転生した彼は考えることをやめた (オリオリ)
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第一話 彼の日記 1ページ

勘違い小説が書きたくなったのでチャレンジ
そして気まぐれ更新なので、気が向いたら見てやってください


 俺は死んだらしい。

 そして漫画の世界に来たらしい。

 なぜわかるかって?

 

 それは俺の状況を見ればわかるはずだ。

 今の俺は長い死者の行列に並び、その先には黒い着物を着た男と女が整理券らしきものを配っている。

 その腰には日本刀があった。

 

 察しのいい人ならこれでわかるはずだ。

 わからない人はジャンプ読め……いや、単行本の1〜10巻あたりを読め。

 多分その辺で出てるから。

 

 なに? タイトルがわからない?

 なら耳をかっぽじってよくきけ。

 

 

 タイトルは『BLEACH』だ。

 

 

 

 やぁ、諸君。俺だ。

 え? 誰だかわからない?

 仕方ないから自己紹介してやろう。

 俺の名前は嵐山響、黒髪黒目のナイスガイ……のはずだったんだが、なんか髪が青い。

 あと不良みたいに襟足が伸びてる。

 身体は結構ガタイがいい。

 

 どうやら漫画の世界に来ただけではなく、身体まで変わっちまったらしい。

 身長も前よりも高く感じるが、どれくらい高いのかはわからない。

 結構でかいと思うが測ることなんてできないしな。

 

 冷静なのは……うん、ライトノベルではよくあることさ。

 きっとこれもそういうものだろう。

 だから考えてはいけない……よし、納得した。

 

 さて、そんなことは置いといてと。

 諸君は俺が死者の行列に並んでいた事を覚えているだろうか?

 あの、番号が小さいほど治安が良いところへ行けるというアレだ。

 並んでいるんだから、当然俺もどこかの地区へと送られるわけだが……まぁ、察しの良い人なら予想がつくかもしれない。

 こんなことを考えていたこと自体がフラグだったと。

 

 俺は見事に南流魂街第78地区『戌吊』へと流された。

 原作のルキアと恋次が育った地区である。

 これはもうフラグだと瞬間的に理解した。

 

 俺はきっと二人と出会うことになるのだろう。

 漫画の世界に転生して、戌吊へと移されて、出会わないなんてありえない。

 俺がこうして別の肉体を持って転生したことで、フラグが成立しているのだ。

 それに俺自身が、二人に会いたい。

 というか、原作キャラに会いたいぜ。

 

 もしかしたら既にルキア達は成長しているかもしれない。

 

 そんな事を考えながら、俺は戌吊を歩いていた。

 来たばかりで身なりの良い俺はどうやらカモに見えるらしい。

 ハゲ散らかしたおっさんやら、ナイフを持ったおっさんやらが襲いかかってきた。

 

 そしてよくわからないが、簡単に返り討ちにすることができた。

 俺には別に喧嘩の心得とかあった覚えは無いんだが、こう意識せずとも身体が動いてくれた。

 

 これはきっと御都合主義というやつだろう。

 そうでなきゃ、こうも簡単におっさん達を倒せるわけが無いからな。

 もしくは、この体が戦闘慣れしていたかだな。

 その場合、何かのキャラだと思われるが、鏡もないし見ることはかなわない。

 ちなみに漫画の世界に来る前の俺はただの一般人です。

 

 そんな事を考えな(略

 今度は女の子を襲っているおっさん達を見つけた。

 無理矢理は犯罪です、無理矢理でなくても犯罪です。

 

 見た瞬間になにも考えずに、おっさんを蹴り飛ばしていた。

 女の子の前に仁王立ちしてカッコつける。

 今の俺はきっとカッコ良い〔確信〕

 ついでに、かっこいいセリフも言っておく。

 他意は無いけどな、他意は無い。

 

 おっさん達が俺にそいつを渡せー的な事を言ってくるが、渡したが最後R18な展開待った無しだろう。

 そんな目に合いそうな子を見捨てるほど俺は薄情じゃ無い。

 きっと今の俺なら殺気を飛ばせる!

 そう信じて、目に力を入れておっさん達を睨みつける。

 

 おっさん達の防御力が下がった!

 

 いや、なに考えてんだ俺。

 頭にふと浮かんだテロップをかき消しながらも、一歩前に出るとおっさん達は悲鳴をあげながら逃げていった。

 マジでか、睨みつけるとおっさんを追っ払えるらしい。やったぜ。

 

 そんな事を考えていると、女の子に声をかけられたので振り返るとおもわず固まった。

 ルキアに似た顔をした女の子……その腕には小さな子供が抱かれていた。

 

 あれ、もしかして俺、やっちゃった?

 礼を言ってくる女の子に返事を返しながら、自己紹介した。

 

 彼女の名前は緋真で、腕に抱いている幼児はルキアというらしい。

 ……もしかして、俺は白哉と緋真の出会いを邪魔した?

 いやいや、待って、待ってください。

 そうとも限らないよね?

 確かに俺は二人と出会うだろうと予想したよ?

 だからってまさか、こんな早く出会うことはないだろ?

 え、それがフラグ?知ってる。

 

 よくよく考えたら緋真が妹を置いていったって話があったけど、その時のルキアは物心つく前だと推測できる。

 そんなルキアがこの治安の悪い戌吊で生き残れるか?

 ということは……だ。

 

 きっと少しの間だけでもルキアを育てた人物がいるはず。

 あんな古臭い喋り方もおそらくそこまで育てた人の影響で、その後は亡くなったか姿を消したんじゃ無いだろうか?

 

 つまり、今の俺はその立ち位置に居る!

 ルキアの育ての親になる訳だ!

 

 なんて事を僅か5秒で考えた俺は、緋真に護ってやるよ的な事を言っていた。

 言った後で、初対面の奴と一緒に暮らす訳ねーだろ馬鹿かって思った。

 けど緋真は目を丸くした後、少し笑ってから不束者ですがよろしくお願いしますと言った。

 

 あれ?

 俺もしかして、マジで白哉のフラグ折った?

 内心で冷や汗をかきつつ、兄の様に思って良いぞと言って軌道修正を図ったが成功したかわからん。

 

 確かに俺は二人と出会うだろうと予想したよ? 

 

 確か緋真は身体が弱いと言う設定があった気がするので、ルキアは俺が抱っこしつつこれからどうするか考えた。

 まずは家でだな。

 

 

 

 やぁ、諸君、俺だ。

 戌吊地区で少し離れた所にあった廃屋を修繕して、我が家へと作り直した響が通りますよっと。

 

 あれから、緋真とルキアと共に過ごしているが実に平和である。

 緋真も俺もルキアも腹が減るので、近くでキノコやら山菜やらを取ってきて食べる毎日だ。

 刀も拾ったので、たまに肉料理も食卓に並ぶ。

 因みに、食器や家具は全て俺作。

 日曜大工をしている俺に隙はなかった。

 何を作ってたって?聞くな、若気の至りだ。

 

 後ルキアが少し大きくなって、緋真がよく散歩に出かける様になった。

 どうやら俺の食事療法が効いた様で、儚い雰囲気をしていた緋真は少しずつ活発になりつつある。

 

 変なところで原作崩壊している気がするが、緋真達と暮らし始めて毎日が非常に楽しいので、それで良いと思っている。

 

 後、拾った刀は間違いなく斬魄刀であると思われるので、毎日1時間ほど刃禅をして、話が出来ないかなと思っている。

 

 あと、原作で言ってた霊力の練り方を参考にして、破道の四 白雷だけは覚えてたので使える様になった。

 おかげで離れたところから鳥とかイノシシとか仕留められる様になった。

 鬼道様々である。

 因みに、俺の白雷はレーザーの様になったと言っておこう。

 

 さて、毎日が楽しくて嬉しいのだか問題もある。

 緋真とルキアに兄として慕われてる俺は、原作がどうなるか恐ろしく思えるのだが、一体どうすれば良いのだろうか?

 

 緋真は白哉と結婚できるのか?

 そもそも出会っているのか?

 ルキアは朽木になるのか?

 ならなかったらどうなるんだ?

 ルキアが一護と接触しなかったら原作はどうなる?

 

 ぐるぐるとそんな考えが巡って……まぁなる様になるだろうと、俺は考える事をやめた。

 

 

 

 

 

 

 



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第二話 私の兄様

今度は緋真視点で、出会いを軽く書いてみました。
けど、これって勘違いになるのだろうか……?



「うまい、緋真も料理が上手くなったな」

 そう言って私に微笑んでくれるのは、青い髪をした偉丈夫。

 ここ数年一緒に住んでいる私達の義理の兄です。

 

「兄様が美味しい食材を持ってきてくれるからですよ」

 新鮮な山菜とイノシシの肉に、味噌を溶かした簡単な鍋物。

 この戌吊では、贅沢な食事です。

 ルキアの方を見ると、箸を綺麗に持とうとして悪戦苦闘しています。

「ルキア、あーん」

 私がお肉を摘んでルキアの口元に持っていくと、キラキラした目であーんと言ってお肉を食べました。

 

「おいしいですあねうえー!」

「ふふふ、ありがとう、はい、あーん」

 今度は山菜を食べさせてあげると嬉しそうに笑うルキアに、こっちも嬉しくなってきました。

 そうしていると、ふと視線を感じて兄様の方を向けばジト目で私を見ていました。

「あの、なにか?」

 私が尋ねると兄様は、物凄く大きな溜息をつきました。

 

 むぅ、なんですか一体?

「戯け、緋真が食べさせては箸の練習にならぬではないか」

 目で抗議していると兄様からの言葉が胸に刺さりました。

 そう言えば、ルキアに箸の使い方を教えている最中でした。

 思わず胸を押さえているとルキアが不思議そうな顔をしていました。

「あねうえはたわけー?」

「る、ルキア!?」

「ククク、あぁ、そうだな。緋真は戯け者だ」

「あねうえのたわけものー!」

 な、なんて事でしょう。

 兄様の策略でルキアが敵に回ってしまいました!

 

 がっくりと肩を落としつつも、この何気ないやり取りがとても楽しいです。

 

 兄様と出会うまでは、それこそ生きる事に必死だったのに、こうして2人と過ごせる事がとても幸せです。

 

 あの日、兄様が助けてくれなかったら

 あの日、ルキアを見捨てて逃げていたら

 あの日、兄様が共に過ごそうと言ってくれなかったら

 

 今の私は此処にはいないのでしょう

 

 兄様と初めて出会ったあの日は運命だったのかもしれません

 

 

 

 私は悪漢達に襲われていました。

 それまで私は今よりも幼いルキアを抱いて、身を潜めて暮らしていました。

 その頃の私はまだ体も弱くて、ルキアを抱いて動く事すらも重労働でした。

 

 何度ルキアを見捨てて逃げようと考えたかも分かりません。

 毎日、他人に怯えながら潜んでいた私達は遂に、悪漢たちに見つかってしまいました。

 

 ルキアを抱えて直ぐ様逃げ出した私を、悪漢達は嘲笑いながら距離を詰めてきました。

 周りの人達は自分に害が及ばない様に見て見ぬ振り。

 それが当然でした。

 私もそうして今まで隠れてきたのですから。

 

 悪漢たちに回り込まれ、ニヤニヤと嫌らしく笑いながら迫ってくる悪漢に私は震えを隠せませんでした。

 それでも腕に抱いたルキアを見捨てなかったのは……今でも分かりません。

 見捨てるどころか、私は彼らの目からルキアを隠そうとしていたのです。

 

 もうダメだと、そう思った時に目の前まで迫っていた悪漢の1人が悲鳴を上げました。

「愚か者共が、女子相手に何してやがる」

 次に目に入ったのは大きな黒い背中に青い髪でした。

 その背中を見たとき、何故か私の震えは止まっていました。

 

 何故かこの人は私たちを護ってくれると言う、安心感を感じていたからです。

「なんだテメェは!? ブッ殺されてぇのか!」

「オイ、兄ちゃんようカッコつけは早死にするんだぜ?」

「怪我する前にそこの嬢ちゃん達を渡した方が身のためだゼェ?」

 悪漢達の言葉を受ける彼は仁王立ちしたまま、彼らを睨みつけたんだと思います。

 

 突然黙り込んだ悪漢達は、彼が一歩前に踏み出しただけで彼らは悲鳴を上げながら逃げていったのです。

 

 悪漢達の姿が見えなくなると、彼はそのまま何も言わずに去ろうとしたので、私は慌てて声をかけました。

「あ、あの! ありがとうございました!」

 

 私の声に振り返った彼は、私とルキアを見ると懐かしい人を見るような目をしていました。

「俺は当たり前の事をしただけだ、礼はいらん」

「それでも、助けて頂いて本当にありがとうございます。もしよろしければ、お名前を教えて頂けませんか?」

「……嵐山響だ」

 私が改めてお礼を言って名前を訪ねると、彼は少し恥ずかしそうに視線を逸らしながら、名前を教えてくれました。

 

 そんな仕草をする彼に可愛いという印象を抱きつつ、私も自己紹介しました。

「私は水無月緋真です、この子は水無月ルキア」

 腕の中で眠っているルキアの顔を見える様に抱き抱えると、彼は指を口に当てながら何か考え事をしていました。

 

 その様子に首を傾げていると、何か納得した様に頷きました。

「この地区で良く耐えたな、これも何かの縁だろう、これからは俺がお前達を護ってやろう」

 と、いきなりの言葉に私は思わず目を丸くしました。

 常識的に考えるとありえない言葉でした。

 この生きる為に人を襲う戌吊で、護ってくれるなんて言葉を言ってくれる人が一体どれほどいるというのでしょう。

 

 それに本来そんなに簡単に人を信頼していては生きていけないのですが……目の前の彼を見ていると、信じても大丈夫だと思わされてしまいます。

 目の前の彼を見ると、信じても良いんだと思わされてしまいます。

 そんな自分に小さく笑いながら、彼に着いて行くことにしました。

「不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

「これからは家族となるのだ、兄と呼ぶといい」

 

 その言葉にやっぱりこの人は、とても暖かい人なのだと思いました。

「はい、兄様」

「子を抱きながら歩くのは辛いだろう、代わろう」

「ありがとうございます」

 私はルキアを兄様に渡して立ち上がりました。

 

「まずは家だな、大丈夫か?」

 立ち上がる時に少しふらついた私を、兄様が軽く支えてくれました。

「大丈夫です」

 少し笑って兄様の隣に立つと、見上げなければ兄様の顔が見えません。

 大きな方だとは思っていましたが、すごく大きいです。

 私の身長が145cmほどなのですが、兄様の肩にも届きません。

 2mくらいあるのではないでしょうか。

 偉丈夫といった感じです。

 

 そんな兄様の隣を歩いていると、あることに気がつきました。

 歩幅が全然違うはずなのに、辛くないことに。

 よく見れば兄様は非常にゆっくり歩いていました。

 出会って間も無いのに、こうした気遣いもしてくれています。

 本当に優しい方です。

 

 心があったかくなりました。

 兄様の隣を歩いて行くと、大きな平屋がありました。

 どうやら兄様は、ここで過ごしているみたいです。

「中を片付けてくる、しばし待て」

 ルキアを私に渡しつつ、兄様は平屋の中へと入って行きました。

 私は近くの木に座り込んで、ルキアを抱えます。

 

 それにしても、ルキアはいろんな事があったのにまだスヤスヤと寝ています。

 肝が座っていますねー。

 そんなルキアを見ていると、この子は1人でも凄く逞しく生きていきそうな気がします。

 絶対に離しませんけどね。

 

「待たせたな」

 そんなことを考えていると、兄様が目の前にいました。

 近づいてくるのに全く気が付きませんでした。

 兄様はルキアを抱き上げると、私に手を差し出してくれました。

「ありがとうございますぅ!?」

 そんな自分に小さく笑いながら、彼に付いて行くことにしました。

 兄様を見ると目を丸くしていました。

 

「緋真もそんな声を上げるのだな」

 ウンウンと頷きながらも、口の端が笑っています。

 そんな兄様に恨めしげな視線を送っていましたが、軽く笑われて頭を撫でられました。

「あ、兄様! 痛いです!」

「む、すまぬ。頭などあまり撫でたことがないのでな」

 うぅ、少し頭が痛いです。

 

「そんなに痛かったか、すまぬ、次からはもっと、加減しよう」

「……お願いします」

「では、小屋に入るとするか、日も落ちてきた」

「はい……?」

 ???

 兄様、いま小屋と言いました?

 確かに兄様からしたら少し小さいかもしれませんが、立派な平屋だと思うのですが?

 

 そんなことを思いながら、兄様が戸を開けると振り返って言いました。

「おかえり、緋真、ルキア、お前達を歓迎しよう」

 優しげな微笑みを浮かべて、言われた言葉に自然と笑みが溢れました。

 

 そして、私もこう返すのです。

「ただいま帰りました、兄様」

 

 私達は掛け替えのない居場所を見つけました。

 そうして、私達の生活が始まったのです。




勝手に緋真達の苗字を考えてしまったけど、意外と語呂が良かったのでそのまま採用
それにしても、朽木になる前の苗字はいったい何だろう?


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第三話 彼の日記 2ページ

評価と感想が嬉しくて急いで書き上げました!
原作との乖離が凄まじいですが、楽しんで貰えたら幸いです!


 緋真とルキアが天使すぎてヤバい。

 今の俺はこの世界に来る前よりも充実していると断言できる。

 可愛い妹達は、この小屋で色々と出来ることをしてくれている。

 ルキアもまだ5〜6歳くらいの年齢だが、緋真の後について手伝いをしている姿は実に可愛らしい。

 

 それにしても、朽木白哉と緋真は出逢えたのだろうか?

 時期が全くわからんし、緋真は散歩には行くが逢い引きしている様子もない……よな?

 

 あれ?

 もしかして、これもフラグか?

 もしかして、散歩じゃなくて逢い引き?

 もしかして、すでに結婚間近?

 

 これは、緋真に聞いてみるべきか?

 けど、妹の恋路に口出しするのもどうかと思うし……。

 いや、待て。

 

 朽木家へと嫁入りしたら原作ルキアと同じ目にあうよな?

 俺の自慢の妹が、流魂街出身だとかでネチネチ言われるよな?

 んで、朽木白哉は掟を厳守しようとするよな……それでルキアは寂しい思いをしたわけだし。

 

 ……ふむ。

 朽木白哉は緋真を護れるか?

 身体だけじゃなく、精神もしっかり護ってくれるか?

 

 …………よし、まずは緋真へ意思確認。

 その後、朽木白哉の意思確認だな。

 最低でも朽木家の人達全員への意思表示をして貰わねばな。

 

 私は緋真を愛していると。

 なんか朽木白哉のキャラじゃない気がするが、此処は譲れません。

 もし出来ないならば、最近名前を聞いた『雷公』で高町流お話をするとしよう。

 

 では早速緋真を問い詰めるとしよう。

 

 

 

 結果から言うと空ぶった。

 緋真はよく散歩に出かけるが、逢い引きしているわけではないとのこと。

 まぁ自分から挨拶に来ようともしない輩には、緋真を渡すつもりはないからな。

 例え流魂街出身だろうと、四大貴族だろうと、通さなきゃいけない筋ってもんがある。

 

 と、俺は思う。

 

 まぁ、外れてたわけですけどねー。

 いやー、良かった良かった。

 原作は完全に崩壊してる気がするけど、それでいーんだよね!

 

 

 何て思ってた数日前の俺死に晒せ。

 

 イノシシ狩ってきた帰り道、緋真がよく行く花畑で1組の男女を遠目に発見。

 即座に霊圧を殺して、気配を殺し、息をひそめた。

 雷公が呆れたような念を送ってきたが俺には重大事項なんだ。

 

 女の方は緋真で、男の方は男用の着物を着ていたがあれは間違いなく朽木白哉!

 頭にしている銀色のナントカという髪飾り? を、しているから間違いない!

 

 けど、なぜに顔が赤いのだ。

 白哉ってそんなキャラだったっけ?

 斬魄刀も持っておらず、完全に逢い引きに来たといった感じだ。

 緋真も顔が赤いが恋する乙女の様に、顔が綻んでいる。

 

 いや、恋する乙女の様にじゃない。

 恋する乙女なのだ。

 緋真の肉体年齢は18歳くらいで止まっているらしいが、体が小さい。

 恋するには遅いくらいだが、この戌吊ではまともな奴なんて数えるほどしかいない。

 

 そんな中で出逢った朽木白哉は、緋真には魅力的だったのだろうか。

 む、よく見てみればルキアも居るではないか。

 花に埋もれて寝ているから気がつかなかった。

 

 しかし、何と幸せそうな顔をしているんだ。

 ただ傍に居るだけだというのに、プラトニックなラブを感じる。

 

 なに? 死語だと? ほっとけ!

 じゃあ、純愛だ。

 

 流石にあの2人の邪魔はできんな。

 まぁ、緋真なら結婚しようとする時は挨拶にくるだろう。

 その時に試させてもらおうではないか。

 

 そんな事を考えつつ、俺はなんちゃって瞬歩を使って小屋へと向かった。

 今日は俺が飯を作ってやるか。

 

 まぁ、イノシシを使った牡丹鍋なんだけどな。

 

 

 

 何て思っていた数時間前の俺死ね。

 

 

 今現在、俺は4人で飯を食べている。

 ……そう、4人だ。

 俺とルキア、緋真、そして朽木白哉である。

 

 牡丹鍋はお気に召したらしく、美味いとの言葉が飛び出ていた。

 緋真は朽木白哉の隣でご飯をよそったりしている。

 

 なんだこれは。

 既に夫婦間のやり取りが成立している様に見えるんだが。

 ルキアも朽木白哉に、懐いている様で朽木白哉の隣で楽しそうに食べている。

 待てルキア、そいつはまだ義兄ではない。

 だから白哉義兄様とか言うな。

 

 つまり今の構図は、東軍俺、西軍緋真、ルキア、朽木白哉の布陣である。

 俺に援軍はないのか。

 既に外堀まで埋められて本丸を攻められてるんだが。

 

 何て思ってると、緋真がこっち側に来てご飯をお代わりするか聞いてきた。

 

 やはり、うちの妹は天使だった。

 終始楽しそうな妹達を眺めつつ、少ないながらに朽木白哉とも言葉を交わした。

 ヌググ……規律を重んじる性格ゆえか、俺相手にもちゃんと礼を尽くしている。

 飯を食い終わった後、朽木白哉を連れ立って外へ出た。

 緋真とルキアは待っている様に言っておいた。

 

 それから朽木白哉と話をしたんだが……言葉が少なくても緋真の事を本気で想っているのがわかった。

 だからこそ、朽木家へと根回しは終わっているのかと尋ねた。

 俺の質問は想定外だったらしく、緋真と一緒になる許可が貰えたら根回しするつもりだったらしい。

 

 結婚することは構わない。

 原作通りだとかそんなんじゃなく、花畑で見た緋真は本当に幸せそうだったし、今こうして話している白哉からも緋真を思う気持ちは感じ取れた。

 だから結婚は許可する。

 けど、もし緋真を悲しませたら罪人になろうとも殺しに行くから覚悟しとけ。

 

 まぁ、そんな事したら緋真にも嫌われそうだがな。

 あと、白哉には自分が迎える人をどれだけ愛してるか周りに示せと言っておいた。

 多分原作でも言ってたんだろうけど、むしろ溺愛レベルで示してほしいものだ。

 そうすりゃ、周りは何も言わなくなるだろ。

 

 緋真にも周りを認めさせるくらいに頑張らせないとな。

 というわけで、あっという間に緋真の婚約(仮)が決まった。

 緋真にまだ求婚してないから、まだ婚約(真)ではない。

 

 なんてことを考えてた数分前のオレシニサラセェ!!!

 

 帰る前に2人きりにしたら、顔を真っ赤にして戻ってきた緋真を見て、刀を取り出した俺を緋真がすぐさま止めた。

 どうやら、白哉からプロポーズされたらしい。

 早い、とんでもなく早いぞ朽木白哉ぁ!!!

 サラマンダーよりもはやーい! なんて言ってられっかぁ!!

 なに? ふるい?

 じゃあ、島風よりもはやーい! なん(略

 

 もしやキスしたのか! 接吻したのか!?

 緋真をじっと見ても口元を気にするようなそぶりも無い

 だが、緋真には逢い引きを隠してた前科がある……しかしそこまで踏み込むのも兄としてはどうかと思うので、疑問を呑む。

 

 もしも接吻していたら、俺は卍解まで至るかも知れない。

 

 

 一周回って落ち着いた。

 しかし、白哉の行動が本当に早いな。

 まさか2人きりにした途端求婚するとは……まぁ、それだけ思い合っているということだな。

 仲良きことは美しきかな……ただし、節度は守れ。

 

 

 しかし白哉と接してみると意外と普通だったな。

 牡丹鍋も気に入ったらしく、緋真も作れるって言ったら、表情は変わらないのに雰囲気がめっちゃ嬉しそうだった。

 緋真の料理は俺が作るよりも美味いからな。

 

 緋真にそのことを教えたらまた真っ赤になった。

 今日は林檎が良くとれるな。

 カメラが無いことが恨めしい……現世まで行って取ってこようか。

 いや、そうなると死神にならないといけないのか……。

 始解は出来るけど、鬼道は白雷くらいしか知らないし、歩法は春野野菜先生のやり方を真似ただけのなんちゃって瞬歩だし、白打なんて近けりゃ殴る蹴るくらいの喧嘩殺法だ。

 ついでに言うと勉強なんて大っ嫌いだ!

 

 なので、非常に口惜しいが……諦めるか。

 今の生活の方が楽しいし。

 

 さて、次に白哉が来るまで目一杯緋真を可愛がっておこう。

 簡単には会えなくなるだろうけど、月に一度は絶対に来させる。

 ルキアだって寂しがるだろうしな。

 

 

 

 

 だから白哉、君行動が早すぎるって……。

 翌日の夕方に白哉の霊圧を感じて、まさかと思って玄関に出てみたら瞬歩で目の前に現れたよ。

 その手には何やら紙束が……。

 なに? これが説得の署名?

 

 パラパラとめくって見ると、どれも違う筆跡で署名があった。

 ていうか、一番上に六番隊隊長朽木銀嶺とその下に朽木蒼純の名前で、朽木白哉と水無月緋真の婚姻を許可する、そして相手方の兄上を説得する為に署名を求むと書いてある。

 祖父と父の説得早くね?

 なんかあまりにも出来すぎてると思い、尋ねてみたら緋真は既に御二方と面識があり、気に入られたらしい。

 

 ……緋真よ、いつの間に瀞霊廷まで行った?

 どうやら君にはお話が必要な様だ。

 外堀埋められて本丸を攻められるどころか、既に首が取られていたよ。

 

 思いっきりため息をつくと、今度は手紙を渡された。

 それも二枚。

 既に予想がつくが、恐らく御二方からの手紙だろう。

 

 手紙を開くと、緋真がいかに良い子か(言われんでもわかっている)力説してあり、白哉との仲も良く(よくなかったら渡さん)四楓院家の当主も気に入っており(え、なにそれ聞いてない)是非とも我が家の嫁に欲しいとのこと。

 あとルキアも可愛いみたいなこと書いてあった。

 

 

 銀嶺さんの手紙を読み終わって思った。

 これ、断ったら攻めてくるんじゃね?

 しかも相手方、緋真にデレッデレじゃないか。

 反対意見はないのか。

 いや、断るつもりはないけどさ。

 ついでに言うと、緋真の人脈がチートになってる。

 まさかこの流れでルキアも朽木になるのか?

 

 そんな事を考えながら二枚目へ突入。

 こっちは祖父が色々済まない的な事が書いてあり、嫁入りしてもいつでも我が家を訪ねてきてくれと書いてあった。

 許可証と来賓用の服を渡しておくから、訪ねる事があったらそれを持っていつでも来なさいと書いてあった。

 

 お父さんめっちゃ常識人の上に気配り上手でした。

 まぁ、新婚の家に入り浸るつもりはないから月一くらいで顔を見せに行くか。

 そこまで考えて気づいた。

 既に結婚後の事を考えてる自分に。

 

 それに苦笑しながら、結婚を認める事を白哉に告げると、小さくガッツポーズしていた。

 なんか、俺の知っている白哉と違うがそういう世界なんだろうと、俺は考える事を放棄した。

 

 




やばい、時系列を整理してたら緋真と白哉が結婚したのは55年前……夜一達居ないやん……
けど、イチャイチャタイム増やしたいのでもうこのまま行っちゃうことにしました。
白哉が早く生まれてるって設定にすればなんとかなりますよね!


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第四話 私の愛しい人

評価バーが赤くなってる…だと…!?
感想が嬉しくて何とか今日中にもう一本書き上げてみたら、お気に入りも増えててあわわわわ!?
も、もう投稿しちゃいます!
あ、あと白哉のキャラ崩壊が激しいです


 最初の出会いは、任務の最中だった。

 副隊長でもあり、父である朽木蒼純と共に流魂街の調査に向かっていた。

 

 時折出現する高い霊圧反応を調べる為に、流魂街第78地区『戌吊』へと来た時だ。

 反応は人里離れた森の中からあったとの事で、私と父上が派遣された。

 恐らくお爺様の配慮だろう。

 父上は体が弱く、あまり無理はさせられない。

 

 そこに調査任務が来た故に、気晴らしついでに行ってこいと言うことだろう。

 そうでなければ、副隊長と第三席である私を一緒に行かせはしない。

 公私混同だとは思うが、父上も励みすぎるところがあるのでたまには良いだろう。

 

 森の中を父上と共に歩いていると、声が聞こえた。

 もしかすると、この声の者が捜索対象なのかも知れん。

 

「父上、聞こえましたか?」

「あぁ、東の方から聞こえてくるな……これは、歌か?」

 父上の言葉に、耳を澄ませてみると確かに歌声だった。

 それにしても、この声は……。

「美しい歌声だな」

「そうですね」

 美には疎いが、心に染み込んでくる様な歌声だ。

 

「慈愛に満ちた優しい声だ……母さんのことを思い出すよ」

「母上の事を……ですか?」

 私が尋ねると、父上は目を細め懐かしそうに教えてくれた。

「あぁ、赤子だった白哉を寝かしつける為に良く子守唄を歌っていた……その時の声にそっくりだ」

「……そうですか」

 母上は私が物心つく前に流行病で亡くなっている。

 故に私には母の記憶はないが、この様な声で歌っていたのか。

 

 目を閉じ、声に意識を傾ける。

 記憶に無い母の声に似た、歌の主を思う。

 どの様な表情で、この歌声を出しているのか、それが無性に気になった。

「ふむ、丁度いい。情報収集のついでに歌声の主を見てみるとしようか」

「はい」

 目を開くと、父上が何故か可笑しそうに笑っていた。

 それを疑問に思いつつも、声の主の方が気になって仕方なかった。

「ではゆっくり行くとしようか、この歌声を聴きながらね」

「……そうですね」

 私もこの歌声をもう少し聞いていたいと思っていたので、父上の提案に賛成だった。

 

 程なくして私達は歌声の主がいる場所に着いた。

 小さな泉の周りに様々な花が咲いている場所だった。

 そこに蘭の花が描かれた椿色の浴衣を来た少女が居た。

 

 恐らく、私はその時の緋真に一目惚れしたのだろう。

 

 膝の上で寝ている女児の髪を優しく撫でながら、子守唄を歌う彼女から目が離せなかった。

「……ほう?」

 父上が何かを呟いた気がしたが、それに意識を向けることもできなかった。

 

「白哉」

 唐突に父上に名を呼ばれて、私はそちらへ意識を向けた。

 父上は何やら楽しそうな顔をしていた。

「あの少女は捜索対象では無い様だ、私は周辺を見回ってこよう。白哉は彼女から情報収集しておいてくれないか?」

「……わかりました、お気をつけて」

「あぁ…………白哉にも春が来たか……」

 父上は頷くと、小さく何か言っていたが聞き取ることができなかった。

 そうして、再び森へと入っていく父上を見送り、視線を彼女に向けると瞠目している彼女の姿が見えた。

 

 突然目が合い、どうすれば良いかわからず、立ち尽くしていた私に彼女は軽く笑みを浮かべて会釈した。

 

 それで私はさらに混乱してしまった。

 

 女と言うのは、全てがあの黒猫の様な奴では無いのだな。

 などと、緋真に非常に失礼な事を考えていたものだ。

 

 混乱した私は結局、父上から言われた情報収集をしようと彼女に近づいた。

 近づいてくる私に、緋真は首を傾げていた。

 

「すまぬが、尋ねたい事がある」

 

 何度思い返しても、あの頃の自分の対応には顔が熱くなる。

 何しろ私は……。

 

「貴女を好いてしまったのだが、どうすれば良いだろうか?」

 

 などと言ったのだから。

 

 

 

 その時の緋真は顔を真っ赤にして「え、あ、え!?」と慌てふためいていたな。

 非常に可愛らしかった。

 だが、私も飛び出てきた言葉に顔が熱かった。

 

 結局私は、捜索対象の事は全く聞かずに彼女と共に真っ赤になって固まっていたのだ。

 

 その後、起き出した幼子にある意味救われたものだ。

 幼子は私を見てから、彼女を見て怒ったのだ。

 見知らぬ私に「なにものだー! ねえさまはわたさぬぞ!」と女子にしては古風で男勝りな喋り方だったが、沈黙を破ってくれたのだ。

 

 そこでようやく私は名乗る事ができた。

「私は白哉という、貴女達のことはなんと呼べば良い?」

「私は水無月緋真と申します、この子は私の妹のルキアです」

「ぬー! たわけものだーであえー!」

 そうか、緋真と言うのか……しかし、この幼子はどうしたものか。

「こら、ルキア、ちゃんと挨拶しなさい」

「ねえさまにてをだすものはわたしがやっつける!」

 緋真がルキアの頭に手を乗せて促すも、わたしは完全に敵視されている様だ。

 しかしこの姉妹は顔立ちは似ているが、性格は全く似ていない。

 

「緋真とルキアは性格が大分違うのだな」

「ルキアは兄様が大好きですから」

 困った様に笑う緋真によると、兄の影響らしい。

「にいさまはすごいのだぞ! きさまなどにいさまに「はーい、ルキア〜良い加減にしましょうね〜?」いひゃいいひゃい!」

 ルキアが兄がすごいと言っていると、緋真が少し怒った顔でルキアの頬をぐいっと引っ張った。

 

「さっきから失礼ですよ? 白哉様は私達に悪いことはして無いでしょう?」

「……うー」

「緋真、私は気にしていない、そんなに怒るな」

 幼子の言葉に目くじらたてる必要もあるまい。

 私がそう言うと、緋真は小さくため息をついた。

「もぅ、白哉様に感謝するんですよ?」

「びゃくやにいさまありがとー!」

 緋真がルキアから手を離すと、いつの間にか私にくっついていた。

 変わり身の早さに思わず苦笑する。

 これが我が隊の中だったら間違いなく厳罰ものだがな。

 

 しかし、この治安の悪い地区でも彼女達は活き活きとしている。

 恐らく彼女達を護っている兄のお陰なのだろう。

 その人物に感謝しよう。

 そうでなければ、私は緋真と出会うことはできなかっただろう。

 

 二人と話すのは楽しかった。

 あまり表情や言葉を話す方では無い私の変化を感じ取ったのか、色々と話してくれた。

 気がつけばあっという間に夕暮れになっていた。

 

「すまぬ、そろそろ戻らねばならん」

「びゃくやにいさま、かえるの?」

 私に花冠や花輪を作って渡していたルキアが、涙目で私を見てくる。

「あぁ、すまぬな」

 ここまでゆっくりしたのはいつ振りだろうか……!?

 しまった、父上!

「すまぬ、急いで戻らねば……!」

 ルキアの頭を軽く撫でてやり、私は立ち上がった。

 そして、走り出そうとした私の死覇装の袖を摘んだ緋真が顔を赤くして「あ、あの……また会えますか?」と問いかけてきた。

 

「……あぁ」

 驚いて返事に少しの間が出来てしまったが、緋真は嬉しそうに微笑んでくれた。

「私はここによく来ますから、またここで会いましょう」

「あぁ、必ず、また」

「ウゥ〜……またあおう、びゃくやにいさま!」

「あぁ、二人も気を付けよ」

 私に向かって手を振ってくる二人を最後に私は走り出した。

 

 

 その後、無事に父上と合流できたが、珍しくニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 

 

 それから、私はよくあの泉のある花畑へ向かった。

 自分でもよくわかっている。

 普段の自分を知る者がその時の私を見たら驚くだろうと。

 

 だが、そのようなことはどうでも良いと思えるくらいに私は緋真を好いているのだ。

 笑顔が見たい、声が聞きたい、四季を共に感じたい。

 緋真に会えば会うほど、私は緋真のことを好いていった。

 

 だからこそお祖父様に言った。

 流魂街に夫婦(めおと)になりたい女性が居ると。

 それを聞いたお祖父様は大笑いした。

「あの白哉がそこまで夢中になる女子か、大いに結構結構! だが、一度くらい連れてきなさい」

 予想外だった。

 私は貴族の掟から反対されると思っていたのだ。

「ん? 不思議か? 確かに貴族として考えるなら好ましいことでは無い。だが……人を好きになるという事は、成長に繋がるのだ。だがまぁ……色ボケはせんようにな!」

 

「はい」

 お祖父様の言葉に頷き、緋真をどうやってここまで連れてくるかを考えた。

 そこでふと気がついた。

 私は緋真に四大貴族のひとつである朽木家である事を教えていなかった。

 

 考えてみた。

 緋真に四大貴族である事を教えた時のことを。

 ……もしも、恐れられたりしたら私は千本桜で自分を斬るかもしれない。

 あの日、姓を名乗らなかった自分を恨む。

 教えないという選択肢は無い。

 お祖父様に紹介せねばならないし、嫁入りするならば言わずともわかる。

 

 覚悟を決めるしか無い。

 今度緋真に会う時に、私の事を話そう。

 そして、お祖父様にも会ってもらおう。

 

 婚姻するとなれば、噂の兄にも挨拶に行かねばならん。

 ……緋真は来てくれるだろうか……。

 

 考え事に夢中になっており、私は気がつかなかった。

 お祖父様のそばに見慣れた黒猫が目を爛々と輝かせてそこに居た事に……。

 

 

 




白哉の喋り方もわからなくなった……けど、甘くするにはもっとキャラを崩していかねば!!(使命感)


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第五話 彼女の兄

相変わらず出番が少ない主人公……
立ち位置のせいか、他の視点になるとめっきり出番がなくなります……うぅ、ゴメンよ主人公……
例によって、白哉のキャラが崩壊しておりますのでお気をつけください


 私は今、かつて無いほど緊張している。

 花畑で緋真とルキアに会い、他愛も無い話をしながら過ごしていたら緋真が笑みを浮かべながら夕食に誘ってくれたのだ。

 

「白哉さん、宜しければ家で夕餉を召し上がりませんか?」

「は?」

「びゃくやにいさまとひびきにいさまといっしょにごはんをたべれるのか!?」

 やったーといって飛び回るルキアを思わず目で追う。

 待て、ルキア、私はまだ承諾していない。

 いや、嬉しい。

 非常に嬉しいが、待ってくれ。

 夕餉という事は彼女の兄も居るのだろう。

 

「突然押しかけるのは失礼だと思うのだが」

「兄様はそこまで厳しくありませんよ、優しい人なので歓迎してくれると思います」

「ひびきにいさまは、おにくをとりにいったぞ! きょうはなべだ!」

 そう言って笑う緋真の言葉に、夕餉の想像をしてヨダレを垂らすルキアを見つつ、それは無いと予想する。

 話を聞けば、緋真とルキアを溺愛している兄が突然男を連れてきたらどう思うか。

 想像は難しく無い。

 

 お祖父様はお祖母様を迎える時に、娘を溺愛していた相手方の父に殴られたと言う。

 兄と父の差はあるが、心境としては同じかもしれない。

 

 私の思い違いでなければ、緋真も私の事を想ってくれているのだろう。

 朽木家へ運ぶために抱き上げた事はあるが、それ以上の事はしたことが無い。

 そういう事は祝言を上げてからするものだろう。

 

「ダメでしょうか?」

 緋真の声に現実へと意識が戻る。

 少し不安そうに私を見上げる緋真を見て……。

「大丈夫だ、問題無い」

 と反射的に答えていた。

 だが、嬉しそうにする緋真が見られた。

 後悔は無い。

 

「びゃくやにいさま! かたぐるましてくれ!」

「あぁ」

 しかし、ルキアの言葉が日を追うごとに男らしくなっていくな。

 ルキアを肩に乗せながらそう思った。

「もぅ、ルキアったら……白哉さんだから許してくれてるけど、ちゃんと目上の人には礼儀を持って接しないとダメよ?」

「わかっているあねうえ! ゆけー! びゃくやにいさま!」

「わかってないではないか」

 注意されて直ぐに飛び出した言葉に思わずツッコンだ。

 

「うふふ、白哉さんも大分表情豊かになりましたね」

 私を見上げながら、可笑しそうに笑う緋真に首を傾げる。

「そんなに変わっただろうか?」

「はい、もっと素敵になりました」

 緋真の言葉に顔が熱くなる。

 緋真を見れば同じように顔が赤い。

 

 緋真は恥ずかしくてもこうして思いを素直に伝えてくる。

 だからこそ、お祖父様や父上、使用人にも好かれたのだろう。

 あの忌々しい黒猫ですら、緋真が居る日は比較的おとなしい。

 

 そんなことを考えていると、緋真がルキアを支えている腕とは別の方の手を握ってきた。

「行きましょう」

 少し赤い顔で笑顔を浮かべながら、私たちは歩き出した。

「びゃくやにいさまー! あっちにとりがいるぞー!」

「落ちるぞ、ルキア。大人しくしなさい」

「わかった!」

「それでいい「にじだー!! ねえさま! あっちににじがー!」……ルキア」

「ふふ、えぇ、虹が綺麗ね」

 頭の上が騒がしいが……嫌ではない。

 いつかは自分の子をこうするのだろうか……。

 そう考えて、貴族らしくない姿が浮かんで思わず笑ってしまった。

 

 そんな未来も良いなと。

 

 

「ここが私たちの家です」

 緋真に案内されてついた家は、想定外だった。

 治安の悪い流魂街でここまで立派な屋敷があるのか。

 朽木家ほどではないが、下級貴族の屋敷とほぼ大差ない。

「元はただの平屋だったんですけど……兄様が直しちゃいました」

 緋真の言葉によく見れば古い建材と新しい建材の境目があった。

 

「緋真の兄上は職人か?」

「兄様は瀞霊廷の屋敷を参考にしたそうですが、職人ではないですよ?」

「ひびきにいさまはなんでもできるのだ!」

 ルキアが元気よく兄を誇る。

「……うん、私もできないこと見たことないです」

 緋真も少し考えた後にルキアの言葉に頷いた。

 相手は超人か。

 

 そんな相手に緋真との婚姻を認めてもらわねばならない。

 覚悟は決めたはずだ。

「では、兄様を呼んできますね」

「ひびきにいさま! ただいまもどりました!」

 緋真の後に続き門をくぐり、戸の前で待った。

 ルキアは緋真より先に走って中へと向かっていった。

 

 だが正直、私はそれどころではない。

 門をくぐった時から、私にだけ当てられている強烈な霊圧。

 緋真やルキアに全く害を及ぼさない技量の高さに戦慄する。

 霊圧の強さは副隊長レベル、やはり彼女の兄は超人か。

 

 少しして、霊圧が徐々に強くなってくる。

 馬鹿な……! まだ全力ではないというのか!?

 膝を突きそうなほどの霊圧が突如消えた。

 それと同時に緋真が姿を現した……その後ろに彼女の兄を連れて。

「お待たせしまし……!? どうしたんですか白哉さん!? 汗だくですよ!?」

 緋真が私の異変に気付き、手拭きで汗を拭いてきた。

 いつもならありがたいのだが、今は勘弁して欲しい……彼女の兄からの視線が……!

 

「もしかして体調が悪かったんですか……?」

「大丈夫だ、緋真、少し緊張してしまった」

 何度か深呼吸してようやく落ち着いた。

 改めて彼女の兄をみて、驚いた。

 

 少し離れているがそれでも私が見上げるほどの体躯、腕の太さなど私の2倍はある。

 偉丈夫という言葉がこれほど合う男もそうは居まい。

 二房ほど垂れている青い前髪に赤く見える瞳がより好戦的な人物に思わせる。

 

 だが次の瞬間その印象は吹き飛んだ。

「貴様が緋真の客人か、よく来た。ゆっくりしていくがよい」

「ゆっくりしていくがよいー」

 ぴょこんという音が聞こえて来そうな様子でルキアが、彼の背から顔を見せた。

 顔を出したルキアを、その大きな手でグリグリと撫で回した。

「きゃーーー!」

 楽しそうな悲鳴を上げるルキアの相手をしながら奥へと向かう彼からは、緋真からも感じたことのある包容力を感じた。

 

「もう、兄様ったら自己紹介もしないで……」

 緋真を見れば、去っていく二人を優しく見ている。

「……凄いお人だ」

 お祖父様とも、父上とも全く違う威圧感もあった。

 あれは私を試していたのではないだろうか。

「ふふふ、自慢の兄様です」

 可愛らしく笑う緋真にただ同意した。

 

 

「先ほどは失礼した、私は嵐山響。この子達の兄だ」

 嵐山……? 水無月ではないのか?

