Let's WORKING!? (invisible)
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1品目 家庭の事情


結構前にハマり、今でも見ているWORKING!!の二次創作です。
オリ主は小鳥遊と真逆の存在と言っても過言ではないです。

WORKING!!の二次創作は少ないので、これを機に増えてくれれば……なんて思っちゃったりしちゃって(笑)


 

 

 

「ねーねーおにいちゃん。アレ欲しい」

「おにいちゃん、私も〜」

「私も私も!おにいちゃんー!」

 

今日も、妹に囲まれる生活をしている。

五十嵐 光希(いがらし みつき)は妹3人と母1人という女だらけの生活を送っている。

 

男が1人だから、たまにパパと呼ぶこともある妹らは、こうして近くのショッピングモールのおもちゃコーナーで駄々をこねている。

 

歳が歳だからか、変身ステッキやらちっこいフィギュアと大きな家が一緒にあるヤツやら、地味にお高いものが多い。

 

 

母から貰った小遣いで足りるような額ではないし、それは自分で使わせてくれと思うくらいだ。

 

 

 

 

「……どうしてこう、妹共の誕生日が近いんだよ」

 

そうぼやいても何も始まらない。

 

むしろ妹共はここぞとばかりに駄々をこねる。

 

 

「私の誕生日近いんだよ!買ってよ!」

「私も!」

「私も!」

 

 

 

「だー!わかった!今度絶対買ってやるから!ちょっと待ってろ」

 

 

これだから妹は、鬱陶しいこと限りない。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

珍しく空気を読んでくれた妹たちは、それ以降何も言わずにショッピングモールを後にした。

 

 

 

 

 

ショッピングモールを出ると、近くにあったファミリーレストランでバイト募集のポスターが貼られていた。

 

 

《急募! フロアスタッフ!!》

 

 

急募、という文字を俺は凝視していた。

今必要とされているフロアスタッフになれば、とりあえず妹たちのプレゼントは買えるし、母の家計の足しになる。

 

多少自分の時間を割くことになるが、約束を果たせるのなら別に構わないし、母に迷惑をかけるわけにはいかない。

 

(今後の生活のためにも)母には何としても長生きしてもらわないといけないので、俺はバイト募集の紙をケータイで撮り、家に帰った。

 

 

「おにいちゃんー。しゃしんとって何するのー?」

 

 

「……お前らのプレゼントに必要なことだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善は急げと言うように、五十嵐はバイトをするためにも、母に交渉することと、バイト募集の詳細を見ることにした。

 

 

 

やるなら早め。そう思い、夕食が終わったらすぐに母の部屋に向かった。

 

 

「母さん、ちょっといいかな」

 

 

「………どうしたの光希」

 

「最近、家計厳しいでしょ?だから、俺がバイトしようかなって……。別にテストとかで成績だって落とさないし、授業だってしっかり受けるから、いいでしょ?」

 

 

「………情けない母ね……。でも、手伝ってくれるなら嬉しいわ」

 

 

母はそこまで否定することなく、バイトを認めてくれた。

 

あとはバイト募集の詳細の把握だ。

 

 

 

「どれどれ、フロアスタッフは16歳以上で、初心者歓迎。あと……面接の際にはお菓子を持参?何じゃそれは」

 

 

まさかお菓子の良し悪しで採用不採用が決まるというのか?バカバカしいが、書いてあるのは事実。それなりなお菓子を持っていくことにしよう。

 

 

 

 

「何とかなるとかじゃなくて、何とかしないとな……ブラックじゃないことを祈るばかりだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ワグナリアでは………。

 

 

「店長!このバイト募集に何で『お菓子持参』とか書いてるんですか!こんなのくるわけないじゃないか!!」

 

新人バイト、小鳥遊 宗太(たかなし そうた)はバイト募集の紙を店長に見せつけると、大声で怒鳴る。

 

突然の出来事に店長は片耳を手で塞ぎ、もう片方の手はせんべいを食べている。

 

 

 

「うるさい小鳥遊。これは必要事項だ。店長を敬うことがどれだけ重要かわかってるのか?」

 

 

「知りませんよそんなの!それに敬う方法は他にもあるし、これでバイト来なかったらどうするつもりなんですか…」

 

「"便利な後輩"に何とかしてもらう」

 

 

「ハナからそうするつもりだろうこの人……」

 

 

 

 

相当、荒れていた……。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

次の日、五十嵐は一応高校の制服に着替え、昨日見たお店、ワグナリアへと足を運ぶ。片手にお菓子詰め合わせを持って。

 

 

 

道中、マンホールから女性が出てきたこと以外は何もなく、ワグナリアに着いた。

 

もう一度紙を見ると、バイト希望の方は裏口まで、と書かれていたので裏口を探す。

 

 

裏口を見つけると、ちょうどゴミ捨てをしていたメガネの男を発見し、五十嵐は声をかけた。

 

 

「すみません。ここのバイト募集の紙を見た者なんですが、バイトしたいと思いまして…」

 

 

 

すると、そのメガネの男は両手を肩に置く。

 

「あなた……正気ですか?」

 

 

 

 

 

………ナニイッテンダコイツ。

 

 

「正気ですけど何か」

 

 

「ここで働いてる身として言わせてもらいますけど、年増な店長、帯刀チーフ、これらの事を知っててここでバイトしようとしてますか?」

 

 

「年増……いいじゃないか年上。お姉さんだろ?」

 

 

「………!?」

 

 

ものすごく驚いた顔をしている。何か悪いことしただろうか。

 

「あなたまさか………デカコン!?」

 

 

「どちらかといえば」

 

デカコン……おそらくこの人は大きい物が好きと思ってるのだろう。正解だ。

 

 

五十嵐は妹と過ごしているうちに姉や兄、年上の者に異常な憧れを抱いていた。

 

そのせいか、年下や小さいものがあまり好きではなくなった。

 

 

 

ちなみに五十嵐の最近の流行りはブラコン系姉。

 

 

 

「………まぁ勝手にしてください。そこのドア開けて、店長でも呼べば出てきますよ。ソレを見せれば」

 

 

このメガネはお菓子に気づいていたのか。

 

 

だがこう話していて気づいたことは、

 

 

 

 

 

やっかいな人だな。だ。

 

 

 

「今、やっかいな人だなって思っただろ?」

 

「お、思ってねーよ?」

 

勘の鋭いメガネだ……。

 

 

 

 

メガネの言う通りドアを開けると、小さい子がこちらに向かってきた。

 

「かたなしくーん!今お客……かたなし君じゃない!?」

 

 

「すんません。バイトしたいと思いましてきた者です。店長いますか?」

 

 

「いるよー!いま杏子さんのところに案内するね!」

 

 

小さい。もしかしたら妹たちよりも小さいかもしれない。

だが胸は大きい。これはデカコンとしてありなのか?

 

 

 

 

 

 

 

いや、無いな。

 

 

そういう大きいは対象外。いくら胸が大きくても、元の人間が大きくなければ意味がない。

 

 

「ここだよ!それじゃ杏子さん来るまで待っててね!」

 

 

店長の部屋、らしき場所に置き去りにされた五十嵐は、辺りを見る。

 

 

パソコン、ファイル。至って普通。

 

 

パフェのグラス×5、皿7枚。普通じゃない。おかしい。

 

まかないにしては量が異常だ。流石におかしい。

 

 

「……む、貴様かバイトしたいと言ってた奴は」

 

 

 

突然声をかけてきた女性は、モゴモゴと食べ物を口にしながらそう言った。

 

 

「はい……そうで…!?」

 

 

身長、自分と同じくらい。

態度、デカイ

なんか、パフェ持ってる

とりあえず、色々デカい。

 

 

「あっ…はい。で、面接とかするんですか?」

 

 

「それより、例のブツを」

 

 

店長と思われる人は、パフェを持ってない手でブツ(お菓子)を要求してきた。

 

とりあえず渡すと、店長は「採用」とだけ言い他の部屋に行ってしまった。

 

 

 

「これは、採用……なのか?」

 

 

 

 

五十嵐 光希、今日からワグナリアのフロアスタッフに採用………?

 





作者は山田が大好きです(どうでもいい情報)

皆さんはどんなキャラが好きなんでしょうか?感想待ってまーす。

次回、五十嵐のバイト生活、始まる……のか?


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2品目 フロアスタッフ、五十嵐


習い事の物理的ダメージと精神的ダメージが混ざって歩く事が苦行なうなinvisibleです。

結構キツい



 

「……で、何をすればいいんだ?」

 

 

店長に採用と言われたはいいが、それから何をすればいいかは聞かされていない。

 

ゆえに、ここからは全く知らない領域だ。バイトの掟とか、ルールとか、制服とか、何もわからない。

 

 

「そうだ。メガネから何をすればいいか聞こう」

 

 

先ほどゴミ出しに行ったメガネは、多分いまさっき話した場所で色々やってると思い、そこへ向かう。

 

 

「おいメガネー。ちょっと用がある……ん、だ………が」

 

 

「……もしかして君は迷子かな?お兄さんに分かることは教えてくれないかな?ハァ……かわいい」

 

 

その光景はまるで誘拐犯が小さい子を誘拐しようとしてるようだった。

 

幸い(?)話しかけられた子は男の子で、ちょっと危ない方向へは行かないことがわかった。

 

だがメガネの息は荒い。間違いなくこいつロリショタコンだ。

 

 

「……変態」

 

 

「どわぁぁ!?ななななにしてるんですか!てか、何の用ですか!」

 

「店長からは採用と言われたのだが、なにをすればいいのかと……迷った挙句こうなった」

 

「店長に聞いてくださいよ……まぁまだわからないと思うから俺が店長に聞いてみますよ。それより、これから一緒に働く身として、名前を聞きたいんですが」

 

 

メガネは小さい男の子をなでなでしながらそう言う。なんかどうでもいいように思われてる気がする。

 

 

「い、五十嵐 光希、16歳の○◎高校の1年生だ」

 

「俺は小鳥遊 宗太。高校は五十嵐さんとは違いますが、同い年です」

 

小鳥遊、随分珍しい名前だ。五十嵐が言うことではないが。

 

 

「じゃあ、小鳥遊。お願いします」

 

「早速呼び捨てかよ」

 

 

軽快なツッコミの後、小鳥遊は男の子を抱えながら店の中に入っていった。

 

それに続いて五十嵐も店の中に入っていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……店長。彼が新しく入った五十嵐さんです。何をするかとかを説明してあげてください」

 

小鳥遊が必死に説得してくれているが、店長はさっきあげたお菓子に夢中で聞いていない。

 

「チッ……この年増」

 

小鳥遊がボソッと呟くと店長は持っていたフォークを小鳥遊の目の前に突き出した。

 

 

「………刺すぞ」

 

 

「そうでもしないと聞かないと思いましたよ……」

 

どれだけ年増と言われるのが嫌なのか。まぁ美人だから年増ではないがな。

 

 

「年増って…店長何歳なんですか?」

 

 

「28歳」

 

「全然年増じゃないじゃないか小鳥遊。お姉さんと言える歳だろ全然」

 

「なかなか見どころのあるヤツじゃないかお前」

 

 

 

五十嵐は頭をポンポンと叩かれ、ご満悦な様子。それを見ている小鳥遊はイライラしていた。

 

「お前には募集要項通り、フロアスタッフをやってもらう。教育係は……どうしよう」

 

 

「流石に俺は嫌ですよ。伊波さんもいるし……」

 

 

「種島も小鳥遊がいるし……八千代は多分出来ないし……松本にするか」

 

店長は勝手に選んでしまったが、いいのだろうか。

他にアテが無いそうなので、松本さんには申し訳ないがお世話になってもらうしかない。

 

 

「松本ー!ちょっといいか?」

 

「……どうしたんですか店長」

 

 

松本さんと思われる女性が箒を持ってやってきた。

その辺にいそうな、いたって普通の女性だ。

 

 

「今日からコイツがお前の教育係だ。私は仕事のことに関しては一切口出しはしない。働かないから知らないので」

 

店長の口から驚きの言葉が出た。

 

どうやらこの店は店長が働かないトンデモナイ店らしい。

 

「まぁいいや、で、店長の名前は?」

 

「白藤 杏子。他は松本から聞け」

 

「あっはい」

 

 

 

 

「え!?私ですか」

 

 

 

松本さんは箒を落とし、動揺している。そんな人には見えないが、何かあるのだろう。

 

 

「どうも……今日からバイトをする五十嵐です。16歳○◎高校の1年です」

 

「○◎高校?私と同じじゃない」

 

「じゃあ松本先輩ですね。よろしくお願いします」

 

「いいわよフツーで。さん付けで構わないわ」

 

思ったよりもフレンドリーな人だった。フツーに綺麗だし、幼女(種島)よりかは100倍マシな教育係だ。

 

 

「とりあえず場所の紹介ね……ここは事務室よ。店長とかが基本的にはいる場所よ。その隣が休憩室。休憩室を出るとキッチンとかその他あるわ」

 

 

「は、はぁ…」

 

松本さんは淡々と説明を始めた。

 

その他にも、キッチンとかホールの人がするべき仕事の説明をパパッとされ、1日が終わる。

 

なんやかんやで夜遅くまでワグナリアにいてしまった。

 

「……ここが男子更衣室よ。明日からここで制服に着替えてホールに出ること。わかった?」

 

「はい。わかりました」

 

 

 

 

「……む、お前新人か」

「お?小鳥遊くんに続いて2人目かー。よろしく」

 

 

青髪の人と金髪のチャラチャラしてそうな人が声をかけてきた。多分悪い人ではないと思うが、ちょっと怖い。

 

「ああ、そんな怖がらなくてもいいよ。俺は相馬 博臣。こっちは佐藤 潤。よろしくね五十嵐くん」

 

 

……あれ?この人初対面なのになんで名前を知ってるんだ?

 

松本さんの声がどこかから聞こえてたのか、と勝手に決めつけ、五十嵐は話を始めた。

 

「はい。五十嵐 光希です。明日からよろしくお願いします」

 

 

「おう、よろしくー」

 

 

そう言って佐藤さんは私服に着替えた後、タバコを口に咥え、更衣室から出ていった。

 

話した限り、悪い人ではなさそう……。

 

「じゃあ、先帰ります。明日からよろしくお願いします!」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

五十嵐が自宅に帰ると、"いつもの"光景が広がっていた。

仕事疲れで死にかけている母、おもちゃで遊んでいる妹達。

 

 

母はぐったりしており、声をかけても起きる気配はない。

 

妹達も、ピーピーキャーキャー叫んでいるので、兄が大声出しても怒られるだけだ。

 

仕方ないのでただいまも言わずリビングに上がり、夕飯を作ることにした。

 

 

 

30分後、料理を作り終えた五十嵐は料理を机に置く。

 

 

「あれ?おにいちゃん帰ってきてたの?」

 

「お前らがうるさいから聞こえなかったんだろ。ほら母さん。夕飯出来たよ。起きて起きて」

 

 

五十嵐のその姿は、まさしく介護してる人だった。

 

 

 

「相変わらず光希は料理上手いわね……そういえばバイトどうだったの?」

 

「オッケーだったよ。明日から働くから、帰るのはちょっと遅くなるかも」

 

「いいのよ、バイトはキツい事もあるかもしれないけど、やり遂げることに意味があるの。だから途中でやめたりしちゃダメよ…?」

 

「……キツいというか、メンバーがちょっと危ないかも……」

 

「いじめられたりしたら言うのよ?私がガツンと言ってあげるから」

 

「そんな弱々しい声で言われても……」

 

 

母は若干元気そうに話してくれた。自立(?)してくれたことが嬉しいのか、いつもより頬がちょっと緩んでいた。

 

妹達は平常運転。料理をこぼすわ口には付けまくるわの惨事の連続だ。

 

 

 

 

さて、明日から正式にワグナリアで働くことになったが、五十嵐 光希はちゃんと働けるのだろうか。

 

 

 

 

 

………フツーにフツーな、1日を過ごそう。

 

 

 

 

 





次から原作にあるストーリーを混ぜてきますが、若干の修正を。

原作一巻で小鳥遊は伊波さんに会う前に「店長ってガキですね」発言をしますが、この小説では、小鳥遊が既に伊波さんに会っている状態で、かつ五十嵐が伊波さんに出会った後にその出来事が起こるようになります。予めご了承ください。

その他は原作通りに進めていこうと思っております。みんな大好き山田もあと数話で出るかもです。

次回は、デスパンチガール降臨。これだけでわかります……よね?w

『こんな話みたいなぁ』なんて思ったら感想欄にGO!話のネタになるのでじゃんじゃんください。

あとは好きなキャラ言いまくってください。

では次回のご来店(?)お待ちしてます


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3品目 デスパンチガール降臨

ッシャー!!!って書いてたら4000文字。他の人からしたら普通かも知れませんがinvisibleからしたらやばい!多い!って感じです


 

バイトを始めて早くも1週間が経ち、仕事にも慣れてきたある日、五十嵐は2つほど違和感を抱いていた。

 

 

1つ目は、シフトに書いてある『伊波 まひる』という人に出会ってないということ。

 

見事にシフトが合わないのは、何かおかしいが、店長に聞いても「しらん」と言われるので追及はしないことにした。

 

2つ目は、チーフの轟 八千代さんの帯刀について。銃刀法違反とかその他諸々に反してるのでは?と思いながらも、未だに八千代さんとは話せていないのでスルーしていた。

 

 

 

結局どちらもはっきりとしたことはわかっていないということだ。

 

 

 

 

いつも通りシフトを確認すると、今日は伊波さんという人と一緒に仕事をする日となっていた。五十嵐はどのような人かを小鳥遊に聞くことにした。

 

「小鳥遊ー。この伊波さんってどんな人なんだ?」

 

「………通り魔」

 

 

「その伊波さんって人は、犯罪者か何かか?」

 

 

冗談9割で笑いながら言うと、小鳥遊はプルプルと震えは始める。

 

「ハハハ……ソウカモシレナイデスネ」

 

「そんな危険人物なのか、覚悟だけはしておこう」

 

「生きて、帰れるといいですね」

 

 

「やめてくれ、縁起でもないこと言うの」

 

 

あの小鳥遊の受け答えからして、伊波さんとやらはヤンキーか何かなのだろうか。

 

「おい、お前らちゃんと働け。そろそろ客が来る時間だぞ」

 

「あっ、はい」

 

店長はパフェを食べながら言うと、小鳥遊はチッ、と小声で言いつつホールへと向かった。

 

一方五十嵐は松本さんが着替え終わるのを待っていた。

 

バイトを始めたとはいえ、まだ1週間。わからない事も多く、年齢的にもバイト歴的にも上でかつ話しやすいと言ったら松本さんしかいない。

 

小鳥遊は何か合わないし、種島さんはどう頑張っても年下として扱ってしまうし、店長はちょっと無理だし佐藤さん&相馬さんはポジションが違うしで、なかなか話す人がいない。

 

 

そういった事から、よく松本さんに話しかけたり質問したりしている。

 

 

「松本さん、こんにちはー」

 

「あらこんにちは。今日で始めて1週間だけど、わからない事はある?」

 

「んー、レジ打ち、伝票打ちはまだキツいですかね、あとはそこそこ出来るようになりました」

 

「1週間でそんだけいけたら全然良い方よ。まぁフツーに頑張りなさい」

 

 

「はい」

 

 

松本さんはよく『フツー』と言う。何が原因で言うようになったかはまだわからないが、そんだけフツーにこだわる理由があるのだろう。

 

「あ、お客様来たわよ。行きましょうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「……ありがとうございました!」

 

 

「なかなか頑張ってるじゃないか五十嵐。そろそろシフトも本格的に入れてくか」

 

 

「え、それは週何日ですか」

 

「週6か週7を選べ」

 

「何そのブラック」

 

 

「仕方ないだろ、人いないんだから」

 

ブラックすぎる究極の選択を迫られる。どう考えても週6の方が楽なのだが、1日休むと逆に体が変になるというか、毎日いけばサイクルがどーのこーので……。

 

 

ということで週7、つまり毎日を選んだ。

 

「お前は……自殺志願者みたいだな。小鳥遊も」

 

 

「何がですか店長。俺を自殺志願者扱いして」

 

「お前と五十嵐、週7で働いてんだぞ。五十嵐は来週からだが」

 

「小鳥遊は何でなんですか?」

 

 

 

 

「"若い"からな。なぁ……小鳥遊?」

 

 

 

 

こいつ、もしや店長のこと年増とか言っただろ。

28のどこが年増なんだか。まだお姉さん世代だろう。それがいいというのに、小鳥遊のミニコンはミニコンの中でも重症の部類だ。

 

 

「店長も若いじゃないですか。28なんてまだ現役ですよ?」

 

 

「だろ?お前良い奴だな。これで飯作ってくれたら最高なんだが」

 

「あいにくキッチンではないので」

 

店長は「そうか」とだけ言ってチーフのところへ「八千代ーパフェ食べたい」と言いながら去ってしまった。

 

「五十嵐さんは店長を扱うの上手いですね。俺はちょっと前からすごく怖い顔で見てくるんですよね。何でだろう」

 

「「年のことだろ(でしょ!かたなし君!)」」

 

「ふぁっ!?」

 

 

五十嵐の隣には最初に出会ったバイトの子、種島 ぽぷらがいた。

 

小さすぎて気づかなかったが、どうやら小鳥遊は気づいていたようでなでなでしながら「何でですか!?」と言っていた。

 

「女の人は年のこととか聞かれるとイヤなの!特にあの年代はデリケート、なんだよ!」

 

「………アホくさ」

 

 

五十嵐はこのどうでもよさに耐えられず、ホールでお客様のところまで笑顔で向かったのである。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

お客様の前で笑顔になりまくってから1時間ほど経って、そろそろお客様が増えてきそうな時間帯になった頃、五十嵐と小鳥遊はチーフに呼ばれた。

 

 

「あら……えっと、新人さんの…」

 

「五十嵐 光希です。よろしくお願いします、チーフ」

 

「轟 八千代です。わからないことがあったらなんでも聞いてね?」

 

「はい」

 

「あ、そうだ。裏にある紙をレジに補充してきて欲しいの。2人ともお願いね」

 

「あれ、重いですもんね。わかりました」

 

慣れた感じで小鳥遊は話を聞いて、五十嵐を連れて裏へと向かう。

 

「小鳥遊。教えてけろ」

 

「これを持ってけば良いだけです。ほら、さっさと終わらせましょうか」

 

 

すると、近い場所からバタン、とドアを閉めた音がした。

 

その音がした瞬間、小鳥遊の顔が青ざめていく。

 

「どうした小鳥遊」

 

「この後俺は……」

 

 

 

 

 

足音がして、目の前に現れたのは、オレンジ色の髪の毛の少女だった。

 

「もしかしてあなたが伊波さんですか?こんにち……」

 

 

「キャァアアアアアア!!!!おとこ!おとこ!おーーとーーこーー!!!」

 

 

 

五十嵐より前にいた小鳥遊が左のアッパーカットで倒され、その勢いで五十嵐に右ストレートで一発KO!すると種島さんとチーフが駆けつけた。

 

「五十嵐君!かたなし君!大丈夫!?」

 

 

「ほら……言ったでしょう?」

「本当……すまなかった」

 

 

ここまでの破壊力とは、本当に申し訳なかった。小鳥遊。

 

 

 

「五十嵐君はまだ知らなかったわね。この子は伊波 まひるちゃん。男性恐怖症で『つい』男性がいると殴っちゃうの。死なないように気をつけてね?」

 

チーフからありえない言葉がでてきた。死なないようにだと!?

