とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》 (丸焼きどらごん)
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1ページ目 惑星ベジータ~ニートって呼ぶな

スナック菓子感覚でさくっとどうぞ。基本軽いノリで満足するまでさくっと進む予定です。


○月×日(地球暦を採用)

 

 今日から日記をつけ始めることにした。と言いつつも、今現在居る場所は紙媒体というものが少ないので電子機器に記録している。現状の私ではペンを握ることが難しいのでありがたい。

 まずは現状の記録から始めることにしよう。何故なら、この日記の目的とは自身の状況の把握であるからだ。

 文面としては冷静を装っているものの、今の状況に陥ってから私は常にパニック状態と言ってもいい。本当にまるで意味が分からないので……長々と書き始めると要領を得ないな。うん、まずは現状の記録だ。どんなに馬鹿げていても目をそらせない現実なのだからまず書こう。もうすでに目に見える形で書くのを嫌がっている自分がいるが、とにかく書こう。

 

・今の名前:ハーベスト

・今の性別:女

・今の年齢:2歳

・今の地元:惑星ベジータ

・現在の状況の予測:ドラゴンボールっぽい世界に居る。死んだ覚えもないのに気づいたら赤ちゃんになっていた。

 

 はっはっは

 

 笑えよ…………………………笑えよォォォォォォォ!!!!!

 

 

(空白)

 

 

 おっと、音声入力なのを忘れていた。つい叫んでしまって恥かしい。まあ自室だし問題ない……信じられるか? 2歳の時点でもう一人部屋なんだぜ。さすが生まれてすぐに別の星に左遷させる種族だよ。

 さて、今の、としつこく名前や年齢の前に着けていたことについてだけど、私はもともと地球生まれの日本人、それもこの世界に酷似した漫画を観測する次元にいた人間だ。戦闘民族サイヤ人だとか、惑星ベジータだとか、ベジータ王だとか、戦闘力53万でおなじみのフリーザ様だとかとかとか……日本人だったころ耳に馴染んだ単語が飛び交い、実際にそれを目にすることのできる世界がこの場所だ。漫画に酷似した異世界だとか、以前住んでいた世界から続く別の宇宙とか星だとかそんな可能性は考えても答えは出ないので乳幼児の時に放り投げている。

 

 先日、弟が生まれた時点で「もうドラゴンボールでいいや」ってなった。弟? 皆のアイドルベジータ様だよ。プライド高くてお好み焼きが作れて主人公のライバルで愛妻家で歌って踊れてビンゴを盛り上げるスキルもあってツンデレで強くて遊園地に子供を連れてく約束とか守っちゃう所もあってとにかく色んな意味でファンの心をつかんで離さないベジータ様だよ。読んだの昔過ぎて結構話を忘れてる私でさえちょっと思い出すだけで山のようにエピソードが出てくる人気者さ。

 つまり私はサイヤ人の王様、ベジータ王の第一子である。ぷりんせすである。知ったとき目が死んだのである。

 ここまで書くだけで気力がごりごり削られていく。今日はもう寝よう。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

▽月□日

 

 あた~らし~い、あ~さがきったッ、ぜつぼ~うの、あ~さ~だッ

 

 私の一日はこの歌から始まる。

 日記をつけ始めて1年が経った。生まれて? からは3年だ。

 ベジータはすくすく成長している。そしてやはり天才か、もうすでに頭角をあらわしている。無駄だと思うがつっこんでいいかな? 1歳児に戦わせんなや。いや私もやらされたけどね? つーかベジータ君や、お姉ちゃんの肩身が狭くなるからあまり早々に才能を発揮しないでくれんかね。

 私はと言えば、一応訓練は受けているものの仕事(宇宙の893なアレな)に出されることは全力で避けるようにしている。星どころか人一人も殺せるわけないだろう。心情的に出来ないし、あの世が存在していて地獄に落とされるのが確定する行いを誰がするか。

 だからベジータくん、あんまり早く働きだして姉の私の肩身狭くなることは出来るだけ遅くしてね。

 働いたら負けだと思ってる。まさかこのセリフを堂々と使っても恥じることのない日がくるとは。

 

 

 

 

×月◇日

 

 最近3歳になった弟の目が私を蔑む目になってきた腹立つ。なんだ、自分はもう仕事してるってか。私はニートってか。サイヤ人の聖人とか菩薩とか言われてもいいはずの優しい私をニート扱いか。

 ちょっと訓練に本気出す。私だって才能だけはあるんだぞ。血筋はエリートなんだからな!

 

 ちなみにちょっと前、もう一人弟が生まれた。ターブルたん可愛いよターブル。まだ幼いけどベジータと違って間違いなく素直であろうことが伝わってくる。ここ最近の私の癒しである。

 

 

 

●月△日

 

 最近周りが働けと煩い。

 生意気な弟を倒すためだけに訓練に熱を入れていたら戦闘力が9000を超えてきたことが原因らしい。というか、あからさまに馬鹿にされたのでつい腹立って弟をフルボッコにしてから今まで放任だったくせに一気に煩くなった。おかしいな、サイヤ人の女性はかなり少ないからもっと箱入りにして優しく扱ってもらってもいいはず。あれ、しかも王女だよね私。もっと大事にしろよ、大事にしろよぉぉぉぉ!!

 

 ここで私はひとつ対策を立てる。そう、それは脳筋ばかりのサイヤ人の中でインテリ系を目指すことだッっ! もともと名前をまんま受け継いだことから察せられるようにベジータがベジータ王になるのは確定している。だったらそれを支えるのが姉であり王女である私の務め云々言って誤魔化してやる。仕事の実践を積むのはまだ後で出来るから今は知識を蓄えたいとか何とか言って勉強するんだ。脳筋が多いサイヤ人の中では頭脳チームは貴重だからな。戦闘力が低い人が付く確率が高いから馬鹿にされがちだけども。

 それにしても、次男ってことを抜きにしても性格的な面で次期王レースからすでに外されてるターブルだけど戦闘センスはかなりあると思う。そのうち辺境惑星に送られるはずだし、なんとかそれについていけないものか。苦労もあるかもしれないが、地球の死亡フラグに比べればそんなものちり芥に等しい。

 うん、ベジータがすくすく成長するにつれて最近よく考えるんだ。惑星ベジータご臨終っていつだっけって。そろそろ焦らないとまずいかもしれない。

 ちなみにフリーザ様には出来る限りゴマをすっている。惑星ベジータ滅亡の時、珍しい頭脳タイプのサイヤ人ということで生き残らせてもらえる程度には保険で好感度稼いどきたい。

 

 

 

 

 

□月○日

 

 現在、私6歳。最近主人公の親父を発見。様子がおかしくなるのを見逃さないためがっつり監視を始める。未来が見える術をくらう星の名前は忘れたからとにかく彼の反応だけが頼りだ。

 とりあえず感想。バーダックさん格好いい。ワイルドだぜ。ギネさん美人。こんな美人な母がいたとか新事実だぞカカロットォ……。ラディッツ可愛かった。なんや、弱虫とか言われて涙目になっちゃうとか可愛いやろ。ただでさえ生意気な弟に慣れてる上に、エリート戦士の子供は生意気なのが多くて鼻につくので普通の反応がくっそ可愛い。

 

 

 

×月▽日

 

 ターブルが辺境惑星に送られてしまった。直前まで駄々をこね、こっそりついていこうともしたが阻止された。無念。

 

 

 

●月□日

 

 最近癒しに飢えて我慢できずにちょっとだけラディッツにかまったら怯えられた。何故だ。

 

 

 

ζ月◎日 惑星ベジータ滅亡日

 

 ついに来てしまった。私7歳、ベジータ5歳である。

 惑星プラントを奪ってからの、サイヤ人王家の短い栄華であった。今までの所業が所業なので、フリーザ様は別にするとして自業自得だったと思う。まあ今の仕事じゃ結局長く栄える類の種族じゃないわな。永らえても破壊神ビルス様に破壊されていたのがおちだろう。

 

 さて、私は悠長に日記を書いているわけだからして生き残っている……生き残っているのだが。

 

 

 

 

 何故、私はカカロットと同じ宇宙船に乗っているのだろうか。

 

 

 

 



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2ページ目 地球生活幼少期~畑に愛を捧ぐ

○月○日

 

 地球に到着した。宇宙船内が狭い上に、ほぼ寝ているとはいえよく暴れる赤ん坊と一緒とかマジつらい。カカロットたんマジ元気。戦闘力1万のブロリーきゅんを泣かせるだけあるわ。生命維持装置が普通に機能してれば眠ったまま、気づけば地球! といくんだろうけど、無理やり私まで乗っちゃってるからな……乗せてもらっている分際で文句は言えない。

 ちなみに忘れないうちに考察を記載。ドラゴンボールはドラゴンボールでも、ブロリーの存在からアニメ版のストーリー説が濃厚。つーても原作の世界観でも未来線が分岐したり宇宙がいくつもあったりする何でもありな感じだからあんまり信用はならない。とりあえず、うろ覚えの知識のおかげで今私は生きているわけなのですが。

 

 地球についてから(主に宇宙船内の子守で)ふらふらだった私は、すぐにカカロットから離れるつもりだった。悟飯おじいちゃんに拾ってもらうがいい。私はちょっとしたなりゆきで君に同船させてもらうことになったが、まあ赤の他人だ。元気に主人公に育つがよい。

 そう慈母のほほ笑みで颯爽とカカロットを放置していこうと思ったら、空腹で倒れた。ああ、一応人としての最低限のモラルとして持ち出した食料と栄養剤はみんな人参にあげちゃったからね、しかたないね。クッソォォォォォ! こんなことで人生THE ENDかよ! とかなんとか悔しがってたら悟空もろとも悟飯さんに拾われた。あなたが神か。

 

 

×月□日

 

 ハイテク技術に頼ってた自分の生活力のなさに絶望した。申し訳ないが、地球での生活のめどがつくまで悟空と一緒にここにおいてもらおう。

 ちなみに自分たちが何者かとかは記憶喪失でごり押しでごまかした。多分嘘だって見抜かれてるだろうけど、そこは「訳アリです」という空気でごり押した。年々自分のクズ度が上がっているようでつらい。

 

 

◎月■日

 

 日々の生活をちゃんと送るって難しい。でもサイヤ人の中で生活していた時よりはるかに馴染む生活だ。スローライフ万歳。

 ちなみにカカロット改め悟空は先日頭をぶつけて、今までの乱暴な気質と違って穏やかな良い子になった。相変わらず元気なことに変わりはないけども。

 

 ちなみに記憶喪失のふりをしたので、同じサルの尻尾を持つ者同士というのもあるのか私まで悟飯おじいちゃんの孫として、つまり悟空の姉弟として育ててもらっている。なにこの主人公とそのライバルの両方の姉とかいう豪華特典。生き残れる気がしない。ドラゴンボールがあるからでーじょうぶだと言えるほど私は達観できていないのだ。今は正直目の前の生活でいっぱいいっぱいだけど、そのうち戦いから遠ざかりつつ生き残れる人生を模索せねばなるまい。

 

 そういえば、私も地球人としての名前をもらった。孫 空梨(そん くうり)が新しい名前である。

 可愛い響きだと気に入ったけど、まさかここにきて野菜ではないけど食べ物関係の文字が名前に入るとは……。梨か……野菜じゃなくて果物ってところはサイヤ人じゃなくてフリーザ様の部下シリーズっぽい。でもサイヤ人名であるハーベスト(収穫)よりドラゴンボールキャラに近づいてる気がする。収穫ってなんだよアナグラムですらないのかよ! とつっこんだのも今ではすでに懐かしい。あれか……王様の第一子だから男児じゃなくてベジータの名前は継がせられなくても収穫できるくらい強くなれ的な親心だったんだろうか。我ながら書いていて意味分からん。とりあえず、もう少し生活に慣れたら畑でもやるか。野菜収穫したろ。

 

 

 

▽月○日

 

 初めて悟空が満月を見て大猿化。といってもこの時の悟空の戦闘力で10倍といってもたかが知れている。

 私は大猿になるのはあまり好きではないし、何よりサイヤ人仕様の伸縮性のある戦闘服ではない今大猿になれば服が弾け飛ぶので絶対に嫌だ。そのため自分は満月を見ないようにしてひたすら大猿悟空の足元を狙って攻撃、転ばせるということを延々と続けた。悟飯おじいちゃんには近づかないでくれといってあるのだけど、心配してくれているのか見守ってくれている。ああ、この普通に心配される感じいいなぁ……。ちなみに家の近くに悟空の尻もちで大きなクレーターが生まれたので、そのうち何かに利用しようと思う。理想は川から水を引けるようにしてお風呂を作りたい。

 

 翌日からおじいちゃんは悟空に満月の晩は化け物が出るから外に出てはいけないと言い聞かせるようになった。

 このあと何年後か知らないが、漫画と同じようにこの世界が進むなら幾度目かの月夜にうっかり悟空がまた月を見ておじいちゃんが踏みつぶされてしまう。だが、この世界線では私が居るので大丈夫だろう。ローキック練習しなきゃ。

 

 

 

 

∴月■日

 

 悟飯おじいちゃんが死んだ。悟空と二人で大泣きした。もう今日はこれ以上書きたくない。

 

 

 

〇月◇日

 

 悟空との2人生活が始まって少し経った。といっても、今までとやること自体は変わらない。悟空は悟飯おじいちゃんに教えてもらった修業をしたり薪割ったり食料になる動物を狩りに行ったりしているし、私は家庭菜園レベルだった畑を拡大して山で見つけた食用出来る植物の種や苗を育てている。

 

 あの日、悟飯おじいちゃんが亡くなった日。油断していた私は満月ということも忘れて、夜に発光する珍しい植物を見つけようと山にいた。しかも探しすぎて、気づけば隣の隣の山まで行っていた。

 以前偶然見つけたそれを、おじいちゃんが私たち二人を拾ってくれた日にあげたかった。何をあげていいかわからなかったから、とりあえず珍しいものをと単純に考えたんだろうな。なんであの日に探しに行ったんだ。

 生活のめどがつくまでとか言っておいて、気づけばこの場所とおじいちゃんが大好きになっていた。居なくなって寂しい。故郷である惑星ベジータやお父様が亡くなった時は薄情だけどこんなに悲しくなかったのに。

 

 

 寂しいなぁ……。

 

 

 

 

▲月□日

 

 畑を拡大しすぎた。何ヘクタールあるんだこれ。

 ちなみに畑は悟空にも手伝わせている。亀仙人様の修業でどうせやるんだし先取り修業と思ってありがたく耕すがいい。はっはっは。

 

 あと、あれな。今のうちに畑作業だけでも徹底的に習慣にしておけば無職だ働かないだ言われなくて済むじゃん? 一応仕事してる描写として出てくる畑作業だけは私の名に懸けて高レベルで身につけさせてやるわ。いや、私も我流だけども。こうして毎日畑や作物と向き合って会話していれば自然とどうすればおいしく育つか分かってくるものさ……ふふふ。

 

 ……………………。

 

 いや、教えないでもすげー収穫できてたな未来で。

 

 

 いや、いいんだよ。どうせ結婚する時ここに住むようになるんだろうし、チチさんが食費に困らないように今のうちにしっかりとしたいい畑を作っておくんだ。いずれ私もここから出ていくし、まあ餞別だよ。嫁の父親の遺産に頼って生活とか、漫画やアニメで見ていた時はそこまで気にしなかったけど義理とはいえ弟となった今「ちょ、おまっ」ってなる。ベジータ? あいつは超逆タマじゃねーか簡単に尽きないよあのレベルの会社の財産。

 地球何度も救うんだし社会貢献度的には一生働かなくていいようなもんだけど、目に見える形が、ね? お金って大事よ。本当によく莫大な食費をまかないつつ子供2人も立派に育ててくれるよチチさんは。まだ先の話だし本当にそうなるかまだ分からないけど。備えておいて損はあるまい。

 

 さーて今日も畑仕事するか。

 

 

 

 

 



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3ページ目 原作開始~占いババ様に弟子入りした

◎月▽日

 

 

 月日の流れが早くてやばい。畑で肥料まいてたらブルマ来ちゃったよ、ちょ、待って心の準備。やべーそっか悟空もう12歳か。ってことは私19……え、マジで?

 久しぶりに悟空以外の人間と会話したらほぼ会話出来なくて焦った。あかん、人に会わなさ過ぎてコミュ障になっとるやないか。

 

 とりあえずこの世界は本当に漫画の流れで進むのだなぁと思いつつ、弟をよろしくとお願いして旅立つ悟空とブルマを見送った。摩訶不思議アドベンチャーしてくるとよい。つっかもうぜっ!ドラゴンぼーぉるッ!

 

 さて、スローライフに身を任せすぎていた私としてはこれを転機に私自身も外の世界へ出ていきたい。それと同時にこの世界でどう生きたいか何を避けるかそのために何をしなければならないか……今まで面倒くさくて考えなかったからなぁ……。

 

 とりあえず箇条書きにでもしてみるか。

 

・痛いのヤダ。死ぬのも嫌だ。生き返るとしても断固として拒否する。

・楽しく生きたい。出来れば楽して楽しく生きたい。

 

 マジか。箇条書きですら二行ですんじゃったんだけど。どんだけ浅瀬にあるんだよ私の思考は。もっと深く潜って考えろよ。

 

 しかしこの2つのことに焦点を絞って考えること数時間。私は天啓を得たかのようにひらめいた。

 

 

 そうだ、占いババに弟子入りしよう。

 

 

 

□月δ日

 

 ドラゴンボールには様々な個性を持ったキャラクターが居るが、中でも初期に登場する占いババ様は別格なのだ。なんたって百発百中の失せ物探しに加え、あの世とこの世を行き来できるというスーパー技能を有している!! 地球全体単位で死亡する事態が数回あるドラゴンボールという作品の中で、一回も死ななかったお方!! 勝ったな。運命って奴によぉ。

 

 

 

△月ψ日

 

 世間なめてた。私、戸籍ねぇわ……。社会的信用も0だわ……。

 とりあえず飛んで人里まで行ったはいいけどコミュ障に加えてこの地球においての一般常識の欠落がイタイ。占いババ様の居場所を探す以前の問題な件。こんなん弟子入り志願しても門前払い確実ですね分かります。

 まずはパオズ山の自宅を拠点に世間とのコミュニケーションをとっていこうと思う。

 

 

 

●月ζ日

 

 来た。占いババ様のとこ来た!

 パオズ山から近くの人里でアルバイトしつつ生活を続けてついにここまで来た……! 我慢が利かない性格だからとりあえず一定の常識内には収まっただろうと早々に自分に合格点を出して来てしまったけど、今さらながら大丈夫だろうか。

 

弟子入り志願したら、案の定断られた。しかし想定内である。いいって言ってもらうまでしつこく通う。

 

 

 

 

γ月△日

 

 あんまりにもしつこくするもんだから、1人で占いババ様の戦士を5人倒したら考えてやると言われた。やったこれで勝つる! そう思った時期が私にもありました……。

 

 ミイラくんの所でフルボッコにされた。

 

 おい。嘘だろ……嘘だろおい……。幼少期とはいえベジータフルボッコにしたことのある私が……負ける可能性があるとしてもアックマンのアクマイト光線くらいだと思っていたのに嘘だろ……。

 

 どうやら私は物凄い勘違いをしていたらしい。

 戦闘力とは一度上がれば多少増減してもドラクエのレベルのように下がらないものだと思っていたけど、それがそもそもの間違いだったのだ。一流の戦士は大なり小なりずっと体を鍛えることもしくは戦うことを日常としているはず。セルを倒した全盛期、ブウと互角に戦えてアルティメットなどともてはやされ作中最強レベルと言われた時期のある悟飯ちゃんが弱体化した例を忘れていた。パワーアップしたフリーザ様ならともかく、フリーザ様の部下に後れをとるレベルになってたよなたしか。10何年ぶりに復活した続編で。たしかに体ほっそくなってんなーと視聴時思ってたけど。

 いや、それにしても弱体化しすぎだけどな私!

 惑星ベジータ脱出前は12000前後あったんだけど戦闘力。え、ミイラくんとか100以下とちゃうん? え?

 

・地球に来てから10分の1の重力下の中でろくに修業してない。農作業ばっかりやってた。

・考えて戦う相手との戦闘が久しぶり。(今まで悟空が大猿化した時転ばすだけという簡単なお仕事しかしてなかった)

・久しぶりすぎて、力を抑え損ねたら占いババ様の宮殿破壊しちゃうかもと、力を抑えて舐めプしてた。

・頭のイメージと体のイメージがかみ合わなくて自爆してた面多々。(運動会に張り切って自滅するお父さん状態)

・最近太った気がする。

 

 負けた原因はこんなところか。うん、弱くなる要素しか見つけられない。

 ヤバい。さすがにヤバい。原作は積極的にスルーしていく心づもりだけど、さすがに自分の身も守れなくなってちゃヤバい。くそ、サイヤ人編やナメック星でパワーインフレ始まるまでは余裕だと思ってたのに。万が一ピッコロ大魔王に目をつけられたりしても鼻くそほじりながら倒せちゃうぜとか思ってたのに。むしろ鼻くそほじりながら殺されるわ。

 弟子入りの件もまだまだしつこく食い下がるつもりだし、明日からちゃんと修業しようと思う。都会におりてきてから山では手に入らないスイーツ類に目がくらんで食べ過ぎてたし、それも自重しよう。最近わき腹とあごのラインヤバいもんな……。

 

 えっと、出禁になってないスイーツバイキングのお店ってあと何処だっけ?

 

 

 

ω月×日

 

 ついに弟子入りが認められた。雑用からのスタートだし、占いはほぼ才能の領域で身に着けられる保証はないと言われたけどしつこくした甲斐があった。部活漫画を参考に、一夜で宮殿の外観をピカピカに磨いたのもよかったのかもしれない。透明人間のスケさんに「必死すぎて怖い」と言われたけどある意味文字通りだよ必死だよ。何もしなければ必ず死ぬんだから。絶対あの世に逃げる力をゲットするぞ!

 

 ちなみにミイラくん改めミイラ先輩には毎日ご指導賜っている。

 サイヤ人時代にある程度戦い方は覚えているけど、なんかこうしっくりこないんだよね。そこでおそらく長年生きて……生きて? いや、もう死んでるから動いて?(この人たちは妖怪のカテゴリーでいいんだよね?)きたであろうミイラ先輩に私にはどんな戦い方が向いているのか相談に乗ってもらっているのだ。そしたらまず初めに「何を目的に戦うのか」を決めておいた方が良いと言われた。「相手を叩きのめし」たいのか「相手を殺し」たいのか「純粋に己を磨き上げたい」のか、それとも「己の身を守りたい」のか。まあ考えるまでもなく最後ですけどね! そう言ったら「防御」や「受け流す」ことを主体にした動きを身に着けるといいとのこと。

 結果だけこうして書いてみると、私の性格や目的に沿っていないのだから「守り」より「攻め」に特化したサイヤ人の戦闘スタイルがしっくりこないのも頷ける。けどこういうのって人に言われないと気づけないもんだなぁと不思議な気分を味わった。いや、ミイラ先輩話してみると意外と面倒みよくていい人だわ。もう一回戦ってくださいと言ったら凄い拒否られたけど、その分とても親身になってアドバイスをしてくれた。

 

 そういえばこっそりアックマン先輩にアクマイト光線を教えてくれと土下座したが断られた。数日ねちっこく食い下がったら「種族的な技だから無理」と再度断られた。無念。

 

 

 

 

□月β日

 

 

 宮殿の掃除や洗濯などの雑務にもだいぶ慣れた。痩せっ……鍛えるために亀仙流に倣って心ばかりの重りを背負い動いているが、市販のものではコンパクトに重いもので手ごろな品がなかなか無いのが悩みどころ。せめて惑星ベジータの重力並みの負荷がないと前のようには戻れない気がする。特注で作るお金もないし、とりあえず今は保留。

 そういえば占いババ様には宮殿の雑務を終わらせてからでないと修業は見ないと言われていたが、そのために早く終わらせようとしていたら何気にいい修業になった。早く終わらせようと身体能力をフルに使うと初めのうちは物を壊したり仕事が雑になったりで怒られて散々だったけど、神経を張って速さはそのままに、一挙手一投足をコントロールできるように意識したらずいぶんと体の動きが変わった気がする。なんというか、大ざっぱにふるっていた力に繊細さが出てきた的な。身体的にも精神的にもすごく疲れるけど、疲れてこそ修業になるんだろうし。

 占いを習う時間も確保できるようになったし、家事スキルが上がって修業にもなるしで一石三鳥である。

 

 ……!

 これだ。これからの私の修業に関するコンセプトは一石二鳥もしくは三鳥。

 あれだ……。私が修業だの訓練だの何が嫌いかって飽きることだよ。そもそも戦い自体が疲れるし痛いの嫌だしで嫌いだし、好きでもないものを身に着けるためのモチベーションが足りねーよ。ミイラ先輩に負けたことで危機感が出たからやってるけど、ピーク過ぎればすぐにさぼりそうだ私。未来の可能性を知ってるったって、まだまだ先だと思うと緊張感抜ける。つーか目の前の生活で手いっぱいで細かく考える余裕とか無いわー。

 でも鍛えること以外になにかお得になることを考えれば長続きするかも!

 大事。これ大事。ちゃんとメモしておこう。

 

 

 追記:毎日空を飛んで通っているので畑の手入れは欠かしていない。最近精密度が向上したおかげで畑作業も早く終わるようになってきた。占いババ様の食事にも我が家の野菜を使っているが、それなりに好評で嬉しい。これからも野菜は作り続けよう。

 

 

 

●月▼日

 

 占いに必要な素養としては感受性が肝心らしい。これを機にやり方がわからないからと投げていた"気"を感じ取る訓練をしなければならないだろうか。

 瞑想を頑張ろうと思う。

 

 

 本命はあの世とこの世の行き来だけど、これで占いパワーを身に着ければ私もババ様のように大儲けでウハウハ!

 

 とか考えてたら瞑想が乱れていると頭を叩かれた。煩悩だらけの私にとって道のりは長い。

 

 

 

 

◇月×日

 

 え、もうそんな時期? 悟空たちがドラゴンボールの在処を占ってもらいにやってきた。ヤムチャにクリリン、プーアルとウパ。こうして実際に目にすると不思議な気分。そうか、もう色々と摩訶不思議アドベンチャーしてきたのか……。いいなぁ、悟空。友達とか仲間とか出来ていいなー羨ましい。私も生活が安定するようになったら学校とか通って友達つくろっと。

 そういえばもう一回目の参戦である天下一武闘会も終わってたんだな。これも見るだけだったら行きたいから、次からはちゃんとチェックしよう。

 

 ところで、占いババ様が今回あの世から連れてきた5人目の戦士は悟飯おじいちゃんだ。悟空が戦い終わったら帰ってしまうのはわかっていたので先に挨拶しておいた。

 守れなくてごめんなさい、大猿悟空を止められなくてごめんなさい。死なせちゃってごめんなさい。色んなごめんなさいが一杯ありすぎて、言葉にならなくて結局わんわん泣いてしまった私をおじいちゃんはぽんぽんと頭を撫でてなだめてくれた。

 「あの世も結構楽しいんじゃぞ」「姉弟2人、悟空と仲良くな」と、生前と変わらない笑顔で言ってくれた悟飯おじいちゃんに、また泣いた。「こんなに泣き虫だったかのぉ?」とも笑われてしまったけど、会えて嬉しいのと別れの悲しさがない交ぜになって泣くなという方が無理だった。

 

 

 絶対あの世とこの世の行き来を身に着けよう。また、おじいちゃんと色々話したい。

 

 

 ちなみに仲良くな、と言われたものの悟空との再会は「よっす~」「あ、ねーちゃん」という軽いものだった。周りの人は「悟空の姉ちゃん!?」と驚いていたけど、悟空と私の距離感はこんなものだ。時々元気な顔見られればまあいいかなって。悟空も悟空でこれからもっと修業に夢中になるんだろうし、なんとなくこういう部分は義姉弟でも一緒に育って似た部分なのかなって思わなくもない。お互いマイペースなものである。

 

 途中でやってきたブルマと亀仙人様にもちゃんと挨拶をしたぞ! パオズ山でコミュ障だった私はもういないのだ。

 

 戦いを終え、ドラゴンボールの場所を占ってもらった悟空たちを「達者でな~」と見送った後は一回家に帰って悟飯おじいちゃんの墓参りをした。

 今日は濃い一日だったが、なんとなく元気をもらった自分がいる。明日からも頑張ろう。

 

 

 



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占いババの独白

 今日は妙なやつが来たわい。なんでもわしに占いの修業をつけてほしいという、弟子入り志願らしい。わしが占いで儲けていることを知っているやつで、こういう馬鹿がたまにくるんじゃ。当然、門前払いに決まっておる。なんでわしがわざわざ時間を割いてそんな実にも金にもならんことせにゃならんのか。

 

 しかしそいつはしつこかった。こやつ、こちらが良いというまで絶対に引かんな。占わなくても、今まで生きてきた経験で見りゃあ分かる。なんと図々しいやつじゃ。

 諦めさせるために、わしの選りすぐりの戦士5人を一人で突破出来たら考えてやると言ってやった。そしたら喜々としてのってきおったから、まさか自信があるのかとすわ驚いた。

 1人目、2人目まではその自信を裏付けるようにあっという間に倒していきおった。これはまずいことをしたかと冷や汗をかいたが、なんとか3人目のミイラくんが倒してくれたわい。ふう、驚かせよって。

 しかし相手をのして圧勝したはずのミイラくんが、ミイラのくせにもっと顔色を悪くしてこう言ってきおった。「次は勝てない」と。

 

「ええ、ミイラさんあんなに圧勝していたじゃないですか~」

 付き幽霊のオバケが不思議そうに問うと、ミイラくんは深くため息をついた。

「もうあんな綱渡りな試合はごめんだぜ。占いババ様、あいつ、だいぶ力をもてあましてますよ。いや、自分で抑えてるのか? ともかく全力を出せていない。こちらがよけられないはずの攻撃も、自分にブレーキをかけているせいでからぶったりする。そのからぶった一発でさえ、受けたらやばいやつだってわかりましたよ」

「ずいぶん評価が高いの。わしにはただの無様な戦いにしか見えなんだが」

「はたから見りゃあそうでしょうよ。変な奴でしたよ。うまく言えねぇが、潜在能力の高さと動作がかみあってないってんですかね……。先2人の戦いを見てなかったら、オレも初撃でやられたかもしれません。決め手もあいつが自分でけ躓いてぶっ倒れたところに攻撃しただけでしたからね。先の試合、正直ほぼあいつの自爆です」

「それも間抜けな話じゃが……ふむ。それほどの実力なら最初の自信も頷けるが」

「あと、防御がなってねぇ。体は正直鋼みたいな頑強さでしたが、予想外のことがおきると全体が緩む。そこを内臓にダメージが行くように攻撃したんでさ」

「おまえさん、そんな器用なこと出来たのかい」

「まあオレ自身、ババ様とおんなじで格闘マニアなところありますからね。いつか骨のあるやつが現れた時用にいろいろやってるんでさぁ。そのオレから見ての総評ってーと、実戦経験が欠落してるってところかねぇ、あの女」

「ほう、なら経験が伴えば強いやつなのかい」

「少なくとも一度攻撃を受ければ致命傷になりそうな相手です。少しでも実戦の”勘”ってやつを身に着ければ恐ろしいでしょうよ」

 ますます妙な奴じゃな。

 

 しかし負けは負け。これでもう来ないじゃろう……そう思っておったが甘かった。

 ええい、駄目だというに毎日毎日来よって! しかも手土産なのか、野菜を門の前にいつも大量に置いていきおる。お前は昔話の動物か地蔵か何かか! 極めつけに、ある日朝起きたら建物の外観が業者でも入ったかというほど磨かれていた。ここまでくると恐ろしいわい。

 しかたなく雑用から始めるなら、と弟子入りを許可した。占いも身に着けられる保証はないぞいと言ったが、絶対に引かぬと目が言っていた。こやつの何がそうさせるんじゃ……。

 

 そやつ、空梨は弟子入りしてからしばらくは物は壊すわ仕事は雑だわと散々じゃったが、日に日に雑用の腕が上がっていった。しかも速い。宮殿の掃除から洗濯や飯作りがなんであんなに早く終わるんじゃ。

 そういやミイラくんじゃが、弟子入りさせた後先輩先輩とまとわりつかれて居心地悪そうにしとったな。どんどん便利になっていくのはいいが、図々しさは相変わらずじゃ。アックマンも一時期何かとつきまとわれておったな。

 

 空梨が弟子入りしてしばらく。

 以前より弟の弟子である孫悟飯から「尻尾が生えた子供が来たら自分を1日この世に戻してくれ」と頼まれていたのだが、占いでとうとうそんな奴が来る日が分かった。ので、あの世に悟飯を呼びにいったのじゃ。そして現世に連れてくると、空梨のやつが真っ先に飛びついた。何事かと見ていれば、なんと悟飯の孫だという。ちなみに隠していたので分からなかったが、空梨にも猿の尻尾が生えておった。これから来る方にも生えているが、来たのはこやつの方が先。わしが占いをはずすとは……。後で占ってみたところ、空梨はいまいち未来が占いにくいことが判明した。ますますもって、妙な奴。

 悟飯に泣きついてわんわん子供みたいに泣いていた空梨が落ち着いて悟飯から離れたとき、「あやつを鍛えたのはおぬしか?」と悟飯に聞いてみた。武闘家として名を馳せたこいつの指導なら納得じゃとも思ったが、なんと違うのだという。悟飯の孫は2人とも拾い子で、拾ったとき弟の方は赤ん坊じゃったが空梨はある程度育った子だったようじゃ。

 

「初めて見た時から、わしより強い子じゃと思いましたじゃ。ちょっとある一件では命を助けられたこともありましたわい。ですが、どうにも闘うことが嫌いなようでしてな。悟空に稽古をつけているときも、参加してくることはありませんでした。その分ずっと家事やらを手伝ってくれてまして……野菜を育てたり植物をとってきたり、土いじりの好きな子でしたよ」

「ふむ、土いじりか。そういや毎日野菜をもってくるが、あれかの。ありゃ美味いわい」

「そうでしょう、そうでしょう。記憶を失ったふりをしていますが、よほど過去に言いたくないことがあったんでしょう。わしも深くは聞かんかったのですが……。何かと不器用というか、しっかりしているようで不安というか。わしが死んだ原因にも責任を感じていたようで、さっきだいぶ泣かれてしまいました。死んだあと、心配しとったら案の定だったようで」

「不器用、不器用か。たしかにのぅ……。しかも奴は自分ではいろいろ考えてると思っていそうじゃが、ありゃあ馬鹿じゃぞ。目の前のことしか見えておらん。それとだいぶ図々しい」

「ほほっ、手厳しいですな。もういい歳だろうにお恥ずかしい……。ですが、ババ様の所に居ると分かって安心しましたじゃ。どうか、孫をよろしくお願いします」

 お願いされてしまった。

 ふう……しかたがない。占いの才能もないわけではないし、これからもっとちゃんと修業を見てやるかいね。あと、馬鹿は死ななきゃ治らなそうだがもう少し思慮深くなるように色々言ってやるか。あの短慮さじゃあ、占い師を仕事にするのには向かぬわ。

 

 

 孫 空梨。そやつがわしの初めての弟子。どう生きていくかわからんが、どうせ長い人生じゃ。せいぜい見守ってやるわい。

 

 

 

 

 



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4ページ目 修行と日常~ドラゴンボールにお願い!

◎月○日

 

 もう占いババ様の所で雑用と修業始めてから3年経った。気づけば私も22歳か……。さすがにいい歳なので、修業しつつ通信制の学校で高卒の資格くらい取っておこうと勉強している。実際に学校に通いたいけど、今はまだ無理。余裕が出来たら大学に行ってキャンパスライフを手に入れるのだ!

 

 天下一武道会が開かれるので、今度こそ見学しようと思ったけどそういえばここからピッコロ大魔王編じゃないかと思い直してやめた。相変わらず原作は積極的にスルーする気満々である。

 

 

 

 5月9日

 

 ピッコロ大魔王フィーバー始まった。テレビ使ったりと存在のアッピールに余念がない魔王様である。それにしても若返ったとはいえジュニアのピッコロさんとはビジュアルが微妙に違うな。やはりピッコロさん、ナメック星人の中ではイケメンか。流石だぜ。ちなみに次の天下一武道会はピッコロさんを見に絶対に行くんだぜ。何を隠そうドラゴンボールではピッコロさんが一番好きなんだぜ。

 

 天下一武道会のいい席の取り方を考えていると、いつの間にかピッコロ大魔王が倒されましたニュースで世間が沸いていた。あるぇ!? そ、そうか……。ニュースやって即日ご退場だったか父コロさん、じゃなくてピッコロ大魔王。悟空お疲れー。とか思ってたら悟空来た。占いババ様に如意棒のある場所を占ってもらいにって、おいあれ失くしたの? そういえばそんなエピソードあったような……って、ことはあれか。これから神様の所で修業か。

 そうなるとチビ悟空を見るのはこれで最後だなぁと感慨深く思ったので、今のうちに頭をシェイクする勢いでぐりぐり撫でておいた。「なんだよねーちゃん、やめろよー。オラ急いでんだ」と嫌がるまで撫でくり回した。だってお前のつむじ見下ろすの今日で最後かもしれないじゃん。可愛いうちに可愛がっておきたいじゃん。

 

 悟空が去ってからしばらくすると、空が暗くなった。お、ドラゴンボールだ。と空を見つつ、ふと思う。あれ、もしかして今から3年以内は誰もドラゴンボール使わない……? と。

 

 

 

 

 

 

 

 ●月∴日

 

 悟空がピッコロ大魔王を倒してから1年経った。

 

 さすがにほとんど面識がないブルマにドラゴンレーダー貸してくれとは言いづらかったので、占いの修業の成果を見せるという名目で水晶玉でドラゴンボールを探しつつ旅に出ることにした。といっても移動手段としての飛行術は鍛えまくっていたので即日もとの日常生活に戻れるから、あんまり冒険感なかった……。

 

 最近の私のスケジュールはこんな感じだ。

・朝、畑の草取りと水やりを終えてから占いババ様の宮殿に向かい雑用をこなす。(最近野菜の出荷を始めたので、収穫がある日はもっと早く起きて市場に卸しに行く。)

・ババ様とモーニングを食べつつ談笑。

・占いの修業。ババ様と昼食。

・昼過ぎに水晶玉で遠見をしながらドラゴンボール探し。(休憩時に通信学校の勉強)

・夜から居酒屋のバイトが入っているので一回戻ってくる。バイトの前に畑の手入れ。

・居酒屋のバイトで生活費の補充。

・深夜帰宅。バイト先のまかないではちょっと量的にものたりなかったので、軽くご飯を食べてからぱぱっと洗濯と風呂をすましてから就寝。

 

 う~ん、忙しいが実に充実しているな。

 かつて私をニート扱いしたベジータめ、この健康的で充実した生活を見るがよい! 農作業とアルバイトでちゃんと仕事もしているぞ! 今頃お前は宇宙人の腕とか食ってんだろ? 私はビルス様も認めるグルメな星でうまいもの食いながら充実した生活を過ごしているぜ、はっはっは。

 ………………。

 さすがに宇宙人ばかり食べてないよね? 想像したらちょっと不憫になってきた。

 

 ところで戦い方面の修業が書かれていないのは今はドラゴンボール探しで忙しいからだ。決してさぼっているわけではない。決してさぼっているわけではない。

 

 

 

◎月▲日

 

 ドラゴンボール集まった! 当初は占いは才能の領域と言われて不安だったけど、無事に占いの腕は上がりつつある。まだまだ百発百中とは言えないのでドラゴンボールを集めるまでちょっと時間がかかったけど、無事に確保した。

 ドラゴンボールの世界に居るならドラゴンボール使いたいじゃん? しかも今なら誰これを生き返らせるという重い願いで使われる予定は無いから、心置きなく使えるのだ! 使わない手はないだろう。

 もうね、「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえ!」と言ったとき体が震えたね。緊張しすぎてかにゃえたまえ!とか言っちゃったけど優しい神龍さんはちゃんと出てきてくれたよ。神龍さんフぅ~!神龍さんFuuuuu~!

 

 テンション上がりすぎて「早く願いを言ってくれないか」とつっこまれた。あ、スミマセンでした。恥かしい。

 

 私が何を願ったかと言えば、「超能力が使えるようになりたい!」である。

 ドラゴンボール内で超能力使いといえば餃子、ギニュー特戦隊のえーと、ヨーグルトの……そうそう、グルト! それと、あれか。劇場版で出てきたボージャック一味の……ええと……うーん……あれだ……うん……あー……。忘れた。ボージャック一味のビジュアルは好きで覚えてるけど名前はザンギャとボージャックしか出てこねー。とりあえず、ターバン巻いてたやつ。あいつ。そうそう!思い出した。レッドリボン軍のブルー将軍だかも眼力で動きを止める超能力使ってたな。意外とドラゴンボールって超能力者が多い。

 彼らを思い返すと、超能力は非常に便利である。腹痛を引き起こしたりテレパシーが出来たり時間を止めたり相手の動きを念力で止めたり、あとクジの操s(ここだけ消されている)

 とにかく便利だ。

 超能力か分からないけど、セルも武舞台を作るのに念力らしきもので岩を削っていた。あれも色々使えそうだし、ぶっちゃけ便利かつ戦闘力をあげなくても敵から逃げる時間を稼げる能力がほしいんだよ!! 瞬間移動とまで言わないから短距離でいいからテレポート能力とかもほしいんだよ!!

 

 とにかく私は超能力者になったのだ!

 ふふん、これでババ様の修業を頑張れば生き残る保険はより強固なものとなる。完璧だ。サンキュー、ドラゴンボール!

 

 

 

 

 

 

■月□日

 

 

 超能力使えなかった。いや、正しく言うと思うように使えなかった。

 

 ババ様に相談すると、「馬鹿者。超能力者になっただけで、そう簡単に何でも出来るか」と言われた。何……だと……。

 どうやらババ様の言う占いの素質ってものと同じように、超能力にもある程度それがいる。私の願いだと元からなかった素養が目覚めただけの状態らしい。つまり0が1になっただけで、それを増やすためには超能力の修業をするしか無い……と。

 

 ジーザス。

 

 

 

 

 

Ж月◎日

 

 餃子さん、否、餃子師範に弟子入りした。

 

 

 

 

 

 

 



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5ページ目 第23回天下一武道会~弟に気づいてもらえなかった件

▽月〇日

 

 餅は餅屋にってことで、数日前に餃子師範に弟子入りした私である。居場所がわかる超能力者が彼しかいなかったんや……。

 

 占いで餃子師範を見つけ出し、天津飯と修業する彼に教えを乞うのには苦労した。主に天さんのガードが鉄壁で苦労した。

 餃子師範本人は「超能力の実力を見込んで是非弟子入りしたい!」と頼み込んだところ「天さん、ボクにも弟子ができた!」と喜んでくれたのだけど、天津飯は常識人らしく「いきなり現れた怪しい人間をそう簡単に信用するな」ともっともなことをおっしゃいまして。ええ。それに自分たちは天下一武道会に備えて修業しているのだからそんな暇はないとも。

 

 しかし舐めてもらっては困る。私の…………………しつこさをな!!

 

 どんなに迷惑がられても自分の利益こそ最優先とするクズが他人に配慮すると思うなよ! いいって言われるまで食い下がってやるからな!

 我ながら最低である。

 

 

 まあ、そんな根性でぶつかっても認めてもらえるわけがないから色々取り繕うわけだが。

 まず弟子として、2人が修業できる環境づくりを手伝わせてもらうことを申し出た。これはせいぜい食事の用意と洗濯くらいだから、家事スキルが大幅パワーアップした私にとって何の負担にもならない。

 そして弟子をとることは、餃子本人の超能力の修業にもなるとも熱烈に弟子入りのメリットを大幅に装飾過多で語った。語り倒した。口も挟ませず語った。相手が疲れてきて「もういいや」って気分になるまでほとんど息継ぎをしないで語った。詐欺や催眠誘導と言われても何も言い返せないが結果オーライ。こうして私は餃子師範の弟子という立場を勝ち取ったのだ……! この世界で2人目の師匠を得た瞬間である。

 

 

 

 

〇月Б日

 

 畑、占いババ様の所で雑用と修業、畑、天津飯と餃子師匠の所で雑用と修業、畑、アルバイト、畑、勉強、畑。

 こんな日々を送っていたら、2年があっという間に過ぎてしまった。

 

 ババ様は占いの師匠として以上に気が合うから談笑しつつ一緒にご飯食べたりお茶するのが楽しいし、宮殿の先輩方も色んな人があの世からやってくるから面白い。

 餃子師範は一生懸命超能力について教えてくれてとってもいい子。超能力の修業も苦にならずむしろ楽しかったなぁ。師範に弟子入りして本当に正解である。

 天津飯は妙に私に小言を言うことが多くておかんのようだったけど(一度間違えてお母さんと呼んでしまった)真面目だし、武道に対して真剣に向き合う姿勢は尊敬出来て素直に応援したい人だった。

 うん、アルバイト先に友達も増えたしなかなか人運に恵まれているじゃないか。未来は明るい。

 

戦闘の修業? さあ、知らない子ですね。

いいんだ。日常生活に組み込んでるから。いいんだ。大丈夫。大丈夫だからまだ。まだ大丈夫。きっと大丈夫。戦闘の修業はあくまで保険だから。

 

 

 

 

 天下一武道会が始まる少し前に、さすがに修業の最終仕上げの邪魔をしてはいけないかと餃子師範たちには別れを告げた。最近では自宅の整理を行っている。悟空がもうすぐ結婚するだろうから、引っ越しの準備しないとね。

 それにしても新生活はどこの町がいいかなー? 西の都もいいけど都会すぎるし、もっと長閑なところがいい。ババ様の近所? でも畑は定期的に見に行きたいし、パオズ山への交通の便を考えると……。

 あ、思い出した。そういえば車と飛行機の免許も取りたいんだった。引っ越しを機に教習所通うか。そうなると教習所がある所がいいな。

 新生活か~。最近はババ様の許可も出て、占いのお仕事(ババ様と顧客が被らないように失せ物探し以外で)も始めたし、まだアルバイトも続けてるから懐は潤っている。家具とか色々買っちゃおうかな~。調理器具も思い切っていいやつ買っちゃお! 食材用の業務用冷蔵庫と冷凍庫は中古でいいのがあるといいなー。あ、それを置くならキッチンは広くないと駄目かな? いっそ一軒家を借りるとかいいかもしれない。

 ふっふっふ、夢が膨らむ。バイト先の友達を招待してお泊り会や女子会もやるのだ。今までパオズ山は山奥すぎて招待できなかったから楽しみ!

 

 そういえば彼女たちは彼氏という空想上の生物の話をよくする。

 

 

 ………………………………………………………………………………………………………………。

 おい、この記録媒体毎回思うけどなんで沈黙まで文字化するんだよ。

 

 

 

 さ、さーて。私も負けてられないぞ☆早く捕獲しないとね☆☆☆

 

 

 

 現在私26歳。アラサー突入である。

 

 

 

 

 

 

 

▼月Д日

 

 

 第23回天下一武道会にやってきた!

 早めに来たけど未来の天下一武道会のようなお祭り騒ぎではないようで、席の確保にはそれほど困らなくて良さそうだ。近くの郵便局で天下一武道会記念切手だけ買っておいた。後でバイト先で自慢しよう。

 

 目立つ一団だったので、悟空たちはすぐに発見することが出来た。おお、でかくなったな悟空……バーダックさんによく似ているけど、彼に比べて柔和で好青年な雰囲気だ。

 声をかけてから、まず悟空がお世話になった武天老師様に挨拶をした。彼は姉である占いババ様から時々話を聞いていたのか「修業に励んでいるようじゃの。姉ちゃんが弟子をとるなんて初めてのことじゃから、頑張るんじゃぞ」と声をかけてくれて嬉しかった。続いて私が武天老師様……日記に書くときは亀仙人様にしよう。こっちの方が好きなんだ。亀仙人様の知り合いだと知って驚いていた餃子師範と天津飯に挨拶して「師範! 試合頑張ってくださいね!」と応援した。天津飯が「そうか、超能力について武天老師様が餃子のことを教えたのか。なら武天老師様の知り合いだと初めから言えばいいものを……」と、何やら勝手に納得していたが面倒くさいので勝手に納得しておいてもらおう。あ、亀仙人様。餃子師範は私の超能力の師匠です。ええ、ええ。占いの修業してたらある日突然超能力に目覚めまして。そんな会話もした。別に嘘はついてない。占いの修業がきっかけでとは言ってない。

 

 ところでここまで悟空の奴がきょとんとした顔をしていた。確実にこいつ数年会っていなかったとはいえ私が誰だか分からないでいやがる。おい、3年前に会っただろ。チチさんほど会ってなかったわけじゃないだろ。ちょっと髪型変えて(髪質のせいで美容師を困らせた)服もオシャレ着で化粧してきたらこれだよ。そりゃあお前、ほぼ農作業とかしてる私しか見てないだろうけど。お前ほど変わってねーよ。

 しばらくして、クリリンに肘で小突かれながら「お前の姉ちゃんじゃないのか?」と言われてようやく気付いたようだ。「いい! ねーちゃんか!?」じゃないよ。言われる前に気づけよ泣くぞ。しかも変な格好してるから分からなかったとか、ここ数年の私の努力を全否定することを言うなよ。泣くぞ、泣くからな。それ以上言ったら本当に泣くからな。雑誌とか見て流行のファッションやメイク取り入れちゃってるんだからね。変とか言うなよォォォォォ!!

 

 

 とりあえず再会はこんな感じだった。初対面の人や知らなかった人にはやはり悟空に姉がいたということで多少驚かれたけど(天津飯は「悟空の姉ならそれも言えばあれほどオレも疑いは……」などと、しつこい弟子入り志願をした私にお小言を言ってきた)まあ、おおむね普通に挨拶できた。これもアルバイトやババ様の所で培った接客力のたまものよ。数年前のコミュ障な私には完全にグッバイである。

 せっかくなので試合の観戦は亀仙人様たちとすることにした。ランチさんが居るから一番いい席で見れるからな! せっかくの機会なので色々話もしてみたい。

 

 

 

 

 長くなるので、一回ここで日記を区切ろう。今日は一日の最後にまとめるんじゃなくて、臨場感を残すためにわざわざその場で日記を書いているのだ。(音声記録からタイピングに切り替えた。私の指がうなるぜ)

 

 次は待ってました本選開始!

 

 

 



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予選会場までの雑談と天津飯の回想

「いや~、それにしてもおどれぇたぞ。ねーちゃんが餃子に弟子入りしてるとはなぁ」

「オレは空梨が悟空の姉だったことに驚いたぞ」

 

 悟空たちと再会し、予選会場への道すがら話をしていると先ほど別れた人物が話題に上がった。

 孫 空梨。オレの弟弟子である餃子に、ある日いきなり超能力の弟子入りを申し込んできた人物である。苗字は先ほど知ったが、初めから彼女が悟空の姉か武天老師様の知り合いだと分かっていればオレもあれほど警戒しなかったものを……。

 断っても断ってもしつこく何日も食い下がってきて、いくら撒こうと追い付いてきてあれは修業の邪魔だった。半ば詐欺のように回る口で結果的に弟子入りさせてしまったが、餃子の超能力を悪用しようとたくらむ者かもしれないとしばらく無駄に神経を張り詰めてしまったぞ。

 先ほど本人にも言ったのだが、あれは確実に右から左へ聞き流していた。格好ばかりは背伸びしようとしたのか化粧までして整えていたが、中身は相変わらずのようだ。少し何か言うと「はいはい」と生返事ばかりして……。

 

「エッヘン! ボク、空梨の超能力の師範!」

 

 餃子が誇らしそうに胸を張って言う。

 

 今まで末弟子だった餃子にとって自分の得意分野での弟子が出来たことは確かな自信につながったようだ。それについては、当初「弟子入りするといいことがこんなにある」とベラベラうさん臭く語ったあいつの言葉もけして嘘ではなかったのだろう。いや、今思い出してもあのこちらの気力をそぐ語り口は疲れるが……。

 

「しっかし、占いババ様に弟子入りしてたはずが超能力まで目覚めちゃったってのには驚いたよな~。昔からそういうことが得意だったのか?」

 

 クリリンが悟空に尋ねるが、悟空は頬をぽりぽりかいて不思議そうに話す。

 

「いや、オラにとってねーちゃんって畑仕事してる姿しか思い出せねぇからなぁ……。なあなあ、天津飯。しばらく一緒に居たんだろ? オラのねーちゃんって強いんか?」

「悟空、修業と言っても占いと超能力のだぞ?」

「そうなんだけどよ、神さまんとこから帰ってきた今だと分かるんだ。ねーちゃん、何かとんでもない力を隠していそうだってな」

「何?」

 

 神のもとで修業してきた悟空がそんなことを言うとは。

 空梨も色々慌ただしいやつで、2年近く一緒に過ごしたと言っても1日中一緒に居たわけではない。餃子との超能力の修業とオレたちの食事の準備や洗濯などしてくれた以外は、忙しく移動し何処かで別の事をしていたようだ。聞けば「占いババ様のところで修業」と「畑の手入れ」と「生活費を稼ぐための仕事」だそうだ。オレ達の修業場所はそもそも結構人里から離れていたと思うのだが、飛行機でも持っていたのか? 身元が判明した今も変な奴という印象はぬぐえないが、まさか再会した実の弟にまで妙な感想を抱かれるとは。

 しかしこの悟空の姉弟となれば、何か力を隠していてもおかしくないか。

 

「それは本当だとしたら、一緒に居てそれが見抜けないオレもまだまだということだな」

「はははっ、でもオラにもはっきりとは分かんねーぞ」

「うへぇ、そうだとしたら姉弟そろって強いのかー」

「いや、だからはっきりとは分かんないけどな」

 

 そんなことを話していたらいつの間にか予選会場だ。雑談はほどほどにして、気を引き締めなければ。

 

「ところでさ、悟空とお姉さんって何歳くらい離れてるんだ?」

 

 会話の締めとしてか、今まで聞いているだけだったヤムチャが無難な話題で終わらせることにしたようだ。悟空とはそんなに離れているように見えないし、オレと同い年くらいか? それにしては子供っぽいところが目立つが。

 

「え~と、ひいふうみい……う~んと」

「お前……姉ちゃんとの年くらい覚えとけよ」

「たはは」

 

 指折り数えるも途中で数えるのをやめたことから、そもそも覚えていなさそうだ。おい、姉弟だというのにそれでいいのか?

 

「天さん、ボク弟との年の差聞いたことあるよ!」

 

 そこで、俺よりずっと空梨と話す機会が多かった餃子が手をあげた。弟子の事を話せるのが嬉しいのか張り切っている。

 

 

 

「弟より、7歳年上だって!」

 

「馬鹿な! 俺より年上だと!?」

 

 

 

 

 

 




短いですがちょこっと天津飯視点でした。
最後の言葉が言葉足らずだったので修正。天津飯「馬鹿な!(俺より)年上だと!?」の()内を追加しました。


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6ページ目 悟空結婚おめでとう!~運命が私に厳しい

▼月Д日続き

 

 桃白白とか完全に忘れてた。ちゃ、餃子師はーん!!

 本選表に餃子師範が居なかったから「え、今回って予選落ちだったっけ?」とか思っていたら病院に搬送されてて驚いた。悟空たちに聞いたらかつて所属していた鶴仙流の殺し屋、桃白白に負けてしまったようである。あの柱で空飛ぶ人か、懐かしい。あの移動方法と「ぴょっ!」という掛け声は覚えているぞ。

 武道大会である以上、強い者が勝つ。餃子師範は超能力というアドバンテージを持っているが、天津飯との修業を見る限り体格や素質的に武道面ではどうしても伸び悩んでいた。なので試合の結果自体はしかたがないのだけど……。うーん、残念。あとでお見舞いに行こう。

 

 さて、本選1試合目だがさっそく因縁の対決である。天津飯VS件の桃白白。結果を言えば、天さん超格好良かったぜ!ってとこか。桃白白、ええい、いちいち変換出来なくてももしろしろって入力するのめんどくせー。こいつ漢字表記で打ち込むのやめよ。地球言語を適用させたのはいいけどまだ使い勝手悪いなこれ。……自信満々に始めた割には天津飯の足元にも及ばず、武器まで持ち出したタオパイパイはあっけなく天津飯の腹パンで気を失い鶴仙人に連れられて退場した。

 私は以前の彼を実際に見ていないのでよく知らないが、これは天津飯にとって過去に区切りをつける試合にもなったのだろう。餃子師範、天さんがカタキを取ってくれましたよ! 録画しといたんで、元気になったら今度一緒に見ましょうね。

 

 

 続いて第二試合。来た、悟空の嫁来た。っていうかチチさん、ちょっ、可愛いな!? この子がこれから私の義妹になるだと……!? でかした悟空としか言いようがない。いやまだ試合始まってもないからまだチチさん自分に気づかない悟空に怒ってるけど。それにしても、しつこいようだけど可愛い。ブルマ見た時も散々思ったけどドラゴンボールヒロインズのレベルが高くてやばい。

 さて、内心大フィーバーしている私をよそに悟空VS匿名希望(チチ)の試合がスタートした。

 途中のお嫁にもらってくれる約束をした発言や悟空のオヨメってなんだ発言で2人して会場を驚かせつつ、終始怒って言葉をぶつけるチチと戸惑う悟空という図だったけど決着はあっという間だった。チチさんも健闘したがやはり悟空。拳を繰り出した風圧でチチさんを場外へ落してしまった。

 そしてチチさんが名乗り、悟空もやっと嫁にもらうと約束したことを思い出したようだ。仲間たちが呆然とする中、アナウンサーや会場中から祝福されながら武舞台でそのまま結婚。このスピード婚よ……。色々うろ覚えの私だけど、この時のインパクトは忘れてないぞ。今改めて強烈な印象で上書きされたわ。

 

 さて、チチさんに挨拶したいところだけど次の試合も始まるしまた後でにしよう。

 

 いやー、それにしてもそろそろタイピングの指が疲れてきたな。やっぱりリアルタイムで記録していくのは難しい。特にここ人込みだし、タイピングに意識を割くと試合をじっくり見れない。やっぱり後でまとめて書こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼月Д日更に続き

 

(試合内容と感想が書かれている)

 

 

 濃い一日が終わった。いやぁ、天下一武道会超面白かった。今までもババ様の宮殿で5人の戦士同士の戦いを見てきたけど、彼らとはレベルが違う。戦いも見るだけなら楽しいかもしれない。見るだけなら。色んな技も見れたし、お得な1日だった。

 全試合しっかりビデオカメラを回して記録していたので、現在引っ越し先の一軒家(まだ段ボールが積まれている)で悠々と鑑賞しなおしている。今は終盤で、悟空とピッコロさんの試合だ。いやぁ……この頃のピッコロさんはノリが若くて新鮮だな。これがいつか悟飯ちゃんの子供に「ぴっこよ」とか呼ばれるピッコロおじさんになるのか。その時まで是非この記録は残しておこう。

 それにしても会場は散々なありさまだったな。実際に破壊の痕跡を見るといやはやすさまじい……。これから激化していく戦いではこれ以上になるんだよね? はっはっは。冗談じゃない。非ぃ戦闘員を貫く覚悟がなお一層固まったわ。

 

 

 

 

×月□日

 

 今日は巷で有名なパティスリーのお菓子とその他食材を手土産にパオズ山の実家へ帰った。すると悟空は外で薪を割っており、チチさんがなにやら家の中でよく動いてテキパキと働いていた。新生活の準備だろう。

 牛魔王さんのところに挨拶に行っていたらと不安だったけど、どうやらすれ違いにならなくて済んだようだ。

 

 帰ると初めに気づいた悟空に「ねーちゃん、どこに行ってたんだ?」と聞かれた。ああ、引っ越したこと言ってなかったからな。

 外の様子に気づいて出てきたチチさんにはまず「結婚早々浮気だか!?」と誤解されかけたけど、尻尾を見せると「あんれ、昔の悟空さと一緒?」とキョトンとされた。

 まあ、血はつながってないから似てないし仕方がないね。私はベジータと同じで目つき悪いからなぁ……。ちなみに、M字の遺伝子も受け継いでしまっているが私には前髪という最強の盾があるから問題無い。生え際が若干M字っぽいけどまっっったく問題ない(ドヤァ

 サイヤ人としてのデフォルトの髪型も長髪でふっさふさなので万が一にも薄毛や禿の心配など無いのだ! ツンツンとしたくせ毛は扱いにくくてしょうがないけど。普段は無理やり後ろで一本の三つ編みにまとめているが、量が多いからまるでしめ縄のようだ。

 

 

 

 

 

И月△日

 

 チチさんとは嫁と小姑の関係だが、良好な関係を築けている。チチさんの料理の腕は素晴らしいものだったが、流石に彼女も最初から悟空の食事量を手際よく作れたわけでは無いみたいで、コツを教えたら喜ばれた。あと、パオズ山の動植物の食べ方も。

 悟空には畑の食材をやる代わりにちゃんと手伝うことを約束させたものの、結局朝夕の手入れにはやって来ているのでたまに相伴にあずかっている。というか、高確率でチチさんが「空梨さも食べてってけろ」と誘ってくれた。正直めっちゃ嬉しいけど流石に新婚家庭だし同じ量を食べる人間が2人もいたらまずいから食べる量はかなりセーブしている。けど、人が作るご飯の美味しいこと! 悟空の奴、いい嫁さんをもらって幸せ者め。

 

 けど、悟空お前「ねーちゃん、チチが子供が欲しいってんだけどどうすればいいんだ?」とか私に聞いてくるのやめろ。独身の姉にそれを聞くか。唯でさえ答えづらいのに独身の姉に聞くのか。牛魔王さんに聞いてこいや(鬼畜

 

 

 

△月◎日

 

 マジで牛魔王さんに聞いてきた悟空に引いた。たきつけたのは私だけどマジかお前、マジか。せめて亀仙人様か、もしくは男性の仲間に聞けと言っておけばこんなことには。マジか。

 後で牛魔王さんに菓子折りもって土下座しに行った。

 

 

 

◆月д日

 

 悟飯ちゃん誕生! めでたいしめちゃくちゃ嬉しいが、なぜ私は今へその緒を切っているのだ。

 たまたまチチさんの出産のときに居合わせてしまい、珍しく慌てる悟空に「ねーちゃん頼む!」といきなりお願いされて顔文字の("゚д゚)をリアルでしてしまった。

 だからあれほど、出産が近くなったら産婦人科のある町に一時的に引っ越すなり入院しておけと!

 

 まあ2人は幸せそうだし、悟飯ちゃんは可愛いしまあいいか。

 

 それにしても独身だというのにこんな経験ばかり積んでいいのだろうか。前からそうだが、私がセッティングしたはずの合コンや飲み会では何故私以外でカップルが成立しているのだろう。デートまでこぎつけても、実家に広大な畑があることやそこがパオズ山だと言うとだんだん自然消滅していくのは何故だろう。それを隠すようになったら、GTのパンちゃんのごとくデートの最中に強盗などに出くわすのは何故だろう。撃退したら、男なら「キャー素敵」みたいになるのに女だと引かれるのは何故だろう。そこのところ未来でよくパンちゃんと話し合いたい。何もかも解せぬ。

 

 自分の事は自分で占いにくいから、ババ様に恋愛運を占ってもらったら何も言われず肩だけ叩かれた。

 

 ……。今日は飲もう。

 

 

 

 



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7ページ目 平和な5年間~甥っ子が可愛くて生きるのが楽しい

◎月◇日

 

 最近占いのお仕事が順調。けど納得いかない。何故、恋愛相談占い師としてプチブレイクしてるんだ。雑誌やテレビにまで出ちゃったんだけど。あれか? 私、自分の恋愛運他人に分け与えちゃってるのかな。聖母か。我ながら聖母か。ジーザス。

 まあ、そのお陰で金銭的に余裕が出たからいいんだけど。バイトはまだ続けてるけど大分シフトを減らしたから時間に余裕が出来て嬉しい。

 

 占いババ様の所で宮殿の雑用は相変わらずやってるけど、以前よりもっと終わらせるのが早くなったから占いの修業に費やせる時間が多くなった。とはいえ占いの腕はババ様には未だ遥か及ばないが、もうだいぶ安定してきている。ので、予てより本命だったあの世とこの世の行き来の術を学ぼうとババ様にお願いした。しかし予想はしていたがこちらの方がはるかに難しいらしく、これからは主にこちらの修業が主体になりそうだ。思いついてから長かったような短かったようなで感慨深い。頑張ろう。

 

 餃子師範には超能力で教えられる事はもうないからと太鼓判をもらい、あとは自分で磨いてねと言われた。卒業させられてしまったが、餃子師範が偉大なる超能力の師であることに変わりない。いや、本当にお世話になった。ので、会いに行くとしても修業ではなくほぼ遊ぶために訪ねている。餃子師範とする念力枕投げとか超楽しい。パイ投げは天津飯に一度怒られて出来なくなった。何でだ、楽しいのに。投げたパイは落ちる前に念力で止めて全部私が美味しくいただいたじゃん。一度ぶつけたからって怒らなくてもいいのに。

 

 ちなみに悟空とチチの子供に関しては話していない。サプライズされてみんなでおったまげればいい。

 

 

 

 

 

Э月З日

 

 原作にかかわる時はフェードアウトする気でいるが少しでもサポート出来ないだろうか、と考え農家として確実にスキルアップしている自信をもってカリン様に仙豆を分けてもらうことにした。初対面だったけど、悟空と一緒にカリン塔まで行って紹介してもらったらなんとか分けてもらえた。

 

 

 

 

 

×日×日

 

 仙人様の植物を舐めていた。畑に植えると蔓ばかり急成長して、あわや他の作物を覆い隠す勢いで大いに焦った。正しくない育て方をするとこうなるのだろうか。悟空と二人で蔓除去作業におおわらわである。しかも蔓は成長したくせに、実は一つも成ってやしない。

 ぐぬぬ……農業を営むサイヤ人の意地として、いつかきっと栽培してみせる。

 

 ちなみに悟飯ちゃんはすこやかに成長中。蔓の除去が終わると、スヤスヤ眠る悟飯ちゃんを胸に抱いたチチさんが家の方から私たちを呼ぶ声が聞こえた。なみなみとつがれた冷たい麦茶のコップには結露した水滴がついており農作業の後には何とも美味しそうで、主食には巨大サイズのおにぎりがたっぷり用意されていた。

 悟空と競うようにして食べたら、「姉弟そろって気持ちいいくらいの食べっぷりだなぁ」と笑われた。つい思いっきり食べてしまい恥かしかったけど、胃袋以上にここで食べると気持ちまで満足する。

 ああ、こんな日が続くといいな。

 

 

 

 

 

 

△月◎日

 

 

 今日は何も予定を入れない日にしたので、日ごろのお礼に悟空とチチさんをデートに行かせた。たまには嫁さんに尽くしてこい。

 

 悟飯ちゃんの面倒は私が見ることにして、おねむの時は揺り籠をユラユラ揺らしながら子守唄を歌ったりしていた。普段から手伝っているので、離乳食もオムツのとりかえもお風呂に入れることだって完璧なのだ。

 私の甥っ子が可愛くて生きるのがつらい。嘘、嘘。生きるのが楽しい。なんでだろう……年をとったせいなのか、生まれた時産婆代わりをしたからか、悟空も赤ん坊のころを知っているはずなのに悟飯ちゃんのが可愛く見える。

 

 この幸せな空間に浸かっていると、もう結婚とか別にいいかなと思えて……いやいやいや。それは別だから。気をしっかり持つんだ私。今度婚活パーティー出席するんだから諦めるな。

 

 悟空にエスコートが出来るか心配だったが、悟空にしこたま荷物を持たせてニコニコ笑顔で帰ってきたチチさんを見て安心した。普段は修業ばかりしている悟空にチチさんが不憫になる時もあるけど、こういうのを見るとなんだかんだバランスの取れたお似合いの夫婦なんだろう。

 

 

 

 

 

П月◆日

 

 あの世に生身で行くことはまだ出来ないが、幽体離脱が出来るようになった。違う、これじゃない。

 

 婚活パーティー? そんなもの初めから無かったんだよ。無かったんだよ。

 

 

 

 

 

〇月Ж日

 

 超能力の練習をしていたら新技開発。自身および半径1mまで重力操作が出来るようになった。

 重力というか、正確には単純に念力で圧力をかけるというのが正解。けど重力操作のがなんとなく格好いいので「グラビティープレッシャー」と技名までつけた。浮かれすぎである。後になって、アルバイト先の子供がしてたゲームに同じ技名があって少し凹んだ。けどこれ強力なんだぞ! 惑星ベジータ生活時の地球の10倍の重力をイメージして基準にしたら、50倍までなら圧力が上げられることが分かったんだから! まあそこまで上げることはないけども。動けないどころかうっかり死にかけた。

 自分ごと圧力がかかるし範囲が狭いから攻撃用には使えない。しかしこれでベジータが未来でよくやってた重力修業が出来る。訓練の際の重りの問題が思わぬところで解決した。天才か私。

 相変わらず戦闘関係の修業は嫌いだが、せめて母星の重力にくらい耐えられるようにならないとさすがに駄目だよねと最近反省している。

 

 そういえばラディッツ来るのっていつ頃だっけ? うろ覚えの箇所は多いが、特に時系列が思い出せない。天下一武道会は開催期が決まっていて覚えやすかったのに。悟飯ちゃんの年齢が肝だった気がするんだけど思い出せない。しっかり喋れるようになっていたから、3~6歳の間のはずだけど……。

 

 まだあの世とこの世の行き来は出来ないため、次点で安全な場所を避難用に探しておいた方がいいかもしれない。

 一応、最強の候補は思い浮かんでいるのだ。

 

 そう、ペンギン村である!!

 

 

 

∴月〇日

 

 何故だ。悟空が小さいころ行けたんだから同じ世界線にあるはずなのに、ドクタースランプアラレちゃんの舞台であるペンギン村が見つからない。

 あそこならギャグ補正という問答無用の安全性が手に入るというのに。両方ゴッド鳥山が創造したもうた世界だからこそ、偶然つながった異世界だったとかそういう落ちなのだろうか。それとも田舎過ぎて見つからないんだろうか。冷静に考えてみるとアラレちゃんの世界と同じだったらせんべいさんが直してくれるとはいえ地球は何回も真っ二つになってるか。あああ~、やっぱり別世界なのか。ああー……あー……マジか。

 

 

 

▲月Д日

 

 避難場所はともかく、気をスカウターで発見されないくらいに抑えて生活すればいいじゃないと気づいた。そうだよ、戦闘力5くらいに抑えておけば「なんだゴミか」ですむじゃん!

 気苦労が一つ減って嬉しい。よし、普段抑えている気をもっと抑えるぞ!

 

 そういえば、また仙豆の栽培に挑戦して失敗した。ああ、二十日大根エリアが蔓だらけに……。けれど前よりましになったことは喜ばしい。その内きっと成功させてみせる。

 

 

 

 

 

●月○日

 

 

 家の前にラディッツが居た。

 

 

 

 

 



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8ページ目 ラディッツ襲来!~バタフライエフェクトという現象は死すべき

●月○日続き

 

 雑誌の占い特集の仕事の後帰ったら家の前にラディッツが空から着地しているところだった。見間違えでなければ、この間4歳になった我が愛しの甥っ子悟飯ちゃんを手にぶら下げている。どうやら気絶しているようだ。

 

 …………。ha?

 

 こちらに気づいたラディッツはスカウターをいじるとこちらを向き「ほう、戦闘力500とはなかなか立派じゃないか。お前がカカロットの姉を名乗るサイヤ人だな?」などと言ってきた。ちょ、今500って言った? 私戦闘力5どころか×100で大分制御間違ってんじゃねーか! だからスカウターが無いと不便なんだ!! そら来るわ! 話を聞けば悟空も口を滑らせたようだし……心の準備もなにもあったもんじゃない。

 どうやら悟空の所には行った後のようだ。ってことはその内こいつ追って悟空たちここ来ちゃうんじゃ……。………………。家が破壊される。(確信)

 とりあえずご近所に長髪筋骨隆々黒ブルマ男と知り合いっぽく話してるところを見られたくない。

 ラディッツはまだ何か言っていたが、とりあえず家のドアを開けて中に蹴り入れた。面食らった様子のラディッツが何か騒いでいたが、私はすぐに餃子師範直伝のドドン波(弱)でスカウターを破壊した。よし! これでしばらく私が生きているとベジータに知られないで済む!

 え、何怒ってんの。スカウターの予備くらい宇宙船にあるよね?

 

 正直なんでコイツここ来たんだとイラついていたし、早く追い出したかったので超能力で腹痛を引き起こしてから気絶しない程度の力で顔パンした。パンっていってもグーだけどな? 腹痛で動きを止めたのは実戦の経験は相変わらずブランク長すぎるので確実に当てるためと、動かれて家の家具を壊さないための措置である。ソファーとかテレビこの前買い替えたばっかりのいいやつだし。というか、ラディッツに勝てる程度には戦闘力が上がっているようで安心した。ほっ。

 ひとまず大人しくなったので、少しお話をしてからびしっとある決め台詞を言ってラディッツを家から追い出した。あれ、この格好いい決め台詞誰かが前使っていたような? うーん、漫画か何かのキャラクターだろうか。

 

 ちなみに悟飯ちゃんはここで助けておこうかと迷ったけど、きっと悟空が助けに来るしピッコロさんとの修業フラグを折るわけにもいかずそのまま連れて行かせた。くれぐれも丁寧に扱うように、そして私には会いに来なかったことにしろと言い聞かせて。

 あとせっかくはるばる地球までやってきたのだし、死ぬ前に何か美味いものでも食わせてやるかと昨日収穫した二十日大根と自家製味噌をもたせてやった。うん、閻魔様を困らせないで成仏しろよ!

 

 

 

 

 

=============■□□

 

 

 

 

 

「誰かと思えば、バーダックさんの家のラディッツくんじゃない。大きくなったね」

 

 そう言ってオレを上から見下ろしたのは、戦闘力500から繰り出したとは思えない重い拳で俺を殴った女だった。鋭い吊り目を面白そうな笑みで細め、三日月形に口を歪める。今まで隠していたであろうサイヤ人の尻尾が床に倒れた俺の視線の先でゆらゆらと揺れていた。

 俺の事を知っているのか。そう思った瞬間、ぞわりとした悪寒とともに幼いころの記憶が呼び起こされる。

 

『ねえねえ、一緒に遊んであげようか!』

 

「……ハーベスト、王女……!?」

「あら、思い出してくれたの? 嬉しいよ」

 

 そう言ってほほ笑むのは生き残りの中でも別格の超エリートとされるサイヤ人の王子、ベジータの実姉であるハーベスト王女。今の今まで忘れていたが、まさか生きていたとは……! 「あの」ベジータと並び抜きつ競うほどの戦闘力を誇っていた正真正銘のスーパーエリートだ。実戦にけして出ないことでも有名だったが、思慮深い性格からフリーザ様の覚えもめでたいと当時注目を集めていた。

 俺が小さいころ、一度だけ話しかけられたことがある。あの時、子供だったこともあり感受性が高かったのだろう……スカウターもないのに大きな戦闘力を感じ取ったオレは、彼女がひどく恐ろしい生き物に見えたものだ。

 そしてそれは、今もだ。

 500だと? まさか! ハーベスト王女がそんな戦闘力なわけないだろう!

 

「な、なぜカカロットと地球に。しかも姉とは……!?」

「少し訳ありでね。まあ、いろいろあったんだよ。惑星ベジータが消滅する前に君の弟と同じ宇宙船に乗ったおかげで助かった。この星に来てからは、同じ育て親に世話になって姉弟として育ってきた」

 

 ところで。話していたハーベスト王女はそういって声のトーンを変える。

 

 

 

「消えろ。ぶっとばされん内にな」

 

 

 

 俺がこれ以上彼女に質問することは出来ない。それだけは分かった。だがすでに俺はぶっとばされているんだが……いや言うまい。

 

 その後、カカロットの子供をくれぐれも傷つけないこと、自分の所に来たことを絶対にカカロットに言わないことだけ念入りに言い聞かせられて家の中から帰された。理由は分からない。

 そしてなぜか青々とした葉っぱのついた赤くて丸い小さな果実……だろうか? ともかく何かの植物の束が入った袋と茶色いものが入った容器を渡された。よかったら食べると良いと言われたので食べ物だろう。毒ではないというように一つかじって見せられたが、よく水分を含んでいて瑞々しい様子がうかがえる。なかなか美味そうだ。

 俺はそれを受け取り、自分はここに来なかったと言い聞かせるとカカロットのガキを連れて宇宙船のある荒野へと飛び立った。

 

 カカロットの勧誘を邪魔する様子もなかったが……。いったい何だったのだ。

 とにかく腹ごしらえをして、スカウターも新しいものをつけて気を取り直そう。

 

 

 

=============■□□

 

 

 

 

 

●月○日 更に続き

 

 

 あの後、やっぱり悟飯ちゃんが心配になってこっそりラディッツの後をつけた。

 

 そして始まるラディッツVS悟空とピッコロさん。この時点ではやはりラディッツの方が圧倒的に強い……! この2人が共闘しても敵わないなんて、この時点では破格の強さではなかろうか。とか思って見ていたら、あ、尻尾つかまれた。あ、弱った。あ、命乞いした。だからお前はラディッツなんだよ! そして悟空も放すのかよ! ほら見たことか騙された! 

 一人実況しながら戦いを見守っていると、ラディッツが父を助けるために感情を高めてパワーアップした悟飯ちゃんにふっとばされた。ラディッツも追い詰められているのか、私との約束も忘れて悟飯ちゃんを殺そうとする。あ、テメこのやろ。するとそれを阻止しようと悟空がラディッツを羽交い絞める。そして、決まったーぁぁぁぁぁ!! ピッコロさんの魔貫光殺砲だぁぁぁ!! 生で見るのは初めてだけど、やっぱりピッコロさんの魔貫光殺砲は最高に格好いいぜ!! 弟ががっつり貫通されてるの見ながら盛り上がってる場合じゃないけど!

 

 

 しかしこの後、私は目を疑った。

 

 ラディッツが、倒れたと思ったらすぐに起き上がったのだ。しかも傷が治っている!? どういうことだ!

 

 

 今まで比較的原作通り進んできたはず。それがどうしてこうなった? 原作と違うところ……それはラディッツが私の所に来たこと以外考えられない。けど私は傷が治るものなんて渡した覚えないよ!? って、傷が、治る?

 

 結果だけ書いておこう。

 ラディッツに渡したラディッシュの葉っぱに昨日絡んでいた仙豆の蔓からこぼれた実が一粒混じっていたらしい。そしてそれを食べた時、奥歯に豆を詰まらせたラディッシュ、じゃなくてラディッツ。それが魔貫光殺砲で貫かれたときはずれて飲み込んだ。そして瞬時に復活したのだ。

 何て酷いバタフライエフェクトだよ!!!! 無理、あるだろ。もう一度言う。無理、あるだろ。もう一度、言う。無理あるだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 悟空がとんだ無駄死にだよ!!

 

 死に瀕してから復活したラディッツの戦闘力は上がり、再び絶体絶命の状態へと追い込まれたピッコロさん。しかも飛行機でブルマたちまで追ってきて、悟空はあと少しで死ぬ。いったいどうなっちゃうの!?

 

 ってところで私が責任をもってラディッツを殴り倒しましたよ。ええ。

 

 

 そしてどうしていいか分からなくて、ラディッツを持ったまま逃げるように帰ってきてしまった。

 

 

 

 どうしよう。

 助けて神様。

 

 

 




神様「(神は困惑している)」

先話にて一行だけ出てきただけで感想がラディッツに埋め尽くされたことに全俺が嫉妬。けど、作者だって、作者だって不憫な扱いのラディッツが好きなんだ・・・!だけどごめん。悟空は本当にごめん。真面目に土下座する。


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9ページ サイヤ人襲来まであと1年!~二十日大根と過ごす日常

Ф月◎日

 

 

 

 昨日は大変だった。悟空は死ぬし、ラディッツは生き残るし。

 ……。改めて文面に書き起こすと酷いな。

 

 いっそ私がラディッツを殺して無理やり原作に沿わせようとも思った。でも思わず連れて帰って来てしまったラディッツを見て、せっかく生存したんだしどうせならリユースした方が良いのではないかと思いとどまった。

 いや嘘、正直怖気づいただけである。

 惑星ベジータ時代でさえ人を殺すことをしなかったのに、今さらこの緩み切った軟弱な精神で出来るはずがない。いやだって気持ち悪いし死体の処理困るし……あ、それは気弾で塵にすればいいのか。でもなぁ~、なんかなー。勝手に死ぬの見る分にはいいんだけど自分でやるのは嫌だなー。ここは他力本願に、こいつ連れてこないでピッコロさんにとどめを刺してもらうのが正解だったか。我ながらクズの思考である。

 でもあのレベルの偶然を引き起こし生き残ったとなると、本来居ない私がいるようにこの世界ではラディッツの生存は必然だった可能性もある。現時点では私の方が強いことがはっきりしているので、しばらく生かして様子を見るのも手か。

 

 それと小さい頃のこの子を覚えているってのもためらう理由かもしれない。

 あの弱虫ラディッツと呼ばれて涙目だった子がこんなに大きく育って……いかん、悟飯ちゃんが生まれてから段々と親戚のおばちゃん思考がしみついている。

 

 

 

 

 そういえば上記のようにごちゃごちゃ考えていると、ブルマからいったいどういうことかと電話がかかってきた。そ、そういえば前の天下一武道会でケータイ番号は交換してたんだっけ……。

 

 この電話で私は自ら墓穴にダイブすることになる。

 

 とりあえず私は原作でラディッツが言ったであろう2人のサイヤ人のことと、おそらくそいつらが1年後には地球にやってくるだろうことを伝えた。まだ時間もそんなに経っていなかったし、おそらくピッコロさんもまだその場にいるはず。これできっと悟飯ちゃんの修業フラグは確実だろう。ちなみにドラゴンボールの情報に関しては、その電話で「悟空はそれまでに何でも願いを叶えてくれる不思議な球、ドラゴンボールで生き返らせるよね。あの死者をも蘇らせる奇跡の球で!」みたいなことも話しておいた。なんでこんな説明セリフかって? ラディッツのスカウター越しに通信を聞いてるであろうベジータとナッパに情報をリークするために仕方なくである。でないと奴ら、ラディッツの仇を取るためだけに地球に来てくれる気がしない。

 

 私に関しての言い訳は。

・すごく強い気を感じて驚いて、占いで居場所を特定して駆けつけたら戦いが始まっていた。

・悟空が死にかけ敵が復活した事態に、思わず飛び出したら思いがけないパワーが出た。(悟飯ちゃんの例があったので説得力はあると信じる

・敵を倒せたはいいが、怪我人や悟飯ちゃんのそばに置いてあったら危ないと思いとりあえず遠ざけた。←イマココ

 という説明で済ませた。

 

 感情をたっぷり込めて女優張りに頑張って説明したし。

 少しでも疑問を感じたり、納得していなさそうな反応があった時など「私がもっと早く力を出せていれば、悟空は……!」とか「チチさんになんて説明すれば……」とか悟飯ちゃんは無事か、あんな小さい子が怪我して頑張ったのに直前まで勇気が出ずに助けるのが遅れた私は……! みたいな情に訴える迫真の演技を挟みなんとか乗り切った。ちなみにその時の私の背中は冷や汗でびっしょりである。

 

 サイヤ人に関しては、昔記憶喪失だったが途中で思い出して知っていたことにした。どうして今まで言わなかったかと聞かれた時は、母星はもう消滅しているし地球の生活には必要ないと思ったからだと答える。下手に記憶喪失設定を引っ張ってここでまた嘘をつくと、どんどん嘘を上塗りして自分の首を絞めそうだったからね……ある程度真実を混ぜないとね……。我ながら詐欺師感がすごい。

 

 途中でブルマから電話を奪ったピッコロさんの声が電話越しに聞こえてびびった。ピッコロさんは耳がいいから今までの会話も聞こえていたんだろうけど……ピッコロさん鋭いからな。私の同情心に訴える演技も見抜かれていそうで怖い。耳元でピッコロさんボイスが聞こえることとの二重でドキドキした。冷や汗の量がすごかった。少し痩せたかもしれない。

 

 まずラディッツはどうしたのか、殺したのかと聞かれた。ここで私の脳みそが瞬間的にフル回転する。いらん方向に。

 そして気づけば「問題ない、私は占いババ様の一番弟子、最近魂に関する修業を行っていた。その応用で、ラディッツが気絶しているうちに奴の魂とそのへんの動物霊の魂を入れ替えておいた。奴もまさか魂だけの状態では何もできない、今の奴の本体はただの犬だ」と説明していた。…………。いや、できねーよ! 何処のシャーマンだよそれ。何でそんな嘘ついた?

 しばらく沈黙したピッコロさんは、まず信じることを前提にしなければ話が進まないと思ったのか「ではなぜ殺さない」と話を続けてきた。それに対しては「かなり無茶な試みだったが、サイヤ人の肉体が手に入ったから利用しない手はない。中身の犬をしつけて1年後のサイヤ人対策にする」と答えた。すごい、嘘は自分の首を絞めるとさっき思ったばかりなのにどんどん嘘を重ねる私凄い。もう自分の口を縫ってしまいたい。黙れ、黙るんだ私の口……!

 

 そして本当にラディッツの中身が犬になったのか確認するから連れてこいって言われた。

 了承し、電話を切ると私の顔は何処か晴れ晴れとした笑みをたたえていた。心境?「もうどうにでもな~れ」以外あるはずがないだろう。ちちんぷいぷいって言ったら全て丸く収まらないだろうか。無理だろうか。ワンモアミラクル。

 

 

 そして気絶したラディッツを叩き起こし「君は今から犬だ。ワンとしかしゃべってはいけない。いいね?」と言い聞かせた。

 ちなみにスカウターの通信機能だけは先に切っておいたが、戦闘力数値化の機能はそのままである。私は気を全開にしてラディッツに必死に言い聞かせた。私の誠意が伝わったのか、ラディッツ君は素直に頷いてくれてとても嬉しい。

 そして表情は硬かったものの、ピッコロさんの前で「わ、わんわん!」と迫真の演技を見せてくれた彼に敬礼。ちなみに面白がったブルマに「へぇ~! 本当に中身犬になってるんだ!」と尻尾をつかまれてへなへなになっていた。お前な……、むき出しの弱点を鍛えないからそういうことになるんだよ。

 

 そうして無理やり納得させることに成功して、内心汗をぬぐった私。しかし、そこにピッコロさんの追撃が迫る!

 

「貴様もこのガキのように潜在能力が凄まじいようだ。その犬を使って、1年後に戦えるように鍛えておけ」

「え。あ、はい」

 

 もう色々考えて絞り出す余裕は私にはありませんでしたが何か。

 

 悟飯ちゃんは予定通りピッコロさんに修業につれていかれ、旦那が死に子供がさらわれたと聞かされることになるチチさんはクリリンに全部任せた。詳しく説明頼む。あとでフォローはする。

 

 

 

 大丈夫だ。1年の間に雲隠れすれば問題ない。大丈夫だ。

 

 ババ様の所での修業にさらに熱を入れることを誓った。

 

 

 

 

 

 

 

■月▲日

 

 

 殺すどころかもう完全に面倒を見なくてはならなくなったラディッツを、まず少しでも逆らうそぶりを見せたら腹痛を引き起こし「サイヤ人のビチグソ野郎」の称号を与えてやろうかと脅す作業から始めた。ふっ。腹痛で便意を催させそれを脅しに使う。PPキャンディを使ってそれを成した偉大なる先駆者であるブルマさんを参考にしたそれの効果は凄いぜ。屈辱にまみれた顔で「……わかった」と答えたラディッツに、脅した本人ながら同情した。

 

 あとラディッツに一応惑星ベジータ消滅の真実を教えておいた。そして最後まで抗った戦士バーダックの事も。それを聞くとラディッツは「親父……」とつぶやきしばらく一人で何やら考えていたようだ。

 

 とりあえず今のフリーザ軍に従っている現状に、疑問と不満を持たせることには成功しただろうか。それとサイヤ人の今までの所業と地球をこのまま襲わないのかは別問題だけど、そこはうまく話をすりかえて余計な部分は例の脅し(ビチグソ)でねじ伏せた。ボクもう疲れたよパトラッシュ。

 

 

 

 

×月∴日

 

 

 鍛えろと言われたものの、普段の修業は行っているからラディッツと出来ることなんて組手しかない。それに普段の生活をおろそかにすることも出来ないし、はてどうしたものかと困り果てた。というか、雲隠れを前提にしているのに修行する私って真面目だよな!

 ので、私が朝畑作業をする時に一緒に連れてきて広大な畑の草取りを私がババ様の所で修業を終えるまで作業させ、その後一緒に修業をしてから(一度加減を間違えて重力で殺しそうになった)夜は私が勤めるバイト先にしかたがなく置くことにした。

 

 いやだって、さすがに野放しは出来ない。畑に居る時は絶対に危害を加えるなと言い聞かせたので手を出せないチチさんに監視を頼めるからいいけど、さすがにそれが無い夜自由にさせておくのも不安だし。

 バイト先の皆には「重いもの運ばせ機、もしくは高いとこから物取る機だと思ってくれ。接客は絶対にさせちゃ駄目ね。話しかけてもいいけど愛想のよい返事は期待しないでね」と言っておいた。一度「空梨さんの彼氏っすかwwよかったっすねww」と聞かれたけど私は答えずそいつのバイトのシフトと私のシフトを用事があるからと店長に頼んで変えてもらった。彼女とデートすると言っていた日にびっちりシフト入れてもらったけど何か? 言っておくが私が理想とするのは私を甘やかしてくれる包容力があって頼れる優しい年上のナイスガイだ覚えておけ。

 

 メディア関係の仕事に連れていくときは「ボディーガードです」で言い訳すればいいから楽だなぁ……。ガタイがいいから黒スーツが似合う。見た目どこに出しても恥ずかしくない893だが。

 ちなみにラディッツの服装だが、当然あの絶望的にダサいプロテクターは封印した。改めて思うが、何故せめてベジータタイプの服じゃないのか。服屋にぶちこんで適当に見繕ってくれと頼んだら店員に予想以上に買わされてとんだ出費である。髪の毛も私と同じレベルで暴れているので一つに結ばせた。じゃないと飲食店で動き回らせられないあのもっさり頭。

 

 

 不本意ながら、ラディッツと始まった共同生活はこんな感じである。

 

 ベジータたちが来るまであと5か月。未だあの世への逃亡は出来そうにない。

 

 

 

 

 

 

 



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悟空と神様のあの世での一コマ

 神様とあの世の死者の列に並びながら、生きていた時のことを思い出す。つってもついさっきまでの事なんだけどな。

 

 オラには空梨ってねーちゃんがいる。ずっと一緒に暮らしてきたけど、ねーちゃんが戦うところを今まで見たことがなかった。昔から畑で何かしてるか飯作ってくれてた事くらいしか覚えてねぇかなー。

 

 そのねーちゃんが、オラ達が苦戦していた敵を一発で殴り倒したところをたしかに見たんだ。

 オラが覚えてるのはそこまでで次に気づいたらあの世だったけど、神様に聞いたらそれは幻なんかじゃなくて本当の事で、悟飯たちが助かったことを確認して安心した。死ぬ前になんでかあいつの怪我が治って気が倍増した時は焦ったぞ。でも、だからってあいつが死んだわけじゃねぇみてーだ。今閻魔様に聞いたけどあの世には来てないらしい。

 それとこれは神様に聞いたことだけど、1年後にあいつよりもっと強い2人のサイヤ人が来るっていうじゃねぇか! こうしちゃいられねぇってんで、オラは神様の勧めで界王様って人んとこに修業に行くことにした。何でも、あいつを簡単に押さえつけることが出来るくらい強い閻魔様よりもっと強いらしい。ひゃー! 世の中にはまだまだ強ぇ奴が一杯いるんだな!

