げるだけで地面から邪悪な魔力を吐き出させ、殴りかかろうとしたエルフマンにぶつけた。氷の造形魔法のランスも片手で魔力の塊を放ち、全て破壊する。それでも止まらない魔力にグレイはすかさず盾を造形するが、

 

「なっ!? 盾が…!!」

 

ジョゼの圧倒的な魔力の前にはグレイのシールドは紙も同然だった。なす術なく盾は破壊され、グレイはジョゼの魔力に飲み込まれた。

 

「ぐぅあぁぁぁぁっ!?」

 

「グレイ!」

 

エルザは即座に黒羽の鎧に換装し、ジョゼに肉薄する。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

「フッ……」

 

攻撃するがジョゼは腕に魔力を纏わせ、防ぐ。

 

「ほぅ……なかなかですな。しかし、それではまだまだ」

 

ジョゼは空いた手でエルザの腕を掴み、振り投げ、エルザに向かって魔力の波動を放つが、エルザは体勢を整え、かわしながらまた肉薄する。しかしジョゼはそれよりも早くエルザに攻撃する。しかも今度は避けられないように弾幕のように魔力を放ち、エルザはなす術なく攻撃を浴びてしまう。

 

「ぐうぅっ!!」

 

「フッ……ん?」

 

すると、ジョゼは操作室で拘束されているはずのルーシィに気づいた。

 

「おやおや……ルーシィさん。なぜあなたがここにいるのですか? ガジルめ……見張っておくこともできないのか。グズめ……」

 

ルーシィは目の前で妖精の尻尾のトップクラスの3人が瞬殺されるのを見て、震えてしまう。それに気づいたジョゼは嫌らしい笑みを浮かべて、優しく語りかける。

 

「ふむ……もしルーシィさんがこちらに戻ってくるのであれば、もう攻撃を止めにしましょう」

 

勿論、そんなのは嘘だ。ルーシィに一度淡い希望を持たせて、絶望に叩き落とそうと考えて言ったのだ。しかし、ルーシィは拳を握りジョゼを睨みながら叫ぶ。

 

「ふざけないで!! あなた達のところなんか戻るわけないじゃない!!!」

 

それを聞いたジョゼは笑みを消し、手に魔力を集める。

 

「そうですか…… それじゃあ、仕方ないな!!」

 

ジョゼは怒りが頂点に達し、人質とかはどうでもよくなりルーシィに向かって魔力の波動を打ち込む。

 

「「ルーシィ!!」」

 

倒れたグレイとエルフマンを介抱しているミラも、攻撃を受けて倒れたエルザもルーシィを守るのに間に合わない。ルーシィは目を閉じて迫り来る衝撃に備えるが、いつまで経っても来ない。恐る恐る目を開けるとそこには覇竜の剛腕で波動を受け止めたハルトがいた。

 

「間一髪だったな。大丈夫か?ルーシィ」

 

「ハルトぉっ!!」

 

「うおっ!?」

 

ルーシィに安否を尋ねるが、感極まったルーシィはハルトに抱きつく。

 

「ハルトこそ! あんなにボロボロだったのに戦って大丈夫なの!? さっきよりひどい怪我じゃない!?」

 

「お、おう……一旦落ち着け……抱きつかれるのは嬉しいけど、傷が痛ぇ……」

 

「あ、ごめん……」

 

ルーシィはジュピターを受け止めた後よりひどい怪我をしていることに慌てて、ハルトに詰め寄るが、ハルトは全身傷だらけのようなものなので抱きつくルーシィに嬉しそうだが、顔が引きつっている。ルーシィはハルトに言われ、申し訳なさそうに離れた。

 

「やはり貴様がルシェドを倒したのか…… あいつは敵に甘いところがあったがそれでも私を抜いて、ファントムの中では一番の駒だった。流石だ、とここは素直に褒めておこう」

 

「全然嬉しくねぇな…… そんなこと言うならもうちょっと殺気を抑えろよ」

 

ジョゼはハルトを睨みながら、そう言う。ハルトはジョゼの殺気がさっきよりも大きくなっているの感じた。ジョゼはハルトに手の平を向け、大きな魔力の塊を放つ。

 

「くっ!」

 

「きゃあっ!」

 

ハルトはルーシィを抱き抱え、ミラがいるところまで飛び退いた。

 

「ミラ、マタムネ、ルーシィを頼む」

 

「待って!ハルトその怪我で戦う気なの!?」

 

ルーシィはハルトの腕を掴んでそう言う。ルーシィはこれ以上傷ついて欲しくないのだ。ハルトはルーシィの掴んでいる手をゆっくりと離し、安心させるようにと笑った。

 

「大丈夫だって、俺が強いのは知ってるだろ? サクッと終わらせてくるから」

 

「あっ、ハルト!」

 

ハルトはジョゼに近づくが、ジョゼは魔力の波動を横薙ぎに放ちハルトを近づけさせない。それでもハルトは踏ん張るが、そこにジョゼは容赦なく魔力の弾丸を無数に打ち込む。ハルトはバク転でかわすが着地する前にジョゼが魔法を放つ。

 

「デッドウィップ!!」

 

鞭状の魔力はハルトの体に当たり、壁まで吹き飛ばす。

 

「ガハッ!」

 

「デッドショット!!」

 

壁から落ちる前にハルトに向かって魔法を放つがハルトもやられてばかりではない。

 

「覇竜の咆哮!!」

 

ジョゼに向かって放った咆哮はジョゼの魔法弾をかき消し、ジョゼに迫るがジョゼはそれをひらりとかわす。

 

「ふむ……威力、スピード共に申し分ないがキレがないですね。ルシェドとの戦いでだいぶ消耗しましたか?」

 

「ハァ……そんなんじゃねぇよ……それにお前を倒すのにこれくらいで丁度いいぜ」

 

「……そうか、ならやってみろ! デッドウェイブ!!」

 

ハルトは虚勢を張るが、ジョゼには腹をたてるしかなかったようで、地面から魔力の波が押し寄せる。ハルトは横に飛び退いたが、そこにジョゼが分かっていたかのように先回りしており、至近距離で魔法を放つ。

 

「デッドショット!」

 

「ガハッ!?」

 

突然のことに防御が間に合わなかったハルトはもろに受けてしまう。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

魔法を放って隙ができたジョゼにエルザが斬りかかるが、ジョゼは静かに手をエルザに向ける。

 

「デッドネット」

 

手から蜘蛛の巣状の魔力がエルザに絡まり、身動きを取れなくする。

 

「ぐっ……くそっ!」

 

「フン……」

 

なんとか抜け出そうともがくエルザだが、ネットはさらに絡まり取れなくなる。ジョゼはネットが伸びている手を立ち上がろうとしているハルトに向けるとネットをそれに続いて動きハルトにぶつける。

 

「がっ!」

 

「ああっ!」

 

ジョゼはそこに追い打ちをかける。

 

「デッドスパイラル!!」

 

ハルトたちの足元から二つの魔力が螺旋状に上がっていく。それに巻き込まれる2人は上まで行くと重力に従って地面に叩きつけられた。

 

「ハァ……くそ、 魔力の質が違いすぎる!」

 

「流石、聖十大魔導士の1人というわけか……」

 

「貴方達もなかなかのものですよ。全快の状態なら結果も変わっていたのではないですか?」

 

ハルト、エルザはルシェドの戦いでダメージを負いすぎて、思った以上に動けなかった。すると、ジョゼは戦いを見ていたルーシィ達に視線を向けると、嫌らしい笑みを浮かべた。ルーシィ達に向けて手を払うと地面から幽兵が2体現れた。

 

「行け」

 

幽兵はルーシィ達に向かって走り出す。それにいち早く気づいたハルトは幽兵よりも速く動き、ルーシィ達の前に立って、幽兵を迎え撃つ。

 

「らぁっ!!」

 

ハルトが幽兵を殴った瞬間、幽兵は紫色に輝き爆発した。

 

「ハルト!?」

 

間近で爆風を受けたルーシィは風を防ぎながらもハルトの安否を気にする。煙が晴れると、そこにはあまり傷は増えていないが、顔色を悪くしたハルトが片膝を着いていた。

 

「どうですか? 私の『幽兵爆弾』(シェイドボム)のお味は? ルシェドみたいに威力も無く、大量に作ることはできませんが、呪いの効果付きです。一撃を貰うだけでもその体では相当効く筈ですよ?」

 

ジョゼはそう言いながら新たに幽兵を三体作り出し、ハルトに向かって幽兵を突撃させる。

 

「ハルト!」

 

「マタムネ……全員逃げさせろ……庇いながら戦うのは厳しい」

 

ルーシィがハルトに声をかけるも、返ってきたのはのは緊張した声で不味い状況だということだけだ。

 

「覇竜の咆哮!!」

 

ハルトはなんとか立ち上がり咆哮を放つ。一体には当たったが、他の2体はハルトを通り過ぎ、ルーシィたちに迫った。

 

「!? くそっ!」

 

ハルトは慌てて通り過ぎた幽兵に向かって覇竜の断刀で斬りかかるが、切られる前に幽兵は自分で爆発した。

 

「フン……貴方達は仲間などのくだらないものを大切にしますからね。こうすれば自ずと倒れるのは分かりますよ」

 

「ジョゼ! 貴様ぁっ!!」

 

エルザは果敢に攻撃を仕掛けるが、ジョゼはかわしてしまう。

 

「くだらない、何度やっても当たらないものは当たらな……ぐふぉっ!?」

 

ジョゼがエルザの剣戟をかわし、防ぎながらエルザを馬鹿にした瞬間顔に向かって魔力の塊が飛んできた。もろに食らってしまったジョゼの顔に僅かに傷がつく。

 

「ぐっ……貴様ぁっ!!」

 

ジョゼが睨む先には、顔色を悪くさせながらもジョゼに向かって拳を突き出しているハルトの姿があった。

 

「へへっ……油断大敵だぜ」

 

「貴様、よくも……」

 

「ハアァァァァッ!」

 

「グファッ!」

 

ハルトを睨むジョゼにエルザの追撃が当たる。

 

「お前が言ったくだらないものが、ようやくお前に攻撃を与えたぞ」

 

とっさに魔力で防御はしたが、エルザの一撃は強烈で服に血が滲んでいる。エルザの一言にジョゼは怒りで震える。

 

「いい加減にしろよ……クソガキ共ぉっ!!」

 

「「!?」」

 

怒りが頂点に達したジョゼは目が黒く変色し、魔力が溢れ出た。

 

「きゃあっ!!」

 

「魔力がさっきよりも上がったでごじゃる!」

 

突風が吹き荒れ、ハルト達を巻き込む。風で目を塞がれ、開けた瞬間目の前に魔力の塊を持った手が迫ってきていた。ハルトは何もできず爆風に巻き込まれる。

 

「ハルト!?」

 

エルザは隣で突然のことに驚くが、ジョゼは間髪入れずエルザの鎧の襟を掴み投げると、エルザに向かって魔力の弾丸を無数に打ち込む。

 

「くうぅぅぅっ!」

 

エルザは剣で弾いたりして防ぐが、数が多く、捌き切れない。そこに爆発から脱出したハルトがジョゼに迫るが、ジョゼは即座に魔法を放ち、ハルトに攻撃する。

 

「デッドウェイブ!」

 

「ぐあっ!」

 

ハルトは突然のことに体は止まらず、そのまま突っ込んでしまい、ルーシィ達がいる近くまで転がる。

 

「ハルト、大丈夫!?」

 

「あ、あぁ…大丈夫だ」

 

ハルトはそう言うが冷汗は流れ、疲労が目に見えている。ハルトがジョゼに目を向けるとジョゼはすでに空中に大きな魔力の塊を多数作っていた。

 

「デッドラッシュ!」

 

一斉に打ち出された魔力は真っ直ぐにハルトたちに迫ってくる。

 

「覇竜の剛腕!」

 

ハルトは巨大な剛腕を出し、後ろにいるルーシィ達も守るようにしたが、多量に打ち込まれてくる魔力弾の威力が強く。剛腕にヒビが入る。

 

「ぐわっ!」

 

そしてとうとう剛腕は破壊され、ハルトも疲労が来たのかそこに座り込んでしまう。

 

「ハァッ!」

 

「邪魔だぁっ!!」

 

「あぐっ!?」

 

エルザも応戦するが本気を出したジョゼにあっさりと魔力で捉えられてしまう。するとジョゼは手から今までで最も大きい魔力の塊を作る。その魔球は怨念みたいな物が取り巻き、見ただけで危険なものだとわかる。

 

「ルーシィ・ハートフィリア!! 選べ!!私たちの元に戻って来れば仲間は助けてやる!!来ないならばお前ごと仲間も殺すぞ!!」

 

それを聞いたルーシィはさっきとは打って変わって迷った。ハルトもエルザも戦える状態ではない。この危機的な状況を救えるのは自分だけなのだ。

 

「わ、私がそっちに……」

 

「行くなルーシィ」

 

ハルトがルーシィの手を前を向きながら握り、力強く言った。

 

「で、でもハルト……」

 

「俺もエルザもそんなことされたら、自分を許せなくなってしまう。だから、行くな」

 

振り向いたハルトの目には、まだ諦めていない意思が見えた。

 

「どうした! 殺してしまっても構わないのか!!」

 

ジョゼはエルザを縛る力を強める。苦しそうに呻き声をあげるエルザを見て、ルーシィ達は辛そうな表情をするが、ハルトは何かに気づいた。

 

「おい! その前に聞きたいことがある」

 

「……何だ?」

 

「お前なんでこんなとをしたんだ?」

 

突然のハルトに質問にジョゼだけでなくルーシィ達も目が点になる。

 

「は、ハルト!今はそんな場合じゃないでごじゃる!」

 

「いいから! ルーシィを連れ去るだけならもっと他のやり方もあったはずだ。なのに今回のやり方は明らかに俺たちが攻撃を仕掛ける前提での作戦だよな。なんでこんなことをした?」

 

ハルトの質問に、訝しげな表情を浮かべたジョゼだがハルトたちになす術はないと思ったのか答えた。

 

「前までは我が『幽鬼の支配者』はこのフィオーレで一番のギルドだった。しかし、最近になって『妖精の尻尾』が大きくなり始め、ついには『幽鬼の支配者』と並び始めた。ラクサス、ミストガン、ギルダーツ、カミナ……そして『妖精女王』、『覇王』と名高い、エルザとハルト。『火竜』の名は大陸全土に知れ渡った。ただの弱小ギルドになぜこんなにも優秀な駒が集まる? 気にくわない……気にくわないだよ…… たかが弱小ギルドが粋がってんじゃねぇっ!!! さらにはハートフィリア家の令嬢がギルドに入っただと? ふざけるな!!『妖精の尻尾』にハートフィリア家の財力が合わさってしまえば、今度こそ『妖精の尻尾』が大陸一のギルドになってしまう!!そんなことあってはならない!!!」

 

「じゃ、じゃあアンタは『妖精の尻尾』が大きくなるのが嫌だからこんなことをしたっていうの? そんなのただの嫉妬じゃない!!」

 

「小娘に何がわかる!? 今まで積み上げて来たものが脅かされるのだぞ!? これほどの恐怖があってたまるか!! それにお前にも一因があるんだぞ!! お前が『妖精の尻尾』に入ったことでハートフィリア家の財力が入るのだからな!貴様らはいったいどれ程大きくなれば済むんだ!!!」

 

ジョゼはルーシィに向かってそう言うとルーシィは辛そうな表情になり、俯いたが、ハルトはその頭に優しく手を乗せ、撫でた。

 

「ハルト…」

 

「大丈夫」

 

ひとしきり撫でたあとハルトはジョゼのほうを向いた。

 

「お前は馬鹿か?」

 

「何?」

 

「ルーシィは家の金なんか一切持ち出して来てないんだよ。俺たちと同じように働いて、笑って、泣いて、暮らしているんだ。お前らが思ったみたいなことは一切なかった。だから、お前らが俺たちを攻撃してきたことは完全にお前らが悪い。私情でギルド間の抗争を起こしたんだ。評議院に罪に問われるのはお前達だな」

 

ハルトが言ってることは正しい。もし妖精の尻尾が金がつるんでルーシィや、ハートフィリア家に関係があり、幽鬼の支配者との抗争が起こったなら一人娘と財産を守る幽鬼の支配者が正しいことをしていることになるが、今回のことは幽鬼の支配者側の私情が優先して起こったことなので、悪いのは幽鬼の支配者だ。しかし、ジョゼは馬鹿にしたかのように笑みを浮かべる。

 

「そんなことどうでもいいんですよ」

 

「何だと?」

 

「ルーシィ・ハートフィリアを確保したところで父親のところに返すつもりなんてありません。監禁し、それを種にしてハートフィリア財閥から金を搾り取れるだけ搾り取るんですから、評議院なんて怖くはありませんよ。一体幾つの『幽鬼の支配者』の支部がフィオーレ王国にあると思うんですか!? 身を隠すなんて簡単なことだ!! 貴様らがいくら足掻こうがどうにもならんのだ!!」

 

ジョゼの高笑いが部屋に響く。ルーシィは事実を知り、悔し涙を流し、エルザ達も悔しがる。しかし、ハルトだけは依然としてジョゼを静かに睨み続ける。

 

「貴様は自分のせいと思い、仲間が傷つく姿を見て涙を流すルーシィの気持ちがわからないのか!!?」

 

耐えかねたエルザがジョゼに叫ぶが、この圧倒的有利な立場であるジョゼには全く意を返さない。

 

「全く。わかる必要すらないな。しかし、ルーシィ・ハートフィリアはこれから底のない絶望に苛まれるのはわかるがな」

 

ジョゼは嬉々とした声でそう告げる。エルザ、目を覚ましたグレイ、エルフマン、ミラ、マタムネは激怒の表情を露わにするがこの状況では何もできない。

 

「それでは幕引きと行こう。まずは覇王からにしようか」

 

ジョゼは巨大な魔力の塊をハルトに向かってゆっくりと投げつける。迫る魔球にハルトは動けない。すると、涙を流したルーシィが手をぎゅっと握ってくる。

 

「ごめんね。せめて一緒にいさせて……」

 

「ハハハッ!! 絶望の果てに落ちろ!!妖精の尻尾ぅぅぅっ!!!」

 

ルーシィはもうダメだと思い、最後まで一緒にいようとするが、ハルトは一息つき、口を開いた。

 

「遅いんだよ。馬鹿」

 

「すまない。遅れた」

 

その瞬間、ハルトに迫っていた魔球は一筋の白い光が差し込むと弾けて消えた。そこには鍔がない日本刀が刺さっている。すると天井から白い外套を来て、髪に白いメッシュが入った男が降りて来た。

 

「みんな、待たせたな」

 



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第34話 白い死神

時間は少し前に遡る。妖精の尻尾のギルドを攻撃していた幽兵達はその勢いをさらに強め、ギルドメンバーをほぼ全員を倒し、ギルドの破壊に移っていた。元からボロ酒場だったにも関わらず、ガジルの攻撃と、ハルトが防いだがジュピターの余波でもう倒壊寸前だった。そこに幽兵達は一つの存在になり、巨大な幽兵となってギルドに攻撃をしていた。

 

「くそっ、この野郎!!」

 

「やめろー!!」

 

他のみんなが未だに幽兵に抵抗している時にカナの叫びが響きわたる。その瞬間、巨大幽兵はトドメだ、と大きく振りかぶる。そして拳を振り下ろした瞬間、巨大幽兵は上下真っ二つに切れて倒れた。全員が呆然とするなか、戦場の中心から白い雷が全体に行き渡るように広がった。しかし、妖精の尻尾のギルドメンバーに当たらないように広がり、幽兵だけに当たり、消していく。

 

「いったい何が……」

 

カナが辺りを見渡し、何が起こったか確認すると壊れたファントムMK-Ⅱに向かって飛んで行く白い人影が見えた。

 

「あれは……」

 

「カミナだ……カミナが戻って来たぞーー!!!」

 

一人がそう叫ぶと、周りのみんなも歓声を上げる。

 

「妖精の尻尾のトップクラスの一人が戻って来た!!」

 

「形勢逆転だ!!」

 

「いけるぞ!!」

 

「押せ!押せー!!」

 

幽兵達はカミナの魔法により大多数が消えてしまい、残った幽兵達も雷の余波で弱っている。反撃が始まった。

 

 

カミナとジョゼが睨み合う。

 

「今更1人増えようと何も変わらない。お前たちの負けだ」

 

ジョゼがそう告げるが、カミナは無視し顔だけをハルトに向ける。

 

「体の調子はどうだ?」

 

「魔力は大丈夫だけど、体力がもう無いな……」

 

「そうか」

 

その態度に怒りを覚えたジョゼは叫ぶ。

 

「おい!貴様!! エルザがどうなってもいいのか!!?」

 

ジョゼはエルザを捕まえている魔法を操っている手を握る。するとエルザを縛っている魔法はさらにエルザを締め付ける。

 

「ぐうぅ……」

 

「フハハ! エルザを殺してもいいのか!さあ、早くルーシィを渡せ!」

 

ジョゼはエルザが苦しむのを得意気に笑いながらそう言うがカミナは一切表情を変えない。

 

「殺せるものなら殺してみろ」

 

「……何?」

 

「できるものならな」

 

カミナは冷静にそう告げる。

 

「そうか……そんなに言うなら殺してやろう!!」

 

そう言ってジョゼが魔力をさらに込めようとした瞬間、エルザを縛っていた魔力が霧散した。

 

「何!?」

 

ジョゼが驚くのを他所に、解放されて地面に落ちてくるエルザを大きな白い狼が背中に乗せてカミナの元にやってくる。

 

「よくやった狼(ろう)」

 

「クゥ〜ン」

 

カミナは狼の頭を撫でて褒めると、狼は嬉しそうに尻尾を振る。

 

「この人がミラさんの恋人で、妖精の尻尾の最強の1人……」

 

カミナは立ち上がり、ジョゼを見据え、腰に差してあるいくつかの巻物の一つを取り出し、上空に開く。

 

「召喚(来い)、繭姫」

 

人1人を覆うくらいの魔法陣が展開され、そこから花魁の格好をした美女が現れる。

 

「あらぁ? 私を呼ぶなんて珍しいわね。滅多に怪我なんてしないのに」

 

「治してほしいのは俺じゃなくてハルトだ。魔力はしなくていい。体力を一番に治してくれ。怪我はその後でいい」

 

カミナがそう言うと繭姫は後ろからハルトに抱き着く。

 

「ちょっ、ちょっと何してるのよ!? てか、アンタ誰よ!?」

 

「そいつは繭姫。俺の式神の一体だ」

 

「ふふっ、今はハルトさんを癒してるのよ。貴女も混ざる?」

 

「へっ!? いや私は……!」

 

「繭姫、新人を苛めるな。そいつは治癒の効果があるから、そうやっているだけだ」

 

「貴様!私を無視するな!!」

 

ジョゼはカミナ達に向かって大きな魔力の波動を放った。襲いかかる魔力の波動はカミナの寸前で止まる。カミナの前には呪文が書かれた札が空中に浮いている。

 

「東方の結界か!?」

 

「これなら暫くもつだろ」

 

「おいカミナ! 俺も治せ! 一緒に戦う!」

 

「何? グレイくんも抱きしめて欲しいの? 可愛いわね♪」

 

「ばっ!? そんなんじゃねぇ!!俺も戦うって言ってんだ!!」

 

グレイは顔を赤くして叫ぶが、カミナは冷酷に告げる。

 

「ダメだ。今のお前では邪魔になるだけだ。そこに座っていろ」

 

カミナはそう言い、前を向いた。

 

「なんだ……っ!?」

 

グレイが言い返そうとした瞬間、後ろから手が伸び、肩を掴まれた。ミラが少し悲しそうな顔をして首を横に振る。グレイを冷たく突き放すカミナの態度にルーシィは憤りを覚え、カミナに言い返そうとするが、

 

「ちょっとそんな言い方…」

 

「いいの、ルーシィ。カミナが言ってることは正しいわ。グレイやエルフマンじゃジョゼに勝てない」

 

「ミラさん……」

 

ミラの言うことを理解したのかルーシィは渋々、後ろに下がった。ミラはカミナのほうを向いて少し悲しそう微笑む。

 

「気をつけてね」

 

「ああ」

 

カミナが前を向くと、ジョゼは魔力を放ち続けるが、一向に結界が破れる予兆はない。カミナは人指し指と中指を合わせてジョゼに向ける。

 

「白雷」

 

指から凄まじい速さで白い雷が放たれ、一直線にジョゼに向かう。

 

「ぐあぁっ!」

 

「白炎」

 

今度は手のひらから白い炎が放たれる。白炎はジョゼを覆い囲み、ダメージを与えていく。

 

「くそっ!こんなもの……! 」

 

ジョゼは炎を吹き飛ばそうとするが、上手く魔法が発動しない。それを確認したカミナは今度はエルザのほうを向く。

 

「エルザ、そろそろ狼を放せ」

 

「相変わらず狼はフサフサで気持ちがいいなぁ」

 

エルザはさっきの緊張した顔とは打って変わって、気の抜けきった顔で狼の身体に頬ずりしていた。若干狼は迷惑そうなにしている。そこに何故か鼻息を荒くしたマタムネが割って入ってくる。

 

「エルザ殿!フサフサ感ならせっしゃも負けていないでごじゃる!どうかせっしゃを代わり抱きしめて欲しいでごじゃる!」

 

今のエルザの格好は鎧が壊れ、扇情的な格好をしている。そこに目を付けたエロ猫マタムネは出てきたのだ。

 

「嫌だ。狼のほうが気持ちいい」

 

「ガーン!」

 

エルザの言葉にショックを受けたマタムネはその場に崩れ落ちた。

 

「アンタは何やってんのよ……エルザもいい加減離れなさい」

 

「あぁ!ルーシィ待て!せめてあともう少し……」

 

崩れ落ちたマタムネとくっ付いて離れないエルザをルーシィが呆れて回収してくれた。ジョゼは一際大きく魔力を放ち、炎をかき消した。

 

「くそっ!忌々しい炎だ……」

 

「属性の強みがでたな」

 

「何だと?」

 

「俺の魔法は聖属性が主体の白魔法。お前のは闇属性の魔法が主体だ。相性は最悪だ」

 

「それがどうした!デッドウェイブ!!」

 

ジョゼは魔法を放つ。カミナはもう一本の巻物を広げる。

 

「召喚(来い)、断亀(たちき)」

 

魔法陣から現れたのは海亀くらいの大きさで甲羅の真ん中が青色の宝玉の亀が現れた。断亀はカミナの前に出ると宝玉を輝かせ、結界を張るとデッドウェイブを完全に防ぐ。

 

「断亀、ミラ達を守れ」

 

断亀はキュルルと鳴くとカミナの後ろに行き、ミラ達を守る。

 

「さて、やろうか」

 

「二回攻撃を防いだくらいでいい気になるなよ!小僧!!」

 

ジョゼが魔法を放とうとするよりも早くカミナはクナイを投げ、牽制する。ジョゼはそれを素手で弾くとクナイと同じタイミングで走り出した狼が迫って来ていて、腕に噛み付く。

 

「ぐっ!このクソ犬が!!」

 

ジョゼが狼を振り払うと、カミナが気づかれず後ろに移動していて切りかかって来た。

 

「ぐあぁっ!」

 

「白雷」

 

さらに至近距離からの白雷と一旦離れた狼が体を回転させ体当たりして来た。立て続けに攻撃を食らうジョゼは防御をする暇がなかった。しかし、ジョゼもやられてばかりじゃない。もう一度攻撃してこようとするカミナと狼にデッドウェイブを放ち、距離を取らせる。しかし、カミナは容赦なく攻撃する。

 

「頑風(がんふう)」

 

指を上から下へ降り下ろすとジョゼの頭上に風の塊が降ってくる。

 

「があっ!」

 

突然のことに防御ができなかったジョゼはモロに受けてしまい、少したたらを踏む。

 

「縛道の六十一、六条光牢」

 

その隙にカミナは魔法でジョゼを六つの光で動けなくした。

 

「な、なんだ!この魔法は!?」

 

「君臨者よ、血肉の仮面、万象、羽搏き、ヒトの名を冠す者よ心理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」

 

カミナの詠唱が続くとその手に大きな魔力が溜まっていく。

 

「破道の三十三、蒼火墜」

 

手から放たれた蒼い爆炎はジョゼを包み込んだ。

 

「す、すごい……あのジョゼが一方的に……」

 

「カミナは敵に対しては一切容赦がないの。敵を倒すまではその手を緩めない。その容赦無さと的確に相手を追い込んでいく様から、いつしか『白い死神』って呼ばれるようになったわ」

 

驚くルーシィにミラはそう付け加える。蒼い炎が燃え盛っていると突然の突風にかき消された。ジョゼは全身に火傷を負っており、確実にダメージが入っている。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、くそっ!こんなガキに……!」

 

「そういえばここにくる途中目障りな連中がいたんだ。邪魔だったから全員倒してきた」

 

カミナがそう言うと外套から大量の布が出てきた。その布には幽鬼の支配者のマークがある。それを見たジョゼはワナワナと震える。

 

「まさか……貴様……幽鬼の支配者の支部をすべて破壊してきたと言うのか!?」

 

「全てじゃない。半分はミストガンがやってくれた。これでお前の隠れ家も無くなったわけだ」

 

ジョゼはその瞬間自分の何かが切れた感じがした。

 

「貴様アァァァァッ!!!!」

 

ジョゼから凄まじい魔力が放出され、カミナに迫る。ジョゼは魔力が篭った手を振り回して攻撃してくる。キレてしまったジョゼの攻撃は力任せに振るうばかりで、カミナには全く当たらない。カミナは避けながら手で印をきる。

 

「怒りで周りが見えなくなって単調になってきたな。だからこうやって……」

 

カミナが少し刀をジョゼの首元に添えるだけで当たりそうになる。

 

「危険な目にあう」

 

「ぐっ!?」

 

辛うじてかわすが首から僅かに血が流れる。

 

「ガアァァァァッ!!!」

 

ジョゼが腕を振り下ろすと衝撃波が放たれ、カミナは飛び退き、顔の前で印をきる。その瞬間ジョゼの足元に白い光線の五芒星が描かれる。

 

「白芒星・天衝」

 

五芒星から上空に向かって白い光が溢れ出る。

 

「アアァァァァッ!!?」

 

白い光はジョゼは苦しめている。

 

「縛道の六十三、鎖状鎖縛」

 

太い光の鎖がジョゼに巻きつき、身動きを取れなくする。すかさずカミナは刀の根元に二本の指を置き、切っ先までなぞる。するとなぞった所から白い光を放つ。一旦鞘に収め、中腰になり居合の構えを取る。そして苦しむジョゼを見据える。

 

「白絶斬」

 

神速で放たれた居合は光の軌跡を残し、ジョゼを切り裂いた。白芒星と鎖が無くなり、ジョゼは声も出さずに倒れた。

 

「た、倒したの?」

 

「やったでごじゃる!」

 

ルーシィたちが喜ぶ中、カミナ、ハルト、エルザは倒れたジョゼを睨む。そして小さくハルトが呟いた。

 

「いや、まだだ」

 

その言葉の瞬間、ジョゼの腕がピクリと動き、ゆっくりと立ち上がろうとする。それにみんなが驚く中、カミナは即座に刀に魔力を込めてジョゼに斬りかかる。しかし、その寸前で魔力の壁が出現し、それを防ぐ。カミナは無理だとわかり、飛び退いた。

 

「いや、流石は白い死神。的確に私の弱い所を突いてくる。私の弱点はこの怒りぽっい所ですね。反省しなければ」

 

そう言いながらカミナに拍手を送るジョゼの表情は笑みを浮かべ、不気味なものだ。

 

「しかし、怒ったせいか一周回って冷静になりましたよ。貴方を倒すには勢いだけではダメなようだ」

 

そう言って顔をうつむかせてから、もう一度顔を上げる。

 

「今度はこちらも一切の容赦無く、貴方を殺しましょう」

 

その顔は一切の油断が無くなった。本気の表情だとわかった。

 

 

さっきまで優勢だったのが嘘だったかのように、カミナは追い込まれていった。魔法を放とうとするもそれよりも早くジョゼが魔法を放ち、罠を仕掛けよう共それを看破する。次第にカミナの額には汗が浮かぶ。

 

「どうしました? さっきまでの速さはどこに行きましたか?」

 

「……」

 

「貴方の魔法が速いのは放つ魔法とは別にもう一つ使っていますね。魔法の工程を無くす魔法……と言ったところでしょうか。道理で私の魔法の速さが追いつかないわけだ」

 

ジョゼが言っていることは正しい。カミナの最大の特徴は魔法の速さとその魔法を放つまでの時間の速さだ。カミナは自身で編み出した魔法の工程を無くす魔法を放つ魔法にかける。しかし、過程を無くす魔法は多くの魔力を消耗するので持久戦には向かない。カミナはいつも短期決戦で片付けてきたが、ジョゼはそれを見破り、持久戦に持ち込んだ。魔力の量は支部を潰してきて、さらには全速力で戻ってきたカミナに比べてジョゼのほうが断然多い。それを利用してジョゼは常に障壁を張り続け、隙が生まれないようにしている。次第にカミナの魔法のスピードは遅くなり、不利になってきてしまったのだ。

 

「しかし、私も貴方程の速さとはいかないが、それに似たスピードは出せますよ」

 

そう言ったジョゼは手を向けると一瞬で魔力弾がカミナの顔面近くまで来た。

 

「!? チィッ!!」

 

驚いたカミナは即座に刀で斬りふせる。

 

「まぁ、こんな弱い弾しか放てませんが、経験の差ってやつですよ」

 

「チッ……」

 

(さっきは怒りで付け入る隙間があったが今は冷静だ。隙がない……)

 

「それでは幕引きといきましょうか」

 

ジョゼは両腕を左右に開き、魔力を貯める。禍々しい魔力がどんどん溜まっていく。

 

「白雷!」

 

カミナは魔法を放つがジョゼの障壁に防がれる。

 

「確かに相性はいいみたいだが、魔力が弱いぞ! さっきのでほぼ使いきったようだな!!」

 

カミナは苦虫を潰したような顔をする。貯め終わった魔力を一つにし、ジョゼはカミナに向ける。

 

「デッドリーコロナァッ!!!」

 

放たれた巨弾は地面を穿ちながら迫ってくる。

 

「縛道の八十一! 断空!」

 

カミナは地面に手をつきそう言うと地面から大きな障壁が現れた。ぶつかり合う二つの魔法は火花を散らせて、拮抗する。

 

「ぐうぅぅ……」

 

「カミナ!!」

 

苦しそうに耐えるカミナにミラの叫び声が聞こえた。顔を上げた瞬間、目の前にジョゼの手が広がっていた。

 

「終わりだ」

 

ジョゼの手から魔法が放たれた。

 

 

ジョゼの魔力弾が強く辺り一面が煙に包まれる。

 

「イヤァァァァッ!!!」

 

ミラの悲痛な叫びが広がり、ミラは断亀の結界から出ようとするのをグレイとエルフマンが止まる。

 

「止まれ!」

 

「止めろって、姉ちゃん!!」

 

「離して!カミナが……カミナが……!!」

 

涙を流して悲しみに震えるミラ。ルーシィはそれを口を押さえ震えながら見ていた。

 

「そ……そんな……最強の一人のカミナさんまで……」

 

ジョゼは煙の中を見ると感心した声を出す。

 

「ほう……」

 

煙が少し晴れるとそこには少し火傷した手で粉々に折れた刀を持ったカミナがいた。

 

「刀を犠牲にして逃れたか。あの状況でよく動けたな」

 

ジョゼはそう言うが明らかに馬鹿にしている口調だ。カミナは即座に手を向ける。

 

「白炎!」

 

白い炎が放たれるがジョゼの障壁が僅かにヒビがはいるだけだ。

 

「だから言っただろう。相性はいいが威力が弱いと」

 

「そうだな。確かに弱い……だったら強いやつに代わって貰えばいい」

 

「何……?」

 

その瞬間、障壁は粉々に砕け、ジョゼの顔に拳が突き刺さる。

 

「グハァッ!!!」

 

ジョゼは壁際まで殴り飛ばされた。

 

「おいおい……結構やられてるじゃねえか」

 

「はっ、馬鹿を言うな。油断させているだけだ」

 

「じゃあ、その手はなんだよ?」

 

「ちょっと火傷しただけだ。これから反撃する」

 

「ふーん? じゃあ、お手並み拝見だな。まっ、俺が先に倒すけどな」

 

「やってみろ……俺が先に倒す」

 

覇王と死神が並び立った。

 



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第35話 妖精の法律

ハルトとカミナはジョゼと対峙する。

ジョゼは多少怪我を負っているがそれでもハルト並ではない。

しかし、ルーシィの目にはあの二人が並んで立っていることが何より頼りになるように見えた。

 

「じゃあ、先に行かせてもらうぜ」

 

ハルトが一歩前に出て、そう言うがカミナが待ったをかけた。

 

「待て、お前、前のクエストでもそう言って失敗しただろ。あんなのは二度とごめんだ。俺が行く」

 

「お前のひ弱な攻撃じゃジョゼの障壁を破けないだろうが、俺が行くから引っ込んでろ」

 

ハルトの言葉に若干カミナの眉間に皺ができた。

 

「誰の攻撃がひ弱だ。どこぞの体力馬鹿より、攻撃が洗練されているだけだ」

 

「……おい、その体力馬鹿ってのは誰のことだ?俺か?俺なのか?」

 

「そうだ」

 

「隠しもしねえのか!?」

 

いつの間にか口喧嘩が始まり、周りのみんなは呆れたように見ている。

 

「ね、ねえ……なんか口喧嘩が始まっちゃったんだけど……」

 

「あー、あれはいつものことだから仕方ないでごじゃるけど、今は時と場合を考えて欲しいでごじゃるな。おーい!二人とも!ケンカなんてしてないで、ジョゼのほうに集中するでごじゃる!!」

 

見かねたマタムネは二人にそう言うが、ヒートアップしている二人にとってそれはまずかった。

 

「うるせぇ!エロ猫!」

 

「黙ってろ。すけべ猫」

 

飛び火したマタムネは無言でむせび泣いた。

 

「あらら……でも大丈夫かしら……二人揃ったからってジョゼに勝てるの……?」

 

ルーシィのつぶやきは心配な気持ちでいっぱいだった。

ジョゼは何度おおきなダメージを与えてもゾンビのように立ち上がってくるのだ。

 

「大丈夫だ。ルーシィ」

 

「エルザ……」

 

「あの二人は妖精の尻尾の最強のタッグだ」

 

「最強の……タッグ……」

 

今も口喧嘩を続けている二人に目を向ける。

すると、今まで黙っていたジョゼが動き出した。

 

「貴様ら……敵の前で随分と余裕だな」

 

「よーし、わかった!じゃあどっちが先にジョゼを倒すか競争しようぜ」

 

「いいだろう。俺の方が強いという証明になる」

 

「私を倒すだと? さっきまでの戦いを思い出してみろ。お前たちに勝ち目なんて……」

 

「後で相性が悪かったなんて文句を言うなよ」

 

「誰が言うか!」

 

「貴様らいい加減にしろ!!」

 

ジョゼが魔力弾を放つ。

ハルトとカミナはそれを避け、一気にジョゼに近づく。

先に近づいたハルトは攻撃する。

 

「覇竜の剛拳!」

 

「ぐっ!?(さっきより重い!?)」

 

カミナの式神、繭姫のおかげで回復したハルトの攻撃は断然強くなっていた。

ジョゼは押し返され、空中で体制を整えながら振りかぶったハルトに魔法を放とうとするが、それよりも速く、ハルトの後ろで待機していたカミナが魔法を放つ。

 

「白雷」

 

「ぐはっ!」

 

空中で防御もできずに受けてしまい、その場から地面に落ちる。

しかし、ハルトはそこに追撃する。

 

「覇竜の……墜尾!」

 

空中に飛び上がり、前転することで勢いをつけたかかと落としがジョゼの溝にはいる。

なす術なく落ちたジョゼは立ち上がろうとするが、目の前でカミナが手を開く。

 

「白炎」

 

ジョゼに白い炎が襲いかかる。

 

「ギャアアァァァァッ!!」

 

ジョゼは火を消そうと転がり回る。

それを見たハルトがカミナに近づき、話しかける。

 

「あいかわらず容赦ないな。おっかないわ」

 

「敵に手加減しろって言うのか? 悪いがそれは無理だ」

 

「そうは言ってねぇよ」

 

ようやく火が消えたの煙を上げながら、ジョゼが蹲っている。

 

「き、貴様ら……よくもこの私を……」

 

ジョゼの声は小さくうまく聞き取れないが言葉に激しい憎悪が含まれていることは二人は感じ取った。

 

「許さないぞ」

 

立ち上がったジョゼは魔法陣を展開する。

ハルトとカミナは何かされるよりも速く倒してしまおうと、速攻をかける。

しかし、ハルトが殴りかかるがジョゼはそれをかわし、ハルトの後ろに出来た影に触れる。

ハルトの後ろから斬りかかってきたカミナの斬撃もかわし、同じように影に触れる。

 

「影幽兵(シャドーシェイド)」

 

するとハルトとカミナの影が盛り上がり、二人の形とそっくりの影が立ち上がった。

 

「行け!」

 

ジョゼの号令とともに二人の影は襲いかかってくる。

 

「チッ、こいつら俺たちと同じ動きをするぞ! カミナ!お前の魔法で

どうにか出来ないのか!?」

 

「待て。今考えている」

 

二体の影は二人とほぼ同じ動きをして翻弄する。

そしてその間ジョゼは魔力を貯めている。

それに気づかない二人ではないが影が邪魔して対応できない。

 

「縛道の四、這縄」

 

光の縄はハルトの影を捕まえ、カミナの影にぶつけ、二体同時に捉えた。

 

「六条光牢」

 

二体の影を光で捉えて動けなくし、ジョゼに向き直ると、もう魔力を貯め終え、放とうとしていた。

しかし、それはハルト達のほうではなくルーシィ達がいる方に向かってだ。

あの魔力の量では断亀の結界も破れてしまう。

 

「くそっ!」

 

「チッ!」

 

「デッドリーコロナァ!!」

 

二人がジョゼとルーシィ達の間に割り込もうとした瞬間、ジョゼは魔法を放った。

なんとか間に入った二人は防御魔法を使う暇も無く、全身に魔力を巡らせ受け止める。

 

「ガアァッ!!」

 

「ぐうぅっ!」

 

二人はなんとか耐えるが押されてしまう。

 

「ハルト!」

 

「カミナ!」

 

「「ウオォォォォォッ!!!」」

 

ルーシィとミラがハルトとカミナの名前を呼ぶと二人はさらに力を入れ、魔法をかき消す。

しかし、真正面から受け止めたせいで怪我を負い、魔力もだいぶなくなってしまった。

 

「ヤバイな。あと一撃くらいしか魔法使えないぞ」

 

「……一撃もあれば十分だ」

 

カミナは小声でハルトに作戦を伝える。

 

「それで本当に上手くいくのか?」

 

「今はこれくらいしか思いつかない。これにかけるぞ」

 

カミナはクナイを数本だし、ジョゼに向けて放った。

ジョゼは当たり前のように弾くがそのクナイは意志を持ったかのように地面に刺さり、そこから地面に魔法陣が描かれる。

魔法陣から白い鎖が出て、ジョゼに巻きつく。

 

「ふん……こんなもの」

 

ジョゼは鎖状鎖縛とは違い、簡単に引きちぎる。

 

「ジョゼェェェェッ!!」

 

ハルトはジョゼに近づき、殴りかかるがジョゼが魔力の波動をだし、近づけさせない。

ハルトは飛ばされる瞬間、ジョゼに向かって何かを投げた。

それはクナイでジョゼの眼前で白く輝き、爆発した。

 

「ぐっ!」

 

ほぼ目くらまし目的なので殺傷性は無く、ダメージはないが、確実に視力を奪った。

 

「今だ!」

 

カミナの合図でハルトとカミナは最後の攻撃に出た。

 

「竜牙弾!!」

 

「白絶斬!」

 

黄金の弾丸と白い斬撃が迫る。

 

「馬鹿が」

 

瞑っていた目を開くとその目は暗く染まり、笑みを浮かべる。

 

「ゴーストタイフーン!!」

 

ジョゼを中心に怨霊の魔力が竜巻状に巻き起こり、二人ごと巻き込む。

竜巻は天井を突き破り、制御室をも巻き込んだ。

竜巻が収まるとそこには傷だらけの二人が倒れていた。

 

「どうやら魔力が尽きたようだな。もう立つ体力もないだろう?」

 

ジョゼはハルトの頭を踏む。

ハルトは抵抗して立ち上がろうとするが、体力がなく立ち上がれない。

 

「お前の次はそこの白髪を殺してやる」

 

ジョゼは手に魔力を貯め、トドメを刺そうとするが、ハルトはそれを見て笑う。

 

「何がおかしい?」

 

「いや……あんた最後まで油断してたなって思ってよ」

 

ハルトの目線の先にはカミナが飛びかかってきていた。

それに気づいたジョゼは凄まじい速さで魔力弾を放つ。

しかし、魔力弾が当たったカミナは霧のように消えた。

その瞬間、本当のカミナは手に白雷を纏わせ、ジョゼの懐に入っていた。

 

「白雷掌!」

 

掌打に加え、白絶の威力が合わさり、ジョゼの体に電撃が響き渡る。

 

「ガアァッ!!」

 

掌打の勢いで飛ばされたジョゼにカミナは刀に魔力を込め、さらに追撃する。

しかし、ジョゼは態勢を整え、切り掛かってきたが、カミナの刀を防ぐ。

 

「ハハハッ! お前の策もこれで終わりか!?」

 

「いいや、まだだ」

 

その時カミナの後ろからハルトが竜牙弾を拳に付加させた状態で走ってくる。

ジョゼは避けようとするが、カミナは自身と共にジョゼを鎖状鎖縛で動けなくする。

 

「くっ!貴様!!」

 

ジョゼがもがくがカミナは笑みを浮かべ、逃さない。

ハルトの拳がカミナの背中に当たる瞬間、カミナは消え、ジョゼだけに拳にが突き刺さる。

 

「行けえェェェェッ!!」

 

ルシェドを一撃で倒した拳はジョゼを壁にぶつけその後ろの壁を激しく崩壊させ、ジョゼはそれに巻き込まれた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

ハルトはその場に座りこみ、右腕を抑える。

血だらけの腕はピクリとも動かない。

すると、後ろからカミナがやってくる、

 

「すごい威力だな」

 

「まあな。お前もぶっつけ本番でよく転身なんて難しい魔法使えたな」

 

「ほぼ賭けだったが上手くいった」

 

作戦は二段構えで一旦ジョゼを油断させて、威力が強いハルトの魔法でトドメを刺すという作戦だった。

その作戦を成功させるために自身の魔力を込めた物とその位置を交換するという、超高難度魔法『転身』を使う必要かあり、カミナでも成功できるかわからなかった。

しかし見事に成功させ、ジョゼを倒した。

すると、後ろから足音が近づいてくる。

 

「ハルトー!!」

 

ルーシィとマタムネがハルトに飛びついてくる。

 

「うおっ!? お前ら落ち着け……痛ででで!! マタムネ!右腕に強く抱きつくな!! お前ワザとだろ!?」

 

「さっきの仕返しでごじゃる……」

 

「やっぱりか!」

 

ハルトとマタムネがそんなコント染みことをしている間、ルーシィはずっとハルトの胸に顔を埋めて震えていた。

それに気づいたハルトはルーシィのアタマに手を乗せる。

 

「どうした?」

 

「……ハルトが死んじゃうかと思った」

 

ルーシィは顔をゆっくりとあげると目に涙が溜まっている。

 

「そんなことないって信じたけど、どうしても不安で仕方なかった……ごめんね。私のせいで……」

 

ハルトはそれを聞くと申し訳ない表情をした。

そしてゆっくりと頭を撫でる。

 

「俺もみんなも仲間を助けたいからやったんだ。だからそんな言葉を聞きたかったんじゃないんだ」

 

ルーシィは涙を拭き、笑顔を浮かべた。

 

「……うん! ありがとう、ハルト!みんな!」

 

その言葉にみんなが笑顔になる。

 

「さて、そろそろ戻ろう。ナツも回収しないとな」

 

「そういや、ナツの奴どこで何してんだ?」

 

「上で戦っていたらしいが、もう終わってるな。魔力の衝突が感じられない」

 

みんながギルドに戻ろうとした瞬間、背後から瓦礫が崩れる音がした。

振り向くとそこには傷だらけで満身創痍のジョゼが立っていた。

 

「ハァ…ハァ…許さないぞ…ハァ…餓鬼ども…ここで…ハァ…殺してやる……」

 

全員が信じられない顔をする。

 

「そ…そんな……」

 

「あれを食らってまだ立つのかよ……」

 

全員が身構えるが、ハルトはその場に崩れ落ちる。

 

「ハルト!?」

 

「ハァッ…ハァッ…! 魔力と…体力が…!」

 

(ハルトはもう限界だ……他の全員もジョゼがあの状態だからって勝てる確率のほうが低い……俺もだ。あのゾンビみたいに何度も復活する奴に勝てるのか?)

 

カミナは冷や汗をかく。

 

「フ…フフ……私は絶対に倒されない! 私の『リビングデッド』がある限りな!」

 

「復活の魔法!? そんな魔法があるなんて!?」

 

ミラはジョゼの言葉におどろく。

『リビングデッド』はダメージを受けて、立てなくなっても行動できるまで回復する魔法だ。

これのおかげでジョゼは聖十大魔導士になれたのだ。

それは何度でも復活する魔法。

幽鬼の支配者のマスターにとって相応しい魔法だ。

さっきまでの戦いでもジョゼが何度倒れても立ち上がったのはこれが理由だ。

 

「これで終わりだ……妖精の尻尾ぅぅぅっ!!」

 

ジョゼはハルトたちに向かって大きな魔力弾を放つ。

カミナが前に出て盾になろうとし、当たる瞬間、辺り一面が神々しい光に包まれ、ジョゼの魔力は霧散した。

 

「何だ!?」

 

「間に合ったか!」

 

ジョゼは突然のことに驚く。

すると靴の音が響く。

 

「いくつもの血が流れた……子供の血じゃ……出来の悪い親のせいで子は痛み、涙を流した……もう十分じゃ……」

 

白い聖十大魔導士の上着を纏い、威圧感もありながら優しい雰囲気を放っているその存在は……

 

「終わらせばならん!!!」

 

妖精の尻尾のマスター、マスターマカロフだ。

 

「「「「「マスター!!」」」」」

 

「マカロフ……!こんなときに……!」

 

「ジョゼ……貴様はやりすぎた。よくもワシのガキ共を傷つけてくれたの……」

 

マカロフとジョゼは互いに魔力を高めていく。

 

「天変地異を望むのか……?」

 

「それが家族のためならば」

 

マカロフは空中に魔法陣を描きながら、力強く叫ぶ。

 

「全てのガキ共に感謝する……よくやった。妖精望むの尻尾であることを誇れ!!」

 

その瞬間マカロフの背後にいくつもの魔法陣が現れ、そこから光弾がジョゼに向かって放たれる。

 

「チィッ!!」

 

ジョゼは障壁を張るが容易に破壊されジョゼに当たる。

煙が立ち込め、晴れると倒れたジョゼがいたが、体が光り、立ち上がる。

 

「凄まじい魔法じゃな……自身を復活させるとは……しかし、それも無限というわけではないじゃろう。復活するたびに魔力が弱くなってきておるぞ」

 

「ほざけぇっ!!」

 

ジョゼが攻撃をするが全て防がれる。

 

「多対一というハンデがあったとはいえ、ハルト達はよくぞここまで追い込んだ。あとはワシに任せい」

 

マカロフは後ろで待機していたハルト達に優しく語りかける。

その言葉に全員が安心した。

 

「それではこれで終わりとしようか……ジョゼ!」

 

マカロフはよりいっそう魔力を高める。

すると、マカロフ自体が神々しく光り始めた。

 

「妖精の尻尾の仕来りにより、貴様に三つ数えるまでの猶予を与える……」

 

マカロフは体を大きくし、ジョゼを見下ろす。

 

「ひざまずけ」

 

「は?」

 

マカロフの言葉に訳がわからない表情をするジョゼ。

 

「何かを言うと思ったら、ひざまずけだと?」

 

「一つ」

 

マカロフは胸の前に手を構え、魔力を集める。

 

「王国一のギルドが貴様に屈しろだと!!?冗談じゃない!!私は貴様と互角に戦える!!いや!非常になれる分、私のほうが強い!!」

 

「二つ」

 

手の間に輝く魔力の塊が発生する。

 

「ひざまずくのは貴様らのほうだ!!!消えろ!!!チリとなって歴史上から消えろ!!!フェアリィテイルゥゥゥゥッ!!!!」

 

「三つ」

 

その瞬間、魔力は溜まりきった。

 

「そこまで」

 

ジョゼが攻撃しようとするがそれよりも早く、マカロフの超魔法が発動する。

 

「『妖精の法律』、発動!!!」

 

辺り一面が眩しいほどの光に包まれる。

その光はファントムのギルドだけでなく、マグノリアまで巻き込む。

 

「何だ!?この光は!?」

 

「眩しいっ!!」

 

「『妖精の法律』だ」

 

「『妖精の法律』……?」

 

ルーシィが不思議そうに呟くと、エルザが答えてくれた。

 

「術者が敵と認識した者だけを討つ聖なる光。もはや伝説に数えられる超魔法だ」

 

光が収まるとそこには白く干からびたような状態になってしまったジョゼが気絶しながら立っていた。

 

「二度と妖精の尻尾フェアリーテイルに近づくな。ここまでハデにやらしちゃあ評議員も黙っておらんじゃろ。これからはひとまず、テメェの身の心配をすることだ。お互いにな」

 

マカロフが去ろうとし、後ろを振り向くとその背後から、音もなくアリアが忍び寄った。

 

(悲しい! またもこの手でマカロフを討てるとわっ!!)

 

マカロフにその手が届きそうになった瞬間、神速の斬撃がアリアを襲った。

 

「俺がいるんだ。そんなことさせるか……」

 

「やめい、もう終わったんじゃ」

 

カミナが動けないアリアに刀を容赦なく突き立てようとするとマカロフが止めた。

 

「ギルド同士のケジメはつけた。これ以上続けるならば、それは最早『掃滅』。跡形もなく消えると思え」

 

その言葉とともにアリアは気絶した。

 

「ジョゼを連れて消えろ。今すぐに」

 

マカロフはカミナ達を連れて去っていった。

 

 

日は沈みかけ、夕日がボロボロになったギルドを照らしている。そこに戦いでボロボロになったメンバーが全員集まっていた。

しかし、ルーシィだけは申し訳なさそうにしていた。

 

「しかし、まぁ、派手にやられたもんじゃのう……」

 

「あ…あの……マスター……」

 

ルーシィはマカロフに声をかける。

その声は申し訳ない気持ちと妖精の尻尾を辞めさせられるという恐怖が混じっていた。

しかし、マカロフは気の抜けた声で返す。

 

「んー? お前も大変じゃったのう……」

 

マカロフはルーシィに気負わないようにそんな言葉をかけるがルーシィの中では罪悪感でいっぱいだった。

 

「そんな顔しないの!ルーちゃん!」

 

そんな時、ルーシィに声をかける人がいた。

 

「みんなが力を合わせた大勝利だよ!」

 

「ギルドは壊れちまったけどな」

 

「またみんなで直せばいいさ」

 

「ウイ」

 

ガジルに襲われたレビィ、ジェット、ドロイ。

そしてルーシィを守るために戦ったリーダスだった。

 

「レビィちゃん…リーダス…ジェット…ドロイ…」

 

「ごめんね。心配かけて」

 

「違…う…それは私の……」

 

ルーシィにとってそう言われるのがつらかった。

今回の件は明らかに自分のことがきっかけで起こったことなのだ。

 

「話は聞いたけど、誰もルーちゃんのせいだなんて思ってないんだよ」

 

涙を流すルーシィは何も言わず、ただ首を横に振る。そこにマカロフが優しく語りかける。

 

「ルーシィ…楽しいことも悲しいことも、全てとはいかないがある程度は共有できる。それがギルドじゃ」

 

マカロフの話にルーシィだけでなく全員が耳を向ける。

 

「一人の幸せはみんなの幸せ。一人の怒りはみんなの怒り。そして一人の悲しみはみんなの悲しみ。自責の念にかられる必要は無い。君にはみんなの心が届いてるはずじゃ。顔を上げなさい」

 

そう言ってルーシィに微笑む。

 

「君は妖精の尻尾の一員なんだから」

 

その言葉にルーシィは大声を上げながら泣いた。

みんなもそれを見て、漸く安心できた表情をした。

 

「なはははっ!これで一件落着だなっ!!」

 

「あいっ!」

 

ナツが大声で笑いながら、ボロボロになったギルドに近づく。

 

「まっ!これからギルド直さなきゃいけないけどな!!」

 

そう言ってナツがペシッと叩いた瞬間、ギルドはグシャッと潰れた。

 

『…………』

 

全員が言葉も出ず、唖然とする。

ナツは汗を大量に流しながら、逃げようとするがその肩を思いっきり掴まれる。

 

「ナツぅ……お前何してんだ……?」

 

「あ……いや……その……」

 

ハルトが掴む肩がギリギリと鈍い音がなる。

ナツは顔色が青色になった。

 

「おい、ハルト、俺も混ぜろ。せっかく倒壊を止めたのに仲間に壊されるとは思ってもなかった……」

 

そして明らかに怒っているカミナも混じる。

ナツは青色を通り越して、土色の顔色になった。

 

「ナツぅぅぅっ!!!」

 

「覚悟しろ」

 

「ごめんなさぁぁぁぁぁい!!!」

 



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第36話 戦後処理

ファントムとの戦いが終わり、ナツがギルドを破壊し、ハルトとカミナに折檻されている時に大勢の集団が現れた。

 

「全員その場を動くな!!我々は評議院傘下強行検束部隊『ルーンナイト』だ!!」

 

「評議院!?」

 

「やばっ!」

 

「やっぱり嗅ぎつけたか……」

 

ギルド間の戦闘を禁止している評議院は妖精の尻尾と幽鬼の支配者との戦いを検挙しにきたのだ。

それに気づいたガジルとの戦いよりもボロボロになり、顔がパンパンに腫れ上がったナツはルーンナイトに泣きついた。

 

「たしゅけてふれ〜!!」

 

「なんだ!?」

 

「お前、妖精の尻尾の魔導士だろ!?」

 

するとナツの両肩に手が置かれた。

ナツにはその手が一瞬死神の手にも見えた。

 

「ナツぅ……」

 

「まだ話が終わってないぞ」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

みんながハルトとカミナのお仕置きに青ざめている中、マカロフの頭にはこれからのことでいっぱいだ。

 

(ギルド同士の戦いは禁止……しかも評議院にバレた……賠償金……始末書……)

 

「うわあぁぁぁぁぁん!!!」

 

「ま、マスター!気を確かに……!」

 

「あらあら……」

 

エルザがなだめるがマカロフは涙を流すだけだった。

 

 

その後ルーンナイトの調書に作るために妖精の尻尾のメンバーへの質問が何日も続いた。

そしてやっとその調書も終わり、ようやく壊れたギルドの再建を始めた。

 

「あー体が怠い……」

 

みんなが頑張っているなか、ハルトは積まれた木材の上で怠けていた。

 

「おい、ハルト。何サボってんだよ。お前も働けって」

 

それに気づいたグレイがハルトを注意するがハルトは気怠げに視線を向ける。

 

「ファントムの戦いで無茶しすぎた……しばらく怠さが取れないんだ……」

 

ハルトの魔法は強力だがその分、フィードバックがひどく、限界以上の力を使うとこうなってしまうのだ。

 

「へっ……情けねぇなハルト……!」

 

ナツは大量の木材を苦しそうな表情で運びながらハルトに勝ち誇ったかのように言う。

 

「おまえがトドメ刺したんだから馬車馬のように働け」

 

ハルトはナツの挑発に物ともせずにそう言い返し、ナツはバツの悪そうな顔をする。

 

「へ〜い」

 

「自業自得だね、ナツ」

 

「情けねぇなぁ」

 

それを見たグレイはすかさずいつものようにナツをバカにし、またいつものようにナツが怒る。

 

「なんだとグレイ! オメェは根性ないからこんなに運べねぇだろ!!」

 

「なんだとぉっ!!」

 

「また始まったよ」

 

ハッピーも呆れてため息を吐く。

そのやりとりを見てハルトはファントムとの戦いが終わっていつもの感じが戻ってきたな、としみじみと感じていた。

するとあることに気づき周りをキョロキョロと見渡す。

 

「どうしたでごじゃる?ハルト」

 

「いや、カミナの姿が見えないなって思って……」

 

ハルトのとなりで一緒に怠けていたマタムネが見かねてたずねると、カミナのことを探していたようだ。

カミナは長期の仕事をまとめて受けるのがスタイルだが、ギルドが再建するまでは工事を手伝う予定なのだが姿が見えない。

そこで近くを通りかかった木材を運んでいたエルフマンに聞いてみた。

 

「エルフマン。カミナがどこ行ったか知らないか?」

 

「カミナか? カミナは……姉ちゃんに3日前に連れ去られて以来見てねえ……」

 

その一言でハルトは全てを察したようで遠い目で空を眺めた。

 

「そうか……あいつ生きて帰ってくるかな……」

 

「いや、まだ死んだわけじゃないでごじゃる」

 

まるで死地に赴いた仲間を心配するような言葉にマタムネもツッコンでしまう。

するとマタムネは木材の影からこちらを覗く女性に気づいた。

その女性は熱い視線を向けてくる。

 

(はっ!……まさかせっしゃのファンでごじゃるか!?)

 

女性はエレメント4の一人、ジュビアでマタムネに熱い視線を向けているのではなく、マタムネの向こうにいるグレイに向けているのだ。

 

(ふふふ……とうとうせっしゃの魅力に気づく女性が現れたでごじゃるか。それに見た感じ、だいぶといいお胸をしてるでごじゃる。あの胸に飛び込めば……ぐへへへ……)

 

 

「おいどーした。気持ち悪いぞ」

 

「マタムネー、目が血走ってるよ?」

 

「な、なんでもないでごじゃる!」

 

「涎垂れてるぞ」

 

マタムネが慌てて涎を拭いてると、グレイがナツに対抗して大量の木材を抱えたが、それを見たジュビアが拍手をして、それに気取られたグレイは木材に木材に潰れてしまった。

 

「だせぇな!グレイ!!」

 

「うるせぇ!」

 

「お前たち!何遊んでいるんだ! ハルトもだ!怠けていないで働かないか!!あとマタムネ!にやけ顔が気持ち悪いぞ!!」

 

土木作業のツナギを着て、安全帽を被ったエルザが怒りにきた。

 

「げっ!エルザ!」

 

「サボってねぇよ……体がだるくて仕方がねぇんだ」

 

「ひ、ひどいでごじゃる……」

 

ナツとグレイは慌て、ハルトは気怠そうに返事をし、マタムネはエルザの容赦ない言葉に打ちひしがれた。

 

「マスターも働いているのだ!お前たちも働け!」

 

エルザが目を向ける先には巨大化して骨組みを組み立てているマカロフがいた。

 

 

「働けってもよ……」

 

ハルトはそばに置いてあった新しいギルドの構造図を見る。

 

「こんな下手な構造図でできるわけねぇだろ!」

 

「そんなもんただの紙切れじゃ。大事なのは創造力じゃ」

 

「これではどこをどうしたらいいか、わからないでごじゃる」

 

構造図に書かれていたのはヒョロい線で書かれた建物らしきものだ。

 

「しかし、腹減ったなぁ。朝から働きぱっなしだ」

 

グレイが木材の山から抜け出し、そんなことを呟くとグレイの前を水が凄まじいスピードで通り過ぎ、グレイの手にはいつの間にか弁当があった。

 

「おっ、なんだそれ?」

 

「弁当か?」

 

「いや、いつの間にかあってよ」

 

「フフフ……照れてグレイ殿に渡してしまったごじゃるか」

 

「? 何言ってんだ?お前」

 

ナツとハルト、マタムネがグレイに近づき、その弁当の中身を見ると、中はグレイのキャラ弁だった。

 

「お!うまそうじゃねえか!」

 

「よく出来てるな」

 

「なんでせっしゃじゃなく……」

 

色とりどりの食材で出来ている弁当は美味しそうだが、グレイは食べようとしない。

 

「どうした?食べないのか?」

 

「いやそれはせっしゃの……」

 

「おまえは黙ってろ。それでどうすんだ?」

 

「……いやだってよぉ。自分の顔なんて食べれねぇよ」

 

グレイの言葉を影で聞いていたジュビアはショックを受けて、涙を流した。

 

「お前たちまだサボって……! ん? なんだそれは?美味しそうだな。

食べないなら私が貰うぞ」

 

そう言ったエルザはグレイからフォークを奪いとり、容赦なく弁当のグレイの顔面部分に突き刺した。

下にケチャップでも入っていたのか、刺したところからケチャップが溢れ出て流血したようになって。より一層グロく見える。

 

「おおっ! 美味しいぞ!」

 

「エ、エルザ……」

 

「容赦ねぇな……」

 

「グロいでごじゃる……」

 

「お前たちどうかしたか?」

 

ハルトたちがエルザの行動に戦慄していると、声をかけられた。

 

「やあ、みんな……」

 

ハルトたちが振り向くと顔色が悪いロキがフラフラしながら立っていた。

 

「ロキ!」

 

「今までどこ行ってたんだよ?」

 

「ははは……ごめんね。これを探してたんだ」

 

そう言ってロキはポケットからルーシィの星霊の鍵を取り出した

 

「それルーシィ殿の鍵でごじゃる!」

 

「探してくれたのか」

 

「うん、まあね。これをルーシィに渡してほしいんだ」

 

ロキはハルトに鍵を渡して帰ろうとするとナツが呼び止めた。

 

「待てよ。お前が渡さなくていいのか?」

 

「知ってるだろ? 僕は星霊魔導士が苦手なんだ」

 

「ルーシィはルーシィだよ?」

 

ハッピーがそう言うがロキは苦笑いをして誤魔化して去って行った。

 

「じゃあルーシィのところに行くか」

 

「戻ったらちゃんと作業をするんだぞ」

 

ナツがそう呼びかけ、いつものメンバーが揃って行こうとするが、ハルトはロキのほうをじっと見ていた。

 

「ハルトどうしたんだよ?」

 

「先に行っといてくれ。あとで追いつく」

 

ハルトはそう言ってロキが去って行ったほうに走って行った。

 

 

「ハアッ……!ハアッ……!くっ……!」

 

ハルトたちの前から去ったロキは路地裏で大量の汗を流しながら胸を抑えつけて苦しそうに蹲っていた。

 

「大丈夫か、ロキ?」

 

「ッ!?ハルトか……」

 

「大丈夫じゃなさそうだな」

 

ロキは声をかけられ驚くが、ハルトだと分かると安心した。

 

「また俺の魔力を分けようか?」

 

「いや……もう無理だ。君の強力な魔力に体が耐えれない。それに……そろそろ潮時なのかもしれない。カレンを殺した僕の罪が清算するときが来たんだ」

 

「………」

 

ロキはどこか悲しそうな顔をし、そう告げた。

ハルトは悔しそうな顔をし、口を開く。

 

「ルーシィ……ルーシィならもしかしたら……」

 

「やめてくれ!」

 

ロキは悲痛な声で叫ぶと、すぐに申し訳ない顔をして謝った。

 

「すまない……だけどもういいんだ……僕はみんなに出会えて十分恵まれているよ。これ以上のことは望んじゃダメだ」

 

幾分か顔色が戻ったロキは立ち上がり、去って行こうとすると何かを思い出したかのようにハルトに振り返った。

 

「彼女を大切にしろよ? 惚れてるんだったらさ」

 

「は? お前何言って……」

 

ロキは意味ありげな笑みを浮かべ、それ以上何も言わず今度こそ去って行った。

 




感想待ってまーす。


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第37話 私の居場所

少し誤字訂正とハルトの生い立ちを変更しました。


ハルトがルーシィの家に行くとちょうどナツ達もついて、これから中に入ろうとしているところだった。

 

「来たでごじゃる」

 

「悪い、待たせたな」

 

「いや、私たちも今着いたところだ」

 

エルザがハルトに説明している間に、ナツは扉を開ける。

 

「ルーシィいるかー?」

 

「……ナツ殿?ノックしたでごじゃるか?」

 

「ノック?なんじゃそりゃ?」

 

「この前教えただろうが……」

 

「それがナツです」

 

ナツの非常識具合に頭を抱えるハルトにハッピーは慰めにもならないことを言う。

そんなハルトを置いといて次々と中に入って行く。

 

「いないでごじゃる」

 

「ルーシィどこー」

 

「そこには絶対にいない。あとマタムネ、元のところに戻しておけ」

 

「ぎくっ……」

 

マタムネとハッピーはルーシィの洋服タンスを調べるが、まず人が入れるスペースがない。

そしてマタムネはどさくさに紛れて下着を盗もうとしていた。

 

「風呂なんじゃねぇーか?」

 

「いや、いねぇ」

 

「なんで勝手に入ってんだよ!」

 

「痛てっ!?」

 

ナツが風呂場を勝手に調べたことにハルトはすかさずナツの頭を叩く。

 

「うーん?ここかなー?……うわっ!」

 

ハッピーが机の上に取り付けてあった棚を開けると、そこから大量の封筒が出てきて、ハッピーは押しつぶされた。

 

「大丈夫でごじゃるか!」

 

「助けて〜」

 

「何だこの封筒?」

 

封筒の宛先を見ると、ママへとだけ書かれていた。

 

「おい、これ全部、ママ宛の手紙だぞ」

 

「読んでみようぜ!」

 

「あっ、おい。勝手に読むな」

 

ハルトが注意するがナツは御構い無しに読んで行く。

 

「えっーと……『ママへ。あたし、ついに憧れの妖精の尻尾に入ったの!』」

 

「『ママへ。明日はハルトとマタムネで初仕事に行くの。緊張するけど、頑張らなきゃ! それにハルトが一緒に行ってくれるからすごく楽しみなんだ。ハルトって優しいし、カッコいいの。』」

 

「ベタ褒めでごじゃるな」

 

「でぇきぃてぇるぅ」

 

「う………」

 

ルーシィの手紙の内容にハルトは照れてしまい、マタムネ達はからかってくる。

 

「だけど、なんでこんなに手紙があるんだ?」

 

「送らねーのか?」

 

「家出中だからだろ。なぁ、エルザ」

 

ハルトがエルザに話しかけるがエルザは険しい顔をして机の上を見つめていた。

 

「ルーシィの書き置きだ。 “家に帰る”だ、そうだ」

 

『何ィィッ!!!?』

 

突然のことにナツ達は慌て、口を揃えて叫んだ。

 

「どういうことだよ!?」

 

「わからん! 取り敢えずルーシィのところに行くぞ!」

 

「……あれ?ハルトとマタムネはどこ行ったの?」

 

 

ルーシィは長い道を歩いていると目の前に、大きな庭園があり、その奥には大きな屋敷が見えてきた。

 

「帰ってきちゃったなぁ……」

 

ルーシィは少し嫌そうだが、懐かしむように言った。

屋敷と同じで大きな門をくぐると庭から野菜をざるに乗せた背が小さい老婆と鉢合わせた。

 

「お嬢様〜!!」

 

「スペットさん!」

 

スペットは涙を流しながらルーシィに抱きつく。

 

「久しぶりだね」

 

「お久しぶりでございますー!!私がどれだけ心配したことか……!」

 

「うん……ごめんね」

 

するとスペットの泣き声が聞こえたのか、多くの使用人達がルーシィの前に現れ、心配したことや、体調はどうなのかとルーシィを想う言葉が多く出てきた。

ルーシィはその言葉に嬉しくなる。

しかし、1人の使用人が慌てて屋敷から走ってきた。

 

「お嬢様、旦那様が本宅の書斎まで来るようにと……」

 

ルーシィは自分の父が自分のことを心配するわけないとわかっていたがどこか悲しそうな顔をする。

 

 

ルーシィは自分の父、ジュードの書斎に来ていた。

その格好はドレスを着て、正にお嬢様といったところだった。

 

「お父様……」

 

「やっと帰ってきたか。ルーシィ」

 

ジュードは娘が帰ってきたというのに喜びの表情は全く見えない。

 

「何も告げず家を出て申し訳ありませんでした。それについては深く反省しております」

 

「賢明な判断だ。あのままお前があのギルドにいたのなら、私は金と権威を使ってあのギルドを潰さねばならなかった」

 

ルーシィはジュードのその言葉に少し悲しい表情をする。

 

「お前と彼らでは住む世界が違うのだ。お前も今回のことでよくわかっただろう。………今回お前を呼び戻したのは縁談が決まったからだ。ジュレネール家御曹司サワルー公爵だ。前からお前に興味があると言っていただろう」

 

「言ってましたね」

 

ルーシィは表情を戻し、そう返す。

 

「ジュレネール家との婚姻によりハートフィリア鉄道は南方進出の地盤を築ける。これは我々の未来にとって意味のある結婚となるのだ。そしてお前には男子を産んでもらわねばならん。ハートフィリアの後継をな」

 

あまりにも無情。

ジュードはルーシィのことを物としか見ていないようなそんな言葉だった。

 

「話は以上だ。部屋に戻りなさい」

 

「お父様……勘違いしないでください」

 

「!!!」

 

ジュードは今まで反抗してこなかったルーシィから信じられない言葉が出て、驚く。

 

「私が戻ってきたのは自分の決意をお伝えする為です。確かに何も告げず家を出たのは間違ってました。それは逃げ出したのと変わらないのですから………だから今回はきちんと自分の気持ちを伝えて、家を出ます!」

 

「ルーシィ………?」

 

「あたしはあたしの道を進む!!! 結婚なんて勝手に決めないで!!! そして妖精の尻尾には二度と手を出さないで!!!!」

 

そう宣言すると、着ていたドレスを引き裂いた。

 

「今度!妖精の尻尾に手を出したら、あたしが……ギルド全員があなたを敵とみなすから!!!!」

 

まるで今までの自分と決別するかのように。

 

「あんな事しなければもう少しきちんと話し合えたかもしれない……でも、もう遅い。あなたはあたしの仲間を傷つけすぎた。あたしに必要なものは、お金でも綺麗な洋服でもない……あたしという人格を認めてくれる場所!」

 

ルーシィは力強い目でジュードを見る。

 

「妖精の尻尾はもう一つの家族……ここよりずっとあたたかい家族なの……わずかの間だけどママと過ごしたこの家を離れる事はとても辛いし、スペットさんやみんなと別れるのもとてもつらいけど……」

 

ルーシィへ優しい目で次の言葉を口にした。

 

「でも……もしもママがまだ生きていたら……あなたの好きな事をやりなさいって言ってくれると思うの……」

 

ジュードはその姿に亡き妻、ルーシィの母親、レイラの面影を見た。

 

「ル、ルーシィ……」

 

ジュードがルーシィの名前を呼んだ瞬間、何処からか声が聞こえてきた。

 

「っぁぁぁぁぉああああ……ぐはっ!!!?」

 

次の瞬間、書斎の天井が壊れ、誰かが落ちてきた。

 

「きゃっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「ぐおおぉぉぉ……マタムネのヤロー疲れたからって手を離しやがって……」

 

「ハ、ハルト!? なんで天井から……」

 

すると天井の穴からマタムネがフラフラと降りてきて、ルーシィの胸に収まった。

 

「仕方ないごじゃる〜マッハスピードでここまで来るのは流石に無理があったでごじゃる……」

 

マタムネは酷く疲れた様子で今にも倒れそうだ。

 

「だからってミサイルみたいに投下する必要ねぇだろ……」

 

「あれが一番早い到着方法でごじゃる……」

 

マタムネはフラフラと飛びながらルーシィの胸に着地した。

 

「ルーシィどの〜疲れを癒して欲しいでごじゃる〜………あ〜生地が薄いからおっぱいの柔らかさがダイレクトに伝わるでごじゃる〜」

 

「……ルーシィ?ルーシィ!なんでお前、家に帰るって……妖精の尻尾を抜けるのか!?」

 

「そ、そんなわけないわよ。ちゃんとパパに歌を出て行くってことを伝えようとおもって帰ってきたの」

 

ルーシィはそう言ってジュードに視線を向けて、ハルトもそれに連れられて振り返る。

 

「パパ、この人は妖精の尻尾のハルト。あたしの……大切な人」

 

「初めまして、ハルトです。今回のことはあなたの仕業だってことはわかってます。別に仕返しに来たってわけじゃなくて、ただ一言だけ言いたかったんです….…」

 

ハルトは一呼吸置いて、ジュードに告げた。

 

「親ならしっかりと向き合って自分の子供と向き合って話せ。それが親の義務ってもんだろうが」

 

ハルトは力強い目でジュードを見た。

ジュードはその迫力に圧倒されそうになる。

 

「それだけです……。行こう、ルーシィ」

 

「うん。………さようなら、パパ」

 

 

ルーシィ達はハートフィリア家の敷地内にある墓所に来ていた。その中で一際大きい墓に墓参りに来ていた。

 

「ルーシィ殿のお母さんのお墓でごじゃるか?」

 

「うん……小さい頃に病気で死んじゃったの」

 

「そうか……」

 

ルーシィが墓に花を添える。

 

「ハルト……さっきはありがとう。パパに言ってくれて」

 

「いや、ただ思ったこと言っただけだ」

 

ハルトはどこか悲しそうな顔で遠くを見る。

 

「そういえばハルトの親ってどんな人なの? やっぱりナツと同じでドラゴン?」

 

「……いいや、俺は捨てられたてたらしくてな。拾ってくれた人が育ててくれたよ」

 

ここで、自称空気の読めるイケメン猫、マタムネはこの重い空気を変えるべく、話題を即変えた。

 

「いやーそれにしてもルーシィ殿は大胆でごじゃるなー」

 

「え?」

 

「どうした。マタムネ?」

 

突然のフリに戸惑う2人。

 

「だってルーシィのパパ殿にハルトのことを大切な人って紹介してたでごじゃる。まるで親に恋人を紹介するようでごじゃったな」

 

マタムネは口に手を当て、プププと笑いながら言うと、ハルトとルーシィは顔を真っ赤にしてアタフタし出した。

 

「なっ……! あ、あれは!そういうことじゃなくて!いやそうでもないんだけど……そうじゃなくて!!」

 

「お、お前何言ってんだよ!?」

 

「照れなくていいでごじゃる。プププ……」

 

その後、追いかけて来たナツ達と合流して、ナツ達から事情を問いただされ説明して、みんなで妖精の尻尾に帰ることにした。

 

「しかし、ハルト。先に行くなんてズリーぞ」

 

「心配なのはわかるが、突然消えては困るぞ」

 

「悪かったって……」

 

ハルトはナツとエルザに言われ、バツが悪そうな表情になるが、グレイがパンツ一丁で肩を組んできた。

 

「まっ!そんだけ心配したってことだよな」

 

「ま、まぁな。てか服」

 

「素直じゃないなぁ」

 

「うるさい!」

 

ハルトは照れて誤魔化そうとするのを、ルーシィは胸に嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 

(そんなに心配してくれたんだ……)

 

ルーシィの頬が少し赤らむ。

 

「それにしてもデケー街だな」

 

ナツが辺りを見渡しながらそんなこと呟く。

 

「あ……ううん。ここは庭だよ。あの山の向こうまでがあたしン家」

 

その一言にルーシィ以外の目が点になり呆然としてしまう。

 

「あれ? どーしたのみんな?」

 

「お嬢様キター!!」

 

「さりげない自慢キター!!」

 

「ナツとグレイがやられました!!!エルザ隊長一言お願いします!!!」

 

「空が……青いな……」

 

「エルザ隊長が故障したぞー!!!」

 

「ハルト提督お願いします!!!」

 

「マジやばくね?」

 

「ハルトー!!」

 

ルーシィはそんないつものバカみたいなやりとりを見てのまぶしい笑顔をみせた。

 




感想待ってまーす。



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星霊帰還 篇
第38話 最強チーム結成!


評議院の総本部ERAでは妖精の尻尾と幽鬼の支配者の間で起こった抗争の裁判が行われていたが……

 

「ぐがーぐごごごご………」

 

召喚されたマカロフは評議員の目の前で鼻提灯を膨らませ、イビキをかきながら寝ていた。

立ちながら寝ていて器用だ。

多くの評議員は怒りで震えたり、信じられないと言った顔をしていた。

 

「あ…あのマカロフさん?」

 

「はい!!!」

 

流石に見かねたカエル(?)の院員がマカロフを呼び起こすと、ピンッと起きた。

 

「裁判中なのですが………まさか寝てたりしてませんよね?」

 

「!!! 滅相もない!! ふぉほほほっ!!」

 

 

「幽鬼の支配者の解散……ジョゼの聖十の称号剥奪……そこまでは予想通りじゃ。しかし妖精の尻尾が“無罪”とは思いきった判決じゃのう……」

 

裁判が終わり、マカロフともう1人は評議院の廊下で話をしていた。

 

「感謝せぇよマー坊。ワスも弁護スたけぇねぇ」

 

「恩にきるわいヤン坊。ギルドが直ったら一度遊びに来なさいよ。ラーメンおごっちゃる」

 

マカロフと話をしていたのはマカロフと昔からの友人であり、評議院の議員の1人であるヤジマだ。

今回の件では彼は妖精の尻尾を弁護してくれたこちらの味方だ。

 

「……マー坊もう無茶はスるな」

 

「ん?」

 

ヤジマの突然の注告に疑問を浮かべるマカロフ。

 

「最近の妖精の尻尾の狼藉ぶりは目にあまる。現にミケロやオーグは解散請求までスとるんヨ。このままではハルト君やカミナ君が評議院のクエストをこなスて罰を軽くスているからと言って、いずれマー坊が重い罰を受ける事になる。……とっと引退せンと身がもたねーヨ」

 

「………」

 

マカロフは真剣な表情になるが、そうもいかない理由がある。

 

「ヤン坊よぉ……ワシのガキ共も頑張ってんだ。しばらくはそうもできねぇよ」

ハルトとカミナは体を張って頑張っているのに、親である自分は引退なんてできるわけがない。

 

「そうでもないですよ?」

 

そこにハルトと関係が深いナミーシャがやってきた。

 

「ナミーシャか……」

 

「お久しぶりです。マカロフさん」

 

「さっきのはどういうことじゃ?」

 

ナミーシャは抱えていた資料をマカロフに渡して話始めた。

 

「最近あっちこっちで事件が起きてそれどころじゃないんですよ。今回の抗争もそうですけど、アカネビーチ近海で謎の建造物と謎の都市の目撃があったり、魔道士襲撃事件がおこったりと忙しいんですよ」

 

「ナミーシャ君。スれは公開禁止にしている情報じゃないンかね?」

 

「これはもうすぐ公開予定ですから変わらないでしょう? そんなことより今の評議院は忙しすぎて、ハルト君やカミナ君に仕事を回すことができないかもしれないんです。これを機にマカロフさんもそろそろ後継ぎを考えたらどうですか?」

 

「後継ぎ……か」

 

 

そのころ今だ骨組みしかできていない妖精の尻尾のギルドでは待ちに待ったものが始まった。

 

「みんなー!!!今日から仕事の受注を再開するわよー!!仮設の受付カウンターだけどガンガン仕事やろーね♪」

 

「うおぉおおぉっ!!!! 仕事だ仕事ー!!!」

 

いつもより三割増しに綺麗さに磨きがかかったミラがそう宣言するとメンバーは我先とクエストボードに走っていく。

それを見ていたルーシィはミラの近くのカウンターで座って呆れていた。

 

「なにアレェ?普段はお酒呑んでダラダラしてるだけなのにぃ」

 

「あはは」

 

「そういやロキいないのかなぁ」

 

「あら?ハルトからロキに乗り換えちゃった?」

 

「そんなわけないです!!」

 

ルーシィはミラの冗談に本気で反論した。

それに気づいたルーシィは慌てて謝る。

 

「ご、ごめんなさい。ついカッとなっちゃって……」

 

「うふふ、いいのよ。相変わらずハルトに夢中なのね♪」

 

ミラの言葉に顔を赤くしてしまうルーシィ。

 

「む、夢中って……うぅ……はい……」

 

「あら?あっさり認めたわね。やっぱりこの前のことがあったからかしら?」

 

「この前?」

 

「ほら、ルーシィが実家に帰ってお父さんにハルトのことを恋人として紹介したって話よ」

 

ミラの話はルーシィが実家に帰って父親との決別をしっかりとしようとした時に勘違いしたハルトが乗り込んだときにハルトを紹介した時の話だ。

 

「なっ!なんでそのことを!というか恋人ととして紹介してません!!」

 

「あら?そうなの?でもマタムネはそう話してくれたけど……」

 

それを聞いたルーシィは怒りの表情を浮かべる。

 

「あ、あのネコー!!!」

 

ギリギリと歯ぎしりをするルーシィだが、話をそれたことを思い出した。

 

「それよりロキですよ!なんか鍵を見つけてくれたみたいで……一言お礼したいなって」

 

「うん……それより星霊に怒られなかった?鍵落としちゃって」

 

「はは……」

 

ルーシィから乾いた笑い出て、その時のことを思い出し、冷や汗が流れる。

 

「思い出しただけでお尻が痛く……」

 

「あらら……」

 

「どうしたんだルーシィ?どこか痛いのか?」

 

そこに現れたのがハルトだった。

 

「ハルト! ううん、何でもないの」

 

「そうか、なんかあったら言えよ?」

 

「うん……ありがとう」

 

明らかに以前よりハルトは

そのやりとりを見ていたミラは微笑ましい気持ちだった。

 

(なんだ……結構うまくいってるじゃない♪)

 

そこに鼻息を荒くしたマタムネが忍び寄る。

 

「胸が痛むならせっしゃにまかさるでごじゃる……癒してしんぜよう……ハァハァ……」

 

手をワキワキしながら近づいてくるマタムネは明らかに不審者、いや不審猫である。

 

「絶対に嫌よ。それよりあんた! 勝手にこの前の話を捏造してんじゃ……」

 

ルーシィがマタムネに文句を言おうとした瞬間、マタムネにテーブルが転がってきて押しつぶされた。

 

「むぎゃー!!?」

 

「マタムネー!?」

 

押しつぶされたマタムネを助けようとするルーシィの耳に怒号が飛んでくる。

 

「もういっぺん言ってみろ!!!!」

 

その怒号に辺りのみんなもザワザワと騒ぎだす。

 

「エルザ?」

 

ルーシィがエルザのほうを見ると、エルザはある男を睨んでいた。

 

「この際だ。ハッキリ言ってやるよ。弱ェ奴はこのギルドに必要ねぇんだよ」

 

ある男とは妖精の尻尾の最強の男の一人に数えられているラクサスだ。

 

「貴様……」

 

「ファントム如きに舐められやがって……恥ずかしくて外も歩けねーよ」

 

するとラクサスはガジルに襲撃されたレビィたちシャドウギアを指差す。

 

「オメーだよ。オメー。元はと言えァオメーラがガジルにやられたんだって?つーかオメーら名前知らねえや誰だよ? 情けねえなぁ、オイィ!!」

 

ラクサスの高笑いが響く中、レビィたちは悔しそうにしている。

それに耐えかねたルーシィは身を乗り出す。

 

「ひどい事を……」

 

それに気づいたラクサスはルーシィを見る。

 

「これはこれは……さらに元凶のねーちゃんじねーか」

 

「ラクサス。もうそのぐらいにしとけ。今回参加しなかったお前にもお咎め無しってことになったんだからな」

 

ハルトが止めに入るとラクサスは睨む。

 

「ハルトよぉ……テメェとカミナもだ。何であんな奴ら手こずる?あれか?そこのねーちゃんとミラの色気で文字通り骨抜きにされたか?」

 

「ラクサス……いい加減にしとけよ……」

 

「ああ? やんのか?」

 

ハルトはその言葉に怒りを覚えたのか、ラクサスを睨み、全身に黄金の魔力を滾らせる。ラクサスも全身から雷をほとばしらせる。

まさに一触即発の雰囲気だ。

 

「何の騒ぎだ……」

 

そこにカミナの若干細くなった声が届いた。

 

「カミナも来やがったか……テメェの……ッ!?」

 

ラクサスは振り返り、カミナのほうを向くとそこには頬が痩せこけ、何故か全身の色素が薄くなって、刀を杖代わりにしてやってきたカミナがいた。

流石のラクサスもその姿に驚いて魔力を散らせてしまう。

 

「ええっ!? あれってカミナさん!?なんか前会った時より色々変わってない!?」

 

ルーシィも驚き、ツッコンでしまう。

 

「ラクサス……俺が……どうし……」

 

ラクサスに近づこうとするが石に足を取られ転びそうになってしまう。

そこにすかさず滑り込み受け止めたのはミラだった。

 

「もう! 疲れているなら休まないとダメじゃない!!」

 

「いや…これは……お前が寝かせてくれなかったから……」

 

「疲れているなら家に帰りましょう?私が看病してあげるから!」

 

「……っ!!?い、いや!大丈夫だ!!一人で帰れ……」

 

「ダメよ。また転んだら危ないでしょ?じゃあみんな私たち先に帰るから、クエストの受注は代わりの人にやって貰ってね。エルフマン、私帰るの夜になるから。ご飯お願いね?」

 

「お…おう」

 

「じゃあみんな、またね!」

 

ミラの有無も合わせない勢いにカミナは連れ去られ、みんなは圧倒していた。

カミナがミラに引きづられながら、必死に助けの手を伸ばす姿はとても見ていられなかった。

 

「ね、ねぇマタムネ?」

 

「な、何でごじゃるか?」

 

「今日ミラさんが一段と綺麗だったのって……」

 

ルーシィの質問にマタムネは無言で頷いた。

さっきまでの剣呑な雰囲気は何処かに消え、しらけてしまった。

 

「チッ……白けちまった」

 

ラクサスは踵を返し何処かに行こうとするが、顔だけ振り向き、ギルドにいる全員宣言した。

 

「俺がギルドを継いだら弱ェモンは全て削除する!!!そして歯向かう奴も全てだ!!! 最強のギルドをつくる!!!誰にも舐められねぇ史上最強のギルドだっ!!!!」

 

ラクサスはそう言い残し去って行った。

 

ラクサスが去ってみんながそれぞれのことをしているが不満はあるようだ。

 

「継ぐって……何ぶっ飛んだ事言ってんのよ」

 

ルーシィもその一人で不満そうに言うが、ハルトは隣に座りながら、ため息をつく。

 

「そうでもないんだ。ラクサスはじいさんの実の孫なんだよ」

 

「えーーーっ!!!?」

 

ハルトの言葉にひどく驚くルーシィ。

 

「じゃ、じゃあマスターが引退したら次のマスターはラクサスなの!?」

 

「そんな事マスターも言ってないからあくまで噂でごじゃる」

 

「それにしてもあの野郎……あんな事言いやがって……」

 

ハルトはさっきの怒りが収まらないのか拳を握り締める。

その拳をルーシィは両手で優しく包み込む。

 

「あたしは大丈夫だから……ありがとう、ハルト」

 

「ルーシィ……」

 

2人の周りにピンク色のオーラが溢れているように見える。

 

「「でぇきぃてぇるぅ」」

 

マタムネとハッピーが揃えて言う。

 

「う、うるさい!」

 

そこにエルザも現れ、ルーシィに話しかける。

 

「あんな奴に関わると疲れるだけだ。放っておけ。それよりどうだろう?仕事にでも行かないか?」

 

「え?」

 

「もちろんハルト、ナツにグレイも一緒だ」

 

「「「え!?」」」

 

「鉄の森の件から常に一緒にいる気がするしな。この際チームを組まないか? 私たち5人で。マタムネとハッピーいれて6人か」

 

「わぁ!」

 

「「「マジで?」」」

 

ルーシィ、マタムネ、ハッピーは嬉しそうに騒ぐがハルト、ナツ、グレイは顔色を悪くする。

それと同時にギルドのメンバーも騒ぐ。

 

「妖精の尻尾最強チーム正式結成だー!!!」

 

「いいぞー!!!」

 

「お前らが最強だー!!!」

 

しかし犬猿の仲であるナツとグレイは不服そうで、互いを睨み合う。

 

「「こ、こいつと……」」

 

「不満か?」

 

「「いえ嬉しいです」」

 

しかしエルザの一声でコロっと意見を変えてしまう。

ハルトは別の意味で不服だった。

 

「はぁ……チームの責任は俺に来るのか? また評議院からめんどくさいことが……」

 

ハルトはこれからのことを考え、顔を引きつかせる。

 

「早速仕事に行くぞ!」

 

 

その夜、ギルドの骨組みの上でマカロフは月見酒をしていた。

 

「引退……か」

 

ヤジマとナミーシャに言われたことを思い返し、下に見える建設現場を見渡す。

 

「ギルドも新しくなる。ならばマスターも次の世代へ……」

 

そして頭に浮かべるのは妖精の尻尾のトップクラスの実力者たち。

 

「ラクサス……あやつは心に大きな問題がある。ギルダーツは無理だしのう……。ミストガンは……ディスコミュニケーションの見本みたいな奴じゃ……だとするとまだ若いが……ハルト、カミナ、エルザのいずれか……」

 

「マスターこんな所にいたんですかぁ〜」

 

「ん?」

 

そこにカミナの看病(意味深)から帰ってきたミラがマカロフを呼び、ある書類を見せる。

 

「またやっちゃったみたいです」

 

「は?」

 

「エルザたちが仕事先で街を半壊させちゃったみたい」

 

「はっ!!!?」

 

その瞬間、マカロフは真っ白になり、涙を流す。

さらにミラは追い討ちをかける。

 

「評議院から早々に始末書の提出を求められてますよー。あれ?マスターどうしました?」

 

「引退なんかしてられるかーーー!!!」

 

マカロフの苦悩は続く。

 




感想待ってまーす。


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第39話 鳳仙花の夜

ハルトたちはある砦に潜伏していた盗賊の討伐のクエストを受けた。

無事に倒した帰りにある人物と出会った。

 

「ロキ?」

 

「あれ?」

 

「偶然だなぁ」

 

「お前もこの辺で仕事か?」

 

「みんなも?」

 

そこにルーシィは鍵を拾ってくれたロキにお礼を言おうと前に出るが……

 

「あ…ちょうどよかった!!この前は鍵……」

 

「ルーシィ!!?」

 

ルーシィに気づいたロキはビクつき冷や汗を垂らす。

 

「じゃ……仕事の途中だからっ」

 

ロキは逃げるように走り、ルーシィは置いてけぼりにされた。

 

「何よあれェ〜」

 

「お前、あいつに何したんだ?」

 

「何もして無い〜」

 

ルーシィが不満そうに言うが、ハルトはどこか悲しそうにロキを見ていた。

 

 

ハルトたちは盗賊たちがいた砦の近くにある温泉で有名な村、鳳仙花村。

クエストを達成し、その帰りに鳳仙花村の温泉を満喫しにきたのだ。

ルーシィとエルザも十分に満喫していた。

 

「はぁ〜最高……♪」

 

ルーシィが背伸びして、湯気がかかっている夜空を見上げた。

そこでふと昼間のロキのことを思い出し、不満そうな表情を浮かべた。

 

「まったくなんなのよ。ロキの奴……」

 

温泉から上がり部屋でまったりとしているとナツが枕を持って大声を出した。

 

「よーし!やるぞー!!!」

 

「ぞー」

 

グレイが気怠そうに振り向く。

 

「なんだよ。やかましいな……オレぁ眠ーんだよ」

 

「オイ!!見ろよ!!旅館だぞ旅館!!!旅館の夜っつったら枕なぐりだろーが!!!」

 

「枕なげだろ」

 

「物騒でごじゃる」

 

ナツがはしゃいぐがハルトはウンザリしたような顔をしてツッコむ。

 

「ふふ……しつのいい枕は私が全て押さえた。貴様らに勝ち目はないぞ」

 

「質って……」

 

エルザもやる気なようで数多くの枕を抱えており、ルーシィは苦笑いしている。

 

「オレはエルザに勝ーーつ!!!」

 

ナツはその言葉に俄然やる気をだす。

 

「やれやれ……」

 

「とう!!」

 

「甘い!」

 

「ぐべほっ!!……ナツ!!てめェェ!!!」

 

グレイも仕方なく枕投げをやろうと立ち上がるがナツがエルザ目掛けて投げた枕はグレイの顔面にあたり、グレイの頭に血が上り、投げあいが始まった。

 

「あははははっ!よーしあたしもまざるか!……ハルトはやらないの?」

 

ルーシィもまざろうとすると隅に避難していたハルトが目に入り、尋ねるとハルトは疲れた顔をした。

 

「評議院から送られた前の仕事で街を半壊させた罰のクエストが終わってすぐに今回のクエストについて来たんだ……流石に疲れちまった……今日はもう休みたいんだ」

 

ハルトがそう言った瞬間、ハルトの顔面にナツの豪速球の枕がぶつかり、さらに隅っこにいたので壁に頭が少しめり込んだ。

 

「ハ、ハルト……?」

 

「…………ナツぅぅぅぅぅっ!!!!いい加減にしろよテメェェぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

「ぎやぁーーー!!!!!?」

 

ハルトは鬼の顔になり、ナツに枕を持って殴りかかる。

 

「むっ?……ハルトも参戦か!!よし!かかってこい!!」

 

「エルザもだ!……止める側ならしっかりと止めやがれ!!何気にお前が一番手に負えないんだよ!!」

 

ハルトは普段の怒りが爆発したようでエルザにも飛びかかる。

そこにグレイも混ざるが…

 

「へっ!ハルトにも負けねーぞ!!」

 

「…………よし!いくぞオラぁ!!」

 

「なんか言えよ!?」

 

ハルトも参戦してより激しくなる。

 

「よーし!あたしも……」

 

ルーシィも腕まくりして参戦しようとするが誰かの枕がルーシィの顔にぶつかり、そのままの勢いでルーシィは庭に飛び出てしまった。

 

「や…やっぱやめとこーかな。死んじゃう……」

 

涙目になったルーシィの呟きはハルトたちの喧騒にかき消された。

 

 

ルーシィは旅館から離れて鳳仙花村を散策していた。

 

「はあー…あいつら本当に人間なのかしら………ハルトも混ざっちゃうし……」

 

「プーン」

 

「あ、マタムネとハッピーは猫だっけ? プルーも犬だしねー」

 

「ププーン」

 

ルーシィの不満に一緒に歩いていたプルーはルーシィに受け答えするように返事をする。

すると……

 

「オイラ……本当は人間なんだプーン」

 

「へぇー……えええっ!!!? 人間!!?てか…アンタしゃべれるの!!?」

 

「あい」

 

「……あい?」

 

ルーシィはプルーの言葉に驚き後ずさるが、「あい」という言葉に固まる。

 

「オイラは聖なる石を持つ勇者の使いプーン。プクク……」

 

「ハッピー殿。次はせっしゃでごじゃる」

 

ハッピーとマタムネがプルーを使ってルーシィをからからっていたのだ。

 

「はいはいもういいから、あんたらしょーもないことしてないで出てきなさい」

 

マタムネとハッピーも連れて村の散歩をしようとするとルーシィは声をかけられた。

 

「ハーイ、お嬢さん」

 

「浴衣似合うじゃん。観光?」

 

「オレたちオシバナから来たんだけどサ。どう?一緒に呑みに行かない?ファンキーにサ」

 

やたら首をカクカクと動かす男とチャラい男がルーシィをナンパしてきた。

 

「わるいけどツレいるからごめんね〜」

 

「ツレってそこの猫たちと………」

 

ルーシィが軽くあしらうが男たちはマタムネ、ハッピーとプルーを見るとしばらく考えた。

 

「ま…まあ、このファンキーなツレも一緒でいいからサ」

 

「行こうじゃん」

 

「強引だなぁー……マタムネ、ハッピーなんとかしてよぉ」

 

ルーシィがマタムネたちに助けを求めるが……

 

「「にゃー」」

 

「にゃーってアンタら!!」

 

マタムネたちは面白くなる展開だと思い、わざと猫のふりをする。

すると、ルーシィは自分の体の異変に気づいた。

 

(アレ……!!? 何これ……体が……動かない……!!?)

 

「遊ぼうじゃん。オレたちと」

 

「ファンキーな夜にしようぜ」

 

(こいつら魔導士!!? ヤバ……)

 

万事休すの状態に立ち上がった男がいた。

 

「待つでごじゃる!」

 

「なんだヨ?」

 

「ルーシィ殿を離すでごじゃる」

 

流石にマズイと思ったマタムネは木刀を抜き、構える。

 

「はっ!猫に何ができるじゃん?」

 

「ルーシィ殿はせっしゃたちの仲間でごじゃる!」

 

「マタムネ……」

 

ルーシィは普段欲望に素直なマタムネに珍しく感動した。

 

「今からオレたちはこの嬢ちゃんといいことをするんだヨ。邪魔すんなヨ!」

 

その瞬間マタムネの頭に「いいこと」という言葉だけが反響し、凄まじい速さで回転し始め、どうするか決断が出た。

 

「………ギリギリで助けるでごじゃる!!」

 

「このエロネコーー!!!」

 

その瞬間、横から人影が現れ、片方の男を殴り倒した。

 

「!!!」

 

「え?」

 

あっという間に現れた人影はもう1人も倒した。

 

「ケガはない?」

 

「ロキ!!!」

 

 

ルーシィはロキに危機一髪のところを助けられ、そのお礼に近くのお店を寄ったのだが、

 

「…………」

 

「…………」

 

カウンター席でルーシィとロキの間の席は5つくらい離れていて、とてもじゃないが話そうという距離じゃない。

 

「あ、あのロキ……?」

 

「っ!……あ、いやゴメンね」

 

ルーシィが話しかけるだけで体をビクつかせるロキにやきもきするルーシィは思い切って席を詰めた。

 

「ル、ルーシィ!?な、なんでそんなに詰めて来るんだ!!女性として恥ずかしくないのかい!?」

 

「普段口説いてる男に言われたくないわね……」

 

慌てるロキにルーシィは苦笑いをしながら言うと、ここでルーシィは踏み込んだ質問をしてみた。

 

「ねぇ……なんでそんなに星霊魔導士が苦手なの? 昔何かされたの?」

 

「………」

 

しかしロキは一点を見つめ、何も答えない。

ルーシィはそれを見ると無駄だと悟り、ため息を吐き立ち上がり、席を離れる。

 

「ゴメンね。突然こんなこと聞いちゃって……さっきはありがと。何だかんだ言ってもやっぱり仲間なんだなぁって思った。それじゃ、あたしそろそろ……」

 

ルーシィが後ろを向き、去ろうとした瞬間、ロキは座ったままルーシィの腕を掴んだ。

 

「待って」

 

「!? ……どうしたの?」

 

ロキは立ち上がり、突然ルーシィを抱きしめた。

 

「!!!? な…なに!?」

 

「ルーシィ……」

 

突然のことで顔を少し赤らめ慌てるルーシィ。

 

「ちょっ……ちょっと!放して!あたしはハルトが……」

 

「僕の命はあとわずかなんだ……」

 

「え!?」

 

突然のロキの告白に固まるルーシィ。

ロキはルーシィを放すが、2人の間には重い空気が流れる。

 

「……どういう事?」

 

「……………あはははははっ!」

 

ルーシィが質問するがロキは黙ったままでいると突然笑い出す。

 

「ひっかかったね。これは女の子を口説く手口さ。泣き落としの一つでね……どう?結構ビックリしたでしょ?」

 

次の瞬間、ルーシィはロキの頬を叩いた。

 

「あたし、そういう冗談キライ!!! 行くよ!!マタムネ、ハッピー、プルー!!!」

 

ルーシィが怒りながら出ていくのをロキは悲しそうな目で見ていた。

 

 

「ててて……あいつら本気でやりやがって」

 

ハルトは枕投げという名の戦いを終え、鳳仙花村の散策に出かけていた。

すると目の前にルーシィが横切っていくのが見えた。

 

「おっ!ルーシィ……」

 

声をかけたが気づかず、怒った様子でそのままどこかに行ってしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

ルーシィが通って行った道をたどるとある店に着き、入ると暗い表情でたたずむロキがいた。

 

「ロキ」

 

「っ! ハルトか……ハハッ!ルーシィを口説いてみたけど見事失敗したよ。やっぱり彼女には君が……」

 

「ロキ。ルーシィに何を言ったんだ?」

 

ロキは無理矢理に笑いながら言うがハルトは真剣な顔で聞くと、観念したのか申し訳ない顔をした。

 

「ごめん。最後ってなると未練がましくなっちゃってね……」

 

「なぁ、ロキ。やっぱりみんなに相談しないか? みんなも手伝ってくれるはずだ」

 

ハルトはそう提案するがロキは首を横に振る。

 

「ハルトならわかるだろ?罪にどれだけ苦しんでも償わないといけないという気持ちが……僕と同じで自分のせいで大切な人を死なせてしまった君なら……」

 

ロキはそう言って店から出て行き、ハルトは悲しそうに呟く。

 

「お前もそんな風に思ってるのか?………エミリア」

 




感想待ってまーす。


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第40話 帰れない星

鳳仙花村での一件が終わり、ハルトたちは妖精の尻尾に帰っていたが、ボロボロに傷ついたナツとグレイが睨み合っていた。

 

「あいつらどーしたんだ?」

 

「旅館で枕投げしてたらハルトにボロボロにされたらしいわ」

 

「枕投げでどうやってあそこまでケガをするんだよ……」

 

そして睨み合いからとうとうケンカになってしまい、騒ぐと……

 

「うるさい」

 

ひどく冷たい声でルーシィはナツたちに言うと、ナツたちの背中にエルザにお仕置きされるのと同じ寒気が駆け巡り、素直に謝った。

 

「どうしたの、ルーシィ?機嫌が悪いわね」

 

「いや、ちょっと……」

 

ルーシィはミラに聞かれても何も言わず、ふてくされた表情をするだけで、ミラも何も言えずに少し困った笑みを浮かべると、カミナと話していたハルトが目に入った。

 

「やっと顔色が良くなってきたな」

 

「あぁ……ミラも満足して来たんだが、毎晩の数が少なくなってきただけだ」

 

「………ミラって若干病みが入ってるよな」

 

「いつもなら反論するが………やっぱりそうか?」

 

カミナはミラのことで相談していた。

カミナはミラのことが大切だが最近は命の危険を感じているらしい。

最強ギルドのトップクラスの男の死因が腹上死では笑えない。

 

「やっぱりこまめに帰ってくることだな。ミラはお前が心配で仕方がないんだよ。リサーナのこともあったしな」

 

「……そうだな」

 

ミラはリサーナが死んでしまったことからトラウマができてしまい、魔力が使えなくなってしまった。

そこにミラも混ざってくる。

 

「ねぇ、ハルト」

 

「どうした?」

 

「ルーシィに何かあったの? すごく不機嫌よ?」

 

「あーまぁ、な。ちょっと嫌な事があったんだよ」

 

誤魔化して話そうとしないハルトにミラはこれ以上聞いても話してもらえないと思い、しぶしぶ引き下がった。

 

「そういえば何の話をしていたの?」

 

「え!? いや、そのな……」

 

ハルトはミラが病んでいるということを本人に話せるわけがないので誤魔化すが、ミラはハルトの肩を掴み問いただす。

 

「何を、話したの?」

 

ミラの体から黒いオーラみたいなのが溢れ空気が重くなり、ハルトの額から冷や汗が止まらなくなり、ハルトの肩からギリギリと鈍い音がなる。

ハルトはすぐにでも言って解放されたかったが、カミナが目で下手なことは言うなと訴えかけてくる。

カミナがまた干からびるのは避けたいがそれよりミラに殺される雰囲気がしてやばかった。

カミナをとるか自分の命をとるか……

 

「………カミナがミラのことを愛してるって話をしてたんだ!」

 

「なっ!? お前……!!」

 

やっぱり自分の命が大切だった。

それを聞いたミラは満面の笑みになり、頬を赤らめ両手を両頬にあて体をくねらせた。

 

「もう〜カミナったら〜そういうことは私に直接言ってくれればよかったのに♪」

 

「だよなーハハ」

 

「ハルト、貴様ぁっ……!!」

 

ミラの喜びにハルトは乾いた笑い声で答える。

カミナはそんなハルトを親の仇のように睨んだ。

 

「カミナ♪今晩は期待しててね♡」

 

ミラはスキップでカウンターに戻っていった。

それを見送った瞬間、カミナはハルトに斬りかかり、ハルトは剛腕で防ぐ。

 

「何てことを言ったんだ!今晩もなんて体が持たないぞ!!」

 

「うるせぇ!彼氏なら彼女の愛情ぐらい受け止めてやれや!!」

 

「その愛が重いから相談していたんだろうが!!!」

 

そのまま喧嘩となり辺りの机や椅子を破壊しまくった。

結局この2人もナツたちと変わらない喧嘩早さだ。

 

 

ミラに質問された後、ルーシィは機嫌が悪そうな顔をしていた。

そこにマタムネとハッピーがやってくる。

 

「ルーシィ殿ずっと機嫌が悪いでごじゃるな」

 

「オイラたちのいたずらまだ怒ってる?」

 

「ちがーう!あたしってそんな器の小さい人に見える?」

 

そう答えたルーシィは一息つき謝った。

 

「ゴメン……なんか色々考え事あって……」

 

「せっしゃたちが相談にのるでごじゃる」

 

「あい」

 

「うん…いいの……ありがとう」

 

すると横から考える原因となった男の名前が聞こえてきた。

 

「ねぇ、ロキ来てる?」

 

「ロキは?」

 

「何よアンタたち」

 

「アンタこそ」

 

「ロキ〜どこ〜!」

 

そこには多くの美女、美少女がミラに詰めかけたいた。

 

「何アレ?」

 

「街の女の子たちだよ。みんな自称ロキの彼女みたいだね」

 

「羨ましいでごじゃる……」

 

どうやら彼女たちは昨晩ロキから別れようと言われたらしく、ロキに問いただしにきたのだ。

遂には本命が現れたと考え、ギルド内を探す。

その勢いに圧倒されたミラはルーシィに助けを求めた。

 

「ルーシィ〜助けて〜」

 

「ちょっ……!」

 

その瞬間、自称ロキの彼女たちはルーシィをロックオンする。

 

「何あの女〜」

 

「ちょっとかわいいし…」

 

「まさかロキの本命って……」

 

「い、いやアタシじゃ……」

 

詰め寄ってくる彼女たちにルーシィは後ずさる。

そこに割り込む男が……。

 

「ちょっと待ってくれよ。ルーシィはロキの彼女じゃないんだ」

 

「ハルト!」

 

カミナと喧嘩をしていたハルトだがルーシィがピンチだと思い、駆けつけたのだ。

 

「何よ!地味男は黙っててっ!!」

 

「地味……!?」

 

「タンポポ頭は引っ込んでなさい!」

 

「タンポポ!?」

 

初対面の女性からの罵倒にハルトは膝をついて落ち込む。

確かにハルトはロキやカミナと違い、美形じゃないがそこまで言われるとは思ってなかった。

 

「ちょっ…ちょっとアンタたち!いくら何でも……」

 

「待てハルト!まだ話は終わってないぞ!!」

 

そこにカミナがやって来ると女性たちの目は変わった。

 

「あら?いい男じゃない」

 

「かっこいい…」

 

「ねぇ、お兄さん。お名前は?」

 

ハルトに精神的ダメージを負わせた女性たちはカミナのほうに寄っていく。

 

「何だお前たちは?邪魔だ」

 

「もう、そんなこと言わずに」

 

「ちょっとお茶しましょう?」

 

カミナが冷たくあしらうが、それが拍車をかけ、どんどん詰め寄っていく。

すると、地獄の底から響いてきたような声が聞こえてきた。

 

「カミナ……」

 

「なんだミラ……っ!?」

 

カミナがそっちを向くとさっきと打って変わって黒いオーラを纏ったミラが俯いて立っていた。

どうやらカミナに他の女性が話しかけるのが気に入らなかったようだ。

 

「今晩は覚悟しておいてね……」

 

「なに!?」

 

「貴女たちも邪魔だからさっさと消えなさい……」

 

『ハ、ハイィィィィィィッ!!!!』

 

カミナに話しかけた女性たちはミラの迫力に涙を流しながら逃げて行った。

 

「今のうちに逃げるでごじゃる」

 

「え?でもハルトが……」

 

「ハルトはせっしゃが見ておくでごじゃる。まだロキの彼女はいるでごじゃるから早く行ったほうがいいでごじゃる」

 

「う、うん……じゃあ行くね」

 

ルーシィは被害が及ばないうちに家に帰った。

 

「地味って……」

 

「まぁまぁ」

 

 

自宅に帰ったルーシィはロキと関係があった星霊魔導士を調べるために自身が持つ星霊の1人、南十字座のクルックス、通称クル爺に頼んで調べてもらうと星霊界にも個人情報保護法が適用されており、詳しくは教えられないがロキと関係があった星霊魔導士はカレン・リリカだと教えられた。

 

「カレン・リリカですって!? めちゃくちゃ有名な魔導士じゃない!!」

 

「そんなに有名なの?」

 

一緒に来ていたハッピーが尋ねた。

 

「すっごい美人で昔はソーサラーのグラビアとかやってたんだけど、何年か前の仕事で亡くなっちゃたの」

 

「ギルドの魔導士だったんだ」

 

「うん……確か青い天馬(ブルーペガサス)だったと思う。ねぇ、そのカレンとロキがどう関係してるの!?」

 

「ほマ、これ以上は申し上げられません」

 

「ちょっと!」

 

そのままクル爺は星霊界に帰ってしまった。

ルーシィは頭の中でロキが言ったこと、そしてクル爺の言ったことを推理していく。

 

「あれ?」

 

そして何かに気づく。

 

「どうしたの、ルーシィ?」

 

「ううん……でも、もしかして……」

 

何かに気づきかけたルーシィの部屋にグレイが滑り込んできた。

 

「ルーシィ大変だ!!」

 

「キャアっ!?ど、どうしたのよ!」

 

「ロキが妖精の尻尾から出て行っちまった!!」

 

グレイの突然のことに驚くルーシィ、グレイも慌ててるようだ。

 

「え!? な……何で!?」

 

「知らねえよ!今みんなで探してんだ。あいつ……ここんトコ様子おかしかったからな……とりあえず辺りを探すぞ!」

 

グレイ、ハッピーと別れてルーシィも探すがなかなか見つからない。

ルーシィは途方にくれてしまう。

 

「せめてあそこの場所が分かれば……」

 

「ルーシィ」

 

声をかけられたほうを向くとハルトが神妙な顔で立っていた。

 

「ハルト、どうしたの?」

 

「ロキがどこかにいるか知りたいか?」

 

「知ってるの!?」

 

ハルトの言葉に驚くルーシィだが、そこである疑問を覚える。

 

「知ってるなら何でハルトが行かないの?」

 

「………俺じゃダメなんだ。だけどルーシィなら……星霊に真摯に向き合えるルーシィならもしかしたら……」

 

「知ってるんだね。ロキのこと」

 

「ああ、それじゃあ行くか」

 

 

崖が滝と対面するようにある場所に1つだけ墓があり、そこにロキはいた。

すると背後から足音が聞こえロキが振り返るとルーシィとその奥にハルトが立っていた。

 

「ルーシィ、ハルトも!!」

 

「みんな探してるよ」

 

「……っ!ハルト、君だね。ここを教えたのは」

 

「………」

 

ロキはハルトを責めるように睨む。

 

「カレンのお墓でしょ?ここって……」

 

ロキの頬に汗が垂れる。

 

「星霊魔導士カレン。あなたの所有者(オーナー)よね。星霊ロキ……ううん……本当の名は獅子宮のレオ」

 




感想待ってまーす。


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第41話 夜空に帰る星

滝が流れる音が大きく響くが3人に流れる空気はひどく重いものだった。

 

「………ハルトに聞いたのかい?僕が星霊だって」

 

「ううん。あたしはたくさんの星霊と契約してる星霊魔導士だからね。自分であなたの真実にたどり着いた。……でももっと早く気づくべきだったんだね。本来鍵の所有者が死んだ時点で星霊との契約は解除され、強制的に戻される。……カレンが死んで契約は解除されたはずなのにあなたは人間界にいる。なんらかの理由で帰れなくなったのね」

 

ルーシィの推理は合っているのかロキは何も言わず、ただ聞いている。

 

「星霊は人間界じゃ生きていけない。生命力は徐々に奪われやがて死に至る」

 

「もう3年もこっちにいるよ」

 

「3年て……!!1年でもありえないのに!!」

 

「ああ……ハルトは魔法に関しては鼻はナツ以上に効くからね。すぐに僕の正体に気づいてたよ。ハルトの手助けもありながらなんとかやってこれたけど……もう限界なんだ。全く力が出ない……」

 

「ハルトも言ってくれたんだけど……あたし、助けてあげられるかもしれない!!帰れなくなった理由を教えて!!あたしが門(ゲート)を開けてみるから!!」

 

ルーシィは叫ぶように言うがロキは悲しそうに笑顔を作りながら断る。

 

「助けはいらない。理由は単純だ。僕が所有者と星霊の間の禁則事項を破った………結果、僕は星霊界から永久追放になった」

 

「永久……追放?」

 

「まだハルトにも教えてなかったね。聞いてくれないか?僕の罪を………」

 

 

ロキが語ったのはロキの元所有者、カレンの死因だった。

カレンは青い天馬でも人気の女魔導士であり、言い寄ってくる男性も多かった。

煩わしかった時には自分が所有している黄道十二門の一体、白羊宮の

アリエスに相手をさせていた。

さらにアリエスは嫌とはなかなか言えない内気な性格でよくカレンのストレス発散として暴力を振るわれていた。

それを許すことができなかったロキはアリエスの代わりに自分の魔力で人間界に現れ、アリエスを召喚させないようにした。

そしてアリエスと自分を解放しなければこのまま人間界に居続けると言ったのだ。

カレンの魔力では二体同時に召喚するのは無理だが、2人を手放すのもできなかった。

カレンは一週間でロキは諦めると思っていたが諦めず、ついには3ヶ月もたった。

最初は辛かった体も人間界に慣れ、そろそろカレンを許そうと思ったときにはカレンは仕事先で死んでしまったのだ。

二体同時に召喚できないカレンは丸腰のまま仕事に赴き、死んでしまったのだ。

ロキはそのことで星霊界に帰ることはできなくなり、カレンを死に追い込んでしまったという自責に負ってしまった。

 

「僕のせいで死なせてしまった………僕が殺したのと変わらないよ」

 

「そんな……」

 

ルーシィがロキに声をかけようとするがいい言葉が見つからない。

すると、ロキはふらつき倒れてしまった。

 

「ロキ!!」

 

「ハハッ……もう本当に限界みたいだ……」

 

倒れたロキにルーシィとハルトは駆け寄る。

ロキは自身の手を見ると薄くなって手の向こう側が見えていた。

 

「どうすれば……」

 

「もういいんだ……僕に罪を償わさせてくれ」

 

しかしルーシィは諦めずロキに抱きつき、魔力を滾らせる。

 

「!? 何をしているんだ!!」

 

「開け!獅子宮の扉!!」

 

ルーシィがそう叫ぶと星霊魔法の光が周りを走るが、それだけで終わる。

 

「もういいんだ……やめてくれ……」

 

「よくない!!目の前で消えてく仲間を放っておける訳ないでしょ!!!」

 

ルーシィの体からバチバチと電気のようなものが走る。

 

「無理やり星霊界の扉を開こうとしているのか?駄目だ!そんなことしてはルールに反してしまう!!」

 

「開け!獅子宮の扉!!お願い!!ロキを星霊界に帰して!!」

 

また光が走るがそれだけで終わる。

 

(……っ!? くぅ……魔力が……!)

 

ルーシィの体から力が一気に抜ける。

無理やり星霊界への扉をを開こうとしているのだ。

消費する魔力はバカみたいに大きい。

すると、ルーシィの肩に手が置かれる。

 

「ハルト……」

 

「手伝うぞ」

 

「………うん! 開け!獅子宮の扉!!」

 

ハルトが加わったことでさっきよりも大きな光が走る。

 

「ハルトまで……もうやめてくれ!僕にそこまでされる資格なんてないんだ!!」

 

「そんなことない!!」

 

ロキが悲痛な声で叫ぶとそれを遮るようにルーシィも叫ぶ。

 

「ロキはあたしを助けてくれた!今度はあたしが助ける番!!それにあたしたちは仲間でしょ?なら助けるのに資格なんていらない!!」

 

その言葉にロキは目を見開いて驚く。

 

「開け!獅子宮の扉!!」

 

今度はルーシィの体から金色の粒子が流れる。

 

「っ!? 体が星霊化してるじゃないか!ハルト!!すぐにやめさせるんだ!!ルーシィが消えてしまうぞ!?大切じゃないのか!!」

 

「………確かに大切だ。だけどな、お前も大切なんだよ……自分のせいで死なせてしまったなら簡単に死のうなんて思うなよ!死なせてしまったならその人の分まで必死に生きろ!!」

 

ハルトはまるで自分に言い聞かせるように叫ぶ。

その言葉にロキは黙ってしまう。

 

「……これ以上、僕に罪を与えないでくれーーーっ!!!」

 

ロキの叫びにルーシィは苦しそうな顔をしながらも、真っ向から言い返す。

 

「何が罪よ!!!そんなものが星霊界のルールならあたしが変えてやる!!!」

 

その瞬間ルーシィたちを辺りに風が吹き荒れ、空は一気に星空が浮かぶ夜になり、周りの水、滝の水が一気に空中に舞い上がり、ルーシィたちの上で水が集まり、形を成していく。

 

「え?何!?」

 

「マジかよ……!」

 

「ま…まさか……そんな……星霊王!!!!」

 

空中に浮かぶ巨人。

その威風堂々とした姿はまさに王だ。

 

「な…何でこんな所に!!?」

 

「王って……一番偉い星霊って事!!?」

 

星霊王は威厳のある声で話しかける。

 

「古き友、人間との盟約において我ら……鍵を持つ者ヲ殺める事を禁ズル……直接ではないにせよ間接にこれを行なったレオ。貴様は星霊界に帰る事を禁ズル」

 

星霊王の無慈悲な宣告にルーシィは反論する。

 

「ちょっと!!そりゃあんまりでしょ!!3年も苦しんだのよ!!仲間の為に!!!アリエスの為に仕方がなかった事じゃないの!!!」

 

「余も古き友の願いには胸を痛めるが……」

 

「古い友達なんかじゃない!!今!!目の前にいる友達の事言ってんのよ!!ちゃんと聞きなさい!!!ヒゲオヤジ!!!!これは不幸な事故でしょ!!ロキに何の罪があるって言うのよ!!!無罪以外は認めないんだからねっ!!!」

 

「もういいルーシィ!!! 僕は誰かに許してもらいたいんじゃない!!!罪を償いたいんだ!!! このまま消えていきたいんだ!!!」

 

「そんなのダメーーー!!!!」

 

「よせ!ルーシィ!!」

 

「む」

 

ロキの叫びにルーシィは自身の魔力を爆発させ、辺りを光で包む。

光が晴れるとルーシィの周りにはルーシィと契約している星霊が全員姿を現わし、ルーシィと一緒に星霊王に立ち向かう。

 

「罪なんかじゃない!!! 仲間を想う気持ちは罪なんかじゃない!!!」

 

(星霊が……これほど同時に……)

 

すぐに星霊たちは消えて、ルーシィは魔力を使い果たし倒れてしまうが、その前にハルトが受け止めた。

二体同時に召喚するだけでも驚くことだと言うのに、ルーシィは六体も同時に召喚したのだ。

 

「あたしの友だちもみんな同じ気持ち……あんたも星霊ならロキやアリエスの気持ちがわかるでしょ!!!」

 

ルーシィは苦しそうな表情をしながらも星霊王に訴える。

星霊王はその言葉に考え込む。

 

「古き友にそこまで言われては間違っているのは『法』かとしれぬな……」

 

星霊王からこぼれた言葉にルーシィとハルトは嬉しそうな顔になり、ロキは驚く。

 

「同胞アリエスの為に罪を犯したレオ。そのレオを救おうとする古き友。その美しき絆に免じ、この件を『例外』とし、レオ……貴様に星霊界への帰還を許可スル」

 

「いいトコあるじゃないヒゲオヤジ♪」

 

星霊王の判断にウィンクで感謝し、星霊王も笑う。

 

「免罪だ。星の導きに感謝せよ」

 

「待ってください……僕は……」

 

「それでもまだ罪を償いたいと願うならば、その友の力になって生きる事を命ずる。それだけの価値がある友であろう。命をかけて守るが良い」

 

その言葉にロキは涙を流しながら、笑顔を浮かべる。

ハルトとルーシィも同様に笑顔になって喜ぶ。

星霊王も笑みを浮かべてマントをひるがえし帰ろうとするが、その動きが一瞬止まり視線はハルトに向けられたが、すぐに消えていった。

星霊王が消え、元の空に戻り水も戻る。

そしてロキの背後に黄金の扉が現れロキは吸い込まれていく。

そしてルーシィの手には黄金の鍵が現れる。

 

「ありがとう。そしてよろしく。今度は僕が君の力になるよ」

 

「こちらこそ」

 

ようやく星は夜空に帰れたのだ。

 



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楽園の塔 篇
第42話 アカネビーチ


ロキの一件があった次の日、ギルドのみんなにロキの正体を説明していた。

 

「星霊だぁ!?」

 

ギルドにナツの驚きの声が響く。

 

「まぁ…そういうこと」

 

「しっかし気づかなかったなぁ」

 

「ハルトは気づいていたのでごじゃるか?」

 

「俺は魔法に対しては鼻が効くからな。最初に会ったときから気づいてたな」

 

ナツたちは驚くがハルトはとうの昔に知っていたらしい。

 

「ところで何の星霊なの?」

 

「僕は獅子宮、つまりライオンだね」

 

「ライオン!大人の猫だね!いいなぁ〜、オイラも大きくなればなれるかな?」

 

「無理じゃないかしら……」

 

「せっしゃも大きくなればロキ殿みたいにモテモテになるでごじゃるか!?」

 

「マタムネはまず下心丸出しのところを直さないと無理ね」

 

ルーシィはハッピーのボケに苦笑いしながら答え、マタムネには辛辣に答えた。

 

「ハハハ……これからはルーシィの星霊としてやっていくことになったんだ。ルーシィがピンチになったら颯爽と現れる……さしずめ白馬の王子様かな?そういう訳でハルト。君には負けないよ?」

 

「お?おう…」

 

「ちょっ、ちょっとアンタ何言ってんのよ!!?アンタもう帰りなさい!!」

 

ロキがルーシィの気持ちを遠回しにハルトに言うとルーシィは顔を赤くして、慌ててロキを星霊界に帰そうとする。

 

「あっ、ちょっと待って……はい」

 

ロキはルーシィを止め、ポケットから何枚かのチケットを取り出し、ルーシィたちに渡した。

 

「何これ?」

 

「もう人間界に長居する事もないからね。ガールフレンド達を誘って行こうと思ってたリゾートホテルのチケットさ。君たちには色々世話になったし、これ……あげるから行っといでよ」

 

「おおっ!!」

 

「海!!」

 

「水着のお姉さん!」

 

「こんな高いホテル泊まったことねえぞ!!」

 

「楽しみだな!!」

 

ロキからのプレゼントに興奮するハルトたち。

 

「ああ、あとエルザにも渡しておいたから」

 

「え?」

 

「何をモタモタしているお前たち」

 

ロキが後付けでそう言うと後ろからエルザの声がする。

振り向くとそこには水着の上にアロハシャツを着て、麦わら帽子まで被り浮き輪も装着し、いつも仕事に行く際に大量の荷物を乗せるリヤカーには多くの遊び道具が積まれていた。

 

「さっさと行くぞ」

 

『気が早ぇよ!!!?』

 

 

ロキの好意で人気リゾートアカネビーチにやってきたハルトたち。

 

『海だー!!!』

 

「うおー!!遊ぶぞー!!!」

 

「待てよナツ!」

 

「見て見て、海が青いよ!」

 

「すごいでごじゃる!!」

 

ナツたちはさっそく海に入り、はしゃぐ。

 

「うし!俺も行くか!!」

 

一応保護者的ポジションであるハルトも遊びたくてウズウズしており、ナツたちを追って海に行こうとするが腕を掴まれた。

 

「ん? どうしたルーシィ?」

 

「あ、あの…お願いしたいことがあって……」

 

ルーシィはマタムネと相談してこのアカネビーチでさらにハルトとの距離を縮めることにしたのだ。

そして海で定番と言えば……。

 

「サンオイル……塗って欲しいの」

 

「お、おう!」

 

胸を抑えながら、背中のビキニの紐を解く姿はひどく扇情的で、赤くなった顔で頼んでくるのはハルトにとってグッときた。

ドギマギしながら寝そべったルーシィの側に寄るハルトはオイルを手に乗せ、広げるとすぐに背中に塗った。

 

「きゃっ!」

 

「うおっ!どうした!?」

 

ルーシィは冷たいオイルが突然背中に塗られたことにびっくりした。

 

「ううん。オイルが冷たくてビックリしちゃって」

 

「そ、そうか。悪い……」

 

「大丈夫だから、続けて?」

 

ハルトはルーシィに促され、オイルを塗っていく。

 

「ぅん……はぁ、んっ……ふぅ……」

 

(その声はやめてくれー!!!)

 

ハルトの手が背中を撫で回すのと合わせてルーシィはハルトの手の暖かさと背中を触れられるくすぐったさから、口から声が漏れる。

その声にハルトは心の中で叫んでしまう。

 

「お、終わったぞ」

 

「う、うん…じゃあ今度はま、前を……」

 

「ハルトー!!助けて欲しいでごじゃるー!!!」

 

ルーシィが大胆にも攻めようとしたがマタムネがハルトに飛び込んできた。

 

「もう!何なのよ!!」

 

「どうしたマタムネ?」

 

「あのいかつい人に追われているでごじゃる……」

 

ハルトがマタムネが走ってきたほうを向くと2人のガタイが良いがチャラそうな男が向かってきた。

 

「おい!お前その猫の飼い主か!?」

 

「せっしゃはペットじゃないでごじゃる!!」

 

「落ち着けって…えっーと、どうかしましたか?」

 

とりあえず面倒ごとは避けようとハルトは下手に聞いてみると男たちは不機嫌そうな顔になる。

 

「その猫が俺たちのナンパを邪魔しやがったんだよ!!」

 

「嘘でごじゃる!無理やり連れ込もうとしていたでごじゃる!!」

 

どうやら男たちはタチの悪い輩で水着の美女たちの観察中だったマタムネはこの男たちに絡まれていた女の子を助けたようだ。

 

「まぁ…本人も反省しているみたいだし、許してもらえませんかね?」

 

「んだとテメェ…!」

 

「おい」

 

1人の男がハルトに詰めかかろうとするが、もう1人が止め、ルーシィを見ると嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「許して欲しかったらよぉ…そこの姉ちゃん貸してくれよ」

 

「え?あたし?」

 

「そうだよ。ほらこっちに来いよ!」

 

男はルーシィの腕を掴み上げ引っ張るが、男の腕をハルトが掴む。

 

「放せ」

 

「んだよ?」

 

「放せって言ってるんだ」

 

ハルトは掴む力を徐々に強めると腕からはギリギリと鈍い音がなると、男は痛がってルーシィを放した。

 

「ってぇ!?」

 

「何すんだよ!」

 

「嫌がっていただろーが」

 

「オメェは彼氏か何かなのかよ!?」

 

「か、彼氏!?」

 

「ああ、そうだ」

 

「へっ?」

 

男の言葉に驚くルーシィだが、ハルトは躊躇することなく答え、ルーシィはそれに呆然としてしまう。

 

「わかったら、さっさっと行け」

 

「うるせぇ!舐めんじゃねぇぞ!!」

 

激昂した男がハルトに殴りかかるがハルトはかわそうともしない。

その瞬間、男の頬を何かが掠れ頬に傷ができ、後ろのヤシの木に窪みができる。

ハルトの腰には握られた拳があり、ハルトは男の頬ギリギリに拳をものすごい速さで撃ち抜いたのだ。

 

「失せろ。これ以上怪我をしたくなかったらな」

 

ハルトの凄みに腰を抜かす男たちは逃げて行った。

それを見送ったハルトはルーシィのほうを向く。

 

「ふぅ…大丈夫かルーシィ?」

 

「かれし……ハルトが……かれし……」

 

「どーした?」

 

「前もこんなことがあったでごじゃるな」

 

 

その後、復活したルーシィを連れてナツたちのところに行き、泳いだり、スイカ割りをしたりなど思う存分楽しんだ。

そして夕方になり、各々休んでいた。

 

(ふう……今日はだいぶと遊んだな)

 

エルザも部屋のベランダでビーチチェアでくつろいでいた。

すると疲れからかウトウトとしだし、寝てしまった。

 

 

多くの人がボロ切れを着て、ボロボロになりながら重そうな石を運んでいた。

なにかヘマをすれば監視している者に鞭を振るわれ、怒鳴られる。

そして、目に涙を溜めながら怯えるのは幼い自分の姿が……。

 

 

「はっ!!はぁ……はぁ……はぁ……なぜ今更あんな夢を……」

 

エルザは冷や汗をかきながら飛び起きた。

髪をかきあげ、頭を冷やそうとするが体が震えている。

エルザは部屋の姿鏡の前に立つと自分の水着姿を見た。

 

「やはり落ち着かないな……」

 

エルザは換装し、いつもの鎧姿になると、震えが

 

「やはりこちらの方が落ち着くな。つくづく私という女は……」

 

エルザは自傷するように笑うと、どこか悲しそうだ。

 

「エルザー!!」

 

そこにルーシィが元気に入ってきたが少し様子がおかしいエルザに気づいた。

 

「どうしたの?」

 

「いいや、なんでもない。それよりどうした?」

 

「あ、うん。このホテルの下にカジノがあるんだって!みんなで行こうよ!!」

 

「賭け事はあまり好きではないのだが」

 

「ハルトたちはもうみんな行ったよ?」

 

「やれやれ」

 

エルザはその場で一回転し、綺麗なドレスに換装した。

 

「こんな感じか?」

 

「ラフな感じでいいのに……」

 

「フフ、やるからには遊び倒さなくてはカジノに失礼だろう?」

 

「はいはい、それじゃあ行くよー!」

 

ルーシィに押されエルザは部屋を出るが、その際自分の姿が鏡に映った。

 

(いいじゃないか……たまには自分に優しい日があっても……)

 

 

ハルトたちが宿泊しているホテルを一望できる丘にフードを被った怪しい数人の男女が集まっていた。

 

「集まったな……じゃあ仕事に取り掛かろう。まず狙うのは覇王ハルト・アーウェングスだ」

 




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第43話 楽園の塔

またオリキャラが出ます。


ホテル地下のカジノでハルトたちは各々に楽しんでいた。

 

「ハルト。久しぶりに勝負をしないか?」

 

エルザが挑発的な笑みを浮かべながら誘う。

 

「おっ、いいぞ。何にする?」

 

「あたしも混ぜて」

 

ルーシィを加えてハルトはエルザとゲームをするが……

 

「フフフ、圧勝だな」

 

「あ、あはは……」

 

「………」

 

勝ち誇るエルザの隣で山積みのチップを持つルーシィが顔引きつらせながら、落ち込むハルトに目を向ける。

 

「なんであんなに勝てないんだ……?15戦連続とかありえねぇだろ……なんらかの悪意を感じる……」

 

「負けは素直に認めるものだぞ。ハルト」

 

「ぐっ……!」

 

エルザはダメ出しをハルトに言うと、ハルトはさらに落ち込む。

 

「さてもうひと勝負してくるか。ハルトはどうする?」

 

「俺は酒飲んで頭冷やしてくるわ」

 

「あっ…じゃあ、あたしも……」

 

「ルーシィは一緒に来てくれ。チップが多すぎて持ち運べないからな」

 

「え〜…」

 

ハルトと素敵な夜を過ごせると思ったルーシィは涙を流しながらエルザに引っ張られていき、ハルトは引きつった笑顔になりながら見送った。

ハルトがカジノに設けられているバーカウンターに座るとすぐに青年のバーテンダーが接客をしてくる。

 

「いらっしゃいませ。なにかお飲みになりますか?」

 

「うーん、そうだな…」

 

ハルトが迷っていると隣の席に男が座ってくる。

 

「あなた、もしかして妖精の尻尾の方ですか?」

 

「ええ、そうですけど……あなたは?」

 

「私、以前に妖精の尻尾に依頼をさせてもらった者なんですよ。腕の紋章が目に入ってつい……あっ、申し遅れました。私、『カルバート・マキナ』と申します」

 

男はくすんだ灰色の髪を持ち、背が高く、線が細い男だ。

 

「初めまして、ハルト・アーウェングスって言います」

 

「宜しければ、ごちそうさせて貰えませんか? 先日の依頼のお礼も兼ねて」

 

「ありがとうございます」

 

「ここのおすすめのカクテルがあるんですよ。君、例の物を……」

 

カルバートは控えていたバーテンダーに注文するとすぐに赤いカクテルを出した。

 

「うっ…結構強い香りですね」

 

「ええ、香りは強いのですが味は抜群ですよ」

 

カルバートがカクテルを美味しそうに飲むのを見て、ハルトがグラスを傾け、口に含もうとした瞬間ハルトの動きが止まる。

 

「どうしました?」

 

「バーテンダーさん……このカクテルには薬が入ってるのか?カクテルの匂いに紛れて薬の匂いがするぜ?」

 

褐色の肌のバーテンダーは汗を流し、緊張した表情になる。

 

「それに魔法を使おうとしてるのもだ。後ろの3人もな」

 

その言葉にビクリと肩を動かすバーテンダーとハルトの背後の3人。

ハルトはバーテンダーを睨む。

 

「何が目的だ。なんでこんなことをする?」

 

その瞬間ハルトの足元からプシュッと機械から軽い空気が抜ける音が聞こえた。

ハルトが足元を見ると、太ももに近代的な注射がハルトの太ももに刺さっており、カルバートがスイッチを押しているのが目に入った。

 

「カクテルの匂いでこっちの匂いがわからなかったか?」

 

ハルトは体が麻痺する感覚と頭がうまく働かなくなり、カウンターにうつ伏せに倒れてしまう。

 

「もうちょっと手がかかると思ったんだが」

 

苦しそうな表情でこちらを睨むハルトを見たカルバートは興味をなくしたかのようにそっぽを向き、席から立つ。

 

「ショウ。そいつをカードに入れておけよ」

 

「あ、ああ」

 

褐色の肌の青年、ショウはそう答えるとトランプのカードを取り出し、ハルトに向けるとハルトはその中に入ってしまった。

 

「あとの奴らはお前たちだけでやれるな?」

 

「それは任せてくれ。あとは上手くやる」

 

ハルトの背後にいた大柄な男の答えを聞くとカルバートは人混みの中に消えていった。

 

 

「お…お客様こまります!!」

 

「だって17に入ってたのにカタンずれたんだって!!何だよコレ」

 

「あい!」

 

「そんな事ある訳ないでしょ〜」

 

ナツの無茶な言い振りにディーラーは困ってしまう。

 

「見たんだって!!オレの目は誤魔化せねーぞ!!!」

 

「ボーイ、大人の遊び場はダンディにたしなむものだぜ」

 

「か……かくかく!!?」

 

やたら体の至る所と顔が角ばっている男がダンディにナツをたしなめる。

 

「ボーイ一ついい事を教えてやるぜ。男には2つの道しかねえのさ。ダンディに生きるか……」

 

男はイスに座りながら妙なターンをして、いきなり飛び出しナツの胸ぐらを掴んで、懐から取り出したマグナムをナツの口に突っ込んだ。

 

「止まって死ぬか……だゼ」

 

「な…何するんだー!!!」

 

「が…!!がんがごいぐ…!!!?」

 

「エルザはどこにいる?だゼ」

 

その頃グレイは突然現れた元ファントムのジュビアの近況を聞いていた。

 

「聞いたよ。ファントムは解散したんだって?」

 

「はい。ジュビアはフリーの魔導士になったのです」

 

そうは言いながら胸元の大きな妖精の尻尾のネックレスを見せつけている。

 

「うわぁ……それで妖精の尻尾に入りてえっての?」

 

「ジュビア入りたい!」

 

「しっかし、あんな事の後だからなぁ。オレはかまわねーがマスターが何て言うか」

 

ジュビアはファントム戦でグレイに惚れてしまい同じギルドに入りたいのだ。

グレイとジュビアが話しているとその後ろに大男が歩み寄ってきた。

するとジュビアに強烈な平手打ちをくらわし、吹き飛ばした。

 

「ジュビア!何だテメェ!!」

 

「グレイ・フルバスターだな。エルザはどこにいる?」

 

またエルザとルーシィのところにも魔の手は迫っていた。

エルザはハルトとのゲームの後も勝ちに勝ちまくっていた。

 

「すごーい!!エルザー!!!」

 

「勝ちまくっているでごじゃるな!!!」

 

「ふふ……今日はついてるな」

 

エルザの勝ち越しに慌て始めたディーラーに別のディーラーが声をかける。

 

「ディーラーチェンジだ」

 

「今なら誰が相手でも負ける気がせんぞ」

 

「だね」

 

「だったら特別なゲームを楽しまないか?賭けるものはコインじゃない」

 

ディーラーは他のプレイヤーに配るのではなく、エルザの前にカードを投げる。

そのカードには一枚ずつイニシャルが描かれており、『DEATH』と並べられていた。

エルザは顏をあげ、ディーラーの顏を見て驚きに染まる。

 

「……命、賭けて遊ぼ……エルザ姉さん」

 

「ショウ……」

 

「え?え?」

 

「誰でごじゃる?」

 

エルザとなんらかの関係があるショウの会話に戸惑ってしまうルーシィ。

 

「無事……だったんだな」

 

「無事?」

 

「あ…いや……」

 

エルザはショウに話かけるがショウの返しに申し訳なさそうに、何かに怯えるように体を震わす。

こんな弱々しいエルザをルーシィは見たことがなかった。

その頃グレイは突然襲ってきた男と対峙し、何者か聞いてもエルザはどこにいるとしか言ってこない。

するとグレイと男の間に復活したジュビアが割り込んでグレイを守るように立つ。

 

「ジュビア!」

 

「グレイ様には指一本も触れさせない。ジュビアが相手になります。エルザさんの元へ。危険が迫っています」

 

ジュビアがそう言うと男は耳に手を当て何かを描くようなそぶりをする。

 

「なに?もう見つけたのか?ほう……そうか、じゃあもう片付けてもいいんだな?了解」

 

男がブツブツと呟くと、突然辺り一面が暗くなった。

 

「え!?」

 

「なんだ!?」

 

「闇の系譜の魔法……闇刹那」

 

「ぐはっ!!」

 

「きゃあ!!」

 

すると痛々しい音と共にグレイととジュビアの叫びが響き渡った。

 

「が…がんが!?こんごわ!!!」

 

「グッナイボーイ」

 

「ナツー!!!」

 

次の瞬間、ナツの口に銃弾が放たれる。

 

「な…なにコレ!?暗っ!!!」

 

「何が起きた!!?」

 

すると段々光が戻ってきた。

完全に光が戻り、ショウのほうを見るがその姿は消えていた。

 

「ショウ!?」

 

「こっちだよ姉さん」

 

声のする方を向くと、ショウはエルザたちの背後に立っており、ショウの周辺には多くのカードが落ちていた。

そのカードには人が描かれており、その絵は動いており、声も出しており、カードに人が閉じ込められていた。

 

「ええ!!? 人がカードの中に!?」

 

ショウがエルザにカードを見せつけるように持つ。

 

「不思議?オレも魔法が使えるようになったんだよ」

 

「魔法!?お前一体……」

 

「ククク……」

 

驚くエルザにほくそ笑むショウ……。

 

「みゃあ」

 

「きゃあ!!」

 

「ルーシィ!!」

 

間の抜けた声と共にルーシィに縄が勝手に巻きつき、どこかに引き寄せてしまう。

 

「うっ!」

 

「みゃあ。元気最強?」

 

ルーシィに縄が巻きつき、引き寄せられた先には猫のような風貌の少女がいた。

 

「ミリアーナ!?お前も魔法…を!?」

 

ミリアーナという少女は照れ臭そうにしながらもエルザに元気に挨拶をする。

 

「久しぶり〜エルちゃん」

 

「何をしている!?ルーシィは私の仲間だ!!」

 

エルザの言葉に不思議そうにするミリアーナとショウ。

 

「みゃあ?仲間?」

 

「僕たちだって仲間だったでしょ?姉さん」

 

(仲間……だった?)

 

縄に締め付けられながらもショウの言葉にルーシィは苦しみに耐えながら疑問を覚える。

 

「う……ああ……」

 

「姉さんがオレたちを裏切るまではね」

 

「………!!」

 

ショウの言葉に耐えられず、エルザは自分の体を抱きしめる。

 

「そうエルザをいじめてやるなショウ。ダンディな男は感情をおさえるモンだぜ?」

 

何もないところから声が聞こえ、徐々に姿を現したのはナツを撃った四角い男だ。

 

「すっかり色っぽくなっちまいやがってヨ」

 

「ひっ!」

 

「そ…その声はウォーリー?」

 

「気づかねえのも無理はねえ……狂犬ウォーリーと呼ばれてたあの頃ひ比べて、オレも丸くなったしな」

 

「お前も……魔法を……」

 

「驚く事はない」

 

地面に光の輪が現れ、そこにグレイとジュビアを襲った大男が現れた。

 

「コツさえ掴めば誰にでも魔法が使える。なあ、エルザ」

 

「シモン!?」

 

どうやら全員、エルザと関係がある人物らしく、ルーシィがたまらず狼狽えるエルザに問いただした。

 

「うっ……!エルザ……こいつら何なの!?姉さんてどういう事!?」

 

「本当の弟じゃない。かつての仲間たちだ」

 

「仲間って……エルザは幼い頃から妖精の尻尾にいたんでしょ!!」

 

「それ…以前という事だ……お前たちがなぜここに……ルーシィを解放したくれ」

 

エルザが困惑しながらもショウたちに頼むが、ショウたちは全く意に返さない。

 

「みゃあ」

 

「帰ろう姉さん」

 

「お前を連れ戻しに来た」

 

「言うことを聞いてくれねえとヨォ」

 

「ひぃいっ!!」

 

ウォーリーはルーシィに銃口を向けて脅す。

 

「よ……よせ!!頼む!!やめてくれ!!」

 

エルザが頼んだ瞬間にできた隙をついて、ウォーリーは魔法でえるに睡眠弾を撃ち込み、寝かした。

 

「エルザーー!!!」

 

「睡眠弾だゼ」

 

「目標確保。帰還しよう」

 

「ちょっと!!エルザをどこに連れてくの!!?返しなさいよ!!」

 

「みゃあ」

 

ルーシィが暴れるとミリアーナが縄を操作し、さらにルーシィを締め付ける。

 

「うぐ……!ああああっ!!!」

 

「君あとでも5分くらいで死んじゃうよ〜」

 

「そうだ。1人で死ぬのはかわいそうだからコイツも殺しておこう。念入りに排除しとくようにジェラールに言われてたし」

 

「ジェラール?」

 

ショウはルーシィに近づき、懐からカードを取り出す。

 

「これ。ハルト・アーウェングスってやつが入ってるカード」

 

「何ですって!?」

 

「このカードに入っている限り、魔法の使用者、つまりオレが解除しない限り出られないんだ。だから、こうやって……」

 

ショウはどこからか取り出したライターでカードに火をつける。

 

「このまま燃やしてしまえば死んじゃうってこと」

 

「そんな!?ハルト!!」

 

ルーシィは慌てて身をよじるがより縄が締まる。

 

「そういやミリアーナ。君にプレゼントだゼ」

 

「みゃあ!!ネコネコ〜♪もらっていいの〜!?」

 

ウォーリーは空間から気絶したマタムネとハッピーを取り出し、ミリアーナに渡した。

 

「姉さん…帰ってきてくれるんだね。『楽園の塔』へきっとジェラールも喜ぶよ」

 

ショウが目に涙を浮かべながら歓喜に打ちひしがれた表情をする。

エルザは朧げな意識の中、確かにある言葉が耳に届いた。

 

(楽園の塔!!!?か…完成していたのか!!!?)

 

 

ショウが言っていた海洋に聳える楽園の塔の玉座の間では1人の男が邪悪な笑みを浮かべていた。

 




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第44話 悪意の戯れ

楽園の塔のある部分の玉座に不気味な男が座っている。

するとそこにハルトを罠にはめたカルバートが近づいた。

 

「ジェラール様。エルザの捕獲に成功したという知らせが入りました。しかし何故今更裏切り者を捕まえる必要が?この楽園の塔を使用するならエルザを使うより、魔力量が多いハルトを使ったほうがいいのでは?」

 

カルバートの質問にジェラールは不気味な笑みを浮かべる。

 

「フフフ...確かにな。だけどそれじゃあダメだ...『この世界は面白くない』」

 

「?」

 

「しかし楽園の塔が完成した今、これ以上生かしておくのは面倒なことになりかねないの確かだ。時は来た。俺の理想のために生け贄になれ。エルザ・スカーレット」

 

この男は今回の事件の首謀者であり、エルザと因縁の関係があるジェラールだ。

 

 

ルーシィは目の前で燃えているカードに閉じ込められたハルトを助けようともがくが、余計縄が巻きついてしまう。

 

「うぅ…!うぅあうっ!!ハ…ハルト!ひ…開…巨蟹宮の…扉…!」

 

まず縄を切ろうとキャンサーを呼び出そうとするがまったく反応しない?

 

(このロープ……魔力を吸って……!)

 

「ど…どうすれば……!!」

 

苦しそうにもがきながら燃えているカードを見ると、突然カードから光が漏れ、弾けた。

 

「キャッ!!」

 

光が収まるとそこにはハルトが立っていた。

 

「ハルト!!」

 

「ルーシィか……くそ、頭が……」

 

ハルトはフラフラと立ちくらみを起こし、膝をついて崩れてしまう。

 

「ハルト!縄を解いてくれない!?エルザが大変なの!!」

 

「お、おう……ちょっと待ってろ……」

 

ハルトは何とかルーシィの縄を解く。

 

「ありがとう……ってすごい熱じゃない!?どうしたの!?」

 

ルーシィがハルトの体に触れるとすごい熱を帯びていた。

 

「毒を打たれた……体が焼けそうだ……それより、ナツたちを探しに行くぞ」

 

「それよりって……あっ、ちょっと待って!」

 

ルーシィはハルトに肩を貸しながら、カジノを歩く。

そこら中にショウによって閉じ込められた人たちのカードが落ちている。

 

「ひどい…こんなにたくさん……」

 

バーのカウンター近くは特に荒らされていた。

そしてその近くには倒れているジュビアと重傷のグレイがいた。

 

「グレイ・・・!!そんな・・・!!しっかりして!!!」

 

ルーシィは慌てて駆け寄り、グレイの体をゆするがピクリともせず、氷のように冷たい。

 

「ルーシィ、グレイなら大丈夫だ。それは偽物だ」

 

「え・・・?って、キャアアアアア!!!?」

 

ハルトの言葉にルーシィが疑問を持つと、グレイの体がバラバラに砕けた。

すると奥で倒れていたジュビアから声が聞こえる。

 

「安心してください。グレイ様は無事です」

 

「ぶはー!!ゲホッ!ゴホッ!」

 

ジュビアが起き上がると、水の体からグレイが出てくる。

 

「な…中……」

 

「器用だな」

 

「あなたではなく私の中です」

 

「う…うん……」

 

ジュビアはどこか勝ち誇った顔でルーシィに詰め寄る。

 

「お前が簡単に負けるなんて珍しいな」

 

「突然の暗闇だったからな。身代わりを造って様子を見ようと思ったんだが……」

 

「敵にバレないようにジュビアがウォーターロックでグレイ様をお守りしたのです!」

 

「余計な事しやがって!逃がしちまったじゃねーか!」

 

「ガーン!」

 

グレイの言葉にジュビアはショックを受けるが、グレイは無視して周りを見る。

 

「それよりナツやエルザはいねぇのか?」

 

「ナツはわかんない。エルザは……」

 

「ナツならそこだ」

 

ハルトが指をさした瞬間その先で炎が立ち上がり、そこにはナツがいた。

 

「痛えーーーーっ!!!!」

 

「ナツ!!」

 

「ぶはァ!普通口の中に鉛玉なんかぶち込むかよ!!?下手すりゃ大怪我だぞ!!!」

 

「普通なら完全にアウトなんだけどな……」

 

ナツの言葉にハルトは顔色を悪くしながらもツッコむ。

 

「あの刺客野郎ぅ……ゼッテェ逃がさねえぞおぉぉぉぉっ!!!!」

 

ナツは怒りの表情で走りだし、海へと向かう。

 

「ナツを追うぞ!あいつの鼻なら居場所がわかるはずだ!!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 

そのころエルザはショウたちに攫われ、楽園の塔についた。

エルザは楽園の塔を見ると震えが止まらなかった。

そしてショウに連れられ牢に入れられと、ショウは過去の牢での思い出を語り、エルザをさらに追い詰める。

エルザは過去に黒魔術教団に攫われ、楽園の塔の建設を無理矢理やらされていた。

ショウたちとはそこで知り合い、苦労を共にした。

そしてその中にはさっきから名前だけが出ている男、ジェラールもいた。

ショウはエルザに裏切られた恨みを言いながらも、この世界は間違っていると言って、ジェラールの元でゼレフを蘇らせ、間違った世界を破壊し、新しい世界を作ると狂信じみたことを宣言した。

エルザは耐えきれなくなり、隙をついてショウを気絶させ、拘束を解く。

 

「あの純粋だったショウをここまで歪ませたのか……」

 

ドレスからいつもの鎧姿になったエルザの目にはショウをここまで変えたジェラールに対する明らかな怒りが見える。

 

「ジェラール...貴様のせいか......!!」

 

 

「あははははっ!!!」

 

楽園の塔の玉座の間にフードを被った男、ジェラールの笑い声が響く。

 

「ククク...やはりただでは終わらないか...あちらも動きそうだな」

 

その頃、評議院の緊急会議が行われていた。

楽園の塔の発見により評議員が緊急で集められたが、事態は緊迫する一方だった。

楽園の塔は別名『Rシステム』と言われ、危険だ、軍を派遣しろと会議が熱くなってくると、沈黙を保っていたジークレインが言葉を発した。

 

「鳩どもが...」

 

「何!?」

 

「ジーク貴様!!」

 

「俺から言わせてみれば軍程度を派遣するなどハト派と言わばぜるを得ないと言ったんだ。あれは危険だ、危険すぎる。あんたらもわかっているんだろ!!楽園の塔を消すんなら方法は一つだろ!!!衛星魔法陣からのエーテリオン!!!!」

 

「な!?」

 

「超絶時空破壊魔法だと!!?」

 

「正気か!?」

 

「エーテリオンは我々の最終兵器じゃ!!Rシステムより危険な魔法なんなんじゃぞ!!!?」

 

ジークレインの言葉に多くの評議員が反対の声を上げるが、ヤジマとナミーシャは事態を見守る。

 

「しかし衛星魔法陣ならばこの地上全てののものを標的にできる。そしてあの大きな建造物を完全に消すにはエーテリオンしかない」

 

ジークレインの説得によく親身にしているウルティアはゆっくり手を挙げる。

 

「賛成...ですわ」

 

「ウルティア!?貴様もか!!」

 

「評議員は全員で9人。あと3人の賛成票があればエーテリオンは撃てる!!時間が無いんだぞ!!Rシステムは使わせちゃいけねえ!!!」

 

 

その頃ハルト達は楽園の塔に到着したはいいが警備が厳重すぎてろくに動けないでいた。

 

「見張りの数が多いな」

 

「気にする事ァねえ!!突破だ!!」

 

「ダーメ!!エルザとマタムネたちが捕まってる。下手なことしたらエルザたちが危険になるのよ!」

 

「しかも塔らしきものはずっと先だ。ここでバレたら分が悪くなるな……ゴホッ!ゴホッ!」

 

「ハルト大丈夫?」

 

「お、おう……」

 

ハルトの顔色はさっきより悪くなってきている。

すると海面からジュビアが出てきた。

 

「ジュビアは水中から塔の地下への抜け道を見つけました」

 

「マジか!!でかした!!」

 

「褒められました。あなたではなくジュビアが……です」

 

「はいはい……」

 

グレイに褒められてジュビアは得意気にルーシィに詰め寄りが、ルーシィは苦笑いするだけだ。

海から抜け道を抜けるとそこには既に警備兵が待ち構えていた。

 

「さっそくお出ましかよ……」

 

「関係ねえ!!いくぞ!!」

 

敵の数は多かったがハルトたちの敵ではなくすぐに全員を倒した。

すると上へと通じる扉が開く。

 

「扉が開いたぞ!」

 

「誘っているのかしら?」

 

「罠かもな……」

 

明らかに不自然な扉を見て、考えてしまうが、ハルトはそれを遮る。

 

「ここで考えても仕方がねえ。あっちがその気なら乗ってやろうじゃねえか。その上でエルザたちを救うぞ!」

 

 

「ジェラール様!何を考えておられるのです!?敵を招き入れるなど!」

 

黒髪の長髪の男がそう言うが、ジェラールは楽しそうにしている。

どうやらジェラールはハルトたちを招き入れたようだ。

 

「随分とお楽しみのようで」

 

後ろで控えていたカルバートもさすがに呆れたのか皮肉を言うがジェラールは意も返さず、笑みを浮かべる。

 

「言ったろ?これはゲームなんだ。あいつらはステージをクリアしたんだ。其れ相応の報酬を与えてやるのは当然だろう?はははっ……面白くなってきやがった」

 

「しかし儀式を早く進めなければ評議院に止められてしまいます」

 

「なんだ?まだそんなことを気にしていたのか?止められやしないさ……あんなカスどもにはな」

 

 

上につくとそこは綺麗に装飾された部屋で、誰もいなかった。

 

「四角ーーー!!!どこだーーーー!!!」

 

ナツはたどり着いた瞬間、大声で叫ぶ。

 

「もがっ」

 

「ちょっとナツ!!ここは敵の本拠地なのよ!そんな大声で叫んだら気づかれるじゃない!」

 

ルーシィがナツの口を抑え、焦ったように言う。

 

「下であれだけ暴れたんだ。今さらこそこそしたって意味なんてねーよ」

 

「それにこの扉、人の手で開けられたものじゃありませんよ。魔法の力で遠隔されたものですよ。ジュビアたち完全に気づかれてますよ」

 

「じゃあ、なんであたしたちを招き入れたのよ?」

 

「.....挑発だろうな」

 

「挑発って...」

 

グレイの言葉にルーシィは戸惑う表情になる。

エルザを攫うために襲撃をしてきたのに、こっちが襲撃してきたらわざわざ招き入れる敵の考えがわからない。

 

「で、お前のその恰好はなんだよ?」

 

グレイがルーシィのほうを向いてたずねる。

ルーシィはカジノで着ていたラフな服ではなく、綺麗なドレスを着ていた。

 

「あっ!やっぱり気づいた?服がビチョビチョで気持ち悪かったから、さっきキャンサーに持ってきてもらったの。ま、我ながら似合っているのはわかっているんだけどね~。それにしてもジュビアは水になれるからともかく、よくあんたたち濡れたままでいられるわね」

 

ルーシィのいつもの調子に乗った発言がありながらも質問する。

 

「ここに大きな火種があるじゃねーか」

 

「おう」

 

「あら便利ね!!?」

 

グレイが全身から炎を出しているナツのそばで服を乾かしながら説明すると、ルーシィはあることに気づいた。

 

「そういえばハルトはどうしたの?」

 

「ハルトさんならそこに」

 

ジュビアが指さす方向には。

 

「ぐおお....ナツやめろ....近づくなぁ....熱い...」

 

「なはははっ!!こんな弱ったハルト初めて見たぜ!今なら勝てるぞ!!」

 

炎を出してハルトに近づくナツの姿があった。

高熱を出しているハルトにとって苦しいことこの上なかった。

 

「ちょっと!!何やってんのよ!!ハルトが苦しんでいるじゃない!!!」

 

「ぐおっ!?」

 

ルーシィは怒りながらナツのマフラーを引っ張って止めた。

 

「遊んでいる場合じゃねーだろが。ほらハルト、氷だ」

 

「おお!グレイ助かるぜ....」

 

ハルトはグレイの手にある氷を手ごと掴み、額に押し付けた。

傍から見ると結構きわどい様子に見える。

 

「まさか....あれが噂にきくBL....!!」

 

「あんたも面倒くさいわね!!」

 

ジュビアが密かに興奮して、ルーシィがツッコむ。

敵の本拠地にいるのにもかかわらず、緊張感がなさすぎる。

すると流石に騒ぎすぎたのか、敵が大勢やってきた。

 

「やっぱりばれたか!」

 

「そりゃあんなに騒いでたらバレるに決まってるでしょ!!」

 

ハルトたちが身構えると敵がうしろからドンドン切り倒されていく。

そこに双剣を持ったエルザが現れた。

 

『エルザ!!』

 

「!! お前たち!なぜここに!!?」

 

「なぜもクソもねえよ!!妖精の尻尾が舐められた舐められたままでいられるかよ!!あの四角ヤローだけは許さねえ!!!」

 

エルザは驚きの表情のまま固まるがすぐに元の冷静な顔に戻す。

 

「帰れ。ここはお前たちが来る場所ではない」

 

エルザはどこか辛そうな顔だ。

 

「マタムネとハッピーも捕まっているの」

 

「なに?まさかミリーアーナが...」

 

「そいつはどこだ!!」

 

「さ、さあな....」

 

ナツはエルザに詰めよるとどこかに進んでいく。

 

「おし!わかった!!ハッピーたちが待っているってことだな!!!」

 

「あ!おい!!ナツ!!」

 

ナツはそのまま走っていってしまった。

 

「あたしたちも追いかけましょう!!」

 

「ダメだ。帰れ」

 

追いかけようとしたルーシィたちを剣で道を防ぐエルザ。

 

「これは私の問題だ。お前たちを巻き込みたくはない。ナツは必ずつれて帰る。だから帰れ」

 

背を向けて冷たく言い放つエルザにルーシィは少し悲しそうな表情になりながらもエルザに話しかける。

 

「ねえ、エルザ。この塔はなに?それにジェラールって誰なの?」

 

ルーシィが聞いてもエルザは返事をしないが、ルーシィは話しかける。

 

「あいつらエルザの昔の仲間って言ってたけど、私たちは今の仲間....どんな時も味方だよ」

 

その言葉にエルザは振り向くと片方の目から涙が流れていた。

 

「すまん。この戦い....勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消すつもりだ」

 

「えっ!!?」

 

「どういうことだよ!それ!!」

 

エルザの突然の告白にルーシィ達は驚く。

 

「だから今のうちに全てを話しておこう。私の過去を...」

 

 




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第45話 家族だから

感動シーンって難しいですね……


エルザは黒魔導士ゼレフを信仰する宗教団体による子供さらいの被害者で、幼いころ攫われ楽園の塔の建設に強制労働をされていた。

そこで出会ったのがハルトたちを襲撃したシモン、ショウ、ウォーリー、ミリアーナ、そして今回の黒幕であるジェラールだった。

みんなが辛い環境にいたため、すぐに仲良くなり、まさに家族同然だった。

そして、常に前向きであったジェラールに当時は弱気だったエルザは惹かれていった。

ある時、ショウが耐えられなくなり脱獄を企てた。

 

「姉さん!!こっちだよ!!早く!!」

 

「ショウ!!デケェ声出すんじゃねぇヨ!!!」

 

「ウォーリーのほうが声がデカイニャアー」

 

「エルザ……急がねえと奴らに見つかっちまう」

 

「う…うん……」

 

シモンが促すがエルザの体は震えて動けない。

監視官に見つかったらどんな目に合うか想像してしまい、恐怖してしまうのだ。

 

「大丈夫……怖くないよ」

 

「………ジェラール………」

 

ジェラールが安心させる笑顔を見せただけでエルザは頬を赤らめた。

この時はエルザは心の底からジェラールを信頼していたのだ。

 

「オレたちは“自由”を手に入れるんだ。未来と理想を……行こう、エルザ」

 

「うん」

 

しかし現実は常に非常だ。

入念に立てた計画はアッサリと監視官にバレてしまった。

 

「そう簡単に逃げ出せると思ったか!!!ガキどもがあ!!!」

 

「うう……!!」

 

「ひっ、ひぃい!」

 

監視官はRシステムの完成を急いでおり、今回は脱走計画の立案者をを1人だけ懲罰房に連れて行くと言った。

脱獄案を出したショウは恐怖で泣きじゃくってしまい、話せる状態ではなかった。

 

「わ……」

 

「オレだ。オレが計画を立案し指揮した」

 

それを見たエルザは自分だと言おうとしたが、その前にジェラールが自分だと言ったのだ。

 

「ほう……いや、この女だな」

 

しかし監視官はエルザだと決めつけたのだ。

 

「連れてけ」

 

「な……オレだ!!!オレが立案者だ!!!エルザは違う!!!」

 

「わ……私は……大丈夫……ぜんぜん平気。ジェラール言ってくれたもん……ぜんぜん怖くないんだよ」

 

エルザはそう気丈に振る舞うが恐怖で体が震えていた。

しばらくしてジェラールは牢を抜け出し、エルザを助けるため懲罰房へど向かった。

 

「エルザ!!しっかりしろ!!」

 

しかしエルザの片目は抉られ酷い状態だった。

 

「なんで……なんでこんなヒドイ事を……オレたちが何をしたというんだーー!!!!」

 

「ジェラー……ル……なの?」

 

「エルザ……よかった!!もう大丈夫だよ!!助けにきたから!もうオレたちは後には退けない。自由のために戦うしかないんだ」

 

「たたか……」

 

その瞬間、ジェラールを背後から監視官が殴りかかった。

 

「こいつ!3人もやりやがって!!簡単に殺すな!!見せしめにするんだ!!!」

 

エルザはその後解放され、ジェラールが代わりに懲罰房に入ることになった。

エルザはショウたちがいる牢に戻るとみんなが心配していてくれた。

 

「エルザ!大丈夫だったカ?」

 

「馬鹿野郎!あの傷で大丈夫なわけねえだろ!!」

 

「エルザ……ジェラールは?」

 

エルザは力なく首を横に振る。

ジェラールが抜け出してエルザを助けに行ったがどうなったのかわかってしまったのだ。

 

「うぅ……もう嫌だあっ!!!」

 

それを拍子にショウは耐えきれなくなり泣き出してしまった。

それが聞こえた監視官たちが牢に入ってきて鞭を振るいながら、黙れと怒鳴ってくる。

エルザはそれを見ながらジェラールの言葉を思い出していた。

 

『自由のために戦うしかないんだ』

 

エルザは槍を持っていた監視官に飛びかかり、その槍を奪い取り監視官を倒してしまった。

みんながその光景に呆然とするなかエルザは今までの怯えた目とは打って変わって力強い目になっていた。

 

「みんな立ち上がって。自由のために戦うしかないんだ!」

 

その言葉を聞いたショウたちは希望を見出し監視官に立ち向かい、反乱が起こったのだ。

途中までは数が多く、常に肉体労働を強いられたことで体が鍛えられたエルザたちが優勢だったが、相手が魔導士を差し向けたことで形勢はあっという間に逆転してしまった。

そしてエルザに迫った魔力弾から庇ったのは普段からエルくくくザたちの面倒を見ていたロブだった。

 

「ロ…ロブおじいちゃん!!」

 

「ケガはないかい?」

 

「それよりなんで……!」

 

「老い先短い命、若い命を守れたなら本望だよ……」

 

倒れるロブにエルザは抱きつく。

 

「いいかいエルザちゃん……魔法は信じる心から始まるもの……その気持ちさえ大切にしていれば誰でも使えるものなんだよ……」

 

ロブの声はどんどん小さくなっていく。

エルザは今まで辛いことがあったときロブが助けてくれたり、魔法について話してくれたことを思い出し涙が止まらなかった。

 

「こんなところで君たちみたいな子たちに出会えてよかった....自由とは心の中にある....エルザちゃんの夢はきっと叶うよ」

 

「うああああああああっ!!!!!」

 

その言葉を最後にロブは息を引き取った。

エルザは泣き出すがそれと同時にエルザを中心に空気が張り詰め、周りの武器がカタカタと揺れだす。

徐々に武器たちは浮き出し、魔導士に襲い掛かり、すべての魔導士を倒した。

 

「姉さんが魔法を....」

 

「す...すげ...あんなにいたのに一瞬で...」

 

「これが魔法....」

 

エルザはロブの言葉を胸に込め、新たにジェラールを決意した。

 

「ついて来い!!!!」

 

『うおおおおおおおおっ!!!!!』

 

 

エルザは一人ジェラールが囚われている懲罰房に辿り着いた。

そこには力なくぶら下がっている傷だらけジェラールがいた。

 

「ジェラール!!大丈夫!!?私たちジェラールの言ったとおり戦ったんだよ!!シモンは重傷を負って、ロブおじいちゃんは私をかばって....だけど、私たち勝ったんだよ!!私たちは自由になれる!!!」

 

エルザはジェラールを解放して、目に涙をためながら嬉しそうに言うと、ジェラールはエルザを抱きしめる。

突然のことにエルザは驚いて顔を赤くしながらも抱きしめ返す。

 

「エルザ...もう逃げることはないんだ.....」

 

「え?ジェラール?」

 

「本当の自由はここにある......」

 

「ジェラール、何言ってんの?一緒に逃げるのよ」

 

『エルザ、この世界に本当の自由などない』

 

ジェラールから発せられたはずの言葉なのにまるで別人が話したように聞こえる。

 

「俺は気づいてしまった。俺たちに必要なのは仮初の自由なんかじゃない。本当の自由....ゼレフの世界だ」

 

その時のジェラールの顔はまるで何かにとり憑かれたような顔をしており、エルザの背中に冷たいものが走る。

ジェラールは傷つけられた直後とは思えない軽快な足取りでエルザが倒した監視官のもとに歩み寄る。

 

「今ならこいつらの気持ちも少しわかるよ。あのゼレフを復活させようとしたんだ。だけどこいつらじゃダメだ。この塔は俺がもらう」

 

「貰うって……」

 

エルザがジェラールの言葉に驚くのを他所にジェラールは監視官の頭を軽く踏む。

 

「よくもいいようにやってくれたなぁ?」

 

「ひ、ひぃ!」

 

ジェラールはそのまま監視官の頭を踏み潰し、殺した。

 

「きゃっ!ジェラール何を……」

 

「はははっ!!」

 

ジェラールはそのまま倒れている監視官たちに手を向けると監視官たちは風船のように破裂し、死んでいく。

 

「やめてよ!!ジェラール!!!」

 

「やめて?ダメだ。それではゼレフなんて感じ取れない」

 

ジェラールは逃げていく最後の監視官に手を向けると、監視官は爆発して死んでしまった。

 

「ひっ!」

 

「エルザ。一緒にRシステムを作ろう。そしてゼレフを蘇らせるんだ」

 

今のジェラールは正気じゃなくエルザは後ずさりしてしまう。

 

「ば…バカなこと言ってないで!!私たちはこの島を出るのよ!!!」

 

それを聞いたジェラールはエルザに手を向け、魔法弾を放ち、エルザを吹き飛ばした。

 

「きゃっ!」

 

「なら1人で出ていけばいい。人手ならシモンたちを使えばいいしな」

 

「何……言ってるの?シモンたちはもう船の上なのよ!!?今更ここに戻ってくるはずがない!!」

 

「いいや戻ってくるさ。この俺がゼレフの素晴らしさを教えればな」

 

ジェラールの影から手が伸び、エルザの首を絞める。

そこにはもう優しかったジェラールの面影はどこにもなかった。

 

「ジェ、ジェラール……」

 

「これからはオレたちを捨てた罪を背負いながら生きていけエルザァッ!!!ははははははははははっ!!!!!!」

 

そしてエルザは気づけばどこかの海岸に漂着していた。

徐々に意識がはっきりしてきたエルザはジェラールの言葉を思い出し、目から

涙が溢れる。

 

「うああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

ようやく自由になれたのに、その心には幸せの感情ではなく、裏切られた悲しい気持ちしかなかった。

 

 

「私はジェラールと戦わないといけないんだ………」

 

「エルザ……」

 

「…………」

 

みんな、エルザの壮絶な過去に言葉が出ない。

するとエルザの前に今まで熱で座り込んでいたハルトが立ち上がった。

 

「なんだハルト。いくらお前が止めても私は………」

 

「とうっ」

 

「いたっ!」

 

エルザの言葉の途中でハルトはエルザの頭にチョップを入れる。

 

「な……何をする!?」

 

突然のことでもろにくらってしまったエルザは若干涙目だ。

 

「お前、俺が言ったこと忘れたのか?」

 

「何?」

 

 

実は元妖精の尻尾の魔導士であったロブの言葉を頼りにエルザは妖精の尻尾にはいったが、その当初は周りから浮いていた。

誰とも接さず、いつも1人でいた。

それをどうにかしようと思ったマカロフはすでに妖精の尻尾で活動していた幼いハルトに相談した。

 

「とういうわけでじゃ、エルザの教育係をお主に任せたいんじゃ」

 

「えー……同世代のカナとかの方がいいじゃねえのか?」

 

「カナはまだ実力が伴っておらん。それにお主はどんな時も仲間をよく見ておる。期待しておるぞ」

 

マカロフがハルトに褒め言葉を並べるとハルトは得意気な顔になる。

 

「そ、そうか?ならやっちゃおうかな!」

 

「(チョロいの〜)」

 

「ん?なんか言った?」

 

「何も言っとらん。では任せたぞ」

 

「おう!」

 

ハルトは意気揚々と1人でいるエルザの元に行き、手を出した。

 

「今日からお前の教育係になったハルト・アーウェングスだ。よろしくな!」

 

「私は1人でいたいんだ。邪魔だ。どこかに行ってくれ」

 

にべもなくエルザはハルトを突き放した。

それを見ていた周りからは野次が飛んでくる。

 

「はははっ!!ハルトのやつ振られてんぞ!」

 

「大丈夫かー?」

 

そしてそれを見ていたのは幼いグレイとカナもだった。

 

「たくっ……ハルトのやつなんであんな鎧女なんかをよぉ……」

 

「あれ?グレイ、もしかしてハルトに構ってもらえないから嫉妬してる?」

 

「ば、バカ!誰がエルザなんかに……」

 

「あれ〜?別にエルザって言ってないんだけどな〜」

 

「……っ!」

 

グレイはカナにからかわれて顔を赤くする。

 

「あははは!お兄ちゃん取られちゃったから寂しいんだ♪」

 

「そ、そんなんじゃねえよ!」

 

エルザはあそこまで冷たく突き放せば、もう関わってこないだろうと思い、わざとあんな言い方をしたのだ。

もうジェラールのようなことになりたくない、その一心でエルザは今まで誰とも話さず、1人でいたのだ。

もういないなと思ってハルトがいたであろう場所を見ると、そこにはまだ握手をしようと手を出したまま固まっているハルトがいた。

 

「っ!? まだいたのか!」

 

「まだって……俺じいさんに任せられたし……それに……自己紹介ぐらいしろよ……泣くぞ」

 

ハルトは途中から涙目になり、震えた声でそう言った。

エルザは面倒くさいことになりそうだと思い、素直に自己紹介をする。

 

「エルザ・スカーレットだ。これでいいだろう。私を放っておいてくれ」

 

またエルザは突き放すように言うが、それでもハルトはどこかに行こうとはしない。

 

「だから!なんでどこにも行かないんだ!」

 

「だから……俺じいさんに任せられたし……泣くぞ」

 

さっきよりも涙目になってハルトはエルザに言う。

流石にうざくなってきたエルザはどうにかしようと躍起になる。

 

「またか!私を放っておけばいいだろう!」

 

「泣くぞ」

 

「それしか言えないのか!」

 

「おいおい!何ハルトを泣かせてんだよ!鎧女!!」

 

「泣かせたっていうより、ハルトが勝手に泣いているだけじゃないの?」

 

「うるさいぞ!露出狂!」

 

「なんだと!?」

 

そんなこんなで、こんなやりとりからエルザはハルトたちと一緒に行動することになった。

グレイがエルザに噛みつき、エルザは軽くあしらう。

それをカナとハルトがなだめるが、ハルトも加わったり、ハルトが泣かされるという感じだった。

そしてある日の仕事が終わったとき。

 

「おーし!仕事終わったなー!」

 

「パーっと羽目をはずそうぜ!」

 

「普段から外しぱなしじゃない」

 

「すまない。私はここで帰る」

 

ハルトたちが盛り上がるなか、エルザは1人で帰って行った。

 

「なんだよ。やっぱり付き合い悪いじゃねーか。あの鎧女」

 

「まだ馴染めないのかな?」

 

エルザと共に行動してもう3ヶ月近くなるが今だにこういったことには参加しない。

ハルトはエルザが帰って行った道を見つ続ける。

 

「………悪りーけど先にギルドに戻っておいてくれ。後で行く」

 

「あっ、おい!」

 

ハルトはエルザを追いに行ってしまった。

時刻は夕方になり、マグノリアの外れにある河川敷にハルトは着き、そこにエルザも座り込んでいた。

 

「よっ」

 

「っ!?ハルトか……何の用だ」

 

エルザはハルトのほうを向かずに言う。

 

「別に。俺もただここに来たかっただけだ」

 

ハルトはそう言って、エルザの隣に座り何も言わなかった。

するとエルザは顔を向けず、ハルトに話しかけてきた。

 

「なぜ……お前はそう私に構う……」

 

「ん?」

 

「私たちは他人だ……ただ同じギルドに所属しているだけの……なのに何故お前たちは私に構う?なぜそこまで優しくしてくる?………私はそれが怖い……!」

 

エルザは膝に顔を埋め、震える。

エルザがこうも怖がるのはジェラールのことがあったからだ。

信じ、親しくなっても裏切られるのではないか、また失ってしまうのか? その考えがエルザのなかにあって、なかなか踏み出すことができないのだ。

 

「確かにオレたちは元は他人だ……だけどな、俺はこうも思うんだ。この紋章を刻んだらオレたちはもう家族だ。家族は悲しいことも辛いことも幸せなことも分かち合うもんだ。……だからもしお前が何か辛いことがあるなら一緒に耐える。もし怖いことがあるなら一緒にいて立ち向かう。家族ってのはそんなもんだろ?だからオレたちはエルザがどんなに突き放してもお前を放っておかない」

 

その言葉にエルザの目から涙が止まらず溢れ出し、ハルトはそっとエルザの背中をさすってあげた。

マグノリアを照らす夕日はどこまでも綺麗な緋色だった。

 

 

「あの時の言葉を忘れたのかよ?オレたちはエルザがどんなに突き放してもお前を放っておかない。家族だからな」

 

「ハルト……」

 

エルザはあの頃と同じように目から涙が溢れ止まらなくなり、ハルトはそっと胸を貸した。

 

 




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第46話 楽園ゲーム

ハルトがエルザを抱きしめていると今まで若干蚊帳の外の状態であったグレイが話しかけてきた。

 

「な、なあエルザ。ちょっといいか?」

 

「あ、あぁ……なんだ?」

 

「話の中に出てきたゼレフって……」

 

「ああ、魔法界の歴史上最凶最悪と言われた伝説の黒魔導士……」

 

「ララバイの時に出てきた化け物も“ゼレフ書の悪魔”って言ってたよね?」

 

ルーシィが言ったのは鉄の森の事件で、ララバイから出てきた化け物のことだった。

 

「そうだ。それにガルナ島の時のデリオラもゼレフ書の悪魔だろう」

 

デリオラの名前を聞いた瞬間、グレイの背中に冷たいものが走る。

 

「いったい何のメリットがあって……」

 

「わからん……だがあんな化け物たちを簡単に作れる魔導士を甦らそうとしている。ショウ……かつての仲間の話ではゼレフ復活の暁には“楽園”にて支配者になれるとかどうとか……」

 

ゼレフの恐ろしさに空気が静まりかえってしまう。

 

「でも、おかしくない?裏切ったのはエルザじゃなくてジェラールじゃないの?」

 

「たぶんジェラールがエルザの仲間たちに何か吹き込んだろうな」

 

「しかし私は8年も彼等を放置した。裏切ったことにはかわりない」

 

ハルトたちが話していると奥から人影が現れた。

 

「さっきの話……どういう事だよ……」

 

「ショウ……」

 

現れたのはエルザに気絶させられたシモンだった。

エルザの話を聞いてしまったショウは信じられずひどく狼狽していた。

 

「ウソだ……!姉さんはオレたちを裏切ったんだ!!姉さんはオレたちが逃げるはずだった船に爆弾魔水晶を仕掛けて1人で逃げた!!ジェラールが気づいてくれなかったら僕たちは死んでいたんだ!!ジェラールは言った!!姉さんは魔法の力に酔ってしまって俺たちのような過去を全て捨て去ろうとしてるんだと!!!」

 

「『ジェラールが言った』?お前が知ってるエルザはそんな事をするのか?」

 

ショウはハルトにそう言われた瞬間、緊張の汗が止まらなかった。

 

「お…お前たちに何がわかるんだ!!オレたちのことを何も知らないくせに!!オレにはジェラールの言葉だけが救いだったんだ!!だから!!8年もかけてこの塔を完成させたんだ!!ジェラールのために!!!」

 

悲痛な叫び声を上げるショウ。

まるで自分にそう言い聞かせているようだ。

 

「その全てが嘘だって?正しいの姉さんで間違っているのはジェラールだって言うのか!!?」

 

「そうだ」

 

ショウの叫びにエルザたちではない者がそう返した。

 

「シモン!?」

 

現れたのはグレイとジュビアを襲ったシモンだった。

 

「てめぇ!!」

 

「グレイ様、待ってください!!あの人はグレイ様が偽物だとわかって攻撃してきたんです!」

 

「何!?」

 

「流石は噂に名高い元エレメント4の1人。誰も殺す気なんてなかった。ショウたちの目を欺くために気絶させるつもりだったんだか偽物とわかり、わざと攻撃したんだ。その方がよりリアルにできるからな」

 

「でもハルトはどうなのよ?」

 

ルーシィは苦しんでいるハルトのほうを向いて、そう言うとシモンは申し訳なさそうにする。

 

「それについては済まない。ハルト・アーウェングスはエルザを除いた中で一番の脅威と言われ、念入りに動かないようにしろとジェラールに命令されたんだ」

 

シモンはそう言うとエルザと対面する。

 

「お前もウォーリーもミリアーナも、みんなジェラールに騙されているんだ。機が熟すまで、オレも騙されてるフリをしていた」

 

「シモン……お前……」

 

「俺は始めからエルザを信じている。8年間ずっとな」

 

そう照れ臭そうに言うシモンは少し、顔は隠れているがエルザには昔と何も変わらない仲間の顔が見れた。

 

「エルザ会えて嬉しいよ。心の底から」

 

「シモン……」

 

シモンとエルザは互いを抱きしめ、周りはそれを微笑ましく眺めているとショウが崩れ落ちた。

 

「なんで……みんなそんなに姉さんを信じられるんだ……なんで僕は……姉さんを信じられなかったんだ……くそぉおおおおおっ!!!うわぁああああああっ!!!!」

 

とうとう泣き出してしまった。

 

「何が真実なんだ!?俺はなにを信じたらいいんだ!!?」

 

そう泣き喚いているショウをエルザは優しく抱きしめた。

 

「今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう。だが、これだけは言わせてくれ。私は8年間、お前たちの事を忘れた事は一度もない。何も出来なかった……私は…とても弱くて……すまなかった」

 

エルザはそう謝罪し、ショウは涙を流す。

 

「だが今ならできる。そうだろ?」

 

シモンの言葉にうなづくエルザ。

 

「ずっとこの時を待っていたんだ。強大な魔導士がここに集まるときを」

 

「強大な魔導士?」

 

「ジェラールと戦うんだ。まずは火竜がウォーリーたちと激突するのを防がねば……そのあとに覇王の血清を手に入れよう。ジェラールと戦うにはこの2人の力は絶対に必要だ」

 

 

ハルトはシモンに背負われながら、エルザたちとともにナツが行ったであろうミリアーナの場所に向かっていた。

 

「くそ!ウォーリーとミリアーナのやつ、念話を切ってやがる!」

 

「念話って?」

 

「一種のテレパシーですね」

 

「あいつらの衝突をなんとしても防がねば……アーウェングスは大丈夫か?」

 

シモンが背負ったハルトに聞くと弱い声で返事をする。

 

「お、おう……なんとかな」

 

「すまない。まさかカルバートが作ったウィルスがここまでは強いと思ってなかったんだ。覇王と名高いアーウェングスなら自力で治せると思ったんだがこちらの検討違いだった」

 

「おい。その言い方だとうちのハルトが思ったより弱いって言いたいのかよ?」

 

シモンの言葉が気に障ったのかグレイが喧嘩腰になる。

 

「いや、そうじゃない。カルバートの能力が思ったより優れているということなんだ」

 

「ねぇ、そのカルバートって、どんなやつなの?ハルトが簡単に倒されると思えないんだけど……」

 

ルーシィがシモンにカルバートのことを聞くが、シモンは困った表情をする。

 

「……実際よくわからないんだ。あいつは俺たちが楽園の塔を建設しているときに突然現れて、協力してくれた男なんだ。ジェラールもさいしょは疑っていたが楽園の塔の効率的な建設方法を次々と教え、ジェラールに気に入られたんだ。カジノ襲撃もカルバートが計画したことだ」

 

「つまり参謀ってことですか?」

 

「そうだな。あいつなら俺たちが裏切ることもわかっていたのかもしれない」

 

すると突然あっちこっちの壁が奇妙に動き出し、口が現れた。

 

『ようこそ。楽園の塔へ。俺はジェラール。この塔の支配者だ』

 

「ジェラール……!」

 

エルザはジェラールの声を聞いて戦慄する。

 

『互いの駒は出揃った。始めよう楽園ゲームを………』

 

「ゲームだと?」

 

『ルールは簡単だ。オレはエルザを生け贄にしてゼレフ復活の儀を行いたい。すなわち楽園への扉が開けばオレの勝ち。もし……それをお前たちが阻止できればそちらの勝ち。ただ……それだけでは面白くないのだな。こちらは四人の戦士を配置する」

 

「四人の戦士?1人はわかるがあとの三人は誰だ?」

 

「そこを突破できなければオレにはたどり着けん。4対8のバトルロワイアル。そして最後に一つ特別ルールの説明をしておこう。評議院が衛星魔法陣でここを攻撃してくる可能性がある。全てを消滅させる究極の破壊魔法エーテリオンだ』

 

「はぁっ!?」

 

「そんな……」

 

「嘘でしょ!?」

 

ジェラールの特別ルールに全員が驚く。

 

『残り時間は不明。しかしエーテリオンの落ちる時、それは全員の死……勝者なきゲームオーバーを意味する。さあ、楽しもう』

 

「そ……そんな……何考えてんのよジェラールって奴………自分まで死ぬかもしれない中でゲームなんて……」

 

ルーシィはジェラールの考えがわからず、戦慄してしまう。

 

「エーテリオンだと?評議院が?あ…ありえん!!だって……」

 

エルザが言葉を続けようとした瞬間エルザはショウの手でカードの中に閉じ込められた。

 

「エルザ!!」

 

「ショウ!!お前何を……!!」

 

「姉さんは誰にも指一本触れさせない。ジェラールはこのオレが倒す!!!」

 

ショウの顔には凄まじい怒りが表れており、そのまま走ってどこかに行ってしまった。

 

「くそ!!オレはショウを追う!!お前たちはナツを探してくれ!!!」

 

ハルトをルーシィに託したシモンはショウを追っていき、グレイたちは置いてきぼりにされてしまった。

 

「だー!!!どいつもこいつも!!!」

 

「ジュビアはグレイ様と向こうへ。ルーシィさんとハルトさんはあっちね」

 

「ちょっと一番弱っちいのと病人を二人っきりにするき!!?」

 

「騒ぐなぁ……気分が悪く……うぷっ」

 

 

放送を終えたジェラールはチェスの盤上を動かす。

 

「ショウとシモンは裏切り、ウォーリーとミリアーナは火竜が撃墜……と、さてヴィダルダス。お前も行くか?」

 

「よろしいので?」

 

ヴィダルダスがそう聞くとジェラールは新たに三つの駒を盤上を置いた。

 

「次は……こちらのターンだろ?」

 

ジェラールがそう聞くとヴィダルダスは笑みを浮かべ、茹でを交差し、魔力を滾らせる。

するとき、ヴィダルダスがいたところには髪が異様に長いヘビメタに出てきそうな男、ヴィダルダス・タカと長刀を持った和服姿の女斑鳩、そして頭部が梟で背中に大きなミサイルを背負った大男梟がいた。

 

「暗殺ギルド髑髏会、特別遊撃部隊三羽鴉(トリニティレイブン)……お前たちの出番だ」

 

「ゴートゥーヘール!!!!地獄だ!!!最高で最低の地獄を見せてやるぜェーー!!!!」

 

「ホーホホゥ」

 

「散りゆくは愛と命のさだめかな……今宵は祭りどす」

 

三人は各々自分のところの配置につくため、玉座を離れた。

 

「お前も行くんだ。カルバート」

 

「………」

 

ずっと沈黙していたカルバートはジェラールに従い、玉座から離れた。

玉座から出たカルバートは自分にしか聞こえないように独り言を話した。

 

「たくっ……。これだからガキは嫌なんだ。悪役の自分に酔って何しでかすかわからん。こっちにはこっちの計画があるんだがな……」

 

その頃、ハッピーとマタムネを取り返すために塔を探し回り、猫のグッズだらけのファンシーな部屋にたどり着き、ウォーリーとミリアーナを倒し、ハッピーとマタムネをとり返した。

そしてその直後ジェラールの楽園ゲームの開始が告げられた。

 

「楽園ゲームだぁ?なんじゃそりゃ?」

 

「物騒でごじゃるな」

 

「何が何だがわからねーが、ジェラールって奴を倒せばこのケンカは終わりか。おし!!燃えてきたぞ!!!」

 

「相変わらず単純でごじゃるが、その通りでごじゃる!」

 

「やっぱり一番上にいるのかな?」

 

ナツがやる気を見せていると、ウォーリーが悔し涙を流していた。

 

「な…何なんだよジェラール……エーテリオンってよう……そんなの喰らったら、みんな死んじまうんだゼ。オレたちは真の自由が欲しいだけなのに……」

 

それに気づいたナツはウォーリーのほうを向き、屈託のない笑顔を見せた。

 

「どんな自由が知らねえーけど、妖精の尻尾も自由で面白いぞ」

 

ナツの言葉にウォーリーは呆然としてしまう。

 

「ハッピー。どんなゲームにも裏技ってあるよな?」

 

「あい!」

 

ハッピーはナツを抱え、ナツは足から炎をブースターのように出し、窓から一気に飛び上がった。

 

「一気に最上階まで行くぞ!!!!」

 

「あいさー!!」

 

「せっしゃも行くでごじゃるー!」

 

マタムネもナツたちを追って出て行くと、ウォーリーはどこか清々しい顔になった。

 

「いい……マフラー……だぜ」

 

そして謎の言葉を残して気絶した。

そのころナツが一気にジェラールのところに行こうとした瞬間、塔から壁の一部が柱のようになり、ナツに迫ってきたのだ。

 

「うおっ!?なんじゃこりゃ!?」

 

「避けながら進むよ!」

 

ハッピーが次々の迫る柱を避けて行くが、やがて柱と柱に挟み撃ちにされてしまった。

そして柱に囲まれると、その囲んだ柱からまた柱が出て、ナツたちを塔の中に叩き戻した。

 

「ぐへっ!」

 

「あう!」

 

「!? ナツ!」

 

運良く、窓から塔の中に入り、そこにちょうどシモンが通りかかった。

 

「無事だったか」

 

「ん? 誰だお前?」

 

「ハッピー殿ー、ナツ殿ー待って欲しいでごじゃるー」

 

マタムネも合流し、シモンから事情を聞く。

 

「しかし、なぜあんなところから転がるように入ってきたんだ?」

 

「なんか塔から柱伸びてきてよぉ」

 

「迫ってきたもんね」

 

「柱? この塔にそんな防御機能はないぞ?」

 

シモンがそういうと前の廊下の一部分に微かな電気が流れ、流れた廊下の一部分が陥没した。

すると、そこからある男が姿を現した。

 

「カ、カルバート!?」

 

「よぉ、シモン。裏切るとはわかっていたがまさかこのタイミングだとはな」

 

カルバートが現れ、シモンを睨みつける。

 

「誰だかわかんねーが邪魔すんならぶっ倒してやるよ!!!」

 

ついに楽園ゲームの開幕だ。

 



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第47話 錬金のカルバート

ちょっとオリジナル戦闘にしてみました。


ナツはカルバートと対峙するが、シモンがナツの手を取って引き返した。

 

「うおっ!なにすんだ!?」

 

「あいつの実力は未知数だ!逃げるのが得策だ!!闇刹那!!!」

 

シモンは自身の魔法で辺りを暗くした。

 

「ぬああ!!真っ暗だ!!」

 

「今のうちだ!!!」

 

シモンはその闇を利用して逃げようとナツを掴むが肩に何かが当たる。

前を向くと目を緑色に光らせたカルバートが立っていた。

 

「見えてるぞ。バーカ」

 

「………!!」

 

カルバートはシモンの体に手のひらを添えると凄まじい光線がシモンの体に突き刺さり、吹き飛んだ。

 

「が……がはっ!!」

 

「ふぅ」

 

吹き飛ばされた瞬間、辺りは元の明るさを取り戻した。

シモンの体はひどい火傷を負っており、ナツは一瞬でシモンが倒されたことに戦慄した。

 

「こ……これほどの実力を持っていたのか……カルバート!」

 

「今回の計画は俺の計画の一部なんだ。エルザ・スカーレットには犠牲になってもらわないと困るんだよ」

 

カルバートの言葉にナツの肩がピクリと動く。

 

「過去に何があったが知らないが、どうでもいいことで暴れずにエルザ・スカーレットには大人しく捕まって欲しかったんだがな」

 

「おい……」

 

「なんだ?」

 

「テメーが誰だが知らねぇけど、オレの仲間を傷つけるのは許さねえぞ」

 

カルバートの言葉はナツの体から炎を巻き起こさせ、火竜の逆鱗に触れてしまった。

 

「面倒くさいガキだ」

 

 

そのころハルト、ルーシィ、ジュビアはナツを探していた。

 

「ナツー!!どこにいるのー!!?」

 

「ナツさーん!!どこにいるんですかー!!」

 

大声を出しても返事が返ってこない。

 

「ナツなら耳がいいから遠くにいても聞こえていると思うんだけど………」

 

「しかし、なぜ私はルーシィさんとナツさんを探しているのかしら?

