Fate/faceless king (ほにゃー)
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プロローグ

「ここは……何処……」

 

少年は辺りを見渡し、自分が何処にいるのか理解しようとする。

 

「森……僕は一体……誰?」

 

記憶を失った少年は、行く当てもなくふらふらと森の中を歩く。

 

空腹と疲労、眠気に襲われながらも少年は歩き続けた。

 

自分にはするべきことがあった。

 

だが、そのすべきごとがわからなかった。

 

だからこそ、歩き続けた。

 

次第にその足は、覚束無い足取りになり、そして、とうとう少年はつまずき、地面に倒れる。

 

薄れて行く意識の中、少年はある光景を見た。

 

木々の立ち並ぶ森。

 

鳥の囀りと風が吹く音に耳を傾けながら、弓を手にした一人の男の姿を。

 

男は人ではなく、人々の平穏な暮らしを愛した。

 

そこで、少年の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、とある孤児院に一人の男と女が訪れた。

 

男の名前は衛宮切嗣。

 

女の名前はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

苗字は違うが二人は夫婦であった。

 

二人はとある事情で、世界を飛び回っており、世界各地に知り合いがいた。

 

そんな折、友人だった夫妻が海外でテロに巻き込まれ亡くなり、その夫婦の子供がその国の孤児院に預けられていると知った。

 

二人は話し合い、その子供を引き取ることにし、孤児院を訪れた。

 

個室で子供と出会い、切嗣は「養子にならないか?」っと率直に聞いた。

 

すると、少年は「いやだ」と答えた。

 

理由を聞くと、少年は孤児院にもう一人日本人の子供がいて、自分はあの子の兄代わりだから、あの子が誰かに引き取られるまで自分は孤児院を出て行かないと言い張った。

 

そして、養子にするなら自分よりその子にしてくれと頭まで下げた。

 

少年にとって、その子は大切な家族なのだろうと、切嗣とアイリは思った。

 

「なら、その子も一緒に引き取ろう」

 

「え?」

 

「大事な家族なんだろ?だったら、引き離すのは可哀相だ。その子も一緒だ」

 

「本当にいいの?」

 

「ああ、もちろん。アイリ、良いかい?」

 

「ええ、もちろん!家族が増えるのは嬉しいわ!」

 

切嗣は職員に頼み、もう一人の日本人の子を呼んでもらった。

 

切嗣とアイリはその子を見ると、一瞬驚いたが、すぐに笑顔になり、挨拶をした。

 

「こんにちは。行き成りだけど、このお兄さんと一緒に、僕たちと暮らさないかい?」

 

少年はおろおろとしたが、兄である少年の笑みを見ると、躊躇いながらも頷いた。

 

「それは良かった。なら、早速日本に帰ろう。イリヤも待ってる」

 

「ああ、イリヤもきっと喜ぶわ!」

 

「イリヤってのは、僕たちの娘だ。君にとっては妹になるね。こっちの子は………年齢的にイリヤと同じぐらいか。兄か弟か、今後次第だな」

 

その後、切嗣とアイリは手続きを済ませ、正式に二人を養子として向かえた。

 

「これからよろしくね。私のことは、気軽にママって呼んで良いからね」

 

「じゃ、僕の事はパパかな」

 

二人に手を繋がれながら、二人の少年は新たな家族を手に入れた。

 

兄の名前は衛宮士郎。

 

そして、その弟の名は、衛宮陸。

 



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平穏な日常

穂群原学園小等部

 

俺、衛宮陸はそこの5年1組に通っている。

 

帰りのホームルームは終わるが、俺は席を立とうとしない。

 

俺の席は日当たりが良く、ポカポカしている。

 

夏なら最悪なポジションだが、今の時期ならまだギリギリ暖かいで済む。

 

この暖かさに身を任せ、眠ってしまいたい。

 

「陸!帰るよ!」

 

そんな俺の眠気を妨げるのは自称俺の姉であるイリヤだ。

 

何故、自称なのかと言うと、俺とイリヤは血が繋がっていない。

 

イリヤの両親、つまり現在の俺の父さんと母さんが孤児院で俺を引き取った時、俺とイリヤは同い年で、最初はどっちが上なのかっと問題になった。

 

イリヤは自分が姉だと言い張り、俺はイリヤが姉でいいと言い、名目上、イリヤが姉となっている。

 

まぁ、姉とか弟とか関係ないんだけどな。

 

「イリヤ、俺は少し寝てから帰る。先に帰っててくれ」

 

「ダメだよ!今日、マジカルブシドームサシのDVDが届くんだから、早く帰らないと!」

 

「なら、一人で帰ってくれ。俺は眠い。それに、義姉弟だからって、一緒に帰る理由も無いだろ」

 

「そ、それは………り、陸は私の弟なんだよ!弟の面倒を見るのは姉である私の務め!だから、ほら!一緒に帰るの!」

 

俺の手を掴み、引っ張るイリヤ。

 

こうなったイリヤは頑固過ぎて困る。

 

「分かった分かった。帰るから、ちょっと離してくれ」

 

イリヤを押し退け、ランドセルを背負う。

 

衛宮家に来て、もう五年。

 

イリヤが隣りにいるのが当たり前となっている。

 

イリヤと二人で歩いていると、高等部の校門が見え、門から丁度イリヤと俺の義兄、衛宮士郎こと士郎兄さんを見かけた。

 

「お兄ちゃ~ん!」

 

士郎さんに気付いたイリヤは小走りで兄さんに近づく。

 

「お、陸にイリヤ。今帰りか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「一緒に帰ろう!」

 

「いいぞ」

 

兄さんは自転車に乗らず、手で押しながら俺達と歩く。

 

「陸、お兄ちゃん!家まで競争しよう!」

 

「俺はいいけど、俺、自転車だぞ」

 

「大丈夫!私、走るのは得意だから!」

 

そう言うとイリヤは走り出す。

 

「はぁ、兄さん。後ろに乗せて」

 

「いや、二人乗りは危ないから……」

 

「大丈夫大丈夫。この辺に交番は無いし、今は警官のパトロール時間でもない。バレないって」

 

「バレなければいいってもんじゃないぞ?」

 

「硬いこと言わないでよ」

 

「たっく……イリヤ!待てよ!」

 

兄さんも自転車に乗り、イリヤに追いつきそうで追いつかないスピードを維持して走る。

 

その後ろで兄さんの肩に手を置き、風を感じる。

 

とても心地いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ただいまー」」」

 

「お帰りなさい、イリヤさん、陸。あら、士郎も一緒でしたか」

 

家に着くと俺達を迎えたのはセラだった。

 

セラは、母さんが父さんの仕事に着いていき、よく海外に行くので、その間の家事や俺とイリヤの教育を任された人だ。

 

お手伝いさんみたいな感じかな。

 

「そうだ、イリヤさん。お昼過ぎに荷物が届いてましたよ。確か中身はDVD」

 

セラがそこまで言うと、イリヤは笑顔になりリビングへと走って行く。

 

「ああ、リズお姉ちゃん!自分だけ先に見てるなんて酷い!」

 

イリヤのそんな声が聞こえたので兄さん、セラと一緒になってリビングを覗く。

 

そこにはセラの姉妹のリーゼリットもといリズ姉がソファーに座ってアニメのDVDを見ていた。

 

「イリヤ、おかえり~」

 

「おかえり~っじゃないよ!先に見るなんて!」

 

「でも、お金出したの私だし」

 

「それはそうだけど………」

 

「何かと思えば」

 

「アニメの……DVD」

 

「イリヤさんもすっかり俗世に染まってしまって。これでは留守を任せて下さってる奥様に申し訳が立ちません……」

 

セラは申し訳なさそうに言う。

 

「いや、別に其処まで重く考えなくても」

 

「何を無責任な!義理とは言え、兄である貴方がしっかりしないからこんなことになるんですよ!」

 

「え!?俺!?」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

兄さんに説教をし始めるセラ、苦笑しながら説教を受ける兄さん、DVDを見てはしゃぐイリヤとリズ姉。

 

そんな皆を放置し、俺は自室の部屋に籠る。

 

これが俺の今の日常。

 

俺が愛する平穏な日常だ。

 

だが、そんな俺には一つ、どうしても気掛かりなことがある。

 