 

 倒された敵はラディッツっていうオラの兄ちゃんを名乗る奴だった。しかもオラが地球人じゃなくて、戦闘民族サイヤ人っていう宇宙人なんだってことまで言ってくる。

 オラ信じられなくて、つい「だったらねーちゃんも……?」って口を滑らしちまった。そしたらあいつ、ラディッツは「貴様に姉などおらん。兄弟はこの俺、兄であるラディッツだけだ」と言った。それを聞いたブルマが「え、でもあの子にも孫くんと同じ尻尾が……」と言うと、ラディッツは面白そうに笑いだしたんだ。

「ほう、ならばサイヤ人か! 面白い、女のサイヤ人の生き残りがいたとはな。……どれ、この後挨拶に行ってやるか」

 それを聞いて、悟飯まで連れて行かれそうになって必死に止めた。けどオラ一人じゃ全然敵わなくて、結局行かせちまったんだ。悟飯だけじゃなくてねーちゃんまで守れなかった。オラ、悔しくてたまんなかったぞ。

 

 だけど、守られたのはオラ達の方だった。

 あんな凄ぇ奴を一発でのしちまったんだ!

 

 

「くっそ~。もったいないことしたなぁ……」

「? どうした。もったいないとは何のことだ?」

「あり、オラ口に出してたか?」

「ああ」

「そっか。いやさあ」

 

 閻魔様のとこから界王様んとこに行くってんで、神様と入り口で別れることになった。そのときオラの独り言が聞こえたみてーだな。

 

「今までずっと凄く強いやつが近くに居たのに、一回も戦わなかったなんてすっげーもったいないことしたと思ってさ」

「……お前の姉、空梨のことか?」

「おう! ねーちゃんがねーちゃんじゃないとか、それが本当なのか分かんないけどよ。オラ、生き返ってサイヤ人たちを倒したらぜってぇねーちゃんと一緒に修業してみてぇんだ!」

「そ、そうか。しかし悟空よ、彼女は本当に信用出来る人間か?」

「? どういうことだ?」

「おぬしの兄、ラディッツをどうやら生かすことに決めたようだぞ。しかもあの者はお前たちの戦いに入ってくることはなく、結果それがお前を死なせることにもつながった。もっと早く介入しておればおぬしは生きておっただろうに……。そのことについて恨んではおらぬのか」

「ん? う~ん……」

 

 聞かれたから考えてみるけど、別にねーちゃんを恨むような気持ちは無いな。ただやっぱり戦ってみたかったなってのはあるけど。

 

「別に恨んでなんかねぇぞ? 最後は助けてくれたしな! あいつを生かしたのだって何か考えがあるのかもしんねぇし、それは生き返ったら聞くさ!」

「おぬしという男は本当に……。はあ、色々心配しておる私が馬鹿みたいではないか。ほれ、さっさと行け。ここ1年が勝負じゃからな。頑張るのだぞ」

 

 そう言うと、神様は疲れたみたいに息を吐くと背を丸めて先に行っちまった。なんだよー、聞いてきたのは自分のくせに。

 

 

「ま、いっか」

 

 

 よっし!蛇の道っちゅーとこをさっさと越えて界王様の所に行くぞ! それで、もっともっと強くなってやる!

 

 待ってろよ皆。オラ、強くなって帰るからな!

 

 

 

 

 




短いけど悟空視点でのあの世でのお話。


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10ページ目 2人のサイヤ人襲来!~三つ子の魂百まで

Ё月●日

 

 1年前、私はたしかに雲隠れすると誓った。そしてその通り雲隠れしに秘境へ行くはずだった。ついでにいい温泉のある秘境の宿まで取って悠々とベジータがボコられて帰るまで優雅に松茸でもむさぼり食っていようと思った。

 

 なのに。

 

「空梨、一緒に頑張ろうね! ボクも頑張って修業した!」

「修業の仕上げに餃子がお前と超能力の訓練をしたいと言い出してな。突然ですまんが訪ねさせてもらった」

 

 1年が経つ前に、そう言って訪ねてきた餃子師範と天津飯。

 私の答え? そんなもの弟子として決まっているじゃないか。

 

「ええ、喜んで! 一緒に超能力をもっと極めましょう師範!」

 

 

 

 まだ1か月以上時間あるしちょっとなら大丈夫だと高をくくった私は、翌日後悔することになる。(翌日追記

 

 

 

 

 

▽月○日

 

 

 今日かよ!

 

 ベジータとナッパがやってきた。今日かよ!!

 ちょ、まだ1年経つまで一か月以上あるんだけど。こんな時間前行動いらねーんだよ紳士か!

 

 強い気を感じる! と餃子師範と天津飯が気づいたとき、私はまだ彼らと居た。そのあと多分ナッパの挨拶による爆風が遠くのこの地まで届いたのだが、私はそれどころじゃなくいかにスマートにこの場を離れるかについて考えていた。だってこのまま一緒に居たら「よし!行くぞ。1年の修業の成果を見せてやる!」みたいになって私まで行く流れになりそうだもの。わかるもの。

 そのため私はこの時のために用意しておいたラディッツを迎えに行くという名目でそのままフェードアウトしようとした。ちなみにラディッツだが、今はパオズ山で葉物野菜の収穫を行っているはずである。

 しかしここで予想の範疇を超える出来事が起こる。

 

「よし、頼むぞ餃子! おそらくサイヤ人は気が一番強い者の所へ向かっている。そこへ行ってくれ!」

「わかったよ天さん、まかせて! 一番強い気だから……多分ピッコロだね! 行くよ!」

 

 そんな会話がされたと思ったら気づいたら目の前に緑色のナイスガイと甥っ子がいた。

 

 言葉をなくす私に、餃子師範はつい最近テレポーテーションを習得したのだと教えてくれた。サイヤ人がどこに現れてもすぐに行けるように模索した結果だとか。私が重力(念力)操作という新技を身に着けたと聞いた時から、師範も新たな可能性を探したらしい。

 凄い、すごいよ師範。でも今のタイミングで言わないでほしかったし教える前から巻き込んで移動しないでほしかったかな!?

 

 小さい頃からずっと遊んだり面倒見ていたため、悟飯ちゃんはすぐに私に気づいて駆け寄ってきてくれた。でもね、その目でおばちゃんを見ないでくれるかな? ん? 「空梨おばさんも一緒に戦ってくれるんですね!」とかキラキラした目で私を見るんじゃない。一緒にどころか甥っ子が戦うのを承知しながら秘境で温泉で松茸しようとしていた伯母を見るんじゃない……! 純粋な目の輝きに心が焼きただれるだろう。私は私が一番だけど、罪悪感や良心が無いわけじゃないんだぞ。それとピッコロさんは「あのサイヤ人はどうした」って目で私を見ないで。ラディッツ連れてくるどころか逃げる間も無かったんや。

 とかなんとか思いつつ唸ってたらクリリンが来て、そして間をおかずにベジータとナッパがやってきた。サイヤ人の気に師範たちが気づいてからこの間、約10分未満である。逃げる暇など無かった。

 しかし私はあきらめん、あきらめんぞぉ……!

 

 ベジータに姉だと気づかれたら絶対に面倒くさくなるため、私は他人のサイヤ人のフリをしようと思ったのだ。何しろ最後に会ったのが私が7歳でベジータが5歳の時。いくらなんでも成長しているので、面影があっても早々には気づかれまい。

 

 イメージ的には「王子! 王子じゃないですか! まさか自力で惑星ベジータから脱出を!? いやーまさか生き残りのサイヤ人が王子だったなんて!」みたいなノリで始めつつ、他人のフリを強調しつつ世間話で間をもたせるのだ。

 理想は悟空がやってくるまで持たせたいところだが、さすがにそれは難しい。ので、誤魔化しきれなくなってメンバーが増えて戦闘が始まったら初っ端にやられたふりをして隅に転がされる。そしてみんなが戦闘に夢中になっているすきに、気弾の爆風で吹き飛ばされたふりをして自然に戦線から離脱するのである!

 ここでみそなのが世間話をしつつあくまで地球側の味方である主張をすることだ。ちょちょっとやられたふりをすればあとはとばっちりを受けないようにして寝ている簡単なお仕事なので、わざわざ向こうに寝返る芝居などする必要はない。もしそれをしたらそっちの方が後々面倒だ。窮地においても保身を怠らない自分の冷静さには我ながら惚れ惚れするね!

 とかかんとか、ここまでほぼ10秒。

 

 しかし私のこの作戦は、意を決して空に浮かぶベジータを見た瞬間水泡に帰した。

 

「ぶふッっ!!」

 

 真顔で噴出した。だって想像はしてたけどあいつ、ベジータ変わってねーんだもん! 幼少時の面影どころかまんますぎて笑うわ! いや成長してないわけじゃないけど! 悟空も似たようなもんだけどこっちは青年になったな、いい男になったなって雰囲気なのに! ベジータおま、今たしか30歳じゃん? でも成長したなって言いづらいその絶妙な生意気面! こんなん笑うわ!!

「つーか前髪何処行ったしワロス」

「貴様ハーベストか!」

「なんでわかったし」

 以上、身ばれまでの会話の数である。1ターンでばれたってどういう事だ。

 

 

 すぐに味方のはずの皆から視線を集めた私は、誤魔化しきれないと悟って「あいつ私の弟なんで」とすぐに暴露した。「え、じゃあボクのおじさん?」って気づいた悟飯ちゃんは偉いね頭の回転が速いねでも違うんだよ。「いや、あいつが実弟で悟空とは一緒に育っただけの義兄弟ね。だから悟飯ちゃんとあいつとの間に血の繋がりはないよ。だからあのおじさんの髪型を見て将来を心配しなくていいんだよ?」と安心させるために言ったら、なぜかまだろくに話していないベジータがブチ切れた。おい、ナッパ。「あのベジータをキレさせる煽り……まさか、本当にハーベスト王女。生きてやがったのか」じゃないよ。何でお前までそんなことで王女認定するんだよ。あと気づいたなら「ご無事で何よりです」の一言でも言ってきたまえよ、ん? 王女だよ私は。この時点で私は再び「どうにでもな~れ」思考になりつつあった。

 

 けど、煽ったって言ってもあいつの方だって酷い。どうして地球に居るかとかの追及の前に「貴様の事だ。軟弱な星に来たのをいいことに毎日ぐーたらのうのうと過ごしていたんだろう。その弱り切った戦闘力と間抜け面を見ればわかるぜ!」とか言ってきてさ、久しぶりに会ったのに未だ私の事をニートみたいに! 「は? のうのうと過ごしてないし、超働いてるし。お前はあれだろ、相変わらず頭脳を必要としないぶち壊すだけの簡単なお仕事やってんだろ。脳筋お疲れ、私はもっと生産的なお仕事やってるから。比べられるとかマジ困るわ~私の方が超有意義な生活してるわ~」と返すと、ナッパがベジータの横から一歩離れた。どうした、口数が少ないけど。もっと会話に入ってきてもいいんだよ?

 私に負けじと頑張ろうっていうのか、ベジータもさらに言葉を重ねてくる。昔から私に口で勝ったことないくせに生意気な! どうせたいしたこt「フンっ、貴様にサイヤ人としての誇りがないことが改めて分かったぜ。無様だな。なんだ? その腹は。醜く肥え太って、こんなのが身内とは、恥ずかしさで死ねるなら俺は何万回も死んでるぜ。はーっはっは!」言うなよ。言うなよぉぉぉ!! だって! スイーツフェスが一昨日あって! スイーツ好きのプチブレイク中の恋愛占い師ってことでゲストで呼ばれて! 大食いイベントでいくらでも食べていいですよ、むしろ食べてくれた方がイベント的に盛り上がるんで遠慮しないで食べちゃってくださいってスタッフの人に言われたから!! しかも昨日は餃子師匠との超能力の修業だったから体動かしてないし! 本当なら1日でこんな脂肪抹消できるんだよ! お前らが早く来るから悪いんだ私は悪くない!!

 

 で、最終的にどうなったかって。

 

 

「「殺す」」

 

 

 罵詈雑言を互いに言いつくして最終的にいろいろふっ飛ばして姉弟喧嘩になった。

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 

(日記は次のページに続いている)

 

 

 

 



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VSナッパ!ピッコロとZ戦士

「ナッパぁ!! 俺がこのクソ女を黙らせてくるまでに雑魚共を片付けておけ!」

「ナッパぁ!! 私がこの愚弟をぶっとばすまで動くなよ、いいかフリじゃないからな絶対に動くなよ!」

「何故貴様がナッパに命令している! まったくどこまでも腹の立つ野郎だぜ!」

「ぶー! 野郎じゃありませーン。野郎は男に使う表現ですーゥ!」

「やかましいわ! 来い、かつての俺と比べてたら痛い目見るってことを思い知らせてやる!」

「上等だよこの父親似の髪型! 弟は生まれた時から姉というヒエラルキー上位者には逆らえない運命だと思い知らせてやるわ!」

 

 

 低次元な口喧嘩を上記の言葉で終えたやつらは、思い切り闘うためか場所を移しに飛んでいった。あとにはなんとも言えない表情で立ち尽くすデカブツサイヤ人が残されている。……。敵であることに違いはないが、同情くらいはしてやるぜ。

 

「……。念のために聞くが、貴様らここに何をしに来やがった」

「お、おいピッコロ。なんか悟空の姉ちゃんとその弟? がどっか行っちゃったけど普通に聞いていいのかな……」

 

 クリリンがサイヤ人の姉弟が飛び去った方向とこちらを交互に見ながら言うが、やかましい聞くな。追及していたら話が進まん上に、忌々しいが先ほど膨れ上がったやつらの気は俺たちを大きく超えている。同士討ちすれば儲けものだ。

 相対する敵が減ったんだ。こちらはこちらで進めさせてもらうぞ。

 

「ふ、ふん。その声、ラディッツと戦っていたのはお前だな」

「声?」

「なんだ、知らなかったのか? このスカウターは通信機にもなっているんだ。しっかし、まさか地球でナメック星人に会うとは思ってなかったぜ」

「……! それはこの俺様の事か?」

「ほかに誰がいるんだよ。いや、よく見ると三つ目人っぽいのも居るな。なんだ、辺境の惑星だと思ったら結構宇宙交流も盛んなのか? しかし、合点がいったぜ。ナメック星人は並外れた戦闘力のほかに不思議な能力をもってるって前にベジータから聞いたことがある。ドラゴンボールってぇやつを作ったのはお前だな?」

 

 デカブツの発言にクリリンがドラゴンボールを知っている事に驚いているが、こっちはそれどころじゃないぜ。まさかこの俺様が宇宙人だったとは……。これは父すら、神の野郎ですら知らなかったことだろう。

 同じく三つ目人と言われて隣で固まっていた、たしか天津飯とか言ったか? そいつが話しかけてくる。

「おい、ピッコロ。ここで共闘しないとは言わせんぞ。この中で一番強いお前が奴の強さを最も理解しているはずだ」

「あんな奴にドラゴンボールを渡したらたいへんなことになる……!」

「……チッ、胸糞悪いが今回は初めからそのつもりだ。貴様らのような奴らでも居ないよりはましだからな。仲良しこよしは柄じゃないが、今回は別だぜ」

「ふっ…。それを聞いて安心したぜ」

「お話は終わったか? どうやら素直にドラゴンボールを渡すつもりは無ぇみてーだし、どれ。ちょっと遊んでやるか。向こうが終わるまでにお前らを片付けとかないと俺が怒られちまうんでな。へっへっへ……せいぜい俺を楽しませてみろよ」

 

 言うやいなや、奴の気が爆発的に上昇する。先ほどの2人に比べると見劣りするが、それでも十分に脅威だ。

 

「ぎひひひひ……。行くぜ!」

「!?」

 

 ! 見えない!

 奴が消えたと思ったら、すでにその拳は天津飯にせまっていた。

 

「ボクの超能力がきかない!? 天さん避けて!」

「くっ」

 

 駄目だ、あれは間に合わん。

 早くも一人やられるかと思ったが、そこでどこからか光球が飛んできた。

 

「繰気弾!」

「うお!?」

 

 その光球、気弾は天津飯の奴を吹き飛ばし、すんでのところでデカブツの攻撃を避けることが出来た。ふっ飛ばされた天津飯はダメージこそ受けたようだが、致命傷を受けるよりはるかにましだろう。

 

「ヤムチャさん!」

「なんだ、俺が一番最後かよ。遅れて悪いな」

 

 そう言って崖の上から飛び降りてきたのは、たしか天下一武道会で神にやられていたやつか。たしかヤムチャとかいったな。

 

「悪かったな天津飯。威力は抑えたつもりだが、大丈夫か?」

「あ、ああ。助かったぜヤムチャ……」

「へへっ、また雑魚が一匹増えやがったか。これで少しは楽しめるか?」

 

 チッ、余裕こきやがってあのサイヤ人。腹が立つぜ……。

 

「おい悟飯、一応孫以外はこちらの戦力はそろった。ここから本格的にいくぞ」

「あ……あ……」

「悟飯!」

「は、はい!」

「奴の気に飲まれるな。死ぬぞ」

 

 ちぃッ、いくら舌打ちしても足りないくらいだ。無理もないが、今の一瞬で完全に悟飯の足がすくんでいやがる。こいつにとって純粋な殺意と向き合うのは初めてだからな。

 

「じょ、冗談きついよな……。あいつ、さっきのだって遊んでるレベルみたいだ」

 

 クリリンが言うように、初撃をはずしたにもかかわらず追撃もせずにニヤニヤ笑って余裕をこいてこちらを眺めている。まるで虫ケラをいたぶって楽しんでいるようだ。

 次に奴が動いたとき、もしかしたら1人や2人死ぬかもな。だが、それならそのすきを狙って攻撃するまでだ。

 

「さーて、じゃあお次はどいつを狙って……」

「ずいぶん楽しそうなことをやってるじゃないか、ナッパさんよぉ」

「!?」

 

 全員が身構えていた中、聞き覚えのある声が耳に入った。

 

「俺も仲間に入れてくれよ」

 

 

 

 そこには1年前、孫と共闘しても倒せなかったあのサイヤ人が居た。

 

 

 

 

 

 




悟空「おっす、オラ悟空!
うひゃー!とんでもねぇことになったな。なんでラディッツまで居るんだ?
オラはまだ行けそうにねぇ。みんな!なんとか持ちこたえてくれ!
次回、ボラゴンボールZ
『味方か敵か?ラディッツ死す!』
次もぜってぇ見てくれよな!」


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VSナッパ!敵か味方か?ラディッツ死す!

俺が現れると、その場の視線は当然のように集まった。そして第一声を放ったのはナッパの野郎だ。

 

「おいおい、弱虫ラディッツじゃねぇか。やっぱり生きてたみてーだが、1年ものうのうと何してやがったんだ?」

「お前、本気でそれを言っているのか。ここにはあの女がいるんだぞ」

 

 それを言うと、ナッパはさっき空梨とベジータが飛び去った方向を思わずといったように見た。ここ1年で奴と一緒に修業したため身についた「気」とやらを探る技術によって、そちらで激しい気のぶつかり合いが行われていることが嫌でもわかる。それが無くても先ほどからここまで何やら破壊音が響いているのだ。ここにいる全員がそれを気にしないように努めているのが窺えるが、まあ気は散るだろうな。俺は近づきたくもないし気にしたくもない。あの中へ入ったら暴力にすりつぶされるのが目に見えている。

 

「へっへ……そりゃあ、まあ悪かったよ。俺もあの2人がガキの頃苦労した口だ。1年も王女のお相手なんてご苦労だったな」

「まったくだぜ、あの我儘女」

「王女はこの星が気に入っているらしいな。あれか? 自分に都合のいい星を荒らされたくないからあの雑魚どもについてるってとこか? 戦闘力だけはあるくせに昔から我儘で自己中と、姉弟そろってまったくよぉ……たちが悪いったらありゃしねぇ。まあ、ベジータがなんとかするさ。あいつの戦闘力はすでに20000を超えてるし、首根っこつかんで帰ってくるだろうさ。そしたら地球の野郎共をぶち殺してこの星をフリーザ様への手土産にでもしてやろうぜ。まあドラゴンボールってやつは俺たちで頂くけどな。だっはっは!」

「ベラベラと煩い野郎だな」

「あん?」

 

 ナッパは俺がそんな口を利いたのが不満だったのか、わずかに凄んでくる。しかし、今の俺は以前の俺とは違うのだ。

 

「ベラベラ煩い野郎だと言ったんだ! 口が臭くて反吐が出るぜ!」

「おいおいおい、ずいぶんと生意気な口を利くようになったじゃねぇか。どれどれ?」

 

 そう言って奴はスカウターをいじる。

 

「戦闘力2500……なるほどなぁ! 一応サイヤ人の面目が立つくれぇには強くなったじゃねえか。王女サマに鍛えてもらったのか? だがよぉ、調子に乗るにはちーとばかし少ねェなあ!」

 

 ナッパは心底おかしいというように笑っている。ちッ、耳障りな野郎だ。

 

 

 

 

 忌々しいことにここ1年、俺ラディッツはハーベスト王女もとい空梨のもとでこき使われながら過ごしていた。

 

 時に畑で泥にまみれ、時に空梨のサンドバッグにされ、時に居酒屋で必要な時以外は動かない置物になった。

 何故かナメック星人の攻撃から生還した俺は急激に戦闘力を増し「ついに俺の才能が開花したのか!」と歓喜した。が、それをあの女の一撃で粉々に砕かれてからのこの日々である。プライドはとうの昔にズタボロに……いや、これはよそう。前についぼやいたら「え、命乞いしたくせにまだそんなものあると思ってたんだー」とつっこまれて心に深い傷を受けたんだ……。あの女、せんべいを貪りながら何気ない感じで言いやがって! 甘くないからセーフだとか、そんなこと言ってるからサイヤ人のくせに太るんだ馬鹿が!!

 ともかく、ここ1年最悪だったぜ。

 まあカカロットの妻の飯は美味かったし、バイト先の奴らも初めほど俺を馬鹿にしなくなったが……。

 

 今日は空梨とカカロットの一家が世話する畑で菜っ葉を収穫していた。

 その野菜を見て奇しくもそれと同じ名前のサイヤ人の事を思い出していた俺は、やがてこの地球に来るであろう2人と会ったらどうするかを考えていた。

 

 惑星ベジータを破壊したのはフリーザ様、いやフリーザがサイヤ人を危険視したかららしい。しかもそれに唯一気づいて抗おうとしたのは、俺の親父であるバーダックだったという。あのフリーザにたった一人で正面から立ち向かうなど正気の沙汰ではないが、あの人ならやるだろうという確信があった。弱かった俺にあまり関心を示さなかった親父はこちらを向くことは少なかったが、逆にその背中を幼い俺は見続けていた。だからこそ、あの人ならたった一人でもやってしまうという信頼に似た確信だ。今思えば憧れていたんだろう。下級戦士という枠から逸脱し、周囲に認められていた親父に。

 そのためハーベスト王女に話を聞いたとき、自分でも驚くほどすぐに信じてしまったのだ。我ながら単純すぎて反吐が出る。だが長年部下として過ごしてきたこともありフリーザならそれくらいやるだろうとも思うし、いくらサイヤ人としての誇りをもたない王女でも母星の消滅に関してまで嘘はつくまい。一緒に暮らし始めてから色々とイメージは悪い方向に壊れたが、当時は思慮深い姫として名を馳せていたのだ。フリーザのたくらみに気づいたところで不思議はない。

 今さらベジータとナッパのもとに戻ったとしても、フリーザの下で働くのはもうごめんだ。

 

 なら、俺はどうする? どうしたい?

 それを考えていると地球に近づく大きな気に気づいた。これはあいつらだ。そう確信すると、俺は麦わら帽子と首に巻いていたタオルを放り出し、空へ舞い上がっていた。

 ごちゃごちゃ考える前にやりたいことをやれ。この1年、あの我儘馬鹿女と過ごして唯一得た教訓だ。

 

 たまには俺にも好きにさせてもらうぞ! 弱虫と言われ続けた今までの人生を返上だ!!

 

 

 

 

 

 

 

「な、なあ。たしかあいつ、悟空の姉ちゃんが犬の魂を入れてしつけてるって言ってたよな? 普通に話してるけど」

「やはり嘘だったか。元から信じちゃあいなかったが、この場面で現れやがるとは最悪だぜ……。あの女の手綱が無い今、寝返る可能性のが高い」

「げげっ! 嘘だろ!? これ以上戦力差がついたら俺たち……」

 

 こちらを見ているハゲチビとナメック星人がごちゃごちゃ何か言っているな。

 まあ、安心するがいい。今回俺がここに来たのはお前らにとっては結果的に悪い話じゃない。

 

「ベジータは空梨……ハーベストの相手をしてるんだろう。雑魚相手に暇してるなら、俺と戦わんか?」

「ああ?」

「なっ!」

「あ、あいつ……。自分の味方を裏切るってのか? いや、俺たちにとっては都合がいいが……」

 

 俺の発言に驚く周囲というのも、新鮮で小気味いいな。

 ナッパは先ほどまで冗談ととらえていた俺の暴言を今のセリフによって本気だと悟ったのか、額に青筋を浮かべてドスのきいた声で恫喝してきた。

 

「自分が言っていることの意味をわかってんのか? 弱虫ラディッツよぉ! 少しは強くなったと思って甘く見てやってりゃあずいぶんと調子にのってんじゃねぇか。なんだ? 馬鹿女とか言いながら、ハーベストにほだされたか!」

「フン! 俺はな、前から飽き飽きしてたんだよ! 弱虫と言われて、下向いて生きてる自分の人生にな! ほだされたわけじゃないが、あの女は自分の好きなことして生きてるぜ。せっかく強くなったんだ。俺も少し、それに倣ってみようって思ったわけだ! 笑いたきゃ笑え! すぐに笑えなくしてやるがな!」

 

 惑星を征服し、脆弱な他種族を屠る時戦闘によって高揚感を覚えていた。だが、その後にどうしても残る虚無感は弱いもの相手にしか強がれない情けなさだ。傍にいる2人には絶対に敵わない劣等感だ。そんなものに苛まれてこれから生きていくくらいなら、どうせあの馬鹿に握られていた命。ここで景気よく使って自分の限界を試してやる! 

 

 そうして、俺とナッパとの戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺の考えは甘かったのだろう。

 

「おらおらおら! さっきまでの威勢はどうした!?」

「ぐっ! くあッ」

 

 空梨との修業で戦闘力の変化を身に着けていた俺の限界値は、3845まで上昇する。ナッパは確か戦闘力4000前後だったはずだ。そこまで差を縮めたのなら、勝負にはなるだろう、工夫によっては勝てるだろうと思っていた。だが、ナッパの野郎のタフさを舐めていた結果がこれだ。それと俺が格上との戦闘に慣れていなかったことも原因だろう。馬鹿王女の奴は、戦闘力をむやみに振り回すのは得意だが絶望的に実戦経験が少ないのでノーカンだ。むしろ組手に慣れるために俺を使っていた節がある。

 

「ぐはぁ!」

 

 ナッパのタックルに吹き飛ばされ、崖に体が埋まった。そこにナッパの奴が悠々と近づいてくる。

 

「お前みたいな弱虫は、やっぱりサイヤ人にはいらないな。俺とベジータが不老不死になれば宇宙中にサイヤ人の名をとどろかせてやる。だからお前は安心して死んでいいぞラディッツ」

 

 そう言って、奴の口がカパッと開く。そこに光球が集まっていくのを見て、俺はここまでかと目を閉じた。しかし俺にナッパの攻撃が当たることは無かった。

 

「気功砲!!」

「魔貫光殺砲!」

 

「んな!」

 

 俺たちの戦いに割って入ることは死を意味する。そう感じて近づいてこなかっただろうカカロットの仲間どもが、攻撃してきやがった! しかもその2つの気功波の威力は相当なものだろうと推測できるうえに、一つはオレを一度殺しかけた貫通技!

 

「ぐあぁぁぁあああああ!!」

 

 すぐにナッパは俺に放とうとしていたエネルギー波をそれらに方向転換して放ったが、両方がぶつかっておきた爆風がナッパを巻き込んだ。俺も巻き込まれそうになったが、何故か気づけば俺はナッパが爆風に飲まれる様を遠くから見ていた。

 

「! お前は!」

 

 気づけば俺は目立たなかった顔の白いチビガキに支えられて空に居た。一瞬で移動したように感じたが、どんな技を使った!?

 

「何故俺を助けた!?」

「ラディッツは、よく戦った。空梨の同居人だし、弟子の家族を助けるのは師範として当然だから!」

 

 ……そういえば、昨日家に来ていたな。空梨が「しはん、しはん」と慕っていたが、まさかそういう名前じゃなくて「師範」だったのか?

 どう反応すればよいか戸惑っていたが、爆風の中からエネルギー波が飛び出してきたのを見て逆にそいつを抱えてそれを避けた。

 

「あ、ありがとう」

「ナッパめ、まだ生きてやがるのか……!」

 

 爆炎が晴れると、そこには完全にブチ切れたナッパがいた。

 

「貴様らぁ……! 許さんぞぉぉぉ……ッ!」

「「かめはめ波ぁー!!」」

 

 すぐに気功波を放った2人、三つ目の男とナメック星人にとびかかろうとしたナッパだったがそこに追撃がきた。ハゲチビと頬に傷のある男が、左右から挟み込むようにさらに気功波を打ち込んだのだ。

 

「悟飯、止めだ!」

「ま、魔閃光ー!!」

 

 そこに、カカロットのガキが強力なエネルギー波を放つ。何て奴だ! もとの戦闘力からは考えられない威力だぞ!?

 

「やったか……!?」

 

 思わずつぶやいた。あれだけの連撃だ。倒せていなくとも、重傷くらい負っているはず……。

 

「……皆殺しだ」

「な、んだと……!? がぁッ」

 

 そこからは蹂躙劇だった。顔を赤黒く染めたナッパの野郎に、まず三つ目がやられた。白チビが俺の腕から抜け出そうともがいていたが、無駄死にが目に見えている。押さえている間に、次は傷の男だ。仲間のハゲチビをかばってエネルギー波にぶっとばされて動かなくなった。それに激高したハゲチビとカカロットのガキがしかけるが、ハゲチビは片手ではじかれガキは正面から腹に拳を受ける。ぶっ飛ばされたガキにナッパは力の放出量が凄まじくスパークしているエネルギー波を打ち出した。そしてそれを、今度はナメック星人がかばって死んだ。

 ここまで先ほどのダメージで動けなかった俺の前で、あっという間にハゲチビとガキ、白チビ以外が死んだのだ。

 

「わーっははは! 雑魚が俺様に傷をつけるからだ馬鹿め! さあ、残りは貴様らだけだ」

「くそぉ……! ヤムチャさん、天津飯、ピッコロまで。ひ、ひでぇ……悪夢だよ。次々にみんな、死んじゃうなんて」

「ピッコロさん、ピッコロさーん!!」

「安心しな、すぐに仲間入りさせてやるよぉ!」

 

「……。離れてろ」

「え?」

 

 俺は白チビを放すと、静かに地上へ降り立った。

 

「なんだ、ついに諦めて自分から身を差し出してきたか? それとも無様に命乞いでもするか?」

「……」

 

 答えないまま、俺は横目でカカロットのガキを見る。ナッパの野郎はさっきの爆発でスカウターを飛ばされ気づいていないが、あのガキの戦闘力がどんどんと上昇している。

 

「この俺が、こんな役回りで最期とはな」

「何を言って、!?」

 

 最後の力を振り絞り、俺はナッパの背後にまわり羽交い絞めにした。奇しくもそれは俺がカカロットにされた時と同じ構図だ。

 

「ラディッツ、お前何を……!」

「カカロット、いや、孫悟空のガキ!!」

 

 ナッパを無視してガキに呼びかける。

 

「俺ごとこの単細胞の馬鹿を撃て!」

「「!?」」

「なんだと!? て、テメェ! やめろ!」

「くくく、どうした? 命乞いでもするか? 流石に、タフなお前でももう限界だろう。焦ってるなぁナッパさんよぉ!!」

「クソッ、放せ! やめろぉ!」

「いざ命の危機となったら無様なもんだな! この、弱虫が!!」

 

 言ってやったぜ。はん、ベジータに一矢報いることは出来なかったが俺にしては上出来か。あの世の親父にちょっとは認めてもらえるか? いや、無理か。自分まで一緒に死んで止めは甥っ子に頼むなんてみっともない最期じゃあな。

 

「あ…ぼ、僕……!」

「早く撃てーー!!」

 

「う、うわぁぁーーーーー!! 魔閃光ーーーーーー!!!」

 

「ぐっ」

「がぁぁああああああ!!!!」

 

 次の瞬間、俺とナッパの胸は打ち抜かれていた。完璧、だな。ばっちり穴が開いてやがる……。

 

「ぐ、この、野郎」

「ち……、この、化け物、め」

 

 しかしなおもナッパは動き、最後のあがきか虫の息の俺を踏みつぶそうとしてくる。

 

「気円斬!!」

 

 しかし、その前にひらべったい気の塊がナッパの首を飛ばした。なんだ、そんな技があるなら……早く……使えばいいものを……。

 もう意識がもうろうとしている。ああ、畜生。1年生き延びただけで、結局これが俺の最期か。

 

「ラディッツおじさん……!」

 

 

 

 カカロットのガキの声が聞こえるが、もう目が見えない。カカロットよ、せいぜい、恩に着ろよ。お前の息子を助けてやったんだから……な……。

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 こときれたラディッツの躯を前に、クリリンは悟飯の肩に手をかける。

 

「悪いやつだったかもしれないけど、お前のおじさんは最期は俺たちを助けてくれたな」

「はい……」

 

 1年前は恐ろしい敵でしかなかった。だというのに、クリリンと悟飯の心には失った仲間の命とともに彼の生き様がしかと刻まれていた。

 しかし悪夢は終わらない。

 

「なんだ、ナッパの奴め。こんな雑魚どもに負けたのか?」

「あ、……な!? お前は」

「空梨おばさん!」

 

 ざりっと地面をこする音が聞こえた先には、血だらけで気を失う空梨の髪をつかんで引きずるベジータが居た。

 すでに立ち上がる体力も無い2人はそれを絶望で染まる表情で見ていた。

 

 しかし、希望はまだ繋がっていたのだ。

 

 

 

 

「連れて、来た!!」

 

 ベジータと悟飯、クリリンの間にいつの間にかどこかに消えていた餃子が現れる。

 そして彼の横には、切望してやまなかった人物が立っていた。

 

 

「悟空!」

 

 

 

 山吹色の胴着をまとった地球最強の男が、そこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※この小説は「とある姉サイヤ人の日記」です。





~こういうのも考えましたが没になりました。~

 こちらを見ているハゲチビとナメック星人がごちゃごちゃ何か言っているな。
 まあ、安心するがいい。今回俺がここに来たのh「ラディッツ! ラディッツじゃないか!?」!?

「な、ヤムチャなぜお前がここに!」
「「「「「!?」」」」」
「それはこっちのセリフだ! たしかに居酒屋の店員にしちゃ強い気を持ってると思ってたけど、まさかお前が例のラディッツだったのか!?」

 俺がナッパにここに来た理由を突き付けてやろうとしたところで、思わぬ介入が入る。そして下を見ると、そこにはあの女のバイト先である居酒屋にたまに来るヤムチャという男がいた。といっても、だいたい奴のシフトに俺が代わりに入っている時来るだけだから面識はないだろうが。まさかこいつらの仲間だったとは。

 ヤムチャとラディッツの面識がないのをいいことに思いついたのですが、唐突だし続かなかったので没に。


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★11ページ目 戦いの終結~そうだ、ナメック星へ行こう

▽月○日 続き

 

 ラディッツが死んだ。……え?

 

 ………………え!?

 

 

 

 

 

 

 

○月■日

 

 

 最近リアルタイムで日記を書き込むことが多い。もう見ないで指先だけで打ち込める。

 昨日の『ベジータたちがやって来た!』事件も自分を落ち着かせるためにほぼ無意識でポケットの中で打ち続けていたが、衝撃の事態に途中で打つのをやめてしまった。そのため今日、昨日の日記の続きを書こうと思う。

 

 昨日、我ながら頭に血が上っていた。それと過去の栄光にすがっていたようだ。修業もし直したし、ベジータごとき倒せると本気で思っていた私はドラゴンボール全42巻読み直してこいや。

 結果は惨敗。

 まあ、あれだ。いわばここってベジータの悪役時代のハイライトじゃん? 優しいお姉さまは花を持たせてやったんだよ。………………冗談はさておきマジで書くと、途中まではエネルギー波などの力のごり押しで戦いは拮抗していたのだが、本格的な接近戦に持ち込まれてからが酷かった。フェイントに次ぐフェイントにことごとくついていけず、最後は血だるまの出来上がりである。大きな攻撃を何一つ食らっていないというのに、虫の息だった私がカス虫すぎて笑えない。

 1年前にラディッツを生き返らせた仙豆だが、成功したのは結局あの一粒。回復の手段を持ち合わせない私は、無様に敗北を喫しベジータに引きずられる羽目になった。(※ちなみにベジータに馬鹿にされていた腹の脂肪はこの戦いできれいさっぱり消えて私はくびれを取り戻している。ここ重要だから書いておく。あの野郎、このカーヴィーな腰を見てみろってんだよクソッタレ。最近メディアでティーンエイジャーに見えるアラサー美魔女占い師枠で呼ばれるが、スイーツ大食いイベントで95kgにまで体重増加した後の翌日の取材で元の体形に戻っているのを見られてからガチの魔女枠で呼ばれることが多くなった。解せぬ)

 

 しかし、ここまではいい。

 ベジータはどうやら私を持って帰ってこき使うつもりらしく、殺す気は無かったようだ。だからあとは痛いのを我慢して、悟空が勝つのを待てばよかった。痛いのを我慢して。痛いのを、我慢して。くっそやっぱり腹立つあの愚弟。

 

 

 だが、そんな私を待っていた現実は連れてきていないはずのラディッツの死だった。

 他のメンバーも知らないうちに何人か殺されていたのだけど、なぜラディッツまで居るのか分からなかった。しかも、付き合いの長い天津飯の死体を見た時と同じくらいショックを受けている自分に驚いている。悟空の時は薄情ながらそこまで動揺しなかったのに、これは体が弱って心までそれにつられていたからだろうか。

 生き残った悟飯ちゃんとクリリンに聞けば、悟飯ちゃんたちを助けてくれたらしい。しかも、共闘の結果あのナッパを倒したんだとか。ナッパは悟空が倒すものとばかり思っていたので、驚きを隠せない。

 嫌々私に従ってると思っていたし、下手したら連れてくればベジータ側に寝返るかもと考えていた。なのに、いったいいつ心境に変化があったのだろう。一緒に暮らしていたのに気づけなかったことに一抹の寂しさを覚えている。……悟空以外に初めて一緒に住んだ人間だし、それなりに愛着がわいていたのだろうか。

 

 悟空とベジータの戦いは、覚えていないがおおむね原作通りに進んだのだと思う。悟空が勝ち、ベジータはボロ雑巾になって帰っていった。ざまぁ見やがれ。

 と言っても、元気玉やクリリン、ヤジロベーのファインプレーに悟飯ちゃんの大猿化という様々な要因が重なった結果なので、悟空はこの勝利に安心はしても納得はまったくしていなかった。(「ねーちゃんが先に戦って弱らせてくれてたしな」と言われた時はすっと目をそらした)まあ、そうでなければわざわざベジータを逃がすなんて真似しなかっただろうしね……サイヤ人の脳筋遺伝子が怖い。

 ちなみに地べたにはいつくばっていたので(全身ぼこぼこにされて立てなかった)ベジータの大猿化ボールは見なくて済んだが、途中のベジータ猿と悟飯ちゃん猿の大暴れで瓦礫に埋もれて死にかけた。助けてくれた餃子師範に感謝である。

 

 ともかく、これで漫画におけるサイヤ人編は終わったのだ。

 

 

 

 

 

Ω月▽日

 

 

 病院から退院してから1日目。家に帰ってからの感想。

 足りない。なんか足りない。

 

 朝起きても朝食が出来てないし、私を起こす声もしない。洗濯物は一人分だし、テレビを見ていてもくだらない感想を言う相手がいない。畑仕事はいつも通りだったけど、最近忙しくてよく見れなかったはずの野菜が瑞々しく育っていて何とも言えない気分になる。悟空のお見舞いに行ってもぼーっとしていると言われる。料理しても食べる量は変わらないのに何故か倍作ってしまった。気分転換にスイーツを買い込んで食べていても、店一軒分のショーケース内を買い占めたスイーツを食べてるってのに制止の声が無いことに違和感を覚える。その翌日の朝、町内会の草取りだったので参加したら「あれ、今日はラディッツくんじゃないんだねぇ」と言われて変な笑いが出た。

 

 なんか、あれだ。ナメック星には怪我の後遺症で~とか言って行かないですんだはずなのに、喜ぶどころか心のもやが晴れない。むしろ何か焦燥感すら覚えている。昨日今日、奥歯に何か挟まったようで気分がとてもすぐれなかった。一日に一回も楽しいと思えることが無いのがこんなに苦痛だとは知らなかった。

 

 そういえば、あの悟空に珍しく気遣われた。あの悟空に。「兄ちゃんのこと、残念だったな。でも悟飯たちを助けてくれたんだ。ナメック星のドラゴンボールか地球のドラゴンボールできっと生き返らせるさ。そしたら3人きょうでぇだな! 皆で畑やったら、今よりもっとたくさん作れるぞ!」だってさ。え、いつの間にラディッツ仲間にカウントされてたん? と、いつもならつっこむだろうに、その時はつい普通に頷いてしまった。

 

 なんだ。私も年取ったな。一人暮らしが寂しいだけか。

 ちくしょう、あの馬鹿。畑に居れば死なないですんだってのに……。無茶しやがって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※月Й日

 

 

 ナメック星に行くことにした。

 

 我ながら昨日のセンチメンタルな独白が気持ち悪いが、まああれが理由で。ラディッツはこの1年、強制的にとはいえよく私に仕えてくれた。それに対して王族として、臣下の忠義には応えねばなるまい。的な。そんな感じで。

 

 などと格好いいこと言ってみるが、内心かなり焦っている。うろ覚えの漫画知識をこの時ほど恨めしく思ったことは無い。

 

 ナメック星のドラゴンボールが3回願い事を叶えてくれるというのは覚えている。それと、地球限定かナメック星共通ルールか忘れたけどっていうかこれが肝心なんだけど、死者蘇生は1年以内に死んだ者、という縛りがあったはずだ。あったよね? くっそ細かいルールとか覚えてねぇよ。つまり4回の願い事の中にラディッツを滑りこませないと、あいつ完璧に死ぬ。もちろん天津飯、ピッコロさん、ヤムチャを優先させるが、そこは「地球でサイヤ人に殺された者を生き返らせる」でひとくくりに出来るだろう。だけど話を聞けば、ラディッツの直接の死因は悟飯ちゃんの魔閃光だ。サイヤ人に殺された中には入らない。

 ナメック星でフリーザ様とぶつかることを考えると、内容的にはこのへんまったく覚えていないがメタ的に考えれば願いに余裕はないだろう。つまりラディッツを生き返らせてやるためには、私が直接ナメック星についていって立ち回り願いの調整をするしかない。これなんて無理ゲー?

 

 おそらくこれは私が漫画という流れの中に、初めて自分から入る行為。

 まったくあの二十日大根野郎。生き返ったらこの借りはたっぷり返してもらうからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地球のDBを使うつもりなら色々巻き込むけど「▽月○日に地球で死んだ人を生き返らせて」と願ってナッパさんだけ倒せばいいんじゃないかな(浅いマジレス


カミヤマクロさんから主人公のイメージイラストを頂きました!小説書いてると神龍に願わなくてもこんないいことあるんですね・・・!

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ちゃんとサイヤ人してるサイヤ人可愛い主人公に作者歓喜。カミヤマクロさん、本当にありがとうございました!




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ベジータの回想

 俺には2歳年上の姉がいる。奴を姉などと認めたくはないが、まあ関係性で言えばそれしか当てはまらない。この時ばかりは、何故せめて俺を先に産まなかったと亡き母への恨み言を思う。奴が妹ならば、まだ寛大な心を向けてやれただろう……いや、それは無理か。しかしあのクソ女が「姉の方が偉いにきまってんだろ」とむやみやたらと俺に偉ぶることはなかったはずだぜクソッタレ!

 

 幼いころから俺はエリートで戦いの超天才だった。周囲もそれを認め、それを裏付けするように実力は鍛えれば鍛えるほど高まる……それに絶対的な自信も持っていた。戦闘民族サイヤ人としての、王族としての誇りが育まれるには十分すぎる環境だったさ。

 だからこそ、成長するにつれてやつの存在が鼻につくようになってきた。

 俺と同じく戦いの英才教育を受けておきながら、俺が早くも惑星の制圧をする仕事をしている傍らあいつは惑星ベジータから出ることは無かった。俺が様子を見るときは決まって何かの本を抱えて勉強している。「弟を支えるために勉強を欠かさない思慮深い姫君」などと評されていたが、それが俺にはひどく惰弱に見えたものだ。

 そうなると姉を尊敬する心など生まれることもなく、俺のが凄い、俺こそナンバーワンだと姉を見下すようになった。が、そんな時だ。あの忌々しい姉が俺と戦闘訓練をしたいなどと言ってきたのは。俺はどちらが偉いか分からせてやるチャンスだと思いそれを了承した。

 

 結果は今でも思い出したくもない。この俺が……この、俺が! 何もできずに一方的に負けたんだ!! あの引きこもり女に、いくつもの戦いを経験したこの俺が!!

 

 そこで引くベジータ様じゃあない。当然だ。「雑魚ばっか相手に勝っていい気になってるからだよ。この格上の、この格上のお姉さまに勝とうなんてちょ~っと思い上がりも甚だしいわー。これを機にお姉さまを敬ってどっかの星に行ったら美味しいスイーツでも土産にして献上したまえよベジータちゃん」などと!! 今でも一字一句思い出せるわあのクソ女が!! そんなことを言われておとなしく引き下がれば、こいつは増長する。間違いなくいい気になる。そして俺をなめくさる。幼いながら悟った俺は、自分のプライドにかけて絶対にこの姉とかいう不愉快な生き物に屈してなるものかと誓った。

 

 それからだ。姉弟だというのにほとんど接点のなかった奴と頻繁にかかわるようになったのは。

 会えば喧嘩や罵り合いは当たり前で、俺はどこそこ構わず戦いを仕掛けたが力は同じか奴のが多少上……結果は引き分けか負けるかのどちらかだった。後で仕掛けた側の俺に戦闘の損害を全てかぶせてくるハーベストの奴に、何度はらわたが煮えくり返ったか知れん。

 そういえばいつも視界の隅にナッパがいやがったな。昔は奴にも髪の毛があった気がしたが、何回目かの喧嘩の後で黒焦げで転がってたのを見て以来スキンヘッドだ。奴はそれから絶対に喧嘩が終わるまで俺たちの近くに寄らなくなった。たまにエネルギー波がぶち当たっていたが。

 

 ハーベスト。奴は外面がいい。

 フリーザ様にまで「あなたは良い姉を持ちましたねぇ。2人そろって将来私に仕えてくれるのが今から楽しみです。ホッホッホ」などと言われたことがある。一回も星の制圧に貢献していないというのに、俺と同列に扱われているのにはムカついたぜ。

 ますます気に入らなかったが、奴の猫かぶりとゴマの擦り方といったら一級品だ。これだけは認めてやる。褒めるつもりは微塵もないがな!

 外面では「思慮深い姫」として期待を集め、俺に対してはただの自己中な我儘クソ女。それが奴だ。

 

 

 地球とかいう星で再会した時、面を見た時から訳もなく湧き上がる本能的な苛立ちに「まさか」と思った。だが、いくら年を取ろうが奴は奴だったようだ。たった一言でこの俺の怒りを最大限に引き出す奴なぞハーベスト以外には考えられん。

 どうやって生き残ったかは知らんが、いかにも軟弱そうな星に住み着いたことをいいことに悠々と自堕落な生活しているのがすぐにわかった。戦闘民族サイヤ人にあるまじき、服の間からはみ出る紐で縛った肉みてぇな肉体を見ればな!! 改めてこの女と血の繋がりがある事実に怒りがわいたぜ。

 

 そのまま戦うことになったが、奴の戦闘力は初め9000程度だった。しかし地球で身に着けた技術なのか、戦い始めた途端一気にそれが21000にまで跳ね上がったのだ。それについて俺が感じた感情は、焦りでもなんでもなく単純な怒り。今まで戦い続けて研鑽を重ねてきた俺とこの豚女が互角の戦闘力だと!? ふざけるな! とな。

 だが、やはり戦い続けてきた俺と奴の間には戦闘力程度では覆せない大きな壁があったようだ。馬鹿め、エネルギー波ばかり撃って近づいてこないことから接近戦が苦手なことが丸わかりだ。接近戦に持ち込んでからは「その戦闘力は飾りか?」と言いたくなるほどあっけなかったぜ。ここ数年で一番心が晴れた瞬間だったな。一方的になぶるのは痛快だったぜ。

 一瞬このまま爆散させて花火にでもしてやればもっと清々しい気持ちになるか? とも考えた。が、それでは生ぬるい。幼い頃とはいえ奴から受けた数々の屈辱、一回殺しただけでは殺し足りん!! そうだな、持って帰って「ベジータ様」とでも呼ばせて這いつくばらせ、頭を踏んでやりながらこき使うってのはどうだ? 我ながらいいアイディアだ。しみったれた顔で家畜のように付き従う奴を想像すれば、多少の溜飲も下がるってもんだ。

 

 

 だが俺はハーベストと戦った後、新たな怒りの対象に出会うことになる。

 

 下級戦士であるはずのカカロットに、この俺が……この俺が負けただと!?

 

 

 先ほど惑星フリーザno79に到着し、メディカルマシーンで傷の回復を行っている。

 あんな雑魚に構っている暇はない。回復次第再び地球に向かい、俺をコケにしてくれた連中を全て木っ端みじんにしてやるぜ!!

 

 

 

 

 

 



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12ページ目 宇宙航行~ぶらり、宇宙旅

■月●日

 

 

 ブルマ、悟飯ちゃん、クリリン、餃子師範とナメック星に出発する日がやってきた。

 正直体はまだボロボロだけど、普段から気の操作によってアンチエイジングしている技術の応用で他の人より傷の治りは早いのだ。内臓系も無事だし、まあ大丈夫だろう。

 ちなみにこの技術に気づいたときは自分で自分を絶賛した。気の活性化でお肌ぷりっぷりよ。アラサーなんて言わせねぇ。

 

 餃子師範については一回ドラゴンボールで生き返ったことがあるため、今回何があって死ぬか分からないナメック星に一緒に行くのは反対だった。しかし同じくすでにドラゴンボールで生き返ったことのあるクリリンが行くし、師範も「ボクも天さんたちを生き返らせるために何かしたい!」と譲らなかったため同行が決定した。まあ実際師範の超能力やテレポーテーションは有能すぎるくらい有能だし、私もそれ以上止められなかったからしかたがない。

 

 チチさんにくれぐれも悟飯ちゃんのことを頼むと何回も念を押された。

 私も畑の事をチチさんに頼んだが、あれだけの敷地をチチさんだけで毎日管理するのは大変なので、あのベジータたちとの戦いがあった場所に行ってナッパが持っていたサイバイマンの種を回収し地面に植えた。

 そして6匹生まれたサイバイマンに「ナッパ」「ナッピ」「ナップ」「ナッペ」「ナッポ」「ラディッシュ」と名付けてチチさんに畑の世話に使ってくれとたくした。1年間ラディッツの中身を犬だと信じていたチチさんは「ラディッツの生まれ変わりと思って可愛がるべ」とサイバイマンたちを引き受けてくれた。サイバイマンのビジュアルを気持ち悪がられないことに安心しているが、それを聞いたところ「パオズ山の化け物たちと似たようなもんだべ。慣れればきっと可愛いだ」と笑ってくれたチチさんマジ天使。サイバイマンも頼られて張り切っているようだし、これは畑については安心できそうだ。

 よし、お前たち頑張るんだぞ。

 

 ちなみにパオズ山の、しかも毎日丹精込めて世話している畑で生まれたためかサイバイマンたちの戦闘力は平均2400くらいだった。パオズ山の神秘凄すぎワロス。

 

 

 そしてここ重要だから書いとくな。おかっぱ悟飯ちゃんマジ可愛い。チチさんグッジョブ。

 食後の歯磨きと洗髪時のリンスは私が責任もってちゃんと見ておくので安心してくれ。悟飯ちゃんのキューティクルは私が守る。

 

 そういえば悟飯ちゃんにピッコロさんと同じ服を作って持っていきたいから、お母さんに内緒で生地を買ってくれないか頼まれたけど服の完成度高くてビビったわ。この子の多才さを考えると将来は明るいな。

 その時の話の流れを聞いてたら、お父さんと同じくらいピッコロさんとラディッツおじさんを尊敬してると言っていた。

 

 よかったなラディッツ。帰ってきても、お前を受け入れてくれる人はいっぱい居るみたいだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

◆月ω日

 

 

 さて、あっという間に地球を飛び出してしまった。

 

 宇宙船内で出来ることは限られてるけど、退屈することはない。

 今までブルマと話すことってほぼ無かったんだけど、お互い思ったことはポンポン言うし相性がいいのか話の合うこと合うこと。歯に衣着せぬ物言いっていうの? 話題は豊富だしテンポよく話は進むしすっげー楽しいわ。クリリンくんに「よくそんなに話が尽きませんね」と呆れられるくらいにはしゃべり倒していたな。

 

 でも一回本気で怒られた。いやさ、私たちが悪いんだけどさ。私たちって、私と餃子師範なんだけど……。

 時間はいっぱいあるし悟飯ちゃんとクリリンくんもイメージトレーニングで修業してるしで、じゃあ私たちも超能力の修業しましょうかってなったんだよね。けどそこからが大変だったよ……。まさか超能力の念波の影響で宇宙船の計測機器が狂うとは。

 宇宙船内が警告ランプで赤く点滅するわ宇宙船は一回目的地を失ってがったんがったん揺れるわで死ぬかと思ったマジで。つーかブルマさん、サイヤ人の頭にたんこぶ作るとかすげっスね。この調子で将来弟の事もよろしくお願いします。

 

 ベジータ戦で超能力使おうと思ったら「はぁ!」ってベジータが気を解放したら念力吹き飛ばされたしな……訓練したかったのに残念。

 どっかで超能力のパワーアップを図らないと。地球へ帰ってからの課題である。

 

 

 

 

 

Д月◎日

 

 

 怪我が大分治って来たので体の調子がいい。超能力の訓練が出来ないこともあって、私は予てより考えていたことを実行することにした。

 クリリンくんに拳法の訓練と気のコントロールを教わることである。

 

 クリリンくんは「え、あのベジータと戦える空梨さんにオレが教えられる事なんてないですよ」と謙遜したが、待ってほしい。君は将来実質的に地球人の中では最強になる男である。しかも気円斬などの技を見てもわかる通り、気のコントロールに関してはぴか一だと私はにらんでいる。悟飯ちゃんも「クリリンさんの気のコントロールは凄いですよ! 技の多さにはボクもビックリしました」と言っているし餃子師範も頷いていたので間違いない。(師範はちょっと悔しそうだったけど

 ナメック星ではどうしても戦いは避けられないだろうし、体を鍛える以外で今の私に出来る事と言えばこれだろう。「オレはまだ未熟だし、人に教えられるほどじゃないですよ」と謙遜するクリリンくんだったけど、私のしつこさを舐めてもらっては困る。最終的にはなんとか修業を見てもらえるよう了承してもらうことに成功した。っしゃ!

 

 クリリンくんはもとから拳法の流派に所属しており、亀仙流の大ベテランでもあるので教えるのがもの凄く上手だった。教えるの初めてとか嘘だろ?ってくらい。

 褒めると照れてたけど、いや本当に。言葉で説明するひとつとっても分かりやすいのなんのって。

 

 私が実戦経験に乏しくて技術面がカスなことも教えるうちに悟ったのか「今度悟空と組手したらどうですか?」と勧められた。だがそれは断る。悟空相手じゃ日が暮れるまで修業に付き合わされるのが目に見えてるから本当に嫌だ。

 ので、地球に帰ったら時間がある時組手してくれと約束を取り付けた。その時は悟飯ちゃんと餃子師範も参加したいと言っていたので、今から楽しみである。「あんたたちは本当に修業が好きよね」とブルマに呆れられたけど、私は修業は好きじゃないから。でもチビーズ(心の中でそう呼んでいる)に囲まれての修業だったら悪くないかもしれない。なんだろ、この今までにない和み空間は。

 

 この時間が終わってナメック星についてからのことを考えるの嫌になって来た。(鬱

 

 

 

 

 

 

∴月◇日

 

 

 

 ヤッチマッタナー。今の心境である。

 

 

 

 

 ずっと避けていた現実に正面から向き合おうと思った。

 何かって、それはな。ナメック星で起こることのまとめだよ。まとめ……だよ……。

 

 

・ナメック星到着、ドラゴンボールを探し始める。

・どっかの集落が襲われてるのでデンデ救出。

・フリーザ様にドラゴンボールを横取りされると焦ったベジータもやってきてドラゴンボールを探し始める。たしかキュイとドドリアはこいつが始末する。

・どっかで最長老様が悟飯ちゃんとクリリンくんをパワーアップさせてくれる。

・どっかでクリリンくんと悟飯ちゃんがドラゴンボールを狙われてぼっこぼこにされる?(相手誰だ

・どっかでベジータとこちらが手を組むことになる。悟飯ちゃんとクリリン衣装チェンジ。

・ザーボンさんが変身。ベジータ負ける?

・仙豆で回復した悟空が宇宙船で重力修業して超パワーアップしてナメック星到着。

・ギニュー特戦隊と戦う。(メンバーはたしか牛乳でギニュー、バターでバータ、ヨーグルトでグルトでクリームでリクーム。あと一人はええと……ええと……ビジュアルは覚えてるんだけど名前が出てこない。なんか赤いやつ、の5人)

・悟空がギニュー隊長に体を乗っ取られる。戻る。ギニュー隊長カエルでニューライフ開始。(もしかしたらカエル後にブルマが乗っ取られるかも?)

・悟空がメディカルマシーンで怪我を回復。

・ナメック星の神龍で願いを叶える。(詳しい内容不明)

・何故か地球で死んだピッコロさんが参戦。ドラゴンボールの願いかな? どこかでナメック星の戦士のネイルさんと合体、パワーアップする。

・フリーザ様と戦う。変身は第一形態(ノーマル戦闘力53万)第二形態(マッチョ)第三形態(エイリアン)最終形態(滑らかフォルム)の順番だったと思う。マッチョとエイリアンがどっちが先かいまいちわからない。

・クリリンくん爆散。悟空がキレてスーパーサイヤ人化。クリリンのことかー!

・フリーザ様と悟空以外が地球に移動。2人の一騎打ち。悟空勝つ。フリーザ様命乞いからの不意打ち。止めを刺される。ナメック星爆散。悟空はギニュー特戦隊の宇宙船で脱出。

 

 

 以上である。

 

 …………以上である。いやホントに。

 これ以上も以下も絞り出せない。

 

 しかもこれ、ガキのころにメモっといたやつなんだぜ? はっはっは。脳みそピッチピチの時、一番覚えてる時に書いたやつなんだぜ?

 あっはっはウケる。

 

 ははは……。

 

 

 ふわっふわしすぎだろアホかぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァ!!!!!!

 

 

 

 時系列どころか順番までふわっふわだよ!! 肝心なところが全てグレーだよ!! 何一つわからないのと同じじゃねーかクソが! むしろ嫌な事わかってる分不安しか呼び起こせねーよ!! もっと詳しく書いてると、子供のころの自分に期待したらこれだよ! 結局私は私だったよ!!

 

 

 

 

 おうちかえりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の原作知識なんてこんなものですよ。生かせる気がしない。


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13ページ目 ナメック星~ずっと胡麻すりのターン!

▽月Б日

 

 

 フリーザ様の宇宙船なう。

 空調きいてて応接間のソファー超気持ちいい。

 

 

 暇だから日記を書き始めてしまったので、どうせだからここまでの経緯も書いておこう。

 

 原作知識も実力も曖昧なままナメック星に到着する前、私はこれからの行動について考えていた。

 そしてとりあえずスーパーサイヤ人悟空のために見殺しにするであろうクリリンくんに美味しいものを出来るだけいっぱい食べさせておいた。気分は死刑前日の囚人にごちそうを振る舞う看守である。いや、クリリンくん悪者どころかすっごいいい人なんだけどね? 本当に申し訳ないが、ここは仕方がないと割り切る私はたいがいクズである。知ってた。悟空を無駄死にさせた時から知ってた。

 

 それでうんうん唸って考え付いたのが、前回の教訓を生かそうというものだ。

 前回、というのは私がなりゆきで関わる羽目になったラディッツ~ベジータ達襲来編である。あの時ほんのわずかに私がかかわったばかりにラディッツが生き残り、その結果おそらく色々と変わった部分があるはずだ。生死で言えば、餃子師範。おぼろげな原作知識の中でもさよなら天さんのインパクトは忘れがたいが、それが起きなかった。そしてサイバイマンたちも、これは自分で利用したんだけど別の生き方を得て今は元気に畑仕事をしている。

 私が何もしなかった部分は、悟空の冒険などあとから聞けば漫画とそう差異はなさそうだった。

 

 

 つまり何が言いたいかって、下手に何かしようとしないで何もしないことこそ大正義!ということである。

 

 

 前回の教訓とはシンプルに「関わるとろくなことにならん」というものである。

 下手に私が流れを弄ろうとすれば、各パワーアップイベントがおじゃんになり、敵だらけの中ぽつんと地球側が孤軍奮闘、フリーザ様の綺麗な花火ですよ! でナメック星爆発くらいのことありそうだもの。

 なのでナメック星につく前から「私は占いでドラゴンボールを探すから、別行動にしよう。そっちの方が効率がいいし、いざとなったら餃子師範のテレポーテーションで合流すればいい」と提案した。あ、ちなみにそういうわけで餃子師範も今一緒に居る。凄く落ち着かなそうにしている。

 

 これでイレギュラー要素である私と餃子師範が居ないから、まあおそらく原作の通りに向こうは進むだろう。多分きっとおそらく。悟飯ちゃんにクリリンくん、ナメック星で思いっきりパワーアップしてきたまえ。

 ふっふっふ、気分は千尋の谷から子を突き落とす獅子……………………ヤベェ、後で悟飯ちゃん達に早々に私が離れたことを言わないように口止めしとかないとチチさんに殺される。まかせてくれって言っちゃったもん。悟飯ちゃんのキューティクルは守ったけど本体から離れちゃったもん。

 

 

 

 

 さて、しかしながらそれだけではナメック星まではるばると来た意味がない。ドラゴンボールで願い事を叶えるために来たんだから。願いの調整については餃子師範のテレポーテーションがあれば叶える現場にすぐに行けるし、あとはその場その場で臨機応変に柔軟に対応しよう!

 というわけで、私は最も効率よくドラゴンボールだけ手に入れて私の株が急上昇するナイスな作戦に出たわけだ。

 

 要約すると「フリーザ様が集めたドラゴンボールを借りパクする」というものである。

 

 ちなみに借りパクとは借りたまま自分のものにして返さないことだ。ゲームソフトとか名前書いといてもやられるから。これ豆な。つっても私はパクる側だったけど……以前マークとマジックで書かれたソフトが掃除してたら出てきて気まずい思いをしたのを覚えている。

 

 そういうわけで、餃子師範を「占いの結果」というごり押しで説得してフリーザ様の宇宙船までやって来たのだ。ここで悠々とドラゴンボールが集まるのを待って美味しいところだけ持っていこうという腹積もりである。我ながらなんてスマートなんだ。自分の天才ぶりに痺れちゃうね! まあ原作でもベジータが同じようなことしてた気がするが、奪うのがあいつの手柄なので微塵も罪悪感を覚えない。むしろ地球でボコられた恨みがあるためざまあみろである。

 

 で、何故宇宙船内でくつろいでいるかといえば昔のコネとしか言いようがない。ちなみに美味しい飲み物まで出していただいて、現在2杯目である。色がおどろおどろしいが、フルーツジュースみたいで美味しい。

 

 

 本当はドラゴンボールが集まるまで隠れてて、集まったタイミングで宇宙船に忍び込んでパクっていこうと思っていた。しかしここでフリーザ様ならびにザーボンさんドドリアさんともお別れかと思うと、挨拶くらいしとかないといかんかなと思ったわけで。いや、何気に小さい頃お世話になってんだよね……極力ゴマを擦るためとはいえ、惑星ベジータにフリーザ様が来たときは宇宙船に入り浸ってたから。

 ドラゴンボールを手に入れ不老不死を手に入れようとしたっていうベジータの反逆の事があるから初っ端から敵対する危険もあるけど、あいつを速攻で売れば問題ない。失せ物探しの占いって便利。居場所とっとと教えたろ。

 

 それでもってフリーザ様が帰還したところを見計らって、いざという時のためにホイポイカプセルに入れて用意していた菓子折りを持参して挨拶に赴いた私である。我ながら危機感無いが、うまくいく算段はあるし、こっちの方が敵の動向をつかめてドラゴンボールを借りパクするのに楽だ。

 最初は当然ながら門前払いどころか部下の雑魚に殺されそうになったが、ちょうどザーボンさんが帰ってきたので声をかけて事なきを得た。下手にフリーザ様の部下を倒すと角が立つからラッキーである。

 ザーボンさんは私が誰だかわかると驚いていたようだが、極力丁寧なあいさつを心がけるととりあえずフリーザ様のところまで連れて行ってくれた。ちなみに少しぼろぼろになっていて、聞けば原因はベジータだとか。聞いた瞬間ザーボンさんの美貌をあらん限りの美辞麗句で褒めちぎってから謝った。この人美貌コンプレックスだからな。基本的にうまく褒めておけばわりかし対応が甘くなる。

 そういやレアな体験をした。ザーボンさんに顎クイされて「なかなか美しく育ったじゃないか」と褒めてもらっちゃったぜ。この人変身前はマジで美形なので正直ドキッとした。

 

 フリーザ様には会った瞬間いぶかしげな視線で見られたが、ここで慌ててはいけない。ビークール、be coolだ。そう心で唱えて感情の波を抑えると、「お久しぶりですフリーザ様。ご健勝そうでなによりです。そして相変わらず、いえますます洗練された佇まいに崇拝の念を否めません……再び拝謁願えました慶びに、このハーベスト感動に打ち震えております」とかなんとか、そんな感じの挨拶で片膝をついて頭を垂れた。我ながら流れるような動作である。久しぶりだったが完璧だ。

 ちなみに餃子師範はついてきてくれてるものの、ザーボンさんやフリーザ様の気にあてられて白い顔を真っ青にしていた。ご、ごめんなさい……。でも小さいおかげか目立ってないし、餃子師範にはこのまましゃべらないでマスコットになっててもらおう。

 

 

 で、どうしたかというとタイミングが良いのか悪いのかベジータがフリーザ様にガチ反逆真っ最中だったので「わたくしめの新たな力をご覧に入れましょう」とか言って占いでザーボンさんにぼこられたベジータの生死と居場所を特定して教えてあげた。サンキューベジータすごくいい手土産になったぜ! お前の事だからきっと生き残るってお姉ちゃん信じてる!

 私の事についてはフリーザ様にこう説明した。

 

・惑星ベジータを偶然脱出できてから地球という星についたが、病気を患ってしまい戦闘力が激減したのでおとなしく暮らすことにした。

・宇宙船もなくなってしまい、連絡できずに本当に申し訳ない。

・ベジータが地球にやって来て反りが合わず喧嘩してしまったがフリーザ様に逆らったつもりは無く、未だにフリーザ様への忠誠心は失っていない。

・地球で仲良くなった人が死んだので生き返らせたくてこの星まで来たが、ひょんなことでフリーザ様がナメック星に居ると知って挨拶に来た。ドラゴンボールをフリーザ様が探しているならもちろん譲るつもりである。

・フリーザ様に逆らったベジータについては姉として責任をもって始末したいが、激減した戦闘力に加えて病気で長期間戦えない体になってしまったので悔しいが無理である。しかし協力は惜しまない。

 

 ……みたいな。

 こんなを説明した。途中で持病のしゃくが! ってな感じで病気に苦しむ演技を挟みながら。超いい度胸してんな私って後々読み返して思うじゃん? でもフリーザ様たちに対しては子供のころからこんな感じで接してたから驚くほどナチュラルに嘘をつけた。やっぱり私には詐欺師の才能あるのかもしれない。

 これに対してフリーザ様は「ベジータのスカウターの通信で知ってはいましたが、生きていたとは驚きですよハーベストさん。しかも早速役に立ってくれるとは嬉しいですねぇ」と言ってザーボンさんにベジータを連れてくるように命じた。

 まあ全面的に信じてくれるなんて思っちゃいないが、とりあえず「反逆する力もなく、便利な力を持った存在」としての意義は示せただろう。占いは精神力を大きく消費するので時間をおかないと次の物を占えない、という設定にしたから回復して残りのドラゴンボールを探させるまでは命の保証はされたと思っていいはず。やっててよかった占い師。

 ちなみにさっき占って水晶玉に映し出されたドラゴンボールはここにある分が5つ。まあ、半分以上だし十分だろう。ころあいを見計らって持って逃げるか。

 

 

 

 けどジュース美味しい。まだ時間に余裕ありそうだし、もう一杯もらってから逃げよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




考えてるつもりでほぼフィーリングで生きてる主人公。


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クリリンの冒険inナメック星(序)

 俺と悟飯、ブルマさん、餃子、そして悟空のお姉さんである空梨さんは一か月ちょっとの宇宙の旅を経て、やっとピッコロと神様の故郷であるナメック星に到着した。

 出発する少し前にいきなり行く予定じゃなかった空梨さんまで行きたいと言い出した時は、悟空に次いでぼろぼろだったから心配だったけど今ではもうぴんぴんしている。仙豆も食べていないのに、さすが悟空とあの化け物みたいに強かったベジータとかいうサイヤ人の姉さんだけある。

 

 空梨さんとは今まで数回の面識はあっても、ちゃんと関わるのは今回が初めてだった。

 あのサイヤ人の姉ってことがついこの間わかって、話を聞けば惑星ベジータってとこのお姫様だったっていうから驚きだ。(あのベジータって奴が王子ってのもなんか変だけど)小さい頃に惑星の爆発の危機に気づいて、赤ん坊だった悟空と一緒に脱出してその後は地球で育った。言うだけならすぐだけど、結構壮絶な人生だよな。その後の経歴もあの占いババ様に弟子入りしている凄腕の占い師だったり(この間テレビで見た)、さらに言えば餃子の超能力の弟子っていう肩書もあったりいろいろと変だ。けど、悟空の姉貴だしなぁ……むしろ普通な方が違和感あるかもしれない。

 

 

 今回ついてきてくれたのは、正直心強い。

 だって負けたとはいえ、途中までベジータの野郎と戦えてたんだぜ? あとで悟空と戦うあいつを見て数分もたせるだけでも大変だってのがよくわかった。強いし、何があるか分からない宇宙の旅では宇宙経験者ってのも頼もしいよな。まあ一回餃子との超能力の訓練で宇宙船壊されかけたけど……まあそれは置いておいて。

 ベジータとはずいぶん仲が悪いようで見てて色んな(ベジータを無駄に煽るところ含めて)意味で怖かったけど、普段は落ち着いていて悟飯にとっても昔からよく遊んでくれるいい伯母さんみたいだ。それと重要なことだけど………………悟空の7歳年上とは思えないくらい見た目若くて可愛い。ブルマさんも見た目だけならかなりの美女だし、そんな2人と1か月宇宙船で共同生活なんてラッキーかなって不謹慎だけどちょっぴり思った。へへ…………ち、畜生。「リンスはちゃんと洗い流さないと駄目だよ。チチさんにも頼まれてるしおばさんがやったげるから」とか言われて一緒に風呂に入れる悟飯が羨ましいぜ。あいつは照れて嫌がってたけど。

 

 そんな俺より強いはずの空梨さんから、武術の稽古をつけてほしいと言われたときは驚いた。ベジータと戦える人に俺が教えられることなんてあるのか? とも思ったけど、意外と強い押しとしつこさに折れて稽古を見ればその理由にも納得がいった。

 この人すっげーもったいない。身体能力や本気を出した時の気の大きさはとんでもないのに、その使い方に無駄がありすぎる。俺の簡単なフェイントにもひっかかるし、これはベジータに負けてもしょうがないな。逆に言えばそこを何とかすればベジータに勝ててたかも。

 悟飯と餃子も訓練に加わって、地球に帰ったら一緒に組手しようって約束までした。

 こ、これってもしかして俺にも春が来るんじゃないか? 悟空には先を越されたからなぁ……。ちょっと性格に難がありそうなとこを除けば美人だし家事も得意そうだし。ナメック星到着前日なんて宇宙食とは思えないくらい美味しい料理を作って、何故か俺にたくさんよそってくれたしもしかしてホントのホントに脈ありって奴かもしれないぞ! ……妙に憐れむような、はっきりと優しさと言い切れない生ぬるい視線だったのがちょっと気になったけど。「今のうちにいっぱい食べときなさいね」と肩をたたかれた時ゾクッと悪寒がしたのは何でだろう。

 

 

 

 そんな空梨さんだけど、ナメック星につく前に別行動を提案してきた。

 それは自分は占いでドラゴンボールを探すから別行動しようというもので、餃子も一緒に行くから合流も簡単に出来るし効率よくドラゴンボールを集められるという物。早く集められるのに越したことはないし、満場一致で賛成された。けど本当にナメック星に着陸早々、5分もしないうちにどっか行っちゃったのは驚いたなぁ……。

 

 

 

 その後からは怒涛の展開だった。

 

 邪悪なたくさんの気を感じたと思ったらベジータの宇宙船は降ってくるし、妙な宇宙人に乗ってきた宇宙船を壊されるし、ベジータなんかより何倍もヤバそうな奴がナメック星人の集落を襲ってるし……。そこで見たあいつらったら酷いもんだったぜ。ナメック星人たちを暴力で脅してドラゴンボールを奪いやがって……あ、あんなに簡単に殺すことないじゃないか。

 俺も見てられなかったけど、悟飯の奴がキレて飛び込んだおかげで一人だけ助けられた。デンデっていうナメック星人の子供だ。

 それからベジータに見つかりそうになったりハラハラする場面も多かったけど、ブルマさんが地球に連絡してくれたおかげで仙豆で回復した悟空が六日後にナメック星に来てくれることが分かってかなり安心した。自分でなんとかしようってなれないのは情けないけど、やっぱり悟空は頼れる奴だ。来るって聞いただけでも随分と俺たちを勇気づけてくれるんだからな。

 

 けど、だからって安心だけしてられないみたいだ。

 

 どうやらレーダーを見る限りこの星のドラゴンボールはほとんどあいつらの手に渡ってしまったようだし、このままだとベジータかフリーザって奴に永遠の命を手に入れられてしまう。そうなったらとんでもないことになってしまうぞ!?

 そしてドラゴンボールを持っているっていうこの星の最長老のことを聞いた俺は、デンデを案内役に危険を知らせるためにその人の所へ行くことになった。しかしいざ到着してみると、この星のドラゴンボールを作った最長老はまもなく寿命で亡くなってしまうんだとか。願いを叶えることは出来ないが、あの悪党どもに願いを叶えられるよりましだってことで最長老様のドラゴンボールは俺があずかることになった。責任重大だぞ!

 そんな色々と不安しかない現状だったけど、いいこともあった。なんと、最長老様が俺の潜在能力って奴を引き出してくれたんだ! 噴出してきた力に自分でも驚いちゃったよ!

 これはチャンスだと思った。これを悟飯や餃子、空梨さんにもしてもらえば一気にこちらの戦力がアップする。そうなりゃ、もしかしたら何とかなるかもしれない!

 まずは悟飯とブルマさんのところに戻ろう。空梨さんと餃子については、持たせた通信機がつながらないってブルマさんがぼやいてたけど今ならつながるかも。そうすれば餃子のテレポーテーションですぐに合流できるし、しかも最長老様のもとへ戻るのもあっという間だ!

 

 

 

 だんだんと希望が持ててきた!

 

 

 

 そんなこと思ってたら帰ってきた途端ぐったりした空梨さんをひっつかんだベジータに見つかった。あれ、最近似たような光景を見たような!?

 

 しかもそのベジータを追ってヤバいやつがもう一人来やがった!

 悟飯の奴はドラゴンボールの回収に行ってるとかで居ないし、いったいどうなっちまうんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 




クリリンさんによるナメック星序盤ダイジェストをお送りしました。


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★14ページ目 ナメック星2~ドラゴンボール収集完了!

▽月Б日 続き

 

 さーてドラゴンボールをもらって逃げるか、そう思っていたら廊下でベジータと鉢合わせしてとっさに顔面に殴り掛かったら向こうが全く同じ攻撃をしてきてクロスカウンター的に互いの頬に拳がめり込んだ。バルス。滅びよM字。

 その後私はとっさに手のひらを奴の腹に押し当てた。そしてありったけの念力を流し込むと、傍から聞こえるくらい「ぴ~ごろごろごろ」とベジータの腹から素晴らしい音が聞こえ、内心私ガッツポーズ。よっしゃ当たった大正解! 前回は念力を気で吹き飛ばされてしまったが、ならば気を発する前に近接戦から直接体内へ力を押し込めばよいのだ。けして私の超能力が効かないわけでは無かった!

 ベジータは腹をおさえて内股になり「き、貴様何をした~!」と言ってきたので、その姿があんまりにも面白かったもんだから指さして笑ってやったら腹を渾身の力で殴られた。ば、バルス……!

 

 その後ベジータが何をしたかっていうと、ちょうどドラゴンボールをかっぱらう場面だったらしく「貴様は確か超能力が使えたな。こいつの命が惜しければ協力しろ」と餃子師範を脅し、宇宙船の天井を破壊して「投げ飛ばした先でドラゴンボールを集めて絶対に見つからないように隠れていろ。逃げようなんて思うなよ? こいつが汚ぇ花火になって爆発するところが見たくなけりゃな!」とドラゴンボールごと餃子師範を投げ飛ばした。ちゃ、餃子しはーーーん!!!!

 遠目に見たところ、餃子師範は空中でドラゴンボールを自分の周囲に集めていたのでおそらく無事に着地は出来るだろうけど……ぐったり床に這いつくばる体勢から体をひねって足払いしてベジータをスッ転ばすくらいには腹が立った。この野郎、私の師範を雑に扱いやがって。

 もちろんその後ベジータの奴に「このクソ忙しい時に馬鹿が!」と再び腹部にバルスされて(あの野郎姉の腹を足で踏みやがった)今度こそ動けなくなったわけだが。で、その後はフリーザ様とザーボンさんをうまく撒いたベジータはまんまとドラゴンボールと餃子師範の居る場所に合流。

 そしてなんつータイミングなのか、ベジータがドラゴンボールをもって空飛んでたクリリンくんを発見し後を追った。おい、せめて私はおいてけよ。お前のストラップじゃねーんだよ。さっきからぶんぶん揺らされてリバースまったなしなんだけど。超気持ち悪いんだけど。

 まあ、置いてかれてたら当然ドラゴンボールもってとんずらこいてたけど! わかってんよ人質だろ!

 

 でもここは超能力者。

 普段は機会が無くて使うことが無かった思念伝達によって、連れて行かれる前に『逃げる算段はあるから、このままドラゴンボールをもって逃げてください。あとで気を最大限に高めたら、それを合図に迎えに来てくれると嬉しいです』と餃子師範に伝えておいた。超能力って便利よね。

 

 その後ベジータに追い付かれたクリリンくん、ベジータを追ってきたザーボンさんという3勢力のそろい踏みとなる。で、ベジータとザーボンさん(変身)の戦いが始まると私はゴミのように放り投げられましたよ、ええ。

 ふ、フン、馬鹿め! 気絶してるフリにまんまと騙されよって! この隙にさっさと逃げてドラゴンボールは私たちのもんだって奴よ! とかかんとかどや顔になった私だったけど、正直ダメージは大きかったので、ばれないようにってのもあって地面を這ってクリリンくんたちに合流した。無様ここに極まれりである。というか、その間2,3発流れエネルギー弾が近くに着弾して死ぬかと思った。

 そして無事にブルマ、クリリンくんと合流を果たすことが出来た。

 しかしベジータの野郎がザーボンさんを相手にしながらも隙無くこちらをうかがっているので、逃げようにも逃げられないとクリリンくん。ならばまかせろ。餃子師範にお迎えを頼むための合図も兼ねて、ベジータとザーボンさんがちょうど私たちから見て直線上に位置した時に見様見真似だったけどかめはめ波を最大出力で叩き込んでやった。はっはっは、「しかたがないけど、姉弟そろって相手に容赦ねぇな……」ってクリリンくんドン引きの声が聞こえたけど大丈夫大丈夫。あの程度で死なない死なない。根拠とかないけど死なない。ちゃんと「や、やったか……?」ってフラグも立てといたから問題無い。

 で、奴らが反撃に来る前にナイスなタイミングで迎えに来てくれた餃子師範のテレポーテーションで安全圏まで離脱に成功した。

 

 その後、最後のドラゴンボールを回収に向かっていた悟飯ちゃんとも合流。

 こうして私たちは、まんまと7つのドラゴンボールをそろえることに成功したのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎月▽日

 

 

 ナメック産ドラゴンボールを手に入れられたものの、肝心のナメック語を話せる人がいなかった件。

 

 クリリンくんは助けたナメック星人の子供であるデンデや最長老様、護衛のネイルさんのことなど、今まで離れていた私たちに説明してくれた。そして今後の方針として、ドラゴンボールで願いを叶えるためにも潜在能力を引き出してもらうためにも最長老様のところへ行くことになった。

 ここで餃子師範のテレポーテーションを使えれば楽だったのだけど、餃子師範のそれは悟空がいずれ身に着けるであろう瞬間移動と同じで相手の気を目標にするか、行ったことのある場所にしか行けない。つまり面識のない最長老様のところへは行くことが出来ないのだ。

 そこでお宝を抱えたまま気を抑えてのチキチキ移動レースという、心臓バクバクな恐ろしい行軍は始まったのである。

 

 

 

 ……………………とかいいつつ、私はブルマと一緒に洞窟の奥に建てたカプセルハウスでお留守番なんだけどね! いやぁ、まったくうちの甥っ子と師範と師匠が紳士すぎて最高すぎる。

 

 

 

 初めはブルマもかかえて一緒に行こうとしたら、本来30日もかかるという長い旅路を人に抱えられて空を飛ぶということを嫌がったブルマが「最長老様の所についたら餃子が迎えに来てくれたらいいのよ!」という最高にウラヤマな提案をしてきた。そして私もそのウラヤマ案件に同乗させてもらったのである。

 といっても、私発案ではない。一人で残されるのは嫌だから護衛がほしいとブルマが言って、そしたら怪我が酷い空梨さんが療養を兼ねて残ったらどうかとクリリンくんが提案、悟飯ちゃんと餃子師範もそれがいいと同意してくれて今に至る。

 ちなみにドラゴンボールは保険を兼ねて私たちで4個、悟飯ちゃん達で3個分けて管理することになった。万が一最長老様の所に行く途中か、こっちのカプセルハウスが襲撃された時の保険だ。あとで餃子師範が迎えに来てくれたらなんにも問題ないしね。

 

 

 さて、怪我を治しながら皆を待つか。

 悟空もあとちょっとでナメック星に着くみたいだし、そしたら話が一気に佳境へと向かってゆく。それまでに体調を完璧にしておこう。

 

 

 

 




朽木さんから主人公のイメージイラストを頂きました。しかも2枚も頂いちゃったぜー!
わざわざ描いていただき、本当にありがとうございました!


【挿絵表示】

太っちょバージョンで煽り中・・・やだ、この腹立たしさは主人公で間違いない(褒め言葉


【挿絵表示】

スリムバージョンも描いていただきました。しかも本編であれだけ低レベルで醜い争いしてるっていうのに、このイラストから発せられる姉弟仲良さそうな清らかさよ……!



かんすけさんから冒頭部分の挿絵を頂きました!(8/25追加)

【挿絵表示】
ナイスクロスカウンター!躍動感があって素晴らしいです。


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15ページ目 ナメック星3~良い子のみんな!▼月Ё日、ナメック星でギニュー特戦隊と握手!

▼月Ё日

 

 

 悟飯ちゃん達が最長老様のもとへ向かってからそろそろ4日経つ。定期的に連絡は来るので無事なことはたしかなようだが、心配だ。そういえば悟空もそろそろナメック星に到着するころだろう。私の怪我も治ってきたことだし、そろそろ備えておいた方がよいかもしれない。

 

 

 

 とかなんとか思ってたらギニュー隊長たちが家庭訪問してきたよヤッタネ!

 

 じゃねーよ! 

 

 

 なんでギニュー隊長一行が来るの!? どこにそんな真っ赤なフラグ立ってたの!? ブルマ、冷や汗たらしながら「見つかっちゃった……えへへ」とか言ってる場合じゃないよ!? そして何気に一番顔のよさげな赤いのの隣に居るのは流石だよ!? ちょ、力加減できねぇポケットの中でタイピングしてる機械壊れるわ! 日記書いてる場合じゃねぇ後で書こ! 後で書けるといいな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼月Ё日 続き

 

 

 

 

 結果だけ書くと、なんとかなった。

 

 どうやら外の空気を吸いに出ていたブルマをたまたま見つけたギニュー特戦隊(今日ナメック星に到着したばかり。フリーザ様にベジータを探すように言われていた。私も探す対象になってたなんて聞かなかったぞ断じて)は、何故かスカウターにひっかからないベジータを探すヒントになるかもしれないと降りて声をかけてきたらしい。ベジータあの野郎、さては私がかめはめ波ぶっぱするまえに気配消してたのを見て気を消す技術を習得しやがったな。これだから天才は。

 

 すぐにブルマに目配せした私はテレパシー出来ることをすっかり忘れて、眼力だけで「あ わ せ ろ」と伝えた。しかしさすがブルマ、すぐに目線で「OK、わかったわ!」と返してくれた。ちなみにお互い笑顔のまま表情を強張らせるという器用なことをやった上での伝達である。笑顔はね、人間関係における潤滑剤だからね! しといて損は無いんだよ!

 

 ともあれ、まずは警戒心を解くために自己紹介(もちろん地球名だ)をしたんだけど、そしたらまあご親切にもギニュー特戦隊の名物であるスーパーカッコいいポージングを決めてくださったわけですよ。

 

 

 思わず撮ったよね。

 

 

 ブルマに「何してんのよ!?」って言われたけどしかたないやん! あんなにインパクトあって素敵なもんだと思わなかったからつい写メっちゃったんだよ! すぐに「今何をした!?」って言われたけど、すかさず「あんまりにも素晴らしいポーズだったから人に自慢したくて写真を撮ってしまった」と説明したら全員上機嫌でそうだろう、そうだろうと頷いて納得してくれた。そしてカメラの機能でキラキラ縁飾りやスタンプで写真を飾ってあげたら大喜びだった。記念に印刷してプレゼントしたら大絶賛された。

 そこでなあなあで誤魔化せればよかったのだけど、まあ当然「何者か」やら「この星に居る目的」とか聞かれたよね。そこで私は再びブルマと目配せをして、だいたいこんなことを話した。

 

 

 

「私たち旅行者で~。緑がキレイな星があったから立ち寄ってみたんですぅ~」

「でも、なんだか怖い人たちがいっぱいで、怖くなって隠れてたんですよォ」

「せっかくはるばる旅行してきたのにホント最悪って思ってたんだけど、まさかこんなところであなた達みたいに素敵でカッコいい男の人たちに会えるなんて感激だな~」

「そうよね~! 逞しくて格好良くてチャーミングでそれぞれ個性があって、何より美学が素晴らしいわ! 外見だけ格好いい人はいくらでもいるけど、あの内からにじみ出るセンスと美意識の高さはなかなか身に着けられるものじゃないわよね~!」

「うんうん、分かるわ! 宇宙中探したってそうそう見つからないわよー!」

「サインとか頼んだら迷惑かしら?」

「いっちゃいなさいよ! 滅多にないチャンスなんだから!」

「え~、いいのかなぁ~。あのぉ~、サイン書いていただけますかぁ? あと、握手もしてくれたら嬉しいなって!」

 

 

 

 作戦名がなんだって? 「褒めちぎれ持ち上げろ話題をそらせ」だよ!! 私的には本音もちょっと混じってたけど、猫なで声の自分に鳥肌立ったわ!!

 ちなみに上記の会話はほんの一部である。2人のボキャブラリーを駆使して、的外れな褒め言葉にならないように細心の注意をはらって相手が気持ち良い気分になるまで褒めて褒めて持ち上げて、警戒心を緩和するために適度なスキンシップをはかった。私はリクームさんの筋肉を触らせてもらった。「きゃっ! 素敵な筋肉。しかもしなやかで、屈強な中に優美さまで感じるわ!」とか言っておいた。役得であった。ちなみにブルマは赤い子、ジースくんというらしい。彼押しだった。ジースくんは照れていた。

 

 そして決め手にこれ。「よかったら今日会えた記念にパフェをごちそうさせてもらえません?」を止めに、冷蔵庫に作り置きしてあったスイーツで作った特製宇宙パフェを振る舞い記念撮影をして帰ってもらった。記憶の端っこに申し訳程度に引っかかっていた、たしか誰かパフェとか好きだったよな? という原作知識大勝利の瞬間である。

 帰りに「この星は危険だからさっさと離れた方がいいぞ」なんてお言葉までもらっちゃったぜ! サイヤ人の尻尾を普段から隠すスタイルでよかった! ブルマの協力もあって私がハーベストだなんてまったく気づかれなかったもんね!! ここに居たのは、ただの宇宙トラベラーなイケてるギャル2人だったのだ!

 

 ギニュー隊長達が去ると、ともに戦場を潜り抜けた戦友としてブルマと熱い友情の握手を交わした。ふっ……今、輝いてるよね私たち。

 

 

 

 

 そしてそれからしばらくすると、やっと餃子師範が迎えに来てくれた。

 

 いよいよナメック産ドラゴンボールを使う時が来た! ポルンガ先輩、よろしくお願いします!!

