とある捻デレの風紀委員 (バーサ)
しおりを挟む
風紀委員加入編
比企谷八幡は不幸にも風紀委員支部へ連れてかれる。
色々とツッコミどころはあるかと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。
梅雨空が増えてきた6月の半ばを過ぎたある日。
比企谷八幡は少し焦っていた。目覚まし時計をセットしたはずなのになぜか鳴らなかったため、彼は今、遅刻になるかならないの瀬戸際にいる。
高校に入ってもうすぐ三ヶ月が経つ。しかし八幡は最初の一ヶ月を入院していたために一回の遅刻ですら特別指導になると宣告されていた。
特別指導の内容がどんなものなのかさっぱりわからないが、それでも出来ることなら受けない方が面倒事も少なくて済むことは誰にだってわかる。
朝から走るのは辛いが後の苦労を考えれば大したことはない。
そう結論付けて走っていた八幡の視界にとある集団が映った。
一人の少女と不良の集団である。
中学生くらいの少女は腕を組みながら不良たちの言葉を無視している。強がっているというよりは興味すらもないといった感じだった。
そんな少女は時々通行人の方へ視線を向ける。
だが、視線を向けられた通行人のほとんどは気まずそうに視線をそらし、通り過ぎてしまう。
それを見て八幡は薄情だ、とは思わなかった。
誰だって自分はカワイイし、怪我だってしたくない。見ず知らずの少女のために身体を張るなどなかなかできることではないだろう。
もしそんな人間がいるのならば、下心アリのバカか、
(まぁそんな奴はいないだろうな)
人生にそう都合よく自分を助けてくれる
そして自分も正義の味方ではないと、自身に対して八幡はそう評する。だが、それでも多少の手助けくらいはしようと思わなくもない。
スマホを取り出し、
「おーいたいた」
なんとなく見覚えのあるツンツン頭の少年が現れ不良の集団の中に入っていき、少女をあの中から連れ出そうとしているのを見て、八幡は静かにスマホの画面を閉じた。
どんな意図があるにせよ、助けようと行動を起こした
「確か…あいつは同じクラスの…っうお!?」
少し離れたところでぽつりと呟いた八幡の言葉は雷の落ちたような轟音でかき消された。
後ろを振り返ると少女と不良たちのいた場所から煙が上がっていて不良たちが黒焦げになっているのが見える。
「どいてどいてー!」
何があったのかと見ていると、轟音に集まった人混みの中から先ほどのツンツン頭が飛び出してきた。
なんだ?と、疑問に思う八幡だがこの都市では
スマホを見るとまだ少し余裕があり、ほっと安堵の息を吐いた。
♦︎
「それで? 何か申し開きはあるじゃんよ?」
「えぇーと…そのですね…」
現在、八幡は体育教師であり警備員である黄泉川愛穂に職員室へと呼び出されていた。理由は遅刻だ。
なぜか嬉しそうな顔している黄泉川に八幡は自身の身に起きた奇妙な出来事を余すことなく話す。
「いや、あのですね? 目覚ましがなぜか鳴らなくて急いで学校に向かったんですが、なぜか途中でスマホが壊れたらしく歩いても歩いても時間に余裕があるーって登校してたら時計が止まっていたことに気がつかないで遅れてしまったんですよ」
そう、それで油断し校門前に
ちなみにスマホが壊れた原因はあの時の雷なのだが、八幡は知る由も無い。
「そんな言い訳が通るとでも?」
黄泉川は椅子に座り腕を組みながら呆れている。
当然、そんな言い訳が通ると思ってない八幡は渋い顔で沈黙した。それを肯定と取ったのか黄泉川はさも問題児を指導することが嬉しいといった表情でウンウン頷きながら、告げた。
「じゃ、これから特別指導するじゃん」
「え? 今からですか?」
「そうじゃん。あ、特別指導はしばらく続くじゃんよ」
その言葉に軽く絶望する八幡だが、なぜか黄泉川が荷物を持って立ち上がったので首を傾げた。
「どこか行くんですか?」
「うむ。ついてくるじゃん」
そう言って先を歩いて行ってしまう黄泉川に八幡は嘆息しながらついて行った。
♦︎
学校を出て、しばらく歩くと目的地についたようで黄泉川がとある建物の中へ入っていく。八幡もそれに続き、認証が必要な厳重な入り口に嫌な予感がする。
「先生。俺、部屋に入ると死んでしまう病が…」