俺には孤児院に引き取られる前の記憶が一切ない。

 

名前も、俺が持っていた手荷物に名前が書いてあったことから分かったものだ。

 

俺にはやるべきことがあった。

 

それが思い出せない。。

 

それだけが、気掛かりだった。

 

「本でも読むか」

 

制服から私服に着替え、そう呟いて、本棚から一冊の本を手に取る。

 

ロビン・フッド物語。

 

俺の手荷物に入っていた本だ。

 

何度も読み返し、手垢まみれで、ボロボロだが俺のお気に入りの本だ。

 

この本を読んでいると、とても懐かしい感じがする。

 

俺にとっては唯一の記憶への手掛かり。

 

俺は平穏な日常の維持を願いつつ、今日も自分がするべきことを思い出そうとページをめくる。

 



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森の狩人

私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

穂群原学園小等部の五年一組に通うごく普通の女の子でした。

 

何故でしたと過去形なのかと言うと、私、魔法少女になりました。

 

自分でも何を言ってるんだろうと思います。

 

簡単に言うと、昨日の夜、お風呂に入ってると、突然窓からカレイドルビー、通称ルビーと言う、喋るステッキが飛び込んできて、私に魔法少女になりませんかと言って来た。

 

あまりの胡散臭さに私は断ろうとした。

 

『楽しいですよ、魔法少女!気合で空飛んだり!ビームで敵をやっつけたり!恋の魔法でラブラブになったり!』

 

そこで思わず、私は反応した。

 

ラブラブ………

 

私には好きな人がいる。

 

名前は衛宮陸。

 

私の弟だ。

 

弟と言っても陸は同い年で、お父さんの養子だから、血の繋がりは無い。

 

ちなみに、私と苗字が違うのはお父さんとママは色々あって籍入れてないから、陸の姓は養子縁組になってるお父さんの衛宮となってる。

 

後、もう一人陸のお兄ちゃん的存在で私の義兄の士郎お兄ちゃんも衛宮の姓。

 

つまりは、血が繋がってないから私と陸は結婚が出来る!

 

ここが一番重要!

 

まぁ、そんなこんなで結局ルビーに騙されたような形で無理矢理契約させられ、見事魔法少女になってしまったのです。

 

その後、ルビーの前の持ち主の凛さんが現れ、事情の説明とクラスカードと言うカードの回収をすることになってしまったのです。

 

お陰で、朝は寝不足で先生に授業中に怒られちゃった……………

 

そして、今日の放課後。

 

私は掃除係の陸を残し、教室を出る。

 

いつもなら掃除が終わるまで陸を待つけど、今日だけは陸を待たなかった。

 

無理矢理契約させられた形だけど、こんな機会この先絶対に無いだろうし、楽しもうと思って、ルビーに魔法を教えてもらおうと思ったからだ。

 

ルビーと話しながら、下駄箱を開けると何かが入ってるのに気付いた。

 

「あれ?これなんだろ?」

 

取り出してみると、それは手紙だった。

 

なんで手紙?

 

『おおっ!これはもしやアレですね!』

 

「アレって………まさか!?」

 

『そのまさかですよぉ!放課後の靴箱に手紙と言えば、これはラブなあれにまちがいありません!』

 

ら、ラブレター!?

 

漫画でしかそんなシチュエーションないと思ってたのに、まさか実在していたなんて!?

 

『さぁさぁ、イリヤさん。早く中身を』

 

「おおお、落ち着いてルビー。ここは冷静に……冷静に……」

 

人生初のラブレター(かもしれない)に、緊張しながら封を開ける。

 

こういうのって貰った場合どうすればいいんだろう…………

 

や、やっぱり断るべきだよね!

 

知らない人からもらっても困るし!

 

あ、でも…………陸からだったら嬉しいな…………

 

そんなことないと思いながら、封を開け、手紙を読む。

 

〔今夜0時に高等部の校庭まで二人で来るべし。来なかったら殺………迎えに行きます〕

 

ラブレターではなく脅迫状だった。

 

脅迫状をそっと封筒の中に仕舞い、ランドセルに仕舞う。

 

『………帰りましょうか、イリヤさん』

 

「………そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸 SIDE

 

どうもおかしい。

 

時間は夜の十二時を越える二十分前。

 

イリヤが何処かへと出かけた。

 

思えば、今日の朝からどうも様子がおかしかった。

 

いつもなら俺が起こすまで寝ているのに、今日に限っては俺が起こすよりも早く起きており、そのくせ、授業中に眠りこけ先生に叱られる。

 

今日のイリヤはどこかおかしい。

 

「よし、後を付けるか」

 

パジャマから私服に着替え、イリヤのを追う。

 

気付かれない且つ見失わない距離を保ちつつ、電柱などの物陰に隠れながら、イリヤの後を付ける。

 

後を追うと、そこはうちの学園の高等部だった。

 

「夜中に、それもこんな所に一体何の用事だ?」

 

『第五計測変数に虚数軸を追加。反転準備を開始。複素空間の存在を確認。中心座標の固定を完了。半径二メートルで反射路形成。境界回廊を一部反転します』

 

ん?何処からか声が聞こえる。

 

「こっちか」

 

声が聞こえた方に向かって歩き、俺がそこで見たモノは………

 

「い、イリヤ……!」

 

「り、陸!」

 

魔法少女みたいなコスプレをしたイリヤだった。

 

「………イリヤ」

 

俺はイリヤに近づき、肩を叩く。

 

「大丈夫。お前がどんな趣味でも、俺たちは家族だから」

 

「酷い誤解だよ!」

 

「コスプレ趣味なんだろ?大丈夫、セラやリズ姉、兄さんには言わないから。もちろん、母さんと父さんにも」

 

「だから誤解だってば!」

 

イリヤは半泣きになりながら説明する。

 

「ちょ、なんで一般人がここに!?」

 

あ、イリヤばっか目が言って気が付かなかったけど、人がいたのか。

 

「あ、すみません。うちの姉がご迷惑を。ちゃんと責任もって連れ帰りますんで」

 

「いや、そうじゃなくて!てか、まずい!ルビー!一時中断!」

 

『無理です!もう遅いです!ジャンプします!』

 

何処からか声が聞こえたと思ったら、急に光が俺達を包んだ。

 

だが、光が収まると特に変わったことは無く、いつも通りの風景があった。

 

いや、いつも通りの風景ではあるが、いつものじゃない。

 

なぜなら建造物が地面に映っているからだ。

 

まるで鏡の様に………

 

「え?ここ………何処?」

 

「凛さん!どうして陸まで!?」

 

「しょうがないでしょ!ジャンプする瞬間に入ってきちゃうんだもん!今更、止められるか!」

 

『言い合いは其処までです!来ますよ!』

 

謎の声は、イリヤが手にしてるステッキからだった。

 

おまけに生物の様にぐにゃぐにゃとうねってる。

 

一体どんな材質だ?

 

「あの……ここは一体なんなんですか?」

 

事情を知ってるっぽいツインテールの女性に訪ねようとした時、校庭の中心から黒い煙のようなものが吹き出す。

 

「説明してる暇はないわ!構えて!」

 

「な、なんなのあれ!?」

 

「報告通りね。クラスカードは実体化するのよ」

 

「カード回収って見つけるだけじゃないんですか!?」

 

「残念ながら違うわ。カードはアレを倒して回収するのよ」

 

黒い煙は徐々に女の人の形になり、目を隠し、目隠しの中央部分には大きな目が一つぎょろりと着いていた。

 

「戦うなんて聞いてないよぉ!」

 

襲って来た女性の攻撃を横に飛ぶことで躱す。

 

するとツインテの人は赤い宝石を三つ取り出し、それを投げつける。

 

宝石は爆発し、女性を巻き込む。

 

だが、爆発が収まるとその煙の中から無傷の女性が現れた。

 

「やっぱこんな魔術じゃ効かないか。結構高い宝石だったのに……」

 

「効かないって……じゃあ、どうすれば!?」

 

「あんたに任せるわ」

 

「へっ?」

 

「魔術は効かなくても純粋な魔力の塊なら通用するはずよ。頑張って」

 

なんて他人任せだ!