 

 

 

 

(日記は次のページに続いている)

 




短い目なのにいつもより濃く感じる錯覚。


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★孫悟飯の冒険inナメック星(中)

 ボクたちがナメック星に着いてからしばらく経つけど、短い間に色んな事があった。

 

 そんな中でいつも一緒に行動してくれるクリリンさんと餃子さんはとってもたのもしい。もちろん宇宙船を使えるようにしてくれたブルマさんや、ちょっと過保護だけど空梨おばさんも! でも2人は今別の場所で待ってもらっていて、ボクたちは最長老様とデンデの所に向かっている。手に抱えたドラゴンボールの重みが、ここ4日ずっとそれ以上に重く感じているのは責任があるからだと思う。

 

 遠い道のりを敵に気づかれないようにゆっくり進んでいたボクたちだったけど、途中でクリリンさんがペースを上げようと言ってきた。いつまでもたどり着かない事に焦っていたのはボクも同じだから頷こうとしたら、それは餃子さんに止められた。餃子さんは地球で殺された天津飯さんを本当の兄弟のように慕っていて、以前サイヤ人のスカウターで計った戦闘力は僕たちの中で一番下だったけど、どうしても手伝いたいと言ってついてきてくれた人だ。

 そんな餃子さんは、本当に願いを叶えたいなら今焦ってはダメだとボクたちを諭してくれた。ボクより小さいけど、やっぱり年上なんだなぁって思う。

 クリリンさんも「ごめん、俺も焦ってたみたいだ。潜在能力を引き出してもらって強くなったからか、身の程をわきまえられなくなってる。ちょっと前に調子乗って痛い目見たばっかりだってのにな……サンキュー餃子!」と、とっても餃子さんを信頼しているみたいだった。それに対して餃子さんも「別に気にしてない。実力を追い越されたの悔しいけど、この中で今一番強いのクリリン。ボクは別の視点から注意するしかできないけど、頼りにしてる」と満足げに答えていて、その間にある信頼関係がちょっぴり羨ましかった。

 クリリンさんはボクの潜在能力っていうのに期待してくれてるみたいだけど、ボクに本当にそんな力があるのかいまいち自信が無い。でも、もし……もしそうだとしたら、強くなってあんなふうに頼られる人間になれたら嬉しいな。ボクを鍛えてくれたピッコロさんが生き返った時、恥かしくないように。

 

 

 そしてゆっくりだったけど、ついに最長老様のところまで戻って来た!

 

 もしベジータやフリーザっていう恐ろしいやつが襲撃していたらどうしようって思ったけど、無事みたいでほっとした。デンデはボクたちを見つけると外まで走って迎えに来てくれて、手を取り合って喜んだ。

 その後は餃子さんがテレポーテーションでブルマさんと空梨おばさんを迎えに行ってくれて、無事に合流。そしてさあ悪いやつらに使われる前にドラゴンボールを使うぞってなったんだけど、それにクリリンさんが待ったをかけた。

 

「なあ、願いを叶える前に最長老様に悟飯と餃子、空梨さんの潜在能力を引き出してもらわないか?」

「え~、どうしてよ! 早く願いを叶えちゃった方が安心するじゃない」

「だってブルマさん……神龍って、すごく目立つじゃないですか。それを見てベジータとか来たらどうするんです?」

「ああ、たしかに。それと言い忘れてたけど、今この星にフリーザ様の精鋭部隊であるギニュー特戦隊ってやつらも来てる。神龍が出たら最悪みんな集まってくるかもね……」

「いい!? そ、それを早く言ってくださいよ空梨さん! というか、いつそれを知ったんですか!?」

 

 驚くクリリンさんやボクから視線をそらして、空梨おばさんとブルマさんは変な笑い方をしていた。いったい何があったんだろう……?

 

「そ、それは置いておいて! じゃあ潜在能力を引き出してもらって、戦力を増強してから呼び出そうってことでいいんだよね?」

「はい、そういう感じです。贅沢言えば悟空もそろそろナメック星に到着するころだし、悟空と合流してからっていうのが理想的かな……。きっとあいつ、こっちに向かう途中でも修業してるだろうし強くなってますよ」

「それなら悪いやつらが集まってきても孫君たちでやっつけられるってことね! クリリンくんあったまいいじゃな~い。そしたら、願いを叶えた後はすぐにこの星を出ましょうよ! 生き残りが最長老様たちだけなら、あたしたちの宇宙船か孫君が乗ってくる宇宙船で一緒に逃げればいいんだわ!」

 

 ブルマさんの提案にそれは良いアイディアだ、と思った。ピッコロさんの故郷の人たちを、少しでも救えるなら嬉しい。

 けどそれを真っ先に否定したのは最長老様だった。

 

「いえ、地球のお方……わたしの命はあとわずかばかりも持ちません。わたしは我が子供たちを想い、この星で絶えましょう……。ですので、若いデンデとネイルを連れて行ってくだされ。2人とも素晴らしい龍族の天才と戦士です。ここで絶えさせるわけにはいきません」

「最長老様! いえ、ならば私もともに残ります。最長老様をおいて生き延びるなど、ナメックの戦士として生き恥をさらしたくありません!」

 

 それまで黙っていたネイルさんが焦ったように言うと、デンデも声をあげる。

 

「ぼ、僕も嫌です! 最長老様を置いていくだなんて……!」

「いうことを聞きなさい。いいか、お前たちよ。お前たちが生き残れば、龍族の血は絶えぬ……どうか、悪党どもが去ったあと、再びこの地に戻ってナメック星を生き返らせておくれ。デンデならば、わたしがいなくなっても再び願い玉を作ることも出来るでしょう。今願い玉で仲間を生き返らせてもまた殺されてしまう。なればその時、新たなる願い玉で龍族を蘇らせてくれればよいのですから」

「最長老様……」

 

 しんみりとした空気になって、それに耐えきれなかったのかブルマさんが新しく提案する。

 

「ね、ねえ。だったら、その悪いやつらをみんなやっつけるとか出来ないの? ほら、その潜在能力っていうのを引き出してもらえばみんなすっごく強くなるんでしょう!? ね、クリリンくん!」

「い、いやぁどうかなー……。他の奴らはともかく、あのフリーザってやつはヤバそうですよ?」

「参考までに言っておくとフリーザ様の戦闘力は53万だからね……」

「「「!!??」」」

 

 ぼそっと気まずそうに言った空梨おばさんの言葉にみんな絶句する。ご、53万!? そんな、桁が違うよ……!

 

「だから最善策としては、願いを叶える前に保険として戦力を増強、願いを叶えたら師範のテレポーテーションですぐに宇宙船に戻ってナメック星を脱出することだね。ナメックの人たちには本当に悪いと思うけど……」

「いえ、あなた方がいなければ全滅していたのです。わずかでも救っていただけるのでしたら、感謝すれど恨むことなどしますまい」

 

 すると空梨おばさんはますます気まずそうというか、悲しそうな顔になった。普段は明るい空梨おばさんだけど、結構顔に出やすいところがある。今の表情を見ると申し訳ないだけじゃなさそうだけど、いったいどうしたんだろう……?

 

「それでは、あなた方の潜在能力を引き出してさしあげましょう。ネイルにデンデや、お前たちも来なさい」

「くッ、最長老様……」

「最長老様……」

「ありがとうございます、本当に。俺たち、責任をもってデンデとネイルさんを地球に連れて行きます」

「ええ。ナメック星に帰りたくなったらまかせてちょうだい! 今よりもっと凄いとびっきりの宇宙船を作ってあげるから!」

 

 クリリンさんとブルマさんが力強く答えると、最長老様は安心したように微笑んでくれた。

 

 

 

 そして順番に潜在能力を引き出してもらい、(ブルマさんも「せっかくだしあたしも!」と言って引き出してもらったら、頭が冴えわたったらしい。人によって引き出される能力が違うのかな?)最後が空梨おばさんだった。

 空梨おばさんは「私は後でいいから」「いや、たいして凄いもん眠ってないし」「いやいやいや、やっぱり悪いよ私はいいよ」と何故か潜在能力を引き出されることを嫌がってるみたいだった。どうしてだろう? 餃子さんも潜在能力を引き出してもらって超能力がもっと使えるようになった気がする! と喜んでたし、同じように超能力が使えるおばさんなら戦う力が出なくても、きっと凄い超能力を覚えられるはずなのに。

 

 最終的にブルマさんに「早くしなさい!」と背中を押されて最長老様の前に立った空梨おばさんは、しぶしぶといった様子で最長老様に頭を差し出した。そして最長老様が空梨おばさんの頭に手を置くと、僕達みたいにすぐに能力を引き出さないみたいだった。しばらくすると、「まあいいでしょう」と言って引き出してくれたけど、その前に空梨おばさんに色々言っていたみたい。よく聞こえなかったけど、いったい何を言ったんだろう? 空梨おばさんは凄く疲れた顔をしていた。

 

 けど、大変なのはその後だった!

 

 空梨おばさんの潜在能力が引き出されると、おばさんから凄い勢いで気がふき出したんだ!

 

「ちょ!? く、空梨さん! 凄いのは分かったから抑えて抑えて!!」

「む、むむむむむ無理! え、なにこれ何で!? と、止められない!」

「これじゃ気づかれちゃいますよー!?」

「な、なんて力だ……! これがサイヤ人……」

「感心してないで止めるの手伝いなさいよー! あ、あいつらってたしかスカウターっていうの持ってるんでしょう!? 来ちゃうわよ!」

 

 そうこうしてわたわた慌てていると、各方面から凄まじい気が複数近づいてくるのが分かった。

 

 

 

「みんな、無事か!? すげー気を感じたぞ!」

「悟空!」

 

「チぃ! やっと見つかったと思えばカカロットまで居やがるだと!?」

「べ、ベジータ!」

 

「「「「「ギニュー特戦隊、参上!!」」」」」

「なんかいっぱい来た!?」

 

「ホッホッホ、こうもそろってくれているとは好都合です。まったく、さんざん私をコケにしてくれましたねぇ……」

「「「「「フリーザ様!」」」」」

「フリーザ様ぁぁ!?」

 

 

 

 

 えっと……。どうしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かんすけさんとつくねのみやさんから主人公のイメージイラストを頂きました!

おかしい。これほどの幸運が続くなんておかしい。あれ、作者明日あたり死ぬんじゃ・・・?いやマジでラック値が急上昇しているので下がった時が怖いです。幸せすぎで怖いなんて贅沢!



かんすけさんからは主人公と、なんとin地球バージョンのラディッツを頂きました!

【挿絵表示】
主人公。この本編では考えられないクールビューティーさである。そして注目すべきはおっぱいである(真面目

【挿絵表示】
ラディッツ。飲食店で働くための髪縛りバージョンがこうして見られるとは!


つくねのみやさんからはスーパーサイヤ人化主人公を頂きました!

【挿絵表示】
SS化主人公。めっさ可愛い・・・!これを見たら主人公がどんなに嫌がってもいつか超化させたくなります。

お二方とも、本当にありがとうございました!これを励みに頑張ります。


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龍族の希望!その名はピッコロ!

「餃子師範! 皆とドラゴンボールを!!」

 

 そう聞こえた時には、すでに今まで見ていた景色とは別の物を見ていた。

 

「な!? こ、これは」

「ボクがみんなを移動させた! 空梨が逃げてって言ったから……!」

 

 そう言ったのは、超能力を操るという地球人の一行の一人である少年だった。たしか餃子だったか。

 周りを見れば私のほかに最長老様、デンデ、地球人の女性(名はたしかブルマ)、悟飯、クリリンが居た。そして願い玉7つ全ても。

 

「まさか、あの少女はたった一人で囮になったとでもいうのか……!?」

「いや、俺たちの仲間の悟空ってやつがさっき合流した。そいつがここにいないって事は、きっと一人じゃないだろうけど……」

 

 仲間とは、彼らに近い姿をした2人のうちのどちらかだろう。一人は邪悪な力を感じたので、もう一人の方か。

 

「こ、これからどうすんのよ!? 敵み~んなに見つかっちゃったじゃない!」

「ボク、戻ります! おばさんとお父さんだけで戦わせられない!」

「待って! 戻る前にボクの話を聞いて!」

 

 場が混乱しそうになる中、餃子が声をあげた。

 

「きっと、空梨は自分たちが時間稼ぎをしている間にドラゴンボールでみんなを蘇らせてって言うつもりだったんだと思う! そしたら、戦える仲間が増える!」

「! そっか! なんか色々ヤバいやつらが集まって来てたけど、戦力が増えれば……!」

「そ、そうね! 最長老様に潜在能力を引き出してもらえば、きっとみんなもっと強くなれるし……あ!? でも、駄目だわ! ヤムチャたちの遺体は地球にあるんだもの! 生き返ってもここに来るまでに6日かかっちゃうわ!」

「それなら『地球で死んだサイヤ人に殺された人をナメック星に蘇らせて!』って願えばいい!」

「な、なるほど。餃子ったら潜在能力を引き出されたあたしより冴えてるじゃない……。でも、賭けね。願い事を節約しようっていう、ちょっとズルいお願いを聞いてくれるかはかなりグレーゾーンだわ。それにその願いだと他に殺された人がいたら巻き込んじゃう」

『ならば、俺だけでもその星に送れ!!』

 

 ブルマが考え込むと、どこからともなく何者かの声が聞こえた。これは我々が念話で話すときの感覚に似ているが、根本的に違う……もっと高位の者による力であると瞬時に悟った。遥か彼方、高みから聞こえる声だ。

 

「この声は!?」

『俺だ、ピッコロだ!』

「ピッコロさん!?」

『界王を通してお前らの心に直接話しかけている!!』 『呼び捨てにするなよな……界王さまといえ……』

 

 力強い声とは別にぼやくような声が聞こえたが、それに対して反応したのは最長老様だ。

 

「界王様ですと!?」

「最長老様、ご存じなのですか」

「え、ええ。この銀河を統べるお方です……。私どもの考えなど及ばぬ遥か高みにおられる至高のお方であると伝え聞いております」

『ほ、ほっほ~う。ナメック星にはちゃんとわしの凄さが伝わって『俺が生き返れば神も生き返る! そうなれば地球のドラゴンボールも復活して他の連中も蘇ることが出来るはずだ!!』

 

 聞くに至高のお方であるらしい界王様の声を無遠慮に遮る声だったが、今度はその内容に「まさかこの者がカタッツの子供か?」と最長老様は一言つぶやいて考え込んでしまった。

 

 そして私は彼らの話が進む中、凄まじい力の集まりからひとつはなれてこちらに向かってくる強大な力の持ち主に気づいて上着を脱ぎ棄てた。

 

「話しているところ悪いが、どうやら見つかったようだ。このとびきりに邪悪な力はあのフリーザという者だろう。私が引きつける。お前たちは最長老様とデンデを連れて逃げろ。そして願い玉を使うんだ」

「ネイルさん、でも、それなら餃子さんの移動能力で一緒に逃げ続ければ……!」

「デンデ、それではいずれ消耗して捕まる。君も無限にあの能力を使えるわけではあるまい?」

 

 問いかければ、先ほどより顔色がこころもち悪い餃子は悔しそうに唇をかんだ。どうやら図星のようだな。潜在能力を引き出してもらった事で多少ましになったかもしれないが、我々全員を移動させるにはかなり力を使うのだろう。

 

『俺は戦いたいんだ! 生まれ故郷で、お、俺と同じ仲間だという連中を殺したフリーザって奴とな……! 俺はここではるかに力を増した! 必ずそいつを倒してみせる! その星に俺を呼ぶんだ!!』

「……どうやら、いまだ見えぬ同胞も頼もしいやつのようだしな。早く呼んでやってくれ」

 

 念話で聞こえるピッコロという名の者の言葉に、思わず笑みがこぼれる。なんだ、なかなか言うじゃないか。言ったからには期待するぞ?

 

「わ、わかりました。どうかネイルさん、死なないで!」

「ああ」

「そ、それなら僕たちも……! ドラゴンボールの願いはブルマさんとデンデに頼んで、僕たちも一緒に行って戦います!」

「そうだぜ! たしかに恐ろしいけど、あんた一人に背負わせるわけにはいかねーよ!」

「ありがたいが、それでは私がおもいきり戦えん。行くなら君たちの仲間を助けに行ってやりなさい」

 

 この2人、特に悟飯という子供はたしかに凄い力を秘めている。しかしあの空梨という者に聞けばフリーザという奴の力は53万。基準が分からないが、桁外れということだけは伝わった。ならば、私に出来るのはせいぜい足止めくらいだろう。それに子供を巻き込むこともあるまい。

 

「では、行ってまいります最長老様」

「ネイルよ……。止めても、行くのでしょうね」

「…………。今までお世話になりました。ご無事をお祈りしています」

 

 私は深く頭を下げると、近づいてくる邪悪な力めがけて飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ナメック星の神龍が叶えてくれる願いは3つ。ただし複数の者を蘇らせることは出来ない。

 

 その条件下だったが、餃子が提案した『地球で死んだ○○をナメック星に蘇らせろ』という願いは蘇りとワープという2つの願いに分けられることなく叶えられた。どうやら俺の故郷の神龍は寛大らしいな。

 俺は今蘇ったばかりだが、すぐにヤムチャと天津飯の野郎もあとを追って生き返るだろう。だが待っていてやる義理は無い。降り立った故郷(奇妙な感覚だ)はどこか懐かしいが、周りには人っ子一人いやしねぇ。蘇る場所までは指定できなかったか。

 すぐに気を探って飛び立とうとしたが、その前に俺の前に白い顔のガキが現れた。

 

「! 餃子か!」

「ピッコロ、迎えに来た!」

 

 いうや否や、景色は一変した。俺の目の前には俺に似た姿の子供と、どちらかというと神の野郎を思い出す巨体の老人がいた。こいつが最長老か。

 周りを見ればたった今蘇ったのか女に抱き着かれているヤムチャと餃子に泣きつかれている天津飯が居やがる。そして遠くには嫌でも感じるでかい気が複数。悟飯とクリリンは悟空たちの加勢に行ったようだな。

 

「出迎えご苦労だったな。だが、先に行かせてもらうぜ」

「ま、待ちなさいよ! ほら、この方があんたの故郷の一番偉い人、最長老様よ! この人にかかれば、あんたたちもっとも~っと強くなれるんだから!」

 

 ヤムチャに抱き着いていた女がわめくが、もっと強くなれるだと? そんな力を持っているのか……。神の野郎も小賢しい術をいくつか使えるが、ナメック星人とは不思議な力に特化した種族らしいな。その最たるものがドラゴンボールってわけか。つくづく奇妙な気分だぜ。

 

「あなたが地球で生き延びたというナメック星人なのですね……? あなたは、片割れの方ですか」

「ああ。俺は2人に分かれたナメック星人の"悪"の方だがな。悪いな、善である神でなくて」

「いいえ、あなたからは邪悪な力も感じないことも無いですが、たしかな善性を感じますよ」

「な!? ふ、フン。冗談はほどほどにしてもらおう。たしか俺たちを強くできるのだったな? やるなら早くしてくれ」

 

 正直不思議な力で強くしてもらおうなどと気に食わんが、遠くで感じるバカでかい気のぶつかり合いを考えれば今の俺では明らかに力不足だ。悔しいが、今は頼るほかあるまい。

 

 最長老は、頷くと先にヤムチャと天津飯の力を引き出したようだ。

 

「す、凄い……! 界王星の修業で強くなったと思ったけど、なんだろうなこの感覚。限界の天井が取り除かれたような、例えるならそんな気分だぜ」

「あ、ああ。まさかこんな気分を味わえるとは」

「正直生き返っても悟空たちの役にどこまで立てるか心配だったが、これならいけそうだ!」

「そうだな! 餃子、今まで大変だっただろう。よく頑張ってくれたな」

「て、天さん……! 本当に、本当によかった……ぐすっ」

 

 くっ、たしかに一気にヤムチャと天津飯の気が跳ね上がりやがった。これほどとは。

 

「……最後は俺か。早くしてくれ」

「……少し、よろしいですか」

「何だ?」

 

 何かを話したそうな雰囲気だが、こっちは急いでるんだ。悪いが早くしてほしい。

 しかし力を引き出してくれる相手にそうも言えず、もどかしく思いながらも話の続きに耳を傾けた。

 

「あなたの親であるカタッツは、わたしと同じく同胞を生める数少ない存在でした。おそらく、生きていればわたしの代わりに最長老になっていてもおかしくないほどの才を秘めていた……そしてその才は、子供にも引き継がれたようです。あなたの元の姿であるナメック星人は、素晴らしい才能をもった天才児でした」

「………………」

「寂しい思いをさせてしまいましたね。遠く離れた星で、たった一人別の種族の中で生きるのはさぞや辛かったことでしょう」

「感傷に浸る気は無い。そんな話だけなら、もう終わりにしてくれ」

「そう、ですね……。これ以上長引かせては、先に行ったネイルが死んでしまう。では単刀直入に言いましょう。ピッコロさん、わたしを吸収しなさい」

「な!?」

「最長老様!?」

 

 その発言には俺だけでなく、近くに居たナメック星人の子供も驚いていた。

 

「正確には同化と言いますが、人格は全てあなたに委ねます。わたしはあなたと分かたれたもう一人の代わりとまではいきませんが、きっかけにはなれるでしょう。潜在能力を引き出すよりも、こちらの方がはるかに力を増せる」

「し、しかし……!」

「ためらう必要はありません。わたしは、せめてもの罪滅ぼしをしたいのです。仲間であるカタッツを守れず、あなたを一人孤独にしてしまった罪滅ぼしが……。それにわたしの寿命ももう長くありません。願い玉も使い終えたことですし、いずれ尽きる命。どうか使っていただけませんか」

 

 最長老の言葉に、俺の中で葛藤が渦巻く。だがそれも一瞬だ。

 

「本当に、いいんだな? 俺は神ではない。悪のピッコロだぞ」

「ふふっ、悪にこだわっていますね。ですが正義や悪などその場、その時代で移り行くもの。あなたが何をもって悪とするのか分かりませんが、今ここで故郷のために戦ってくれようとしているあなたは、わたし達にとっては紛れもなく正義なのです。……どうか、デンデとネイルをよろしくお願いします」

 

 最長老の言葉が終わると、俺は差し出された手に無言で手を合わせた。

 

 

「最長老様……お元気で」

 

 

 同化に元気も何もあるかわからんが、デンデという子供の声は妙に耳に残った。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁッ!!」

「おや、腕がもげてしまいましたねぇ。失礼しました。お返ししましょう」

 

 引きちぎった私の腕をフリーザはゴミのように放ってよこす。

 

 足止めのためにフリーザと対峙したはいいが、私はていのいい憂さ晴らしに使われているらしい。すぐに殺せるだろうに、先ほどから執拗にいたぶってくる。

 

「ホッホッホ、もっと遊んであげたいのはやまやまですが、そろそろ終わりにしましょうか。そういえば先ほど空が暗くなったのは何だったのです? ナメック星特有の気象現象ですか?」

「……貴様に教える必要はない」

「おやおや、そうですか……。なら、死になさい」

 

 奴の指先が光るのを見て、ここまでなのだと悟る。

 しかし、少しでも足止めになったのならば良い。あとは頼んだぞ……地球人に、いまだ姿も知らないナメック星人よ。

 

「ずあっ!!」

「!?」

 

 死を悟った次の瞬間、私の前で爆風が巻き起こった。まるでエネルギー同士がぶつかり合ったような……。

 

 

「何者ですか?」

 

 爆風で巻き上がった土煙が晴れる中、フリーザの誰何の声が聞こえる。そしてそれは、私の目の前に立つ白いマントをたなびかせた存在に向けられていた。

 

 

 

「宇宙の帝王だかなんだか知らんが、ずいぶんと調子に乗っているようだな」

「何者かと聞いているのですよ!!」

 

 苛立たし気なフリーザの声に、その者は答えた。

 

 

 

 

 

「俺は貴様を倒す者。ピッコロ大魔王だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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★16ページ目 ナメック星4~VSギニュー特戦隊!

▼日Ё日続き

 

 

 

 生き残った! 私は生き残ったぞぉぉぉぉ!!!!

 けど、まさかあんなことになるとは思わなかった。ちなみに私は絶対悪くない。バタフライエフェクト? 知らない子ですね。そんな格好いい言葉使いませんよ私は。というか、ああなった時点でバタフライもクソもあるか。

 

 

 色々あったけど、全部書くには小分けにする必要があるだろう。後で見返して反省もしたいし、ゆっくり書くとしよう。

 

 

 

 

 

《VS ギニュー特戦隊》

 

 

 あのどうしようもない状況の中、餃子師範にドラゴンボールと皆を連れて逃げてとお願いできた私マジ有能。いや、一瞬でも遅れたら確実にドラゴンボール奪われるじゃん? だってフリーザ様もいるんだぞ。あの判断は間違っていなかったはず。

 でも師範のテレポーテーションの範囲内から完全に外れてた私は置いてかれた。ついでに来たばっかりで状況が把握できてない感じの悟空も置いていかれた。あと何かついでみたいにやってきたベジータも当然残された。奇しくも義弟と実弟が私と共に残されたのだ。よう、きょうだい。

 私の目は当然のように死んでいた。

 

 ベジータやギニュー特戦隊の面々が何やら言っていたが、最長老様に引き出してもらった潜在能力の影響か私は絶賛グロッキー状態だった。もうね、居るのは身内と敵だけだと開き直って恥も外聞もなく吐いたわ。悟空が背中をさすってくれた。義弟が優しい。ベジータには罵倒された。実弟は爆ぜろ。

 

 ともあれスッキリしたので、その後の私は頑張った。

 

 仙豆係を。

 

 

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

※余談だが色々考えてるクズ思考やなけなしの原作知識を最長老様に潜在能力を引き出してもらう際に読まれたくなかった私は、最後まで潜在能力覚醒を拒否していた。しかしそうもいかなくなって、いざ記憶を読まれる段階になったらとても微妙な表情をした(ナメック星人だとかお年を召された顔だからとかで分かりにくいかと思いきや凄くよく分かった。あれは微妙な表情だったと)最長老様にマジレスされた件。

 

 いわく

 

「あなたの記憶はまるで2人分の記憶を同時に見ているように混濁していて読みにくい。ですが、自分だけいい思いをしようとしたり、自分だけ災難から逃れようという自己愛が酷く強いお方だということが伝わってきますね。かといって、悪人ではない。自分でも気づかないうちに、他者への思いやりなどの善性がたしかに育まれています。周囲の影響が大きいでしょう。良い方達に恵まれましたね。ですがひねくれているせいでそれをうまく表せないご様子。そのままでは中途半端な現状があなたを窮地に追い込むことでしょう。良い方向に転んでも悪い方向へ転んでも、極端なことになりそうですね。それではあなた自身にとっても周りにとっても悪いことにしかなりません。あなたはそれほど周囲に影響する力をもっていらっしゃる……素晴らしい潜在能力をお持ちのようだが、それがわたしには恐ろしい。一度、自身や周りと正面から向き合ってみてはいかがでしょうか。自分でうまくできないのなら、目上の方に導いてもらうことです。どうやら素晴らしい師匠がいらっしゃるようですからね。性格を一から変えるのは年齢を重ねた分、大変なことでしょう。ですが、すべて変える必要は無いのです。自分の悪いところを認め、良いところを育てる。簡単なようでいて難しいですが、まず何より素直におなりなさい。あなたは自分の事は自分で一番わかっていると思い込んでいるようですが、足元に大事なものを見落としていますよ。あなたの視野が広がった時、きっとあなたの人生は変わるでしょう。……お小言が過ぎてしまいましたが、まあ良いでしょう。さあ、潜在能力を引き出しますよ」

 

 って言われた。要するにまとめると「中途半端さが身を亡ぼすよ! 悪人じゃないけど自己中で性格悪いね、いい年して今さら変えるのは大変だろうけどその捻くれた根性治さないと自分にも周りにも迷惑だよ! 自分で出来なかったら目上の人に助けてもらうといいよ! じゃないと下手に力がある分たち悪いよ! いい年して今さら性格矯正も大変だろうけど頑張れファイト!」ってことだよね? そういうことだよね!?

 

 正直思い出すだけで涙出てくる。長い時を生きてきた先人の言葉だけに胃にずっしり来る。

 記憶読まれなくてよかったなんて安心するどころじゃなかった。

 

 ……今度、占いババ様にゆっくり話を聞いてもらおう。

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談が過ぎたが戻ろう。

 

 どうしようかと思ったが、滑り出しは良かったと思う。

 

 ベジータと私はこういう利害関係が一致した時だけ妙に息が合うので、口悪く言いあいながらも早々に協力体制は整った。ここで争って三つ巴になったとしても、相手側は私達両方を殺すつもりなんだから無駄に体力使って共倒れするだけだし。でもこんなに息が合ったのはお父様がビルス様に献上するはずだった料理を姉弟喧嘩の後、空腹に負けて2人で食べちゃった時以来だわ。あの時は焦った。2人で必死に隠した。でも結果的に急きょ用意した代用品の方が美味しかったので結果オーライだと思っている。

 

 話がそれた。

 

 ともかく協力体制が整った上でのスタートはなかなか良かったんじゃなかろうか。

 フリーザ様はドラゴンボールを追って早々に離脱なさったし(全員始末しておきなさいってギニュー隊長に言っていた。もちろん私も込みだよガッテム)ジャンケンの末、先陣を切って向かってきたリクームさんはベジータをボコった後で(思わず声援を送ったら手を振り返してもらっちゃった)悟空に倒された。

 ちなみに私は悟空と合流した時点で早々に仙豆を預かっていたので、しかたがなくベジータに仙豆を食わせてやった。

 ベジータは自分が敵わなかった相手を悟空があっさり倒したことにわなわなと身を震わせていた。実に哀れである。肩をたたいて「元気出せよ」って言ったら手を振り払うどころか強烈なビンタを叩き込まれた。やはりM字は爆ぜるべきである。もちろん叩き返しておいた。お互いほっぺたに紅葉模様がついて格好悪いったらなかった。

 

 

 そして問題はここからだ。

 

 リクームさんが倒されたことにより、油断ならない相手だと認識されてから向こうは連携で攻めてきた。これだからプロは!

 フリーザ様の厳命があったからとはいえ、もっと舐めプしててもいいのに現実はいつも世知辛い。「久しぶりに楽しめそうな戦いにわくわくしてるんだがな。団体戦なのが残念だ」ってギニュー隊長が言ってたから個人プレイワンチャンあるかと思ったらそんなことなかったぜ!

 

 そこで非常にやっかいだったのがグルドさんの超能力だ。私も超能力使いになってから長いため、あの時を止める超能力と金縛りがいかに凄まじいものかよくわかる。

 ひん死から復活し気の総力がまた上がったベジータと悟空にかかれば、その超スピードで超能力をねじ伏せてなんとかなるかとも思われた。が、ここから接近戦でスピード自慢のバータさんとオールラウンダーなギニュー隊長による連携が猛威を振るう。つーかギニュー隊長がやばい。バランスがいい上に、一人だけ気の量が抜きんでてる。戦術眼もかなりのもので、むしろこれが一番厄介だったろうか。経験者は恐ろしい。

 悟空とベジータも戦闘力だけなら引けを取らないはずだが、いかんせんこちらには連携という物が無い。逆に連携のなさを利用されて、お互いに攻撃するよう誘導されたりする始末である。コバエのように飛び回って動きを制限するジースくんのあの気弾がまた鬱陶しい。

 

 私はその間どうしていたかって、向こうが2人に手いっぱいなのをいいことに地上に降りてあるものを探していた。それはすぐ見つかったので懐にしまい込み、また戦闘の行われている空に戻るとそのまま観戦の態勢に入った。

 明確に表記しておくが、この観戦はサボりではなく待機である。断じてサボっているわけでは無い。この時の私は例えるなら限界ギリギリまで水のつがれたコップのような状態だった。表面張力で保っている水は少し動かせばこぼれるし、それすなわち力の暴走。ちょっと動いただけで覚醒したパワーで味方を巻き込んで自爆する最高の役立たずだったのだ。

 来るべき"ある瞬間"に備えて待機していた自分の判断は最良のものだったと考えている。

 しっかり書いておくが、これは断じて言い訳では無い。本当に言い訳では無い。事実である。そんな感覚だった。今動いたらやばいって思った。もうちょっと馴染むまで無理って思った。まったくサイヤ人のエリートの血ときたら恐ろしい。

 

 

 

 そして来た! 界王拳を使ってあっという間に状況を巻き返した悟空に対して「まさか貴様、スーパーサイヤ人か!?」とおののいたギニュー隊長が自分の体に穴をあけたのだ!!

 

 

 そこですかさず私が懐から取り出したカエルを繊細な力加減でギニュー隊長と悟空の間にシュウッ!!!! 『チェンジ!』と言って悟空の体を乗っ取ろうとしたギニュー隊長には、少し早いがカエルとしてのニューライフをスタートしていただいた。

 そしてinカエルしてしまい、役立たずになった自分たちの隊長を前に焦りだす特選隊の方々。更に、ここで悟飯ちゃんとクリリンくんが合流した。勝てないと悟ったのか、グルドさんが時を止めてその間にジースくんと2人inカエルギニュー隊長を連れて逃げだした。その判断の速さに、まんまと逃げられてしまった私達である。餃子師範しかり、超能力の汎用性には驚かされる。こちらも同じように超能力で逃走を図ったのだから、敵の使い手にももっと注意を払うべきだった。

 しかし負けをどうしても認めたくないのか、残って特攻してきたバータさんは「やっと鬱陶しいコバエ共がいなくなったぜ」とすっきりした様子のベジータに瞬殺されてしまった。アイツさっきはリクームさんに手も足も出なかったくせに……復活パワーアップとか、やっぱりサイヤ人ってズルイ。あとその手も足も出なかった相手ことリクームさんは、悟空に生かされていたのについでとばかりにベジータに止めを刺されていた。

 

 お二人のご冥福を祈っておこう。いや地獄落ちだろうけど。サイン、大事にしますね。

 

 

 

 

 

(日記は次のページに続いている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




色々と絡ませようと思ったら、そもそもナメック星へ到着した時点の悟空にすらギニューさんたちは勝てないって事実に気づいた。



ここ最近の頂き物の多さに、そろそろ観覧しやすいように宝物庫を作った方が良いだろうかと思い始めている作者です。
今回なんとお3方からそれぞれ頂くというミラクルが起きたのですよ・・・!しかも内2枚はカラーということで、作者の心にはゲームボーイカラーが出た時のような感動が去来しています。




【挿絵表示】
かんすけさんからはロリ主人公とショタディッツを頂きました!この愛らしさよ・・・。守りたい、この笑顔(泣き顔


【挿絵表示】
朽木さんからは23話の主人公の心中を忠実に再現していただいた1枚を頂きました!途方に暮れた表情がなんとも言えませんな!でも可愛い。


【挿絵表示】
のたぐりさんからはセクシービューティーな主人公のイメージイラストを頂きました!このバランスの良さ、おっぱいと脇とうなじに注目していただきたい。


皆さん本当にありがとうございました!


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VSフリーザ!絶望の始まり

 ナッパというサイヤ人に殺された俺と天津飯、ピッコロは神様の計らいで死後界王様のもとで修業をした。俺たちを生き返らせようと、はるばる別の星までドラゴンボールを探しに行ってくれている仲間に報いるために必死で鍛えたさ。

 そしてついにナメック星のドラゴンボールで生き返り、その修業の成果を生かせる時が来た。だが、目の前で行われている戦いを前に俺と天津飯は情けなくもただ見ることしか出来なかった。

 

「でぁァ!!」

「ぐあッ!?」

 

 ピッコロの鋭い突きがフリーザっていうやつの腹にめり込み、すかさず体をひねったピッコロの踵がそいつの頭部に振り下ろされた。フリーザは成すすべもなく、垂直に地面へと叩き付けられる。まるで子供と大人のような力の差だ。

 

 

 界王星からことのあらましを把握していた俺たちは、ドラゴンボールのおかげでナメック星に蘇った。界王様に見せてもらっていたが、ナメック星の神龍(ポルンガというらしい)はでかかったな。

 蘇ったらすぐに餃子が迎えに来てくれて、他の場所で生き返ったらしい天津飯やピッコロとはすぐに合流することが出来た。そして、俺たちを蘇らせてくれたブルマやナメック星人の生き残りの人達とも。

 泣きながら抱き着いてきたブルマの体温を感じて、ああ、本当に生き返ったんだなと実感した。正直修業で強くなれたのは嬉しいが、あんな体験は出来ればもうしたくない。死の恐怖以上に、自分が死んで悲しんでくれる人がいる事実に余計にその思いが強くなった。心配かけて悪かったな、ブルマ。

 

 そして最長老様というお方に俺たちは潜在能力を引き出してもらい、さらなる力を手に入れた。

 ピッコロの奴が最長老様と合体? しちまったのには驚いたがな。でも合体を終えたあいつには、見た目は変わらなかったもののどこかトゲトゲしさが抜けた印象を覚えた。いや、なんというか落ち着いたっていうのかな? 一緒に修業しているときも天下一武道会から比べてかなり変わったと思っていたが、今はそれ以上に一皮も二皮も剥けた感じだ。もとはピッコロ大魔王だといってもあいつ自身はまだ子供と言ってもいい年齢だったな、成長が早かったり吸収が早いのはあたりまえかと界王星で考えたこともある。だが、今回のはそれはまったくの別物だ。

 

 例えるなら大海のごとく膨大な質量を湛えておきながら、水面は波一つ、波紋一つ広がらない……そんな、静謐さの中に底知れない力を感じさせる気だ。どことなくだが、その性質が以前修業を見てもらった神様に近づいたような気がする。これも最長老様の影響か? ピッコロであることに変わりはないが、別人のようでもある。これがナメック星人の同化という物ならば、凄い力だ。

 

 ピッコロは同化がすむと、すぐに近くで戦っているでかい気のもとへ向かった。クリリンと悟飯は悟空たちの加勢に行ったようだし、俺は天津飯と目配せして頷くとまずピッコロと同じ場所に行くことにした。

 最長老様の話を聞けば、どうやらナメック星人の戦士がたった独りで敵の親玉相手に奮闘しているようだしな。今のピッコロがどうするか分からないが、助けるならどっちにしろ敵の親玉を前に下手な動きは出来ない。怪我をしたそいつを運んでやる奴が必要だろうと思ったのだ。今のピッコロがそうそうに負ける気はしないが、それをしてから戦況を見てピッコロ側と悟空たち側に戦力を分けるつもりだ。

 俺たちが行こうとすると、ちっちゃいピッコロみたいなナメック星人の子供が慌てて声をかけてきた。

 

「ま、待ってください! どうか、ボクも連れていって!」

「いや、君はここでブルマと一緒に残っていてくれ。危険だ」

「でも、ネイルさんが怪我しているかもしれない! ぼ、ボクは怪我を治すことが出来るんです。お願いです、一緒に行かせてください!」

 

 怪我を治す? それが本当なら心強いな……。なにしろ俺たちは今仙豆を持ち合わせていない。もしもの事があれば、確実にまた誰か死んでしまうだろう。

 

「連れてってあげなさいよ」

「ブルマ」

「この子だって、自分に出来ることがしたいのよ。それに凄く強くなったんでしょ? 守ってあげるなんて簡単じゃない!」

 

 か、簡単に言ってくれるぜ。でも、おかげで迷いが晴れた。

 

「よし! お前の覚悟しっかりと受け取ったぞ。俺はヤムチャだ。お前は?」

「で、デンデです」

「俺は天津飯だ。よろしくなデンデ」

「はい! よろしくお願いします」

 

 これで方針は決まった。

 ちなみに餃子だが、天津飯があいつの表面上は見えない消耗を見抜いてしばらくここで休むように言っていた。流石、兄弟弟子だな。正直俺には平気なように見えていたが、やはりテレポーテーションなんてすごい技を連続で使うのは疲れるんだろう。しかし餃子も凄く強くなったのだったら分かるぞ!こいつになら、ここに残されるブルマを任せることが出来る。後顧の憂いも無くなったな。

 

 そして俺たちは今度こそ、戦いの舞台へと足を踏み入れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、結果は情けないことに観戦だ。というか、割り込める気がしない。

 

 戦闘の行われている場に着くと、まず俺たちは片腕を無くしたピッコロにそっくりなナメック星人を救出した。デンデが回復の術を施して体力が回復し他の傷が治ると、彼は自分で腕を再生していた。す、凄いな……ナメック星人って。

 そして肝心の戦闘だったが、それは一方的なものだった。相手の親玉、フリーザってやつはなんとか持ちこたえてはいるが圧倒的にピッコロの方が実力が上である。これは俺たちの出番なんてなさそうだ。そう言って悟空たちを助けに行こうと提案しようとしたのだが、それに対して天津飯とネイルという戦士は難色を示した。

 

「あれを見ろよ。どう見たって一方的に押しているぞ? 俺たちが居たんじゃ、逆に邪魔になるんじゃないか?」

「いや……そうなんだが、何か胸騒ぎを感じるんだ」

「君もか……私も同意見だ。なんと言えばいいか分からないが、あのフリーザという者がこれで終わるとはどうしても思えない」

 

 この2人、天津飯とネイルはどことなく似た雰囲気を持っている。勘が鋭い天津飯に加えて似た雰囲気のネイルがそう言うならば無下にも出来ない。俺たちは順調にいけばあと少しで決着がつくであろう戦いをそのまま見守ることにした。

 

 

 

 

 そして、その勘は当たってしまったのだ。それも横やりによる最悪のきっかけが原因で。

 

 

 

 

「馬鹿な、この、このフリーザ様がナメック星人ごときにぃぃ!!」

「無様だな。せめて最後は潔く死ね」

 

 ついには膝をつき、立つこともままならなくなったフリーザを前にピッコロは額に気を集め始めた。あれはあいつの必殺技、魔貫光殺砲! たしか気をためるのに時間が必要な技だが、合体の影響か気の流れが恐ろしく滑らかだ。まもなく放てるだろう。

 しかし、そのピッコロが一瞬苦しそうにうめいた。

 

「がっ!?」

 

 ほんの、一瞬だった。

 

「フリーザ様、今です!」

「でかしましたよ、グルドさん!」

 

 次の瞬間、ピッコロの胸を紅の光線が打ち抜いていた。

 

「ピッコロ!?」

 

 ピッコロは貫かれた胸を押さえて膝をついた。そこにさらに別方向から追撃が迫る。

 

「クラッシャーボール!!」

「がぁ!?」

 

 しかもたった今怪我した場所を狙いやがった!!

 見れば、岩陰からこちらに両手を突き出している緑のチビと気弾を放ったポーズの赤いやつが居た。あいつらか!

 

「天津飯、行くぞ!」

「ああ!」

 

 すぐに俺たちは飛び出し、フリーザの前に無防備な姿をさらしたピッコロを救出した。しかしフリーザはそんなものには目もくれないといったように、不気味な高笑いをしはじめた。

 

 

「初めてですよぉ! ここまで私をコケにしてくれたお馬鹿さんは!! 唯では死なせません。たっぷりと恐怖を味わわせて、死後もこのフリーザの恐怖を忘れないように体に! 魂に! 全てに刻み付けて差し上げましょう!!」

 

 

 そこからは悪夢の始まりだ。

 フリーザは不気味に体を震わせると、その身を変化させ始めた。初めはその身の丈を伸ばし筋肉が発達した形態へ、次は身の大きさこそ小さくなったが、頭部が不気味に長いエイリアンみたいな形態へ。そして

 

 

 

「これが、ボクの最終形態です」

 

 

 

 潜在能力を引き出してもらったことで、強くなった俺たちにはわかってしまった。

 こいつには絶対に敵わないということを。

 

 

 

 

 

 

 

 



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★VSフリーザ!集結、誇り高きサイヤ人!

 ここ最近で俺の人生は大きく動いた。ろくなことは無かったが、それだけは確かだぜ。

 

 地球とかいう星で、様々な要因が重なった結果とはいえ俺は下級戦士であるカカロットに負けた。あの屈辱が俺のプライドに深く楔を打ち込んだことは間違いない。そしてそこからは息つく間もなく事態は進んだ。

 傷をメディカルポッドで治した俺は、通信機でドラゴンボールのことを盗み聞きしていやがったフリーザがナメック星に向かったことを知りあとを追った。横取りされてなるものか、あれは俺の物だ、そして不老不死を手に入れ奴の代わりに宇宙に君臨するのはこのサイヤ人の王子ベジータ様だ、ってな。

 プライドは傷ついたが、死の淵から生還した俺の戦闘力は上がっていた。戦闘力29000の数値を見た時は思わず笑っちまったぜ。試しに地球の奴らがやっていた戦闘力をコントロールする技術を試してみればすぐに成功した。まあ、この程度の技術の習得など俺には簡単だ。あのハーベストの奴に出来て俺に出来ない道理もない。

 そしてナメック星に到着した俺は、早々に俺を追ってきたキュイの野郎に遭遇した。何を勘違いしたのか「怪我で相当まいってるようだな。戦闘力が落ちてるぜ?」とほざきやがったキュイの相手をしているのも馬鹿らしい。すぐに殺し、俺はドラゴンボールを探し始めた。まったく、上がった戦闘力を試すには雑魚すぎて気分に水が差されたぜ。汚ねぇ花火を見ちまった。

 次にやって来たのはドドリアだ。不細工が続くが、まあフリーザ軍に見目の良さを期待しても馬鹿らしい。もとからあと少しで戦闘力も追いつけた相手、今の俺の敵ではない。適当に遊んでやってから殺してやった。…………無様に命乞いする奴から、思わぬ話を聞けたのは収穫だったがな。

 まさか惑星ベジータを破壊したのがフリーザだったとは。しかしよく考えずとも奴ならやりかねんし、それほどサイヤ人を危険視していたということはサイヤ人にはあの野郎を超える底知れぬ可能性が秘められているということ。

 今まで奴に良いように使われてきた自分にはむかっ腹は立ったが、この急激に成長している自身の力を感じれば気分もいい。やはり、トップに立つべきはこの俺なのだ! 不老不死さえ手に入れられれば奴を超すことなど簡単だ。何がなんでも手に入れてやる!

 

 しかし、そこからは今までの高揚感から一転してムカツクことばかりだったぜ。

 ザーボンの野郎と戦うことになった時、俺はこれまでの戦績に酔いしれていた。実際にザーボンにも簡単に勝てそうだったが、奴が不細工に変身した時に思いがけず深い一撃を受けてしまい、そこからは俺の実力に焦ったザーボンは反撃の隙を与えることなく攻撃してきた。チッ、俺は何をやっているんだ!! 変身後ですら今の俺と大差ない程度の奴に、油断が原因でやられるとは!! 自分のことながらその甘さに反吐が出るぜ!!

 だが奴め、俺の戦闘力を見誤ったのが仇となったな。俺が手に入れたドラゴンボールの居場所を吐かせようと、ご親切にもわざわざメディカルマシーンで俺を回復させてくれるとはな! おかげで俺はまた強くなった。ククク……誇り高き戦闘民族を舐めるからこういうことになるのだ。サイヤ人とは、死の淵から立ち直るたびに戦闘力をどんどん高めることが出来る! このままいけば、伝説と呼ばれるスーパーサイヤ人になることも時間の問題かもしれんな。

 だが、ここでまたもや俺の堪忍袋の緒を一瞬でぶち切る奴に遭遇した。ハーベストめ、地球ではいつの間にか見えなくなっていたから瓦礫に押しつぶされてくたばったかと思えば生きていやがったか! そのムカつく面を見た時思わず拳を突き出したが、奴も同じ動きで俺の顔に拳をめり込ませやがった。くッ! こいつもひん死の状態から回復したことでパワーアップしているだと!? 雑魚のくせにムカツク女だ!! しかも奇妙な超能力を覚えてやがって、この俺に、このベジータ様に危うくクソを漏れさせるという醜態を晒させようとするとはな!! あまりの怒りに普段以上のパワーが出たぜ。だが全力の俺の拳を受けて腹に穴が開かないとなると、この女のタフさにだけは感心する。なよっちい外見のわりに、その頑丈さはナッパの比ではないな。やはり腐ってもサイヤ人の王族か。

 

 俺はハーベストと一緒に居た超能力を使うガキを脅し、フリーザの宇宙船からまんまとドラゴンボールを奪うことに成功した。だが、俺はさっさと奴を始末しておくべきだったんだ。

 最後のドラゴンボールを持っていたハゲチビを追い、追い付いたところで再びザーボンと遭遇した。今度は完全に俺の方が戦闘力は上だ。すぐ始末してドラゴンボールをそろえてやろうと奴と戦い始めた俺だったが、突如背後で膨れ上がった戦闘力に背筋が粟立った。それに従い瞬時に回避した俺の横を、青白い光のエネルギー波が通り過ぎた。これは、カカロットの野郎が使っていた俺のギャリック砲と似たあの技!! そのエネルギー波はザーボンを飲み込み、数秒もがいて押し返そうとしていた奴をあえなく蒸発させた。この場でこんなことが出来るのは奴しかいない。「貴様ぁ!!」と叫んで振り返った俺だったが、そのときすでに奴らは姿を消していた。なんて逃げ足の速い奴らだ!! ドラゴンボールも消えてやがるぜクソッタレェ!!!!

 

 その後俺は下手な横やりが入らないように、戦闘力を消して行動した。側近2人が殺されてフリーザの野郎も相当頭に来てるだろうからな。しかしドラゴンボールはすでに7つ集まっている……願いはもう叶えられたかもしれない。それを思うと腹が立ち仕方が無かった。だが、空から飛来したギニュー特戦隊のことを考えると下手な行動には出れない。そのジレンマに、俺の怒りは蓄積されていった。

 そして数日経ったとき、どこからか凄まじい戦闘力が吹きあがったのを感じた。フリーザではない、ならばハーベストか! そう思うや否やその場に急行したが、そこで待っていたのは目的としていた奴ら以外にカカロット、ギニュー特戦隊、フリーザという、現状この星でトップクラスの戦闘力を持つ奴らのそろい踏みという悪夢だった。クソッタレ、やはり奴に関わるとろくなことが無いぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪夢だ……」

 

 思わず口をついて出た言葉に、カカロットの野郎が応える。おい、貴様に話しかけた覚えはないぞ。

 

「ああ。オラも、あんな気を前にしちゃあそんな気分になる」

 

 再度パワーアップを果たした俺は簡単に特戦隊のメンバーを倒すことが出来た。ギニュー特戦隊の半分を取り逃がしたが、再び立ちふさがっても今の俺の敵ではない。

 これならば行ける! ドラゴンボールなど無くとも、フリーザを倒せるかもしれん!! そう思っていたが、目の前にいる、恐らくはザーボンが言っていたように変身タイプの種族であるフリーザが変化したであろうツルッパゲのチビ。そいつを見ると、今までの高揚感など吹き飛んだ。

 

 フリーザの野郎は何故か生き返っていた地球で殺したはずのナメック星人と戦っていた(ナッパに殺されたはずだが、やはりドラゴンボールは使われていたか!!)。信じられないことに、この短期間でどんな裏技を使ったのかこの俺以上のパワーを感じるナメック星人……しかし、そいつもすでに死に体だった。止めを刺されるところでカカロットの野郎が助けに入って何とか生き残ったが、それでこの状況が好転するはずもない。

 遠目に逃げ延びたギニュー特戦隊の残党2人と、見覚えのないナメック星人、地球で死んだはずの地球人が戦っているのが見える。そいつらも何故かパワーがギニュー特戦隊に比肩するほど強くなっていたが、フリーザの前じゃ焼け石に水だ。

 だが、やってみなければわからん!!

 攻撃を受ける前に先手必勝で圧倒してやろうと、俺はフリーザに襲い掛かった。だがフリーザの野郎はコバエでも追い払うようにそれをあしらうと、次の瞬間には俺の腹にでかい穴が開いていた。至近距離から打ち抜かれたんだ。「ベジータ!!」と俺の名を呼ぶカカロットの声が聞こえるが、俺の心は恐怖で支配されておりそれどころではなかった。

 

 このまま、何もできないまま死ぬのか……? 

 

 生まれて初めて心の底から震えあがった。真の恐怖と決定的な挫折。それが俺の冥土の土産ってわけか……笑っちまうぜ、涙まで出てきやがった。

 

 意識が途切れる。

 そう思った瞬間、かっと体の奥が熱くなり力があふれてきた。なんだ、これは!?

 

「な!?」

「ナイスだ姉ちゃん!」

「だけどこれで仙豆はあと1粒だからね!」

「ああ!」

 

 俺の体を支えていたのはハーベストだった。奴の指が俺の口に添えられているところを見ると、先ほどのギニュー戦で俺に食わせた豆を放り込んだんだろう。そうか、それで俺は回復したのか!

 

「はーっはっは! でかしたぞクソ女!! たまには役に立つじゃないか!」

「ここにきてクソ女とか言うお前の神経にビックリだよ! つーかさっきまでべそかいてたやつが偉そうに! まだ目ぇ涙ぐんでんぞ!」

「やかましい! どけ、パワーアップした俺様の力を見せてやるぜ!」

「それが駄目だっていい加減学習しろ馬鹿! 頭冷やしてやるからよく聞けよフリーザ様の今の戦闘力多分本気出せば億とか行くからな!!」

「な!?」

 

 億、だと!? いや、しかしスカウターでそんな数値は計れない。俺自身もうだいぶ戦闘力を計っていないが、おそらくスカウターが壊れる数値だろう。

 どうせ俺を落ち着かせるためのハッタリだ。

 

「おや、ハーベストじゃないか。今のボクの実力が分かるなんて、やはり君は賢い子だね」

「は! お褒めにあずかり光栄です!」

「ね、姉ちゃん。こいつ敵だろ? 知り合いなのか?」

「小さい頃お世話になってる。もう何年も会ってなかったけどね」

「どうだい? 今からでもボクの部下に戻るのは。ザーボンやドドリアも居なくなってしまったし、今なら側近にしてあげてもいいよ」

 

 き、気の抜ける会話をしやがって。

 だが、ここでこいつが寝返ったら厄介なことになる。その前に殺すか?

 

 だが奴にも一応サイヤ人としての誇りはあったようだ。

 

「いえ、ご厚意は嬉しいのですがお断りします。私は今の暮らしが気に入っておりますので」

「そうかい、残念だよ。じゃあ死ぬといい」

 

 言うや否や、フリーザはハーベストに接近してその腹にエネルギー波を押し付けた。クソッ、雑魚でも居ないよりましだってのに1人やられるか!?

 

「界王拳!!」

「ぐ!?」

 

 しかしそれはカカロットによって阻止された。俺と戦った時と同じ、戦闘力を倍増させる技でフリーザを蹴り飛ばしたのだ。だが、駄目だ。あれでも今の俺より劣る戦闘力。奇襲は出来てもまともなダメージは与えられまい。

 

「魔閃光ーーー!!」

「気円斬!!」

「魔光線!!」

 

 蹴り飛ばされたフリーザめがけて、いつの間にか集まってやがったカカロットの仲間が攻撃を加えた。あのナメック星人、いつの間に回復を!? ちぃ、しかしこれには乗っておくか。多少ダメージを与えられるかもしれん!!

 

「ギャリック砲!!」

 

 タイミングが少々遅れたが、俺もエネルギー波を放つ。だがフリーザの野郎、全部避けやがった! なんてスピードだ!!

 

「フフッ、今のはちょっと焦ったかな? なかなか強いじゃないか。一度に浴びたら危なかったね」

 

 野郎……余裕で拍手なんかしやがって。

 さっきまでの恐怖がぶり返してくる。だが、その俺のケツを蹴り飛ばす馬鹿がいた。

 

「諦めんな馬鹿! お前が諦めたら私まで死ぬんだから最後まで粘れよ!」

「ふ、フン。ここにきてまで他人だよりか?」

「もうここまで来て後戻り出来ないんだから倒すしかないでしょ! 私嫌だからね!? お前らがフリーザ様倒すって信じてるからここまで来たってのに、負けたら死ぬか一生やりたくもない仕事やることになんだから!」

「貴様はどこまでいっても自分の事だけだな!」

「お互いさまだよ馬鹿野郎!」

「…………。君たちは相変わらず仲が良いのか悪いのか分からないねぇ」

 

 く、クソ。呆れた声を出しやがって……!

 

「ははは! なんだ、おめーら仲いいじゃねぇか。なんかオラ、勝てそうな気がしてきたぞ」

「どこをどう受け取ったらそうなる!」

「クソッタレ! とりあえず仕切り直しだ! 仕切り直し! フリーザ様が余裕こいて会話許してくれてるけど今死んだら相当間抜けだからな!!」

 

 ハーベストの声を受けて、忌々しいが構え直す。

 奇しくもこの場に生き残りのサイヤ人が集まったってわけか……。奇妙なもんだぜ。

 

 

 

 

 

「覚悟しろフリーザ。誇り高きサイヤ人の力を見せてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ベジータ視点の今までの色々+フリーザ様戦中盤。あれ、終わらない……。

サイヤ人の誇り「なんか一匹変なのが混じっているが無視してくれて構わんよ」


カミヤマクロさんから素晴らしき挿絵を頂きました!!(8/27追加)

【挿絵表示】
しかも漫画です、漫画なのですよ!!作中のワンシーンを素晴らしきアレンジを加えて漫画に仕上げていただくというミラクル!!
ベジータのドヤ顔、可愛く描いてもらった主人公、悟飯と悟空の困惑顔、真顔イケメンなフリーザ様と最強の一枚である。そして個人的に最後の駒のベジータ乱心を書いてもらったのが凄く嬉しい。ご、悟空ーーー!!


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★17ページ目 ナメック星5~壁という生き方

▼日Ё日続き

 

 

 

 ギニュー特戦隊との戦闘を終えて、いよいよフリーザ様との戦いである。

 私の原作知識などあって無いようなものだけど、ここまで来れば確実に色々とおかしい事になっていると気づいた。

 

・ネイルさん生存(え、ピッコロさんのパワーアップは?)

・ヤムチャと天津飯参戦(!?)※しかも知らないうちにドラゴンボール3つの願い全部使い終わってた。

・フリーザ様が悟空と戦う前に最終形態(!?!?)

 

 気分的に役満だよコノヤロウ! 字面を変えたら厄満だよ畜生!!

 ……上手いこと書いたとか一瞬思ってしまった自分を恥じた。あと、ネイルさん生存とヤムチャ天津飯コンビの復活は厄じゃないだろいい加減にしろ! けど最後の一つだけでもうお腹一杯だわ。どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

《VSフリーザ様》

 

 

 

 

 ギニュー特戦隊との戦いを終えた私たちは(といっても私はほぼ見ていただけ)次に巨大な気がぶつかり合っている場所へと向かった。私は体調がすぐれないことを理由に餃子師範たちの所へ避難したかったのだが、悟空に「よし、行くぞ姉ちゃん!」と言われて「お、おう」と逃げるタイミングを逃した。

 ベジータにはいくら傍若無人な振る舞いをしても気にならない私であるが、こちらの義弟に対して私は色々と弱い気がするのは何故だろう。あれか、私では到底持ちえない純粋さと真っすぐさがあるからか。考える間もなく完敗である。ひねくれ者には眩しいぜ(最長老様のお言葉が頭から離れなくてツライ)

 

 さて、流れとしてはこんな感じだった。

 

 ピッコロさんピンチ!(それでも最終形態フリーザ様相手に一人で持ちこたえていたピッコロさん凄ぇ)

 ↓

 悟空が間一髪で救出!

 ↓

 フリーザ様の出会いがしら最終形態にビビりつつも対峙。ピッコロさんはさりげなく合流した悟飯ちゃんとクリリンくんが安全な場所に連れて行ってくれた。

 ↓

 ベジータ、無謀なる特攻。腹パン(打ち抜きコース)からの泣きべそ、仙豆で復活、パワーアップの華麗なるトリプルアクセル。仙豆残り1。悟空が持ってきた3粒のうち2粒をこいつに使う羽目に。馬鹿な。

 ↓

 調子に乗ってまた突っ込みそうになるベジータを止める。フリーザ様からのまさかの勧誘。もうここまで来たら小細工も何もないので丁重にお断りしたところ、姉弟おそろいだよ☆ってことなのか私にまで腹パン(打ち抜きコース)の危機が迫る。悟空に助けられる。やはり義弟こそ真の弟である。

 ↓

 悟飯ちゃん、クリリンくん、ピッコロさん(多分デンデのベホマで回復)、ベジータのエネルギー波のカルテットコンビネーションがフリーザ様を襲う。正直「おお!」と拳を握ったけどあえなく避けられる。しかも外れたクリリンくんのキラー技である気円斬が山を切り裂いたところを見てフリーザ様が警戒してしまった可能性。ガッテム。

 フリーザ様が余裕すぎて「これ勝てるん?」ってお腹痛くなった。やだ、優雅に構えてて凄い大物感……泣ける。

 ↓

 この期に及んでビビりかけてるベジータのケツを蹴り上げる。私は悟空とお前に全賭けしているのだ。無様に諦めるなんて許さん。もうここまで原作知識ぶっ飛ぶ事態になってるんなら、どっちでもいいから超化はよ。オーバーキルはよ。

 妙にグダグダになったので仕切り直した。呆れながらも会話を許してくれてたフリーザ様ったらマジ大人。その余裕をベジータにも見習ってほしい。

 ↓

 ベジータが「覚悟しろフリーザ。誇り高きサイヤ人の力を見せてやる」とか、あたかも私と悟空と悟飯ちゃんを自分が率いてるみたいに偉そうなセリフをほざいたのでポカンとした。しかも渾身のドヤ顔である。悟空と悟飯ちゃんも「え?」って顔してたの見たからな私。いや、さっきまでべそかいてたお前がなんで仕切ってんだよ馬鹿か。実姉の私まで居たたまれなくなるだろやめろよ!

 ↓

 突っ込みの暇もなくなった。もう、ここからは混戦である。

 

 

 この混戦の中、私は今までになく頑張ったと思う。いやマジでマジで。

 

 何をしたかって?

 壁としての役割を全うしたんだよ!それしか生き延びる方法が無かったんや!! ちょっと間違えればすぐ誰か死にそうだから!!

 

 

 今思い出しても痛い。

 

 まずベジータが何を思ったのか不意打ちで悟空の胸を貫いたから、目ん玉飛び出しそうになりながらもラストビーンズを悟空に与え復活させた。グッバイ仙豆。回復パワーアップが目的だろうけど敵の眼前で突然の暴挙に本当にこいつ馬鹿なんじゃないかと思った。

 その後は復活してパワーアップした悟空とベジータが接近戦を担当し、悟飯ちゃん、クリリンくん、ピッコロさんがタイミングを見計らって遠距離攻撃という図が出来上がった。しかしそれもすぐに崩れて、鬱陶しかったのかまずフリーザ様の光線が悟飯ちゃんを貫いた。ここから私のお仕事スタートである。

 フリーザ様の悟飯ちゃんへの止めの一撃を体を張って止めた。

 言葉にすれば簡単だが、さっきベジータの腹に風穴を開けた攻撃を防いだと書けばその凄さがわかるだろう。後で読み返している私へあえて言おう。この時の私、おばとして最高に輝いてたぜ!

 最長老様に言われた言葉が原因じゃなく、自分の良心が仕事した結果だと思っている。うん、そうだよ良心良心。何も私の全てが自己愛で形成されてるわけじゃないし。そ、そこまで自己中じゃないし!

 

 とっさの事だったので動いた後に「デンデがザオリクかけてくれますように」と完全に諦め思考になった私だったけど、超痛かったけど普通に防げていたことに驚いた。超痛かったけど。フリーザ様も驚いていた。

 いや、なんというか……最長老様に引き出してもらった力だけど気を解放しようとするとまったく制御できないので、体の中に止めるようにしたらめちゃめちゃ防御力上がってたというね。それを悟った瞬間、私は自分の役目を理解して目が死んだ。

 

 ああ、これは誰か一人でも欠けたら詰みそうな状況の中で最高の壁役ですわ。

 ゲームだったらこいつ前列に出して後方に下げたやつ回復させよって奴だわ。

 

 もうここまでくると私もアドレナリン出まくりで要するにやけになってたわけで、自分でもびっくりするくらい潔く腹をくくった。

 

 

 

 

 いいよ、来いよ!! 全部受け止めて守ってやるよぉ!!

 

 

 

 

 気分的にこんな感じだった。今思うと頭いかれてたんだと思う。フリーザ様の攻撃を全部身一つで受けきるとか何事。

 

 それからというもの、壁の役割は忙しい。仲間がピンチになるたびに仁王立ちして防御、幸いなことに来ていたらしいデンデのもとへ向かわせ回復させるを数度繰り返したのだ。私は来世パラディンにでもなるつもりか。仁王立ちの熟練度半端ないぞ。魔王戦でも大活躍間違いなしだろ。ドラクエやりたい。

 途中で「姉ちゃん、すまねぇ! でももう十分だ!」「くッ、こんな奴に守られるとは」「空梨おばさん死なないで!」「空梨さん、無茶だ! そろそろ下がってくれ!」「貴様に守られるまでもない! だからさっさと引けぇ!!」とかなんとか色々聞こえた気がするけど、「うるっせぇだったら早くフリーザ様倒せやボケェ!!」と怒鳴り返しておいた。いや、ホントにな! 壁役解任してくれるなら目の前の激オコなラスボス倒してくれよ! もうすでに間合いから抜け出せねぇよ!! 完全にロックオンされたよ!!

 ボロ雑巾になりながらも、生命力的にはまだまだ死なないぜ!って感じの私は相当鬱陶しかったに違いない。私はきっと生まれ変わったらメタルスライムとかメタルキングにもなれると踏んでいる。それもHP500くらいある感じの。何この防御力コワイ。いっそ気絶してあとは全部丸投げしたかった。

 

 

 

 しかし終わりは来るもので、ついに力尽きた私は神的なタイミングで助けに来てくれた餃子師範に救出されて戦線を離脱した。

 

 

 けど、この後あんなことになるとは本当に思っていなかった。

 私、超がんばった。痛いの我慢して頑張った。

 

 

 

 だから私は悪くないよね!?

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 




主人公にしては今までで一番頑張った。超化を期待してくださった方には誠に申し訳ないのですが、潜在能力は今のところ堅に全振りされたようです。


トライヤルさんから主人公のイメージイラストを頂きました!

【挿絵表示】
まるで少年漫画の主人公みたいなフレッシュな笑顔の主人公です。中身はくすみ切った三十路だというのに・・・!そして隣に描かれたベジータ先輩が私の腹筋にギャリック砲を撃ってくる。


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Z戦士+@VSギニュー特戦隊!

「思えば遠くまで来たもんだな、ヤムチャ」

「ああ、天下一武道会が懐かしいぜ」

 

 俺とヤムチャは軽口を叩きながらも、目の前の相手に集中していた。

 ピッコロはあの後デンデというナメック星人の子供が回復してくれたおかげで再びフリーザと戦うことになったが、明らかに向こうが変身してから劣勢だ。さっきまであれほどピッコロが優勢だったというのに、フリーザ……恐ろしいやつだぜ。

 多少でも助けられるよう加勢しに行きたいが、その前に俺たちにはやらねばならんことがある。ピッコロとフリーザの戦いに横やりを入れてくれやがった、この緑と赤いのを倒さねばな!

 

「フン、無駄口を利いている場合か? 貴様たちが誰だか知らんが、あのナメック星人の仲間ということは俺たちの敵、というわけだ。生かしてはおかんぞ!」

「それはこっちのセリフだ! いつまで偉そうな口を利いてられるかな?」

 

 赤いのとヤムチャがにらみ合うが、俺の注意は緑の奴に向いていた。こいつはさっき、一瞬とはいえピッコロの動きを止めやがった。しかも見た感じだと餃子と同じ超能力使い。……厄介だぜ。出来れば先に倒してしまいたいな。

 

「なんだ、お前。生意気そうな目で睨みやがって。このグルド様に敵うとでも思っているのか? ……ほっほう。戦闘力8000とは、なかなかやるじゃないか」

 

 緑のチビが操作している妙な機械は、たしか強さを数値化出来るものだったか。サイヤ人も使っていたな。

 俺もヤムチャも最長老様に解放していただいた気を体に馴染ませるために、未だ力を抑えた状態だ。奴の様子を見るに今のままの状態だと奴より下のようだが、見たところ俺たちの力が劣るとは思えない。これは油断しているうちに叩いてしまった方が良いかもしれない。

 

「いや、まてグルド。こいつらベジータたちの仲間でもあるんだろう? なら、さっきみたいにいきなり戦闘力が上がるかもしれん」

 

 チッ、赤い奴め余計なことを。それにベジータの野郎と仲間扱いされるとは心外にもほどがあるぜ!

 

「そ、そうだなジース、気をつけよう……ところで、おニューのポージングはどうする?」

「む!? むう……そうだな。いつもスペシャルファイティングポーズはギニュー隊長がお決めになっていたしな……」

「おい、天津飯。今のうちに倒してしまってもいいんじゃないか?」

「待て、ああいうふざけた野郎が意外と強かったりするんだ」

 

 俺だって出来ればさっさと倒したいが、相手は宇宙人。警戒されてしまったようだしどんな奥の手があるか分からん今、慎重になった方がいいだろう。しかし決めるときは一気だ! そのタイミングは逃さん!

 

「……よければ、私も加えてもらおうか」

「あ、あんたは!」

 

 声をかけてきたのはデンデと一緒に残ってもらっていたネイルというナメック星人だ。ピッコロとそっくりだが、ひどく落ち着いた雰囲気を持っている。その秘められた力も相当なものだろう。

 

「もう大丈夫なのか?」

「怪我はデンデのおかげで問題ない。早くこの者どもを倒して、同胞の加勢に行ってやりたいのは私も同じだ」

「そうか。心強いぜ」

「お前はさっきの死にぞこないのナメック星人じゃないか! フリーザ様に散々いたぶられた様子だったのにまだ懲りないのか! はっはっは! 雑魚が束になって涙ぐましいなぁ。どれ、戦闘力は…………!?」

「どうしたグルド?」

「じ、10万……だとぉ!?」

「んな!?」

 

 じゅ、10万とは……!先ほど気を抑えた状態とはいえ俺は8000と言われていた。それを考えるとかなりの数値だ。

 

「あいつらが驚いてるってことはかなり強いってことだよな? じゃあ、心置きなく行かせてもらおうか! こんなところで油を売ってる暇はない!」

「ああ!」

 

 ヤムチャと俺も気を開放する。

 

「せ、戦闘力が変化した!?」

「やはりか! だ、だが待て! 長髪が5万9000、ハゲが6万1000!? 馬鹿な!」

 

「せぁッ!!」

 

 先手必勝だ! 俺は緑の奴目がけて攻撃を繰り出した。

 

「狼牙風風拳!!」

 

 ヤムチャも最初からトップスピードだ。早々に敵を捉え、その狼のごとき猛威を振るう技で圧倒する。

 だが、俺が攻撃したチビはいつの間にか消えていた。

 

「な!?」

「横だ!」

「くっ!」

 

 ネイルの声にとっさに防御すれば、あらぬ方向から気弾が撃ち込まれた。

 

「今、一瞬で場所を移動したように見えた。気を付けろ、奇妙な術を使うようだ!」

 

 そう言いながらもネイルも攻撃したが、再びチビは姿を消す。しかも今度はヤムチャが相手をしてた赤いのまで消えやがっただと!

 

「ぷ、ぷはぁ! ち、畜生! こんなの勝てるわけないぜ!」

「た、助かったぞグルド……!」

 

 奴ら、あんな遠いところに!

 

「馬鹿野郎! タダで助けたんじゃないぞ。これを見ろ!」

「な、これは!」

 

 何やら緑のが懐から何かを取り出した。何かの武器か!?

 

「行くぞヤムチャ!」

「ああ!」

 

 変なことをされてはかなわん。そう思い、奴らに接近する。

 

「言うまでも無く分かるな!? 今のままじゃ死ぬだけだ! 今を生き抜けば後でどうにか戻れる!」

「だ、だが!」

「素の戦闘力はお前のが強いんだぞ!? 俺が代わってどうする!!」

「く、くそーーーー!! チェーンジ!!」

「な、なんだあの光は!?」

 

 思わずブレーキをかける。緑のが取り出した何かと赤いのが光ったと思うと、その後には特に変わったところのない2人。

 

「なんだ、ハッタリか」

「待つんだ。あれは……」

 

「フッフッフ……お手柄だジースにグルド。待っていろ、あとでチェンジを繰り返して必ず元の体に戻してやるからな」

「ギニュー隊長! あ、あなただけが頼りです! ジースの体では心もとないでしょうが……!」

「カエルのままでは腹の虫も収まらなかったところだ! それに比べれば、存分に暴れられる分頑張らせてもらおう!」

「なんか……赤いのの雰囲気が変わったか?」

「ああ、どことなく大物感が出たような……」

「気を付けろ! あの者……元の体にいずれ戻すと言っていた。奴の手の中にカエルが居る。あれの中にいた、おそらくは相手と自分の体を入れ替える能力を持ったものと入れ替わったのだ!!」

「な、なんだって!?」

 

 ネイルの言葉に驚かされる。耳がいい上に凄い勘だな。何故そんなことが分かるんだ。

 

「何故わかるかと言いたそうだな。潜在能力を引き出していただいてから、妙に勘が鋭くなったのだ。おそらく戦闘タイプ以外の私の中のナメック星人としての力が引き出されたのだろう」

「そうか、あんたも最長老様に……」

 

 あの方には感謝してもしきれんな。

 

 ともあれ、相手が先ほどより油断ならない相手に変わった事は分かった。気を引き締めてかかるぞ!!

 

 

「体を取り替える能力に気を付けろ!」

「ああ!」

「忠告感謝する!!」

 

 

 

 

 

 さあ、今度こそ仕留めてやる! 覚悟しろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カットしてもよかったのですが、パワーアップネイルさんを加えた強化ヤムチャと強化天津飯相手にジースとグルトが少しでも粘れる気がしなくてギニュー隊長にジースへログインしてもらいました。ちゃんとカエルと入れ替わってるところを見て回収していたグルドは部下の鏡。
ちなみにパワーインフレ激しすぎて強くしすぎなのか弱いのか強化具合の判断基準がもうわけわかめだぜ!




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暁に吠えろ!荒野の狼と三眼の武闘家。怒りの覚醒スーパーサイヤ人孫悟空!

今回のタイトルはほぼ勢いとフィーリングでつけました。つまりノリ。長いけど気にしない!


 ボクは天さんとヤムチャとデンデを見送った後、遠くで感じる戦いを気で感じることしか出来なくてもやもやとした気持ちを抱えていた。

 弟子である空梨に触発されて新しい超能力を覚えて、それがこの星に来てからとても役に立った。それは嬉しい。でも、肝心のこんな時……みんなが戦ってる時に僕だけ戦えないのが悔しかった。わかってる、ボクは戦いに関してはみんなに比べてとっても弱い。でも、それでも悔しい。

 

「ブルマ、ボク、やっぱり行きたい!」

「ちょ、ちょっと! あんた天津飯に休んでろって言われたじゃない。テレポーテーションって疲れるんでしょ? いざという時が来るかもしれないし、今は体力を温存しといた方がいいわよ!」

 

 ブルマにそう言われて、ホントはそうした方がいいってわかってるから余計に落ち込んだ。けど、ブルマは何か考え始める。

 

「ねえ、じゃあちょっと付き合ってよ。これでフリーザって奴を倒したらこの星から脱出しないといけないでしょ? その時のために、宇宙船を確保しておくのよ!」

「ええ!? ど、どうやって!?」

「ふっふ~ん。よく考えてみなさいよ。フリーザたちだって、別の星から来たのよ? だから宇宙船を持ってるはずじゃない! それを頂いちゃおうってこと!」

「な、なるほど」

「今の人数だと孫君の乗ってきた宇宙船じゃ手狭かもしれないし、宇宙人の宇宙船にも興味あるしね!」

 

 そう言うと、ブルマはホイポイカプセルからエアカーを取り出した。

 

「空は見つかったら危険そうだし、これで行くわよ」

「場所は分かるの?」

「多分だけど、一度ドラゴンボールが5個集まってた場所があるの。それがきっとフリーザの宇宙船よ!」

「だったらボクが連れてく。一度空梨と行ったことがあるから」

「はあ!? あ、あんたたち一体何やってんのよ……」

「それは空梨に聞いてよ……」

 

 あの時は本当に生きた心地がしなかった。サイヤ人である空梨にとっては昔の知り合いらしいけど、それでもあのフリーザやその側近と普通に話せてた空梨の神経は凄く太いと思う。

 

「2人分のテレポーテーションだったらそんなに負担じゃないよ」

「そう? じゃあお願いするわね!」

 

 そうして僕たちはフリーザの宇宙船へ向かった。

 

 

 

 

 

「誰も居ないわね……っていうか、派手に壊れてるじゃない! これで飛べるのかしら?」

 

 宇宙船に着くと、それには大きな穴が開いていた。ブルマの言う通りとても飛べそうにない。

 

「脱出用の小型船らしき物も無し……ってことは、乗ってたやつらきっとみ~んな逃げちゃったのね。自分たちのボスが本気を出して怖くなったのかしら。根性ないわねぇ」

「ねえ、それならどうするの?」

「しょうがないから部品だけもらってきましょ! ふっふっふ、実は最長老様に潜在能力を引き出してもらってから今まで以上に頭が冴えわたっちゃってね! 今なら壊れた宇宙船を修理できる気がするわ!」

「そうなの!? 凄い!」

 

 そうと決まればと、必要な部品を集めて今度はこの星に降り立った場所へと移動した。

 

 でもブルマが修理を始める中、ボクは妙な胸騒ぎを感じていた。何か、とんでもないことが起きてしまうような。

 

 

「ブルマ、やっぱりボク一度みんなのことを見てくる!」

「ええ~!? もう、しかたがないわね。不安なんだから早く帰ってきてよ?」

「うん!」

 

 ありがとうブルマ!

 そう言って一番感じやすかったのが空梨の気(天さんも見つけやすいけど、空梨のが大きい気で分かりやすい)だったからそれを目がけて移動した。

 

 

 

 そうしたらいきなり死にかけた空梨が居て心臓が止まるかと思った。すぐ空梨を連れて天さんのいる場所に移動した。

 

 

 

 

「よくやった餃子! いいタイミングで来てくれた!」

 

 そこには天さんの他にはヤムチャとデンデ、それとピッコロそっくりなナメック星人が居た。空を見れば、フリーザに対峙しているのは悟空にベジータ、悟飯、クリリン、ピッコロ。みんなぼろぼろだけど、なんだか今までよりずっと強い気を感じる。

 

「どうして空梨はこんなにボロボロなの!?」

「今までもちこたえられたのはこいつのおかげなんだ。誰か殺されそうになるたび、自分の体を盾に庇ってくれてな……」

 

 話を聞けば、天さんたちはフリーザの部下を倒したまでは良かったけどその後の戦いには割って入れなかったみたい。だからせめてと、傷ついた仲間を空梨がかばった隙に助けてデンデに治してもらうなどサポートに徹していたんだとか。

 

「無茶しすぎだよ……」

「まったくだ。こんな女の子に助けられて自分は何もできないなんて、自分が恥ずかしいぜ」

「同感だ」

 

 ヤムチャの言葉に天さんが頷く。そっか、空梨頑張ってたんだ……。

 

「今度は俺たちが頑張る番だな」

「行くか?」

「もちろんだ! あのフリーザって奴も消耗してるはずだ。恐ろしくないと言えば嘘になるが、隙を作る手伝いくらい出来るだろう」

「私も行こう」

「いや、ネイルさんはデンデを守ってやってくれ。回復してくれるこいつはこの戦いの要だ。強いあんたが守っていた方がいい」

「そうか……了解した」

 

 そう言うと、ヤムチャと天さんも戦いに参加するべく空へ舞い上がっていった。

 

 

 

 

 

 けど、悪い予感は空梨の事だけじゃなかったんだ。本当の悪夢はそれからだった。

 

 

 

 

 

 皆強くなった。けどその攻撃が逆にフリーザの怒りを買ってしまい、守りのなくなった皆は次々とやられてしまったんだ。かろうじて戦えているのは悟空とベジータ。けど、それももう危うい。デンデに回復してもらおうにも、攻撃が激しすぎてとても近づけるようなものじゃなかったんだ。

 途中でみんなの協力のもと、悟空が元気玉を作ってフリーザにぶつけた。けどそれが決定的だった。倒したと思ったフリーザが生きていたんだ!!

 

「さ、流石のオレも今のは死ぬかと思った……このフリーザ様が死にかけたんだぞ……」

「逃げろ、おめえたち! 皆を連れてこの星から離れろ!!」

「な、なに言ってんだ……! 空梨さんだけじゃなく、お前まで盾になって俺たちを逃がそうっていうのかよ。そんなこと……」

「邪魔だと言っているんだ! この戦いはサイヤ人だけで決着をつける! 雑魚は消えろ!」

「ベジータの言う通りだ。みんな揃って死にたくねぇだろ! 頼むから逃げてくれ!」

 

 

「貴様らを許すと思うか? 一匹残らず生かしては帰さんぞ。ダメージは食らっても、貴様らごとき片付けるのはわけはないぞ!! 手始めに、さっき手柄をあげたオレの部下を殺したそこの雑魚どもからだ!」

 

 

 

 そう言ったフリーザは、手のひらを倒れていた天さんとヤムチャに向けた。まさか、そんな!!

 

 

 

 

 

「天さーああああああああああん!!!!」

「天津飯! ヤムチャ! や、やめろフリーザ!!」

 

 フリーザが笑うと、天さんとヤムチャは念力で天高く持ち上げられてから爆発した。

 

 

 

 

 

 

「そんな、そんな! せっかく生き返ったのに! も、もう2度は生き返れないのに!!」

 

 涙が止まらない。もう、駄目だ。みんな死んじゃう。

 

「ゆ……ゆ……許さんぞ。よ、よくも……よくも……!!!!」

 

 その時、悟空に変化が現れた。

 髪がざわついて立ち上がり、その色が金色へと染まる。

 

 

「なあ!? か、カカロットが……! 変化しただと!?」

 

 ベジータの言葉にみんなの視線が悟空に集まった。

 

 

 

 

「頼む、オレの理性が残っているうちにみんな逃げてくれ。こいつは俺が倒す!!」

「な、なにを……」

「オレの事はかまうな! 後から必ずオレも地球にもどる!」

 

 

 

 

 悟空はキッとフリーザを見上げた。

 

 

 

「オレは怒ったぞーーーーー!!!!! フリーザーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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18ページ目 ただいま地球!~蘇れ、新最長老と戦士たち

 

▼日Ё日まとめ

 

 

 

 

 いや、本当に私が悪いんじゃないよね? 必死に日記で言い訳を書き綴って来たけど自信なくなってきた。

 フリーザ様が激オコぷんぷん丸なんとかジェットストリームなんちゃら的にキレてしまい、しかもなんと特戦隊メンバーを倒していたらしいヤムチャと天津飯がフリーザ様が止めを刺す最初の被害者になってしまった。まさかの2人同時爆発である。

 

 

 何で被害が倍になってんだよ!! この一言に尽きる。いや、クリリンくんが無事なのは喜ばしいけどそれとこれとは別だよ!

 それもせっかく蘇ったばかりの人たちがなんで速攻で黄泉の国帰りしてるのか。

 

 泣く餃子師範とブルマを見て、もう本当にどうしようかと。

 

 

 ヤムチャに天津飯、多分私のせいじゃないけど本当にごめん。全部バタフライエフェクトってやつのせいなんだ!

 それか、この世界ではこうなる運命だったのか。

 私的には今回の出来事が決定的で、もう原作知識(笑)とかダストボックスにシュートしていいんじゃないかと本気で考えてる。未来なんてやっぱり不確定なものなんだから、当たったらラッキー!くらいの認識でちょうどよいのかもしれない。そう考えると占いと同じだな。来るか来ないか分からない未来に振り回されるより、結局目の前の出来事を精いっぱいやっていくしかないのよね。

 

 まあそれは置いておいて。

 あとでナメック星のドラゴンボールが4か月で復活するとか、一度生き返った人でも生き返ると聞いて力が抜けた。いやこれ、無理に私がナメック星行かなくてもよかったんじゃ? と思ったけど。過ぎたことだしもう気にしないでおこう。色々考えるのはもういいや。疲れた。

 

 

 

 

 ナメック星のあの後の出来事をまとめるとこうなる。

 

 

・悟空がスーパーサイヤ人に覚醒。(普通に先を越されたベジータ乙

 

・フリーザ様を圧倒するも、激オコフリーザ様の惑星破壊爆弾攻撃でナメック星の寿命がカウントダウン開始。

 

・界王様と神様のファインプレー。生き返ってた地球の神様にお願いして、地球のドラゴンボールでナメック星に居るみんなを地球に移動。悟空はフリーザ様と決着をつけるからと残ることに。餃子師範が移動前にブルマが修理した宇宙船があると悟空に言っていたけど、原作通りならきっとギニュー特戦隊の宇宙船で脱出するはず。でも保険があるのはいいことだと思う。というかブルマいつの間に。ちなみにベジータが何かうるさかったので、デンデに回復してもらった私がいつぞやのお返しとばかりに渾身の力で腹パンして気絶させた。

 

・地球に帰還。帰ってきた!! 涙出た。ちなみに帰還した生存メンバーは私、悟飯ちゃん、餃子師範、クリリンくん、ブルマ、ピッコロさん、ベジータ、ネイルさん、デンデである。

 

・ピッコロさんがいつのまにか最長老様と合体しててビビる。そしてそのピッコロさんの中の最長老様を追ってか、石になったナメックボールが地球まで一緒にやって来た。

 

・界王様によって悟空がフリーザ様を倒したこと、ナメック星が爆発したことが伝えられる。

 

・ピッコロさんが最長老様と合体したため、神様の力も借りて(ピッコロさんが嫌そうな顔してた)ナメックボールを再び使用可能に出来ると判明。

 しかしすぐには無理なため、4か月ちょっと待つ必要があるとか。そこで太っ腹なブルマの提案で、ナメック星人組とベジータがブルマの家に居候することに。結局あのM字成り行きでなあなあで一緒に戦っただけなのに、全部ひとくくりにまとめて受け入れてくれた彼女には感謝するしかない。でなければまたややこしいことになっていただろう。(私の家に置いてやる選択肢は最初から存在しない。

 一応「お前もナメックの人殺しただろうけど言うなよ、絶対に言うなよ!」と念を押しておいた。舌打ちしてそっぽを向いたため聞くかどうかわからないが、まあわざわざ自分からネイルさんたちと会話して言うことも無いだろう。

 ちなみにベジータだが、おそらく不老不死なんて願いはもう頭にない。目の前で悟空にスーパーサイヤ人になられたのだ。プライドずったずただろうよ。どうせ不老不死になってフリーザ様を倒したら宇宙を征服するのは自分だぜ! とかイタイこと考えてたんだろうけど目が覚めたかな? よう、中学2年生の国から帰還乙。悟空が生き返るか帰ってくるかしたら(この時点では生死不明)どちらがサイヤ人として最強か決着をつけるんだってさ。まあ、もしドラゴンボールを使えるようになってから脅してきても、こちらには限界突破した最強のナメック星人こと最コロ様とネイルさん、ぐんぐんと実力を増してる期待のサイヤハーフの悟飯ちゃん、地球人の希望クリリンくんに超能力の大御所餃子師範が居るのだ。変なことしようとしたら囲んでフルボッコ確定である。……で、出来るよね? まだこいつスーパーサイヤ人ならないよね?

 

 

 

 

 ざっくりまとめるとこんな感じだった。今日はもう疲れた。寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽月○日

 

 

 チチさんに事情を説明するのは大変だった。今度はクリリンくんに押し付けるのは無理だったので、私が色々説明することに。最終的に死んでても絶対生き返るから! 大丈夫だから! と納得してもらった。いや本当に、弟のことながらいつも心配かけて申し訳ない。

 

 サイバイマンたちは元気に畑仕事をしていた。中でもナッパが良いリーダーとなっており、心なしか知能も上がったように見える。チチさんとの仲は良好のようだ。

 そういえばいつの間にか服に潜り込んでいたナメック星のカエルが居たので、畑に放しておいた。……中身が誰だか知らないし普通のカエルかもしれないけど、まあ、ここならのびのびと暮らせるだろう。

 

 

◆月●日

 

 

 しばらく留守にして申し訳ないと、占いババ様に挨拶に行った。今日からまた雑用と修業の再開である。

 

 最長老様に指摘されたことについて相談したら「やっとまともに言ってくれる人間に出会えたか」と言われてぎゃふんとなった。ちなみにババ様はわざわざ言ってやるほどワシは親切じゃないから素晴らしい人物に出会えてよかったなとニヤニヤ意地悪い顔で笑っていた。けど相談には乗ってくれたので、まあいいかなって。2人で有名パティスリーのお菓子と紅茶をつまみながら半日ぐらいずっと話してた。

 ちなみにミイラ先輩やアックマン先輩は里帰りしていていなかった。新しい占いババ5戦士の人と軽く手合わせしようとしたらオバケくんに必死で止められた。

 

 

 

 

Ф月∴日

 

 

 ちょっと留守にしている間にいよいよバイト先の居酒屋で最古参となっていた。マジか。

 ラディッツの復帰がまだ先だと伝えるとブーイングがおきてビビった。え、いつの間にこんな人気を集めて……。

 

 

 ………………ドラゴンボール、まだかなぁ。

 

 

 

▲月□日

 

 

 ベジータが鬱陶しい。貴様のたるみ切った精神を鍛えなおしてやるぜ! とかいって私をサンドバッグにしてくる。ちょ、おまフザケンナ!! なんで私がお前の訓練の相手をしなくちゃならないんだよ! ブルマも「仲いいわね~」とか言ってないで止めてよ!! さっきまで2人でお茶してたじゃん!! こいつ私をスーパーサイヤ人になるための踏み台にする気満々だよ!!

 

 この日から強制的にベジータとの訓練が日常に組み込まれた。何故だ。

 

 後日、約束していたチビーズとの組手の練習でぼやいたら3人とも慰めてくれた。地球組はやはり優しい。

 ちなみに餃子師範だが、天津飯が生き返るまでカメハウスに居候しているようだ。

 

 

 

 

 

 

◎月○日

 

 

 いよいよナメック星のドラゴンボールが復活した!