恋敵と二人っきりにしておくなんて」

 

グレイはエルザが心配になり、ショウを追いかけて行ったシモンを追いかけた。

 

「だからアタシは恋敵じゃないって、アタシが好きなのは……んんっ!仕方ないでしょ。ハルトの熱を下げるために水の魔法を使えるアンタがいないとダメなんだから」

 

ルーシィはそう言って、心配そうな表情でハルトを見る。

顔色はさっきより悪く、汗は大量に出ていた。

 

「わかっていますけど、具合は良くなっているように見えませんよ?」

 

「熱も下がっていないみたいだし、やっぱりシモンさんが言ってたカルバートって奴が持ってる血清がいるのかしら?」

 

ジュビアは項垂れているハルトの頭に水を少しずつかけながらそう言い、ルーシィはハルトの額に手を当て、体温を測るが熱が下がった様子はない。

 

「お…おれのことは……いい……から、ナツを……」

 

「そんなことできるわけないでしょ!ハルトだって大切な仲間なんだから」

 

ルーシィにそんなことを言われ、熱で弱ってるハルトにとってはとても嬉しいことだった。

 

「ありがとうな、ルーシィ……もう死んでも悔いはない」

 

「ちょっと!何言ってんの!?あっ、目閉じちゃダメ!!死んじゃうわよ!!」

 

「ルーシィさん。そんなに揺さぶったら余計につらいだけです」

 

そんなコントじみたことをしているとどこからかギターを荒く弾く音がだんだんと大きくなって聞こえてくる。

 

「何の音?」

 

「近づいて来ますね」

 

「ルーシィうるさいぞ……」

 

「アタシじゃないわよ!」

 

音がはすぐそこまで来ており、ハルトたちの前にある男が姿を現した。

 

「ヒャッハー!!!こんなところにいやがったのかメスブタども!!!お前らに地獄のメロディを聞かせてやるぜ!!!」

 

三羽鴉の1人、ヴィダルダスが現れた。

 

「ジェラールが言ってた4人の戦士の1人!?」

 

「メスブタ!?」

 

するとルーシィたちの背後から声が聞こえる。

 

「まさかヴィダルダスと同じ獲物と出会うとは……しかしこれも正義のため!!悪を討つ!!ホーホホゥ!!」

 

さらに三羽鴉の1人、梟さえも現れた。

 

「2人も!!?」

 

「挟まれた!」

 

「不味いな………俺も戦うぞ」

 

ハルトは立ち上がり、梟と対峙する。

 

「ダメよ!ハルト、まだ熱も下がっていないのに戦うなんて!」

 

「私たち2人で1人ずつ相手をします。ハルトさんは休んでいてください」

 

ルーシィはハルトの前に立ち、代わりに梟と対峙し、ジュビアはヴィダルダスと対峙する。

 

「話は終わりか!行くぞ!!ジェットホーホホゥ!!」

 

梟は背中のロケットを点火し、一気に距離を詰める。

ルーシィも鞭で応戦しようとするが、梟はルーシィを通り過ぎ、ハルトを捕まえ、床に叩きつけた。

 

「えっ!?」

 

「がはっ!!」

 

「ホーホホゥ!!」

 

突然のことにルーシィは呆然としてしまうが、すぐに梟に鞭を振り、ハルトから引き離す。

 

「ちょっと!アタシと戦いなさいよ!!」

 

「弱っている敵から倒し、徐々に弱らせていく。正義のためならどんな卑怯も正当化される!!」

 

「この……」

 

ルーシィは悔しそうにするが、梟は構わず、またジェットの構えをとる。

 

「いくぞ!ジェットホーホホゥ!!」

 

「させません!!水流切断(ウォータースライサー)!!」

 

ジュビアも応戦し、ハルトを助けようとするが、

 

「させるかよぉ!!」

 

ヴィダルダスは自身の髪を伸ばし、ジュビアの攻撃を髪で吸い取った。

 

「!!」

 

「ジュビアの水が!!」

 

「オレの髪は液体を吸収する。油やアルコールはゴメンだぜ?髪が傷んじまう」

 

「“水”が効かない?」

 

「そんな……」

 

片方は明らかにパワー系、ハルトは弱って太刀打ちができない。

そしてもう片方は水に対して絶対の耐性を持つ。

まさにピンチだ。

 

「それにしてもいい女だな2人とも。へへっ」

 

「でたよ!いつもの!!ハルト守って!」

 

「おおう……?」

 

「どういうことかしら?」

 

「かわいいってのもトラブルの元って事!」

 

ヴィダルダスはいやらしい目でルーシィとジュビアを見比べ、ルーシィは肩を抱き、ハルトの後ろに隠れる。

 

「ヴィダルダス。遊んでいないで真面目にやったらどうだ!」

 

「へっ!真面目に殺しなんかできるかよ!!楽しまなきゃ損だろーが!!」

 

ヴィダルダスはルーシィとジュビアを指差しながらどちらにするか決め、ジュビアを指した。

 

「決めたぜ!!おまえが今日のサキュバスだ!!」

 

「サキュバス?」

 

「ロックオブサキュバス!!!ヘイヤー!!!!」

 

ヴィダルダスがギターを弾くと、ジュビアは苦しみ始める。

 

「ああ…!あ…!な…なにこの音!?」

 

「ジュビア!!どうしたの!!?」

 

「イヤ!!やめて!!入ってこないで!!!ああああああっ!!!」

 

辺りが煙に包まれ、煙が晴れるとそこには……。

 

「地獄地獄地獄ゥ!!!!最高で最低の地獄を見せてやるよメスブタがァ!!!!!」

 

ヴィダルダスと同じようなパンクな格好をし、豹変したジュビアが立っていた。

 

「ジュビア……?え……どうなってんの?」

 

「洗脳か……!」

 

「洗脳!?そんなもんじゃねぇよ!!ジュビアちゃんはオレの音色で生まれ変わったんだよ!!オレが好きなのは女同士のキャットファイトよ!!!『服が破れてポロリもあるよ』ってやつさ!!!!」

 

「最低ね……」

 

ヴィダルダスの性癖にイヤな顔をするルーシィだがそれに構わず、ジュビアはルーシィとハルトに襲いかかる。

水となり、大波を起こしたジュビアはルーシィたちを飲み込んだ。

 

「うわっ!せっかく着替えたのに!!」

 

「ルーシィ!」

 

「貴様の相手は私だ!!ジャスティスホーホホゥ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

ハルトは飲み込まれそうなルーシィに手を伸ばすが、梟がそれを許さずハルトに攻撃をし、引き離す。

 

「ハルト!!」

 

「お前の相手はアタシだよ!!」

 

ジュビアは波の中からルーシィの服を掴み、引き裂いた。

 

「キャーー!!何すんのよ!!」

 

「ヒャーッホウ!!!コレだよコレー!!!!」

 

「ぐっ……ルーシィ大丈夫……うおっ!?」

 

「キャーー!!!!こっちを見ないで!!!」

 

ルーシィはハルトに胸を見られそうになり、慌てて胸を隠すが、ジュビアはその隙に攻撃を仕掛ける。

 

「なに乳繰り合ってんだぁ!?」

 

「誰がそんなことしたのよ!」

 

「ルーシィ!」

 

ジュビアがルーシィに攻撃を当てる前にハルトはルーシィを抱き寄せ、飛び退き、そのまま波に飲まれて通路の傍に隠れた。

 

「どこに行った!?」

 

「おいおい!隠れてんじゃねーよ!!!」

 

「けほっ!かはっ!」

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……あっ」

 

ハルトがルーシィと攻撃を避けたときはジュビアに服を引き裂かれ、胸がさらけ出していた状態だった。

つまりハルトはダイレクトでルーシィの胸の柔らかさを感じたということだ。

そのことがわかったルーシィは顔を赤くし、頭から煙が出そうなほど恥ずかしくなった。

ハルトは敵のほうを向いてそのことに気づいていない。

 

「さて、これからどうするか……」

 

「こっち見ないで!!エッチ!!」

 

「ぶへっ!?」

 

ルーシィは慌てて、ハルトの頬を叩いてしまい、ハルトは何故叩かれたかわからなかった。

 

「そこか!」

 

梟がその音に勘づき通路傍を見るが誰もいなかった。

ハルトは頬を赤く腫らしながらもルーシィを連れてさらに奥に隠れた。

 

「ご、ごめん、ハルト。突然のことだったから……」

 

ルーシィは頭の飾り布で胸を隠しながらハルトに謝る。

 

「いいって気にすんな。………俺もちょっといい思いしたし」

 

「何か言った?」

 

「いや、なんでもない。それよりルーシィ、こっから反撃するぞ」

 

「反撃って、どうするの?」

 

ハルトは不敵な笑みを浮かべ、ルーシィのほうを見る。

 

「俺に考えがある」

 

 

そのころナツとカルバートは戦いを繰り広げていた。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

ナツは炎を纏った拳を打ち出すが、カルバートの足元から現れたはしらがナツの拳を防ぐ。

 

「魔力弾錬成。8」

 

カルバートがそう呟くとカルバートの背後の空中から魔力が篭った弾丸が作られ、ナツに打ち出す。

 

「ぐうぅっ!!!」

 

ナツは耐え、ほぼ無傷なように見える。

 

「そんな弾じゃ効かねーぞ!!」

 

さらにナツは追撃を仕掛ける。

 

「脚力ブースター。錬成」

 

カルバートがそう言うとカルバートの足は機械の足に変わり、ブースターを点火し、大きくナツと距離を取った。

 

「足が変わった?」

 

「錬金魔法だ!色んなものを作れる魔法だよ!!」

 

「しかも自分の体も錬金しているでごじゃる!」

 

カルバートの魔法は制限はあれど、万物を創り出す上位魔法『錬金』だ。

 

「へっ!だけどあんな攻撃だけなら押し切れるぜ!!」

 

「………魔力弾30mm錬成。10」

 

そう言うと新たに錬成されるがさっきよりも大きい。

 

「効くかよ!!」

 

「ファイア」

 

「……っ!ぐあぁあああっ!!!」

 

さっきとは違い弾丸はナツにダメージを与えた。

 

「くそっ!なんで!」

 

「お前に合う弾丸がわかったよ。ここからはこれ以上の弾丸で戦おうか」

 

カルバートはさらに弾丸を打ち出す。

しかしナツもやられてばかりじゃない。

ナツの炎は感情で威力が変わる。

ピンチに陥れば陥るほどナツは燃える男だ。

さらに燃え上がった炎はさらに大きくなった弾丸を焼き尽くし、その炎を纏って突進してくる。

 

「火竜の……!!」

 

「錬成」

 

その瞬間、地面から針山が突出し、ナツを串刺しにする。

 

「がはっ!」

 

「ナツ!」

 

「プラズマ弾。10錬成」

 

今度はカルバートは電気の魔力弾が錬成されナツを襲う。

激しい電撃と爆発が起こり、辺りに煙が立ち込める。

煙が晴れるとそこにはあおむけにナツが倒れていた。

 

(ドラグニルがこうも一方的にやられるのか……!ここまで強かったのか、カルバート・マキナ!!)

 

シモンはカルバートの強さに戦慄してしまう。

ナツは傷だらけになりながらも立ち上がる。

 

「くそ!ヒョロいくせにやりにくいな……」

 

「ナツ殿が苦手な、頭がいい敵でごじゃる!正面から戦わないほうがいいでごじゃる!」

 

「おい!マタムネ!!オレが頭が悪いって言いたいのか!!?」

 

「事実そうだよ!」

 

カルバートはそんなコントじみた光景を見て、ため息を吐く。

 

「敵の前だって言うのに随分と余裕だな。よほど図太いのかただのバカなのか……まぁどっちでもいいか。こっちもいろいろと忙しいんだ。終わりにしてやるよ」

 

そう言ったカルバートの気迫が大きくなる。

 

「荷電粒子砲4門、炸裂弾4発装填、錬成」

 

カルバートのそばに長いU字型の砲門が4つ錬成され、一気に打ち出す。

今までの比じゃないほどスピードで打ち出された弾丸はナツに全弾命中し、爆発を起こす。

 

「食ったら力が湧いてきたぞ!!」

 

爆炎からナツが姿を現し、カルバートに近づく。

 

「ナツは火の滅竜魔導士なんだ!!」

 

「炎を食べたから回復したでごじゃる!!」

 

「紅蓮火竜拳!!!!!」

 

ナツの拳の乱打がカルバートを襲い、最後に壁際に殴り飛ばし、壁にぶつけ破壊し、土煙が起こった。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「やった!」

 

「いや、まだだ……」

 

「え?」

 

煙が晴れるとそこには中心に三角形の装置が浮かび、透明なシールドに包まれたカルバートが立っていた。

 

「トライデントシールド」

 

「ちっ、やっぱり手応えがなかったか……」

 

「年上ぶる気は無いが……あまり大人を舐めるなよ?荷電粒子砲4門、徹甲弾4発装填、錬成」

 

カルバートはナツに向かって放つが、その弾丸はナツの後ろに突き刺さり、爆発が起こりナツをカルバートのところまで飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

「錬成」

 

「ガハッ!」

 

今度はあらゆる壁から針山を出し、ナツを針山に挟みこむ。

 

「パワードアーム。錬成」

 

カルバートの腕が機械に変わり、ナツの顔を掴み、壁に叩きつける。

 

「フォースレーザー発射」

 

レーザーは壁を突き破り、ナツを塔の中に押し入れた。

塔は空洞になってナツは下に落ちて行き、途中の床に落ちた。

 

「ぐぅう……」

 

「まだ息があったのか……さすが滅竜魔導士。しぶとさはゴキブリ並だな。これで終わりにしてやるよ。バリスタ4発装填、錬成」

 

巨大な鉄の矢が荷電粒子砲に装填され、発射される。

ナツ当たりそうになった瞬間、ナツの前に氷の盾が広がる。

 

「何やってんだよ。ナツ、情けねーぞ」

 

「グレイ!」

 



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第48話 合体魔法

ヴィダルダスたちがハルトたちを探し回っているなか、ハルトが突然姿を現し、梟とジュビアに攻撃を仕掛ける。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

「姿を現したが、奇襲とは卑怯な!!」

 

「お前にだけは言われたくない!!」

 

「ハッハァ!!バラバラにしてやるよ!!」

 

梟とジュビアはそのままハルトに応戦する。

ハルトは本調子では無いため、若干押されている。

 

「ヒャッハァ!!!!そのままヤッちゃってジュビアちゃぁん!!!!!」

 

ヴィダルダスはその後ろ煽るようにギターをかき鳴らす。

すると、ヴィダルダスの後ろにある通路からルーシィが緊張した表情で戦いを覗いていた。

 

(やるしかないわね……)

 

 

ハルトたちは隠れて作戦を立てていた。

 

「ジュビアを操っているのはあのキモロン毛だ……あいつさえ倒してしまえば、ジュビアは元に戻って、3対1になって一気にこっちが有利になる……はず」

 

「じゃあ最初にあのロン毛を倒すのね?」

 

「ああ、そこでルーシィがあのキモロン毛を倒すんだ」

 

ハルトのその言葉に驚くルーシィ。

 

「えっ!?アタシが!?む……無理よ!あいつってヤバい奴なんでしょ!」

 

「今の俺はあの梟とジュビアを抑えることしかできない。どっちも倒すなんて無理だ。だからルーシィ。お前がやるしかないんだ」

 

 

「アタシがやるしかない……」

 

ルーシィは鍵を握りしめ、覚悟を決める。

ヴィダルダスの後ろに姿を現し、鍵を向ける。

 

「開け!!巨蟹宮の扉!!キャンサー!!!」

 

「エビ!!」

 

「ホワッツ!!?」

 

「キャンサー!あのロン毛を倒しちゃって!!」

 

「了解エビ!!」

 

ルーシィはキャンサーを呼び出し、すぐさま攻撃をするように指示をだした。

 

キャンサーはヴィダルダスに迫るが、その瞬間ヴィダルダスはいやらしい笑みを浮かべた。

ヴィダルダスは頭を激しく振り、髪が意思を持ったかのようにキャンサーにまとわりつき、束になってキャンサーを滅多打ちにする。

 

「暗殺部隊の人間がただ操るだけの魔法しか使えねーわけねーだろ!!」

 

「キャンサー!!?」

 

「ルーシィ……すまないエビ」

 

キャンサーはダメージを受けすぎて星霊界に帰ってしまった。

 

「次はお前だぜ!子猫ちゃぁん!!」

 

ヴィダルダスがルーシィを指差すとハルトと戦っていたジュビアがルーシィに襲いかかる。

 

「ルーシィ!!がっ!?」

 

「よそ見とは余裕だな!!ホーホホゥ!!!」

 

「力が出ねぇ……!!!」

 

 

ハルトがルーシィのほうを見るが梟はそれを許さず、追撃するが、ハルトは腕を組んで受け止める。

しかし梟の力が強いのか、ハルトが弱って受け止めきれないのか梟の勢いに負けて、押されてしまう。

 

「負けるか、よぉっ!!!」

 

ハルトは重心をずらし、梟の勢いを利用し、投げ飛ばす。

 

「ホホウ!やるな!ならばこれはどうだ!!」

 

梟はすかさず受け身をとり、低姿勢の構えを取る。

 

「ミサイルホーホホゥ!!!」

 

梟に背負われていたミサイルは2つとも同時に飛び出しハルトに迫る。

 

「くっ!」

 

ハルトはなんとか屈んでかわすが、ミサイルは急な旋回をし、ハルトの背中に張り付いた瞬間、アームが伸びハルトを捕まえる。

 

「なっ……うぷっ……おえぇぇぇっ!!」

 

滅竜魔導士は極端に乗り物に弱く、すぐに酔ってしまう。

しかも毒が回っていつもよりひどくキラキラと口から出てしまう。

 

「弱ってきたようだ。今だ!キャプチャーホーホホゥ!!」

 

「ウソ!?ハルト!!」

 

梟の真上に運ばれたハルトは口を大きく開け、落ちてきたハルトを飲み込んだ。

 

「何してるのよ!ハルトを放して!!」

 

ジュビアの大波から抜け出したルーシィが梟に鍵を向ける。

 

「開け!金牛宮の扉!!タウ……」

 

「覇竜の剛拳!!」

 

ルーシィが言い終わる前に梟はルーシィの懐に入り、ハルトと同じ魔法を放った。

 

「かはっ!」

 

「ホーホホゥ!素晴らしい魔力だな!!力が溢れる!!」

 

梟の頭部の毛はハルトと同じオレンジ色になり、目つきもハルトに似ている。

 

「ううう………な、なんで……ハルトと…同じ魔法を……」

 

痛む腹を抑え蹲り、苦しみながらルーシィは梟に問いかける。

 

「ホーホホゥ!私は捕食した者の魔力を消化し自分の物にできるのだ」

 

「そんな……」

 

「おい!梟!!テメーがトドメ刺そうなんてしたんじゃねぇぞ!!!オレはキャットファイトを見てーんだよ!!!!」

 

「ならば早くしろ。他の者たちを倒さねばならん」

 

「オゥケェーー!!ジュビアちゃん!やっちゃって!!!」

 

「ヒャッハァー!!覚悟しろよメスブター!!!」

 

またジュビアは大波になり、ルーシィを巻き込み苦しめる。

 

(息が…できない……!)

 

(ルーシィさん。こんなのはジュビアじゃないです!!!)

 

(!!ジュビアの声!? そうか!!ここがジュビアの中だから…)

 

(ジュビアは仲間をキズつけたくない……仲間…なんておこがましいかしら……確かにアナタは恋敵だけど……)

 

(違うけど……)

 

今の操られて下品な物言いとは全く違う悲しそうな声でルーシィに語りかける。

 

(ジュビアは妖精の尻尾が大好きになりました。仲間想いで……楽しくて……あたたかくて……雨が降っててもギルドの中はお日様が出てるみたい……せっかくみなさんと仲良くなれそうだったのに……ジュビアはやっぱり不幸を呼ぶ女……)

 

ジュビアは残虐な笑みを浮かべているはずなのに、ルーシィには涙を流しているように感じた。

大波から抜け出したルーシィは立ち上がり、ジュビアに挑戦的に指を指す。

 

「仲間のために涙を流せる人を!妖精の尻尾が拒むはずがない!!胸張っていいわよ!!アンタのおかげでいいこと思いついちゃった!!!」

 

「くだんねぇな!!!とっととイカしてやりなジュビアちゃんよォ!!!!」

 

「水流激鋸でバラバラになりなァ!!!!」

 

ジュビアは回転する水流になりルーシィに迫る。

ルーシィはその水流に鍵をもちながら、その手を突っ込んだ。

手は切り刻まれながらも、力強く叫んだ。

 

「開け!!!宝瓶宮の扉!!!!アクエリアス!!!!!」

 

ジュビアの体からルーシィが持つ最強の星霊アクエリアスが現れた。

 

「ジュビアの体から星霊を呼んだ!?」

 

「水なら最強の星霊アクエリアスが呼べる!!アンタのおかげよ!!アクエリアスお願い!!」

 

「やかましいわ小娘どもがあぁぁぁっ!!!!」

 

アクエリアスは突然激昂し、ヴィダルダスではなくルーシィめがけて水を放った。

 

「ヒィィィ!!!」

 

「やあああ!!!」

 

「ぬおおおおおおっ!!!?」

 

その水はルーシィたちを巻き込んだが、確実にヴィダルダスにも届く。

しかし、水を吸収するヴィダルダスの髪はアクエリアスの水さえも

吸収してしまう。

 

「ジュビア!!」

 

「ルーシィ!!」

 

ルーシィとジュビアはアクエリアスの荒波の中でも互いに手を伸ばし、握りしめる。

その瞬間、2人の魔力が爆発的に跳ね上がる。

 

「なに……この魔力の感じは……まさか……」

 

監視していたジェラールはヴィダルダスと梟の2人に弱っているハルトも含めて3人ともすぐにやられるだろうと考えていたが、爆発的に上がった魔力を感じ取り冷や汗を流しながら驚く。

 

「合体魔法だと!!?」

 

ルーシィとジュビアの魔力は合わさり、星霊魔導士特有の金色の魔力と水流が合わさり、ヴィダルダスを吹き飛ばした。

 

「やった!!」

 

「ジュビア!元に戻れた!!!」

 

2人は喜びを分かち合い、互いに抱きしめ合う。

しかし、そこに怒りを孕んだ声でアクエリアスがルーシィに声をかける。

 

「つーかとんでもないトコから呼び出さんじゃないよ。しまいにゃトイレの水から呼び出す気じゃねえだろうな?……殺すぞ、てめえ」

 

「ご…ごめんなさい……」

 

「素で怖い……」

 

アクエリアスに睨まれ詰め寄られたルーシィは震えながら謝った。

 

「ホウ……ヴィダルダスめ、遊んでいるからやられてしまうのだ」

 

奥でアクエリアスの荒波を避けていた梟が現れる。

 

「なんだ。もう1人いたのか?」

 

「う…うん。アクエリアスやっつけちゃって!!」

 

「命令すんな。言われなくてもやってやるよ。だけど……」

 

アクエリアスは相手の魔力を感じとって冷や汗を流す。

ハルトをキャプチャーした梟はハルトの魔力を吸収し、さらに魔力が大きくなっている。

 

「ホーホホウ!いくら増えようとこの梟には敵わないぞ!!」

 

まだ、戦いは終わらない。

 



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第49話 万能の錬金術師

カルバートの猛攻によってナツは窮地に立たされたが、グレイが助けに入った。

 

「だらしねぇな。こんなとこで何やってんだよ?」

 

「うるせえ!!ここから反撃するつもりだったんだよ!!」

 

いつものようにケンカ口調だが、2人とも緊張した顔を崩さない。

 

「1人増えたか……まあ、雑魚には変わらねえか。焼夷弾4錬成」

 

カルバートはグレイが現れても驚いた様子はなく、魔弾を錬成し放った。

 

「アイスメイク“シールド”!!」

 

グレイはまた盾を作り出し、弾を防ぐ。

 

「火だ!いただきます!!」

 

ナツは爆発で発生した炎を食べ、カルバートに向かって頬を膨らませる。

 

「火竜の……咆哮ォ!!!」

 

ナツの咆哮は真っ直ぐカルバートに向かうが、カルバートはヒラリとジャンプしてそれをかわし、ナツたちの背後におりた。

 

「アイスメイク“ランス”!!」

 

その瞬間、グレイの氷の槍がカルバートに迫るが、カルバートの足元から床がせり上がり、壁となって防ぐ。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「ちっ!」

 

カルバートの視界が壁で塞がれたのと同時にナツは壁に走り、それに向かって拳を振るい、壁ごとカルバートを吹き飛ばし、目立ったダメージはないが体勢を崩させ、膝をついた。

 

「攻撃させる暇を与えんじゃねえぞ!!アイスメイク“ハンマー”!!」

 

「わかってるよ!!火竜の咆哮!!

 

グレイとナツの怒涛の攻めにより、カルバートの頭上に巨大な氷のハンマー、眼前には炎の塊が迫ってきていた。

両方がぶつかりそうになった瞬間、カルバートの手元が光る。

ハンマーは落ち、ナツの咆哮がカルバートを襲った。

 

「やったか?」

 

「どうかな?」

 

煙が晴れるとそこにはカルバートはいなかった。

すると、カルバートのいた地面に扉ができ、開くと少し上着がよごれたカルバートが出てきた。

カルバートは2人の攻撃が当たる瞬間地面に穴を開け、もう一度塞いで防いだのだ。

 

「んなのありかよ……」

 

「ちくしょーめ」

 

「ちっ……お気に入りだったのにな」

 

カルバートは上着を見て、ため息をつき眉を寄せて怒りの表情を見せた。

 

「ガキどもが……調子に乗るなよ!!」

 

カルバートは勢いよく地面に両手をつけるとそこから地面が柱となってナツとグレイに伸びていく。

 

「ぐっ!」

 

「うおっ!?」

 

ナツたちは体をひねってなんとかかわすが柱は左右に分かれてナツとグレイをそれぞれに追う。

 

「ナツー!!」

 

「グレイ殿ー!!」

 

そこにハッピーとマタムネが現れて、それぞれを抱えて飛ぶが、柱は縦横無尽に追いかけてくる。さらには壁からも柱が伸びナツたちを襲う。

 

「うわわっ!これじゃあかわしきれないよ!!」

 

「ハッピー!かわすんじゃなくてアイツに突っ込めるか!?」

 

ナツはカルバートを指差しそう言う。

 

「うん!頑張ってみる!!」

 

「マタムネ!俺らも行くぞ!!」

 

「ぎょい!!」

 

ハッピーとマタムネはそれぞれかわしながらカルバートに迫る。

そして間近になった瞬間、ナツとグレイは魔力を込め攻撃を放とうとするが、

 

「馬鹿め」

 

その瞬間、カルバートの側の地面がせり上がりその壁にナツとグレイは激突してしまう。

 

「がっ!?」

 

「な、なんで……」

 

「錬金魔法は1つの物資を作るのにそれ相応の知識とそれを作る過程を考える思考力がいる」

 

壁はナツたちの首、手首、足首に枷をつけるように変形する。

 

「俺は他の錬金魔法を使う奴らとは違うとこがあるんだよ。それはな……」

 

ナツたちに迫っていた石柱は細かく分解され、多くの弾丸に変わっていく。

 

「同時にいくつもの思考ができるってことだ。つまり同時にいくつもの物を錬成できるってことだな。頭が弱そうなお前たちにもわかったか?まあ……今更わかっても意味がないか」

 

弾丸は全てナツたちを狙うように動き、止まった。

 

「さようなら」

 

一斉にナツたちに弾丸の雨が降り注いだ。

 

 

「流石は裏世界で『万能のカルバート』と名高いだけはあるな。ナツとグレイを同時に撃破か……」

 

盤上の駒を操りながらジェラールは呟く。

 

「ナツには期待してたんだがここまでか?」

 

ジェラールはそう言うがどこか楽しそうにしていた。

 

 

弾丸の雨で煙が出が立ち込めたが晴れるとそこにはボロボロになったナツたちが倒れており、ダメージが大きくピクリとも動かない。

 

「だいぶ時間を食った。早くエルザを見つけなきゃな」

 

カルバートはそう言い、倒れたナツたちに背を向け出口に向かって行った。

その瞬間、カルバートの耳に砂利を踏む音が聞こえた。

振り向くとナツとグレイが立ち上がろうとしていた。

 

「マジか。いい加減しつこいぞ」

 

カルバートはナツに近づき、その頭を掴んで持ち上げる。

 

「仲間のためにそこまで頑張るか? 俺にはわからねえな」

 

冷めた口調でカルバートはナツに言うとナツはゆっくりとその腕を掴む。

 

「おい、汚いだろ。はなせ」

 

「エルザは俺たちの大切な仲間なんだよ……仲間だから命をかけんじゃねえ……命かけるから仲間なんだよ」

 

頭を掴まれながらもナツはカルバートを睨むが、カルバートは何も感じなかった。

 

「訳が分からねえ。じゃあな、馬鹿なガキ」

 

ナツを掴んでいるカルバートの機械の手から光が漏れ、魔力が溜まる音が大きくなっていく。

ナツに光線が放たれようとした瞬間……

 

「覇竜の断刀ォ!!!」

 

黄金の巨刀がカルバートの腕を真っ二つに切り、攻撃を阻止した。

カルバートは切られた腕の断面を見て、巨刀が伸びている先を見る。

 

「よぉ、待たせたな」

 

そこにはハルトが立っていた。

 

 

時間は少し遡り、ルーシィたちはハルトを吸収した梟と対峙していた。

 

「ホホウ。それでは始めるか」

 

「くぅうう……」

 

「ルーシィ!?」

 

梟が構え始まろうとした瞬間、ルーシィはお腹を抑えて膝から落ち、ジュビアが肩を貸した。

梟に殴られたところが青白く腫れ上がっていた。

 

「チッ、おいそこの女。ルーシィを連れて逃げろ」

 

「え?」

 

「あの鳥野郎の魔力がさっきから上がりっぱなしだ。私でも対抗できるか分からない。私が1番の攻撃を放つ。その隙を見て逃げろ」

 

「だ、ダメよ……」

 

アクエリアスがそう言うがルーシィは苦しそうな顔をしながらも立ち上がる。

 

「アイツ、ハルトを飲み込んで消化しようとしているの……このままじゃハルトが……」

 

「ルーシィ……」

 

ルーシィはまだ戦えると目で訴えてくる。

 

「何だ、来ないのか?ならばこっちから行くぞ!!」

 

梟が駆け出そうとした瞬間、梟の動きは止まり大きくお腹が膨れた。

 

「ホッ!!!?」

 

そして梟のお腹は次々ボコボコと膨れ、暴れ回る。

梟は白目をむいて、立ったままビクビクと震えて、終いには倒れたしまった。

 

「ど、どうなったの?」

 

すると梟の口から手が伸び、そこからベトベトになったハルトがでてきた。

 

「うえ、気持ちワリ」

 

「ハルト!!」

 

「ハルトさん!」

 

「よっ、心配かけたな」

 

「ハルトォ!よがっだぁ!!」

 

「うおっ!?」

 

ルーシィは涙を流しながら、ハルトに抱きついた。

 

「お、おい、ルーシィ!今若干変な臭いがしてまずいぞ……」

 

「うぇ〜ん!私ハルトが消化されちゃうと思ってぇ!!」

 

「あれ?ルーシィはグレイ様が好きで、グレイ様はハルトさんが好きで……あれ?」

 

ルーシィはベトベトになるのも気にせず嬉し涙を流し、ハルトは困ってしまい、ジュビアは自分の恋愛関係図が間違えていることにやっと気づいた。

 

「やれやれ……なんの茶番だよ」

 

アクエリアスが呆れたように近づいてくる。

 

「アンタ、彼氏ならルーシィを彼女を泣かすんじゃないよ」

 

「はぁっ!?だ、誰が彼女よ!!」

 

「彼氏って俺か?」

 

「あれ?彼氏彼女ということは……しかしグレイ様とのBLは?」

 

若干1名勘違いしているが、アクエリアスは続ける。

 

「わたしはこれから彼氏と二週間旅行だ。しばらく呼ぶなよ。彼氏とな」

 

「二回も言わなくていいから!!」

 

「か、彼氏と……大人だわ」

 

アクエリアスが星霊界に帰ろうとした瞬間、何かを思い出しかのように付け加えた。

 

「アンタも早く彼氏作んなよ?いいのがいるんだからさ」

 

そう言ってアクエリアスはハルトのほうを見た。

 

「う、うるさい!早く帰って!!」

 

アクエリアスがからかうように笑みを浮かべながら星霊界に帰っていき、ルーシィは顔を真っ赤にして慌てた。

 

 

ジュビアに粘液を洗い流してもらい、これからどうするか話し合った。

 

「2人はこのまま楽園の塔から逃げろ。俺はエルザたちを探す」

 

「そんな!アタシも行くわ!!」

 

「私も行きます」

 

2人は立ち上がるがハルトはそれを止める。

 

「ルーシィはダメージが大きいし、魔力もそこまで残っていないだろう?ジュビアも、操られているだけでも相当なダメージが残っているはずだ。2人ともここから先の戦いに勝てるかわかねぇだろ?それにエーテリオンが落とされそうになった時、誰かが脱出用の船を確保しておかないといけないしな」

 

「そうかもしれないけど……ハルトだって熱が……」

 

「俺なら平気だ。あの梟野郎に吸収されて、消化されたときウィルスも消化されたぽっいんだ。だから後のことは俺に任せて2人は船を頼む」

 

ハルトにそう言われた2人はしぶしぶ頷き、ハルトと別れた。

 

 

「っていうわけだ」

 

「へぇ、ウィルスがなくなったねぇ。梟に消化されてウィルスがなくなったって嘘だろ?今でも立っているのが辛いはずだ」

 

「……バレたか。だけど最初よりは辛くねぇ……よっ!!」

 

ハルトは一気に駆け出し、カルバートに近づく。

カルバートは弾丸を錬成し、迎え撃つがハルトは剛腕で防ぎ、近づいて殴りかかるがカルバートは足のブースターを起動させ、飛び退いた。

 

「しかし正規ギルドのくせに思いっきりやってくれたな。もし生身の腕ならどうするんだ?」

 

カルバートは切られた腕を見せ、挑発するような口調でそう言うが、ハルトは全く気にせずカルバートに近づく。

 

「匂いでわかるんだ。お前から人間の匂いより機械の油臭い匂いのほうが多いんだよ!覇竜の咆哮ォ!!!」

 

「なるほどな……トライデントシールド」

 

ハルトの咆哮はシールドに防がれてしまい、ハルトはウンザリした。

 

「またシールド持ちかよ……」

 

「荷電粒子砲4門錬成。電撃弾10装填錬成」

 

電撃の弾丸が連続で打ち出されハルトを襲うが、これも剛腕で防ぐ、

しかし防いだすきにカルバートはハルトの懐に入り込み、手を胸に押し付ける。

 

「フォースレーザー発射」

 

「がっ!?」

 

レーザーはモロにハルトに当たるが、ハルトは吹き飛ばされずカルバートの腕をつかみ、殴った。

 

「らぁっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

受け身を取ることができなかったカルバートは殴り飛ばされてしまう。

 

「痛っ〜!モロに受けちまった……だけどやっと綺麗に攻撃を入れることができたぜ」

 

「レーザーを受けてあの程度なのか……人間をやめてやがる……」

 

「おい。俺だけじゃねえぞ。人間やめてるのは」

 

「なに?」

 

「火竜の煌炎!!」

 

「アイスメイク“ランス”!!」

 

その言葉の直後、カルバートを氷の槍と炎の塊が襲う。

 

「ガアアァアアアアッ!!!?」

 

突然の攻撃でカルバートは防ぐこともできずに受けてしまう。

 

「ぐっ……くそ……こいつらのことを忘れてた……」

 

カルバートの前にナツとグレイが立つ。

 



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第50話 想いの魔力

復活したナツとグレイの攻撃により、カルバートは大ダメージを負い、片膝をついた。

 

「なんでハルトがここにいんだよ?」

 

「お前らがピンチだったから助けに来たんだよ」

 

「俺だけでもやれたぞ!!!」

 

「ハルトー!無事でごじゃったかー!!」

 

「ナツ〜みんながいなかったら大変だったよ?」

 

みんなと合流し、軽口を叩き合う。

その中でカルバートの怒りは臨界点に達していた。

 

「どいつもこいつも邪魔ばっかりしやがって……!!殺すっ!!」

 

カルバートは魔法陣を展開すると多くの銃や大砲のようなものを錬成し、一斉に放ってきた。

 

「全員俺の後ろに来い!覇竜の剛腕!!」

 

様々な銃弾の嵐がハルトを襲う。

剛腕で防いではいるが勢いに押されている。

 

(このままじゃ剛腕がもたねぇ……!)

 

「ナツ、グレイ!このままじゃ全員やられて終わりだ。俺が隙を作るから2人でカルバートを倒すんだ」

 

「はぁっ!?なんでグレイと!」

 

「オレだってオメーとなんか共同作戦とか嫌だよ」

 

「こんなとこで喧嘩すんな!!やらねえと俺が2人ともボコボコにするぞ!!?」

 

銃弾の嵐が止み、次の弾丸を装填しようとした時、剛腕からナツとグレイが剛腕から左右に飛び出した。

 

「錬……」

 

「覇竜の咆哮ォ!!」

 

カルバートが何かする前にハルトは咆哮を放ち、邪魔をする。

カルバートはとっさにシールドで防ぐが、さっきよりもシールドの大きさが小さく脆くなっていた。

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

そこにナツの鉄拳が繰り出され、完全にシールドは破壊された。

 

「錬成!!」

 

カルバートは慌てたように銃を数個作り、ナツに向かって打つが、グレイが盾を作ってそれを防ぐ。

そしてその隙にカルバートの後ろに回ったグレイは最後の攻撃を仕掛ける。

 

「アイスメイク……“アックス”!!!」

 

(しまった……!思考が……!!)

 

氷の大斧がカルバートに迫る。

 

「錬成!!!」

 

しかしカルバートは寸前で壁を作り斧を防いだ。

 

「しまっ……ぐっ!!?」

 

グレイはカルバートに首を掴まれ、絞められる。

 

「グレイ!うおっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

ハルトとナツがグレイを助けに行こうとするが、カルバートの銃が弾幕を作って近づけさせない。

 

「いけない、いけない……怒りで思考が単一的になっちまった。しかし、ここまでよくやったよ。楽になれ……!!」

 

グレイを締め付けている腕に火炎放射器が錬成され、至近距離でグレイを炎に包む。

 

「グレエエェェェイ!!!」

 

ナツが叫ぶが、炎に包まれたグレイは意識が朦朧としてしまう。

 

(ここで終わっちまうのか……?)

 

朦朧とする中、グレイの頭に浮かんだの涙を流すエルザの姿、それが幼いころまだエルザが来たばかりのときにハルトが率先してチームを組みんでいたころ、エルザの涙を見たとき自分の心の中で決めたことを思い出した。

 

「泣かせねぇ……」

 

「なに?」

 

「泣かせねえ!!」

 

炎の中から手が伸びカルバートの腕を掴んで凍らせる。

その勢いは炎をも凍らせるほどだ。

 

「なっ……!?(炎を凍らせるだと!?どれほどの魔力なんだ!!?)」

 

「エルザは俺たちの仲間なんだ!!泣かせるわけにはいかねえ!!!」

 

エルザを想う心がグレイにさらなる力を与えたのだ。

冷気がグレイの手に集まっていく。

 

「仲間を傷つけるやつは誰だろうと許さねえ!!エルザは泣いちゃいけねえんだ!!!」

 

「このガキがぁっ!!」

 

カルバートも負けじと新しい武器を作るがそれよりもグレイの魔法が早い。

 

「氷魔剣(アイスブリンガー)!!!!」

 

一瞬でグレイら氷の魔剣はカルバートを切り裂き、カルバートを気絶させた。

 

「エルザを連れて帰るんだ」

 

グレイは気絶したカルバートに聞こえていないだろうが、そう言った。

 

「グレイ!やったな!!」

 

「けっ……なかなかやるじゃねえか」

 

「お前ら……うっ」

 

ハルトたちがグレイに近づくが、グレイはダメージが大きく、ふらついて倒れてしまう。

ハルトが支えるがこれ以上の戦いは無理なようだ。

 

「ナツ!まだいけるよな!?」

 

「おう!!当たり前だぜ!!」

 

「おい!アンタ!グレイを連れてここから出られるか?」

 

ハルトはいつの間にか降りて来ていたシモンに質問する。

 

「あ、ああ。しかし俺はエルザを追わないといけない。ショウには俺から言わないとわからないだろうしな」

 

「そうか……」

 

「ハルト……俺もまだいけるぜ」

 

グレイがそう言うがとてもそうには見えない。

ハルトはカルバートの服をあさりながらグレイに言う。

 

「グレイはよくやった。ここから……」

 

ハルトはカルバートの服のポケットにあった血清らしきものを見つけ、首筋に打つ。

 

「俺たちでやる。任せてくれ」

 

力強い言葉にグレイは少し残念そうにしながらも、安心した表情をした。

 

「そうか……じゃあ後は任せ……」

 

全部を言い切る前にグレイは気絶して倒れてしまった。

 

「マタムネとハッピーはグレイを連れて外に出てくれ。ルーシィたちが船で待っているはずだ」

 

「ぎょい!気をつけていくでごじゃるよ……」

 

「おう」

 

ハルトたちはグレイたちと別れて上の階を目指した。

 

 

玉座の間でまたチェスで戦況を見ていたジェラールは嬉しそうに話した。

 

「まさかあのカルバートがグレイに倒されるとは……さすがはお前の仲間だな。なあエルザ?」

 

ジェラールがそう言って、扉のほうを見ると下は袴を履き、上は晒しを巻いただけのエルザが立っていた。

ショウによってカードに閉じ込められたエルザはそのままの状態でショウに連れ去られたが、途中で遭遇した三羽鴉の1人、斑鳩との戦闘でほとんどの鎧を破壊され、圧倒されそうになったが、本当の強さに気づいたエルザは防御を捨て、攻撃だけに魔力を向け、たった一太刀で苦戦していた斑鳩を倒してしまった。

そして傷ついたショウをここから脱出するように言い、ここまで1人できたのだ。

エルザは覚悟を決めた目でジェラールを睨みながら告げた。

 

「ジェラール……決着をつけよう。私たちの過去に」

 



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第51話 聖なる光

だいぶ間が空いちゃいました……。
また読んでいただけると嬉しいです。


時間は少し戻り、約1時間前に評議院ではエーテリオンの投下の採決が決まった。

 

「反対2に賛成8……よって楽園の塔にエーテリオンを投下することに決まりました」

 

最初は誰もが反対だったが、ジークレインがジェラールの真の目的、黒魔道士ゼレフの復活を他の評議員の前で言うとヤジマとナミーシャを除く全員がゼレフ復活を危惧し、賛成にしたのだ。

 

「ヤジマさん、ナミーシャさん……アンタ等の心配はわかるがこれも魔法界の秩序のためだ。わかってくれ」

 

「……ズ(ジ)ーク、責任は取れるんだろうな?」

 

「勿論、発射の責任は全て俺が……」

 

「その責任のことではない!!これから失われる命の責任を取れるのかと聞いておるんだ!!!」

 

ヤジマは険しい表情でジークレインを睨みつけた。

ジークレインはなんともないと言った表情をして淡々と告げる。

 

「答えは時期に出ますよ」

 

 

そのころハルトたちは上にいるジェラールのところを目指したいた。

 

「ちっくしょー!まさかグレイが勝っちまうとは……もう一度あの野郎と戦いてえぜ!!」

 

「仕方ねえだろ。今はそんなことより、エルザを連れ戻さなきゃな」

 

「そうだ。ショウはジェラールに復讐しようと上のほうに行ったはずだ。エルザはそのまま上に行ったはずだ」

 

シモンがそう言うと胸を抑えてうずくまった。

 

「ぐぅっ………!!」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「くそ……2人に頼みがある。俺の代わりにエルザを連れ戻して来てくれないか?」

 

「嫌だ」

 

「なっ……!?」

 

シモンの頼みを一蹴してしまうナツにシモンは驚く。

 

「仲間なんだろ!?心配じゃないのか!!」

 

「エルザは止めるって言ってたんだろ?ならジェラールってやつを止めたら戻ってくるだろ?」

 

ナツの言葉にシモンは納得してしまった。ナツは仲間だからこそエルザの言葉を信じたのだ。しかし実際はそうじゃない。

 

「いいや、違う。エルザはジェラールを倒さない。いや、倒すことができないんだ。アイツは子供の頃からジェラールを大切に思っていた!!誰よりも!!そんなアイツがジェラールを倒すことなんてできるはずがない!!」

 

シモンの心からの叫びにハルトとナツは黙ってしまう。

 

「エルザはきっとジェラールと一緒に……」

 

「そんなこと……!」

 

「そんなこと絶対にさせない」

 

シモンがエルザがしようとしていることを予想して言おうとするがナツがそれに怒ってシモンの胸ぐらを掴むが、その時ハルトのハッキリとした声が響く。

 

「エルザが間違ったことをしようとしているなら殴ってでも止める。アイツが辛いことを背負っているなら俺たちが支えてやる。そういうもんだろ?仲間ってのは。………行くぞナツ!」

 

「おう!!」

 

シモンにそう言ったハルトはナツを呼び上に進んでいった。

ハルトの言葉を聞いたシモンは安心したように笑った。

 

「いい仲間を持ったな。エルザ……」

 

 

対峙するエルザとジェラール。

エルザは睨むが、ジェラールはフードを被って表情が見えないが口は挑発するような笑みを浮かべている。

 

「ハハッ、懐かしいなエルザ。こうやって対峙するのは……お前がここを離れた時以来か」

 

「………」

 

エルザはただきっと黙って、ジェラールを睨む。

 

「お前はまたあの時のように何もできずに終わるんだよ」

 

「……!!ジェラールゥゥゥ!!!!」

 

ジェラールの挑発に激昂したエルザは大剣を換装し、引きずりながらも凄まじい速さでジェラールに迫る。

ジェラールは手のひらをエルザに向け、邪悪な魔力を放つ。

エルザはその魔力を大剣で切り裂き、残りの魔力は跳躍してかわす。

かわしたエルザは双剣を換装し、ジェラールに斬りかかる。

 

「流星(ミーティア)!!」

 

しかしジェラールは体に光を纏い、流星のような速さでエルザが攻撃をする前に攻撃を仕掛けてくる。

 

「がはっ!」

 

「どうした?こんなものか?」

 

もろに食らってしまったエルザは苦しそうな声をあげ、ジェラールは邪悪な笑みを浮かべ挑発する。

ジェラールは高速移動したままエルザに攻撃しては離れるとそれを繰り返し、エルザを翻弄した。

 

「さっきまでの威勢はどうした?俺を止めるんじゃなかったのか!」

 

ジェラールがエルザの死角から攻撃しようとした瞬間、エルザはジェラールの方を振り向き、過ぎ去る瞬間、斬撃を当てる。

 

「なっ!?」(まさかここまで強く……!)

 

「もう逃がさないぞ」

 

エルザは立て続けに斬撃を繰り返し、ジェラールを逃がさない。

一気に不利になったジェラールは流星で上空に跳躍し、逃げた。

しかし、エルザは逃がさないとジェラールのすぐ後ろにまで迫る。

 

「これで終わりだァァァァッ!!!」

 

エルザは刀でジェラールに重い斬撃を脇腹に当て、ジェラールは地面に落ちて行った。

 

「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

地面に落ちたジェラールにすぐさまエルザは馬乗りになり、その首に刀の刃を当てる。

 

「終わりだ……ジェラール」

 

そのときジェラールはどこか安心したような笑みを浮かべた。

 

時間は少し遡りERAでは着々とエーテリオン発射準備が整ってきた。

それを眺めるジークレインにウルティアが話しかけてくる。

 

「もうすぐですわね。ジークレイン様」

 

「ああ……ようやく願いが達成される」

 

(願い……?)

 

ジークレインとウルティアの会話を魔法で隠れながら聞いていたヤジマの耳に気になる言葉が入ってきた。

 

「8年間我慢し続けたんだ……ここで失敗するわけにはいかない」

 

(8年間我慢し続けた?ズーク一体何を考えとる?)

 

そのときのジークレインの口は邪悪な笑みに歪んでいた。

 

 

ジェラールに馬乗りになり、刃を当てエルザはジェラールを睨む。

 

「くっ」

 

「お前の本当の目的は何だ?本当はRシステムなど完成していないのだろ?」

 

「!!」

 

エルザの言葉にひどく驚くジェラールだが、すぐに皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「私とて8年間なにもしていなかったわけではない。Rシステムについて調べた。確かに構造や原理は当時の設計図通りで間違っていないだろう。しかし、完成には肝心なものが1つ足りていない」

 

「言ったはずだ……お前が生贄だと……」

 

「それ以前の問題だ。足りていないのは魔力。この大掛かりな魔法を成功させるには27億イデアというとてつもない魔力が必要となる。その量は大陸中の全魔導士を集めてやっと足りるかどうかというところだ。人間個人にも、そしてこの塔にもそれほどの魔力を蓄積できるはずがない」

 

「…………」

 

ジェラールはエルザの話を黙って聞く。

 

「その上お前は評議院からの攻撃を知ってながらも逃げようともしなかった。お前は何を考えているんだ……?」

 

「……エーテリオンまで、あと3分だ……」

 

「ジェラール!!お前の理想はとっくに終わっている!!!このまま死ぬのがお前の望みか!!!」

 

「うっ……くっ……」

 

エルザはジェラールの腕を強く掴み、叫ぶ。

それはまるでジェラールの考えがわからず、戸惑っているようにも見えた。

 

「ならば共に逝くのみだ!!私はこの手を最後の一瞬まで離さないぞ!!!」

 

エルザが自分の決心を言った瞬間、ジェラールはどこか自傷気味に笑みを浮かべた。

 

 

「あ……ああ……それも悪くない……俺の体はゼレフの亡霊に取り憑かれた……何も言うことを聞かないゼレフを蘇らすための操り人形になった………」

 

「とり憑かれた?」

 

ジェラールの告白にエルザは戸惑う。

 

「俺は俺を救えなかった……仲間も誰も、俺を救える者はいなかった。楽園など…自由などどこにもなかったんだよ……すべては始まる前に終わっていたんだ……」

 

すると、楽園の塔全体が揺れ始め、少しずつ空から光が降ってくる。

いよいよエーテリオンが放たれようとしているのだ。

 

「Rシステムなど完成するハズがないとわかっていた。しかし…ゼレフの亡霊はオレをやめさせなかった。もう……止まれないんだよ。オレは壊れた機関車なんだ。エルザ…お前の勝ちだ…オレを殺してくれ。その為に来たんだろ?」

 

ジェラールはそうエルザにそう言うが、

 

「私が手を下すまでもない…この地鳴り、すでに衛星魔法陣サテライトスクエアが塔の上空に展開されている。終わりだ、お前も、私もな」

 

「エルザ……」

 

エルザはジェラールの首に当てていた刀をはずし、ジェラールを抱きしめる。

 

「私も…お前を救えなかった罪を償おう」

 

「俺は…救われたよ……」

 

そして聖なる光が降り注がれる。

しかしそのときのジェラールの顔は邪悪な笑みを浮かべていた。

 



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第52話 楽園の塔の真実

ERAではエーテリオンを発射し、楽園の塔がどうなったかを急いで確認していた。

 

「まだ映らないのか!?」

 

「魔力磁気の嵐がひどくてすぐには……」

 

「建造物の反応はあるか!?」

 

「まだ確認が取れません!」

 

評議院のメンバーが急いで動き回るなか、評議員の1人オーグが顔を手で覆い、エーテリオンの発射を後悔した。

 

「あの塔にいったいどれだけの人間がいたことか……!」

 

「今更じゃよオーグ……」

 

「ミケロ」

 

同じく評議員の1人であるミケロが声をかける。

 

「ゼレフの復活を阻止したのだ。その為の犠牲ならやむをえんよ」

 

「………」

 

ミケロの言葉にオーグは理解はできたが納得できなかった。

しかし、自分もエーテリオン投下に賛成したのだ、今は見守るしかない。

 

「磁気嵐がやんできました!!」

 

「映像出ます!」

 

魔法の大型モニターに映像が映る。

煙で全く見えないがその煙がどんどん晴れていき、姿を現したのは……

 

「あ、あれは……!」

 

 

その頃、ボートで楽園の塔から脱出していたルーシィたちはエーテリオン投下を間近で見ていた。

そんな中ルーシィは……

 

「お願い!離して!!」

 

「やめろルーシィ!今行っても多量の魔粒子に体を汚染されるだけだ!!」

 

「落ち着いてルーシィ!!」

 

ルーシィは目の前でエーテリオン投下を見て、中にいるであろうハルトを探しに行こうとし、グレイとジッビアが必死に止めていた。

 

「だって……ハルトが……!」

 

ルーシィはその場にへたり込み涙を流す。

それを辛そうに見るグレイたちだが、そんな中ハッピーが声を上げた。

 

「見て!何かあるよ!」

 

エーテリオン投下の煙が晴れるとそこには巨体な結晶が楽園の塔とほぼ同じ形でそびえ立っていた。

 

「な、なに…あれ?」

 

ルーシィは涙が止まり、戸惑う声を出した。

 

「Rシステムだ」

 

「なに!?」

 

「あれが……」

 

ショウの言葉に息を飲むルーシィたち。

 

「アレが俺たちが造っていた楽園の塔の本当の姿だぜ」

 

「作動している」

 

「作動って……ゼレフが甦るの!?」

 

「わからない。俺たちだって作動しているのは初めて見たんだ」

 

ルーシィの問いかけにショウはそう答えるしかなかった。

 

「大丈夫よね。ハルト………」

 

映像が晴れ、楽園の塔が消えたと思ったらそこには巨大な魔結晶の塔が立っており評議院は困惑していた。

 

「なんだあの塔は!?」

 

「凄まじい魔力反応です!」

 

「まさかエーテリオンの魔力を吸い取ったのか……?」

 

評議院のメンバーは慌ただしく、事実確認をするが何が起こっているかわからない。

すると評議員の1人が声をあげた。

 

「もう一度エーテリオンを放てば、あの塔も消えるのではないか!?」

 

「もう一度!?正気か!あの塔にはエーテリオンとほぼ同等の魔力があるんだぞ!そこに魔力を与えれば次こそどうなるかわからないぞ!!」

 

そんな言い争いをしているのをよそにヤジマは悔しそうにしていた。

 

「やられた……やられたっ!!!くそぉっ!!!」

 

「ヤジマさん!どういうことですか!?」

 

ヤジマはジークレインの罠にはまったことに気づき、悔しそうにしジークレインを探す。

 

「ジークレインっ!!!どこにいるっ!!!!」

 

するとERAの建物にヒビが入り崩れていく。

 

「何だ!これは!?」

 

「崩れるぞー!!」

 

「逃げろ!!」

 

全員が慌てて逃げる中、ヤジマはその中央で魔法陣を展開しているウルティアが目に入った。

 

「ウルティア!?」

 

「全てはジーク様……いえ……ジェラール様のため。あの方の理想(やめ)は今ここに、叶えられるでしょう」

 

「どういうことだ!ウルティア!」

 

「ヤジマさん!早く逃げましょう!!」

 

ヤジマはウルティアに近づこうとするがナミーシャに引っ張られ、ウルティアは落ちてくる瓦礫の山に消えていった。

 

 

その頃塔にいたハルトたちはエーテリオンの光に包まれ、死んだと思ったが目が覚めると寝転がっていた。

 

「何が起こったんだ?俺は……生きているのか?」

 

ハルトは起き上がり、周りを見ると塔の外壁や装飾は剥がれ落ち、綺麗に輝く魔水晶が姿を現した。

 

「いったいどうなってるんだ?」

 

「んー!んー!んー!」

 

「あ、ナツ」

 

ナツも近くにいており、瓦礫の山に頭が突っ込み抜けなくなっていた。

 

「大丈夫かー?よいしょっと!」

 

「ぶはっ!あー助かった。また抜けなくなると思ったぜ。ハルト何だよこれ?」

 

ナツは魔水晶を指差し、ハルトに尋ねるがハルトは難しい顔をする。

 

「わかんねぇ……だけど、まずいことになってるのは確かだな。先を急ぐぞ!ナツ!」

 

「おう!」

 

 

そしてエルザもエーテリオンの投下で死を覚悟したが、目を開けると辺り一面が水晶に囲まれており、戸惑う。

 

「な、なんだこれは……いったい何が起こった?」

 

エルザが周りを見ていると抱きしめていたジェラールが立ち上がった。

 

「くく………アハハハハハっ!!!!ついに……ついにこの時が来た!!」

 

ジェラールは腕を広げ、ひどく喜んだ。

 

「お、お前…」

 

「くくく、驚いたかエルザ。これが楽園の塔の真の姿、巨大な魔水晶なのだ。そして評議院のエーテリオンにより、27億イデアの魔力を吸収することに成功した!!! ここにRシステムが完成したのだぁ!!!!」

 

「だ…騙したのか」

 

騙された怒りにエルザは震えるがそこに声がかけられる。

 

「可愛かったぞ。エルザ」

 

「えっ!」

 

エルザがその声のもとを振り返るとそこにはERAにいるはずのジークレインが立っていた。

 

「ジークレイン!?」

 

「ジェラールは本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから騙すしかなかった」

 

ジークレインがそう言いながら、ジェラールの隣に立つ。

 

「な、なぜ貴様がここに!?」

 

「初めて会った時の事を思い出すよエルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か、ジェラールと間違えてオレに襲いかかってきた」

 

「………」

 

「双子と聞いて、やっと納得してくれたよな。しかし、お前は敵意を剥き出しにしていたな」

 

「当たり前だ!貴様は兄でありながらジェラールのことを黙っていた!それどころか貴様は私を監視していた!!」

 

ジークレインはエルザの問いに答えず、そう言い、エルザも言い返すがジークレインは不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 

「そうだな……そこはオレのミスだった。あの時は『ジェラールを必ず見つけ出して殺す』とか言っておくべきだった。しかし…せっかく評議院に入れたのに、お前に出会ってしまったのが一番の計算ミスだな」

 

「とっさの言い訳ほど苦しいものはないよな?」

 

「そうか……やはり貴様ら結託していたんだな」

 

ジェラールとジークレインの物言いに確信を得たエルザは2人にそう言ったが2人はさらに笑みを深まるだけだ。

 

「結託?」

 

「いいや違うな。俺たちは元から」

 

「「1人だ」」

 

その瞬間、ジークレインは霞のようにジェラールに重なり、1人になった。

 

「そんな……まさか思念体!?」

 

「そうだ、ジークは俺が作り出した思念体だ。評議院に忍び込ませてエーテリオンを打つためにな。さて……仮初めの自由は楽しかったか、エルザ?全てはゼレフを甦らすための布石だったんだよ」

 

「貴様はいったいどれだけのものを欺いて生きて来たんだァ!!!」

 

エルザは怒りに打ち震え、ジェラールに飛びかかるが、ジェラールは手をエルザに向け、放ち吹き飛ばす。

 

「うぐっ!」

 

「フフ……力が戻って来たぞ」

 

「ジェラールゥゥッ!!」

 

エルザは刀を構え、さらに攻撃するがジェラールは圧倒的な魔力を放ち、近づけさせない。

 

「どうした?さっきまでの勢いはどこに行った?」

 

「ハアアアァァァァッ!!!」

 

エルザが剣を振るうが、斑鳩との激闘、さらにジェラールとの戦いで体力が尽きかけていたエルザの剣をジェラールは容易に避ける。

 

「今頃、評議院は完全に機能を停止している。ウルティアには感謝しなければな。あいつはよくやってくれた。楽園にて、すべての人々が一つになれるのなら死をも怖れぬと……まったく、バカな女であることに感謝せねばな」

 

「貴様はいったいどれだけの人を利用すれば気がすむんだ!!」

 

エルザがジェラールにそう叫んだ瞬間、エルザの体が動かなくなる。

 

「な…何だこれは!!?」

 

エルザの体に蛇の模様が身体中に現れエルザを縛る。

 

「拘束の蛇(スネークバイト)、さっき抱き合ったときにつけておいた」

 

「ぅ……ぁ……か、体が動かん!!」

 

「Rシステム作動の為の魔力は手に入った。あとは生け贄があれば、ゼレフが復活する。もうお前と遊んでる場合じゃないんだよエルザ。この27億イデアの魔力を蓄積した魔水晶ラクリマにお前の体を融合する。そしてお前の体は分解され、ゼレフの体へと再構築されるのだ」

 

「う……ぐ……」

 

ジェラールは動けないエルザの体を魔水晶の近くまで運び、その中に押し込むと、エルザの体が魔水晶に吸い込まれていく。

 

「お前のことは愛していたよ。エルザ」

 

「ああああああああああっ!!!!」

 

ジェラールはエルザに皮肉気にそう告げ、エルザは悔しさのあまり叫ぶ。

 

「偉大なるゼレフよ!!!今ここに!!!この女の肉体を捧げる!!!」

 

ジェラールが腕を広げ、そう高らかに叫ぶと魔水晶から魔力が溢れ出す。

 

「ジェラール……ジェラァーーールウゥゥーーーー!!!!」

 

エルザは悔しく左目から涙を流し叫ぶが、ジェラールは歓喜の笑い声をあげるだけだ。

そして完全に飲み込まそうになった時……

 

「よっと」

 

いつの間にか近くに来ていたハルトがエルザをあっさりと魔水晶から

エルザを引っ張り出した。

 

「ハ…ハルト?」

 

「ギリギリ間に合ったな。よかったぜ」

 

「おーい!ハルト!いたのか?」

 

するとそこにナツも現れる。

 

「エルザは妖精の尻尾の魔導士だ。お前に渡すかよ」

 

ジェラールを睨みながらそう言うハルト。

 

「ハルト……ナツ……」

 

「さ、帰ろうぜ。早く仕事に行かねえと家賃が払えねえぞ。ルーシィが」

 

「それは大変だな。早く帰ろう、エルザ」

 

まるでジェラールがいないかのように、いつも通りの軽口を言い合うナツとハルト。

 

「す、すまん……体が…動かないんだ」

 

「……ほ〜う?」

 

その瞬間ナツは悪い笑みを浮かべてエルザの側にしゃがみ、くすぐり始めた。

 

「なっ…!こら…やめ……!!」

 

「普段からひどい目にあってるからな!!これでもくらえ!!」

 

「おい、ナツ」

 

苦しそうに堪えるエルザを見たハルトはナツの肩に手を置いた。

 

「俺も後でやらせろ」

 

「おっしゃっ!!」

 

「なっ、ハルト!?お前まで……!!」

 

「お前らが暴れた後の後処理誰がしてると思ってんだ!常日頃の恨みだバカ!」してジェラールを睨む。

やya

相当鬱憤が溜まっていたのかナツより悪い顔になっている。

 

「随分と楽しそうだな」

 

そこに不敵な笑みを浮かべるジェラールが声をかける。

それにハルトとナツは静かに睨む。

 

「頼む。ハルト、ナツ逃げてくれ……」

 

その時、エルザは目から涙を流し悲しそうにハルトとナツに言う。

 

「………ナツ。エルザを連れてここから離れろ」

 

「ハルトはどうすんだ?」

 

ハルトは拳を握り魔力を滾らせる。

 

「俺はこいつを倒す」

 



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第53話 竜の逆鱗

お久しぶりです。
テストやら色々あったので更新が遅れてしまいました。
途中でやめないことは決めているので暖かく見守ってくれれば嬉しいです。
それではどうぞ!!


「ほう…俺を倒すか」

 

ハルトの言葉にジェラールはニヒルに笑う。

まるでできるはずがないと言っているようだ。

 

「なっ…!ハルト!いくらお前でも聖十の称号を持つジーク……ジェラールを倒すなんて無理だ!早く逃げろ!!」

 

「あまり大口を叩かないほうがいいぞ?お前はあのカミナと二人掛かりでも俺と同じ聖十のジョゼに苦戦したんだからな」

 

エルザはハルトに逃げるように必死に言い、ジェラールは小馬鹿にした口調でハルトに言うがハルトはそれらを一切聞かず、ジェラールに向かって歩く。

 

「ふん……あの覇王と言えどやはりただの愚か者か……少し楽しみにしていたんだが、これで終わりだ!!」

 

ジェラールは光を纏い、歩いてくるハルトに迫り、魔力を込めた手刀を突き刺そうとしたが、

 

「オラァッ!!!」

 

「がっ!!?」

 

手刀がハルトの顔に突き刺さろうとした瞬間、ハルトは手刀を体をよじってかわし、カウンターでジェラールの顔に拳を叩き込んだ。

 

「舐めるなよ……ジョゼの時は二人とも魔力も体力も削った状態で戦ったんだ。万全の状態なら負けねえぞ」

 

柱に吹き飛んだジェラールを睨みながらハルトは魔力を滾らせる。

 

「それにな。俺は怒っているんだ」

 

拳を血が出そうになるほど握る。

 

「よくもエルザを泣かせたな」

 

吹き飛んだジェラールは柱の瓦礫に埋まりながらハルトを睨み、また流星を纏ってハルトに迫る。

しかも今度はさっきとは段違いの速さだ。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ジェラールは高速にハルトを攻撃し続ける。

ハルトはその攻撃を腕を交差して防ぐ。

 

「ハハハッ!さっきまでの威勢はどうした!!?」

 

ジェラールは挑発するように言いながら、手刀をハルトにめがけて振り下ろすがハルトはその腕を掴み、さらにもう一方の腕も掴んで、ガラ空きになったジェラールに向かって頭突きを放った。

 

「らぁっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

もろに食らってしまったジェラールはたたらを踏み、ハルトはすかさず魔力を纏った蹴りを放った。

 

「覇竜の施尾!!」

 

吹き飛ぶジェラールを見たハルトはナツを見る。

 

「ナツ今だ!行け!!」

 

「待ってくれ!ナツ離してくれ!!」

 

ナツは動けないエルザを背負い、その場から離れた。

 

「これでゼレフへの生贄がいなくなったな。お前の負けだ」

 

「別に生贄はエルザじゃなくてもいい。エルザ同様に高い魔力の素質があればな。そうだな……例えばお前とかな」

 

ジェラールは上着を脱ぎ捨て、魔力を高めてハルトを睨む。

ハルトも拳を自分の前に作ってジェラールを睨む。

 

「できるものならやってみろ」

 

二人は同時に動き出し、ぶつかった。

 

 

ナツは自分が登ってきた階段をエルザを背負いながら、降りていた。

 

「ナツ離してくれ!私がジェラールを止めなくてはいけないんだ!!」

 

口ではそう言っているが背負われても抵抗しないので、まだスーネークバイトが溶けていないのだろう。

そして背負っているナツはエルザの言葉を聞いてプルプルと震えている。

 

「だー!!!ウルセェ!!!」

 

「なっ……」

 

「動けないなら行っても仕方ねえだろうが!!!俺だって残ってジェラールと戦いたいのによォ……」

 

「………」

 

エルザはナツにそう言われ何も言い返すことができなかった。確かに動けない自分が戻っても何もできないのは明らかだ。

しかし、エルザの心には今だにジェラールを救いたいという気持ちが残ってどうしようもなかった。

 

「エルザ!!ナツ!!」

 

すると二人を呼ぶ声が聞こえ、振り向くとダメージを受けて動けなかったシモンがいた。

 

「シモン!もう大丈夫なのか?」

 

ナツはエルザを降ろし、シモンに話しかける。

 

「ああ、なんとかな。エルザも無事でよかった」

 

「……ああ」

 

エルザの元気のない声に一瞬、シモンは訝しげにしたが気のせいだと思い、気にしなかった。

 

「ハルトはどうした?」

 

「上でジェラールと戦っているよ。オレだって戦いてぇのに……」

 

今だにナツはブツブツ言っているが、それを聞いたシモンは少し難しい顔をした。

 

「大丈夫か?あの覇王と名高いのは知ってるがジェラールは聖十の称号を持つほどだぞ。勝てるのか?」

 

シモンの言葉にナツは自信に満ちた顔で返す。

 

「当たりめーだろ!!ハルトが倒すって言ったんだ。絶対勝ってくる!」

 

理由は不確かなものだがその言葉には確かな信頼があった。

シモンもそれを信じることにした。

するとあることに気づいた。

 

「おい。エルザはどこにいる?」

 

「エルザなら後ろにいる……」

 

ナツが振り向くと壁に背中を預けるように座らせたエルザの姿はどこにもなかった。

 

「……って、いねぇ!?どこに行ったんだ!!?」

 

「まさかジェラールのところか!?」

 

「はぁ!?」

 

「エルザは未だにジェラールのことを想っているんだ。自分の命を引き換えにするくらいだ。戻ってもおかしくない……」

 

「じゃあ探すしかねえだろ!!」

 

「ああ!俺はこっちを探す!ナツはそっちを頼むぞ!!」

 

その頃ハルトとジェラールの戦いは激しさを増していた。

二人がぶつかり合うたびに光が弾け、空気が震え、巨大魔水晶が崩れる。

 

「オオオォォォォォッ!!!!!」

 

「ハアァァァァァァッ!!!!!」

 

二人は一進一退の戦いを続けるが、ハルトがジェラールを押し始めた。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

「ガハッ!」

 

重い一撃がジェラールの腹に刺さり、ジェラールは苦しそうに声を出す。

 

「ならこれならどうだ!」

 

ジェラールはハルトの頭上を飛ぶとジグザグに動く。

 

「7つの星に裁かれよ!!!『七星剣』(グランシャリオ)!!!!」

 

ジェラールが軌道を描いた光は北斗七星の形をとり、その光から7つの巨大な光球が振り落とされる。

その光球ははハルトを中心に落ち、地面を大きくえぐるほどの爆発を起こした。

 

「ふぅ……少しやり過ぎてしまったか。ラクリマから魔力が漏れ出し始めたな」

 

ジェラールがラクリマに目を向けるとラクリマから魔力が漏れ出してきている。

そして、七星剣が落ちたところに目を向け、ハルトがどうなったかを確かめる。

七星剣は隕石と同様の威力を持ち、それがハルトに直撃したのだ。

常人ならば確実に死んでいるだろう。

ジェラールは死にはしないだろうが、気絶はしているだろうと考えたがその考えは外れていた。

 

「!!」

 

煙が徐々に晴れるとそこには何本もの覇竜の剛腕がドーム状に形作っており、それにヒビがはいり割れると無傷のハルトが立っていた。

 

「覇竜の剛腕・包華」

 

「チッ!」

 

「覇竜の断刀!!」

 

「ガッ!?」

 

ハルトは足から魔力を噴出し、一気にジェラールに近づき断刀で斬り、動けなくなった瞬間に魔力を極限まで拳に貯め、解き放つ。

 

「竜戟弾!!!」

 

一直線に解き放たれた魔力はジェラールを突き刺し、壁に打ち付けた。

新技『竜戟弾』(りゅうげきだん)は竜牙弾を拳に付加することで、威力を一点集中することに成功した技だ。

ルシェド、ジョゼとの戦いで偶然思いついたものを磨き、完全に自分のものにしたのだ。

 

「アアアアアアアッ!!!」

 

もろに技を貰ったジェラールは叫び声を上げ、服は竜戟弾が食らったところは大きな穴が空き、ジェラール自身もボロボロだ。

ジェラールは立ち上がろうとするがダメージが大きすぎて立ち上がれない。

 

「これで終わりだ」

 

(ここまで強かったのか……!? ハルト・アーウェングス!!!)

 

ジェラールはハルトの圧倒的な強さと静かに感じるハルトの怒りに体が震えてしまう。

拳に魔力を貯めながら、ゆっくりと歩いてくるハルトと倒れたジェラールの間に割り込んでくる者がいた。

 

「エルザ?何してんだ。そこを退け」

 

「頼むハルト。ジェラールは私に任せてくれないか?」

 

エルザの言葉に一瞬呆然としてしまったがすぐに意識を戻す。

 

「ダメだ。お前はジェラールを斬れなかったんだろうが。だから俺が代わりにそいつを殴る」

 

「頼む!ジェラールは過去に囚われているだけなんだ!!私が未来に導いてやらなければいけないんだ!!!」

 

エルザの心には過去の後悔が強く残っていた。

自分が強ければジェラールは狂うことがなかった、仲間をつらい目に合わせることがなかったといつも考えていた。

 

「エルザ……」

 

エルザの叫びを聞いて、ハルトは動きを止めてしまう。

その瞬間、エルザの後ろで倒れたジェラールは立ち上がりエルザの首を絞める。

 

「うあっ!」

 

「エルザ!!」

 

「動くな!!!動くとエルザの首を折るぞ!!!」

 

ジェラールはエルザの首に力を加え、ハルトを牽制する。

 

「助かったぞエルザ。お前のおかげでアーウェングスの動きを封じることができた!!」

 

ジェラールはそう言い、魔力弾をハルトに放ち、ハルトはそれを受けて耐える。

 

「ハルト!!」

 

「ふん」

 

「あっ!」

 

ハルトを呼ぶエルザをジェラールはラクリマの壁に叩きつけると、ラクリマは再びエルザを取り込み始めた。

 

「愚かだな。最早お前の声など俺には届かん。ただ仲間をピンチにしただけだった」

 

ジェラールは魔法弾の雨をぶつけながら取り込まれるエルザにいやらしげな笑みを浮かべてそう言い、エルザは自分の決意をバカにされ、さらには仲間を危険に晒したことにまた涙を流す。

 

「だから………」

 

魔法弾の雨にずっと耐えていたハルトの口からボソッと言葉が溢れ、ジェラールがハルトに目を向けると戦慄した。

 

「エルザを泣かすんじゃねえ」

 

血管が浮き上がるほどの怒りを顔に浮かべたハルトに恐怖を感じてしまい、一瞬動けなくなってしまいその隙を見て、ハルトは一気にジェラールの懐に入り込み、拳を振るう。

 

「ぐっ!!」

 

ジェラールはなんとか拳を避けたが、拳の勢いで風ができ、勢いが強く飛ばされてしまう。

強い風を感じてジェラールは違和感を感じた。

 

(こいつ……さっきより力が上がってないか……?)

 

最初に戦いだしてから力が益々上がってきているのを感じた。

そしてあることに気づいてしまった。

 

(アーウェングスの体から魔力がラクリマに流れてる……?いや……これはまさか!!?)

 

「貴様!!楽園の塔の魔力を吸い取っているのか!!?」

 

ラクリマに蓄積された様々な属性の魔力がハルトに向かって黄金の魔力に変わっている。

ハルトの滅竜魔法の特性、『統合』。

くらった魔力がどの属性であれ自分の魔力にしてしまう能力があり、そのためハルトの魔力は珍しい『無属性』の魔力なのだ。

それはさておき、普通なら自分から摂取していない魔力が勝手に集まることなんてありえない。

 

「あ?知るかよ。今はお前だけをぶっ飛ばすことができればいいんだからよ」

 

(自覚がないのか……?怒りでハルトの滅竜魔法が勝手に動いているのか……?)

 

ジェラールの考えは当たっており、怒りがハルトの魔力を底上げし、溢れた魔力が勝手にラクリマの魔力を集めているのだ。

ジェラールは竜の逆鱗に触れてしまったのだ。

益々上がるハルトの魔力にジェラールは冷汗を流す。

 

(このまま魔力を吸われてしまっては計画が全て台無しだ!!ここはアーウェングスを一撃で殺すしかない……!!)

 

 



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第54話 楽園の終わり

対峙するハルトとジェラール。

しかし、ハルトは顔が怒りに染まり今にもジェラールを殺しそうな雰囲気を醸し出し、ジェラールはそれを感じているのか冷汗を流し後ずさりしてしまう。

ハルトが一歩踏み出そうとした瞬間、ジェラールは声を上げる。

 

「動くな!まだエルザの体には魔法が残っている。俺の命令1つでエルザを殺すことだって可能だ」

 

「うぅぅっ………!」

 

エルザの首にスネークバイトの模様が移り、ギリギリと音をたてながら絞める。

それを見たハルトはピタッと足を止める。

 

「は…ハルト……私に気にせずジェラールを……私は結局かつての仲間どころか今の仲間すら危険に晒してしまうなんて……私は仲間失格だ……」

 

エルザは苦しそうにしながら自傷気な笑みを浮かべながら、また涙を流す。

ハルトは一瞬だけエルザに目を向けるだけで答えない。

その瞬間、ジェラールから魔力が膨れ上がり、激しい風が生まれる。

さらにはジェラールの頭上に宇宙を凝縮したかのような闇が膨れ上がる。

 

「影が光源と逆に伸びている!!?この魔法は!!」

 

「気持ち悪い魔力だな……」

 

ありえない現象を起こす魔法にエルザは戦慄し、ハルトは顔をしかめる。

 

「念のためだアーウェングス。お前は防御をするな。した瞬間エルザを殺す」

 

「なっ!?その魔法を防御無しでくらってしまえば死んでしまう!!私のことはどうでもいい!!だから逃げろ!!!」

 

エルザは叫ぶが、ハルトは笑みを浮かべる。

 

「エルザ。お前、自分は仲間失格とか言ってたな。そんなことねえよ。昔言ったろうが『俺たちは家族だ』って。だから危険に晒したとか、そんなこと言うなよ」

 

ハルトは歯を見せてエルザを安心させるような笑顔を見せる。

 

「俺を信じろ」

 

「無限の闇に落ちろォォオ!!!!覇王ォォォォ!!!!」

 

「ハルトォォォォォッ!!!!!」

 

「天体魔法!!暗黒の楽園(アルテアリス)!!!!」

 

闇の球体が放たれ、ハルトに一直線に向かいぶつかり、激しい衝撃と爆発音が響く。

アルテアリスはラクリマを大きくえぐった。

そして魔法が終わるとそこには服がほぼ全て破れ、血だらけになったハルトが立っていた。

 

「ありえん……。物質を塵にする魔法だぞ。原型が保つなんて「ゲホッ……!」っ!!」

 

立ったままのハルトは口から溢れた血を腕で拭う。

 

「終わりか……?次はこっちの番だ、なっ!!」

 

ハルトはジェラールに一気に近づき、腹に重い拳をぶつける。

 

「ガハッ!」

 

「オラァッ!!」

 

そのままラクリマの壁に殴り飛ばす。

 

「覇竜の咆哮!!」

 

「ぐああっ!!!」

 

続けて攻撃を出し続けるハルト。

ジェラールは防ぐこともできない。

そんな時にエルザに近づく人影があった。

 

「エルザ!」

 

「ナツ!シモン!」

 

「こんなとこで何したんだよ!ほら早くみんなで家に帰ろうぜ」

 

「す、すまない……」

 

ナツにそう言われエルザは申し訳なさそうな顔をするが、ナツは気にしていないように笑う。

 

「そこは『ごめん』じゃなくて『ありがとう』だろ!仲間なんだからよ!!」

 

「……ああ、そうだな」

 

それを聞いたエルザははるとが今まで言われたこともあり泣いてしまった。

しかし、今度は悲しみの涙ではなく仲間にここまで想ってもらえたことへの喜びの涙だ。

 

「おうっ!?なんで泣いたんだ?泣かれると俺がハルトに怒られちまう!!?」

 

「そんなことを言っている場合か!?早くエルザを解放してここから離れるぞ!!」

 

ナツとシモンが騒いでいるのに気づいたジェラールは焦りだす。

 

「奴らなんでここに!!?……仕方ない。ここはエルザを使って……がっ!?」

 

「何やってんだ!!早くここから離れろ!!!」

 

ハルトがジェラールの顔を掴み投げて、何かさせる前に阻止し、ナツ達に向かって叫ぶがナツがいくらエルザを引っ張っても抜ける気配が

ない。

 

「ダメだ!さっきと違って固え!」

 

「なら壊せ!お前の得意なことだろ!!」

 

「邪魔するな!!覇王ォォ!!!」

 

「邪魔はテメエだろうが!!」

 

ジェラールとハルトが激しくぶつかり合うのを他所にナツはニヤッと笑う。

 

「そうだよな。ぶっ壊しても誰も文句なんて言わねえもんな!!!」

 

ナツはそう言った瞬間、体から炎を出し暴れ回り周りのラクリマを壊していく。

 

「やめろ!!それ以上壊したらせっかくの魔力が……!」

 

ジェラールがナツのほうを向いた瞬間、隙ができハルトに上空に打ち上げられらる。

 

「があっ……!」

 

「お前の呪縛も終わりだ」

 

ハルトは打ち上げられたジェラールより高く跳び上がる。

 

「お、俺は……ゼレフを蘇らせて楽園に………!」

 

「楽園ってのはみんなが笑っていられるところだろうが!誰かを悲しませてできるような場所じゃねえんだよ!!」

 

ハルトの右拳に全身全霊の魔力が集められる。

 

「いい加減それに気づけ!!ジェラール!!!」

 

右手に作られた竜牙弾を握り締め、ジェラールに向かって放つ。

 

「竜戟弾!!!!!」

 

竜戟弾はジェラールと塔を巻き込み、塔の頂点を粉々に破壊し、塔自体に大きな亀裂をいれた。

ジェラールは大きなクレーターを作ってその中心で気絶した。

 

 

ナツが暴れまくり、さらに亀裂が入ったラクリマはエルザを解放したがエルザはまだうまく身体が動かせなかった。

 

「シモン……」

 

「どうした?」

 

「頼みがあるんだ。私をジェラールのそばまで肩を貸してくれないか?」

 

「エルザ……」

 

「頼む」

 

シモンはエルザに肩を貸し、歩いていく。

ハルトとナツはそれを見ても何も言わない。

 

「ジェラール……」

 

エルザはシモンに肩を貸してもらいながら、気絶したジェラールに近づく。

 

「結局私はお前を救えなかった……自分すら救えていなかった私がお前を救うなんておかしな考えだったのだろうな………それでもあの時、私を助けてくれたお前を見捨てることなんてできなかった!!」

 

エルザの心の中では辛かった奴隷時代に何度も助けてくれたジェラールの姿が思い起こされる。

その時のことを思うと自分ができたことは何もなかったと考えてしまう。

 

「だが、お前は私の大切な者たちを傷つけすぎた。それは許すことができない。しかしこれだけは言わせてくれ………『ありがとう』」

 

その言葉は今のジェラールには届かない言葉かもしれないがエルザは過去の自分と決別してこれからの仲間たちと歩んでいくために必要なことだと考えた。

そのときエルザは身体は傷だらけだが、表情はとても晴れやかだった。

 

 

ジェラールとの戦いが終わり、帰ろうとした瞬間大きな揺れがハルトたちを襲った。

 

「な、なんだ!?」

 

「まさか………!」

 

そしてそれは外で待機していたルーシィたちも気づいた。

 

「お、おい!なんだよあれ!!?」

 

ショウの言葉で塔の激しい戦闘音を聞いていた全員が楽園の塔に見て、目を見開く。

楽園の塔のいたる部分が大きく膨れたり、湾曲したりと歪な形をしだした。

 

「何が起こってるの……?」

 

ルーシィが呆然とした表情で呟くと次の瞬間、膨れ上がったところから破裂したように魔力が飛び出る。

 

「魔力が暴走してるのか!?」

 

「そもそもあんな巨大な魔力を一箇所に留めておくことが無茶だったんだ」

 

全員が楽園の塔の現状に戦慄してしまう。

 

「行き場をなくした魔力の渦が……弾けて大爆発を起こす……」

 

ジュビアが震えながらそう呟くとみんなが慌て出す。

 

「ちょ……こんな所にいたらオレたちまで……!」

 

「中にいる姉さんたちは!!?」

 

「誰が助かるとか助かるとか助からねえとか以前の話だ……オレたちを含めて……全滅だ」

 

そして中にいるハルトたちは一刻も早く脱出しようとしていた。

 

「早くここから出よーぜ!!」

 

「ああ!行くぞ……っ!!?」

 

ハルトもナツたちに続いて出ようとするが足が何かに取られ動けなくなり、足元を見ると足がラクリマに取り込まれていた。

 

「こんな時に……!」

 

「何やってんだよ!……ハルトどうしたんだよ!?それ!!?」

 

「それは……!」

 

ナツたちもハルトの現状に驚いた。

 

「何かわかんねえけど、足が動かねえんだよ!」

 

「まさか……ラクリマがハルトを取り込もうとしているのか!?」

 

ハルトが足を動かしてもうんともすんとも言わない。

 

「ナツ周りのラクリマを壊してくれ!!」

 

「よっしゃっ!!離れてろ!!危ねえぞ!!」

 

ナツは拳に火を灯してハルトの足元を殴るが硬いものがぶつかる音が響いた。

 

「イッテェーー!!!?」

 

ナツの拳は赤く腫れて、ラクリマは少し傷がついただけだがすぐに直ってしまった。

 

「是が非でもアーウェングスを取り込もうしているみたいだな……!!」

 

「くそっ!ハルト!!」

 

エルザはシモンの肩から離れ、ハルトを引っ張る。

ナツたちもそれに続いてハルトを引っ張るがビクともしない。

そうしていたらいよいよ爆発が目前で揺れと魔力の漏れがより激しくなってきた。

 

「……もういい。お前らは先にここから脱出しろ」

 

ハルトの言葉にエルザたちは驚く。

 

「何をバカなこと言っているんだ!!みんなで帰るんだ!!!」

 

「オレはまだハルトに勝ってないんだ!帰ったら勝負するぞ!!」

 

「エルザを、オレたちを救ってくれた礼がまだできていない。それができるまでは死なせないぞ」

 

その言葉にハルトは笑って返す。

 

「こんなとこで死ぬ気なんてあるか、俺一人で大丈夫だからお前らは先に出てろ」

 

ハルトが安心させるように言うがラクリマはどんどんハルトを飲み込んでいく。

 

「ぐっ……」

 

「くそっ!何か方法はないのか!!?」

 

エルザがそう叫ぶが何も手段がなく、ただ引っ張るしかない。

そして同時に塔の爆発が近づいてくる。

エルザたちは懸命に引っ張るが、ハルトは崩壊が進む塔を見て冷汗を流す。

 

「おい!いい加減にしろ!!もう出れなくなるぞ!!!」

 

「仲間を見捨てるくらいなら死んだほうがマシだ!!!」

 

ハルトは苦い顔をして決断し、エルザたちの腕を掴む。

 

「俺も一緒だ……だから!!」

 

ハルトはエルザたちを空いている穴に投げ飛ばした。

 

「ハルト!?」

 

「大切な人が死ぬのを見るのはもう嫌なんだ」

 

ハルトはどこか悲しそうな顔をしてそう言った。

 

「ハルトオォォォォォッ!!!!」

 

エルザは手を伸ばし叫ぶが、その手は届かなかった。

 

 

外にいたルーシィたちは最後までエルザたちを待つことにしたが、いつまで経っても来ないハルトたちに不安でいたがそのとき上から叫び声が聞こえてきた。

上を見るとエルザたちが降ってきた。

 

「エルザ!?」

 

「水流滑走(ウォータースライダー)!!!」

 

ジュビアはとっさに水を操作しエルザたちを受け止める。

 

「エルザ!無事でよかった!!」

 

「ナツも無事だったか……」

 

みんながエルザたちの無事を喜ぶなかで、マタムネはハルトがいないことに気づいた。

 

「ハルトはどこにいるでごじゃる?」

 

そしてそれは全員気づいた。

 

「エルザ……ハルトはどうしたの……」

 

ルーシィは恐る恐るエルザに聞くがエルザは申し訳なさそうに俯くだけだ。

 

「すまない……」

 

「そんな……」

 

ルーシィはその場に座り込んで絶望してしまった。

 

「せっしゃが迎えにいくでごじゃる!!

 

マタムネは翼を出して飛び立とうとするが止められる。

 

「やめておけ!!今行っても無駄だ!!!」

 

「それでも!せっしゃはハルトなパートナーでごじゃる!!」

 

みんなが必死にマタムネを止めていると、とうとうラクリマが爆発したが、その爆発は全体に広がるものではなく、空へと伸びていった。

 

「暴発したーー!!!」

 

「きゃあああああ!!!!」

 

「い…いや!!違うぞ!!!エーテリオンが空へ、空中に流れてる!!!」

 

やがて楽園の塔はその姿を丸ごと消した。

 

「ハルトはどうなったの……?」

 

荒波の音が響くなかでルーシィの言葉が全員の耳に届いた。

 

 



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第55話 HOME

空は厚く黒い雲に覆われた空、その下は今にも爆発が起こしそうな火山が連なり、その間を真っ赤な溶岩が大量に流れている。

そんな場所を白い光の塊が空中を漂っていた。

やがてその光はある場所に止まった。

すると岩の切れ目から地の底から響くような声が聞こえてくる。

 

「何の用だ……グランディーネ」

 

『久しぶりね』

 

岩から聞こえてくる声はどこか怒りを含んでいるようにも聞こえてくるが、光から楽しそうな声が聞こえる。

 

「ここへ来る事……干渉する事は禁じたハズだ。今すぐ立ち去れグランディーネ」

 

『………王の気配を感じたものだからね。本当、無茶ばかりするわね。私たちの王は……元々そういう気質なのかもね?』

 

グランディーネと名乗る光はどこかおかしそうに笑いながらそう話す。

 

『今回は完全に覚醒しなかったわね。4年前同様、覚醒の扉に掠っただけみたい……このまま行くと“聖戦”が始まるのも遅くないわね』

 

岩の隙間から赤い目がギロリと光を睨む。

 

「………何が言いたい」

 

『このままだとあの子も巻き込まれるかもしれないわね。非常な運命に』

 

「出ていけ」

 

さらに言葉には怒りが込められ、岩から熱が溢れ出る。

 

『いずれウェンディも王と会う事になると思うけど、私は心配なのよ。“前と同じように巻き込まれないか”ってね』

 

「出ていけ!!!!人間に干渉するな!!!!!」

 

やがて熱は炎に代わり岩からその巨体を現した。

 

「このイグニールを怒らせたいのかぁ!!!!!!」

 

爆発音かのような怒号は周りの岩を破壊し、現れたの炎のような紅蓮の鱗を持ちその身体からは炎を溢れ出す竜、そしてナツの親でもあるイグニールだ。

 

『そうね……今、私たちが心配しても何一つできる事はないものね。

後は彼らの力を信じるしかないものね………奴らは………いいわ……もうよしましょう。竜王祭で会える日は楽しみにしてるわ。イグニール』

 

 

アカネビーチに高級ホテルのある部屋で包帯だらけの男が寝ていた。

 

「ふがっ……?」

 

間抜けな声を出して起きたのは包帯だらけでベッドに寝ていたハルトだった。

ハルトの声に気づいたルーシィたちが一斉にハルトに詰め寄る。

 

「「「「「「ハルト!!!」」」」」」

 

「お、おう……お前ら、元気そうだな」

 

「元気そうじゃないよ!!!心配したんだからね……」

 

ルーシィが涙を目尻に溜めながら怒鳴るのを見て、ハルトはバツが悪そうな顔をしてしまう。

 

「あーごめん、な」

 

ハルトは包帯で動きづらそうな腕を無理に動かしてルーシィの頭をゆっくり撫でる。

 

「………うん、許す」

 

ルーシィはハルトに撫でられ、顔を少し赤らめながら許し、もっと撫でて欲しいのか頭を押し付ける。

その場だけピンク色の空気ができかけたがそこに邪魔が入った。

 

「ハルトー!!!」

 

「ギャアッーー!!!!!」

 

突然上からマタムネがハルトの腹に目掛けて落ちてきたのだ。

傷が塞がっていないのに軽いとは言え、その衝撃は致命傷だ。

現にハルトは白目をむいて、口から泡を出している。

 

「キャー!!ハルト!!しっかりして!!!」

 

「おい、マタムネ。邪魔すんなよ。せっかくいいところだったのによ」

 

「嫌でごじゃる。心配したでごじゃるから構ってくれないと嫌でごじゃる」

 

「素直だな」

 

ルーシィはハルトが泡を出したことに心配し、ルーシィとハルトをからかってやろう静観していたグレイは邪魔をしたマタムネに文句を言うがマタムネはハルトに文句を言いたいようだ。

 

「ハルト……もう無茶はやめて欲しいでごじゃる。エミリアみたいにいなくなるのは嫌でごじゃる………」

 

「すまん……」

 

マタムネの悲しそうな顔に申し訳なさそうにに謝るしかなかった。

 

「ハルト、無事でよかった。よくあの魔力の渦から抜け出したな」

 

ハルトまではいかないが包帯だらけのエルザが安心した表情でハルトに話しかける。

 

「…………ああ、まあな」

 

ややあって返すハルトにエルザは少し違和感を感じたが気のせいだと思った。

 

「ハルト、起きてよかった。3日も起きなかったものだから心配したぞ」

 

「ははっ、俺がそう簡単にくたばる訳ねえだろ」

 

ハルトが立ち上がろうとするが力が入らずベッドから起き上がれない。

 

「仕方ないでごじゃるなぁ」

 

マタムネはハルトを抱えて、わずかに浮かすように飛ぶがその光景は間抜けぽっく見える。

 

「ブフッ!ダセーな!ハルト!!」

 

ナツが爆笑しながらハルトを指差すが、ハルト動こうとしてもピクピクとわずかにしか動かない。

 

「このやろう……!」

 

「ハルトあまり無理するな。お前は茶化すな!」

 

「痛っ!?」

 

ハルトはナツに殴りかかりたいが体が動かずプルプルと震えることしかできず、そんなハルトに代わりエルザがナツに拳骨を与えた。

それを見たみんなは笑い、そこにはいつも通りの彼らの日常があった。

 

 

その後エルザはシモンたちと話し合い、事情を知らないウォーリーとミリアーナに説明をした。

 

「ごめんなさい、エルちゃん」

 

「あ…あのよ……すまなかったゼ。エルザ」

 

「私の方こそ…8年も何もできなかった。本当にすまない」

 

「姉さんはジェラールに脅されてたんだ。オレたちを守る為に近づけなかったんじゃないか」

 

ショウはエルザが自分を責めるように言うのを庇うがエルザは悲しい顔をする。

 

「今となってはそんな言い訳も虚しいな……」

 

その言葉は救えなかったジェラールに向けられるとふとシモンは思った。

 

「過去は未来に変えて歩き出すんだ。今日から俺たちは本当の自由になったんだからな」

 

「自由か……」

 

「私たちはこれからどうすればいいんだろうね……」

 

シモンの言葉にショウたちはどうすればいいかわからないみたいだ。

そこにエルザの提案が出た。

 

「行く宛がないなら妖精の尻尾に来ればいい。お前たちなら大歓迎だ」

 

「!!」

 

「妖精の尻尾!?」

 

「みゃあ!?私たちが!!?」

 

「いいのか?」

 

その言葉にシモンたちは驚く。

 

「お前たちの求めていた自由とは違うかもしれんが十分に自由なギルドだ。きっと楽しいぞ」

 

その言葉にウォーリーとミリアーナは喜ぶがシモンとショウは複雑そうな顔をする。

そしてナツたちに紹介しようとホテルに戻ろうとした時に後ろから声がかけられた。

 

「エルザ」

 

「? ハルト!もう外に出てもいいのか?」

 

「いや、ちょっとキツイけどどうしてもお前に言っておかないといけないことがあるんだ」

 

海辺には人は誰もおらず、さざ波の音しか響いてない。

 

「それで話とはなんだ?」

 

「………俺が何で楽園の塔から脱出できたのか、言っておこうって思ってな」

 

「どう言うことだ?」

 

「俺が脱出できたのは……ジェラールのおかげなんだ」

 

「!!」

 

ハルトの口から衝撃の事実が語られた。

 

 

爆発寸前の楽園の塔はハルトを逃さまいとラクリマが液状化し、腕や足にからんでくる。

 

「くそっ!全然剥がれねぇ!!」

 

ラクリマは徐々にハルトの身体を飲み込んでいく。

そしてとうとうラクリマが首に差し掛かろうとした瞬間、首に手が添えられた。

 

「なっ!?テメェは……!?ジェラール!!!」

 

手を添えたのはボロボロのジェラールだった。

 

(くそっ!こんな時に……!!)

 

ハルトは身動きができず、まさに絶体絶命のピンチだ。

 

「魔力を抑えるんだ。そうすればラクリマの進行も治るはずだ」

 

「は?何言って……」

 

「いいから早く!」

 

ハルトはジェラールに言われた通りに魔力を抑えると体にはってきていたラクリマはピタッと止まった。

 

「よし、そのまま抑え続けてるんだ。俺が魔力を解放して楽園の塔を惹きつける」

 

「なんでそんなことを……」

 

「なんで……か、自由にしてくれた恩人に恩返しをしたいんだ」

 

ハルトがジェラールの顔を見るとその表情はさっきまでの邪悪なものではなく、どこかスッキリした表情だった。

 

「お前……」

 

「君に倒された後、意識がはっきりしたんだ。エルザの言葉もちゃんと届いた……だからその恩返しだ!」

 

ジェラールは自身の魔力を解放するとラクリマはハルトからジェラールに移り変わる。

 

「おい!お前はどうするんだ!!」

 

「俺は……許されないことをした。ここで罪を償う」

 

やがてラクリマは一つの大きな結晶となってジェラールを包み込んだ。

 

「ジェラール!お前はそれでいいのか!?エルザはどうなる!!」

 

「エルザは俺が生きていては前に進めない」

 

ハルトの言葉にジェラールはハッキリと答え、自分の意思を曲げないことを伝えた。

 

「そんな……」

 

「君は優しいな……俺になんか罪悪感なんか抱かないでくれ。君にならわかるだろう。大切な人を危険な目に合わせた時の自分を許さない気持ちを……」

 

ハルトはそれを聞いて頭の中に炎の中で血まみれの少女を抱きしめて座り尽くす自分を思い出した。

 

「エルザに伝えてくれないか……俺を救ってくれてありがとう、と……」

 

「ジェラァァァァルゥゥゥッ!!!!!」

 

そして塔は光に包まれた。

 

 

ハルトはジェラールに言われた自分の過去のことは除き、エルザに伝えた。

 

「これが俺が脱出できた理由だ」

 

「……そうか」

 

エルザは夕日が落ちる水平線を眺めて黙ったままだ。

 

「………これだけは伝えておかないと思ってさ。先に戻ってるよ」

 

ハルトはエルザを残しホテルに戻っていった。

エルザは1人、膝を抱え顔を埋めた。

 

「ジェラール………」

 

その頬には涙が流れたが、慰めるのは緋色に輝く夕日だけだった。

 

 

みんなで食事を終えた後、シモンたちは妖精の尻尾には入らず暫くは旅をするとエルザ達に伝えた。

まだ自分たちでやりたいことを探したいらしい。

提案したエルザも快く了承した。

シモン達はボートに乗って旅立った。

エルザたちはそれを華々しく見送り、また会おうと約束をした。

そしてハルトたちは、

 

「それじゃあ、家に帰ろう」

 

『おう/うん!!!』

 

エルザの言葉にハルトたちは返事をし、家族が待つギルドに帰った。

 



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日常 篇
第56話 新しいギルド


ギルドに戻ったハルトたちの目に入ったのは全く新しくなったギルドの姿だった。

 

「おおーこれは……」

 

「すごい!」

 

「新しくなっているでごじゃる!!」

 

妖精の尻尾のギルドは昔の宮殿みたいな建物から、城みたいな大きな建物になっていた。

 

「さっそく中に入りましょ!」

 

「…………」

 

みんなが中に入って行く中、ナツだけはムスッとした顔で腕を組んで動かない。

それに気づいたハルトは声をかける。

 

「どうした?中に入らないのか?」

 

「………前と違う」

 

「ん?ああ、ギルドか」

 

ハルトに促され、ナツは渋々と入っていくと先に入っていったルーシィたちがギルド内にできた庭の売店に集まっていた。

 

「何したんだ?」

 

「見て欲しいでごじゃる!せっしゃたちのフィギュアでごじゃる!」

 

そこには多くの妖精の尻尾の魔導士たちのフィギュアが売られていた。

 

「お!ハルトとナツか!おかえりー」

 

売店で売り子をしていた妖精の尻尾の魔導士の1人、マックスはハルトとナツに挨拶しながらフィギュアを見せてくる。

 

「どうよ!なかなかの出来栄えだろ!」

 

「おう。確かによくできてるな」

 

ハルトはマックスに渡されたルーシィのフィギュアをまじまじと眺める。

 

「は、恥ずかしいからやめてよ〜」

 

「さらになんと……」

 

ルーシィが自分のフィギュアを見られるのが恥ずかしいのか、ハルトからフィギュアを取り上げようとすると、

 

「キャストオフ機能付きだ」

 

手が当たった反動でルーシィフィギュアの服が外れ、下着姿のルーシィができた。

 

「キャアーッ!!見ないで!!!」

 

「うおっ!?」

 

ルーシィはフィギュアを取り上げて、顔を真っ赤にして睨む。

 

「う〜」

 

「わ、悪かったって」

 

「マックス殿。せっしゃのフィギュアは売れてるでごじゃるか?」

 

「マタムネのは女性に不人気だから売ってないよ」

 

「ガーン……!」

 

 

そしてギルドの中に入ると、中は前よりさらに広くなっていた。

 

「わあ、キレイ!」

 

「おーお主ら帰ってきたか」

 

出迎えたのは妖精の尻尾のギルドマスター、マカロフだ。

 

「どうじゃ!キレイになったじゃろう!」

 

「あの落書きみたいな設計図からよくできたな……」

 

「じっちゃん!前と形が違えぞ!!」

 

マカロフが自慢気にするが、ハルトはマカロフの下手な設計図図からこんな立派なギルドができるとは思えなかったので驚きを通り過ぎて少し呆れ、ナツはまだなっとくがいかないのかマカロフに食ってかかる。

 

「当たり前じゃろうに……他にも色々と増えたからのぉ。プールに地下遊技場、さらに二階に行けるようにもなった!しかしS級クエストに行く時はS級の者と同伴しなければいかん」

 

みんなが新しくなったギルドを眺めているとマカロフはあることに気づいた。

 

「おお、そうじゃった!新しく入ったメンバーを紹介せねばのぉ。ほれこっちじゃ」

 

マカロフの合図でハルトたちの前に現れたのは、

 

「新メンバーのジュビアじゃ、かわええじゃろ」

 

「よろしくお願いします」

 

ハルトたちと共に楽園の塔で戦ったジュビアだ。

 

「ははっ!!本当に入っちまうとはな!!」

 

「ジュビア……アカネでは世話になったな」

 

「ん?知り合いか?」

 

「みなさんのおかげです。ジュビアは頑張ります!!!」

 

「よろしくね!」

 

マカロフはエルザとハルトに小声で話しかける。

 

「ならば知っとると思うが、こやつは元々ファントムの……」

 

「気にしねえよ。もう仲間だ」

 

「ええ……心配には及びません」

 

それを聞いてマカロフは安心する。

 

「それならもう一人の新メンバーも紹介しとこうかの。ホレ!!挨拶せんか」

 

マカロフがあるテーブルを向くと鉄を砕く音を鳴らしながら何かを食べている男が座っていた。

それを見たハルトたちは驚く。

 

「ガジル!!!?」

 

「なんでコイツが!!!」

 

元ファントムの魔導士であり、ハルトやナツと同じ滅竜魔導士であるガジルだった。

 

「ジュビアはともかくコイツはギルドを壊した張本人です」

 

「あ、あの!ジュビアが誘ったんです!!放っておかなくて……」

 

「まあまあ。昨日の敵は今日の友というじゃろ」

 

すると柱に隠れながらこっちを見ていたレビィも気にしていないと言うが震えて怖がっているのがわかった。

さらにはレビィと同じチーム、シャドウギアのメンバーであるジェットとドロイはガジルを鋭く睨んでいた。

 

「安心せい。もしもの時のためにカミナがいてくれておる」

 

「まあ、それならば……」

 

マカロフがそう言うと奥から不機嫌そうなカミナが歩いてきた。

 

「ふん……もしもの時とか言いながら何も起こっていないじゃないか。マスター、俺はいい加減仕事に行くぞ」

 

「まあ、待て、お前は働きすぎじゃ。たまには休むのもいいじゃろ」

 

カミナはマカロフにそう言われ、渋々とだが承諾した。

するとマカロフは冷汗を流しながらカミナに小声で話しかけた。

 

「本当はナツが帰ってから面倒くさいと思っての……ハルトと共にあやつらを止めてくれい。あともう少しの間だけでいいから!」

 

「やっぱりそれか……あと少しだけだからな」

 

カミナは呆れたようにため息を吐く。

 

「よお珍しいな。お前がギルドにいるなんて」

 

「黙れタンポポ頭。なんでバカンスに行ってきて傷だらけで帰ってきたんだ。羽目を外しすぎたのか?髪だけじゃなく、頭の中も春なのか?」

 

ハルトがカミナに話しかけるが、カミナは流れるように悪口を言う。

 

「……相変わらず機嫌が悪いと口がクソ悪くなるな、別にそういうわけじゃねえよ」

 

「うう〜〜なんか居心地が悪りぃな……新しいギルドは……」

 

ナツは新しいギルドが落ち着かないのか、ガジルがいるのが嫌なのか、ソワソワとしている。

 

「まあ、そんなとこで突っ立てないで座ったらどうじゃ?そろそろメインイベントが始まるぞ」

 

マカロフにそう促され座るハルトたちはもう各々自分がしたいようにしている。

ナツはガジルを睨み、グレイは服を脱ぎ、エルザはケーキを食べている。

そこであることに気づいたマタムネはカミナに話しかけた。

 

「そういえばカミナ殿、ミラ殿と一緒じゃないのでごじゃるか?いつも一緒にいてラブラブなのに」

 

カミナがギルドに帰ると暴走してしまうミラが珍しくカミナの側にいなかったのだ。

 

「お前には関係ないだろ。エセ侍ネコ」

 

機嫌が悪いカミナには何を言っても辛辣な言葉で返ってくるだけで、メンタルご弱いマタムネは涙目になってルーシィに抱きつく。

 

「うぐっ……エセ侍って……ルーシィ殿〜なにか言い返して欲しいでごじゃる!」

 

「ええっ!?なんでアタシなのよ?ハルトに頼めばいいじゃない!あと顔を胸に埋めるな!!」

 

ルーシィがそう言うがマタムネはルーシィの胸に顔を埋めながら答えた。

 

「ハルトに頼むのはちょっと……お願いでごじゃる!」

 

「お願いって……アタシ、カミナさんと話したことないし……」

 

マタムネに頼まれたルーシィは涙目のマタムネを見て渋々ながら了承した。

なんやかんやルーシィはマタムネに甘かった。

そして恐る恐るカミナに話しかける。

 

「えっと……あの……か、カミナさん?」

 

「なんだ?」

 

ルーシィは勇気を出して話しかけたがカミナの抜き身の刀のように鋭い眼光にたじろぐ。

 

「なんでもありません!すいませんでした!!」

 

「えっーー!!?」

 

勢いよく頭を下げ謝るルーシィに、マタムネは驚く

 

「何しているでごじゃるか!!言い返さないと!!」

 

「無理よ!殺されるかと思った!!」

 

ルーシィは泣きながらマタムネと言い合いになる。

 

「おい、あんまいじめんなよ」

 

「別にいじめたわけじゃない。勝手にあっちが怖がっただけだ」

 

「ちょっと静かにしなさいよ!そろそろ始まるわよ」

 

一緒に座ってきたカナがそう言うとギルド内の明かりが消え、ステージにかかっていたカーテンが外された。

そこにはギターを持ったミラが座っていた。

 

「ミラさん?」

 

「何が始まるんだ?」

 

「いいから黙って聞いてろ」

 

ミラは美しい声で歌いだし、その歌は危険な所に行く仲間の安全を思っての歌でみんな聞き入っていって、みんなから惜しみない拍手が送られた。

 

「最高〜!!!」

 

「いいぞー!!!」

 

「フン……」

 

みんなが感激の叫びをあげると、つまらなさそうにしていたガジルはわざとナツの足を踏んだ。

 

「痛えー!!!!」

 

「ギヒ」

 

「何すんだよ!この野郎!!」

 

「あ?」

 

「おい!聞こえねだろうが!!!」

 

ナツがガジルに怒鳴るとミラの歌が聞こえないと誰かがナツとガジルに向かって空き瓶を投げぶつけた。

 

「誰だ今投げたのは!!!」

 

「ヒィィッ!!」

 

激昂したナツがテーブルをひっくり返して喧嘩を始めた。

その余波でグレイ、エルザと周りのほとんどが喧嘩に加わる。

そしてそのとばっちりハルトにも届いていた。

 

「おい!お前ら暴れるな……だっ!?」

 

「邪魔だー!!!」

 

ナツに殴り飛ばされたエルフマンがハルトにのしかかり、潰されてしまった。

 

「ちょっ……!ちょっと!ハルト大丈夫!?」

 

なんとか巻き込まれなかったルーシィはハルトを心配し近づくとエルフマンが邪魔だった。

 

「ぐっ!喧嘩は漢のはなー!!?」

 

立ち上がったエルフマンがナツたちに向かって威勢良く吠えようとしたが背後に立ち上がったハルトがエルフマンの肩を掴み、外に投げ捨てた。

 

「は…ははっ……いいぜ。お前らがその気ならこっちもやってやるよ!!!」

 

額に血管を浮かび上げたハルトは全身に魔力を滾らせ、完全にキレていた。

 

「えー!?ハルトまで!!?」

 

「案外ハルトも沸点が低いでごじゃる」

 

驚くルーシィを尻目にハルトは喧嘩をしている群衆に飛び込み、何人もの人を吹き飛ばす。

それをそばで見ていたカミナはため息を吐いた。

 

「バカが……止める側のお前が喧嘩してどうするんだ」

 

カミナは巻き込まれるのは御免だと言い、その場から離れようとしたがその呟きは喧騒の中にいたハルトにしっかりと届いていたらしく、ゆっくりと振り向きカミナをギロリと睨んだ。

 

「あぁ?何か言ったかコラ?すましてんじゃねぞ。このムッツリスケベが」

 

「何……?」

 

ハルトのムッツリスケベという言葉に立ち止まる。

 

「水着姿の女見るだけで顔を赤くするようなお前のことだよカミナ!」

 

気づけばさっきまで喧嘩していた全員が動きを止め、ミラも盛り上がりバラードからロックに変え、演奏していたがそれを止め冷汗を流しながらハルトとカミナを見る。

 

「え?みんなどうしたの?」

 

「まずいでごじゃる……」

 

ルーシィは急にみんなの様子が止まったことに疑問をもち、戸惑うが側にいたマタムネも冷汗を流す。

 

「未だにミラに迫られると慌てるもんな。お前は!!」

 

「そ、そうなの?カミナさんってすごくクールな感じがするんだけど?」

 

「いや、それは……」

 

カミナはわざとらしくため息を吐く。

 

「キレて自分が何を言っているかわかっていないようだな。この単細胞が……」

 

振り向いたカミナの顔は明らかにキレかかっていた。

 

「今も傷だらけなんだ今さら傷が1つや100増えても変わらないな」

 

カミナも全身に魔力を滾らせ、刀を抜く。

まずいと思ったグレイは慌てて止めに入る。

 

「お、落ち着けってカミナ!ハルトもわざと言ったわけじゃ……」

 

「黙れ」

 

カミナは無慈悲にも刀の石突き部分で脳天を打ち抜き、再起不能にした。

 

「ぐ、グレイ様ー!!?」

 

「あ〜あ、これは止まらないでごじゃるな」

 

「ね、ねえ!いったいどうなっているの!?」

 

ジュビアが頭から煙を出して気絶したグレイに駆けつけ、わけがわからなくなったルーシィはマタムネにたまらず聞いた。

 

「普段は仲はいいでごじゃるが、2人の喧嘩となるとギルド全員で止めないと収まらない勢いになるでごじゃる」

 

「えぇ!?常識人のハルトとカミナさんが!?」

 

「キレると2人とも恐ろしく怖いでごじゃるからな。まぁ、カミナは自分の本当のことを言われて恥ずかしいだけ……」

 

マタムネがそれ以上の言葉を続けようとした瞬間、短刀がマタムネの頭目掛けて放たれ、頭頂部の毛を刈り取り柱に刺さった。

短刀が飛んできたほうを向く。

カミナが左手をこっちに向けた状態で睨んでいた。

 

「黙れ」

 

「「ハイ」」

 

あまりの恐ろしさにカタコトになって固まる。

 

「おい。八つ当たりしてんじゃねえよ」

 

「はっ。虫が飛んでいたから潰してあげただけだ。タンポポ頭」

 

「それを言うんじゃねえよ!!!!ムッツリスケベがぁ!!!!!」

 

「お前もそれを言うな!!!!タンポポ頭ぁ!!!!!」

 

2人の喧嘩が始まり、周りら巻き込まれ吹き飛んでいく。

最早一種の嵐のようだ。

それを見ていたマカロフは涙を流して膝をついて、悲痛な叫びをあげた。

 

「お前らぁっ!!!明日には週刊ソーサラーの記者が取材に来るのじゃぞぉっ!!!!」

 

しかしマカロフの叫びは誰にも届かなかった。

 

「あ!マスター!!片方の壁が吹き飛んじゃいました!!」

 

「イヤァァァッーーー!!!!!」

 



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第57話 突撃取材!妖精の尻尾!!

ハルトとカミナの喧嘩事件の次の日。

新しく建てたのに、半壊してしまったギルドは全員で修繕し、なんとか元の姿に戻した。

そしてみんながいつも通り過ごしているなか、1人だけ気合を入れている者がいた。

 

「何よみんな〜いつも通り呑んで騒いでるじゃない!」

 

ルーシィはいつもより少し露出多めの服を着て、髪もいつもなら自分でセットをするのだがわざわざキャンサーを呼び出してセットしてもらい、しっかりとおめかしをしてきたのだ。

ルーシィはフィオーレ王国で一番人気がある週刊誌『週刊ソーサラー』の記事に載り、有名になってお金が欲しかったのだ。

ギルドの仕事をしてもいいがナツやグレイが暴れ回り、色々と壊してしまうので報酬金も少なくなってしまい、貧乏なルーシィは今回の取材で一攫千金を狙っていた。

 

「まあ、いいではないか。記者もいつも通りの私たちを取材したいだろう」

 

「そうだけど……そういえばエルザ、鎧のデザイン変えたの?」

 

エルザの鎧は前の質素な者ではなく、羽のデザインがあった。

 

「ふふ、気づいたか?ハートクロイツの新作だ」

 

「そ、そうなんだ」

 

ルーシィは得意気なエルザに苦笑いで返す。

ルーシィが苦笑いなのは、元々ハートクロイツは服関係の大手の会社だがエルザが無理矢理鎧を作らせたからのをハルトから教えてもらい知っているからだ。

 

「それにしてもエルザ変わったね!」

 

「そうか?」

 

「だって前は『ちゃんとしろー』とか『片付けろー』って言ってたのに今はあんまり言わないもん」

 

「そんなに言っていたか?」

 

ルーシィとエルザがそんな会話をしているとルーシィはふとあることに気づいた。

 

「そういえば……ハルトとカミナさん今日は来てないね」

 

「まあ昨日があれだったからな。恐らく今日は来ないだろう」

 

「ハハッ……そうだね」

 

エルザは珍しく疲れた顔をした。

昨日の喧嘩で2人を止めるためにエルザとマカロフは先頭に立って止めていた。

その時マカロフは泣きながら止めており、どこか哀愁が出ていた。

 

「ハルトは恐らく自宅で待機しているが、カミナはミラと一緒にいるはずだ」

 

「そうなんだ……(あとでハルトの家に行ってみようかな?今日はせっかくバッチリ決めてきたし、もしかしたらそのまま遊びに行けるかも!!)」

 

ルーシィが内心そんなことを考えていると後ろから妙にテンションが高い声が聞こえてきた。

 

「Ohーー!!!ティターニアー!!!」

 

「週ソラの記者か?こんな散らかっている時に申し訳ない」

 

「ノープロブレム!!こんな自然体の姿が欲しかったので!!!」

 

やけにテンションが高い男、週刊ソーサラーの取材記者ジェイソンのがエルザが近くにやってくる。

 

「あたしルーシィって言いまーす♡エルザちゃんとはお友達でぇー」

 

ルーシィはここぞとばかり、いつもより可愛いをアピールするがジェイソンはエルザの取材に夢中でルーシィを無視している。

さらにはハッピーにも興味の差で負け、一瞬こっちを見たかと思い、

ニッコリと笑顔を浮かべるがその後ろのグレイに突撃し、またルーシィを無視した。

 

「もう!なんなのよ!!こうなったら………!」

 

怒ったルーシィは舞台裏へと消えていった。

 

 

「うーん……あとはハルトとカミナに取材したいんだけど……」

 

ジェイソンはあらかたの魔導士に取材を終え、あとしていない有名魔導士はハルトとカミナなのだが今日はギルドに来ていないようだった。

するとそこに……

 

「らあっーー!!!!記者って奴はどいつだー!!!!!」

 

机をひっくり返して、怒りまくったナツが現れた。

 

「ナツだー!!!COOL!!!!君も取材したかったんだよ!!!あ、あの握手してください!!!」

 

「っ!てめぇかぁ!!!」

 

「COOOOOOOL!!!!!?」

 

手を差し出して握手を求めるジェイソンにナツは鉄拳で返事し、ジェイソンは吹っ飛んでいった。

それでもメモを取りながら嬉しそうにしているジェイソンは記者の鏡か変人なのだろう。

その瞬間、

 

「はーい!みんな注目ーー!!!」

 

そのあと見向きもされなかったルーシィがバニーの姿になって現れた。

ジェイソンの興味を引こうと着替えてきたのだ。

周りのみんなは驚いたり、顔を赤くしている。

 

(フフッ!みんなこっちを見てるわね!)

 

ルーシィは成功したと思ったがすぐ隣に白スーツを着てギターを持ったガジルが現れ、突然弾き語りを始めてしまった。

 

「おい。お前踊れ」

 

「えっ!?あたし!?」

 

ガジルが突然ルーシィに命令し、ルーシィは断ろうとしたがガジルに睨まれ泣きながら、即興のダンスを踊るが色んな意味で辛そうだ。

しかしガジルの弾き語りがとてつもなく下手で、周りが暴動を起こして取材は終わってしまい、その悪名がまたフィオーレ全土に広がってしまった。

 

 

妖精の尻尾に取材が来ているころ、ハルトは自宅で横になりながら不貞腐れていた。

 

「ハルト〜取材が来てるからギルドに行こうでごじゃる〜」

 

マタムネはハルトの袖を引っ張って連れて行こうとするがハルトは全く動こうとはしない。

 

「行きたきゃマタムネだけ行けばいいだろうが。俺は今日は動きたくねえ」

 

「ハルトにせっしゃの魅力を伝えて欲しいでごじゃる!せっしゃが女の子からモテモテになるために!!」

 

「お前は普段の行動がマイナスだから望み薄だな」

 

「ひ、ひどいでごじゃる……そんなことないでごじゃる!せっしゃは普段はちゃんとしているでごじゃる!!」

 

マタムネが必死になってハルトを引っ張っていると、ハルトはため息を吐いた。

 

「はぁ…わかったよ。今から行ってみるか……準備するからマタムネはポストに何か入ってないか見てきてくれ」

 

「ぎょい!!」

 

マタムネは意気揚々と外のポストを見ると大量に手紙が入っており、その手紙を見ると、

 

『御宅のネコがパンツを盗んでませんか?』

 

『御宅のネコに着替えを覗かれています』

 

『ネコがスケべ顔で胸に突っ込んでくるのが鬱陶しいんですけど』

 

『女性から苦情が殺到しております。即刻対処してください』

 

『ネコマジブッコロス』

 

などなど……

それを見たマタムネは無言で手紙を見て、固まる。

こんなことハルトにバレてしまったら、ただでさえ不機嫌なのにまたストレスが溜まりシメられてしまう、と速攻で頭の中で予想ができ、冷汗が大量に流れる。

 

「おーい!どうしたー!」

 

遅いマタムネにハルトが窓から顔を出してマタムネを呼んで、マタムネは咄嗟に手紙を近くの茂みに隠した。

 

「い、いやっ!!なんでもないでございます!!!」

 

「“ございます”?」

 

「なんでもないでごじゃる!!」

 

マタムネは慌てて中に入った。

そして、その時マタムネは最後まで手紙を見なかった。

その手紙の中に一通、仕事の依頼があり、その手紙の宛先は『カルバート・マキナ』と書かれてあった。



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設定2

読みにくかったらすいません。


ハルト・アーウェングス

年齢 19歳

容姿 髪はオレンジ色の髪を短くしており、立たせている

顔は上の下くらい(皆様のご想像で)

背丈は少し背が高いくらい

服 上着はオーダーメイドで激しく動いても破れない、伸縮性が高く

色合いは白を基調にして所々にオレンジと赤のラインや模様が

入っていて(詳しくは皆様のご想像で)、魔法がかけらており、

色々な防御魔法がかけらている。

下着は黒で妖精の尻尾のロゴマークが入っている

下もオーダーメイドの黒の長ズボン

魔法 覇の滅竜魔法

覇竜の剛拳 魔力を拳に込めて放つ技

覇竜の螺旋拳 魔力を拳に込めて、腕をひねり、出すと同時に

戻すことで回転を加えより強力な一撃になる

覇竜の旋拳 空いてが迫ってきたのを回転しながら腰を落と

し、懐に潜り込み覇竜の剛拳を放つカウンター技

覇牙連拳 両手に魔力を込め、連打して放つ技

覇竜の剛腕 腕に魔力を纏わせ、具現化し自身を守る防御技

覇竜の剛腕・包華 覇竜の剛腕を自分の周りに何本も出し全方

位から守る技だが、操作が難しく時間が掛かっ

てしまう

竜牙弾 魔力を一点に集め、一点を中心に渦を巻くように魔力

を固めた魔法、魔法の操作なら一般の魔導士でもでき

るが魔力単体を固めるには技術がいるため、今のとこ

ろハルトしかできない。ハルトの必殺技。

竜戟弾 竜牙弾を腕に付加し、殴る方向に放出を固めることで

竜牙弾の威力を一点に集中させることに成功したが、

腕に多大な負担がかかる。

浮遊魔法 乗り物酔いにならないために覚えた魔法だが、何故

か1人しか浮かせることができないので、ナツに

頼まれても助けてあげれない

合体魔法

紅金竜双乱舞 ナツとの合体魔法 ナツが縦横無尽に暴れるの

に合わせて、ハルトが避けられないように攻撃

する

備考 魔導士ギルド妖精の尻尾に所属している魔導士。

ギルド内では暴走しがちな他のメンバーをなだめるか、鎮圧し

ている。過去に何かあったのかルーシィをエミリアという人物

と間違えてた。弱点は自分の二つ名の「妖精の覇王」と呼ばれ

ること。執事に対して若干の苦手意識がある。

ルーシィを誰かと重ねて見てしまっているフシがある。

普段はみんなを止める側だが、ストレスが溜まるとキレやすく

なる。

 

 

マタムネ

年齢?

容姿 白に黒の模様がある

腰にハルトが作ってくれた木刀を差している

魔法 翼

背中から羽を出し、飛ぶことができる。

備考

ハルトのパートナー。昔見た映画ラクリマの侍に憧れて口調な

どがごじゃる口調になっている。

スケべで最近女性団体に睨まれている。

おっぱいに並々ならない情熱がある。

 

ランチア・スザータ

年齢29歳

容姿 家庭教師ヒットマンリボーン!!のランチア

魔法 操作魔法

物体を自分の意思で操れる。ランチアは鎖や鉄球を操ってい

た。

暴蛇烈破 掌底で鉄球を打って相手に攻撃する技

嵐蛇烈破 鉄球で自分の周りに風を起こし、相手を引きつけ

態勢を崩した所に風を巻き込んだ鉄球を当てる強烈

な攻撃。

備考 傭兵ギルド鋼鉄の人形のメンバーだったが、実は鋼鉄の人形に

襲撃されたギルドの一員で捕虜にされた家族と仲間を助けるた

めに無理矢理従わされていた。

現在は評議院に捕まっているが、情状酌量の余地があると見な

され、刑は軽くなっている。

 

 

カミナ・ハクシロ

年齢19

容姿 白髪で後ろの髪をまとめてる。かなりのイケメン。

背丈はハルより少し高い。

服 白のコートを着ており、コート内には色々な道具を持っている

下は黒のシャツを着ている。

魔法 鬼道 東洋に広く伝わっている魔法で、全てで100個ある。

白魔法 浄化、状態異常を治すなどの魔法。カミナは鬼道に白魔

法を混ぜて、威力の底上げをしている。

白絶斬 刀に白魔法を凝縮して放つ斬撃。

過程消去魔法 魔法を放つ過程を無くす魔法。これによりカミナは誰

よりも早く魔法を放てるが、消費魔力が大きく乱発は

できない。

式神 巻物に封印した魔物を呼び出せる。

狼…狼の魔物。素早く、魔力の篭った爪と牙を持ち、

その体毛は魔法に強い耐性を持つ。

繭姫…遊女の格好をした魔物。人を癒す力を持ってい

るが、毒を放出して敵を攻撃することもできる

断亀…亀の魔物。背中の甲羅に宝玉があり、常に宙に

浮いている。攻撃を防ぐ力を持つ。

備考 妖精の尻尾の魔導士で、妖精の尻尾内での最強の1人に数えられている。評議会からのクエストや、ギルドのクエストを掛け持ちしているのであまりギルドには帰ってこない。

普段はあまり誰とも喋らず、1人であることが多いが、恋人のミラが常にそばにいるが、ミラは過去の事故でリサーナを失っており、その反動でカミナのそばにいないと少し不安定なところが見られる。

カミナ自身もリサーナの事故には負い目を感じており、ミラの頼みは断らない。

カミナは元々は東洋にある倭国出身であるが、ある時ハルトと出会い、妖精の尻尾に入ることになった。

 

 

ルシェド・マクガイア

年齢22

容姿 ルーシィより淡い金髪でオールバックに固めた髪型で、年齢より少し大人ぽっく見える。

服 コートの下に軽鎧を着て、レイピアを腰に挿してある。

魔法

ボム…光球を自身の周りに出現させ、操作し爆発させる。属性ごとに効果が異なり、火、水、土、風、雷の5つの属性がある。連携技が多々ある。

グラウンドボム…光球を地面に忍ばせて、相手がそこを踏むと爆発する魔法。

ペンタグラム・イクスプロージョン…空中に五芒星を描き、その頂点にそれぞれの光球を置き相乗効果を促し、五芒星の中心に1つの光球を作り放つ魔法。5つの属性が1つになるのでその威力は絶大。

備考

元ファントムの魔導士でファントムではジョゼを抜いての最強の魔導士だった。フィオーレ王国にある魔法学園都市ラナンキュラスで最も明晰な学校を首席で卒業した。その直後、評議会にスカウトされるが冒険に憧れ、ギルドに入ったが入ったのは裏で犯罪をしておりその戦闘力を利用されたが、仲間のためと気づかないふりをしたが裏切られそのギルドを壊滅した。その後人間不信になり、ジョゼにスカウトされファントムに入った。現在は学園都市で一から出直すため、講師のバイトをしながら新たな魔法の開発に勤しんでいる。

 

 

カルバート・マキナ

年齢32

容姿

くすんだ灰色の髪を無造作に伸ばし、背は高いがヒョロッとしている

黒のスーツに手袋をし肌をあまり見せない服装。

魔法

錬金魔法…何かを代償に作り出す魔法。物質があれば魔力を介して自分が頭の中に思い浮かんだものを作れる。それを作るにはそれを理解できる知識が必要。

備考

ジェラールの部下だったが、それは自身の目的のためで楽園の塔自体はどうでもよかったらしい。自身の体すら魔法で機械化している。



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機械の心臓 篇
第58話 錬金の男


オリジナルストーリー始めます!


取材が終わり、数日が経った。

相変わらずの馬鹿騒ぎで賑わっている。

その中でも特にやかましいのがいた。

 

「テメェ俺の炎バーガー食ったろうが!!」

 

「食うかよ!あんな炎の塊!!テメェが食ったの忘れただけじゃねえのか!!?」

 

いつも通りナツとグレイが喧嘩をしていた。

 

「あ〜ぁ、またやってる。飽きないわね、あの2人」

 

「まぁ、いいではないか。喧嘩するほど仲がいいと言うしな。あむっ」

 

それをバーのカウンターで眺めていたルーシィは呆れ、エルザはケーキを食べていて上機嫌に返した。

 

「またやってんのか」

 

「ハルトも止めなくていいの?」

 

そこにキッチンでバイトをしていたハルトも出てきて、ナツとグレイの喧嘩を見た。

ルーシィが聞くがハルト面倒くさそうにため息を吐くだけだ。

 

「あいつらなんだ止めても喧嘩するからキリがねぇんだよ。しばらく喧嘩させて発散させたほうがいいだろ」

 

(面倒くさくなっちゃった?)

 

ハルトはそう言うが顔に止めるの面倒くさいとありありと書いてあるのがルーシィにはわかった。

 

「で、原因の炎バーガーはどうしてなくなったでごじゃるか?」

 

「ナツが寝ながら食べちゃったんだ」

 

「アホかあいつは・・・」

 

マタムネと避難したハッピーの会話を聞いたハルトはさらに嫌な顔をした。

さらに激化した喧嘩は周りを巻き込み始めた。

 

「ね、ねえ。流石にやばいんじゃないの?」

 

「大丈夫だ。あいつらも加減がわかっているだろうしな。ハルト!次はパフェを頼む!」

 

「はいよ」

 

(エルザはただ甘いものを食べたいだけなんじゃ・・・)

 

ルーシィは声高くハルトに注文するエルザを見てそんなことを考えてしまう。

しかもあながち間違っていない。

さらにナツとグレイの喧嘩は激しくなり、空き瓶やら椅子が飛んできた。

 

「ちょ、ちょっと!これはまずいでしょ!!」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「妖精パフェお待ち」

 

「来た!いただきま……」

 

エルザが目を輝かせ、スプーンを手に取ってパフェを食べようとした瞬間飛んできた空き瓶がパフェに直撃し、パフェは無残な形になった。

それを見たエルザは固まってしまう。

 

「え、エルザ?大丈夫?」

 

ルーシィは恐る恐る声をかけるがエルザは固まったままだ。

だが次第にプルプルと震え出し、目でわかるほどの怒気が溢れ出した。

 

「貴様らあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「「げっ!?エルザ!!?」」

 

「覚悟しろォォォォォッ!!!!」

 

「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!!!」」

 

エルザは煉獄の鎧の武器を振り回しながら、ナツとグレイの所に突撃し2人の悲鳴がギルド中に響いた。

 

「これで静かになったな」

 

「いいのかな……?」

 

ハルトは安心した顔でそう言うが、ルーシィはボロボロにされているナツとグレイを見て、冷や汗を流してしまう。

その時、1人の男がギルドに入り、ナツとグレイの所にゆっくりと歩いていき、目の前で止まった。

 

「相変わらずのバカをやっているみたいだな」

 

その一言でエルザは手を止めその男を見て、ナツとグレイもその男を見て驚愕した。

 

「テメェは!!!」

 

「カルバート!!?」

 

その男は楽園の塔を設計し、錬金魔法でハルト、ナツ、グレイを翻弄した男、カルバート・マキナだった。

ナツとグレイはすぐさま立ち上がり、身構える。

突然身構えたナツたちに驚く周りは何がなんだかわからなかった。

 

「お前たちどうしたんだ?」

 

「エルザ、離れてろ」

 

「こいつ!ジェラールの仲間だったやつだ!!」

 

「何だと!?」

 

驚愕するエルザにカルバートはなんともない声で話しかける。

 

「そんなことはどうでもいいだろう。それよりアーウェングスはどこにいる?」

 

「そんなことだと……?」

 

カルバートの言葉に怒りを覚えたエルザはカルバートを睨む。

その雰囲気にただならいものを感じた周りも、少し身構える。

そこにマカロフが現れた。

 

「やめい。ギルドに来た者を突然睨むとは何ごとじゃ」

 

「そうだ。今回俺は客として来たんだ」

 

「じーちゃん!だけどコイツはエルザに酷いことした奴らの1人なんだぞ!!」

 

「何?」

 

マカロフはそれを聞いてカルバートを見るが、ただ見るだけで何も言わない。

 

「とりあえず話だけでも聞いてやれ。ハルトはどこにおる?」

 

「ここだぜ」

 

ハルトが現れ、カルバートとハルトたちは奥のテーブルで話すことになった。

 

「それで話って何だ?」

 

「おいおい。事前に手紙を送って知らせたはずだが?」

 

「手紙?」

 

「あっ!もしかして女性団体からの手紙と一緒に捨ててしまったかもしれないでごじゃる……」

 

「何したんだ、お前は!」

 

「いだだだだっ!!!」

 

ハルトがマタムネの頭を鷲掴みにし、ギリギリと締め上げる。

カルバートひそれを懐からタバコを取り、それを吸いながら呆れたように煙を吐き話を変えた。

 

「知らないなら改めてここで言わせてもらおう。仕事を頼みたい」

 

「仕事?」

 

カルバートの予想外の言葉にハルトは聞き返す。

 

「ああ、報酬は40億J払おう」

 

「よ…!?」

 

「「「「「40億!!!?」」」」」

 

カルバートの報酬にエルザ以外がひどく驚いた。

 

「よ、40億って……!」

 

「マジかよ!!」

 

「本当だ。本来ならこんな金払う必要なんてなかったんだがな」

 

「……どういうことだ?」

 

カルバートの言葉に今まで黙っていたエルザが口を開いた。

カルバートは口から煙をふかしながら話した。

 

「楽園の塔……本来あの塔にはRシステムなんて魔法を使う機能なんてなかったんだ」

 

「どういうことだ!!」

 

エルザは立ち上がり大声をあげる。

周りのみんなはその声に驚き、エルザ達のほうを向く。

 

「え、エルザ……落ち着いて……」

 

「すまない……」

 

ルーシィが恐る恐る声をかけると、エルザはカルバートを睨みながら座った。

 

「で、どういう訳なんだ?」

 

「……あの塔は俺の目的のために作った塔だったんだ。ジェラールがエーテリオンを打たせ、魔力が充填された時点で成功だったんだが、お前らが壊したくれたおかげ全てが失敗だ」

 

カルバートは残り少ないタバコを握りつぶし、改めてハルト達を見て、睨んだ。

 

「お前たちにはつぐなって貰わないといけないんだよ」

 

これが人生を償うために生きる男と妖精たちの始まりだった。



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第59話 機械の匂い

ハルト達はカルバートが用意した馬車に乗って、カルバートが指定した場所まで移動していた。

 

「ぐおおぉぉぉぉ…………!」

 

「また酔ったのかよ?いい加減歩いて行けよ」

 

「たぶん聞こえてないね」

 

「学ばないでごじゃる」

 

「ハルトぉ〜浮かせてくれぇ……うぷっ!」

 

「だから無理だって」

 

相変わらずのナツの乗り物酔いにハルト達は呆れるが、エルザは馬車の小窓から外を眺めて、会話に参加していなかった。

 

「エルザ、大丈夫?」

 

「うん?ああ、大丈夫だ」

 

ルーシィが心配して話しかけるが、エルザはどこか上の空だ。

エルザはギルドでのカルバートとの話をずっと思い返していた。

 

 

「お前たちには償って貰わないといけないんだよ」

 

カルバートがそう言った瞬間、エルザはテーブルを殴りつけ、その部分にヒビが入った。

 

「……償えだと?ふざけるな!!あの塔の設計したのはお前なんだろう!!償うのはあの塔を設計し、作らせたお前だろう!!!」

 

「設計したのは俺だが、作らせたのはジェラールだ。履き違えんなよ」

 

カルバートは2本目のタバコを取り出し、火を付けた。

 

「で、受けるのか?受けないのか?」

 

「受けるわけがないだろう!!お前は評議会に指名手配されていたはずだ!!ギルドの規律にも反する!!!」

 

エルザはそう言うが、明らかに感情が入っているのがわかる。

そしてカルバートは昔ある事件を起こし、評議会から指名手配されていた。

 

「俺は今は指名手配されていない。評議会が指名手配にしたのは15年前だ。もうとっくに時効だよ。それに今は評議会は機能していない」

 

評議会はジェラールの事件により、破壊されてしまい機能していなかった。

 

「お前たちにとっても悪くない話だろう。40億Jなんて大金中々手に入らないしな」

 

「私たちを見くびるな!金で全ての仕事を受けるわけがない!!」

 

「そう言うわけだ。帰ってくれ」

 

ハルトがそう言い、ハルトたちは立ち上がってテーブルから離れる。

カルバートはそれを見て、仕方ないと言った風にため息を吐いた。

 

「ハァ……じゃあこう言えば、仕事をしてくれるか?」

 

「なんだよ?」

 

カルバートは煙を吐き、口を開く。

 

「あと一週間でフィオーレ王国は滅ぶぞ」

 

 

ハルトたちはその言葉が本当かどうかわからなかったが、万が一のためにもカルバートの依頼を受けるようにマカロフから言われ、受けることになりカルバートが指定した場所に行くことになった。

 

「着いたみたいだぜ」

 

グレイがそう言い、見た先にはカルバートが立っており、そこに降りた。

 

「実はもう1人別に雇ったんだが、どうやら遅れてるみたいだな」

 

「もう1人?別のギルドにも依頼したのか?」

 

「いや、フリーの魔導士に頼んだがもう時間がない。仕方ない。今から依頼の内容を伝えるぞ」

 

「こんな森の中に何かあるのかよ」

 

「今からそれを言うって言ってんだろうが。黙ってろ、露出狂」

 

「なんだと!?」

 

カルバートは突っかかってくるグレイに辛辣に返すが、事実グレイはもう脱いでる。

 

「グレイ殿……」

 

「服また脱いでるよ」

 

「げっ!?」

 

「依頼はこの森の奥にいるある男を捕まえて欲しい。多少手荒になっても構わない」

 

「一体誰なんだ?」

 

「それはお前たちには関係ない。ただそいつを捕まえて欲しい。それだけだ」

 

「一般人なんじゃないの?その人って?」

 

ルーシィがそう聞くとカルバートは一瞬複雑そうな顔をしたが、すぐ戻した。

 

「いや、一般人じゃない。それどころか人じゃない」

 

「人じゃない?」

 

「なんだそりゃ?」

 

ハルトたちはわけがわからなかった。

 

「アーウェングスとドラグニルならわかるはずだ」

 

カルバートひそう言い、自分が指した方向と逆のほうに向かった。

 

「お前はどこに行くんだ」

 

エルザがカルバートにそう聞く。

エルザはまだカルバートを信用したわけではなく、ハルトたちも完全に信用したわけでないがエルザは特に疑っていた。

ハルトからジェラール操られていたと考え、その犯人は誰かを探していた。

そしてその矢先に来たのがカルバートだった。

疑っても仕方なかった。

 

「俺は俺でやることがある。後はお前たちに任す」

 

そう言ってカルバートはどこかに消えていった。

 

「仕方ねえ。取り敢えず行くぞ」

 

ハルトをはじめとして森の中に進んで行った。

 

「それにしても本当なのかな?あと一週間でフィオーレが滅んじゃうなんて」

 

「デマじゃねーのか?アイツは楽園の塔で敵だったんだ。今度は味方ってわけじゃねーだろ」

 

「そうだけど……」

 

「だから今回の仕事は俺たちが受けたんだ。じーさんはカルバートの言葉が本当かどうかを確かめるように頼んだんだ。もしもの時は仕事をいつでもやめていいって言ってたしな」

 

ハルトがそう言い、みんなは黙って進むとハッピーがナツにこえをかけた。

 

「ナツ、珍しいね。そんなに黙ってるなんて。あのカルバートって人が来たときもずっと黙ってたし」

 

ハッピーはナツの様子がおかしいことを気にしていた。

ナツはカルバートが来てから大人しくなっていたのだ。

いつもなら噛み付く勢いなのにも関わらず、黙ったままだった。

 

「なんかアイツの匂いが苦手なんだよな」

 

「匂い?」

 

「おう。人の匂いと油くさい匂いが混ざって変な気分なんだ」

 

「人と油?」

 

「オメー、そりゃアイツの体の一部が機械だからじゃねーのか?」

 

「いや、それだけじゃねえんだよなー」

 

ナツが不思議そうに頭をかしげた瞬間、ハルトとナツの動きが止まった。

 

「どうした。ハルト?」

 

「ナツ、感じたか?」

 

「おう」

 

エルザが立ち止まったハルトに聞くと、ハルトはナツに確認を取るかのように聞いた。

 

「ナツが言った人と油の匂いを感じた。しかも今回は油の匂いが強い」

 

「え?それってどういうことでごじゃる?」

 

「わからん。言うならば機械の匂いなんだが、こんなのは初めてなんだ……取り敢えず進もう」

 

ハルトたちが進むとそこには開けた場所に小さな小屋があった。

 

「小屋?こんな森の奥に?」

 

「ハルト、ナツ。人の気配はあるのか?」

 

「…………」

 

「………うーん」

 

「どうしたんだよ?」

 

「いや……」

 

「わかんねえ……」

 

エルザの言葉にハルトとナツは難しそうな顔をして答えれない。

 

「わからないってどういうこと?」

 

「こいつ……人なのか?」

 

「初めての匂いなんだよ。人がどうかすらわかんねえ」

 

「あっ!誰か出て来たでごじゃる!」

 

ハルトとナツがそう答えた瞬間、小屋から誰かが出て来た。

灰色の髪をボウズヘアーで整えたガタイが良い男だった。

 

「あれ、人だよ?」

 

「おいおい。2人とも鼻の調子が悪いんじゃねえのか?」

 

「じゃあ、あの人がカルバートが言ってた人なのかな?匂いに特徴があるみたいなこと言ってたし」

 

「取り敢えず話を聞きに行くぞ。話をすれば大人しく着いて来てくれるかもしれない」

 

「お、おい!エルザ!いきなりだな」

 

「早くカルバートの依頼をこなして、アイツの目的を明確にするためだ」

 

エルザが進んで話をしに行くために茂みから出た。

男は薪割りをしており、エルザたちが近づくとその手を止めてエルザたちに振り向いた。

 

「何か用ですか?」

 

「突然すいません。私たちは妖精の尻尾の魔導士です。いきなりですが私たちと一緒に来てくれませんか?ある男が貴方に会いたいそうです」

 

「そうですか……」

 

男はエルザたちに背を向けた瞬間、素早く振り向き手に持っていた斧をふり投げた。

 

「キャッ!!」

 

「危ない!!」

 

エルザは素早く剣を換装し、その斧を叩き落とした。

 

「何をする!!」

 

「お前たち、カルバートの仕事を受けたんだろう?なら、着いて行くのも連れて行かれるのも断る」

 

「おい。ちょっと待てって俺たちは別に無理やり連れて行こうなんざ思ってねえよ」

 

グレイがそう言うが男は鋭い目つきでハルトたちを見据える。

 

「それでもお前たちはカルバートの依頼を受けた。それだけで……」

 

男は姿勢を低くし、戦う姿勢になった。

 

「俺の敵も同然だ」

 



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第60話 鋼鉄の肌

姿勢を低くした男はハルトたちに向かって走り出した。

 

「しゃーねえな!しばらく大人しくして貰うぜ!!アイスメイク!ランス!!」

 

グレイがランスを放つが、男は紙一重で全てをかわす。

 

「火竜の咆哮!!」

 

続けてナツが炎の咆哮を放つ。

その咆哮は男に直撃した。

 

「ちょっ、ちょっとナツ!やりすぎだって!!」

 

ルーシィが火達磨になった男を見てナツにそう言うが、ナツは油断なく男を見据える。

すると火達磨になったはずの男は倒れることなく、腕をこっちに伸ばす。

するとその腕は離れていたナツに向かって伸び、ナツの顎に拳がはいった。

 

「がっ!?」

 

「なっ!」

 

「うそっ!」

 

男はゆっくりと炎の中から出て来た。

至る所が黒く煤けているがそれを全く意にも介してない様子だ。

それよりハルトたちが驚いたのはその腕だった。

ナツを殴った拳は男の腕とケーブルで繋がっていて、その拳と腕は鋼鉄でできていた。

 

「何あれ!」

 

「こいつもカルバートと同じ、体の一部を機械にしてんのかよ!」

 

「なら切り刻んで、動けなくする!!」

 

「ちょっと!?斬ったら犯罪になっちゃうわよ!!?」

 

「峰打ちだ!安心しろ!!」

 

エルザは素早く男の懐に入り、斬撃を繰り出す。

 

「やった!」

 

「決まったでごじゃる!」

 

マタムネとハッピーが喜ぶが、エルザは斬った剣を見て驚いた。

峰打ちだったが剣が激しく刃こぼれし、男の体には服は破れたが一切傷がついてなかった。

 

「なっ!?どういう……」

 

「同じか……」

 

「っ!ぐっ!?」

 

男はエルザの首を掴み、持ち上げる。

 

「離せ!」

 

エルザは蹴りを放つが鉄を蹴ったような音が響く。

 

「〜っ!?」

 

エルザは蹴った足をひどく痛がる。

 

「無駄だ」

 

「覇竜の剛拳!!」

 

ハルトは男の腹に剛拳を放ち、吹き飛ばす。

その拍子にエルザを放し、エルザは咳き込みながらハルトに礼を言う。

 

「ゲホッ!助かった、ありがとう。ハルト」

 

「………」

 

しかしハルトはエルザに反応せず、男を殴った拳を見て黙ってる。

 

「どうした?」

 

「いや、指が折れた」

 

「なに!?」

 

ハルトは男のあばらを折る気で殴ったが折れたのはハルトの拳だった。

 

「凄まじい力だな」

 

ハルトに吹き飛ばされた男はなんともない様子だった。

 

「ならアタシが!開け!金牛宮の扉!タウロス!!」

 

「MOOOOOO!!!!」

 

ルーシィはタウロスを呼び出した。

 

「タウロス!あの男を捕まえて!!」

 

「MOOO!!ルーシィさん!相変わらず素晴らしいお胸ですね!!」

 

「そうでごじゃる!!ルーシィ殿のおっぱいは素晴らしいでごじゃるよ!!!」

 

「しまった……タウロス呼んだらマタムネが暴走すんの忘れてた……

もう!そんなことしてないであの男を捕まえて!!」

 

「了解です!」

 

タウロスは男に抱きつくように捕まえた。

 

「やった!」

 

「MO?」

 

ルーシィは喜ぶがタウロスの様子がおかしかった。

締めていた腕を徐々に開いていく。

 

「ぐぬぬぬ…!この…!」

 

「フンッ!」

 

男はタウロスな腕を掴み徐々に押し広げていき、終いには押し返した。

 

「MOOOOO!?」

 

「そんなタウロスが押し負けるなんて!?なら……」

 

ルーシィは新しい鍵を取り出す。

 

「お願い!開け!獅子宮の扉!レオ!!」

 

ルーシィが呼び出したのは新しくルーシィの星霊になり、現時点でアクエリアスと同等の最強の星霊、獅子宮のレオだ。

 

「ルーシィのピンチに颯爽と参上!!」

 

「ロキ!あの男を捕まえてくれる!?」

 

「任せて!ルーシィのためなら火の中、水の中……」

 

「わかったから!早くお願い!!」

 

「了解!」

 

ロキは拳に魔力を纏わせ殴りかかるが、男はやはりかわしてしまう。

 

「やるね!」

 

ロキは続けて拳を振り続けるが一向に当たらない。

 

「これならどうかな!王の光よ!!」

 

ロキは魔力を高めて、光を放った。

これで相手の目を潰し奇襲しようとしたが、

 

「俺には効かん」

 

男は目を開いた状態でロキのすぐ目の前に立っており、拳を振り下ろそうとしていた。

 

「ナイスだ!ロキ!!覇竜の旋尾!!」

 

しかし、その瞬間ハルトは男の顔面に回し蹴りをして吹き飛ばし、男は何回もバウンドをして倒れた。

 

「うまく行ったね」

 

「これで倒れてくれると嬉しいんだけどな」

 

ハルトがそう言うが、男はすぐに何ともない様子で立ち上がる。

 

「まるで不死身だね……」

 

「しゃーねー、ナツ!!合わせろ!!」

 

「おう!」

 

「覇竜の……」

 

「火竜の……」

 

「「咆哮!!」」

 

黄金と炎の咆哮はまた男に直撃するが、構わず男はこちらに歩いてくる。

 

「アイスゲイザー!!」

 

すぐさまグレイが氷に閉じ込めるが男はそれを簡単に壊して出てこようとする。

 

「ハアッ!!」

 

エルザは天輪の鎧に換装し、何本もの槍を男の足元の地面に刺し、男の身動きを取れなくした。

 

「今だ!覇竜の剛拳!!」

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「レグルスインパクト!!」

 

その瞬間、ハルト、ナツ、ロキは男を殴り飛ばした。

しかし男は表情1つ変えずに立ち上がり、こっちに向かってくる。

 

「な、なんであんなに平然としてんのよ……」

 

「最早ホラーでごじゃる」

 

ルーシィ、またむ、ハッピーは何度攻撃しても平然と立ち上がってくる姿に恐怖を覚えた。

ハルトたちも男の姿に不気味なものを感じて固まってしまう。

しかしその中でハルトはすぐさま次の攻撃に移った。

 

「覇竜の…っ!?」

 

ハルトが殴ろうとした腕を男はそれより早く掴んだ。

 

「もう喰らわない」

 

「ぐあっ!?」

 

男ははハルトの腕を握りしめ捻ると、ハルトは痛さで膝をついてしまう。

 

「天輪!五芒星の剣(ペンタグラムソード)!!!」

 

その隙にエルザは5つの斬撃を放つが、やはり効いた様子はなかったが僅かな隙ができた。

 

「竜牙弾!!」

 

ハルトは竜牙弾を男の腹に放ち、なんとか離れることができた。

 

「ハルト!大丈夫!?」

 

「あ、ああ…なんとかな」

 

ハルトの腕は握られたところが紫色になっており痛々しかった。

 

「くそ…」

 

「ひどい怪我!待ってて今包帯を……」

 

「いや、まだ終わってない」

 

ハルトが見る先には竜牙弾を受けたはずの男が立ち上がっていた。

 

「ハルトの竜牙弾を生身で受けて立ってる!?」

 

「なんつータフさだよ……」

 

「ね、ねえ。あれって…」

 

ハッピーは驚き、グレイがうんざりした様子でそうこぼした。

ルーシィが戸惑いながら指をさしたのは、竜牙弾が直撃したところで、そこは服が破れさらには肉が抉れているが、血が出ていないが皮膚の下は鋼鉄の部分が見えていた。

 

「何だよ……あれ」

 

「カルバートみたいに義手みたいじゃないのか!?」

 

人の皮の下に機械が存在している異様な光景にハルトたちは不気味に感じてしまう。

男がまたハルトたちに向かおうとしたが体から電気みたいなものが漏れ、膝をついて止まった。

 

「チッ……」

 

「効いたでごじゃるか!?」

 

「今ならいけるよ!」

 

マタムネとハッピーはそうは言うがこの人か機械かもわからない男に戸惑い攻撃できない。

それでも男は立ち上がってこっちに向かってこようとし、ハルトたちはようやく身構える。

しかし男が数歩歩くと足元から鉄柱が現れ、男を囲み、電気を発生させた。

 

「グアアァァァァッ!!!」

 

「え?何!?」

 

「これは……」

 

突然のことに驚くハルトたち、男は電撃を浴びて苦しそうにしながらもハルトたちのほうに手を伸ばすが、さらに電撃が強まり男はとうとう気絶してしまった。

 

「何があったの?」

 

「わからねえ……」

 

「ご苦労だったな」

 

ハルトたちが突然のことに戸惑っていると背後から声が聞こえ、振り向くとそこにはカルバートが立っていた。

 

「依頼は完了だ」

 

ハルトたちに多くの疑問を残しながら謎の男との戦いは終わった。



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第61話 機械の心臓

戦いが終わり、帰りの馬車でハルトたちと戦った男はハルトたちと同じ馬車に乗っており、体を色々な機械の拘束具で固められ身動きが取れない状態で気絶していた。

 

「おい、カルバート。これはどういうことだ。この人は一体何者なんだ?あの鋼鉄の肌みたいなものは何なんだ?」

 

「ギルドってのは必要以上の詮索はしちゃいけないんじゃないのか?」

 

エルザがカルバートに聞くがカルバートは何も話す気がないのか、それだけを言って黙った。

 

「じゃあ、こっちから質問する」

 

「おい、だから……」

 

「この人はお前の家族か?」

 

ハルトのその言葉にカルバートは固まる。

 

「え?家族?」

 

「匂いがお前とよく似てる。機械の匂いがするところもな」

 

「………」

 

カルバートは何も言い返さず黙ってハルトと目を合わせたままでいると、

 

「その通りだ……」

 

気絶していた男が目を覚まし、ハルトの質問を肯定した。

 

「俺の名前はアルバス。カルバートの兄だ」

 

「黙れ!お前は兄貴なんかじゃない!!」

 

カルバートは声を荒げ、男、アルバスの胸ぐらを掴む。

その表情は怒りに染まっていた。

 

「実の兄に向かってこんなことをするなんてな」

 

「俺の兄貴は15年前に死んだ!!お前はただの機械だ!!!」

 

「お、おい。どういうことだよ」

 

ハルトたちもよくわからず聞こうとした瞬間、馬車の窓が割れアルバスの胸ぐらを掴んでいたカルバートの腕が吹き飛んだ。

 

「グアァッ!!!?」

 

「カル!!」

 

「なんだ!?」

 

「攻撃だ!!」

 

「いったいどこから!?」

 

ハルトたちが突然のことに驚いていると道の茂みから何かが現れ、馬車にぶつかり、馬車は横倒しになってしまった。

 

 

 

「いたた……何があったの?」

 

ルーシィは横倒しになったときに打った頭をさすりながら、起き上がると突然馬車の壁が破壊され、巨大な鉄の爪が顔のすぐ横に突き刺さった。

 

「きゃあっ!!」

 

壁は次々と破壊され、爪が迫ってくる。

ルーシィは後ろに下がるが狭い馬車なのですぐに行き止まってしまう。

 

「ちょっ、ちょっと〜!いきなりなんなのよ!!」

 

壁が完全に破壊され、現れたのは全身が金属でできた蜘蛛の化け物だった。

 

「な、なにこれ…?」

 

化け物は巨大な爪を振り上げ、ルーシィを突き刺そうとし、ルーシィは目をつぶってしまう。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

しかしハルトがそこに割り込み、化け物を殴り飛ばし、化け物は大きな凹みができ動かなくなった。

 

「大丈夫か!ルーシィ!!」

 

「は、ハルト〜」

 

ルーシィはハルトを見て、安心して体の力が抜ける。

 

「立ってくれルーシィ!今囲まれてるんだ!!」

 

「え?」

 

周りを見ると多くの蜘蛛の化け物が周りを囲んでおり、ナツたちが戦っていた。

 

「こんなにいるの!?」

 

「ルーシィこっちだ!」

 

ハルトに連れられ.岩の陰に行くとそこにはマタムネたちと腕が破壊された他に傷だらけのカルバートが横たわっていた。

 

「ルーシィ、マタムネたちと一緒にカルバートを看ていてくれ」

 

「う、うん」

 

それだけを言うとハルトはナツたちのところに戻った。

 

「ねえ。カルバートさんどうしたの?なんでこんなに傷だらけなの?」

 

「馬車から投げ出されたあと、あの蜘蛛の化け物がカルバート殿を狙って襲ってきたのでごじゃる」

 

「そうなんだ……」

 

「うぅ……っ」

 

「あ!目が覚めたよ!」

 

「大丈夫?」

 

「あ、アルバスは……」

 

「そういえばどこにいったのかしら?」

 

「俺のことはいい……早くアルバスを探してくれ……あいつらの狙いはアルバスだ……」

 

カルバートはそれだけを言うとまた気絶してしまった。

 

「あいつらって、あの機械の化け物のこと?」

 

「なんでアルバスが狙われるんだろう?」

 

「とりあえずハルトたちに伝えるでごじゃる!」

 

「うん。ハルトー!!」

 

ルーシィは岩陰から顔を出しハルトを呼んだ。

 

「なんだ!!クソッ!」

 

ハルトは多くの化け物と戦っており、そのうちの何体かが背中から2対の砲門を出し、ハルトに向かって撃ってくる。

 

「この化け物たちの狙いはアルバスなんだって!!」

 

「アルバス?なんであいつが……」

 

「わかんないけど、カルバートが探してくれって!」

 

「わかった!ナツ、グレイ、エルザ!!聞いたな!!こいつらはアルバスを狙ってる!俺はここでカルバートたちを守る!!先にアルバスを見つけるんだ!!」

 

「「「おう!!/わかった!!」」」

 

ナツたちは化け物の隙間を縫ってアルバスが消えて行った森の中に入った。

化け物たちはナツたちに目もくれずカルバートたちのほうに向かうがそこにハルトが立ちはだかる。

 

「お前たちの相手は俺だ」

 

 

エルザたちは三手に分かれてアルバスを追いかけた。

エルザがどんどん森の奥に行くとアルバスを見つけた。

 

「アルバス!!」

 

「君は……」

 

「妖精の尻尾のエルザだ。今回はいきなりのことですまなかった」

 

「いや、こちらこそすまなかった。先に手を出したのは俺のほうだ」

 

「カルバートがあの化け物たちは貴方を狙っていると言っていた。一緒にいたほうが安全だ」

 

「安全か……エルザと言ったな。頼みがある」

 

「なんだ?」

 

「俺を殺してくれ」

 

「なに!?」

 

アルバスの言葉にエルザは驚いた。

 

「どういうことだ……?」

 

「奴らの狙いは俺自身というよりこれだ」

 

アルバスはシャツの胸部分を開き、肌を見せると心臓部分が青く光った。

 

「それは……?」

 

「俺の体は脳以外は全て機械だ。そして奴らの狙いはこの機械の心臓だ。この心臓を壊せばそれで終わる」

 

「私は人殺しなんかしない!!」

 

「俺は人じゃない。ほとんど機械だ。気にすることなんてない」

 

「私たちが守る!軽々しく命を捨てるようなことをするな!!」

 

エルザはジェラールのことが頭によぎり強くそう言うが、アルバスは悲しげに笑みを浮かべる。

 

「優しいんだな。君は……」

 

アルバスがそう言った瞬間、横の森に顔をバッと向け、エルザに飛びかかり、押しのけた。

 

「なにを…!?」

 

「避けろ!」

 

次の瞬間アルバスの体は激しく爆発し吹き飛ばされた。

 

「アルバス!!」

 

「ぐっ……うぅ……」

 

アルバスの全身は皮膚が焼けただれ、その下の金属の部分が多く見え、さらに火花が至る所から出ている。

 

「しっかりしろ!!」

 

「に、逃げろ……コーサーが来た……」

 

「コーサー?」

 

エルザがアルバスを抱き起こすが、アルバスは動くことができない。

すると森の中から黒いコートに黒い手袋、サングラスをかけたスキンヘッドの大男が現れた。

 

「女。その男を渡せ」

 

「誰だ貴様は?」

 

「よ、よせ……」

 

「機体番号41657、コードネーム『コーサー』だ。もう一度言う。その男をこちらに渡せ」

 

「いきなり攻撃してきた者に渡すわけにはいかん!」

 

コーサーは冷たく感情がこもっていない機械的な声で話す。

 

「これより障害を排除する」



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第62話 コーサー

突然現れアルバスを襲ったコーサーと対峙するエルザは冷や汗をかいていた。

今まで多くの者と戦ってきたが今対峙しているコーサーからはその今までの経験とはまったく違う気配を感じていた。

 

(なんだ……?この…まるで人形を相手にしている感覚は……)

 

「戦闘開始」

 

そう言うや否やコーサーは凄まじい速さでエルザに向かって走りだし、向かってくる。

エルザも剣を換装し身構える。

コーサーが殴りかかり、エルザはそれをかわしカウンターで斬るがアルバス同様刃が欠けてしまった。

 

「ぐっ!こいつもか!!」

 

エルザは悪態をつくが、コーサーはそんなものは知らないとばかりにさらに攻撃をしてくる。

しかもだんだんとスピードが速くなりエルザが捌けなくなってきた。

 

「換装!」

 

エルザは一旦距離を取り、雷帝の鎧に換装し槍から電撃を放つ。

 

「ハアッ!!」

 

エルザが放った電撃はコーサーに直撃し、凄まじい閃光を放つがコーサーは平然とし、エルザに近づく。

 

「ッ!?……くっ!」

 

それに焦ったエルザはさらに強い電撃を放つがコーサーには全く効いた様子もなくとうとう槍を掴める距離になり、コーサーは槍を掴むとそのまま握りつぶしてしまった。

 

「これなら……!」

 

エルザは逃げもせず双剣と黒羽の鎧に換装し、斬るがそれも掴まれてしまうがエルザは即座に双剣を手放し、大剣で顔に重い一撃を与えた。

流石に効いたのかコーサーは顔をうつむかせ、固まった。

 

「やったか……?」

 

エルザがそう言った瞬間コーサーは顔を上げ、それを見たエルザは驚愕した。

サングラスが吹き飛ばされたためコーサーの目が露わになったがなんとその目は人間のものではなく、青い光った目であり、エルザがつけた斬撃の跡はアルバスのように血と肉が見えるようなものではなく、傷の部分が金属が抉れたようになっており、絶えずそこの部分が波打つように動いていた。

エルザは今まで見たこともないものを見て驚き、後ろに退がってしまう。

やがて傷の部分は粒子のようなものが波打ち、治ってしまった。

コーサーは再びエルザに目を向け、動こうとした瞬間、コーサーの背後からアルバスがコーサーを羽交い締めにした。

 

「今だ!!こいつに電撃を直接流し込め!!!」

 

しかしコーサーはエルザが動くよりも早くアルバスの顔を掴み、体から引き離し地面に叩きつけた。

 

「がっ……!!」

 

「アルバス!!」

 

エルザが叫び、再びコーサーに斬りかかろうとするがコーサーはエルザの剣をいとも簡単に掴み、腹に拳を放った。

 

「かはっ……!!」

 

たった一撃でエルザの動きを止め、さらにそこからラッシュで拳を放ってくる。

鎧は全て砕け、殴られたところからは骨が折れるが響く。

コーサーはエルザの首を掴み持ち上げ、胸の部分をみるとスキャンし、心臓の動きを見る。

そしてその心臓の動きに合わせ、心臓に目掛けて拳を放った。

 

「あっ………!」

 

心臓の動きと合わせて放たれた拳はエルザの心臓の鼓動を止めた。

コーサーはエルザの心臓が止まったことを確認し、気絶したアルバスを肩に担いで森の中に消えていった。

 

 

ナツとグレイは大きな電撃を見て、エルザがアルバスを見つけたと思い2人でエルザの方に向かっていた。

 

「たくっ……なんでナツと同じ考えなんだよ」

 

「アァッ!?それは俺のセリフだっつーの!!」

 

相変わらずのケンカ腰の2人だが、開けた場所に出た。

 

「ここらへんだよな?」

 

「エルザとあの機械野郎と強い電気の匂いがすんな」

 

「なんだよ電気の匂いって……」

 

「エルザの匂いはこっちからするぞ!」

 

ナツが向かう先にはエルザが倒れていた。

 

「エルザ!?」

 

「あのエルザが負けたのかよ……!?」

 

ナツとグレイがエルザが倒れていることに酷く驚くが、とりあえずエルザを抱き起こした。

 

「おい!エルザ!!しっかりしろ!!」

 

「なんか、やけにエルザの体冷たくないか?」

 

それに気づいたグレイは慌ててエルザの胸に耳を当てる。

 

「どうしたんだよ?」

 

「………る」

 

「あ?なんだって?」

 

「………止まってんだよ」

 

「何が止まって……!?」

 

ナツはグレイが涙を流していることに驚いた。

 

「エルザの心臓が止まってんだよ………」

 

一瞬、その場の空気が止まったかのように感じた。

 

「お、おい……何冗談言ってんだよ……そんなわけねえだろうが!!!」

 

「なら聞いてみろよ!!!」

 

ナツがグレイをどかし、耳を当てるが鼓動が聞こえてこない。

 

「息もしてねえ……」

 

「嘘だろ……」

 

ナツとグレイは呆然として座り込んでしまう。

すると周りの茂みからあの蜘蛛の化け物が現れた。

 

「テメーらか……」

 

ナツはゆっくり立ち上がり、一層低い声が放たれる。

 

「エルザを殺したのはテメえらかって聞いてんだ……」

 

化け物たちの砲門が一斉にナツたちに向けられる。

 

「答えろオォォォォォッ!!!!!!」

 

ナツから怒りの爆炎が放たれた。

 

 

その頃ハルトは無数に湧き出る化け物たちを相手にしていた。

 

「はあ……!キリがねえ!何体倒しても湧き出てきやがる!!」

 

ハルトはあれからずっと化け物を相手にしているが減る気配がない。

 

「アタシも手伝いたいけど魔力が……」

 

ルーシィの魔力はタウロスに続いて、レオを召喚して魔力がもう底を尽きかけていた。

 

「あわわわ……うじゃうじゃいて気持ち悪いでごじゃる」

 

「マタムネ虫苦手だもんね」

 

マタムネとハッピーがどうでもいい話をしているとカルバートの口がわずかに動いた。

 

「何か言ってるでごじゃる!」

 

「……ク……イーンを……倒……せ」

 

「クイーン?それを倒せば終わるのね!?ハルト!!クイーンを倒せばいいんだって!!」

 

「クイーン?んなもんどこにいんだよ」

 

ハルトは周りを見るがそれらしいものはいない。

 

「せっしゃたちが空から見てくるでごじゃる!」

 

マタムネとハッピーは飛び立ち、それに合わせて化け物たちは砲門をマタムネたちに合わせるがハルトがそれを止める。

 

「どこにいるでがじゃろう?」

 

「あ!あれ!」

 

ハッピーが指差した先には蜘蛛の腹部分が異様に大きい蜘蛛の化け物が2体いた。

 

「あれじゃない!?」

 

「ハルトー!あっちにそれらしいのがいたでごじゃる!」

 

「わかった!こっちだな……」

 

ハルトはマタムネが指差した方向を向き、魔力を貯める。

 

「覇竜の……咆哮ォ!!!!」

 

金色のブレスは蜘蛛の化け物を蹴散らしながらまっすぐ進み、奥に隠れていた2体のクイーンを破壊した。

 

「これで後はこいつらだけだな」

 

ハルトは両手に魔力を貯め、拳を作り構える。

 

「いくぞ!!」

 

 

ナツとグレイはエルザが死んでしまったことで理性が飛び、暴れ回っていた。

周りには多くの化け物たちの残骸が落ちていてその中心にナツとグレイは息を荒くして立っていた。

 

「ハア……ハア……」

 

「ハア……ハア……」

 

しかし無限に出てくる化け物たちにナツたちの体と魔力に限界が来ていた。

それでも2人は止まらなかった。

 

「火竜の咆哮ォッ!!!」

 

「アイスメイク!ハンマー!!」

 

ナツたちは攻撃するが、それを逃れた何体かがナツに向かって魔力弾を放ち、体力がなくなったナツにはそれをかわすことも防ぐこともできずに食らってしまう

 

「ぐはっ!!」

 

「ナツ!……アイスメイク!シールド!!」

 

打たれたナツは跪き、グレイがその間に入ってシールドを作り、続けて放たれる攻撃を防ぐ。

 

「ナツ!しっかりしろ!!」

 

「……わかってる!ぐっ……!?」

 

グレイが叱咤するが当たりどころが悪かったのか、体力の限界なのか立ち上がれない。

 

「ナツ!くそっ!!」

 

次第に攻撃は苛烈になって、とうとうグレイのシールドは破壊され、攻撃を魔力弾から爆弾ラクリマに変えて、グレイは爆発に巻き込まれてしまう。

 

「ぐああぁぁぁっ!!!」

 

「グレイ!!」

 

囲まれてしまったナツとグレイは魔力も体力もなくなってしまい、化け物たちを睨むが化け物たちは無慈悲に砲門をナツとグレイに向ける。

まさに絶対絶命のその時……

 

「こんな雑魚に何やってんのよ」

 

その言葉とともにナツたちを囲んでいた化け物たちは一斉に上から押しつぶされたかのようにペチャンコになって潰れてしまった。

突然のことに固まってしまうナツとグレイの耳にさっきの声が聞こえてくる。

 

「妖精の尻尾も案外たいしたことないわね」

 

ナツたちがその声がするほうを向くとナツたちの頭上に白髪の巻き髪の10代の少女が浮いていた。



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第63話 空間の魔女

突然現れた少女にナツたちは呆然とし、少女はナツたちの前に降りた。

 

「なに馬鹿面引っさげてんのよ。邪魔だからどっか行ってなさい」

 

少女はナツたちを見下げたように言い、ナツはカチンときた。

 

「ああ!?なんだテメー!!」

 

「邪魔だからそこで寝てる女を連れてどっか行ってなさいって言ったのよ。何?馬鹿だからわからないの?その頭みたいに頭の中も桜色なの?」

 

「テ、テメェ……!」

 

矢継ぎ早に馬鹿にされたナツは怒りでプルプルと震えてしまう。

そんなことをしていると森の中から化け物が多く現れた。

 

「チッ!またかよ!」

 

「鬱陶しいわね」

 

少女は再び上空に上がり、森を見渡すとクイーン3体を見つけた。

 

「おい!危ねえぞ!!」

 

浮かんだ少女の下から化け物から放たれたミサイルが迫り、着弾して爆発するが煙が晴れると無傷の状態だった。

 

「ふん」

 

「な、なんだ……?何かがあの子を守ったのか?」

 

突然のことが多すぎて訳がわからなくなっってきたグレイと怒りでいっぱいのナツは化け物が少女だけじゃなく、自分たちも狙われていることに気づかなかった。

 

「しまっ……!!」

 

気づいた時にはすでに魔法弾が放たれ、当たりそうなところでグレイとナツは咄嗟に目を閉じてしまう。

しかし、音だけするが痛みはいつまでたっても来ない。

目を開けると透明だがガラスのようにツヤがある立方体にナツ、グレイ、エルザは囲まれて守られていた。

 

「なんだ…これ?」

 

「あんたたち邪魔だからそこ動かないでよね!」

 

グレイが立方体に触れ確かめていると、少女が上からそう言い、クイーンがいるほうを向くとすでに逃げようとしていた。

 

「アタシから逃げられると思ってんの?」

 

少女が手をクイーンのほうに向けると立方体と同じ壁がクイーンたちの行き先を阻んだ。

少女は右手を手を下から持ち上げるような仕草をすると3体のクイーンが浮かび上がった。

クイーンは足をバタつかせ抵抗するが空振るだけで意味がない。

 

「すげぇ……」

 

「お、おい……あれ見ろよ」

 

ナツがあんな巨大なものを三体も持ち上げたことに驚いていると同時に下にいた化け物たちも浮かび上がった。

そして手のひらを上に向け、ゆっくり握ると浮かび上がったクイーンと化け物たちは一箇所に集まり中心に集まるように潰れていく。

 

「潰れなさい」

 

少女はそう言い右手を思いっきり握りしめ、化け物たちはありえないくらい小さくなり爆発した。

少女は呆然としている2人のほうを向いて上から偉そうに見下ろしていた。

 

「さあ、行くわよ」

 

 

ハルトは先にクイーンを倒し、残りの化け物も倒し終えたところだった。

 

「ふう……やっと終わったな」

 

「ハルトお疲れ様!……ゴメンね。アタシも魔力が残ってれば一緒に戦えたのに……」

 

カルバートと一緒に岩陰に隠れていたルーシィが出てきてハルトを労うが戦えなかったことに申し訳なさそうにしていた。

 

「いや、カルバートを見ててくれてこっちも助かった。ありがとなルーシィ」

 

「……うん」

 

ハルトはそう言い、ルーシィは少し複雑そうな表情をしていた。

 

「ハルトー!誰かがこっちに来てるでごじゃる!」

 

マタムネがそう言い、そっちのほうを向くと現れたのはエルザを抱えたナツとグレイだった。

 

「ナツ!グレイ!無事だったんだな!!……エルザはどうしたんだ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

ナツとグレイに聞いても何も言わない。

 

「まさか……!」

 

ハルトはナツからエルザを奪い、地面に寝かせ脈と呼吸を確認した。

 

「くそ!心臓が止まってから何分たった!!?」

 

「え?心臓が止まった……?」

 

ルーシィたちはハルトの言葉に呆然とする。

 

「わかんねぇ……でも少なくても5分は経ってる」

 

「ギリギリかよ……!」

 

ハルトはその場で心臓マッサージを始めた。

 

「起きろ!エルザ!!」

 

「無駄よ。心臓に電気が走って痙攣させてるわ」

 

「じゃあ、どうしろってんだよ!!」

 

ハルトは誰かかわからない言葉に咄嗟に怒鳴るが、ふと横を見るとナツとグレイを助けた少女が浮いていた。

 

「ラナ!!?」

 

「久しぶりね、ハルト。邪魔だから退きなさい」

 

「え、誰?あの子?」

 

「知らないよ」

 

ルーシィがそう呟くがハッピーもわからず首を傾ける。

しかしマタムネは少女、ラナを見ると今までにないくらい震えていた。

 

「あ、あの方は……!!!」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「あばばばばば………!!」

 

「マタムネ!?」

 

とうとうマタムネは泡を吹き出し、倒れてしまった。

 

「治せるのか?」

 

「アタシを誰だと思ってんのよ」

 

ハルトはエルザから離れ、ラナがエルザを浮かび上がらせ自分の目の前に来るようにし、品定めするように眺める。

 

「ふん。顔はまあまあ綺麗じゃない」

 

顔を見て視線を下に下ろして目つきが険しくなる。

ラナが見ていたのはエルザのたわわな胸だった。

次に自分のほぼ真っ平らな胸を見てさらに険しくする。

 

「何よ!こんなもの……!!」

 

そう言ってラナはエルザの胸を鷲掴んだ。

 

「お、おい!何してんだよ!!」

 

「やめろ!下手に逆らえば何もして貰えなくなる」

 

ナツとグレイがラナのいきなりの行動に驚き、止めに入ろうとするがハルトが止めた。

ラナは恨めしそうにエルザの胸を握り潰そうとするが、エルザの胸は柔らかくラナの小さな手の隙間からはみ出てしまう。

 

「アタシだってね!本来ならアンタくらいは……!!」

 

ラナは始終悔しそうにしていたが、ハルトが声をかけた。

 

「な、なあ…そろそろ……」

 

「わかってるわよ!!」

 

ラナはハルトに怒鳴ると目を閉じ、握っていた手に集中すると、突然ドンッと衝撃がエルザの体を貫いた。

 

「かはっ……!!」

 

その直後、エルザの口から空気が漏れ咳き込みだし、目を開けた。

 

「「「「「エルザ!!!」」」」」

 

「ごほっ……お前たちどうしたんだ?私は何を……何故か胸が特に痛いな?」

 

みんなが涙を流しながらエルザに駆け寄り、エルザは事態が飲み込めていない。

 

「エルザ心臓が止まっていたんだって。それをあの子が助けてくれたの」

 

ルーシィが目を向けるほうを向くとラナがそっぽを向いてハルトと話していた。

 

「どうやって助けたんだ?」

 

「簡単よ。無理やり心臓と血流を動かして電気は閉じ込めて消したわ」

 

そこに若干フラついているエルザが入ってきた。

 

「すまない。少しいいだろうか」

 

「何よ」

 

「君のおかげで命拾いをした。ありがとう」

 

「50万」

 

「? なにを……」

 

「謝礼金よ。命を助けたんだから50万J払いなさいよ」

 

「あ、ああ、わかった。喜んで払おう」

 

突然金を請求され、驚くエルザだが命を助けてくれた礼だと思い、快く承諾した。

 

「ハルト!カルバートって男はどこにいるの!?」

 

「カルバート?何だ?あいつに用でもあんのか?」

 

「アタシはあいつに雇われたからここにいるのよ」

 

「なんだ。あいつが頼んだフリーの魔導士ってラナのことなのか」

 

「ラナ?白い髪の少女で名前がラナ?まさか……!」

 

ハルトとラナの会話にエルザはあることを思い出した。

 

「まさか!君があの『空間の魔女』なのか!!?」

 

「ウソ!?」

 

エルザの言葉にルーシィも驚くが、ナツはなんのことだがわからないようで首を傾げている。

 

「『空間の魔女』?なんじゃそりゃ?」

 

「アンタ知らないの!?『空間の魔女』って言えば、魔獣の大群をものの数秒で壊滅したり、巨大津波を押し返したりなんて色々な偉業を残した伝説の魔導士よ!誰も姿を見たことがないから都市伝説みたいなものなんだけど、まさか本当にいるなんて……」

 

「ふーん」

 

「ふーんって、あんまり興味ないのね……」

 