 

そう思った時、女は鎖の付いた杭を手に攻撃をしてくる。

 

ステッキに引っ張られるように移動し、杭はイリヤの背中を掠る。

 

「掠った!今、掠ったよ!」

 

「イリヤ!避けろ!」

 

掠ったことに涙目で慌てるイリヤに女が再び攻撃を仕掛けて来る。

 

俺が声を上げると、またステッキが動きイリヤを移動させる。

 

『接近戦は危険です。ますは距離を取りましょう』

 

「そうだね。取りましょう、距離」

 

そして、イリヤは遠くを見つめ、一気に走り出した。

 

「きょおおおおおりいいいいいいいい!!」

 

イリヤが走り出すと、女も武器を手にイリヤの後を追う。

 

「逃げ足は速いわね」

 

「あの、一体これは?」

 

「巻き込んだ以上、貴方にも説明しないとね。私は遠坂凛。魔術師よ」

 

魔術師とかそんなアホなっと言いたいが、先程のことを思い出すと納得せざるを得ない。

 

「私はある任務でクラスカードって言う英霊と呼ばれる者の力が宿った危険なカードの回収を任せられてるの。あのステッキはマジカルルビーって言う、一級品の魔術礼装なんだけど、私をマスターにふさわしくないとか抜かして、イリヤと勝手に契約を結んだの。見ての通り、クラスカード回収にはルビーの力が必要なんだけど、ルビーを使えるのは契約したマスターのみ。本当なら一般人は巻き込みたくないんだけど、このままじゃこの土地にも被害が出るからルビーを説得できるまでの間、イリヤにカード回収を頼んでるの」

 

なんと言うか、面白い具合に巻き込まれてるな、イリヤの奴。

 

「きゃあああああああ!!」

 

その時、イリヤの叫び声が聞こえる。

 

振り向くと女の攻撃でイリヤが飛ばされていた。

 

「イリヤ!」

 

俺は思わず飛び出した。

 

倒れてるイリヤに駆け寄り助け起こす。

 

「イリヤ!大丈夫か!?」

 

「う、うん、なんとか………」

 

「二人とも、後ろ!」

 

凛さんが走りながら叫ぶ。

 

振り返ると、あの女が杭を投擲するように構えていた。

 

凛さんは宝石を投げて、攻撃を仕掛けるが、女は気にせず杭を投げて来る。

 

避けられない。

 

そう覚悟をし、イリヤを抱きしめる様に守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど、一度助けた奴が死なれるのは俺の寝覚めが悪いんでね。死なせはしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤ SIDE

 

武器を向けられ、もう駄目だと思った。

 

陸に抱きしめられ、目をきつく閉じた。

 

だが、その瞬間、陸の体から光が溢れ、それが眩い閃光となった。

 

光りが収まると、私はいつの間にか、校庭の端っこにいた。

 

誰かに抱かれながら。

 

「………誰?」

 

緑色のマントを着て、顔をフードで隠し、右手に弓が装備した人。

 

「俺だよ」

 

「………陸……なの?」

 

陸の声を聴き、私は目を疑った。

 

陸の恰好は一体…………………

 

「よく分からねぇけど、俺にも戦える力があったみたいだ」

 

弦を張り、矢を装備して、陸は笑った。

 

「んじゃ、ぼちぼち始めますか」

 



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謎の魔法少女

相手の女に向かって走り出す。

 

跳躍をし、女の頭上を取ると、矢を放つ。

 

女は矢を躱し、俺に向かって杭を投げつけて来る。

 

それを新たな矢で弾くと、再度矢を装填する。

 

あの女はかなり早い。

 

普通に矢を打っても、簡単に避けられる。

 

なら…………策を練るだけだ。

 

短剣を抜き、地面に突き刺す。

 

地面を抉り、土を手の平に握る。

 

素早く近づき、短剣を投げつける。

 

もちろん短剣は躱されるが、距離を縮めれた。

 

「くらいな!」

 

握りしめた土を顔目掛け叩き付ける。

 

『グッ!?』

 

目隠しで覆われているが、顔に細かい粒が叩き付けられれば、一瞬だけ怯む。

 

そして、その瞬間、俺の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

「り、陸が消えた!?」

 

陸があの女の人、英霊に土を投げつけたと思ったら、次の瞬間、陸の姿は消えていた。

 

「ちょっとイリヤ!どういうことなの!?アンタの弟何者よ!?」

 

「し、知らないよ!私だって初めて知ったもん!」

 

「なら、ルビー!アンタなら分かるでしょ!あれは何なの!?」

 

『私も詳しくは分かりませんが、今の陸さんは英霊の力を使っている。今分かるのはそれだけです』

 

ルビーの言葉が信じられず、私は女の英霊の方を見る。

 

英霊は辺りを見渡し、陸を探す。

 

だが、見当たらないと知ると、目隠しの目の部分が怪しく輝き、それを中心に黒い魔法陣みたいなのが現れる。

 

「な、なにあれ!?」

 

「ますい!宝具が来るわ!見失ったからここら一帯を無差別に攻撃する気よ!ダメもとで防壁を張るわ!」」

 

凛さんは宝石を取り出し、防壁を張ろうとする。

 

「待って凛さん!まだ陸が!」

 

「悪いけど………今は自分の命が優先よ!」

 

凛さんは悔しそうに、そして申し訳なさそうに言うと、防壁を張る。

 

「………陸」

 

無意識の内に陸の名前を呟いていた。

 

騎英の(ベルレ)――――』

 

英霊が宝具の名前を言おうとしたその瞬間――――――――

 

「させると思ったか?」

 

陸がいつの間にか英霊の背後に立って、弓を向けていた。

 

至近距離から放たれた矢は英霊の首に刺さる。

 

英霊は苦しそうに表情を曇らせると、陸から距離を取り、矢を引き抜く。

 

「不意打ちの一発。卑怯者とでも言うか?悪いけど、これは戦いだ。卑怯だなんだって言われる筋合いはないぜ」

 

陸はフードを取り、にやっと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸SIDE

 

顔のない王(ノーフェイス・メイキング)

 

この宝具は所謂ステルス機能の宝具だ。

 

触れられると効果は消えてしまうが、触れられない限り、完全なる透明化、背景との同化で、俺の姿は誰にも見られない。

 

英霊は俺を睨みつけ、杭を構える。

 

「もしかして怒ってる?俺が英霊にあるまじき戦いをして?悪いけど、俺の中の英霊も生前はこんな戦い方してたみたいだし、許してくれると嬉しいんだけど」

 

言葉が通じてるのか分からないが、兆発気味に言う。

 

英霊はそれに起こったのか、目隠しを取ろうとする。

 

「奥の手を使うみたいだな…………でも、使うのか遅かったな」

 

すると、急に英霊は膝から崩れ落ち、倒れる。

 

「今打った矢には麻痺毒が塗ってある。遅行性だから、影響出るまで時間が掛かるかと思ったけど、思ったより早く出てくれて助かったよ」

 

弓に矢を装填し、向ける。

 

「いっちょ、いきますか!」

 

魔力を込め、もう一つの宝具を発動させる。

 

「弔いの木よ、牙を研げ!」

 

英霊に狙いを定め、矢を放つ。

 

「“祈りの弓(イー・バウ)”!」

 

放たれた矢は英霊に刺さり、その力を発揮する。

 

祈りの弓(イー・バウ)は矢が当たった標的が溜め込んでいる不浄(毒や病)を瞬間的に増幅・流出させる力を持っている。

 

だがもし、対象が毒を帯びていると、その毒を火薬のように爆発させる効果がある。

 

つまり……………

 

英霊は体内で爆弾が爆発したかの様に、爆発し消えた。

 

爆発の中心地には一枚のカードが残ってる。

 

これがクラスカードか。

 

“ライダー”って書かれてるな。

 

「凛さん、これがお目当てのカードですか?」

 

カードを手に凛さんに近づくと、凛さんは物凄い形相で俺の肩を掴む。

 

「アンタ何者よ!英霊の力を使うわ、英霊相手に一歩も退かない戦いするわ………有り得ないでしょ!」

 

「そう言われても、俺自身、こんな力があるって今知ったばかりだし」

 

「たった今!?じゃあ、アンタぶっつけ本番で宝具使って英霊倒したって言うの!」

 

凛さんはぎゃーぎゃーと騒ぎ、そして、急に落ち着き出す。

 