 

 今回の願いではナメック星の復活、一人のナメック星人ムーリさんの蘇生が願われた。

 ちなみにこのムーリさんであるが、ピッコロさんたちがナメック星で生き返った時の要領で「ナメック星で死んだムーリというナメック星人を地球に生き返らせてほしい」と願って地球で生き返ってもらった。ナメック星を再生した後なので、一緒に爆発したナメック星人達の遺体もポルンガさんがサービスで直しておいてくれたらしい。ポルンガさんのサービス精神が凄い。

 

 何故わざわざ地球で蘇ってもらったのかというと、ピッコロさんからナメック星の新最長老であるムーリさんにナメック産ドラゴンボールの継承をするためだ。デンデでは若すぎるし、ネイルさんは戦士タイプである。そのため最長老様が生前考えてらした相手に正式に最長老の資格を継がせる必要があったのだ。

 ムーリさんは自分より若い相手から最長老様の気を感じて驚いたようだったが、事情を聞くと納得してくれた。ドラゴンボールの願いはこの時点でまだ1つ残っていたが、その願いと次の機会の願いもナメック星を救ってくれたお礼に叶えてくれて構わないと言ってくれたムーリさんは優しい。この機会にナメック星へ帰ることも出来たのに。いや、そうなると私たちが困るんだけど。

 もちろん他のナメック星人の命を助けないわけでは無い。

 この件に関しては、先に故郷を想った地球の神様が「1年経ったら地球のドラゴンボールでナメック星の住人を生き返らせよう」と約束してくれたのだ。ナメック星のドラゴンボールはかなり融通が利くが、生き返らせる人数が1人ずつというのがネックである。そこを地球のドラゴンボールでカバーしようというわけだ。

 しかし地球産もそれなりに制約がある。1年以内に死んだ人間しか生き返らせることが出来ないんじゃなかっただろうか。それを聞くと「よく知っているな」と言われて焦るものの答えを聞くことが出来た。何でも、ピッコロさんが最長老様と合体した影響が片割れである神様にも多少影響を及ぼしたらしい。つまり、ちょっとパワーアップしたとのこと。それによって1年以上経っていても数日程度なら融通がきくらしく、ナメック星人達を蘇らせる事はなんとか出来るらしい。それを聞いて安心した。

 これはやはり、ナメック星のドラゴンボールを生み出した最長老様と神様は力の相性的に良かったから起きたピッコロさんの同化の副産物なのだろうか。ということは、もしかしてピッコロさん本気出せばドラゴンボール作れるんじゃ……いや、取らぬ狸の皮算用はやめておこう。出来たとしてもピッコロさんが作るとは思えないし。

 こうしてナメック星人たちの問題も何とかなりそうになったけど、死体が腐ってしまってはいけないのでカプセルコーポレーション製の宇宙船でネイルさんが先にナメック星へ帰ることに。ブルマが大量の冷凍保存カプセルをあげていた。ネイルさんが感謝していたが、「ドラゴンボールを使わせてもらうんだもの! これくらい安いもんだわ」と言ったブルマは太っ腹である。たしかにそうだけど、あれ全部でいくらするんだろう。

 

 ちなみにナメックドラゴンボールが地球にあるため、新最長老様ムーリさんは当然残ることに。デンデもネイルさんに「せっかく他の星を見る機会だ。勉強してきなさい」と言われたため地球に残った。仲良くなった悟飯と2人で手を取り合って喜ぶ様子に和んだ大人たちである。

 

 ちなみに今回の最後の願いでは天津飯が生き返った。餃子師範が泣いて抱き着いていたのを見て、私ももらい泣きしてしまった。よかったね師範。そして天津飯は本当にごめん。

 

 そうそう、悟空に関してはポルンガが生存を教えてくれたので、みんな安心していた。私も安心した。よかった、やっぱり生きててくれたか。

 

 

 

 

 

 

◆月Л日

 

 もう一度ナメック星のドラゴンボールを使う時が来た。今回の願いで生き返ったのはヤムチャと(ヤムチャも本当にごめん、今度何かおごる)それとラディッツだった。

 そして最後の願いでムーリさんとデンデがドラゴンボールと共に故郷の星に帰っていった。これで彼らとはしばらくの間お別れである。地球のドラゴンボールで仲間が生き返ったら、またナメック星で穏やかに暮らしてほしいものである。

 

 

 こうして、長かったナメック星フリーザ編は終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにラディッツは生き返ったのが信じられないのか目をぱちくりさせていた。家に帰ってから「何故生き返らせたのか」と聞かれたので、眠かった私はとりあえず一言だけ言っておいた。

 

 

 

「寂しかったから」

 

 最長老様、素直になりなさいってこういうことでいいんですかね。

 

 

 



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1年よもやま話

《乙女()たちの雑談会》

 

 

 

「そういえば、最近ラディッツとはどうなの?」

 

 あたしが聞けば、向かい側で焼き菓子をつまんでいた空梨が答える。今日はベジータが出かけていて居ないからか、特訓に付き合わされないですむおかげで心なしか機嫌良さそうね。いつもご苦労様だわ。

 

「え、ラディッツ? あー……あーね。もう暴れる心配もないだろうし、結構自由にさせてるよ。畑と居酒屋は手伝ってくれてるけど。最近はやりたいことでも見つけたのかよく留守にしてる。何やってんだかねー」

 

 思い当たったように答えたけど、あたしが望んでる答えはそれじゃないわよ!

 

「そ・う・じゃ・な・く・て! 一つ屋根の下で男女が暮らしてんのよ? なんかこう、ないの?」

 

 空梨にはヤムチャの事でよく話を聞いてもらってるけど、向こうからもどうしたら恋人が出来るかとよく相談される。でもあたしにしてみれば、一緒に暮らしてる年の近い男、しかも同族のラディッツがいる時点でそっちの可能性を考えてしまう。これって普通よね?

 

「ああ、そういうことね。いや無いでしょ。今まで散々苛め抜いたようなもんだし、そんなもの芽生えてたらあいつ真正のマゾだよ」

「じゃあ向こうの意志は置いておいて空梨はどうなわけ? 先に言っておくけど、別に誰かと付き合ったことが無いわけでもないんだからかまととぶった答えはいらないわよ」

「え、」

 

 ずばっと聞けば、空梨は一瞬言葉に詰まる。上手く流したつもりでしょうけど、そうはいかないわよ。あんた意外と押しに弱いって知ってるんだから。ぐいぐい行かせてもらうわ!

 

「私、私かー……。でも前に言ったじゃない私の好み。包容力があって、私を甘えさせてくれる年上のナイスガイだって。まずラディッツは年下だしさぁ」

「好み云々はどうでもいいのよ。ほらほらごまかさない! 好きになった相手が好みと違うなんてよくあることなんだから、あんたがラディッツに恋愛感情があるかないかが聞きたいのよこっちは! ていうかあたしが言ってあげるわ! 絶対無いって即答しないで誤魔化そうとしてるの見れば空梨的にはまんざらでもないって丸わかりよ! ほらどうなの!? 好きなの!?」

「強引だな!? ちょっと、決めつけるのやめてよね。たしかにラディッツが居なくなった時予想外に寂しかったから私も一瞬考えたよ。え、私あいつのこと好きだったっけ? って」

「やっぱり~!」

「最後まで聞けってば。いや、だからさ。考えたけど、やっぱり違うなって気もしてさ」

「え~」

「不満そうな声出さないの。だーかーらぁ、寂しかったって言っても、よく考えればあいつ悟空の兄貴じゃん? つまり私の弟みたいなもんじゃん? だから知らないうちに身内認定してただけって思うわけ。つまり恋愛感情じゃないと」

「でも血はつながってないじゃない」

「やけに引っ張るな……」

「だって面白そうだもの」

「人の恋愛話が面白いのはよくわかるけど、自分がその対象になるのは勘弁だわ……」

「あんたあれだけ散々人に恋愛相談しといてそれ言うわけ」

「あ、スンマセン。いつもお世話になってます」

 

 うーん、この様子だと今のところは空梨にその気はないみたいね。つまんないの! でもいつ気が変わるか分からないし、こうして時々つついてやりましょうか。

 

「ところでヤムチャくんとは最近どう?」

「そうそう! 聞いてよ。この前あいつったらまた……」

 

 

(乙女たちの話題は移ろい易い)

 

 

 

 

 

 

 

 

《傲慢王子と弱虫二十日大根》

 

 

「俺に鍛えてほしいだと? フン、面白くないジョークだぜ。弱虫ラディッツさんよぉ」

 

 予想はしていたがベジータは馬鹿にしたように笑って、俺の申し出はすげなく断られた。

 まあこれくらいは予想済みだ。というか、以前自分を殺した相手の仲間にこんなこと頼んでいる俺も俺でたいがい馬鹿だしな。だが、背に腹は代えられん。フリーザが居なくなったとはいえ、何故だかこいつもこいつで修業ばかりしているようだし……他にあても無い。

 

「頼む。俺もサイヤ人として、このまま弱いのは嫌なんだ」

「ほう、いい心がけだ。だが俺は貴様に付き合っている暇はない。サンドバッグにもならん奴相手に割く時間なぞ無駄でしかない」

 

 くっ、やはり駄目か。

 

 ナッパとの戦いで死んだ俺だったが、何故か気づいたら生き返っていた。

 わざわざ俺を生き返らせた理由がわからず聞けば空梨の奴は「寂しかったから」などとぬかしやがる。す、少し驚いたがどうせ雑用が居なくて不便だったとかその程度の理由だろう。そうだろう。そうに違いない。

 

 そして再び地球での生活が始まったわけだが、俺が死んでいる間の話を聞いて正直どこから突っ込めばいいのか分からなかった。

 まずカカロットが伝説のスーパーサイヤ人になってフリーザを倒したというところで思考が停止した。何だって? いったい俺が死んでいる間に何があったんだ!! ことのあらましを聞いて理由は分かったが、後に残ったのは酷い焦燥感だった。

 カカロットもそうだが、いつの間にかこの短期間で地球人の奴らまで恐ろしく強くなってやがる。聞けばギニュー特戦隊と戦って勝った奴まで居るそうじゃないか。俺も生き返った影響か多少戦闘力は上がったのだが、そんなもの奴らに比べればゴミみたいなもんだ。

 

 せっかく生き返ったのだ。今度こそサイヤ人として、死んだ親父にも恥じないような強さを手に入れたい。そう考えた俺は、空梨に行動の制限を解かれたこともあって一人修業を始めた。しかし俺一人どうやったって、劇的に成長できるはずもなくすぐに行き詰った。かといって空梨に修業に付き合ってもらうのは嫌だった。どうせなら、強くなってから見せつけてやりたい。(奴の戦闘力も恐ろしく上がっていたことは考えん、考えんぞ!)

 

 そこで苦渋の決断をした俺は、何故か俺と同じように地球で暮らし始めたベジータに修業相手を頼むことにした。同じサイヤ人のよしみで了承してくれるかもしれないと考えたが、やはりそれは甘かったようだ。サンドバッグにもならない……たしかにそうだろうな。今の俺がベジータの本気の一撃を受ければ、すぐにサイヤ人のミンチの出来上がりだろう。それくらいの力の差があるってのはわかる。

 

「ククッ、俺に頼むくらいならサイバイマン相手に訓練した方がまだ有意義じゃないのか? 聞いたぞ。あの馬鹿女、サイバイマンに農作業をやらせているらしいな。6匹もいるんだ。どれか訓練用にもらったらどうだ」

「ぐッ。あ、あいつらはあいつらで忙しいんだ」

 

 まともに言い返せないところが辛い。サイバイマンを農作業に使っていると聞いたときは驚いたが、奴らが整備した畑を見てもっと驚いた。まるで野菜たちが輝いてるように見えたぜ……。しかもあいつらそれなりに強いぞ。ベジータの言うように、今の俺には一番お似合いの修業相手かもな……笑っちまうぜ。

 強くなろうにも、その手段が無い。せっかく決意したってのにどうすりゃいいんだ。

 

「……いや、待てよ。たしかお前ハーベストと一緒に暮らしてるんだったな」

「あ、ああ。そうだが」

「いいだろう。鍛えてやる」

「な!?」

 

 どういう風の吹き回しだ!?

 

「雑魚だと思ってた下僕に刃向かわれたらどんな気分だろうな。ククク……奴の間抜け面を想像するだけで気分がいいぜ。だが、やるからには片手間とはいえ容赦はせんぞ。死んでも知らんがそれでもいいのか?」

 

 そういうことか……。ベジータと空梨は姉弟だが、本当に仲が悪いらしい。俺をわざわざ鍛えてまで嫌がらせしたいとなると相当だぞ。

 だが、俺にとっては都合がいい。

 

「ああ、構わん」

 

 俺はこう言ったことを後で少し後悔する。しかし自分で決めたことだ。

 親父、見ていろよ。俺だってサイヤ人だ! きっと強くなってやる!!

 

 

 

 

 

 

 

《神とピッコロ》

 

 

 

 

「お前から神殿に来るなど、どんな心境の変化だ?」

 

 わたしが聞くと、ピッコロの奴は嫌そうに顔をしかめた。そんな顔をするくらいなら来なければいいものを……。

 

「……これだけ渡しに来ただけだ」

「!? 何を……!」

 

 言うや否や、ピッコロの手が私の額を覆っていた。とっさに振り払おうとしたが、流れ込んできた映像に私は動きを止めた。

 流れてきた映像には、どこか懐かしい風景と2人のナメック星人が映っていた。一人は大人で、一人は子供。ま、まさかこれは……!

 

「俺たちの親父殿らしい。それと、昔の俺たちだ。一人だったころのな」

「ぴ、ピッコロよ。この記憶はまさか……」

「俺と同化した最長老の物だ。俺は嫌だったんだが、同化の影響なのかこれをお前に見せんと最長老として残った部分が落ち着かなかったようでな……まったく鬱陶しいぜ」

 

 そう悪態をつきながらも、ピッコロからは以前のような邪悪さはあまり感じられなくなっていた。父である大魔王から分身として生まれた影響もあるのだろうが、孫悟空の子供の面倒を見た後、最長老様と同化してからとそのあり方は段々と変わってきているように思う。最早、ただの悪としての片割れではないのかもしれんな。もうこやつは一人の確固たる存在なのだ。

 

「そうか……。しかし、感謝しよう。失われた記憶をこうして再び見ることが出来るとは思わなかった」

 

 故に、感謝の言葉もごく自然に零れ落ちた。以前では考えられなかったことだ。

 

「チッ、貴様に感謝されても気持ち悪いだけだ。じゃあな」

 

 言うなり、ピッコロはさっさと神殿から去ってしまった。本当にあの記憶を届けに来ただけのようだ。

 

「……。ミスターポポや」

「はい、神様」

 

 私は神になってから今までずっと支えてくれたミスターポポを呼ぶとこう言った。

 

「私も年だ。いずれ死ぬだろう。だがもし……もし、ピッコロがあのまま変われば……私は再びあ奴と同化しても構わないと思っている」

「!? か、神様、それは……」

「可笑しいだろう? 以前はあ奴を封印するか倒すことばかり考えておったのに。だが、世とは常に変化し神たる私でもすべて捉えられぬ。それは人の心も同じこと。ピッコロは変わった。だからこその考えだ……その時は人格は奴に託そう。そうすれば、いずれまた地球に危機が迫っても力になれるだろうからな」

 

 我が故郷たるナメック星の最長老様が認めて同化までしたのだ。私も奴を信じてみてもよいのかもしれぬ。

 

「まあ、私もすぐに死ぬ気はない。いずれ、という話だ。悪かったな、今のは忘れておくれ」

 

 

 しかし神としての勘か、その時は近いようにも思える。

 それまでは神として、出来る限りのことをしておこう。そうそう、前回からそろそろ1年経つ。またドラゴンボールを集めて、ナメック星の同胞らを生き返らせなければな。

 

 それと神としての心得を書にしたためておくか。うむ、やることはまだ多そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




悟空帰還までの1年間での出来事小話3個でした。


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★19ページ目 わりと平和な1年間~人造人間編がめんどくさい件について

■月▽日

 

 

 

 そういえば、悟空が宇宙から帰ってきたら人造人間編スタートの時期か。まったく忙しいものだ。

 

 ナメック星の事があるから原作知識なんてちょっとした要素が加わっただけで簡単に崩れてしまう不確定なものだと思い知ったし、あまり信用もしなくなったけど肝心なところは未だに外れていないのだ。ギニュー隊長のチェンジしかり、悟空のスーパーサイヤ人化しかり。つまり利用しない手は無い有力なソースであることに変わりないのである。

 

 まず大きな分岐点であるが、この世界の時間軸だ。

 

 悟空が帰ってくるとき、復讐のフリーザ様がコルド大王様と地球訪問にやってくる。ぶっちゃけ最近ベジータが(私を踏み台に)恐ろしい勢いで成長を遂げているので、戦士全員でかかれば倒せないことも無いと思っている。しかし、ここで肝心なのはそこではない。フリーザ様訪問時に、未来の私の甥っ子はちゃんとやってくるのかということだ。

 

 もしやってくれば原作沿い、やってこなければ少年漫画の主人公がまさかの心臓病で戦線離脱という斬新な未来である。

 後者の場合、人造人間もしくはセルに地球の戦士が全員殺されるというBAD END!に近い未来が待っているのだ。ピッコロさんも殺されてドラゴンボールも使えないというなかなかのハードモードである。

 しかもタイムマシンで過去と未来が入り乱れるこの章では、甥っ子が頑張っても複数の滅亡ENDが用意されているという周到っぷり。鬼畜の極みとはこのことよ。最早おぼろげな記憶であるが「なんで未来クスだけこんな目に遭うんや!」とテレビの前で床ドンしたのだけは覚えている。だってやっと救われたと思ったら続編アニメで更に絶望コースが用意されてるんだぜ……? もう甥っ子は絶望のフルコースでお腹一杯だよ! むしろ満漢全席な勢いで流石に引いた。なんであの子だけあんな目にあうんや!

 

 現在私は、その未来の分岐点に立っているのだ。しかしこればかりはどう動いたところで変えようもない。ただ、待つばかりである。

 まあ絶望ルートだったら早々に悟空が病気発症する前にドラゴンボール集めてさくっと「孫一家が無病息災で一生過ごせますように」って祈るだけだけどな! そうしたら悟空が病気発症することも無いでしょ。どんな病気だろうと、かかる前に健康体バリア張っとけば安心よ。ウイルスとか入らせねーから。

 

 まあ、そういうわけでどっちの未来でも危機感的には同じレベルである。というか、敵の強さで言えば原作ルートの方が上っていうね……。

 

 そういえば原作でブルマが言っていた「人造人間が作られる前にドクター・ゲロをやっつけちゃえばいい!」という作戦は非常に魅力的なのだけど、これはナメック星が原因で怖くて動けないでいる。だって下手に関わらないようにしていたナメック星であれだけ変わったんだぞ。元凶の殺害という大胆なことやったら、何が起こるか分からないじゃないか。そんなパルプンテ出来るか!!

 へーきへーき、悟空さえ生きてれば周りもその影響で引っ張られて強くなるし人造人間でもセルでもさくっと倒してくれるはず。未来を知る者の責任? 知りませんね。どうせ原作ルートなら甥っ子がネタバレしてくれるから私が言う必要ないし、絶望未来ルートなら悟空たちの強化さえ出来てればそのまま新たなる脅威! 強敵を打ち破れ! という王道ルートを突っ走ってもらうだけである。いざという時はブルマにお願いして確保してもらってあるナメック星行きのプログラムがインプットされた宇宙船でナメック星まで行って、ナメックボールに何かお願いするだけよ。いやあ、ドラゴンボールって頼もしいな! さっすが作品のタイトルなだけあるわ!

 

 うんうん、ちょっと不安だったけど書き出してみたらあんまり心配いらないんじゃないかって気がしてきた!

 よし、あとはちょちょっと覚えてる事書き出して過去の記録引っ張り出すくらいでいいか。明日は朝から大規模な収穫があるから早めに寝ないといけないし。

 

 さて、明日もお仕事頑張りますかね!

 

 

 

 

 

 

 

 

■月◎日

 

 

 

 今日もなんだかんだで忙しい。

 最近の私のタイムスケジュールは以下のようになっている。

 

・起床。朝のうちに家の掃除や洗濯をすませて(家事はラディッツと交代なのでやらなくていい時は寝坊できる)、パオズ山で畑作業。

 朝ご飯は家で食べていくこともあるが、高確率でチチさんが用意してくれてるので朝の作業が終わったら孫一家(といっても今はチチさんと悟飯ちゃんだけだけど)と私、ラディッツで畑のそばにシート広げて談笑しながら食べることが多い。この時間が私はかなり好きである。

 サイバイマンたちもこの時は一緒にパオズ山の美味しい水で一緒に休憩。最近真面目にこいつらが可愛く見えてきた。ちなみにラディッツはサイバイマンたちの名前を初めて聞いたとき言い表せない複雑な表情をしていた。けどなんとなく、一番どじっ子なラディッシュを気にかけている気がする。あとたまにシートにカエルがやってくるので餌をあげてみたりしている。こいつも意外と可愛い。悟飯ちゃんがよく可愛がっているのでセットで可愛い。

 

 

・占いババ様のもとに行って雑用と修業。ここ最近戦闘力が増してしまったせいか、繊細さを必要とする術の切れが悪いのが悩みだ。これじゃあの世に行けるようになるのはいつになるんだか……。

 そういえば占いババ様が最近「恋愛運が上向いてる」と言ってくれた。やったぜ。

 

 

・昼食を占いババ様と食べてからカプセルコーポレーションへ。

 サボると後で行ったときに訓練という名の姉虐めが酷くなるので、ここ最近仕方が無く通っている。運よくベジータがいないときはブルマとお喋りしたり買い物行ったりと結構楽しい時間だが、ベジータが居ると地獄である。毎回ぼっこぼこにされる。未だに勝てず姉弟間の下剋上はなされたままだ。クッソいずれヒエラルキーの頂点に返り咲いてやる……!

 でも幸いなことに、何気にフリーザ様の宇宙船から珍しい機器を根こそぎホイポイカプセルに入れて持って来ていたブルマのおかげで助かっている。何が助かるって、怪我してもなんとここにはメディカルマシーンが一機あるのだ。地球にない素材の部品が多いから再現して量産は難しいとブルマがぼやいていたけど、本当に助かる。自己回復だけじゃもう間に合わんのよ。

 そういえば私だけこんな目にあっているのは癪なので、別のアプローチでベジータに嫌がらせすることにした。何したっていえば、ブルマに「こいつ頭いいから教えればプログラミングくらい出来るよ。タダ飯食らいの居候とか邪魔でしょ? よかったら研究の手伝いで使ってやってよ」と言ったのである。

 フフン、趣味(修業)ばかりして暮らそうなんて甘いんだよ! 働け!!

 案の定「何を勝手なことを言ってやがる!」ってキレられたけど、ブルマは「そうなの? じゃあお願いしようかしら」とあっさり了承。居候の身で逆らえると思うなよ。ちゃんと「あ、やっぱり脳筋には無理だよねごめんね! 小さい頃の英才教育も戦闘以外はもう記憶の彼方だよねもうお前30だし覚えてないよねホントごめん気遣えなくて私は地球でもちゃんと勉強してたけどお前には無理だよねホンットごめんネお姉ちゃんが悪かったよ超ゴメンネ!」と煽っておいたので問題ない。この時はそのまま姉弟喧嘩勃発でボッコボコにされたけど、後で聞けば本当にわずかな時間だけどマジでブルマやブリーフ博士の研究手伝ってるらしいウケる。よ、就職おめでとうさん。

 けどちょっと難しい事覚えたからって難しい数式見せびらかして「貴様にはわからんだろう」とドヤ顔してくるのはうっぜぇ。あれ、もしかして私余計なことした? 頭の良さでも抜かれたら本格的に威厳も何もないんだけど!? ちょ、やっぱタンマ! ほら悪役として輝いてた頃のお前が泣いてるぞ! ……遅かった。ブルマがすでに便利に使ってた。言い出しっぺはあんたでしょって怒られた。へこんだ。

 

 

・ここ数年は畑の作業は孫一家がしっかりと管理してくれているので、サイバイマンも加わったし悟空が居なくても朝の手伝い以外は夕方行ってもあんまり仕事が無い。ので、午後は孫家に顔を出したり出さなかったり。

 メディアの仕事が入っていればそれをすませてから、最近「案外顔売れてきてるのにまだここで働いてていいの?」と言われるバイト先へ行く。いや、だってここの賄い美味しいし……。店長、だからそんないつまでも嫁に行かない行き遅れの娘を見るような顔で見ないでください。追い出そうとしないでください。

 復帰してからはラディッツも正式に雇われたので、ちゃんとお給料が出ている従業員だ。昼間は何をしているか知らないが、夜はここで合流。仕事が終わったら一緒に家に帰って夕食を食べてテレビ見たり本読んだりそれぞれ好きなことをして過ごしてから就寝。

 

 

 まあ、おおよそこんな感じか。途中で一個いらないのがあったけど平和な我が日常である。

 

 

 …………。やっぱり、研究施設だけでもぶっ壊してきちゃ駄目かな。人造人間編、始まるの面倒くさい。

 

 

 





またもや素晴らしい頂き物をした作者には、間違いなく今運の波が来ている・・・!ミラクルラッキーのビッグウェーブってやつがよぉ!ひゃっほう!!(下がった時のことは考えないぞ!

かんすけさん、いつもありがとうございます!

【挿絵表示】
主人公の表情色々。感情豊かに書いてもらえて、執筆時も脳内イメージがしやすくなってきました!個人的にビックリ姉さんが好きです。

【挿絵表示】
鼻血吹いた。う、うううううううううちの三十路がこんなに可愛いわけがない!クッ、動揺を隠せないぜ……!
心臓バックバクな破壊力を秘めたイラストです。主人公にはもったいないくらい。


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★20ページ目 フリーザ様の地球訪問(完)~未来から来た青年達

●月Й日

 

 

 今日はフリーザ様とパパフリーザ様地球訪問の日だった。

 多少ドキドキしつつもまあなんとかなるだろって思ってた私だったが、しかし今日はそれどころじゃなかった。それどころじゃなかった。

 

 未だに頭が混乱している。落ち着くためにも、順を追って書いていこう。

 

 

 

 

 

 今日は孫家で悟飯ちゃんの勉強を見ていた。最近になってフライパン山で暮らしていたチチさんのお父さんである牛魔王さんが同居を始めたが、過去のパンクな感じ(実際に見たことないけど)は鳴りをひそめてとても優しい良いおじいちゃんである。私の事も娘や孫同様に可愛がってくれて、彼が独身でもう少し若かったら理想の男性だと思った。それを言ったら照れていた。可愛いおじいちゃんである。

 でも何故かラディッツを見る目が厳しい。厳しいけど、時々男2人で酒を飲み交わしていたりもするのでよくわからない。いったい何を話しているのだろうか。

 

 悟飯ちゃんが地球に近づいてくるフリーザ様の気に気が付いて、クリリンくんに連絡してから飛び出していった。

 

 私の手を引いて。

 

 いや、いいんだけどね!? 今回は戦わなくて良さそうだしブルマも来るくらいだしいいんだけどね!? でも、もうちょっと了承を得てから飛びたってほしかったかな! 後ろで叫んでるチチさんに後で説明するのは伯母さんなんだよ。

 

 途中でクリリンくんと合流し、何故かすでにぼろぼろな風体のラディッツとも合流した。え、お前留守にしてると思ったら昼間何やってんの? 

 ちなみに私より先にクリリンくんがラディッツの怪我を心配していた。ナッパ戦で助けられてラディッツが死んだからか、ラディッツ生き返ってから何気に仲いいんだよねこの2人……。前にはじめてクリリンくんがうちを訪ねて来てくれた時は私に用事があったはずなのに、いつの間にか男2人で話が弾んでて驚いたわ。主に社交的なクリリンくんが話題を振ってる感じだったけど、ラディッツもまんざらじゃない様子だった。

 まあ、地球で初めての男友達おめでとうでも言っておこうか。クリリンくん超いい人だぞ。よかったな大根野郎。

 

 

 フリーザ様が着陸するであろう付近にはすでに他のみんなが集合していた。

 

 ここで書くべきか否か迷ったが、やはり書いておこう。ベジータお前、ピンクのシャツに黄色のパンツとか超攻めてんな! 指さして笑ってやろうと思ったら「ねえねえ、今日のあいつの服いかしてると思わない? この間あたしが選んでやったのよ!」とブルマが嬉しそうに話しかけてきたので思いとどまった。ので、この気持ちは日記に秘めておくことにする。な、仲がよろしくて大変よろしいことで。…………ブルマって時々センスおかしいよな。いや、あれは逆にオシャレなのかな?

 ちなみにヤムチャくんは普通にかっこよさげなオサレ黒カットソーとカーキ系のズボンだった。その服良いねとさりげなく褒めたら「そ、そうかい? この間都のデパートで見つけた安物なんだけどさ、ははっ」と照れていた。私はそれがブルマチョイスでないと知ると、無言で彼の肩を叩いた。……頑張れ。もう無理くさいけど頑張れ。

 

 

 そしていよいよフリーザ様達地球ツアーご一行ご到着である。

 

 

 

 

 

 でもって、来た!!!!

 甥っ子こと未来トランクスキターーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 っしゃ! めんどくさい病気の心配はこれでしなくて済む!!

 そう内心ガッツポーズをしていた私だったが、何かおかしいことに気が付く。悟飯ちゃんが「お、お父さんだ! あの時のお父さんと同じ気だ! そ、それが二つも!?」と言ったところで「うん?」となった。

 初めは予定を早めて悟空が瞬間移動で地球に現れたのかと楽観していた。フリーザ様親子スーパーサイヤ人2人も相手にするとか乙、超乙とか考えてた。

 

 しかしそれは違ったのだ。あれは悟空じゃなかった。

 

 フリーザ様親子が倒されてみんなでその現場に向かったら、そこには2人の青年が居た。1人はいわずとしれたブルマとベジータの良いとこどりで超絶イケメンとして爆誕した薄幸の美青年甥っ子トランクス。そしてもう1人だが……。

 

「これから孫悟空さんを出迎えに行きます! 一緒に行きませんk「おがーざぁぁぁぁぁ「はあ!」「ごぶ!」

 

 以上、彼らとのファーストコンタクト第一声である。

 

 こちらに気づいたトランクスが呼びかけてきたと思ったら、隣に居た謎の黒髪イケメンが涙と鼻水びっしゃあと噴出させてこちらに飛んでこようとした。そしてトランクスにわりとマジな感じでパンチされて横に吹っ飛んでいった。崖に衝突し瓦礫と共に埋もれていたが、べそかきながらも無傷でトランクスのもとに戻っていた。何やら「我慢して下さい! 言ったでしょ!?」とか「でも、でもぉ……」とか「気持ちは分かりますが、俺たちの使命を忘れないでください」とか話してるのが聞こえたけど、うん、私は知らんぞこんなコント。

 

 この時私は一つの可能性に気づきつつも、あえて目をそらしていた。だけど否がおうにも現実とは襲い掛かってくるものである。

 

「あの黒髪のひと、空梨おばさんにそっくりですね」

 

 甥っ子1号の言葉がド直球に私の腹に突き刺さり、私はとりあえず鼻から深く息を吸い込んで空を見上げた。

 

 

 

 やったぜ! 私は近々結婚できるらしい!

 

 

 

 恋愛運上昇を教えてくれた遠くの空の下にいる占いババ様に、とりあえずサムズアップした。

 

 

 

 

 




ちょっと短め。主人公が居る世界線の未来から来たのでこんなこともあるのです。


朽木さんから主人公のイメージイラストを頂きました!いつも本当にありがとうございます!

【挿絵表示】
このしおらしいポージングからの流し目の破壊力、受けきれるか・・・!?主人公に乙女ジェネレーションが到来中!(年齢から目をそらしつつ
私服も含めて可愛さの爆弾である。可愛い主人公をありがとうございました!


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絶望の未来より

俺はタイムマシンで未来から過去へとたどり着くと、孫悟空さんの代わりにフリーザを倒すという誤算はあったものの無事に過去の母や未来では亡くなった戦士たちとコンタクトを取ることが出来た。いや、無事にというには語弊がある。本来は彼らには会わず、孫さんだけに会う予定だったのだから。俺も無意識に過去の母や父に会う事が出来て喜んでしまっているのだろう。

 先ほどあの人がいきなり自分たちの身の上をばらしてしまうような行動に出た時は冷や冷やしたが、今は大人しく岩の上でその辺に生えていた草を弄っている。あ、草笛を作った。あ、何か細工してる。……昔から器用だったな、そういえば。俺より年上なのに引っ込み思案で大人しくて、声をかけなければいつも一人で遊んでいたっけ。

 

「なあ、どうしたんだ? オラに話があんじゃねぇのか?」

「! す、すみません。少しぼうっとしていました」

 

 孫さんに声をかけられてはっと我に返る。そうだ、先ほど地球に到着したばかりの孫さんにオレ達の事を話さなければ。

 

 俺は自分たちが約20年後の未来からタイムマシンに乗って来たこと、俺が父ベジータの血を引いているためスーパーサイヤ人になれること、3年後に訪れる人造人間の恐怖、その時の戦いで戦士のほとんどが亡くなってしまい、ピッコロさんが死んだためドラゴンボールも使えなくなった事、俺に戦いを教えてくれたがやはり4年前に人造人間に敗れて孫悟飯さんも亡くなった事、孫さん自身は戦えず心臓病で亡くなってしまった事と……短くまとめたものの、20年内に起きた様々なことを話した。

 しかしこんな話をしても、人造人間の恐怖に危機感を覚えるどころか「そんな強い奴らと闘えなくて悔しい」と言う彼には驚かされた。これが純粋なサイヤ人というものか……身近にいる彼も血筋で言えばサイヤ人の純血に当たるのだが、その印象の差に驚きを隠せない。

 

「お、おでれぇたな~! あ、そういえば兄ちゃんと姉ちゃんも死んじまったんか?」

「それは……」

「いいよ、トランクス。僕が話す」

 

 孫さんが話の中で名前の出なかった2人について訊ねてくると、これは俺が話してよいものなのかと言葉に詰まった。すると今まで大人しくしていた彼が岩から腰をあげ、こちらに近づいてきた。

 

「お、さっきから気になってたんだけどよ。トランクスがベジータの子なら、おめぇ姉ちゃんの子供だろ? ははっ、そっくりでオラビックリしちまったぞ!」

「ええ、そうですよ悟空おじさん。初めまして、僕は空龍(くうろん)。孫空龍です」

「へえ~、空龍っちゅうんか。なあなあ、父ちゃんは誰なんだ? でもオラ、ブルマとベジータがくっついたってーんで驚いたからもうビックリしねぇかんな」

 

 鼻の下を指でこすりながら無邪気に笑う孫さんを見ると、本当に強いのか勘繰ってしまいそうになる。しかし先ほど戦ってみてその強さは確認済みだ。強いのに明るくて、生き残る手段や強さを誇示するためなんかじゃなく単純に闘うことが大好きなサイヤ人……母さんや悟飯さんからから聞いていた通りだな。この人からは不思議な魅力を感じる。

 もしこの人が生きていたら、あの絶望の未来でも……もし人造人間に力及ばなくても、何か変わっていたのだろうか。

 

 たとえば、空兄さんのことも。

 

 その生まれから、空兄さんは酷く臆病で悟飯さんと父親にしか心を開かなかった。母が「あんたの従兄弟なんだし、お兄ちゃんて呼んだげたら?」と俺に言ったから、俺も真に受けて兄さん兄さんと後をついて回ったらそのうち俺にも心を開いてくれた。幼い俺はそれがとても嬉しかったのを覚えている。兄さんは泣き虫で臆病だけど、同時にとても優しい人だったから。手先も器用で、物資が少ない中でその辺にあるもので色々作ったり使い方を教えてくれたりして、いろんな遊びを教えてくれたっけ。

 ここ数年……厳密にいえば悟飯さんが亡くなって以来、彼は昔よりさらにふさぎ込むようになった。原因は考えるまでもなく、悟飯さんが亡くなった直後に起きたあの事だろう。

 

 

 

 空兄さんは優しい。

 なのに、なぜあの人があんな力をもってしまったのだろうか。俺はこの世の理不尽というものを憎まずにはいられない。

 

 

 

「父はあそこにいる、あなたの兄ラディッツです」

「い!? そ、そうなんか! オラ、驚かねぇと思ってたけどそれはおどれぇたぞ……ほへ~、兄ちゃんと姉ちゃんがなぁ。でもオラと姉ちゃんは血がつながってねぇし、兄ちゃんともそうだからいいんだよな? けど、なんかややこしいなぁ」

 

 孫さんにとっては片や義理の姉、片や実の兄。考えてみると義理の繋がりを含めれば、空梨おばさんを中心に生き残ったサイヤ人は全員親戚ということになる。そう考えると確かに少し妙な気分だ。

 

 孫空梨さん。サイヤ人としての名前をハーベストというらしい彼女は、本当に空兄さんそっくりだ。初めて見るが、あんまりにも似てたから驚いてしまった。空兄さんが感情を抑えきれなかったのも無理はない……なにせ、彼自身も生まれて初めて目にする母親の生きている姿だ。

 いつも小さな写真を大事そうに、愛おしそうに見ていた。その相手が生きて動いて目の前にいる。それがどんな奇跡であるか、実際父が生きているところを見てこみ上げるものがあった俺にはよくわかる。……逆に、彼の父であるラディッツさんを見るのは辛いだろう。空兄さんは彼が居ることに気づいてるだろうに、さっきから絶対にラディッツさんを見ようとしない。

 

 

 

「そんで、姉ちゃんはどうしたんだ? 姉ちゃん、なよっちそうだけどあれで結構タフだからなぁ……みんな死んじまっても、ぴんぴん生きてそうだぞ」

「死にました」

「え?」

「死にました。僕を生んだ時に。それと、父であるラディッツも4年前に……他でもない、僕に殺されて死んだんです」

「おめぇ、何言って……」

 

 空兄さんは自虐的に笑うと、ここに来る前に約束したことを破る言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

「僕はお母さんに、僕を産まないようにお願いするために未来から来たんです」

 

 

 

 

 

 

 

 



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★21ページ目 とある未来の可能性~未来と息子が重い件

●月Й日 続き

 

 

 

 さて、現実逃避もかねて喜んでみたがその直後にもたらされた情報と息子が重い件について。ふわっふわ綿菓子みたいな気分で飛んでたと思ったらとんだボディブロー食らった気分だよ!!

 

 悟空が帰ってきて、遠くでトランクスが未来の事を話し始めた時からガン見されてるのには気づいていた。

 それで息子(仮)が何やら悟空に話しかけたと思ったら、トランクスと何やら口論し始めていきなりスーパーサイヤ人化してこっちに飛んできて「来い!」と拉致られた。なんか凄い速さで飛ばれてぐんぐん皆から離されていったけど、しばらく混乱してされるがままだった。しかしなにやらだんだんと額がビキビキして白目むいてきた息子(仮)を見て「これアカン奴や」と思って全力で顔に拳を叩き込んだ。

 息子(仮)はそれでスーパーサイヤ人化を解くと、「お母さんがぶったぁあああぁああ!!」と泣き始めた。息子(確定)は忙しい奴である。しばらく頭を撫でてなだめていたら、私の息子にしては高い身長でぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。不覚にも可愛いと思ってしまった。なんや、この生き物。

 

 それで何故いきなり連れてきたのかというところから聞くと、「トランクスに邪魔されると思ったから……ああでもしないと逃げきれないし」と口をとがらせてぼやいていた。こいつ、いちいち反応がガキっぽいな。

 

 そして聞いた事情だが、未来トランクスが悟空に話した内容まではよかった。問題はその後の彼個人の問題だ。

 

 あまりの内容に言葉を失った。

 

 

 

・自分を生んだ時、生まれながらにして高い戦闘力に母体が耐えられず私アボン。Why!? まさかの話の序盤でログアウト!?

・ラディッツ(おい待てコイツかよ)が一人で息子を育てていたが、ある日人造人間襲来。Z戦士アボン。

・悟空、心臓病でアボン。

・最初の襲撃で片腕片足を失い戦士として戦えなくなったラディッツの代わりに、トランクスと一緒に悟飯ちゃんに師事して修業。しかし元来の臆病な性格や、もてあます自分の力を制御できずに伸び悩む。戦力としては論外な息子。この辺実に私の息子してる。

・4年前、悟飯ちゃんが人造人間と戦ってアボン。トランクスはその怒りでスーパーサイヤ人に覚醒。息子も覚醒するも、キレて理性がぶっ飛んで見境なく周りを攻撃し始める。体を張って止めたラディッツがアボン。息子、どん底。

・過去に行くことになった。せめて自分が産まれなければ、両親は生存してたはず! と思い至った息子、私に自分を生まないように私を説得しに来る。←イマココ

 

 

 

 とりあえずツッコミいいかな。

 

 どこのブロッコリーだよお前は!!!! 戦闘力と暴走的な意味で!!!!

 

 

 しかも衝撃の今明かされる衝撃の真実ゥ! 衝撃2回も書いちまったぜ!

 死んだ私をドラゴンボールで生き返らせてくれる人はいなかったの? と聞けば、「魂がこの世界に存在しないから無理」と神龍に言われた模様。これを聞いて仮定したのだが、もしかしてこの世界にとってイレギュラーな私は死んだら元の世界に返品されるのでは? ということ。つまり、ドラゴンボールがあろうとなかろうと、この世界で私は1回でも死ねばそこで正真正銘終わりである! ということだ。マジか……マジか。

 

 色々と聞きすぎて頭が整理できないでいると、瞬間移動で悟空がトランクスを連れてきた。トランクスと息子が「何故言ったんですか! 言わないって約束したでしょう!?」とか「これは僕の問題だ! 口を出さないでくれ!」とか言い争いを始めた。私、とりあえず放置で先ほど「母の形見」として見せて貰った未来の自分の日記のロックを解除して読み始める。悟空がおろおろしながらも仲裁しようとしているのでとりあえず任せた。

 

 何かヒントになることないかなー、くらいの気持ちで読み始めたのだが、思った以上に未来の私の日記を読む作業が苦行だった。何故って、あれだ。未来の私何があった?

 多分本人的には気づいてないだろうけど、傍から見れば惚気と丸わかりの夫(遺憾なことに二十日大根である)とのエピソードや日々の感想、夫のどんなところが好きかなど、途中からずっと最終ページに至るまで読まされたのである。もう途中で顔を覆いたくなった。え、いやホント何があった!? 相変わらずひねくれた書き方してるけどベタ惚れじゃねーか。歳考えろ歳!! と途中で何度つっこみそうになったか。

 しかしなんとか最後まで読み進めることに成功。

 最後の行を読み終わると、未だに言い争い(というかお互いに泣きながら言い合う構図になってた。悟空は隣で頭をかきながら「どうすっかなー……」とぼやいていた。仲裁は無理だったか)を続ける息子と甥っ子に近づき、収拾がつかないので双方に拳骨を叩き込んでおいた。よかった、スーパーサイヤ人化解いてるから効いたみたいだ。

 

 まず、こちらの意見を言う前にお互い言いたいことを短くまとめろと言った。

 すると先に口を開いたのはトランクスで「俺は空兄さんが居てくれて本当によかったと思ってる。何度救われたか分からない」「だから自分を消したいなんて、そんな悲しいことを言わないでくれ」と静かに涙を流して言った。

 それに対して息子だが、「でも僕は自分が許せない。もう生きてるのが辛いんだ」「けど単に今の僕が死んだって何にもならない……なら、最初から居なかった方が誰もが幸せだった」という自己中リターンである。思いやりある甥っ子の言葉に対して、他人の事を考えているようで実は自分本位とか私の息子すぎて頭を抱えたくなった。おい、変なところばっかり似てくれるな。本人は色々考えて真面目に言ってるんだろうけど、目の前で自分のために涙を流してくれてる人間に対してそれは無いだろ、馬鹿か。そう思ったのでためらいなく顔をパーンっと張って思った事そのまま言ってやった。息子が「またぶたれた……」と言ったのでまたぎゃんぎゃん泣くかと思ったら、「お母さんがぶってくれた」と思いのほかさめざめと泣き始めて凄く気まずかった。ちょ、やめろよ。今どきの怒られたい若者って奴か。やめろよ。

 

 ともかく、自分を消したいなんて言う息子に言うことなんて決まってる。

 

「ちゃんと母子共に健康体のまま生んでやるから心配すんな! お前らはとりあえずお前らの未来を救うことだけ考えろ!」

 

 いやもう、これしか言うことないだろ。もう細けぇことはいいんだよ。これしか言う事ねーよ。

 日記を見たところ、結婚してからの私はかなり緩んでいた。妊娠したこともあって「子育て忙しくなるししょうがないよね! 人造人間編もセル編もみんなが何とかしてくれるに違いない!」と、子育てを言い訳にフェードアウトする気満々だったもの。戦闘関連の修業が途中から完全に消えたよね。

 そんな中生まれたのが、母体が耐えられないほどの戦闘力を持つ息子である。何が言いたいかって、これ生む側の私が雑魚いから死んだってことだろ!! 私らしすぎて涙出てくるわ!!

 いくら予想出来ないとはいえ、死因の根本が自身の怠惰とか泣ける。そらな、戦闘力10000超えてる状態から地球でスローライフしてたらミイラ先輩に負けるくらい弱体化するくらいだからな。怠けてたら某ブロッコリーみたいな息子なんか産めんわ。というか、さっきスーパーサイヤ人化したらだんだんと理性飛んでたっぽいけど何なのコイツ。マジで伝説のスーパーサイヤ人的な何かなの? こんなん生んだ私すげぇ。活かされないサイヤ人王族スペックが無駄に仕事しやがって……息子にあんなこと言われたら泣けてくるわ。こんな泣き虫になんて力授けてるんだ空気嫁。

 

 息子がまだ泣きながらぎゃんぎゃん言ってたけど、暴走が何だって? 暴走しようが何だろうが、しょせん未来の人造人間に勝てないレベルだろ! そんなん悟空おじさんとベジータおじさんさえ生きてたらあっという間にインフレに置いてかれて雑魚化するわ! これからスーパーサイヤ人パラレル含めて何種類出てくると思ってんだ!! ちょっとぷっつんして暴走したくらいじゃとてもじゃないけどついていけないぞ。この世界ではいくら才能があっても、「強くなろう」という向上心無くしてトップを走り続けるなど出来ないのだ。暴走強化があって伝説のスーパーサイヤ人だったとしても、強すぎちゃってどうしよう!するには思い上がりである。いや、未来世界では正しく厄だろうけど。

 

 お前はとりあえず、次に来たとき多分お前よりすでに強くなってるおじさんたちに修業を見てもらえ、と言っておいた。悟空も「おう、いいぞ!」と了承してくれた。

 もうお前、やっちゃったもんは戻らないんだから何かしたいなら自分の力制御して自分たちの世界の平和をつかみ取るしかないだろう。そもそも平和なままだったら覚醒、暴走なんていう流れもなかっただろうに。憎むべきは自分じゃない。その辺はき違えたらダメだろ。そんなような事言ったらまた泣かれて、凄い力で抱き着かれて死ぬかと思った。

 ふ、フフン。まだ産んでないけど、この私も親らしいこと出来るまで人間性が育ってるじゃないか。

 

 トランクスは泣いたまま、深く頭を下げてくれた。とりあえず撫でておいた。キューティクルパネェ。

 

 

 とりあえず、悟空と耳が良いことに定評があるピッコロさんに口止めしとかないとな、と思いつつ、もとの場所に戻って2人を未来へ送り届けた。

 

 心は不思議な充足感で満ちていた。うむ、私は多少なりともあの鬱こじらせてそうな息子を救ってやれたのだ。満足せずにはいられない。

 

 

 しかしその直後に悟空に耳打ちされた内容に、私の苦悩の日々が始まる。

 

「そういえば、姉ちゃんはいつ兄ちゃんと結婚して子供産むんだ?」

 

 

 

 

 3年以内の私のミッション。

 

・息子を無事に産むために体を鍛えるかドラゴンボールに安産祈願する。

・ラディッツと子作り。←

 

 

 ………………………………………………。

 

 

 

 あっるぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

とある世界線の女性の日記

 

 

 

▽月◎日

 

 

 いよいよ明日子供が生まれる。予定日だ。

 今凄く幸せで、不思議な気分。

 

 まさか私が母親になるなど驚きだ。この世界に生まれた当初、こんなことになるとは思っていなかっただろうに。

 しかし自分の中に新しい命が宿ったことで、やっとこの世界に足をつけられた気がした。それほどに自分に宿った命は重いということだろう。元気に生まれてきてほしい。

 ちょっと最近具合がよろしくないが、これも生まれるまでだろう。つわりって苦しいんだね。

 

 柄ではないけど、明日子供が生まれたらあいつになにか礼でも言ってやろうか。

 妊娠してからというもの、過保護に拍車がかかったあいつは正直時々鬱陶しかったが、それも私を心配してくれての事なら気分がいい。いやホント、今も不思議だけど何であいつと結婚してんだろうね私。

 

 でも子供が生まれたら生まれたで忙しいな。未来トランクスが来なかったから、今いる世界は絶望の未来ルートなわけで。産んだら早くドラゴンボール探して孫一家の無病息災を願わないとなー。まだ時間があると呑気にかまえてたらこれだよ。

 まあ、悟空の病気さえなんとかなればあとは頼もしいZ戦士に丸投げだけど! はっはっは。子育てがあるから戦えないと言えばだれも何も言えまい。ブルマもそのうちママ友になるだろうから、彼女を味方につければ安泰だ。

 

 明日、なんて言ってやろうか。

 めちゃくちゃ恥かしいけど、驚いた顔が見たいからちょっと臭い事でも言ってやるかね! とりあえず肝心なことだけここにメモっといて、あとはアドリブでいこう。お前の子供を産んでやるんだ、泣いて感謝するがいい。えーと、どうしよう……う~ん、こういうのはやっぱりシンプルな方がいいのかな。

 

 よし、これだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大好き。私に幸せをくれてありがとう。

 

 これからもずっとそばに居てね。

 

 

 

 

 

 

 

 

(日記はここで終わっている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も素敵なイラストを頂きました!
息子を登場させたらさっそく描いてくださったかんすけさんに感謝せざるを得ない。しかもどんどんクオリティー上がってるんだぜ・・・!(ゴクリ


【挿絵表示】
初登場を忠実に再現してくださった1枚。泣きながら殴られる息子に胸がときめいた。


【挿絵表示】
息子のイメージイラストを描いていただきました!クールが絶望未来時間軸、チャラが平和世界時間軸ですねわかります。イケメンと描写したらマジモンのイケメンとして爆誕させてくれたかんすけさんに感謝!短髪イイ……!未来クスの隣に並べたい。


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二十日大根春の芽生え

注意)
・二十日大根がおおむね調子に乗っている。
・砂糖?そんなものこの作品に求めてなぞいない!キャロットミルクジャムにでもぶち込んでおけ!!という方はこの小説の楽しみ方を分かっている。今話は飛ばしてください。次話で主人公がざっくりまとめるはずです。



 

 

 

 

 数日前に未来から来たというガキ2人に会ってからというもの、空梨がおかしい。いや、おかしいのは普段からだが俺に対する反応がおかしい。

 

 視線を感じると思いそちらを向けば、必ず空梨と目が合う。そしてすぐに逸らされる。それが一緒の空間に居る時は常に、と言えば頻度が多いと分かるだろう。

 バイトの時は奴が仕事に集中しているので無いが、朝出かける前、カカロット一家の畑で作業している時、帰ってきてから寝るまでと、視線で穴が開くならとっくに俺は穴だらけだろうと思うほどに多い。あまりに居心地が悪いから「何だ」と聞いたことがあるが、無言でケツを蹴られただけで答えは得られなかった。

 

 それと、家での様子にも変化があった。

 今まで風呂上りなど、下着もつけないでタンクトップに短パンなどという格好でこっちとしては目のやり場に困っていた。奴はそれなりに胸があるので、タンクトップの布は脇から横乳のラインを隠す役目をあまり果たせていない。一応隠れている、隠れてはいるが、腕をあげた時など隙間が絶妙に危うい。

 恐る恐る注意すれば案の定「私の家なんだから私の勝手でしょ」とばっさり俺の意見は切り捨てられた。その後も何度か注意したが、その場その場で「はいはい」と生返事をするばかりで一向に治らなかった。外へ……特にメディア関係に出るときは「これが地球の戦闘服か?」と思うほどにがちがちに隙無く着込んでいるくせに、その反動と言わんばかりに家では楽な格好である。

 酷い時など「下着を持って来忘れた」と言ってバスタオル一枚巻き付けただけの姿でうろつくなどという時もあった。恥じらいが足りないというか……完全に俺が男として見られていないことがよく分かった。まあ、危機感が無いのも当然だろう。間違って襲い掛かりでもすれば血の海に沈むのは俺だと分かり切っている。悲しいが、事実だ。俺と空梨の間の実力差は未だに大きい。

 

しかし、数日前からそれが一変した。

楽そうな格好であるには変わりないが、下着を着用したうえでの大きめのTシャツに短パンという、大分露出を抑えた格好になったのだ。

 

 

 

 それと、今までは家事の分担をしたらお互いが当番の時はそれに関して干渉しなかったくせに、「手伝おうか?」などと言ってきたな。

 気味が悪くて断ったら、肩を落として去っていった。それがあんまりにも哀れだったもんだから、その次の機会に頼んだら嬉しそうに隣で家事を手伝い始めた。

 

 ……前から感じていたが、こいつは感情の波が分かりやす過ぎるくらいに分かりやすい。平たく言えばガキっぽい。

 外で、特に占い師としてメディアに露出する時は感情を抑えてクールでミステリアスな雰囲気を心がけているらしいが、親しい人間と居る時はだいたいこんな感じだ。見ていれば押しにも比較的弱いな。特に女子供に対して強く出れないようだ。たまにカカロットの嫁やベジータの居候先の女と話しているときなど観察すれば、最終的に手玉に取られているのはアイツだったりする。地球の女が強いのか、あいつが押しに弱いのか……そのどちらもか。ともかく、まあ分かりやすいのだ。

 

 

 そして俺は鈍い方じゃない。

 

 

 念のためアルバイト先の奴らにこのことを話してみたら、「リア充爆発しろ」「結婚式はいつですか?」「リア充爆発しろ」「やっとか、はやく引き取ってやれよ」「ホントにな、あれでもう三十路だぞ」「リア充爆発しろ」「この機会逃したらあの子はダメだと私の勘が告げてる」「すまんが頼むぞあの馬鹿娘」「リア充爆発しろ」「ラディッツくんなら安心だわ」「リア充爆発しろ」という反応が返ってきた。というか、終始同じことを言っているお前……今まで散々「行き遅れおつで~っすww」とかあいつを煽ってきたくせになんで泣いてるんだ。

 

 最近畑作業に行くたびに話しかけてくるカカロットの嫁の父である牛魔王にも話してみた。

 こいつは事あるごとに「空梨さんのことは真剣に考えてるだか? 一緒に暮らしてるのだろ?」と厳しく俺を問い詰めてきた。こちらとしてはそんな気はないし向こうも同じだろうと、余計なおせっかいが初めはかなり鬱陶しかったものだ。だが性格は気の良い男で、酒を酌み交わしながら色々と話すのは嫌いじゃなかった。

 空梨についてだが、何でも娘がずっとお世話になって来た義理の息子の姉ということで、ずっと気にかけていたらしい。「あの子は気立ての良い子だぞ。お中元やお歳暮はかかさんし、時々気を遣ってチチに土産を持たして里帰りさせてくれていたし」と話す牛魔王からは本当の娘に対するのと同じくらいの好意を感じた。流石というか何というか……あいつは目上の者に対する礼儀というか、ゴマすりはけして欠かさない。師匠である占い師のババァに対してもそうだ。

 最近の事を話せば、牛魔王は「乙女心はデリケードだがら、頑張るだぞ。オメぇのことはオラもそれなりに買ってるだ。厳しいごとも言ってきたが、幸せになってほしいだよ」と肩を強く叩いてきた。

 

 クリリンのやつにも会話の中でさりげなく奴の最近の様子をぼやいてみた。すると「やっぱり同族がいいのかなぁ~。ちょっとショックだけど、ラディッツなら俺も納得するよ」と言って何やら応援された。そして「空梨さんの師匠の占いババ様にもあいさつした方がいいな。ババ様は空梨さんの親みたいなもんだって、弟の武天老師様も言ってたから。挨拶しないときっと後で煩いぞ」ともアドバイスされた。

 

 なんというか、知らないうちに外堀を埋められているような気がするのは気のせいだろうか。

 奴らの反応を見るに、全くそんな気が無かった頃から何やら決めつけられていた気がする。前の俺なら「冗談じゃない!」と一蹴していただろうな。

 

 

 

 だが、これで俺の勘違いでないことには確証を得た。

 あいつ、空梨は俺の事が好きなんだろう。

 

 今までさんざん手ひどい扱いをされてきたが、悪い気はしない。

 こういうのは惚れた方が負けなのだ。そう思うと相手が奴であろうと気分がいい。今、精神的な立場は間違いなく俺の方が上なのだから。

 

 そう考えると、まさか先日未来からやって来た空梨そっくりの男は俺との子供か? なるほど……それを知って、いきなり意識し始めたという事か。なかなか可愛いところがあるじゃないか。これは愉快な話だぜ。

 

 

 

 俺はそう納得したが、しばらく様子を見ることにした。奴が何かしらの決定的なアクションをおこしたら、俺も考えてやってもいいが……しばらくは奴の反応を楽しむことにしよう。

 

 最近は昼間に何をやっているのか、もし暇なら出かけるから付き合ってくれないかとも言われる。しかしそれは断った。

 何故ならベジータに特訓を頼んでからというもの、俺はとにかく忙しい。

 

 ベジータに訓練の相手を頼んでからというもの、最初の1週間がまず酷かった。「小突いただけで死なれては話にならん」と言われたと思ったら、いきなり半殺しにされてカプセルコーポレーションに一機だけあるメディカルポッドに放り込まれたのだ。俺はそれを数度繰り返され、サイヤ人の特性とやらで強制的にパワーアップを強いられた。違う、たしかに強くなりたいと言ったが、何か違う。この強くなり方じゃない。

 だがベジータの言う「最低限」まで戦闘力が上昇したと判断されると、正しくそこからが本当の地獄だった。ベジータの野郎、感謝はするが……俺は夜に仕事があるんだぞ。メディカルポッドの回復では間に合わず、ボロ雑巾の風体で仕事に出て何度突っ込まれたか。

 しかし特訓の成果は着実に出ている。ついこの間スカウターで計れば戦闘力が5万を超えていて目を疑った。この俺が……この俺が、親父の戦闘力をはるかに超えていたのだ!! その感動に体が打ち震えた。

 ちなみに他の奴らの戦闘力は計っていない。「改良したから結構な数値まで計れるわよ~」と自慢げにブルマが言っていたのでためしにベジータを測定したところで俺はスカウターを置いた。何だ……戦闘力450万て……。道理で「戦闘力5万か、ゴミめ」と言われるはずだ。

 

 未来から来たガキどもの話では、3年後には人造人間という強敵が現れるらしい。

 戦闘民族サイヤ人としての自分の誇りを取りもどすためにも、そいつらは丁度良い試金石になるだろう。それまでにカカロットやベジータに後れを取るわけにはいかんのだ!! 俺に暇な時間など無い!!

 

 

 しかしちょろちょろ近づいてくる空梨を無下にするわけにもいかず、家では好きにさせている。

 テレビを見ているときに「枕になれ」と言われれば膝を貸してやったし、傍にいるときいつのまにか服の袖をつかまれていても何も言わないでやった。菓子類の暴食は見るに堪えんから注意するが(今まで無視されていたのが最近は少し聞き入れられて驚いた)、食事は俺が当番の時は出来るだけ好物をそろえてやった。そうするとお返しとばかりに奴の当番の時は俺の好物ばかり出てくるのだ。自分で作るより、こいつが作った方が美味いからな。あれだな……これはギブ&テイクというものだろう。

 

 

 

 そんな生活を送っていたある日の夜だった。

 

 

 

 メディカルポッドでは間に合わず治らなかった傷を自分で手当てしていると、俺より遅れて帰宅した空梨が「私がやるよ」と申し出てきた。背中付近の傷がやり辛かったので頼むと、思いのほか丁寧に手当てされて逆に居心地の悪い思いをした。今まで散々俺の事をボロ雑巾にしてきたくせに……。

 しかし手当の最中で、空梨にも傷があるのに気が付く。

 聞けば、なんと空梨までベジータと特訓しているというではないか! ベジータの奴……時間ごとに俺と空梨それぞれ痛めつけてやがったのか。道理で最近忌々しいほど清々しい顔してるわけだぜ。

 

 ならばと、今度は俺が代わって傷の出当てをした。最初は断られたが、無言で手当ての道具を奪えば大人しく怪我した部分を差し出した。

 

 ちょうど外では雨が降っていて、テレビも何もついていない部屋には雨の音とお互いの呼吸音しか聞こえなかった。会話が丁度途切れ、なんとなくそのまま沈黙が続く。

 

 そんな中、空梨が口を開いた。

 

「そういえば、アメリアがもうすぐ2人目産むんだって」

「そうか」

「たいへんなのに、よくだよね。産まれるぎりぎりまでバイトは休まないってさ」

 

 そこまで言うと、視線をうろうろ彷徨わせて口を数度開きかけてから再び黙った。

 ので、今度は俺から口を開く。

 

「お前も子供が欲しい願望でもあるのか?」

「は!? いやいやいや、まず相手いないし。喧嘩売ってんの?」

「顔が赤いがどうした。いい年こいて照れてるのか」

「照れる!? 何が!? 変なこと言わないでよ。熱がこもってて部屋が暑いだけだから! ちょっと、除湿つけるから空調のリモコン取ってくる」

 

 そう言って立とうとした空梨の腕をつかみ引き寄せると、バランスを崩した奴が簡単に腕の中に納まった。こうしてみると、改めて小柄だと感じる。俺の体がでかいのもあると思うが。

 

「え、ちょっ」

 

 狼狽えて俺を見上げた空梨の顔は赤く、瞳は泣き出す寸前のように潤んでいる。何か言おうとしていたが、その前に呼吸を奪うように口をふさいでやった。

 

 

 

 

 

 たしかに俺は忙しい。

 

 だが、好きな女と過ごす時間くらいあっても構わんだろう。そう言い訳すると、そのまま熱い体温を掻き抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラディッツはムッツリ+自分が優位だと分かれば強気というイメージ(偏見


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★22ページ目 未来への課題~愛へと変わる7変化

 

◎月◇日

 

 

 いや、まいった。なんというかまいった。

 

 あの後悟空に言われた言葉で、息子との約束を守るには彼を産まないといけない=ラディッツと子作りというミッションがあることに気づいた私は頭が真っ白になった。いや子作りって……子作りって……。

 

 

 とりあえず、未来で出産が原因で死ぬなんて事実で余計な心配をさせないために悟空と聞き耳立ててただろうピッコロさんには口止めしといた。

 何で息子が私を拉致ったかは当然聞かれたが、そこは苦し紛れの口八丁でごまかした。でも察するに、ブルマとか天津飯とか餃子師範とかは後で絶対何か聞いてきそうだな……目が「後で話せよ」って語ってるもの。逃げたい。

 

 皆の所に戻る前、悟空が「姉ちゃん、死んだらもう生き返れないってことだよな? オラ、ヤダぞそんなの。チチにも言っとくから、何かあったら言ってくれな。みんなにも必要なら相談すんだぞ」と気遣ってくれたのが嬉しかった。

 くぅ……! かつて悟飯おじいちゃんにまかせて山に放置していこうとした弟がこんなに立派になって……! 今さらながらあの時の自分に罪悪感を覚えるが、本当にこの子が居てくれてよかったと思う。子供の前だと平静を装っていたが、内心かなり動揺していた私はこの言葉でかなり救われた。

 

 ちなみに遠目にミーハー心で見るだけで、ほぼ話したことのないピッコロさんであるが…………まさかの出産アドバイスを頂き心底驚いた件。いやマジで。

 だけどよく考えたら彼も卵生とはいえ出産経験者だった。いや、正確には彼のお父さんであるピッコロ大魔王の方だけど……あと、ピッコロさんと合体した最長老様もそういえば現ナメック星の住人のほとんどを産んだビッグママであるからして、それを考えると大先輩である。

 何でも「ナメック星人と比べても参考にならんかもしれんが、死なれても何かしら面倒そうだからな。一応教えておいてやる」「俺の父のように自分のうつし身として子供を産む場合、健常な状態でやればまず間違いなく自殺行為だ。自分の全てを子供に与えるからな」「最長老の知識だが、ナメック星で子供を産める存在が少ないのもタイプの他にその調整に起因する部分がある。産むときに調整を間違えると親が死ぬのだ」「貴様の無駄に高い潜在能力を考えると、それが全て子供に受け継がれ……別の言い方をすれば吸い取られた結果、お前が弱体化した可能性もある」とかかんとか。寡黙なイメージのあるピッコロさんがぶっきらぼうながら懇切丁寧に語ってくれた内容は、目から鱗だった。

 そうか、吸い取られる……つまり私の中の無駄にハイソな血が全部息子に集約すると。その結果残りかすの私は死ぬと。

 

 本当にそうか分からないけど、参考までに覚えておこう。

 

 

 さて、とりあえず子……子作りのことは置いておいて、他に今出来る対策から考えるか。これからしばらく、また忙しくなりそうだ。

 

 ちなみにラディッツとは目が合わせられなかった。クソ……同じ家に帰るっていうのに、これからどうすりゃいいんだ。

 

 

 

▽月×日

 

 

 今日も今日が始まった。一晩寝て昨日よりはまだ頭の整理がついているが、依然としてこんがらがっている事には変わりない。

 

 まず困った時のドラゴンボールであるが、現在使用不可能だ。何故かと言えば、前回から1年経った時にナメック星の人たちを生き返らせるために使用しているからだ。次に使えるようになるまでにはまだ時間がかかる。ので、それまで神龍頼みは出来ない。

 ちなみに悟空の方だが、こちらはトランクスが持ってきてくれた心臓病の薬を飲めばまったく問題ないので神龍頼みはしなくてもよさそうだ。薬は口酸っぱくして必ず飲むように言っておいた。本当にな、未来で物資が少ないだろう中で用意してくれた薬を飲まないで発症とか馬鹿以外の何者でもないからな。絶対に飲めよ。

 

 とりあえず当面の問題を書き出してみよう。

 

 

 

・子作り。

 逃げられない問題。でも息子を見る限り、私の遺伝子大勝利な感じなのでラディッツ以外が相手でも生まれる可能性有り? 息子から聞くに結構立派な父親やってたラディッツという父を彼から奪う形になるが、こればかりは私の気持ちの問題もある。それに純粋なサイヤ人としてでなく、地球人とのハーフなら伝説っちゃう可能性が低下するかもしれない。でもサイヤハーフはもれなく純正より才能があるので、逆に強化される可能性もあり。頭の痛い問題である。

 

・体を鍛える。

 現在進行形でベジータにシバかれつつ鍛えているが、それは子供が出来るまで別の世界線の私も同じようだったのでこれだけでは足りなさそう。妊娠してから鍛えるっていう選択肢は無い。間違って流産でもしたら目も当てられないからだ。しかしこのままでは別の世界の私の二の舞である……一時的に体を強化するすべを妊娠前に身に着けておく必要がある。例えば界王拳とか。後で悟空に教えてもらえないか頼んでみよう。

 ちなみにスーパーサイヤ人化も考えたが、まずなれる気がしないので技として確立してる界王拳のがベターだろう。バーゲンセールには入れる気がしないわ……。

 

・死後の魂について。

 これに関してはすぐに占いババ様に相談した。ババ様ならあの世に行けるから、閻魔大王様に私の魂について聞くことが出来るからだ。無茶を承知で事情を話して相談したら、なんとそのまますぐにあの世へ行って聞いてきてくれた。偉大なるお師匠様に感謝である。

 そして聞くところによると、予想はしていたがなんと閻魔帳には私の名前が載っていないらしい。つまり善行も悪行も記載されていない、存在そのものがこの世界に……少なくともこの地球には存在しない人間として扱われているのだ。これには閻魔様もビックリしたらしい。いやビックリするのはこっちだけどな!

 聞くところによると、たまにそんな魂が存在するとのこと。つまり、異世界からの迷子は私だけではないのだろう。一応まれに観測されるため記録には残っているが、詳細がわからないためあの世7不思議(他の6つが気になる)に数えられているらしい。

 死んだあとあの世に行くことは出来ないのかとババ様が聞いてくれたようだが、そういう魂は体から離れた時点で何処とも知れない場所に消えてしまうんだとか。彷徨うわけでもないので、回収は難しい……それがあの世の回答だった。

 つまり、やはり私は1回でも死ねばそのままデッドエンドらしい。いよいよもって死ねなくなった。いや、もとから死ぬ気ないけど……!

 

 

 とりあえず、細かいことは除いてこんなところか。

 

 とりあえず、あれだ。

 自分の人生が予想を上回ってハードモードで泣けた。

 

 

 マジ泣きしてたらラディッツがココアをいれて置いておいてくれた。

 なんだよ、優しいじゃねーか。いきなり泣き出して不気味だったんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

■月Ё日

 

 

 色々問題があるはずなのに、集中できなくて困っている。原因は全部未来の私のせいだ。というか、未来の私の日記のせいだ。

 

 あの数十ページにわたる惚気が頭から離れない。正確に言うとそこに書かれていた、ラディッツの好きなところラインナップだ。

 ついつい思い出しては、気づけばラディッツを観察している自分が居る。見過ぎていたためか、嫌そうな顔で「何だ」と聞かれたのでとりあえずケツを蹴っておいた。うっせ、聞くな。

 

 

 

△月Ф日

 

 

 最近妙にラディッツの視線が気になるようになってきた。いや、多分私が気にしいなだけなんだけど。

 

 家では楽な格好、好きな格好でだらけることを譲らない私のルームスタイルは主にタンクトップにホットパンツである。あと締め付けが気持ち悪いので、家では絶対ブラはつけない。

 今までそれで気にならなかったのに、最近妙にそわそわして落ち着かなくなった。ので、しかたがなくロンTとあまり締め付けないワイヤーなしのスポーツブラを買ってきた。何だろう。自分の家だっていうのにこのちょっと気を遣う感じは。モヤモヤする。

 

 

 

●月∴日

 

 

 未来の私の日記の内容をもとにラディッツを観察してみた結果、認めたくないがある事実に行きついた。

 

 

 いい男じゃねーかチクショウ!!(机を拳でたたいてマホガニーの机がぶっ壊れた。グッバイ40万ゼニー)

 

 

 家事は文句も言わず分担してくれるし、料理も最近腕が上がってきた。私がわがまま言っても大体の事は許してくれるし聞いてくれる。でも私がだらしないことしてれば、聞き入れられることはほぼ無いというのに毎回ちゃんと注意してくれる。ガタイはいいし人相悪いけど顔のパーツも悪くないので、正直ちゃんとした格好してる時は格好いい。手の形も何気に好みだった。

 最近知った事実なんだけど、昼間はなんとベジータと強くなるための特訓をしているらしい。ブルマが「黙ってるように言われたんだけどね~。ナイショよ?」とこっそり教えてくれたのだ。なんと、尻尾の弱点も克服したらしい。……私にワンパンで沈められていたラディッツが段々と強くなっているという事実に驚きを隠せない。

 ぶっきらぼうではあるが何だかんだで優しいし、面倒見もよい。それは地球に来てから育った特性かもしれないけど、如実に表れている場面はアルバイト先である。いつの間にか置物から主戦力に昇格しており、店内でもかなり頼りにされている。厳しいながらも新人バイトの面倒も見てくれて助かると店長が言っていた。というか、冗談かもしれないけど「俺に代わって店を任せてもいいかもな」とか頑固で厳しいことに定評のある店長が言っているのを聞いてかなりビビった。ちょ、いつの間に!? 私以上に信頼されてるではないか。

 

 

 ともかく、あれだ……。今まで意識していなかったところに目を向けてずっと見ていたら……あれだ……。

 

 

 惚れたかもしれない。

 

 マジか。

 

 どうしよう。

 

 

 

 

 

 

П月Б日

 

 

 とりあえず、私がその気になっても向こうとしては今まで散々苛め抜かれてきた恐怖政治の主でしかないだろう。なので、不器用ながら好意のアピールを始めてみることにした。

 手始めにラディッツが家事をしているときに手伝いを申し出てみた。良妻アピール開始である。けど断られた。予想以上にへこんだ自分に驚いた。そして諦めずにもう一度申し出たら、今度は受け入れてくれて予想以上に嬉しくて恥ずかしさで死にたくなった。でも嬉しかった。何だこれ。

 

 あとスキンシップも増やしてみた。ボディタッチは意識させるための基本である。

 でも膝枕をしてもらったり、あいつがソファーに座っているとき背中を預けてみたりするのが思った以上に心地よくて癖になって困った。意識させるどころかこっちがどんどん深みにはまっている気がする。どうしてこうなったし。

 ラディッツも嫌そうじゃないから、つい甘えてしまう。少しでもくっついてたくて、皿を洗っていたあいつに話しかけながら気づけば服のはしを握っていた。ガキか。ガキか私。完全に無意識でそんなことしてたもんだから、悶え死にそうになった。

 

 

 

 

 

 

◇月〇日

 

 

 

 息子出来たかもしれない。

 

 いや、何なん。なんなん昨日の。何なん。

 

 

 昨日帰ってきたらラディッツが怪我の手当てをしてたから、私がやると申し出た。そしたら逆に私の怪我も見つけられて、手当てしてくれるというからお願いした。

 

 そして問題はその後だ。

 つい意識して無言になってしまったから、職場の同僚に子供が生まれる話題を出したら更に気まずくなった。あの雨の中の妙に静かな空間だったってのも頂けない。普段より気まずさが倍増だった。

 で、気分を取り直そうとリモコンを取りに立とうとしたら腕を引っ張られて抱え込まれた。かっと体が熱くなって何事かと見上げれば、その時にはもうラディッツの顔が目の前にあったわけで。キスされていたわけで……。

 

 その後抱きしめられて押し倒されて「いいか?」と聞かれて思わず頷いちゃったもんだから、そこからは坂を転げ落ちるようだった。

 

 そして私はお互いサイヤ人というその状況をなめていた。あれだ、お互いに馬鹿みたいに体力あるもんだから、あれだ。今日の昼間までがっつり食われたよねっていう……明日、占いババ様になんて言い訳しよう。

 しかも思いのほか丁寧で優しかったもんだから、もうね。「あ、これ駄目だ。抜け出せない」と確信した。

 

 

 

 ………………。

 

 未来の、別の世界の私よ。どうしてくれる。結果的には良かったとはいえ、あんたのせいでとんでもなく恥かしい思いをしてるぞ私は。

 でもどうしようもなく幸せな自分が居て、悔しいやら満たされてるやら。

 

 あんたへの腹いせは、代わりに幸せになってやることでチャラにしよう。

 

 息子もまかせてほしい。どこまで出来るかわからないけど、出来る限りのことはしてみようと思う。

 だから向こうの世界のどこにいるか分からないけど、見守ってあげててね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




砂糖大根よりは糖分控えめだよね?





かんすけさんから再びイラストゲットだぜ!フォルダが潤う今日この頃に作者は幸せです。


【挿絵表示】
両親の特性を受け継いだ長髪バージョンの息子を描いていただきました!男だけど美人という言葉がよく似合う・・・!しかも中華服という、新たなる魅力の可能性。そして長髪、中華ということで某ドラゴンの聖闘士を思い出し「脱衣癖・・・」と設定に書き足そうとした馬鹿は自分ですよっと。寸でで思いとどまった。


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★神龍の苦悩

近年になってから、わたしはとかく忙しい。呼び出される頻度がかなり多いのだ……とはいえ、願いを叶えてしまえば1年、もしくはそれ以上ずっと暇であるが。そのため最近は呼び出されるのが少々楽しみでもある。自分の存在意義を実感できるというのは、思いのほか心地よいものだ。

 もし出来るなら、ちょっとくらいサービスしてもよいかとも思っている。そうだな、たとえば世界一のアイスクリームが食べたいと言われたら保冷材くらいつけてやろうか。せっかく手に入れても、食べる前に溶けてしまっては悲しかろう。

 

 まあ、願いの内容も様々であまりいい思い出ではないこともままあるが……一度など、若返りなどという素晴らしい願いを叶えてやったにも拘らず自らを破壊されるという目に遭ったのだ。願いを貴賤の差無く平等に叶えるのがわたしの役目ではあるが、あれは酷いと思った。しかもそれをやったのはわたしを創造した神の片割れだ。因果なものを感じる。

 しかし、最近は人間の価値観ではなかなか有意義な願いが多いのではないか? といっても、最も多いのは誰かを生き返らせるという願いだが。

 己の欲望に忠実なものが叶えた願いは先ほどの若返りの他は「ギャルのパンティーがほしい」だの「超能力が使えるようになりたい」などと可愛いものがあったが、それを抜いて他人のために使われた願いが圧倒的に多い。

 誰かを生き返らせる……それも複数の人間を、という場合もあってなかなかに張り切ったぞ。一番最近では遠く離れた別の星の住人を生き返らせろと言われて少々困ったが、その星にはわたしと同じく願いを叶える球があり、しかも私より強力な力があると知って負けるかと年甲斐もなく張り合う気持ちでやったらなんとかなった。

 ふむ、わたしにもまだまだ可能性は多く秘められているようだ。願いを叶えるたびになんとなく自分の思考が複雑化していくことに最近気づいたが、考えるということは人間だけでなくわたしのような存在でも進化させるのかもしれない。実に興味深い。また、次の願いを叶えるまでの暇つぶしが出来た。

 

 さて、今回も再び呼び出された。存在意義を実感できるのはよいが、それほど簡単に願いを叶える球を集められるというのも少々考え物だが……まあよかろう。ほう、今回は以前も願いを叶えたことのある人間だ。たしか、超能力を使えるようになりたいと願った少女だったな。どれどれ? 今回の願いは……。

 

「母子ともに健康に出産が出来るようにしてください!」

 

 なんと! あの少女が、もう母親となる年齢となったのか。見た目は当時とあまり変わっていないように見えるが、時の流れとは早いものよ。しかもその願いの内容のなんとほほえましい事よ……どれ、ここは痛みも少なく済むように念入りに叶えて………………。

 

 !?

 

『む、無理だ。産む側のお前も、生まれ来る子供も神の力を遥かに超えている。そういったものに強く干渉は出来ない』

 

「え、……え!? う、嘘でしょ!?」

 

「な、なんだと……! なんでも願いを叶えてくれるんじゃないのか! 頼む、初めての子供なんだ! それに叶えてもらわねば、こいつが死んでしまう!」

 

 ぐ、ぐぅ……! なんと、ここまで心苦しいことが近年であったろうか? いや、無い。少女の隣にいる男は彼女の夫か……頭を地面にこすりつけてまで願う様を見れば、いかに真剣かがよくわかる。

 

 わたしは死んだ者を生き返らせる事ならば、神より強い力を持った者でも可能である。大きな願いであるため、様々な制限はつくが出来ないことではない。

 それにはその者に干渉するとしても、やることはあの世から魂を引っ張って来て体に入れてやるだけだからだ。もし体がバラバラになっていてそれを治すにしても、魂のない抜け殻であれば干渉は楽である。だが、もし生命力が宿った状態であれば一気に難易度が上がるのだ。強すぎる力を持ったものの肉体に干渉するには、それが神の力を超えていれば今の私では力不足である。

 とはいえ、その願いを聞くまではわたし自身もどこまで願いを叶えられるか不明な部分というのもあるが……こう考えると、自身という存在の不可解さに疑問を投じる結果となる。うむ、哲学だ。

 不老不死などいかにもありそうな願いだが、果たしてわたしにどこまで叶えられるか……力不足のまま叶えたら中途半端な結果になりそうだな。それではわたしの沽券に関わる。次の願いまでの間、考える課題が増えた。

 

 

 

「あの、本当になんとかならないんですか!?」

 

 おっと、考えてる場合では無かったか。

 しかし出産か……本来なら容易い願いなのだが、探ったところこの者自身もそうだが生まれてくる子供の力が凄まじい。たしかにこのままでは、産んだ瞬間母の体がもつまいな。しかも普通の死に方ではない。生まれる瞬間、言い方は悪いが生命力の奪い合いになるだろう。子供はただの生存本能で生まれるために力を欲するのだろうが、それが結果母の生命力を全て使い切る結果となってしまう。母親もおそらく産むことに必死で自分の生命力など二の次となるだろうから、子供に全てを注いでしまう。愛が絆を引き裂くとは、なんと業が深い……これは、なんとかして願いを叶えてやらねば。

 ふむ、調べてみれば周囲の友好関係もそうだが経歴がかなり複雑だな。この中に、なにかヒントはあるまいか。

 

「おい、黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!」

 

『む……待て。今考えているのだ』

 

 必死なのはわかるが、少し時間がほしい。だが夫側の堪忍袋の緒がそろそろ切れそうだ……このままでは、かつてのように破壊されてしまうかもしれない。

 考えろ、考えるのだわたし!

 

『そ、そうだ! では安全な出産のためのガイドラインを授けよう』

「が、ガイドライン!?」

 

 そうだ。願いそのものが叶えられないなら、そこに至るまでの道筋を示してやればよいのだ! この者自身や周りの者が頑張ればなんとかなる。そうわたしの中で結果が出た。急いで書にしたためなければ。

 

『これが出産までの詳細だ。この通りにすれば必ず無事に母子健康のまま出産が可能だろう。頑張るのだぞ。では、願いは叶えた。……さらばだ』

「え、何この冊子……って、ちょ! 待っ!?」

 

 制止の声が聞こえたが、願いを叶えたら後は去るのみ。心ばかりだが、サービスで気休め程度の安産祈願はしておいた。書の通りにすれば、それで間違いなく健康体で産めるはずだ。

 

 

 わたしもまだまだだな。創造主たる神頼みをしなくとも、パワーアップを考えねばならぬ時期が来たという事か。

 出来るかどうかは分からないが、これもまた暇つぶし。考えるとは、それだけでなかなかに楽しいものよ。

 

 

 

 

 では、次の願いのために英気を養うとしよう。

 世界中に散らばった希望の球を、いつかまた誰かが集めるその時まで。

 

 

 

 




最近の親しみやすい神龍さんを見ていたら、つい。




前回と前々回の話の後に「祝ってやんよぉ!」とばかりに頂いたイラストラッシュに嬉しさで元気玉作れそう。
皆さんの慈愛が降り注ぐ……!いつもありがとうございます!


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かんすけさんからラディッツと主人公の買い物風景を頂きました!こ、こいつらちゃんと夫婦してやがる……!ラディッツの表情がイメージまんまでたまらんとです。


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オルゴールさんから主人公のウエディング姿を頂きました!娘を嫁に行かせる気分を味あわされた……!綺麗な顔してるだろう……?これ、三十路なんだぜ。衣装やら表情やらすべてが可愛くてどうしよう。


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トライヤルさんからラディッツと主人公のイラストを頂きました!主人公も可愛く描いてもらったのですが、注目すべきはにやけ面のラディッツである。なんだこの可愛い二十日大根。クッ、にやけた顔しやがって(褒め言葉


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のたぐりさんから主人公と息子のイラストを頂きました!見た瞬間目からしょっぱい汁と鼻から赤い液体が出た。2人が幸せ親子している……!きっと無事に生まれて育ったら、こんな光景が見られるでしょう。目ぇキラッキラの息子と母親してる主人公が愛しくてたまらないです。





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23ページ目 空龍誕生!~出産ギリギリ大決戦!(気分的に)

◇月〇日

 

 

 空龍に勝った! じゃない。空龍が生まれた!

 

 いやぁ……文字通り死ぬかと思った。今までのもろもろ含めて死ぬかと思った。

 

 

 

 予想通りというか、あの一件で空龍が出来ていたらしい。まさかの一発である。

 

 子供が出来たと報告したら、ラディッツに土下座されて「産んでくれ」と頼まれた時は驚いた。惚れた方が負けというか、なんとなく最近調子こいてたラディッツの様子が一変した瞬間である。凄い過保護になった。まさか真っ先に「子供が出来たから乱暴は許さん。空梨の訓練は取りやめてくれ」とベジータに言いに行くとは思わなかった。

 ベジータの様子はと言えば、私は見ていないからなんとも言えないけど……ボロボロになって帰ってきたラディッツに聞けばすっぱいものでも飲み込んだような表情をした後「こんな下級戦士の雑魚とくっつくとは、王族の恥さらしの奴にはお似合いだな」と悪態ついてきたらしい。そしてラディッツがボロボロになっているのは、彼本人が「父親になるならもっと強くならなければ」と思って私に充てていた訓練の時間を自分によこせと申し出た結果らしい。ちょ、大丈夫かこいつ。その内本当に死ぬぞ。次に空龍来たときこっちの父親も死んでたとかシャレになんない。

 

 それを言いに行ったとき場所がカプセルコーポレーションだったもんだから、そこからブルマと居候中のヤムチャくんにもばれてあとは芋づる式だった。知り合い全員にバレたよね。恥ずかしさで死にそうになった。

 なんだよ、悟空の時がいきなりで何も出来なかったからって、私に全部もってくんなよ。オムツとか哺乳瓶とか涎かけとかおくるみとか今貰っても困るよ。いや、たしかに生まれたら必要だけど……! 好意が逆にツライ。恥かしい。恥ずかしさで死ねる。

 更に言うとお世話になった店長に報告はしないととなって報告したらバイト先からも色々もらってしまった。しかも内容ほぼかぶってるという……だが実用品が多く、たくさんあっても困らないラインナップであるのは既婚者が半数を占めるバイト先の人生の先輩方流石である。彼らの監修か。

 占いババ様には自分で報告に言った。そしたらどこかへ行ってしまって、どうしたのかと思ったら天国の悟飯おじいちゃんからお祝いの言葉をもらって来てくれるというサプライズをしてくれたのだ! 凄く嬉しかった。今度それ、悟空にもやってあげてほしい。いずれ2人目が生まれるわけだし。

 くそう、しばらく日記書く暇が無かったから書くことが多い。

 

 

 けど以前息子たちが未来から来たあとで問い詰められたことから、出産が原因で死ぬと知っていたブルマや天津飯、餃子師範には凄く心配された。

 話を聞いた後、みんなそれぞれ何か良い方法は無いかと調べていてくれたらしい。私は実に頼もしい友人に恵まれている。とりあえず良い方法が見つからなかったのか、泣きそうな顔と申し訳なさそうな顔で安産祈願のお守りを大量にくれた餃子師範と天津飯はありがとう。気持ちだけで嬉しいよ。

 ブルマの提案でメディカルマシーンや仙豆など回復アイテムを準備してお産したらどうかとも言われたが、これについてはまさかの困った時のドラゴンボールに否定されることになった。

 

 

 そうだよ、ドラゴンボールだよ。

 

 

 ちょうど使える時期になったから、急いで集めたまでは良かった。というか、私はこれでほぼ解決だろうと高をくくっていたのだ。なんたってドラゴンボール先輩だぞ。神より強い力を持ったものに干渉できないとかあった気がするけど、健康関係ならOKなんだろ? だって平気でばんばん神様以上の力の持ち主を何人も生き返らせてるもんね! ブウ編だと悟空の体力全回復とかやってたし!

 

 

 そう思ってた時期が私にもありました。

 

 普通に無理だって言われた。目が点になった。ドラゴンボールをたたき割ろうかと思った。

 

 

 未来の息子の事について話してからはいっそう過保護が加速したラディッツがブチギレそうになっていたが、実は一番ぷっちん来ていたのは私である。おい、この期待をどうしてくれる。悟空にもチチさんにもブルマにも餃子師範にも天津飯にも最終的には「でえじょうぶだ、ドラゴンボールがある!」で通したんだぞ。帰ったらなんて説明すればいい。そう思って怒りに震えていたら、実はこの時うっすら黄金の気をまとっていた私である。覚醒前に神龍から出産ガイドラインなるものを渡されてポカンとなったからスーパーサイヤ人には至らなかったけど、まさか神龍さんへの怒りで超化しそうになるとは思わなかったぜ。希望の球とは何だったのか。

 

 そして渡された出産ガイドラインの内容であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・スーパーサイヤ人になれ(要約)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なれたわ。絶対になれないと思ってたスーパーサイヤ人なれたわ!! ブチ切れたわ!!!!

 

 することはそれしか書かれていなかったのだが、注意点が無駄に細かく書かれていた。

 

 何でも出産時の死亡原因は生命力の奪い合いだから、母体がいくら回復しようと回復したそばから子供に全生命力が持っていかれるので私に出来る事は生命力の引っ張り合いに勝つことのみである! とのこと。腹案でブルマの案を採用しようとしていた私絶望である。しかも生命力を奪われないように引っ張りすぎてしまうと、今度は生まれる力が弱くなって子供の方が死んでしまうんだとか。何だよそのデリケートなんだかバリケードなんだかわけわからんお産は。もう自分で何書いてるかも分かんねーよ。

 そしてまさかのピッコロさんアドバイスが的を射ていた件。私卵生じゃないのに……。

 

 なので息子に負けないくらいのパワーを身に着けたうえで、息子にそそぐ生命力と自分に残す生命力の調整をするのが無事に出産するための最良の方法だという。つまり思いがけずスーパー化出来たので、あとはその調整力を身に着けるだけというわけだ。

 

 その後は恥を承知で出産経験者の記憶保持者であるピッコロさんに頭を下げた。その調整方法を教えてください! と。凄く恥ずかしかった。死ぬかと思った。

 

 ピッコロさんは何で俺様がなどと言いつつも、しつこく食い下がってお願いした成果か、事情を知った悟飯ちゃんの懇願のおかげか(絶対こっちだろうが)最終的にそれを引き受けてくれた。そして孫家で悟空と組手をする片手間に色々教えてくれた。

 この結果嬉しい誤算もあった。なんと、今まで制御がうまくいかなった最長老様に解放していただいた潜在能力が防御全振り以外にも使えるようになったのである!

 更に超能力も強化され、前々から考えていた技が一つ使えるようになった。ピッコロさん様様である。これから割と本気で崇めようと思う。嫌がられたけど。

 

 

 

 

 そして今日、出産と相成ったわけだ。

 

 本番は比喩でなく文字通り死ぬかと思った。

 

 産まれる! と思った瞬間には自分の中の気が全部ごっそり持っていかれ始めたのだ。もともと体調は思わしくなかったが、その比ではない。

 産むために踏ん張るのが必要だというのに、その踏ん張りを維持する力もないほど力が抜けた。慌てて超化して気の引っ張り合いを始めたのだが、生命力を調整する部分と産むために踏ん張る部分で頭の中こんがらがるわ痛いわ苦しい辛いわ悲しいわで、もうとにかく酷かった。私の気に吹きとばされそうになりながらも近くで手を握ってくれていたラディッツには感謝せざるを得ない。彼が私をつなぎとめてくれていなかったら、ふっと集中力が途切れた瞬間に死んでいたかもしれないのだから。

 

 そして時間にしては短かったが、息子が生まれた。実は息子じゃなくて娘だったらどうしようとも思ったが無事に息子だったので、きっとこの子が未来の息子に成長する子で間違いないだろう。ああ、しんどかった。

 

 ちなみに出産した場所はブルマが紹介してくれた最高医療を誇る大病院だったのだが、その出産の様子を見て何を思ったか「神の奇跡か……!?」とか言われて恥ずかしさで死にそうになった。あれか、スーパーサイヤ人の気か。たしかに見ようによっちゃ神々しいかもしれんけどやめてくれ。

 総括して、とにかく死にそうなお産だった。

 

 だが色々あったものの、なにはともあれ母子ともに健康である。私も日記を書けるくらいには元気だ。

 

 そして名前だが、以前未来の息子からは結局聞かないままだった。だけどトランクスが「空兄さん」と呼んでいたから私の名前から一文字とられてるのは分かった。ので、それをもとに考えたが気になって「サイヤ人風の名前のが良い?」とラディッツに聞いてみた。そしたら「お前の育った地球風の名前でいい」と言ってくれたのでその言葉に甘えることにした。

 

 

 

 そんくうろん、孫空龍だ。それがこの子の名前である。

 

 

 

 空を駆ける龍のように、逞しく、のびのびと育つようにと願いを込めてつけてみた。

 あと遠回りだとしても出産に協力? してくれた神龍さんから一文字貰って、というのもちょっとある。せっかくドラゴンボールの世界だしね。龍って文字には思い入れがあるのだ。

 

 

 

 明日から子育てかー。大変そうだな。でもブルマもトランクス産むし、経験者のチチさんも居るしストレスはためずに済みそうかな? 色々話を聞いてもらおう。ラディッツも協力的だし、まあなんとかなるか。

 

 

 さて、さすがに疲れた。今日はもう寝よう。

 息子よ、新米ママだが明日からよろしく頼むぞ。

 

 

 

 

 

 

 



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★24ページ目 あっという間に3年経過~子育てが忙しすぎた(言い訳)

П月▽日

 

 

 気づけば空龍が産まれてから約2年、トランクスも産まれて現在1歳。甥っ子悟飯ちゃん10歳である。

 何が言いたいかって?