「この都市でそれは通用しないじゃん。つべこべ言わずに来い」
学園都市という世界でも最先端の科学技術が詰め込まれた実験都市を前にながっぱな狙撃手と八幡は無力だった。仮にそんな病があったとしてもこの都市にいる凄腕の医者にかかれば治るだろうと思わせるところがもう色々常識を逸している。
そんな抵抗も虚しく開いた扉の先には
「黄泉川先生、どうされましたの? あとそこのぬぼーっとした殿方は一体…」
ツインテールの少女が三人を代表して黄泉川に尋ねた。
一方で八幡は残りの二人のうちの一人、頭に花が生えてる少女に視線を奪われていた(主に驚愕と疑問によるものである)のだが、次の黄泉川の言葉に引き戻された。
「この177支部に新しく配属された比企谷八幡じゃん。ほら、比企谷も挨拶」
「あ、はい。比企谷八幡です。よろしくお願いしま…っておい、配属されたってなんだよ」
思わず自己紹介をしてしまった八幡だが、黄泉川に異を唱える。
「これが特別指導の内容じゃんよ。ここで社会について学んでそして治安維持に貢献するじゃん」
「いや、確か風紀委員て研修とかやってなるもんでしょう。こんなのでなれるわけないでしょう」
クラスメイトの巨乳でこっぱちが話していたのを聞いていた(もちろん盗み聞き)八幡は曖昧に記憶していたが、正確には風紀委員とは、能力者の学生達で構成された学園都市の治安維持機関で、小中高大の各校から志願した学生が9枚の契約書にサインし、13種類の適性試験と4ヶ月の研修をクリアしたもののみに資格が与えられるものである。
しかし八幡にとってそこは重要ではなく、いかに風紀委員をやらないでいいかを考えた結果の発言だった。
「確かにそうじゃんよ。でも今ちょっと人手不足でな、警備員から推薦をされた者にも資格を与えられることになったじゃん」
「なっ…」
だが、そんな八幡の思惑とは裏腹に黄泉川の口から出た言葉は八幡を黙らせるには十分なものだった。これでは推薦され、特別指導という名目のある八幡は断れない。
八幡が絶句もとい絶望していると、値踏みするように八幡を見ていたツインテールの少女が突然口を開いた。
「すみませんですの、黄泉川先生」
「なんだ? 白井」
「風紀委員は時に危険を伴う職務ですの。失礼ですが、そちらの殿方にそういった職務に対する覇気などを感じられません。ただでさえ今、捜査中の事件で風紀委員の怪我人が出ている中、余計な負傷者を出すなどこちらとしても不本意ですしお断りさせていただきますの」
白井と呼ばれた少女は八幡を暗に戦力外だと言った。
残りの二人の少女が慌てて何かを言おうとしたが、それを黄泉川が手で制す。
「確かに白井の言うことは最もじゃん。でもな、私がその可能性を考えずにここに連れてくるとでも本気で思ってるのか?」
「…では、その殿方にそれ相応の実力があるとでも?」
「そう言ってるじゃんよ」
(え、何これ。俺のことについてなのに俺が蚊帳の外なんだけど)
己の境遇に戦慄を覚える八幡をよそに視線で火花を散らす二人。黄泉川は「それに」と続けた。
「比企谷は風紀委員の誰よりも風紀委員としての資質を持ってるじゃん」
その言葉に少女3人の目が見開かれる。警備員の顔と言ってもいいほど有名な黄泉川にそう言わせる比企谷八幡という男は何なのかと3人は思う。
八幡は八幡で奇異な視線と黄泉川の過剰な期待に居心地の悪い思いでいっぱいである。
そんな彼らの様子を見ていた黄泉川はいいことを思いついたというように、手のひらに拳をポンと置く。
「私の言葉が信じられないならこうするじゃん。比企谷と白井が一騎打ちするじゃんよ」
それはもはや177支部に落とされた爆弾と言っていい発言だった。
いきなりオリジナルな展開ですが、ご容赦ください。
警備員から推薦された者に資格を与えるという点ですが、あくまで緊急時に上記にある試験と研修を免除しても平気だと判断された生徒にのみに適応され、その全ての責任は推薦した警備員にあるものとしています。
…なんか黄泉川の八幡に対する信頼がすごい気がしますね。そこらへんの過去はいずれ書きたいと思ってます。
次話でこの話は終わり、幻想御手編に入る予定(というか最中なのですが)になります。
ちなみにですが、俺ガイルキャラは小町と戸塚以外は出ません。ご了承ください。
目次 感想へのリンク しおりを挟む