「落ち着きなさい、凛。遠坂の家訓は「常に余裕をもって優雅に」…………よし!ともかく、詳しいことはまた後日にしましょう。とにかく回収も済んだし、すぐにここから「遠坂凛!!」

 

凛さんが〆ようとした瞬間、何処からか声が響く。

 

「この癇に障るような声は……!」

 

凛さんは心当たりがあるのか、顔をしかめる。

 

すると俺達の背後から青いドレスに金髪の縦ロールの女性と、イリヤの持ってるルビーと似たステッキを持ち、何と言うかイリヤよりも露出が多めの衣装を着た少女だった。

 

「ルヴィア!」

 

「遠坂凛!その少年はなんなのですか!」

 

ルヴィアと呼ばれた人は俺を指差して凛さんに聞く。

 

「それはこっちが聞きたいわよ!行き成り乱入して来て、そしたら、英霊の力を使ったりするわで、こっちだって一杯一杯なのよ!」

 

凛さんとルヴィアさんはぎゃーぎゃーと言い合い、急に俺の話から相手の悪口になり、そして、とうとう取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 

その時、急に地響きが起き、地面が揺れる。

 

「うわっ!今度は何!?」

 

『カードを回収しましたから鏡面界が閉じようとしてるんです。急いで脱出しないとですね』

 

ルビーがそう言うと、

 

「……サファイア」

 

『はい、マスター』

 

少女は持っていたステッキ、サファイアに呼び掛けるとサファイアは返答をした。

 

『虚数軸を計測変数から排除。中心座標固定。半径六メートルで反射路形成。通常世界に帰還します』

 

地面に六芒星の魔法陣が現れ光り輝き、そして、俺達は元の世界に戻ってきた。

 

「戻ってきたの?」

 

『はい。一先ず今晩はこれで終了ですね』

 

「ふぅ~」

 

ルビーから終わりと聞き、イリヤはその場に座り込む。

 

そして、凛さんとルヴィアさんは未だに喧嘩してた。

 

「で?さっきから気になってたんだけど、そっちの子は何?なんでサファイア持ってんのよ?」

 

「それはこっちの台詞ですわ!」

 

「………アンタ、まさか………」

 

「……ええ、そうですわよ!あの後、サファイアを追い掛けたら「この方が私の新しいマスターです」とかわけのわからないことを!」

 

大体ルビーと同じ展開って訳か。

 

「ともかく!勝つのはこの私ですわ!覚悟しておくことですわね、遠坂凛!行きますわよ、美遊!」

 

そう言ってルヴィアさんは少女もとい美遊に声を掛ける。

 

だが、美遊はルヴィアさんの呼び掛けに答えず、ただ黙って俺を見ていた。

 

「……えっと、俺の顔に何か付いてる?」

 

そう聞くと、美遊は一瞬泣きそうな表情になり、俯く。

 

その行動に、俺だけでなくイリヤや凛さん、ルヴィアさんも首を傾げる。

 

「お、おい……大丈夫か?」

 

肩に触れようと手を伸ばすと、行き成り美遊は俺に抱き付いて来た。

 

え?これどういうこと?

 

別に振り解いても良かったんだが、美遊の肩が震えており、おまけに「良かった………」っと訳の分からないことを涙ぐんで言われた。

 

これ振り解いたら、俺悪役だよね。

 

慰めるつもりで、抱きしめ返し、頭を撫でる。

 

暫くそうしてると、我に返った美遊は顔を真っ赤にして離れた。

 

一体どうしたのかと尋ねると、美遊は「何でもない……忘れて」と言う始末。

 

まぁ、言いたくないなら言わなくてもいいけど、イリヤは俺の足を蹴るのを止めろ。

 

その後、ルヴィアさんと美遊は引き上げ、俺たちだけが残された。

 

「とにかく今日はご苦労様」

 

そう言って凛さんはイリヤに手を差し出す。

 

「あ、いえ」

 

「次もよろしく頼むわね」

 

「え?まだあるんですか!?」

 

「当然よ」

 

マジですか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、眠たい体に鞭を打ちながら俺とイリヤは学校に登校した。

 

流石に夜更かしは体に悪影響だな。

 

席に着くなりイリヤは顔を伏せ眠り、俺も同じように眠る。

 

暫くすると藤原先生がやって来て朝の会になる。

 

俺は眠たい目をこすりながら前を見る。

 

「今日は転校生を紹介します!入って」

 

「はい」

 

聞覚えのある声に俺は眉を寄せ、イリヤも起きる。

 

そして、昨日会った美遊がそこに居た。

 

「美遊・エーデルフェルトです」

 

昨日出会った謎の魔法少女は転校生ってアニメかよ……………

 




ロビンフッドらしい戦いがちょっとイマイチだった気がしてならない。

次回はもっとロビンフッドらしい戦いをさせます。


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転校生は魔法少女

やっぱりと言うか、美遊はクラスメイトから質問攻めに会っていた。

 

転校生が来たらお約束の展開だ。

 

そんな中、俺はイリヤに引っ張られ、廊下に出る。

 

「まさか、転校してくるなんて」

 

「イリヤの好きな魔法少女系ではお約束の展開だろ」

 

『謎の転校生現る、ですね』

 

『魔法少女モノではよくあることです』

 

「うわっ!?」

 

行き成り俺達の背後に、昨夜、美遊が持っていたステッキ、サファイアが現れる。

 

『あら、サファイアちゃん』

 

『昨夜ぶりです。姉さん』

 

流石に廊下では人目につくので、屋上に移動し話をすることにした。

 

『初めまして。サファイアと申します』

 

『こちらは、私の新しいマスターのイリヤさんと、昨夜、ライダーの英霊を倒した陸さんです』

 

「ど、どうも」

 

「初めまして」

 

ルビーの自己紹介の元、俺達も挨拶をする。

 

『姉がお世話になってます』

 

ルビーと違って、礼儀正しいな。

 

「てか、ルビーとサファイアは姉妹なのか?」

 

『はい。私とサファイアちゃんは同時に作られた姉妹なんですよ!ところで、サファイアちゃん』

 

『はい。美遊様のことですね。彼女は私の新しいマスターです』

 

『やっぱりそうでしたか!さっすが、サファイアちゃん!可愛い子、見付けましたねぇ!』

 

『はい。それに、カードの力も使いこなせていますので、共闘するにあたって問題はないかと』

 

「ねぇ、ルビー。カードの力ってなんのこと?」

 

『姉さん、まだ説明してないんですか?』

 

『そう言えばまだカード周りの説明はしてませんでしたね。無事、初戦を切り抜けることも出来ましたし、お話しておきますか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から、二週間前、魔術協会はこの冬木市でオド、つまり魔力の歪みを観測し、協会は調査団を派遣し、調べた結果、クラスカードを発見した。

 

歪みは全部で七つ。

 

七枚のクラスカードの内、協会は二枚を回収し、昨日俺が倒した一枚。

 

つまり三枚まで回収が終わっている。

 

そして、クラスカードは英霊、つまり神話や昔話などの英雄の力を引き出すことが出来る。

 

クラスカードには一枚に、そのクラスに会った英霊の力を使える。

 

凛さんが持っていたのはアーチャー。

 

ルヴィアさんが持ってるのはランサー。

 

そして、力とはその英雄が使っていた武具などで、それは宝具と呼ばれる。

 

ルビーとサファイアはカードを介すことで、英霊の座にアクセスし、その英霊の力を一瞬だけ具現化できる。

 

以上が、ルビーとサファイアの話だ。

 

『どうですか?凄いですか?凄いですよね!凄いでしょ!』

 

ルビーがドヤ顔で言ってくる。

 

『イリヤさん、陸さん。もうお分かりと思いますが、昨日戦ったアレもカードから具現化した英霊の一部。つまり、英霊そのものです』

 

『ただ、本来の姿からかなり変質して、理性が吹っ飛んじゃってますね』

 

『つまり具現化した英霊たちを倒さないとカードは回収できないんです』

 

なんともまぁ、面倒なことに巻き込まれたな。

 

イリヤも重々しく溜息を吐く。

 

『大丈夫ですよ!そのために、私とサファイアちゃんがいるんですから!』

 