 

「……まさか、バイトで死にかけるとは思ってもいませんでしたよ……。てか、その服はフロアってことだろうけど、どうやって料理持ってったり接客してるんだよこの人」

 

「だ、男性客なら他の人に任せて、女性客をなんとか…料理を受け取るときは女の人だと思って……」

 

伊波さんはチーフの後ろでモジモジとしながらチラッとこちらを見ながら話している。

 

「だから店員が足らないと……この店の事情が少しずつ分かってきた気がした」

 

 

これから伊波さんと会うときは、死を覚悟していかなければと思った五十嵐であった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

プチ騒動が起こった後、あまり良いとは言えないような客が来店した。

 

腐ってもお客様なので、普通に接客していると、種島さんを見てニヤニヤとしている。コイツ、ロリコンかよ。

 

 

「あいつ小学生っぽくね?後で聞いてみようぜ」

 

 

なんだそれだけか。なら良いか。

 

 

 

「店長、もしガラの悪い客が来たらどうしますか?」

 

休憩室でパフェを食べていた店長に、五十嵐は質問をしてみる。

店長はパフェを完全に食べ終わると、口を開く。ちなみにそれまでかかった時間は1分だ。

 

「私に危害を加えなきゃ便利な後輩になんとかしてもらうな。事件にならない程度に」

 

「デスヨネー」

 

「なんだ?そんなこと聞いて」

 

「いやぁ、今さっきあまり良いとは言えないお客様が」

 

「まぁ何かするまで待ってるか……」

 

 

 

 

 

 

「やめてください!!」

 

 

叫び声が聞こえた。ガチャガチャ言ってるのが聞こえるので、おそらく種島さんが何かされている。

 

 

 

「何このちんちくりん。この店小学生働かせてんのー?」

 

 

「やめてください私高校生です!」

 

 

「先輩!?どうしよう先輩が!」

 

小鳥遊がいつも以上に動揺している。仮にも先輩、助けようという心はあるのか。

 

「大丈夫だよ小鳥遊君。あの人に任せとけば」

 

 

そういったのは、佐藤さんと同じキッチンで仕事をしている、相馬 博臣さんだ。

 

青髪がトレードマークの、世間話が好きな人、らしい。

 

 

「あの人って……?」

 

 

 

 

 

 

「お客様」

 

 

ドコン!と店長がガラの悪い客に前蹴りを食らわせる。

ガラの悪い客1は数メートル吹っ飛ぶと、

 

 

「お客様、暴力は困ります」

 

 

「「「「えええええ!?」」」」

 

 

ガラの悪い客2人と、五十嵐小鳥遊は驚く。

 

それもそうだ。こんなの、警官が目の前にいるのに人を殺したあと、『俺人なんて殺してないですよ』って言っているようなものではないか。

 

「客蹴り飛ばす店員いるかよ!店長呼んでこい!!」

 

ガラの悪い客は負けじと反抗する。

 

しかし残念だ。なんてったって……。

 

 

「私に何か用か?」

 

この人が店長なんだよ

 

 

 

「き、客蹴り飛ばす店長がいるかよ!2度と来ねぇからな!クソババァ!!」

 

 

 

「!?」

 

 

「あー……これはあの客終わったね」

 

 

相馬さんがポツリと呟くと、ケータイを取り出す。

 

「小鳥遊君。これ店長のケータイ、持ってってあげて」

 

「え、なんで相馬さんが持ってるんですか?」

 

「良いから早く、持ってってあげて」

 

 

「え?あ、はい…」

 

相馬さんに言われた通り、小鳥遊は店長にケータイを持っていく。

それに続いて五十嵐も付いていく。

 

 

「店長、これ相馬さんに言われて……」

 

店長はケータイを受け取り、開いた後

 

 

「お、おい、今出た客から有り金、全部持ってこい」

 

「「え、えええ!?」」

 

 

店長の言うことではない。というか何言っているんだこの人。

 

 

「何もそこまでしなくても……」

 

「働き者の種島に、ちんちくりんと言ったんだぞ?

 

 

それに、クソババァって言ったし……クソババァって、クソババァって………」

 

 

 

 

 

一応、みんなのことは見ているのか。パフェばっか食べてるけど。それと、クソババァって気にしすぎ。

 

 

「……店長」

 

 

「なんだ」

 

 

小鳥遊に話しかけられた店長は、あまり機嫌が良くなかった。

 

「店長、前は年齢の事聞いて、すいませんでした。店長思ったより若いってわかりました」

 

「だろ?」

 

「店長…思ったよりガキですね」

 

 

 

「かたなし君……」

「小鳥遊…」

 

((それはダメでしょ……))

 

この時初めて、五十嵐と種島さんの気持ちが一緒になった瞬間である。

 




次はアニメ通りに行くと音尾さん登場、原作通りに行くと月間目標を決めるとかですかね。

原作通りに行くのも良いけど、アニメ通りに行くのもアリかと思うんですよね。
そこんところみなさんはどうなんでしょう。

意見いただけると嬉しいです。

それ次第で次回も変わるかも知れません。


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4品目 学生の仕事は勉強ですから

お久しぶりです。




 

「はぁ?テストがある?」

 

 

バイトを始めて数ヶ月、仕事に慣れてきた五十嵐は思っていることを素直に言えるほど成長した。

 

店長は相変わらずせんべいをかじりつつ足を組んで食べ終わったパフェの皿の山を眺めている。

 

「はい。そろそろテストがあるんですよ。一応学生の仕事は勉強ですから、そこをおろそかにしてはいけないと思いまして……」

 

「確か、松本と同じ高校って言ってたな。松本もそうなのか?」

 

「はい。学年は違いますけどテストの日程は同じです」

 

「そうなると、小鳥遊や種島や伊波もテストなのか?」

 

「まぁ……そうなりますよね」

 

店長としては一気に人がいなくなるのは何としても食い止めなければならないのか、珍しく頭を使っている。

 

「それなら、この日はこの人とこの人……って、その時間に働く人は少なくなりますけどバラバラに組めばいいんですよ。そうすればテスト勉強もできるし、バイトに行くことができる。どうでしょうか?」

 

先程まで真剣に考えていたとは思えないように店長は顔色を変え、「それでいいや」と指をささずにパフェを食べる時に使うスプーンを五十嵐に向ける。

 

「俺は毎日働いてますけど、3日くらい休みくれれば全然大丈夫ですので、他の人は本人に聞いてください」

 

「んー」

 

 

 

休憩室を出ると、五十嵐の教育係の松本さんが待っていた。

 

「五十嵐くん。仕事には慣れたかしら?」

 

「ええ、おかげさまで」

 

松本さんの方を見ると、最初に出会った時と同じく箒を持っている。今の時間帯は松本さんがそとの掃除当番なのだろう。

 

「松本さんって、ロリコンの小鳥遊や、ミニサイズの種島さんとか、デスパンチガール伊波さんとか、帯刀してる八千代さんや元ヤン店長とは違って、変わったところがないですよね」

 

「そうよ!やっぱり五十嵐くんはそう思う!?そうなのよ!私はフツー!何もかもがフツーのフツーな女子高生!それが私なの!」

 

「は、はぁ…」

 

どうやら自分がフツーだと思っている人なんだ。だが、ここで働いてる時点でフツーではないということは、敢えて言わないでおこう。

 

「松本……お前はここにいる時点でフツーじゃねーぞ」

「!?」

 

言わないと今決心したにもかかわらず、あっさりと佐藤さんは言ってしまった。

そして料理を渡すと、「ほれ、早よ行かんか」と言い戻ってしまった。

 

「五十嵐くん……。私って普通じゃないの…?」

「おそらく……この異空間にいる限り、普通ではないかと」

「………しばらく休ませて」

 

「え、松本さん!?ちょ、え!?」

 

 

そう言って松本さんは休憩室へと行ってしまう。

 

「あーあ、部下が上司を悩ませた」

「佐藤さんに言われたくはないですよ…。あれさえなければいつも通りでしたもん」

「そうは言うがな五十嵐。時に残酷な判断を下さなければならない時があるんだ」

「確実に言えるのは、それを言うのは今じゃないってことです」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「松本さん…機嫌直して下さいよ。そろそろバイト終わる時間ですし」

「私はフツーよ…少なくともあんな人たちよりかはフツー……」

 

あんな人、多分小鳥遊や伊波さんのようなまともな人間とはかけ離れた存在の人たちであろう。(種島さんはかろうじて普通。小さいだけだから)

松本さんがこれほどまでにフツーにこだわる理由はまだわからないが、口癖になるレベルでフツーを連呼するのにはそれなりのことがあったのか、それとも、異常なことが起こりすぎてフツーに憧れたのか…そこは定かではない。

 

「あの、松本さん…そもそもフツーっていうのは目指すものではないと思うんですよ。目指してしまったらそれはもうフツーじゃないんです。目指さないからこそそれがフツーになる。俺はそうだと思うんですが……」

 

「五十嵐くん……。優しいのね」

「まぁ俺が起こした事ですし、このくらいのフォローは事を招いた張本人としても、後輩としても当然かと」

「五十嵐くん。そろそろ上がりましょうか。時間だし」

 

しゃがみこんでいた松本さんが立ち上がると、女子更衣室へ行ってしまった。

それについていくように五十嵐は女子更衣室とは逆方向にある男子更衣室に向かった。

 

「佐藤さん!松本さんいじりはやめてくださいよ。本当に悲しんでたじゃないですか」

「あれは五十嵐かどんな人間かを試したんだ。よかったな。俺から見たらお前はまともな人間だ」

「素直に喜べねえ……」

 

 

◇◆◇◆◇

 

「そういえば松本さんって帰り道同じですよね」

従業員用出口から松本さんと五十嵐、小鳥遊と種島さんと佐藤さん、店長と八千代さんが出ると、店長が鍵を閉める。

「最近物騒だからなるべく集団で帰れよー」

 

「そうなんすか。じゃあ松本さん。帰りましょうか」

「え?あっ、わかったわ。学校も同じだし、家も近いと思うしね」

「俺は種島送ってくわ、小鳥遊は1人で大丈夫か?」

佐藤さんは種島さんの髪型をあっという間に変え、種島さんを怒らせながらクルマの中へと連れていく。

 

「俺は大丈夫ですよ。ではお疲れ様でした」

ぺこりと一礼すると、小鳥遊は店を出て左に、佐藤さんと種島さんを乗せた車は真っ直ぐに、店長と八千代さんも真っ直ぐに行ったのを確認してから、五十嵐と松本さんは右方向へと帰っていった。

 

「そろそろテストですね。勉強が面倒でやる気が失せるんですよねぇ」

「私はフツーに終わらせるわよ。暗記をちょっとして問題解いて、それを繰り返す感じ」

「俺はひたすら問題解く派ですね。そのせいで2年の後半くらいまでの勉強やっちゃってしばらくは復習しかしてないですけど…」

 

「もしかして五十嵐くん…。一応聞くけど学年順位は?」

「え?1位ですけど?」

「素の天才じゃなくて、努力したからなのね…うちは進学校なのに」

 

五十嵐はキョトンとした様子で松本さんを見る。五十嵐にとってはそれがフツーなのか、当たり前のように言う。

 

「んー、でも苦手な教科はありますよ。例えば体育とか」

「かの五十嵐くんでも苦手なものがあるのね」

「運動だけはほんっとにできないんですよ。スポーツも女子に負けるレベルです」

「そ、そうなの……」

「あ、俺こっちなんですけど、松本さんは家どこなんですか?」

 

五十嵐は右方向を見ると、松本さんも右方向を見る。まさか、家が近いのか。

 

「家近いですね。今度家行っていいですか?」

「え?家はちょっと……色々あるから…だめかな?」

「そうですか。なら今度ウチに来てくださいよ。色々していただきたいことがあるので…」

五十嵐の言う色々は、主に妹の面倒を見ることである。家事をする時に妹達がワーキャー騒がれると家事ができなくなってしまう。

母に注意してもらったり、世話をしてもらうのはまず無理なので、松本さんになんとか頼むしかないのである。

 

「色々がなんだかわからないけど、予定が空いてたらいいわよ」

「ありがとうございます。じゃあ俺家ここなんで、また明日」

「ええ、また明日」

 

 

◇◆◇◆◇

 

松本さんが家に帰り、自分の部屋に戻るとベッドで足をバタつかせていた。

「…これはフツーなのよ!男の子と家で色々するのはフツーなの!フツー!フツー!!」

 

……なんだかんだでピュアな松本さんだった。

 

 

 

 

 

1週間後、無事に学生組全員がテストを終え、シフトがいつも通りに戻るとこれまたいつも通りの光景が見えていた。

 

伊波さんにバッタリ会ってぶん殴られる小鳥遊、伊波さんを止めようとする種島さん。

こんな非日常が日常に見えてしまうのは、もうおかしいという概念が消し飛んだからなのか?

 

「ほんっと、ここはフツーじゃねーな」

 

と1人で呟く五十嵐であった。




なんか嫌味な五十嵐くんの自己紹介でした。
みんなで勉強会!とかはいつか書きます。

次回は音尾さんと相馬さんの話を書くつもりです。


またのご来店、お待ちしております!


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5品目 相馬さんと音尾さん





「佐藤くん。このサラダ、いつもよりレタスが一口分足らないと思うんだ」

「足りてるよ。うるせーな」

「あと、プチトマトもちょっと小さいような」

「細けーな早くしろ、冷めるだろーが」

 

 

キッチンでは佐藤さんと相馬さんがもめていた。それだけなら良いのだが、小鳥遊が相馬さんと話していると、小鳥遊に何かを伝えようとした種島さんが来て厚底の靴を履いてることを暴露され、焦った種島さんが相馬さんの仕事をやっていたらそれを見た八千代さんが相馬さんに注意すると闇討ちしたことを暴露され、誰もいなくなったところで小鳥遊が秘密にしていたことをバラされていた。

どうやら小鳥遊は姉が3人もいるらしい。羨ましすぎて泣けてくる。

 

 

 

皆が秘密をバラされて焦っている時に、五十嵐はひょこっとやって来た。

「相馬さんは人の秘密ばっかり知ってるんですね」

「そうだね。五十嵐君のことも大体わかるよ」

「は、はぁ……それはすごいですね」

「松本さんと同じ高校の後輩で、妹が3人いて、お母さんは虚弱で家事を五十嵐くんに任せっきりだけどそれ以外は完璧で、テストの成績が500点中493点で1位でしょ?」

「そこまで行くと気持ち悪いですね」

 

相馬さんはハハッ、と笑いながら五十嵐にサラダを渡すと、壁に寄りかかって暇そうにしていた。

「相馬さんは裏の顔が表の顔見たいなもんですね」

「人聞き悪いなぁ」

「全くもって間違ってないじゃないですか。一体どこから情報を得てるんだか……」

「秘密☆」

「でしょうね」

 

とりあえず、相馬さんに関わると口でねじ伏せられるという事は分かった。

「相馬さん。俺は別に知らされたくない過去とか無いから言いますけど、仕事手伝ってください」

「本当だよねぇ。若干松本さんのことか気になるくらいは何もないからこっちも何かしようがないんだよねぇ。しょうがないから手伝ってあげよう」

「…は?何言ってんですか?俺が松本さんを気になってる?何かの間違いじゃないですか?」

 

ピッ、と相馬さんは何かを押すと、五十嵐に見せてきた。

「はい。今の発言録音したから、今度後悔しても言い逃れ出来ないようにしたよ」

「ほんとあんた何者だよ」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「相馬さんはつかみどころのない人だなぁ…出来れば関わりたくない」

 

疲れた様子で休憩室に向かい、1人でお茶を飲んでいると、見慣れない人が通り過ぎた。

「…ん?誰だろう」

 

生まれたての鳥が初めて見たものを親だと認識し、ついていくかのように五十嵐は謎の人についていく。

(誰ですか?なんて聞くのは失礼だし、うーむ、どうするべきか)

 

「……ん?」

五十嵐の姿に気づいた謎の人はこちらを向いた。

「……お面?」

その人は能面のようなお面をかぶりながら、ぺこりと一礼した。

 

「ああ、君はもしかして白藤さんが新人って言ってた子かな?」

そう言うと謎の人はお面を外す。

謎の人は見た目は優しいおじさんだが、哀愁さが常人よりもある感じで、悲壮感というかなんというか、生命線が短そうな人だった。

 

「こんにちは。この店のマネージャーをしてる音尾 兵吾です。ここにいる時間は少ないけど、わからないことがあったら聞いてね」

「ど、どうも、最近バイトを始めた五十嵐 光希です。よろしくお願いします」

 

見た目通りの優しい人で、人当たりが良い人だった。マネージャーの人は店長よりも偉い人と聞いていたので、もっと怖い人かと思ったが、そんなことはなかった。

2人が話していると、店長が事務室にパフェを持ってやって来た。

「お前は…音尾か。相変わらず妻は見つかってないのか?」

「はい……牛乳を買いに行ったっきり戻って来てないですね」

「まぁそんなことはどうでもいい。例のものは買ってきたんだろうな」

「あ、ああ、お土産です」

 

なぜだろう。音尾さんの方がポジション的には偉いのに、店長の座り方と言い、店長の方が偉いような気がしてきた。

 

「あー疲れた。音尾がいなくて疲れたなー。肩揉んでくれ」

「は、はい。本当すいません」

 

「1つ聞きますけど、本当に音尾さんの方が偉いんですよね」

「一応そうだけど、僕は別にそういうのは気にしてないかな」

「なんつー優しさ…大仏様みたいに見えてきた」

 

 

 

 

時間は少し戻り、キッチンでは佐藤さんが探し物をしていた。

「なぁちびっ子。砥石知らねーか?」

「ちびっ子じゃないよ!砥石ならキッチンにあるはずだよ!」

「そうは言ってもなちびっ子、それがないからこうして言ってるんだよ」

「だからちびっ子じゃないってば!!」

種島さんがプンスカと怒っていると、ジャーッ!ジャーッ!と何かを削っているような音が聞こえる。

 

「もしかして……」

佐藤さんがキッチンを出て見てみると、八千代さんの刀を砥石で削っているのが見えた。

「なぁ轟、ちょっと砥石使いたいんだが…」

「あら佐藤くん、包丁持って出歩いちゃダメよ!」

「お前もな」

 

「なんか八千代さん、時代劇に出てる人みたーい」

 

 

 

 

「……切らねばならない人がいるわ….」

「わはぁ、それっぽーい!」

「本当にやるんじゃねーぞ……」

なにか、いつもとは違うオーラを纏っている八千代さんは刃を出しっぱなしで事務室まで向かう。

「あいつ……誰を斬る気だ?」

「斬っちゃダメだよ!?」

「それは轟に言え……!!」

 

 

 

時間は事務室にいた音尾さんたちとの会話に戻る。ちなみに店長は休憩室で土産を食べている。

「極度の方向音痴か……そこのスーパーで牛乳買いに行っただけで消えるって警察呼んだ方がいいんじゃないですか?」

「彼女は…そういうの通じないから」

「もしかして音尾さん、妻は2次元とかいうクチですか?」

「に、2次元?」

「知らないんですね。いろんな意味で良かった……」

「よくわからないけど、小鳥遊くんといい、まともな子たちがきて良かったよ…」

 

今までどれだけまともな人が来なかったのだろう。と五十嵐は思うが一瞬で解決した。

音尾さんの後ろをみると、普段とは違う八千代さんが見えた。しかも刃が出ている刀を持っていた。

 

 

「あら…長旅お疲れ様です……お、と、お、さん!!!」

確実に獲物を捕らえる様に刀を振り下ろす。

しかし音尾さんは真剣白刃取りで真っ二つにならないで済んだ。

 

「とっ、轟さん!?」

「……取られた」

「取った!?僕は何も取ってないよ!?」

「……杏子さんを!」

「白藤さんを!?」

「私はパフェしか作ってあげられないのに……軽い気持ちで物を与えないで!懐いちゃったらどうするの!?」

「え!?あ、ごめんなさい!!」

 

 

「これは……とんでもない光景だぞ」

「そんなことより客大丈夫か?注文来てないといいんだが」

「『そんなこと』じゃないでしょうに!音尾さん死んじゃいますよ!?」

 

 

「あー……土産食うの飽きたな。八千代ー、パフェ作ってくれ」

 

と、事件を起こした(?)本人がやってくると、八千代さんはいつもの八千代さんに戻る。

「はぁい!杏子さん!チョコとイチゴ、どっちがいいですか?」

「んー、今日はチョコかな」

「わかりましたぁ!」

 

そう言って2人はキッチンに向かっていった。

 

「音尾さん!大丈夫ですか?」

「おっさん、今年何回めだよ。轟に斬られかけたの」

「これで3回目くらいかな…前回は小鳥遊くんがやってきてすぐに斬られかけたから…新しく人が来ると斬られるのかな?」

「……なんでそんな普通にいられるんですか」

「まぁ、彼女だって本気で斬りかかったわけじゃないだろうし、ね?」

「でも殺気はあったじゃないですか」

「五十嵐、それは約2ヶ月前に小鳥遊が言ったことと同じセリフだ」

 

横にいた佐藤さんがそう言うと、種島さんが焦った様子で事務室に来た。

「五十嵐くん!佐藤さん!お客さんが増えてるから…早く手伝って!!」

 

「はいはい……わかったよちびっ子」

「ちびっ子じゃないよ!!」

 

「わかりました……と」

休憩室経由でホールに行こうとすると、なんということでしょう。伊波さんに遭遇したではありませんか。

 

「きゃぁあああああ!!!」

当然、右ストレートが顔にヒットする。

「ごっ、ごめんなさい!!」

 

 

「……謝るなら……殴らない努力をしてくれよ…マジで」

 

 

伊波さんが男性恐怖症になってるように、五十嵐も伊波さん恐怖症になりかけそうな1日だった。

 




評価に必要な文字数を0にしました。ですが、もし評価していただけるならなるべく何か書いてもらえると嬉しいです。

次回は小鳥遊家の事情orオリジナルストーリーですかね

またのご来店、お待ちしております


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6品目 恋は影で応援するもの


話コロコロ変わります。すいません。






「……朝か」

日曜日、小鳥遊が唯一遅く起きていていい日である。

遅く起きてもいいと言っても、起きるのは朝の6時。小鳥遊は朝から勉強や運動をするわけではなく、朝食作りをしなければならないのである。

母がとある事情でおらず、父は他界したので、男は小鳥遊たった1人。さらに3人いる姉達は食事を作ることがないので、小鳥遊は男だがお母さんのような存在なのである。

 

「……おはよう宗太。頭痛い」

頭を抑え、渋い顔をしているのは小鳥遊家の三女、小鳥遊 梢である。

彼女は女性用の護身術を教えているらしいが、いつどこで働いているのかは不明、さらにものすごい量の酒を飲むのでこうしてほぼ毎日酔っている。

 

「宗太ー、頭いたいよ〜」

「いつものことだろ……。シャワーでも浴びてアルコール抜いてこい!」

「宗太ー、背中流してぇ〜」

「うるせぇ!!」

 

「宗ちゃん……」

疲れたような声でゆっくりドアを開けて来たのは小鳥遊の次女、小鳥遊 泉だ。

彼女は一部では有名な恋愛小説家で、だいたい徹夜で小説を書いている人だ。ただパソコンを使っての執筆が出来ないらしく、1文字1文字書いているのでボツが多いとその紙で部屋を汚してしまい、自分で掃除する体力もないのでお母さん兼弟の宗太にやってもらっている。

 

「掃除?後でやるからそろそろ朝ごはん作るからリビングで待ってな」

「わ…わたしもう……無…理」

「相変わらずだな……!ほれ!引きずられながらなら大丈夫だろ……!」

宗太はリュックを背負うように泉を背負い、ズルズルを足を引きずらせながらリビングに向かう。

ドアを開け直進していると、六法全書を持っている小鳥遊家の長女、小鳥遊 一枝がいた。

 

「おはよう、宗太」

「おっ……おはよう、ございます。一枝姉さん」

「なぜ後ずさりする。何もしてないだろ」

「なんで朝っぱらから六法全書持ってるんだよ」

「わたしが六法全書を持っててはいけないのか?権利を侵害するのか!?」

「いやぁ…一枝姉さんは何かと理由をつけて俺にその六法全書で殴りつけてくるから…」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのか、一枝は六法全書を宗太に投げつける。

「今の言葉に公然性が加わったら名誉毀損罪又は侮辱罪に当たって告訴されるぞ!六法全書はわたしの武器だからな。いろんな意味で」

「理屈と暴力の意味で、だろ!」

「なんだと!?」

「一枝お姉ちゃん。ケータイ鳴ってたよ?」

「え?ああ、そうか。ありがとう」

そう言って一枝は自分の部屋へと戻っていった。

一枝に助言をしたのは小鳥遊の四女、小鳥遊家四姉妹の中では一番下の小鳥遊 なずなだ。

小学生にしては大きすぎる身長に、時々吐く毒がエグい為、今後姉達を超える存在になるだろうと宗太は危惧している。

 

 

 

 

「これは……もう一生姉達に勝てる気がしないな……バイト行こう」

朝食を作り終えると、早々と準備してワグナリアへと向かった。

 

 

 

 

 

小鳥遊にとってバイト先は家よりも居心地のいい空間らしい。理由はたった1つ、種島さんがいるからだ。

小鳥遊は種島さんを見るだけで日頃のストレスをほとんど忘れることができると言っていた。何を言っているんだ。

 

「小鳥遊は相変わらずロリコンだな」

「何言ってるんですか。俺は小さいものが好きなんですよ。五十嵐さんは大きいもの好きとか言ってる割にはそこまで好きそうに見えないじゃないですか」

「ばっか、自分のタイプが先生の中にいたら、ちゃんとそのテストを満点取ることで、『あなたのことが好きなんだ』っていう意思表示をしてるんだよ。お前はわかってないな」

「五十嵐さん、それって結構ヤバい部類のような……」

「小さいものだったらなんでも愛でるお前にヤバいとは言われたくない」

 

「何やってるお前ら、仕事しろ」

相変わらず店長は八千代さんが作ってくれたパフェを食べている。毎日食べていて飽きないのだろうか。あと太らないのか。

 

「俺、バイト始めて結構経ちますけど、店長が働いてるところを未だにみたことないと思うんですよ。なんで働かないんですか?」

店長は、手を止めることなくパフェを食べている。どれだけこの話に無関心なのだろうか。

「……五十嵐、よく考えろ。店長が使えないから、自分達でちゃんとやろう、となるだろ?つまり仕事をしないことが仕事。敢えて働かない」

「そんな自分を卑下することないだろ……と思うんですが。実際どのくらい使えないんですか?」

「皿は拭いてる途中で割れるから洗わない。飯はあったら食べるから作らない。客はめんどくさいから接客しない。このくらいか」

「店長はなんでワグナリアの店長になれたんですかね。脅し?」

「そんなことはいい。仕事しろ」

 