「私は朽木白哉と申します」

 疑問には思ったが挨拶をされたらしっかりと返さねばと、苗字含めてしっかりと名乗った。

 緋真は大貴族のことは知らなかった。

 故に響殿も知らないだろうと判断した。

 ……この御仁が貴族と知ったからといって対応を変えるとも思えないが。

 

「みなづきるきあともうすー」

「なぜ私に言うのだルキア?」

 気が付けばルキアが私の隣で、響殿に向かって正座して頭を下げていた。

 響殿も目尻が下がっている。

「なんとなくだ!」

「……そうか……クッ……」

「……ッ……」

 グッと胸を張って言い切るルキアの様子に二人して笑いを堪える。

 可愛らしいが、面白い。

 

「あらあら、皆さん楽しそうですね、私も交ぜてくださいな」

 笑いを堪えていると、緋真が椀と箸を持って戻ってきた。

「食事しながらでも良いだろう、緋真も掛けなさい」

「はい、兄様。白哉さん、これ使ってください」

「すまない」

「よきにはからえー」

「「「ッ」」」

 ルキアの言葉に椀を落とすところだった。

 見れば緋真も口元を押さえている。

 

「クックック……ゴホン、では頂くとするか」

「くふふ……は、はいっ」

「……クッ……」

「いただきまーす」

 穏やかな雰囲気の中での夕餉が始まった。

 

「おにくはいただく!」

「あ、こら! 野菜も食べなさい!」

「緋真はもう少し肉を食べなさい」

 3人が思い思いの具材を取っていく。

 牡丹鍋……食べたことがないな。

 香りは高級料亭にも劣らず、見た目も華やかだ。

 目で楽しめる鍋料理とは新しいかもしれない。

 

「白哉さん、良ければよそいましょうか?」

 鍋を見ていたら、緋真が寄ってきた。

 せっかくの厚意を無駄にすることもあるまい。

「すまない、頼む」

「はい、お任せください」

 緋真が嬉しそうに野菜や肉などを盛っていく。

 しかし、この野菜は一体どこから……?

 そんな疑問はすぐさま解消された。

 

「肉はさっき狩って来たもので、野菜は全て自家製だ」

 思わず目を向けると、静かに食べている響殿の姿。

 そんなにわかりやすい顔をしていただろうか?

 いや、彼にはお見通しなのだろう。

 

 器に盛られた食材は美味しそうだ。

 白菜を噛むと鍋に使った出汁だろうか、味が染みており、かつおの風味が広がる。

「美味い」

 思わず言葉が漏れた。

「そうか、遠慮なく食え」

「あぁ」

 本当に美味い。

 

 

 食事は何事もなく終わり、柄にもなく食べ過ぎてしまった。

 牡丹鍋は緋真も作れるらしい……楽しみが増えたな。

 食事を終えた私は、響殿に連れられて外へと出た。

 夜の冷えた空気が、鍋で温まった体を冷ます。

 

「聞かせてもらおうか、緋真への想いを」

 唐突に発せられた言葉が、響いた。

 響殿を見れば真剣な目で私を見ていた。

 やはり、私が考えていることはお見通しだったらしい。

 

 私が示せる緋真への想いは……簡単に言葉で表すことができない。

 だから、思ったことをそのまま告げよう。

「私は口が上手くない」

「………」

「だから、私が感じたことでも良いだろうか?」

 

 私の言葉に、響殿は無言で続きを促した。

「ただ、緋真と共にありたい。私が死するその時まで」

「…………」

 この御仁の前で、多く語る必要はないだろう。

 故に私はそれだけを告げた。

 

「朽木家の説得は終わっているのか? 四大貴族」

「……!? …………いや、響殿を説得してからと考えていた」

「ならば、それを証明してみせよ」

 そう言うと、響殿は踵を返した。

 

「想い合っている二人を、引き裂く真似を私にさせるなよ」

「ッ! あぁ」

「緋真を呼んでこよう、しばし待て」

 そう言うと、響殿は今度こそ家の中へと戻っていった。

 

 その姿を見送って、私は達成感を感じていた。

 一番の難所を越えた。

 後は、響殿に証明するだけだ。

 朽木家は緋真が来ても大丈夫だと。

 

「白哉さん」

「緋真」

 家から出てきた緋真を見て、私は感情を抑えきれなかった。

「お見送りに……きゃ!?」

 近くまで来た緋真を強く抱きしめた。

「白哉さん?」

「緋真……聞いて欲しい」

 愛しい緋真が腕の中に居る。

 兄である響殿にも実質許可を貰えた。

 ならば、止まる必要はない。

 

「どうか、私と生涯を共にしてくれぬか」

「……ッ……白哉さん」

 緋真の腕が私の背に回るのを感じた。

「嬉しいです」

 腕の中で顔を上げた緋真の顔は真っ赤だった。

 だが、私もきっと真っ赤だろう。

「そうか……!」

「はいっ! どうか、私をあなたの妻にして下さい」

「あぁ、私を緋真の夫にしてくれ」

 

 私達は月が見守る中で、婚約を契った。

 

 

「すぐに迎えに来る」

「はい、お待ちしています」

 緋真と別れを告げ、私は瞬歩で家へと向かった。

 お祖父様と父上に良い報告ができそうだ。




ようやく婚約までいけました。
次は結婚話と朽木家と主人公のやり取りを書いていきたます。
銀嶺さんと蒼純さんの話を見たことがないので、性格など完全に捏造になりますのでお気をつけを!
あ、もう遅い?すいませんでした!


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第六話 彼の日記 3ページ

に、日間50位にのりました!?
これも皆さんのおかげです!
夜勤だけど眠らずにもう一本仕上げたので投稿しちゃいます!


 白哉の根回しの早さに負け、緋真がついに結婚します。

 まぁ、もう少し先の話だがな!

 と言っても、緋真がこの家で暮らすのも残り一月。

 ルキアが愚図るかと思ったが

『ねえさまがしあわせなら、わたしはおうえんするぞ!』

 と、なんとも男前な言葉を胸を張って言い放った。

 ただし、若干涙目だったのはご愛嬌。

 

 感極まった緋真は、泣きながらルキアを抱きしめていた。

 

 俺もいつでも帰ってこいと、言葉をかけたらさらに泣き出した。

 号泣である。

 嫁入り前になんという顔をしているのか……緋真の顔が若干滲んで見えたのは、目が悪くなった所為だ、そうに違いない。

 

 

 さて、緋真は残り1ヶ月の内に甘えるだけ甘えることにしたらしい。

 珍しく俺にくっついて歩き、頭を撫でて欲しいとか、あれが食べたいとか我儘を言う。

 共に暮らして10年ほどか……緋真がここまで甘えてくることは全くなかったな。

 その様子が可愛くもあるが……やはり不安があるのだろう。

 

 

 ……白哉と会った日は、不安など微塵も感じさせないがな。

 朽木家の祖父と父親は問題ないだろうが、使用人にはやはり不満に思う輩も居るだろう。

 すべての人に好かれるなど不可能なのだから。

 まぁ、その程度で潰れるほど緋真も弱くはない。

 病弱だった体は、既に健康体になり、儚げな雰囲気は包容力のある優しい雰囲気へと変わった。

 芯にちゃんと強い心も持っている。

 

 緋真なら大丈夫だ。

 それに何かあれば取り返しに行くからな!

 

 

 一月の間に緋真はこの家でたくさんの思い出を作ったようだ。

 そうして、準備も終わり、遂に緋真がこの家を出る日が来た。

 朽木家より届けられた服を着て、ルキアを背負って緋真を抱く白哉の背を追いかけた。

 瞬歩は白哉のやり方を見て、なんちゃってから正しいものへと変えたのだが、こっちの方が疲れる。

 

 朽木家へと着き、緋真は着替えへ。

 俺とルキアは、白哉の祖父と父親に挨拶していた。

 

 うむ、予想外だった。

 銀嶺殿はすごく大らかで、気の良いおじいちゃんといった感じだった。

 てっきり原作白哉みたいにビシッとしてる(内面はともかく)と思ってたが、まんま手紙の時と変わらない人だった。

 蒼純殿も同じく、

 常識人で気配り上手、物腰が柔らかい優しい人だった。

 ルキアがくっついてるが、微笑ましそうに頭を撫でている。

 うむ、やはり原作知識なんてあてにならんな。

 

 考えることを放棄しても、なるようになるのだ。

 

 色々と話していたら死神にならないかと誘われた。

 なにやら霊圧がかなり高く、佇まいに隙がないらしい。

 後見人になるからどうだ? とか言われたが、ルキアのこともあるし、あの家も守らないといけないので断った。

 残念そうにしてたが、気が変わったらいつでも言いなさいと言われた。

 なんとも高待遇である。

 

 まぁ、俺が死神になることはないだろう……ん?

 これって、またフラグか?

 緋真の時もだが、考えた日に大体そのフラグを回収するよな。

 ……念のためにもう一度言うか?

 いや、そこまで行くと『押すなよ!?』みたいな流れになりそうだ。

 触れないでおこう。

 

 そうして御二方と時間を潰していると、花嫁の控え室に呼ばれた。

 不安そうにしているから、声をかけて欲しいとのこと。

 それに頷き、御二方に挨拶してからルキアを連れて控え室へと向かった。

 

 控え室には白無垢姿でほーっと腰掛けている緋真が居た。

 ルキアが飛びついたことで意識が帰ってきたらしい。

 俺とルキアが綺麗だと褒めると少し赤くなって、微笑んだ。

 

 さて、一仕事するとするか。

 緋真の前に腰掛けて、目で話を促す。

 めでたい日に、花嫁が暗い顔なんてするもんじゃねぇ。

 緋真は俺から目を離し少し俯くとポツポツと話し出した。

 

 新しい生活に心を躍らせながらも、保護者の庇護下から出て行く不安感、今までとは全く違う環境で過ごす変化、平民から大貴族になったことで付いて回るだろう貴族としての責務。

 

 それを聞いた上で、俺が言えることは少ない。

 たとえ離れたとしても俺たちは家族であること。

 辛いと思ったら溜め込まずに吐き出すこと。

 そして、最後に世界を敵に回しても俺がお前を護る事に変わりはない。

 

 茶目っ気を出して、俺は世界最強の妹大好きな兄だぜと笑って見せた。

 ルキアもまるで合いの手を入れるかのように声を上げた。

 普段言わない事に衝撃を受けたのか、緋真は目をまん丸にした後声に出して笑った。

 

 もう心配ないだろう。

 緋真に次は婚儀の場で待っているぜと言って、ルキアを伴って外に出た。

 部屋を出てから、さっきから気配を消して話を聞いてた輩に声をかけた。

 縁側の下から1匹の黒猫が出てきた。

 そして、ボフンという音と共に人型になった……裸で。

 

 頭に拳骨を落として、羽織を掛けてすぐに着替える様に言ってから、目を閉じてその場で待った。

 扉の前に来た時は人型の霊圧を感じていたから、近くに服が置いてあるだろ。

 案の定5分もしないうちに俺の羽織を持って戻ってきた四楓院夜一。

 ルキアはさっきから猫を探してる。

 目の前のそいつだが、まぁわからないよな。

 

 夜一……さんの姿は、漫画で一度見た四楓院家の正装だろう。

 流石に外向けではない結婚式でも正装はする様だ。

 

 改めて挨拶した訳だが、拳骨した事に関しては笑っていた。

 まぁ、貴族にそんなことする奴なんて普通は居ないよな。

 しかも当主に。

 

 そんで本題らしき、緋真とのやり取り。

 世界最強とは吠えたなと霊圧をぶつけて来た。

 ルキアを見ても平然としてる様子から俺にだけぶつけてるんだろう。

 

 俺もただ吠えた訳じゃない。

 たとえ死ぬ可能性が高くても、緋真を護って自分も生き残る。

 俺が死んだら結局緋真を悲しませるからな。

 だから俺も霊圧を高めるつもりで睨みつける。

 原理はわからんが、こうすると霊圧が飛ぶらしい。

 そこらへんの感覚はわからん。

 何せもと一般人だからな。

 

 暫くそうしてると、唐突に霊圧のぶつかり合いは終わりを迎えた。

 夜一が大笑いしたからである。

 過保護だと笑われたが、それもまた愛の示し方だろう。

 まだ可笑しそうに笑う夜一は、披露宴では共に酒を飲もうと言って去っていった。

 気紛れな猫さんである。

 

 結婚式は粛々と行われ、無事に婚儀は終了した。

 二人の指輪の交換を見た時は……まぁ、幸せそうで何よりと思った。

 嘘じゃねえ、ほんとだぞ。

 

 いつもよりもさらに綺麗に見える緋真にルキアはキラキラとした目で見ていたな。

 

 どうやらこの結婚は大々的に行わないらしい。

 次期当主は、蒼純であることから大事にしなくても良いだろうと、仲の良い人達だけで行った訳だ。

 それを提案したのは白哉らしい……緋真の事をよく考えてくれているな。

 やはり、緋真を任せられるのは君しか居ない!

 

 なんて考えてた俺はきっと酔っていたのだろう。

 それもこれも夜一(呼び捨てにしろと言われた)の所為だ。

 あの猫やろう……親しい人達だけだからってハメ外し過ぎだろう。

 俺は今日会ったばっかだぞ。

 

 肩組むな、酒を無理矢理飲ますな、俺のペースがあんだよ。

 少しはっちゃけた記憶があるが細部までは思い出せん。

 気が付いたら大広間で雑魚寝していた。

 それで良いのか大貴族。

 

 俺の腹の上にはルキアがグデーっとしていた。

 右膝には夜一、左膝には緋真が居た。

 待たんか、おい、初夜はどうした?

 

 周りをよく見ると、銀嶺殿が壁に背を預けて膝を立てて寝ていた。

 何処ぞの武士の様だ。

 蒼純殿の姿は見えんが、白哉は横になってる緋真の膝で寝ていた。

 兄の目の前で膝枕とは良い度胸だ。

 

 どうしたものかと思っていると、蒼純殿が掛け布団を持ってきた。

 なぜ使用人にやらせないのかと問うと、流石にこの状態は見せられないとのこと。

 まぁ同感である。

 

 蒼純殿が持ってきた掛け布団を全員にかけて行く……蒼純殿、白哉の顔が布団の中だが良いのか?

 白哉の体にも掛け布団をしているが、蒼純殿もやはり酔っているのだろう。

 よく見れば顔が赤い。

 全員に掛け布団をかけた蒼純殿は満足げに頷くと、一度立ち去り、敷布団と掛け布団を敷いて部屋の真ん中で寝た。

 

 うむ、やはり酔っている様だ。

 さて、どうしたものか……俺の身体に自由はない。

 となれば、寝るだけだ。

 

 俺はおとなしく意識を飛ばした。

 

 




朽木家、完全にキャラ崩壊。
白哉だけでなく、銀嶺さんと蒼純さんまでその被害に……
けど、朽木家が幸せになるためだし仕方ないよね!


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第七話 私の嫁入り

み、皆さんのおかげで日間一位、週間4位まで上がりました!?
今回は話を作るのが大変で時間が掛かってしまいました。
これからもこの作品を宜しくお願いします!


 白哉さんに求婚されてから数日で私の嫁入りが決まりました。

 兄様が白哉さんに条件を出したらしいのですが、細かいことは教えてくれませんでした。

 

 白哉さんと共に居られる……そう考えるととても嬉しいのですが、同時に小さな不安を感じました。

 まだ心の準備ができていなかったのでしょうか……?

 銀嶺様も蒼純様もお優しい方で、ルキア共々凄く良くしてもらいました。

 あの方達の娘になる事に不安はありません。

 では、私は一体何に不安を感じているのでしょうか……?

 

「だが最低でも一月後だ。それを守れないなら緋真はやらん」

 兄様の言葉に残念に思いつつも、安堵している……そんな私の心を読んだのでしょうか?

 兄様は私を一瞥すると小さく微笑んでました。

 

 どうやら、お見通しみたいです。

 

「ねえさまはどこかへゆくのですか?」

「私はね、白哉さんと一緒になる為に引越しするの」

「ねえさまはでていかれるのですか!?」

 ルキアがすっごく驚いた顔をしている。

「ルキア、緋真は幸せになる為に白哉へと嫁ぐのだ」

「とつぐ……?」

「好きな人と生涯を共にする事、それはとても嬉しい事だ……ルキアにはまだ難しいかもしれんな」

 兄様が頭を撫でながらルキアに説明してくれました。

 

 ルキアは兄様と私を交互に見たあと、じっと私を見上げてきました。

「ねえさま!」

「なぁに?」

 しゃがんでルキアに目線を合わせると、瞳がウルウルと潤んでいた。

 やっぱり止められるかしら?

 そんな事を考えた私の思考を、ルキアは振り切った。

「ねえさまがしあわせになるなら、わたしはおうえんするぞ!」

 力強いルキアの言葉に涙がこぼれそうになった。

 この子はまだこんなに小さいのに、人の事を思いやれる優しい子になっていた。

「ぜったいしあわせになるのだぞ!」

 ルキアが胸を張って、私を激励してくれた。

 

 私はもう涙をこらえる事ができなかった。

「うん、幸せになるね……! いっぱい、いっーぱい幸せになるからね……ッ!」

「ねえさま……うぁぁぁぁあん!」

「ありがとうっ! ルキア!」

「わたしを、おいていぐんだがら! じあわぜにならないどおごるのだがらな! ヒグッ」

 ルキアをぎゅっと抱きしめて私達は大泣きしました。

 私は世界で一番幸せな姉です。

 

 泣いているとふと頭を撫でられるのを感じました。

 ボヤけた視界で見上げると、兄様が小さく笑いながらも泣きそうな顔をしていました。

「いつでも帰って来い、ここはずっとお前の居場所だ」

 その言葉に、完全に涙腺が崩壊しました。

 今までにないくらいに大きな声で泣きました。

 

 兄様は卑怯です。

 こんな時に、そんな顔で、そんな言葉をくれるなんて、最低です。

 けど、私の世界で一番最高の兄様です。

 

 

 

 ルキアと兄様に泣かされた翌日から、これからどうしようかと考えています。

 あと一月もすれば、わたしは大貴族の朽木家へと嫁ぎます。

 お爺様方は貴族の責務なんて気にしなくていいと、仰られましたがそうもいきません。

 白哉さんの妻として恥ずかしい行動はできません。

 

 きっと色々と戸惑うこともあるでしょう。

 ですが、朽木家の皆さんは私に良くしてくれました。

 その恩に報いるのです。

 

 ……だから、最後になるかもしれないんですから甘えても良いですよね……?

 

 

 私は、ルキアと一緒に兄様に着いて回りました。

 一緒に農作業したり、お料理をしたり、ちょっと恥ずかしかったですけど、膝枕してもらったりしました。

「そういう事は白哉にしてもらいなさい」

 って怒られちゃいましたけど、家を出る前に如何してもやりたかったのです。

 

 

 今まで私とルキアを護ってくれた大きな背中にぎゅっと抱きついてみました。

 兄様達と離れることを考えると涙が出そうになりました。

 ルキアとも一杯遊んで、家族全員で一緒に寝ました。

 

 そんな楽しい一月はあっという間に過ぎて行きました。

 今日、婚儀を終えたら私は正式に白哉さんの妻となります。

 

 正装した兄様がルキアを背負って、私は白哉さんに抱き抱えられて朽木家へと向かいました。

「ようやく……だな」

「はい」

 白哉さんの腕の中で少し擦り寄ると、ビクッと反応しました。

 その様子がおかしくて少し笑ってしまいます。

「緋真には、格好の悪い所ばかり見せるな……」

 少し落ち込んだ様な声に、私は小さく笑いました。

「そんな貴方でも良いんです。格好の良い姿も、悪い姿も……全部大好き……です」

 言い切ったら顔がすごく熱いです。

 

「……だが、今日くらいは格好付けさせてくれ」

「はい……旦那様」

「ッ!?」

 フフフ、可愛い人ですね……私にもダメージはありましたけど……ふわふわと夢見心地の所為でしょうか?

 こんなやり取りがとても楽しいです。

 ……兄様の視線が痛いので程々にしておきましょう。

 

 朽木家へ着いた私は、使用人の吾妻さんに控え室へと案内されました。

「遂に緋真様が嫁いで下さるのですね! 私は昨夜から楽しみで眠れませんでした!」

「ふふふ、吾妻さんたら本当に眠れなかったんですね、隈出来てますよ?」

 私がそう言うと鏡を覗き込んで、自分を睨みつけてました。

「うーん……白粉が足りなかったかな……って! 私の事はどうでも良いんですよ! それよりも緋真様! 白無垢に着替えましょう! 私も手伝います!」

「お願いします」

 

 吾妻さんに手伝ってもらって私は準備を整えました。

 白無垢に着替え、顔には白粉を塗り、唇に紅を引いて、髪を整える。

 少しして鏡に映る姿は、普段の私からかけ離れた顔をしていました。

「うんうん、綺麗ですよ緋真様。流魂街出身だなんて思えないほど気品があります!」

「あ、ありがとう……」

 

 思わずボーっと自分の姿を眺める。

 ただの緋真から、大貴族朽木家の嫁になる……今更ながらに不安がこみ上げてきました。

 白哉さんと一緒になれる……とても嬉しいですが、私で良いのでしょうか……?

 白哉さんなら貴族の方からもっと相応しい方と出会えたのでは……。

 

「ねえさま!」

「る、ルキア?」

 突然飛びつかれてとっさに抱きとめると、兄様も居ました。

「ねえさますごくきれいだ! おひめさまみたいにな!」

「あぁ、凄く綺麗だ」

「あ、ありがとう……」

 兄様にも褒められると少し照れくさいです。

 

「ふむ……?」

「?」

「おぉ、なんだこれは? てがしろくなるぞ」

「……ルキア、あまり遊ばぬようにな」

「うむ! わかっているぞ!」

 兄様が化粧品に興味を持ったルキアを注意すると、私の正面に腰掛けて私をじっと見てきました。

 

 特に何も言わずにじっと……やっぱり兄様には私が思ってることもお見通しみたいです。

 暖かい炎の様な赤い瞳が、話を促しています。

 その瞳から少し目を逸らして、小さく言葉を紡ぎました。

「白哉さんと一緒に過ごせることは凄く嬉しいんです……けど、本当に私で良かったのでしょうか……? 私は言ってしまえば平民の出で、もっと相応しい方がいらっしゃったのではないでしょうか……? 式を挙げる直前になって……そう思ってしまいました……」

 

「そうか……緋真」

「……はい」

 視線を上げると、兄様が優しく微笑んでいました。

「緋真の不安に答えられる言葉は少ない、だが忘れるな、白哉は緋真を選んだのだ、他の誰でもない緋真をな」

「……はい」

「フッ、言っただろう? 離れていても緋真の居場所はずっと家族(ここ)にあると、疲れたらいつでも帰ってこい、緋真は溜め込んでしまうからな」

「……そんなことありません」

 兄様の言葉にツイと顔を逸らしてしまいました。

 

「もし緋真が泣いているのなら、私は世界を敵に回しても良い」

「もぅ、何言ってるんですか……」

「私は本気だぞ? なにせ……」

「?」

 珍しく兄様が悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべました。

「世界最強の妹大好きな兄だぞ?」

「わたしもせかいさいきょーのあねうえだいすきないもうとだぞ!」

「おぉ、そうか! なら私達が居れば敵は居ないな」

 ルキアと兄様のやり取りに、笑いが抑えられませんでした。

「ぷっ、あははははは! 兄様もルキアも何言ってるんですか、うふふふふ」

「ふむ、何やら笑われておるぞルキアよ」

「わらわれておりますね、ひびきにいさま」

「も、もうやめてください、ふふ」

 

 こんな素敵な兄と妹が居るのですから、私も胸を張りましょう。

 いつの間にか感じてた不安が何処かへ行ってしまいました。

 本当に二人には敵わないですよ。

 

「……大丈夫そうだな」

「うふふ、お陰様で」

「なら後ほど会おう、ルキア行くぞ」

「はい! ひびきにいさま!」

 去っていく二人の背に、感謝を込めて頭を下げました。

 兄様、今まで本当にありがとうございました。

 

 兄様のおかげで、私は最愛の人と出会うことが出来ました。

 

 これからは白哉さんと二人で頑張っていきますのでどうか見守っていて下さい。

 

 




酔っ払った主人公を入れるつもりだったけど、文字数が倍以上に増えそうだったので断念。
次は銀嶺さんの視点で、朽木家から見た緋真の嫁入りと白哉の様子、主人公との絡みを書いていきたいと思います!


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第八話 朽木家の嫁入り騒動

……うん、すいません。
今回で入れると言った主人公の酔っ払いシーンですが……なしになりました。
ちょっとはっちゃけ過ぎて、色々おかしくなったので丸々カットしました。
楽しみにしていた方々、本当に申し訳ありません。


「そうか! ついに許可を貰えたか! 早速婚儀の準備をせねば!」

「めでたい報告だね、おめでとう、白哉」

 白哉から緋真の兄から婚姻の許可を取り付けたと報告を受けて、私は明日にも緋真を義娘として迎える準備を行おうとしたが、白哉に止められてしまった。

「ありがとうございます、父上、それとお祖父様、お待ちください、響殿から最低でも一月は嫁入りさせぬとの言伝もあります」

 

 白哉の言葉に、私は思わず固まった。

「一月後?」

「はい」

「半月、いや1週間の聞き間違えではないか?」

「いえ、一月後とはっきり仰られました」

「……もし破ったら」

「緋真は渡さんと」

「……待つしかないのか……」

「はい」

「そうか……一月後か……」

 

 仲の良い二人の話を聞く至福の時間が……この爺の楽しみが……。

「お父さん、緋真ちゃんにも色々と準備する時間が必要ですよ」

「それは、そうかもしれんが……長いなぁ」

「それに一番残念に思ってるのは白哉だと思いますよ?」

「ハッハッハ! それもそうだな!」

「なっ!? 父上! お祖父様! そんなことは……」

「最後まで否定しないあたり素直になったよね、これも成長かな?」

「ッ」

 顔を赤くして視線を逸らす白哉を見ていると、本当に変わったなと実感するな。

 

 緋真との出会いは白哉だけでなく、朽木家にも良い影響を与えている。

 白哉の変化が一番大きいだろう。

 緋真を嫁に迎えれば白哉も多少は落ち着くだろう。

 精神的にも大きく成長する機会でもある。

 いい加減すぐに熱くなって冷静さを失う所も直していかねばならぬ。

 

 …………まぁ、緋真が早く嫁に来てほしいのは私も同感だがな!

 緋真の兄にも早く会いたいものだ。

 緋真にルキア、どちらもとても良い子だ。

 そんな子達を育てた兄にも興味がある。

 潜在能力も高ければよい死神になれるのではないか?

 うぅむ……そういえば、白哉はかの兄と話をしていたな。

 どういう人物か聞いてみるか。

 

「ところで白哉よ、緋真の兄はどのような御仁だった?」

 

「外見は偉丈夫という言葉が似合うお方でした。 接してみれば、家族をとても大事にしており、緋真達の雰囲気は兄から影響を受けたと思われます。 ……そういえば、建築や狩りなどもすると伺いました」

「え?」

「そうか……ん?」

聞き間違いか?

今建築と言ったような……?

「け、建築? 狩りはまだしも建築もするのかい?」

「平屋を下級貴族の屋敷の様に建て直したそうです」

 平屋を増築? 下級貴族の屋敷と同等規模? なんだそれは?

 

「……かの兄は職人か?」

「いえ、ですが緋真とルキアによれば兄にできないことは見たことがないと」

「それはすごいね。他にも何かやってなかったかい?」

「……そういえば、屋敷の外に畑がありました……もしかすると農業も行っているのかもしれません」

「そ、それはすごいね」

「確かに白哉が把握していることだけでも多才さがよくわかるな……して、白哉よ」

「はい」

「その者は死神としてやっていけそうか?」

「はい、初めて出会った時に感じた霊圧は既に副隊長に相当するかと」

 なんと! それは朗報だ!

「ならば私が後見人となり、霊術院へ推薦してもいいな」

 死神になれば瀞霊廷で暮らすことができ、緋真にも会いやすくなるだろう。

 ルキアもこちらで養子として受け入れてもよいな!

 いや、むしろ来い!! 是非とも来てくれ!!

 私に孫に囲まれた幸せな生活をくれ!!

 

「お祖父様?」

「む? どうした白哉よ」

「いえ、報告は以上ですが……何かございますか?」

 む、どうやら幸せな想像をしている内に話が終わったようだ。

「いや、何もない、下がってよいぞ」

「はい、では失礼します」

「白哉もゆっくり休みなさい」

「はい、父上」

 白哉は立ち上がり、一礼すると部屋から出て行った。

 

「まったく……お父さん、妄想にふけってないでちゃんと話を聞いてください」

「妄想ではない、想像だ」

「どうせルキアちゃんの事、考えていたんでしょう?」

「うぐっ、なぜわかる」

「ルキアちゃんと遊んでいる時の顔をしていたからですよ」

「……ルキアを養子に……」

「無理だと思いますよ? ルキアちゃんはお兄さんの事が大好きみたいですし」

「ぬぅぅ……」

 緋真とルキアがおれば、私はあと1000年は隊長を務めることができるというのに……!!

 

「さて、私たちも緋真ちゃんを迎え入れる準備をしましょうか」

「そうだな! 緋真の部屋は「白哉と同じで、それか隣でいいでしょう」……私はまだ何も言っていないのだが……」

「お父さんの部屋の近くはダメですよ」

「なぜわかる!?」

「分からない訳がない」

「……真面目に考えるか」

「そうしてください」

 

 

 蒼純と緋真の嫁入り準備をしつつ、私は幸せな老後生活に思いをはせた。

 

 

 

 

「ほぅ! ようやくあの白哉坊も緋真と結婚するのか! それは目出度いのう!」

「夜一殿にも白哉のことで世話になった、式に来てくれぬか?」

 白哉をいつものように揶揄(からか)いに来た夜一殿を捕まえて、招待状を渡した。

「ん? なんじゃ、もしや式は身内のみで行うのか?」

 招待状を受け取った夜一殿は、首を傾げていた。

 

「うむ、緋真は流魂街の出だからな、他の貴族が来れば陰口を言われよう」

「目出度い日に莫迦者どもの相手をする必要はない……か、ずいぶんと過保護になったのう、銀嶺殿」

 おかしそうにニヤニヤと笑う夜一殿に、私は胸を張る。

「娘を甘やかして何が悪い」

「……今、絶対に『義』の文字を抜かしたじゃろ……まったく」

「そういう夜一殿も、緋真には甘いではないか」

 ジト目で見てくる夜一殿にそう返せばカラカラと笑われた。

 

「可愛い友を甘やかして何が悪い、砕蜂とはまた別の可愛さがあってつい甘やかしてしまう」

 砕蜂……蜂家の末っ子だったか……気の毒に、さぞかし遊ばれていることだろう。

 今この場には居ない蜂家の娘の苦労を思うと、非常に哀れに思う。

 緋真とは普通に接しているというのに、この差はなんなのか。

「緋真の性格の所為かのぅ……悪戯しても仕方なさそうに笑われると、こっちが子供みたいに感じてしまう…………まぁ、やりすぎたら叱られてしまうが…………」

「最後に何と言いましたかな?」

「なんでもないわい」

 

 そういうと、夜一殿は門へ向かって歩き出した。

「白哉を揶揄わなくていいのか?」

 私がそういうと顔だけこっちへ向けて。

「それよりも緋真の結婚祝いの準備が先じゃ」

 と言って帰って行った。

「ふむ、私ももう少し準備しておくか……」

 

 

 緋真が嫁に来るまで、後2週間か……長いな……。

 

 

 

 

 そうして、ようやく長い一か月が過ぎた。

 準備は完了している。

 緋真の部屋は基本的に白哉と同じ部屋だが、隣に自室を用意。

 緋真の家族であるルキアと響殿の服を用意し、白哉を通して渡し済みだ。

 ルキアと響殿の服は高級呉服屋で最高級の仕上がりだ。

 特に響殿には銀白風花紗も一緒に届けてある。

 

 私は気が付いたのだ。

 ルキアを娘にしたければ、響殿ごと迎えてしまえばいいではないかと。

 銀白風花紗は私からのメッセージだ。

 本人にではなく、後から彼に目をつけるであろう夜一殿に対してだがな。

 なんとなくだが、夜一殿と響殿は意気投合しそうな気がしている。

 響殿にはあったことはなく、緋真や白哉からの話でしか聞いたことがないのだが、そんな予感がするのだ。

 

 そうして準備を整えた私の耳に、嵐山響様ご一行が到着されました。との報告が入った。

「わかった、すぐに向かう」

「お父さん、あまり変なことは言わないでくださいね」

「はっはっは、言うわけないだろう」

 もしかしたら私の息子になるかもしれない男だぞ。

 どのような男か期待が高まるな。

 では、さっそく噂の人物に会いに行くとしよう。

 

 

 

 まず最初に抱いた印象は『偉丈夫』の一言。

 遠目にもわかる、その体の大きさと筋肉だ。

 隣にいるルキアの頭が腰くらいまでしかない所為か、その大きさが際立つな。

 袖から見えている腕も非常に太く、よく鍛えられていることがわかる。

 

 

 次いで印象に残ったのは、その佇まい。

 武の心得があるのか、重心はしっかりと中心からブレず、自然体でありながらも隙があまりない。

 動きから察するに、得物は恐らく長物と思われるが、剣も使っている動きだ。

 

 感じられる霊圧は並みの副隊長を凌駕している。

 こんな若者が野に埋もれていたというのか。

 

 そんなことを考えていると、響殿がルキアを伴ってこちらへ歩いてきた。

「初めまして、私は嵐山響と申します」

 おぉ! 流魂街の出だというにしっかりとした礼節を持っているではないか!!

 いや、緋真もそうだったのだから、予測できたことか!

 それでもこれは良い!!

「あぁ、貴殿の事はルキアや緋真からよく聞いているぞ! 私は朽木銀嶺! 気軽にお爺ちゃんと呼んでくれてもいいぞ!!」

「…………お父さん」

 私の言葉に蒼純があきれた声を出しているが、それよりも目の前の人物と話がしたかった。

 

 響殿は瞠目した後に軽く笑みを浮かべた。

「私のことは響でいい、宜しく頼む、爺さん」

「おぉ!! 早速呼んでくれるのか!! 柔軟な対応!! 実に良いぞ!!」

 うむうむ、やはり緋真を育てた御仁! 実に良い対応だ!!

「わたしもぎんれいさんじゃなくて、おじいちゃんとよんだほうがよいのか?」

「是非とも!」

「ぜひ?」

「呼んでくれってことだ」

「なるほど! おじいちゃん! こんにちは!」

 響がルキアに説明すると、ルキアはすぐに私のことを『おじいちゃん』と呼んでくれた。

 ルキアがおじいちゃんと呼んでくれた……これで私はあと100年は戦える。

 

「すまないね、私の父はちょっと感情が振り切れてるんだ」

「今日は目出度い日だ、偶には良いだろう」

「たまにだったらいいんだけどね、これから毎日こうなりそうだよ」

「今度滋養に良い山菜でも送ろう」

「ありがとう、自己紹介が遅れたね、私は朽木蒼純だ。よろしくね」

「こちらこそ、嵐山響だ。父上と呼んだ方がいいか?」

「それもいいけど、君とは何だか対等でいたいと感じているよ」

「では蒼純と呼ぼう。これからよろしく頼む」

「あぁ、君とは仲良くできそうだ」

「そうだな……そろそろ爺さんを呼び戻したらどうだ?」

「そうだね……ほら、お父さん! いつまでも意識を飛ばしてないで戻ってきてください!」

 

 感動に浸っていたら、蒼純の声で現実に帰ってこられた。

 危なかった、今のままだったら私は丸1日感動に浸っていたかもしれない。

「おぉ、すまん、それで響よ」

「どうした、爺さん」

 うむうむ、これぞ私の求めていた対応だ。

 これから家族になる(親戚です)者に敬語を使われても嬉しくないからな。

 白哉は……うむ、ここまで崩せとは言わぬからもう少し柔らかくならないだろうか。

 それに響なら時と場所をわきまえるだろう。

 さて、本題に入るとしよう。

 

「うむ、実はな……お主、死神になるつもりはないか? 私が後見人となり、霊術院へ推薦するぞ」

「すまない、爺さん……俺は緋真が帰ってくるあの家を出るつもりはないんだ」

 私の提案はすぐさま拒否されてしまった。

 む、そうか、響とルキアを養子にすると、緋真の実家に誰も居なくなるのか。

「……そうか……お主は霊圧も高く、佇まいも隙が無い故に良い死神になれると思ったのだが……」

「すまないな、爺さん。俺は緋真の帰ってくる場所を護ってやりたいんだ」

「…………人を派遣するぞ?」

「妹の居場所は自分で守ってこそだろう?」

 ムムム、その心意気は素晴らしいのだが……はぁ、これは無理そうだな。

「気が変わったらいつでも言いなさい、その時は推薦状を書いておこう」

「あぁ、その時は頼むよ、爺さん」

 

 

 はぁ~、残念だな……まぁ、良い。

 その時が来たら、あれこれ言って養子に迎えてしまおう。

 響はいつの日か死神になるだろう。

 その時は覚悟しておれ、響よ。

 

 

 その後、響とルキアは女中に呼ばれて去っていった。

「全く……本当に勧誘するとは思いませんでしたよ」

 蒼純がため息をついとる。

「何を言っとるのだ、お主も実は乗り気だっただろう」

「……まぁ、否定はしませんけど……気が合いそうでしたし」

「……緋真とルキアが良い子に育ったのは、響のお蔭か」

「……そうですね、戌吊でよく二人の子を養えたものです」

「それだけ二人を愛しておるのだろう」

 響のルキアを見る目は優しかった。

 目に見えてわかる愛情を注がれているのだ。

 あれなら真っ直ぐに育つだろう。

 

「さて、私達も移動するとしようか」

「そうですね、白哉の顔を見ておきましょう」

「現実味がなくて、棒立ちしている姿が目に浮かぶわ」

「私もです」

 蒼純と白哉の様子を話しながら、幸せな未来に思いをはせた。

 

 

 白哉と緋真よ、幸せになれ!

 




銀嶺さんと蒼純さんのキャラは完全に捏造です。
あと、斬魄刀について指摘があり、名前を変更する事になりました。
まさかアニオリで出ていたとは知りませんでした。
今後、斬魄刀の名は「雷花」から「雷公」となります。


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第九話 ルキアの一日/彼の日記4ページ

ぎりぎりセーフ!
ちょっとトラブルが発生して、書いていた小説が大半吹っ飛びました。
なんとか間に合いました。
今回から他視点を先に書いて、後半に兄の日記を入れることにしました。
勘違いをうまく書いていけるように、少し試行錯誤していきますが、これからもよろしくお願いします!


「うむ、今日も清々しい朝だ」

 雲一つない朝焼けの空を見て、私は大きく深呼吸した。

「響兄様は……畑の方か」

 畑のある方向からバチバチと青い雷光が弾けて見えるという事は、始解状態の斬魄刀を振るっているようだ。

 やはり響兄様はすごいな、今でも十分鍛えられているのに毎日休むことなく鍛錬しているのだから。

 

 私も負けていられないが……今日は戌吊の里へ行ってみようと思うのだ。

 戌吊は私と姉様が物心つく前に響兄様に拾われた場所らしい。 

 そのおかげで私はこうして元気に暮らしており、姉様は白哉兄様と結婚できたのだ。

 特に姉様は体が弱かったらしく、もし響兄様と出会っていなかったら、戌吊で亡くなっていたかもしれないといっていた。

 

 響兄様は私達の命の恩人と言っても過言ではないのだ。

 この受けた恩を少しずつでも返していければよいのだが……。

 

 そんなことを考えながら、私は響兄様が用意してくれたおにぎりと焼き魚を頂く。

「うむ、流石響兄様、今日も絶妙な塩加減だ」

 

 器を片付けてから外出用の服に着替える。

 といっても、服装は鍛錬の時に使っている男性用の着物だ。

 下履きの袴もあるから、下着を見られる心配もない。

 

「響兄様にひと声かけてから行くとしよう」

 未だに雷光が煌めいている畑の方へ向かい、少し離れた位置から響兄様に声をかけた。

「響兄様! 少し出かけてくる!」

 私が声をかけると、兄様は不可思議な槍へと変化した斬魄刀を、畑に突き刺してこちらへと振り返った。

「あぁ、あまり遅くならない内に帰ってきなさい、無理はしない様に」

「む、承知した」

「うむ、では気を付けて行って来い」

「行ってきます」

 

 

「さて……戌吊は南の方だったか」

 戌吊の里はどのような所だろうか……姉様の話から察するに危険な場所なのだろう。

 だからこそ、こうして動きやすい服装をしているわけだが。

 

「む、木の実発見」

 木の幹を蹴りあがって、枝を掴む。

 片手の力でひょいと枝へ上る。

 木の実を三つほど貰って、地面へと飛び降りる。

 ふわっとした感じでうまく着地することに成功した。

 うむ、私も大分身軽に動けるようになったな。

 

 自分の動きに頷きつつも、響兄様なら一足跳びで木の実を取れただろうなと思う。

 やはり私はまだまだ鍛錬が足りないな。

 

 木の実を一つ頬張る。

「む、甘いな。 これは当たりだ」

 

 そんなことを考えながら歩き続けていると、景色が変わってきた。

 どうやら里に近づいてきたようだ。

「さて、どんな里なのか……」

 森を抜けると、少し離れた位置に民家が並んでいる。

 だが……。

「大分荒れているのだな」

 崩れかけた平屋に、そこら中にギラギラとした目をしている男達。

 隙あらば襲ってくるだろう。

 

 なるほど、確かに姉様と私だけで生きていくのは酷だろう。

「やはり、響兄様には大恩があるのだな」

 私はそれを返していけるだろうか……?

「いや、何を弱気なことを……返していけるかではない、返していくのだ」

 この里から救い出してくれた響兄様に、どう返していくかはまた今度考えるとして、今は里を見て回ろう。

 

「この里の食料はどうなっているのだ……?」

 里を見て回っても、どこにも畑はなく、それどころか水源すらもない。

 なぜ周辺に居る人物も悪人顔の男たちばかりなのだ?

「待てゴラあああああ!!」

「む? あっちか」

 思考を中断し、声がした方へ向かうと包丁を持った男が3人の子供を追いかけていた。

 

 男は目が血走っており、襤褸切れとなった服を身に纏っている。

 対する子供たちは普通だ。

 襤褸切れでないちゃんとした着物を着ている。

 

 しかし……なぜあの者たちは男から逃げているのだ?

 数も有利、見たところあの包丁を持った男よりも健康体だ。

 子供とはいえ、あの程度の輩ならあっという間に倒せるだろう。

 だが、実際には逃げている。

 

「聞いてみるか」

 足に力を入れて、瞬間的に加速して子供たちの隣に並ぶ。

 この歩法は響兄様に教えてもらった。

 足に力を入れてグッとすると、びゅんと移動できるが、止まるときにもグッと力を入れないと吹き飛んでしまうからな。

 中々習得が大変だった。

 と、そんなことは今はどうでも良いか。

 

「お主たちはなぜ逃げているのだ?」

「あぁ!? 逃げないと殺されちまうだろうが!! そんなこと言ってる暇があったら走れよ!! 追いつかれんぞ!!」

 赤い髪の男の子に尋ねると、壺を抱えながら必死に走りながらもそう答えてくれた。

 壺は結構大きく、ちゃぽちゃぽ聞こえることから水が入っていることがわかる。

「その壺をおいて走れば逃げ切れるのではないか?」

「それじゃあここまで苦労した意味がねぇだろ!!」

 ふむ……苦労して水を持ってきたが、あの男に狙われた……ということか。

「ならば奴を倒せばよいではないか」

「それができれば苦労しねぇ……ってうおおおお!? お前誰だ!?」

「私は水無月ルキアだ。倒せぬのか?」

「お、こりゃ丁寧にサンキュ……じゃねぇ! あいつ包丁持ってんじゃねぇか!! 殺されるわ!!」

 そこまで聞いてようやくわかった。

 要するにこの子供たちは、相手に武器があるから恐れているのだな。

 

 ちらっと後ろを見る。

「待てゴラアアアアア!! それは俺の水だあああああああ!! よこせえええええ!!」

 上半身を激しく動かしているため重心は定まらず、やたらと声を荒げては体力を使い、赤毛の男の子だけに注視する。

 うむ、武器を持っていても負ける気がせんな。

 まぁ、この子達にとっては危険な相手なのだろう。

 

「なら私が奴の相手をしよう。その間に逃げるがよい」

「はあ!? ちょっ!?」

 すぐさま反転して、響兄様直伝の歩法を使って一気に加速、そして止まることはせずに跳び蹴りを行う。

「ぐぺぇ!?」

 歩法によりいつも以上に速度の乗った跳び蹴りは、そのまま包丁を持っていた男の顔面へと突き刺さり、吹き飛んでいった。

 

 私は、反動をうまく利用して後方へ一回転しつつ着地。

 そして私が蹴った衝撃で放り投げられた包丁を、空中で受け取った。

 うむ、これではただの曲芸だな。

 

 手に持った包丁を握り込んだまま体勢を立て直して、いつでも動けるように構える……だが、いつまでたっても起き上がってこない。

 近くに立ってみるが、完全に伸びていた。

「あの程度で意識を飛ばすとは……弱すぎるな……」

 響兄様なら簡単に受け止められるし、受け流されたら私は何かにぶつかるまで止まらぬというのに。

 といっても元々男に攻撃を避けられるとも思っていなかったがな。

 まぁ、これならあの子供たちを追いかけることはないだろう。

 

 そう判断して、私は歩き出した。

「な、なあ!! ちょっとまってくれ!!」

 先ほど逃げるように言った子供に呼び止められた。

 振り返ると、三人の少年が頭を下げていた。

「ありがとう! アンタのおかげで助かったよ!」

「僕はもうダメかと思ってた……本当にありがとう!」

「俺も助かったぜ……ルキア、でいいんだよな?」

「うむ、ルキアで間違いないぞ。それに流石に見過ごせなかったのでな、礼を言われるほどではない」

 こうして面と向かってお礼を言われるとくすぐったいな。

 響兄様に日々の感謝をこうして伝えるのもいいかもしれない。

 

 三人は目を丸くして、私を見た後に何やら頷き合っていた。

 不思議に思ってみていると、壺を私に向って突き出してきた。

「む?」

 思わず首を傾げると、赤毛の少年が説明してくれた。

「俺達にはこれくらいしかねぇけど、受け取ってくれ」

「いや、私は見返りを求めて助けたわけではない。先ほども言った通り礼は不要だ」

「それじゃ、僕たちの気が済まないんだ!」

「そうだよ、ルキアさんが助けくれなかったら殺されてたかもしれないんだから!」

 二人の少年が納得いかないといった顔をしている。

 赤毛の少年はジッと私を見ていた。

 

「そう言われても困るのだが……」

 気持ちはすごくうれしい。

 響兄様が言っていた『恩を受けたら忘れずにいつか返せ』という行動を実践している人が居るのだと思うと、やはり響兄様の教えは間違っていなかったのだと実感できる。

 

「……それは受け取れぬ……しかし、いくつか聞きたいことがあるのだが良いか?」

 三人はお互いを見ると、頷いた。

「何でも聞いてくれ!!」

「ではまず、お主たち住処はどうしておるのだ?」

「特にこの場所って決まってねぇ、うまく隠れてんだ」

 なるほど……つまり三人は家なしか。

「では次だ、食べ物などはどうしている?」

「……今日みたいに盗ってきたりしている」

 取ってきているのか、狩場が近くにあるのだろうか?