『全力でサポートさせてもらいます』

 

ルビーは性格は兎も角、その力は本物だし、サファイアも常識を持った礼装だ。

 

それに俺の謎の力。

 

「あ、そうだ。ルビー、サファイア。昨日、俺が使ったあの力はなんだ?頭では宝具の使い方とか分かってたから、英霊の力であるのは違いないが、なんでそんな力、俺が持ってるんだ?」

 

『それなんですが、あの後、私も色々考えてみたんですが、思いつかなかったんですよね』

 

『分かっていることは、陸様はその英霊の力を完全に使いこなし、自身の物としていることです』

 

英霊の力を物にね…………

 

なんでそんな大層な物を俺が持ってるんだか…………

 

『ともかく、これからは共に戦うことになるでしょう。どうかこれからも美遊様とカード回収を「サファイア」

 

その時、屋上に人が現れた。

 

現れたのは美遊だった。

 

「何してるの?あまり外に出ないで」

 

『申し訳ありません。イリヤさんと陸さんにご挨拶をと思いまして』

 

美遊は俺とイリヤを一瞥し、そしてそのまま屋上を去って行った。

 

まただ。

 

美遊の奴。

 

俺の方を悲しそうに見た後、一瞬だけだが、イリヤの事を睨むように見た。

 

もしかして、アイツ、俺の事を知っているんじゃないのか?

 

「なんというか、随分クールな子だね」

 

イリヤはそれに気付かず、のんきにそんな事を言う。

 

だが、美遊はクールだけの子じゃなかった。

 

算数の時間。

 

「じゃあ、この問題を美遊ちゃんに解いてもらいましょうか」

 

円錐の体積を求める計算。

 

公式さえ押さえて置けば、答えを出すのは簡単だ。

 

だが、美遊は意味の分からない計算式を書き出し、俺たちは唖然とする。

 

「いや、あの美遊ちゃん……この問題は積分とか方程式とか使わなくていいの!」

 

「?」

 

「そんな不思議そうにされても!」

 

小学生で、そんな高校生クラスじゃないと習わない様な事が出来るって………

 

 

 

図工の時間。

 

人物画で自由に描いて良いと言われて、俺はイリヤを描いておいた。

 

イリヤはと言うと、「まぁ姉だし当然だよね!」っと言っていた。

 

いや、ただ単に書きやすいからなんだけど……言わなくていいか。

 

「美遊ちゃん………これは?」

 

藤村先生は、震えながら美遊に絵のことについて尋ねる。

 

「自由に描けとのことでしたので、形態を解体して、単一焦点による、遠近法を放棄しました」

 

つまり、芸術的な絵を描いたってことか。

 

「自由過ぎるわ!てか、キュピズムは小学校の範囲外ですから!」

 

「…………ん?」

 

「だから、そんな不思議そうな顔されても!」

 

 

 

家庭科の時間。

 

ハンバーグを作る内容で、俺はイリヤと同じ班でペタペタとハンバーグを作っていると、隣の班で歓声が上がる。

 

美遊はハンバーグ以外にスープやサラダ、デザートとかも作ってた。

 

どっから材料を出したんだ?

 

「小学校の調理実習でこんな手の込んだ料理は作らないから!てか、フライパン一つでどうやったの!」

 

ちなみに藤村先生は絶叫しながらも一口食べてうまいっと言ってた。

 

後、何故か美遊は俺にも一口分けてくれた。

 

まさか、生まれて初めて(記憶を失ってから初めて)身内以外での「はい、あーん」がこんなにも早く実現するとは思わなかった。

 

俺のハンバーグも丁度できてたので一口上げた。

 

勿論、俺の手で「はい、あーん」で。

 

初日からずっとクールな美遊の表情が、この時ばかりは崩れ、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに食べた。

 

この間、イリヤはずっとハンカチを噛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

これはピンチだ!

 

陸と美遊さんがなんかいい雰囲気になってる!

 

このままだと、陸の隣が奪われる!

 

なんとかしないと!

 

でも、私は勉強も普通だし、美術力も普通、女子力も普通、いや、普通よりちょい下ぐらい。

 

とても敵いそうには…………いや、まだあった!

 

私にも勝てそうなことが!

 

そして、本日の最後の授業、体育の時間になった。

 

龍子がスクール水着ではしゃいでいるが、今の私には関係ない。

 

今日の体育は短距離走。

 

短距離走なら、私はクラスでは男子より速い。

 

つまり、短距離走なら勝てる!

 

先生に頼んで、美遊さんと一緒に走らせてもらうことにした。

 

とうとう、私の番が来た。

 

美遊さんとレーンに並び、クラウチングスタートの体勢になる。

 

「よーい!……スタート!」

 

合図と同時に走り出す。

 

ほぼ同時に出た。

 

殆ど横並び。

 

このまま一気に引き離す!

 

足に力を込め、スピードを上げる。

 

だが、引き離すことは出来ず、逆にどんどん引き離される。

 

負けたくない!

 

だが、距離は縮まらず、結局一秒の差をつけられ、負けた。

 

ま、負けた…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸SIDE

 

体育の授業の後、イリヤは美遊に負けた後、酷く落ち込み、今は公園のベンチに座り、俺の隣で項垂れている。

 

『も~う、何時までいじけてるんですか、イリヤさん?』

 

「別にいじけてないよ。ただ、才能の壁を見せつけられたって言うか」

 

「他人と自分を比べてどうする?」

 

俺は隣で、イリヤの頭を撫でて言う

 

「ま、弟である俺から見れば、イリヤはよく頑張ってると思うぞ。だから、落ち込むなって」

 

「………もう、弟のくせに生意気なんだから」

 

そう言うとイリヤは嬉しそうに立ち上がる。

 

「帰ろ!」

 

「はいよ」

 

すると、ちょうど公園を出た所で美遊と遭遇した。

 

美遊は驚きの表情で俺を見ながらも、尋ねて来る。

 

「……何してるの?」

 

「こ、これはどうもお恥ずかしい所を、美遊さんは今お帰りで」

 

「なんで、同じ魔法少女で仲間なのに、敬語なんだよ」

 

「あ、そっか。仲間だもんね」

 

「貴女は、何でカード回収をしているの?」

 

美遊が行き成りイリヤに尋ねて来る。

 

「それは……成り行き上というか、しかたなくというか、騙されたというか……」

 

「そう、じゃあどうして貴女は戦うの?巻き込まれただけなんでしょ?貴女には戦う理由も、その義務もないんでしょ?なのにどうして戦うの?」

 

「……実を言うとね、昔からこういうのにちょっとだけ憧れてたんだ。魔法を使って光線出したり、敵と戦ったりするのってアニメやゲームみたいじゃない?そういうのにちょっとワクワクするというか、せっかくだからこのカード回収のゲームも楽しんじゃおうかな~と思って」

 

「もういいよ、貴女にとってあれはゲームと同じ遊びなのね。私はそんな人を仲間なんて思いたくない」

 

淡々とした口調で言うと、踵を返す。

 

「あ、あの……美遊さん?」

 

「貴女は戦わなくていい。だから、せめて私の邪魔はしないで」

 

「なぁ、美遊」

 

帰ろうとした美遊を呼び止め、俺は言う。

 

「理由なんざ、人に寄って違うんだ。なのに、それを怒るのはちょっと違うんじゃないか?」

 

そう言うと、美遊は目を見開いた。

 

「確かに、イリヤの言葉はお前からにしてみれば癇に障っただろうけどよ………だからって、それは言い過ぎだと思うぞ。自分の考えが正しいと思ってるなら、それは大間違いだ。自分の考えや価値観を、他人に押し付けるな」

 

声のトーンを少し落として、言う。

 

すると、美遊は俯いたまま、何も言わず去って行った。

 

去る時、なんかキラキラとしたものが目から出ていた様な気が……………

 

「………陸、庇ってくれたのは嬉しいけど、ちょっと言い過ぎだよ・・……」

 

「やっぱまずいかな?これ………」

 

「今度あったら謝ろう。私も、カード回収の事、甘く考えていたのは事実だし………」

 

美遊にどう言って謝ろうか、考えながら家を目指していると、家の前にセラが立っているのに気付いた。

 

「ただいまー、セラ」

 

「セラ、ただいま」

 

「あ、おかえりなさい、イリヤさん、陸」

 

「どうかしたんですか?」

 

「えっと……あれを」

 

そう言ってセラが見ている方を見るとそこには豪邸があった。

 

「なっ!?………お、大きい」

 

「こりゃ、すげぇな」

 

「何、こんな豪邸!?こんなのうちの前に建ってたっけ!?」

 

「いや、朝の段階では無かったとはずだが……」

 

「今朝、二人が学校に向かった直後工事が始まったと思ったら、あっと言う間に」

 

するとそこに、美遊が現れた。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

気まずい空気が流れる。

 

美遊の目には動揺が見らた。

 

そしてそのまま豪邸の門を開け、中へ入ろうとする。

 

「ええー!?」

 

まさか、ここに住んでるの?