 

 

 もう3年経った。

 

 時間早すぎてもう何が何だか。

 

 

 

 気づいたらこんなに時間が経っていたわけだが、体感時間でいえばあっという間だった。というのも、正直伝説のスーパーサイヤ人の子育てなめてた。産んじゃったらあとは大人しい子だし育てるのは比較的楽だと思ってたんだよね。未来の空龍と違って、この世界では私の力を全部吸い取って産まれてきたわけじゃないし……そう思っていた時期が私にもありました。

 

 ところがどっこい。超大変だった。

 

 だって空龍の奴、まず生まれてから1週間でスーパーサイヤ人になりやがった。しかもオムツが濡れて気持ち悪いからって覚醒したっぽい。

 泣き方が弱弱しくて控えめだから「この子体大丈夫かな? 力の調整間違って病弱に生まれてないかな?」とか心配してたらこれだよ。そら黄金に光ってたら嫌でも気づくわ! でもそれってもっと声張って泣けばすむ話だろ! 他の赤ちゃんはみんなそうしてんぞ! なんでわざわざ高難易度の方法をためらいなく選択すんだよ!!

 しかもそれから味をしめたのか、お乳がほしい時とか寂しい時とかもスーパーサイヤ人化して伝えてくるもんだから、もう病院にはいられなくなったよね。もとから産後はすぐに動けるくらいぴんぴんしてたけど、大事を取って入院していたのだ。それを逃げるように退院することになった。お医者さんや看護師さんたちの視線が痛くて痛くて……いや、いい人たちだったけど。居たたまれなさに負けた。

 唯一の救いといえば、未来の空龍と違ってこの世界の息子はスーパーサイヤ人化しても凶暴性が増さないことだった。以前未来息子が来たときに聞いた話だと、彼はスーパーサイヤ人になってから時間が経過するにつれて理性のたがが外れていくらしい。なので、止めを刺す瞬間など一時的なパワーアップのブーストとしてしか超化を使用できないとのことだった。それがこの世界ではオムツ警報機である。よかったんだけど、よかったんだけど何か釈然としない……!

 

 

 その後も大変だった。

 

 

 空龍がいつの間にか空を飛べるようになってた。一歳未満で。

 ハイハイもおぼつかないくせに、先に楽な方法に移行するあたり誰に似たんだよ。私か、私だな。どうせ悪いところはだいたい私似だよ!! いいよもうそれで! 泣き虫なんてまだ可愛い特徴だよ!!

 

 蝶々追いかけてどっか行っちゃった時はどうしようかと思った。ふと目を放した一瞬の事だった……普段は私にべったりだから油断していたけど、幼児の行動の不規則性を舐めてはいけない。彼らは好奇心の赴くままに行動するのだ。私はこの一件でそれを深く痛感した。首がすわって一安心とか思ってる場合じゃなかった。

 何故かベジータが空龍の首根っこをつかんで「自分のガキの面倒くらいみやがれ!!」って持って来た時は初めて弟に感謝した。いやホントに。

 あとこの時だけど、空龍がスーパーサイヤ人化してなくて本当によかったと思う。……実はまだ私がスーパーサイヤ人に覚醒したことベジータ知らないんだよね。いつか機会をうかがってここぞという場面でみせびらかして、今までの恨みを晴らすようにワンパンきめてやろうって心に決めていた。そしたら子育てが思った以上に忙しくて、いつの間にか言う機会も無くてそのままになってて……ぶっちゃけ忘れてた。

 

 私どころか甥っ子(赤ん坊)にまでスーパーサイヤ人化を先越されたって分かった時のあいつの心境が怖くて、結局言えないままでいる。どうしよう。あいつ絶対理不尽に私にキレてくるよ。やだよ。面倒くさいよ。もうあれだよ、お前もさっさとスーパーサイヤ人なっちゃえよ。

 

 

 

 

 最近こまめに日記を書く暇がないから一度に書く文章量増えたな。

 今日はあれだ、このまま3年のまとめ的に書くか。今は空龍をラディッツがあやしてそのまま2人で寝ちゃってるし、自由時間である。今のうちに書こう。

 

 

 

 

 子育ては大変だけど、それ以外の時間には余裕が出来た。といってもそれ全部空龍に持っていかれるんだけど。

 空いた時間の内訳はメディア関連と居酒屋のアルバイトを辞めたから。

 

 

 占いババ様の所での修業は空龍が産まれてからしばらく休んだものの、今も続けられている。空龍が占いババ様の戦士たちの妖怪系の人らを気に入ったため、子守をお願いできるからだ。

 久しぶりにミイラ先輩やアックマン先輩に会った時空龍を抱いてたら凄く驚かれた。しかもミイラ先輩なんか涙ぐみながら「よかったな」と言ってくれて私の方がもっと驚いた。見かけによらず本当に良い人である。ちなみに私の好感度がまんま息子に伝わっているのか、空龍のお気に入りはこの2人だ。

 ミイラ先輩は包帯を玩具代わりにして遊んでくれるし、アックマン先輩は空龍が苦手みたいだけど、尻尾や羽にじゃれ付かれても文句を言いつつも好きにさせてくれている。

 

 ちなみに空龍だが、この年にして私ですら手こずっていた戦闘力の制御にある程度成功している。ので、子守を人にまかせてもその点は安心なのだ。まあまかせるには空龍がなつくのが大前提なので、あまり任せられる人は居ないが。

 何故そうなったかというと、その理由はしょっぱい。一回力加減を誤ってスーパーサイヤ人状態でラディッツにじゃれ付いたら、ラディッツがひん死になったからである。キャッキャと笑う空龍とピクピク虫の息で痙攣するラディッツを見た時の気持ちは今でも忘れられない。

 

 それから口酸っぱくして「動物は簡単に死んじゃうから大事に扱わないと駄目!」と教え込んだら理解したのか大人しくなった。空龍は泣き虫で臆病な性格だけど、わりとぽけっとしていて自由なところもあるから油断ならない。でも頭は良い子なので、やってはいけないことは教えればちゃんと覚えてくれるのはありがたいと思う。

 教える際、例として教材的活躍をしてくれた孫家の畑に住むナメックカエルには感謝である。見本にちょっと握ってぎゅっと力入れたらぐったりしたのを見て、動物は簡単に死んでしまうのだと理解して空龍は怖くなったようだ。悟飯ちゃんと同じくナメックカエルがお気に入りだった空龍にとっては余計にこたえたのだろう。「ね?」とカエルを指さして教える私からナメックカエルを奪い取って、ひしっと抱き込んで守っている様子は可愛かった。

 でも後で悟飯ちゃんに怒られた。ごめん、弱い者いじめはもうしないからごめん。だから息子の前で真面目にお説教するのはもう勘弁してほしい。凄く恥かしい。ちゃんと死なないように配慮してやったって言ったら余計怒られた。「そういう問題じゃないんです!」って怒られた。今度から気を付けようと思う。

 

 ちなみにその後教材にしたカエルにはお詫びといってはなんだけど、カプセルコーポレーションで偶然見つけたもう一匹のナメックカエルを畑に連れていって対面させてあげた。カエルだから感情表現がよくわからないけど、抱き合ってたし多分両方凄く喜んでいたと思う。仲間が見つかって嬉しかったのだろう。

 カプセルコーポレーションで生まれたてのトランクスに振り回されて玩具になってたところを助けたってのもあるし、結果的にいいことした気がするな。いつか昔話みたいに恩返ししてくれないものか。

 

 

 書くことありすぎて内容があっちこっち飛ぶな。後で読み返す時めんどくさそうだけど……まあいいか。

 

 

 さて、話はそれたが占いの修業はそういうわけで続行中だ。あの世に行くための修業も続けてるけど……こっちはなぁ~……せっかく続けてるけど、今はもう空龍が居るからなー……危険があっても一人だけあの世に逃げるってわけにもいかなくなった。一緒に連れていければいいんだけど、多分無理だし。

 まあいつか役に立つだろうと、出来るまでは続けるつもりだ。

 

 

 畑仕事は空龍背負ってやればいいから出来るけど、メディア関係の仕事は全部辞めた。

 あの子カメラのフラッシュとか知らない人がたくさんいる場所苦手なのよね……。預けようにも、占いババ様のところ以外だと人見知りして駄目だった。がっつり私にしがみついて離れないのなんのって。

 ラディッツは相変わらず強くなろうと頑張ってるみたいで、それに水差すようなこともしたくない。出来る事は不器用ながら十分すぎるくらいやってくれてるし、やっぱりメインで面倒見るのは母である私だろう。そう思っての退職である。

 凄く引き留められたのは意外だったし嬉しかったけど、こればかりは勘弁願いたい。空龍がある程度育つまではお休みするつもりだ。

 

 アルバイトも初めは空龍背負いながらやってたけど「子供を夜まで連れまわすな」と店長に怒られたので辞めた。私的にはこっちの方が寂しかった。だって一番長く続けてた仕事だし……まさかラディッツが残って私が辞める日が来ようとは。

 

 そのため収入源ががくっと減って困ったが、そしたらラディッツが「俺のアルバイトだけでは間に合わんだろう」と言って空いた時間に賞金稼ぎみたいなことを始めた。

 しかも私が高額の賞金がかけられたお尋ね者を占いで探し当てるというサポートをしたもんだから、もうザックザクである。むしろ前より収入上がったんじゃない? と思う時すらあった。やっててよかった占い師。

 

 

 トランクスが生まれた時は、分かってはいたけど驚いたな。

 ブルマに「ベジータのどこが良かったの?」と聞けば「フフッ、あんたに構ってる時の様子とか見てたらなんか段々可愛く思えてきちゃって。あと、ちょっとだけど研究も手伝ってくれてるでしょ? 意外とあたしが気づかない盲点とか指摘してくれてさ~。まあ、口悪いんだけど! でもなんか頼りになるなって思ったのよね。で、なんとな~くいつの間にか?」とのことらしい。

 あれ、なんか原作と違う気がするけど……まあいいか。

 

 

 だいたいこんなところか。未来の甥っ子と息子が来てからここ3年の印象深い出来事は。

 

 

 さて、いろいろ置いておいて、3年経ったということは人造人間編である。

 

 最近はもう「占い頑張って予言しました!」みたいな感じで有力そうな原作知識は誰かに話して丸投げした方がいい気がしてきている。

 もともとは積極的にスルー推奨だった原作という存在だけど、今は主要人物ほとんど知り合いで何より未来空龍の事とかあるし。かといって自分ではまったく活かせる気がしないから、頭のいい人にまかせちゃえ、と思うわけだ。なんという他力本願。しかし私的にそれが最良だとも思う。

 とはいったもののフリーザ様編ですらふわっふわだった私の原作知識が未来と過去が交錯する複雑な人造人間、セル編でどれだけ生かせる知識があるのかと言ったら疑問だが。

 昔書いた記録を読み返してみたら案の定時系列とかまったく書いてなかった。

 

 ざっくり書くとこんな感じである。

 

 

・人造人間19、20号襲来。デブとジジイで、ジジイの方がドクターゲロ。なんかパワー吸い取ってくる。

・上記二人は楽勝だったが、逃げられて17号、18号覚醒。クールなナイスガイとクリリンの嫁のクールビューティー。ドクターゲロ氏は反逆されてアボン。自爆装置もこの時破壊。

・悟空がどっかで心臓病発症、戦線離脱。

・17号18号にZ戦士ボロ負け。特に目的のない2人は当面の目標として悟空を殺そうと気ままに旅を始める。この時16号はもういたかな? 16号は小鳥に優しいナイスガイ。正直好きだったの覚えてる。

・ピッコロさんが神様と同化。強い。神様が居なくなってドラゴンボールが使えなくなったので、どこかでデンデが地球の神に着任。

・セルが人間を吸収し始めて、ピッコロさんと一番初めに戦うことに。ピッコロさんのファインプレーでセルが未来から来た理由が明かされる。

 3年前これについてトランクスと空龍に教えられなかったのが悔やまれる。セルが来るということは、どこかの未来でセルが2人を殺してタイムマシンを奪ったということだからだ。このあたり未来の分岐とパラレルワールドが複雑でよくわからないが、可能性をつぶすために注意を呼びかけるべきだった。

・セルが逃げるかなんかして、17号、18号を吸収して完全体へ。16号はクリリンに助けてもらってた気がするから多分この時は生き残った。

・調子ぶっこいたセルさんがセルゲームなる武道大会を開催。猶予期間が産まれ、悟空たちは精神と時の部屋を使って短期間でパワーアップ。この時点で甥っ子悟飯ちゃんが最つよとなる。

・セルゲーム開始。いろいろあって(記憶がすっぽり抜けてる)悟飯ちゃんがセルを追い詰めるも、舐めプしたばかりにセルの自爆で悟空と界王様がとばっちりでアボン。セルは生き残っており、絶体絶命。最終的にあの世の悟空のサポートを受けたスーパーかめはめ波で勝利。

・現代でパワーアップしたトランクスが未来に帰って17号、18号、タイムマシンを奪おうとしていたセルを倒してハッピーエンド。※しかしこの後絶望おかわり時空につながる可能性があるので、タイムマシンの燃料は常に確保しておくように注意する。

 

 

 ……………………。時系列が書いてないどころか途中途中のイベント全部抜けてるのは気のせい? というか、あきらかあのふわっふわなナメック星情報と比べても情報量少ないんだけど!!

 

 というか、危機的状況と精神と時の部屋のおかげでこの時期にサイヤ人側が凄くパワーアップするっぽい。これって下手に動いたら、もしかして未来に帰ったトランクスが人造人間かセルに力不足で負けてしまうんじゃ? この世界では空龍がいるけど、あの子も力の制御を身に着けないと長期戦では戦力外のようだし。パワーアップが未完成のままでは返せない……いや、サイヤ人スペックさえあれば時間かければなんとかなる?

 

 やばい。丸投げして楽しようと思ったらよく考えたら逆に身動き取れなくなった。どうしよう。

 

 とりあえず例の日が来るまでまだ時間あるし、誰かしらに相談して色々考えておこう。

 

 ああ、長く書きすぎて疲れた。そろそろ空龍のおやつの時間だ。

 日記は一気に書くもんじゃないな。明日から時間を作ってこまめに書くようにしよう。あと、出来るだけぐだぐだ書かずに簡潔にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ы月◎日

 

 

 

 

 家の前に完全体のセルが居た。

 

 

 なんだかデジャヴを感じた。

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 

 

 




(おもむろに立ち上がりながら)人造人間編「よし、そろそろ俺の出番kセル編先輩「私の出番のようだ(ガタッ)」!?」




再び頂き物を頂戴いたしました!いかん、イラストの目印であるサブタイトルの★が増えるたびにニタニタしてしまう……!


【挿絵表示】
トライヤルさんからSS化悟空と主人公を頂きました!珍しいSSでの困り顔悟空が新鮮で印象的です。いったい主人公は何を突っ込んでいるのだろうか……。


【挿絵表示】
かんすけさんから親子3人の幸せイラストを頂きました!目から塩っ辛い汁が出た。くそう、本格的に娘を嫁に出して孫が出来た気分になってきたぜ……!赤ちゃん空龍がまたトランクスみたいな帽子かぶってて愛らしいことこの上ない。両親2人の表情も見ているだけで幸せになれそうです。


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サイヤ人の王

 ここ最近、訓練をしていても身が入らないことは自覚していた。この俺がだ! ムカつくことにその原因も分かっている。だが、だからこそ余計に意識がそれに奪われやがる。

 

 

 この俺に、ガキが出来た。地球人のブルマという女が産んだサイヤ人と地球人のハーフだ。

 

 

 まさかこのサイヤ人の王子たる俺様が下級戦士のカカロットと同じような経歴を持つことになるとはな……髪の色こそブルマに似たが、顔は俺の面影を感じさせる。名前はトランクスだ。

 だが、別にガキが出来たことだけが意識が散漫になっている原因ではない。ま、まあブルマに妊娠を聞かされたときは驚いたが……。

 

 現在、サイヤ人の生き残りは俺、カカロット、ハーベスト、ラディッツ……それとこいつらのガキである空龍と悟飯、俺の息子トランクスの7人だ。内2人はハーフだが、惑星ベジータ消滅後は俺とナッパ、ラディッツ、カカロットの4人だけの生き残りだけだと思っていた時から比べると増えたもんだ。その増えた分が新しく生まれた子供というのが、どれほど時間が経ったかという現実を嫌でも突き付けてきやがる。

 3年前未来から来たという2人のサイヤ人だが、1人はあのクソ女にそっくりだったことからあいつの息子だろうとは予想出来ていた。だがトランクスが産まれて、もう一人が俺の息子だったと気づいた時には流石の俺も驚いたさ。3年前、まさか自分が父親になるなどと考えても居なかったからな。

 

 サイヤ人の肉体は若い時期が長い。だが、年を取らないわけではないのだ。

 現在俺は35歳……はっきりと覚えてはいないが、俺の死んだ父親であるベジータ王も今の俺と同じか、もう少し上の年齢の時に俺を儲けていたはずだ。その時やつは惑星プラントのツフル人を殲滅、サイヤ人の入植に加えて惑星ベジータの命名、サイヤ人王家の確立と、最終的にフリーザ軍に下る形で手を組まされるも様々なことをやってのけている。ガキのころの俺よりも戦闘力において劣る親父を尊敬しているわけでもなかったし、俺は俺がナンバーワンになれさえすればいい。そう思い好き勝手やってきたが……現状を見ろ。ガキを作った以外は、下級戦士のカカロットにスーパーサイヤ人という覚醒で抜かされ、せめてそれを追い越し王子としての誇りを取り戻そうと無様にあがいて汗水たらして訓練を続ける日々だ。

 

 サイヤ人の誇りなどとフリーザの奴に啖呵をきったが、この様だ。笑っちまうぜ。

 

 

 

 

 

 そんな風に無意識下で育っていた焦り……それに拍車をかけたのは、姉であるハーベストにガキが出来た時だった。

 

 今でも奴が姉である事実が忌々しくてたまらないが、姉は姉。サイヤ人王家の正当なる長子だ。その奴がよりにもよって弱虫ラディッツとくっついたときは雑魚同士お似合いだと皮肉ってやったが、結果奴はサイヤ人の純血……それも男児を産んだのだ。血筋で言えば、長子のハーベストが産んだ混じりけなしのサイヤ人は王家の後継者にふさわしいだろう。まあ、その王家はもう俺と奴しか居ないのだが。

 そして奴は、ガキを産むときにカカロットと同じスーパーサイヤ人に覚醒している。出産時遠く離れた山で訓練していた俺にもわかるほどの戦闘力……下手をすればナメック星の時のカカロットを一時的に超えただろうそれは、嫌でも奴の物だとわかった。ガキの頃から知っている以上に、地球に来てからは「鍛えなおしてやる」という名目でサンドバッグにしつつ一緒に訓練していたからな……気というものを探る技術を身に着けていたこともあり、いくら強さが変わろうと奴の気配は間違えようもなかった。

 

 もちろん最初は怒りに震えた。

 戦闘から逃れ続け、現在も渋々訓練をしつつも根本的に戦いというもの自体を忌避するサイヤ人の恥さらし。……それが奴への認識だったからだ。それがこの俺より先にスーパーサイヤ人に、それも出産で覚醒するだと? ふざけるな! とな。

 

 だがその時の怒りは俺をスーパーサイヤ人に覚醒させるには至らなかった。それは、心のどこかに劣等感があったからだ。

 劣等感……そんなもの、俺から一番ほど遠い感情だと思っていたがな。だが、よく考えればカカロットに負けた時から俺はずっとその感情に苛まれ続けているのだろう。認めたくないが、それが事実だと認める自分も確かにいる。まったく反吐が出るぜ。

 

 褒めるとこなど何一つなく俺のサンドバッグになるくらいしか価値のない女だと思っていたが、客観的に見ればハーベストは生き残りの王女として正当なる血筋を残し、自身もサイヤ人の高みへと上り詰めた。これがいかに屈辱であるか……頭がどうにかなりそうなほど感情が荒れ狂ったぜ。…………しかし、それはあの女への憎悪ではない。いつまでもくすぶっている不甲斐ない自分自身への怒りだ。

 

 

 

 それを振り切るように、ただひたすら訓練を続けた。

 

 

 

 そういえば、弱虫ラディッツの奴もそれなりに役立つようになってきたな。俺の拳を正面から受けても一発でひん死にならなくなったのは褒めてやる。おかげでハーベストの奴が訓練しなくなってからもサンドバッグには事欠かないぜ。

 しかしこいつもこいつでなかなか俺をイラつかせた。かつては俺とナッパの後ろをへこへこしながらついてくるしか能が無かったというのに、いっぱしに俺の目を見て向かってくるまでになりやがった……チッ、夫婦そろって忌々しい。

 

 

 

 

 

 そうして悶々と日々を送る中だった。

 

 ある日、近くで膨大な気を感じて何事かとそこへ向かえばハーベストのガキが空を飛んでいやがった。……それも、黄金に輝いてな。

 鳥の群れを楽しそうに追い掛け回すそいつを見て、思わず変な笑いが出ちまったぜ。俺はこんなガキにも負けているのか……とな。フリーザの時以来だぜ。こんな挫折を味わったのは。

 だがやはりガキはガキ、しかも赤ん坊だ。むやみに力を使いすぎて、途中で力尽きて落下し始めやがった!! 馬鹿か! と思わず叫んで受け止めれば、呑気に寝ている始末。チィッ、やはり奴の息子か。忌々しいほど似てやがるぜ!

 しかたがなくハーベストの奴に届けてやれば、生まれて初めてというくらい素直に礼を言われた。しかも、泣きながらだ。……時間というのは、ここまで人を変えるものか。

 

 

 それからは荒れ狂っていた感情が嘘のように静まった。といっても、それは表面上だ。水面下では激流が渦巻くような感情を常に抱えていたが、冷静に考える部分が出てきたというだけの事だ。

 

 考えた。

 

 

 

 サイヤ人の誇りとは何だ? 強さだ。

 

 王家の誇りとは何だ? 強さだ。

 

 今の俺は何だ? 弱い。

 

 このままでいいのか? ふざけるな!

 

 

 

 

 俺は王子だ。否、生き残りの中で正当な血筋が次代へ続いた今、俺こそがサイヤ人の王なのだ!!

 不甲斐ない、不甲斐ないぞ!! 自分の情けなさに反吐が出る!! このまま終わってたまるか。俺こそがナンバーワンなんだ!! 誇り高きサイヤ人の王、キングベジータともあろうものがこのままでいいはずがない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンっ、カカロットよ。貴様のスーパーサイヤ人とはそんなものか?」

「! ベジータ!?」

 

 未来からトランクスたちが来てから3年経った。奴らの予告通り人造人間とかいう奴らが現れ、先に遭遇したカカロットたちが戦っていた。といっても、勝負になりそうなのはカカロットとナメック星人の奴くらいだったがな。

 他の地球人の奴らじゃ勝負にならんだろう。見たところ、まだ最近のラディッツの方がましなくらいだぜ。……そのラディッツはどうやらここには居ないようだな。そういえば最近ハーベストと息子が何処へ行ったか知らないかと尋ねてきたとき以来会っていない。なんだ、嫁と息子に逃げられたか? 少しは認めてやったというのに情けないやつだぜ。

 

 カカロットがスーパーサイヤ人になり攻めの一手だったが、このまま倒されたらつまらん。

 

「こいつらには、この後の戦いに彩を与える前菜になってもらう。俺にも一匹よこしてもらおうか」

「戦うっておめぇ……」

「もちろん貴様とだ、カカロット! ククク……見るがいい、これが俺の……スーパーサイヤ人だ!!」

「な!?」

 

 

 体の奥から力の奔流がほとばしり、俺をスーパーサイヤ人へと変える。黄金の輝きが俺を包み込み、かつてないほどの高揚感が体中を満たした。

 

 

「そ、そんな馬鹿な……! な、なんであいつがス、スーパーサイヤ人に……! お、穏やかな心を持っていないとなれないんじゃなかったのか!?」

 

 ナメック星にも来ていたハゲチビが驚いているが、今の俺は気分がいい。どれ、説明でもしてやるか。

 

 

「穏やかだったさ……穏やかで純粋だった。混じりけのない誇り、そして悪。それこそが俺の心で最も穏やかだった感情だ」

 

 腑抜けた他のサイヤ人に無くて俺にあるもの、それがその2つだった。

 

「ただひたすら、強くなることを願った。そして情けない自分を認めるという屈辱をも乗り越え……ギリギリまで自分を追い詰めた時、限界にぶち当たった。そこで俺は静かに自分を見つめなおしたのさ……そして、自分の不甲斐なさに再度怒りに震えた。そうしたら、突然目覚めたんだ。スーパーサイヤ人にな!」

 

 おっと、俺としたことがベラベラと長くしゃべりすぎたようだ。これではどこかの三下のようだぜ。

 

「話はここまでだ。さて、俺の相手はどっちだ? ジジイか? デブか?」

 

 すっと前に出てきたのはデブの方だった。ククク……よかろう、貴様がカカロットを倒す前にいただく前菜だ!

 

 

 

 

 

「さあ、見るがいい! この新生ベジータの……サイヤ人の王、スーパーキングベジータの戦いをな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人造人間編「お、俺はまだ生きてるぜ……!」


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捻じ曲がる世界

 

 再び未来から過去へ訪れた僕とトランクスを待っていたのは、良い知らせと、悪い知らせ。そして不可解な知らせという、僕らを困惑させるには十分なものだった。

 

 

 

 良い知らせとは、喜ばしいことに2つ。

 

 まず何より、過去の悟飯さんからお母さんと赤ん坊の僕が無事に生きていると聞いたことだった。

 聞いたときは思わず地に膝をついて嗚咽を漏らしてしまった。……いい年して恥ずかしいなんて思わない。どうせ、以前もっとみっともなく泣いているのを見られてるんだから。この場に来ていないことに関しては特に疑問を感じなかった。きっと幼い僕の世話で忙しいのだろうとか、子供がいるんだからと仲間の人に止められたのだとか考えて。……けど、どうしてお父さんが居ないか、そこまで考えが至らなかった僕は相当浮かれていたらしい。

 もう一つは、悟空おじさんが薬のおかげで心臓病になることなく健康体で居てくれたこと。薬を渡したので心配はしていなかったけど、僕たちが来たことでもしかしたら未来にずれが出てくるかもしれないと心配していたのだ。たとえば、病気が発症する時期がずれて薬を飲み忘れるとか。聞けばお母さんのアドバイスで薬の成分を分析して、この時代のブルマさんが量産に成功したらしい。だから僕たちが持ってきた分が無くなっても、継続して飲んでいられたのだとか。

 たとえ未来が僕らが来たことで変わってしまったのだとしても、これはきっと良い変化なのだろう。

 だって、たくさんの命が助かった。お母さんや悟空おじさんだけでなく、きっとこの時代で悟空おじさんと同じ病で苦しんでいた人を助けられたんだ。ブルマさんは分析した薬の成分を医療機関に提供したと言っていたから……不治の病で苦しむ人が、僕たちが未来から来たおかげで助かったんだ!

 

 

 

 本当に、浮かれていた。傲慢なほどに。

 

 未来を捻じ曲げるということの恐ろしさも知らないで。

 

 

 そして不可解な知らせとは、おじさんたちが戦っていた相手が僕たちの知る人造人間と全く違う姿をしていたこと。初めて見るその人造人間に困惑したものの、2体の人造人間は僕らがおじさんたちと合流した時にはすでに倒されていた。倒したのは悟空おじさんとベジータおじさんで、何故かベジータおじさんが悟空おじさんと闘おうとしていて僕とトランクスで必死に止めた。

 

 後から来た若かりし日のブルマさんによれば、破壊された人造人間の片方は制作者であるドクター・ゲロ本人らしい。

 僕らが知る人造人間は17号、18号。倒された人造人間は19号、20号。この番号のずれに嫌な予感がした僕らは、ブルマさんにドクター・ゲロの研究所の場所を教えてもらいその場所を破壊してしまうため向かうこととなった。

 でもベジータおじさんはわざわざ起動してない可能性のある17号18号を呼び覚ましてまで俺が倒してやるみたいなこと言って先に行っちゃうし、悟空おじさんも「ずりぃぞベジータ!」って言って追いかけるし……2人とも自信満々なのは頼もしいんだけど、ちょっと不安だな。特にベジータおじさん。あまりにも人造人間の力を楽観視している。

 

 先に行ってしまったおじさん達を追いかけなければと、急かすトランクスに腕を引かれて僕たちも飛んで後を追った。

 けど、不安に感じる心以上に僕の心は幸福で満たされていた。未来を変えることが出来た。僕を産んでも、お母さんが生きている……それだけでも、過去に来た価値はあったのだと。そればかりに目を奪われて、今起きている恐るべき出来事への警戒心が緩み切っていた。現状を楽観視していたのは僕の方だ。

 

 そして深く考える間も無いまま、僕たちはドクター・ゲロの研究所に到着した。しかし、そこで待っていたのは恐ろしい悪夢だった。

 

 

 

「ぐあッ」

「くッ!?」

「あははっ、噂の孫悟空っていうのもたいしたことないねぇ」

「俺たちにかかればこんなものだろう。なあ、18号」

「それもそうね。でも、どうする? これで一応目標達成でしょ。これからどうしよっか」

「く、クソッタレ……! もう、勝った気でいやがるのか……!」

「へへ……こりゃあ、まいったぞ。今のオラ達じゃあ歯が立たねぇみてぇだ」

「何を情けないことを言ってやがるカカロットォッッ!!」

 

 僕たちの目の前では、スーパーサイヤ人となった悟空おじさんとベジータおじさんが17号と18号にいいようにあしらわられていた。否、人造人間の奴らも無傷ではない。破壊された研究所や周囲の崖を見れば激戦の跡は各所に窺えるが……それでも明らかに余裕があるのは人造人間達だ。

 この短時間で今の様子だとすると、やはりすでに17号と18号も起動していたのか……! 先の人造人間2体は、様子見の囮か何かか? いやしかし、片方はドクター・ゲロ本人……自らを試金石にするにはあまりにもリスクが高い。ならば、別の者の手によってついさっき起動したという可能性も考えられる。

 ま、まさかベジータおじさんが本当に自分で人造人間達と戦うために呼び覚ましたんじゃないよね……?

 

 唖然とする僕らの前で、なおも2人のスーパーサイヤ人が追い詰められる。だが、おじさん達を決定的に追い詰めているのは軽口を叩いている17号と18号だけではない。彼らの前に自ら進み出るようにして、大きな影が動いた。

 

「孫悟空を、殺す。それが俺の使命だ」

「16号、お前が孫悟空を殺すのか? だったら俺はベジータをもらおうかな。いいか?18号」

「好きにしなよ」

 

 緑の服をまとった大男が、無機質な声で告げた。そいつに比べれば感情豊かな17号の声と相まって、そのロボット然とした声がなんとも不気味に聞こえる。

 

「あ、あいつはいったい!?」

「また知らない奴が……! クッ、行こう空兄さん! 父さんたちを助けないと!」

「あ、ああ!」

 

 僕とトランクス、そしてピッコロさん、悟飯さん、クリリンさん、天津飯さん、餃子さん、ヤムチャさんが人造人間達にとびかかる。しかし数で攻めたところで悟空おじさん達が敵わなかった相手に敵うはずもなく、すぐに全員が地を這う事となった。唯一おじさんたちに一番実力の近いピッコロさんがしばらく持ちこたえてくれたおかげで、おじさん達を少し離れたところに移すことが出来たがそれもつかの間。すぐに彼もダメージを受けて地に膝をついてしまった。

 

 おかしい……気のせいでなければ、こいつら未来に居る人造人間より強い! 

 未来の奴ら相手なら、理性が飛ぶリスクをおかせば僕がスーパーサイヤ人化すれば足止めくらい出来た。奴らも僕に迂闊に近寄れなくなるから、逃げる時間くらい確保できたんだ。だというのに、ものの数秒も持たずにダメージで強制的にスーパーサイヤ人化を解かれてしまう始末。ピッコロさんがすんでのところで助けてくれなければ殺されていた。

 いったいどうなっている! 僕とトランクスが来たことだけで、こうも歴史とはねじ曲がってしまうものなのか!?

 

 

 戦士が倒れる中、ゲームをする感覚で僕らを追い詰める17号、18号と違って16号という奴は真っすぐ悟空おじさんを殺しにかかってきた。このままではまずい、せめてもう一度スーパーサイヤ人に……! そう思って悟空さんの前に飛び出した時、目の前にいた16号が消えて別の景色を見ていた。

 

「!?」

 

 周りを見回せば、僕と悟空おじさん、そして白い顔で小さい体をした人……餃子さんだけがさっきと別の場所にいた。

 

「い、今は逃げないとみんな殺される! 空龍は悟空を連れて先に逃げて! ボクは他の皆を迎えに行く!」

 

 そういうや否や、餃子さんはぱっと目の前から消えてしまった。テレポーテーションだ!

 かつて母が超能力の師と仰いでいた餃子さんが、僕らを逃がすためにとっさに動いてくれたのだ。多分、効果範囲が狭くて全員は無理だった。だからきっと一番先に殺されそうだった悟空さんを……。

 

 その後せっかく逃がしてもらえたのに「オラも瞬間移動で……」と戻ろうとした悟空さんを必死に止めていたら、遠目に人造人間達が飛び去るのが見えた。まさか全員殺されてしまったのか? そう青ざめて急いで戻れば、ちょうどクリリンさんがみんなに仙豆を食べさせているところだった。

 なんでも人造人間たちは目標である悟空さんがいなくなると、興ざめしたように攻撃をやめたらしい。それどころか、回復して腕をあげたらまた相手をしてやってもいいなどと言っていたそうだ。

 本当に奴らにとっては、ただの暇つぶしのゲームなんだ……悟空さんを探し出すのも一興とばかりに、戻ってきた餃子さんにも何も聞かなかったらしい。クリリンさん(なぜか頬を押さえてちょっと顔が赤くなっていた。殴られたのかな?)が奴らが去る前に目的を聞いたらしいが、世界征服だとかそういったものには興味が無いとはっきり言ったそうだ。だけどゲームでこの世界を引っ掻き回されるなんて冗談じゃない……!

 

 ベジータおじさんは怒りに体を震わせながらも「す、スーパーサイヤ人は天下無敵じゃなかったのか……! なんだ、さっきの無様なやられ方は……!! いや、違う! こんなものじゃない、俺はキングベジータだ! 敵がいくら強くても、俺は更にそれを超える!」と言って飛び去ってしまった。あれだけやられた後にあの向上心……思わず口を開けて見送ってしまった。「凄いね……トランクスのお父さん」と思わず言えば、悟空おじさんが「ベジータだけじゃねえさ」と言ってきた。彼も彼で「今のままじゃ勝てねぇ。オラももっと上を目指そうと思うんだ。……スーパーサイヤ人の上をな」と、驚くべきことを口にした。何て人たちだ……さっきの今で、少しも挫折せずに更なる高みを目指そうとするなんて。

 

 僕もトランクスも、そんな2人を見て覚悟を決めた。

 自分たちは何のためにこの世界に来た? 強くなって、未来の僕たちの世界の平和をつかみ取るためだ。

 

 せっかく「自分を産まないでほしい」なんて酷いお願いをした僕を叱って、ちゃんとこの世界で僕を産んで生きていてくれるお母さんに報いるためにも……僕らも強くならなければ。泣き言なんて言ってられない。

 未来より人造人間が強いなら、それを超えれば僕たちは確実に未来の奴らだって倒すことが出来る!

 

 

 そうして人造人間が悟空さんを探している間に、僕たちはさらに上のステージを目指して神様の神殿で修業することになった。

 

 

 

 けど僕らの決意を挫こうとするかのように、悪い知らせは留まることを知らないように次々と押し寄せてきた。

 

 まず人造人間に対抗するために、かつて分かたれた半身ともいうべき神様と同化を果たしたピッコロさん(この時点で僕らの力を大きく上回っていた)が地上で最悪の生物に出会ったのだ。

 そいつの名前は、セル。ドクター・ゲロの作り出したコンピューターが、戦闘の達人の細胞を集めて合成したという人造人間だ。そいつからはこの場にいる戦士すべての気を感じたらしい。……何故か餃子さんとお母さんの気は感じられなかったようだけど。

 そいつは未来からやってきたと言った。……それも、未来の僕とトランクスを殺してタイムマシンを奪ったうえで。もうこの時点でいかに歴史がねじ曲がっているかを痛感させられた。だって奴は僕らがまだ達成しても居ない、僕たちが17号18号を倒した未来からやって来たと言ったらしいのだ。

 しかも現時点でも強いのに、奴は17号と18号、人間の生態エキスを吸い取ってさらに強くなり、完全体となると宣言した。油断して逃がしてしまったことをピッコロさんは酷く悔いていたが、彼は奴から十分情報を引き出してくれたと思う。

 

 ますます、強くなる理由が増えた。

 

 

 

 焦りが加速する中だった。

 

 

 

 あとから「人造人間に間に合わずすまなかったな……」と言ってやって来た、この時代のお父さん。彼は酷く憔悴した様子で、どうしたのかと聞けばなんと数日前からこの時代の僕とお母さんの行方が分からないのだという。今までになかった事態に、人造人間の来る日も忘れて探し回っていたのだとか。そういう一途なところは僕の時代のお父さんと変わらないなと、思わず懐かしさと後悔で泣きそうになった。しかしそれを聞いて、僕たちは事態を深刻に受け止めた。

 

 このタイミングで、行方不明?

 目の前が真っ暗になった。嫌な予感しかしない。

 

 しかもそれに拍車をかけたのが、お父さんが最終的に頼った先での出来事。

 お母さんの占いの師匠「百発百中の失せ物探しの占いおババ」様が……殺害されていたのだ。生き残った透明人間の人の話によると、”緑色の化け物”におババ様も、他の戦士たちも殺されたらしい。

 

 

 

 何故だ、何故なんだ!! 何故こうも世界とは残酷なんだ!!!!

 

 

 僕らの夜明けは、未だ遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 



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★新生!ギニュー特戦隊の大冒険!

大冒険ってほど大冒険の描写は出来なかったけど、きっとカエル姿で思い浮かべてもらえれば難易度を脳内補完してもらえるはず(他力本願


「いったい何処に行ったんだ……空梨……空龍……」

 

 畑の傍らにある木の下でひどく憔悴した様子で座り込むラディッツ氏を見て、俺とジースが顔を見合わせた。

 

『いったいどうしたんでしょうね……』

『うむ、何やら深刻な様子。気になるな……ナッパ氏に聞いてみるか』

 

 

 

 

 この俺ギニューとジースがナメック星のカエルになってしまってから、早くも3年以上の月日が流れていた。初めこそ己の不幸を嘆き、死に物狂いで生き抜く日々だったがこのパオズ山に来てからは穏やかなものだ。たまに動物に襲われるが、悟飯殿かサイバイマン達のいずれかが助けてくれる。最近ではこの体でもなんとか戦えないものかと、サイバイマン氏に指導を願い、彼らの畑作業の合間に訓練してもらっている毎日だ。

 

 俺は今まで、自身の特性を生かして強い戦士の体に幾度となく入れ替わってきた。ナメック星でもそれを生かし敵と体を入れ替えようとしたのだが、何者かの邪魔によってカエルになってしまったのだ。

 一度は機転を利かせた部下グルドのおかげで、ジースの体へと入れ替わり戦うことが出来た。だが悔しくも力及ばず、負ける直前に苦肉の策で近くにいた俺と入れ替わったジースではないナメックカエルと再び体を入れ替えて生き延びたのだ。我ながら見苦しいが、あの時はそうするしかなかった。

 そして気づけば何故か地球という星に転移しており、そこからしばらくは正しく地獄だった。本来なら片手でひねる間もなく殺せるような野良犬や赤ん坊にもてあそばれ死にそうになったり、一緒に転移してきたメスのナメックカエルに交尾を迫られたり……今思い出しても身の毛がよだつ。

 そんな中、俺をその地獄から助け出してくれて、しかも死んだと思っていた部下ジース(カエルだったが)に引き合わせてくれた空梨殿はまさに天使だった。ジースは「奴は悪魔ですよ! 天使は悟飯と空龍です!」と言っていたが、俺にとっては恩人である。以前騙されたこともあったが、身を守るためのいじらしい嘘だと思えば可愛いものだ。パフェもうまかったしな。

 ジースと再会してからは、なんとか元の体に戻れないかと話し合いつつもなんだかんだでパオズ山での日々を楽しむ自分たちが居た。

 

 銀河に散らばる無数の星をこぼした夜の天幕、それが薄らぎ群青、薄紫、穏やかな紅が彩る明星のグラデーションに変わる空を見ながら一日を迎え、朝露で体を濡らす。生き生きと茂る青葉に身をひそめ、楽しそうに畑仕事にいそしむサイバイマン氏や孫一家を眺めながら部下と談笑もした。戦いの日々の中では話さなかったようなことも話し、部下の新しい一面を知る。

 畑仕事が一段落したところでそろそろと出ていけば、俺たちを見つけて嬉しそうな笑顔になった悟飯殿が食料をわけてくれる。自分たちですでに食事は済ませているのだが、その好意が嬉しくてご相伴にあずかった。つるつるとした体がお気に召しているのか、従兄弟の空龍と俺たちをそれぞれ手に乗せて撫でてくれもした。少しくすぐったいが、悪い気はしない。それを微笑ましそうに眺める双方の両親の慈愛に満ちたまなざしは、はるか昔の記憶を呼び覚ました。……俺の父と母は、いったいどんな人物だったろうかと最近柄にもなく考える。

 蒼天の真ん中に太陽が差し掛かり、影は移ろう。

 サイバイマン氏の仕事が一段落つくと、彼らに稽古をつけていただいた。最初こそ意思疎通が出来なかったが、彼らは話せないだけで知能はかなり高いようだ。俺たちのことを理解してくれる数少ない存在でもあり、ジースに続いて畑の新参者になった俺を快く迎え入れてくれた。いつ畑に危機が迫ってもいいようにと、畑を守るために独自の訓練も欠かさない尊敬に値する存在だ。中でもナッパ氏は面倒見がよく、俺たちや一番ドジなラディッシュの面倒を積極的に見てくれる。ナッピやナップはそれを面白そうに見ながらも自分に余裕があればかまってくるし、ナッペとナッポは物静かだが細やかな気配りが出来る。その彼らと交流するうちに、つい『俺たちと新生ギニュー特戦隊を結成しないか? い、いや、ナッパ特戦隊でも良いのだが……』と誘えば、思いのほか喜んで受け入れてくれた。これには俺とジースも喜び、こうして畑の片隅でこっそり「新生ギニュー特戦隊」は誕生したのだ。

 雲に紅と橙色の光が反射し、あれほど青く美しかった空が再び衣替えをする。まったく地球の空はオシャレさんだ。太陽がけぶるような影をまとった山の間に沈んでゆき、夜のとばりが下りてきた。夜風に吹かれながら、孫家の家から漏れるあかりと話声を横目に寝転がれば一面の銀河。ときおり流れ星という天体ショーまで見ることが出来る。

 

 

 

 ああ、なんと美しい星だ。

 

 

 

 フリーザ様への忠誠心を失ったわけでは無いが、この美しい星が侵略の憂き目にあわず済んだことに安堵している自分も居る、不思議な感覚だ。

 

 

 こうして俺とジースは地球での日々をそれなりに楽しんでいた。そんな中だった。

 ラディッツ氏が何やら焦って疲れ果てているのを見て、何事かとナッパ氏に問えばなんと妻子が行方不明だというではないか! たしかに最近姿を見かけなかったが……。

 

『ジースよ、これは我々の出番だとは思わんか』

『隊長? それはどういう……』

『我々で空梨殿と空龍を探し出すのだ!』

『ええ!? た、たしかにそうしたいのは山々ですが……今の俺たちはカエルなんですよ!?』

『しかし、最近空を飛べるくらいにはなっただろう。ナッパ氏達にも協力してもらえば不可能ではない』

『で、ですが……気とやらを探れるラディッツですら見つけられないのに、俺たちに見つけられるはずが……』

『そうだ。だから、俺たちはラディッツ氏とは別の切り口から探すのだ』

『別の?』

 

 そう、今の俺たちに出来る事が限られていることなど百も承知! ならば、出来る事をするのみだ。何もしないより百倍はましだろうからな。

 

『以前、空梨殿は「たまにはホテルのスイートとかでのんびりしたいな~」とおっしゃっていた』

『まさか、今回のことはただの家出だと言うんですか?』

『可能性は低いが、幸い彼女がどんな場所をチェックしていたかは多少なりとも分かっている。読んでいた雑誌を横から見ていたからな』

『さすがの記憶力です、隊長!』

『ふふん、よせ照れるじゃないか。なに、大したことではない。……ともあれ、そのホテルやら、あとスイーツバイキングやらの店を片っ端から探すのだ。協力してくれるか? ジースよ』

『何を水臭い事言ってるんですか! 俺たちは新生ギニュー特戦隊でしょう!? あったりまえですよ! なあお前たち!』

「「「「「「キキィーッ!」」」」」」

 

 ジースに応えるように、同じく話を聞いていたサイバイマンたちも声をあげる。うむ、頼もしい……頼もしいぞ、お前たち!

 

『では班編成と作戦を決める! そして最も重要なこともこの際だから決めてしまおう』

『もっとも重要……。!、ま、まさか!』

『そうだ』

 

 

 

 

 

『新生ギニュー特戦隊、スペシャルファイティングポーズだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺たちは空梨殿の行きそうな場所を片っ端からまわった。俺たちは小さいから車につぶされたり犬に追いかけられなければ問題ないが、サイバイマン達は目立つ。ので、こっそり悟飯殿の服を拝借して変装してもらった。頭部と目元も隠さなければならないので、なかなか怪しい出で立ちだが仕方がない。

 ホテルマンに見とがめられないよう、気配を消して片っ端から部屋を見て回った。高級ホテルのスイートから、リゾート施設のコテージ、有名スイーツのバイキング……しかし、やはりと言うべきか空梨殿と空龍は見つからない。やはり、今回の失踪はもっと事件性の高い物なのだろうか?

 

 諦めかけていた、その時だった。

 

 ついに2人を見つけたのだ! いや、しかし……。

 

 

『隊長、あの緑色の変な奴は誰でしょう……?』

『わからん。見た目からして地球人ぽくないから宇宙人だろうが……』

 

 困惑する俺たちの視線の先では、有名高級ホテル最上階ワンフロア貸し切りプール付きの超豪華スイートルームでお茶を飲む空梨氏と、空龍を抱えてこちらも見た目に反して優雅に紅茶をたしなむ……緑色の、なんだか変な奴。姿かたちは変だが、なかなか顔は整っているようだ。

 

 

 いったいどういうことだ!? 育児疲れでたまには贅沢な空間でゆっくりしたいというだけではなかったのか!?

 

『ま、まさか俺たちは不倫の現場を見ているのでは……』

『言うな。きっと、なにか事情があるに違いない。見ろ! ここ最近は控えていた空梨殿の好物である菓子の残骸が山積みだ! あれは相当ストレスを抱えているに違いない!』

『本当だ! しかもよく見れば凄い形相で相手をにらんでますね!』

『そうだ。きっとこの状況は不本意なもの……もしかすれば、空梨殿と空龍をさらって軟禁しているのは奴かもしれん。ここは慎重にいくぞ』

 

 伝説のスーパーサイヤ人を2人も拘束しておける奴がただものであるはずがない。まずはなんとかして、知られないように空梨殿にコンタクトを取らなければ!

 

 

 さあ、新生ギニュー特戦隊の初仕事だ。

 

 待っていろラディッツ氏! 貴君の妻子は我々が責任をもって送り届けてやるからな!

 

 

 

 

 

 




再び素晴らしいイラストを頂きました!贅沢…これぞ贅沢……!おかげで作者の心はいつもウハウハです。



【挿絵表示】
トライヤルさんからSS主人公とSS悟空を頂きました!なんと、めずらしい主人公の胴着姿です。そして悟空ですが、ボロボロのアンダーであるところにこだわりを感じますね!作者もボロボロアンダーの悟空は格好良くて大好きです!


【挿絵表示】
renDKさんから主人公のイメージイラストを頂きました!す、すっげぇもんもらっちまった……!何ですかこのふつくしいバランスは。しかもノーマル主人公は可愛く、SS主人公は格好良く描いてもらえるという贅沢っぷり。デフォルメ主人公もいい味出してます。そして何より注目すべきは衣装!悟空の胴着テイストとベジータの戦闘服テイストの手袋のコラボレーションとか最高なんですが!?


お二人とも素敵なイラストをありがとうございました!


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究極体細胞神

 僕たちが新たな脅威、セルの存在を知ってから色んな事があった。まず何を置いても強くなる必要があるということで、神様の神殿の”精神と時の部屋”という不思議な部屋で修業することになったんだ。

 

 セルの事を聞いたラディッツおじさんは、このタイミングで姿を消した空梨おばさんと従兄弟の空龍を心配して凄く取り乱していた。でも、無理もないと思う。だって空梨おばさんの占いのお師匠様……占いババ様が、緑色の化け物に殺されたというんだから!

 僕だってもちろん心配でたまらなかった。いろいろ変なところも多いけど昔からよく遊んでくれた大好きなおばさんと、弟みたいに可愛い空龍が……もしかしたら、もうその化け物の犠牲になってしまっているかもしれないんだから。

 

 でも、思いもしなかったところから2人の無事は知らされた。知らせてくれたのは、なんと僕の家の畑に住むカエルさんとサイバイマン! 彼らは何故かナッパくんだけ欠いた状態で、ボロボロになりながらも僕たちに空梨おばさんからの手紙を届けてくれたんだ。その内容に、僕たちはまたもや驚かされることになる。

 けど、とにかく今は強くならないといけない。それだけは変わらず、僕たちは手紙の通り空梨おばさんたちが無事であることを信じて修業することにした。中でも奥さんと子供が無事ながらも危機的状況にあるとわかったラディッツおじさんの気迫は凄まじかった。力だけなら僕の方が強いのに、見ていて怖いくらいに。

 それを見て居た未来の空龍さんの、泣きそうだけど嬉しそうな顔が印象的だった。

 

 

 

 

 定員が2人までの精神と時の部屋へは、まずベジータさんとトランクスさんが入った。

 

 その間にピッコロさんが人造人間と戦うことになったんだけど、その気を察知して例のセルがその場に来てしまったんだ! 今の実力では何も出来ないからと、僕たちは歯がゆくも精神と時の部屋の前でベジータさんたちのパワーアップを待った。……だけどその間にピッコロさんがやられてしまい、17号が吸収された。すると、セルの気は今までとは比べる間もなくパワーアップしたんだ! そこでお父さんが瞬間移動でピッコロさんと、ピッコロさんを助けに向かった天津飯さん、ヤムチャさんを救うために向かった。

 すでに餃子さんがひん死で海に落ちていたピッコロさんを回収してくれていたので、お父さんは「1日待ってろ! 必ずおめぇをコテンパンに倒してみせる!」とセルに宣言してすぐに神殿に帰ってくることが出来た。みんな無事で、本当に良かったと思う。

 ベジータさんとトランクスさんが部屋から出てくると、ベジータさんは自信満々に自分が倒してしまうから修業してもお前たちに出番はない! と言って、ブルマさんが持ってきてくれた新品の戦闘服に着替えるとすぐにセルを倒しに向かってしまった。もしそうなら、それはとてもいいことだと思う。でもなんだか不安に思ったのは僕だけかな……?

 僕と同じく不安に思ったのか、何もしないまま更に1日も待てないからと空龍さんがベジータさんと、その姿を追ったトランクスさんの更に後を追った。それを見たラディッツさんもみんなに止められながらも「息子が行くというのに俺だけ情けなく待っていろというのか!!」と振り切って行ってしまった。

 それで更に不安な気持ちは増してしまったけど、次は僕とお父さんの番。この修業が無駄になることを祈りつつ、僕たちは精神と時の部屋に入った。

 

 

 

 それからの出来事も目まぐるしい。

 

 

 

 精神と時の部屋でなんとか僕もスーパーサイヤ人になることが出来たけど、出て来たら事態は急変していた。なんと、セルが完全体になってしまっていたんだ! しかも、武道大会を開くからそれまでにせいぜい強くなれだなんて……か、完全に遊んでるんだ、あいつは。僕たちで。

 

 どうしてセルが完全体になってしまったのか聞こうとしたら、トランクスさんにはさっと目をそらされた。ラディッツおじさんはベジータさんを睨みつけていた。空龍さんはベジータさんを指さしながら「ベジータおじさんがやりました悟飯さん」と素直に教えてくれた。直後に「空龍貴様!」と怒られていたけど、空龍さんは「だってそうじゃないですか! おじさんの馬鹿! 自信過剰! おたんこなす!」と、もっと怒っていた。もっと言ってやればいいと思った。

 空龍さんはそうとう怒っていたらしく、僕たちの次にすぐに精神と時の部屋に入ろうとしたベジータさんを足払いで転がしたすきにラディッツおじさんを引っ張って部屋に入ってそのまま閉じこもってしまった。ベジータさんの怒鳴り声が煩かった。

 なんだろう。今まであんまり似ていると思ってなかったけれど、ああいうところ空梨おばさんにすごく似てるなぁ空龍さん……。

 

 

 僕とお父さんはお父さんの提案でもう精神と時の部屋を使わなくなったので、そのまま外で修業することになった。セルには勝てなさそうと言いながらも、どこか余裕そうなお父さんの内心が理解できずに僕はもやもやとした気持ちを抱えながら、セルゲームと題された武道大会まで残りの時間を過ごすことになる。

 でも嬉しいこともあった。なんと、デンデが新しい地球の神様として新ナメック星からやってきてくれたんだ! お父さんに連れられてデンデと、そしてデンデの護衛として新最長老様が一緒に来させてくれたネイルさんに再会できたのは本当に嬉しかった。

 デンデのおかげでピッコロさんが神様と同化したことで使えなくなっていた地球のドラゴンボールも復活した。その優秀さにピッコロさんとネイルさんが満足そうにデンデを見ていたけど、2人は本当によく似ているから兄弟みたいでなんだか面白かった。

 

 

 

 そして迎えた武道大会当日。

 

 

 

 様々な戦いを経て、僕はお父さんが期待していた怒りによる覚醒でスーパーサイヤ人を超えた存在になった。それまでに、本当にいろいろあったけど……それでも、これでセルを倒せると思った。けど、僕は覚醒による影響か酷く慢心しきっていた。

 もっと、もっとあいつを追い詰めていたぶってから倒してやりたい。今思えば、これが空龍さんがずっと制御しようとしていたサイヤ人としての凶暴性の表れだったんだろう。僕はあんなに苦労して、スーパーサイヤ人状態を文字通り血を吐きながら制御に至った空龍さんを見ていたのに……力に溺れてしまった。

 

 

 その結果、僕はセルを追い詰めすぎた。奴は最後の手段として、地球ごと爆発する手段に出たんだ!

 

 そして……そして、それを阻止しようとお父さんがセルごと瞬間移動して……死んでしまった。遠く離れたどこかで、お父さんの大きくて温かかった……気が消えた。

 

 

 けどそれを嘆く間もなく、再びセルは現れた。しかも18号を欠いたというのに、完全体となった状態で。

 死の淵から蘇れば強くなるというサイヤ人の特性と、ピッコロさんの再生能力を併せ持った細胞がそれをさせてしまったんだ。今度は僕でも歯が立たず、こちらが完全に追い詰められてしまった。

 

 空梨おばさんが手紙で教えてくれた最終手段も、お父さんが居なくなってしまった今……たとえ以前拒否したベジータさんが手を貸してくれたとしても不可能だ。さっきセルが復活した時に放たれた一撃でトランクスさんもやられてしまったし、苦肉の策として赤ちゃんトランクスを連れてこようにも、数も時間も間に合わないだろう。

 それにもともと成功するかも分からない。おばさんも「サイヤ人の古文書に書かれていた」と手紙に書いていたし、実際見たことは無いんだと思う。そんな方法を、この土壇場で試せなかった。

 

 でも諦めるわけにはいかない。死んだお父さんや、トランクスさんのためにも!

 

 必死で僕を守ろうと空龍さんやラディッツおじさん、ピッコロさん達もセルにとびかかってくれたけど、容易く一蹴されてしまった。このままでは、みんな殺される。駄目でも、無理でも、僕がやるしかないんだ!!

 そんな時、どこからか「そうだ、諦めるな悟飯!」とお父さんの声が聞こえた。界王様の力を借りて、あの世から呼びかけてくれたんだ。

 

 そのお父さんの声に励まされ、セルが地球ごと滅ぼそうと放ったかめはめ波に僕も片腕ながら(もう片方はベジータさんをかばって使えなくなってしまった)かめはめ波を放って抵抗した。最初はダメかと思ったけど……あの世のお父さんが力を貸してくれたのと、ベジータさんが最後の力を振り絞って気弾でセルの注意を一瞬そらしてくれたことで、僕のかめはめ波の威力がセルに打ち勝った!!

 

 

 今度こそ勝てると、そう思った。

 だけどそれは無慈悲に横殴りに押し寄せた"もうひとつのかめはめ波”によって……可能性は、無に帰した。

 

 

 呆然としながらも、その姿を目にして理解した。

 

 おばさんが手紙で教えてくれた、奴が来たんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「な!?」

「い、今のかめはめ波は……!」

 

 驚く外野を愉快に思いつつも、私は目の前にいる”もう一人の私”に尾を突き刺した。何者かの介入によって死を免れ安堵していたそいつは隙だらけで、とても簡単な作業だったさ。

 

「な、あ゛!?」

 

 ひきつった顔がこちらを振り向く。やれやれ……仕方のないことだが、自分と同じ顔が無様にひきつる様は見苦しいな。

 そいつは私の姿を見とがめると、限界まで目を見開いた。

 

「わ、わ゛だし……!?」

「ああ、そうだとも。哀れなもう一人の私よ」

「セルが、2人……!」

 

 孫悟飯らが驚いているが、思っていたよりその驚き方が少ないな。もっと派手に驚いてくれて構わんのだが? その方が私も愉快というものだ。

 自らに満たされていく完全体の私の力に高揚感を得て、私は思ったことをそのままに告げた。

 

「どうした? もっと素晴らしいリアクションを期待していたというのに、随分と控えめじゃあないか。もっと驚いてくれて構わんのだよ諸君!」

「貴様、貴様はいったい……!」

「ふむ、驚いてほしいのはお前ではないのだがね……。まあいい。今の私は気分が良いから、どうせ同化してしまう私にも親切に教えてやろう」

 

 抵抗する間もなく力を奪いつくしたのでもう一人の私はすでに残骸だが、意識だけは残っている。完全に吸収しつくす前に、同じセルとしての情けだ。種明かしをしてやろう。

 

「単純な話だ。君は私に”餌”として育てられていただけの存在ということさ。私が神の域に至るための供物。光栄だろう?」

「何を、い゛っでいる゛んだッ」

「はははっ、必死だな。もうすぐ死ぬというのに理由をちゃんと理解したいか。なあに、初めから君の生は茶番だったという事さ。初めから教えてやるが、そもそも君の"未来から来たセル"という認識自体が間違いだ。それは私に植え付けられた記憶……君は、未来からタイムマシンに乗ってきてなどいない。この時代の、本来なら未完成であるはずの”幼体セル”だ!」

 

 私のその言葉に、訳が分からないと言ったように私が……ややこしいな。幼体では今はふさわしくないし、プロトセルとでも便宜上呼ぶとしよう。こんな者でも私の原点だからな。プロトセルが言葉を失い、口をパクパクさせている。まったく、私と同じ顔でその間抜けな表情はやめたまえ。

 

「私こそが未来から来たセルなのだよ……まあ、私はこの時代に来た時点ですでに完全体だったがね」

「まざが、ぞんな゛はずば、ないッ、コンビューダーはぁっ、この時代ではわだじを完成させるごどが、でぎない、はず!!」

「だから言っただろう? 餌として育てたと。君が成体になるためのパワーを分け与えたのも私。未来の記憶を与えたのも私。つまり君は生まれた時点で私の手のひらの上で踊らされていたというわけだ。ついでに17号と18号だが、目覚める前にこちらにも私のエネルギーをわずかだが与えた。君にとっても最高の餌だったはずだが、お気に召したかね? ククク……この時代ではドクター・ゲロはさっさと殺されたようだから、親切にも起動までしてさしあげたのだから感謝してほしいくらいだ。だが、君はそんな私の苦労に報いてくれた。よく完全体まで育ってくれたな! 感謝するぞプロトセルよ。これで私は究極体になることが出来るのだ!!」

 

 おっと、ぺらぺらとしゃべりすぎたかな? 調子に乗ってしゃべりすぎるのは誰の細胞の影響か。……まあ、だいたい予想出来るが。

 

「クソッ、ぐぞぉ! こんなごど、あっでいいはずが……!」

「気は済んだだろう? そろそろ黙りたまえ……ああ、そうそう。せっかくだから最後に教えてやろう。君は自分がパーフェクトだと思っていただろう。しかし、宇宙にはさらに上がいるのだよ……正直、サイヤ人などすでに眼中にないのだ。恐るべき魔人に、破壊神。それらに相対するにふさわしい自分を、私はこれから手に入れる」

 

 言うや否や、私は一気にプロトセルを吸収した。

 その瞬間、爆発的に細胞全てが書き換わっていくのを実感する。やはり、私の考えは間違っていなかった! もう一人の完璧な私を吸収することで、力は二倍どころか二乗、いや、さらに上を行く!!!!

 

 

 

「はーっははははははははははははははは!!!! やったぞ! 私は無敵の力を手に入れたのだーーー!!」

 

 

 

「あ、悪夢だ……! 今までだって勝てなかったのに、何だよあの気は!?」

「終わったのか……地球は……」

 

 そうだ、その顔が見たかった。絶望に引きつり、諦観で染まり切ったその顔が!

 私は膝をつく戦士たちを見て愉快な気持ちでいっぱいになった。

 

「この神にも等しき究極の生命体の誕生に居合わせたこと、光栄に思うがいい。そうだな。ここはひとつ、すぐにスーパーだなんだと名前をつけたがるお前たちのセンスに合わせて私も一つ名乗ろうか」

 

 私は心なしか神秘的とすらいえるオーラをまとった体を見下ろし、その名を決めた。

 

 

 

 

「神に等しき究極の細胞生命体……アルティメットセルゴッド、ってところかな?」

 

 

 

 

 

「黙れ!」

「む?」

 

 

 気持ちよく口上を述べたというのに、無粋にも黙れと言われた。それを発したのは満身創痍極まりないあの女の息子、孫空龍だ。

 

「貴様の考えなど、こっちはとうに知っているんだ! 結局もう一人のセルを倒すのは間に合わなかったが……!」

「なんだと?」

 

 思いがけぬ言葉に私は気分に水を差され、不快感で顔をゆがませる。私の計画が知られていた? たしかに失踪した空梨の居場所を探されると面倒なので占い師のババアを殺すなど多少暗躍はしたが、私の計画を話した唯一の相手である当の空梨は終始こちらの手の中。先ほどまで一緒にいたのだから、ばれるはずが……ああ、そういえば。

 

「そういえば、妙な生物とカエルが忍び込んでいたな。まさかあれかね? 目障りだったから掃除したつもりだったが、生きていたのか。それ以前に奴らにそんな知能があったとは驚きだ」

「黙れ! 彼らは、命がけで僕たちにお母さんのことを伝えてくれたんだ! そして、貴様を倒す算段はすでに整っている!」

「倒す、だと? 聞き間違いかな……とても面白い事を言っているように聞こえるが」

「違う……聞き間違いなんかじゃない!」

 

 今度は孫悟飯か。孫一家は往生際が悪いな。

 

「ベジータさん、今度は協力しないなんていいませんよね? やりますよ、例の奴を!」

「ぐ……! だが、人数が足りんぞ」

「やらないよりましです!」

「そうだ。このままでは終われん!!」

 

 なにやらサイヤ人たちが集まってきたな。いったい何をするつもりだ? こんなことは”あの日記”には書かれていなかったはずだが……。

 

 

「まあいい、これも余興だ。何でもいいからやってみせてくれたまえ」

「言ってろ!」

「ベースは悟飯だ。文句は言わせんぞベジータ。トランクスの仇をうつんだろう!?」

「……チッ」

 

 奴らは手をつなぐと、孫悟飯の背中に手を当てエネルギーを与え始めた。なんだ、私の真似事か、それとも楽しい楽しいお遊戯か?

 

 

 

 

 

「見せてやる……お前みたいなまがい物じゃない。サイヤ人の神の力を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




完全体の次は究極体だぜ!(デジモン脳)とか思ってたら、感想欄ですでに予測されていた方が居たでござる(´・ω・`)当たった方にはコングラッチレーションの言葉を贈りましょう!でも悔しいので神まで盛りました(安直
※勝手に予想される前に書けるかなぁとタイムトライアル気分なだけだったので、冗談交じりの負け惜しみです。感想欄での展開予想とかも凄く嬉しいので、よければまた書いてやってください。


次はようやく日記に戻れそうです。セル編の総まとめ回になればいいなぁ。
頂いたイラストも次で掲載させていただく予定です。


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★25ページ目 虫野郎来訪~誰か助けろください

 

 

 

Ы月◎日 続き

 

 

 

 

 

 とりあえず家の前に居るのがセルだと認識した時点で逆方向にダッシュしようとしたら、気づいたら空龍が腕の中から消えていた。まさかと振り返れば、空龍が楽しそうな笑い声をあげてセルに向かって突撃していたという絶望。

 ちょ、おま、自ら!? と混乱した私だったが、そういえばこの子人間より化け物寄りの人たちが好きだったと思い出した。まさか幼いころからサイバイマンやらミイラ先輩方に慣れていた弊害がこんなところで出るとは……! 違う、空龍。そいつはいつもの愉快な遊び相手じゃない! しかも「みどりのごきぶりさん」とか言うのやめろ! セルさんは脱皮とか考えるとセミだろ! いやたしかに私もちょっと思った事あるけど失礼だろヤメロ!! 生きた心地がしなかった。

 

 しかし自ら腕に飛び込んできた空龍をセルさん(完全体)が離すわけもなく、私は彼の「少し話したいがいいかね?」という申し出を受けるしかなかった。だからちらちらと尻尾を空龍の近くにちらつかせるのをやめてほしい。

 そして渋々何故この場に居るのか分からないセルを家に入れると、奴は聞いてもいないのに朗々と自分の身の上話を得意げに話し始めた。

 

 

 

 まとめるとこんな感じだ。

 

 

・自分は未来から来た。

 聞いたところによると、培養器から目覚めた直後に大きな気を感じて本能に従ってそこへと赴いたらしい。そこには過去から戻り、人造人間を倒す前の最終調整をしていた空龍とトランクスが。

 敵う相手ではないと悟ったセルは隙をついて空龍を吸収、パワーアップした力でトランクスを殺害したとのこと。その後未だ健在だった17号と18号を吸収し完全体に。

 そして人類を恐怖に陥れながらも、張り合う相手が居ないことにだんだんと退屈し始めるセル。人類もほぼ殺しつくし、当面の目的もなくなってしまったセルは暇だった。そこで何か暇つぶしになるヒントは無いかと、吸収した者や過去のデータの中から記憶をあさる作業を始めたのだという。そして奴は吸収した空龍の記憶の中でひとつ引っかかるものを見つけた。それが私の日記である。空龍が私の形見としてもっていた日記……つまり空龍が以前来た時私も読ませてもらった未来の私の日記だ。セルは過去に戻った空龍と私がそれを読んでいる記憶を引っ張り出し、日記がなにかしらのデータ媒体であると気づいたらしい。

 

・幸い(私にとっては不幸なことに)日記は空龍と一緒に吸収されることなく、地下にあった空龍たちの潜伏場所に転がっていたらしい。わざわざ1年以上かけて探し出したと聞いた時はその執念に引いた。そんなに暇だったのか。

 日記のロックを解いたセル(やっかいなことにこいつ役に立ちそうだからとブルマまで吸収していた)は、その中にあった記録に興味を持った。「くだらない妄言ばかりで読むのに苦労した」とのたまう緑ゴキブリに若干の殺意を覚えながらも黙って聞いていた私偉い。いや、怒ったところで空龍が人質にとられているし強さではかなわないだろうし無駄だろうけど。

 その記録の中には、私のかきっ散らかした原作知識の数々。しかも死ぬ直前まで思い出せる限りの原作との違いまでご丁寧に書いてある始末。

 セルはそれをすぐに信じたわけではなかったようだが、その中でセルが居る未来より更に先に起こりうる可能性として書かれていた「魔人ブウ」や「破壊神ビルス」の記述に一気に興味がわいたようだ。

 自分より強い相手が現れる。日記の信ぴょう性よりも興味が勝った瞬間である。

 

・目的もないし暇! じゃあいっちょ過去に行ってみるかとタイムマシンで過去にログインした未来セル。まずは日記を書いた本人に会ってみようと私に会いに来た←イマココ

 

 

 

 以上である。マジか。ちょ、マジか。え、この日記そんな厄呼び込んだの? っていうか暇だからって時間旅行してくんなよ暇か! いやそうか暇だから来たんだったな……。

 

 あと、戦闘の達人のデータを集めたはずの自分の中に私と私の師である餃子師範の細胞データが無いからそれで興味がわいたのもあったんだと。それが何でかは私も知らないと答えたけど、ちょっと考えたら思い当たるふしが一つ。

 そういえばナメック星行くとき超能力で宇宙船狂いかけたような……もしかして、超能力に機械関係って弱い? スパイロボット、知らないうちに撃墜してた? だとしたらまさかのミラクル。今でさえヤバいセルに餃子師範の超能力まで加わったらなんて考えるとぞっとする。

 

 

 

 

 長々と身の上話を聞いた後だが、私が自分で何か話すまでもなく裏付けを取られてしまった。何されたって、最長老様と同化したピッコロさんの細胞を使って記憶を読まれたんだよ。最長老様の時と違って知りたい記憶がどれかはっきりしてるからか、セルが求める情報は全て暴かれた。

 まさかの原作知識暴露第一号がボスとか死ねる。

 

 

 そして更なる強敵が来る可能性がはっきりしてきてワクドキなセルさん。でも、それだと今の自分じゃ勝てないことも分かってしまったらしい。そこからセルさんによる現代ショタセルさんの光源氏計画が始まった。冗談めかして書いている場合じゃないが、こうでもしないと正気を保てそうになかった。なんだよそのクソゲーみたいなハードモード。馬鹿か。なんだよ、完璧な私を育てて取り込んで究極の私になるって。馬鹿か。え、そしたらお前消えるんとちゃう? 原型のお前いなくなるけど? え、分岐した世界は固定化されるみたいだから今の自分が居る分にはこの世界はもう別の世界だから問題ない? わっかんねーよ! 分かるように言えよ! こちとらタイムパラドックスやらなんやら頭痛いことまで考える余裕ねーんだよ!!

 要するにたとえばこの世界で以前空龍にお願いされたように私が空龍を産まなかったとしても、未来の空龍が消えるわけじゃないという理屈と同じことらしい。この辺本当に意味わからないが、セルが私に説明するのを途中放棄したためこれで納得するしかなかった。馬鹿で悪かったなクソッタレ!!

 

 

 記憶も取られたし、説明を聞いた後は殺されるかと身構えたが何故だか「しばらく付き合ってもらおうか」と拉致られそうになった。なので、どうせ軟禁されるならと私は「居心地のいい場所がいい! 子供もいるしこれは譲れない」と主張。セルだってどうせなら殺風景な荒野なんかより居心地のいい場所のが好きなはずだ。色んな人間の細胞を使ってるんだし、そういう気持ちが無いわけじゃないはず。最初本人否定してたけど、後々優雅にくつろいでいる姿を見ればまんざらでもなかったんだろう。

 そしてしつこく食い下がった結果了承を得ると、大枚はたいていつか泊まってみたいと憧れていた高級ホテルの最上階ワンフロアスイートをあらゆるコネをつかって確保した。ちなみに大金を使ったことがばれるとラディッツに申し訳ないのでついコネを使った相手に「私がここに居ることは黙っていてくれ」と言ってしまい後で後悔した。この時助けを求めていれば何か変わっただろうに……一時の保身に走った結果がこれだよ。いや、どっちにしろピッコロさん譲りの聞き耳立ててたセルがやりとり聞いてたから無理か……このハイスペック昆虫どうしてくれよう。

 

 

 そして私は今、セルの真正面で死んだ目で日記をぽちぽち打っている。セルは存外楽しそうに空龍をあやしながら優雅に足を組んでいる。けど私がちらっとでも見ると空龍のそばに吸収用の尻尾をちらつかせる。ガッテム。くそっ、この日記が未来から厄を呼び込んだと分かってはいるが、もうこれは私の心の安定剤と化している。書いて頭の中を整理するしか今の私に出来る事が無い。無事に帰還出来たら、ブルマに頼んで私が死んだら日記が自爆する機能でもつけてもらおうか。

 

 日記を書くだけでは建設的ではない。ついでだから「これからどうするのか、なんで私たちを捕まえたのか」とダメもとで聞いてみた。親切に教えてくれるセルさんマジ紳士だわー。はっはっはクソが。

 

 

 

 なんでも、セルが推測するところによれば私はいわゆる「特異点化」しているのでは、とのこと。

 なんぞそれ、マンガかアニメでしか聞いたことないから分かりやすい説明はよと、すでに恥も外聞もなく訊ねれば呆れながらもセルは答えてくれた。意外に律儀である。

 簡単に言うと正しい歴史の流れが存在するが、そこに私という異物が放り込まれたことでそれがねじ曲がり予測不可能な流れへ変わってゆくらしい。例としては、今まで大きく変わることがなかった悟空の冒険や戦いが私が介入したことでナメック星で大きな違いを産んだことが挙げられる。自分がそんなたいそうなものであるとは思えないが、今までの数々のバタフライエフェクトを思い出すと否定も出来ない。

 いや、いらねーよそんな特異体質。そもそも何をもって正しい歴史とするのかもわからないんだけど。やっぱりこの場合原作のことだろうか?

 

 しかしもしそうだとすれば、私が知る原作知識のようにこの時代のセルが完全体になるか分からないらしい。私を殺したら殺したでそれがどんな影響をもたらすかも分からないし、安全策としてこの時代のセルが完全体になるまで私を生かしたまま原作から完全に排除してしまおう、というのがセルの目論見らしいのだ。言おうか言うまいか迷ったが、そんなまどろっこしいことしなくてもお前が今すぐ17号と18号を現代セルに吸収させて完全体作ってしまえばいいんじゃん? と聞けば、それではつまらないというまさかの答えが返ってきた。

 

 このセル、原作の流れと私の記憶の整合性を確かめるためもあってか完全に物見気分で傍観する気満々である。どこまで暇つぶしに全力なんだコイツ。そんなに戦う相手が居なくなった未来は暇だったか。私の息子と甥っ子を殺してつかみ取った世界にずいぶん失礼じゃないかこの虫野郎。

 

 

 

 あと、占いで遠見が出来る事も知られたから原作を追うテレビ代わりにされるっぽい。おい……おい……私の存在っていったい……。

 

 空龍が人質の今、下手に動けないし都合よく誰か助けに来てくれないものか。行方不明になったらきっとラディッツが真っ先に探してくれるだろうけど、でもラディッツじゃセルに勝てないしな……。どうしよう、現状詰んだかもしれない。

 せめて占いババ様が私を占いで見つけて状況を把握してくれればワンチャンあるか? とにかく、今は他力本願するしか無いのか……ツライ。

 

 

 

 疲れた……今日はもう寝よう。もう全部明日考えよう。きっと明日、よく寝て起きてからホテルのルームサービスでスイーツ全部頼んで食べれば脳がもっと働いてくれるはず。糖分、糖分が必要なのだ今の私には。

 

 

 

 ああ、そうそう。ずっと空龍人質にとってるんだったら責任もってトイレ行かせてお風呂入れてご飯食べさせろよな虫野郎と投げやりに言ったら、変なものでも飲み込んだ顔されてから「……まあいいだろう」と了承された。チッ、ここで面倒がって空龍を返してくれればまだ逃げるチャンスもあったものを。

 

 でもちゃんと空龍の面倒を見るセルを見て、虫野郎は案外いいやつかもしれないと一瞬でも思った私の脳みそはそろそろ駄目だと思った。

 

 疲れた。

 

 

 

 

 

 

(日記は翌日に続いている)

 




セル編まとめ終わらなかった……!続きます。


またまた頂いた素敵イラストの数々に、脳汁出過ぎてそろそろ一回死ぬかもしれない。良い人生だった……。


【挿絵表示】
renDKさんから再び主人公のイメージイラストを頂きました!スーパーサイヤ人ver全身とノーマルverアップになっております。本編での参戦と言えば壁にしかなっていないというのに、主人公が超強そう。そして亀仙人様と18号さん、マーロンちゃんまで居るという豪華っぷりに至福の一言。本編ではあまり亀仙人様と接点ないけど、こんなシーンがあってもおかしくないかもしれません。


だつりょくさんから主人公の幼少期2枚、二十日大根春の芽生えあたりの主人公1枚をカラーで描いていただくという驚異の贅沢三昧セットを頂きました!

【挿絵表示】
幼少期1。主人公が生意気可愛い(褒め言葉)そして注目すべきは若ナッパさんとちびっこ2人である。この3人が昔とはいえ心臓わしづかみの愛らしさなんてどういうこと!?

【挿絵表示】
幼少期2。可愛く描いてもらった主人公の愛らしさが留まるところを知らないのはもちろん、各所に本編の小ネタをたくさん散りばめてもらってあって凄く嬉しい1枚。ちゃんと日記もぽちぽちしてます。

【挿絵表示】
主人公のツンとデレの奇跡のイラスト化。え、これあの三十路?苦行に耐えてラブコメ描いてよかったと拳を握り締めました。デフォルメ主人公がまた可愛いのなんのって……!



お二方とも、本当にありがとうございました!これを励みに頑張ります。







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26ページ目 セル編裏側実況24時その1~さらばナッパ!また逢う日まで

◇日Л日

 

 数日経ったがまるで状況が好転する気配はない。

 それどころかセルは一回だけ寝てる空龍を連れて所用だとかで外に出たが、その後は「セルゲーム終盤までここで様子を見守るぞ」などと言って私を絶望させた。つまり数日か数週間、私はこいつとホテルに缶詰めということだ。

 何その罰ゲーム。私ホテルのスイートでくつろぐ妙に顔の良いイケボの虫人間というシュールな光景をずっと見続けなくちゃいけないの? 気が狂うわ!

 

 でもって私はテレビ係だと。まったく、こんな時のためにババ様に占いを習ってきたんじゃないというのに……。

 罪悪感にかられながらも、言われるままに水晶玉に皆の様子を映しだした。仕方がない状況とはいえ、友人や家族を売っているようで非常に心苦しい。

 

 そして私はすぐに水晶玉を叩き割りたくなった。

 

 人造人間と戦う時、何を思ったかスーパーサイヤ人になれて浮かれちゃったのかベジータの奴が「スーパーキングベジータ」とか名乗り出したのだ。いや、いいんだよ? 血筋的に王を名乗っても全然いいんだよ? だけどなんで英語に訳してくっつけた貴様。お父様みたくベジータ王じゃいかんかったのか。いい年して親への反抗のつもりか、反骨精神か何かか。

 それに対して普段ならまず笑い転げて腹筋に重大なダメージを負うのだが、この時ばかりは違った。

 

 セルの憐れむような視線が痛い。

 

 何だ、何をそんなに憐れむ! あいつは弟ってだけで私には関係ないのに、そのネーミングセンスに酷いとばっちりをくらった気分だった。ちなみに空龍は「おじちゃ、かこいい!」と大興奮だった。息子の将来が少し心配になった。

 

 

 

 

 

◎月▲日

 

 

 今日も今日とて、水晶球で私たちを探し回って憔悴していくラディッツを見て凄く申し訳ない気分になった。ここ数日寝ていないしろくに食事もとっていないようだけど、大丈夫だろうか。心配だけどそれだけ私と空龍を大切に思ってくれているのは素直に嬉しい。もし無事に帰れたら(いや絶対無事に帰るけど)何でも我儘聞いてあげたいし世話焼いてあげたいと思った。

 今は不本意な理由で高級ホテルなんて泊まってるけど、今度南の国へ家族でバカンスにでも行こうかな。ブルマにおすすめのリゾート地を聞いておこう。

 

 ちなみに空龍だが、流石にずっとセルが抱えてる状態だとぐずりだした。

 しかもこの子はその身に伝説を宿すスーパー赤ちゃんなので、超化してぐずりだすとセルでも無傷でなだめるのは難しくなったようだ。かといって手を出されでもしたら、危険を冒してでも私が黙ってはいない。セルもそれは面倒だと思ったのか、すぐ近くに尻尾を待機されて脅されているもののやっと空龍を私の腕の中に返してくれた。未だ逃げる算段は整っていないが、凄く安心した。数日ぶりの息子の体温である。ちょっと涙ぐんだ。

 

 

 だけど私は怖い。今は戻ってきたとはいえ、ここ数日完璧に空龍の機嫌を取って手懐けていたセルが。

 

 あれ、このセルって一つの未来世界滅ぼしてきたんだよね? なんでこんな手慣れてるんだよ。逆に怖いわ!

 

 

 

 

 

▲月◎日

 

 

 今日はまさかのスーパーヒーロー登場であった。なんと、私を探してサイバイマンとナメックカエル達がここまでやって来てくれたのだ!

 

 こっそり私の日記に近づいて「私だ、ギニューだ」と文字を打ってきた時は驚いた。いや、うすうす感づいてはいたけど……ギニュー隊長でしたか、カエルの中身は。ちなみにもう一匹はなんとジースくんだった。え、何で?

 幸い私が食い散らかしたケーキのアルミやらセロファンの山に隠れているうえにカエルの持つ気が小さいのでセルが気づいた様子は無かった。奴は向かいのソファーで横になってポテチをつまみながら水晶玉で悟空たちの様子を見ている。一回だけツッコミたいがいいか。昼下がりの主婦か夏休みの学生かお前コラ虫野郎。足組んでたお前は何処行ったよ。

 

 

 

 まさか本当に恩返し的な行いをしてくれるとは思わず、彼らの行動には感動した。だけど今の隊長達では私と空龍をここから連れ出すのは不可能だろう……そう思い、私はセル対策を手紙にしたためて隊長らに託すことにした。

 

 多分セルの計画が成功すれば、現時点の悟空たちではどんな手を使っても敵わないだろう。だが、ひとつだけ一発逆転の裏技があるのだ。

 

 正直私がこれを思い出したのは、セルが未来の私の日記からビルス様の記述を引っ張り出した時である。日記にはビルス様がいかに凄いかヤバいかだけは書いてあったのだが、物語上それに対になるはずの存在の記録が書かれていなかった。

 そう、あれだ……新作アニメと映画で新たに出現したサイヤ人の可能性、スーパーサイヤ人ゴッドだ。これについては言い訳しようもないのだが、完全に私が書くの忘れてた。幼い頃の私ときたらどこまで現在の私の期待を裏切ってくれるんだ……いや、今回に限ってはセルにゴッドを知られなくて助かったけど。

 多分昔はこんなに原作とお友達展開になってるとは思わなかったんだろうな……もしも昔の私と今の私が出会ったら、間違いなく「そおいッ!!」って投げ飛ばされるわ。何やってんだお前って。そして私も投げ飛ばすわ。好きでこうなったんじゃないって。

 今回思い出せたのは奇跡に近い。多分追い詰められて、記憶のふたが吹っ飛んだんだろう。

 

 で、とにかく急いでいたから箇条書きでささっと手紙を書いた。内容は「未来から来たセルがもう一体居て、現代のセルと合体狙ってんぞ! 今理由あって捕まってるがとりま命の危険は無し! 空龍も一緒、元気! 合体前にそっちの一匹の方を倒せ! もう一匹はそれからだ! いいな出来るなら絶対完全体にすんなよ! 特にベジータ見張っとけ! 絶対馬鹿やるから! 絶対だぞ! あと万が一合体した場合の対策だが、ほぼ無理ゲーだから裏技ひとつ教えるな! 私も昔惑星ベジータの古文書っぽい何かで読んだだけだけど、なんとサイヤ人には協力形態が存在する! 正しい心を持ったサイヤ人が5人、手をつないで1人のサイヤ人に力を注ぎ込むとサイヤ人の神が誕生するのだ! その名もスーパーサイヤ人ゴッド! 最終手段な上に正しい心の基準が分からないし人数必要だから注意な!」とかこんな感じだ。やっつけ仕事感が半端ないが、まあいいだろう。伝えるべきことは書いた。

 

 

 だが、ここでまさかの事態発生。

 

 陰に隠れていたドジっ子ラディッシュがこけて出てきやがった! らでぃっしゅぅぅぅぅっぅ! おま、ドジだと思ってはいたけど、まさかそこまで!?

 

 

 一気に部屋が緊迫感に包まれたよね。でもって止める間もなくセルが器用に部屋に被害が出ない程度の気弾でサイバイマンたちを攻撃し始めた。だが驚くべきことに、ラディッシュを庇ったナッパの防御力が凄まじかった。なんと手加減されていたとはいえ、セルの攻撃に耐えたのだ! こいつ、最早戦闘力2400どころじゃないな……いつの間に成長していたんだ。

 思わず呆然としたまま見守ってしまったが、なんとナッパが「自分はいいから逃げろ!」とばかりに仲間を背に庇いセルの前に両手を広げて立ちはだかったのだ。これには感動で体が震えた。セルすら「ほう」と感心していた。が、すぐに念力でナッパの後ろに居た仲間と私のもとに居たカエル2匹を窓の外にぶっとばしたあたり鬼畜の所業である。だが、とどめに放たれたエネルギー波は再びナッパにふせがれた。サイバイマンたちはホテルの最上階から落ちてしまったが……きっとそれくらいなら無事だろう。だが、ナッパは駄目だった。ベランダから続くプールに浮いていたが、すでに彼はこと切れていた……空龍は泣きわめき、私も悔しさに拳を握る。まさかサイバイマンを殺されてこんなに悔しい思いをするなんて……! ただ畑が好きで働き者な良い奴だったのに。

 

 だけど、これできっとギニュー隊長達が手紙を届けてくれるはずだ。これでどれくらい事態が好転するか分からないが、何もやらないよりはましだろう。

 ナッパはセル編が終わったらきっと生き返らせる。それまで天国で待っていてほしい。

 

 

 

 

 さて、明日からまた原作を水晶玉越しに追う日々だ。

 

 何もできない今、せめて日記に記録を残すくらいはしてみるか。未来空龍やラディッツも修業するみたいだが、果たしてどれくらい成長できるものか……。とにかく、殺されないことを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 



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★27ページ目 セル編実況裏側24時その2~セルゲーム

◇月Ф日

 

 天界で修業するZ戦士たちの様子を窺っていたけど、空龍がベジータを転ばして精神と時の部屋に入った時は思わず膝を打って「よくやった!」と言ってしまった。流石私の息子である。

 セルには「あの年でおたんこなすという罵倒はどうなのだね」と言われたが、可愛いからいいだろ。マジレスすると、多分緊迫した未来では身近な誰かに気軽に怒る場面が無かったんだろうな……息子……。ともあれ、罵倒の語録が少ないのは親として喜ばしい事である。良い子に育ってくれて、未来ラディッツには感謝せざるを得ない。

 

 ちなみに以前サイバイマンたちとギニュー隊長、ジースくんが彼らに手紙を届けた時はセルに気づかれる前にチャンネルを変えて人造人間3人組を追っていた。それを見て思ったけど、この子たち本当に挑んでくる相手以外には危害加えないな……。セルさえ出てこなければ、案外話し合いで解決できたのかもしれない。

 

 

 

 

▼月д日

 

 

 空龍とラディッツが精神と時の部屋から出てきた。……ボロ雑巾になったラディッツを大泣きする空龍がお姫様抱っこで抱えた状態で。

 あれかな、伝説っちゃった息子にやられたのかな? し、死ぬなラディッツぅぅぅぅ!!!!