 

「では最後に、お主たちがここで生きるのは大変ではないか?」

「……毎日命懸けだ」

「なんでこんなところにいるんだろうね、僕たち」

「頼りになる人なんて誰もいないし……」

「そうか、やはり辛いのだな……よし!! ならば私が貴様たちを守ってやろう!!」

「は?」「へ?」「え?」

 呆けた声が聞こえたが、私は決めた。

 

 響兄様が私たちを護ってくれたように、私が他の誰かを護れば私の様に幸せになれるだろう。

 響兄様には少し申し訳ないが……きっと笑いながら許してくれるだろう。

 そうと決まれば善は急げだ。

「今から家に戻る、私について来るがいい……それと私のことは姉と呼べ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!? どういうことか全くわかんねぇんだが!?」

「よろしくお願いします! お姉ちゃん!!」

「よろしく! 姉さん!!」

「お前ら順応が早すぎるだろ!? ツッコめよ!! ツッコミ所満載だろうが!?」

 

「む、そういえば貴様らの名前を聞いていなかったな……よし、まず赤毛の貴様から自己紹介せよ」

「お前も流すなよ!? ……阿散井恋次だ」

「僕は森高雄二です、よろしくお願いします! お姉ちゃん!」

「俺は二宮誠司だ! よろしく!」

 ふむ、黒髪の方が森高雄二で、少し緑色に見える黒髪の方が二宮誠司か。

 恋次はこの辺りでは見ない真っ赤な髪色をしているから実にわかりやすいな。

 

「改めて自己紹介しよう、私は水無月ルキア。これからはお前たちの姉になるのだから頼って良いぞ!」

「待て! 俺はまだ姉とは認めてねぇぞ!!」

「恋ちゃん往生際が悪いよ」

「姉さんはどんな所に住んでんだ?」

「良いところだ! 今の所あの家以上に良い所を私は少ししか知らないからな」

「まじか!! 楽しみだ!!」

 恋次たちと騒がしくしながら帰り道につく。

 

「お、お姉ちゃん結構遠くから来たんだね……」

「もう夕日が見えるな」

 家まであと少しの所まで来たが、雄二が疲れてしまったようで、歩みを止めた。

「ふむ、あと少しだが……仕方あるまい」

「…………なぁ、ルキア」

「恋次、姉と呼べと私は「それはどうでも良いからよ、なんでしゃがみこんでんだ?」……姉とは呼んでくれぬのか……まぁよい。決まっておろう、おぶってやるのだ」

「よし、雄二まだいけるよな?」

「と、当然!! まだ頑張れるよ!!」

 私が言うと同時に雄二は立ち上がり、恋次は雄二に励ましの声をかけていた。

 

「む? そうか……だが無理はするなよ?」

「大丈夫!」

「おーい! あっちの方にすげぇ家があるぞ!! 姉さん! もしかしてあの家か!?」

 雄二の様子を確認して大丈夫そうだと判断すると同時に、先に進んでいた誠司が興奮気味に戻ってきた。

「そうだ、大きな家だろう?」

「死神の住処みたいだった!」

「どんだけだよ!? 俺にも見せてくれ!!」

「あ、待ってよ恋ちゃん!! 僕も見る!!」

 

 恋次達は誠司の言葉に疲れが飛んで行ったのか、走って先へと向かってしまった。

「なんだ、まだまだ元気ではないか」

 思わず笑みを浮かべながら、私も走り出した。

 

 少し進んでしまえば、そこには私の家が見える。

 恋次達は呆けた表情で家を眺めていた。

 

「いつまで呆けておるのだ、行くぞ」

「……おー……」「すごーい」

「すげぇよな! 姉さんてもしかしてお嬢様?」

「まさか、私がそう見えるか?」

「姿だけならな!」

「失礼な奴だ」

 軽く誠司を小突いて、門へと向かう。

 

「すげぇな……え、俺たちここに住むのか?」

「夢みたい……恋ちゃん、僕、実は寝てるんじゃないかな……」

「恋次! あっちに畑もあるぜ!」

 後ろが非常に騒がしいな……まぁ、あの里に比べれば天と地の差があるからな。

 

 私は兄が居るであろう台所へ裏口から回った。

「響兄様!! 弟達を拾ってきました!!」

 戸を開けると同時に言い放つ。

「そうか、食事の用意はできているから、居間の方で待っていなさい」

「はい! ……あの、よろしいのですか?」

「優しい子だ、案内してあげなさい」

「はい!!」

 

 

「恋次! 誠司! 雄二! 響兄様が食事を用意しているから、手を洗ってから居間へ行くぞ!」

「お、おう……ん? 響兄様って?」

「私を育ててくれている兄だ、それよりも急げ!」

「はーい」「……おう」

「もう腹ペコだぜ」

 

 風呂場で手を洗い終わり、居間の食卓に着いたが……どうも落ち着きないな私の弟たちは。

 首を傾げながらその様子を見ていたが、恋次が何かを言いかけた。

「待たせたな、今日の晩御飯は牡丹鍋だ」

 響兄様が香ばしい香りのする鍋を持ってきた。

「ルキア、台所に握り飯がある、取ってきてくれ」

「わかった」

 台所に入ると、大きめに握られたおにぎりが……20個……多くないか、響兄様。

 

「恋次!! すまぬが運ぶのを手伝ってくれぬか!!」

「お、おう! 任せとけ!! って多っ!? でかっ!?」

 流石にバランスをとっても私では10個が限界だ。

 一つ一つが大きい。

 

「すまぬな、どうも響兄様は私がお前たちを連れてくることを予想していたようだ」

「は? 今日偶然会ったのにか?」

「この量の握り飯を私と響兄様で食べることは無理だ、となるとやはり予想していたとみて間違いないだろう」

「……お前の兄さんは未来でも見えるのか?」

「さてな、何でもできる兄故私にもわからん……というか、恋次、貴様の兄でもあるのだぞ」

「……そうだったな」

 何やら複雑そうな顔をしているが、響兄様にかかればその不安もすぐになくなるだろう。

 

「では、頂くとしよう」

「いただきます」

「「「……いただきます」」」

 挨拶したものの、恋次達は鍋から具を取ろうとしないな。

 

「遠慮せず、たくさん食べなさい」

 恋次達の様子を見ていると、響兄様がお玉を持って取り分け始めた。

 恋次達のお椀には、肉と野菜が均等に盛られていた。

 

「……うっす」

「い、いただきます」

「頂きます」

 恋次達はようやく食事に手を付け始めた。

 

 そして、最初の一口を口に入れると固まった。

「……うめぇ……」

「美味しい」

「やっべぇ、なんだこれ」

 

 正気に戻ると、今度は米を頬張り、また肉や野菜を口に入れていく。

 その様子を響兄様は笑みを浮かべてみていた。

 

 私も食事を続けようとして、思わず手が止まった。

 なぜなら恋次達が涙を流し始めたのだ。

 

「うめぇ……うめぇよぉ……」

「こんな美味しい物を食べられるなんて……夢にも思わなかった……」

「……………………」

 三人とも、涙を流しながらも食事の手は止まらなかった。

 一つ食べるたびに「うまい」と口にする。

 それほど、戌吊での生活は大変だったのだろう。

 やはり、私がしたことに間違いはなかった。

 

 そうして、恋次達は鍋をお腹一杯になるまで食べた。

 すると、響兄様が恋次達に向き直った。

 

「恋次、雄二、誠司」

 恋次達は、響兄様をみた。

 響兄様は、優しい笑顔で三人をギュッと抱きしめた。

「戌吊での生活は辛かったろう、よく耐え抜いた。今日からここがお前たちの家だ。これからは私がお前たちを護ろう」

 そこまで言って、三人を離した。

 三人の目は既に決壊寸前だった。

 

「よく帰ってきた、お帰り」

 最後の言葉が決定打となり、三人は泣き出した。

 涙声で聞き取りづらかったが、ありがとうと言って泣いた。

 

「ふふふ、こうして感謝されるのは嬉しいものだな」

「ルキアもよくやったな」

 響兄様が私の頭をなでてくれる。

 

 私は笑顔でこう言ったのだ。

「私は響兄様と同じことをしただけだ。 響兄様が私にしてくれたことを誰かにしてあげたいと思っただけなのだ!」

 

 響兄様は優しい笑顔で、再び頭をなでてくれた。

 そんな響兄様に私は胸を張っていった。

「明日からは忙しくなるぞ、弟が増えたのだからな!」

 

 

 

 

 主人公の日記

 

 今日は珍しくルキアが鍛錬せずに出かけて行った。

 珍しいこともあるもんだなーと思ってたら、子供を三人連れてきた。

 しかも、弟にしたらしい。

 なにを言ってるかわか(略

 

 ちなみに名前は阿散井恋次、森高雄二、二宮誠司

 見事に全員最後の文字が『じ』で終わってる。

 って、どうでもいいか。

 

 近くの里といえば戌吊しかないが、ここまでよく歩いて来たなと思う。

 俺やルキアならまだしも、子供の足ではかなり大変だったろうに。

 

 というわけで、牡丹鍋を振る舞った。

 白哉が来た時も牡丹鍋だったし、今日は間違えて米を炊きすぎてたから丁度良かったよ。

 あと、どうでも良いことなんだけど獣肉は腐りかけがうまいらしい。

 

 食事の時になにやら遠慮してたので、がっつりと器に盛ってあげた。

 気分的にはおいちゃん。

 ほれほれ、どんどん食え、おいちゃんが盛ってやろうって感じで盛ってあげたら泣かれたでござる。

 うまいと言いながら泣いていたので、腐りかけたイノシシ肉は泣くほどうまいらしい。

 これからは獣肉は全部腐りかけまで熟成しようと決めた。

 

 それ以外のうまい飯もたくさん食わせてやろう。

 

 これからこの家がお前たちの家だと言ったら泣かれた。

 そしたら何故か親父と呼ばれた。

 親父じゃない、兄と呼べ、そこまで老けとらんわ!

 

 

 

 追記

 

 翌日から弟たちが仕事を手伝ってくれるようになった。

 しかも笑顔だ。 

 ここに来る子は皆良い子だなー。

 

 恋次は護ってくれたルキアに惚れたらしく、ルキアの鍛錬に付き合って倒れていた。

 体力作りもなしに、ルキアの鍛錬にはついていけんぞ、恋次よ。

 頑張れ、男の子!

 

 

 

 

 




というわけで、ついに恋次達が主人公の家族になりました。
さらにその時に一緒にいたキャラクターをオリキャラとして登場。
オリキャラを二人に減らしたのは単純に作者の技量不足です。

さて……明日に向けて次の執筆を始めなきゃ……!


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第十話 響の優雅な一日

ここから何話か日常回に入ります……え?いつも日常回だって?
日常がやっぱり楽しいですもの!

今回は主人公目線で、一日を書いてみました。
日常回が終わると時間が一気に飛びます。


 農業をする俺の朝は早い。

 外がまだ暗い時間に俺は起きる。

 

 洗面所で顔を洗い、襟足を緋真からプレゼントされた髪紐で纏める。

 こうしてみると、俺の体はどこぞの青い兄貴の様だ。

 始解した斬魄刀も赤色をした槍だし、卍解したら全身青タイツになったりしないだろうな……。

 少し恐ろしい未来を想像しつつも、外の冷暗所へと向かう。

 

 冷蔵庫が欲しい。

 それが無理ならば、ルキアの斬魄刀『袖白雪』にこの部屋を凍らせて欲しい。

 といっても、ルキアはまだ斬魄刀を持ってないし、死神になるかもわからない。

 もしかしたら、このままこの家で生涯を終えるかもしれないしな。

 

 そんなことを考えつつ、昨日恋次達と釣ってきた魚を二匹ほど取り出す。

 本当にここは良い立地だ。

 山に行けば、肉に山菜、木の実などもとれるし、近くには川があって魚もとれる。

 前は岩塩や胡椒を使っていたが、緋真がよく調味料を送ってくれるので味付けに困ることもない。

 尸魂界には現世で死んだ魚がここへ流れてきているのか、たまに海水魚がいるんだよな。

 不可思議ワールド万歳。

 

 今回釣った魚は鮭だ。

 丸々と太った美味そうな魚だ。

 さっと三枚におろして、塩を振って下味付け。

 おいている間に米を炊く。

 あの日のミスをもう一度やらない様に、慎重にやる。

 

 米が炊けたら、蓋を開けて混ぜる。

 そんで少し冷ます。

 冷ましている間に、鮭を焼く。

 瓶に入れられた油を使って、皮の部分をパリッとするまで焼く。

 

 焼きあがった鮭を器に移す。

 一人二切れだ。

 冷めたお米を塩を付けた手で握る。

 おにぎりは一人三個まで。

 

 ルキアと雄二の分は少し小さめ。

 恋次と誠司の分は大きめに作る。

 これはしばらく一緒に暮らしていて見極めた。

 

 虫がつかない様に竹籠を被せて、朝食の用意は終了だ。

 

 畑の方へ移動しながら自分の握り飯を食う。

 鮭は先に出来立てを一切れ食ったから問題ない。

 

 空を見れば少し白んできている。

 もうじき夜明けだ。

 

 畑に付くと、トマトやナス、キュウリなど様々な作物が実っている。

 前までは米も作っていたんだが、これまた緋真が送ってくるので作る必要が無くなった。

 うぅ、うちの子供たちは本当にできた子やでぇ……。

 似非関西弁を脳内で使いつつ、いつもの日課を行う。

 

 斬魄刀を鞘ごと取り出す。

「覚醒めよ、雷公」

 解放された雷公は、赤色の槍らしきものへと変化する。

 

 いつも不思議に思う。

 この槍は先端の刃の部分に大きな丸があり、その下に四角いハンマーみたいなものがついている。

 …………正直、俺にはこれがおでん槍に見えてくる。

 先端の槍の部分が三角こんにゃくで、丸が大根、四角がちくわである。

 いや、先端部分は串か……俺、おでんは大根が好きなんだ。

 

 なんて思いつつ、雷公を帯電させる。

 そして、作物が生っていない畑へと振り下ろす。

 すると、雲もないのに空から雷が落ちる。

 雷公曰く、電気を自身が誘発することで電界を作り出し、そこからさらに摩擦やら何やらを起こして、雷を生み出すことができるらしい。

 あと、畑に雷を落としているのは、雷公がそうすると土地が良くなるといったからだ。

 君、斬魄刀だよね?

 まぁ助かるからいいんだけど。

 

 

「おーい! 兄貴! 手伝いに来たぜ!!」

 そうして、槍を振りながら雷を落としていると、離れた位置から恋次の声がする。

 帯電させるのをやめて、振り返るとクワを持った恋次と籠を持った誠司と雄二が見えた。

 ルキアがなぜ此処に居ないかと言うと、畑仕事は男の仕事だと恋次達に説得されたので、今は自己鍛錬中だろう。

 家の周囲を走り回っているルキアの霊圧を感じる。

「おはよう、恋次、雄二、誠司」

「おう、おはよう! 飯、美味かったぜ!!」

「おはようございます、お兄ちゃん! あれって昨日僕が釣った魚だよね?」

「いつも美味い食事ありあり!」

 

 実に元気のいい弟達である。

「昨日雄二が釣った魚は美味かったか?」

「やっぱりそうなんだ! すごくおいしかった!!」

「めちゃくちゃ美味かったぜ! 俺も上手く釣れてりゃ一切れくらい増えてたかもしれねぇって思うとやっぱ悔しいわ」

「次はおろしポン酢を所望す!」

「あ! それ美味しそう!!」

「そうかぁ? 俺は塩味が一番だと思うぜ」

「恋次はただルキアと同じにしたいだけだろ」

「ばっ!? ちげぇよ!? 塩が一番いいんだ!!」

 

 ギャーギャーと騒がしくなってきたなぁ。

 とりあえず恋次の頭に手を置く。

「!? あ、兄貴?」

 なんかびくぅとしたな。

 それがなんかおかしくて、ちょっと笑った。

「さて、そろそろ仕事に戻るぞ」

「お、おう!! 俺は畑を耕してくる!! 鍛錬にもなるからな!!」

「じゃあ、僕たちは実ってる作物を取ってくるよ!」

「俺は芋を掘り上げる」

「まだ、植えたばっかりでしょ、ほら、いくよ」

「あぁ~~~芋が! 芋が俺を呼んでいるんだ!!」

「先にきゅうり!」

 

「にぎやかになったな」

 おらぁ! おらぁ! と言いながら畑を耕す恋次。

 芋ーー! と叫びながら実ったキュウリを取る誠司。

 そんな誠司を監視しながら、自分も収穫時のキュウリを取る雄二。

 

 うむ、実に良い。

 一人で黙々とするより、こうして家族でワイワイとやった方がいいな。

 ……ルキアが拗ねてないといいが。

 そんなことを考えつつも、俺もクワを持って畑を耕し始めた。

 

 取ったキュウリはいくつかは漬物にしよう。

 

 

 

 

「組手用意」

「はい!」「おう!」

 俺の言葉を合図に、ルキアと恋次が面と向かって立ち会う。

 恋次がこの家に来てから、ルキアと恋次はこうしてよく組手をしている。

 まぁ、恋次がルキアに勝てたことはないけどな!

 

「では、始め!」

 気合を入れて始まりの合図を出す。

 やっぱり始めの時はこうしていい声出さないとな!

 

「おぉぉらあああ!!」

「脇が甘い」

 恋次の大ぶりの一撃を、片手で払って軌道を変え、わき腹に手刀。

 寸止めして、すぐさま離れる。

「ちぃ!」

 

 恋次はまだまだ精神鍛錬が足りない。

 故に、すぐに熱くなって大ぶりになる。

 指摘された当初は脇を締めて、隙をさらさない様にしているが、受け流され続けると……。

「だあああ!! くそったれえええ!!」

「だから脇が甘いと言っておろう」

 最初の状態に戻るのである。

 

 このような組手を初めてやらせた時は。

「女相手に本気で殴れるか!」

 と言っていたが、それを聞いたルキアが不敵な笑みを浮かべて。

「案ずるな、貴様の攻撃などあたりはせんよ」

 と言っていた。

 それを聞いた恋次は、眉をピクピクさせて「上等だああああああああ!! やあああってやらああああ!!」と叫んで、振り回された挙句、体力不足でダウンしたからな。

 

「貴様は痛い目を見ないとわからんのか」

 考え事をしていると、ルキアがそういって恋次の隙をついて蹴とばした。

「ぐへええ!? ま、まだまだあああ!!」

「学ばねばいつまでたっても、私に一撃を与えることなどできんぞ!」

 

 うん、活き活きしてるねぇルキア。

 まぁ、一応回道も蒼純に教わったから怪我も直せるし、ほどほどにな。

 

 

 

 ルキアと恋次の鍛錬が終わり、俺は刀を持って刃禅する。

 あっという間に精神世界に入った俺の視界に広がるのは、黄金の稲穂畑と大きな神殿だ。

「おぉ、ようやく来たか貴方様」

「雷公」

 声を掛けられて振り返った先には、古代巫女の装束に黄金の羽織を纏った黒髪美少女がおり、その腕には二匹の蛇が巻き付いている。

 この子が俺の斬魄刀の姿である。

 何故俺の魂からこんな美少女ができるのか、これがわからない。

 

 そんなことを考えていると、雷公は不満そうに頬を膨らませた。

「もぅ……せっかく妾に会えたのだから、もう少し嬉しそうな顔をしてもよいのだぞ?」

「すまんな、これが私だ」

 そういってから、俺は雷公の頭を撫でる。

 というか、このやり取り来るたびにしているのだが……雷公も年下に見える所為か妹扱いしてしまうのだ。

「全く……貴方様は……」

 あきれながらも仕方ないといった表情をしている雷公はかわいい(確信)。

 

「では、貴方様。始めるとしようか」

 雷公が少し離れた位置に瞬歩で移動すると、その手には解放状態の雷公が握られた。

「あぁ、宜しく頼む」

 俺も雷公を解放状態へと変えて、腰を低く構える。

 雷公には身体能力をブーストさせる能力があるらしい。

 よくわからないが、俺はその効果をちゃんと使っているらしい。

 

 いつから使っていたのか全く分からん。

「ふふふ、ではたくさん遊んでくだされ」

 はっはっは、何を仰るこっちは命がけです。

「退屈させないよう善処しよう」

 ここでは雷公が俺に修行をつけてくれる。

 武器の使い方から雑学まで、全部雷公が教えてくれたものだ……。

 何故雷公が雑学を知っているのかは知らないがな!

 

「せいっ!」

「…………」

 雷公が槍で刺突を行う。

 その時にはルールがある。

 必ず、雷公の槍と突き合わせること。

 最初はそれってとんだムリゲーだよと思ったが、合わせることができるように槍をゆっくりと突き出してくれる。

 俺はそれにうまく突き合せているのだ。

 槍の突き合せ作業を100回ほど無心で行う……突き合せるたびにギンッ! という鋼が打ち合う音がする。

 なんでこんなにゆっくり突き合せてるのに大きな音がすんだよ。

 

「うむ、貴方様も大分慣れてきたようだな」

「そうか」

 槍の突き合せが100を超えると、雷公が満足そうに頷く。

 ……いや、そりゃあんなにゆっくりとした突きなら何百回も繰り返してればできるようになるって。

「ふふふ、妾は嬉しいぞ。貴方様はどんどん妾を上手く使えるようになっていく。これならもうすぐ具象化もできようぞ」

 具象化か……ルキア達に雷公の姿を見られたら何て言われるかねぇ……。

「兄様の魂はこんなにも綺麗なのですね!」とか言われたら、なんて顔していいかわからんぞ。

 

「今日はこんなところでよかろう、また明日待っておるぞ」

「あぁ、いつもありがとう、雷公」

 俺が礼を言うと、雷公はくすぐったそうに笑う。

「自分の斬魄刀に礼を言う人など貴方様くらいだろうな」

 笑った雷公の顔を最後に、俺は現実世界へと戻ってきた。

 

 いつもながら、わずか数分の間にあれだけ濃密な訓練ができるとは……やはり漫画の世界は不思議だな。

 斬魄刀を腰に差して立ち上がる。

 

 ルキア達は筋トレを始めていたらしい。

「132、133、134」

「お……おおおおおお……!」

 平然と回数を数えるルキアの隣で、腕をプルプルさせながらも必死に食らいつく恋次の姿。

 うん、筋トレが終わったら確実に筋肉痛になるな。

 

 うんうん、惚れた相手よりは強くなりたいよな。

 護ってやりたいよな。

 頑張れ、恋次!

 先はまだまだ長いぞ!

 

 心の中で恋次に声援を送りつつ、俺はその様子を眺め続けた。

 

 

 

 鍛錬が終わり、今度は雄二と誠司の二人とともに山菜集めである。

 恋次?

 あぁ、腕が動かなくなって家で寝てるよ。

 ルキアはそんな恋次に呆れた視線を送りながらも、面倒を見る様だ。

 

「お兄ちゃん、あれって松茸じゃない?」

「そうだ、よく見つけたな、偉いぞ」

「えへへ。取ってくる!!」

「気をつけてな」

 恋次のことを考えていたら、雄二が松茸を見つけた。

 この森も川と同じで、様々な山菜が存在している。

 毒キノコもあるから気を付けなければならないが、雷公が教えてくれるので毒キノコを採ることもない。

 

「お、なんかうまそうなキノコがあるぜ」

 誠司が見つけたのは白いキノコ……採ろうとしたので、手で制した。

「それはドクツルタケ……毒キノコだ」

「え? 結構美味そうなのに毒キノコなのか?」

「触るだけでは問題ないが、一本食すと確実に死ぬ」

「こわっ!? え!? 一本食っただけで死ぬの!?」

「あぁ、だから私と共に居ない時は絶対にキノコを採るなよ」

「絶対取らない! ……なんかそこら辺にめっちゃ生えてんだけど……」

 俺も雷公が教えてくれなかったら食べていたからな……毒性の説明を聞いて引いたものだ……。

 本当に雷公が俺の斬魄刀でよかったよ。

 

 その後、こしあぶらとたらの芽、あおこごみを採取して家へと帰った。

 本日はてんぷらに決まりだ。

 

 帰ってくれば、ルキアと恋次が木刀を振っていた。

 素振りも大分堂に入ってきた。

 そろそろアレを二人に渡してもいいかもしれない。

 寝る前に二人にアレを渡そう。

 

 だが、まずは夕飯と風呂の準備である。

「ルキア、恋次、誠司、雄二、悪いが風呂の準備をしてくれるか?」

「む、わかった。では、私は水汲みをしよう。あれは良い鍛錬になる」

「……お、俺も水汲みをやるぜ……」

「恋ちゃん、無理しないでよ。流石にその腕じゃ無理だって」

「今日は俺が水汲みするぜ。ルキア姉! 行こうぜ!」

「あぁ。恋次、誠司。そっちは火の準備を頼むぞ」

「はーい、あ、お兄ちゃんこれ渡しとくね」

「あぁ、ありがとう」

 誠司から山菜の入った籠を受け取る。

 

「ぐぅ……こ、これくらい……!」

「ほら行くよ、恋ちゃん」

 全く文句も言わずに風呂焚きしてくれる妹と弟に俺は感動が隠せない。

 もし、前世で頼まれたら絶対に面倒くさがるぞ、俺は。

 

 

 4人の姿を見送って、俺は夕飯の準備に入った。

 

 

 夕食を食べ、風呂である。

 大体子供なら2~3人ほどが入れて、大人一人なら広々と足を伸ばすことができる。

 風呂からあがったら、ルキアと恋次にプレゼントだな。

 二人はどんな顔をするだろうか。

 まぁ、喜んでくれるだろう。

 

 しかし、なんであんなところに突き刺さっていたのだろうか?

 いや、まぁ、俺としては嬉しいんだがな。

 誠司と雄二は興味なさそうだし。

 

 そんなことを考えつつ、風呂を満喫して、さっぱりした。

 甚平に着替えて、涼みつつ居間にいたルキアと恋次を自室へ呼んだ。

 

 

「それで響兄様、一体なんの用なのだ?」

「ルキアはともかくなんで俺まで?」

 二人は呼ばれた理由がわからなくて首を傾げている。

 

「二人とも、木刀を振るのが様になってきたな」

 俺がそういうと、少し照れた顔をした。

「日々の鍛錬もよく頑張っている……そこでだ、お前たちに私から贈り物がある」

 アレをしまっている戸棚を開けて、布に包まれた箱を二つ取り出した。

 

 それぞれを二人の前に置いた。

 何やら二人とも目が輝いている。

 期待した目でこちらを見る二人に頷いてやる。

「開けてみなさい」

「はい!」「おう!」

 

 二人は待ちきれないといった感じで、箱を開いて、息を飲んだ。

「ひ、響兄様……これは、もしや……?」

「すげぇ……これって……!!」

 次いで、震える声で俺に問いかけてきた。

 俺は二人に頷いて答える。

「今日より、斬魄刀『浅打』を持つ事を許す。常に持ち歩き、自身の斬魄刀を目覚めさせなさい」

 

 そう二人に渡したのは、斬魄刀『浅打』である。

 少し遠出した時に見つけた洞窟の中で、大量の斬魄刀を見つけたのだ。

 雷公によると、この斬魄刀達に持ち主はおらず、長年放置されていたようだ。

 

 何故放置されていたのかはわからないが、恋次達を迎えた後に人数分の斬魄刀を拝借した。

 持ち主がいたなら罪悪感も湧いたと思うが、雷公がこのまま使われずに終わる方がかわいそうだと言うので、人数分だけ貰って来たのだ。

 …………っていうか、斬魄刀って勝手に持ってもいいものだっけ?

 まぁ、俺が持ってるんだから大丈夫だろ。

 確か更木剣八も奪ったって言ってたし。

 

「よっしゃあああああああ!!」

「……私の……斬魄刀か……ふふふ」

 どっちにしろ、喜んでいる二人を見られて、俺は満足である。

 あと、ルキア。

 できるだけ早く目覚めてくれ。

 

 冷暗所を冷凍庫に変えたいんだ。

 

 

 こうして、今日も賑やかな一日が終了した。

 おっと、寝る前に日記をつけておかないとな。

 

 

 

 

 家の子達は実に良い子ばかりだ。

 畑仕事に山菜採取、風呂焚きなど何でも手伝ってくれるし、嫌な顔一つしない。

 その孝行っぷりを前世の俺にも叩き込んでやりたいな!

 

 誠司と雄二にはキノコの恐ろしさを教えておいた。

 決して俺がいないところでキノコを採ってはいけないぞ。

 恐ろしい毒キノコも生息しているからな。

 

 それと、今日は木刀を上手く振れるようになってきた恋次とルキアに、斬魄刀をプレゼントした。

 すごく喜んでくれた。

 うんうん、これで放置されていた斬魄刀も報われるだろう。

 

 ルキアの袖白雪が待ち遠しいな。

 冷暗所が冷蔵庫に早変わりだ。

 

 恋次も斬魄刀を目覚めさせることができれば、どんどん強くなるだろう。

 お兄ちゃんは二人を応援しているぞ!

 




というわけで、主人公は無断で斬魄刀を拝借してました。
書く予定はないので言っておきます。
放置されていた斬魄刀は二枚屋王悦が作っていた斬魄刀『浅打』の試作品の保管庫で、本当は結界が張られているんですが、無意識で透り抜けしました。
試作品なので通常の浅打違い、少々特殊な斬魄刀になっております。
通常の浅打が安定した量産型、試作品が特殊効果を持った一点物と言った感じです。

その斬魄刀を受け取ったルキアと恋次の始解は……お楽しみということで!

ついでにどうでも良い毒キノコ解説
作中に出たドクツルタケですが、これはどうやら美味しい毒キノコというやつらしいです。
ただし、食べた後の初期症状が腹痛、下痢、嘔吐の症状が現れ、一日ほどで治るそうです。
しかし、恐ろしいのはそのあと。
食して一週間ほどすると、肝臓、腎臓に黄疸ができ、肝臓肥大、胃腸から出血などを起こし、口から血を吐いて死に至るそうです。
致死量はなんと8g
一本食べてしまったら、確実に上記の症状が出るそうです。
助かるには早期に、胃洗浄、血液透析などを行わなければならないそうです。
世の中にはなんとも恐ろしい毒キノコもあるのですね。


お知らせ

8/4、21時の投稿はお休みになります。
病院への付き添いがありますので……その代わり良ければリクエスト小説を一つ書こうと思いますので、リクエストがアレば活動報告の方にコメントお願いします。
ifの物語でも、遥か未来のことでも、はたまた誰かをヒロインにしたものでも構いませんので、その中で書いてみたいなと思ったものを書きます。
まぁ、少し時間を頂きますが、明日以降からは本編も更新しますのでご心配なく!
……まぁ、なにもなかったら書かないんですけどねー(白目)
明日の更新時間まで受付しますので、リクエストがあればコメントどうぞ!
では、長々と失礼しました!

追記
感想でリクエストを受けるのは規約違反になりますので、活動報告の方でお願いします!
厳守ですよ!


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第十一話 恋次の修行日和

今日は健康診断だという事を忘れてた……だが、投稿すると言ったので書き上げたよ……眠い……




「……俺の斬魄刀かぁ……」

 昨日寝る前に兄貴に呼ばれた時は、何かしたかと思ったけど……とんだ贈り物をしてくれたもんだぜ。

 

 兄貴の授業を受けてるから、斬魄刀がどういったものかは知っている。

 実際兄貴が解放する所も見たからな。

 

 兄貴の斬魄刀の名は『雷公』

 能力は知らねぇけど、畑に雷が落ちてっから、多分雷を操る能力だと思ってる。

 

 俺の斬魄刀はどんな風になんだろう。

「確か斬魄刀を解放するためには、対話と……同調……すんだよな?」

 けど、対話ってどうすりゃいいんだ?

 兄貴と同じように『刃禅』ってやつをやりゃいいのか?

「物は試し……やってみるか!」

 

 早速兄貴がやっているように、胡坐をかいて、斬魄刀を鞘に納めたまま膝に乗せる。

 んで、確か目をつぶってたよな。

 

 同じように目を閉じる。

 特に何かを感じることもねぇ……けど、少しこうしていれば何かわかるだろ。

 

 

 

「……はっ!?」

 ふと意識が覚醒する。

 周りを見ると、太陽が真上にあった。

「……俺に刃禅とかいうのは向いてねぇな」

 完全に昼寝してたわ。

 

 やっぱりこう大人しくしているのは性に合わねぇ。

 だったら斬魄刀を振りつつ、声をかければいいじゃねぇか?

「よし、しばらくそれでやってみるか」

 斬魄刀を鞘から抜いて、正眼に構える。

 剣道ってやつの基本の型らしい。

 素振りにはこれが一番向いてる。

 

「行くぜ……俺の斬魄刀おおおおお!!」

 上段から一気に振り下ろして、しっかりと止める。

 木刀でやってきた動作が、斬魄刀になっただけで重心が乱れて、しっかりと止めることができない。

「ぐぅ……まだまだあああ!! ハッ! ハッ! ハッ!!」

 何度も振り上げて、振り下ろして、重心を維持したまま、しっかりと止めることを意識する。

 

「俺の! 斬! 魄! 刀! めざ! めろおおおおおおおおおおお!!」

「うるさいわ!! 莫迦者!! 刃禅ができぬではないか!!」

 斬魄刀に声をかけつつ、素振りをしていたらルキアに鞘を投げつけられた。

「ぐっは!? 何すんだてめぇ!?」

 ガツンと頭部に衝撃を受け、落ちてきた鞘を受け取りつつルキアに叫んだ。

「先程から大声で叫びおって、私の居た所まで声が響いて来たわ! その所為でまったく集中できん!!」

「あぁ? あんだけ体動かすのが好きなお前が刃禅とかできるわけねぇだろ? どうせ寝てたんだろ?」

「……うるさい」

「図星かよ」

 ふてくされたようにそっぽを向くルキアに、内心で自分だけじゃなかったと安堵する。

 

「てかよ、どうすりゃ斬魄刀って目覚めんだろうな?」

 ふと疑問に思って聞いてみた。

 それに対してルキアからは冷たい目線……なんでだよ。

「響兄様の話を聞いてなかったのか? 対話と同調することで解放できるようになるのだろう」

「いや、そりゃ俺だってわかってる。そうじゃなくてよ、いつ話せるんだろうなってことだよ」

 俺がそういうと、ルキアは考えるように指を口に当てた。

 

「そういえば……斬魄刀を渡された時に『常に持ち歩き、自分の斬魄刀を目覚めさせろ』と言っていたな……ということは、共に過ごすことで話しかけて来る様になるのではないか?」

「……ってことは、今日明日で解放できるようになるもんじゃないのか」

 俺の言葉に、ルキアは頷いた。

「そういえば、響兄様は『魂の現身』とも言っていた。そうなると、私達の魂を馴染ませる必要があるのではないか?」

「……それってどうやんだ?」

「それこそ響兄様が言っていた『常に持ち歩く』しかなかろう。自身の発する霊圧が『浅打』に影響を与えるのだろう」

 

「それって刀に霊圧あてればいいんじゃねぇか?」

「さてな……そもそも霊圧を当てようにも、霊圧の発し方を私は知らん」

「……そういや、俺も知らねぇな」

「というか、そもそも霊力とはどう練るのだ?」

「いやお前……それを俺に聞くか? っていうか、お前あの歩法で霊力ってやつ使ってんじゃねーのか?」

「縮地の事か? あれは足に力を入れて一気に加速しているだけだ……恐らく」

「自信なさそうだなオイ」

 思わず二人して頭を抱える。

 

「けどよ、あんな速い動きを霊力なしでできんのか?」

 姿が見えないくらい速いんだが、鍛えたらそんなに速くなるのか?

「ふむ……言われてみれば……よし、恋次、やってみよ」

「は? あの歩法教えてくれんのか?」

 思わず尋ねてみれば、ルキアは頷いた。

「私は感覚で使っているからな。上手く教えられるとは思えんから……絵を描いて教えよう」

 そういってルキアは木の棒を持って、地面に絵を描き始めた。

 

「ここをこうして……こう、そして、こうだな……その後は、ここに力を入れて……」

「なぁ、ルキア……」

「なんだ?」

 地面に書かれた絵? を見て、俺は尋ねた。

「この部分はどこだ?」

「? 見ればわかるだろう? 足の筋肉だ。 ここの事だな」

「…………」

 ルキアが自分の脹脛を撫でてそういった。

 足の筋肉? このうさぎっぽい顔の着いた丸の中にたくさんあるうさぎ? の顔が?

 

「んじゃ、これは?」

 その足先にうさぎ? の頭の中をクマ? みたいな顔が三つほど並んで描かれている……いや、まじでこれ何のことを表してるんだ?

「これは力の入れ方だ。こうして流れているだろう?」

「……おう! そうだな!」

 この絵はダメだ!

 俺は早々に絵を理解することを諦めて、なんとなくでその構図を理解することにした。

 とにかくうさぎは筋肉で、クマは力の流れだ!

 

「そこでこうするのだ」

「今度は何だ!?」

 追加されたのはメガネらしきものを付けたクマ? の顔!?

「……さっきからどうしたのだ……? 力を止める場所だ」

 止める場所!? もう絵は良いから言葉で説明してくれと言いたいが、楽しそうに絵を描いているルキアにそういえば、間違いなく蹴りが飛んでくる。

「わ、わりい……次に絵を追加することがあったら何を言ってんのか教えてくれ」

 グッと抑えて、ルキアに続きを促す。

「それだと絵で描いている意味が「大丈夫だ! 俺は頭がわりぃから、どっちもないとわかんねぇ!」そ、そうか」

 

 ルキアが可哀想な者を見る目で見てくる。

 可哀想なのはお前の絵の才能だ!! って言いたくなるが、堪える。

「ここで力を止めたら、こうやって力を放つのだ」

 うさぎの恐らく足の先の位置から飛び出るようにして描かれるクマ? の顔。

 こういうのは何っていうんだっけか……あぁ、そうだ、確か混沌と書いてカオスって読むんだっけか。

 地面がうさぎやらクマ? やらでいっぱいだぜ……。

 

「それでそうしたら止まる為に、ここに力を入れる」

 ごちゃごちゃしていたうさぎの絵の少し隣に、もう一体の体を持ったうさぎが描かれる。

 まだ増えるのか……。

 そして、その前足の部分に眼鏡をかけたクマ? の絵が……。

「これに失敗すると、止まれずに思いっきり吹っ飛んでしまうから気を付けるように」

「あぁ、なんとなくわかったぜ」

 こりゃ、絵がない方がわかりやすかったな。

 

「わりぃルキア、一遍やって見せてくれ」

「いいぞ、では……」

 ルキアが俺にもわかるようにゆっくりと力を入れて、移動する。

「……そうか」

 多分だが、この力の流れってやつに霊力を使ってんだろ。

 んで、ルキアの様子を見るにこの霊力ってやつは深く考えないでも、多分使える。

 要はイメージだ。

「何かわかったか?」

「あぁ、なんとなくだが……いける気がするぜ」

「そうか、ならば一度やってみると良い」

「おう!」

 

 ルキアから少し離れて、イメージする。

 自分の動こうとする力の他にある霊力ってやつを、足先に貯めて……放つ!!

「よっしゃ! でき!? おわあああああ!?」

 シュンと一瞬で移動できたが、地面に足を着いた途端、俺の体は投げ出された。

 やべぇ!? 木にぶつかる!?

「戯け、だから忠告しただろう。まぁ、初めてだから仕方ないな」

 木にぶつかりそうだった俺は、気が付くとルキアに抱えられていた。

 ……姫抱きってやつで……ちょ、お前!? 顔がちけえ!!

「お、おろせ!!」

「む、暴れるな。すぐ降ろしてやる」

 

 抱えられていた状態から地面に降ろされて、顔の熱を逃がすように息を吐く。

 まつ毛長くて綺麗だったな……いやいや、何考えてんだ俺は!?

「しかし、入りはすぐにできるようになったな。私は少し時間が掛かったのだが……」

「ルキアが教えてくれたからな。一応、わかりやすかった」

 先程の事を頭から追い遣って、ルキアの言葉に返す。

 絵はともかく、説明自体はなんとなくでもわかった。

 そのお蔭だな。

 

「そうか! いや、私の絵は響兄様に苦笑されてな。白哉兄様と姉様は筋が良いと褒めてくれたのだが、響兄様の反応からもしや私は絵のセンスが悪いのではないかと不安だったのだ」

「……え」

「恋次も褒めてくれるのなら、心配はないな! しかし響兄様にも欠点はあるのだな……」

 あ、やべぇ……俺、対応ミスったかもしれない。

「ふふふ、今度響兄様に私の絵を見てもらって、センスを磨いて貰うのも恩返しになるかもしれんな」

「……!!」

 やべぇ!? 俺死んだかもしれない!?

 こ、ここでそのままにしたらマズい!!

 

「な、なあルキア……」

「恋次のお蔭で自信が持てたぞ!! ありがとう!」

「お、おう」

 今まで見たことないくらいきらきらとした笑顔を浮かべるルキアに、俺はただそう返すことしかできなかった。

 あ、これもうダメだ。

 後の対応は未来の俺に任せて、ルキアの珍しい一面を脳内に納めよう。

 こうも無邪気にはしゃいでいるルキアは初めて見たからな。

 

 

 そうして、俺は現実逃避した。

 

 

 

「で、結局この縮地で斬魄刀に影響あるのかね?」

「さてな、私にもわからん。が、どちらにせよ、長く共に居るのだ。大切に扱おう」

「……そうだな……」

 俺は斬魄刀を手に持った。

「「これからよろしく頼む、相棒」」

「ん?」「む?」

 重なった声に、思わず目を見合わせた。

「くっ、ハハハハハハ!」

「ハハハハハ! 考えることは同じか!」

 

 俺もルキアも、斬魄刀が目覚める日が待ち遠しいらしい。

 だから早く目覚めてくれよ。

 斬魄刀を見てそう念じた時、それに答えるかのように一瞬震えた気がした。

 

 

 

 そして、その日の夜。

 

 

「さて、恋次。何か言い訳はあるか?」

「……すみませんっした!」

 寝る前に兄貴に呼ばれた俺は、無表情で俺を見る兄貴にすぐさま頭を下げた。

 

 ルキアの野郎……帰ってくるなり、俺が絵を褒めた(勘違い)ことを報告に行った。

 それだけならまだ良かったんだが、その後の「響兄様にも欠点があるのだな!! だが心配するな! 私の絵でその欠点を直してやるぞ!」といった時は肝が冷えた。

「…………」

 ジロリと無言で一瞥された。

 

 流石の兄貴でも、自分の絵のセンスがアレだと思われるのは許容できないらしい。

 だが、兄貴はそれを上手く流した。

 食事の準備に戻ると言った時は、助かったと思ったが、すれ違いざまに寝る前に部屋に来るように言われた時は死んだと思った。

 

 いや、現在進行形で死ぬと思っている。

 しばらく無言が続いたかと思ったら、小さくため息が聞こえた。

「反省しているのなら良い。だが、ルキアが恥をかく前に認識を改めさせるように」

「は、はい!」

 ルキアの落胆した顔は見たくねぇが、命には代えられない。

 

 いつか、ルキアの絵を注意しなくては……。

 

 

 だが、俺はこの日の事をあまりにも緊張していた所為で、記憶を封印してしまい、はるか未来で『自分の絵は普通ではなかったのだな』と意気消沈したルキアを見て、静かに怒った兄貴と卍解戦闘訓練をさせられるとは、今の俺は思ってもみなかった。

 

 

 

「ふぅ……生きた心地がしなかったぜ」

 部屋に戻って、思わず息を吐いた。

 兄貴は普段から怒る姿を全く見たことないから、今回はマジで肝が冷えた。

 いつも頼りになる笑みを浮かべているのに、ほんの少しの間無表情になったからな。

 マジで死んだと思った。

 これから、思ったことは正直に言おう。

 

 それが、自分の為でもあり、相手の為だ。

 そう思い込んで、俺は斬魄刀を鞘から抜いた。

 シュランと心地良い音を出して、鈍く輝く刀身を見てると、鍛錬したい気持ちが沸いてくる。

 

 だが、今は就寝時間。

 やるのは簡単な刀の整備だ。

 斬魄刀は頑丈だから刃こぼれはしないらしいが、それでも確認するべきだろうな。

 

 そうして30分ほどで整備を終えて、枕元に備え付けた兄貴特製の刀置き台に置く。

 こうしてみると、本当に斬魄刀を手に入れたんだなと思う。

「明日からもよろしくな」

 斬魄刀に声をかけて、俺も床に就く。

 

 今日も疲れたな。

 明日も頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 




と言うわけで、恋次視点の1日でした。
出したかったルキア達の絵も出せて、私的には満足ですw
さて、後は朽木家の話が終わると一気に時間が飛びます。
ようやく他の原作キャラとのやり取りを書くことができます!