 

「もしかしてこの豪邸、美遊さんの家?」

 

「……そんな感じ」

 

そう言い、中へと入って行った。

 

「……イリヤさん、陸、お友達ですか?」

 

「あ、あははっ………」

 

「ま、そんな感じかな…………」

 



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空想に勝る物無し

「油断しないでね、イリヤ、陸。敵とルヴィア、両方に警戒するのよ」

 

味方にまで警戒しないといけない状況ってなんなのさ………

 

「えっと……」

 

『お二人の喧嘩に巻き込まないでほしいものですね』

 

まったく同感だ。

 

「美遊、速攻ですわ。開始と同時に距離を詰め、極力遠坂凛を巻き込む形で仕留めなさい」

 

「後半以外は了解です」

 

『殺人の指示はご遠慮ください』

 

遠慮じゃなく止めてほしい。

 

「じゃあ、行くわよ!3……2……1!」

 

『『限定次元反射路形成!鏡界回廊一部反転!』』

 

「「ジャンプ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分後、俺達は鏡面界から帰還し、膝をついた。

 

ボロ負けでした。

 

『いや~、ものの見事に完敗でしたね。歴史的大敗です』

 

「なんだったのよ、あの敵は……?」

 

「どういうことですの?カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて!」

 

『私に当たるのはおやめください、ルヴィア様』

 

ルヴィアさんがサファイアに八つ当たりをする。

 

『サファイアちゃんを苛める人は許しませんよ!』

 

するとルビーがルヴィアさんの眼球目掛けアタックする。

 

「ぬおおおおおおおお!!?」

 

ルヴィアさんは淑女らしからぬ悲鳴を上げ、地面を転げまわる。

 

『それに魔法少女が無敵だなんて慢心も良い所です!まぁ、大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが、それでも相性と言うものがあります!』

 

「つまり、今回の敵は相性が悪かったって訳か」

 

鏡面界に着いた途端、出迎えたのは点を覆い尽くすほどの魔法陣。

 

そして、集中砲火、いや、絨毯爆撃にあった。

 

さらに、魔法陣は魔力指向制御平面とか言う技でイリヤたちの攻撃は弾かれ無効化される。

 

無論、俺の矢も効かない。

 

結果、一方的に攻撃され、逃げ帰って来たと言う訳だ。

 

『あれは現在のどの系統に属さない魔法陣に呪文。恐らく失われた神話の時代のものです』

 

「あの魔力反射平面も問題だわ。あれがある限り、こっちの攻撃が効かないわ」

 

『攻撃陣も反射平面も座標固定型の様ですから、魔法陣の上まで飛んで行ければ叩けると思うのですが』

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

「そっか。飛んじゃえばよかったんだね」

 

そう言ってイリヤはひょいっと空を飛んでいた。

 

「「なっ!?」」

 

イリヤが飛んでることに凛さん、ルヴィアさんが驚く。

 

「ちょ、ちょっと!なんで行き成り飛んでるのよ!?」

 

『凄いですよ、イリヤさん!高度な飛行をあっさりと!』

 

「え?そんな凄いことなの?」

 

『強固なイメージが無いと浮くことすら出来ないのにどうして…………』

 

サファイアも驚きながら、イリヤに聞く。

 

「どうしてって言われても……魔法少女って飛ぶものでしょ?」

 

「「な、なんて頼もしい思い込み!」」

 

つまり、普段からのイリヤのイメージのお陰で、イリヤはこうもあっさりと飛んでるって訳か。

 

「負けられませんわよ!美遊、貴女も今すぐ飛んでみなさい!」

 

「…………人は、飛べません!」

 

「な、なんて夢の無い子!?そんな考えだから飛べないのですわ!」

 

そう言ってルヴィアさんは美遊の襟を掴み引き摺る。

 

「次までに飛べるように特訓ですわ!」

 

去って言った二人の後ろ姿が見えなくなると、凛さんが口を開く。

 

「やれやれ、取り敢えず今日はお開きね。私も戦力を練ってみるわ」

 

「う、うん……勝てるのかな?あれに」

 

「勝つのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、イリヤは山へと修業しに向かった。

 

俺はと言うと、俺は飛ぶことがそもそも出来ないので留守番。

 

家でくつろいでいると、イリヤが美遊を連れて帰って来た。

 

なんでも、美遊の空を飛ぶ訓練の為に、イリヤの空を飛ぶイメージの元となったものを見せるそうだ。

 

そして、今はリビングで、イリヤお気に入りの魔法少女アニメを美遊に見せる。

 

「こ、これが……!」

 

「私の魔法少女イメージの大本……の一つかな」

 

「航空力学はおろか重力も慣性も作用・反作用も無視をしたでたらめな動き……!」

 

そう言うことをどうして考えるんだろう、この子。

 

『このアニメを全部見れば、美遊さまも飛べるようになるのでしょうか?』

 

「……多分無理。これを見ても飛んでる原理が分からない。具体的なイメージは繋がらない。桔梗の様な浮力を利用してるようには見えないから、これは飛行機と同じ揚力を中心とした飛行法則にあると思える。でもそれだと揚力の方程式である――――――」

 

何やら専門的なこととか言い始めた。

 

イリヤは頭を抱え出しだ。

 

『ルビーデコピン!』

 

そんな状況を見かねたルビーが、美遊の額に強烈なデコピンをお見舞いする。

 

「な、何を…!」

 

『まったくもぉ!美遊さんは基本性能は素晴らしいですが、そんなコチコチの頭じゃ魔法少女は務まりませんよ!見てください、イリヤさんを。理屈や工程をすっ飛ばして結果だけをイメージする。それぐらい能天気な頭の方が魔法少女に向いているんです!』

 

「なんか酷い言われよう!」

 

『そうですね。美遊さんにはこの言葉を送りましょう“人が空想できる起こりうる全てのことは魔法事象”私たちの想像主たる魔法使いの言葉です』

 

「…物理事象じゃなくて」

 

『そうです!』

 

なるほど、面白いことを言う人もいるんだな。

 

「つまりこう言う事だね。“考えるな!空想しろ!”」

 

イリヤのその言葉に美遊は納得できないっと言った表情をする。

 

「……少しは考え方が分かった気がする」

 

「う、うん!美遊さんならきっと大丈夫だよ!」

 

そう言って美遊は立ち上がり、その場を後にする。

 

「……じゃあ、また」

 

見送った後、イリヤは息を吐く。

 

「貴女は戦うなって言われた昨日よりは前進かな?」

 

『後はお二人できちんと連携が取れれば言う事なしなんですが』

 

「そうだね」

 

「あ、イリヤ。俺、美遊に用事があったの思い出したから、ちょっと言ってくる」

 

イリヤの返事を聞かず、俺は外に出て、今まさに門を潜ろうとしてる美遊に近づく。

 

「美遊」

 

「………何、衛宮君?」

 

美遊は門を開けるのと止め、俺の方を振り向く。

 

「いや、昨日の事なんだが、すまなかった。お前に対して言い過ぎた」

 

「………私の方こそ、イリヤスフィールに言い過ぎた。ごめんなさい」

 

「なら、俺じゃなくてイリヤに言ってやってくれ。アイツ、結構落ち込んでたしさ」

 

「………ねぇ、一つ教えて。貴方は、何でカードを回収するの?」

 

イリヤと同じ質問か。

 

「別に理由なんてないよ。なんとなくさ」

 

「なんとなく?」

 

「そう。ま、強いて理由を言うなら、女子が危険なことしてるのに、男が何もしないのは情けないだろ。それに」

 