 

 すぐに地球の神様として着任したばかりのデンデにベホマってもらったラディッツだが、謝り倒す息子に「いや、弱い俺が悪いのだ。フッ、どうやら俺は親父のように格好いい背中をお前に見せてやれないようだ。格好悪い父ですまんな」と寂しそうに逆に謝っていた。それに対して息子は「お父さんは格好悪くなんかない! ラディッツお父さんは世界一格好いいんだ! この世界でも、未来でも!」と泣きながら熱弁していた。

 これには思わず私も胸が熱くなった。だがすぐに「このホームドラマはまだ続くのかね?」とセルに水を差された。黙れ貴様、お前未来の空龍を吸収してるくせにもうちょっとこう、思うことは無いのか。やはり所詮虫。こういった感情は理解できないか。

 

 

 そしてこの後驚きの展開。

 

 

 まさかのピッコロさんによるラディッツの潜在能力解放である!(ネイルさんが「これは最長老様の……! お前にその力も引き継がれていたのか!」と驚いていた)ラディッツは潜在能力が解放された自分に酷く驚いていたようだった。

 ピッコロさんは「少しでも戦力は多い方がいいからな」とぶっきらぼうに言っていたけど、これは少しどころか大幅な戦力アップとなるだろう。ピッコロさんは空龍と未来トランクスの潜在能力解放も行ってくれた。

 ちなみに空龍たちが出てくるなりそれに目もくれずさっさと精神と時の部屋に入っていったベジータは安定のぼっちである。いや、あいつは自力で限界突破するだろうしいいか……悟空も潜在能力解放してもらってないし……。

 

 ラディッツは私と違って戦闘訓練に真面目だし、これは追い越される日も近いかな。

 

 

 

 

 

 

 

5月26日

 

 

 セルゲーム当日である。

 

 数日前テレビ報道したこともあり、現格闘世界チャンピオンのミスターサタンとテレビ局もやって来ていた。テレビスタッフに何人か知ってる顔が居てちょっと驚く。巻き添え食らわなきゃいいけど……。

 せっかくなので、水晶玉の他にホテルに備え付けのテレビをつけてW中継にした。これを世界中の人間が固唾をのんで見ているのか。

 

 ちなみにサタンを見た時、水晶玉の向こうとこちらのダブルセルによる「「なんだ、あのゴミは」」というシンクロ発言に何とも言えない気分になった。いや、たしかに場違いだけどあの勇気は褒めてやれよ……。

 あとアナウンサーがベジータに話しかけた後に「ありゃただのちょっとイカレた奴ですな。ヘアースタイルも変だし……」と言っていたのにはウケた。おい、全世界ネットでディスられてんぞ愚弟。

 

 

 

 さて、実況の記録である。

 

 

 

《セルゲーム第一試合》

【挑戦者、現世界チャンピオンミスターサタン】

 

 いい具合にお茶の間を温めてくれる前座を見事務め上げる。

 瓦割りからのパンっっと羽虫をはらうがごとくセルに崖にぶっ飛ばされるまでの流れが美しい。一流のエンターテイナーである。

 生存。ベジータに「馬鹿の世界チャンピオン」とまで称されるが、その勇気と無敵の鈍感さには敬意を表する。

 

 

 

 

 

 

《セルゲーム第二試合》

【挑戦者 最強の地球育ちのサイヤ人、みんなの主人公孫悟空】

 

 

 我が弟ながら、流石主人公の風格である。最初から激しい攻防を繰り広げるも、セルともども準備運動だった様子。お互い好敵手とばかりに向き合う姿が印象的。

 お互いにフルパワーとなり、楽しむがごとく戦う。セルがパワーをかなり上げた状態でかめはめ波を撃とうとしたので、地球が危ないと判断した悟空が空に逃避した後で瞬間移動でかめはめ波を回避。そのままセルの背後にまわり蹴りを叩き込んだ。実に熱い戦いに、隣で観戦していたセルが心なしかうずうずしていた。空龍も手を叩いておおはしゃぎである。

 その後、戦いを長く楽しみたいセルが場外負けの概念を壊すためにリングを破壊。ルールを決めた本人によるまさかのルールブレイクである。

 地上全体がリングとなったことで、更に激戦の度合いが加速。

 

 悟空が瞬間移動とかめはめ波という鬼ち……必殺コンボを決め、一時はセルがやられたかにみえた。しかし上半身を吹き飛ばされたにもかかわらずピッコロさんの細胞のおかげで復活。

 つい気になったので、上半身と下半身が分かれたうえでそれぞれ復活したらプラナリアみたいに増えるのかと隣のセルに聞いたら「馬鹿か。核はひとつだ、核がある側が復活するに決まっている」と心底馬鹿を見る目で言われた。聞くんじゃなかった。

 

 再び戦いが始まるが、お互い体力を消耗した状態。途中セルが悟空の猛攻に耐えかねてバリアーなどという新技を使う。なにあれ羨ましい。どうやるんだとセルに聞いたら、放出した気を体外で流動させるとのこと。言うのは簡単そうだけどかなり難しそうだ。

 

 そして更に戦いは続くと思われたのだが、ここでまさかの悟空の「まいった」宣言。これには全員ポカンである。隣のセルまでガタッと席を立っていたぞ。まあ、気持ちは分かる。

 悟空は自分より強い者がいると言って、その者の名を呼んだ。俗にいう「おめえの出番だぞ、悟飯!!」宣言である。

 

 

 

 

 

 

《セルゲーム第3試合》

【挑戦者 未来からの戦士 孫空龍】

 

 悟飯ちゃんが呼ばれたものの、そこに空龍が割って入った。「僕だって修業して、やっとスーパーサイヤ人の力を制御したんだ! 悟空おじさんは僕の本当の実力を見ていないでしょ? 僕とトランクスは、これから未来での戦いも残ってる。ここで戦わないで未来に帰っちゃいけない……そう思ったんだ。だからお願いです、僕にも戦わせてください!」と男らしく悟空に直談判した息子の姿に目に熱いものがこみあげた。いかん……最近歳なのか、涙もろくて駄目だ。

 悟空の了承を得て、空龍がセルの前に立ちふさがった。私も息子の戦いを見るのは初めてだ。

 ちなみに戦う前にフェア精神を発揮してセルに仙豆を渡した悟空は絶許。本命の悟飯ちゃんに備えてと、セルが仙豆を食べなかったのは幸いだった。

 

 そして始まる戦いだったが、スーパーサイヤ人化した空龍は前みたいに理性を失うことは無かった。それどころか更に気を振り絞り全開パワーを出すと、その黄金の輝きが美しい若草色の輝きを帯びた。

 まさかのスーパーサイヤ人NEWカラーである。隣のセルが「ほう、これはなかなか美しいな。スーパーサイヤ人グリーンとでも命名してやろうか」と勝手に名づけていた。おいヤメロ勝手に増やすな。

 

 戦いの内容だが、空龍は小さなダメージは度外視で常に必殺を狙っていた。具体的に言うと無暗に気弾を撃ったり接近戦したりせず、主に回避に努めここぞという場面で最高威力の気弾を極限に圧縮したビー玉大の気弾技で急所を狙っていくスタイルだった。しかも神様の神殿でヤムチャくんに何か習っていたと思ったら、繰気弾でも教えてもらったのか追跡タイプの技のようだ。外れても他を破壊することなくセルを追いかけ、セルはそれを気弾でいちいち相殺するはめになっていた。必殺&敵の体力消耗を狙う、なかなかにいやらしい技である。

 ブロリっちゃってた以前とは比べようもない激変っぷりに、思わず唖然。武闘家というより名うてのヒットマンな風体だ。

 ためしに隣のセルに未来の空龍もあれが出来たのかと聞けば「スーパーサイヤ人は制御できていたが、あの状態も技も初めて見るな」とのこと。つまり、この時代で頑張ったからこその成果と言えよう。

 

 しかし時間が経つにつれて地力の差が出てしまった。ついにはセルに動きを捉えられると、そのまま逃れられず連続コンボを決められて気を失って敗退。おそらくあの形態が体力の消耗が激しいというのも理由だろう。最後の方は息切れしていたからな……。

 

 残念ではあったが善戦であった。

 

 それと、幸いなことに殺されなかったのには安心した。セルに聞いたところ「まだ成長の余地があると見て後の楽しみに生かしたか、それか吸収でもするつもりだろうな。その場合グリーンが好みだったんだろう」ということらしい。横にセル本人が解説役でいると楽である。

 

 

 

 

 

《セルゲーム第4試合》

【挑戦者 期待のサイヤ人と地球人のハーフ 孫悟飯】

 

 そしていよいよ悟飯ちゃんである。が、ここで実況が出来なくなった。

 隣のセルの奴が「そろそろ終盤かな? さて、私もスタンバイしておこう」と現場に向かうため腰をあげたのだ。

 

 空龍も置いていくようだし、いよいよ逃げるチャンス! とか思ってたらポッキーかうまい棒でもかち割るように私の四肢の骨が折られた。そして空を飛ぶ力も残さないようにか、そのままフルボッコのタコ殴りである。虫野郎許すまじ。現在音声入力中。「このまま転がってれば、全て終わった後に私の偉業を傍らで見て語り継ぐ語り部として生かしてやっても構わんよ。一人の退屈さには懲りたしな。そういうわけだから、せいぜい大人しくしていることだ」とか言い残して去っていきやがった。野郎! 途中興奮しすぎて疲れて寝入った空龍を寝かしつけてきたときは、気が利くとか思った私が馬鹿だったよ!! 若バーン様気取りか何が語り部だカスが!!

 

 

 

 どうしよう。助けて餃子師範orデンデ。

 

 

 

 




見た瞬間五体投地で拝みたくなった素晴らしい1枚絵を再びrenDKさんから頂いてしまいました!


【挿絵表示】
まさかの漫画の表紙風である。何これ超かっこいい目から汁が止まらない……!サイヤ人3姉弟、姉弟のスーパーサイヤ人バージョン、3人の息子という豪華な詰め合わせです。特に空龍に注目。主人公にそっくりな特徴を残したまま、めちゃくちゃ男前に描いていただきました。ありがとうございます!


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赤き神

 結果だけ言うと、悟飯はスーパーサイヤ人ゴッドになれなかった。やはり人数が足りないのか、それとも未だスーパーサイヤ人になれない未熟者の俺が居るからか、そもそもやはり伝説は伝説だったのか…………とにかく、無理だったんだ。

 俺たちの力を分けることで一時的にパワーアップすることは出来た。だがそれでは到底セルには敵わなかったんだ。今も戦っているが、セルにいいようになぶられながら遊ばれているのが現実だ。

 

「期待しただけに残念だ。まあ、あとはせいぜい出来るだけ長く私を楽しませてくれたまえ」

「くッ!」

「だりゃあッ!!」

 

 悟飯と空龍が諦めずに飛びかかっていくが、すぐに受け流された。俺も残っている力を絞ってエネルギー波を撃つが焼け石に水だろう。自分の無力さが歯がゆい。ベジータの奴も消耗しているため、今は俺と似たり寄ったりだ。

 

「何もしないままやられるのはごめんだ……! 俺たちも戦うぞ!」

「うん、天さん!」

「ああ!」

「へっ、情けないことに震えが止まらんが……やってやる! 地球人の底力、見せてやろうぜ!」

「クッ、先に仙豆だ! 吸収されたセルが落とした奴があるだろう! 回収して悟飯たちに食わせるんだ!」

 

 今まで傍観していたクリリンたちも、無駄と知りつつ攻撃を始める。そしてピッコロの指示で、先ほどの戦いで吸収された方のセルに奪われていた仙豆を回収し、悟飯、空龍、ベジータに食わせることに成功した。といっても、セルの奴止めようともしないぜ……わざと見逃したな。

 

「ラディッツ! ほら、仙豆だ。食え!」

「す、すまん」

 

 俺もクリリンに仙豆をもらい回復し、体に力が満たされる。だが回復したところでまるで勝てるビジョンが見えん……! くそ、俺は相手の強さを計れるようになるために強くなったんじゃないというのに。

 

 だが今の俺には守るべきものがある。

 最後まで諦める気は毛頭ない! 最後まで、せいぜいしつこく抗ってやるぜ!!

 

 俺たちは油断なく構え、セルの前に立ちふさがった。

 

 

「ふっふっふ。いーい眺めだ……壮観だな。この地球で最も強い戦士達が並ぶ姿は」

「チッ、嫌味にしか聞こえないぜ」

「おっと、気に障ったかな? すまないね。ああ、そうそう……ちょっと試したいことがあるんだ」

「試したいことだと?」

「何、ちょっとした戦いを楽しむためのスパイスさ。さっきの孫悟飯のように怒りで覚醒する奴が居たら面白いと思ってな」

 

 セルはそう言うと、俺と空龍を交互に見た。

 

「君たちの家族だが、しばらく私が預かっていたんだ。今どうしているか聞きたいかね?」

「! き、貴様……! 空梨と空龍に、俺の妻と子に何をした!」

「お、お母さん……!」

 

 セルは両腕を広げると、もったいぶった口調で続けた。

 

「安心したまえ。子供の方には何もしていないし、彼女も殺してはいない……だが、逆に殺した方が親切だったかな? 死ぬ直前まで追い詰めて、あらゆる痛みを味わってもらった。きっと死んだほうがましだと思っただろうなぁ。いじましくも無言を貫いたが、きっと狂う寸前だったのだろう。今は虫の息ではいつくばってるだろうが、もしかしたら痛みに耐えかねて自殺してるかもなぁ」

「き、貴様……!」

 

 

「セルぅぅぅぅ!!!!」

 

 

「! お、お父さん!?」

「ラディッツ!?」

 

 

 

 空龍が飛びかかろうとしたが、先に動いたのは俺だった。

 頭の中が真っ赤に燃えている。この野郎、空梨に、空梨になんてことを……!

 

 もう敵わないだとか、そういったことは考えなかった。自分の体が黄金の光を放っているのも気にならなかった。とにかく思ったのは、こいつをぶっとばしたい! それだけだ!

 

「ハハハッ! 言ってみるものだな! だが、今さら普通のスーパーサイヤ人では私には勝てんぞ?」

「黙れ!!」

 

 渾身の力で拳をセルに叩き込んだ。だが、俺の怒りでのパワーアップなどたかが知れていた……受け流され、胸にセルの手のひらがあてられる。

 

「素晴らしい家族愛だった。では、さようなら」

 

 俺は今度こそ最後だと理解した。すまん、空梨、空龍……! 俺は夫と父親失格だ。お前たちを助けることが出来なかった……!

 

 

 

「かめはめ波ぁぁーーーー!!!!」

「!?」

 

 

 

 死んだと思ったその時だ。どこからか青白い光が迫り、俺の目の前にいたセルを吹き飛ばした。奴はすぐにそれから抜け出したが、光が来た方向を見ると驚愕に目を見開いた。

 俺もそちらを見て、まさかと口を開く。

 

 

「待たせたな、みんな!」

「悟空!」

「お父さん!」

「カカロット!?」

 

「孫悟空だと!? 馬鹿な。貴様はプロトセルの自爆で死んだはず!」

「へへっ、ちょっとした裏技ってやつさ」

 

 そこに居たのは死んだはずのカカロットだった。頭の上に妙な光のわっかを乗せているが、たしかにそこに存在している。そしてその肩に非常に危ういバランスで乗せられているのは……。

 

「この体勢で撃つ!? ちょ、おま、落ちる落ちる!! こちとら両手両足の骨折れてんだぞ馬鹿!」

「わ、悪ぃ姉ちゃん。でもさっきより元気じゃねぇか?」

「うっさい! とにかくちゃんと抱えるなら抱えててよ!」

 

「空梨!」

「お母さん!」

 

 ずいぶんとボロボロだったが、カカロットに抱えられていたのは紛れもなく空梨だった。

 柄にもなく目に涙が溜まるのが分かる。空龍など、先ほどまでの凛々しい顔をぐしゃぐしゃに崩して涙と鼻水を盛大に垂れ流していた。

 

 

 カカロットはセルを見ると、にやりと笑った。

 

 

「さあセル、またせたなぁ……。今度こそ、スーパーサイヤ人ゴッドの誕生だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○◎◎◎○○○○○○○○◎◎◎○○○○○○○○◎◎◎○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえちゃん、姉ちゃん!」

 

 オラが体を揺すると、ねえちゃんは苦しそうに唸ると目を開けた。

 

「馬鹿者! 怪我人を雑に扱うでない!」

「わ、悪ぃ。姉ちゃん、でぇじょうぶか?」

 

 占いババのばあちゃんに注意されて、思わず触っていた手をぱっと放した。倒れてる姉ちゃんを見てつい駆け寄ったけど、よく見なくてもひでぇ怪我だ。くっそぉ……セルの奴め! 姉ちゃんにひっでぇことしやがって!

 

「ご……くう……? うぐっ、あッ! ……ッ、それに、ババ様も? な、なんでここに……!」

「無理に話さなくていい。えっと、話せば短いんだけどよ。オラ、セルとの戦いで死んじまって……でも地上ではてぇへんなことになってるし、いてもたってもいられなくてよ。どうにかならねぇかって思って、界王様と急いで閻魔様んとこ行ったんだ。そしたら……」

「わしが待っておったというわけじゃ。お互い一日だけ地上に戻れる権利を使って、この世に舞い戻ってきたというわけじゃよ」

「え、お互いって…………。!? な、なんでババ様にまで天使の輪が!? まさかついに寿みょ「馬鹿者! まだ死ぬには早すぎるわい! あいつじゃ。あのセルって奴に殺されたんじゃ」!?」

 

 ばあちゃんの話を聞くと、それを知らなかったのか姉ちゃんが凄く驚いた顔をした。

 

「くっそ、あの野郎! ごめん、ババ様……多分、私を探させないためにあの昆虫……」

「謝らんでもいいわい。全部終われば、どうせおぬしらがドラゴンボールで生き返らせてくれるじゃろ」

「ああ、もちろんだ! でさ、姉ちゃん。地上に戻ったはいいんだけど、どうやったってオラにもあのセルは勝てそうにねぇんだ」

「究極体になったか……」

「そうだ。それで、姉ちゃんが前に手紙で教えてくれたスーパーサイヤ人ゴッドっちゅーやつしかねえと思って姉ちゃんを迎えに来たんだ。悟飯たちが人数足りなくてもなんとかやってみようとしたみてぇなんだが、結局出来なくて今も戦ってる」

 

 この世に戻ってくる前、界王様と地上の様子を見ていた。

 悟飯とかめはめ波をした時と違って、もうあの世にいるオラ達に出来る事は無い……悔しい思いをしながら見ていたら、なんと悟飯たちがスーパーサイヤ人ゴッドになろうとしたんだ!

 だけどやっぱり必要な人数が足りなかったのか、いい線まで行ったんだがゴッドにはなれなかった。セルの奴はそれを残念そうに見ると、まるで遊ぶみてぇに悟飯たちをなぶり出した。そこまで見てオラ悔しくて悔しくて、瞬間移動で界王様と閻魔様んとこまで行ったんだ。前にじいちゃんが地上に戻った時みてぇに、どうにかこの世に戻ってこれねぇかって。

 

 だけど閻魔様は案内役になる占いババが居ないと無理だと言った。

 もう出来る事はねえんかと諦めかけたら、閻魔様がにやりと笑ったんだ。すると、占いババのばあちゃんが閻魔様のでっけぇ机の陰から出てきたんだ! 閻魔様もこんな時に性格悪ぃよな。実はばあちゃんが死んだとき、本人の希望で天国に送らず閻魔様んとこに留めておいたんだと。「古い付き合いじゃから、閻魔様がわしの我儘をきいてくれてのぉ。地上の戦いが終わるまで、何かあったらいかんと待っておったんじゃ。そしたら、まあ情けない。まんまと死んできおって。ホレ、さっさと地上に戻るぞい!」と、ばあちゃんはそう言ってオラを連れて地上に戻ってくれた。

 

 だけど、悔しいけど今のオラじゃ行ったところで役に立てねぇ……。だから、ゴッドに必要な人数をそろえてからみんなの所に行こうと思った。

 そこでセルに捕まった姉ちゃんを探そうとして、ちょうど目の前には困った時の占いババ! っちゅうことでばあちゃんの占いで姉ちゃんを見つけて瞬間移動でやってきたんだ。でも大怪我してるのにはおどれぇたぞ。

 

「姉ちゃん、怪我がつれぇかもしれないけど、一緒に来てくれっか?」

「いいよ、大丈夫だよ。行くよ。じゃないと、大変だもんね」

「すまねぇ……」

「ふっ、しおらしいじゃん。らしくないね。お前はもっと堂々と構えてなよ。それがみんなを安心させてくれるんだから」

 

 怪我が痛むだろうにそう言って笑った姉ちゃんを見て、気力がわいてくる。

 よし! 絶対セルを倒してみせっぞ!

 

「今居るサイヤ人は? 他に誰か死んでない?」

「トランクスがやられちまった……。だから今は悟飯、ベジータ、兄ちゃん、空龍だ。オラ達を入れて6人になる」

「人数はクリアか。でもベジータと私が正しい心的に微妙だな……嫌だけど、保険に空龍も連れてった方がいい?」

「? でえじょうぶだ! 姉ちゃんは正しい心もってっぞ! 何度助けられたかわかんねぇ。それにベジータの奴もトランクスを殺されて、ちょっと変わった気がすんだ。多分今のあいつならでぇじょうぶだと思う」

 

 オラがそう言うと、姉ちゃんは顔を真っ赤にして眉間にしわを寄せた。ははっ、なんだ姉ちゃん。照れてんのか?

 

「ッ、っ! ほ、ほら。それじゃあ早く行くよ! ババ様はここで空龍を見ていてくれますか?」

「ああ、わかった。わしに出来るのはここまでだからの」

「十分助けてもらいました!」

「ああ、サンキューばあちゃん! 必ず勝ってくる!」

 

 姉ちゃんは何処を支えても痛そうだったけど、なんとか抱える。そしてオラたちは戦いの地に再び舞い戻ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○◎◎◎○○○○○○○○◎◎◎○○○○○○○○◎◎◎○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 正直もう駄目だと思ってた。だけど、お父さんと空梨おばさんが来てくれた!

 もう怖い物なんてない。不思議と心は落ち着いていた。

 

「いくぞ、悟飯!」

「はい!」

「チッ、今度失敗したらただじゃおかんぞ!」

「少し黙れベジータ!」

「そうですよおじさん、悟飯さんが集中できませんよ!」

「何ィ!?」

「外野は気にしないでいいからね悟飯ちゃん」

「は、はい」

 

 こんな場面だけど、思わず笑ってしまった。

 

 セルの奴は「まだか」と言いたそうに見てるけど、今度こそ出来るという確信があった。

 みんなの気が、5人のサイヤ人の気が僕に流れ込んでくる。

 

 不思議だ。高揚していた気分が、波のない水面のように静まっていく。けど、体中に力が満たされていくのが分かった。

 

 力が僕の周りで赤いオーラとなって渦巻き、そして最後静かに収束した。

 驚くほどに満たされていて、驚くほどに頭が澄んでいる。これが、これが……!

 

 

 

「それがスーパーサイヤ人ゴッド……か」

 

「ああ、そうだ。さあセル。決着をつけよう」

 

 

 

 

 

 

 

○○○○◎◎◎○○○○○○○○◎◎◎○○○○○○○○◎◎◎○○○○

 

 

 

 

 

 

 そのころ、宇宙のどこか。

 

 

「……むにゃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終わらなかったorz


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28ページ目 セル編完!~疲れて死にそう。もう動きたくない。

◎月◇日

 

 

 生き残った。今度こそ死ぬかと思ったけど生き残った!!

 

 今日はラディッツと空龍とでのんびり過ごしただけだったし、昨日の記録をつけようと思う。

 

 

 

《VS アルティメットセルゴッド(笑)》

 

 後で聞いたセルの名乗りに全身怪我してるのに大笑いして死にかけた思い出。最後まで私を殺しにかかってくるとかなんてやつ……! 絶許。

 

 最終的にスーパーサイヤ人ゴッドになれた悟飯ちゃんだったが、これには情報源の私が一番驚いていた。だってまず私とベジータのサイヤ人枠が「正しい心」ってところで足引っ張るとばかり……。悟空にお願いされた時は思わず褒められた恥ずかしさもあってノリで来ちゃったけど、到着してからやっぱり子空龍連れてきてベジータ弾くべきだったのではと後悔していた。

 だってあいつたしかブウ編で悪の心が原因で操られるじゃん? もっと先の未来ならともかく、明らかに「正しい心」はアウトだろと思った。けど予想に反して成功したってことは、あいつも悟空の言う通り変わったのか……それとも、正しい心とやらがけして正義の心とかではなくて、もっと善悪関係なく純粋な何かであるか。まあ考えたところで答えなんて出ないのだけど。

 ゴッド化した悟飯ちゃんとセルの戦いだが、記述すべきことはただ一つ。

 

 

 つっよ。ゴッド強ッ!!

 

 

 これに限る。しかもゴッド化の影響か、悟飯ちゃんの精神は名前の字のごとく悟りを開いたかのように落ち着いていた。赤、というと高ぶりをしめす色に思えるのだが、ゴッドのオーラは見ている者の心にまで安寧をもたらし、清浄な気力を呼び覚まさせる力を秘めていたように思う。

 これが神かと、私たちは現状も何もかも忘れたようにただ魅入られた。

 

 セルもこれがただ事ではない、凡百のパワーアップとは次元が違うとようやく理解したのか焦り出した。しかしそれは遅すぎたのだ。

 

 気づいた時には、悟飯ちゃんはセルの体の中心を拳で突いていた。

 一見なんでもないただの突き。セルを吹っ飛ばすことも、体を貫くこともしなかった……だけど、恐らくそれがセルの核を破壊したのだ。

 

 セルは言葉もないまま、最後に血を吐いてこと切れた。あれだと多分、痛みを感じる間もなかっただろう。意図的かどうか知らないが、どこまでも……敵にすら優しい悟飯ちゃんの最後の情けだったのだと感じた私は伯母馬鹿だろうか。

 地上にセルの体が落ちた時、その体は核を失ったせいか崩れるように崩壊した。あれだけ強化を繰り返したセルの、あっけない幕引きである。

 

 

 

 

 

 

 その後神様の神殿に集まり、ドラゴンボールのおかげでセルに殺された存在は無事に全員生き返ることが出来た。「殺された存在」という枠でくくったのは、人間でないサイバイマンや妖怪枠のミイラ先輩達を生き返らせるためだ。

 

 嬉しいことに、このおかげで完全に機械であるはずの16号まで蘇った。彼が壊されたことでスーパーサイヤ人2に覚醒した悟飯ちゃんと仲が良かったクリリンくんが泣いて喜んでいたっけ。

 神殿にはホテルから運んだナッパの遺体も安置されていたので、生き返った時はみんなに喜ばれた。ギニュー隊長や仲間のサイバイマンたちは特に喜び、どこか見覚えのあるポージングをきめて再会を慶んでいた。胸を貫かれたトランクスも生き返り、喜びの波は収まるどころか広がるばかり。

 やはり、ドラゴンボールとは希望の球である。

 

 

 しかし一度生き返ったことのある人間は生き返れない……つまり、悟空はやはり駄目だった。

 悟空は笑って「オラが居ない方が地球は平和かもしんねぇ」とか「あの世には過去の達人とかもたくさん居んだ! 結構楽しめそうだし、チチや悟飯には悪ぃけど生き返らせなくていいや!」とか言ってたけど……漫画で読んだ時は「軽いなコイツ」くらいにしか思わなかったけど実際聞くとかなり腹立たしかった。残されたチチさんと悟飯ちゃんの気持ちはどうなるんだ、と。

 けど、私が怒る前に怒鳴ったのはラディッツだった。

 

「ナメック星のドラゴンボールを使えば生き返れないことは無いだろう! 妻と子供を置いて死んで、貴様はそれでいいのか!」

 

 しかも渾身のグーパンつきである。まさか悟空がラディッツに殴り飛ばされる場面を見るとは思わなかった。

 それにここぞとばかりに他のメンバーも加わって、悟空を説得しにかかった。これには流石の悟空もたじたじである。

 

 結局どうなったかというと、「でも、やっぱちょっぴりあの世の達人にも興味あるしよぉ……」という悟空の発言に全員ずっこけた。お前、自分が居ない方がうんぬんよりそっちが本命なんじゃないだろうなと総ツッコミを受けていたが自業自得である。悟空は良い意味でも悪い意味でもどこまでも悟空だった。

 

 妥協案として、だったらしばらくあの世で修業して満足したら生き返らせるという運びになった。もうぐだぐだである。

 

 あと、今回からデンデがパワーアップさせてくれたおかげでドラゴンボールで叶えられる願いが2つになっていた。そしてその2つ目の願いだが、これはクリリンくんが「17号と18号の身体の中にある爆破装置を取り除いてくれ」と願った。起きるなりさっさと神殿から去った18号だったが、戻ってきてそれを柱の陰で見ていたのを確認している。

 …………まだ先かもしれないけど、今から結婚祝いを考えておこうか。クリリンくんにもずいぶん世話になってるし。

 

 

 

 

 

 ともあれ、紆余曲折あったものの人造人間編とセル編は無事にハッピーエンドで終わることが出来た。

 めでたしめでたしである。

 

 死ぬかと思った。

 

 

 

 

 

 まだ未来トランクスと未来空龍には帰ってからの戦いが残っているが、さんざん強化された2人にとって人造人間や初期セルなど敵ではないだろう。

 

 懸念すべきはもっと先……新作アニメは全部見れなかったし記憶も危ういが、さらなる脅威が未来世界を襲うことは覚えている。その時に犠牲が少ないうちにこちらに救援を求められるよう、出来る限りの注意を促す。まだ起きてもいない出来事に対して私が出来るのはそれくらいだろう。

 それか、いっそこっちのブルマにタイムマシンを作ってもらって定期的に様子を見に行くとか……いや、駄目だ。本当かどうかわからないけど、セルに「特異点」と称された私が行ったら事態が悪化することしか考えられない。

 

 あんまりにも心配しすぎたのか、あのマザコンの気がある空龍にまで「心配しすぎですよ」と笑われた。くそう……歯がゆい。

 

 

 とにかく、疲れた! もーう疲れた!!!!

 

 

 今日からしばらくは家でダラダラする! 占いババ様もしばらく休むとええって言ってくれたし、畑もサイバイマンたちがさらに張り切ってるからしばらく任せても安心だろうし。

 ラディッツも夜仕事に行く以外はしばらく家に居てくれるって言ってくれた。よし、甘えるし甘えさせてやろうじゃないか。空龍ともいっぱい遊んでやる。あと、ちょっと休んだら南の島へバカンスだ! 贅沢するぞ! 今度こそ本当の贅沢だ! あの虫野郎はもう居ない!

 

 

 明日からの予定を書くと、疲れていた心が少しずつ元気になってくるのが分かった。やはりこの日記、心の安定剤である。

 でも今度ブルマに私が死んだら自爆する機能をつけてもらおうとは思った。

 

 もう日記のせいで振り回されるのは勘弁だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……ッ! な、何? 私はもう一人の私に吸収されたはず……」

 

 私は意識を取り戻すと、あたりを見回した。そこは紛れもなくセルゲームが行われていた場所だ。

 しばらく考えるが、おそらくドラゴンボールの影響だと結論付ける。そうか、たしか未来から来たという私は私の事を「プロトセル」と呼んでいたな。ドラゴンボールに「セルに殺されたものを生き返らせてくれ」とでも願った時、私はあのセルとは別個体と認識されて生き返った。そんなところか?

 

「まあいい……生き返ることが出来たのは幸いだ。フム、しかしあの私を吸収したセルが倒されたとなると孫悟空たちはもっと強くなったわけか。今のままでは勝てんな」

 

 どうやら、世界を恐怖に突き落すのはまだ先らしい。

 

 

 

 しばし、身をひそめよう。私が奴らに勝てるくらいに進化する、その時まで。

 

 

 

 

 



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★6年間よもやま話

 6年の間のお話詰め合わせ。

 

 

 

《見ちゃった!》

 

 僕は用意してもらった夕食を食べながら、この時代に来てからの事を思い出していた。短いようでいて、とても長かったようにも感じる。

 

「ねえ、本当に空梨んトコに泊まらなくてよかったの?」

「! え、あ、は、はい。ごめんなさい、僕までお世話になってしまって……」

「それは別にいいのよ。けど、あんたたちがいいのかなって思ってさ。明日未来へ帰るんでしょ?」

 

 ブルマさんの言葉に同意するようにトランクスが気遣うように僕を見てくる。この1歳年下の従兄弟にはいつも心配をかけてしまっているな……情けない。これからは僕も、もっとしっかりしないと。死んだお母さんとお父さんに怒られてしまう。もちろんこちらの両親にも。

 

 僕はあの戦いの後、トランクスの家にお邪魔していた。というのも、再会を喜んでお母さんを抱きしめるお父さんを見たら邪魔してはいけないと思ったからだ。

 

「この時代のお母さんとお父さんは、この時代の僕のものだから……あまり未練を残して、邪魔したくないんです」

「な~に言ってんのよ! この時代もなにも、あんたの親であることに変わりないんだからそんなこと気にしなくていいのよ! 今のうちに甘えときなさい。まったく、空梨の子供のくせに変なところで謙虚ねぇ。あの子はもっと我儘で自分の欲に忠実よ」

「そうですよ、空兄さん。あんなに会いたがっていたご両親じゃないですか。未来に帰れば、もしまた会いに来れるとしてもしばらく会えないんですよ? 色々話してきたらどうですか」

「うっ」

 

 2人の言葉に心が揺れて、そしてあっさり傾いた。

 

「い、今から行っても迷惑じゃないかな……?」

「いいに決まってるわよ! ほら、そうと決まればさっさとご飯食べて行きなさい!」

「は、はい!」

 

 ブルマさんの言葉に後押しされて、食べかけだったご飯をかっこんで急いでカプセルコーポレーションを飛びだした。

 浮かれていた僕は、僕が飛び出した後にブルマさんがつぶやいた一言を知らない。

 

 

「あ……。でも、今夜はまずかったかしら……?」

 

 

 

 

 

 目的地に着くと、僕はそわそわと家の前でうろついていた。来てみたものの、インターフォンを押す勇気がわいてこない。

 そしてそのまましばらく不審者のような動きをしていると、思いがけず幼い声に呼びかけられた。

 

「うぁ……ん? くーにいちゃ?」

「あ、ぼ、僕だ」

 

 わずかにあいた扉から眠そうな顔で出てきたのは、幼い頃の僕だった。ふよふよと浮いたままこちらを見ている。トランクスと同じ呼び方に、自分にそう呼ばれるなんて変な感覚だな、と思いつつも顔がほころんだ。ナルシストなわけじゃないけど、やっぱり子供は可愛い。

 

「一人でどうしたんだい? 」

「きょうは、ひとりでおねむする日なの! くうよんおとなだから!」

 

 えっへんと胸を張る幼い僕に首をかしげる。

 

「お父さんとお母さんは?」

「かかとととは、いっしょにおねんねしてゆの」

 

 う~ん、これは早いうちなら自立を促そうとしてるのかな? 今日はってことは、いつもは一緒に寝てるんだろうし。そういえばお父さんからサイヤ人は独り立ちが早いって聞いたことがあった。自分で認めるのも恥ずかしいけど、僕絶対甘えん坊だしな……こういうこともあるのか。

 

「ちょっと悪いけど、寝てるんだったら起こしちゃおうかな! きっとビックリするぞ」

「びっくい?」

「そう! ねえ、僕……じゃなくて空龍。僕と一緒に、かかとととを驚かせちゃおっか!」

「うん、やゆ~!」

 

 よくわかってないのかもしれないけど、楽しそうだと思ったのか幼い僕はキャッキャと手を振り上げて同意した。

 よし、そうと決まれば……えーと、寝室はこっちかな?

 

 音を立てないように、そろりそろりと歩いていく。そして何やら声が聞こえてきたので立ち止まると、どうやらそこが寝室らしい。あれ、何だ。まだ起きてるみたいだな。

 

 

 

「ちょ、あッ、待って……!」

「何でも我儘を聞いてくれるんだろう? お前が言い出したんじゃないか」

「そ、だけどッ、でも、もう限界……ッ、激しッ」

 

 

 

 う~ん、くぐもってて何話してるのか分からないな。よし、行ってみるか!

 

「お母さん、お父さん! やっぱり来ちゃいました!」

「かか、とと! くーにいちゃきたのー!」

 

 時が止まった。

 

「「あ」」

「あ」

「う?」

 

 

 

 

 

 

 幼い僕を連れて帰ってきた僕を見て、ブルマさんは何とも言えない顔で半笑いしていた。

 

「見ちゃったか……。ごめんね~。あの様子見れば、ちょっと考えればわかったようなもんなのに」

「? いったいどうしたんですか?」

 

 トランクスの純粋な視線に耐えきれなくて、僕は両手で真っ赤な顔を覆った。そしてなんとか一言だけ絞り出す。

 

 

 

「もしかしたら、妹か弟が出来るかもしれない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

《ドラゴンボールCGT》

 

 

 

『部品泥棒相次ぐ!』

『工場および町の電気屋まで注意呼びかけ。機械泥棒に気を付けろ!』

 

 そんな見出しの新聞記事を放り出し、私は目の前の完成品を満足気に見上げた。多少時間はかかったが、まあ宇宙船を作ると考えたら早い方だろう。

 孫悟飯らに勝つために身をひそめようと思った私だったが、そもそも隠れて訓練するなりなんなり難しいことに気づいたのだ。気を感じとれる奴らにとって、私の何人もが入り混じった気はさぞ見つけやすいだろう。

 そこで私は天才科学者であるブルマとその父の細胞を残っていたスパイロボで採取し、宇宙船の開発に取り掛かった。こそこそと部品を集めるのは性に合わなかったが、まあ仕方があるまい。なんとか必要なものをそろえた私は、数日をかけて宇宙船を作り上げた。ふむ……何かを一から作るというのは、なかなか面倒だが楽しくもあるな。

 

 

 

 そして私はいつか帰還し、孫悟飯たちを倒すと心に誓って宇宙に飛び出したのだ。

 

 

 

 しかし、誤算があった。

 

「…………暇だ。宇宙というのは遠すぎたか」

 

 とりあえず色んな星を転々として、瞬間移動できる場所を増やそう。

 

 

 

 

 

 

 

 ひそかに始まっていたドラゴンボールCGT(Cell Grand Touring)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ミーハーな息子》神様の神殿での修業裏話

 

「あ、あの! すみません!」

 

 緊張したような声に呼びかけられて、振り向いてみればそこにはメモとペンを持った空龍が立っていた。なんだかんだでごちゃごちゃ色んな出来事があったから、実はこの未来から来た戦士とちゃんと話すのは初めてだ。

 隣に居た天津飯と餃子もなんだなんだと振り返ると、空龍は顔を真っ赤にしてこう言ってきた。

 

「あ、あの、ですね! よければみなさんの技とか、戦い方とか教えてもらえないでしょうか!」

「? そんなの聞いてどうするんだ。お前の方が俺たちの何倍も強いだろ?」

「そんなことないです! トランクスはともかく、僕なんて自分の力も制御できない未熟者ですし……」

 

 途端にしゅんっとうなだれた様子を見ると、なんだか仔犬をいじめているようなばつの悪い気分になる。

 

「あ、あ~っとな。別に拒否するわけじゃないんだが……」

「本当ですか!?」

 

 がばっと顔をあげてずずいっと迫ってきたその様子がギャップがありすぎてびくっとなった。か、感情の幅が大きい奴だな。

 そして俺たちが何か教えてやると、空龍は熱心に聞いてメモをとっていた。遠くからどことなく寂しそうに見ているラディッツの視線が痛い。空龍はその後クリリンやピッコロにも同じようにして色々聞いてはメモをしていた。少しでも色々聞いて吸収し、暴走するというスーパーサイヤ人の力を制御したいのだろう。

 

 だが、最後に言われた一言で俺は一つ確信する。

 

 

「あ、あの、ヤムチャさん。……よければサインとかもらえたりとか……」

(あ、こいつミーハーだ)

 

 

 

 どうやら未来では死んでしまったらしい俺たちは、この子にとってヒーローだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

《偶然か必然か運命か》

 

 ある時はショッピングモールで。

「あ」

「あ」

 

 ある時は映画館で。

「あ、ど、どうも」

「……チッ」

 

 ある時はカフェで。

「何でいるんだ」

「あ~いや、その」

 

 

 最近あまりにも偶然が続くもんだから、何度目かに会った時に言ってやった。

 

「ストーカーか? おっさん。いい年して気持ち悪いんだよ」

 

 言ってから、何故か罪悪感を覚えた自分に少し戸惑う。

 言われたチビのタコみたいなおっさんは、ばつが悪そうに頭をかいた。

 

「いや、そんなつもりないんだけど……」

「じゃあ、なんで行く先々に居るんだよ。いい加減うざい」

 

 言ってから、また罪悪感。何なんだ、いったい! 自分の事なのに分からなくて余計にイライラする。

 数日前に再会した17号の言葉が頭から離れないのも悪い。

 

『お前、変わったな』

『好きな男でもできたか? だったら大事にしろよ。俺たちは完全に機械ってわけじゃないんだ。人としての幸せだって、まだつかめるさ』

『俺は俺で好きにやる。じゃあな、18号。幸せになれよ』

 

 好き勝手言って、ひょうひょうと去っていった17号。生き返ったのかと安心したら、言いたいことだけ言って一人で行きやがって……好きな男? そんなの居ない。そんなはずない。

 反発心ばかりが胸の中で渦巻いて、ついクリリンを睨んだ。だけどクリリンはへらっと笑うとこんなことを言った。

 

「本当に偶然なんだけど……でも、18号ならどんなとこ行くのかな、今どこに居るのかなって考えると気づいたら会ってるんだ。俺、普段はこんなところ来ないんだぜ? けど考えてたらふらっと来ちまう。君に会いたくてさ。ばったり会うのは偶然だけど、これじゃストーカーと変わらないのかな……ははっ」

「なっ」

 

 なんなんだ……何だいったい!顔が熱い、ドキドキする。故障か? くそっ、こういう時わたしは何処に行けばいいんだ!?

 

「ば、馬鹿言ってるんじゃないよ。……それにしても、そんなダサい格好じゃ浮くよ。話してるこっちが恥ずかしい」

「や、やっぱり道着って目立つかな? でも俺、武天老師様のお使いできただけだし……」

「来なよ」

「え?」

「来いって言ったんだ。どうせ、普段からそんな服ばっかりなんだろ? 恥かしいから、お情けで選んでやるよ。癪だけど爆弾の件で借りがあるからね」

「いや、別に私服が無いわけじゃ……いや、行く! 行きます!!」

 

 何でこんなことを言ったのかわからない。けど、不思議と浮き立っている自分もいる。

 今はこの感情に名前を付けることは出来なさそうだけど、少なくとも嫌なものでは無かったから……長い、永い命だ。心の赴くままに生きて、楽しむのも悪くない。

 

 

「ほら」

 

 クリリンの手を引く。

 

 その体温が、なぜか無性に嬉しかった。

 

 

 

 

 




カミヤマクロさんから神がかった1枚のイラストを頂いてしまいました……!


【挿絵表示】
前回、50話にてスーパーサイヤ人ゴッドなった悟飯を描いていただきました!!まさかカミヤマクロさんの絵で少年神悟飯ちゃんが見れるとは……!見た瞬間リアルに涙出そうになりました。格好いい、そして美しいぞゴッド悟飯!!セルや主人公の表情も豊かで、臨場感たっぷりの至高の1枚となっております。小説書いててよかった……!
カミヤマクロさん、このたびは本当にありがとうございました!


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29ページ目 6年よもやま日記その1~それぞれの新たな旅立ちと破壊神様の家庭訪問

∴月●日

 

 

 ダブル空龍に見られた。死ねる。なんで鍵をかけておかなかった、もしくは何故連絡してから来てくれなかった未来空龍。幼い方の空龍はよくわかっていないかもしれないが、未来の息子に変なトラウマ作ってしまってないか不安である。両親の……その、そういう場面とか普通に嫌だろ。送り出すときどんな顔して見送ればいいんだ。

 

 

 

Ф月□日

 

 

 どんな顔して見送ろうとか考えてたら、空龍がもじもじしながら「もし、お母さんの身体が無理じゃなかったらだけど、その、い、妹か弟が産まれたら、僕も抱っこさせてもらってもいいですか? 迷惑じゃなかったら、また来てもいいですか?」と言ってきた。周りの視線が痛かった。けど純度100%の清らかさをもって発せられたであろう言葉に私は頷くよりほかなかったのである。

 帰る前にさんざん冷やかされた。おい、こちとらもうアラフォーだぞ。アラフォーをからかってそんなに楽しいか、ええ? 恥ずかしさで死にそうだった。

 帰り際にマタニティー関係の本を買って家に帰ってからいつぞやの神龍のガイドラインを引っ張り出していた二十日大根など断じて見なかった。おい、空龍の時が大変だったからまた死ぬ死なないと大騒ぎかもしれないし、子供はあの子だけにして愛情注いでこうってずっと避妊してただろ。息子に期待されたからって何その気になってんだ。産むのは私なんだぞ。いや、私ももう一人欲しくないわけじゃないけど。

 

 

 …………。また体を鍛えないと駄目だろうか。

 今度はスーパーサイヤ人2やら3になれとか言われたら流石にキレる。

 

 

 

◇月△日

 

 助けてもらったし、もう悪い事しなさそうだからギニュー隊長とジースくんに「ドラゴンボールが復活したら元の姿に戻してもらいますか?」と聞いてみた。けど、なんと2人はこれを拒否。拒否と言っても、それは私がドラゴンボールを集めてくることに対してだ。「改めて自分という存在を見直したくなったんだ。旅をして、自分でドラゴンボールを集めてみようと思ってな」「どこまでもついていきます隊長!」とのこと。

 その心意気に感心したブルマからドラゴンレーダーを借りて、彼らの旅が始まった。カエル2匹の旅立ちに、可愛がっていた悟飯ちゃんと空龍が寂しそうだった。というか、空龍がギャン泣きして隊長達を放さないもんだから旅立ちまでが大変だった。

 ちなみに彼らに感銘をうけたのか、ナッパも旅に付いていきたいと申し出てきた。今まで頑張って働いてきてくれたのだ。初めてのわがままに、誰も文句を言わず私たちは彼を送り出した。世界を見てくると良い、ナッパよ。

 そして畑の新リーダーを任されたナッピが張り切っていた。これからも我が家の畑は安泰である。

 

 ちなみにサイバイマン達だが、新たな道に進んだものがもう一人。ラディッシュである。

 

 今回の件で自分の無力さを痛感したのか、自分にしか出来ないことを探したい……そう思ったらしい彼は、ずっと難航していた仙豆の栽培を成功させるためにカリン様の所に弟子入りしに行った。カリン様は最初サイバイマンに戸惑ったようだが、その真摯な態度に心を打たれたと言って彼を受け入れてくれた。ラディッシュ……ドジっ子だったあの子が立派になって……。頑張れよ!

 

 それぞれの道を歩み始めた彼らを見て、時の流れを感じた。思えば遠くにきたもんだ。

 

 

 

 

 

 

ю月■日

 

 

 ドアを開けたら目の前に破壊神様がいらした。もうそういう家の前に敵キャラみたいなお約束はいいんだよ!!と切れなかった自分をほめたい。

 

「やあ、久しぶりだねハーベスト。ところでスーパーサイヤ人ゴッドって知らないかい?」

 

 という直球な質問に、そういえば悟飯ちゃんがゴッドになっちゃったからその影響かな! と今さらながら思い当たって頭を抱えたくなった。とりあえず「ねこさん! ねこさん!」と興奮して飛びかかりそうになった空龍を即座に捕まえられたことは幸いだった。死ぬ気か貴様。破壊されるぞ。

 

 とりあえず、流れるような動作で地面に頭をこすりつけて拝む体勢をとると、「お久しぶりでございますビルス様! わざわざこのような辺境の惑星にお越しくださり、ご足労頂き誠にありがとうございます! 拝謁願えました事光栄の至り! 立ち話も何ですので、よろしければむさくるしいところではございますがお上がりくださいませ!」と家に上げ、今ある飲み物という飲み物、ラディッツに内緒で備蓄していた高級菓子の類をスイーツバイキングさながらに美しく盛り付け果物と一緒にお出しした。この間、約50秒である。30秒を切れなかったことが悔やまれるが、幸いビルス様は機嫌を損ねることなく嬉しそうに菓子をつまんでおられた。うん、やはり急な来客用に高級菓子は必須である。これからも常備していよう。そして賞味期限が来そうになったら私が食べよう。うむ、実に無駄が無い。

 

 ビルス様およびにウイス様は心ゆくまでスイーツを堪能すると、再び本題に入った。

 何でも何十年か前に見た予知夢で自分に強敵が現れて戦う夢を見たが、その予言された日が来る前に気になる気配がして起きてしまったとのこと。そこで予知夢の内容を思い出し、何か知らないかとサイヤ人の王族である私に会いに来たらしい。クソッ、長子であることが災いしたか。まさかベジータでは無く私の方に来るとは。

 余談だが、ウイス様に「あら、お母さんになったんですねぇ。私たちにとっては瞬く間でも、人の身には時の流れとは早いもの、というわけですか。おめでとうございます」とにっこり笑顔で祝福していただいた。ありがたい事である。隣の破壊神様のせいで気が気じゃないが。

 

 

 

 なにもかも悟り切った気分になった私は、素直に事の経緯とスーパーサイヤ人ゴッドのことをビルス様にお話しした。私は悪くない。破壊神様の前で嘘とか隠し事とか、そんな死亡フラグ建設するより100倍マシである。

 

 ビルス様はとりあえず自分が欲しかった情報を得られて満足したようだったが、しかしそこで終わりでは無かった。なんと「でも、僕が見た予言は39年後だったんだよね。今だと現れるには早すぎるんだ。まあ、ちょっとした誤差みたいなもんだけど気に入らないなぁ。ねえ、君さ。他にも何か知ってない? な~んか怪しいんだよねぇ」などとおっしゃった。私は今日だけで、冷や汗の量で2,3kg痩せたかもしれない。

 

 どう話そうか考えあぐねていたが、相手は神である。

 

 下手に嘘をついて記憶でも読まれようものなら、神をたばかった不届き者として即破壊されても文句は言えない。「色々話がとっ散らかってしまい申し訳ないのですが」と前置きしてから、私は私の身の上やこの世界を漫画やアニメで知っているという事実を話させていただいた。これを「自分たちが創作物などと不敬である」と捉えられ同じく破壊されても仕方がないが、嘘をつく場合と比べたら比率としてはどちらも同じくらいである。ならば、私の妄想で片付けられる可能性に賭けて正直に話す方がまだ生存率が上がると思ったのだ。

 そして補足というか本命というか、セルに言われた「特異点」という自分の可能性を話した。すなわち、私が居る影響で本来の歴史に歪みが生まれ、その結果ビルス様の予言の時期が狂ってしまったのではないか、ということである。

 

 話してからの沈黙が苦しかったが、ウイスさんが「あんら」という呑気な声であっさりと重い空気は霧散した。

 以下、その時の会話をそのまま記録しようと思う。

 

 

「別の次元からの迷子さんなんて、久しぶりですねぇ」

「そんな奴前にいたっけぇ?」

「居ましたよ、ビルス様。宇宙7不思議のひとつじゃございませんか」←だからあの世7不思議といいあと6つは何なんだと……!

「あ、あの。私みたいな存在は別段珍しくないということでしょうか?」

「いいえ、珍しいですよ。それに私たちを生み出した神様と同じ世界の人は初めてですねぇ」

「お、驚かれないので? 自分で言っておいてなんですが、世界や神までもが創作物などと不敬極まりない事を申し上げてしまったと後悔しているのですが」

「あら、別にそんなことありませんよ。神が星や生命を作る存在である限り、同じく生命として存在している神を作った誰かが居るということは至極当然のことです。まあ始まりはどうあれ、私たちは生まれてからはるか那由多の時を過ごしています。すでに独り立ちしきって長い今、誕生の不思議に興味はあれどさほど気にすることでもないのですよ。それに、あなたが知っているのは孫悟空さんを主役にしたほんのちょっとの期間の出来事だけでしょう? 神々にとっては些末なことです」

「はあ……」

「ま、そういうことだけどね。それにしても君の存在で僕の予知夢が狂ったってなると気に入らないなぁ……破壊しちゃおうかな?」

「い゛!?」

「まあまあ、ビルス様。宇宙単位で考えれば、極々わずかな時間が多少狂っただけじゃありませんか。そもそも予知夢ですから、まだ未定の出来事ですし……美味しいお菓子も頂いたことですし、ここは矛を収めてはいかがです? あ、ハーベストさん。このあま~くて美味しい飲み物をおかわりしても?」

「はい! ただいま!」

「それにビルス様。今回の事はハーベストさんが招いたイレギュラーであって、ビルス様が予知夢で見た強敵と今回のゴッドは別物かもしれませんよ?」

「別ものぉ?」

「ええ。どうやら今回はフリーザを倒した孫悟空さんの息子さんがゴッドになったそうじゃないですか。ハーベストさんの言葉を信じるなら、この先魔人ブウを倒して更にパワーアップした孫悟空さんが本来はゴッドになる予定だとか。予知夢の時期に合わせてまた地球に来れば、ビルス様が強敵と称するにふさわしいゴッドが待っているかもしれませんね」

「う~ん、でもわざわざ時間を合わせてまた来るのかい? 何で僕がそんな手間を……」

「お楽しみは後に取っておくのがよろしいかと思いますよ。先走って息子さんをゴッドにしてお相手しても、不完全燃焼で終わったらもやもや~っとしてビルス様この星を破壊してしまうかもしれないじゃありませんか。そしたらせっかく強敵になりそうな遊び相手が、現れる前に消えてしまいます」

 

 

 こんなことを話していたが、その間しゃべりながらどうやって食べているのかスイーツが減り続けていたあたり地球の食べ物がお気に召したようだ。この時点ではまだ危うかったが、地球を救うとは食べ物とはやはり偉大である。

 

 

 とにかく、心臓に悪かったものの「じゃ、頃合いを見てまた来るよ。次は甘いもの以外も期待してるよ」とビルス様にお帰り頂けたのは奇跡である。主に説得してくださったウイス様には本当に頭が上がらない…………今度、ブルマと一緒に美味しい物探しがてらグルメ巡りでもするか。

 

 帰ってくるなり「いったいどうした!?」とラディッツに驚かれるくらいには私はげっそりした顔をしていたらしい。

 

 いやホント、よかった。死ぬかと思った。

 

 

 

 

 

 

○月▽日

 

 パラガス来訪からのブロリー。書くのも面倒くさいので省略するが、最終的にぐったりして気絶したブロッコリーを活き活きとした表情の空龍が未来にお持ち帰りした。「同じ伝説のスーパーサイヤ人として僕が責任をもって更生させますね!」と本人大張り切りだったが、周りはドン引きである。私もドン引きである。せっかくみんなで追い詰めたと思ったら、どういうわけかそれを空龍がかばって、まさかのそこからの緑スーパーサイヤ人同士の泥試合だったからな……体力赤ゲージとはいえ、あの悪魔相手に一人でガチバトル仕掛けるとか正気を疑ったわ!! 戦いながら何か話してたみたいだけど、生まれが同じような感じなだけに息子的には何か思うところがあったのだろうか……まさか持ち帰るとは思わなかったが。

 と、とりえあずトランクスがんば! いや本当、頑張って。甥っ子超頑張って。きっと奴が味方になれば、未来は明るい。

 

 

 

 ところで、ブラックだのロゼだのザマスだの、もう心配いらないんじゃないかな! と思ったのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 



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番外編:ブロリー、そして伝説へ……《前編》(劇場版DB 燃え尽きろ!!熱戦.烈戦.超激戦)

 先日あまりにも疲れて書ききれなかった分の日記を書いておこうと思う。やはり情報の整理は大事だ。

 

 

 

 

д月Ё日

 

 

 みんなでお花見するよ~と誘われたので行ってみたら(ちなみに未来からトランクスと空龍が来ている時だった)、パラガスが来た。とりあえず「よっすパラガス」と声をかけたらビクッとされた。何だよ、私お前に何もしてないだろ。むしろブロッコリー生まれた時に「凄い戦闘力だね」って言いながら祝福してあげただろうが。

 

(関係ない事メモ:クリリンくんの歌、私は結構好きである。今度改めてみんなとカラオケに行きたい)

 

 ヤベー劇場版あんまり覚えてねー。かーッ、ツライわー。覚えてなくてツレーわー! でもゴッド化済みでスーパーサイヤ人2になれる悟飯ちゃんとあの世で修業済みの悟空が帰ってきてるから大丈夫だよねーと考えていたこの時の私、爆ぜろ。その楽観視で何度痛い目をみたのかと……いい加減学習するべきであった。

 

(関係ない事メモ:この時、悟空はお花見未参加。チチさんと悟飯ちゃんの塾関係の面談に行っていた。生徒だけでなくその両親にまで面談があるとか、よくわからない世界である。有名塾ってそんな感じなのか)

 

 パラガスがベジータを新惑星ベジータの王に迎え入れたい、新惑星を脅かす伝説のスーパーサイヤ人をベジータ王(笑)に倒してもらいたいという旨をベジータに伝えると、はじめ乗り気でなかったくせにベジータの奴途中で「案内しろ」とか言い始めた。なんというか、なんだかんだと言いつつお花見にも参加しているあたり、最近こいつ実は案外付き合い良くて寂しがりやなんじゃないかと思えてきた。まさかこの年になって弟の新たな一面を知ることになるとは……いや分かんないけど。

 とりあえず、案外単純な奴ではある。何だ、王とか言われて本当は嬉しかったのか。だけど「ベジータ王とは親父と同じで気に入らんな、フンっ、どうしても俺を王と仰ぎたいというのならキングベジータと呼べ」とか言い出した時は、ちょっと可愛いとこもあるなという気持ちは霧散し羞恥心だけが残った。オイヤメロ、身内の私が恥ずかしいだろ!!

 

 とりあえず私に向かって「では、ハーベスト王女はクイーンハーベストとお呼びするべきですかな?」とパラガスが冗談っぽく言った時は「殺すぞ」と言って腹パンしといた。片腕に空龍を抱えていたため、威力がいまいちだったのが悔やまれる。そして後ろで「俺を王と言いながらそのクソ女まで王扱いとは何事だパラガス! キングは一人、この俺だ!」とか言っていたベジータは煩い。そこまでキングにこだわるならデュエルくらい覚えてきてもらおうか。あとバイクでの転倒の仕方もな!

 

 で、結局その新惑星ベジータとやらに行くことになったようだ。よっぱらった亀仙人様が宇宙船に乗ってしまい、それを抑えようとした悟飯ちゃん、クリリンくん、ウーロン、そしてベジータを連れ戻そうとトランクス(甥っ子が本当に苦労性で涙出てくる)が宇宙船に乗った。あと、「伝説のスーパーサイヤ人か……ちょっと興味あるな」と言って未来空龍まで搭乗。

 そして何故かラディッツまで誘われたのに、私はパラガスに「お子様もいらっしゃるようですし、ハーベスト様は地球にて伝説のスーパーサイヤ人が倒されるまでお待ちください。その暁には是非、新惑星ベジータにハーベスト様にもお越しいただきたく……」とやんわり止められたので、進んで劇場版に関わることもあるまいとそれに甘えようと思った。まあ私が行ったところで何が出来るでもないし、ブロッコリー回避できるならありがたい。

 

 が、ここで誤算である。

 

 幼空龍がラディッツを追いかけて宇宙船にINしてしまったのだ! 本当にあの子はちょっと目を離したらこれだよ!

 そして直前に気づいたため、私もギリギリで宇宙船にIN。帰る機会を逸する。ま、まあ大丈夫だよ……いざとなったらゴッドがあるよ、と言い聞かせていたこの時の私よ。それはフラグである。

 

 

 

 そして到着した新惑星ベジータにて早速大人になったブロリーに会う事になったが、制御装置のおかげか普通に会話出来た。といっても、「ええ」「はい」「いいえ」といった短い受け応えがほとんどだったが。とりあえずパラガスに「なんなりとお使いください」と言われたからって早速パシろうとすんなベジータ。今は大人しいとはいえ見てるこっちが怖いわ!

 

 そして何やらシンパシーでも感じたのか、妙にブロリーが気になるらしい空龍が人見知りのくせに初対面のブロリーに一生懸命話しかけていた。それに対して鬱陶しそうな表情のブロリーであったが、空龍は一度食いつくとしつこい上に妙に空気読めないところもあるので気にしていないようだった。

 たしかに生まれながらに戦闘力1万超え、スーパーサイヤ人化で理性が飛びそうになる、スーパーサイヤ人化した時の気の色が緑っぽいと共通点が多く「あれ、この子ブロリーと同じ伝説のなんちゃらじゃない?」と思ったことは何度もあるけど……まさか並んだ姿を目にする日が来ようとは。

 

 

 そしてベジータが持ち上げられている中、パラガスを怪しんだ優秀な甥っ子組とクリリンくん、あとラディッツが星の様子を見てくると言ってひっそりと出かけていった。

 ベジータは別の星に伝説のスーパーサイヤ人が現れたとパラガスにパチ情報つかまされてブロリー、あとそれにまとわりつく空龍を引き連れて近くの別の星へ。まさか個別撃破が目的か!? と思ったら普通にその後帰ってきた。止める間もなく行っちゃったからヒヤッとしたわ。

 真面目に劇場版の流れ覚えてないので、この時はパラガスのやり方がいまいちわからなかった。後になって新惑星ベジータに衝突する彗星で地球に居る邪魔な連中を一掃! 美しい地球を手に入れて、そこを拠点に自分とブロリーの宇宙帝国を築いちゃうぜ! 計画だったと知るが、宮殿建てたりと手間な上にけっこうボッコボコに穴だらけの計画である。そもそもベジータが乗せられやすい性格じゃなかったらこの星来てねーぞ。

 私がパラガスの嘘を指摘して止めてもよかったけど、そうなると地球でブロリー戦になって犠牲出そうだしなと今回は黙認。のちにブウ戦も控えているのだ、たまには地球さんを休ませて差し上げろ。

 

 私は妙にもてなされたので幼空龍とのんびりお茶しながら宮殿でダラダラしていたのだが、頂いたお茶がはじめ妙な味がしたので取り替えてもらう事数回。パラガスは「新興惑星ですので、ハーベスト様がお気に召すような食材が不足しておりまして……誠に申し訳ありません」と言って冷や汗をかいていたが、おおかた睡眠薬か何かでも入れてたんだろう。地球に私を置いていこうともしてたし……あれか。唯一の生き残りの女サイヤ人だから、一応生かしとくか的なあれか。何だ、気が利くな。だったらもっと丁重にもてなせ。甘味が足りんよ君ぃ。

 

 悟飯ちゃん達が帰ってくると、なんと悟空も一緒だった。そのうち来るような気はしていたけど、主人公の登場にほっと一安心である。

 この星に何か問題が無いか占ったところ、遥か遠方より彗星がこの星に迫っていることに気が付いた。多分映画的には彗星が衝突する瞬間こそクライマックスなんだろうけど、わざわざそんな危険を冒す必要は無い。これでベジータが帰ってきたらさっさとパラガスの事をばらして最終決戦かな、だったら仕掛ける前に亀仙人様達連れて先に逃げなきゃなとか考えていた。

 

 が、ここで昔の私ならまずスルーした問題にちょっと悩む。

 

 

 最終的に息子の力を使って利用しようとするけど、殺されそうになった息子をかばったパラガスと赤子の状態で殺されかけたブロリー。腕の中の小さな体温を見下ろすと、どうしてもモヤモヤするものがあった。

 ので、無駄だし結局は自己満足だろうと思ったけど、私はパラガスとブロリーにお父様の事で謝罪をしたのだ。

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 

 

 

 

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「父がすまなかったね、パラガス」

 

 突然父と俺を訪ねてきたハーベストという女は、父に出された酒の入ったグラスを手で遊ばせながらそう言った。

 

 

 

 俺は今でこそ父の制御装置で自身の欲望を解放できず従順な態度をとっているが、腹の中には溶岩のように熱い破壊衝動が常に渦巻いている。制御装置を使われると頭に霞がかかったようになって自分ではない自分に動かされる……そんな不愉快な状態を強いられるのだ。

 だが、今は比較的もとの俺の感情が戻っている。おそらく、先ほどある男に会ったことで精神が高ぶっているのだ。

 たしかベジータに「カカロット」と呼ばれていたな。遥か以前……物心もつく前に、出会ったような気がする。俺の中で「殺されかけたこと」と並ぶ原初の記憶だ。

 そして目の前の女はその「殺されかけたこと」について謝っているらしい。たしかベジータ王の娘だったなぁ……今さら親の贖罪とは、けな気なことだ。まあ、なんとも思わんがな。せいぜい言ったコイツの罪悪感が薄れるだけだろう。たいした偽善だ。ククク……その偽善者がなぶられ、絶望に染まった顔をしたらどんなに愉快だろうな。父はおそらく生き残りの中で唯一の女サイヤ人……つまりサイヤ人の子供を産めるこの女を生かしておきたいようだが、俺には関係ない。いずれ制御装置から解き放たれたら、せいぜい可愛がってから殺してやる。

 

 ……フフフ、分かるのだ。いずれ、近いうちに俺はこの忌まわしい呪縛から解き放たれる。その時を想像すると、今から楽しみで仕方がない。また、あの暴虐の日々へ戻れるのだ。邪魔するもの、弱いものを蹴散らして力に酔いしれる、あの甘美な日々に!!

 

 

 

 大人しいふりをして無言のままに立つ俺の前で、会話は続く。

 ……うん? 部屋の外に誰かいるな。気配からして昼間の鬱陶しいガキか。性懲りもなく、また俺にまとわりつきに来たらしい。今は息をひそめて会話に聞き入っているようだ。2人は気づいていない。

 

 

「ハーベスト様、すまなかったとは……?」

「とぼけなくてもいい。父がお前の息子の潜在能力を恐れて親子ともども殺害しようとしたことは知っているよ」

「な、何を言って……!」

「見ていたからね。お前たち2人、ゴミのように捨てられるところを。私は私でフリーザ様から身を守るために動いていたから、本当に見ているだけだったけど。戦闘力がいくら高いからって、赤子に刃を突き刺すなんて光景にぞっとしたよ」

「! な、ならば……ならば何故ここに来た! そこまで知っているなら、俺たちが貴様らによい感情を持っていないことに気づいただろう!!」

 

 激高した父に対して、女は冷静だ。酒で喉を潤すと、言葉を続ける。

 

「ま、まあ来ちゃったのは不可抗力というか不慮の事故というか……まあそれはいいじゃない。ゴホンっ、えー、とにかく。ベジータはそのこと自体知らないから、私が死んだ父に代わって謝罪するよ。申し訳なかった」

 

 そう言って女は深く頭を下げた。俺は何とも思わんが、親父はわずかに動揺しているようだ。

 

「ふ、フン。今さら遅い。貴様らは、もうすぐこの星に衝突する彗星によって死ぬのだ! 知られたからには、手段は選ばん。貴様には大人しくしていてもらうぞハーベストよ!」

 

 そう言って父が女に襲いかかったが、無駄だろうな。親父にはわからんだろうが、力を抑えているだけでこの女の力は父より遥かに強い。俺にはわかるぞぅ……? ククク、流石サイヤ人の王族と言ったところか。まあ、本気の俺には及ぶまい。

 案の定、父は平手で返り討ちにあっていた。ほう、なかなかいい動きじゃないか。

 

 

「大人しく謝罪するのはここまでだパラガス。さて、ここからは力で語らおうか。サイヤ人らしくな」

 

 そう言って、女はテーブルを蹴り倒すと偉そうに足を組んだ。

 

「賢しいお前に対して、これは贖罪を含めた最大限の譲歩だよ。明らかに怪しいお前の話を全員が全員鵜呑みにしているとでも? すでにこの星の都市がただの廃墟であることも、南の銀河を荒らした伝説のスーパーサイヤ人がお前の息子のブロリーであることも割れている。彗星なんてチンケな小細工もな。よって、お前たちを無視してさっさと帰ってもいいし不意を突いて殺してもよかったのだが…………あえてこちらは正々堂々とお前たちに戦いを申し込もう。奇襲も策もない、正面からの純粋な力と力の戦いだ。その結果がどうあれお互いに受け入れる……単純で分かりやすいだろう? 実に公平じゃないか」

「何を勝手な……!」

「人数的にはそちらが圧倒的に不利だが、まさか伝説のスーパーサイヤ人がその程度でひるむまい?」

「もちろんだ」

「な、ブロリー!?」

 

 黙っていようかとも思ったが、実に愉快な提案に思わず言葉が口をついて出ていた。

 なんだ、ただの哀れな女かと思えばなかなかいい性格をしているじゃないか。偉そうだが、それを当然というようにふるまう様はなかなか見ていて気持ち良いぞ。

 

「親父、俺が本気を出せばわけはない。戦わせろ。まあ、許可を取る必要も無いが……ふっふっふ、もう気づいているだろう? 俺に着けた妙な機械が効力を失ってきていることに」

「そ、それは……!」

「俺は好きにやらせてもらう。ベジータはどうでもいいが、あのカカロットという奴……見ているだけで気に食わん。最大限、最大級の苦痛を与えたうえで殺してやりたい。向こうから戦いの場を用意するというのなら、俺にとっては願ったりだ。彗星などとつまらんものにくれてやるには惜しい。結果的に奴らを始末出来るんだ。親父にとっても悪い話じゃないだろう?」

「では、決まりだ。時刻は明朝。彗星の到着などもちろん待たないし、この星に在中する他の住人は戦いの前に直ちに他の星へ追い出せ。チョロチョロされては邪魔だからな。それと私とパラガスは立会人として戦いを見守る立場とするので、戦闘への参加は無しだ。異論があるなら朝までに言いに来い。以上だ」

 

 そう言うと、女は用は済んだと言わんばかりに部屋を出ていった。

 親父はそれを見送ると、がくっと地面に膝をついてうなだれた。

 

 

 ククク。朝が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




劇場版は本編執筆中は書かないぞうっと思っていたら、うっかりDVD借りて見てしまったが最後。気づいたら書いてた。


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番外編:ブロリー、そして伝説へ……《後編》(劇場版DB 燃え尽きろ!!熱戦.烈戦.超激戦)

Й月Г日

 

 

 

 っべー。マジっべー。ヤッベー。

 

 朝になってからの私の心境である。

 

 

 なんか、話してるうちに酒が入ったノリでブロッコリーと悟空たちの正面対決企画してた件。いや、彗星が衝突するまでにブロリーを倒せ! みたいなチキチキデスレースやるよりましだけど。

 まあ私はサイヤ人王女ってことで立会人として戦いを見守る立場を手に入れたけどな! でも完全に酒と深夜テンションにやられた。クソッ、パラガスの奴。ワインっぽい酒かと思えば度数超強いじゃねーか。

 

 初めは「お父様のことだけ謝って、あとはすっとぼけて寝ちゃおう! 明日ベジータ達にネタバラしして彗星来る前に戦わせたろ!」くらいのつもりだったのに。ま、まあ結果的にたいしてやろうとしてた事変わらないしいいかナー?

 

 ちなみに私に無謀にも飛びかかってきたあたり、パラガスの奴悟空たちの戦力もまともに把握してないな。

 馬鹿め! セルゲームの後ベジータは「俺はもう戦わん」とか言って一時期すねてたけど、ビルス様が何年後かに来るよーってはっぱかけたら死に物狂いで修業し始めたし(もともと毎日の訓練は続けてたみたいだけど気迫が違った)、悟空は悟天ちゃんが生まれるのを機にあの世から生き返ってきたけど多分あの世でスーパーサイヤ人3までは修得しただろうしきっとフュージョンも覚えてるだろう。悟飯ちゃんもまだそこまでなまってないからスーパーサイヤ人2にはなれるだろうし、ラディッツもベジータの訓練に付き合わされてるから日々強くなっている。未来空龍と未来トランクスは人造人間を倒した報告に来てくれたけど、いつの間にか2人ともスーパーサイヤ人2までなれるようになってたし(空龍はカラーだけ違うけど)、やろうと思えばゴッドだって可能だ。

 正直地球サイヤ人側の戦力と言ったらね……………………クククク……フフフフフ…………あーッはッはッは!! 悪いなパラガス! 私は負け戦など仕掛けんのだよ!!

 

 そう、私は高笑いしていた。今思えばでっかいフラグ建造してたなって思う。

 

 

 

 

 

 サイヤ人の舐めプ属性舐めてたし。

 

 

 

 

 

 

 翌日、事情を話して戦力を整えて戦いの場に現れた私たちをパラガスとブロリーは2人で迎えた。感心なことに、パラガスは私に言われたようにこの星に居たならず者と奴隷をこの星から脱出させていた。空に見える奴隷たちの故郷、シャモ星に移したようだ。

 悟飯ちゃんが「まだ解放されたわけじゃないけど、自分たちの星に戻れるって喜んでました!」と報告してくれた。うむ、この甥っ子の笑顔を見れただけでもダメもとで言ってみてよかったと思う。悟飯ちゃん達、かなりシャモ星人たちのこと気にしてたからな。良い子たちだ。

 

 

 

 さて、戦いだがまず空龍が戦線離脱した。

 

 何故って、開幕一番にブロリーの奴制御装置が効かなくなったのをいいことに真っ先にパラガスを殺そうとしたのだ。それを空龍が庇い、重傷を負った。これにはざっと血の気が失せたが、重傷だが命に別状は無いようだった。「自分の親を自分で殺そうとするな!!」と叫ぶ元気はあったみたいだし。……本当に未来空龍もいい子に育ったな。自身のトラウマのせいもあるんだろうけど、敵の父親というか今回の元凶まで庇ってやるとか超優しい。

 さしものパラガスもこれには戸惑っていた。フフン、うちの息子は良い子だろう! 羨ましがれ!

 

 

 そして、それをきっかけに戦いが始まった。が、まずベジータと悟空が俺が先だ、いやオラがと闘う順番をもめ始めた。いつものことだけどさっさと数で潰さんかい!! っと歯をギリギリしてしまった私を誰も責められまい。

 そうこうしてるうちにブロリーが制御装置を完全に破壊してパワーを解放。そこでやっと皆の顔に「コイツヤッベ」という色が浮かんだ。遅いわ!!

 そして私も劇場版で実質3回ボスを務めた悪魔の底力を舐めていた。ブロリーの強さを目の当たりにしてみんな(といってもラディッツ以外)スーパーサイヤ人2まで力を解放したのだが、初めこそやや苦戦していたもののあの野郎戦いの中で成長しやがった! まさかのスーパーサイヤ人2ブロリー爆誕である。思わず「息子さん凄いね」「い、いや。それほどでも、ハハハ。まあブロリーですからな」とパラガスとお喋りしちまったぜ。

 

 そこからのブロッコリーの猛攻コワイ。

 

 あの、隙を与えないくせに遊ぶような怒涛の突進するような勢い? 何て言えばいいかよくわからないけど、とにかくおっそろしい。そうか……悟空、たしかスーパーサイヤ人3になれるとしても、あれなるのに時間かかるんだよな……待ってくれそうにない相手じゃ、戦いの中じゃなれないか……ゴッドもな、空龍は戦線離脱してるし私もあの中に入れる気しないし、つーか仲良くお手てつないでゴッド作る暇とか与えてくれそうにねーし……………………………………。く、クソッタレぇッっ!!

 

 途中、悟飯ちゃんのピンチにピッコロさんが超格好良く登場。しかも仙豆係まで兼任してくれる優秀っぷりである。やはりピッコロさん最高である。超格好いいのである。

 おかげで空龍も戦線復帰。

 

 苦戦したものの、なんとかブロリーを追い詰めるに至った。よーし! これで劇場版、完! だな!

 

 

 

 そう思った時期が私にもありました。

 

 

 

 空龍、なんでブロリーかばってしまうん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「待ってください!」

「く、空龍さん!?」

 

 悟飯さんの戸惑った声に心がちくっと痛みながらも、僕は膝をつくブロリーの前で腕を広げたまま言葉を続ける。

 

「わがままを言ってごめんなさい。でも、最後は僕に戦わせてもらえませんか!」

「空龍貴様、さっきまで寝ていたくせに最後だけもっていこうとは虫がいいんじゃないのか?」

 

 ベジータおじさんが言うことはもっともだ。みんなが苦戦しながらなんとかここまで追い詰めたのを、動けないながら僕は見ていた。でもここで引いてしまっては、きっとこの人と語り合う機会は無くなってしまう。それはどうしても嫌だった。

 

 

 

 昨晩、僕はお母さんたちの会話を聞いてしまった。

 彼、ブロリーは生まれたばかりだったころお父さんのパラガスと共にお母さんのお父さん……つまり僕のおじいちゃんに殺されかけたこと、その理由が生まれながらにしての高い戦闘力にあったこと。

 

 初めて見た時から、何故か妙なシンパシーを彼に感じていた。それはきっと、僕が彼と同じような存在だったからだ。戦いが始まってスーパーサイヤ人の力を解放したブロリーを見て、それは確信に変わった。

 凶暴な力を振るい緑の力をまとって戦うその姿は、悪魔のようだった。けど、もしかしたらそれは僕の姿だったのかもしれない。きっとこの時代に来て制御出来るようにならなければ、力に飲み込まれていつかきっとあんな化け物になっていた。……多分、昔のままだったらその恐怖に負けていずれは自殺していただろう。もう、僕のせいで誰かが死ぬのは嫌だったから。

 僕と彼で大きく違うのは、ブロリーは力を拒否することなく楽しむように使っている事。僕はずっとこの力に怯えていたというのに……。その奔放な様は、不謹慎だけど羨ましくさえ思えた。

 

 

 そんな彼と、もっと話してみたかったのだ。少しでいい。だから、止めを刺される前に戦いに乱入した。

 自分でも馬鹿だと思っている。けど、もしかしたら二度と出会えない同胞かもしれないのだ。伝説のスーパーサイヤ人……もし僕も同じ存在なら、きっともう会えない。そんな確信があった。

 

 

 

 

 重傷だというのに、ブロリーは強かった。怪我などものともしない、というよりダメージを度外視して戦う事のみに集中しているのだ。そして心の底からそれを楽しんでいる。

 

「あなたは、力に飲まれたままでいいのか!? 本当の自分もわからなくなるような、強い力に!」

「飲まれるぅ? 違うな。これが俺だ」

 

 そう言うと、逆にブロリーは僕に問うてきた。

 

「お前、俺と似たような気配を感じるが……ククッ、なぜそれを抑えようとする? 制御装置も無いくせにおかしな奴だ。解放すれば、今よりはるかに強くなれるぞ」

「そんなことしない……! 僕は、ようやくこの力に打ち勝ったんだ!」

「勝った? 違うな。負けたんだ。力に負けて、臆病にも頭をかかえてうずくまっている」

「違う!」

 

 否定するも、ブロリーの言葉は僕の心をえぐる。……分かってはいるのだ。単純な力のみを求めるなら、抑え込んだ破壊の衝動に身を任せた方が自分が強くなれるんだってことは。でも制御できない分不相応な力は悲劇しかもたらさない。

 

 

 

『力に飲まれるな。強くなれ、空龍。誇りをもって生きろ』

 

 

 

 お父さんの最期の言葉が頭をよぎった。

 

 

「あなたは、もしかしたら僕だったのかもしれない! 僕は両親や周りの人の愛に恵まれた。彼らのおかげで力に狂わずにすんだ! けど、君だって近くにずっとお父さんが居てくれただろう!? どうしてその愛を無下にできる! 力に溺れていられる!」

「親父? 愛? はっ、何を言うかと思えば。親父は俺の力を利用しようとしているにすぎん。さて、甘っちょろい会話はここまでだ。サイヤ人なら、それも俺と同じ存在ならば力で語れ!」

 

 そこからは血で血を洗うような殴り合いだった。僕が小細工する間などなく、ただひたすらに殴り合う。

 

 最初こそやるせない気持ち、不完全燃焼をおこした薪のように熱く燻る気持ちが苦しかった。けど、殴り合っているうちに段々と腹が立ってきた。

 何だよ、力、力ってうるさいな! 僕はそういうの嫌いなんだ!

 

 

 

 

 

「お前なんかただ好き勝手やってるガキじゃないか! 僕の方が大人だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そう叫びながら打ち込んだ拳には、今持てる僕の最大限の力が込められていた。その爆発力に自分で驚く。

 

 

 

 そう。僕はついに、理性を保ったまま伝説のスーパーサイヤ人本来の力を引き出す事に成功したのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

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(日記続き)

 

 

 

 

 空龍が勝った。しかも最後の一瞬ブロリーなんかよりすんげー気出して。めっちゃ緑ってた。つーか金色がかったキラキラ具合? 金緑? そしてめっちゃ泣いてやけになってた。けど、それだけに恐ろしい。何だあの力。あいつ、まだそんな力隠してたの?

 

 それを見ていたトランクスが「そういえば、空兄さんは昔から泣いて怒ると強くなったな……我儘になるし」とかつぶやいてた。

 あれか。ブロリーが破壊衝動と戦闘意欲でパワーを解放するのに対して、うちの息子は泣いてふっきれるとタガが外れて強くなるのか。何だそれ怖いわ。息子は怒らせないようにしよう。

 

 

 とにかく無事にブロリーを倒したのだが、ここでまたひと騒動。なんと空龍がブロリーを未来に持って帰ると言い出したのである。これには全員「何言ってんだコイツ」とドン引いた。私もドン引きした。何言ってんだコイツ。

 

 なんでも自分と同じ存在にせっかく会えたのだし、出来れば仲良くしたい。そのために再教育も惜しまない。それにこじれた親子関係を修復するためにも、パラガスとはしばらく距離を置いた方が良い……とのこと。うん、言いたいことは分かるが待て。ブロリーだぞ、悪魔だぞ。正気か。

 

 

 けど、一度言い出した空龍は止められない。いくら駄目だと言っても、自分の要求が通ることを信じて疑わないので堂々巡りである。もういいよ、お前新しい力解放してパワーアップしたみたいだし頑張れよ。と、最終的にみんな諦めた。ちなみにトランクスには帰る前にみんなから胃薬が大量にプレゼントされた。「嬉しいです。でも、すぐになくなっちゃいそうだな……ははっ」と力なく笑ったトランクスに泣いた。

 

 

 こうしてブロリーは未来にお持ち帰りされた。

 

 よって、劇場版2つは自然消滅である。よかったのか悪かったのか……未来に幸あれ。

 

 

 

 

 ちなみにパラガスであるが、ブロリーが居なくなったことで一気に力が抜けたのか急にしょぼくれた。こいつもこいつで、色々苦労したんだろう。

 哀れに思ったのか、ラディッツが「よければうちの居酒屋で働くか」と誘いをかけていた。うん、ラディッツのバイト先の居酒屋の平均戦闘力がまた上がるな。個人的にはパラガスには喫茶店のマスターあたりが似合うと思うので、落ち着いたら勧めてみるか。あのひげのダンディーさはマスターにこそふさわしい。もう私も思い出すだけで疲れて何書いてるか分からない。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに余談だが、今回の戦いは奴隷から解放されたシャモ星のシャモ星人達によって長く伝説として語り継がれていくことになる。

 

 緑の破壊神に立ち向かった黄金の戦士たちと金緑の戦士という神話になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ブロリー、そして伝説へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 劇場版ドラゴンボール 燃え尽きろ!!熱戦.烈戦.超激戦 ~ 《完!!》

 

 

 

 

 

 




お粗末さまでした。


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30ページ目6年よもやま日記その2~色々忙しすぎた(言い訳その2)

▲日◇日

 

 

 悟空とチチさんの間に第二子、悟天ちゃんが誕生!

 

 ちなみに悟空はチチさんが妊娠していると知ると、生まれる2か月くらい前にあの世からナメック星のドラゴンボールで生き返ってきた。改めて字面にすると凄いな生き返ってきたって。ちょっと遅い気もするが、帰ってきてからはちゃんとかいがいしくチチさんの世話を焼いていたのでよしとしよう。

 

 ちなみにカプセルコーポレーション製の宇宙船でナメック星まで行ってくれたのはなんとピッコロさんだった。どうやら、最長老様と同化したこともあって新ナメック星の事がずっと気になっていたらしい。ちなみに残り2つの願いはナメック星人達に託してきたそうだが、口笛を聞いても平気になるようにしてくださいって願えばよかったのにと思わなくもない。

 

 そして今回も産婆役は私である。

 

 あれ、出産間近なのにまた入院してないな? とか思っていたら、悟空とチチさんに「姉ちゃん、また頼むな!」「またお願いするべ、空姉さま! きっと姉さまにとりあげてもらったら、丈夫な子に育つだ!」と当然のように産婆を任された件。

 なんかこの夫婦から妙な信頼を寄せられているな私……いや、嬉しいけどね!? でもここは専門の人に任せようよ!? でも結局引き受けてしまったあたり、私は弟夫妻に弱い。

 だからめっちゃ勉強したわ。前回みたいに血まみれでアワアワするのは勘弁だ。

 そのお陰で今回は随分とスムーズに取り上げることが出来た。

 

 ちなみに悟飯ちゃんの時と違って尻尾が無かったのには驚いた。満月の晩にドキドキしなくていいのか……羨ましい。

 

 弟が出来たことに悟飯ちゃんは凄く喜び、空龍もトランクスに続き従兄弟が増えて大はしゃぎである。何気に空龍、トランクス、悟天ちゃんと年子みたいだな。トランクスと空龍には兄弟は居ないし、仲良く育ってほしい。

 

 

 

 

◎月×日

 

 

 

 ラディッツが居酒屋の店長になった。というのも、店長である親父さんの引退がきっかけである。

 

 なんでも年も年だし、前から考えていそうだ。

 店を継いでほしいと言われたラディッツは最初こそ戸惑って辞退しようとしていたが、親父さんに「あんたとあの娘っ子は、俺にとって息子と娘みたいなもんだ。そして、この店も俺の子だ。どうか、継いじゃあくれないか」と言われて、他の店員やアルバイトの大プッシュもあってついに店を継ぐことを決意。親父さんの言葉には思わず私までホロリときてしまった。厳しくも人情のある人だと思っていたが、まさかそんな風に考えていてくれたとは……。

 

 とまあ、こんなわけでラディッツ、まさかの置物からの大出世である。

 聞けば、いつの間にかアルバイトじゃなくて正社員扱い、というか副店長扱いだったのねラディッツ……最近妙に仕事が増えたと数年前から首をかしげてたけど、気づけよ。いや、給料が増えたことを疑問に思わなかった私も私だけど。

 

 

 ちなみに親父さんだが、隠居するのかと思えば老後の趣味を兼ねて喫茶店を始めた。厳選された自家焙煎の珈琲が売りの、ゆったりとしたジャズに心癒される大人の空間である。

 そしてそこには親父さんの他にパラガスが居る。パラガスは新惑星ベジータの一件以来居酒屋で働き始めたものの、(主に若い客のテンションにキレかけたりで)居酒屋には向かなくて悩んでいたのだ。そこに親父さんが一緒に店をやらんか、と声をかけた。何でも妻に先立たれ息子と疎遠だという境遇が親父さんと似ていたらしく、働き始めた当初からパラガスの事を気にかけていてくれたらしい。

 そこで給料こそ少ないが、気持ちの整理がつくまでのんびり喫茶店で働いてみないかと誘いをかけてくれたのだ。もともと親父さんとは気が合うらしく、よく話していたパラガスはその申し出を受けて今は親父さんと2人で喫茶店を切り盛りしている。色々試行錯誤しているらしく、最近では気を使って珈琲を焙煎するすべを身に着けたと言っていた。命名「ブロリー珈琲」は飲むと元気が出る珈琲として、人気メニューである。

 

 

 

 

▽月◆日

 

 

 クリリンくんと18号がデートしてる場面を目撃。キタコレ。

 

 といっても、クリリンくんは荷物持ちなのか買い物袋をたくさん持たされていた。けど本人幸せそうな顔してるのでいいかなって思った。

 

 

 

 

 

 

ю月◎日

 

 

 餃子師範を通してランチさんに相談された。

 

 なんでも天津飯を追いかけに追いかけて一緒に暮らすまでこぎつけたはいいが、天津飯が修業の傍ら生活のためにしている畑作業が肌に合わなくて悩んでいるらしい。

 そこで天下一武道会以来ほぼ接点が無かったのだが、餃子師範に女性で誰か農業に詳しい人はいないかと相談したところ私に話が回ってきたようだ。

 

 ので、一回チチさんを交えて女子会した。聞けば、畑作業は苦手だが天津飯の事はランチさんの表さんも裏さんも大好きなようで……もうこれは私らの出番じゃね? と、私とチチさんは張り切って畑作業を指導した。といっても、女性でも負担になりにくい体の使い方やら畑作業での楽しみの見つけ方を教えたくらいなのであとはランチさん次第であるが。

 

 餃子師範は天津飯が結婚することになったら少し寂しいかもしれないけど、それくらいで彼らの固い絆は揺るぎはしないだろう。彼らの今後に注目である。

 

 

 ちなみに餃子師範の所には今でもしょっちゅう遊びに行っている。空龍もなついているのだが、背格好が近いからか師範の呼び方は「ちゃおにいちゃ」である。うん、師範、サイヤ人以上に見た目変わらないもんね……。

 そういえばずっと使う機会のなかった超能力を使った新技だが、餃子師範に相談したところ精度だけがぐんぐん高まっている。使うことが無い方がいいのだけど、ちょっとしたお守りが出来た気分で嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

◎月И日

 

 

 私とラディッツの間にも悟天ちゃんに続き1年遅れで子供が産まれた。

 

 第二子っつーか、第二子と第三子が同時に生まれた。つまりまさかの双子である。それも男女の。

 

 

 

 あっれ、なんか空龍の時とちょっと違うな? とか思ってたらこれだよ知った時ビビったわ。

 しかも空龍の時と違ってスーパーサイヤ人になるまでも無くスポンと生まれたと思ったら、2人とも最初ぐったりとして息してないわ心臓が今にも止まりそうだわで超焦った。「初めて栽培に成功した!」とカリン様のもとで修業中のラディッシュが妊娠祝いに贈ってくれた仙豆が無かったらと思うとぞっとする。

 

 名前は女の子の方がエシャロット。空龍の時は地球風の名前でいいよとラディッツが言ってくれたので、今回はサイヤ人風にしてみたのだ。フルネームが孫エシャロットになってしまうが、ラディッツだって戸籍上は孫ラディッツだ。それに今はファミリーネームを名乗らないのが普通のようだし、問題ないだろう。

 男の子の方が龍成、孫龍成(そん りゅうせい)だ。この子のがお兄ちゃんなのだが、エシャロットよりも生まれた時生命力が弱弱しかったので龍に成るくらい逞しく育てという意味を込めて名付けた。

 

 驚きはしたし冷や冷やしたが、まさか一気に2人の子宝に恵まれるとは思わなかったので凄く嬉しい。

 空龍も妹と弟が同時に出来たので大喜び。きっとこれで責任感が出て、甘えん坊な現状から変わってくれることだろう。ラディッツは言わずもがなで、生まれた時は泣きながら「ありがとう」と繰り返しながら喜んでくれた。

 

 もし未来空龍来たら驚くだろうなと、今からちょっと楽しみである。

 

 

 

 

 

 

∴月Ё日

 

 

 双子が生まれて3年くらい経つ。

 

 双子とかまたある程度育つまで大変だろうなとか思っていたのだが、一般的な子育ての苦労はあるものの空龍に比べて超楽だった。

 何故って、この2人だが純正サイヤ人であるものの空龍と違って生まれながらの戦闘力が低く、いきなりスーパーサイヤ人になることもなかったからだ。つまり力の制御を覚えさせる必要も、どっかに飛んで行ってしまう心配もない。それがいかに楽であるか、私はしみじみと実感した。

 

 こうしてみると、空龍が例外中の例外だったんだな。

 

 

 

 ちなみに双子だが、見た目はまんまちっさい私とラディッツである。

 

 私似のエシャロットは3歳にして早くも偉そうでふんぞり返っているが、そのくせビビりである。兄である龍成の服をいつもひっつかんで離さない。

 龍成は気弱なところはあるものの、優しくて妹を守ろうとするときは根性見せる子だ。いつぞや吠える野良犬から妹を守った姿は格好良かった。

 

 

 奇しくも空龍6歳、トランクス5歳、悟天ちゃん4歳、龍成、エシャロット3歳と年子のような年齢順になってしまったため、年の近い彼らは仲が良い。よく元気にパオズ山の畑で遊びまわっている。それを見守る悟飯ちゃんはすっかりお兄さんの風格だ。やんわり注意して怒ったり、遊んであげたりと頼もしい。

 

 そういえば空龍だが、最近カプセルコーポレーションにもよく入り浸っている。

 どうやら機械やモノづくりに興味があるらしく、よくブルマやブルマのお父さんの後をついて回って見学しているんだとか。空龍は力が強いこともあって念入りにラディッツが修業をつけているが、どうやら戦いよりこういった方面に興味あるみたいだ。

 

 

 

 

 

 

Й月П日

 

 懐かしい人たちから手紙が来た。ギニュー隊長、ジースくん、ナッパからだ。

 筆を執ったのはナッパのようだが、流れるような美しい文体と礼儀正しい文にビビる。な、ナッパは順調に成長しているようだ。

 

 今までも時々近況の報告をしてくれたが、最近は連絡が無くて心配していたので安心した。なんでも未だにドラゴンボール探しは難航しているようで……どうやら、他にドラゴンボールを集めてる奴が居るらしい。好敵手と書いてライバルとルビがふってあったので、苦労しながらもなかなか楽しんでいるようだ。

 

 彼らの冒険譚は絵本代わりに息子と娘に大人気なので、これからも頑張ってもらいたい。

 

 

 

 

 

□月◆日

 

 

 やっとクリリンくんと18号がゴールインした。めでたい事である。

 

 結婚式ちゃんとやるんだな、とうきうきしながら出席したら、ご祝儀を18号さん自ら徴収されて大分搾り取られた。いや、もうね……「祝ってくれるんだろう?」と美しい笑みとウエディング姿で言われちゃ断れんわ。クリリンくんがちょっと申し訳なさそうにしていたが、まあよかろう。みんなで盛大に祝ってやった。

 

 

 ところで、今回結婚式に出席したことで私とチチさんとブルマで「ねえ、今度よかったら合同結婚式やらない?」「それは素晴らしい考えだ! 悟空さと結婚式さしたけど、その時はここの皆は居なかったものな。祝ってもらえたら嬉しいし、オラもまたウエディングドレス着てみたいだよ」「いいわね~! そしたら盛大にやっちゃうわよ! さいっこうのやつね!」という話題で盛り上がった。半分冗談なので実現するか分からないけど、こういうのは話すだけでも楽しい。特に私とブルマは式あげてないしね。

 

 ベジータとラディッツが何処か肩身狭そうにしていたのが面白かった。悟空だけ「へへっ、オラはちゃんとやったもんね~」と得意げにしてたけど、お前らの結婚式色々大変だったよな……たどり着くまでの過程が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして慌ただしく日々は過ぎる。

 

 そして、気づけば6年経っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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孫悟飯の回想

 セルとの激闘から6年経ち、僕は16歳になっていた。今日からお母さんの勧めで、サタンシティの高校へ通うことになっている。

 

 

 

 

 6年間平和だったけど、いろいろあった。みんなして色んな所に行ったりお母さんたちが冗談半分で企画した合同結婚式が実現したり。お母さんたち綺麗だったな。そういえば3つ投げられたブーケはランチさん、プーアルさん、ウーロンさんの手に渡ったけどあの後どうなったのかな?