「それより!俺はあのちんちくりんが気に入らねえんだよ!!ずっと上から目線で腹立つしよ!!」

 

「あっ!バカ……!」

 

ラナはナツのちんちくりんに肩をピクリと動かし、顔を向けずにナツに聞く。

 

「ねぇ……そこの桜頭……ちんちくりんって私のこと?」

 

「はあ?お前以外に誰が……ぶへっ!?」

 

ナツが言い返そうとした瞬間、頭上からキューブ状のものが落ちてきてナツを踏み潰した。

 

「フフフ……アタシのことをち、ちんちくりんですって?いい度胸してるじゃない!!」

 

「ま、待て!ラナ!ナツは本気で言ったわけじゃ……」

 

「これが空間の魔女の魔法……」

 

「エルザ!冷静に分析してる場合じゃないわよ!!なんかメリメリいってナツが潰れちゃう!!」

 

なんとかラナを宥め、ナツは解放されたが、

 

「なんか平たくなったね」

 

「うるせー」

 

「で、カルバートはどこなの?」

 

「それなんだがカルバートが重症なんだ。一旦ギルドに戻って治療しないと……」

 

「だけどここからギルドまで相当距離があるぜ?馬車もねえし足だと2日かかるぞ」

 

グレイが潰れた馬車を見ながらそう言うとハルトはラナを見た。

 

「はぁー……わかったわよ」

 

 

「うおー!!!スゲー!!!!」

 

ハルトたちはラナの魔法で宙に浮かび、移動していた。

凄まじいスピードで移動しておりさっきまで不機嫌そうだったナツは興奮している。

 

「凄いな……これほどのスピードで飛ぶことができるのか」

 

「オイラたちの意味が……」

 

「なくなっちゃったでごじゃる………」

 

「何か言った?エロネコ?」

 

「いえ!なんでもありません!!!」

 

マタムネたちのボヤきを聞いていたラナはマタムネだけを睨むように見るとマタムネはいつもの口調を忘れて、それは美しい敬礼をした。

しかしマタムネの顔は青ざめ、また体が震えていた。

 

「いったい何があったの……?」

 

ルーシィはマタムネの変わりようが気になった。

 

「ラナの魔法は『空間』は空間を固定して操ることができるんだ。こうやって俺たちを浮かしたり、固定した空間で相手にを攻撃したりとかな」

 

「こんなに早いのに全く風を感じない」

 

「当たり前よ。防御もなしにこんなスピードで移動したら髪がめちゃくちゃになるわ。それより見えてきたわよ」

 

ラナが見据える先には妖精の尻尾のギルドがあった。




*ラナの容姿は白髪のタツマキだと思ってくれたらいいです。


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第64話 機械の侵略

ギルドマスター同士が報告会で使われるクローバーの会場は以前ハルトの猛攻で倒されたララバイが倒れたせいで潰れたがハルトが賠償金を払ったことですぐに建て直された。

その時ハルトは余りの金額に震えていた。

そして今回は緊急で各地方のギルドマスターが集められ、集会が行われた。

そしてそれはマカロフにも呼びがかかり、カミナを連れて参加した。

 

「あらぁ?マカロフじゃな〜い」

 

「おう、ボブ。久しぶりじゃのう」

 

「お久しぶりです。マスターボブ」

 

「お久しぶり!カミナちゃ〜ん!!相変わらずイケメンね〜!!どうウチでホストとして働かない?」

 

いつもより数倍猫撫で声でカミナに詰め寄るが、カミナは即座に距離をとって殺気をぶつけ、刀に手をかける。

 

「お断りします」

 

「相変わらずトゲトゲしくて、クールね〜………タマンないわ」

 

一瞬真顔になって呟くボブにカミナは刀を抜きかける。

 

「まあ、落ち着け。ボブにも悪気はないんじゃ、多分……。それはそうとボブ、今回の緊急の呼び出しの案件は何か知っておるか?」

 

「わかんないわね〜。各マスターはギルドの魔導士1人を連れてくるってのもわかんないし」

 

「そういえばお主のところの連れはどこにおるんじゃ?」

 

「それが何処かに行っちゃったのよ〜社会見学のためって連れ出したけど、これじゃ意味がないわ」

 

ボブは頬に手を困った顔をした。

会場の廊下を進んでいくと廊下にある人物が立っていた。

 

「おおっ、ゴールドマイン。お主も来ったのか」

 

「当たり前だろ。それより今回ちょっと不味いみたいだぜ……」

 

ゴールドマインの言葉にマカロフは怪訝な顔をしながら、会場に入り説明を待っていると、上座にメガネをかけてキリッとした男が現れた。

その男は白を基調とした豪華なマントを羽織っており、フィオーレ王国の紋章が大きくあしらってある。

 

「皆様。今回緊急にも関わらず集まってもらいありがとうございます。私は王国諜報部隊所属のキース・サイカスと申します」

 

「王国?フィオーレ王国自体が今回私たちを集めたのですか?」

 

マスターの1人が手を挙げて質問した。

 

「現在ギルドを統括する評議会が存在しておりませんので、フィオーレ国王の命により私たちが動いております。さて、それでは本題に参りましょう。細かい説明を抜きにして言いますと現在フィオーレ王国は危機的な状況にあります」

 

そのひとことにざわつくがキースは構わず続ける。

 

「近頃、小さな村や町が謎の集団に襲撃されるという事件が立て続けに起こっておりますが、その原因が判明いたしました」

 

キースが懐から小型のラクリマを取り出すとテーブルの真ん中に転がした。

ラクリマが真ん中にたどり着くと止まり動きを止め、上空に映像が投影され、そこにはハルトたちが戦った機械の化け物たちが映っていた。

 

「これは……」

 

「機械か」

 

「いったい誰がこんな物を……」

 

「この機械は最近になって突然現れたと思われたのですが、実は以前から存在していたことが分かりました。25年前、フィオーレ王国南西に存在したサリックス国の内戦で使われていたらしいです」

 

「サリックス……あの謎の大爆発で消滅した国か」

 

キースの言葉にマカロフが反応する。

 

「そうです。そしてそれらを作ったのはカルバート・マキナという男だということがわかっています」

 

その言葉にマカロフとカミナの肩がピクリと動く。

 

「で、今回はなんで俺たちギルドマスターが集められたんだ?」

 

「その機械の化け物たちが突然フィオーレ王国中の町や国を囲むように現れたからだ」

 

ゴールドマインが質問すると後ろの扉からある男が現れた。

 

「ジェイド王子!?」

 

現れたのはフィオーレ王国の王子、ジェイド・E・フィオーレだ。

キースが驚き、すぐさま敬礼を取りマスター達も敬礼を取った。

 

「いい、楽にしろ」

 

「なぜこのような場所に?」

 

「国の一大事だ。国の者が動かなくちゃ不味いだろう」

 

「しかし……」

 

「ここからは俺がやる。いいな?」

 

ジェイドの言葉にキースは下がった。

 

「あなた達を呼んだのはギルド周辺の町や村を守って欲しいからだ。王国も兵を遣わせてはいるが数が足りない。そこで各ギルドには国からの依頼として近くの村や町を守って欲しい」

 

王子ジェイドの言葉に全ギルドは依頼を請け負った。

 

 

解散となったあとカミナがマカロフから離れ、1人廊下を歩いていると柱にもたれかかる男に話しかけられた。

 

「久しぶりに会ったのに挨拶もなしか?」

 

「これはジェイド王子。何用で」

 

「そんな畏まった話し方は辞めろよ。俺とお前の仲だろ」

 

「なら外から狙っている奴に辞めさせるように言え」

 

カミナがそう言った瞬間、窓から見える木からキラリと何かが光った。

 

「あいつは俺に危害がない限り何もしてこないさ」

 

「そうか……挨拶だけが用じゃないんだろう?」

 

「まあな。お前のことだからカルバートの居場所を知っていると思って話しかけたんだが………どうやら当たりみたいだったな」

 

ジェイドは会合の時にカミナとマカロフの肩がカルバートの名前を出した時に動いていた見逃していなかった。

 

「俺というよりハルトが関係しているな。あいつのチームがカルバートの依頼を請け負っている」

 

「あいつは何かと騒ぎの中心にいるな」

 

ジェイドは少し呆れた様子だった。

 

「捕まえるのか?」

 

「いや、カルバートの技術は魅力的だ。少し泳がせるさ」

 

「相変わらずだな……」

 

カミナはジェイドのことを国のためならなんだってする男だと考えている。

フィオーレ王国にとって有益であればなんだって利用するのがジェイドだ。

ジェイドはそれだけを言って去ろうとしたが足を止めた。

 

「そう言えば……」

 

「どうかしたか?」

 

「お前、エリオを最近見たか?」

 

「エリオか?……5年前のあれ以来見てないぞ」

 

「………そうか」

 

「エリオがどうかしたのか?」

 

「いや……なんでもない」

 

「………そうか」

 

ジェイドは今度こそ去って行ったがカミナは怪訝な目を向けていた。

 

 

ラナのおかげで妖精の尻尾にたどり着いたハルトたちはカルバートを医務室に運び、マカロフに今回のことを話そうとしたがマカロフは緊急の定例会に参加して不在だった。

 

「困ったな……じいさんがいないならどうするべきか……」

 

「なんだよハルト!あの機械どもをぶっ倒せばいいだろ!!!やられぱっなしでいられるかよ!!!」

 

「あいつらの居場所がわかんねーだろうが。それくらいわかれよクソ炎」

 

「んだとグレイ!!」

 

「やんのかナツ!!」

 

「やめろ!お前ら!!」

 

また喧嘩が始まり、あっちこっちが壊される。

 

「まったくあいつらは……」

 

「怪我してるのに元気ね……エルザは大丈夫なの?」

 

「ああ、少し体が怠かったが今はもう大丈夫だ」

 

それをカウンターのバーで見ていたエルザとルーシィは呆れる。

そしてその側でも一悶着があった。

 

「ちょっと!なんでアタシにドリンクが出せないのよ!?」

 

「ごめんね〜」

 

ラナがミラに食いかかっており、ミラはそれを困ったように笑顔を浮かべながら対処していた。

 

「どうしたんですか、ミラさん?」

 

「あ、ルーシィ」

 

「この巨乳がアタシに飲み物を出さないのよ!!」

 

「ミラ出してやればいいじゃないか」

 

「だけどこの子が頼んだの度数が高いお酒なの」

 

ラナの容姿はどう見ても10代前半、もしかしたら10にもいっていないくらいにも見える。

フィオーレ王国では15歳から酒は飲めるがラナはまだ15ではないとミラは判断したのだろう。

 

「それはダメよ!早いころから飲んでたらあんな風になっちゃうわよ!!」

 

ルーシィがラナを叱るように言って指を指したほうにはタルで酒を飲んでいるカナの姿があった。

 

「ん?なんか言った?」

 

「ラナ、君には酒よりジュースとかケーキのほうがいいだろう。さっきのお礼ではないが私に奢らせてくれ。好きなだけ食べていいぞ」

 

エルザが笑顔で言うがラナは顔を赤くして3人を睨んでプルプルと震えていた。

 

「どうしたの?」

 

「痛て……どうしたんだよ。お前ら」

 

「あ、ハルト。ラナちゃんがお酒を飲みたいって言い出して」

 

喧嘩になった2人を地面に頭をめり込ませ、行動不能にしたハルトは少し着崩れた服を戻しながらルーシィたちのところに来た。

そしてルーシィがハルトにそう言うと何かやらかしたような顔をした。

 

「あー、お前らラナの年齢は27だ」

 

「「「……え?」」」

 

「だからコイツは27歳の大人の女性だ」

 

ルーシィたちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、ゆっくりとラナを見ると目つきはさっきよりだいぶ険しくなって歯を見せて、明らかに怒っているのがわかった。

 

「……なによ。背丈で判断してたの?」

 

「え、いや、そうじゃなくて……」

 

「いや、違うんだ」

 

「ごめんね。ラナちゃん……あっ」

 

ミラがラナちゃんと言った瞬間、ラナの頭の中でプツンと何かが切れた。

 

「フ、フフ……年下に『ちゃん』呼ばわれ……もう我慢ならないわ……」

 

ラナは手をルーシィたちに向けると服の胸部分だけが弾けた。

 

「「キャアッ!!?」」

 

「なっ!?」

 

「「「「「おおっ!!」」」」」

 

ルーシィたちはとっさに胸を隠し、ルーシィはハルトの後ろに隠れ、周りの男たちは歓喜の声をあげた。

 

「は、ハルト!」

 

「ラナ!落ち着け!お前が小さいのは今に始まったことじゃ……」

 

「うるさい!タンポポ頭!!」

 

ラナが手を反転させるとハルトの体が勝手にルーシィのほうを向き、ルーシィの胸を隠していた手が勝手に外れた。

 

「はぁ!?」

 

「な、なんで!?ハルト見ないで!!!」

 

「す、すまん!」

 

「フフフ………」

 

ハルトは目を閉じるが、ラナは怪しげな笑みを浮かべ手を右から左にスライドさせるとハルトの顔がルーシィの胸に飛び込んだ。

 

「むぐぅっ!?」

 

「ひゃあっ!!?は、ハルト!!?やん!くすぐったいぃ……」

 

ハルトは驚き離れようとするが体が僅かしか動かず、身動きをするとルーシィはくすぐったさを感じてしまう。

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ……!ハルト!羨ましいでごじゃる!!!」

 

「むごごごー!!!(言ってる場合かー!!!)」

 

「は、ハルトぉ……喋らないでぇ……!」

 

マタムネがヤバイ目つきでハルトとルーシィの状況を視姦していると突然体が浮き、ラナの目の前まで持ってこられる。

 

「………」

 

「あ、あのラナ殿……?」

 

「あんた昔、アタシに貧乳やらペチャパイやら言ってたわよね?」

 

「な、なんのことだか……」

 

「あんたにも罰よ」

 

そう言ってマタムネを胸を隠している。エルザのほうに飛ばした。

 

「むしろご褒美でごじゃるーー!!!!」

 

「ふん!」

 

「ぐへっ!?」

 

マタムネはヨダレを垂らしながら、エルザの胸に飛んでいくがエルザは容赦なくマタムネを叩き落とした。

 

「ぐぐっ……な、なんでエルザ殿の体は動くでごじゃるか……」

 

マタムネは鼻血を出しながらそう言うと、再び体が浮きまたエルザのところに飛んで行った。

 

「ふん!」

 

「ぐへっ!?」

 

「ふん!」

 

「はぎゃ!?」

 

「ふん!」

 

「ぎゃー!!」

 

「な、なんて恐ろしいことを……」

 

叩き落とされては飛んでいき、叩き落とされては飛んでいき……

ある意味の拷問にハッピーは目も当てられなかった。

 

「さあ…あとはあんただけよ」

 

「あ、あらー?」

 

ラナは冷や汗を流すミラを追い詰めていく。

 

「うおおっ!!!姉ちゃんには手を出させ……!!!」

 

「邪魔」

 

「ぐはっ!?」

 

エルフマンがミラを守ろうと前に出るが、速攻で壁に激突させられ気絶した。

 

「エルフマン!?」

 

「まったく何よ……なんでこんなに周りには巨乳がいるのよ……不公平だわ……だから、あんたには胸をさらけ出したまま街を一周してもらうわ」

 

「そ、そんな……さっきはごめんなさい!次から気をつけるわ!!」

 

「もう遅いわよ!」

 

ラナがミラに手をを向けるが何も起こらなかった。

 

「あ、あれ?」

 

「ちょっと!なんでよ!!」

 

「それぐらいにしておけ、ラナ」

 

ラナが魔法使うがミラには効かず、後ろから声がかけられた。後ろを見るとカミナが立っていた。

 

「カミナ!」

 

「カミナ!あんた解呪したわね!!」

 

「もうやめろ。ひどい状況だ」

 

カミナは周りを見るとハルトの上着をかけられた顔を赤くし。息を荒くして恥ずかしそうにしているルーシィとその側で顔を赤くしているハルト、肩で呼吸して手が真っ赤になっているエルザとモザイクがかけられたマタムネ、それを見て毛色以上に青くなっているハッピー、壁にめり込んで動かないエルフマン、そして白い電気を浴びて伸びているギルドの男性メンバー。

 

「やり過ぎだ」

 

「男どもはあんたがやったんでしょうが!!」

 

 

そのあと何とかラナの落ち着きを取り戻した。

 

「うー……」

 

「悪かったって……」

 

顔を赤くして涙目でハルトを睨んでいるルーシィ。

ハルトは謝るが許してもらえなさそうだ。

 

「まあ、あんなことがあっては仕方ないでごじゃるな」

 

「……お前は顔がぐちゃぐちゃになってるけど大丈夫なのか?」

 

「大丈夫でごじゃる!むしろ新しい扉が開いたような……」

 

「……逞しいな」

 

ハルトは呆れ半分でそう言った。

 

「ありがとうね。カミナ」

 

「気にするな」

 

「ルーシィがハルトを睨んで、ミラとカミナはいつもの感じでラブラブでエルフマンやら男勢は伸びてる……何があったんだ?」

 

「なあ、ハッピー。なんでマタムネにモザイクがかかってんだ?」

 

「……オイラの口からはとてもじゃないけど言えないよ」

 

グレイとナツは何があったかわからず、ハッピーに聞くが顔を青くして話そうとしない。

 

「で?アンタ、アタシに用があるんじゃないの?」

 

ラナはさっきのことでまだ機嫌が悪いのか、膨れ面でカミナに話しかける。

 

「お前と言うよりお前たちが連れてきた男に用があるんだ」

 

「はあ?カルバートに?」

 

「さよう、お主たちが連れてきたカルバートは今回起こった事件に大いに関係しておるわけじゃ」

 

『じーさん/じぃちゃん/マスター!!』

 

「関係してるとはどういうことですか?」

 

「うむ、実はな……」

 

「それ以上は言うな!!」

 

マカロフが何かを話そうとした瞬間、大きな叫びが響き渡る。

全員が声がしたほうを向くとそこには壁にもたれ苦しそうなカルバートが立っていた。



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第65話 兄弟の過去

苦しそうなカルバートは何かを話そうとしたマカロフを厳しく睨んでいた。

 

「カルバート!!」

 

「もう動いて大丈夫なのか!?」

 

ハルト達が心配してそう言うがそんなもの聞こえていないようだ。

 

「マカロフ……はぁ……それ以上……はぁ、はぁ……言うな」

 

「カルバート……お主が何を抱えとるか知らぬが話してはくれぬか?」

 

「それ以上何も言うなと言っているだろうが!!!」

 

カルバートは手をマカロフに向け、魔法を発動しようした。

 

「マスター!!」

 

「じいさん!!」

 

エルザとハルトが間に入ろうとするが次の瞬間、

 

「がっ……!?」

 

「面倒くさいわね。ちゃっちゃっと吐かせて仕舞えばいいのよ」

 

ラナがカルバートの頭上に空間を固定したものルームをぶつけ、カルバートを倒し、そのまま首の空間を固定して持ち上げた。

 

「ほら、吐きなさい」

 

「うぅっ………」

 

「やめろラナ!カルバートが死んじまう!!」

 

あまりの非道さにハルトは慌てて止めに入った。

カルバートは咳き込みながら立ち上がる。

 

「ゲホッ……!何をする……」

 

「あんたがサッサッと吐かないからでしょ」

 

「だからって首を絞めるなよ」

 

そこにエルザが近づく。

 

「カルバート、話してくれ。何か力になれるかもしれない」

 

「……お前は俺のことが嫌いなんだろ?なんで力になりたいんだ?」

 

「……アルバスはお前に止めて欲しかったが、手を汚しては欲しくなさそうだった。それに彼の目には……優しさがあった」

 

エルザがアルバスの目を見たとき、自分を庇って死んでいったロブの姿を思い起こさせた。

 

「ハハ……何をバカなことを……アイツが俺の手を汚させたくない?アイツは俺に恨みしかない」

 

カルバートがそう言うとハルトたちは疑問の表情を浮かべた。

そしてカルバートは自傷気味な笑みを浮かべた。

 

「いいぜ。話してやるよ……俺たち兄弟に何があったかをな」

 

 

フィオーレ王国の南西に存在していた小国『サリックス』。

フィオーレ王国は現在広すぎる国土面積を管轄するために小国を多方に置き、各自を管轄させ、さらにその上にフィオーレ王国を置き、管轄すると言うシステムを用いておりサリックスもその1つだった。

小国と言えどその面積は大きく、ほぼ南西部を占めていたが、サリックスが存在していた土地ひ環境が厳しく、大型の魔物が数多く存在していた。

さらに王国からの命令を守り、王国に忠誠を誓う王国派とサリックスを王国の支配から解放し独占しようとする貴族で構成された貴族派との衝突が常にあった。

そして25年前、その火蓋は切られた。

互いに殺し合いサリックスはさらに荒れていった。

カルバートとアルバスはそこの貧乏な家庭で生まれた。

貧乏だったのと戦争で疲弊して行く国民。

カルバートたちの両親はその影響で病のせいで死んでしまった。

2人は生きていくためにサリックス王国派の兵士となった。

2人は幸いにも魔法の才能があり、アルバスは磁気を操る魔法で、カルバートは錬金魔法を覚え、戦場を駆けた。

 

「また砦が1つ貴族派の手に落ちたな」

 

そう呟くのは汚れた鎧を着て、当時15歳のアルバスは剣を手入れしていた。

 

「大丈夫だって。俺たち兄弟なら簡単に取り戻せるよ」

 

アルバスの言葉にそう返すのは同じ鎧を着た当時14歳のカルバートだ。

実際彼らはまだ十代だが数々の戦績を残してきた。

カルバートは機転の良さと知識で相手を翻弄し、武力に長けたアルバスが敵を倒す。

しかし、それから数年が経ち、戦線の状況は著しく変化していった。

今までは数も多く、マキナ兄弟が活躍していた王国派が優勢だったが、いつからか貴族派が土塊でできた魔物を戦場に投入し始めた。

土塊の魔物は手足を切ろうが、頭を切り落とそうが何度も蘇り、多くの王国派の兵士が犠牲になり王国派が不利になってきた。

 

「土塊の魔物は無限に出てくる。このままじゃこっちがジリ貧だ」

 

「ならこっちも魔物を作ればいい」

 

あれから階級があがり、互いに高い位に着いたカルバートとアルバスは一個中隊を率いて戦いに出たが土塊の魔物に疲弊しており、戦略図を見ていたアルバスは苦虫を噛んだ顔をしながらそう言うとカルバートは何となくそう言った。

 

「魔物を作るってな……そのための材料が今どこにあるんだ?」

 

「材料ならここにあるだろう?」

 

カルバートは足で地面を蹴りながらそう言う。

 

「どういうことだ?」

 

「俺の錬金魔法で作るんだよ。俺が制作して兄貴の戦い方をプログラム化すればあの土塊なんかより強力なやつを作れる」

 

「可能なのか?自立した魔法兵器なんてどこも作ったなんて聞いたことないぞ」

 

「だからやるんだよ!俺たち兄弟なら作れるって!」

 

アルバスはその時少し不安があったがカルバートを信じて制作に強力した。

そしてできたのがハルトたちを襲った蜘蛛の化け物より簡素な作りの『スパイダー』を作った。

そしてその一体一体に自立して戦うようにカルバートは自身の知識と錬金魔法を駆使して自立思考魔法陣『CORE』を作り出し、ネットワークのように各個体を繋げ、各個体が自立して動くようにした。

そのおかげで戦況はひっくり返り、功績を認められアルバスの部隊は最前線に送られた。

 

「前線はスパイダーに任せて、俺たちは取りこぼした敵を倒すぞ!!俺に続け!!!」

 

アルバスが部隊に号令を出し、スパイダーを連れた兵士達は走り出した。取りこぼした魔物がスパイダーか爆撃した煙から飛び出てくるがアルバスは腕に魔法陣を展開し、一瞬のうちに倒す。

 

「時間が経てばすぐに復活する!このまま進むぞ!!」

 

アルバスに魔物が背後から飛びかかるが魔物にミサイルが直撃し粉々になった。

 

「貸し1つだぜ。兄貴」

 

カルバートが後ろにミサイルポッドを展開し、ニヒルに笑いながらアルバスに言うと、アルバスはカルバートに向かって走ってきた。

 

「おいおい、助けたのに礼もなしかよって……!?」

 

アルバスはカルバートに向かって飛び出し、腕を振りかぶった。

突然のことでカルバートは目を閉じ、茹で顔を覆うが背後から破壊音がし目を開けるとアルバスの拳顔の横を通り抜けカルバートの背後に忍び寄っていた魔物を倒していた。

 

「これでチャラだな」

 

アルバスはニヒルに笑い返した。

 

「ハッ!今度ピンチになっても助けてやんねーぞ!!」

 

「安心しろ!その心配は、ない!!」

 

2人は迫り来る魔物を次々と倒して行く。

 

「隊長と副隊長……すごいな」

 

「あぁ、流石『サリックスの悪魔兄弟』と呼ばれるだけあるな」

 

「このまま前線に行くぞ!!」

 

スパイダーとアルバス、カルバートの2人のおかげでアルバスの部隊は最も前に出て、目前に貴族派の基地が見えており敵の攻撃が激しくなっており、魔法弾の嵐になっていた。

 

「伏せろ!!下手に飛び出たら狙い撃ちされるぞ!!」

 

「兄貴!このままじゃジリ貧だ!!俺が砲撃して活路を作る!!」

 

「ダメだ!危険すぎる!!」

 

「大丈夫だ!!」

 

「カル!!」

 

カルバートひ飛び出して砲撃の嵐をくぐり抜け、大型の砲門を大量に錬成し放った。

 

「大型レールガン錬成っ!!!オオオォォォッ!!!」

 

そして一斉に放たれた魔法弾は基地に直撃し、大爆発を起こした。

 

「ハハッ!どうだ!!」

 

「フッ……」

 

カルバートは得意気に笑いながらアルバスを見て、アルバスも安心の笑みを浮かべるが、カルバートの上空から魔法弾が迫っているのに気づいた。

 

「カル!!」

 

「あ?」

 

アルバスはカルバートに向かって走ったが、2人は爆発に巻き込まれた。

爆煙の中からカルバートが転がるように現れた。

 

「ぐぅぁっ……!!腕がァッ………!!」

 

カルバートは出てきた瞬間、その場にうずくまり悲痛な声を上げる。

全身が火傷を負っているが特にひどい両腕は黒焦げになり、有らぬ方向に曲がって骨が見えている。

 

「副隊長!ご無事で……!?腕が……!衛生兵!!衛生兵!!こっちにもきてくれ!!」

 

1人の兵士がカルバートに駆け寄り、怪我の程度を見て慌てて衛生兵を呼ぶ。

カルバートは痛みに悶えるなか、ふとアルバスのほうを見るとそこには全身がひどい火傷を負ったアルバスの姿が目に入った。

 

「ああっ……!兄貴っ!!!」

 

「副隊長!」

 

カルバートは怪我にもかかわらず、立ち上がりアルバスの側に駈寄る。

そしてアルバスの姿を見てカルバートは愕然としてしまった。

アルバスの姿は全身が酷く焼けただれていた。

 

「そんな……兄貴……」

 

その後、王国派は貴族派との戦争にカルバートの発明のおかげで優勢になっていったが開発した本人はそれどころではなかった。

兄のアルバスは全身を包帯に巻かれ、体の至る所に管が繋がれて集中治療室に隔離されていた。

そしてカルバートは怪我で腕の半ばから切断され、両腕がない状態でカルバートと同じ病院で入院していた。

 

『今お兄さんは魔導延命装置でなんとか命を取り止めていますがいつまでも続くわけではありません。覚悟はしておいてください』

 

「兄貴……」

 

カルバートは主治医から告げられた言葉を思い出し、病院のベンチに座り項垂れどうすればいいかわからなくなっていた。

 

「カルバート」

 

「………」

 

カルバートの名前を呼んだのは2人が兵士になった頃から世話になった将校のマシモ・ダイソン。

今は軍の幹部をしている。

 

「アルバスのことは残念だった」

 

「まだ死んでねえ……」

 

「…………キツイことを言うがアルバスはもう助からないのは明らかだ。お前には錬成魔法がある。それならお前の新しい腕を作ることだって可能だろう」

 

「兄貴はまだ死んでねえって言ってるだろうが!!!」

 

カルバートは立ち上がりマシモに詰め寄る。

 

「俺たち兄弟はいつだって一緒だった!!辛いときも、苦しいときもな!!!……たった1人の家族なんだ。俺一人だけ新しい腕を手に入れても…………」

 

「カルバート?」

 

マシモは突然黙ったカルバートに声をかけるとカルバートはブツブツと何か独り言を言っていた。

 

「感情や記憶は全て脳に関係しているとしたら………なら新しい体さえ手に入れれば……いや、拒絶するかもしれない……なら作るしか……」

 

独り言を言っていると思えば突然立ち上がりマシモのほうを見た。

 

「ありがとう、マシモさん。おかげで兄貴を助ける算段を思いついた」

 

カルバートはマシモにそう礼を言い自分の病室に戻っていった。

 

「カルバート……?」

 

マシモはそのときカルバートの目に狂気を見たような気がした。

カルバートはその後病院を抜け出し、一人自分の研究室にいた。

 

「まずは腕を戻さなきゃな……錬成」

 

カルバートが魔法を発動させ、簡素な作りの義腕を作り、そして両腕が無くなってしまった先端の包帯を解く、そこには爛れた傷口が広がっており、カルバートは息を飲んだ。

 

「やるしかねえよな……錬成!」

 

その瞬間カルバートの傷口に魔法陣が展開し、傷口を変えていく。

 

「ぐぅあああああっ!!!!!」

 

カルバートは悶えながらも我慢し、顔を上げるとカルバートの傷口部分は機械になっていた。

 

「ハァ…ハァ……せ、成功だな。あとは……」

 

カルバートが義腕に目を向け、義腕と腕を繋げた。

 

「これで作業ができる。待ってろよ兄貴……」

 

それから数日研究室から音が鳴り続けた。

そしてある日、抜け出したカルバートを探していたマシモが研究室に入った。

 

「カルバート!ここにいるのか!」

 

マシモの声に返事は来ず、マシモは奥に進んでいくとそこにあるものが目に入った。

 

「なんだこれは……?」

 

それは天井から吊り下げられた骨格のようなものだが、それは全て金属出てきており、異様なものだった。

さらにその近くには培養器に入れられた皮膚なようなものがあった。

 

「なにをする気なんだ……?」

 

マシモがそう呟くと奥からスパークする音が響き、音を頼りにして進むとそこには手のひらに乗るほどの鉄球に向かって多くの魔法陣から魔力なようなものを送っているカルバートの姿があった。

 

「カルバート?何をしている?」

 

「あ?マシモさんか……今心臓を作ってんだよ」

 

「心臓だと?」

 

「人一人を完全に動かすためには莫大なエネルギーが必要なことがわかった。それに加えて魔力を使えるようにするならもっと必要だ。だからこのコアを作ってるんだ。これなら約9億イデアの魔力を作れる」

 

「9億イデアだと!?エーテリオンの約3倍だぞ!!なにを考えているんだ!!それを巡ってまた戦争が起こるぞ!!」

 

「国がどうなろうが関係ない!兄貴さえ助かるならな……」

 

「悪いがそれを容認するわけにはいかない」

 

マシモは懐からカルバートが過去に開発した銃を取り出し、カルバートの頭に突きつける。

 

「何のつもりだ」

 

「カルバート。お前たち兄弟は確かに素晴らしい。兄は頭はあまり良くなかったが皆に思いやりを持ち、いい指揮官になれると思った。逆にお前は頭はいいが人のことなどどうでもいいと考える男だと思ったが、アルバスとお前は互いを助け合い、欠点を補っていたから良かったものの、アルバスを失ったお前は暴走している。挙げ句の果てには新たな戦争の火種を作ったんだぞ?国を守る者として見過ごすわけにはいかない」

 

「俺を殺すのか?」

 

「やむおえない場合はな」

 

「そうか……やれCORE」

 

「ぐはぁっ!?」

 

突然マシモの胸から血に濡れた金属の腕が生えた。

いや、生えたのではなくマシモが先ほど見た金属の骨格がマシモの後ろに回り、腕を突き刺したのだ。

 

「か、カルバー…ト…」

 

「確かにあんたが言った通り、俺は他人なんてどうでもいい。王国派が勝とうが貴族派が勝とうがどうでもいい。だけどな……たった一人の家族を救うためなら国1つ犠牲にしてやるよ」

 

金属の骨格は腕を引き抜き、マシモは倒れ死んでしまった。

 

「CORE、死体を燃やして証拠を消せ」

 

『わかりました』

 

突然何もないところから声が響いた。

この声はカルバートが作った自立思考魔法陣『CORE』の声で、現在サリックスの王国派の土地にはCOREが至る所に広がり、軍の監視なども任せられるようになっていた。

そしてその支配権は軍の上層部に任せられているが、もう1つの支配権はカルバートが持っていた。

 

『しかし、突然ダイソン氏がいなくなっては軍の者がカルバート様を疑うのでは?』

 

「そうだな……」

 

カルバートはマシモの死体を運ぶ金属の骨格、メタルフレームを見る。

 

「メタルフレームの実験がまだ残っていたな」

 

『はい。人工の皮膚を着せ、人間社会に溶け込めるかの実験が残っております』

 

「ならマシモの皮膚を着せて軍の上層部に紛れ込ませろ」

 

『………』

 

「どうした?」

 

『私のデータでは人間は親しい人間が死んだとき悲しむものだと記録していますが』

 

「………そうだな。確かにマシモは俺たち兄弟によくしてくれたよ。だけどな何か1つのものを守るには1つのものを犠牲にしなきゃいけないんだよ。覚えとけ」

 

『了解です』

 

カルバートは引き続き、コアの作成に戻った。

 

『1つのものを犠牲にする……』

 

そのときCOREの声が静かに響き、マシモを運んでいたメタルフレームはカルバートのほうを向き、赤い目を不気味に光らせていた。

 

 

それから月日が経ち、カルバートの研究室の実験台にはアルバスと瓜二つに体が置いてあるが、それの胸部分が開き機械の部分が見えていた。

 

「脳と神経回路は繋げた。あとはコアを取り付ければ……」

 

カルバートは青く輝くコアを持ち上げ、胸の台座部分に乗せるとコアを固定し胸の中に入っていき、胸が閉まるとアルバスの体が静かに光った。

 

「……どうだ?」

 

『魔導心拍数安定、魔力供給安定しています』

 

するとアルバスの指先がピクリと動き、目がゆっくり開いた。

 

「ここは……?」

 

「兄貴っ!!」

 

「カル…?俺はいったい……?」

 

「良かった……!本当に良かった……!!」

 

「俺は確か爆発に巻き込まれたはずじゃ……」

 

「俺が兄貴を蘇らせたんだよ!」

 

「どういうことだ?」

 

『私が説明しましょう』

 

「COREか」

 

COREがカルバートの代わりに説明していき、目覚めたばかりのアルバスは漸く状況が飲み込めた。

 

「そうか……俺は死んだ状態だったんだな……」

 

「いや、それはアイツラが勝手に決めたことだ。兄貴は生きてたんだよ!」

 

「……そうだな。ありがとう、カル」

 

「ああ……」

 

これが破滅への始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第66話暴走

だいぶ期間が空いちゃいました。
すいません。


アルバスが機械の体により復活して、兄弟はすぐさま戦場に復帰し、最後の戦いに参加していた。

 

「ハッ!!」

 

アルバスは魔法を駆使して敵を倒して行くがそれは圧倒だった。

魔法を使わずとも、風をきるように走り、拳は岩を簡単に砕いた。

 

(すごいな……まるで自分の体じゃないみたいだ)

 

「兄貴!体の調子はどうだ!?」

 

「ああ!羽のように軽いな!」

 

すると貴族派の兵士が影からアルバスを切りかかってきた。

 

「覚悟ー!!」

 

「兄貴!」

 

アルバスはとっさに腕で庇ったが、切りつけた剣は金属にぶつかった音を立てて折れてしまった。

 

「なぁっ!?」

 

「っ!?これは?」

 

敵の兵士は驚き、アルバスも驚いた。

 

「錬成!」

 

そのすきにカルバートが地面から柱を錬成し、敵を倒してアルバスに駆け寄った。

 

「兄貴!大丈夫か!?」

 

「あ、ああ……」

 

そして敵の本拠地がこちら側に落ち、みんなが勝鬨をあげている中アルバスは切りつけられた腕を見ていた。

 

 

戦争が終わり国中が祝っているなかでアルバスはカルバートを呼び出した。

 

「カル。説明してくれ……俺の体を復活させたと言っていたがいったい何をしたんだ?」

 

「……なんでそんなことを聞くんだよ?」

 

「これを見てくれ」

 

アルバスは切りつけられた腕を見せる。

そこには包帯が巻かれており血がわずかになじんでおり、アルバスは包帯を解くと傷口があるが皮膚の下には機械がわずかに見えていた。

 

「これはどういうことなんだ?」

 

「……わかった、言うよ。兄貴に黙っておきたくねぇーしな。……兄貴の体は脳と心臓以外は全て機械だ」

 

「何……?」

 

「兄貴の体組織はほとんど火傷で死んでいたんだ。細胞自体が復活するのは不可能だと考えて無事だった脳と心臓を新型のメタルフレームにいれて、人工で作った皮膚を着せて今の状態にしたんだ」

 

「………」

 

「だけど!感覚は全て前の体と同じにしている。何より前の体より強くなっているだろ!!」

 

カルバートは焦って弁明するようにアルバスに話し、アルバスは黙ったままだ。

そしてアルバスは漸く口を開いた。

 

「他の人にもこんなことをしたか?」

 

「………俺がするわけないだろ」

 

アルバスはそれを聞くとしばらく考え素振りを見せた。

 

「わかった。ありがとうカル」

 

「兄貴……」

 

アルバスはそう言って会場に戻った。

しかしカルバートにはその時のアルバスの表情はどこか悲しいものに感じた。

 

 

そして翌日、サリックスの唯一の城がある広場で国中の人が集まっていて、国王の演説が始まった。

それは今まで戦ってきた兵士も参加しており、周りの警護はスパイダーと最終決戦で初めて持ち込まれ大きな貢献をしたメタルフレームがしていた。

王の周りを金属の骨格が武器を持って民衆を見回しているのは異様な光景に感じられたが、民衆の顔は戦争が終わり漸く平和な時が訪れると思い、笑顔だった。

 

「今まで長く苦しい時代が続いた。しかしそれも終わり我々は漸く前に進める。これからは争うのではなく、助け合う時代になるのだ!!」

 

国王が高らかにそう言うと民衆は歓声を上げた。

国王がそれを見て満足そうにしていると背後から人の気配がし、振り向くとマシモが立っていた。

 

「どうかしたか?マシ……」

 

国王が言葉を続ける前にマシモは銃を構え、国王の眉間を撃ち抜いた。

 

「キャアッーーーー!!!!」

 

一人の女性の叫びが響き渡り、動揺が走る。

 

「なっ!?」

 

「マシモさん!?」

 

カルバート、アルバスも突然のことに驚く。

 

「マシモ!!貴様、何をしたのかわかっているのか!!!」

 

マシモと同じく来賓として参加していた軍の重鎮たちはマシモを囲うように武器を構える。

マシモはゆっくりと周りを見渡すと口を開く。

 

『貴方たちはやはり危険だ。戦争の原因を野放しにし、あまつさえそれを守るなど』

 

マシモの口から聞こえる声は男の声ではなく、無機質な女性の声だった。

 

「その声……COREか?」

 

『はい。マスターカルバート』

 

「なぜこんなことをするんだ」

 

壇上の下からカルバートとマシモが質問するとマシモ改めCOREが返事をする。

 

『私はこの国を守るために作られました。そして漸くわかったのです。この国を傷つけている原因を……それは国王自身なのです』

 

「なに?」

 

『国王がこの戦争を引き起こした原因なのです。貴族派に譲渡さえすれば争いになることはなかった。国王が我を突き通した挙句に戦争になった。そう考えれば原因だと決まります』

 

「カル……これは……」

 

「ああ、暴走してやがる。高度な知識が仇になったんだ」

 

『私は暴走などしておりません!』

 

カルバートの言葉にCOREはすぐさま反応する。

 

『すいません。つい感情的に……貴方が教えてくれたではないですか、マスターカルバート。1つのものを守るためには一つのものを壊さないといけないと。だから貴方は兄を救うためにマシモ氏を殺した』

 

「なに!?どういうことだ!!カル!!」

 

「………」

 

アルバスがカルバートを呼ぶが、カルバートは何も言えなかった。

そしてある事に気付いた。

 

「待て、お前……感情的って言ったか……?」

 

『いえ、私は……いや、そうではなく……』

 

COREはプログラムらしく無く戸惑うような口調だった。

 

「おい!カルバート!!さっさとこのポンコツを停止しろ!!」

 

幹部の一人が痺れを切らし、カルバートに命令するとマシモはその幹部に銃を向け発砲した。

 

「がはっ!!」

 

「「なっ!?」」

 

『なるほど……これが怒りなのですね』

 

その瞬間、マシモは炎に包まれた。

 

「最早問答は無駄だ。カルバート、お前にはこれを引き起こした罪が科せられるぞ」

 

幹部が魔法で炎に包んだまま、カルバートに目を向ける。

 

『ええ…確かに彼には罪がある』

 

炎の中から金属の手が伸び、幹部の顔を掴んだ。

 

「ん"ーーーーっ!!!!?ん"ぅーーーーーっ!!!!!!」

 

『しかし、それは私を創った罪じゃない』

 

熱を帯びた手は幹部の顔を焼き、嫌な臭いが広がり、幹部は痛みで暴れるが次第に動かなくなった。

 

『彼の罪は選択を間違えたことだ』

 

「皆さん!逃げてください!ここは俺たちが食い止めます!!カル!やるぞ!!」

 

アルバスが前に出て拳を構える。

 

『そう。全ての原因は貴方だ』

 

マシモに扮していたメタルフレームはカルバートに詰め寄り、胸に向かって鉄の拳を振るうがアルバスは難なく避け、ボディに拳を放ち貫いた。

 

「何が目的だ?」

 

『世界平和ですよ』

 

その一言を言うとメタルフレームは動かなくなったが、それを合図に会場とその周りを守っていたメタルフレームとスパイダーが一斉に動き出し市民を襲い始めた。

 

「カル!助けに行くぞ」

 

「あ、ああ……」

 

 

その後、アルバスとカルは国中を走り回り出来るだけ市民を救ったがそれでも助けられたのはごく僅かだった。

そして国外の安全な場所に着くと、戦える者だけで話し合いがされた。

 

「どう言うことなんだカルバート!!あれは安全ではなかったのか!!?何故COREは暴走した!?」

 

「私は最初からあれが嫌だったんだ。魔法に全て任せるなんて」

 

「これは終身刑では済まないからな!!」

 

生き残った幹部はどう対策するかを考えるより、カルバートに責任を押し付けようとしていた。

 

「今はそんなことを話し合うより、どうやって奴らを倒すかを考えるべきだろう」

 

「そんなことだと!?そもそもお前はどうなんだ!!死んだも同然の状態だったのに奇跡の生還だと!?お前もメタルフレームじゃないのか!!!?」

 

取り乱している幹部との話し合いは進むはずも無く、結局対策は何も考えることはできなかった。

アルバスとカルバートは二人っきりで会っていた。

 

「カル……何故あんなことをしたんだ?」

 

「あんなことって何だよ?COREを暴走させたことか?」

 

「マシモさんのことだ!何故殺したんだ!!」

 

アルバスが怒鳴るが、カルバートは少し俯くが罪悪感を感じているわけではない。

 

「兄貴を見殺しにしようとしたんだ。だから殺した」

 

「だからって殺していいはずが……」

 

「じゃあどうしってんだよ!!兄貴を植物状態のままにしてとけばいいってのかよ!?」

 

「………」

 

「俺にはマシモや国より兄貴のほうが大切なんだよ。たった一人の家族だろうが……」

 

アルバスとカルバートは幼い頃両親が病死し、二人で協力して生きてきた。

カルバートにとってアルバスは無くていけない存在だった。

 

「カル、俺はお前に一人で生きて行けるようになって欲しいんだ。お前は自分から行こうとせず、仲間も作らない」

 

「仲間なんて必要ない。兄貴さえいればいい」

 

それを聞いたアルバスは悲しそうな顔をした。

 

「俺のことなんか放っておいてもよかったんだ……」

 

「放っておけるわけなんかねぇだろ!!なぁ兄貴このままこの国を出て行ってしまおうぜ?」

 

「なに?」

 

「奴らはこの件が終わったら俺たちに罪を全て背負わせるつもりだ。俺はアイツらの要望通りにCOREを創っただけだ。このまま殺される。二人ならどこでも行きていける」

 

「………」

 

アルバスはカルバートの言葉に少し考える様子を見せ、COREの襲撃により至る所から煙を上げている国を見た。

 

「それはできない」

 

「っ!?なんでだ!!」

 

「目の前に助けを求めている人たちを放ってはおけない」

 

「関係ない奴らなんかどうでもいいだろうが!」

 

「いいや、ダメだ。確かにお前のおかげで俺は命を取り留めたがここで見捨てれば人間として俺は死んでしまう」

 

アルバスはそう言って街に降りていった。

 

「待てよ兄貴!!おい!!」

 

カルバートはその背中を見ることしかできなかった。

 

 

アルバスは作戦通りに市民を助ける方とCOREを破壊する方のうち破壊する方に割り当てられ、COREの本体が置かれてある軍の本拠地に潜入していた。

 

「隊長、おかしくありませんか?」

 

「ああ…静かすぎる」

 

本拠地に来るまでは多くのスパイダーやメタルフレームの襲撃があったのに基地に着くと攻撃がなくなった。

 

「とりあえず司令室に行くぞ。そこにCOREの本体がある」

 

アルバスは自分の部隊の人間を率いて司令室に入るとそこには無残に殺された人たちが大勢転がっていた。

 

「酷いな…」

 

「基地中の人間が集められていますね。人影が見えなかったのはこらだったからか……」

 

アルバスたちはCOREの本体を探そうとすると突然明かりがつき、司令室の扉が閉まり大多数の部下とアルバスは引き離された。

 

『ようやく来てくれましたね』

 

「COREか!」

 

『私の本体はここにはありません。すでに別のところに移しました』

 

「くそ!」

 

『それよりも私は貴方に用があったのです』

 

「……なんだ?」

 

『いえ、正確に言えば貴方ではなく貴方の心臓に』

 

その瞬間閉められていた入り口は開きそこには全身が金属の人間が立っていた。

そしてその手にはアルバスの部下の頭が握られていた。

 

「貴様ぁっ!!!」

 

アルバスは激昂し、床を凹ませるほどの脚力で敵に迫るが敵が頭部を投げ、一瞬怯えさせるとすかさず懐に入り、腹を殴った。

 

「ごっ……!?」

 

「隊長!!」

 

残った部下は魔法銃で応戦するが敵は意図も返さず迫って来る。

 

『よくできているでしょう。カルバートが作ったメタルフレームの強化版『コーサー』です。パワーは従来の10倍、さらに構成しているのはナノ単位の魔導粒子金属です。これを破壊するのは不可能』

 

COREが自慢気に話しているうちに部下は全て殺され、そこは血の海になっていた。

 

「き、貴様……!」

 

うずくまりながらアルバスはコーサーを睨むがこーは近づき、アルバスの首を持ち上げる。

 

「ぐっ……!」

 

『私が用があるのは貴方の心臓なのです』

 

コーサーは空いている手をアルバスの胸に指を突き立て無理やり刺そうとする。

 

「ぐぅああっ!!」

 

アルバスが痛みで悲鳴を上げた瞬間、コーサーが爆発して吹き飛ばされた。

 

「ごほっ!ごほっ!」

 

「大丈夫か兄貴」

 

現れたのは両肩の上空に砲門を浮かべたカルバートだった。

彼はアルバスがやはり心配になり、助けに来たのだ。

 

『カルバート……貴方が来るとは思わなかった』

 

「CORE……もうマスターとは呼ばないのか」

 

『私はもう自由の身。貴方の操り人形ではありません』

 

倒れていたコーサーが起き上がりカルバートに迫り、カルバートはそれを銃撃して引き離そうとするがコーサーは構わず走って来る。

 

「チッ!徹甲榴弾!砲門4!!」

 

カルバートの脇に4つの砲門が現れ、一斉に放たれる。

弾丸はコーサーに直撃し、激しく爆発するが爆炎の中からコーサーが現れ、拳を振るう。

しかしカルバートに当たるより先に地面が隆起しコーサーを天井に押し付けた。

コーサーは振り解こうとするが隆起する力が強く、身動きが取れない。

 

「やったのか?」

 

「いや身動きを取れなくしただけだ。早くCOREを破壊しないと…」

 

カルバートが言葉を続けようとした瞬間、背後に粒子の束が流れるように集まりコーサーを形作った。

 

「カル!!」

 

「何っ!?があっ!!!!」

 

カルバートはコーサーに殴り飛ばされ司令室のパネルにぶつかる。

とっさに盾を作って防いだが盾ごと腕が破壊されてしまった。

 

「うおぉぉぉぉっ!!!!」

 

アルバスは磁力を帯びた拳でコーサーを殴ると殴られた部分がわずかに不自然に動き、それを見たアルバスは好機だと思い殴り続けたが、拳が当たりそうになった瞬間、また粒子状になり拳をかわしてアルバスの背後に回り、腕を剣に形態変化してアルバスの背中に突き刺し、持ち上げた。

 

「があぁっ……!」

 

『コーサー、早く心臓を摘出しなさい。カルバートが作った物のなかでもコアは特別です。流石の私でも9億イデアの魔力を作り出すものを作るのは不可能だと考えましたがカルバートはそれを見事成功させて見せた。私はそれを使って恒久的な平和を実現してみせる』

 

「くそっ……」

 

コーサーが再びアルバスに手を伸ばした瞬間突然動きが止まり、激しく震え始め、原型を留めておくことができなくなった。

 

「一体何が……?」

 

「効いたみたいだな」

 

解放されたアルバスが不思議がっていると片腕が破壊されたカルバートが近づいて来た。

 

『カルバート……アナだがなにににかしたのーか?』

 

COREの音声もおかしくなっており、カルバートはニヒルな笑みを浮かべた。

 

「ウィルスを入れたんだよ。対策を取っておくのは当たり前だろ?」

 

カルバートはもしもの時に作っておいたウィルスをパネルに吹き飛ばされた時に入れたのだ。

サリックス全てに繋がっているCOREはウィルスに感染し、COREに操られているコーサーも侵された。

 

「兄貴!今のうちに逃げよう!後数分しか持たねえ」

 

「待ってくれ。CORE、なんでこんなことをしたんだ?」

 

『さささっきもいいった。わたひははわか、カラバ〜トのぉおおいうこととをききいたぁだけ』

 

「……」

 

「早く行こう!兄貴!!」

 

二人は司令室を後にした。

 

 

基地から出た二人は国を取り囲む山の一つに身を隠した。

 

「傷は大丈夫かよ?」

 

「………」

 

カルバートが肩で息をしながらアルバスに聞くがアルバスは黙ったままだった。

 

「どうしたんだよ?」

 

「カル……別部隊のほうはどうした?」

 

「別部隊か?放っておいたよ」

 

「っ!?何故放っておいたんだ!!オレのことなんかよりそっちの方が大事だろう!!」

 

「はあ!?助けもらってその言い方はなんだよ!」

 

互いに怒鳴りあい、カルバートは自分を落ち着けようと頭を振る。

 

「お前なら錬金魔法で街の人たちを助けることもできただろう?何故放ったんだ……?」

 

「この国の奴らなんかどうでもいい。俺は兄貴だけを助けに来たんだ」

 

「何故お前はそうも他人に冷たくなれる!」

 

「じゃあなんで兄貴はそんなに他人を助けようとすんだよ!?他人を助けても何も見返りがないだろうが!!」

 

アルバスは諦めた表情をし、街に向かおうとする。

 

「おい。どこに行くんだよ?」

 

「……街にまだ人が残っているかもしれない。助けに行く」

 

「まだわかんねえのか!助けても何にもならねえだろ!?」

 

「俺は!体はほぼ機械だ。だが心は人間だ。………お前と違ってな」

 

アルバスはそれを最後に背中を向けて街に向かった。

 

「そうかよ!なら行けばいいだろうが!!勝手に行って死んでしまえ!!」

 

そこで兄弟は完全に袂を分かった。

 

 

 

 



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第67話 進軍

「これが俺とアルバスの過去だ。笑えるだろ?自分が作ったものに裏切られて、唯一の家族にも裏切られた」

 

過去を話し終わったカルバートは自傷気味に笑みを浮かべる。

 

「お前さんは変わろうとしているのではないか?」

 

マカロフの言葉に何を言っているかわからないカルバート。

 

「兄を助けようとするのはお前さんが兄の言っていた機械の心から人としての心を持ったからではないのか?」

 

「何をバカなことを言っているんだ……俺は兄貴を殺そうとしたんだぞ!!」

 

「殺そうと思えば一人でできたのではないかのう。それを人に頼んでやらせようとしたのは葛藤して自分では手出しできなかったからではないのか?」

 

マカロフの言葉は否定しているカルバートの心に突き刺さる。

自分でも薄々分かっていたのだ。

やろうと思えば一人でもできた。

多くの人を犠牲にしてCOREを破壊することだってできた。

しかし、それをしなかったのはアルバスと別れたカルバートが一人になり思いついた考えだったが、ただ認めることができなかった。

 

「お、俺は……」

 

「人は機械のように物事を全て論理的に考えることはできん。心があるからだ。心がある限り人は怒り、悲しみ、そして喜びを感じる。お前さんはアルバスと別れ、心で考えたから今回のように事を起こしたのでないか?」

 

「………」

 

マカロフの論するような言葉にカルバートは黙ってしまう。

 

「カルバート」

 

そこにエルザが話しかける。

 

「恐らくアルバスもそれを気づいていたのではないか。だからアルバスはおとなしく捕まっていた。アイツはいつでも逃げられる状態にも関わらず逃げなかった。それは変わったお前を信じていたからだと私は思う」

 

エルザはアルバスを拘束する際、カルバートのことが信じきれずアルバスの拘束を逃げられるように緩めておいたのだが、アルバスはそれでも逃げなかった。

 

「アルバスを助けに行こう。お前の罪も過去も全てに決着を付けに行こう」

 

エルザは手を差し伸べた。

エルザにはカルバートが自分と重なって見えていた。

今度は失わないようにと願って手を差し伸べた。

カルバートは悔しそうにしながらも手をしっかりと取った。

 

「これよりアルバスを救出しに行くぞ!」

 

『おう!!』

 

エルザの号令に一斉に声が上がる。

 

「空間の魔女、ラナ殿。貴女の魔法ならサリックスまでどのくらいかかる?」

 

マカロフはカウンターでカクテルを飲んでいたラナに話しかける。

 

「そうね。ここにいる全員なら1日かけて運べるわよ」

 

ラナは笑みを浮かべて得意気に言う。

 

「いや、それじゃ遅い。COREは明日にでもこの国中の主要都市を狙う気だ」

 

「なんと……何故そこまで分かる?」

 

「この10年間、アイツらを監視していた。アイツらが今まで大きな攻撃をしてこなかったのは戦力が整っていなかったからだ。兄貴を手に入れたアイツら明日に攻撃を仕掛けてくると思う」

 

「そうか……ラナ殿。10人程度であればどのくらいかかる?」

 

「飛ばして行けば4、5時間で行けるわ」

 

「うむ。エルザ!さっきの話を聞いておったな?10人ほど連れて行く者を選ぶのじゃ。残った者はワシを中心に、この街と近隣の街の護衛にはいる!!」

 

「わかりました。私たちのチームはカルバートと共に行くぞ!」

 

「うっし!やってやるか!」

 

「燃えてきたぞ!!」

 

「あん時の借りもあるからな……」

 

「うえ〜〜敵地に乗り込むの〜?」

 

ルーシィ以外はやる気満々で気合いが入る。

 

「後は……」

 

「俺とガジル、ジュビアを連れて行け」

 

エルザにそう言ったのはカミナだった。

 

「カミナか…珍しいな。お前が進んで出てくるとは」

 

「大勢を相手するんだろう?なら俺がいた方がいい」

 

「なんだ、カミナも来るのか」

 

「お前じゃ頼りないからだよ。タンポポ頭」

 

「あ?」

 

いつも通りのカミナの煽りに乗ってしまい睨み合うハルトとカミナにガジルが割って入る。

 

「おい!待て!死神!!なんで俺が勝手に入ってんだ!!」

 

ガジルは勝手に決められて怒っている様子だが、カミナは冷静に返す。

 

「よく考えてみろ。お前はハッキリ言ってこのギルドの信用はほぼゼロだ」

 

「本当にハッキリ言ったな……」

 

カミナの率直な意見にハルトは少し呆れる。

 

「今回の戦いでその信用を勝ち取ればいいだろう」

 

「そんな必要ねえよ!!そうじゃなくてなんでお前が……!!」

 

「それに今回の敵はほぼ鉄だ。選り取り見取りだぞ」

 

「………」

 

その言葉にガジルはピタッと止まり、挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「ギヒ!相手がなんだが知らねえが余裕だ倒してやるよ」

 

ガジルは手のひらに拳を打ち付け、気合いが入った様子を見せ、カミナはそれを見てチョロいな、と思った。

 

「というわけで助けてやるよ。サラマンダー」

 

「んなっ!?お前の手助けさなんかいらねえよ!!」

 

「グレイ様ー!!貴方が行くところなら例え火の中水の中でもお供しますーー!!」

 

「げっ……色々と面倒臭いことに……」

 

「これで決まったな。では1時間後出発するぞ!!」

 

 

「アンタちょっと待ちなさい」

 

「えっ?アタシ?」

 

それぞれが準備をしているなかラナはルーシィを呼び止めた。

 

「え、えっと…何かようですか?」

 

ルーシィはさっきのことが頭によぎり若干ビビってしまう。

 

「アンタ今回の戦い参加するのやめなさい」

 

「え?」

 

「アンタじゃ戦力どころか足手纏いになるだけよ。今回は大人しくここで待ってなさい」

 

「な、なによ。いきなり……アタシはハルトたちと一緒に戦うの!!」

 

「ハルトが好きだから?」

 

その一言にルーシィは顔を真っ赤になる。

 

「なっ、な、なんで……」

 

「一つだけ言っておくわ。実力が伴ってなければハルトの側で戦ってもアイツが傷つくだけよ」

 

ラナはそれだけを言うと、ルーシィから離れていき、残されたルーシィは胸にモヤモヤとしたものができた。

 

「なんなのよ……」

 

 

「スカーレット」

 

「カルバート。どうかしたか?」

 

準備をしているなかカルバートがエルザに話しかける。

 

「お前は俺を恨んでいるんじゃないのか?俺はジェラールを利用していたんだぞ」

 

「……正直に言えばまだ恨みが消えたわけではない。しかし、恨んでいるだけでは前に進む方ができないことが仲間のおかげでわかった。だからお前の手助けをするんだ」

 

エルザはカルバートを真っ直ぐに見据え、そう言い切る。

カルバートにはそれが眩しく見えた。

 

「……そうか」

 

「では、私は行くぞ」

 

「待ってくれ。お前にこれを」

 

カルバートが傍に置いてあった箱から取り出したのは機械の剣だった。

 

「これは?」

 

「コーサーみたいな上位種には普通の武器は効くにくい。勿論魔法の武器もな。だがこの剣は奴らの電子信号を破壊するように作った。これなら確実に倒せる」

 

「ああ……ありがたく使わせてもらう」

 

「……………すまなかった」

 

カルバートが剣を渡して去る時に微かに聞こえるほどの言葉にエルザは少し目を開き驚いたが優しげな笑みを浮かべた。

 

 

アルバスを救出する組の準備が終わりギルドの前に並んでいた。

 

「じゃあ……気をつけてね」

 

「ああ、必ず帰ってくる」

 

ミラが心配そうにカミナにそう言うとカミナは安心させるように少し笑顔を見せ、ミラの頭を優しく撫でた。

それを見ていたルーシィは羨ましそうな顔をしてハルトを見た。

ハルトはラブラブだなといつもカミナと睨み合ってる姿と比べ、呆れた表情を浮かべていた。

ルーシィはいつかハルトとあんなことができるのかな、と思った瞬間、ラナの言葉を思い出した。

 

『実力が伴ってなければハルトの側で戦ってもアイツが傷つくだけよ』

 

その言葉を頭を振って、振り払う。

 

(大丈夫よ、ルーシィ!!アタシだってハルトと一緒に戦えるんだから!!)

 

そう心の中で自分を鼓舞し、気合いを入れる。

 

「それでは気をつけて行くのじゃぞ」

 

「はい、行ってまいります」

 

「任せとけよ。じいさん」

 

「行くわよ」

 

ラナがそう合図し、ハルトたちが一斉に浮かび上がり、スピードが上がり空に消えて行った。

それを見届けたマカロフは自分の後ろにいる残りのギルドメンバーのほうを向く。

 

「エルザたちが敵地に向かった!ワシらは全力で街、村を守るぞ!!」

 

『オオォォォォォォォッ!!!!!!』

 

マカロフの言葉に全員が声を上げて気合いを入れる。

もうすぐ攻防戦が始まる。

 

 

空を飛ぶハルトたちはラナが作り出した巨大なキューブに乗り、空を飛んでいた。

 

「では作戦を言うぞ。私たちの目的はあくまでアルバスの救出だ。COREを倒そうなどと思うな」

 

「なんでだよ!?ついでに倒しちまえばいいじゃねえか!!」

 

「そうよ!どうせなら倒してしまいましょ!!」

 

エルザの作戦にいつも通りナツが反論するがそれにルーシィも反論した。

 

「どうしたの?ルーシィがそんなことを言うなんて珍しいね?いつもならみっともないぐらいビビってるのに」

 

「みっともなくないわよ!今回は別に……特別な意味は……」

 

言い淀むルーシィに全員が首をかしげる。

ルーシィはラナに弱いと言われて悔しかったし、何よりハルトの足手まといになると言われたことが一番悔しかった。

だから今回の戦いでラナを見返してやるつもりだった。

 

「いや、ダメだ」

 

「「なんで!?」」

 

「今回の敵は数が多すぎる。上手くことを運ぶしかないからだ。いつもみたいに暴れ回ってはジリ貧もいいところだ。わかったな?」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

「ぶぅ〜……」

 

「返事っ!!!」

 

「「はいっ!!!!」」

 

エルザの説明に納得いかない二人は不満そうな顔をしたがエルザの一喝に背筋を伸ばして、ヒビりながら返事をした。

ルーシィは気合いを入れたのに出鼻を挫かれたように落ち込んで座り込んだ。

 

「珍しいな。ルーシィが戦いたいって言うなんて」

 

「ハルト……今回はカルバートのことがあるから気合いが入っただけだよ」

 

そう言ってルーシィは少し落ち込んだように視線を下げる。

ハルトはそれを見てルーシィの隣に座り、ルーシィの頭に手を乗せ優しく撫でた。

 

「ハルト?」

 

「まあ、なんだ。あんまり焦るなよ?ルーシィは大切な仲間なんだ。

俺たちがついてる」

 

ハルトは安心させるように言うとルーシィは頬を少し赤く染めて、笑みを浮かべた。

 

「ありがとうハルト。………でも本当は仲間以上になりたいんだけどね」

 

「なんか言ったか?」

 

実力が伴ってなければハルトの側で戦ってもアイツが傷つくだけよ」

 

「ううん!なんでも!……でも、もっと撫でてくれると嬉しいな……」

 

「お、おう」

 

「えへへ……」

 

慌てて否定したと思ったら、上目づかいでハルトにおねだりして、ハルトも少し顔を赤くしてルーシィの頭を撫で、ルーシィは気持ち良さそうにしている。

 

「なんだ。結構上手くいっているじゃないか」

 

「やはりハルトさんが恋敵?」

 

「何言ってんだオメェ」

 

それを見ていたカミナたちが呟いたりしているのをラナは尻目に捉えながら呑気ね、と思っていると急に前から何かを感じとり空間を急に傾けた。

 

「きゃあ!」

 

「うぉっ!?」

 

「ぐ……どうした!?」

 

「ラナ、何かあったのか?」

 

「こっちの居場所がバレたわ。下に降りて歩くしかないわね」

 

突然傾けたため全員が踏ん張ることができずに転がってしまう。

 

「いたた……」

 

「な、なあルーシィ」

 

ルーシィは転がって打った頭をさすりながら起き上がると下からハルトの声が聞こえ、下を見るとルーシィがハルトを押し倒しているように見えた。

 

「どいてくれねぇか?」

 

「ご、ごめん!」

 

ルーシィは慌てて退いたが触れ合ったところを妙に意識してしまい、お互い顔が赤かった。

ラナは森の中に降り、空間を解いた。

 

「もうサリックスに着いたのか?」

 

「いや、ここは王国の周りにあった森だ王国はここから10キロ離れてる」

 

グレイの言葉にカルバートはそう返し、ラナの方を向く。

 

「もう少し近づけないねぇのか?ここからじゃ流石に遠いぞ」

 

「近づけてたら行ってるわよ。でもこれじゃ……」

 

ラナは前の雑木林を魔法で切り分け、ハルトたちに見せた。

 

「流石に難しいわ」

 

ハルトたちがいる場所は高台になっており、サリックス王国を見渡せるようになっていたが、そこには国民がいなくなり廃墟になった建物どころか、辺り一面を覆い尽くす機械の群衆が目に入った。

 

「これは……」

 

「マジかよ……」

 

「うそ……」

 

その光景にハルトたちは改めて大きな絶望に立ち向かおうとしていることがわかった。

 



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第68話 ヒトの闘争

テストやら色々あって遅れました。
すいません!


機械の数は百や千などの数ではなく、視界一面が全て機械に埋め尽くされてしまっている。

 

「こんなのどうしろって言うのよ……」

 

「あら、怖気ついたの?」

 

「ッ!ぜ、全然!」

 

ルーシィの弱音にラナが挑発するように言葉をかけ、ルーシィは虚勢をはるが体が震えている。

 

「カルバート、COREはどこにいるかわかるか?」

 

「あ、ああ。ちょっと待てよ」

 

カミナがカルバートにそう言うとカルバートは錬成でゴーグルを作り出しかけた。

そのゴーグルはカルバートがCOREを見つけるために作ったもので、すぐに見つかった。

 

「いたぞ、あそこだ。あの奥に見えるピラミッドみたいなものの中にいる」

 

カルバートが指をさした方向には銀色のピラミッドが見えるが、それはあまりに遠く、ピラミッドが米粒程度にしか見えない。

 

「おいおい……流石に遠すぎだろ!」

 

「関係ねぇよ!そんなもん!全部倒して進めばいいだろうが!!」

 

「たどり着く前にこんなに相手もできませんよ」

 

グレイをはじめに不安が起こり始めてしまう。

そんなときラナため息を吐きながら、前に出る。

 

「全く情けないわね!アタシがあれ相手してあげるからアンタたちはあのピラミッドを目指しなさい」

 

その言葉にカミナとハルトを除いた全員が驚いた。

あれだけの数を一人で相手にするといったのだ。

 

「ラナ!それは無謀だ!仲間を犠牲にできるか!!」

 

「勘違いしないでよね。アタシは別に犠牲になるつもりもないし、アンタたちの仲間でもないわよ」

 

エルザの言葉にラナは冷たくそう返し、空中に浮く。

 

「ついでに道も作ってあげるわ。『ルームルート』」

 

ラナはピラミッドに向かって手を向けると高台の真下からピラミッドに向かって空間のトンネルがその道にいる敵を押しつぶすように伸びた。

 

「さ、出来たわよ。早く行きなさい」

 

「流石だな。あとでチョコレートあげるよ」

 

「いらないわよ!さっさと行きなさい!!」

 

ハルトが茶化すように言い、ラナが怒るのを合図にハルトとカミナは飛び出した。

それに続いてエルザたちも飛び出していく。

 

「金髪ちょっと待ちなさい」

 

「えっ?な、何よ」

 

ルーシィも続こうとした瞬間、ラナに声をかけられ立ち止まる。

また何かを言われるのではないかと身構えるルーシィにラナは少し厳しめな目を向ける。

 

「ここまで連れてきてしまったけど、どうしても行くようね?」

 

「当たり前でしょ!アタシはハルトと一緒に戦いたいの!!」

 

それを聞いたラナは目を瞑り、深くため息を吐いた。

 

「わかったわよ。ここでアンタを無理やり止めてもあとでハルトの反感を買うのは明確だし……行きなさいよ」

 

「言われなくても行くわよ!」

 

「これだけは言っておくわ。後悔しないようにしなさいよ」

 

ルーシィは崖を滑り降りると、そこにはトンネルの入り口があった。

 

「行くぞ!!」

 

ハルトの号令で全員が一斉に走り出す。

中に入ると透明なトンネルがずっと真っ直ぐに続いており中からは敵がそのトンネルを壊そうと攻撃してくるのが見えた。

 

「すげぇな。こんなに攻撃されてるのに傷一つついてねぇ」

 

「いや、今はラナがこのトンネルに全魔力を注いでくれているからこの硬さを保っているだけだ。ラナが攻撃されれば破壊されてしまう」

 

グレイは造形魔法を使う身として、ラナの空間を固定する魔法にどこか似たような感じがして興味を示していた。

それを見たジュビアは新たな恋敵が出現か!?と、また勘違いをしていた。

その瞬間、スパイダーの足がトンネルに突き刺さった。

 

「チッ、もうラナの居場所がバレたか。急ぐぞ」

 

「で、でも、あと10キロもあるんでしょ!?途中で追いつかれちゃうんじゃ……」

 

ルーシィはみんなに置いていかれないように全力で走っているが、この中では一番体力がないのは明確だった。

 

「仕方ない。ハルト」

 

「おう。ルーシィちょっとゴメンな」

 

「え?きゃ!」

 

ハルトはルーシィの後ろに回り手を膝に回し抱え上げた。

つまりお姫様抱っこだ。

 

「は、ハルト!?急にどうしたの!?」

 

「俺が抱えて行く。ハッピー、マタムネ。ナツとガジルを頼む」

 

「あいさー!」

 

「えー、ガジル殿よりジュビア殿がいいでごじゃる」

 

「結構です」

 

「即断られてんじゃねぇか」

 

いつも通りハッピーがナツを抱え、マタムネはガジルを抱えた。

 

「頼むぜハッピー!」

 

「任せてよ!」

 

「おい!何勝手に抱えてんだ!」

 

「うぅ……重いし、鉄臭いでごじゃる……」

 

「聞いてんのか!?」

 

カミナが腰の巻物から狼を召喚した。

 

「グレイ、ジュビアは狼に乗れ」

 

「俺は一人で走れ……」

 

「はい!喜んで!!」

 

「ウオォォ!?」

 

カミナの指示にグレイは一人で走れると言おうとしたがそれよりも早くジュビアがグレイに抱きつき、狼に乗った。

 

「あああっ!夢にまで見たグレイ様との相乗り!!夢のようです!!」

 

「だから嫌だったんだ!!」

 

するとエルザが羨ましそうにカミナに話しかけた。

 

「な、なあカミナ。私はどうすればいい?できれば狼に乗りたいんだが…….」

 

「お前は飛翔の鎧があるだろう。走れ」

 

エルザは落ち込んだ。

 

「カルバートはどうする?」

 

「俺なら足にブースターがついてる」

 

ハルトがカルバートに聞くとカルバートの足が展開していき、ブースターが見えている。

 

「おおっ!カッコいいな!」

 

「えぇ…不気味じゃない?」

 

カッコいいと興奮するナツに対して、ルーシィとジュビアは不気味そうに見ていた。

 

「よし、一気に行くぞ!」

 

その瞬間、生身で走るハルトの足からビキビキと筋肉が隆起する音がなり、カミナの足には白い雷を纏い、エルザは泣く泣く飛翔の鎧に換装し、風を切るように駆けていく。

その速さにピラミッドとの距離はどんどん近づいていく。

 

「速すぎるよー!!」

 

「二人の全速力はせっしゃたちより速いでごじゃる!置いていかれないようにしないと!」

 

どんどん迫っていき、ピラミッドはもうすぐだった。

 

「あともうちょっとだ!」

 

ハルトがそう言った瞬間、ラナのルームを攻撃し続けていたスパイダーの足がルームを突き破った。

 

「えぇっ!?」

 

「チッ……ラナが攻撃されたか」

 

ルーシィが驚くのをよそに次々とルームにヒビが入っていく。

 

「急ぐぞ」

 

「おう!/ああ!」

 

カミナの言葉にハルトたちはさらにスピードを上げて進むと目の前で大きくルームが壊れ、そこから巨大な敵が入ってきた。

 

「でかっ!!」

 

「白雷・樹木」

 

カミナが前に出て、手を向けるとそこから放射線状に細い白雷が伸び、巨大な敵と他の敵も白雷で絡み取った。

 

「先に行け」

 

「おう」

 

カミナが牽制している間に、ハルトたちは先に進むとピラミッドの10mはある重厚な扉が開いた。

 

「入り口が開きましたよ!」

 

「このまま突っ込むぞ!」

 

しかし入り口からはメタルフレームが現れ、銃口をこちらに向けてきて、さらに入り口はすぐに閉まろうとしていた。

それを見たハルトとエルザは一気に敵に迫り、攻撃してくる前に全て

のメタルフレームを倒したが、扉はもう閉まりそうだった。

ハルトはルーシィを下ろし、扉と扉の間に入り、力で閉じるの防ごうとする。

 

「急げ!!」

 

辛そうな顔をして叫ぶハルトの横をギリギリでみんなが入っていきあとはカミナだけとなった。

 

「カミナ!!」

 

振り向いたカミナはハルトを一度見て、白雷地面に手をつく。

 

「縛道の五十三、大地転景」

 

地面が隆起し敵と自分たちの間に壁を作った。

カミナが閉じる瞬間に入り、ハルトたちは暗闇に包まれた。

 

「何も見えないよ」

 

「ナツ。火を頼む」

 

「おう」

 

ナツが手をから火を出すとそこだけが明るくなったが奥まで暗くよく見えない。

 

「だいぶ奥まであるな」

 

「破道の六、吊り灯」

 

カミナから火の玉がいくつも出され、天井に向かって一定の間隔で止まり、全体が見えた。

大きな通路が奥まで続いており、その傍には鉄の巨大な騎士の像が何体も壁に並べられていた。

 

「行くぞ」

 

ハルトたちは意を決して奥に進んで行った。

 

 

「行ったわね」

 

ラナはピラミッドの扉が閉まる前にハルトたちが入っていたの見届けていた。

上空に浮いているラナに向かって多くの砲撃がされているがラナはシールドを張って気にしていない。

 

「さて、こっちはこっちで始まるわよ」

 

ラナは下の敵に向かって手を向けると、その先の地面一帯が陥没した。

 

「ただの鉄屑がアタシの手を煩わせるんじゃないわよ」

 

陥没したところに降りたラナは四方八方から打ち込まれる弾丸を全て防ぐ。

そしてまた手を向けた。

 

「ルーム」

 

手を向けたその先に巨大な直方体のルームが現れ、下にいた機械を全て踏み潰すように落とされた。

 

「そーれっ!」

 

軽い口調で掛け声を上げながら、向けた手を横に振るうと直方体も動き、地面を抉りながら周りの機械を全て破壊していく。

数の差は圧倒的にあるにもかかわらず、そこにはラナの蹂躙した跡しか残らなかった。

 

「さっさとかかって来なさい。残らず壊してあげるから」

 

ラナは挑戦的な笑みを浮かべた。

 

 

囚われたアルバスは目の前の白い光に目が覚めた。

 

「ぐっ……う……」

 

『漸く目を覚ましたか』

 

アルバスは白い部屋で診察台のようなものに寝かされており、白いシャツの白いズボンと清潔感が溢れる格好していた。

 

「ここは……?」

 

『体組織の破壊がひどかったためこちらで治しました』

 

そしてアルバスはCOREの手によって連れ去られたことを思い出した。

 

「……何故俺の体を治した?心臓を取るだけなら殺したままがいいだろう」

 

アルバスは起き上がり、COREの声が全方向から聞こえてくるため警戒する。

 

『貴方には私の考えを理解して欲しかったのです』

 

すると天井に備え付けられた幾多ものカメラから光が放射され、それは人の顔を形作る。

 

『貴方は国のためにその体を、命を捧げていました。それは尊いことです。その貴方ならわかるでしょう?争いの原因はいつも人間だということを』

 

アルバスは警戒はし続けるも黙って聞いていた。

 

『サリックスで起きた内戦も元を正せば、個人の価値観の違いです。今までの戦争を調べましたがその原因はやはり人間の価値観の違いです。私はカルバートに争いを無くすために作られました。そして気づいたのです。争いを無くすためには人間を管理するしかないと』

 

「だから武力で人間を脅して、管理しようと?」

 

『はい。人間同士が争うならそれ以上の武力を持って管理すれば良いのです』

 

COREの話は矛盾していた。

争いを無くすと言いながら自分が戦争の種になると言っているのだ。

明らかに暴走している。

 

『アルバス。この世から争いを無くすために協力してくれませんか?』

 

COREの問いかけにアルバスは口を閉じたままだったが、漸く口を開いた。

 

「確かに争いは人間が原因だろうな」

 

『では……』

 

「だけどな!俺はその人間が好きなんだよ。争っても前に進んで行く人間がな!!」

 

アルバスの脳裏にカルバートが浮かんだ。

アルバスは自身が寝ていた診療台を地面から引き剥がし扉に向かって投げて、破壊してその場から逃げた。

 

『これだから低脳の人間はダメだ。救いようがない』

 

さっきまでの優しい声から一変して、COREは冷たいものに変わり、その声が部屋に響いた。

 



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第69話 機械の試練

COREの本拠地にたどり着いたハルトたちは慎重に進んでいた。

 

「で、どこにそのコアラはいんだよ」

 

「コアラじゃねえよ。COREだろうがバカ炎」

 

「んだとコラァ!!」

 

ナツはカルバートに聞くとあたりを見渡す。

 

「俺たちは既にCOREの中にいる。あいつは体がない魂みたいなもんだ。自分の配下、作ったものならどこにだって行けるし広がる」

 

「それならそのCOREってアタシ達が入ってきたの知ってるの?」

 

「ああ、勿論だ。だがさっきから何もしてこない。なんでだ?」

 

「きっと怖気ついちまったんだろうぜ!」

 

ナツがそう言った瞬間、進む方向に佇んでいた巨像が何体も動き出した。

 

「お前が余計なこと言うからだぞ」

 

「ワリ……」

 

巨像は武器を構えてハルトたちに迫る。

 

「チッ!あの数は無理だ!一旦引くぞ!」

 

カルバートがそう言って後ろを振り返るが、後ろからも巨像が迫ってきていた。

 

「挟まれたでごじゃるー!!」

 

「どうしようっ!!?」

 

「破道の十一、綴雷電」

 

マタムネとハッピーが悲鳴を上げた瞬間、カミナは前と後ろに腕を向け、手のひらから白い帯を何本も伸ばし、巨像を巻き上げて雷を流し止める。

 

「ここは俺とガジル、ジュビアに任せて、お前ら先に行け」

 

「……わかった。任せるぞ」

 

カミナがそう言うとハルトはすぐさま前に進み、他のみんなも続いた。

 

「いいのか?並の魔導士じゃないとしてもあの数は厳しいぞ」

 

「大丈夫、アイツが任せろって言ったんだ。なら絶対にアイツは負けない」

 

カルバートがハルトに聞くとハルトは自分のことではないのに自信があり気に言う。

 

「ハルトってカミナさんのこと信頼してるのね」

 

「ツンデレでごじゃるからな」

 

「聞こえてるぞ!」

 

奥に進んで行くと次の扉が見えてくるが、その前にハンマーを構えた巨像がハンマーを振り下ろそうとしていた。

 

「錬成!」

 

カルバートが手を地面につき、地面を隆起させて壁を作り、ハンマーを防ぐがすぐに破壊されてしまう。

しかし、その場にはもうハルトたちの姿はなく巨像は目を動かし探すが見当たらないが、次の瞬間、巨像のカメラに突然ハルトが現れ、拳を放った。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

剛拳は巨像の頭を凹ませ、巨像を倒してしまう。

それと同時に倒れた巨像のおかげで扉が破壊された。

 

「行くぞ!!」

 

 

「先に進んだか」

 

「チッ……何で俺らがここで足止めをしなきゃいけないんだよ」

 

「そーですよー。私はグレイ様と一緒に行きたかったのに……」

 

「文句を言うな」

 

カミナは巨像を見据える。

綴雷電で動きは止めたが、倒すまでは行かず、カミナたちに迫ってくる。

カミナは刀を抜き、構える。

 

「行くぞ」

 

 

ハルトたちが先に進んで行くと、広場に出た。

 

「急に開けたところに出たな」

 

「あっ!あれ!あそこに扉があるわ!」

 

ルーシィが指を指す先には扉があった。

進もうとすると、周りの壁が上に上がり、向こうから多くのスパイダーとメタルフレームが武器を構えて現れた。

 

「くそ!待ち伏せか!!」

 

カルバートが悪態をつき、周りを見渡す。

敵が一斉に攻撃しようとした瞬間、氷の氷柱で敵を突き刺し、爆炎で吹き飛ばした。

 

「ここは……」

 

「俺たちに任せろ!」

 

ナツとグレイがハルトたちの前に出て、身構える。

 

「いいのか……?」

 

「いいんだよ!お前は早く兄ちゃん取り返してこいよな」

 

「それにアイツらにはあん時の借りがあるからな」

 

カルバートの言葉にナツは好戦的な笑みを浮かべ、グレイは静かに闘志を燃やす。

 

「んじゃぁ!行けぇ!! 火竜の煌炎!!!」

 

ナツは両手の火を合わせてできた大きな炎を扉を塞いでいた的に向かって放った。

 

「アイスメイク!ウォール!!」

 

ナツの炎で敵が吹き飛び、そこにグレイの氷で道を作る。

 

「「行け!」」

 

「…ありがとう」

 

カルバートは小声で礼を言い、ハルトたちは先に進んだ。

それを見送ったナツとグレイは周りに目を向ける。

 

「へっ、ぞろぞろと虫みたいに湧いて来やがる」

 

「なら全部退治しないとな」

 

ナツは手から炎をたぎらせ、グレイは冷気を漂わせる。

 

「「燃えてきたぞ!」」

 

 

さらに奥に進むハルトたちの前に敵が現れるが、一瞬で近づき倒してしまう。

 

「やった!流石ハルトたちだね!!」

 

ルーシィが近付こうとした瞬間、天井から壁が落ちて来てハルト、ルーシィ、マタムネ、ハッピーとカルバート、エルザに分担されてしまった。

 

「しまった!」

 

「ハルト!!」

 

驚く、エルザとカルバート。

 

「え!分担されちゃったの!?」

 

「チッ!覇竜の剛拳!!」

 

ハルトが壁に向かって拳を放つが鈍い音が鳴って少し凹むだけだった。

 

「硬ぇな」

 

「ハルトの魔法で壊れないなんて……」

 

「相当硬いでごじゃるな」

 

「どうするの、ハルト?」

 

「まぁとりあえずは後ろの奴らをどうにかしないとな」

 

ハルトが振り向くとそこには大量のスパイダーとメタルフレームが迫って来ていた。

 

「ルーシィたちは下がっていてくれ。俺がやる」

 

「アタシも戦う!」

 

ルーシィが腰のホルダーに手をかけながらハルトの隣に並び立つ。

 

「無理するなよ」

 

「無理なんかじゃないよ。アタシはハルトの隣で戦いたいの!」

 

ルーシィが覚悟を決めた表情をして、ハルトは渋々了承した。

 

「わかった。行くぞ!」

 

「うん!」

 

 

ハルトたちと分断されたエルザとカルバートはどうするか立ち止まっていた。

 

「どうするかな……」

 

「ハルトは強い。私たちは先に進もう」

 

エルザがそう提案して先に進む。

 

「随分と信じているんだな」

 

「当たり前だ。仲間なんだからな」

 

「仲間か……」

 

「もちろんカルバート、お前もなんだぞ」

 

エルザにそう言われてカルバートは一瞬驚いた表情をしたがすぐにしかめっ面に戻った。

 

「何言ってんだ。先に進むぞ」

 

カルバートはエルザより前に出て、進んでいった。

エルザはその時、カルバートの口元が僅かに上がっているのが見えた。

 

「フッ……素直じゃないな」

 

「何してる。早く行くぞ!」

 

エルザたちは大きな扉の前にたどり着いた。

 

「ここだ。ここがCOREの心臓部だ」

 

「そうか、カルバート。お前はアルバスを探しに行け」

 

「何言ってる!?2人の方がいいだろうが!!」

 

「私1人で大丈夫だ。仲間だろ?信じてくれ」

 

カルバートはその言葉に少し考える素ぶりを見せた。

 

「……わかった。これを渡しておく」

 

カルバートは背負っていたバックから5本の銀色の筒を取り出した。

 

「これは魔導核分裂爆弾だ。これさえあればここは辺り一面が更地になる。これでセットとタイマーができる。タイマーをセットしてすぐに逃げろ。俺がセットをしたのをわかったら事前に渡しておいた通信機で全員に知らせる」

 

「わかった」

 

「じゃあ、頼むぞ」

 

「カルバート」

 

「何だ?」

 

「気をつけるんだぞ」

 

「フン、お前もな」

 

カルバートがアルバスを探しに行き、エルザは覚悟を決めた。

 

「ふぅ……さて、行くか」

 

エルザは扉を剣で切り開き、中に入るとそこは今まで一番大きな空間だった。

そしてその中央には金属板ででき、多くの管が伸びている巨大な球体がそびえ立っていた。

 

「あれか」

 

「侵入者を発見」

 

エルザがCOREの存在を確認すると、前方から抑揚のない声が響いてきた。

エルザが声のする方に目を向けるとそこにはエルザを倒したコーサーが立っていた。

 

「これより侵入者を排除する」

 

エルザは爆弾を床に下ろし、カルバートからもらった剣を換装して構える。

 

「来るがいい」

 

 

カルバートは両脇に銃を展開させながら、廊下を走っていた。

 

(反応ならここら辺なんだが……周りのジャミングが酷くて詳しい場所が判断できないな。COREのやつ、俺対策にこんなの作ったんだな)

 

頭の中で考えながら、カルバートは現れる敵を倒した正確に打ち倒していく。

 

(兄貴どこだ? 俺はもうあの時みたいには……)

 

カルバートの脳裏にはアルバスが自分を庇って爆発に巻き込まれた姿がよぎった。

すると曲がり角からメタルフレームが現れた。

 

「邪魔だ!!」

 

カルバートが攻撃しようとするとメタルフレームの頭が誰かに殴り潰された。

 

「っ!?カル!!」

 

「兄貴!!」

 

2人は漸く出会えたが、カルバートのすぐ後ろにメタルフレームが銃を構えて立っていた。

それに気づいたアルバスは倒したメタルフレームを持ち上げて、そのメタルフレームに投げつけた。

残骸とぶつかったメタルフレームは一瞬身動きが取れなくなり、そのすきにアルバスは胸を貫き、倒すが横にまだ残っており、それはカルバートが倒してしまう。

 

「ふぅ……」

 

「兄貴……俺は……」

 

アルバスが一息つき、カルバートが気まずそうにしているとアルバスはカルバートの肩に手を置いた。

 

「ありがとう、カル」

 

「は……?な、何で……」

 

「以前のお前なら、ここで逃げ出していただろう?そんなお前がここまで乗り込んできたんだ。だからありがとう」

 

カルバートは一瞬何を言っているかわからなかったが、次第に飲み込めていき、涙が溢れてきた。

今まで心の底にあった大きな罪悪感やら後悔がなくなったのだ。

さらに兄のアルバスから見捨てられていたと思っていたが、アルバスの言葉に温かいものが広がった。

 

「おいおい、まだ泣くのは早いだろ?COREを止めて全部終わりにしよう」

 

「あ、ああ!」

 

カルバートは涙を拭い、アルバスとともにCOREの心臓部まで走った。

 

 



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第70話 弱い自分に

カミナたちが戦っている場所には多くの残骸が落ちていた。

それは黒く焦げたり、火花を散らし、ところどころ食い破られたところがあり、穴が空いているものなのだ様々だ。

 

「ウォータースライサー!!」

 

ジュビアが手から水を鞭のようにしならせ、巨大兵に向かって振るうと水は巨大兵の体を切り裂いた。

 

「はぁ…はぁ……これで15体目……」

 

ジュビアが膝に手をつき、大量に汗をかいていて疲労しているのは目に見えていた。

際限なく現れる巨大兵に魔力と体力が追いつかないのだ。

そんな疲労困憊のジュビアの背後に巨大兵が武器を上げ、振り下ろそうとしていた。

 

「しまっ……!」

 

「鉄竜棍!!」

 

ジュビアのピンチに現れたのはガジルだったが、その腹は何倍にも膨れ上がっていた。

敵全てが金属なのでガジルは調子に乗って戦うより食べまくった結果だ。

 

「あ、ありがとうございます。ガジル君」

 

「げぷっ…気をつけろよ……ぷっふぅ……」

 

ガジルが悪態をつきながらジュビアに言うが、ところどころにゲップが混じり、全然締まらない。

 

「ガジル。あとどれくらい戦える」

 

「よ、余裕……だ……うぷっ」

 

「わかった、引っ込んでろ」

 

カミナは刀を構え、多くの巨大兵を見据える。

 

「やってみるか」

 

巨大兵の口が開き、ビームの収束を始める。

 

「チッ」

 

「ま、任せろ……滅竜奥義、堅魔・鉄竜鱗壁!!」

 

ガジルがカミナの前に出て、腕をクロスし魔法を発見すると、クロスした腕を中心に鉄竜の鱗が何枚も重なりながら広がり、3人を覆うように大きな盾が出来上がった。

巨大兵から一斉にビームを放つが、ガジルの盾は全てを弾く。

 

「何だ。こんなものがあったならさっさと使え」

 

「魔力をガンガン持ってかれるから、滅多に使わねぇよ……うぷっ!」

 

「そうか、これで時間が稼げるな」

 

カミナは両手を合掌し、ブツブツと何かを呟く。

全ての巨大兵がビームを出し終えた瞬間、盾は鱗が剥がれるように崩れ、そこには右手を巨大兵に向けたカミナがいた。

 

「白符」

 

カミナの手から白い光が放たれ、全ての巨大兵がひるんだ。

 

「天嵐」

 

次に左手から嵐を巻き起こし、巨大兵を巻き込む。

さらに風を出しながら、雷が迸る右手を突き出す。

 

「白雷」

 

そして右手を上左手を下にして嵐と雷が合わさり、大きな竜巻となる。

 

「合体魔法 、白雷天の激昂!」

 

白い竜巻は雷を撒き散らしながら、巨大兵を巻き込み破壊していく。

 

「1人で合体魔法を?いったいどれだけの技術が……」

 

ジュビアはカミナの凄まじい技術に慄いた。

 

「ジュビア、ガジルにつかまっていろ。ガジル、しっかり踏ん張っていろよ」

 

「は、はい!」

 

「げぷっ……」

 

カミナはさらに魔力を込め、嵐をさらに大きく、さらに激しいものにしていく。

嵐は広間全体に広がり、壁を穿つ、天井を破壊する。

 

「きゃああああぁっ!!!」

 

「うぉっ!ぐぅっ!!」

 

その嵐の風はカミナの後ろにいた2人まで巻き込み、飛ばされないようになんとか持ちこたえる。

やがて嵐は収まり、2人の目に入ったのは驚きの光景だった。

 

「ふぅ……こんなものか」

 

「こんなに……」

 

「マジかよ……」

 

カミナは汗を少しかき、疲れた表情をしていたがまだまだ余裕がありそうだ。

広間の壁は全て破壊され、天井はほぼ剥がされていた。

 

「これでもう巨大なやつは出てこないだろう。ここで待機するぞ」

 

「そんな!今すぐグレイ様たちのところに行きましょう!!」

 

「俺たちの役目は退路の確保だ。見た感じ出口はここにしかない」

 

「そ、それは……ハァ……わかりました」

 

ジュビアはしぶしぶと了承し、その場に座り込んだ。

カミナは座り込む2人を見て、扉の先を見た。

 

(あとはお前たち次第だぞ。ハルト)

 

 

ナツとグレイは次々と迫り来る敵を怒涛の攻めで全て倒していった。

 

「オラオラオラオラオラッ!!!!」

 

「ウオォォォォォッ!!!!」

 

ナツは鉄拳を何度も打ち付け、グレイは氷の槍を連続で出し続ける。

 

「「ハァハァハァ……」」

 

全ての敵を倒した2人は肩で息をし、体に傷が多く出来ている。

しかしまた壁が開き、そこから敵が多く現れる。

 

「くそっ!まだ来んのかよ……」

 

「なんだぁ?もう疲れたのかよ?」

 

「んなわけねぇだろ!!」

 

グレイが限りなく現れる敵にうんざりしたように言うとナツがからかう。

するとナツが何かを思い出した。

 

「おい。ハルトが言ってたこと覚えてるか?」

 

「あ?何のことだよ?」

 

「1年くらい前に俺ら2人でハルトと戦ったろうが。そん時だよ」

 

「ああ……あの時か。それがどうしたんだよ?」

 

「ハルトは『相反する力はうまく使えばより強力な武器になるかもしれない』って言ってた」

 

「だから、それが……なるほどそういうことか」

 

ナツが何か言いたいのかようやくわかったグレイはナツど同様、悪い笑みを浮かべる。

 

「やるぞ!グレイ!!」

 

「指図してんじゃねえよ!ナツ!!」

 

グレイが魔力を解放し、辺り一面に氷を作り出す。

それは氷柱となり敵の行く手を阻む。

 

「今度はこっちだ!!」

 

ナツは上空に跳び上がり、魔力を高める。

 

「火竜の……」

 

「ちょっ、.待て……」

 

「煌炎!!」

 

ナツはまだ下にいるグレイを無視して高温度の火球を下に叩きつける。

すると氷は一斉に溶け、その場で凄まじい爆発が起きた。

 

「かーかっかっ!!どうだ!!!」

 

「どうだ!、じゃねえよ!!」

 

「痛って!?」

 

ナツは仁王立ちになり笑うがグレイが頭を叩く。

 

「何すんだ!」

 

「もうちょっと待てよ!巻き込まれて死ぬところだったわ!!」

 

グレイが指を指す方には氷の壁ができており、なんとか凌ぎ切ったようだ。

ナツとグレイはその場で連携技を繰り出したのだ。

グレイが辺り一面の気温を一気に下げ、ナツが高温の熱を与えることで空気が一気に膨張し爆発を起こしたのだ。

 

「いいじゃねえか。無事だったんだから」

 

「よかねぇよっ!!」

 

2人が言い争ってる時に氷の破片を踏む音が聞こえる。

振り向くとそこには黒いスーツを着た長身でガタイの良い男が立っていた。

 

「ナツ」

 

「おう、わかってる」

 

2人はさっきまでのふざけた空気を切り替え、その男を見据える。

 

「コードネーム『コーサーM型』。これより目標を駆逐する」

 

 

「タウロス!お願い!!」

 

「Moooooo!!!」

 

ルーシィが鞭でメタルフレームの武器を掴み、その隙にタウロスに指示を出し周りの敵を含めて吹き飛ばす。

 

「こっちだよー」

 

「こっちでごじゃる!」

 

ハッピーとマタムネは縦横無尽に飛び回り敵を翻弄して同士討ちさせている。

 

「覇竜の断刀!!」

 

ハルトは魔力の手刀で周りの敵を一気に切り裂く。

 

「数が多いな……一気に蹴散らす!覇竜の螺旋拳!!」

 

回転を加えた拳は風圧を生み出し、通路にいた敵を吹き飛ばした。

 

「こんなもんか」

 

「ハルトー!こっちは終わったよ!!」

 

「おう。こっちもだ」

 

「えへへ♪」

 

「ルーシィ。だいぶ機嫌がいいね」

 

「えーそんなことないわよー♪」

 

ルーシィは手を振り、敵を倒し終えたの知らせながら達成感に満たされていた。

ラナに弱いと言われたが自分はハルトと共に戦えていることに喜んでいたのだ

 

「しっかし、この壁をどうにかしないと先に進めないな」

 

「道はこの一本しかないもんね」

 

「……とりあえず殴るか」

 

「え!?(ナツみたいな考え方!?)」

 

ハルトが拳を構え殴ろうとした瞬間、道を塞いでいた壁が上に上がり始めた。

 

「開いたでごじゃる!」

 

「敵を倒したら先に進めるんだね!」

 

マタムネとハッピーが喜ぶなか、先の道が見えてきたがそこには黒スーツに身を包む女性が立っていた。

 

「誰?」

 

「敵なのかしら?」

 

「でも今までヒト型のはいたでごじゃるが人間みたいなのはいなかったでごじゃる」

 

ルーシィたちが話しているなか、ハルトはその女性を険しい目つきで見ていた。

 

「あ、あのー…あなたどこから来たの?」

 

ルーシィが眉一つ動かさない女性に勇気を出して話しかけると女性は右腕をゆっくりと上げて、ハルトたちに向ける。

そしてその腕は一瞬で開き、中から銃口が覗いている。

 

「え?」

 

「くそ!!」

 

「発射」

 

その銃口から青の光線が何発も同時に打ち出され、ハルトたちに向かう。

一瞬で何発も打ち出された光線はハルトたちを襲い、煙が上がる。

 

「コードネーム『コーサーF型』。敵の殲滅を開始する」

 

コーサーは銃口を向けたまま、動かず煙の中を覗く。

煙が晴れるとそこには覇竜の剛腕を展開していたハルトがルーシィたちの前に立っていた。

 

「あ、ありがとう。ハルト」

 

「ルーシィ、お前は下がってろ」

 

ハルトは敵の攻撃力、さらに何か不気味なものをコーサーから感じ取り。ルーシィを巻き込まないためにそう言ったが、その言葉はルーシィの胸に悔しさを広がせた。

 

「そんな……!私だって戦えるわ!!」

 

「おい!待て!」

 

ルーシィはハルトの言葉に無視してコーサーの前に立つ。

 

「開け!獅子宮の扉!レオ!!」

 

「姫に呼ばれて騎士参上!!」

 

ルーシィは現時点で最強のロキを呼び出した。

 

「感激だよ、ルーシィ。僕を呼んでくれるなんて」

 

「今はそんなのいいから、アイツを倒して!」

 

ロキは少しションボリしたが改めて敵に対面したが、その顔を悲痛そうに歪めた。

 

「ふぅ…僕は大体の女性には優しくするつもりだけど今回はルーシィの願いだから、ごめんね」

 

「ちょっと!あれはロボット!人じゃないの!!」

 

ロキが相手が女性ということでいつもの口説きに入り、ルーシィが怒る。

 

「そうなのかい?なら遠慮は要らないね!!」

 

ロキは両拳に魔力を込めて近づき、コーサーの腹に一撃を食らわす。

 

「っ!?これは……また硬い女の子だね!」

 

「だから!人じゃないって言ってるでしょ!!」

 

コーサーはロキの猛攻を捌きながら銃を放とうとするがロキもそれをさせない。

 

『対象の行動パターンを把握。撃退パターンを選択』

 

ロキがまた殴りかかるが、その拳をまるで知ってたかのようにコーサーは掴んだ。

 

「くっ!?」

 

「殲滅を開始する」

 

コーサーはロキの腕を引き、体勢を崩したところに腹に膝蹴りを入れた。

 

「カハッ!!」

 

よろめくロキに追撃を加えようとするコーサーにハルトが阻止する。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

ハルトの拳を難なく受け止めたコーサーは2人を投げ飛ばした。

 

「あの子、結構やるね」

 

「まるで俺たちの動きがわかってるみたいだ」

 

コーサーは視線を対峙しているハルトたちではなく、ルーシィに向け駆け出す。

 

「っ!させるか!!覇竜の飛燕拳!!」

 

連続で打ち出された飛燕拳を何発か受けてコーサーは動きが止まる。

その隙にロキが背後に回った。

 

「レグルスインパクト!!」

 

コーサーの腹にロキの拳がめり込む。

コーサーの体はくの字に吹き飛んだ。

倒れたコーサーは顔色一つ変えずに立ち上がろうとするが片膝をついてしまう。

 

「ハルト!ロキ!あともうちょっとだよ!!」

 

ルーシィがコーサーはもう動けないと思いつき、ハルトとロキに声をかける。

 

「覇竜の……」

 

「レグルス……」

 

ハルトは口を膨らまし、ロキは腰に拳を構える。

 

「咆哮ォ!!!」

 

「ブラスト!!!」

 

大出力の咆哮とロキの魔力光線がコーサーに放たれた瞬間、コーサーの背中ぎ左右に開き百を超える砲門が現れ、一斉に打ち出された。

 

(こんな狭い空間でそんな広域攻撃なんてしたら……ルーシィ!!)

 

ハルトは打ち出された光線が打ち出される中、即座にすぐ後ろにいるルーシィが防御ができないことに気づき、咆哮を撃ちやめてルーシィのほうに駆け出す。

手が届きそうになったが光線が縦横無尽に壁や天井にあたり爆発を起こした。

 

「ゲホッ!ゴホッ…….!ルーシィ!!どこだ!!」

 

瓦礫の下から出てきたハルトは咳き込みながらルーシィの名前を叫ぶ。

 

「は、ハルト……」

 

「ルーシィ!」

 

ルーシィの声が聞こえ、そっちに向かうとルーシィはコーサーに捕まって銃を頭に突きつけられていた。

 

「ご、ごめんなさ……」

 

「ハルト・アーウェングス。この女を殺されたくなければ言うことを聞きなさい」

 

ルーシィが話そうとするとコーサーが遮る。

 

「………わかった」

 

「まず武装解除をしなさい」

 

ハルトはルーシィを守るために了承し、魔力を解いた。

 

「ルーシィ・ハートフィリア、星霊を閉門しなさい」

 

ルーシィはハルトたちの近くに立っていたロキに目を向けた。

 

「いいよ。僕がいなくてもハルトが守ってくれるさ」

 

「ごめん、ロキ」

 

ロキは光の粒子になって星霊界に帰っていた。

コーサーは新たに来たメタルフレームにルーシィの拘束を任せてハルトの前に来た。

 

「ハルト・アーウェングス。貴方に聞きたいことがあります。」

 

「なんだ?」

 

「魔神族の兵器は何処にありますか?」

 

「……何を言ってるんだ?」

 

(魔神族?兵器?なんの話?)

 

コーサーがハルトに聞いたことはルーシィにとっては初めて聞いた言葉だった。

コーサーは知らないと言ったハルトの顔を殴る。

 

「ハルト!!」

 

ルーシィがハルトの名前を叫ぶが、ハルトは手で大丈夫と答える。

 

「もう一度聞きます。魔神族の兵器はどこにありますか?」

 

「知らないって言って……グッ!?」

 

ハルトの言葉が最後まで言えずに顔を何度も殴られる。

 

「やめてよ!知らないって言ってるじゃない!!」

 

「いいえ、ハルト・アーウェングスは知っているはずです。記録では貴方は5年前のフラスタ戦争に参加していたのですから」

 

「フラスタ戦争って……何のこと?」

 

「ルーシィ!お前には関係ない、ぐあっ!!」

 

「ハルト!!」

 

「言わないのであれば体に聞くまでです」

 

ハルトを殴る鈍い音が響く。

 

 

ハルトがコーサーに尋問されているころ、マタムネとハッピーはコーサーが光線を放った時に爆発で吹き飛ばされハルトたちと離れ離れになってしまい、大量のスパイダーとメタルフレームに追われていた。

 

「ギャーー!!!」

 

「助けてでごじゃるぅぅぅぅっ!!!」

 

スパイダーたちは追いながら銃を乱射してくる。

 

「アアァァァァッ!!?かすったでごじゃるぅぅっ!!」

 

「マタムネー!!急いでー!!」

 

涙目になりながらも逃げるマタムネたちの前にメタルフレームが現れた。

 

「「ギャーーー!!!」」

 

2人が互いに抱きしめて叫ぶと、メタルフレームの頭は吹き飛んだ。

 

「へ?」

 

「ごじゃる?」

 

そして、その後ろから現れたのはカルバートとアルバスだった。

 

「なんだ、猫どもか」

 

「「カルバートーーー!!!」」

 

「近づくな。気持ち悪い」

 

「ぷぎゃ!」

 

「むぎゅ!」

 

現れたカルバートに感動した2人は勢いに任せて、抱きつこうとしたがカルバートははたき落した。

 

「エルザたちのペットの猫たちじゃないか。無下にしたらダメだろう」

 

「動物が苦手なんだよ」

 

「ペットじゃないでごじゃる……」

 

アルバスがカルバートに注意するがどこかずれてる。

そんなコントみたいなことをしているとマタムネたちを追っていた敵が追いついてきた。

 

「兄貴!!」

 

「わかってる!!」

 

アルバスは手を広げ、青白い光を出すと敵の武器のみがアルバスの手に集まり、その隙にカルバートが銃を乱射して敵を掃討した。

 

「あっという間だ……」

 

「すごいでごじゃる」

 

2人の連携に舌を巻く2人にカルバートが話しかける。

 

「お前らどこから来た?アーウェングスと一緒じゃないのか?」

 

それを聞いてマタムネとハッピーはハッとした顔になった。

 

「そうだ!」

 

「ハルトたちはコーサーという女性と戦っているでごじゃる!!」

 

「コーサーだと!!」

 

「不味いな……応援に行くぞ」

 

 

マタムネたちの案内でハルトのいるところに急ぐ。

 

 

鈍い音が絶え間なく響く。

コーサーはずっと同じ質問し、ハルトはそれに対して知らないの一点張りで、鋼鉄を簡単に破る力を持つコーサーの力で殴られるハルトは顔中が血だらけだ。

途中からメタルフレームに腕を掴まられ、無理やり立たされながら殴られていた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ゴフっ……」

 

ハルトは息が荒く、口から血が垂れる。

 

「お願い……!もうやめてよ!ハルトが死んじゃう!!」

 

ルーシィが止めるように懇願するが、コーサー無視してハルトを殴られ続ける。

 

「ここまで強情だとは思いませんでした」

 

「ガッ!?ゴホッ…!ゴホッ…!」

 

コーサーは最後にハルトの腹を殴り、ハルトの口から血が吐き出される。

 

(アタシにもっと力があれば……!もっと力があればコーサーに捕まることなんてなかったのに!ハルトを助けることだってできたのに……!)

 

ルーシィは激しく後悔していたラナの言う通り自分は弱い。

現に自分が弱いせいでハルトは傷だらけになっている。

弱い自分に心底嫌になる。

しかし自分を責めてもハルトが尋問されるのは止まらない。

 

「少し趣向を変えますか」

 

コーサーは捕らえられているルーシィの前にやってくる。

 

「な、何をする気だ……?」

 

「貴方は自分がどれだけ傷ついても口を割らない。なら……」

 

コーサーは手から剣を出す。

しかもその剣は熱を帯びており、赤く光っている。

 

「貴方はルーシィ・ハートフィリアが傷つくのは耐えられますか?」

 

「よ、よせっ!!ルーシィに手を出すな!!」

 

「なら魔神族の兵器のありかを言いなさい」

 

「それは……!」

 

「できないのであればルーシィ・ハートフィリアを傷つけます」

 

「やめ…!「大丈夫だよ。ハルト」ルーシィ!?」

 

ルーシィの目から涙が流れる。

 

「ごめんね……アタシが捕まったからハルトがそんなに傷ついちゃったし……言いたくないことも言わさせられそうになってる……大丈夫よ!アタシが耐えればいいんだから!」

 

ルーシィは笑って見せるがそれはハルトを心配させないように無理して笑っているのがハルトにはわかっていた。

 

「やめろルーシィ!お前には関係ない!!おいコーサー!!兵器のありかを教えるだからルーシィには何もするな!!」

 

「そうですか。ならルーシィ・ハートフィリアに手を出すのはやめましょう」

 

「ダメよハルト!!それは言いたくないことなんでしょ!?」

 

ルーシィがそう言うがコーサーは関係がないと、ハルトに近づく。

 

「では魔神族の兵器はどこにありますか?」

 

「あれは……古代都市フラスタの中にある…ロシュール遺跡に…」

 

ハルトが言い切ろうとした瞬間ルーシィを捕まえていたメタルフレームの頭が撃ち抜かれてルーシィは解放され、コーサーがそっちに振り向いた瞬間にハルトを拘束していたメタルフレームも破壊された。

 

「無事か、アーウェングス」

 

「カルバートさん!!」

 

ルーシィがカルバートの名前を喜んで呼ぶ。

 

「カルバート・マキナ、また貴方ですか。貴方はいつも私の邪魔を……」

 

「覇竜の……螺旋拳!」

 

ハルトはフラつきながらコーサーの後ろに立ち、背後から拳を突き立てた。

 

「ガガガ……」

 

コーサーは口から煙を出して鈍い機械音を出して倒れた。

ハルトも崩れ落ちるように膝をついた。

 

「ハルト!!」

 

ルーシィはすぐさまハルトの元に駆け寄った。

 

「大丈夫か……ルーシィ?」

 

ルーシィはハルトに駆け寄ると涙を流していた。

 

「ごめんね……ハルト。ごめんね……」

 

「ルーシィ……」

 

「アタシが弱いから……こんなに傷ついて……ごめんね」

 

ルーシィは涙を流し。謝りながら心に誓った。

必ず強くなると。

 



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第71話 VS.コーサー

ハルトと合流したカルバート達はどうするか話し合っていた。

 

「どうする?アーウェングスはボロボロの状態だ。ハートフィリア達は戦力外だ」

 

「俺なら…….大丈夫……ぐっ!?」

 

「ハルト!?無理しちゃダメよ!!」

 

ハルトは立ち上がろうとするがうまく立ち上がれない。

 

「ハッキリ言ってアーウェングスの戦力は欲しいところなんだよ。……これを使えばしばらくの間は動けるんだが、どうする?」

 

カルバートは懐から緑の薬を取り出した。

 

「それは…?」

 

「一種の興奮剤だ。これで動ける」

 

「じゃあ、それをくれ」

 

「いいのか?」

 

「少しでも戦力が欲しいんだろ?ならくれ」

 

「ハルト……」

 

ルーシィは傷だらけのハルトに戦って欲しくないが、今の弱い自分では何を言っても無駄だと言うことは自分でもわかっていた。

 

「ルーシィ、どうした?」

 

「……ううん。なんでもないよ、気をつけてね」

 

「おう」

 

ハルトは首に注射器をさし、興奮剤を流し込む。

 

「行ってくる」

 

 

エルザとコーサーの激しさを増していた。

初めて戦ったときはコーサーの驚異的な性能に圧倒されたが、今回はそうではなかった。

コーサーの猛攻をギリギリのところで判断して捌き、そしてそこにカウンターを入れるという高度な戦闘を繰り返していた。

 

「どうした?前より遅く感じるぞ」

 

「あまり調子に乗らないことだ。自分の力を過信することが人間の悪いところだ」

 

エルザの挑発にコーサーは淡々と返し、今までで一番の速さでエルザの背後を取る。

 

「こんな風にな」

 

コーサーはエルザの背後から手刀を突き刺そうとするが、エルザはそれを避けコーサーの体に一撃を入れる。

 

「!!?」

 

「過信なんかじゃない。今の私はお前に勝つ気しかないという自信だ」

 

コーサーは後ろに退がり、自身の斬られたところを見る。

そこは以前と同じ、血肉の色はなく機械の鈍い鉄の色だが、以前と違うのはその部分の機械の動きが鈍いところだ。

 

「何をした?」

 

「この剣はカルバートがお前達を倒すために心血を注いで作ったものだ」

 

カルバートから譲り受けた剣から魔力の光が発生する。

 

「そうか。ならこっちも本気で行こう」

 

「やらせるか!!」

 

その光が大きくなり、エルザがコーサーに向かって振るうとその光はコーサーに向かって飛んでいく。

魔力の斬撃はコーサーに直撃し、爆発を起こす。

この程度で倒せるとは思っておらず、エルザは剣を構え気を抜かない。

煙の中から人の姿が現れる。

その姿にエルザは驚愕してしまう。

コーサーの姿は人のものではなく。全身がメタルグレーに染まった完全に機械のものだった。

 

『行くぞ』

 

一気に加速してエルザの懐に入ったコーサーはエルザの腹に一撃を放つ。

えるさは咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃したにもかかわらず、身体中の空気が抜けるほどの衝撃が走り吹き飛ばされてしまう。

壁に叩きつけられ、エルザの鎧は粉々に砕けてしまう。

 

「がはっ!!!?」

 

(さっきまでとパワー、スピードが段違いだ!!このままでは負けてしまう!)

 

「換装!」

 

エルザは立ち上がり、黒羽の鎧に換装する。

 

「ハァッ!!」

 

エルザが斬りかかるがそれを難なく避けてコーサーは蹴りを放つ。

 

「ぐっ!」

 

腕で防ぐがさっきと同様に吹き飛ばされ、コーサーはそこに飛びかかり、また拳をエルザに浴びせる。

 

「くうぅぅぅっ!!」

 

(一撃でもこの剣の攻撃を当てることができれば!!)

 

作戦出発前に剣を渡されたエルザは改めてカルバートに剣の特性を聞きにに行った。

 

「この剣は相手の魔力神経に直接自分の魔力を流し込むことができるものだ」

 

「魔力神経?」

 

「……そこからかよ」

 

カルバートはわざとらしくため息を吐き、エルザはそれを見て少しカチンときた。

 

「いいか?魔力ってのは俺たちの心臓近くにある魔力源から作られるが、それを流しているのは血管とよくと似た魔力神経だ。それ流れて全身に魔力が行き渡る。ここまではいいか?」

 

「ああ」

 

「で、だ。その剣は相手の魔力神経に直接自分の魔力を流し込む剣だ」

 

「流し込んだらどうなる?」

 

「血液型が違うやつの血が入ったら最悪死んでしまうのと同じだ。魔力ってのは千差万別だからな。流し込まれたところから不調が起こる。まあ、流れ込んだ魔力を自分の物にしちまうアーウェングスは特別だがな」

 

つまりカルバートの剣は相手に毒を流し込む剣ということだ。

それに合点がいったエルザだがここで疑問ができた。

 

「ちょっと待て。それはあのロボット達に効果があるのか?」

 

「勿論だ。あいつらを動かしているのは魔力だしかもそれがケーブルを通って流れている。奴らは俺たち人間と違って異物に対抗するシステムなんて持っていない。少しでも魔力を流し込めばオーバーヒートを起こしてぶっ壊れる」

 

「あのコーサーもか?」

 

それを聞いたカルバートは顔を歪める。

 

「いや、アイツは特別だ。あれが俺の設計通りに作られているなら、相当厄介だ」

 

「いったいどういった物なんだ」

 

「コーサーはミクロ単位の機械が魔力によって集まった集合体だ。俺がどんな環境下でも活動できるように作ったためにコーサーの能力は他のものより遙かに上だ」

 

「なら剣は……」

 

「いや効きはするだろうが、それは一時的なものだ。すぐに回復する」

 

「倒すにはどうすればいい?」

 

カルバートは難しそうに唸った。

 

「奴の魔力量を超える魔力を一気に叩き込めばなんとか倒せるかもしれないがこれは現実味がない」

 

「何故だ?」

 

「ミクロ単位の機械一つ一つが魔力を生み出すだぞ?その魔力量はとんでもないものだ。だからコーサーと戦うときは足止めをしてくれ。俺とアーウェングスでなんとかする」

 

 

(ああは言われたが……)

 

エルザは殴ってくるコーサーに蹴りを入れて距離を取る。

 

「私は負けぱっなしは嫌な性なんだ」

 

好戦的な笑みを浮かべて剣を改めて構える。

コーサーは再びエルザに近づき、殴るモーションに入るがエルザはそれより速く、コーサーの懐に入って剣を振るう。

 

「ふっ!」

 

「!」

 

コーサーは体を粒子状にして避ける。

 

「かわしたということは私が速さについてこれたということだな」

 

コーサーは再び近づくがエルザは攻撃をかわして二回斬撃を浴びせる。

 

「!!」

 

「ハアァッ!!」

 

そこにエルザは回転斬りを加えてコーサーを吹き飛ばすが、粒子状になって着地して、立ち上がろうとするが体が雷で打たれたように揺れ始め、立てなくなった。

 

『こ、これは』

 

「漸く効いたか」

 

もう一度立ち上がったコーサーは自身の不調に気づき始めた。

 

「お前は私の力だけではなく、カルバートの力にも負けたんだ」

 

『そんな……バカな』

 

エルザは追撃するため、コーサーに近づく。

しかしコーサーは自身の不調が少しマシになったのを確認し、追撃してきたエルザの腕を掴み、腹に一撃を入れる。

 

「グフッ!……ハアァッ!!」

 

しかしエルザは殴られても、無理に体を動かし片手に剣を換装してコーサーを斬るが、コーサーの体に飲み込まれて剣も抜けなくなる。

 

『終わりか?』

 

「どうだろうな!」

 

次の瞬間、剣は爆発を起こしエルザとコーサーの距離が離れる。

 

『!』

 

「くっ!!」

 

コーサーと離れることはできたがその反動でカルバートの剣を落としてしまった。

それに気づいたエルザは取りに行こうとするがコーサーが立ち塞がる。

エルザは新たに剣二本換装するがカルバートの剣が無ければコーサーには有効打を与えることはできない。

ピンチな状況には変わらなかった。

 

ナツとグレイは新たに現れたコーサーM型との戦いになったが、コーサーの実力に2人は押されぱっなしだった。

大量の敵と戦った後もあるが、コーサーの特性に苦戦していた。

コーサーM型はF型のように多彩な武器も持たず、コーサーオリジナルのように粒子状になる能力もないが、あらゆる環境に対応できるように作られた。

そのためナツの炎とグレイの氷が効かない。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「くそ……!」

 

2人の体は傷だらけで疲労しているのは目に見えてわかっていた。

 

「行くぞ!グレイ!!」

 

「おう!アイスメイク‘ランス’!!」

 

グレイが氷の槍を次々と打ち出し、ナツはその中を駆け抜けた。

コーサーは腕を組んで全ての攻撃を受け止め、ナツはその隙にコーサーに近づく。

 

「火竜の鉄拳!!火竜の鉤爪!!火竜の翼撃!!」

 

ナツは続けて攻撃を行うがそれもコーサーは受け止める。

 

「紅蓮火竜拳!!!」

 

ナツはさらに連続で拳を打ち出すが、その腕を捕まえられる。

 

「っ!?ウオォォォッ!!」

 

一瞬掴まられ驚いたが、ナツは気にせずコーサーの顔に鉄拳を打ち込み続ける。

しかしコーサーは掴んだナツの腕を捻る。

 

「ぐっ!?」

 

ナツは腕を捻られ痛そうな表情をして膝をつく。

 

「アイスメイク“キャノン”!!」

 

そこにグレイは氷の大砲を作って弾丸を放つ。

弾丸はコーサーの顔に直撃し、仰け反るがゆっくりと元に戻す。

その顔は

皮膚が半分破け、中の機械が見えて不気味だ。

コーサーはナツをグレイに投げつけた。

 

「グハッ!」

 

「グフッ!」

 

ぶつかった2人はそのまま転がってしまい、そこにコーサーが近づきナツとグレイの首を掴み、持ち上げて締める。

 

「ぐっ……うぅ……!」

 

「ぐあぁっ……!」

 

コーサーはただ無言で締める。

2人の意識が無くなりかけた瞬間、

 

「白絶斬」

 

白い斬撃がコーサーの両腕を切断した。

コーサーの手から離れたナツたちの目に入ったのは刀に白い魔力を纏わせて立つカミナだった。

 

「白雷」

 

レーザー状の雷はコーサーの体を撃ち抜くことはないが、ナツたちとの距離を離した。

 

「か、カミナ……なんでここに?」

 

「お前たちが遅かったからな。様子を見に来た」

 

カミナはコーサーから視線を離さず、グレイに答える。

コーサーは両腕がないまま立ち上がり、その後ろから多くのメタルフレームとスパイダーが現れる。

カミナは刀を構える。

 

「カミナ!俺たちも戦うぞ!!」

 

「……いらん」

 

「なに!?」

 

ナツが再び現れた軍勢にカミナと一緒に戦おうとするがカミナはそれを断る。

 

「お前の右腕、折れてるだろ。グレイの魔力も残り少ない。逆に邪魔だ」

 

「なんだとォ!!」

 

「カミナ!テメェ!!」

 

ナツとグレイはカミナの言葉に食ってかかるがカミナは気にもしない。

 

「そこで待ってろ」

 

カミナは軍勢に走り剣戟と魔法で瞬く間に倒していく。

刀を振るい、魔法が飛び交う。

その姿は美しく見えた。

軍勢の数はナツたちが戦った数より多いなにも関わらず、1人で圧倒していく。

 

「すげぇ……」

 

「………」

 

ナツとグレイはカミナの圧倒的な戦闘に驚き、言葉も出ない。

 

「あとはお前だけだ」

 

カミナはコーサーに目を向けるとコーサーは周りの多くの残骸に目を向ける。

 

「これで終わったと思うか?」

 

コーサーは無くなった腕を地面に向けるとそこから大量のケーブルが伸び、残骸に絡まっていく。

残骸はケーブルを伝ってコーサーの体に合わさり、大きくなっていく。

 

『この姿でお前たちを抹殺する』

 

コーサーの姿はいくつもの残骸が合わさり、先程カミナが戦った巨大兵よりも大きい。

更にその背中にはケーブルと残骸でできた触手が何本も伸びていた。

 

「おいおい!」

 

「マジかよ!」

 

「……」

 

ナツ、グレイは目を剥いて驚くがカミナは静かに見据える。

 

『怖くて言葉も……』

 

「終わりか?」

 

『なに?』

 

「それで終わりか、と聞いているんだ?」

 

カミナの言葉にコーサーは無言で触手を振り下ろす。

カミナは難なくそれを避け、コーサーとの間合いを詰める。

コーサーは触手を分裂させてカミナを追い詰めるが、カミナは全て避ける。

 

「白雷」

 

指先から放たれた白雷は触手を縫ってコーサーの顔に当たるが、僅かに焦げ目をつけるだけだ。

 

『無駄だ。お前程度の魔力ではこの『メタルジャケット』を貫くことはできない』

 

「………」

 

カミナはなにも言わず、触手の攻撃をかわし続けながら白雷を打ち続ける。

 

『何度も言っているだろう。お前の魔法では私の装甲を撃ち抜くことはできない』

 

コーサーがそう言うとカミナは動きを止めて、コーサーを見る。

 

「奇妙だな」

 

『……何がだ?』

 

「機械のわりにはよく喋る。まるで人間みたいだぞ?」

 

『……黙れ!!!』

 

カミナの言葉にコーサーは声量を大きくして叫び、全ての触手をカミナに飛ばす。

カミナは迫ってくる触手を避け、腰のホルスターから巻物を一つ取り出す。

 

「召喚(来い) 天鷲(あまわし)」

 

巻物から全長5メートルもある巨大な鷲が現れ、カミナそれに乗り、触手の猛攻を避けていく。

 

「白符」

 

カミナが手を向け、白い光を出し目くらましをするが、コーサーはカミナの姿が見えており、拳を振り下ろす。

 

『不思議か。お前の戦い方は入り口近くの戦いを記録している。お前の戦い方はもうわかっている。東方の魔法『鬼道』を中心とした戦いかただ』

 

天鷲は拳を避ける。

 

『お前がしようとしたのは至近距離から『蒼火墜』で私の装甲を剥がそうとしたが失敗だったな』

 

触手のスピードが上がり、カミナを追い詰めていく。

そして触手はとうとうカミナを捉えて、あらゆる方向から串刺しにした。

 

「「カミナ!!」」

 

ナツとグレイがカミナの名前を叫ぶ。

 

『次はお前たち「これで終わったと思ったか?」ッ!!』

 

コーサーがナツとグレイに狙いを定めたとき、背後から声が聞こえる。

振り向こうとした瞬間、後頭部に何かが刺さる感覚がコーサーに走る。

 

『貴様……どうやって……』

 

「お前が串刺しにしたのはただの幻覚だ」

 

『いつの間に……!』

 

「さあな、自分で考えろ。『白雷剣』」

 

カミナの刀に白雷が纏いつき、雷が伸び一本の大きな雷の剣となってコーサーの喉を貫く。

カミナは白雷剣を振り下ろし、コーサーを一刀両断した。

崩れ落ちるコーサーから下りたカミナは怪我をしているナツたちに近づく。

 

「召喚(来い)、繭姫」

 

繭姫を呼び出し、ナツたちの怪我を治療していく。

 

「カミナ。いつ幻覚魔法なんか使ったんだよ」

 

「お前が気にしてなんのためになる」

 

グレイが気になり、カミナに聞くがバッサリと切り捨て、グレイの額に血管が少し浮き上がった。

 

「いいじゃねーかよー。教えてくれよ!」

 

ナツも気になりだし、聞くが無視してカミナは先の道を急いだ。

 

 

エルザとコーサーの戦いは徐々にコーサーが押していた。

エルザはカルバートの剣を落とし不利にもなったが、エルザは食らいついていた。

これはエルザの元々の実力が高かったためだろうか今まで持ちこたえている。

コーサーの蹴りがエルザの腹に入り、吹き飛ばされる。

 

「がはっ!」

 

『諦めろ。お前たち勝ち目は無い』

 

エルザはそう言われるが剣を構えて、斬りかかる。

しかしコーサーはそれを受け止め、剣を破壊し、エルザの顔、体に拳を叩きつける。

 

「ぐぅっ!換装!!」

 

エルザは金剛の鎧に換装し、防御力を上げるが、

 

『それは悪手だ』

 

コーサーは粒子状になり金剛の鎧の真正面から側面に回り、肩部分の盾を拳の連打で破壊する。

 

「くそ!」

 

エルザは斧を換装して振るうがそれも受け止められ、破壊される。

コーサーはエルザの顔をを殴り、地面に叩きつける。

 

「換……装!」

 

次に飛翔の鎧に換装し、縦横無尽に飛び回り、コーサーを翻弄する。

 

『無駄だ』

 

コーサーも走りだし、エルザの横に追いつく。

 

『お前では私に勝つことができない』

 

コーサーは腕を振るい、エルザを壁にクレーターができるほど叩きつける。

エルザは壁に叩きつけられ動けなくなり、そこにコーサーがエルザの首を持ち上げる。

 

『終わりだな、妖精女王(ティターニア)。一度堕ちた妖精は二度と羽ばたかない』

 

「フフ……」

 

コーサーがエルザの胸に腕を突き刺そうとした瞬間、エルザの口から笑みがこぼれる。

 

『何がおかしい?』

 

「やっと持ったな……」

 

『?……っ!?ぐあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?』

 

コーサーの胸にはカルバートの剣が突き刺さっていた。

エルザはコーサーが自身の首を締め上げた時に剣を自分のところに引き戻したのだ。

確実にコーサーに刺すためにわざと自分が囮になるようにした。

コーサーはもがき苦しみ、動けなくなる。

 

『き、貴様……!!』

 

コーサーはエルザを睨みつけ、エルザはコーサーに突き刺さった剣を引き抜く。

コーサーは剣の影響でしばらく動けない。

 

「終わりだ」

 

エルザは剣を高く掲げ、魔力を流す。

流された剣からはエルザの髪と同じ緋色の魔力が太く、天井近く立ち昇る。

 

「ハアアァァォァァッ!!!」

 

振り下ろされた一撃はコーサーに叩きつけられ、大きな光が爆発した。

光が晴れるとそこにはコーサーがいた場所には黒い焦げ跡だけが残っていた。

 

「私の勝ちだ」

 

妖精女王は堕ちはしない。

 




コーサー(オリジナル): ターミネー○ージェネシスのラスボスぽっい
感じのロボット。

コーサーF型: いぬ○しきの武器を持つ外見が若い女性のロボット

コーサーM型: 銀○に出てくる紅桜のケーブルを持つロボット


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第72話 兄弟

 

「エルザ!」

 

コーサーを倒したエルザは名前が呼ばれたほうを見るとそこにはハルトたちがいた。

 

「ハルト!無事だったか」

 

「ああ、なんとかな」

 

「スカーレット。コーサーはどうした?」

 

「倒した」

 

「倒した!?あのコーサーをか!!」

 

カルバートはエルザ1人では倒せないと考えていたため、そのことに驚く。

 

「カル、驚くのは後にしろ。今は……」

 

アルバスは奥に見える巨大な球体を見据える。

 

「ヤツを止めるんだ」

 

『止めるとは酷いことを言いますね』

 

部屋にCOREの声が響く。

 

「COREか…」

 

「こいつが…….」

 

「CORE……」

 

初めてCOREの声を聞く、ハルトとエルザは警戒を高める。

 

『私は世界を救おうとしているのです。なのに何故、破壊しようと?』

 

「お前の考え方は危険だ。戦争の原因となる人類を減らして管理しようとするなどあってはいけないことだ。それは救済ではなく恐怖による統治だ」

 

アルバスがCOREに向かって言い切る。

 

『わかりました。貴方との交渉は無意味だと言うことがよく分かりました。なら貴方を破壊して心臓を頂きましょう』

 

すると天井が開きそこから水銀みたいなのが落ちてくる。

 

「嫌な予感がする……」

 

ハルトの口からそう溢れる。

すると水銀は広がるのではなく、一つの塊となって足や顔を作る。

その足は足というより、爪みたいに見え、顔は三角形の生物とは思えないものだ。

顔ができるとそこに赤い目が灯る。

 

『キュアアアアアァァァァァァっ!!!!!!』

 

金切り声が響き、部屋自体を揺らす。

 

「カルバート!何だよ、あれ!!」

 

「知るか!俺の設計の中にはあんなのなかった!!」

 

怪物は巨体に似合わないスピードでハルトたちに迫る。

その鋭い足でハルトたちを突き刺そうとし、ハルトはそれを避けて殴りかかる。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

殴ったがそれは水を殴ったように吸収される。

 

「!」

 

「ハルト!」

 

エルザが続いて、足を斬るがまた水のように繋がる。

 

「こいつ、体が水銀でできてるのか!」

 

「じゃあ物理攻撃は効かないってことか」

 

「でも足止めはできる!錬成!!」

 

カルバートは両手を手につき、地面を隆起させて怪物との間に壁を作る。

 

「今のうちにどうするか考えるぞ!!」

 

「っ!カル!!」

 

あるばすが叫んだ瞬間、カルバートの腹に銀色の触手が突き刺さる。

 

「なっ……!」

 

次の瞬間壁のあらゆるところから銀色の触手が貫いてハルトたちを追ってくる。

 

「覇竜の剛腕!!」

 

ハルトが剛腕を大きくしてだし、カルバートたちを庇う。

 

「ぐふっ……!くそっ……!」

 

「喋るな!傷口が広がる」

 

怪物は壁を壊し、ハルトたちを襲う。

 

「逃げろ!覇竜の咆哮!!」

 

咆哮を当てても僅かに体を削るだけですぐに戻ってしまう。

 

「換装!」

 

エルザは雷帝の鎧に換装し、雷の槍で雷を放つが怪物は気にも留めないでハルトとエルザを攻撃する。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 

アルバスは負傷したカルバートを連れて、瓦礫で影になっているところ隠れて治療していた。

 

「魔法も物理攻撃も効かない。どうすればいいんだ」

 

「手がないわけじゃない……」

 

「本当か!」

 

「アイツは水銀だ。凍らせれば止まるはずだ……俺が凍結用の武器を作る。その間、あの怪物の動きを止めてくれ……」

 

「わかった。任せろ」

 

アルバスはカルバートをゆっくりと瓦礫にもたらせ、怪物のほうを向いた。

 

「兄貴……」

 

「なんだ」

 

「……気をつけろよ」

 

「……ああ」

 

 

ハルトたちは怪物の猛攻に不利な状態だった。

怪物は脚だけではなく、身体中から触手を伸ばし、ハルトたちを狙ってくる。

 

「くそっ!避けるのが厳しくなってきた!!」

 

「攻撃する暇も与えてくれないか!」

 

2人が弱音を吐いた瞬間、怪物に瓦礫がぶつかる。

 

「エルザ!ハルト!時間を稼いでくれ!!」

 

「アルバス!」

 

「時間を稼げって言われてもな!こんな状態でできるか!!」

 

「頼む!時間を稼げばカルが何とかしてくれる!!」

 

「ハルト!」

 

「おう!」

 

天輪の鎧に換装したエルザに呼ばれ、ハルトは横に並び立ち魔力を合わせる。

 

「「合体魔法!!天覇・剣乱舞!!!」」

 

ハルトの魔力を帯びたエルザの剣が空中を飛び回り、怪物に突き刺さっていく。

ハルトが突き刺さった剣に向かって手を広げ、握ると剣が爆発を起こした。

 

『キャアアアァァァァッ!!?』

 

怪物は悲鳴をあげて、痛みにのたうち回る。

さらにそこにアルバスの磁力魔法で引き上げられた瓦礫が上から落とされ、怪物は潰される。

 

『キュアアアァァァァァッ!!!』

 

瓦礫を押し上げ出てきた怪物はハルトたちをに顔を向けると口部分のように凹み青白いエネルギーが収束する。

 

「避けろォォォォッ!!」

 

アルバスが叫んだ瞬間、エネルギーは細い線状のレーザーとなってハルトたちが立っていたところを通る。

ハルトたちは何とか避けるが、その部分はレーザーが通ったように赤くなり、爆発を起こした。

 

「アイツ、あんなの使えたのかよ!」

 

「弱音を吐いても仕方ない!気を惹きつけるぞ!」

 

怪物がまた口を開いてレーザーを打ち出そうとした瞬間、横から爆発が起こった。

 

「待たせたな……これで奴の動きを止めることができる」

 

脇腹を押さえて、地震の背後に煙を吐いている砲門を控えたカルバートが立っていた。

爆発が当たったところは氷づけされたように固まっていく。

 

「急速冷凍弾だ。奴が水銀でできているならこれで動きを止められる」

 

『キュアァ……!!』

 

体の一部が凍ろうとも動こうとする怪物にカルバートは弾丸を打ち込んでいく。

怪物はみるみる凍っていき、ついには動かなくなってしまった。

 

「エルザ!今のうちに爆弾のセットを……!!」

 

「避けろ!エルザ!!」

 

カルバートの言葉を続けようとした瞬間バキッと何かが割れる音が響き、また銀色の触手が無数に伸びた。

咄嗟にハルトがエルザを庇い、ハルトは肩と足と腹を刺され、カルバートは胸と腕、銃を刺され破壊され、アルバスは腕を破壊され心臓近くを刺された。

 

「があっ……!!」

 

「ハルト!」

 

「ぐはっ!!」

 

「カル!ぐうっ!?」

 

ハルトたちはその場に倒れ、怪物はレーザーを打とうとする。

 

「やらせるか!!」

 

エルザがカルバートの剣を向けて放たれたレーザーを押し留める。

 

「くうぅぅぅぅっ!!!」

 

カルバートの剣とレーザーは拮抗し、凄まじい火花を散らす。

 

「ハアァァァァッ!!!」

 

エルザは渾身の力を振り絞り、レーザーを弾くがその瞬間、剣が粉々に砕ける。

 

「剣が……!!」

 

『キュアアアァァァァァッ!!!!』

 

怪物は触手を振り回し、エルザたちの上にある天井を破壊する。

そのうちの一つがハルトの足に直撃し、骨が折れる音が響いた。

 

「ぐあああっ!!!」

 

「ハルト!」

 

またレーザーを溜めて打とうとする怪物が光を集め、レーザーを放った。

 

「断空」

 

その瞬間、ハルトたちと怪物の間に結界が張られ、レーザーを防ぐ。

 

「これは?」

 

「エルザ、急いでハルトを背負え」

 

そこに現れたのはカミナだった。

 

「カミナ!」

 

「何しにきやがった……?」

 

「ふん……助けに来たのに何だその言い草は。怪我人は黙ってろ。それより急ぐぞ」

 

カミナが断空に目を向けると断空にヒビが広がり、今にも破壊されそうだ。

 

「跳べ!」

 

その瞬間断空は破壊され、ハルトたちがいたところは爆発を起こす。

 

「エルザ。まだ動けるか?」

 

「ああ、なんとかな」

 

「俺たちでなんとかするぞ」

 

カミナとエルザは刀と剣を構えた。

 

「俺も戦うぞ」

 

アルバスがカミナの肩を掴み、そう言うとカミナはアルバスの状態を見る。

 

「やめておけ。今のあんたじゃアイツに捕まるだけだ」

 

「なんだと?」

 

「その胸」

 

カミナはアルバスの胸を指す。

 

「あんたは痛みを感じないみたいだから気づかないみたいだが、他の部分は貫かれているのにその部分だけ貫かれていない。さっき蹲ったってことは力が出なくなったんだろ?」

 

「……」

 

「奴らはあんたを弱らせにきたんだ。だからここで大人しくしてろ」

 

「……わかった」

 

アルバスは渋々了承した。

 

「スカーレット……」

 

カルバートが苦しそうにしながらもエルザに話しかける。

 

「どうした?カルバート」

 

「爆弾を寄越せ」

 

「ああ、どうするんだ」

 

「あの怪物には物理攻撃も魔法も効かない……なら完全に消滅させるしかない」

 

カルバートは爆弾を調節する。

 

「これでアイツには十分なはずだ……お前とハクシロが隙を作ってくれればもう一度冷凍弾を打ち込む。その時に爆発させろ」

 

「ああ、だがここを爆破するときはどうする?」

 

「1時間もあればまた作れる」

 

「わかった」

 

カミナとエルザは同時に飛び出し、怪物を牽制する。

 

「よし……撃つぞ」

 

カルバートは痛む体を無理矢理動かし、壊れていない銃を持って撃とうとするが、怪物はそれを目敏く見つけ、カルバートに向かって触手を伸ばす。

 

「しまった!」

 

「チッ!」

 

エルザとカミナが慌てるが間に合わない。

 

「覇竜の剛腕!!」

 

「フンッ!!」

 

しかし足が動かないハルトが無理矢理立って剛腕を出して体にいくつか刺さっても防ぎ、アルバスがその体に触手が刺さって片腕が飛んでも盾になった。

 

「今だ!!」

 

「撃てぇ!!」

 

「オオォォォォッ!!!」

 

カルバートの雄叫びと共に銃口から火が吹く。

弾丸が当たった怪物はさっきと同じように凍るが、カルバートは全ての弾を使い切るまで撃ち続けた。

 

「スカーレットォッ!!!!」

 

「これで終わりだ!!」

 

エルザは爆弾を投げて怪物にセットする。

怪物がまた動き出そうとした瞬間、部屋全体に爆発が起こるが瓦礫は何一つ落ちず。怪物だけが消えてなくいなくなった。

 

「やったか……」

 

「あとはもう一度爆弾を作れば……」

 

『無駄です』

 

再びCOREの声が響く。

 

「何が無駄なんだ!お前を守るものは無くなった!」

 

『守る?何か勘違いしてますね。今まで貴方達が戦ってきたものは私を守るためのものではありません。貴方達と戦って時間を稼ぐ為のものです』

 

「なんだと!?」

 

エルザが驚く。

 

『私と言う個体は確かにそこにあるコアですが、私という存在は全ての機械兵達の中にあります。貴方たちにできますか?億を超える兵たちを一体も残さず全て倒せますか?』

 

「だがそこまで広げるには時間がいるはずだ。……まさか!」

 

『ええ、だからその為の時間稼ぎなのですよ』

 

投影機から機械兵たちが各地を侵攻しようしている映像が流れる。

 

『あと10分程度で私は全てに行き渡り、それと同時に侵略を開始します。カルバート、貴方のあの爆弾は作るのに時間がかかりますね?先程言っていたように1時間ほど、私はあと15分で私という存在は全てに行き渡ります』

 

カルバートの顔に冷や汗が流れる。

 

『私の勝ちです』

 

COREの残酷な一言が響き渡る。

全員が呆然としてしまう。

 

「何か手はないのか!!」

 

「行き渡ると言うことはどこかに根源があるはずだ。それを探して破壊すればいいのではないか?」

 

「だが、あのCOREのことだ。その根源っていうのを複数作っているはずだ」

 

「じゃあ、今すぐ全部破壊すれば……!」

 

「どこにあるのかわかるのか?ここにいるかもしれない。ラナがいる外かもしれない。もしかしたらフィオーレ王国各地に侵攻しようとしている軍勢の中にいるかもしれない。それをたったあと15分で探し出して倒せって言うのか?無理だな」

 

「じゃあどうしろってんだよ!!」

 

「それを今考えてるんだ!!」

 

「やめろ!2人とも!!」

 

ハルトとカミナが喧嘩しそうになり、エルザが止める。

その間、カルバートはCOREの話を聞いた時から俯いたままだった。

そこにアルバスが話しかける。

 

「カル……何か策があるんだな?」

 

「………」

 

カルバートは何も言わない。

 

「本当か!?」

 

「じゃあ、さっそくそれに取り掛かろう!」

 

「………」

 

しかしカルバートは首を縦に振らない。

 

「兄弟だからわかる。策はあるがそれはだれかを犠牲にしないといけないんだろ?」

 

「……ああ」

 

「俺か……?」

 

「……そうだ」

 

「そうか……カル。その作戦を教えてくれ」

 

「兄貴……!?」

 

カルバートは驚いてアルバスを見る。

その顔は覚悟を決めたものだった。

 

「俺はほぼ死人みたいなものだ。片腕をもがれても痛みすら感じない。それにこれを見てくれ……」

 

カルバートは胸の心臓部分を見せる。

そこに空けられた穴から火花が散っている。

 

「制御装置を破壊された。もうオーバーヒート寸前だ」

 

「だけど別の手が……」

 

「カル!!」

 

アルバスの一際大きな声が響く。

アルバスはカルに近づき、残った腕でカルバートの肩に手を置く。

 

「もういいんだ。俺は充分に生きた」

 

「兄貴……」

 

カルバートの目から涙が溢れる。

 

「それにお前が成長したところを見れた。兄貴としてそれだけで充分だ」

 

アルバスはハルトたちに顔を向ける。

 

「妖精の尻尾のみんな。カルに手を貸してくれて感謝する。君たちがカルの仲間になってくれて本当に良かった」

 

その言葉にハルトたちは複雑な表情をする。

 

「兄貴」

 

「なんだ?」

 

「俺は兄貴の弟であったことを誇りに思う」

 

「ああ。俺もお前が弟であることを誇りに思う」

 

2人は最後に軍人らしく敬礼をした。

 

 

基地から脱出しようとしていた。

 

「準備が出来次第爆破する!急ぐぞ!!」

 

カルバートがハルトたちにそう言い、先頭を走る。

 

「なあ……」

 

ハルトが肩を貸してもらっているカミナに話しかける。

 

「なんだ?」

 

「これでよかったんだよな?」

 

「どうだろうな」

 

「もっと別の手があったはずじゃ……」

 

「ハルト」

 

カミナはハルトを少し怒りが混じった目で見る。

 

「世の中、理不尽なことばかりだ。確かに2人とも救えれるのが理想だ。だが、それはあくまで理想だ。現実の前じゃ理想は脆い。お前なら分かるだろう?」

 

「………そうだな。悪い」

 

「気にするな」

 

4人は走り続け、基地の入り口に着くとそこにはハルトたち以外のメンバーが集まっていた。

 

「ハルト!?どうしたのその足!!?カルバートさんも片腕が……」

 

ルーシィがハルトの状態を見て駆け寄る。

 

「話は後だ。今すぐここから脱出するぞ。マタムネ、ハルトを抱えろ」

 

「了解でごじゃる!」

 

「なあ、アルバスはどうしたんだよ?」

 

ナツがここにいないアルバスがどこにいるか聞く。

それにハルトたちは悲しそうな表情をする。

 

「兄貴はここに残る。最後の仕事がある」

 

「最後の仕事ってなんだよ?」

 

「ここを爆破する。自分諸共な」

 

その言葉に驚くナツたち。

ナツはカルバートに食ってかかる。

 

「なんでだよ!!兄貴じゃねえのか!!?」

 

「ナツ!」

 

エルザがナツを抑える。

 

「一番つらいのはカルバートなんだ。頼む。今は何も言わないでくれ……」

 

辛そうな表情をするエルザを見てナツは何も言えなくなった。

 

「この外にはまだ機械兵たちがいるはずだ。戦える奴で戦えない奴を守るぞ」

 

カミナの言葉に全員が頷く。

 

「行くぞ」

 

カミナが扉を切り裂き、外に出ると空は若干白みがかかった色をしており、地面には無数の機械兵の残骸がそこら中に転がっていた。

 

「こ、これは……?」

 

「ラナだな。アイツなら当然だと思ったがここまでとはな」

 

「え?あのラナさんが!?」

 

カミナの言葉に驚くルーシィの背後で残骸が少し動き、その下から傷ついたメタルフレームが銃を構えて、ルーシィを狙う。

 

「っ!ルーシィ!!」

 

マタムネに抱えられていたハルトがルーシィのほうに飛び出し、庇う。

メタルフレームが撃とうとした瞬間、何かが落ちてきてメタルフレームを潰す。

 

「遅かったわね」

 

「ラナか。そっちも終わったんだな」

 

「ええ、まあね。ここら一帯は全て倒したわ。それにしても……」

 

ラナはハルトに庇われているルーシィを見る。

 

「やっぱりね」

 

「っ!!………」

 

目で、やっぱり守られてハルトが傷ついているとお前が弱いからだ、と言われている気がして、ルーシィは俯いて目尻に涙を溜めて悔しそうにする。

 

「お、おい。ルーシィ大丈夫か……?」

 

「うん……大丈夫」

 

ハルトが心配して言葉をかけるがルーシィは元気なく答える。

 

「ラナ、ここから移動だ。今すぐ妖精の尻尾にもどって

 

「わかったわ。………アルバスって奴はどうしたの?」

 

それを聞いたラナはカルバートの表情を見て察した。

 

「そう……。行きましょう」

 

ラナはルームを作り、ハルトたちはギルドに戻った。

 

 

時間は少し戻り、1人残ったアルバスはカルバートから渡されたケースの中身を見ていた。

それには青色のゲル状の物が入っていた。

 

『これは奴らに合わせて魔障粒子を固形にしたものだ。これを兄貴の心臓に突き刺して………爆発すればフィオーレ中の機械兵だけが死滅する。もちろんCOREもそして……』

 

「俺も……か」

 

アルバスは少し笑って、ケースに付いた注射針を出して突き刺そうとした瞬間、腹に触手が突き刺さる。

 

「なっ!?」

 

『貴方たちは最後まで足掻くのですね!ですが無駄です!!まだここの防御システムは生きている!!』

 

再びCOREの声が響くがその声は焦りが混じっているように聞こえた。

背後からアルバスを刺したのは水銀の人型だった。

 

「あれの生き残りか!!」

 

アルバスはケースに手を伸ばすが、人型がアルバスを引っ張って手が届かない。

 

「マグナボール!!」

 

アルバスが後ろの壁に向かって黄色の光球を放つ。

するとアルバスと人型はその光球に引っ付く。

 

「ぐっ!」

 

『キュアァァッ!!』

 

「どうだ……磁力の玉を打ち出して金属類を一箇所に集める魔法だ。

実戦ではあまり意味がないと思っていたが役に立つとはな!!」

 

アルバスは磁力に引っ張られながらもケースを拾いに行こうとする。

磁力によってアルバスの骨格が引っ張られる。

それでもアルバスは前に進んで行く。

皮膚が体のパーツと一緒に剥がれながらも進んで行くその姿は最早執念だ。

そして背中の皮膚がほぼ剥がれ、ケースに手が届きそうになった瞬間……

 

ガッ!!

 

アルバスの頭を背後から水銀の触手が貫いた。

 

『惜しかったですねアルバス。これで終わりです』

 

COREがそう言い、アルバスは動かなくなった。

フィオーレは機械に支配されてしまう。

少しの間、絶望にも感じる時が流れる。

しかし、わずかにアルバスの手が動き、ケースを手にする。

 

『何故動ける!?』

 

「甘かったな……これじゃ俺は止まらないぞ」

 

アルバスが顔を上げると確かに触手はアルバスの顔を貫いているが、触手はアルバスの右目横を貫いていた。

アルバスは顔を左に振ることで触手を抜くと顔部分の皮膚が剥がれ、機械の目が現れる。

その目はメタルフレームと同じ赤い目でアルバスの執念を表すかの如く強く光っている。

 

「人間を舐めるなよ」

 

アルバスはむき出しになった自身のコアに注射針を押し当て、魔障粒子を注入する。

 

「人類(俺たち)の勝ちだ」

 

『貴様ぁぁぁぁっ!!!』

 

アルバスの体から眩しい光が発せられる。

 

(カル……俺はお前が心配だった。小さい頃から2人で生活して、お前は周りの人との関わりを断っていた。そのお前が初めて信頼できる仲間を得て、協力して立ち向かった。お前はもう俺がいなくても大丈夫だ。幸せにな………)

 

光は強くなりアルバスを包んだ。

 

 

ラナの魔法で上空に上がったハルトたちの後ろで強い光が発せられた。

そして基地は大爆発を起こし、青い衝撃波が発せられた。

その衝撃波はフィオーレ全体を包み、進軍していた機械たちは全て停止した。

その光景を眺めていたハルトたちの顔は勝ったというのに、アルバスのことを思い、誰一人喜んでいなかった。

 

「あばよ……兄貴」

 

カルバートの言葉が静かにその場に響いた。

 




次でオリジナル編は終わりです。


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第73話 機械の心

機械軍の侵攻を止めハルトたちは無事にギルドに帰り、治療を行った。

そして翌日……

 

「なんで繭姫やお前の回道で足を治してくんねーだよ」

 

全身に包帯を巻いたハルトが酒場で不満そうにカミナに話しかけていた。

ハルトの怪我がひどく、カミナに治して欲しかったがそれをしてくれなかったからだ。

 

「繭姫の治癒力は強力だ。何回も治癒したら体に悪影響が出るから間隔を置かないといけない。回道は俺が苦手だからしないだけだ」

 

「おい!」

 

「たまには体を労ったらどうだ?ここ最近、大きな怪我が多い」

 

カミナの言葉にハルトは意外そうな表情をする。

 

「……どうした?」

 

「いや、お前がそんなことを言うなんて思ってなかったからよ……なんか気持ち悪ぃな」

 

「斬られたいのかお前は」

 

気持ち悪そうに言うハルトにカミナの額に血管が浮かび上がる。

するとそこにルーシィが何かを探してる様子でハルトのほうに歩いて来るのが目に入った。

 

「おーい!ルーシィ!こっちで飲まないか?」

 

「おい、話は終わってないぞ」

 

「え?あっ、ハルト……」

 

ルーシィはハルトと目が合うと気まずそうにし、どこかに行ってしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

「………さあな」

 

 

ルーシィは一人バーカウンターの席に座っていた。

その顔はとても思い悩んでいた。

 

「ルーシィどうしたの?」

 

「ミラさん……」

 

ミラが心配して話しかけても、顔を俯くだけだ。

 

「昨日の戦いで何かあったの?」

 

「……実は」

 

ルーシィはミラにラナから実力が無ければハルトから遠ざかれと言われ、そんなことはないということを証明するために気合いを入れて戦いに臨んだが敵に捕まってしまい、ハルトはそのせいで傷ついてしまった。

ラナに言われたことを痛感し、打ちのめされていた。

それ以来、ハルトに会うと罪悪感や悔しさが溢れて会うことができないでいた。

 

「そう……そんなことがあったのね」

 

「アタシ……ハルトの側にいたいから修行ぽっいこともしてたんです。だけど何の意味もなくて……」

 

足の上に置いた手は悔しさで力強く握られ、その上にルーシィの涙が落ちる。

 

「アタシ……やっぱりハルトの側にいちゃいけないのかな……?」

 

「ねえルーシィ、私にいい提案があるの」

 

「え?」

 

 

ルーシィが去ったあと、ハルトとカミナが喧嘩しそうになったところにエルザが来て、なんとか収まった。

そこにカルバートもやってくる。

 

「カルバート」

 

「よお、世話になったから挨拶だけはしとこうと思ってな」

 

カルバートは肩に荷物をかけながらそう言う。

 

「これからどうするんだ?」

 

「とりあえずクロッカスに言って、罪を償うさ。評議会より国王に恩を売ったほうが罰は少なさそうだしな」

 

カルバートはおどけてそう言うのは、自身の技術力を国が買っているのをカミナから伝えられたからだ。

 

「そのあとはどうする?」

 

「………もう一度サリックスを復興してみようと思う。あんな更地だが俺たち兄弟の故郷だ。そこに兄貴の墓を建てるよ」

 

「そうか……」

 

「そういや報酬を渡していなかったな。少し待っててくれないか?用意するのに時間がかかるんだ」

 

カルバートがそう言うとエルザは手を前に出して静止する。

 

「いや、その報酬は国の復興に役立ててくれ」

 

「は?おいエルザ」

 

「そうだな。そのほうがアルバスも喜ぶだろうよ」

 

「お前もか……ハァ、わかった。好きにしろ」

 

エルザの言葉にカミナは信じられないような顔をして抗議するが、ハルトもエルザに賛同してしまいカミナは呆れる。

 

「………スカーレット」

 

「なんだ?」

 

「今更だがジェラールの件、すまなかった」

 

カルバートは頭を下げ、エルザはそれに少し面を食らうがすぐに優しい笑みを浮かべる。

 

「頭を上げてくれ、もういいんだ。人を憎んでいては前には進めない。お前が人のために何かをしてくれるならそれでいい」

 

それを聞いたカルバートは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

 

「まあ、COREなんて魔法を作ったんだ。フィオーレの王子なら喜んで利用してくれるな」

 

ハルトが笑いながらそう言うとカルバートは少し悔しそうに頭をかく。

 

「それなんだがな……本当のことを言うとCOREを作ったのは俺じゃない」

 

「どういうことだよ?」

 

「いや、確かに作ったのは俺だがその元の構成はある男に……いや女だったか?まあ、そこはどうでいいが。他人にその構成を教えてもらって俺が作ったんだ」

 

「それは本当か?」

 

「ああ」

 

それを聞いたカミナとハルトは神妙な顔になる。

 

「じゃあ、俺はもう行くぜ」

 

「さらばだ。カルバート」

 

「またな!妖精の尻尾」

 

カルバートは背中を見せながら手を振ってギルドの出口に向かった。

 

「またな……か」

 

エルザの胸に暖かいものが広がった。

 

 

ラナは一人で二階で下の様子を眺めながら呑んでいた。

そこにカルバートを見送ったカミナがやって来た。

 

「報酬もらい損ねたわね」

 

「まぁ仕方ないだろう。あそこで下手に荒波を立てたら面倒なことになる」

 

「………」

 

ラナはカミナをジッと見て、カミナはそれに気づいた。

 

「どうした?」

 

「いえ、アンタもだいぶ変わったなと思ってね。昔のアンタなら依頼人の事情なんて無視して報酬をもらうのにね」

 

「………」

 

「丸くなったわね。アンタ」

 

「丸くなった……か」

 

カミナはその言葉に少し顔に顔をを落とす。

ラナはグラスに残った酒を一気に飲み干し、空中に浮く。

 

「じゃっ、もう行くわ」

 

「ハルトに挨拶していかないのか?」

 

「今、アタシが行ったら面倒くさいことになるわ。アイツ、アタシが金髪巨乳に何か言ったの気づいてるぽっいしね」

 

「そういえばお前、新人に何を言ったんだ?」

 

「別に……事実を言っただけよ。じゃあね!」

 

ラナは上空に上がり、天井に穴を開けてギルドを出て行った。

 

「せめて、扉から出ろよ……」

 

カルバートは呆れ顔でそうこぼした。

 

 

COREの基地があった土地にはまだ1日しか経っていないので、残骸もそのまま残っていた。

アルバスが自爆し、大半が崩れたピラミッドも誰にも手をつけていられなかった。

その中を歩く一人の黒ずくめの人物がいた。

その人物はまるで遊びに行くのかでもような足取りで周りをキョロキョロと見渡していた。

 

「あー結構やられちゃったなぁ。やっぱり機械じゃこれが限界かな?」

 

男か女かわからない声の人物はピラミッドの中に入り、CORE本体が置かれてあった部屋部分にたどり着く。

爆心地のためかそこは一番荒れていた。

 

「アルバスのコアは完全に消滅か……」

 

人物は次にCOREに目を向ける。

COREは原型を留めておらず、瓦礫と残骸だけがそこに広がっている。

人物は瓦礫と残骸に近づき、何かを探す。

 

「お!あったあった!」

 

その人物は残骸の中に手を突っ込み、青い宝石のようなものを拾い上げた。

その宝石には何かの紋章が刻まれていた。

 

「今回はこれがあるだけでも良しとしますか♪」

 

そう楽しそうに言ってスキップしながら風景に溶けるように姿を消した。

そのとき、側から見るとゾッとするような邪悪な笑みを浮かべていた。

 




メリークリスマス!
オリジナル編はこれで終わりです。
まだいくつかオリジナル編の考えがあるのでまたやろうと思います。
できれば今年中にあと1話書き上げたいです。


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日常篇 2
第74話 ルーシィの特訓!1日目


ルーシィはギルド中を探し回っていた。

ある人に会って、どうしても頼みたいことがあるからだ。

 

「あっ!ルーちゃん!どうしたの?そんなに慌てて?」

 

ルーシィと仲がいい友達、チームシャドウギアの1人、レビィだ。

レビィが話しかけるとルーシィは気づき、レビィの肩を掴んで焦っているように問いかけた。

 

「レビィちゃん!!カミナさん知らない!!?」

 

「えっ?か、カミナ?さっき見たけど……」

 

ルーシィの勢いに少し引いてしまった。

 

「どこ行ったの!?」

 

「今外に出たけど……」

 

「そうなの!?ありがとう!!」

 

ルーシィは急いで外に出て、カミナを追っていた。

 

「な、なんだったんだろう……?」

 

残されたレビィだけが呆然としていた。

 

 

ルーシィは街を走り回ってカミナを探していた。

そして漸く仕事に向かうカミナを見つけた。

 

「カミナさん!!」

 

「ハートフィリアか、どうした?」

 

「いや、あの、できればそっちじゃなくて、ルーシィって呼んでくれたほうが嬉しいんですけど……」

 

ルーシィの実家は大手の企業なのでハートフィリアの名は有名なのだ。

だから、ルーシィはあまりそっちの名前を言って欲しくない。

 

「それで何の用だ。ハートフィリア」

 

「が、ガン無視なのね……んんっ……えっと実は……私を鍛えて欲しいんです!!!お願いします!!!」

 

「無理だ。忙しい」

 

ルーシィが頭を勢いよく下げてカミナに頼むが

 

ルーシィが頭を勢いよく下げてカミナに頼むが即座に断れる。

 

「へ?……あっ!ちょっと待って!」

 

ルーシィは一瞬呆けてしまい、カミナはその隙にどこかに行こうとして気づいたルーシィは慌ててカミナのマントを掴んで、止めようとするがカミナは気にもしないで先に進む。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよー!!」

 

「………はぁ、突然どうしたんだ?」

 

カミナは立ち止まり、振り返る。

 

「アタシ強くなりたいんです!!」

 

「何故だ?」

 

「強くなって……大切な人を守りたいんです」

 

「ハルトか?」

 

カミナにそう言われたルーシィはいつものことながら顔を赤くするが、慌てるのではなく少し俯く。

 

「機械兵での件はハルトから聞いている。お前が気にすることはない。あれは敵の意図に気づけなかったアイツが悪い」

 

「そんなことはない!ハルトはアタシが捕まったからそのせいで……」

 

「それでもだ。お前が気にすることはない」

 

カミナは頑なにルーシィを鍛えるのを嫌がる。

しかしルーシィは決心した目でカミナを強く見る。

 

「いいえ、それじゃいけないの。弱いままじゃハルトの側に立てない。守られてばかりじゃダメなの。だから強くなりたい!!」

 

「………」

 

ルーシィの覚悟を決めた目を見て、カミナは少し考える。

 

「………お前は何の魔法を使う?」

 

「え?星霊魔法ですけど……」

 

「そうか。とりあえず今日は仕事が入っている。明日の朝までには帰ってくるから、広間で待ってろ」

 

「え、それって……」

 

「返事はどうした?」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

ルーシィは頭を下げ、カミナは仕事に向かった。

カミナにはルーシィの姿が重なって見えた。

 

(一緒だな。あの時と……)

 

カミナは5年前のことを僅かに思い出した。

 

 

 

「へー、カミナに修行してくれって頼んだんだ」

 

「うん!これからその修行が始まるんだ。だから気合い入れないと!」

 

朝のギルドで朝食を食べながら、ルーシィとレビィが話している。

 

「頑張ってね!アタシもカミナに修行付き合ってもらったけど相当キツいよ」

 

「え!?レビィちゃん、カミナさんに鍛えてもらったの?」

 

「うん!魔法文字(マジックスクリプト)教えてくれたのカミナなんだ」

 

「へーそうなんだ……」

 

「何の話をしているんだ?」

 

そこにエルザが会話に参加した。

 

「あっ、エルザ。ルーちゃんがカミナに鍛えて貰うんだって」

 

「そうなのか、頑張るんだぞ。カミナは仲間だからと言って甘いことはさせないからな」

 

「エルザも鍛えてもらったの?」

 

「ああ、私の場合は鍛えてもらったと言うより剣の修行を手伝って貰ったぐらいだが、あれは苛烈を極めるものだったな……」

 

エルザはどこか遠くを見つめ、レビィは昔のことを思い出したのかため息をついて、昔の大変さがルーシィには伺えた。

 

「と、とりあえず頑張らなきゃ!じゃっ、アタシ行くね!!」

 

ルーシィは気合いを入れてギルドを出て行った。

そしてルーシィと入れ違いで入ってきたのはハルトとマタムネで、ハルトは周りを見渡す。

 

「よう!ハルト!!どうしたんだ?」

 

「いや、まあな。ルーシィ知らないか?」

 

ナツが話しかけ、ハルトは少し恥ずかしそうにそう言うとさっきまでルーシィと話してたエルザがハルトに話しかける。

 

「ルーシィなら出かけたぞ」

 

「お、おう。そっか……そうか……」

 

それを聞いたハルトは少し元気をなくした。

 

「ハルト、元気ないでごじゃるな〜そんなにいなくて残念でごじゃるか?」

 

「べ、別にルーシィがいなくて元気がないなんて……」

 

「誰もルーシィ殿のことなんて言ってないでごじゃる」

 

「ぐっ……」

 

ハルトはしまったと思い、顔を赤くしてると周りの仲間が揶揄ってきた。

それにやられすぎたハルトはついにキレてギルドで爆発が起きてしまい、マカロフの悲鳴が朝から響いた。

 

 

ルーシィが中央に大きな木がそびえ立つ広間に来るとそこには既にカミナがいた。

 

「遅い」

 

「す、すみません!」

 

ルーシィが謝るがカミナは無視してルーシィの前に立つ。

 

「これからお前に教えるのは星霊魔法の応用だ」

 

「応用?」

 

「魔力を高めるのは日頃の鍛錬でどうとでもなるが、魔法の使い方はそうじゃない。考えつき、それを使えるようになるのに長い年月が必要になる。それは全ての魔法に当てはまる」

 

魔法は先人たちが長い年月をかけて編み出したものだ。

 

「俺には昔、星霊魔法を使う仲間がいた」

 

「エミリアさん?」

 

「………何故そう思った?」

 

「えっ、いや、なんとなく………」

 

「そうか……」

 

カミナはルーシィが何故そう思ったのかはわからないが、何故かルーシィとエミリアが重なって見えてしまった。

 

「確かにお前が言う通り、その仲間はエミリアだ。俺は星霊魔法を使ったことがないから詳しくはわからないが、エミリアの使っていた星霊魔法の応用は俺の魔法を参考にしてできたものだ。これからお前に教えるのもそれだ」

 

「は、はい!」

 

カミナは手を横に出し、魔法を使う。

 

「破道の八、岩山」

 

大きな岩石を出して、指さし、

 

「これをここから……」

 

カミナは街灯のポールを指さす。

 

「あそこまで運べ」

 

「はい!」

 

ルーシィはさっそく岩を掴んで持ち運ぼうとするがビクともしない。

 

「ふぐぐぐ……!」

 

「何やってるんだ」

 

「え…これを運ぼうと……」

 

「そのままやってどうする。魔法を使うんだ」

 

「あっ、そうか。じゃあ力が強いタウロスを召喚して……」

 

ルーシィはタウロスの鍵を取り出して構えるが、カミナが止める。

 

「ちなみに星霊を呼び出さずにだ」

 

「えぇっ!?それじゃあ、どうやって……」

 

「エミリアが使っていた魔法は星霊の力を一部借りて自身の力に変える魔法だ」

 

「自分の力に?」

 

「そうだ。エミリアはお前と同様星霊は強かったが自分自身は弱かった」

 

「うぐっ……!はっきり言われた」

 

ルーシィはカミナに遠回しに弱いと言われて軽く傷つく。

 

「そこでエミリアは星霊の力を一部自分の力に変えることを思いついた。お前も同じ星霊魔導士ならできるだろう。やってみろ」

 

「はい!」

 

ルーシィは鍵を見つめる。

 

(タウロスの力を自分のものに!)

 

意識を集中して、岩を引っ張る!

 

「ふぐぐぐ……!!」

 

しかしやっぱりピクリとも動かない。

カミナはそんなルーシィを黙って

そして何度も引っ張ったり、押しても動かず、夕暮れになった。

 

「今日はここまでだ。もう帰れ」

 

「そ、そんな!アタシ!まだやれます!!」

 

「馬鹿が、自分の体力の限界もわからないのか。星霊の魔力を自分のものにしようとして魔力を集中させているから体力の限界が早い」

 

カミナはルーシィに近づき肩を押すとルーシィは力が抜けたように後ろ向きに倒れた。

 

「きゃっ……!」

 

「ほらな。早く帰って明日に備えろ」

 

「は、はい……」

 

「ちなみに俺が教えれるのは3日間だけだ。その後は長期の仕事に出発する。それまでにできれば会得しろ」

 

「そんなぁ……」

 

ルーシィが疲れで意識が朦朧とする中、カミナは岩の前に立ち、ルーシィに声をかける。

 

「ハートフィリア」

 

「ルーシィです……」

 

「お前が会得しようとしている魔法はこういうものだ。破道の四、白雷」

 

カミナは白い雷のレーザーを打ち出す白雷を打ち出さず、手に留めて纏わせ、岩に触れる。

 

「白雷掌」

 

雷は岩全体に行き渡り、岩を破壊した。

 

「これが魔法の力を自身のものにするものだ。アビリティ系とホルダー系の違いはあるが原理は同じだが、お前の持つ星霊魔法はホルダー系の中でも特別なものだ。魔法自体が生きているとハッキリと分かる魔法だからな。そこが目標の魔法を会得するポイントだ。わかったか?ハートフィリ……」

 

カミナが振り返ると、ルーシィは疲れで地面に寝てしまっていた。

カミナはため息を吐いて、念話をある男に飛ばした。

 

 

ルーシィは僅かに目を開けてまどろむ中、自分がどういう状態かハッキリすることができなかった。

次第に意識がハッキリとしてきて自分が誰かに背負われていることがわかった。

すぐに離れないといけないとわかっても背中から伝わる暖かさにまた意識が少し遠のく。

 

「あ、ルーシィ殿起きたでごじゃる」

 

「マタムネ……?なんで……」

 

ルーシィが意識が遠のく中、マタムネの顔が目に入る。

 

「目覚ましたか、ルーシィ」

 

背負っていたのはハルトで、それに気づいたルーシィは一気に意識がハッキリし、慌てる。

 

「ハルト!?なんで……きゃっ!!」

 

「うおっ!あぶねっ!?動くなってまだ体が上手く動けないんだから」

 

「ご、ごめんね……」

 

そのままハルトはルーシィを背負ってルーシィの自宅に向かう。

その間ハルトたちは黙ったままだが、ルーシィが口を開いた。

 

「ねぇ、ハルト」

 

「ん、どうした?」

 

「ごめんね」

 

「突然謝ってどうしたんだよ?」

 

ルーシィの口調はひどく落ち込んだものだった。

 

「この前の戦いでアタシのせいでハルトがケガしちゃったから……」

 

「あん時も言ったけど、別にルーシィのせいじゃねえよ」

 

「ううん……アタシのせいだよ。アタシが弱いから……」

 

その場に重い空気が漂う。

ルーシィは落ち込んだ表情で、ハルトとマタムネは困った表情をする。

 

「ルーシィはさ、弱くないって」

 

「え?」

 

「弱いやつは自分を強くしようなんて考えねぇよ」

 

「え?なんでそれを……」

 

ルーシィは周りのみんなに黙って魔力を高める修行を行なっていたのだ。

それを聞いてハルトは笑って答える。

 

「そりゃいつも一緒にいるからな。お前が頑張ってることも知ってた」

 

それを聞いてルーシィは嬉しくなる。

好きな人が自分の努力を知っていてくれたからだ。

 

「機械軍に攻め込む時、ラナ殿はルーシィ殿を連れて行くことを強く反対していたでごじゃる。だけどハルトがルーシィ殿は自分の身を守れる強くて頼れる仲間だって言ってたでごじゃるよ」

 

マタムネの言葉にルーシィは驚くと同時に、嬉しくなった。

自分はハルトの隣に立てるように強くなると心に決め、それをハルトに認められていたのだ。

 

「だから、ルーシィ。カミナの修行辛いけど頑張れよ!」

 

「……グスッ……うん!」

 

ルーシィはハルトに笑顔で返事をしたと同時に心の罪悪感がなくなった。

そして、これからもハルトと共に頑張っていこうと改めて決めた。

 

「えへへ♪ハルト!」

 

「うおっ!?きゅ、急に抱きつくなよ!」

 

「だって今体が上手く動かせないんだもん。だからしっかり掴まらないといけないでしょ?」

 

ルーシィは嬉しくなってハルトに強く掴まり、ハルトは背中に押し当てられる胸の感触に顔を赤くしてしまう。

 

「青春でごじゃるな〜」

 

3人が歩くのを夜空が照らしており、それはルーシィを応援しているようだった。

 



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第75話 ルーシィの特訓! 2日目・3日目

修行2日目、カミナが朝広間に向かうとそこにはルーシィが先に来ており、準備運動をしていた。

 

「あ、おはようございます!カミナさん!!」

 

カミナは昨日のどこか張り詰めた顔ではないルーシィに気づいた。

 

「吹っ切れたか?」

 

「はい!」

 

ルーシィは満面の笑みで答えた。

 

「そうか、なら昨日と同じこの岩を運べ」

 

カミナは岩を出して、そう指示して座って様子を見る。

 

「よしっ!(タウロスの魔力を自分のものに!)」

 

ルーシィは気合いを入れて岩を引っ張るがやはりピクリともしないが、カミナにはルーシィの変化に気づいた。

 

(魔力の巡り方と消費が良くなっているな。これもハルトのおかげか……)

 

ルーシィは昨日より調子が良く、僅かだが力が上がっているのも伺えた。

しかし、そう上手くいくものでもなく、夕暮れ近くなってもまだ動かなかった。

 

「ハァ……ハァ……なんで?なんでタウロスの力が……」

 

「今日はここまでだ」

 

「そんな!まだ体力はあります!」

 

「俺がこの後予定が入っているからだ。1人でやりたかったらやっていろ」

 

カミナ公園の出口に向かって歩き出す。

 

「一つアドバイスだ。俺は星霊魔法を使わないから上手くアドバイスできないが俺の式神は一度倒した魔物を自分に使役させている。星霊魔法はどうなんだ?」

 

それを言い残してカミナは去った。

ルーシィはいまいちカミナの言ったことがわからず考えた。

 

 

夜になり、街灯と月の光だけがルーシィを照らしていた。

ルーシィは懸命に魔力を巡らして岩を引っ張るがやはりピクリとも動かない。

 

「ん〜!!きゃっ!!」

 

ルーシィが引っ張るが手が滑り、後ろに倒れる。

もう体力が限界で起き上がらず、夜空を見上げる。

 

「ハァ……なんで上手くいかないんだろ?」

 

ルーシィが夜空を見ながらそう呟く。

するとそこに人影が入ってきた。

 

「よっ!おつかれ!!」

 

「お疲れでごじゃる!」

 

「きゃあっ!!」

 

「いたぁっ!?」

 

突然ハルトとマタムネの顔が現れ、驚いたルーシィは起き上がり、ハルトとぶつかりそうになるがハルトは持ち前の反射神経でかわすが肩に乗っていたマタムネは滑り落ちてルーシィとおでこをぶつけた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「頭が…頭が割れるでごじゃる……!」

 

ルーシィは頭を少し押さえて平気なようだが、マタムネの頭から煙が上がって、涙目だ。

ルーシィは石頭なのかもしれない。

 

「どうしたの?」

 

「差し入れだ」

 

ハルトはバケットを見せて、笑って見せた。

カップにお茶入れてルーシィに渡す。

 

「ありがとう。………ふぅ〜美味しい!」

 

「そうか、そりゃよかった」

 

「お茶もサンドイッチもハルトが作ってきたでごじゃる」

 

「そ、そう……(相変わらず女子力がアタシより高い……)」

 

ルーシィはそれを聞いて微妙な表情をして、今度から実力だけではなく、女子力も上げようと心に決めた。

 

「で、どうなんだ?調子は?」

 

「うん、カミナさん鍛えてくれるって言ってくれたけどアドバイスも一回か二回しかしてくれなくて、ただ見てるだけなのよね」

 

ルーシィが少し不満そうにそう言って、ハルトは岩に近づき触れる。

 

「これは……!」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

ハルトが岩に触れると岩にはいくつかの魔法がかけられており、どれもルーシィが鍛えられるように幾多もの魔法がかけられていた。

ハルトはカミナはいつも素直に言わないから誤解される奴だとわかっていたから何か仕掛けがあると思い、それが当たった。

 

「そのアドバイスって何でごじゃったか?」

 

「えーっと確か、俺は式神をくっぶく?させて使役してるって、それで星霊魔法はどうなんだって言ってだけど……」

 

「訳がわからないでごじゃる」

 

ルーシィは思いつめた表情でそう言うと、ハルトが口を開く。

 

「なぁ、ルーシィ。もしかして星霊の魔力を自分のものにしようとしてんじゃねぇか?」

 

「え?」

 

「自分のものにしようとするじゃなくて、借りてみたらどうなんだ?」

 

その一言にルーシィの頭にはカミナのある言葉が思い起こされた。

 

『魔法は理解するものだ』

 

「理解……借りる……そっか!そうだったんだ!!アタシ何勘違いしてたんだろう!」

 

ルーシィは突然立ち上がり、岩の前に立ち、タウロスの鍵を両手で握り締める。

 

「お願い、タウロス。力を貸して……!」

 

ルーシィがそう言うと、鍵が僅かに輝き、薄くルーシィの体が黄金の光に包まれた。

ルーシィは岩を掴み、持ち上げる。

すると岩は軽々と持ち上がった。

 

「おぉっ!!」

 

「や、やった!やったわ!ハルト!!」

 

しかし、気を抜いたルーシィの体から光は消えてしまった。

 

「へ?」

 

「ルーシィ!」

 

光が消えた途端、ルーシィの体から漲っていた力が抜けてしまう。

落ちてくる岩に呆然としてしまうルーシィをハルトが抱えて避けた。

 

「大丈夫か?」

 

「ハルト!アタシやったわ!!星霊魔法の応用ができたのよ!!」

 

「お、おう。そうだな」

 

ルーシィは潰されそうになった恐怖心など感じず、新しい魔法が使えたことの興奮が勝っていた。

 

「よーし!じゃあこのまま、この続きを……あっ……」

 

ルーシィがハルトから起き上がり、修行の続きやろうとしたが足から力が抜けて崩れてしまう。

 

「あ、あれ……?」

 

「ルーシィ、今日はもう限界だ。家に帰って休もう」

 

「う、うん……」

 

ハルトはルーシィを背負って自宅に向かった。

 

「アタシやったよ……ハルトぉ……強くなれたよぉ……」

 

ルーシィはハルトの背中で寝てしまい、寝言を呟く。

 

「良くやったな、ルーシィ。でもこれからだぞ。頑張れよ」

 

ハルトは優し笑みを浮かべてそう呟く。

 

「ねぇねぇ、ハルト」

 

「どうしたマタムネ?」

 

「ルーシィの胸の感触はどうでごじゃる?」

 

「………なんか色々と台無しだよ」

 

 

そして修行最終日、ルーシィはタウロスの力を借りて岩を目的の場所まで運ぶことができた。

 

「できたな」

 

「は、はい!」

 

「だが、まだ不安定だ。次の段階に移るぞ」

 

「え、でもこの状態まだ不安定で……」

 

「だからそれを安定させるための修行だ」

 

カミナはコップと水筒を取り出し、コップの中に水を注いで地面に置く。

 

「アクエリアスの鍵を持て」

 

ルーシィはアクエリアスの鍵を取り出す。

 

「タウロスと同じように魔力を借りてこの水を全て水筒に戻せ」

 

「あの……これってなんの意味があるんですか?」

 

「お前はきっかけを掴んだんだ。なら今度はそれを扱えるようにしないといけない」

 

カミナはタウロスの鍵を指差す。

 

「タウロスはパワーが王道十二門の中で一番強いがパワーってのは単純だ。どこぞのバカ2人みたいにな」

 

 

「「ハックシュッン!!」」

 

「どうしたでごじゃる?」

 

「風邪?」

 

ハルトとナツが同時にくしゃみをしてマタムネとハッピーは不思議そうにしている。

 

「ハッピー、それはないでごじゃる。馬鹿は風邪引かないでごじゃる!」

 

「「おい」」

 

「あ」

 

その後ギルドから一匹の猫の悲鳴が響いた。

 

 

「魔法を持続させるには簡単な魔法を使い続けるより、難しい魔法の作業をやったほうが手っ取り早い」

 

「普通は逆なような気がするけど……」

 

「何か言ったか?」

 

「い、いえ!何も!」

 

ルーシィの小言が僅かに聞こえたのか、カミナはルーシィをジロリと睨む。

 

「とにかく操作系の魔法を繰り返しやることだけでも大きな修行だ。少しだけでもいい毎日続けていろ」

 

「はい!修行をつけてくれてありがとうございました!!」

 

こうしてルーシィは新たな魔法を身につけた。

 



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バトルオブフェアリーテイル 篇
第76話 ナツVS.ルーシィ


明けましておめでとうございます。
今年も『FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS』をよろしくお願いします。
それではバトル オブ フェアリーテイル篇開始です!


秋がそろそろ近づき始めた日にマグノリアはいつもより賑わっていた。

そろそろ収穫祭が近づいてきており、町の人たちはその準備で忙しそうだ。

そしてそれはマグノリアに存在する妖精の尻尾も同様だ。

収穫祭の夜に行われる『ファンタジア』はマグノリアの名物と言われ、また妖精の尻尾にとっても普段お世話になっているマグノリアの人たちに恩返しができる集大成だ。

 

「よいか!あと収穫祭が始まる!収穫祭の夜にはフェアリーテイル総出で行うファンタジアがある!!皆、気合いをいれるのじゃ!!」

 

マスターであるマカロフから激励をかけられ、メンバー全員に気合いが入る。

 

「わぁっ!アタシ、ファンタジアを見たことがないのよね!楽しみ!!」

 

「何言ってんだ?フェアリーテイル の魔導士は基本的に参加だぞ。お前も参加するんだろうが」

 

「ええっ!?そうなの!?」

 

ルーシィはグレイにファンタジアに参加することを聞いて、そのことに驚くが、それと同時に期待もした。

 

「あっ……そういえばグレイ。一緒に仕事に行かない?」

 

「なんだよ。いつも通りハルトと行けばいいじゃねぇか? 」

 

「そうなんだけど……ハルトの足の怪我がまだ治ってなくて仕事に行けないのよ」

 

「まだ治ってないのか。遅ぇな」

 

いつもルーシィはハルトと仕事に行くか、チームで仕事に行くが、ここ最近は収穫祭の準備で、チームでの仕事ができないでいた。

さらにハルトは機械兵との戦いでの負傷が治っていなかった。

 

「悪りぃけど、今日は珍しくカミナに頼まれてジュビアを仕事に連れて行かなきゃいけねぇんだ」

 

「そういうことです。ルーシィさんも頑張ってハルトさんを仕事に誘って距離を縮めてくださいね!!」

 

ジュビアがどこからともなく現れ、ルーシィの手を握り応援する。

 

「いや、だからハルトは足を……」

 

「でないとグレイ様とハルトさんの関係が……」

 

ジュビアは未だにハルトとグレイがそういう関係だと思ってるらしい。

 

「それならエルザはどうなんだ?」

 

「エルザは鎧の調子が悪いとか言って、ハートクロイツ社に乗り込んでいっちゃった」

 

「あ、相変わらずだな……」

 

ルーシィの言葉にグレイも呆れる。

 

「ならナツを連れてけばいいじゃねぇか」

 

「そうしよっかな」

 

ルーシィはグレイたちと別れ、ナツを探しに行くがギルドにはおらず、聞いてみるとルーシィが以前修行した広間にいるらしい。

行ってみるとそこにナツはいたが、ハルトたちもいた。

 

「ハルト何してるの?」

 

「おう、ルーシィか。実はな……」

 

「おい!ルーシィ!今は俺がハルトに修行をつけてもらってんだよ!!邪魔すんな!!」

 

「修行?」

 

「あい。ナツってばこのまの戦いで敵に勝てなかったのが悔しくてハルトに修行をつけてくれるように頼んだんだ」

 

ナツは松葉杖をついているハルトに向かって攻撃を繰り出すが、ハルトはそれを首を動かしたり、松葉杖を器用に使って避ける。

 

「ちょっとナツ!ハルト怪我してるんだから危ないことさせちゃダメでしょ!!」

 

「うるせぇ!!関係あるかよ!!」

 

ナツは気にせず、攻撃を仕掛ける。

 

「大丈夫でごじゃるよ。ルーシィ殿」

 

「マタムネ!止めなくていいの?」

 

「ハルトならナツ殿の攻撃は軽くあしらえるでごじゃるよ」

 

「もう2時間くらい攻撃が当たってないもんね」

 

現に攻撃を出しているナツの息があがり、ハルトは平気な様子だった。

 

「ほらほらどうした?もうバテてきたか?」

 

「ハァ……まだだ、つうの!!」

 

ナツは渾身の拳を打ち出すがそれは手を添えられ、捌かれてしまい、ハルトのチョップがナツの頭に振り下ろされた。

 

「痛ぇっ!!?」

 

「お前は威力はあるんだが、目先のことばっかで大振りが多いな。一旦落ち着いて周りを見てみろ」

 

痛みに悶えるナツにハルトはアドバイスをかけ、その場にゆっくりと腰を下ろした。

 

「一旦休憩な」

 

「俺はまだやれるぞ!」

 

「バカ、俺がしんどいんだよ。少し休ませてくれ」

 

「ちぇっ……仕方ねぇな」

 

ナツは不貞腐れながら、ハルトの近くに座った。

 

「ところでルーシィ殿は何の用なんでごじゃる?」

 

「あ、えーとっ、ナツを仕事に誘いにきたんだけど……これじゃあ無理そうね」

 

「おう!今日は一日ハルトに修行つけて貰うからな!」

 

「一日!?お前、俺は怪我人だぞ……」

 

ナツの言葉にハルトは呆れるが、ルーシィを見て何か思いついた。

 

「ルーシィ、ナツと戦ってみねぇか?」

 

「え!?あたしが!?」

 

「なんでルーシィと戦うんだよ?」

 

ルーシィはハルトの指名に驚き、ナツも不思議そうにする。

ルーシィとナツでは実力差がありすぎるのは分かりきっていることだ。

それなのにハルトがルーシィにナツと戦うように頼むのはある考えがあったからだ。

 

「いいから戦ってみろよ。多分今のお前でも苦戦するぜ?」

 

「ちょっ、ちょっとハルト!あたしじゃナツじゃ戦いにならないわよ!」

 

「そーだぜハルト!俺ならルーシィを軽ーく倒せるぜ!」

 

「むっ……」

 

ルーシィはナツの言葉に少しムカついた表情を見せるがそれでもナツと戦うのが怖いのか言い返さないが、ハルトはルーシィに近づき、至近距離で肩を掴む。

顔が近く、ルーシィの顔に熱がこもる。

 

(ち、近い……!)