俺は美遊を見ながら笑って言う。

 

「放って置けないんだよ。イリヤや、お前みたいな可愛い子なんか特にな」

 

そう言うと、美遊は「……そう」と呟き後ろを向く。

 

「……ありがとう」

 

「おう。後、俺の事は陸でいいぜ。衛宮だと兄さんと被っちまうし」

 

「うん、じゃあ………また夜に、陸」

 

「ああ」

 

美遊を見送り俺は頬を掻きながら呟く。

 

「ちょっとキザだったかね。何処のナンパ師だよ、俺は」

 

そう言って、俺も家に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~美遊、帰宅後~

 

「あら、美遊。帰って来たのですね………って、どうしましたの?顔が真っ赤ですわよ」

 

「なんでもないです、気にしないで下さい(可愛いって言われた、可愛いって…………)」

 

美遊は部屋の隅でしゃがみ込み、真っ赤になった顔を手で覆いながらそう言ってたのを陸は知らない。

 



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新たな敵

俺達は昨日のリベンジの為、また橋の下を訪れた。

 

「いい?複雑な作戦を立てても混乱するだけだから役割を単純にするわ。小回りの利くイリヤは陽動と撹乱担当。突破力のある美遊は本命への攻撃担当よ。そして、陸は後方で待機………って、イリヤ聞いてるの?」

 

上の空だったイリヤに凛さんが注意をする。

 

「は、はい」

 

「よし!じゃあ、リターンマッチよ。負けは許されないわ。行くわよ」

 

そして、俺達は境界面に飛ぶ。

 

境界面では昨日の魔女が昨日と同じように上空に魔法陣を展開し待ち伏せていた。

 

「一気に片を付けるわよ!」

 

「二度目の負けは許しませんわよ!」

 

凛さんとルヴィアさんの声を合図に、走り出し、二人は空を飛ぶ。

 

残念ながら、俺は空を飛ぶ(すべ)はないし、空を飛ぶ奴が相手じゃ、弓も使えない。

 

と言う訳で、俺は今回待機となった。

 

二人は英霊もとい魔女の攻撃を躱し、上空へと昇り、攻撃の届かない所に移動する。

 

イリヤが魔女を引き付け、その隙に、美遊がランサーの限定展開(インクルード)でトドメを刺す。

 

だが、ランサーの宝具を展開する前に魔女の姿が消えた。

 

「え?」

 

「後ろだ!」

 

魔女はいつの間にか美遊の後ろに回ってた。

 

叫んだが間に合わない。

 

美遊は魔女の電撃を食らい、橋まで吹き飛ばされた。

 

魔女は美遊にトドメを刺すつもりなのか、攻撃をする。

 

だが、間一髪でイリヤが美遊を助けた。

 

二人は何かを話し合うと、再び攻撃を仕掛けた。

 

「何やってるの!?同じ手は通用しないわよ!」

 

「一度退いて態勢を立て直しなさい!」

 

凛さんとルヴィアさんの声を無視し、イリヤは魔女に攻撃し続ける。

 

「あのバカ!役割ぐらい守りなさいよ!」

 

いや、あの動き何か考えがあるみたいだ。

 

そう思った瞬間、美遊は魔女の背後に移動し、サファイアを構えた。

 

魔女はイリヤの攻撃を防いでいるので、気付いていない。

 

美遊の特大の一撃は魔女に当たり、魔女は地面に落ちる。

 

それを見逃さず、凛さんとルヴィアさんは宝石を投げつけ、魔女を爆撃する。

 

そして、その場にはクレーターが出来、魔女の姿は影も形も無かった。

 

上空の魔法陣は消えた。

 

つまり倒せたってことだろう。

 

凛さんとルヴィアさんは先程の宝石魔術の際に、凛さんが使用した宝石の数で喧嘩をしている。

 

この二人は、こんな時でも仲良くできないんだろうか……………

 

俺はクレーターの中に入り、カードを探す。

 

「………ありゃ?」

 

「陸、どうしたの?」

 

降りて来たイリヤが折れの隣に立ち、聞いて来る。

 

「いや、カードが見当たらなくてな」

 

地面を見渡すが、タロットカードによく似た形のカードは一枚も落ちてなかった。

 

その時、突如上空に新たな魔法陣が展開された。

 

空一面に展開されてはいないが、大きさが巨大過ぎる。

 

そのことに気付き、凛さんが声を上げる。

 

「まずいわ!アイツ、空間ごと吹き飛ばすつもりよ!」

 

美遊はまだ上空に居たため、魔女へと向かう。

 

だが、早さが足りなかった。

 

このままじゃ…………!

 

すると、イリヤが飛び出し、美遊に向かってるルビーを構える。

 

「美遊さん!乗って!」

 

そう言って、早さのある魔力弾を撃つ。

 

美遊はその魔力弾に乗り、そのスピードでゲイボルグを限定展開(インクルード)し、魔女の魔法陣ごと魔女を貫き倒す。

 

魔女は体を貫かれ、苦しそうにもがくと、そのまま消滅し、カードを残した。

 

「やった……!」

 

イリヤが一息ついて、降りて来る。

 

「イリヤスフィール!美遊に向かって魔力弾を撃つとは何を考えていますの!」

 

ルヴィアさんがイリヤのしたことに怒り、イリヤのこめかみを拳でぐりぐりと痛めつける。

 

「イタタタタ!!?だって!行けると思ったんだもん!」

 

「子供に手ェ出してんじゃないわよ!」

 

凛さんが張り手でルヴィアさんを張り倒し、取っ組み合う。

 

「コイツの相手は私がするから、イリヤは美遊を連れて来なさい」

 

「あ、はい」

 

イリヤは凛さんに言われた通り、美遊を迎えに行く。

 

これで一件落着か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った瞬間だった。

 

何かが俺を貫いた。

 

ゆっくりと下を見る。

 

すると腹から黒い剣が生えていた。

 

いや、生えてない。

 

背中から刺されて、そのまま貫かれたんだ。

 

「がはっ!?」

 

口から血を吐き、俺は後ろを向く。

 

そこには、目を黒いバイザーで覆い、黒い鎧を纏い、黒い剣を手にした英霊がいた。

 



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陸の策

「ぐっ……がはっ!」

 

口から血を吐き、俺は倒れそうになる。

 

倒れそうになった瞬間、剣士は俺の腹から剣を抜き、剣に付いた血を飛ばす様に振る。

 

剣を抜かれたことで、傷口から出血する。

 

「………ちっ!」

 

舌打ちをし、傷口を抑えながら下がる。

 

「ちょ、陸!?」

 

凛さんが慌てて駆け寄って来る

 

「凛さん……これってやっぱクラスカードっすよね?」

 

傷口を携帯していた包帯と薬で応急処置を自分で施しつつ、尋ねる。

 

「でしょうね。でも………同じ場所に続けて現れるなんて予想外過ぎるわ……」

 

「ここは一旦引くべきですわ」

 

「同じく」

 

凛さんとルヴィアさんが宝石を手に、剣士の英霊に投げつける。

 

宝石は爆発を起こし、剣士を巻き込む。

 

「今のうちにイリヤ達と合流するわよ!」

 

凛さんが俺の手を掴み、剣士とは逆の方向に逃げようとする。

 

「凛さん、駄目だ!」

 

俺は声を上げた。

 

「え?」

 

凛さんが思わず足を止める。

 

そこには剣士が立っていた。

 

剣を振り、凛さんの脇腹が切り裂かれる。

 

「なっ……!?」

 

凛さんはそのまま崩れ落ち、そして、剣士は素早くルヴィアさんも切り伏せた。

 

「くそっ!」

 

痛む脇腹を抑えながら、俺は弓を構える。

 

連続で放った三本の矢はいとも簡単に斬り落とされ、剣士は俺に攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤと美遊は見たものが信じられなかった。

 

英霊を倒し、キャスターのクラスカードを回収したと思ったら、新たな英霊が現れる。

 

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

剣士の後ろで血を流してる二人に気付き、イリヤが走り出そうとする。

 

「待って!イリヤスフィール!」

 

美遊はイリヤの手を掴み、止める。

 

「落ち着いて!闇雲に近づいてもやられるだけ!」

 