飛んだ時間軸の中に、平子隊長達の虚化事件、浦原さんと夜一の逃亡事件もありますが、そこはあえて書きません。
状況から主人公が入り込む展開に持っていけない作者の力不足です……申し訳ない……

こんな作者ですが、これからも頑張りますのでどうか宜しくお願いします。


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第十二話 朽木家の大騒動

ま、待たせたな!
いや、本当にお待たせしまして申し訳ありませんorz
しかもあまり長くないです……こ、こんな作者ですが見捨てないで頂けると嬉しいです!



「……大丈夫か、緋真」

「……あまり、良くはありません……」

 床に伏せている緋真の手を握り、声をかけるが、緋真の声は弱々しい。

 その姿に心が痛くなるのを感じる。

 

「やはり、私もそばに……」

「いけません……白哉さんは兄様に報告にいかなくては……」

「……ぬぅ……」

 緋真の言葉に思わず唸る。

 確かに、このことを報告しない訳にはいかない。

 だが、今緋真のそばを離れたくない。

「……もぅ……それは嬉しいのですが、兄様にはたくさんお世話になったではないですか。ですから、早く知らせてあげたいんです」

「…………」

 

「白哉、我儘いって緋真ちゃんを困らせたら駄目だよ」

「……父上」

 背後を振り返ると、そこには父と使用人の吾妻が居た。

「白哉様、緋真様の事は私にお任せください。こう見えても筆頭女中ですよ」

「……わかっているが……」

 こんなことは初めてなのだ。

 緋真が床に伏せているだけでこうも不安になるとは……。

 

「白哉様、緋真様に心労をかけてはいけません。今の緋真様は大事な時なのですから」

「そんな……私は大丈夫ですよ、吾妻」

「今の緋真様が白哉様を甘やかしてはいけません。大切な母体なのですから心労は少しでも取り除いておくべきです」

「吾妻の言う通りだ。だから白哉、早く響に知らせておいで。子供ができるまで相談に乗ってもらったりで、かなり世話になったでしょ?」

「……はい、では行ってまいります」

 二人に諭されて、私はゆっくりと立ち上がった。

 

 あぁ、緋真よ……私は離れたくない……父上が行ってくれないだろうか……。

「では緋真……………………行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「凄い間でしたね」「凄い間だったね」

 父上、吾妻……五月蠅い。

 緋真の普段浮かべる事のない儚げな笑顔に見送られつつ、私は部屋を出た瞬間から瞬歩を使って兄上の家へと向かった。

 

 

 

 

「……そんなに汗だくになってどうした? 急を要することか?」

 兄上の自宅に着くと、そこには斬魄刀を腰に差して門の前で待っていた兄上の姿があった。

「報告があります」

「聞こう」

「緋真が、懐妊しました」

 兄上は一瞬瞠目したかと思えば、すぐに笑い出した。

 

「はっはっはっは!! 何事かと思えば目出度いことだったか! 急いで来たのも緋真の傍を離れたくなかったからだろう?」

 兄上に心の内を言い当てられて、フイッと視線を逸らす。

 その私の行動すらも兄上の笑いを引き出すだけだったらしい。

 

「仲が良く結構なことだ。しかし、それにしては些か急ぎすぎではないか? 緋真に何かあったか?」

「緋真の具合が良くないのです」

「……なるほど、悪阻が酷いのだな……」

「はい、今は寝台からも身を起こすことすらも辛そうです」

 私の一言に兄上の顔が曇る。

 

「優秀な乳母である吾妻殿が居るとはいえ……心配だな……」

「はい」

「わかった。そちらに伺うのは緋真の体調が少し安定してからにしよう。その方が緋真の体に負担が少なくなるだろう……白哉も今の緋真に心配をかけてはいかんぞ?」

「…………承知しております」

 私がそういうと、兄上は苦笑いしていた。

「既に吾妻殿に指摘されたな? 今の緋真は大変な時期だ。こういう時こそ頼りになる姿を見せてみよ。緋真が選んだ男に、それができぬ訳がない」

「……わかりました」

 

 兄上の言葉に、少し顔が熱くなる。

 兄上からもこうして信頼されているのだと思うと、緋真が私を選んでくれたことが誇らしくなる。

「では、道中気を付けて戻るように……といっても白哉には必要ないことか」

「いえ、ありがとうございます。では」

「あぁ、緋真によろしく伝えておいてくれ」

 腕を組んで見送る体勢の兄上に、頭を下げて私は再び瞬歩を使った。

 その場から離れる直前に兄上の言葉が耳に届いた。

「緋真が愛されているようで何よりだ」

 

 

 兄上の言葉を聞いて、緋真に早く会いたくなった。

 既に息は上がっているが、そんなことよりも緋真に会いたい。

 その思いは屋敷に近づくとどんどん膨れ上がっていく。

 

 私は屋敷の門を通らずに、最短で緋真の部屋へと辿り着き、戸を開いた。

「緋真っ!」

「ひゃぁ!?」

 瞬間、私の顔に熱が集まった。

 着物を脱いで、吾妻に汗を拭いてもらっていた様だ。

 緋真の裸体は何度も見ているが、いつ見ても綺麗だ。

 驚いた悲鳴を上げた緋真は、私を見るとすぐさま掛布団で体を隠した。

 

「……うぅ~……」

「……やはり綺麗だ」

「白哉様」

 真っ赤になった緋真を見て、思ったことを口にした瞬間、傍に居た吾妻が恐ろしい形相で怒りを宿した声を発した。

「…………緋真が心配で、兄上に急いで報告して戻ってきた。声をかけずに戸を開けてすまない」

「分かっているのなら、さっさと出ていきましょう?」

 般若の顔になっている吾妻の言葉に、即座に反転して戸を閉める。

「……終わったら……」

「声をかけますのでそこで大人しく待ってなさい!」

「……はい」

 

 吾妻は怒らせると怖い……いや、完全に私が悪かった。

 追い出されて少し頭が冷えた。

 兄上に言われた『頼りになる男の姿』からあまりにかけ離れた先程の醜態に頭を押さえた。

 

 兄上……申し訳ありません……未だにすぐ熱くなる癖が抜けていないようです。

 内心で兄上に謝罪する。

 

 しかし、この戸が再び開かれた時は今度こそ『頼りになる男の姿』を見せねば……。

 どうも、頼りになる男の姿と言われると兄上の姿が浮かぶ。

 先程も全く動揺せず、落ち着いて行動されていた。

 やはり、ああ言った男の姿こそが『頼りになる男の姿』というやつではないだろうか?

 …………私にできるか?

 

 そんなことを考えているとスーっという音が聞こえ、緋真の部屋から吾妻が出てきた。

 出てきた吾妻は半目で私を睨んでいる。

 兄上にも言われたが、一番最初に注意を受けたのは吾妻だ。

 言いたいことは沢山あるだろう。

 大人しく立っていたらため息を吐かれた。

 

「……ハァ……二度は必要ないみたいですね」

「あぁ」

 兄上とも約束したのだ。

 先程は我を忘れてしまっただけだ……それが一番致命的だが……。

 

「ではもう言いません。ですが、緋真様には謝るように、顔を真っ赤にされてかわいらしかったですが……」

「当たり前だろう、緋真はかわいい」

 私がそういうと、呆れたように笑いながらも優しい目で私を見てきた。

「全くもう……夫婦仲が良いのは実にいいことです……フフフ、あの白哉坊ちゃまがこうもお変わりになられるとは、やはり長く生きるものですね」

 そう言いながら吾妻は去っていった。

 

 ……吾妻には幼い頃の事をよく言われるから苦手だ。

 

「緋真、大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」

 緋真の許可を得てから、私は戸を開けた。

 緋真を見ると、出た時とは違う浴衣を着ていた。

 寝巻用の着物を着ていてもかわいいものだ。

 

「そういえば、白哉さん。この子の名前は考えているのですか?」

「……すまない……まだ決めておらぬ」

 しまった……子の名を考えねばならぬな……。

「……あの……よろしければ兄様にお願いしませんか?」

「……兄上にか……」

 ……何故かは知らぬが兄上に名付けられた子は、恐ろしく強くなりそうな気がするのだが……。

 それと同時に、良い男になりそうな気もする。

 何故こうもそんな予感がするのだ。

「それも良いかもしれんな、次の機会に頼んでおこう」

「はい、お願いしますね」

 

 緋真の笑顔に癒されつつも、子はどのように育つだろうか……。

 ……兄上に似るというのも良い事ではあるのだが……私としては緋真のような女子になって欲しいと思うのは些か嫁馬鹿すぎるだろうか……。

「この子の性別がどちらかはわかりませんが、白哉さんに似た男の子だったら嬉しいです」

「……私は緋真に似た女子が良いな」

 私がそういうと、緋真は目を丸くして小さく笑った。

「ふふふ、でしたら双子でも良いかもしれませんね」

「……ククッ、そうだな。双子なら私も嬉しい」

 双子の兄妹というのは非常に珍しいだろうが、そうであったら私も嬉しいな。

 

 私達の愛し子だ。

 どちらであっても、私にできる最大限の愛を注ごう。

 御祖父様や父上が私にしてくれたように……ただし、黒猫……貴様の愛し方は許さん。

 

 緋真の腹を撫でつつ、新しい命に祝福を願う。

 

 

 

 

 それからは正直な話、生きた心地がしなかった。

 緋真の体調は、日を追うごとに悪くなり、まともに食事を取れぬ日もあった。

 吾妻曰く、緋真の悪阻は非常に重く、心労を出来るだけ取り除き、食べられる時に出来るだけ食べさせるようにしているらしい。

 そうでもしないと、子や緋真への栄養が足りないらしい。

 兄上が持ってきた滋養強壮に良い山菜なども使っているらしい。

 

 

 私は緋真に何度も励ましの言葉をかけた。

 兄上に言われたように、緋真が心配しない様に心掛けた。

 

 その甲斐あってか、ようやく緋真の悪阻が改善した。

「うぅ……本当に辛かったです……」

 と、流石の緋真も弱音を暴露していた。

 兄上にも緋真が落ち着いたと言う報告をしたら「……そうか……良かった……」と心底安心された様子だった。

 

 私も安心した。

 緋真の前では不安に思う心を隠し続けるのは、本当に辛かった。

 このまま死んでしまうのではないか、と思ったのも一度ではない。

 

 だが、その辛さを乗り越えた。

 お祖父様と父上、吾妻にも感謝している。

 私と緋真を支え続けてくれたのだから。

 

 安心すると、子が産まれてくるのが待ち遠しくなった。

 子の成長は順調なようで、緋真の腹も大分大きくなってきた。

 緋真の腹を撫でれば、反応するかの様に動くのだ。

 

 緋真と違い、私はこうした事でしか実感が湧かない。

 反応があると思わず笑みが浮かんでしまい、様子を見にきていたルキア達に驚かれたのは記憶に新しい。

 兄上には「早く会いたい、そんな顔をしているぞ」と楽しそうに笑われた。

 

 あぁ、そうか。

 私は、既にこの子を愛しているのだな。

 

 兄上に言われて、私は自分の気持ちに気づいた。

 緋真にそれを言うと「白哉さんは、この子の反応があるととても嬉しそうに笑われてますよ。 私、ちょっと妬いちゃいそうです」と、可笑しそうに笑われてしまった。

 

 しかし、私はどんな表情をしているのだろうか?

 鏡を見ていて、嬉しそうに笑う自分が想像できない。

 緋真と婚姻する前の私もどんな表情をしていたのか……。

 

 

 あぁ、そう言えば兄上に子の名前候補を聞かせてもらった。

「男子ならば、朽木桜花。 女子ならば、朽木桃花(とうか)。 単純ではあるが、白哉の『白』と緋真の『緋』を混ぜた色から考えさせてもらった。 名付けとは難しいな」

 兄上は単純で悪いと言っていたが、私は素直に良い名だと思ったのだか……兄上は納得いかなかったのだろうか?

 

 

 そうして月日は瞬く間に流れ、遂に緋真の陣痛が始まった。

 吾妻を筆頭に女衆が、緋真についてくれている。

 男は厳禁だと言われ、部屋の前で待っているのだが……落ち着かん。

 

 緋真の苦しそうな声が聞こえる。

 吾妻達の励ましの声が聞こえる。

 

 だが、まだ子の声は聞こえない。

 落ち着かず、部屋の前を行ったり来たりしているとお祖父様に笑われてしまった。

 父上も私が産まれる時は同じ様な事をしていたらしい。

 

 しかし、心配で落ち着かないのだ。

 そんな時、子の泣き声が聞こえた。

 吾妻達が声を上げている。

 

 

 私は、ただ戸の前で待っていた。

 少しすると吾妻に言われて、部屋の中へと入った。

 緋真が体を起こして子を抱いている。

「……緋真」

「白哉さん」

「よく……やった」

「はいっ……白哉さん、抱いてあげてください」

「あぁ」

 

 吾妻に子を抱く時の注意を聞きつつ、言葉の通りに首を支えて我が子を抱き上げた。

 

 小さくも、暖かい……私達の愛し子。

「……白哉さん」

 緋真に呼ばれ、そちらを向くが何故か緋真の顔がぼやけて見えた。

「ふふふ、白哉さんを泣かせるなんて、すごい子ですね」

 楽しそうな声で指摘されて、私は涙を流している事に気付いた。

 

 小さな子の重みに、私は父になったのだと感じた。

 涙の理由はわからない。

 だが、この内からこみ上げる気持ちは……緋真を思う気持ちに似ている。

「緋真」

「はい、何でしょうか?」

「私を、父にしてくれてありがとう」

「ッ! はい、私も母にしてくれてありがとうございます」

 

 緋真の顔はよく見えないが、声は震えていた。

 私は、腕の中にいる我が子をもう一度見る。

 

 

 産まれた子は女子だ。

「お前は桃花。 朽木桃花だ」

 桃花は小さく「ぁぅ」と声を出した。

 まるで返事を返したかの様だと、自分の思考に小さく笑った。

 

「逢いたかった……産まれてくれてありがとう」

 




化けの皮が剥がれてきましたね(白目)
というわけで、オリキャラが産まれてしまいました。
これから先出番は……多分ないんじゃないかなぁ……

さて、次の話ですが一気に時間が飛びます。
ようやく他の原作キャラと出会えますね。
また時間がかかってしまうと思いますが、これからとよろしくお願いしますm(__)m


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第十三話 彼の日記帳 オニュー

久しぶりのお休みで、執筆時間を取ることができたので書きました。
今回は今までの出来事の日記を一気に消化しつつ、先への展開を少しだけ載せました。
楽しんでいただけると幸いです!

蛇の体長を修正しました!
ご指摘してくださった方々ありがとうございます!


 ✖︎月✖︎日 今日は晴れた

 

 結婚した緋真から日記帳とか色んな物をもらった。

 日記帳は紙を束ねて作られたノートである。

 いや、今まではずっと拾ってきた巻物を使ってたからこれはすごく助かるわ。

 結構長く書いて来たから、新しく書くために10mくらい伸ばしてたからなー。

 これでぺらりとめくるだけで済むわ。

 

 さて、今日の出来事から書こうかな。

 今日は朽木一家の男衆と一緒に酒を飲んだ。

 貴族だから結構高い酒ばかりかと思ったけど、安酒も飲むらしい。

 安酒には安酒の良い所があるのだ、とは銀嶺さんの言葉だった。

 俺もどっちも好きだけどね、高いのは豪華な気分になるし、安酒はたくさん飲めるからな。

 けど、銀嶺さんには黙っておこう……安酒の通な所なんて言われてもわからんです。

 

 あと、白哉から式以降、緋真と接吻できないと相談された。

 義理とはいえ、兄に何を相談してるんだ……とは思ったけど、結構深刻そうな顔されたから理由を聞いて、砂糖を吐きそうになった。

 なんだ恥ずかしくてできないって、お前らそれでも夫婦か!?

 とりあえず、白哉が相談してきたってことはそれだけ白哉にとっては大事なことなんだろうと判断して、とりあえずデートとかに行って、接触を増やしていったらどうだ? ってアドバイスした。

 というか、死ぬまで童貞だった俺に聞くんじゃねーよ。

 

 

 ▽月◯日 本日は晴天なりぃ

 

 遂に我が家に冷凍庫ができた。

 いや、それよりもルキアが始解できたことを書くべきだろ俺。

 畜生、鉛筆とかシャーペンが恋しい……消しゴム……ないものは仕方ない、そのまま書くしかない。

 ルキアが『袖白雪』の名前を聞くことができた。

 原作では確か、氷雪系で全てが純白の斬魄刀の中で一番綺麗な斬魄刀だぴょん、とか言ってた。

 確かにすごくきれいだった。

 まさか鉛色の刀があそこまで白くなるなんて……ボー◯ドを使ってもあそこまで白くできねぇぞ。

 そういえば、恋次は悔しがってたな。

 一応本体に会えてはいるみたいだけど、何故か名前が聞こえないらしい。

 けど、本体が見えてるならそう遠くないうちに始解できるだろうなー……蛇尾丸は狩りに使えるかな……遠くから延ばせば……いや、それだと白雷を当てた方が早いな。

 そういえば、ルキアに袖白雪の(ここから先は黒く塗りつぶされている)

 

 

 ◎月&日 太陽さん仕事しすぎです

 

 今日は珍しく白哉が汗まみれでやってきた。

 目出度いことに緋真が妊娠したらしい。

 本当に……長かった……デートから始まり、キス、そしてその後の行為に至るまで……だから童貞にそんなこと聞くな! むしろ俺が知りたいわ!! 俺の知識なんぞ全部漫画や小説だけだぞ畜生め!!

 まぁ、ようやく子供ができたのは喜ばしいことだ。

 けど、緋真の体調がよくないらしい。

 白哉には緋真の体調がよくなったら祝いに行くと言っておいたけど、心配だ……。

 よくよく考えたら、出産って命懸けなんだよな……。

 ……修正力が仕事しないだろうな……?

 もし、緋真と子供が死んだりしたら……どうやって世界に復讐しようか……。

 ……まぁ、何とかなるか。

 これから毎日世界に脅しの祈りを捧げておこう。

 全ては気合でどうにかなるさ。

 

 

 ◎月㊤日 雨は嫌いだ……(中二風)

 

 ようやく、緋真の悪阻が落ち着いたらしい。

 本当に気が気がじゃなかった……雷公に聞いて滋養強壮に良い山菜を探して来たりしたし、ルキア達も心配そうでいつもそわそわしていた。

 明日、緋真に会いに行けるから、少しは落ち着くだろ。

 いやー、良かった緋真が落ち着かなかったら今度は藁人形に『世界』と書かれた紙を埋め込んで卯の刻参り? するところだったわー。

 何時からやるのかわかんねぇけど、夜にやれば良かっただろうし。

 さて、明日は朝早いからなもう寝るとしよう。

 

 

 ◎月㊥日 いつかはきっと晴れるさ

 

 今日は一家全員で緋真に会いに行ってきた。

 流石の緋真も少し痩せていたが、元気そうであったので良しとしよう。

 これからはちゃんと沢山食べて栄養を取らないとな。

 ルキアは緋真の腹を撫でていた。

 いつか、ルキアも結婚するんだろうか…………今の所は頑張っている恋次を応援するけど、選ぶのはルキアだからな。

 恋次は白哉と何か話してたし、誠司と雄二は、ルキアと一緒に緋真と話していた。

 ……あれ? おれってもしかしてボッチだった?

 今気が付く衝撃の事実。

 いや、俺は優しく見守っていただけだし。

 別にボッチってわけじゃ(ここから先は同じような言葉が続いている)

 

 

 

 ◇月◑日 本日は曇天じゃった……

 

 雷公からそろそろ卍解を会得しないかと問われたので、明日卍解会得の訓練をすることになった。

 雷公を屈服させる……黒髪美少女を……これ以上は考えない方がいいな。

 何はともあれ、卍解修行も最終段階ということか……。

 既に具象化はできるようになってるから、屈服させるだけだ。

 ……そういや、雷公は雷系の斬魄刀に当たるんだよな……?

 いや、もしかして鬼道系か?

 まぁ、人間型なんだから鬼道系の技を使うのかもしれないな。

 明日は気を引き締めてかからねばな!

 

 

 ◇月●日 雷雲現る!

 

 お、恐ろしかった……!!

 ま、まさか四日も戦い続けるなんて思いもしなかったぞ!!

 最後は槍投げで何とか勝つことができたが……尸魂界全土が黒い雷雲と大嵐に見舞われるとは……!

 その所為で、灼熱爺さんとラスボスヨン様と白哉がやってくるとは思いもしなかった!!

 

 その苦労の一部始終を書くとしよう。

 具象化した雷公は、俺に確認を取った後に腕に巻き付いていた二匹の蛇が巨大化したのだ。

 でかさは目測だが、多分長さが80mくらいで幅も5mくらい。

 しかも雷を纏う大蛇……名前をフーちゃん……と、雷撃を放つ大蛇……名前をオーちゃん……と、黒髪美少女ことイーちゃんが同時に襲いかかってくるのだ。

 

 イーちゃんとフーちゃんは俺に接近戦を仕掛けてきて、オーちゃんは巨大な雷のビームを吐く。

 しかもその雷のビームを受けたフーちゃんがより強くなるという、訳の分からない事態に。

 イーちゃんが手をかざすと、空が黒雲に覆われ、かなり激しい嵐が起こったのだ。

 水は電気を通すなんて子供でも知ってることだ。

 どう見ても殺しに来てた。

 イーちゃんも今まで手合わせしていた速度よりもずっと早かった。

 反応できないほどじゃなかったから、何とかさばけてたけどな。

 

 けれども、それは向こうも同じで一進一退の攻防を続けてた。

 正直、時間の事なんて全く気にしてられなかった。

 何せ全てが命懸け、自分が丸四日も戦い続けてたなんて、ルキア達に言われてから初めて知ったわ。

 

 そんな命懸けの戦闘中に俺はイーちゃんの操る風によって、空に吹き飛ばされたんだ。

 オーちゃんが今まで以上の雷撃を口に溜めているのが見えた。

 空中で身動きがとれない時じゃただの的だった。

 だから、俺は残る力を全部込めて槍を投げたんだ。

 槍の標的になっていたオーちゃんを護るためか、フーちゃんが巻き付いて槍を止めようとしてたが、回転が加えられていた槍で、フーちゃんはその巨体を削り取られて消えた。

 イーちゃんは槍に何かをしたらしいけど、何をしたのかはわからなかった。

 だが、残念なことにオーちゃんの攻撃の方が早かったんだ。

 正直死んだと思った。

 けど、俺の投げた槍は雷撃を突き破ってオーちゃんの喉を突き破った。

 消えていくオーちゃんを見て、イーちゃんはようやく合格と言ってくれたのだ。

 

 そして、教えてくれた。

 卍解の名前を。

 俺の雷公の卍解は『火雷大神(ほのいかずちのおおかみ)

 まさかの神様の名前だった。

 しかも、常時開放型の卍解という頭のおかしい代物だった。

 

 卍解した俺は何も持っていない。

 なぜなら、『火雷大神(ほのいかずちのおおかみ)』は自然を操作するのだ。

 雷雲を呼び、嵐を呼び、生み出された雨や風、雷を自在に操る。

 そして、その効果が及ぶ範囲は……雷雲が呼ばれている範囲全部だ。

 ここでわかって欲しいのは、今回卍解を会得するにあたって雷雲に覆われた範囲だ。

 尸魂界全土だった。

 少なくとも流魂街と瀞霊廷全域は確実に俺の攻撃範囲内ということになる。

 

 …………しかも常時その状態だ。

 雷雲は俺の意思一つで消せるし、簡単に生み出すことができる。

 ……思った以上にやべぇ斬魄刀だった。

 まさか魂の相棒ではなく、神様が入ってるなんて……。

 後、何故か知らんが、始解状態の雷公も使えるらしい。

 こちらも俺の意思で、出したりしまったり出来る。

 本当に規格外ですね、雷公さん……

 

 長くなったが、これが俺の卍解会得までの事だ。

 

 んで、卍解を会得したあとなんだが……灼熱爺さんとラスボスヨン様と白哉が来たわけだ。

 ちなみに、ラスボス様と灼熱爺さん、斬魄刀を抜いておりました。

 マジで怖かった。

 

 とりあえず、言われた通り雷雲を霧散させた。

 んで話をすると、これから俺は霊術院に通わなければいけないらしい。

 流石に卍解を会得した者を遊ばせておくわけにはいかないとのことだ。

 

 ヨン様は内心はよくわかんねぇけど、温和な顔していたが、あれは絶対観察してる。

 この時期のヨン様はまだ良い隊長ってのをやってんだろうなー。

 

 それはさておき、俺は霊術院へと通うことになったわけだが……。

 家族全員にこれからどうするか尋ねたら、始解を会得しているルキアと恋次も霊術院に通うことになった。

 誠司と雄二は、このままこの家を守ってくれるらしい。

 ルキアが自分たちを助けてくれたように、戌吊にやってきた子供を保護していくつもりらしい。

 ……いつの間にか、俺の弟たちは立派になった。

 

 最近涙腺が脆くていけねぇなぁ……。

 

 まぁ全てはなるようになるさ。

 死神にされるとは考えてもみなかったけどさ。

 これもきっとフラグってやつさ。

 

 何も考えず、なるようになる。

 うん、明日もまた頑張ろう。

 

 

 ◇月◎日 天が我らを祝福している!(晴れ)

 

 本日から俺は霊術院生となった。

 総隊長、五番隊隊長、六番隊隊長の三名から推薦を受けている所為か、特進と言われるAクラスになった。

 ちなみに、ルキアと恋次も同級生である。

 原作では確か、ルキアがAじゃなかった気がするけど、まぁ気にすることじゃない。

 そして、何の因果か……同級生に吉良イヅルと雛森桃が居る。

 …………もしかして、ルキア達が死神になるように修正力が仕事をしたのだろうか……。

 もしそうなら、藁人形を準備しないとな……。

 それにしても、鬼道って楽しいな。

 今までは情報がなかったから白雷しか使えなかったが、呪文とかわかったお蔭で三〇番台の鬼道は全部使えるぜ。

 やっぱり白雷だけでも鬼道を使い続けてきたことで、何かコツみたいのがわかったんだろうな。

 だから、雛森……俺にコツを聞くのはやめてくれ。

 尤もらしいことしか言えないから。

 そもそも、この霊力の練り方も原作の岩鷲が言ってたやり方を真似しただけなんだ……。

 未来の岩鷲にここで謝っておこう。

 すまない。

 

 

 ◇月☆日 天が我ら(略

 

 最初に一言、飛び級しました。

 何故だ……未だに斬術とか、歩法とか習ってないぞ。

 やったのは喧嘩殺法的な白打と六十番台の鬼道だけ……なのに飛び級って……。

 だからルキア、流石兄様とか言うな、さすおにはイタチだけだ。

 恋次、お前もおめでとうとか言うな。

 俺はもっと時間が欲しいんだ……。

 吉良、雛森……お前たちも寂しくなるとか言うな。

 俺の方が寂しいわ、遠慮なく喋れる蒼純は貴族なんだ……同じ流魂街出身の友達が欲しいぜ……。

 ちなみに六回生。

 今年卒業予定の階級である。

 莫迦か教員。俺はまだ魂葬とかやったことないんだが!?

 世界を恨んでも俺の飛び級は決定事項なのだった……ちくせう。

 

 

 ◎月〇日 世界よ滅べ(雨)

 

 ヨン様いつかぶん殴る。

 卒業まであと半年……といったところで、数日前に現世への実習に同行するよう言われた。

 護衛という立場での参加だったんだが……ヨン様マジで許すまじ。

 やっぱりあの時の接触はフラグだったようで、俺は特進Aクラスと一緒に居ることになった。

 雛森やルキア達が居るあのクラスである。

 つまり、その時点で襲撃される可能性が高かった。

 この日ほど、俺の卍解が常時開放型であったことを感謝した日はない。

 念の為に作り出しておいた黒雲のお蔭で、原作で死んでしまった先輩である中村さんを助けることができた。

 が、巨大虚数十体だけじゃなく一体だけだが大虚が出てきたのはどういうことだ。

 雷を落としまくったし、とにかく速く移動して雷公を振り回すことになった。

 いやまぁ、大虚も含めて一撃で倒せたから問題はないんだけどさ。

 ただ、そのあと他の院生が俺の事を怖がってたな。

 雛森とか一部の院生はなんか目がキラキラしてたけどな。

 

 以上の事から恐らくヨン様が護衛に推薦したか、俺が参加することになったから戦力を増やしたと思われる。

 だから絶対にいつか殴る。

 

 そういえば、ルキアと恋次も何体か倒した様だ。

 流石は俺の妹弟達、原作とは格が違うぜ……。

 ますます、一護との接点が無くなっていく気がするぜ……。

 そうなった場合、責任を取ってヨン様を倒さないといけないのか……それなんて無理ゲー?

 

 △月▽日 神は言っている、今日は曇りだと(そりゃ死神が言ってるもんね)

 

 こんな曇天の日に、俺は遂に院生を卒業しますた。

 明日から社畜です。

 ちなみに配属先は十番隊で隊長は志波一心隊長です。

 ……貴方、まだ居たんですね。

 原作何年前かもわかんねぇよ畜生。

 ちなみに、五番隊と六番隊じゃない理由は両隊長が取り合いをしたからです。

 総隊長はお怒りでした……まさか、隊務をほっぽりだして勧誘に来るとは思わなかった。

 ちなみにまだ冬獅郎は居ません。

 その所為か、いきなり三席になりました。

 ……頼むよ、平隊員からやらせてくれ……。

 席官は基本的に戦力? んなわけないっす。

 副隊長の下なわけだから絶対色んな仕事が来る。

 誰だ、いきなり席官にしようとか考えた馬鹿は……。

 とにかく明日から死に物狂いで仕事を覚えるしかない。

 だから、ルキア達よ……流石とか言わないでくれ……。

 

 




遂に死神になってしまいましたね。
ですが、完全に藍染さまに目をつけられてます。
というか、院生が卍解取得済みっていいのか……?
そして十番隊へ配属……これで一心さんとも接点ができましたね!
次回は灼熱爺さんの視点で配属されるまでを予定してます。
今回も楽しんでくれたなら嬉しいです('ω')ノ


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第十四話 尸魂界壊滅の危機

あぁ、休みが終わってしまう……これを投稿したら次はいつ投稿できるかわかりません。
今回の話は、主人公が卍解を会得するにあたって被害を受けた話です。
楽しんでくれたら幸いです!


 真に厄介な案件である。

 瀞霊廷どころか、尸魂界全土に広がりゆく雷雲を睨みつける。

 事の発端は3日前である。

 

 突如として、流魂街の方から徐々に天気が悪くなってきたのだ。

 死後の瀞霊廷と言えども、天気も存在するし、四季も存在しておる。

 故にいつものように、天気が崩れただけだと判断しておった。

 

 だが、それも2日目、3日目となると考えが変わった。

 雷雲は徐々に雲を厚くし、遂に瀞霊廷は昼だというのに真夜中と変わらない闇に包まれておる。

 雷鳴が響き渡り、風雨が激しく、強烈な嵐が起こっているのだ。

 そして、その雷雲は徐々に範囲を広げ、今では流魂街全域に及ぶ。

 発生したのは恐らく西流魂街、それが今では正反対の東流魂街まで闇に覆われている。

 

 既に一部の地域では強烈な豪雨による洪水や土砂崩れが起きている。

 一刻も早い対応が必要だった。

 

 故に、緊急対策会議を発令した。

 護廷十三隊の隊長格全てを招集し、今回の対策を検討する。

 隊長格全員が集まったところで、ワシは言葉を投げた。

「全員そろったようじゃな。これよりこの災害への緊急会議を行う。各々意見を述べよ」

「そうはいっても山爺、自然災害相手じゃどうしようもないんじゃない?」

「京楽、だからと言って何もしない訳にはいかないだろう。流魂街出身の死神達も、他の者の安否を案じている」

 春水がため息交じりに外を見て言うが、十四郎の言う通り何もしない訳にはいかんのだ。

 

「四番隊の隊員では移動する事も大変な強風ですね……」

「だが、僕達は動くことができる。それならできることはするべきだ」

「藍染隊長の言う通りです。行動は速やかに行わなければならない」

「私もできることは早急にしたい。この身でも役に立つことはあるだろう」

 卯ノ花隊長、藍染隊長、東仙隊長、狛村隊長のやり取りを聞く。

 確かに四番隊は荒事に慣れておらん。

 自然災害とは言え、やはりもう少し鍛えるべきか……医療部隊でも、迅速に行動できるように歩法を徹底させるか。

 

「剡月を使えば雲を燃やせるかな?」

「……兄は一体何を考えているのだ……」

「いや、空まで登って剡月使えば雲消せないかなーって」

「その前に雷に当たって落ちるのが目に見えてるヨ」

「十番隊の隊長さんは考えることが豪快やなぁ」

「どうでもいいからさっさと終われ」

 志波隊長、朽木隊長、涅隊長、市丸隊長、更木隊長の言葉に、しわが寄る。

 ……わしの卍解を使えば、雲も晴れるのではないだろうか……?

 世界を滅ぼしてしまう力も、今なら問題ないのではないだろうか……?

 いや、卍解は二度と使うまいと決めたのだ。

 ……いや、しかし。

 そんなことを考えていると、涅隊長の一言が耳に入ってきた。

「それにそんなことをしても無駄ダヨ。あの雲は『天相従臨』によって呼ばれた雲だからネ」

 

「何?」

「馬鹿な!? この尸魂界全土を覆うほどの天候操作を可能にする斬魄刀などあるはずがない!!」

 ワシと砕蜂隊長の言葉に、涅は失笑する。

「本当に微かだが、技術部の機械に霊圧の反応があったヨ。本当に微弱で感覚では理解できないほどだが、この雲全てに同じ霊圧が混じっていル」

「まさか、そんなことが可能なのかい……?」

「さてネ、私も流石に目を疑ったヨ。是非とも捕らえて調べて見たいものダヨ」

 涅隊長の言葉に一瞬だけワシを見た春水に、目を細めながら考える。

 この斬魄刀の主は、どのような人物か?

 ワシの様に卍解が世界を滅ぼしうるならば、最悪その主を殺さねばならぬ。

 

「涅隊長、大本は把握できたか?」

「西流魂街が一番霊圧の密度が濃い。恐らくそこだと思うヨ」

「西流魂街だと?」

 ワシの問いかけに答えた涅隊長の言葉に、朽木隊長が食いついた。

 

「朽木隊長、何かを知っているのか?」

「…………少し、卍解に至る可能性の高い人物に心当たりがある」

「へぇ? 六番隊の隊員なのかい?」

「……流魂街の住人だ」

 春水の言葉に、朽木隊長は眉間にしわを寄せながら言った言葉に、ワシだけでなく隊長格全員が目を見開いた。

「流魂街の住人が、卍解に至ったというのか? というか、その心当たりのある人物は斬魄刀を持っているのか?」

「……持っていなければ、言わないだろう」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! その人物は斬魄刀の名前を聞けただけじゃなく、卍解に至るほどの霊力もあるってことか?」

「そうだ」

「……なんや、すごい出鱈目な人やな」

「して、朽木隊長。その人物は危険な人物か否か?」

「否。兄上はそのような方ではない」

 ワシの言葉に即答してきおった。

 少なくとも、瀞霊廷の敵になる人物ではないようだ。

 

「……あれ? 今『兄上』って言わなかった?」

「私の妻の兄だ。兄上で間違いないだろう」

「あ、うん、そうだね……あれ?」

 志波隊長が何やら気になることがあったようだが、それは今気にしている場合ではない。

 

「ならば、この天気は朽木家の縁者が起こしている可能性がある」

「……私が確認に行く」

「なら僕も一緒に行こう。万が一違った場合、戦力があった方が良いだろう」

「なら俺も行こうかな。朽木隊長の兄上って興味あるし」

「ボクも行ってええやろか?」

「あらあら……私も、行ってみたいですね」

「強そうな奴なら、俺も行くぜ。殺し合いをしてみてぇ」

 藍染隊長は良いが……残りの十、三、四、十一の隊長は完全に遊び感覚である。

 

 特に卯ノ花隊長……更木の剣気に紛れておるが、ワシには感じ取れておるぞ。

 ジロリと視線を動かすと、卯ノ花隊長はフイッと視線を外した。

 全く……。

「喝!!」

 霊圧を込めて一喝すると、全員が再び口を閉じた。

「今回の主には、ワシと藍染隊長、朽木隊長の三名で接触する。各々はいつでも動けるように行動せよ」

「「「「はっ!!」」」」

 ……声が少ない……相変わらず協調性のない奴らじゃ。

 

「朽木隊長、これから直ぐに向かう。案内せよ」

「……わかりました」

 朽木隊長について西流魂街へと向かう。

 道中は凄まじい風と雨だ。

 そうして、戌吊へと辿り着いたのだが……。

 

「これは……雨と風の結界か」

 非常に分かり難いが、戌吊の里から山へと続く道全域に結界が張られている。

 藍染隊長が転がっていた石を投げ込むと、雨で穴だらけにされ、風に切り刻まれた。

 その様に、思わず唸る。

「ぬぅ……中々やりおるわ」

「これは最初からあったのかい?」

「いいや、こんなものはなかった」

 

 これは斬魄刀が起点となっているのであろう。

 空を見上げても、雲の中から結界が張られているのであろう。

 そして、見上げた雷雲には常に走る稲妻の姿が確認できる。

 なんとも強力な斬魄刀だ。

 そして、その持ち主も尋常ではない霊力の持ち主だと理解できる。

 四日間。

 常時それほどの期間、この規模の雷雲を尸魂界全土に広げて続けて、なお尽きることのない霊力。

 軽く見積もっても、隊長格を超えている。

 零番隊ならわからぬが……。

 

「やってみるか」

「総隊長?」

 藍染隊長の言葉に答えず、杖から斬魄刀を解放する。

「万象一切灰燼と為せ、流刃若火」

 解放された斬魄刀から灼熱の炎が上がる。

 それと同時に、結界が反応した。

「ぬぅ!?」「総隊長!!」

「……私には出来ぬな、流石兄上、やはり規格外だ」

 何故か朽木隊長だけを除き、大粒の雨が針の様に、風が刃の様に襲ってきた。

 

 流刃若火の火力を上げ、水を蒸発させるが……。

「ぐっ、追いつかぬ!!」

「くっ!! これは流石に……縛道の八十一 断空!!」

 藍染隊長が頭上に断空を張るが、今度は断空を避け、四方八方から水の針が迫ってくる。

「くぅ!! 断空も破られた!?」

 見上げれば、風の刃に切り刻まれ、消えていく霊子が見えた。

 その時に見上げた空は未だに雷雲に阻まれている。

 つまり、ワシの斬魄刀の炎が天に届いていないことを意味する。

「炎熱系最強と呼ばれた、流刃若火を持ってしても消しきれぬか!!」

 

 本来であれば、ワシが始解した時点で雲を消し、自身の周りを火で包み込む。

 だが、この雨にはワシの炎と同等の霊圧が混じり込んでいる。

 これが、ワシの炎でも簡単に消えない原因か!!

「ならば……松明」

 流刃若火に霊圧を込め、振るうことでより強い炎を生み出す。

 瞬間雨の針は周囲に近寄れなくなる……が。

「なんとも厄介な斬魄刀じゃのう!!」

 水が駄目なら風。

 風によって生み出された真空の刃が、炎をものともせずに攻撃してくる。

 真空の刃に込められた霊圧を頼りに、なんとか避けていく。

 

「というか、朽木隊長!! 見ていないでこれをどうにかしてくれませんか!?」

「……どうしろというのだ……」

 瞬歩を駆使して避け続けている藍染隊長も傷ができているが……ただ見ているだけの朽木隊長に苛立つのはワシだけではなかったようだ。

 と言っても、事実このままではどうすることもできん。

 ワシの斬魄刀は……もう使っても良い気がするが、襲われていない朽木隊長に頼るしかなさそうだ。

 

「……そうか……縛道の七十三 倒山晶」

 朽木隊長の縛道で生み出された結界が張られた瞬間、ワシと藍染隊長は途端に狙われなくなった。

「……なるほど、どうやら朽木隊長の縁者というのは間違いないみたいですね」

 小さくため息をつきつつ、これ以上脅威に曝されることのなくなった藍染隊長は疲れたように肩を落とした。

「侵入しようとした者を判別し、害をなす存在を排除する結界か……とんでもない代物じゃのう」

 朽木隊長の結界の外では旋回するように水の槍が飛び回っている。

 ……これは結界が解けた瞬間に再びワシらを狙いに来るじゃろう。

 

「ですが、これはもしかすると斬魄刀の暴走では?」

「……卍解の試練では……」

「……朽木隊長、結界の中に入れるかの?」

 ワシの問いに朽木隊長は首を振った。

「入ろうとしましたが、風の結界に弾かれました」

「……弾かれるだけで済んだんだね……」

 ともすれば、大人しくここで待つしかないか。

 

 そう判断を下した瞬間、この雷鳴に負けないほどの轟音がした。

「む?」「え?」「これは……」

 轟音がしてから直ぐに、結界の周りを回っていた水の槍が形を崩して地面へと落ちた。

「……ふむ、朽木隊長、結界を解除せよ」

「はい」

 キンッという音と共に、結界が霧散する。

 だが、雨や風がワシらを襲うことはない。

「どうやら結界が解けたようですね」

 藍染隊長が、結界のあった場所に石を投げるが何も起こることはなく、地面へと落ちた。

 

 そして、凄まじい霊圧が巻き起こった。

「!!」

「これは凄まじい霊圧じゃのう」

「…………」

 額を抑えている朽木隊長を見やる。

「朽木隊長の縁者で相違ないか?」

「はい、この霊圧は間違いなく兄上の霊圧です」

「……まさか、本当に個人で起こした騒ぎだったなんて……」

 既に豪雨だった雨は小雨に代わり、空を見上げれば雲が一部薄くなっている。

 

 卍解修行……まさか、本当だったとは……。

 先程感じた霊圧も、卍解を行ったものだろう。

「会いに行くとしよう。件の人物にの」

 

 

「……なんともまぁ、これは酷いね」

 藍染隊長の言葉に頷く。

 戦闘が行われていたであろう場所は、多くの木々が倒れ、火が起こり、大地は抉れ、巨大な穴ができている。

 件の人物はその穴の中心で、赤色の槍を握っていた。

 今は霊圧が落ち着いている為、恐らくあの槍が始解状態なのだろう。

 

 人物を観察する。

 髪は青、短髪で前髪が少し垂れておる……後ろに少しだけ長い髪が見える。

 肉体は……凄まじいな。

 着ていた着物はボロボロになったのだろう、上半身は完全にむき出しになっている。

 そして遠目にもわかる、鍛え抜かれた筋肉、だが決して邪魔をすることのないしなやかな実践的な筋肉の付き方だ。

 それに高い身長……まさしく『偉丈夫』と言ったところか。

 

 才能豊か……というよりも底が知れん。

 このような者は初めてじゃ。

 烈や更木隊長に会わせたらどうなるか……。

 烈は剣気を少し出しておった……久方ぶりに血が騒いだのだろう。

 

 今回は相性が悪かったが、彼の斬魄刀はもしかすると史上最強の斬魄刀に成り得る。

 彼をこのままにしておくわけにはいかんな。

 

 

「護廷十三隊の隊長格が何の用だろうか?」

 ほぅ、見事な歩法じゃ。

 あの距離から一瞬でここまで接近し、尚且つ実に滑らかじゃ。

 あの夜一に勝るとも劣らぬ練度と言ったところか。

 

「ワシらが隊長とわかるのならば、話は早い……が、まずは空の雲をどうにかしてもらおうかの?」

「む、わかった。今すぐ払おう」

 彼がそういうと、雷雲が凄まじい速度で消えていく。

 ……恐らく天候操作も思うがままなのだろう。

 なんとも強力な卍解だ。

「これで良いだろうか?」

「うむ、これで嵐に悩まされている者達も安心しよう」

「む、広がっていたのか……それは申し訳ないことをした、すまない」

 そういって頭を下げる彼を観察する。

 性根は善良、礼儀も心得ている。

 なるほど、これは逃すには惜しい逸材じゃ。

 

 元々死神にする予定ではあったが、彼が護廷十三隊に入れば歴代最強の死神になることも夢ではないだろう。

 そうすれば、瀞霊廷はより安定する。

「さて、ここに来た理由だが、お主を死神にする為じゃ」

「私が死神に? それは以前にもお断りさせて頂いたが……?」

 彼が朽木隊長を見る。

 なるほど、既に勧誘済みだったか。

 だが、今回は強制で断ることは許されん。

「お主は斬魄刀を持ち、卍解まで会得した。それほどの霊力を持つのならば、周りの魂魄に良くも悪くも影響を与える。それを許すわけにはいかん」

「……それは、確かにそうだが……私にも家族が居る。突然私が居なくなっては混乱するだろう」

 

 この治安の悪い場所で家族を思える。

 やはり、善良な青年じゃな。

「ならば、家族と相談せよ。場合によっては瀞霊廷で暮らすことも許可しよう」

「っ!? それは本気ですか?」

「無論じゃ。お主ほどの者なら多少は融通して見せよう」

 ワシがそういうと、彼は小さくため息を吐いた。

「家族に相談してからでも良いだろうか? あの子たちの道は自分で決めてもらいたいのだ」

「構わぬ、では後日また伺うとしよう」

「すまない、ありがとう。私の家はあちらの方だ、わからなければ白哉を通して教えてくれれば、こちらから向かう」

「あい、わかった。ではな」

「あぁ……そうだ、隊長殿。私は嵐山響だ。これから迷惑をかけるだろうが、宜しく頼む」

 

「……ホッホッホッホ、気持ちの良い若者じゃ。ワシは護廷十三隊の一番隊隊長山本元柳斎重國じゃ」

「僕は五番隊隊長、藍染惣右介だ。これからよろしく頼むよ」

「……私も言うべきでしょうか?」

「いや、白哉の事はよく知ってるからいい」

「……そうですか……」

「クックック、あぁ。では、失礼します。山本隊長、藍染隊長……白哉隊長」

「!」

 響は一礼すると、その場を去っていった。

 

「……兄上も、意地が悪い」

「そうかな? 僕の目には朽木隊長は結構嬉しそうに見えるんだけど?」

「……気の所為だ」

「珍しいタイプの若者じゃな。力もある、礼儀もある、最後の人間臭い一面もまた面白い」

 この数百年で全く見たことのないタイプの人じゃ。

 うぅむ……我が隊に入れてみたいのう。

 

「総隊長、響君を僕の隊に融通してくれませんか?」

「それだけは絶対に許さん、兄上は我が隊の副隊長を任せる」

「いきなり副隊長を任せたら可哀想だよ? 僕の隊で一からしっかりと面倒見るから」

「ならば決闘だ」

「……君、卍解まで使う気でしょ?」

「桃花が生まれる前から決めていたのだ。兄上が死神になるのならば、我が隊にと」

「それは傲慢じゃないかな? 彼にも選ぶ権利はあるよ?」

「兄上ならば、我が隊を選ぶ」

「それはまだわからないでしょ?」

 

「…………馬鹿者が揃っとるの」

 少し前に考えていたことを棚上げして、ため息を吐く。

「嵐山響の入隊先はアミダで決めるとしよう」

「なっ!? それはないですよ総隊長!!」

「朽木家次期当主として断固抗議します」

「喧しい! 最初だけじゃ! その後は好きにせい!!」

 

「くっ、ならばもし彼がそのまま配属された隊から動かなかったら……」

「その時は諦めよ」

「……アミダに細工を……」

「ワシがやるから細工など認めんぞ」

 そんなやり取りをしながら、彼の入隊は良くも悪くも大きく影響を与えるだろうことを確信した一日じゃった。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、めっちゃ被害を被ったのは総隊長とラスボス様でした!
流魂街の住民もちょっと被害ありますけどね。
雷神の力なんだからこれくらいなくちゃね?
それにしても、藍染さまのキャラも崩壊している気がする。
ら、ラスボスだよね?
こんな扱いでいいのかしら……?