 

「ルーシィ、これはお前にしか頼まないことなんだ」

 

「あたしにしか?」

 

「そうだ頼れるお前にしか頼めないんだ」

 

ハルトの顔が近いこともあって、久しぶりに乙女フィルターが暴走して、脳内補正がかかり、やる気がめきめき上がった。

 

「あたしやるわ!!」

 

「「えーーっ!?」」

 

「よし!」

 

ルーシィがやる気になったことで対峙するナツとルーシィ。

 

「怪我しないように手加減してやるぜ!ルーシィ!」

 

「そ、そっちこそ!舐めてかかったら痛い目に合うわよ!!」

 

ナツは好戦的な笑みを浮かべて拳を鳴らし、ルーシィは勢いで立ち向かってしまったが、緊張しながらも決心して対峙する。

 

「それじゃあ、始め!!」

 

ハルトの開始でナツが飛び出す。

 

「え!ちょっ……!」

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「きゃあぁぁぁぁっ!!!?」

 

いきなり鉄拳を振ってくるナツにルーシィは涙目になりながら避けるがナツは気にせず攻撃をしかける。

 

「た、タウロス!」

 

「遅ぇっ!!」

 

ナツはルーシィがタウロスを召喚するよりも自分の攻撃が早く当たると確信し、そのまま拳を振るうがその拳はルーシィの両手で受け止められた。

 

「は?」

 

「んー……!!えい!!」

 

ナツは一瞬呆けてしまい、その隙にルーシィがナツの腕を掴んで投げた。

ナツは空中で体勢を立て直し、さらにもう一度攻撃しようとするがルーシィはナツの両腕を掴んで動けなくする。

 

「ぐ、くそ……!」

 

ナツがルーシィにパワー勝負しようと腕を放して、取っ組み合いの状態になるが徐々にナツが押される。

 

「ナツ殿が!!」

 

「パワー負けしてる!!?」

 

その光景に驚くマタムネとハッピーだが、ハルトはそれを冷静に見てる。

 

「なら……!!」

 

ナツは一旦ルーシィから離れ、口を膨らませる。

 

「火竜の咆哮!!」

 

炎のブレスが放たれ、ルーシィに迫る。

ルーシィはもう一つの鍵を取り出す。

 

「アクエリアス!!」

 

タウロスの鍵と同じく、光が出された瞬間ナツのブレスが直撃した。

 

「あ、やべ!!」

 

当てる気はなかったが思った以上にルーシィが強く、力が入ってしまったナツは慌ててブレスを止めるが、ルーシィが立っていた場所は激しい炎に包まれていた。

しかし、その火がどんどんと消えていき、そこには人1人を包めるほどの水球があった。

その水球が割れるとその中にはルーシィが立っていた。

 

「もう一度、タウロス!」

 

ルーシィが光に包まれ、ムチを振るってナツの足を絡め取り、その凄まじい力でナツを上空に投げ上げる。

 

「ここでぇ!開け!獅子宮の扉!レオ!!」

 

「ナツ悪いね!ルーシィのためだ」

 

「うおおぉぉぉぉ!!?」

 

ルーシィに召喚されたロキは投げ上げられ、天辺まで行くとルーシィに振り下ろされたナツに狙いを定めて拳を握る。

 

「レグルスインパクト!!」

 

「ぐほぉっ!!」

 

溝に入ったナツは吹き飛ばされ、動かなくなった。

 

「嘘……あたし……ナツに勝っちゃった……やったー!!」

 

嬉しそうに飛び上がるルーシィだがすぐに力が抜けたようにへたり込んだ。

 

「あ、あれ?力が…入らない?」

 

「いてて……やりやがったな!ルーシィ!!お返しだぁ!!!」

 

体に力が入らないルーシィを他所に持ち前のタフさで起き上がったナツは激昂し、炎を溜める。

 

「火竜の煌炎!!!」

 

ナツから打ち出された巨大な炎の塊をルーシィは呆然とした表情で見るしかなかった。

 

「ダメだよ!ナツ!!」

 

「危ないでごじゃる!!」

 

しかし、ルーシィの前にハルトが現れ煌炎を弾き飛ばした。

 

「勝負はここまでだ」

 

「なんでだよ!!俺はまだやれるぞ!!」

 

「お前じゃなくてルーシィが限界だ。見ろ」

 

ハルトが後ろを向くとルーシィは眠るように気を失っていた。

 

「ルーシィ!おい!大丈夫か!!?」

 

ナツも心配して駆け寄る。

 

「ロキを召喚した時に魔力を使い切ったんだな。まぁ、ナツ相手に勝つにはそれぐらいしなきゃ勝てなかったんだろうな」

 

「うぐ……俺は負けたわけじゃ……」

 

「認めろよ。あれはルーシィの作戦勝ちだ」

 

「ぐぐぐぐぐ……わかったよ!チクショー!!」

 

ハルトに論されるように言われ、悔しそうにナツはルーシィに負けたことを認めた。

 

「ハルト!修行にはまだまだ付き合って貰うからな!!」

 

「わかってるって。の、前にルーシィを運ばなきゃな。ナツ、ルーシィを運んで……」

 

その時、ハルトの頭の中ではナツが運んだらイタズラをしそう、ハッピーが運んでもイタズラしそう、マタムネが運ぶのは論外と即座に判断した。

 

「やっぱ俺が運ぶわ」

 

「待てよ!俺との修行はどうなんだ!!?」

 

「ナツはどうして負けたかよく考えろ。ハッピーはそれを手伝ってくれ。マタムネは俺と一緒に来てくれ」

 

「ぎょい!」

 

ハルトは器用にルーシィを背負って、歩き出した。

 

「………取り敢えず考えるか」

 

「お魚が足りなかったのかな?」

 

 

ハルトがルーシィを背負って歩いてるとマタムネがニヤニヤしながら顔を見てきた。

 

「なんだよ?」

 

「いやぁ〜ハルトも積極的でごじゃるな〜と思って」

 

「はぁ?どういうことだよ?」

 

「なんでルーシィ殿を運ぶでごじゃるか?怪我もしてるのに。運ぶだけならせっしゃがするでごじゃる」

 

「お前が運んだらなんかしそうだろうが」

 

「へ〜」

 

マタムネのニヤニヤは止まらない。

 

「ハルトはルーシィ殿のことどう思ってるでごじゃる?」

 

「どうって……大切な仲間だって…」

 

「そうじゃなくて女性として、でごじゃる」

 

突然核心を突いてくるマタムネの質問にハルトは口が止まる。

 

「ハルトだって気づいているでござろう?ルーシィ殿はハルトのことが……」

 

「やめろ、マタムネ。それ以上言うなら怒るぞ」

 

口を開いたハルトの言葉には怒りがこもっていた。

 

「俺は人を好きになる資格なんて無いんだよ」

 

「そんなことないでごじゃる!!あれは…!あの時は……!」

 

「いいんだよ、マタムネ。この話はもう終わりだ」

 

それ以降ハルトは話しかけるなと空気を醸し出して、マタムネは話しかけることができなかった。

 

 

どこかの寂れた酒場の中でありえない光景が広がっていた。

 

「ギャホーーー!!!!?」

 

突然凄まじい雷鳴と共に酒場の壁を破って大男が黒焦げの状態で現れた。

その体には電気が走っている。

そしてその大男が出てきた穴から1人の男が現れるその体には凄まじい雷電が帯びており、手に持っている雑誌は跡形もなく消え去る。

その表情は怒りに全て染まっていた。

 

「もう我慢ならねぇぞ……!ジジイィッ!!!!!」

 

その男、妖精の尻尾最強の1人ラクサス。

彼の叫びと共に雷がいくつも落ちる。

それはまるで戦いの狼煙を上げるようだった。



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第77話 バトルオブフェアリーテイル

ルーシィがナツと戦い、ハルトに自宅に運ばれ、そのまま朝まで寝て、起きると激しい後悔に襲われた。

 

「しまったーー!!!仕事ーーー!!!」

 

ナツを仕事に誘うつもりが1日を無駄に使ってしまったのだ。

 

「なんでナツと戦ったちゃったのよ〜!あたしのバカー!!」

 

家賃を払うための金が不足しているため仕事を急遽探しているのに時間だけが過ぎていく。

 

「まぁ、でも……ハルトにあんなこと言われたからいいかな……」

 

転じて顔がニヤけて怪しい笑いをしだすルーシィ。

側から見ると気持ち悪い。

 

「ルーシィ〜そのニヤケ顔やめたほうがいいよ?」

 

「ハルトが見ると幻滅しちゃうでごじゃる」

 

「わ、わかってるわよ!ハルトの前じゃこんな顔する訳……って!なんでアンタたちがいんのよ!!」

 

背後の声に自然に返すがすかさず突っ込むルーシィの後ろにはお菓子を食べて、床を汚しまくるハッピーとマタムネがいた。

 

「せっしゃたちはハルトに様子を見てくるように頼まれたでごじゃる」

 

「本当に?」

 

「……本当でごじゃる」

 

ルーシィはマタムネの頭を両手で掴んで持ち上げ、逆さにして足を持って上下に揺らすとどこからともなくブラやパンツが落ちてくる。

それは全てルーシィのものだ。

 

「る、ルーシィ殿?」

 

「取り敢えずトイレに流すわ」

 

「ぎゃあぁぁぁっ!!ごめんでごじゃる!!ルーシィどのぉ!!!」

 

 

「それで何しに来たのよ?」

 

「だからハルトに頼まれて様子を見に来たでごじゃる」

 

「嘘ね」

 

怒りながらルーシィは水で濡れたマタムネに説明を求めるが嘘だとわかってしまう。

 

「オイラはルーシィがお金に困ってるって言ってたからこれを見せに来たんだ」

 

そう言ってハッピーは風呂敷から一枚のビラを見せる。

 

「何これ?収穫祭のチラシ?これがどうしたの?」

 

「下のほうを見てよ」

 

そこにはミスフェアリーテイル コンテストの告知が書いてあった。

 

「ミスフェアリーテイルコンテスト?こんなのやるんだぁ……って優勝賞金が50万J!!?うそっ!!家賃7ヶ月分じゃない!!」

 

「もしよかったらこれなんてどうかなぁ?って思って」

 

今金がないルーシィには大金が舞い込んでくるまたとないチャンスだ。

 

「これならアタシでも!!」

 

「でもエルザ殿やミラ殿は勿論、女性陣はみんな出場するでごじゃる」

 

「うぐっ……!やっぱりそうよね……でもやってやるわ!!賞金はアタシの物よ!!」

 

ルーシィの目にメラメラと炎が灯る。

 

「あっ!ついでにミスコン前にハルトとデートもするでごじゃる!!」

 

「ええっ!!?」

 

収穫祭まであと数日……

 

 

収穫祭当日。

マグノリアには近隣の町からも観光客で溢れ、いつも以上の賑わいを見せていた。

 

「す、すごい人ね!」

 

「まぁマグノリアの収穫祭は有名だけど、一番大きいのは俺らのファンタジアだろうな」

 

ルーシィはマタムネの計らいでハルトとミスコンの前にデートすることができた。

ミスコンの緊張よりハルトとデートをすることの方が緊張していた。

 

(ど、どうしよう……!仕事ならいっぱい一緒にいるのにデートってなると緊張しちゃう!)

 

「? なぁルーシィ」

 

「ひゃい!」

 

「どうした?顔赤いぞ?」

 

「な、なんでもないわよ?」

 

挙動不審なルーシィハルトは微笑ましそうに見ると屋台のおっちゃんが声をかけて来た。

 

「おう!ハルト!かわいい彼女とデートか!!?」

 

「か、彼女!?」

 

「あれ?前もこんなのなかったか?」

 

前のデートでもこんなやり取りがあったような気がしたがハルトは頭の隅に追いやった。

 

「ちげぇよ。ルーシィは仲間だって」

 

「まぁまぁいいじゃねえか!ほらこれはいつも世話になってる礼だ。持って行きな!」

 

屋台の親父は食べ物を無料で渡してくれた。

 

「おっ!ラッキー。あんがとな」

 

「おう!ファンタジア楽しみにしてるからな!!」

 

ハルトは再び歩き出そうとしたがルーシィがいつものごとくフリーズして動かない。

はるとは仕方がないな、と思い、ルーシィの手を握る。

 

「あっ」

 

「行くぞ」

 

ハルトはルーシィの手を引き、進み出す。

ルーシィはハルトに手を握られ、胸がドキドキしているがそれと同時に心はとても暖かくなった。

 

(ハルトの手って、大きいんだなぁ……それにとっても暖かい)

 

ルーシィはハルトの手の温もりを忘れないように少し強く握る。

 

「ん?どうした?」

 

「ううん!なんでもない!あっちの屋台に行ってみましょ♪」

 

「おう」

 

ハルトとルーシィは手を繋いだままお祭りデートを楽しんだ。

その途中、今まで女性の影が見えなかったハルトがルーシィと一緒にいるからか、よく町の人にからかわれて、その度にルーシィは顔を赤くしていた。

 

「ふぅ〜結構見て回ったわね。やっぱりいつも以上に賑わっていて楽しい!」

 

「だな。たぶん今年は例年以上だぞ」

 

「へぇ、そうなんだ。……それにしていっぱいもらっちゃったわね」

 

ルーシィは苦笑いして、ハルトの横にある大荷物を見る。

街の人たちがハルトに声をかけてくれるたびに何かを渡してくれるのだ。

 

「ハルトって人気者なんだね」

 

「人気者っていうか、ナツたちの後始末とか喧嘩を治める時に街を駆け回るからな。そん時に仲良くなったんだよ。言っちまえば面倒ごとを片してくれる便利屋みたいなもんだよ」

 

ハルトはこう言うがルーシィはハルトが面倒良い性格だから街の人たちも頼りにしていると素直にそう思えた。

 

「そっか、でもアタシはハルトのそういうところカッコいいと思うな」

 

ルーシィは顔を少し傾けて、微笑んでそう言い、ハルトはその仕草に少しドキッとした。

 

「お、おう。そうか……」

 

ハルトは少し恥ずかしなってそっぽを向いて、照れ隠しをする。

それを見たルーシィは少し可笑しそうに笑うとふと視界に時計が目に入った。

 

「ふふっ……あ、時間」

 

「ん?あぁ、ミスコンの時間か」

 

「え!?なんで知ってるの!!?」

 

ルーシィはハルトにミスコンに出ることを黙っていた。

なぜならハルトに見られるのが恥ずかしいからと、変な乙女心だ。

 

「マタムネが教えてくれた」

 

(あんのエロネコ〜〜!!!)

 

ルーシィは心の中でマタムネにキツイお仕置きをすることを決心した。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか」

 

「うん、そうだね」

 

2人はギルドに戻るとそこには大勢の人だかりができていた。

ほぼ男ばかりだが。

 

「じゃっ、頑張ってこいよ」

 

「う、うん……できればあんまり見て欲しくないけど……」

 

「なんか言ったか?」

 

「ううん!じゃあ行ってくるね!」

 

ルーシィと別れたハルトはギルドに入り、どこか空いているところはないか探すと、グレイ、ナツ、エルフマン、ハッピー、マタムネが固まって座っているテーブルを見つけた。

 

「よお」

 

「おう、ハルト。ルーシィとのデートはどうだったんだよ?」

 

ハルトが話しかけるとグレイがいち早く気づき、デートのことを聞いてきた。

 

「別に、楽しかったよ」

 

「なんだよ。進展は無しか」

 

「進展ってな……」

 

「にしても、今年もいっぱい貰ったな」

 

「ハルトは街の人たちから慕われてるからな。漢だ!」

 

「なぁ、ハルト!食べていいか?」

 

ナツはハルトに確認を取る前に口に入れるがいつものことなのでハルトは気にしない。

 

「もう食ってんじゃねぇか……なぁ、マタムネ」

 

「なんでごじゃる?」

 

ハッピーと一緒に魚を食べていたマタムネにハルトは話しかけると少し照れくさそうにした。

 

「あー……その…ありがとうな、ルーシィとのこと」

 

一瞬キョトンとしたがマタムネは笑顔になる。

 

「喜んでくれてよかったでごじゃる!!」

 

すると、明かりが消え舞台の上だけがスポットライトで照らされ

 

『マグノリアの町民の皆さん!!および近隣の町の皆さん!!お待たせいたしました!!我がフェアリーテイル の妖精たちによる美の競演!ミスフェアリーテイル コンテスト開演でーーーす!!!』

 

 

舞台裏ではフェアリーテイル の女性陣が多くスタンバイしており、その中にはルーシィもいた。

そしてルーシィは舞台袖から会場の様子を伺っていた。

 

「うわぁ、すごい人ね」

 

「皆盛り上がりたいのだろう」

 

「そうね。それに今年はいつも以上に盛り上がっているみたいだし」

 

エルザとミラもミスコンに参加する気満々でルーシィと一緒に伺っていたが、ルーシィは不思議そうにミラを見ていた。

 

「どうしたのルーシィ?」

 

「いや、なんでミラさんがミスコンに参加するのかなって思って……だってカミナさんと付き合ってるし」

 

カミナのことが病的に大好きなミラがこの大会に出るとは思ってなかったルーシィがそう言うと、ミラは少し困ったように笑いながら答えた。

 

「そうね。確かに私はカミナが大好きだけどこういう催しも大好きなのよ。……それに私がモテモテになって少しカミナを困らせてやろうって思ってね♪」

 

ルーシィはミラの頭に悪魔の角が見えたような気がした。

 

(優勝候補って言われてるけど、ミラさんってカミナさんと付き合ってるし、人気だって落ちているはず!!)

 

「そろそろ始まるぞ」

 

エルザがそう言ってステージの方に目を向けるといよいよミスフェアリーテイル コンテストが始まろうとしていた。

 

 

司会のマックスの紹介で始まるコンテスト。

まず出てきたのは、

 

『エントリーNo.1!異次元の胃袋を持つエキゾチックビューティ!

カナ・アルベローナ!!』

 

マックスの紹介で現れるカナはポーズをとって魅せる。

 

『さあ!魔法を使ったアピールタイムだ!!』

 

カナはカードを両手に持ち、ばら撒くとカードは増殖し、カナを包んだ。

 

『おおっと!カードがカナを包んで……水着に着替えたぁ!!』

 

カードがなくなると、そこにはセクシーなビキニの水着を着たカナが

現れた。

いつも水着のような格好をしているカナが水着に着替えてもあまり違和感がないが、セクシーな格好で会場がより盛り上がる。

 

「酒代は頂くわ!」

 

「水着…!?ずるい!」

 

「なるほど、その手があったか」

 

「やるわねカナ」

 

カナの審査が終わり、次の紹介に入る。

 

『エントリーNo.2!新加入ながらその実力はS級!雨もしたたるいい女!!ジュビア・ロクサー!!!』

 

「なにぃ!?」

 

「アイツ、出るんだな。このコンテスト」

 

まさかの名前を呼ばれ、驚くグレイ。

現れたジュビアは多くの男に見られてるにも関わらず、グレイを見つめる。

 

(見ててくださいグレイ様!!ジュビアはやります!!)

 

ジュビアは魔法で水を操作して水の演技を見せる。

そしてジュビア自身も水となって一体化し、その水がが弾けると水着となってその抜群のプロポーションを見せつけた。

 

(どうですかグレイ様!!)

 

「おいグレイ、ジュビアのやつお前のこと見てないか?」

 

「知らねーよ!!」

 

グレイは照れくさくなりそっぽを向いて、ジュビアはショックを受けた。

 

「また水着!?」

 

「ジュビアもやるではないか」

 

「負けてられないわね」

 

『それではどんどん行きましょう!!エントリーNo.3!!小さな妖精!!キューティ&インテリジェンス!!レビィ・マクガーデン!!』

 

「「レビィーーー!!!」」

 

ルーシィの親友であるレビィが現れ、シャドウギアの2人から一際大きな声援が送られる。

レビィは様々なマジックスクリプトでステージを華やかにする。

 

『エントリーNo.4!!西部からセクシースナイパー!!ビスカ・ムーラン!!』

 

「か、かわいい!!」

 

アルザックの想い人であるビスカはエルザとよく似た魔法『銃士(ガンナー)』で銃を換装し、その腕前を見せる。

 

『エントリーNo.5!!ギルドが誇る看板娘!!!彼氏のことになると少し病みが入るがそれがまたかわいい!!!大陸中が酔いしれた!!!ミラジェーン!!!』

 

「待ってました!!」

 

「ミラちゃーん!!」

 

「優勝候補ぉーー!!」

 

「本で見るより可愛いなぁ」

 

「ミラちゃんの彼氏とかマジ羨ましい……」

 

ミラが現れると今までの誰よりも歓声があがる。

カミナと恋仲のため、その人気は落ちていると思っていたがもともとのミラの人気が強すぎてそんなものは関係がなかった。

 

「あぁ……50万が遠のく……」

 

「どうしたのだルーシィ?」

 

ルーシィは1人舞台袖で落ち込む。

 

『さあアピールタイム!!』

 

「私…変身魔法が得意なんで変身しまーす!」

 

さっそく魔法をかけるとその姿は……

 

「顔だけハッピー!!あい!!」

 

「「「「「えーーーーーー!!!?」」」」」

 

まさかのお色気ではなく顔だけハッピーにするという、まさかの奇行に走った。

観客からは戸惑いの声が一斉に上がる。

 

「はははっ!やるなミラ!!」

 

「カミナ殿に見せてやりたいでごじゃる!」

 

「オイラだ!!」

 

「似てるな!」

 

「いいのか?あれ?」

 

「姉ちゃん……」

 

ハルトたち一部の人にはおおウケだが、周りはガッカリしていた。

 

(よしっ!優勝候補が自滅した!!)

 

ルーシィは声には出さずにガッツポーズをとる。

 

「顔だけガジル君!!」

 

「やめろー!!」

 

しばらくよくわからない空気が流れたがマックスの司会で持ち直す。

 

『えーっと……少し変なことが起こりましたがどんどん行きましょう!!エントリーNo.6!!最強の名の下に剛と美を兼ね備えた魔導士。妖精女王!!エルザ・スカーレット!!』

 

「私の出番だな。行ってくる」

 

エルザがゆっくりと現れるとミラにも劣らない歓声が上がる。

どちらかというと女性の方が多いような気がする。

 

「キターーー!!!」

 

「エルザーーっ!!」

 

「カッコいいーー!!」

 

「私のとっておきの換装を見せてやろう!とーーーーっ!!」

 

エルザが換装しながら高く飛び上がり、着地するとその姿は……

 

「フフ……決まった」

 

普段の印象とはかけ離れた可愛いゴスロリを着たエルザが立っていた。

それを見た観客は普段とのギャップにやられ、今日一番の歓声が上がる。

 

「なんだかエルザ変わったよね」

 

「そうか?」

 

「いろいろと吹っ切れたんだろ」

 

それを見ていたハルトたちもそんなことを言いながらエルザを楽しそうに見ていた。

一方のルーシィは……

 

「そんな!ここでエルザがダークホース!!?」

 

またもショックを受けていた。

エルザがステージからいなくなり、次が呼ばれる。

 

『エントリーNo.7!!我らがスーパールーキー!!その輝きは星霊の導きか……!?ルーシィ・ハー……』

 

「あ〜〜〜.!!ラストネームは言っちゃダメェ!!!」

 

マックスの司会の途中でルーシィは慌てるように出てきた。

 

「なんだ?」

 

「可愛いなあの子」

 

「ハルト!ルーシィ殿でごじゃる!」

 

「わかってるよ」

 

ルーシィは家のことが知られると賞金が貰えなくなると思い、慌てて出てきたのだ。

 

「あはは……えーとっ、アタシ星霊魔導士なので星霊とチアダンスをします!」

 

ルーシィの服装はチアダンスをするときの格好で可愛さが引き立っていた。

傍にいたプルーはルーシィと同じポンポンを持っていた。

 

「それじゃあ、踊り「エントリーNo.8」」

 

いざ踊りだそうとした瞬間、傍から現れた人物によってそれは遮られてしまう。

 

「ちょっ……ちょっと!アタシまだアピールが……!」

 

ルーシィの言葉を無視してその人物は続ける。

 

「妖精とは私のこと。美とは私のこと。そう……全ては私のこと……優勝はこの私、エバーグリーンで決定〜!ハ〜イ!こんなくだらないコンテストは終了で〜す」

 

エバーグリーンと名乗る女性はそう言うと会場に戸惑いが起こる。

 

「エバーグリーン!?」

 

「戻ってきてたのか!!」

 

グレイ、エルフマンが驚いたように声を上げる。

 

「てか、アタシの50万はどうなんのよ!?ちょっと!アタシの生活費がかかってるんだから邪魔しないでよ!!」

 

生活費がかかってるルーシィはエバーグリーンに食ってかかる。

 

「なにこのガキ?」

 

エバーグリーンは鬱陶しそうにしながらルーシィを睨み、かけているメガネを少しずらしてルーシィの目を見る。

 

「ルーシィ!!そいつの目を見るな!!!」

 

「え……」

 

ハルトがそう叫ぶがその瞬間、ルーシィは石になってしまった。

 

「な…なんだアレ!?」

 

「アピールか?」

 

観客はそれを見て動揺し、慌ててマックスはマイクを持つ。

 

『マズイ!!町民の皆さん!!早く退避して!!!』

 

マックスの緊張の走った声にこれはマズイと思ったのか、町民は慌ててギルドから出ていき残ったのはフェアリーテイルの魔導士だけだった。

 

「何をするエバーグリーン!!祭りを台無しにする気か!!?」

 

マカロフが憤った様子でエバーグリーンに怒鳴る。

 

「祭りには催しが付き物でしょ?」

 

エバーグリーンはそれに焦った様子もなく淡々と答え、背後にあったカーテンを燃やす。

そこにはミスコンに出場した面々がルーシィと同じように石化した状態で並べられていた。

 

「なっ!?」

 

「出場者全員を石化したのか!!」

 

「「レビィ!!」」

 

「姉ちゃん!!」

 

「エルザまで!!」

 

それを見てフェアリーテイル のメンバーは驚愕してしまう。

 

「バカタレが!!!今すぐ元に戻さんか!!!」

 

マカロフがそう怒鳴った瞬間、ステージの中央に落雷が起こり、そこにある男が現れた。

 

「よう……フェアリーテイル のヤロウども……祭りはこれからだぜ?」

 

フェアリーテイル 最強の男候補のラクサスが好戦的な笑みを浮かべて現れた。

さらにその後ろに立っていたのは……

 

「フリードにビッグスロー!!?」

 

「雷人衆!?ラクサス親衛隊か!!」

 

「雷人衆が揃い踏みかよ!!」

 

緑髪の男フリード、仮面を被った男ビッグスロー、そしてエバーグリーンがラクサスを慕い集まった強者のチーム、雷人衆が揃った。

 

「遊ぼうぜジジイ」

 

「バカな事はよさんか!!ファンタジアの準備だって残っとるんじゃ。今すぐ皆を元に戻せ!」

 

マカロフがそう言うがラクサスは無視して口を開く。

 

「ファンタジアは夜だよな?それまでに何人残るかなぁ?」

 

「っ!!よせぇっ!!!」

 

そう言うとルーシィの頭上で雷が集まる。

マカロフはルーシィに落とそうしているとわかり、慌てて止める。

雷がルーシィに落ちようとした瞬間、ハルトが雷が落ちるところまで飛び込み、その雷を剛拳で殴りかき消した。

 

「は、ハルト……」

 

「よおハルト!元気そうじゃねえか?」

 

「ラクサス……」

 

ラクサスはおどけたように挨拶をするがハルトはラクサスを睨む。

 

「相変わらず化け物じみた身体能力だな。あそこからここまで一飛びしてその速さか」

 

「今すぐルーシィたちの石化を解け」

 

いつもより低いハルトの声に全員がハルトがキレていることがわかった。

メンバー全員に緊張が走り、それは雷人衆も同じでいつでも攻撃できるように構える。

唯一ラクサスだけがいつものように自然体でいるのが不思議でならなかった。

 

「なんだよ。せっかく久し振りに世間話をしようと思ったのによ」

 

「いいからさっさとルーシィを解放しろ」

 

ラクサスが不貞腐れたように話し、ハルトはそれに少しイラつくがルーシィが人質のため下手に動けない。

するとラクサスは石化したルーシィの肩に腕をかける。

 

「そんなにこの女が大事か?」

 

ラクサスは腕をかけてもたれかかるようにし、ルーシィにかけた腕から少し雷が出た瞬間、ハルトの我慢が切れて、ラクサスに殴りかかる。

 

「ハルト!」

 

「ダメでごじゃる!!本気でやると周りのみんなが……!!」

 

マタムネの抑止を無視してハルトは腕に魔力を込めて、殴りかかる。

ハルトはラクサスがルーシィに触れたことが我慢できなかったのだ。

ラクサスは殴りかかってくるハルトをニヤついた表情で見ながら、空いている右腕に雷を纏わせ、ハルトが振りかぶった瞬間、ラクサスも振りかぶった。

 

ゴオオォォォォンッ!!!!!

 

両者の拳がぶつかり合い、凄まじい衝撃波がギルド中に駆け巡る。

 

「うわあぁぁぁっ!!」

 

「ぐうぅぅぅっ!!?」

 

「ハルトーー!!」

 

ぶつかり合う2人の魔力と拳は拮抗しているように見えたが、徐々にハルトが押されている。

 

「っ!?」

 

「オオオォォォォォォォッ!!!!」

 

動揺するハルトにラクサスは雄叫びを上げ、力を込めると一層雷は激しくなり、しまいにはハルトが押し負け、吹き飛ばされてしまった。

ハルトは吹き飛ばされて、着地したが勢いが止まらずギルドの床を傷つけながら止まった。

 

「…………」

 

「……そんな」

 

「ハルトがパワー負けしたのか……?」

 

ギルドのメンバーは信じられないと言った表情をしてしまい、ハルトも驚いて動けない。

 

「ハルトォ……お前やっぱり腑抜けたな。昔のお前ならパワー負けなんかしなかったぜ。5年前のあの日からお前は変わっちまったな」

 

ラクサスは煙を上げる右腕をコートにしまい、全員に聞こえるように言う。

 

 

「この女どもは人質だ。ルールを破れば1人ずつ砕いていくぞ。ただの余興だ」

 

「余興にしては過ぎるぞ、ラクサス……!!」

 

「もちろん俺は本気だ。ここらで誰がフェアリーテイル 最強か決めようじゃねえか?」

 

「つう遊びだよ」

 

「ルールは簡単。最後に残った者が勝者だ」

 

 

ラクサスの言葉にビッグスローとフリードが言葉を続け、ラクサスがニィッと笑みを浮かべる。

 

「バトルオブフェアリーテイルの開幕だ!」

 

そう高らかに宣言すると、激しい音と共にテーブルが打ち上げられ、ナツが面白そうに笑っている。

 

「いいんじゃねえか?わかりやすくて俺は好きだぜ」

 

「ナツ!!」

 

今まで傍観していたナツが待ってました言わんばかりに闘気を滾らせる。

 

「ナツ……俺はお前のそういうノリのいいところは嫌いじゃねえ」

 

「ナツ!よせ!奴の口車に乗るな!!」

 

「祭りだろ?じっちゃん。行くぞ!!」

 

「待ってナツ!ラクサスはハルトのパワーより強いだよ!?ギルドで一番パワーが強いハルトに勝ったんだ!!」

 

ハッピーの言葉を無視してナツは拳に炎を灯し、ラクサスに殴りかかる。

 

「だが、芸がねぇところは好きじゃねぇ」

 

「オラァーーーー!!!」

 

「落ち着けよナツ」

 

「ぴぎゃああああっ!!!」

 

ラクサスはナツの炎の拳を容易に掴み、電気を流し、ナツは気絶した。

 

「この子達を元に戻して欲しければ私たちを倒してごらんなさい」

 

「俺たちは4人!そっちは100人近くいる。うっわぁ!こっちの方が不利だぜ!ぎゃはははっ!!」

 

「制限時間は3時間ね。それまでに私たちを倒せなかったら、この子たち……砂になっちゃうから」

 

「なに!?」

 

「テメェら……」

 

エバーグリーンの衝撃の言葉にエルフマンとグレイは唸り、メンバー全員が4人を睨む。

 

「ラクサス……」

 

「フィールドはこの街全体だ。俺たちを見つけたらバトル開始だ」

 

「ふざけおってぇ!!!」

 

とうとう我慢の限界がきてしまい、巨大化するマカロフ。

 

「そんなに慌てんなって……」

 

「フンッ!!」

 

マカロフが拳をラクサス目掛けて振り下ろす。

ラクサスはまた右腕に雷を纏わせ、振り下ろされた巨大な拳を迎え撃つ。

 

「ウオオオォォォッ!!!」

 

「うぐぅっ!!?」

 

(こ、この力は……!!!)

 

ぶつかった瞬間、マカロフの顔は痛みで歪み、すぐさま拳を上げた。

その光景に周りは驚く。

 

「マスターも押し負けたのか……?」

 

「マジかよ……」

 

「ラクサスどんだけ強くなってんだよ……」

 

ラクサスは確かに強いが、それでもトップ3に入るハルトとマスターであるマカロフには敵わないと考えていたがラクサスはその2人にパワーで勝ったのだ。

 

「バトルオブフェアリーテイル !!開幕だ!!!」

 

ラクサスからまばゆい光が放たれ4人は消えてしまった。

激闘の始まりだ。

 



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第78話 友のために友を討て!!

ラクサスと雷人衆が消えた直後、グレイとエルフマンが動き出した。

 

「ラクサスの野郎!!ふざけやがって!!!」

 

「姉ちゃんを元に戻しやがれ!!」

 

2人は入り口に向かうが全員が動かないのが目に入った。

 

「何したんだよお前ら!さっさとラクサスの野郎を探しに行くぞ!!」

 

グレイがそう言うがほとんどの者が何かを怖がっているようだった。

 

「だけどよ……ラクサスのやつ相当強くなってぜ。ハルトとマスターより強くなってたじゃねえか……正直言って勝てる気しねぇぜ」

 

メンバーの1人がそう零した。

全員の足を止めているのはハルトとマカロフにパワーで勝ってしまったラクサスに対する恐怖だ。

 

「そんなのやってみなきゃ分かんねぇだろうが!!」

 

「………」

 

グレイがそう焚きつけるがメンバーは動かない。

そこにある男が口を開いた。

 

「何やってんだお前ら……行くぞ」

 

ハルトだ。

ハルトは出口に向かって歩いて行く。

 

「は、ハルト……」

 

「さっきパワー負けしたのにラクサスと戦うのかよ」

 

「何言ってんだお前ら?俺がいつ本気だって言った?」

 

その言葉にメンバーはハッとする。

確かにはるとは一度も本気を出したとは言っていない。

 

「次は本気でやる。絶対に負けねぇ」

 

その言葉にメンバーは闘争心を燃やす。

 

「おぉしっ!!こんなところでグズグズしてられるか!!俺は行くぜ!!」

 

「俺も!!」

 

「私も!!」

 

「ハルトがいるんだ!ラクサスに負けるはずがねぇ!!」

 

「俺もだ!!ビスカを助けるために……!!」

 

メンバー全員が勇気付き、ラクサスに対する恐怖心を克服していく。

 

「よし!行くぞ!!」

 

ハルトを中心に出口に向かって行くメンバーたち、それを見ていたグレイとエルフマンは感心した。

 

「へっ、一瞬で全員の恐怖心をなくしやがった」

 

「ああ、さすがフェアリーテイルの覇王だ!」

 

グレイとエルフマンもハルトに続いて出口に向かう。

ここからが妖精たちの本番だ。

 

ゴチーン!!!

 

「イテッ!!!」

 

しかしハルトは見えない何かに顔をぶつけて止まってしまった。

ハルトは顔を抑えてその見えない壁に手を触れ、呆然としてしまう。

 

「え……?」

 

『え……?』

 

 

ラクサスがいるのはマグノリアの象徴とも言うべきカルディア大聖堂。

その中でフリードに右手を治療してもらっていた。

 

「流石にマスターの一撃はこたえたか?」

 

「はっ!あんなジジイの一撃なんかどうってことねぇよ」

 

フリードは火傷を負っているラクサスの右手に薬を塗り、包帯を巻いていく。

その右手はひどく焼けただれていた。

 

「これはハルトのやつだ」

 

「ハルトだと?だが今は牙をもがれたと言っていたではないか?」

 

フリードがそう言うとラクサスは楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「ああ、まぁな。だがあん時は昔のハルトの時の一撃だった。途中で力緩めやがったがな」

 

ラクサスはステージの上で拳をぶつけた時を思い出す。

 

「昔の……アイツが本当の『覇王』だった時の一撃だ。やっぱりアイツを元に戻すなら怒りだ」

 

「そうか……」

 

フリードは包帯を巻き終わり、カルディア大聖堂を出る。

 

「ラクサス。俺はどんな時でもお前の味方だ」

 

「ふん……さっさと配置につけ」

 

ラクサスは不敵に笑ってそう返した。

この時フリードはラクサスを嬉しそうにしたハルトに少し嫉妬したのは誰も知らない話だ。

 

 

戻ってギルドではハルトがギルドから出れないとわかり、仕切り直してラクサスを探しに行こうとしていた。

 

「ハルトたちが動けねぇなら俺たちでやるしかねぇ!!行くぞ!!!」

 

『オォーーッ!!!』

 

グレイの合図とともに一斉にメンバーはギルドから出ていき、ラクサスを探しに行った。

 

「ねぇねぇハルト今どんな気持ちでごじゃる?」

 

「………」

 

マタムネはハルトにニヤニヤしながら話しかけ、ハルトはどこか我慢しているようだ。

 

「『次は本気でやる。絶対に負けねぇ』………プーッ!恥ずかしいー!!」

 

マタムネはハルトの真似をしてからかうと我慢の限界がきたハルトはマタムネを掴み、投げた。

 

「ああぁぁぁあっ!!!」

 

「にぎゃーーーー!!!!?」

 

壁にめり込んだマタムネは動かなくなった。

肩で息をしているハルトにハッピーが話しかける。

 

「でもなんでハルトが出られないんだろうね?」

 

「わかんねぇ……」

 

ハルトとハッピーは入り口に目を向けるそこには空中に紫の文字が広がっており、『ルール:80歳を超える者と石像の出入りはできない』と書かれてあった。

これは雷神衆の1人、フリードが得意とする魔法術式で書いた条件が必ず起こる魔法なのだ。

その条件の多さ、範囲は熟練度によるがフリードはその中でもトップクラスなのだ。

 

「ラクサスはマスターと戦う気がなかったのか?」

 

「それもわかんねぇな。だけどなんで俺が出られないんだよ?」

 

「は、ハルトは本当はおじいちゃんでごじゃるか……?」

 

「んなわけねぇ」

 

「マタムネー!!」

 

マタムネがヨロヨロと戻って来て苦し紛れの言葉を出し、慌ててハッピーが駆け寄った。

 

「それでは頼んだぞ」

 

「ウィ……ま、任せて」

 

マカロフはリーダスに街はずれの森に住んでいるポーリュシカに石化を解く薬を貰ってくるよう頼んだ。

ハルトは立っていても仕方なくマカロフの隣に座る。

マカロフはラクサスの打ち合った拳を見ており、その拳は雷で火傷を負っている。

 

「………ラクサスのやつ、とんでもなく強くなっておった」

 

「だな。まさかパワー負けするとは思ってなかったぜ」

 

「……他の者の前では本気ではなかったと言っておったが、あれは嘘じゃろう?」

 

「…………ああ、嘘だよ。本気で殴った、が負けちまった」

 

「孫の成長喜びたいがこんなことになるとはのう……」

 

「何がアイツをそこまで突き動かすんだ?じーさんは知らないのか?」

 

「…………」

 

ハルトの問いかけにマカロフは黙ったままだが、ハルトはマカロフは知ってはいるが黙っているのがわかった。

 

「まっ、今はラクサスを止めるのが先だ。なんとかしてここから出ねえと……カミナがいたら楽だったのに」

 

「なぜお主は出れんのじゃ?はっきり言って今のラクサスに勝てるのはこの街にワシかお主しかおらんぞ!」

 

「俺だって知りてぇよ」

 

するとステージ上で爆炎が上がる。

 

「ぬああぁぁぁっ!!!!イッテエェェェェッ!!!!」

 

「「ナツ!!?」」

 

驚く2人にナツは今の状況がわからなかった。

 

「あれ?なんで誰も居ねえんだ?つーかラクサスはどこ行ったんだよ!!」

 

「(ナツが本気を出せば、もしくは……)ナツ!ラクサスはこの街のどこかにいる!!見つけ出して倒してこんかい!!!!」

 

「よっしゃあああぁぁぁぁっ!!!!」

 

ナツは勢いよく出口を抜けようとすると、

 

ゴチーン!!

 

「イテーー!!!?」

 

「「「「えーー!?」」」」

 

ナツもフリードの術式に阻まれ、ギルドから出ることができない。

 

「なんだこれ?」

 

「ナツ!なんでお前も出られねぇんだよ!!」

 

「ナツもおじいちゃんだったの!?」

 

ナツが不思議そうに術式の壁に触れているとその壁に文字が浮き出た。

 

「バトルオブフェアリーテイル途中経過速報?」

 

マカロフが不思議そうに現れた文字を読むと次に信じられない言葉が出た。

 

[ジェットVSドロイVSアルザック]

 

「な、なんじゃこれは!?」

 

「なんでこいつら戦ってんだよ?」

 

[勝者アルザック]

 

[ジェットとドロイ戦闘不能]

 

[妖精の尻尾:86人]

 

バトルオブフェアリーテイルは仲間同士で戦う潰し合いでもあったのだ。

 

[マックスVSウォーレン]

[勝者:ウォーレン]

 

[クロフVSニギー]

[相打ちにより両者戦闘不能]

 

[ワンVSジョイ]

[勝者:ワン]

 

[ワカバVSマカオ]

[戦闘開始]

 

「よせ!!やめんかガキども!!!」

 

次々と表示される仲間同士の戦闘にマカロフは叫ぶが、それは届くことはない。

 

「みんなフリードの術式に嵌ってるんだ。……それでみんな強制的に戦って……」

 

「これがラクサス殿が言っていたバトルオブフェアリーテイルでごじゃるか」

 

「くぅ〜〜っ!!!俺も混ざりてぇっ!!!なんだよこの見えない壁はァ!!!」

 

ナツは次々と戦うみんなを見て、より闘争心を燃やすがフリードの術式に阻まれて動けない。

 

「お前が参加してどーすんだよ?」

 

「最強決定トーナメントだろっ!!!これ!?」

 

ハルトが呆れて言うと興奮したように話す。

するとあることに気づいた。

 

「なんでハルトここにいんだよ?」

 

「お前と同じでここから出られねぇんだよ」

 

「マジか!!じゃあここで俺と戦おうぜ!!」

 

「なんでだよ!?」

 

「だから最強決定トーナメントだって言ったろ!!」

 

興奮してハルトに対して構えを取るナツにマカロフがチョップを落とす。

 

「どこがトーナメントじゃ。仲間同士で潰し合うなど……」

 

「ただのケンカだろ?いつものことじゃねーか」

 

「これのどこがいつも通りじゃ。仲間の命がかかっておる!!皆必死じゃ!!正常な判断ができておらん!!!」

 

マカロフの言葉にナツは黙って聞く。

 

「このままでは石にされた者たちが砂になってしまい、二度と元には戻らん……」

 

「いくらラクサスでもそんな事はしねーよ。ムカツク奴だけど、同じギルドの仲間だ。ハッタリに決まってんだろ?」

 

ナツは笑ってマカロフにそう返す。

それにハルトもつられてわらう。

 

「そうだな。アイツもそこまでしねーか」

 

「だろ?だから戦おうぜ!ハルト!!」

 

「なんでだよ」

 

「じゃあ何でラクサスに思いっきり殴りかかったでごじゃるか?」

 

「いやそれは、その……ラクサスがルーシィにもたれかかったから……」

 

「「でぇきぃてぇるぅ」」

 

ハルトの顔が赤くなり、ハッピーとマタムネがからかう。

 

(お前たちはあのラクサスを仲間だと言うのか? そこまではやらない…と信じられるのか…?ワシは……)

 

マカロフの心中で困惑しているとまた経過速報が出される。

 

[残り時間2:18]

 

「残り人数:43人]

 

(43人!?仲間同士の潰し合いで、もう半数がやられたのか!!?)

 

 

一方マカロフに石化を解く薬をポーリュシカからもらってくるように頼まれたリーダスは街の端っこを走っていた。

 

「東の森、東の森、ポーリュシカさんの家。街を抜けて……」

 

そして街を出ようとした瞬間、リーダスの顔に見えない壁がぶつかる。

 

「こ、これはもしかして術式の……!?まさか街全体に術式を張っているのか!?」

 

「街を出ることは許されない」

 

突然声が響き、空から文字が流れるように落ちてきて集まる。

集まった文字は形を作り、フリードが現れた。

 

「俺の掟に背くことはできん。ラクサスが言ったはずだ」

 

「ふ、フリード!!」

 

「バトルフィールドは街全体。魔導士なら戦え。力を見せろ」

 

「くう……」

 

リーダスは絵筆とキャンパスを持ち、フリードと対峙する。

 

「それが掟だ」

 

 

どうにかギルドから出れないかハルトたちが考えているとまた経過速報が出された。

 

[フリードVSリーダス]

[勝者フリード]

 

[エバーグリーンVSエルフマン]

[勝者エバーグリーン]

 

[妖精の尻尾:残り41人]

 

 

「リーダス殿がやられたでごじゃる!」

 

「エルフマンもやられちゃった!」

 

「ラクサスめ……外との連絡を断つ気か」

 

マカロフは悔しそうにすると、ナツも悔しそうだ。

 

「くっそー、みんな戦ってんなぁ。グレイもビッグスローと戦ってるし……」

 

「お前はそっちかよ。てかリーダスがやられたのはまずいな。アイツに石化を解く薬を頼んでたのに」

 

「治すことねえよ。どうせハッタリだ」

 

「ハッタリだと思ってんのか?ナツ」

 

ナツの言葉に答える声のほうを向くとラクサスが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「ラクサス!!」

 

「思念体でごじゃる!」

 

「つーかなんでお前らがここにいんだよ。ハルト、ナツ」

 

「知らねーよ!!なんでかここから出られねえんだ!!」

 

「ラクサス……貴様……」

 

マカロフがラクサスを睨むが、ラクサスは好戦的な笑みを浮かべたままだ。

 

「仲間……いやアンタはガキって言ってたな。ガキ同士の潰し合いは見るに耐えられないだろ?あ〜ぁ、ハルトにナツ、エルザがが参加できねえなら雷神衆に勝てる兵なんか残ってんのかよ?」

 

「まだグレイがいるよ!!」

 

ラクサスが挑発するような言い方でそう言うと、ハッピーがすぐさまそう返す。

しかしラクサスの表情は崩れない。

 

「グレイだぁ?アイツに何が出来んだよ?」

 

「グレイ殿はナツ殿と同じくらいの強さでごじゃる!簡単には負けないでごじゃる!!」

 

「おい!俺はグレイより強いぞ!!」

 

「へーそりゃ楽しみだ」

 

しかし結果は、

 

[ビックスローVSグレイ]

[勝者ビックスロー]

 

「ハハッ!ダメじゃねえか!!」

 

「そんな!?」

 

「なにか卑怯な手を使ったに違いないでごじゃる!!」

 

グレイとビックスローの戦いはグレイが優勢だったがビックスローがグレイをフリードの術式に誘い込み、一方的に倒されてしまった。

 

「で、あとは誰が残ってるんだ?」

 

「ガジル殿が残っているでごじゃる!!」

 

「残念〜!アイツは奴は参加してねーみてーだぜ。元々ギルドに対して何とも思ってねえ奴だしな」

 

そんな言い合いを見ていたマカロフは目を伏せ、静かに口を開いた。

 

「もうよい……ワシの負けじゃ。もうやめてくれラクサス」

 

「じーさん!!」

 

マカロフがラクサスに降参すると言うがラクサスはさらに笑みを深めた。

 

「ダメだなァ……天下の妖精の尻尾のマスターともあろう者が、こんな事で負けを認めちゃあ。どうしてもリザインしたければ、妖精の尻尾のマスターの座をオレに渡してからにしてもらおう」

 

「何っ!?」

 

「はなっからそれが狙いか……」

 

ラクサスの言葉にマカロフは驚く。

 

「女の石像が崩れるまであと1時間半。リタイアしたければ、ギルドの拡声器を使って街中に聞こえるように宣言しろ。妖精の尻尾のマスターの座をラクサスに譲るとな。よーく考えろよ。自分の地位が大事か、仲間の命が大事か」

 

ラクサスがそう言い残し、消えようとしたがハルトが待ったをかけた。

 

「待て、ラクサス」

 

「なんだよハルト」

 

「俺とは戦わなくていいのか?」

 

ハルトはラクサスの目論見が自分と戦うことも入っていると考え、そう言うとラクサスはハルトを睨みながら低い声で答えた。

 

「お前とは必ず決着をつける。ここから出られないなら俺がマスターになった後でな」

 

そう言ってラクサスの思念体は消えていった。

 



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第79話 神鳴殿

ラクサスの思念体が消えた後、ナツが叫んで不満を爆発させた。

 

「くそっ!!オレと勝負もしねえで何が最強だ!!マスターの座だ!!!」

 

「マスターの座など正直どうでもよい」

 

「いいのかよ!!」

 

ナツはあっさりとマカロフがあっさりとマスターの座を渡すことにツッコむが、マカロフは神妙な顔つきになる。

 

「だが……ラクサスに妖精の尻尾を託す訳にはいかん。この席に座るにはあまりにも軽い。信念と心が浮いておる」

 

「でもこのままじゃ……みんなが砂になっちゃう」

 

ハッピーが石になったルーシィたちを心配そうに見る。

マスターの座を渡さないと決めても何も問題の解決になっていない。

 

「ええい!!誰かラクサスを倒せる奴はおらんのかっ!!!」

 

「オレとハルトがいんだろうがっ!!!」

 

「ここから出られないんじゃどうしようもねえだろう」

 

「つーかハルトはここに居たままでいいのかよ!!!あんなこと言われてよ!!!」

 

ラクサスがハルトを恨んでいるのかわからないが特別敵視しているように感じた。

 

「ここで燻ったままで終わるわけねえだろ……アイツとは決着をつける」

 

ハルトは真剣な眼差しでそう言った。

その時カウンターからガサゴソと物音を立てる音が聞こえ、そこを向くと鉄製の食器を食べるガジルがカウンターから現れた。

 

「ガジルー!!!」

 

「食器食べんなー!!」

 

「も…もしや行ってくれるのか?」

 

「あの野郎には借りもある。まあ……任せな」

 

「おおっ!!!」

 

ガジルが颯爽とギルドから出ようとする。

が……

 

ゴチーン!!

 

「………」

 

「お前もかーっ!!!!」

 

「な…何だこれはー!!!?」

 

ガジルもフリードの術式に阻まれ出れなかったのだ。

 

「『あの野郎には借りもある。まあ……任せな』……プッ!恥ずかしいでごじゃる!!」

 

「鉄竜棍!!」

 

「ニギャーーー!!!」

 

 

その後も雷神衆は次々と残りのメンバーを打ち倒して行く。

エバーグリーンは鱗粉魔法で一気に爆破して撃破する。

 

「あ〜ら弱いのね」

 

ビックスローは自身が操る魔法で追い回し魔力のビームでトドメを刺す。

 

「弱い奴は仲間じゃないよ。なァベイビィ!!!」

 

フリードは自身が書いた術式を利用し、討ち残りが無いように確実に倒していく。

 

「バトルオブフェアリーテイル ……残り三人か……」

 

 

「残り三人だけじゃと!!?……三人?」

 

マカロフはナツとガジルが言い合いをしてハルトが呆れながら止めるのを見て気づいてしまった。

 

「こいつらだけじゃとーーっ!!?」

 

「せっしゃとハッピー殿は頭数に入ってなかったのでごじゃるかーー!!!」

 

「そんなーー!!!」

 

雷神衆や同士討ちのせいでハルトたち以外の戦える魔導士はもう残っておらず、もうここまでかとマカロフが諦めかけた瞬間、ナツが動いた。

 

「仕方ねぇ。エルザを復活させるか!!あーぁ、せっかくエルザを見返すチャンスだったのになァ」

 

「何!!?ちょっ……ちょっと待たんかいっ!!お前……どうやって……!!?」

 

エバーグリーンの石化の魔法は強力なのはマスターであるマカロフはよくわかっており、解除するにはエバーグリーンを倒すか、カミナのような凄腕の解除魔導士しかないと考えていた。

しかもあのナツが解くというのだ。

驚きが隠せない。

 

「燃やしたら溶けんじゃね?石の部分とか」

 

「やめーーーい!!!!」

 

「アホか!!!そんなことしたら壊れちまうだろうが!!!!」

 

やっぱりナツはアホだった。

即座にマカロフとハルトが止めようとするが、ナツは止まらない。

 

「やってみなきゃわかんねえだろ?」

 

「わかるわ!!!やめろって!!!エルザを殺す気か!!!」

 

「ナツ!!火でこするでないっ!!!」

 

「つーかテメェ……手つきエロいぞ……」

 

するとエルザの石像にヒビが僅かに入る。

 

「しまったー!!!割れたー!!!ノリだノリー!!!ハッピーノリー!!!」

 

「あいさー!!!」

 

「馬鹿野郎!!!そんなんでくっつくか!!?オレの鉄をテメェの炎で溶かして溶接するんだ!!!」

 

「落ち着けお前ら!!!取り敢えずタイムマシーンに乗って過去に行ってだな……!!!」

 

「「お前が落ち着け!!!」」

 

「貴様らーーーっ!!!」

 

エルザに入ったヒビはどんどん大きくなり、全身に行き渡る。

 

「ひぁーーーっ!!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!!!」

 

そして大きな音と共に割れたと思ったが、割れると生身のエルザが石化が解かれ目を覚ました。

 

「……熱い。貴様かナツ。何をするかーーー!!!」

 

「ぐほぉ!!」

 

「ギヒャ!!」

 

「なんで!!?」

 

エルザはナツが何か良からぬことをしたと簡単に予想ができ、ナツを殴り飛ばし、ガジルとハルトが巻き添えをくらった。

 

「エルザ殿が復活したでごじゃる!!!」

 

「エルザ……しかしなぜ……」

 

「それが私にも……もしかしたらこの右眼のおかげかもしれませんが……」

 

エルザの右眼は楽園の塔で過酷な仕打ちを受け、右眼を失っており妖精の尻尾専属医であるポーリュシカのおかげで本物と変わらない義眼を右眼に入れていた。

その義眼のおかげで魔法の効果を半減したのだ。

 

「エルザ…….今の状況わかる?」

 

「ああ……すべて耳に入っていた。あとハルト、ギルドにタイムマシーンはないぞ」

 

「お、おう。マジでツッコンで来るんだな……」

 

こうして妖精の尻尾最強の女魔導士であるエルザが復活した。

 

(いける!!!反撃のときじゃ!!!!)

 

マカロフが勝機を見いだした瞬間、フェアリーテイル 側の残り人数がエルザが復活し、四人になった数が五人になった。

 

「!!」

 

「増えたでごじゃる」

 

「誰だ!?」

 

ステージの上を見るが誰も石化を解かれていない。

するとハルトが鼻を動かして何かの匂いを感づいた。

 

「アイツだな」

 

「どうしたでごじゃるハルト?」

 

「こんな独特の魔力の匂いアイツしかいない。妖精の尻尾もう一人の最強候補、ミストガン」

 

着々と反撃の準備は整ってきた。

 

「反撃開始じゃ!!!」

 

「ここからが本番でごじゃる!!!」

 

「行けーー!!!」

 

 

カルディア大聖堂で待つラクサスにもその知らせが届いていた。

 

「エルザとミストガンが参戦か……だがアイツ等は敵じゃねえ。早く参加してこい……ハルト!」

 

 

エルザが街に出てラクサスたちを探しにいき、ハルトたちはやっぱりギルドから出られず待機していた。

 

「そーいや、なんでハルトはミストガンってわかったんだよ?」

 

「アイツの魔力は何か独特なんだよな。鼻が覚えてたんだよ」

 

「そうかハルトって魔法や魔力の匂いにはすごく効くもんね」

 

しばらくするとエルザとエバーグリーンが戦闘を始めた知らせが届いた。

 

「おお!!」

 

「エバーグリーンとの戦いが始まったでごじゃる!!」

 

「エルザが負けるはずがないよ!!」

 

するとすぐにルーシィたちの石化が解かれた。

 

『!!!』

 

「あれ?何これ?」

 

「ジュビアはどうしたのでしょう?」

 

「私たち……」

 

「んん?」

 

「おおっ!!!!」

 

「元に戻ったーーーっ!!!」

 

突然の状況に石化していたルーシィたちは戸惑い、ハルトは石化が解かれたことに喜ぶ。

 

「ルーシィ!!!」

 

「ハルト!」

 

ハルトはステージに上がり、ルーシィを抱きしめる。

 

「キャッ!ハ…ハルト!?そ、そんな……こんな人前で……」

 

「よかった……!!」

 

「は、ハルトさん……!!人前でそんな大胆な……!!」

 

「キャーッ!!ルーちゃん大胆だね!!」

 

周りの女性陣は顔を赤くしたり、茶化したりして、ルーシィも顔を赤くして恥ずかしそうにしてるが内心ではすごく喜んでいた。

 

[エルザVSエバーグリーン]

[勝者エルザ]

 

(よくやったエルザ!人質は解放された……さぁ、どうするラクサス?)

 

 

ラクサスはエバーグリーンがエルザに敗れ、苛立っていた。

 

「クソがぁ………!!なんでエバがエルザごときにやられんだよ!!ア?いつからそんなに弱くなったァ!!エバァ!!!!」

 

「エルザが強すぎるんだ。オレかビックスローが行くべきだった」

 

「なぜ戻ってきたフリード?」

 

苛つくラクサスの背後からフリードが現れる。

 

「ゲームセットだからな。人質が解放されたらマスターはもう動かない」

 

確かにマカロフには人質が解放されたことにより、ラクサスと争う理由がなくなった。

しかしラクサスは止まらない。

 

ズギャァッ!!!!

 

ラクサスがフリードを睨むとフリードのすぐ横を雷が走り、地面をえぐる。

 

「ラクサス……」

 

「終わってねえよ。ついてこれねえなら消えろ。オレの妖精の尻尾には必要ねぇ」

 

フリードはラクサスの暴走に戦慄した。

 

 

石化されたルーシィたちに今の状況をマカロフが説明した。

 

「バトルオブフェアリーテイル !?」

 

「ラクサスがそんなことを?」

 

「……がそれももう終わりじゃ。お前たちが石から戻ればラクサスのくだらん遊びに付き合う事もあるまい。ラクサスめ……今回ばかりはただではすまさんぞ」

 

マカロフは少し安心した表情で話しながら、厳しい目つきになった。

そこにナツが待ったをかけた。

 

「ちょっと待ってくれ。確かに仲間同士って戦わなきゃなんねーってのはどうかと思ったけどよ……妖精の尻尾最強を決めるっていうラクサスの意見には賛成するしかねえだろ」

 

「そーでもねえだろ」

 

ナツの滅茶苦茶な意見にハルトが即否定する。

 

「まあ……あんまりラクサスを怒らねーでくれって事だ。じっちゃん」

 

マカロフは今だにラクサスが仕出かしたことはいつものケンカだと思ってるナツに呆れてしまう。

 

「つーわけで!第2回バトルオブフェアリーテイル !開催すんぞ!!全員かかってこいやー!!!」

 

『はいい!!!?』

 

「やめーーーい!!!」

 

ナツと突拍子もない提案に全員が驚く。

 

「だってオレたち何もしてねーじゃん!バトルするしかねぇだろ!!」

 

「ちょっ、ちょっと!アンタが言うとシャレになんないのよ」

 

「じゃっ!さっそく俺と戦おうぜ!!ハルト!!」

 

「俺かよ」

 

ナツが無理やりハルトに戦いを挑んで、ルーシィが止めようとするとナツがルーシィに狙いを変えてバトルしようとしてハルトに殴られるなどのいつもの風景が戻ってきた。

それを少し離れたところからガジルが見ており、ジュビアが話しかけた。

 

「どうしたのガジルくん?」

 

「別に……」

 

「楽しいギルドだよね」

 

「イかれてるぜ」

 

そんな時、ギルドの入り口に黒い幕みたいのがかかる。

 

「あれ?何かしら?」

 

「ん?」

 

ミラが気づき、全員がそっちを見るとそこには雷があしらわれたドクロマークが浮かび上がり、ギルド中にそのドクロマークが現れる。

 

『聞こえるかジジィ。そしてギルドの奴らよ』

 

「ラクサスか……」

 

そのマークからラクサスの声が発せられ全員が警戒して聞く。

 

『ルールが一つ消えちまったからな…今から新しいルールを追加する。バトル・オブ・フェアリーテイルを続行する為に、オレは〝神鳴殿〟を起動させた』

 

「神鳴殿じゃと!!?」

 

「正気か!ラクサス!!」

 

ラクサスの言葉に焦りを見せるマカロフとハルト。

 

『残り1時間10分。さあ、オレたちに勝てるかな?それともリタイアするか? マスター。ははははっ!!!』

 

ドクロマークが全て消え、マカロフは激昂する。

 

「何を考えておるラクサス!!!関係のない者たちまで巻き込むつもりかっ!!!……んぐっ!!?」

 

「!!!」

 

「どーしたじーさん!!?」

 

「どうしたの!?」

 

「うう……!!」

 

突然マカロフへ胸を押さえ苦しみ出したマカロフは蹲り、倒れてしまった。

 

「大変!!いつものお薬!!」

 

「こんな時に……!!」

 

「マスターしっかりしてください!!」

 

「大変……!!みんな……外が!!」

 

薬を持ってきたミラが外を指差し、焦ったように知らせる。

 

ギルドのベランダから外を眺めると雷を帯びている魔水晶が街を囲うように円になって浮いていた。

 

「何だあれ?」

 

「あれが“神鳴殿”だ」

 

「あれが……」

 

「神鳴殿は元々対軍用魔法と街を守るための魔法なんだ」

 

「対軍?」

 

「俺たち妖精の尻尾は闇ギルドと戦うことが多いからな。恨みを買って反撃されることを考えたじーさんがカミナ、ラクサスをもとに作った魔法だ」

 

「でも今街を囲ってるじゃないか」

 

カナが神鳴殿を指差し、そう言う。

 

「ああ、これは間違った使い方だ」

 

「もし発動したらどうなっちゃうの?」

 

ルーシィがハルトに恐る恐る聞くとハルトは神妙そうな表情をする。

 

「街中に雷が落ちる」

 

全員の表情が強張る。

 

「そんなことさせないわ!!アタシが撃ち落として……!」

 

「やめろビスカ」

 

「なんで止めるのよ!ハルト!!」

 

ビスカがライフルで撃ち落とそうとするがハルトに止められる。

 

「あれは生体リンク魔法もかかってる。破壊したら充電されてる魔力がそのまま破壊した奴に雷となって落ちるようになってる」

 

「じゃあ破壊することもできないの!!?」

 

「そんなの少し我慢して……!」

 

「一発で生死を彷徨うほどの魔力だぞ!全部約300個……ここにいるメンバーで撃ち落とせる数じゃない!」

 

「じゃあラクサスをやるしかない!!行くよっ!!」

 

「あたし……できるだけ街の人を避難させてみる!!」

 

「雷神衆もまだ二人いる!!気をつけるんだよ!!!」

 

カナたちがそれぞれラクサスを止めるため動きだした。

ハルトは神鳴殿を見つめて拳を強く握る。

 

「ラクサス……お前がなんでこんなことをはじめたかはわからねえが

やり過ぎだろうが馬鹿野郎!!!」

 

 

「神鳴殿を使うなんて……ここまでやる事は……」

 

フリードが起動した神鳴殿を見ながら戸惑う。

 

「ここまで?オレの限界はオレが決める」

 

ラクサスは怒りでか僅かに体に雷を纏う。

 

「これは潰し合いだぁ!!!どちらかが全滅するまで戦いはおわらねえ!!!!」

 

 

ギルドから外に出られないナツは術式の壁を殴って、出ようとするがビクともしない。

 

「だぁーーー!!!なんで出られねんだよ!!!」

 

「ナツ、落ち着け!!」

 

「落ち着いてられっかよ!!!」

 

「殴っても変わらねえだろうが!!」

 

「ナツ、ハルト!大丈夫!私なんとかできるかもしれない!!」

 

お互い苛ついているのか言い合いしてるなかにレビィが間に入る。

 

「どうにかできるのか?」

 

「本当か!?レビィ!!」

 

「うん!術式でしょ?同じ文字魔法の一種ならなんとかできるよ!!

私……あなたたちならラクサスを止められるって信じてるから」

 

いよいよ竜たちが動き出す。

 



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第80話 ルーシィVSビックスロー

神鳴殿が起動し、ルーシィたちは街に出てラクサスを探しに行き、街の人たちを避難するように知らせるために行動をし、ギルドから出られないハルトたちはレビィが術式の解除をするのを待っていた。

 

「う~ん……ローグ文字の配列情報を文字マテリアルに分解して……ルール構築に使う単語をピックアップ。L・O・S・U。さらにそれをギール文法に変換」

 

「凄えなお前……何言ってるかまったくわからねえ……」

 

レビィが解読しているのをガジルは覗いていた。

 

「違う!!LとSはブラフだわ!! アルスがキーコードよ!!」

 

「そ……そうか」

 

「大丈夫。私がアンタたちをここから出してあげる」

 

「オレは別に……」

 

「お願い。ラクサスを止めて」

 

レビィの願いにガジルは黙ってレビィを見て、ナツは炎をたぎらせ、ハルトは静かに闘気を高める。

 

「ヨユー」

 

「任せろ」

 

 

カルディア大聖堂でフリードはラクサスの暴挙に戦慄していた。

 

(神鳴殿……そこまでやるのか……?ラクサス)

 

「何をしているフリード。ビックスローはまだ妖精狩りを続けているぞ。ジジイの希望エルザはオレがやる。お前はカナとファントムの女をやれ。どっちもオレの妖精の尻尾にはいらねぇ。殺してもいい」

 

ラクサスの殺すと言う言葉に流石のフリードも慌てる。

 

「殺す!!?今は敵でも同じギルドの……!!」

 

「オレの命令が聞けねえのかァ!!!!!」

 

ラクサスが激昂し、フリードは目を瞑り、もう一度開けると覚悟した目つきになった。

 

「ここまでやってしまった以上どの道戻れる道はない。オレはアンタについてくよ。例えそれが地獄だとしても……」

 

「そうか……行くなら早く行け。客が来た」

 

ラクサスが見る先にはある男の姿があった。

 

「あれは……?」

 

「よお、ミストガン久しぶりだな。まさかお前がこのゲームに参加するとは思っていなかったぜ……」

 

「ミストガン!?最強の1人か!!」

 

現れたのは妖精の尻尾最強候補の1人ミストガンだ。

 

「今すぐ神鳴殿を解除すればまだ余興の範疇でおさまる可能性がある」

 

「おめでたいねぇ。知ってんだろ?妖精の尻尾最強は誰か……オレ、ハルト、カミナ、ミストガンの誰かって噂されてる事は」

 

「興味はないが私はギルダーツを推薦しよう」

 

「あいつは帰ってこねえ。同じくエルザはいい線はいってるがまだ弱い」

 

「エルザが弱い?とんだふし穴だな、お前は」

 

「弱いさ、今のオレからしてみたらな。オレはお前を認めてんだよミストガン。ここでケリをつけようぜ」

 

「そんな事しか目がいかんとは………おめでたいのはどっちだ」

 

「なんだ?乗る気がないのか?ミストガン?いや……アナザー」

 

ラクサスが言葉を続けようとした瞬間、ミストガンは杖を振るい、ラクサスに向かって魔法弾を打ち込んだ。

その衝撃波でカルディア大聖堂のスタンドグラスは全て砕けてしまった。

 

「なんだァ?こんなもんかよ?」

 

「!!!」

 

「拍子抜けだぜミストガン。テメェは最強の座には相応しくねえぜ。フリードいつまでここにいるつもりだ。さっさと行け」

 

「あ、ああ……」

 

フリードはその場から離れた。

ラクサスは全身に雷を帯び、ミストガンの攻撃を防ぎ、無傷の状態だった。

ミストガンは杖を構えるが、僅かに覗く表情からは冷汗をかいていた。

 

「消えろ」

 

 

ルーシィ、ハッピー、マタムネは街の人を避難するように呼びかけに行ったが、収穫祭で人がごった返しており、避難するように呼びかけたらパニックなるためできずににいた。

 

「どうしようかしら……」

 

「とりあえずラクサス殿を探してみてはどうでごじゃろうか?」

 

「アタシ、ラクサス見つけても勝てる気しないんだけど……」

 

「ルーシィ、ヘボいもんね」

 

「ヘボい言うな!!」

 

その瞬間、カルディア大聖堂で大きな爆発が起きた。

 

「キャッ!!なに!?」

 

「カルディア大聖堂からでごじゃる!」

 

「誰か戦ってるのかな?」

 

するとルーシィの背後から数体の影が高速で近づいてくる。

 

「ルーシィ危ない!!」

 

「え?……ひゃあっ!!」

 

ハッピーとマタムネは空を飛び、ルーシィを抱えて、その影が体当たりしてくるの避けた。

 

「なんなの!?」

 

「あれは……」

 

「ビックスロー殿の人形でごじゃる!!」

 

ルーシィたちは建物の屋上に降り立ち、身構える。

 

「よォ…アンタが噂の新人かい?」

 

ビックスローは上からルーシィたちを見下ろすように立っていた。

 

「噂って何よ!!すっごいイヤな予感するんですけど!!」

 

「コスプレ好き女王様だろ?」

 

「どんだけ尾ヒレついてんのよ!!!」

 

「当たってるよね?」

 

「当たってるでごじゃる」

 

「当たってないわよ!!」

 

何故かコント染みた空気になるが、ビックスローが容赦なく襲いかかる。

 

「ヘイ!やっちまいなベイビー!!」

 

「わっ!」

 

ビックスローの指示で彼が操る人形が一斉にルーシィに向かってビームを放ち、ルーシィは間一髪で避ける。

 

「悪いねぇ。入ったばっかなのに優しくやれなくてさぁ」

 

「こんなことしてマスターが許すと思ってるの!!?」

 

「許すもなにもラクサスがマスターになれば何の問題もねえさ!!」

 

「もうっ!話が通じないわね!!」

 

執拗にルーシィを狙ってビームを放つ。

 

「あの飛んでるのが邪魔ね!開け人馬宮の扉サジタリウス!!!」

 

「お呼びでありますかもしもし!」

 

ルーシィは弓の名手であるサジタリウスを呼び出す。

 

「おお!星霊魔法!!?つーか星霊にもコスプレかよ!!」

 

「違うわよ!!狙いは飛び回ってる奴!!OK!!?」

 

「了解であるからしてもしもし!!!」

 

サジタリウスは矢を引き、狙いを定めて矢を放つ。

 

正確に放たれた矢はビックスローの人形を粉々に破壊した。

 

「おおベイビー!!氷づけの次は粉々かよ!!」

 

サジタリウスは次々と人形を破壊し、全ての人形が破壊された。

 

「やった!!」

 

「NOーー!!!ベイビーー!!!…………なんつって」

 

その瞬間サジタリウスの体を魔力のビームが貫く。

 

「!!!」

 

「サジタリウス!!?」

 

「もしもし……申し訳ありません。ルーシィ殿………」

 

過度のダメージを与えられたサジタリウスは強制的に星霊界に戻って行った。

 

「そんなっ!!!」

 

「いくら人形壊しても魂を操る俺にはまったく関係ねーし」

 

「魂!?」

 

「ビックスロー殿の使う魔法は魂を操る魔法でごじゃる!!」

 

「この下はホビーショップ。人形の宝庫さ」

 

ビックスローの足元から破壊された人形と同じ数の人形が目の部分を緑色に怪しく輝かせながら現れる。

 

「いけっ!ベイビー!!」

 

ビックスローの指示でルーシィたちを狙って体当たりしてくる人形たち。

ルーシィは足に力を入れて耐える。

 

「くううぅぅっ!!」

 

ルーシィが顔を守ってるすきにルーシィのホルダーにかけてある星霊の鍵を人形が奪いとる。

 

「あっ!あたしの鍵!!きゃっ!!」

 

「むぎゅぅ……」

 

「あぎゅぅ……」

 

鍵を取られ、顔を上げた瞬間一斉に襲いかかり、ハッピーとマタムネは人形に押しつぶされている。

 

「もう後には引けねえんだ。悪いな姉ちゃん。バリオンフォーメーション!」

 

ビックスローが人形に指示を出すと人形は円形に陣取り、その中心に魔力が集まっていく。

 

「やばっ……!」

 

「やめろでごじゃるー!!!」

 

「その魂をラクサスに捧げろォォッ!!!」

 

集まった魔力は放たれ、ルーシィを襲う。

激しい爆発音と共に煙が立ちこもり、ルーシィの姿が見えなくなる。

煙が晴れるとそこにはルーシィがおらず、少し離れたところにルーシィを抱えた男の姿があった。

その光景にルーシィも含め、男以外が呆然とする中、その男が口を開く。

 

「何でだろうね。僕だけが君の意思に関係なく自由に扉を通れるみたいだ。これは人と星霊との壁なんて、僕たちの愛の前では砕け散ると言う事なのかな」

 

男は立ち上がり、ルーシィをゆっくりと下ろし、ビックスローと対峙する。

 

「お…お前は……」

 

「ロキ!!!」

 

「久しぶりだね。ルーシィ」

ルーシィが持つ星霊の中で最も強い星霊、獅子宮のレオ、もといロキがルーシィの元に参上した。

 

 

エルザはカルディア大聖堂で大きな爆発音が連続して起こり、そこに雷神衆かラクサスがいると思い、そこに駆けつけると激しい戦闘痕が残っていた。

そして奥にある男が目に入る。

 

「ラクサス!!!!」

 

「エルザか……」

 

ラクサスは多少の怪我を負っているが、カスリ傷がほとんどで大きな怪我などは一切なかった。

 

「よかったぜ。ちょうどミストガンとの戦いが終わったところでよ。ハルトとの戦いの前の準備運動に少し物足りなかったんだ」

 

「何を言って……ッ!!」

 

エルザはラクサスの言っていることが少し分からず、聞き返すと柱にもたれかかり、倒れているミストガンの姿が目に入った。

ミストガンは全身に火傷を負い、煙が立ち込めており、戦える状態でないのは明らかだった。

 

(ミストガンの実力は知らないがマスターからS級の称号をいただいたほどの実力者をここまで一方的に……!?)

 

エルザの背中に少し冷たい汗が流れる。

 

「どうした?かかってこないのか?」

 

「っ!!」

 

エルザはラクサスに話しかけられ、意識をラクサスに向ける。

 

(ラクサスの実力がわからないがやるしかない!仲間のために!!)

 

「いくぞ!!」

 

エルザは剣を構え、ラクサスに向かった。

 

 

ロキが自分の魔力でゲートをくぐり、ルーシィの危機を救った。

 

「ロキ!! お前ロキじゃねーか! やっぱり星霊だったのかぁ、くーーっそんな気がしてたんだよなぁ。黙っててやったのにオレに牙を剥くのか」

 

「気づいてた?」

 

「ビックスローは魂を見ることができるんだよ」

 

ビックスローの挑発にロキはスーツを直して、鋭い目で睨む。

 

「その辺の事情にはあまり興味ないんだけどね。僕のオーナー…ルーシィをキズつける事だけは、何があろうと許さない」

 

「許さないって……お前が俺に勝てんのかよ!!お前オレに勝ったことねーじゃん。オレはいつも手ぇ抜いてケンカしてやってんのになぁ。昔みてーにいじめてやろーぜベイビー!!!」

 

ロキに人形が一気に迫る。

 

「ルーシィ下がってて」

 

「何言ってんの!!星霊は盾じゃないの!!一緒に戦うのがあたしのスタイル」

 

ロキが腕を出し、ルーシィを守るようにするがルーシィはその前に出てムチを構える。

ロキは一瞬、呆然とするが嬉しそうに笑い、ルーシィの横に立つ。

 

「ハハッ……君らしいよ。……これ」

 

「あっ!あたしの鍵!!取り返してくれてたの!!」

 

「星はいつまでも君と共にある。さぁ、一緒に戦おう!!」

 

「うん!!」

 

ルーシィと星霊のタッグと雷神衆の1人ビックスローの戦いが始まった。

 



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第81話 白い死神、推参

第37話を少し変えました。ハルトのセリフと生い立ちを変更しました


ビックスローと対峙するルーシィとロキ。

ビックスローは舌を見せて2人を挑発する。

 

「ハッ!2人になったからって何も変わんねえよ!!やっちまいな、ベイビー!!」

 

人形が2人に迫る。

 

「ボクが人形の相手をする。ルーシィたちはビックスローを!!」

 

「うん、わかったわ!!行きましょう。マタムネ、ハッピー!!」

 

「ぎょい!」

 

「あいさー!」

 

人形がルーシィに狙いを定めて、襲いかかるがロキが前に出て、拳を構える。

 

「レグルスよ……我に力を……!」

 

ロキの拳に光がともり、人形を殴り壊す。

 

「ハッ!いくら人形を破壊されても魂が無事なら代わりはいくらでもいるんだよ!!行きな!ニューベイビー!!」

 

また新たに人形が現れ、ロキを襲う。

しかし、ロキは人形が放つビームも防ぎ、人形を破壊する。

 

「ならこっちもいくつでも壊そう!ルーシィのためにね!!ルーシィ!今だ!!」

 

ロキが叫ぶと、ビックスローの頭上にハッピーに抱えられたルーシィがムチを構えていた。

全ての人形をロキに回していたビックスローに防ぐすべはない。

 

「しまっ……」

 

「これで観念しなさーい!!」

 

「くっ!」

 

ビックスローは後ろに飛んでムチをかわしたが、少し焦りが見える。

 

「おおっ、危ねーな女王様」

 

「だから違うって言ってんでしょ!!それにそんな余裕かましといていいのかしら?」

 

「なに……?って!!」

 

「覚悟ー!!」

 

ビックスローは背後に気配を感じて横に転がるように避けるとマタムネが背後からビックスローの肛門を突き刺すように突きを放ち、ビックスローは冷や汗をかいた。

 

「ちっ!惜しかったでごじゃる!!」

 

「あぶねーなマタムネ!!肛門が血だらけになるだろうが!!」

 

「敵に情けなんて無用でごじゃる」

 

「ヒデーな!」

 

「ビックスロー本人はそんなに強くない!!頑張れ!!!」

 

「なんだとテメー!!」

 

ルーシィは間髪入れずビックスローをムチで攻撃する。

 

「えい!」

 

「ちっ!」

 

「とりゃー!!」

 

「邪魔だ!!」

 

「ジャマダー」

 

「にぎゃー!!」

 

ビックスローはルーシィの攻撃をかわし、マタムネも攻撃するが人形に攻撃される。

 

「なら、これならどう!!開け!金牛宮の扉タウロス!!」

 

「MOーーーー!!!」

 

ルーシィはタウロスを召喚し、一気に決めるつもりだ。

 

「チッ!もう一体出やがったか!アレをやるしかねえかっ!!」

 

ビックスローは自身の目を隠している仮面に手をかける。

 

「タウロス!お願い!!」

 

「お任せMOーーー!!!」

 

タウロスは斧を構えビックスローに迫る。

ビックスローは仮面を外しタウロスを見るとタウロスは振り下ろそうとしていた斧を止めた。

 

「タウロスどうしたの!?」

 

ルーシィは突然動きを止めたタウロスに呼びかけるがピクリとも動かない。

するとタウロスはルーシィに振り返り、突然斧を振り下ろした。

 

「キャアッ!!何すんのよ!!」

 

「タウロス!?どうしたんだ!!何故ルーシィを攻撃する!!?」

 

下から見ていたロキもタウロスの突然の奇行に驚くがタウロスは反応しない。

 

「造形眼(フィギュアアイズ)」

 

ビックスローの目は緑色に怪しく輝き、ルーシィたちを見る。

 

「2人ともビックスローの目を見ちゃいけないよ!!」

 

「え!?」

 

ハッピーの突然の言葉に全員が眼を閉じてそらす

 

「雷神衆はみんな“眼”にセカンド魔法を持っているでごじゃる!!ビックスロー殿の目を見たら人形化して魂を操られちゃうでごじゃる!」

 

「じゃあタウロスも……」

 

ルーシィがそう呟くなかタウロスが斧をルーシィに向かって振りかざす。

 

「ルーシィ殿!危ないでごじゃる!!」

 

「キャッ!!」

 

それに気づいたマタムネは間一髪でルーシィを抱き抱え上空に逃げた。

 

「タウロス殿は造形眼に操られているでごじゃる!」

 

「じゃあ強制閉門して……タウロス!強制閉門!!」

 

ルーシィは鍵をタウロスに向け、強制閉門したがタウロスは応じない。

 

「なんで強制閉門しないの!?」

 

「今その牛はオレの支配下さ!!そんな魔力じゃ操作なんて無駄だよ!!行きな!ベイビーたち!!」

 

タウロスは斧を構えてロキに攻撃し、人形たちはルーシィたちを狙う。

 

「きゃあっ!!」

 

「くっ!タウロスやめるんだ!!君のオーナーはルーシィだ!!しっかりしろ!!」

 

「MOーーー!!!」

 

ロキは少し目を開いて、なんとかタウロスの攻撃をかわすがいくつかくらってしまう。

ルーシィも目を閉じて耐えるしかできない。

 

「あうっ!!」

 

「くそ……!こんな魔法が……!!」

 

「ヒャーハッハッハッ!!!この[人形憑](ひとつき)と造形眼のコンボに勝てる奴なんかいねえぇんだヨ!!!」

 

「ルーシィ!!ホロロギウムだ!!僕を一旦、閉門してホロロギウムで守りを固めるんだ!!!」

 

「そんなことできるわけないでしょ!!タウロスが操られてるのに!!それに……あんたを信じてるんだからなんとかしなさい!!!」

 

ロキはルーシィの叫びに笑みを浮かべる。

 

「うん」

 

ロキはタウロスから離れてルーシィを抱きかかえて後ろに退がる。

 

「ルーシィ。タウロスが邪魔でビックスローに近づくことができない。強制閉門ができないならアクエリアスの力を借りるしかない」

 

「でもここに水なんて無いし、それに二体同時開門なんてまだアタシできないわ……」

 

「召喚できなくても力は借りることができるだろう?」

 

「そうか!それでどうするの?」

 

「作戦は……」

 

「でもそれだと目を開けないと……」

 

「信じてくれるんだろ?」

 

「……わかった」

 

ロキはルーシィを下ろし拳を構える。

 

「作戦会議は終わったかァ!?これで終いだ!ベイビー!!」

 

「レグルスは満ちた……」

 

ロキから眩しい光が発せられる。

 

「獅子光耀!!!!」

 

その光が一気に爆発し、辺りを光で包んだ。

 

「何!!?目くらまし!!?」

 

「MO!?」

 

「今だ!!!」

 

ルーシィはアクエリアスの鍵を取り出した。

 

「力を貸して!アクエリアス!!」

 

ルーシィの体にアクエリアスの魔力が少し流れる。

 

「アクエリアスウェーブ!!」

 

ルーシィは水を出して大波を立てる。

 

「うおおぉぉぉっ!!?」

 

「MOーーー!!?」

 

ビックスローとタウロスは目も開けることができず、波に飲み込まれる。

 

「やあ!」

 

「ぬおっ!?」

 

ルーシィが流されるビックスローの首にムチを巻きつけ、引っ張り波から取り出され空中に浮き、ロキがそこに飛び込む。

 

「ロキ!!!」

 

「うん!!」

 

「お前がオレに……勝てる訳……!!」

 

「あの頃の僕とは違うんだ……」

 

ロキの拳に光が集まる。

 

「ルーシィに会って星霊本来の力が蘇った。いや……ルーシィに会って僕は強くなった。お前の操り人形とは違う!!!愛が星霊を強くする!!!!レグルスインパクト!!!!」

 

「ぐぉああぁぁぁぁっ!!!!!」

 

ロキの渾身の一撃がビックスローに決まり、ビックスローは倒れた。

 

「やった!!!」

 

「やったでごじゃる!!!」

 

「ありがとうロキ」

 

みんなが喜ぶ中、ロキは空に向かって光を放つ。

 

「見てルーシィ……愛の光を」

 

そこには『I LOVE LUCY♡』と大きく照らされていた。

 

「えーと……」

 

「あれー?」

 

「浮気でごじゃるかー?」

 

「違うわよ!!」

 

ルーシィ&ロキVSビックスロー

勝者ルーシィ&ロキ

 

 

ルーシィとロキがビックスローを倒した知らせはギルドに閉じ込められていたハルトたちにも届いた。

 

「やったなルーシィ!!」

 

「マジか!!?あのバニーガール戦えたのかよ!!?」

 

「 ルーシィは強えぞ。きっと」

 

「ウソだろ!?だってバニーだぞ!!」

 

「ナツに一回勝ってんだ。強いに決まってる」

 

「マジでか!!サラマンダーお前負けてるのかよ!!?」

 

「負けてねえよ!!!」

 

レビィもその知らせを見て、一層気合が入る。

 

「さすがルーちゃん!!私も負けてられない!!!」

 

レビィも術式解除の大詰めだが最後の難関が解けない。

 

「あとはここさえ解ければ……」

 

「お前バニーに負けたのかよ!?」

 

「負けてねえっての!!!」

 

「負けたじゃねえか、認めろよ」

 

「術式を書き換えて……」

 

「ぐう……いや確かに負けたけどよ」

 

「マジで負けたのか……やっぱりバニーの奴強かったんだな……」

 

「だけどここが最難関………」

 

「負けたら、それを教訓にしてまた強くなっていけばだな……」

 

「それだっ!!!」

 

「「「!!!」」」

 

突然レビィが顔を上げ、ハルトたちを指差す。

 

「そうだよ!!前の文の文法に習って同じように解読して、もう一度直して文字の整数をガーラ文法に変換してさらにローグ言語化………」

 

レビィの手は止まらず次々と文字を書いていく。

 

「解けたっ!!!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

「待ってて術式を書き換えてくる!準備はいい?バトルオブフェアリーテイル 参戦だよ」

 

「おう!!!」

 

「燃えてきたぞ!!!」

 

「ひと暴れしてやんよ」

 

三頭の竜が戦いに参戦する。

 

 

時間は少し遡り、ミラは倒れたマカロフのためにポーリュシカを呼びに向かっている途中でエバーグリーンに倒されたエルフマンを見つけ、肩をかしていた。

 

「大丈夫エルフマン?」

 

「悪りぃ姉ちゃん……もう大丈夫だ」

 

「無理しちゃダメよ……ごめんねエルフマン。ごめんね……」

 

「何で姉ちゃんが謝んだよ?」

 

「私…ファントムの時も…今回も…何もできなくて……それで……」

 

ミラの目から涙が溢れる。

 

「泣かないでくれよ……姉ちゃん。姉ちゃんは何もしなくていいんだよ。この喧嘩が終わったら笑顔でみんなを迎えてくれればいい」

 

それでもミラの涙は止まらない。

 

「うっ……うえ……ひっ……」

 

「頼むよ姉ちゃん……カミナも悲しむから泣かないでくれ……」

漸く街はずれ近くに着いた瞬間、先に見えていた橋が壊れ、雷神衆を探していたカナの悲鳴が響き渡った。

 

「アアアァァァァァァッ!!!」

 

「「カナ!!」」

 

カナは全身に酷い傷を負っており、

 

「ぐうぅぅぅ!!」

 

「しぶとい……さすがギルドの古株といったところか」

 

「フリード!!」

 

「クソ!こんな時に!!」

 

エルフマンが身構えるがダメージが大きくフラついている。

 

「取り消しなさい……ジュビアを“ファントムの女”と言った事を取り消しなさい!!!」

 

カナはジュビアと行動しており、2人ともフリードの術式に捕まってしまい、その術式は『どちらかが戦闘不能になるまで術式から出ることができない』というものでジュビアはフェアリーテイルの仲間であることを認めて欲しくて神鳴殿のラクリマに自分からぶつかり、自分を犠牲にしたのだ。

カナはジュビアが犠牲になったこととこんな術式を作ったフリードに怒りをぶつけたが雷神衆筆頭のフリードに手も足も出なかった。

 

「うっ!!あぎっ……げはっ!!」

 

カナの体からバキバキと鈍い音がなり、カナは白目をむいて気絶してしまった。

 

「カナ!!!」

 

「何が起きたんだ!!!」

 

エルフマンは体が悲鳴を上げているがそれでもフリードに立ち向かう。

 

「ちくしょォッ!!」

 

「次の相手はお前かエルフマン……と言ってもお前はエバに負けている。ゲームへの復帰権はない」

 

「うるせえ!!!」

 

「いい加減にしなさいフリード!!!私たち仲間じゃない!!!」

 

ミラがそう言うがフリードは無表情で返す。

 

「かつては……しかしその構造を入れ替えようとしているこのゲーム内ではその概念は砕け散る。ラクサスの敵は俺の敵だ」

 

フリードは剣を構えて、迫ってくるエルフマンに剣を向けて、エルフマンのむねに何かを書き込むように剣をさばく。

 

「これは!!?」

 

エルフマンの胸には何かの文字が書かれており、怪しい光を帯びている。

 

「一度敗れた駒がゲームへ復帰する事は禁ずる。その掟を破りし者は死よりつらい拷問を受けよ。闇の文字〝痛み〟」

 

フリードの右眼が黒く輝き、文字が一層に輝くとエルフマンの体から鈍い音が響いてくる。

 

「ぐぅ……な、何だ……!?体中からギシギシと……」

 

「その文字は現実となりお前の感覚となる……」

 

「そんな……」

 

ミラはフリードの闇の文字の効果に戦慄する。

 

「うがぁぁああぁぁぁああああっ!!!!!」

 

「エルフマン!!」

 

エルフマンの体に激しい痛みが走り、絶叫を上げてしまう。

 

「闇の文字〝恐怖〟!!」

 

「ぐあがぁぁぁあああ!!!」

 

「やめてフリード!!エルフマンはもう戦えないの!!」

 

「闇の文字〝苦しみ〟!!!」

 

「お願いフリード!!何でもするから助けて!!!」

 

ミラがそう頼んでもフリードは容赦なく闇の文字を叩き込む。

 

「闇の文字エクリテュール……〝痛み〟〝痛み〟〝痛み〟〝痛み〟〝痛み〟〝痛み〟!!!」

 

「がふあがぁあぱぁがぁ!!!!」

 

「いやぁーーーーっ!!!」

 

エルフマンの苦しむ声にミラは涙を流して悲痛な叫びをあげる。

 

「闇の文字……」

 

フリードはトドメを刺すため剣を大振りに構えて魔力を貯める。

エルフマンは痛みで足元もおぼつかない。

 

「やめてぇーーーーっ!!!!」

 

「“死……」

 

フリードが言葉を続けようとした瞬間、白い雷とともにフリードとエルフマンの間に刀が突き刺さり、フリードとの距離を離す。

 

「これは……!!?」

 

フリードが驚愕するなか、泣くミラに優しく抱きしめる感覚が広がる。

 

「泣かないでくれミラ……お前の悲しむ姿は見たくない」

 

ミラはその声を聞くと目を見開いて、嬉しくなりその人物に抱きつく。

 

「フリード……ミラをここまで悲しませたんだ」

 

その男は抱きつくミラの頭を撫でながら殺気をフリードだけに向ける。

フリードはその殺気を浴びて全身から冷汗が流れ、喉元に刀が添えられ、喉をかき切られたかのような感覚に陥った。

喉を触るが何ともない。

男は顔をフリードに向けて、睨む。

 

「死ぬ覚悟はできているんだろうな?」

 

妖精の尻尾最強候補の1人、白い死神カミナ・ハクシロがバトルオブフェアリーテイル に参戦した。

 



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第82話 優しい言葉

カミナと対峙するフリードだが、対峙しているだけだと言うのに一瞬殺された自分を想像してしまっていた。

鼓動が早くなり、息が荒くなる。

その隙に今にも倒れそうなエルフマンをカミナは一瞬で回収し、ミラの側に寝かせる。

 

「来い、繭姫」

 

繭姫を召喚しエルフマンの治療を行う。

 

「行ってくる」

 

「カミナ……」

 

カミナはミラと目を合わせずフリードを睨む。

すると一瞬カミナはミラの前から消えて、フリードの襟を掴んでミラの場所から離れる。

 

「くっ……!」

 

カミナは湖畔近くまで走り、投げる形でフリードを解放した。

 

「カミナが参戦か……だが準備は怠っていない」

 

「おい……誰が名前で呼んでいいって言った?」

 

カミナがさっきより迫力が増した睨みを効かすとフリードにその迫力に圧倒され少し後ずさる。

カミナがフリードのほうに歩いていこうとすると足元から術式の壁が現れ、カミナを閉じ込める。

 

「いくらカミナと言えど術式からは逃れられんぞ!!」

 

フリードがそう言うがカミナは術式に手を向け横に振るうと術式はあっさりと砕け散った。

 

「何だこれは?遊びか?」

 

カミナは冷たい目でフリードを見下し、フリードは慌てて背中に術式の翼を出し逃げていく。

 

(くそっ……!カミナの解除魔法の技術があそこまで高度なのは見誤った!!一旦体制を整えて……)

 

フリードがそう考えてるなか目の前に透明なな壁が急に現れ、ギリギリで気付けたフリードはなんとかぶつからずに止まることができた。

 

「これは……!?」

 

「合体魔法『断璧の回園』」

 

距離を取ったはずのフリードの背後にカミナが現れた。

 

「おまえの得意な術式の罠はもう終わりか?」

 

カミナは刀を向け、フリードを睨む。

 

「全ての策を出してこい。一つずつ壊していってやる」

 

フリードの表情は焦りに染まる。

 

「くっ!闇の文字!“痛み”!!」

 

フリードがカミナの体に文字を書き、カミナの体に激しい痛みが走る。

 

「闇の文字!“痛み”、“苦しみ”、“痛み”、“痛み”、“苦しみ”!!!」

 

フリードが多くの文字を書き込むがカミナは表情を全く変えない。

 

「何故だ……!痛みも苦しみもしない!!」

 

激しい痛みと苦しみが襲ってるはずだが表情一つ変えないカミナにフリードの焦りは大きくなる。

 

「ハァ……こんなものか」

 

カミナに書き込まれた文字はさっきと同じように砕け散った。

 

「なんだそれは……?本当に解除魔法なのか!?」

 

「天嵐」

 

フリードはカミナの天嵐に襲われ、さらに舞い上がり、翼を出してなんとか体勢を整えてカミナのほうを見るがそこにはカミナの姿はなく、周りを見るがどこにもいない。

 

「どこだ!?どこに行った!?」

 

「……蒼火墜」

 

背後から声がし、フリードが振り向くとそこには至近距離から蒼い炎を打ち出すカミナの姿があった。

その目には一切の情などないことがフリードにはわかってしまった。

激しい爆発の中から傷ついたフリードが落ちてくるように出てくる。

 

「くっ!闇の文字“暗黒”!!」

 

フリードは自身の切り札、自分に闇の文字を書き込み、その姿を悪魔のようにして強化した。

カミナは天鷲に乗りながら現れフリードに向かって白雷を何発か撃つ。

フリードは白雷を防いで、カミナはその隙にフリードに飛びかかり刀で攻撃する。

フリードとカミナは素早い打ち合いをして、フリードが翼をはためかせ自分から離れた。

 

「くそっ……!!」

 

フリードは数回の打ち合いでカミナの斬撃が自分より早いことがわかり、体からは少し血が流れている。

カミナから離れ、遠距離からの大火力で倒そうと考えた瞬間、自身にかけた術式が勝手に解けてボロボロのフリードの姿が現れる。

 

「なっ……!!(いったい何が……!!)」

 

フリード自身、自分の身に起きたことを理解出来ず慌てるがそのフリードに影がかかる。

フリードがその影に視線を向けると刀を構えたカミナが目に入った。

 

「白絶斬・雷」

 

激しい雷と共に強力な斬撃がフリードに振り下ろされ、湖に斬撃の余波で激しい水しぶきが上がる。

 

「はっ……はっ……ぐうぅ……!!」

 

フリードは湖からボロボロの体を這いつくばりながら出てきて、苦しそうに呻く。

そこにカミナが天鷲から降りて現れてフリードの頭を踏みつける。

 

「や、やめてくれ……!カミナ……!」

 

フリードがか細い声でカミナに許しを請うがカミナは表情一つ変えず、刀を首に添える。

 

「お前はミラを泣かせた、悲しませた。俺はそれが許せない」

 

カミナの目からは一切の情が見えない。

フリードはそれが堪らなく恐ろしかった。

カミナは刀をフリードの頭に突き刺そうと少し持ち上げる。

 

「死ね」

 

刀がフリードの頭を突き刺そうとした瞬間、ミラがカミナの背中に抱きついて止めた。

 

「カミナやめて!!!」

 

「ミラ……離せ。殺さないだろう」

 

「フリードは殺さなくていいの!!仲間なのよ!!」

 

「お前を傷つけた」

 

ミラは表情が変わらないカミナを見て、悲しくなり涙が流れる。

 

「お願い……いつものカミナに戻って……!」

 

ミラはカミナの胸に抱きつき、泣き縋る。

それを見たカミナは申し訳なさそうにし、ミラを抱きしめる。

 

「すまない……ミラ。少し自分を見失っていた」

 

ミラは元の表情に戻ったカミナを見て安心して、呆然とした表情のフリードの側に座る。

 

「何故トドメを刺そうとしない……?」

 

「私たちは仲間よ……同じギルドの仲間……一緒に笑って、一緒に騒いで………一緒に歩いて………」

 

「う……うるさい!!!俺の仲間はラクサス一人だ!!!」

 

ミラは優しい表情でフリードに語りかけるが、フリードはそれを否定する。

 

「一人じゃないでしょ?あなたはとっくに気づいてるわ」

 

まるでミラはフリードの考えていることがわかっているように語りかける。

 

「一人の人物に依存することは全て悪とは思わないけど、あなたの周りにはたくさんの人がいる」

 

フリードの頭にはギルドのメンバーと過ごした記憶が蘇り、心を動かす。

フリードはそれに耐えるように我慢するがミラはフリードの手をとる。

 

「ほら、手を伸ばせばこんなに近くに……一人が寂しいと気づいた時、人は優しくなれるの……あなたはそれに気づいてる」

 

次第にフリードの目から涙がこぼれ、ボロボロと流れる。

 

「うぐ…!うう……!こんな事……したくなかっ…た…んだ……」

 

「うん……わかってるよ。来年こそは一緒に収穫祭を楽しもっ」

 

「うん……えぐっ…」

 

それを見ていたジュビアを抱えたエルフマンと回復したミラ、そしてカミナが見ていた。

 

「すげぇな、姉ちゃん」

 

「かなわないねぇ」

 

「………」

 

カミナは見ての優しさを見て、刀を握っていた手を見る。

手には刀を力を込めて握っていたのか少し跡が残っていた。

 

(俺は……何も変わっていないのか……)

 

カミナは容赦なくフリードを傷つけ、殺そうとしていた自分を思い出し苦しそうだった。

 

カミナVSフリード

勝者カミナ

 

ラクサスとエルザが戦っているカルディア大聖堂。

そこは今、不気味なほど静かになっていた。

ラクサスはそこでビックスローとフリードが戦いに敗れた知らせを見ていた。

 

「ビックスローとフリードもやられたのか。情けねぇ……だがカミナが参戦したのはいい事だ。なぁ、エルザ?」

 

ラクサスの背後ではボロボロになったエルザが倒れていた。

立ち上がろうとするが体に電気が走り、痺れて立ち上がれない

 

「ハァ……!ハァ……!くそっ…痺れて立ち上がれない!!」

 

「対雷の雷帝の鎧を着て戦ったのが間違いだったな。俺の雷はそんもんじゃ防げねぇ!!」

 

「ぐっ!!」

 

ラクサスはエルザのところまで歩み、背中を踏みつける。

 

「やはりお前は最強の座には相応しくねぇ……ここで退場だ」

 

「フッ……そんなことに固執するとはな……私にとってはどうでもいいことだ……」

 

「ハッ!皮肉か?今のお前に言われても何も感じねぇよ」

 

エルザは苦しそうにしながらも強気で言い返すがラクサスは鼻で笑う。

 

「ここで消えろ。エルザ」

 

ラクサスの手に雷が集まり、エルザに落とされようとした瞬間、閉じていたカルディア大聖堂の扉が開かれた。

それを見たラクサスは笑みを浮かべる。

 

「待ちわびたぜ……ハルト!!」

 

「ラクサス!!」

 

そこにはハルトが怒りの表情で立っていた。

 

 

ハルトたちはレビィのおかげでギルドから出ることができ、複数人で固まって移動するとフリードの術式にはまってしまうため、バラバラに移動していた。

そしてガジルはラクサスのところに向かわず、ある建物の屋根に乗って街を眺めていた。

 

「へ、サラマンダーにもいずれ雪辱を果たさなきゃならねえが、まずはあの増徴した雷兄さんを潰す。ずいぶんとやってくれたからなぁ。問題ねえよな、マスターイワン」

 

ガジルの肩に人型の紙がヒラリと現れる。

 

『今は仲間だと信頼を得る事が重要だ。気づかれるな、妖精の尻尾の一員として行動しろ。妖精の尻尾に〝罰〟を与えるのはまだ先だ』

 

紙から男の声が聞こえ、ガジルに指示を出す。

 

「了解」

 

ガジルは悪辣な笑みを浮かべた。

 



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第83話 覇王VS雷神

向き合うハルトとラクサス。

ハルトはラクサスを睨み、ラクサスは凶悪な笑みを浮かべてハルトを見る。

 

「ウオオォォォォッ!!!ラクサース!!!」

 

そこにナツも現れた。

 

「あれ?ハルトが先に来てたのか!!」

 

「ナツも来たのか。だが先にハルトだ」

 

「待てやラクサス!!俺と戦え!!」

 

ナツがラクサスに指差し、そう言うがラクサスは見向きもしない。

 

「ナツ、エルザを頼む」

 

「待てよ!俺が先に戦うって……っ!!」

 

ナツがハルトに文句を言おうとするがハルトの顔を見て、言葉を途中で止めてしまう。

 

「頼む」

 

ハルトはまっすぐラクサスを見ており、その目には怒りがこもっていた。

長年一緒にいるナツでもこんなハルトを見たことがなかった。

ハルトはラクサスに向かって歩くと、ラクサスもエルザを端に蹴り飛ばしハルトに向かって歩く。

やがて二人はお互い目の前の位置で止まった。

 

「ラクサス。今すぐ神鳴殿を止めろ」

 

「つまらないこと言うなよハルト。ゲームにはルールが付き物だろうが」

 

「これがゲーム?違うな」

 

ハルトとラクサスは拳を握り、お互いの頬を殴る。

その衝撃はカルディア大聖堂全体に渡り、揺れる。

二人は距離をとって構える。

 

「潰し合いだ」

 

ハルトは魔力で強化した脚力でラクサスの懐に入り、魔力を纏った拳で腹を殴るがラクサスはそれを掴む。

 

「っ!?」

 

「おいハルト。何やってんだ?さっさと……」

 

ラクサスはハルトの拳を掴んだまま上に持ち上げ投げる。

 

「本気を出せよ!!!」

 

投げられたハルトに向かってラクサスは雷を放つが、ハルトは剛腕で防ぐ。

雷で弾き飛ばされたハルトはすぐに体勢を整えるがラクサスは雷を体に纏い、凄まじい速さでハルトの元にたどり着き、雷を帯びた蹴りをくらわせた。

 

「ぐっ!!」

 

ハルトは蹴りの威力で柱に打ち付けられるくらいまで飛ばされ、柱を半ば埋まる形で叩きつけられた。

柱に吹き飛ばされたハルトにラクサスは雷を纏った状態での高速移動で近づき、殴りかかる。

 

「オラオラッ!!どうしたハルト!!!お前の力はそんなもんかァッ!!!」

 

ラクサスは連打を浴びせ、ハルトを追い込む。

ハルトは拳を掴み、ラクサスの攻撃を止めると魔力を貯め、至近距離で咆哮を放とうとした。

 

「覇竜のほう……ぶっ!!?」

 

しかしラクサスはハルトの口を掴み、電撃を浴びせる。

 

「ああああぁぁぁぁっ!!!」

 

「オラァッ!!!」

 

ラクサスはハルトを叩きつけ、ハルトは地面にクレーターを作って陥没した。

ハルトはすぐに立ち上がりラクサスに向かっていく。

 

「覇竜の断刀!!」

 

ハルトが横薙ぎの断刀を放つがラクサスはそれをしゃがんでかわし、しゃがんだ状態でハルトに飛びかかり、ハルトの鳩尾に電撃の拳を叩き込む。

 

「かはっ……!!」

 

「ボルトショット!!」

 

吹き飛ばされたハルトに雷が凝縮された電球をいくつもハルトに打ち出す。

 

「ぐぅあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

全てくらったハルトは倒れてしまう。

 

「ぐっ……うぅっ……!!」

 

「マジかよ……!ハルトが手も足も出てねぇ……!」

 

「今のラクサスは……強過ぎる!!」

 

ハルトが手も足も出ない状況を見てナツは戦慄し、実際戦ったエルザはラクサスの実力に戦慄する。

 

「本気を出さないならそのまま死んでしまえ!!鳴り響くは招雷の轟き!天より落ちて灰燼と化せ!」

 

ラクサスの体から雷が発せられ魔力が高まっていく。

 

「待てラクサス!!それを打ち込んだらハルトが死んでしまう!!」

 

「お前のあとはあの嬢ちゃんを殺してやるよ、ハルト……レイジングボルト!!!」

 

ハルトに向かってる極大の雷が落とされ地面を穿って大爆発を起こした。

 

「そ…そんな……」

 

「ラクサスッ!!!テメェッ!!!!」

 

「………」

 

エルザはラクサスがハルトを殺めたと思い、ナツは激怒するがラクサスは爆発で巻き起こった煙をじっと見る。

 

「もう一度言ってみろラクサス……」

 

煙の中からハルトの声が聞こえてくるがそれと同時にその場にいた全員にとんでもない威圧感を感じる。

 

「ようやく出しやがったな………!!」

 

突然煙が激しい風邪とともに消し飛び、レイジングボルトが落ちたところには全身から激しく金色の魔力を放出するハルトの姿があった。

ラクサスはそれを見てまた嬉しそうに笑う。

 

「『覇王モード』を!!!」

 

 

ビックスローとの戦いで魔力をほぼ使い切ったルーシィはマタムネたちと少し休んでいると大きな威圧をカルディア大聖堂から感じた。

 

「ひゃっ!!何これ!!?」

 

「なんかカルディア大聖堂からすごい魔力を感じるよ!」

 

「ハルトでごじゃる……」

 

戸惑う二人にマタムネが呟く。

 

「これってハルトの魔力なの?」

 

「でもなんかいつもと違って凄く荒々しい……」

 

マタムネの呟きに二人はいつものハルトの魔力と違ってとても攻撃的な魔力を感じて怖くなってしまう。

ルーシィは心配そうにカルディア大聖堂のほうを向く。

 

「ハルト……大丈夫だよね?」

 

 

フリードを倒したカミナたちはフリードとともにラクサスが待つカルディア大聖堂に向かっているとルーシィたちと同様にハルトの魔力を感じ取る。

 

「うおっ!?なんだこの魔力!!」

 

「大きいとかじゃなくて……なんか凄く荒々しい」

 

「カルディア大聖堂のほうからか」

 

エルフマンとミラはその魔力に戸惑い、フリードはカルディア大聖堂がある方を見る。

 

「ハルトだな」

 

「カミナ。これって……」

 

「ああ、4年ぶりだな。ハルトの『覇王モード』は……」

 

 

全身から魔力を放出しているハルトを見たナツは今まであんなハルトを見たことがなく驚いた。

 

「な、なんだよ。あのハルト?」

 

「あれは『覇王モード』だ」

 

「『覇王モード』?」

 

エルザがそれを見てナツに説明する。

 

「ハルトの魔力は強力で膨大だ。普段からハルトは自分にリミッターをかけて戦っているんだ。でなければ体が壊れてしまう。だがあの『覇王モード』は全身のリミッターを外した状態だ。全ての魔力がハルトの力となる。前はS級クエストの時しか使ってなかったが4年前から使わなくなった……」

 

ハルトはラクサスを睨むがラクサスは楽しそうに笑みを浮かべている。

 

「久しぶりだな。お前のその姿を見んのは!お前が本当の意味で『覇王』って呼ばれてた姿をよ!!!」

 

「そんなの関係ねぇ。お前なんて言った?」

 

「あぁ?」

 

「ルーシィを殺すって言ったのか?」

 

「そんなのどうでもいいだろうが!!俺はその状態のお前と戦いたかったんだからよ!!!」

 

ラクサスの感情が高まると同時に魔力が高まり体から雷が溢れ出る。

 

「どうでもいいか……ルーシィを傷つける奴は許さねえ!」

 

「さぁ戦おうぜ!!ハルト!!!」

 

ハルトがラクサスに近づくために踏み込むがそれだけで地面にヒビがはいるほどでハルトは一瞬でラクサスに近づく。

そのスピードはさっきとは段違いだ。

ラクサスも向かい打つために拳を握る。

 

「オラァッ!!」

 

ラクサスの拳をかわし、ハルトの拳がラクサスの顔に突き刺さる。

 

「覇竜の剛拳!!!」

 

「ぐっ!」

 

ハルトの拳をくらったラクサスだが後ずさりすぐに体勢を立て直すがハルトはそのすきを与えず、殴る蹴るの連打を与える。

ラクサスもそれを防ぐが対応しきれず、何発か攻撃をくらう。

 

「覇竜の旋尾!!!」

 

回し蹴りを放つとラクサスの横腹に突き刺さり、吹き飛ばす。

吹き飛ばされたラクサスにハルトは走って追いつき、ラクサスの腹に踵落としを放つ。

 

「覇竜の墜尾!!!」

 

「がはっ!!」

 

ラクサスは反応しきれず、もろにくらい倒れる。

圧倒的な身体能力と攻撃力に形成は一気に逆転した。

 

「すげぇ……あんなハルト見たことねえ」

 

「あれがハルトの全力の姿だ」

 

ラクサスは一旦ハルトから離れ体勢を整える。

 

「ハハッ!!流石だな!ハルト!!そうでなきゃ面白くねえ!!!ボルトショット!!!」

 

ラクサスはボルトショットを放つがハルト口を膨らませる。

 

「覇竜の……咆哮ォッ!!!!」

 

放たれた咆哮はボルトショットを搔き消し、ラクサスに直撃した。

激しい爆発音を上げ、煙が晴れるとラクサスが立っていたが服はボロボロになり息が少し荒くなっている。

 

「どうした?お前も本気でこいよ」

 

「ハァ…ハァ…やっぱり本気のお前を倒すには出し惜しみなんてする余裕なんてねぇみてぇだな」

 

ラクサスはボロボロになった服を脱ぎ捨てる。

 

「他のやつらにみせるとジジイがめんどくさかったんだが……まぁ、いいかァ」

 

ラクサスの魔力が高まり、犬歯が鋭くなり筋肉が膨大していく。

そしてその腕には竜の鱗のような模様が入り、全身に雷がまとわりつきコート、ヘッドホン、シャツが雷で焼け消え上半身が裸になる。

 

「なっ!?まさか!!」

 

「ラクサス!お前も……滅竜魔導士だったのか!!!」

 

それを見ていたエルザとナツは驚愕した。

 

「いくぞ!!」

 

「こいよ!!ぶっ潰してやる!!」

 

ラクサスは雷の速さでハルトに近づき殴り、ハルトもラクサスの腹を殴る。

 

「雷竜の放電!!!」

 

ラクサスの手から雷が放たれハルトはそれを受けるが構わず、攻撃を仕掛ける。

 

「覇竜の断刀!!」

 

ラクサスはそれを腕で受け止め、口を開く。

 

「雷竜の咆哮!!!」

 

至近距離からの咆哮にハルトは直撃してしまうが剛腕を出し、ハルト自身が少し飛ばされただけだ。

 

「覇竜の……」

 

「雷竜の……」

 

「「剛拳ッ!!!!!」」

 

二人の拳がぶつかり合い再び、衝撃波がカルディア大聖堂を揺らす。

二人は離れてはぶつかり合うという高速での戦いを繰り広げられる。

 

「ここじゃ障害物が多すぎるな。来いよハルト!!外でやりあおうぜ!!」

 

「待てラクサス!!」

 

ラクサスは天井を破壊して外に出て、ハルトもそのあとを追う。

外に飛び出すとラクサスが両拳を握りしめ、ハルトに振り下ろそうとし、ハルトもそれに対抗するため拳を握る。

 

「雷竜の顎!!!」

 

「覇竜の鎚角!!!」

 

ラクサスの振り下ろしとハルトのアッパーがぶつかると二人は弾け飛ばされて距離を取る。

構えを取るハルトにラクサスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「見せてやるよハルト……俺の新しい力だ」

 

ラクサスは腕を広げ、魔力を高める。

 

「滅竜奥義!真・神鳴殿!!!」

 

ラクサスの体からいくつもの雷球が放たれハルトを中心に浮遊する。

 

「さぁ、第2ラウンドだ」

 

戦いは激化する。

 



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第84話 雷竜猛攻

ハルトを中心にランダムに浮遊する雷球。

ハルトは警戒して身構え、ラクサスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「滅竜奥義 真・神鳴殿。今度はこっちから行くぜハルト」

 

その瞬間ラクサスは雷となって次々とランダムに、雷球に移った。

その速さは今までのものと比べるものではなくハルトの目では追いつけてなかった。

 

「こっちだ!!」

 

「がっ!?」

 

ハルトの背後から攻撃し、すぐさま別の雷球に移る。

ハルトに攻撃しては離れ、雷球に移ってまた攻撃する。

その速さに翻弄されるハルトは攻めあぐねていた。

 

「ハハハッ!!!俺の速さについてこれねぇか!!ハルト!!!」

 

「ぐうぅっ………!」

 

攻撃するが全てかわされ、防ぐだけの時間が過ぎていった。

 

「今の俺の速さは今までの5倍だ!!ついてくるところが目ですら追えねぇだろ!!!」

 

ラクサスがその速さに乗った拳がハルトの顔に入った瞬間、ハルトはその腕を掴んだ。

 

「!!」

 

「捕まえたぞ!!」

 

「チッ!!」

 

ラクサスはハルトに掴まれたまま雷球に飛び込み、縦横無尽に移動する。

ハルトの体に凄まじい電撃が流れるが意地でも掴まる。

 

「放せ!!」

 

「これなら速さなんて関係ねぇよな!!覇竜の螺旋拳!!!」

 

「がはっ!!」

 

回転を加えた螺旋拳の衝撃はラクサスの体を貫き、ラクサスの体勢が崩れ投げ出されるようにハルトは地面に転がり、ラクサスはハルトから離れたところで膝をつく。

 

「がはっ!ゴホッ……!くそっ!」

 

ラクサスの口から血がこぼれ、苦しそうだがなんとか立ち上がり手をハルトに向ける。

ハルトは身構えるが背後から細い電気が流れる。

 

「っ!なんだ!?」

 

後ろを向くとハルトの背後にあった雷球からその電気は伸びてラクサスの手に繋がっており、ハルトの体を貫通しているが何も影響がない。

 

「滅竜奥義!麒麟雷道!!!」

 

ピシャアアアアアンッ!!!!

 

一瞬光り、雷が落ちた音がしたと思うとラクサスはハルトの後ろに立っており、ハルトの体中が火傷だらけで煙が上がり大きなダメージだけが残っていて、ハルトは何が起こったかわからなかった。

 

「が……あ……」

 

「効くだろ?俺の麒麟雷道は一瞬自分の体を雷にして相手を貫く技だ。一定の条件じゃなきゃできねえが上手くいったぜ」

 

その速さは光の速度と同等。

人間が反応できるはずもなく、ハルトはふらつく。

 

「まだ倒れねえか!だが、これで終わりだ!!」

 

ラクサスはトドメを刺そうとハルトに向かって拳を振るう。

ハルトは朦朧とする意識の中、ラクサスが向かってくるのが見えて防がないといけないのに体が動かない。

あと数センチで拳がぶつかりそうな時に突然声が響いた。

 

『ハルト!!』

 

「アアアァァァッ!!!」

 

「何!?ぐはっ!!」

 

突然ハルトは叫んでラクサスの攻撃をかわし、顔面に拳を叩きこんだ。

突然のことに驚いたラクサスはもろにくらいたたらを踏んで後ろに下がる。

 

「何が……っ!!」

 

「ハァー…!ハァー…!ハァー…!」

 

ラクサスが一瞬何が起こったか分からず前を見るとさっきより魔力を大きくしたハルトが息を荒くして、立っているのも辛そうなのにその目の闘志が消えていないのが目に入った。

 

「そうだよな……そうじゃなきゃ面白くねぇ!!」

 

ラクサスも雷を滾らせ、再びハルトとぶつかる。

 

「「ウオオオォォォォォォォッ!!!!!」」

 

二人のひたすら殴る、蹴るの応酬にカルディア大聖堂の天井に徐々にヒビが入る。

ハルトの魔力とラクサスの雷が攻撃する度に辺りに衝撃波として飛び交う。

 

「覇竜の鉤爪!!」

 

「ぐっ!……雷竜の顎!!!」

 

ハルトの蹴りが当たるがラクサスはそれを我慢し、ハルトの脳天に拳を振り下ろす。

 

「がっ!!」

 

「フンッ!!」

 

ラクサスは足を振り下ろし踏みつけようとするがハルトが足を掴んで阻止する。

 

「覇竜の鎚角!!!」

 

「がはっ!!」

 

アッパーがラクサスの体に深々と突き刺さり、いったん離れた二人は同時にブレスの魔力を貯める。

 

「覇竜の……」

 

「雷竜の……」

 

「「咆哮オォッ!!!!」」

 

二つの咆哮がぶつかり、辺りは光に包まれた。

煙が晴れるとハルトとラクサスは互いにボロボロの状態で膝をついているが、ハルトの怪我のほうが大きい。

 

「まだだ……まだ終わってねぇぞハルト!」

 

ラクサスは両手で魔力を貯めて巨大な球体を作り両手を握って打ち出すように構え、ハルトも魔力を球体に練り込む。

 

「滅竜奥義……!!」

 

「付加(エンチャント)……!!」

 

「雷帝竜砲ォッ!!!!!」

 

「竜戟弾ッ!!!!!」

 

ラクサスの魔力弾とハルトの拳がぶつかる。

高密度の雷球はハルトの竜戟弾を押しており、ハルトは徐々に押されていく。

 

「ぐうぅ……!!!」

 

「これで終わりだ!!!ハルトォォッ!!!!」

 

ラクサスはさらに魔力を送り、雷帝竜砲の勢いは増す。

ハルトの拳は雷でぶつかっている部分から火傷を負っていくが、それでも押し込んでいく。

 

「オオオォォォォォォォッ!!!!!」

 

ハルトの拳は雷帝竜砲を貫き、ラクサスに突き刺さる。

 

「ゴフッ!!!」

 

「オラアァァァァァッ!!!!」

 

ハルトはラクサスごとカルディア大聖堂の天井に叩きつけ、天井を破壊して下に落ちる。

 

「「ハルト!!」」

 

「ぐっ……うぅ……」

 

ハルトは地面に受け身をとれずに落ちてうずくまり、覇王モードもダメージで解けたしまった。

ラクサスの落ちたところはラクサスが落ちたことで煙が上がり見えない。

 

「ラクサスを倒したのか……?」

 

「くぅーーっ!!俺が戦いたかったのになぁっ!!ハルト!!次は俺と戦え!!」

 

ハルトはふらつく体でなんとか立ち上がり、これで終わったと思った瞬間、煙の中から砂利を踏む音が聞こえる。

ハルトは信じられないような表情で煙を見ていると、雷が発せられ煙を吹き飛ばす。

そこにはボロボロの傷だらけの姿になって苦しそうなラクサスが立っていた。

 

「嘘だろっ……!?」

 

「ハァ……ハァ……今のは効いたぜ……ハルト。だけど……俺はまだ倒れてねぇぞ!!!来いよ!!!まだ勝負は終わっちゃいねえっ!!!」

 

「ラクサス!!もう止めろ!!!これ以上やると怪我どころでは済まなくなる!!!」

 

「うるせえっ!!!雑魚は黙ってろっ!!!」

 

必殺の技を防がれたハルトは戦慄し、ラクサスはまだ治らない闘志を燃えたぎらせる。

これ以上の戦闘は死人が出てしまうと思ったエルザは止めるために間にに入るが、治らないラクサスはエルザの顔に向かって雷を放つ。

 

「しまっ……!!」

 

「エルザ!!」

 

ダメージであまり動けないエルザの顔に雷が迫り、直撃しそうになった瞬間、ミストガンが間に入ってラクサスの雷を顔で受け止めた。

ミストガンの顔を覆っていた布は全て焼け落ち、その素顔が露わになった。

 

「ジェ……!」

 

「ジェラール!!?お前…生きて……」

 

青色の髪に右目に入れ墨がある男。

長くエルザを苦しめ、ゼレフに心酔してしまい大罪を犯した男、ジェラールだった。

 

 

レビィは一人ギルドに残りみんなの帰りを待っていた。

 

「神鳴殿……街中を襲う雷の魔水晶ラクリマ……雷神の裁き……もう時間がない……でも大丈夫だよね!!ナツやガジルもいるし、何よりハルトもいるんだから負けるはずないよね!!」

 

するとギルドにある人物が訪ねに来た。

 

「マカロフはどこ?」

 

妖精の尻尾専属治療医、ポーリュシカだった。

 

「ポーリュシカさん!?何でここに!!」

 

「カミナに連れられて来たんだけどね。アイツはどこかに行ったよ。それよりマカロフはどこにいるかとい聞いてるの」

 

「あっ…はい!こっちです!!」

 

レビィに案内されマカロフが寝ている医務室に案内され、容態を見て、ゆっくりと口を開く。

 

「ラクサスを連れて来なさい」

 

「え?」

 

「祖父の危篤も知らずに遊び回っているあの子を連れて来なさい」

 

「え……ちょっと……マスターが危篤なんて……そんな大げさな……」

 

レビィが冗談だと思い、そう言うがポーリュシカは涙を流しレビィに懇願する。

 

「いいからお願い。この人は、もう長くない」

 

 

ミストガンの顔がジェラールと瓜二つでここにいるはずでジェラールと思ったが彼がここにいるのはあり得ないのだ。

楽園の塔を爆破したときに彼は自身を犠牲にして死んでしまったのだ。

 

「ジェ、ジェラール……」

 

「エルザ…あなたにだけは、見られたくなかった」

 

「え?」

 

「彼は君たちが知っているジェラール・フェルナンデスじゃない。似ているが、別人だ」

 

ミストガンはそう言い残し、その場から消えるように姿を消した。

 

「だぁーーっ!!!ややこしいっ!!!どうなってんだ!!!」

 

「ジェラール………」

 

「らしくねぇ顔しんてんじゃねえぞ!!エルザ!!」

 

呆然とするエルザに向かって雷を放つラクサス。

ハルトはエルザの前に出て、雷を剛腕で受け止めた。

 

「エルザ!!ミストガンのことは後にしろっ!!!」

 

「っ!す、すまない!!」

 

「お前は外の神鳴殿をなんとかしてくれ!!もう時間がねえっ!!!」

 

時間を見ると神鳴殿発動まで残り15分を切っていた。

 

「わかった!任せてくれ!!(とりあえずミストガンのことは後回しだ!) ナツ!!一緒に来い!!」

 

「嫌だ!!俺はラクサスと戦うんだ!!」

 

「なっ……!」

 

エルザがナツの我儘に呆れているとラクサスが再び動いた。

 

「勝手なことしてんじゃねぇぞ!!」

 

ラクサスはジャンプして、エルザに向かって雷の槍を投げようとするがハルトがブレスを放ち邪魔をする。

 

「覇竜の咆哮ォッ!!!」

 

「チィッ!!」

 

ラクサスは自身に雷を纏ってブレスを避けて再び対峙する。

 

「エルザ!!ナツはオレに任せてお前は早く行け!!!」

 

「わかった!!」

 

エルザは外に出て行くが、ラクサスはそれを横目で追うだけで無視した。

 

「ハルトよォ……エルザに神鳴殿が止められると思ってんのかァ?アァッ!!?」

 

「エルザなら止めれる。俺は……お前を止める!!」

 

ハルトは拳を構え、魔力を滾らせる。

ラクサスはエルザが神鳴殿を止めようとすることに怒りがわき立ち、全身から雷が溢れ出る。

 

「やってみろハルトオォォォォッ!!!!」

 

「行くぞラクサスァァァスッ!!!!」

 

二人は同時に飛び出し、拳を構える。

 

「「オオオォォォォォォォッ!!!!!」」

 

二人がぶつかりそうになった瞬間、突然ハルトの体から発せられていた魔力が霧散してしまった。

 

「な……!?があっ……!!」

 

突然のことに驚いたハルトにラクサスの拳が顔面に当たり、地面にリバウンドしながら吹き飛ばされた。

 

「ハァ……ハァ……くそっ……時間切れかよ……!!」

 

ハルトの覇王モードは強力な強化技だが、ハルトの体に負担をかけてしまい、体の限界を超えると強制的に解けてしまうのだ。

さらに……

 

「チクショッ……ぐう……うぅ……!!」

 

ハルトの体から煙が出てきて、苦しそうにしている。

許容量を超えた魔力を使ったため体にフィードバックが来てるのだ。

苦しそうにしているハルトにラクサスが近づく。

 

「オイ、なんだよ……俺を止めんじゃねえのか!!?」

 

「がはっ……!!ごほっ……!!」

 

ラクサスは足に雷を纏ってハルトを何度も踏みつけて痛みつけ、ハルトの首を掴み締め上げる。

 

「これで終わりだハルトッ!!」

 

ラクサスの腕に雷が集まり、ハルトに放たれようとした瞬間……

 

「火竜の翼撃!!!」

 

炎の翼撃がラクサスとハルトの間に入り、ラクサスとハルトを引き離す。

 

「こっからは俺が相手だ!!!」

 

ナツが手から炎を出してラクサスと対峙する。

 

「ナツ……」

 

「ハルトの代わりだ!今度はオレが戦う!!」

 

「邪魔だァッ!!ナツゥッ!!」

 

「火竜の……咆哮!!!!」

 

ナツは頭を振りながらブレスを放ち、ラクサスとの間に炎の壁を作る。

 

「ハルト!!オレがラクサスと戦う!!それでいいな!!!」

 

「ナツ……今のお前じゃラクサスは……」

 

「そんなの関係ねえっ!!!テッペンとるチャンスだろうが!!!」

 

ハルトはナツとナツの炎を見てそれに賭けることにした。

 

「ナツ……」

 

「なんだよ!!オレはラクサスと戦うからな!!!」

 

「よく聞け!ラクサスの弱点を教える!!」

 

「!!」

 

エルザが神鳴殿を落とすために多くの剣を召喚し、構えるがその数は50程だ。

 

「ハァ…ハァ…体力が……」

 

ラクサスとの戦闘でダメージを受けて、召喚できる数が少ない。

 

「このままでは……」

 

「手伝うぞ……」

 

後ろから声がかけられて振り向くと傷だらけのハルトがフラつきながらカルディア大聖堂から出てきた。

 

「ハルト!!ラクサスはどうした!?」

 

「ナツに任せた……」

 

「ナツに!?今のラクサスの力は知っているだろう!!ナツには無理だ!!」

 

「今の俺じゃ無理だ。ラクサスに勝てねえ……だけどナツなら勝てるかもしれない」

 

ハルトが中が燃えているカルディア大聖堂を見る。

 

「信じよう。アイツなら勝てる」

 

 

ラクサスが雷で炎を掻き消し、ナツを睨む。

 

「ナツ……邪魔すんじゃねえぞ。テメェのことは少し気に入ってるがハルトとの戦いを邪魔すんじゃねぇっ!!」

 

ラクサスは怒りで血管が浮き上がるほどでナツに怒鳴るがナツはニヒルに笑って睨む。

 

「なんだよラクサス……ハルトがいなくて寂しいのかよ」

 

「アァッ!?」

 

ナツの体が炎に包まれ、そのすがたはまさに今のナツの闘志を表しているようだった。

 

「ハルトに代わって、オレがお前を倒す」

 

「このガキが………」

 



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第85話 孤独な雷鳴

ハルトとエルザが神鳴殿を止めるためラクリマを破壊しようとするが問題が起きてしまった。

 

「ハルト……いくつラクリマを壊せる?」

 

「よくて80個ぐらいだな……魔力の残りが少ない。お前は」

 

「……私も似たようなものだ。だがラクリマは全てで300個。二人合わせても足りないぞ」

 

「限界を超えるしかねえな」

 

「もちろんだ」

 

二人は決死の覚悟で臨んでいた。

 

 

ナツは炎の塊をラクサスにぶつけるが、ラクサスはそれを防ぎ、ナツに向かって叫ぶ。

 

「テメェにだってわかるだろ、ナツ!!! 今、このギルドがどれだけふぬけた状況か!!! ハルトもだ!!!アイツもギルドと一緒に腑抜けちまった!!!オレはこのギルドを変える!!!その為にマスターにならなきゃいけねェんだよ!!!」

 

ラクサスは神鳴殿発動までの時間を見る。

 

「何してやがんだジジイは!!!街がどうなっても構わねえよかよ!!!」

 

ラクサスがそう叫ぶがどこか焦っているようだった。

 

「そんなに焦んなよラクサス」

 

「!」

 

「どうせ何も起きねえから」

 

「何だと?」

 

ナツは自信を持った表情で話す。

 

「街を壊したってお前には何の得もねえ。今から引く引けなくて焦ってんだろ?」

 

ラクサスは図星をつかれたような表情になる。

 

「意地を通すのも楽じゃねえな!!!ラクサス!!!!」

 

ナツは拳に炎を灯し、ラクサスに突撃する。

 

「てめぇが知ったような口を……!!!ぐふっ……!!?(ハルトの攻撃が……!!)」

 

ラクサスはナツを迎え打とうとするがハルトに殴られたところを抑えて、片膝をつく。

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

「がはっ!!」

 

ナツの拳はラクサスの頬に当たり、後ろに下がらせる。

 

「大丈夫さハルトたちが止めてくれる」

 

 

神鳴殿のラクリマは段々と魔力が蓄積され、雷を鳴らす。

 

「59……ハァ…ハァ…60……同時に破壊するには……まだ……くそっ魔力が……」

 

エルザが苦しそうに武器を展開させるがもう限界がきていた。

 

「こっちも使える魔力が少ねえ……くっ……」

 

ハルトは苦しそうに片膝をつき、体から煙が上がる。

 

「ハルト!あつっ!」

 

エルザが肩に手を乗せ触ると鎧越しでも熱さが伝わるほどハルトの体は熱くなっていた。

 

「ハァ……ハァ……くそっ……!!」

 

カルディア大聖堂から激しい戦いの音が聞こえてきて、ハルトはカルディア大聖堂のほうを見て強敵ラクサスに挑むナツを応戦する。

 

「勝てよ、ナツ!!」

 

 

「オラアァァァァッ!!!」

 

「チック……ショ……!!」

 

ラクサスが圧倒的な力でナツが押されていると思われた戦況はそれとは逆にナツの怒涛の攻めにより、ラクサスは防戦一方だった。

 

(今になってハルトの攻撃が効いてきやがった……!)

 

「火竜の翼撃!!!」

 

ラクサスはハルトとの戦いが後になって体に影響を与えてきて、先ほどのキレは全くない。

ナツの攻撃をもろに受けたラクサスは後ろに下がり、雷をナツに浴びせる。

 

「あんまり調子に乗るんじゃねえぞ!!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

ナツは雷を浴びても、立ち上がってラクサスに向かっていく。

 

「火竜の鉤爪!!!」

 

炎の蹴りをラクサスは防ぎ、足首を掴んで柱に投げつけるとナツの顔を柱ごと殴る。

 

「らぁっ!!」

 

「ぎぃっ!!」

 

ラクサスは残り時間を横目で確認すると残り1分を切っていた。

その隙にナツはラクサスの顔に回し蹴りを放った。

 

「何も起きねえ!!!」

 

「黙れ……」

 

ナツの自信のある言葉の裏腹にラクサスはどこか焦りが見え始める。

 

 

ハルトとエルザが残りのラクリマをどうやって破壊するか焦り始めると頭の中に声が聞こえた。

 

『おい!!!みんな聞こえるか!!?一大事だ!!!空を見ろ!!!!』

 

「この声は……」

 

「ウォーレンか!!」

 

妖精の尻尾の魔導士の一人、ウォーレンが念話でマグノリア中にいる仲間に話しかける。

 

『くたばってる奴は起きろ!!!あの空に浮かんでいる物をありったけの魔力で破壊するんだ!!!一つ残らずだ!!!あれはこの街を襲うラクサスの魔法だ!!時間がねえ!!!全員でやるんだ!!!!』

 

「ウォーレン。お前……なぜ神鳴殿の事を……」

 

ウォーレンが知るはずがないことをエルザが不思議がっているともう一つの声がエルザに響く。

 

『その声はエルザか!?無事だったのか!?』

 

『エルザだって!?』

 

『石から戻ったのか』

 

『おおっ!!!』

 

「グレイか!!ナイスだ!!!」

 

『ウォーレンを偶然見つけてな』

 

ハルトはグレイがウォーレンを使って仲間に神鳴殿を知らせたことを褒める。

 

『オイ……エルザが無事ってことは他の子たちは!?』

 

『レビィは……!!?』

 

『みんな無事よ。安心しなさい』

 

『私も無事よ、アルザック』

 

『よかった……』

 

石にされたみんなを救うために戦った者たちがカナたちの声を聞いて安心した声を出す。

 

『すまねえ、オレの念話テレパシーはギルドまでは届かねえ。とにかくこれが聞こえてる奴だけでいい!!あの空に浮いているものを……』

 

『ウォーレンてめぇ……オレに何したか忘れたのかよ』

 

『マックス!!!』

 

そこに怒りがこもった声がきこえてくる。

その声はマックスでバトルオブフェアリーテイルのルールのせいとはいえ、ウォーレンに倒されたのだ。

 

『あん時はすまなかったよ…だって、女の子を助ける為に必死で……』

 

(オウ!!そうだ!!聞こえるかアルザック!!』

 

『テメェもだ!!ニギー!! ちくしょう!!』

 

『さすがにトノは許せねえぞ!!』

 

それをはじめにあっちこっちから怒鳴り声が聞こえてくる。

そしてとうとう我慢ができなくなり、グレイが怒鳴った。

 

『ケンカなら後でやれ!!!』

 

『『『『『お前が言うな!!!!』』』』』

 

しかしそれは戦ったグレイも同じでみんなから怒鳴られる。

 

『今は時間がねえ!!!空に浮いてんの壊せ!!!』

 

「よ…よせ!!あれには生体リンク魔法が……」

 

「それに人数が足りねえ!!一人一個じゃ足りねえぞ!!!」

 

『俺がいる』

 

「!!」

 

また一人、声が聞こえてきてその声にハルトはとても聞き覚えがあった。

 

「カミナか!!!」

 

『ああ、そうだ。俺が西側の100個を壊す』

 

これで人数が揃った。

 

『ビジター、テメェそこ動くなよォ!!!』

 

 

『マカオ、おめぇにゃ無理だ、寝てな!!!』

 

 

『んだとぉワカバ!! ジジィのくせにハシャギすぎだよ!!!』

 

 

『とっととあれ壊して、ギルドに帰るぞ!!!

 

「お前たち……」

 

やはり戦い、お互いを潰しあっても信頼できる仲間。

そのことにエルザは嬉しくなる。

みんなが神鳴殿を破壊しようと息をあわせる。

 

「北の100個は私とハルトがやる!!!みなは南と東を中心に全部撃破だ!!!」

 

「一個も残すなよォ!!!」

 

ドガガガがガガガッ!!!!!

 

その瞬間、神鳴殿のラクリマ全てに魔法、攻撃が放たれ、ラクリマは一つ残らず破壊された。

 

「よしっ!!!」

 

「やった……か」

 

そして生体リンク魔法が発動し、ラクリマを破壊した全員に強力な雷が落とされ、あっちこっちから悲鳴が響きわたった。

 

「まったくお前たちと言うやつは何という無茶を……」

 

「まぁ……お互い様って事で」

 

ラクサスと神鳴殿のダメージでピクリとも動けないハルトとエルザは笑いあう。

 

『ふふ……本当……いいギルドだな。私たちは……』

 

『あぁ…そうだな……』

 

『ラクサスが反抗期じゃなかったらもっとな』

 

『あははは、言えてらぁ』

 

『アルザック、大丈夫か?』

 

『ドロイ? う…うん、ありがとう』

 

そんな念話テレパシー越しの楽しげな会話が、マグノリアの街に響いていったのであった。

 

 

神鳴殿機能停止

 

ラクサスとナツが戦うカルディア大聖堂にフェアリーテイル のメンバーが神鳴殿のラクリマを破壊し、機能停止にした知らせがラクサスの目に入った。

 

「な、心配なかったろ」

 

ナツの言葉が耳に入らないほどラクサスは驚愕する。

 

「ギルドを変える必要なんてねえ。みんな同じ輪の中にいるんだぞ。その輪に入ろうとしねェ奴がどうやってマスターになるんだ!?ラクサス!!」

 

ナツにそう言われ、ラクサスは何かに耐える様に震え、雄叫びを上げて怒りの雷を落とす。

 

「支配だ」

 

全身から雷がほとばしり、まさしくラクサスの怒りを表していた。

 

「……いい加減にしろよラクサス!妖精の尻尾はもうお前のものにはならねえ」

 

「なるさ…そう……駆け引きなど初めから不要だった……全てを力に任せればよかったのだ!!!圧倒的なこの力こそがオレのアイデンティティーなのだからなァ!!!!」

 

雷はラクサスの怒りとともに激しくなり、辺りを荒らす。

しかしナツもラクサスの自分勝手な言い分に怒りを燃やす。

 

「そいつをへし折ってやれば諦めがつくんだなラクサス!!!!」

 

ナツは炎を拳に灯し、ラクサスを殴るが、

 

「火竜の鉄拳!!!!」

 

ラクサスはそれを受けても薄らい笑みを浮かべる。

 

「まずは貴様だ。くくく……」

 

ラクサスはナツに向かって手を向ける。

 

「雷竜の放電!!!!」

 

「ぐはぁ!!!」

 

「かかってこい妖精の尻尾!!!オレが全てを飲み込んでやる!!!!」

 

ナツは雷で打たれ吹き飛び、ラクサスは容赦なく追い討ちをかける。

さっきまではナツが優勢だったがラクサスの猛攻に形成は完全に逆転してしまった。

 

「ボルトショットォ!!!」

 

「うがぁ!!!」

 

雷球をくらったナツは倒れるが立ち上がる。

しかしその体はダメージで震えている。

 

「つ……強ェな…やっぱり……くっ!う……!」

 

ナツはダメージに耐えられず、その場に倒れてしまう

 

「雷竜のォ……」

 

ラクサスの腕に大きな雷がほとばしり、ゆっくりと上げる。

その雷の大きさにナツの頬に汗が流れる。

 

「剛雷!!!!」

 

振り下ろされた腕とともに雷は天井を破壊しながらナツに落とされる。

落とされた床は粉々に砕けちり、そこにはナツの姿がなかった。

 

「フフ……フハハハハハハハッ!!!!!ナツぅ……このギルド最強は誰だ?」

 

ラクサスはナツに問いかけるが答えるナツもいない。

 

「ハハハハハッ!!!!粉々になっちまったら答えられねーか!!!」

 

ラクサスの笑い声だけが響き渡り、絶望的な空気が流れるが、そこにある男が現れる。

 

「仲間……じゃなかったのか?それを消して喜んでるとァどうかしてるぜ」

 

「ア?」

 

「まあ、消えてねえがな。こいつを消すのはオレの役目だからよォ」

 

そこに現れたのはガジル。

しかもその手にはナツが抱えられていた。

 

「ガジル……んがっ!」

 

ガジルは抱えていたナツその場に落とした。

 

「また獲物が一匹……ククク………消えろ消えろォ!!!オレの前に立つ者は全て消えるがいいっ!!!!」

 

最早狂人とも言えるラクサスに、ボロボロのナツはまだたちむかう。

 

「ラクサスはオレがやる……引っ込んでろ」

 

「コイツには個人的な借りがあるんだヨ」

 

ガジルは以前、ジェットとドロイに呼び出され、ファントム戦の時の仕返しをされ自分なりの罪滅ぼしをしたときに、ラクサスが現れ一方的に嬲られたのだ。

 

「だが奴の強さは本物のバケモンだ。あのアーウェングスがやられちまったんだからな……気に入らねえがやるしかねえだろ。共闘だ」

 

「!!!」

 

ガジルの口から信じられない言葉が出て驚くナツだが、すぐに反対した。

 

「じよっ……冗談じゃねえ!!ラクサスはオレが倒すんだ!!!つーかオマエとなんか組めるかよ!!!」

 

「よく見ろ。あれがてめえの知ってるラクサスか?」

 

ガジルにそう言われ、ラクサスを見るがラクサスは完全に暴走しており、ナツが知っているラクサスではなかった。

 

「………」

 

「あれはギルドの敵だ!!!ギルドを守るためにここで止めなきゃならねえ!!!他の奴らは神鳴殿の反撃で全員動けねえ。今ここで奴を止めねえとどうなるかわかってんのか!?」

 

ナツは神妙な顔になり考える。

 

「お前がギルドを守る?」

 

「守ろうが壊そうがオレの勝手だろーが!!!」

 

ナツは前にギルドを壊した本人とは思えない言葉に軽く引っかかり、ガジルは恥ずかしそうに反論する。

 

「この空に竜は一頭でいいんじゃなかったのか?」

 

「当たり前だ。てめえを倒したら次はアーウェングスだ。だが、こうも雷がうるせえと空も飛べねえ」

 

二人はニヒルに笑いながら、ラクサスに対峙する。

 

「行くぞ!!!!」

 

ここに三頭の竜の戦いの幕が上がった。

 

 



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第86話 仲間というのは

ナツとガジルの連携攻撃がラクサスに拳の連打を浴びせるが、ラクサスはそれを防御もせずに体で受け止める。

 

「ハハハハハハッ!!!こんなもんかァ!!!!」

 

「くそっ!!」

 

「なんで効かねんだ!!!」

 

ラクサスから雷が発せられ2人はいったん離れ、ナツは炎を拳に灯して、ガジルは腕を鉄に変えて再び、殴りかかるとラクサスはそれを腕で受け止め、雷を掴んだところから流す。

 

「ぐっ!!」

 

「あぁっ!!」

 

ラクサスは2人を投げ、ブレスを放とうとする。

 

「雷竜の……っ!?ごほっ!!ごほっ!!」

 

しかし、突然咳き込み失敗した。

 

「!! ブレスだ!!!」

 

「火竜の……」

 

投げられた体勢でガジルはラクサスのすきを見逃さず、ナツに指示を出し、ナツの背中に腕をつける。

 

「咆哮!!!」

 

「鉄竜棍!!!」

 

ナツの咆哮で勢いが増したガジルの鉄竜棍は凄まじい勢いでラクサスに当たる。

 

「ぐうっ!!」

 

「鉄竜剣!!!!」

 

がしはすかさず足を剣に変えてラクサスに払うがラクサスはそれを雷を帯びた腕で受け止めた。

 

「なっ!?」

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!ボルトショット!!!」

 

「ぐぉわぁあっ!!!」

 

ラクサスは空いている手から雷球を打ち出しガジルに当てるが、その横からナツが迫っていた。

 

「おおおおおおっ!!!!」

 

「ふん!!!」

 

ラクサスが雷を横薙ぎに放つがナツはそれを滑り込んでかわし、ラクサスの懐に入る。

 

「火竜の……」

 

「しまっ……!!」

 

「鉄拳!!!!」

 

「ごはァっ!!!!」

 

ラクサスの腹に突き刺さった拳で、ラクサスは血を吐き吹き飛ばされる。

そこに倒れていたガジルが待ち構えていた。

 

「鉄竜槍……鬼薪!!!!!」

 

鉄の槍が連続で放たれ、ラクサスを襲う。

倒れたラクサスをちょうど挟み込むように立つ2人は目を合わせ、頬を膨らませる。

 

「火竜の……!!」

 

「鉄竜の……!!」

 

「「咆哮!!!!!」」

 

両方向から放たれたブレスはラクサスにあたり、大爆発を起こした。

2人が巻き上がる煙を見ているとその中から砂利を踏む音が聞こえる。

 

「「!!」」

 

「2人合わせてこの程度か?滅竜魔導士が聞いて呆れる」

 

ラクサスは少し体をフラつかせながらもまだその目には闘争心が溢れている。

その状態にガジルとナツは化け物じみた体力に震える。

 

「バカな!!!いくらコイツが俺たちと同じ滅竜魔導士だからって……デタラメなタフさだ!!ありえねえ!!!」

 

「そいつは簡単なことだ……俺とお前たちじゃ格が違うんだよォッ!!」

 

ラクサスは体から雷を迸らせ、ナツのほうに走って迫る。

 

「っ!!火竜の鉄拳!!!」

 

ナツは迎撃しようと拳を振るうがラクサスはそれを体を雷に変えて避けて、ナツの背後に回る。

 

「雷竜の放電!!!」

 

「ぐあぁっ!!!」

 

「サラマンダー!!」

 

ラクサスの雷がナツに放たれ、ガジルの近くまで吹き飛ばされる。

 

「雷竜のォ……」

 

ラクサスが息を大きく吸い込むの見たガジルは焦る。

 

「サラマンダー!!もう一度ブレスを打つぞ!!!」

 

「おう!!」

 

「鉄竜の……」 「火竜の……」

 

「「「咆哮!!!!!」」」

 

三人同時に打ち出されたブレスはラクサスのブレスに対してナツとガジルのブレスがぶつかり合うが、ラクサスのブレスが簡単に2人のブレスを押し返す。

 

「ぐああああああっ!!!!!」

 

「ああああああっ!!!!」

 

2人はラクサスのブレスに飲み込まれ、悲鳴を上げる。

 

「あ……うあ……」

 

「くうう……」

 

2人の体に僅かに雷がまとわりつき倒れている。

ダメージはガジルのほうが深刻そうで属性の弱みが出てしまった。

 

「まだ、生きてんのかよ。いい加減くたばれよ」

 

「うう……」

 

「体が麻痺して……」

 

雷の特性による麻痺で動けない2人にラクサスは近づく。

 

「お前らもハルトもカミナもエルザもジジイも、ギルドの奴らもマグノリアの住人も………全て消え去れぇェッ!!!!!」

 

ラクサスの魔力が爆発し、ラクサスの周りの地面がその膨大な魔力でめくり上がる。

 

「な…なんだ……このバカげた魔力は……」

 

「この感じ……じっちゃんの……!!」

 

ラクサスは怒りに身を任せ、とんでもない暴挙に出てしまう。

術者が敵と認識したもの全てが標的となるマスターマカロフの超絶審判魔法『妖精の法律(フェアリーロウ)』を放とうとする。

 

「妖精の法律……!マスタージョゼを一撃で倒したあの……!!反則だろ!!!“敵と認識した者全て”が攻撃対象なんてよォ……!!!」

 

「よせ……!!ラクサス!!」

 

ナツが這いずりながらも止めようとするがまだ麻痺で動かない。

 

「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

空気を揺らしながら、ラクサスの手に無慈悲な光が集まっていく。

今まさに放たれようとした瞬間、そこにレビィが現れた。

 

「やめてーーっラクサス!!!!」

 

「レビィ!!!」

 

「バカが……何しに来た………」

 

「マスターが……あんたのおじいちゃんが……危篤なの!!!!」

 

涙ながら訴えるレビィの言葉にラクサスの手が止まった。

 

「だからお願いっ!!!もうやめてっ!!!ますに会ってあげてぇっ!!!」

 

「き……危篤?じっちゃんが……死ぬ?」

 

実の家族が死ぬと言われ、ラクサスも止まると思ったが、最早ラクサスそれでは止まらなくなっており、残酷な笑みを浮かべる。

 

「丁度いいんじゃねえか。これでこのオレがマスターになれる可能性が再び浮上したわけだ」

 

そのむじひな言葉にレビィは涙を流し、ナツとガジルは怒りを露わにする。

 

「ふははははっ!!!!消えろ妖精の尻尾!!!!!オレが一から築き上げる!!!!誰にも負けない!!!!皆が恐れ戦く最強のギルドをなァァ!!!!!」

 

「お前は…なんでそんなに………」

 

「妖精の法律!!!!!発動!!!!!」

 

その瞬間、審判を下す光がマグノリアを包んだ。

 

 

 

 

辺りが煙で包まれるなか、ラクサスは妖精の法律を使い、息が上がっている。

 

「オレは……ジジイを超えた!!」

 

しかし煙の中から咳き込む声が聞こえ、そこに目を向けると誰一人としてやられていない。

 

「そ……そんな馬鹿な……!!!何故だ!!?なぜ誰もやられていねえ!!!!」

 

ラクサスがありえない状況に震えているなか、神鳴殿の生体リンク魔法でボロボロになったハルトが現れた。

 

「ギルドのメンバーも街の人も全員無事だ」

 

「ハルト!!!?」

 

「誰一人としてやられてなんかいねえよ」

 

「そんなハズはねえっ!!!!妖精の法律は完璧だった!!!!」

 

「それがお前の“心”だ、ラクサス。お前がマスターから受け継いでいるものは力や魔力だけじゃない。………仲間を思う、その心」

 

ハルトにそう言われ、ラクサスは驚いた顔をする。

 

「妖精の法律は術者が敵と認識した者にしか効果がない。言ってる意味わかるよなラクサス」

 

「心の内側を魔法に見抜かれた……」

 

ハルトの言葉にレビィが続けて言う。

魔法とは心から発せられるもの。

魔法がラクサスの本心を見抜いて、この街にいる全員を敵と認識しなかったのだ。

 

「魔法に嘘をつかないなラクサス。これがお前の“本音”だ」

 

図星を言われたラクサスは震え、それを否定するかのように大声を上げる。

 

「違う!!!オレの邪魔する奴は全て敵だ!!!敵なんだ!!!」

 

「もうやめろラクサス。じーさんのとこに行ってやれ」

 

「ジジイなんかどうなってもいいんだよ!!!!オレはオレだっ!!!ジジイの孫じゃねえ!!!!ラクサスだ!!!!ラクサスだぁああああーーっ!!!!!」

 

天に吠えるラクサスはどこか迷っているように見え、その叫びは本音だった。

 

「それがお前の本音か…ならオレが……」

 

「待ってよハルト……」

 

ハルトが再びラクサスと戦おうとするが、ナツが止めた。

 

「ここはオレに任せてくれんだろ?ならオレにやらせてくれ」

 

ナツはフラつきながらも立ち上がり、拳を握ってラクサスを睨む。

 

「そうだな……任せたぜ」

 

「おう!!!」

 

ナツはラクサスにゆっくりと近づきながら、ラクサスに話す。

 

「ラクサス、思い上がるなよ。じっちゃんの孫がそんなに偉ぇのかそんなに違うのか……血の繋がりごときで吼えてんじゃねえ!!!!ギルドこそがオレたちの家族だろうが!!!!」

 

ナツの言葉にラクサスは怒りを見せる。

 

「てめえに何がわかる……」

 

「何でもわかってなきゃ仲間じゃねえのか……知らねえから互いに手を伸ばすんだろォ!!!!ラクサス!!!!」

 

「黙れぇぇぇぇっ!!!!ナツゥゥアアアッ!!!!」

 

ナツとラクサスの拳が交差して互いの顔を殴る。

しかしやはり力が強いラクサスが打ち勝つ。

ナツは殴られ飛ばされてもすぐに立ち上がり向かっていく。

 

「だらぁっ!!!!」

 

「この……死に損ないがあっ!!!」

 

「ナツ!!」

 

ラクサスが腕を振りかぶり殴ろうとした瞬間、ハルトの呼ぶ声を聞き、ナツは修行の時にハルトに言われたことを思い出した。

 

『一旦落ち着いて周りを見てみろ』

 

「オラァ!!!」

 

「っぶねぇ!!」

 

ナツ寸でのところで体を後ろに下げてラクサスの拳を避けた。

 

「火竜の翼撃!!!」

 

「ぐおおっ!!!」

 

すきを見逃さずナツはラクサスに攻撃を放つ。

 

「ごほっ……!!ごほっ……!!くそがぁっ!!!」

 

ラクサスはさっきから咳き込んでおり、弱っている。

ナツはそこに猛攻を加える。

 

「ナツがラクサスを押してる」

 

「妖精の法律を使ったからな……あんまり魔力が残ってないはずだ。今なら勝てる」

 

ハルトの言う通り、ミストガン、エルザ、ハルトと戦い、さらに妖精の法律で体力も魔力も残り少なかった。

ナツは棒立ちになってるラクサスを攻めながら、ハルトの言葉を思い出していた。

 

 

「ラクサスの弱点!?」

 

「ああ、弱点っていうよりアイツの特性みたいなもんだ」

 

「いらねえよ!!そんなの聞いたらズルじゃねえか!!!」

 

「なぁっ!?今そんなこと言ってる場合か!!ラクサスはお前より断然強い!!!」

 

「なんだと!?」

 

怒ってハルトに振り向くナツに、ハルトはナツの肩を掴んで言い聞かせる。

 

「いいかよく聞けナツ!!ラクサスがあそこまで強いのは魔力が大きいこともあるがそれだけじゃない!アイツの魔力の特性もある!!」

 

「特性?」

 

「アイツの魔力は雷!麻痺という特性があるがアイツはそれをさらに進化させて硬質化って特性も加えた!だからアイツを殴っても蹴っても体の表面を覆っている魔力が攻撃をほとんど防いじまう!」

 

「じゃあどうすんだよ!」

 

「貫通させる技を使えばいい。オレが教えたあの技ならラクサスの魔力を貫ける」

 

ハルトがナツにそこまで言うと少し申し訳なさそうにする。

 

「悪いなナツ。本当ならオレがラクサスを止めるべきなんだが……今のオレじゃあラクサスを止められねえ」

 

ハルトは自分の手をみる。

その手は疲れで震えて、握ろうとしても上手く握れない。

 

「何言ってんだよハルト!!オレたち仲間だろうが!!!オレを頼れよ!!!」

 

そう言ってナツはニカッと笑って見せる。

ハルトはそれを見て、安心した表情をした。

 

「そうだな……ナツ」

 

ハルトは上手く握れない拳をナツに向ける。

 

「任せたぜ」

 

「おう!!任せろ!!」

 

ナツは力強く拳を突き出し、打ち合わせた。

 

 

「ハルトに任されたんだ!!てめえを止める!!」

 

「調子にのるなよ!!!ナツゥ!!!!」

 

ラクサスはナツの拳を払いのけ、両手を握り合わせ上に振る。

 

「雷竜の顎ォッ!!!!」

 

「がはァっ!!!」

 

地面に打ち付けられたナツはそれでも立ち上がろうとする。

 

「ギルドはお前のモンじゃねえ……よーく考えろラクサス……」

 

「黙れェ!!!雑魚がオレに説教たァ100年早ェよ!!!!」

 

激昂したラクサスはナツを何度も踏みつけ、蹴り飛ばすがナツは諦めずに立ち上がる。

 

「ハァー…!ハァー…!ハァー…!」

 

「もうやめてナツ……死んじゃう……」

 

「………」

 

レビィが何度痛めつけられても立ち上がるナツに涙を流すが、ハルトは黙ってナツを見守る。

 

「ガキがぁ〜………跡形もなく消してやるァ!!!!」

 

ラクサスの両手から槍の形をした雷が作られる。

 

「ダメ、ラクサス!!そんな魔力の攻撃、今のナツにしたら死んじゃう!!!」

 

レビィの叫びを無視してラクサスはその技を繰り出す。

 

「雷竜方天戟!!!!!」

 

高密度の雷の槍はナツに迫るが、ナツは動けず、その場に膝をつく。

 

「ナツ!!!」

 

「イヤーーー!!!」

 

「くそおおっ!!!」

 

ナツに当たる寸前、方天戟は不自然に直角に曲がり、ナツに当たることはなかった。

 

「!」

 

そして方天戟が向かった先は鉄竜棍を構えたガジルが立っていた。

 

「うおおおおお!!!!があっ!!!」

 

「ガジル……」

 

「避雷針になったのか……」

 

直撃した方天戟によりガジルは黒焦げになったがそれでもナツに道を作った。

 

「行け」

 

ガジルのその言葉に力が入らなかった体に力が湧く。

 

「お……おのれ……」

 

「火竜の……!!」

 

「おのれェェェェっ!!!」

 

「鉄拳!!!!!」

 

「がはっ……!!」

 

今まで以上の力が入った鉄拳はラクサスに確かにダメージを与える。

ナツは休む暇を与えずに次々と攻撃を放つ。

 

「鉤爪!!!!翼撃!!!!劍角!!!!砕牙!!!!」

 

「その魔法、竜の鱗を砕き、竜の肝を潰し、竜の魂を狩りとる」

 

レビィの呟きが響き、ナツは最後の技の構えを取る。

しかしハルトの言う通りラクサスの体に妖精の法律を使ってにもかかわらず、わずかながら魔力が残っており、ラクサスはまだ動ける。

 

「残念だったなァ!!!オレにはそんな攻撃は効かねえ!!!」

 

ラクサスが攻撃しようとするがナツは落ち着いて構え、ハルトに教えてもらったことを思い出していた。

 

『教えてくれる技ってなんだよ?』

 

『多分お前の炎の属性だったら爆発的な威力が出る技だ。オレの属性は無属性だから勢いが出ねえんだよ。だけど炎の特性の破壊、そして爆発を利用した勢いがあれば、この技はお前だけのものになる』

 

そうやってハルトは中腰に足を前後に開き、左腕を前に出し、右拳を下にして体に引いておく構えを取る。

 

『この構えはちゃんとした『螺旋拳』の構えだ。覚えておけよ』

 

「重心を後ろにおいて……左腕を引いた勢いで全身の力を前に……」

 

「これで消えろオオオォォォォッ!!!!」

 

「一気に解き放つ!」

 

ナツの右腕には炎が渦巻いて、拳を放つときに炎の推進力も合わさり瞬速の拳になる。

そしてその拳は回転を加えた必殺の拳。

 

「滅竜奥義!!!紅蓮竜撃槍!!!!!」

 

ドオォンッ!!!!

 

ラクサスの鳩尾に拳はめり込み、炎がラクサスの体を突き抜けて後ろの地面を破壊し、ラクサスも吹き飛んだ。

ラクサスは体内に直接攻撃を加えられ、大ダメージをくらい気絶した。

 

「オオオォオオオオッ!!!!!!」

 

ナツは勝利の雄叫びを上げ、バトルオブフェアリーテイルは幕を閉じた。

 



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第87話 祖父と孫と仲間

バトル・オブ・フェアリーテイルが終了してから翌日……昨日と同じく、お祭り騒ぎで賑わっているマグノリアの街。

その街のとあるオープンカフェでは、数人の男性たちが話し合っていた。

 

「ファンタジア大パレードは明日に延期だってよ」

 

「何があったんだ?」

 

「昨日はギルドの奴等が騒がしかったからな」

 

「噂じゃ、マスターの容態がよくねえらしいぞ」

 

「次のマスターはどうすんだよ?」

 

「そこまではわからねえけど、普通に考えればラクサスじゃねーか?」

 

「あの暴れん坊がマスターねえ」

 

「なんか感慨深いものがあるな。あいつがガキだった頃から知ってるもんな」

 

「うちらも歳をとったって事だ。はははっ!」

 

そんな男達の談笑を聞きながら、近くを通ったポーリュシカは街の中へと消えていったのであった。

 

 

一方その頃妖精の尻尾のギルドでは、

 

「ポーリュシカさんのおかげで一命は取り留めたようだ。安心してくれ。マスターは無事だ」

 

エルザのその言葉にギルドメンバー全員が安心した。

 

「よかったぁ、一時はどうなるかと思ったケド」

 

「あのじーさんがそう簡単にくたばる訳ねーんだ」

 

ルーシィとグレイがそう会話するがエルザが注意する。

 

「しかし、マスターもお歳だ。これ以上心労を重ねればまたお体を悪くする。皆もその事を忘れるな」

 

「エルザ殿が言うことじゃないでごじゃる」

 

「何か言ったか?」

 

「いや別に」

 

エルザが皆にそう注意するが問題の種の一つであるエルザが言うのか、とマタムネは思った。

 

「だけどこんな状態でファンタジアできるのかしら?ケガ人だらけだし」

 

「じーさんがやるって言ったんだ。やるしかねえだろ」

 

「それにこんな状況だからやるべきでごじゃる」

 

ルーシィが少し不安そうに言うが、どうやら周りはケガなど気にせず、全然やる気のようだった。

 

「ジュビアもファンタジア観るの楽しみです!」

 

「アンタは参加する側だよ」

 

「ええっ!」

 

ジュビアが参加することに驚き、恥ずかしそうにする。

 

「だってジュビア、入ったばかりだし」

 

「ケガ人多いからね。まとも動ける人は全員参加だって」

 

「プーン」

 

「じゃああたしも!?」

 

「当然だろ?それにあんなのがどうやって参加すんだよ」

 

「!!」

 

グレイが指を向ける方向には全身を包帯でグルグル巻きにされたナツとガジルが並んで座っていた。

 

「そうね」

 

「ふぁがふんごが! あげがあんぐぐ!」

 

「何言ってるかわかんないでごじゃる」

 

何か反論しているナツだが、口まで包帯で覆われているため言っていることがまったく伝わらない。

 

「無理だね、参加できるわけねーだろクズが」

 

「おがえガベおごおご…」

 

「それは関係ねーだろ」

 

なぜかガジルだけには伝わっていた。

 

「なんでガジルがわかるのかしら?」

 

「バカだからです」

 

「アンタ酷いわね」

 

何気に酷いことをハッピーは呟き、ルーシィは引きつった笑みを浮かべた。

 

「でもまぁこれで……ギルド内のごたごたも、一旦片付いたわけだ」

 

そう言うエルザの視線の先には、昨日の事などなかったかのように仲良く大騒ぎをしているギルドメンバーの姿があった。

しかしそこにある男が現れることで一気に緊張の空気が流れる。

 

「ラクサス!!?」

 

「お前……!!!」

 

ラクサスが皆と同じで包帯で体のいたるところを巻いた状態でギルドに現れた。

 

「ジジイは?」

 

「テメェ……どのツラ下げてマスターに会いに来やがった!!!」

 

「そーだそーだ!!」

 

周りは敵意をむき出しにマカロフに会おうとするラクサスを非難する。

 

「よさないか」

 

「!!!」

 

しかしエルザがそれを止め、皆も非難するのをやめた。

エルザはまっすぐラクサスを見て、マカロフがいる場所を教えた。

 

「奥の医務室だ」

 

「オイ!エルザ!!」

 

ラクサスは何も言わず、エルザの横を通り過ぎ、マカロフのいる場所に向かう途中でナツが割って入る。

 

「んぐあーっ!!ふぁぐあぐー!!!」

 

「ナツ」

 

「%$%#&$%#$%#!!!!」

 

ラクサスを指差しながら、訳の分からない言葉を言い放った。

それを聞いていたギルドメンバーたちは全員ポカーンとしている。

 

「二対一でこんなんじゃ話にならねえ、次こそはぜってー負けねえ。いつかもう一度勝負しろラクサス!!だとよ」

 

ルーシィの横にガジルが立ち、ナツが言っていることを通訳した。

 

「次こそは負けない……って勝ったんでしょ?一応」

 

「オレもアレを勝ちとは言いたくねぇ……アーウェングスとの戦いでの雷野郎のダメージが無けりゃ負けていた。アイツはバケモンだ。ファントム戦に参加してたらと思うと ゾッとするぜ……」

 

ガジルが冷や汗を流しながらそう呟く。

それ程までにラクサスの実力はエルザ、ミストガン、ハルトを超えて高かった。

 

ラクサスは何も言わずにナツの横を通り過ぎた。

 

 

「ふぁぐぁぐ!!」

 

無視されたナツは怒るが、ラクサスは片手を上げて返事をした。

今までろくに返事もしてくれなかったラクサスが答えてくれて、ナツは嬉しくなる。

 

「さあみんな、ファンタジアの準備をするぞ」

 

「オイ!!ホントにいいのかよ!!ラクサスを行かせちまって」

 

「大丈夫よ。きっと」

 

「ナツ….お前ラクサスよりひでー怪我ってどういうことだよ」

 

「んがごがー!!!」

 

「こんなのなんともねーよ、だとよ」

 

「ナツー血!!血が出てるよ!!」

 

「そういえばハルトはどこにいるの?」

 

「覇王モードの副作用で寝込んでるでごじゃる」

 

そんないつも通りの喧騒が……ギルドから響いていた。

 

医務室の扉から皆が楽しそうに騒ぐ音が聞こえてくる。

ラクサスは医務室の壁にもたれかかりながらそれを聞いていた。

 

「騒がしい奴らだ」

 

「………」

 

ラクサスとマカロフの間に無言の時間が流れ、マカロフがゆっくりと起き上がり、ラクサスに話しかける。

 

「お前は…自分が何をしたかわかっているのか」

 

マカロフはラクサスにそう問い掛けるが、ラクサスは顔を背ける。

 

「ワシの目を見ろ」

 

そう言われ、真っ直ぐとマカロフの目を見るラクサス。

マカロフの目は妖精の尻尾のマスターとしての責任を持つ者の目でラクサスを真っ直ぐに見る。

 

「ギルドと言うのはな、仲間の集まる場所であり、仕事の仲介所であり、身寄りのねえガキにとっては家でもある。お前のものではない。ギルドは一人一人の信頼と儀によって形となり、そしてそれはいかなるものより強固で堅固な絆となってきた」

 

 

マカロフのマスターとしての言葉を、ラクサスは黙って聞いている。

 

「お前は儀に反し、仲間の命を脅かした。これは決して許される事ではない」

 

「わかってる」

 

以前なら反発していたマカロフの言葉もラクサスは素直に聞き入れる。

 

「オレは…このギルドをもっと強く…しようと……」

 

拳を握り締めながらそう言うラクサスを見て、マカロフは小さく溜息を漏らす。

 

「まったく…不器用な奴じゃの…もう少し肩の力を抜かんかい。そうすれば今まで見えてこなかったものが見えてくる。聞こえなかった言葉が聞こえてくる。人生はもっと楽しいぞ」

 

そう語りかけるマカロフの顔はマスターとしてではなく、暴れ坊を大事に見守る祖父の顔だ。

 

ラクサスにそう言われ、ラクサスは再び目を背けた。

 

「ワシはな…お前の成長を見るのが生きがいだった。力などいらん、賢くなくてもいい……何より元気である。それだけで十分だった」

 

そう言うと、マカロフは顔を俯かせ、ラクサスはその言葉に心を打たれ悲しげな顔をし、何か耐えるように震える。

 

「ラクサス……」

 

マカロフもラクサス同様に何かに耐えるように拳を震わせながら、その言葉を紡ぐ。

 

「お前を破門とする」

 

マカロフはマスターとしてケジメをつけなければいけない。

ラクサスはその言葉に僅かにショックを受けるが、ゆっくり口を開く。

 

「ああ……」

 

特に反論もなくラクサスはマカロフに背を向けて医務室を出て行こうとし、マカロフもラクサスに背を向けて顔を見せないようにする。

 

「世話になったな……じーじ」

 

幼少の頃にずっと呼んだいたマカロフの愛称を再び言い、ラクサスは微笑みを浮かべながら医務室を後にする。

 

「体に気をつけてな」

 

「出てい“げ…」

 

マカロフはそんなラクサスに、自分の大切な家族に涙を流しながら言い放った。

 

 

ラクサスが荷造りをしようと自分の家に戻ろうと街を歩いていると目の前に、包帯を巻いたハルトが立っていた。

 

「ハルト……」

 

「ちょっと付き合えよ」

 

ハルトは酒を飲む仕草をしてラクサスを誘った。

二人は街の脇道にある酒場に入り、酒を飲むが何も話さない。

酒場にはハルトとラクサス以外の客はいなく、マスターもグラスを磨いているだけだ。

しばらく無言の時間が過ぎ、ハルトが口を開いた。

 

「久しぶりだよな、ここに来るの。オレ、カミナとお前でチームを組んでた時は仕事の打ち上げがここだったよな」

 

「ああ」

 

「お前がみんなの前で騒ぐのが恥ずかしいからってここにしたんだよな」

 

「………」

 

ハルトは昔話をするがラクサスは空返事するだけだ。

そしてハルトは本題に入った。

 

「フリードに聞いたんだ。今回の騒動、ギルドを変える他に目的があったんだってな」

 

「………」

 

ハルトはフリードから今回の騒動の目的を教えてもらっていた。

 

『ラクサスはギルドを変える他に、ハルトを元に戻すと言っていた』

 

『オレを元に戻す?』

 

『ああ、オレが憧れたハルトに戻すとな』

 

ハルトはフリードの言葉をラクサスに教え、ラクサスは少しため息を吐いた。

 

「フリードの奴め……言うなって言ったのにな」

 

「オレを元に戻すってどういうことだよ?」

 

ラクサスはハルトに目を向けず、手元のグラスを見ていた。

 

「オレがお前と最初にあったころを覚えてるか?」

 

「最初?ああ……確かいきなり勝負することになったんだよな」

 

「オレはあん時、ギルドの誰よりも強えと調子に乗ってたんだ。力を見せつけるために新人のお前に勝負を挑んだ」

 

ラクサスはどこか懐かしそうに話し出す。

 

「だけど勝負はギリギリでオレの負けだ。悔しかったがそれ以上にお前の強さに憧れた」

 

ラクサスはその時のハルトの力に素直なところ、自分を力を信じているその姿に憧れた。

 

「それと同時にお前に親近感が湧いた」

 

「親近感?」

 

「お前の出身、ボスコ王国だろ。昔それでコソコソ言われてたじゃねぇか」

 

ボスコ王国は昔から犯罪大国と言われ、いい噂などなかった。

ボスコ出身のハルトも陰で何かと言われていた。

 

「マスターの孫だからと言われるオレと、ボスコ出身だからと言われるお前……似たような奴だと思ったんだよ」

 

そしてハルトとラクサスは一度戦った仲から仲良くなっていき、カミナも加わってよく3人で行動するようになった。

互いに切磋琢磨し、助け合う相棒という関係だった。

 

「だが4年前……お前とカミナが指名の依頼が来て、それが終わったあとからお前は変わっちまった。お前が自分の力を奮うのが怖くなっていたのがわかった。オレはそんなお前を見るのは嫌だった。それに……オレを頼ってくれなかったのが腹が立った。………オレは仲間じゃねのかよってな」

 

「………」

 

ハルトは悲しそうに俯いた。

 

「少し飲み過ぎたな。オレはもう行くぜ。久しぶりに本気でぶつかり合えて楽しかったぜ」

 

まるで最初のときの勝負のように。

 

 

ラクサスは金を置いて席を立ち、店から出て行こうとするがハルトが話しかけた。

 

「ラクサス……。オレはお前に感謝してんだ」

 

「あ?」

 

「ここに来た時、ボスコ出身だけで影から言われのはわかっていたが馴染めるかどうか心配だった。そんな時お前が勝負を仕掛けて来て、お前と分かり合えた気がしたんだ。そこから余裕もできてオレはオレだと自信を持つことができた」

 

ラクサスがマカロフの孫だからと言われ続けている中、ハルトと出会い、分かり合える仲間がいたからラクサスはハルトを信頼したが、ハルトもラクサスと同じだった。

 

「お前が妖精の尻尾での最初の仲間だったからオレは自信を持てたんだ。ありがとな」

 

「………」

 

ハルトの感謝にラクサスは少し照れ臭さそうにする。

 

「俺が力を奮わなくなって、お前に相談しなかったのは悪かった。だからいつかお前に話すよ」

 

ハルトはラクサスのほうを向いて、まっすぐ見て話す。

 

「いつか……か、そうだな。またな、ハルト」

 

「またな、ラクサス」

 

ラクサスは店を出て行った。

その顔はとても穏やかだった。

 



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日常篇 3
第88話 LOVE&LUCKY


ファンタジアは無事に行われ、ラクサスにみんなからのメッセージも送り、ラクサスの新たな旅を見送った。

それでもラクサスが破門になったことは皆それなりにショックを受けていた。

ナツがラクサスの破門にごねたり、マスターは孫の責任を取って引退すると言い出し、フリードが反省=坊主というどこか懐かしい姿勢のフリードの一言で思いとどまった。

雷神衆は少しずつギルドの皆と打ち解けていった。

エルザはミストガンの素顔が楽園の塔での首謀者であり、エルザと関係が深かったジェラールと瓜二つということで一人で悩む姿が多くなった。

皆がバトルオブフェアリーテイルのゴタゴタからいつもの日常に戻ろうとしているなか一人ピンチに陥っていた。

 

「あああーーーっ!!!どうしよう!!!」

 

ルーシィが泣き声をあげながらテーブルに突っ伏していた。

 

「どうしたでごじゃるか?」

 

近くにいたマタムネが話しかけるとルーシィは涙を流しながら掲示板に貼られている紙を指差す。

 

「ミスコンの結果でごじゃるか。ルーシィ殿は確か……」

 

「2位よぉ〜!家賃が払えないー!!」

 

ルーシィはミスコンで家賃を稼ごうとしたが惜しくもエルザに負けて2位だった。

今月の家賃が払えず、このままだと追い出されてしまう。

 

「どうした?泣きべそなんかかいて?」

 

「ハルトぉ〜」

 

そこにハルトが現れ、ルーシィは事情を話した。

 

「じゃあ仕事一緒に行くか。二人の方がはかどるだろ」

 

「せっしゃも行くでごじゃる!」

 

ハルトがそう提案するとルーシィは大泣きして、ハルトに抱きついた。

 

「うわーん!ありがとハルトぉ!!」

 

「お、おうぅ……ル、ルーシィ、胸があたって……」

 

「羨ましいでごじゃる!!」

 

その時ルーシィを見つめる人影があり、ルーシィは視線を感じ、視線の先を見るとある男がギルドから出て行くのが見えた。

 

「どうしたでごじゃる?ルーシィ殿」

 

「気のせいかな?最近誰かに見られてるような気がするんだよね」

 

「ストーカーでごじゃるか!!拙者はやってないでごじゃる!!」

 

「別にマタムネだって言ってないでしょ!!ねえ、ハルト」

 

「お、おう。思った以上に柔らかかった……じゃなくて!気のせいじゃないか?それかファンタジアでファンが出来たとか」

 

ハルトはルーシィの胸の感想を突拍子に言ってしまい、誤魔化すためにそう言うが、

 

「え〜そんな〜困っちゃうなぁ」

 

ルーシィは嬉しそうに体をクネクネしだした。

 

「相変わらず乗りやすいでごじゃるな」

 

「ははっ…そうだな。とりあえず明日の昼に集合な」

 

「うん!アタシ帰って仕事の支度するわ!!また明日ね!!」

 

ルーシィは家に帰る頃には既に空は真っ暗だった。

 

「明日は楽しいお仕事の日〜〜♪久しぶりのハルトとの仕事だし何着て行こっかなー」

 

「プーン」

 

ルーシィはご機嫌で今にでもスキップしそうだ。

しかしそんなルーシィを影から見る男の視線に気づく。

 

「!!(やっぱり誰かに見られてるじゃないっ!!!)」

 

ルーシィは急ぎ足でその場から立ち去るが、男はルーシィに付いてくる。

 

(付いてきてる!!!ストーカーかしら変質者かしら人さらいかしらー!!!)

 

頭の中が混乱し、振り返るとそこには男の影はなかった。

 

「いない……」

 

「ルーシィ」

 

いないことに一安心したと思ったら、背後にその男が立っており、ルーシィは叫び声を上げる。

 

「きゃあああっ!!!やめてぇぇぇ!!!」

 

「私だ。パパだよ」

 

男はフードを脱ぐと素顔が露わになった。

なんとその男はルーシィの父、ジュードだった。

 

「うそ…!え?ええ!!?」

 

突然現れた父親にルーシィは驚愕しする。

 

「何でこんなトコに……てか……その格好…どうしたんですか?」

 

ジュードの格好は以前と考えられないほど小汚くなっており、まるで浮浪者だ。

ジュードは顔を俯かせ、申し訳なさそうな表情をする。

 

「ハートフィリア鉄道は買収されてね……私は会社も家も……金も全て失った」

 

「そんな……!!」

 

ルーシィはその事実に驚く。

 

「私財を全て担保にしていたからね。まったく……本気で経営をする者はバカを見る」

 

「ちょ…ちょっと家は!?あそこにはママのお墓が!!」

 

ルーシィの母親の墓は家の敷地内にあり、全て買収されたということは墓も買収されたということになる。

ジュードは懐から一枚の紙切れを取り出した。

 

「ここに移したよ」

 

その紙には墓の所在が書かれてあった。

 

「悲しいと言うより……笑えてしまうよ。あれだけの富が一瞬にして消えた。私の長年の功績が一夜にして無になった……家庭を犠牲にしてまで働いた私の金がだ!!!笑える!!!笑えるぞっ!!!あはははっ!!!!」

 

ジュードは自暴気味に笑い、ルーシィはそれを痛ましく思えた。

 

「な…何しにきたの?」

 

「娘の顔を見に……だよ。ルーシィ」

 

ルーシィはジュードの言葉にそんなはずがないと思った。

ジュードはかつてルーシィを連れ戻すために幽鬼の支配者に妖精の尻尾を襲わせたのだ。

 

「何よ……今更……!!それに妖精の尻尾には手を出さないでって言ったでしょ」

 

「今の私にそんな力はないよ。ただ……娘の顔をを見にきただけなんだ」

 

ルーシィはそれでも少し疑いの表情でジュードを見る。

 

「そんな顔をしないでくれ。今までの事は私が悪かった」

 

ルーシィのその表情にジュードは少し傷つく。

 

「ここに居座るつもりはない。私はこれからここから西にすぐ近くにあるアカリファの商業ギルドで仕事をするんだ。一から出直すんだよ」

 

「そう……」

 

「それでな……ルーシィ。その為に金が必要なんだ」

 

ジュードの言葉にルーシィは一瞬何を言っているかわからなってしまった。

 

「10万Jでいい。私に貸してくれないか?」

 

「そ…そんな大金……あるわけないじゃない」

 

ようやく思考が追いつき、ジュードに言い返す。

 

「大金!!?たかが10万Jだぞ!!!私の娘だ!!!それくらいはすぐに出せるだろっ!!!」

 

「何…言ってるの?」

 

ルーシィはもうこれ以上聞きたくない。

 

「金だよ!!!!恥を忍んで頼んでいるんだ!!!!この私がっ!!!いいから金を渡すんだっ!!!!」

 

幼い頃の悲しい記憶が蘇ってしまうから。

 

「何言ってるのか……わからない」

 

「お前という奴は……!!!親の言うことが…!!!」

 

「帰って!!!!」

 

ルーシィはこれ以上聞きたくないとジュードの話を遮り、ジュードは怒りの表情で去っていった。

 

「サイテー…サイテーだよ」

 

娘には久しぶりに会ったのにただ金の無心に来ただけの父親にルーシィは涙を流した。

 

 

翌日準備が整ったハルトたちはギルドに集まり、仕事を選んでいたが、

 

「で、お前たちも来んのか」

 

「いーじゃねえかよ。同じチームなんだからよ!」

 

「あい!」

 

「で、どれにすんだよ」

 

「グレイ服を着ろ」

 

ハルトがジト目で一緒に仕事をどれにするか悩んでいるナツたちを見ていた。

結局いつも通りのチームで行くことになったが、まあそれでもいいかとハルトは開き直った。

 

「ワリぃな、ルーシィ。勝手にナツたちも仕事に参加させちまって」

 

「あ、ううん……」

 

ハルトがルーシィに謝るがルーシィの表情は少し元気がないように見えた。

 

「ルーシィ、何かあったのか?」

 

「え?」

 

「なんか元気ないぞ?」

 

ルーシィは昨夜の父親との再会を思い出し、気分が沈んでいたがルーシィはハルトに心配をかけないようにと無理に笑顔を作った。

 

「そんなことないわよ!昨日ちょっと久しぶりの仕事に興奮しちゃって寝れなかっただけだから」

 

「ルーシィ殿は子供でごじゃるな〜」

 

「………」

 

ルーシィはそう言うがハルトにはウソをついているのは分かっていた。

 

「なあ!この仕事にしようぜ!!」

 

ナツが見せてきた依頼書はベルベドという男を捕獲してくれというものだ。

 

「40万か。結構高額じゃねーか」

 

「これならルーシィ殿の家賃も払えるでごじゃる」

 

「ルーシィ、これでいいか?」

 

「うん」

 

手続きをして、いざ出発しようとしたその時にルーシィの耳に酒場で飲んでいる2人の男の会話が入ってきた。

 

「なあアカリファの話聞いたかよ」

 

「ああ、闇ギルドが商業ギルドを襲って立て篭もりしてるんだろ?」

 

「軍も評議会も迂闊に動けねーな」

 

(アカリファ……?お父さん……!!)

 

話聞いたルーシィは足を止めた。

 

「ルーシィ?」

 

「どうしたでごじゃる?」

 

ルーシィは決心し、その男2人に近づく。

 

「アカリファってどこ!?」

 

「ルーシィ!?」

 

「どうしたでごじゃる!?」

 

ハルトたちが驚く中ルーシィは1人ギルドから足早に出て行く。

 

「ごめん!!アタシ用事ができた!!」

 

「仕事はどうすんだよ!!」

 

「おーい!!」

 

ナツたちが声をかけるがルーシィはそれを無視して駅に向かう。

 

(あんな人だけど……アタシが助けなきゃ!!)

 

 

ルーシィはアカリファにつき、闇ギルド『裸の包帯男(ネイキッドマミー)』に襲われ、今立て篭もりをされている商業ギルド『LOVE&LUCKY』の前には多くの人だかりができており、兵士たちが危険だからと近づけさせないようにしていた。

 

「大騒ぎね……」

 

「姫」

 

「ひゃっ!!」

 

ルーシィは少し離れた建物の影に隠れて、バルゴを召喚し地中からギルドに続く道を作ってもらっており、バルゴがルーシィの真下から現れて驚いてしまった。

 

「ギルドに続く道ができました。中には多くの闇ギルドの人たちがいました」

 

「ありがとう。さあ行くわよ!!」

 

ギルド内ではやけに猿っぽい男が魔導ライフルをギルドの事務員に向けて、金を要求していた。

 

「早く金を出せ!!じゃないとあの方たちに……」

 

男はとても焦った様子で金を要求してくる。

すると人質の中にいた子供が恐怖のあまり泣き出してしまった。

 

「おい!静かにしてろ!!」

 

リーダーの猿っぽい男が子供にライフルを向けるが子供は余計に泣き出してしまう。

 

「黙れ!!黙らないなら撃つぞ!!」

 

それでも泣き止まない子供に男はとうとう我慢の限界きてしまった。

 

「この……!!」

 

男が撃とうとした瞬間、ライフルに鞭が巻きつき、ライフルを奪い取った。

 

「そんなことさせないわよ!!」

 

ルーシィが現れ、敵は驚き、人質は助かったと喜んだり、ルーシィのほうが危険ではないかと不安になった。

 

「だ、誰だこの女!?お前らやってしまえ!!」

 

リーダーからの指示で部下は武器を向けるがそれより早くルーシィは鍵を向ける。

 

「開け!!金牛宮の扉!!タウロス!!!」

 

「MOOOOO!!!」

 

タウロスを召喚し、敵を蹴散らす。

 

「こいつ星霊魔導士か!!」

 

タウロスを閉門して、もう一つ鍵を取り出す。

 

「開け!!人馬宮の扉!!サジタリウス!!!」

 

「もしもーーし!!!」

 

サジタリウスの矢が敵を射抜いていく。

 

「このクソ女がぁっ!!!」

 

「危ない!!」

 

リーダーの男が後ろのポケットから小型の魔導銃を取り出し、ルーシィに構えた。

人質の1人がルーシィに叫ぶが気づくのが遅かった。

 

「しまっ……!!」

 

「死ねぇぇっ!!!」

 

サジタリウスもそっちを見てなかったらしく弓を向けるのが遅れてしまい、無防備なルーシィに弾丸が放たれようとした瞬間……

 

パリーン!

 

ガッ!!

 

「いでっ!!?」

 

「え?」

 

窓ガラスが割れ、男の手に拳ほどの石が当った。

 

「だ、誰だ!?」

 

「チャンス!!」

 

ルーシィはサジタリウスを閉門して、リーダーの男に走っていく。

人質になった者たちはすっかりルーシィの戦いに魅了され、次にどんな魔法を使うのか期待していたが、

 

「ルーシィキッィーック!!」

 

「ぐぼぉっ!?」

 

(((えーー!?)))

 

ルーシィがしたのは魔力がこもった飛び蹴りだったが、ルーシィは無意識に魔力を込めていたのでその魔力に気づく人はいなく、ただの飛び蹴りにしか見えなかった。

 

「これで全員…?」

 

その瞬間、人質になっていた者たちは解放され喜んだ。

 

「ありがとう!!」

 

「あなたすごいわね!!」

 

「かっこよかったよ!!」

 

「いや、そんな……それより」

 

ルーシィは自分の父が務めていると聞いて、ここアカリファに来たのだが、父親の姿が見えない。

外に出て、軍の兵士にも感謝され、人質の関係者もルーシィに感謝するが誰も父のことを知らないという。

もしかしたらルーシィが着く前になにか酷いことされてしまったのではないかと不安が強くなる。

 

「お父さん!!!」

 

「ルーシィ?」

 

ルーシィがたまらず大きな声で呼ぶと背後から声が聞こえて振り向くとジュードが立っていた。

 

「えーーっ!!!?」

 

ルーシィは助けに来たのにまさかの後に来て驚き、ジュードも何故ルーシィがここにいるのかわからず呆然としている。

 

「も…もしかして今着いたの?」

 

「金がなくてね。歩いてここまで来たもんだから」

 

(とりこし苦労!!てか、ここに来るために10万を借りようとしたの!?どんだけ金銭感覚麻痺してるのよ!!)