ゴンッ!とげんこつを食らうと、五十嵐は渋々ホールへ向かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

時間は午後になり、だんだんとお客さんが増えてきた。増えたといっても数席埋まっているだけだが。

「あ、松本さん。こんにちは」

「あら五十嵐くん。今日は早いのね」

「家にいるよりここにいた方が気が楽ですし」

「家で何をしてるのよ……」

「主に家事と三体のお邪魔虫と戯れ、母の介護ですかね」

「凄まじい家庭ね……普通じゃないわ」

「そういう松本さんはどうなんですか」

「私はフツーよ。両親がいておばあちゃんもいて、特にこれといったこともないわ」

「なるほど。微笑ましい家庭ですね」

「でも兄弟は欲しかったわね。妹か弟が」

 

是非ともうちの妹達をいかが?と言いたかったがこれ以上話しているとまた店長に叩かれると思い、五十嵐は話を完結させようとした。

「俺は、姉か兄が欲しかったです…」

そう言ってホールに行ってしまった。

 

「五十嵐くんが、姉が欲しかった、か……。小鳥遊くんと違って五十嵐くんは大きいものか好きとか言ってたし、年上は好きなのね……普通なのかしら、それって」

 

後輩として心配してるのか、それとも五十嵐という人間として心配しているのか、それがわかるのは近くでこっそり聞いていた相馬さんだけだった……。

 

◇◆◇◆◇

 

 

「さとーくん。きょーこさんがね……きょーこさんできょーこさんなのよ。だからきょーこさんはきょーこさんで…………」

 

今日も佐藤くんは八千代さんのノロケ話を何時間も聞き続けている。完全に右耳から入って左耳に抜けているわけではなく、所々で「そうか」や「そうなのか」といった反応は見せており、慣れているのか、料理をしながら聞いている。

 

「佐藤さん。オーダー入りました」

「おう。ちょっと待ってな」

 

佐藤さんは八千代さんの話を飽きることなくずっと聞いている。八千代さんも佐藤さんにだけああやって何時間も話していられる。もうこれは、アレなのだろうか。

 

 

思い切って話してみようとした。当然2人しかいない環境で。

しかし、その計画は意味のなかったものになる。

 

 

「さとーさんって、ずっと八千代さんの話を聞いてるよねー」

今日も種島さんは元気に佐藤さんに話しかけている。

「……そうだな」

「それに、八千代さんには優しいよねー」

「……それは知らん」

 

 

 

「もしかして八千代さんの事が、好きだったりしてー。なんてね」

 

あっ………。

 

佐藤さんは種島さんの頭をそっと撫でる。

「そんなわけねーだろ……」

「あっははは。だよねー」

これはもう決定だ。佐藤さんは八千代さんの事が好きだ。しかもめっさ片思い。

 

同じ場に居合わせた小鳥遊もさすがに気づいたらしく、これは2人の秘密としてしばらく封印することにした。

 

 

 

「佐藤さん……いい人だなぁ」

「ええ、誰よりもいい人です」

時刻は9時を回り、バイトのメンバーはそろそろ帰る時間になりそうな時に、2人は男子更衣室で話していた。

 

「まぁそれもあるが、伊波さんはどうなんだ?今日も3発殴られていたが」

「正確には4発ですけど、相変わらず変わってないです。出会うたびに殴られて…殴られて…そろそろ骨も悲鳴をあげてると思うんですよ」

「小鳥遊は忙しいな…さらに家では姉達に囲まれていて……羨ましい」

「五十嵐さんこそ、家では妹達に囲まれて……羨ましい」

「人間、欲しいものはなかなか手に入らないもんだな…」

「ごもっともです」

 

夢のない会話をしている2人であった。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある駅前にて…。

 

「……どうしましょう。家を出たはいいものの、泊まる場所がないです。誰か人当たりのよくて騙されやすい人いないですかね……。名前もどうしましょう。本名はアレだし…簡単な名前を使ったほうがいいような………。

あ、そうだ。

 

 

 

 

 

山田、にしよう」

 

 

 

 

自称、山田は星空を眺めながら1人で呟いたのである……。

 

 

 




やはり作品を書いていく中で呼んでくれる方の声というのはとても大切なもので、僕の場合それがモチベーションになってるんですよ。
ということで、感想ください(直球)


次回は山田降臨ですかね。
地味に山田は五十嵐くんor小鳥遊くんでどっちに面倒見させるか迷ってます。

それではまたのご来店、お待ちしております
(最後の挨拶として定着してきた)


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7品目 やまだ

ある日のこと、五十嵐は制服の胸ポケットあたりについている「研」と書いてあるバッジを店長に見せた。

「店長、俺っていつまで研修バッジつけてるんですか?一応仕事の内容全部(相当前に)覚えましたし、給料若干少なくなるから早く外したいんですが」

「あー?それもそうか。わかった、貴様の研修バッジを外してやろう。これからは研修ではないのでビシバシやってもらうぞ」

「週7でやってる時点で既にビシバシされてる気がします」

 

割と真面目に言ったにもかかわらず、店長はそれらの話がなかったことになったかのようにパフェを求めて八千代さんの方へ行ってしまった。

「まぁいいか。バッジは机に置いておけば気づくだろ」

「そうだ。忘れてた」

「何ですか急に」

何かを思い出したのか、店長はパフェを片手に五十嵐のところに再び戻る。

 

「今日は音尾が帰ってくるぞ。ついでに土産の菓子もやってくる」

「そんな報告は結構です。音尾さんより土産目当てでしょうに」

「そうだ。何が悪い」

 

 

 

 

 

「まぁ……僕もあんまりここにいないし、それは仕方ないと思うよ…」

「ってうわっ!?音尾さん…いつからそこに?」

 

店長の背後から幽霊のごとくやってきたのはこの店のマネージャー、音尾さんだ。

人当たりがよく優しいのだが、押しに弱く、お菓子を店長にあげるせいで斬られそうになる不遇な人だ。

 

「音尾さんだー。おかえりなさーい!」

 

本物のお父さんが帰ってきたように種島さんは音尾さんを迎える。

すると音尾さんの後ろで一人の少女がモジモジとしながらこちらを見ている。

 

「……ん?誰ですかその子」

「あ、この子はね、僕が妻を探しに駅に行ったらこの子がいて、夜も遅いし道に迷ったのかと思って声をかけたら……

 

『貧乏ながらも慎ましく生きていたのですか先日家が火事になり全焼。家族散り散りになり命からがら逃げてきたのですが先ほど盛大にずっこけて頭を打ち記憶喪失になって家に帰れず行くところがありません』

 

だなんて……可哀想だよね………」

 

「何というか……色々話が変だよな小鳥遊」

「はい。すごく嘘っぽいです」

 

「えっ……?嘘っぽい?」

 

「話のつじつま合ってないし…」

「もしかして、家出とかして行くところなくて人当たりのいい音尾さんに話しかけた……とか?」

 

 

「〜〜ッ!?」

 

少女はそれを聞くと動揺を隠せずにプルプルと震えていた。どうやら図星のようだ。

 

「五十嵐くんもかたなしくんもひどいよ…女の子を嘘つき呼ばわりするなんて…」

 

「え」

「でも……」

「口答えしない!そーゆーのはめっ!だよ!」

「怒ってる先輩かわいい……」

「何故俺は怒られてるのでせうか」

 

 

家出少女が震えている中、小鳥遊は先ほどの言葉を撤回しようと説得する。

「家がないってことは、生活用品とかその他諸々も無いわけでしょう?」

 

家出少女はキャリーバックを転がし小鳥遊達に見せる。

「いえ、必要なものは全部持ってきました」

 

「嘘を隠す気あんのかよ!」

「全焼したのに全部持ってこれるのかよ」

 

「認めん……認めんぞ……!お前の持ってくるものは菓子以外一切認めないぞ!」

店長は【家出少女 く 菓子 】だというのか。人の命よりも食べ物を取る辺り、店長の頭の中は食べ物で支配されていることがよくわかった。

 

「あの……」

「うるさい。帰れ」

「これ……」

家出少女は高級和菓子詰め合わせを店長に差し出すと、高速で奪い、袋を開けて「採用」とだけ言って何処かへ行ってしまった。五十嵐の時と同じように。

 

「何で全焼したのに高い菓子買えんだよ」

先程から五十嵐はつっこんでいるがこれ以上探るのは不毛だと判断してツッコミを諦めた。

「そうだ」

「何で店長は思い出すのが遅いんですか…」

「コイツの面倒をどっちかが見ろ。五十嵐、小鳥遊」

 

 

「「面倒を見るのは……」」

「小鳥遊」

「五十嵐さん」

 

2人同時に相手の名前を呼ぶと口喧嘩のようになり、なぜか「こっちの方が辛いんですよアピール」合戦となった。

 

「俺は伊波さん担当なんですよ。毎日毎日殴られて……それにこの子まで面倒見たら、体が何個あっても持ちませんよ!」

「そうは言ってもだな。俺は最近研修バッジを取った新人バイトなんだよ。まだまだ分からないことだらけなんだよ。俺にはこの子の面倒を見るのは責任が重い」

五十嵐は大嘘を平気で言うが、小鳥遊は騙されている。

 

 

「はぁ……もういいや。私が勝手に決めよう」

言い出しっぺの店長が菓子を食べながら指をさす。

「五十嵐。お前コイツの面倒見てやれ」

「……え?」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「……で、あんた名前は?」

「山田 葵(やまだ あおい)です。16歳です」

「同い年かよ……そうは見えないけどまぁいいや。これからよろしくね。俺の名前は五十嵐 光希。呼び方は何でもいいよ」

「よろしくお願いします。いがらしさん」

 

バイトを始めた時期が一番遅い五十嵐は山田さんに教えられる限りの事は教えたのだが、彼女には1つとんでもない問題があった。

 

 

 

 

 

 

ガシャーン!パリーン!ガシャパリーン!と、皿を割りまくっていることだ。それもほぼ分刻みで。

「山田さん。結構割りまくってるけどちゃんと破損報告書に全部書いておいてね」

「……」

山田さんは黙々と掃除をしている。聞こえないのだろうか。

「山田さん?山田さーん、山田ー!」

「……あっ、そうだ。私山田でした」

「お前偽名なのかよ!!」

 

「いがらしさん。山田じゃわかりません」

「じゃあ本名を言えよ…」

「下の名前で葵と呼んでください」

「わかった」

 

数分後、皿が割れた音が聞こえたので五十嵐はフロアに出る。

「おい葵、破損報告書に書いとけよ」

「……いがらしさん、なんかそれ気持ち悪いです」

「お前が言えって言ったんだろーが……!やっぱ山田って呼ぶからな」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

夜になってくると客も増えるわ問題も増えるわで何やかんやあったが、無事先輩1日目を終えた。

「山田。お前泊まるところないんだろ?ちょっとの間だがうちに来いよ。お前にはやってもらいたいことがあるんだ……」

「え?何ですか?やまだを必要としてるんですか?」

山田はキラキラした顔で五十嵐の方を見つめる。

「ああ。お前だからこそできることだ……」

一方五十嵐は悪魔のようにニヤリとしている。

 

「……フッ」

 

 

 

 

山田を家に招き入れ、やらせたこと。それは妹達のお世話だ。

人さえいれば遊び相手にしてくる妹達は、五十嵐にとって料理の邪魔でしかない。妹達のせいで包丁で指を切ったことは両手の指では数え切れないほど。能天気そうな感じの山田を連れていくことで、五十嵐は楽ができ、山田は泊まる家がある。お互いwin-winな関係になっている。

 

「なっ、何なんですかいがらしさん!この子達やまだに乱暴してきます!!」

「皿を割りまくった罰だと思え!明日も割りまくったら泊めてやるぞ!覚悟しとけ!」

「そんな不平等な!このためだけにやまだを家に呼んだんですね!?」

「当たり前だ!お前は反省するんだよ!初日から迷惑ばっかかけやがって!」

 

 

 

「ううっ……おとおさん……カムバーーーーーック!!」

 

今後、振り回すのは五十嵐なのか、山田なのか……それは誰にもわからないことである。

 

 




もし、割った皿の弁償代を給料から引いたら山田はどうなるんでしょうかね。ほぼ毎回マイナス。つまり働いてるのにお金払ってると思うんですよねw

次回は困った伊波さん。的な感じのお話の予定です。

またのご来店、お待ちしております。


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8品目 BAD DAY

とある日の学校の休み時間にて、

 

「なんか今日は、不幸なことが起こりそうだ」

同じクラスの友人、柊 勝斗(ひいらぎ かつと)が呟くと、隣にいた五十嵐が反応した。

 

「突然変なこと言うな……。占い師かよお前は」

「あくまで予想だよ。不幸になるのは俺かもしれないし、光希かもしれない」

柊は物理の計算をしながら五十嵐に問いかける。

 

「バイト始めたんだって?姉さんが言ってたよ」

「家のためにな。あいつらのプレゼントのためにちょっと働いてるよ」

「俺もバイト始めたんだ。どことは言わないけど」

「俺も教える気は無いぞ。来られても困るし」

「そうだな。お互い知らない方が幸せだな」

 

一見仲が悪いように見えるが、小さい時からの幼馴染で、仲は良い。

五十嵐も柊もそこまで自分を人に見せようと思わない性格ゆえ、近すぎず遠すぎずといったこの状態が一番好きなのだ。

 

「お前に何か教えるとするなら、ウチは普通の職場ではないな」

「……奇遇だな。俺の所もだよ」

「………え?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

学校が終わり、柊と別れると五十嵐はワグナリアへと向かう。

途中松本さんから電話がかかって来きたのだが、どうやら今日は諸事情で休むらしい。メールでは小鳥遊が休むぞ、だからお前は早く来い。と店長からかかって来たりで、今日は本当に柊の言った通り不幸な日になるのかもしれない…。

 

 

「お疲れ様でーす」

従業員用入り口から入ってすぐに、店長が仁王立ちしているのが見えた。

八千代さんのパフェ待ちかと思ったが、今日は八千代さんが休みで、ついでに種島さんも休みだった。

今日いる限りの人で店長に関わろうとする人はまずおらず、それがあってか一人でずっとお菓子を食べながら正面を向いていた。

 

「な、何してるんですか店長」

「今日は人が少ない。忙しくなると思うが頑張るように」

「そっくりそのまま店長に返していいですか?その言葉」

 

 

 

 

 

 

 

制服に着替え、ホールを見ると伊波さんが一人で接客していた。ラッキーなことにお客さんが全員女性なので問題なく接客している。

 

「お疲れ様でーす」

「あ、五十嵐くん。おはよー」

 

相変わらず相馬さんは暇相馬さんしている。そうなるとキッチンは佐藤さんだけで回していることになるのだが、佐藤さんは相馬さんに怒らないのだろうか。

 

「相変わらず暇相馬さんしてますね。また誰かの秘密言いふらしたんですか?」

「人聞き悪いなぁ……あと繋げないでくれるかな…」

「おい相馬。暇そうにしてるなら俺の仕事を少し分けてやろう。ほれ。全部千切りしとけよ」

 

佐藤さんは4つのキャベツが入った段ボールを相馬さんに渡すと、休憩室に戻ってしまった。

「さて……俺もホールに出ますか」

 

圧倒的に仕事の量が多い相馬さんに比べ、形勢逆転した佐藤さんはタバコを吸ってのんびりとしていた。

「ううっ……自分だけ休憩しちゃって…ひどいよ佐藤くん」

「さっきまで休憩してた人が何言ってんですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン!

 

お客さんが段々と増えてくる時間帯になり、五十嵐と伊波さんは忙しくなって来た。

「いらっしゃいませ」

 

やって来たのは2名の男性客。

「ひっ!」

当然伊波さんが接客できるわけがなく、五十嵐が男性客を席まで案内する。

 

ピンポーン!

 

「いらっしゃいませ」

 

やって来たのは4名の男子学生。これもまた五十嵐が接客をする。

「ううっ……!」

 

ピンポーン!

 

「えーっと……11名ですね。席までご案内します」

今度は11名のサッカー少年たちだ。

女性客がほぼいなくなり、伊波さんは何も出来ずにいた。

「伊波さん……俺すげぇ仕事あるんすけどって、オーダー来た……行ってきます!」

 

 

 

「どうしよう……種島さんとかを呼ぶわけにもいかないし……小鳥遊くんも今日は用事あるって言ってたし…あっ、そうだ!」

 

伊波さんはケータイをポケットから出すと、誰かに電話をかける。

「あの……伊波です。相馬さん、佐藤さん。ホールに男性客が多くて、私ホールに出られなくて、五十嵐くんが一人で接客してて…だからお二人がホール出てくれませんか!?」

 

『無理。接客嫌い』

佐藤さんが即答すると、相馬さんがフォローする。

『佐藤くん!五十嵐くんを見捨てるのかい!?』

『見捨てるわけじゃねーけどよ。伊波ー、お前も頑張ってみたらどうだ?』

 

 

ドゴォッ!!!と何かが砕ける音が電話からと直接聞こえた。

(コレは、お願いではなく……)

(脅し、だな)

 

お願いという名の脅迫に応じた相馬さんと佐藤さんは、ホールの服装に着替え、今いる全員を集めた。

 

「俺らがホールもやるんで、他の奴らもしっかり頼む。店長はレジ」

「ん」

「五十嵐は料理出来るか?」

「一応できます。なんでも」

「じゃあ俺らがホールでいろいろやってたら料理をやってくれ。出来る限りでいい」

「あ、はい」

「伊波はパフェやら…出来ることをやれ」

 

「……はい」

伊波さんは涙目になりながらも返事をする。

「ああ、あと泣くな」

 

 

「それじゃ、頑張りますか…」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

思ったよりも店は機能しており、人数が少ない割にはよくできていた方だと思ってもいいくらいだった。

五十嵐は初めて家事以外で料理をして得るものも大きかったようで、今回このようなことがあってまた一つレベルアップしたらしい。

途中、伊波さんに3回ほど殴られたが、大事故には至らなかったのが本当に良かった。

 

 

「なんとか終わったけど、痛い……顎と腹が痛い……」

「お疲れだね…五十嵐くん。どんまい」

「笑顔で言わないでもらえますか……相馬さん」

 

「……フーッ」

佐藤さんは喋ることなくキッチンでタバコを吸っている。本当はダメだが。

(佐藤くん。本当に接客が嫌だったんだね…それに対して怒ることも出来ないし、優しいなぁ佐藤くんは)

 

「とりあえずお疲れ様でした。俺はもう帰ります……身体がもたない」

「そろそろ店も閉まる時間じゃない?俺たちも帰ろうか。佐藤くん」

「………ああ」

 

 

 

 

五十嵐はフラフラと歩いているともう何が何だかわからなくなってしまっていた。

それがたとえ、着替える場所を間違えていたとしても。

 

「おい五十嵐そこは……んんっ!」

「ダメだよ佐藤くん……」

相馬さんが佐藤さんの口を手で覆いながら笑顔で言うと、佐藤さんは相馬さんの手を離そうとする。

「お前……五十嵐を見捨てる気かよ」

「素晴らしいブーメランだね。佐藤くん」

 

 

五十嵐が更衣室に着くと、目の前には拳があった。

つまり、殴られた。

殴られたことで意識がはっきりしたのか、ここが女子更衣室だと言うことを伊波さんのおかげでわかった。

「うわあああああああ!!すいません!俺ボーッとしてて、間違えました!!!」

 

即座に部屋を出ると、相馬さんと佐藤さんが待っていた。

「やっぱり今日は……不幸かい?」

 

 

 

「不幸過ぎて死にかけましたよ………」

柊には、将来凄腕の占い師になれるよ。って言っておこう……と心の中で誓った。

 




次回は特に決めてません。思いついたものを書こうと思います。

またのご来店、お待ちしております


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9品目 Let's GO 五十嵐家


メリークリスマスの人はメリークリスマス。そうでない人はこんばんは。前後編になってしまいましたがよろしくお願いします。

クリスマスだから何か書こうと思ったけどできませんでした


 

 

「割ったら乱暴……割ったら乱暴……」

山田はいつも以上に真剣に皿を洗っている。本来真剣に皿を洗うようなことはないのだが、山田にとってはこの皿洗いで今日の1日が決まってしまうのである。

 

「山田のヤツ、呪文みたいに唱えてるが大丈夫なのか?」

「お皿を割ったら家に来させられて五十嵐くんの妹さんたちにいじめられるんだってよ。山田さんにとっては好都合だけど不都合なんだってさ」

「五十嵐のやつ、頭いいな。こうやってダメ人間を更生させるのか」

 

「やまだはダメ人間なんかじゃないですよ!!!」

 

パリーン!

と持っていた皿を盛大に割ると、五十嵐が駆けつける。

 

「山田!まーた割ったな!?」

「もういがらしさんの家はイヤです!いがらしさんの家に行くなら屋根裏に住んでたほうがマシです!」

「そうか、ならいいぞ。せっかくご飯付きで暖かいところで眠れる最高の場所だったのにな。それを自ら捨てるとは」

「うぐっ……!やまだももう16歳なんですから、一人暮らしの一つや二つ、ちょろいもんですよ」

 

「(自称)16歳だろーが!こんな小さい16歳がいるわけ………あっ」

五十嵐は見てしまった。山田よりも小さく、さらに17歳の種島さんを。

五十嵐は申し訳なさそうな顔で種島さんに一礼すると流石の種島さんも何が起こったか理解したようで、腕をぐるぐると回しながら怒った。

 

「五十嵐くん!無言の方が傷つくんだよ!どうせ私のこと小さいとか思ったんでしょ!私はちっちゃくないよ!!!!」

「ププー。いがらしさん、怒られてます」

「お、ま、え、は……!人の揚げ足を取ることしかできねぇのかああああ!!!」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「五十嵐くん、大変そうね……」

 

まだ1時間しか経っていないのに、もうすでに3時間分働いたような状態になっていた五十嵐の元に、五十嵐の教育係の松本さんがやって来た。

「松本さん…俺は山田という子が妹並みに扱いに困るんですけど、どうすればいいですか?先輩として、何かアドバイスをください」

「……そうね。押してダメなら引いてみる、的な感じのことが必要なんじゃないかしら?怒ってばかりじゃお互いにイライラしちゃうし」

「皿を1日で何十枚も割る人に優しくするのは至難の技ですよ……。けどありがとうございます。一応試してみます」

 

松本さんのアドバイスを受け、五十嵐は山田の元へ笑顔で向かう。

事情を知らない山田は、ただただ怯えている。何かされると思っている。

 

「ななななんですかいがらしさん!やまだはお皿割ってないですよ!」

「ッハハハ。次からは気をつけろよ」

と、五十嵐は山田の頭を撫でた後、キッチンに料理を取りに行ってしまった。

 

(いがらしさん………怖いです!)

山田にはあまり効果が無かった。むしろ怖さが倍増したらしい。

 

 

 

 

「一体どうしたんでしょうか。いがらしさんが唐突に優しくなるなんて……ハッ!もしかして、やまだの可愛さを知って優しくなったとか「ではないよ」

「そうまさん!?」

 

その場にいなくても事情を知っている相馬さんは山田の会話をぶった切る。

山田にとって相馬さんはよくわからない存在で、誰にも言ってないのにオーダーミスを知ってたり、五十嵐にバレてない割れた皿を隠している場所も相馬さんにはバレていたりなど、一体どこで情報を手に入れたのか不思議に思う謎の人だ。

 

「五十嵐くんも五十嵐なりに怒らない理由があるんだよ。よーく考えてごらん」

 

「今までやまだに怒ってばっかりで……だけど突然怒らなくなった…。ハッ!もしかして「違う」

「え!?」

残念ながら、山田の頭はあまり良くなかった。そのせいで五十嵐の気持ちを理解することができなかった。

 

 

「あの……いがらしさん。やまだの可愛さに目覚めたからって、やまだ、いがらしさんとはお付き合い出来ない……ですよ?」

頭があまり良くないなりに考えた結果なのだろうが、逆に今度は五十嵐が山田の気持ちを理解できていない。

「……何を言ってるんだ山田。熱でもあるのか?」

素で心配する五十嵐を見て、山田は思う。

 

(いがらしさん、ああ見えてちゃんとやまだのことを思ってるんでしょうか…?まぁでも、しばらくいがらしさんに甘えておきましょう!)