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第十五話 恋次とルキアの霊術院生活(朝)

お、お待たせしました?
ようやく時間が取れるようになったので、再び執筆を開始しました。
これからは週に一回は更新できるようにしていきたいですね!(できるとは言っていない)
では、今回もお楽しみいただけると幸いですm(__)m



 学院生活は楽しい。

 今までの生活では知れなかったことが知れたし、強くなるために色々と教えてくれる人達が揃っている。

 斬拳走鬼と呼ばれる戦闘術は実に面白かった。

 特に鬼道だ。

 これを前の生活の時に知っていれば、狩りや採取が非常に楽になっていただろう。

 今は戦闘にしか使わないだろうが、死神を引退してあの屋敷に戻ったら使ってもいいな。

 

 それに、ここには私と同じくらいの見た目をした者たちが多くいる。

 そう考えていると、後ろから良く知っている気配を感じた。

 その気配の主を迎えるために、足を止めて振り返ると髪をお団子にして纏めた女子が走ってきた。

「おはよう!ルキアさん!」

「あぁ、おはよう。桃」

 桃は私が挨拶を返すと、はにかんだように笑う。

 可憐な乙女とは彼女の様な人物を指すのだろうな。

 

 桃が追いついたところで、私達は朝食を取るために食堂へと歩を進めた。

「そういえば、ルキアさんと恋次君は、確か今日が飛び級試験だったよね」

「あぁ、響兄様に遅れる事数カ月……ようやく、といったところだがな」

 私と恋次は、飛び級試験を受けることとなった。

 理由は、一回生の実力を上回ったからとのことだが……。

「私自身はまだまだ学ぶことが多いと思っているのだがな」

「えぇ?斬拳走鬼でほとんどトップを保持してるのに?」

 私の言葉に桃が呆れたような顔で見て来るが……何かおかしかっただろうか?

「当然だろう、一回生ということは一番大事な基礎の部分をやるということだ。私は独学でずっと続けてきたが、それでもしっかりとした基礎を学ぶのなら一年どころかできれば三年ほど一回生をやりたいくらいだ」

「……もぅ、そういう考えしてるから皆から「お!ルキアの姉御!!おはようございます!」むぅ……」

 

 桃が何かを言いかけた時、同級生の藤原が挨拶をしてきたので、そちらに挨拶を返した。

「あぁ、おはよう。今日も元気がいいな」

「それが俺の取り柄っすからね!!」

「元気が良いのは良いことだ。挨拶される側としても気分が良くなるからな」

「ありがとうございます!!んじゃ、先に失礼するっす!!」

「あぁ、では教室でな」

「はい!」

 藤原は一礼すると、駆け足気味で教室の方へと向かっていった。

 

 桃に視線を戻すと、何やら膨れていた。

「むぅ~!!」

 頬を膨らまして、何やらリスの様だ。

 実にかわいらしいな。

「どうしたのだ、桃? そのような顔をしてもかわいいだけだぞ」

「ふにゃ!? そ、そんなこと言うから姉御なんて言われるんだよぉ!」

 顔を少し赤くしながらも、何やら抗議してくる。

 

「ふむ……私は別に気にしておらぬぞ? 姉ということは私が頼りになるということだろう? それを誇りこそすれど不満に思うことなどない」

「うぅ~~~」

「なんでオメェは言うことが一々兄貴に似てんだよ」

「へぇ、これは響さんの影響だったんだ。納得だね」

「恋次、イヅル。おはよう」

 桃が納得いかなそうに唸っていると、後ろから恋次とイヅルが声をかけてきた。

 

「うっす、おはよう」

「おはよう、水無月さん」

「ルキアで良いと言っているだろう」

 私がそういうとイヅルは苦笑した。

「勘弁してよ、女性を呼び捨てにするなんてできないな」

「もうじき、一年も経つのだから別に良いと思うのだがな。まぁ、無理強いはせん」

「ありがと」

 

「恋次君、イヅル君、おはよう!」

「おう、おはよう。雛森」

「おはよう、雛森さん」

 三人が挨拶をしているのを見ていると、食堂に着いた。

 

「そういえば、今日兄貴は間に合いそうか? 俺はサバみそ定食で」

「さてな……響兄様は最近忙しそうだからな……朝食も抜いておるかもしれん。私はキュウリの漬物定食だ」

「確か既に上位席官が確定しているんだよね? がっつり行きたいからカツ丼で」

「響さんのあの強さなら、うん、納得かな。野菜炒め定食お願いします」

 

「はいよ、ちょいと待ってなさい」

 給仕のおば様が準備しているのをしり目に会話を続ける。

「流石だと思うが、少し心配だ」

「え? なんで?」

「あの何でもできると言っても過言ではない響さんに心配事なんてあるのかい?」

「兄貴は確かに頼りになるが、何でも自分で背負っちまうからなぁ……」

 恋次の言葉に幼かった頃を思い出す。

 

「私たちが申し出なければ、炊事洗濯畑仕事に狩りまで全て自分でしてしまう」

「兄貴に迎えられた時は考えなかったが、戌吊でいきなり面倒見るガキが三人も増えたら、普通は手伝いくらいやらせるよなぁ……」

「結局恋次達が畑仕事を手伝うと言い出すまで、何も頼まなかったな」

 

「戌吊って……確か、かなり治安の悪い場所だよね」

「そんなところで、響さんはルキアさん達を守り続けてたんだね」

 イヅルと桃は何やら涙ぐんでいた。

「辛くなどなかった。私は弟と妹に恵まれていたからな」

「わひゃう!?」「うわっ!?」

「! 響兄様!」「兄貴!?」

 気が付いたら、響兄様が近くに立っていた。

 相変わらず、気配を感じさせない人だ。

 

「あぁ、驚かせて済まない。おはよう。私は生姜焼き定食を頼む」

 ふむ、響兄様は生姜焼き定食か。

 やはり力をつけるためには肉が必要なようだ。

 

「えーっと、響さん?」

「雛森、話は後にしよう。先に席を取っておいてくれるか?」

「あ、はい!わかりました!」

「桃、お主の定食は私が運ぼう」

「いや、それくらいなら俺がやるぜ」

 まだ用意されていない定食を運ぶことを提案したら、恋次がやると言ってきた。

 ふふふ、やはり恋次も優しく育ったものだ……姉としては感慨深いな。

 

「二人ともありがとう!先に席を取っておくね!」

「あぁ、わりぃが頼む」

「はいよ!カツ丼お待たせ!!」

「あ、僕のが来た。先に席にいってるよ」

 イヅルの姿を見送ってから、私は響兄様に視線を移した。

 忙しくなる前と変わりないように見えるが……

「響兄様、あまり無理はなさらぬように」

「流石の兄貴でも、いきなり上位席官はプレッシャーだったみてぇだな」

「む……流石に二人にはわかるか」

 私達の言葉に、響兄様は苦笑した。

 

「なんか疲れてるように見えるんだよな」

「それにいつもよりも覇気がありません」

「そうか、気をつけねばな」

 …………私が言いたいことはそういうことではないのだが…………

「はいよ!きゅうりの漬物定食とサバ味噌定食だよ!」

「言いたいことは後で聞こう。二人も先に食べていてくれ」

「……わかった」「わかりました」

 

 響兄様に言われて、私と恋次は桃がいる机を探す。

 桃は小柄だからな……他の人に埋まって見えん……イヅルを探すか。

「……そういや、ルキア。なんで兄貴にそんな丁寧な言葉使ってんだ?」

「屋敷で暮らしていた頃とは違うからな。少々変な感じだが、私も敬語に慣れておかねばならん」

 私は響兄様の影響で大分古風なしゃべり方だろう?と恋次に言いながらも少し笑みがこぼれる。

 我ながら一体どれだけ響兄様に影響を受けているのだろうな。

 

「あー、なるほどな……けど、その………」

「む? どうした?」

 なにやら言い辛そうにしている……もしや、私に丁寧な言葉は似合わないだろうか?

「あー、あぁあああ……よし、言うぜ。いや、言うんだ俺」

 さんざん唸ったと思えば何やらつぶやいているが……

 

「その、な!」

「あ! ルキアさん! 恋次君! こっちだよ!」

 恋次が何かを言おうとした時、桃が私達の姿を見つけたようで声がした方へ視線を向けた。

 そこには6人掛けの席の近くで立ち上がり、手を振っている桃の姿……なぜ一人なのだ?

 

「あぁ、桃、そこにいたのか……イヅルはどこだ?」

「あれ? まだこっちに来てないよ?」

「……そうか……」

 せっかく少しの間でも二人でいられるはずだったというのに……イヅル……運がないな。

「……あー……イヅルの奴、反対側にいるぞ」

 恋次の見ている方を見ると、こちらに背を向けてきょろきょろと周りを見渡しているイヅルの姿。

 ……本当に運がないな、イヅル……

 仕方あるまい、少しくらいなら手助けしても良いだろう。

 

「桃、私は響兄様を迎えに行く。イヅルの方は任せても良いか?」

「うん、わかった!」

 桃は笑顔で答えて、イヅルの位置を教えるとトコトコと歩いて行った。

「……よく見てんだな」

「お主も気づいているだろう。では、私は響兄様を迎えに行ってくる」

「おー、んじゃ、俺はここで待ってるわ」

「頼む。ではな」

 

 

 

 

 

「あー……くっそ、タイミング悪すぎだろ雛森ィ……」

 机にサバ味噌定食をおいて、思わず机に額を着いた。

 あそこでなんでうだうだ迷っちまうかなぁ……。

 ルキアも少し不安そうにしてんだから、そこは兄貴みたいにさらっと言えりゃよかったんだ。

 ルキアは兄貴に影響されてかなり男前になってやがるが、丁寧な言葉遣いをするルキアは、どこかの令嬢みたいに気品が感じられた。

「流石アンタの妹っすよ、緋真さん」

 ルキアの姉である緋真さんも、すっげぇ貴族然としてた。

 あれで、実は俺たちと同じ流魂街出身っていうんだからすげえよなぁ。

 というか、緋真さんを兄貴から嫁にもらえた白哉さんもすげえ。

 

「あれ? どうしたの恋次君?」

 雛森の声が聞こえて顔を上げると、不思議そうに俺を見る雛森と、少し顔が赤いイヅル。

 どうやらルキアの気遣いは良い感じに効いた様だ。

「なんでもねぇ、イヅルは後でルキアに礼を言っとけよ」

「……なるほど、水無月さんのおかげか……姉御、と呼ばれる所以を見た気分だよ」

 イヅルが納得したように頷いていると、ある言葉に反応した雛森が目を吊り上げた。

「あ! イヅル君もルキアさんの事姉御って言ってる!!」

「あ、ごめん。ついね」

「駄目だよ! 姉御なんて言っちゃ!!」

 頬を膨らませて、私怒ってます!と表現する雛森に思わず首を傾げた。

 

「前から思ってたんだが、なんでそんなに姉御って所に反応してんだよ?」

 疑問に思ってたことを聞くと、目を見開いて、信じられないという表情で見られた。

「だって! ルキアさんってかわいいんだよ!?」

「お、おう。そうだな」

 いや、それは俺が良く知ってるわ。

「ルキアさんは凛としてるから確かに頼りがいもあるし、綺麗だけど私の部屋でチャッピー人形を見た時に、顔を少し赤くして、恥ずかしそうに触ってもいいかって言った時のルキアさんなんて思わずルキアちゃんって言いたいくらいに可愛かったんだよ!?」

「なにそれ、見たい」

 チャッピー人形だな。よし覚えた。

 死神になって給料が入ったらプレゼントしよう。

 あいにくと、俺たちの屋敷での生活に金銭なんて存在しなかったからな。

 

「しかもチャッピー人形を触ったときに思わずといった感じでギュッって人形を抱きしめて、えへへなんて笑った時には普段とのあまりの違いに私は「待て桃!! 一体何を大声で言っておるのだ!?」む~~~!!」

 雛森がいかにルキアがかわいいかを力説していると、話の内容が聞こえたのか顔を赤くしたルキアが後ろから雛森の口を押えた。

「本気の瞬歩まで使うか……いや、使うな」

 普段のルキアとイメージが違いすぎるな、いい意味で。

 

「姉御!! いや! ルキアちゃん!! 是非ともその姿を一度見せてくれ!!」

「断る!!! というか、今聞いた内容は忘れろ!!」

「ルキアちゃん!! ここにチャッピーの小さい人形が!!」

「ぐっ……! ええい!! 忘れろと言うに!! この戯け者があ!」

「是非とも姉御の可愛い姿を!!」

「誰か雛森の部屋からチャッピー人形を!! いや! 店で巨大チャッピー人形を買ってくるんだ!」

「巨大チャッピー人形……!?」

「おい、釣られかけてんぞ」

「はっ!?」

「普段の水無月さんからは考えられない状態だね」

 すげえ食いつきだった。

 覚えたぞ、チャッピー人形。

 

「少し頭を冷やそうか」

「うお!?」

 ズンッと少し強めな霊圧が一瞬だけ感じられた。

 今の声と、霊圧は……

 視線を移すと、苦笑しながら近づいてくる兄貴の姿。

「あまりルキアを困らせるな」

「響兄様……いえ! 私は別に人形が好きなわけでは!」

 あたふたと何やら必死に弁明するルキア。

 

「そうか、では食事にしようか」

「あ、う……はぃ」

 あ、撃沈。

 必死に弁明してたが、兄貴に慈しむ目で見られて顔を赤くして恥ずかしそうに俯いたルキア。

「ほら、かわいいでしょ?」

 確かにと頷く。

 普段とのギャップの所為か、すごくかわいい。

 

「桃、あまりルキアを困らせるな」

「あう、でもルキアちゃんが姉御って呼ばれるのに納得いかないんです」

 近づいてきた兄貴につかれた額を抑えて、頬を膨らませる雛森に兄貴は苦笑してる。

「ルキアのかわいさは、親しい者が知っていればいい。そうは思わないか?」

「ひ、響兄様っ!」

 雛森と兄貴の会話にルキアが声を上げた。

 

 それを俺とイヅルは机に肘をつきながら見ていた。

「今日の響さんは結構意地悪だねぇ」

「いや、あれは兄貴も普段見ないルキアの様子を見て面白がってるな」

「そうなんだ……で、君は止めないのかい?」

「俺も見ていたい」

「……君、最近欲望に忠実だね」

 うるせぇ、あんなルキア今までの生活で見たことねぇんだよ。

 だからこそ、兄貴もあの様子を見たいんだろ。

 

 

 

 

「……食事が冷めましたね」

「…………」

「せっかく食堂の方が作ってくれた食事が、冷めましたね」

「る、ルキアさん」

「なんですか、雛森さん」

「お、怒ってる!! すっごい怒ってるよ!」

 

 いや、それは怒ってんじゃねぇ、拗ねてんだよ。

 といった日には俺にも被害が降りかかってくるので、黙っておこう。

 まぁ、いじり倒された挙句、好きな飯が冷めたら機嫌が悪くなりもするだろ。

 せっかくの飯も冷めたらおいしさが半減する、好きな定食なだけに正直残念だ。

「ねぇ、恋次」

「おう、どうしたイヅル」

「……なんか、ごはんから湯気が出てるんだけど」

「は?」

 

 イヅルの言葉に目の前の定食を見ると、確かに湯気が出てる。

 まるで出来立てのように、おいしそうな匂いもしてきた。

「では、頂くとしようか」

 思わず兄貴の方を見る。

 何をしたか全くわかんねぇが、定食が出来立て同然になった。

「………まぁ、いいか。おい、ルキア。飯食おうぜ」

「なぜ湯気が……?」

「あれ? なんか温かくなってる?」

 

 きっと兄貴が何かやったんだろう。

 何をしたか考えるのは時間の無駄だ。

 パチンと手を合わせると、全員が同じように手を合わせた。

「いただきます」

『いただきます』

 

 兄貴と合流して20分ほど、ようやく食事にありつけた。

「うむ、美味い」

「いつも思うんだが、漬物定食ってそういうもんじゃねぇよな」

 ルキアの好物であるキュウリの漬物の他には、豆腐の味噌汁、焼き魚。

 どっちかっていうと、焼き魚定食だよな……キュウリの漬物が丸々二本乗ってなければ。

「うむ、私が頼んだ」

「何やってんだテメェ」

 思わずツッコんじまった。

 

「そんなこともできるんだね、僕もカツを増やしてもらおうかな」

「お前まで何言ってんだイヅル」

「ちなみに、響兄様に教えてもらった」

「兄貴まで何やってんだ!?」

 よくよく見れば、兄貴の生姜焼き定食の生姜焼きがめっちゃ盛られてる!?

 つか、良く見なくてもわかんだろ俺!

 茶碗と同じくらいの高さまで積まれてんぞ!!

 

「恋次」

 そんなことを思っていると、兄貴に声をかけられた。

「なんだよ」

 思わず身構えながら、次の言葉を待つ。

「…………おかずのお代わりも可能だ」

「ちょっとサバ味噌貰いに行ってくる」

「ふふふ、やっぱり響さんもいると賑やかになるね」

 

 良いこと聞いた。

 サバ味噌はもっと乗ってもいいと思ってたんだ。

 よし、これで俺は後100年は戦えるぜ……いや、昼飯まで戦えるぜ。

 昼飯は兄貴たちみたいに、おかずを増やしてもらおう。

 さっき突っ込んだことを心の棚にそっと閉じて、俺はサバ味噌をもらいに行くのだった。

 




……いや、まさか朝食だけで終わるとは……
予想以上にキャラが動いちゃって、ここで切らないと一万文字超える勢いだったんです!許してください!!

さて、ここからは蛇足になりますので、読まなくても大丈夫ですが、良ければ見てほしいな(どっちだ)

ご指摘があった響の速度についてです。
死神の瞬歩は最低でも音速以上、卍解すると雷速以上との意見があり、いろいろと考えたんですが、意見がまとまりません。

そこでみなさんの意見をお聞かせください。
活動報告に『響の速度について』を追加しておきますので、私も読者さんも納得できる様に意見を下さい!
出来ればご協力お願いします!

長々と失礼しましたm(__)m

追記
皆さん響の速度について色々とコメントありがとうございます!
ですがすいません!
感想欄にこういったアンケート?もどきを求めるのは利用規約違反になってしまいますので、私の作品が消されないためにも速度については

活動報告の『響の速度について』と書かれた場所にお願いします!

お手数おかけしますが、どうかお願いします!



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第十六話 恋次とルキアの霊術院生活(昼)

みなさん、先日は色々と意見をお聞かせいただき、ありがとうございました!
速度に関しましては、読者の皆様の想像を働かせるために、数値の明文化はしないことにしました。
皆様の想像を掻き立てるような表現を出来るように頑張りますので、宜しくお願いしますm(__)m

そして、今度はお昼だけのお話しです。
楽しんでくれると幸いですm(__)m


 朝の授業も終わり、俺は修練場で蛇尾丸を解放していた。

 俺の斬魄刀は直接攻撃系に当たる斬魄刀だが、若干鬼道系も混じる。

 斬魄刀の形状は、鉈のような刃が3つほど並ぶ刀身と蛇の骨を削ってできたような刀身がある。

 

 蛇尾丸を横に一閃すると、鉈のような刃が分裂して、伸びる。

 そして、なぜか刃が3つから伸びた距離によって数が増える。

 大体1m間隔で一つの刃がある。

 戻ってくると、刃はまた3つになる。

 

 縦に振るう。

 刀身が真っ直ぐに突き進む、そして霊圧を込めて操作すると刀身を自在にコントロールできる。

「狒々・連牙」

 蛇の骨に溜まった霊圧が弾けて、標的の周囲に牙の形をした霊弾数十ほどが突き刺さる。

 威力はあまり高くねぇ……もっと数を増やして動きを止める方法として使うか。

 

 

 蛇尾丸を操作して、標的に刃が食い込むようにして巻き付く。

 その状態で、さっきみたいに霊力の牙を作る。

 さっきみたいに射出されず、形成された牙が刀身と標的の間で回転し始める。

 回転し始めた牙が標的を抉るように削り始めた。

「蛇尾・葬牙」

 蛇尾丸を引き寄せるように剣を振るうと、刀身が回転し、標的をずたずたに引き裂く。

 やっぱこれってかなりえげつない技だと思うわ。

 拘束して削って惨殺とか怖すぎる。

 

「なにえげつない事をしておるのだ」

「うるせぇ、蛇尾丸が教えてくれたんだよ。てか、テメェが言うな」

 声をかけられた方を向くと、真っ白な斬魄刀『袖白雪』を手に持ったルキアの姿。

 そして、その後ろにはひらひらと飛ぶ真っ白な蝶が10匹ほど見える。

 さらに後ろには真っ白に染まった標的が。

「飛ぶ蝶は綺麗だと思うのだがな……」

「その技の名前が『死の舞・白死蝶』じゃなけりゃな。なんだよ死の舞って、即死かよ、怖えよ」

「失礼な、即死ではない……が、死んだ方が楽かもしれんな……」

「は?」

「あの標的を触ってみよ。そうすればわかる」

「……俺は大丈夫だよな?」

「私と袖白雪が命令しなければ無害だ」

 

 ルキアの言葉を聞いて、恐る恐る標的の藁人形を触る。

「は? はああああああああああ!?」

 カシャンッと小さな音を立てて、粉々に砕け散った。

「今のは標的に白死蝶が群がったからだ。本来の白死蝶は一部だけを完全に凍結させ、動かしただけでその部位を砕けるほどに脆くするのだ。まぁ、少し霊力を込めれば防ぐことは可能だが……見ての通り、生み出すのに大した霊力は使わん」

 ルキアの方を見ると、袖白雪の周囲から凄まじい数の白死蝶が……

「テメェにだけは絶対にえげつないとか言われたくねぇ」

「私も返す言葉がないな、袖白雪も恐ろしい技を教えてくる……む? いや、別に嫌いになってはおらんよ。少しばかり驚いただけだ」

 

 袖白雪に何か言われたのか苦笑しながら、斬魄刀に触れているルキア。

「そういや、袖白雪ってどんな姿してんだ?」

「見た目は白い着物を着て、美しい白く長い髪をした女性だ。本体曰く、雪女のような格好だと言ってたが……」

「へぇ、人型なんだな。俺の方はでかい狒々にしっぽが大蛇になってる姿だったぜ」

「ほう、狒々と大蛇どちらも自我があるのか?」

 興味深そうな顔をして俺の斬魄刀を見るルキアに笑う。

 

「おう。狒々の方はよ、中々おしゃべりが好きな奴でよ。早く具象化できるようになって酒を飲ませろとか笑いながら言ったりするな」

「ふむ、やはり斬魄刀というのはしゃべるのが好きなようだな。まぁ、私も袖白雪と話すのは楽しいから好きだが、と、袖白雪。そんなに興奮するな。白死蝶がどんどん出てきておるぞ」

 おうおう、袖白雪には大分好かれてるみてぇだな。

 白死蝶がもう数えきれないくらい出てきてんだが……

 ゆっくりと白死蝶から距離を取りつつ、話を続ける。

「んで、大蛇の方はよぶっきらぼうなんだが、俺がどういう風に斬魄刀を使えばいいか迷ってたりすると、色々と教えてくれんだ。さっきの技も大蛇が教えてくれた技だな」

 えげつないって言った時は『敵に遠慮は必要ないだろう?』と言われた。

 確かにそうだけど、精神衛生上やばくね?

 

「お前たち一家は相変わらず出鱈目だな」

「! 白哉兄様!?」

「白哉さん!?」

 声が聞こえて振り返ると、死覇装を着た白哉さんがそこに立っていた。

 

「二人とも久しぶりだな」

 小さく笑いながら、こっちに近づいてくる。

「はい、お久しぶりです」

「白哉さんの死覇装姿って初めて見るっすね」

「そうだったか」

 いつも屋敷では死覇装ではなくて、普通の着物着てたしな。

 

「白哉兄様、本日はどうなさったのですか?」

 そういや、なんで修練場に来たんだ?

 隊長格がここに来る用事なんてあんのか?

「今日は二人に用があってな」

「私達に?」「俺達にっすか?」

 思わず首を傾げていると、少し笑みを浮かべていた白哉さんが真剣な顔になった。

 

「あぁ、二人とも我が朽木家の養子にならぬか?」

「申し訳ありません、お断りします」

「わりぃ、白哉さん。それは無理だわ」

 白哉さんの言葉を聞いて、俺とルキアはすぐに頭を下げた。

「……予想してはいたが、やはり即答か」

 ハァと小さくため息をついた白哉さんには悪いが、俺は兄貴の家族でいてぇな。

 

 ガキの頃にルキアに拾われたとはいえ、ここまで俺らを守り続けてくれた人だ。

 その恩を返してぇ……まぁ、兄貴にそんなこと言ったら家族に気を遣うなとか言われそうだけどな。

「つーか、断られるって白哉さんもわかってたんじゃないすか?」

「私に至っては、子供の頃ではありましたが一度お断りしたはずですが……」

「まぁ……御爺様がな……」

「あ、納得です」「今度顔出しに行きます」

 銀嶺の爺さんは、流魂街出の俺達をかなりかわいがってくれたからな。

 

 最近は全く朽木家の屋敷に顔も出してなかったし、寂しくなってきたんだろ。

「兄上が死神になる時にもう一度声をかけると言って聞かなくてな……兄上にも断られたが」

「兄貴が誰かに守られるっていうのは想像がつかねぇな」

「まぁ、精神的には私達も支えにはなれているのだろう」

 

 兄貴は本当に何でもできるからなぁ……支えになれてるなら嬉しいがよ。

「では次だ」

「? まだ何かあるんすか?」

「なんでしょうか?」

 今日は本当に珍しいな。

 

「二人共、我が隊へ入隊せぬか?」

「白哉兄様、度々申し訳ありません。私は卒業時に配属された隊で頑張りたいと思っていますので、六番隊に入隊するとは言い切れません」

「あー、俺も右に同じです。自分の実力で這い上がりたいんです」

 まぁ、目下の目標はルキアより先に上に上がることだけどな。

 姉を自称してるっていうのもあるのかね、いっつも俺よりも先に行きやがる。

 ちったあ、俺にも守らせてほしいもんだぜ。

 

「……そうか……恋次」

「? なんすか?」

「……私は仲間はずれですか……」

 ちょいちょいと手招きされて、ルキアから離れる。

 ルキアが何やらつぶやいてたが聞こえなかった。

 

 ルキアから少し離れた所で止まると、白哉さんが話しかけてきた。

「恋次は、ルキアの事を好いておろう?」

「なっ!? なななななななにを!?」

 なんでいきなりそんな色事の話になんだよ!?

「ルキアよりも強くなろうとしているのだろう?兄上から聞いた」

「兄貴いいいい!!何言ってくれてんだ!?」

 思わず叫ぶと、白哉さんが眉をひそめた。

 

「声を落とせ、ルキアに聞かれるぞ」

「ぐっ! いや、白哉さんがいきなり変なことを聞いて来るからでっす!」

「言葉遣いが変になっているな」

「誰のせいだと……!」

「まぁ、それは良い」

 良くねぇ!!

 が、これ以上わめいても話が進まないのでぐっと堪える。

 

「ルキアよりも強くなりたいのならば私が手を貸そう」

「!? ど、どういうことですか?」

「我が隊の副隊長が家業を継ぐと言う事で、もうじき除隊するのだ」

「つ、つまり俺に六番隊の副隊長になれと?」

 白哉さんは俺の問いに頷いた。

「今すぐと言う訳ではない。だが、我が隊に来るのならば、私が修行の相手となろう」

「ま、まじかよ……」

 隊長格である白哉さんに修行をつけてもらえるとか、願ってもないチャンスだ。

「私が、緋真と結ばれるために世話になった兄上の助言もしよう」

「兄貴、そんなことまでしてんすか」

 思わずつぶやくと、白哉さんは嬉しそうに笑った。

 

「兄上が助言をしてくれなければ、桃花は生まれて来なかっただろう」

「一体どんな助言したんだよ兄貴」

 今は見た目が14歳くらいだったっけ?

 大分前から成長が止まってる気がしたけど、やっぱ緋真さんとルキアの遺伝子って成長に乏しいのか?

 まぁ、才能は親譲りって感じだったけど。

 

 俺の脳内では既に70番台の鬼道と瞬歩を楽々と使う桃花と90番台の鬼道を会得した緋真さんの姿が映し出された。

 ……下手しなくても、俺やルキアよりも強い可能性があるよな。

 斬魄刀はまだ持ってなかったはずだけど、そこら辺どうするつもりなんだろうな。

 孫馬鹿な銀嶺さんがいつか持ってきそうな気もするけど。

 

 そんなことを考えつつも、俺の天秤は六番隊へと揺れていた。

「なんで、そんなにも気にかけてくれるんですか?」

 こんなにも俺の事を買ってくれてるのは嬉しいが、本当になんでだ?

 白哉さんは笑って教えてくれた。

「私は緋真と結ばれた後も、兄上に世話になった。礼というのもあるが、恋次は使えそうなのでな」

「……なんだか、副隊長になったら大変そうですね」

「それだけ、私は恋次とルキアを買っているのだ。……今の私の交渉材料では恋次しか釣れそうになかったのでな」

「堂々と釣るっていうんですか」

「隠しても仕方あるまい?」

 

 白哉さんってこんなに愉快な性格してたっけ?

 ……兄貴と桃花と緋真さんの所為だろうな。

 思いっきりため息をついて、俺は白哉さんを見た。

「了解っす。副隊長になる実力をつけたら、お願いします。朽木隊長」

 頭を下げると、小さく笑い声が聞こえた。

「そう呼ぶのは隊務の時だけにせよ。普段は白哉さんで良い」

「了解!」

「では、何れは頼むぞ」

「はい!白哉さんもお願いしますよ」

「あぁ。ルキアと結ばれると良いな」

「っ! はい!」

 思わず叫びそうになったが、認めないことには先に進めないだろう。

 

 あぁ、そうだよ。

 俺はルキアが好きだ。

 護られるよりも護りてぇ。

 だからこそ、もっと力が必要なんだ。

 だからよ、頼むぜ蛇尾丸。

 

 そう思いながら、いまだに解放状態で手に持っていた蛇尾丸の刀身を撫でる。

『ガッハッハッハ!任せておけ!お前なら何れワシ等の本当の名を聞くこともできるだろう!』

『精進せよ。私はそう簡単には認めんぞ』

 帰ってきた言葉に、笑う。

「望むところだ。ぜってぇ認めさせてやるぜ」

『ワシは酒を飲ませてくれたら認めてやるかもしれんぞ?』

『狒々、いい加減にせよ』

『大蛇は固いのう』

 

 ルキアと話している白哉さんを見る。

 斬魄刀『千本桜』

 今は見切ることもできねぇが、いつかは……

 そして、白哉さんも超えて、兄貴を超える。

 そうすれば、俺は自信をもって言える。

 

 ルキアに、俺の気持ちを。

 

 斬魄刀を力強く握る。

「よっしゃああ!! やるぜ! 蛇尾丸!!」

『応!』『失望させないように精々頑張れ』

 

 

 

 

「白哉兄様、恋次に一体何を言ったんです?」

 視線の先で、やる気全開にして刃禅をやり始めた恋次を見つつ、尋ねた。

「少し助言をな」

 意味深に笑う白哉兄様の姿に、これは教えてもらえないなと察して頷くだけにとどめた。

 男同士の秘密というものだろう。

 

「ルキア、桃花が会いたがっていたが、時間はあるか?」

「そうですね……では、午後の授業が終わり次第、朽木家を伺わせて貰います」

「そうしてくれ。兄上にも会いたがっていたが、今日は忙しいようでな」

 苦笑する白哉兄様に、私も同じように苦笑を返した。

「響兄様は書庫に籠っていますからね。卒院まで時間がありませんから、できる限りの知識を詰め込むつもりみたいです」

「そこまでしなくとも良いと私は思うのだがな……」

「まぁ、響兄様ですから」

 

 私がそういうと、白哉兄様は苦笑していた。

 何故だろうか?

「其方たちも同じような事を言われているのは知っているか?」

「私達もですか?」

 何かあっただろうか?

 特に思いつくことがないのだが……?

 

「響一家はどこか普通じゃないと、瀞霊廷まで噂されている」

「失礼な話ですね……と言いたいですが、まぁ言わんとしていることはなんとなくわかります」

 既に斬魄刀を持っていて、始解までできる。

 実習では、私と恋次、前までは響兄様の三強だった。

 響兄様はいつの間にか教える側に回っていたが……深く考えてはいけないことだろう。

「そろそろ時間だ。私は隊舎に戻るとしよう」

「はい、お気をつけて」

「あぁ、恋次にも来るか聞いておいてくれ」

「わかりました」

「ではな」

 去っていく白哉兄様の背中に一礼する。

 

 そして、袖白雪を見て、刀身を撫でる。

『んっ、どうしたの?』

「いや、これからもよろしく頼む。袖白雪」

 周りにヒラヒラと飛んでいる蝶を一瞥すると、シャンという音と共に蝶が雪へと変わった。

 結構な数が飛んでいたため、この修練場にだけ雪が降っているような状態になっている。

『ふふふ、えぇ、宜しく我が主様。本当の名を言える日が待ち遠しいわ』

 本当に楽しそうな声に、私は苦笑する。

「いつかは、な。今の私の力では、まだ具象化することもできぬ」

『大丈夫!それもそんなに遠くないわ。だから待ってるね?』

「袖白雪が言うのなら、できるだけ早く具象化できるように頑張るとしよう」

 

 袖白雪を横に一閃して、始解を解く。

 鞘にしまって、雪が残る修練場に背を向けた。

「恋次、そろそろ午後の授業だ。戻るぞ」

「おう、もうそんな時間か」

 

 恋次を伴って、修練場を出る。

「恋次、今日の終業後桃花へ会いに行くぞ」

「大分久しぶりだな。また振り回されそうだ」

「日に日に瞬歩に磨きが掛かってるからな。今回はどれほど追いかけまわされるのやら」

「まぁ、俺としてもいい修行になるから別にいいんだけどよ」

「ふふふ、私もだ」

 さて、あと数時間。

 頑張るとしようか。

 

 

 

 




と、言う訳で恋次とルキアは養子の話を蹴りました。
恋次はルキアと結ばれるために、副隊長になることを決意した模様。

でも恋次さんや。
これって響兄さんに聞けば、一発やで。
まぁ、忙しい兄貴に手間をかけさせたくないという弟の気遣いですw

今回も楽しんでいただけたでしょうか?
次は、少し要望があった白哉と緋真の娘であるオリキャラ「桃花」ちゃんと恋次達のお話です。
…………今、軽く書いてますが、1万文字超えるかもしれない…………


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第十七話 朽木家で過ごす夜

お待たせしました!
ちょいと長くなりましたが、ようやく完成!
今回は戦闘描写もあります……が、期待してはいけません。
私に、戦闘描写は無理だったよ……(白目)


「ルキア叔母様!!」

 朽木家の門を潜ったとたんに聞こえた声に、私はすぐさま身構えた。

 すると、案の定というべきか。

 声がした方から姉様によく似た黒髪の少女が、瞬歩を使って飛んできた。

 いつもの事とはいえ、やめてほしいのだが……

 既に私と体格は変わらない桃花を受け止め、衝撃をその場で回転することで逃がしつつ抱きしめる。

 

「おー、いつもながら良く衝撃を逃がせるもんだな」

 恋次が少し後ろの方で呆れたような声を出している。

 桃花が瞬歩を覚えてから、来る度に同じことをしているからな。

 慣れたものだ。

 そんなことを考えつつも、姫抱きしている桃花を軽くしかる。

「桃花、危険だから普通に抱き着けばよいと、いつも言っておるだろう?」

「ふふふ、ごめんなさい♪」

「…………まぁ、良いか」

「いいのかよ」

 

 楽しそうに言う桃花の顔を見ると、何故か許せる。

 何故だ?

 首を傾げていると、桃花が私の首に手をまわしてギュッとくっついてきた。

「桃花?」

「ふふふ、ねぇ恋次叔父様。うらやましいです? うらやましいですか?」

 どうやら抱き着いたのは後ろの恋次を煽る為だったようだ。

 

「おー、相変わらず生意気な対応だな。おらおら」

「きゃあ!! やーめーてーくーだーさーいー! 髪が乱れますーーー!!」

 ぐりぐりと頭を撫でられているらしく、私にまで振動が伝わる。

 というか、私が抱きとめている時に暴れるな、落とすだろう。

 

「桃花!!」

 私が困っていると、奥から目を吊り上げた姉様が歩いて来た。

 桃花はビクッとして、器用に私の腕から逃げ出すと、すぐさま恋次の後ろに隠れた。

 私の後ろじゃないのは、恐らく体の大きさの所為だろうな。

「お、お母様が来ました!! 恋次叔父様! お母様をやっつけてください!!」

 恋次の後ろで、姉様を指さす桃花をみて、恋次は呆れたような声を出した。

 

「はいはい。緋真さん、桃花一人お持ちしました」

「きゃああああ! 恋次叔父様の裏切り者ーーー!!」

「いつもこのやり取りやってんだけど、いつになったらこれやめるんだ?」

 ひょいと首の根っこを掴みあげるように桃花を持ち上げて、目の前まで来た緋真に捕まる桃花。

「とーうーかー? 貴女、また瞬歩を使ってルキアに突撃したわね? 見えてたわよ?」

「ナンノコトデショウカ、ワタシ、ワカリマセン」

「…………そんなこと言うのはこの口からしら?」

 グイッと桃花の両頬を引っ張りながらも笑顔を浮かべる姉様は、何というか、うむ、怖いな。

「いひゃいいひゃい!!」

 

 桃花が涙目になりながら、姉様の手をバシバシと叩いているのを見ながら、恋次がぽつりと呟いた。

「いつもと同じ笑顔なのに怖え……」

「同感だ」

 母親になったらあのような技が身に付くのだろうか?

 

「ところで、なんで桃花はいつもルキアに突撃してくるんだろうな?」

「さてな、桃花に聞いてもはぐらかされるから、私も理由は知らぬ」

「その理由教えてあげるわ、ルキア」

「お母様!?」「姉様?」

 私が疑問の声を上げるとの同時に、桃花の驚いた声が響いた。

「お、お母様!!私が悪かったです!!ごめんなさい!!」

「この子が貴女に迷惑をかけるのは「ま、待って!!待ってくださいお母「おう、悪ぃな。ちょっと静かにしててくれ」むぐううううう!?」ありがとう、恋次君」

「そ、そこまで無理矢理話さなくてもいいのでは?」

 姉様が話をしようとして、桃花がそれを遮ろうとしたら、恋次に後ろから口を塞がれた桃花が哀れでならない。

 桃花から助けてと言う視線が送られてくるのだが……

 

 だが、姉様はどうやらやめるつもりはないらしい。

 頭を横に振って桃花を見た。

「ちょーーーっと、おいたが過ぎる子にはお仕置きが必要よねぇ?」

「そうですね」「そうっすね」

「むうううう!?」

 許せ、桃花。

 顔は見えてないが、姉様から感じる怒りの気が恐ろしいのだ。

 桃花から目を逸らす。

 

 私達の返答に満足した姉様は、桃花が突撃してくる理由を教えてくれた。

「この子はね、貴方達の事が大好きなの。だけど、普通に甘えるのは流石にもう恥ずかしい……けど、甘えたい。だから勢いに任せて突撃しちゃおう。みたいなこと考えてるのよ。現にルキアと恋次君にくっつくのは最初だけでしょ?」

「そういや、そうだったな」「言われてみれば……」

「ね、桃花?」

 姉様が普通の笑顔で桃花を見た。

「……当たり見たいっすね、こいつ後ろからでもわかるくらい真っ赤ですよ」

「………………」

 うむ、すごく赤いな。

 首まで真っ赤になっている。

 

「恋次君、もう離してもいいわよ」

「はい」

「っ!」

「はーい、逃げちゃだめよ?縛道の六十一 六杖光牢」

「お母様のばかああああああああ!!」

 恋次に解放された桃花はすぐさま逃走を図ったが、姉様の縛道によってあっという間に捕まってしまった。

「縛道の六十番台を詠唱破棄……だと……?つか、六杖光牢使うか普通」

 姉様……詠唱破棄で六十番台を軽く使いますか。

 

 桃花も必死に抵抗していたが、私達が近くに来て諦めたように項垂れた。

「うぅ……お母様のばかぁ……」

「知りません。おいたが過ぎる子にはお仕置きです」

 若干涙目になって姉様を睨んでいるが、うむ、まったく迫力がないな。

 しかし、こうしてみると姉様がしっかりと母親をやっているのだと再認識するな。

 …………しかし、私と全く変わらない体形だと言うのに、なぜこうも母性が感じられるのだ?

 私も子ができたら、こうなるのだろうか?