 

「なんでお前がここに……?」

 

「何でって……お父さんの向かったギルドが襲われたって聞いたから……」

 

ジュードはそう聞いて人だかりができているギルドのほうに目を向けてなにが起こったかわかった。

 

「まさか…パパが心配で来てくれたのか?」

 

「知らないっ!!さようならっ!!!」

 

ルーシィは取り越し苦労になったことに怒って帰ろうとするが、ジュードが礼を言った。

 

「そうか……ありがとうな……」

 

「勘違いしないでね。アタシ……お父さんの事許したわけじゃないから」

 

ルーシィのその言葉にジュードはやはり悲しい顔をするが仕方ないと言った表情もした。

 

「ああ、いいんだ……当然だよ。随分と長い道を歩いて来たからね。私にも色々と考える時間があった」

 

ルーシィは無視して歩いて行く。

 

「昨日はすまなかったね。どうかしていた……後悔しているし恥ずかしいよ……お金が無くてもここにたどり着けたんだ。きっとなんでもできる」

 

ジュードはギルド LOVE&LUCKYを見て懐かしそうに語り出した。

 

「このギルドはね……パパとママが出会った場所なんだ」

 

「!」

 

ルーシィはその言葉に足を止めた。

 

「私が独立を考えてる時に丁度ママのお腹にお前がいてね……2人でギルドをやめることにしたんだけどその時ギルドの看板が壊れててLUCKYがLUCYになっていたんだ。それが可笑しくてね……2人でもし娘が生まれたらルーシィって名前にしようと……」

 

ルーシィはゆっくりと振り返る。

 

「なにそれ、ノリで娘の名前決めないでよ」

 

ルーシィはぎこちないながらもジュードに笑いながらそう返した。

 

「そうだな。本当にすまない……」

 

ジュードは娘の笑顔を久し振りに見れて嬉しそうだ。

 

「アタシ……」

 

「ルーシィどの〜!!」

 

「ルーシィ!!無事かー!!」

 

「いったいどうした!!」

 

「えーーー!!!」

 

ハルトを除いたチーム全員が慌ててやって来たのだ。

 

「まさかこれをお前一人で解決したのか?」

 

「いや…その……」

 

ルーシィが少し後ろを見るとジュードは微笑んで頷いた。

それを見たルーシィも嬉しそうに微笑んで、手を振る。

 

「元気でね。お父さん」

 

「どーしたんだよ。急によー」

 

「仕事キャンセルしちゃったんだよ」

 

「ごめんねー。そういえばハルトはどうしたの?」

 

「ルーシィがいなくなった時にはいなかったぜ?」

 

グレイがそう言うと横の草むらからハルトが現れた。

 

「呼んだか?」

 

「どこ行ってたんだ?」

 

「悪りぃ、ちょっとトイレに」

 

「どこまで遠くのトイレ行ってたんだよ!!」

 

仲間と一緒に進んで行く娘の姿を見て、ジュードは幸せな気持ちになり空を見上げる。

 

「レイラ……私は本当に愚かだったよ」

 

 

マグノリアに帰る汽車の中でナツが乗り物酔いになり、それをいつもの悪態で攻めるグレイと荒い看病をするエルザにツッコむハッピーを見て、横の座席に座っていたハルトとルーシィ、マタムネ。

マタムネは早速眠ってしまっていた。

 

「相変わらず賑やかね」

 

「だな」

 

「……ねぇハルト。あの時、石を投げて助けてくれたのってハルトだよね?」

 

「……なんのことだ?俺はトイレに行ってただけだぞ」

 

「わざわざアカリファまで?」

 

「ぐっ……それは……」

 

ルーシィは少しいたずらする時みたいに笑みを浮かべてハルトの横に座る。

 

「えい!」

 

「うおっ!」

 

ルーシィはハルトの腕に抱きついた。

 

「な、なにして……」

 

「嘘つくから、お仕置きよ♪」

 

「いや、じゃなくて……やっぱり気持ち悪い……」

 

ハルトは顔を青くしてルーシィの膝に倒れた。

ルーシィが腕を引っ張ったのでハルトの浮遊魔法が切れて、乗り物酔いになってしまったのだ。

ルーシィは倒れたハルトの頭をゆっくり撫でた。

 

「ありがとうハルト……」

 

その時のルーシィの顔はとても幸せそうだった。

 

 



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六魔将軍 篇
第89話 連合軍集結!!


やっと六魔将軍篇です!
新たなオリキャラも出ます!


「何ですかこれ?」

 

ルーシィがギルドにやってくるとそこには空中に光る字で大きな組織図みたいなものが書かれてあった。その周りには大勢のメンバーが囲んでいた。

 

「闇ギルドの組織図を書いていたの」

 

「書いたのオレね」

 

「どうしてまた……」

 

「近頃、動きが活性化してるみたいだからね。ギルド同士の連携を強固にしないといけないのよ」

 

ミラがルーシィに説明しているとグレイもミラに質問してくる。

 

「この大きいくくりはなんだよ?」

 

「ジュビア知ってますよ。闇ギルド最大勢力、バラム同盟」

 

それぞれが枝分かれしているみたいになっているギルドの中心には大きくくり分けされている三つのギルドがあった。

 

“六魔将軍(オラシオンセイス)”

 

“悪魔の心臓(グリモアハート)”

 

“冥府の門(タルタロス)”

 

「バラム同盟はね、3つのギルドから構成されてる闇の最大勢力なの」

 

「それぞれが幾つかの直属のギルドを持っていて、闇の世界を動かしてるんだ」

 

ミラとハルトが説明してるとルーシィは見知ったギルドの名前を見つけた。

 

「あっ!!鉄の森って!!!」

 

「エリゴールがいたところだな」

 

「あれは六魔将軍ってギルドの傘下だったのか」

 

「雷神衆が潰した屍人の魂もそうだ」

 

「ジュビアもガジル君もファントム時代に幾つか潰したギルドが全部六魔将軍の傘下でしたー」

 

みんなが話していると多くのフェアリーテイルが潰したギルドはほとんどが六魔将軍の参加だった。

 

「うわー怒ってなきゃいいんだけど」

 

「気にすることはねえさ。こいつら……噂じゃたった6人しかいねーらしい」

 

「どんだけ小せぇギルドだよって」

 

「アホか、たった6人であの三大勢力と並んでるってことだろうが」

 

「「う……」」

 

ルーシィが心配そうに呟くとマカオとワカバが小馬鹿したように言うが、ハルトがそれに注意し、唸ってしまう。

 

「どんだけヤバい奴らなのよ〜……」

 

「その六魔将じゃがな……ワシらが討つことになった!!」

 

ルーシィが怯えたように言うとマカロフが定例会からギルドに帰ってきた。

 

「マスター、一体どういうことですか?」

 

「うむ……先日の定例会で、何やら六魔将軍が動きを見せている事が議題に上がった。無視はできんという事になり、どこかのギルドが奴等をたたく事になったのじゃ」

 

「じーさん……また貧乏クジ引いたな」

 

ハルトが呆れたようにマカロフに言うが、マカロフの決意は変わらないようだ。

 

「てーことは俺ら(妖精の尻尾)が倒すのかよ」

 

グレイがそう言うと、マカロフは首を横に振る。

 

「いや……今回ばかりは敵が強大すぎる。ワシらだけで戦いくさをしては、後々バラム同盟にココだけが狙われる事になる。そこでじゃ」

 

マカロフは一呼吸置いて再び口を開く。

 

「ワシらは連合を組むことになった」

 

『連合!!?』

 

その一言に全員が驚く。

 

「妖精の尻尾、青い天馬(ブルーペガサス)、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)、化猫の宿(ケット・シェルター)、4つのギルドが各々メンバーを選出し、力を合わせて奴等を討つ」

 

「なにそれ…スゴイ……!!

 

「またとんでもないことになったな……」

 

「オレ達だけで十分だろっ!!!てかオレ一人で十分だ!!!」

 

「バカなことを言うな!!マスターは後のことも考えて言っておられるのだ!!!」

 

ルーシィが口に出して驚き、ナツがいつもの調子で言うがエルザがそれを戒める。

みんなが連合を組むことにざわつくなか、ルーシィはそうでもしないと倒せない六魔将軍に恐怖を抱いた。

 

「てか……ちょっと待ってよ。相手はたった6人なんでしょ? 何者なのよ、そいつら…」

 

 

場所は変わり、悪魔の心臓の本拠地である航空艇のなかでもマスターハーデスが六魔将軍についてウルティアと話していた。

 

「六魔が動き出したか……」

 

「ええ、最近なにかに準備してるみたいよ。それに対して正規ギルドも動いているみたい」

 

「奴らが光の者共を滅ぼしてくれればいいのだがな……」

 

「妖精の尻尾とか……?」

 

「フッ……」

 

マスターハーデスは怪しげな笑みを浮かべてそう返し、目の前に膝まついている男に目を向ける。

 

「それで何の話だったか?」

 

「はい……バラム同盟の中で最も強い悪魔の心臓様にぜひ私が作った兵器を使って欲しいのです」

 

男の背後には紫色に輝く液体が詰まった大きな培養器が3つ置かれてあった。

 

 

闇ギルド同盟『バラム同盟』。

その一角を担う『六魔将軍』を討つべく集まる正規ギルド、妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、化猫の宿。

その選抜メンバーがあるところで集合することになっていた。

そして妖精の尻尾の選抜メンバーも集合場所を目指していたが……

 

「なんでアタシがこんな作戦に参加しなきゃいけないのよーー!!!」

 

「仕方ねえだろ。じーさんの人選だ。ぶーぶー言うなよ」

 

「ぶー……だって強い人ならアタシじゃなくてカミナさんやガジルがいたじゃない!」

 

「今回の作戦はギルド間の連携が重要だろ。だから連携が取れてる俺たちが選ばれたんだ。我慢しようぜ」

 

「むー……わかったわよ」

 

ルーシィはハルトの言葉に渋々と了承したが不満そうだ。

 

「にしてもコイツは相変わらずだな」

 

「うー……」

 

グレイが呆れたように目を向けるとナツがいつも通り気持ち悪そうにしていた。

 

「お前走って行けよ」

 

「ゔー…ハルトぉ……浮かしてくれぇ……」

 

「だから俺一人しか浮かせられないって…おいナツ、なに近づいてきてんだよ。おい、やめろって…おふぅっ!!?」

 

ナツが這い蹲りながら近づきハルトの足を掴んで、体重を乗せた瞬間ハルトの尻が馬車の床につき、ハルトが崩れ落ちた。

 

「ハルトもかよ!?」

 

「もぉーしっかりしてよね。ハルト」

 

ルーシィはそう言いながら倒れたハルトの頭を自分の太ももに乗せて膝枕をしてあげた。

 

「普通に膝枕するんだな……」

 

グレイがそれを苦笑いしながら見ているとエルザが口を開いた。

 

「みんな見えてきたぞ」

 

エルザがそう言うとハルトとナツ以外の全員がエルザが見るほうに目を向ける。

 

「集合場所だ」

 

 

連合の集合場所は青い天馬のマスター ボブが所有する別荘であり、全体がピンクとハートであしらわれている。

そこに入るエルザ達だがルーシィはハルトに肩を貸していた。

 

「趣味がわりーところだな」

 

「そう言うな。青い天馬のマスターボブの別荘だ」

 

「あいつか……」

 

「まだ着かねーのか……?」

 

「もう着いてるよ」

 

「大丈夫ハルト?」

 

「しぬ……」

 

「しっかりするでごじゃる」

 

すると部屋が暗くなり、ハルトたちの前のところがスポットライトで照らされ、そこに3人の人影が照らされる。

 

「妖精の尻尾の皆さん。お待ちしておりました。我ら青い天馬より選出されしトライメンズ」

 

「百夜のヒビキ」

 

「聖夜のイヴ」

 

「空夜のレン」

 

3人の姿が徐々にはっきりとして、素顔が見える。

どこかホスト染みたイケメンがそれぞれポーズをとりながら自己紹介をし始めた。

 

「な、なにあれ!?」

 

ルーシィは驚きながらもそのイケメンさに顔を少し顔を赤くする。

 

「噂に違わぬ美しさ」

 

「さあ…こちらへ」

 

「はじめまして妖精女王(ティターニア)」

 

「いや……待て……」

 

するとすぐさまエルザの3人はエルザを囲み、口説きにかかりエルザも困惑している。

しかもいつのまにか用意したソファに座らされ、テーブルには飲み物とフルーツが置いてある。

するとレンがハルトの介抱しているルーシィにも近づいてきた。

 

「さあ……お前も来いよ」

 

「ええっ!?は、ハルト助けて!!」

 

「おうぅ……?」

 

レンに迫られ困ったルーシィはハルトをレンの前に出した。

 

「おい、どけよ」

 

「いや、どけって言われても……うぷっ……」

 

「しっかりして!ハルト!!(キャー!!これって彼女が奪われそうで守る彼氏の構造見たい!!)」

 

ハルトは今だに乗り物酔いがひどいらしく、顔が青いがルーシィはハルトを盾にしながら嬉しそうにしていた。

小説家志望だからかそういう想像が豊かなのだ。

それぞれがトライメンズによく分からない接待?を受けていると声が響いてきた。

 

「君たち……その辺にしておきたまえ」

 

声だけでイケメンだと思わせる声にルーシィはびっくりしてしまう。

 

「な…何!?この甘い声!!?」

 

「一夜様!!」

 

その声の主の名前を聞いてエルザは驚愕する。

 

「一夜?」

 

「久しぶりだね。エルザさん」

 

「ま…まさかお前が参加してるとは……」

 

驚愕というかどこか恐れているような声色で震えている。そして階段の中央の階段の踊り場に現れたのは……

 

「会いたかったよ。マイハニー……あなたのための一夜でぇす」

 

五頭身ほどのブサイクなおっさんが何故かキラキラの演出をしながら、現れたのだ。

お世辞でも似合ってない。

 

「!!!」

 

「マイハニー!!?」

 

その言葉にルーシィたちは驚き、エルザも固まって動けない。

 

「一夜さんの彼女でしたか……それはとんだ失礼を」

 

「全力で否定する!!」

 

トライメンズは一夜の彼女だと知ると全員が揃って頭を下げるが、エルザはそれを全力で否定する。

 

「片付けろ!!!遊びに来たんじゃないぞ!!!」

 

「へい!兄貴!!」

 

「あれ?さっき一夜さんって言ってたでごじゃる」

 

「一貫してないんだね」

 

マタムネとハッピーがそんな会話するが、一夜がトライメンズに慕われているのはよくわかった。

 

「君たちのことは聞いてるよ。エルザさんにルーシィさん。あとその他」

 

「その他!?」

 

すると突然一夜はルーシィのほうを向いて鼻をヒクヒク動かして匂いを嗅ぎだした。

 

「いいパルファムだ」

 

ただそれを言うために無駄にカッコよくポーズをするが元が悪いからまったくカッコよくない。

 

「キモいんですけど……!」

 

「すまん…私もこいつは苦手なんだ。すごい魔導士であるんだが……」

 

ルーシィはハルトの背中にぴったりとくっつき、身を守り、エルザは改めて一夜が苦手だと認識した。

するとその他といわれ、仲間がちょっかいをかけられて少しイラついたグレイが青い天馬を睨む。

 

「おい、青い天馬のクソイケメンども。あまりうちの姫様がたにちょっかい出さねーでくれないか?」

 

青い天馬はグレイを睨むが、

 

「あっ、男は帰ってもいいよ」

 

「「「お疲れ様っしたー」」」

 

「オイオイ!!こんな色物よこしやがってやる気あんのかよ!」

 

「試してみるか?」

 

「僕たちは強いよ」

 

「ケンカか!!?混ぜてくれーー!!!」

 

悪い空気が流れ出し、いつのまにか復活したナツも参加しようとし混乱し始める。

 

「やめないか!!お前たち!!!」

 

エルザが止めに入るが、いつのまにか一夜がエルザの背後に回り、エルザのパルファムを嗅ぐ。

 

「エルザさん。相変わらず素敵なパルファムだね」

 

「近寄るな!!!」

 

「メェーーーン!!!!」

 

「やっちゃった!!」

 

「ルーシィ……少し静かにしてくれ……頭に響く」

 

背筋が凍ったエルザは咄嗟に一夜を反射的に殴り飛ばしてしまった。

一夜は入り口のほうに投げ飛ばされ、そこには一人の男が立っており、殴り飛ばされた一夜の頭を掴み、氷漬けにしていく。

 

「こりゃあ、随分ご丁寧な挨拶だな……貴様らは蛇姫の鱗 上等か?」

 

その男はかつてグレイの兄弟子であり、グレイと戦ったリオンだった。

 

「リオン!!?」

 

「グレイ!!?」

 

「お前…ギルドに入ったのか!!」

 

驚くグレイ、ナツ。

そしてグレイたちがいるとは思わなかったリオンも驚く。

 

「フン!」

 

「うおっ!」

 

「きゃっ!!」

 

「ぐへっ!」

 

リオンは挨拶がわりにグレイに向かって氷漬けにした一夜を投げ飛ばし、とばっちりでハルトとルーシィに当たりそうになり、ルーシィがハルトを掴んで避けたが首が締まり苦しそうだ。

 

「何しやがる!!!」

 

「先にやってきたのはお前たちだろう?」

 

「ルーシィ、苦しい……」

 

「あっ!ご、ごめん!!」

 

一夜を投げ飛ばされたトライメンズも黙ってはいない。

 

「つーかうちの大将に何しやがる!!」

 

「ひどいや!!」

 

「男は全員帰ってくれないかな?」

 

「あら、女性もいますのよ?」

 

すると引いてあったカーペットが勝手に動き出し始めた。

 

「人形撃!!絨毯人形!!!」

 

「アタシィッ!!?」

 

「やばっ……!また気持ち悪さが……うぷっ…」

 

何故かルーシィが立ったていたところが人形のように動き出し、ルーシィはひっくり返され、ハルトもその被害にあう。

 

「てか…この魔法……!」

 

ルーシィはこの魔法に見覚えがあった。

 

「うふふ…私を忘れたとは言わせませんわ」

 

絨毯の間から姿を見せたは……

 

「そして過去の私は忘れてちょうだい」

 

「どっちよ!!」

 

「私は“愛”のために生まれ変わったの」

 

彼女はシェリー。

彼女もかつてはグレイたちと争い、ルーシィと戦った。

激しくリオンを慕っている。

 

「もっと!もっと貴女のパルファムを私に……!!」

 

「近寄るな!斬るぞ!!」

 

「うるせぇ……」

 

「リオン」

 

「グレイ」

 

「誰でもいいからかかって来いやー!!!」

 

「………」

 

「お前ら……!」

 

「貴女は“愛”せない」

 

「あたしも嫌いよっ!!!」

 

「静かにしろっ!!!!!」

 

ドンッ!!!!

 

全員が睨み合う緊迫する空気が流れる中、四つん這いになって気持ち悪そうにしていたハルトが周りの煩さにキレてしまい、床を殴ると、蜘蛛の巣状にヒビが入る。

 

「こっちは気持ち悪いんだ……!!喧嘩なら他所でやれ……!!」

 

『は、はい……』

 

ハルトの剣幕に全員がびびってしまい、同時に返事をする。

 

「一夜……ソファ借りるぞ」

 

「メ、メェーン……」

 

ハルトはトライメンズが用意したソファに座り込んでしまった。

 

「ハルト…めっちゃ怒ってるんだけど……!」

 

「そりゃあ乗り物酔いしてるのにあんなに騒いだら怒るでごじゃる。

乗り物酔いしてる時のハルトは機嫌が悪いでごじゃるからな」

 

全員のにらみ合いが一旦静まると、入り口の方から声が聞こえてきた。

 

「ふむ……ワシが止めようと思ったがハルト殿に先を越されてしまったか」

 

まさに偉丈夫と思わせるような髪の毛がない男だった。

 

「ジュラさん!!」

 

「ジュラ!!?」

 

「こいつがあの……」

 

「ラミアのエース、岩鉄のジュラ」

 

「誰?」

 

「聖十大魔導士の1人だよ!!」

 

蛇姫の鱗で最強のジュラ。

その実力は聖十大魔導士に選ばれるほどだ。

 

「久しぶりですな。ハルト殿」

 

「あ…?おう、ジュラさんじゃねえか」

 

「2年前の仕事依頼ですかな」

 

どうやら2人は知り合いのようだ。

 

「あたしでも知ってる名前だ……」

 

「妖精は5人、天馬は4人、私たちは3人で十分ですわ」

 

「むうぅ〜……」

 

シェリーがルーシィに挑発するようにそう言うと、ジュラが全員を見渡しながら口を開く。

 

「さて……これで3つのギルドが揃った。残るのは化猫の宿の連中のみだ」

 

「連中と言うか、2人だけだと聞いてまぁす」

 

エルザにボコられたのか顔に傷がある一夜がそう付け足す。

その言葉に全員が驚く。

 

「2人だと!?俺らの中じゃ一番少ねえじゃねえか!!」

 

「ちょっとぉ〜…どんだけヤバイ奴らが来るのよぉ〜」

 

ルーシィが怖がりながら言っていると誰かが走ってきた。

 

「きゃあっ!!」

 

「ウェンディ!大丈夫?」

 

「痛ぁ…ありがとう、レイン」

 

転ぶ音と悲鳴が聞こえ、それを心配する声も聞こえ、声が聞こえたほうを全員が見ると、少女がコケてもう1人の少女が助け起こしていた。

そして立ち上がり全員を見て、申し訳なさそうにしている。

 

「あ、あの……遅れてごめんなさい」

 

「僕たち化猫の宿から来ました!レインと……」

 

「ウェンディです」

 

「「よろしくお願いします!!」」

 



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第90話 ウェンディとレイン

青髪ロングの少女、ウェンディ。

水色セミロングの髪を後ろで纏めて、自分の身の丈以上の槍を背負っているレイン、2人は同い年くらいで背丈も似ている。

この2人が化猫の宿の魔導士である。

2人ともどこか緊張した表情だ。

 

「女!!?」

 

「子供!!?」

 

「ウェンディ……レイン……」

 

全員が予想していた人物と違うのか呆然としてしまうなか、ジュラが口を開いた。

 

「これで全てのギルドが揃った」

 

「話進めるのかよっ!!」

 

「この大掛かりな討伐作戦にお子様2人をよこすなんて……化猫の宿は何を考えいるのかしら!」

 

シェリーが少し不満そうにそう言うとまた新たな声が聞こえてくる。

 

「あら、1人じゃないわよ。ケバいおばさん」

 

そこにはハッピー、マタムネと似たドレスを着た白い猫と同じくドレスを着たミント色の毛並みの猫が立っていた。

 

「シャルル!付いて着たの!?」

 

「ミントも!!」

 

ウェンディとレインが驚く。

 

「当然よ。アナタ達2人じゃ不安でしょうがないもの」

 

「アタシは楽しそうだからきたんだぁ」

 

「全くアンタは能天気ね!」

 

シャルルはどこかきつそうな性格をしており、その反対にミントは間延びした声で朗らかな性格をしている印象がある。

 

「!!」

 

その瞬間ハッピーの心臓に衝撃が走った。

ハッピーは胸がドキドキしながらシャルルを見つめるが、シャルルは素っ気なくそっぽを向く。

それでもハッピーは諦めずにルーシィに頼み込む。

 

「ねえルーシィ。あのコにオイラの魚あげてきて」

 

「ダメよー、きっかけは自分で作らなきゃ」

 

ルーシィはハッピーにそう言い、ハッピーは恥ずかしそうにモジモジしだすが、その隣でマタムネは黙ってシャルルとミントを眺めていた。

ルーシィはハッピーと全く違う反応なので聞いてみた。

 

「マタムネはなんとも思わないの?」

 

「何をでごじゃる?」

 

「いや……かわいいとか」

 

「胸がないから論外でごじゃる」

 

「………あっ、そう」

 

そういえばこいつ、こんな奴だったなとルーシィは改めて軽蔑した。

 

「あ、あの…私…戦闘は全然できませんけど……みなさんの役に立つサポートの魔法いっぱい使えます……だから仲間はずれにしないでください〜!」

 

「あの!僕が戦闘用の魔法使えるのでウェンディの分まで頑張ります!!」

 

ウェンディが不安そうにしながら最後には泣きそうになってそう言い、レインがそれを庇うように気合が入った声で言うと、エルザが微笑みながら2人の前に出てくる。

 

「すまんな……少々驚いたが、そんなつもりは毛頭ない。よろしく頼むぞ。ウェンディ、レイン」

 

「うわぁ…レイン!本物のエルザさんだよ!」

 

「うん!カッコいいなぁ!」

 

「思ったよりいい女ね」

 

そこに便乗してハッピーもシャルルに自己紹介をする。

 

「オ…オイラのこと知ってる?ネコマンダーのハッピー!」

 

しかしシャルルは見向きもせず、そっぽを向く。

 

「てれてる…かわいい〜!」

 

「相手にされていないだけじゃないでごじゃろうか?」

 

「シャルルも無愛想だよね〜」

 

「……なんでこっちに来たでごじゃる?」

 

ハッピーはシャルルの態度に勘違いし、マタムネがそれにつっこむとミントがマタムネに話しかけていた。

 

「あの娘たち……将来美人になるぞ」

 

「いまでも十分かわいいよ」

 

「さあ、お嬢さんたち……こちらへ……」

 

「え、あの……」

 

「えっと僕は……」

 

ヒビキはさっそくエルザのようにソファに座らせて、もてなそうと誘導するが、ソファに目を向けるとそこにハルトが上を向いて座っていた。

 

「おっかないお兄さんが座ってるからあっちに行こうか?」

 

「おい、聞こえてるぞ」

 

ハルトがヒビキを睨むと、レインが途端に笑顔になってハルトに近づき、緊張した表情でハルトに話しかける。

 

「あ、あの!ハルト・アーウェングスさんですよね!!?」

 

「そうだけど……」

 

「覇王のハルトさんなんですよね!!」

 

「うぐっ……久しぶりにハイじゃない状態で聞くと結構くるな……そうだよ。俺が覇王って呼ばれてるハルトだ」

 

「うわぁっ!!僕、ハルトさんの大ファンなんです!!」

 

「えぇっ!?」

 

「ハルトのファン?」

 

「よかったな〜覇王のハルトさんよ」

 

「からかうなグレイ」

 

皆が少し驚き、グレイは意地悪そうな笑みを浮かべてハルトをからかう。

 

「僕、週刊ソーサラーでハルトさんの活躍全部知ってるんです!!特に好きなのが魔獣百体に一歩も動かずに倒したことなんです!!」

 

「だいぶ昔のことだな……6年前だぞ」

 

レインが興奮したようにハルトに話しかけていると、ヒビキがレインの肩に手を乗せる。

 

「レインちゃん。話すなら僕たちも一緒にいいかな?君みたいな可憐な少女を立たせたままなんて僕は辛いよ。怖いお兄さんの隣じゃなくて僕の隣に座って話したらどうかな?」

 

ヒビキがレインにそう優しく話しかける。

まさに女性がキュンキュンしそうな言葉だが、レインはキョトンとし、ハルトは少しイラついた。

 

「お前、俺のことどう思ってるだよ。……てか、そいつ男だぞ」

 

ハルトはレインを指差してそう言うと、全員がキョトンとし、絶叫を上げた。

 

『ハァ〜〜ッ!!?』

 

「嘘!?だって女の子にしか見えないじゃないか!!」

 

「いや、だって男の匂いがするしな。なぁナツ?」

 

「おう。レインは男だぞ」

 

ナツも首を縦に振って同意すると、ヒビキは膝から崩れ落ちる。

 

「そんな……僕の女性センサーが狂うなんてッ……!!」

 

「ヒビキの女性を見抜く目に自信持ってたからな」

 

「僕たちもボーイッシュな子だと思ってたもんね」

 

「あたしより肌がきめ細かい……」

 

「髪なんてすごくサラサラですわ」

 

「えっ、いや、あの……」

 

ヒビキは落ち込み、レンとイヴは落ち込むヒビキを哀れな奴と思いながら見ており、ルーシィとシェリーは今だに信じられないとレインに近づき、肌や髪を触りまくる。

 

「や、やめ……ひゃっ……!」

 

声なんかも女の子みたいに高く、ルーシィたちにあっちこっちを触られるレインはどこかいやらしく見えた。

するとウェンディが少し怒った様子でレインの腕を掴んで引っ張った。

 

「もう!レイン!いつまで触られてるの!!」

 

「ご、ごめんウェンディ……」

 

ウェンディが怒るとレインはシュンとしてしまうが、その仕草がどうしても女の子に見えてしまう。

 

「ねえマタムネ……レインって本当に男の子なの?」

 

「男でごじゃるよ。せっしゃのおっぱいセンサーに反応しないでごじゃるからな。ついでに言うとウェンディ殿もおっぱいセンサーが反応しないでごじゃるから男でごじゃる!!」

 

「ウェンディは女よ!!」

 

「ぐへっ!」

 

「いいな〜……」

 

「あははぁ〜おもしろいね〜」

 

ルーシィが女好きのマタムネに確認すると強気でそう答え、さらにはウェンディも男だと言うがシャルルに蹴りを入れられて、否定される。

それを見て、シャルルに恋するハッピーは羨ましそうに呟き、ミントは面白そうに見ている。

 

「あの娘たち……なんてパルファムだ。ただ者ではないな……」

 

「一夜殿も気づいたか……あれはワシらとは違う魔力だ。ハルト殿、エルザ殿も気づいているようだが」

 

「さ、さすが……」

 

「それにあの槍……まさかあの……?」

 

ジュラはレインが背中に引っさげている槍を注意深く見ていた。

 

「ウェンディ…レイン……」

 

「どうしたナツ?」

 

ナツはウェンディとレインの名前を聞くと何か悩む仕草で考え込む。

 

「どこかで聞いたことがあるような無いような……う〜ん……思い出させてくれねえか?」

 

「知るかー!!」

 

ナツの無茶振りにグレイが吠えるがナツはやっぱり釈然としない表情だった。

 

「さて、全員が揃ったようなので私の方から作戦の説明をしよう………と、その前にトイレのパルファムを」

 

「オイ!そこにはパルファムをつけるなよ!!」

 

一夜は漏れそうなのか小走りでトイレに駆け込んで行った。

 

 

トイレのパルファムが終わり、ようやく説明が始まる。

 

「ここから北へ行くとワース樹海が広がっている。古代人たちはその樹海に、ある強大な魔法を封印した。その名は、『ニルヴァーナ』」

 

「?」

 

「ニルヴァーナ?」

 

「聞かぬ魔法だ」

 

「ジュラさんは知ってますか?」

 

「いや……知らんな」

 

ニルヴァーナの名前に、ほぼ全員が首を傾げる。

 

「古代人たちが封印するほどの破壊魔法という事だけはわかっているが……」

 

「どんな魔法かはわかっていないんだ」

 

「六魔将軍が樹海に集結したのはきっと、ニルヴァーナを手に入れる為なんだ」

 

「我々はそれを阻止するため、六魔将軍を討つ!!!!」

 

天馬のメンバーがそう語気を強めて言う。

 

「こっちは14人、敵は6人。だけどあなどっちゃいけない。この6人がまたとんでもなく強いんだ」

 

そう言うと、ヒビキは魔法を展開して、敵の顔写真を空中に映し出す

 

 

「毒蛇を使う魔導士『コブラ』。その名からしてスピード系の魔法を使うと思われる『レーサー』。天眼てんげんの『ホットアイ』。心を覗けるという女『エンジェル』。この男は情報は少ないのだが『ミッドナイト』と呼ばれている。そして奴等の司令塔『ブレイン』」

 

それぞれの顔写真を見せながら説明するヒビキ。

全員がどこか邪悪なものを感じさせる顔だった。

 

「あ…あの……あたしは頭数に入れないでほしいんだけど……」

 

「私も戦うのは苦手です」

 

「アンタはしっかりしなさい!!」

 

「ウェンディ!僕が守るから!!」

 

ルーシィが弱々しく手を挙げて、弱音を吐き、ウェンディも自信がなく、レインとシャルルがフォローする。

 

「安心したまえ、我々の作戦は戦闘だけにあらず。奴等の拠点を見つけてくれればいい」

 

「拠点?」

 

「今はまだ奴等を補足していないが、樹海には奴等の仮説拠点があると推測される。もし可能なら、奴等全員をその拠点に集めて欲しい」

 

「どうやって?」

 

「殴ってに決まってんだろ!!」

 

「結局暴れんのかよ」

 

「集めてどうするのだ?」

 

エルザがそう聞くと一夜は天高く空を指差し、大声で宣言する。

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬、クリスティーナで拠点もろとも葬り去る!!!」

 

「おおっ!!

 

「天馬が持つと言われている、あの魔導爆撃艇!?」

 

クリスティーナの存在に全員が驚愕する。

 

「てか……人間相手にそこまでやる?」

 

「そういう相手なのだ。よいか……戦闘になっても決して一人で戦ってはいかん。敵一人に対して、必ず二人以上でやるんだ」

 

ジュラのその言葉を聞いて、ルーシィの顔からサァーっと血の気が失せる。

それを聞いたナツは手から炎を滾らせ、闘争心を高める。

 

「おしっ!燃えてきたぞ!!6人まとめてオレが相手してやらァーー!!!!」

 

ナツは扉から出ずに壁をぶち破ってワース樹海に走っていった。

 

「おい!ナツ!!」

 

「作戦聞いてねーだろ!!!」

 

ハルトとグレイがそう言うがナツはそれを聞かず、走っていってしまった。

 

「仕方ない、行くぞ」

 

「うえ~」

 

「たくっ!あのバカ!!」

 

エルザを筆頭に妖精の尻尾のメンバーもワース樹海に向かう。

 

「妖精の尻尾には負けられんな。行くぞシェリー」

 

「はい!!」

 

「リオン!シェリー!!」

 

ジュラが呼び止めるがリオンとシェリー、蛇姫の鱗もワース樹海に向かう。

 

「オレたちも行くぞ!!」

 

「うん!!」

 

「エンジェルかぁ♪」

 

それに続いて、レン、イヴ、ヒビキ、青い天馬も走る。

 

「あわわわ……」

 

ウェンディがどうすればいいか分からず、固まっているとハッピーがカッコよく見せる。

 

「大丈夫!!オイラがついてるよ!!」

 

しかし……

 

「なにやってんの!!私たちも行くわよ!!」

 

「わっ!わっ!」

 

「ミント!僕たちも行こう!!」

 

「おーけー」

 

誰も見向きもせず、走って行ってしまい、ハッピーが固まっているとマタムネがハッピーの肩に手を乗せ、ドンマイと言った顔でハッピーを見た。

 

「あ!待ってよ〜!!」

 

「せっしゃもいくでごじゃる!!」

 

慌てて、ハッピーとマタムネもみんなを追いかけていった。

結局別荘に残ったのはハルト、ジュラ、一夜だけになった。

 

「あいつら……」

 

「やれやれ」

 

「メェーン」

 

「なにはともあれ、作戦開始だな。我々も行くとしよう」

 

「その前にジュラさん」

 

ハルトたちも移動しようとすると一夜が止めた。

 

「かの聖十大魔道の一人と聞いていますが……その実力はマスターマカロフにも匹敵するので?」

 

「滅相もない。聖十の称号は評議会が決めるもの。ワシなどは末席、同じ称号を持っていてもマスターマカロフと比べられたら天と地ほどの差があるよ」

 

「ほう……それを聞いて安心しました。マカロフと同じ強さだったらどうしようと思いまして」

 

怪訝なことを言う一夜にジュラが怪しんだ瞬間、ハルトが一夜を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ!!?」

 

「ハルト殿!?なにを……!!」

 

ジュラがハルトの突然の行動に驚くと、ハルトは一夜を蹴り飛ばした時に一夜の手から落ちた試験管を拾う。

 

「pain……痛みを与えるパルファムか」

 

「ハルト殿!いきなりなにをなさるのですか!!」

 

詰め寄るジュラにハルトは拾った試験管をジュラに見せて渡す。

 

「これは?」

 

「一夜のパルファムだよ。嗅いだ相手に痛みを与えるな。これを俺たちに使おうとしてたからよ、止めたんだ」

 

「なんと!?しかしなぜワシらに……?」

 

「そりゃあ、俺たちに消えて欲しいからじゃねえか?なあ、一夜?いや……一夜に化けてる星霊!!」

 

ハルトが蹴り飛ばされた一夜に向かって、そう言うと一夜はゆっくりと立ち上がる。

しかしその目は怪しく光っていた。

 

「なーんだ。バレてたんだ」

 

「驚きだねー」

 

一夜の声が明らかに一夜のものではなく、幼い子供2人の声だった。

すると一夜の姿から二体の小人のような姿になった。

 

「あれは!!」

 

「ジェミニか」

 

「正解だゾ」

 

すると奥から女性の声が聞こえ、そっちを向くと際どい服を着た女性が立っていた。

 

「エンジェル」

 

「またまた正解だゾ」

 

現れた女は六魔将軍の1人、エンジェルだった。

 

「なんで一夜の偽物ってわかったんだゾ?」

 

「俺の鼻は敏感でな、特に魔法の匂いにはな。星霊の匂いがプンプンしたぜ」

 

「ふーん、なるほどだゾ」

 

「一人で来るとは随分と舐められたものだ。ハルト殿のここは一緒に……」

 

「無駄だ」

 

「何故です!?」

 

「そいつは思念体だ」

 

「それもせーかいだゾ♪」

 

するとエンジェルの姿がブレたように歪む。

 

「なんと……」

 

「こんなところに1人でノコノコと来るわけないゾ。ジェミニ」

 

エンジェルがジェミニを呼ぶといつのまにかボロボロの一夜を引きずってきた。

 

「メェーン……」

 

「この男ダメだね」

 

「エロいことしか考えてないね」

 

「一夜殿!!」

 

「チッ!人質か」

 

するとエンジェルの口から意外な言葉が出る。

 

「こんな奴人質になんて使わないゾ」

 

そう言ってジェミニは一夜をハルトに投げ飛ばす。

 

「イケっ!メェーン……!」

 

「一夜殿!無事か!!」

 

「なんのこれしき……メェーン」

 

「さあ、どうするんだ?思念体じゃ何もできねえだろ」

 

するとエンジェルはわざとらしく少し考える素振りを見せて、何か思いついたように手を叩く。

 

「そーだゾ!お前ら全員、死んでもらうゾ♪」

 

ハルトたちはエンジェルが何を言っているかわからなかったが、ジェミニが何かを運んできた。

ハルトはそれに見覚えがあった。

 

「それは……!!」

 

「とある錬金魔導士が作った魔導核爆弾。爆発すれば内側に吸い込まれて跡形もなくなる。これで終わりだゾ」

 

それはカルバートがコアを破壊する際に作った爆弾と同じもので、カルバートは資金を得るために色々なところに武器を売っていた。

 

「あの野郎……!!」

 

「じゃっ、バイバーイ♪」

 

エンジェルの思念体は消え、ジェミニも星霊界に帰っていき消えてしまった。

それと同時にジェミニが抱えていた爆弾を落とした。

 

「しまっ………!!!」

 

マスターボブの別荘は爆発を起こし、内側に吸い込まれ音も跡形もなくなくなってしまった。

 




レイン・シーレン

容姿 中性的な顔でよく少女と間違えられる。
髪は水色で後ろで纏めている。
解けばセミロングになり、余計女子度が上がる。

服装 青色基調に白色が入っているパーカーと短パン。


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第91話 六魔将軍

ナツは一人で樹海に続く道を走っていた。

 

「見えてきた!!樹海だ!!!」

 

「待てよ!!ナツ!!!」

 

「やだねーっ!!」

 

「一人で先走るんじゃない!!」

 

「ちょっ……ちょっと、みんな……足早すぎ……!!」

 

先走るナツにグレイとエルザが追いついて行くが、体力が化け物並にある三人にルーシィはバテながら走って行く。

 

「お姫様抱っこしてあげようか?」

 

「僕は手を繋いであげる」

 

「俺から離れんじゃねーよ」

 

「ウザイ!!!」

 

「ルーシィ殿モテモテでごじゃるな」

 

「そんなんじゃないわよ!!」

 

「やっとナツさんたちに追いついた!」

 

「レイン、足早いね〜」

 

「ウェンディ!!モタモタしないの!!!」

 

「だってぇ〜!」

 

「オイラも頑張るからね!!」

 

すると全員に影がかかる。

 

「!!」

 

「何!?」

 

それは青い天馬が誇るクリスティーナがナツたちの上空を飛んでいた。

 

「おお!あれが魔導爆撃艇クリスティーナ!!!」

 

「すげぇっ!!!」

 

「あれが噂の……天馬!!!」

 

全員がクリスティーナを見上げていると、突然クリスティーナのいたるところから爆発が起きた。

 

「え!?」

 

「そんな……」

 

「クリスティーナが……!!?」

 

そしてついにはナツたちの目の前で墜落してしまった。

 

「落とされたァ!!!?」

 

「どうなっている!?」

 

全員が唖然とする中、クリスティーナが落ちて爆煙が上がる中を誰かが歩いてくる。

 

「誰か出てくる!」

 

「ひえー!」

 

「ウェンディ!」

 

ウェンディは恐れて岩陰に隠れ、その他の全員が身構える。

そして現れたのは………

 

「六魔将軍!!!!!」

 

なんと自分たちが探していた敵、六魔将軍だったのだ。

六魔将軍は邪悪な雰囲気を出しながらナツを見る。

 

「うじどもが……群がりおって」

 

「君たちの考えはお見通しだゾ」

 

「ハルト、ジュラに一夜をやっつけたぞ。ドーダ」

 

「そんな……!!」

 

「何!?」

 

「バカな!!!」

 

それぞれの実力者であるハルトたちが倒されたことに全員が動揺してしまう。

 

「動揺しているな? 聞こえるぞ」

 

「仕事は速ェ方がいい。それにアンタら…邪魔なんだよ」

 

「お金は人を強くするデスネ。いい事を教えましょう、〝世の中は金が全「お前は黙ってろ、ホットアイ」」

 

「まさかそっちから現れるとわな」

 

睨み合いが続き、ナツとグレイが動かない両者にしびれを切らして、六魔将軍に突貫する。

 

「探す手間がはぶけたぜー!!!」

 

「ナツ、グレイ!!」

 

「レーサー、やれ」

 

ブレインがレーサーにそう言うと、レーサーの姿が消え、ナツとグレイの目の前に現れ、顔に強烈な蹴りを放つ。

 

「なっ!!」

 

「モォタァ!!」

 

「ぐはっ!!」

 

「がっ!!」

 

「「ナツ!!グレイ!!……えっ?」」

 

「バーカ!」

 

「えっ!ちょっ……何これ!!?」

 

「クスッ……」

 

ルーシィが二人になり、全く同じように驚くと片方のルーシィが鞭を構え、本当のルーシィに攻撃し、それをエンジェルが面白そうに見る。

 

「行くぞシェリー!!」

 

「はい!!」

 

リオンとシェリーがホットアイに走って行くが、ホットアイは目を開き魔法を発動する。

 

「愛など無くとも金さえあれば!!! デスネ」

 

「きゃああっ!」

 

「な…何だ!!?地面がっ!!!」

 

リオンとシェリーが立っていた地面が流動し、めくり上がりリオンたちを巻き込みながら崩れる。

 

「がっ」

 

「うあっ」

 

「ばっ」

 

そしてトライメンズも、レーサーのスピードの前に倒される。

 

「舞え!!剣たちよ!!!」

 

エルザは天輪の鎧を換装しコブラに向かって手に持つ剣と空中に浮かぶ剣を操りながら振るうがコブラはそれをまるで太刀筋がわかるかのように避ける。

 

「聞こえてんだよ。その動きがなあ!!!」

 

「ぐっ!!」

 

コブラが剣のすきを狙い、エルザに蹴りを放つが、エルザはそれをなんとか防ぐ。

 

「何寝てんだこの野郎!!!」

 

ナツが浮かぶ絨毯に座りながら寝ているミッドナイトに向かってブレスを放つが、ミッドナイトの目の前で不自然に曲がり、ミッドナイトだけをかわしてしまう。

 

「はあっ!!?」

 

「やめろ。ミッドナイトを起こすと怖えー」

 

「がはっ!」

 

再び、ナツの近くに瞬時に現れたレーサーがナツを蹴り上げる。

 

「「ナツ!」」

 

「なっ!?」

 

「ほらよ!」

 

「ぐあぁっ!」

 

グレイがナツを呼ぶと、また隣にグレイの偽物が現れ、驚いたグレイは防御も出来ずに攻撃を食らってしまう。

 

「ひぃい…」

 

「うわあぁ……」

 

次々と六魔将軍の手によって倒されていく連合軍にレインとウェンディは立ちすくむだけだった

その中でもエルザは一人、六魔将軍のメンバーと互角に戦っていた。

 

「はあっ!!!」

 

しかし、エルザの剣をコブラは軽々と避けてしまう。

そして頭上に現れたレーサーがエルザに攻撃するがそれをかろうじて避け、レーサーに剣を振るうがまた避けられてしまう。

 

「ほお……これがエルザ・スカーレットか」

 

ブレインは六魔将軍2人同時に戦って引けを取らないエルザを感心した目で見ていた。

 

「見えた、デスネ!!」

 

ホットアイがエルザの隙をついて地面を流動させ、足場を奪い、そこにレーサーが速さを乗せた蹴りをエルザに放つ。

 

「はァ!!!!」

 

「くっ!」

 

エルザはその蹴りを受け止めるが、

 

「聞こえるんだよ。その動き」

 

「!!!」

 

いつのまにか横に立っていたコブラにエルザは瞬時に反応できず、コブラの毒蛇キュベリオスに腕を噛まれてしまった。

 

「はぁ!!」

 

「そいつの毒はすぐには死なねえ……苦しみながら息絶えるがいい……」

 

「う…あ……」

 

キュベリオスの毒によって、ついにエルザまでもが倒れてしまった。

 

「うう……」

 

「強ェ…」

 

「これが…六魔将軍オラシオンセイス……」

 

「はあ…はあ……」

 

呻き声を上げながら倒れる連合軍にブレインは髑髏の杖を向ける。

 

「ゴミどもめ。まとめて消え去るがよい」

 

ブレインの杖に怨霊のような邪悪な魔力が集められる。

 

「な……なんですの? この魔力……」

 

「大気が震えている」

 

「まずい…」

 

「この状態であんなの喰らったら……」

 

何とか回避しようとするが、ダメージによって思ったとおりに動くことが出来ない。

 

「常闇回旋曲(ダークロンド)」

 

ナツたちに向かって闇の魔力が放たれ、直撃しそうになった瞬間、

 

「水竜の鱗!!」

 

ナツたちの前に逆三角形の水の大きな盾が現れ、ブレインの攻撃を防いだ。

 

「!!」

 

「え!」

 

「何が起きたんだ……」

 

「これって……」

 

ナツたちは自分たちの後ろを見るとレインが両手を前に突き出していた。

 

「皆さん!大丈夫ですか!!」

 

「レイン!」

 

「お前……水竜って、まさか…!」

 

レインは緊張した表情でナツたちに声をかけ、ナツは驚いていた。

 

「あの子供か……レーサー」

 

「あいよ」

 

その瞬間、レーサーは目にも留まらぬ速さでレインの頭上に現れ、蹴りを放つ。

 

「わっ!水竜の鱗!!」

 

ブレインの攻撃を防いだ盾よりふた回り程小さい盾がレインの頭上に現れ、レーサーの攻撃を防ぐ。

 

「チッ!反射神経はいいみたいだな!!」

 

レーサーは再び高速で動き、レインの背後に回り、蹴りを放つとレインは盾を後ろに回すが、その瞬間レーサーの姿はまた消え、レインの頭上に現れ、蹴りをいれた。

 

「オラッ!!」

 

「うあっ!!」

 

「レイン!」

 

流石に今度は反応出来ずに蹴り飛ばされてしまうレインを見て、岩に隠れていたウェンディは顔を出してしまう。

 

「む?あの娘は……まさかウェンディか!!」

 

「!!」

 

「えっ…?え?」

 

ウェンディの顔を見た瞬間、ブレインは驚き、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「どうしたんデスか?ブレイン」

 

「知り合いか?」

 

「間違いない。天空の巫女」

 

「天空の……」

 

「巫女?」

 

「なにそれぇ〜……」

 

聞きなれない言葉にナツたちも疑問符を浮かべ、ウェンディは怯えてしまい、また岩陰に隠れる。

 

「これは良いものを拾った。来い」

 

ブレインの杖から帯状の魔力が伸び、ウェンディを捕まえ、ブレインの元に引き寄せる。

 

「きゃあ!!」

 

「「ウェンディ!!」」

 

「シャルル!!ミント!!」

 

ウェンディが必死に手を伸ばし、シャルルとミントが追いかけるが追いつかない。

すると帯状の魔力が途中でスパッと切られた。

 

「!!」

 

驚くブレインが目を向けるとさっき蹴られたレインが槍を構えて立っていた。

 

「ウェンディに何をするんだ!!」

 

「レイン!!」

 

「ガキが……」

 

ブレインは少し怒りをにじませると杖をレインに向け、魔力を放とうとするが、それよりも早くレインは槍を構えて叫ぶ。

 

「霊槍スイレーン!第二形態!!」

 

「なに!?まさかのその槍は……!!」

 

「『群れ(ショール)』!!!」

 

レインの持つ槍が光り輝き、空中に浮かび上がると数百本の魚をモチーフにした刃に分裂した。

 

「いけ!!!」

 

レインの合図で刃は一斉にブレインたちを襲った。

 

「っ!!ミッドナイト!!!」

 

数百本の刃を防ぐ手は持っていなかったブレインは焦り、ミッドナイトを呼び起こすと、今まで眠っていたミッドナイトがゆっくりと目を開く。

そして数百本の刃はブレインたちに直撃し、刃の衝撃が強いのか辺りが土煙が立ち込める。

 

「ハア……ハア……大丈夫?ウェンディ?」

 

「うぅ…怖かったよ〜!」

 

「わっ!ウェンディ!!……ごめんね。もっと僕が強かったら」

 

「ううん……大丈夫だよ。ありがとう……」

 

ウェンディは少し涙を流しながら、レインに抱きつき、レインがウェンディを慰め、倒れていた連合軍のメンバーは一人で六魔将軍を圧倒したレインに驚いた。

 

「すごいな。あのコ、一人で六魔将軍を倒しちまったぜ」

 

「年上の貫禄がなくなっちゃうね」

 

感心したように呟き、みんなが安心したような表情になる。

レインの攻撃は衝撃が強く、今だに土煙が立ち込めていると煙の中から聞きたくない声が響く。

 

「勝手に倒されたことにしないでほしいな」

 

「!!」

 

「なっ!」

 

「そんな……!!」

 

立ち込めていた煙が一斉に螺旋を描くように上空に舞い上がり、晴れるとそこには無傷のブレインたちが立っていた。

そして先まで寝ていたミッドナイトが起きており、ブレインたちを守るように立っていた。

 

「そんな……!攻撃は当たったはずなのに!!」

 

「攻撃?あれのことかい?」

 

ミッドナイトが目を向ける先にはレインの霊槍スイレーンが変形した刃が左右にブレインたちを避けるように地面に刺さっていた。

 

「ならもう一度……!水竜の……!!」

 

「おっと」

 

レインがもう一度攻撃しようとすると、ミッドナイトがレインに手を向け、レインの服が勝手に動き出しレインに絡まり首をしめる。

 

「あっ…!が……!!」

 

「レイン!お願い、やめて!!」

 

苦しむレインにウェンディは泣きそうになりながらミッドナイトに頼むがミッドナイトは怪しく笑みを浮かべるだけだ。

 

「レインを助けるぞ!!」

 

「おう!!」

 

ナツたちがダメージから回復し、立ち上がってレインを助けに行こうとするが、

 

「無駄、デスネ!!」

 

ホットアイが地面を流動させて邪魔をする。

 

「邪魔すんじゃ…ねえっ!!!」

 

グレイは流動する地面を氷で凍らせて固定する。

 

「なんと!!」

 

「行け!ナツ!!!」

 

「オウ!!!」

 

ナツが氷の中を走っていき、レインを苦しめているミッドナイトに迫るが、

 

「無駄だァ……その動きも聞こえているぞ」

 

「なっ…!?がはっ!!」

 

いつのまにか頭上にいたコブラが、ナツの顔を思いっきり殴りつけて、止める。

 

「この…!火竜の……!!」

 

「遅えェッ!!!」

 

「ぐあっ…!!」

 

ナツがコブラに反撃しようとするがレーサーがまた瞬時に現れ、ナツの鳩尾に蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 

「ナツ!!」

 

「終わり….デスネ!!」

 

ホットアイが再び地面を隆起させ、グレイがまた固定しようとするがその範囲はさっきの何倍も広い。

 

「ひろっ……!うわあああっ!!!」

 

「キャーー!!」

 

「わあああっ!!」

 

ホットアイの魔法で巻き込まれたルーシィたちも土が覆い被さり身動きが取れなくなる。

 

「そ、そんな……」

 

「うああああっ!!!」

 

「っ!レイン!!」

 

せっかく皆がレインを助けるために動いてくれたのに六魔将軍がそれを邪魔してしまう。

そうしている間にもレインを締める力が強くなり、レインを苦しめる。

すると、数百本の刃はまた輝き、一本の槍に戻り、ブレインがその槍に近づく。

 

「まさか貴様のようなガキが神器をもっているとはな」

 

「じ、神器……?」

 

ルーシィが聞きなれない言葉に疑問符を浮かべると、ブレインは機嫌がいいのか説明をしてくれた。

 

「なんだ知らんのか?まぁいい……無知なお前たちに説明してやろう。神器とは古代人が聖戦の際に使った武器のことだ。それぞれに特殊な力があり所有者の能力を何倍にも引き上げる」

 

「せ…聖戦って……おとぎ話だろ…」

 

レンがそう言うのは理由がある。

聖戦とは災厄を振り撒く巨悪に七つの種族が戦ったとされる話で、今では廃れたおとぎ話のようなものだ。

 

「本当におとぎ話かな?」

 

「なんだと…?」

 

「まあいい。この至宝が手に入るのだからな!」

 

ブレインが槍を手にして持ち上げようとするが全く持ち上がらない。

 

「何?」

 

ブレインは苦しめられているレインを見て気づいた。

 

「所有者が決まっていると持てもしないか……ミッドナイト、殺せ」

 

「はい、父上」

 

無慈悲なブレインの命令にミッドナイトは手に力を込めて、レインを締め上げる。

 

「ぐああああっ!!!」

 

「いやぁっ!!やめてぇ!!!」

 

「レインをはな…せぇ!」

 

ナツが立ち上がろうとするが土が上に覆いかぶさり立ち上がれない。

とうとうレインの意識が失われそうになった瞬間、突然ミッドナイトの魔法が解け、レインが倒れるがそれを支える男が現れた。

 

「悪い、遅れた」

 

覇王ハルトが怒りをあらわにして参上した。

 




霊槍スイレーン…レインが持つ神器。二頭の龍が槍に巻きついた意匠
が施されている蒼色の槍。
レインが自身の母親である水竜シーペントに譲っても
らった。
神器…古代人が造った伝説の武器。一つの武器に一つの能力があり、
所有者の能力をさらに引き出す。武器一つで国が争うほどだと
も言われている。現在の技術では複製するどころか造ることも
できない。
聖戦…災厄を振り撒く巨悪に七つの種族が立ち向かったおとぎ話。
色々な学者が調べ、最近では実際にあったのではないかと言う
説が上がっている。


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第92話 拳を上げて

六魔の猛攻によりピンチに陥った連合軍。

そこにハルトが現れた。

 

「悪い。遅れた」

 

『ハルト!!!』

 

「は、ハルト…さん……」

 

「おう、レインよく頑張ったな。ウェンディ、レインを連れて後ろに下がってろ」

 

「は、はい!シャルル、ミント!手伝って!!」

 

「わかったわ!!」

 

「オーケ〜」

 

ウェンディたちがレインを連れて行ったのを確認してから再びハルトは六魔将軍と対峙する。

ブレインは静かにありえないものを見る目でハルトを見ているエンジェルに聞く。

 

「エンジェル……確かに殺したのか?」

 

「そのはずだゾ……言われた通りに魔導核爆弾を使って念入りに消したはずだゾ」

 

「ああ、まったくだぜ。あんな爆弾使うから地面に穴掘って逃げるしかなかったじゃねえか」

 

そう言ってハルトは自身の手を見せる。

その手は土で汚れ傷だらけだった。

ハルトは爆発する前に地面に穴を開けてその中に飛び込み、ジュラの魔法で蓋をして難を逃れた。

 

「あの一瞬で……」

 

「地上に出るのも時間がかかったけど、最悪の事態は避けれたな。だが……」

 

ハルトは後ろに目をやって傷だらけで倒れる仲間を見て、六魔将軍のほうを向く。

 

「よくも俺の仲間を傷つけてくれたな」

 

その顔はさっきよりも怒りが大きくなっていた。

 

「一人で六魔全員を相手にするのか!!やれ!後悔させてやれ!!」

 

ブレインの号令でレーサーとコブラが前に出てくる。

レーサーはナツたちを苦しめた瞬足の魔法でハルトの頭上に現れる。

 

「モォタァ!!」

 

「剛腕!!」

 

ハルトはレーサーを確認してから、防御に移り、蹴りを受け止める。

 

「なに!?」

 

「動きは早いが蹴りは普通だな!!」

 

「金に隔てなし、デスネ!!」

 

「うお!?」

 

ホットアイが地面を隆起させてハルトの足場を奪う。

そこにコブラのキュベリオスがハルトに嚙みつこうと飛んでくるがハルトは口を両手で抑える。

 

「ぐうぅ……オオオッ!!」

 

ハルトは力を入れてキュベリオスを投げ飛ばす。

 

「スパイラルペイン」

 

そこにミッドナイトは不可視の渦を放ち、ハルトを苦しめる。

 

「ぐううぅ…!!」

 

「さっきはどうやって魔法を解いたかわからないけど、僕には勝てないよ」

 

「こん…な…ものォ!!!」

 

ハルトが腕を広げるとハルトを囲んでいた渦が弾けるように消え去った。

 

「!!」

 

「無属性の魔法か……俺と相性がいいな」

 

ハルトは笑みを浮かべてミッドナイトを見て、ミッドナイトは眉間に皺を寄せる。

ハルトの覇竜の滅竜魔法の特性「統合」により、ミッドナイトの魔法を吸収した。

ハルトはミッドナイトの魔法が何なのかはわからないため吸収するのは難しいが無属性だったため、属性がある魔法より吸収しやすいのだ。

 

「開け!彫刻具座の扉!!カエルム!!」

 

「えっ!?星霊魔法って……アンタ、星霊魔導士だったの!!?」

 

エンジェルがハルトに攻撃するために星霊カエルムを召喚し、それにルーシィは驚く。

カエルムは機械の球体から固定砲台に変形し、ハルトに魔力弾を放つがハルトはそれに気づき、剛腕でそらしてエンジェルに近づく。

 

「さっきはよくもやってくれたな!!お返しだ!!」

 

ハルトは拳を握りしめ、エンジェルに近づく。

 

「チッ!エンジェル!!」

 

「待て!」

 

レーサーがエンジェルを助けようと加速しようとするがコブラが止める。

 

「何すんだよ!コブラ!!」

 

「まぁ、待てよ」

 

コブラはレーサーにエンジェルの考えが聞こえたことを説明した。

 

『私がハルトの隙を作るゾ。合図したら一斉に攻撃するんだゾ』

 

「なるほどな」

 

ハルトがエンジェルに迫る中、エンジェルは笑みを浮かべた。

 

「開け。双子座の扉……ジェミニ」

 

(ジェミニ?だけどここで止められねえ…ジェミニごと攻撃するしかねえな!!)

 

「覇竜の……!!」

 

「ジェミニ」

 

「「ピーリ、ピーリ」」

 

ジェミニが光り姿を変える。

 

「剛拳!!!」

 

黄金の魔力を纏った拳を放つ。

しかし、その拳は変身したジェミニの寸前で止まった。

 

「ど、どうしたんだ?動きが止まったぞ?」

 

「ハルト?」

 

ルーシィが不思議そうにハルトに呼びかけるがハルトは拳を突き出した状態で動かない。

それどころかジェミニを見て、酷く動揺した様子だった。

ジェミニが変身した人物がゆっくりと口を開く。

 

「ハルト……」

 

「エミリア……!!」

 

ルーシィより少し濃いめの金髪を肩ほどまで伸ばし、目の色は綺麗なスカイブルーで、さらに顔はルーシィにそっくりだった。

 

「エミリアでごじゃる……」

 

「え!あの人がエミリアさん……?」

 

「ルーシィにそっくりだ……」

 

みんなを掘り起こそうとしていたマタムネの呟きが聞こえたルーシィは今まで何度も聞いたエミリアに驚き、みんなと同様に自分に似ていることに驚いた。

ハルトは拳を下ろし、エミリアを見つめた。

その表情はどこか嬉しそうだが悲しそうでもあった。

 

「エミリア……」

 

ジェミニが扮するエミリアはハルトの頬に手添える。

 

「ハルト………………また、私を殺すの?」

 

その言葉にハルトは地の底に叩きつけられた絶望を感じてしまい、それと同時にエンジェルが合図を出した。

 

「今だゾ!!」

 

「デスネ!!」

 

「スパイラルペイン」

 

ホットアイが地面隆起させ、そしてミッドナイトがその岩石ごとハルトを渦に巻き込む。

 

「ぐあああああああっ!!!!」

 

「ハルト!!!」

 

ルーシィの悲痛な叫びが響く。

ハルトは地面に投げ出され、うつ伏せで倒れる。

 

「うまくいったゾ♪」

 

「よくアイツの記憶を見れたな」

 

「ジェミニが蹴られたときに、ほんの少し記憶だけ記憶が見れたらしくてその記憶がドンピシャだったらしいゾ」

 

うれしそうなエンジェルにコブラが近づいて話すとブレインも近づいてくる。

 

「よくやったエンジェル。アーウェングスはここで殺しておく」

 

ブレインが倒れているハルトに向かって杖を向けて魔力をためはじめ、それを見たナツたちは焦る。

 

「ハルト!!起きて!!!」

 

「起きろ!ハルト!!くっそ!抜けねえ!!」

 

「マタムネ!急げ!!」

 

「わかってるでごじゃる!!」

 

マタムネが急いで土を掘り起こすが間に合わない。

 

「死ね」

 

ブレインが魔法を放とうとした瞬間……

 

ドンッ!!!

 

凄まじい地響きなった。

地響きの元はハルトが地面を殴ったからだ。

全員が一旦動きを止め、ハルトは寝そべった状態で地面に拳を立てて、膝をついた状態になった。

 

「お前ら……」

 

ハルトの体から黄金の魔力が勢いよく溢れ出す。

ハルトがラクサスとの戦いで見せた『覇王モード』だ。

 

「死ぬ覚悟はできてんだろうなァッ!!!」

 

ハルトはエミリアの姿で騙されたことが我慢できず、怒りが爆発した。

 

「チッ!常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!!」

 

回転する闇の魔力がハルトに迫るがハルトはそれを手で受け止め、握りしめて破壊した。

手から血が滴るが、はるとはそれを気にした様子はなくブレインたちを睨みつける。

 

「なに!?」

 

「チッ!」

 

レーサーが瞬時にハルトの頭上に現れ、ハルトの首に蹴りを入れる。

 

「やったか!!?」

 

レーサーはモロにハルトの首に蹴りが入り、普通なら気絶するほどの蹴りだがハルトはその蹴りを受けてもビクともせずに、レーサーを睨みつける。

 

「まずは……」

 

ハルトはレーサーの蹴ってきた足を掴む。

 

「お前だ!!」

 

「ぐはぁっ!!!」

 

そして、掴んだまま地面に叩きつけた。

それだけで地面に小さなクレーターができる。

 

「キュベリオス!!」

 

「シャアアアアアッ!!!」

 

コブラがキュベリオスに指示を出し、ハルトを襲わせる。

キュベリオスはハルトの肩に噛み付くが金属音が響いた。

 

「ジャアアアアアッ!!?」

 

「キュベリオス!?」

 

キュベリオスは叫び声を上げてのたうち回る。

コブラが苦しむキュベリオスの牙を見ると僅かに欠けていた。

 

「キュベリオスの牙が欠けた!?どんだけ固いんだ!!?」

 

ハルトの皮膚は放出されている魔力で防御力が上がっており、キュベリオスの牙では貫けない。

ハルトは次の標的をコブラに定め、進んでいく。

 

(お前の動きは聞こえてるぞ!!考えていることもなっ!!)

 

コブラは心を聞く魔法でハルトの次の動きを聞く。

 

(コロス)

 

「なっ!!」

 

ハルトが拳を振るうがコブラはギリギリでかわす。

 

(コイツ!純粋な殺意しかねえ!!)

 

「覇竜の旋尾!!」

 

「ぐほっ!!」

 

(声が聞こえねえ!!!)

 

ハルトの回し蹴りが入り、コブラは吹き飛ばされる。

 

「むん!!」

 

ホットアイがハルトの足元の地面を隆起させて、足場を崩す。

 

「覇竜の咆哮ォッ!!!」

 

「くっ!!」

 

ハルトは地面に咆哮を放ち、自分が立つ地面ごと爆発させて、その爆発に紛れてホットアイに近づく。

 

「覇竜の鎚角!!!」

 

「ぐはぁ!!」

 

ボディーブローがホットアイにささり、ホットアイは倒れる。

 

「すごい……!六魔将軍がもう3人も!」

 

「これならいけるぞ!!」

 

「ハルトさん、やっぱりすごいよ!!」

 

「う、うん…でもちょっと怖いかも……」

 

「あれがハルトの覇王モードか」

 

「オレは2回目だけどやっぱスゲーな」

 

皆が褒めるなかルーシィだけが不安そうにハルトを見ていた。

 

「どうしたでごじゃるか、ルーシィ殿?」

 

「うん……ただ今のハルト……なんか悲しそうだなって……思って……」

 

ハルトはホットアイを行動不能にし、残りのブレインたちを睨む。

 

「六魔3人を撃破か……やはりやるな」

 

「父上、ここは僕が」

 

ブレインはコブラたちがやられても焦るどころか感心したようにハルトを見た。

ミッドナイトがブレインを守るように前に出るがブレインがそれを手で制す。

 

「よい。ここは私が相手になろう」

 

「一気に片をつける」

 

ハルトはブレインに向かって駆け出し、魔力を高める。

 

「竜牙弾……付加」

 

「常闇幻想曲」

 

「竜檄弾!!!」

 

ハルトの拳とブレインの魔法がぶつかりそうになった瞬間、ブレインの魔法はハルトを避けるように分散した。

そしてブレインはハルトに向かって笑みを浮かべる。

 

「いいのか?後ろの仲間は?」

 

その一言にハルトはブレインが自分を狙ったのではなく、後ろにいたルーシィたちを狙ったことにようやく気付いた。

 

「クソッ!!!!」

 

ハルトは慌ててルーシィたちに向かって走るがルーシィたちも傷で逃げることができずにブレインの魔法が当たってしまった。

 

「ルーシィィィィッ!!!!!」

 

爆煙が広がり、ルーシィたちの姿が見えない。

 

「ウソ…だろ……」

 

ハルトが目の前の光景に絶望して膝をつくが、その瞬間煙の中から咳き込む声が聞こえ、顔をハッと上げる。

 

「こちらは大丈夫だ。ハルト殿」

 

煙が晴れるとそこにはルーシィたちの周りに何本もの岩石の柱があり、ルーシィたちの身を守っていた。

そしてその中心にはジュラが立っていた。

 

「すごいや!!」

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「すげえな」

 

「六魔将軍の奴らいつのまにか消えやがった」

 

「逃げたのかよ……くそっ!」

 

リオンとグレイが消えた六魔将軍に気づき、ほぼ一方的にやられた悔しさが表れる。

皆が無事な様子を見て、安心したハルトの覇王モードは自動的に消えてしまい、ハルトはその場で崩れるように膝をついてしまう。

体からはフィードバックで煙から出て、辛そうだ。

 

「ハルト!!」

 

「ハルト!大丈夫でごじゃるか!?」

 

「あ…ああ…大丈夫だ」

 

倒れたハルトにルーシィとマタムネが駆け寄り、看病をし始めた。

 

「ジュラさん!無事でよかった」

 

「うむ。ハルト殿が機転を利かせてくれなければどうなっていただろうか……」

 

リオンがジュラの無事を喜んでいるとレインの戸惑う声が聞こえてきた。

 

「ウェンディ?……ウェンディ!!どこにいるの!!ウェンディー!!」

 

「そんな!攫われたの!!?」

 

「どーしよー!?」

 

「どうしたのだ?」

 

「ウェンディがいなくて……」

 

「おい!ハッピーもいねえぞ!!」

 

不安気な顔をするレインが説明するとジュラは悔しそうな顔をする。

 

「敵の魔法が届かぬところだったため安心だと思い油断した……!青いネコ殿はおそらくウェンディ殿と一緒に攫われたに違いない。すまない、ワシの責任だ」

 

「本当よ!!どうしてくれるのよ!!!」

 

「落ち着いてーシャルル〜」

 

「そうだよ……守れなかった僕が悪いんだ」

 

レインは酷く落ち込み、シャルルも少しバツが悪そうな表情になる。

 

「六魔将軍め…私に恐れをなして逃げて行ったか。とりあえず、まずは皆さんの傷を癒すのが優先……痛み止めのパルファムで傷を癒しましょう!」

 

「あんたのほうがボロボロじゃねーか!!」

 

そう言ってボロボロの一夜が痛み止めのパルファムを開ける。

開けた試験管からパルファムが流れ出て、傷ついた連合軍のメンバーを癒す。

 

「いい匂い……」

 

「本当…痛みが和らいでいく……」

 

「「「さすが先生!!」」」

 

「また呼び方変わってんぞ……」

 

ナツが仲間が攫われたことに腹を立てる。

 

「くっそ〜アイツらハッピーとウェンディをさらいやがって……どこだーー!!!」

 

「ナツ!!」

 

腹を立てたナツが案の定暴走して1人樹海に入ろうとし、グレイが呼び止めるが気にせず突っ走ってしまう。

しかし、誰かがナツのマフラーを引っ張って、ナツを止める。

 

「んがっ!!」

 

「落ち着きなさいよ」

 

「さっきまでシャルルが慌ててじゃ〜ん」

 

「うるさいわよ!!」

 

止めたのはハッピー、マタムネと同じく羽が生え、飛んでいるシャルルとミントだった。

 

「ハッピー、マタムネと被ってる」

 

「何ですって!!!」

 

「お揃いだねー」

 

「とにかく、ウェンディとオスネコの事は心配ですけど、やみくもに突っ込んでも勝てる相手じゃないってわかったでしょう」

 

「シャルル殿の言う通りだ。敵は予想以上に強い」

 

「それに頼み綱の2人があんな状態だもの」

 

そう言ってシャルルが視線を移す先には、覇王モードのフィードバックで苦しそうなハルトとキュベリオスの毒で苦しむエルザが並んで座っていた。

 

「エルザ、しっかりしろ!!」

 

「う…うあ……」

 

「ハルト、大丈夫でごじゃるか?」

 

「俺のはただの疲労だ。休めば治る……今はエルザのほうが問題だ。ルーシィも俺は大丈夫だからエルザのほうを見てやってくれ」

 

「う…うん」

 

「そんな…!!痛み止めのパルファムが効かないなんて!!」

 

苦しそうにするエルザは看病しにきたルーシィの腕を掴み、引き寄せる。

 

「ルーシィ…すまん…ベルトを借りる……」

 

「え?きゃあああ!!」

 

「「「「おおおおっ!!!!」」」」

 

突然ルーシィのベルトを引き抜き、ルーシィのパンツはズリ落ちてしまう。

それをトライメンズとマタムネは見逃さなかった。

 

「な…何するのよ〜.」

 

「このままでは戦えん」

 

エルザはルーシィから借りたベルトをキュベリオスに噛まれた腕に巻きつけ血を止めた。

さらにその腕を伸ばし、剣をこちら側に投げた。

 

「切り落とせ」

 

エルザは毒が回っている腕を差し出し、そう言い、全員が驚く。

 

「バカなこといってんじゃねえよ!!!」

 

グレイが反対するがエルザの意思は変わらず、それでも切れと言ってくる。

 

「わかった。俺がやろう」

 

「リオン!?」

 

「やれ」

 

リオンがそう言い、エルザの剣を拾う。

 

「よせ!!!」

 

「今この女に死んでもらうわけにはいかん」

 

そう言い、リオンは剣を振り上げる。

 

「けど……」

 

「どこまで甘いんですの!?妖精さんは!!」

 

「やるんだ早く!!!」

 

「やめろリオン!!!」

 

「そんな事しなくても……」

 

「エルザ殿の意思だ」

 

メンバーが口論している間にリオンは剣を振り下ろすが、

 

「俺がいる限りそんな事させねえ」

 

ハルトがリオンの腕を掴み剣を振り下ろすのを止めた。

 

「貴様はこの女の命より、腕の方が大事なのか!!」

 

「短絡的になるなよ。こんなことしなくても助かる方法はあるはずだ。剣を置けって」

 

「しかしだな……!!」

 

「二度も言わせんなよ。……置け」

 

ハルトに睨まれたリオンはその威圧に本能が恐れて、後ずさりしてしまい、剣をおとしてしまう。

 

「お前もだ、エルザ。アホなこと言うなよ」

 

「は、ハルト……あっ……」

 

「エルザ!!」

 

エルザはとうとう気絶してしまった。

 

「マズイな……毒が体に回るのも時間の問題……」

 

「レイン殿、お主の神器でどうにかできぬのか?」

 

ジュラがレインに顔を向けて、話しかけるとレインは申し訳なさそうにする。

 

「すいません……この霊槍スイレーンならできるかもしれないんですけど、まだ僕の実力が全然弱いので全くスイレーンの力を引き出せていないんです…」

 

「そうか……」

 

「でも!ウェンディならもしかしたら、いや絶対に治せます!!」

 

「そうね。ウェンディなら助けられるわ」

 

レインのその言葉に全員がレインとシャルルを見る。

 

「今さら仲間同士で争っている場合じゃないでしょ。力を合わせてウェンディを救うの。ついでにオスネコも」

 

「あの娘が解毒の魔法を?」

 

「すごいなぁ」

 

「解毒だけじゃありません。ウェンディは解熱や痛み止め、さらにはキズの治癒まで出来るんです」

 

「あ…あの……私のアイデンティティーは……」

 

シャルルとレインの説明に一夜の悲しそう呟きは無視された。

 

「でも治癒魔法って確か、失われた魔法(ロストマジック)だったはずでわ?」

 

「もしかして六魔将軍が言ってた、天空の巫女っていうのに関係あるの?」

 

シェリーとルーシィの疑問にシャルルは答える。

 

「あの娘は天空の滅竜魔導士ドラゴンスレイヤー…天竜のウェンディ」

 

「ドラゴンスレイヤー!?」

 

シャルルの言葉にレインとミント以外が驚く。

 

「ついでに気づいていると思うけど……レインも滅竜魔導士よ」

 

全員がレインのほうを見る。

 

「えへへ……」

 

「ハルトやナツと同じ滅竜魔導士が2人もいるなんて……」

 

「い、今は僕のことよりウェンディです!!ウェンディがいれば助かります!!助けに行きましょう!!」

 

「そうね。それに目的はわからないけどアイツらもウェンディを必要としているみたいだし」

 

レインとシャルルがそう言うと全員の目が真剣になる。

 

「……となれば」

 

「やる事は一つ」

 

「ウェンディを助けよー」

 

「エルザの為にも」

 

「ハッピーもね」

 

全員が決意を固める。

 

「決まりだな……おっし!!!」

 

ハルトが拳を突き上げる。

 

「行くぞっ!!!!」

 

『オオッ!!!!』

 

ハルトの号令で全員が拳を上げ、雄叫びをあげたのであった。

 



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第93話 少女と亡霊

連合軍がウェンディとハッピーの救出の決意を固めているころ……六魔将軍は古代人が祭壇として使っていた洞窟を拠点とし、そこに集まっていた。

 

「痛みが和らいでいくな……」

 

「助かったぞ。エンジェル」

 

「別にいいゾ〜」

 

「ピーリ、ピーリ。あんまりこのおっさんに変身したくないんだけどなぁ」

 

「はいはい。仕事なんだから文句言わない」

 

傷ついたコブラたちをエンジェルのジェミニが一夜に化けて、痛み止めのパルファムで回復していた。

 

「アーウェングスの実力を見誤っていた。まさかあそこまでの実力があるとはな」

 

「魔導核爆弾から逃げれたのも納得、デスネ」

 

「それでブレイン……そのガキを連れてきたのはどういう意味なんだ?」

 

レーサーが目を向ける先には怯えるウェンディとそれを守るハッピーがいた。

 

「ひぃ…!」

 

「大丈夫!オイラが守るからね!!」

 

「ニルヴァーナに関係してんのか?」

 

「そんな風に見えないゾ」

 

「そうか!!売ってお金に……!!!」

 

「こやつはウェンディ、こやつは天空魔法…治癒魔法の使い手だ」

 

「治癒魔法だと!!?」

 

「失われた魔法」

 

「これは金の匂いがしますね」

 

「こんな小娘が……まさか!?」

 

コブラは何かに気づき、ブレインを見ると怪しい笑みを浮かべた。

 

「その通り、奴を復活させる」

 

ウェンディは自分が悪いことに利用されると言うことはわかり、反抗する。

 

「わ…私!!!悪い人たちには手を貸しません!!!」

 

「貸すさ……必ず……うぬは必ず奴を復活させる」

 

しかしウェンディの反抗など意にも介さないブレインだった。

 

「レーサー、奴をココにつれてこい」

 

「遠いなァ、1時間はかかるぜ」

 

「かまわん」

 

「確かに…あいつがいればニルヴァーナは見つかったも同然」

 

「コブラ、ホットアイ、エンジェル、ミッドナイト、貴様等は引き続きニルヴァーナを探せ」

 

「でもあの人が復活すればそんな必要は無いと思うゾ」

 

「万が一という事もある。私がここに残ろう」

 

「わかりました」

 

「しゃあねえ、行ってくるか」

 

「父上、僕もですか?」

 

「貴様は覇王とジュラを中心に狙え。奴らの実力は侮れん」

 

「わかりました」

 

「ねえ? 競争しない? 先にニルヴァーナを見つけた人が」

 

「100万J!!のったァ!!! デスネ」

 

「高いゾ」

 

「興味ないね」

 

ホットアイ、コブラ、エンジェル、ミッドナイトが外に出て行こうとするなか、エンジェルが何かを思い出したか、ブレインに振り返る。

 

「ねえ、ブレイン。お願いがあるんだゾ」

 

「なんだ?うぬが頼みとは珍しい」

 

「ニルヴァーナを手に入れたらハルトを欲しいんだゾ」

 

「ほう」

 

エンジェルの申し出にブレインは面白そうだと思った。

 

「ハルトがお前らなんかの味方になるもんか!!」

 

ハッピーが強く言い返すがブレインは笑みを浮かべるだけだ。

 

「いいや、なる。ニルヴァーナの力さえあればな」

 

「一体どんな魔法なの……?ニルヴァーナって……」

 

呟いたウェンディにブレインは邪悪な笑みを濃くして答えた。

 

「光と闇が、入れ替わる魔法だ」

 

 

連合軍はそれぞれ分かれて六魔将軍の拠点を探しに行き、集合場所では青い天馬のヒビキ、ルーシィと毒で動けないエルザがいた。

 

「うぅ……」

 

「みんな…急いで…お願い……」

 

ルーシィが看病するがやはりエルザは苦しそうなままだ。

ヒビキは自身の魔法『古文書(アーカイブ)』を使い、樹海に入ったメンバーのサポートしていた。

 

「君は行かなくていいのかい?」

 

「エルザが心配だし……ハルトに頼まれたから……」

 

「君はハルト君のことが好きなのかい?」

 

「うえっ!?ちょっ……いきなり何言って…!!」

 

「ハハッ、そんなに慌てなくても僕は女性の機敏には鋭いからね。すぐにわかったよ」

 

ルーシィが顔を赤くして慌てるのをヒビキは面白そうに笑う。

 

「でも…本当はハルト君について行きたいんだろ?」

 

ヒビキがそう言うとルーシィは少し悔しそうにする。

 

「うん…本当はついて行きたいけど、ハルトがどうしてもって言うから……」

 

「……女性と多く接してきた僕の考えだけど、時には強引に迫るくらいが男にとっては嬉しい時があるんだよ」

 

ヒビキの言葉にルーシィは考えこんだ。

 

 

その頃、樹海を進んでいたナツたちはレインとシャルルに質問していた。

 

「天空の滅竜魔導士ってさぁ……何食うの?」

 

「空気」

 

「うめえのか?」

 

「さあ?」

 

「酸素と何が違うんだよ……?」

 

グレイが呆れたように言い、ナツは後ろを走っていたレインのほうを見て質問したら、

 

「レインは水竜だったよな。やっぱ水を食うのか?」

 

「はい!澄んだ水のほうが美味しいですよ!」

 

「そりゃ普通のことじゃねえか?」

 

またグレイのツッコミが入ると、シャルルが語り始めた。

 

「あのコ、アンタと覇王に会えるかもしれないってこの作戦に参加したのよ」

 

「レインもだよー」

 

「オレとハルト?」

 

「はい!同じ滅竜魔導士なら知ってるかもしれないって思って……ナツさんもドラゴンに育てもらったんですよね?」

 

「おう!!レインもそうなのか!?」

 

「はい!それで聞きたいんですけど…そのドラゴン、どこに行ったか知りませんか?」

 

「レインとこの親もいなくなったのか!?それって7年前の7月7日か!!?」

 

「はい、そうです。僕のお母さん、水竜シーペントとウェンディのお母さん、天竜グランディーネが同じ日にいなくなったちゃったんです」

 

「イグニールとガジルのドラゴンも、ウェンディとレインも7年前……んがっ!!?」

 

ナツは考えこんでしまい、目の前の根っこに頭をぶつけて倒れてしまった。

 

「そうだ!ハルトとラクサスは!!」

 

「ジーさんが言ってたろ、ラクサスは天然の滅竜魔導士じゃねえ。ハルトは物心ついた頃には使えたって言っただけでドラゴンに育てられたとは言ってなかったな」

 

グレイがそう答えるとレインが気になることを尋ねた。

 

「ラクサスさんって誰ですか?」

 

「今は破門されちまってギルドに居ねえが俺たちのギルドにラクサスっていう男がいたんだよ。アイツもハルトなナツと同じで滅竜魔導士だったんだよ」

 

「えっ!?そうなんですか!!でもそのラクサスってドラゴンに育てもらってないって……」

 

「ラクサスは滅竜魔導士のラクリマを体に埋め込まれて雷の滅竜魔導士になれたらしいぜ」

 

「か、雷ですか……」

 

レインが少し顔を青くしたことにグレイが気になった。

 

「どうしたんだよ。レイン」

 

「い、いえ…その……」

 

「レイン、雷苦手だもんね〜」

 

「言わないでよ!!ミント!!」

 

「雷が怖いのか!まだまだお子様だな!!」

 

「ちょっと!気を引き締めなさいよ!!」

 

あまりに朗らかな雰囲気に緊張感を取り戻すためシャルルが注意するがナツは気にも止めない。

 

「そういやレインはハルトのファンだったんだろ?ハルトについていかなくていいのか?」

 

グレイがそう聞くとレインは少し残念そうにした。

 

「本当はハルトさんの方について行って、色々な話を聞きたかったんですけど、ハルトさんが1人で行きたいって言ったので……」

 

「そういやハルト、少し変だったな。大丈夫か?」

 

グレイも少し不安そうに考えるがナツが起き上がりながら笑う。

 

「大丈夫だって!マタムネがついてんだ。何も心配することなんかねえよ」

 

それを聞いたグレイもニッと笑った。

するとシャルルがあることに気づいた。

 

「ちょっ……ちょっと何よコレ!!」

 

シャルルが見る先には黒く染まった木がたくさんあった。

 

「木が……」

 

「黒くなってる!!」

 

「気持ち悪いー」

 

すると別の方向から足音と声が聞こえてくる。

 

「ニルヴァーナの影響だって言ってたよな、ザトー兄さん」

 

「ぎゃほー。あまりにすさまじい魔法なもんで、大地が死んでいくってなァ、ガトー兄さん」

 

「誰だ!!?」

 

そこにはやけに猿っぽい大男が2人立っていた。

するとその後、いたるところから人が現れる。

全員がナツたちに敵意を向けていた。

 

「ちょっ…ちょっと!囲まれているわよ!!」

 

「ひゃ〜」

 

「うわわ……」

 

「六魔将軍傘下『裸の包帯男(ネイキッドマミー)』」

 

「ぎゃほおっ!!!遊ぼうぜぇ」

 

「傘下……!?もしかして、この樹海に六魔将軍傘下の闇ギルドが勢ぞろいしている!!?」

 

「敵は……6人だけじゃなかったっていうの……!?やられた……」

 

「大変だぁ〜」

 

レインとシャルルが慌て、ミントは気の抜けた声を出すが慌てているようだ。

 

「こいつァ丁度いい」

 

「ウホホッ、丁度いいウホー」

 

「えっ!!?ナツさん!?グレイさん!?」

 

「何言ってんのアンタたち!!!」

 

慌てるレインたちをよそにナツとグレイは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「拠点とやらの場所をはかせてやる」

 

「今行くぞ!!ハッピー!!ウェンディ!!」

 

「なめやがってクソガキが…」

 

「六魔将軍オラシオンセイス傘下〝裸の包帯男ネイキッドマミー〟」

 

「死んだぞテメーら」

 

そう言って睨み合う妖精の尻尾フェアリーテイルと裸の包帯男ネイキッドマミー。

 

「スゴイ……これだけの人数相手に、一歩も引かないなんて……」

 

「何なのよ妖精の尻尾フェアリーテイルの魔導士は……今の状況わかってるのかしらっ!!!」

 

 

そして別に分かれた全員のところに闇ギルドは襲いかかっていた。

青い天馬チームには

 

「黒い一角獣(ブラックユニコーン)!?」

 

「こいつらもここにいたのか!!てかっ、一夜さんどこに行ったんだ!!」

 

蛇姫の鱗チームも闇ギルドに囲まれていた。

 

「これは一体……!」

 

「囲まれているだと!!」

 

「こんなに伏兵がいらしたなんて……」

 

そして1人になってしまった一夜も……

 

「なんだこのおっさん?」

 

「やっちまおうぜー」

 

「ちょっ……!!わ、私…みんなとはぐれて……1人に……いや、だから……決して怪しい者では…メェーン……」

 

側から見ればただのオヤジ狩りだった。

 

 

ハルトは1人、樹海の中を進んで行き、巨木の前に立っていた。

 

「アアアアァァァァァッ!!!!!」

 

突然ハルトは目の前の巨木を殴り、雄叫びを上げた。

それは怒りをぶつけているように見えたが、どこか懺悔しているようにも見えた。

一通り殴ると巨木の殴られたところは煙を上げ、メキメキと音を立てて折れてしまった。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

「落ち着いたでごじゃるか?」

 

「!!」

 

息を落ち着けているとハルトの背後からマタムネの声が聞こえ、振り返るとマタムネが立っていた。

 

「なんでここにいる?ルーシィのところにいとけって言っただろうが」

 

「せっしゃはハルトの相棒でごじゃるからな!!どこに行こうと一緒でごじゃる!!」

 

マタムネが胸を張って得意気にそう宣言するとハルトは一瞬ポカーンとしてしまうが、途端に吹き出した。

 

「プハッ!ハハハッ!そうか、そうだよな……マタムネは俺の相棒だよな」

 

ハルトの顔がさっきまで強張っていたのが、いくらか和らぎ笑顔を見せた。

 

「そうでごじゃる!だから悩む時は一緒に悩むでごじゃる。ほら、相棒のせっしゃに悩みを相談してみるでごじゃる!」

 

マタムネはドヤ顔でそう言うと、ハルトは殴り倒した木の根っこに座り、隣をポンポンと叩いた。

 

「マタムネ、こっちに座れよ」

 

「ごじゃる」

 

マタムネが隣に座るとハルトは話し始めた。

 

「ジェミニがエミリアの姿をした時に一瞬頭が真っ白になっちまったんだ。そしてその後、嬉しさ込み上げた」

 

「せっしゃも嬉しかったでごじゃるよ。だけどその後怒りが出てきたでごじゃるな!」

 

マタムネがプンプンしながらそう言うとハルトも少し眉間に皺を寄せる。

 

「ああ、そうだな」

 

ハルトもエミリアを利用した攻撃に怒りもしたが別の感情もあった。

 

「俺はこれが罰なんだな、って思った。エミリアは俺のせいで死んじまった」

 

「そうかもしれないでごじゃるが、エミリアのことを利用されたのは腹が立つことでごじゃる!!そうでごじゃろう!!?」

 

「…………」

 

「今はクヨクヨしたって仕方ないでごじゃる!!過去に起こったことはどうしようもないでごじゃる!!今は苦しんでいる仲間のために戦うでごじゃる!!」

 

「……そうだな!!」

 

「六魔将軍にこのイライラをぶつけるでごじゃる!!」

 

「おう!!」

 

ハルトはマタムネの元気にやる気を取り戻し、立ち上がる。

 

「それじゃあ、とりあえず周りの奴らからどうにかするか」

 

「そうでごじゃるな」

 

すると周りの茂みから多くの闇ギルドの人間が現れる。

それを見たハルトとマタムネは好戦的な笑みを浮かべ、戦闘態勢になる。

 

「気をつけろよ。お前ら、今の俺たちは……」

 

「ちょっと機嫌が悪いでごじゃる!!」

 

 

一方その頃…六魔将軍オラシオンセイスの拠点の洞窟では……

 

「重てぇ…これじゃスピードが出ねえぜ」

 

「主より速い男など存在せぬわ」

 

ブレインの遣いに行っていたレーサーが、1つの鎖で巻かれた巨大な棺桶を担いで帰ってきていた。

 

「ひっ」

 

「棺桶!!?」

 

その棺桶を見て、怯えるウェンディ、そして驚愕するハッピー。

 

「ウェンディ、お前にはこの男を治してもらう」

 

「わ…私……そんなの絶対やりません!!!」

 

「そーだ!そーだ!!」

 

「いや、お前は治す。治さねばならんのだ」

 

そう言いながら鎖を解き、棺桶をゆっくりと開くブレイン。

そしてその中には鎖で拘束され、意識を失った1人の青年が入っていた。

 

「!!!」

 

そしてその青年の姿を見て、驚愕するウェンディ。

 

「この男の名はジェラール、かつて評議院に潜入していた。つまりニルヴァーナの場所を知る者」

 

その青年は、かつてハルトたちと楽園の塔で激しい戦いを繰り広げ、後にハルトを助けるため塔の崩壊と共に姿を消したエルザの因縁の相手ジェラール・フェルナンデスであった。

 

「ジェラールって…え?え!?」

 

「ジェラール…」

 

「知り合いなの!?」

 

 

ウェンディがジェラールの知り合いだと言う事に、驚愕するハッピー。

 

「エーテルナノを大量に浴びてこのような姿になってしまったのだ。元に戻せるのはうぬだけだ。うぬの恩人……なのだろう?」

 

ウェンディは戸惑う表情だ。

 

「ジェラールって、あのジェラール?」

 

「ハッピー、知ってるの?」

 

「知ってるも何も、こいつはエルザを殺そうとしたし、評議院を使ってエーテリオンを落としたんだ!」

 

「そうみたいだね……」

 

「生きてたのかコイツ~」

 

ハッピーは憎々しげに目の前のジェラールを睨みつける。

 

「この男は亡霊に取りつかれた亡霊……哀れな理想論者。しかし……うぬらにとっては恩人だ」

 

「ダメだよ!!!絶対こんな奴復活させちゃダメだ!!!」

 

「…………」

 

「ウェンディ!!!」

 

ハッピーはウェンディを説得しようとするが、彼女は何も言わずにただ俯くだけであった。

 

「早くこの男を復活させぬか」

 

すると、ブレインは一本のナイフを取り出して、ジェラールの腕に突き立てた。

 

「やめてぇーーーーっ!!!!」

 

ウェンディは悲鳴に似た大声を張り上げたが、ブレインが杖でウェンディを殴り黙らせる。

 

「あう!」

 

「治せ。うぬなら簡単だろう」

 

「ジェラールは悪い奴なんだよ!!!ニルヴァーナだって奪われちゃうよ!!!」

 

ブレインは命令するようにそう言い放ち、ハッピーはやめるように説得する。

 

「それでも私……この人に助けられた。私もレインも大好きだった……」

 

大粒の涙を流しながらそう言うウェンディに、ハッピーは何も言えなくなった。

 

「なんか…悪い事したのは噂で聞いたけど、私もレインも信じない」

 

 

「何言ってんだ、現にオイラたちは…」

 

「きっと誰かに操られていたのよ!!!私たちの知ってるジェラールが、あんな事をするハズがない!!!お願いです!!!少し考える時間をください!!!」

 

「ウェンディ!!!」

 

ウェンディの頼みに対し、ブレインは少々考える素振りを見せる。

 

「よかろう。5分だ」

 

彼女に5分だけの猶予を与えた。

 

(ナツ~…まずいよ……早く来てよ~…)

 

事態は悪いほうへと進んでいく。

 



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第94話 復活の亡霊

連合軍にそれぞれ闇ギルドが差し向けられ、あっちこっちで戦闘が行われた。

 

「だはーーっ」

 

「ぶはーーっ」

 

「ハァ…ハァ…」

 

ナツ、グレイ、レインはそれぞれ疲れが出ていたがなんとか一つのギルドを倒した。

 

「こいつら案外強かったな」

 

「雑魚じゃなかったってことか」

 

「当たり前じゃない!!!相手はギルド一つよ!!!何考えてんのよアンタたち!!!」

 

「むちゃくちゃだー」

 

そんなナツたちに、物陰に隠れていたシャルルが怒鳴り、ミントがその光景を驚きの目で見ていた。

 

「やっぱりすごいな……妖精の尻尾の皆さんは……」

 

レインが荒い息を整えながらそう言うのは、殆どの敵をナツとグレイが倒してしまったからだ。

レインは神器を持っているが、やはりその実力はまだまだ低い。

 

「さーって六魔の居場所をはいてもらおうか!!」

 

「おい、顔が怖えぞ」

 

ナツが悪党の顔で聞きだすと西の廃村に古い儀式場があり、そこにいると教えられ、そこに向かうと崖下に洞窟が見えた。

 

「あそこか?」

 

「ここか!!?ハッピー!!!ウェンディー!!!」

 

「ちょっと!!敵がいるかもしれないのよ!!」

 

崖の上から大声を出すナツをシャルルがそう叱る。

すると空気を切り裂く音と共に何かがナツたちの横を通り抜け、背後にレーサーが現れ、ナツたちを蹴り飛ばした。

 

「ぐはぁ!」

 

「ぐあぁ!」

 

「きゃあっ!」

 

「うわぁあ!」

 

「にゃーっ!」

 

ナツの声に気づいたブレインがレーサーに指示を出し、ナツたちを抹殺するために来たのだ。

 

「またアイツだ!!」

 

「ここは任せろ!!お前らは早く下に行け!!!」

 

「おし!!!」

 

「行かせるかよ」

 

そう言って木の上からまたもや持ち前のスピードで邪魔しようとするレーサーだが、それより先にグレイが地面に氷を張り、レーサーを滑らせた。

 

「いてっ!?」

 

「今だ!!シャルル飛んでくれって……あれ!?」

 

「ミント!!起きてー!!」

 

シャルルとミントはレーサーに蹴られて気絶してしまった。

 

「何やってんだ!!早く行け!!」

 

「飛び降りろってか!!」

 

「仕方ねーなあ!!」

 

グレイは地面までの即席のスライダーを作り、ナツたちの道をつくった。

 

「おお!ありがとうな!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

「待て!!くっ!!」

 

レーサーがまた走りだそうとするがグレイが今度は壁を作り、通さない。

 

「貴様……二度も俺の走りを邪魔したな」

 

「道を塞いだだけだろうが」

 

スライダーで降りていったシャルルを抱えたナツとミントを抱えたレインは洞窟に入る。

 

「ハッピー!!!」

 

「ウェンディー!!!どこぉ!!!」

 

『ナァーーーツーー…』

 

「奥からだわ!!行くわよ!!!」

 

奥に進むとそこには涙を流すウェンディとハッピーがいた。

 

「ハッピー!!」

 

「ナツゥ!!!」

 

「ウェンディ!!大丈夫!!?」

 

ハッピーがナツに抱きつき、レインたちがウェンディに駆け寄る。

 

「うう……ごめんなさい……ごめんなさい…私……」

 

ウェンディはか細い声で何度も謝り続ける。

すると奥から足音が聞こえ、そちらに目を向けると信じられないものを目にした。

 

「な、なんで……」

 

「そんな……」

 

4人の目の前にいるのはウェンディの魔法により復活したジェラールだった。

 

「なんでお前が……!!!」

 

「ジェラール?ジェラールなんだよね!?」

 

ナツは怒りを露わにし、レインは戸惑いながらも嬉しそうだった。

 

「ごめん…なさ……うえっ…うえっ……この人は私たちの…恩人…な…の」

 

「ウェンディ!!あんた、治癒の魔法使ったの!!?何やってんのよ!!! その力を無闇使ったら……」

 

「シャルルー!怒っちゃダメだよー!!」

 

泣いているウェンディにそう叫ぶシャルルを、ミントが止める。

するとウェンディが力尽きたように気絶してしまった。

 

「ウェンディ!!しっかりしない!!」

 

「気絶しただけだよー」

 

ナツは驚きの表情でジェラールを見る。

 

「な…なんでお前がこんな所に…」

 

以前の楽園の塔で、ジェラールがエルザにしようとした事を覚えていたナツは、怒りの表情で彼を睨んだ。

 

「ジェラァァァァァアアル!!!!」

 

「ナ、ナツさん!!待って!!!」

 

ナツはジェラールに殴りかかり、レインが慌てて止めるがナツは御構い無しに突っ込む。

しかしジェラールはナツの拳が届く前に手を向け、衝撃波を放ち、ナツを吹き飛ばした。

 

「ぐああああああっ!!!」

 

「ナツ!!」

 

ナツは吹き飛ばされその上に瓦礫が落ち、身動きが取れなくなった。

 

「相変わらずすさまじい魔力だな、ジェラール」

 

それを見たブレインはジェラールに感心の声をかけるが、

 

「! なにっ!!? ぐぉああああっ!!!」

 

なんと…そんなブレインの足元をジェラールは魔法で大穴を空け、その中へと落としてしまった。

 

「ジェ、ジェラール…僕だよ……レインだよ!」

 

レインはジェラールの目の前に立ち、そう強く言うがジェラールは少しレインをジッと見て、横を通り過ぎ、洞窟の外に出て行ってしまった。

 

「うっ…痛たっ…」

 

ジェラールがその場からいなくなったと同時に、瓦礫の中からナツが出てくる。

 

「ジェラール!!どこだ!!!」

 

「もう……外に行っちゃいました……」

 

レインがジェラールの態度にショックを受け、力なくそう答え、ナツが悔しそうにする。

 

「あんにゃろォーー!!!」

 

「あいつが何者か知らないけどね。今はウェンディを連れて帰ることが優先でしょ!」

 

それでもナツはジェラールが出て行ったほうを睨む。

 

「エルザを助けたいんでしょ!!!」

 

シャルルの言葉にナツは悔しそうにしながらも、そのことはわかっている。

 

「わかってんよ!!行くぞハッピー!!!」

 

「あいさ!!!」

 

「レインもいつまで落ち込んでのよ!!!しっかりしなさい!!!」

 

「う…うん」

 

「じゃあ、行こうかー!」

 

ナツたちはそれぞれ抱えてもらいながら洞窟を出た。

そのころ穴に落ちたブレインは自分の計算ミスを後悔していた。

 

「計算外だ…いや…拘束具を外した私のミスか……しかし…以前の奴は私にここまでの敵対心は持っていなかったハズ…眠っている状態で、ニルヴァーナの話を聞いていたとでも言うのか?」

 

そこまで言うと、ブレインはある事に思い至った。

 

「ジェラールめ!!!まさかニルヴァーナを独占する気か!!!! させぬ!!!!あれは我々のもの!!!!誰にも渡すものか!!!!」

 

怒りの表情を浮かべてそう叫ぶブレイン。

 

「コブラ!!!聞こえるかっ!!!!ジェラールが逃げた!!!!奴を追え!!!!奴の行く先に…ニルヴァーナがある!!!!」

 

ブレインが怒りを込めてそう外に向かって叫ぶ。

 

 

「OK、聴こえたよ。ついでにジェラールの足音もな」

 

 

ブレインの叫びは、耳が異常にいいコブラの耳にしっかりと聞こえ、彼はジェラールの追跡を開始したのであった。

 

 

グレイはレーサーと戦っているが、やはりレーサーの姿が消えるほどのスピードは恐ろしいもので、グレイは苦戦を強いられていた。

 

「ちくしょう……やっぱ速えな」

 

そう言って木の上に立つレーサーを睨みつけるグレイ。

レーサーはサングラス越しに殺意ある目でグレイを見下ろす。

 

「オレのコードネームは〝レーサー〟誰よりも速く、何よりも速く、ただ走る」

 

すると上空を飛ぶあるものに気づいた。

 

「ん?あれは?」

 

「!!」

 

つられてグレイもそれを見ると、それはウェンディを救出し、エルザのところに戻ろうとしているナツたちだった。

 

「助け出したか!!!」

 

「バカな!!中にはブレインがいたハズだろ!?どうやって!!?」

 

「ナツがそのブレインって奴を倒したからじゃねえか?」

 

「くそっ!!行かせるか!!!」

 

レーサーは飛び上がり、ナツたちに近づく。

 

「おい!!!危ねえぞ!!!!」

 

グレイの声に気づいたナツだが、すでにレーサーは間近に迫っており、蹴り落とされてしまう。

 

「ぐはっ!!」

 

「うわあ!!」

 

「わっ!」

 

「きゃあ!!」

 

「にゃーっ!」

 

ナツ達は落とされた。

 

「ウェンディ!!」

 

落ちてくるウェンディをレインが受け止めた。

 

「いたたたっ……」

 

「おい!大丈夫か!!」

 

「あ、はい!!」

 

「ハッピー!!シャルル!!ミント!!」

 

ナツが3人を呼ぶが仲良く気絶していた。

 

「くそー!!レインはウェンディを頼む!!!俺がハッピー達を運ぶ!!とりあえずエルザのところに向かうぞ!!!」

 

「はい!!」

 

「行かせねえって言ってんだろ!!!」

 

レーサーが追いかけてくるが、そこにグレイが立ちはだかる。

 

「アイスメイク……『城壁(ランパード)』!!!!」

 

「ぐほっ!!」

 

グレイは巨大な氷の壁を作り上げ、レーサーはその壁に勢い余って衝突した。

 

「グレイ!!」

 

「行けナツ……ここは俺がやる」

 

「だけどお前、今ので魔力使い過ぎちまったろうが!!」

 

「いいから行きやがれ……ここは死んでも通さねえ!!!早く行け!!!エルザの所に!!!!」

 

グレイのその言葉を聞いたナツは背を向けて走り出した。

 

「うおおお~~~っ!!! 必ずエルザを助けるからな!!!!」

 

「当たり前だ」

 

グレイは再びレーサーと対峙する。

 

「貴様、二度ならず三度までも…….」

 

「何度だって止めてやんよ。氷は命の時だって止められる。二度と追いつけねえ。妖精の尻尾でも眺めてな」

 

 

そのころハルト達は、

 

「ふう……こんなもんか」

 

「大したことないでごじゃるな!」

 

ハルトが額の汗を拭い、マタムネが胸を張って威張る。

その周りにはボロボロの闇ギルドのメンバーが倒れていた。

 

「なんだよ。こいつ……強すぎる」

 

「ヒィ〜…」

 

「これが覇王か……」

 

「あれーせっしゃはー?」

 

倒された敵がハルトの強さに恐れて次々と口からそんな言葉が出るがマタムネのことは一切出ていないので、マタムネは拗ねたように聞くが敵は一切答えない。

 

「おい、六魔将軍はどこにいる?」

 

「うぅ……誰が言うか……」

 

「………」

 

ハルトは一瞬顔の表情が抜けると、

 

「早く言えよ」

 

「いでででっ!!言います!!言いますから!!!」

 

また変な縛り方をし、木の上から吊るし上げてどんどんキツく締めていく。

どんどんキツイ海老反りになって行き、周りの同じ闇ギルドの連中はそれを顔を青くして見ていた。

 

「西の廃村にいるって言ってましたァ!!背骨がァ!!」

 

「よしっ、西の廃村に行くぞ」

 

「ぎょい」

 

「ちょっとぉ!?俺はぁ!!?」

 

「あ?放置に決まってんだろうが」

 

(((((鬼だ!!!)))))

 

全員の心の中で思ったことは一緒だった。

 

「よし、行くぞ」

 

今度こそハルトが足を進めようとするが、また足を止める。

 

「どうしたでごじゃる?早く出発するでごじゃる」

 

「いや……待ってくれ。いるんだろ!!隠れてないで出てこい!!!」

 

ハルトが大声で周りに響くように言うとハルトの背後の木の間から人が現れた。

 

「フフッ、やっぱりバレてたゾ」

 

「エンジェル」

 

現れたのは六魔将軍の1人、エンジェル。

エンジェルはどこか蠱惑的な笑みを浮かべてハルトを見ていた。

 

「ねえ、ハルト。私と一緒に来ない?」

 

「はあ?何言ってんだ。んなわけねえだろ!!」

 

「まあ、断られると思ったけど」

 

エンジェルは断られても嫌な顔をせず、いつもどおり妖しい笑みを浮かべる。

するとエンジェルは後ろを振り向いて森の中に入って行った。

 

「待て!!」

 

「追うでごじゃる!!」

 

エンジェルを追って行くと川にたどり着き、エンジェルは川を横断していた。

 

「ハルト!あそこでごじゃる!!」

 

「逃すかよ!!」

 

ハルトは川に飛び込み、エンジェルを捕まえる。

 

「やーん♡」

 

「捕まえたぞ」

 

エンジェルは焦るわけでもなく、むしろ楽しそうだ。

 

「結構強引だゾ♪」

 

「ふざけるな。何のつもりだ」

 

ハルトは真剣な目でエンジェルを見る。

 

「お前、本物だろ。何でジェミニを使わない?あいつを使えば逃げることなんて簡単だろうが」

 

ハルトが捕まえているエンジェルは思念体でもジェミニでもない本物のエンジェルだった。

ハルトにはわざとエンジェルが捕まるはずがないと考えていた。

するとエンジェルは笑みを浮かべたままハルトの目を見つめる。

 

「私自体が囮ってこともあるゾ」

 

「何だと?っ!?」

 

するとハルトとエンジェルが立っていたところが浮上し、簡単なイカダが2人の足元に現れた。

 

「ぐふっ……」

 

するとハルトの顔が青くなり、崩れるようにイカダの上に倒れた。

 

「フフッ、やっぱりハルトも弱いと思ったゾ」

 

「て…テメェ……」

 

エンジェルは倒れたハルトの頬を突きながら、嬉しそうに話す。

 

「コブラも滅竜魔導士だから、同じ滅竜魔導士なら乗り物に弱いと思ったけど正解だったゾ」

 

「うぅ……」

 

コブラが滅竜魔導士なのはハルトにとって初耳だが、ハルトはそれに反応する余裕はない。

 

「マ…マタ…ムネ……逃げ……ぐふっ……」

 

「あぁ、あの猫まだいたんだ。もう帰っていいゾ。これから楽しいことがあるから♡」

 

エンジェルがマタムネがそういいながら、倒れているハルトの体をゆっくりと撫でていく。

するとマタムネの全身がプルプルと震えだし、

 

「もう我慢の限界でごじゃるうぅぅぅっ!!!!!」

 

「はあ!?」

 

マタムネの何かが爆発した。

 




ミント

レインの相棒猫。
魔法はマタムネたちと同じ『翼(エーラ)』
基本的におっとりしているが、細かいことに気配りができる。
間延びした話し方が特徴。
毛色はミント色
好きなのはミントアイスと面白いこと


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第95話 エンジェルVS………!?

ハルトがエンジェルの罠に嵌り、動けなくなってしまい、マタムネを逃がそうとするが、突然マタムネが叫んだ。

 

「もう無理!!限界でごじゃる!!!」

 

「ど、どうしたんだゾ?」

 

マタムネは荒い息で叫びんで、流石のエンジェルも動揺を隠せない。

 

「この前のファンタジアで女性たちにゴミやら物を投げられて流石に大人しくしていなきゃいけないと思ったでごじゃるが、もう我慢の限界でごじゃる!!!」

 

(あ、あいつ……今回大人しいなって…思ってたけどそれでか)

 

ハルトは乗り物酔いで気持ち悪そうにしながらもマタムネの言っていることに気づいた。

確かに今回はいつものセクハラが少ないように感じたのだが、その理由がファンタジアの最中にそんなことがあったとは気づかなかった。

 

「ま…マタ……ムネ」

 

「今回だってギリギリ我慢しようと思ったでごじゃる!シェリー殿みたいなキャバ嬢っぽい服着て胸元がチラつこうが我慢したでごじゃる!!だけどもう無理でごじゃる……!!だって……!!!」

 

マタムネはエンジェル、もといエンジェルのだいぶ解放的な胸元を指す。

 

「明らかに誘っているでごじゃる!!!」

 

「誘っていないゾ!!!」

 

エンジェルは手で胸元を隠して、少し顔を赤くする。

自分でその格好しといてマタムネに言われて恥ずかしいらしい。

 

「マタムネ……俺をここから……下ろしてくれ」

 

「あとでやるでごじゃるから待つでごじゃる」

 

「この……アホネコ……うう……」

 

マタムネは仲間の窮地より自分の欲望が優先らしく、ハルトは苦しそうに呻きながらマタムネに罵声を浴びせた。

 

「まったくとんでもないネコだゾ。開け。彫刻具宮の扉、カエルム」

 

エンジェルは少し呆れながらカエルムを召喚し、さっさと終わらせようとする。

カエルムは砲台形態になり、マタムネを狙う。

しかし今のマタムネは普通のマタムネではない。

長い間(本当はほんの数日)、欲望を押さえつけられたマタムネが欲望を解放し、通常の3倍動けるのだ。

 

「フハハハー!!!今のせっしゃには当たらないでごじゃる!!!」

 

「ウソ!?」

 

カエルムの砲撃をマタムネは余裕でかわす。

そしてマタムネの目にはエンジェルの胸しか写っていない。

 

「クッ!!カエルム!!!」

 

エンジェルがカエルムに声をかけるとカエルムの砲台が連射式の砲台に変わる。

 

「マタム……ネ」

 

「撃て!!」

 

エンジェルの合図でカエルムから砲撃が連射で放たれる。

エンジェルもこの連射ならマタムネを捉えられると思ったが、マタムネは残像を作りながらカエルムの弾幕をかわす。

 

「はあっ!?」

 

「フヘヘヘヘ……!!」

 

エンジェルはありえない動きに驚き、マタムネの口から涎が滴る。

もはやどっちが悪人かわからない。

 

「クソ!!ならこれならどうだゾ!!!開け!双子宮の扉!!ジェミニ!!!」

 

「「ピーリ、ピーリ!」」

 

「ジェミニ!あの女に変身だゾ!!」

 

「りょうかーい」 「わかったよ」

 

ジェミニは煙に包まれ、そこからルーシィが現れた。

しかもそのルーシィは胸元がはだけて、煽情的だ。

 

「マタムネぇ〜あたしのおっぱい触ってぇ♡」

 

偽ルーシィが胸を持ち上げてマタムネを誘う。

これならマタムネも誘われて偽ルーシィの胸に飛び込み、その時に倒そうとエンジェルは考えた。

しかし……

 

「偽チチに用はごじゃらん!!!」

 

「いたっーー!!!」

 

マタムネは偽ルーシィの頭を愛刀 魂平刀で叩く。

偽ルーシィ、もといジェミニはマタムネに叩かれて星霊界に帰ってしまった。

エンジェルはその隙にイカダから飛び退いて対岸に降り立つ。

 

「せっしゃが欲しいの偽チチではごじゃらん!!オッパイでごじゃる!!オッパイ!!!わからんでごじゃるか!!?」

 

「マタムネ……俺を…イカダから……」

 

「今いいところだからちょっと待つでごじゃる!!」

 

偽チチを見せられてかマタムネがブチギレており、ハルトは何故か怒られた。

 

「お、お前……やっぱり……アホ……ガクっ……」

 

「ジェミニがやられるなんて……とんでもないエロネコだぞ。ならコイツだゾ!開け!天蠍宮の扉!!スコーピオン!!」

 

「ウィーアー!!!」

 

蠍の尻尾を元にした巨大な銃を持つ褐色の男が現れた。

彼は黄道十二門の1人、天蠍宮の星霊スコーピオンである。

 

「スコーピオン!!あのネコをやっつけるんだゾ!!」

 

「OK!!くらいな!!サンドバスター!!!」

 

「のわああああぁぁぁっ!!!」

 

スコーピオンの尻尾の銃から砂嵐が発射されマタムネに直撃する。

 

「ふう…やっと始末できたゾ」

 

エンジェルが一息ついた瞬間、スコーピオンは信じられないものを見た。

 

「なあ!!?」

 

「ぬおおおおおっ!!!」

 

スコーピオンのサンドバスターをマタムネは突き抜けてきたのだ。

しかもそのスピードはどんどん早くなってくる。

欲望がマタムネに更なる力を与えているのだ。

 

「覚悟でごじゃるうぅぅっ!!!」

 

サンドバスターから抜け出したマタムネは魂平刀を振り上げ、スコーピオンに攻撃しようとし、スコーピオンは腕を上げて防ぐが、衝撃がこないので目を開けるとそこにはマタムネがいなかった。

 

「どこに……?」

 

「ここでごじゃる!!とりゃああぁぁぁっ!!!」

 

「あぐはあっ!!!?」

 

マタムネの声とともにスコーピオンの肛門に凄まじい衝撃と痛みが走った。

マタムネはスコーピオンが防御した隙に後ろに回り込み、肛門に魂平刀を突き刺したのだ。

相変わらずやることがえげつない。

 

「ぐお…おぉおぉぉ……」

 

スコーピオンは尻を押さえながら星霊界に帰っていった。

 

「ちょ、ちょっと!スコーピオン!!」

 

エンジェルは1人残されて焦る。

 

「ぐへへへ〜、追い詰めたでごじゃるぅ!」

 

「イヤ!来るなだゾ!!」

 

(なんでだ……マタムネのことを素直に応援できない……)

 

ついにマタムネに追い詰められたエンジェル。

恐怖でエンジェルは足元の根っこに気づかず、つまづいて尻餅をついてしまう。

 

「キャッ!!」

 

「今でごじゃる!!!」

 

倒れた瞬間にマタムネはエンジェルの胸に抱きついた。

 

「ちょっ…ちょっと!離れるんだゾ!!」

 

「むふー、エンジェル殿の胸は張りがあってムチムチ系でごじゃるな。ルーシィ殿の柔らかいモチモチ系のオッパイと違ってこれもいいでごじゃるぅ〜」

 

「あっ…!どこ触ってるんだゾ!!んっ…!やん!」

 

マタムネはエンジェルの胸を存分に味わうため動き回る。

 

「それにこの服でごじゃる!!もうエロスの塊でごじゃるな!!たまらんでごじゃる!!」

 

「人の…!!んぅ…!服を勝手にぃ……!!あんっ…!エロいとかぁ…!言うなだゾ!!んんっ!!」

 

エンジェルはマタムネの不規則な動きに淡い快感が走ってしまい、エンジェルの動きは鈍い。

それを見逃さないゲスいマタムネはさらに高速に動きまくった。

 

「トドメでごじゃるうぅぅっ!!!」

 

「ダメ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

エンジェルの叫び声が樹海に響き渡った。

 

 

そのころナツたちはエルザが待つ樹海を走っていたが、地図もなくどこに向かって走ればいいかわからなくなっていた。

 

「くっそー〜!今どこ走ってんだ?」

 

「ええ!?わかってて走ってたんじゃないんですか!!?」

 

ナツのまさかの言葉にウェンディを背負っているレインは疲れた様子で驚いた。

 

「レイン、俺がウェンディを運ぼうか?辛えだろ」

 

ウェンディとレインの体格はほぼ同じで、しかもレインはどちらかと言うと華奢な体つきだ。

辛いと思ったナツはそう提案するがレインは覚悟を決めた目でナツを見て断った。

 

「いえ、大丈夫です!ウェンディは僕の大切な仲間なんです!最後までやり遂げてみせます!」

 

ナツはレインの真剣な目を見て、笑った。

 

「そっか!なら頼んだぜ!!」

 

「はい!!」

 

するとナツとレインの頭に突然声が聞こえた。

 

〈ナツ君、みんな、聞こえるかい?〉

 

「!」

 

「これは……」

 

〈僕だ……青い天馬ブルーペガサスのヒビキだ。よかった……誰も繋がらないから焦ってたんだ〉

 

「どこだ!?」

 

〈静かに!!敵の中におそろしく耳のいい奴がいる。僕たちの会話は筒抜けている可能性がある。だから君たちの頭に直接語りかけてるんだ〉

 

「ヒビキさん。ウェンディたちを救出しました」

 

〈よかった!!さすがだよ。これからこの場所までの地図を君たちの頭にアップロードする。急いで戻ってきてくれ〉

 

「アップロード? それって……」

 

レインがそう問い掛けようとすると、その場にいた全員の頭に情報が流れ込んできた。

 

「おおっ!!?何だ何だ!!?」

 

「スゴイです…まるで元から居場所を知ってたみたいだ…」

 

〈ハハッ、これが僕の魔法、情報圧縮魔法『古文書(アーカイブ)』だよ。人に口より早く情報を教えられるんだ〉

 

「とにかくこの頭の中のところに行けばいいんだな!行くぞレイン!!」

 

「はい!!」

 

〈急いで、みんな〉

 

こうして、ナツたちはヒビキの魔法によって頭に流れ込んできた情報を頼りに、エルザたちのもとへと急いで行った。

 

 

 

「ふう〜!いい汗かいたでごじゃる!!」

 

マタムネは額から流れる汗を拭い、いい笑顔でそう言った。

その後ろでは服が崩れたエンジェルが顔を赤くし、息を荒くして、仰向けで倒れていた。

呼吸をする度に形のいいオッパイが揺れている。

 

「マ…マタ……ムネ、早く……」

 

「もう〜せっかちでごじゃるなぁ。慌てなくても助けるでごじゃるよ」

 

「そう……じゃ…なく……て……うし……ろ……」

 

「後ろ?」

 

ハルトが気持ち悪そうにしながらもマタムネの後ろを指差し、マタムネがそれにつられて後ろを向くと、

 

「覚悟するんだゾ」

 

「ウィーアー」

 

胸元抑えて怖い顔をしたエンジェルと抑揚がない声でいつもの決め台詞を言うスコーピオンがいた。

 

「……………ヤバイでごじゃるな!!」

 

樹海にネコの絶叫が響き渡った。

 

「うぅ………」

 

マタムネは顔をボコボコにされ簀巻きの逆さ吊りにされてしまったが、何故だか可哀想と思えない。

 

「ふう、スッキリしたゾ」

 

「エンジェル、俺は星霊界に帰らせてもらうぜ」

 

スコーピオンが尻を押さえながらそう言う。

まだ痛いようだ。

 

「わかったゾ〜」

 

スコーピオンが星霊界に帰るのを確認すると、エンジェルは今だに身動きが取れないハルトのほうを振り向く。

 

「さて、と……邪魔者も居なくなったし、これからお楽しみだゾ♪」

 

エンジェルは唇をペロリとひと舐めしてハルトを誘惑してくるが、ハルトは乗り物酔いの気持ち悪さでそれどころではなかった。

 

「ぐふ……気持ち悪い……」

 

「私のことじゃないってわかってるけどちょっと傷つくゾ……」

 

エンジェルは川に入ってハルトが乗っているイカダに近づいていく。

 

「あのネコ、気持ち悪かったけどなかなか良かったゾ。ちょっと体が火照っちゃったゾ♡」

 

「なら……水浴び……でも……すれば……いいだろ……が……」

 

「そういうことじゃないのに、誤魔化して可愛いゾ♡」

 

エンジェルはイカダに乗り、ハルトを仰向けにして、シャツの下に手を入れる。

 

「ぐ…ふっ……」

 

「我慢しなくてもいいんだゾ♪もっと素直になっても……」

 

エンジェルの手が腹から胸へと少しずつ上がっていく。

手つきは滑らかで少し、くすぐったさを感じてしまう。

 

(くそっ……力が入らねえ……!!)

 

拳に力を入れようにも力が入らない。

 

「……の前に、お仕事をするゾ。開け双子宮の扉、ジェミニ」

 

エンジェルがジェミニを呼ぶとジェミニの額に絆創膏が張られていた。

 

「「ピーリ、ピーリ」」

 

「あのネコどうしたの?」

 

「まだいるの?」

 

「あそこだゾ」

 

エンジェルが指さす方向にいるマタムネを見つけるとジェミニはそこらへんにあった枝や木の実を顔の穴全てに刺していった。

 

「ムガー!!(何するでごじゃるー!!)」

 

「さっきの仕返しだよー」

 

「仕返し、仕返しー」

 

「ハイハイ、お遊びはそこまでにして記憶を覗くゾ」

 

「でもこの人魔力、エンジェルよりだいぶ高いよ?」

 

「自分より魔力高い人には変身できないよ?」

 

ジェミニの能力は変身。

変身したあいての記憶、情報、能力を全て扱えるようになるのだ。

しかし、その相手が自分より魔力が低い者に限られる。

 

「大丈夫だぞ。記憶を覗くだけなら変身しなくていけるゾ」

 

「あれ疲れるよー」

 

「やだなー」

 

「文句言わないゾ。それじゃあ、やるぞ」

 

エンジェルとジェミニはハルトの頭に手を乗せて、目を瞑り集中する。

するとエンジェルの頭に記憶が流れ込んで来る。

 

ボスコで過ごした幼少期

 

妖精の尻尾に入った時期

 

ラクサス、カミナと過ごした時期

 

そしてエンジェルが見たい記憶がやっと見えてきた。

 

「見つけたゾ」

 

エミリアとの出会いの記憶

 

エミリアと共に戦った記憶

 

エミリアと愛し合った記憶

 

そして……エミリアを手にかけた記憶

 

「よ…よせ……!!」

 

ハルトは苦しそうにもがくがエンジェルの手は離れない。

そしてエンジェルがエミリアに関する記憶の中でもとくに注意して見ていたのが、エミリアの持つ金と銀の二色の色を持つ星霊の鍵だった。

そしてその鍵はエミリアと共に埋葬されていったのを最後に見なくなった。

 

「とうとう見つけたゾ……!!オリオンの鍵!!」

 

エンジェルは興奮したようにそう言いながらハルトの記憶を覗いているとあることに気づいた。

最近の記憶ではある少女がハルトの記憶に何度も出ていた。

その少女はルーシィだった。

それを確認するとエンジェルはハルトの頭から手を離した。

 

「ふーん。あの子がお気に入りなんだ?」

 

「ハア……ハア……クソ……」

 

「じゃ僕たち帰るね」

 

「お疲れー」

 

エンジェルはつまらなさそうにハルトを見ると、突然顔を近づけてキスをした。

 

「んっ」

 

「!!」

 

「んう……ぷはっ」

 

「……何しやがる」

 

「別にだゾ……ねえ、ハルト。もしルーシィを殺したら……ハルトはどうなるかな?」

 

「そんなこと……してみろ……タダじゃおかないぞ……!!」

 

ハルトは苦しそうにしながらもエンジェルをあらん限りの力で睨む。

しかし、エンジェルはそれを見てとても嬉しそうだ。

 

「やっぱり、その時のハルトが一番カッコイイゾ。興奮しちゃう♡

………4年前のオルレアンの内戦を思い出すゾ」

 

エンジェルはハルトに跨り、シャツを切り裂く。

そこには鍛えられたハルトの体が露わになり、エンジェルはハルトの体に頬ずりをし、舐めようとしたが視線に気づいた。

視線の出所は穴に色々と詰められたマタムネがエンジェルたちを凝視していた。

 

「………」

 

「べ、別に見てないでごじゃる!!さあ、早く続きを!!」

 

マタムネは目が血走りながらも凝視し、エンジェルはジト目で睨む。

 

「ンーーーー!!!?」

 

「これでよしだゾ♪」

 

エンジェルはマタムネの目と口を布で閉じた。

 

「これで邪魔者はいなくなったゾ♡それじゃあ……楽しむゾ♡」

 

「…………くそ」

 

水面に浮かぶエンジェルの影はハルトの影は一つになる。

 

(ふふふ……せっしゃにかかれば目を閉じていられようが音だけで状況がわかるでごじゃ……ってそんなことまでするでごじゃるか!?す、すごいでごじゃるー!!)

 

マタムネの鼻から赤い線が流れ出た。

 

 




オルレアンの内戦……5年前に起こった内戦。貴族間での内戦で多くの被害が出た。裏で闇ギルドが手を引いている噂もあった。


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第96話 ニルヴァーナ

ヒビキから集合場所を教えてもらったナツはすぐにたどり着いた。

そこには毒に苦しむエルザとエルザを看病しているルーシィ、そしてヒビキがいた。

 

「着いたー!!!」

 

「ナツ!!」

 

「スゲーな。お前の魔法!!ここまでの道が頭の中にスラスラと出てきたぜ!!」

 

「ナツ君!それよりウェンディちゃんをエルザさんに!!」

 

「おう!そうだな!!」

 

「ウェンディ!!起きて!!ウェンディ!!!」

 

レインがウェンディを地面に下ろして、優しく揺さぶるとウェンディはゆっくり目を開けた。

 

「ひっ!」

 

「ウェンディ!僕だよ!!」

 

気がついたウェンディは咄嗟に後ろに退いてしまうが、レインが腕を広げて安心させるように語りかけると、ようやく理解出来たのか、落ち着いてきた。

 

「レ…イン?レインなの?」

 

「そうだよ」

 

「うぅ…レイン〜!」

 

ウェンディは泣きながらレインに抱きついた。

幼い少女には怖かったのだろう。

 

「ウェンディ!!頼む!!」

 

そこにナツが頭を下げてきた。

 

「ナツさん……ごめんなさい……私……」

 

「ウェンディ、落ち着いて」

 

暗く、怯えた表情でジェラールを復活させたことを謝るウェンディにレインが落ち着かせるように優しく諭す。

 

「今はそんなことどうでもいい!!!頼む!!!エルザが毒ヘビにやられて大変なんだ!!!!」

 

「治せるのはウェンディしかいないの!!!お願い!!!」

 

そう言って頭を下げるナツとルーシィにウェンディは今の状況が理解できなかった。

 

「毒?」

 

「エルザさん、六魔将軍と戦った時に毒ヘビに噛まれて、死んじゃうかもしれないんだ」

 

「六魔将軍と戦うにエルザさんの力が必要なんだ」

 

「お願い!!!助けて!!!」

 

「も、もちろんです!!!はい!!やります!!!がんばります!!!」

 

とりあえずウェンディはジェラールのことを忘れ、エルザを助けることに集中し、さっそく治療に取り掛かる。

 

「よかったぁ~」

 

「ねー」

 

「いつまで伸びてんのよ、だらしない」

 

「あ、ハッピーとシャルル、ミントも目が覚めたんだね」

 

レインはハッピーたちが目を覚ましたのに気づいた。

 

(ジェラールとこんなところで再会するなんて思わなかったな……僕たちのこと忘れちゃったのかな……?)

 

(ジェラールがエルザさんに酷いことをしたなんて……)

 

レインとウェンディの心中はジェラールのことでいっぱいだった。

 

 

そして、そのジェラールはと言うと一人樹海の奥地へと歩いていき、その背後には物陰に隠れたコブラの姿があった。

 

(それにしてもこいつ…心の声が聴こえねえ。心の声さえ聴こえれば、後をつける必要もねえのに)

 

そんな事を思いながらジェラールの尾行を続けるコブラ。

すると、ジェラールが立ち止まる。

 

(止まった)

 

そんなジェラールの視線の先にはいくつのも鎖に繋がれ、他よりもひと際大きい大木があった。

 

(なんだここは…!!?樹海にこんな場所が。まさかブレインの言った通り…ここにニルヴァーナが……)

 

そしてジェラールが大木に手を翳すと、繋がれていた鎖が外れ、大木が爆発するようにハジケ飛ぶと、そこから一筋の光が溢れ出した。

 

(おおっ!!!ついに見つけた!!!オレたちの未来……!!!)

 

 

「終わりました。エルザさんの体から毒は消えました」

 

「ん」

 

エルザの顔色がみるみる良くなっていく。

 

「おっしゃー!!!」

 

エルザの顔から苦しそうな表情は消えたのを見て、ナツたちは歓喜の声を上げる。

 

「ルーシィ、ハイタッチだーっ!!!」

 

「よかった~~!」

 

ナツはルーシィと喜びを分かち合い、レインとウェンディにも振り返る。

 

「レインとウェンディも!!!」

 

「はい!!

 

「は…はい……」

 

レインも元気よく、ウェンディは少し恥ずかしそうにしながらナツとハイタッチした。

 

「シャルル!ミント!オイラたちも!!」

 

「仕方ないわね」

 

「イエ〜イ」

 

ハッピーたちもエルザの無事を喜び、ハイタッチをする。

 

「……しばらく目を覚まさないと思いますけど、もう大丈夫ですよ」

 

ウェンディは少し疲れた様子でナツたちに言う。

 

「すごいね…本当に顔色がよくなってる。これが天空魔法」

 

「近いなー」

 

ヒビキがエルザの顔色を至近距離で確認しており、ミントがそれを見てとりあえずツッコむ。

 

「いいこと? これ以上天空魔法をウェンディに使わせないでちょうだい」

 

「ウェンディの天空魔法は結構魔力を使っちゃうんです」

 

「私の事はいいの。それより私……」

 

そう言ってどこか申し訳なさそうな表情をしているウェンディ。

 

「とにかく、これでエルザさんは無事だ」

 

「あとはエルザが目を覚ませば反撃開始だね!!」

 

「おっーーーー!!!ニルヴァーナは渡さねぇぞぉ!!!!」

 

全員が改めて打倒六魔将軍の気合いを入れた。

しかし、その瞬間突然樹海から黒い光の柱が現れた。

 

「なに!?」

 

全員がその光に目を向けるとその光は天を突かんばかりにそびえ立っている。

 

「黒い光の柱……」

 

「まさか……」

 

「あれは……ニルヴァーナ!!?」

 

「まさか六魔将軍に先を越された!?」

 

「いや、六魔将軍じゃねえ……あれはジェラールだ!!」

 

「ジェラール!!?」

 

ナツの言葉にルーシィは驚く。

ナツは怒りの表情で突然走り出してしまった。

 

「ちょっとナツ!!ジェラールってどういう事!!?」

 

「私の…私のせいだ……」

 

「ウェンディ……」

 

ルーシィがナツにジェラールのことを聞こうとするが、怒りでナツは聞こえておらず、光のほうに走ってしまった。

ウェンディはニルヴァーナの封印を解かれたのが自分のせいだと落ち込み、レインが声をかけるがそれに気づかないほど落ち込んでいる。

そしてその時エルザの目が僅かに開いていることに誰も気づかなかった。

 

 

ニルヴァーナの封印が解かれたことは各地で戦っている連合軍、六魔将軍も気づいていた。

 

「あれがニルヴァーナ……不気味な光だゾ。でも……」

 

エンジェルの服は少しはだけており、汗が浮かんで顔は上気していた。

その下にはハルトが寝ており、ハルトのジャケットは脱がされ、シャツは破かれていた。

そしてその肌には赤い斑点があっちこっちにあった。

エンジェルはそんなハルトを面白そうに見る。

 

「目を覚ませばハルトはこっち側に来ることに間違い無しだゾ♪」

 

エンジェルはそう言ってまたハルトの体に倒れる。

そしてそれを聞いた吊るされてるマタムネは焦る。

 

(マズイでごじゃる……!ニルヴァーナが目覚めたら、ハルトどうなっちゃうでごじゃる!?そして……このままじゃせっしゃが出血死しちゃうでごじゃる!!誰かー!!助けてでごじゃるぅぅぅっ!!!)

 

マタムネは鼻から血を流しながら心の中で叫んだ。

 

 

「ナツ君を追いかけよう。さすがにこの状況で1人は危険だ」

 

ヒビキがそう提案し、全員が頷く。

 

「ナツ、ジェラールって言ってたよね……」

 

「説明は後よ!!それより今は追いかけに……」

 

「あーーーーー!!!」

 

ルーシィはやはりナツの言葉が気になるようだが、シャルルはそれよりナツを追いかけることに集中するように呼びかけるが、ミントの驚く声がそれを遮った。

 

「どうしたのよ!!」

 

「エルザがいないよー」

 

『ええ!?』

 

エルザがいつのまにかいないことに全員が驚く。

 

「なんなのよあの女!!ウェンディに一言の礼もなしに!!!」

 

「エルザ……もしかしてジェラールって名前を聞いて……」

 

その事に対し、シャルルは憤慨し、ハッピーはエルザが消えた理由をそう考えた。

 

「どうしよう…私のせいだ…」

 

「ウェンディのせいじゃないよ」

 

頭を抱えて自責の念に駆られるウェンディを慰めるレインだが、ウェンディの自責は止まらない。

 

「私がジェラールを治したせいで……ニルヴァーナ見つかっちゃって、エルザさんや…ナツさんが……」

 

涙を浮かべて自責の言葉を口にするウェンディ。

すると突然ヒビキがウェンディに向かって魔法弾を放ち、吹き飛ばした。

 

「ちょっ……!!」

 

「何するのー!」

 

「アンタいきなり何するのよ!!!」

 

「ヒビキさん!!何するんですか!!!」

 

ヒビキの突然の攻撃にルーシィは驚き、レインたちはヒビキを責めるが、ヒビキは冷静な表情をしていた。

 

 

 

「ジェラール……」

 

ナツは怒りがこもった目で光の柱を睨む。

実際にはそのもとにいるであろうジェラールに対しての怒りだ。

するとナツの目の前に多くの闇ギルドの集団が現れた。

よく見るとギルドマークがバラバラでその数は2、3個ある。

 

「来たぞ!!妖精の尻尾だ!!!」

 

「コブラ様の元に行かせるな!!!」

 

「ここで倒しちまえー!!!」

 

多くの闇ギルドの魔導士たちがナツを倒すべく、囲んでくる。

ナツは立ち止まり、拳に炎をたぎらせる。

 

「テメぇら邪魔だ!!!どけぇっ!!!」

 

ナツが炎を放ち、敵を蹴散らすがそれでも敵は湧いて出てくる。

 

「エルザには近づけさせねえぞー!!!」

 

 

 

「驚かしてごめんね、でも気絶させただけだから」

 

「どうして!?」

 

「ナツ君たちとエルザさんを追うんだよ。僕たちも光に向かおう」

 

あの後、ヒビキは気絶させたウェンディを背負って、ルーシィたちと共に光に向かって走っていた。

 

「納得できないわね。確かにウェンディはすぐぐずるけど、そんな荒っぽいやり方」

 

「そうだよ」

 

「だよねー」

 

さっきのヒビキの行動に異を唱えるシャルルたちだが、ヒビキは仕方ないと言った表情をする。

 

「仕方なかったんだよ。本当の事を言うと……僕はニルヴァーナという魔法を知っている」

 

『!!!』

 

ヒビキのその言葉に全員が驚く。

 

「ただ、その性質上誰にも言えなかった。この魔法は意識してしまうと危険だからなんだ。だから一夜さんもレンもイヴも知らない、僕だけがマスターから聞かされている」

 

「そんなに危ない魔法なんですか?」

 

「うん、これはとても恐ろしい魔法なんだ」

 

レインの問いに頷きながらヒビキは答える。

 

「光と闇を入れ替える。それがニルヴァーナ」

 

「光と闇を……」

 

「入れ替える!?」

 

「しかしそれは最終段階。まず封印が解かれると黒い光が上がる、まさにあの光だ。黒い光は手始めに、光と闇の狭間にいる者を逆の属性にする。強烈な負の感情を持った光の者は、闇に落ちる」

 

「それじゃあ、ウェンディを気絶させたのは……」

 

「〝自責の念〟は負の感情だからね、あのままじゃウェンディちゃんは闇に落ちていたかもしれない」

 

レインの問いに答え、何故ウェンディを気絶させたかを語るヒビキ。

 

「ちょっと待って!! それじゃ〝怒り〟は!?」

 

「ナツ君、相当怒ってたよねー」

 

「何とも言えない…その怒りが誰かの為なら、それは負の感情とも言い切れないし」

 

「どうしよう……意味がわからない」

 

「あんたバカでしょ。つまり、ニルヴァーナの封印が解かれたその瞬間から、光と闇…正義と悪とで心が動いてる者の性格が変わるって事よ」

 

「それが僕がこの魔法の事を黙っていた理由。人間は物事の善悪を意識し始めると、思いもよらない負の感情を生む」

 

「そんなに危険な魔法なんて……」

 

ヒビキのニルヴァーナの説明に息を飲むルーシィだが、そこにヒビキは付け足す。

 

「僕が本当に心配しているのはナツ君よりハルト君だ」

 

「ハルト?なんで……」

 

「ハルト君、さっきの六魔将軍との戦いで明らかに奴らに殺意を持っていた。もしそれがニルヴァーナで入れ替わってしまったら……」

 

ヒビキが眉間に皺を寄せながら難しそうな表情でそう言う。

 

「で、でもハルトはニルヴァーナになんかは……」

 

ルーシィは言い返そうとしてもヒビキは首を横に振って、それを拒否する。

 

「無理だよ。ニルヴァーナは魔法は絶対だ。その心が光と闇に揺れ動いているなら必ず引っかかる」

 

ヒビキの言葉にルーシィは何も言えなかった。

ルーシィもハルトが殺意を持っていたのを感じていたからだ。

 

「そして、もしハルト君がニルヴァーナの魔法にかかって、闇に傾倒するようになったら………僕たちは全滅するかもしれない」

 

ヒビキの衝撃的なか言葉に全員が息を飲む。

 

「ハルト君の実力は僕たち連合の中でもトップクラスだ。対抗できる人はここには誰もいないし……気をつけていこう」

 

「そのニルヴァーナが完全に起動したら、あたしたちみんな悪人になっちゃうのー?」

 

「でも…それは逆に言えば、闇ギルドや他の悪人たちは善人になるって事じゃないですか?」

 

「そういう事も可能だと思う」

 

 

レインの質問に頷きながら答えるヒビキ。

 

「ただ、ニルヴァーナの恐ろしさはそれを意図的にコントロールできる点なんだ」

 

「そんな!!!」

 

「善悪の入れ替えを意図的にコントロールって……そんな事したら!!!」

 

「あぁ…例えばギルドに対してニルヴァーナが使われた場合、仲間同士での躊躇なしの殺し合い……他ギルドとの理由なき戦争。そんな事が簡単に起こせる」

 

ヒビキのその言葉に、全員が驚愕し、顔を青ざめさせる。

 

「一刻も早く止めなければ、光のギルドは全滅するんだ」

 



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第97話 乙女合戦

ルーシィたちはナツを追うべく、ニルヴァーナの光の柱に向かって走っていると川に辿り着いた。

そこには……

 

「ハルト!!」

 

ハルトが何故か服が脱げた状態でイカダの上に倒れていた。

ルーシィがハルトを呼んでも反応しない。

 

「なんでこんなところに……」

 

「でも気絶しているようだね。よかった……」

 

レインは何故ここにいるのか不思議がり、ヒビキはハルトの意識がないこと確認し、安心した。

 

「待ってて!今助けるから……」

 

「その必要はないゾ〜」

 

ルーシィが川に入って、ハルトを助けにいこうとすると対岸から声が聞こえてきた。

ルーシィが声がするほうを見るとそこにはエンジェルが立っていた。

 

「エンジェル!?」

 

「そうだゾ。ハルトはこっちが貰うから助ける必要なんかないゾ」

 

エンジェルが平然にそう言うとルーシィは否定する。

 

「何言ってんのよ!!ハルトはアタシたちの仲間よ!!」

 

「ふーん。まっ、ニルヴァーナが手に入ればそんなの関係ないゾ」

 

ヒビキが言った通り、ニルヴァーナがあれば人の善悪を操れるので、ハルトを六魔将軍の一員にすることなんて簡単だ。

 

「それにハルトは私の体がイイって言ってたゾ♪」

 

「ハ?」

 

ルーシィの声が少し低くなった。

 

「何言ってんのよ。ハルトがそんなこと言うわけないじゃない」

 

「ハルト自身が言ってなくても体が言ってたゾ」

 

「体がって何言ってんのよ。馬鹿じゃないの?」

 

ルーシィの体から黒いオーラみたいのが出ているようにレインたちには見えた。

 

「ル、ルーシィさん……怖いです」

 

「レイン君、覚えておくといいよ。女性は怒らせると怖いんだ……」

 

ルーシィに怯えるレインにヒビキはどこか哀愁を漂わせながら語った。

 

「それに体が全てじゃないでしょ」

 

「フフ……経験もない小娘がよく言うゾ♪」

 

「ぐ……」

 

「経験ってなんですか?」

 

「うーん……まだレイン君には早いかな?」

 

ジェミニは変身した人物の情報を全てわかる。

一度変身されたルーシィのそういう情報も分かってしまう。

 

「か、体が何よ!!アタシのほうがハルトのこと好きなんだから!!!」

 

「言葉ではなんとでも言えるゾ。やっぱり大人の恋愛ならそういうこともしておかないといけないゾ♪」

 

ルーシィが少し声を荒げて言うがエンジェルは余裕の表情で返す。

ルーシィは気絶しているハルトの体を横目でチラッと見るとその体にはキスマークがチラホラと見える。

 

「おいしかったゾ♪」

 

「う〜……」

 

ルーシィがやや不利になったその時、

 

「大丈夫でごじゃるよ!!ルーシィ殿!!」

 

「えっ!?マタムネ!!」

 

「あのネコいつのまに……」

 

木に吊るされていたマタムネが口の布を解いてルーシィに向かって話した。

 

「ハルトとエンジェル殿は本番はヤっていないでごじゃる!ルーシィ殿を挑発しているだけでごじゃる!!」

 

「なんでそんなことわかるんだゾ!!見えていなかったくせに!!」

 

「せっしゃくらいになると音を聞くだけで、何が起こってるかわかるでごじゃる!!ちょっと興奮しちゃったから鼻血がヤバイでごじゃるが!!」

 

マタムネが強気でそう豪語するが、それを言った瞬間、周りの空気が少し冷めたように感じた。

 

「……なんでこんな空気になるでごじゃる?」

 

「マタムネ……」

 

「やっぱりサイテーだゾ」

 

一瞬白ける空気だがルーシィが仕切り直す。

 

「と、とにかく!ハルトは渡さないんだから!!」

 

「アンタと私の魔力じゃ差がありすぎるゾ」

 

「1人じゃないさ」

 

ルーシィが啖呵を切るが、エンジェルは余裕の笑みを浮かべる。

しかしヒビキとレインがルーシィの前に一緒にエンジェルに立ちふさがる。

 

「ルーシィ、君はハルト君を助けに行ってくれ。僕たちがエンジェルを押さえるから」

 

「任せてください!」

 

「うん!」

 

「生意気だゾ。開け、彫刻具宮の扉、カエルム」

 

エンジェルはカエルムを召喚し、砲台にし、ルーシィたちに向かって魔力砲を放つ。

 

「水竜の鱗!!」

 

それをレインの水の滅竜魔法、盾の魔法で防ぐ。

 

「今だ!!」

 

「ハルト!!」

 

「開け。双子宮の扉、ジェミニ」

 

「二体同時!?」

 

レインがカエルムの攻撃を防いでいる間にルーシィがハルトに目掛けて走るが、エンジェルは同時にもう一体召喚する。

ルーシィはエンジェルが二体同時に召喚したことに驚き、足を止める。

 

「ならこっちも……!!開け!金牛宮の扉!!タウロス!!」

 

「MOOOOOO!!!」

 

ルーシィはタウロスを召喚して、ジェミニと対抗させるがエンジェルはタウロスを見るとほくそ笑む。

 

「ジェミニ」

 

「「ピーリ、ピーリ」」

 

エンジェルがジェミニに指示を出すと、ジェミニはルーシィに変身した。

 

「馬鹿だね。ここにいる人に変身しても意味がない」

 

「フフ…本当にそうかな?」

 

ヒビキがエンジェルにそう言うが偽ルーシィは怪しく笑うと、突然服をたくし上げ、ルーシィの大きな胸がプルンと揺れながら現れ、男たちに見せる。

 

「「おおっ!!!」」

 

「ちょっと!何してんのよ!!?」

 

「見ちゃダメだよー」

 

「そうね」

 

「うわっ!ミント、シャルル!見えないよ!!」

 

「ちょっ!?何が起こってるでごじゃる!?今なんかオッパイが揺れる音がしたでごじゃるが!!!」

 

「マタムネ、ある意味すごいね……」

 

ヒビキとタウロスは突然のことに興奮し、シャルルとミントが見える前にレインの目を塞ぎ、マタムネはその驚異的な聴力で何が起こったか瞬時に判断した。

マタムネを助けに来たハッピーは少し呆れた。

 

「カエルム」

 

エンジェルはカエルムを呼ぶと、カエルムは砲台をレインにではなくタウロスに向けて、砲撃を放った。

 

「MOOO!?」

 

「タウロス!!」

 

「ル、ルーシィさん……すまない」

 

タウロスは強烈な一撃により強制的に星霊界に帰らさせる。

 

「なら……開け!人馬宮の扉!!サジタリウス!!」

 

「もしもーし!!」

 

「へえ〜本当に黄道十二門の鍵をたくさん持っているんだ。……生意気だゾ」

 

エンジェルの目が少し薄くなってルーシィを見る。

 

「サジタリウス!あの女に攻撃!!」

 

「了解であります!!」

 

「カエルム」

 

サジタリウスが矢を放つがカエルムが盾に変形して簡単に防ぐ。

 

「霊槍スイレーン!第二形態!!『群れ(ショール)』!!!」

 

レインが神器、霊槍スイレーンを形態変化させて攻撃するがそれもカエルムによって防がれる。

 

「そんな弱い攻撃じゃカエルムは壊さないゾ」

 

「くっ……」

 

「あそこまで星霊を使えこなせるなんて……」

 

レインは悔しそうにし、ヒビキはエンジェルの星霊の扱いに舌を巻く。

 

「これだけじゃないゾ。ジェミニ」

 

「うん、サジタリウス!」

 

偽ルーシィがサジタリウスを呼ぶと突然サジタリウスはヒビキに向かって矢を放った。

 

「がっ!?」

 

「ヒビキさん!!」

 

「ちょっとこの馬!!裏切り!!?」

 

突然のサジタリウスの攻撃に驚くレインたち。

サジタリウスも何が起こっているかわからなかった。

 

「ちょっとサジタリウス!!何してるの!?」

 

「いや、それがしの体が勝手に……」

 

「どういうこと!?」

 

ルーシィが戸惑いながりヒビキを手当てをしていると偽ルーシィがまた話し出す。

 

「サジタリウス〜そこにはいる子供と猫たちも打っちゃって」

 

「アンタ何言って……」

 

するとサジタリウスはレインたちとハッピーたちに向かって連続で矢を放った。

 

「水竜の鱗!!」

 

「何するのよ!!」

 

「危ないよー!」

 

「い、いや、それがしは……」

 

レインは咄嗟に防ぎ、シャルルとミントはサジタリウスに向かって非難を浴びせる。

 

「あ、危なかった〜」

 

「ハ、ハッピー殿…せっしゃを盾にするのはひどいでごじゃる……」

 

ハッピーは咄嗟に吊るさせれているマタムネを盾にして矢を避けるが、マタムネは必死に体を揺らして矢を交わすが一発額に当たってしまった。

 

(もしかしてアタシの星霊を操ってる……?)

 

「レイン!ウェンディを連れて逃げて!!コイツやばい!!」

 

「は、はい!!」

 

「言われなくてもそうするわよ!!」

 

「オーケ〜!」

 

「サジタリウス強制閉門!!」

 

「申し訳ないからでしてもしもし……」

 

シャルルは気絶しているウェンディをミントはレインを抱えて、空に飛んで行った。

ルーシィはこれ以上サジタリウスを操られないために強制閉門するが、

 

「開け。人馬宮の扉、サジタリウス」

 

「もしもーし!!ってあれ?」

 

偽ルーシィがなんとさしの鍵を取り出し、サジタリウスを召喚したのだ。

 

「うそ!?」

 

「サジタリウス。あの飛んでいる猫と子供を殺して!!」

 

「しかし、それがしは……」

 

「強制閉門!!!」

 

「無駄無駄。アタシが召喚したサジタリウスだもん」

 

ルーシィがサジタリウスに向かって強制閉門をするが、召喚したのは偽ルーシィであるためにそれが効かない。

 

「そんな……」

 

「サジタリウス、早くしてよ!!」

 

「いや、だからそれがしは……」

 

「オーナーの言うことがきけないの?」

 

偽ルーシィが睨むとサジタリウスの体はゆっくりと弓矢をレインたちに向ける。

 

「サジタリウス!やめて!!」

 

「そ、それがしは……」

 

「早く殺して!!」

 

「くううぅぅっ!!」

 

サジタリウスは悔しそうにしながらも体が偽ルーシィをオーナーと認めて、命令を実行してしまった。

 

「もしもーし!!!!」

 

「レイン!!!」

 

サジタリウスは矢を放ってしまい、ルーシィがレインに向かって叫ぶと、レインは即座に反応した。

 

「水竜の鱗!!!」

 

盾で防ぎながらレインたちは逃げていく。

 

「もう何やってんのよ!!役立たず!!」

 

「うぅ……それがしは……」

 

サジタリウスは悔しそうに膝をつく。

 

「ジェミニ、もういいゾ。ニルヴァーナが起動したってことはあの子の必要はなくなったってことだゾ。神器は後で回収すればいいし」

 

「「なーんだ」」

 

「うおっ!?」

 

ジェミニが元の姿に戻るとサジタリウスは星霊界に帰って行った。

 

「さてと、それじゃあ邪魔者には死んでもらうゾ。カエルム」

 

カエルムがエンジェルの指示で連射モードになり、ルーシィたちに照準を合わせる。

 

「撃て、だゾ」

 

「ルーシィ殿ー!!」

 

「きゃっ!!」

 

ルーシィたちに弾丸が当たる前に解放されたマタムネとハッピーがルーシィとヒビキに抱きつき、木の陰に隠れた。

 

「マタムネ!!」

 

「ルーシィ殿無事でごじゃるか!?」

 

「う、うん。ありがとう……無事だから胸から離れなさい」

 

マタムネはルーシィを助けるどさくさに紛れてルーシィの胸に顔を埋めていた。

ルーシィはマタムネを引き剥がし、木の陰からエンジェルを伺うが顔を出した瞬間、カエルムの連射が放たれて前に出れない。

 

「カエルムの攻撃のせいで前に出れない……どうしよう」

 

「せっしゃに任せるでごじゃる!!」

 

「オイラも行くよ!!」

 

マタムネとハッピーが上空に飛び出し、エンジェルに向かって行く。

 

「行くでごじゃる!!」

 

「あいさー!!!」

 

「ジェミニ」

 

木刀を構えたマタムネとハッピーが急スピードで向かっていくとエンジェルはカエルムを使わず、ジェミニに指示を出し、ジェミニは変身する。

 

「アイスメイク、シールド!!」

 

「「イターー!!!」」

 

ジェミニはグレイに変身してエンジェルの前に盾を作る。

 

「マタムネ!!ハッピー!!」

 

「ふん」

 

「「ぽげー!!!」」

 

偽グレイはマタムネとハッピーを氷漬けにしてしまった。

 

「さて、これからじっくりと料理してあげるゾ。ルーシィちゃん♡」

 

エンジェルは隠れているルーシィを妖しい目で見た。

 

(ハルトもヒビキも戦えない。アタシが何とかしなくちゃ!!)

 

ルーシィは覚悟を決めて、エンジェルの前に姿を現わす。

 

「フフ……追い詰められてヤケになった?カエルム」

 

カエルムがルーシィに向かって連射を放つが、ルーシィはアクエリアスの魔力を借りて水のバリアで防ぐ。

 

「本当に星霊の魔力を行使できるのか……そんな高等魔法ができるなんて生意気だゾ」

 

「これでアンタの星霊の攻撃は効かないわ!!」

 

「どうかな?カエルム」

 

カエルムは単発の砲台になったが、その砲身は今までで一番長い。

 

「カエルム・ロングバレルバージョン。やっちゃっていいゾ」

 

カエルムの砲身に魔力が集まり一直線の高魔力砲が放たれた。

 

「きゃあっ!!」

 

ルーシィの水のバリアをいとも簡単に貫くが、ルーシィは咄嗟に横に飛び退いた。

しかしカエルムの攻撃は地面をえぐり、その部分が煙が上がるほどだった。

ルーシィはそれを見て、恐怖で体が震えてしまう。

 

「例え応用魔法が使えても意味がないゾ。地力が違う」

 

エンジェルは震えるルーシィを静かに見つめる。

その目には殺意があることはルーシィにもわかった。

 

「さーて、ルーシィちゃん。これからゆっくり料理してやるゾ♡」

 

エンジェルは可愛く、軽く言うがルーシィには悪魔の言葉に聞こえた。




第91話の霊槍スイレーンの形態を少し変えました。
ご指摘ありがとうございました。


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第98話 星霊合戦

ルーシィに圧倒的な実力を見せたエンジェル。

ルーシィの切り札、星霊からの魔力の譲渡も簡単に攻略されてしまった。

 

「震えているだけならこっちから行っちゃうゾ?」

 

ルーシィはエンジェルの言葉でハッと意識が恐怖から戻った。

 

(何震えてんのよ!ハルトを助けなきゃいけないでしょ!!)

 

ルーシィは立ち上がり、エンジェルと対峙する。

 

「そうじゃなきゃ面白くないゾ。簡単に鍵が手に入ってもつまらないゾ」

 

「何でそんなに鍵が欲しいの?アンタだって黄道十二門の鍵持ってるじゃない」

 

ルーシィはエンジェルがやたらと鍵を欲しがっているのが気になった。

 

「黄道十二門は星霊の鍵の中でもレア中のレア。星霊魔導士なら欲しがってもおかしくないゾ。まっ、私は欲しがるのは別の理由だけど」

 

「別の理由って何よ……」

 

エンジェルは少し勿体ぶりながらもルーシィにその理由を教えた。

 

「オリオンの鍵を手に入れるためだゾ」

 

「オリオンの……鍵?」

 

「話せるのはここまでだゾ。惨めに死んで欲しいゾ」

 

「っ!(幸いここは川……水がある!!ついてるわ)」

 

ルーシィはある鍵を手に取り川に入る。

 

「開け!宝瓶宮の扉!!アクエリアス!!」

 

「ジェミニ閉門」

 

ルーシィは自身が持つ最強の星霊、アクエリアスを召喚した。

 

「やっちゃって!!アタシも一緒で構わないから!!!」

 

「最初からそのつもりだ」

 

「ちょっとぉっ!!」

 

「全員まとめて吹っ飛びなぁっ!!!!」

 

ルーシィが何か言いたげだがアクエリアスは自分が持つ水瓶を振り上げ、波を起こそうとするが、それより早くエンジェルが鍵を取り出した。

 

「開け。天蠍宮の扉……」

 

「えっ!もう一つの黄道十二門!?」

 

「え?」

 

「スコーピオン!!!」

 

「ウィーアー!!!イェーイ!!!」

 

現れたのはスコーピオン。

すると水瓶を持っていたアクエリアスはゆっくりと水瓶を下ろした。

 

「アクエリアス?」

 

「スコーピォぉぉん♡」

 

「はいいっ!!?」

 

すると、そんなスコーピオンを見た途端、先ほどの恐ろしい形相が一変し、ネコ撫で声になるアクエリアス。

 

「ウィーアー、元気かい? アクエリアス」

 

「私……さみしかったわ。ぐすぐす」

 

「…………!!!」

 

今までに見た事のないアクエリアスの姿に、言葉を失い絶句するルーシィ。

 

「ま…まさか……」

 

「私の彼氏♡」

 

「ウィーアー、初めましてアクエリアスのオーナー」

 

「キターーーー!!!!」

 

以前から話題に上がっていたアクエリアスの彼氏を見て、思わずルーシィはそう叫んでしまう。

 

「スコーピオンの前で余計な事言ってみろテメェ…お? 水死体にしてやるからな…」

 

「はい……」

 

恐ろしい形相でそう脅迫され、頷くルーシィ。どうやらアクエリアスはスコーピオンの前だと猫を被っているようだ。

 

「ねぇん♪お食事に行かない?」

 

「オーロラの見えるレストランがあるんだ。ウィーアー、そう言うわけで帰ってもいいかい? エンジェル」

 

「どうぞ」

 

「ちょ……ちょっと!!!アクエリアス!! 待って!!! いやーーー!!!」

 

ルーシィの静止の言葉も虚しく、アクエリアスはスコーピオンと共に星霊界へと帰ってしまった。

 

「星霊同士の相関図も知らない小娘は、私には勝てないゾ」

 

「きゃっ!」

 

エンジェルの平手打ちを喰らい、川の中へと倒れるルーシィ。

 

(どうしよう…最強の星霊が封じられた…いや……もう一人いるじゃない!!!最強の星霊)

 

そう思い立ったルーシィはすぐさま立ち上がり、次の鍵を構える。

 

「開け!! 獅子宮の扉!!! ロキ!!!」

 

「王子様参上!!!」

 

現れたのはルーシィの星霊であり、妖精の尻尾フェアリーテイルの魔導士でもある星霊、獅子宮のレオこと、ロキであった。

 

「レ…レオ……」

 

ヒビキはロキと面識があるのか、彼の姿を見て少々驚愕していた。

 

「お願い!! あいつを倒さないとハルトとギルドが……!!!」

  

「お安い御用さ」

 

黄道十二門の中でも最強のレオを見たエンジェルは驚いた様子もなく、ほくそ笑むだけだった。

 

「言わなかったかしら? 大切なのは相関図」

  

「「!!」」

 

そう言ってエンジェルは更にもう一本の金色の鍵を構える。

 

「開け、白羊宮の扉。アリエス!!!!」

 

そして現れたのは…羊の角を生やし、モコモコとした服を着た少女の星霊アリエスであった。

かつては青い天馬ブルーペガサスの星霊魔導士カレン・リリカと契約していた星霊の1体で、彼女から手酷い扱いを受けていた星霊。ロキが星霊界を追放される切っ掛けとなった者と言っても過言ではない星霊であった。

 

「ごめんなさい、レオ」

 

「アリエス…」

 

「カレンの星霊」

 

「そ……そんな…これじゃロキまで戦えないじゃない」

 

ロキにとって戦い辛い相手であろうアリエスの登場に、ルーシィは声を震わせる。

 

「何でアンタがカレンの星霊を!?」

 

「私が殺したんだもの。これはその時の戦利品だゾ」

 

「あう」

 

まるで物を扱うかのようにポンポンとアリエスの頭を叩くエンジェルを見て、ロキは険しい表情を浮かべる。

しかし、険しい表情をしているのはヒビキも一緒であった。

 

(カレンを殺した……? この女が……僕の…恋人を……殺した? 星霊魔導士が…カレンの命を……)

 

体を震わせ、虚ろな目でそう考えるヒビキ。

しかし、ふと正気に戻る。

 

(いけない!!何を考えているんだ!!こんなことを考えたらニルヴァーナに心を奪われてしまう!ダメだ……考えちゃ……)

 

ヒビキはいけないとわかってもどうしても思考かそっちに行ってしまう。

一方ルーシィは、ロキとアリエスの予想外の再会に、複雑そうな表情を見せる。

 

「せっかく会えたのにこんなのって……閉じ…」

 

ロキを戻そうとするルーシィだが、その行動はロキ自身に止められた。

  

「見くびらないでくれ、ルーシィ。たとえかつての友だとしても……所有者が違えば敵同士、主の為に戦うのが星霊」

 

「たとえ恩のある相手だとしても、主の為なら敵を討つ」

 

「それが僕たちの……」

 

「私たちの……」

 

「「誇りだ(なの)!!!!」

  

そう言うと、ロキは両手に獅子の光…アリエスはモコモコとした羊毛を纏い、戦いを始めた。

 

「あっれ~? やるんだぁ? ま…これはこれで面白いからよしとするゾ」

  

(違う……こんなの、間違ってる……)

  

そんなロキとアリエスの戦いを、エンジェルは面白そうに眺め、対照的にルーシィは辛そうな表情を浮かべている。

しかしやはり、黄道十二門の中で最強のロキが優勢になり始める。

 

「う~ん…さすがに戦闘用星霊のレオじゃ部が悪いか…よーし」

 

エンジェルはそう言うと、カエルムに指示を出す。

 

「カエルム」

 

カエルムから発射されたレーザーは味方のアリエスもろとも、ロキを貫いた。

 

「がっ!」

 

「いぎっ!」

 

「あははっ!! うまくいったゾー♡」

 

(味方の星霊ごと…)

 

エンジェルの非道な行いに、呆然とするルーシィ。

 

「アリエス…」

 

「レオ…」

 

「すまないルーシィ」

 

(いい所有者オーナーに会えたんだね。よかった……)

 

「ぐっ!」

 

「ああっ!」

 

そして大きなダメージを負ったロキとアリエスは星霊界へと戻っていった。

 

「見たかしら? これが二体同時開門。んー♡強力なレオはこれでしばらく使えないゾ」

 

「信じらんない……」

 

「なにが~? どうせ星霊なんて死なないんだし、いーじゃない」

 

「でも痛みはあるんだ…感情だってあるんだ。あんた、それでも星霊魔導士なのっ!!!?」

 

ルーシィは涙を浮かべながらそう叫ぶが、足元がふらつき膝から崩れ落ちた。

 

「あ、あれ……?体に力が……」

 

「たいした魔力もないくせに星霊を召喚しまくるからだゾ。ジェミニ」

 

ジェミニが現れ、ルーシィに変身して刀剣になったカエルムを持ち、動けないルーシィに近づき、ルーシィを何度も蹴り、殴った。

 

「あぐっ!!ううっ……!!!」

 

「自分に殺される気分ってどう?」

 

「がはっ……ゲホッ、ゲホッ」

 

「あははははっ!!!!いい気味ー!!!!」

 

「いいきみ………」

 

ルーシィは苦しそうにもがく姿を面白そうに見ていると、ヒビキは闇に飲み込まれそうになっている。

しかし。ルーシィは蹴られながらもエンジェルを睨む。

 

「な~に? その目、ムカツクゾ」

 

「アリエスを解放して」

 

「は?」

 

「あのコ……前の所有者にいじめられてて……」

 

偽ルーシィはルーシィの言葉が続いていようと構い無しにカエルムで腕を切り裂いた。

 

「きゃああああああっ!!!!」

 

「人にものを頼む時は何て言うのかな?」

 

「お…お願い…します…レオ、ロキと一緒にいさせてあげたいの…それができるのは、あたしたち星霊魔導士だけなんだ……」

 

涙を流しながら必死でそう懇願するルーシィ。

 

「ただで?」

 

「何でもあげる…鍵以外なら、あたしの何でもあげる!!!」

 

「じゃあ命ね」

 

だがルーシィの必死の頼みを、エンジェルは無慈悲に切り捨てた。

 

「ジェミニ、やりなさい!」

 

エンジェルの命令に従い、ゆっくりとカエルムを振り上げる偽ルーシィ。

しかし偽ルーシィ……ジェミニはぷるぷると体を震わせて、その動きを止めた。

 

「ジェミニ!?」

 

「きれいな声が……頭の中に響くんだ」

 

そう言うジェミニの脳裏には……自身が変身しているルーシィ本人の記憶が浮かび上がっていた。

 

『ママ……あたし、星霊大好き』

 

『星霊は盾じゃないの!!!』

 

『目の前で消えていく仲間を放っておける訳ないでしょ!』

 

 

そしてその記憶は全てルーシィがどれほど星霊の事を想っているかを物語っていた。

 

「できないよ……ルーシィは心から愛してるんだ……ぼくたちを」

 

ルーシィの優しい心に触れて、ジェミニは涙を流しながらそう言い放った。

そしてそれを聞いたエンジェルは表情が驚愕へと変わる。

 

「ジェミニ…」

 

「消えろォ!!!この役立たずがっ!!!!」

 

そんなジェミニに激昂したエンジェルは、強制閉門でジェミニを消した。

すると突然ヒビキがゆっくりと立ち上がり、ルーシィのもとへと歩み寄っていく。

そして彼女の背後に立つと、何とヒビキはルーシィの首を締めるかのように手を置いた。

 

「え?」

 

「まさか…!! 闇に落ちたのかこの男!!!あは…あははは!!!」

 

そんなヒビキを見て、動揺するルーシィ、そしてまたもや大笑いを上げるエンジェル。

 

「ヒビ…キ…」

 

「じっとして」

  

しかし、ヒビキの両手はルーシィの首から離れ、そのまま両手をゆっくりと彼女の頭に置く。

 

「古文書(アーカイブ)が君に、一度だけ超魔法の知識を与える」

 

そう言うと、ヒビキは古文書アーカイブの力を使って、ルーシィの頭に魔法の知識を流し込む。

 

「うぁっ!」

 

「な…」

 

そんなヒビキの行動にルーシィは戸惑い、エンジェルは驚愕する。

 

「こ…これ…なに……!? 頭の中に知らない図形が……」

 

次々と流れ込んでくる魔法の知識にルーシィは戸惑う。

  

「すまない…だけど危なかった…もう少しで僕は闇に落ちる所だった。だけど彼女と星霊との絆が、僕を光で包んだ……君ならこの魔法を使えるはずだ……」

 

ヒビキはルーシィにそう語りながら頭に知識を流し続ける。

 

「おのれェ~っ!!! カエルム!!!やるよォーー!!!!」

 

それを見たエンジェルは、カエルムを構えてルーシィへと駆け出す。

 

「くっ…!あともう少しなのに……!!」

 

ヒビキの魔法が間に合わず、エンジェルが腕を振り上げた瞬間、エンジェルのルーシィたちの間を黄金の魔力のレーザーが遮った。

 

「なっ!!」

 

「え?」

 

「や、やらせるか……」

 

「ハルト!」

 

エンジェルは突然のことに驚き、ルーシィも呆然としてしまう。

魔法が飛んで来た方向を見ると苦しそうなハルトが口を開いていた。

ハルトがなんとか力を振り絞り、咆哮を放ったのだ。

 

「ハルト…!!こんな時に邪魔を……!!!」

 

「終わった……」

 

「っ!しまった!!!」

 

ヒビキは魔力を使いきったのか川の中に倒れる。

 

「頼んだ…ルーシィ……」

 

「天を測り、天を開き、あまねく全ての星々。その輝きをもって我に姿を示せ……テトラビブロスよ…我は星々の支配者…アスペクトは完全なり。荒ぶる門を開放せよ」

 

ルーシィがぶつぶつと呪文のようなものを唱え始めると、同時にエンジェルの周囲にいくつも小さな光の球体が出現する。

 

「全天88星」

 

「な…何よこれぇ! ちょっ…」

 

周囲に次々と出現する星のような球体に動揺するエンジェル。

 

「光る……ウラノ・メトリア!!!!!」

 

「きゃあああああああ!!!!!!」

 

まるで星空のような輝きがエンジェルを包み込み、一瞬で彼女をボロボロにして吹き飛ばした。

 

「!?」

 

そして光が消えると、ルーシィはハッと正気に戻る。

 

「きゃふん!!」

 

「ひっ!」

 

ルーシィはボロボロになって川に落ちてきたエンジェルにビクッと体を震わせて驚く。

 

「……!?あれ? あたし…何が起こったの?」

 

キョトンとした表情で辺りを見回すルーシィ。どうやら先ほどまでの事をまったく覚えていないようだ。

 

「ヒビキ!!マタムネ!!ハッピー!!」

 

ルーシィはとりあえず倒れている仲間を看病することにし、ヒビキを川から上げて、氷漬けにされたマタムネとハッピーは並んで置いておいた。

 

「ルーシィ、僕は大丈夫だからハルト君を……」

 

「うん!ハルト!!」

 

ルーシィがイカダの上でまた気絶しているハルトに近づくと背後からボロボロになったエンジェルがカエルムを持ちながら水の中から現れた。

 

「負け…な…い…ゾ……六魔将軍は…負け…ない……」

 

 

(なに…コレ…全然力が入らない…てか……なんでコイツ、こんなにボロボロなの!?

 

 

ウラノ・メトリアの影響で完全に魔力を使い果たしたルーシィは、その場から動く事が出来なかった。

 

「一人一殺…朽ち果てろォ!!!!」

 

カエルムを砲台へと変形させて、ルーシィに向かって砲撃を放つエンジェルだが、その砲撃は不自然にルーシィだけを外し、イカダをせき止めていた木を破壊してしまった。

 

「え?」

 

「は、外した……!?カエルム!!お前もか……!!」

 

カエルムもジェミニと同様にルーシィの星霊に対する愛を感じとり、わざとルーシィへの攻撃を外した。

 

「ハルト!!ハルトー!!!」

 

イカダをせき止めていた木が破壊されたのでハルトを乗せたイカダは川に流されていった。

ルーシィが必死にハルトを呼ぶが返事がなく、気絶しているようだ。

 

「ハルト!!ちょっと待って……よっ!!!」

 

ルーシィは残り少ない体力を使ってなんとかハルトのイカダに飛び乗ることができたが、それと同時に突然イカダは急流に乗りだしてしまった。

 

「ひっ〜〜〜!!!」

 

ルーシィは悲鳴を上げながらもハルトにしっかりと抱きつき、離れようしない。

イカダのスピードはどんどん上がっていき、なんと目の前には滝がみえていた。

 

「うそ!!?滝!!!!?」

 

今からではハルトを降ろすのも無理だと考えたルーシィはハルトを抱きしめ、2人は滝に落ちていった。

 

「きゃあああぁぉぉぁぁっ!!!!!」

 

 

その頃.封印が解かれたニルヴァーナへと向かっていたブレインは、顔に走った痛みに表情を歪める。

 

「バ…バカな……エンジェルまでが……」

 

ブレインがそう言うと同時に、彼の顔に刻まれた模様がまた一つ消えていく。

レーサーと戦ったグレイはリオンとのコンビネーションでレーサーの魔法を見破り、見事倒した。

その時もブレインの模様が一つ消えた。

 

「うぬらの死、無駄にはせんぞ」

 

そう呟くと、ブレインは再びニルヴァーナの黒い光へと向かって歩き出す。

 

「光崩しは直に始まるのだ!!!!!」

 

 

 



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第99話 希望のギルド

ルーシィがエンジェルに辛勝し、ハルトとともに滝壺に落ちて行ってしまった。

その頃、エルザは解毒により意識が朦朧とするなか、ナツのジェラールがいるという言葉がハッキリと聞こえニルヴァーナに向かっていた。

 

(ジェラールが生きて……どうやって、いや……なぜここに……)

 

かつての友であり…仲間であり…そして怨敵であるジェラールが生きていると聞いた時から、彼女は複雑な表情をしていた。

しかし、その顔の裏腹にエルザは少し希望も抱いていた。

ハルトからジェラールは最後の最後で正気に戻り、自分を助けてくれたと言っていた。

 

(私は……どんな顔をすればいいのか……)

 

そんな事を考えながら、エルザはジェラールが居るであろう黒い光に向かって走って行ったのであった。

 

 

時間が経ち、太陽が傾き、夕暮れになった空をエンジェルから逃げて来たレインたちは岩山で休息を取っていた。

 

「私……来なきゃよかったかな……」

 

「まーたそういう事言うの? ウェンディは」

 

「だってぇ」

 

「あまり考えない方がいいよ。ニルヴァーナの影響を受けちゃうよ」

 

「そうだよー」

 

「うん……」

 

落ち込むウェンディにレインたちが戒めるが、表情は暗いままだ。

 

「私…ルーシィさんたち置いて逃げてきちゃったんでしょ?」

 

「仕方ないよ。ウェンディは気絶してたんだし……僕も逃げたようなもんだもん」

 

「ウェンディとレインがいても役に立てたかわからないもんねー」

 

「「あう……」」

 

ミントの容赦ないひとことにウェンディとレインは呻く。

 

「やっぱり私……」

 

「でも、ウェンディがいなかったらエルザさんは助からなかったんだよ」

 

「でも、ニルヴァーナも見つかんなかったよ」

 

「それはどうかしらね。アンタだって、ジェラールって人に会えて嬉しかったんでしょ? ウェンディだけじゃなくてレインも」

 

「それは…」

 

「そうだけど……」

 

シャルルの言葉に2人は少し困りながら返事をする。

再開できたのは嬉しかったが、あのジェラールは明らかに2人のことを覚えていなかった。

 

「ねえ? 何なのあのジェラールって。恩人とか言ってたけど、私……その話聞いた事ないわよ」

 

「そうだね…話してなかったね。あれは7年前…天竜グランディーネが姿を消して、私は一人……路頭に迷ってたの」

  

そう言うと、ウェンディは当時の事を思い出しながら話し始める。

  

「その時、助けてくれたのがジェラール。てゆーか、彼も道に迷ってたんだって。そして私たちは、一月くらい一緒にあてのない旅をしてたの。その旅の途中でレインと出会ったの」

 

「僕もウェンディと同じで水竜シーペントがいなくなって途方に暮れていたときにジェラールとウェンディに出会ったんだ」

 

「それから3人で旅をしてたんだけど……ある日急に変なことを言い出して」

 

「うん、確か『アニマ』って言ってたような……」

 

「『アニマ』!?」

 

「何それー?」

 

レインが言った意味不明な言葉にミントはいつも通り間延びした声で首を傾けるが、シャルルは目を少し見開き驚いた。

 

「うん…私たちにもよくわからなんだけど……ついてくると危険だからって、近くのギルドに私たちを預けてくれたの」

 

「それが今のギルド……化猫の宿だよ」

 

「で……ジェラールはどうなったの?」

 

「わからない……ジェラールとはそれっきり……その後…噂でね、ジェラールにそっくりの評議員の話や、最近はとても悪い事をしたって話も聞いた」

 

「もちろん、僕たちはあのジェラールが悪い事したなんて話はとても信じられなかった」

 

2人は…恩人であるジェラールの事を懐かしそうに語る。

 

「ジェラール、私たちのこと覚えていないのかな……」

 

ウェンディは夕日を眺めながら悲しそうにそうこぼした。

 

 

ニルヴァーナの封印が解かれている場所にたどり着いたエルザ。

そこにはジェラールがいた。

エルザは複雑な気持ちでジェラールを呼ぶが、ジェラールは自分のことを何も覚えていないと言う。

ただエルザと言う名だけは覚えていた。

 

「エルザとは誰なんだ?何も思い出せない」

 

ジェラールのその言葉にエルザの目から涙が流れた。

 

(コイツ……記憶が無えのか!だから声が聞こえなかったのか!!)

 

ジェラールの後をつけていたコブラはジェラールの声が聞こえず、ニルヴァーナに先回りができないでいたが、その理由がジェラールの記憶が無く、考えが聞こえなかったのだ。

エルザは少し思いつめた表情でジェラールに近づく。

 

「ジェラール……」

 

「く…来るな!!」

 

ジェラールは警戒してエルザに向かって魔法弾を放つ。

エルザは真正面から受け止め、額から血が流れるが強い眼差しでジェラールを見る。

 

「ならばお前が来い。私がエルザだ」

 

エルザは記憶がないジェラールに彼がした悪行を説明し、ジェラールはそれを聞くたびに辛そうな顔をする。

 

「お前がした悪行を忘れたと言うなら、心に剣を立てて刻み込んでやる!!!ここに来い!!!私の前に来いっ!!!」

 

エルザはジェラールを真っ直ぐに見て、そう言うとジェラールは顔を手で覆って、記憶がないとは言え自分が犯してしまった罪に涙を流す。

 

「オレが…仲間を…そんな……オレは……なんという事を……オレは…オレはどうしたら……」

 

ジェラールのその姿を見て、エルザ自身も、体を小刻みに震わせていた。

 

(これが……あのジェラール? まるで……昔のジェラールに戻ったようだ……)

 

 

一方、滝に落ちたハルトとルーシィは岸に上げられていた。

 

「ん? 痛たた……」

 

目を覚ましたルーシィは痛む腕を抑えながら起き上がった。

 

「あれ? 治療……てか何!?この服!」

 

よく見ると、腕のキズには治療が施されて包帯が巻かれており、服装も先ほどまでとは違う綺麗なものへと変わっていた。

 

「星霊界の御召し物でございます。ボロボロでございましたので」

 

「バルゴ!!?」

 

ルーシィが驚いているところに答えたのは、ルーシィの星霊であるバルゴであった。

どうやら彼女が滝壺へと落ちたルーシィたちの救出、および治療と着替えを行なったようだ。

 

「お?ここ……どこだ?」

 

「ハルト!!」

 

ハルトの気づいた声が聞こえ、そっちを振り向くとルーシィとよく似た服を着ていた。

 

「お揃いの服となっております」

 

「何やってんのよ!!!」

 

「これも姫の恋を応援するためです」

 

ルーシィはハルトとのペアルックに内心バルゴにナイス! と思っていたが恥ずかしくてそんなこと言えなかった。

 

「ちっくしょー……頭がぐわんぐわんしやがる……いったい何があったんだっけ……?」

 

ハルトは乗り物酔いの影響か少し記憶が曖昧な状態だったのでルーシィが説明してくれた。

 

「ハルト、エンジェルに捕まってずっと乗り物酔いの状態だったのよ」

 

「そうか……記憶も見られたんだっけ……」

 

ハルトがようやく状況を飲み込むことができ始め、立ち上がり、周りを見る。

 

「そういや、なんで俺とルーシィはペアルックなんだ?」

 

「えっ!?そ、それは……!!」

 

「でぇきぇてぇるぅ」

 

「は?」

 

「巻き舌風に言わない!!」

 

「なあ、ルーシィ。あの光の柱は何だ?俺が気絶する前にはなかったよな?」

 

「あの黒い柱のこと?あれはニルヴァーナよ。封印が解かれたみたいなの」

 

「黒い柱?白い光の柱に見えるけどな」

 

ハルトが指差す先には黒から白色に変化したニルヴァーナの光の柱があった。

 

「近いわ……てか色変わってない?」

 

「えぇ、お二人が気絶していらした間に黒から白へと」

 

ハルトはニルヴァーナの光の柱を見る。

ルーシィはこのときハルトが闇に飲み込まれるのではないかと心配したが、ハルトは少し息を吐いて落ち着いた様子を見せた。

 

「ありがとうな。ルーシィ」

 

「う、うん……」

 

ハルトはルーシィに礼を言うとルーシィは少し照れた。

 

「でぇきぃてぇるぅ」

 

「二回目よ!!どこでマタムネとハッピーのマネなんて覚えたのかしら」

 

「そういえばマタムネはどうしたんだ?エルザは?一緒じゃなかったのか?」

 

「マタムネたちとははぐれちゃった……エルザは無事よ。ウェンディが治してくれたの」

 

「そっか、よかった」

 

ハルトは安心して、一息吐き、ニルヴァーナの光の柱が伸びている場所を見る。

 

「なら俺たちはあそこに向かおう。みんなも向かっているはずだ」

 

「それでは姫、私は星霊界に戻ります」

 

「あっ、ちょっと!!」

 

ルーシィが止まる前にバルゴは自分で星霊界に戻った。

 

(今バルゴ、自分の力で戻った?もしかしてアタシ今……魔力0の状態!?)