「ああっ……ちょっと熱があるかもしれないです…」

「…嘘つくなよ」

バレていた。

 

「チッ」

「はぁ……嘘はつかない方がいいぞ。家が全焼とか、家族散り散り、とかな」

「うううう嘘じゃななななないですよぉ……?」

「まぁいいか。明日からちゃんと働けよ。5枚割ったら家に招待してやる。覚悟しろ」

 

「いがらしさん……やっぱり優しくないです!!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

バイトが終わり、山田は屋根裏に籠ってしまったので、今日は松本さんと帰ることになった。

 

「松本さん。今日って空いてます?ちょっと家に来て欲しくて…」

「……え?」

「明日って日曜じゃないですか。シフトは午後からだし、ちょっとやってもらいたいことがあるんですよ」

「え?まだ高校生でそういうのは早いというか……一つ屋根の下で男女が一緒にいるのはフツーじゃないというか………えええ!?」

 

松本さんは何か大きな勘違いをしている。五十嵐は山田がいなくなったので松本さんに妹達の子守を頼んでいるのだが、松本さんはわかっていない。

 

「松本さん、妹達の子守ですよ。別に保健体育的なことはしないです。ダメなら来なくてもいいんですけど、良いですか?」

「(後輩の頼みだし、ここは先輩としてOKって言わなきゃいけないのかしら?でも男女が同じ家で子守をするって夫婦じゃない!?フツーじゃないわ!でも後輩の頼みだし…うーん……)い、いいわよ」

 

「なんか、ものすごく間がありましたけど…。忙しいなら本当に断ってもいいんですよ?そこまですることでもないですし、俺はただお礼をしたくて…さっきのことで」

「いいわよ。家に帰ってもすることないもの」

「ありがとうございます…」

 

 

 

こうして、松本さんは五十嵐の家に行くことになった。

服などの用意をするために一旦家に帰った松本さんを待つために五十嵐は早めに夕食の準備を始めた。

 

「おにーちゃん。今日はやまだいないの?」

山田は年下の妹にすらやまだと言われるくらい格下なのか。

「今日は違うおねーちゃんが来るよ。バイトの先輩だ」

 

「もしかして……光希と同じ学校の…松本さんって人?」

「母さん…そうだよ。とりあえずソファー(という名のベッド)で寝てたら?」

「毎度悪いわね……」

「今更何だよ……俺も好きでやってるんだから、あんま気にしなくていいよ」

 

 

五十嵐が母の代わりに料理を作っていると、家のインターホンが鳴る。

普通なら「はい。どなたでしょうか」のような会話から始まるが、五十嵐家の妹達はその過程をすっ飛ばして玄関を開ける。

本当はいけないことだが、言っても聞かないのでもうこのままでいいやと投げやりになってしまっている。

 

「うわー、おねーちゃんだ!」

「やまだとはちがうよ!」

「背もおっきい!メガネ!メガネ!!」

 

見ただけでわかる情報を連呼していると、松本さんは目を輝かせる。

「五十嵐くん、この子たち妹さん?可愛いわね!」

「見た目は悪くないですけど、本性知ったらドン引きですよ」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「これ、全部五十嵐くんが作ったの?」

「そうだよ!おにいちゃん料理【だけ】は上手いんだよ!」

「こら葉月、お前らの世話だって上手いだろーが!」

「えー、最近マンネリ化が進んでるよ!」

「お前はどこでそんな単語を覚えた!」

長女の葉月は時々使い方を知らないのにとんでもない単語をブッ込んで来るので油断できない。

「まやおねーちゃん!メガネ!メガネ!」

次女の那月は残念ながら頭が五十嵐家で一番悪い。

0点のテストをいつも見つけて母の代わりに怒ることもしばしばある。

 

「まやおねーちゃん……あーんして」

三女の明希は一番の甘えん坊で、一番世話のかかる妹だ。

三姉妹の中で一番落ち着いているが、暴れ出した時に一番の止めにくい妹で、五十嵐が一番好きになれない妹だ。

 

「五十嵐くん……そこで寝てる人は、お母さん?」

「ええ、母です。いつもこんな感じですよ」

「なんか、バイトでも山田さんに、家では妹さんにと…大変ね」

「だから松本さんに頼んだ次第ですよ」

「でも1つ言えることは、フツーじゃないわね」

「おっしゃる通りです」

「とはいえ、後輩がこんなに苦労してるとは…」

 

フツーではない環境をあまり好まない松本さんが、五十嵐のために考えてくれている。根は優しい先輩なのか。

それとも妹が可愛いと思っているのか。

「た…たまになら家に、行ってあげてもいいわよ。妹さんたちかわいいし」

「やっぱり妹目的ですか…。でも助かります。ありがとうございます」

 

 

食事が終わり、五十嵐が皿洗いをしていると二階では笑い声が聞こえる。

山田がいた時は山田の叫び声と嬉しい時に笑う声ではない声が聞こえたりと、色々カオスだが松本さんがいる時は全く違う。

どれだけ妹たちが松本さんに懐いているがよくわかる。

 

「光希……あれ、が…松本さん?」

1人、椅子に座り母が遅い食事をとっていると、細い声で囁かれた。

「そうだよ。母さんの思ってる以上にいい人でしょ?」

「ほんと、いい子ねぇ……是非挨拶したいわ…」

「後で、な」

 

 

「五十嵐くん…子供って元気、よね…」

「松本さん!?」

「今、妹さんたちは全員寝てるわよ。疲れて」

まだ8時だというのに、どれだけはしゃいでいたんだよ。と言いたいが、松本さんはいつも以上に疲れている。

 

「とはいえ、家事を全部任せるわけにもいかないわ…手伝うよ?」

「いえ、妹たちの世話をしてもらっただけで大丈夫ですよ?多分そろそろ妹たちは松本さんロスで色々ありそうな気がするんで」

「そ、それは申し訳ないわよ。1人に任せっきりは私が嫌なの。だから手伝わせて」

 

松本さんが本気で言うもんなので、五十嵐がダメですと言う権限もないし、言う気もなかった。

「は……はい」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「はい。どうぞ」

「ありがとう」

 

 

五十嵐が皿を洗い、松本さんが洗った皿を拭くという光景を見ながら、母は思う。

(なんかあの2人、夫婦みたいね)

 

そして、母に見られているので見返す五十嵐は思う。

(これ、なんか夫婦みたいだな)

 

さらに、母に見られているので見返している五十嵐を見ている松本さんは思う。

(なんかこう……夫婦みたいなやりとりのような気がするわ……)

 

 

誰がどう見ても、夫婦のようなやりとりであった。

 

 





クリスマスだから、なんか書こうと思って何を書くかの候補はいくつかありました。
①店長がクリスマスだからといっていつもよりいっぱい食べる話
②ワグナリアメンバーの幼少期のクリスマスのお話
③リア充だらけのワグナリアの話

全部書いててよくわからなかったからボツにしました。
いつか裏メニュー(番外編)として書きますよ。多分。

また、しばらくしたらオリジナルキャラクターの説明とか、その他諸々のことを書く予定です。このオリキャラはどんな人なん?とかの質問がありましたら感想で言ってくだされば出来る限りは答えます。

では、またのご来店、お待ちしております。


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10品目 大きい問題


2016年最後の投稿です。
来年から受験だよぉ……嫌だなあ……


 

 

皿洗いが終わり、松本さんが妹たちの部屋に戻ると、五十嵐の想像とは違い、普通に寝ていたらしい。

一方五十嵐は風呂掃除をしていた。

 

「妹たちは今日は風呂入らないかな?となると俺が久しぶりに一番風呂か…」

五十嵐家では妹たちが3人同時に入るので、それらを一番に風呂に入れ、次に母が入ってから最後に五十嵐なのだが、明日は日曜で休みなので順番が変わり、五十嵐が二番目になる。

しかし、妹たちは爆睡中なので自然と五十嵐が一番風呂になる。

 

「とはいえ、今日は松本さんがいるんだ。俺が先に風呂に入るわけにはいかないか…」

「光希」

「母さん!?今日はやけに元気だな…」

「そりゃそうよ。光希が初めて知り合い以外の女の子連れてきたんだもの。元気にならないわけないじゃ……ない……の」

「最後は死にかけてるが……まぁいいか。母さん。今なら挨拶に行ってもいいんじゃないか?松本さんもまだ起きてるだろうし」

「わかったわ…。頑張って……くるね」

 

なんだろう。この不安な気持ち。たかたが挨拶しに行くだけなのに死を覚悟する人のような姿が見えた。

母が二階に上がるのを見届けると、五十嵐は風呂掃除を再開した。

「母さんは松本さんに何を言いに行くんだ?これからも息子をよろしくお願いします的なものかな?」

 

五十嵐は少し考えるが、大して問題はないだろう。と風呂掃除に専念した。

 

 

 

一方、五十嵐母はなんとか妹たちの部屋にいる松本さんに会うことに成功していた。

「こんばん……は」

「えっ?こ、こんばんは…」

「光希の母、深雪です…いつもお世話になってます…。その、迷惑とか、かけてないですかね…?」

突然の挨拶に戸惑う松本さんだが、いつものように、お客様に何か言われた時のように普通に対応する。

「あっ…はい!全然迷惑とかかけてないですよ!真面目で、ちゃんと仕事してますよ!」

「そうですか……なら…よかっ………た」

もう、後悔はない。と言わんばかりに倒れると、さすがの松本さんも戸惑いを隠せなかった。

「え!?どどどうしたんですか!?」

「……いつも以上に動いたから……疲れたの」

「え……で、あの……お母様の部屋はどこですか?私が連れて行きますから……」

 

松本さんは母を背負って一階に降りて、リビング近くの部屋に連れて行った。

リビングではすでに風呂掃除を終わらせていた五十嵐が本を読んでいた。

「松本さん?母と話したんですか?」

「ええ…そうだけど…!五十嵐くんのお母さん、ものすごく怖かった…」

「そうですかね?高圧的な態度で話しかけてこれるような体力はないし、普通だ思いますよ」

「いや……なんかこう、死を覚悟してるような感じが……」

「あー、それはあるかもしれないですね」

 

「……え?」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

リビングでは本を読んでいる五十嵐と、黙ってテレビを見ている松本さんがいた。

その姿は皿洗いの時とは違い、仕方なく一緒にいる関係の人たちのような感じだった。

「松本さん。あと五分で風呂が沸くので、妹たちを起こしに行ってくれませんか?風呂になったら多分あいつら起きるので」

「え?いいけど…妹さんは私と一緒に入るの?」

「まぁ、そういうことになりますよね」

 

先ほどまで別に妹たちは風呂に入らなくていいか。と思った五十嵐だが、風呂には入れておこう。そしたら松本さんがきっとなんとかしてくれるだろう。と思い、風呂に入れることにした。

「はぁ…今日はいつもより自由な時間があるぞ…。松本さんが色々やってくれてるからな…明日ちゃんとお礼しないとな。って、あいつら服持ってってないな…!散々言ったのに!俺が持ってくと変な事態になるから嫌なんだよ」

 

この歳ですでに忘れっぽい妹たちの服を風呂場まで持ってくのは、もう五十嵐の日常になっている。忘れっぽいというより、兄の言うことに聞く耳を持たないという方が正しいが。

「おい妹共。お前らの服ここに置いとくからな!」

 

風呂場ではバシャバシャという音が聞こえ、キャッキャ楽しんでいるような声も聞こえる。

『まやおねーちゃんおむね大きーい!』

『ほんとだー!おっきーい!!』

「おい…。せめて俺がいないところで言えよ…」

『え!?いいい五十嵐くんいたの!?』

「べべ……別に松本さんのことは気にしてないですよ!?うちの妹たちはそういうことを平気で言うヤツらなんで!全然気にしてはないです!」

『まやおねーちゃん顔赤ーい!どうしたのー?』

「お前らはこれ以上松本さんをいじめるな!マジで!!」

 

このあと、妹たちをちゃんと叱った五十嵐であった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「ま、松本さん…アレは事故です。普通の事故なんです。俺はもう知らないです。松本さんの胸が大きいことなんか知らないです」

「知ってるじゃない!大きいかは知らないけど!」

「もうほんとすいません…妹が無神経で…」

「まぁ……五十嵐くんなら誰にも言わないでしょ。別にいいわよ」

「言う人がいませんよ。周りも気にしないでしょう」

 

なんとか許してもらえたが、五十嵐は気にしていた。もしかして松本さん、若干嫌いになってないか?と。

確かに異性に胸が大きいことを知られたらそりゃ変な目で見られると思うのも無理はない。さらに大きいものが好きな五十嵐。これはもうダメかもしれない。

だが、ある程度の常識を備えている五十嵐。ワグナリア内のまともヒエラルキーの上位層にいることは否めない。

 

「あの……松本さんは普通に俺の先輩……ですよね?」

「え?当たり前じゃない。どんな人であれ、五十嵐くんは私の後輩……よ?」

これは本当に嫌っているのだろうか。もしかすると松本さんは純粋だったりするのか?たとえ胸が大きいことを知られても、五十嵐を信じてくれるのか?

 

「松本さん……いい人ですね…」

「……ありがとう?」

 

 

 

 

 

このあと、何事もなく夜を迎え、朝になる。

妹たちは日曜なので昼頃に起きる。そのため朝は母と松本さんと五十嵐の3人がリビングで朝食を食べている。

「昨日は、あんなに仲よさそうにしていたのに……どうしたのかしら?」

母は昨日の出来事を知らないため、どストレートに言う。

「「何でもないです」」

2人が同時に言うと、2人は顔をそらす。

 

(やっぱり仲がいいのかしら)

母の中では2人は仲が良いと結論付けた。

 

 

「松本さん。そろそろバイト行きましょうか」

「え、ええ。行きましょう」

 

昼頃になると、バイトの準備をする五十嵐と松本さん。着替え終わるとカバンを持って2人はワグナリアへと向かう。

「お腹空いたら昨日のヤツ食べていいよ。また夜は作るから」

「わかった……わ」

昨日とは違い死にかけた声で返事をする母。

 

「ありがとうございました…。お邪魔しました」

「いいのよ……また来てね」

「まやおねーちゃん帰っちゃうの?」

「また来てねー!」

「またあそぼーねー!!」

妹たちが玄関で手を振ると、松本さんも手を振る。

 

「んじゃ、行って来まーす」

 

 

◇◆◇◆◇

 

「随分懐いてましたね。俺には暴力しかしないのに」

「山田さんみたいに怒鳴ったりしてるからじゃない?優しく接すれば妹さんたちも何もしないわよ」

「今更優しくしても、山田みたいに気持ち悪がられるのがオチですね」

「何となく……私もそう思ったわ」

 

「あ、昨日色々なことが起こった五十嵐くんと松本さんだ。おはよー」

後ろから軽快な声が聞こえた。昨日起こったことを知っていて、かつこの声は相馬さんだ。

「何で知ってるんですか!」

「男女屋根の下、何をしたの〜?ねぇねぇ、何をしたの〜?」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でーす」

ワグナリアに着くと、種島さんと小鳥遊がすでに働いていた。

「あ、五十嵐くんに松本さん、おはよー」

「おはようございます……って、相馬さん。何で五十嵐さんに引きずられてるんですか」

「五十嵐くん……ひどいよ」

 

「前の伊波さんとの件も兼ねてですよ!何で教えてくれなかったんですか!!」

「だから、面白そうだからって……痛い痛い痛い!蹴らないで!!」

「とにかく……働こうよ……五十嵐くん、相馬さん」

この惨事に巻き込まれたくなかったのか、松本さんは一足先に着替え終わっていた。

 

「あ、いがらしさん。遅かったですね。この通り、山田は今日もお皿を割りましたよ」

破損報告書を自分から見せてきた山田。破損報告書を見ると全て名前が山田になっている。

五十嵐がいない時は小鳥遊が面倒を見てくれているようだが、それでも割りまくっているらしい。

「……やーまーだー!!!」

「何ですか!?」

「割ったことを自慢してる暇があったら、割らないような努力をしろ!!!!」

「痛いです!!暴力反対!!」

「だから小さい奴は好きになれないんだよ!!!!」

 

今日も五十嵐は世話のかかる人に振り回されるのである……。

 

 





年末、いかがお過ごしでしょうか。僕は少しずつお勉強してます。
来年からはただでさえ更新ペースが遅いのにさらに遅くなるかもしれません。申し訳ない。
2週間に1話投稿できればいいかなと思います。

次回は五十嵐くんと松本さん以外のメンバーのお話が書ければなぁ…と思います。

またのご来店、お待ちしております!!!
来年もよろしくお願いします!



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11品目 寝る子は育つが割る子は育たない

体育でちょっとバスケしただけで筋肉痛になりました。





 

「山田、お前店の調味料少しずつガメてるだろ。相馬から聞いた」

「山田、卓の片付けやってないだろ!相馬さんから聞いたぞ」

「山田、休憩室の掃除サボっただろ。相馬さんから聞いたぞ」

 

佐藤さんと小鳥遊と五十嵐が山田の前に立ち、3人はチョップの構えをしている。

「はわわわ……、なんで知ってるんですか相馬さん!!」

もともと小さい山田が、さらに小さくなっていく。

「ごめんね〜。何かあったら言えって3人が言ってたからさ。あ、でもさっきのオーダーミスは言わないようにしとくね!」

 

「「「山田ァ……!!」」」

 

「なんなんですかもー!!!」

「それはこっちのセリフだ山田!!」

 

五十嵐と小鳥遊と佐藤さんの山田への怒りから、今日のバイトは始まるのである。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「全く!相馬さんは何でやまだの秘密知ってるんですか!?バレないようにしてたのに!」

「バレないようにする前に普通に仕事しろよ。そうしなきゃいつまで経っても成長しないぞ」

山田の教育係に任命された五十嵐は、山田と倉庫へ行き在庫の確認をしていた。

相変わらず山田は仕事をする気配はなく、相馬さんについてずっと語っていた。

 

「相馬さんの秘密をやまだが知っていれば相馬さんだってやまだを甘やかしてくれると言うのに……」

「いいから働けよ」

「いがらしさん。やまだを甘やかしてください」

「言ってることがおかしいぞ。相馬さんに甘やかしてもらえよ」

「それが出来ないからいがらしさんに頼んでるんですよ。なんか相馬さんの秘密知りませんか?」

 

自分の秘密(主に松本さんと一緒にいたこと)を言われたりはしていたのに、相馬さんは自分のことを一切語っていないことに今更気付く。

「………特にないんだけど」

「……つかえないですね」

「それはまさにお前に言ってやりたい言葉なんだが……って、山田が消えた」

 

 

 

 

「やっぱりいがらしさんはダメです。もっと相馬さんと関わってる人に聞くべきです!」

山田は五十嵐から逃げると、キッチンでは佐藤さんと八千代さんが話していた。

「佐藤さん!八千代さん!相馬さんの良いところってどこですか!?」

「突然なんだ?」

「相馬くんの良いところ?」

 

2人が考えていると、山田はキラキラとした目で見つめる。

「……少なくとも良いやつではない」

「まぁ…さっきの行動から何となくはわかります」

「さとーくん、何てこというの」

「じゃあ轟は相馬の良いところ知ってんのかよ」

「きょーこさんの良いところならいくらでも……」

 

八千代さんがいつものように店長話になるのを見越した佐藤さんは、山田を追い払った。

 

結局相馬さんの良いところを見つけることはできなかった山田は、休憩室で1人、お茶を飲んで相馬さんについて考えていた。

「ますます気になります!相馬さんの良いところ!」

「俺の良いところを探してるんだって?どう?見つかった?」

「相馬さん……かわいそうです」

 

「……え?」

「いがらしさんには特にないとか言われて、佐藤さんには良い奴じゃないとか言われてるし…」

「うわっ、ひどいな」

「かわいそうな相馬さん……かわい……相馬さん」

 

「やめてくれるかな……それ」

「かわい相馬さん……」

「繋げないでくれるかな……」

「そんなかわい相馬さんのいうことなら…やまだなんでも聞きます!妹だと思って接してください!!!」

嘘泣きではないマジ泣きで相馬さんと話していると、ガラにもなく相馬さんは焦っている。それもそのはず、今山田が泣いているところを他の人に見られたら……どうなるのかはわかっているからだ。

 

「とりあえず泣かないで!?こんなところ誰かに見られたら……」

 

 

 

 

 

「あっ……ああっ……相馬さんが…葵ちゃんを……泣かせた!!!!!」

見られていた。しかも種島さんに。

種島さんは一目散に逃げてしまい。さらに山田が泣いているので追える状況ではなく、完全に相馬さんの負け。つまり秘密を握られた。

(生まれて初めて人に弱み握られた………どうしよう)

「……とりあえず山田さん、働こうか…」

「はい!相馬さんのいうことはなんでも聞きます!やまだ働くーーー!!」

 

やまダッシュでホールに向かったのを見た小鳥遊と佐藤さんと五十嵐は力尽きていた相馬さんを休憩室前で見かけた。

 

「相馬さん、一体山田のどんな弱み言ってあんな働かせたんですか?」

「もうね……なんというか、逆かな」

「は?」

この相馬さんの言葉を理解することは、二度と無かった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

数日後、いつもより執拗に相馬さんに絡んでくる山田を見て教育係の五十嵐はふと思ったことがあった。

直接山田本人にいうのはなんか嫌なので、相馬さんに聴いてみることにした。

 

「相馬さん」

「どうしたの五十嵐くん」

「相馬さんは人の弱みをなんでも知ってるじゃないですか」

「人聞き悪いなぁ」

「そんな相馬さんも、うさんくさい山田の秘密とか知ってるんですか?」

「………はははっ!」

「否定するかなんかをしてくださいよ!」

 

ますます謎は深まるばかりだった。

 

 

 

いくつか家出した原因を考えたが、結局わからずじまいだった。いくら相馬さんでも、そこまでは考えていないか、と結論づけた。

とりあえず散々迷惑かけている山田の心配をすることが無意味だと感じたのでこの話は無かったことにした。

 

 

「いがらしさんいがらしさん!やまだ気になったことがあるんですよ!」

先ほどの話を無かったことにしたかったが、本人がやってきたせいで忘れられなくなってしまった。もうだめだ。そろそろノイローゼになってしまうかもしれない。

 

「なんだ。仕事についてか?」

「そんなことではないですよ!伊波さんの事です!」

「おい、仕事のことを聞けよ。で?伊波さん?伊波さんがどうした」

「伊波さんっておだやかだと思いませんか?」

 

「…………は?」

「なんですかその明らかに「違うよ」と言わんばかりの顔は」

 

あの伊波さんが、おだやか?

少なくともあの性質でおだやかとは言えないような人に思えるが、山田の目は節穴の穴がm単位で空いているのだろうか。

確かに(離れていれば)優しいし、(離れていれば)いい人だ。だが(離れてなければ)男であれば誰であろうと強烈なパンチを複数発出してくる人だ。

そんな人をおだやかとは言えない。決して伊波さんが嫌いだからこんなことを言っているわけではない。殴ってこなければ普通に接している。

だが殴ってくるのなら話は別だ。いい人だとは思うが好きになれない。

 

「逆に聞くが、どの辺が?」

「見た目はおっとりしてるじゃないですか。そこですよ。やまだの姉候補です」

「お前は家族に何を求めてんだよ。甘やかされればそれでいいのかよ」

「はい」

「あっさり認めんな」

 

 

「あ、やまだ掃除途中でした。やまだ掃除してきまーす」

「ほんと何でもアリな奴だな……」

「逆に変だなぁとか思わないかな?」

 

後ろでは相馬さんが腕を組み悩んでいた。

相馬さんは影が薄いのか、何か言われるまでそこにいるのをわからなかった。

 

「相馬さん、何を言ってるんですか?」

「最近、山田さんに何を注意してる?」

「オーダミス、掃除をサボってる、卓の片付けサボってる………あれ、最近皿を割ってない気が?」

「そこまでわかれば十分だよ。あとは自分で………ね?」

 

「は、はぁ……?」

 

相馬さんは笑顔でキッチンに戻り、佐藤さんに蹴られていた。どうやら仕事をサボっていたらしい。

「皿を割ってないということは、成長してるのか?皿を割らない代わりに他が疎かになってるとなるとなんとなくわかる気がするなぁ…」

「突然何を言ってるんですか五十嵐さん」

 

 

小鳥遊がおぼんを脇に抱えながらいうと、珍しく五十嵐が小鳥遊に今のことを相談した。

 

「なるほど、山田さんが最近皿を割らないんですね?確かに最近破損報告書に山田さんの名前が全くないですね。五十嵐さんの方法が上手く効いたんじゃないですか?」

「全く?全くないのか?」

「え?そうですけど」

「ありがとう。ちょっと山田見てくる」

「あ、はい……?」

 

 

五十嵐の頭には最悪の想像が浮かんだ。その想像は山田なら本当にやりかねない。だから山田を探す。

「やーまーだー!!!」

五十嵐は這い寄る魔物の如く吐いた息からは白い煙が出ていた。

「……!?」

 

魔物、五十嵐が背後から迫ってくると山田は小刻みに震えていた。

「ななななななんですか??やまだ、別に割ったお皿をずっと隠していたなんてそんなことしてないですよ…?」

「ソレヲ、ミセロ」

 

山田は細い身体なので若干見えているが、五十嵐はあえて言う。

「………逃げるが勝ちです!って、どわっ!」

勢いよく立ち上がり逃げようとするが一歩目で躓き転倒、段ボールに入っていたものが雪崩のように落ちてしまい、山田の悪事が完全にバレた。

 

「…………ヤマダァ……」

「ひいっ!?」

「なぜ書かなかった!!!」

「やまだ……やまだがお皿割るといがらしさんの家行かなきゃいけないから……それにみんなにも迷惑かけないようにやまだなりに考えたんですよ…」

「山田……

 

 

 

まず皿を割らないような方法を考えろよ!!そっからだろお前は!あと、今日は家に強制招待だ。帰ってからずっと妹たちと遊んでもらうぞ」

「乱暴はイヤです!」

「俺もお前のお世話がイヤだよ!!」

 

 

 

山田は、バイトに来てから全く変わっていない。ミスは日常茶飯事だし、皿は平気で10枚ほど割る。寝る子は育つと言うが、割る子は全く育たない。

そろそろ本格的に指導しないと、店が皿不足かつ食品不足で営業できなくなってしまいそうで怖い。

五十嵐は店の今後を考えながら、山田の皿の処理を手伝わされていた。

 

 




なんだかんだで物語進んでますけど、このままじゃ100話とか変えちゃいそうですね。
それはそうと、僕の作品のタグには猫組登場有りとあるんですが、猫組は猫組で新しい作品書いた方がいいですかねぇ?
一応主人公も考えてますし……。

出すならおそらくここに出すので、章で別れてたらあ、猫組のヤツ書くんだなと思ってください。

次回は特に何も決めてないです。原作読んで決めます。
またのご来店、お待ちしております!