「で、でも凛さんとルヴィアさんが……!それに、陸の姿が……!」

 

「サファイア。二人の生体反応は?それと……陸の反応は」

 

美遊がサファイアに尋ねると、サファイアはすぐに確認をし出す。

 

『生体反応あり。お二人は生きています。ですが、陸様の反応は確認できません』

 

サファイアの言葉に二人は思わず息を飲んだ。

 

陸の反応が確認できない

 

二人の頭に嫌な光景が過った。

 

『お二人とも、大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと、陸さんの身体を調べて時、こっそりマーキングをしておいたんです。現在、陸さんのマーキングは移動しています。サファイアちゃんが感知できないのは恐らく、姿を消す宝具を使っているからでしょう』

 

ルビーの言葉に二人はほっとするが、イリヤはすぐに声を上げる。

 

「だったらなおさら……!」

 

「だからこそ!三人が生きてるから、冷静に、確実に行動しないといけない。今私達に出来ることは二つ。一つはアレを即座に倒す。もう一つは隙を突き、三人を確保して脱出する。だけど………」

 

「そうだ!あの槍は?あの槍なら一撃必殺で」

 

「だめ、今は使えない」

 

『一度カードを限定展開インクルードすると数時間はそのカードが使えなくなります』

 

『どうもアク禁くらうっぽいですねー』

 

「ライダーは試してみたけど、単体では意味をなさなかった。キャスターは不明。本番で行き成り使うのはリスクが大きすぎる」

 

『加えてアーチャーは役立たず……これは選択肢二番でいくしかないですね』

 

ルビーの言葉に二人は頷く。

 

「私が敵を引き付ける。その間に右側から木に隠れて接近して二人を確保。即座にこの空間から脱出して」

 

「陸は!?陸はどうするの!?」

 

「陸なら私達が離脱すると知れば、きっと姿を現して一緒に逃げる。だから、大丈夫」

 

美遊の言葉にイリヤは何故っと思った。

 

どうしてそう言い切れるのか?

 

姉である自分より、陸の事を分かっているかのような口ぶり。

 

そんなことが疑問として頭に浮かんだが、イリヤはそれを振り払い、頷いた。

 

今するべきことは重傷を負ってる凛とルヴィアを連れて脱出すること。

 

それを理解していたからこそ、イリヤは頷いた。

 

作戦通り、美遊は空を駆け上がり、上空から剣士に攻撃を仕掛ける。

 

速射(シュート)!」

 

美遊の魔力弾が剣士に襲い掛かる。

 

だが、美遊の攻撃は剣士の辺りに漂う黒い霧のようなもので阻まれ、弾かれる。

 

「どういうこと?あれも反射平面とかいう………」

 

『いえ、魔術を使っている様子はありません。あの黒い霧は……まさか!』

 

ルビーが何かに気付いた瞬間、剣士は持っている黒い剣に霧を纏わせ、斬撃を放った。

 

美遊はサファイアを盾に防御しようとするが斬撃はサファイアの防御を越え、美遊を傷つける。

 

「ぐっ……!」

 

「美遊さん!?」

 

美遊がやられたことにイリヤは思わず声を上げる。

 

それに気付き、剣士が剣を構える。

 

『敵に気付かれました!逃げてください!』

 

「え!?」

 

ルビーの声に気付いて、イリヤは剣士の方を見る。

 

その直後、剣士が斬撃を放った。

 

イリヤは反応が出来ていなかった。

 

黒い斬撃がイリヤに当たる。

 

「伏せろ!」

 

突如、イリヤは背後から何者かに寄って押し倒され、攻撃を回避できた。

 

「イリヤ、無事か!?」

 

イリヤを助けたのは陸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「り、陸!無事だったの!?」

 

「ああ。なんとかな?」

 

顔のない王(ノーフェイス・メイキング)を使い、剣士から隠れて、隙を見て攻撃しようかと思ったが、イリヤが危なかったもので、飛び出しちまった。

 

「陸、血が!?」

 

するとイリヤが脇腹に巻かれた包帯と、そこから滲み出る血に気付く。

 

「応急処置はしてある。大丈夫だ」

 

そう言って脇腹をさするが、正直かなり痛い。

 

動くだけで痛みが身体中を走り、立っているだけでも辛い。

 

「それより、ルビー……あの黒い霧はなんだ?」

 

『大体見当はついてます。あれは恐らく信じ難いほどに高密度な魔力の霧です!』

 

「てことは、さっきの攻撃は、魔術じゃなくて魔力を飛ばした攻撃か」

 

『はい。あの異常な高魔力の領域に魔力砲も弾かれているようです。あれでは、魔術障壁じゃ無効化できません』

 

剣士は俺たちが話しているのにも構わず、近寄り剣を構える。

 

「追撃来るぞ!走るぞ、イリヤ!」

 

イリヤにそう呼び掛ける。

 

だが、イリヤは恐怖から動けず蹲ってしまった。

 

「う……あぅ……」

 

「イリヤ!くそ………!」

 

イリヤを守ろうと、弓を構え、左手に短剣を持つ。

 

剣士が走り出す。

 

その瞬間、数個の宝石が剣士の方に跳び、勢いよく爆発した。

 

『あ、あれは!』

 

ルビーが驚きの声を上げる。

 

宝石を投げたのは凛さんとルヴィアさんだった。

 

二人とも腹部を切りつけられていながら、立ち上がり剣士に攻撃をした。

 

「くっ……やってくれるわね、この黒鎧……!」

 

「一度距離を取って立て直しを………!」

 

その時、煙の中から剣士が現れ俺達の方に向かってくる。

 

「サファイア!」

 

『物理保護全開!』

 

美遊が俺と剣士の間に入り、剣を受け止める。

 

だが、力に差があり、美遊はあっさり弾き飛ばされ、俺を巻き込む形で後ろに飛ばされる。

 

木を背にして、俺と美遊は倒れ込む。

 

「ぐっ!?」

 

木にぶつかった衝撃で傷口を刺激してしまい、血がまたしても滲む。

 

それを無理矢理隠し、美遊を立たせる。

 

「大丈夫か。美遊?」

 

「う、うん……平気……!それより、あの敵……」

 

『まずいですね……とんでもない強敵です。魔力砲も魔術も無効。遠距離・近距離も対応可能。こちらの戦術的優位性(アドバンテージ)が真正面から覆されてます。直球ど真ん中で最強の敵ですよ、アレ』

 

まずい、本格的にヤバイ。

 

イリヤは戦意を失い欠けてる。

 

それに、凛さんとルヴィアさんも重傷だ。

 

この状態で戦えば、間違いなく誰かが死ぬ。

 

下手すれば全滅もあり得る。

 

その時、凛さんとルヴィアさんも体力が尽きたのかその場に倒れる。

 

「ど、どうしようルビー!どうすればいいいの!?」

 

「落ち着いて!パニックを起こさないで!」

 

慌てるイリヤを美遊が止める。

 

「私が敵に張り付いて足止めする!その隙に脱出を……」

 

「だ、駄目!それじゃさっきと同じだよ!」

 

「物理保護を全開にすれば十数秒は持つ!」

 

「駄目だってば!美遊さんが危険過ぎる!」

 

言い合いを始めるイリヤと美遊。

 

そんな二人にしびれを切らし、俺は拳を握り――――――

 

「いい加減にしろ!」

 

二人の頭を殴った。

 

「あだっ!?」「はぐっ!?」

 

二人は痛みに悶えながら、蹲る。

 

「少しは落ち着け。そして冷静になれ。でなきゃ、勝てるもんも勝てないぞ」

 

「で、でも現状、今の私達の力じゃ、あの英霊に勝つ方法は………」

 

「大丈夫だ。策ならある」

 

俺の言葉に、美遊とイリヤが顔を上げる。

 

「俺がただ逃げ回ってるだけだと思ったか?逃げ回りながら色々仕掛けてたんだよ。でも、俺一人じゃダメだ。二人の力を貸してくれ」

 

そう言い、俺はある物を取り出し、二人に渡す。

 

「俺が後方指示と後方支援。そして、二人が前衛ファイト。理想的だろ。頼むぜ、イリヤ、美遊」

 




次回、陸がどのようにしてセイバーを追い込むのか。

お楽しみに


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