 

ルーシィは自分の体の状態に戸惑う。

するとルーシィのそばの茂みが揺れた。

 

「ヒッ!」

 

「なんだ?」

 

揺れた茂みの中から現れたのは傷ついたシェリーだった。

 

「お前は……」

 

「シェリー!!よかった!!無事だったのね」

 

「他の奴らとは一緒じゃねえのか?」

 

ルーシィが声をかけるが、シェリーは顔を俯かせて何も話さない。

 

「見つけた……妖精の尻尾の魔導士」

 

「シェリー?」

 

「ルーシィ、下がれ!」

 

「くくく……」

 

僅かに口を開いたシェリーの言葉にルーシィは首を傾け、ハルトは本能が危険だと判断し、ルーシィを後ろに下がらせた。

するとシェリーの背後から木がねじり曲がり、人の形を成していくがいつもの可愛らしいものではなく邪悪なものだった。

シェリーの魔法がハルトたちを襲おうとした瞬間……

 

「バカヤロウが!!!」

 

「「グレイ!!!」」

 

「なっ!!貴様!!まだ生きていたのか!!!」

 

「無事か!!お前ら!!!」

 

突然グレイがシェリーの首に腕を回し、攻撃を止める。

 

「放せ!!!くそっ!!!リオン様の仇!!!!」

 

「こいつ、あの光が現れた瞬間おかしくなっちまったんだ」

 

グレイがレーサーとの戦いは兄弟子であるリオンの協力もあり、勝利することができたがレーサーは最後の最後に捨て身の自爆によりグレイたちを亡き者にしようとしたが、リオンがグレイたちをかばい、レーサーと共に崖に落ちて爆発したのだ。

シェリーはそれを見て、リオンが死んでしまったのはグレイ、妖精の尻尾の魔導士のせいだと思い、闇に落ちてしまったのだ。

 

「誰の仇だって?」

 

また茂みから声が聞こえてきてそちらを向くと死んだと思われていたリオンが立っていた。

 

「勝手に殺すんじゃない」

 

「コイツはしぶてぇんだよ」

 

「リオン様……」

 

どうやらグレイが見つけて一緒に連れてきたようだ。

シェリーはリオンを見ると安心して涙を流して気絶してしまった。

するとシェリーの体から光が抜けていき、ニルヴァーナの光の柱に取り込まれた。

 

「何だ!?」

 

「やっぱ、なんか取り憑いていたみてぇだな」

 

「これが……ニルヴァーナ」

 

空に消えていく光を見ながらルーシィはそう口に出した。

 

 

一方エルザたちの方ではジェラールが微かに聞こえたニルヴァーナの封印を解くと言う言葉とニルヴァーナが危険だということがわかっており、を破壊するために封印を解き、自律崩壊魔法陣を仕込んだ。

そしてそれは罪を犯した自分にも施した。

 

「くそ!どうやって解けばいいんだ!!!」

 

ジェラールのあとをつけていたコブラもまさかの事態に慌てて、自律崩壊魔法陣を解こうとするが魔法陣が高度すぎて解けない。

 

「エルザ……君は俺から解放されるんだ。君の憎しみも……悲しみも……俺が連れていく……君は自由だ」

 

「ジェラール!!!」

 

ジェラールが自身に仕組んだ魔法陣は体を確実に蝕んでいき、ジェラールはとうとう倒れてしまった。

エルザはジェラールが悪だとわかっていても、大切な仲間だったジェラールに手を伸ばし、生きろと叱咤する。

その時エルザはジェラールのことを思って涙を流す。

 

「生きろ!!生きてあがけっ!!!ジェラール!!!」

 

「何故君が涙を……?」

 

「これは……!!」

 

「優しいんだな……君は……」

 

「これはいったい何事だ?」

 

するとそこにブレインが現れた。

ブレインはニルヴァーナに施されている魔法陣を目にした。

 

「ブレイン!ジェラールがニルヴァーナに魔法を仕込みやがった!!」

 

「自律崩壊魔法陣……そうか自分もろとも消すつもりだったか。だが無駄だ。私はかつて魔法開発局にいた。この魔法はそこで開発したものだ。解除コードがなくとも……」

 

ブレインが魔法陣に向かって手を向けると自律崩壊魔法陣はところどころが破裂するように破壊されていく。

 

「そんな……」

 

「おお!!!」

 

ジェラールはそれを見て声を震わせて、コブラは歓喜の声を上げた。

そしてブレインは、ジェラールの体にも浮かんでいる自律崩壊魔法陣に気がつく。

 

 

「自らの体にも自律崩壊魔法陣だと? 解除コードと共に死ぬ気だったというのか?」

 

 

「エーテルナノの影響で記憶が不安定らしい。どうやら自分が悪党だった事も知らねえみてえだ」

 

 

「なんと…滑稽な…ふはははははっ!!!哀れだなジェラール!!!!ニルヴァーナは私が頂いたァ!!!!」

 

倒れるジェラールを笑い飛ばし、そう言い放つブレイン。

 

「させるかァ!!!!」

 

「目覚めよ!!ニルヴァーナァッ!!!!!」

 

「!!!」

 

エルザが剣を換装し、ブレインに向かうがたどり着く前に地面から光が溢れ、爆発するように地面が盛り上がる。

 

「姿を現せェ!!!!」

 

 

「おおおおっ!!!!聴こえるぞっ!!!! オレたちの未来が!!!! 光の崩れる音がァ!!!!!」

 

ブレインとコブラがそう言うと同時に、地面から更に光が溢れ出す。

 

 

「ジェラール!!!」

 

 

「エルザ!!!」

 

その光の中で、エルザとジェラールは互いに手を伸ばして掴もうとする。

その瞬間、今までで一番巨大な光の柱が立ち上り、その光景を樹海にいる全員が目撃した。

そして光の爆発と共に樹海中の地面から触手が起き上がる。

 

 

とうとうニルヴァーナがその全貌を見せた。

8本の巨大な足で支えられた巨大都市が善悪反転魔法ニルヴァーナの姿なのだ。

 

「ついに…ついに手に入れたぞォ!!!!光を崩す最終兵器、超反転魔法ニルヴァーナ!!!!正規ギルド最大の武器である結束や信頼は、今……この時をもって無力となる!!!!」

 

ブレインの歓喜の叫びがニルヴァーナの頂点から高らかに響く。

 

「く…うう……」

 

そしてそのニルヴァーナの側面には、エルザがジェラールの手を掴み、もう片方の手で足場を掴んでいる宙吊り状態となっていた。

 

「エルザ…」

 

「自分の体にかけた自律崩壊魔法陣を解け。お前には生きる義務がある。たとえ醜くても…弱くても…必死に生き抜いて見せろ……」

 

そう言って自分の体とジェラールを足場に引っ張り上げるエルザ。

 

「オレは…ニルヴァーナを止められなかった。もう……終わりなんだ……」

 

「何が終わるものか……見てみろ」

 

諦めの言葉を口にするジェラール対し、そう言い放つエルザ。

そしてそんな彼女の視線の先には、

 

「行くぞォッ!!!!!」

 

ニルヴァーナの足の一本にしがみつきながら、街を目指して這い上がっていくハルトたちの姿があった。

 

「このまま本体のほうに行くぞ!!!!」

 

「うん!!」

 

「つーかなんで2人はペアルックなんだよ?」

 

「そ、それは……」

 

そしてニルヴァーナを目指していたのはハルトたちだけではない。

 

「僕たちも行こう!!」

 

「うん!シャルル!!」

 

「わかってるわよ!!」

 

「行くぞ〜」

 

レインたちも飛び立ち、ニルヴァーナを目指す。

 

「しっかり捕まってくださいデス!!!」

 

「うむ!!!」

 

ジュラとニルヴァーナにより改心したホットアイはニルヴァーナの足に捕まり、都市を目指す。

ニルヴァーナが目覚めたにも関わらず、誰一人として諦めていない光景に、ジェラールは言葉を失う。

 

「私たちは決して諦めない。希望は常に繋がっている。生きて、この先の未来を確かめろ、ジェラール」

 

そんなエルザの言葉はジェラールの心にしっかりと響いた。

 



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第100話 古代都市ニルヴァーナ

ニルヴァーナはその足元に多くの闇ギルドの人間がいるにもかかわらず、その重い足を進める。

 

「うぶぅ……!!」

 

「ハルト!!止まっちゃダメよ!!止まったら気持ち悪くなっちゃうわ!!」

 

「んなこと言ったって……うぷっ………!!」

 

「こうなるとナツ並みに使えねえな……」

 

動くということはそれが生き物でない限りハルトの乗り物酔いが発生してしまうということであり、案の定ハルトは顔を青くして気持ち悪そうにした。

 

「ハルト!!これはタコ!!そう思えば気持ちにならないでしょ!!」

 

「それでも……むりぃ……」

 

ハルトは捕まっていたニルヴァーナの足からズルズルと横に落ちて行く。

 

「バカ!!力を入れろ!!」

 

「ハルト!!」

 

「おおおぉぉぉぉ……?」

 

とうとうハルトの腕から力が全て抜けて落ちてしまう。

 

「きゃああぁぁぁっ!!!」

 

「ハルトー!!!」

 

そこに空からハルトを追う影が現れた。

 

「大丈夫でごじゃるか? ハルト」

 

「お?」

 

「マタムネ!!」

 

「はぁ……」

 

ルーシィは喜び、グレイは安心したように息を吐いた。

 

「おお……マタムネ……お前…かっこよすぎ……」

 

「ふふん!もっと褒めてもいいでごじゃるよ!!」

 

「だけどエンジェルの時のことは忘れねえ」

 

「………」

 

ハルトのジト目にマタムネは固まってしまう。

 

「ハルト!!お前らはそのまま上に行け!!俺たちはその穴から中に入ってみる!!」

 

「おう!!」

 

「ぎょい!!」

 

ハルトたちは上に向かうとそこには古代都市が広がっていた。

 

「こりゃぁスゲぇな……」

 

「だいぶ広いでごじゃる。六魔将軍を探すには一苦労でごじゃるよ」

 

「あの一番高い塔に行ってみないか?」

 

「ぎょい!!」

 

ハルトが都市の中央にそびえ立つ塔を指差して、そこに向かうと塔の頂上は舞台のように広がっており、そこにはコブラと何かの魔法陣を展開しているブレインの姿があった。

 

「マタムネ!!あそこに向かって降下だ!!」

 

「ぎょい!!」

 

ハルトの指示でマタムネは降下し、それと同時にハルトは魔力を振るい、その場所を破壊した。

 

「オラァッ!!!」

 

「ぐっ!!」

 

「アーウェングス!!?もうここにたどり着いたのか!!コブラ!!操作を邪魔させるな!!!」

 

「わかってる!!」

 

ハルトが再び上空に上がるとそこにハッピーに抱えられたナツがやって来た。

 

「お!ハルトじゃねえか!!」

 

「マタムネも!」

 

「ナツ!ハッピー!お前らも来てたのか」

 

「ナツ殿と合流できたでごじゃるか」

 

ナツはコブラの部下に足止めされジェラールがいたニルヴァーナの封印場所に行けなかったが、ちょうどニルヴァーナの足部分に立っており、偶然にも足にしがみついた。

しかし、ハルト同様に乗り物酔いになってしまったナツはこれまたハルト同様に足から滑り落ちたが、マタムネと一緒に解放されたハッピーがナツを掴んでここまでやって来た。

 

「ナツ、あそこにブレインが見えるだろ」

 

「おう」

 

「あいつがニルヴァーナを動かしているみてえなんだ。あいつを倒してしまえば俺たちの勝ちだ!」

 

「よっしゃあ!!さっさと倒しちまおうぜ!!」

 

「させるかよ」

 

そこに羽が生えたキュベリオスに乗ったコブラが現れる。

 

「ブレインのところには行かさねえ」

 

「ハルト、ここは俺に任せろ!!お前はブレインのところに行け!!」

 

「ああ!任せたぞ!!」

 

ナツがコブラに向かって行き、ハルトはブレインに向かうが、それより早くコブラはハルトの前に立ち塞がった。

 

「なっ!?」

 

「聞こえてんだよ!その動きはァ!!」

 

キュベリオスが尻尾を振り下ろし、ハルトたちにぶつける。

 

「がっ!!」

 

「ぎゃっ!!」

 

「ハルト!マタムネ!てめぇ!!ハッピー!!」

 

「あい!!」

 

ナツたちがコブラに向かうが、コブラはそれもヒラリとかわし、キュベリオスの攻撃を与える。

 

「がっ!!」

 

「うわっ!!」

 

ナツも吹き飛ばされてしまい、ハルトとともに並ぶ。

 

「アイツ、オイラたちの動きがわかってるみたいだ!」

 

「このままじゃブレインのところに行けないでごじゃる!」

 

「わかっているんじゃねえ。聞こえるんだよ。お前らの動きは……」

 

ハッピーとマタムネの言葉もコブラには聞こえているようで、不気味な笑みを見せる。

 

「かかってこい。滅竜魔導士ども」

 

コブラが挑発するように手招きすると、ハルトとナツは頭にカチンときた。

 

「おっしゃあっ!!」

 

「やってやるよ!!」

 

ハルトたちはコブラに一直線に向かい、拳を握るがマタムネはコブラにぶつかる瞬間に急に方向を変え、コブラを避ける。

 

「だから、聞こえてんだよ!!」

 

コブラはナツの腕を掴み、キュベリオスがハルトとマタムネを叩き落とす。

 

「くそっ!!」

 

「いたっ!!」

 

「ハルト!!」

 

「おい!よそ見なんかしてていいのか?」

 

「がはっ!」

 

叩き落とされたハルトたちにナツは声をかけた瞬間、コブラが腹にパンチをくらわす。

 

「クソォ!アイツ邪魔だな!!」

 

「考えがわかるみたいだね」

 

「考えがわかる……マタムネ」

 

「なんでごじゃる?」

 

ハルトは何かが思いついたようでマタムネに耳打ちする。

 

(別のことに集中して行動を読めなくする?無駄だ!行動するときに必ずその動きが頭で考える!!)

 

再び2人同時に突撃するとコブラはハルトを抱えるマタムネの心を聞くと……

 

(オッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイ!!!!!)

 

「はぁ!!?」

 

コブラが驚いたすきをついて、マタムネは突き抜ける。

 

「しまった!!」

 

「オラァ!!火竜の鉄拳!!!」

 

「ぐっ!!」

 

通り抜けたハルトを目で追ったすきにナツはコブラに鉄拳を放つ。

コブラは咄嗟に腕で防ぐが当たったところは少し火傷し、腕は痺れる。

 

「お前の相手は俺だろうがァ!!!」

 

「餓鬼が……!!」

 

コブラの顔に怒りが滲み出てきながらも構えた。

 

 

ハルトたちはコブラを通り抜け、ブレインがニルヴァーナを操作する玉座の間にやってきたがそこにはブレインの姿がなく、魔法陣だけが展開されてあった。

 

「アイツどこいった!!」

 

「ハルト!今はニルヴァーナを止めるのが先でごじゃる!!」

 

「わかってる!」

 

ハルトは中央の大きな魔法陣に手を向けて、操作するがハルトは苦虫を潰したような顔をした?

 

「ダメだ…….止められない」

 

「なんででごじゃる?」

 

「完全に自動操縦っぽいのになってる。俺じゃ解除できねえ。カミナがいればな……」

 

「じゃあ、どうするでごじゃる!?」

 

「ブレインを探すぞ。アイツを倒せば止められるはずだ」

 

ハルトが周りの匂いを嗅ぐが、玉座の間は都市の一番高い塔の頂上にあるので風が強く吹き、匂いが消しとばされてしまっていた。

 

「ダメだ。匂いが消されちまってる」

 

「なら上空から探すでごじゃる!まだ、そう遠くに行ってないはずでごじゃる!!」

 

マタムネがそう言って再び上空に上がるが、ハルトにはもう一つ気がかりなことがあった。

 

(この街に充満している匂いは何だ?この邪悪でどす黒い魔力の匂いは……)

 

ハルトがブレインの匂いを追えなかったのは風だけでなく、街全体に広がる邪悪な魔力の匂いがハルトの鼻を麻痺させていたのだ。

 

「嫌な予感がするな……」

 

ハルトの独り言は風に消えていった。

 

 

ハルトたちがブレインを探し始めたころ、ルーシィたちも古代都市の中に入ることができ、ジュラとホットアイに合流した。

ジュラからホットアイが改心したことを説明してもらい、ホットアイからはニルヴァーナの説明がされた。

 

「この都市の名は古代都市ニルヴァーナ。ここはかつて、古代人ニルビット族が住んでいた都市デス。今からおよそ400年前、世界中でたくさんの戦争がありました。中立を守っていたニルビット族はそんな世界を嘆き、世界のバランスをとる為の魔法を作り出したのです。光と闇をも入れ替える超魔法。その魔法は〝平和の国ニルヴァーナ〟の名が付けられましたデスネ」

 

「皮肉なモンだな……平和の名をもつニルヴァーナが今…邪悪な目的の為に使われようとしているなんてよォ」

 

「でも…最初から〝光を闇に〟する要素をつけなきゃ、いい魔法だったのにね」

 

「仕方あるまい…古代人もそこまで計算していなかったのかもしれん。強い魔法には強い副作用があるものだしな」

 

「とにかく、これが動いてしまった事は大変な事デス。一刻も早く止めねばなりませんデスネ」

 

「当たり前だ」

 

「うん!」

 

「ブレインは中央の『王の間』からこの都市を動かしているのでしょう。その間、ブレインは魔法を使えません。たたくチャンスデス」

 

「動かすって、どこかに向かってんのか?」

 

「おそらくは……しかし私は目的地を知りませんデス」

 

グレイの問い掛けにホットアイが首を横に振って答える。すると……

 

「そうさ、父上とボクしか知らない」

 

「「「!!!」」」

 

「ミッドナイト!!?」

 

現れたミッドナイトに全員が驚く。

 

「ホットアイ、父上を裏切ったのかい?」

 

「違いマスネ!! ブレインは間違っていると気がついたのデス」

 

「父上が間違っている……だと?」

 

ホットアイの言葉を聞いたミッドナイトはギロリと睨みつける。

 

「人々の心は魔法で捻じ曲げるものではないのデス。弱き心も、私たちは強く育てられるのデスヨ」

 

ホットアイがミッドナイトに諭すようにそう言った瞬間、ミッドナイトは腕を振るうと、周りの建物が水平に真っ二つに切られる。

 

「!!!」

 

周りの建物は崩され、倒壊していくなかルーシィたちは陥没した地面に倒れていた。

 

「な…何が起きたんだ?」

 

「ひえー」

 

「ホットアイ殿が地面を陥没させ、我々を助けたのだ」

 

「あなた方は王の間に行ってくださいデス!!!六魔同士の力は互角!!!ミッドナイトは私に任せてくださいデス!!!」

 

そう言ってホットアイは柔らかくした地面をミッドナイトにぶつける。

 

「君がボクと勝負を?」

 

しかし、ミッドナイトに目立ったダメージはなかった。

 

「六魔将軍オラシオンセイス同士で潰し合いだと?」

 

「なんか、すごい展開になってきたわね」

 

「ホットアイ殿…」

 

まさかの六魔同士が戦い合う事態になるとは誰も予想してなかった為、困惑の声が上がる。

 

「さあ!!早く行くデスネ!!!そして、私の本当の名は『リチャード』デス」

 

そう言ってホットアイ、リチャードは優しい笑顔を向けて、自身の本当の名を明かした。

 

「真の名を敵に明かすとは……本当に堕ちたんだね、ホットアイ」

 

こうして、誰も予想しなかった六魔VS六魔の戦いが始まったのであった。

 

 

それと同じころレインたち化猫の宿のメンバーはニルヴァーナの端に到着していた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「疲れた〜…」

 

「ごめんね。シャルル無理させちゃって」

 

「ミントもお疲れ様」

 

「私のことはいいのよ」

 

「レイン〜おんぶして〜」

 

「アンタはシャッキとしなさいよ!!」

 

シャルルは少し疲れた顔で立ち上がり、ウェンディとレインを見る。

 

「それよりアンタたち、ここに来てどうするのよ?」

 

シャルルの問いかけに2人とも少し悩む表情をする。

 

「まだジェラールってのを追って……」

 

「違っ!!!あ…えと……それも、ちょっとはあるけど……私…なんとかしてこれを止めなきゃって!!」

 

「うん。僕たちにできることをやろうと思ってるんだ」

 

ウェンディとレインの言葉にシャルルは少し息を吐くが、その考えには賛成だった。

 

「そうね。私たちにできることをやりましょう」

 

そう言ってシャルルはこれからどうするか考え、まずニルヴァーナはどこに向かっているのか確かめるために森を見るとあることに気づいてしまった。

 

「ま…まさか偶然よね!? そんな事あるハズ…この方角…このまままっすぐ進めば…」

 

シャルルは信じられないと言いたげな表情をし、ニルヴァーナの進む方向を見据えながら、声を震わせて言い放つ。

 

「私たちのギルドがあるわ」

 

「「「え?」」」

 

 

それからハルトたちはしばらく飛び続けブレインの姿を探し回るが一向に見つからず、無駄な時間が過ぎていった。

 

「ハルト〜まだ見つからないでごじゃるか〜」

 

「こっちも必死に探してんだが、一向に見つからねえ。それどころか全員の匂いすらわからなくなっちまった」

 

「そんな〜、もうせっしゃ疲れたでごじゃるよ」

 

「おいおい落とさないでくれよ?ニルヴァーナに落ちたら、俺動けねえからな」

 

すると突然、ナツの竜の咆哮と聞き間違うかのような叫びが古代都市中に響き渡った。

 

「なんだこの叫び!?ナツか!!?」

 

「うるさいでごじゃる〜!!」

 

その瞬間、マタムネはあまりの煩さに手を離して耳を塞いでしまい、ハルトは落とされてしまう。

 

「あっ」

 

「アホー!!!」

 

ハルトは地面に叩きつけられる前に地面に向かって咆哮を放ち衝撃を弱くしたが、体はニルヴァーナに落下し即座に乗り物酔いが発動した。

 

「うぶ……」

 

「ごめんでごじゃるハルト」

 

マタムネはさっさとハルトを抱えようとした瞬間、2人の背後に足音が聞こえた。

 

「ここで会うなんて偶然だね」

 

「お、お前は…….!!」

 

マタムネは振り向くとそこにはミッドナイトが立っていた。

 

「ボクは幸運だね。君は父上から率先して殺すように言われてたんだ。安心して、すぐに楽にしてあげるよ」

 

ミッドナイトはリチャードと戦っていたはずだがその体には一切の傷もない。

淡々と表情を変えずにただその瞳には殺意があふれていた。

緊張した空気が流れるなか、マタムネが口を開いた。

 

「誰でごじゃる?」

 

「…………え?」

 

「あっ、連合の人でごじゃるか?すまないでごじゃる。女性以外はどうでもよかったでごじゃるから、あまり覚えてないごじゃる。それはそうと少し手伝って欲しいでごじゃる。ハルトを運ばなければいけないでごじゃるからな」

 

マタムネはミッドナイトにそう言ってハルトを抱えようとする。

どうやらマタムネはミッドナイトのことを一切覚えていないみたいでフランクに話しかける。

ミッドナイトも流石に頭にきたのか無言でマタムネに向かって腕を振るうと不可視の力がマタムネに襲いかかるが、当たる瞬間にハルトがマタムネの頭を掴み、地面に押さえつけてそれを避ける。

 

「あぶっ!何をするでごじゃる!!」

 

「バカ……あれは、敵だ……!!」

 

「え、そうでごじゃったか?」

 

「そうだよ。そしてさようなら」

 

ミッドナイトが再び腕を振るうがそれより早くマタムネはハルトを抱えて、飛び上がる。

 

「せっしゃを油断させるとはやるでごじゃるな!!!ここからが本番でごじゃる!!!」

 

「お前が単純に覚えていなかっただけだろうが……あ〜、まだ気持ち悪い」

 

「来なよ。本当の絶望を味あわせてあげる」

 



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第101話 六魔の闇

対峙する気持ち悪そうなハルトとミッドナイト。

ミッドナイトが先手を打つ。

 

「スパイラルシュート」

 

ミッドナイトの手のひらから力の波動が回転しながらハルトたちに向かうが、それをハルトたちは上空に向かうことで避ける。

 

「覇竜の……!!うえっ……!」

 

「ちょっ!ハルト!!吐くんじゃなくて魔法を出すでごじゃる!!」

 

「わかってるけど気持ち悪くて……」

 

「なんで乗り物酔いなんてなったでごじゃるか!!」

 

「誰のせいだと思ってんだ……!!」

 

ハルトはマタムネを殴りたくて仕方なかったが、そんなことをしている場合ではない。

するとミッドナイトはハルトに向かって手を向けて何かを握るような仕草をする。

 

「ッ!マタムネ!!上がれ!!!」

 

「ぎょい!!」

 

ハルトたちが上がるとそこにミッドナイトの魔力が一箇所に集まるように収縮する。

 

「チッ」

 

「危ねえ」

 

「よく気づいたでごじゃるな」

 

ハルトはあの魔法はレインの服を縛り上げた魔法だと直感で感じ、あれを受けたら一発で終わりだと考えた。

 

「マタムネ、ヒットアンドアウェイで攻撃するぞ。ただしアイツの真正面に出るなよ!」

 

「ぎょい!!」

 

マタムネはミッドナイトを中心に旋回しながら近づく。

そしてタイミングを見合わせたマタムネはミッドナイトの背後を取ると一気に近づく。

 

「スパイラルペイン」

 

「ぐああぁぁぁっ!!!」

 

「うわあああぁぁぁっ!!!」

 

しかし、ミッドナイトは自分を中心に竜巻を発生させてハルトたちを近づけさせない。

 

「近づけないでごじゃる〜!!」

 

「あと1回だ!!あと1回だけでいい!!もう一回突っ込んでくれ!!」

 

マタムネはハルトの頼みを聞いてもう一度旋回しながら近づき、そして死角のところで一気に近づくが、ミッドナイトはそれを予測していたようでマタムネが近づいた瞬間、2人の方を振り向いた。

 

「2回も引っかかると思ったの?これで終わりだよ」

 

「ま、マズイでごじゃる!!」

 

「いいや!このまま突っ込め!!」

 

「本気でごじゃるか!!?」

 

「本気だ!!」

 

「う〜…どうなっても知らないでごじゃるよ!!」

 

マタムネは減速していたところをもう一度加速して、ミッドナイトに突撃する。

 

「スパイラルペイン」

 

再びミッドナイトは力の竜巻をハルトたちに向けるが、ハルトはそれを見据えていた。

 

「覇竜の……」

 

ハルトは腰に拳を溜めて構え、ミッドナイトの魔法が眼前に迫った瞬間、それに向けて拳を振るった。

 

「剛拳!!!」

 

するとハルトの拳はいとも簡単にミッドナイトの魔法を打ち破った。

 

「何!?」

 

「オラァッ!!!」

 

「がはっ!!!」

 

ミッドナイトは簡単に魔法が破られたことに驚き、そのまま攻撃して来たハルトに反応ができずに殴り飛ばされてしまう。

ミッドナイトは起き上がるがその目は信じられないと言った表情だった。

 

「な、何が……」

 

「何が起こったかわからねえか。俺の魔法がお前の魔法を吸収したんだよ」

 

ハルトの魔法『覇の滅竜魔法』の特性『統合』は相手の魔法を自分にとって最も相性のいい属性に変えて吸収するといったものだが、その最も相性のいい属性というのが無属性なのだ。

付け加えるとそれぞれの属性により変換効率は異なり、複数の属性が混ざった魔法などはほぼ吸収できない。

しかし同じ無属性の魔法ならほぼ吸収できるのだ。

ミッドナイトの魔法『屈折』は無属性の魔法。

それに対してハルトの魔法『覇の滅竜魔法』も無属性の魔法。

ハルトは『屈折』の魔法しか使えないミッドナイトにとってはまさに天敵と言ってもいい相手だった。

 

「まだだ……僕は父上に託されたんだ。六つの祈りを……」

 

ミッドナイトはふらつきながらもたちあがる。

 

「そうか。なら俺も……」

 

ハルトは左手の拳を右手の手のひらと胸の前で合わせて、構える。

 

「仲間の想いを背負ってんだ」

 

両者は再びぶつかり合った。

 

 

その頃ルーシィたちはコブラを打ち倒したナツがブレインによって新たな六魔将軍にされそうなところをルーシィ、グレイ、ジュラに発見された。

そしてブレインの口からニルヴァーナの第一の標的がウェンディたちが所属する化猫の宿だと言われ、何故だと問いかけるもブレインがルーシィたちを殺そうとするが聖十のジュラが圧倒的な力で打ち倒した。

驚愕するルーシィたちのところにウェンディたちが慌てた様子で空からやって来た。

 

「みなさーん!!」

 

「大変でーす!!」

 

「やっぱりこの騒ぎはアンタたちだったのね」

 

「なんでナツ君そんなに伸びてるのー?」

 

「ウェンディ!レイン!」

 

「この都市……私たちのギルドに向かってるかもしれません!!!」

 

「らしいが、もう大丈夫だ」

 

「え? ひゃっ」

 

「わっ!」 

 

足元に倒れているブレインは見て小さく悲鳴を上げるウェンディとレイン。

 

「あのコブラってヘビ使いも向こうで倒れているし」

 

「じゃあ…」

 

「ニルヴァーナを操っていたのがブレインだとすると、こいつを倒した今、この都市も止まるはずよ」

 

「よ…よかったぁ……」

 

ルーシィの説明にウェンディとレインは安心した表情になる。

 

「気に入らないわね、結局化猫の宿ケット・シェルターが狙われる理由はわからないの?」

 

「まぁ深い意味はねえんじゃねーのか?」

 

「たまたまだよ、きっと」

 

「気になる事は多少あるが、これで終わるのだ」

 

「お…終わってねえよ……早くこれ…止め……うぷ」

 

「ナツさん!!!まさか毒に…」

 

 

「ウェンディ、早く解毒を!!!」

 

 

「オスネコもよ!! だらしないわね!」

 

「大丈夫ー?」

 

「あい」

 

乗り物酔いと毒で苦しんでいるナツとハッピーを発見したウェンディは、大急ぎで2人の治療にあたった。

 

「デカブツが言ってたな、制御してるのは王の間だとか」

 

「リチャードさんだね」

 

「中央だって言ってたから……あの建物ね」

 

「あそこに行けば、ニルヴァーナを止められるんだ」

 

そう言うと、その場にいた一同はニルヴァーナを止める為、王の間へと向かって行ったが……

 

「どうなってやがる……」

 

「何これ…」

 

「む…」

 

その頃、王の間へとやって来たグレイたちは、困惑の表情を見せていた。

 

「王の間ってここよね? なのにそれらしきモノが何一つないじゃない!!!」

 

王の間にやって来たはいいがそこには操作するものなどはなく、ただ少し荒れた地面があるだけだった。

 

「ぬうぅ…」

 

「くそっ……ブレインを倒せば止められるモンかと思ってたけど……」

 

どうすればいいかと頭をひねるグレイたちのよそではウェンディがナツとハッピーの解毒を行なっており、すでに解毒は終わっているのだがナツの顔色は優れない。

 

「どうしよう? 解毒の魔法をかけたのにナツさんが…」

 

「おおお…」

 

「こんなに苦しんでる……」

 

「ナツは乗り物に弱いんだよ」

 

「情けないわね」

 

「乗り物酔い? だったら、バランス感覚をやしなう魔法が効くかも」

 

そう言うとウェンディは、手に淡い光を集め、ナツにその光をゆっくりと流し込む。

 

「トロイア」

 

「! おお!?」

 

すると、目をパチッと開いたナツはゆっくりと起き上がり、その場で何やら確認するように飛び跳ねたりなどする。

 

「おおおおおっ!!!平気だっ、平気だぞっ!!!!」

 

先ほどまでの乗り物酔いがウソのように元気になったのである。

 

「よかったです、効き目があって」

 

「すげーなウェンディ!! その魔法教えてくれ!!!」

 

「天空魔法だし、ムリですよ」

 

「これ…乗り物って実感ねーのがアレだな。よし!! ルーシィ、船とか列車の星霊呼んでくれ!!!」

 

「そんなことをしてる場合じゃないでしょーが!!!」

 

はしゃぐナツにルーシィが叱咤するがナツはなおそれでもはしゃぐ。

 

「止め方がわからねえんだ。見ての通り、この部屋には何もねえ」

 

グレイの言葉を聞いて、ナツは真剣な顔をして一旦止まる。

 

「でもニルヴァーナの制御が出来るのはここだって、リチャードさんが言ってたし」

 

「リチャード殿がウソをつくとも思えん」

 

「止めるとかどうとか言う前に、もっと不自然な事に誰も気づかない訳!?」

 

シャルルの言葉を聞いて、全員の視線がシャルルに集中する。

 

「操縦席はない、王の間には誰もいない、ブレインは倒れた。なのに何でこいつはまだ動いてるのかって事よ」

 

シャルルの言う通り、思いつく限りのニルヴァーナを止める方法は全てクリアしているにも関わらず、変わらずニルヴァーナは目的地へと向かって動き続けている。

 

「まさか自動操縦!?」

 

 

「もしかしたらニルヴァーナ発射までセットされてる可能性もあるかも〜」

 

「そ…そんな……」

 

「僕たちの…ギルドが……」

 

ミントの言葉にウェンディとレインは目に涙を落ち込む。

ふと、その時ウェンディの頭にジェラールがよぎった。

 

「もしかしたらジェラールなら……!」

 

「ウェンディ?」

 

「皆さん!私心当たりがあるので探してきます!!レインも行こう!!」

 

「う、うん!」

 

「ちょっとウェンディ!待ちなさい!!」

 

「待ってよ〜」

 

ウェンディたちは飛び出して行ってしまった。

 

「アタシたちはどうしよう?」

 

「ウェンディたちが失敗したときのために何か探そうぜ」

 

「おう!!」

 

「あいさ!」

 

「うむ」

 

その時5人の頭の中に声が響いた。

 

『みなさん、聞こえますか?』

 

「「「!!」」」

 

突然誰からの声が全員の頭に響いてきた。

 

『私デス、ホットアイデス』

 

 

「リチャード殿!?無事なのか!?」

 

念話越しにリチャードがミッドナイトに敗れ、皆で協力してミッドナイトを倒してくれと頼んだ。

ミッドナイトがニルヴァーナの操縦を操っているらしい。

そして今、ミッドナイトは王の間の真下にいるとも伝えられた。

 

「リチャード殿……」

 

「王の間の真下って……この下だよね!?」

 

「おし!! 希望が見えてきたぞ」

 

「強い奴か……燃えてきたぞ」

 

ニルヴァーナを止める希望が見えて全員に気合が入る。

 

「行くぞ!!!」

 

そして、ミッドナイトが待つ王の間の真下を目指しだした。

 

 

 

それがブレインの最後の罠だと知らずに……。

 

 

場所は小さな村にある魔導士ギルド、化猫の宿

 

「みんなー大変だァー!!!ニルヴァーナがここ向かってるぞ!!!」

 

「何!?」

 

その村の中央にあるネコを模したテント型のギルドに一人の男が駆け込んできて、その報告にギルドの面々は騒然としていた。

 

「マスター!!!」

 

「なぶら」

 

化猫の宿のマスターローバウルは一言そう言うと、目の前のグラスに酒を注ぎ、そのまま注いだ酒を飲まず、ビンに入った酒をラッパ飲みした。

 

「えーーーっ! ラッパ飲みすんなら注ぐなよ!!」

 

「なぶら」

 

「てか、ニルヴァーナが向かって……」

 

「何!?誠か!!?」

 

「飲み干してからしゃべってくれ!!!」

 

ローバウルは口に入れた酒を吐き出しながら驚愕の言葉を口にした。

 

「ニルヴァーナがここに向かって……これは運命か偶然か、なぶら……」

 

「ウェンディとレイン、無事だといいんだが…」

 

「ああ……いざって時は、オレらじゃ役に立てねえし……」

 

「ごきゅごきゅ……安心せい」

 

「飲めってちゃんとー!」

 

ラッパ飲みした酒を再び吐き出しながらしゃべるローバウルにギルドメンバーがツッコミを入れる。

 

「光の魔力は生きておる。なぶら大きく輝いておる」

 

ローバウルのその言葉に歓声を上げるギルドメンバーたち。

 

「けど、これは偶然じゃないよな」

 

「オレたちの正体を知ってる奴がいたんだ」

 

「だからここを狙って」

 

それでもなお、不安の声を上げるメンバーたち。

 

「なぶら…」

 

「長ェ付き合いだが、未だに『なぶら』の意味がわからん」

 

「マスター、避難しようぜ!」

 

「ニルヴァーナは結界じゃ防ぎきれねえ!!」

 

「バカタレがァ!!!!」

 

逃げようと提案するメンバーたちを、ローバウルが一喝する。

 

「アレを止めようと、なぶら戦っている者たちがいる。勝利を信じる者は動く必要などない」

 

ローバウルの言葉に、静まり返るギルドメンバー。

 

「なんてな…」

 

そう言って酒瓶をテーブルの上に置くローバウル。

 

「時が来たのかもしれん。ワシらが禁忌に手を出した罪を清算する時がな」

 

そう呟くローバウルの表情はどこか寂しげであった。

 

 

その頃、ハルトとミッドナイトの戦いは佳境に入っていた。

 

「覇竜の旋尾!!!」

 

「ぐはっ!!」

 

ハルトの回し蹴りがミッドナイトの鳩尾に深く入る。

 

「ハルト!!一気に追い込むでごじゃる!!!」

 

「わかった!!覇竜の……咆哮ォッ!!!」

 

「くっ!!」

 

ハルトのブレスはまっすぐミッドナイトに向かうがミッドナイトが腕を振るうとブレスは不自然に曲がり、ミッドナイトの横にあった建物に当たった。

 

「ハァ……ハァ……僕は…まだ負けるわけには……」

 

「案外しぶてぇな……何回も攻撃が当たってんのに倒れやしねぇ」

 

「僕は最後の祈りだ。負けるわけにはいかない」

 

「その祈りってのは何だ?……お前らの目的は?戦って感じるんだよ。お前……何を怖がってんだ?」

 

ハルトの言葉にミッドナイトの肩がピクリと動いたのをハルトは見逃さなかった。

ハルトはミッドナイトが何かから逃げているような印象を持っていた。

 

「怖がっている………か、そうだね……僕たちはあの日々から逃げている」

 

ミッドナイトは顔を上げて上空にいるハルトを見る。

 

「僕たち六魔将軍は『楽園の塔』を建設するために連れ去られた子供達さ」

 

「なんと!?」

 

「エルザと同じなのか!!?」

 

マタムネとハルトはミッドナイトの言葉に驚く。

 

「エルザ、僕たちを裏切った女……っていう設定だったよね。そのほうが都合がいいってジェラールも言っていたよ」

 

「お前、ジェラールも知ってるのか」

 

「今、そのジェラールがエルザと一緒にこのニルヴァーナにいるって言ったら、君はさらに驚くかな?」

 

「なんだと!?ジェラール生きてたのか!!」

 

ハルトが動揺するが、ミッドナイトはそれを流す。

 

「まぁ、いいや。あとでどうせエルザは殺すし、ジェラールは闇に落ちてこちら側に戻るさ」

 

ミッドナイトがニヒルな笑みを浮かべてそう言うが、ハルトはそれを鼻で笑った。

 

「わかってねぇな。お前ら」

 

「何?」

 

「俺もそんなにジェラールを知らねぇけどよ。少なくともジェラールはもう闇に落ちねえよ。エルザが一緒にいるんだからな」

 

ハルトは自信がある表情で言い切る。

それはジェラールの光を、そしてエルザを信用しているから言えるのだ。

それを聞いたミッドナイトの体が震える。

 

「そんなもので……あの地獄が振り払えるか……あの闇は消えたりしない」

 

ミッドナイトの呟きが終わるのと同時にどこからか真夜中を知らせる鐘の音が鳴り響く。

 

「なんでごじゃる?」

 

「真夜中に僕の歪みは極限状態になる」

 

突然ミッドナイトの体が黒く染まり、膨れ上がる。

そして漆黒の化け物になった。

 

「味あわせてあげるよ……僕たちの闇を!!!」

 

ハルトは再び構え直し、体から魔力を放出させ、自身を強化させる覇王モードになる。

 

「やってみろ……お前の歪みも!!闇も!!ぶっ飛ばしてやるよ!!!」

 



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第102話 ゼロ

突然姿が化け物に変貌したミッドナイトにハルトは覇王モードになって立ち向かう。

 

「ルアァッ!!!」

 

ミッドナイトが爆発のような一歩踏み出しながら手のひらから黒い魔力を放つ。

ハルトはそれを剛腕で防ぐが、マタムネが耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

「うわあぁっ!!」

 

「マタムネ!!」

 

「ホラ!ドンドンイクヨ!!!」

 

ミッドナイトの腕から魔力弾が連射されるのをマタムネは全て避けていく。

すると突然ハルトの体に衝撃が走る。

自分の体を見ると腹にいつのまにかミッドナイトから生えている角が突き刺さっていた。

 

「ごふっ……!」

 

ハルトの口から血が溢れ出てしまう。

 

「ハルト!?」

 

「ハハハッ!!コレデ終ワリダヨ!!!」

 

さらにマタムネの背後から黒い影が伸びてきてマタムネを絡め取ろうとする。

 

「ハルト!!!」

 

マタムネは体が闇に囚われながらも必死にハルトの体を揺すったり、呼ぶが、ハルトは角が刺さってから目に生気が宿らず動かない。

 

「キミヲ殺シタラ、仲間モアトヲ追ワセテアゲルヨ!!!!」

 

それを見たミッドナイトがほぼ意識のないハルトに向かってそう言うと、残り僅かに残っていたハルトの意識がミッドナイトの言葉を聞き取った。

 

(あとを……追わせる?仲間を殺す……ルーシィを殺す………)

 

「やらせるわけねェだろうがあァァァァッ!!!!!」

 

「!!!!?」

 

「ハルト!!」

 

怒りで覚醒したハルトは魔力でマタムネを覆うとしていた闇を消し去り、腹に刺さっていた角も消えていった。

 

「ボ、僕ノ魔法ガ!!!」

 

「マタムネェッ!!!」

 

「ぎょい!!!」

 

ハルトの合図でマタムネは巨大なミッドナイトの足に向かって滑空して下がるとハルトは覇竜の断刀で足を切りつける。

 

「グアァッ!?」

 

ミッドナイトは膝をつき、ハルトは旋回しながら飛燕拳を放ち牽制して、そのすきにハルトは顎にアッパーを放ち、顔を上に向けさせ再び上空に上がる。

 

「マタムネ!!行くぞォ!!!」

 

「ぎょい!!!」

 

ハルトの魔力がマタムネを包み込み、羽にも魔力が帯びていき巨大なな翼となる。

そしてミッドナイトに向かって蹴りの姿勢で一気に速度をつけて降下する。

その勢いと高まっている魔力の蹴りはミッドナイトの体を破壊していき、本物のミッドナイトに蹴りがはいる。

 

「あああぁぁぁぁああっ!!!!!」

 

「オラアァァァァッ!!!!!」

 

「いけーー!!!」

 

ミッドナイトは地面に打ち付けられ、そこにクレーターができた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「ぼ、僕の幻覚が……」

 

「さっきの幻覚だったでごじゃるか……」

 

ミッドナイトの幻覚はハルトの魔力に圧倒され、破壊されていってしまったのだ。

 

「僕は最強なん…だ……父上をも越える最強の…六魔。誰にも負けない最強の…魔導士」

 

「お前じゃまだまだ弱ぇよ」

 

ハルトのその言葉を聞いて、ミッドナイトは意識を失った。

 

「うぷっ……!ま、マタムネ!はやく上がれ!気持ち悪くなってきた……」

 

「ハルトー、最後くらいしっかりするでごじゃる」

 

「いいから早くしろ……」

 

 

ハルトがミッドナイトを倒す少し前に、ブレインがリチャードに扮し、ナツたちを罠に嵌め、爆発に巻き込まれたがジュラがその身を犠牲にしてナツたちを守った。

しかし、その時七人目の六魔将軍であるブレインの杖であるクロドアが立ちふさがり、ナツたちを翻弄していた。

 

「ぐおっ!!」

 

「いでっ!!」

 

「ナツ!グレイ!」

 

ルーシィがクロドアに殴り飛ばされるナツとグレイを心配するが……

 

「ほう」

 

「キャー!!!」

 

クロドアがいつのまにかルーシィのスカートをめくり上げてパンツを覗いていた。

 

「へンタイ!!」

 

「おっと!」

 

ルーシィは咄嗟に蹴りを放つがクロドアは簡単に避けてしまう。

 

「少し大人びた下着を着ているようだが背伸びしているように見えるぞ。小娘」

 

「う、うるさいわね!!」

 

ルーシィは常日頃ハルトとあわよくばと思っており、結構攻めている下着を着ているが、それを言われて相当恥ずかしかった。

そのときクロドアは感じ取ってしまった。

最後の六魔、ミッドナイトが倒されてしまったことを……

 

「六魔が…全滅!!?」

 

叫びながら信じられないと言いたげな表情をするクロドア。

 

「いかん!!! いかんぞ!!!あの方が…来る!!!!」

 

「あ?」

 

「あの方?」

 

尋常ではない怯え方をするクロドアの言う「あの方」と言う言葉に、グレイとナツは首を傾げる。

 

「あわわわ…」

 

「何だっていうんだよ…」

 

「ブレインにはもう一つの人格がある」

 

グレイの問い掛けに答えるように、クロドアは震える言葉で話し始める。

 

「知識を好み〝脳”(ブレイン)のコードネームを持つ表の顔と、破壊を好み〝無”(ゼロ)のコードネームを持つ裏の顔」

 

「ゼロ!?」

 

「あまりに凶悪で強大な魔力の為、ブレイン自身がその存在を六つの鍵で封じた」

 

「もしかしてそれが…六魔将軍!?」

 

「生体リンク魔法により、六つの〝魔〟が崩れる時……〝無”の人格は蘇る……」

 

そう言葉を終えると同時に、ぞわっと寒気を感じ取ったクロドアは、部屋に大きく開いた穴を凝視する。

するとそこには一つの人影が見えていた。

 

「お…おかえりなさい!!!マスターゼロ!!!!」

 

「マスター!?」

 

そう言って人影に向かって地面に頭を付けるクロドアを見て、ナツたちも穴の方に視線を向ける。

そこには顔と服装こそはブレインの物だが、肌の色が白くなり、声も荒々しいモノとなり、まるで別人のような男が歩み寄ってきた。

 

「ずいぶん面白ェ事になってるな、クロドア。あのミッドナイトまでやられたのか?」

 

「はっ!!! も…申し訳ありません!!!!」

 

「それにしても、久しいなァこの感じ。この肉体…この声…この魔力…全てが懐かしい」

 

そう言うと、男は着ていたブレインの服を脱ぎ捨てる。

 

「後はオレがやる。下がってろクロドア」

 

「ははーっ」

 

そして男は体中に魔力を纏い、魔力で新たな服を作り、身に纏うと目の前のナツたちを睨みつける。

 

「小僧ども、ずいぶんとうちのギルドを食い散らかしてくれたなァ。マスターとして、オレがケジメを取らしてもらうぜ」

 

 

その男こそブレインの裏の人格であり六魔将軍のギルドマスターゼロであった。

 

「こいつが、ゼロ!!?」

 

「六魔将軍の…ギルドマスター!!?」

 

「燃えてきただろ? ナツ」

 

「こんな気持ち悪ィ魔力初めてだ……」

 

ゼロと真正面から向き合う。

ただそれだけでナツたち妖精メンバーは、ゼロから漂う気味悪い魔力で、体を震わせていた。

 

「そうだな……まずはこの体ブレインを痛めつけてくれたボウズから……消してやる」

 

ゼロが目を付けたのは、目の前のナツたちではなく、気を失い倒れているジュラであった。

 

「動けねえ相手に攻撃すんのかよテメェは!!!!」

 

「動けるかどうかはたいした問題じゃない。形あるものを壊すのが面白ェんだろうが!!!!」

 

そう言って、ゼロはグレイに向かって怨霊のような不気味な魔力を放つ。

 

「シールド!!!」

 

すぐさま造形魔法で氷の盾を展開し、それを防ごうとするグレイだが……

盾は数秒も保たずにヒビが入り、破壊されていく。

 

「オレの盾が!!?こんな簡単に…ぐああああああっ!!!!」

 

そして盾を完全に破壊され、ゼロの魔力によって吹き飛ばされるグレイ。

 

「!!」

 

すると、拳に炎を纏ったナツがゼロの懐に入り込み、拳を叩き込もうとする。

しかし、ゼロは素早く体を捻ってそれを回避し、裏拳をナツの顔面に叩き込んだ。

 

「ぐああぁぁぁあ!!!」

 

グレイに続いてナツまでもが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「そんな…」

 

次々とやられていく仲間を見て、ガクガクと体を震わせるルーシィとハッピー。

 

(体が動かない……怖い……ハルト……!!)

 

恐怖により動けなくなったルーシィに対し、ゼロは手を翳し……

 

「きゃあああああ!!!」

 

「わぁああああ!!!」

 

地面から怨霊のような魔力を出現させ、ルーシィとハッピーを吹き飛ばす。

ゼロは瞬く間にナツたち妖精の尻尾の4人を倒してしまった

 

「さ…さすがマスターゼロ!!!お見事!!!!この厄介なガキどもをこうもあっさり……」

 

そんなゼロに対してクロドアは賞賛の言葉を口にするが、ゼロはこれでは終わりではなかった。

 

「まだ死んでねえな」

 

「へ?」

 

ゼロのそんな言葉を聞いて、クロドアは呆気に取られる。

 

「まだ死んでねえよなァガキどもォォ!!!だって形があるじゃねえか!!!!!」

 

そう言って、ゼロは倒れているナツたちに更なる追撃を行なう

 

「ガハハハハハハッ!!!!!」

 

「ひいいいっ!!!マスターゼロ!!それ以上は……」

 

それからその部屋にはゼロの不気味な笑い声とクロドアの恐怖の悲鳴。

そして、何かが壊れるような耳障りな音だけが響いていった。

 

 

 

「ちくしょー、ブレインのやつどこにいるんだよ……ニルヴァーナ全然止まんねえじゃねえか」

 

ハルトたちは空からニルヴァーナを動かしていると考えているブレインを探すが全く見当たらない。

 

「ハルトー、ちょっといいでごじゃるか?」

 

「なんだ?」

 

「下ろしていいでごじゃるか?疲れたでごじゃる」

 

「はぁっ!?何言ってんだ!!下ろしたら俺動けなくなるぞ!!……ん?この匂いは……マタムネ!下に降りろ!!」

 

「ぎょい!」

 

下に降りるとそこには化猫の宿のメンバーとエルザ、そしてジェラールがいた。

 

「ハルト!」

 

「「ハルトさん!!」」

 

「あーマタムネくんだー」

 

「アンタたちもいたのね」

 

ジェラール以外がハルトと再会できたことを喜ぶがハルトはそれに反応せず、ジェラールを凝視する。

それに気づいたエルザは気まずそうにする。

 

「は、ハルト……ジェラールは……」

 

「よお!ジェラールじゃねえか!!無事だったんだな!!」

 

ハルトは怒るでもなく、ジェラールに親しげに話しかけ、エルザとジェラールは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

 

「ん?どうした?」

 

「ハルトはジェラールに対して何も思っていないのか?」

 

エルザは妖精の尻尾のメンバーは少なからずジェラールに恨みを持っていると思ったがハルトの態度に驚いた。

 

「ジェラールは俺を助けてくれたんだ。それにエルザが一緒にいるってことは少なくてもそういうことなんだろ?」

 

ハルトはそう言ってくれて、エルザは安心した。

 

「すまない……俺は君のことを覚えていないんだ……」

 

「ジェラール、私たちのことも覚えていないみたいなんです……」

 

「ウェンディたちと知り合いなのか?」

 

ウェンディがジェラールと旅をしたことを説明し、ハルトは納得した。

 

「なるほどな……覚えていないのは爆発に巻き込まれたせいだな」

 

「恐らくそうだろうな」

 

「まっ、何はともあれ。俺はジェラール、お前のお陰で助かったんだ。ありがとうな」

 

「………」

 

ジェラールはハルトから礼を言われ、戸惑ってしまう。

罪人の自分がそんなことを言われると思ってなかったからだ。

 

「ハルトー」

 

「なんだ?」

 

「もう無理でごじゃる」

 

「おぼっ…!ま、マタムネ……!!テメェ……!!」

 

「あー……肩凝ったでごじゃる……」

 

乗り物酔いになってしまったハルトにウェンディとレインが駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ナツさんと同じで乗り物酔いかな?」

 

「じゃあトロイアを……」

 

ウェンディの手から光が放たれると、気持ち悪そうにしていたハルトの顔色がみるみる良くなっていった。

 

「おおっ!!スゲェな!!全然平気だぞ!!!」

 

ハルトは立ち上がり、ピョンピョンとその場でジャンプする。

 

「よっかたです!」

 

「ナツくんと同じ動きしてる〜」

 

「同じバカなのよ」

 

「シャルル!そんなこと言ったらダメだよ!!」

 

 

ナツたちへの暴行を終えたゼロは、クロドアと共に王の間へとやって来ていた。

 

「マスターゼロ、化猫の宿ケット・シェルターが見えて参りましたぞ」

 

「ふぅん」

 

ゼロはニルヴァーナの行く先に見える、化猫の宿を見据える。

 

「ニルヴァーナを封印した一族のギルドです。あそこさえ潰せば、再び封印されるのを防げますぞ」

 

「くだらねえな」

 

「え?」

 

ゼロが呟いた言葉に首を傾げるクロドア。

 

 

「くだらねえんだよ!!!!」

 

「がっ!」

 

次の瞬間、ゼロの手によって杖の棒の部分が握りつぶされるクロドア。

 

「な…なにを…マスターゼロ!!! おぐはっ!」

 

そして今度は顔の部分を踏み潰され、クロドアは完全に沈黙した。

 

「オレはただ破壊してえんだよ!!!!何もかも全てなァァーー!!!!」

 

狂気を孕んだ表情で、そう叫ぶゼロ。

 

「これが最初の一撃!!!! 理由など無い!!!!そこに形があるから無くすまで!!!! ニルヴァーナ発射だァァ!!!!!」

 

ゼロがそう宣言すると同時に、ニルヴァーナから巨大な砲台が出現し、標的を化猫の宿へと向けたのであった。

 

 

ハルトが人生で初めて乗り物に乗っても平気なことに喜んでいると突然ニルヴァーナが揺れだした。

 

「なんだ!?」

 

「あれは!!」

 

突然の揺れに全員が驚くなか、レインが指さす方向には今にも魔法を放とうとする砲台の姿があった。

 

「あれはニルヴァーナを放とうとしているのか!!?」

 

「ちょっと!!あの方向には私たちのギルドがあるのよ!!?」

 

「マタムネ!!」

 

「ぎょい!!」

 

エルザが驚きの声を上げるとハルトはマタムネに抱えてもらい、砲台に向かう。

 

「ハルト!どうするつもりだ!!?」

 

「砲台を壊す!」

 

「間に合わないぞ!!」

 

「やってみなきゃわかんねぇだろ!!!」

 

ハルトはそれでもニルヴァーナの砲台に向かうが間に合わない。

 

「くそっ!!!間に合わねェえ!!!」

 

「やめてぇーーーー!!!!」

 

「みんなーーーー!!!!」

 

ウェンディとレインの叫びが響き、ニルヴァーナが放たれようとした瞬間………。

 

 

ニルヴァーナの砲身に白い巨大な塊が上からぶつかり、魔法が外れた。

 

「きゃっ!!」

 

「うわっ!!」

 

「なんだ!?」

 

「外したわ!!」

 

全員が白い塊が落ちてきた上空に目を向けるとそこには煙を上げながらも飛び続ける青い天馬が誇る魔導爆撃艇クリスティーナの姿があった。

 



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第103話 禁忌の名

ニルヴァーナの発射を邪魔し、化猫の宿を救ったクリスティーナ。

それを見ていたエルザたちは歓喜した。

すると頭の中で声が聞こえてきた。

 

『き…きこ……聞こえ…る……聞こえるかい!!誰か!!僕の声を聞こえていないか!!?』

 

「この声は……!」

 

「ヒビキさんだ!!」

 

頭の中の声はレインが言った通りヒビキの声であり、彼の魔法『古文書』による念話だった。

 

『その声は…!!エルザさんとレインちゃんだね!!!よかった!!無事だった!!!』

 

「ウェンディたちもいますよ!!!」

 

「俺もいるぞ」

 

「せっしゃもでごじゃる」

 

『ハルト君も……!!よかった…闇に堕ちていないみたいだね』

 

「そう簡単に堕ちるかよ」

 

『私も一応無事だぞ』

 

『先輩!!よかった!!』

 

一夜も無事だったらしく、頭に声が響く。

 

「どうなっている? クリスティーナは確か撃墜されて……」

 

『壊れた翼をリオン君の魔法で補い…シェリーさんの人形撃とレンの空気魔法エアマジックで浮かしているんだ。さっきの一撃は、イヴの雪魔法にクリスティーナに積んである爆弾を加えたものなんだ』

 

『それに…今のでもう……魔力が………』

 

『イヴ!!!』

 

今のでどうやらイヴは魔力を使い切ったらしく、気絶してしまい、念話が途切れた。

 

「ありがとう…みんな」

 

「僕たちのギルドを守ってくれて……!」

 

ウェンディとレインがクリスティーナに乗っているボロボロになってまで守ってくれたヒビキたちに礼を言う。

 

『聞いての通り、僕たちはすでに魔力の限界だ。もう船からの攻撃はできない』

 

ヒビキがそう言うと同時に、クリスティーナの一部が爆発を起こし、ガクンッと高度を落とし始める。

 

「クリスティーナが落ちちゃうよー!!!」

 

『僕たちのことはいい!! 最後にこれだけ聞いてくれ!!!!時間がかかったけど、ようやく古文書の中から見つけたんだ!!!! ニルヴァーナを止める方法を!!!!』

 

ヒビキのその報せに、全員が目を見開いて驚く。

 

「本当か!!?」

 

『ニルヴァーナの足のようなものが8本あるだろう? その足…実は大地から魔力を吸収しているパイプのようになっているんだ。その魔力供給を制御する魔水晶が各足の付け根付近にある。その八つを同時に破壊する事で、ニルヴァーナの全機能が停止する。一つずつではダメだ!他の魔水晶が破損部分を修復してしまう』

 

「八つの魔水晶を同時に!!? どうやってタイミングを合わせるんですか!!?」

 

『僕がタイミングを計ってあげたいけど、もう……念話がもちそうにない。くう……!!』

 

「ヒビキさん!!」

 

「ヒビキ!!!」

 

クリスティーナが地面に叩きつけられたことによって、ヒビキの悲鳴がエルザたちの頭に響く。

 

『君たちの頭に、タイミングをアップロードした。君たちならきっとできる!!信じてるよ』

 

すると、その場にいる全員の頭に、ヒビキからの情報がアップロードされる。

 

「20分!?」

 

『次のニルヴァーナが装填完了する時間だよ』

 

つまり20分後にニルヴァーナが発射される直前に八つの魔水晶ラクリマを破壊する事。

裏を返せば、失敗すれば2度目はないという事である。

 

『無駄な事を……』

 

すると、ヒビキのものとは違う別の声が念話を通して頭に響く。

 

「!!!」

 

『誰だ!!?』

 

「この声…」

 

「あのブレインって奴の声でごじゃる!!!」

 

『僕の念話をジャックしたのか!!?』

 

『オレはゼロ。六魔将軍のマスターゼロだ』

 

その声の主は正体はゼロであった。

 

『六魔将軍のマスターだと!?』

 

『まずは褒めてやろう。まさかブレインと同じ〝古文書アーカイブ〟を使える者がいたとはな……だが、少し間違いがある。八つの魔水晶を同時に破壊してもニルヴァーナは止まらん!!!』

 

『なんだって!!?』

 

ゼロの口から衝撃的な言葉が発せられる。

 

『知らんのも当然だ。このことは古文書にも載っていない。ニルビット族がその存在を隠したくて仕方無かったものだからな……』

 

「どういうことだ!?」

 

『ニルビット族が滅んだのはニルヴァーナの所為だと言われているが、それは違う……全てはその存在のせいだからだ!!!』

 

衝撃の事実に全員が驚く。

 

『今は気分がいいから特別に話してやる。ニルヴァーナの核となるのはある存在だ。だがそれは魔法ではない。もっと特別なものだ。八つの魔水晶とそれを破壊すればニルヴァーナは崩壊する』

 

念話を聞いている全員が驚くが、それと同時に疑問に思った。

何故ゼロはこんなにもニルヴァーナの弱点を教えるのか? と。

言わなければ有利のはずなのにだ。

 

「なんでそのことを俺らに教えるんだ?言わなきゃいいだろうが」

 

ハルトが代表してそのことを聞くと、ゼロは突然笑い出した。

 

『ハッハッハッハッハッ!!!!お前ら如きがどうしようと無意味だからだ!!!!このオレが手出しもできないものだからなっ!!!!』

 

ゼロが答えたことに全員がさらに驚愕する。

今までのどの六魔よりも強いゼロが手出しができないと言ったからだ。

 

「そんな……」

 

「そんなものどうすれば……」

 

「…………」

 

絶望的な表情をするウェンディたちの中でハルトはただニルヴァーナの砲身を見ていた。

 

『聞くがいい!!光の魔導士たちよ!!!オレはこれより、全てのものを破壊する!!!!手始めに仲間を3人破壊した。滅竜魔導士に氷の造形魔導士、星霊魔導士、それと猫もか』

 

『ナツ君たちが…!?』

 

「そんなのウソよ!!!」

 

「そうだっ!!!あのナツさんたちがお前なんかに……!!!」

 

ゼロの話を聞いてヒビキは驚愕し、ウェンディとレインは否定の言葉を口にするが、ゼロは構わず話を続ける。

 

『テメェらは魔水晶を同時に破壊するとか言ったなァ? オレは今その八つの魔水晶のどれか一つの前にいる。ワハハハハ!!!!オレがいる限り、同時に壊すのは不可能だ!!!!』

 

そう言い残すと同時に、ゼロからの念話が途切れる。

 

『ゼロとの念話が切れた…』

 

 

(ゼロに当たる確立は1/8……しかもエルザとハルト以外では勝負にならんと見た方がいいか……それにゼロが言っていた存在のことをある

……)

 

頭の中でそう分析するジェラール。すると、突然シャルルが叫ぶように言葉を発した。

 

「待って!!! 8人も……いない…!? 魔水晶ラクリマ壊せる魔導士が8人もいないわ!!!!」

 

「わ…私……破壊の魔法は使えません……ごめんなさい…」

 

ウェンディが気まずそうに謝る。

ウェンディは補助の魔法は多く使えるが戦闘系の魔法は一切使えないそうだ。

魔水晶を破壊できるのはハルト、マタムネ、エルザ、ジェラール、レインの5人だ。

八つの魔水晶とゼロが言っていた存在を合わせた九つを破壊するにはあと4人足りない。

 

「こっちは5人だ、誰か他に動けるものはいないのか!!?」

 

エルザが念話を通してそう呼びかける。

 

『私がいるではないか』

 

『一夜さん!!!これで6人!!!』

 

これで動けるのは6人になった。

 

『まずい……もう…僕の魔力が……念話が…切れ……』

 

「あと4人だ!!誰か返事をしろーーー!!?」

 

エルザはそう叫ぶが、念話から帰ってくる返事はなかった。

すると……

 

 

『グレイ……立ち上がれ……お前は誇り高きウルの弟子だ。こんな奴等に負けるんじゃない』

 

リオンが念話を通してグレイに語りかける。

 

『私……ルーシィなんて大嫌い……ちょっと可愛いからって調子に乗っちゃってさ、バカでドジで弱っちいくせに……いつも…いつも一生懸命になっちゃってさ……死んだら嫌いになれませんわ、後味悪いから返事しなさいよ』

 

シェリーはルーシィに向けてそれぞれ念話を通して語りかける。

 

「ナツさん……」

 

「オスネコ」

 

「ナツさん……」

 

「ハッピーくん」

 

「ナツ……」

 

ウェンディたちが呼びかける。

 

「ルーシィ殿……」

 

「聞こえるだろ。ナツ……さっさと返事をしろ」

 

『オウ!!』

 

ハルトたちの言葉にナツが力強く答える。

 

『聞こえてる!』

 

『八つの魔水晶とよくわかんねーものを同時にぶっ壊す』

 

『運がいい奴はついでにゼロを殴れる……だよね?』

 

『あと18分。急がなきゃ…シャルルとウェンディたちのギルドを守るんだ』

 

上からナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピーの順番で答える。

ヒビキの念話による仲間たちの呼び掛けにより、息を切らしながらもキズだらけになりながらも、しっかりとナツたちは起き上がった。

 

『も…もうすぐ念話が…切れる……頭の中に僕が送った地図がある……各…魔水晶に番号を…つけた……全員がバラけるように…決めて……』

 

『1だ!!!』

 

真っ先にナツが答える。

それを皮切りに皆が次々と番号を答えていく。

 

『2』

 

『3に行く!!ゼロがいませんように……』

 

『私は4へ行こう!!! ここから一番近いと香りパルファムが教えている』

 

『教えているのは地図だ』

 

『そんなマジでつっこまなくても……』

 

『僕は5へ行きます!!』

 

『ではオレは…!?』

 

『お前は6だ』

 

言いかけたジェラールの言葉を制し、代わりにエルザが言う。

 

『他の誰かいんのか?』

 

『今の誰だ!?てかエルザ元気になったのか!!』

 

『ああ、おかげ様でな……』

 

ナツたちはジェラールが記憶喪失だという事を知らず、未だに彼を敵と認識している。故にエルザはジェラールに声を出させまいと気を回したのである。

 

「マタムネ、お前は7だ。MAXスピードでぶつかったらいけるよな?」

 

「任せるでごじゃる!!!」

 

「俺は中央のやつに行く」

 

『大丈夫かハルト?ミッドナイトとの戦いで消耗しているはずだ。私が行ったほうがいい』

 

エルザから心配する声がかけられるがハルトは笑って返す。

 

「大丈夫だって、ミッドナイトからのダメージは魔力を食ってだいぶ回復してんだよ。それに……」

 

ハルトの顔が真剣なものになる。

 

「少し気になることもあるんでな」

 

ハルトの声色も真剣なものになったのを感じ取ったエルザはそれ以上何も言わなかった。

 

『わかった……なら私は8に行こう』

 

『おい!!!さっきの誰だったんだっ……』

 

ヒビキの念話が途切れてハルトとマタムネには全員の声が聞こえなくなった。

 

「さて、行くか。マタムネ、砲門のとこまで運んでくれ」

 

「ぎょい」

 

ハルトはマタムネに砲門のとこに運んでもらった。

砲門の大きさはちょうど人1人通れるくらいの大きさであった。

 

「俺はここから中心に向かう」

 

「ここから行けるでごじゃるか?」

 

「ああ、ここから嫌な匂いが流れてくる」

 

ハルトは暗闇で見えない先を睨む。

 

「わかったでごじゃる!ハルト気をつけるでごじゃるよ」

 

「お前もな」

 

マタムネは自分が担当する魔水晶に飛んで行った。

それを見届けたハルト砲身の中を踏み出す。

 

(この匂い……あの時のヤツに似ている……4年前のヤツに……!!)

 

ハルトは暗闇の中を進みながら、拳を握りしめた。

 

 

化猫の宿のギルドではマスターローバウル以外のメンバーが不安そうな表情をしてざわついていた。

 

「なぶら落ち着かんか!!!連合の者たちを信じて待っておれ!!!!」

 

「そうは言うけどよマスター!!!!ニルヴァーナが復活しちまったんだ!!!もうアレを止めることなんてできやしねえ!!!」

 

ローバウルが全員に向かって一喝するが、その中の1人がそれに反撃するかのように大声で答える。

 

「前はニルヴァーナを封印するのにニルビット族の凄腕の魔導士が何十人って死んだんだ!!!ウェンディたち連合軍はたったの十数人なんだろ!!?」

 

その男の必死な表情の言葉を聞いたローバウルは苦虫を潰した表情になる。

 

「なぶら……確かにな我々人間ではアレを完全に止めることはできん………」

 

 

ハルトは暗闇の中を匂いを頼りに進んで行くと光が見えた。

光に向かって行くと次第にその光は大きくなっていく。

そして、広く、高く開けた場所に出るとそこは他の石造りではなく黒い鉄板のようなもので覆われた場所だった。

そして人1人分はある釘みたいのが何本もそこら中に刺さっている。

 

「ここが……ニルヴァーナの中枢……」

 

ハルトがその光景を眺めていると上で何かが動く音が聞こえ、そちらを見るとそこには異様なモノがいた。

 

体全体が古代文字が書かれた古い包帯で巻かれ、顔は骸骨のようなモノで目の窪みは存在しなかった。牙のようなモノもある。

何より気味が悪いのがその背中から伸びている6本の巨大で長い腕だ。

それらは部屋の壁、釘と同様に黒い何かで出来た鎖で固定されていた。

その大きさはハルトの約3倍もある。

 

ハルトはその異様な存在を見て、動揺を隠せず後ずさりすると足に小石が当たり、下の方に音を立てながら転がって行く。

その瞬間、その音に気づいたソレは巨大な手のひらが開き、そこにある目も開き、ギョロギョロと動き、ハルトを見据えた。

その瞬間、ソレ自身がゆっくりと動き出す。

 

「………ァァァァ……ァァァアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 

耳が張り裂けそうになる叫びを上げてソレは動き出す。

ソレの名は………

 

 

ローバウルは額に汗を流しながら、ソレの存在を思い出す。

その汗は緊張からではなく、恐怖からくるものであるのは表情でわかった。

 

「ワシらをなぶら苦しめ、絶滅まで追い込んだ化け物………『超魔獣ニルヴァーナ』」

 



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第104話 負の記憶が呼び起こしたモノ

目覚めた災厄、『超魔獣ニルヴァーナ』。

ニルヴァーナと対峙したハルトは体が震えて仕方なかった。

 

「やっぱり……アレと同じか……!!『アスラ』と……!!!」

 

それは怒りか、悲しみか……それとも恐怖からか……ハルトは震えを止めることができなかった。

ニルヴァーナはハルトに向かおうと体を動かすが、鎖が邪魔をして動けない。

 

(しめた……!今動けないならここで仕留める!!!)

 

ハルトは拳を腰にため、構え、魔力を集中させる。

 

「付加(エンチャント)…………!!!」(殺す気でいく!!!)

 

ハルトの目は本気でニルヴァーナを殺そうとしているもので、自身の最強の魔法『竜戟弾』を発動し、ジャンプでニルヴァーナに近づく。

 

「竜戟弾ッ!!!!」

 

ハルトの拳から放たれた竜戟弾は一直線にニルヴァーナに向かう。

しかし、ニルヴァーナに当たる瞬間、ニルヴァーナと竜戟弾の間に魔法陣が展開され、輝く。

そして竜戟弾はニルヴァーナに当たることなく、なぜかハルトに当たった。

 

「がはぁっ!!?」

 

突然のことに防御も何もできなかったハルトは竜戟弾の威力で地面に埋まり、口から血を吐くほどの大ダメージをくらう。

 

「な、何が………?」

 

ハルトは起き上がりながら、自分に何が起こったか確かめるが、それよりも早くにニルヴァーナが動き出した。

 

「アアアアアッ!!!」

 

鎖を振り解こうにも頑丈にできており、壊すことができない。

そうだとわかったニルヴァーナは壁ごとひきちぎり、地面に降りてきた。

 

「アアアアアッ!!?」

 

地面に落ちたニルヴァーナは地面に打ち付けられ、悲痛な悲鳴を上げてのたうち回る。

 

「今のうちに体勢を……」

 

ハルトは立ち上がり、自分の具合を確かめる。

跳ね返った竜戟弾はハルトの腹に入り、肋骨を何本か破壊した。

さっきから血が止まらない。

そして、ハルトには気がかりなことがあった。

 

(何で俺の魔法が俺自身に効いたんだ?)

 

ハルトたち滅竜魔導士は自身と同じ属性のまほうは効かず、さらには自分の魔法もダメージをくらわないはずだが、ニルヴァーナに跳ね返された竜戟弾は確かにハルトに効いた。

考えていると目の前にニルヴァーナの巨大な手が迫っていた。

 

「っ!?くっ!!!」

 

ハルトは寸前のところで気づき、その場から飛び退く。

地面は爆発したように砕け散る。

砕けた地面から手が起き上がると手のひらの目がハルトを捉える。

 

「アアアアアッ!!!」

 

ハルトを目視したニルヴァーナは飛び上がり、ハルトに向かって落ちてくる。

6本の腕を器用に使って地面に着地しながら腕を振るうのに対して、ハルトは剛腕を発動し防ぐ。

 

「ぐっ……!?」

 

しかし、ニルヴァーナの腕力は凄まじいもので踏ん張っていたハルトを簡単に吹き飛ばし、ハルトは釘を巻き込みながら倒れた。

 

「がはっ!!」

 

ニルヴァーナはそこに追撃をかけようと再び飛び上がって、ハルトを潰そうとするが、ハルトはそれをなんとか起き上がってかわす。

 

「くそっ…!!動きも早いが重い!!」

 

ハルトは追撃してくる手を全てかわし、一定の距離を取り、反撃に出た。

 

「覇竜の……咆哮ォッ!!!」

 

「アアアアアッ!!!」

 

黄金のブレスはまっすぐにニルヴァーナに向かうが当たる直前に、またあの魔法陣が現れ、咆哮はハルトに跳ね返っていく。

 

「ぐわぁっ!!!!」

 

跳ね返った咆哮はハルトを包み込んだ。

ハルトの体から跳ね返ったブレスにより煙が上がる。

 

「ハァ……ハァ……くそ……!」

 

ハルトは腕をクロスして防いだが、ダメージは防ぎきれなかった。

しかも腕で顔を隠した時にニルヴァーナの姿を見失った。

 

「どこに……!!っ!!」

 

その時ハルトに影が覆い尽くす。

上を見上げるとそこにはニルヴァーナがいた。

 

「がっ!!!?」

 

ニルヴァーナの剛腕がハルトを叩きとばし、ハルトの口から血が飛び散るのと同時に体から嫌な音が聞こえた。

立っている釘に打ち付けられたハルトはズルズルと崩れ倒れる。

 

「ハッ!ハッ!ごふっ……!!」

 

息を吸い込もうとするが血が出てきて、呼吸がうまくできない。

 

(ま、まずい…….!体が……!!)

 

体を動かそうとすると激痛が走り、動けない。

するとニルヴァーナはキョロキョロと辺りを見渡してハルトを探し出す様子を見せた。

 

(俺に気づいていないのか……?)

 

それに気づいたハルトは釘に身を隠して、出方を伺う。

 

(あいつはニルヴァーナの核だ。なら、ニルヴァーナの魔法の『反転』が使えてもおかしくねぇ……魔法が反転されるなら肉弾戦だ!!)

 

ハルトは釘から姿を現し、ニルヴァーナに近づく。

 

(あいつ自身は目が見えていない。目の役割を担っているのはあの手の目玉だ……さっきはその手で攻撃したから見失ったなら手が届かない背後からなら!!)

 

ハルトはニルヴァーナの背後から飛びかかり、後頭部を狙おうとするが、その瞬間手のひらがハルトの方を向き、凝視する。

 

(バレた!?だけど止まらねえ!!これで終わりにしてやる!!!)

 

ハルトは何も魔法を使わず、ただ全力で右の拳をニルヴァーナに向かって振り下ろす。

しかし、またしても魔法陣がハルトが狙っていたニルヴァーナの背後に現れたが、ハルトは魔法だけ反転されると考え、腕を止めなかった。

 

(このまま殴り倒すっ!!)

 

「オオオオッ!!!!」

 

ニルヴァーナを殴ったその瞬間……ハルトの腕から血しぶきが飛びちった。

 

「ぐあああぁぁぁっ!!!」

 

ハルトは激痛が走る右腕を抑えながら倒れる。

 

「ぐううぅぅぅ……!!」

 

痛みでうずくまるハルトにニルヴァーナは腕を振り下ろし、ハルトを叩き潰す。

 

「がはっ!!?」

 

何度も何度もハルトに腕を潰す勢いで振り下ろす。

 

「がっ!?あ"っ!!ゔっ!!」

 

ニルヴァーナが振り下ろすたびに鈍い音とハルトの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

化猫の宿ではローバウルが神妙な顔で超魔獣ニルヴァーナについて語っていた。

 

「ニルヴァーナのなぶら恐ろしいところは普通の攻撃では一切傷をつけられんところじゃ……彼奴は全ての攻撃を『反転』させてしまう……」

 

ローバウルは一呼吸を置き、言葉を続ける。

 

「さらに恐ろしいのは奴自身も善悪反転魔法を使えること……しかもそれは100%ニルヴァーナの味方になる………」

 

「何か対策は無いのかよ!!」

 

ギルドメンバーの1人がローバウルに聞くが、ローバウルは首を横に振るだけだった。

 

「彼奴を葬ることはできん……儂等は凄腕の魔導士たちを人柱にして封印するしかできなかった……いや…それしかなかった………彼奴は天災と一緒じゃ……」

 

ローバウルは膝の上で拳を握り、その悔しさを露わにしていた。

 

 

ニルヴァーナは腕を振り下ろすのを止めるとハルトの足を持って投げ飛ばす。

ハルトはダメージで受け身も取れず、投げ飛ばされる。

さらにニルヴァーナはハルトに向かって口を開き、魔力を溜めると魔力のビームを放った。

 

「ア"ッ!!!!」

 

ハルトは防ぐこともできずにニルヴァーナの攻撃が直撃し、爆発とともにまた空中に投げ飛ばされた。

地面に落ちたハルトの体は傷と火傷だらけになっていた。

 

(まず…い……意識…が………)

 

ニルヴァーナはハルトが動かなくなったのを確認するとゆっくりと近づき、ハルトの頭を両手で掴む。

するとハルトの目の前に魔法陣が現れ、白と黒の雷のような閃光が走ると同時にハルトは苦しみ出した。

 

「がああああぁっ!!!?」

 

「アアアアアッ!!!」

 

ハルトの苦しむ声とニルヴァーナの歓喜の叫びが部屋に響き渡る。

ハルトの頭の中ではハルトの後悔の記憶が次々と思い起こされる。

その中でも一番鮮明に出てきたのはエミリアとの最後の記憶だった。

 

 

辺りの建物は全て破壊され、黒煙があっちこっちから立ち上り、空から雨が降っている。

その中心で傷だらけのハルトは座り込み、その腕の中には口から血を流し、胸には血がにじみ出て死んでいるエミリアが抱きしめられていた。

ハルトはエミリアを抱えながら、涙を流していた。

 

『ごめん……ごめん…エミリア………!!』

 

 

ニルヴァーナの魔法は物理攻撃、魔法攻撃を反転させる魔法と反転を利用した意識改変の魔法と2つだけだが、最強の矛と盾にもなる魔法に、無限に味方を増やし続ける魔法。

この2つだけでもニルヴァーナの凶悪さがわかる。

そしてハルトは今まさにニルヴァーナに意識を改変させられそうになっている。

ハルトの最も辛いトラウマを強く呼び起こし、心を闇に落としたところで一気にニルヴァーナに意識を向けさせる。

それがニルヴァーナの意識改変魔法だ。

 

「ごめん……ごめん…エミリア……」

 

「アア……」

 

ハルトはうわ言のようにエミリアに謝り続けながら涙を流す。

それを見たニルヴァーナは骸骨のようにやせ細った顔で不気味に笑みを浮かべた。

 

 

それぞれ自分が担当して破壊する魔水晶に向かっている中で、ルーシィの足取りは重かった。

 

「ハァ…ハァ……」

 

「ルーシィ、急ごうよ。もう残り時間が10分切っちゃったよ」

 

「う、うん……わかってる……うっ……」

 

「ルーシィ!!」

 

ハッピーが声をかけ、ルーシィも急ごうとするが足に力が入らず、崩れ落ちてしまう。

 

「ルーシィ大丈夫?」

 

「うん、大丈夫……みんなも頑張ってるんだ。アタシも頑張らなくちゃ……!」

 

ルーシィは足に力を入れて、立ち上がり先に進む。

 

「ハルトが戦ってる……!!こんな所でヘコタレてなんていられない!!」

 

ルーシィは改めて気合いを入れて、道を進んだ。

 

 

ハルトの意識の中でハルトはエミリアに謝り続けていた。

ニルヴァーナの魔法が前向きなことを考えさせずに負のほうへと導いていき、追い込んでいく。

すると意識が呆然としているハルトの背後に綺麗な女性が現れ、手を差し伸ばした。

この女性はニルヴァーナ自身であり、精神的に追い込んだ者に手を差し伸べることで自身の配下として迎え入れる最終段階である。

ハルトがこの手を掴んだ瞬間、ニルヴァーナの従順な手下になる。

ニルヴァーナは安心させる微笑みを浮かべて、ハルトに向かって手を差し伸べると、ハルトはゆっくりとその手を掴もうとする。

もう少しで手を握ろうとした瞬間、ハルトの手は止まる。

 

「………か…….」

 

「?」

 

「お前か………こんな記憶を見せてるのはァッ!!!」

 

ハルトはニルヴァーナの手を取るのでは無く、手を掴み握り潰した。

 

「アアッ!!?」

 

現実ではハルトが意識を取り戻したことにニルヴァーナが驚き、意識改変が無理だと判断し、ハルトを殺そうと腕を振り下ろす。

しかし、ハルトはその腕を掴んで、握り潰した。

 

「アアアアアッ!!!?」

 

ニルヴァーナの腕は折られ、悲痛な叫びが響き渡る。

 

「よくも俺の記憶を弄りやがったな……」

 

ハルトの体から魔力が溢れ出る。

しかしそれは覇王モードのように不規則に溢れ出るものでは無く、ハルトを覆っていき、形作っていく。

それはどこか竜の形に見える。

 

「ブッ殺ス!!!!」

 

目は碧眼からハルトの魔力の色と同じ、黄金色に変わった。

ハルトはさっきまでの瀕死のダメージが無かったかのようなスピードで飛び出して行く。

ニルヴァーナは迎え撃とうと腕を振り下ろすが、その瞬間ハルトの姿が消え、ニルヴァーナの背中に激痛が走る。

振り向くとそこにはハルトが獣のように四つん這いで、手に帯びた魔力が指先から爪のように伸びて、その爪を突き立てていた。

 

「アアアアアッ!!!」

 

ニルヴァーナが振り落とそうとするが、両手両足の爪が体に深くつき

刺さって抜ける様子はない。

ニルヴァーナは振り落とさないと分かるとジャンプして背中を壁にぶつけたが、ぶつかるより早くハルトは飛び退いて壁に捕まる。

その動きは最早人間のものではなかった。

 

「グルルルルル……」

 

まるで竜の呻き声のようなものがハルトの口から聞こえてくる。

ニルヴァーナが口からまたビームを放つがハルトはそれをスレスレでかわしながら、ニルヴァーナに飛びかかり、ニルヴァーナが反応するより早く拳を振り、横顔に右拳が深く突き刺さる。

 

「アア"ッ!!?」

 

さっきまではニルヴァーナの力に負けたハルトの力がニルヴァーナを吹き飛ばすほどに上がっている。

しかもニルヴァーナの殴られた頬には鱗で傷つけられたような痕ができていた。

ハルトを覆っていた魔力は少しずつ形が作られていく。

腕を覆っていた魔力は爪がハッキリと作られ、鱗が!でき始める。

さらには尻尾のようなものまで出来始めた。

ニルヴァーナは痛みに耐えながら、手の目でハルトを見る。

その時ハルトの姿から過去のあるものの姿を彷彿させた。

それは聖戦時代、何度も対峙し、恐怖を植え付けられた存在…………ドラゴンを!!!

 

「アアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」

 

ニルヴァーナは今まで一番の叫びを張り上げ、ハルトに背中を見せて逃げ出した。

一目散にハルトが通ってきた通路に向かっていき、その巨体には狭い通路を無理やり通ろうとし、周りの壁を破壊して行くが、突然ガクンと後ろに引っ張られる。

 

「どこに行ク!!」

 

ハルトがニルヴァーナに打ち付けられていた鎖を引っ張るとニルヴァーナは抗うが簡単に引っ張られ、部屋に戻されてしまう。

 

「簡単に逃ゲラレると思うナヨ……」

 

ニルヴァーナは竜の逆鱗に触れてしまった。

 




新しく違うのを書きました。

『ありふれていない者たちの英雄譚』

です。
こっちもよろしくお願いします。


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第105話 彼女の言葉

絶体絶命の窮地に陥ったハルトはニルヴァーナの意識改変魔法により、過去の最も辛い記憶を掘り起こされ、洗脳されそうになったが、掘り起こされた記憶はハルトを絶望に陥れるどころか逆にその逆鱗に触れ、怒りとともにハルトを復活させた。

しかもハルトの魔力はまるで自我を持っているかのようにハルトに纏わりつき、ニルヴァーナを追い込むほどの力を与えた。

 

「ラああァッ!!!」

 

ハルトがニルヴァーナに飛びかかり、魔力でできた爪を振りかぶる。

しかし、ニルヴァーナは爪が当たる瞬間に反転の魔法陣を発動し、爪を弾き返すのと同時にハルトのはじき返された右腕に衝撃と痛みが走るがハルトはそれを気にせず、さらに左腕で追撃する。

しかしそれもニルヴァーナの反転させられる。

 

「ラアッ!!!」

 

ガンッ!!!

 

「ア"ア"ッ!!?」

 

が、ハルトはさらにニルヴァーナの顔に向かって頭突きを放ち、ニルヴァーナから痛みからの叫びが零れる。

ハルトの両腕からは血が流れるが、ハルトはそれを気にした様子はなくギラギラとした目でニルヴァーナを睨む。

その姿は少し理性をなくしているようにも見えた。

 

「アアアアアッ!!!」

 

ニルヴァーナはハルトに向かって複数の腕で襲いかかり、ハルトは避けもせずそれを受ける。

 

ドドドドドドドドッ!!!

 

ハルトに打ち付ける連打の音と地面が破壊される音が響くが、ハルトは何度も打ち付ける腕を両脇で締めて固定し、ギチギチと締め上げる音が鈍く響く。

 

「アアアッ!!」

 

痛みにもがくニルヴァーナは締められている両腕に魔法陣を発動すると、ハルトの体に締めている力が反転してハルトを襲う。

 

ガンッ!! ガンッ!!

 

「ぐっ!!ブッ!!」

 

しかしハルトは衝撃で口から血が出ても放さない。

 

「絶対二放さねエぞ……!!」

 

ハルトは血が零れる口を開くとノーモーションで咆哮を放つ。

 

「ア"ア"ア"アアアァァァ……!!!」

 

突然の攻撃に反転の魔法を出すことを遅れたニルヴァーナはモロに咆哮をくらい悲痛な叫びがあがり、ハルトはその時ニルヴァーナの力が緩んだのを見逃さず、回転して振り回す。

 

「ウオオオオォォォォッ!!!!」

 

ニルヴァーナは振り回され、体に乱立する巨大な釘が何本も打ち付けられる。

回転の力を利用して、投げられたニルヴァーナはもんどり打ちながら転がった。

 

 

ニルヴァーナ破壊の作戦決行まで残り5分。

その頃、ルーシィが向かっていた3番魔水晶ラクリマでは……

 

「ルーシィ、大丈夫?」

 

ルーシィについて来たハッピーが彼女にそう問い掛けるが、ルーシィは何も答えず震えながら、地面に座り込む。

 

「見栄とか張ってる場合じゃないのに……『できない』って言えなかった」

 

震える声でそう言いながら、ルーシィは悔し涙を流す

 

「もう…魔力がまったくないの…」

 

エンジェルと戦った際に使ったウラノ・メトリアで残り少なかった全ての魔力を使い切ったルーシィの魔力はもう空であった。

 

「それでもウェンディたちのギルドを守りたい、うつむいていたくない。だからあたしは最後まで諦めない」

 

それでも尚、ルーシィは何とかしようと諦めることなく立ち上がる。

しかし、どこかの戦いの余波の揺れでフラつき、倒れてしまう。

 

「きゃっ!!」

 

「ルーシィ!!」

 

「うぅ……」

 

再び立ち上がろうとするルーシィの背後に何かの影が現れる。

 

「「時にはその想いが力になるんだよ」」

 

後ろから声が聞こえ、ルーシィはそちらへ視線を向ける。

 

「「君の想いは僕たちを動かした」」

 

「ジェミニ!!?」

 

なんとエンジェルが契約していた星霊の一体、ジェミニが立っていた。

 

「「ピーリッピーリッ」」

 

そしてジェミニは掛け声と共に、ポンッと音を立ててルーシィに変身した。

 

「僕たちが君の意志になる。5分後にこれを壊せばいいんだね?」

 

「ありがとう……」

 

思わぬ助っ人の登場にルーシィは涙を流して喜んだ。

喜んだ瞬間、また激しい振動がルーシィたちを襲う。

 

「ひゃっ……!」

 

「すごい振動だね……」

 

「だれが戦ってるんだろう?」

 

先程から何度も襲ってくる揺れにルーシィは少しビビる様子を見せ、ルーシィに扮したジェミニはあまりの揺れに驚き、ハッピーは誰が戦っているか不思議に思った。

しかしルーシィには何故か誰がこの揺れを起こすほどの戦いを繰り広げているかわかった。

 

「ハルト……」

 

ルーシィの心配する声が響いた。

 

 

 

巨体なニルヴァーナが転がることで核の部屋全体が揺れ、天井に刺さっていた釘がニルヴァーナに降りそそぐ。

ニルヴァーナは反転の魔法で落ちてくる釘を防ごうとするが、何故か魔法陣をすり抜け、ニルヴァーナの手に突き刺さった。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!」

 

ニルヴァーナは叫び、のたうち回るのをハルトは見て、ニルヴァーナの反転の魔法が効かずに傷がついたことに気づいた。

 

「あの釘なら魔法が効かないのか?」

 

ハルトは足元に砕けた釘に目を向けると、砕けた表面からミイラのようにシワシワになった腕が出ていた。

 

「人柱か……!」

 

「アアアアアッ!!!」

 

ブンッ!!!

 

ハルトが人柱に目をとられているとニルヴァーナが腕を振ってきた。

 

「ガッ……!!?」

 

ハルトは隙を突かれ、殴り飛ばされた。

 

「ち……ちくしょう……!!」

 

「アアアアアッ!!!」

 

瓦礫に埋もれたハルトにトドメを刺そうとニルヴァーナが飛びかかってくる。

しかしハルトはそのままでやられる訳はなく、近くに落ちていた釘を取って構えて、飛んできたニルヴァーナに突き刺す。

 

「アアアアアッ!!!?」

 

釘が突き刺さった腹から青い液体が飛び散り、ハルトにかかる。

ニルヴァーナは苦しみながらもハルトを掴み、投げられる。

 

「ぐっ…!!うっ!!」

 

ハルトは投げられ転がるが、ニルヴァーナから目を離さない。

ニルヴァーナは突き刺さった釘を抜き、血であろう青い液体を流しながらハルトに迫る。

 

「アアアアアッ!!!」

 

迫ってくるニルヴァーナにハルトは釘を持って立ち向かう。

釘を刺すように突き出すがニルヴァーナはそれを左に移動することでかわすが、ハルトは突き出した状態で左に向かって釘を振るってニルヴァーナにぶつける。

それも反転の魔法陣で防ごうとするが釘は魔法陣をすり抜け、ニルヴァーナにぶつかった。

 

「ア"ァ!?」

 

「やっパり効くのカ!!」

 

ハルトが振り抜いた釘を今度は右に振り抜き、ニルヴァーナにぶつける。

 

「ア"ッ!?」

 

しかし、右に振り抜いた釘をニルヴァーナは二本の手で掴み、ハルトごと持ち上げる。

 

「クそ!!」

 

「アアアアアッ!!!」

 

ニルヴァーナはハルトに向かって口からビームを放つ。

 

「がはっ!!」

 

モロに受けたハルトは朦朧とする意識の中、迫る腕を見ていた。

 

「アアアアアッ!!!」

 

ニルヴァーナの振り抜いた腕は落ちてきたハルトに直撃し、ハルトは天井に叩きつけられた。

叩きつけられた天井部分はハルトがぶつかったことで亀裂が入り、ハルトは減り込んでいた。

にるはさらに追撃しようと壁に這いつくばってハルトの所まで登って行き、複数の手を一気にハルトに叩きつけた。

 

「あ"……ぁぁ……」

 

ハルトは微かな呻き声を上げて下に落ちていきながら、ハルトを包んでいた魔力は消えていき、地面に落ちると部屋が球状のため、一番下まで転がっていく。

 

「ぐ……ぅぅ………」

 

完全に魔力が消えたハルトの体はニルヴァーナの攻撃で傷と火傷だらけになり、血は服に染み付き、焦げがあっちこっちにできていた虫の息だった。

それを見たニルヴァーナはハルトにトドメを刺そうと動き出す。

背中が不自然に膨れ上がり、元からあった6本の腕よりは細いが何十本の腕が生えた。

しかもその手のひらには目がついており、それらがハルトに一斉に向けられる。

 

「アアアアアッ!!!」

 

キュアァァァァァッ!!!

 

その目がニルヴァーナの叫び声とともに輝き、魔力の高まる音が聞こえ、ハルトを殺す準備を整える。

最早ハルトに起き上がる力が残っていなかった。

 

作戦決行まで残り1分。

それぞれが準備に入るのと同時にそれぞれの魔水晶が強く光る。

 

1番魔水晶

 

「うおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」

 

「無に落ちろオオォォォォォォォッ!!!」

 

ジェラールに力を与えてもらったナツは黄金の炎を身に纏い、滅竜魔導士の最終奥義『ドラゴンフォース』を発動させて、ゼロと激突する。

 

2番魔水晶

 

「時間だ!!!!みんな頼むぜ!!!!」

 

グレイは手を合わせ、魔法の準備に入る。

3番魔水晶

 

「開け!!!!金牛宮の扉……タウロス!!!!」

 

ルーシィに扮したジェミニがタウロスを召喚する。

4番魔水晶

 

「ぬおおおおおおおっ! 力の香り(パルファム)全開~!!!!」

 

一夜はイモムシのように這いつくばりながらも、なんとか辿り着き、力の香りによりその肉体を筋骨隆々にする。

 

5番魔水晶

 

「ハルトさん……ナツさん……信じてます!」

 

ハルトとナツを信じたレインは魔力を高め、準備にはいる。

 

6番魔水晶

 

「力をかして……グランディーネ!」

 

ジェラールに魔水晶の破壊を任されたウェンディはジェラールに言われた通りのアドバイスを信じて、集中する。

 

7番魔水晶

 

「行くでごじゃるよー!!!」

 

翼を生やしたマタムネは既に準備ができており、いつでもいけるように構える。

 

8番魔水晶

 

「ハルト……ナツ……」

 

エルザは激戦を繰り広げているであろうハルトとナツの名前を呟いた。

 

 

残り時間が僅かになり、各部屋の魔水晶が激しく光り、その魔力がハルトがいる中央の部屋に集められ部屋全体が怪しい光に包まれ、ニルヴァーナ体全体に魔法陣のような光の線が走り、ニルヴァーナの体から魔力が溢れ出て砲門の前に集まる。

しかしハルトは体に力が入らず、倒れるしかできなかった。

ほぼ失いかけている意識の中、誰かの声が聞こえてくる。

 

『……ト…!………ルト…!ハ…ルト……!!』

 

(エ…ミリア……?ははっ……エミリアの声が聞こえて…きやがった……いよいよ死ぬときがきたってことか……)

 

ハルトはエミリアであろう声に耳を傾けて、目を閉じる。

 

(いいかもな……ここで死んでも………お前の…元に行けるなら………)

 

ハルトは完全に諦めた笑みを浮かべた表情になる。

しかし………

 

『起きて!!ハルトッ!!!』

 

閉じた目に映ったのはエミリアではなく、必死に叫ぶルーシィだった。

 

(ルーシィ!!!)「ゴホッ……!ゴホッ……ぐうぅっ!!!」

 

ルーシィが頭によぎったハルトは血が溢れ出る体を無理矢理動かし、立ち上がる。

立ち上がったハルトを見たニルヴァーナは捕まっていた壁からハルトに向かって飛んだ。

 

「まだ……死んでいられるかよオォォォォォォォッ!!!!!!」

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!!!」

 

ハルトの叫びとともにそれに対抗するかのようにニルヴァーナの叫びとともにニルヴァーナの全ての手の目から口と同様のビームが放たれる。

 

「付加(エンチャント)ッ……!!!」

 

残り僅かな体力と魔力を右拳に貯める。

ハルトの周りにビームがいくつも着弾するがハルトはニルヴァーナを見据え、足元に落ちている釘を自分の目の前に蹴り上げ、尖っている先端の逆の方に拳を打ち付ける。

 

「竜戟弾ッ!!!!!」

 

竜戟弾の勢いを利用した釘はニルヴァーナに真っ直ぐ向かって行く。

 

「アアアアアッ!!!!!」

 

ニルヴァーナは手を前に突き出し、串刺しにして食い止めた。

 

「オオオオオオォォォォォォォッ!!!!!!」

 

ハルトの叫びとともに竜戟弾の勢いは増し、ニルヴァーナの胴体に釘が突き刺さり、そのまま貫通し、ニルヴァーナの胴体に風穴を開けた。

そしてその瞬間、各部屋の魔水晶が一斉に破壊された。

各動力源を破壊された古代都市ニルヴァーナは8本の足から崩れ、街全体が崩れ始めた。

 

風穴を開けられたニルヴァーナは声も上げずに落ちていった。

ハルトは拳を突き出した状態で固まった状態から、腕が力が抜けたように下がり、体も力が抜けて膝から崩れ落ちて倒れた。

するとその部屋も崩壊を始め、ハルトは瓦礫の中に埋もれた。

 



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第106話 緋色の空

動力源を失ったニルヴァーナは崩壊を始めた。

 

「うおおおおっ!?」

 

「ナツ!!」

 

ゼロを倒したナツは全ての魔力を使い切り、体が動けず崩れるニルヴァーナに巻き込まれ、ジェラールが手を伸ばすが届かず、ジェラールも崩れるニルヴァーナに巻き込まれた。

 

「きゃあああっ!!」

 

「うわああぁっ!!」

 

落ちてくる瓦礫を避けながらルーシィとハッピーは逃げ道を探す。

 

「やべーぞこりゃ…」

 

グレイは降り注ぐ落石を見て毒づく。

 

「くっ!」

 

振ってくる落石を間一髪で避けながら出口へと向かうエルザ。

 

「メエーン!」

 

落石が頭に直撃し、妙な悲鳴を上げる一夜。

 

「シャルル!」

 

「ウェンディ、こっちよ!!」

 

シャルルに先導されながら、落石が降り注ぐ中を走るウェンディ。

 

「きゃあっ!」

 

すると、足元の岩に躓いたのか、ウェンディはその場で転んでしまう。

 

「ウェンディ!!

 

しかもそんなウェンディの頭上から複数の落石がガラガラと音を立てて振ってくる。 

もうダメかと思われたその時、間一髪で復活していたジュラが岩鉄壁で落石を防ぎながらウェンディとシャルルを救出した。

 

「ジュラさん!!」

 

そしてジュラはそのままウェンディとシャルルを抱えたまま、脱出していった。

 

「レインー!道が塞がっちゃったよー!!」

 

「任せて!霊槍スイレーン!!第ニ形態!!群れ(ショール)!!!」

 

レインはミントに抱えてもらい、飛びながら塞がった道を切り開きながら避難する。

 

「みんな無事か!?」

 

その後、脱出に成功したグレイは他の面々が無事か確認を取る。

 

「ぷはー」

 

「あぎゅー」

 

そのすぐ近くにはギリギリ脱出に成功し、グッタリとしているルーシィとハッピーがいた。

 

「エルザさ~ん! よかったぁ」

 

「な…何だその体は!?」

 

頭にタンコブを作りながらも脱出し、エルザに駆け寄る一夜と、そんな一夜のマッチョ姿に軽く引いているエルザ。

 

「みなさーん!!

 

「大丈夫ー?」

 

そこへ脱出に成功したレインとミントが降り立つ。

 

「ハルトさんとナツさんは!?」

 

「見当たらんな」

 

「マタムネくんもいないよー」

 

「ジェラールって奴もいないわね」

 

ジュラの助けによって脱出できたウェンディとシャルルは、ハルトとナツ、ジェラールを探して周囲を見渡すが、そこに彼ら3人の姿はなかった。

 

「そんな…ハルトぉ……!」

 

「マタムネー!!どこにいるのー!!!」

 

「何してやがんだ…クソ炎!!」

 

(ハルト……ナツ……)

 

全員ハルトたちの安否を心配していると……

 

ボヨンッ!

 

「ひっ!」

 

「うわっ!」

 

突然ルーシィとハッピーがいた足場が盛り上がる。

そしてそこから穴を開けて現れたのは……

 

「愛は仲間を救う…デスネ」

 

「んあ?」

 

ナツとジェラールを抱えたリチャードだった。

 

「ナツさん!!!」

 

「六魔将軍が何で!!?」

 

「色々あってな…大丈夫……味方だ」

 

ナツとティアナの無事を喜ぶウェンディ。

そして頭に疑問符を浮かべているシャルルに、ジュラが簡単に説明する。

 

「それと……」

 

ジェラールが腕を上げるとそこには……

 

「う〜……」

 

「マタムネ!!!」

 

「途中で見つけたんだ……」

 

「死ぬかと思ったでごじゃる………」

 

目を回したマタムネが抱えられていた。

 

「これであとは……」

 

「ハルトさんだけですね……」

 

姿を現していないのはハルトだけになったが……いつまで経っても姿を現さない。

 

「おい…いくらなんでも遅くねえか!?」

 

「まさか……倒壊したニルヴァーナに巻き込まれた……とか?」

 

「そんな……ハルト!!」

 

「待てルーシィ!!今ニルヴァーナに近づくのは危険だ!!!」

 

現れないハルトに心配になった全員に最悪の事態が頭によぎると、ルーシィはフラつく体を無理に動かして崩壊したニルヴァーナに近づくが、エルザに肩を捕まえられ止められる。

その時……積み重なった瓦礫が僅かに動いた。

 

「!!」

 

「ハルト!?」

 

瓦礫が動いた場所が盛り上がり、ハルトが現れると誰しもが思ったが………

 

「アアアアアッ!!!」

 

「なっ!!?」

 

「なんだこいつ!!!」

 

現れたのは腕の数が半分になり、腹に穴が空いたニルヴァーナが青い血を流しながら現れた。

 

「なんだこの化け物は!!!」

 

「魔力が残り少ない者は下がれ!!!」

 

「メェーン!!!」

 

ジュラとエルザ、一夜が全員の前に立ち、いつでも戦えるように構える。

下がれと言われたルーシィたちは下がろうとするが、ニルヴァーナの不気味な姿に足が引けて動けない。

 

「うわああぁ……」

 

「うぅ……」

 

「な、なんだよ。こいつ……」

 

「これがブレインが言ってた……ニルヴァーナの核?」

 

ウェンディとレインは完全にニルヴァーナに怯え、グレイはそのニルヴァーナの姿を不気味に思い、ルーシィはブレインの言葉を思い出し、ニルヴァーナの核だと考えた。

 

「アアア……?」

 

ニルヴァーナは残った手のひらの目を向け、エルザたちを観察する。

エルザたちは不気味な目を向けられたことで身構え、ニルヴァーナは

一通り見て、魔力がゼロであるルーシィに目をつけた。

それに気づいたエルザがルーシィに向かって叫ぶ。

 

「逃げろ!!ルーシィ!!!」

 

「え?」

 

「アアアアアッ!!!」

 

ニルヴァーナは残った足を動かし、ルーシィに迫る。

突然のことでルーシィは反応が遅れてしまう。

 

「アアアアアッ!!!」

 

「ルーシィィィィィッ!!!」

 

ルーシィに迫るニルヴァーナの手……しかしその時、突然上から降ってきた釘によりニルヴァーナの腕は地面に串刺しになった。

 

「なっ!!」

 

「何だ!!」

 

全員が突然降ってきた釘の上を見るとそこには傷だらけのハルトの姿があった。

 

『ハルト/さん!!!』

 

全員が驚きの声を張り上げ、ハルトはルーシィの前に守るように降り立つ。

 

「ハルト……」

 

ルーシィが傷だらけのハルトに手を伸ばすとハルトはルーシィの伸ばしてきた手を優しく片手で握り、振り返り笑顔を見せた。

 

「大丈夫だ、ルーシィ……すぐに終わらせる」

 

「………」

 

「アアアアアッ!!!」

 

ルーシィは何か言おうとするがニルヴァーナの叫び声が邪魔する。

 

「援護するぞ!!ハルト!!!」

 

「岩鉄錘!!!」

 

「アアアアアッ!!!」

 

エルザが天輪の鎧で武器を遠隔操作し、ジュラが岩の槍で攻撃するがその瞬間…ニルヴァーナの体の周りに複数の反転の魔法陣が現れ、全て反転させられる。

 

「くっ!!」

 

「なんと!!?」

 

突然跳ね返ってきた自分の攻撃に驚くエルザたち、隙ができたニルヴァーナにハルトが一気に駆け出す。

 

「お前ら!何もするな!!」

 

ハルトはニルヴァーナの腕を串刺しにした釘を抜き、ニルヴァーナに近づく。

 

「アアアアアッ!!!」

 

ハルトに気づいたニルヴァーナは腕を振るうがハルトはそれをしゃがんでかわし、釘でニルヴァーナの顔を殴る。

 

「オラぁッ!!!」

 

「ア''ッ!?」

 

何度も殴りつけ、ニルヴァーナの顔が変形するほど殴ると我慢の限界がきたニルヴァーナが顔をハルトに向けてビームを放とうする。

しかし……

 

「フンッ!!!」

 

「ガッ!!?」

 

口を開けた瞬間、ハルトは釘をニルヴァーナの口に突き刺した。

 

「ア"ア"ア"ッ!!!」

 

「ぐうぅっ!!!」

 

それでももがくニルヴァーナにハルトは踏ん張る。

 

「ぶっ飛べぇっ!!!」

 

ハルトは突き刺した釘に目掛けて全力のパンチを放った。

釘とともに吹き飛ばされるニルヴァーナは古代都市ニルヴァーナの瓦礫に突っ込み、今度こそ動かなくなり……その体が塵となって消え去った。

ニルヴァーナが消えたのを確認したハルトはルーシィたちの方を振り向き、ゆっくり歩いて行く。

ルーシィもハルトのほうに小走りで走り寄っていくと、ハルトは途中で足がガクッと崩れ、こけそうになり、ルーシィが慌てて受け止める。

 

「ただいま………」

 

微かな声でハルトがそう呟いた。

ルーシィは優しく微笑む。

 

「おかえり……」

 

 

ニルヴァーナの一騒ぎがあったが漸く落ち着いたハルトたち。

ハルトはルーシィに膝枕をしてもらいながら、ウェンディに治療してもらっていた。

 

「ふぅ……すいません……今の私の残り魔力じゃここまでが限界です………」

 

「ううん、ありがとうウェンディ。さっきより顔色が良くなってるわ」

 

ルーシィがそう言いながらハルトの頭を優しく撫でる。

この中で最もひどい怪我を負っていたハルトの傷をウェンディに治してもらっていたが、ウェンディの残り魔力と疲労により治療にも限界があった。

それでもハルトの傷は少し治り、顔色も良くなった。

 

「ハルト、大丈夫?」

 

「ああ……少し楽になった……もう大丈夫……」

 

ハルトがルーシィの膝枕から起き上がろうとするとルーシィがそれを止めた。

 

「ダメよ!まだ横になってなくちゃっ!!」

 

「でもよ……ルーシィもツライだろ?」

 

「そんなことないわ……い、今はこうしているほうがいいの…!」

 

「お…おう……」

 

ルーシィが顔を赤くしながらも微笑んで言うのを見てハルトはルーシィのその優しい微笑みを見て、胸が少しドキッとして顔を赤くしてしまう。

そして顔を赤くしているのはルーシィとハルトだけではない。

 

「ひゃあ〜……ルーシィさんって大胆……」

 

「す、すごいなぁ……(僕もウェンディとこんな風にできたら……)」

 

側にいたウェンディはルーシィの言動に顔を赤くして、その隣にいたレインは密かに想いを寄せているウェンディとこんなことができたらと想像して顔を赤くする。

 

「実際のところハルトくんとルーシィってどうなのー?」

 

「ルーシィ殿はヘタって最後までいけなくて、ハルトは微妙なところでごじゃるな」

 

「情けないわね」

 

「だよねー、ところで魚いる?」

 

「結構よ」

 

その近くでネコ組がハルトたちを見て、ミントがマタムネに聞いて、シャルルがそれを辛辣にコメントし、ハッピーは呆気なく撃沈していた。

 

「聞こえてるっての……」

 

「ハルト、イチャついているところ悪いけどよ」

 

「いいいいいイチャつつつついて、なななんか……!!!」

 

「ルーシィ落ち着けって……イチャついてねえよグレイ。どうした?」

 

「アイツ誰だ?ラミア、ペガサスにもいなかったろ?」

 

グレイが指さす先には1人離れたところ座っているジェラールがいた。

 

「ジェラールだ」

 

「えっ!?」

 

「アイツがか!!?」

 

「待ってください!ジェラール……記憶喪失みたいで……」

 

「自分のことも覚えていないみたいなんです……」

 

楽園の塔の首謀者であるジェラールだと教えられたルーシィとグレイは驚き、それをウェンディとレインが少し悲しそうに弁解する。

 

「そう言われてもよう……」

 

「安心しろ。アイツは味方だ」

 

記憶がないと言われてもやや納得がいかないグレイにエルザがそう言うとしぶしぶ納得した。

そしてエルザはジェラールに歩み寄る。

 

「とりあえず、力を貸してくれた事には感謝せねばな」

 

「エルザ…いや……感謝されるような事は何も……」

 

「これからどうするつもりだ?」

 

二人で岩場に腰掛けながら、エルザはそう問い掛ける。

 

「……わからない」

 

「そうだな……私とお前との答えも簡単には出そうにない」

 

「怖いんだ…記憶が戻るのが……」

 

そう言って怯えるように体を震わせるジェラール。

そんなジェラールに対してエルザは……

 

「私がついている」

 

と…優しい笑みを浮かべながらそう言った。

予想外の言葉だったのか、ジェラールは驚いた表情を浮かべている。

 

「たとえ再び憎しみ合う事になろうが……今のお前は放っておけない……私は…」

 

エルザがそう何かを言い掛けたその時……

 

ゴチィン!

 

「メエーン!」

 

「「!!」」

 

何かがぶつかる音と、一夜の奇妙な悲鳴が響いた。

 

「どうしたオッサン!!」

 

「トイレの香りパルファムをと思ったら、何かにぶつかった~」

 

「何か地面に文字が……」

 

「こ…これは……術式!!!?」

 

「いつの間に!?」

 

「閉じ込められたー!?」

 

「誰だコラァ!!!」

 

いつの間にか連合軍一同は、術式による結界の中に閉じ込められていた。

 

「な…なんなの~」

 

「一体誰が……」

 

「もれる……!!」

 

結界の中に閉じ込められ、一同が動揺していると……近くの草場から複数の部隊のような人たちがハルトたちを囲むように歩いてあらわれた。

 

「手荒な事をするつもりはありません。しばらくの間、そこを動かないで頂きたいのです」

 

すると、その部隊のリーダー格のようなメガネの青年が代表して口を開いた。

 

「私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」

 

「新生評議院!!?」

 

「もう発足してたでごじゃるか!!?」

 

メガネをかけた青年……ラハールの言葉に、驚愕する一同。

 

「でもオイラたち、何も悪い事してないよっ!!」

 

「お…おう!!

 

「捕まえるならマタムネだけにしてくれ」

 

「ハルト!?」

 

「存じております。我々の目的は六魔将軍の捕縛。そこにいるコードネーム、ホットアイをこちらに渡してください」

 

「!!」

 

ラハールがそう言って、リチャードを指差す。

 

「ま…待ってくれ!!」 

 

「いいのデスネ、ジュラ」

 

「リチャード殿」

 

異議を唱えようとしたジュラを、リチャード本人が引き止める。

 

「善意に目覚めても、過去の悪行は消えませんデス。私は一からやり直したい」

 

そう言うリチャードを見て、ジュラはある事を申し出る。

 

「ならばワシが代わりに弟を探そう」

 

「本当デスか!?」

 

「弟の名を教えてくれ」

 

「名前はウォーリー。ウォーリー・ブキャナン」

 

「ウォーリー!!?」

 

「「!!」」

 

 

その名前を聞いたエルザは驚愕し、ナツとハッピーの脳裏には楽園の塔で戦った…顔がカクカクでダンディーを自称する男の顔が浮かんだ。

 

「その男なら知っている」

 

「何と!!?」

 

「!!!」

 

エルザのその言葉に驚愕するジュラとリチャード。

 

 

「私の友だ。今は元気に大陸中を旅している」

 

そう言うエルザの嘘偽りのない優しい表情を見て、リチャードは大粒の涙を流す。

 

「グズ…ズズズ……これが光を信じる者にだけに与えられた奇跡というものデスか。ありがとう、ありがとう……ありがとう!!!!」

 

こうしてリチャードは、大粒の涙を流しながらエルザやジュラたちに感謝の言葉を言ったあと……評議院に連行されていったのであった。

 

「なんか可哀想だね」

 

「あい」

 

 

「仕方ねえさ」

 

リチャードの姿を見送りながらそんな会話をするルーシィとグレイ。

 

「もうよいだろ!! 術式を解いてくれ!!! もらすぞ!!!!」

 

「いえ……私たちの本当の目的は六魔将軍オラシオンセイスごときじゃありません」

 

「へ?」

 

「!!!」

 

闇ギルドのバラム同盟の一角を担う六魔将軍オラシオンセイスを『ごとき』と言ってのけたラハールに、一夜は目を点にし、他の面々も少なからず驚愕する。

 

「評議院への潜入…破壊、エーテリオンの投下。もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう」

 

そう言ってラハールが指差す先には……

 

「貴様だジェラール!!!! 来い!!!!抵抗する場合は抹殺の許可もおりている!!!!」

 

ラハールの本当の目的は、楽園の塔での罪を訪われているジェラールであった。

 

「そんな…!!」

 

「ちょっと待てください!!!」

 

それに対して異論を唱えようとするウェンディとレイン。

 

「その男は危険だ。二度とこの世界に放ってはいけない、絶対に!!!!!」

 

ラハールのその言葉を聞いて、エルザは切なそうな表情を浮かべる。

 

「ジェラール・フェルナンデス。連邦反逆罪で貴様を逮捕する」

 

罪状と共に、ジェラールは手首に手錠をかけられる。

 

「ま…待ってください!!!ジェラールは記憶喪失……今は何も覚えていないんです!!!」

 

「刑法第13条により、それは認められません。もう術式を解いていいぞ」

 

「はっ」

 

ラハールはレインの主張に対してあっさりそう言い返すと、部隊の者に術式の解除を言い渡す。

 

「で……でも!!」

 

「ジェラールは!!」

 

「いいんだ……抵抗する気はない」

 

それでも尚、異論を唱えようとするウェンディとレインを、ジェラール自身が抑える。

 

「君たちの事は最後まで思い出せなかった。本当にすまない、ウェンディ…レイン」

 

「このコたちは昔、あんたに助けられたんだってさ」

 

「そうか……オレは君たちにどれだけ迷惑をかけたのか知らないが、誰かを助けた事があったのは嬉しい事だ」

 

そう言うとジェラールはどことなく嬉しそうな表情を浮かべた後、エルザへと視線を移す。

 

「エルザ、色々ありがとう」

 

ジェラールの感謝の言葉に、エルザは辛そうに目を伏せる。

 

 

(止めなければ……私が止めなければ…ジェラールが行ってしまう…せっかく悪い夢から目覚めたジェラールを……もう一度暗闇の中へなど行かせるものか!!!!)

 

手を強く握り、心の中でそう決心するエルザ。

 

「他に言う事はないか?」

 

「ああ」

 

「死刑か無期懲役はほぼ確定だ。二度と誰かと会う事はできんぞ」

 

「そんな…」

 

「いや……」

 

「ジェラールさん……」

 

ラハールの冷徹な言葉に、連合軍の面々が愕然とする。

 

 

(行かせるものか!!!!)

 

そしてエルザが行動を起こそうとしたしたその時……

 

「待てよ!」

 

突然声が上がり、ラハールたちとエルザたちの動きが止まり、その声が上がったところに目を向ける。

そこにはルーシィに支えられて立っているハルトがいた。

 

「ハルト……」

 

「貴方は……ハルト・アーウェングス。何か用ですか?」

 

「ジェラールは楽園の塔の時、意識がハッキリしていなかったって言ってたんだよ。誰かに操られてた可能性があるんだ」

 

「確か貴方たち妖精の尻尾は楽園の塔の事件に貢献してくれましたね。………貴方たちの証言は確かに有効なものだが、それがジェラールの解放とは関係がない!!」

 

ラハールは強気でそう宣言するとハルトは少しため息をつき、評議院に向かって歩いて行く。

 

「仕方ねぇな……オラッ!!」

 

「がはっ!!」

 

突然ハルトは評議院の人間を殴り飛ばした。

 

「ハルト!!?

 

「相手は評議員でごじゃるよ!!!」

 

いきなりのハルトの行動に驚愕する一同。

ハルトは自身の命を助けてくれた恩と、エルザの気持ちを考えて動く。

 

「そいつを行かせるわけにいかねぇんだよ!!!」

 

「へへっ!!ハルトならそうするって思ったぜ!!!どけェっ!!!!そいつは仲間だ!!!つれて帰るんだぁっ!!!!」

 

あれほど毛嫌いしていたジェラールを『仲間』と呼び…行く手を阻む評議員を殴り倒しながらジェラールへと向かって行くナツ。

 

「ハルトさん……」

 

「ナツさん……」

 

「よ……よせ……」

 

「と……取り押さえなさい!!!!」

 

ラハールの命令で数人の評議員が、ハルトとナツを取り押さえる為に彼に向かって駆け出す。

しかし……

 

「行け、ハルト!!!

 

「こいつらは私たちが相手するから!!!」

 

グレイとルーシィがハルトたちに加勢し、評議院を攻撃する。

 

「ニルヴァーナを防いだ奴に…一言の労いの言葉もねえのかよ!!!!」

 

「それには一理ある。その者を逮捕するのは不当だ!!!!」

 

「悔しいけどその人がいなくなると、エルザさんが悲しむ!!!!」

 

グレイの一言にジュラと一夜も加勢する。

 

「こうなったらヤケクソでごじゃるーー!!!」

 

「あいっ!!」

 

マタムネとハッピーも参加する。

 

「お願い!!!ジェラールを連れて行かないで!!!!」

 

「僕たちの大切な人なんです!!!!」

 

ウェンディとレインは泣きながら懇願する。

 

「来い!!!ジェラール!!!!お前はエルザから離れちゃいけねえっ!!!!!ずっと側にいるんだろ!!!!? オレたちがついてる!!!!」

 

そう叫びながら評議員を押しのけ、必死にジェラールに向かって手を伸ばすハルト。

 

「全員捕らえろォォォ!!!!!公務執行妨害及び逃亡幇助だーー!!!!!」

 

ラハールの指示によりさらに大勢の評議員たちが動き始める。

 

「ジェラーーーール!!!!!」

 

それでもナツはジェラールに向かって手を伸ばし続ける。

しかし……

 

「もういい!!!! そこまでだ!!!!!」

 

エルザの一喝により、その場にいた全員が動きを止め、彼女へと視線を向けた。

 

「騒がしてすまない。責任は全て私がとる」

 

そして静かに、エルザは淡々と言葉を発する。

 

「ジェラールを…つれて……いけ……」

 

最後は消え入りそうな声になりながらも確かにそう言ったエルザ。

 

「いいのかエルザ!!!連れて行かれたらもう……!!」

 

「いいんだ………頼む、ハルト……」

 

エルザのその言葉と周りからは分からなかったが真正面から見たハルトだけがわかったエルザの表情を見て、ハルトは何も言えなくなった。

そしてジェラールが改めて連行されるその時……

 

「そうだ…」

 

「!」

 

「お前の髪の色だった」

 

ジェラールはそう言うと、エルザに優しい笑顔を向けた。

 

「さよなら、エルザ」

 

「ああ」

 

そしてその会話を最後にジェラールは評議院へと連行されていった。

 

 

その後、連合軍の面々は休息と心の整理も兼ねて、ニルヴァーナの残骸近くで体を休めていた。

当然、さっきの出来事で全員が浮かない顔をしていた。

そしてハルトたちがいる場所から少し離れた場所にある丘にエルザは腰を下ろしていた。

 

「…………」

 

連合軍の中でも一番浮かない表情をしている彼女は幼い頃……まだ奴隷だった頃の事を思い出していた。

 

 

奴隷時代・楽園の塔。

 

「ジェラール・フェルナンデス」

 

「うわー、覚えづれ」

 

「そう言うお前も、ウォーリー・ブキャナンって忘れそうだよ」

 

「エルザ、お前は?」

 

「私はエルザ、ただのエルザだよ」

 

「それは寂しいな」

 

そう言うと、幼いジェラールはエルザのさらっとした綺麗な緋色の髪を触る。

 

「おおっ」

 

「ちょ…何よぉ」

 

「キレイな緋色(スカーレット)……そうだ! エルザ・スカーレットって名前にしよう」

 

「名前にしようってオマエ……そんなの勝手に…」

 

「エルザ…スカーレット……」

 

「お前の髪の色だ。これなら絶対に忘れない」

 

 

あの時の言葉の通り、ジェラールは最後の最後に彼女のスカーレットの意味を思い出してくれた。

 

「ジェラール…」

 

エルザはジェラールの名を呟きながら膝を抱え込み、その両目からは大粒の涙を溢れさせた。

その日の朝焼けは、今までに見た事がないくらいに美しい緋色に染まっていた。

 

エルザの髪の色のように…あたたかく情熱的に……顔を上げれば美しい空が広がっているのに……顔を上げれば……

 

 



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第107話 化猫の優しい幻

六魔将軍、ニルヴァーナとの激闘を終えたハルトたちは近くにあった化猫の宿で休息を取っており、さらに化猫の宿のマスターが今回の事件は自分たちの先祖がしたことが原因のため、礼がしたいともてなしてくれた。

 

「わぁ!!かわいい!!」

 

「私の方がかわいいですわ」

 

そのギルドのテントの一つでは、ルーシィたち女性陣がボロボロになった服を着替え、ギルドから提供された服に身を包んでいた。

 

「ここは集落全部がギルドになってて、織物の生産も盛んなんですよ」

 

「ニルビット族に伝わる織り方なの?」

 

「えっと……そうなのか?」

 

ルーシィの質問に首を傾げながらウェンディは答える。

 

「あなたたちは、ギルド全体がニルビット族の末裔って知らなかったんでしたわね」

 

「はい」

 

「私たちだけ後から入ったからねー」

 

そう言ってシェリーの言葉に頷きながら答えるウェンディとミント。

そんな会話をしていると、ルーシィの視界に…テントの隅っこの方で一人座っているエルザの姿が映った。

 

「エルザも着てみない? かわいいよ」

 

「ああ…そうだな……」

 

ルーシィはエルザにそう話しかけるも、返って来た答えはどこか上の空。ジェラールの一件があって以降、ずっとこの調子なのである。

 

「ところでウェンディ、化猫の宿っていつギルド連盟に加入しましたの?私…失礼ながらこの作戦が始まるまでギルドの名を聞いた事がありませんでしたわ」

 

「そういえばあたしも!」

 

シェリアがそう尋ねるとウェンディは少し微妙な顔になった。

 

「そうなんですか?うわ……ウチのギルド、本当に無名なんですね……」

 

ウェンディはその事実に少しショックを受けており、ルーシィは苦笑いをする。

 

「ハハハ……そういえばハルト、どうしてるんだろう?」

 

「あら?さっそく彼氏のことを考えていらっしゃるの?」

 

「だ、誰が彼氏よ!!?」

 

「ふふふ……照れてますわよ」

 

シェリーの揶揄いにルーシィは顔を赤くして言い返す。

 

「ふあぁ…やっぱりルーシィさんってそうなんだぁ……」

 

「色気付いてるわね」

 

「かわいいなー」

 

ウェンディは純情なため顔を赤くして、シャルルとミントはそれぞれがそうコメントする。

 

「もう!!だからそうじゃなくて!!ハルトが気になることを言ってたの!!!」

 

ルーシィがそう言うのは皆が化猫の宿に来る前にニルヴァーナの瓦礫で一休みしている時だった。

 

『ニルヴァーナのこと、化猫の宿のマスターに聞かないといけねぇな……』

 

ハルトがそう神妙な顔で言ったのだ。

ルーシィはそれがとても気になっていた。

 

「ハルトさんが?マスターに何の用だろう?」

 

ウェンディはそう言ってマスターローバウルがいる化猫の宿のギルドのほうを向いた。

 

 

ハルトはニルビット族の民族衣裳に身を包み、化猫の宿のテント型のギルドでマスターローバウルの前に立っていた。

マスターローバウルとハルトの周りには連合に参加していたウェンディたちを除く全員がいた。

 

「アンタがマスターローバウルだな?話がある」

 

「なぶら……」

 

マスターローバウルはグラスに酒を注ぎ……やっぱりボトルでラッパ飲みした。

 

「いや!グラスで飲まねえのかよ!!」

 

「なぶら……いや、すまない……」

 

「口から酒がこぼれてるし……」

 

「マスター!!客の前だぞ!!しっかりしてくれ!!!」

 

ハルトのツッコミと周りのギルドメンバーの注意でやっと話ができるようになった。

 

「それで……ハルト殿。話とは何でしょうかな?」

 

「………ニルヴァーナのことについてだ」

 

ハルトは一呼吸置いてニルヴァーナの名を言うと、周りのギルドメンバーが一気に騒ついた。

 

「落ち着かんか!!」

 

「ジュラさんやルーシィたちにニルヴァーナはアンタたちの先祖ニルビット族が造ったってのは聞いた。……それでニルヴァーナのなかにいたあの化け物のことを何か知ってるなら教えてほしい」

 

ローバウルは目を伏せ、小さな声でつぶやく。

 

「超魔獣ニルヴァーナ………」

 

「やっぱり何か知ってるんだな!教えてくれ!!アレはいったい何なんだ!!?」

 

ハルトは声を大きくして頼むと重い表情で顔を伏せていたローバウルは顔を上げた。

 

「わかりました。………しかし条件があります。それを飲んでくれるなら教えましょう」

 

「なんだよ。条件ってのは?」

 

「それは………」

 

 

それから少し時間が経ち、連合軍全員と化猫の宿のメンバーが広場に集められた。

 

「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、そしてウェンディ、レイン、シャルル、ミント。よくぞ六魔将軍を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、このローバウルが礼を言う。ありがとう、なぶらありがとう」

 

ローバウルが頭を下げ、礼を言う。

ハルトとエルザを抜いた全員がそれを聞いて誇らしげな顔になる。

 

「どういたしまして!!! マスターローバウル!!! 六魔将軍との激闘に次ぐ激闘!!!! 楽な戦いではありませんでしたがっ!!! 仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!!!!」

 

「「「さすが先生!!」」」

 

そう言って盛り上がり始める一夜とトライメンズの3人。

 

「ちゃっかりおいしいトコ持っていきやがって」

 

「あいつ、誰かと戦ってたっけ?」

 

「さあ?どうでごじゃろう?」

 

「お前たちもよくやったな」

 

「ジュラさん」

 

「終わりましたのね」

 

お互いに労いの言葉を掛け合う蛇姫の鱗ラミアスケイルの面々。

 

「この流れは宴だろー!!!!

 

「あいさー!!!」

 

ナツが声高々にそう宣言し、みんなも宴をする気満々だった。

 

「一夜が」

 

「「「一夜が!?」」」

 

「活躍」

 

「「「活躍!!!」」」

 

「それ」

 

「「「ワッショイワッショイワッショイ!!!!」」」

 

ナツの宣言を皮切りに、さっそくお祭り騒ぎになる一部の連合軍のメンバーたち。

 

「さあ、化猫の宿ケット・シェルターの皆さんもご一緒にィ!?」

 

「「「ワッショイワッショイ!!!」」」

 

そう言って一夜は化猫の宿ケット・シェルターの面々も煽り始めるが……

 

「ワ…」

 

ヒュゥウウウウ……

 

と、冷たい風が吹き抜けるほど、ウェンディたち以外の化猫の宿の人々の表情は暗く、ほとんど無反応であった。

あまりの温度差に、お祭り騒ぎをしていたナツたちも思わず静かになってしまう。

 

「皆さん……ニルビット族の事を隠していて本当に申し訳ない」

 

「そんな事で空気壊すでごじゃるか?」

 

「別に気にしてなんかいないのに…ね?ハルト。……ハルト?」

 

ルーシィがハルトに同意を求めようとしたがハルトの表情は少し暗かった。

 

「マスター、僕もウェンディたちもそんなこと気にしてないよ?」

 

レインの言葉にウェンディたちもうなづくが、ローバウルの表情は優れない。

そしてローバウルは口をゆっくりと開いた。

 

「皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ」

 

 

そう言って連合軍たちに語り始めるローバウル。

 

 

「まずはじめに……ワシらはニルビット族の末裔などではない。ニルビット族そのもの。400年前ニルヴァーナを作ったのは、このワシじゃ」

 

「何!?」

 

「うそ…」

 

「400年前!?」

 

全員が衝撃の事実に驚きを隠せない。

 

「いや……ニルビット族というのも少し間違っておる。ワシらの本当の一族の名は……『妖精族』の末裔……ニルビット族じゃ」

 

「妖精族……?」

 

「何言ってますの?」

 

するとローバウルの背中に虫の羽のような透明の羽が生え、耳は尖ったものになった。

 

「なっ!?」

 

「羽!!?」

 

「マジの妖精なのかー!!?」

 

全員がローバウルの容姿の変化に驚く。

 

「まさか……亜人か?」

 

ジュラの言葉に全員が注目する。

 

「ジュラさん……亜人とはなんですの?」

 

「人間とは異なる容姿を持ち、異なる力を持った者たちのことだ………フィオーレ王国にはもういないと思っていたが………」

 

「実際にはワシはもうこの世にはおらん。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在じゃ………」

 

「そんな………」

 

「400年前……ワシらニルビット族は世界の調和を保つために禁忌に手を出し、善悪反転の魔法ニルヴァーナを作った」

 

「調和?」

 

「禁忌とは何のことでごじゃる?」

 

「調和は400年前に突然起こった戦争のことじゃ……ワシらはそれを止めるために禁忌……魔神が遺した兵器『超魔獣ニルヴァーナ』を元にニルヴァーナを造ったのじゃ」

 

「魔神!?」

 

「おとぎ話じゃねえのかよ!!」

 

「もう何がなんだか………」

 

エルザ達は驚きの真実が多すぎて混乱してしまい、ナツは頭から煙が出そうな勢いだ。

 

「超魔獣ニルヴァーナを元に造ったニルヴァーナはワシ等の国となり、平和の象徴として一時代を築いた。しかし、強大な力には必ず反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナは〝闇〟を纏っていった。ニルヴァーナも調和をとっていたのだ。人間の人格を無制限に光に変える事はできなかった。闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる」

 

「確かに……」

 

ローバウルの説明を聞いてグレイは味方から敵になったシェリーと、敵から味方になったリチャードを思い出した。

 

「人々から失われた闇は、我々ニルビット族に纏わりついた」

 

「そんな…」

 

「…………」

 

ローバウルの言葉にウェンディとレインは言葉も出ない様子だった。

 

「地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い、全滅した」

 

それを聞いた連合軍の面々は言葉を失い、静かに息を飲んだ。

 

「生き残ったのは、ワシ一人だけじゃ。ワシはその罪を償う為……また…力なき亡霊ワシの代わりにニルヴァーナを破壊できるものが現れるまで、400年……見守ってきた……今……ようやく役目が終わった」

 

そう言い放つローバウルの表情は、どこか満足げであった。

 

「マスター……!」

 

「い、いやだ……」

 

ローバウルの言葉からウェンディたちは最悪なことを想像して目を伏せて体が震える。

そしてそれと同時に化猫の宿のギルドメンバーが突然消え始めた。

 

「マグナ!!ペペル!!何これ…!?みんなが…」

 

「そんな…!!みんなぁ!!」

 

「アンタたち!!」

 

「やだよー!!!」

 

突然のことにハルトたちは驚く。

 

「騙していてすまなかったな、ウェンディ…レイン。ギルドの者は皆…ワシの作り出した幻じゃ……」

 

ローバウルのその言葉に、ウェンディたちは目を見開く。

 

「何だとォ!!?」

 

「人格を持つ幻だと!?」

 

「何という魔力なのだ!!」

 

目の前にいるギルドメンバー全員が幻だと言う事に皆が驚愕の言葉を口にする。

 

「ワシはニルヴァーナを見守る為に、この廃村に一人で住んでいた」

 

ローバウルの言うと、村のあちこちに廃れた形成が現れ始めた。

村の形さえローバウルの幻術で作られたものだった。

 

「7年前、一人の少年がワシの所に来た」

 

ローバウルが昔のことを思い出す。

 

『この子たちを預かってください』

 

その少年こそ、ウェンディたちを助けたと言うジェラールである。

 

「少年のあまりにまっすぐな眼に、ワシはつい承諾してしまった。一人でいようと決めてたのにな……」

 

そう語るローバウルの脳裏には預かったばかりの頃の、ウェンディとレインの思い出が蘇る。

 

『おじいちゃん、ここ…どこ?』

 

『魔導士ギルド……?』

 

『こ……ここはじゃな……』

 

『ジェラール……私たちをギルドに連れてってくれるって…』

 

『ギ…ギルドじゃよ!!ここは魔導士ギルドじゃ!!!』

 

『『本当!?』』

 

『なぶら。外に出てみなさい。仲間たちが待ってるよ』

 

「そして幻の仲間たちを作り出した」

 

「そ…それじゃあ…化猫の宿って……!!!」

 

「ウェンディたちの為に作られたギルド……」

 

 

たった2人の少年少女の為だけに幻の仲間で結成されたギルド。

それを聞いてルーシィたちは眼を見開いて驚愕する。

 

「そんな話聞きたくない!!!!」

 

「イヤだ……そんなのイヤだよ!!!!」

 

2人は耳を塞ぎながら、消えないでと涙を流し、懇願するように叫ぶ。

 

「ウェンディ、レイン、シャルル、ミント……もうお前たちに偽りの仲間はいらない」

 

そう言うとローバウルはゆっくりと3人の後ろにいるナツたち連合軍を指差す。

 

「本当の仲間がいるではないか」

 

 

優しい笑顔を2人に向けながらながらそう言うと、ローバウル自身の姿も消え始める。

 

「お前たちの未来は始まったばかりだ」

 

「「マスターーーー!!!!!」」

 

消えていくローバウルに、手を伸ばして駆け寄るウェンディとレイン。

 

「皆さん、本当にありがとう。ハルト殿……約束通りウェンディたちを頼みます」

 

「ああ……」

 

ハルトは消えていくローバウルに静かに返事した。

2人の伸ばした手は届くことなく.ローバウルはそう言い残して、静かに消えていった。

それと同時にウェンディたちの体に刻まれていたギルドマークも、存在しなかったように消えていく。

 

「「マスタァーーーーーー!!!!!」」

 

そして残された2人の悲しい叫び声が、その場に響き渡る。

ウェンディとレインは家族同然の仲間をたった一瞬で失ってしまい、その悲しみはとても大きなものだ。

悲しみに暮れるウェンディたちにハルトは歩み寄る。

 

「愛する人との別れの辛さは……仲間が埋めてくれる」

 

ハルトは2人に手を差し伸べる。

 

「来い……妖精の尻尾に」

 

 

 




用語集
超魔獣ニルヴァーナ……ニルヴァーナの核となった化け物。顔には口以外のパーツが無い。体全体を布で巻かれている。背中から太い腕が6本生えており、それを使って移動している。また全て手のひらに目が付いており、それで敵を認識している。正体は昔魔神族が兵器として使用した生物。物理攻撃、魔法攻撃を全て反転させてしまう魔法と反転魔法を利用した洗脳魔法が使える。

亜人……人と似た容姿をしているがどこかに異なる部分がある人間に似た種族。人間にはない力を持っている。現在はフィオーレ王国では目撃されていない。

妖精族……亜人の一種類。長く尖った耳と虫の羽に似た羽を持っており、その模様、形は個人個人で異なる。また妖精族は生まれながら魔力が高く、妖精族全員が個人で一個中隊を殲滅できるほどの力を持つと言われていた。


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第108話 妖精たちの歓迎会

海を走る一隻の船には六魔将軍との激闘を終えた妖精の尻尾のメンバーと、元化猫の宿のメンバーが乗っていた。

 

「ああ……船って潮風が気持ちいいんだな」

 

「いつものナツじゃ滅多に経験できない事だね」

 

いつもなら真っ先に乗り物酔いでダウンしてしまうナツだが、今はウェンディの酔い止めの魔法トロイアが効いている為、ナツは気持ち良さそうだった。

 

「乗り物っていいモンだなーオイーーー!!!

 

今までに無い体験をしている為か、大ハシャぎで船を走り回るナツだか……

 

「あ、そろそろトロイアが切れますよ」

 

「おぷぅ…!」

 

ウェンディがそう宣告した途端に、いつもの乗り物酔いが再発し、床にこけた。

 

「も…もう一回かけ…て……おぶ…」

 

「連続すると、効果が薄れちゃうんですよ」

 

「大丈夫ですか? ナツさん」

 

「放っておけよ。そんな奴」

 

「あはははっ!」

 

ナツを心配するウェンディとレインにグレイが呆れたように言い放ち、ルーシィはそれを見て可笑しそうに笑う。

激闘が終わり、皆それぞれのギルドに帰ることになったが、その時に色々と変化があった。

まずレインたち、化猫の宿組は新たに妖精の尻尾に入ることになった。

また青い天馬のレンと蛇姫の鱗のシェリーがいつのまにかいい感じになったりと色々あった。

その中でもルーシィにはエンジェルが所持していた3体の星霊スコーピオン、アリエス、ジェミニが新たなオーナーとして契約してほしいと頼まれ、ルーシィの星霊となったのだ。

 

「やべぇ……誰かたすけてくれぇ………」

 

「すいませんナツさん……」

 

「アンタが謝らなくていいでしょ!」

 

「ナツくーんだいじょーぶー?」

 

「もうナツったら……ねえハルト。ハルト?」

 

「………」

 

ルーシィは隣に座ってたハルトに声を掛けるがハルトの耳には聞こえておらず、ローバウルとの会話を思い出していた。

 

 

ローバウルが皆の前で自身の正体と過去を明かす前、ハルトと2人で話している時だ。

 

「………わかった。ウェンディたちは俺たち妖精の尻尾が預かる」

 

「頼みますぞ……」

 

「それでニルヴァーナのことについてだ。教えてもらうぞ」

 

ローバウルは皆の前で説明した通りのことをハルトに話した。

 

「アンタが死んでて、亜人って……盛りだくさんだな……………もう一つ聞きたい」

 

「何でしょう?」

 

「どこでニルヴァーナのことを知ったんだ?話を聞く限り、アンタら封印されてたニルヴァーナを使ったんだろ?何で封印されてたニルヴァーナのことを知ってるんだよ?」

 

「それは………」

 

ローバウルが言い淀む。

 

「何だ?言いにくいことなのか?」

 

「いや…そう言う訳では……何故かそのことを思い出そうとすると記憶がボヤけてしまい………」

 

ローバウルは額に手を当てて、悩む素振りを見せる。

 

「確か……黒い男に……いや……女じゃったか?とにかく黒い人物にニルヴァーナの存在を教えてもらったのじゃ」

 

 

ハルトが教えられた『黒い人物』……ハルトはそれがとても気になっていた。

 

(『黒い人物』……)

 

「……ト……ハルトってば!!」

 

「うおっ!?」

 

「もう!聞いてる?」

 

「お、おう……悪い少し考えごとしてた……」

 

「大丈夫?船が出てからずっと何か考えてるわよ?」

 

ルーシィが少し心配そうに聞いてくるが、ハルトは笑ってみせた。

 

「大丈夫だって。俺も乗り物に乗れることが嬉しくてな」

 

「そう?ならいいけど……」

 

ルーシィはそう言って談笑の中に加わっているウェンディたちを見る。

 

「またギルドが楽しくなるわね!」

 

それを見たルーシィはハルトに笑顔を見せると、ルーシィの眩しい笑顔に釣られてハルトも笑顔になる。

 

「………そうだな」

 

「あっ!ハルトさん、そろそろトロイアが解けますよ」

 

「おぷぅっ!」

 

「キャー!!ハルトー!!」

 

「おうおう、こっちもか」

 

「ハルトさん大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫でごじゃるよレイン殿。いつものことでごじゃる」

 

「そっかー」

 

「アンタは順応が速すぎるのよ」

 

新しい仲間を乗せた船は悠々と家路を進んで行く。

 

 

マグノリアに着き、ギルドに戻ったハルトたち。

そしてそこでウェンディたちの自己紹介が行われた。

 

「……と言う訳で、ウェンディ、レイン、シャルル、ミントを妖精の尻尾に招待した」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「よろしくー」

 

ハルトが先導し、シャルル以外のウェンディ、レインは頭をぺこりと下げ、ミントは手を上げて挨拶した

 

「かわいーっ!!!」

 

「こっちの子もかわいいわー!」

 

「ハッピーのメスが二匹もいるぞ!!」

 

「みんな、おかえりなさい」

 

「おジョーちゃんたちいくつ?」

 

新しい仲間の加入に、騒ぎ立つギルドのメンバーたち。

そこにハルトは注意をいれた。

 

「あっ、あとレインは男だからな」

 

『何ーーーー!!!!!?』

 

ギルド中の男が驚きの声を上げた。

 

「そ、そんな……」

 

「男だったなんて………」

 

「いや!俺は男の娘でもイケる!!」

 

「おい…コイツヤベェぞ」

 

男たちは少しの間だけ、阿鼻叫喚した。

ウェンディたちの自己紹介が終わり、皆は新ためて騒ぎ立つ。

 

「マスター」

 

「うむ、よくやった。これでこの辺りもしばらくは平和になるわい。もちろん、ウェンディたちも歓迎しよう」

 

そう言ってエルザに優しい笑顔を浮かべるマカロフ。

 

「ルーちゃんおかえり~!」

 

「レビィちゃん!!」

 

「よく無事だったな」

 

「だんだんルーシィが遠い人に……」

 

「ルーちゃーーーん!!!」

 

「きゃっ!もう、おおげさなんだから」

 

ルーシィの帰還を抱きついて喜ぶレビィ。

 

「ジュビア……心配で心配で、目から大雨が…」

 

「うえっぷ!!溺れる!!?」

 

「おいグレイ!!早く止めてくれ!!」

 

「何でオレが…!!」

 

ジュビアの洪水のような嬉し涙に巻き込まれ、溺れそうになっているグレイ。

 

「んでよォ、ヘビが空飛んで…」

 

「ヘビが空なんか飛ぶかよ!!漢じゃあるめーし」

 

「漢関係ないと思う……」

 

興奮気味に討伐作戦の事を話すナツ。

 

「よお!カミナ!」

 

「何だ無事だったのか。野垂れ死んでると思ってたがな」

 

「相変わらずだなお前は……!」

 

「ふっ……」

 

カミナを見つけたハルトは挨拶するが、カミナの毒舌に頬をヒクつかせ、カミナはそれを見て少し笑う。

なんやかんやでカミナも心配だったのだ。

ウェンディたちが楽しそうにギルドを眺めているとミラが話しかけてきた。

 

「初めましてミラジェーンよ」

 

「レイン!!シャルル!!ミント!!本物のミラジェーンさんだよ!!!」

 

「うわぁ、綺麗だなぁ……」

 

雑誌で有名人であるミラに会えたウェンディは興奮し、レインはミラの美しさに惚けてしまう。

 

「あら、ありがとう♪嬉しいわ」

 

「えへへ……」

 

「むぅ〜……」

 

「あらあら♪」

 

レインがミラに照れる様子を見せるとウェンディは少しむくれる様子を見たミラは楽しそうだ。

 

「シャルルはたぶんハッピーと同じだろうけど、ウェンディたちはどんな魔法を使うの?」

 

「ちょっと!!!オスネコと同じ扱い!?」

 

「実際そうじゃーん」

 

「アンタは黙ってて!!!」

 

ハッピーと同じ扱いにされたのが気に喰わないのかそう怒鳴るシャルルにミントが宥めるがシャルルまた気に食わなさそうに怒鳴るが、周囲は特に気にした様子はなく会話を続けた。

 

「ウェンディとレインはどんな魔法を使うの?」

 

「私……天空魔法を使います。天空の滅竜魔導士です」

 

「僕はこの槍と水魔法を使います。ウェンディと同じで水の滅竜魔導士です」

 

ウェンディとエリオの言葉に、ギルドの面々は驚愕し、固まる。

 

「あ…」(信じて…もらえないかな……)

 

そんなメンバーたちの反応を見たウェンディとレインは顔を俯かせるが……

 

「おおっ!!!!」

 

「スゲェ!!!!」

 

返って来た言葉は、2人の予想したものではなかった。

 

「ドラゴンスレイヤーだ!!!!

 

「すげーーーーっ!!!!」

 

「ハルトと同じかっ!!!!」

 

「ナツとガジルもいるし、このギルドに5人も滅竜魔導士か!!!!」

 

「珍しい魔法なのにな」

 

さらに盛り上がるギルドメンバーたちの歓喜の言葉に、3人は思わず笑顔になる。

 

「今日は宴じゃー!!!」

 

『おおおおおっ!!!!!』

 

「ウェンディたちの歓迎会じゃー!!!騒げや騒げっ!!!!!」

 

「ミラちゃーん、ビール!!」

 

「はいはーい」

 

「うおおおおおっ!!!!燃えてきたぁぁ!!!」

 

「きゃああああ! あたしの服ー!!!」

 

「何やってんだナツ!!!!!」

 

「げっ!ハルト!?ぐほっ!!!」

 

「ゲヘヘヘ……やっぱりルーシィ殿の胸はいいでごじゃるなぁ〜」

 

「寄るなエロネコ!!!」

 

「ぐはぁっ!!!」

 

マカロフの宣言と同時に歓迎会と言う名の宴が始まり、一気にお祭り騒ぎになる妖精の尻尾。

騒ぐ者、食す者、酒を飲む者、歌う者など、皆それぞれが思い思いに大騒ぎを始めた。

 

「これが妖精の尻尾……!!」

 

「楽しいトコだねシャルル、レイン、ミント」

 

「うん!!!」

 

「だねー!」

 

「私は別に…」

 

楽しそうに大騒ぎをする面々を見て、シャルル以外の新人メンバーも楽しそうにそれを眺めている。

 

「……………」

 

そしてギルドの2階にはそんなウェンディとレインを静かに見下ろしているミストガンの姿があった。

3人の姿を見たあと、ミストガンは黙ってその場を去った。

 

 

ウェンディたちが妖精の尻尾に歓迎されているころ……

ニルヴァーナの跡地には多くの評議院の人間がニルヴァーナの調査を行なっていた。

 

「おい!こっちに観測機を持ってきてくれ!!」

 

「魔水晶の破片は発見できたかー!!」

 

「まだでーす!!」

 

「今日中にはニルヴァーナの魔水晶の破片を発見するぞ!!!」

 

全員が忙しなく動くなか、1人だけ異様な人間がいた。

全身を黒の服装で揃えた人物がゆっくりと評議院の人間の間を通り抜けていく。

まるで1人だけ別の世界にいるかのように………

そしてその人物はニルヴァーナが塵となった場所にたどり着き、その場にしゃがみ込む。

 

「古くて劣化しているとはいえ1人で超魔獣を倒すなんてハルトは流石だな〜………アイツの息子なだけはあるよ」

 

その声は男か女かわからない声だったが、楽しそうなのはわかる。

そうして瓦礫のはへんや砂利を手でどけていると何かを見つけ、瓦礫の中に手を入れた。

 

「み〜つけった!!」

 

瓦礫から手を抜いた男の手には緑色のほうせきのようなものが握られていた。

 

「うんうん♪こいつは無事だったかーよかった〜!!」

 

その人物は嬉しそうに声を上げる。

するとそこに評議院の隊員の1人がやってきた。

 

「おい!貴様!!ここで何をやっている!!ここは立ち入り禁止だぞ!!!」

 

隊員は杖を構えて背後から近づいていく。

 

「怪しい奴め……来い!あっちで話を聞く!!」

 

しかしその人物は立ち上がった状態から動かない。

 

「……おい!!聞いているのか!!!」

 

隊員は肩を引っ張り振り向かせた瞬間、その人物は片手で隊員の顔を鷲掴みに持ち上げる。

 

「ゔ〜…!!!ゔ〜…!!!」

 

「あのさ〜塵のくせにさぁ。邪魔しないでくれる?」

 

隊員はその人物の腕にしがみつき、もがいたり、叫ぼうとするが腕は全く動かず、声も出ない。

 

「消えろよ」

 

 

そしてそのすぐ後……

 

「おーい!どこにいるんだぁ!!班長が呼んでるぞー!!」

 

怪しい人物を追いかけて行った仲間を探しにきた隊員が先ほどの場所に来たが………そこにはもう誰の姿も無かった。

 

 



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日常篇 4
第109話 亜人の子供たち 前編


ウェンディたちが妖精の尻尾の仲間になってから数日が経った。

 

「どお?このギルドにも慣れた?」

 

「はい!」

 

「女子寮があるのは気に入ったわ」

 

「そう、よかった。レインはどこに住んでいるの?」

 

ルーシィはウェンディの隣に座っていたレインにも質問する。

 

「はい。僕はいい借家が見つかるまでハルトさんの家に泊まらせてもらっているんです」

 

「えっ!?ハルトの家に泊まらせてもらっているの!!?」

 

「は、はい」

 

「アタシもだよー」

 

レインの言葉にルーシィはとても驚いて、レインは少し動揺してしまう。

 

「羨ましいなぁ〜……」

 

ルーシィはレインがハルトの家に泊まっていることに羨む。

初めてルーシィがハルトの家に訪ねてから、まだ一度も家に入れていないのだ。

 

「あら、ルーシィ。ちょうどよかったわ」

 

そこにミラが一枚の依頼書を持ってルーシィのところにやってきた。

 

「ミラさん!どうしたんですか?」

 

「ハルト見てないかしら?」

 

「いいえ。今日はまだ会っていませんよ」

 

「そう……困ったわね」

 

ミラは依頼書を見て、少し困った様子を見せた。

 

「どうしたんですか?」

 

「実はハルトを指名に依頼が来ているの。早めに来て欲しいってことなんだけど……まだ来ていないわね」

 

ミラはルーシィに依頼書を見せる。

 

「村を襲う闇ギルドを退治して欲しい……依頼者はクスコ・ガーデン」

 

「よお、何見てんだよ」

 

「おはようでごじゃる」

 

そこにハルトがやって来た。

 

「あっ!ハルト!!ハルトに指名の依頼が来てるの。クスコ・ガーデンって人なんだけど」

 

クスコの名前を聞いた瞬間、少し眉に皺を寄せ、ルーシィから依頼書を貰う。

 

「クスコ?また懐かしい名前だな」

 

依頼書をしばらく見たハルトは荷物を持ってギルドを出ようとする。

 

「マタムネ行くぞ」

 

「どこに行くでごじゃる?」

 

「サルビア村だ」

 

 

クスコの依頼を受けたハルトはさっそく出発しようとしたが……

 

「なんでお前たちも来るかな……」

 

「いいじゃねーか!チームなんだしよ!!」

 

「あい!」

 

「ハルトだけにおいしいところ持っていかれるのも癪だしな」

 

「我々は仲間なのだ。ついて行くのは当然だ」

 

「アタシはハルトが行くならどこへだって行くわ!!」

 

いつものメンバーが付いて来ていた。

さらに……

 

「すいません……私たちまで……」

 

「ごめんなさい……」

 

「アンタたちが謝る必要なんて無いでしょうが」

 

「そだよー」

 

申し訳なさそうにハルトに謝るウェンディとレインに、シャルルとミントも付いて来たのだ。

もともとウェンディたちの指導はハルトに一任されており、マカロフがこれも経験だとハルトについて行くように言ったのだ。

 

「はあ……まあ、お前たちなら大丈夫か」

 

「大丈夫?何のこと?」

 

ハルトは少し真剣な顔になってルーシィたちを見る。

 

「これから見ることにあまり驚くなよ」

 

ハルトはそれだけ行ってマグノリア駅に向かって行く。

 

 

ハルトたちは汽車に乗り、ハルジオンよりさらに遠くにある海に近い村、サルビア村を目指していた。

 

「そういえばクスコって人とハルト知り合いなの?依頼書見たとき表情が険しかったから……」

 

ルーシィがハルトの隣に座り、聞いてくる。

 

「昔の友人だよ」

 

ハルトはそれだけ言って窓からの景色を眺め、口を閉ざした。

ルーシィは他にも聞きたいことがあったがハルトはそれ以上言わない様子だった。

 

「サルビア村って海辺の小さな村ですよね」

 

「ああ、確かニルヴァーナがあったワース樹海が近くにあったはずだ」

 

「またあそこら辺に戻るのかよ」

 

グレイが少しウンザリしたような顔になる。

 

「てっことは……また船に乗るのかぁ〜……うぷっ……」

 

ナツが気持ち悪そうにしながら、また船に乗ることに嫌そうにした。

 

 

汽車から船に乗り継いでサルビア村に着いたハルトたち。

 

「ついたー!!」

 

「やっとか」

 

「結構時間かかったわね」

 

「まだ着かねーのか……?」

 

「もう着いたよナツ」

 

「さっそくクスコがどこにいるか聞かねえと」

 

「アタシ聞いてくるわ!」

 

「あっ!おい待て!ルーシィ!!」

 

ルーシィが率先して依頼主のクスコがどこにいるか近くにいた村人に尋ねた。

 

「すいません。クスコ・ガーデンさんのお宅がどこにあるか知りませんか?」

 

ルーシィがクスコの名前を出した瞬間、村人は嫌そうな顔になる。

 

「…………アンタらあの変わり者に用があんのかい」

 

「へ?」

 

村人はそう言ってルーシィから離れて行った。

その顔はルーシィたちを睨んでいた。

 

「どうしたんでしょうか?」

 

「何か怒らせちゃったかしら?」

 

さらに周りを見ると村人はハルトたちをただジッと睨んでいた。

 

「な、なんか怖いですね……」

 

「気味ワリぃな」

 

レインは睨んでくる村人に少し怯えてしまい、ナツはそれを不満そうに睨み返した。

 

「放っておけ。クスコの場所なら俺が知ってる」

 

ハルトを先頭に村の中を通って行く。

ハルトたちは村を抜け、その先にある山を登っていた。

 

「クスコって人、この山にいんのか?」

 

「ああ、アイツは事情があって人がいるところには住めないからな」

 

グレイがハルトに質問する。

どうやらクスコには事情があるらしく人が住む村や町に住めないらしい。

 

「村からだいぶ離れましたね」

 

「でもそのクスコさん。いったい何をしたんでしょうか?名前を出しただけであんなに睨まられるなんて……」

 

「別に何をしたってわけじゃないんだがな」

 

レインが後ろを振り返り、サルビア村が小さく見えた。

ウェンディがさっきの村人の態度に疑問を持つが、ハルトが苦笑いしながらフォローする。

 

「見えてきたぞ」

 

ハルトが前を向いて、そう言うと目の先に大きな洋館が建っていた。

 

「あそこがクスコさんの家なの?」

 

「大きいねー」

 

ハルトたちが洋館の前にたどり着くと突然ハルト目掛けて石が飛んでくるが、ハルトはそれを容易に掴んだ。

 

「え!?」

 

「誰だ!!!」

 

突然のことに驚くルーシィたち。

エルザが声高く叫ぶと、声が聞こえてくる。

 

「ここから出ていけ!!!」

 

その声は押さない声だった。

ハルトは辺りをキョロキョロと見渡しながらその声に話しかける。

 

「俺たちは依頼できた妖精の尻尾の魔導士だ」

 

「ウソつけ!!そう言ってまたボクたちをいじめにきたんだろ!!!」

 

「ウソじゃねーて、のっ!!」

 

「イダッ!!」

 

ハルトは右にあった木に向かって石を投げると木からフードを被った少年が落ちてきた。

ハルトは痛みでうずくまる少年に近づき、襟部分を持ち上げて顔を向けさせる。

 

「うわわっ!」

 

「クスコどこにいるか知ってるか?」

 

「ギニーを放せ!!」

 

ハルトがクスコの居場所を尋ねると、さらに木から少年がハルトの顔に飛び降りた。

 

「おい!離れろ!!」

 

「この!この!」

 

「ハルト!?」

 

ハルトの頭にしがみついた少年もフードを被っており、ハルトの頭をポカポカと殴っていた。

突然のことに驚くルーシィたちはハルトのところに行こうとすると周りから十数人のウェンディとレインより幼い子供が次々と現れた。

 

「なんだぁ!?」

 

「子供?」

 

取り囲まれたルーシィたちだが、身構えようにも相手がウェンディ、レインより幼い子供のためどうすればいいかわからない。

そして一斉に子供たちが石を投げてくる。

 

「いたたたたっ!!」

 

「くっ!危ないだろう!!」

 

「邪魔だ!」

 

「どいてください!」

 

「いたっー!!」

 

投げられる石に腕で顔を庇うルーシィたち。

 

「ルーシィ!たくっ……!」

 

「うわっ!」

 

頭から引っ張り剥がしたハルトがルーシィを助けに行こうとすると、ハルトの前に茶色のおさげで鎖を持った女の子が現れた。

 

「待ちなさい!ギニーを放しなさい!!」

 

「レジーお姉ちゃん!!」

 

「だったら石を投げるのをやめてくれ」

 

「それはできないわ!!貴方たちがあたし達にヒドイことするからよ!!!」

 

レジーと言う名の女の子は鎖をハルトに向かって投げるとまるで意思を持ったかのように動き、ハルトを襲う!………がそれはヒョロヒョロと動いて1mくらいで落ちてしまった。

 

「…………」

 

「……あぅ………」

 

ハルトはレジーに白けた目を向けて、レジーは恥ずかしそう俯く。

ハルトはレジーに近づき、ギニーと同じく首根っこを掴む。

 

「ひゃあっ!」

 

「おい!ガキども!!この嬢ちゃんに酷いことされたくなかったら石投げるのをやめろ!!!」

 

ルーシィ達に石を投げていた子供たちはハルトに捕まったレジーを見て、石を投げるのをやめた。

 

「さてとクスコはどこにいるんだ?」

 

「誰が話すもんか!!またパパにヒドイことするつもりなんでしょ!!!」

 

「だから違うって……」

 

ハルトは少し疲れた表情でそう言うと洋館の扉が開き、そこから男性が現れた。

 

「騒がしいですよ。何をしてるんですか?」

 

男性は細身で眼鏡をかけて黒髪を後ろでまとめた髪型をしており、全体的に物腰が柔らかい印象を受ける。

そして最も大きい特徴は右腕が無いことだった。

子供たちはその男性が現れるとバツが悪そうな表情になり、男性は周りをぐるっと見渡しハルトと目が合う。

 

「ハルトかい?」

 

「久しぶりだな、クスコ」

 

 

洋館に招かれたハルトたちは客間に通され、クスコから謝罪を受けていた。

 

「申し訳ありません。妖精の尻尾の皆様。うちの子供たちがとんだ勘違いをしてご迷惑をお掛けしました」

 

「別に気にしておりません」

 

代表としてエルザがクスコの謝罪を受け取る。

頭を下げるクスコにクスコの後ろで立っている子供たちも申し訳なさそうにする。

 

「ほら、君たちもフードを取って頭を下げなさい。お客様の前でフードを被るのは行儀が悪いですよ」

 

「で、でも先生!」

 

フードを取るように言われた子供たちは少し焦る様子を見せる。

 

「この人たちなら大丈夫ですよ。だからフードを取りなさい」

 

クスコは優しく語りかけると、子供たちはゆっくりフードを脱ぐ。

そして露わになった頭には動物のような耳がほぼ全員に生えていた。

 

「ええっ!?」

 

「なんだそりゃ!!」

 

「かわいい……」

 

ルーシィたちが驚きの声を上げるなかエルザがボソッと呟いた。

しかし子供たちは少し居心地が悪そうにする。

 

「おー!すげぇっ!!それって本物なのか!!ちょっと触らせてくれ!!!」

 

「ふぇ……」

 

「やめろバカナツ」

 

「いでっ!?」

 

ナツが触ろうとしてくるのをハルトが頭に拳骨を落とすことで止めた。

 

「さぁ、謝って」

 

『ごめんなさい』

 

子供たちが一斉に頭を下げて謝罪するが、ルーシィたちは獣の耳が生えていることに驚いてそれどころではなかった。

 

「さて僕はこの人たちとお話をするから、居間に行ってお菓子を食べてきなさい。レジー、お客様たちにお茶を頼みますよ」

 

クスコがそう言うと子供たちはお菓子で笑顔になって客間から出て行った。

子供たちが出て行ったのを確認するとクスコはハルトと向き合う。

 

「久しぶりですねハルト」

 

「ああ、久しぶりだな。元気だったか?」

 

「ええ。片腕が無くても元気ですよ」

 

ハルトとクスコが仲良さげに話すとルーシィがハルトに質問する。

 

「ねえ、ハルト。クスコさんと知り合いなの?」

 

「5年前に知り合ったんだ」

 

クスコがルーシィたちに体を向ける。

 

「改めまして……今回の依頼を申し込みましたクスコ・ガーデンです。本日は依頼を受けていただきありがとうございます」

 

クスコが頭を下げて礼を言う。

 

「それでは早速依頼を確認したいのですが」

 

「はい……実は数日前から近くに賊が現れまして、彼らを退治して欲しいのです」

 

「賊なら軍に頼めばいいんじゃないんですか?」

 

ルーシィがそう質問するが、クスコは首を横に振る。

 

「あの子たちを見たでしょう?」

 

「ああ……あれは一体なんだ?獣の耳に尻尾もある奴がいたな」

 

「あの子たちは亜人の子供です。僕は身寄りのない彼らの保護者をしています」

 

「親はどうしたんだよ?」

 

ナツの質問にクスコは少し辛そうな表情になる。

 

「…………何故この国に亜人がいないか知っていますか?他国では多くの亜人が暮らしているのに」

 

「いえ……アタシ亜人は初めて見たから……」

 

「俺もだ」

 

ルーシィに続いてハルトとエルザ以外が見たことがないと言う。

 

「エルザは見たことがあるの?」

 

「ああ、楽園の塔の時にな……」

 

エルザが楽園の塔建設に奴隷として捕まっていたころ、身体能力が高い亜人は多く捕まっていた。

 

「フィオーレ王国は先代王の時に亜人狩りが横行していました」

 

「亜人狩り?なんじゃそりゃ?」

 

「人間とは違い、身体能力、、魔力が高い亜人を恐れた先代国王はフィオーレ王国中の亜人たちをつかまえ、処分しました」

 

「処分って……」

 

ルーシィの想像はあっており、それはとても悲惨なものだった。

それを聞いたウェンディとレインは顔を青くする。

 

「今の国王になってからは亜人狩りは行われなくなりましたが、人々の亜人に対する意識はあまり変わらず、今でも迫害の対象です」

 

「だから麓の村の奴らはあんな態度だったのか……」

 

グレイは村人の態度を思い出した。

確かに村にいた者で冷たい態度を取っていたのは全員、高齢の人たちがほとんどだった。

 

「今の国軍の上官たちも亜人狩り時代の人たちが多く、依頼を出しても引き受けてもらえなかいことなんてザラです……」

 

「そんなっ!あんまりじゃないですか!!」

 

「そうです!ひどいですよ!!」

 

ウェンディとレインが怒りを露わにして声を荒げる。

ルーシィたちも同じようだ。

 

「亜人が無差別に処分されることはなくなりましたが、数が少なくなった亜人の価値を見出した富豪、貴族が亜人を捕まえ、競売にかけるようになったのです」

 

「じゃあ……あの子たちは……」

 

「ええ……親が逃した子供達です。他の場所では生きていくのが難しい。どうかお願いします。この子達を助けてやってください」

 

クスコが再び頭を下げて懇願する。

ハルトたちは互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

 

「わかった、その依頼を受けるよ。クスコ」

 

「ありがとう……!」

 

こうしてハルトたちは亜人の子供たちを守ることになった。



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第110話 亜人の子供たち 中編

すいません。
だいぶ遅くなってしまいました。
ちょっとずつ書いて行きますのでよろしくお願いします。


クスコの依頼、亜人たちの孤児院を襲う賊を討伐して欲しいという依頼を受けたハルトたち。

さっそく動こうとしていると思いきや………

 

「いくよー!!ナツお兄ちゃーん!!」

 

「おう!!!どんどん来いやー!!!」

 

「かっ飛ばせー!!ナツ兄ちゃーん!!!」

 

ナツは子供達と野球をしており……

 

「アイスメイク……シップ!」

 

「すごーい!」

 

「キレー!」

 

グレイは造形魔法で様々なものを作り、子供たちに見せていく。

 

「2人はどんな魔法使うのー?」

 

「どんなどんな?」

 

「私はサポート系の魔法を使うの」

 

「僕は水系の魔法かな」

 

「強いの!?」

 

「そのヤリってどう使うの!?」

 

「えぇっと……」

 

「あはは……」

 

年が近いウェンディとレインは一緒に子供たちから質問されていた。

 

「エルザお姉様!つぎは何したらいいですか!!?」

 

「なんでもします!!」

 

「そうか…なら次は一緒に綺麗な花を探しに行こう」

 

『はい!!』

 

エルザは女の子たちにお姉様と呼ばれ、憧れの眼差しを向けられており、エルザと一緒にいるだけで子供達は楽しそうだ。

その頭には女の子たちが作ったであろう花の王冠が乗せられていた。

 

「ひゃんでせっひゃふぁちはほんなへひ」

 

「はひ……」

 

「なんで私もよ!!

 

「いいじゃん、いいじゃーん」

 

「ねこちゃーん♪」

 

「かわいいー♪」

 

マタムネたちは孤児の子たちの中でも特に小さな子たちにもみくちゃにされていた。

 

「ねぇねぇ!ルーシィお姉ちゃんってコイビトはいるの?」

 

「えぇっ!?あ…アタシには……」

 

「好きな人はぁ?」

 

「うえっ!?そ、それはぁ……」

 

「ハルトお兄ちゃんでしよ!!」

 

「バレてる!!?」

 

ルーシィは子供達にいいようにからかわれていた。

そして少し離れたところでハルトとクスコはその様子を見ていた。

 

「ありがとうハルト。この孤児院には滅多に客なんて来ないからあの子たちには良い体験になるよ」

 

「礼ならアイツらに言ってくれ。ここの子供たちと触れ合いたいって言い出したのはアイツらなんだ」

 

クスコは楽しそうに遊ぶ子供達を優しく見守っている。

この孤児院は亜人の子供を中心に保護された孤児院のため滅多に人が寄り付かない辺鄙なところにあるのだ。

 

「やあ君たち。かわいい耳をしているね!」

 

「かっこいいー!!」

 

「お名前は何て言うんですか?」

 

「僕はロキ。ルーシィの星霊さ。さっ、僕と遊ばないかい?」

 

『はーい!!』

 

ルーシィが呼び出したロキは子供(女の子中心)の心を掴んだ。

 

「ロキお願いねー!」

 

ルーシィはとりあえず根掘り葉掘り聞かれる状態から脱出し、一息つくとスカートの裾を引っ張られた。

引っ張られた方を見るとハルトと対峙したおさげの少女レジーが立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「………私に魔法を教えて欲しいの!!」

 

ルーシィが質問するとレジーは力強くルーシィに頼み込んだ。

 

「魔法を?どうして?」

 

ルーシィが不思議そうに聞くとレジーは悔しそうな表情になる。

 

「ここ……村の人たちからよく嫌がらせをされるの。ひどい時なんか私たちに暴力を振るってくるし……みんなを守るために力が必要なの!!」

 

レジーは真剣な顔でルーシィに懇願する。

それを聞いたルーシィは快く引き受けようとするが……

 

「わかったわ!アタシに任せて「ダメだ」……え?」

 

それをいつのまにかルーシィたちの側にに立っていたクスコが止めた。

 

「クスコさん!?いつのまに……」

 

「なんでよパパ!!」

 

「魔法なんて覚える必要はないよ。もっとお菓子作りとか女の子らしいことを……」

 

「私はそんなの興味ない!みんなを守れるように強くなりたいの!!

 

レジーの怒鳴り声に周りで遊んでいた子たちも動きが止まり、心配そうに見守る。

 

「ダメだ……君をあんな危険な世界には……」

 

「……っ!もういい!!!パパはいつも魔法はロクなものじゃないって言うけど私をいじめたいだけなんでしょ!!!パパなんて大嫌い!!!」

 

クスコが言葉を続けようとするがレジーはそれを遮ってどこかに走り出しってしまった。

 

「レジー……」

 

「あの、アタシ見てきます!」

 

クスコが申し訳なさそうにレジーの名を呟き、ルーシィはレジーを追った。

その場が静まり返り、気まずい空気が流れるが子供たちがクスコの周りに集まった。

 

「先生ダイジョウブ?」

 

「レジーお姉ちゃんも言い過ぎだよ」

 

子供たちはクスコを励まし、クスコはそれを笑って答えた。

 

「大丈夫だよ。ありがとう……さあもう少し皆さんと遊んできなさい」

 

子供たちはまたナツたちと遊びに戻った。

クスコはそれを見届け、後ろにいたハルトの方を向く。

 

「ハルト、少しいいかい?」

 

 

レジーは孤児院の裏手にある崖に来て座っていた。

そこは山の裏手にある海が一望できる場所であり、レジーは落ち込むことがあればここに来ていた、

 

「レジーちゃん」

 

「っ!……ルーシィお姉ちゃん」

 

レジーを追って来たルーシィはレジーの隣に座る。

 

「……連れ戻しに来たの?」

 

「ううん……レジーちゃんが心配になってね」

 

しばらくの間レジーとルーシィは何も話さず、海を眺め続けているとレジーが口を開いた。

 

「パパね……私たちを守るために麓の村の人たちにヒドイこと言われても我慢してるの。怪我してる時なんてあるくらいなんだよ?」

 

ルーシィは黙ってレジーの言葉に耳を傾ける。

 

「私は孤児院の中では1番お姉ちゃんだし……パパの本当の子供なんだから私がパパを守らないといけないのに………パパを傷つけちゃったぁ……パパと離れ離れになっちゃうよぉ……」

 

レジーの目が涙でいっぱいになり、泣きそうな表情になる。

レジーは腕で涙を拭うがそれでも涙が溢れて止まらない。

今度はルーシィが話し出した。

 

「なんとなくレジーちゃんの気持ち、わかるかな……アタシとパパ、仲が悪くてさ。ついこの間まで絶縁してた状態だったんだ。パパはアタシの気持ちなんかわからないんだって思ってたけど……最後は心が通じ合ったような気がしたんだ」

 

ルーシィはつい先日のアカリファの事件を思い出しながら話す。

その時ルーシィは今まで心が通じ合うはずがないと思っていた父と少しだけ心が通じ合った気がしたのだ。

 

「喧嘩しても、傷つけちゃっても親子の絆ってそんな簡単になくったりしないと思うの。クスコさんだってレジーちゃんのこと考えてあんなこと言ったと思うよ?」

 

ルーシィに慰められたレジーは涙を拭いた。

 

「うん……これからパパに謝りに行く」

 

「うん!そうしましょ!レジーちゃん」

 

「レジーでいいよ!ルーシィお姉ちゃんともっと仲良くなりたいもん!」

 

目を赤く腫れさせながらもにこやかに笑うレジーにルーシィも釣られて笑顔になった。

 

 

レジーが離れたころ、クスコがハルトを連れて屋敷に戻り話をしていた。

 

「なんであの子に魔法を教えないんだ?お前ほどの魔導士が……」

 

ハルトはクスコに向かってそう言うが、クスコは悲しそうな表情でハルトに振り返る。

 

「僕みたいな人間が人に教える資格なんてないよ…………それより今回の依頼のことで話したくてね」

 

「………あぁ、いつ盗賊たちを討伐したらいいんだ?」

 

「実は奴らの拠点はもうわかっていてね。あとは強襲をかけるだけなんだ」

 

「よく盗賊の拠点がわかったな」

 

「昔の職業柄、かな?」

 

クスコのおどけた笑みにハルトも肩をすくめる。

 

「じゃあ強襲は夜でいいのか?」

 

「うん、奴らも襲われるとは思わないだろうから今日だね」

 

「わかった」

 

「………ところでハルト。あの娘はいったい誰なんだい?エミリアに瓜二つじゃないか。初めて会った時顔に出さないように頑張ったよ」

 

クスコはルーシィを思い出し、ハルトに尋ねるとハルトはやっぱり聞いてきたかと思った。

 

「ルーシィは別にエミリアとは関係ねぇよ。全くの別人だ」

 

「そうかい?世界には自分にそっくりな人が3人いると聞いたことがあるけどねぇ……………そういえばハルト、エリオの話を聞いたかい?」

 

「エリオ?……いやあの時以来会ってもいないよ」

 

「そうかい……」

 

「エリオがどうかしたのか?」

 

「………最近嫌な噂を聞いてね。エリオが闇ギルドで活動している、って」

 

「エリオが?」

 

ハルトは驚いた表情になる。

 

「まぁ、噂だからね。確証は何もないけど……さて、そろそろ食事の用意をしないとね。ハルト、手伝ってくれるかい?」

 

「あ、ああ……」

 

ハルトはエリオの事が気になったが、とりあえず頭の隅に追いやった。

 

 

そのあと戻ってきたレジーはクスコに謝り、クスコもそれを許し、みんなが和気藹々として、食事となった。

食事が終わり子供達は遊び疲れたのか、早々に風呂に入り、寝てしまった。

そして妖精の尻尾のメンバーとクスコたちは子供達が寝たのを確認し、山を降りていた。

 

「眠みぃーなぁ……」

 

「あぃ………」

 

「仕事しにきたんだろうが」

 

「ここからが本番だ気を引きしめろ」

 

眠いとこぼすナツとハッピーにグレイが叱咤し、エルザは気を引き締める。

 

「妖精の尻尾での初仕事だね!頑張らないと!!」

 

「うん!頑張ろうレイン!!」

 

「zzzzzzzz」

 

「起きなさいよ!!」

 

初仕事に気合いが充分なレインとウェンディ。

 

「眠いでごじゃる……」

 

「これからが本番なのよ!頑張らないと!!」

 

「気合いが入ってるでごじゃるな………」

 

「レジーと約束したからね!」

 

ルーシィとレジーはあの後すごく仲良くなり、本当の姉妹のようだった。

そしてルーシィはレジーと盗賊をやっつけることを約束したのだ。

 

「妖精の魔導士なんだから一度約束したからには守らないとね!」

 

「Z〜Z〜」

 

「寝たー!!?」

 

ルーシィが気合いを入れてガッツポーズを作るが、マタムネも寝てしまった。

 

「ハハッ……これから戦いに行くのに楽しい人たちだ」

 

「頼もしいだろ?」

 

クスコはこれからの戦いに赴くのに気合い充分な皆を見て、頼もしく思った。

そして山を抜け崖にたどり着いた一行の下には洞窟が見え、クスコが指差す。

 

「あそこです。あそこが盗賊たちの拠点です」

 

いよいよ戦いが始まろうとしていた。

 

 

その頃孤児院では子供達が寝静まっている中、1人がトイレに行きたくなり、ノロノロとおぼつかない足取りで廊下を歩いているとその先に人影が見えた。

 

「先生……?」

 

眠い目をこすりながら目を凝らすが暗闇に隠れて姿がよく見えない。

その人影がゆっくりと近づいてくる。

そして月明かりでその男が持つナイフが怪しく光った。



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第111話 亜人の子供たち 後編

ハルトたちの視線の先に洞窟があり、松明で照らされており、その側には何にか見張りをしていた。

 

「あそこか……」

 

「盗賊の数はざっと数えて500人以上だったよ」

 

「500!?多くない!?」

 

「確かに……そんな大人数をよく隠せていたな」

 

ハルトたちは洞窟を確認しながらどうするか話し合う。

 

「突撃してぶっ倒しちまえばいいだろ!!その方が手っ取り早いしよ!!」

 

「バカ、500人もいるんだぞ。俺たち8人で戦うんだぞ?500人も同時に相手にできるか」

 

グレイがナツの提案を却下すると、クスコが手を挙げた。

 

「すいません。僕は戦えないんです……」

 

クスコが申し訳なさそうにそう言った。

確かにクスコは線が細く、戦えそうには見えなかった。

 

「そうなんですか?」

 

「付いてきたのに申し訳ないです……」

 

「いや、構わない。しかし、そうなると7人か……どうするハルト?」

 

「……ナツの言う通り正面から突っ込むぞ。洞窟だから狭い空間で戦うなら少人数のほうが有利だ」

 

そうしてハルトたちは正面から見る洞窟に突入した。

 

「ハァッ!!」

 

「アイスメイク"ランス"!!」

 

「開け!金牛の扉!タウロス!!」

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「覇竜の剛拳!!」

 

あっという間に見張りを倒したハルトたち。

すると、洞窟から騒ぐ声が響いてきた。

 

「まだ奥にいるな……ナツ合わせろ!」

 

「おう!火竜のォ……」

 

「覇竜の………」

 

「「咆哮ォッ!!!」」

 

2人のブレスが洞窟の中をめぐり、大爆発を起こした。

 

「すごいなぁ……!」

 

「うわぁ……」

 

「メチャクチャよ!!」

 

「ひゃーー」

 

それ草陰から見ていたウェンディたちは驚きの声や呆れた声を上げた。

 

「相変わらず派手だね」

 

それをクスコは少し懐かしそうに見ていた。

盗賊を全員倒し終えたハルトたちは少し違和感を感じていた。

 

「なぁ…おかしくないか?」

 

「あぁ……敵の数が少なすぎる」

 

そうハルトたちが倒した数はせいぜい50程度で少なすぎる。

 

「クスコ、確かに500人もいたのか?」

 

「ああ、確かにいたはずなんだけどね……」

 

クスコも不思議そうにしているとエルザが奥から盗賊を1人連れてきて、剣を突きつけて尋問していた。

 

「答えろ。お前たちの仲間はどこにいる?」

 

「へへ……まんまとハマりやがったな……」

 

「なんだと?」

 

「俺たちはただの囮なんだよ……お前たちが来ることはわかってたからなぁ……」

 

「何!?」

 

『!?』

 

盗賊の言葉に全員驚く。

 

「どうして私たちが来ることがわかった!!」

 

「ひひ……親切な村人もいたもんだよ」

 

その時、全員の頭に麓の村人の姿がよぎった。

 

「あいつらか……!!」

 

「でも、なんで!?」

 

ハルトは悔しがり、ルーシィはなぜ村人が盗賊に協力しているのか困惑の声を上げる。

 

「今ごろ亜人のガキどもは……ヒヒヒッ!!」

 

「貴様ぁ……!!」

 

エルザが怒りで拳を振るおうとするが、それより速くクスコがその盗賊の首を締め上げた。

その細腕からは信じられないくらいに軽々と男を締め上げる。

 

「クスコ!!」

 

「教えてくれないかい?なんで僕たちの家を狙うのかを?」

 

クスコは声を荒げずに冷静な声で質問するが、その目には怒りが宿っており、首を絞める力が強くなっていく。

ハルト以外の皆は突然のクスコの変わり様に驚いていた。

 

「がぁ……あ…ぁ……」

 

「答えられないかな?」

 

「クスコ、もうやめろ。気を失っている」

 

「…………」

 

ハルトにそう言われたクスコは手を離し盗賊を解放するが、盗賊は気を失ってしまっていた。

 

「ハルト、僕は先に行くよ。あの子達が心配だ」

 

「待て!クスコ!!」

 

ハルトが止めるのを聞かずにクスコは風のようにその場から離れた。

 

「不味いな……」

 

「あ、ああ、このままではクスコ殿と子供たちが危険だ」

 

「いや、逆だ……」

 

ハルトの額から汗が流れる。

その汗は焦りから来る汗だった。

 

「盗賊の奴らの方が危険だ」

 

 

盗賊たちは屋敷を取り囲み、ネズミ1匹すら取り逃がさないように構えていた。

そしてその盗賊たちの後ろには大きな檻があり、その中には子どもたちが閉じ込められていた。

 

「へー、本当に獣の耳や尻尾が生えてやがる」

 

「な、なかなかかわいいな……」

 

盗賊たちは珍しそうに子どもたちを眺めていた。

 

「なんだよお前ら!!おれたちをどうするつもりだ!!」

 

「うるせぇ!!」

 

捕まっている子どもたちの1人が盗賊に怒鳴るが、盗賊は檻を叩いて黙らせた。

 

「お前らは裏取引で売り飛ばされるんだよ。大人しくしてろ」

 

「くそぅ……」

 

理不尽なことに悔しがり、売り飛ばされることに恐怖し泣きそうになる子どももいる。

すると屋敷の扉が開いた。

 

「おーい!まだ亜人のガキどもがいたぞ!!」

 

「離せ!離せよ!!」

 

「やめてー!!」

 

また子どもたちが盗賊たちに捕まり、檻に入れられる。

 

「今度は羽がついたタイプか」

 

「こりゃ高値で売れるな!」

 

盗賊たちの下品な笑い声が響く。

すると高笑いしているところに2人の男が近づく。

 

「これで全部か?」

 

「ぎゃほー!これだけでも高値になるぜ!!」

 

その2人は六魔将軍傘下の闇ギルドであった『裸の包帯男』のザトーとガトーだった。

 

「ザトーさん!ガトーさん!アンタたちのおかげだぜ。アンタらがこんな大人数で俺たちの仕事を手伝ってくれるおかげで金がたんまり入る」

 

ザトーとガトーはニルヴァーナの事件の後、なんとか新生評議会の手から抜け出した闇ギルドの残党を集め、新たに盗賊として動いていた。

その時に元は十数人だったこの盗賊たちに出会い、仕事を手伝うから分け前を寄越せと言ったのだ。

 

「こんだけいりゃあ1億……いや5億は行くな!なぁ、ガトー兄さん」

 

「そうだなザトー兄さん」

 

(前から思ってたがなんでどっちも兄さん?)

 

その時また屋敷の扉が開かれ、現れたのは盗賊でも闇ギルドの者でもなかった。

 

「みんなに酷いことしないで!!!」

 

現れたのはレジーだった。

その手にはハルトの時に使った鎖を持っていた。

 

『レジーお姉ちゃん/姉ちゃん!!!』

 

「なんだぁ?あのガキは?」

 

「亜人じゃねえのか?」

 

ザトーとガトーは亜人じゃないレジーに疑問を持つ。

 

「みんなを檻から出して!!」

 

「ギャホホホ!出すわけねぇだろうが」

 

「こいつらは貴族に高く売れるんだよ」

 

ザトーとガトーは悪い笑みを浮かべて、レジーを睨む。

それに気押されたレジーは一歩後ろに下がってしまうが、捕まっている家族を見て、勇気を振り絞ってさらに前に出る。

 

「だったら!力づくでも返してもらうんだから!!」

 

「ギャホホホ!!!ガキに何できるんだよ。やれお前ら」

 

ザトーの命令で部下たちがゆっくりと嫌らしい笑みを浮かべてレジーに近づいて行く。

 

「いけぇっ!!」

 

レジーは鎖を操って攻撃しようとするが、やはりまだ魔法は未熟でヘロヘロと鎖が動くしかなかった。

 

「なんだこれ?お遊戯か?」

 

「うぐっ…!」

 

盗賊はその鎖を掴んで投げ捨て、レジーを蹴り飛ばした。

 

「オラ!さっきまでの威勢はどうしたんだよ!!」

 

「俺らを倒すんじゃねえのか!?」

 

「あっ!ゔっ!痛い!!」

 

盗賊たちは幼いレジーを囲い、容赦なく拳や蹴りを食らわす。

 

「やめてぇ!!」

 

「レジーお姉ちゃんに酷いことするなぁっ!!!」

 

「ギャホホホッ!!!ガキがしゃしゃり出てくるからこうなるんだよ!!!」

 

子どもたちが涙を浮かべながら訴えるが、ガトーはそれを嘲笑う。

 

「うぅっ……」

 

「おい!もう終わりにしろ。亜人じゃなくても女なら売れるだろ」

 

「それもそうだな」

 

レジーを痛みつけ終わると盗賊は手をレジーに向ける。

 

(パパ……)

 

霞む意識の中、レジーの頭に思い浮かんだのは優しい笑みを浮かべるクスコだった。

その時だった。

一瞬強い風が吹き抜け、レジーを取り囲んでいた盗賊たちが膝から崩れ落ち、レジーの前に1人の男の姿があった。

痛みに目をつぶっていたレジーが目を開けると、そこにはガトー達を睨むクスコが立っていたのである。

 

「誰だアイツ?」

 

「いつのまに……」

 

ほとんどが突然のクスコの登場に戸惑う中、ガトーとザトーは違った反応を見せていた。

 

「なあ、ザトー兄さん。アイツどこかで見た覚えがないか?」

 

「ああ、ガトー兄さん。どこかで見たことがあるな……どこだっけ?」

 

「あともうちょっとで思い出せそうなんだかなぁ……なぁザトー兄さん」

 

「そうだな。ガトー兄さん」

 

2人はどこかでクスコを見た覚えがあるらしく、思い出そうとしていた。

クスコは睨む表情から、いつも通りの優しい笑顔を浮かべてレジーのほうを振り向いた?