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裏メニュー ワグナリア昔話『ボコデレラ』


まず、お気に入り100件ありがとうございます。
この話は本編とは全く関係ないです。閑話みたいなものです。
(正直本編の間に出すか番外編を作りそこに出そうか迷ってます……)



 

ワグナリアという国には、ボコデレラと言う少女がいました。

ボコデレラは親が生まれてすぐ亡くなっており、今はその親の妹の家に引き取られ馬車馬のように毎日働かせられていました。

 

「ボコデレラ、おかわり」

「はい!もう少し待ってください!」

「早くしろ」

親の妹のキョウコは今日もお腹を鳴らしボコデレラに寝る間も与えず料理を作らせていました。

「キョウコさんステキ!!」

キョウコと行動を共にしているヤチヨは、いつもキョウコにくっついています。

「ボコデレラ!今日のサラダにはピーマンはいらないって言ったハズだよ!」

 

ボコデレラよりも年下に見えるが同い年のポプラも、ボコデレラをこき使っています。

「お父さんはまだ帰ってこないんですか?お父さーーーん!!」

ボコデレラをこき使うことなく、ただただお父さんの帰りを待つのは末っ子のヤマダです。彼女は今日も帰ってくるはずのないお父さんを待ち続けています。

 

 

 

 

「はぁ……私には自由が無いのかしら……」

そうボコデレラがつぶやきながら外に出てポストの中身を確かめているとそこには一枚の紙が入っていました。

ボコデレラは中身を見ることなく家に戻り、キョウコに渡しました。

 

「なに?武闘会だと?」

「舞踏会ではないでしょうかキョウコさん!ここならたーくさん食べ物がありますよ!」

「舞踏会!私も行く!!」

「ヤマダも行きます!舞踏会!!」

 

どうやら近くのお城のタカナシ王が町中の人たちを招待したようで、招待状にはボコデレラの名前も入っていました。

「ボコデレラはめっ!だよ!舞踏会は私たちだけで行くよ!」

ポプラはボコデレラにそういうと、ドレスに着替えて4人でタカナシ王のいるお城まで車で行ってしまいました。

タカナシ王のお城までは相当の距離もあるし、車は4人乗りなのでボコデレラが乗れるわけもなく、ボコデレラは1人で皿洗いをしていました。

 

「私も……舞踏会に行きたいなぁ…でも…こんな服装じゃ、ダメだよなぁ」

と、ボコデレラは自分の服装を見てため息をつきました。

それもそのはず、掃除のし過ぎで色が変色したバンダナ、大量の継ぎ接ぎ跡が残っているエプロン、ボロボロのズボン、真っ平らなお胸、これではタカナシ王の前で踊ることはおろか、お城に出入りすることすら出来ません。

 

「私じゃ……タカナシ王のお城には行けないのかな……グスン」

 

ボコデレラの目から、一粒の涙が溢れると、どこからか声が聞こえました。

 

「……ふっふっふ。どうやらお困りのようだねボコデレラさん」

「こ、この声は?」

「僕は魔法使いであり魔術師でもありこの後の未来までもが完璧に見えるソウマです。ボコデレラに姿を見られると僕は死ぬので声だけでの登場です」

「魔法使いでも何でもいいです!ソウマさん!私をタカナシ王のお城まで連れてってください!」

「君ならそう言うと思ってたよ。家を出ると拳の形になった馬車がある。そこに乗りなさい。そうしたらドレスに着替えられているからね」

 

ソウマがパチン!と指を使って鳴らすと、ドアからグーの形をした馬車が見えました。

「ソウマさん!ありがとうございます!これで私も舞踏会に行けます!!」

「舞踏会に行くのはいいが、これだけは守ってほしい。夜の12時になったら必ず家に帰りなさい。もし過ぎてしまったら魔法は解けていつもの服装になってしまう。だからよーく時間を見て舞踏会に参加してね!じゃあ僕はこれで!」

 

そう言うとソウマの声は聞こえなくなり、ソウマはいなくなってしまいました。

 

「ソウマさん……ありがとうございます!」

ボコデレラは再びお礼を言うと、先ほどとは見違えるくらい綺麗になったドレスを身にまとい、拳の形をした馬車に乗ってお城へと向かったのです。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

一方、すでにお城についたキョウコ達は、お城で好き放題やっていました。

ヤマダはイガラシという門番に捕まり、現在説教を受けています。

ヤチヨはサトウという男の人にキョウコの良いところを出会った瞬間から1時間ほど休むことなく話していました。

キョウコはお城にある食事を食い尽くし、お城の料理人に多大な迷惑をかけていました。

 

しかし、ポプラはどこへも行くあてがなく、迷っているとタカナシ王直々にポプラの元へ向かってきました。

「どうしたの?迷子?」

「ま、迷子じゃないよ!ただどこに行けばいいかわからなくて……」

「ちっちゃくて可愛いなぁ〜〜」

「ちっちゃくないよ!!!!」

 

タカナシ王はポプラをえらく気に入りました。タカナシ王は小さいものが大好きで、一番の好みは12歳以下という筋金入りの変人でした。

そんな変人王様に捕まったポプラがタカナシ王の家に住み着いてしまうのはまた別のお話………。

 

舞踏会が始まってしばらくすると、他の誰よりも美しいドレスを身にまとい、綺麗なオレンジ色の髪をしたボコデレラがやってきました。

 

「……なんだあの年増。綺麗だけどどう見ても12歳以上だし……けど俺はこの国の王子。声だけでもかけておこうかな…」

ポプラを可愛がるだけ可愛がったタカナシは再び城をウロウロしていると、ボコデレラと目が合いました。

せっかく目があったので、タカナシはボコデレラに近づきます。

 

 

「え……?え……?」

突然タカナシ王が向かってくるのは、ボコデレラと目があったから行っただけ。それを知らないボコデレラは何かされるのかと思い込んでいました。

 

「いーーーやーー!おとこーー!!」

ボコデレラの叫びと同時に、拳がタカナシの顔面に当たりました。

そのパンチはとてもこの子から放たれたものとは言えないレベルのものでした。

もし当たっていたのが壁なら、穴が空いているレベル。

もし当たっていたのが柱なら、粉々になって城が壊れてしまうレベルのものでした。

 

そう。ボコデレラは男の人が嫌いな女の子だったのです。ソウマは、それを知っていながらもタカナシ王の城に向かわせたのです!!

 

「ごめんなさい!!」

そう言って走って逃げるボコデレラ。

城を出て拳の形をした馬車で自分の家まで逃げて行ってしまったのでした………。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

ソウマに言われた時間よりも相当前に帰ったボコデレラは、家を出る前にやっていなかった掃除をしていました。

12時前になると、たらふく食べてきたキョウコと、嬉しそうなヤチヨとプンスカと怒っているヤマダが帰ってきました。

 

「……あれ?タネシマさんはどうしたんですか?」

「あのロリコン王子に捕まって今では妹となったらしい。そんなことより夕飯を作ってくれ」

「キョウコさんステキ♡」

「あ……はい」

 

 

 

ボコデレラの夢の時間は、あっという間に終わってしまったのでした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後、ボコデレラが住む家の近くに大量の馬に乗った兵士がやってきました。

何事かと思い外に出ると、そこには2日前に殴ったタカナシ王が頬を痛そうに抑えていました。

「この俺を殴った人を知りませんか!?次あったらちゃんと怒るつもりで来ました!!」

「……わ、私です」

 

申し訳なさそうにボコデレラは手をあげる。

それを見たタカナシはボコデレラに言い放ちます。

「あのね!殴るのはいいけどせめて謝ったらどうですか!?だから暴力ふるう人は嫌いなんだよ!」

「だって、男の人は怖いんだもん!」

「怖いのはお前だ!謝ってくれるだけでいいから早く謝ってくださいよ!」

「す…すいませんでした」

「……はぁ。形はどうであれ謝ってくれたならいいですよ。それじゃ仲直りの握手しましょう」

「え?」

「だから、仲直りの握手ですよ。ほら、手を出して」

 

そう言ってタカナシはボコデレラに触れようとすると……。

「キャアアアア!!!!」

 

反射的に手が2発、3発……とどんどん増えていきます。

「グハァ……!これだから年増は嫌いなんだよぉぉお!!!!!」

ボコデレラの手はしばらく止まることなく、合計20発。タカナシはこれに耐えられず、ダウン。しばらく病院で手当てをするはめになってしまいました。

 

こうして、ボコデレラはパンチから繰り出される強烈さから、ボコ・ボコデレラと呼ばれるようになったのでした……。

本当の話通りなら王子様であるタカナシはボコデレラと結婚しますが、この話だと……わかりませんねぇ?

 





突発的に思いついたのでロクな話ではないですが、シンデレラには伊波さんがぴったりだなぁと思い書きました。

一寸法師とか良さそうですよね。話の内容知らないですけどw

次回こそ本編書きます。
またのご来店、お待ちしております!!


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12品目 ワグナリアでは無戦飲食できない

ISのゲームにハマって学業が疎かになってる



とある日曜日、店には1人の客しかいなかった。

その人はパソコンを使って何かをしていた。それだけならまだいいのだが、もう3時間も店に居座り続けている。迷惑もかけてないので別に構わないが、あの客はまだ何も注文をしていない。

八千代さんが何度かご注文は?と聞きに行くが、大丈夫です。と言うので3度目で聞きに行くのをやめたと言っていた。

 

「あの客、なにしてるんだろーな」

五十嵐が皿を洗いながら小鳥遊に問いかける。

「詮索は良くないですよ。別にいいじゃないですか」

小鳥遊は客を気にしていなかった。それもそうか。

 

「相馬さんはどう思います?知らない客だけどまさか秘密を知ってたり……」

「さすがにお客のことは知らないよ?けど注文したらなんとなくはわかりそうだけどね」

「……は?」

 

また相馬さんは意味深なことを言っている。当然五十嵐には何が何だかわからない。

「まぁ…いっか。仕事を済ませよう…」

 

五十嵐は足早に去っていった。

その後、例の客は2時間たっても注文をすることはなかった。

 

 

さすがに違和感を感じた五十嵐は店長に聞いてみることにした。

「店長、例えばですけど何時間も何もしないお客のことをどう思います?」

「別に、なんかしなきゃどうでもいい」

 

小脇にポテトチップスを抱え、五十嵐を見ることなく目の前のお菓子をひたすら見ながら食べる店長の姿は、普通の店ならありえない光景だった。

 

「……そうですか。何となくわかってたけど」

「なんだよ。文句でもあんのか?」

「ないです」

即答するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「あのお客さん、まだいるね」

種島さんも全く興味が無いわけでもないらしく、五十嵐と休憩室でお茶をしながらこうして会話をしている。

「そうですね。なんかの習い事をサボりにここに来てるんですかね。俺も昔やりました」

「そ、そんな嫌なことをやってたの?」

「ええ、昔格闘技をやってて、痛いのがイヤでサボるときに近くの本屋でずっと本読んでました」

「痛いのはイヤだよね!」

「あ、そろそろ休憩交代ですね。行きましょうか」

「そだね。行こっか!」

 

元気よく種島さんはホールに向かうが、五十嵐はのそのそと遅めにホールに向かった。

 

「おや、どうしたんですが五十嵐さん。考え事ですか?」

「いや……本の話してたら最近発売された本買ってないな…って思い出して、今日買いに行こうか迷ってるんだよ」

「どんな本読むんですか?」

「基本的に面白ければなんでも読む。恋愛小説とか、時代劇的なものとか、ライトノベルとか。最近は恋愛小説でこの人が面白いんだよ………」

 

(あ、泉姉さんのこと言ってる。五十嵐さんでもこーゆーの読むんだ)

「そうなんですか、結構意外ですね」

 

「まぁね。趣味なんて人それぞれだし」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

五十嵐が仕事に戻って30分後、呼び出しボタンを使うことなくお客が店員を呼んだ。

今現在ワグナリアにはこの客しかいないからやったのか、種島さんがその卓へと向かった。

 

「種島さん。どうでした?」

戻って来た種島さんに五十嵐は声をかける。

「……あの人の注文、多すぎてなんども聞いちゃった」

「は?多すぎてって…?」

 

「チーズ風ドリアにスパゲティ3つ、ステーキにその他諸々……」

「普通の人にしては食べる量が多すぎやしませんか?」

 

「さとーさん、これお願い!」

「おう。それにしても多いな」

「やっぱり多いよね!大食いさんなのかな?」

 

さすがに量が多いので、作る時間もかかるので、簡単なものから出してお客を待たせないようにはした。

のだが、全部食べ終わると客はまた注文をする。

 

「いや……食べ過ぎですよあの客。俺も注文を何度も聞き直しましたもん」

「そうだよね!多すぎるよね!」

 

「なに?また注文か?俺も疲れてきたんだが…」

「いや、俺も疲れたよ!?佐藤くん、もしかして、俺に全部仕事押し付ける気?」

「それ以外になにがある」

「ひどいよ……」

 

相馬さんはそれだけをいうと、黙々と調理にかかった。

 

 

それから再注文をしては食べ、再注文をしては食べ……と繰り返していると、皆流石に違和感を感じた。

 

すでにお金は何万もかかるほどになっているにもかかわらず、平気で注文する客。

これは怪しい匂いしかしない。

 

この状態は間違いなくアウトだ。そう。無銭飲食、というやつだ。

無銭飲食は代金を払う意思がないのに注文をし、お金を支払うことなく店を去る犯罪行為だ。

店員側はお金を持ってること前提で注文を受けるのでそれを騙して料理を食べてることは、詐欺罪に当たるとのことらしい。

 

そんな法律的なお話なぞどうでもいいのだ。

問題は客が本当に無銭飲食する気なのかどうか。

 

「……もしかしてあの客、お金持ってない?」

「え!?それって」

 

 

「タダで店の物を食うだと……!?許せん」

「店長、鏡見ます?」

 

小鳥遊は鏡のある部屋を指差すと、店長は小鳥遊の首を締めあげようとする。

「いだだだだだ!嘘です!嘘じゃないけど」

「ただ、店のものを食うのは許せん」

 

「それは客の存在を否定する事になるような気がするんですが」

「とにかくだ。怪しくないように払う意思があるかを聞きに行ってこい。五十嵐」

 

一番やりたくない役だというのに、店長からの命令とならば仕方がない。

「はぁ……絶対バレるわ」

 

トボトボと歩いて行くと、また例の客の席が注文をしてくる。

「はい。ご注文は」

 

「これと…これと、あとこれも」

「お客様、申し訳ございませんがこれ以上のご注文はご遠慮いただきたいのですが……」

「あぁっ!?何でだよ!俺は客だぞ?お前に言われる筋合いはないっての」

 

「だとしてでもです。今現在の金額を見ていただいても普通ではあり得ないような状態なのです」

「お前!まさか俺が無銭飲食するとでも思ってんのか!?」

「誰もそんな事言ってないですよ」

 

 

なんという誘導尋問。そうしたつもりは無いが勝手に自爆してくれた。

 

「まさか、無銭飲食するつもりでは無いでしょうか。間違ってたら申し訳ありませんが」

 

「てめぇ!!」

 

客は五十嵐の胸ぐらを掴み、五十嵐は持っていたおぼんを落とす。

周りには誰もいないが、店長達がこの状況を見ていた。

心配しているようだが、相変わらず店長は腕を組んでいるだけだった。

 

「殴るんですか?俺は別に構わないですが、これ以上罪を重ねるのはどうかと思いますよ。どうせ、俺を殴った後店を出るつもりだったのでしょう。なんなら今ここで大声をあげて店長に報告してもいいんですよ。どうします?」

 

これだけカマをかけるのは、この客が完全に無銭飲食をしていると確信しているからである。

無銭飲食してるだなんて一言も言ってもいないのに勝手に自爆している時点で怪しいとは思っていたが、これだけ怒っていたらもう事実なんではないのかと思うのも無理はない。

そして客はキョロキョロと周りを見る。どこに店長がいるのかを気にしている。

残念ながら店長はあの客が来てからホールに出たことはない。だから客はまだ店長の顔を知らない。

 

「くそッ…!!!」

 

客は掴んでいた手を離し、店の入り口まで逃げる。が、

 

「店のものをタダで食うなど許さんぞ」

 

店長が入り口のドアの前で待ち構えていた。

 

店長としてのセリフなら完璧なのだが、この店長のセリフなら飯を大量に食べてることに怒ってるだけの人に見えてしまう。

 

「くそッ!店長か!ただ女なら好都合。ボコボコにしてや………!?」

 

ボコボコにされるのは、無銭飲食の客だった。

それもそのはず、店長は元ヤンで過去にギリギリのことをしたらしく、その強さは計り知れない。その辺の無銭飲食客など、返り討ちにされてしまう。

 

「な、なんだこいつら……!怖気づくこともなく、戦う気満々じゃねぇか!こんな店……二度と行かねぇぞ!!!」

「待て、有り金全部出せ」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

客が持っていた金額は100円で、何も頼めないのにあんな威勢良く頼んでいたのかよと思うと、なんだか悲しくなる。

 

今客は何をしてるかというと……。

 

 

「どうぞ。『貴方』が食べた皿です。さぁ、洗ってくださいな」

「ひぃいいい〜〜〜!こんな店二度と行かねぇぞ……」

 

果てしない量の皿を洗っていた。

こんなに重労働させてかわいそうとは思わないし、むしろ優しい方だと思う。普通なら警察を呼んでもいいレベルなのに、これだけで済ませる店長は結構いい人だ。それまでの過程はひどかったが。

 

「……お疲れ様です」

従業員用入り口から、ある女性の声がした。

客はその声の元へ向かい、挨拶をしに行った。

だが、

 

 

「きゃぁあああああ!!!男〜〜!?」

 

店長よりも強烈なパンチを浴び、客は倒れてしまった。

「もう……勘弁…して、くだ……さい」

そう言うと、男は気絶してしまった。

 

「……この人、大丈夫?」

「やったことを考えれば、当然の事なんじゃないですか?よくわかりませんけど」

「……??」

 

 

 

何日か経つと、例の客は代金を全て支払い、二度と店に来ないと誓い姿を消した。

 

 

 

 

 




なんか面白いことないかなと思いwikiでWORKING!!のことを検索したら、どうやら食い逃げ犯のお話がドラマCDかなんかであったらしく、それをベースに書きました。
大まかなストーリーしか知らなかったので結構誇張したりしましたけど、なんとなくはあってるはずです。

今週からテスト1週間前で忙しくなるんですけど、人間忙しい方が充実してるもので、今週中にもう1話出せそうな予感がします。ただ過度な期待は……って、する人いないか。

またのご来店、お待ちしております!


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13品目 酒乱に気をつけ、目標を決めよう

IS×ジョジョって結構面白そうだと思うんですよね。
主人公がDIOの『世界』を持ってて転生するって話を考えたけど、書けない……。




「はぁ……今日もバイトか。自分から週7で働くって言ったはいいものの、結構きついな」

今更ながら自分の軽率な行動を悔やんでいると、ワグナリアの従業員用入り口で1人の女性が瓶を持ちながら寝ていた。

「……美人だなこの人。とりあえず店に連れてってなんとかしよう」

 

どうやら酒を飲んでいて酔ってしまったらしく、頬の周りは赤くなっており、気持ちよく寝ている。

見た目はものすごく綺麗で、うっかり惚れかけてしまった五十嵐は、休憩室の椅子に座らせた。

「あのー…どこの誰だか知らないですけど、そろそろ起きてくださーい。そろそろ夜ですよ」

「………ほぇ?キミは?」

「ここで働いてる者です。とりあえず服をちゃんと着てください」

肩がはだけているこの状態は、正直ものすごく惹かれるが絵面的にマズイ。

しかもここは北海道。こんな薄着では風邪をひいてしまう。

 

「これはこーゆー服なのよ!気にしないで!それと、結婚してください!!!」

「………は?」

「こんな私に声をかけてくれるってことは好きってことでしょ?だから交際を前提に結婚してください!!」

「ちょっと待て、過程をすっ飛ばし過ぎではないでしょうか?あと俺まだ高1です!結婚とか出来ませんから!」

「高1?宗太と同い年ね!」

「宗太?誰ですかその人」

「小鳥遊宗太!確かここで働いてる人よ!!!」

「小鳥遊………宗太。ほむり」

 

小鳥遊宗太、ここワグナリアで働いているメガネの男。

この女性は小鳥遊の姉だということがわかった。それと普通の人とは違う頭をお持ちであることもわかった。

「あの……小鳥遊さん。あとはあちらのお方にお任せします……」

「ほえ?」

 

 

「何してんだよ……梢姉さん。それと五十嵐さん!」

「いや、俺はお前のお姉さまを救出しただけだ。悪くはない」

「そうよ!そこの子は悪くないわ!店に倒れてたのは私だし、そこで酒を飲んでたのも私。うん!全部私がやったのよ!!!」

「だったら余計タチが悪い!!!あと何しに来た!」

 

「……その人が小鳥遊くんのお姉さん?」

女子更衣室から出て来たのは男性恐怖症という謎の病を抱えている伊波さんだ。

 

「そうそう……この人が……って!なぜ伊波さんがここに!?」

「五十嵐くんがその人を担いでた時に私もここに来たから……」

「五十嵐さん、伊波さん、この事は他の人たちには内緒にしてくれませんか?