 

 

 

 色々あったその中でも、一番大きかったのは弟たちが増えたことだろう。

 

 初めは従兄弟の空龍が弟分だったけど、この僕に実の弟悟天が産まれたんだ! 僕もお父さんにそっくりな方だけど、悟天はもっと似ている。瓜二つと言ってもいい。

 空龍、悟天と遊ぶために大きくなったこっちのトランクスくんもよく遊びに来るようになったから、トランクスくんも今では弟みたいなものだ。3人ともそれぞれがそれぞれにやんちゃだから色々手を焼かされるけど、毎日にぎやかで楽しい。

 あと、空梨おばさんの所に双子が生まれた時は驚いたなぁ。

 双子のエシャロットと龍成は最初こそ空梨おばさんやラディッツおじさんにべったりで年長組の輪には入らなかったけど、段々と慣れてきたのか気づけば一緒に遊んでいた。この子たちも両親にそっくりで、小さいおばさんと小さいおじさんが居るみたいで見ていると面白い。

 

 

 

 朝はみんなで畑仕事をして、ご飯を食べる。午前中僕は勉強して、弟たちは元気に外で遊んでいることが多い。

 お昼はたまにお母さんにお弁当を作ってもらって、湖や滝まで行って食べたりもする。みんな水遊びが大好きだ。虫取りしたり動物達と遊ぶのも楽しいし、お土産に山菜や木の実、キノコを持って帰るとお母さんが喜んでくれる。

 午後はお父さんが修業に行かず家に居れば「よーし、戦いごっこすっぞ!」とはりきってチビたちに戦い方を教えたりもする。勉強の息抜きに僕も時々参加するけど「悟飯、おめぇもっと修業しねぇとなまっちまうぞ?」と言われてしまうので、ちょっとだけばつが悪い。これ、今は神様の神殿にデンデ、ネイルさん、ポポさんと一緒に住んでいるピッコロさんにも遊びに行った時よく言われるんだよなぁ。でも僕は戦う必要が無いならそれが一番だと思うし、そうなると強くなるための理由付けがちょっと足りない。勉強楽しいし……う、うん。でも、情けなく思われるのは嫌だからもうちょっと頑張ろうかな?

 午後僕たちが何かしてる間、お母さんと空梨おばさんはおしゃべりしながら農作物の加工をしたり、夕飯の用意をしたり何かしら2人でやっている。

 お互い新しく子供が産まれてから協力して子育てしてきたからか、昔よりもっと仲良くなった気がする。本当の姉妹みたいだ。

 

 空梨おばさんは昔は占いのお仕事などで忙しかったみたいだけど、ここ数年は占いババさんのところに行く以外は昼間ほぼうちに居る。実家だし、居心地がいいんだそうだ。たまにお父さんの修業につきあわされるのだけは嫌みたいだけど、何だかんだ言ってつきあってるあたりおばさんはお父さんに弱いと思う。

 おばさんは楽しいことが大好きなので、僕も昔からよく遊んでもらってるしたまに面白い事を企画してくれたり教えてくれるから一緒に居て楽しい。その分すごく子供っぽくて困らせられることも多いけど。この間「北極の氷でかき氷作ろうぜ!」なんて言って連れてかれた時にはビックリした。

 そういえばその時はちょっと目を離したすきに、チビたちがはしゃいでエネルギー波で誰が一番大きな氷山を溶かせるか競い合っててひやひやしたなぁ。溶けた氷の中からまさか生きた恐竜が出てくるとは思わなかったけど、そんなことよりあれで海面上昇が進んでしまったんじゃと考える方が怖い。あと、「玉乗りとかし込むんだ!」と言い張って連れ帰ろうとしたチビたちをなだめるのには苦労した。おばさん……信頼してくれるのは嬉しいけど、チビたちの面倒を僕に丸投げして巨大かき氷作るのに夢中とか今度はやめてください……。

 

 でも、そうやって困らせられることもあれば気遣ってくれることも多いのがおばさんである。自惚れでなく、基本的におばさんは昔から僕には甘い。こう考えるとおばさんって僕たち一家全員に弱いというか甘いんだなって思う。

 この間勉強の息抜きにってくれた漫画とか面白かったな。狐を殺してしまって、その狐に呪われた主人公が呪いを解くために生き物の命を助けていくという話だ。その主人公は悪者の悪い心だけを取り出す力をもっていて、僕にもこんな力があったらなとちょっぴり羨ましかった。

 

 夜は仕事のあるラディッツおじさんを除いて、空梨おばさん一家も交えて夕食を食べることが多い。その日あったことや、僕の場合は今日勉強したことなど話題に出してワイワイ話すにぎやかな食卓だ。

 

 

 

 

 毎日が平和で、凄く幸せだ。

 

 もう悪い奴があらわれなければいいんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 

 そんなことを思い出しながら筋斗雲に乗っていると、気づけば町はずれまで来ていた。降りてから急いで学校に向かおうとしたんだけど、その途中でなんと銀行強盗に遭遇。これで何か事件に遭遇するのは高校の手続きに来た2回と合わせて3回目か……せっかく平和になったのに、しょうがないな、まったく。

 でも事件を解決したらしたで、行った先の高校でスーパーサイヤ人に変身した僕が「金色の戦士」として話題になっていて焦った。ふ、普通に生活するって難しいんだな……。

 ブルマさんに相談してその問題は解決したけど、もっと細かいことに気を付けないといけないなって1日過ごして痛感した。ミスターサタンの娘だっていうビーデルさんには怪しまれて後をつけられるし、町って疲れる。

 

 でも結局なんだかんだで見過ごせなくて、正義の味方グレートサイヤマンとなって僕は悪い奴をこらしめた。

 ちょっと不謹慎だけど、正義の味方って格好いいし「正体がばれちゃいけない!」っていうスリルもあって楽しかったりも……い、いや! 悪い奴がいるのは良い事なんかじゃないけど! ただ、変身するとちょっとその気になってしまうんだよね。だってブルマさんが作ってくれた変身スーツが格好いいから、つい。それにちょっと前までラディッツおじさんが賞金稼ぎのためとはいえ同じように悪い奴をこらしめて捕まえたりしてたのも見てたから、どこかでそういうヒーロー像に憧れはあったのかもしれない。うん、悪い事じゃないし、町が平和になるのはいいことだよね!

 

 

 

 

 でも、僕は正体不明のヒーローを貫くにはちょっとまぬけすぎたかもしれない。あっさりビーデルさんに正体を見破られてしまったのだ。

 

 そして正体をばらさないことを条件に、一か月後の天下一武道会へ出場するように条件を突き付けられた。目立ちたくない僕にとって、正反対の要求である。でもばらされたらもっと困るし、僕はその条件を受け入れた。

 で、さらなる急展開はその後からだ。

 

 そのことをみんなに話したら「お! 天下一武道会か~! なっつかしいなぁ。よし! オラも参加すっぞ!」とお父さん。「面白い。カカロットと貴様が出るなら俺も出る。あの時は大きな力の差があったが今はどうかな? 今こそサイヤ人の王の力を見せてやるぜ!」とベジータさん。「賞金が出るのか? なら出場しろクリリン! 私も出る!」「そ、そうだな。天下一武道会か……懐かしいし、出てみるか」と18号さんとクリリンさん。「そうか、それは面白そうだな。よし、俺も出てみるか。ククッ、この天下のピッコロ大魔王様がいつまでも下位にくすぶってなどいないというところを見せてやろう」とピッコロさん。「そんな大会があるのか? しかも奴ら全員出るのか……よし、今まで鍛えた実力を試すチャンスだ。俺も出る」とラディッツおじさん。

 面白がったブルマさんからヤムチャさんに、空梨おばさんから天津飯さんと餃子さんに連絡がいって、気づけば昔の仲間がそろい踏みという状態に!

 こ、これは気合を入れないとまずそうだぞ……! 僕だって出来れば優勝したいんだ!

 

 ちなみに空梨おばさんは参加しないみたいだ。 真顔で「いや、もうお前らについてけねーから」と言われた。同じようなことは神殿で誘ったネイルさんにも言われたな、そういえば。まあ彼は神様であるデンデの護衛を務めている人だから、世俗の大会に出るのは控えたって面もあるのかな。

 う~ん、でもおばさんってよくお父さんの修業に付き合わされてるし強いと思うんだけどな。いや、この強豪がそろう中でお母さんが期待する賞金のことを考えるとライバルが減るのは嬉しいんだけど。お父さんが「えー! 姉ちゃん出ねぇのか!?」と残念がっていたから実力がちょっと気になる。おばさんがまともに闘ってるところを見たことが無いから興味あるんだよね。今度お父さんと修業してるところ見学しにいこうかな?

 

 

 

 あ、それとチビたち。悟天とトランクスくんは天下一武道会の話を聞くと自分も出る! と大張り切りだった。この2人、ちゃんと戦うところは見たことないけどお父さんや、トランクスくんは家だとベジータさんにも修業をつけてもらってるみたいだから油断できない。でも張り切ったのはこの2人だけで、空龍は誘われてたけど「え~、僕はいいよ。お母さんたちと見てるから2人とも頑張って」と面倒くさそうに断っていた。

 空龍は才能はずば抜けてるんだけど、戦いは嫌いみたいなんだよね。それよりもモノづくりが好きみたいで、よく「大人になったらカプセルコーポレーションで働くんだ!」と楽しそうに話している。学者になりたい僕と通じるものがある気がして、ひそかに応援中だ。今度勉強をみてあげよう。

 

 双子に関してはエシャロットの方は「エシャも出る!」と大興奮だったけど、龍成が止めてた。

 空梨おばさんに聞いたところエシャロットの方がサイヤ人らしい好戦的な性格で戦闘の才能もあるけど、冷静に相手との実力や距離を測る感受性は龍成の方が優れているという事。龍成は優しい子だから、妹が僕たちと闘って怪我するのが嫌だったんだろう。あの子はちゃんと自分たちと僕たちの実力差を分かっている。けして弱いわけじゃないんだけどね。多分、あの子たちが悟天やトランクスレベルと闘うのはまだ早い。悟天とトランクスもそのあたりちゃんとわかってるのか、対決ごっこの時はちゃんと手加減してる。今のところエシャロットと龍成は将来に期待かな。

 

 

 

 

 そんなわけで色々あったけど、今度の天下一武道会はお祭り騒ぎになりそうだ!

 

 

 

 そんな中、ビーデルさんに気のコントロールと武空術を教えることになった。

 彼女は正直お父さんであるミスターサタンさんより強いし才能もあるようで、すぐにコツをつかんできた。修業に充てる時間が削られたのはキツイけど、ちょっと強気できつめの性格なもののビーデルさんとてもひたむきで真っすぐに修業に取り組む人だから好感が持てた。どんどん僕が教えたことを吸収する様子を見て、教える喜びっていうのがちょっと分かった気がする。強豪ぞろいの中で彼女がどこまで戦えるか分からないけど、頑張ってほしい。

 

 そういえばビーデルさん、最初の頃は僕の家に来るたびに驚いてて忙しかったな。

 お父さんが前々回天下一武道会優勝者だってこととか、サイバイマン達のこととか。サイバイマンたちは僕たちの大切な家族だけど、普通の反応ってあんなひっくりかえるようなものなんだな……旅先でのナッパくんが今さらながらちょっと心配になった。いじめられてないといいけど。

 でもビーデルさんはうちに通ったのはたった10日だったけど、最後のあたりでは僕たち家族と打ち解けていた。空梨おばさんは「あれは悟ったとか諦めたとかいうんだよ」と言っていたけど……仲良くなれてよかったと思う。単純に仲良くなれるのは嬉しいし、僕は世間知らずなところが多いみたいだからビーデルさんさえ良ければこれから色々教えてもらおう! うん、それがいい。

 

 

 

 でもみんな、恥かしいからビーデルさんに初めて会うたびにそれぞれ僕の彼女かって聞くのはやめてよ!

 

 

 

 

 

 

 




回想という割に半分は現在のことな件。


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ビーデルと孫一家

 

 悟飯くんの家に通うようになってからは、驚くことばかりだった。

 今までの常識が覆されるようなことも多かったし……世の中広いんだってこの年にして悟ったわ。もしかしてこれが井の中の蛙ってことなのかしら。

 

 

 まず畑で緑色の化け物が働いてるのに驚いたわ……今ではもういい子たちだって知ってるけど、初見で悲鳴を上げてしまったわたしを誰も責められないと思う。だってさすがに怖いわよあれは!

 

 あと、家族の多さに驚いた。

 お父さんにお母さん、兄弟に親戚の人たち。あんまりにも賑やかで、そして楽しそうだったからちょっと羨ましかった。うちは使用人はたくさんいるけど家族はパパだけだから。それにパパったら、いつも色んな女の人と遊んでばっかりいるし! 

 一度だけそれをぼやいたら、それまでわたしを見る目が厳しかった悟飯くんのお母さんが「用事がすんでもまた、飯くれぇ食べにくるといいだ」と言ってくれた。その代り料理するのを手伝うように言われたけど、それはわたしにとっては逆に嬉しい事だった。ママが死んでからは格闘ばかりにのめり込んで女の子らしいことなんてあんまりしなくなったし、教えてくれる人も居なかったから……。あんまりにも悟飯くんとの仲を邪推するもんだから最初は反発していたけど、素敵なお母さんだと思う。料理も凄く美味しいし。

 

 悟飯くんの家族と言えば、彼のお父さんにも驚いた。だって、パパの前に天下一武道会で優勝した人と同じ名前なんですもの! しかも、聞けば同姓同名じゃなくて本人だっていうじゃない! もともと孫悟空は孫悟飯のパパだって推測していたし、悟飯くんの反応から絶対そうだろうって確信はしてたけど……やっぱり実際に本人を目の前にすると驚きが違うわ。

 この人強い、そう思った。きっと悟飯くんに”気”というものを教わったおかげもあるわね。なんていうか、凄く大きくておおらかな気を持っている人だわ。性格は気さくで、悪く言えば無神経で大雑把ってところかしら。わたしがサイバイマンに驚いて尻もちついてるところを、子供たちと一緒になって笑って見てたのは忘れないわよ……!

 

 

 とにかく、本当に驚くことばかりで(食事の量とか食事の量とか子供たちまで空を飛んだりとか食事の量とか大人から子供まで当然のように空を飛んだりとか食事の量とか家族で管理してるには広すぎる畑の規模とか食事の量とか)途中から驚いてるのが馬鹿らしくなった。空梨さんという女の人に「諦めた方が一周回って楽だよ」と言われたのをきっかけにふっきれたら本当に楽になった。

 

 そうよね、世の中知らないだけで色々あるのよ! いい教訓になったわ! もうなんでも来なさいよ!

 

 でもその励ましてくれた空梨さんにも驚かされたんだけどね……。嘘でしょ、あれで3児のママだなんて。絶対悟飯くんのお姉さんだと思ってたのに。

 しかも驚かされたのはそれだけじゃない。実は空梨さんの顔って、どこかで見たような気がしてたのよね。

 

 家に帰ったらその理由がすぐにわかった。何と、いくつも飾ってある写真立ての中……パパの子供のころの写真に彼女が一緒に写ってたのよ!

 すぐにパパにこの人と知り合いなのかと聞けば「おお、空梨さんか! 懐かしいな……パパの昔の友達なんだよ。といっても、パパは昔とずいぶん変わったしむこうは覚えてないだろうがね。なんたって会ったのは10歳そこらだったからな。はっはっは! 昔家族旅行に行った先で会って、パパが持っていたゲームを羨ましがってたから貸してあげたんだ。結局返してもらえなかったが……いやぁ、彼女はなぁ、実は少し昔占い師としてよくテレビに出てたんだよ。実際に会う事は無かったがテレビ越しに見て、昔とちっとも変ってないから驚いたものだ! ビーデルもその時の資料か何かで見たんだろう? フフフ……やはりスターはスターの素質を持つ者と自然と知り合ってしまうようでな。ところでこっちの写真の奴も実は……」途中から自慢話になって来たから聞き流してたけど、まさかのパパの友達だった。

 ってことは、やっぱり空梨さんの年齢って……いえ、深く考えるのはやめましょう。藪蛇な気がする。

 

 

 

 色々思い出すと悟飯くんがちょっとズレてるのも仕方がない気がするわ……こんな濃い家族に囲まれちゃね。ちょっとデリカシーが無いことぐらい許してあげてもよかったかもしれない。

 初めのころ、髪の毛を短くした方がいいと言われてショートヘアーの方が好みなのかな? と思ってちょっとドキドキしてたら「試合するなら短い方が有利」とか言うんですもの! 勘違いして勝手に照れてたわたしも悪いけど、もうちょっと乙女心ってものを分かりなさいよという怒りを込めて怒鳴ってしまった。で、次の日には当てつけみたいに髪の毛切っちゃったり……ううっ、改めて思い返すと恥かしい。

 

 お世話になったことだし、お礼にせめて高校では普通に振る舞えるようにわたしが気を付けて見ていてあげよう。悟飯くんは目立ちたくないみたいだけど、今のままじゃ土台無理だわ。色んな意味で。

 …………町とかも、あまり慣れてないみたいよね。今度色々教えてあげながら案内とか……い、いいえ駄目だわ。イレーザたちに見られたらどんなふうに思われるか! こ、この案は保留ね! うん! 

 

 もうすぐ悟飯くんを誘った天下一武道会が開かれる。

 1か月、わたしに出来る事はすべてやり切った。悟飯くんへの一番のお礼は正々堂々戦って”気”を教わった成果も見せる事!

 

 

 

 

 よし、頑張るわよ! 見てなさい。最高の戦いを見せてあげるんだから!

 

 

 

 

 




ちょっと短いですが、ハイスクール編が無い代わりにちょこっとビーデルさん視点でした。


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31ページ目 魔人ブウ編スタート!~界王神様はとりあえず頑張れ

 

 

 ブウの腹の中なう。

 

 あとでどんな風に日記書き始めようかなーとぼんやりと考えるものの、果たして私はここから脱出出来るのだろうか。流石に今この現状では日記など書けないし、こうやって思考して落ち着くしかない。やはりあの日記、ろくなことを呼び込まなかったりもしたけど私には必要なものだったのだ。今凄く落ち着かない。ああ、私の精神安定剤……。

 

 平たく言って魔人ブウに吸収されたよね。現在肉繭の中である。なんで意識あるんだ私。

 

 さて、暇だし何故こうなったか順番に思い出していこう。どうせ暇だし。

 いやでも、この肉繭あんがい気持ちいいな。なんていうか、絶妙に気持ちの良い包まれ心地というか、ちょうどいい温度というか。肌触りもよいし、あれ……なんか眠く……いや寝るな、これ寝ちゃ駄目な奴だろ。寝ちゃ駄目な奴だろ。

 

 でも……あれ……意識が…………………………。

 

 

 

 

  zzzzz..........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●月▽日

 

 

 子育てだの知り合いのイベントだの忙しく、気づけば悟飯ちゃんが都会の学校に入学する時期になっていた。つまり、魔人ブウ編の序盤スタートの時期である。

 

 ブロリーの件で一回痛い目を見たものの、今度こそ大丈夫だろうという確信がある。

 

 ゴッドという戦力的な切り札ももちろんだが、魔人ブウ編はバビディの洗脳術と魔人ブウの善ブウ、悪ブウの分離さえ気を付ければ案外あっさり終わりそうだからだ。そもそも復活させなければ何も問題ないし。

 フフン、実は私魔人ブウ編はわりとよく覚えているのだ。あれだろ? 倒してしまうなら悟空たちの舐めプをやめさせればいいし、味方に引き込むならバビディとダーブラだけアボンさせてブウさんのもとにミスターサタンを送り込めばいいんだろ? 簡単じゃないか。べえを銃で撃つゴミ2匹はったおしとけば9割解決じゃん? 実にイージーモードである。ミスターサタンには、今度こそ文字通り世界を救ってもらうのだ!

 

 

 そういうわけで、これまでの6年間忙しいながら実に心安らかな日々を送れた。この世界に生まれてから、一番幸せで穏やかな時間だったのではなかろうか。

 

 

 楽しい事も色々あったな。

 

 冗談半分の合同結婚式は悟空とラディッツはともかくベジータが絶対参加しないだろうなって思ってたんだけど、「せっかく王の後継者が妻を娶って子供が産まれたのに遅くなって悪かったね。よければ、この機会にお前の王としての戴冠式も一緒にやってやるよ」とか言ったらまさかのOKが出た。「フンッ、ようやく貴様も俺が王であることを認めたか!」と偉そうにふんぞり返っていたけど、嬉しかったんだろうか。

 そりゃあな……ずっと自称で王名乗り続けてるのがちょっと可哀想だったしな……血筋的には問題ないし、地球に住むサイヤ人も増えたし「族長」的な意味で王くらい名乗らせてやってもいいかなって。

 みんなに聞いたところ「いいよ~」という軽いものながら満場一致で同意を得られたし。ブルマもブルマで「あら、だったら私は王妃様ってこと? なかなかいいじゃない!」と乗り気だったしね。でも多分みんな私と同じで深く考えてない。せいぜい結婚式の前座の余興レベルの認識である。

 

 そうだ、あと今度ビルス様が来たら「サイヤ人の現キングはベジータです」と言って責任を押し付けよう。うん、それがいい。

 

 

 で、姉の私が取り仕切るなんちゃって戴冠式のあとに合同結婚式が実現したのだ。

 といっても、要はみんなで集まってワイワイしただけみたいなもんだけど。でも楽しかったなー。実は言い出したくせに今さら結婚式とか恥ずかしいと思ってたけど、祝ってもらうのは嬉しかったし何よりチチさんとブルマのウエディングドレス姿を同時に見られるなんて贅沢今後ないだろう。実に眼福であった。

 

 

 そして結婚式前の戴冠式なのだが、パラガスに相談したところ予想外にしっかりしたものになってしまった。

 初めこそ面白半分に冷やかしていたメンバーもいたくせに、式が始まるとなんとなく厳かな雰囲気になってネタどころか真面目にちゃんとした式になって言い出しっぺの私が一番驚いたわ。お、おう……ネタだからこそ逆に気合い入れた方が面白いだろ! と悪ノリして作ったマントと王冠、結構似合ってるじゃねーかと内心超戸惑った思い出。他2人の旦那が普通に格好良く白いタキシード着てるのに、一人王冠とマントをつけるとか罰ゲームだろ(笑)とか思ってたのにな……逆にみんなに褒められてたわ。何だったんだろうあの現象。その場の雰囲気とかノリとか空気って怖いわー。

 

 ま、まあいいか。とりあえず戴冠おめでとうベジータ王。式のしっかり具合は主にパラガスのおかげだから、それで以前新惑星ベジータでおちょくられた件はちゃらにしてあげろよ。

 

 

 

 そういえば、戦闘面はもう心配しなくていいなー身内が強いって頼もしくて楽だわーって思ってのんびり過ごしてたけど、たまに悟空に修業に付き合わされるのは今でも勘弁してほしいと思う。おま、人を重力室代わりにするんじゃねーよ。たしかにグラビティープレッシャーの効果範囲とかけられる圧力パワーアップしたけどさ。あと私の新技はお前の修業のために開発したわけじゃねーよ。クソッ、姉ちゃんは何かおもしれぇ技知んねーか? と聞かれた時に超能力自慢なんかするんじゃなかった。

 でも双子が産まれた後に「一緒に修業しようぜ姉ちゃん! また悪い奴が現れたら、今のままじゃ姉ちゃん死んじゃうかもしれねーぞ。姉ちゃんは生き返れないんだし、もっと強くなんねーと!」と善意100パーで言われちゃな……いや、100%ではないか。ラディッツは主に自主練かベジータと修業してるし、自分も近くに修業相手欲しかったんだろう。迷惑な。

 でも断れないあたり、私はこの弟には弱い。

 

 だが悟空お前、私に試したい技があるからって自分と同じくらい強くなるのを期待すんなよ。しかも試したい技ってあれだろ。フュージョンだろ。男女の融合召喚とかいったいどんなオネェキメラが召喚されんだよ。断固として拒否するわ。こっそり出来るようになってベジータとラディッツ驚かせたいとか言ってたけどマジやめろし。大人しく甥っ子に教えるに留めとけ。

 

 

 

 

 

 

И月П日

 

 

 ビーデルさんがやってきた。悟飯ちゃんに舞空術を教わるみたいだけど、甘酸っぱい青春の香りがする。気が早いけど結婚はよ、と思ってしまった。つーかビーデルさん可愛いな!

 

 子供らがビーデルさんに構いたくて仕方がない感じだったけど、心を鬼にして「絶対邪魔すんなよ」と釘を刺しておいた。あと彼女、色々驚きすぎて大変そうだったからビーデルさんの前では戦いごっこはするなよ! とも言っておいた。約束をやぶったら貴様らのおやつは全部私の腹に納まることになるからな、と脅しておいたら素直にきいてくれた。チチさんに大人げないと呆れられたけど、これも躾である。ははは、あれだけ遊びまわって腹が減ってる中でのおやつ抜きはきつかろう。食を握るものには勝てないと、今のうちから覚えておくがいい。

 

 

 

 

 

○月■日

 

 

 ビーデルさんから写真を一つ見せてもらい、「父と知り合いだったんですね」と言われてビビった。ちょ、この写真に写ってるのマーくんことマークじゃん。え、ミスターサタンってリングネームだったんだ!? 普通に本名だと思ってたわ。

 つーかマーくん老けたな……いや、写真に写ってるのが10歳そこらの時だし当たり前か。この時は髭もなくて、いい年こいてゲームを羨ましがって絡んできた私をお姉さんお姉さんと慕ってくれた良い子だった。でも借りパクしたゲームを発見した時以来完全に忘れてたな……。やっべ、あのゲームどこにしまったっけ。今更だけど今度ビーデルさんに返しておいてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

Ё月■日

 

 

 いよいよ久しぶりの天下一武道会当日! 

 

 そして予選が終わり本戦の組み合わせが出たわけだが、なんというかこれは……。

 

 

《第一試合》ミスターサタンVSマイティマスク(多分チビッ子2人参戦)

《第二試合》シン(界王神)VS孫悟空

《第三試合》ビーデルVSマジュニア(ピッコロ)

《第四試合》孫悟飯VSスポポビッチ

《第五試合》18号VSベジータ

《第六試合》餃子VSヤムチャ

《第七試合》ラディッツVSクリリン

《第八試合》天津飯VSキビト

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ………………。

 

 先に少年の部の記録を書こうか。悟天ちゃんもトランクスも頑張ったし。

 

 とりあえず、マーくんと界王神様頑張れ。

 

 

 

 

 

(日記は続いている)




ふざけてマジでくじ引き作ったらこんな結果になりました。マジで。


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32ページ目 天下一武道会開催!~ラッキースターは2人居る!

Ё月■日続き

 

 

 

 

《少年の部決勝戦》

 

 天下一武道会では現在は大人の部と子供の部で分けられている。そのため、本人たちはぶーたれていたがトランクスと悟天ちゃんは子供の部に出ることになった。

 

 結果は当然ながら2人の圧勝で進んだわけだが、2人の最後の試合がね……いや、試合自体はやんちゃが過ぎるけどいいんだよ。だけど試合を見てる親の反応っていうかベジータの奴の反応が私の腹筋に深刻なダメージを与えてきた。

 今回は全員スーパーサイヤ人は無しで、という縛りが仲間内で決定したわけだけど、負けそうになった悟天ちゃんがついスーパーサイヤ人化しちゃった時「汚いぞカカロット!」とか言ってるし、その前もトランクスが勝ちそうになってる時とか機嫌良さそうに笑ってるし……しっかり親馬鹿になってんじゃねーかお前。

 

 ちなみに空龍だが、楽しそうに試合を見ていたものの途中で悟天ちゃんのかめはめ波が建物にぶつかりそうになった時とっさに動いてそれを弾き飛ばしていた。その手慣れた様子に「あ、この子ちゃんとお兄ちゃんとしてあの子らの戦いの面倒見てるんだな」って思った。悟飯ちゃんが高校に通い始めたから、やっとチビの中での年長者って自覚が出てきたのかもしれない。思わぬところで息子の成長を見た。

 

 あと龍成はそんなお兄ちゃんに憧れのまなざしを向け、エシャロットは「やっぱりエシャも出たかった」とぶーたれていた。まあ、いずれな。とりあえずエシャロットは手加減覚えるまでは諦めろ。

 

 

 

 

 

 

《天下一武道会大人の部 第一試合》

【ミスターサタンVSマイティマスク】

 

 もしマイティマスクが本人だったらこのまま見ていようと思ったのだが、案の定胴長のキメラになっていたので無言ですっと指をさして空龍を見た。それだけで理解したのか、空龍は「オッケーお母さん!」と頷くと試合が始まろうとしていた会場に飛んでいくと、そのままマイティマスク(偽)に蹴りを入れて上半身と下半身を分離させた。否、肩車で背を稼ぐというせこいことしていた甥っ子2人の正体を露見させた。

 これには会場がざわついたがいちいち説明するのも面倒くさいので、念力で会場から無理やりイヤイヤと暴れるチビ2人を引き寄せるとそれぞれのオカンの前に着地させた。待っていたのは当然ながら母からの愛の拳骨である。……いつも思うけど、サイヤハーフ(時々サイヤ人)にたんこぶ作れるチチさんとブルマすげぇ。

 

 そんなわけで、ミスターサタンは「???」という表情のまま不戦勝。この男、運が悪いようでいて実にラッキースターである。

 

 

 

 

 

《天下一武道会大人の部 第二試合》

【シンVS孫悟空】

 

 試合前に何やら会話をしていたが、場所が遠いのと周りの歓声が煩くてよく聞こえなかった。

 

 けどその歓声の中に面白いものを聞き取る。「おい、あれって昔出てたチビじゃないか?」「お前何十年前の話してんだよ。あいつ大人になってからも一回出てんだぞ。しかもその時は優勝して結婚までしたんだからな!」「マジか! いや、でもその時の天下一武道会って会場吹っ飛んだりしてなかったか? つーかそれも結構前の話だろ。よく知ってんな」「司会の奴が友達なんだよ。俺も最後まで見れなかったけど、凄かったぜ!」とか。サングラスかけてお忍び全開オーラ出してる今どき珍しい獣人タイプのおじさんが「あ、あれはあの時の少年!? 間違いない! 大きくなって……そうか、さっきの少年の部のあの子はやはり彼の息子だったんだな」と言って何やらサングラスの下に涙を光らせていたりとか。「おい、よく見ろ! 対戦表に天津飯がいるぞ!」「パパ、てんしんはんって誰??」「あいつも過去の優勝者なんだ! パパが若い頃見た天下一武道会に出てた!」「本当だすげぇ! よく見たら、今回昔出てた連中多くね!? と、鳥肌立ってきた……! 少し考えるだけでも過去優勝者が3人!? じゃ、ジャッキー・チュンはどこだ!?」「落ち着けさすがにもうお年が厳しいだろ」「そういえばあの緑のって」「言うな」とか。

 

 なんつーか、ちらほらコアなファンが混じってるな。

 当時はテレビカメラも無かったし色々アクシデントも多かったからほとんど映像に残っていないはずだけど、よく覚えてるもんだ。けど当時の試合を見ていた者なら、その強烈なインパクトを忘れられない気持ちも分かる。私は一回しか見てなかったけど、面白かったよね天下一武道会。

 

 

 さて、当の試合だがいい意味で裏切られた。

 

 界王神様普通に善戦してるじゃないか!

 

 

 ここで仕事したのが今回のスーパーサイヤ人無し縛りである。ノーマル悟空となら界王神様はいい線いくどころか、普通に強いみたいだ。

 戦い方の印象は「姿勢がいいな」である。あと流麗というか優雅というか、動きの一つ一つに無駄が無い。戦い慣れはしていないようなのだが、先読みの力にたけているのか悟空の動作ひとつひとつに一瞬早い速度で反応して対処している。悟空もそれに対して楽しそうに応戦しており、その玄人じみた戦いの様子は会場を沸かせた。派手さは無いが、技巧面で言えばまず間違いなく最高峰の試合だっただろう。お互い様子見なのか観客に見える速度でやりあっていたのも大きい。

 

 しかし悟空に熱が入ってきたあたりで、まさかの界王神様の「まいった」宣言。これには会場大ブーイングである。

 スーパーサイヤ人になるのを促さなかったあたり、そちらの本命は悟飯ちゃんで悟空に対しては素の実力を計りたかったってところだろうか。見た感じ、界王神様もちょっと楽しそうだったし。

 悟空の「え~! そりゃねえよー!」という大きな声だけ聞こえたけど、係の人に次の試合が控えているからかさっさと武舞台からは追い出されていた。それをクスクス笑ってみていた界王神様が印象的である。

 

 

 

 

 

 う~ん、面白い。やっぱり面白いぞ天下一武道会! 現在進行形で打ち込んでいる実況日記もいいが、あとでちゃんとまとめよう。どこまで試合が見れるか分からないけど、出来れば全試合見たいものだ。

 

 さて、お次の試合はビーデルさんとピッコロさんである。実力的にはその差は明らかだが、内容からは目が離せない。期待!

 

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 




ラッキースター2人目は誰でしょうね(ヒント:スーパーサイヤ人縛り


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夢の続き

 歓声が響く中、私は観客席に深く座りなおした。慣れない場所だったが今日は来てよかったと本心から思い、隣に座っている元護衛の男に礼を言った。

 

「今日は誘ってくれてありがとう……おかげで素晴らしいものを見ることが出来た」

「いえ、とんでもない。自分もこれほどの試合を見れるとは……しかも、一人はかつて我々を救ってくれた少年ときている。実は一度大きくなった姿を天下一武道会で見たこともあるのですが、それからもう何十年と経っている……だというのに、今一度彼の闘う姿を見られるとは思わず不覚ながら感動に震えております」

「ああ。妙に若々しい気もするが、大きくなったな」

 

 かつて私が国王を務めていた時、世界は2度恐ろしい危機に晒された。一度目は蘇った恐怖の象徴、ピッコロ大魔王。二度目は人々を吸収し恐るべきパワーを手に入れた謎の生命体セル。

 その時情けなくも国王である私に出来る事は何もなかった。なすすべなく翻弄され、逆に戦いに出した兵たちを無駄死にさせてしまった。2回とも神の奇跡と言わんばかりに死した人間達はどういうわけか蘇ったが、隣に座る大柄なこの男もかつてピッコロ大魔王に胸を貫かれ殺された者だ。あの時の恐怖、無力感は国王を退任した今でも消えない。おそらく一生ついてまわる感情だろう。

 

 だが、同時に希望も覚えている。

 

 ピッコロ大魔王を倒してくれた、小さな少年。そして……これは彼の息子の謎の変身を見て確信に変わったのだが、おそらくはセルもきっと彼らが倒してくれたのだ。世間ではミスターサタンが倒したことになっているが、当時テレビに映っていた金髪の戦士達は多分あの子たちだ。

 本人たちが主張しないということは、彼らにとって名誉など必要ないからだろう。かつてピッコロ大魔王を倒した時、あの少年が何も求めなかったように。

 

 

 二度。いや……もしかしたら、我々が知らないだけでもっとたくさん、彼は世界を救ってくれていたのかもしれない。そんな気がする。

 

 

 感慨深い思いに浸る中、次の試合が始まった。が、今度は別の意味でぎょっとする。あ、あれはまさか……!?

 

『続きましてはビーデル選手対マジュニア選手ーーーー!!』

 

 戦士の紹介がされると、周りがビーデルコールで染まった。ミスターサタンの娘だが、本人自身が犯罪者を捕まえる手伝いをしたり積極的に活動しているため人気が高い。ビジュアルが美人歌姫として有名だった母ミゲルの容姿を受け継いで、たいへん可愛らしいのもあるだろう。私もひそかに彼女のファンだったが……い、いや、今はそれよりも対戦相手だ!

 

「き、君! あれはまさか……ピッコロ大魔王では……!?」

「落ち着いてください国王。彼は過去に一度、あの彼……孫悟空が優勝した天下一武道会に同じ名前で出場しています。その時「ピッコロ大魔王の生まれ変わり」と名乗っていましたが、ピッコロ大魔王に対峙した自分にはわかります。人相、体格が微妙に違う……何より若い。おそらく血縁者でしょう。セルゲームにも似た者が映っていたと記憶していますが、これまで表に出てこなかったということは何も悪さをしていないのだと愚考します。奴がことを起こせば、表ざたにならないはず無いでしょうからな」

 

 予想に反して冷静な反応を見せた彼に、私も落ち着きを取り戻す。

 

「そ、そうか。しかし君、以前の天下一武道会のことなどよく知っていたね」

「自分なりにピッコロ大魔王を倒した少年が気になって生き返ってから調べたのですよ。そして過去に二度天下一武道会に出ていたことを知って、それ以来開催されるたびに通うようになりましてね」

「むう。わ、私も誘ってくれたらよいじゃないか」

「何をおっしゃいます国王。あなたは忙しくてそれどころじゃなかったでしょう」

「これ、もう国王ではないぞ」

「す、すみません。ですが、癖は抜けないものですな」

 

 そんな風に雑談している間に試合が始まり、慌てて2人して武舞台へ視線を戻した。

 見た分にはビーデル嬢が猛攻を仕掛けているが、ピッコロ大魔王に似た相手はそれを全て受けきっている。時折繰り出される攻撃を紙一重で避けるビーデル嬢の動きに会場の歓声は高まるが、素人目だがその実力差は明らかなものであると窺えた。すなわち、ビーデル嬢ではあの緑色の彼には勝てないだろうということだ。だが、相手はなかなか彼女に止めを刺そうとしない。

 趣味悪くいたぶって遊んでいるわけでも無し、どういうことだろうか? 

 

 

 私は犬の獣人であるため嗅覚に加えて耳もよい方だ。どれ、何やら会話をし始めた彼らの言葉に耳を傾けてみようか。

 

 

「どうして、本気を出さないの!? あなた、もっと強いでしょう!?」

「ほう、分かるのか。相手の実力を計れぬ者は長生きできんからな。その感覚は大事にすることだ」

「茶化さないで! 手加減されても嬉しくないわ。わたしは本気でこの大会に挑んでるの!」

「威勢がいいな。気が強い女が好きなのは血か? 悟空といい悟飯といい……恋愛というやつか。わからん」

「れ、恋愛!? 何言ってるのよ! というか、あなた悟飯くんたちと知り合いなの? たしかにさっき一緒に居たけど……」

「悟飯は俺の弟子みたいなものだ」

「弟子? あなた、悟飯くんの師匠なの?」

「まあな。といっても、昔の話だが。悔しいが今ではあいつの方が強い……最近は修業を怠けていて感心できんから、今日はこらしめてやろうかと思っているがな」

 

 これだけ会話しながら動き続けるというのも凄いものだ……。ビーデル嬢は若干息切れしてきているが、マジュニアは顔色一つ変えていない。いや、あの顔色では善し悪しが分からんが……。

 

 その後も激しい攻防が続くが、状況は拮抗し決着がつきそうな気配はない。しかし、着実にビーデル嬢の体力は消耗している。「これは時間の問題でしょうな」と元護衛の男が言ったが、ビーデル嬢もこのままでは負けると分かったのか一気に攻勢を強めてきた。すると今までほとんど防戦していたマジュニアがそれに対してカウンターで迎え撃つ。吹き飛ばされ、舞台の上を転がるビーデル嬢を見て会場から悲鳴が上がる。が、彼女はそれをものともせずに再び立ち上がり攻撃を繰り返した。

 殴られても、吹き飛ばされても、蹴られても、焦りは見えども闘志の宿った瞳に陰りは見えない。傷つきながらも不屈の闘志で立ち向かうその美しい姿に、最初は悲鳴を上げていた観客だったが再び声援が息を吹き返していく。

 そうして見ていると、不思議なことに傷ついて消耗していたはずのビーデル嬢の技に段々と精細さが戻ってきたように思える。それどころか、先ほどのがむしゃらな攻撃よりも鋭さが増したように感じた。気のせいかともおもったが、ふと隣の男が口を開いた。

 

「まるで、彼女は修業をつけてもらっているようですな」

 

「修業?」

「ええ。あのマジュニアという選手、勝とうと思えばすぐに勝てるだろうに……彼女の動きの無駄を攻撃によって指摘している。そしてビーデル嬢も無意識のうちにそれを受け入れ、改善しているのでしょう。体力が減っているはずなのに、試合自体は先ほどよりもよほど見ごたえがある」

「なんと! 何故マジュニアはそんなことを?」

「わかりません。わかりませんが、闘いだけでなく選手間に色んなドラマが生まれる……それも天下一武道会なのです。年甲斐も無くワクワクしていますよ。正直孫悟空の出場した大会を見てしまっただけに、前回の天下一武道会にはがっかりしていたのですが……今回は全試合通して素晴らしい戦いになる気がしてなりません」

「そうか……そんな天下一武道会を初めて観戦して見られる私は幸運なのだな」

「そうかもしれませんね。ああ、まったく天下一武道会とはよく言ったものです。天下一を決める武闘家達の夢の祭典……それを見る者もまた、夢を魅せられる。これを知ってしまうと、しばらく普段の生活が物足りなくなりますよ」

「ほっほ、そうか。覚悟しておこう。では今は存分に夢に浸かろうか」

「はい。自分もいつか途切れた夢の続きを楽しむこととしましょう」

 

 周りの熱気にあてられ、気分が高揚してくる。今日は本当に来てよかった。

 

 

 

 そして試合が続く中、その途中でマジュニアがビーデル嬢に話しかけた。

 

「お前、ビーデルといったか」

「え、ええ……そうよ。そういうあなたは? さっき悟飯くんに別の名前で呼ばれてたでしょう。あなたほどの達人、ちゃんと名前が知りたいわ」

「俺はピッコロだ」

「ピッコロさんね。ふふっ、マジュニアって名前も悪くないけど、あなたにはそっちの方がしっくりくる」

「ククッ、そうか。…………お前は戦いに対して、強くなることに対してひたむきで貪欲だな。そういう姿勢は嫌いじゃない」

「ありがとう、光栄よ」

「お前の方がふさわしいかもな」

「え?」

「もともと今の自分の実力を試したくて大会に出たが、どうせ今回は全員が全力で戦えるわけでは無いからな。そんな中で勝っても、逆に心の靄が増すばかりだろう。だから、というわけでもないが……こういう大会にはお前のような者こそふさわしいのかもしれんと、そう思っただけだ。強敵にも怯まず挑み、傷つきながらも己を磨き上げていく……今の悟飯には足りない気持ちだ。あいつは謙虚なようでいて、調子に乗ると親子ともども油断が過ぎる」

「何を言っているの?」

 

 ビーデル嬢が困惑する中、なんとマジュニアは彼女に背を向けるとあっさり武舞台から降りてしまった!

 

「え!?」

 

 これにはビーデル嬢だけでなく、会場中が唖然として先ほどまでの歓声が嘘のように静まった。

 

『ま、マジュニア選手、場外です! よって第三試合勝者、ビーデル選手ーーー!!』

「ちょ、ちょっと待って! どういうつもり!? 情けなんていらないわ! ちゃんと最後まで勝負して!」

「悪いな。もともと、ちょっと事情が変わって試合どころじゃなくなっていたんだ。それでも悟飯の弟子の実力が見たかったから相手したが……悪くなかったぜ。どうせ次の試合で勝ちあがってくるのは悟飯だ。せいぜいあいつにその気概で食いついて慌てさせてやれ」

 

 それだけ言うと、マジュニア選手は白いマントをひるがえしてあっさりと建物内へ消えていった。

 

「まさかこんな結果になるとは……」

「ですが、これで彼がピッコロ大魔王でないことがハッキリ分かりましたな。奴ならこんなことしないでしょう」

「むう……そうだが、彼の試合をもっと見ていたかったな。ビーデル嬢が勝ち上がったことは喜ばしいのだが……」

「ふふふっ、はまりましたな国王。そうなのです、どちらが勝っても、もう一方が勝ち上がったらどんな戦いが見られたのか想像して惜しく思うのも天下一武道会の醍醐味です」

「といっても、お前さんもまだ2回目の観戦だろうに」

「ははっ、違いない。でも自分は次の大会も見に来ますよ!」

「私もだ!」

 

 私はたちはそう言って笑いあうと、次はどんな試合が見られるのか……期待をこめて舞台に注目した。

 

 

 大会はまだまだ始まったばかり。最後まで存分に楽しむとしよう!

 

 

 

 



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33ページ目 悟飯ピンチ!~謎の男たちは誰だ!?

 

Ё月■日続き

 

《第三試合 ビーデルVSマジュニア(ピッコロ)》

 

 

 ビーデルさんとピッコロさんの試合であるが、実に感動的な試合だったと書いておこう。その一言に尽きる。思わず実況を書くのも忘れて拳を握って試合に見入ってしまった。後でこの時の感動を振り返りながらじっくり書き起こすとしよう。

 

 いやぁ……やはりピッコロさんは最高に格好いいな! ビーデルさんも頑張った! いい試合だった。

 

 あと、遠目だけど悟飯ちゃんが慌てたりハラハラしたり身を乗り出したり忙しかったのも見ていて面白かった。気持ちは分かるが落ち着け。

 

 

 

 

《第四試合 孫悟飯VSスポポビッチ》

 

 

 さて、いよいよ悟飯ちゃんの試合である。

 

 ちなみに悟飯ちゃんは最初「グレートサイヤマン」で登録しようとしていたのだが、周りが身内だらけで気が緩んだのかうっかり本名で登録して後になって頭を抱えていた。ビーデルさんとの約束で正体をばらさないことを条件に大会に出場することになったというのに、本末転倒である。これには条件を出したビーデルさんも呆れていた。……まあ、チビ共が直前まで悟飯兄ちゃん悟飯お兄ちゃんとまとわりついて集中力奪ってたのもあるか。正直すまんかった。

 しかしここまで来たらと、すでに開き直っている様子だ。ビーデルさんを応援に来ていた同級生から声援をおくられて若干引きつっていながらも笑顔で手を振り返している。

 

 相手は原作ではビーデルさんをフルボッコにしていたバビディの手下と化したスポポビッチという男である。まあバビディの魔術で強化されているとはいえ、悟飯ちゃんの敵ではないだろう。

 

 

 しかし、今現在私の注目を集めているのは武舞台の上ではない。

 

 

 Z戦士が参戦したばかりに予選落ちしてしまったスポポビッチの片割れのハゲを探していたのだ。

 ……こう考えると唯一残った一般枠のマイティマスクって凄かったんだな。魔術強化された奴を差し置いて本戦出場とか、実力なのかもしれないけど気分的にはミスターサタンに次ぐとんだラッキースターだわ。

 今回スーパーサイヤ人縛りをあらかじめ知らされていたからか「え、そうなの? じゃあ折角だし俺も」みたいな感じで、Z戦士ほぼ参加だったから通常に比べてかなり本戦出場の倍率高かったんだぞ。……まあ悟天ちゃんとトランクスにその座を奪われたあたりアンラッキースターでもあるわけだが。

 とりあえず今回の大会では土台勝ち上がるのは無理なので、次回頑張ってほしい。

 

 それはともかく、ハゲだ。

 そもそもこの武道会ではサイヤ人側だけでなく全員本気で戦えるわけじゃないから(本気出したらここら一帯更地になる)、多分界王神様達が余計なこと言って悟飯ちゃんをスーパーサイヤ人にさえしなければブウ復活のためのエネルギーなんて集まらない。集めるにしても、超化悟飯ちゃんのパワー+わりとガチの悟空とベジータの戦いの余波でやっとたまるエネルギーってどんだけだよ。本来なら溜まるまで相当時間に余裕あるだろ。

 魔人ブウの復活のためのエネルギーを与えなければ、バビディとダーブラを倒してブウ編は終わりなのだ。居場所がわからないなら私かババ様が占えば一発だし、実に簡単である。

 せっかく天下一武道会も盛り上がってきたことだし、全試合普通に見たい。

 というわけで、片割れのハゲを発見次第ボコって試合が終わったらバビディたちをやっつけちゃおうぜコースで行こうと思っていた。

 最悪見つからなくても襲い掛かる瞬間を狙ってボコれば無問題である。私別に邪魔しちゃいけないとか界王神様に言われてないし? 大丈夫大丈夫。無問題。超無問題。

 

 

 まあ、気を張りすぎてもしょうがないか。今回は本気でイージーモード確定だし探してばっかいないで試合の方も楽しもう。

 

 

 そして始まった試合であるが、当然ながら悟飯ちゃんが圧倒していた。が、魔術の影響かどんなにダメージを受けてもスポポビッチは倒れない。

 一見優男風の青年から繰り出される激しい攻撃と、しかしそれに倒れずタフネスを発揮して食らいつく巨漢という図は先ほどとは別の意味で会場を盛り上げた。

 まあ、普通に見てたら悟飯ちゃんのギャップと巨漢にふさわしいタフさの攻防は見てて楽しいだろうな。綺麗に技が決まって「もう駄目か!?」と思ったらまた立ち上がってくるんだから……相手してる側はじれじれするだろうけど、見てる側としたら「どこまで耐えるんだ、逆転はあるのか!?」と気になるだろう。

 

 けど見るものが見ればスポポビッチのタフさは違和感しかない。

 悟飯ちゃんは加減が上手いので首の骨を折るなど致命傷を与えるなんてことはしないだろうが、それにしたってあれだけ攻撃を受けているのだ。普通ならもう立っている事さえままならないだろう。

 

 

 

 が、その膠着状態は外野から飛ばされた「スーパーサイヤ人になるのだ孫悟飯!」という声によって動いた。キビトである。

 

 

 

 悟飯ちゃんは最初こそ戸惑っていたがテレパシーで話しかけられでもしたのか、しばし百面相をしてから覚悟したのかキッと表情を凛々しくした。

 さて、背中にひっついている双子を引っぺがしとくか。いつでも動けるようにしておこう。ほれ、お前たちは亀仙人様んとこいって一緒に試合見てるマーロンちゃんと遊んできなさい。

 

 さあ来いハゲ! 貴様くらいなら私でもどうにでもなるんだからな! はーっはっは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぎゃふん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この一言に尽きる。

 え、何なん。何なん、あれ。

 

 悟飯ちゃんがスーパーサイヤ人になった途端、案の定ジョウロだか吸い飲みだかみたいな形状の容器をもってハゲが飛び出してきた。なので一般人には見えないスピードで私も飛び出し腹パンして回収しようとしたのだが、なんとそれを邪魔する者が居たのだ!

 しかもそいつ、未来トランクス(ノーマル長髪バージョン)に似た容姿をしていた。違いといえば黒髪で目が緑であること、あとやたら緑緑しい服装だったことくらいか……まるで訳が分からない。唯一分かるのはそいつの額にMに似た刻印が刻まれていたことから、バビディの手下であるということ。ちょ、誰だよこいつ! しかも強えぇぇッ!! 

 

 邪魔されたのでしばらくそいつと空中でやりあったが、結局突破できず界王神様に動きを止められた悟飯ちゃんはエネルギーを奪われてしまった。邪魔した男は「ククッ、つまらん仕事だと思っていたが君のおかげでなかなか楽しめた。よければまた挑んできたまえ」と余裕しゃくしゃくで言い残してハゲ×2と一緒に飛び去っていった。

 

 あと、あれかな。気のせいかな。

 

 謎の男+ハゲ2人の後をいち早く追った者が居た。一風変わった衣装とイカしたモヒカンヘアーの兄弟らしき大小2人分の人影は、気のせいでなければ物凄く見覚えがある。というか、大の方な。

 色々忘れすぎな私であるが、ドラゴンボールのキャラクターはインパクトあるから詳細はともかくビジュアルはだいたい覚えてる。劇場版込みで。

 

 え、私ったら老眼にはまだ早くない? ちょっと待て。日記打つ手が震えるんだけど。おい待て。見間違いであってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで勇者タピオンがいるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 




ブロリー以外劇場版は完結後の番外編まで書かないと言ったな?あれは嘘だ(訳:ごめんなさい我慢できずに劇場版見ちゃったら筆が滑りましたごめんなさい)


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勇者セル

 南の銀河、コナッツ星。それが俺の故郷だ。

 

 ある時どこからか流れてきた魔導士の一派が、星中の邪気を吸い取ってくれていた魔神様の像に術をかけ魔人ヒルデガーンへと変えてしまった。美しかったコナッツ星はわずかな間に破壊しつくされ、人々は殺された。

 

 しかし魔神像にはもともと、吸い取る邪気が限界に達し邪神へと姿を変えた時、その邪神をコントロールするための神具が奉納されていたのだ。神より与えられた破魔の剣と、2つの笛……俺と弟のミノシアは笛によってヒルデガーンの動きを封じ、それを神官様が剣で切り裂き奴を上半身と下半身に分断した。コナッツ星には平和が戻り、俺たち兄弟は勇者として讃えられた。

 

 だが、それでもヒルデガーンを殺すまでには至らなかったのだ。

 

 俺の体にヒルデガーンの上半身、ミノシアの体に下半身を封印することになり、更にその俺たちを封じた封印のオルゴールは宇宙に流されることになった。別にこの事に関してそれを決定した神官様達を恨む気持ちは無い。弟のミノシアのことだけが気がかりだったが、コナッツ星の平和のためだ……むしろ平和の生贄として、魔神ごと俺たち兄弟を殺さなかった神官様たちの慈悲に感謝すべきである。

 

 

 

 だが、1000年という長き時を経て俺の封印は解かれてしまった。

 

 

 

 目覚めた場所はナメック星という、文化の発展はあまりしていないようだが緑が美しい星だった。目覚めてからまず目にしたのは忘れもしない……あの憎き魔術師の一派の一人である老人ホイ。そしてその傍らには俺のことを面白そうに観察する初めて見る種族の……形容しがたいが、あえて言うなら昆虫と人間をくっつけたような姿の人物が立っていた。

 俺の体の魔人を解き放とうとするホイを一時的にしりぞけ、俺は何故封印を解いたのかとそいつに詰め寄った。そいつは名を”セル”と名乗り、激高する俺をものともせずに「暇つぶしだ」と前置きしてから朗々と語り始めた。

 

「私はとある理由から強くなるために宇宙を旅していたのだが、目ぼしい強敵はだいたい倒してしまってね。しばらく適当にふらふらしていたのだが、それも飽きた。そんな時にあのジジイに「最強の戦士、勇者タピオンを復活させてほしい」と持ち掛けられたのだよ。なんでも私が宇宙船を作る時に集めたガラクタの中に君が封印されたオルゴールが混じっていたらしい……ククッ、地球からはるばる私を追いかけ、懇願する老人を無下にするのも可哀想だろう? それにこの私でさえ開けられないオルゴールと、勇者タピオンという存在に興味も湧いた。だからわざわざこのナメック星にまでやってきて、ドラゴンボールを使って封印を解いてやったのだ。ところで、君は本当に強いのか? たしかに内に秘められたパワーは凄いが、君本来の物でない気がするが」

 

 あまりにも気軽に語られた理由に、俺はしばし言葉を失った。

 ちなみにドラゴンボールというものだが、何でも願いを叶えてくれるという不思議な球らしい。にわかには信じられないが、事実……強固な封印はあっさりと破られ、空を見上げれば願いを叶えるという龍の神が未だ存在していた。なんでも叶えられる願いは3つだそうで、残り2つの願いを待っていたらしい。そのふもとに居たナメック星の原住民であるナメック星人は困惑した様子だったがセルが「もう願いはいい。あとは好きにしろ」と言うと何事かこの星の言語で神に話しかけた。すると龍の神は消え、ふもとにあったドラゴンボールは四方に飛び去った。

 

 俺は事態についていけず、再度「強いのか」と問うてきたセルに再び怒りをぶつけた。その怒りのままに「あなたはホイに騙されたのだ」と事の経緯を話すと、セルは嬉しそうにこう言ったのだ。「なるほど、君では無く君に封印された魔人が強いのだな。無駄足では無かったか」と。

 何を嬉しそうにしているのかと聞けば、なんとセルは自分がその魔人を倒すと言い始めた。初めは何を馬鹿なと一蹴し、とりあえずこの星の住民に被害を与えないため人気のない場所に移動して思い悩んでいた。俺が眠ればヒルデガーンの封印は解け、俺の体から解き放たれる。そうしたら、この星はコナッツ星の二の舞になってしまうのだ。なんとしてもそれは避けたかった。

 自殺も考えたが、俺が死んでも一緒にヒルデガーンまで死んでくれるという保証が無くそれは躊躇われた。逆に俺という封印の器が無くなれば、奴が解放されるだけかもしれない。今思えば神官様達が俺たち兄弟を殺さなかった理由にはこれもあるのだろう。

 

 苦悩する中、ホイがしつこく襲ってきた。魔人をコントロールする笛を破壊し、俺の中の上半身と奴の手中にある下半身を合体させるためだ。

 ミノシア……下半身が奴の手に落ちたということは、弟は殺されてしまったのだろう。すまない、何も出来ぬ兄ですまない……!幼いながら封印の苦行に耐えたお前をみすみす殺させてしまった……!

 俺に、ヒルデガーンを倒すだけの力があれば……。

 

 ホイに応戦しながらも、人間の構造上何日も眠らないというのは無理な話だった。食事もろくにとっていなかったため疲弊した俺は、ある日ついに気絶するように眠ってしまったのだ。そして魔人は俺から一時的に解き放たれた。しかもそれを狙っていたホイが上半身と下半身を合体させ、ヒルデガーンを完全に復活させてしまっていた!

 

 意識を取り戻した時は血の気が引いた。しかしそんな俺を更に驚かせたのは、ヒルデガーンに応戦するセルの姿だ。

 

 

 

 結局倒すまでに至らなかったが、セルは強かった。

 

 

 

「フフフっ、まさか未だに私の敵わぬ相手がいるとはな……クウラやボージャックもなかなか強かったが、ヒルデガーンとやらは別格だ。これは孫悟飯達と再戦する前の最高の前菜になりそうだ。こいつを倒せば、私はまた強くなる!」

 

 俺が笛の音色でヒルデガーンをすんでのところで封印しなければ殺されていただろうに、セルはどこか楽しそうだった。

 

 俺はその一件でセルに興味を持ち、ナメック星人達に彼の事を聞いて回った。

 なんでもかつてフリーザという強敵からナメック星を救った地球人と同じ故郷からやってきた彼は、この星で比較的歓迎されたらしい。その彼がドラゴンボールを使いたいから在処を教えろと言ったので、ナメック星の長老たちは力試しや謎かけで彼を試した。なんでもドラゴンボールとは長老たちに認められた勇者にのみ使うことを許され奇跡の球なのだという。

 セルは初め面倒そうにしていたものの「まあ、これも余興か。ただ体を鍛えるだけというのにも飽きたしな……いいだろう。パーフェクトな私に不可能なことは無い」と言ってそれを受けたようだ。薄々感じていたが、セルは随分と自信家なようだな。

 そして試練を全てクリアした彼はナメック星人達に勇者と讃えられ、ドラゴンボールを使用する権利をつかみ取り俺の封印を解いたのだ。

 

 俺はしばらく考えたが、このままではらちが明かないと覚悟を決め、俺はセルに協力を申し込んだ。あなたが負けそうになるたびにオレが何度でも封印する。だからどうかヒルデガーンを倒してくれ、と。

 正直完全体のヒルデガーンを封印するのは厳しかった。しかし何度やられても立ち向かうセルの姿が俺に勇気を与えてくれたのだ。

 

 

 

 勇者か……。

 勇者。勇気ある者。あるいは人に勇気を与える者。

 

 俺よりもよほど彼には似合いの称号だろう。

 

 

 

 そうしてセルはおよそ一か月に及びヒルデガーンに挑み続け、俺もセルがやられそうになるたびにヒルデガーンを封印することに耐えた。

 その立ち向かう姿に感銘をうけたナメック星人の不思議な力を借りて、負傷するたびに急激な回復を繰り返したセルはどんどん強くなっていった。彼が言うには「サイヤ人の細胞のおかげ」らしいが、俺にはよくわからない。だが、確実にセルがヒルデガーンを追いつめていることだけは分かった。

 そういえばホイだが、途中でセルが「目障りだ」と言って尻尾で吸収してしまった時は驚いた。本人は「魔術を使えるようになった」と喜んでいたが、彼の人格が無ければセルもよほどの化け物だな……いや、恩人に対して失礼だが。

 

 

 だが、セルが勝てるようになる前に俺の体にガタが来た。やはり気合いだけでどうにかなるほど甘くないらしい。

 

 

 すると、戦いを見守っていたナメック星人の最長老様が「ドラゴンボールを使ってどうにかできないか」と申し出てくれた。死人こそ出ていないものの、彼らも故郷の星を戦いで傷つけられて憤っているだろうに優しい人たちだ。いつか報いなければ。

 どうやら前回願いを2つ残したまま龍の神を帰したため、短期間での使用が可能になっていたらしい。ただし叶えられる願いは2つまでとのことだが、十分だ。龍の神の力を超える者に対して干渉するのは無理らしくヒルデガーンを直接倒すのは不可能だと事前に聞いていたが、ならば俺を封印に耐えられる体にしてもらえばいい。ヒルデガーンはきっとセルが倒してくれる。

 

 そう願おうとしたのだが、そこでなんとセルが別の願いを叶えてしまった!

 

 一つ目は、俺の笛と対になるもうひとつの笛の復元。

 二つ目は、なんと俺の弟ミノシアの蘇生!!

 

 蘇った懐かしい弟の顔を見た瞬間、俺は情けなくも泣き崩れた。救えなかった、死なせてしまった幼い弟……ミノシアが、かつてと変わらない笑顔で「兄さん」と俺を呼んでくれた奇跡に出てくる言葉が無かった。

 たしかにここ1か月、セルが自分の事を話さない分俺は自分の過去を語った。弟のことも話したが、まさかこんなこと……!

 

 セルは「1人で足りないならば2人で協力して封印すればいい。あと、そうだな。柄ではないが、私が強くなる手伝いをしてくれたお礼といったところかな?」といつもの余裕のある笑みで言っていたが、俺は彼に返しきれないほどの恩を受けた。俺が生涯をかけて彼に恩を返すと誓った瞬間である。

 

 

 こうして再びヒルデガーンを封印しながらセルが挑み続けるという日々が始まった。だが、今俺の隣には弟が居る。

 笛を吹きながら目配せする瞬間はいつも泣きそうになる。「兄さんってこんなに泣き虫だったっけ? しっかりしなよ! 僕たち勇者なんだから!」とミノシアが笑って時々からかってくるが、それすらも幸福だ。ああ、なんという奇跡だろうか。

 

 そしてついにセルの実力がヒルデガーンに追い付いた!

 

 俺がわたした勇者の剣を振りかざし、ヒルデガーンを縦に切り裂いたセルの姿は正しく勇者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、悪夢は再び訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやぁ? これはヒルデガーンじゃないか! 封印されたって聞いてたけどなんでこんな星に? なにはともあれラッキーだねぇ!」

「バビディ様、これは?」

「1000年くらい前にどっかの魔導士の寄せ集めが作った魔人さ。きっとブウには劣るだろうけど、でも寄せ集めが作ったにしては凄いよ! 欲しいね。ちょうど封印の器がそばにあるみたいだし、もらっていこうか。ふふふっ、休憩に寄った星で思わぬ収穫だよ」

 

 そんな声が聞こえたと思ったら、セルが完全にヒルデガーンを消滅させる前に俺とミノシアの体に再び魔人が封印された。この感覚、覚えがある……! 高度な封印の魔術だ!

 

「貴様、何者だ!」

「ボクかい? ボクはバビディ。宇宙一の魔導士さ!」

「おや、バビディ様、こやつなかなか素晴らしい邪心を持っていますぞ」

「そうなのかい? おっ、本当だ! ますますラッキーじゃない! どれ……」

「な!? く、ぐあぁぁああ!!」

 

 突如現れたしわくちゃの魔導士が何やらセルに術をかけたと思ったら、セルの額に何やら文様が刻まれた。するとセルは魔導士の前に跪きこう言ったのだ。

 

「バビディ様。私の名はセルと申します。以後、お見知りおきを」

「な、セル!?」

「お、お前!セルお兄ちゃんに何をしたんだ!」

 

 俺たち兄弟の問いかけにバビディと名乗った魔術師は面倒くさそうに答えた。

 

「ボクは悪い心を持った奴を操れるのさ。残念だけど、君たちは無理そうだね。……でも、痛い目見たくなかったら一緒に来てもらうよ。ボクの超素晴らしい魔術で君たちの体に魔人を封印したからね!」

「ふざけるな! セルを元に戻せ!」

 

 それで納得できるはずもなく俺はセルが取り落とした剣を拾って切りかかったが、腹部に強烈な蹴りをくらいふっ飛ばされた。バビディの隣にいた巨躯の男の仕業だ。しかも操られたセルまでもバビディの前に立ちふさがる。

 

「くそ、こんなことって……!」

 

 あと少し。あと少しだったんだ!! ヒルデガーンを倒し、弟と再び平和に暮らせると思ったのに……!

 

 

 

 

 

 それから俺たちは世話になったナメック星に迷惑をかけることも出来ず、大人しくバビディに従った。バビディの「宇宙一の魔導士」という名乗りは嘘でなかったのか、腹立たしい事にヒルデガーンの封印は完ぺきだった。そのため睡眠はとれたが、心境は最悪だ。

 

 バビディはかつて父ビビディが作り出し、しかし封印された魔人ブウを復活させるために地球に向かっているとのことだった。偶然にもセルの故郷だが……もともと俺が封印されたオルゴールも地球にあったというし、何かと厄を引き寄せる星である。

 俺とミノシアはなんとかセルの洗脳を解けないかと彼に話しかけ続けたが、性格は変わっておらず俺たち兄弟には気さくに話すもののバビディへの忠誠心だけは変わらなかった。

 

 

 

 そうして何もできないまま地球に到着し、俺たちはセルと現地で洗脳された人間と一緒に魔人ブウ復活のためのエネルギーを集める手伝いをさせられることになった。

 ちょうど天下一武道会という、この星の強者が集う大会が開催されていたためバビディはそれに目を付けた。スポポビッチとヤムーは大会に出場し選手の間から強いエネルギーを持つ者を探し直接吸収を狙い、俺たちは観客席から戦いの余波で発生するエネルギーを集める役だ。屈辱以外の何ものでもなかったが、今は大人しくしたがってどこかでバビディ達の隙を狙うしかない。

 

 

 

 …何が勇者タピオンだ。俺は、俺を救ってくれた友一人救えないじゃないか……!

 

 

 

 どうやらセルはこの星でも特殊な個体だったらしく、彼と同じ姿の種族は居なかった。そのため彼は「知っている人間の姿を借りたのだよ。カラーは趣味だがね」と言ってホイを吸収したことで使えるようになった魔術で地球人に擬態した。

 そうしてしばらく試合を見ていたのだが、スポポビッチの対戦相手が不思議な変身をすると凄まじい力を発揮し始めた!! そして予選落ちしたため観客席からそれを狙っていたヤムーが飛びかかったが、なんとそれを阻止しようとしたものが居た。可愛らしい女性だったが、彼女もすさまじい。ヤムーを守るために立ちふさがったセルと互角にやりあったのだ! セルは本気を出していなかっただろうが、それにしたって強い。

 

 

 エネルギーを吸収し終えるとスポポビッチ、ヤムー、セルは会場を飛び去り、俺たちもその後を追った。

 だがここへ来る前と違い、俺たちの胸には一つの希望が生まれていた。

 

「兄さん……この星の人、もしかして凄く強いんじゃない? もし協力してもらえたら……」

「ああ、俺も同じことを考えていた」

 

 ミノシアと頷きあい、前方を飛ぶ3人を見る。隙を覗ってどうにか地球人と接触できれば、あるいは……。

 

 

 

 

 我が友セルよ。きっと君を正気に戻してみせる。

 

 だから待っていてくれ……そして今度こそ、ともにヒルデガーンを倒そう。

 

 

 

「彼こそ真の勇者にふさわしい。絶対にあの魔導士から解放してやるぞミノシア!」

「うん! タピオン兄さん!」

 

 

 




ブロリー以外劇場版は完結後の番外編まで書かないと言ったな?あれは嘘だ(二度目
セルさんをうっかり宇宙に解き放ったら、武者修行の途中で劇場版を2つ3つぶっ潰してくれてました。



追記

バビディの一人称を変更しました。
最初「ボク」で書いていたんですが、コミックを読んでいたら「わし」と言っていて間違えた!?とビビって直して書いたら、続きを読んだら「ボク」になっていた……どういうことなんだぜ(困惑


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34ページ目 バビディの宇宙船~ダーブラさんの唾吐き速度は世界一ィィィッ!!

Ё月■日続き

 

 

 

 謎の黒トランクスやタピオンの存在がまるで訳分からん。ちょっと待て、タピオン居るってことはもしかしてヒルデガーン……おい待て。あれってたしかZ戦士軒並みぶっ倒してなかったか。超強くなかったか。おい待て。

 

 とにかく事実を確かめないことにはどうしようもない。奴らの後をつけるという界王神様に渋々ながら私も一緒についていくことにした。他に後を追ったメンバーは悟空、ベジータ(悟空生きてるから後でいくらでも戦えるのに一緒に来るこいつは大概悟空大好きだよな)、ピッコロさん、クリリンくん、あと私が行くと言ったらラディッツもついてきてくれた。

 餃子師範と天津飯、ヤムチャくんもついてきてくれようとしていたのだが、クリリンくんが「嫌な予感がするから、万が一の時のためにヤムチャさんたちは会場に残ってくれませんか?」と言ったので残ることに。

 

 

 さっきまで余裕だったのに完全に後手にまわってしまった……最悪だ。マジで誰だあのトランクスブラック。

 

 

 いざとなったらゴッドを作る必要があるので、あまり連れて行きたくないけど空龍を一緒に連れて行くことにした。じゃないと悟飯ちゃんが後で合流しても6人に足りないからな……双子を連れて行くのは論外、トランクスと悟天ちゃんはもしかしたら勝手に来ちゃうかもだけど何をするか分からないし除外。ということで、チビたちの中でも年長で比較的臨機応変に行動できる空龍を抜擢したのだ。「何故空龍を連れて行くんだ?」とラディッツに聞かれたので「勘だけど、ゴッドが必要になるかもしれない」と言ったら一気に全員の緊張感が高まった。まあスーパーサイヤ人ゴッドは現時点で桁外れの切り札だから当然か。

 

 

 そしてスポポビッチたちを追った界王神様を私たちも追ったのだが、ここでまさかの向こう側からの接触があった。

 

 

 界王神様による魔人ブウの説明を聞き終えたところで、なんとモヒカン(小)が接触してきたのだ。「よかった! 追って来てくれてた!」と喜んだ彼は兄が誤魔化しているうちに戻らなければならないから時間がないと前置きして、自分たちの事情を説明してくれた。

 

・自分たちの恩人がバビディに操られてしまっている事。

・助けたいが、力が足りず仕方がなくバビディに従っている事。

・バビディが復活させようとしている魔人ブウに加え、自分たち兄弟の体に封印されている魔人ヒルデガーンがバビディに利用されたら地球がとんでもないことになる。だから何とか自分たちに協力してバビディを倒す手伝いをしてほしい、という事。(界王神様は「魔人ヒルデガーン!?」と青ざめていた。一応存在を知っていたらしい)

 

 ここでトランクスブラックが気になっていたのか、ベジータが「おい、あの黒髪の奴は誰だ」と聞いた。するとミノシアと名乗った少年は驚くべき名を口にしたのだ! 「彼が僕たちの恩人であるセルという人です。会場に紛れ込むために姿を変えていますが、もとは全身緑の昆虫のような種族の人で……彼もこの地球出身です。僕たち兄弟はナメック星という星で彼に大きな恩を受けました」と言ったミノシア少年に、当然ながら私達全員驚いた。そしてすぐさま私を睨みつけたベジータが「貴様! 神龍に死者の復活を願う時なんと言った!?」と聞いてきやがった。こ、コノヤロウ! どうしてこういう時ばかり鋭いんだ! 悟空も「姉ちゃん、悪人を除いてって言ったか?」とか追い打ちかけてくるんじゃない!

 ああ、そうだよ。今思えば言い忘れたよ! うんと悪人を除いてっていう死者蘇生時のテンプレ言い忘れたのは私だよ!!

 

 けど「今はそれどころじゃないだろ」と無理やり話題転換をした。だってミノシア少年は何があったか知らないけどセルの事を恩人と言ったのだ。ドラゴンボールの敵キャラは味方になるパターンも多いので、セルがその道をたどったとしても何ら不思議ではない。

 

 ともかく重要なのは現時点ではセルはバビディに操られているという事実。しかもミノシア少年と兄のタピオンの体には魔人ブウに匹敵する力をもった魔人ヒルデガーンが封印されている……正直初っ端からゴッド出さないとヤバいんじゃない? というくらいにはヤバい。つーか死ねる。なんだよその嫌なコラボレーション。

 

 

 

 とりあえず何を置いてもまずバビディが姿を見せた時点で殺そう。何が何でも殺そう。

 

 

 

 そう心に誓っていると、再度「お願いします! どうか僕たちに力を貸してください!」と頭を下げてから去っていったミノシア。それを見送りつつ私たちも少し遅れて彼の後を追った。

 とりあえず魔人ブウ復活には「汚れていない強大なエネルギー」が必要らしいので、現時点ではセルとヒルデガーンのエネルギーでブウが復活する心配はない。あいつらのエネルギーが汚れてないとか言われたら片腹痛いわ。かといってまったく安心できないけどな! しかも悟空が「セルの奴生きてたのか……どんくれぇ強くなってんのかな」とか言ってるし、ベジータはベジータで「フンッ、つまらん事に巻き込みやがってと思っていたが、なかなか面白くなってきたじゃないか」とか言ってるし不安しかない。悟飯ちゃん合流したら絶対にゴッド作るからな! 制限時間があるからタイミング難しいけど、絶対作るからな!! 最初から絶っKILLする勢いで行くからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思ってたんですけどね。

 

 現在悠長に日記の続きを書いている私を、少し前の私はいかがお思いですか、かしこ。

 

 

 

 

 

 

 

 悟飯ちゃんが合流したので早速ゴッドを作ろうと提案したのだが、セルが居るとはいえ数年の修行によって自信をつけたベジータと悟空が「そこまでする相手か?」「その前にオラにも隠し玉あるんだ! セルとも戦ってみてぇし、それ試してからじゃダメかなぁ?」とか言い出した。馬鹿か死ぬぞと怒鳴ろうかと思ったら悟飯ちゃんまで「まず相手がどのくらい強いか見てからの方が良くないですか?」と言うし、果てはラディッツまで「最近は思い切り戦える場面が無かったからな。天下一武道会よりよほど力を解放できそうだ」とか言い出す始末。

 

 こ、このサイヤ人ども……! 下手にゴッドがチートなのがいけなかったのか。出せばゴッドになった1人で十分だから他の出番がないからな……。あと、よく考えたら誰がゴッドになるかでもめそうで超面倒くさいんだけど。絶対悟空とベジータが「オラが」「いや俺だ」とか言い出すだろ。数年勉強に没頭したせいでなまってる悟飯ちゃんに任せるとは思えないし。

 

 ピッコロさんはサイヤ人たちに呆れながらも敵の戦力を把握してからという悟飯ちゃんの意見には賛成のようだし、私の味方はクリリンくんしかいなかった。思わず涙目で無言で奴らを指さすと「お、お疲れ様」とねぎらわれた。違う、私が欲しいのは慰めでなく奴らを納得させる話術でありツッコミだ。頑張ってくれよ地球人最強!!

 唯一の癒しは「おじさん達だし、しょうがないよお母さん」と言って肩を叩いて慰めてくれた空龍である。だが子供にも諦められている叔父共、それでいいのか。

 

 界王神様とキビトさん? 普通に蚊帳の外で「ブウに加えてヒルデガーンだなんて……! か、勝てるのか?」「コナッツ星の勇者たちもいるようですし、彼らと協力して何とかするしかないでしょうな……」みたいな役に立たないシリアス展開してたのでガン無視ですよ。悩んでる暇があったら役に立つ意見の一つも出せや宇宙の神様よぉ!

 どうせ阻止すればいいからと余裕だったさっきと違って、みすみす悟飯ちゃんのエネルギーを奪わせた2人を許せるほど私の心は広くない。積極的に無視していこうと思う。

 

 

 その後バビディの宇宙船近くに到着し、様子を窺っていたらダーブラ強襲。しかし事前にすぐバリアを展開出来るよう準備しておいたので、最初に狙われたキビトさん爆散は回避できた。ちなみにこのバリアであるが、セルゲームでセルが使っていた技をここ数年の悟空との修行内で再現したものである。超能力由来のもう一つの新技と違ってやや不安定ではあるが、なかなか使い勝手の良い技だ。

 

 だが予想外のこともあった。ダーブラさん、唾を吐く速さが尋常じゃねぇ。

 

 知ってて阻止出来たはずなのにあまりの速度に対応が間に合わず、唾をうけて石化したピッコロさんとクリリンくんは正直すまんかった。でもこれも全部ダーブラの唾吐きが速すぎたのが悪い。実際に見て思わず汚なッて後ずさってしまった私が悪いんじゃないぞ断じて。

 

 そして宇宙船内に逃げたバビディ達を追って私達も船内へ。

 宇宙船へ入る前擬態を解いて元の姿に戻ったセルが、口の端をわずかに持ち上げた余裕の表情で「さっさと来たまえ」とでも言いたげにちょいちょいと指を動かして挑発していたのが印象的だった。操られてるとはいえ、自信家な性格に変わりはないようだ。この野郎……せっかく私が放ったバビディ死ね死ね光線も防ぎよってからに腹立つな!

 

 

 

 

 

 そして今現在、プイプイという哀れなベジータの生贄が爆発するのを横目で見ながら暇なので日記を書いている。空龍も同じく暇だったのか、キビトさんの髪の毛を三つ編みにして遊んでいた。おい、意外と似合ってるけど私とお揃いみたくするのはやめろ。

 

 

 

 どうしよう、情報は増えたけど何も問題が解決していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 



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超スピード!一回戦二回戦準決勝!天下一武道会の激戦!

 悟空たちが飛び去るのを見送った後、俺は天津飯と顔を見合わせてニヤリと笑った。

 

「何だか大変そうだが、俺たちは俺たちで頑張るとするか。悟空たちが居ない分、せっかくの天下一武道会を盛り上げてやろうぜ!」

「ああ、そうだな」

 

 もしクリリンが心配するようにこの会場にまで危機が迫れば皆を守るために戦うが、それまでは俺たちは一参加者だ。せっかく久しぶりに出場した天下一武道会、盛り上げなくてどうする! 悟空たちが飛び去って驚きながらも残念そうな司会の人に申し訳も立たんし、ここは俺たちが頑張らねば。…………ま、まあ俺か餃子はどっちが勝っても次の試合までの活躍になるだろうがな……ははっ、18号が出ちゃあな……。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 残す一回戦の試合は参加者の大半が不戦敗になったため、俺対餃子のみとなった。会場からざわめきとブーイングが響く中、気を取り直した司会の人が「で、では次の試合です! 餃子選手対ヤムチャ選手ーーー!」と未だ衰えぬ張りのある声で叫んだ。この人も天下一武道会の司会を務めて長いが、相変わらずプロだな。

 

「よろしく頼むぜ、餃子」

「うん! 負けないよ!」

 

 俺と餃子は武舞台に上がると、お互いに礼をしてから構えを取った。餃子と闘うのは初めてだが、こいつもこいつで天津飯と共に厳しい修行に耐えてきた猛者だ。油断できん。

 戦いに集中しようと身構えた時、しかし不快な声が耳についた。

 

「なんだあのチビ?」

「はっはっは! おい、子供の部の参加者が間違って紛れ込んでるぞ!」

「ひっこめー! 俺たちはチビの試合になんか興味ないんだよ!」

 

 餃子の見た目だけで判断したような心無いヤジに、どうしても腹が立った。天下一武道会の客にも違いの判らない奴が増えたもんだな! 予選を突破したってことは、それだけの戦士だってことぐらい察せられんのか!

 だからつい観客席に怒鳴ってやったんだ。

 

「おい、餃子を舐めるな! こいつは凄い戦士なんだぞ! それ以上言ったら俺がお前たちをぶっ飛ばすからな!!」

 

 つい気をこめて言ってしまったためか、怒声と共にわずかな衝撃波が発生し観客席に突風が吹いたように客たちの髪を巻き上げた。し、しまった……やりすぎてしまったか。

 しばらく客席は呆然としたような沈黙に包まれていたが、しばらくするとどこからか歓声が上がった。

 

「良く言ったぞ兄ちゃん! 我らが大師の名誉をよくぞ守ってくれた!!」

「ああ、気分がすっとしましたぞ! 餃子師範、そんなヤジなど気にせず頑張ってくだされー! あなたは我々の希望の星です!」

「我ら餃子流超能力道場弟子一同、応援しております!!」

「フレーフレー! チャっオっズっ! 頑張れ負けるな餃子師範っ! 元気だファイトだ熱血だァァァ!!」

 

 観客席の一角から爆発的に発せられた歓声に思わずビビって後ずさった。な、なんだあの熱気は!? しかし熱のこもった声援はそれだけにとどまらなかった。

 

「キャアァァァァァ!! ヤムチャ様素敵ーーー!!」

「格好いいだけじゃなくて性格までイケメンなんて、やっぱりヤムチャ様は最高ね!」

「ヤジども黙んなさいよ! 次余計なこと言ってヤムチャ様の御手を煩わせたらあたし達が容赦しないんだから!」

「おお! 流石だぜヤムチャ! 野球を捨てて武闘家なんて何考えてるんだと思ったが、やっぱりあんた熱い漢だぜ!」

「くうッ、俺も最初許せなかったが、ミスターサタンと同じ天下一武道会の本戦に出場できるほど凄い奴だったなんてなぁ! そして言うことが格好いいぜこの色男ー!」

「ヤムチャ殿ーー! あの時は助けていただきありがとうございましたーー! 素晴らしい試合を期待しておりますぞー!」

 

「ヤムチャ……あれは?」

「餃子、お前こそ……」

 

 次々と会場中から湧く声援に、お互い顔を見合わせて困惑する。

 

「ボク、実はちょっと前から超能力を使えるけどうまく制御できない人の役に立てないかって道場を開いたの。あそこでボクを応援してくれてるのは、そこの弟子たちだよ」

「お前いつの間にそんなこと……というか、結構な人数居るんじゃないか?」

「あれでほんの一部だよ。なんか、超能力を使えるようになりたい人まで集まって来ちゃって……」

「そ、そうか。実はいろいろやってたんだなお前」

「うん。天さんがランチさんと最近いい雰囲気だから邪魔しちゃいけないと思って、今までみたいに天さんに頼らないボクだけの生き方を探そうと思ったんだ。みんな慕ってくれて、空梨に色々教えてた時を思い出すし結構楽しいよ。ところでヤムチャのあれは? なんか女の人も男の人も色々まじって応援してくれてるけど」

「いやぁ……俺もさ、周りの実力にどんどん引き離されてくのがちょっとつらい時期があって、職を変えようとしてみたんだよ。スカウトされてモデルとかタレントもどきやってみたり、あと最近だとメジャーリーガーやってたんだぜ。力加減難しいし、何だか俺の力じゃ反則してるみたいで心苦しくなって辞めたけど。プーアルと世界中旅しながら用心棒やってた時もあったな」

「そっか……ヤムチャも色々やってたんだね」

 

 あ、あんまり仲間内には知られたくなかったんだがな。

 俺も餃子も天津飯も、あと多分クリリンも……最初は同じくらいの実力だった悟空たちにどんどん実力で引き離されている現状に、諦めに似た感情を覚えていた。それほどにあいつらと俺たちの間には深く広い実力の差、という名の大海原が広がっている。頼もしいが、酷く悔しい思いに溺れそうになった時期だってある。もう俺たちじゃあいつらと肩を並べて戦うことは出来ないのか……と。

 

 しかし武道家としての本能は抑えられるものではなく、ずっと修行だけは続けていたのだ。

 今回は悟空たちサイヤ人はスーパーサイヤ人にならないということだったし、今の実力をぶつけてみたい、挑んでみたいと思った。全員が本気を出せないしお祭り気分の奴が大半だろうけど、俺は本気が多分に入ってる。だって、悔しいだろ。いくら敵わないってわかっていても、このままじゃいくらなんでも格好悪いぜ。

 

 強敵に挑んで己を磨いてこそ武の道を歩む者。最近は初心に帰ってそう思うことが増えた。

 

 悟空たちだってサイヤ人だからってだけで強くなれたわけじゃない。次々に現れる強大な敵に立ち向かって、何度も傷ついて強くなったんだ。正直腐っていた時期もあったが、俺だって負けてられんさ! 敵わなくてもいい。挑む心だけは忘れちゃいけない。それが俺の武道家としてのプライドだ。

 

 

『あ、あの~。時間が押してますので、そろそろ試合を……』

「あ、すみません」

 

 司会の人につっこまれて、つい雑談してしまった俺と餃子は気を取り直して構えた。

 

「いくぞ、餃子!」

「うん!」

 

 そして始まった俺と餃子の試合は、ヤジを飛ばしていた連中を黙らせるには十分なものだった。

 餃子は超能力特化だと思っていたが、久しぶりに見てみれば大分戦闘スタイルが変わっていたのだ。超能力を駆使しつつも俺がある程度それを気で跳ね飛ばすのを分かっていたようで、小柄な体型を生かした死角からの連撃で俺を追い詰めた。

 だが俺も負けてはいない。かつて天下一武道会で神様に指摘された時から、特に注意して足元の隙に気を張るようになった。大地に自身を預ける中継役、全ての体幹の軸となる足……どっしりと安定させつつも、動くときは風のように!

 過去の俺はスピードにばかり目を向けすぎていたのだ。軽快さを殺さぬままに、踏みしめる時はしっかりと。空を飛べるようになってから忘れがちだったが、時に大地に伏して時に大地を駆る狼……それこそ俺の戦闘スタイル!

 

「はあ!」

 

 超能力に苦戦しながらも、ついに俺の一撃が餃子に大きな隙を作った。そこを俺は逃さない。

 

「狼牙風風拳! ハイー!!」

 

 俺の必殺技が餃子を捉え、ついには場外へ弾き飛ばした。

 

 

『しょ、勝者、ヤムチャ選手ーーーーー!!』

「へっ……! こ、これでやっと連続一回戦敗退記録に終止符を打てたぜ」

 

 勝利のアナウンスが妙にしみてきやがるぜ……。ああ、俺……天下一武道会の一回戦勝ち上がれたんだな。

 

 俺は場外に降りると、倒れていた餃子に手を差し出した。

 

「いい試合だったぜ餃子。強くなったな」

「へへっ、ヤムチャもね。負けちゃったけど楽しかったよ!」

「俺もだ。ほら、周り見てみろよ。最初お前を馬鹿にしてたやつらもそろって凄い声援だぞ」

 

 そう言って周りを見るように促すと、会場中から俺たちに賞賛が贈られていた。「いい試合だった」「感動した」といったような声が所々から豪雨のように降ってくる。久しぶりの充足感に満たされ、やはり俺は武道家はやめられそうにないな、と思った。賞賛が欲しいわけじゃないが、やはり認められるというのは心地よいものだ。

 

 

 そして歓声が収まらぬうちに次の試合となった。

 天津飯の対戦相手であるキビトという奴は回復した悟飯と何処かに行ってしまったから、天津飯は不戦勝だ。なので順当に行けば試合は第二回戦となり、俺たちとは別ブロックで勝ち上がったミスターサタンと娘のビーデルの試合になるはずだが……なんとこの子も悟飯と一緒に飛んで行ってしまったのだ。

 親子対決という注目のカードもまた実現叶わず終わってしまったので、観客の多くは落胆しただろうな。改めて見ると選手の大半が不戦敗って、大会として大分残念な様相になっているな……。

 

 というわけで、連戦になってしまうが次の試合はまた俺だ。しかも相手は18号である。

 流石に敵わないとは思うが、ここは出来る限り頑張らねば。

 

 

 

 

 

 

 そして試合の結果なのだが、まさかのまさか。勝ち上がってしまった。

 

 

 

 

 

 いや、流石に勝てんかったのだが……戦いの最中ボロボロになりながらも噛り付いていたら、なんと観客席で見ていたマーロンちゃんが「ヤムチャおじちゃんをいじめないで!」と泣き出してしまったのだ。

 これには18号も狼狽えた。……よく武天老師様に挨拶しがてら亀ハウスにお土産もって遊びに行ってたからな。マーロンちゃんともよく遊んであげたし、知らないうちになつかれていたようだ。子供に泣かれるほど一方的に負けていた俺も情けないが、まさかここで18号が棄権するとは思わなかった。やはり母親として泣いている娘を放ったままに出来なかったらしい。あたふたと「これは試合でなマーロン、けしていじめていたわけじゃあ……」とマーロンちゃんに対して弁解する様子を見ていると、18号も変わったなと思う。クリリンの奴、幸せだなぁ……。

 

 

 

 と、まあそういうわけでまさかまさかの準決勝である。

 

 

 

「嬉しいがちょっと複雑だな……」

「俺なんかこれが初試合だぞ」

 

 準決勝、相手である天津飯と対面しながらお互いに苦笑した。さっき大会を盛り上げてやろうぜって言ってからまだ少ししか経ってないんだがなぁ……。

 しかしそれは別として、この試合自体は楽しみでならない。かつて一度天下一武道会で天津飯と戦ったが、その時は俺が負けた。

 

「ずいぶんと長い事時間があいちまったが、今度は負けないからな!」

「それはどうかな? 俺も俺でずっと修行してきたんだ。今度も負けんさ!」

 

 さっとお互い構えを取る。長い会話は必要ない。あとはお互いの武で競うのみ!!

 

 だがここで再び気になる声援が聞こえた。

 

「天津飯、ヤムチャー! 俺は昔の大会覚えてるぞー!」

「俺もだー! またすげー戦い見せてくれよー!」

 

「……覚えててくれた奴もいるんだな」

「ああ、驚いた」

 

 声援に混じった過去の俺たちを知る観客の声に不覚にも目頭が熱くなった。

 思えば長い時間が経ったもんだが……単純な実力の話じゃなく、俺は昔と比べて少しは成長できたんだろうか。これは恥かしい試合は見せられんなと、余計に気合いが入る。

 

 

「行くぞ、天津飯!」

「ああ! 来い、ヤムチャ!」

 

 

 

 

 そしていよいよ準決勝が始まろうとした!

 

 その時だった。

 

 

 

 

「な! ご、悟空!?」

 

 

 突如として武舞台の上に人が増えたのだ! しかもそれは悟空たちで、同時に武舞台の真ん中に奇妙な穴まで出現した。

 俺の真ん前に現れたのはベジータで何故かスーパーサイヤ人になっている。あと、あの額のMみたいな模様は何だ?