 

 そんなことをしている間に、姉様が縛道を解いた。

「…………」

 桃花は逃げるのは諦めたらしく、顔を赤くしてそわそわとしている。

「いつも突撃したり、煽ってくるからお転婆な奴だなと思ってたんだが……そうか、甘えたかったのか」

「あ……う……うぅぅぅ……」

 意地悪そうに笑いながら桃花の頭を撫でる恋次に、顔を真っ赤にする桃花。

 先程の考えはいったん置いといて、今は桃花を甘えさせてやらねば。

「悪かったな、桃花。 ほら、おいで」

 頭を撫でられている桃花に向けて、腕を広げる。

 さぁ、来るがいい桃花よ。

 

「うぅ……ルキア叔母様ぁ……お母様が意地悪します」

「む、失礼な子ね」

「いや、俺も結構意地悪だったと思いますよ」

 恋次と姉様から私の方へ歩いて来た、桃花を抱きしめて頭を撫でる。

「よしよし、だが私は桃花の心の内が知れて嬉しいぞ」

「お、叔母様までぇ……」

 恥ずかしいのか、先程よりもギュッと強い力で抱き着いて来る。

 

「ならもっと意地悪しちゃおうかしらぁ?」

 腕の中の桃花がビクッと震えた。

 そんな様子を見て姉様は楽しそうに笑っている。

「ね、姉様。流石にこれ以上は……」

「ふふふ、冗談よ。……桃花がこれ以上おいたをしなければ、ね?」

「…………もう悪いことは絶対にしません」

 

 桃花の小さな声を聞き逃さなかった姉様は、満足そうに頷いた。

「はい、よろしい」

「緋真さん、外堀から埋めてったな」

「むしろ最初から本丸を包囲された状態だったな」

「……刀を突き付けられて降伏勧告を受けた気分です」

「クッ!」「ぶはっ!」

 桃花のその言葉に、私と恋次は思わず噴き出した。

 

 確かに、恋次に身柄を確保され、精神的に討たれ、六杖光牢で拘束され、のちの降伏勧告……戦で例えたら確かに首を切られる寸前の降伏勧告だったかもしれんな。

「全く、失礼な子ね」

 と言いながらも、姉様は苦笑していた。

 

 

 

 ひと段落して、私達は客間へと移動した。

「おぉ! よく来た! 久しぶりだな二人とも!」

「やぁ、いらっしゃい。恋次、ルキア」

 客間には既に銀嶺お爺様と蒼純お父様が、お茶と羊羹を準備して待っていた。

 …………相談役と朽木家当主がすることじゃないと思うのですが……

「お久しぶりです、銀嶺さん、蒼純さん」

「お久しぶりです、銀嶺お爺様、蒼純お父様」

 そんなことを内心で思いつつも、私達が挨拶すると二人は嬉しそうに笑う。

 本当に優しい人たちばかりだな、朽木家の方々は。

 

 そういえば、銀嶺お爺様にも養子の件を謝っておかねばならぬな。

「銀嶺お爺様、養子の件は……」

「うむ、既に白哉に聞いておる。なに、気にすることはない。響が死神になる時にもう一度提案してみようと考えていただけだ。まぁ、ちょっと……いや、結構……かなり残念だとは思うが……」

「お父さん、二人の前でそんなこと言わないでください。気にしちゃうじゃないですか」

「む、すまんな蒼純。やはり残念で「だから言わないでください。いいね?」……響殿と飲むようになって蒼純も強くなったのぅ」

 銀嶺お爺様と蒼純お父様のやり取りを見て、私と恋次は顔を見合わせ苦笑した。

 いつもかわいがって頂いているが、そこまで残念がられると悪いことした気になる。

「まぁ、ワシはいつでも良いぞ。養子になっても良いと思ったらいつでも私達の家族になると良い」

 優しく笑って言い切る銀嶺お爺様に、静かに頭を下げる。

 

 響兄様が養子にならない限り、そうはならないと思うがその気持ちは素直に嬉しかった。

 

 

 

 

「んで、今日はどうするんだ?」

 銀嶺お爺様たちと少し話をした後、私と恋次、桃花は客間の外に出ていた。

 ある程度話した後は、桃花と遊ぶ。

 それが私達が来た時の流れだった。

「うぅん……あの、良ければなんだけど、私の部屋でお話しませんか?」

「私は構わんぞ」

「あー……まぁ、桃花がいいならそれでもいいぞ」

 私達が了承すると、ぱぁと花開くような笑顔を浮かべた。

「では、いきましょう!! お聞きしたいお話があるんです!!」

「桃花、そのように急いではまた姉様に怒られるぞ」

「っていうか、話すのは俺達かよ」

 

 そんなことを話しつつ、桃花の部屋へと入る。

 桃と同じようにチャッピーの人形が飾られている……!

 かわいらしい部屋だ。

「んで? 何の話が聞きたいんだ?」

 座布団に腰かけながら、恋次が胡坐をかいた。

 私は座布団の上で正座する。

「実は、噂を聞きまして……」

「噂?」

「はい、響伯父様が現世での実習で虚の大軍をあっという間に全滅させた。その虚の大軍は大虚だった。など聞いたのです。ルキア叔母様と恋次叔父様なら何か知っているのではないかと思いまして」

 

 その言葉を聞いて、やはり噂というのはかなり尾ひれがつくものだなと思う。

「あー、あの実習の事か」

「知っているのですね?」

「まぁ、私達は当事者だからな」

 私がそういうと、桃花は目を輝かせた。

「ではお話してください! 響伯父様がどのように戦っていたのか、私、気になります!」

「あー……どうする、ルキア?」

「箝口令が敷かれている訳ではないから、話してもかまわないだろう」

 恋次は大きくため息をつくと、眉間を抑えた。

「話は任せていいか? 俺だとうまく話せねぇ気がするからよ」

「うむ、任せておけ」

 

 一度頷いて、桃花を見る。

 若干身を乗り出しており、楽しみにしているのが傍目に見ても良く分かる。

 その姿に思わず笑みをこぼしながら、私はあの実習を振り返った。

「今から話すことは、私が見たことと響兄様に直接話を聞いた事だ。私の主観で話す故に、些かわかりづらいかもしれぬが……」

「構いません!」

 非常に楽しみといった顔で私の話を待つ桃花に苦笑しつつ、あの日の事を話し始めた。

 

 

 

 

「そうだ、刀の柄を霊の額に押すと魂葬ができる」

「こうだろうか」

 私は上級生の檜佐木修平殿の言葉に従って、魂葬の教授を受けていた。

 霊の額にポンッと、柄を上げると霊は静かに尸魂界へと送られた。

 特に何もなかった故に、思わず首を傾げた。

 

「へぇ、初めてなのに上手だな。最初は結構失敗するものなんだが」

 檜佐木殿の言葉から察するに、私はうまく魂葬を行うことができたらしい。

 しかし、失敗するとどうなるのだろうか?

 というか、何をどうしたら失敗になるのだ?

 

「どのようなことをすると失敗になるのですか?」

「そうだな、力を入れすぎたりすると「いでででで!?」魂魄が痛みを感じる。ちょうど、あんな風にな」

 説明している最中に、他の上級生が受け持っていた霊が悲鳴を上げていた。

 その周りでは院生があたふたとしている。

 檜佐木殿が声のする方を親指で指して、軽く笑った。

 それにつられて、私も思わず笑ってしまった。

 

「実習の練習台となる魂魄が少し、不憫ですね」

「クックック、違いない」

 私達はそんなやり取りをしつつも、実習を続けていた。

 

 

 ん?響兄様か?

 響兄様は、この実習では護衛として着いていたのだ。

 故に、響兄様は教習していたわけではないのだ。

 私達の実習はつつがなく進行していたのだ。

 

 

 

「全員一か所に集まれ!!」

 突然、響兄様が大声をあげたと思ったら、姿が消えたのだ。

「うわああああ!?」

 悲鳴を上げたのは上級生の一人である、中村殿だった。

 悲鳴が聞こえた方を見たら、そこには自らの朱槍を構えて立つ兄様の姿と額の部分が吹き飛んで崩れ落ちる巨大な虚だった。

 

「中村六回生、怪我はないか?」

「あ、あぁ。だ、大丈夫だ」

「ならすまんが、院生を一か所に集めてくれ」

 響兄様は巨大な虚を倒したというのに、いまだ警戒を解かずに空を睨みつけていた。

 中村殿は響兄様に言われた通り、院生を一か所に集め始めた。

 

 響兄様がこうして警戒していると言う事は、危険が迫っているのだろう。

 私は恋次と合流すべきと判断して、恋次の元へと向かった。

「恋次」

「ルキア、虚が来るのか?」

 未だ警戒を解かずに空を睨みつける響兄様を見つつ、恋次が訪ねてきた。

「わからん。だが、響兄様があれほど警戒しているのだ。何も起きぬわけが……!?」

 パキンッバキンッと何かが壊れる音がした。

 

「嘘……だろ……!?」

 誰かが声を上げた。

 その気持ちもわかる。

 なぜなら、空に無数の亀裂が開き、そこから虚が飛び出してきたのだ。

 それと同時に、空があっという間に雷雲に覆われたのだ。

 

 

 これは後から響兄様に聞いたのだが、天候操作は響兄様の斬魄刀の力らしい。

 そこから発生した雨、風、雷を自在に操るのが兄様の斬魄刀だと言っていた。

 

 

 私も屋敷の周辺に現れた虚を何度か相手にしたことがあったが、数えきれないほどの虚を見たのは初めてだった。

 情けないが、正直恐怖に震えてしまったのだ。

 そんな私の様子を察したのか、響兄様が私達の名を呼んだ。

「ルキア!恋次!こい!」

「は、はい!!」「お、おう!!」

 私は、響兄様を見た時、目を疑った。

 響兄様は不敵な笑みを浮かべていたのだ。

 

「案ずるな。この程度、物の数ではない」

 次いで、耳を疑った。

 既に虚の数は100を超えるであろう。

 その数を目にして、なお大したことではないと響兄様は言ったのだ。

 

 私は自分が情けなくなった。

 響兄様は、恐らく震えていた私のためにこう言ってくれたのだろう。

 だが、私とていつまでも守られているだけの存在ではない!!

 そのために死神となったのだ!!

 隣を見れば恋次も拳を強く握りしめて、強い覚悟を秘めた目をしていた。

 

「兄貴、俺もやるぜ!!」

「響兄様、私もやれます」

 響兄様は私達の様子を見て、軽く笑った。

「ならば、守りは任せたぞ」

「っ!あぁ!!行くぜ!咆えろ『蛇尾丸』!!」

「任せてください。舞え『袖白雪』」

 

「一回生が斬魄刀の解放を!?」

 私と恋次が斬魄刀の解放をしたことに、驚きの声が上がった。

 だが、私にそれを気にする余裕はなかった。

 守りだけでも、響兄様は任せると言ってくれた。

 ならば、その期待に応えるのみ!!

 

「一回生はその場を動くな、結界を張る火雷大神『天恵陣(てんけいじん)』」

 響兄様がそういうと、彼らの周りに嵐の結界が現れた。

「その雨と風がお前たちを守ってくれるだろう」

「響さんは……?」

 結界の中にいる桃が不安げな声を上げた。

 響兄様は一度視線を向けると、不敵に笑った。

 

「案ずるな」

 そういって、響兄様は槍を握っていない方の手を、天に向かって伸ばした。

 雷雲はゴロゴロと言う腹の底に響くような音を生み出し、稲妻が走っているのが見えた。

「私達がいる限り、お前たちには指一本触れさせん」

 

大雷神(おおいかづちのかみ)一の型『天雷(あまのいかづち)』」

 響兄様が手を下した瞬間、世界に雷光が走った。

 次いで、思わず動きを止めてしまうほどの雷鳴が轟いた。

 

「……稲妻が?」

「すげぇ……!」

 雷雲より幾つもの稲妻が落ちてきて、虚を貫いた。

 稲妻に撃たれた虚は、身を炭化させて霊子へと分解されていく。

「この天気も……雷も……全部兄貴が操ってんのか……!?」

「信じがたいが、そう言う事なのだろう」

 全く、響兄様は本当にでたらめな兄だ。

 

「この程度なら、なんの問題もない」

 そうして、響兄様の姿がまた消えた。

 稲妻は遠くにいる虚を狙い、今も落ち続けている。

 響兄様は近くまで来た虚は直接片付けることにしたらしい。

 

 一瞬だった。

 本当に一瞬で、比較的近くにまで来ていた虚の額に穴が開いた。

 それも一体ではない。

 気が付けば、近づいてきていた虚20体が額に穴をあけられたのだ。

 私の目では、響兄様が移動している姿も、虚に槍を突き立てている姿すらも見えなかった。

 

 ただ、速い。

 まるで不可視の領域があるかのように、虚はある距離から近づくこともできずに倒されていく。

 だが……なぜだ……なぜ、他の虚が倒されてもまったく気にせず近づいてくる?

「……妙じゃねぇか?」

「……あぁ、なぜこうも動じないのだ?」

 今まで見たことある虚は知能がある。

 虚になる霊魂はどうしても人だったものが多い。

 まれに動物の霊魂からも虚となるが、それも数が多いわけではない。

 だと言うのに、ここに現れている虚は一切しゃべることなく、悲鳴を上げることもなく攻めてくる。

 

 まるで自我を持たない自動人形の様だ。

 そこまで考えて、ふと視線を感じた。

 見てみれば、響兄様が動きを止めて私達を見ていた。

 そして、私達の背後の方に視線をやると、再び姿を消した。

 今のは……?

 

 響兄様の今の動作に何の意味があったのか考えていると、ある気配に気が付いた。

「オイ、ルキア」

「うむ、わかっておる」

 どうやら響兄様があえて見逃した虚が近づいてきているようだ。

「霊圧は感じねぇが、気配はあるな」

「どういうことかはわからぬが、ここより先へは通さぬ」

 解放した刀を持って、気配がする方へ向かう。

「しっかし、兄貴はよく気が付いたな」

「私達はここまで近づかれるまで気が付かなかったというのにな」

 小さくつぶやきながら、後方へ視線をやる。

 

「俺は前の奴をやるか」

「では、私は上だな。ちょうどいい」

 恋次はルキアよりも前へ移動し、ルキアは恋次から数歩後ろへ下がった。

 

「では」「じゃあ」

「やるとしよう」「やってやろうじゃねぇか」

 恋次は気配がする前方へ蛇尾丸を振った。

 連結刃が伸びていき、下から顔を出した虚の顔面を穿つ。

「ちっ、霊圧が消せてもとんだ雑魚じゃねぇか」

 蛇尾丸の勢いは虚の顔面を吹き飛ばして、なお止まらない。

 蛇の様に動き、吹き飛ばした虚の左右から出てくる新たな虚の頭を食い散らかす。

「蛇牙襲咬。蛇に喰らい付かれたら丸のみにされちまうぜ?」

 

 

「初の舞・月白神楽(つきしろかぐら)

 私は円を描くように、袖白雪を振るうと地面から空へ向かって、一瞬で氷の柱が出来上がった。

「一体捕らえれば十分だ」

 私の目には上空で凍らされた一体の虚が見えた。

 そしてその虚から、今度は横方向に氷の柱が形成された。

 

「神楽とは、鎮魂の呪術。近くに迷える魂があるのならば、その罪を払い、黄泉へと送ってやろう。まぁ、黄泉と言っても尸魂界の事なのだがな」

 氷の柱は新たな虚を捕らえ、また新たに柱を増やす。

「これでも死神なのだ。見習いとはいえ、虚の罪を祓うのは私の仕事だ」

 そうして、氷の柱は上空にいた虚を全て捕らえ、カシャンと言う音を残して、小さな氷の破片へと変わっていった。

「次の生では、迷うことなく逝くがいい」

 警戒は解かずに、他に近づいてくる気配がないか探る。

 

 どうやら、響兄様があえて見逃したのはこれだけの様だ。

「あっけなかったな」

 私と同じように虚を蹴散らした恋次が近づいてきた。

「響兄様があえて見逃しただけだからな。今いる中でも弱い奴らを通したのだろう」

「それもそうか。けど、どうやったら霊圧消してた虚の気配に気づけんだよ」

「さてな、響兄様はどうも普通ではないからな」

「………遠いな」

「…………」

 恋次の言葉には答えず、ひたすらに落ちていく虚の群れを見る。

 

 気が付けば、虚が出てきていた穴は閉じており、見える虚の数もあっという間に減っていく。

 響兄様と私達では比べるのが、おこがましいほどの差があるのだな。

 遠くにいた最後の虚が稲妻に撃たれて、霊子に代わっていくを私達はただ見ていた。

 

「これで終わりだな」

「あぁ」

 だが、私達の言葉をあざ笑うかのように、再び空に亀裂が走った。

 そして、今まで現れた虚とは桁違いの霊圧を感じた。

「な、なんだあの虚は……!?」

 

「ギィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 咆哮、恐ろしく巨大な身ゆえか、その声も体にひどく響く声だった。

 周辺の建物が奴の足首ぐらいの大きさしかないと言えば、その巨大さがわかるだろうか。

「大虚まで現れるか、やってくれる」

「大虚……?」

 気が付けば近くにいた響兄様が、目を鋭くして何かを呟いた。

 

「長引くと面倒だ、これで終わらせる」

 そういって、響兄様が天に手をかざすと、その身に稲妻が落ちてきた。

「響兄様!?」「兄貴!?」

 思わず声を上げるが、その心配がないことはすぐにわかった。

 落ちた稲妻が、響兄様の手に収束していた。

 稲妻は何度も兄様の手に落ち続け、稲妻はやがて巨大な雷の槍へと変貌していた。

 

 バチバチと凄まじい電気の音をさせ、込められる霊力も非常に大きなものとなっていった。

 響兄様はその槍を握り、全身に力を籠めたのがわかった。

「『雷神罰(いかづちのしんばつ)』」

 それもまた一瞬だった。

 投げた軌跡もまったく見えず、気が付いたら大虚はその身を蒸発させていた。

 

 後から響兄様に聞いたのだが、雷の槍は大虚の仮面に当たると、膨大な雷のエネルギーでその体を一瞬で霊子へと分解したらしい。

 私には響兄様が言っていることはよくわからなかったが、消し飛んだと言う事だろう。

 

 

 

「というのが、私と恋次が遭遇した出来事だ」

 話し終え、桃花を見ると呆けたように口を開けていた。

「大虚の軍勢っていうのは流石に尾ひれがつきすぎだよな」

「まぁ、それに負けないくらいの虚の軍勢ではあったな」

「兄貴曰く521体の虚が現れたらしいけど、本当かどうかはわかんねぇよな」

「……響兄様なら倒しながら数えるくらいやってのけそうだ……というか、その具体的な数が怖い」

「……やめろよ、笑えねぇ」

 

「よ、よく生きてましたね?」

「ようやく復活したと思ったら第一声がそれかよ」

 桃花が絞り出した一言に、恋次が呆れたようにため息をついた。

「だ、だってだって!予想外も良い所ですよ!?響伯父様が強いと言うのは、曽御爺様や御爺様から伺ってましたけど!まるで物語の様なお話ではないですか!!」

「……いいか、桃花……世の中には嘘のような本当の話があるんだぜ」

「あぁ、霊術院に入る前から卍解を会得しているような人がいるとか……な」

 恋次と一緒に遠い目をしてしまう。

 あの響兄様が帰ってこなかった嵐の4日間。

 まさか、あの嵐が響兄様の卍解修行の所為だとは思いもしなかった……。

「ば、卍解!? ど、どういうことですか!? ねぇ!? ルキア叔母様!? 恋次叔父様ー!?」

 桃花に揺さぶられながら、今回の訪問はなんだか疲れたな……と思いながら、空に輝く星を見る私だった。

 

 




……ど、どうでしたか?
正直、戦闘描写はもうダメダメだと思います。
本当になんで他の作者さんは書けるんでしょう……
もう、しばらくは戦闘描写は書きたくないです。

あと、ちょろっと桃花ちゃんの設定公開
朽木桃花 身体年齢14歳くらい 年齢?矛盾が出てくるから皆様の想像でお願いします(白目)
白哉と瞬歩を、他の一家に鬼道を習ってます。
見た目はほとんど、緋真さんと同じですが髪が長いです。
イメージ的には隊長ルキア?
目元は白哉さんに似てますが、性格は誰に似たのやら……なかなか愉快な性格になってしまった。
何故だ?

ではでは、今回も皆様が楽しんでくれたら嬉しいです!!
また次のお話で!


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第十八話 十番隊にて隊務中

今回は響目線で十番隊での生活を書いてみました。
響の影が薄いと言われたので、押し出してみることに!
主人公をもう少し前に出していくかは、この話の反応を見て決めることにします。

では、今回も楽しんでいただけると幸いです!



「よく来たな! 俺が十番隊の隊長志波一心だ! よろしく頼むぞ!」

「私は副隊長の松本乱菊よ。よろしくね」

 そういって、笑顔で迎えてくれたのは原作主人公の父親(予定)である志波一心さんと巨乳で有名な松本乱菊さんが迎えてくれた。

 正直、いきなり三席という立場になるから何かしら言われるかと思ったんだが、こうも暖かく迎えてくれるとは……!

 俺は凄く嬉しいよ!

 

「嵐山響です。色々と迷惑をかけると思いますがよろしく頼みます」

 あまりにも嬉しくて、笑顔を浮かべがら挨拶してしまった。

「おぉう、朽木隊長の義兄っていうからもっと固い奴だと思ってたんだが、良い奴だな!」

「たいちょー、そういうのって本人の目の前で言う事じゃないと思いまーす」

 なにやら驚かせたようだが、どうやら気に入られたようだ。

 乱菊さんとのやり取りもなんだかおもしろい。

 

「それもそうか! 気を悪くしたらすまん!」

「いえ、私としては好ましく思います」

 一心さんが謝ってきたけど俺的には、こそこそと陰口言われる方が嫌なんだよね。

 離れてても耳がいいから結構聞こえるし。

 

「よし、それじゃあ早速響の仕事だが……松本! 副隊長の仕事全部教えてやってくれ!」

 ちょっとまて、そこのひげ面。

「はい? え、聞き間違いですか? 今、副隊長の仕事を全部教えてって聞こえたんですけど?」

 流石に乱菊さんも驚きのあまり目を見開いて、次いでひげ面さんの正気を疑った。

 もっと言ってやってください。

 

「あー、それなんだけどな……実は響は5年くらい十番隊で経験を積んだら、五番隊で副隊長が内定してるんだ」

「初耳なのですが……?」

「あ、やべっ! 今のは聞かなかったことにしてくれ!! まだ内密なんだ!」

「……それをあっさり本人の前で暴露する当たり、隊長やめた方がいいじゃないですかねー」

「松本ちゃん辛辣!」

 

 二人のやり取りを聞いている俺は正直それどころじゃなかった。

 よ、ヨン様ああああああああああ!?

 自分の副隊長に指名してきやがったああああ!?

 なんでだ!?

 やっぱりあの現世実習を生き残ったことで目をつけられたか!?

 いや、それを考えるなら卍解修行後に現れた時点で目をつけられた可能性が!?

 

 おのれヨン様!

 既に浦原さんも夜一さんも罠にハメて置きながら、俺まで対象かああああ!?

 殴る! 絶対にボコってやるわチクショウが!

 

「と言う訳で、松本ちゃん後宜しく!」

「あ!? 待て!!」

 残りを乱菊さんに任せて、早々に立ち去ろうとした一心さん。

 流石にそれはどうよ?と思ったので、俺の横を通ろうとした時に足を引っかけた。

「ほわあああああああ!? ひでぶっ!?」

「あ、あら?」

 逃げようとしていた一心さんは、すさまじい勢いで転がっていき扉にぶつかった。

 乱菊さんは突然の出来事に呆けたように一心さんを見ていた。

 

 うん、すごく痛そうだ。

「おぉおおおぉおぉおお!? 俺の瞬歩に反応するとは流石は次期副隊長……!!」

「……霊術院を卒業したばかりの死神が隊長の瞬歩に反応した……? え、なにそれ、怖い」

 瞬歩使ってたのか。

 ってそんなことよりも、一心さんを捕まえないとな。

 一心さんの傍に近寄って、肩を掴んでおこう。

「松本副隊長、志波隊長を確保しましたが」

「あ! ありがとう!! って逃げようとするな隊長!! 仕事はまだ残ってるんですよ!!」

「いや、逃げようとしても逃げれな……! 響って力強いな!?」

「そうでしょうか? ありがとうございます」

「褒めてないよ!?」「ナイス、響!!」

 悲鳴と称賛の声が上がる十番隊隊舎にて、なんだか楽しそうなことになりそうだなと感じた日だった。

 

 

 

 あっという間に時が流れ、入隊から早四カ月。

 何とか、副隊長の仕事も覚えることができた……というか、なぜ隊長の仕事が混じっているのだ。

 時々、隊長の署名が必要なものがさらっとこちらの書類に混じってることがある。

 乱菊さんもそれを見つけるたびに、一心さんを探しに行くのでその間俺は一人で書類を捌いているのだが。

 

「響ーーー!! ちょっと隊長確保するの手伝ってーーー!!」

「響を呼ぶのは反則だろーーー!?」

 どこからともなく聞こえる声に、ため息をつく。

 今日の一心さんは本気で仕事をしたくないらしい。

 隊長室に外出中の札をかけて、俺は一心さんと乱菊さんの霊圧を感じる方へと走った。

 

「わきゃああ!?」

「おわああ!?」

 途中で一般隊士を驚かせてしまったが、まぁ問題はないだろう。

 ちゃんと間を走り抜けたからな。

 

 隊舎から少し離れた所で、乱菊さん率いる十番隊のメンツが、大人げなく本気で逃げ回る一心さんを追いかけているのが目に入った。

 直接捕まえてもいいけど、最近の一心さんは隊長羽織りを脱ぎ捨ててでも逃げるからな。

 こういう時、縛道は本当に便利だよな。

「縛道の六十一 六杖光牢」

「いぃ!? それ使うか響!?」

「よし! 貴方達!! 響が来たわ!! 今のうちに確保よ!!」

「応!」「はい!」

「だ、だが詠唱破棄した縛道なら「雷鳴の馬車、糸車の間隙」後述詠唱!? そこまでやるか!?」

 だって逃げるんだもの。

 と言う訳で、残りもささっと詠唱してしまいましょうか。

「光をもて此を六つに分かつ」

 と言う訳で詠唱完了、縛道に拘束された一心さんの出来上がりだ。

 

 こうして、週に一度は起きる追いかけっこが終了したわけである。

「いやーありがとうね、響。やっぱり貴方がいたら隊長の確保が簡単だわー」

「私は大したことはしていない」

 礼を言ってくる乱菊さんに、俺は手拭いを差し出す。

 俺を呼ぶまで走り回ってただけあって、汗だくである。

 乱菊さんは胸を大分露出しているから、正直目のやり所に困るのだ。

 全力で顔で固定しているから胸は全く見ていないが。

 

「ありがと、いつも気が利くわね」

 そんなことを考えていると、乱菊さんは手拭いを受け取った。

 しかし、他の隊士は手拭いを持っているのに、なぜ乱菊さんは持ってないのか。

 毎週こんなやり取りをしているのだから、持っていてもいいと思うのだが……

 それにその首に巻いているスカーフは暑いと思うんだ。

 まぁ、似合ってるから何も言わないけど。

 

「ぬぅぅ! と、解けん!! 本気になっても解けないってどういうことだ!?」

 何やら必死で俺の縛道を解こうとしている一心さんが驚愕の声を上げている。

 そりゃ簡単に解けたら拘束する意味がないよね。

「日々鍛錬あるのみ」

「いや、鍛錬しすぎなくらいだからね君は!?」

 何を言っているのやら、槍を使った勝負だと未だに雷公に勝てないと言うのに。

 ついでに言うと、何故か雷公は鬼道も使える。

 そして、俺よりも上手い……斬魄刀に負けてる俺って……いや、別にいいか。

 

 そんなことを考えていると、乱菊さんが凄く良い笑顔で笑っている。

「あっはっは! 残念でしたね隊長!! 私達に響がいる限り逃げるのは諦めた方がいいですよ?」

「いや、それは隊長としての威厳が……」

「威厳を保ちたいなら逃げないでください!」

 どうやら日々の鬱憤が溜まっていた様だ。

 まぁ、俺は全力で乱菊さんを支援するけどね!

 ちゃんと仕事しろやヒゲ面ァ!!

 

 二人はそのままにして俺は一足先に戻るとするか。

 

「すまないが、私は先に戻るとしよう」

「あ、はい! ありがとうございました! 嵐山三席!」

 深々と頭を下げる隊士に、一言いつも頑張っているなと声をかけて、俺はまた走って隊長室へと向かった。

 走って戻ってる最中に、後ろの方から「本当にありがとうねー! 今日は終わったら一緒に飲みに行きましょー!」と聞こえてきた。

 本当に松本さんは酒が好きだな、と思いつつ笑みが浮かんでいるのは……この隊で過ごすのが楽しいからだろうな。

 

 

 

「響ーーー!! 我が隊の次期隊長を手に入れたぞ!」

 バァン!と横開きの扉を思いっきり開きながら、何やら嬉しそうな一心さんが入ってきた。

「……松本副隊長には聞かれない様にしてもらえるだろうか」

 地位的に考えるなら、次期隊長は乱菊さんだろうけど、俺の目に移った人物を見て忠告だけにしておくことにした。

 それはさておき、新しい隊士が来たのならば挨拶せねば!

 

 俺は何故か二席ある副隊長の席から立ちあがって、彼の目の前に立った。

「……でけぇ」

 小さく聞こえた言葉に、俺はすぐさま片膝を地面に付いた。

 さっきの状態じゃ威圧してるみたいだよね。

「ようこそ、十番隊へ。私は嵐山響、三席だ」

「日番谷冬獅郎です……三席?」

 俺が今座ってたところを見て、軽く首を傾げた。

 

「響は三年後に五番隊の副隊長が内定しているんだ。だから、今は副隊長の業務を勉強してんるんだよ」

「なるほど、それで俺は三席なんですね」

「……私の後釜か」

「その通り! と言う訳で後は任せた!」

 いつもよりも足早に立ち去る一心さんの背中を見送る。

 ……まぁ、今回は俺の仕事を教えるだけだから別にいいか、と思いつつ冬獅郎に向き直った。

 

「では、一から教えていこう」

「お願いします、嵐山三席」

「響で構わない。これからよろしく頼む、冬獅郎」

「わかりました、響さん」

 うむうむ、実に礼儀正しいな。

 さて、これから色々と教えていくかね。

 

 

 冬獅郎は天才だった。

 まず、教えたことは一発で覚える。

 一度書類のさばき方を教えて、少しさせてみた。

「これでいいですか?」

 冬獅郎から渡された書類を確認すると、全く問題なかった。

「あぁ、問題ない。仕事が早いな」

「響さんよりは遅いですけど」

 そうだろうか?

 まぁ、二年間もやってればなれるよね?

「慣れれば私と同じくらいの速度でできるだろう」

「……慣れても無理な気がするけどな」

 

 

 斬拳走鬼の修行中

 斬術の場合

 

「……もう始解できたのか」

 先日、刃禅をさせたばかりなのに、冬獅郎の手には既に変化した斬魄刀が……

「氷輪丸です」

「能力に天相従臨、大気の水分を操って氷を生み出し操る能力か」

 俺がそういうと、冬獅郎は目を見開いた。

「見ただけでわかるんですか」

 うん? え、わかんない?

 空を見上げれば、冬獅郎の霊圧が混じっている雨雲。

 氷輪丸の周りは気温が低くなってるし、それによってわずかに霧が出てる。

 これだけで氷雪系だってこともわかるよね、名前からもわかるけど。

 それを指摘すると、何やら頷いている。

 なに? 一体何なのさ?

 

 

「雨や雪を降らせることはできるか?」

「流石にそれはできないです」

「よし、ではできるように修行するとしよう。それができればかなり有利になるだろう」

 冬獅郎の独擅場ができるかもしれない。

「天相従臨は斬魄刀の力であって、俺に操作できるものじゃないですよ」

「私はできるが?」

「は?」

 

 空の雨雲に干渉して、冬獅郎の横にだけ豪雨を降らせた。

 すると、冬獅郎は自分の横にだけ降り始めた豪雨に目を見開いた。

「マジかよ……」

「私は天相従臨で生み出した雷雲から雨、風、雷を自在に操ることができる」

「……本当にここだけしか降ってねぇ……!」

 豪雨の周りを一周して、驚きの声を上げた。

 若干風を操作することで、周りへの飛び散る雨を収束させ、そこだけ空から滝の様に水が降ってくると言う訳だ。

 そのままにしてたら、落ちてきた水が周りに飛び跳ねるから風で流れを作ってる。

 そのせいで、小川ができそうだ。

 

 空の雨雲を散らして、雨を止ませる。

「止めるのも自由自在かよ……!」

 冬獅郎を見ると、何やら興奮していた。

 何を興奮しているのかわからないが、これができるようになれば、冬獅郎はもっと強くなるだろう。

 まぁ、心配はしてないけどな。

「冬獅郎ならすぐにできるようになるだろう」

「……面白れぇ……やってやる……!!」

 どうやらうまい具合にやる気になってくれたらしい。

 その様子に俺は頷きながら、自分なりの操作方法を教えた。

 

 

 

 

 白打の場合

 

「フッ!」

「動きは速いが……やはり、威力が足りんな」

 冬獅郎が他の隊士よりも早く動き、突き出した拳を受け止める。

 やっぱり軽いよなぁ。

 スピードがあっても重さがない。

 本人がまだ成長しきっていない所為もあるだろう。

 となれば、やっぱり急所狙いの一撃必殺を教え込むしかないだろうな。

 

「なんで俺は全力でやってるのに、響さんは考え事をしながらでも捌けるんだ!?」

「もっと速い相手を知っているからな」

 オーちゃんとかフーちゃんとか……今考えてもあの巨体で恐ろしい速度だった……

 スピードメーターで測っても測れないんじゃねーのってくらい早かった!

 その速さで木よりもぶっとい尾が薙ぎ払ってくんだぞ!?

 壁が……壁が迫ってくるぅぅぅぅぅう!!!!

 ハッ!? いや、落ち着け俺。あれはもう乗り越えたんだ。

 それに比べたら、全然反応できるよね。

 

 と言う訳で、冬獅郎の白打は急所を狙い撃つタイプにすることにした。

 本人は若干いやそうな顔をしていたが、白打を使う場合ってどう考えても相手は人型だよね。

 四番隊でどこを狙ったら、相手を出来るだけ傷つけずに無力化できるかを卯ノ花隊長が教えてくれた。

 ……なんで隊長自ら教えてくれたのかはわからん。

 とにかく習ったことは、そのまま冬獅郎に伝授した。

 そしたら、一般隊士との組手では気絶者が量産されてしまった。

 冬獅郎って小さい分動きが素早いから、狙われたらあっという間だった。

 ……俺は冬獅郎にこれを教えてよかったのだろうか……?

 

 

 歩法の場合

 

「結構体力があるな」

「ハアッ! ハァッ! ハァッ!! クソッ! 速すぎるッ!」

「速さは私の武器なのでな。しかし、競争ではなかったのだが……」

 雷公さん曰く、俺の速さに迫る死神は今の所いないらしい。

 俺の誇れるものは『速さ』か……クーガ〇の兄貴に目付けられそう……

 そして、冬獅郎……気がついてはいたけど負けず嫌いだな。

 大の字になって転がる冬獅郎に、軽く風を操作しておく。

 

 俺たちがやっていることは簡単。

 目的地に早く辿り着くこと。

 俺も同時に出発したんだけど、どうも冬獅郎は前を走られるのが嫌だったらしい。

 後ろで感じる霊圧が強くなったなと思ったら、より早いスピードで走り始めたのだ。

 それでも俺に追いつくことはできなかったわけだが……。

 まぁ、速さに関しては大丈夫じゃないかな。

 

 瞬歩使ってったぽいし。

「少し休んだらまた同じように戻るぞ」

「はぁ、はぁ、はぁ、わかった」

 必死に息を落ちつけようとする冬獅郎を見て、俺は軽く笑った。

 

 

 

 鬼道?

 鬼道はまぁ……ほとんど習得してたとだけ言っておくよ。

 

 




はい、と言う訳で主人公と十番隊のメンツでした。
……いや、ほんとすいません。
原作がなくて、一心さんや乱菊さんがどんなふうに話していたのかまったくわからなかったので、違和感があったら本当に申し訳ない。

そして、遂に冬獅郎にも強化フラグが立ちましたね。
今作では冬獅郎も強くなる予定ですが……どのように強くなるか……
技名とか新しいの考えるとどうしても……
オサレって何ですか……?
師匠……私にもオサレな技名を考えるセンスをください……



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閑話 朽木家にて飲み会

結構短いですが、前に活動報告で募集したリクエスト『白哉との飲み会』です。
久しぶりに朽木家の男衆が出せました。
主人公を絡ませ辛い……


「よく来たな響! この時を待ちわびていたぞ!」

「お父さん、少し落ち着いてください」

「兄上、お久しぶりです」

 今日の銀嶺さんたちはテンションが高いなぁ。

 

「久しいな、爺さん、蒼純、白哉」

 挨拶を返すと、銀嶺さんがにやりと笑った。

「四年も姿を見せぬから、十番隊に赴こうかと思ったぞ」

 やめてください、そんなことされたら十番隊が大混乱します。

「それはすまなかった。今日はとことん付き合おう。それで勘弁してくれないか?」

「ハッハッハ! 初めからそのつもりだ! 今日は無礼講だ! 飲むぞ!」

 銀嶺さんの言葉に苦笑して、そう返すと銀嶺さんは楽しそうに笑った。

 

「僕も久しぶりに飲もうかな、それにしても本当に久しぶりだね」

「あぁ、蒼純も体調は大丈夫か?」

「大丈夫だよ、休隊してからは調子も良くなった」

「……その分、私は苦労したのですが……」

 晴れ晴れと笑う蒼純に、白哉が眉にしわを寄せて呟いた。

「ははは、苦労かけたね。けど、嬉しい事もあっただろう?」

「…………あぁ、緋真と桃花か」

 嬉しい事って何よ?

 って思ったけど、白哉が喜ぶ事と言えば緋真と桃花の事しかないな。

 

 白哉に視線を向けると、何やら狼狽えていた。

 落ち着け白哉、原作のクールさはどこ行ったんだ。

「……確かに桃花が初めて手料理を振る舞ってくれたり、抱き着いてきたりとしてきが、忙しかった所為ではなくて……あぁ、だが桃花に構いすぎて頬を膨らませてた緋真もかわいかった……」

 おう、白哉よ。

 脳内のフォルダは一時的にしまってくれないか?

 さっきからウイルスでも入ったのか、フォルダの中身が溢れてきてるんだが。

 蒼純に視線をやれば楽しそうに、白哉を眺めている。

 銀嶺さんは……あれ?いないぞ、どこいった?

 ……この事態をどう収めればいいんだ?

 

「響! 準備ができたぞ!! さぁ! 飲もうか!」

 姿が見えないと思ったら、酒を取りに行っていたらしい。

 もう考えるのも面倒くさくなってきたので、酒に逃げることにした。

 

「あ、お父さん。もう持って来たんですか?」

「話は飲みながらで良かろう!」

 酒の入った杯をそれぞれの目の前に置いた銀嶺さんは、杯を掲げた。

 まってまって、銀嶺さん以外何も準備できてないから。

 お爺ちゃん先走りすぎです。

 

「ほれ! 全員杯を持たぬか!」

「はいはい、全く忙しないですね」

「偶には、良いかと」

「白哉も言うようになったな」

 ようやく全員が杯を持ったので、銀嶺さんがゴホンッと一度咳払いした。

「では! 響の副隊長就任を祝って! 乾杯!」

 まだ就任してないです。

 と、内心でそう呟いて、俺も杯を掲げた。

「「「乾杯!」」」

 最初の一杯をグイッと飲み干して、ようやく俺たちの飲み会が始まった。

 

 

 

「しかし、白哉よ。なぜ、響を取り逃がしたのだ?」

 酒を杯に注ぎながら、銀嶺さんが白哉を見た。

「そういえば、白哉は響を六番隊に迎えるって結構張り切ってたよね。なんで五番隊に取られたんだい?」

 蒼純の言葉に白哉が眉間にしわを寄せた。

 そして、グイッと酒を飲み干すとカァンと珍しく荒々しく杯を机に叩きつけた。

 杯、割れてね?

「……私とて、兄上を他の隊に渡すつもりはなかった」

 

 俺の心配をよそに、白哉はトクトクと杯に酒を注いで、また飲み干した。

 こりゃかなり悔しかったみたいだなー。

 そこまで好かれてることに照れる気がするが、俺も酒を飲んで誤魔化そう。

 そう思って、酒を傾けた。

 

「だが、争奪戦に卯ノ花隊長、更木隊長の両名が参加してきたのだ」

「ッ!?」

 白哉の言葉に思わず酒を吹き出しそうになった。

 ちょ、なにそれ!?俺聞いてないんだけど!?

「ふはっ! 初代剣八と現剣八が争奪戦に参加してきおったか!!」

 ちょ、銀嶺さん笑い事じゃないっす!

「それで、勝負は何だったんだい? 剣八がいるってことは斬り合いかな?」

 それってガチの殺し合いが始まるよね?

 っていうか、内容が凄まじすぎてさっきから俺飲むことしかできねぇ。

 

 白哉たちの言葉に耳を担げつつ、俺は静かに酒を飲んでいた。

 が、次いで聞こえてきた言葉に思わず固まった。

「将棋だ」

「あぁ、将棋かぁ~、総隊長の得意なものだねぇ」

「元柳斎殿、本気で勝ちに行きおったな」

 銀嶺さんたちが何か言ってるが、頭に入ってこない。

 

 ……将棋?

 え、将棋ってあれだろ?

 歩とか飛車とか使って、遊ぶボードゲームだろ?

 ……え、剣八と面と向かって将棋指したの?

 あの見た目で?

 

 ふと、更木剣八が将棋盤の前で正座して、対局する姿を想像する。

 …………えぇ~~、合わねぇ…………

 まぁ、剣八が将棋強いとも思えないし、一回戦敗退かな。

 

「総隊長は一回戦で、更木隊長との勝負で敗退した」

「ッ!? ゴホッ! ゴホッ!」

「む、響よどうした? 大丈夫か?」

「も、問題ない」

 え、何!?負けた!?

 灼熱爺さん、剣八に将棋で負けたの!?

 

「それにしても剣八の奴、よう勝てたの」

「将棋は知らなかったが、教えた後、総隊長に圧勝していた」

「へぇ、そんなに頭もいいのかい? そうは見えなかったけどなぁ」

 蒼純さん、中々に辛辣なこと言いますね。

 つか剣八……ルール知らなかったのに、灼熱爺さんに勝ったのかよ。

 将棋って一応戦略ゲームだったよな……勝負事が絡むとチートになるのか?

「本人曰く、『勘』だそうだ。総隊長は地面に膝と手をついて悔しがっていたな」

「はっはっは! 自分が一番得意な将棋で負けるとはな! いい気味だ!」

「お父さん、総隊長に勝てなくて悔しがってましたもんね」

「奴の年期には勝てん! 年の功という奴だろう」

 

 見た目だけなら銀嶺さんも負けてないんですけどねー。

 というか、銀嶺さん。

 貴方、間接的に剣八にも負けたことになるんですけど?

 

 っていうか、俺はいつの間に剣八に目をつけられたんだ?

 一度もあったことないんだけど?

 なんつー嗅覚してんだ。

 しかも、何故か卯ノ花さんまで参加してるし。

 ……卯ノ花さんは違うよな?

 まさか、原作であったあの狂気の卯ノ花さん覚醒しないだろうな?

 そしたら俺は逃げるぞ、どこまでも。

 

「しかし、なぜ剣八は参加したのだ?」

「あぁ、何やら強いと言う噂を聞いたらしくてな。十一番隊に巻き込めばいつでも戦闘を楽しめると言っていたな」

「……なんとも迷惑な話だ」

 いやほんと、まじで!やめてくれませんかね!?

「何言っとるんじゃ、もしかしたらお主が次の剣八になるかもしれんのだぞ?」

「だが断る」

 銀嶺さん、俺はそれだけは絶対に拒否する。

 確か隊長の入れ替わりって、斬り合いだろ?

 勘とか、力を入れるだけで色々と抑え込めるチートと戦いたくありません。

 

「響なら歴代最強の死神になれると思うのだがなぁ……」

 銀嶺さんのそんな呟きを酒を飲むことで無視する。

 最強の死神とかどうでも良いですハイ。

 

「残念じゃ……それで、最後に残ったのが五番隊隊長と剣八だったのか?」

 俺がそれ以上反応しないと察した銀嶺さんは再び白哉に話を振った。

「はい。真に屈辱ながら、私は藍染隊長に敗れました」

「そう気にするな」

 あの人はチートだからな。

 頭脳も実力も、流石ラスボスだぜ。

「兄上……ッ! 不甲斐ない弟で申し訳ありませんっ!」

「気にするな」

 おー、白哉も酔ってきてるなー。

 顔が赤いぜー。

「兄上っ」

 頭をポフポフと叩くと、何やら感激している様子。

 

「しかし、良かったな響よ」

 銀嶺さんの言葉に何が良かったんだろうと、一瞬固まって瞬間理解した。

 俺はあと一歩で世紀末な生活を送ることになっていたのだと。

「……あぁ、本当に良かった」

 ヨン様ありがとう!!

 まさかラスボスに感謝する日が来るとは思わなかったけど、本当にありがとう!!

 

 確かにヨン様は最終的に死神を裏切るが、それまでは確かに良い隊長をやっていたのだ。

 期限付きとは言え、良識のある良い隊長と最初っから最後まで隊長との死合(誤字にあらず)する日々なんて比べるまでもない!!

 

「勝負は本当にギリギリだった。藍染隊長があそこまで冷や汗を流す姿は初めて見たな」

 剣八つよすぎぃ!?

 藍染隊長が頭脳勝負で冷や汗だくだくだと!?

 いや、きっとそういう演技をしていただけだ。

 そうに違いない!

 

 だってラスボスだもん!

 そう簡単に負けるわけないじゃん!!

 公式チートだもん!!

 

 思わず、開け放たれた障子の向こう側に映る月を見る。

「……あぁ、今日の月も美しいな」

 ……そうして、俺はこれ以上考えることは精神衛生上良くないことだと判断して、考える事をやめた。

 

 




「…………藍染隊長、最近どないしたん?」
パチ パチ
「何でもいいだろう? さぁ、次はギンの番だ」
パチ パチ
「……まぁええですけど……」
「……王手だ」
「いやー、まいりましたわ」
「さぁ、もう一局だ」
「ホンマにどうしたんですか」


藍染さま、かなり本気だったのに追い詰められた模様。
剣八さんチートすぎぃ!
そして完全に新旧剣八に目をつけられた響の命運はいかに!?