こんな酒乱がうちの姉だなんて知られたら……俺はもうダメになってしまいます」

 

小鳥遊がダメになる→バイトを辞めてしまう→自然と伊波さんの世話を自分がやることになる→無事死亡

などと最悪の方程式が思い浮かんでしまった五十嵐は小鳥遊の肩をガッと掴む。

「当たり前じゃねーか……!てかお前辞めんなよ?辞めたら俺も辞めるからな!マジで辞めんなよ!!!!」

「……ハッ!まさか五十嵐さん、そういうことですね!?」

 

「……どうしたの2人とも」

事の本人は、2人のやりとりを全く理解していなかった。それもそうか。伊波さんは小鳥遊のことを恐怖の対象としか見てないのだから…。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

梢さんが帰ると、五十嵐と小鳥遊は裏で皿を拭きながら話していた。

 

 

「美人な姉は素晴らしい。が、それを隠してたのは許せんな。小鳥遊」

「五十嵐さんにもあまり言いたくない秘密くらいあるでしょうに」

「あえてお前にだけ言わない秘密ならあるがな」

「アレでしょ?五十嵐くんには小学生の妹が3人いるっていうやつでしょ?」

 

軽快な声で五十嵐が小鳥遊に言いたくなかった秘密を暴露したのは、ワグナリアのキッチン担当、人の秘密をなんでも知ってるある意味最強の人、相馬さんだ。

 

「なんでそんなこと教えてくれなかったんですか」

「身の危険を感じた。妹たちは好きじゃないが、犯罪に発展しかねないと判断したからだ。教育に悪いと思ったし…」

「失礼な!俺のどこが教育に悪いんですか!」

「胸に手を当てて聞いてみろよ。お前の小さい子にすること全てがアブない」

「ちなみに小鳥遊くんにはさっきの酒乱さんを含む3人の姉と小6の妹がいるらしいよ!」

 

「おいコラ小鳥遊……!姉3人もいるだと!?梢さん以外に2人もいるだなんて、羨ましすぎるだろ」

 

2人は兄妹関係を暴露されたにもかかわらず、お互いの妹姉に自分の好きなタイプの人たちがいることを怒っていた。

「小学生の妹なんて天国じゃないですか!」

「年上の姉なんて天国じゃないか!!」

 

案外、自分の欲しいものは知ってる人、しかも自分の欲しいものを特に欲してない人が持ってるもので、今まさにその状態だ。

2人とも、小鳥遊と五十嵐が入れ替わってたらなぁ……などと思っていたのは、もはや言うまでもない。

 

「いや……待てよ。これ以上この話をするのは不毛だ。お互い損しかしないと思わないか?」

 

これ以上この話をしているのは面倒だし、とりあえずそれなりの理由を言ってこの話はやめにしておこう。などという魂胆が見え見えの発言に小鳥遊は乗る。

 

「そ、そうですね。我を失いかけませんからね」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「とりあえず、お互いの秘密にしておきましょう。もう相馬さんはどうでもいいです」

「ひどいな……」

 

相馬さんを説得したとしても相馬さんは常に秘密を話した相馬さんしてるので全く無意味だ。

逆に自分の弱みを握られるだけなのでやるだけ無駄になってしまう。これならもう勝手に話してくれと負けを認めるしか選択肢はない。

 

「どうせ相馬さんに言うなと言っても言ってしまうでしょうに」

「そんな簡単に言わないよ!ただちょっと必要な時に言うだけだよ!」

「また説得という名の脅しですか……」

「人聞き悪いなぁ……」

「間違ってないでしょう」

 

 

「何してんだお前ら」

 

 

店長がスパゲッティをすすりながら3人にいうと、小鳥遊は店長を指差す。

「いくら相馬さんでも、店長のヤンキー時代の話は知りませんよね?だって店長の方が年上じゃないですか」

「………刺すぞ」

 

店長がフォークを小鳥遊の目に向ける。店長は年上とか年増と言われるのが嫌らしく、小鳥遊にはいつもこんな感じである。別にそんな気にする年ではないとは思うが。

店長、28歳ならまだまだ若いでしょうに……。

 

「知ってるよ?ただ、話していい内容なのかなぁ…。当の店長はどうも思わないけど……ね?」

「いや、別に俺は聞きたくないですよ。知らない方がいいこともありますし」

「ハハッ、そうだよね」

 

本当はちょっと気になるが、さっきの相馬さんの会話の時の「……」の間が、「本当にヤバいことだから心して聞いた方がいいよ」という言葉が含まれてる気がするので、深追いすることをやめた。

店長が元ヤン時代がヤバいことは前々から少し聞いていたが、相馬さんがああやって注意してくるレベルのヤバさなら、ここで引くのは良い判断だ。

 

 

「きょーこさーん!今月の目標はどうしますか〜?」

 

ジャキン!ジャキン!と武装した兵士が走ってくるような音がしたということは、チーフの八千代さんがこちらに向かってきたということだ。

彼女はなぜか帯刀している。なぜだかは知らない。

 

「あ、忘れてた。じゃあ八千代が書いといてくれ」

「は〜い!!」

八千代さんは笑顔で休憩室へと向かい、目標を書き始めていった。

 

「目標か………」

「どうかしました?店長」

「毎日八千代のパフェを5個以上食べる…」

「それはもう目標じゃなくて義務になってません?」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

数日後、休憩室には八千代さんが書いたと思われる文字で、『お客様の目線で行動しましょう』と書かれていた。

 

「これが今月の目標、ですか……」

「あら五十嵐くん、それに小鳥遊くんも。ほら、自分ではわからなくても他人は気になることってあるでしょう?」

 

「「ええ。そういうことって、ありますよね」」

2人が息を合わせていうと、八千代さんの腰に目をやる。

「あるわよねぇ…」

「「はい。今、目の前に」」

 

2人は刀をじっと見ながら、アハハハハと笑った。

当の本人は気づいてないみたいだ。困った困った。いや、もうどうでもいいか。

 

 

「そもそもこの目標って、店長は守れるんですか?」

「……杏子さんはいいのよ」

「ですよね……」

 

八千代さんはウフフと笑いながら話を続ける。

「杏子さんは店長だからいいのよ」

「いや、店長だからこそ守らなきゃいけないんじゃないんですか?」

「そう?」

 

予想外の答えが返ってきた。普通なら「確かにそうね……」的な答えが返ってくると思っていたが、あの反応はマジの奴だった。ものすごくキョトンとしている。

「例えばですけど、もし店長が客殴ってケガさせたらどうするんですか?」

「それはもちろんお客様に………」

必死こいて謝「バレないように、トドメを刺す?」

 

「あー………はい。やっぱなんでもないです…」

「あら、どうしたの?」

「いろいろ、自分の中の何か(主に常識)が破壊されていくような気がして……」

「それは大変ねぇ…」

 

 

八千代さんが困った顔をしていると、目標を守れないであろう店長がご飯を片手にやってきた。

「何してんだお前ら」

「ああ店長。今月の目標について話してたんですよ」

 

店長は目標を見ると、眉を寄せて口を開く。

「なんで客に尽くさないとならんのだ。店員の方が偉いだろ」

「え」

「客あっての店じゃないんですか?

「いや、店員いないと店にならないだろうが」

 

あれ?常識ってなんだっけ?

 

「ファミレスだと、客がいない店はたまにあるが、店員がいない店はないだろ。だから店として成り立つには店員の方が大事。つまり店員の方が偉い!!!」

「いや……その…」

「そもそも私らがいないと水も出ねーし料理も出ねえ。店員がいないと客は何もできん。よって客に媚びる必要はない。店員第一。以上」

 

なんとなく筋は通っている気はするが、五十嵐は1つ重大な問題に気づいた。

「なんか納得しかけましたけど、こっちって金もらってる立場ですよね?」

 

この後店長が五十嵐たちに何かを話すことはなく、キッチンへと去ってしまった。

「私もまだまだ未熟ね…」

「いや、店長の頭が未熟なのでは……」

「店員第一だとそのままだし……こうしましょう!」

 

 

 

 

『店長の目線で行動しましょう』

 

 

 

「杏子さん素敵………」

「なんか嫌だなぁこんな店」

つくづく変な店だと思う五十嵐であった。

 

 

 

 




1週間後くらいに出せそう…→本当に出せました。

なんか今日は愛の石でガチャれるゲームで単発引いたらURの和装ダイヤさん出てきて焦りました。
別にそのアニメ見てないけど…周りがやってるから、つい。

明日からテストだし今月なんか忙しいし来月から高3で受験モードまっしぐらだからやばいね。次回はいつになるんだろう……。

いつになるかはわかりませんが、またのご来店、お待ちしております!!!
(感想欲しい(切実))


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14品目 お誕生日


時系列をぶち壊していくスタイル。

本編ですけど、番外編のようなノリです。


 

 

3月3日、その日はひな祭りで、女性の日となっているらしい。

女系家族の五十嵐と小鳥遊は、今日が相当きつい日だと言うことを物心ついた時から知っていた。

「やれやれ……今日はひな祭りか……」

「ええ、そうらしいですね」

「そうです。ひな祭りです!!!」

「……はぁ」

 

 

2人が悲しそうな目で山田を見る。そしてそのキラキラとした眼はなんだ。

「なんですかそのかわいそうな目は!今日はなんの日だか知ってますか?」

「ひな祭り」

「合ってますけど、違います!!」

 

合っているのに違うとはなんなのだろうか。それ以外なんの日があるのか。耳の日?もしくは金魚の日か?

「やまだの誕生日です!」

「………あー、そう」

 

「なんでそんな軽いんですか!?やまだの誕生日ですよ!祝ってください!!!」

「だったら、祝われるようなことをしろ。そんな簡単にプレゼントがもらえると思ったら大間違いだぞ」

「な、なんでやまだは説教を受けてるんですか…?」

 

それもそのはず。山田に構ってる暇がないからだ。

2人は今日の夕食や、家事、その他についていつも以上に気を使わなければならないと考えていた。

特には五十嵐は年下の女子を3人も抱えているので、駄々をこねる量が異常なので、その日だけ家出したいなど現実逃避をしている。

小鳥遊家は静かそうに見えるが、姉3人が必要以上に構ってくるので、困っていた。

梢姉さんは酒酒酒とうるさいし、泉姉さんは掃除してくれと言うし、一枝姉さんは六法全書で叩いてくるし。しかも角で。

 

そんなことを考えていると、山田は2人の服を引っ張る。

「やまだ、2人がなんかしてくれないとここを離れませんよ!がんとして動きません!」

「いや、働けよ。あと離せ」

「離せ」

「何かしてくれるまで離しません!」

 

 

五十嵐は何かいいことを思いついたようで、小鳥遊の方を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。

「……ハハッ。ヤマダハキョウモカワイイナウンソウダソウニチガイナイアトオタンジョウビオメデトウヤマダサイコウ」

「ソウダナヤマダサイコウダナオレモソウオモウヨ」

五十嵐が言った後に小鳥遊がすぐに付け加え、謎のコンビネーションが炸裂した。

「なんでそんなかたごとなんですか!?そんなの嬉しくないですよ!」

「まぁまぁ山田さん。2人は今日特に忙しい日なんだから、そっとしておいてあげなよ」

 

3人のやり取りを知っていたかのように素晴らしいタイミングで相馬さんが割って入ってくる。

2人の家庭環境をバラされなかったのは良かったが、山田は2人に構うのをやめ、相馬さんに抱きつく。

「って、ええ!?山田さんどうしたの!?」

「2人には期待しないのでいいですが、相馬さん!相馬さんならやまだに何かプレゼントはありますよね!」

「今日が山田さんの誕生日なのは知ってたけど、別にプレゼントとかは持ってきて……ないかな?」

((相馬さん、山田の誕生日知ってたのかよ……))

 

普通にサラーっと今日誕生日だということを知ってると言ったが、山田がワグナリアに来てから誕生日のことは一切口にしていない。さすが相馬さんネットワーク。知らないことはないということか。

 

「じゃあ相馬さん!やまだを甘やかしてください!!」

「え……えぇ…」

笑顔のまま相馬さんはキッチンへ向かう。が、山田がそれを阻止する。

「相馬さん。山田と納豆を食べてください!!!」

「そんなのでいいの!?」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

仕方なく相馬さんは山田についていき、休憩室に座った。

そこで待っててくださいね!と山田が山田ッシュしてどこかへいなくなると、相馬さんは腕を組み、考える。

(山田さん、確か納豆に普通入れないものを入れるんだよなぁ。まぁ俺も多少は入れるけど……)

 

「やまだ、たくさん持って来ましたよ!今日はひな祭りでやまだの誕生日、さらに金魚の日なので、納豆を食べましょう!!」

「何一つとして意味がわからないね」

 

そう言って山田は納豆2パックと納豆に入れるであろう材料を大量に持って来た。

「楽しみすぎてやまだ、相馬さんの分を開けちゃいました!!」

「全くもー…」

「さらにいっぱいトッピングできますよ!砂糖、お醤油、ケチャップ、お酢、マヨネーズ、その他もろもろを」

 

ありえない物まで入っているが、相馬さんは砂糖が入った箱を取り、スプーンいっぱいに砂糖を盛り、納豆にかける。

その量はよくアニメで見るようなご飯大盛りのように、山のような状態になっていた。

それを見た山田は逃げ出してしまう。

 

 

逃げた先はキッチンで、佐藤さんにぶつかると、山田は涙目で佐藤さんに話しかける。

「納豆に砂糖は山田も入れるけどあの量は流石の山田もレッドカードです…山田は相馬さんのことが好きですけど味の壁が邪魔をしてきそうで………ううっ!」

 

佐藤さんは特に考える様子もなく、一言バッサリと言う。

「両方バカ舌だから、心配すんなよ山田」

「佐藤さんひどい!!!!」

 

そう言うと山田はまた逃げてしまう。

逃げた先はまた休憩室で、ゴリゴリと砂糖を噛み砕く音が聞こえる。

 

「相馬さん……いつもあんな量の砂糖を入れるんですか?」

「今日はなんか甘いもの食べたいと思ったからと、砂糖を入れると粘り気が増すって聞いたから…」

「そうなんですか!?やまだ単に甘さを求めて入れてましたよ!!知らなかったです!!」

「え、そうなの?」

「やまだの知らない納豆ワールドを知ってるなんて、相馬さん納豆博士!納豆王!納豆愛!納豆マニア!どんだけ納豆好きなんですか!!!」

「え……えぇ…」

 

 

 

「なんか休憩室騒がしいですけど、山田は相馬さんに何をしてるんですか?」

「さぁな。大方納豆トークで盛り上がってんだろ。相馬さんが変な知識を言って、やまだそれ知りませんでした!相馬さんすごい!的な感じで」

「なんとなくそんな感じがしますね」

「あら?葵ちゃん、今日が誕生日なの?」

 

小鳥遊と五十嵐が皿洗いをしていると、八千代さんがフロアからこちらに戻ってきていた。

「なんかそうらしいですよ。相馬さんが言ってるから多分本当です」

「あら……私知らなかったわ。教えてくれたらプレゼントとかを渡してあげられたのに…」

「でも、今なんかめちゃくちゃ楽しそうだからいいんじゃないですか?」

「そうなの?」

「相馬さんと楽しくお話してるようですし、山田はアレがプレゼントだと思ってるでしょう」

 

「ええー!葵ちゃん、今日誕生日なの!?」

「え?山田さん、誕生日だったの?」

種島さんと伊波さんも今初めて山田が今日誕生日だと言うことを知ったらしい。

「葵ちゃんに悪いなぁ…プレゼントあげられなくて…」

「そういうもんですか?」

「そうだよ!1年に一度しかない誕生日だよ?ちゃんとお祝いしてあげないと。しかも葵ちゃん、お家が無くなっちゃったし、祝ってあげようよ!」

 

「うっ、そういえばそう(いう設定)だったな……」

「かたなしくん、五十嵐くん、私たち葵ちゃんのためにケーキ買ってくるから、代わりに働いてくれる?」

「私も行くの!?」

「そうだよ伊波ちゃん!さっ、行こっ!!」

 

 

種島さんと伊波さんは上に軽めの上着を羽織ると、従業員用ドアから出て行ってしまった。

「はぁ……先輩が言うなら仕方ないですね…」

「俺は別に良いとは言ってないんだけどなぁ」

「それにしても先輩は優しいな……」

「種島さんのやることならなんでも可愛いっていうもんな、小鳥遊は」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

数時間後、山田がやっとホールに出ると、五十嵐が待ち構えていた。

「おう山田。今日は俺の仕事風景を見ておけ。今後皿を割らないようにな」

「なんで今更そんなことを?」

「誕生日記念だ」

「誕生日って言えばなんでも良いってものじゃないですよ!?やまだそこまでおバカちゃんではないです!!」

「まぁいいから、ほら見とけ」

 

この後1時間ほど五十嵐とともに行動していた山田は、疲れた様子で休憩室で向かう。

 

「全く……やまだ今日は誕生日なんですよ?なんで働かなきゃいけないんですか…」

 

ブツブツ言いながら休憩室のドアを開けると、

 

パーン!パパパーーーン!!!

と、クラッカーの音が聞こえた。

 

「え?」

「お誕生日おめでとう!葵ちゃん!」

 

クラッカーを使って出た煙の匂いと、先ほど相馬さんと食べていた納豆の匂いと、甘いケーキの匂いが混ぜ合わさった休憩室では、女性陣が山田の誕生日を祝っていた。

 

「やまっ……!」

「葵ちゃん!?泣かないで!まだお楽しみはあるよ!!」

突然の出来事に、山田は嬉しさのあまり涙が出てきてしまう。

「これ、私たちからのプレゼントだよ!」

 

種島さんと伊波さんが多きな袋を山田に渡すと、山田は中に入っているものを見る。

「これは……!」

「お洋服だよ!葵ちゃん、あんま持ってなかったよね?外に出るとき、これを使ってね!」

「ありがとうございます……種島さん、伊波さん、八千代さん、店長!」

「あらあら……私はほとんど何もしてないのよ…?ただケーキをカットしただけで……」

「ああっ!店長!ケーキほとんど食べないでください!やまだも食べます!!」

 

 

 

 

「山田さん、嬉しそうだね」

「まぁ家出してるし、寂しかったんじゃないですか?」

「明日からちゃんと仕事するかが唯一の心配ですね」

「………だな」

 

 

男性陣はドアの前で山田の様子を見ていた。

それは祝う気が無かったのではなく、山田のために色々していた女性陣の代わりに仕事をしているからである。

 

「……フーッ。とりあえず戻るか」

佐藤さんが一足先にキッチンへ向かうと、それに続いて相馬さんと小鳥遊もついて行く。

 

 

「はぁ……。ほんと仕方ないやつだな。山田は」

 

 

 

 

ポツリと呟くと、五十嵐もホールへと走っていったのである。

 

 

 





誕生日の話書いてて、山田以外にも誕生日がわかる人いないかなって漫画を読みましたけど店長しかいないんですよね。
RE:オーダーも見ましたけど店長以外誰も載ってませんでしたね。
本当に今日まで山田の誕生日知らなくて、twitterでとある山田の絵を描いてる人の画像見てた時にタグに山田葵生誕祭2017って書かれてたのを見つけて急いで書いたんですよ。

これを機にWORKING!!を見てさらに山田好きになってもらえれば嬉しいですね(笑)


またのご来店、お待ちしております!


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15品目 バレンタイン


2ヶ月もお待たせして申し訳ない…!



 

2月14日、世間ではバレンタインデーと呼ばれるイベントの日である。

本来バレンタインデーと言うのは聖バレンチヌスが処刑された日としてあまり良い日とされてはいないが、いつからか女性が男性にチョコレートをあげる日となっていた。どうやらこれはチョコレート業界の戦略だとかなんとか言っているが、それはもう避けることができないことだし、こればっかりは諦めるしかない。

だが、これよりももっとやばいイベントが1ヶ月後に控えている。3月14日のホワイトデーだ。これはもう地獄のイベントと呼ぶべきかもしれない。

なぜ地獄なのか。それは家系が深く関係している。

五十嵐家、ついでに小鳥遊家は女系家族である。五十嵐は母含め4人、小鳥遊は姉妹で4人にチョコレートを返さなければならないのだが、チョコレートを渡してきた側がこれを邪魔してくる。

五十嵐の場合、母は何もしてこないのでまだ良いが、妹たちがここぞとばかりに邪魔をしてくる。主に遊べだの飯がまずいだのと文句を言ってくる。1人だけで落ち着いて何かをできる時間が五十嵐にはほぼ無い。あるとすれば深夜、そのくらいしかない。

さらに、五十嵐は幼馴染の柊の姉からも貰うので、実質5個になる。柊の姉は優しいので、返さなくていいよ?毎年大変でしょ?と言ってくれるのでいいが、それも申し訳ない、と毎年一応返している。

小鳥遊の場合、妹のなずなが気を利かせて姉たちをなんとかしてくれるが、それでも姉たちは止まらない。

梢姉さんに関しては酒関係で色々あり、泉姉さんに関しては部屋を片付けてくれと助けを求め、一枝姉さんも何かと理由をつけて六法全書で殴ってくる。そんな小鳥遊に余裕などあるわけがなく、五十嵐と同じように1人だけで落ち着いて何かをできる時間は深夜くらいしかない。

さらに、小鳥遊の場合、姉3人の経済力が無駄に高いため、返すチョコレートは基本的に貰ったチョコレートの3倍で返さなければならない。別にそうする必要は無いのだが、そうでもしないと納得してもらえなさそうなのでそうしている。

そんな悪魔の日、バレンタインデーが刻一刻と近づいてくる中、五十嵐と小鳥遊はいつもの日課のように山田への説教をしていた。

 

 

「まったく…いつになったら割らなくなるんだよ…」

「本当だよ。これ以上割ったらマジで家に監禁すんぞ」

「なんでやまだばっかりに怒るんですか!?破損報告書には全然やまだの名前無いじゃないですか!!」

「だってこれ今日2枚目だもんな!1枚目はどう見てもお前の名前しかねーよ!!!」

相変わらず反省の色が見えない山田に、怒ることすら馬鹿馬鹿しくなってきた五十嵐は、そろそろ判決を下そうと考えていた。

当然判決は「五十嵐家にご招待の刑」だ。

 

「やまだ、いがらしさんの家には行きませんよ!いがらしさん、それを言おうとしましたよね!フフーン、やまだにはお見通しです!」

「バレようがバレなかろうが俺はやるぞ。フフーン、お前ごときの脅しには屈しないんだなぁこれが!!」

「ぐぬぬ…でもやまだを嫌々いがらしさんの家に連れてく姿はまるで犯罪者ですよ」

「なるほど、面白いこと言うな。だがな山田、お前は家出してきてまだこの地域のことをよく知らないな?」

「ややややややまだは家出じゃないですよ」

「俺はこの辺じゃ良い子って言われてんだ。優しい良い子。ってな。だからお前をいやいや連れてったって犯罪者だなんて誰も思わねーよ」

「そしたらやまだはこの人痴漢です!って言いますもん!」

 

往生際の悪い山田に、小鳥遊がついに動く。

「とりあえず割らないようにしろよ。まずはそれからだ」

 

ポス、と山田の頭にチョップすると、小鳥遊はお盆を持ってホールへと出て行ってしまった。

「山田、お前今何をしようとしてたら当ててやろうか?」

「……え、なんです?やまだの考えは簡単には分からせませんよ」

 

 

 

「割らないようにするには、働かなきゃいい。だからもう早退しよう。って思ってるんじゃないのか?」

「…………フフフッ、そそそそんなことおおおおおおおお思ってななななななないでででですすすよ」

「声も体も震えてんぞ」

「やまだちょっとお腹痛いです……だから今日は早「……おい!」

 

言ったそばから早退しようとする山田を、五十嵐は全力で止める。

じたばたとする山田だが、これ以上やっても自分が不利になるだけだと悟ったのか、しばらくするとおとなしくなり、裏でずっと待機していたのだった。

「どうしてこう、こんなに仕事ができないんだろうな」

「なんか逆にすごいですよね」

「なにか、画期的な方法が欲しいな」

「五十嵐くんの方法が最も画期的だとは思うんだけどねぇ…」

 

ひょっこりと相馬さんが出てくると、相馬さんは佐藤さんに捕まり、キッチンへと連れてかれた。

相馬さん、仕事をサボっていたんですか…。

「まぁいいや。正直今はそんなことを気にしてる時間じゃない」

「あ、五十嵐さんもですか」

「ああ、そろそろバレンタインという忌まわしきイベントがやってきたな」

 

「あれ?五十嵐くんも小鳥遊くんも、バレンタイン嫌いなの?」

伊波さんがホールから帰ってきていた。佐藤さんに頑張ってオーダーを伝えると、2人の会話の中に入る。

「ええ、あまり。と言うか全く好きじゃないです。誰だよ考えた奴」

「あっ、もしかして貰えないから?」

 

「貰えるから嫌なんです。確実に4つは貰えるし」

「俺も年によるけど4つか5つは貰うな」

「小鳥遊くんと五十嵐くんはお姉さんや妹さんに貰ってるのね…。なんだかんだ仲良いのね」

 

 

「「いえ、別に全くそういうわけでは無いです」」

「そこはきっぱり言うのね…」

 

 

 

「お、五十嵐、小鳥遊。ちょいちょい」

珍しく店長が五十嵐と小鳥遊を呼ぶ。相変わらず店長はポテチを小脇に抱えているが、もうその辺は気にしないことにしよう。

「知ってるか?アメリカの風習ではな」

「アメリカ?」

 

「バレンタインは男が女に何かあげる日なんだ…」

「どっちかと言うとイタリアとかの男性があげるとかの方がなんとなくわかる気が…」

「だから食い物くれ」

 

「節分の豆でも食ってろよ」

「俺は善処します。渡せれば渡しますよ…」

小鳥遊は塩対応をし、五十嵐は曖昧な言葉で逃げた。

 

 

 

「とりあえずどうするか、だな。まともなのを買わないと怒ってるくるし…。散財だ」

「……同じく」

そんな2人を見ながら伊波さんは考えていた。どのようにして小鳥遊にチョコを渡そうかを…。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

そして、来てしまった。バレンタイン。

 

ワグナリア内では、女性陣が男性陣にチョコを渡していた。

「佐藤くん、相馬くん、いつもお世話になってます」

八千代さんは綺麗に包装されたチョコを2人に手渡すと、店長へのチョコをどうするかを2人に聞いていた。

「毎年ありがとな」

「いえいえ。あ、佐藤くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…杏子さんにチョコあげたいんだけど、何かいい趣向ないかしら?」

「……しらん」

「あっ、私が頭からチョコをかぶるとk……あうっ!」

 

奇行に走りそうになった八千代さんを佐藤さんはおたまを叩くことで目覚めさせた。

八千代さんが去ると、相馬さんは八千代さんから貰ったチョコを佐藤さんに渡していた。

「これ、俺の分あげるよ」

「なんでだよ」

「義理とはいえ、俺ももらえないよ。だから貰ってよ」

 

仕方なく佐藤さんはチョコをもらうと、

「あ、義理が2倍に増えた」

 

 

 

 

「……………」

「ああっ!フライパン!?轟さんにはおたまだったのに俺にはフライパン!?差別だよ差別!!!」

「………区別だ」

その後豪快な音が聞こえたのは、言うまでもないことである。

 

 

事務室では、店長が誰かに電話をかけていた。

『もしもし』

「音尾、生きてるか」

『生きてますけど、何かありました?』

「お前の机の上にチョコ置いてあっからな」

『ああ、今日はバレンタインですか。わざわざすみません。って…それを言うためにわざわざ電話を?』

「それなんだが、食っちゃったから」

 

種島さんが音尾さんにとチョコをあげたのだが、店長はそれを見て我慢できずに食べてしまったらしい。

種島さんは涙目になりながら店長に対してばかばかばかー!とワンワン言っている。

『……もらった事実だけありがたくいただきますと伝えておいてください』

「ん」

 

 

 

休憩室前では、伊波さんが待ち構えていた。

「あれ?伊波ちゃん?どうしたの」

「あっ、種島さん。たっ、小鳥遊くんにチョコを…」

「かたなし君に?」

「でも今までチョコあげたことなくて…」

「じゃあ初チョコだね!伊波ちゃんからかたなし君にチョコ渡してもらおっか!」

「ええ!?」

 

伊波さんの顔が今まで以上に赤くなり、頭からは湯気のようなものが出てきている。

(……チョコ溶けちゃう)