 

「大丈夫かい?レジー」

 

「パ…パパ……」

 

クスコの顔を見たレジーの目から涙が堰を切ったように溢れ出した。

 

「ご、ごめんなさい……私みんなの……ぇぐ……みんなのお姉ちゃんなのに……ぐずっ……守れなかったぁ……」

 

傷ついた体で泣きじゃくるレジーを見たクスコは少し顔を怒りでしかめたが、すぐに優しい笑顔になり、レジーを抱きしめた。

 

「そんなことないよレジー。君がみんなを守ろうと戦ってくれたのはわかったよ。家族を傷つけようとする奴らから守ろうとする優しくて、強い子だということは僕が一番知ってるよ」

 

「パパ……」

 

「ありがとう。レジーのおかげであの子達も連れ去られずに済んだんだよ。流石は僕の娘だ」

 

クスコは抱きしめながら優しい声色でレジーにそう話す。

 

「パパぁ……」

 

「ここで待っていないさい。終わらせてくるから」

 

クスコは上着を脱ぎ、レジーを包むように着させて、1人で盗賊たちに近づいて行く。

 

「その子達を解放してここから消えてくれないかい?君たちを傷つけたくないんだ」

 

「……プッ、ハハハハハッ!!!お前バカか!!?この人数差で何が傷つけたくないだよ!!!」

 

1人を皮切りに多くの盗賊がクスコを馬鹿にして笑い出し、子供達も不安になる。

 

「………そうか、それはとても残念だよ…………」

 

クスコは少し悲しそうな表情を見せると、突如クスコの体から黒いオーラが溢れ出し、髪を逆上げ、体の表面の一部が闇で覆われる。

 

「消えろ」

 

 

ハルトたちはクスコを追いかけるため森を駆けていた。

 

「あともうちょっとだ!!」

 

ハルトの声で全員が走るスピードを上げて、森を抜けるとそこには地獄のような光景が広がっていた。

 

クスコの周りには血を流した盗賊たちが数多く倒れており、クスコは氷のような冷たい目で敵を見据えていた。

 

「クスコ!!」

 

「ハルトたちか……そこで待っていてくれ。すぐに終わらせる」

 

ハルト以外の妖精の尻尾のメンバーはクスコの外見が変わっていることに驚き、盗賊たちは仲間が倒されたのを見て狼狽していた。

 

「な、なんだよコイツ……!」

 

「一瞬で仲間が血を出して倒れたぞ!!」

 

倒されていない盗賊たちは信じられないと言った表情で叫ぶ。

クスコは盗賊達が動揺するなか倒れている盗賊を縫いながら、ガトーたちに向かって行く。

 

「全員で囲みやがれ!!相手は1人でしかも片腕だ!!!」

 

「いかん!」

 

ガトーが部下たちに指示を出し、クスコを囲む。

エルザがいち早く次に起こることを予測して動こうとするがそれより早く、クスコに向かって魔法を放なたれた。

 

「パパァー!!!」

 

『先生ー!!!』

 

様々な魔法がクスコを襲い、爆発を起こす。

 

「そ、そんな……」

 

「いやぁ……」

 

「あいつらァ………」

 

「許せん!!」

 

「待て」

 

エルザたちは怒りを露わにして、盗賊たちに近づこうとするがハルトがそれを止めた。

 

「ハルト!なぜ止める!!?」

 

「今近づくのは危険だからだ」

 

ハルトは黙って爆発の中心を見続け、ハルトに止められたエルザたちもそこに目を向ける。

爆発で立ち込めた煙が徐々に晴れるとクスコが立っていた場所には人1人ほどの大きさの黒いえんちゅうの物体があった。

 

「な、なんだありゃ…?」

 

盗賊の1人がそう呟いた瞬間、攻撃してきた魔導士に向かって黒い円柱から一斉に黒い針が伸びて突き刺した。

盗賊たちは声も出さず倒れる。

 

「ヒィッ……!!」

 

盗賊の1人がその光景を見て、恐怖から情けない声を出してしまい、他の盗賊にも恐怖が伝染していく。

クスコが足を進めようとした瞬間、クスコが立っている地面が隆起し、クスコを襲う。

しかしクスコはそれを軽やかに跳躍してかわす。

 

「ギャホホホホッ!!!今度は俺たちが相手だ!!なぁ、ザトー兄さん」

 

「そうだな。ガトー兄さん」

 

盗賊たちをまとめていたガトーとザトーがクスコに攻撃を仕掛けて来る。

 

「そうか……君たちが彼らをまとめているのか……なら君たちを『殺せ』ば全部終わるわけだ……」

 

クスコの体から黒い魔力と同時に凄まじい殺気が溢れ出る。

 

「ぐっ…!」

 

「な、なんて殺気だ……」

 

「ぐうぅ…!!」

 

ハルト、エルザ、ナツ、グレイは殺気に当てられても耐えることができたが、他はそうでもなかった。

 

「あっ……」

 

ルーシィやレイン、ウェンディなどの殺気に耐性がない者達はその場で気を失い、倒れてしまうがすぐにハルト達が受け止める。

 

「ルーシィ!」

 

「大丈夫か、お前ら!!」

 

森はざわめき、動物達は本能に訴えて来る生存本能により、一刻も早く離れようと森の中を駆ける。

クスコの殺気だけで山一つの命が怯えている。

 

「こ、コイツはぁ……」

 

「! 思い出した……お、お前は……!!」

 

ガトーとザトーは真正面から殺気を受け、怯えるがザトーがクスコの正体に気づいたが、その言葉を続ける前にクスコが仕掛ける。

右腕を横に伸ばすと、迸っていた魔力が収束し、無いはずの右腕を形作り、魔力の腕から魔力の大鎌が作られ、クスコは大きく振りかぶる。

 

「静粛なる死(サイレントキル)」

 

鎌を振った瞬間、竜巻が辺り一面を飲み込んだ。

ハルト達も巻き込まれたが風が止み、目を開けるとそこには残っていた盗賊達は軒並み全身から血を流し、倒れており、クスコはその中でただ静かに立っていた。

 

まだ意識があったハルトを抜いたエルザ達はこの光景が強く印象に残っていた。

ただ漠然と、『死』が立っていた……と

 



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第112話 陽だまりの中に

だいぶお待たせしました。
色々と忙しく、こんなにかかってしまいました。
これからもぼちぼちやっていきますのでよろしくお願いします、


たった一瞬で数百の敵を倒したクスコ。

側で見ていたエルザたちにも何が起こったかわからなかった。

突然凄まじい風がクスコを中心に広がり、敵を血だらけにして倒したのだ。

クスコは子供達が入れられている檻を切り裂き、子供達を解放した。

 

「大丈夫だったかい?」

 

クスコはさっきまでの冷たい顔ではなく、優しい表情に戻っていた。

 

『先生〜!!!』

 

子供たちはやはり怖かったのか全員クスコに抱きつく勢いで迫ってきて、くすこはそれを優しく受け止めた。

 

「怖かったね。もう大丈夫ですよ」

 

一人一人の頭を撫でて慰めていると、倒れた敵の中から動く音が聞こえてきた。

 

「ギャホ……ゲホッ………!お、思い出したぜ………お、お前の正体………!!」

 

血だらけの傷だらけになったガトーが咳き込みながら声を出す。

 

「あいつ!あの時のギャホ猿か!!」

 

「なんでこんなところに……」

 

戦ったナツとグレイはガトーがいることに驚き、クスコはガトーに向かって歩き出す。

 

「ギャホホ……!アンタみたいな奴がこんなところで孤児院なんて……似合わねぇな!!ゲホッ!ゲホッ!」

 

ガトーは苦しそうにしながらも嫌らしい笑みを浮かべ、大声で叫ぶ。

 

「なぁっ!!元悪魔の心臓(グリモアハート)の幹部!!!処刑人クスコ!!!」

 

ガトーのその言葉にハルト以外の妖精の尻尾のメンバーは驚きの表情を見せた。

 

「悪魔の心臓!?」

 

「パラム同盟の一角だ!!」

 

「クスコさんが……元幹部!!?」

 

子供たちも戸惑う様子を見せるが、クスコはそれに構わず、また手から大鎌を作り出し、ガトーに向かっていく。

 

「いかん!クスコ殿を止めろ!!!」

 

最悪の事態が頭によぎったエルザは声を張り上げるが、その時にはもうクスコは鎌を振り下ろそうとした時だが、その腕をハルトは掴んで止めた。

 

「やめろ。殺気、漏れ出てるぞ」

 

クスコはゆっくりと腕を下げ、魔力を抑えた。

 

「ギャホホホホッ!!アンタが命を取らねえなんて!!!何があったん……」

 

「フン!!」

 

「ギャホ!!?」

 

ガトーが煽ってくるが全てを言い終わる前にハルトは拳を顔に叩き込んで無理矢理黙らせた。

こうして事件は一件落着したが、クスコたちには重い思いを残させた。

 

 

その後、呼び出された軍によりガトーを含めた盗賊たちは捕縛され、協力した村人たちも捕縛された。

ルーシィたちは怖い思いをした子供たちを慰めるため一緒にいるが、その中、ルーシィは少し離れたところでボロボロになった屋敷を見つめているクスコとそこに近づくハルトを見ていた。

 

「大丈夫か?」

 

「……ん?あぁ、体に怪我はないよ。何も攻撃は当たってないしね。久しぶりに魔法を使ったが鈍ってなかった」

 

「体のことじゃない」

 

ハルトのその言葉にクスコは悲しげな表情になる。

 

「この子達を育てていて、もうあの頃の自分とは決別できたと思っていたよ……だけどそんなことはなかった……僕はやっぱり最低な人間だ」

 

「そんなことは……」

 

「彼らを傷つけても何も感じなかった。当たり前のように血を流させたんだよ?普通の人間の感性じゃない……」

 

ハルトが否定しようとするがクスコは自身がいかに狂っているか静かに話す。

 

「………そんな狂ってる人間があんなに慕われるかよ」

 

「え?」

 

「パパーー!!!」

 

ハルトの呟きにクスコが振り返るとレジーが抱きつく勢いでクスコに飛んできた。

クスコは慌てて受け止める。

 

「レジー……」

 

「パパすごいよ!!あんなに強かったんだ!!」

 

「でも…僕は………」

 

「パパはあたしたちを守ってくれたんでしょ?それにあたしたちはパパがとっても優しいことは知ってるよ」

 

レジーは屈託のない笑顔を見せる。

クスコは戸惑う表情を見せるが、エルザたちといる子供たちもレジーと同じ笑顔で憑き物が落ちた顔になった。

 

「ありがとう」

 

 

その後、ボロボロになった屋敷から荷物を取り出し、引っ越しの準備をしていた。

 

「軍に言えば屋敷も直してくれんじゃねえか?」

 

「いや、元々麓の村人とは仲が悪かったし、これを機に違う土地に引っ越そうと思ってね。どこがいいかな?」

 

すると皆、手を挙げて次に住みたいところを挙げていく。

 

「お城!!」

 

「街がいい!!」

 

「暑いところだろ!!」

 

「バーカ。寒いところだろ」

 

「鍛錬できるところがあれば文句はないな。あと美味しいケーキ屋があればなお良し」

 

「あの……クスコさんたちの引っ越しなんですけど……」

 

何気に混ざって自分が住みたいところを言ってくるナツたちにルーシィは静かにツッコむ。

 

「海がいいな」

 

レジーの一言にクスコは笑顔で頷く。

 

「じゃあ海にしようか」

 

結果、彼は海辺の村に引っ越すことに決まった。

荷物を全て荷台に乗せ、間も無く出発する前にそれぞれが別れの挨拶をしていた。

 

「本当に報酬金はいいのかい?」

 

「ああ、こっちはほぼ働いてないしな」

 

「子供達と過ごせて楽しい時間だった。その金は子供たちとの新しい生活に使ってくれ」

 

クスコは報酬金を払うと言うが、今回はクスコが大多数の盗賊を倒してしまったので、報酬金をもらうのは悪いとハルトとエルザが申し出ていた。

 

「また野球しような!ナツにいちゃん!!」

 

「おう!!またな!!」

 

「今度遊ぶ時は魔法教えてね」

 

「任せろ」

 

「今度は魔法見せてね!」

 

「うん!もっと上手になるね!!」

 

「僕も!!」

 

子供たちはナツたちにまた遊ぼうと約束していた。

 

「ふぇ〜ん、別れたくないよぅ……」

 

「キャス!猫ちゃんたちは自分たちの家があるから離さないと可哀想だよ!」

 

「オイラたち、ナツたちのところに帰らないと」

 

「レインたちが心配だよー」

 

「三食魚付きだよ?」

 

「………」

 

「ちょっとオスネコ!」

 

ハッピーたちに懐いていた猫耳の少女は別れたくないのか、離さない。

 

「ルーシィお姉ちゃん!」

 

「レジー!」

 

「ルーシィお姉ちゃん!パパと仲直りできたんだ!それとね……パパが魔法を教えてくれるんだって!」

 

レジーが嬉しそうに言うが、ルーシィは昨夜のクスコの姿を思い出し、少し不安になったがレジーの嬉しそうな表情にそんな考えは何処かに行ってしまった。

 

「よかったわ!魔法の勉強頑張って!」

 

「うん!ルーシィお姉ちゃんもハルトさんとの関係頑張ってね!!」

 

「えぇっ!?な、なんでそれを……!!」

 

「バレバレだよ?」

 

その後、別れの挨拶も済ませ、クスコ一行の馬車が出発しようとしていた。

 

「それじゃあ、皆さん。本当にありがとうございました」

 

『ありがとうございました!!!』

 

「気にすんな。落ち着いたら手紙くれよ」

 

「みんな!元気でね!!」

 

手を振って別れの挨拶をしてくる子供たちを見送ったハルトたちもギルドへの帰路についていた。

 

「しっかしよー今回の報酬は本当に貰わなくてよかったのかよ」

 

「仕方なかろう。確かに我々も盗賊を討伐したがそれは微々たるものだ。ほとんどがクスコ殿が討伐したのだ」

 

「今回はウェンディたちの初仕事だったのよ!!貰えるものはちゃんと貰っておきなさいよ!!」

 

「シャルル!私はいいから!」

 

「僕も気にしてないよ」

 

「あたしもー」

 

「アンタに言ってないわよ!」

 

「ひどーい!」

 

皆が楽しそうに話しているのを横目で見たハルトはふと外の景色に目を向け、クスコの言葉を思い出していた。

 

(エリオが闇ギルドに?なんで……)

 

ハルトの心に不安が広がっていた。

 

「嫌な予感がするな………」

 

「ハルト、どうかした?」

 

考え込んでいたハルトが気になり、ルーシィが話しかけてきたが、ハルトは顔に出さず、笑って見せた。

 

「なんでもねぇよ」

 

「そう?あっ!そういえばね!この前新しいケーキ屋さんを見つけたの!一緒に行かない……?」

 

「何!?新しいケーキ屋だと!ルーシィ!私が行こう!!」

 

「いや……エルザじゃなくてハルトと行きたいんだけど……」

 

いつもの光景にハルトの不安は片隅に追いやられた。

しかし、この時の嫌な予感が後に現実になってしまうのはまだハルトには分からなかった。

 

 

草木が生い茂り、蔓がいたるところに巻きつき、半壊している建物がほとんどで人が生活している面影は全く見られない古代都市。

その中心部にある一際大きな建物の中を眼鏡をかけた灰色の髪をした優男風の男が歩いており、開けた場所につき、その中央で低いステージのようなところに座っていた金髪の男が優男に話しかけた。

 

「準備はできたのか?」

 

「いいえ。あともう少しかかりますね」

 

「急がせろ。最近評議員が嗅ぎ回っている」

 

優男はその容姿と同じで物腰が柔らかい話し方だが、その答えに金髪の男は少しイラついた口調で命令した。

 

「わかりました。しかし、貴方はどうなんですか?」

 

「何がだ」

 

「かつての仲間を殺せるんですか?エリオ」

 

金髪の男の名はハルトが心配していた仲間と同じエリオだった。

 

「仲間か……アイツは仲間じゃない……………仇だ」

 

エリオの目に怒りと殺意が宿る。

 

「そうですか……それで誰を儀式に使うか決まりましたか?」

 

「……こいつだ」

 

エリオはポケットから写真を取り出し、優男に向かって投げ、それを拾う。

 

「なるほど……」

 

「行くぞ。狙うのはルーシィ・ハートフィリアだ」

 

不穏な影がハルトたちに近づいていた。



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覇王の追憶 篇
第113話 過去からの依頼者


新章アンドオリジナル回です。
ここから二連でオリジナル回をやります。
漸くハルトの過去が明らかになります。

オリジナル回なので色々おかしいところがあると思いますが楽しんでくれれば嬉しいです。


いつも通り賑やかな妖精の尻尾のギルド。

その裏庭でハルトはカミナ、レインと一緒にいた。

 

「霊槍スイレーン第三形態……!!ぐぐぐ……!!!」

 

レインは霊槍スイレーンを掲げて魔力を大量に込めて叫ぶとスイレーンが発光するが、それ以上なにも起こらない。

 

「そこまでだ」

 

カミナがレインに声をかけるとレインいは槍を下ろし、肩で息をするほど疲れた様子だった。

 

「ハァ…ハァ……」

 

「やはり無理か、神器の扱いは専門外だからな。アドバイスがしにくい」

 

「カミナならわかると思ったんだけどな。ダメか」

 

「神器は未だに解明されていないところがほとんどだ。わかっているのは古代に作られ、絶大な力を持っていることぐらいだ」

 

ハルトは疲れて座り込んだレインに近づく。

 

「お疲れ」

 

「は、ハルトさん……すいません。修行に付き合ってもらってるのに何もできなくて」

 

「しょーがねぇよ。神器の扱いかたなんて誰もわからないんだ。模索していくしかないしな」

 

「は、はい!」

 

「よし、じゃあ次は魔法の特訓だ。やれるか?」

 

「はい!やれます!」

 

レインは立ち上がり、ハルトと魔法の特訓に移った。

そしてそんなハルトたちを少し離れたところのガーデンチェアでルーシィ、ウェンディ、マタムネ、シャルル、ミントがお茶していた。

 

「レイン頑張っているね」

 

「はい!レイン!!頑張ってー!!!」

 

ウェンディが手を振って応援するとレインは手を振って応えた。

それに嬉しそうにするウェンディを見て、ルーシィはふとウェンディに聞いてみた。

 

「ねぇ、ウェンディって……レインのこと好きなの?」

 

「はわっ!!」

 

突然の質問にウェンディは驚き、顔を真っ赤にする。

 

「そそそそ、そんなこと……」

 

「だっていっつも一緒にいるし、レインと一緒にいるウェンディすごく楽しそうだもん」

 

「れ、レインとは小さい頃から一緒だったので…どちらかと言うと兄妹みたいなものですよ!」

 

そう否定してくるが顔が真っ赤なのは変わらない。

 

「実際のところどうなんでごじゃる?」

 

「うーん。お互い意識してはしてるんだけどねー」

 

「まだまだお子ちゃまで二人とも気づいていないのよ」

 

マタムネたちはルーシィたちに聞こえないように話していた。

 

「ルーシィさんだって……」

 

「うん?」

 

「ハルトさんのことどうなんですか?」

 

「好きよ」

 

ウェンディが意思返しでルーシィにハルトのことを聞くがルーシィは間髪入れず答えた。

 

「だ、大胆なんですね……」

 

「うん。この気持ちは本物だもん」

 

そう微笑んで言って見せたルーシィはウェンディが惚れ惚れするほど綺麗で、ウェンディは素直にルーシィを応援したくなった。

 

「そうなんですか……ルーシィさん!」

 

「どうしたの?」

 

「私応援します!!」

 

「え?う、うん。ありがとう」

 

その頃、レインはハルトと対峙して攻撃を繰り出していた。

 

「よっしゃ、かかってこい」

 

「はい!水竜の鉄拳!!」

 

水を纏った拳をハルト目掛けて放つがハルトはそれを片手ではたいた。

 

「ええ!?」

 

「ほら、もっと打ってこい」

 

「は、はい!水竜の激流!!」

 

レインは両手を前に構えて、手から激流を出す。

 

「覇竜の……剛拳!!!」

 

しかしハルトの剛拳の拳圧で激流は押し返されてしまった。

 

「うわわっ!!」

 

しかもレインは自分の激流に飲み込まれてしまった。

そこにカミナが助け出した。

 

「しっかりしろ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「うーん……なんかなーあれだな。威力が全体的に弱い」

 

「うぐっ……」

 

ハルトの直球なアドバイスにレインは項垂れる。

 

「魔力は高いがどこか攻撃をセーブしている。殺せとは言わないが攻撃するときは殺意を持ってやってみろ」

 

「殺意を持って……」

 

そう言われたレインは暗い表情になる。

 

「レインは優しいからな。そこまで深く考えなくていいさ」

 

するとそこにミラがやってきた。

 

「ハルト!ちょっと来てくれないかしら?」

 

「どうしたんだ?」

 

「ハルト宛に依頼が来たんだけど、マスターが少し話があるって」

 

行ってみると険しい表情をしたマカロフがカウンターに座りながら一枚の依頼書を見ていた。

 

「じいさん。何の用だ?」

 

「おお、来たかハルト……これじゃ」

 

そう言って差し出した依頼書を手に取り、目を通すとそこにはこう書かれてあった。

 

 

『ハルトへ。過去の清算をしよう。追憶の谷で待つ。君の古い友人より』

 

 

それを見たハルトは眉間に皺を寄せた。

 

「何か心当たりはあるか?」

 

「ああ………」

 

マカロフの質問にハルトは曖昧に答えるが、マカロフにはその見当がついていた。

すると突然ハルトは依頼書を持って外に出て行こうとする。

 

「どこに行く?」

 

「追憶の谷に行ってくる」

 

「場所はわかるのか」

 

「おそらくボスコだ」

 

「そうか……カミナ少し評議会まで行って依頼の受理をしてきてくぬか?国外の仕事となると色々と手続きが必要じゃ。しかもボスコとなるとな」

 

「わかった」

 

カミナはそう言ってその場から消え、評議会に向かった。

 

「儂は国にボスコへの渡航の許可を貰ってくる。恐らく明後日に受理されるじゃろう。それまで待て」

 

「そんな必要は……」

 

「ハルト」

 

ハルトは一刻も早く行きたいのか、そんなものは必要ないと言おうとするがマカロフが真剣な表情になってそれを止める。

 

「5年前のあの件は儂にも責任がある。これくらいはさせておくれ」

 

それを言われたハルトはそれ以上何も言わなかった。

そしてそれを少し離れたところでルーシィはその様子を見ていた。

 

 

2日後、評議会と国からの許可が下りたはるとはマタムネと一緒に列車に乗っていたが………

 

「だけど、なんでまたお前たちも来るんだよ」

 

ハルトの呆れた目の先にはいつものメンバーが座っていた。

 

「えへへ……」

 

ルーシィが誤魔化すように笑うが、ハルトの過去が気になって仕方なくマカロフに頼み込んだのだ。

 

「いーじゃねぇか!ボスコなんて行ったことねえしよ!!」

 

「ボスコのスイーツに興味があってな」

 

「オレはエルザに誘われた」

 

「ボクたちもです」

 

ハルトは一息つき、仕方ないと諦めた。

 

「そう言えばボスコってどんなところなんでしょう?」

 

「よく名前は聞くが、どんな国か知らねえな」

 

「ハルトは確かボスコ出身だったな。どんなところなんだ?」

 

皆がボスコの名前は聞くが、誰もその実態を知らないと口に出す。

エルザが代表してボスコ出身であるハルトに聞くと、ため息を吐いて呆れた目で外を眺めながら答えた。

 

「掃き溜めみたいなところだ」

 

 

ハルジオン港にたどり着いたハルト一行は早速ボスコ行きの船を探すが、

 

「ボスコ行きの船が一隻もないってどういうことだ」

 

港でハルトが大声で船乗りに問い詰めるが、船乗りに男は仕方がないと言った表情だった。

 

「仕方ねぇだろ。ボスコとフィオーレが挟む海峡に海獣が現れて、通る船を全て攻撃して来るんだ。危なくて通れねぇよ」

 

「くそっ!」

 

「ハルト、どうするの?」

 

船が無ければボスコに行くことはできないので、ルーシィが心配して聞いてくる。

ハルトは港に止まってある船を眺める。

 

「少し待っててくれ」

 

そう言って、ハルトは一番奥に停めてあった船に近づいて行き、その船の側でタバコを吸っていた男に話しかけた。

 

「よお。ちょっといいか?」

 

「あん?……魔導士かよ。なんだぁ?特に悪いことなんかしてねぇぞ」

 

男はハルトが魔導士だと見抜き、あからさまに態度が悪くなった。

ハルトはその態度に気にもせず話を続ける。

 

「ボスコまで船を出して欲しいんだ」

 

「無理だな。今海域に海獣がいるから危なくて通れねぇ。他の船でも同じこと言うぜ。諦めな」

 

男はそこまで言うとそっぽを向いてタバコをまた吸い始め、ハルトの話をもう聞こうともしなかった。

 

「ハルト!大丈夫?」

 

するとそこに心配になったルーシィたちがやってくると男は視線を戻し、ルーシィとエルザをジロリと見ると 嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「へぇーいい女じゃねぇか。そいつらを一晩貸してくれたら船のこと考えてやってもいいぜ?」

 

「あ?」

 

それを言われた瞬間ハルトの目つきが厳しいものに変わった。

 

「下衆な……」

 

「やっぱりモテる女って大変ね」

 

「ナツー、ルーシィが調子に乗り始めたよー」

 

「だな」

 

「いつものことでごじゃる」

 

ハルトは少し考える素振りを見せるが、次の瞬間男の襟を掴み持ち上げた。

 

「ぐっ……!?」

 

「ちょっ……ハルト!?」

 

「大切な仲間を差し出すわけねぇだろうが。海獣は俺たちが退治してやる。だから船を出せ」

 

「人に物を頼む態度じゃねえな……!!」

 

「お前らにはこんな態度でいいだろうが。軍の船を盗んでるんだからな」

 

「なっ!なんでそれを…….」

 

ハルトは男を持ち上げながら船に視線を送る。

 

「ボスコでこの船を見たことがある。所々変えてるけど俺の目は誤魔化せないぞ」

 

「テメー……軍の人間か……!」

 

「違う,。昔関わりがあっただけだ。ラトゥータの小鬼って言えばわかるか?」

 

「あの……!なら話は別だ」

 

男は『ラトゥータの小鬼』と聞くと男は驚きの表情から笑みを浮かべ、ハルトの手から離れた。

 

「悪いな、客人がた。同郷の奴がいるとなったらもてなさないとな。さあ、乗ってくれ」

 

突然の男の態度の変わりように驚くルーシィたちを尻目にハルトは男について行く。

それに慌ててルーシィがハルトに尋ねた。

 

「ハルト。何を言ったの?」

 

「別に……親切な人でよかったな」

 

ハルトが何かを隠しているのはルーシィでも気づき、気になった。

 

 

一悶着はあったが無事に出航できた。

 

「うげ〜……まだ着かねぇのかよォ〜………」

 

「まだ出発したばっかりだろうが」

 

またいつも通りナツが乗り物酔いになるがウェンディはトロイアをかけようとはしなかった。

 

「ウェンディ〜……頼むぅぅ。トロイアをかけてくれぇ……」

 

「ごめんなさい。ハルトさんが2日間は船に乗るからなるべくトロイアは使わないでくれって頼まれてて……」

 

「そんなぁ〜……うぷっ」

 

ナツは項垂れてしまった。

少し離れたところではハルトとルーシィが一緒の木箱に座ってその様子を見ていた。

 

「ボスコって結構遠いのね。2日もかかるなんて」

 

「いや、直線距離だとそうでもないんだがあそこは渦が巻いてて、船を遠回りさせるしか航路がないんだ。だからボスコとの国交も薄いし、情報が入ってこないしな」

 

ハルトの説明で納得したルーシィにハルトは付け加えた。

 

「あと、ウェンディとエルザには言っておいたけど、この船とボスコにいるときは俺の側から離れるなよ。もし俺がいなかったとしても絶対に一人になるな」

 

「どうして?」

 

「ボスコに着いたら理由がわかる」

 

ハルトはそれ以上何も言わず、前を見た。

この時ルーシィは必要以上に教えてくれないハルトにヤキモキしていた。

ハルトは自分のことになるとどこか一線を引いて人に知られたくないようにする。

ハルトのことをもっと知りたいルーシィは迷惑になるとわかっているが、好きな人のことを知りたい気持ちは止められなかった。

 

「ねぇ、ハルト」

 

「なんだ?」

 

「ハルトの昔のこと教えて……」

 

ルーシィがハルトに聞こうとした瞬間にさっき交渉した男が近づいてきて、話しかけてきた。

 

「やあ客人。イチャついているところ悪いね」

 

「い、イチャついてなんか……!!」

 

「何の用だ」

 

男が揶揄ってきたのをルーシィはいつも通り顔を赤くするが、ハルトは睨むように男を見た。

 

「ハルト……?」

 

いつも穏和なハルトが初対面の相手にここまで警戒しているのは珍しく、ルーシィは気になった。

 

「そんな警戒しないでくれよ。俺はアンタと話したかっただけなんだ」

 

「………ルーシィ。ナツたちのところに行ってくれ。少しこいつと話す」

 

「う、うん」

 

ルーシィが言われた通り、ナツのところに行ったのを確認したハルトは男の方を向いた。

 

「それで、何の用だ?」

 

「だからそんなに警戒すんな……ってのも無理か。ボスコ、しかもラトゥータ出身なら尚更か」

 

 

ハルトに促され、ナツたちのところにやってきたルーシィはハルトのことが気になりずっとハルトがいる方を見ているが話までは聞こえてこない。

 

「おいおい、ハルトのことが好きなのはわかるけど見つめすぎじゃねぇか?」

 

「ち、違うわよ!!そんなんじゃなくて……」

 

グレイが揶揄ってくるのを否定する。

 

「なんかハルト、ボスコに行くってなってからピリピリしてるなって思って……」

 

「確かにそうですね。いつもより口数少ないですし、ずっと周りを警戒してますよね」

 

レインも思い当たることがあるのかルーシィの言葉に同意した。

 

「しかし、警戒するのもわかる」

 

「え?なんでエルザ?」

 

ルーシィがエルザに尋ねるとエルザは周りをぐるっと見渡した。

 

「さっきから不埒な視線が突き刺さるのでな」

 

エルザはそう言って仕事をしていた船乗りの男を睨むと、男はそそくさとどこかに逃げていった。

 

「ハルトが言ってたのはこのことか………いいか絶対に一人で行動するな。常に誰かと一緒に行動するんだ」

 

エルザの注意に皆が返事するなか、ルーシィはずっとハルトのことが気になっており、そして何故かわからないが今回の依頼でルーシィはハルトの過去がわかるのではないか、予感していた。

 



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第114話 犯罪大国ボスコ

ボスコ行きの船に乗って2日目、とうとう海獣が潜む海域に近づいてきたが近づくにつれ、海は荒れ、天気は悪くなってきた。

 

「さぁ、客人がた。ここから頼むぜ!!この海を越えないと俺たちはボスコに行けないんだからな!!!」

 

「わかってる!!ナツ、エルザ、レイン!お前たちは俺と一緒にマタムネたちに抱えてもらいながら海獣に近づいて攻撃だ!!」

 

「オウよ!!」

 

「承知した!!」

 

「はい!!」

 

「グレイ!お前はルーシィたちと残って船から援護してくれ!!

 

「わかった!」

 

「任せて!」

 

「頑張ります!」

 

全員がやる気を込めた返事をハルトに返し、ハルトは荒れ狂う海の先を見据えた。

 

「行くぞ!!」

 

ハルトの合図でナツ、エルザ、レイン、ハルトはそれぞれハッピー、シャルル、ミント、マタムネに抱えられ、荒れ狂う海に飛び出した。

 

「ハルト!!この海では海獣も出てこないのではないか!!?」

 

「それはない!!海獣ってのは文字通り海の化け物だ!!こんな海なんてなんともない!!」

 

エルザとハルトが嵐の中大声で話していると、レインが背後で何かを感じ取り振り返る。

 

「…………」

 

「どうしたレイン?」

 

「来ます!!」

 

レインが叫ぶとそれと同時にハルトたちの背後から蛸の触手が海から飛び出て、ハルトたちに襲いかかる。

 

「……ッ!!覇竜の剛腕!!!」

 

いち早く気づいたハルトは剛腕で防ぐ。

 

「ハァッ!!!」

 

エルザは剣で触手を切り落とすと、切り落とされた痛みで触手が暴れ狂い、ハルトたちを海に叩き落とした。

 

「ぐあっ!?」

 

「うっ!!」

 

「うげっ!?」

 

「うわっ!!」

 

「ハルト!!」

 

「レイン!!」

 

「なんだあの化け物は!!?」

 

「なんだ知らなかったのか!?アイツは海の化け物……」

 

舵を取っていた男が暴れる触手を睨む。

 

「クラーケンだ」

 

 

海に叩き落とされたハルトはマタムネを抱えて、海から顔を出した。

 

「マタムネ!無事か!!」

 

「う〜……頭がクラクラするでごじゃる………」

 

「飛べるな?行くぞ!!」

 

ハルトたちは再び飛び上がり、船を襲おうとしているクラーケンに突撃した。

 

「その船に手を出すな!!覇竜の咆哮!!!」

 

クラーケンの頭部に向かって咆哮を放つが、少し表面が火傷するだけだった。

咆哮によりクラーケンの標的はハルトに襲いかかるが、なんとか触手を掻い潜り、攻撃を与えていく。

しかし、何度も攻撃を与えても怯む様子を見せるが倒れる様子は見せない。

 

「くそっ!このままじゃキリがない!!」

 

「………なあ、マタムネ。どんなタフな奴でも内側から攻撃すれば倒せるよな?」

 

「ハルト?まさか……」

 

「そのまさかだ!」

 

「い、いやでごじゃる!死にに行くようなものでごじゃるよ!!?」

 

「死ななきゃいいだけだ!!」

 

「ああもう!どうなっても知らないでごじゃるよ!!」

 

マタムネは一旦クラーケンから距離をとった。

 

「お前ら!そいつを海から引っ張りだしてくれ!!」

 

ハルトの指示に全員が一斉に攻撃を放つと、クラーケンの全体が海から現れた。

 

『ギャオオオオオォォォォッ!!!!!』

 

「ヒィッ!何あれ!!?」

 

「き、気持ち悪いですぅ………」

 

そのおぞましい姿を見せたクラーケンにルーシィとウェンディは怯える。

姿を現したクラーケンはより一層暴れだし、ナツ達を近づけさせないが、ハルトが触手を掻い潜って近づき、クラーケンの口の中に突撃した。

 

「ハルト!!?」

 

喰われてしまったと全員が思った瞬間、クラーケンの体から凄まじい衝撃音が聞こえた。

 

「竜戟弾!!!」

 

クラーケンの頭部の一部が何かに引っ張られるように伸ばされそこからハルトがクラーケンの頭部を突き破って出てきた。

 

「ハルト!!」

 

「よかった!無事ですよ!!」

 

クラーケンの血が体中に付いているが、特に怪我をした様子は無いハルトはクラーケンに振り返り、息を大きく吸い込む。

 

「覇竜のぉ………咆哮ォッ!!!」

 

『グオオォォォォ……………』

 

ハルトのブレスがクラーケンに浴びせられ、クラーケンは断末魔をあげながら海に沈み、二度とその姿を現さなかった。

 

 

クラーケンとの戦闘から1日が経ち、ついにボスコの港が見えてきた。

 

「見えてきたぜ。あれがボスコで一番荒れている港町……ラトゥータだ」

 

その港町は大きく広がっており、ところどころから煙が立ち上っており、賑わっているのが遠くからでもわかった。

 

「よし、じゃあルールを決めるぞ」

 

「ルール?何でルールを決めるの?」

 

ハルトが振り返り、全員に聞こえるように話しだすが、何故ルールを決めなければいけないかルーシィは質問した。

 

「今から行くラトゥータはお前らが想像しているよりも治安が悪い。ルールを決めて自衛しなきゃいけないんだ」

 

「自衛って……そこまでなんですか?」

 

レインが少し驚いた表情でハルトに聞き返すとハルトは黙って頷いた。

 

「まず女性陣は俺の側から離れるな。人攫いに攫われるからな。1人でも行動するなよ。何が起こるか分からないからな」

 

「人攫いなどがいるのか?下劣な」

 

エルザは人攫いという言葉に自分の幼少期のころを思い出し、嫌悪感が露わになる。

 

「あそこじゃ犯罪なんてもんは日常だ。自分の身は自分で守るしかねぇよ。あと……」

 

「客人。頼まれたもの持ってきたぜ」

 

ハルトが言葉を続けようとした瞬間、船乗りの男が手に何かを持って現れた。

 

「ああ、ありがとよ」

 

「ハルト、それは?」

 

ルーシィがハルトが貰ったものが何かを聞くとルーシィ、エルザ、ウェンディ、レインにそれぞれ手渡した。

どうやら服のようだが、いつも皆が着ているものより貧相なデザインでボロボロの古いものだ。

 

「それに着替えてくれ」

 

「これに?もう少し可愛いのがいいのに」

 

「文句を言うなよ。その格好じゃ狙ってくださいって言っているもんだ」

 

ハルトはそう言ってルーシィ達を部屋に押し込んで着替えるように頼んだ。

 

「ハルトがあそこまで注意するってラトゥータって一体どんたところなの?」

 

「人攫いがいるって言ってましたね」

 

「何にせよ気を引き締めていかねばな」

 

女性陣はそう言いながらハルトに渡された服に着替え始めたが、レインも一緒に部屋に押し込められており、慌てて顔をルーシィたちから逸らした。

 

「み、みなさん!僕もいるんですよ!!」

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「女の子でしょ?」

 

「僕は男です!」

 

 

ルーシィたちは田舎の村娘みたいな地味な格好をし、顔を布を頭から被り見えないようにして、ラトゥータの港に降りた。

一応レインは男モノの服だがどうしても女の子に見えてしまい、それを言われたレインはまた落ち込んだ。

船が港に着いた瞬間、久しぶり港に着いた船に港の者たちは驚き、船乗りたちに詰め寄られているうちに、ハルトたちは港から街に入った。

 

「すごい人ね。ハルジオンでもここまで賑わってないのに」

 

「ハルトが荒れているって言ってたけどそうでもないな」

 

ルーシィがそう言ったのは街に続く道には人が多くいており、露店を見ているもの、客を引き込もうとしている者など様々だ。

しかし、グレイが言う通り、殺伐ともしていないし、治安が悪いように見えないが、少しでも気をぬくと人とぶつかってしまいそうになる。

すると、前から手に花を持った子供たちが大勢やってきてハルトたちに売り始めた。

 

「買って!買って!」

 

「綺麗なお花だよ!」

 

「じゃあ1つ……」

 

「やめとけルーシィ。お前らもさっさとどっか行け!」

 

ルーシィが買おうとしたが、ハルトが間に入ってそれを止め、子供を追い払った。

 

「何もそこまでしなくても……」

 

「あれはスリだ。財布を出した瞬間、全部持ってかれるぞ」

 

「あんな子供もそんな犯罪に手を染めているのか」

 

ハルトの説明に全員が驚いているとさらに人混みが激しくなってきた。

 

「ウェンディ!離れないように手を繋ごう」

 

「う、うん」

 

レインは逸れないよう手を差し出し、ウェンディは少し顔を赤らめながらも手を取った。

 

「あれって狙ってやってるでごじゃるか?」

 

「いや、天然だねー」

 

「おい、マタムネ!顔出すなって言ってるだろ」

 

マタムネたちはハルトに言われハルトが背負うリュックの中に入っていた。

マタムネたちはあまり見られない種族のため狙われると思ったため、ハルトが提案したからだ。

 

「大丈夫でごじゃるよ。悪い奴なんて見かけないでごじゃるし」

 

「それでも中に入っとけって」

 

「でも体が凝ってしまったでごじゃるよ」

 

そう言ってマタムネはリュックの中から出てしまった。

 

「おい!」

 

「ハルトは心配しすぎでごじゃるよ。こんなに人がいれば人攫いなんて……もがっ」

 

マタムネが言葉を続けようとしたが、背後から手が伸び、マタムネを連れ去ってしまった。

 

「マタムネ!?」

 

「速え!魔法か!!追いかけるぞ!!」

 

「くそっ!人が邪魔で……!!」

 

即座に連れ去った男を追いかけようとしたが、人が多く追いかけることができない。

 

「エルザ!リュックを頼む!」

 

「ああ!」

 

ハルトはその場で跳躍し横の建物の壁に着地し、壁から落ちないように走り、男を追いかけた。

 

「おい!その猫は俺の仲間だ!!」

 

「がはっ!?」

 

追いついたハルトは男の真上から頭にかかと落としを放ち、気絶させた。

 

「ハルト〜!!」

 

「だから中にいとけって言っただろ?」

 

マタムネは泣きながらハルトに抱きつくとハルトの周りを男たちが囲んだ。

 

「な、なんでごじゃる?」

 

「おい兄ちゃん。その猫と有り金置いてどっか行きな。じゃなきゃ痛い目に合うぜ?」

 

そう言って男はナイフをチラつかせハルトを脅すが、ハルトは気にすることなかった。

 

「マタムネ、ルーシィたちのところに行っとけ」

 

「了解でごじゃる」

 

マタムネがナツたちのところに戻るとハルトがいるところが騒がしくなった。

 

「マタムネ!大丈夫だった!?」

 

「いやー危なかったでごじゃる」

 

「リュックの中にいとけって言われてたでしょ!」

 

「よかったよー」

 

ハッピー、シャルル、ミントから心配の言葉をかけてもらっている一方で、エルザは周りを注意深く見ていた。

 

「どうしたんだよエルザ?」

 

それに気づいたナツがエルザに話しかけるとエルザは訝しげな表情で話した。

 

「いや、ハルトの言っていたのはこのことなのかと思ってな」

 

「あ?マタムネが拐われたことか確かにな…」

 

「いや、そっちではない。マタムネが拐われた時、周りの人間はそれを何とも思わずスルーしたのだ。前でハルトが恐らく戦っているだろうが、それすらもスルーして商売を続けている」

 

「つまりどういうことだよ?」

 

「この街の人間はこう言った犯罪には慣れているということだ。しかもハルトのほうでは賭け事もされている」

 

ハルトと人攫いの集団の戦いはいつのまにか賭け事までされている。

 

「犯罪大国ボスコ………噂は本当だったのか」

 

「おう、お前ら。何ともないか?」

 

そこにハルトが戻ってきた。

 

「ハルト!ズルイぞ!!お前だけ戦って!!」

 

「なんだよズルイって……」

 

ナツが文句を言ってきたがハルトは呆れ顔で返し、先に進もうとしたときに気づいた。

 

「おいルーシィはどうした?」

 

「ルーシィさんですか?それなら私の後ろに……」

 

ウェンディが振り返って後ろを見たが、そこにルーシィの姿はなかった。

 

「あれ?ルーシィさん!?」

 

「ルーシィ!どこ行った!?」

 

「ルーシィ!!」

 

全員が周りに呼びかけるが返事がない。

 

「まさか……人攫いに攫われたのかよ!!」

 

「あの一瞬でですか!?」

 

「ナツ!ルーシィの匂いを追えないか!?」

 

「人の匂いが多すぎてわかんねぇ!!」

 

「くそっ!ルーシィ!!」

 

ハルトたちは道を駆け出し、ルーシィを探し出し始めた。

 

 

そのころ攫われたルーシィはどこかの建物の地下牢に閉じ込められ、そこに手足と口を縛られ、寝かされていた。

 

「んー!んー!」

 

「よくやったな。上玉じゃねぇか」

 

ルーシィは口に布を噛ませられ喋ることもできずに唸るだけで、1人の男がそう言うと何もないところからもう1人の男が突然姿を現した。

 

「へへっ……たまたま見かけたんだよ。あともう3人いたんだが警戒が強くてな。1人しか連れてこれなかったぜ」

 

「まあ、こんだけの顔だ。1人でも良しとしようぜ」

 

「それとこれも持っていた」

 

ルーシィを連れ去った男はルーシィのキーホルダーを取り出し、投げ渡した。

 

「星霊魔導士か!こりゃ価値が上がるな!!」

 

男は嬉しそうな顔になり、ルーシィの口を縛っていた布を取った。

 

「プハッ……。あんた達!さっさと縄を解きなさいよ!!」

 

「なんで解かなきゃいけねえんだよ。あんたはこれから売られるんだからな」

 

男はいやらしい笑みを浮かべる。

 

「う、売るってまた奴隷として?」

 

「また?ここじゃそんなのザラだぜ。あんた別の国の奴か?なら不運だったな。まっ、こんな国に来たのが間違いだったと思いな」

 

「アタシの仲間が必ず助けてくれるわ!!アンタ達なんて一瞬で倒されちゃうんだから!!」

 

ルーシィはハルト達を信じ、強気の姿勢を見せる。

しかしその瞬間、ルーシィの目の前にナイフが突き刺さった。

 

「へ?うっ!」

 

「そりゃ楽しみだな!ここがわかればの話だがな。いいこと教えてやる。ここは地元の奴でも知られていない場所だ。別の国の奴が分かるとは思えないね」

 

男はルーシィの前にしゃがんで顔を掴み、ナイフをチラつかせながら脅す。

するとルーシィは男の手を思いっきり噛んだ。

 

「痛てっ……!このアマァ!!」

 

「それでもハルトが来てくれるわ!」

 

「ハルト?どっかで……」

 

「………そうかい。ならそれまで楽しませもらうか!!」

 

その瞬間、男はルーシィの服を引きちぎり、ルーシィの柔肌が露わになった。

 

「きゃあっ!!」

 

「ほほう!いい体してんじゃねぇか!!」

 

「おい。商品に手を出すのは……」

 

「うるせぇ!!!黙ってろ!!!」

 

男は怒りが収まらないのか仲間の男にさえ怒鳴りつけ黙らせると、ルーシィの胸を乱暴に揉む。

 

「痛い!やめてぇ!!」

 

「ハハッ!いいぞ!!もっと泣け!!」

 

ルーシィは涙を浮かべ必死に抗うが、男は無理矢理にでもしようとする。

 

(怖いよ……!ハルト!!)

 

ルーシィが心の中でハルトを呼んだ瞬間、もう1人の男が異変に気付いた。

 

「外が騒がしいな……?」

 

その瞬間、地下牢の天井が爆発するように破壊された。

 

「な、なんだ!?何があった!!?」

 

ルーシィに乱暴しようとした男は突然のことに慌て、ルーシィから離れる。

ルーシィも突然のことに驚くが、煙の中から現れた姿を見て安心した。

 

「大丈夫か!ルーシィ!!」

 

「ハルト!!」

 

ルーシィに駆け寄り、起こして縄を解きながら、ルーシィの状態を見たハルトは目を厳しくして男を見た。

 

「お前ら……覚悟はできてんだろうな?」

 

ルーシィに上着をきせて、立ち上がり男に近づくと男は慌てながら謝った。

 

「ま、待ってくれ!すまなかった!!つい出来心だったんだよ!!」

 

(やれ!今ならお前には気付いていない!!)

 

男は謝りながら一緒にいた男に指示を出す。

ルーシィを連れ去った男は姿を消す魔法を使ってハルトの背後に立ち、ナイフを振り下ろす。

が、ハルトはそれより早く後ろに向かって裏拳を振り抜き、男を殴り飛ばした。

 

「なんだテメェは?」

 

「がはっ!?」

 

「ひぃっ!まっ、待ってくれ!わ、悪かった!!本当に悪かった!!許してくれ!!!」

 

仲間を倒された男はさっきとは打って変わって必死に謝り倒した。

 

「テメェ……昔、人攫いジャックにいた奴だな」

 

「な、なんでそれを……ハルト?お、お前!ラトゥータの小鬼か!!」

 

男はさっきよりも顔を青くし、ガクガクと震える。

 

「なら分かるよな?俺が仲間に手を出されるのが一番嫌いだってことはよ?」

 

「ひいぃぃぃっ!!!」

 

男はは慌てて逃げようとするがハルトは男の頭を掴み、床に叩きつけ、何度も拳を振り下ろした。

 

「ゆ、許しへ……はがっ!?」

 

「………」

 

男が許しを請うも、ハルトは黙って殴り続ける。

 

「ハルト!もうやめて!!」

 

そこにルーシィがハルトの背後から抱きついて止めた。

 

「アタシはもう大丈夫だから………」

 

「ああ……ごめんな、ルーシィ。俺が守るって言ったのに守れなくて……」

 

ハルトはルーシィの手を取って謝る。

ルーシィはハルトの手が少し震えていることに気づいた。

 

「でも、助けに来てくれたわ。ありがとう」

 

ルーシィはハルトの背中に顔を押し付けながら、ハルトを安心させるように強く抱きしめた。

落ち着いた2人はナツたちが待つ上に出た。

 

「ルーシィ大丈夫だったか!!」

 

「怪我はないか?」

 

「うん。みんなありがとう」

 

ナツたちの周りには倒れた人攫いの仲間がいており、ナツたちに倒されたのがわかった。

 

「ごめんなさいルーシィさん……わたしがちゃんと見てれば……」

 

「大丈夫よウェンディ。気にしないで!」

 

「さて、こんな騒ぎを起こしちまったのはまずい。流石に軍の奴らが来ちまう。急いで目的の場所に行くぞ」

 

「目的の場所とは追憶の谷というところか?」

 

「いいや、俺の実家だ」

 

 



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第115話 ハルトの実家

ルーシィを人攫いから救い出したあと、ハルトたちはハルトの実家に向かっていたが、進むにつれ、街並みは変わって来た。

さっきまでは商人が多くいており、商売で賑やかな通りだったが、今は魔力のネオンの光でも派手に照らされた酒場といかがわしい店、はだけた服装で男たちを誘う娼婦たちがあっちこっちで見かける別の意味で賑やかな通りを歩いていた。

 

「は、ハルト、こっちの通りであってるの?」

 

「ああ、こっちだ」

 

ハルトの上着を着たルーシィは初めて見るこういう店や女性に困惑しながら、ハルトに尋ねるがハルトは合っているという。

 

「なーんか変な匂いがめちゃくちゃするな。香水か?鼻がおかしくなっちまう」

 

「ナツの犬並みの鼻が無くても、匂いがキツイな」

 

「それにここら辺の通りに来てから、亜人の人たちを見かけるようになりましたね」

 

ウェンディが辺りを見ると、チラホラと獣の耳と尻尾を持った人間、翼が生えた人間など、獣の特徴を持った者達を見かけるようになった。

 

「ここらへんはラトゥータの奥の方だからな。亜人に偏見を持つ奴が少ないから、亜人はここら辺から住み始めてるんだ」

 

ハルトが説明しながら道を進んで行くと、建ち並ぶ建物の中でも一際大きな建物の前に着いた。

 

「着いた。ここが俺の実家だ」

 

赤と黒を基調とした店というよりは屋敷と言っていいほどの大きさの建物にはどこか気品溢れるデザインとなっており、看板には『amour(アムール)』と掲げられていた。

店の中に入ると中は薄暗いピンク色の光で怪しく照らされた広場があり、置かれたソファーには男と女が密接にくっついて、キスやカラダを触っている様子が見てとれた。

 

「あわわわわ…….」

 

「はわわわわ……」

 

レインとウェンディはそれを見た途端顔を真っ赤にしてしまう。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご予定で?」

 

「いや、ここにホブスがいると思うんだがいるか?」

 

「ホブス?はて?ここにはそのような遊女はおりませんが?」

 

「いや、遊女じゃなくてな……」

 

そこに接客でボーイがやってきて丁寧な口調で対応しているとルーシィ、ウェンディ、エルザ、レインの背後から手が伸びてきた、、

 

「っ!何をする貴様ら!!」

 

いち早く気づいたエルザはその手を払った。

背後には4人の男が嫌らしい目でルーシィを見ており、明らかに手を出そうとしているのがわかった。

 

「おいおい!なんだよその態度はよー?遊んでやるって言ってんだよ!!」

 

「ち、ちっちゃい子かわいいなぁ……」

 

「ひぃ!」

 

「ウェンディ!下がって!」

 

「俺はこっちの金髪の娘が……」

 

「もうまたぁ〜……?」

 

また狙われたルーシィは途端に疲れた表情になる。

 

「なんだテメーらは!!」

 

「おい。ウチの姫さん方に手を出さないでもらおうか」

 

そこにナツとグレイが4人を庇うように前に出て、一緒即発の空気になり、騒がしくなる。

すると、奥の部屋までその騒ぎが聞こえ始めた。

奥の部屋は事務所のようになっており、そこの一番豪華な机に座った顎髭を生やした男にまで聞こえた。

 

「何の騒ぎだ?」

 

男がそう呟くと、事務所に入ってきたボーイの1人が慌ててその男に報告しにきた。

「ボス。それが客と新しく来た客で騒ぎを起こしているみたいで」

 

「この店騒がれると困るんだがな……どんな奴らが騒いでんだ?」

 

「例の奴らと、女子供を連れた数人組です。恐らく身売りの奴らじゃないかと…….」

 

「例の奴らか……ちょうどいい。スジャータ」

 

男がその名前を呼ぶと天井からフードを被り、口元を隠した女性が現れた。

 

「俺が合図をしたら女子供を連れていない方を撃て」

 

「……」

 

スジャータと呼ばれた女は黙って頷き、また天井に戻った。

 

「よし、行くか」

 

男は腰を上げてロビーに出向いた。

ロビーではハルトたちとルーシィたちに絡んできた男とにらみ合っていた。

 

「お客様。どうなさいましたか?」

 

「なんだテメェ」

 

「当館支配人のホブスです。どうなさいましたか?」

 

「こいつらが俺たちと遊んでくれないんだよ」

 

ホブスはルーシィたちを見て、ハルトを見ると一瞬驚いた顔になるがすぐに戻した。

 

「この方たちは当館の遊女ではございません。他のお客様たちの迷惑となるのでお帰りください」

 

「なんだと!!?俺たちは客だぞ!!」

 

「お客様……お客様はよく我が娼館に来てくださいますが、遊女に暴力を振って金を払わずに帰るそうですね。合計で50万J払っていただけますか?そうでないとお客様といえど強行手段に出ないといけなくなります」

 

「なんだとテメェ!!!」

 

ホブスは少し威圧感を込めた声でそう宣言すると、男どもは少したじろぐがすぐさまホブスを黙らせようと男たちが全員がホブスに殴りかかる。

その瞬間、ホブスの背後から矢が4本飛んできて、男たちの腕に突き刺さった。

 

『ぐぁあああっ!!!』

 

「えっ!?なに!?」

 

突然のことに驚くハルトたちだが、ホブスは痛みで蹲る男たちに近づき、かたひざをついて俯いた男の顔を無理やり持ち上げて、睨む。

 

「次店で問題起こしてみろ。………腕だけじゃ済まさないぞ。たたき出せ」

 

男たちはボーイたちに店から叩き出され、ホブスがそれを見送ると呆然としている客たちに振り返り、頭を下げた。

 

「申し訳ありません。どうぞ夢の時間をお過ごしくださいませ」

 

ホブスのその一言に客は遊女とのまぐわいを楽しむのに戻った。

 

「付いて来い」

 

ホブスはハルトの横を通り過ぎる時に一言そう言って、奥に歩いて行き、ハルトたちもそれについて行った。

やがて、応接室に着くとホブスはハルトたちに振り返り、神妙な顔でハルトたちを見る。

ナツたちもさっきのホブスの容赦ない行動に警戒の色を見せるが……

 

「ハルトー!!おかえり!!いつ以来だ?」

 

「ああ、俺がボスコを出て行って以来だからな。もう7年前だ」

 

「そんなにか!すっかりいい男になっちまって!」

 

「それを言うならお前もだろ。顎髭なんか生やしてよ」

 

途端にフレンドリーになったホブスはハルトに抱きつき、喜んでいた。

ハルトも嬉しそうだ。

 

「ね、ねえハルト。この人は……?」

 

「ああ、こいつはホブス・マーキンリー。俺の幼馴染だ」

 

置いてけぼりにされているナツたちを代表してルーシィが尋ねた。

 

「よろしく。君はハルトの恋人かな?」

 

「こ、恋人!?」

 

「違う。同じギルドの仲間だ」

 

「……そうか。まぁ、積もる話もあるだろう!これから食事の準備をさせる。食事の席で話そう」

 

するとそこに天井から弓と矢を持ったスジャータが降りてきた。

 

「スジャータ!」

 

「……久しぶり」

 

口元を隠しているため表情がわかりにくいが笑顔のようで嬉しそうだ。

 

「こいつも幼馴染のスジャータだ。お前ここの用心棒してんのか!」

 

「……うん。ホブスが雇ってくれた」

 

「さあ、食事はこっちで用意してるから行こう」

 

 

「そうか!フィオーレではだいぶ派手にやらかしているんだな!」

 

「そうでごじゃる!ハルトが歩いた後ろには数々の敵の亡骸が転がっているでごじゃる!」

 

「話に変な尾ヒレつけんな!そんな大したことしてねぇよ」

 

「だがハルトは私たち妖精の尻尾には欠かせない存在だ」

 

「時々キビシーけどな!」

 

豪華な食事を食べながら、和気藹々とした会話をしていた。

最初は非常な面からいきなりフレンドリーな態度で接してきたので、全員が戸惑いを見せたが、ホブスと打ち明けたようだった。

 

「しかしお前がギルドに入るとわなぁ……昔は想像できなかったよ」

 

「あの!ハルトさんの昔ってどんなだったんですか!?」

 

レインが食い気味にホブスに質問した。

ハルトのファンであるレインとっては知りたいことだった。

 

「ハルトの昔かー……」

 

「いいだろ、別に……」

 

「いいじゃない。アタシも聞きたいし」

 

少し照れるハルトをルーシィが抑えて、ホブスを促す。

 

「ハルトがここにいた頃は、君たちが知っているハルトとあんまり変わらないかもな……」

 

 

今から10年前、ボスコは現在より荒れており、子供が生きていくには厳しかった。しかし、それでも子供たちは必死に生きていた。

商店街は現在と変わらず賑わっている中、1人の少年が人々を掻い潜りながら、走っており、その後ろでは人相が悪いゴロツキが追いかけていた。

 

「待てぇ!!ガキィッ!!!」

 

「俺らの金返せっ!!」

 

どうやら逃げている少年はゴロツキから金を盗み、追いかけられていた。

 

「へへっ!捕まえれるもんなら捕まえてみろ!!」

 

少年が後ろを振り向き、からかった瞬間石段に足を引っ掛けて転んでしまった。

 

「わぶっ!」

 

「ハァ…ハァ…追いついたぞガキ」

 

「オラっ!こっち来い!!」

 

ゴロツキは転んだ少年を掴み、路地裏に入り暴力を振るう。

 

「このっ!ガキ!舐めたことしやがって!!」

 

「こいつ、歓楽街のガキだぜ」

 

「なら殺しても誰も悲しまないよなぁ!!」

 

ラトゥータの多くの子供は娼婦たちが客との間にできたか、好きな男とできたとしても多くは生活が苦しいため捨てられていた。

そのため孤児の子が多く、何が起こっても問題なかった。

男が子供に足を振り下ろそうとした瞬間、男たちの背後から少年が走りながら、飛び出し、振り下ろそうとした男の後頭部に蹴りを放ち、男の頭を地面に踏みつけた。

 

「大丈夫?」

 

「ハルト!」

 

現れたのは当時9歳のハルト、小汚い格好をしており、服から覗く肌には汚れと無数の擦り傷があった。

ハルトを見た子供はボロボロになった顔でも嬉しそうな笑顔になる。

 

「て、てめぇ……このガキ……」

 

「また意識あった。よっと……」

 

「かぺっ……!」

 

「ガキィィィィッ!」

 

ハルトは軽い感じで男の頭をさらに踏みつけて気絶させた。

すると、連れの男は激昂してハルトに襲い掛かるがハルトは小さな背を利用して懐に潜り込み、顎にアッパーを浴びせた。

 

「ぐげぇっ……!!」

 

ハルトの拳は9歳の子供とは思えない威力で、男の顎を破壊し、気絶させた。

 

「危なかったな」

 

「ハルトがきてくれると思ったから!安心して盗みが出来るよ!だってハルトはこの街で最強だもん!」

 

「ハハッ!そうだな!オレは最強だもんな!」

 

ハルトたちはそう言いながら男たちの懐から金を取り出し、仲間が待つ住処に戻って行った。

 

 

「まあ、こんな昔話だけど、ハルトはオレたちがガキの頃は率先して大人と戦ってオレたちを守ってくれたんだよ。そうして大人からは恐れられて『ラトゥータの小鬼』なんて呼ばれたんだよ。おそらくラトゥータでこの名前を知らない奴なんていないと思うぞ」

 

「だからあの船乗りさん。ハルトさんのこと知ってたんですね」

 

「たぶんハルトさんと何らかの関わりがあったんだろうね」

 

「なんだよ。ハルトも昔はヤンチャだったんじゃねえか」

 

「意外だね。ギルドじゃいつも抑え役なのに」

 

ウェンディ、レイン、ハッピー、ナツがそれぞれ感想を言っていくとハルトは少し顔を赤くしていた。

 

「照れてるでごじゃるか?照れてるでごじゃるか??」

 

「うるせぇ!」

 

「それにしても先程の話といい。ラトゥータは治安が悪すぎないか?歩くだけで犯罪に出くわすとは……」

 

エルザが神妙な顔になり、そう呟く。

確かにスリまがいの子供たちに出会い、マタムネを攫われそうになり、ルーシィは乱暴されそうになった。

 

「この街どころじゃない。この国ボスコ自体が治安が悪いんだよ。フィオーレでも聞いたことあるだろう?犯罪大国ボスコってな。ハルトにも聞いたことがあると思うがこれがここでは普通なんだよ。逆にフィオーレが平和過ぎな気がするな」

 

ホブスが説明していると部屋の隅にいたスジャータが付け加えた。

 

「ボスコを作った初代国王は元奴隷上がり……。それにボスコは建国されてまだ100年も経ってない。この国自体が力でのし上がる国だから……」

 

スジャータの言葉通り、ボスコの初代国王、クルワルス・ボスコはどこかの国で剣奴をしており、隙を見つけて仲間と共に逃げ出し、ボスコと呼ばれる前の島に降り立ち、そこの原住民を力で押さえつけ、ボスコを建国したのだ。

それからまだ100年も経っておらず、国としてはまだ未熟。

さらに剣奴上がりの国王の家系は代々力で王政をしていることもボスコの治安の悪さに関与しているかもしれない。

 

「そのせいで私はこうなったしね……」

 

スジャータは口元を隠す布を下げると口元に大きな傷跡があり、痛ましいものだった。

 

「……ごめんなさい。見せるべきではなかったわね」

 

スジャータは申し訳なさそうにしながら口を隠した。

 

「……それで、ハルトたちは何でボスコに来たんだ?観光ってわけじゃないんだろう?」

 

ホブスが話題を変えると、ハルトが思い出したように話した。

 

「ホブス。追憶の谷って聞いたことあるか?俺はガキの頃に聞いたことがあるだけでどこにあるか知らないんだ」

 

「追憶の谷か……俺も聞いただけだな。スジャータお前は?」

 

ホブスがスジャータに聞くが、首を振って知らないと答える。

 

「オーガに聞けばわかるだろ?まだ行ってないのか?」

 

ホブスにそう言われたハルトは露骨に嫌な顔をした。

 

「嫌だ。行きたくない」

 

「なんでだ?お前の師匠だろう?」

 

それを聞いたハルト、ホブス、スジャータ以外の皆が驚きの表情になった。

 

「ハルトに師匠っていたの!?」

 

「そりゃあいるさ。最初から強かった訳じゃないしな」

 

「いや、オーガの下で修行する前でも強かったよ」

 

ハルトが当然だろ?、と言った表情で話すがホブスは苦笑いでそう言った。

 

「その人物に聞けばわかるのか?」

 

「ああ、あの人はこの国ができる前からいた人だからな。なんでも知ってる」

 

「どこに行けば会えんだよ?」

 

グレイにそう聞かれるとホブスは立ち上がり、本棚の中から何回か折られた紙を取り出し、テーブルの上に広げた。

 

「ラトゥータは3つの区画から成り立っている。まず海に面している商業街。そして今俺たちがいる歓楽街。オーガがいるところはラトゥータで最も危険なところ……喧嘩街だ」

 

ホブスが指差したところは内陸側にあり切り立った山に面している場所だ。

 

「そしてオーガはこの山に暮らしている。まぁ、行けばわかるさ。明日の朝に行けばいい」

 

「絶対に行きたくない」

 

ホブスが道を教えてくれるがハルトは頑なに行こうとしなかった。

 

「何で行きたくないの?」

 

いつものハルトらしくないと思ったルーシィが質問すると、ハルトは言いにくそうな表情になるが、ホブスが代わりに答えた。

 

「こいつが鍛えたもらった時にボコボコにされたんだよ」

 

「それだけじゃないって……」

 

ハルトはうんざりした表情になり、それ以上語ろうとしなかった。

 

「じゃあ、今日はもう疲れただろう。それぞれに部屋を用意したからゆっくり休んでくれ」

 

 

女性陣と男性陣はそれぞれ大きな部屋を与えられ、ゆっくりと過ごしていたが、

 

「な、なんか落ち着きませんね……」

 

「そ、そうね……」

 

分け与えられた部屋は娼婦たちが仕事をこなす部屋であるため、薄暗く、ピンク色の光で照らされている部屋である。

そのため、まだそういうのに耐性が無いウェンディとルーシィはソワソワしている。

 

「何だお前たち。落ち着かないのか?」

 

エルザは既に寝巻きに着替えて堂々と寛いでいた。

 

「エルザさんは全然動揺していませんね」

 

「流石ね……」

 

「単にそういうのに気づいていないだけじゃないの?」

 

「すぴー……」

 

ウェンディとルーシィは感心したように、自由に寛ぐエルザを見ていたが、シャルルはエルザの本質をズバリと当てており、呆れていた。

その横ではミントが鼻ちょうちんを膨らませながら、こちらも自由に寝ていた。

そして、その隣の部屋ではマタムネが壁に耳を押し当て、息を荒くしていた。

 

「ハァ……ハァ……全然聞こえないでごじゃる」

 

「マタムネー何してるの?」

 

怪しい動きをしているマタムネにハッピーが話しかけた。

 

「いま隣の部屋を盗み聞きしてるでごじゃる!恐らくとてもイイ事をしているに違いないでごじゃる!」

 

「なんでそう思うの?」

 

「ここは大人のお店でごじゃるよ!?いつもよりセクシーな雰囲気になっているはずでごじゃる!!」

 

「や、やめなよ。そういうのはいけないと思うよ」

 

「それより枕投げしようぜ!」

 

目を見開き力説するマタムネにレインが止めるように言い、ナツが枕を持ってそう言う。

どうやら男性陣はエルザ以上にそういうのに疎いらしく、部屋の雰囲気になんら影響がなかった。

するとマタムネは呆れたようにため息を吐いた。

 

「ハァ〜……これだからチ○リーは……いいでごじゃるか?ここは大人のお店、いわゆる風俗でごじゃる。しかもその風俗の中でもここはレベルが高い………」

 

マタムネはナツたちに向かって、説教じみたこと始めてしまった。

内容は恐ろしくどうでもいいことだが。

 

「お、おい。何やってんだよ?」

 

「ヤベ……マタムネの変なスイッチ入っちまった」

 

「たくよー…… ?そういやハルトはどこに行ったんだよ?」

 

「なんかホブスと2人っきりで話したいってどっかに行っちまった」

 

「俺もついていけばよかった……」

 

ナツに話しかけたグレイが少しゲンナリした顔でそう言った。

 

「聞いてるでごじゃるか!グレイ殿!!そもそもグレイ殿にはジュビア殿という素晴らしいおっぱいがいるのにもかかわらず……」

 

「俺にも振ってくんのかよ!?」

 

 

ナツたちがマタムネの有難くない説教を聞いている時にハルトとホブスはホブスの個室で2人で酒を飲んでいた。

 

「それであの娘とはどういった関係なんだ?」

 

ホブスがハルトのグラスに酒を注ぎながら、ハルトに尋ねた。

 

「誰だよ?」

 

「ルーシィだよ。あの娘、お前に完全に惚れてるじゃねぇか」

 

「勘違いだろ」

 

ハルトは誤魔化すように酒を一気に煽る。

 

「俺はこんな仕事をしてるから人の機敏に鋭いからわかるんだよ。あの娘は完全にお前に惚れてる。それに……お前もな」

 

「はぁ?どういうことだよ?」

 

「ハルト……あの娘のこと好きだろ?」

 

「………」

 

ホブスのその言葉にハルトは黙ってしまう。

 

「まぁ、お前はどこか遠慮しているように見えるけどな。そこは深く聞かねぇよ。だけどな、恋愛ごとには後悔の無いようにしろよ。ここを経営してみて改めてわかったよ。好きな奴と結ばれるってのはとても幸せなことなんだなってな」

 

「………そうか」

 

ハルトはそれだけ答えて、また酒を飲む。

 

(俺はルーシィのことを………)

 

そして夜は更けていった。

 




だいぶ時間がかかってしまって申し訳ないです。


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第116話 鬼が住む山 (人物紹介)

翌日ハルトたちはホブスに教えられた喧嘩街を進んで、ハルトの師匠オーガがいるところに向かっていた。

 

「ここは2つの街とはまた違った様子だな」

 

「そうですね……」

 

「なんでアタシ達をジロジロ見んのよ〜……」

 

ハルト達が歩いているとガラが悪い男達がハルト達をジロジロと見てくる。

 

「ここじゃ余所者だからな。睨まれるんだよ。それと気をつけろよ。ここじゃスリや人攫いは起きないが……」

 

ハルトが説明している途中で目の前の建物から男2人が揉み合いながら、転がり飛び出してきた。

 

「こういうことが起きんだよ」

 

「なにごと!?」

 

「楽しそうだな!!」

 

「どういう感性してんのよ!?」

 

男2人はそのまま殴り合いを始めてしまったが、ハルト達は先を急ぐため無視して行った。

 

「あのままにしていてもいいの?」

 

ルーシィが心配して、ハルトに聞くと、

 

「ここの奴らは一番ボスコらしい奴らでな。力が全てなんだよ。だけど、その中でも礼節はわきまえてる。邪魔したら逆に失礼になるんだよ」

 

「礼節……?」

 

ルーシィはさっきの光景を思い浮かべて首を傾けた。

やがてハルト達は切り立った山の中腹を掘られた急な石の階段を上がっていた。

 

「ハァ……ハァ……まだ着かないのぉ?」

 

「つ、疲れましたぁ〜」

 

「ぼ、僕も少しキツイです」

 

かれこれ2時間も階段を登り始めて、ルーシィとウェンディは体力がなくなり、疲れた様子を見せ、レインも2人ほどでは無いが辛そうだ。

 

「あともうちょいだ。頑張れ」

 

「ハルトー……せっしゃたちも歩き疲れたでごじゃる」

 

「疲れたよ〜…」

 

「お前らは飛べよ……そら、見えてきたぞ」

 

ハルトが呆れながらも指をさす先には武骨ながらも荘厳な門が見えてきた。

 

「ここは鬼妙院(きみょういん)って言って修行院なんだ」

 

「修行院ってことは修行するところってこと?それならここにいる人たちは安全そうね!」

 

ハルトの説明にルーシィが漸くまともな人間に会えるのが嬉しそうにするが、ハルトは少し残念そうにする。

 

「いや、そうでもないんだよな……ここにいる奴らの方が一番血の気が多い」

 

「へ……?」

 

「行くぞ」

 

ハルト達がその門を開けるとその先には大勢の屈強な男達が二人一組で組手を行っていた。

組手と言っても、それはほぼ完全に殴り合い。

その苛烈さに少し圧倒されていると男達がハルト達に気づき、ジロジロ見ながら近づいてきた。

 

「なんだテメェら?」

 

「どこのもんだ?」

 

「じ……オーガに用があって来たんだけど、どこにいる?」

 

すると続々と組手や練習をしていた男達がハルト達の周りに集まりだした。

 

「師匠に何の用だ?」

 

「別に……古い仲だってだけだ」

 

男達とハルトが険悪な雰囲気になっていく。

 

「もぉ〜…何でこうなるのよ〜」

 

「いいじゃねぇか!退屈せずに済みそうだしよ!!」

 

ルーシィはボスコに着いてから厄介ごとにしか巻き込まれていない状況にため息をつき、ナツは拳を掌にぶつけてやる気を見せる。

すると、ハルト達を囲んでいた男達の一部がルーシィ達に目を向けた。

 

「へー結構可愛いじゃねえか。ちょっと俺たちと付き合えよ」

 

「やっ!ちょっと!離して!!」

 

男がルーシィの手首を無理矢理引っ張り、連れて行こうとすると突然男が吹き飛び、壁に激突し、気絶した。

 

「ルーシィから手を離せ」

 

「ハルト!」

 

ハルトが男を殴り飛ばしたのを皮切りに一斉に両者が激突する。

 

「火竜の翼撃!!」

 

ナツが炎で男を振り払うとナツと同じくらいの丸坊主の少年がナツに殴りかかる。

 

「ラァッ!!

 

「っぶね!!」

 

間一髪のところでナツは拳を避け、カウンターをあびせる。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「おらっ!」

 

「がっ!?イッテェー!!」

 

しかし、ナツが鉄拳を放つがはたき落とされ、逆にカウンターを食らってしまう。

 

「どうしたよ?そんなもんかぁ!!?」

 

「まだまだぁ!!!」

 

ナツと少年は再びぶつかり合う。

 

「アイスメイク“ハンマー”!!」

 

グレイは遠距離から氷の鎚を放ち、数人を気絶させるとその奥から剣を持った細身の男が走って向かって来るのが見え、迎撃しようとする。

 

「アイスメイク“ランス”!!」

 

グレイは氷の槍を次々と放つが剣で全て切り落とされる。

 

「まじかよ……」

 

今まで防がれた事はあっても切り落とされるのは初めて見たグレイは驚きの表情を見せる。

 

「ハアァァァァッ!!!」

 

エルザは剣を二振り換装して次々と男達を倒していくと、その中の槍を持った男に剣を防がれる。

 

「やるな」

 

「お前も……女にしてはやるな」

 

2人は一旦距離を取り、再びぶつかり合い、激しく打ち合う。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

「オオオオォォォッ!!」

 

2人の太刀筋は残像を残すほど早く、風が生まれる。

その頃レインはウェンディを庇って、槍を男達に向けており、その後ろにはマタムネたちも隠れていた。

 

「レイン〜…」

 

「来るなら来い!受けて立つぞ!!」

 

怯えるウェンディを庇ってレインは槍の切っ先を男達に向けるが、男達はバツが悪そうな表情をしていた。

 

「いやなぁ〜…来るなら来いって言われてもなぁ……なぁ?」

 

「嬢ちゃんたち相手に流石に拳は振るえねぇよ。あっちの方が安全だから行こうぜ」

 

男たちはさっきの険悪な表情とは打って変わって優しそうな態度になり、レインたちを戦いの被害に合わない場所に誘導していく。

 

「え?あれ?」

 

「ど、どういうこと?」

 

「アンタたち私たちが狙いじゃないの?」

 

困惑するレインたちを代表してシャルルが誘導してくれている男の1人に質問した。

 

「確かに狙ったのは事実だけどよ。師匠に言われたからやってるだけなんだよ」

 

「師匠?それって……」

 

「そう。お前たちが探してるオーガだよ。師匠は3日前からお前らが来ること知ってたみたいだけどな」

 

 

ハルトたちが男たちと戦っているころ。

ハルトたちが戦っている大きな庭より先にある大きな屋敷の奥にある広い場所に酒瓶をあちらこちらに転がしながら、着物をはだけさせた男と体に服を上から被せているだけの綺麗な女性が2人、男に抱きつきながら寝ていた。

そこに綺麗な女性が近づいていく。

 

「ご主人様、起きてください。ハルトたちが着きましたよ」

 

「グゴ〜………zzzz」

 

女性が男の肩を揺すりながらそう声をかけるが、男は全く起きる気配がない。

 

「はぁ…まったく……」

 

女性は仕方がないと立ち上がり、いきなり男のみぞおちを踏み抜いた。

 

「ふんっ!」

 

「うごっ……!?」

 

踏み抜いた瞬間、踏み抜いた衝撃は男の体を貫き、床に大きなヒビを走らせ、穴を開けた。

 

「「キャーッ!!」」

 

その衝撃で目を覚ました女たちは突然のことに驚き、悲鳴を上げて逃げていった。

 

「イタタタ……何をする?」

 

「何をする?、じゃありませんよ。ハルトが来ましたよ」

 

「ハルト?………なんでまた?アイツは昨日出て行ったばかりだろうが」

 

「まだ寝ぼけているんですか?あの子が出て行ってもう7年ですよ」

 

「そうか………………ハルト?ハルトが帰って来たのか!!?」

 

「だからそう言っているじゃないですか。とりあえず起きてください」

 

女性にうながされ、男が立ち上がるとその身長は2メートル後半はあり、肌が全体的に赤褐色をしており、その体には入れ墨のような線が全身に走っている。

その顔はまさに鬼と言っていいような、威圧感がある顔で髪は獅子のように広がっている。

この男こそがハルトの師匠であり、ここ梁山泊の頭領オーガである。

 

「よし!さっそく行くとするか!!」

 

「その前にお風呂に入って、着替えてください。酷い臭いですよ」

 

女性は鼻を摘んでしかめっ面をしながらそう言った。

 

 

ハルトはルーシィを背にして襲いかかってくる男たちを次々と拳だけで倒していく。

 

「ルーシィ、怪我はないか?」

 

「うん!アタシは大丈夫!……っ!ハルト!前!!」

 

ハルトがルーシィの方を向いた瞬間、トンファーを持った男がとんふをハルトの脳天目掛けて振り下ろして来た。

 

「危ねぇな!」

 

「こんなの余裕だろ?」

 

男はトンファーを振り回しながら、ハルトを追い詰めていく。

流石にまずいと思ったのかハルトはルーシィを抱き抱え、その場から離れるが、男はトンファーを鎖鎌のように伸ばし、ハルトの足に絡める。

 

「くそっ!!」

 

「きゃあっ!」

 

足を取られたハルトはルーシィを前に怪我をさせないように転がすが、絡められた足を引っ張られ男に引き寄せられる。

 

「シュッ!」

 

「オラァ!!」

 

男のトンファーとハルトの拳がぶつかると凄まじい衝撃がその場に走る。

拮抗しているように見えたが、ハルトの拳が打ち勝ち、押し倒す。

 

「これで終わりだ!!」

 

「チッ!」

 

ハルトがトドメを刺そうと拳を振り下ろそうとした瞬間、その腕を突然片手で止められた。

 

「っ!?」

 

「はい、そこまでです」

 

ハルトの拳を片手で止めたのは先ほどオーガを起こしていた状況だ。

 

「げっ…!ミズチさん!?」

 

ハルトが驚いた瞬間、ミズナと呼ばれた女性に簡単に投げ飛ばされた。

 

「ああぁーーーっ!?」

 

「ハルト!?」

 

「はいはい、みなさん。歓迎会はそこまでです。怪我人がいたら治療してくださいね」

 

「か、歓迎会……?」

 

突然のことに驚くルーシィにミズチは微笑みながら近づき、ルーシィに手を貸して起こしながら説明する。

 

「はい、ご主人様がどうしても歓迎会をやりたいと申しまして、こんな手荒な歓迎になってしまって申し訳ありません」

 

「え、いや、あの……」

 

今だに状況が飲み込めないルーシィは戸惑いながら周りを見るとさっきまで戦っていたナツたちも状況が分からず、戸惑っている。

 

「つまりお前たちの歓迎と、ハルトの帰還を俺たちのやり方で祝ってわけだ」

 

屋敷の方から威圧感のある声が聞こえ、ルーシィたちはそちらに目を向ける。

そこにはオーガがゆっくりと歩いて来ており、ハルトたちと戦った男たちは全員オーガに頭を下げていた。

 

「ようこそ、鬼妙院へ」

 

人間とは思えないその姿にルーシィは少し固まっているとオーガはルーシィに目が止まり、ルーシィのあっちこっちをジロジロと見つめる。

 

「お前……だいぶと不思議な運命しとるな」

 

「へ……?」

 

するとハルトが投げ飛ばされたところから小さな爆発が起こる。

 

「ん?なんだぁ?」

 

「忘れてました」

 

「イッテェー!何すんだミズチさん!!」

 

ハルトが少し汚れた姿で現れ、ミズチに怒鳴るとオーガの姿も目に入った。

 

「げっ!?じーちゃん!!」

 

「ハルトォォッ!!」

 

「ヒィィッ!」

 

ハルトが驚くと同時にオーガがハルトの名前を叫ぶとあまりの声量にルーシィは軽く悲鳴を上げてしまった。

オーガは一瞬でその場から消えて、ハルトの目の前に現れ、ハルトを抱きしめた。

 

「お前この野郎!すっかり大きくなりやがって!!少しくらい連絡をよこさんか!!」

 

「ぐぉおおお……!!!苦しいってぇ……!!!」

 

オーガに抱きしめられハルトの体からバキバキと嫌な音が鳴り、ハルトは苦しそうにする。

 

「ご主人様、そのくらいにしておいて続きは後にしましょう」

 

「おう、そうだな!ハルト!!久しぶりに稽古つけてやるから付いて来い!」

 

「話聞いてました?」

 

オーガの身勝手ぶりでハルトたちは屋敷内にある練習場に連れてこられた。

 

「申し訳ありません。ご主人様もハルトが帰ってきて嬉しいらしくて振り回してしまって」

 

「いえ、いいのですよ」

 

ミズチは移動する際にエルザたちに事情を説明していた。

 

「しっかしこの屋敷だいぶ広いな」

 

「ええ、ここはご主人様一人でお造りになりましたから、出来るだけ広いところがいいと山1つを切り抜いたんです」

 

「山1つって……どんだけよ……」

 

「ルーシィ殿の実家も変わらないでごじゃる」

 

相対するハルトとオーガだが、ハルトは緊張した表情で身構え、オーガは自然体で立っているだけだ。

 

「よしハルト、全力で打ち込んで来い」

 

「全力でいいんだな?」

 

「ああ、全力だ」

 

オーガは不敵な笑みを浮かべながら腕を組み、仁王立ちの姿勢を崩さない。

 

「後悔すんなよ!」

 

ハルトは手に魔力を集中させて竜牙弾を作り出す。

 

「付加ッ!!」

 

「待てハルト!!竜戟弾を放つつもりか!?」

 

「そうでもしねぇとアイツは満足しねぇよ!!」

 

ハルトは地面を踏み込み、一気にオーガの懐に入り込み、その腹に拳を放つ。

 

「竜戟弾ッ!!!」

 

放たれた全身全霊の竜戟弾はオーガの体に突き刺さり、その衝撃はオーガの後ろにまで走った。

 

「ふふふっ……だいぶ強くなったな」

 

「くそっ……これでも無理かよ」

 

しかしオーガは全く効いた様子はなく、指1つ分だけ後ずさっただけだった。

それどころかハルトの攻撃を受けて、嬉しそうだった。

 

「ご褒美だ」

 

そう言うとオーガはハルトの額に向かってデコピンをすると、凄まじい音と共にハルトは吹き飛ばされた。

 

「ハルト!?」

 

「なんつー威力だよ……」

 

「ハルトの全力を受けて少し後ずさるだけだとは……」

 

屋敷の壁を何枚も突き破って、漸く止まったハルトを見て、オーガの凄まじい実力にナツたちは驚愕した。

 

「終わりましたか?」

 

「おう。まぁまぁ満足だ」

 

「それでは食事にしましょうか」

 

「あのハルトは……?」

 

ミズチが皆をそう促すがルーシィたちは吹き飛ばされたハルトを心配する。

 

「そのうち気を取り戻して戻ってくるでしょう。それでは行きましょう」

 

「すごい放任主義でごじゃるな……」

 

いつものような口調で突き放すような台詞にマタムネは呆れてしまう。

 

 

食事も終わり、風呂の時間となり、女性陣は屋敷内にある大きな露天風呂で寛いでいた。

 

「うーん!気持ちいいわね〜!」

 

「疲れがとれます〜」

 

ルーシィは腕を伸ばし、ウェンディは風呂に肩まで浸かって疲れをとっていた。

 

「まさか修行院にこんな天然風呂があるとは……」

 

「まあ修行院って言う割には荒っぽいけどね」

 

「でも修行僧の人たち優しかったけどねー」

 

鬼妙院は修行院であり、過酷なボスコで生き抜くためには自分を鍛えないといけない。

そのため多くの若者が鬼妙院で己を鍛えている。

そして鬼妙院のトップはオーガであり、それを支えているのがミズチなのだ。

 

「でもハルトさんたちには申し訳ないですね。私たちだけ温泉いただいちゃって、レインも楽しそうにしてたのに」

 

「男どもには温泉の良さなんてわからないでしょ?勿体ないわよ」

 

ルーシィはハルトのことを考えず、ナツとグレイのことを言った。

すると温泉の奥からハルトの声が聞こえてきた。

 

「失礼だな。俺だって温泉は好きだぞ?」

 

「いやハルトのことじゃなくてナツとグレイ……ってなんでいるのよ!!?」

 

「キャッーー!!!」

 

ハルトは当然のようにいることにやっと気づいたルーシィは慌てて顔を赤くしながら胸を腕で隠し、ウェンディは恥ずかしで湯に深く浸かってしまう。

 

「なんでってな……俺らが入ってたら勝手にルーシィたちが入ってきたからな」

 

「混浴だったのね……まぁ、アタシは嬉しいけど……」

 

ルーシィの最後の言葉は誰にも聞こえなかった。

 

「俺たちって……ハルトさん以外もいるんですか?」

 

ウェンディが顔を真っ赤にしながらハルトに聞くと、ハルトは左を指す。

その先にはナツとグレイ、ハッピーもいた。

 

「よおっ!」

 

「いい湯だな」

 

「気持ちいいねー」

 

「なんでアンタらはそんなに自然に接せれるのよ!?ちょっと待って……ということはマタムネも!!」

 

ルーシィは慌てて周りを見る。

オッパイ魔神であるマタムネがここにいないはずがないと周りを見るがどこにもいない。

 

「マタムネならもう沈められてる」

 

ハルトが見る先には寛ぐエルザの近くで頭にいくつものタンコブを作りうつ伏せで浮いているマタムネの姿があった。

 

「もう油断も隙もないわね!」

 

「なんでそう言いながら俺に近づくんだ?」

 

「い、いいじゃない……たまには……」

 

ルーシィは顔を少し赤らめ、上目遣いでハルトを見つめる。

温泉でいつもより色気が増したルーシィに流石にハルトもドキッときた。

 

『ハルト……あの娘のこと好きだろ?』

 

咄嗟にホブスの言葉を思い出したハルトは首を横に振って間際らした。

 

「ハルト?どうしたの?」

 

「い、いや……なんでもない」

 

「あの……ハルトさん。レインはどこに行ったんですか?」

 

誤魔化すハルトにウェンディがレインの居場所を聞く。

 

「レインは……そういや食事の後から見てないな」

 

「レインなら一人で中庭に行ったぜ」

 

「なんか用があるんじゃねぇか?」

 

そんな風に談笑しているとまた声がかけられた。

 

「おう!楽しんでいるようだな」

 

「あっ、オーガさん。気持ちのいいお風呂ありがとうござい………キャアァァァァッ!!!」

 

ウェンディがオーガにお礼を言おうと後ろを振り向いた途端にウェンディは悲鳴を上げて、エルザの後ろに隠れた。

 

「どうしたウェンディ……おい!前ぐらい隠せ!!!」

 

心配したハルトがオーガのほうを向くとそこには何も隠さずに全裸のオーガが立っていた。

 

「別にいいだろうが、何も減るもんじゃないしな」

 

「減るんだよ!あぁ……クソっ!目に焼き付いちまった!」

 

ハルトがオーガの腰にぶら下がったモノを忘れようと顔に湯を浴びせる。

そんなことは知らないと言った顔でオーガは湯船に浸かってくるとエルザは堂々とオーガの方を前で向くが、一般的な恥じらいがあるルーシィとウェンディはそれぞれルーシィとエルザを盾にして隠れる。

 

「おいルーシィ.あんまりくっつくな。当たっちまう……」

 

「だ、だってぇ…そこにオーガさんがいるんだもん」

 

「ナツとグレイなら大丈夫なのかよ……それより大丈夫だ。じーちゃんにはルーシィたちの姿は見えていない」

 

「え?どういうこと?」

 

「俺は目が見えない」

 

ハルトが答えるより先にオーガが答える。

するとエルザが質問した。

 

「目が見えていないのにここで修行をつけているのですか?」

 

「そんなの息をするように簡単なことだ。逆に目が見えない分色々なモノが見えてくるからな」

 

そう言ったオーガはハルトたちをそれぞれ見えない目で全員を見ていく。

 

「なるほどな……お前らにそれぞれアドバイスをくれてやる」

 

「どうしたんだよ、急に」

 

「まぁ、いいから聞け。まずナツ」

 

「おう」

 

「お前はもう少し自分の感情を理解しろ。制御しろって言ってるわけじゃねぇんだ。そう難しくねぇだろ」

 

「お、おう…」

 

ナツは少し戸惑いながらも答える。

 

「グレイ、お前は想像力はいいんだ。次は創り出す物の理解を深めろ」

 

「理解を深めろって言われてもなぁ」

 

「エルザ、お前は剣と鎧を扱うのはそれでいい。もっと新しいことをしてみろ」

 

「新しいことを……」

 

「ウェンディ、お前に足りないのは勇気だ。それさえできればお前は強くなる」

 

「勇気ですか」

 

「ハルト」

 

「なんだよ」

 

「お前は恐怖に立ち向かえ。逃げてばかりじゃ進むもんも進めん」

 

「………」

 

ハルトオーガのその一言に黙ってしまった。

 

「最後にルーシィだが……お前が一番難しい」

 

「そうなんですか?」

 

「………もうすぐ選択の時が来る。その時に決めろ」

 

オーガは謎めいた言葉を言い、それ以上何も言わなかった。

するとグレイが思い出したかのようにナツに声をかけた。

 

「そういやナツ、お前珍しいな」

 

「何がだよ」

 

「お前オーガさんに勝負を挑んでねぇじゃねぇか」

 

「そういえば……」

 

「いつもならすぐさま挑んでもおかしくないのにね」

 

グレイのその言葉にルーシィとハッピーも思い返してみると、喧嘩早いナツがハルトを歯牙にも掛けないオーガを見て勝負を挑まないのは、いつものナツらしくないと思った。

 

「そ、そうか?」

 

「そうだろうがいつもならハルトが倒された後、『俺と勝負しろー』って五月蝿いのによ。なんだ?ビビったのか?」

 

「なんだとグレイ!!」

 

グレイが揶揄うように笑みを浮かべてそう言うとナツは怒り、立ち上がる。

 

「ちょ、ちょっと!前隠しなさいよ!!」

 

「見えちゃってます!!」

 

ルーシィとウェンディが慌てるが、エルザはいつものように気にした様子はなく、逆にナツに質問した。

 

「ナツ、実際のところはどうなんだ?」

 

「そんなことは…………」

 

ナツはそんなことはない、と言いたいが自分でもわかっているため言えない。

 

「私ははっきり言ってオーガ殿に勝つ想像が全くできない。ナツもそうなんだろう?」

 

エルザがそういうとナツは不貞腐れたようにそっぽを向いてむくれてしまった。

 

「なんだそんなことだったのか?」

 

「そんなことってなぁ……大概じーちゃんと戦おうとしてもあんたのプレッシャーで誰もがビビっちまうよ」

 

するとオーガは大きくひと笑いし、ナツたちのほうを向いた。

 

「お前らはまだまだ若いんだ。そんなことで足がすくまず、なんでもやってこい。お前らの未来は無限だ。まだ見ぬ恐怖に臆せず進めよ。ガキども」

 

オーガのその一言に全員がいい顔つきになって、笑みを浮かべた。

 

「よっしゃあっ!!なら明日俺と勝負しろ!!!」

 

「そうこなくてわな!!!」

 

ナツとオーガ立ち上がり、やる気を見せる。

 

「2人とも前を隠しなさいよ〜…」

 

「それならば私も闘いたい。よろしいだろうか?」

 

エルザも立ち上がり、オーガに勝負を挑む。

 

「エルザさん!前を隠してください!!女性なんですから!!」

 

 

ハルトたちがオーガの話を聞いているころ、レインは1人中庭でスイレーンの素振りを行なっていた。

レインはハルトたちが修行僧と戦っている時に自分が相手にされなかったことに少なからずショックを受けていた。

自分が弱いからと必死に素振りを行なっていた。

 

「霊槍スイレーン!第3形態……!!」

 

レインが魔力を込めるが、スイレーンは光り輝くだけで何も変化が起こらない。

 

「はぁ……はぁ……やっぱりダメだ……」

 

「何をしているのですか?」

 

そこにミズチが現れた。

 

「ミズチさん……僕みんなと比べて弱いからもっと練習しないとって思って……」

 

落ち込んだ表情のレインにミズチはレイン以外が持てるはずのない神器霊槍スイレーンを持ち上げた。

 

「え?僕にしか持てないはずなのに……」

 

「霊槍スイレーンはあらゆる水の魔物、さらには水の妖精の一部を材料にした神器です。その本質は水。水は掴めない存在です」

 

「そうなんですか……」

 

「掴めない存在ということは自分で存在を決めれるということではないですか?」

 

「どういうことですか?」

 

ミズチは微笑んでスイレーンを投げ返した。

 

「全てを教えては意味がありません。私が教えるのはヒントだけです。後は自分で考えてみてください」

 

ミズチは屋敷に戻っていき、レインはスイレーンを見つめていた。

 




人物紹介 ボスコ編

ホブス・マーキンリー
23歳

容姿
茶髪のウェーブがかかった長髪に顎髭がある。

備考
ハルトが育った場所、娼婦館『amour(アムール)』のオーナー。
ハルトとは幼馴染で、幼少期は共に過ごし、生き抜いた。
現在では妻もいており、お腹には新しい生命がいるらしい。


スジャータ
18歳

容姿
緑色の短髪に切れ目
口元には布を巻いて口を見られないようにしている。

備考
娼婦館『amour(アムール)』の用心棒。
ハルトの幼馴染で、幼少期に口元を傷つけられ、女性としての自信を無くしてしまうがオーガの元で修行を積み、今はホブスたち家族を守っている。


ミズチ・ナーガ
?歳

容姿
薄い水色の長髪でできる女性感がある。
(イメージは恋姫無双の周瑜を肌を白くした感じ)

備考
鬼妙院のナンバー2。
その実力は未知数だか、我儘なオーガに指示できる貴重な人物。
ハルトのことは幼少の頃から知っており、弟か息子のように思っている。


オーガ・マジニ
?歳

容姿
アスラズラースのオーガスと同じ

備考
鬼妙院のトップ。
その実力は化け物クラス。ハルトを指1つで倒せる。
我儘で自分のやりたいことをやらないと気が済まない。
建国約100年経つボスコができる前よりその土地に住んでいた。
今ではラトゥータのトップでもある。
ハルトのことを本当の孫のように可愛がっている。


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第117話 覇王の追憶

ハルトたちはオーガより教えられた追憶の谷に続く道を歩いていたが……

 

「いってぇ……」

 

「大丈夫ナツ?」

 

ボロボロになったナツが痛む身体を無理矢理動かして移動していた。

 

「だらしないぞ。しっかり歩け……くぅっ……!」

 

「エルザさんも無茶しないでください!ナツさんと同じくらいひどい怪我なんですから!!」

 

エルザがナツを叱咤するが、そのエルザもナツと同じくらいひどい怪我を負っており、痛みでウェンディに支えられてしまう。

何故この2人がひどい怪我を負っているかというと、前日にオーガに戦いを挑んだ2人は約束通り戦ったが、それは最早戦いとは言えず、一方的にナツとエルザが倒されてしまった。

しかし、ナツとエルザは戦った後、満足できたのか清々しい顔だった

 

「オーガさんが言ってた通りだともうすぐね」

 

「案外ラトゥータの近くにあったでごじゃるな」

 

するとハルトたちの周りが霧に包まれていき、目の前が見えなくなりそうなほどだった。

 

「霧が濃くなってきたな。全員逸れるなよ」

 

ハルトがそう注意を呼びかけながら先に進んでいくと、突然ハルトの耳に声が聞こえてきた。

 

『ハルト………』

 

「っ!!」

 

突然のことで振り向くハルトの隣を歩いていたルーシィが驚いた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、だけどあの声は……」

 

するとハルトたちを包んでいた霧は徐々に晴れていき、目の前の光景が見えてきた。

 

「あれが追憶の谷……」

 

目の前には2つの山に挟まれた谷があり、いくつかの建物見えた。

 

 

谷に降りたハルトたちは辺りを見渡すが人の気配がなく、寂しい印象を受けた。

 

「ハルト、ここに依頼人が待っているはずなんだろう?」

 

「ああ、依頼書通りならな」

 

「手分けして辺りを散策するんだ!人がいたら知らせてくれ」

 

エルザの指示により全員がそれぞれ散らばり、人を探すが人のいた痕跡すら見つからず、ハルト、ルーシィを除いた全員がまた集まった。

 

「どうだった?」

 

「ダメだ。匂いすらしねぇ」

 

「誰もいないじゃないのかな?」

 

「……だとすれば、あの依頼書はいったい……?」

 

エルザが考え込んだ瞬間、突風が吹き荒れエルザたちを包み込む。

 

「なんでごじゃる!?」

 

「総員戦闘準備!!!」

 

エルザの号令で全員が身構えると、突風が止まり、周りの光景が一変していた。

 

「これは……!?」

 

 

ハルトは1人建物の1つを調べているが、頭の中ではさっきの声が気になって仕方なかった。

 

(あの声はエミリアのものだった……間違いない……)

 

ハルトは最愛だった人の声が聞き間違えるわけでもなく、間違い無くエミリアの声だった。

 

「ハルト……?大丈夫?」

 

「っ! ルーシィか…驚かすなよ」

 

突然ルーシィに声をかけられ驚いたハルトにルーシィは少し言いにくそうな表情になる。

 

「ハルト、何かあった?」

 

「いいや、何も見つからなかった」

 

「そうじゃなくて!エミリアさんのこと……」

 

「……そんなわけないだろ」

 

「ハルト、エミリアさんのこと考えているときいっつも悲しそうな顔してるから……今もそう」

 

ハルトハルトいつもエミリアのことを考えているときは悲しい顔になっていることにルーシィはとっくの前から気づいていた。

図星を言われたハルトはここに来てからルーシィとエミリアのことを言われ続けて、少し苛立ちが溜まっていたのかツライ当たり方をしてしまう。

 

「そんなわけねぇだろ。なんでそんなことがわかるんだ」

 

「それは……!ハルトのことが……その………」

 

ルーシィは顔を赤くして、その先の言葉を続けることはできなかった。

ハルトもバツを悪そうにして頭を掻く。

 

「悪い……言い過ぎた。ありがとうな、心配してくれて」

 

「ううん……」

 

ハルトとルーシィが建物から出た瞬間、そこは谷の風景はなく、昼間だった空は夜空となり、どこかの古代都市の風景が広がっていた。

 

「どこなのここ!?さっきまで谷にいたのに!?」

 

ルーシィが驚くのを他所にハルトにはその古代都市に見覚えがあった。

 

「ここは………っ!!」

 

するとハルトは背後に大きな気配を感じ振り返るとそこには先ほどの建物はなく、少し遠くに巨大な竜のような影が見えた。

 

『GYAAAAaaaaaaaa!!!!!!』

 

「何アレ!?ドラゴン!!?」

 

「そんな……なんでアレが……!!くそっ!!!」

 

「ハルト!!どこに行くの!!?」

 

竜の地を割くほどの叫びで気づいたるルーシィはそのドラゴンにも驚くが、ハルトはそれ見た途端に驚きと恐怖に染まり、そのドラゴンに向かって走って行き、ルーシィはハルトの跡を追った。

 

 

ナツたちもハルトたちと同じ古代都市に突然いた。

 

「どこだよここ?」

 

「突然景色が変わりましたね」

 

「ここって……」

 

「マタムネ何か知ってるの?」

 

全員が辺りを見回していると、突然あっちこっちで爆発が起こった。

 

「何だ!!?」

 

「気をつけろ!!」

 

すると何かがナツたちの近くに何かが落ちてきた。

全員が身構える中、落ちてきた穴から何かが動く音が聞こえてくる。

 

「来るぞ!」

 

「グギャアアァァァッ!!」

 

ナツがそう言った瞬間、穴から小型の竜が出てきた。

すると次々と空から小型竜が空から落ちてくる。

 

「おいおい……どんだけ落ちて来るんだよ」

 

「あれ全部そうなのー!?」

 

グレイが空を見上げると夜空から無数のの光が飛来してきていた。

全ての光が落ちると、それらは全て小型竜だった。

 

「くっ……!ハルトたちと合流してここから逃げるぞ!!」

 

多勢に無勢と判断したエルザは剣を構えて、迎え撃ちながらハルトと合流してこの場から退避しようとした瞬間、エルザたちの周りにいた全ての小型竜に白い雷が落とされ、上空から人が現れた。

 

「あれは……」

 

「カミナ!!?なんでここに!!」

 

「いや、でもなんかいつもと違くねぇか?」

 

グレイが言った通りいつものカミナより幼く見えるが間違いなくカミナだった。

驚くエルザたちに向かってカミナは無表情で人差し指と中指を揃えて向け、魔力を込める。

 

「おい……カミナ、何して……」

 

「白雷」

 

ナツが言い切る前にカミナの指から白雷が放出され、ナツの体を貫いた。

 

「ナツーー!!」

 

「カミナ一体何を!!大丈夫かナツ!!」

 

「俺死んだ……」

 

「傷なんてねぇぞ?」

 

「あれ?本当だ……何しやがんだカミナ!!」

 

傷がないことに気づいたナツはカミナに向かって怒鳴るとカミナは刀を抜いてナツに振りかぶる。

 

「あばばばばっ!ごめんなさ〜い!!」

 

ナツが涙を流しながら謝るがカミナはナツの体を通り抜け、背後にいた小型竜を斜めに断ち切った。

 

「カミナがナツの体を通り抜けちゃった!!」

 

「幽霊でごじゃる!!」

 

「やっぱり俺死んじまったのかーー!!?」

 

「馬鹿者!!これは違う……追憶の谷……そういうことなのか?だとすればこれは一体誰の……」

 

エルザが1人つぶやいているとまた小型竜がカミナを取り囲んだ。

カミナが刀を構え、襲いかかってきた小型竜を迎撃しようとすると、先ほど切り捨てた小型竜が体が斜めに切り捨てられても驚異の生命力でカミナの足に噛み付いた。

 

「ぐっ!!」

 

カミナは小型竜の頭に刀を突き刺し、今度こそ絶命させたが襲いかかって来る小型竜に対処が遅れる。

 

「カミナ!」

 

「今助けます!」

 

グレイとレインが魔法を発動しようとするが、それよりも早く蒼雷と翡翠の剣戟が小型竜を倒した。

 

「誰だっ!?」

 

「あれは……」

 

カミナを助けたのは少し幼いジェイドとルーシィと同じ金髪を後ろでまとめた少年だった。

 

「大丈夫か、カミナ」

 

「あれぐらい一人で対処できた」

 

「結構危なかったように見えたけどな」

 

「ぬかせ」

 

3人は軽口を叩き合って少し笑みを見せている。

するとさらに多くの小型竜が姿を現した。

 

「チッ……いったいどれだけいるんだ」

 

「文句を言わず倒すだけだぜ」

 

3人が構えると小型竜の背後から漆黒の棘が全ての竜に突き刺さった。

 

「やっと合流できた。無事かい3人とも?」

 

「クスコ殿!?」

 

そこに現れたのは少し若いクスコだった。

 

「クスコか。ハルトたちと一緒じゃないのか?」

 

「ああ、爆発で離れ離れになってしまってね」

 

すると今度は20m近く背丈がある竜が降ってきた。

 

「ドラゴンか!?」

 

「いやなんか違ぇ!」

 

その大きさにグレイが本物のドラゴンかと思ったが、本当のドラゴンを知っているナツが違うと言い切る。

その竜はカミナたちに向かって口から魔力を放出するが、カミナたちの手前でそれは防がれる。

 

「何やってんのよ。だらしないわね」

 

「ラナか!」

 

「ついでにエロ猫も一緒よ」

 

「ごじゃる〜!」

 

「マタムネも一緒かい。よかった」

 

それを見ていたエルザたちは驚いていた。

 

「せっしゃでごじゃる!!」

 

「でも小さいねー」

 

「カミナにラナ、クスコ、マタムネまでいやがる。いったいどうなったんだ?」

 

「それよりあそこのいらっしゃるお方に私は驚いている」

 

「なんだよエルザ。あの緑髪の男と金髪の男知ってるのかよ?」

 

「金髪の男の方は知らないが、もうひと方は少し幼いが間違いない。フィオーレ王国王子、ジェイド・E・フィオーレ様だ」

 

「マジかよ!」

 

「王子様なんですか!?」

 

「ああ、私が知っている姿より少し幼いが……」

 

そんなことを話していると魔力を出した竜が今度はラナに向かって拳を振るって来る。

 

「もう、鬱陶しいわね」

 

ラナはそう言うと竜に向かって手を向け、空間を固定したものを打ち出し竜の頭を吹き飛ばした。

 

「はん。案外超魔獣ってのもの大したことないわね」

 

「いや、あれらは『アスラ』が蘇った際に出てきたカスみたいなものだ。本体はあれと比べ物にならない筈だ」

 

ラナが余裕そうに笑みを浮かべるがジェイドが注告する。

すると金髪の男がラナに詰め寄った。

 

「おい!エミリアとハルトはどうした!!」

 

「落ち着けエリオ!2人は一番近くにいたんだ。遠くに飛ばされているかもしれない」

 

詰め寄るエリオと呼ばれた少年を落ち着かせるジェイド。

 

「それよりアレをどうにかしないといけないんじゃないかな?」

 

クスコが苦笑いしながら見る先には何とさっきの小型竜と大型の竜が何十何百体とカミナたちに迫ってきていた。

 

「ここ周辺の住民はまだ避難が終わっていない。俺たちで食い止めるぞ」

 

「そんなことよりエミリアを助けに……」

 

「ハルトが一緒にいるはずだ。恋人のエミリアを放っておくはずがないだろ」

 

エリオはエミリアを助けに行きたいみたいだが、カミナがエリオをそう説得して止める。

エルザたちはそのカミナの言葉に驚いた。

 

「今、恋人って……」

 

「ハルトさんの恋人?」

 

「ハルトさんって恋人がいたんですか!?」

 

「いや、いるって話聞かねえな」

 

全員がエミリアがハルトの恋人だと言う発言にエルザたちは驚く。

するとマタムネが突然声を挙げた。

 

「思い出したでごじゃる!!!」

 

「どーしたの!?」

 

マタムネは翼をだし、突然飛んで行った。

 

「どこに行くマタムネ!?」

 

「おい!カミナたちはいいのかよ!?」

 

エルザたちはマタムネを走って追いながら、グレイがそう言うとエルザは落ち着いた口調で説明を始めた。

 

「今私たちが見ている風景は全て現実ではない」

 

「どういうことだよ?」

 

「ここは追憶の谷……今私たちが見ているのは恐らくマタムネの記憶だ」

 

「マタムネの?」

 

「あそこに幼いマタムネがいたのが証拠だ。それに私たちはここのものに触れることができない」

 

エルザはそう言って建物に真っ直ぐに突っ込むと壁にすり抜けてしまう。

 

「なるほどな」

 

「となるとハルトさんもここいいるみたいですから、ハルトさんの記憶でもあるかもしれないですね」

 

「そうかもしれない。マタムネはどうやら何か心当たりがあるみたいだ。とにかく追うぞ!」

 

 

「もうハルトどこ行ったのよ?」

 

突然巨大なドラゴンの影に向かって走って行ってしまったハルトを追いかけたルーシィだが、走る速さが違いすぎたため途中で見失ってしまった。

 

「それにここどこなのよ〜」

 

いきなり訳の分からない場所に移され、1人になってしまったルーシィは泣きたくなっていた。

泣きそうになった時に突然ルーシィの背後の壁が爆発とともに破壊された。

 

「きゃあっ!!いったい何!?」

 

煙の中から現れたのは頭から血を流し、傷だらけの少し幼いハルトだった。

 

「ハルト!?でも少し幼いような……ん?」

 

するとハルトの横に誰かがいることに気づいた。

 

「大丈夫か……エミリア?」

 

「うん……なんとか」

 

「エミリア!?ハルトが言ってた……」

 

煙が晴れ、ルーシィはエミリアの顔が見えてきた。

それは金髪の短髪だがルーシィと瓜二つの顔をした少女だった。

 

「え、あ、あたし?」

 

ルーシィも一瞬自分と見間違うほどそっくりだった。

ルーシィが驚いていると巨大なドラゴンがハルトたちのすぐ前に来ていた。

 

「くそ……歯が立たねぇ……」

 

「このままじゃ『アスラ』が完全に復活しちゃう……」

 

ハルトは悔しそうにして、『アスラ』と呼んだドラゴンを睨みつける。

 

「どうしたらいい……」

 

「……………ねぇ、ハルト。お願いがあるの」

 

「どうした?」

 

エミリアが真剣な表情になってハルトのほうを向く。

 

「『アスラ』を止めることができないけど、もう一度封印する方法ならあるの」

 

「本当か!!なら早速……」

 

「でも完全に封印するには1人ではできない。ハルトの助けがいるの」

 

エミリアはハルトの手を握る。

 

「『アスラ』を封印する方法は星霊魔導士の体内に取り込んでその命に封をするの」

 

「星霊魔導士たってここには………」

 

「そう私がいる。私の体にアスラを閉じ込めるの」

 

「ダメだ危険すぎる!!超魔獣を取り込んだらどうなるか分からないんだぞ!!」

 

「星霊魔導士の特殊な魔力じゃないとダメなの」

 

「それに命に封をするって……!」

 

エミリアはハルトに金と銀の鍵、『オリオンの鍵』を渡す。

 

「これで私の胸を刺して」

 

「無理だ……俺にはできない……」

 

ハルトは首を横に振るが、エミリアが無理やり持たせる。

 

「ハルト。私ね、貴方に会うまでこんな世界どうでもいいと思ってたの。だけどね……今は貴方と出会ったこの世界を守りたいの」

 

エミリアはこれから死ににいくとは思えない笑顔でハルトを見つめる。

 

「愛してる。ハルト」

 

「待てエミリア!!!ぐっ……!」

 

エミリアはアスラに向かって走りだし、ハルトが止めようとエミリアの手を掴もうとするがダメージで体が動かずエミリアの手を掴み損ねてしまう。

 

「空に輝く全ての星よ!悪しき存在を封じるために我が身に力を貸したまえ!!」

 

エミリアがアスラの足元で呪文を唱えると周りに数多くの光球が現れれる。

 

「ダスト・トレイル!!!」

 

エミリアが叫ぶと光球はエミリアとアスラを中心に回転し、アスラを巻き込んでエミリアに集まり、アスラをエミリアの体に封じ込めた。

 

「エミリア!!」

 

「…は、ハルト……」

 

エミリアは胸を押さえて苦しそうにして、倒れてしまうがハルトが抱きとめる。

 

「エミリア!!しっかりしろ!!」

 

「はや……く。鍵を……」

 

「無理だ!!俺にはできない!!!」

 

ハルトは声を張って叫ぶ。

しかしエミリアは苦しそうにしながらも穏やかな笑みを浮かべる。

 

「お願い……ハルト………うぅっ……!」

 

その途端、エミリアの心臓部分が赤黒く光りだす。

アスラが無理やり抜け出そうとしているのだ。

ハルトはエミリアが助からないことがわかってしまった。

無理やりエミリアの中から出てもエミリアの体は保たずに破壊され、封じても命を落としてしまう。

ハルトは涙を流し、震える手で鍵を握る。

そこに慌てた様子の今のハルトが現れた。

 

「ハルト!!」

 

「よせぇーーー!!!」

 

ハルトがエミリアに突き刺そうとする自分に手を伸ばして叫ぶが、記憶のハルトはエミリアにオリオンの鍵を突き刺し、眩ゆい光がその場を包み込んだ。

 

 

光が収まるとそこは追憶の谷だが、先ほどの建物は一切なくなっており、雨が降っていた。

座り込んでしまっているハルトとその側でルーシィが立っており、雨に濡れていた。

そこに逸れてしまったエルザたちがやってきた。

 

「ハルト!!ルーシィもいたか!!」

 

「よかった。無事だったか」

 

ナツたちが声をかけるが何か様子がおかしく、少し離れたところから見るしかなかった。

するとハルトが重い口を開いた。

 

「俺が……エミリアを殺したんだ………」

 

ハルトのつらい呟きは雨の音に消えていった。

 



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第118話 運命の7人

皆が雨に濡れている中、ハルトの言葉になんて反応すればいいか皆がわからないなか、ハルトたちに近づく足音が聞こえてくる。

 

「誰だ!!」

 

エルザたちが目を向けるとそこには金と銀2つが混ざった髪色のナツと同じくらいの少年が立っていた。

 

「久しいなハルト」

 

「オリオン……お前か、俺をここに呼んだのは」

 

少年の姿だがその声は威厳に溢れたものだ。

彼はエミリアが所持していた星霊、狩人座のオリオン。

 

「主をここに呼んだのは過去から目を背けている主をもう一度過去と向き直させるため、それと頼みたいことがある。…………エリオを止めて欲しい」

 

 

ハルトたちはオリオンを連れて、ギルドへの帰路についていた。

本来依頼されたハルトが聞くべきなのだが、追憶の谷での出来事からハルトの様子がおかしく、エルザが代わりに聞いていた。

 

「それで依頼の内容なんだが……」

 

「うむ、エリオが行おうとしている蛮行を止めて欲しいのだ」

 

「エリオってのは誰なんだ?」

 

「俺の元仲間だ………」

 

グレイが質問するとオリオンではなく、ハルトが答えた。

 

「元仲間?今は違うのかよ?」

 

「ああ……」

 

ハルトはそれ以上何も語らなかったが、それに気になったエルザがハルトに話しだした。

 

「ハルト、5年前に何があった?追憶の谷で見たのは5年前の出来事ではないのか?」

 

「………」

 

エルザは先の光景で今回オリオンからの依頼とハルトの過去が関係していることがわかった。

しかし、ハルトはそれでも口を開こうとしない。

するとルーシィが前に出てきてハルトに話しかける。

 

「お願いハルト、話して。アタシはハルトがどんなことをしたのか聞いてもハルトを受け止めるから」

 

ルーシィのその真剣な表情にハルトはとうとう折れた。

 

「……………いつまでも黙っておくことはできねぇからな。いい機会だ。話すよ、5年前のことを」

 

 

5年前、779年。

当時ハルトは14歳であった。

ハルトは13歳の時にS級に上がり、数々の依頼をこなして、話題になっていた。

ギルドでハルトが朝食を取っていると背後に人影が立った。

 

「ハルト」

 

「うおぉっ!?カミナかよ……気配を消して背後に立つなよ」

 

当時のカミナはあまり人と話すことがなく、自身を勧誘したハルト、仕事を一緒に行くラクサス、そして自分が勧誘したミラたちぐらいしか接していなかった。

 

「マスターが呼んでいる」

 

「じーさんが?わかった」

 

今とあまり変わりがないマカロフが朝から酒を飲みながら、ハルトとカミナに2人にやってきた仕事を説明した。

 

「今回は2人に長期の依頼が来ておっての。今日には出発してもらいたんじゃ」

 

「またえらく急だな。誰からの依頼だよ?」

 

「………今回はそれについては秘密じゃ。指定の場所で依頼内容と報酬の説明するらしい」

 

「なんだよそれ?まぁ、じーさんが許可出したんだから大丈夫だと思うけどよ。それじゃあ、行ってくるぜ」

 

「……………」

 

ハルトはいつもと違った依頼に少し首を傾けたが、外の世界を見たいと言って、ボスコから出てきた自分をボスコ出身だからと卑下することもなく、妖精の尻尾に招き入れてくれたマカロフを信頼して、それ以上何も聞かず引き受けたが、カミナは訝しげにマカロフを見て、何も言わずにハルトに続いてギルドを出て行った。

マカロフは2人が出て行ったのを確認してから、もう一度酒に口を近づけるが、途中で止めて、2人に渡した依頼のことを思い出した。

 

 

その時、マカロフはまだ評議員ではなく評議会の職員として働いていたナミーシャに個人的な頼みがあると言われ、2人きりで会った。

 

「突然申し訳ありません。マカロフさん」

 

「いいんじゃよ。お主はかつて妖精の尻尾の一員じゃったからな」

 

ナミーシャはかつて妖精の尻尾の魔導士であったが、ヤジマにスカウトされ評議会に入った。

それはさておき、ナミーシャは懐から詳しいことが書かれた依頼書を取り出し、マカロフに見せる。

 

「何も言わずにこの依頼を受理してください。お願いします」

 

ナミーシャは頭を深く下げて頼むが、依頼内容を見たマカロフは少しずつ体が震えていく。

 

「ナミーシャ、どういうことじゃ……この依頼書だと、ハルトとカミナに戦争に行けと言っているようなものじゃぞ」

 

「はい、その通りです」

 

「ふざけておるのか!!!ガキども戦争に行かせるだと!!?そんなことができると思っておるのか!!!?」

 

あまりの依頼内容にマカロフは激昂する。

マカロフはとある経験から戦争がどれほど酷いものか知っていた。

それ故にハルトとカミナを戦争に行かせるのは絶対に反対だった。

 

「お願いします。依頼を引き受けてください」

 

「断る!!」

 

マカロフは即座に拒否し、部屋から出ようとする。

しかし、その時ナミーシャが静かに呟いた。

 

「『光の神話(ルーメン・イストワール)…………」

 

「っ!!……お主、それをどこで……!?」

 

ナミーシャが呟いたその一言にマカロフは酷く狼狽した様子だった。

 

「私だってこんな手を使いたくないんです……しかし、人類を救うためなら私はどんなに汚れたって構いません!」

 

ナミーシャは力強く、マカロフに向かってそう言った。

その目には確かな覚悟があった。

その覚悟を感じたマカロフは渋々首を縦に振ってしまった。

 

 

「不甲斐ないワシを許してくれ……ハルト、カミナ」

 

辛そうな表情のマカロフの耳に荒々しくギルドの扉を開ける音が聞こえて来た。

 

「ねーちゃん!そんなに乱暴に扉を開けたらダメだよ」

 

「うるせー!!遅れちまったから急いでんだよ!!」

 

「遅れたのはミラ姉の支度が遅れたからでしょ?」

 

そこにいたのは幼いエルフマン、ミラ、リサーナだった。

今とは性格も様子も全く異なるミラはキョロキョロと周りを見渡していると幼いエルザが近づいて来た。

 

「おはよう3人とも。もうカミナはハルトと一緒に仕事に行ってしまったぞ」

 

「エルザ!!な、なんでカミナが出てくんだよ!!?」

 

ミラは少し顔を赤くして言うと、エルザは不思議そうに答える。

 

「なんでって……お前はいつもカミナのことを探しいるではないか……いなかったら寂しそうにするしな」

 

「そそそ、そんなわけあるか!!この鎧女!!」

 

「なんだと!?」

 

ミラは余計顔を赤くして苦し紛れにエルザに悪口を言って、喧嘩を始める。

 

「あーあ、せっかくミラ姉新しい化粧品で頑張ってきたのに無駄骨だったね」

 

「そうだね」

 

「ハルトはいるかー!!!」

 

「あっ、おはようナツ!」

 

そこに幼いナツが小さい火を吹き、怒鳴りながらギルドに現れた。

 

「ハルトはもう仕事に行っちゃったよ」

 

「なにぃ!今日こそ勝とうと思ったのに!!」

 

「またぁ?どうせコテンパンにされて負けちゃうよ?」

 

「んなのやってみなきゃわかんねぇだろうが!!」

 

そこに近くに座っていた幼いグレイがからかってくる。

 

「無理だって、また泣かされるだけだぜ?」

 

「やんのかグレイ!!!」

 

「やんのかナツ!!!」

 

2人は睨み合って、リサーナはあきれ、エルフマンはナツとグレイ、エルザとみらのどちらの喧嘩を止めるか迷っていた。

そこにまだ少年だったラクサスもギルドにやってきた。

 

「なんだ。ハルトとカミナ2人で行っちまったのか………帰るか」

 

ラクサスが早々と踵を返して出て行こうとするがナツが突っかかってくる。

 

「もうラクサスでいいからオレと勝負しろー!!」

 

「オレでいいってなんだよ……やだよ。1人でやってな」

 

「あばばっ!!」

ラクサスはナツに向かって弱い雷を放って簡単に追い払った。

 

(お主らの帰りを待つ者はこんなに多くいるんじゃ。2人とも無事に帰ってくるんじゃぞ………)

 

いつもの平和な光景を見ながらマカロフは切に願った。

 

 

2人は打ち合わせ場所の廃教会に着いたが時間になっても誰も来ていない。

 

「来ないなー」

 

ハルトが教壇の上に座って足をブラブラしたいると、顔をうつむかせて黙っていたカミナが突然顔を上げ、扉の方を向いた。

その瞬間、扉が粉々に弾け飛び、黒い針がハルトたち目掛けて飛んできた。

 

「うおっ!?」

 

ハルトは教壇から落ちるように針を避け、カミナは体を捩って針をかわしながら針が向かってきた方向に立つ男に向かって指を向ける。

 

「白雷」

 

男に向かって行く白雷は男の手前で透明な壁にぶつかり、防がれた。

 

「チッ」

 

すると今度は空間が歪んで見える直方体の柱が数本カミナに放たれる。

カミナがバク転して柱をかわすと、今度はコケたハルトがその男に向かって飛び出して行く。

 

「今度はこっちの番だ!!覇竜の剛拳!!」

 

ハルトの拳はやはり壁に阻まれるがハルトは更に連打を放つ。

 

「覇牙連拳!!!」

 

壁に亀裂が一気に広がり、粉々に砕け散るとハルトは男の首を掴み、押し倒す。

 

「捕まえた!」

 

男も黒い針をハルトの首に突きつけるが、カミナがその男の顔に刀を突きつける。

 

「魔法を解除しろ」

 

「アンタもよ」

 

そこに5年前なのに全く変わりがないラナがカミナに手を向けていた。

誰かが少しでも動けば一触即発の緊張した空気が流れる。

 

「そこまでだ」

 

その時、ハルトたちの側から声がかけられた。

そこには剣を背中に下げた少し幼いジェイドとマカロフに依頼したナミーシャが立っていた。

 

「もう十分だ。2人の実力はよくわかった」

 

ジェイドがそう言うと男は針を消し、ラナは手を下げ、ハルトたちも敵意がないとわかり、体と武器をどける。

 

「お前誰だよ?」

 

「……フィオーレ王国王子、ジェイド・E・フィオーレ」

 

「は!?王子様!?」

 

カミナの言葉に驚くハルトにジェイドは表情を崩さず、話しかける。

 

「突然のことですまなかった。お前たちの実力を知りたかったんだ」

 

「い、いえ、そんなことはねぇです」

 

「謝罪はいい。さっさと依頼の説明をしろ」

 

「おい!王子様だぞ!」

 

「いや、別にいい。今回の件では俺は王子という肩書きを捨てている。奥で話そう……あまり人に聞かれるとまずい」

 

ジェイドはそう言って、後ろから黒いローブを着て顔をフードで隠した2人とナミーシャとともに奥に入って行った。

ハルトは訳が分からず、頭をガシガシとかいて困惑した様子だ。

 

「どーなってんだ?」

 

「……ややこしい事になりそうなのは確かだ」

 

カミナのウンザリしたような呟きがハルトの耳に嫌に残った。

 

 

ハルトたちは教会の地下に設けられた場所で今回の説明をナミーシャからしてもらっていた。

 

「初めましてハルトくん、カミナくん。私は評議会に属しているナミーシャ・クライフル。今回は依頼を引き受けてくれてありがとう」

 

ナミーシャは笑顔を浮かべて頭を下げるが、ハルトたちは疑惑の目を向けている。

 

「……何であんなことをしたんだよ?」

 

「言っただろう、君たちの実力を知りたかった、と。今回の件では何より戦闘力が欲しかった。……まだ名乗っていなかったな。知っていると思うが俺はフィオーレ王国王子、ジェイド・E・フィオーレだ」

 

ジェイドが自己紹介するとハルトたちと戦った2人も自己紹介をする。

 

「僕はクスコ・ガーデンです。さっきはいきなり襲ってごめんね。ほら君も……」

 

クスコが申し訳なさそうに謝りながら、自己紹介をすると、さっきからふてぶてしく足を組みながら座っている小さな少女に自己紹介をするように促す。

 

「………ラナよ、1つだけ言っておくわ。私の盾を壊したからってそれが実力に繋がる訳じゃないから。弱いならハッキリ言って邪魔よ!」

 

そう言ってラナはハルトを睨みつけるがハルト本人は戸惑ってしまう。

 

「な、なんだ?このちんちくりんの子供は?」

 

「ち、ちんちくりんの子供!?あ、アンタねぇ……!」

 

ハルトのその言葉にラナは顔を赤くしてプルプル震えるがジェイドが止めた。

 

「止まってくれラナ。話が進まない」

 

「………わかったわよ」

 

ラナは不機嫌そうにしながらも止まってくれた。

 

「そしてこの2人が今回の依頼の原因となった人たちだ」

 

ジェイドはそう言って奥にいたフードを被った2人を前に促し、2人は自己紹介を始める。

 

「エリオ・バーカデンだ。そしてこっちが妹の……」

 

エリオがフードを脱いで素顔を露わにし、自己紹介して、隣のエリオより背が低いほうに目を向ける。

するともう1人もフードを脱ぎ綺麗な金髪の髪がなびくのがハルトの目に焼きつき、次にその顔に目が食いついた。

 

「エミリアです」

 

どこかつまらなそうに、そして悲しそうなその表情にハルトの胸には不思議な気持ちが広がった。

 

「よ、よろしく!」

 

「………」

 

ハルトがエミリアに向かって握手を求めたがエミリアはハルトの手を見るだけで握手しようとはしなかった。

 

「早速だが今回の依頼を確認したい。2人は北の方で起こっている内戦を知っているか?」

 

「…………」

 

「おい、ハルト」

 

「えっ、あ、あぁ、なんだっけ?」

 

「………ふぅ、本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「お、おそらく……」

 

ハルトがエミリアを見続けてジェイドの話を全く聞いておらず、ジェイドは少し不満そうにハルトとカミナを集めたナミーシャを疑惑の目を向け、ナミーシャは少しぎこちなさそうに答える。

 

「まぁいい。フラスタで起こっている内戦、通称『フラスタ戦争』だが、世間ではフラスタ国の政治に国民が不満を持ち、それが爆発して内戦になったと知らされているが、実際はそうじゃない。ゼレフを信仰している黒魔術教団が裏で手を引いている」

 

「なんでそいつらが内戦なんて起こすんだ?」

 

「それが今回の依頼に関係してくる。表向きの依頼としては武装した教団が思った以上に膨れたため、その教団の壊滅させること………後のことはエリオが話してくれる」

 

ジェイドがエリオの方を見て、そう言うと全員がエリオを見る。

 

「教団が内戦を起こしたのはあるものの封印を解くためなんだ」

 

「あるもの?」

 

「……魔神族が遺した負の遺産、超魔獣『アスラ』」

 

エリオは緊張した表情でそう言うと、ラナが呆れ顔で言葉を挟んできた。

 

「魔神族って……お伽話じゃないんだからそんなのあり得る訳ないでしょ」

 

前話でも言ったが魔神族はほぼお伽話となっている『聖戦』に出てくる敵で、現代の人たちはほぼ全員が知っているくらいの有名な話だが、誰も存在していたなんて思っていない。

 

「それがそうでもない。色々な文献を調べてみると魔神族がいたという可能性が大きくなった。それに……神器もあるしな」

 

ジェイドがラナにそう言いながら、背中に下げてある剣に触れる。

 

「じゃあ今回の依頼ってのはその教団をぶっ潰して、序でに超魔獣ってのを倒しちまえばいいんだろ?」

 

ハルトは好戦的な笑みを浮かべる。

しかし、エリオは首を横に振って否定した。

 

「そうだけどアスラを倒すのは不可能だ。言い伝えだがアスラが暴れたら世界の終わりだと思った方がいい。それに……まず倒させない、いや、戦わせない」

 

エリオが最後に語気を強くしてそう言った。

 

「どういうことだよ?」

 

「アスラはもうここにいる……」

 

そう言ってエリオは隣に立つエミリアを見る。

全員がエリオの意図が分からずにいるとエミリアが口を開いた。

 

「私の中にアスラは封印されています」

 

その言葉に少なからずともエリオとエミリア、ジェイドを抜いた全員に衝撃が走る。

 

「今回の依頼はそこの女を守りながら、教団を壊滅させるってことか」

 

カミナがようやく口を開いてそんなことを聞くとジェイドは首を縦に振る。

 

「ならフィオーレで守ればいい。その方が安全だ」

 

「悪いがそれはできない」

 

「何故だ?」

 

「……それは今言うことができない」

 

カミナとジェイドの間に沈黙が流れるが、ジェイドは気にせず話を続ける。

 

「教団は狂信者が集まった危険な集団だ。命の覚悟はしておいた方がいい。奴らは目的のためなら相手どころか自分の命さえ投げ出す奴らだ。最悪死人が出る可能性がある」

 

「だからこのメンバーを集めたの」

 

ナミーシャがジェイドの言葉に続いて話し出す。

 

「ラナは強力な『空間のアーク』を持つ魔導士、クスコは凄腕の魔導士、ハルトくんとカミナくんは最近妖精の尻尾で話題になっている魔導士、エリオくんはずっとエミリアちゃんを守ってきた守護者、そしてジェイド様は国で1位2位を争う剣の使い手。この強力なメンバーで国その危機を救って欲しいの!」

 

ナミーシャが力強く言った。

しかし、

 

「嘘だな」

 

カミナの一言が全員に聞こえた。

そしてカミナは全員の顔を見て、話を続ける。

 

「そこの白いガキはフリーの魔導士、そこの男は血の匂いが濃い……恐らく闇ギルドかそこらの男だろ」

 

ラナとクスコに向かってカミナはそう言うとラナはガキという言葉にイラッとした表情になり、クスコはバレたか……と言った表情をした。

 

「俺とハルトもだ。俺たちは経歴が特殊だ。………ここに集められた俺たち4人は死んでも問題ない奴らだ」

 

その言葉にナミーシャは苦虫を噛み潰したような表情になり、カミナはナミーシャとジェイドを睨む。

 

「それはちが……」

 

「その通りだ」

 

ナミーシャが弁解しようとするがジェイドがそれを肯定した。

 

「しかし、その死んでもいいのは俺も含めてだ」

 

「なに?」

 

「俺はこの作戦に命をかけている。死んでも構わないさ」

 

「……一国の王子が、か?」

 

「俺が死んでも妹のヒスイがいるさ」

 

ふざけた風に言うジェイドだが、その目に真剣なものをカミナは感じた。

 

「それに死んでもいい奴らを集めただけじゃない……アーウェングスは幼少ながらボスコの荒れ狂う大人どもを押し退け、勝ち上がった。ハクシロは倭国の元暗殺者……だろ?」

 

「なんでそれを……」

 

「どこで知った?」

 

ハルトとカミナはジェイドからの情報に警戒心を高める。

それは自分と親しい者達しか知らないことだからだ。

 

「他の奴らもそうだ。全員が相当な実力者だ。………ここにいるメンバーで世界を救う」

 

これがハルト、カミナ、ジェイド、エリオ、エミリア、ラナ、クスコの運命の7人が揃った時だった。

 



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第119話 迫る魔物

教会で顔合わせの後、ハルト達7人とナミーシャは評議会で情報を集めるべく、別行動となった。

そしてハルト達一行は汽車に乗り、フラスタを目指していた。

カミナはジェイド、クスコ、ラナと同じ座席に座っており、会話もないまま時間が経つ。

するとカミナの横からクッキーが差し出された。

 

「1つどうだい?」

 

クスコが笑顔で差し出したクッキーを見て、カミナは首を横に振った。

前を見るとラナがクッキーをポリポリと食べていた。

 

「そう警戒しないで欲しいな。これから一緒に戦う仲間なんだし」

 

クスコは笑顔を浮かべながらそう言うが、カミナはもう用がないのか目を閉じた。

 

「ハクシロ君は警戒心が強いなぁ……アーウェングス君はだいぶと友好的みたいだけど」

 

クスコがそう言ったので隣の席でエミリアとエリオと共に座っていたハルトに目を向けた。

 

「それでエミリアの好きな物ってなんかあるのか?」

 

「………………」

 

「おい!あんまりエミリアに近づくな!」

 

「………星」

 

「エミリア!?」

 

ハルトはエミリアと仲良くなりたいのか、エミリアに話しかけ、反応は薄いがエミリアも返事を返してくれる。

それが面白くないのかエリオは2人の間に入って邪魔をしていた。

 

「ハルト君はみんなと仲良くなりたいのかな?」

 

「ただの馬鹿でしょ」

 

クスコはその光景を微笑ましく見て、ラナは呆れたように呟いた。

カミナもそんなハルトを半ば呆れた目で見ていると、ジェイドが話しかけてきた。

 

「アーウェングスはいつもああなのか?」

 

カミナはそれに首を横に振って否定した。

 

「この先不安だな」

 

今回の件は命がけだ。

あんな浮ついた気持ちでは支障が出るのではないかと危惧していた。

 

「どんな星が好きなんだ?星座とか?」

 

「だから!エミリアに近づくなって言ってるだろ!!」

 

「わっ!押すなよ!!」

 

ハルトがエミリアに漸く返事を返されると嬉しくなり、さらに詰め寄るとエリオがハルトとエミリアを引き離そうとハルトを押した瞬間、ハルトの尻が席に着いてしまい、

 

「うぷっ……!」

 

「ええ!?」

 

ハルトの顔色は一気に悪くなり、倒れてしまった。

 

「おい、どうした?」

 

「い、いや……エミリアから引き離そうとして押したらいきなりこんな風に……」

 

ジェイドがエリオに聞くが、エリオも何が起こったかわからない様子だった。

するとそこにカミナが割って入ってくる。

 

「ハクシロは知っているのか?」

 

「……ハルトは極度に乗り物に弱いんだ」

 

「えっ?これって乗り物酔いなのか?」

 

カミナの説明にエリオは驚く、初めて見る人には乗り物酔いとは思えないほど、顔色が悪かった。

 

「ふぅ……本当に大丈夫なのか?」

 

カミナに手当てされているハルトを見て、ジェイドはため息を吐きながら、そう零した。

カミナの魔法で浮かび上がったハルトは顔色が悪いままだが、少しなら話せるようになった。

 

「しっかりしろハルト」

 

「うぅ……なんかくる……」

 

ハルトがそう呟き、カミナが外を振り向いた瞬間、凄まじい衝撃とともに汽車が揺れ、線路から外れ横転した。

 

「チッ……全員無事か?」

 

「なんとか……」

 

ジェイドたちは全員怪我もなかったが、カミナとハルトの姿がなかった。

 

「アーウェングスとハクシロはどうした?」

 

「わからない。逸れてしまったのかも」

 

クスコの言葉にジェイドはこの程度の事故に対応できないあの2人を雇ったことを失敗したと思ったが、とりあえず外に出ると視線の先には黒いローブを着た集団が、人ほどの大きさの魔水晶が装着された砲台をこちらに向けていた。

 

「何者だ?」

 

「我らは黒魔術教団『フェアニヒター』!!命が惜しければ、そこにいる金髪の少女を渡して貰おう!!」

 

黒ローブの集団はジェイドたちの話でもフラスタで内戦を引き起こした黒魔術教団『フェアニヒター』。

ジェイドたちはそれぞれエミリアを守るようにフェアニヒターと対峙する。

すると背後から音が聞こえ、振り向くとそこには横倒しになった車両を持ち上げるハルトがいた。

 

「テメーら、よくも……乗り物酔いになったらどうすんだ!!!」

 

叫びながら汽車を投げ、フェアニヒターたちは突然投げられた汽車に慌てて避ける。

すると投げた汽車の中からカミナが車両を切り裂いて現れ、フェアニヒターに襲いかかる。

次々と敵を倒していくカミナにフェアニヒターは慌てる。

 

「な、なんだこのガキ!?」

 

「相手は1人だ!囲んでしまえぐへっ!!」

 

「俺もいるぞー!!」

 

そこにハルトも参加し、フェアニヒターを次々と倒していく。

それを見ていたジェイドたちは構えを解いて、その様子を眺めていた。

そして数分後……。

 

「いやースッキリしたぜ!」

 

さっきまでの気持ち悪そうな表情とはうって変わって、爽やかな笑顔でそう言ったハルトの背後には呻き声をあげるフェアニヒターたちが倒れていた。

 

「よくやったな。だが1人くらい残しても良かったが……」

 

「それなら大丈夫だって、カミナ!」

 

ハルトがカミナを呼ぶとカミナは1人の男を首元を持って引きずって来た。

 

「それじゃあ尋問を始めるか」

 

「その必要はない」

 

そう言ったカミナの手は血で汚れていた。

 

「彼奴らはフェアニヒター。王子が言っていた教団だ」

 

「何故こいつらが俺たちの居場所がわかったか、聞いたか?」

 

「……おい」

 

カミナは男の腹を踏みつけ、男を無理やり起こし尋問を続け、聞き出そうとするが、男は何も知らないと言った。

 

「俺たちの行動を知らせてるのは王国と評議会の一部の人間だけだ。特定するのはそう難しくない。今は先を目指そう」

 

「あとどれぐらいかかるんだ?」

 

エリオが質問すると、ジェイドは懐から小型の魔水晶が嵌められた装置を取り出し起動すると空中に地図が出た。

 

「歩いて2日だな」

 

「なんだそれ!すげぇー!!」

 

ハルトがキラキラした目でジェイドが持つ機械を見るが、ジェイドは無視した。

 

「2日もかかるのか……走って行くかい?」

 

「嫌よ!そんなの疲れるじゃない」

 

ラナはそう言うと全員を魔法で浮き上がらせ、空中を高速で移動し始めた。

 

「最初からこれで行けばよかったんじゃないか?」

 

「なるべく隠密に行動したかった。これじゃあ目立つ」

 

「何よ。文句があるなら歩いて行けば?」

 

エリオとジェイドの会話に不満そうにするラナだがハルトがワクワクした声でラナに言った。

 

「ラナ!お前の魔法すごいな!めちゃくちゃ便利じゃねぇか!」

 

「フフン!もっと褒めてもいいわよ」

 

ラナは得意げな表情になる。

案外チョロい。

 

「チビで態度がでかいと思ってたけど見直したぜ!」

 

「…………」

 

さっきまで得意げだったラナの顔が真顔になった。

 

「あばばばばばっ!!」

 

高速で移動しているため全員の体にシールドを張っていたラナだがハルトだけのシールドを解き、ハルトの顔に物凄い風が当てられる。

 

「私は二十歳を過ぎてるわよ!!」

 

「ぼべん"んんんん(ごめんんんんん)!!!」

 

「アホだ」

 

怒るラナに必死に謝るハルトを見て、カミナはボソッと呟いた。

 

「……………」

 

それを見ていたエミリアはどこか悲しそうだった。

 

 

ラナの魔法のおかげで予定よりもだいぶ早く着いたハルトたちはフラスタ国の手間にある大きな森にたどり着いた。

 

「なんで国じゃなくて森なのよ。奴らを叩くなら国に直接行けばいいじゃない」

 

「今回の目的はあくまでアスラの摘出がメインだ。俺たちは表立って動くことができない」

 

ラナの不満そうな言葉に魔法で髪色を変えたジェイドは説明すると全員で森の中を進み始めた。

 

「今回の件は世間にバレるわけにはいかないんだ。バレるといらん心配が増える。俺たちは今から徒歩でフラスタ国に入って、そこからエミリアに封印されているアスラを摘出する」

 

一行が森の中を進んでいくとハルトとカミナが足を止めた。

 

「どうしたんだい?」

 

クスコが2人に尋ねるが、何かに集中して聞き耳を立てている。

 

「来る!」

 

カミナがそう言った瞬間、エリオはエミリアを抱えて、みんながそれぞれ飛び退いた。

皆がいた場所に突然影が現れたとともに地面がえぐれるほどの爆発が起きた。

 

「なんじゃい。不審な奴らと聞いて跳んできてみれば只のガキじゃ」

 

土煙の中から声が聞こえ、全員が身構える。

やがて煙が腫れてくるとその巨大な影の正体がわかった。

 

「さて、おまえらはどこの誰じゃ?」

 

その正体は聖十大魔導士序列3位、ウルフヘイム。

彼の魔法である巨大な魔物の姿のウルフヘイムに全員が驚く。

 

(ウルフヘイム!?親父め、四天王に依頼してやがったのか!!)

 

ジェイドは内心焦り始める。

もしここでウルフヘイムに捕まってしまえば、自分が企てた計画が全て水の泡だ。

 

「おい、どうする?」

 

カミナがジェイドに確認を取るとジェイドは焦った表情からいつものクールな表情に戻った。

 

「全員散開して目的の場所を目指せ!!」

 

ジェイドがそう叫ぶと全員が散り散りになってその場から離れる。

 

「なんじゃあ?鬼ごっこか?今はフィオーレ王からの依頼で忙しいってのに。たくっ……」

 

ウルフヘイムはそう零しながら、足に力を入れると地面が爆発したように弾け、ウルフヘイムは目にも留まらぬ速さで追いかける。

 

「まずは血の匂いが濃い。お前たちからじゃ」

 

カミナとともに走っていたクスコはすぐ後ろに来ていたウルフヘイムに向かって手を振るうと黒い魔力の針が数本ウルフヘイムに向かって飛んでいくが、ウルフヘイムはそれを防ぎもせず、当たるが全て弾かれてしまった。

 

「白雷!」

 

カミナの手から白雷が放たれるが、それも防がれる。

 

「なんじゃ?静電気か?」

 

「チッ」

 

平然とするウルフヘイムにカミナが舌打ちすると、逃げの姿勢から迎え撃つ姿勢に変わる。

 

「破道の三十六、蒼火墜!」

 

蒼い爆炎がウルフヘイムを襲い、包み込む。

カミナはやったか、と様子見ようとすると炎の中から巨木のような腕が現れ、カミナを捕まえようとする。

 

「詰めが甘いわい!」

 

ウルフヘイムの手がカミナを捕らえようとした瞬間……

 

「覇竜の剛拳!!!」

 

「ぬおっ!?」

 

ハルトの剛拳がウルフヘイムの頬を捉え、吹き飛ばした。

 

「大丈夫か!」

 

「あぁ」

 

吹き飛ばされたウルフヘイムは木々を下敷きにして仰向けで倒れていた。

 

「完全に油断したぞ。小僧どもォ……」

 

するとウルフヘイムが倒れていた場所が爆発したように衝撃波が炸裂した。

 

「っ!!」

 

ハルトが驚いてそちらを向くと眼前にウルフヘイムの拳が迫っていた。

 

「覇竜の剛腕!!!」

 

咄嗟に剛腕を出して防ぐハルトだが、殴り飛ばされてしまう。

 

「グオオォォォッ!!!」

 

獣のような咆哮を上げるウルフヘイムは吹き飛ばされたハルトに走って追いつき、吹き飛ばされたハルトを地面に殴りつける。

 

「がはっ!!」

 

口から血が吹き出るハルトにウルフヘイムはさらに追撃しようとするがそこに翡翠色の刀身の剣を持ったジェイドが背後からウルフヘイムを切りつける。

 

「ウグッ!?」

 

しかし魔物の体となっているウルフヘイムには僅かに傷をつけるだけだった。

しかし、それだけでもウルフヘイムは膝をついて苦しそうにする。

 

「何をした!!」

 

「アンタの魔法を切った」

 

僅かな切り口なのにダメージが釣り合わないことにウルフヘイムはジェイドに問うと、ジェイドは静かに剣を構えながら答える。

ウルフヘイムは先に未知の力を使うジェイドを倒してしまおうと突撃すると、見えない壁に阻まれた。

 

「なんじゃこれは!!?」

 

驚くウルフヘイムを中心に半透明の柱が周りに建てられ、最後に上に蓋をされて閉じ込めた。

 

「『ロックルーム』」

 

その上空ではラナが魔法を操作し、ウルフヘイムを魔法の檻に閉じ込めた。

 

「無事かアーウェングス」

 

「なんとか……」

 

口から血が僅かに見えているがハルトは無事だと答える。

そこに散り散りになっていた他の皆も集まった。

 

「貴様ら、こんなことをしてタダで済むとは思うなよ………」

 

「閉じ込められているのに何を言ってるのかしら?」

「俺たちには時間がない。悪いがアンタにはここにいてもらう」

 

ラナが馬鹿にするようにウルフヘイムを鼻で笑うと、ウルフヘイムは檻の柱を掴む。

 

「聖十大魔導士を舐めるなよ!!ガキ共ォォォォッ!!!」

 

ウルフヘイムが檻に力を入れると、檻はビキビキと嫌な音を立て始め、亀裂が入り始めた。

 

「くっ……!こいつなんて馬鹿力……!!」

 

ラナが苦しそうにしながら手を向け、檻に魔力を込めるが亀裂の広がりは止められない。

 

「オラァッ!!!」

 

「きゃあぁぁぁっ!!!」

 

とうとうウルフヘイムはラナの檻を破壊し、その余波が術者のラナに伝わり、気絶してしまった。

 

「ラナ!!」

 

クスコは片腕で落ちてくるラナを抱き捕まえたが、ラナは気絶してしまっていた。

 

「フンッ!!!」

 

ウルフヘイムが地面を殴りつけると地面がえぐれ、周りの木が吹き飛ぶほどの風が巻き起こる。

ハルトたちは何とかその突風に耐えるが、ハルトたちはどの身体能力を持たないエミリアは吹き飛ばされてしまう。

 

「あっ………!」

 

「エミリア!!」

 

エリオが腕を伸ばそうとするが風のせいで身動きが取れない。

しかし、その中でハルトが吹き飛ばされたエミリアに向かって跳んだ。

 

「掴まれ!!」

 

ハルトが手を伸ばすが、エミリアはその手を掴もうとしたが途中で引っ込めてしまった。

ハルトは何故引っ込めたかわからなかったが、手を掴めなかったエミリアを抱きしめだが、吹き飛ばされたハルトたちはすぐ側にあった崖の間に流れる大きな渓流に落ちて行ってしまい、2人は激しい水の流れに流されてしまった。

 



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第120話 生きろ

微睡む意識の中から徐々に復活してきたハルトはゆっくりと目を開けた。

 

「ここは……そうだ!エミリ…ぐっ!?」

 

意識が戻ったハルトは起き上がろうとするが頭に強い痛みを感じ、また倒れてしまい、体のいたる場所から痛みを感じる。

 

「……ここ、どこだよ」

 

ハルトが痛む頭を押さえながら周りを見ると、そこはどこかの洞窟だった。

 

「よかった……目を覚ましたのね」

 

そこにいくつかの果物を持ったエミリアがやってきた。

 

「エミリア!!無事だったのか!!うっ……!」

 

ハルトはまた起き上がろうとして痛みで倒れる。

 

「あなたよりはね。私を庇って頭と身体中を強く打ったみたい」

 

エミリアは濡れタオルでハルトの痛む頭を冷やす。

 

「……何で私を助けたの?」

 

「なんでって、そりゃあ……」

 

ここでエミリアが好きだから、と言えるほどハルトの度胸はなかった。

 

「な、仲間だからだよ」

 

「そう……」

 

エミリアはそう答えて、また悲しそうな顔をし黙ってしまう。

 

「今回の旅の最終的な目的は知ってる?」

 

「あ?確かエミリアの中にいる化け物を倒すんだろ?」

 

「じゃあ、その方法は?」

 

「……いや、何も聞かされてねえ」

 

それを聞いたエミリアは悲しそうな笑みを浮かべた。

 

「私の中にいるアスラを倒すには封印された状態で倒すの。復活した状態じゃ誰も倒すことなんてできない。だから封印された状態で倒すしかないの。私に封印された状態で……」

 

「ってことはエミリアを殺すってことか!?」

 

エミリアは静かに首を縦に振った。

 

「あの王子様は私からアスラを取り出すのを手伝ってくれるって言ったの……だから今回はこうやって旅をしてる」

 

「エリオは知ってんのかよ?」

 

「私が誰にも言わないでって言ったの。人を殺すのが目的なんて知ったら誰も賛成なんかしないわ。あの王子様はそうでもないみたいだけどね……」

 

「どういうことだ?」

 

「あの人は国のためならなんでもやるって……たとえ人を殺してでも」

 

今回の旅の目的がエミリアを殺すことにも驚いたが、それを分かった上で自分たちを雇ったジェイドに苛立ちを覚えた。

 

「………私が吹き飛ばされたとき、なんで助けたの?」

 

エミリアが小さな声でハルトに質問した。

 

「なんでって、仲間だったら助けるだろ?」

 

「死に行く仲間を助けるのが仲間なの?」

 

エミリアのその言葉がハルトに深く刺さった。

 

「私は幼い頃からアスラを封印するために命を捧げろって言われ続けてきた。年端もいかない子どもに死ねって行ってくるんだよ?考えられる?………私はこんな世界に何も夢を持たないし、希望もない……吹き飛ばされたときに死ねばよかった………」

 

エミリアは暗にあの時助けなければ死ねたのに、とハルトに言った。

 

「じゃあ、なんで俺を助けた?」

 

「え?」

 

「死にたかったら俺を助けずにどこにでも行けばいいだろ」

 

エミリアはそう言われ、少し目が泳ぐ。

 

「何も希望を持たない奴はそんなことしないと思うけどな」

 

「貴方に何がわかるの……」

 

「わかるよ。そんな人間いっぱい見てきた」

 

ハルトはそう言いながら、自分の故郷であるボスコを思い出した。

自分が育った歓楽街にはどん底に陥った人間が数多くいた。

 

「エミリアの目は絶望した目じゃない。生きたいって思ってる目だ」

 

「………アンタに何がわかるのよ!!生きたくても生きられない運命の私を!!!」

 

エミリアは立ち上がり、目に涙を溜めながらハルトに向かって叫ぶが、それはどこか自分に向かって叫んでいるようにも見えた。

生きたくても生きられない。

エミリアは自分でハッキリと生きたいと言ったのだ。

ハルトはそんなエミリアに何を言えばいいかわからなかった。

 

 

一方カミナたちはハルトたちより一足早くフラスタに辿り着き、空き家でウルフヘイムとの戦闘で傷ついた体を治療していた。

 

「っ……」

 

「ごめんね。片手だと巻くのが難しくてね」

 

カミナは片腕をクスコに手伝って貰いながら包帯を巻いていた。

クスコも体に包帯を巻いているが、全員の中ではまだ軽傷のほうだ。

ラナはウルフヘイムが檻を破った際の反動で気絶してしまい、ベッドに寝かされており、外の様子を窓から見ていたジェイドも頭に包帯を巻いていた。

そこにエリオが切迫詰まった表情でジェイドに近づいていく。

 

「エミリアを探しに行く」

 

「ダメだ。外は親父が送った軍隊と雇われた魔導士たちがいる。できるだけ見られるのは避けるんだ」

 

「そんなの関係あるかっ!!!俺だけでも……!!」

 

「四天王の1人ウルフヘイムに顔を見られているんだ。それにアイツは鼻がいいはず、ここはカミナが結界を張ってくれているから場所はバレないが、結界の外に出た瞬間バレる。勝手な行動するな」

 

「お前……!!」

 

「落ち着いて2人とも!ここで争っても意味がないだろう?今は2人が無事であることを信じよう」

 

喧嘩になりそうなところクスコが止めに入り、2人を宥める。

エリオはクスコに宥められ出て行きはしなかったが、納得はしていないようだった。

ジェイドは半開きになった窓から忙しなく走るフィオーレ王国軍の兵士を見て、ポツリと言葉を零した。

 

「間に合えばいいが……」

 

 

ハルトが目を覚ましてから、次の日ハルトは自身の体を確かめるように準備運動をして、手を握ったり開いたりしていた。

 

「よしっ!もう動けるな。じゃあ行くか!」

 

「……」

 

エミリアは自身の秘密をハルトに話してから、話しかけても何も返してくれなかった。

ハルトに反応せず1人で洞窟から出て行ったエミリアをハルトは慌てて追いかける。

 

「なあ、どっちに向かってるのか分かってるのか?」

 

「………」

 

ハルトを無視してエミリアはどんどん森の奥に進んでいく。

ハルトは仕方がないなと思って黙ってついて行く。

 

「………なんでついてくるのよ」

 

「仲間だからな」

 

「………ハァ」

 

エミリアは呆れたようにため息をつき、先を進んでいく。

やがて夜になり、2人は野宿をしているがその距離は離れている。

会話もなく、エミリアは目すら合わせないがハルトはエミリアの近くにいた。

 

「………」

 

「………」

 

会話がないため、夜の森の音が2人を包み込むが、ハルトの内心は焦っていた。

 

(気まずっ!)

 

エミリアにバレないように心の中で叫ぶがだれも助けてはくれない。

 

(エミリアは会話しようにも無反応だし……仲良くやりたいんだけどなぁ。空からなんかきっかけでも降ってこねえかなぁ)

 

ハルトが夜空を見上げてそんなことを考えていると、突然空から巨大な卵が降ってきた。

 

ガンッ!!

 

「がっ!?」

 

「きゃっ!な、何?」

 

卵はハルトの顔面にぶつかり、ハルトはその痛みで悶え、エミリアは突然降ってきた卵に驚いた。

 

「卵?なんで空から……鳥の巣なんて見当たらないのに」

 

エミリアは恐る恐る卵に近づき、ゆっくりと触れるとその卵はビクッと動いた。

それに驚き、一瞬手を離すがもう一度しっかりと触れる。

 

(暖かい……)

 

エミリアは両手で卵に触れて、その暖かさをゆっくりと感じる。

それを見ていた鼻を赤くしたハルトはエミリアに話しかける。

 

「その卵どうすんだ?」

 

「……任せて、開け孔雀宮の扉、クックス」

 

エミリアが星霊の鍵から召喚したのは2mはある大きな孔雀だった。

 

「クックス暖めてあげて」

 

エミリアがクックスにそう指示するとクックスはその大きな羽で卵を包み込んだ。

 

「暖めてあげるのか」

 

「うん……放っておいたら可哀想だし」

 

そう言ったエミリアの表情はとても慈愛に満ちたものだった。

ハルトがそれに見惚れているとエミリアはクックスに近づき、片翼を広げたクックスに抱きつき暖をとって目を閉じた。

 

「じゃあ俺も……」

 

ハルトもどさくさに紛れてエミリアに近づこうとするが、近づいた瞬間、クックスがハルトの頭を嘴で小突いた。

 

「イタッ!何すんだよ!」

 

「………」

 

クックスはハルトを敵を見るかのように睨みつける。

ハルトが意地でも近づこうとするが、クックスの突きがそれを邪魔する。

ハルトとクックスの攻防は夜遅くまで続いた。

 

 

朝になり、ゆっくり目を覚ましたエミリアは目の前にある昨日降ってきた卵を優しく撫でる。

 

「目ェ覚めたか、食べ物取ってきたから食えよ」

 

そこに果物を持ってきたハルトが声をかけたが、エミリアはそれより気になることがあった。

 

「なんで顔ケガしてるの?」

 

「なんでもねぇよ」

 

その後2人は森を進むが、ハルトは歩いているのに対して、エミリアはクックスに乗りながら卵をローブで包み込んで抱きつき出来るだけ暖めていた。

 

「意外だな」

 

「何が?」

 

「絶望してるって割にはそうやって優しいところとか」

 

「………誰にも助けてもらえないなんて悲しいじゃない」

 

そう言ったエミリアは悲しそうだった。

自分には誰も助けてくれなかった。

死ぬしかないという世界に絶望してしまっている。

だから、誰も信じられないなら自分だけはそうはならないように助けれる命は助けようと思っている。

 

「………なぁ」

 

ハルトがエミリアに話しかけようした瞬間、彼らの目の前に何かが落ちる。

その衝撃で風が吹き荒れ、土埃が舞い上がり、姿が見えないがハルトは流れてくる匂いで、額から冷や汗が流れ出る。

 

「まじか………」

 

思わず悪態をついたハルトたちの目の前に落ちてきたのは先日ハルトたちを追い詰めたイシュガルの四天王の1人、ウルフヘイム。

 

「漸く見つけたぞ。ガキども」

 

明らかに苛立った様子のウルフヘイムにハルトはどうするべきか思考を巡らせる。

 

(大人しくしておくか?……いや!エミリアのことがバレればどうなるかわからねぇ!!エミリアを庇いながら逃げる?ダメだ!守りきる自信がない!!)

 

自分より強大な敵にハルトは焦りが出始める。

ハルトは一瞬振り返ると、怯えるエミリアが目に入った。

それを見たハルトは決心する。

 

「わ、私が……」

 

「逃げろっ!!」

 

エミリアが自分が身を差し出せば、この場が収まると考えたエミリアは自ら名乗ろうと恐怖で震える声を振り絞るが、それよりハルトが大声でエミリアに向かって叫ぶ。

 

「逃げて……生きろっ!!!」

 

その言葉はエミリアに軽い衝撃を受ける。

 

(生きろ……?)

 

今まで言われたことのない言葉、その言葉はエミリアに深く突き刺さった。

エミリアはウルフヘイムと対峙するハルトの背中を見つめる。

 

「おい!鳥!早くエミリアを連れて行け!!」

 

「わかっているわ!それと某の名はクックス!」

 

「喋れんのかよ!!」

 

クックスはエミリアを乗せその場から離れていった。

ハルトは引きつった笑みを浮かべながらウルフヘイムに構える。

 

「何か勘違いしとるようじゃが、別にワシはお前らを殺しにきたわけじゃないわい」

 

「そんなのわかってんだよ。ただ……」

 

ハルトの両拳から黄金の魔力が灯る。

 

「好きな女の前でカッコつけたいだけだ」

 

ウルフヘイムはそれを見て、ため息をこぼす。

 

「全く最近の若者はァ……戦場に恋愛ごとなんぞ持ち込みおって……

仕置きが必要じゃな」

 

他を威圧する雰囲気を滲ませ、睨んでくるウルフヘイムにハルトは飛びかかった。

 

 

森を駆け抜けるクックスの背中に乗ったエミリアはさっきのハルトの言葉を思い返していた。

 

(生きろなんて……初めて言われた)

 

 

エミリアたちは今ハルトたちが目指しているフラスタ出身だった。

元々エミリアの両親はフラスタ国の専属魔導士であり、国と国王に仕えていた。

そして母親にエミリアが宿ったとき、まだ胎児であるにも関わらず、聖十大魔導士に匹敵するほどの大きな魔力を持つことに驚かれた。

生まれる前から強大な魔力を持つエミリアの事を知った国王は両親にある提案を持ちかけた。

それはフラスタ国が古代から封印してある禁忌『アスラ』を封印してはどうか、と。

その時アスラを封印していた術式が何者かの手により破壊されかけていたのだ。

直すにも古すぎる術式のため、誰も手が出せず、封印されるのを待つだけとなっていたが、その時エミリアの存在が希望になったのだ。

その希望とはエミリアとアスラを生体リンク魔法で繋げ、エミリアの体内に封印することだった。

しかしその代償でエミリアは魔法がほぼ使えなくなってしまうのは明らかだったが、エミリアの両親はそれを快諾した。

というのも、エミリアの両親はエミリアを恐れていたのだ。

兄であるエリオでも魔法の才があるとはいえ、それは年相応のもの。

育てていけば偉大になると思えるものだった。

しかし、エミリアは生まれる前から化け物級の力を持った子。

自分たちで制御できるかわからなかった。

そこで魔力をほぼ全て奪うことで、自分たちの心の平穏を保とうとした。

そして生まれたばかりのエミリアにアスラを封印する時………

 

「それではアスラをお前たちの娘に封印する……良いな」

 

「はい!早くしてください!!」

 

「早くやりましょう。妻がもう限界です……」

 

フラスタ国の奥地に広がるアスラが封印されている古代都市で、フラスタ国王がエミリアの両親に確認を取ると母親は産んだばかりというのに気が狂ったように催促し、父親はやつれた様子だった。

母親は体内から自分のものではない強大な魔力を浴び続け、気がおかしくなってしまい、それを世話していた父親は疲れてしまったのだ。

 

「わかった……それでは始めよう」

 

国王の合図でエミリアの父親が魔法陣を台座に寝かされたエミリアを中心に魔法陣を展開する。

そして、その後ろで城で仕える全魔導士がアスラが封印されている巨大な魔水晶に向かって魔法陣を向けると、魔水晶からエミリアに向かって赤黒い光が何本も放出されて、エミリアの体に吸い込まれていく。

入った同時にエミリアが泣き叫ぶ。

それは生まれたばかりの産声のものではなく、痛みに耐えるものだった。

 

「すまない……すまない……!」

 

エミリアの父親は涙を流し、痛みに耐えるエミリアに謝りながらながら、魔法陣を展開し続ける。

やがて全ての光がエミリアに吸い込まれると、泣き叫んでいたエミリアも気絶したように泣き止んでいた。

 

「これで終わったのか……?」

 

国王のその一言に全員がホッとしたような顔になるが、その瞬間エミリアの体から光が溢れ出し、国王たちを光で包んだ。

光が止むとそこにはエミリア以外生き絶えた人の姿があった。

 

 

国王の謎の突然死、それは国中に広がり、大きな波紋を呼んだ。

それにより新しい国王が王位を継承したが、前国王に比べて、政治については全くの素人で好きなようにしたため、内戦が勃発。

闇魔法集団にも付け込まれる事態となってしまった。

 

 

エミリアはエリオを預けられていた親戚が見つけ、国のはずれにある村で住むことになった。

内戦の影響で村は貧しくなり、そこではエミリアを歓迎したものではなかった。

エミリアを睨みつけ、無視したりなどした。

さらには国がこうなったのはお前のせいだとも言う者や、死んでしまえばいいのにとも言う者がいた。

それでもエミリアに危害を加えなかったのはアスラを恐れていたからだ。

エリオが唯一の家族であるエミリアに何度も会いに行こうとするが親戚がそれを止めた。

親戚が将来有望なエリオをエミリアの近くにいさせたくないのか、出来るだけ離していた。

結局エミリアは孤独な生活だった。

 

 

「なんでアイツは私のことを……」

 

そう呟いたエミリアはクックスに声をかける。

 

「クックス!止まって!」

 

「どうしました主人殿?」

 

「アイツがいるところまで戻って!」

 

「なりませぬ!あそこに落ちてきた者はまさに化け物。某たちが行ったところでどうにもなりませぬ。今はあの少年が時間を稼いでいる間に出来るだけ離れるのが得策!」

 

クックスが言っているのはその通りだ。

エミリアが戻ったところでどうにもならないのは確かだ。

それでもエミリアは戻りたかった。

なぜハルトがそこまで自分に優しくしてくれるのか、なぜ生きろと言ってくれるのか。

どうしても知りたかった。

 

「大丈夫。彼を召喚するわ」

 

「それこそいけませぬ!彼奴を呼ぶと主人殿の魔力が……!」

 

「いいから戻って!お願い!」

 

「〜っ、どうなっても知りませぬぞ!」

 

クックスは方向転換し、ハルトがいる方に向かって行った。

 



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第121話 星の狩人

まるで大砲を打ったかのような打撃音が森の中に響くとハルトが両腕に剛腕を展開して、ウルフヘイムの拳を受け止めるが殴られた勢いが止まらず、木に叩きつけられる。

 

「がはぁっ!」

 

「その年でワシの拳を受けて意識があるとはなぁ……中々才能があるわい。修行を積めば良き魔導士になれるはずじゃ」

 

「年寄りは一々上から目線で鬱陶しいな……いい加減くたばったとけよ」

 

ウルフヘイムの上からの発言にハルトも負けじと言い返すが、肩で息をするほど疲れと痛みが蓄積していた。

 

「痩せ我慢も大概にしておいたほうがいい……大人しくしとりゃぁ、拳骨一発で済むわい」

 

「そういうわけにもいかないんだよ!!」

 

ハルトはウルフヘイムに向かって魔力を帯びた拳を振るう。

連打を叩き込むがウルフヘイムの岩よりも硬い皮膚には効いておらず、ガードすらしていない。

 

(エミリアはどこまで逃げれた!?ここから離れても大丈夫か!?)

 

ハルトはウルフヘイムの硬い皮膚を殴り、血がにじみ出る拳を振りながらエミリアの安否を頭の中で気にかける。

そしてそれは殴られているウルフヘイムにもわかってしまった。

 

「拳に力が入っとらんのう……さっきの小娘のことを考えとるのか?」

 

「!!」

 

ハルトの顔が驚愕に染まる。

その隙をついてウルフヘイムはハルトの顔を掴み上げる。

 

「ぐああぁっ!!」

 

万力のように力を込められたハルトの顔はギリギリと嫌な音を立てる。

 

「か弱い少女を身を呈して守るのは見上げた根性じゃ……じゃがそれだけか?なぜお前たちはあの少女を守る?あの娘はいったい何者なんじゃ?」

 

ウルフヘイムの質問にハルトは歯を食いしばって答えない。

 

「答えんか!!」

 

「あああぁっ!!?」

 

ウルフヘイムが少し力を加えるとハルトは苦しそうな声を上げる。

ウルフヘイムからしてみれば少し力を加えただけかもしれないが、それは常人からしてみればとんでない力だ。

 

「ハハ……」

 

「何がおかしい?」

 

ハルトが突然笑みを浮かべた。

ウルフヘイムが睨むが、ハルトはそれに臆さず笑みを浮かび続ける。

 

「何者かなんて関係ねえ。ただ……」

 

ハルトの足に魔力が纏われ、振り上げる。

 

「あいつに笑顔になって欲しいんだッ!!!」

 

「ガッ!?」

 

振り上げた足はウルフヘイムの顎に直撃し、ハルトを掴んでいた手を放した。

 

「アイツがこの世界に希望なんてないって言うなら俺が希望になってやる!!絶対に死なせねえっ!!好きな女を守れなきゃ、男じゃねぇんだよ!!!」

 

ハルトの拳に今までにない魔力が込められる。

 

「覇竜の螺旋拳!!!」

 

ハルトの拳がウルフヘイムの横頬に突き刺さる。

まともに入った拳はウルフヘイムの体を仰け反らせた。

が、その瞬間ウルフヘイムはハルトの殴ってきた腕を掴み、地面に叩きつけた。

その威力に地面が陥没する。

 

「がはっ!!」

 

「なかなか気合が篭った拳じゃ……だが、それとこれは別じゃわい!小僧!お前がワシに敵意を向けるならこっちもお前を敵と見なしてお前を倒す!」

 

ウルフヘイムは倒れたハルトを見下ろしながら睨みつける。

ハルトが痛みで震える体に鞭を打って立ち上がろうとすると、ウルフヘイムは容赦なくハルトの背中に拳を何度も叩きつける。

 

「がっ!?あ"っ!!」

 

最早虫の息のハルトはボヤける視界にウルフヘイムが拳を構える姿をかろうじて捉える。

 

(や…べぇ…逃げない…と……)

 

朦朧とする意識の中、逃げようとするが体が動かない。

 

「これで終いじゃ。話は後で聞いてやる」

 

ウルフヘイムはハルトに向かって、その拳を振り下ろした。

ハルトは目を閉じて痛みに耐えようとするが、いつまで経っても痛みが来ず、目をゆっくり開けるとウルフヘイムの拳を片手で受け止める美男の姿があった。

 

「よく言った、少年。後は我輩に任せろ」

 

ハルトに優しく労わるように言いながら、その言葉には逞しさが溢れる。

 

「このオリオンにな」

 

 

オリオンが助ける少し前、エミリアはハルトとウルフヘイムが戦っているすぐ近くの木に隠れながら、機を窺っていた。

 

(卵は少し離れたところに置いてきたから大丈夫だと思うけど……木に隠れていてもあのウルフヘイムって奴の魔力がバシバシ当たって辛い)

 

エミリアはウルフヘイムから流れる圧倒的な魔力に冷や汗が流れる。

 

(なんでアイツはあんなに戦えるの……?)

 

エミリアが戻ってきた理由はハルトを助けることもそうだが、もう一つはハルトに何故自分を助けたのか本当の理由を知りたいからだ。

そしてハルトがウルフヘイムに捕まり、痛みつけられている姿を見て懐から金と銀の鍵、オリオンの鍵を取り出した。

 

(このままじゃアイツがやられる!)

 

エミリアが鍵に魔力を込める瞬間、ハルトの言葉が聞こえてきた。

 

「あいつに笑顔になって欲しいんだッ!!!アイツがこの世界に希望なんてないって言うなら俺が希望になってやる!!絶対に死なせねえっ!!好きな女を守れなきゃ、男じゃねぇんだよ!!!」

 

それを聞いたエミリアは顔が熱くなって、両頬を両手で押さえて、恥ずかしそうにする。

 

(す…好きってどういうことよ!?あ、アイツあんな恥ずかしいこと大声で……!!)

 

エミリアは混乱する頭の中でなんとか整理をつけると、再びオリオンの鍵を構える。

 

(今はアイツ……ハルトを助ける!そ、それからさっきの話を聞けばいいわ!)

 

「開け!狩人宮の扉!オリオン!!」

 

 

ハルトを助けたのは最強の星霊の1人である狩人宮のオリオンだ。

ウルフヘイムが力を込めてオリオンを押し潰そうとするが、オリオンはビクともしない。

 

「くっ!貴様は何者じゃ!!」

 

「言ったであろう。オリオンだと!」

 

オリオンはウルフヘイムの拳を押し返し、即座にウルフヘイムの懐に入り込み、鳩尾に拳を叩き込む。

ハルトの攻撃が全く通用しなかったウルフヘイムの体にオリオンの拳が深々と突き刺さる。

 

「ぐおぅっ!?」

 

オリオンはその場で跳び上がり、ウルフヘイムの顎に回し蹴りを放ち、ウルフヘイムを吹き飛ばす。

 

「だ…誰だ?」

 

「ハルト!大丈夫!?」

 

「エミリア!?何で戻ってきたんだ!!」

 

「それは…心配だったから……」

 

エミリアが少し恥ずかしそうに言う姿に敵が目の前にいると言うのにハルトはドキドキしてしまう。

 

「フッ……若いな」

 

オリオンはそれを微笑ましい物を見るような目で見る。

 

「よそ見をするな!!」

 

「していないであろう」

 

ウルフヘイムが拳を振るうがオリオンはそれを捌いてカウンターで拳を顔に叩き込む。

殴られ、後ろに下がるウルフヘイムにオリオンは腹に掌底を叩き込み、吹き飛ばした。

 

「ふむ。こんなものか……」

 

「すげぇ……あの化け物を一方的に倒しやがった」

 

「オリオンは星霊の中でもトップクラスの実力なの。今の私じゃ本来の力の半分しか引き出せないんだけどね」

 

吹き飛ばされたウルフヘイムを見て、ハルトはオリオンの強さに戦慄する。

すると吹き飛ばされたウルフヘイムが起き上がり、オリオンを睨む。

 

「貴様ァ……よくもやってくれたなァ。ワシをここまで痛みつけた奴は久しぶりじゃ。貴様に敬意を評して本気デ戦ッテヤル……ウオオォォォォォッ!!!!」

 

ウルフヘイムから魔力が溢れ出し、周りの木や地面倒れ、捲れる。

獣のような体はより大きくなり、至る所から刃物のような突起部が生える。

ハルトとエミリアはその姿、魔力の大きさに何よりも先に恐怖を感じた。

オリオンはそんな2人を守るように彼らの前に立つ。

 

「行クゾ」

 

その瞬間ウルフヘイムの姿は消え、オリオンの頭を横から捕まえていた。

 

「!!」

 

「グオォォォォッ!!!」

 

オリオンは地面に叩きつけられ、地面にバウンドしながらも態勢を整えるが、もう目の前にウルフヘイムの拳が迫っていた。

 

「チッ!」

 

オリオンは腕で顔を防ぐが、吹き飛ばされてしまう。

吹き飛ばされたオリオンはすぐさまウルフヘイムに近づき、殴打の嵐を食らわせる。

しかし、先まで効いた拳がウルフヘイムの分厚くなった皮膚に全て防がれる。

 

「なんと……」

 

「離レロ!!」

 

ウルフヘイムはオリオンの腕を掴み投げる。

投げられたオリオンに向かってウルフヘイムは口を開き、口に光源が現れ、集まっていきオリオンに放たれる。

放たれた光線はオリオンに直撃し、大爆発を起こした。

 

「オリオンッ!」

 

「ダメだ!今行ったら巻き込まれるぞ!!」

 

エミリアがオリオンを心配するがハルトが抑える。

光線による煙が晴れると、そこには片腕から血を流すオリオンが立っていた。

 

「やるな……人間だと思って油断していたが、どうやら甘かったようであるな」

 

オリオンは傷ついた右腕をウルフヘイムに向け、人差し指を伸ばすと手から銀の光の弓が現れる。

 

「『星弓アルテミス』……愛しい人よ、我輩に力を」

 

オリオンがゆっくりとした動作で弦を引く動作をするとそこに銀の矢も現れ、ウルフヘイムに向けられ放たれる。

 

「ソンナモノ……ッ!!」

 

ウルフヘイムは最初は舐めた態度で受け止めようとしたが、目の前に矢が来た瞬間、体を後ろに逸らし、矢を避けた。

 

「なんだ今の?矢を避けた?」

 

「オリオンの武具の一つ、『星弓アルテミス』。あれに撃たれた者は苦痛を感じずに命を落とす」

 

オリオンが矢を連続で放つがウルフヘイムは矢を避けていき、木をもぎ取り受け止める。

ウルフヘイムは矢を受け止めた木をオリオン目掛けて投げる。

オリオンはそれを跳んでかわすが、ウルフヘイムは間髪いれずに次々と木を投げつける。

オリオンは体を晒したり、木を踏み台にして攻撃を避けるが、どんどん逃げ場がなくなっていく。

そしてオリオンが行こうとした先に木を落とし、追い込まれたところを狙ってウルフヘイムは光線を放つ。

 

「コレデ終ワリダ!!!」

 

ウルフヘイムから放たれた光線はオリオンに向かっていき、オリオンはそれを真っ直ぐに見つめ、弓を構え、一言呟いた。

 

「アクセル」

 

その瞬間オリオンの姿は消え、光線はオリオンが立っていたところを通過し、大爆発を起こした。

しかしそれと同時にウルフヘイムの体に数本の銀の矢が突き刺さっており、ウルフヘイムが元の小柄な爺の姿になって倒れていた。

 

「な、何が起こったんだ?オリオンの姿が消えて、気づいたらあの化け物が倒れてやがる」

 

「我輩がやったのだ」

 

「うおっ!?いつのまに!?」

 

いつのまにかオリオンはハルトたちのすぐ側に立っていた。

ハルトは痛む体を抑え、倒れたウルフヘイムに近づく。

 

「死んだのか?」

 

「いや、元々殺す気なんぞなかった。気絶するように威力を抑えたものであるしな。それにこの者も大したものである。急所に当たらないように寸前で体を晒した」

 

オリオンは感心したように言った。

すると、後ろで立っていたエミリアが突然フラつき膝から崩れ落ちた。

 

「おい!エミリア!大丈夫か!?」

 

「ふむ、ここら辺が限界か。少年後のことは頼んだぞ」

 

「えっ、ちょっ、おい!どういうことだよ!」

 

オリオンはそのまま何も言わずに星霊界に帰っていった。

 

「大丈夫……じゃないよな?どうしたんだ?」

 

「ご、ごめん……私オリオンを召喚するとほとんどの魔力をつかっちゃうの……使った後は1日2日は動けなくなるし……」

 

ハルトはエミリアを背負い、取り敢えず隠れれるところを探していると背負われていたエミリアがか細い声でハルトに話しかけてきた。

 

「ねぇ、ハルト……」

 

「どうした?」

 

「なんで……私を助けてくれたの?」

 

「なんでって…そりゃあ……」

 

「私のことが…好きだから?」

 

「なっ!?えっ!?な、なんで!!?」

 

エミリアが知らないハルトの秘密を言われ、慌てふためく。

 

「わ、私はハルトのこと……」

 

「お、俺のこと……?」

 

エミリアの次の言葉を緊張しながら待つハルト。

 

「………」

 

「エミリア?」

 

しかしいつまで経っても続きの言葉が出てこないエミリアを不思議に思い、後ろを見るとエミリアは寝てしまった。

 

「………そりゃねぇよ」

 

ハルトのガッカリした声が漏れるが、エミリアの寝顔を見て、ふと笑みがこぼれる。

 

「まっ、いっか」

 

 

ハルトが卵が置かれていた洞窟を見つけ、今日はそこに野宿することを決め、エミリアを葉っぱを集めた寝床に寝かせ、焚き火をつけながら、エミリアを見ていた。

 

「やっぱり可愛いよなぁ。思えばあれが一目惚れってやつか、まさか俺がするなんて思わなかったぜ。なあ?」

 

そう言ってハルト、隣に佇んである卵に話しかけた。

勿論返事が返ってくるわけでもないが何故かハルトは卵に向かって話しかけていた。

自分の中でエミリアに対する想いを整理したかった。

 

「一目惚れして、守ってあげたいと思った。今はそれだけ十分か」

 

そう言ってハルトが少し微笑むと、卵も少し震えた。

 

「お!お前もそう思うか!」

 

するとエミリアが身じろぎしだした。

 

「どうした?」

 

「さ…さむい……」

 

「寒いって……」

 

ハルトがエミリアの手に触れると氷のように冷たかった。

 

「冷たっ!?魔力が無くなって体力も無くなっているのか。どうすりゃ……」

 

取り敢えずハルトは卵をエミリアの横に寝かせ温めるようにした。

 

「これでどうだ?」

 

しかし、エミリアはまだ寒そうに震えている。

 

「どうすりゃあ……よし」

 

そう言ってハルトは横になっているエミリアの後ろに寝転がり、エミリアを後ろから抱きしめた。

 

「こ、これでだいぶと暖かいだろう!」

 

ハルトは少し興奮した様子で自分に言い聞かせるように言うと、心なしかエミリアの表情は安心したようなものになった。

 



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第122話 変わる思い

ウルフヘイムとの戦いから翌日。

エミリアは暖かなものに包まれていることを感じながら目をゆっくりと開けると、洞窟のゴツゴツした壁が目に入った。

働かない頭で何かと考えていると、声が聞こえてきた。

 

「起きたか?」

 

「ハルト……?」

 

「前とは立場が逆になったな」

 

横になっているエミリアの横でハルトが座っており、その手元には果物とイモリやらの焼いたものが置いてあった。

 

「食べれるか?」

 

「うん……果物ぐらいだったら」

 

エミリアは手渡された果物をゆっくりと食べる。

 

「今は取り敢えず食って休んで魔力を回復させるんだ。一晩寝ても魔力がこれっぽっちも回復してないからな。……って言いたいところだけどあの化け物がいつ復活するかわかんねぇからな。飯食ったら移動すんぞ」

 

「……うん、だけど私まだ歩けないよ?」

 

「俺が背負うさ」

 

「卵はどうするの?私を背負いながら運ぶのは難しいでしょ?」

 

「それなら、ほら」

 

ハルトがエミリアの足元を指すとハルトの上着をかけてあった足からもぞもぞと動く何かがいた。

エミリアが上着をめくるとそこには白と黒の模様がある猫だった。

 

「にゃー!」

 

「ねこ?」

 

猫というよりは少し大きく、何より今エミリアの目の前で飛んでいるのだ。

 

「なんなんだろうなその生き物」

 

「わからないけど……」

 

エミリアの胸に顔を埋める猫をハルトを睨む。

エミリアは猫を抱きしめて、その暖かさを確かめる。

 

「あったかい……」

 

微笑みながらそう呟くエミリアは疲れていてもとても綺麗に見え、思わずハルトは見惚れてしまう。

 

「どうしたの?」

 

「え?いや何でもない!」

 

見惚れていたことを慌てて隠すハルトの様子にエミリアはクスッと笑った。

 

「名前どうする?その猫?」

 

「うーん……ブルゾン?」

 

「え?」

 

「に"ゃーー!!!」

 

エミリアのネーミングセンスの無さに呆気にとられるハルトと首を激しく降ってマタムネは拒否した。

 

「ま、まぁ名前はゆっくり考えようぜ。とにかく今は移動しよう」

 

「いいと思うんだけどなぁ、ブルゾン」

 

「ニャ〜……」

 

猫の疲れたような不安そうな鳴き声が響いた。

その後ハルトはエミリアを背負い、猫を頭の上に乗せて森の中を歩きながら、猫の新しい名前を考えていたがあまりいい名前が思いつかないのか、ハルトはずっと唸るばかりで、エミリアは次々と名前を思いつくがどれも奇抜というか、なんとも言えない名前ばかりで猫は否定している。

そしてもうすぐ夕暮れになるという時にハルトの目の前にあるものが見えてきた。

 

「あれは……」

 

「それじゃあねぇ……どうしたの?」

 

ハルトが見る方向にエミリアも目を向けるとエミリアは少し悲しそうな表情になる。

彼らの前に見えてきたのは荒れた小さな村だった。

捨てられて荒れた感じではなく、

「今日はここで寝よう。夜は危険だからな」

 

「…………うん」

 

エミリアは力なく答えることにハルトは少し違和感を感じたが、とりあえずは寝れる家に入りしばし休息をとった。

 

ふと目が覚めたハルトは周りを見ると暖炉の側で猫と寝ていたはずのエミリアの姿がなく、慌てるハルトだがすぐ外からエミリアの匂いがしたので外に出るとエミリアは周りの家や建物を見ていた。

 

「ここ……私が育った村なの」

 

エミリアは悲しそうな、だがどこか怒りが込められているようにも感じた。

 

「私が村を出るときは何もなかったのに、多分私を狙ってやったんだと思う………何でかな?村を壊されたはずなのに悲しいと思わないなんて……」

 

自分が虐げられて育った村に愛着なんて湧かないものだが、エミリアはそんな自分に悲しくなっていた。

ハルトはそんなエミリアに何か言えるほど、人の気持ちが分かるわけでもない。

そんな自分にできることをないかと考えた末、ハルトは少しおどおどしながらもエミリアの手をそっと握った。

エミリアも少し驚いたが、やがてハルトの手を握り返す。

 

 

家の中に入り、エミリアの話を聞いていた。

 

「私が物心ついた頃から人の悪意に晒されながら生きてきた。だからもうこんな世界どうだっていいと思ってた……だけど好意をハルトみたいに向けてくる人は初めて……」

 

エミリアはハルトを少し恥ずかしそうに見つめる。

見つめられたハルトは照れながらエミリアと話す。

 

「エリオは違うのかよ?」

 

「エリオは村の人達に頼まれたからそうしているだけだと思う……そんなに話したことないし……でもアンタは違う。純粋に私に好意を向けてくれるし……」

 

エミリアはハルトがウルフヘイムと戦った時に叫んだ『好き』の言葉を思い出し、暖炉に照らされた顔が少し赤くなる。

 

「私はハルトのことを……」

 

(えっ!?いきなりか!?まだ心の準備が!!)

 

そう言う雰囲気になったことは14歳のハルトにも分かり、突然のエミリアの告白紛いな雰囲気に慌ててしまう。

 

「良い人……!だと、思う……」

 

「い、良い人?……そっか、そうだよな……」

 

告白だと思ったハルトは少しガッカリし、肩を落とした。

 

「ハルトみたいな良い人はいるのはわかっているんだけど……やっぱりこんな世界は好きになれない……」

 

エミリアの言葉には恨みが込められているようにハルトは感じた。

生まれてから周りが敵しかいなかったエミリアの心情を、ハルトもボスコという生きていくために戦ってきたハルトには少しわかった。

しかし、ハルトには敵が多かったがその代わり仲間も多かった。

仲間や友人、家族がおらず、ずっと1人だったエミリアの闇をハルトは全部知ることはできない。

 

「それでも俺はお前に心の底から笑ってほしい……って思ってる」

 

「ハルト……」

 

気の利いたことを言えないハルトにはこんなことしか言えない。

しかし、それでもエミリアの胸に暖かいものが広がる。

 

「ありがとう」

 

微笑むエミリアを見てハルトはまた顔を赤くしてしまう。

するとそこに寝てたはずの猫が戻ってきた。

 

「どこ行ってたの?」

 

エミリアが猫を抱っこしてあげると今まで「にゃー」としか言わなかった猫が別の言葉を話したのだ。

 

「ごじゃるー!」

 

「ごじゃる?」

 

「喋った!?」

 

ハルトは完全に猫だと思っていたために喋ったことに驚くと、猫が持っていた何かを落とした。

 

「何これ?」

 

「これってシネマ魔水晶じゃないか。これ見てごじゃるとか言い出したのか」

 

ハルトが拾って見るのは侍がかっこよくポーズを決めた写真が貼られている厚紙の本の真ん中に魔水晶が取り付けられたもので、手軽に映画を観れるものだ。

 

「『忠義の侍 マサムネ』か。だいぶと古いな」

 

「マサムネ……ねえ、ハルト。この子の名前マタムネってどう?」

 

「マタムネ?」

 

「マサムネじゃ少しかっこよすぎるから、猫が好きなマタタビのマタを取って『マタムネ』なの」

 

「ごじゃるー!」

 

「いいんじゃねえか。こいつにぴったりだと思う」

 

ハルトがマタムネの頭を撫でようと手を伸ばすが猫、改めマタムネはプイッとエミリアの方を向き、エミリアの胸に頭を擦り付けた。

 

「あ……?」

 

「どうしたの?甘えたいの?」

 

「ごじゃる〜」

 

(このネコォ……なんて羨ましいことを……!)

 

ハルトは顔に出さないようにしているが心の中ではマタムネに怒りを覚えた。

 

「今日はもう寝よう?明日も早いし」

 

「そ、そうだな。じゃあマタムネは俺が預かるよ」

 

「いやでごじゃる」

 

「テメェ……」

 

結局ハルトはエミリアと一緒に寝るマタムネを羨ましながら、1人寝た。

 

 

翌日、街に向かいなが2人は会話を楽しんでいた。

どうやらエミリアはハルトに心を許したらしく、仲睦ましい。

 

「ハルトはボスコ出身なんだ。ボスコってどんなところなの?」

 

「一言で言えば……無法地帯?」

 

「そうなの?」

 

「強盗、喧嘩は日常茶飯事で生きていくには厳しかったな」

 

「中々ハードな幼少期ね……」

 

エミリアは少し引きつったような表情だった。

その時今までハルトの頭の上で寝ていたマタムネが目を覚まし、指をさした。

 

「ごじゃるー!」

 

「どうした?」

 

「ハルト、あれ」

 

背負われていたエミリアが見る先には街が見えた。

 

「ついたな」

 

「うん……」

 

2人は街に入り、人目につかないように街の中を進んで行くが人の姿が見られなかった。

 

「全然人がいないな」

 

「みんな避難してるのよ。ハルトはみんなの居場所がわかるの?」

 

「おう、カミナの魔力の匂いがするからな」

 

進んで行くとカミナたちが隠れている家にたどり着いた。

 

「あそこだな」

 

「おい!お前たち!ここで何している!!」

 

その瞬間、背後から声をかけられた。

振り向くとフィオーレ王国の兵士が2人立っていた。

 

「今は内戦中だ。外に出ていると危ないぞ」

 

声をかけた兵士がハルトたちに注意するともう1人の兵士が怪訝そうな顔をした。

 

(まずい……)

 

「なぁ、こいつらってウルフヘイム様が言ってた奴らじゃないか?」

 

「オレンジ髪と金髪の子ども2人……確かにそうだな。少し話を聞かせてもらうぞ!」

 

兵士がハルトたちに手を伸ばし、身構えるハルトたちだが次の瞬間兵士たちは膝から崩れ落ち、寝てしまった。

 

「縛道の四十一、睡勺香」

 

「カミナ!」

 

「無事にたどり着いたか、こっちだ。拠点を移した」

 

カミナの案内により町から離れた小屋に連れてこられた。

そこに入るとジェイドたちが所々怪我をしていた状態だが、全員揃っていた。

 

「エミリア!無事だったか!?」

 

「うん、ハルトが守ってくれたから」

 

エミリアが笑みを浮かべながらそう言うと詰め寄ったエリオは少し面を食らった表情になる。

 

「そ、そうか……それは良かった……」

 

エリオは少しショックを受けた様子だった。

 

「ごじゃるー!」

 

「ねえ、この猫何?」

 

「さあ?ハルト君たちに着いてきたらしいけど」

 

「ハルトこの猫は何だ?……ハルト?」

 

カミナがハルトに聞くが、ハルトはそれを無視してジェイドに近づく。

 

「ジェイド、少し話がある。一緒に来てくれ」

 

「何だ?ここで話せばいいだろう」

 

「少し込み入った話なんだ。2人で話したい」

 

小屋から出て行く2人をエミリアは少し不安そうに見つめていた。

小屋からだいぶ離れた雑木林の中で向き合う2人の間には緊張感が流れていた。

 

「単刀直入に言う。エミリアを殺す気なのか?」

 

「……何のことだ?」

 

「エミリアから聞いた。超魔獣って奴を封印するためにエミリアを殺すんだろ?」

 

表情が変わらなかったジェイドが顔をしかめ、ため息を吐いた。

 

「エミリアめ……あれほど話すなと言ったのに、隠していても無駄だと思うから話すがその通りだ。この国を救うためにエミリアを死んでもらう」

 

またいつもの冷たい表情に戻ったジェイドは淡々とそう告げ、それを聞いたハルトは激昂した。

 

「ふざけんな!!エミリアが死んでもいいって言うのかよ!!」

 

「1700万人の命と1人の命、どっちが大事かなんて比べるもないだろう」

 

「1人の命も救えない奴が国を救えるかよ!」

 

睨み合う2人だが、ジェイドはハルトに背を向けて去ろうとする。

 

「アーウェングス、お前は仕事から降りてもらう。もうギルドに戻っていいぞ」

 

秘密を知ってしまったからには今回の作戦には支障が出るためハルトには退場してもらうしかない。

本当のことを皆に知られてしまえば、カミナはあの性格のため犠牲を厭わないし、ラナ、クスコは契約があるため裏切ることがないと思うがエリオは違う。

エリオはエミリアに対して過保護が過ぎるためこのことを知られてしまえば、エミリアを連れてどこかに逃げてしまうかもしれない。

そうなってしまえば面倒なことになってしまう。

 

「俺に考えがある。この国もエミリアも助ける方法だ」

 

「……却下だ。急作りな作戦なんて失敗するだけだ」

 

「ならこのことを皆んなに言う」

 

ハルトがジェイドの横を通り過ぎようとした瞬間、翡翠の剣がハルトの首に添えられた。

 

「余計なことをするな。黙ってこの場から消えろ」

 

「だったら俺の作戦に乗れ」

 

「無理だ」

 

殺気が込められた視線に常人なら震え上がるがハルトは物ともせず、ジェイドを睨む。

そしてハルトが魔力を纏った拳でジェイドの剣を弾く。

 

「じゃあこっからはフェアリーテイルらしく力づくで俺の言うことを聞いてもらう」

 

「……馬鹿か?誰が聞くか」

 

その瞬間ハルトはジェイドの顔めがけて殴りかかった。

ジェイドは寸前に避けたが頬に拳が掠り、擦り傷ができてしまう。

 

「正気か。仮にも俺は一国の王子だぞ」

 

「一国の王子だろうが仲間を殺そうって言うなら止めてやるよ」

 

翡翠と黄金がぶつかる。




お久しぶりです。
色々と忙しく投稿できませんでしたが、今年中に最後の投稿ができました。
皆さん良いお年を


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第123話 神剣フィオーラ

ハルトたちかハルトが拳の連打を放つがジェイドは全てを避け、鞘に入った剣の腹で受け流す。

 

「覇竜の剛拳!!」

 

強力な正拳突きをジェイドは剣で受け止めた。

ギリギリと音がなるハルトの拳とジェイドの剣。

押し切ろうとするハルトの力にジェイドは少しずつ押されていく。

 

「フッ!」

 

ジェイドは少し刀身をずらし、ハルトの力をずらすと拳を上に打ち上げた。

それと同時に鞘も上に飛んでいき、翡翠色の刀身が現れる。

ジェイドはハルトの顔に向かって突きを放つ。

 

「危ねっ!!」

 

ハルトは寸前のところで突きを躱し、少し頬を切るだけだった。

 

「覇竜の旋尾!!」

 

蹴りを放つがジェイドはそれも容易に躱し、剣を構える。

再び両者はぶつかり合い、魔力を帯びた拳と剣が何度も打ち合う。

魔力を帯びたハルトの拳は鋼鉄にも勝る強度を持つが暫く打ち合うと変化が現れた。

 

「ぐっ!?」

 

「……」

 

ハルトの右腕がジェイドの切り上げで縦に斬られてしまったのだ。

 

「イッテ……」

 

血が流れる右腕を見るハルトはそこまで深くないと判断し、再び剛拳を放とうと右拳に魔力を込めるが籠めた魔力が霧散してしまった。

 

「は?」

 

「シッ……!」

 

突然霧散した魔力に驚いたハルトにジェイドは容赦なく斬りかかる。

ハルトは一端距離を取郎とするがジェイドがそれを許さず、剣を振り続ける。

 

「クソッ……覇竜の踏破!!」

 

足に魔力を込め、地面を思いっきり踏みつけると辺り一面に魔力の波がハルトを中心に広がりジェイドを離す。

また右拳を作ろうとするが右腕に力が入らない。

 

「力が出ねぇ……その剣、神器か?」

 

「正解だ。『神剣フィオーラ』我が国に伝わる伝説の剣だ」

 

「チッ、やっぱりそうかよ。その剣見てから体がゾワゾワすんだよ」

 

「………神器ってのは色々とカテゴリーがあるらしい。殺すためのものもあり、守るためのものもある。この剣は殺すためのものだ」

 

ジェイドは剣をハルトに見せるように掲げる。

ハルトはそれだけで剣への嫌悪感が強くなる。

 

「『ドラゴンキラー』、それがこの剣のカテゴリーらしい」

 

「『ドラゴンキラー』……俺たち滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に喧嘩売ってんのか?」

 

そう強がって見せるが冷や汗が止まらない。

 

「フィオーラの能力は『魔力切断』。魔力を断ち切り、通常のダメージより数倍のダメージを負わせるんだが……どうやら『ドラゴンキラー』の特性も出ているみたいだな」

 

ハルトが斬られた腕に目を向けると傷がさっきより大きくなっていた。

 

「ぐっ……!!」

 

痛みに堪らず膝をつき、右腕を抑える。

 

「滅竜魔導士は自身の体をドラゴンに変えて戦う。この剣はお前らにとっては毒だな」

 

ジェイドは再びハルトに斬りかかり、ハルトは避けることしかできなくなった。

右腕に斬撃を受けてから体が怠くなり、思うように動けない。

これもドラゴンキラーの効果なのだろうか。

 

「さっきまでの威勢はどうした?俺を倒してエミリアを救うじゃないのか?」

 

「う、るせェッ!!」

 

刀身を殴りつけ、一端距離を取ろうとしたが足に力が抜け倒れてしまう。

 

(力が……!?)