うん、色々とすいません。
なんかうまく書けませんでした。
スランプかなぁ……


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第十九話 響VS冬獅郎

お待たせしました……うん、ほんとにお待たせしました。
そして、話も短いと言う……
真に申し訳ない……スランプみたい文章がうまくいきません……。
いつもより読みづらかったらすいません。


 響と冬獅郎は互いに解放された斬魄刀を手に向かい合っていた。

 空は黒雲に覆われて、雪が降り注いでいる。

 冬獅郎にとってこの上なく有利な状態だ。

 だが、冬獅郎の頬にはわずかな汗が流れている。

 

 向かい合っているだけでも、響が発する威圧感に恐れることはせずとも、冷や汗の一つや二つは流れる。

 それがただの鍛錬であったとしてもだ。

 

 冬獅郎は一つ息をつくと、響を睨みつけた。

「行くぜ」

「こい」

「っ!!」

 響の言葉が言い終わる前に、冬獅郎は体に龍を象った氷の鎧を纏う。

 近づくだけで鎧が発する冷気に体温を奪われ、触れれば瞬く間にその身を凍結させる絶対零度の攻防一体の鎧。

 

 氷の鎧を纏った冬獅郎は、瞬歩を使用し、その速度を乗せて響に斬り掛かる。

「…………」

 響はその動きを完全に見て取りながら、氷輪丸の刀の腹に一突き入れて軌道を逸らす。

 冬獅郎の斬撃はそれだけで響に当たらない。

 だが、今までの鍛錬でも何度も同じことを経験してきた冬獅郎はそれだけでは終わらない。

 氷輪丸の柄から伸びる鎖に霊圧を流し込んで、氷の刃を5枚ほど形成し、射出する。

 五枚の氷の刃はそれぞれが、頭、胴、両足、槍を狙っている。

 

 響はそれを見ると、信じられない速度で体勢を立て直し、氷の刃を槍の薙ぎ払いで全て砕いた。

 冬獅郎はほんの一瞬だけの時間を使い、地面に氷輪丸を突き立て、あたり一面を氷結させ、氷柱を作り出した。

 

 相手が速く動くなら、動きづらい状況を作り出せばいい。

『あの速度で動くなら、滑る地面、障害物を作り出せば同じ速度で動くことはできないはずだ』

 冬獅郎はそう考え、地面を凍らせ、いくつもの障害物を作り出したのだ。

 さらに言えば、氷は自分の領域。

 氷結させた地面から氷柱を作り出して攻撃することも、防御する事も可能だ。

 

「なるほど、考えたな。だが甘い」

 響はそう呟くと、足に霊圧を込め氷を踏み抜いた。

 瞬間、大地が砕けた。

 地面の氷だけでなく、氷柱まで木っ端みじんに砕け散った。

「そんなのありかよ!?」

 あまりの出来事に冬獅郎は目を見開きながら、叫びながらも行動を起こした。

 最低でも四方2㎞にわたって氷結させた大地が、一瞬にして荒れ地に様変わりした。

 だが、空だけは毎回自分の支配下にある。

 

 響が本気を出せば、瞬く間に雷雲に代わるだろうが今までの鍛錬ではそうなることはなかった。

 今回も絶対そうだとは言えないが、冬獅郎は空の雲の中で更なる準備を整えつつあった。

「どうした、これで終わるのか?」

「冗談じゃねぇ!!」

「なら次はこちらから行くぞ」

「ッ!!」

 

 言い終わると同時に、響の姿が消え失せる。

「相変わらずどういう速さしてんだよっ!?」

 冬獅郎は自身の勘を信じて、背後に氷壁を作り、氷輪丸を自身の胸の前に盾になるように構えた。

 瞬間、氷が砕ける音とギィンと言う金属がぶつかり合う音。

「勘も大分鋭くなってきたようだな」

「殺す気かっ!?」

 冬獅郎は攻撃を防いだ際に感じた衝撃から、殺傷力十分すぎると感じた。

「特に問題はないだろう?」

「……簡単に言ってくれるぜ……!」

 

 響からしたらいつでも寸止めできるから問題ないだろう?と言う意図で言ったのだが、冬獅郎はこの程度なら簡単に防げるだろう?と言われてるように感じた。

 

「次は打ち合いと行こうか」

「冗談じゃねぇ……」

 響の言葉に冬獅郎は青ざめながら、呟いた。

 さっきの様な勘に任せた対応など、そう何度も続くもんじゃない。

 だが、響はそのような事知ったことかとばかりに槍を突き出した。

 全力ではない。

 だが、本気の一撃だ。

 

 冬獅郎はその死を感じる一撃を、無心で対応する。

 考えてからの反応では遅い。

 感じるがままに動け。

 

 そう言わんばかりの一撃を、冬獅郎は氷の籠手で受け流した。

 本来なら槍の突きの後は隙ができる。

 だが、響の攻撃速度はその隙を消し去る。

 つまり、直ぐに弐撃、参撃と次の攻撃が来る。

 

 それもまた勘に任せて、氷輪丸で受け流した。

 薙ぎ払いを体勢を崩しつつ、避けた。

 瞬歩を使って距離を稼ぎ、すぐさま氷壁を作り出した。

 

 砕かれた氷壁を見ながら呟いた。

「…………駄目だ」

 このままでは直ぐに対処しきれなくなる。

 勘だけだと動きに無駄が多い。

 もっと最低限の動きで、ただ、槍の闘志を感じ取り、動く。

 あの速度だと考えては駄目だ。

 その思考すらもあの速度の前では致命的な遅れになってしまう。

 

 だから、考えるな、感じるんだ。

 ぼんやりとした目で、冬獅郎は体を動かす。

 先程の様に勘が訴えた行動を起こす。

 その際に重要なのは、大きく動かないこと。

 

 瞬歩で横に動いた、突きが氷の籠手を破壊した、修復する。

 まだ考えている、無駄が多い。

 

 薙ぎ払いに籠手と足甲で防いだ、破壊、吹き飛ばされる。

 修復、体制を整える。

 

 また突きが来る、籠手で受け流す……籠手が壊れる、修復。

 

 そんなことを繰り返している内に、冬獅郎の体は徐々に反応速度を上げていた。

 

 既に冬獅郎は何も考えていない。

 極限にまで追い詰められた天才が得たのは『無我の極致』

 冬獅郎は、その極致に至り響の攻撃を最低限の動きで対処できるようになったのだ。

 

 

 そして攻撃をしている響は内心で非常に驚愕していた。

 冬獅郎が対処できなくなったら寸止めして、鍛錬を終了しようとしていたのだ。

 だというのに、冬獅郎は未だ攻撃を捌き続けている。

 動きは見えていない、予想している訳でもない。

 勘だけでいつまでも捌ききれるわけがない。

 

 だと言うのに、こうして耐えている。

 突きで攻めれば氷の鎧で受け流され、薙ぎ払いをすれば氷の盾を作り出し、瞬歩でさらに距離を稼ぐ。

 そんな動きをしていた冬獅郎は、最低限の動きで受け流している。

 

 冬獅郎の動きを見ながら響は思った。

『あ、なんか、どっかで見た漫画思い出すな。なんだっけ……なんとか制空圏とかいう奴だっけ?』

 前世で見た格闘漫画で攻撃を紙一重で避けると言う技があったなーと思いながら、それを冬獅郎が身に着けるとかすごくね?とか思っていたりする。

 実際は違うのだが、響にとってはそれもどうでも良い事だろう。

 

 なにより、冬獅郎の実力が凄まじく進化したと言う事である。

 響は攻撃をやめて、冬獅郎を見た。

 

 冬獅郎は無表情でただ立ち尽していた。

 その目には光がなく、非常に怖い。

「冬獅郎」

 響が声をかけると、冬獅郎の目に光が戻る。

 冬獅郎は正気に戻ると、思わず呆然とした。

「……マジか……」

 響の見えない攻撃を、冬獅郎は避けきったのである。

「よくやったな。私の攻撃を避けきったのは冬獅郎が初めてだ」

 

 響に褒められ、冬獅郎はようやく実感を得ることができた。

「よっしゃああああああ!!」

 普段のクールさもどこかへ吹き飛び、手を天に翳して大きく歓喜の声を上げた。

 響はそれを優しげな眼で見て、空を見上げた。

 

「冬獅郎」

「っと、なんですか?」

「あれはどうする?」

 響は天を指さして、冬獅郎に問いかけた。

 それで思い出す。

 そういえば、ある仕込みをしていたなと。

 そして悩む。

 かなり時間をかけただけあって、かなり大規模な技だ。

 氷輪丸をちらりと見ると、やらせろとばかりに冷気が渦巻いている。

 冬獅郎はため息をついた。

 

「ふむ、どうやら氷輪丸がやる気の様だな」

「すいません、良いですか?」

「あぁ、最後に大技で締めといこうか」

 

 冬獅郎は響言葉に頷きながら、距離を取り氷輪丸に問いかけた。

『氷輪丸、空の準備はあとどれくらいだ?』

『準備は完了した。今日こそ奴に吠え面をかかせてやる』

『吠え面……?あの響さんが……?』

 どう考えても想像できず、顔をしかめながら氷輪丸に問いかけた。

『……できると思うか?』

『…………今日でなくてもいつかは…………』

 霊子の足場を作って上空へ向かいながら、氷輪丸の言葉に内心でため息をつく。

 

 何れ誰よりも強くなること。

 氷輪丸と対話し、同調した時の思いだ。

 だが、響を見ていると正直勝てる気がしないのは全く気の所為ではないと思う冬獅郎だった。

 いつまでも負け続けているつもりもないのは確かだが。

 

「準備はもういいのか?」

「あぁ、準備はできた」

 冬獅郎は空を見上げて思う。

 自分のことながらに、良く戦闘しながらこんなものを準備で来たなと。

「ならば、こい!」

 響は声を上げると同時に霊圧を高めた。

 それに呼応する形で冬獅郎も霊圧を高めて、氷輪丸に凄まじい霊圧を込めた。

「行くぞ!!氷輪丸っ!!」

『待っていた!!この時を!!』

 冬獅郎が叫び声をあげると同時に、雲の中から蛇の様な胴体に翼のついた巨大な氷の龍が現れた。

 その大きさは凄まじく、まるで神話の神龍を彷彿とさせる巨大さだった。

 

 響はそれを見て思った。

『ターちゃんたちよりもでかいんだけど、え、なにこれ』

 向かってくる氷龍からはまるで隕石が落ちてきているかの様なプレッシャーを感じる。

 明らかに始解でできるような技ではない……というか、始解で出していい技じゃない。

『もうあの大きさだと、これも意味ねぇかも? けど、雷使っても無駄だろうしなぁ……ならもう全力全開で投げるしかないよね! これがほんとのなげやりだよチクショウ!!』

 そんなことを思いつつも、響は槍を逆手に握り霊圧を込める。

 

 巨大な氷龍は全身を波打たせながら、響へと迫る。

 凄まじい霊圧を込められた槍も放たれるその時を待っていた。

 

 そして、響が投擲の姿に入ったその時。

 

「俺もまぜろやああああああああああああああ!!!」

「「ッ!?」」

 

 

 乱入者が現れた。

 

 

 

 




い、一体最後に乱入してきたのは一体誰なんだ……?
と言う訳で、悩みに悩んでできた文章がこんなんです(白目)
もうほんと申し訳ない……


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第二十話 獣の咆哮

……お、お久しぶりです、皆さま……

全開に更新したのは九月……かなり前ですね……
いや、本当に申し訳ないです。
今回の話は大分短いですが、これ以上悩んでいるとさらに遅れそうなので投稿することにしました。

今回も楽しんでいただけると幸いです。



 剣八は考えていた。

 昔、勘に従って自分の隊に取り込もうとした嵐山響と戦うにはどうしたらいいか。

 あれから結構な日々がたったが、嵐山響と出会うことが全くない。

 たまに十番隊の近くをうろついて、見つけ次第襲い掛かってやろうと思っていたが、全くと言っていいほど出会うことがなかった。

 

 剣八がそこまで嵐山響に拘る理由は、ただ一つ、勘だ。

 嵐山響を一目見た時から感じていた。

 こいつは強い、最初から全力で戦ってもこいつは簡単に殺せないと。

 剣八はかなり楽しい勝負(殺し合い)ができると感じていた。

 恐るべき獣の嗅覚である。

 

 そして剣八は、良い事がある気がして十番隊へと向かっていた。

「剣ちゃん、また十番隊の近くに行くの?」

「あぁ、良い事がある気がするんでな」

 剣八の背中からピョコンと顔を出して問いかけるやちるに、剣八は凶悪な笑顔で答えた。

「そーなんだ? じゃあもしかしたら大ちゃんと戦えるかもしれないね!」

「あぁ、そうだな」

 やちるの言葉に、剣八は響との戦いを思い浮かべ、少し霊圧が上がった。

 

「と、霊圧は抑えてねぇと気づかれちまうな」

 勘に従っていつもつけている鈴まで外してきたのだ。

 御馳走を目の前にして逃げられてはたまらないと、高揚した気分を抑えて、周りを見渡しながら先へと進んでいく。

 十番隊の隊舎近くまで来た時、声が聞こえてきた。

 

「響さんの鍛錬は、何度経験しても驚くな」

「そうだな。響さんの斬魄刀は色んな効果があるみたいだし」

 どうやら十番隊の隊士が嵐山響の事について話をしているようだ。

 剣八はニヤリと笑いながら、上から聞こえてくる声が聞こえやすいように真下へと移動した。

 

「何よりあれだよな。あの世界の中に行けば周りを一切気にすることなく力を試せるっていうのがいい」

「響さん曰く、内包世界っていうらしいけどな。よくわからんが」

「まぁわからないものは置いといて、あれのおかげで俺達の実力も上がったからな!」

「その分他の奴らも実力が上がってるから気が抜けねぇけどな……」

「ん? どうしたんだよ」

 目を見開いて言葉が切れた同僚に首を傾げた。

 だが、その疑問はすぐさま解消された。

 

「面白れぇ話してるじゃねぇか」

 背後に感じる凄まじい霊圧。

 ギギギと言う音が聞こえてきそうな動きで、彼は背後を見た。

「…………ざ、更木隊長!?」

 そこには極悪人の様な笑みを浮かべた修羅がいた。

 少し間が開いたのは、いつもつけている鈴がなかった所為だろう。

 隊士たちは一瞬だけ大罪人が脱走でもしたのかと思ったことは、自分の安全の為に墓まで持っていくことにした。

 

 そんな大罪人顔の剣八がさらに凶悪に笑う顔を見て、隊士たちは顔を青ざめさせた。

「聞かせてもらおうか、その世界ってやつをなァ」

 完全に標的にされているであろう響と、巻き込まれるであろう冬獅郎に、彼らは心の中で謝った。

『響さん!日番谷三席!ごめんなさい!』

 誰だって命は惜しいのである。

 

 

 

 剣八は彼らから情報を聞き出すと、そのまま響がいる修練場へと案内してもらった。

 修練場へ入って目に入ったのは、霊力を込めて書かれた法陣だった。

 剣八には何と書かれているのか全く読めなかったが、そんなことは関係ない。

 法陣の真ん中で刃禅をしている響と冬獅郎に目がいっていた。

「やちる、お前は待ってろ」

「うん、いってらっしゃい!」

 やちるは剣八の背中から軽やかに降り立つと、修練場の壁にもたれて座り込んだ。

 

 内包世界に行く方法は、十番隊の隊士から聞き出していた。

 法陣に描かれた人一人が座れる円の中で胡坐をかき、斬魄刀に霊圧を込める。

 そうすることで、意識を内包世界へと入れることができると。

 

 そんなことができる響に、こいつは一体何なんだと思いもしたが、そんな些細な疑問は戦闘欲にあっという間にかき消された。

 

 そうして、剣八は内包世界へと意識を飛ばした。

 

 そして目に入ったのは、黒雲から襲い掛かる氷の巨龍とそれを迎撃せんと朱槍に凄まじい霊圧を込めている響の姿。

 その瞬間、剣八の理性は吹っ飛んだ。

 待ちに待った瞬間だった。

 すぐさま霊圧を食う眼帯を放り投げ、霊圧を全開にする。

 

「俺もまぜろやああああああああああああああ!!!」

 瞬間、剣八は死の気配を感じて、斬魄刀を切り上げた。

 ギィンと重い音と衝撃、あまりにも早い何かが首の横を通り抜けていった。

 響に目をやれば、その手に朱槍はない。

 全く視認できない速度で槍が投げられたのだと、剣八は理解した。

 そして、笑った。

 

 咄嗟だったとはいえ、自分が見ることができないほどの速度で飛来した槍。

 手に残る衝撃と、首から流れる血。

 確かに当たらなかった。

 だが、通り過ぎた時に発生した真空の刃が、霊圧で硬度を高めた剣八の体に傷をつけたのだ。

 それだけでかなりの実力者であることがはっきりとした。

 

『なんだ貴様は! 邪魔をするな!!』

 威圧的な言葉と共に襲い掛かってくるのは、氷の巨龍。

「ハッハア!! 良いぜ!! そうこなくちゃなぁ!!」

 氷の巨龍は凄まじく大きい。

 剣八に襲い掛かっていると言うのに、未だその体は黒雲から全てが露出しない。

 

 開かれた顎の大きさも剣八を簡単に丸のみできるだろう。

 剣八はその大きさから、本気で刀を振るうことにした。

 剣道の構えなんざ気に入らないが、流石にこの大きさの物体を片手で切るのは辛いだろう。

 だから両手で正眼に構えて、そのまま振り下ろした。

「オラアアアアアア!!」

『オォォォオオオ!?』

 氷の巨龍の顔を真っ二つに切り裂いた。

 

「マジかよ……あの大きさの氷輪丸を斬りやがった……」

『やりおる!! だが、氷を断ち切ったところで意味などない!! 行くぞ、冬獅郎!』

「あれに手を出すのはどうかと思うけどなッ!」

 乱入してきた剣八の行動に驚きの声を上げた冬獅郎は、氷輪丸へ込める霊圧を上げた。

 すると二つに裂かれた氷の巨龍は、刻まれた半身を変化させ二体の氷の龍へと変化した。

「おもしれえぇ!!ハァーーーハッハッハッハッハ!!」

 

 二体に増えた氷の龍を更に切り刻む。

『無駄だと言っているだろう!!』

 切り裂かれた龍は、刻まれた分だけその数を増やす。

 その数は既に100を超えていた。

 氷雪系最強の氷輪丸。

 そして、隊長格から天才と言われる日番谷冬獅郎が協力すれば、その力は響に並ぶ自然災害級だ。

 

「チッ、流石に飽きて来るぜ」

 襲ってくる氷の龍を砕きながら、氷の鎧を纏う冬獅郎を見る。

 そして気が付いた。

 嵐山響の姿がない。

 

 そう思った瞬間、剣八は後ろへと飛びのいた。

 そして剣八がいた場所に朱い槍が地面を砕いた。

「響ィィィイl!!」

 剣八は凶悪な笑みを浮かべて、いつの間にか地を砕いた槍を構えている響へと斬り掛かった。

 

『我を無視するとは良い度胸だ!』

「もうテメェに用はねぇんだよ!!」

 剣八は響に刀を振り下ろしながら、霊圧を全開にする。

『ぐぅぅ!! 刻まれすぎたか……ッ!』

 何度となくその身を刻まれた氷の龍はその身を小さくされた分だけ、込められる霊圧が減少していた。

 もはや剣八にダメージを与えれるほどの霊圧を込められなくなっていた。

 それゆえに、剣八の全力全開の霊圧に耐え切れず、氷の龍達はその身を押しつぶされた。

 

「まるで響さんみたいだな」

「冬獅郎、後で話がある」

「…………しまった」

「ハッハッハッハ!!」

 剣八の人外染みた霊圧に思わず言葉を漏らしてしまった冬獅郎の言葉を聞いた響は、剣八と斬り合いながら静かに告げた。

 眉間に手を当てつつ嘆いた冬獅郎だったが、そこで異変に気が付いた。

 

「斬り合いをしている?」

 響の身体能力は凄まじい。

 まともな斬り合いなんて、響が望まない限りほとんどないと言ってもいい。

 

 なら響は剣八との斬り合いを望んでいるのだろうか?

 それはない。と冬獅郎は断言する。

 むしろ早々に叩きのめすだろうと。

 だと言うのに、二人は斬り合いをしている。

 

 二人の斬り合いをよく見れば、剣八の太刀筋は振り下ろされたかと思えば、途中で降り払いに変化している。

 かと思えばさらに太刀筋が変化してそれを響が槍で受け流している。

 

「マジかよ……!? 途中で太刀筋を変える……!? しかも響さんの速度についていけてんのかよ!?」

 剣八から言わせるなら全て勘である。

 

 そして響からしたら、避けた所に追いかけてくる太刀筋と戦うため非常に面倒くさい。

 響は内心で『この戦闘チートめが!! どういう勘してんだよ公式チート!!』と生き残る事に必死である。

「いいぜええ!! いいじゃねぇか響! もっと楽しもうぜえええ!!」

 対して剣八はご満悦である。

 

 

 流石にもう付き合っていられないとばかりに、剣八を槍の神速の薙ぎ払いで吹き飛ばす。

 その手に雷の槍を握り、空へと放った。

 

 そして起こったのは天変地異である。

 天に広がる雷雲から、数十、数百と落ちる雷がこの世界の終わりを彷彿とさせた。

 

『「…………なんだこれは」』

 ほんの数秒の間に凄まじい回数の雷が地を穿つ。

 

 響が天に手を掲げると、その手に降り注ぐ雷が巨大な雷槍を作り出す。

 その威力は計り知れない。

 

 込められている霊圧が、冬獅郎の作り出した氷の巨龍とは比較にもならない……いや、比較することも烏滸がましい。

 吹き飛ばされた剣八も凄まじい霊圧に、自身の限界を超えた。

 先程まで感じていた霊圧が桁違いに跳ね上がった。

 

 それでも、響の雷槍には及ばない。

 今もなお充填される雷槍は既に、魂魄どころか世界を消し去りそうなレベルにまでなっていた。

 

 響は雷槍を強く握りしめた。

 それをみた冬獅郎は雷鳴に負けない様に叫んだ。

「響さん!! 流石にそれはまずいんじゃ」

 

 しかし冬獅郎の静止も空しく、世界を破滅させるような雷槍が放たれ、世界から音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で、剣八VS冬獅郎、響でした。
……うん、もう何も言うまい。
私に戦闘描写は無理ですね(白目)

次の更新は……また未定ですが、読んでくださっている皆様に感謝を。
待っていてくださる方も本当にありがとうございます。
まだ、エタっている訳ではないので気長にお待ちください。

後、雷の所は『マラカイボの篝火』と呼ばれるものを参考にしました。
凄いですね、あんなに雷が落ちるなんて……実際に見たら怖くで外を出歩けなくなりそうです。


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第二十一話彼の日記帳 その二

|電柱|・ω・`)ノ ヤァ アケマシテオメデトウ
ま、またもや遅くなりました。
すいませんでした。
最近寒いですね、皆さんもしっかり防寒してくださいね。
それでは、どうぞ。
あ、今回かなり短いです。


 ◎月Ω日 晴天だった、けど心は曇天……というより大雨

 

 生き残った。

 生き残れた。

 今の俺はこうして日記を書くことができたことに凄まじい安心感を感じている。

 というか、俺ちょっと勘違いしてた。

 卍解まで取得できたから俺強いんじゃね?とか思った。

 調子に乗ってすいませんでした。

 ちくしょう、公式チートマジやべぇ。

 速さだけは誰にも負けねぇと思ってたのに、なんで反応できたし。

 もしかして勘か?勘なのか?

 オーちゃんに教えてもらった『雷神罰』を結構溜めたのに、斬魄刀投げて避雷針代わりにするし、その後は殴り合いになるし。

 斬り合いじゃなくて、殴り合いになったし……いや、斬り合いよりはましだけど。

 なんか霊圧とかヤバかったし、避けても拳が追いかけて来るし(以降延々と愚痴が書かれている)

 

 

 

 √月д日 今日は曇り、相変わらず心は雨

 

 ちくしょう、公式チートめええええ!

 前回の戦闘の所為か、やたらと絡まれるようになった!

 しかもイーちゃんが教えてくれた槍の内包世界へ簡単に入ってきやがる!

 どうやって知ったのか知らないが、毎回手順を変えているというのに……!

 しかもなんで冬獅郎と修行している時に来るのか。

 最近では冬獅郎にまでちょっかい出しやがるから、冬獅郎への罪悪感ががががが

 いや、忘れよう。

 せめて日記の時くらいあの戦闘狂から解放されようそうしよう。

 

 よし、今日は冬獅郎と俺で十番隊の仕事を全部終わらせたな。

 あれ?乱菊さんと一心さーん?

 貴方達の仕事ですよー?

 冬獅郎にどっちが隊長かわかんねぇなって言われて思わず変な顔になったと思う。

 一心さんは確かに脱走癖があるけど、頼れる隊長だと思うけどな。

 そういや、もうすぐヨン様の隊に移動する時期かな。

 あぁ、ルキア達の卒院ももうすぐだった。

 何かお祝いに贈り物を考えておこう。

 

 

 @月@日 今日は晴れ、心も晴れ渡る(真顔)

 

 今日は泣くかと思った。

 遂に明日から五番隊の副隊長に就任することになった。

 それをしった十番隊の奴らが盛大なお祝いをしてくれた。

 魂になって既に百年以上たってるけど、年甲斐もなく大泣きしたくなった。

 こうしてみると、俺も立派なお爺ちゃんだねぇ……

 ついでに大魔法使い超えて、魔神にでもなってんじゃないのってくらいだけど……

 はははっ、どうせお爺ちゃんには恋人なんていませんよ?

 身体が若くても心が老いていくよ……あれ?なんか悲しい……。

 

 けど十番隊のみんなありがとう。

 まさか皆でお金を出し合って、瀞霊廷一件分もするお酒をくれるとは思わなかったです。

 これは大事に飲ませて頂きます。

 プレゼントも嬉しかったけど、一番嬉しかったのは惜しむ声だな。

 他の隊に行かないでって言われると、慕われてたんだなって思えるぜ……勘違いじゃないよね?

 

 あとめっちゃ驚いた事がある。

 まさか剣八から祝いの品をもらうとは思わなかった。

 ちなみにもらったのは髪紐でした。

 似合わないって思ったのは俺だけでしょうかね?

 まぁ、ありがたく使わせてもらいます。

 あとやちるちゃんからはお菓子をもらいました。

 けど、十一番隊には絶対に行きません。

 誘われても行きません。

 内包世界に戦いに来るじゃないか、諦めろ、諦めて、諦めてください。

 

 いや、しかし冬獅郎も随分強くなったねぇ。

 ていうか、卍解の能力が原作と違ってかなりぶっ飛んでたなぁ。

 まさか時間を凍結させるとは……どこかに吸血鬼が混じってませんか?

 それとも吸血鬼のメイドさんですか?

 これって速さで負けてね?負けてるよね?

 ちょっとスター〇ラチナみたいに速さで時を超えてくる。

 

 

 @月ω日 快晴だ!

 

 今日はヨン様に隊を案内してもらった。

 まさか隊長直々に案内してもらうとは思わなんだ。

 回ってみた感じ、この隊は凄く穏やかである。

 十番隊と違ってすごく落ち着きがある。

 やっぱり隊長によって隊の雰囲気も違うね。

 

 後、修練場でヨン様と軽く模擬戦をした。

 ハッハッハ、チクショウ、全く拒否できなかったぜ……

 これで俺も鏡花水月の虜ですね(白目)

 っていうか、ヨン様にも幻影って見えてるんかね?

 水を操る云々をパントマイムしてるのかな?

 そんな気がする……あれ、俺剣八と戦いすぎてなんか勘が鋭くなった?

 ま、まぁ悪い事じゃないしいいや!

 

 それと初日と言う事で、仕事は少なめだった。

 ……いや、少なすぎて、始めて一時間で終わった。

 おかげで、ヨン様と二人で将棋とかしてた。

 イーちゃんの知恵を借りて何とか勝った。

 うん、なんか目をめっちゃ見開いてたけど、どうしたんヨン様?

 イーちゃんの知恵を借りるのはずるいかなって思ったけど、仕方ないよね。

 だってラスボスだし、普通にやったら勝てるわけないし。

 

 

 定時アップって素晴らしいね。

 仕事が終わったら朽木家へ行ったら、副隊長の就任祝いだった。

 先日に続き、嬉しい事ばかりだ。

 皆から贈り物をもらった。

 凄く充実してるな、俺。

 ちなみに贈り物はこんな感じだった。

 銀嶺  

 なんかめっちゃ高そうな湯呑

 

 蒼純  

 銘酒一ダース

 

 白哉  

 銀白風花紗の首巻

 

 緋真  

 銀の耳飾り

 

 桃花  

 手編みのデフォルメ人形

 

 ルキア 

 画伯の絵画集

 

 恋次  

 木彫りの実家模型

 

 どれも嬉しいけど、恋次、いつになったらルキアの誤解を解くんだ?

 もし忘れているようなら、全力で卍解修行を手伝ってやろう。

 

 

 @月▽日 曇りでも心は晴れ渡る。

 

 五番隊で副隊長になってはや数日。

 ……予想以上に楽です。

 いや、流石裏切るまでは素晴らしい隊長。

 仕事から逃げない、仕事が早い、相談にも乗ってくれる。

 ほんと、なんでこの人裏切るのかな。

 俺が副隊長になってからの五番隊の日常は、午前中で書類が終わります。

 その後は、隊士に稽古をつけるか、ヨン様と将棋している。

 …………なんて平和なんだ。

 

 素晴らしい。

 素晴らしすぎるぞ!

 どうにかしてヨン様の裏切りをしないようにできないかな……

 仕事は充実しているし、給料は素晴らしい。

 終生までこのままでありたい。

 無理かな……無理だろうなぁ。

 

 

 

 ▽月±日 雨だったが、晴れにした。

 

 遂にルキアと恋次が護廷十三隊に入隊した。

 ルキアは十三番隊に、恋次は十一番隊に行った。

 何でも両隊の隊長が争奪戦に勝ったらしい。

 ルキアはともかく……恋次、強く生きろよ……

 多分、何か嗅覚が働いたんだと思うから。

 

 それはさておき、ルキアと恋次に贈り物をした。

 ルキアはチャッピーがやっぱり好きみたいだから、等身大人形とキーホルダーもどき。

 恋次は原作でつけてたサングラスを贈った。

 そしたら、二人とも目をキラキラさせてはしゃいでたな。

 

 久しぶりに可愛らしい妹と弟を見れて俺は嬉しいよ。

 ちなみに晩御飯は朽木家でした。

 最近朽木家が集会場みたいになってる気がするな。

 まぁ、蒼純さんや銀嶺さんと話すのも楽しい、白哉達の様子を見れるから良い事ばっかりだけど。

 

 最近楽しい事ばかりだなー。

 もう五番隊に移動してから1年かー、早いもんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十二話 藍染様が見ている

藍染様視点で巻いて行きます。
編集が遅くなってすいません……!


 @月@日 

 

 遂に明日からあの不可解な男が来る。

 嵐山響

 瀞霊廷に来る前から卍解を取得していた警戒すべき対象だ。

 彼の情報を改めて整理してみよう。

 

 嵐山響 身長2m12cm 体重98kg

 斬魄刀名は雷公と言っていたか、卍解が常時開放型という恐ろしい斬魄刀だ。

 属性は今までにあった流水系や炎熱系のようにカテゴライズはできないな。

 朱い神槍、自在に行える天候操作、天候操作で生み出した風、雨、雷を操る。

 神の名を冠す斬魄刀

 それが彼の強さ……いや、彼自身も非常に強い。

 手にした情報では更木剣八が本気になってなお怪我を負っていないとか……。

 

 実力に関しては、明日軽く模擬戦をしてみればわかるだろう。

 

 今まで入手した情報では斬拳走鬼全てにおいて高い実力を持っている。

 もしかすると私に並ぶかもしれない。

 それでいて、速さにおいては私よりも上だ。

 私の鏡花水月で催眠状態にしたとしても、彼が本気で逃げれば害をなすことは……難しいが、不可能ではない。

 だが、崩玉を手に入れ万全な状態になるまで戦いは避けるべきか。

 更木剣八以上の警戒対象だ。

 

 弱点がないわけではない。

 彼は家族を非常に大事にしている。

 そこをうまくつけば、彼の隙をつくこともできるだろう。

 だが、家族の存在は同時に彼の逆鱗でもある。

 何も考えずに手を出してしまえば、逆鱗に触れられた龍は激しく暴れまわるだろう。

 だからこそ、慎重にならねばならない。

 

 

 

 @月ω日 

 

 危険だ。

 彼は非常に危険だ。

 まさかこの私が、知能比べで負けるとは……いや、更木剣八の様に勘で指していた可能性も……

 勘にしろ、彼の頭脳にしろ、非常に危険な存在だ。

 下手を打てば、私の計画が露見してしまいかねない。

 彼を五番隊に引き込んだのは失敗だったか。

 

 だが、布石は打った。

 鏡花水月の始解を見せて、五感を支配する事には成功した。

 しかしそれでも、彼ならばこの縛りから抜けることもできるだろう。

 だからこそ、気付かれてはならない。

 今までよりもより慎重にならねば。

 

 最後に、いつも定時までに終わらせている仕事が、午前中で終わった。

 彼は非常に有能な死神だ。

 

 

 д月●日

 

 彼の力を図るために、流魂街の一角で虚による事件を起こさせた。

 私達が担当になるように、うまく誘導して、下級死神を派遣し、その死神を虚に食わせることで危険度を上げ、私と彼が行かざるを得ない様にした。

 私の普段の仮面から、万全を期すためと言えば元柳斎も首を横には振らなかった……決して最近私達が暇をしているから提案したわけではない。

 元柳斎の暇を持て余しておるのだな、という目に内心で怒りを覚えながらも笑顔で流しておいた。

 

 彼に事件の事で私達が出ることになった事を言うと、一瞬だが警戒した目で私を見た。

 勘づかれたか……?

 本当に一瞬だったが、あの目は間違いなく私自身を警戒していた。

 やはり、彼の頭脳や勘は侮れない。

 様子を見て彼から離れるつもりだったが、予定を変更して共闘することになったが、彼の力の一端は知れた。

 やはり速度においては私でも勝つことは不可能か。

 

 雑魚の虚では相手にもならない。

 改造した虚か、もしくは最低でも中級大虚を当てねば戦闘力はわからないな。

 学生時代ですら下級大虚を一撃で分解している。

 時間は幸いにもかなりある。

 改造した虚を当てることも可能だろう。

 あの斬魄刀を無効化する虚を作ることができるか……?

 

 

 ☆月±日

 今年の卒院生を何名か確保した。

 その中に学院時代に目を付けていた娘がいたが、うまく使えば彼への駒として使えるか。

 あの時は彼の行動によって私の駒にはできなかったが、他の方法もあるか。

 あの娘の憧れをうまく誘導して恋心と誤認させ、私が協力者という立場になれば、私の言う事にもある程度は従うだろう。

 彼も妹と親しい友人を見捨てることはしないだろう。

 

 改造した虚も数がそれなりに増えてきた。

 奴らとあの娘を使って、うまく動くとしようか。

 

 

 ★月★★日

 あの娘の心をうまく誘導し、恋心と誤認させることができた。

 実力もそれなりにある為、後数年たてば三席まで問題なく上げることができるだろう。

 だが、その前にうまく使わせてもらわなくてはな。

 既に仕込みは終了している。

 彼に怪しまれないために少々時間が掛かったが、これで彼がどう対応するかがわかる。

 既に人格などについては把握しているが、実力だけは未だ図り切れない。

 隊長である私と副隊長である彼が、瀞霊廷で全力を出すわけにはいかない。

 そうなるとどうしても戦力を図る機会が減ってしまう。

 さて、見せてもらうよ。

 君を慕う娘を、君が殺せるかどうかね。

 

 

 -----

 

 

 監視させていたウルキオラの能力で、その時の事の次第を見ていた。

 

 あの娘に虚を憑かせることには難なく成功した。

 下位席官となっていたあの娘に部隊を率いさせて虚の討伐に向かわせ、あの娘に虚が憑依し、部隊の何名かを虚の力で傀儡として死神を襲わせた。

 逃げろと叫ぶ傀儡となった死神に、生き残らせた死神を逃亡させる。

 後は、瀞霊廷近くまで逃げてきた彼らの存在に彼が気づくだろう。

 聞いた情報から、一刻を争うと理解し私の判断を待たずに、憑かれた死神達の元へ行くだろう。

 そこまでは私の計画通りだった。

 

 死神を喰らっても良いと許可していたから、すぐに食べ始めているかと思ったが、死神達の死体を斬魄刀で木に串刺しにしていた。

 後から来る死神を煽る為か、単純にゆっくりと食べようとしていたか、今では知り様がない。

 そこに現れた彼、泣きながらやめてくれと懇願する傀儡となった死神の声に嗤う虚。

 

 彼は一瞬で事の次第を理解したのか、鋭い目付きで一瞬だけウルキオラの方を見た。

 そしてすぐに、穏やかな顔に戻り、隊員達に声をかけていた。

 隊員達も彼が来たことで安心し、一瞬で虚の傍から響の後方へと移動させられていた。

 ウルキオラの視力をもってしても、彼がどうやって隊員達を移動させたのかわからない。

 彼らを操っていた傀儡の糸も切られているようだ。

 既に自由の身となった隊員達に、彼は戻るように言って、虚の元へと歩み寄る。

 

 虚は全く知覚できずに、隊員達を失ったことに怯えた。

 彼はただ死神へと歩み寄る。

 何を狙っているかはある程度予想がつく。

 あの娘が憑かれたと言う事から、あの娘の体から虚を祓おうとしているのだろう。

 事実、彼は虚からあと少しという距離で『雛森の体を返すなら、見逃してやろう』と言った。

 だが虚は彼の速度から、糸で操ろうにも避けられるし、逃亡することは困難だと判断し『ならば、お前の体をよこせ』と言った。

 

 私は知らずに笑みを浮かべる。

 彼はあの娘を護るために当然了承するだろう。だが虚に憑かれた程度で彼がその存在を失うとは全く思わない。

 だが、どのような手段でそれを回避するか。

 それだけが気になっていた。

 

 案の定彼は即答していた。

 そうして、虚は彼の手を握りその体へと侵入し、次の瞬間には反対側の手に鬼を模した仮面を手にしていた。

 視界が揺れた。

 ウルキオラの驚愕がわかる。

 よもや、あの平子真子達が死に瀕しながらもコントロールした虚化を一瞬で制御した。

 そこでウルキオラは此処に居るのは危険だと判断したのか、黒腔を開いたところで映像は終了した。

 

 

 なるほど、最近あの娘が彼の傍にいるのは操られている時にも意識があったのだろう。

 そして彼に励まされたか。

 しかし敵になった仲間でも、助ける手段があるなら助ける。

 それはごく普通の事だった。

 故にどうしようもなくなった時、仲間だった人を殺すか、逃がすかと言う事がわからなかった。

 前者なら色々と手を打てたのだが……まぁいい。

 後者だったとしてもやり様はある。

 

 しかし……彼を追い詰める策が彼を強化することにつながってしまうとは……

 しばらくは彼に手を出すのはやめておいた方がいいかもしれないな。

 

 あぁ、ウルキオラ。

 危険な監視を引き受けてくれてありがとう。

 その腕の傷はしっかりと治しておくように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




藍染様って……こんな人でしたっけ?
原作の藍染さまが凄すぎるよ……
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
次の話は少し時間を飛ばしてルキアの現世での話になります。
原作の1~2年前って所でしょうか。
巻きましたが、ようやく原作に行けそうです。


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第二十三話 ルキアが現世へ来た

長くお待たせしました……文章を纏めることができない……!
自分の思うままに書いているだけの小説ですが今回も楽しんでいただけると幸いです!



「現世に来るのも、研修の時以来か」

 最初の研修の時は凄まじい虚に襲われたが、それ以降からは特殊な虚の姿を見ることもなく平和な研修だったな。

 

 そんなことを思いながら、渡された伝霊心機をみる。

 そこには桃と恋次がくれたチャッピーの小さなぶら下がり人形がある。

 二つのぶら下がり人形はどちらも可愛らしくて頬が緩む。

 その人形を買いに行った恋次を思い浮かべるとさらにおかしくなる。

 

 左手には響兄様と緋真姉様が作ってくれた特製のお弁当。

 響兄様が竹で箱を作り、その中におにぎりやおかずが入っている。

 

 首には白哉兄様がくれた首巻。

 寒い今の時期には嬉しい物を贈ってくれた白哉兄様にもすごく感謝している。

 

 贈ってくれた物を見ているとふと思った。

 尸魂界から長く離れるのは初めてだったな。

 

 そういえば、白哉兄様も恋次も穿界門まで見送りに来てくれていたが、隊長と副隊長が揃って抜けても大丈夫なのだろうか?

 

 ……まぁ、大丈夫なのだろう。

 なんだかんだで、恋次も書類仕事は得意になったようだからな。

 ……十一番隊で書類仕事をしてくれるのが全然いなかったらしいからな。

 戦闘狂である隊長との訓練が日課の十一番隊は怖いな。

 

 さて、そろそろ魂葬して回るか。

 長期と言う事もあって、適当に歩き回って迷える霊を魂葬し、時々くる虚を退治するだけで良いらしい。

 

 食事に関しては現地に協力者がいるらしいから、そこから得るようにと言っていたな。

 後で挨拶に行くとしよう。

 

 む、早速一人発見。

「そこの霊よ、迎えに来たぞ」

『ひ、ひぃ!! 死神!? わ、私はまだ死にたくない!!』

「既に死んでいる者が何を言っているのだ。大人しく成仏せんか。」

 さて、魂葬していくとしようか。

 

 

「温かい飲み物はいかがですか?」

「ひぃあ!?…………なんだこの珍妙なる箱は?」

 魂魄を探しながら道を歩いていると、突然箱から声がして思わず驚いてしまった。

 周りを見渡すが声が誰もいなかったので、小さく息をついて声がした箱を見る。

 

 白を基本とした箱に何かが入っている。

「そういえば、温かい飲み物はいかがですかとか言っておったな……と言う事はこの箱に入っているのは飲み物なのか……?」

 

 硝子の向こう側に丸い棒状のものがある。

 下にはパカパカと動く何か……

「ここに飲み物が出るのか……竹の水筒みたいなものが入っているのか……?」

 

 となると竹のようなものと一緒に温めてるのか。

「ふむ……現世は不思議なものであふれてるな」

 一通りの考察を終えたので、他の物も見てみるか。

 

 

「現世は本当に不思議なもので溢れているなぁ」

 温かいお店に、冷気を発する商品棚、自動で開く硝子扉。

 十二番隊にならあるかもしないが、見たことのない物ばかりだった。

 

 魂葬しながらも見た回った現世の物は面白いもので一杯だった。

 海燕殿に『魂魄ばっかり探してないで現世を見物してみろ、尸魂界にはない物ばかりで面白いぞ』と言われたが、確かに面白い。

 長期滞在任務……今の所楽しい事ばかりだな。

 

 それから現地を歩きまわりながら魂魄を魂葬している内にあることに気が付いた。

 どうもこの地域にいる魂魄は何かに惹かれるように、どこかを目指しているようだ。

 

「もしや虚に魂魄を誘うような能力を持っている者がいるのか……?」

 伝令神機を見るが虚が見つかったと言う情報はない。

 

「……壊れたか?」

 伝令神機を懐に仕舞いつつ、私は魂魄の後をつけることにした。

 ……それにしても、この魂魄は凄まじい筋肉をしているな……殺しても死ななそうな顔しているのだが、なぜ死んだのだ?

 そんなことを考えつつ、魂魄の様子を見る。

 

 魂魄は目指す先が見えているかのように真っ直ぐ飛んでいる。

 その先に一体何があるのか、少し意識を集中させると向かう先に大きな霊圧を感じた。

 

 感じる霊圧の大きさから意図的に発しているのかと思ったが、いつまでたっても霊圧の大きさはそのまま。

 

「……まさか、無意識に流れ出ているだけだと言うのか?」

 流れ出る霊圧の大きさは席官レベル。

 つまり潜在的な霊圧は最低でも副隊長以上になる。

 現世にそれほど大きな霊圧を持つものがいるとは思えないが……

 

 そしてようやく目視できる距離に霊圧の持ち主が見え、私は唖然としてしまった。

 少年の背後には列になるようにして並ぶ7体の魂魄、そしてその列にさらに一人加わった。

 

 そのことに気が付いたオレンジ色の髪をした少年が天を仰ぎ見ながら「……また増えた……」と呟いていた。

 

 だが、私はそれよりも少年の顔立ちに驚いていた。

 なぜならその少年の顔立ちは私の上司である海燕殿に似ていたのだ。

 パッと見た所違いと言えば、髪の色と長さくらいだろうか?

 それくらい海燕殿に似ていた。

 もしや志波家の血族なのか……?

 

 気になる……実に気になる……尸魂界に戻ったら海燕殿に現世に血族がいるかどうか聞いてみよう。

 

 そう思いながら、私は未開放の袖白雪を構えた。

 とりあえず、海燕殿に似た少年の後ろにいる魂魄たちを魂葬しよう。

 一体ならともかく八体もいる魂魄の目の前に現れたら逃げられる。

 

 なので、瞬歩を使って近づき全員を魂葬する。

 少し力が入ってしまうかもしれないが、逃げる方が悪いと言う事で諦めてもらおう。

 

 そう決めて、私は瞬歩で魂魄の傍へと移動して、瞬時に判子……ではなく、魂葬していく。

『いててててて!?』「なんだ!?」

 無事八体目まで無事魂葬を施した所で魂魄が痛みに声を上げた。

 やはり少し力が入ってしまって最後の魂魄だけ痛みを感じてしまった様だ。

 

 その魂魄に少し申し訳なく思いながらも少年の方に目をやれば、私に気が付いたのか驚いた様にこちらを見る少年がいた。

 

 やはり死神まで見えるのか、そう思いながら私は鞘に斬魄刀を納めつつ、少年へと向き直った。

 

 

 

 

 いつもと変わらない日常だった。

 魂魄の話を聞いて、何とか一人祓ってもまたすぐに新しい霊が憑く。

 

 ようやく一体祓ったと思った帰り道、ふと後ろを振り返れば筋肉もりもりのマッチョマンが最後尾に憑いているのを見て、思わず天に目をやる。

 

「……また増えた……」

 なんでこうも俺は霊媒体質なのか。

 明日……また明日祓うために話を聞こう……それとも神社で祓ってもらえないか……

 そう思いながら帰路についていると、突然後ろから悲鳴が聞こえた。

 

「なんだ!?」

 後ろを振り返れば、痛みを訴えながら光に消えていくマッチョマンの姿とその隣に立つ日本刀を持った黒い着物を着た女の子がいた。

 

 その女の子は鞘に刀を納めながら俺の方へと向き直り、ゆっくりと近づいてきた。

 その顔は何の感情も浮かんでおらず、完全なる無表情だった。

 

「……なんなんだテメェは……」

 いつでも動けるように体に力を入れながら睨みつける。

 そいつは俺の少し前で止まった。

 

「私は水無月ルキアと申します。職業は死神です。よろしくお願いします」

 と言って、ぺこりと頭を下げた。

「……お、おう、俺は黒崎一護。職業は中学生です。よろしく……じゃねぇよ!?」

 

 唐突に自己紹介をされて思わず普通に返してしまった。

 っていうか、なんだこいつ?