 

 

種島さんは裏で皿洗いをしている小鳥遊を休憩室前に連れて行く。

そこでは伊波さんが待っていた。

「伊波ちゃんと私から!伊波ちゃんはすごく考えてチョコを選んだって!」

「は、はぁ…。ありがとうございます」

 

小鳥遊は伊波さんの目の前まで向かい、チョコを貰おうとする。

しかし、伊波さんはチョコよりも先に手が出てしまう。

「……まーた例のご病気ですか」

「今のは違う!!男嫌いで殴ったんじゃなくて……そう!ただの照れ隠し!!」

「余計悪いわ!!!!!」

 

 

 

時間が過ぎていき、午後9時。そろそろ学生組が帰る時間になると、松本さんは五十嵐を呼ぶ。

「どうしました松本さん」

「これ、今日バレンタインでしょ?妹さん達の分もあるから、よかったら食べて」

「あ、ありがとうございます。わざわざ妹達の分も」

「いいわよ。ちょっと作り過ぎちゃったし」

「そうですか。じゃあ帰りましょうか」

 

 

今年はチョコを1つ多く貰えた五十嵐である。

 

 






次回はホワイトデー+新キャラ爆誕ですかね。

またのご来店、お待ちしております


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16品目 ホワイトデーと伊波さん講座


お久しぶりです。


 

バレンタインからちょうど1ヶ月が経った日、世間ではホワイトデーと呼ばれる日である。

小鳥遊と五十嵐は休憩室でぼーっとしていると、常時休憩の店長に呼ばれた。

 

「小鳥遊、五十嵐、知ってるか?」

「店長、先に俺の話を聞いてもらってもいいですか?」

 

小鳥遊が店長に向けて話すことは大体わかっている五十嵐は、とりあえず静観することにした。

「……なんだよ」

「ホワイトデーというのはですね、バレンタインのお返しをする日なんです。従ってチョコをあげてない人にもらう権利はありません。ということで食べ物を要求しないでください。で、話はなんですか?」

「ちっ……」

読まれてたか、と言わんばかりの顔をすると、店長は八千代さんの方へ行ってしまった。

「……俺は一応買ってきたんだよなぁ」

「偉いですね」

「まぁ、いくらアレでも目上の人だし、そういうのはちゃんとしとこうかなって」

 

 

この後五十嵐は店長にチョコを渡すと、次の週休みが2日あったのは、言うまでもないことである。

 

 

◆◇◆◇◆

 

ワグナリア内ではチョコが行き交う中、血もいつもより多めに出ている。

これはチョコを食べたことによる鼻血ではなく、伊波さんに殴られることによる血だ。

男性恐怖症の彼女は、男性とすれ違うだけで拳が飛んでくる。恐怖のアトラクションよりもタチが悪いのだ。

 

 

そんな伊波さんが来るのを予期した相馬さんは、キッチンで倒れたフリをしていた。

「……何してるんですか相馬さん」

「………死んだフリ」

「伊波さんは熊ですか」

「熊じゃないよ!」

 

五十嵐の隣で種島さんが言うが、相馬さんの言っていることはなんとなく正しい。

男であれば無差別に殴って来ると言っても過言ではない伊波さんに近づかない方法は、このくらいしかない。

自分の身体を守るためには、必要なことなのだ。

 

「かたなし君や佐藤さんは割とフツーに対応してるのに…。五十嵐くんは逃げてるような…」

「小鳥遊はもう慣れてるんじゃないですか」

 

「おい相馬、死んだフリは熊には効かないぞ。こっちの方が対策になるぞ。ほれ」

近くに居合わせた佐藤さんは相馬さんに鈴を渡した。

「これって……」

「熊よけ」

 

「だから熊じゃないってば!!!!」

この日2度目の種島さんのツッコミがキッチン中に響いた。

 

「3人とも伊波ちゃんとちゃんと接してあげて!特に相馬さんと五十嵐くん!」

「「「ムリ(です)」」」

 

3人の声がハモると、種島さんはさらに続ける。

「ダメです!ちゃんと努力しなさい!!少しくらい殴られてもいいじゃん!」

「……種島さん、他人事だと思って言ってますけど、結構痛いんですよ!?」

 

「とはいえ、仲良くできるものならこっちだってしてーよ」

「そんな方法があるなら教えてほしいよね」

 

一応、佐藤さんも相馬さんも仲良くしたいと言う思いはあるようだ。

「こうなったら、伊波ちゃんのプロを呼ぶしか……」

 

種島さんの言う伊波ちゃんのプロ。もちろん小鳥遊だ。

「「「「先生」」」」

「やめてください」

 

 

「伊波ちゃんと仲良くなれるコツを教えて!かたなし君!」

「えぇ?」

「いつもどんな気持ちで接してるのか、とかさ」

 

「えーーっと……まず」

 

 

 

「「「……」」」

 

「覚悟します」

 

これを聞いた瞬間、もう被害を喰らうことなく接するという一番平和な方法が消えた。

「仕事ですし、普通に接するくらいはしたいですよね…お互い頑張りましょう」

「……大丈夫?殺されない?」

 

まるで熊に出会った時の対処法を聞いてるみたいになっている。どれだけ相馬さんは伊波さんのことを怖いと思っているのだろう。

「気持ちは痛いくらいわかりますが、相手は一応女の子ですから、伊波さんは……対応を誤らなければ決して怖い生き物ではありません。初心者は軽いふれあいから始めましょうか」

「お前結構ノリノリだな」

「じゃあお菓子でも与えてみましょうかね。そーれ」

 

小鳥遊は近くにいた伊波さんめがけてお菓子を投げる。

しっかりキャッチした後、伊波さんは小鳥遊の方を見て何があったか確認しようとする。

「このように、きちんとできたら褒めてあげてください」

「私は犬なの!?」

「………で、次は」

「無視しないでよー!私は犬じゃないんだから…投げて渡さないでよ…」

「じゃあ……」

 

 

と、小鳥遊はどこから持ってきたかわからないが釣竿にお菓子を付ける。

「いきますよー」

「魚でもないよ!!!!」

けど、ちゃんとお菓子はキャッチする。

 

「このように、なんでも真面目に受け取りますので、安全に気をつけて接してあげてください」

 

「なるほどな」

「すごいねー」

「よくわかったぜ」

 

「お分かりいただけましたか?」

「ああ、伊波はお前に任せておけば問題ないな」

「ですね。小鳥遊に押しつ…任せましょうか」

 

(匙投げた……!!!)

 

 

 

結局、伊波さんを上手に扱えるのは小鳥遊だけだった。

「特別天然記念物だと思ってお前が大事に育てろよな。小鳥遊」

「あああああの……。私は動物でも魚でもないです。人間扱いしてください」

「「「「俺らはサンドバッグじゃないです。人間扱いしてください」」」」

 

伊波さんの発言は特大ブーメランと化してしまった。

 

 

 

 

 

 

「あ、伊波さん!ちょっと待った!」

先ほどの一悶着が終わり、ゴミ捨てに向かおうとしていた伊波さんを小鳥遊が止める。

 

「え?」

「これ、バレンタインのお返しです」

 

普通ならすぐ渡せるはずなのだが、2人の距離は相当離れていた。それもそのはず、近くに行って渡せば、大量に血が出てしまうからだ。

小鳥遊は休憩室からマジックハンドを持ってきて、遠くにいる伊波さんに袋を渡す。

「はい。これで手渡しです。投げて渡そうとも考えましたが、それはあまりに失礼なので、これにしました。中身はヘアピンです。足しにしてくださいね」

「あ……ありがと」

 

 

一方、別の場所では五十嵐が松本さんにチョコレートを渡していた。

「松本さん、これ、バレンタインのお返しです」

「わざわざありがとう。まさか全部自分で作ったの?」

「そうですよ?そっちの方が楽ですし」

「あとこれは妹たちが渡せって言ってたので、どうぞ」

 

大きめの袋には、形がいびつなクッキーが大量に入っている。五十嵐が焼こうとしたのだが、妹たちはそれを拒否し、自分で作ると言って譲らないので仕方なく妹たちに作らせたため、こうなってしまった。

「一応食べてあげてください…。味見をした限り大丈夫だとは思います」

「ありがと。味わって食べるわね」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

ホワイトデーから数日経ち、お返しで今持ってるお金のほとんどを使い切った五十嵐と、バレンタインで姉たちからもらったチョコを3倍返しで返した小鳥遊は、いつにも増してげっそりしていた。

幸運なことに店にはほとんど人がおらず、店員のほとんどが暇していた。

 

「あー、今日は暇だな」

「不安になるくらい暇ですね」

 

 

「お…お疲れ様でーす」

いつもよりコソコソと伊波さんが裏に向かうと、2人は伊波さんの存在に気づく。

「あれ?今日はシフトに入ってなくないですか?働いてきます?暇だけど」

 

「小鳥遊くん……。あの…」

「なんです?」

 

 

 

 

 

「女装に……興味ある?」

 

「帰れ」

一体、伊波さんに何があったのだろうか。

 

 

 





某バンド系音ゲーのイベントが頻繁にあり過ぎてつらい。
休む暇をくださいな…。

次回は女装、女装、からの女装ですね。


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17品目 少女になる少年


受験とは(哲学)


 

一体伊波さんの身に何があったのか知らないが、今わかることは、小鳥遊に女装を求めている伊波さんがいて、それを聞いた小鳥遊は笑顔で拭いていたナイフを伊波さんに向けたということだ。

 

「寝言は寝てから言ってください。さぁ、帰っておやすみなさい!!」

「まぁまぁ、伊波さんにもなんか事情があるんだろ。無けりゃ普通にタチ悪いが……」

 

「その……ホワイトデーのお返しに小鳥遊くんからヘアピンをもらったんだけど……」

「それは結構なことじゃないですか。それに何の問題が?」

「その…うちのお父さんにバレて…」

「……それだけ?」

 

 

「あいや待たれい!」

時代劇風に現れたのは、今日も絶賛皿クラッシャー中の山田だった。

山田は伊波さんと五十嵐の間に入ると、五十嵐の方を見て腕を組む。

「それだけ?じゃないですよ!これだから素人はダメなんですよ…。いいですか?伊波さんのお父さんは伊波さんのことを溺愛してるんです!それはやまだが音尾さんを好きでいるような感覚です!どうです?わかりやすいでしょう?」

 

「お父さんにバレたって…伊波さんのお父さんは家にいないんじゃないんですか?ご病気のせいで」

「え、ちょ、やまだのこと無視しないでくださいよ!」

「お母さんが喋っちゃったみたいなの……」

「伊波さんも!!?」

 

 

 

「あーーーー!!あーーー!きーこーえーなーいーーー!!」

 

小鳥遊は耳を塞ぎ、現実から目を背けている。余程女装するのが嫌なのだろう。

当然五十嵐も女装する気はない。そう言った趣味はお持ちではないし、今後持とうとも思っていない。

 

「聞こえないフリしないで…」

「いや、仕方ないですよ。こればっかりは………こればっかりは…」

「な、何で遠い目で言うの…」

 

「まぁまぁ。で、伊波さん。母が父に男からホワイトデーのお返しを貰ったことをバラしたわけですが、それと小鳥遊が女装するのに何の接点も無いんですが、それは」

「えっと、それで苦し紛れに『小鳥遊さんは女の子』って言っちゃったの…」

「あー、察しました」

 

 

「……伊波さん?」

いつも以上に笑顔な小鳥遊は、マジックハンドでコンコンと伊波さんの頭を叩く。

 

「お願い小鳥遊くん!お父さんに疑われないように女装して!もしバレたら…バイト辞めさせられちゃう……」

「はい!!!!絶っっっっ対に嫌です!」

 

「だろうな」

「力強く拒否しないで!!!」

 

伊波さんは、ものすごく真剣にお願いしている。確かにその内容は真剣さに欠けるが、伊波さんのバイト継続に関わることだ。これも仕方のない事なのだろうか。

伊波さんはもう諦めてしまったのか、走って何処かへ行ってしまった。

そんな姿を見た五十嵐は、小鳥遊に助言をする。

 

「……こればっかりは了承するしかないんじゃないか?小鳥遊よ」

「五十嵐さんまで伊波さん側につくんですか!」

「そういうわけじゃない。俺はいつだって永世中立国並みに中立だ。で、今回の件、俺は全く悪くない……だなんて思ってるかもしれんが、案外そんな訳でもない。よく考えろ。事の発端は誰が何をしたからだと思う?」

「俺が、伊波さんにヘアピンを渡したから?」

「そうだ。『小鳥遊』が『伊波さんにヘアピンを渡したから』だ。多少の責任はあるんじゃないか?それでもやらないなら良いんじゃないか?俺は止めないぞ。本当に伊波さんが辞めてもいいなら、な?」

 

「………」

小鳥遊は黙ったまま考えている。自分が女装するだけで伊波さんがバイトを辞めずに済む。たったそれだけでいいのだが、自分には女装を絶対にしたくない理由がある。

けど、伊波さんが………。

 

「やっ……やりま」

「ほう」

「やっぱちょっと待って!」

「決心グラつくな…別にいいけど」

「いやいや、やるにしても女物のサイズの制服とかないかもしれないじゃないですか」

 

 

「やまだが入った時、制服のサイズいっぱいあるの見ました」

「!?」

ここにきて山田のファインプレーが炸裂する。山田がワグナリアに来て初めて人の役に立った瞬間である。

 

「か、カツラとか……も」

「あります」

山田の快進撃は止まることを知らない。

 

「他にも…」

「メイク道具や変装に使えるアイテムはほとんど持ってます」

「え、偉いなぁ〜山田は」

 

小鳥遊は山田の肩を掴みながら褒めるが、その手は血管がたくさん浮き出ている。確実にイライラしているご様子だ。

「やまだ、初めてたかなしさんに褒められました!」

 

「おい、あとは俺らに任せとけ五十嵐」

「さ、佐藤さんに相馬さん!?」

この女装企画の最高の適任者、相馬さんがいつも以上にニコニコしながらやって来た。

「相馬さん的には伊波さんが辞めることは都合がいいんじゃないんですか?」

 

「失礼な…。確かに苦手だけど、親の勝手で辞めるだなんて可哀想じゃない!それを防ぐには小鳥遊くんが女装するしかないんだし、こんな……こんな面白そうなことほっとけないよ!」

相馬さんはキメ顔でそう言った。

「それが本音ですか。本当にドSだなぁ」

「まぁまぁ小鳥遊くん。悪いようにはしないしないよ……さぁ、やっちゃおうか…」

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

伊波さんは出口の前で1人こじんまりと座り込んでいた。

いくら急用とはいえ、突然年下の男に女装してくださいなんて言ったら、断るのは当たり前のことだ。それは自分でもよくわかっていた。

さらに言えば、過去に女装絡みであまり良い思い出のない小鳥遊に言うのは、ひどいことだと言うこともわかっている。

(どうしよう……もういっそ)

「お父さんを始末するしか…」

 

「な、何を物騒なことを言ってるんですか伊波さん」

「た、小鳥遊く………ん!?」

「………なんとかなったみたいですけど」

そこには、ピンク色の長いカツラ、パッド盛り盛りのためそこそこ大きい胸、タイツで細さを見せている脚、とても男の人とは思えない美女っぷりをみせている小鳥遊がいた。

 

「今回だけですからね…」

伊波さんは小鳥遊の目を見たあと、目線を下にさげ、胸の方をじっと見つめる。

しばらく見ると、そのあと揉みしだく。

「どうしてこんなことに!?!?」

「どうしてでしょうねぇ…あと、ズレるので触らないでもらえます?」

 

 

 

 

「小鳥…ふふっ、小鳥s…ははっ、小鳥遊、くん。くくっ、小鳥遊くん。言い忘れてたことがあるんだ…はははははっ!」

「後で五十嵐さんは痛い目見てもらいましょうかね……!!!」

「女装した理由は伊波さんのお父さんにバレないため。と言うのはもうわかってると思うが、そろそろ伊波さんのお父さんがここに来るらしい。きちんと接客頼みます。とのことだ。もう伊波さんは胸さわさわしてて言いそうにないから俺から言っておくよ」

「あ、ありがとうございます五十嵐さん。それとこれとは別なので、後ほど覚悟しておいてくださいね!」

 

「全力で断る」

 

 

 

こうして、小鳥遊は女装する羽目になり、これからやって来る伊波さんのお父さんの接客をすることになってしまった。

小鳥遊は女装をバレるのか。それとも騙し通すことができるのだろうか。

 

 





気づいたら評価のバーに色がついていました。本当にありがとうございます!これからも頑張ります!

次回は伊波パパ参戦!どうする小鳥遊!

感想お待ちしてまーす!


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18品目 ことりちゃん

受験生なのに受験生って気がしない。



 

「平和だな。八千代」

「平和ですね。杏子さん」

 

ファミレス内で"裏"と呼ばれる場所で八千代さんは店長にパフェを渡していた。

すでにテーブルには5個ほどパフェに使う容器が置かれており、もうこれで6杯目だ。

6杯目にも関わらずペースが止まることがない店長は、珍しく店の異変に気づく。

 

「…つーか他の連中どうした?」

辺りを見ても誰もいない。いるのは目の前の八千代さんのみだ。

 

「そういえば見かけませんね…」

 

「すみません……フロア空けちゃって」

 

 

小鳥遊の声が聞こえると、店長はそちらの方を向く。

「………!?!?!?」

 

店長は口に含んだパフェを吹き出すと、店長は震え始める。

「た……小鳥遊かお前」

「ええ、残念ながら」

 

「宗太だから宗子ちゃんとでも呼んでやってくれ」

小鳥遊に続いて佐藤さんもやって来ると、さらに種島さんも戻って来た。

「やめて!かたなし君は伊波ちゃんのために女装してるの!ふざけて呼んだりしないで!!!」

「せ、先輩……」

 

種島さんが小鳥遊をかばうが…

「じゃあ小鳥遊だからことりちゃん」

「うむ!!ならよし!!」

あっさり言いくるめられてしまった。

 

「ことりちゃん。とりあえず……ホール出てみなよ……ププッ……アハハッ!」

あまりに小鳥遊の姿が面白いのか、五十嵐は小鳥遊を見ると必ず笑っている。

「五十嵐くん?これは一体…」

「松本さん。これはですね……かくかくしかじか」

笑い声を聞いてこちらに来た松本さんに五十嵐は全ての事情を話した。

 

 

「伊波さんのお父さんに嘘つくために小鳥遊くんが女装……。フツーじゃないわねそれ」

「逆に普通ならそれは恐ろしいことですよ」

「1つ思ったんだけど、いいかしら」

「どうぞ。笑ってあげてください」

「……例えば、私とかチーフとか、伊波さん以外の他の女子が小鳥遊くんのフリをすれば小鳥遊くんは女装する必要なかったんじゃない?」

「あーーーー……気づいちゃいましたか」

「五十嵐くん、知ってて何も言わなかったの?」

「相馬さんに口止めされました」

「相馬さんもあなたもひどいわね…」

 

このあと、五十嵐は松本さんに人に優しくしなければならないということに対しての説教を15分ほど受けた。

 

 

◆◇◆◇◆

 

「結局、俺が言った通りホールに出たのかことりちゃん」

「まだです。あとその呼び方やめてください」

「そうは言うがなことりちゃん、伊波さんのお父さんに会った時にバレたら元も子もないだろ。一応行って来たらどうだ?」

「それは確かに否定しませんけど、その呼び方やめてください」

「否定しないなら行ってきなよことりちゃん」

「……その呼び方で呼ぶなっつってんでしょーが!!!!」

 

ことりちゃんは「仕方ないか…」と呟きながらトボトボとホールに向かい、注文を受ける。

少しするとことりちゃんは行きよりゆっくり帰って来た。一体何があったのだろうか。

 

 

「…どうだった?」

「君、かわいいねって言われました」

「やったな。これで問題ないだろ。あとは伊波さんのお父さんを待つだけだな!」

 

「そういえば、伊波さんのお父さんはどんな人なんですか?」

裏でずっと待っている伊波さんに聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。

なんと伊波さん、お父さんの顔を覚えていない。試しに紙に描いてもらうと、その紙に描かれていたのはへのへのもへじだった。

「マジで覚えてないんですか?」

「10年以上会ってないし、誕生日プレゼントとかくらいしか接点ないし……興味ないし」

 

「段々お父さんがかわいそうに思えてきた」

「親不孝者ですね…」

 

 

 

このあとしばらく待っても伊波さんのお父さんは来ない。

時間は昼を過ぎ、客もだんだん少なくなっている。元々客はほとんどいないのだが。

 

「もうやだ……やめたい」

ことりちゃんは昼過ぎからずっとこれだ。壁を見ながら1人どよーんとしている。

そんなことりちゃんを慰めようと、相馬さんが召喚される。ついでに五十嵐も召喚される。

「まぁまぁ落ち着きたまへことりちゃんよ」

「そうそう、弱気になっちゃダメだよことりちゃん!」

 

「あんたらが俺を弱気にさせるんだろ…!」

「君なら完璧な女の子役が出来るはずだよ!」

「できたら困るんですよ!」

「じゃあ、自信が持てるように………」

 

 

 

相馬さんがことりちゃんに何かを見せると、ことりちゃんは突然やる気になっていた。なぜか涙を流しながら。

 

「あ、誰か来た」

 

五十嵐がその人を席に案内すると、伊波さんはじーっと見つめる。

「もしかしたら……あの人が私のお父さん、かな?多分、きっと、おそらく……。間違ってたらごめんね?」

「俺より先に自分の父に謝ってくださいよ」

 

「…あの客、周りをジロジロ見てるし、伊波さんのお父さんなんじゃないのか?なんかゴルフクラブを入れるケースみたいなの持ってたけど」

「ゴルフの帰りとかなんじゃないですか?」

「まぁいいや。ほれことりちゃん、行ってらっしゃい」

「…何事も無ければいいですけど」

 

 

ことりちゃんは伊波さんのお父さんであろう人にお冷を渡すと、その人は早速ことりちゃんに声をかけた。

「あの、こちらに小鳥遊という子がいると思うのですが…」

「小鳥遊は私ですが(超裏声)」

「そうか…本当に女の子なのか……」

 

伊波さんのお父さんはゴルフバッグのチャックを開け、中に入ってたブツを取り出し、安堵する。

「……よかった」

 

ブツは、猟銃のようなものだった。

(俺も女装しといてよかった……というか、何狩りに来てんだよこの人)

 

 

 

「なんか物騒なもん持ってんぞ伊波さんのお父さん。しかもなんか笑顔だし、殺意的な笑顔なのかあれ」

「えぇぇえ!?でも偽物じゃないの!?」

 

種島さんが想像以上に驚いている。それもそうか。普段見ないものを持っているのだし、驚くのも当然か。

 

「話の内容がわかんないから何とも言えんな」

「やまだ、こんなこともあろうかと小鳥遊さんの制服にマイク付けときました」

「お前一体何者だよ」

 

 

 

 

「初めまして、伊波まひるの父です。娘がいつもお世話になってます…」

「初めまして、小鳥遊…です。あの…それは」

 

ことりちゃんは猟銃のようなものを指差し、それが一体なんなのかを聞く。

「ああ、驚かせてしまってすいません。これは偽物です。けどこれで殴ったら痛いよ」

 

(そーゆーことじゃねぇぇ!!)

 

 

「……あの、娘は元気ですか?」

話が突然変わるが、ことりちゃんはそれに動じない。

「はい。元気ですよ」

「ひとり娘なのでものすごく可愛いんですが…単身赴任で滅多に帰れないし、会っても殴られてぜんぜん生身を見てなくて…。あぁ、まひる…」

(当の本人は父親の顔すら覚えてないんですけどね……)

「小鳥遊さん、随分と背が高いですね。まさか女装していたりして〜」

と笑いながら銃口を向ける。いくら偽物とは言え、銃口を向けられたら驚く。

ことりちゃんの顔はどんどんと青ざめていく。

 

 

「失礼なこと言わないで!小鳥遊さんは女の子よ!!!」

「まひる!?今日はバイトじゃないって聞いたのに…」

 

ことりちゃんはものすごいタイミングで来たなと驚いているがそれもそのはず。山田が用意した盗聴器で会話を全て聞いていたからドンピシャのタイミングに合わせることが可能なのだ!