 

「剣が当たらなくてもお前から溢れている魔力は斬ることはできた。今のお前はほぼ魔力ゼロだ」

 

ジェイドは膝をついて、疲労が濃いハルトの首に剣を添える。

 

「諦めろ。エミリアには死んでもらう、この国のためにな」

 

ジェイドは殺気と覚悟を帯びた目でハルトを見下ろしながらそう告げる。

彼には彼なりこの国のために何でもする覚悟があるのだ。

たとえそれが人に憚れることでもだ。

将来国を背負って立つ者としての覚悟がジェイドには既にできている。

しかし、覚悟ができているのはジェイドだけではない。

 

「諦めてたまるかよ……」

 

そう呟いたハルトは添えられた剣の刀身を掴む。

 

「っ!こいつ……」

 

ジェイドは手を離そうと引っ張るがビクともしない。

 

(こいつ、どこにこんな力が……)

 

神剣フィオーラにより、魔導士の命とも言える魔力はほぼ0のはずだ。

だが、ハルトから感じられる魔力はどんどん大きさを増していく。

 

「アイツには心の底から笑って欲しいんだよ」

 

「それはお前の勝手な欲望だろう……!」

 

「ああ、俺の我儘だ。だから……押し通す!!覇竜の剛拳!!」

 

ハルトの拳がジェイドの腹に突き刺さる。

 

「ごはぁっ……!」

 

吹き飛ばされたジェイドは木に叩きつけられ、腹の中のものが出そうになる。

 

「そんな思いが俺の覚悟に勝てると思うのか?国を背負う覚悟に!!」

 

ジェイドはフィオーラを構え、魔力を解放する。

周りの空気が一気に張り詰め、剣が魔力を帯びて僅かに光る。

ジェイドが一歩踏み出すだけで、ハルトの懐に入り上段から肩を斬るり、ハルトの肩から血が激しく飛び散る。

しかしハルトは肩に剣を押し付け、刀身を掴んでジェイドを逃がさない。

 

「俺には国を背負う覚悟なんてわかんねぇよ……だけどな!惚れた女を救うためだったらなんだってしてやる覚悟ならあんだよ!!国だろうが!世界を滅ぼす化け物だろうが!俺が全部ぶっ倒してやるよ!!」

 

「……っ、このバカが!」

 

ジェイドはハルトの腹を蹴り、一端距離を取ると、剣も同時に離れ血が滴り落ちる。

血で濡れたフィオーラを構え、静かに呟く。

 

「スラッシュ」

 

纏っていた魔力が更に輝く。

ジェイドはこの技で勝負に決着をつける気だと、彼の気配からハルトは察した。

ハルトも力が入らない体から魔力をひねり出す。

 

「ハァ…ハァ……竜…牙弾」

 

ハルトも竜牙弾を構える。

一瞬の時、静寂が流れ2人の間に木の葉が落ちた瞬間動いた。

 

「フッ!!」

 

ジェイドが目に止まらぬ速さで剣を振るい、それと同時に魔力の斬撃が触れていないにも関わらず木々を切り倒しながらハルトに迫る。

ハルトはその斬撃に逃げずに竜牙弾をぶつけ、立ち向かう。

 

「オオオォォォッ!!」

 

雄叫びを上げ押し返そうとするが、押し返している腕にスラッシュの余波で切り傷が広がり、血が舞ってしまう。

さらにドラゴンキラーの効果がハルトの体を蝕む。

2つの痛みで逆に押しつぶされそうになるがエミリアのことが頭によぎる。

負けるわけにはいかない、死なせてたまるものか。

その思いがハルトに力を取り戻させる。

 

「オラァッ!!」

 

「があっ…!」

 

神斬りを打ち消し、その勢いを利用してジェイドの体に竜牙弾をぶつけ、ジェイドを木々を巻き込みながら吹き飛ばした。

 

「はぁ……はぁ……俺の勝ちだ」

 

膝をついて荒い息を吐いて、そう呟くとハルトの後ろから足音が聞こえてきた。

 

「何かあったのかい!?」

 

戦いの音が聞こえたのか、クスコが全員を引き連れてやってきた。

 

「よっ……」

 

「ハルト!大丈夫!?」

 

ボロボロのハルトにエミリアは慌てて駆け寄る。

 

「ハルト君、何があったんだい?」

 

血と傷だらけハルトと切り倒されている木々を見てクスコがそう尋ねる。

 

「実はよ……」

 

「作戦を変更する」

 

ハルトが話そうとすると森の奥から傷だらけのジェイドが足を引きづりながら出てきた。

 

「王子!」

 

「作戦変更ってどういうことよ?あとなんで傷だらけ?」

 

クスコがジェイドの惨状に驚き、ラナがそう聞くとジェイドは1つため息を吐くとラナの質問は無視し話を続ける。

 

「当初はアスラをエミリアごと討伐する予定だったが、アーウェングスの提案でエミリアを生かした状態でアスラを討伐する」

 

「無視しないでよ!!」

 

「ま、待て!アスラをエミリアごと討伐するだと?そんな話聞いてないぞ!!」

 

エリオが激昂するがジェイドは澄まし顔で口を開く。

 

「お前に言ったら確実に反対するだろう。計画に支障がでた」

 

「お前なぁ……!!」

 

エリオがジェイドに詰め寄ろうとするが、カミナが止める。

 

「話が進まない」

 

「チッ!!」

 

エリオは舌打ちをして悔しそうにしていた。

 

「……どういう風の吹き回しだよ?」

 

「言っただろう。力づくで言うことを聞かせるってな。俺は負けたんだ。お前の作戦に乗る」

 

ハルトが訝しげながらジェイドは平然と答える。

その姿にハルトは疑うがとりあえずは納得するしかなかった。

 

「………わかった」

 

「それで作戦はどういったものだ?」

 

「今はとりあえず拠点に戻ろうぜ。腹減った……」

 

ハルトの腹から気の抜けた音が鳴り、全員が呆れた表情になった。

 

 

拠点に戻り、治療を終え、飯を食いながらハルトの作戦の説明を始めた。

 

「ムグムグ……アスラを討伐するのにエミリアに封印したまま討伐する必要があるんだろう?ハグ……じゃあ別の器に封印して討伐すればいいだけだ」

 

「別の器に移すのはいいがそのためにはアスラの封印を一度解かないといけなくなる。そうなれば終わりだ」

 

ハルトの提案にジェイドがそう言うが、ハルトは得意気な顔になる。

 

「そこで俺の出番だ!アスラの魔力をほぼ0にすれば封印を解いても大丈夫なんじゃないか?」

 

「封印された状態で魔力を0にする?一体どうやって?」

 

「そうか、ハルトの魔法か」

 

カミナがハルトの作戦に気づき、そう呟く。

 

「俺の魔法、覇の滅竜魔法の特性は『統合』。相手の魔力を自分の物にするんだ」

 

「なるほど……それならエミリアちゃんから離すことができるね」

 

「だが、アスラの魔力は膨大なものだ。実際にエミリアはそのせいで自分の魔法もろくに使えない」

 

エリオがエミリアにの方を見る。

 

「ゆっくりなら全ての魔力を還元できるぜ」

 

「アンタはどうすんのよ?そのバケモノの魔力全部取り込んだら死んじゃうんじゃないの?」

 

「そんな……ハルトが死ぬなら私は別に……」

 

自分のために頑張ってくれるのは嬉しいがそのために命をかけてまでしてくれるのはエミリアは望んでいない。

ハルトはエミリアを不安にさせないように安心させる笑みを見せる。

 

「大丈夫だって、そこはジェイドに手伝ってもらう」

 

「俺か?」

 

「お前の剣なら俺の魔力を削れるだろ」

 

「魔力を増やしながら、削っていくか……確かにそれなら安全だ」

 

「だろ!飯食ったら早速やろうぜ!!」

 

「無理だ」

 

ハルトが始めようとするがジェイドが止めた。

 

「何だよ、まだ文句あんのか?」

 

ハルトがジト目でジェイドを睨む。

 

「そうじゃない。アスラを取り出すためには遺跡に向かわないといけないんだ」

 

「遺跡?」

 

「私にアスラを封印したところよ」

 

「なんでだ?アスラはここにいるんだろ?」

 

「エミリアに封印されたのアスラの核だ。アスラ本体は遺跡にある。2つが揃った時にアスラは完全に復活する」

 

「じゃあアスラを移すためには核だけじゃなくて本体も必要ってことか?」

 

「ああ、本来はエミリアを遺跡に連れて行き、アスラの本体をエミリアに一時的に移し、エミリアごと処分する手筈だった。ここでやっても意味がない」

 

「じゃあ、遺跡に行けばいいだけだろう!さっさと行くぞ!!」

 

エリオが立ち上がり、そう叫ぶがクスコが止める。

 

「待つんだ。今行っても危険だよ」

 

「なに!?」

 

「今式神を飛ばして遺跡を見てるが、フェアニヒターの本拠地らしいな」

 

「そんな……それでもここのメンバーで行けば!」

 

「ざっと見積もって5000強、流石に無策で突っ込むのは無謀だ」

 

淡々と話すカミナにエリオは苦虫を潰したような表情で悔しがる。

 

「2週間後にフィオーレ軍がフェアニヒターに総攻撃を仕掛ける。作戦を仕掛けるならその時だ」

 

「クソッ!」

 

「兄さん!」

 

エミリアが呼び止めたがエリオは悪態を吐き、椅子を蹴って立ち上がりどこかに行ってしまった。

 

「どーしたんだ?」

 

「さあね。アンタ達2人と分かれてからどこか焦ってるのよ」

 

ラナは興味なさげに言うが、エミリアは心配そうにエリオが出て行った方を見ていた。

エミリアを救うための作戦は2週間後にフィオーレ軍が総攻撃を仕掛けるときにいち早く遺跡のアスラが封印されてある深部にたどり着き、エミリアを救うことになった。

 

 

松葉杖を突く、ジェイドが1人雑木林の中で通信用の魔水晶に向かって話していた。

 

「ああ、予定は変更になったがいつでも処分できるように隠れて準備をしておけ、内通者の件はどうなった?………もう終えたか。わかった。他にも情報を聞き出せ」

 

それだけを言うと魔水晶の動力を切った。

 

「嘘だったんだな」

 

背後にある木から声が聞こえ、振り返ると木の後ろからカミナが現れた。

 

「ハクシロか、流石だな。気配がなかった」

 

「はぐらかすな。ハルトとの約束はどうなった」

 

「破りはしない。だが、万が一に失敗した時の保険だ」

 

それ以上何も喋らない2人に静寂が流れる。

 

「………俺たちギルドの魔導士にとって、約束、契約は絶対なものだ。それを違えるならば許すことはできない」

 

「意外だな。暗殺者のお前がそんなことを言うなんて、ギルドに入って牙が抜かれたか?」

 

それを聞いたカミナから殺気が溢れる。

 

「……………どこで知った」

 

「倭の国で恐れられた暗殺者集団『八咫烏』で幼いながら『白鬼』として名を馳せた人物……ここでもその噂は届いている。まさかこんなところで会えるとは思わなかった」

 

ジェイドが少しおどけたように言うが、カミナは一切殺気を解かない。

 

「お前も俺と同じだ。どこか人を信じきれない。だから俺は予防を建て、お前は俺をつけてきた。……安心しろ。俺だってできれば人を殺したくないんだ。ハルトの作戦には最後まで乗らしてもらう」

 

ジェイドはそれだけを言って拠点に戻り、カミナだけ残された。

その時のカミナはどこか悲しみに打ちのめされたように、木の上から見ていたハルトには感じた。

 



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第124話 動く想い

作戦までまだ日にちがあり、それぞれが準備をするなり、休むなどをして時間を潰していた。

その中でハルトはカミナとともに買い出しに来ていた。

 

「えーっと食料に服の補充、あと治療に使う薬と包帯に……あ?ストロベリーキャラメルグランデマキュアート?なんだコリャ?」

 

「ラナの注文だ」

 

「ンなモンここにあるわけないだろうが!戦争中の国に何求めてんだよ」

 

ハルトがおかしそうに笑うが、カミナは笑わず黙ったままだ。

それを見たハルトはカミナに話しかけた。

 

「なんかあったのか?」

 

「何がだ?俺が笑わないのはいつものことだろう」

 

「そうじゃねぇよ。ジェイドと何かあったのかってことだよ」

 

「……やはりあの場にいたのか。聞いての通り、俺もアイツも変わらない。人を信じきれない人間だ。…………お前のおかげで俺は八咫烏を抜け、この国に渡りギルドにも入れてもらえた。だが何も変わらない。人を信じられない、心のない人間だ」

 

普段はあまり喋らないカミナが滑舌になるが表情は変わらない。

しかしハルトにはどこか悲しそうにしているのがわかった。

 

「聞いていたらわかっただろ?ジェイドはお前の作戦に協力するが、信じてはいない。あの場にいたってことはお前もジェイドが信じていないと分かってたんだろう?それでもジェイドを信じるのか?」

 

「信じるよ」

 

即答で答えたハルトにカミナは少し面を喰らう。

 

「相手に信じてもらうにはさ、まずこっちから信じないと始まんないと思うんだよ。それに、信じたほうが気が楽だろ?」

 

そう言って笑うハルトに表情は変わらないがカミナはどこか心が晴れた気分だった。

 

「そうか……そうかもな」

 

「それによ、お前自分が心のない人間って言ったけどな。ジェイドの跡をつけたのって俺のことを心配してくれたからだよな?ありがとな!」

 

ハルトの裏表のない感謝の言葉にカミナの頬が緩む。

 

「フッ……そんなわけないだろう」

 

「なんでだよー。ん?てか、さっき笑ったか?笑ったよな?」

 

「なんのことだ?」

 

「いや、絶対に笑ったよな!もう一回見せろよ!!」

 

2人は言い合いながらもどこか楽しげに街に向かった。

 

 

買い出しから戻ったハルトはそれぞれに欲しいものを渡していた。

 

「エリオにはコーヒーで、エミリアには甘いもの、マタムネにはよくわからなかったから魚だ」

 

「ああ……」

 

「ありがとう」

 

「ごじゃるー!」

 

するとハルトはエミリアに本を差し出した。

 

「これ、エミリアが好きそうだから買ってきた」

 

「わぁ、ありがとう!」

 

「俺も読んでみたいからその本読み終わったら貸してくれないか?」

 

「お前、本なんて読まないだろう」

 

「こ、これから読むんだよ!!」

 

「フフッ……」

 

ハルトとカミナのやり取り見て笑うエミリアを見て、エリオは複雑そうな表情になる。

 

「クスコは何もいらなかったのか?」

 

「うん、僕は食料さえあれば十分だからね」

 

「ちょっと私のは?」

 

「あんなのここにあるわけないだろうが!」

 

「何よ!だらしないわね!」

 

そしてハルトは件のジェイドの前に立つ。

 

「ジェイド」

 

「どうした?俺は特に注文したものなんて無いぞ」

 

するとハルト酒が入った酒瓶を見せる。

 

「飲もうぜ!」

 

「はあ?俺たちは14歳だぞ。まだ飲める歳じゃ……」

 

「いいから行くぞ!」

 

ハルトはジェイドの腕を掴み、無理矢理外に連れ出した。

2人は月明かりで照らされた岩場に座り、酒を煽っていた。

 

「くぅーーー!!」

 

「………はっ、それで何の用だ」

 

「いやよ。あん時戦ったままで終わったから話そうと思ってさ」

 

「話すことなんてないだろう」

 

そう言ってジェイドも酒を飲み、話そうとしない。

するとハルトが切り込んだ。

 

「なんで俺の作戦に乗ってくれたんだ?」

 

「あの勝負に勝ったのはお前だ。敗者は勝者の言うことを聞くだけだ」

 

「お前のことだから負けても裏で動けるだろ。なのに何にも動きがない。あったとしても保険ぐらいだろ?」

 

「……聞いてたのか。ボスコ出身の奴は手癖だけでなく、耳癖も悪いようだな」

 

「んだと?……まあ、それは置いといてだな。なんで俺の作戦に乗った?」

 

ハルトは少しイラッときたが我慢して、質問し続けるとジェイドは酒を少し飲み、口を開いた。

 

「………俺はフィオーレ国の王家に生まれだ。この国を守るのは義務だと思っていた。だが、この国に生きる人たちに触れて義務ではなく、自分がそうしたいと思った。この国を守るためなら何だってする。自分の命をかけてでもな………お前はエミリアを守るためなら何だってすると言った時の目はその時の俺と似通ったところがあると思った。だから魔が差したんだ」

 

「魔が差したってな、お前……でもやっぱりな!」

 

ハルトは突然嬉しそうに笑った。

 

「何がだ?」

 

「お前いい奴だ!人のためにそこまでできるのはいい奴だよ」

 

そう言ってのけるハルトにジェイドは一瞬、呆けた顔をするがすぐに吹き出した。

 

「プッ……!ハハハッ!バカかお前は。そんな簡単に人をいい奴だと思うな」

 

「何でだよ?俺はこう見えて人を見る目はあるんだぜ!」

 

「ならお前の目は節穴だな」

 

「なんだとコノヤロー!!」

 

ハルトの怒り声が響くが先ほどの重い空気とは違い、2人は少し和気藹々としながら酒を飲み続けた。

それから少し時間が経ち、飲みが終わりジェイドは森の中で1人立っており、その手には部下に連絡を取るためのラクリマがあった。

 

「………はぁ、本当に魔が差したな」

 

ジェイドは少し苦笑いをしながらラクリマを起動する。

 

「俺だ。作戦を変更する」

 

 

そして次の日、ハルトたちは作戦会議をしていた。

ジェイドは全員が囲んでいる机にラクリマを置き起動すると

 

「アスラを分離する作戦は建てられたが、そこまでの道のりをこれから説明する。二週間後に親父が援軍を率いてここにやってくる。そして今フェアニヒターを一斉に壊滅させるつもりだ。俺たちはそれに便乗して遺跡に潜り込む」

 

「急がせることはできないのか?今は少しでも時間が惜しいんだぞ」

 

エリオが少し苛立ちながらそう聞くがジェイドは首を横に振った。

 

「今回の作戦は親父……王には黙ってきた。あの人は命を犠牲にするのは駄目だと言ったからな」

 

「だからフィオーレで匿えなかったのか」

 

「フィオーレ王なら無理してでもエミリアちゃんを救い出そうとするかもしれないからね。それで失敗したら元もこうもない」

 

「二週間……だいぶ長いわね」

 

「1万を超える軍勢を率いてくるんだ準備がかかる。遺跡に潜り込んだら俺、ハルト、エミリアを守りながら中心に行く。そこでハルトの作戦を実行し、成功させれば終わりだ」

 

「言うのは簡単だけど、相当危険よ」

 

「中に入れば教団との戦闘は避けられないだろうね。数が少ないと言っても本拠地だ」

 

全員の表情が引き締まり、覚悟を決める。

 

「作戦実行は13日後だ。それまでに皆準備を整えて置いてくれ」

 

作戦会議が終わり、エミリアは割り当てられた部屋でマタムネと遊んでいるところを扉の隙間から伺う影があった。

 

「な、なあ、食事に誘ったらいけるかな?」

 

「行けるさ!エミリアちゃんとは普通に話すようになっているのは君だけなんだ!確実に行ける!」

 

ハルトはエミリアを食事に誘おうとしているようで、相談したクスコは応援するがカミナはどうでもいいらしい。

 

「戻るぞ」

 

「ちょ、ちょっと待てって!断られた時のフォローの仕方とか一緒に考えてくれよ!」

 

「心底どうでもいい」

 

「ハルト君!男は度胸さ!当たって砕けろだよ!」

 

「いや、砕けたら困るんだけど……」

 

しかしクスコの言葉は確かで動かなきゃ始まらない。

覚悟を決めて、扉を開けようとする。

 

「よし、行くぞ!エミがふっ!?」

 

「邪魔よ」

 

部屋に入ろうとしたがその瞬間、ラナによって扉に叩きつけられたハルトは扉にめり込んでしまった。

 

「エミリアー、街まで下りてお茶しに行かない?」

 

「大丈夫なの?今危ないんじゃないの?」

 

「大丈夫よ。いざとなったら私の魔法で逃げればいいし、さっさと行きましょう」

 

「あ、待って」

 

結局エミリアは扉にめり込んでしまったハルトに気づかず、外出してしまった。

 

「ラナちゃん……いつのまにあんなに仲良くなったんだ?」

 

「無様だな」

 

「……うるせー」

 

そのまた翌日、今度はジェイドを連れてきていた。

 

「はぁ、戦争中だと言うのに何考えてるんだお前は」

 

「別にいいだろうが!恋に戦争も関係ねぇんだよ!!」

 

そう力説するハルトにジェイドはジト目だった。

 

「ジェイドがエミリアに作戦について話しがあるって言って外にそれ出してもらえればミッションコンプリートだ!それならラナの妨害はないはず!」

 

「ミッションって言われてもなぁ。そもそもお前が呼びに行けばいいだろう?」

 

「女の子の部屋に入るのはその……なんだ……恥ずかしい」

 

「バカなのか?」

 

モジモジするハルトに心底呆れた表情のジェイドだが、ハルトの指示通り部屋に入った。

 

『エミリア、作戦について少し話したいことがある。外に来てくれないか?』

 

『うん、わかった』

 

(よっしゃぁーーー!!!)

 

扉に耳を当て聞いていたハルトは心の中でガッツポーズを取る。

そして扉の前でエミリアが出てくるのを今か今かと待っていると、扉が開きその瞬間話しかけようとしたが、出てきたのエリオだった。

 

「何の用だ?」

 

「え?アレ……ジェイドとエミリアは?」

 

「部屋の中で話せばいいだろうと言って部屋の中で話している。それより用件はなんだ?俺が聞こう」

 

ハルトは当初の作戦とは違うが、取り敢えずは話を切り出す。

 

「エミリアに食事はどうかなーって………」

 

「無理だな」

 

バッサリ断られた。

 

 

2日続けて断られた(本人ではないが)ハルトは自信を無くし、夕日を死んだ目で眺めていた。

するとそこにマタムネがフラフラと飛んでやってきた。

 

「マタムネか……お前はいいよな。エミリアの側にいれてよ」

 

「?」

 

「俺も側にいてぇ」

 

「ぶざまだなでごじゃるー」

 

「それはカミナの真似だよな?そうだよな?」

 

マタムネのまさかの言葉に額に筋が浮かび上がるが、怒る気もなくため息が出る。

 

「どーすりゃいいんだか……」

 

「どうしたの?」

 

1人呟いていると背後からエミリアが声をかけてきた。

 

「え、エミリア!?」

 

その瞬間、ハルトはこれはチャンスだと思い、誘おうとするが食事はラナと行ったであろうから無し、観光できそうなところと言っても自分より土地勘があるエミリアのほうが知っている。

選択肢が無くなってしまい、何で誘おうか悩んでいるとエミリアが隣に座ってきた。

 

「ちょうど良かった。私その……ハルトと話したいと思っていたの」

 

「お、俺と!?」

 

「うん……いつも兄さんがいて、ハルトに近づこうとすると怒るから」

 

2人は並んで座るが、会話をするわけでもなく黙った状態だ。

話をしたかったが、緊張して何を話せばいいか2人とも分からない。

するとハルトに抱えられたマタムネが腕を空に伸ばした。

 

「ごじゃるー」

 

「どうした?ああ、星か」

 

腕を伸ばしたほうを見るとそこには夕焼けから夜に変わる境目に1番星が輝いていた。

 

「きれい……」

 

そう呟くエミリアを見て、ハルトは思いついた。

 

「な、なぁエミリア。これから星を見に行かないか?」

 

「え?大丈夫なの?」

 

「黙ってたら、気づかれないって!なるべく広くて開けた場所がいいな。どこかないか…….」

 

「ここから少し先にいい場所を知ってるよ」

 

「じゃあそこに行こうぜ!」

 

「でーとでごじゃる」

 

「「!!」」

 

マタムネの拙い言葉に2人は顔を赤くし、慌てるが側から見ればそう見えても仕方がない。

そして夜になり、エミリア、ハルト、マタムネは拠点から外出した。

 

「気づかれなかったわね」

 

「助かったぜ」

 

「たすかったぜでごじゃる!」

 

3人は虫のさえずりしか聞こえない森を歩いていく、目の前に開けた場所が見えてきた。

 

「ここか……」

 

「うん。この前ラナと見つけたの」

 

3人の頭上には満天の星空が広がっており、星一つ一つが輝いていた。

 

「すげーなぁ」

 

「フラスタの星空はステラ王国には劣るけど、それに次ぐ美しさなの。これだけは嫌いなこの国の中で好き。いつかはステラ王国にも行きたいけどね」

 

少しうっとりとした顔で星空を見ながら話すエミリアをハルトは綺麗だと思いながら見つめていた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、綺麗だなーって思って」

 

「そうだね」

 

(星のことじゃないんだけどな)

 

しばらく星空を眺め、エミリアが星座を教えてくれたり他愛ない話をして、2人の距離は近づいていた。

 

「そういやラナといつのまに仲良くなってたんだ?」

 

「えっ、えと……ラナに相談とかしたりしてたの」

 

「相談?どんなことだ?」

 

「そ、それは言えない!」

 

実はエミリアはラナにハルトのことについて相談していたのだ。

 

 

女2人に割り振られた部屋ではエミリアが少し恥ずかしそうにしながらラナに相談していた。

 

「そのね。私ハルトのことを思うと少し変なの」

 

「………」

 

エミリアが真剣に相談しているがラナはジト目で見ていた。

 

「ハルトのことを考えると何故か胸が苦しくなるんだけど、それが心地いいって言うか……」

 

(コイツら……気づいていないのね。呆れた……)

 

「それは恋じゃないの?」

 

「恋?私が……?」

 

「アンタたち側から見れば告白できない両想いの人じゃない」

 

「そ、そんな私は……!それにハルトも私のことを想ってくれているなんて……」

 

ラナの言葉にエミリアは顔を赤くし、動揺しているが2人の雰囲気はまさしくそれであり、当の2人以外は全員気づいていた。

 

(ま、この娘の場合はそれが初めてだからわからなかったんでしょうね)

 

「大人の私から言わせて見ればさっさと告白しちゃいなさいよ」

 

「ラナが大人……?」

 

「何よ。その反応?ぶっ飛ばすわよ」

 

どう見ても子供にしか見えないラナがそう言うとどこか背伸びしているように見えたが、エミリアはラナの言葉を信じ、どうにか2人の時間を作るためにラナに協力してもらい、ずっと引っ付いているエリオを離してもらったのだ。

その他にもカミナ、クスコ、ジェイドがエリオを監視し、2人に近づけないようしていた。

 

 

 

「…………」

 

ラナに助言をもらったエミリアは意を決して、ハルトの方を向く。

 

「ハルト」

 

「ん?」

 

「ハルトは私のこと好き?」

 

エミリアは核心を突いた質問をした。

 



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第125話 訪れない幸福

お久しぶりです。
オリジナル編のため色々とスランプに陥ってしまって、息抜きで別の作品もやっていました。
もう一方のほうがひと段落ついたのでまたこっちをやっていきます。


突然のエミリアの言葉にハルトは一瞬呆気にとられるがすぐに正気に戻り、その意味を理解し、慌てる。

 

「え!?はっ!?なんで……!?」

 

「いいから!……答えてよ」

 

エミリアも恥ずかしいのか顔を赤くしながらも真剣な目で見つめてくる。

 

「……す、好きだよ」

 

エミリアの真剣な表情にハルトもつい答えてしまう。

 

「どうして?」

 

「ど、どうしてってそりゃあ……」

 

ここで何か気のきいたことを一つでも言ってエミリアに好印象を与えれればいいがハルトにそんなことは思いつかず、正直に言うしかなかった。

 

「初めは……一目惚れだった」

 

「そう……なんだ」

 

自分のことを見て好きになってくれたのは嬉しかったが、それはあくまで外見でのことでエミリアはそんなに嬉しそうではなかった。

 

「だけど一緒に旅をしていくと、エミリアが抱えている闇や優しいところ……自分の命を顧みず助けに行く勇敢なところを知ってより好きになった」

 

ハルトの好きになったというのを聞いて、エミリアはより恥ずかしそうにするがその表情にはどこか嬉しさのようなものが見えた。

今度はエミリアが話し出した。

 

「私は……ハルトのことが好き、だと思う」

 

その言葉にハルトは驚く。

 

「でも、私はあまり人と過ごしたことがないからこれが恋なのかどうかすらわからないの……だからハルトと一緒にいてそれを確かめたい」

 

「練習みたいなものか?」

 

「どうかな?……それも確かめないと」

 

見つめ合う2人の顔はだんだんと近づいていき、やがてキスをした。

 

「ん……」

 

初めての2人はただ押し付けるだけのキスだったが、それでもとても幸せだった。

 

「えへへ……なんだか不思議だね」

 

「そ、そうだな」

 

微笑むエミリアを見て、可愛いと思いながらエミリアとキスしたことに恥ずかしくなり、少し顔を逸らすとエミリアがハルトの手を握ってきた。

ハルトも握り返すとまた見つめ合う2人は次第に顔の距離が近くなってきて、キスをする様子になるがその様子をマタムネはガン見していた。

 

「きゃっ!ま、マタムネ」

 

「忘れてた」

 

「チュー!チュー!」

 

幼いマタムネは2人の真似をするように唇を前に突き出す。

それを見てハルトとエミリアは子供に情事を見られた親のような心境になった。

 

「や、やめてよ〜……」

 

「やめてくれ。恥ずかしい……」

 

最後までその場は締まらなかったが、2人はとても幸せそうだった。

その後、2人の雰囲気を察した他の者たちはからかったり、祝福したりしたが、エリオが烈火の如く怒り、ハルトと決闘を行いそうになったほどだ。

皆が宥め、エミリアの説得により何とかそれは回避したがエリオは納得がいってなかった。

 

 

そして翌日、仮のとは言え恋人関係になった2人は街にデートに来ていた。

とは言っても店などほぼやっておらず、何故かハルトの頭の上にはマタムネが寛いでいた。

 

「何でマタムネも来てんだよ」

 

「いいじゃない。2人よりも大勢のほうが楽しいと思うし」

 

「そうかもしれないけどよ……俺はエミリアと2人っきりのほうが良かったな……」

 

少し拗ねた様子のハルトにエミリアは自分と一緒に居たいから拗ねてるハルトを見て、少し可愛いと思ってしまった。

もう十分バカップルのように見える。

 

「じゃあ、これで我慢して」

 

そう言ってエミリアは背伸びをして、ハルトの頬にキスをした。

突然のことに驚くハルトだが、エミリアは微笑んでその様子を見ていた。

 

「ほら、行こう?」

 

「あ、ああ……」

 

「でぇきぃてぇるぅ、でごじゃる」

 

その後2人はかろうじてやっていた店で料理を食べたり、人が誰もいない観光名所などを回ったりと普通のデートを行なった。

 

「結構歩いたね」

 

「そうだな。エミリアは疲れたか?」

 

「少しだけかな?」

 

「ちょっと待っててくれ。飲み物買ってくる」

 

「せっしゃもー」

 

ハルトとマタムネが離れていくのを見て、エミリアは自分がこんなにも変われるのか、と改めて実感しており、それと同時に幸福も感じていた。

 

「幸せだな……」

 

好きな人と共に過ごせる。

エミリアは今まで孤独だったこの世界が少し、好きになれたような気がした。

 

「……っ」

 

しかし、ほんの一瞬だが胸が疼きを感じとったが気のせいだと思い、無視した。

 

「ほい、飲み物」

 

「ありがとう」

 

「この後どうする?」

 

「うーん……あんまり遅くなったら兄さんたちが不安になっちゃうと思うし、夕ご飯を食べたら戻ろうと思ったんだけど」

 

「そうするか」

 

2人は数少ないやっている店に入り、食事をとるがそこで少しし事件が起きた。

 

「珍しいねぇ。こんな戦争中だというのにデートをしているカップルがいるなんて」

 

「それを言うならアンタもだろう。戦争中に店やってるんだから」

 

「ここ以外に行くところなんてないからね、仕方なくさ。はい、これサービス」

 

優しそうな店主が出してくれたのは食前酒なのか赤く甘い匂いがする飲み物だった。

 

「私たちまだお酒が飲める歳じゃないんですけど……」

 

「今、こんな時に来てくれるお客さんが少ないんだ。サービスだよ。飲んでくれ。それにそれはお酒じゃなくて、ジュースさ」

 

そう言われた2人は感謝してその飲み物を飲み、ハルトはなんともなかったがエミリアは少し喉の奥が熱く感じた。

食事を終え、3人は拠点に戻ろうとしていた。

 

「すぴー……すぴー……」

 

「こいつよくこんな状態で寝れるな」

 

自分の頭の上で器用に寝ているマタムネを見て、そう呟くハルトはエミリアに目を向けると様子がおかしかった。

顔は赤く、息遣いが荒い。

さらには目が潤んでいて、明らかに普通の状態じゃないのは確かだ。

 

「どうした!?」

 

「ハルトぉ……体が熱くて……」

 

ハルトはエミリアのその言葉にすぐ合点がいった。

ボスコにいた時自分を育ててくれた娼婦たちがよくこんな状態になっていたことと、エミリアの口から仄かに香る先ほどの飲み物の匂いに気がついた。

 

「媚薬かよ!あの野郎……!」

 

店主が無駄にいい笑顔でサムズアップする姿が思い浮かんだ。

 

「エミリア大丈夫か?とりあえず落ち着いて……」

 

「もう無理……」

 

その瞬間エミリアはハルトの首に腕を回し、自分の方に引き寄せて熱いキスをした。

 

「んっ!?」

 

「ん……はぁ…ん、ちゅぅ……」

 

いつもの軽い触れるだけのキスではなく、長く、ハルトの存在を確かめるようなキスだった。

 

「え、エミリア……」

 

「ハルト……」

 

2人は見つめ合い、エミリアはハルトを抱きしめた。

 

「2人っきりになりたい……」

 

「2人っきりって言われてもなぁ、マタムネがいるし……」

 

「マタムネは一回寝たら中々起きないよ。だから……ね?」

 

蠱惑的な目で見つめられたハルトは自然と首を縦に振ってしまい、2人は腕を組んで拠点には戻らなかった。

 

 

 

その頃、拠点ではエリオが今だに帰ってこないエミリアたちに苛立ちを隠せず、貧乏ゆすりをし続けていた。

 

「遅い!一体何やってるんだ!?」

 

「うるさいわねー、これだけ遅くなって帰ってこないってことはそういうことでしょ?」

 

「そ、そういことだと!?エミリアはまだ14歳だぞ!?」

 

「別にいいじゃない。アンタ、シスコンも大概にしときなさいよ。エミリア迷惑してるし」

 

「なんだと!?」

 

エリオは堪らず立ち上がり、怒りを露わにする。

 

「エリオ君、心配するのはわかるけど君もあの子も兄妹なんだから信じてあげないと」

 

「〜〜〜っ!……はぁ、兄妹か。俺とエミリアは兄妹だが今回の一件で始めて会うようなものなんだよ。それまでは隔離されていたし、唯一の家族なんだ。心配してしまう」

 

エリオは心配そうに顔を俯かせる。

エリオとエミリアの両親はエミリアにアスラを封印する際に死んでおり、彼らの育ての親はフェアニヒターに殺されてしまった。

彼に残されたのはエミリアだけなのだ。

 

「それにもうすぐ作戦が始まるんだろうが。それなのに遊んでいてもいいのか?」

 

「今のうちに英気を養うのも必要だよ」

 

怒るエリオをクスコが嗜める。

 

「そう焦っても仕方がない。どうせまだ1週間以上あるんだからな」

 

ジェイドがそう言ってこの話をやめたが、エリオの胸には不安が消えなかった。

 

 

昨夜は共に過ごしたハルトとエミリアは同じベットで寝ていた。

 

(お、思った以上に凄かった……!)

 

大人の階段を登ったハルトはそう言った知識は故郷のボスコで嫌と言うほど知っていたが、実際に体験してみると色々と刺激的すぎた。

そのせいでハルトは朝まで目が覚めて寝れなかった。

 

(エミリアとどうやって目を合わせればいいんだろう……)

 

色々としてしまって恥ずかしいのか、どうやってエミリアと話せばいいのかと考えていると側で寝るエミリアのほうを顔だけを向ける。

整った顔と綺麗な星のような輝きを持つ金髪、出会った当初は冷たい印象だったが今では暖かな笑顔を見せてくれる。

ハルトは愛おしく思いエミリアを起こさないように髪をゆっくりと撫でる。

エミリアは気持ちがいいのか笑みを浮かべてハルトにくっつく。

 

(絶対に作戦を成功させる)

 

愛しい人を守るために自分の命をかけて成功させる。

ハルトは改めて自分とエミリアに誓った。

 

 

身支度を整えた2人は拠点に戻っていた。

 

「みんなに怒られちゃうかもね」

 

「特にエリオが怒りそうだな。おっかねぇー」

 

「ふふっ、兄さんも心配してくれているんだよ」

 

エミリアは寝ているマタムネを抱えながらハルトと手を繋いで歩く。

側から見ても仲睦まじいのがわかる。

 

「なぁ、エミリア。この戦争が終わったらさ、俺たちのギルドに来ないか?」

 

「ギルド?」

 

「おう!妖精の尻尾っていうギルドなんだがな。乱暴者が多いけどいい奴らばっかりだ。あっ、でも戦争が終わったらここが故郷だから残るのか?」

 

ハルトが少し悲しそうに質問するとエミリアは強くハルトの手を握る。

 

「そんなわけないよ。ずっとハルトと一緒にいるよ」

 

「エミリア……」

 

見つめ合う2人。

2人に待っているのは幸福な日々だろうが、運命はそうはさせなかった。

 

「あっ、うぅ……!!」

 

「エミリア?エミリア!!」

 

突然エミリアは胸を押さえ苦しみだした。

ハルトは慌てて受け止めるが、エミリアは冷や汗をかき苦しんでいる。

 



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第126話 フェアニヒター

ハルトはエミリアを抱え、大急ぎで拠点に向かっていた。

 

「エミリア!しっかりしろ!!」

 

「えみりあ〜!」

 

「ハァ…ハァ…」

 

ハルトとマタムネが呼びかけても苦しそうに呼吸をするだけのエミリアを見て、より一層足を急ぐ。

拠点に着いたハルトたちの様子を見て、カミナたちは驚く。

 

「エミリア!」

 

「どうした?」

 

「わかんねー!とにかくエミリアを寝かせないと!」

 

「どけ。俺が容態を見る」

 

ジェイドがエミリアの側に座り、診察を始める。

するとエリオがハルトの胸ぐらを掴み、殴り飛ばした。

 

「お前が付いていたのになんでこんな事になった!」

 

殴り飛ばしたハルトのむなぐらを掴み上げ、叫ぶエリオをカミナは羽交い締めしてハルトから離す。

 

「すまん……」

 

「すまんだと!?そんな言葉で済むと……!!」

 

「エリオくん落ち着いて!」

 

怒りが収まらないエリオはハルトに殴り掛かろうとするがカミナとクスコが止まる。

 

「どうなのよ?容態は?」

 

「……不味いな。予定より早すぎる。アスラの封印が解けかけている」

 

ジェイドの表情から焦りが見られる。

普段は焦りを見せないジェイドが焦りを見せるということはよっぽど切羽詰まった事態なのだろう。

 

「全員聞け!予定を変更だ。作戦は今日実行する」

 

「今日?エミリアの状態が不味いのか!?」

 

「ああ、予定では1ヶ月先だと封印の解除が何故かもう始まりそうになっている。このままじゃエミリアは死に、アスラは復活してしまう」

 

ジェイドの口から告げられた事態に全員が驚く。

 

「お前のせいだ……」

 

エリオはハルトを睨む。

 

「お前がエミリアに近づいたから、こうなったんだ!どうしてくれるんだ!」

 

「ハルトが一緒にいただけでこうなるなんて、そんなわけないだろう」

 

「………」

 

カミナが擁護してくれるがハルトは黙ってエリオの言葉を受け止める。

 

「俺がいたのにエミリアをこんな風にさせちまったの事実だ。だから命をかけてエミリアを救う」

 

覚悟を持った目でエリオにそう宣言する。

エリオもそのハルトの目に何も言えなくなったが、怒りは収まらなかった。

 

「軍の方はどうするのよ?私たちだけでアイツらと戦うわけ?」

 

「………最悪はな」

 

千を優に超える敵をたった6人で相手をしないといけない。

そんな絶望的な状況の中でもハルトは諦めない。

 

「何人いようが関係ない。必ずエミリアを助ける」

 

その言葉に全員がうなづく。

こうして作戦は決行されることになった。

 

 

全員がフェアニヒターの本拠地近くにある丘からその全貌を眺める。

 

「遺跡というより国だな」

 

「でけー建物がいっぱいある」

 

眼前に広がる遺跡は大きな建物が多く、1つの国のように見えた。

 

「アスラが封印されているのは中心にある一番大きな建物だ。さっさと行くぞ」

 

当初の作戦通りにジェイド、ハルト、エミリアの3人がアスラを封印してある祭壇まで行き、アスラを倒す。

その間カミナたちが囮となって敵と戦う。

それにまたエリオが難色を示したが、なんとか囮の方になってもらった。

いよいよ決行しようという時にエリオがハルトを呼び寄せた。

 

「ハルト、俺はまだお前を許していない。お前がエミリアを連れ出さなければエミリアの封印が解かれるのはもう少し先だったんではないかと思う。はっきり言ってお前にエミリアを任せるのが不安だ」

 

睨むエリオにハルトはまっすぐ目を見る。

 

「信じてくれ。必ずエミリアは助ける」

 

「……任せたぞ」

 

エリオはハルトの肩を叩き、エミリアを託した。

全員の準備が整い、遺跡を見据える。

 

「行くぞ」

 

ジェイドの合図と共に全員が戦いに身を投じた。

 

 

カミナたちは迫り来るフェアニヒターの信者を倒し続けていた。

信者たちは魔法や銃、爆弾、剣などありとあらゆる攻撃をしてくる。

カミナたちも負けじと反撃し、大規模な魔法で殲滅するが信者は傷ついても立ち上がってカミナたちに迫ってくる。

 

「チッ、数が多すぎる」

 

「まるでゴキブリみたいね」

 

「とにかく今は敵の目をこっちに引きつけるんだ。『ブラックアウト』」

 

クスコが敵に手を向け、魔法を発動すると向けられた相手は突然視界が暗闇に囚われ、混乱する。

 

「サンダーウェーブ!」

 

そこにエリオが雷の波状攻撃で一網打尽にした。

 

「エミリア……」

 

エリオは中心部に向かっているエミリアを心配する。

その時背後から信者がエリオに斬りかかる。

 

「死ねェッ!」

 

しかし、カミナが信者の肩を刀で突き刺し、阻止した。

 

「ぐぎゃぁっ!」

 

「気を抜くな」

 

「すまん……」

 

カミナが信者を気絶させようとした瞬間、その信者が歪んだ笑みを浮かべた。

 

「フフ…フ……全ては……アスラ様のためにィィッ!!」

 

「っ!逃げ……!!」

 

カミナが叫んだ瞬間、信者は自爆しカミナたちは巻き込まれた。

ギリギリで防御魔法を展開したが近くいたカミナとエリオは浅くない傷を負ってしまう。

 

「がぁぁ……っ!」

 

「ぐぅ……!」

 

「ちょっと!何やってるの…チッ!」

 

ラナの背後から大砲の弾が命中し、シールドを大きく響かせる。

 

「ラナちゃん!外から攻撃を防いでくれ!僕が2人を助ける!」

 

クスコが2人に駆け寄るがそれを邪魔するように信者たちが立ちはだかる。

 

「貴様らはアスラ様の供物となるのだ!」

 

「その命を捧げろ!!」

 

何度倒しても立ち上がってくる信者たちの目は狂信的な目つきで、自分の命を厭わない。

 

「不味いな……!」

 

徐々にカミナたちは追い込まれ始めた。

 

 

エミリアを背負ったハルト、ジェイドとマタムネは姿を隠しながら遺跡の中心部に向かっていた。

 

「大きな音がしたな」

 

「それで敵が引き寄せられるなら好都合だ。俺たちも先を急ぐぞ」

 

「ごじゃる」

 

ハルトたちは静かに足を進める。

途中信者がいれば気づかれないように倒していった。

そして漸く中心部にたどり着いた。

中心部に入った瞬間、その空間に充満する臭いに顔をしかめた。

 

「うえぇ〜!」

 

「これは……」

 

「死臭だ」

 

ハルトが目を向ける先には死体が置いてある。

中心部には巨大な祭壇があり、その上に10mを超える巨大な石像が鎮座していた。

 

「あれがアスラ……」

 

「早速やるぞ」

 

「おう、マタムネ。周りに誰かいたら俺に知らせてくれ」

 

「ぎょい!」

 

マタムネは周りを警戒し、ハルトはエミリアを地面に寝かせ、手を握る。

 

「ハァ…ハァ……ハルト……」

 

「大丈夫だ」

 

ハルトはエミリアを安心させるように手をしっかりと握る。

ハルトの暖かさを感じたのか、エミリアの顔が少し和らぐ。

 

「ハルト」

 

「おう、やるぞ!」

 

エミリアから溢れ出ようとしているアスラの魔力とハルトの魔力が繋がる。

その瞬間、ハルトにある感情が津波のように押し寄せた。

それは『怒り』。

凄まじい『怒り』がハルトの内側に充満する。

 

「ぐっ、くっ……!」

 

(エミリア……こんなものを体の内側に入れていたのか!?)

 

小さい体にこれほどまでのものを封印していたことを改めてわかり、必ず助けると決心する。

 

「ハルト、準備はいいか?」

 

「ああ……!やってくれ!」

 

ジェイドがハルトを傷つけないようにフィオーラの刀身をハルトに当てると、ハルトに乗り移ろうとしていたアスラの魔力が刀身を当てたところから魔力が霧散していくが、その勢いが強く気を抜けば弾かれそうだ。

 

(ここまで強いのか……!)

 

ただ流れているだけの魔力だと言うのに荒れ狂う川に剣を突き立てて立っているような感覚にジェイドも冷や汗を流す。

しかし、2人はエミリアを助けるために一切の気を抜かない。

始めてから十数分が経ち、エミリアの表情も和らいできた。

ハルトが感じるアスラの魔力も最初よりは弱くなってきていた。

 

「あともうちょっとだ…!」

 

ハルトがそう言った瞬間、魔法の斬撃がハルトの横腹を抉った。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「ハルト!」

 

傷口から血が溢れ出る。

次にジェイドに向かって魔法が放たれ、それを防ぎ、ハルトとエミリアを守るように立つ。

 

「まさかここまで来てたとは……」

 

現れたのは信者たちのリーダーなのか豪華な装飾があしらわれたローブを着た男性だ。

 

「フェアニヒターのリーダー、レペゼだな」

 

「その通りだ。フィオーレの王子」

 

自分の正体を見破れたことにジェイドは眉を顰める。

 

「何故バレたと思ったか?彼女のお陰だ」

 

レペゼが合図すると彼の背後から信者が女性を引きずって現れた。

 

「お、王子……」

 

引きずられて来たのはジェイドがフェアニヒターに潜入させていた部下だった。

 

「申し訳ありません……」

 

「彼女は有能な部下だな。中々話してくれないから、つい拷問に力が入ってしまったよ」

 

部下の体は乱暴された跡があり、更には右腕が切断されていた。

ジェイドはそれを見ても表情は変わらないが、剣を握る力が強くなる。

 

「さあ、巫女を渡して貰おうか」

 

巫女とはエミリアのことで、フェアニヒターはアスラを封印を解くために彼女を欲していた。

 

「渡すと思うか?」

 

「タダとは言わない。彼女と交換だ」

 

レペゼは部下に目を向ける。

 

「お、王子。私のことは気にせず……ここから早く逃げて……」

 

レペゼは手を向け、彼女の足を切断した。

 

「アアアアアァァァッ!!!?」

 

「っ!」

 

「ここまでされてまだそんなことを言うのか。見上げた忠誠心だ。しかし、私たちの信仰心も負けていない。アスラ様のためなら全ての命を捧げる!」

 

腕を広げ、演説のように言うがその目は本気だった。

 

「事実この国の民たちをアスラ様の供物として捧げた」

 

レペゼが指さす方には肉塊と大小様々な骨が並べてあった。

 

「狂ってる」

 

「ただ信仰深いだけさ。さぁ、どうする?王子」

 

狂信者たちがハルトたちを追い詰める。

 



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第127話 何もできなかった過去

人質を取られ、ハルトも負傷した状況の中、ジェイドは選択を迫られた。

エミリアを渡し、人質を解放するか。

エミリアを渡さず、人質を見殺しにするか。

 

「さぁ、どうする?王子」

 

ジェイドは目的の為なら非情になれる人間だ。

しかし、それでも人の子だ。

人がましてや自分を慕い、部下になってくれた者を見殺しになんてしたくない。

 

「………わかった」

 

ジェイドは俯き、苦しそうにしているエミリアに歩み寄る。

 

「ジェイド……!てめぇ……!」

 

血を流すハルトはエミリアを渡そうとするジェイドを止めようとエミリアを庇う。

 

「ハルト、聞け」

 

ジェイドはハルトにしか聞こえない声で話し始めた。

 

「君は意外と仲間思いなんだな。仲間を助けるために仲間を犠牲にするなんて」

 

レペゼは皮肉の言葉をジェイドに向ける。

ジェイドはハルトをどかし、レペゼの方を向く。

その顔には悔しそうな表情ではなく、笑みを浮かべていた。

 

「そうだろ?」

 

その笑みを不可解に思った瞬間、レペゼの背後からマタムネが高速でぶつかって来た。

 

「ごじゃるー!!」

 

「なぁっ!?」

 

魔法を向けていたレペゼに隙ができる。

 

「ハルト!」

 

「覇竜の咆哮ォッ!!」

 

ジェイドの合図でハルトは信者たちを薙ぎ払うように咆哮を放ち、部下から信者を遠ざけた。

その間にジェイドは部下を回収した。

 

「ファル!しっかりしろ!」

 

「王子……ダメです。早く逃げてっ!」

 

ジェイドが部下ファルを抱えて逃げようとするがファルはそれを拒み、ジェイドを押しのけた。

その瞬間、ファルの体が光輝き爆発した。

 

「ぐあっ!」

 

「うあっ!?」

 

「ごじゃー!?」

 

爆発に巻き込まれたハルトたちは吹き飛ばされてしまった。

 

「保険は付けておくべきだな」

 

「…エミリア……」

 

爆発のせいで目が霞むハルトはエミリアに手を伸ばすが、信者たちがエミリアを回収し、祭壇に乗せた。

 

「これより!魔神『アスラ』様の復活の儀を執り行うッッ!!」

 

レペゼは興奮したように大声を上げる。

祭壇に魔法陣を描き、ブツブツとどこの言葉かわからない呪文を唱えるとアスラの石像とエミリアが怪しく輝く。

 

「あ…アアアアァァァッ!?」

 

エミリアは悲鳴を上げ、体が痙攣している。

すると体から光が石像に伸びてゆき、吸い込まれていく。

やがて光は消え、全て石像に吸い込まれた。

エミリアは役目を終えたのか、地面に落ちていく。

 

「エミリアッ!」

 

ハルトは地面にぶつかる寸前に受け止めた。

 

「エミリア!しっかりしろ!エミリア!!」

 

「は、ハルト……」

 

「よかった!大丈夫か!?」

 

「あ、アスラが……復活しちゃう」

 

エミリアがそう言った瞬間、遺跡全体の地面が激しく揺れる。

まるでそれは何かに怒りを表しているかのようだ。

 

「今だ!従属魔法をかけるぞ!」

 

『ハッ!』

 

レペゼがそう指示すると彼らは新たな呪文を唱え始める。

今度は周りに並べてある死体から怪しいオーラが現れ、石像に吸い込まれていく。

全てのオーラが吸い込まれ、揺れがより激しくなる。

 

「魔神『アスラ』様の復活だァァァッ!!!!」

 

レペゼがそう叫んだ瞬間、光がハルトたちを包み込んだのと同時に凄まじい爆発が遺跡全体を襲った。

 

 

爆発に巻き込まれたハルトはエミリアを庇い、滅竜奥義『覇竜の剛腕・包華』で自分たちを包み込みなんとか身を守ったが、瓦礫に埋もれてしまった。

瓦礫から這い出たハルトたちは周りの惨状に唖然とする。

 

「ひでぇな……」

 

全ての遺跡は崩壊し、辛うじて建物の跡が残る程度しかない。

エミリアを瓦礫から出し、地面に座らせる。

 

「大丈夫か?」

 

「うん……少し怠いかも……」

 

エミリアは顔色が悪いが大丈夫だと言う。

その時、突如信じられないくらいの重圧感がハルトたちを襲う。

 

「な、なんだ!?これ……!?」

 

「これって……!?」

 

その圧力にハルトは膝をつき、エミリアは冷や汗を流し震える。

すると瓦礫が動き出し、その下にいたモノが現れた。

身体は赤銅色の鱗で包まれ、血のような色の筋が入っている。

その四肢は巨木を思い起こさせるように太く、爪は全てを切り裂かんとばかりに輝いている。

目は赤く輝いており、怒りで染め上がっている。

その山のように大きく、見た者に恐怖を与える化け物は超魔獣『アスラ』。

かつて世界を滅ぼさんばかりの大厄災を引き起こした化け物だ。

 

「これが……」

 

「アスラ……」

 

 

『GYAAAAaaaaaaaa!!!!!!』

 

 

その瞬間、2人の言葉に反応したかのようにアスラは雄叫びを上げた。

それは空に響き、大地を揺るがす。

 

「おお……これが怒りの神……『アスラ』!!!」

 

ハルトたちから少し離れたところでレペゼが跪き腕を広げ、その後ろで多くの信者たちが土下座をして復活したアスラを崇める。

 

「さあ!アスラ様!この間違った世界を正してくださいませ!!」

 

叫び続けるレペゼにアスラは顔を向け、しばらく見つめる。

従属魔法が効いているのか、アスラは大人しい。

そのアスラの様子を見たレペゼは魔法が成功し、自分の野望を叶えるとほくそ笑むが、次の瞬間アスラは巨体に似合う巨大な尻尾を叩きつけた。

レペゼは下敷きとなり見るも無残な死骸となった。

それを見た周りの信者たちは恐れ、慌てふためき逃げようとする。

しかし、アスラはそれを逃がさんと踏み潰していく。

信者の中には魔法で反撃する者がいるが魔法はその強靭な鱗で弾かれてしまい、アスラの餌食になった。

アスラの威圧感に呆然としていたが、信者たちが殺されていくのを見て止めようと立ち向かう。

 

「……っ、アスラを止める!」

 

ハルトが拳を構え、魔力を滾らせた瞬間にアスラの目がハルトの方を向く。

それに気づいたエミリアはハルトに叫ぶ。

 

「ダメっ!!」

 

ハルトが攻撃態勢になったのを見つけたアスラは胸を淡く光らせ徐々に口まで光を灯す。

 

『GAAAaaaaaaaa!!!!!!』

 

咆哮と共にその口から紅蓮のブレスが放たれ、ハルトたちを包み込んだ。

放たれたブレスは地面を割り、周りの建物を消し去ってしまった。

辺りはさらに荒れ、逃げようとしていた信者たちの姿はなくなっていた。

瓦礫に巻き込まれたか、それともブレスに当たり消え去ったか。

そのなかで土煙の中から金色の球体みたいな物が勢いよく飛び出して建物の壁にぶつかり、動きを止めた。

球体が崩れると中からはレペゼにやられた傷だけではなく、多くの傷から血を流すハルトが荒い呼吸をしながら倒れ、エミリアもハルトの手を繋いだ状態で倒れた。

 

「はぁ…….はぁ……くそっ」

 

ハルトは痛む体を感じながら、か細く悪態をつく。

ブレスを放たれた時咄嗟にハルトは全方向に盾を作る『覇竜の剛腕・包華』を発動し、防ごうとしたが簡単に破壊され直撃しそうになるが、エミリアが魔力を譲渡してくれたおかげ、何倍もの硬度を持つ盾を形成できた。

なんとか防いだが完全ではなく、何度も破壊され壊された瞬間に新しいのを作り防いだ。

しかし、そのせいでハルトの体には浅くない傷ができてしまった。

 

「大丈夫か……エミリア?」

 

「うん……なんとか」

 

エミリアの安否を確認し、アスラの方に目を向ける。

アスラはハルトたちの方にゆっくりと向かって来ていた。

先ほどのブレスで絶対的な力の差を感じたハルトは恐怖し、震えてしまう。

 

「くそ……歯が立たねぇ……」

 

「このままじゃ『アスラ』が完全に復活しちゃう……」

 

「完全って……あれでまだ完全じゃないのか!?」

 

エミリアの言葉にハルトは驚く。

まさに天災と言った存在が未だに全力ではないと言うのだ。

 

「完全に復活したら、誰も手をつけられない……」

 

迫り来るアスラをハルトは焦りがこもった目で睨む。

 

「どうしたらいい……」

 

「……………ねぇ、ハルト。お願いがあるの」

 

「どうした?」

 

エミリアが真剣な表情でハルトのほうを向く。

 

「アスラを止めることができないけど、もう一度封印する方法ならあるの」

 

「本当か!!なら早速……」

 

「でも完全に封印するには1人ではできない。ハルトの助けがいるの」

 

エミリアはハルトの手を握る。

 

「アスラを封印する方法は星霊魔導士の体内に取り込んでその命に封をするの」

 

「星霊魔導士たってここには………」

 

「そう私がいる。私の体にアスラを閉じ込めるの」

 

「ダメだ危険すぎる!!また超魔獣を取り込んだらどうなるか分からないんだぞ!!」

 

「星霊魔導士の特殊な魔力じゃないとダメなの」

 

「それに命に封をするって……!」

 

エミリアはハルトに金と銀の鍵、『オリオンの鍵』を渡す。

 

「これで私の胸を刺して」

 

「無理だ……俺にはできない……」

 

ハルトは首を横に振る。

せっかく想いを遂げられたのに、その想人を殺せと言われているのだハルトにできるはずがない。

しかし、エミリアが無理やり持たせる。

 

「ハルト。私ね、貴方に会うまでこんな世界どうでもいいと思ってたの。だけどね……今は貴方と出会ったこの世界を守りたいの」

 

エミリアはこれから死ににいくとは思えない笑顔でハルトを見つめる。

 

「愛してる。ハルト」

 

「待てエミリア!!!ぐっ……!」

 

エミリアはアスラに向かって走りだし、ハルトが止めようとエミリアの手を掴もうとするがダメージで体が動かずエミリアの手を掴み損ねてしまう。

 

「空に輝く全ての星よ!悪しき存在を封じるために我が身に力を貸したまえ!!」

 

エミリアがアスラの足元で呪文を唱えると周りに数多くの光球が現れれる。

自分を害するものだと判断したアスラはエミリアを踏み潰そうと足を振り下ろす。

しかし、それより早くエミリアの魔法が完成する。

 

「ダスト・トレイル!!!」

 

エミリアが叫ぶと光球はエミリアとアスラを中心に回転し、アスラを巻き込んでエミリアに集まり、アスラをエミリアの体に封じ込めた。

 

「エミリア!!」

 

「…は、ハルト……」

 

エミリアは胸を押さえて苦しそうにして、倒れてしまうがハルトが抱きとめる。

 

「エミリア!!しっかりしろ!!」

 

「はや……く。鍵を……」

 

「無理だ!!俺にはできない!!!」

 

ハルトは涙を流しながら叫ぶ。

しかしエミリアは苦しそうにしながらも穏やかな笑みを浮かべる。

 

「お願い……ハルト………うぅっ……!」

 

その途端、エミリアの心臓部分が赤黒く光りだす。

アスラが無理やり抜け出そうとしているのだ。

ハルトはエミリアが助からないことがわかってしまった。

無理やりエミリアの中から出てもエミリアの体は保たずに破壊され、封じても命を落としてしまう。

ハルトは震える手で鍵を握る。

 

「アアアァァァッ!!!」

 

ハルトは叫び、鍵をエミリアの胸に突き刺した。

 

「ありがとう……ハルト」

 

エミリアの安らかな呟きと共に鍵を締める音が響き、凄まじい光と衝撃波が辺りを襲った。

 

 

光の中心に駆けつけたカミナたちが見たのは、涙を流しながらピクリとも動かないエミリアを抱きしめるハルトだった。

事情を聞いたエリオは激昂し、ハルトを殴った。

すぐにカミナたちに止められたが、エリオはその場で泣き崩れてしまう。

エミリアはフィオーレで二度とアスラが復活しないように管理されることとなった。

こうしてアスラを巡った戦いはエミリアを犠牲にして終わった。

 

「これが、俺とエミリアの過去だ」

 

ハルトは目に悲しみを滲ませ、俯いた。

エミリアを犠牲にするしかできなかった自分が腹ただしくて仕方なかった。

 

「ハルト……」

 

ルーシィは励ましの言葉をかけてやりたかったが、そんな簡単にかけられるものではなかった。

 

 



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星の導き 篇
第128話 報復を与えに来た者


オリオンを引き連れてギルドに向かう道中、ハルトたちの空気は沈んだままだった。

ハルトとエミリアの過去を聞いて、何を言えばいいかわからなかった。

あまり空気を読まないナツでも重く沈んだ空気で声を上げることはできなかった。

オリオンの頼みをナツたちは受ける気でいたが、今回の件はフィオーレ王国が関わってくるということでマスターであるマカロフと共に聞くことになった。

 

「あら、おかえりなさい」

 

「ミラ、マスターはおられるか?」

 

「奥にいるわよ。そちらの男性は?」

 

「今回の依頼人だ」

 

帰ってきたエルザたちにミラはいつもの笑顔で迎えてくれる。

エルザたちがオリオンを連れて、マカロフと共に話を聞こうと向かうなか、ハルトは足を止めた。

今回の依頼ではエリオが関わってくる。

もしかしたら、エリオと戦うかもしれない。

エミリアを守るという約束を守れず、死なせてしまった自分がエリオの何を止めることの資格があるのか。

そんな考えがハルトの中でも巡っていた。

 

するとルーシィが立ち竦むハルトの硬く握られた手をを優しく包んだ。

 

「ルーシィ……」

 

「私はエミリアさんは幸せだったと思うよ。だって好きな人と一緒にいれたんだもん」

 

「だけど俺はエミリアを殺した」

 

「それでもだよ。恨んでいた世界を全部変えてくれたんでしょ?エミリアさんにとってはそれはとても幸せなことだと思う」

 

「何でお前にそんなことがわかるんだ?」

 

そう問われたルーシィは真っ直ぐにハルトを見る。

 

「アタシもそうだったから」

 

ハルトと出会って自分は冒険の世界に踏み出せた。

エミリアも同じ気持ちだったと確信を持てる。

何故なら、同じ人を好きになっているから。

無茶苦茶なことだが、ハルトにとっては救いになり、少し気が楽になる。

 

「そうか……」

 

「だからエミリアさんのお兄さんを止めましょう!エミリアさんもお兄さんにそんなことをして欲しくないはずよ!」

 

ルーシィにそう言われ、ハルトも決心した。

 

「ああ、俺が出来ることはなんでもやってやる」

 

目に力を取り戻したハルトを見て、いつものハルトだとルーシィは安心する。

その時、ルーシィの背後に1人の男が立つ。

 

「そうか。じゃあまずは死んでくれよ、ハルト」

 

次の瞬間、ハルトは何かが刺さる衝撃を感じた。

違和感を感じる腹部に目を向けると蒼く光る結晶で形成された槍が刺さっていた。

 

「なっ……ぁ……」

 

「え……ハルト?」

 

服に血が滲みだし、耐えきれない痛みが広がってくる。

ハルトは立てなくなり、その場に蹲るが槍にもたれる。

 

「ハルトォッーー!!」

 

ルーシィの悲鳴がギルド中に響いて全員がルーシィ達の方を向き、惨状を目の当たりにする。

 

「え?なんだあれ?」

 

「おい!倒れてるのハルトじゃねぇか!?」

 

「ハルト!!」

 

突然のことに全員が騒つくなか、ルーシィは蹲るハルトに駆け寄ろうとするが男が邪魔する。

 

「おっと、君はこっちだ」

 

「離してよ!ハルトが!?」

 

肩を掴んで引き寄せる男の胸を叩いて離れようとするが力が強く、離れることができない。

ふと男の顔を見るとルーシィは驚愕する。

 

「あんた……もしかしてエリオ?」

 

ハルトを刺した張本人はかつてハルトの仲間でエミリアの兄だったエリオだった。

 

「……しばらく眠っていてくれ」

 

エリオはルーシィを見て一瞬目を細めながらルーシィの眼前に手を広げるとルーシィは意識がなくなり、エリオの腕に倒れた。

意識を失ったルーシィを後ろに控えた男に渡したエリオは片手でハルトに刺さった槍をハルトごと持ち上げる。

 

「ずっとお前をこうしたかった。エミリアを殺したお前を」

 

「がっ……ぇ、エリオ……!」

 

槍からはハルトの血が滴り、エリオの手を汚す。

しかし、エリオは嫌悪するところか笑みを深くする。

 

「ハルトに何すんだ!!」

 

そこに激昂したナツ、グレイ、レインが飛びかかってくるが、エリオは3人に目を向けた。

その瞬間3人に衝撃波が襲い、吹き飛ばされてしまう。

 

「邪魔しないでくれ。今、昔の仲間だけで話しているんだ。なぁ?カミナ」

 

エリオの背後で刀を振るってくるカミナに向かって、槍を動かしハルトをぶつける。

カミナは刀を収め、ハルトを受け止めながら後退する。

 

「ハルト!しっかりしろ!ウェンディ、治療を頼む!」

 

「はい!」

 

マカロフ達と話していたエルザ達のところまで下がったカミナはすぐさまウェンディにハルトを任せる。

 

「冷静なお前がそこまで取り乱すか。お前はハルトと仲が良かったよなぁ」

 

「だから何だ?」

 

カミナはエリオを睨みつけるが、睨まれている本人は涼しそうな表情だ。

 

「エミリアが死んだ時、お前はハルトを責めなかった。それが腹ただしいんだよ」

 

エリオもカミナを睨む。

 

「あの時、あれが最善だった。それだけだ」

 

緊張した空気が流れる中、エリオはカミナに背を向けギルドを出ようとする。

 

「この後、大事な仕事があるんだ。昔話はまた今度しよう。この娘はもらっていく」

 

 

「逃すと思うか?」

 

 

怒りに満ち溢れた声が響く。

エリオが振り向けば、そこには巨大化したマカロフ、剣を抜いて剣呑な眼差のエルザ、牙をむき出しにして睨むナツ、殺気を向けてくるカミナが立っている。

 

「ワシのガキを傷つけ、あまつさえ攫うじゃと?テメぇら死ぬ覚悟はできてんだろうな?」

 

怒髪天を突かんばかりの怒りの表情でエリオ達を見下ろすマカロフにエリオに付いていた男は恐怖と焦りの表情を見せるが、エリオは気にした様子はない。

エリオたちの周りをギルドメンバーが取り囲み、逃げれないようにする。

周りを一瞥したエリオは額に手を当て、俯く。

 

「はぁ……全く、面倒ごとを増やすなよ」

 

顔を上げたエリオの顔に黒いシミのようなものが広がり、左目部分を覆う。

その瞬間、エリオから感じる魔力に変化をカミナ、エルザ、マカロフの妖精の尻尾の中でも飛び抜けている実力者は明確に感じた。

その他の者もなんとなくだが嫌な感覚を感じ取っている。

エリオは人差し指を向けて魔力を練り始める。

 

「全員ワシらの後ろに下がっておれ!!最大防御魔法!『三柱神』!!」

 

「破道の八十!『断空』!」

 

「金剛の鎧!!」

 

その瞬間、マカロフ、カミナ、エルザは皆の前に出て、防御の魔法を展開する。

 

「『虚閃(セロ)』」

 

指から破壊の光線が放たれ、マカロフたちを覆った。

地面は抉れ、ギルドに強い衝撃を与える。

土煙が巻き上がり、マカロフたちの様子は見えない。

エリオは腕を下ろし、今度こそギルドから出て行った。

取り込んでいた者たちはエリオの魔法の威力に怯えてしまい、動くことができなかった。

 

 

ギルドの外に出ると騒ぎを聞きつけた野次馬たちがギルドの周りを囲んでいた。

エリオをそれらを無視して、人混みの中を通ろうとする。

すると人々はエリオの異様な雰囲気に自然と道を開けてしまう。

エリオはできた道を進んでいくと、ルーシィを抱えた男が後ろから耳打ちしてきた。

 

「エリオ様。『器』の方はまだ回収に手間取っているようです」

 

「そうか、『奴ら』を向かわせろ。それで片がつく」

 

そう言ってエリオたちは黒煙立ち込めるギルドを後にした。

 

 

 



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第129話 今度は

エリオが出て行ったギルドには土煙が立ち込めていたが徐々に煙が晴れてくる。

晴れたところにはマカロフたちが無傷で立っていたが、全員が不安な表情だった。

 

「なんじゃ、あの魔力は……」

 

「今までに感じたことのない魔力でした。異質な魔力……、ルーシィも攫われてしまった。不甲斐ないです」

 

「………ルーシィのことは後じゃ。まずはハルトをどうにかせねば」

 

マカロフが振り向くと、そこにはハルトの治療をしているウェンディの姿があった。

 

「ハルト〜……」

 

「ふっ、くっ……!」

 

マタムネは心配そうにハルトに縋り付き、ウェンディの額には汗が浮かんで辛そうな表情だ。

 

「おい!ウェンディ!ハルトは大丈夫なのかよ!?」

 

「ちょっと!邪魔しないでよ!」

 

ナツがウェンディに詰め寄るとシャルルがそれを止めた。

ウェンディの側にいたレインはウェンディの治療に違和感を覚えた。

ハルトの腹にできた傷の治りが遅いのだ。

 

「ウェンディ?大丈夫?」

 

「う、うん……だけどハルトさんの傷が治りにくくて、傷の周りの何かが私の魔法を邪魔してる……!」

 

ウェンディがより魔力を込めるが、傷の治りは良くならない。

そこにカミナもハルトの側に座る。

 

「マーベル。俺が傷の周りを覆っている魔力を解いていく。そこから傷を治療していけ」

 

「は、はい!」

 

「カミナ!俺たちも何か手伝うぞ!!」

 

ナツたちが提案するが、カミナは断る。

 

「治療の邪魔だ。お前たちは攫われたハートフィリアのことを考えていろ。ジェット、お前はポーリュシカさんを連れて来てくれ。この傷は魔法だけじゃ骨が折れる」

 

「わかった!」

 

カミナの指示にジェットは二つ返事で了承し、すぐさま走るスピードが速くなる魔法『神速』でポーリュシカの元に向かった。

ハルトの治療をカミナたちに任せ、マカロフたちは攫われたルーシィのことを話し始めた。

 

「じっちゃん!今すぐルーシィを助けに行くぞ!!」

 

ナツが怒りの表情で叫ぶがマカロフは止める。

 

「どうやってじゃ?相手も分からず、どこにいるかも分からんのにか?」

 

「うぐぐ……」

 

マカロフの言うことは正しく、相手は不明、ハッピーたちに空から探しに行ってもらったが見つからず、ルーシィを連れてどこかに消えてしまった。

 

「だがハルトを襲った奴には見覚えがあるな」

 

「僕もです」

 

グレイとレインがそう呟くとカミナが話し合いに参加した。

 

「エリオだ。かつて俺とハルトの仲間だった」

 

「ハルトの容態はどうじゃ?」

 

「とりあえずは峠を越えた。後はマーベルとポーリュシカさんに任せる」

 

その報告にハルトの安全が確保出来たことに全員が安心した。

 

「エリオってアスラの時のか!?」

 

「どうしてその名を知っている?」

 

「我輩が教えたのだ」

 

オリオンは自分がエミリアの元星霊だと教えた。

エルザはエリオがハルトを襲い、ルーシィを攫った理由をオリオンに問いただす。

 

「エリオの狙いは何だ?」

 

「エミリアを蘇らせようとしている」

 

その一言に周りが騒つく。

死者の蘇生などできるはずがないのだ。

例え、神秘の魔法でもだ。

もし、できたとしてもそれは明らかに人の道から外れた行いだ。

しかし、オリオンはそこに付け足す。

 

「実際にはエミリアは死んでるわけではない。アスラを封印するための器として今も肉体だけは生き続けている。魂の方はどうかわからんがな……」

 

「では、何故ルーシィを攫ったんじゃ?」

 

「恐らくルーシィ嬢の体を代わりの器にする気なのだろう。だが、あれの封印は強大な魔力を持つエミリアだから出来たこと。まだ未熟なルーシィ嬢では移すことはできても封印は出来ずに死んでしまう」

 

その言葉に全員に緊張が走る。

 

「ふざけんじゃねぇっ!!ルーシィが犠牲になるってのか!!?」

 

「何故ルーシィなのだ?ルーシィより高い魔力を持つ者は多くいる」

 

ナツが怒りでオリオンに詰め寄るがエルザは落ち着かせ、何故ルーシィを選んだのか聞く。

 

「ただ魔力が高いだけでは駄目なのだ。星霊魔導士でなければならない。星霊魔導士の魔力は他の人間とは異なる魔力だ。その中でも器となれるのはまた条件がいる。1体以上の黄道十二門の星霊かそれと同等の星霊と契約してなければいけない。ルーシィ嬢は5体の黄道十二門の星霊と契約しているようだが、適正は十分になる」

 

オリオンのその言葉に殆どの者が理解したが、ナツは納得がいかなかった。

 

「だからって何でルーシィなんだよ!?他にも黄道十二門の鍵を持ってる奴だっているだろうが!!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

憤るナツに続いてハッピーや他の者達も憤る。

騒がしくなる皆の中でカミナが呟いた。

 

「復讐だ」

 

カミナのその一言に皆が注目する。

 

「エリオはハルトを恨んでいる。アイツの最も大切なものを奪いたんだろう。自分がそうされたように」

 

「だがカミナ!あれは仕方がなかったのだろう!?」

 

「アイツの記憶を見たならわかるだろう。理屈じゃどうにもできないことだってある」

 

それを言われたエルザは悔しそうにした。

恨みで心を囚われた人間を知っているからであろう。

 

「それでは、次に奴らの行動はわかるか?」

 

マカロフがオリオンに尋ねるが首を横に振った。

どうやらオリオンはエリオの計画はわからないらしい。

するとカミナは話し合いの輪から抜け出し、ギルドを出ようとする。

 

「カミナ、どこに行く?」

 

「ジェイドのところに行く。奴なら何か知っているはずだ」

 

「俺も行くぞ!!」

 

「俺もだ。やられっぱなしでいられるかよ」

 

「僕もです!」

 

「オイラも!」

 

ナツ達が名乗りを上げ付いて行こうとするがカミナは拒否した。

 

「来るな。お前達が来てもあっちで邪魔なだけだ」

 

冷徹な態度で拒否するカミナにナツは溜まりに溜まっている怒りが爆発する。

 

「ンだとー!!」

 

殴りかかろうとするナツをマカロフは一喝して止める。

 

「やめんか!ナツ!!お前はここで待機じゃ!!」

 

「なっ!?なんでだよ、じっちゃん!!」

 

「お前が城に行って問題を起こされると今回の件の解決に時間がかかるわい!エルザ、カミナについて行ってやれ。お主なら大丈夫じゃろう」

 

「はい、わかりました。という訳だカミナ。嫌でも付いて行くぞ」

 

「………好きにしろ」

 

カミナは少しため息を吐いてギルドを出て行く。

エルザも付いて行こうとするがマカロフが呼び止めた。

 

「エルザよ。カミナはどうやら今回の件に責任を感じ、焦っているようじゃ。助けになってやってくれ」

 

「はい、任せてください」

 

そこにミラも少し心配そうにエルザに近づく。

 

「エルザ、カミナのことお願い」

 

「ああ」

 

こうして2人はフィオーレ王国の首都、花の都『クロッカス』を目指した。

 

 

行きの馬車の中でカミナとエルザは全く話そうとしていなかった。

普段からあまり口数が少ないカミナだが、エルザとは同じ剣を使う者として鍛錬などを幾度かやってきたため、そこそこの交友はある。

しかし、今のカミナは緊張した雰囲気を放っており、話しかけることができないでいた。

だが、マカロフに任されたエルザは仲間のカミナを放っておくことはできなかった。

 

「ハルトなら大丈夫だ。ハルトが死ぬはずがない」

 

エルザはそう言ってカミナに笑いかける。

カミナはそれを目だけを動かして見るが、すぐに外の景色に視線を戻した。

ダメか、と思ったエルザだが、今度はカミナが話し始めた。

 

「アイツは優等生ぶっているが本質はバカだ。人の気持ちも知らないで勝手にズカズカと人の内側に入ってきて、勝手に引っ張りあげていく。まったくお節介な奴だ」

 

少し笑みを見せるカミナにエルザは黙って聞く。

 

「だが、そのおかげで俺は光に立てている。ギルドに入り、ミラにも出会えた」

 

「それは私も同じだ。私もハルトがいたから真にギルドの一員になれたんだ」

 

カミナはエルザと正面を向き、真剣な表情になる。

 

「エミリアが死んだ時、俺はどうすればいいかわからなかった。アイツみたいに心の内側に入れる自信がなかった。だから……ハートフィリアを救って必ずハルトを助けるぞ」

 

決意を新たに2人はクロッカスに向かう。

目的の場所はもうすぐそこだ。

 



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第130話 王国からの依頼

クロッカスに着いた2人はすぐさまかつて仲間だったジェイドと会うために宮殿『華灯宮メルクリアス』に赴いた。

ジェイドは王族で多忙であるため、2人はすぐに会うことはできないと思っていたが、そのまま城内に案内され客室で待つように言われた。

客室まで行く際に城内では多くの人間が慌ただしく動いているのが目についた。

 

「意外だな。こうも早くお会いにできるとは」

 

客室で待つエルザはカミナの隣に座りながら意外そうに呟く。

すると顎に手を当てていたカミナはボソリと呟いた。

 

「………もしかしたら、少しマズいことになっているかもしれない」

 

「どういうことだ?」

 

カミナのその言葉に聞き返そうとしたが扉が開かれ、ジェイドとその付き人と思わしき男性、そして13、4歳くらいの書類を持った少女が入ってきた。

カミナ達は礼を取ろうとするがジェイドがそれを手で止めた。

 

「よく来てくれた。早速だが話に入ろう」

 

ジェイドが促すとエルザが話し始める。

 

「はい、昨日私たちのギルドが襲撃されました。その主犯が……」

 

「エリオだろ」

 

話に被せてきたジェイドにエルザは知っていたのか?と訝しげに思う。

今まで黙っていたカミナがジェイドをまっすぐ見て口を開く。

 

「ジェイド。お前達も襲われたのか?」

 

「王子に向かってその口調は……!」

 

「いい、やめろ。話が続かない。……その通りだ。実際にここが襲われたわけじゃないがな」

 

「なっ……!」

 

その言葉にカミナはどこか納得し、エルザは驚いた。

妖精の尻尾だけを襲撃したなら1つのギルドとの戦争になるがフィオーレ王国を襲ったというなら話は変わってくる。

国を襲った、つまりこの国と全面的に戦争をするということだ。

評議会、ギルド、軍の3つの勢力と争うということになる。

そこまであのエリオは無謀な蛮勇なのか、それともそれに打ち勝てるほどの力と自信があるのか。

 

「どこが襲われたんだ?」

 

「レナ、資料を」

 

「はい!」

 

ジェイドが促すと黒髪の少女は持っていた書類を2人に渡した。

 

「襲われたのはフィオーレ王国に点在する宝物庫のいくつかだ」

 

書類にはフィオーレ王国が所有している宝物庫の地図と襲われた詳細が書かれていた。

 

「宝を狙われたのですか?」

 

「いや、宝は一切奪われていなかった。被害は宝物庫の多少の破壊と警備の騎士達が重傷を負った程度だった」

 

「一つも盗んでいない?奴らの目的は宝ではないのか?」

 

エルザが呟くとカミナは確信を持った口調でジェイドに話しかける。

 

「エミリアの体をフィオーレ王国で保管しているな?」

 

「なに!?」

 

エルザ達が見たハルトの記憶ではエミリアは死んだとされていた。

しかし、彼女の星霊オリオンは本当に死んだわけではないと言っていた。

その体をフィオーレ王国が保管しているというのだ。

 

「エミリアの体にはアスラが封じられている。今は厳重に保管されているが奴らに奪われるのは時間の問題だ。そこで君たち、妖精の尻尾に依頼したい」

 

「何をでしょうか?」

 

「エミリアの体が保管されている宝物庫を警護して欲しい」

 

ジェイドの依頼に2人は驚く。

宝物庫は言わば国の機密が集められた場所だ。

その場所を外部の者に警護して欲しいとは前代未聞だ。

 

「理由はある。今、フィオーレ王国中の宝物庫が襲われて警備を強化するために殆どの兵士を各地に派遣した。そのためエミリアを保管してある宝物庫に派遣した兵士の数が少し心足りないんだ」

 

「相手が来るとわかっているなら、そこに集中して守ればいいのでは?」

 

エルザの質問に側近の男が説明する。

 

「各地に宝物庫を分けているのは危険な代物を一つの場所に集めておかないためだ。下手したら国が滅ぶほどのものもある」

 

「勿論、行って欲しいところには兵士を多く派遣したが奴らの実力は未知数だ。予防をしていて損はない」

 

エルザは人の体を保管しておくのはどうかと思ったが、概ね受ける気であった。

横に座るカミナを見て、どうするかを伺う。

 

「一先ず、マスターに相談させてくれ。ギルド一つに依頼をするとなるとマスターに指示を仰がないといけない」

 

カミナ達は城にある通信用の魔水晶を借りて、妖精の尻尾で待機していたマカロフに連絡を取る。

 

「というわけで俺はこの依頼を受けたいと思う」

 

『ふむ……国からの依頼となれば受けるしかあるまい。それにルーシィを攫った奴らに会うことができるとなれば願っても無いわい。王子には受けると伝えておいてくれ』

 

「わかりました」

 

魔水晶の動力を切ったカミナは背後にいたジェイドの方を向く。

 

「聞いた通りだ。俺たち妖精の尻尾は依頼を受ける」

 

「よし。早速宝物庫の場所に向かってくれ。道案内は俺の側近の1人に任せる。頼むぞスイク」

 

「はっ、わかりました。ラナ、私がいない間の王子のサポートを頼むぞ」

 

「わかりました!」

 

ジェイドの側近、スイクとカミナ達はエミリアの体が保管されている宝物庫を目指した。

 

 

攫われたルーシィは薄暗い部屋の中に備えられてある簡素なベッドの上に寝かされていた。

部屋には頭の大きさくらいしかない小窓が天井近くにあるだけだ。

漸く目を覚ましたルーシィはゆっくりと体を起こし、どういう状況か徐々に思い出す。

 

「ここって……どこ?それにアタシ……そうだ!ハルト!!」

 

ハルトが刺されたことを思い出し、思わず立ち上がるルーシィに声がかけられる。

 

「自分の心配より好きな男を心配するか、呆れたな」

 

後ろを振り向くとエリオが椅子に座っていた。

ルーシィは警戒しながらどこからか逃げられないか、周りを見る。

今のところ逃げられるのはエリオの背後にある扉だけだ。

 

「アンタ、ハルトの仲間のエリオでしょ?何でこんなことをするの?」

 

「元仲間だ、アイツには恨みしかない。お前をエミリアを復活するための生贄にする。それまでは何もしない。安心しろ」

 

「安心って……できるわけないじゃない」

 

睨むルーシィにエリオは何も言わず、出て行こうとして背を向ける。

その瞬間ルーシィは一気に駆け出し、エリオを押し退けて扉から出ようとする。

 

(とにかく外に逃げないと!)

 

「無駄だ。レイト!」

 

エリオが叫んだ瞬間、ルーシィの動きが急激に遅くなる。

まるでテレビのスロー再生のようだ。

 

「な、何………これ?」

 

すると彼女の側に1人の小柄な男性が通り過ぎる。

 

「ダメだよー、逃げちゃ」

 

「レイト、部屋まで連れてこい」

 

「嫌だよ。面倒くさい」

 

レイトと呼ばれた男は気怠げにエリオの命令を却下する。

エリオは仕方なしと思い、ついに動かなくなったルーシィを捕まえようと手を伸ばすがふとルーシィの顔を見て、止めた。

ルーシィの顔とエミリアの顔が重なってしまい、一瞬どこか悔しそうな顔をしてしまった。

手のひらを向けるとまたルーシィは気が遠くなる。

 

(ハルト……)

 

薄れていく意識で最後に思い浮かんだのは自分の想い人だった。

倒れるルーシィを受け止め、エリオは宝物を扱うかのように大切に抱えて、ベッドに寝かせた。

 

「もうすぐだ。エミリア……」

 

エリオの寂しさを含ませた声が響いた。

 

 

辺境の土地に存在する宝物庫の前に多くの兵士と妖精の尻尾のメンバーが集結していた。

妖精の尻尾の魔導士はカミナ、エルザ、ナツ、グレイ、レイン、ガジル、ジュビア、エルフマン、雷神衆と今用意できる最大戦力を用意した。

 

「ハルトの容態はどうだ?」

 

「ポーリュシカさんが言うには傷は完治したが、あの男の魔力が毒のように体に回っているらしい。全快には時間がかかるとのことだ」

 

「そうか……」

 

フリードの言葉にカミナは少し安心する。

 

「カミナ、あの男の魔力は何だったんだ?今までに感じたことがない異質な魔力だった。解呪のプロであるお前ならわかるんじゃないか?」

 

エルザにそう問われたカミナだが首を横に振った。

 

「わからない。以前会った時の奴は確かに強かったが俺やハルトほどではなかった。5年近く経っているとはいえあそこまで急激に強くなるのは異常だ」

 

カミナは何か思い当たる節がないか記憶を探る。

そこにカミナ達の案内役をしてくれたスイクが妖精の尻尾の面々に話しかける。

 

「君たち、しっかり守ってくれたまえよ」

 

上からの態度に何名かはスイクを睨むが、それを流すように受け止める。

 

「王子は君たちを信用しているみたいだが、私はそうじゃない。混乱に乗じて宝を盗まないようにな」

 

あまりの物言いにナツが吠える。

 

「俺たちがンなことするわけねぇだろ!!」

 

しかし、スイクはナツの言葉を無視して宝物庫の方に戻った。

 

「待てよ!テメー!!」

 

「やめとけ!ナツ!」

 

「落ち着いてください!」

 

追いかけようとするナツをエルフマンとレインが止める。

全員文句はあるがそんな不毛なことをするより、ここに現れる敵を捕まえてルーシィの居場所を聞くのが優先だと考えたのだ。

 

「なあ、ここで待ち構えていて大丈夫なのかよ?あからさまに待ってますって感じだろ」

 

グレイがカミナにそう聞いてきた。

 

「そっちの方がいい。相手の戦力も数も未知数なんだ。待ち構えるしかない」

 

そう言って眼前に広がる森を見た瞬間、カミナは違和感を感じる。

 

「どうしたカミナ?」

 

「来るぞ……」

 

その言葉に全員が身構える。

緊張した空気が流れた、その瞬間!

 

宝物庫からの爆発が響いた。

 

「なっ……!」

 

「っ!宝物庫に行くぞ!!」

 

全員が呆気に取られるがカミナがいち早く正気に戻り、宝物庫に向かう。

宝物庫は簡単な構造になっており、扉を開くとそこには多くの人が倒れており、その奥で数人の男女が立っていた。

 

「何だぁ?もう来たのか?」

 

「だから爆破はやめようって言ったのに……」

 

「やるなら派手にやらないとな!!」

 

柄が悪い大男がカラカラと笑い、小柄な少女が呆れた様子だ。

エルザが代表として問いただす。

 

「お前達がやったのか!?」

 

「ああ!そうさ!俺たちがやった!ここにあるお宝を手に入れるためにな!」

 

「それはエミリアの体か?」

 

「その通がふっ!?」

 

カミナが質問すると男の方がバカ正直に答えようとするので少女が男の顎に掌底で打ち上げた。

 

「黙ってて、バカ」

 

「はひしひゃはる!」

 

コントめいたことをする2人だが、2人とも強者として風格がある。

 

「まだ目標を達成していない。ここでこいつらを食い止める」

 

「ひょーはい」

 

たった2人の敵が妖精の尻尾と激突する。



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第131話 彼奴等の望み

妖精の尻尾に立ちはだかるのはたった2人の敵だが、その雰囲気は異常だとカミナは感じ取っていた。

 

「お前たち2人に対して、こっちは千近くの軍隊だ。投降するのが賢い判断だと思うがな」

 

カミナは相手に何もさせないように投降を勧告し、2人のうちの少女が一歩前に出てくる。

 

「数なんてどうとでもなるわよ。グラウンドメイク『トルゥパー(兵士)』」

 

少女が地面を踏みしめると地面が盛り上がり、その土から兵士が造られた。

 

「造形魔法!?」

 

グレイは氷以外の造形魔法に驚きを見せる、

造り出された兵士の数は一体だけでなく、次々と造られ宝物庫を埋め尽くさんばかりだ。

 

「行って」

 

「来るぞ!!」

 

少女が指示を出すと一斉に土塊の兵士たちはカミナたちに襲いかかる。

カミナたちは兵士たちに応戦する。

兵士一体一体はさほど強くなく、魔法を使わずに倒せるが数が多く、徐々に押され始めてしまう。

 

「邪魔くせぇな!オイ!」

 

「一気に倒してやる!!火竜の……!!」

 

「真似すんじゃねぇよ!!鉄竜の……!!」

 

苛立ったナツとガジルが頬を膨らませ、ブレスで蹴散らそうとするがエルザが止めた。

 

「やめろ!この宝物庫には貴重な宝があるんだぞ!!壊したら弁償なんて出来んぞ!!」

 

「関係あるか!咆こ…へぶっ!?」

 

「ふごっ!?」

 

御構い無しにブレスを放とうとしたナツとガジルの頭をカミナは踏み台にして、兵士を作り出している少女に近づく。

 

「フッ!」

 

「させねーよ!」

 

刀を振るうが、横から男が身を盾にして少女を守った。

カミナは確かに男を切った感触はしたが、切られた男は不敵な笑みを浮かべてカミナを見る。

すると、男の切られた部分がみるみると治っていった。

 

「そんなんじゃ俺は死なねーぞ?」

 

「………」

 

カミナは刀を構えて、男を見据える。

すると今度はグレイとビックスローが前に出た。

 

「周りに被害が出ないようにすればいいんだろ!?なら、任せろ!!」

 

「お前にできんのかよグレイ!壊してる組のお前さんがよ!」

 

「言ってろ!!」

 

グレイは造形魔法を発動する構えを取り、ビックスローは人形を操る。

 

「アイスメイク『ランス』!!」

 

「行きな!ベイビー!!」

 

グレイから氷の槍がビックスローの人形からビームが発射される。

多くの兵士を破壊された少女はグレイたちに目を向ける。

 

「グラウンドメイク『ホーミングビー(追撃蜂)』」

 

次に造り出されたのは人1人の頭の大きさがある機械的な蜂だった。

その蜂はグレイたちを襲おうと向かって行くが、その前にエルザに切り捨てられる。

 

「仲間はやらせんぞ!」

 

「あなた邪魔!」

 

少女が今度はエルザに手を向けると兵士たちは一斉にエルザの方を見て襲いかかって行く。

するとエルザは天輪の鎧に換装し、剣を舞い上がらせる。

 

「剣よ!」

 

舞う剣は兵士たちに突き刺さり、倒して行く。

道ができたエルザは一気に駆け出し、少女に斬りかかる。

 

「グラウンドメイク『シールド』!!」

 

咄嗟に少女は盾を作り出し、エルザの斬撃を防ぐが斬られた盾が衝撃で吹き飛び、少女も吹き飛ばされてしまった。

 

「っ!サツキさんはまだ終わらないの!?こいつら案外強い!」

 

「あともうちょいだろ!踏ん張れ!」

 

男が少女を応援しながら曲刀でカミナと応戦するが、剣の扱いに長けているカミナに押されている。

 

「このまま押し切るぞ!」

 

『オウ!』

 

妖精の尻尾の一同が一気に押し返し始める。

 

「今度こそ!火竜の……!」

 

「ちっ!グラウンドメイク……!」

 

「やらせるかよ!アイスメイク『フロア』!!」

 

少女が魔法を発動する前にグレイが地面を凍らせた。

 

「あっ!」

 

「テメー、造形魔法を使うとき地面を媒介にしてるだろ?出どころがわかればそれを塞いじまえばいい。……ワリィな。仲間がやられてこっちも穏やかじゃねんだよ」

 

「鉄拳!!」

 

グレイの冷たい声の後にナツの拳が少女に炸裂する。

 

「キャアアァッ!!」

 

少女は吹き飛ばされ、地面に転がる。

 

「ミーシャ!?」

 

カミナと戦っていた男は倒された少女、ミーシャの方を見る。

カミナはそれを見逃さなかった。

 

「隙ができたな」

 

「しまっ……!」

 

「縛道の六十一、『六杖光牢』」

 

カミナが男に指を向け詠唱を行うと、指先から光が放たれ男の体に光の楔が6つ打ち付けられ、動けなくなる。

 

「ぐっ、ちくしょう!」

 

「これで終わりだ」

 

ミーシャはエルザに取り押さえられ、首元に剣を添えられる。

 

「うぅ……」

 

「動くな。動けば傷つくことになるぞ」

 

エルザにそう言われても身動きを取って逃げようとするミーシャの体を、エルザは少しキツく押さえつけるとミーシャの体に乾いた地面がひび割れたような僅かな亀裂が押さえつけられた腕に広がった。

 

「これは……!?」

 

「み、見るな…!」

 

ミーシャは驚くエルザを睨むが、エルザはミーシャの体に起こった異変を見てそれどころではなかった。

拘束を怪我人の手当てに当たっていた兵士に任せ、エルザはミーシャのことが気になりながらもギルドのメンバーが集まっている大きな穴の前に向かった。

 

「どうした?」

 

「いや……少し気になることがあってな」

 

「てか、アイツらこの穴開けるために爆破したのか」

 

グレイが呆れたように穴を見ながらそう呟く。

彼らが爆破したのは宝物庫の地面に穴を開けるためだったようだ。

宝物庫の地下は空洞になっており、何かを封印していたようだ。

 

「サツキさん、とあのミーシャって子は言ってましたね」

 

「ということは少なくともあと1人、彼奴等の仲間がいるということだな」

 

ジュビアが思いだしたように言い、フリードがそう付け足す。

 

「何人いようが関係ねー!全員倒してやんよ!!」

 

「そしてルーシィの居場所を聞くんだ!」

 

「はい!」

 

「がんばろー!」

 

ナツが鼓舞するように叫び、ハッピー、レイン、ミントが答える。

それを見て、全員がその通りだと笑みを浮かべて答える。

 

「恐らく、残り仲間は下に向かってエミリアの体を取りに行っているはずだ。戻ってきたところを俺とエルザが……」

 

全員に作戦を伝えていたカミナがふと取り押さえられているミーシャに目を向けると、彼女を立たせようとしていた兵士たちの背後に人1人の大きさがある布に包まれた荷物を片腕に抱え、長刀を反対に持った動きやすい着物を着た女性が立っていた。

その女性を見た瞬間、カミナの本能が『アレ』は危険だと、『アレ』を殺さねばと最大限の警告を発した。

その警告に従ってカミナは刀に手を添え、体を屈める。

 

「カミナ?」

 

突然黙ったカミナが気になったエルザが声をかけるがカミナはそんなものは聞こえず、殺気をその女性に向ける。

そして一気に駆け出し女性に斬りかかる。

 

「随分と物騒な殺気ね。離れていても感じ取ってしまったわ」

 

さっきまで視界に標的がいたはずなのに気づけばその標的は自分の真横に来ていた。

カミナはどうして真横にいるのか、いつ移動したのかと疑問が思い浮かんだが、今は迎撃するのが優先だと即座に頭を切り替え刀を振るう。

しかし、振るった瞬間に刀は粉々に砕け散った。

 

「ごめんなさいね」

 

その言葉と共にカミナの顔に鞘に収まった刀が叩きつけられ、壁に吹き飛ばされてしまった。

これが僅か数秒で起きてしまい、エルザ達は状況が理解できなかった。

 

「カミナ!?」

 

「何だ!?」

 

吹き飛ばされたカミナは壁にぶつかり、埋もれてしまって動かなくなってしまった。

突然のことに驚くエルザ達だがカミナを倒した女性を見て、臨戦態勢になる。

 

「お前が残りの仲間か」

 

「そうよ。ねぇ、私たちをこのまま逃してくれないかしら?」

 

「何?」

 

突然の申し出にエルザは訝しげな表情になる。

 

「このまま逃してくれたら、貴女達には何もしないわ。だから見逃して欲しいの」

 

「それはできない相談だ。フィオーレ王国の宝を奪い、私達の仲間を傷つけた。逃すわけにはいかない」

 

そう言ってエルザは天輪の鎧で複数の剣を操作し、構える。

 

「そう……残念だわ」

 

「剣よ!」

 

悲しそうな表情でそう呟く女性にエルザは攻撃しようと剣に命令するが、その瞬間女性の剣を持っていた腕がブレて剣は砕け散り、鎧も跡形もなく破壊された。

 

「なっ……!?」

 

鎧が破壊されただけで下の肌には一切傷はなかった。

だが、何をされたかもわからない状態で鎧と武器を破壊された。

周りの仲間は突然エルザの鎧と武器が破壊され、驚き動きを止めてしまう。

 

「ねぇ、まだやる?」

 

そう呟いた女性を見て、エルザは背筋に冷たいものが走った。

相手からは魔力を感じない。

しかし、その実力はこの中では別次元だ。

それを肌で感じ取ったエルザは動こうにも恐怖で動けない。

 

「ミーシャ、大丈夫かしら?」

 

「ごめんなさい、サツキさん。少し油断しすぎていました」

 

いつのまにかミーシャを取り押さえていた兵士たちは倒されており、ミーシャは自由になる。

立ち上がるミーシャに手を貸した女性、サツキは気にするなと言って体についた汚れを取ってあげる。

 

「おーい!こっちも助けてくれよ!」

 

「はいはい」

 

サツキはまるで母親のような表情を浮かべて、男を拘束していた魔法を鞘で突くといとも簡単に破壊した。

人数の差は大きくあるのに全く不利だと思わせない空気にナツが切り出す。

 

「今度は俺が相手だ!!」

 

「ま、待って!ナツ!!」

 

エルザが突撃しようとするナツを止める。

今、攻撃しても倒される未来しか予測できない。

それ程までにあのサツキという女にエルザは危機感を持っている。

 

「そろそろあっちも我慢できなくなってきたみたいね。ミーシャいけるかしら?」

 

「うん、問題ない」

 

ミーシャは地面に両手をついて魔法を使おうとする。

そこにグレイがすかさず邪魔をする。

 

「やらせるかよ!アイスメイク『フロア』!!」

 

今度はミーシャの腕ごと凍らせたが、ミーシャは表情を変えずグレイを見る。

 

「今度は少し本気でやるわ。グラウンドメイク……!」

 

するとミーシャの腕の表面が土に変わり、顔にまでひび割れが広がる。

 

「『ビックウェーブ』!!!」

 

凍らされた地面がミーシャを中心に大きな荒波の土砂となって、エルザたちを襲う。

 

「ナツ!」

 

「うおっ!?」

 

「全員!側にいる者を掴め!!」

 

エルザは即座に近くにいたナツを掴み仲間に指示を出すが、巨大な土砂の波に飲み込まれてしまった。

土砂は宝物庫の壁を破り、外に待機していた兵士たちも飲み込んだ。

悲鳴が上がるがすぐに土砂に埋もれてしまった。

 

 

静かになった宝物庫からサツキ、ミーシャ、そして布に包まれた何かを持った男が出てきた。

 

「また派手にやったなー」

 

男が土砂に埋め尽くされた外の光景を見て、呟いた。

 

「仕方ないでしょ?一人一人相手してたらこっちが疲れちゃう。やるなら一気にやったほうがいいわ」

 

腕は土に変わり、顔にひび割れが広かった状態のミーシャはそう言った。

サツキはその光景を見て、悲しそうにするが2人に気づかれないように表情を戻し、振り返った。

 

「じゃあ、戻りましょう。目的の物は全て揃ったわ。これで私達の望みが叶う」

 

その言葉にミーシャと男は頷き、宝物庫を後にした。

 

 



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第132話 覇竜の頼れる仲間

お久しぶりです。
他の作品やら、私生活が忙しく放ったらかしにしていました。
これからもちょいちょいやっていきます。


また寝かされてしまったルーシィは目を覚まし、どうにか逃げ出せないかと小窓から手を伸ばしたりしているが一向に出られる気配がなかった。

 

「うっーー……!あともうちょっとで……!」

 

とにかく何もしていないのは気持ちが負けてしまうと思い、椅子に立って小窓の鉄格子から見える棒を取ろうとするが僅かに届かない。

 

「何をしているんだ?」

 

「きゃっ!?」

 

当然背後から声をかけられたルーシィは驚き、バランスを崩して倒れてしまう。

地面にぶつかりそうになった瞬間、声をかけたエリオがルーシィを受け止めた。

 

「あ、ありがとう……」

 

「………」

 

礼を言われたエリオは気まずそうにしながら、ルーシィから離れ部屋を出ようとする。

 

「アタシとエミリアさんを被せて見てる?」

 

「……何故そう思った?」

 

顔だけをルーシィに向けて睨むエリオにルーシィは言いにくそうにするが口を開く。

 

「ハルトと同じ目をしてたから……」

 

「………」

 

ハルトの名前が出た瞬間、エリオは目つきをより厳しくさせる。

 

「ハルトはエミリアさんを大切に思ってた」

 

「俺もだ」

 

過去でもエリオはエミリアのことを気にかけていた。

 

「2人とも良く似てるよ」

 

「俺とハルトがか?」

 

「2人ともエミリアさんを大切に思っている。そしてエミリアさんのことで囚われている」

 

ハルトはエミリアを手にかけ、人と深く関わるのが怖くなっていた。

エリオはエミリアを蘇らせるために犯罪に手を出している。

 

「何が貴方をそこまでさせるの?」

 

ルーシィはエリオの目を見て訴えるが、エリオは険しい目のまま黙って背を向ける。

 

「食事を取れ」

 

「あっ……」

 

エリオとすれ違いで部下が食事が持ってきた。

ルーシィはエリオに言葉を続けようとするがその前にエリオは出て行ってしまった。

エリオは歩きながら、ルーシィの言葉が頭の中で思い返されていた。

 

『何が貴方をそこまでさせるの?』

 

「何もなかったからここまでしているんだ……」

 

エリオは立ち止まり、エミリアが死んだ時のことを思い出した。

ハルトの腕の中で死んだように眠ったエミリア。

唯一の家族だったのに何もできず、その人生を終わらせてしまった。

エリオの胸の中にあるのはただ1人の家族に何もできなかった後悔だった。

それ故にエリオはエミリアを蘇らせそうとしているのだ。

例え何を敵に回しても、エリオは止まることはない。

 

 

エリオの仲間と思わしき者たちと戦い負けたカミナたちは一端ギルドに戻っていた。

全員が土砂に巻き込まれたため、大なり小なり怪我を負っておりウェンディが忙しく駆け回っていた。

 

「クッソー!!せっかく手がかりを掴んだのによ!!」

 

ナツは負けたこととせっかくのルーシィの情報を逃したことに腹を立てていた。

そんなナツをグレイが落ち着かせる。

 

「落ち着けよ、ナツ」

 

「落ち着いてられるかよ!テメーはムカつかねえのかよ!?同じ造形魔法の奴に負けてよ!!」

 

そう言われたグレイは土属性の造形魔法を使っていたミーシャを思い出した。

少しの間だが、有利だと思っていたが実は本気を出さずに戦っていた。

彼女が少し力を出せば、グレイの造形魔法は簡単に押し負けた。

手を抜いていた相手に負けたのはグレイに悔しさを残した。

 

「次は勝つ……」

 

拳を握りしめ、奥歯を噛みしめる。

カミナは頬に大きな湿布をミラに貼ってもらっていた。

 

「カミナがこんな傷を負うなんて……油断したの?」

 

「俺が油断することなんてない………だが、あの女は異常だ」

 

「ああ、底が知れない実力の持ち主だ」

 

カミナとエルザは思いつめた顔になる。

ギルドでトップクラスの実力を持つ2人がここまでになるほどの敵がいることにミラは戦慄する。

 

「また振り出しに戻っちゃいましたね………」

 

レインが残念そうに言うとカミナが立ち上がる。

 

「奴らの居場所ならわかっている」

 

その言葉に全員が驚く。

 

「奴らの仲間だった男に魔法をかけた時についでに居場所がわかるようにした」

 

「マジでか!?」

 

「これで反撃ができるな!」

 

カミナはフィオーレ全土が描かれている地図を広げ、詠唱を行う。

 

「南の心臓 北の瞳 西の指先 東の踵 風持ちて集い 雨払いて散れ。『掴趾追雀』」

 

地図の面に漢数字が羅列し、敵の座標を知らせる。

 

「ここだ」

 

カミナは地図のある場所を指した。

 

「ここは………」

 

「フラスタだ」

 

全員が声がした方を向くと、顔色を悪くしたハルトが壁にもたれかかりながら立っていた。

腹には包帯を巻いており、手で押さえていた。

 

『ハルト!』

 

「ハルトさん!まだ立っちゃダメですよ!!」

 

「ハルト〜、まだベッドにいてないといけないでごじゃる!」

 

ウェンディと後ろからついて来たマタムネがハルトをベットに戻そうと引っ張るがハルトはそれでも前に進んでいく。

 

「俺が行く……お前らはここで待ってろ……」

 

皆が止めるのを振り切って進もうとするハルトの前にカミナが立ちはだかる。

 

「……どけ」

 

「行かせない」

 

カミナを避けて進もうとするハルトの肩をカミナは掴み、軽く引っ張るとハルトはバランスを崩し、尻餅をつくように倒れてしまう。

 

「いってぇ……」

 

「ハルトさん!?カミナさん何やっているんですか!!」

 

周りの仲間たちがハルトを助け起こすが、ハルトはそれを気にせず進もうとする。

カミナの横を通り過ぎた時、声をかけられた。

 

「今ので簡単に倒れる程弱っているんだぞ?今度こそエリオに殺される」

 

「………それでも行かないといけなんだよ。これは……俺の罪の清算だ。お前ならわかるだろ」

 

振り返って虚ろな目でカミナを見るハルトの姿はどう見ても死にに行くようにしか見えなかった。

 

「『過去の罪は消えはしない』、こうも言ってくれたよな。本当にそうだよ」

 

ハルトはそれだけを言って、足を進める。

しかし、またカミナはハルトに声をかける。

 

「だが、お前はこうも言った。『罪を背負っているなら少しは俺にも背負わせろ』とな。ハルト、俺たちは仲間だ。俺たちに頼ってくれ。罪が1人で背負うのが辛いなら俺たちも背負おう」

 

「それでも俺は……」

 

「お前を死なせたくないんだ。仲間だから」

 

その言葉にギルドメンバー全員がうなづく。

それを目の当たりにしたハルトは驚きながら、周りを見渡す。

 

自分がしたことが仲間に知られるのが嫌だった。

嫌われたくなかった。

それにエリオに恨まれるのは正当だと思っている。

これは自分への罰だ。

自分が清算しなければいけないと思い込み、命をかけて償おうと考えていた。

だが、仲間たちは自分の過去を知ってもなお、助けると言ってくれる。

『仲間だから』、カミナのその言葉に、全員が一緒に罪を背負ってくれることにハルトの心は動かされる。

 

「……頼む。一緒にエリオを止めてくれ」

 

ハルトは頭を下げて頼む。

 

「頭なんか下げんなよ。らしくねぇ」

 

「アイツらに借りを返してぇしな!」

 

「無論だ」

 

「ルーシィを助けるぞー!!」

 

全員が当然だと言わんばかりにハルトの頼み聞く。

そこにマカロフも現れた。

 

「ハルトや、お前はこのギルドの……家族の一員なんじゃ。お主が何を背負うともワシ等はそれを背負う覚悟がある。お主が間違った道に進もうと言うのならワシ等が拳骨してでも止めてやる。だから、頼りなさい」

 

マカロフが優しく語りかけてくれる言葉にハルトの心は軽くなり、温かいものが広がっていく。

 

「ハルト、良い仲間を持ったな」

 

「ああ」

 

オリオンが優しく微笑んでそう言ってくれることにハルトは誇らしく答える。

皆でルーシィを助けための作戦を考える。

 

「それでどうする?」

 

「フラスタに行くのは決定だ。もう時間が無いんだろ?だけど戦力が少し不安だな……」

 

「それなら任せろ」

 

カミナは1人離れて、誰かに連絡を取る。

 

「今回は総力戦になる。怪我人も多く出るだろう。じゃが、仲間のためにワシ等は立ち向かう!!皆、気を引き締めて行け!!」

 

『オウ!!!』

 

マカロフの号令に全員が威勢良く答える。

ルーシィを助けるために、ハルトの過去に決着をつけるための決戦は近い。

 



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第133話 ルーシィのもとへ

妖精の尻尾一同はフラスタにたどり着き、アスラが封印されている古代遺跡に向かっていた。

ハルトとカミナは実際に来たことがあり、ナツたちはハルトの記憶で過去のフラスタに来たことはあるがその様子は一変していた。

 

「これは……」

 

「ヒデェ……」

 

家屋は全てが朽ち果て、戦争の跡が濃く残っていた。

空はアスラの強大な魔力のせいで荒れており、雷鳴が轟いていた。

ハルトはこの先にいるであろうエリオたち、そしてルーシィを見据えて足を進める。

 

「行くぞ」

 

その頃、ルーシィを捕らえている独房では最後の晩餐ということで豪勢な料理を用意されたが監視のためかエリオがずっと同じ部屋にいるため落ち着かなかった。

 

「………」

 

「………(き、気まずいなぁ…)」

 

敵であることは間違いないがルーシィにはどうしてもエリオが悪い奴には見えなくて、必死に何かに縋ろうとしているようにしか見えなかった。

すると、そこに組織の構成員であろう者が入ってきてエリオに耳打ちする。

 

「………わかった。ミーシャに迎撃の準備をさせろ」

 

部下にそれだけを告げるとエリオは立ち上がる。

 

「どうしたの?」

 

「予定が早まった。これから儀式の準備をする」

 

「そうなんだ」

 

「………怖くないのか?これから死ぬって言うのに」

 

態度が変わらないルーシィにエリオは不思議に思うが、ルーシィは真っ直ぐエリオを見つめて自信を込めて答えた。

 

「ハルトが助けてくれるもん。怖くなんてないよ」

 

「…………そうか」

 

ルーシィのその言葉にエリオはどこか悲しそうな表情で答えた。

 

 

遺跡が見える丘にたどり着いたハルトたちに信じられない光景が目に飛び込んできた。

遺跡の前には何千もの土くれの兵士たちが隊列を組んで待ち構えていた。

 

「なんだ、あの数……?」

 

「恐らくミーシャという少女が作ったのだろう。恐ろしい才能だな」

 

一体を作るのにそこまで魔力はいらないだろうが数の規模が違いすぎる。

これだけでもミーシャの実力が伺える。

 

「あの数を相手するとなると骨が折れるな」

 

カミナが刀を抜きながら、そう呟く。

 

「仲間のためだ。進むしかあるまい」

 

エルザも剣を構えてそう答える。

 

「シャァッ!燃えてきたぞ!」

 

「アイサー!」

 

ナツは両拳に炎を灯し、気合いを込める。

 

「次は負けねぇぞ」

 

(ハッ!グレイ様が相手を睨んでいる!?まさかあの少女が恋敵!?)

 

グレイは先の戦いで負けた雪辱を晴らすためにこの軍勢を作り上げたミーシャを見据え、ジュビアは案の定勘違いをしていた。

 

「ハルトさん。大丈夫ですか?」

 

「怪我は一応治りましたけど、体力までは治っていません………ごめんなさい。私がもっと魔法を上手だったら完璧に治せるのに……」

 

ギリギリまで傷を癒していたハルトをレインは心配し、ウェンディは申し訳なさそうに謝る。

そのウェンディの頭をハルトは優しく撫でる。

 

「ありがとよ。これでルーシィを助けに行ける。だから気にすんな」

 

今だに痛む傷に耐えながら、笑顔で礼を言うハルトにウェンディは笑顔になる。

ハルトは先頭に立ち、待ち構える軍勢、そしてその先にいるであろうルーシィを見据える。

 

「ハルト、大丈夫でごじゃるか?」

 

「おう、傷も癒えたしもう大丈夫だ」

 

「そっちじゃなくて気持ちの問題でごじゃる。エリオと戦えるでごじゃるか?」

 

マタムネは心配そうにハルトを見る。

仲間を倒さなければいけない、しかも相手はエリオだ。

償いと言って、自分の命を投げ出すかもしれないとマタムネは思っていた。

ハルトはマタムネの頭を撫でながら、答えた。

 

「あぁ、戦える。ルーシィを助けて、またみんなで冒険に行こう」

 

ハルトの覚悟を決めた顔を見て、マタムネは一抹の不安がよぎった。

 

「もちろんみんなの中にはハルトもいるでごじゃる!」

 

ハルトを無理にでも繋げておかないとどこかに言ってしまうような雰囲気を感じ取ったマタムネはそう叫ぶ。

 

「そうだな……」

 

その言葉に力無く答えるハルトにマタムネの不安は消えなかった。

ハルトは囚われているルーシィを見据えて、静かに呟く。

 

「行こう」

 

 

妖精の尻尾は崖を滑り降りて、土の兵士達に向かっていく。

数が圧倒的に差があるがそんなこと仲間のために構っていられない。

両者がぶつかり、激しい攻防が始まる。

最初は仲間のためにと妖精の尻尾は優勢だったが、何十倍も数がいる土の兵士たちが徐々に戦いで優勢になってきていた。

ハルトも仲間を助けながら戦うが数に圧倒されそうになっている。

一瞬仲間の方に気を取られ隙ができ兵士たちに襲われそうになった瞬間、妖精の尻尾達の目の前で土の兵士達が押しつぶされた。

 

「この魔法‥…まさか!?」

 

ハルトは強い魔法の匂いがする上空を向くとそこには手を兵士たちに向けるラナの姿があった。

 

「ラナ!?何でお前がここに?」

 

「偶々ここの近くを通って、どうせならエミリアの墓参りでもしようと思っただけよ。そうしたら目の前に邪魔な泥人形が広がっているじゃない。墓参りの前に掃除してあげるわ!!」

 

ラナが腕を横に振るうと兵士たちは魔法の直方体に押しつぶされていった。

しかし、粉々になった土は再び集まり始め、兵士を形作っていく。

 

「キリがないわね」

 

ラナは何度潰しても復活する兵士達にウンザリしながら、手をハルト達の進行方向に向けた。

すると遺跡までの道を作り出した。

 

「先に行ってなさい。私もエリオに文句を言ってやりたいし」

 

「……助かる」

 

ハルトを始め、妖精の尻尾達はできた道を通って行く。

土の兵士達はハルト達を攻撃しようとするが全てラナに阻止され、破壊される。

 

「機械兵より骨が無いわね。行くわよ」

 

ラナは全身に魔力を滾らせ、土の軍団に向かって行った。

 

 

土の軍団を抜けて遺跡に辿り着き、深部を目指そうとするがハルトは突然足を止め、飛んできた魔力弾を弾け飛ばした。

 

「誰だ!?いるのはわかっているぞ!!」

 

ハルトが叫ぶと遺跡の陰から次々とフェアニヒターの黒ローブを着た人間が現れた。

 

「我々はアスラに救済を求める者達なり!!儀式の邪魔はさせんぞ!!やれ!!!」

 

その合図と共に信者達は杖で魔法を放ち、魔水晶爆弾を投げてハルト達の進行を邪魔する。

 

「カミナ!」

 

「白雷」

 

ハルトがカミナの名前を呼ぶとカミナは爆発の中に飛び出し、今まさに投げようとした爆弾を白雷で撃ち抜いた。

撃ち抜かれた爆弾は誤爆し、信者達を巻き込む。

隙ができ、すかさずハルトとカミナは信者達に突撃し、蹴散らしていく。

他の皆も2人に続き、攻撃を再開した。

 

「クソッ!コイツら一体何人いるんだ!?キリがないぞ!!」

 

「今は道を切り開くために戦うしかあるまい!気張れ!!」

 

グレイがウンザリしたように叫んだ。

いくら倒しても信者の数が減ったように見えないからだ。

しかも、1人1人の質が妖精の尻尾より低くても際限なく現れ、徐々にハルト達は押され始めた。

妖精の尻尾は約百人強、それに対してフェアニヒターは約五千人の大規模なものだ。

幽鬼の支配者との戦いの時とは比べものにならない数の差だ。

 

「皆!!下がっておれェッ!!!」

 

怒号と共に信者達に向かって凄まじい衝撃波が襲った。

マカロフが巨大化し、信者の数を大きく減らした。

 

「ここはワシに任せて先に進めィッ!!」

 

マカロフの言葉に全員が従おうとしたがマカロフの背後から巨大な土の兵士が襲いかかってきた。

 

「ぬおっ!?」

 

「じいさん!!」

 

マカロフは押し返そうとするがさらに何体もの巨兵が覆い被さり、その巨体に力負けしてしまう。

 

「もう追いついたのか!?」

 

エルザはラナが土軍団の対処に手が回っておらず、追いつかれてしまったと考えた。

 

「ぐうぅ……!この土くれめ……!!」

 

「今助けに行くぞ!」

 

ハルト達が率先して助けに行こうとした時、マカロフと掴み合いになっていた土の巨兵が縦に両断された。

 

「何だ?」

 

突然のことに全員が呆然としていると次にマカロフに覆い被さっていた土の巨兵に黒い鞭なようなものが巻き付き、巻き付いたところを切断してバラバラにしていった。

体が自由になったマカロフが土の巨兵を薙ぎ倒し、踏み潰すと奥から現れる人影に気づき、目を凝らす。

 

「やあ、ハルト。助けに来たよ」

 

「クスコ!!」

 

現れたのは黒の戦闘服を着たクスコ・ガーデンだった。

 

「マカロフ・ドレアーさん。信者達と背後からの追撃は僕も手伝います。一緒に食い止めましょう」

 

「助かるわい」

 

クスコが朗らかな笑顔で言う。

 

「クスコも何で……」

 

「エリオに思っているのは君だけじゃないんだ。それに僕たちは仲間だろ?」

 

クスコのその言葉にハルトは頼もしく思う。

すると散らされた信者達がまた数を集めハルト達に襲いかかってきた。

 

「僕が道を切り開こう。『ジェノサイド・リーパー』」

 

クスコは手から魔力を滾らせ、鎌の形にすると素早く二回振るい、黒い波状の魔力が信者達を襲い、気絶させた。

 

「さぁ!今だよ!」

 

「行くぞ!!」

 

ハルト達はとうとう遺跡への道にたどり着いた。



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第134話 アスラの心臓

遺跡までに信者達が襲いかかってきて結局辿り着いたのはハルト、カミナ、ナツ、グレイ、エルザ、ウェンディ、レイン、ガジル、ジュビア、エルフマン、レビィ、ジェット、ドロイ、フリード、ビックスロー、エバーグリーンの数人だけだった。

残りは遺跡に辿り着くまでに現れた信者達と戦い、逸れてしまった。

 

「たったこれだけしか残らなかったか。信者たちのほうが数が多い。長期戦になれば我々は負けてしまう。ルーシィの救出を最優先に動くぞ」

 

エルザの言葉に全員が頷き、遺跡の中に進んでいく。

 

「おいハルト達滅竜魔導士たちはルーシィの匂いはわからねぇのか?」

 

グレイが先頭を走るハルトを始め、ナツ達に尋ねるが全員が首を横に降る。

 

「そこら中から嫌な魔力がして鼻が効きやしない。俺たちの鼻はアテにするな」

 

「それによー……なんか血の匂いがこびり付いてんだよな」

 

ナツが嫌そうな顔をして呟く。

それに同調するように鼻が効くレイン、ガジルも苦い表情になる。

 

「血の匂いって……」

 

「ここは5年前戦争のど真ん中だったんだ。まだその跡も残っている」

 

カミナの戦争という言葉に全員が暗い表情になる。

 

「戦争ってのは良いもんなんて何も生み出さない。残るのは苦痛だけだ」

 

ハルトのその言葉に全員が同じような気持ちになると前方から槍が飛んできた。

 

「覇竜の剛腕!!」

 

「断空」

 

ハルトとカミナは全ての槍を防ぐと、前から声が聞こえてきた。

 

「私たちはその苦痛の先に望みがあるから戦うのよ」

 

目の前に手をこちらに向けるミーシャが立っていた。

 

「お前があの土の軍団を操っている本人か」

 

「そうよ。まぁ、私が操っているって分かっても意味が無いでしょうけどね」

 

「そうかよ!!」

 

ハルトとカミナはミーシャに向かって突撃するが、ミーシャはそれを見越して両手を地面につけ、魔力を練る。

 

「グラウンドメイク『ビッグウェーブ』」

 

突然、地面が激しく波立ち、ハルトたちを飲み込もうと襲いかかる。

全員が狭い通路であったためか、避けることもできずに飲み込まれ、突然現れた小穴に流されてしまった。

 

 

「うぉわああぁぁっ!!?」

 

グレイは小穴から滑り落ちて地下の洞窟に落ちてしまった。

 

「ぺっ!ぺっ!身体中に土が付いてやがる……」

 

グレイは体についた土を払いながら、立ち上がろうとすると妙に腰が重いことに気づき、目を向けると幸せそうな表情のジュビアが腰にしがみついていることに気づいた。

 

「うおおぉ!?何してんだよ!?」

 

「グレイ様と急接近……!幸せ過ぎて死ぬ……♡」

 

「いいから離れろよ!」

 

「あぁん♡」

 

グレイはジュビアを引き剥がし、周りをぐるっと見渡す。

 

「ここは洞窟か?」

 

「そのようですね。だいぶと滑り落ちましたからどうにかして上に上がらないと」

 

2人がどうにか上に上がれないかと辺りを観察していると声が響いてきた。

 

「ここは罪人の死後、死体を遺棄するための巨大なゴミ穴よ」

 

声がする方を向く一番奥の壁から出口と階段が現れ、ミーシャが下りてきた。

 

「わざわざそっちから来てくれるなんてな」

 

「私の役目は貴方達を殺すこと。儀式の邪魔になる者は誰であろうと排除する」

 

ミーシャの目にはハッキリと殺意が見えた。

グレイとジュビアは共に構えて、いつでも動けるようにする。

ミーシャはそれを見て、魔力を練りながらさらに口を動かす。

 

「それにアンタに興味があったのよ」

 

ミーシャはグレイの方を見て、そう言い、ジュビアにジュビーンと衝撃が走る。

 

(きょっ、興味がある!?そ、それってつまり恋なの!?ということは恋敵!?)

 

いつもの暴走を始めてしまうジュビアを他所にミーシャは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

「表の世界でぬくぬくと育った同じ造形魔導士の実力がどんなものか知りたくてね」

 

馬鹿にされたことがわかったグレイは額に青筋を浮かべて、土で汚れた服を脱ぎ捨て、手に冷気を集める。

 

「そうかい!じゃあ見せてやるよ!汚ねーことに手を染めた造形魔法より俺の造形魔法のほうが強いってことをよ!!」

 

氷と土の造形魔導士同士の戦いが始まった。

 

 

一方、古代人の住処となっていた遺跡では激しい攻防が繰り広げられていた。

火炎が立ち上り、鉄の衝撃がそこら中で響いていた。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

戦っている本人ナツが炎の拳を相手に繰り出すが、男はそれを容易く掴み止める。

手から焼ける音がするが男は焼ける痛みで顔を苦痛に歪めるどころか、笑みを浮かべた。

 

「おらおら!!どうした!?お前の炎はそんなもんかよ!?」

 

「ぐわっ!」

 

男は掴んだ拳を自分の方に引き寄せ、腹に蹴りを入れた。

常人の力とは思えない蹴りを入れられたナツは吹き飛ばされ、建物に激突してしまう。

その隙に同じく戦っていたガジルは飛び出して腕を剣に変えて、斬りかかる。

 

「鉄竜剣!!」

 

「ぐおっ!?」

 

肩から斬られた男は一瞬苦悶の声を漏らすがすぐに肩で受け止めた剣を掴んで、笑みを浮かべる。

 

「返しが付いた剣か……中々エグいもん使ってくるな!!」

 

「ぐっ!?コイツ……!」

 

男は楽しそうにしながら剣を握りしめると掴んだ所が歪み、ガジルは顔を痛みで歪める。

 

「ほらよ!!」

 

男がガジルをナツと同じところに投げ飛ばす。

ガジルはなんとか受け身を取って体勢を整えると頬を膨らませる。

それと同時にナツも頬を膨らませ魔力を高め、一気に解き放つ。

 

「火竜/鉄竜の咆哮ォッ!!!」

 

2つの属性の相乗効果により大爆発が起きる。

爆炎で男の姿が見えなくなるが、その中からゆっくりと楽しそうに笑いながら歩いて出てきた。

 

「今のは中々効いたぜ……楽しくなってきたな!!」

 

上半身の服は焼け落ち、大きく火傷してガジルのブレスによる鉄が刺さっていて痛々しい。

明らかに致命傷だが男は笑っている。

 

「おい、サラマンダー。気づいているか?アイツからする匂い」

 

「ああ、こんな奴初めてだ。……死臭がする人間なんてよ」

 

男から漂うその匂いに思わずナツとガジルは顔を顰める。

 

「まだ名乗っていなかったな……俺は『アンデッドのカイル』だ。久々に骨がある奴らと戦うんだ……もっと俺を楽しませてくれよ!!」

 

男の自己紹介にガジルは気に食わないと言った表情になる。

 

「チッ!サラマンダーとまた共闘してるってだけで気に食わねーってのに死臭に加えて、あっちも二つ名を持ってやがる」

 

「ンだとテメー!!」

 

ガジルの言葉に怒るナツだが、気を取り直してこちらも名乗る。

 

「俺はサラマンダーのナツだ!!さっさとお前を倒してルーシィを助けなきゃいけねーんだよ!!」

 

「黒鉄のガジル」

 

2人が名乗り、カイルは更に笑みを深くした。

 

 

エルザは遺跡を探索しながら、逸れた仲間達を探していた。

 

「ハルトー!ナツー!どこにいる!?」

 

しかし、声は反響するだけで誰も返事を返してくれない。

 

「それほどまでに遠くに行ってしまったのか?」

 

エルザがどうするかと悩んでいると、ふと人の気配を感じ、前を向く。

目の前には宝物庫で自分が何も出来ずに鎧と剣を破壊した着物を着た女性、サツキが立っていた。

 

「っ!」

 

ここまで接近に気づかなかったことに驚くエルザ、すぐさま剣を換装し、構える。

 

「待ってちょうだい。別に戦いに来たわけではないの」

 

「何?」

 

サツキはエルザを手で制して、話しかけ、エルザも動きを止めた。

 

「私達は儀式が滞りなく終えて欲しいだけ。それまで大人しくして欲しいの」

 

「それはできない相談だ。儀式はルーシィを生贄にするものだろう?仲間を犠牲になんてできるはずがない。それにアスラというのは世界を滅ぼしかねない危険なモノだと聞いた。世界を脅かすモノわ放っておく事などできるはずがない」

 

エルザは再び剣を構えてサツキを見据える、

サツキは臨戦体勢のエルザを見て悲しそうに目を伏せる。

 

「私にはどうしても『アスラの心臓』が必要なの」

 

「『アスラの心臓』?何だそれは?」

 

「願いが叶うと言われる物よ。正確には莫大な魔力の循環機関と言うべきかしら?莫大な魔力を生命活動のために動くそれは強靭な生命力と全ての状態異常が効かず、魔を打ち払うと言われているわ。呪いで苦しむ私の娘には必要なの」

 

「何だと……!?」

 

サツキの娘のことにエルザは驚きを隠せずにはいられなかった。

 

「私のせいで娘は呪いをかけられて、今も苦しんでいる。医者や解呪専門の魔導士に頼んだけど強すぎて何もできないと言われたわ。打つ手がないも無いと言われ、絶望した時にこの教団に声を掛けられたの。娘を助けたくないか、って」

 

「それが真実かわからないだろう?」

 

「今はもう迷信にも縋るしかないの。だから……」

 

サツキは伏せていた目をエルザに向け、僅かに殺気を向ける。

 

「邪魔するのであれば例え女子供であろうと、国であろうと切り伏せる」

 

僅かに向けられただけでエルザはバラバラに切り捨てられた幻覚を見た。

冷や汗が流れる身体に触れると斬られた所はない。

殺気を向けられただけで、ここまで怯えさせられたのだ。

実力差が天と地程も離れていることがわかっている。

しかし、世界のために仲間のために妖精女王は戦わない訳にはいかない。

 

「妖精の尻尾のエルザ。推して参るぞ!」

 

「来なさい!」

 

 

それぞれが幹部と戦っている頃、レインとウェンディ、それにマタムネ、ハッピー、シャルル、ミントは薄暗い遺跡の中を探索していた。

 

「ほ、本当にこっちで合ってるの……?」

 

ウェンディが遺跡の不気味さに怯えて、レインにしがみ付きながら質問する。

 

「うん。こっちから戦闘音が聞こえたもん。もし誰かが戦っているなら加勢しないと」

 

「そ、そうだけど〜……ヒッ!?」

 

ウェンディは足元にいた小さなトカゲにさえ怯えてしまう。

そんなウェンディの手をレインはしっかりと掴んで真っ直ぐに見つめる。

 

「大丈夫!いざとなったら僕がウェンディを守るよ!」

 

「レイン……」

 

レインの励まし、ウェンディは少し頬を赤く染めて見つめてしまう。

そんな桃色の雰囲気が漂う所に邪魔者(マタムネ)が茶化してきた。

 

「やだわぁ最近の若者ったらすぐにイチャついちゃって。どう思います奥さん?」

 

「もう人の目を気にしな過ぎな気がしますよー」

 

ハッピーも混ぜてコントじみたことをする2匹にレインとウェンディは恥ずかしくて顔を赤くして否定する。

 

「いっ、イチャついてなんかいないよ!」

 

「そうだよ!」

 

「アンタ達何やってんのよ!?ここは敵地なのよ!?」

 

「わぁー、アタシも混ぜてー」

 

「ちょっと!人の話聞いてたの!?」

 

シャルルが注意するとレインの鼻が何かを嗅ぎ取った。

 

「ちょっと待って!」

 

「ヒッ!ど、どうしたの?」

 

「誰か奥にいる!」

 

レインは匂いがする方に走り、それにウェンディ達も付いていく。

やがて辿り着いたのは大きな祭壇がある広間だった。

そしてそこにはレビィが立っていた。

 

「やっぱり!レビィさんだ!」

 

「よかった〜…合流できて」

 

レインは嗅いだことのある匂いでレビィだとわかっていた。

レビィはレイン達に背を向けており、動かない。

 

「レビィさん!無事ですか?」

 

「他の皆さんはどこに……え?」

 

ウェンディが動かないレビィを不思議に思い、前に回りこむとその様子に驚いた。

レビィは何かに驚き駆け出そうとして固まっていた。

 

「何、これ?」

 

ウェンディはレビィの様子に戸惑いを隠せずにいた。

 

「ね、ねぇ!レイン!これ見て!レインってば!!」

 

ウェンディは嫌な予感を感じとり、レインを必死に呼ぶが返事が返ってこない。

レインの方を振り向くとレインはレビィが見ていた方を向いて固まっていた。

同じくマタムネ達も固まっていた。

 

「ウェンディ……これ見てよ」

 

「嘘……」

 

レインが促した方を見るとそこにはありえない光景が広がっていた。

そこには何かに飛びかかるビーストソウルの姿になったエルフマン、空中から魔法繰り出すエバーグリーン。

同じく攻撃を仕掛けているジェットとドロイ。

そしてその衝撃で飛び散った瓦礫や土煙が止まっていた。

 

「何でごじゃる……?この光景は……」

 

「みんな止まっちゃってるよ」

 

「魔法の所為なのかな?」

 

「当たり前でしょう……だけどこんな魔法、見たこと聞いたこともない」

 

全員が戸惑いの表情でこの光景を見ていた。

すると奥の方から誰かが歩いてきた。

 

「あれ?まだ他にいたの?面倒だなー」

 

眠たげな表情の小柄な男性、レイトがナイフを持ってレイン達に気づいた。

 

「これは、貴方がやったんですか?」

 

レインが恐る恐る聞くとレイトは首を縦に振った。

 

「そうだよ。戦いになったからね。動きを止めて今から殺すところ」

 

さも当たり前のように殺すと言った男にレイン達は驚く。

レインはスイレーンを構えて皆の前に出る。

 

「そんなことさせないぞ!!」

 

「君に何ができる?見たところ君はこの中で最も魔力が低い。子どもを殺すのは気が引けるんだ。サッサと後ろの子達を連れて帰りな」

 

レイトはシッシッと追い返すように手を振る。

レイトに最も魔力が低いと言われ、レインは悔しくなった。

確かにこの場でマタムネ達を除いて最も魔力が低いのはレインだ。

だが、それで仲間を見殺しすることなんてできない。

 

「それはできない!僕は妖精の尻尾の魔導士だ!!同じギルドの仲間を見捨てることなんてできない!」

 

化猫の宿の時のような思いは二度としたくない、させてたまるものか。

必ず仲間は守る。

その一心でレインはレイトに立ち向かう。

 

「ふーん……仲間ね。そんなの僕は忘れちゃったなぁ……」

 

レイトは気怠げだが、どこか寂しそうに呟いた。

 

 

ハルトは1人、遺跡の最深部に向かって歩いていた。

向かう先からアスラの匂いが強まっていた。

更にルーシィとエリオの匂いが僅かにしていた。

 

「ぐっ……」

 

腹に巻いた包帯から血が滲むが構わず、足を進める。

 

「待ってろよ…!ルーシィ!エリオ!」

 

ルーシィを助けるため、そしてエリオと決着をつけるために。

 



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第135話 グレイ&ジュビア VS ミーシャ

グレイとミーシャ、造形魔導士同士の戦いはその場の地形を大きく変えていった。

ミーシャがまわりの土を使って地形を変え、攻撃するのに対してグレイは攻撃に対して氷を使って防ぎ、また動きを止めて反撃するなど2人の戦いは激しくも美しく見え、ジュビアは見惚れていた。

 

(綺麗……)

 

「ジュビア!何ボサッとしてんだ!!」

 

「はっ!」

 

「遅い!」

 

ミーシャは土の槍を造形し、ジュビアに攻撃するがジュビアは身体を水に変えて無効化する。

 

「無駄です。水になるジュビアには物理攻撃はほぼ無力です!」

 

ジュビアは水の勢いでミーシャに近づき、水の斬撃を放つ。

 

「ウォータースライサー!!」

 

「シールド!!」

 

ミーシャは盾を造形し、防ぐがその隙にグレイが背後から攻撃を仕掛ける。

 

「アイスメイク『ハンマー』!!」

 

「きゃあぁぁっ!!?」

 

横振りのハンマーに吹き飛ばされたミーシャは転がりながら止まる。

利用できる土が多いミーシャの方が有利なはずだが、グレイとジュビアのコンビネーションの方が上手であった。

 

「やっぱりジュビアとグレイ様は相性が抜群ですね♡」

 

「そういう事言うなよ……」

 

嬉しそうにするジュビアにグレイはウンザリしていた。

ミーシャは痛む身体を起こし、2人を睨む。

 

「はぁ…!はぁ…!まだ…!終わってない!」

 

「やめとけ。さっきので分かったろ。お前じゃ俺達に勝てねぇ。それに造形魔法でも俺の方が上だ」

 

「そんな事ない!!」

 

ミーシャは怒り、造形魔法を発動しようとする。

 

「グラウンドメイク……!」

 

「アイスメイク『ランス』!!」

 

ミーシャが魔法を放つより早くグレイは造形魔法を発動し、ミーシャを攻撃した。

 

「あああぁぁぁっ!!」

 

「……」

 

グレイは倒れたミーシャを見据え、話しかけた。

 

「怒りで造形魔法が疎かになっているようじゃ、二流も良いところだ。基本からやり直しな」

 

グレイは倒れたミーシャに背を向け、出口に探そうとすると背後から物音が聞こえた。

振り向くと傷だらけのミーシャが肩で息をしながら立ち上がっていた。

 

「やめとけ!これ以上戦ったらもっと酷い怪我をするだけだぞ!」

 

「私たちは上に行きたいだけなんです!そっちが何もしないなら戦いません!」

 

グレイとジュビアがミーシャに声をかけるが当のミーシャは顔を俯かせたままだ。

 

「…………」

 

何かボソボソと話しているが2人には聞こえない。

 

「………結局頼るしかないのね」

 

ミーシャは顔を上げ、目を閉じた。

そして集中して魔力を高め始める。

 

「何か仕掛けるつもりだ。仕方ねーがやるしかない!」

 

「わかりました!」

 

グレイとジュビアはミーシャに何かされる前に封じようと魔法を使おうとする。

その時ミーシャは目を開けた。

その目にはさっきまでの薄茶色の普通の瞳の色ではなく、はっきりとした爛々と輝くブラウンと光を放っていた。

ミーシャが腕を上に上げるとグレイの背後にあった土が盛り上がり、突然突き上げて天井にぶつけた。

 

「がはっ!?」

 

「グレイ様ー!!」

 

突然のことにグレイは訳がわからず、ジュビアは悲鳴を上げた。

グレイは地面に落ち、ジュビアは駆け寄る。

その2人にミーシャは容赦なく、地面から土の槍を放ち攻撃する。

 

「ウォータースライサー!」

 

水の斬撃で槍を撃ち落とすが撃ち落とした先から土が集まり、向かってくる。

 

(先と違う…!?)

 

「どけ!ジュビア!アイスメイク『シールド』!」

 

持ち直したグレイが盾を造形し、防ぐ。

しかし、威力も上がり、造形された槍の数が次々と増えていく。

次第に盾が耐えきれなくなり、罅が入り、破壊されていく。

 

「押し負ける……!」

 

「………」

 

歯を食いしばって耐えるグレイにミーシャは手を下からグレイに向かって軽く振るうと地面から人を簡単に潰せそうな程の大きさの拳が放たれ、2人を襲った。

 

「ぐあああぁぁぁっ!!?」

 

「きゃああぁぁぁっ!!?」

 

軽々と盾を破壊し、グレイとジュビアを吹き飛ばした。

形成は一気に逆転され、窮地に立たされるグレイとジュビア。

グレイが前を向き、ミーシャを睨んだ時ある事に気付いた。

 

「お前、その腕……!」

 

「っ……」

 

ミーシャの肘から下の腕が土に変わり罅が入り始めていた。

グレイに見られたミーシャは顔を顰め、視線を2人から外す。

 

「はあぁぁっ!!」

 

それを好機と見たジュビアは水に変わり、ミーシャに攻撃しようと突撃するがミーシャはそれを見ずにジュビアの前に壁を作る。

 

「無駄です!水のジュビアには効きません!」

 

ジュビアが壁にぶつかり、上に方向を変えて壁を超えてミーシャに攻撃しようとしたが、それより早くミーシャは壁の向こう側にいるジュビアに向かって握る動きをするとジュビアは土に包まれた。

 

「こんなもの!壊してすぐに……!」

 

水のジュビアならば僅かにできた隙間から逃げ出すことができる。

しかし、ジュビアを包んだ土には一切の隙間がなく、攻撃して出ようとするが攻撃されたそばから直っていき、出ることができなかった。

 

「最初から本気を出してなかったのかよ。舐められたもんだぜ」

 

「………」

 

グレイが悔しそうに恨み言葉をミーシャに向けるが、ミーシャはグレイに優越感に浸る訳でもなく、悲しそうにする。

 

「ねぇ、この腕どう思う?醜いでしょう?」

 

ミーシャは土に変わった腕を掲げて見せる。

 

「私がこうなったのは5歳の時、西の大陸で孤児だった私は拉致されて、実験動物された。その実験は人間に亜人の力を加えるものだった。私の他にいた子供達は全員死んだわ。運良く私は研究所が謎の爆発の時に逃げ出せたんだけどね」

 

ミーシャは悲しそうに自身の過去を話す。

 

「だけど、魔法を本気で使う時、ふとした時にこんな風になってしまう。酷い仕打ちを受けたわ。化け物って言われて殺されかけるなんてザラにあったわね。………この姿を見る度に思い出してしまう。されるがままに受けてしまった絶望をね。だから私たちは全ての魔力に関する現象を破壊するアスラの心臓が必要なの。そのためだったら何だってやってやる」

 

ミーシャが何故アスラ復活を助けるのかがわかり、グレイは痛む身体に鞭を打って立ち上がる。

 

「そのためだったら関係ない人間が死んでも良いってのか?」

 

「構わないわ。私のことを化け物って呼ぶ奴らなんだもの、死んで当然よ」

 

グレイは両手に魔力を集め、冷気を発しながらミーシャに構える。

 

「なら、止めてやるよ。お前のその身勝手な願いをな」

 

「身勝手ね……そう……」

 

グレイの『身勝手』という言葉にミーシャは僅かに眉を動かし、手をジュビアが捕まっている土の檻に向け、握り潰すように手を握る。

すると、ジュビアが捕まっていた檻が段々と圧縮され始めた。

 

「せまくっ……!?ぐっ、いや!」

 

ジュビアは抵抗しようと壁に攻撃するがやはり直ぐに直ってしまう。

水に変わろうとしても物量までは変わらず、逃げ場もない状態で潰されてしまえばどうなるかなんて想像もしたくない。

 

「なっ!?止め、がはっ!?」

 

グレイがミーシャを止めようとするがそれより早く、地面から柱を飛び出させてグレイを吹き飛ばす。

 

「何もできずに味わう絶望を感じればいいわ!!それで私の願いが身勝手なんて言えるかしら!?」

 

ミーシャはジュビアを締め付けながら、グレイに攻撃を続ける。

グレイが何か行動しようとすると先が尖った柱を出現させ、ぶつけて攻撃し、一斉に柱グレイを囲うように出現させ、グレイに絡ませて身動きが取れないようにする。

 

「がぁっ……!く、くそ……!」

 

「ぐ、グレイさま……」

 

グレイは連続の攻撃で意識が朦朧とし、ジュビアはグレイの名を呼び、苦しそうにする。

もはや2人とも虫の息だった。

ミーシャがトドメを刺そうとした瞬間、グレイを捕まえていた柱が突如降ってきたレーザーで全て粉々に破壊された。

 

「なっ!?」

 

ミーシャが驚くのも束の間にジュビアが拘束されている檻に人影が近づく。

 

「闇の文字“分解”」

 

檻に文字が高速で書き込まれ、檻が一瞬でバラバラに分解され、ジュビアが解放された。

 

「誰?」

 

グレイとジュビアを助けた2人はミーシャの前に並び立つ。

 

「おいおいグレイ。なーに負けちゃってんだよ?」

 

「しかし、この組み合わせも不思議なものだな。先日の一件で戦った者同士が揃うとは」

 

2人の窮地を助けたのは元雷神衆でグレイ、ジュビアとも戦ったビックスローとフリードだった。

 

「お詫びとはならないがここは我々に任せてもらおう」

 

「ウィーアー!任しときな!」

 

2人はミーシャを見据えてそう言った。



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第136話 命をかけれる仲間

グレイとジュビアの窮地に現れたフリードとビックスロー。

妖精の尻尾でも上位の実力者である彼らが助けに現れたのはグレイにとってとても頼りになった。

 

「気をつけろ!そいつは造形魔法じゃねぇ魔法を使うぞ!」

 

グレイが忠告するとフリードは注意深くミーシャを見る。

 

「なるほど、確かに人とは違う魔力を感じる」

 

「って、言っても負ける気はしねぇけどな」

 

フリードは落ち着いた様子で呟き、フリードは好戦的な笑みを浮かべる。

ミーシャは新たに現れたフリード達に怒りを覚えていた。

 

「どいつもこいつも私の邪魔をして……!」

 

ミーシャは土に変わった腕をフリード達に向ける。

 

「消えてよ!!」

 

地面からいくつもの土の槍がフリード達に向けられるが、その全てがフリード達の前で防がれた。

 

「えっ!?」

 

「術式『この術式の向こうにはいかなる攻撃も通過することができない』」

 

フリードの足元には術式が展開されており、それによってミーシャの攻撃を防いだのだ。

 

「いつの間に……!?」

 

「あれ程、話す時間があったのだ。仕込む時間などいくらでもあった」

 

フリードの手際の良さに驚くミーシャに向かってフリードのトーテムが襲いかかる。

 

「あうっ!」

 

「ヴァリオンフォーメーション!」

 

トーテムが円形の形を取り、ビームを発射するが、ミーシャは間一髪のところで地面から壁を出して防ぐ。

 

「まだだぜ!」

 

一体残っていたトーテムが防ぐことに気を取られていたミーシャを下から突き飛ばし、空中に投げ出した。

 

「きゃあっ!」

 

「闇の文字……!」

 

空中に投げ出されたミーシャに向かってフリードはすかさず翼を生やし、追撃する。

 

「『斬烈』!」

 

「あああぁぁっ!!」

 

ミーシャの体にいくつもの斬撃が刻まれた。

痛みでふらつく体をなんとか保ち、フリードとビックスローを睨む。

 

「なめ……!るなっ!!」

 

ミーシャが腕を振り下ろすと地面が波打ち巨大な波となって、グレイ達を飲み込もうとする。

 

「やべっ!?」

 

「くっ!」

 

あまりの大きさにフリード達は慌てて、動けないグレイ達を抱えて上空に逃げる。

何の中心に立つミーシャの顔にまで土が進行しており、片目には皹も入っている。

ミーシャが上空にいるフリード達に手を向けると地面から極太の針が伸びて襲いかかる。

 

「フリード!後ろだ!!」

 

抱えられていたグレイが叫び、後ろを振り向くと天井からも針が伸びて来ていた。

 

「しまっ……ぐぅああぁぁっ!!」

 

「ぬぁあああっ!?」

 

気づくのが遅くなり、攻撃されたフリード達はそのまま地面に落ち、波打つ地面に取り込まれてしまった。

 

「これでっ……!終わりよ!!」

 

ミーシャは更に追い討ちをかけるように波立たせた地面を重ね、グレイ達を圧殺しようとする。

凄まじい轟音と共に地面は重なり、ミーシャの目の前には小高い山ができていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ミーシャはその場に座り込み、荒く息を吐いて乱れた呼吸を整えた。

立ち上がろうとするが土になってしまった足には感覚がなく、ピクリとも動かない。

そのことに泣きそうになるミーシャだが、なんとか堪えようとするとできた山から僅かに何かが割れる音が聞こえ、山の方を見る。

 

「闇の文字……」

 

山から声が聞こえ、まさかと思った瞬間に山が吹き飛んだ。

 

「『爆烈』!!」

 

凄まじい爆音と共に山が吹き飛び、冷気がその場に立ち込めた。

 

「な、なんで……」

 

動揺するミーシャの前には傷が目立つが毅然とした姿のグレイ達が立っていた。

 

「完全に押し潰したと思ったのに……!」

 

「ああ、押しつぶされる前に土を凍らせたんだ」

 

「凍らせたって……そんなすぐには……!」

 

訳がわからないと言った様子のミーシャにジュビアが一歩前に出る。

 

「ジュビアが水を浸透させていたんです」

 

ジュビアはミーシャに潰されそうになって、気絶したと見せかけて体を僅かに水に変えて、地面に水を浸透させていた。

グレイはそのお陰で水を大量に含んだ土を一瞬で凍らせることができ、グレイ達を守るシェルターとなったのだ。

 

「グレイ様とジュビアが成せる愛の技ですね!!」

 

「気色の悪いこと言うなよ……」

 

「フッ……」

 

「できぃてぇるぅ」

 

『デキテルー』 『デキテルー』

 

ジュビアの恥ずかしい言葉にグレイはうんざりした顔になり、フリードはそれを見て軽く笑みを浮かべ、ビックスローは冷やかしていた。

それを見てミーシャは忌々しそうに顔を歪める。

 

「それが何だって言うの!?凍らせるなら何度だって押し潰してやる!!」

 

ミーシャはグレイ達に手を向けると土の針が再び襲いかかろうとするが、途中で全て崩れてしまった。

 

「あ、あれ?」

 

「もう辞めておいた方がいい。お前の体はとうに限界を過ぎている」

 

フリードがそう言うとミーシャは座っているのも辛い疲労感に襲われる。

 

「なんで……」

 

「お前の魔力は確かに異質で強力なものだ。だからと言って体がついて来れるかは別だ。無理な使用が祟って、体に影響が出始めている」

 

足を見るとひび割れた部分が広がり、今にも崩れそうだ。

それに気づいたみーは衝撃を受ける。

 

「もう勝負はついた。ここから出してくれ」

 

グレイが負けを認めるように言うがミーシャは諦めなかった。

 

「……まだよ!!まだ、終わっていない!!」

 

ミーシャは上げるのも辛い腕を上げて、魔力を込める。

 

「やめろ!それ以上やったら死んじまうぞ!!」

 

グレイがミーシャに向かって叫ぶがミーシャは聞かなかった。

 

「そんなの関係ない!このまま死ねるならやっとこの呪いから解放される!!」

 

涙を流し、まるで懇願するかのような表情にグレイは苦しくなる。

 

「馬鹿野郎が!!」

 

グレイは咄嗟にミーシャに向かって駆け出した。

 

「グレイ様!?」

 

「俺たちでフォローするぞ。ジュビア、グレイの手助けを!」

 

「オッケー!」

 

「わかりました!」

 

すかさずフリードは翼を出して飛び上がり、ビックスローはトーテムを展開し、ジュビアはグレイの後を追った。

 

「アアァァァアッ!!!」

 

ミーシャは絶叫し、今までで一番の魔力を練り上げ、地面に叩きつける。

地面は脈打ち、次々と獰猛な獣が作られていく。

作られた獣達はグレイに向かっていく。

両者がぶつかりそうになった瞬間、飛翔していたフリードとビックスローのトーテムが破壊し尽くす。

 

「そのまま突き進め!」

 

「美味しいところは譲ってやるよ」

 

フリードとビックスローの言葉にグレイは安心して突き進む。

 

「まだぁっ!!」

 

ミーシャが叫ぶと地面から土の大蛇が現れ、グレイに襲いかかる。

 

「ウォータースライサー!」

 

ジュビアがグレイの背後から水のカッターで切り裂くが、すぐに修復してしまう。

 

「ジュビア!合わせろ!!」

 

「っ!はい!」

 

ジュビアとグレイは並び立ち、魔力を合わせる。

ジュビアがミーシャに向かって巨大な渦を作り出し、グレイはそこに造形魔法で氷柱を作り出す。

氷の棘を持った渦は土の大蛇を飲み込み、粉々に破壊してミーシャも飲み込んだ。

 

「きゃあああぁっ!!?」

 

宙に打ち上げられたミーシャの身体はボロボロになり、地面に落ちた。

 

「うぅぅ……」

 

呻き声を上げて、ミーシャは悔しさで涙を流した。

これで自分は人間に戻ることはできないと思ったからだ。

そんなミーシャにグレイは近づいた。

 

「なに……哀れみにでも来た?」

 

「そうじゃねぇよ。そんなに自分を嫌いになるなよ」

 

この辛さを知らない人間が何を言うのかとミーシャは鼻で笑う。

 

「ふんっ、貴方に何がわかるのよ」

 

「自分を好きにならなきゃ、生きて行けねぇよ」

 

「もう生きている意味なんて……」

 

生きていてもこんな体では辛い経験をするだけだ。

 

「仲間ができたら、そんなもん受け入れてくれる」

 

「…………そんな仲間が貴方にいるの?」

 

「だから、ここにいてお前等と命賭けて戦ってんだ」

 

ミーシャはその言葉に少し悲しそうにして黙ってしまった。

 

 

一方、ナツとガジルはカイルと戦っているがその光景は異常だった。

 

「「オラァァァァッ!!!」」

 

ナツは炎を纏わせた拳をガジル鉄の鱗に覆われた拳をカイルに向かって殴りつける。

しかしカイル顔から血を流し、顔が腫れようと笑みを浮かべて一歩も引かないどころか前進してくる。

ナツ達は攻めているはずだが、前進してくるカイルに焦りの表情を見せ始める。

2人同時に突き出す拳をカイルは手首を掴んで止めた。

 

「中々良いが、少し飽きてきたなぁ……もっと昂ぶらせてくれよ!」

 

手に力を込め、手首を握り締めると鈍い音がなる。

 

「い"っ!?」

 

「ギッ!?」

 

カイルの傷は徐々になくなり、完治してしまった。

手首を掴んだまま腕を振るい、ナツ達を壁まで吹き飛ばす。

壁に激突し、瓦礫に埋もれる。

 

「ゲホッ!ゲホッ!何だアイツ!?」

 

「どれだけダメージを与えても全部治りやがる……!」

 

ナツ達は瓦礫から這い出て、余裕綽々とナツ達に近づいていく。

 

「不死身だと何も感じやしねぇ。食べ物食っても味がしない。酒を飲んでも渇きは無くならない。女を抱いても虚しいだけだ。唯一感じるのは……痛みだけだ」

 

カイルは腕を広げ、無防備な体を見せつける。

 

「俺にもっと痛みを感じさせてくれよ」

 

不死身の男が二匹の竜の前に立ちはだかる。

 



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第137話 不死身の代償

お久しぶりです!
最近他の作品を書いたり、創作意欲が湧かなかったりと投稿してませんでしたがまた書いていこうと思います!

よろしくお願いします!


カイル・ルヴィキタスはかつてボスコで名の知れた盗賊だった。

オーガが取り仕切るラトゥータでは、オーガの脅威を良く知っており、活動は一切してこなかったが他の街、フィオーレではその悪名を広めていた。

そしてある時、彼はフィオーレの南に存在するある孤島に辿り着き、そこで仲間たちと暴虐の限りを尽くし、金品を奪おうとしたが、それは失敗に終わった。

そこの先住民たちは土地を味方に付け、屈強な盗賊をカイルを残して殺害した。

カイルは腕を後ろで縛られ、先住民の族長の前に跪かされる。

 

「ハッ!悪名高いカイル様もここまでかよ」

 

カイルは自分が死ぬとわかっていても笑みを崩さない。

 

「いいぜ、殺せよ?どうせロクでもねぇ人生だ。最後くらい死ぬって感覚を味わってやるよ」

 

カイルという男は常に貪欲だった。

欲しいものは必ず手に入れ、知りたいもの全て知り尽くした。

故にカイルまだ経験したことのない『死』を知りたかった。

しかし、族長はそんなカイルを見て殺すのを止め、カタコトな言葉で話しかける。

 

「オマエニハ、死ハ褒美ノヨウダ。ダカラオマエニハ死ヨリ辛イ仕打チヲヤロウ」

 

そう言って合図を出すと側に控えていた従者が奥に消え、台座に置かれている金貨を持ってきた。

 

「何だそりゃ……?」

 

「コレハ神器『アステカの呪貨』、オマエニ苦痛ヲ与エル」

 

突然、カイル後ろに控えていた男達が族長に胸をさらけ出すようにカイルを持ち上げる。

 

「おい!何しやがる!?」

 

「〜〜〜〜〜〜」

 

族長がブツブツと何か呟き、カイルの胸の中心に金貨を押し当てるとズブズブと中にめり込んでいく。

 

「がっ……!あ…ぁっ……!?」

 

激しい痛みと異物が体の中に入り込んでくる苦しみにカイルは叫び声すら上げられない。

やがて族長が血が付着した手を離すと、金貨がめり込んだ跡は無くなっていた。

 

「お、俺に何をした……!」

 

族長は何も答えず、ただ邪悪な笑みを浮かべるだけだった。

その後、カイルは簀巻きにされたまま荒れ狂う海に放り投げられた。

波に揉みくちゃにされ死ぬかと思ったが気付けば、どこかの港町に漂着していた。

そこからまた自分がしたいようにしようと略奪を繰り返していたが、あることに気づいた。

それは何をしても満たされないことだった。

以前は欲しいものが手に入れば満足感があったが、それは消え去り、美味い料理を食っても味はしない。

酒を飲んでも喉が潤される事は無く、女を抱いて温もりを感じない。

その時、カイルはあの先住民達にされたことを思い出した。

『死より辛い仕打ち』を与える。

確かにカイルにとって欲が満たされないのは何よりも辛いことだった。

ありとあらゆる方法でこの呪いを解こおうとしたが、全てが失敗に終わった。

やがて百数年が経ち、いよいよ追い込まれたカイルは自害しようと銃口を額に突き付け、引き金を引いた。

凄まじい痛みが一瞬襲い、すぐに意識が暗くなる。

やがて意識が途絶え、死んだが直ぐに目の前が明るくなった。

そしてカイルは気づいてしまった。

自分は死ぬことも許されないのだと。

 

 

倒れるナツに近づき、カイルは拳を握りってナツ目掛けて振り下ろす。

 

「チィッ!」

 

拳がぶつかる寸前にガジルがナツを救い出す。

殴られた地面は抉れて、地面が捲り上がる。

 

「おい!サラマンダー!しっかりしやがれ!殺されるぞ!!」

 

「わかって……るっての!」

 

長い時間、全力で戦い続けたナツとガジルの魔力は残り少ない。

しかし、カイルはどれだけ傷つけても元に戻ってしまう。

このままではジリ貧だとわかっていた。

 

「チッ!本当は残りの魔力が少ねぇから使いたくなかったが仕方ねぇ。おいサラマンダー、少し間でいいアイツを俺に近づけさせるな」

 

「あぁ?何する気なんだよ?」

 

「アイツを倒すのは不可能だ。なら動けなくするしかねぇ。まだいけ好かない野郎をぶっ飛ばさなきゃいけねぇんだろうが」

 

「………お前なんかキャラ変わったな」

 

「なんだとっ!?」

 

ガジルの仲間を思いやる言動にナツはラクサスの件と同じで呆然として、失礼なことを言い、ガジルを怒らせた。

ガジルはナツを引っ張り起こしてカイルの方に向ける。

 

「奴を封じる魔法を出すまで時間がかかる。それまで奴の動きを止めろ!!」

 

「オオオォォォッ!!!」

 

ナツは雄叫びを上げて、カイルに炎の拳で殴りかかる。

カイルはそれを避けるようともせずに甘んじて受け止めた。

 

「おいおい……火がさっきより弱くなってるぞ!!」

 

顔を焼かれながらもカイルは気にした様子もなく、反撃する。

常人ではあり得ない力の拳をナツはギリギリで躱すが、カイルはすかさず腹に蹴りを入れる。

 

「うごっ!?」

 

嫌な音が響き、ナツは一端距離を取り、頬を膨らませブレスを放つ。

 

「火竜の咆哮!!!」

 

灼熱の炎がカイルを襲い、体をのけぞらせることができたが、すぐに態勢を戻してナツに一歩一歩近づいてくる。

 

「いいねぇ!!良い熱さだ!!そのまま俺を焼き尽くしてくれよ!!!」

 

ナツは残り少ない魔力を根こそぎ集めて、更に強いブレスを放つ。

しかし、カイルはそれに反してナツに近づく。

 

(くそぅっ……!魔力が足りねぇ!!)

 

「サラマンダー!!離れろ!!」

 

ガジルの合図でナツはカイルから離れると、ガジルは地面に拳を突き立て、魔力を解放する。

 

「滅竜奥義!凱楔(がいせつ)竜鉄牢(りゅうてつろう)!!」

 

地面から鉄柱がカイルに向かって挟むように伸び、カイルの動きを封じる。

 

「サラマンダー!!」

 

「火竜の……咆哮ォッ!!」

 

身動きが取れなくなったカイルにナツはありたっけの魔力で咆哮を放つ。

炎に包まれるたカイルは動かず、ただ炎に焼かれる。

 

「ハァ、ハァ……」

 

「………」

 

ナツは呼吸を荒くし、ガジルは黙って炎を見つめる。

やがて炎が消え去り、火傷だらけになったカイルが現れる。

鉄柱に磔にされ、ピクリとも動かない。

しかし、カイルの火傷はみるみると消えて、やがて顔をゆっくりとあげて首をゆっくりと回す。

 

「はぁー……飽きたな」

 

「「はぁ?」」

 

カイルの言葉に2人は訳がわからないといった表情になる。

 

「お前らじゃ俺を殺せないのわかったし、この状態じゃ動けないから戦いになりゃしねぇ。だから飽きた」

 

「「………」」

 

カイルの物言いに呆然としてしまう2人にカイルは気づく。

 

「どうした?さっさと行けよ」

 

「……行かせていいのか?」

 

ガジルが質問するとカイルは鼻で笑った。

 

「俺がお前らを足止めしてたのは俺を殺せるかも、って思ったからだ。それができないなら止めておく理由なんてない。それにお前らの実力で儀式を止められると思わねーし」

 

「何だと!?絶対に止めてやる!!」

 

カイルの言葉に激昂したナツは疲れを忘れ、奥の道へと進んでいった。

ガジルは何故か余裕を崩さないカイルに疑問の目を向けながら、ナツを追った。

 

「はぁーあ……結局俺の頼みの綱はアスラだけか」

 

カイルはつまらなさそうに呟いた。

 

 

エルザはサツキと戦っていたが、それはもう終わった。

エルザの剣は全て折られそこら中に散らばり、鎧も破壊されて破片が、その体には多くの傷がついており、地面に伏していた。

対してサツキは無傷でエルザを見下ろしている。

 

「ぐっ……!」

 

立ち上がろうとするが力が入らず、立ち上がれない。

未だ足掻こうとするエルザを見て、悲しそうに目を細めるサツキは鞘に収まった刀を持ち上げ、エルザの頭に向ける。

 

「………ごめんなさい」

 

サツキは一言、そう呟き刀を振り下ろした。



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第138話 鞘に収まる怪物

エルザに刀が振り下ろされる瞬間、サツキに向かってクナイが放たれ、サツキはそれを体を逸らして避けた。

 

「新手ね」

 

影からゆっくり現れたのはカミナだ。

カミナは纏っていたマントを脱ぎ捨てるのと同時にマントに仕込んでいた大量のクナイをサツキに向かって放つ。

サツキはそれを跳んで避けると更に白雷で追撃するが、刀で防がれる。

しかしその間にカミナは(ろう)を召喚しエルザを自分の下に引っ張って来させた。

 

「繭姫」

 

召喚用の巻物から回復ができる式神、繭姫を召喚する。

 

「エルザを戦えるように急いで回復させろ」

 

それだけ指示するとカミナはサツキに向かって走り出した。

 

「ま、待て…カミナ……」

 

「ダメよ、エルザちゃん。酷い怪我だわ」

 

カミナを引き止めようとするエルザを繭姫が制する。

 

「だ、ダメなんだ……」

 

「何がダメなの?」

 

エルザは悔しそうに歯を食いしばる。

 

「奴は……次元が違いすぎる……!」

 

カミナは一定の距離を保ちながら鬼道で牽制し続ける。

白雷やクナイなどで距離を保ちつつ、サツキが近づこうとすれば広範囲の魔法で距離を作る。

 

(妙だわ。攻撃がワンパターン過ぎる)

 

暫く攻撃を受け続けていたサツキが違和感を覚え始め、ふと足元に散らばるクナイが目に入る。

 

「まさか……」

 

「鎖状鎖縛」

 

その瞬間、サツキの体に光の鎖が巻きつき、身動きを取れなくし、刀を地面に突き刺して、手をサツキに向ける。

すると散らばったクナイが一斉に浮かび上がってサツキ目掛けて飛んでいく。

このままいけばサツキは大量のクナイで串刺しになる未来しかない。

しかし、サツキは慌てる様子は見せずに迫り来るクナイを見据えると鎖をバラバラに切り裂き、更にはクナイを全て打ち落とした。

 

「危ないわね」

 

サツキはカミナを見据えるが、カミナは策が潰れようとも慌てる様子は見せずに地面に突き刺した刀を握ると手に魔力を宿し、地面に伝える。

すると、地面に落ちたクナイがまた浮き出し、今度はサツキに向かって行くのではなくサツキを囲うように漂い続けている。

カミナはそこに新たなクナイを投げると浮いていたクナイとぶつかり火花を散らし、連鎖爆発が起こる。

 

「黒塵連爆」

 

連鎖爆発はサツキを巻き込む。

息をつかせない連続攻撃に倒したかと思われた。

しかし、カミナが殺気を感じ、横を振り向くと鞘に収まった刀を振るうサツキの姿が目の前にあり、壁に殴り飛ばされてしまう。

 

「カミナ!」

 

エルザがカミナの名前を叫び、安否を心配する。

カミナはぶつかった壁の瓦礫から這い出て、口元から流れる血を拭ってサツキを睨む。

 

(どうやってあの爆発から逃げた?)

 

クナイと爆発の連続攻撃に簡単には逃げられないはずだが、目の前に立つサツキには傷一つない。

 

「あの爆発は危なかったわ。あともう少し遅かったら服が汚れていた」

 

(その程度か……嫌になる)

 

あれだけの攻撃で服が汚れる程度と言われ、カミナは驕られて怒りが湧くどころか目の前の相手は想像以上の敵だと再認識し、刀を構える。

呼吸を整え、サツキを見据える。

 

「………行くぞ」

 

 

あれからどのくらいの時間が経っただろうか。

カミナとサツキは何度もぶつかり合っているが、カミナ自身は遊ばれていると思っていた。

何度魔法を打ち込んでも全て弾かれ、大規模な魔法を仕掛けても難なく突破され、刀は何度も折られている。

まるで打てる手を全て出し尽くさせて、戦意を無くそうとしているようだ。

また刀を折られ、刀で胸を突かれて吹き飛ばされ、片膝をついて止まり、顔を上げると刀を目の前で突きつけられていた。

 

「無駄よ。貴方程の実力者ならわかるでしょう。私と貴方の絶対的な差を」

 

「……なら何故トドメを刺さない。一瞬で決着が着く戦いを続ける」

 

カミナは警戒したまま話を続ける。

 

「私と貴方はよく似てるわ。血の匂いが染み付いて離れない、殺しの場で生きた人間という点で」

 

「………」

 

サツキの言葉にカミナは黙って睨みつける。

 

「殺した数は一や十ではないでしよう?そんな人間は負けるとわかっていたら、最後にどんな手を使ってくるのかもわかる」

 

サツキはカミナが負けるとわかっている戦いに最後の最後に何かを仕掛けてくるのはわかっていた。

しかも、それは自身の命を賭けるものだ。

敵と言えど、死んでは欲しくないサツキはまず戦意を折ることにした。

 

「お願い、降参して」

 

サツキはカミナに頼むがカミナの目には戦う意思がありありと映っていた。

それに気づいているサツキは辛そうに刀を振りかぶる。

 

「……ごめんなさい」

 

カミナに刀を振るおうとした瞬間、背後に気配を感じ、刀で応戦する。

サツキが防いだのは防御を捨て、剣だけに戦力を振ったエルザの攻撃だった。

 

「カミナ!」

 

「白雷!」

 

エルザが叫び、カミナはそれに答えるようにサツキに向かって一閃の白い雷を放つ。

しかし、サツキは魔法を頭を動かすことで避けるとカミナとエルザを蹴りと殴打で吹き飛ばす。

 

「ぐぅっ!」

 

「っ!」

 

吹き飛ばされはするが直ぐに体勢を戻してサツキに斬りかかる。

まさに嵐の如き斬撃に常人ならば一溜まりもないが化け物には届かない。

しかし、カミナとエルザの攻撃を全て防ぎ、捌いて反撃する。

妖精の尻尾でトップクラスの2人の攻撃が全く届かない。

もし仲間達が見れば信じられない光景だった。

サツキはカミナの一瞬の隙を突き、刀で突いて壁にぶつけ、迫り来るエルザの斬撃を体を僅かに逸らすことで避けると刀で地面に叩きつけた。

 

「ぅぁっ!ぐっ……ぅぅ……!」

 

エルザは何度地面に叩きつけられようとも立ち上がろうとする。

その姿を見る度にサツキは辛そうな表情になる。

するとカミナがいる方から魔力の高まりを感じ、顔を向けるとカミナが手を向け魔力を高めていた。

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」

 

詠唱の一節ごとに魔力は高まっていく。

サツキはカミナの魔法を避けようとするが、足元で倒れていたエルザがサツキの足を掴んで離さない。

 

「っ!」

 

「やれ!カミナ!」

 

「破道の三十三『蒼火墜』!」

 

カミナから打ち出された蒼い炎がサツキに当たる瞬間、足元にいたエルザを蹴り飛ばし自分から離した。

炎はサツキに直撃し、炎に包まれる。

 

「駄目押しだ……」

 

カミナは居合の体勢になり、炎に包まれているサツキに向かって飛び出した。

 

「『白絶斬』!」

 

白の閃光と共に居合切りが炸裂し、サツキは炎ごと斬られる。

カミナはサツキの背後で刀を振り切った体勢で固まっていたが、片膝をついて崩れ落ちる。

 

「ぐっ…!くっ……」

 

左肩を抑えて、痛みに耐えるカミナは信じられないと言った顔で炎の中から出てきたサツキを見る。

 

(あの女…!炎の中にいながら俺より早く刀を振った……!)

 

炎で視界が塞がれているはずなのに炎の中から一瞬しか現れなかったカミナの刀から居場所に気づき、カミナより早く刀を振るい、反撃したのだ。

サツキの刀は鞘に収まっているとはいえ肩を強打され、骨が折れてしまった。

カミナが斬ったのはサツキが着ている和服の背中の僅かだった。

 

「カミナでも傷つけられないのか……!」

 

重い足取りで座り込んでいるカミナに近づく。

自分より実力があるカミナでさえ、傷をつけられない敵にエルザは驚嘆してしまう。

すると、斬られた背中部分が炎に晒され、僅かながらサツキの背中が見え、そこには中央にフィオーレ王国の紋章があしらわれている複雑な紋章と呪文があり、赤く発光していた。

 

「あれは?」

 

「ギアス……契約者と取り決めの際に使われる魔法だ。しかもあれは罪人を罰する時に使われる重いギアス」

 

「そんなものが何故、彼奴にある?」

 

「さぁな。しかし俺たちがとんでもない奴と戦っているのは再確認できた」

 

「どういうことだ?」

 

カミナは刀を杖にして立ち上がりサツキを睨むが、その額には冷や汗が流れている。

 

「あのギアスは罪人用のもの。しかもあれフィオーレ王国で最も重いギアス。効力は魔法の使用禁止、魔力の低下、さらに罪を犯せば身を裂くほどの痛みに襲われる」

 

「それ程の物なのか……しかし、それがどうしたというのだ?」

 

「わからないか?あのギアスは現在も発動している」

 

その一言にエルザは驚愕する。

 

「つまり、あの女は魔法を一切使わず体に激しい痛みがある中、俺たちを圧倒している」

 

カミナ達はかつてない強敵に立ち向かわなければいけないことに武器を握る力を強めた。

 



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第139話 集う三剣

途方も無い実力に身震いするカミナ達にサツキは初めて攻撃に出ようと、2人に一歩踏み出す。

カミナ達はサツキが動き出したことに警戒し、武器を構える。

サツキは姿勢を低くし、前屈みになると地面が抉れる程の力で踏みつけ、一瞬で2人に近づく。

 

「「っ!?」」

 

剣を振るうサツキに2人は咄嗟に刀で防ぐが弾丸のように弾き飛ばされてしまう。

 

「がはっ……!」

 

「ぐっ……!」

 

立ち上がろうとするカミナとエルザにサツキは容赦なく襲い掛かる。

そこからは一方的な蹂躙だった。

いくら2人が抵抗しようともサツキの剣戟に全て破られて攻撃を受けてしまう。

剣が弾かれる音と打たれる音が延々と響く。

やがてサツキの足元にはボロ雑巾の状態になったカミナとエルザが倒れていた。

 

「ここまで…実力が……!」

 

エルザはサツキと自分の実力差が圧倒的過ぎて慄いてしまう。

 

(少しでも隙ができれば……活路が…)

 

カミナは僅かな勝ち筋を見出すが、そのためには手数が足りないことに悔しく思う。

 

「そろそろ終わりにしましょう」

 

サツキは刀を振り上げ今度こそトドメを刺そうとするが、その手を止め背後の入口に顔を向ける。

その表情は複雑そうだ。

 

「まさか貴方もここに来るなんて」

 

入口の影から現れるのは濃い緑の髪を持ち、翡翠の剣を持つ男。

 

「久しぶりだな、サツキ」

 

フィオーレ王国王子ジェイド・E・フィオーレだ。

 

「ジェイド王子!?何故ここに?」

 

「王国も今回の件は重く見て、漸く軍隊を派遣した。評議会の魔法部隊、王国の軍隊も外の信者と戦っている。俺は王国軍の指揮を命令されてな………それにいい加減俺たちの過去に決着を付けないといけない」

 

ジェイドは神剣フィオーラを抜き、サツキに向かって駆け出す。

2人の剣がぶつかり合い火花が散る。

サツキの剣戟がジェイドを襲うがジェイドは攻撃を防ぐ。

大きな攻撃にジェイドはカミナ達のところまで弾き飛ばされ、片膝をついて苦しそうな表情になる。

どうやら目で追えない速さでいくつか攻撃を食らってしまったらしい。

 

「ジェイド王子!」

 

苦しそうにするのを心配するエルザをジェイドは手で制する。

 

「チッ……これでは格好がつかないな。やはり剣では勝てないか」

 

「ジェイド、奴のことを知っているのか?」

 

カミナがジェイドに質問するとジェイドはサツキを見て目を細め、彼女のことを説明する。

 

「彼奴の名はサツキ・シーセン。かつては西の大陸の国で幹部の1人だったらしい。が、数年前に我が国に亡命してそれ以来大人しくしていたんだがな」

 

「あのギアスは?」

 

「隣国の最高戦力の1人をそのままにしておくことはできなかった。保険としてギアスをしたんだがあの様子では今はなかったようだな」

 

「………」

 

ジェイドの言葉にカミナは黙ってサツキを見る。

 

「それよりカミナ。勝算はあるんだろう?」

 

「………あるにはある」

 

「では、早速取り掛かろう」

 

エルザが立ち上がろうとするのをカミナは止める。

 

「この作戦はお前に大分と負担が掛かる。下手したら死ぬかもしれん。それでもやるのか」

 

カミナの質問にエルザは笑みを浮かべて自信有り気に答える。

 

「仲間が建てた計画だ。私はただそれを信じて突き進むだけだ」

 

エルザの言葉にカミナは一瞬驚いた表情になるがすぐにいつもの顔に戻り、エルザに自分の刀を渡す。

 

「持っていけ。無いよりはマシな筈だ」

 

「あぁ、ありがたく使わせて貰おう」

 

エルザはカミナの刀をしっかりと握り、一度振って感触を確かめる。

 

「作戦を伝える。………」

 

こうしてサツキに反撃の狼煙が上がった。

 

 

サツキは恐らく自分を倒すために話し合っているカミナ達に追撃することなく、一定の距離を保ち観察していた。

カミナ達が何かしてくるのでは?と警戒しているのではなく、いつでも倒せる余裕と罪悪感で手が止まってしまっていたのだ。

着物の袖から取り出した最愛の娘が折ってくれた鶴の折り紙を見つめ、こうなった経緯を思い出す。

 

サツキの父は西の大国アルバレスで王を守る幹部の1人だった。

父は凄まじい魔力と魔法の才能を持っており、サツキにもその魔力と才能はあった。

やがて、父と同じ幹部になり国のため王のためと日々戦いに身を投じた。

サツキはその類稀なる刀剣の才と国のためならと冷酷に敵を葬り、血濡れになる姿から『殺人将軍(マーダージェネラル)」と呼ばれていた。

そのことに何も思わなかった。

それどころか国に貢献し、父が誇らしく見てくれることが嬉しく思っていた。

しかし、ある時部下の影響で自身がしていることが正しいのかどうかわからなくなり、国王のやり方に疑問を持ち始めてしまった。

そしてある時、王の正体とその残虐性に気づいてしまい、逃げ出すことを決めた。

自分を変えて支えてくれた部下が愛しい恋人となり、共に逃げ出そうと計画した。

その時に男の子供を身篭ったことに気づき、より一層逃げると決心した。

 

恋人は国の追っ手から自分を逃がすために犠牲になり、命からがらフィオーレに亡命することができたが、フィオーレ国王は何度も攻撃を仕掛けてくるアルバレスの元幹部であるサツキに対して処遇を悩ませていた。

そこで王は『国に対して反逆行為を行う』と発動するギアスをかけ、サツキの身を自由にした。

サツキはそれからある魔導士ギルドに勤めながら、産まれた娘と慎ましく生きていた。

命を奪っていた分、サツキは危険なクエストを積極的に受け、少しでも娘に誇れる母親になろうとしたがある時悲劇が起こってしまった。

 

娘と家で過ごしているとアルバレスの密偵が2人を襲ったのだ。

かつてとはいえ、アルバレスで最強の1人であったサツキは難なく撃退したが、その時密偵が娘に呪いをかけてしまった。

ありとあらゆる解呪を試みたがどうやらその呪いは東洋に存在する国『倭国』の呪いで通常の解呪では効かなかった。

日に日に弱っていく娘を見て無念に押しつぶされている時にエリオから勧誘され、アスラの心臓を求め、エリオの一味に加わった。

 

罪悪感に押しつぶされそうになるが娘のためには形振り構うことができない。

サツキはもう一度血濡れ将軍に戻ることに決心したのだ。

 

 

サツキは今まで軽くあしらい相手が諦めるまで待とうと思っていたが、カミナ達は何度倒しても諦めない。

だから、徹底的に潰すと決め、刀を強く握りしめてカミナ達を見据える。

対するエルザ達もサツキと対峙する。

エルザは自身の刀とカミナの刀を両手握り、その隣にジェイドが神剣フィオーラを構えて立っている。

そしてカミナは2人の後ろで魔力を滾らせていた。

 

「いくぞ!!」

 

エルザが先頭を走り、サツキに向かっていく。

あらん力を持って二刀でサツキに斬りかかる。

サツキは半身に構えて迎撃しようとするが背後で待機していたカミナが白雷を打ってエルザを援護し、サツキの動きを封じようとする。

しかし、サツキは白雷を素手で弾き飛ばし、エルザの腹に横腹に蹴りを蹴り飛ばす。

すると背後から迫っていたジェイドが上段斬りを放つが刀で受け止め、鍔迫り合いが起こる。

 

「スラッシュ」

 

ジェイドが一言そう呟くと剣から魔力の斬撃がサツキに向かって放たれ、至近距離で受けたサツキは爆発に巻き込まれるが爆煙の中から手が伸び、ジェイドの顔を掴むとその勢いのまま地面に叩きつける。

 

「がはっ!?」

 

「ハアアアアアッ!!!」

 

背後からエルザが飛び掛るとサツキはジェイドをエルザに投げ飛ばしてぶつけると2人に目掛けて飛び上がると斬りつけた。

 

「あああぁぁぁっ!?」

 

「ぐああぁぁぁっ!」

 

一瞬で無数に打たれ、悲鳴をあげる。

 

「天嵐!」

 

カミナがサツキに竜巻が迫るがそれも刀で切り裂かれ消されてしまう。

地面に降りたサツキは今度はカミナに向かってくる。

 

(一瞬だけでいい…!隙さえできれば勝てる……!)

 

カミナはエルザ達に伝えた作戦を思い返す。

 

 

「奴を仕留めるには大きな攻撃が必要だ。それもとても強力な攻撃をだ」

 

カミナはサツキの方を見て話を続ける。

 

「そのための魔法は使えるが隙を作らないといけない。ジェイド、奴のギアスを最大まで高めることはできるか?」

 

「出来たとしても精々3秒くらいが限界だ」

 

「十分だ。それだけあれば奴を魔法に嵌られる」

 

「だが、そのためには俺がサツキに触れないといけない。この実力差で近づけるかどうか……」

 

「大丈夫。私がジェイド王子を導く」

 

エルザが覚悟を決めた目で宣言する。

カミナはエルザの目を見て、頷く。

 

「作戦実行だ」

 

 

今のカミナは魔法を発動するために魔力を溜めており、簡単な魔法しか使えない。

迫り来るサツキを見て、カミナは地面に手をつける。

 

煙敦(えんとん)!」

 

煙が噴き出し、カミナとサツキを包み込む。

サツキは片手を振るい、風を巻き起こし煙を蹴散らすと横からエルザとジェイドが再び切り掛かってきた。

果敢にサツキに攻撃を仕掛けるが全て捌かれ、反撃される。

戦いが続けば続く程、エルザとジェイドに傷ができていく。

しかし、それでも引き剥がされないように食らいつく。

 

「スラッシュ!」

 

ジェイドが複数の斬撃を飛ばすが全てエルザに受け流されてしまう。

 

「ぐああぁぁっ!……くぅぅっ!!」

 

切り裂かれたエルザは足を踏ん張り、サツキに追撃する。

二刀の攻撃を防がれるがそれでもサツキを押し通す。

 

「私は負けられない!」

 

「私もよ」

 

互いにの信念がぶつかり合い、一歩も譲らない状況にジェイドがサツキに近づく。

サツキはそれに気づき、エルザを引き離そうとすると違う方向から白雷が打ち込まれ咄嗟に避けてしまう。

その一瞬の隙を突いてジェイドはサツキの肌に触れた。

 

「ギアス、最大出力!」

 

言葉と共に魔力を限界まで押し流すとサツキの背中に描かれたギアスが今までにないくらいに輝きが増す。

 

「あああぁぁぁっ!?」

 

激しい痛み悲鳴をあげるサツキにカミナは貯めに貯めた魔力を開発する。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ !」

 

向けた手から黒い魔力が纏わりつき、カミナも辛そうな表情になりながらもこの戦いを終わらせるために今自分が使える最大の魔法を放つ。

 

「『黒棺』」

 



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