 視線を向ければ、さっきの無表情は夢幻だったのかと思うくらいに、困惑の表情を浮かべていた。

 

「な、なにかおかしい所でもありましたか?」

 困惑の表情に不安まで浮かべつつ、首を傾げる自称死神の女の子にさっきまでの緊張が抜けていく。

 こいつ、天然だ。

 

 刀を抜いている奴がいきなり現れて、俺に憑いていた霊が悲鳴を上げながら消えたっていうのに、唐突に自己紹介を始める……おかしい所しかないぞ。

 

「いや、むしろおかしい所しか……っていうか死神?」

「はい、貴方に憑いていた方々は皆成仏させて頂きました」

「マジでか!?」

「マジです」

 一日一体しか祓うことができなかった霊が全員成仏した。

 何年ぶりだ、こうして霊がいなくなったのは!

「~~~~!」

 思わず天を見上げて声なき声を上げてガッツポーズした。

 

「ねぇ、ママー、あのお兄ちゃん一人でなにしてるの?」

「シッ!見ちゃいけません」

 視界の端で、さっさと通り過ぎて行く親子が見えた。

「…………」

「……大丈夫です、私はわかっていますから……その、なんだ……そんなに気を落とすな……?」

 

 水無月の可哀想な人を見る目がいてぇ……

 このまま外で喋っていたらまた変人に思われるので、俺の家で話をすることにした。

「おっかえりーーー!いっちごう!?」

「おー、ただいま」

「…………?」

 帰宅していつものように襲い掛かってくる親父を撃退して、部屋の扉を開けて水無月を見た。

 

「俺の部屋だ。入ってくれ」

 俺がそういうと水無月は何やら苦笑しつつ、部屋の中に入った。

「? なんだ?」

 部屋の扉を閉めつつ、なんでそんな顔しているのか聞いたらまたしても苦笑が返ってきた。

「いえ、出会ったばかりの女性をあっさりと部屋に招くなんて色男だなと思いまして。慣れているんですね」

 水無月にそう言われて、顔に熱が集まった。

「ばっ!? そういうつもりじゃねぇし、部屋どころか家に女を招いた事だってねぇよ!! っていうかお前は死神じゃねぇか!! それにガキは俺の守備範囲外だ!! もっと成長してから出直してこい!」

 

 俺が焦ってそう言い切った。

 ……あれ、俺今大分失礼なこと言わなかったか?

 水無月を見れば、些か不満そうな顔で俺を見ていた。

「確かに私の体はあまり発育が良くないですが、これでも既に百は超えています。それに女性相手にそういう発言は失礼ですよ」

「ひゃ、百を超えてる……? いや、そうだな。わりぃ……あ、いや、すいませんでした」

 確かにもっと成長してから出直してこいとか、失礼すぎるし、上から目線すぎるだろ。

 頭を下げると、水無月は仕方なさそうに笑った。

 

「まぁ、今回は見逃します。元を正せば、最初の私の発言が原因ですからね。私の方こそ失礼しました。それと敬語は良いですよ。年齢で威張るつもりもありませんし」

「そ、そうか……すまん……そういえば、なんで水無月は敬語なんだ?」

 年齢が水無月の言う通りなら、それこそガキの俺に敬語を使う必要はないだろ。

「私は些か古風な喋り方をしていますので、基本的には敬語で話しているだけですよ」

「そうなのか、なら俺も敬語じゃなくていいぜ。水無月には取り憑かれていた霊を成仏させてもらったしな」

 俺がそういうと、水無月は可笑しそうに笑った。

「私が霊魂を成仏させるのは仕事ですから……いや、まぁいいだろう。貴様は面白い奴だな一護」

「お、おう」

 

 な、なんだこいつ。

 古風とは言ってたけど、しゃべり方が変わっただけで雰囲気までガラッと変わったぞ。

 さっきまではまるで何処かのお嬢様みたいだったのが、頼りがいのある姉御みたいになった。

 俺が驚いていると、水無月は笑った。

「さて、お喋りもいいが何か聞きたいことがあるなら答えるぞ?」

「……んじゃ、頼むわ」

 

 それから水無月に色々なことを尋ねた。

 霊の事や、成仏した先の事、持っている刀や死神について。

 ある程度聞くと、今度は水無月から色々と聞かれた。

 霊が見えるようになったのはいつごろからか、霊に憑かれるようになったのは、化け物に襲われたことはあるかとかも聞かれた。

 

 そこまで話して水無月は小さく息を吐いた。

「今まで虚に襲われなかったのが奇跡だな」

「虚?」

 話の流れ的にさっき聞いてきた化け物の事だとは思うが全く想像がつかない。

「虚というのはそうだな……悪霊の事だ」

 そうしてどこからともなく出したノートを見せてきた。

 ……うさぎっぽい何かとと若干怒った顔をしている気がするクマっぽい何かが書かれていた。

「…………」

 え、なんだこれ。

 

「虚は普通の霊魂や霊力の強い人間を襲い捕食して、その力を強くしていく」

 うさぎっぽい何かが口を開けたクマっぽい何かに食われている絵を見せられた。

「そして死神が見える貴様は相当霊力が高い上に霊媒体質だ。今まで虚に襲われなかったのは本当に奇跡的だ。いや、もしかしたら前の担当が気を張っていたか……まぁ、虚についてはこんなところだ。わかったか?」

「あぁ、その絵がなかったらもっとよくわかる」

 俺がそういうと、水無月は目を丸くした。

 やべ、思わず口に出ちまった。

「みな「貴様もあまり美的せんすというものがないのだな」……は?」

 思わず目が丸くなった。

 

 そんな俺に構わず一人うんうん頷きながら水無月が言った。

「これでも私の絵は四大貴族の一人である兄と姉、そして弟にも上手いと言われたのだ」

 え、まじかそれ、身内贔屓が入ってないか?

「……まぁ、私が尊敬するもう一人の兄にはもう少し頑張ろうなと言われたが……いや、まて……もしかして私達の方がズレているのか……? く、黒崎!!貴様は!?貴様はどう思う!!現世にも絵画などは多数あるだろう!?」

 話している内に唯一尊敬する兄に頑張ろうと言われていることが不安になったのか、すごい焦ったような顔で俺に詰め寄ってきた。

「あー……そうだな……」

 俺に縋るような目で見てくる水無月を見ていられなくて、思わず視線を逸らした。

 その行為が水無月への答えを示してしまった。

 

「そ、そんな……!!」

 ちらっと水無月を見ると、顔を真っ赤にして涙目になっている。

 頼りになる姉御の姿からあまりのギャップに一瞬ドキッとした。

「わ、私は……不格好な絵を……子供の落書き集のような物を……響兄様の昇進祝いに渡した……というのか」

 あ、ヤバい、それは心が痛い。

「そ、そういえば恋次は絵の事を聞いた時何やら焦りながら肯定していた……真実を言えなかった……というのか……!?」

「み、水無月!! も、もう考えるな!!」

 顔は耳まで真っ赤になって、目がぐるぐるしてる!!

「あ、あは、あははは……きゅう」

「水無月ーーーー!?」

 こてんと横に倒れて気を失った水無月にどうすればいいかわからず、外を見た。

 

 

 ……これからどうしようか……

 綺麗に見える夕焼けが憎らしく思いつつも、どうにでもなれと俺は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 




安定しない書き方……うーん……とりあえず文にまとめて先を書こう。
それで皆さんが楽しいと思ってくれればうれしいです!

ルキアが恥ずか死ぬ。
ついでに恋次の処刑が決まりましたね!
ここから原作はほとんど崩壊してますね。
原作も大好きですが、二次創作は思うがままに出来るのが楽しいです!


後、感想返しが遅くなってすいませんorz
時間があるときに少しずつ返していきますので、皆さんの感想をお待ちしております!


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第二十四話 覚醒の一護

またもや遅くなってしまいました、オリオリです。
お待たせして申し訳ない、そして短いです。
いや、もう響の所為で原作崩壊してて、オリジナルストーリーになりそうなこの頃。

今回も楽しんで頂けると幸いです!


 ルキアと会ってから早いもので3カ月がたった。

 俺が見つけた霊や、俺に憑いてきた霊はルキアに頼んで成仏してもらっている。

 おかげで俺は今までにない生活を満喫していた。

 

「待たせたな、一護」

「おう、ルキアもお疲れ様。そんでもってこいつら頼むわ」

「任せておけ」

 そうして今夜もまたやってきたルキアは、霊達を魂葬していく。

 

「んじゃ、少し待っていてくれ」

「あぁ、私は本を読んで待っている」

「おう」

 魂葬を終えたルキアは懐から本を出して、ベッドに腰かけて読み始める。

 これもこの三カ月で当たり前になった光景だ。

 俺は下から夜食として多めに作ってもらった夕食をよそって部屋へと戻る。

 

「おにいちゃーん、あんまり寝る前にごはんたべちゃだめだよー」

「今は成長期なんだよ」

 遊子に適当な言い訳をしつつ、部屋へと戻る。

「ルキア、飯だぞ」

「……何故かそう言われると、ペットの様に扱われている気がするな」

「そんなつもりはねぇぞ」

「わかってるさ、ただちょうど小説でペットに呼びかけるシーンがあったのでな」

 

 そう言いつつ、ルキアは頂きますと言って夕食を食べる。

 朝と昼は協力者がいるらしく、そちらで食べているらしい。

「うむ、美味い」

 食べてる姿はお嬢様っぽいのに、出る言葉はまるで貫禄のある父親の様だ。

 家の親父よりも貫禄あるんじゃねぇか……?

 

 そんなこんなで食事も終わり、軽く雑談をする。

「また虚が出たのか?」

「あぁ、最近はどうも数が多い。一護も気を付けよ」

「わかってるよ。狙われたら逃げりゃいいんだろ?」

 ルキア曰く俺の霊力と霊媒体質を例えるなら、暗闇中で力強く燃える焚火で、その光に集まる虫が虚とのことだ。

 すっげぇわかりやすいが、要は誘蛾灯みたいなもんだろ。

 少なくとも俺が狙われている間は他の霊体などは狙われ難いだろうと言われた。

 

 流石にそのまま逃げるだけっていうのも癪だと言ったら、協力者から術を込めた呪符を買って来てくれた。

 呪符をバットとかに張り付けて霊力を纏わせるもの、後結界の効果がある呪符を二枚もらった。

 ルキアには感謝してもしたりねぇくらいの恩がある。

 化け物と言ってもみなければわからないだろうと、一度だけ虚退治を見せてもらったが凄かった。

 

 ルキアの二倍の大きさはありそうな虚を、縛道ってやつを使って動きを止めて、破道ってやつで倒していた。

 っていうか指からレーザーってやべぇだろ。

 本当にルキアには世話になりっぱなしだ。

 この呪符だって絶対安くねぇだろ。

 まぁ、そんなこと言ったら

「私も友人を失いたくはないからな、一護が生きる為に時間を稼いでくれれば駆けつける事もできる。なら安い出費だ」

 となんとも男前なことを言われた。

 

 ルキアが赤ん坊の頃に姉共々拾ってくれたっていう嵐山響って人の影響らしいけど、女なのにここまで漢らしくなるくらい影響を与える男ってどんな漢だ。

 

 ピピーピピー

 そんなことを思っていると、ルキアの伝令神機から音が聞こえた。

「また虚か?」

「あぁ、最近は本当に多いな……」

 流石に疲れてくると言うルキアに苦笑する。

「今度甘い物買ってくるぜ。何かリクエストはあるか?」

「……いいのか?」

 甘いものと聞いて目を輝かせたルキアに内心で笑う。

「あぁ、いつも世話になってるからなこれくらいどうってことないぜ」

 中学生と言っても小遣い全然使ってないからそれなりにある。

 

「な、なら……白玉あんみつが食べたい……」

「おう、任せとけ。明日買ってくるからよ」

 俺がそういうと、ルキアはめっちゃうれしそうな顔をした。

「ふふふ、やはり一護は色男だな」

「……それまだいうのかよ……」

 思わずげんなりとする。

「今度は割と本気でそう思っているぞ? この三カ月付き合ってきたが、私がそう思うのだ。自信を持つがいい」

「……あれ、これって褒められてんのか?」

「私はそのつもりだったが、言い直した方が良いか? 一護は良い男だよ」

 

 揶揄いかと思ったら、どうやら褒められていたらしい。

 真正面からそう言われるとどうも気恥ずかしい。

「……ありがとよ……」

「ふふふ、むっ、少し時間を取りすぎた。行ってくる」

「……おう、気を付けろよ」

「あぁ、ではな」

 窓から飛び出して一瞬でルキアの姿が消える。

 

「瞬歩ってやっぱすげぇよな」

 武術で言う縮地法って奴なんだろうけど、空中でも使えるとかずるくねぇ?

 さて……うまい白玉あんみつがあるとこってどこだっけか。

 

 店は明日調べるとして、さっさと宿題終わらせちまうか。

 

 元々そんなに多くもない宿題をささっと終わらせて、そろそろ寝るかと背伸びした。

「っ!?」

 背中に寒気が走った。

 なんだかわからねぇが、此処に居るのはマズイ!?

 

 咄嗟にバットと呪符をもって、扉を蹴り飛ばすように開けて走った。

「おにいちゃん!? どこいくの!?」

「散歩だ!!」

 バットもってどこへ散歩行くんだと自分で言ったことに内心で突っ込みつつ、靴を履いて家から離れる様に走る。

 

 呪符をバットに張り付けて、結界の札を懐に入れる。

 背中に走る寒気はどんどん強くなる。

 走りつつも俺はこの寒気の原因を理解していた。

 寒気が一層強くなった瞬間、俺はバットを振り向き様に振り払う。

 バキィッ!という音の後に「ギィィィ!!」と言う鳴き声のような声がした。

 

「ハッ! やっぱり……な……」

 予想した通りバットに当たったのは、四足歩行の化け物……虚だったことを確認して、目を見開いた。

 俺が殴りつけた虚がのた打ち回る。

 今ならバットでもとどめをさせたかもしれないが、俺の意識は虚の向こう側に向かっていた。

 黒い雲が蠢く。

 その雲めがけて閃光のようなものを放ちながら、こちらに向かってくる見慣れたルキアの姿。

 だがその表情は、今までにないくらいの焦りが浮かんでいた。

 

 ルキアが何かを叫んでいる。

 その声は今の俺には遠くて、うまく聞き取れない。

「……嘘……だろ……!?」

 なぜなら、目に入ったものに完全に意識を奪われていた。

「……れ……ご……!」

 ルキアは完全に反転して俺を目指して走ってくる。

 その後ろにいるのは……

「走れ一護!!」

 虚の大軍だ。

 

「ッ! この莫迦者!!」

「おわぁ!? る、ルキア!?」

 まだ少し距離があったのに、気が付いたらルキアに抱き上げられていた。

「虚を目の前にして呆ける奴があるか!!」

「わ、わりぃ……」

 汗にまみれたルキアの顔を見て、俺は謝る事しかできなかった。

 

 見た所怪我はしてねぇみたいだけど、息を切らしてる。

 今まで一度も見たことない姿に、どれだけヤバい状況なのか否応なしに理解させられる。

「一護……よく聞け……あの虚たちの狙いは一護だ。私は、完全に、無視された」

 息も絶え絶えに、ルキアが今の状況を説明してくれた。

「はっ!? 俺が狙い!? つか、ルキアおろせ! お前も辛いだろ!」

「囲まれたら、一護を、護り切ることが、できん!」

 追いついてきた虚と一気に距離が開いた。

 瞬歩を使ったみたいだが、ルキアはかなり苦しそうだ。

「だけど、このままじゃ共倒れだろ!? それに結界の呪符だってある!」

「四・五体なら、ともかく、あの数では、数秒も、もたん」

「くそっ!」

 これ以上はしゃべらせるのもキツイだろ。

 なにか、なにか手はないのか!?

 

「ルキア、頷くか首振るだけでいい! この呪符を売ってた奴は助けになりそうか!?」

「……」

 ルキアは首を横に振った。

 くそったれ!! 俺はとんだ足手まといじゃねぇか!!

 このままじゃ、どっちも死んじまう……!

「俺の霊力を分けることはできるか!?」

「……ッ」

 ルキアは即座に首を横に振って、また瞬歩を使った。

 もうこれ以上はルキアも持たねぇ……多いって言われた霊力も今は意味ねぇってぇのかよ……

 どうにか……どうにかならねぇのか……

 俺にもルキアみたいな力が……死神の力があれば、時間を稼ぐくらいは……ッ!?

 

「なん……だ……?」

「どう、した?」

 ルキアが声をかけきたが、それよりも胸の奥で何かが騒ぎ立てる。

『…………』

 なんだ……?

 一体何なんだよ……?

『………………ベ…………』

 心臓を掴むかのように胸を強く掴んだ。

 何かに呼ばれてる……?

 

『……え…………う』

 …………よくわかんねぇが、この感覚は…………

 

 ふと、周りが静かになっていることに気が付いた。

 見上げてみれば、ルキアも、虚も全てが止まっていた。

 もう一度前を向けば、そこには黒いおっさんと白い、死覇装をきた……

「……俺……?」

 俺の声が聞こえたのかそいつはにやりと笑った。

 そいつから虚と同じような寒気を感じたが、今はどうでもよかった。

 

 なんとなく、思った。

 こいつらは、俺の力だと。

 さっきから呼びかけてきていたのは、こいつらだと直感した。

「戦うために、生きる為に、力を貸してくれ」

 気付けば俺は、そいつらの目の前に立って手を差し出していた。

『ハッ、こっちもテメェに死なれちゃ困るんだよ。今回は手を貸してやる』

 白い俺が不敵に笑った。

「どれだけ数がいたって負けねぇよ。命を張って護ってくれた奴がいるんだ。今度は俺が護る!」

 俺の言葉に、黒いおっさんが笑みを浮かべた。

『なら俺の名を呼べ』

「名前……? ! まさかアンタは!」

 黒いおっさんの手には、身の丈ほどの出刃包丁の様な物があった。

 

 これは、ルキアが持っている物と同じ斬魄刀……!?

『これが見えるなら、俺の名も聞こえるだろう』

『まどろっこしい奴だな、とっととやろうぜ。』

「あぁ」

 俺はおっさんがもつ斬魄刀に手を伸ばす。

『引けばお前の魂の輝きは衰え、負ければ死ぬ』

『俺が手を貸すんだ。あの程度の雑魚になんざ負けねぇさ。そうだろ、王よ?」

 斬魄刀を掴んだ手から、力が溢れて来る気がした。

『呼べ、我が名はーー』

 

 

「斬月」

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で、まさかの死神覚醒+斬魄刀の解放+一時虚化が原作一話くらいでやってきました。
主人公最強タグを追加するべきか……
ルキアが最後逃げに徹していたのは、霊力の多様でスタミナ切れ間近+虚がルキアガン無視で一護を狙う所為です。
しかし、響の時と言い、現世は虚の大軍に合うのがデフォルトなのか……
原作でも来てるし……(今の所)メノスが現れてないだけましかな。
実は浦原さん達の所には十刃が密かに出向いており、けん制されています。


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第二十五話 俺の体が!?

この度はご迷惑をおかけしました。
非公開したり、撤回したりと大変お騒がせしました。
これからは一覧に表示させないで、楽しんでくれた方々の為に書いて行こうと思いますので、これからもよろしくお願いします。

久しぶりの更新、お待たせしました。


 辺りに虚の霊圧を感じないのを確認してから、袖白雪を鞘に納めて小さく息をついた。

 久しぶりに立っているのが辛くなるくらいに動き回った。

 これだけ動いたのは響兄様と耐久組手をした時以来だ。

 力が入らない体をゆっくりと壁に預け、私はそのまま座り込んだ。

 

 何とか無事に危機を乗り越えることができた。

 あまりにもありえない事態だが、こうして私が生きていられるのは一護のお蔭でもある。

 

「一護、大丈夫か?」

 斬魄刀を傍に投げ出して、地面に大の字に倒れている一護に声を掛けた。

「……死ぬかと、思ったぜ……ハハハ」

 息を乱しながら、笑う一護に大物だなと思いながら小さく笑った。

 

「まるで物語の主人公の様な覚醒の仕方だったな」

「あー、タイミングが神がかってたもんなー、俺もそう思う」

 窮地に追いやられた主人公が土壇場で力に目覚める、本当に物語の様だったが……

「フフフ、その後は斬って逃げるという主人公にあるまじき戦い方だったな」

 二人して、近づいてきた虚を斬り付けたら即座に反転、突出してきた虚をまた斬りつけて逃げると言う戦略的にはともかく主人公の戦い方ではないな。

 

「実際に主人公だったら、大軍に突撃して勝つんだろうけどな」

 一護も可笑しそうに笑いながら軽口を叩く。

 先の戦闘は本当に驚きの連続だった。

 

 一護が突然腕の中から消えたと思ったら、目の前に死覇装を着て身の丈ほどの大刀と左目を覆い隠す何かを付けた一護が立って居た。

 その後は一護と共に走りながら向かってくる虚を倒しては引いて、倒しては引いてを繰り返して何とか殲滅する事に成功したのだ。

 せめて私の状態が万全ならもっと楽に倒すことができたのだが、流石に霊力の大半を消費した状態であの大軍は無理があった。

 

 お蔭で月がもう沈みかけている。

 

「しかし私は今でも自分で見ていることが信じられん。白昼夢でも見ている気分だ」

 改めて死神として覚醒した一護を見る。

 身の丈ほどある鍔も何もない大刀。

 斬魄刀から感じる霊圧は隊長格に匹敵する上に、揺らぐ事なく安定している。

 通常の斬魄刀の状態に戻らない所を見るに、常時開放型の斬魄刀か?

 左目だけを隠している何かからはほんの少しだけだが、虚に近い霊圧を感じる。

 肉体を持ちながら死神となった事に起因するのだろうか?

 

「そんなにおかしなことなのか?」

「刀を持った赤子が生まれてきたらおかしいだろう?」

 心底不思議そうにしている一護に、今起きていることがどれだけ異常な事か説明してやりたいが、それよりも確認しないといけないことがあった。

「お、おう……それほどなのか……」

「あぁ。一護、体は問題ないのか?」

 死神に虚の霊圧が混じる……響兄様が言っていた寄生するタイプの虚の影響もあり得あるか?

 

「体力を使い切ったこと以外は、特に問題ねぇぞ」

「ならいいのだが……そうだ、その斬魄刀は……」

「斬月だ。ルキアの斬魄刀もなんか変わってたよな?」

「それについてはまた今度説明しよう。斬月にその目元の何かについて聞いてくれないか?」

 私の言葉に一護は不思議そうに首を傾げた。

 

「どうやってやるんだ?」

「うん? 話しかければ答えてくれないか? 私達が話している内容は聞こえてるはずだが……」

「そうなのか? 斬月、目元のこれって何なんだ? …………ハァ!? 虚の仮面!? 王って俺の事か!? あの真っ白い俺みたいなやつが虚の力? え、どうすりゃいいんだよ……倒せばいい? 精神世界で? え、今から!? まてまてまて!! 俺今めっちゃ疲れてんだけど!? 笑ってんじゃねぇよ!? せめて明日にしろ!! は? 二対一!? どうせだから『ばんかい』修行も一緒に? 待て待て待て!! 『ばんかい』っていうのが何の事かわかんねぇけど、斬月が無茶言ってるってことだけはわかるぞ!? そもそも……」

 

 うむ、どうやら少し時間が掛かりそうだな。

 だがあの目元の何かについてはわかった。

 やはり虚の仮面だったか。

 内心で頷きながらも、あり得ない事態に頭が痛くなる。

 

 小さくため息をついて、一護の様子を見る。

 未だに斬月に向かって叫んでいる所を見るに、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 今のうちに一護の肉体を回収してくるとしよう。

 

 

 しばらく歩き回ってようやく一護の肉体を見つけた。

 まさか溝に落ちているとは思わなかった。

 溝が全然汚れていなくてよかったな。

 ……雨が降ってたら肉体も窒息死していたかもしれない。

 

 そんなことを考えながら一護の体を持ち上げると、左側だけ擦り傷だらけだった。

「ふむ……思ったほどひどくはないな」

 ……全力で走っていたからな……このこんくりぃとと言う地面ですり下ろされた大根みたいにならなかっただけマシだろう。

「この程度なら回道でどうにかなるな」

 流石に今すぐ回復させるのは辛い。

 まずは一護の肉体を運ぶことにしよう。

 一護の肉体を背負って、一護の魂が居る場所へ戻る。

 うむ、変な言葉だ。

 死神なら義骸と義魂丸があればどうにでもなる……

「ふむ……一護用に義魂丸を買いに行くか。これから先狙われたらある程度自分で身を守れるようにする必要があるだろう」

 

 危機は乗り越えたが、これからやることが多いな。

 人が死神として覚醒した事は隠さねばならないだろう。

 技術開発局の連中が実験材料にしかねない。

 護身としてある程度戦う術を身に着けてもらう必要がある。

 

「幸いなのは後1年くらいは時間がある事か」

 長期駐在任務の期間は最長で2年くらいだったか……それだけ時間があれば、どうにかなるはずだ。

 斬拳走鬼を一度教えておこう。

 一護の性格から考えるに、誰かが危険に晒されたら躊躇なく助けに行くだろう。

 鬼道を覚えれば、肉体があっても時間稼ぎもできるだろう。

 あれで勤勉な男だ。

 

 これから先の事を考えながら、一護の声がする方へと歩く。

 どうやらまだ斬月と話し込んでいるようだ。

 もう日が昇っている。

 一護も学校があるのだから、早々に治療して戻らなければならん。

 

 また同じことが起こるとは思ってないが、警戒はしておかねば。

 義魂丸を買って、魂魄を抜くための道具も買わねば……あぁ、これからの為に記換神機も念のため買っておかねば。

 他にも何か必要な物はあったか?

 

 これから忙しくなるな。

 未だに斬魄刀と話している一護をしり目に、一護の肉体を治療しながら朝焼けの空を見上げた。

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ!!」

「どうした一護、もう降参か?」

 不敵に笑うルキアに、俺は驚きを隠せなかった。

 

 自分の身を守れるようにって事で、ルキアが色々と道具を揃えてくれて、その上こうして戦う術を教えてくれてるだが……攻撃が全く当たらねぇ!!

 これでも空手やってたし、それなりに強い自信はあったんだが……ルキアが相手だと綺麗に受け流される。

 

 最初は俺より小さい女に殴りかかる事に抵抗があった。

 けどそれも、その場から一歩も動かずに受け流されることから、必要のない考えだと気付いた。

 何せまともに攻撃が当たらない。

 小柄だからと体重を乗せて拳を放っても、まるで流される様に受け流されて体勢を崩される。

 

 死神の身体の身体能力は霊力の高さによって変わるって言ったが、ルキアの経験の前にはただ身体能力が高いだけじゃ無意味だった。

 ルキアから聞いた斬拳走鬼には、柔道みたいなやつもあるのか?

 それとも、良く話してくれる響って奴が教えたのか?

「考え事とは余裕だな、一護」

「うおっ!?」

 

 牽制のつもりで放った蹴りを避けられて、俺はその場で勢い良く回った。

 避けた後に手を添えて加速させやがった!?

 そんなことできるのかよ!?

 無理矢理回転させられて、思いっきり体勢を崩した。

「やっべぇ……!」

 本日最大の隙

 これは、終わらせに来ると思った。

 ルキアの手刀が見えた気がした。

 

 そこで俺は咄嗟に回転させられた勢いを利用して、体を投げ出した。

「ふむ、中々のいい判断だ。だが、次に繋げれなければ意味がないぞ」

「んなこたぁわかってるよ!」

 霊子を足元で固めることができるなら、縦だろうと横だろうと関係ないはずだ。

 足場を壁のように作って、地面に着くよりも早く体勢を整える!

 想定した通りに、壁の様な足場がうまくできた。

 勢いを押し殺すように着……地?……してその足場を蹴って飛び蹴りを放つ。

 これなら受け流しても体勢を崩すことはできねぇだろ!

 

「……昔の私と似たような事を……」

 懐かしそうに、だが呆れたように俺を見るルキアに選択肢をミスったかと焦る。

「あれ?」

 気がついたら、飛び蹴りの体勢のまま更に加速していた。

 地面と平行に飛んでいる。

 足がつかねぇぞ、っていうか、止まらねぇぞ!?

 かなりの勢いがついているから、足場を作ったら逆に強力なダメージを受けそうだ!?

 

 なんてことを考えている内に、俺は公園の木を思いっきり揺らした。

 

 

「お前の兄貴鬼畜すぎねぇ?」

 木に思いっきりぶつかって、組み手は終了となった。

 そして、飛び蹴りの時にルキアが呟いていた事を聞いてみて出た第一声だった。

「普段は優しい人なのだが、鍛錬に関しては厳しい人だったからな」

「お前が厳しいって言うとかどんな奴だ……よ……?」

 ルキアの背後に見えたモノに、思わず目を凝らす。

「うん? どうした一護?」

 ルキアが何かを言っているが、正直俺はそれどころじゃなかった。

 今『俺』が跳んでいた。

 ピョーンと言った感じに跳んでいた。

 

「あ……あれ……」

「???」

 ルキアが首を傾げて、背後を振り向いた。

 それと同時に、また『俺』が跳んでいた。

「「…………」」

「あ」

 落ちていくときに、俺達と『俺』の目が合った。

 

「よし、捕まえに行くぞ一護!」

「一体何が起きてんだよ!?」

 すぐさま再起動して、走り出したルキアを追いかけつつ問いかけた。

「恐らくお前に渡したソウル*キャンディが改造魂魄だったのだろう」

「改造魂魄ぅ!? なんだよそれ!?」

「死体に能力を強化した改造魂魄を入れて、尖兵として使う計画があった……と、習ったことがある。アイツは恐らく脚力強化タイプだな」

「なんでわかる……ってはや!?」

 ルキアの説明を聞きつつ、俺の体を見ると凄い速さで走ってた。

 100mを5秒切るんじゃねぇか?

 

「私達が瞬歩や縮地を覚えててよかったな。そうでなければ体を持ち逃げされていたかもしれん」

「うおぉい!? 今さらっと聞き捨てならねぇこと言ったぞ!?」

 持ち逃げってなんだよ!?

 空に足場を作って、俺の体を追いかける。

「尖兵計画は伊達ではないと言う事だな。あれだけの速度に跳躍力。蹴撃の威力はとんでもないものになるだろうな」

「ヤバすぎんだろ!! っていうか、あんなに速く走って俺の身体大丈夫なのか!?」

「…………まぁ、大丈夫だろう」

「今の間はなんだあああああ!?」

「そんなことよりも早く追わねば持っていかれるぞ?」

「あぁもう!! まてや俺の体ああああ!!!」

 

 

 そうして真夜中の追いかけっこは……あっさりと終わった。

 できるだけ近づいて、縛道で動きをあっさりと止めやがった。

 死神の戦いって素手とか斬魄刀だけじゃないんだよな。

 

 そういや、ルキアがソウルキャンディ相手に色々と喋ってたな。

 捨てるつもりはないとか、何かあれば言えとか……あの状態でも話することできるんだな。

 俺としてはあのキャンディを使うのはごめんなんだが、ルキア曰く反省してもう二度と持ち逃げしないと言っているから使ってくれだと。

 まぁ、持ち逃げされないならいいんだけどよ。

 

 その後、ルキアは話をつけに行くって言って何処かへ行った。

 まぁ、なんだかんだでこれからこいつにも世話になるだろうから、俺も挨拶しておくべきだろう。

 

「なんだかわかんねぇけど、これからよろしくな」

 これから長い付き合いになるだろう改造魂魄に、俺はそう言ったのだった。

 ちなみに俺の肉体は特になんともなかった。

 尖兵計画、凄まじいな。




まさかの戦闘バッサリカット。
そして、早くも出てきたコン。
これからどういった風に話を進めるか……
次回も楽しめるように頑張ります!


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第二十六話 現代のある一日

……大変お待たせして申し訳ありませんでした。
二月中に更新すると言ったのに、かなり遅れてしまいました。
誠に申し訳ありません。

ここであまりごちゃごちゃ書くのもアレなので、本編をどうぞ!
楽しんでいただけると幸いです!


 「ふぅ」

 小さくため息を吐いて、俺は体を伸ばした。

 パキッと小気味良い音が響いて、体の力が少し抜けた気がする。

 

 バキバキと骨がなる音が聞こえたのか

 ノートに文字を書き込む音が聞こえる。

 滞ることなく一定のリズムで聞こえてくる音を聞いていると、眉間にしわが寄ってくる気がする。

 小さくため息を吐いて、軽くなった

 

 今年は高校受験があるので、鍛錬は控えめにして勉強中だ。

 小さくため息を吐いて、軽く伸びをしながら、ルキアを見る。

 俺から借りた紙を使って、過去問を解いていた。

 正直なんでわかるんだよ、と思ったが少し考えれば嵐山響の影響だろと思いなおした。

 それでも疑問は残るけどな。

 なんで100年以上昔の人物が、現代数学なんて理解してんだよ。

 

 それにしてもスラスラと過去問を解いていくルキアに、内心で焦る。

 ……俺って、結構勉強しているつもりだったんだが、俺よりも計算が速くないか……?

 額を揉み解しながら、ルキアの回答を覗き見るとあと少しで全問終了だった。

 始めてからどれくらいたった……?

 時計を見ると、ルキアが過去問をやり始めて15分くらいだった。

 15分で50問の計算問題が終わりそうだった。

 1問何秒で解いてんだよ。

 あまりの計算速度に思わず、窓から遠くを見つめてしまった。

 

「……よし、こんなところか」

 なんて思っていたら、全問解き終わったようだ。

 ルキアの兄貴は一体どんな教育をしたんだ……

「……ルキアって、数学もできるんだな……」

 相変わらず遠い目をしていたら、そんなことを問いかけてた。

「響兄様のお蔭だな。思考力を鍛える為、と言われてここまでは習った覚えがある」

 やっぱり兄貴の影響だった。

 ルキアに視線を向けると、念のために再計算して確認しているようだ。

 本当にルキアの兄貴は色々とおかしい。

 ルキアたちを育てて、畑仕事もして、狩りもして、斬魄刀の使い方も教えて、その上勉強も教える?

 どんな超人だよ。

 嵐山響だけ一日が24時間以上あるんじゃねぇの?

 

「……やはり久し振りだけあって間違いが多いな……」

 ミスしたと思わしき場所を横線で引いて、計算しなおしていた。

 その手の動きは淀みない。

 あんな風にスラスラと解けたら気持ち良いだろーな。

「……俺も負けてられねぇな」

 小休憩は終わりだ。

 気合を入れて、俺も机へ向かう。

 

 ピピー ピピー ピピー ピピー

 向かうと同時に、ルキアの伝令神機から何度も聞いていた事がある虚を観測した音が響いた。

 目を向ければ、ルキアが難しい顔で伝令神機を見ていた。

 それを見ると同時に、いつもよりも鳴り続ける伝令神機に嫌な予感を覚えた。

 

 ピピー ピピー ピピー ピピー

 音が止まることなる鳴り続ける。

 鳴り続ける音に、嫌な予感が強くなる。

「ルキ「一護」なんだ」

 ルキアはいつの間にか立ち上がって、斬魄刀を解放していた。

「すまないが、手を貸してくれぬか? 数が多い上に、纏まりがない」

「わかった、任せろ」

 俺は引き出しからコンを取り出して、飲み込んだ。

 最初はこんなデカい球を水もなしに飲み込むのは無理だろ!って思ったけど、尸魂界の謎技術によって、さっと飲み込む事が出来る。

 

「一護ー! いつになったら俺の体を見つけてくれるんだよ!?」

「探してるわ!! 都合よく見つかるわけないだろ!!」

 身体から俺が出ると同時に掴み掛ってきたコンの頭を押さえつける。

「ならせめて引き出しじゃなくて机の上に出せよ! そうすれば周りの状況がわかるんだからよ!! 暗闇は怖いんだぞ!?」

 コンが半泣きになりながら訴えてきた。

 わかったから俺の顔でそんな顔するな。

 

「コン! その話は後で聞こう。すまないが、今は時間が惜しい!」

「なんだかわかんねぇけど、了解しました姐さん! お帰りをお待ちしていますぜ!」

 ルキアには相変わらずデレッデレだよな、コンの奴。

 とにかく俺の顔でそんな顔すんな、イメージが崩れる!

 そんなことを思っていると、ルキアが窓のふちに足を乗せた。

「すまん、行くぞ一護!」

「おう!」

「一護! テメェ、姐さんに何かあったらただじゃ置かねぇからなー!」

 

 コンの声を背に、俺はルキアを追って瞬歩で上空へと移動した。

 結構高い位置へと移動して止まったルキアをしり目に、斬月を肩に乗せた。

「で、俺は何をすればいいんだ?」

「ここで少し霊圧を解放してくれ、奴らをおびき寄せる」

「あー、なんでか知らないけど俺の霊力って、魂魄が集まりやすいんだっけ」

 そんな話をしながらも、霊圧を少しだけ解放する。あまり解放しすぎたら、弱い魂魄に悪影響を与えるらしいから強すぎない程度に抑える。これくらいの強さなら虚しか集まってこないだろ。

 

「うむ、一護の霊圧の質が魂魄には心地よく、虚には……こう言っては何だが、美味い魂魄だと思われるのだろう」

 技術局ならもっと詳しい事がわかるかもしれないが……と呟くルキアの言葉に、背筋が冷える。

 

 人体……この場合は魂魄?……実験も辞さないマッドな科学者の集まりである技術開発局に聞きに行ったら解剖される未来しか見えない。改造魂魄とか義体とか、色々凄いものを作ってるのはわかるが、関わりたくない集団だと、ルキアから話を聞いて思った。

 

「来たな」

 技術開発局、なんて恐ろしい場所なんだ……なんて思っていたら、ルキアが俺の霊圧に誘われて上がってきた虚に一瞬で近づき、仮面のある頭部を一刀両断にした。本気の瞬歩だったのか、俺は全く反応できなかった。

 

 ルキア曰く、入りと抜きを鍛え続ければ速度が出てなくても反応させない事が出来るとか言ってたけど、それって簡単に極める事が出来るものなのか?

 そんなことを思いながら、別の所からあがってきてこちらの様子を伺っていた虚へ斬月を投げつけた。

 避けられるかと思ったがあっさりと頭部を貫いたので、布を引っ張って斬月を手元へと戻す。

 

「面白い使い方だな」

「霊圧も使わねぇから、月牙天衝よりも楽なんだよな。白い俺が使ってたやり方だけどよ」

「何度聞いても不思議な奴だ。一護を『王』と崇める虚の力を持った斬魄刀か……斬魄刀はわりと不思議な所があるからそう言う事もあるのだろう」

 その力が暴走しないか心配ではあるが……なんて言いながら、ルキアは虚に向けて鬼道を放って一撃で退治していた。

 

「いや、多分その心配はねぇ」

 斬月から伝わってくる感情を感じて、ルキアの不安は杞憂だと思いながら苦笑した。

『いいぜ、王! 前、俺がやったみたいに回しながらやれば貫通力アップだ! さらに投げた後に振り回せば広範囲攻撃に早変わりだぜ! さらに霊圧を纏わせれば威力も倍プッシュだ! 仮面の力も使えば高威力な攻撃に早変わりだぜ!』

 俺に戦い方のアドバイスをしてくる白い俺が暴走するわけがない。

 白い俺の言葉に従って斬月を振り回して、ぶん投げる……あ、外れた。

『おしいぃ! 少し手を離すのが早かったな、どうせだからそのまま振り回そうぜ!』

 俺の行動にはしゃいでいる白い俺の言葉を聞いてると、テレビを見ながらはしゃぐ遊子の姿が浮かぶのはなんでなんだろうな?

 

 そんなことを思いながら、布を操って斬月を振り回して、何体かの虚を斬り裂いた。

『よっしゃ! いいじゃねぇか、王! 次は当てられるように頑張ろうぜ!』

 ガッツポーズをしている姿が浮かんで、苦笑がただの笑いに変わる。

「こいつが裏切ったら、しばらくは誰も信じられなくなるな」

「ふふふ、まぁ、関係が良好なようで何よりだ」

 

 そんな話をしながら虚を片付けていると、下から何かが飛んできているのに気が付いた。

「なんだあれ?」

 飛来した物は霊圧の……矢……か?

 それは低い位置で集まり始めていた虚の頭を撃ち抜いた。

 するとまた次の矢が飛んできて、虚を撃ち抜く。

 

「一護」

「おう?」

 ルキアに呼ばれて、声がした方を振り返ると眉間にしわを寄せて険しい表情をしたルキアが、矢が飛んできた方向を見ていた。

「すまないが、少し任せても良いか?」

「おう、これくらいなら問題ねぇよ」

 俺がそういうと、ルキアは少しだけ笑った。

「随分逞しくなったものだ」

「鍛えられたからな。ここは任せろ」

 会話しながらも虚を貫いて、少しだけ霊圧を強くした。

「ありがとう、任せた」

 そう言って、ルキアは瞬歩で消えた。

 多分、あの矢を射ってる奴の所に向かったんだろ。

 

「いつかの大軍を思い出すな」

 空座町は虚に襲われやすい場所なのか?

 そうだとしたら、今まで此処の担当をしていた人は相当強い奴だったんだな。

 俺一度も襲われた事ないし。

 

 そんなことを考えながら、徐々に群をなしてきている虚を見る。

 ルキアがいなくなったことで、処理が遅れてきてる。

 上空からだと対応方法が限られてるから仕方ねぇか……感じる霊圧には……脅威になる奴はいねぇな。

「ちょっと本気出すか、斬月行くぜ」

『お、的当ては終わりか? 任せろ、王!』

 左目の上に手を添えて霊子を集めると、顔の上半分を隠す仮面になった。

「『全力で片付ける』」

 仮面の力……斬月曰く虚の力……で一気に加速して虚を殲滅する!明日も学校だからな!あんまり時間が掛かると俺が困る!

「『睡眠時間の為に、とっとと消えろ!』」

 虚の集団の下を取って、上空目掛けて黒く染まった霊圧の斬撃を放った。

 

 

 ★ ★ ★ ★

 

「出鱈目じゃのう」

「いやはや……一体どうなってるんスかねぇ」

 屋根に腰掛ける喜助の膝に丸まりながら、上空で戦う死神を眺める。

 先程まではルキアも居たが、何かに気が付いたのか途中で離脱した。

 中々に見事な瞬歩だった。

 流石は響と緋真の妹と言うだけある。

 ワシが会った頃は、まだ無邪気な子供だったと言うのに……あれから、もう100年以上経つのか……

 

「やっぱり響サンに関わった人は、どこか変わってますねぇ」

「一番おかしいのは本人の方だと思うがの」

 

 凄く速いと聞いて、どちらが速いか賭けをしたら負けてしまった。

 何故ワシはあの時、秘蔵の銘酒を賭けてしまったのか……!!

 ……まぁ、あやつが作った肴と酒は中々に相性がよかったが……

 

 だが響よ、今に見ておれ。

 ワシは負けたままでいる性分ではない。

 負けた日から今日までずっと鍛え続けてきた。

 次勝負する時は絶対に負けん。

 

「夜一サン? なんか黒いオーラが出てるスよ」

「絶対に負けん」

「あっ、これは何言っても無駄なパターン。いい加減慣れたスけど」

 フフフフ、あやつには前回と同じように秘蔵の一品をかけて貰うとしよう。

 肴の美味さからかなり期待できるじゃろう。

 

 そうと決まれば、より速く走れるようにもっと鍛えなければいかんの。

「ひとっ走りしてくるか」

「その前に服着てくださいね。いつぞやみたいに痴女の妖怪が残像を残して走ってるなんて噂立てないでくださいよ」

「…………それは忘れろ」

 あやつに知られたら絶対に怒られる。

 現世にそんな噂があると知られたら、間違いなく説教される。

 

 初めて会った時ですら、貞操観念について説教されたと言うのに……というか、何なんじゃあやつは。

 怒鳴りつけるわけではなく、淡々としていると言うのに、あの威圧感。

 このワシが何もできずに大人しく説教されてしまうとは……まるで総隊長に叱られている様な気がしてしまう。 

 

 ……わしの方が年上だと言うのに…… 

 いそいそと服を着て、軽く屈伸する。

 虚に関してはあやつらに任せて問題なかろう。

 なにせ響と緋真の妹とあやつの息子だ。

 

 まぁ、何かあれば手助けするのはやぶさかではないが。

 屈伸を終えて、屋根に立つ。

 今日は1000程の瞬歩を最高速で行う。

 あやつに速度で負けぬためには、より瞬歩を鍛えねば。

 

 「次は絶対に負けぬぞ、響よ」

 そして次はあやつの秘蔵の一品を勝ち取らせてもらう!!

 そう考えて、ワシは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




改めまして、更新が遅くなってすいません。
一応これから少しずつではありますが、執筆を再開していきます。
と言っても、体調がまだ完全に回復していないこともあり、次の更新もまた遅くなってしまいそうです。

拙い作品ではありますが、これからもよろしくお願いします。


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