だがことりちゃんはそのことを知らないので、何が何だかわかっていない。

 

「あ、遊びに来たんですよ!仲良しだから!」

と、ことりちゃんは伊波さんと肩を組む。

予想外の行動に伊波さんは悲鳴をあげかけるが、ことりちゃんが口を塞ぐ。

「…悲鳴上げないでください。バレるじゃないですか」

「んん……」

 

「まひるかわいい……」

(あ、聞いてないや)

伊波さんのお父さんは上の空状態になっている。

 

「はっ、私としたことがうっかりまひるを眺めていました…申し訳ない。確かにこれを見る限り小鳥遊さんは女ですよね。うちの娘がこんなに男とくっつけるわけないし…」

「あははは…」

 

「もし男だったら…」

突然伊波さんのお父さんは立ち上がり隣の客に銃を向ける。

 

「こうなって」

肩めがけて銃を振り下ろし、

「こうですから」

銃口を頭に向ける。

 

客はただただ怯えている。それも仕方ない。伊波さんのお父さんの事情なんて知らないしただの他人なのだから。

「おおおおおお客様に迷惑かけないで!!!!」

 

ことりちゃんは客に謝り、会計をことりちゃんが済ませると言った後客は怯えながら帰っていった。

「大体、娘のバイト先にこっそり来ないでよ!私がどこで何をしようと私の勝手でしょ!もう嫌い!!!!」

 

伊波さんはプンスカと怒りながら裏へ帰ってしまった。

「まひる…」

伊波さんのお父さんはものすごく哀れだが、それでもなお「怒ったまひるもかわいいな…」などと言っている。

 

 

「……大丈夫ですか伊波さん」

「もうお父さんなんて嫌いよ…」

「こりゃひどい親バカですね。伊波さんが可哀想に見えてくるレベルですよ」

「五十嵐くんはこーゆーことあるの?」

「うちに父親はいません。一番下の妹が生まれる前に事故で亡くなりました」

「えっ、あっ、ごめんね」

「謝らないでください。あの人の死に方は非常に笑えるレベルだったので、そんなしんみりされても困るんです」

「……?」

「俺の親なんかどうでもいいんですよ。ほら、ことりちゃんとの会話聞きますよ」

 

 

 

 

 

「…伊波さんは幼少期に言われた一言で男嫌いになったと伺いましたが…」

「ああ、小鳥遊さんもその話ご存知でしたか。でもね、一言だけでそんな男嫌いになると思います?」

「……え?」

「十数年の積み重ねです。プレゼントで渡す本やDVDに出てくる悪役は全部男。会談や行事で出てくる悪いものは全部男、さらに男を殴る腕力をつけさせるためにバックの中には重りを仕込んでいます」

普通に話しているが、内容は明らかにおかしい。トラウマを植え付けるような行為に見える。

伊波さんのお父さんは娘を溺愛し過ぎて、良からぬ方向へ向かって行ってしまっている。それでは娘から嫌われるのも無理ない。

もはや親バカを通り越してバカ親だ。2つの意味は全く違うが、そんな風に思えてきた。

 

 

 

 

「……って、マジかよ。伊波さん、もしかして…」

「え?でもこのカバンすっごく軽くて…」

 

ドスン!と金属が当たる音が聞こえた。

伊波さんのカバンの中からは鉄板が出てきて、五十嵐がそれを持ち上げようとするが、結構重い。

男で思いと言っているものを軽々と持ち上げてしまうほどの腕力、これも全てお父さんが仕組んだことなのだ。

 

「とにかくまひるには男を近づけさせませんよ!一生!!!」

 

 

 

 

 

「……………ふざけるなよ。この大バカ親」

ことりちゃんはいつもの小鳥遊くんのトーンで静かに怒る。

「あんたのその妙ちきりんな育て方で、伊波さんがどれだけ苦労してるのかわかってるのか!

愛情注ぐのはいいが、子供は親の所有物じゃないんだぞ!ちゃんと考えて育てろ!」

 

(な、なんか男前だこの子……)

「あっ…はい。すいませんでした」

 

「『俺』に謝るな!伊波さんに謝れ!会って殴られるなら手紙でもなんでもいいから謝罪しろ!……返事は!」

「は…はいぃ!」

「わかったら即実行!今日はこのまま家に帰れ!」

「はいいいいい!!!!」

 

最後の方は小鳥遊が出てしまったが、伊波さんのお父さんはそんなことよりも説教が正論すぎてただ聞くことしかできず、挙句帰らされる羽目になっていた。

 

伊波さんのお父さんが帰った後、伊波さんはボーッとしていた。

「あれ……伊波さん?」

「………」

 

 

顔は真っ赤で、頬を抑えながらただ小鳥遊を見ている。

(おっとこれは……)

 

(((完璧、惚れたな)))

 

種島さん、山田、五十嵐の意見が一致した瞬間である。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「なんて言うか、勢いで説教してしまい、伊波さんのお父さんには申し訳ないと思いました…」

「いいんじゃないか?流石にあれはヤバいし」

全てが終わり、休憩室で五十嵐と小鳥遊が話していると、伊波さんがやってきた。

「あ…あの…」

「伊波さん…?」

 

 

「その…えーっと……あり、がとう。小鳥遊くん……」

顔を真っ赤にしながら、さらに頭から湯気が発生しながら涙目で言うと、小鳥遊は「伊波さんが怒ってる…」と怖がっていた。

 

「怒ってないでしょ。一応嘘は貫き通せた訳だし、な?」

 

 

ここから、伊波さんの恋物語が始まる。

この先────と言うか、明日からどうなるかは、もうすでにわかりきっている。

 

小鳥遊は、いつも通り殴られる日常。

伊波さんは、愛情表現と言う名の暴力を振るう毎日。

こんなすれ違いラブストーリーが明日から始まると思うと、五十嵐は頭がおかしくなりそうだった。

 

 

 

 




最近この作品を見てくれる方が増えていて嬉しいです。
しかも評価もしてくださるなんて…最高です!

次回は、アニメオリジナルストーリーの話でも書きましょうかね…。それか五十嵐家の日常とか…?

あ、気になることが1つ。
ここでのアンケート行為は禁止とのことなので、活動報告でちょっとしたアンケートをとりたいと思っています。
参加してもらえると嬉しいです。


またのご来店、お待ちしております!


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サイドメニュー 燃えろRPG 前編

突然書きたいと思ったから書いただけです。過度な期待はしないでください…。(この話は完全にネタです。本編じゃないです。佐藤さんがいつもの佐藤さんじゃない可能性があります。ご注意を)



五十嵐がバイトを始めて数ヶ月、一応店の人とは話せるようになったが、どうしても話す時間がない人が1人だけいた。キッチンの佐藤さんだ。

五十嵐はホールで佐藤さんはキッチンと、関わる場面は多いはずだが、実際はあまり会話はない。

ある会話は、「これできたぞー。持ってけー」に対して、「はい」と言うくらいだ。あとは他の人と一緒にいるときなどがあるが、2人きりでの会話はほとんどない。

うちの店はキッチンの人数が少ないため、五十嵐と一緒の休憩になることも少なく、会話する場面があまりない。

なんとか仲良くしたいと思っていた五十嵐は、なるべく早くバイト先に行って佐藤さんと会話する練習をしようと考えた。

 

 

会話練習をしようと決めた日、ワグナリアの開店前の休憩室には、すでに制服に着替え終わっていた佐藤さんが、たばこを吸っていた。

(まさか会話の練習しようとした次の日にご本人がいるとは…)

 

「お、おはようございます」

「おう」

 

会話が途切れた。

 

 

「………」

「……フーッ。とりあえずテレビつけるか。まだ開店まで時間あるだろ」

「そ、そうですね」

 

佐藤さんがなんとか会話を途切れないようにフォローをしてくれた。なんと優しい人だ。

 

 

「…ところで五十嵐。なんでお前こんな早く来てんだ?俺は仕込みがあるから早く来たが、お前は特になにも用はないだろ」

「あー、たまたま早く目覚めてしまって、早く行こうかなー、なーんて思って…」

「そうか」

 

と、佐藤さんは立ち上がり、テレビの下の棚を開け、ごそごそと物色していた。

 

「あのー、なにしてるんですか?」

「いや、なんか暇潰せるもんねーかなって」

「なんで突然…」

「あんま五十嵐と2人きりで話す場面もなかったし、ここらでちょっと仲良くなっとこうかなって」

 

まさか、佐藤さんも同じことを考えていたとは思ってなかった。やはり佐藤さんはいい人だった。

 

「……なんだこのゲーム。『WORKING HEROS』だとよ。こんなのあんのかよ」

「俺も初めて聞きましたよそのゲーム」

「しかもそれに必要なゲーム機もあるし、とりあえずやってみるか」

「え!?いいんですかバイト前なのに」

「店長は店のもん食う以外で怒ることはねぇ。万が一種島に怒られてもなんとかなる」

「それは……本当になんとかなりそうですね」

 

佐藤さんに言われるがまま、WORKING HEROSというゲームをやることになった。

昔のゲームだからか、ドット絵だしド○クエのようなド定番のRPGだった。

だが、ド○クエとは全く違う点があった。

 

「なんだこれ」

「選べるキャラが…うちの店のバイトメンバーじゃないですか!?」

 

タネシマ・・・魔法使い、MPが高い。(小柄なので)回避力も高い

キョウコ・・・ヤンキー、攻撃力が高い、スタミナ消費が激しい。

ヤチヨ・・・武士、全体的にバランスがいい。

イナミ・・・武闘家、攻撃力が全キャラトップ。ただし男にしか攻撃出来ない。

マツモト・・・魔法使い、ステータスは普通。

タカナシ・・・マジシャン、女装ができ、男も女も魅了できる。

サトウ・・・料理人、足技が得意。

イガラシ・・・学者、かしこさが全キャラトップ。

ソウマ・・・占い師、先頭には参加できない。

ヤマダ・・・放浪者、ステータスは全キャラ最下位、運はマイナスでカンストするレベル、嘘系技能は全キャラトップ。

オトオ・・・神父、慈悲の心に満ち溢れており、どこかの世界線でエセ神父と呼ばれてるマスターよりも神父っぽい。

 

 

「しかもドット絵も若干似てる…!なんなんですかこのゲーム!」

「相馬が使い物にならねーぞ」

「なんで佐藤さんはやる気になってるんですか!」

「どうする。パーティーは3人までだ、2人で6人、誰を選ぶ五十嵐」

「だからなんで佐藤さんはやる気になってるんですか!?」

 

 

佐藤さんはものすごくやる気に満ち溢れているが、五十嵐はそこまでやる気にはなっていなかった。

ゲームはほとんどやったことないし、それが理由で佐藤さんの足を引っ張ったりなどしたくないと思ったからだ。

 

「いえ……俺は見てるだけでいいですよ」

「お前、ゲームとかしないのか?」

「…はい。全く」

「ならいいぜ、俺と一緒にやってくれよ。いい大人が1人でゲームしてるのは絵面的に変だ。五十嵐とやればなんの問題もないし、怒られることもないだろう」

 

 

「おい、お前ら何してる」

 

キャラ選択をしようと1人目のキャラのアイコンを押そうとした瞬間、店長がいつも通り仁王立ちで現れた。後ろから八千代さんも顔を出した。

 

「…五十嵐、今日はたまたま休憩が同じだ。そん時までに3人のキャラ選んどけ」

「え!?あっ、はい」

 

 

それから五十嵐は考えていた。どのキャラでゲームを進めていくのかを。

五十嵐はゲームをしたことがないので、ここはサポートキャラに徹するのが無難だ。と自分で思っている。

ソウマ、ヤマダは先頭向きではないため、ここはタネシマ、タカナシ、イガラシを選ぶべきだろう。

(いやまて……ゲームは楽しむものだ。人の空気を読んでやるものではない。佐藤さんはこれを機に仲良くなろうと考えた上でこれを一緒にやろうとしてるんだ。だったら、俺は……その期待に答えるしかない。ここは……!!!)

 

 

昼に入り、佐藤さんと五十嵐は休憩に入った。

休憩室に着いた瞬間佐藤さんはゲーム機とテレビの電源を付け、WORKING HEROSを続きから始める、で起動した。

 

「…佐藤さんはキャラ選びました?」

「もちろんだ。五十嵐も当然選んだんだよな」

「はい」

 

2人は無言でキャラを選択する。するとここでまさかの事態が起こる。

 

「え、佐藤さん……なんでオールサポートパーティーなんですか!?」

「お前はゲーム初心者だから、回復とかそういったのをまだ理解してないだろ。そーゆー細かいのは俺がなんとかするから、お前はやみくもに攻撃してろってことだ」

 

佐藤さんのパーティー

・タネシマ

・イガラシ

・サトウ

 

五十嵐のパーティー

・イナミ

・キョウコ

・ヤチヨ

 

という結果になった。果たして2人はこの休憩時間内に、ゲームをクリアできるのだろうか。

 




五十嵐くんと佐藤さんが2人きりになる話があまり無いなと思い書いた次第です。佐藤さんの幼少期の話でゲーム機を持っていたのでゲーム好きなのかな?と、勝手に考え、それっぽい話を書きました。クオリティは低いですが…w
次回はその続きor本編です。

またのご来店、お待ちしております!
(最近たくさん評価貰えて大変嬉しいです!ありがとうございます!)


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19品目 みんなで温泉へ行こう

レポート終わらなさすぎて死にそう




 

土曜の夜、そろそろバイトが終わりそうな時間帯に、ワグナリア近くの排水管から大量の水が噴き出した。

その後、店にいるメンバー全員が裏に集合し、チーフの八千代さんから話があった。

どうやら壊れた排水管の工事をするのに明日丸一日かかるそうで、その際ワグナリアの水が一切使えないらしい。

つまりワグナリアは営業することができないので、明日は臨時休業となる。

週7で働いている五十嵐と小鳥遊には久しぶりの休日がやってきた。

「明日は臨時休業……つまり、やまだはひとりぼっちと言うことですか!?」

 

「そうなるな」

「朝ごはんも1人、昼ごはんも1人、晩ごはんも1人!やまだやりたい放題です!」

「お前は明日ずっと屋根裏にいろ」

「店の食い物に手を出すとは許さんぞ。店の食い物は私のものだ!」

「客のもんだ」

 

相変わらず佐藤さんは冷静につっこむ。

そんな姿を見ていた種島さんは、ある事を考えた。

 

「……そうだ!!」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「やまだはひとりぼっち……やまやまやま」

意味不明な泣き方をする山田の元に、制服姿に着替えた種島さんが山田に話しかける。

「葵ちゃん!明日私と温泉行かない?もちろん伊波ちゃんも!」

 

「えぇ!?」「山田行きます!温泉行きます!」

と2人は同時に反応する。

「ついでに五十嵐くんも行かない!?」

 

「何故に俺を?こーゆーのは女子たちが行くべきでは?流石に女3:男1は絵面的にも俺の精神的にもクるものがあるんですが」

「かたなしくんがいるじゃん!」

「かたなしくん、来るんですかね」

 

 

 

 

 

「え?俺ですか?先輩とか伊波さんも行くんですか…?」

「そうらしい。で、俺も誘われたってわけ。小鳥遊行かないなら俺行かないんだけど、行く?」

男子更衣室では着替えながら小鳥遊と五十嵐が話していた。

そこには佐藤さんも相馬さんも一緒に着替えていた。

「いいじゃん。行きなよ小鳥遊くん」

「そういう相馬さんはどうです?どうせ暇でしょう」

「ひどいな…確かに暇だけど」

 

「俺はパスだ。借りたDVD返さにゃならんのでな」

「轟さんの風呂上がりの姿見れるよ?」

「うるせぇ」

 

ドスッ!と大きな音が男子更衣室中に響いた。

相馬さんはお尻を抑えながら小鳥遊、五十嵐にも話をふる。

「五十嵐くんは松本さん誘えばいいじゃん!」

「…いや、俺は男1人っていう状態が嫌なんですよ。相馬さん来てくれるなら行きますよ?」

「んー……行けたら行くかな!」

「それ絶対行かないやつですよ」

「小鳥遊くんは?やっぱり家事で忙しかったりするの?」

「いえ、明日は日曜ですし、特に忙しくはないんですが、梅干しを干すのに適した天気なので…」

 

「…伊波さんは小鳥遊をご指名だが?」

「え…なんで」

 

温泉街は男の人がいるから、小鳥遊を犠牲にすることで他の人への被害を最小限にするという建前で、本音は好きな人と一緒にいる時間を少しでも作りたいと言ったところだろうか。

だがそれを小鳥遊に思いっきり言うことはできないので、オブラートに包んで包んで包みまくることにした。

「…伊波さんの暴走を防ぐため?」

「余計嫌ですよ」

 

 

「でも、伊波さんが温泉行くって言って男の人見つけたら手当たり次第殴って行くよ?」

「そんなの…五十嵐さんが止めればいいじゃないですか」

「無理、死んじゃう。命が何個あっても足らない」

 

「とにかく、俺は行きませんよ」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「松本さん、明日みんなで温泉行くらしいんですよ。よかったら行きます?」

帰り道、いつも一緒に帰っている松本さんに明日のことを話した。

松本さんは明日は特にやることがないからいいわよ、とサラッとOKをした。

こうなってしまえば、五十嵐は明日男が来なかろうが行かなければならなくなった。

 

「どうしましょう。種島さんたちは店長の車で行くらしいですけど、人数多くて多分俺たち入らなさそうです」

「ならバスで行けばいいじゃない」

「なるほど。じゃあバス停集合で」

「わかったわ。じゃあまた明日ね」

「はい。また明日」

 

相馬さんよ。頼むから来てくれ!と本気で祈りながら五十嵐は床についた。

 

 

 

 

 

次の日、小鳥遊は朝早くに起きると庭に出て梅干し作りを始めようとしていた。

始めようとはしたものの、脳内に伊波さんのことがちらつく。

 

(確かに五十嵐さんの言う通り伊波さんに何の護衛もつけず外に行かせるわけには行かないけど、何で俺なんだ?でも俺じゃないと止められなさそう。いや、うーーーん…)

 

「お兄ちゃん。行ってきなよ」

 

後ろから小鳥遊家の末っ子のなずなが肩をポンと叩く。

「なずな!?」

「梅干しのことは大丈夫。なずな何年もやってきてるし、1人でもできるよ。それよりバイトの人たちとお出かけ行ってきなよ」

 

「……ありがとうなずな、俺行ってくるよ」

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「……あれ、五十嵐さんに、松本さん?」

「よぉ。一緒に行こうぜ小鳥遊」

「あ、小鳥遊くん結局来たんだ」

「相馬さんも来たんですね。てっきり来ないと思いました」

 

 

4人が集まると、いいタイミングで温泉街行きのバスがやって来た。

「じゃあ行こうか」

 

 

 

 

一方、種島さん達は店長の車を待っていた。

 

「店長来ませんね…」

「これは確実に寝坊ですね」

「杏子さん…」

「とりあえず電話したらどうでしょう…?」

 

「それがいいんだけど…私、ケータイ持ってないの」

 

八千代さんは種島さんにケータイを借り、店長に電話するが店長は電話に出た後すぐに切ってしまった。

「杏子さん、完全に寝てるわ…」

 

 

「ど、どうしよう…。これじゃあ何もできないよ!」

 

 

 

4人が半分諦めかけていると、見覚えのある車が通った。

 

「…あれ、お前らここで何してんだ?」

「佐藤さん!佐藤さんこそ何してんの?」

「俺は借りたDVD返しに行く途中だよ」

 

「佐藤さん!ここで会ったが100万年目!やまだたちを温泉街まで連れてってください!」

「おい……それやめろ」

 

山田はボンネットに大の字でへばり付き、ジーッと佐藤さんの方を見つめる。

 

「はぁ…わかったよ。けど、伊波のことしっかり守ってろよ。車内で殴られたらお前ら死ぬぞ」

「わかったよ!」

 

仕方なく佐藤さんは4人を連れて温泉街へ車を走らせた。

 

 

 

 

一足先に温泉街に着いた五十嵐たちは、種島さんたちの捜索に向かった。

「今種島さんに連絡したけど、佐藤くんの車に乗ってて、佐藤さんの車がガス欠になって、そしたらいいタイミングで店長がやって来て、店長の車で現在温泉街へ向かってます!だってよ」

 

「ならまだ来てないんですね」

「いや、これ見たのさっきで、届いたのが15分くらい前なんだよね」

 

「じゃあ結局探さなきゃいけないじゃないですか!」

「すぐにわかるんじゃない?」

 

 

相馬さんは楽観的に考えているがそれは間違っていなかった。

よく考えればわかる話だ。伊波さんは男性恐怖症で男を見たら殴りたくなってしまう。しかも大声をあげる。

そんな人が近くにいたら、気づかないはずがない。しかもそれをほぼ毎日聞いてるのであれば、見つけるのは容易だ。

 

「とりあえず、悲鳴が聞こえたところに向かうのが一番いいかと」

「ですね」

「……ものすごい見つけ方ね」

 

 

 

 

 

 

「キャアアアアアア!!!」

 

相馬さんの言った通り、伊波さんはすぐに見つかった。

 

「あ!見つけた!」

「小鳥遊!逝ってこい!!」

 

「ったく……!!!」

 

 

小鳥遊は伊波さんの近くにいだ男性の間に立ち、自ら伊波さんのに殴られに行った。

「あれ…?なんだろうこの殴り慣れた感じ…」

 

「そりゃ…俺ですもん」

「小鳥遊くん!?」

「あれ!?かたなしくん、来ないんじゃなかったの!?」

「野放しにして、よその人に迷惑かけるわけには行きませんし」

(なんで動物扱い…)

 

伊波さんはこの後も男の人にぶつかり、殴りかかりそうになるが、小鳥遊がマジックハンドでそれを止め、人気のいないところへ連れて行ってしまった。

 

 

「さすが小鳥遊くんだね」

「伊波ちゃんのことはかたなしくんに任せておけば安心だね!」

「そしてやまだはそうまさんにお任せ!そうまさん!やまだお腹すきました」

「少し早いですけど、お昼にしましょうか」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

ここからなぜか別行動になってしまった。

店長は八千代さんと食べ歩きに行ってしまい、相馬さんは種島さんと山田と一緒に食べに行き。そして最後に自然と2人になった五十嵐と松本さんが今どこの店で食べるか迷っているところだ。

 

「どこで食べます?」

「あそこで食べない?」

松本さんが指さした店は、海鮮丼が売られている店だった。

特に反対する理由もないので、そこの店で昼食を取った後、相馬さんたちと合流した。

 

「やぁやぁ。デート楽しかった?」

「デートって…、ただ2人でごはん食べただけですよ」

「それをデートと言わずになんだというのかね!どうだった?進展あった?」

「進展も何も、始まってすらいないですよ」

「いずれわかるよ…」

「……はい?」

 

 

 

このあと特に目立ったことはなかった。

顔が腫れまくっている小鳥遊と合流し、足湯に入った。どうやら伊波さんの家は門限があるらしく、そろそろ夜になって来そうなので他のメンバーも帰ることにした。

行きと同じように、種島さんグループは店長の車で帰り、五十嵐グループはバスで帰ろうとした。

 

のだが、佐藤さんの車が五十嵐たちの前で止まった。

 

「お前ら、来てたのか」

「ええ」

 

「他の連中は…その様子だと帰ったか。まぁいい、乗れ」

「はーい」

「運が悪かったなー佐藤くん。轟さんたち、一足違いで帰っちゃった!……ど」

 

相馬さんが何かを言おうとした時には、佐藤さんの車は発車し、Uターンして相馬さんの方へ向かうが、相馬さんを無視してそのまま進んでしまっていた。

 

「あれ〜?」

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてから結局佐藤さんは相馬さんを乗せ、帰って行った。

 

「なんか、このメンバーが集まるだなんて珍しいな」

「だね〜。松本さんがいるのが何より意外だよ」

「べ、別にいいじゃないですか!みんなでどこか行くくらいフツーですよ!」

「ふつーといえば五十嵐くん。ここであえて言わさせてもらうけど、五十嵐くんの女性のタイプってどんな人?」

 

 

突然何話して来たんだよこの人!と思った五十嵐だが、恥ずかしがることなくサラッと話した。

「年上ですかね。小鳥遊と違って年上、高身長がいいです」

「小鳥遊くんは、小さいものがあればものすごい可愛がるけど、五十嵐くんもそーゆー感じ?」

「違いますかね。俺はどっちかというとじっと見てるタイプです。自分から迫るんじゃなくて、来るのを待つ、的な感じです」

「つまり変態ってことだね!」

 

「なんでそうなる」

 

 

ただ女性に話しかけるのが恥ずかしいから、じっと見ることで話しかけて来るだろうという考えのどこが変態なのだろうか。どう考えも小鳥遊くんの方がアウトな気もするが、これ以上相馬さんに行っても返り討ちにあうだけだと思いこれ以上は何も言わないことにした。

 

「五十嵐くんは小鳥遊くんの正反対!小鳥遊くんがミニコンなら、五十嵐くんはデカコン!小鳥遊くんが小さいものを見てなでなでしたり触りながら愛でるのに対し五十嵐くんは触らずただじっと見つめながら愛でる!どっちも変だね!」

「「……やめてください!!」」

 

 

 

 

「まぁ、人によって趣味も様々だし…いいんじゃないかしら」

明後日の方向を見ながら松本さんが言うと、余計悲しくなって来た。

「それやめてくださいよ!なんか悲しくなります!」

 

(なんで、ここの店ってフツーの人が私くらいしかいないのかしら。結局五十嵐くんも…)

 

夕焼けを眺めながら、物思いにふけっていた松本さんであった。

 

 

 




アニメ版でやってた小鳥遊くんと伊波さんとのデートシーンはばっさりなかったことにしましたが、今後2人のデートとかを書く予定なので勘弁してください。

次は時期的にテスト話か体育祭的な話を書きたいと考えてます。(作者は温泉街の話は5月から6月くらいに起こったことだと思ってるから)
体育祭なら、他の学校と同時開催して、2つの学校が争う…とか面白そうですよね。やるかはわかりませんがw

またのご来店、お待ちしております!


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