 

「いったいどうしたんだよベジータ! もうお前は不戦敗になっちまったぜ?」

 

 とりあえず話しかけてみたのだが、どうにもベジータの様子がおかしい。

 

「ん? 貴様はナッパに殺されたはずの雑魚……ククッ、なぜ生きているかは知らんが、運が悪かったなぁ!」

 

 そう言うなり、ベジータはさっと俺に手を向けてきた。こ、これは!

 

 

 

 

 

「ヤムチャー!!」

 

 

 

 

 

 悟空の声が響く中、俺はベジータの放ったエネルギー波の光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 



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2人の魔導士

 孫悟空さんたちの力は、私とキビトの想像を遥かにしのぐほど凄まじいものだった。

 

 

 

 バビディ達の居場所を突き止めたまではいいものの、私たちの存在はダーブラにバレてしまっていた。それによって不意をつくどころか逆に攻撃を受けてしまい、空梨さんが守ってくれなければキビトは死んでいただろう。しかし、代わりにダーブラの唾をあびたせいで2人もの犠牲を出してしまった。

 石化したピッコロさんとクリリンさんを元に戻すためにはダーブラを倒すしかないとうっかり教えてしまったのがいけなかったのか、悟空さんたちはダーブラを追ってバビディの宇宙船に乗り込んでしまった。まったく、どんな罠があるか分からないというのに……! ただでさえヒルデガーンという新たな脅威の対策を考えねばならないのに、頭が痛い。

 

 しかたがなく私とキビトも彼らの後を追い宇宙船内へ降りた。

 

 そして宇宙船内を進むにはそれぞれのステージで敵を倒していくしかないと、プイプイと名乗るバビディの部下が説明した。それに対して悟空さんたちは余裕の態度で、実際余裕だったのだろう。ベジータさんは部屋がバビディの魔法で敵の戦士の得意な環境に変わったのをものともせずにプイプイを瞬殺してしまった。

 しかもダーブラでさえ大したことないと言い出すし、あんまりの事に私もキビトも開いた口がふさがらない。

 

 

 

 

 次の部屋での対戦相手は、なんと魔獣ヤコン! 光を食らう魔物だ。

 

 その相手をしたのは唯一の女性である空梨さんだった。最初は悟空さんが自分の番なのにと抗議していたが、彼女は「悟空の相手はセルでしょ。少しでも無駄な消耗を減らさないと足元掬われるぞ馬鹿」と一蹴してさっさとステージの真ん中へと進んでしまった。

 彼女に命を救われたキビトが気遣って他のメンバーに任せた方が良いのでは、と言った……言おうとしたのだが、言い切る前に決着がついた。

 

 ヤコンが腕を振るい、そこから飛び出した鎌のような爪が空梨さんに迫る。が、あまりにも素早かった初動からヤコンは突如何かに阻まれたように動きを止めた。そのすきを狙いヤコンへ向かってジャンプした空梨さんが奴の頭上で逆さまになって逆立ちのような体勢でその頭部に両手を添えたかと思うと、そのまま体をひねった勢いで首をねじ切ってしまったのだ! 「これは家畜の解体作業、これは家畜の解体作業」とつぶやきながら気持ち悪そうに頭部を捨てた彼女には息の乱れ一つ無く、返り血の一粒も付着していない。流れるような動作だった。

 

 悟空さんと「あー! 姉ちゃんずっこいぞ。超能力で動きを止めたな? どんな奴かもっと見たかったのによー」「うっさいわ! 格下相手にはこれくらいスピーディでいいんだよ!」と言い合っていたが……魔獣ヤコンが格下、か。

 しかもその彼女が強敵と思われる相手に悟空さんを取っておいてあるとすれば、彼はもっと強いのか……! まさか下界の人間にこの界王神がこれほどまでに驚かされるとは。

 

 その戦いを見ていた他の人たちも私たちのように狼狽えたりせず、全員余裕だ。

 悟飯さんは「空梨おばさん、なにもパオズ鳥を絞めるのと同じようなやり方しなくても……」と若干引きながらも呆れており、ラディッツさんは「さっき出遅れたから楽な相手を真っ先に取りに行ったな」とこちらも呆れていた。たしか彼は空梨さんの夫のはずだが、妻を心配しないあたり彼女の強さへの信頼の表れなのだろう。

 ベジータさんは何も言わなかったが興味なさそうに腕を組んでそっぽを向いてるのを見るに、彼女の勝利を疑ってもいない様子だ。空梨さんの息子の空龍くんは、空梨さんが捨てたヤコンの頭部をどこかで拾っていたらしい木の棒で「つんつくつん」と言いながら楽しそうに突いていた。

 

「き、緊張感が無い……!」

「キビトよ、それを言うのではありません。と、とにかく、私達だけでも気を引き締めているのです!」

「そ、そうですな」

 

 キビトと頷きあうと、次のステージへ進むための扉を悟空さんたちに続いて私たちも潜り階下へと降り立った。

 

 そこで待っていたのは、早くもバビディたちの主戦力である暗黒魔界の王ダーブラ!!

 奴を見て今度こそ緊張感がわいてきましたよね!? と思い悟空さんたちを振り返ったのだが、振り返った先で彼らは初戦のプイプイの時と同じくジャンケンをしていた。お、思わずキビトと共にずっこけるなどという神らしくない振る舞いをしてしまった……!

 ふいに肩を叩かれ振り返ると、心を読まずともわかる同情心で一杯の瞳で見つめてきた空梨さんが飴をくれた。「精神が落ち着く」と言われたのでありがたくキビトと一緒に頂いた。イチゴという果物の味らしく美味しかった。ああ、糖分とはここまで体に染み渡るものだったであろうか……。

 

 そしてダーブラと闘うことになったのは悟飯さんだ。戦いはようやく緊張感のある激戦となり、多彩な技で攻めてくるダーブラに悟飯さんは苦戦していた。

 しかし悟空さんとベジータさんは心配するどころか「あいつホントにさぼってたからな~」「ふん、……勝てない相手じゃないのに情けない奴だぜ。ガキの頃のが強かったくらいだ。カカロット貴様、息子の躾がなってないんじゃないのか?」などと悠長に話している。そこにラディッツさんまで加わって「躾、か。そういえば何かの褒美でトランクスを遊園地に連れて行ってやる約束をしたらしいじゃないか。なかなか優しい躾だなベジータ」「な、貴様何故それを!」「そうなんか? なんだ、いいとこあんじゃねーかベジータ」「う、煩い! 黙れ!」と、悟飯さんそっちのけで口喧嘩を始めた。といってもベジータさんが一方的に怒っているだけだが。

 頼もしいようだが、その余裕が何処か不安で仕方がない。……そう考えていたら、眠ってしまった空龍くんを背負った空梨さんが話しかけてきた。何でもバビディに操られた者を元に戻す手段を知らないか、と聞きたかったらしい。

 そう。そうですよ! そういう敵の脅威に対して話し合ったり、そういうことが大事ですよね!? しかし私自身その方法を知らないので「申し訳ないのですが、私もそれを知らないのです。敵の戦力を削げれば助かるのですが、バビディは悔しいことに本当に優れた魔導士でして……」と言うと、生ごみを見るような目で見られた。………………。私は界王神、私は界王神。思わず言い聞かせるようにつぶやいているとキビトに「お気を確かに!」と肩を揺すられた。

 気を取り直して悟飯さんの戦いを見ていると、追い詰められたのかなんとダーブラが途中で逃げてしまった! 宙に向かって「な、バビディ様!? そんな新参者の意見をお聞きになるのですか! 私はまだ戦えます!」と言っていたのを見るとバビディに戻るよう命令されたようだ。

 

「嫌な予感がしますね……。いったいバビディは何を「ぐ、ぐあああああ!?」な、ベジータさん!?」

 

 突然苦しみだしたベジータさんに全員の注目が集まる。空梨さんが「嘘でしょ!?」とひときわ慌てたように狼狽え、ベジータさんを気絶させようとしたのか彼に拳を振るった。が、それは強く振り払われた。そしてベジータさんは何かに抗うように苦しみ続け……いけない! これはバビディの洗脳術だ!

 

「べ、ベジータさん! 悪い心をバビディに利用されようとしているのです! 無心になりなさい! 何も考えてはいけません!!」

「く、クソッタレぇ! それが出来りゃあやってるぜ……! くそ、何だ! 頭の中が引っ掻き回される……ぐあああああああああああああ!!!!」

 

 そこで何かの限界を超えるように、ベジータさんがスーパーサイヤ人に変身した。だが発しているのは純粋なエネルギーなどではない……この攻撃的で邪悪な気配はなんだ!? ベジータさんはたしかに激しく攻撃的な性格をしていたが、実際に見た限りでは悪人のように感じられなかった。だというのに、今発している気配は純粋は純粋でも、純粋な悪の気配! まるで別人のようだ!

 

 

「はああ……! ……? 何処だ、ここは……!」

 

 

 ベジータさんの広い額にはくっきりとバビディの下僕の刻印が刻まれていた。

 しかし何か変だ。ただ操られているだけでは無いような違和感を感じる……ベジータさんの瞳は茫洋と周囲を捉えていて、一つ所に定まらない。まるで自分が今どこにいるのかさえ分かっていない様子だ。

 

「私とバビディ様からのプレゼントだ。気に入っていただけたかな?」

「な!?」

「セル!」

 

 突然聞こえた声に驚けば、先ほどダーブラが姿を消した扉にいつのまにかセルと呼ばれる魔人が背を預けて立っていた。

 

「セル! おめぇ、ベジータに何をしたんだ!」

「おや、お気に召さなかったかな? 残念だ。しかし懐かしくはないかね。今の彼は軟弱な精神に成り下がった現在のベジータではなく、かつての「非道さこそがルール」と言わんばかりの純粋に悪だったころのベジータだ。私としてはこちらの方がなじみがあるのだがね。さっきのやりとりを見て驚いたよ。遊園地? クククッ、しばらく見ないうちに、ずいぶんと良いパパをやっているようじゃあないか」

「いったいどういう……!」

「なぁに、記憶をちょいと昔に戻してやったのさ。つまり今のベジータにとって、君たちは敵でしかないわけだ。私もつい最近魔術を使えるようになってね……僭越ながら、バビディ様のお手伝いをさせていただいたのだよ。経験が浅いから心配だったが、ベジータの細胞があるおかげか心に入り込むのは随分と楽でね。ご覧の通り見事に成功だ」

 

 な、なんということだ……! バビディだけでもやっかいなのに、似たような魔術の使い手がもう一人居るだなんて!

 

「おや、どうやらバビディ様が素敵な場所へ移動させてくれるようだぞ」

 

 セルが言うなり、景色が変わった。ここは天下一武道会の会場……!

 

 

「な、ご、悟空!?」

 

 

 驚く彼は、たしか悟空さんたちの仲間。向かい側にはもう一人……どうやら試合が始まる寸前だったようだ。

 

 

「いったいどうしたんだよベジータ! もうお前は不戦敗になっちまったぜ?」

 

 彼はちょうど目の前に現れたベジータさんに話しかけるが、それがいけなかった。今まで目標を定めていなかったベジータさんが標的を見つけてしまったのだから!!

 

「ん? 貴様はナッパに殺されたはずの雑魚……ククッ、なぜ生きているかは知らんが、運が悪かったなぁ!」

 

 そう言うと、ベジータさんは躊躇なく話しかけた彼にエネルギー波を撃った。ま、まずい! あの至近距離では避けられない上に、背後の観客席に大きな被害が……!!

 

 

 

「ヤムチャー!!」

 

 悟空さんの声が周囲に響く。

 

 

 

 

 しかし既の所で何者かが攻撃を受けそうだった彼をつれて離脱し、その先ではいつの間にか空梨さんが片腕の指二本を突き出す姿勢で待ち構えていた。そしてなにやらその指を十字に切ると、黒い六角形のような板状の気が数枚ほど連なって彼女の前に出現し、エネルギー波はそれにぶつかると板もろとも霧のように四散した!

 

「あ、あんな強力なエネルギー波を一瞬で……!」

「よし、ナイスだ姉ちゃん! それに餃子もすげぇぞ! よく間に合ったな!」

「へへっ、空梨がすぐにテレパシーを送ってくれたからね!」

「よ、よくわからんが助かった……。ありがとうな、餃子」

 

 どうやら殺されそうだった彼を助けたのはテレポーテーションが使える彼らの仲間のようだ。悟空さんの隣に現れた彼らと無事だった会場に思わず安堵の息をつく。

 

「お父さん、今のって……」

「そっか、一緒に修行してたオラ以外見たことないんか。あれすげぇんだぞ。オラの全力かめはめ波だって消しちまうんだ」

「カカロットの全力をだと!? く、空梨の奴いつの間に……俺も知らなかった」

「ボクは知ってるよ! 前に相談されたから」

「そうか……」

 

 肩を落とすラディッツさんがどこか物悲しかったが、けど今は雑談してる場合ではありませんよ!!

 

「なるほど、素晴らしい。やっかいな技を使えるみたいだな」

 

 いつの間にか再び人間の姿に擬態していたセルがぱちぱちと手を叩いた。その態度は余裕極まりない。それもそうだろう……最初の被害こそ防げたが、依然としてベジータさんは奴らの手中だ。

 

「貴様はハーベスト! 性懲りもなくまた挑んできやがったかゴミめ! はーっははは!! 今の俺は不思議と素晴らしい気分だ! せめてもの情けだ。痛みもないままに殺してやるぜ!」

「はあ? 技を防がれたのも気にしないくらい錯乱してるお前に何が出来るって!? この馬鹿! 今のお前なら操られないだろうと信用した私が馬鹿だったよ! そういうのいいからさっさと正気に戻れ!」

「正気? 俺は正気さ! ん? よく見ればカカロットや弱虫ラディッツまで居やがるな……丁度いい。全員まとめて血祭りにあげてやるぜ! このサイヤ人の王子ベジータ様がなぁ!!」

「キングベジータ何処行ったよ退行してんじゃねーよクソッタレが!!」

 

 そのままベジータさんは手始めとばかりに目の前の空梨さんに攻撃を始めるが、それは全て例の技によって搔き消された。らちが明かないと思ったのか、ベジータさんは攻撃を接近戦に入れ替える。だが近接戦闘でも空梨さんは負けてはおらず、反撃こそ出来ないもののそれを全て防ぎきっている。ベジータさんの表情に苛立ちが浮かび始めた。

 

 

「貴様、この間より少しはましになったらしいな……!」

「いつの話だよ!! 悟空と修行してりゃ嫌でも組手くらいうまくなるわ! チィッ、ここじゃ狭い! 場所を変えるぞ!」

「いいだろう、望むところだ!!」

 

 そう言うと彼らは攻防を繰り返しながら上空に昇り、そのまま彼方へと物凄いスピードで去っていった。どうやら空梨さんが周りへの被害を配慮して場所を変えたらしい。

 

「わ、私たちも追いましょう!」

「ああ!」

「はい!」

 

 しかし私たちが飛び立つ前に、景色が再びバビディの宇宙船内へと変わった。

 

「な!?」

「フフフッ、せっかくの姉弟対決だ。水を差すのはいただけないなぁ……どうだろう、こちらはこちらでやらないか? 実は私もさっきからウズウズしているんだ」

「セル、おめぇ……!」

 

 

 

 

 

「孫悟空、孫悟飯。私のリベンジマッチ、もちろん受けてくれるな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キュアグリーンブラックセルとキュア黄土色バビディによるマジカルコラボでした。


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王族姉弟の死闘

「みなぎる……! 力がみなぎるぞぉ!! はーっははははは!! パワーもスピードも、まだまだこんなもんじゃないぜ! 俺は更に強くなるんだ!!」

 

 

 馬鹿みたいに吠える自分の姿に、俺はぎりっと歯を食いしばった。

 チィッ! 自分が何故力に溢れているかもわからずいい気になりやがって! あれが俺だと思うと反吐が出るぜ!!

 

 

 俺はさっきまでバビディの野郎の宇宙船内で悟飯のなまった戦い方をイライラしながら見ていたが、突如として激しい頭痛に襲われた。脳みそを掻きまわされるような不快感を伴った痛みと、俺様に命令しやがるドブみたいな声。最初こそ抵抗を試みたが……気づけば俺はここに居た。

 上下も分からず、暗いようで明るい……ただ、ぽっかりと前方に"今の俺"が見ているであろう光景が映る穴があるだけの場所。憶測だが、これは俺の心の中なのだろう。

 今の俺の表層に現れている意識は、セルによって無理やり引き出された過去の俺を模したものだ。

 

『ずいぶん甘くなったものだなぁベジータ。情けなくはないか? お前はあんなに純粋な悪だったじゃないか。サイヤ人の王子ともあろうものが、家庭を持ち、ぬるま湯のような生活に浸り満足しているなどと……お前は本当にそれでいいのか? 違うだろう。破壊し、蹂躙し、己の意志の赴くままに自由に生きる事こそお前の望みではないのか。さあ、今こそ昔のお前に戻るのだ! そしてサイヤ人の力を宇宙中に知らしめてやるがいい! ……………………バビディ様のもとでな』

 

 薄汚いジジィ魔導士の声と共に俺の意識に滑り込んできたセルの意識に「ふざけるな!」と怒鳴りつけてやりたかったが、奴の言葉は俺の心の隅に燻っていた感情を無遠慮に引きずりだしやがった。

 ……今の俺に納得できていない、過去の俺という捨てきれない感情をな。

 

 

 

 

 

 地球に来てカカロットを倒すために己を鍛えているうちに、俺の環境はどんどんと変わっていった。

 妻を持ち、子を儲け、そして…………王になった。

 

 あの姉のことだ。面白半分に違いないと半信半疑だったが、合同結婚式とかいう茶番の前に行われた戴冠式は酷く厳かで神聖なものだった。奴が……俺の他に唯一生き残った王族が、俺をサイヤ人の正当なる王と認めたのだ。

 その事実は予想以上に俺の心に重く深く沈んだ。

 そしてその名実共に俺の物となった「王」という称号は、自尊心を満たすよりもまず俺に「王とは何か」と問いかけてきたのだ。更にそれは「頂点に立つ者としての責任」という枷でもあり、俺の心にある種の落ち着きを与えるものでもあった。名前一つ、称号一つ手に入れただけでこの変化だ。セルの野郎が俺を変わったと思ってもおかしくないぜ。なにせ、俺が一番驚いたんだからな。

 

 思えば今までの俺は何かに焦ってばかりだった。

 

 下級戦士であるカカロットに追い付けない事実、後ろから迫ってくる新しい世代に追い抜かされる恐怖、俺こそがナンバーワンだと吠えるくせに一度は「俺はもう戦わん」などとのたまった自分の情けなさ。それら全てに対しての焦り。

 焦りとは心の余裕の無さだ。……スーパーサイヤ人に覚醒する時、自分の情けなさと不甲斐なさに怒りを覚えて乗り越えたつもりだったが……根本的な所で俺は何一つ変わっていなかったんだろう。意地を張っているだけで、本当は誰よりも臆病者だったのかもな。

 へっ、気づけばラディッツの野郎を弱虫呼ばわり出来なくなっていたぜ。自分の弱さを正面から認めたうえで強くなろうともがくあいつの方がよほどマシだろう。

 だが戴冠式を経てその焦りは消えた。自分の事を臆病者などと、かつての俺ならば確実に認めなかっただろう事実を受け入れる程度には心が落ち着いたのだ。

 ……この俺が目指すべき王とは何だ。何をもって王とする。

 そして鍛錬を続ける中で常に己に問い、心の奥底まで追求した。そしてたどり着いた答えだが、やはり俺は笑っちまうくらいサイヤ人だったらしい。

 

 誰にも負けない。

 誰よりも強くなる。

 

 一見して今までの俺と変わらんが、新たに芽生えた決意は王としてのものだ。王たるもの、率いる者達の模範とならねばならん。そしてサイヤ人の王としてなすべきことは”強さ”を見せること!

 今となっては治めるべき星は無い。だが、絶やしてはならぬサイヤ人としての誇りがある。

 

 

 強さこそサイヤ人の誉れでありプライド。それを示せずして何が王か!!

 

 

 俺はやはりナンバーワンでなければならんのだ。俺を超える者は俺だけでなければならない。

 しかし悔しいことにカカロットや悟飯の野郎にすぐ追い付けないであろう事実も分かっていた。だからこそ数年間、俺はあえてやつらに戦いを挑まず血反吐を吐くような訓練を重ねてきた。そしてようやく「俺は強くなった」と確信できるだけの強さを手に入れ、ちょうどよく話題にのぼった天下一武道会という大衆の面前で強さを証明できる機会……そこで今度こそナンバーワンに返り咲き、王としての強さを示すつもりでいたのだ。

 

 

 …………そう思っていたというのに、今の俺の体たらくと来たら笑っちまうぜ。まさか過去の自分に足を引っ張られるとはな。

 

 たしかに王としての自覚が芽生えてから、新たに決意をした。俺は変わった。

 しかし変わったということは、同時にそれは過去の俺を否定することでもあったのだ。ただ表層的な強さを求め、野望に燃えた過去……愚かでもあったが、あれこそが「俺だ」と言える本質でもあった。非道さをものともせずに、思うがままに悪として振る舞っていたあの頃の俺はたしかに充足感に満ちていた。今でもその衝動は心の奥に燻っている。

 

 だからこそ、セルの言葉は俺の奥に潜んでいたそれを刺激したのだ。

 

 甘くなった? 情けなくなった? それも認めよう。思うがままに振る舞った悪へと戻りたくはないか? 戻りたいさ。責任感や心の落ち着きと引き換えに失った、あの激しい衝動に身を任せてしまいたいと思うことなどいくらでもある。冷静に思考する自分にはらわたが煮えくり返り、全部ぶち壊したくなる時だってある。心の奥底で過去の俺が「貴様は本当にベジータか!!」と血を吐くような声で叫んでいたのも知っている。

 

 

 だからこそ情けなくも付け込まれたのだ。

 何かを手に入れることは何かを失うことだ。問答無用で全て手中に出来ればいいが、そうすればどうしても矛盾が生まれる。現在の俺と過去の俺が生んだジレンマこそ、今の俺の弱点だ。

 

 チッ、セルの言うことももっともだぜ! 俺はクソみてぇに甘くなった!! かつての俺なら絶対的な自信をもってこんな戯言跳ねのけていたんだ!!

 

 

 

 

 

 しかし、いくら怒りを燃やせどこの空間からは抜け出せそうにない。

 過去の俺を体現した俺は今現在ハーベストと闘っている。見たところこの俺は俺が地球に初めて来た頃までの記憶しか持っていないようだが、スーパーサイヤ人となってその力を存分に振るっている所を見るに体のスペックはそのままらしい。

 クソッタレ! たとえ自分だとしても、俺の体をいいように使いやがって。腹が立つぜ!!

 

 ハーベストとの戦闘訓練は随分長い事していなかったため久しぶりにその戦いっぷりを見るが、忌々しいことにそのレベルは格段に跳ね上がっている。認めたくないが、奴は奴でエリートの血を引く天才だ。時々カカロットと訓練しているとブルマから聞いていたが、それによって今までの弱点だった近接戦闘が改善されたのだろう。それに加え妙な黒い板を作り出す技は俺のエネルギー波をことごとく消しやがる。……フンッ、どうせ勝てはしないだろうが、随分と食らいついているじゃないか。

 しかしそれも時間の問題だな。奴も途中からスーパーサイヤ人になって戦っているが、見るにエネルギーの消耗が激しい。おそらく普段スーパーサイヤ人になる機会が少なく、なった際のエネルギー配分が出来ていないのだろう。器用な技を使うくせに根本的な所で不器用な奴だ。先ほどヤコンに使ったような念力も使っているようだが、俺の気に全て吹き飛ばされている。かつてのように直接俺に流し込みでもしない限り、俺に超能力はきくまい。使うにしても、せいぜい黒い板という俺自身に作用しない能力でしのぐのがいいところだ。

 

 このままでは殺されるだろうな。

 

 

 

「ベジータ、おま、いい加減にしろよ!」

「ははははは! 何だ、ずいぶん息切れしているな! そろそろ死ぬか?」

「死なんわ! くっそ、いつの間にか皆居ないしベジータは馬鹿王子に戻ったままだし最悪だ!」

「馬鹿王子とはずいぶんな言い草だなクソ王女! 貴様のようなサイヤ人の恥さらしを王子たる俺自ら殺してやるんだ! 光栄に思うがいい!!」

「ねーよ! 少なくとも今のお前に殺されたら死んでも死にきれねーわ! せめて殺すなら元に戻ってからにしろや!」

 

 何やらハーベストが妙なことを言い出した。今の言い草だと操られていない俺になら殺されても文句はないと取れるが、奴の言葉とは思えない。

 

「家族大好きで、強くなることに貪欲で努力を惜しまなくて、プライドばっかりが高い王様してるお前だったら、最悪百歩譲って殺されてもいいさ。正直最近のお前嫌いじゃないからな! いや基本は死ぬのとか嫌だけどね!? けどな、今のお前に殺されるより百倍マシだよ! 今の無様に操られて自分が何かも分かって無いようなお前には絶対に殺されたくない! お前、今何のために戦ってる? 何がしたくて戦ってる! 答えろ!!」

「何がしたくて? 決まっている! 俺の強さを宇宙に知らしめ、バビディ様のもとでサイヤ人の力を存分に振るう事こそ「はいアウトー! お前がお前の上に誰かを持ってくる時点でアウトー! 誰だお前! お前ベジータの皮被った誰かだろ! 操られてるにしてもお前がそんなこと言うとか気持ち悪いわ!」

 

 奴はそう叫ぶと、ただでさえ釣り気味の目の端をぎっと鋭く釣り上げた。

 

「ベジータ。今のお前、最高に格好悪いぜ! 姉としての情けだ! 元に戻った時恥かしいだろうから、さっさと殺して少しでも恥を軽減しておいてやるよ! あとで生き返らせてやるからその時はせいぜい感謝するんだな!」

「何ィ? 貴様に俺が殺せるとでも!?」

「ああ、やってやる。やってやるよ! 畜生、死ぬなよ私の体!! ごめんラディッシュ、せっかくもらった仙豆こんなことに使って!」

 

 ごちゃごちゃ言うなり奴は懐から袋を取り出すと、その中身を口いっぱいに頬張った。あれは……仙豆か!

 

 ハーベストはその状態のまま気を高めると、そのまま新たなオーラをまとい始める。最初こそスーパーサイヤ人の限界を超えたスーパーサイヤ人、スーパーサイヤ人2かと思ったが……あの色は違う。あの赤い色は……まさかカカロットの技、界王拳か!! 奴めいつの間に習得してやがった。しかもスーパーサイヤ人の上に界王拳を上乗せしやがっただと!?

 

 

「ぐッ、あ、ああああああああああああ!!!!」

 

 

 ハーベストは強大なオーラを身にまといながらも、どう見てもその力を制御できていなかった。口に含んでいた仙豆も叫びと共に零れ落ちる。だが奴はそれを諦めるように見送ると、真っすぐに俺を見た。

 

「せめて正気に戻ってから死ねるといいなこの愚弟!!」

 

 そして奴はその力を振るおうとしたが……気づけば、俺は「俺の意志」で奴の腹を殴っていた。

 

 

「あぐ、うぇッ……!?」

「チィッ、手間かけさせやがって馬鹿が! 貴様がそんな力を振るえば間違いなく死ぬぞ!」

 

 怒鳴ったが、言い切る前にハーベストはゲロを吐きながら気絶していた。だらんと四肢を投げ出し、支えは俺が腹に打ち込んだ拳だけだ。

 こ、この野郎……! 気絶だけすればいいものを、俺の腕にゲロぶっかけやがって……! 思わず岩場に叩き付けそうになったが、既の所で思いとどまって地上に降りてからその体を放り投げた。

 

 

「…………クソッタレ」

 

 ……まさかこの俺が、このゲロ女に助けられるとはな。

 いや、俺のことだ。いずれ自分で正気を取り戻していただろう。断じてこいつのおかげなどではない! ただ、あまりの馬鹿さ加減に殴りたくなった。それが少し早く正気を取り戻すきっかけになっただけだ!

 

『いいぞベジータ! そのまま殺しちゃってよ。今のでかなりエネルギーが溜まったからね! もうその女は必要ないよ~』

「ぐ!?」

 

 脳内にあのクソ魔導士の声が響き、再び俺を支配しようとする。どうやら俺にかけられた魔術はセルが使用した記憶に関する物だけ解けたようだ。腐っても界王神に恐れられる魔導士ってわけか……魔術の腕についちゃあ本物みたいだな。だが、今さらそんなものが俺に通用するか!!

 

「こ、断る……! この俺は誇り高きサイヤ人の王、キングベジータ様だぞ……! ぐ、貴様みてぇな薄汚い魔導士の家来になるような器じゃないんだよ……! ぐ、あ、はあああああああ!!!!」

『うわ!? な、ななななな! 僕の魔術が!?』

 

 まとわりつく忌まわしい気配をつかみ取ると、それを振り払うようにエネルギーを解放した。その瞬間ざわりと妙に髪の毛が伸びた気がするが、そんなことは今どうでもいい。

 

 

「はーっはははははははは!! どうだ、貴様の洗脳術を解いてやったぞバビディ!! この俺様の誇りは何人たりとも犯せはせんのだ!」

『え、いや、さっきまで洗脳……』

「黙れ! いいか、首を洗って待っていろ! 今から貴様の首を刈り取りに行ってやるからな!!」

『ひ、ひぃ!』

 

 無様な悲鳴が聞こえた後、耳障りなバビディの声は途切れた。どうやら完全に奴の魔術は無効化されたらしいな。

 

 

 

 ククク……! 随分舐めた真似をしてくれたな。セルの野郎もどうしてくれようか。カカロットの奴まだ倒してないだろうな? そいつも俺の獲物だ! この屈辱は100倍にして返してやる。

 

 

 

 過去も現在もあるものか。俺は俺でしかない。もう二度とつけ入れられはしない。

 

 悪の俺がお望みか? なら、貴様らに最高の悪夢をプレゼントしてやるぜ! 俺を怒らせたことを後悔するんだな!!

 

 

 

 

 

 

 




超難産でした。王様の自覚が出たベジータ書きづらい。きっと過去ベジータ出現はそんな作者の心の表れ。

ちなみに主人公は「どうせ殺されるならやったらぁ!」と無茶してスーパーサイヤ人に界王拳という悟空ですらブルーになるまで封印してた荒業を発動しましたが、ベジータに止められなければまず間違いなく死んでました。


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魔人達との戦い

 僕とお父さんの前に立ちふさがったセルは、以前とは比べるべくもなく強くなっていた。

 

 僕とお父さん両方がスーパーサイヤ人2になって応戦していたが、それに対してセルは余裕すら見せていた。

 先ほどのダーブラって奴……過去のセルと同じくらいの強さだったけど、あいつなんかまだ可愛い方だったんだ。僕はそいつにすら苦戦していたのだから、それより強いセルに敵わないのは当然だろう。お父さんも一緒に戦ってくれてるっていうのに……数年間修行をまともにしていなかったことが今になって悔やまれる。かつて一回だけスーパーサイヤ人ゴッドになった時の凄まじい力は今でも覚えているけど、あれはみんなの力があったおかげだ。……いくらイメージしても、今の僕が自力であの域にたどり着ける気がしない。だから今は、今の僕が持てるだけの力をもってなんとか切り抜けるしかないんだ。が、頑張らないと……!

 

 そういえばダーブラだけど、今はラディッツおじさんと空龍が応戦している。「昔のセルって奴、未来の僕が敵わなかった奴なんでしょ? 僕戦うの嫌いだけど、負けるのも好きじゃないんだよね。ってわけで、その昔のセルと同じくらいの強さの悪魔のおじさんは僕が倒してあげるよ!」と空龍がスーパーサイヤ人になって階下への道を破壊して飛び込んだ時は焦ったけど……ラディッツおじさんも後を追ったし、大丈夫だと今は信じよう。

 うん……未来の空龍さんと比べると、自由奔放に育っている分空龍ってかなりフリーダムな性格なんだよな……。

 

「考え事とは余裕だな?」

「な!? くっ!」

 

 気づけばセルが目の前に居て、打ち込まれた拳をなんとか腕をクロスして防いだ。しかしその威力に体が吹き飛ばされる。

 

「悟飯、おめぇは下がってろ! あとはオラがやる!」

「え、お父さん!?」

 

 吹き飛ばされた先でお父さんに受け止められるが、その発言にぎょっとする。2人がかりでも厳しいのに何を言って……。

 

「心配すんな。実はオラにもまだ隠し玉が残っててな……そいつで一気に決着をつけてやる」

「隠し玉……ですか?」

「ああ。前にスーパーサイヤ人ゴッドなんてもん見ちまったからよ、なんとか自力であの域までたどり着けないかって姉ちゃんにバリア張ってもらってその中で色々やってたんだ。さ、おめぇは下に行け悟飯! 兄ちゃんたちを助けてやってくれ。空龍は天才だけど実戦経験が少ないし詰めがあめぇ、兄ちゃんは強ぇけど空龍に攻撃を集中されたらそれを守ろうとして危なくなるかもしれねぇ。お前が2人を助けてやるんだ」

 

 お父さんの自信のある様子を見て、数秒迷ったけど結局は頷いた。お父さんがここまで言うんだ……きっと大丈夫だ。むしろ僕がいたのでは足手まといになるかもしれない。

 

「分かりました。お父さん、気を付けてくださいね!」

「おう、まかせとけ!」

 

 言うなり、ちょうど飛んできていた気弾を左右に分かれて避けてお父さんはセルの方へ、僕は階下へ続く穴へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 階下の空間は再び魔法で変えられたのか、どこかの荒野へ変わっていた。その中心には脈打つ巨大な玉があり、おそらくあれが魔人ブウが封印されている玉なんだろう。その傍らにはバビディと、さっき僕たちに助けを求めてきたミノシアという少年、それとおそらく彼の兄だろうよく似た風貌の青年がその横に立っていた。少し離れた場所では界王神様とキビトさんが中央をハラハラした様子で見ている。

 

 そして肝心のダーブラと空龍、ラディッツおじさんだけど……。

 

 

「ビリビリしちゃえ、サークルサンダー!」

「ぐう!? こんな小細工……!」

「お父さんそっちいったよー!」

「あ、ああ。サタデークラッシュ!」

「ぐああああ!?」

 

 スーパーサイヤ人化した空龍が雷のようなエネルギー波でダーブラを筒状に囲んだかと思うと、そこから抜け出した先に待ち構えていた同じくスーパーサイヤ人化していたおじさんが技を放ちダーブラに大きなダメージを与えた。そして怯んでいたところにすかさず空龍が追撃をしかけ、ダーブラを地面に叩き付ける。

 

「き、貴様ぁ……!」

「へへんっ、怖くないもんねー。追い込み漁って知ってる? 予想がつかない動きをされるなら、最初から制限しちゃえばいいのさ。僕とお父さんのコンビネーションから逃げられるかなぁ?」

 

 空龍はそう言うなり、今度は突然バビディに向けてかめはめ波を放った。これにはダーブラも焦り、バビディの前に飛び出て攻撃を防ぐ。しかしそれが大きな隙となり、横からラディッツおじさんが放ったエネルギー波をまともに受けてしまった。しかもその攻撃が終わる前に上空に移動していた空龍が「雷どっかーん!」とか言いながら特大のエネルギー波で追撃を加える。はっきり言って鬼のように容赦がない。

 

「は、はは……」

 

 思わず変な笑いがもれた。そして僕に気づいたのか、空龍が元気に手を振ってくる。

 

「あ、悟飯お兄ちゃーん!」

「お、おーい!」

 

 とりあえず手を振り返した。

 

「こっちは何とかなりそうだから、悟飯お兄ちゃんは今のうちにあの悪い魔法使いをやっつけちゃって!」

「鬼か!!」

 

 バビディの叫びに思わず一瞬だけ同情した。うん、一瞬だけだよ一瞬だけ。

 それにしても空龍、戦況把握に余念がないな。来たばかりの僕を作戦に組み込むのが早い。そういえば関係あるのか分からないけど、コンピューターゲームの対戦では一度も空龍に勝てたことなかったっけ。いつもハメ技でやられるんだよね。

 ともかく、そういうことなら話が早い! バビディさえやっつけてしまえば、魔人は復活せずにすむんだ!

 

 しかし来たばかりの僕が動くよりも早く、バビディの隣にいた青年が背負っていた剣を引き抜きバビディに切りかかっていた。バビディは既の所でバリアらしきものを張って防いだようだが、彼らが決起したとなると奴を守る者は完全に居なくなった。チャンスだ!

 

 

「わぁ!? な、何するんだよお前!」

「もはやお前を守る者はいない! ならば、俺が貴様を殺すまでだ。貴様さえいなくなればセルも正気に戻る!」

「へ、へぇ~。そんなこと言っちゃっていいのかな? 君たちの体の魔人ヒルデガーンは、いったい誰の魔術で封印されてると思ってるの?」

「くっ、はあ!」

 

 青年は悔しそうに顔を歪めたが、すぐに気を取り直して剣をバビディに振り下ろした。しかし奴のバリアが強力なのか、それは再度はじき返される。僕も急いで参戦しなければ!

 だけどその前にバビディの奴はなにやらブツブツと呪文を唱え始めた。それと同時に兄弟2人がもだえ苦しみ始める。

 

「ブウが復活してからゆっくりコントロールする方法を編み出そうと思ってたけど、やむを得ないね! さあ現れろ魔人ヒルデガーン! 魔人ブウ復活を邪魔する奴らをみんな殺してしまえー!!」

「やめろ! く、ぐぁ、クソッ、うう、ぐあああああああああああああ!!」

「兄さん、もう、ボクも……わあああああああああああ!!」

 

「何だって!?」

 

 兄弟2人の体から何か靄のようなものがあふれ出したと思ったら、それがひとところに収束する。そして、山のような巨体をもった怪物が出現した! これにはダーブラを追い詰めていた空龍とおじさんも驚いて動きを止める。

 

「か、怪獣だ……」

 

 さっきまであんなに威勢が良かった空龍が、顔を真っ青にしてラディッツおじさんの背に隠れるけど無理もない。な、何てことだ……! これが魔人ブウだと言われても驚かないくらいだ。凄まじい気を感じる……! それも、とびきり邪悪な。

 

 

「そう簡単にはいかないか……」

 

 僕はそうつぶやくと気合いを入れなおす。

 

 

 どんなに無茶でも、僕がやらねば誰がやる!今、地球の危機に気づいて対処できるのは僕達だけなんだ。絶対に地球を好きになんてさせないぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の日記視点が挟めなくて絶賛タイトル詐欺中(今さら




いつも感想をくださり本当にありがとうございます!返信したり出来なかったりで申し訳ありません;ですが全部大事に読ませていただき、執筆の糧にしています。
最初飽き性の自分がここまで書けるとは思っていなかったのですが、感想をもらったら嬉しくてつい続き続きと書いていたら気づけばこんな話数に。
原作コミックで言うならもう残すこと4巻を切りました。あと少し、完結まで頑張りますので見守っていただけたら幸いです。


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魔人ブウの復活!

 地球に来る前に休憩で寄ったナメック星とかいう星だけど、今考えても大収穫だったね。まずはセルだけどあいつは頭が良くてそれなりに強そうだし、しかも魔術も使えて品もあるというなかなか使い勝手の良い下僕だ。あと大本命、兄弟の体に封印したヒルデガーンなんかは確保しといて本当によかったと思うよ! 解放した今、その強さを見て改めて思うね。

 ま、まあちょっと強すぎかな~って気もするけど、僕とブウの玉はバリアで守ってるし、いざとなればもう一度封印すればいいからね。封印の器になる人間とセットで手に入れられたのはラッキーだった。

 

「はああ!」

 

 後から来た金髪の奴がエネルギー波を打ち込むけど、ヒルデガーンは煙のように消えてそれを回避する。いつの間にか隣に戻って来ていたダーブラがゴクリと息をのんで感想を言った。

 

「凄まじいですな……あのヒルデガーンという怪物は」

「おや、お前の目から見てもそう思うかい?」

「ええ。悔しいですが、私ではあれに勝てないでしょう。パワーはもちろんあの煙のように消える能力……巨体を弱点としないところが厄介です」

 

 ふんふん、そうだよね~。やっぱり僕は最高の拾い物をしたらしい。さてと。じゃあ後はブウにエネルギーが溜まるのを待ちながら、あいつらがあくせく戦ってるのを高みの見物といこうかな!

 

 界王神のやつはさっきダーブラが戦ってる時僕に攻撃しようとしてきたけど、スポポビッチをやった時みたいにミノシアを爆発させて殺しちゃうよ~と脅したら何も出来なくなったみたいだ。後で殺すまで気にしなくていいかな。ふっふっふ、今からどんな風に殺してやろうか考えるのも楽しいなぁ!

 それにしても甘いよね~。生き残った界王神があいつでこれまたラッキーだったよ。なんたって、あいつが一番未熟だったみたいだからね。

 パパが残した記録を見た限り、他の界王神なら宇宙のためにって子供一人の命くらい切り捨てられただろうにさ! 甘さと優しさをはき違えてる中途半端な奴って見てて滑稽だよね。ああ可笑しいったらないよまったく! あはははは!

 

 

「さあ、ヒルデガーン! 封じられていて鬱憤が溜まってるだろ? ガンガンいっちゃえ~!」

 

 こうして安全圏から観戦するのは最高にいい気分だ!

 けど、そんな僕の気分に水を差すように金髪のロン毛が怒鳴ってきた。さっきまでダーブラを追い詰めていた2人の片割れだ。

 

「そう好きにさせると思うなゲスがぁッ!! 悟飯、俺が奴の攻撃を誘う。お前は空龍とその瞬間を狙って攻撃しろ!」

「え、でもそれじゃあラディッツおじさんが……!」

「奴は攻撃の瞬間だけ実体化するようだ。誰かが囮にならねばならんだろう! さっき攻撃をまともに受けてしまってな……悔しいが、今この中じゃ俺が一番戦闘力で劣る。お前と空龍でやるんだ!」

「……ッ、はい!」

「で、でもそうしたらお父さんはどうなるの!? もうボロボロなのにこれ以上攻撃を正面から受けたら……」

 

 へぇ、あいつら親戚と親子か。なかなか感動的な三文芝居じゃない? そういえばあのムカツクチビを庇ってロン毛がさっきヒルデガーンの攻撃を一番初めに受けてたねぇ。虫の息なのによくやるよ。

 

「気にするな、父さんはそれくらいじゃ死なんさ。なんたってベジータおじさんの攻撃を毎日のように受けて生きてるんだぞ? 強さじゃ敵わんかもしれんが、しぶとさ、頑丈さなら任せておけ」

「お父さん……」

「おじさん、すみません……! やるぞ、空龍!」

「はい!」

 

「ダーブラ」

「はい」

 

 奴らの会話を聞いて隣のダーブラに目配せすると、心得たようにダーブラが頷いた。ふふふっ、セルも有能だけど僕の考えてることに関して察しがいいのはやっぱりダーブラかな。僕がやりたいことがわかったみたいだね。

 

 やつらはヒルデガーンを中心に三方向に分かれて、ロン毛はヒルデガーンの正面に回る。標的を見つけたヒルデガーンがその長く強靭な尾でロン毛を狙うけど、それは回避するロン毛。チッ、すばしっこいなぁ。

 そして続いて振り払うように上から下に振り下ろされたヒルデガーンの腕だけど、ロン毛はそれを受け止め……受け止めた!? な、なんて奴だい。絶対ハエみたいに地面に叩き付けられると思ってたのに!

 

 

「い、今だ!!」

「はい! かーめーはーめー…………」

「僕も! かーめーかーめー…………」

 

「「波!!」」

 

 

 そして残り2人が青白いエネルギー波を放った。それはヒルデガーンに直撃し、魔人はその巨体を広い荒野に沈める。まあ、あれくらいじゃ死なないだろうけど……ちょろちょろと動いて目障りだね。ムカつくなぁ。

 

 

 

 

 でも、まあいっか。ひひひっ、だってあいつらが油断した隙に……。

 

 

 

 

 

「がっ、は!」

「クククッ、私の存在を忘れてもらっては困るな。先ほどのお返しだ」

 

「お、お父さぁぁあああああん!!」

「ラディッツおじさん!? く、ダーブラ貴様ぁ!!」

 

 

 ダーブラの腕がロン毛の胸を貫いていた。

 

 

「はっはあ! ひゃーはははッ! いい気味だよザマぁ見ろー! よくやったねダーブラ!」

「魔閃光!」

「ダブルサンデー!!」

「わあ!?」

 

 気分よく高笑いしてたら大きい金髪が僕に、チビの金髪がダーブラに攻撃してきた。僕はバリアで防いだしダーブラも避けていたけど、どこまでも気に入らないなぁ……! せっかくいい気分だったのに!

 

「悟飯お兄ちゃん、仙豆、仙豆は無いの!? お、お父さんを早く治さないと!」

「ッ、く、空龍……仙豆は失った命はもう戻せないんだ。おじさんは、もう……」

「そんな、そんな嘘だ……! お父さん、お父さん目を開けてよ! 大丈夫って、死なないって言ったじゃないか! お父さんが嘘ついたことなんてなかったよね!? 嫌だ、嫌だよぉ……! うわああああああーーーー!!」

 

 あいつらはロン毛を回収したみたいだけど、ずいぶん精神的にダメージを受けたみたいだね。ま、心臓をつぶさせたから即死だろうなぁ! これで邪魔者が一匹減ったよ! チビも親を殺されて戦意喪失したみたいだし一石二鳥ってね!

 お、しかもそうこうしてるうちにヒルデガーンが起き上がってる。いいぞ! そのまま2匹とも殺してしまえ!

 

「バビディ!」

「え? ぎゃ!」

「バビディ様!!」

 

 けどヒルデガーンの殺戮ショーに夢中だった僕は、背後に迫っていた気配に気づかなかった。こ、この……! タピオンめ、気絶したと思ったら僕たちの隙を狙ってたな!? 既の所でバリアを張ったけど、背中に傷がついたじゃないか!

 すぐにダーブラが駆けつけてタピオンを蹴り飛ばしたけど、許さない……許さないよ! 色々と大目に見てればずいぶんとつけあがったもんだね!

 

「ダーブラ、こいつら石にしちゃって! 器として使うなら生身だろうが石だろうが関係ないからね!」

「かしこまりました」

「兄さん、逃げッ」

「ミノシア!!」

 

 先に石になったのは弟の方だった。兄を庇ったみたいだけど、結局一緒なんだよね。ああ、情がある奴らって総じて馬鹿ばっかだよ。楽しいったらない! あの絶望の表情がたまんないね!

 そして兄の方も石になったころ……タイミングよくブウの玉に変化が生じた。

 

「! 見なよダーブラ、ブウ復活のエネルギーが溜まったよ!」

「ほう、素晴らしい」

 

 

 金髪はヒルデガーンに忙しいみたいだし、これでゆっくり復活を目にすることが……。

 

「バビディ!」

「な、界王神!?」

 

 どいつもこいつも影が薄いな! 他に気を取られてたのもあるけど、近づいてるのがまるでわからなかったよ!

 界王神のやつは僕とダーブラでなく、ブウの玉を狙って付き人と一緒に攻撃してきた。ふんっ、見ているだけの観客に成り下がった臆病者が頑張ったじゃない? 一か八かでブウの玉を破壊しにかかったか。でもそんなへぼ攻撃じゃどうにもならないよ~だ!

 

「クッ、やはり駄目か……! 地球の方々があんなに頑張ってくださっているのに私は……があっ!?」

「界王神様! ぐあ!?」

 

 間抜けにもこちらの間合いに飛び込んできた2人はすぐにダーブラに地に沈められた。弱いね~! こんなのが界王神なんて笑っちゃうよ! 出しゃばって来たくせに結局何にも出来てないじゃないのさ。

 

「ダーブラ、こいつらは殺しちゃ駄目だよ。後で僕が直々に痛めつけてやるんだぁ」

「ええ、存分にお楽しみください」

「ひゃははっ、今日はいい日だね! さ~て、その前にブウの復活だよ! やっと見られるんだ! どんな奴だろうねぇ、パパが作った凄い魔人は!!」

 

 

 ブウの玉から勢いよく煙が噴き出している。そして玉が割れ…………あ、あれ!? 中身が居ない!?

 でもそれは杞憂だった。玉から噴き出た煙がやがて上空で収束し、そして一つの人影を形作っていく!

 

 

 

 

 

 

「ブゥーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 やった! ついに魔人ブウの復活だー!…………っと言いたいところだけど、本当にこいつ強いのかな……? な、なんかヒルデガーンを見た後だから余計にイメージが……。

 ピンクのデブ。端的に表すなら魔人ブウの容貌はそんな感じだ。

 

 ちらっと倒れている界王神の奴を見る。

 

「う、うう……! 駄目だった……あの恐ろしい魔人が復活してしまった……! こ、殺される。みんな……」

 

 よーし! 魔人ブウを見たことがあるあいつが怖がってるってことはとにかく強いんだよね! 見た目なんて強ければ些細な問題さ!

 ブウは最初なめた態度だったけど、封印の呪文でまた封印しちゃうぞと脅せば素直にへこへこ頭を下げてきた。うんうん、それでいいのさ!

 

「さあ魔人ブウよ、今日から僕がお前の主人だ! 早速実力を見たいところだね……ヒルデガーンをいったん戻して、あいつらを倒してもらおうかな!」

 

 こうして絶好調な気分のまま、それを実行しようした時だった。

 

 

 

「タピオン……ミノシア……?」

「おや、セル戻ったのかい。上の奴は殺せたの?」

 

 声が聞こえたから上を見れば、少し薄汚れたセルが浮いてこちらを見ていた。

 邪魔者がまた一人減ったのかと喜んだけど、セルを追うように上のステージからあいつらの仲間のこれまた金髪の目つき悪いのが追って来て思わず舌打ちした。うん? でもなんか今までの奴と雰囲気が違うなぁ。無駄にロン毛なのはさっき死んだ奴と一緒だけど目つきがもっと悪い。眉毛もないし。

 

「なんだ、ちゃんと倒してないじゃない! まあいっか……あいつにもブウの力試しの相手になってもらおっかな!」

 

 けどセルは答えず黙ったままだ。おかしいな……いつもなら「申し訳ございません。ですが、流石バビディ様。その寛大な御心に感謝いたします」くらい言ってくるのに。

 何だぁ? 何か様子が……。

 

 

 

 

 

「孫悟空、決着はまた後だ。お前と戦う前にやるべきことが出来た」

 

 

 そう口にしたセルの瞳には僕に従う色は無く、ただただ冷たい炎のような熱が揺らめいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回の界王神&キビトのATB(あいつらたいした棒立ちだぜ)に盛大なツッコミが入ったのでバビディに頑張ってフォローしてもらいました。か、界王神様達だって何もしなかったわけじゃないんだぜ……!


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35ページ目 天界にて療養中~ごっちゃごちゃの地上戦(神様視点)

Ё月■日続き

 

 

 

 ベジータと天下一武道会の会場から離れたと思ったら、いつの間にかみんな消えててふぁ!?ってなったわ。ちょ、洗脳ベジータを一人で相手っておまっ、嘘だろ。私の無効化技で周りや味方への被害を消しつつ戦闘要員がベジータをフルボッコにする計画がぱあになった瞬間である。

 とりあえずやけっぱちでスーパーサイヤ人界王拳とか無茶しながらも、ベジータは私が気絶する寸前で正気に戻ったようだったからセーフ。今回は割とマジで棺桶に片足つっこんでたわ。

 なんだよベジータお前、正気に戻れるならもっと早くに戻れよなー。それにしても何であいつ急に正気に戻ったんだろう。謎である。

 

 ちなみに新技の対エネルギー波特化の技には「エナジーリダクション」という名前を付けている。黒い板が私の前に連続して数枚現れるというスタイリッシュな見た目がわりと気に入っているが、その効果もなかなか優秀である。あの板を通過するたびにエネルギー波のパワーを拡散させ周囲に還元し、消滅させてしまうのだ。枚数を増やせば増やすほど無効化出来るエネルギーの量は増すので、相当の威力のエネルギー波でも準備さえ整っていれば消滅させることが可能である。

 あれだ、敵味方両方が本気出したらすぐに地球さんがご臨終されてしまうからな。いざという時のためにこういう技があってもいいと思ったんだ。

 でもこいつとバリアとグラビティープレッシャーのせいで悟空に修行相手に便利で最適! っと思われたんじゃないかと今でも思っている。

 だってバリア張れば強度が持つ限りどんなに気を発しても周りに影響無くて、たとえば悟空がスーパーサイヤ人3(やっぱり変身できるようになってた。維持時間が短いし、いざという時まで秘密にして驚かすって言ってたから多分私以外知らない)になっても平気だろ? グラビディープレッシャーは付加できる重力が増えたから重力装置いらずだろ?(でも使うと自分にも負荷がかかるから「姉ちゃん、600倍で頼むな!」とか笑顔で言われた時はマジで殴った。でも結局後でやる羽目になって毎回死にそうだった)でもってエナジーリダクションで無効化出来るから悟空は本気かめはめ波の練習し放題だろ? ………………。よく考えてみると、もしかしてあいつ原作より強くなってるんじゃ……我ながら最高の修行環境プレゼントしてんじゃねーか。いや、強いのはいいことだけど。

 

 

 

 

 まあ技云々は置いといて。

 

 現在私は天界でデンデに介抱されて療養中である。

 

 あの後荒野にゲロまみれで転がっていた私を回収してくれたのは天津飯だった。

 ちなみに武道大会だが、「あれは一種のパフォーマンスである」とヤムチャくんとミスターサタン(ヤムチャくんが「金髪の戦士の仲間」と分かってビビってたマーくんに優勝をちらつかせて協力を要請したらしい)が場を収め、続行されたんだとか。といっても準決勝のはずだったヤムチャくんVS天津飯は、天津飯が私を探しに来てくれたということは行われなかったのだろう。私としてはありがたいが、せっかくの好カードだったのに観客には悪い事をした。今頃協力してもらったお礼にヤムチャくんはミスターサタンとの試合で負けを演じているのか……う~ん、本当に申し訳ない事をした。せっかくヤムチャくんが天下一武道会初優勝出来たかもしれないのに。

 あと、餃子師範はいつどんな場面でも動けるように武道会場で待機しているとのこと。餃子師範のテレポーテーションは本当に頼もしいからな……いざとなったらみんなを連れて逃げてくれるだろう。

 それとベジータの奴は私が持ってた残りの仙豆を持って元の場所、バビディの宇宙船に向かったらしい。普通に考えると「ママを大切にしろよ」イベント発生のタイミングだが、正直現状が原作からかけ離れすぎててもうわけわからん。まあ、あいつもあいつで強くなってるからな……そう簡単に死なないことを祈るしかあるまい。

 万が一の時はドラゴンボールあるし……私もだいぶこの世界というか便利アイテムに毒されているが、もし死んだらドラゴンボール集めて生き返らせてやるか。

 

 

 

 そして仙豆が無いため、天津飯はボロボロの私を神様の神殿に連れて来てくれた。

 

 そこでデンデに回復してもらったのはいいんだけど、回復後にも関わらずどうも体調がすぐれない。気も乱れてまともに飛ぶどころか歩くのもおぼつかないし、おそらくこれはスーパーサイヤ人界王拳の後遺症だろう。なので今は神殿の一室を借りて寝かせてもらっている。

 ヒルデガーンやらセルやら気になることだらけだけど、今は何も出来そうにないしな……せいぜい出来る事と言えばこうして日記を書いて心の整理をするくらいだ。あ、デンデに「病人なんですから機械をいじってばかりいては駄目ですよ」って怒られた。改めて考えると神様に介抱してもらうって凄い贅沢だな。

 

 うーん、でもなー。出来る事無いって言っても、凄いもやもやする。気になる。

 ベジータも現場に向かったし悟空は多分原作より強いし、悟飯ちゃんだけじゃなく空龍とラディッツも居るし……ゴッドは作れそうにないけど、どうにかならない気がしないでもない。でも向こうの戦力も多いからなー。

 

 そういえば魔人ブウは復活したのだろうか。もし復活していたらボスの豪華共演どころじゃないんだけど。魔人ブウ、ヒルデガーン、セル……うん、死ねるな。え、大丈夫かな!? どうせゴッドが作れなくなるなら、やっぱりせめて空龍は置いてくるべきだったか……。

 とりあえず現状把握できない限りは何の考えも浮かびそうにないから、デンデに地上の様子を見て教えてくれないかとお願いした。デンデは快く引き受けてくれたけど、本当に神様を顎で使ってるようで申し訳ないというか贅沢というか……。

 

 けどデンデは帰ってこず、代わりにネイルさんが水を持ってきてくれた。飲んだら何やら眠くなってきた。まだ回復しきれてないのかな……地上の様子は気になるけど、デンデが戻ってくるまで申し訳ないが寝かせてもらおう。睡眠をとった方がきっと頭も回るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

「眠りましたか?」

「ああ。これで1日は目を覚まさないだろう」

「そうですか……。申し訳ないですが、あれだけ弱っている状態でこんなこと伝えられませんからね……」

 

 申し訳なく思いながらも、僕には空梨さんに先ほど地上で起こった出来事を伝えることが出来なかった。

 

 空梨さんと操られたベジータさんが戦っていたころ、同時刻別の場所でも激しい戦闘が行われていた。

 バビディという魔導士の魔術によるものか遠く離れた2つの場所で戦闘が行われていたのだけど、一つは悟空さんとかつて倒されたはずの人造人間セル。もう一つは魔導士バビディと暗黒魔界の王だというダーブラという魔人対悟飯さん、空龍くん、ラディッツさん。しかしこちらに突如、強大な力を持つヒルデガーンという怪物が姿を現してから状況が一変した。

 悟飯さんたちはヒルデガーンの対処に追われ、そのすきをつかれてダーブラにラディッツさんが殺されてしまったんだ。

 

 そしてそこから状況は更に二転三転した。空梨さんの回復を終え、彼女に頼まれたこともあって再び下界の様子を覗き見たのだけれど……最初はわけがわからなかった。けど僕の代わりに下界を見てくれていたポポさんに聞いてようやく先ほど情報を整理できたところだ。そのあまりの内容に、回復したにも関わらず具合のすぐれない空梨さんには伝えられずやむをえず眠り薬を飲ませた。だって、これを聞いたら空梨さんがどんな気持ちになるか……。

 

 

 まずセルがバビディから離反した。

 どうやら彼はベジータさんのように操られていたようだが、懇意にしていたらしい兄弟がダーブラに石にされた事によって洗脳が解けたようだ。見ていただけの僕にセルの心境は分からないけど……あんなに恐ろしかったセルにも、傷つけられたら洗脳が解けるくらい怒るほどの友人が出来たのだと知って不思議な気分だった。

 僕が悟飯さんたちに出会ってそれが巡り巡って地球の神になる縁となったように、出会いとは人のありようをいくらでも変える可能性を秘めている。それはとても不思議な事だけど……神様として生きていくことを選択した今、それはとても大事なひとつの真理ではないかと感じられた。未熟な僕にとって、これから先こうして周りに気づかされることはまだまだ多いだろう。神でありながら何もできない自分を歯がゆく思いながらも、こうして気づいたことを心に刻むのだけは忘れないようにしたいと思った。

 

 ともかくそうして共通の敵がいるという理由ながら、セルが一時的に味方に付いた。

 悟空さんはスーパーサイヤ人3という新たな変身を身に着けていたし、これでなんとかなるのではないか……そう思われた時だ。復活したものの、それまで大人しくしていた魔人ブウが動いた。バビディの命令でダーブラに攻撃したセル目がけて不思議な光線を撃ち、それをセルがよけたことによってダーブラに直撃。するとなんと、ダーブラは巨大なクッキーへと変身してしまったんだ! それを美味しそうに頬張る魔人ブウに、ヒルデガーンに応戦していた者を含めた面々に緊張が走る。

 

 魔人ブウは素の力も恐ろしく強いながら、特筆すべきは見た技をすぐに真似る天才性と魔術じみた不思議な能力、それといくら破壊しても復活する不死性だった。奴は無差別攻撃するヒルデガーンの巨体を遊ぶように軽快にくぐりぬけ、悟空さんたちにとって嫌なタイミングで攻撃を仕掛ける。

 戦力的には悟空さんたちの方が多いのに、頑強な体、強大なパワー、煙のように回避する能力を持ったヒルデガーン。それとトリッキーな動きをしてお菓子に変身させる光線を放つブウ、姑息な魔術で邪魔をしてくるバビディと……場は混戦状態となり、一進一退を極めていた。

 ヒルデガーンに関してはダーブラの死によって石化から戻った兄弟が不思議な笛の音で動きを制限したことによって多少状況は良くなったけど、それでも厄介なことに変わりはなく……逆に笛の音を邪魔に思ったのか、兄弟を標的にしたヒルデガーンの攻撃を代わりに受けたセルが大きなダメージを負ってしまった。悟空さんのスーパーサイヤ人3も途中でエネルギー不足で解けてしまい、状況は徐々に悪い方へと変化していった。

 

 場が再び動いたのは、ラディッツさんが殺されたことによって戦意を喪失していた空龍くんにヒルデガーンの攻撃が迫った時。

 既の所で彼を助けたのは悟空さんの子供で悟飯さんの弟である悟天くんと、ベジータさんの子供であるトランクスくんだった。2人は泣きじゃくる空龍くんに「昔の泣き虫が戻ってるぞ空龍!」「あとでエシャロットと龍成に教えちゃうよ~」とからかうように言って励ますと、自分たちが魔人を倒してやると宣言しヒルデガーンに向かっていった。けどその思わぬ強さに、すぐに2人ともピンチに陥る。

 そこで現れたのは兄弟と同じくダーブラが死んだことによって復活したピッコロさんとクリリンさんで、それぞれ子供たちを抱えて離脱し、クリリンさんにいたってはその前に気円斬でヒルデガーンの尾を切り落とした。凄い!

 そこにベジータさんが合流し、彼が持っていた仙豆で全員が回復。仙豆はそれで終わってしまったものの、これでやっと勝てる……! そう思った時だ。なんと、ヒルデガーンが脱皮し更に強力な形態へと変化したんだ。

 

 このままではらちが明かないと、ベジータさんの指示で対ヒルデガーンと対魔人ブウに戦力が分かれた。ヒルデガーンには兄弟とセル、悟飯さん。魔人ブウにはベジータさんと悟空さんだ。

 ちなみに子供たちは思いのほかダメージが大きかったこと、精神的に委縮してしまったことからピッコロさんとクリリンさんに連れられて戦場から離された。人数的にはかつてセルを瞬殺したスーパーサイヤ人ゴッドを生み出せるだけ人がそろっていたけれど、子供たちにはパワーを注ぐだけの力が残っていなかったんだ。

 せめて僕があの場にいたなら回復してあげられたのに……! ポポさんに僕をあの場へ送ってくれないかと頼んだけど、回復させる前に巻き込まれて死んでしまうとポポさん、ネイルさん両名に止められた。自分の無力さが悔しい。

 界王神様の付き人の方がたしか僕と同じ力を使えたはずだけど、彼はバビディの作り出した結界に界王神様と共に捕らえられていたので無理だったようだ。つくづく運がこちらに向いているようで向いてこない。僕は地球の神だというのに……なんで、なんで何も出来ないんだ! 悔しい……!

 

 

 そういえば子供たちが離れる前、あのベジータさんがトランクスくんを抱き寄せ「トランクス、ブルマを……ママを大事にしろよ」と言っていたのが印象的だった。……味方を叱咤し鼓舞しながらも、彼にはこの後におこる事が分っていたのかもしれない。

 

 

 ヒルデガーンに立ち向かったセルと悟飯さんは、兄弟の笛の力を借りてヒルデガーン新形体に対しても何とか善戦していた。かつて敵同士として向かい合った2人が同時にかめはめ波をヒルデガーンに向かって撃った時は、思わず体が震えた。しかしヒルデガーンの新たな体は前身よりも頑強で、せっかく実体化したところに直撃させたのに必殺とはならず。そのまま戦闘を続けたものの、せっかくクリリンさんが切り落とした尾も脱皮の際に再生していたためリーチの長い攻撃が縦横無尽に迫る。これに最初にやられたのは笛でヒルデガーンの動きをけん制していた兄弟で、兄の方が地面に叩き付けられて頭から血を流し動かなくなってしまった。

 これがきっかけだったのだろう。セルは「私としたことが、甘くなったものだ。ベジータの事をもう馬鹿に出来んな。いや、これも彼の遺伝子のせいかな? まったく迷惑なサイヤ人だよ」と自嘲したように笑うと、なんとヒルデガーンの口内に自ら飛び込んだ! そして、そのまま自爆することによってヒルデガーンの頑丈な体を内側から破壊したんだ。

 これには全員が驚いたけどセルが口に飛び込む前に何か言われていた悟飯さんが、砕けたもののまだ生きていたヒルデガーンの体をかめはめ波で完全に吹き飛ばした。……無事に厄介な敵を倒したというのに、悟飯さんの表情は晴れなかった。

 

 

 

 

 

 そしてそのヒルデガーン戦の隣で魔人ブウに的を絞って戦っていた悟空さんとベジータさんだけど、こちらはヒルデガーンを気にしなくてよくなった結果かなりブウを圧倒していた。当然だろう、お二人ともこの地球で最強と言ってもいい人たちなんだもの。ベジータさんが悟空さんと共闘するのは凄く意外だったけど、この2人が組んで倒せない敵が居るはずがない! 僕はこの時、地球に平和が戻ってくるのを確信していた。

 

 けどここで邪魔をしてきたのがバビディだ。

 奴が凄腕の魔導士ということに偽りはないようで、戦う力はないのに強力なバリアを遠方から出現させてブウが危なそうになるたびに悟空さんたちを邪魔していた。奴も悟空さんたちのあまりの強さに焦ったんだろう。

 そしてブウだけど、こちらはこちらでやられるたびに学習し、悟空さんたちの動きを覚えていった。何度かバリアが間に合わずエネルギー波で吹き飛ばされたけど、そのたびに何でもないように再生する様子は悪夢のようだった。

 そうして決め手に欠けるまま戦いは続き、とうとう仙豆で取り戻していた悟空さんのスーパーサイヤ人3の力が途切れ普通のスーパーサイヤ人に戻ってしまう。どうやらあのスーパーサイヤ人3というのは、強力な分消費するエネルギーも大きいらしい。持久戦に持ち込まれたことによって、悟空さんの切り札が二度も使えなくなってしまったんだ。

 そしてベジータさんの方だけど、悟空さんのようにスーパーサイヤ人3になれない彼は真っ先にブウに狙われたためダメージが深い。ブウを押していた2人が、今度は逆に追い詰められ始めた。

 

 

 そして、ヒルデガーンがセルの自爆で吹き飛んだ時だった。

 

 

 ベジータさんはそれを見ると、大きく笑い始めた。「セルの野郎、俺のことを甘いなどと言っておいてこの様か! 自爆してまで守りたいものがあったとはお笑いだ!」と言うと、戦いながら悟空さんに話しかけた。

 

「カカロット、俺はキングベジータ。サイヤ人の王だ! 王は誰よりも強くなければいかん。それこそがサイヤ人としての誇りだからだ! だが、情けないことに俺は貴様のようにスーパーサイヤ人をさらに超えた存在になれなかった……まったく、追い付いたと思えば追い越していきやがる。本当にムカツク野郎だぜ! だがな、貴様が敵わない相手を俺が倒してやる。無様なやり方だと笑うがいい。だが、こいつを倒すのは俺だ!!」

「ベジータ、まさかおめぇ……!」

「…………。あとは頼んだぞ、カカロット」

 

 そう言うと、彼は魔人ブウを挑発してある程度離れた場所まで誘い出した。そして……。

 

 

 

「ラディッツさん、セル、ベジータさんまでも死んでしまって……悟空さんと悟飯さんの生死は不明。しかもブウはまだ生きているだなんて……この世はいったいどうなってしまうんだ」

 

 

 

 とにかく、今は地上に散らばっているドラゴンボールを集めよう。

 

 僕に出来る事は少ないけど、それでも僕は神なのだ。あの希望の球が、再び世界に光を取り戻してくれると信じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公との戦いで3に覚醒しかけたベジータですが、無意識だったので変化に気づかず今回覚醒ならず。
今回も難産。戦況がごっちゃごちゃです。思わず主人公の日記をぶった切って神様視点(デンデ)に助けを求めました。


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喫茶アスペルージュ

 世界中の人間の頭の中にテレパシーを送るという化け物じみたことをやってのけたバビディという魔導士。そいつはどうやら孫悟空と孫悟飯を探しているらしい。こんな事態にもかかわらず動揺せずコーヒーカップを拭いている店主を見て、私もとりあえず心を落ち着けた。

 魔人ブウか……ブロリーこそ最強であり、ブロリーさえいれば宇宙を支配出来ると思っていたころの私が知ったら驚くだろうな。いや、今でも十分驚いているが……宇宙は広い。

 

 しかし、どうするか。

 あいつらの事だ。その内ブウを倒すだろうから私に出来る事など無いが、万が一魔人ブウに今住んでいる街を狙われでもしたら困る。

 老後の道楽と言いながらも凝り性の店主が一から物件を探し改装を加え、食器や家具も方々を回って納得のいくものを集めてきた。コーヒー豆の仕入れ業者も信頼できる相手を見つけられ、少しずつリピーターも増えてきて店の営業も軌道に乗った……最近では不器用ながら私が手掛けた焼き菓子なども「素朴な味で落ち着く」と人気を集めている。

 こうして店主と私とで作り上げた店を壊されたらと考えると、妙なことに殺される事を想像するよりも嫌な気分になった。

 

 

 ……私も地球に来てから変わったものだな。かつては宇宙の支配をもくろんでいたというのに、今はこの小さな店がただただ愛しく、何気ない日々に満足しているのだから。

 

 思えば惑星ベジータ時代は若い頃は戦闘に明け暮れ、ブロリーが産まれてからはみじめに宇宙をさすらいブロリーに振り回される毎日……心休まる時など無かった。コーヒー豆の香りが広がる茶色を基調とした店内で、ジャズという音楽を楽しみながら働く今の生活は私に初めて安寧というものを与えてくれた。サイヤ人としての戦闘本能を上回る心地よさに、私はこの場所に立つために生まれて今まで生きてきたのではないかとすら思っている。

 そういえば最近、店主が昔の仲間と集まって楽器を演奏する場に私も参加させてもらった。ピアノ、サックス、アコーディオン、バイオリン、チェロ、フルート……それぞれが好きな楽器を持ち寄って好きに演奏するのだが、不思議と美しく心躍る旋律となる。前から仕事の他に趣味も持った方がいいと言われていたので、私も何か始めてみようか。……と、今はそんなことを考えている場合ではないな。

 

 

 

「店主……一応、避難の準備はしておいた方が良いのでは?」

 

 店が壊されることも困るが、何より店主が危険にさらされるのが嫌だった。この人はブロリーと距離を置いて、人生の目標も失ってしまった私の話を辛抱強く聞いてくれたのだ。戦闘力こそ私と比べるべくもないが、彼にはそんなものでは計れない人としての魅力がある。いったいどれほど救われ、どれほど与えられたことか……。

 

「来たら来たでその時だ。それにいくら強いっつってもありゃガキじゃねぇか。両方な」

「……魔人と魔導士、両方の事ですかな?」

「ああ。何も知らない世間知らずのガキと知ったかぶって子供のまま大人になっちまったガキ。そんな所だろうよ」

「あれを見てそんな感想を抱くのは貴方だけだと思うが……」

 

 店主は達観しすぎていて時々理解の範疇を超える。魔導士バビディがガキっぽい性格だというのは分かるが……。

 しかし、そう考えているうちに再びバビディの声が聞こえた。先ほどは魔人ブウが街の住人を飴に変え食べつくした上で街そのものを破壊するという暴挙に出たが、また人間を菓子に変えるつもりだろうか。そう思い怖いもの見たさで映像を見るために目をつむったが……そこに映った光景に寒気が走った。なんだと!? これは、この街じゃないか! くうっ、こんな嫌な予感ばかりが当たるとは……!

 

 そして気づけば私は店を飛び出し、上空に居た魔人ブウと魔導士バビディの前に飛び出ていた。そして、こう言っていたのだ。

 

 

「街を破壊する前に、うちの店の珈琲と菓子を堪能していけ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん、地球にもいいものがあるじゃない。この苦みがいいね。それにしても持て成そうとしてくれるなんて気が利くねぇ。ちょうど喉が渇いてたんだ。知恵遅れの猿ばっかの星だと思ってたけど、ぎゃーぎゃー騒いで逃げるだけじゃなくておべっかつかう頭の回る奴も居るんだ」

「おれ、その黒いの嫌いだ。でもこの甘いケーキは好きだぞ!」

 

 そして何故私は魔導士と魔人を店内に入れてしまったのだろう。だが、何もしなければ問答無用で街ごと破壊され殺されていた。だから多少寿命が延びただけだとしても、これでよかったのだろう。思考停止だと何とでも言うがいい。私が一番私の行動の意味を分かっていないのだ。

 

「なら、こいつを飲め」

「んー? でもこいつも黒っぽいぞ」

「ホットチョコレートだ。それもとびきり甘いスペシャルのな」

「チョコレート!? 飲む!」

 

 それにしても、店主は落ち着きすぎではないのか。普通に魔人ブウに飲み物を提供している……。

 

「おお、何だこれ。おれがいつも食べてるチョコと違う! 甘いだけじゃなくて、なんか色々な味がするぞ?」

「数種類のスパイスを加えてある。それと、うちの自慢の珈琲もな。好みでミルクを入れても美味いぞ」

「入れる!」

「じゃあ少し待て。熱々のそいつには、温めたミルクが良く合う」

 

 店主はそう言うと、ミルクパンを取り出し瓶からミルクを注ぐとコンロの火にかけた。

 

「ボクはコーヒーをおかわり。でも、もっと濃いのが飲みたいな」

「だったらエスプレッソだな。お前チビだが、酒はいける口か」

「んん? チビとは失礼な奴だね! っていうか、酒かい? まあ飲めないことはないけど」

「そうか」

「おい、ミルクまだか? もう待てないぞ。これ以上待たせたら、お前をミルクに変えちゃうからな!」

「もう少しだ。……美味いものを食べたり飲むためには、待つ時間も必要だと知らんのか。そうすると美味いものがもっと美味くなる」

「む、そうなのか?」

「ああ。さて、その前にお前さんにエスプレッソだ。好きにすればいいが、こいつには砂糖を半分くらい入れて一気に飲むのをお勧めする」

「へえ、じゃあやってみようかな……うわ、本当に濃いね! でもその分多めに入れた砂糖の甘さがいい感じ。これは目が覚める……魔術を使う前に飲みたいね。集中力が上がりそうだ」

「あと、酒が飲めるならこれもいってみるか」

「これは?」

「グラッパだ。葡萄の搾りかすから作った蒸留酒で、度数がすこぶる高い。こいつをエスプレッソのカップ下に溶けないまま残った砂糖にそそいで溶かし、飲む。どうする?」

「じゃあちょうだいよ。…………うん、これもなかなか。でも僕はお酒よりコーヒーの方が好きかな」

「そうか。……待たせたな。ミルクだ」

「おお、待ってたぞ!」

「ミルクはミルクパンで、直火で温める。電子レンジじゃいけねぇ。こいつを注いでやると……おい、口を伸ばすな」

「! う、美味い。いいなあこれ! おい、もう一杯よこせ!」

「いいだろう」

 

 

 

「……………………………」

 

 

 

 私、する事ないな。というか会話多いな。店主……あなたの事は凄いと思うしそいつらを連れ込んだのは私だが、あんな大虐殺をした奴ら相手に何故そうも普段通りなのか。

 

 あ、呼ばれた。

 何、ホットケーキだと? フッ、この私のホットケーキの腕を知らんようだな。美しく均等に焼かれた厚みのあるふわふわフカフカもっちりの生地を積み重ね、熱いうちにこだわりの発酵バターを乗せ溶けたそれを黄金色のソースとする……そこにナイフとフォークをうずめる快楽に酔いしれるがいい。あとバターも美味いが、他のトッピングはサワークリーム(好みでレモンソースを添えて)、エキストラライトのメイプルシロップ、アカシアのはちみつ、季節の果物を使った手作りコンフィチュールと選べるぞ。バターだけだったのを女性客用に最近増やしたのだ。…………何、おかわりだと? しかたがないな。では今度は30段焼いてやろうではないか。

 ふ、ふん。これは現実逃避などではない。私はただ、店に招いたからには客として扱わねばならぬという事を思い出しただけだ。決してホットケーキ作りに夢中になる事で現実から目を背けているわけではない。

 

 

 

 この後、魔導士バビディと魔人ブウは街を破壊することなく普通に出て行った。どうやら魔人ブウの腹が膨れたから、今回は見逃してやるとのこと。「またコーヒーを飲みに来るよ~」とかいう魔導士の言葉など聞こえなかったが、まあ街を破壊せずにいてくれるなら良しとしよう。

 

 

 …………とりあえず、店主を尊敬する気持ちが深まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




重い話の後だからちょっとほのぼのとした閑話を入れようと良かれと思って。

ちなみにこの間にトランクスはドラゴンレーダーを西の都から持ち帰りました。


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ブウを倒すのは誰だ!?やがて始まるそれぞれの戦い

「ピッコロさん、ドラゴンレーダー持ってきたよ!」

 

 無事にトランクスが西の都からドラゴンレーダーを持ち帰ったことに、とりあえずほっと一息ついた。西の都にしても各地に散らばるドラゴンボールにしても、周囲ごと魔人ブウに破壊されてはかなわんからな。早く集めねばなるまい。

 

 餃子が居れば早かったのだがあいつは今、カリン塔に住むラディッシュと避難させてきたパオズ山のサイバイマンたちの懇願によって、旅に出ているナッパとカエル共を探しに出ている。神殿までテレポーテーションでみんなを避難させたまではよかったが……タイミングが悪かったな。出来る事が多いと、それだけ周囲に頼られる。今回は先にサイバイマンたちの願いを聞いたがために、後で出てきたドラゴンレーダーを取りにいく問題に対処できなかった。

 各地に散らばったドラゴンボールは創造主であるデンデがある程度場所を把握できるのだが、あくまで「なんとなく」しかわからんのだ。やはり早急にドラゴンボールを集めるにはレーダーが居る。しかしブルマによればそこいらにある部品じゃ作れないもののようだしな……そういうわけで、実家の間取や物の場所を把握しているトランクスに取りに行ってもらうことになったのだ。

 

 それにしても、パラガスの奴め手柄だな。わずかな時間とはいえ魔人ブウを足止めするとは。おかげでトランクスの奴が安全にドラゴンレーダーを取ってこられたぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 あの後命を賭してベジータが自爆し、魔人ブウは完全に消滅したものと思われた。……だが、やつは生きていたのだ。

 

 魔人ブウは復活すると体力切れを起こしていた悟空と悟飯をすぐにひん死へと追い込んだ。

 俺はクリリンにチビ共をあずけてひそかに戻り様子を窺っていたのだが、魔人ブウ相手では悔しいが俺には何も出来ん……チッ、ピッコロ"大魔王"ともあろうものが"魔人"ごときに怯えるとはな。情けなくなったもんだ。しかし俺にも出来る事はある。バビディの奴を殺すことだ。

 ブウを封印する呪文はバビディしか知らないようだが、どうせ封印などする気は無いだろう。だったらやっかいな魔術を使う分、目障りなだけだぜ。

 強力なバリアを張れるようだが有利になった現状に奴は完全に油断していた。気配を消して背後を取るのは簡単だったさ。

 

 そして奴を真っ二つに引き裂くと、界王神様達を閉じ込めていた結界が解かれた。すると界王神様達は「ありがとう! ですが、悟空さんたちが危ない。彼らは私達が逃がしますので、あなたもこの場を早く離れてください!」と言うなり、ちょうど岩壁に叩き付けられた悟空たちのもとへテレポートしそのまま2人を連れてどこかへ消えてしまった。……言われた通りいったん引くのが上策だろうな。死にかけの2人が気がかりではあるが、相手は界王神様だ。悪いようにはすまい。

 

 だがせっかく倒したと思えば、この後バビディのテレパシーによって奴が生きていることを知る。クッ、厄介な奴を片付けたと思ったというのに、回復能力まで持っているのか魔人ブウは! もしくはバビディが自分で回復したかだが……どちらにせよ、無駄に芸のある奴らだぜ。

 

 

 

 

 

 

 そして神の神殿へと戻った俺だったが、残った戦力を改めて把握し頭を抱える羽目になった。

 

 現在の戦闘要員は俺、ネイル、クリリン、ヤムチャ、天津飯、餃子、18号、そしてベジータとの戦闘の後遺症で眠っている空梨だ。

 ガキどもを入れればもう少し多いが、空龍は弟妹達と再会することで多少覇気を取り戻したが未だに父親が目の前で死んだことにショックを受けているようであてには出来ない。未来空龍は逆境の中で育っただけあって泣き虫だが立ち直りとやけっぱちの空元気、無駄な行動力には侮れないものがあったが、こちらの空龍は幸せに育っている分こういう時に打たれ弱い。それが悪い事だとは言わんし仕方がないが、戦いの天才だけに現状であてに出来ないのは痛い。……ケッ、ガキをあてにしてる自分が一番情けないぜ。

 悟天とトランクスはデンデに回復してもらって体こそ治ったが、こいつらも心に受けた傷は深いだろう。だがベジータとラディッツの死や悟空、悟飯の生死不明など現状を知ってしばらく泣いたあと、先ほどから2人して互いに相談を繰り返し真剣な表情で何やら考え込んでいる。……精神的にはこの2人のが強いようだな。

 

 

 

 

 まあ、こうして見てみると数だけは多いわけだ。数だけは、な。……悔しいが、俺を含めて魔人ブウと正面から戦える者は居ないだろう。

 

 かつてセルとの戦いで悟飯がスーパーサイヤ人ゴッドというものになった。

 可能性を考えるならば勝つにはこれしかないだろうな。あれは気の大きさこそ感じ取れなかったが、その実力は凄まじいものだった。正しい心を持ったサイヤ人が6人いなければならないが、空梨、空龍、龍成、エシャロット、パラガスの純サイヤ人に加えてハーフの悟天とトランクスも居る。数だけで考えれば、なんとかなるだろう。

 

 問題は誰をゴッドにするかだ。

 

 ドラゴンボールを集めて戦闘に長けた者が生き返ればそいつをゴッドにすればいいが、現状で生き残っているサイヤ人はチビどもと空梨、パラガスだ。パラガスは論外だろう。良い働きをしたが、もとの戦闘力はエシャロット、龍成を除いたチビどもにすら劣る。チビどもは精神的に心配だし、戦闘スタイルが守りに特化しているものの現状での最良は空梨をゴッドにすることだが……奴は未だに目を覚まさない。

 

 しかし今は焦っても仕方がないな。急いては事を仕損じる。

 地上の奴らには悪いが、それもドラゴンボールが集まるまでの辛抱だ。とにかくドラゴンボールで願いを叶えてから策を広げなければ。

 

 

 

 

 

 ………………そう、思っていたんだがな。

 

 

 

 

 

 

「すまん。俺たちが願いを叶えたばっかりに、ドラゴンボールが使えなくなってしまった……」

 

 そう言ってうなだれたのは餃子が連れ帰ったギニューの野郎だった。ちなみに見慣れたカエルの姿ではなく、角の生えた大柄な宇宙人の姿に戻っている。

 ジース、ナッパと共に「元の姿に戻ったら地球でやりたい100のこと」を実行していたらしく、今まで南国でバカンスをしていたらしい。元の姿のインパクトが強いうえに原色のアロハシャツが目に痛いな……。

 

「ですが隊長、我々が願いを叶えたのはちょうど1年ほど前。きっと、もうすぐ使えるようになるはずです!」

「しかしジース殿……現状ではその数日が長いのです。申し訳ありません。私が残った願いで「人の言葉を話せるようになりたい」などと欲張りさえしなければ、ドラゴンボールはもっと早くに復活していたでしょうに……」

「ナッパ、気にするなよ。お前が悪いんじゃない! 俺はお前と話せるようになって嬉しいんだぜ」

「オラも嬉しいだ! おめぇさんと喋れるようになるなんて夢みてぇだなぁ。悟空さと悟飯ちゃんが知ったら驚くだぞ! ……だからあまり気に病まないでほしいだよ。こういうことだって世の中ある。ちょっとばかり運が悪かっただけだ」

「そうだぞ。誰もこんなことになるなんて考えてなかったんだ……お前たちのせいなんかじゃないさ」

「ヤムチャ殿、チチ殿、クリリン殿……かたじけない」

 

 ……サイバイマンのナッパが話せるようになっていたことには正直驚いた。まあ、それはいい。

 

 聞いての通り、ギニューとジース、ナッパというセル戦後にドラゴンボールを探して旅立ったこいつらは、1年ほど前にやっとドラゴンボールを集め終わって願いを叶えたらしい。叶えた願いはギニューとジースを元の姿に戻すこと、ナッパがしゃべれるようになること、そして残った願いはともに切磋琢磨し競い合ったライバルに譲ったそうだ。

 

 つまり、ドラゴンボールはすぐに使えない。チッ、どうりでレーダーに反応がないわけだ。誰が悪いわけでもないが……ことごとくタイミングが悪いぜ。

 

 そういえばギニューたちが神龍を呼び出したのに気づかなかったが、聞けば願いを叶えたのは「周囲の人間を驚かせてはいけないから」と気を使ってわざわざ夜の時間帯を選んでの事だったらしい。妙なところで気を使う奴らだと思ったが、発案がナッパであると聞いて妙に納得してしまった。昔からこいつは気遣い屋だったからな。

 

 

 とりあえず、そうなると現段階で最良の策と言えば何か。簡単だ。

 

 

「よし、空梨を叩き起こせ。奴をゴッドにするぞ」

「や、やけになるなよピッコロ。気持ちはわかるけどさ……空梨さん、一応病人だぜ?」

 

 クリリンに止められるが、どうせしぶとい奴のことだ。目を覚ませばケロリとしているだろう。

 実際先ほど様子を見に行ったが、数時間前まで乱れていた気は正常に戻っていたしな……よだれたらして呑気な顔で眠ってやがったぜ。起こしても構わんだろう。

 

 そう思っていた矢先だった。

 

 

『お~い、お前たち、聞こえるか~』

「え!? き、急に頭の中に声が……!」

「! 界王か!」

『バッカも~ん! 界王様と呼ばんか、界王様と。おぬし、わしでさえ会ったことが無い界王神様に会って調子に乗ってるんじゃないか? わしだって偉いんだぞ~!』

『おい、少しいいか、話させてくれ』

「!? お、おい! この声って……」

「お父さんだ!」

「「おとうさん!?」」

 

 界王の言葉を遮って次に聞こえてきたのは死んだラディッツの声だった。すぐに空龍と双子が反応しキョロキョロと周囲を見回すが、神殿の広場にその姿は見つけられない。まあ当然だ。界王……様と一緒に声が聞こえてきたということは、あの世にある界王星に居るということだからな。

 

『ベジータとセルも居るぞ』

『……フンッ』

『やあ、諸君。ところで死んだと思っていたが、タピオンは無事だったようだな』

 

 続いて聞こえてきた声に、それぞれの家族と友人が反応する。

 

「ベジータ、ベジータなの!? あ、あんた……なんで勝手に死んじゃうのよ! こんな可愛い妻と子供を残してさっ! ぐすっ」

「ぱ、パパなんだね!? え、どういうこと? 今どこにいるの!?」

「セル……! セルなのか!? すまない。みすみす君を死なせてしまったというのに、俺は生き延びてしまった……いや、でもこの声は何処から? 神託の類か……!?」

「兄さんは無事だよ! 危なかったけど、神様が治してくれだんだ!」

 

『こら、お前たち一気に話すな! ……え~、こほん。どうしてこいつらがわしと一緒にいるかじゃがな、どうせすぐに生き返らせると思って閻魔に無理を言ってわしが引き取ったんじゃよ。……ま、まあヘビーな蛇の道をあっという間に踏破してきたのには驚いたが。ぷぷっ、おっと、思わず漏れ出た高度なギャグに笑ってしまったわい。ごほんっ、それでだな、死んでる間の出来事を把握しておいた方が何かと便利じゃろ? 閻魔は渋い顔をしとったが、どうせドラゴンボールで生き返るだろうと言ったらため息交じりで許可してくれおったわい。いやぁ、死人が生き返ったりなんだとあの世の管理人も忙しいのぉ。それにしてもわしったらナイス! まあ、界王神様が直々に出向いて働いておられるのにわしが何もせぬわけにいかんしな。ちょっとでも役に立てないかと考えたんじゃよ』

「………………………………」

 

 意気揚々と話す界王だったが、俺たちの間で気まずい沈黙が横たわる。

 その中で意を決して口を開いたのはデンデだ。流石地球の神。立派になったな、デンデ。

 

「あ、あの、界王様」

『うん? 何だ~地球の神よ』

「大変申し上げにくいのですが……ドラゴンボールは使用されて現在石になっている状態なのです。もう少しでもとに戻るらしいのですが……」

『何ぃ~!? あ、いてっ』

 

 界王様がのけ反って驚いてる様が目に浮かぶようだぜ……そして勢い余って転んだな。

 しかしドラゴンボールが使えないことを嘆く前に、ベジータの野郎が提案してきた。

 

『ならナメック星のドラゴンボールはどうだ』

「! そうか」

 

 俺としたことが冷静を装いながらも相当混乱していたらしいな……こんなことにも気づかないとは。

 

「だがナメック星まで最短で6日はかかるんだったな……それからドラゴンボールを集めるとなると、もう少しかかる。その間にブウのやつが勢い余って地球ごと破壊しなければいいが……」

「待って、大丈夫よ! ナメック星までなら最短で1日、最長で3日で到着できるわ!」

「なんだと?」

 

 興奮したように挙手して発言したのはブルマだ。以前ネイルが使った宇宙船はカプセルコーポレーション製……ならば、その話の信憑性は高い。

 

「ふふふっ、デンデって神様と言ってもまだ子供じゃない? たまには里帰りしたいと思って、宇宙船の改良を進めてたのよ。あたしだって最長老様に潜在能力を開放してもらったんだから、これくらい楽勝よ!」

「え、でもそのわりにママ、最近宇宙船放置してたよね?」

「う、煩いわね。忘れてたのよ……他の研究もあったし。でも大丈夫よ、動くわ! そうと決まれば善は急げね。ねえ餃子、カプセルコーポレーションまで言って宇宙船のカプセルをとってきてくれない? パパに聞けばわかるから!」

「……オレ、ドラゴンレーダー取りに行った意味あったのかな。色んな意味で」

「ま、まあそう言うなよトランクス。そういうこともあるさ」

 

 …………とりあえず、方針は決まったな。ナメック星のドラゴンボールで死んだサイヤ人を生き返らせてゴッドにして、ブウに勝つ。実に簡単だ。簡単なだけにうまくいけばいいが、という言葉が続くが。

 

 だが、ここでさらに別の意見が出る。

 

 

「のう、ドラゴンボールもそうなんじゃが……ここはちと、姉ちゃんに頼んでみるのはどうじゃ?」

「武天老師……姉ちゃんって……ああっ! う、占いババ様!」

「! そ、そうか。占いババなら死人を一日だけこの世に戻せるんだったな」

 

 ! そ、そうか。セルの時、悟空が使ったあれか。いかん、忘れるところだった。人数が多い分、こういう情報の取りこぼしが少なくなるのは助かるな……。

 

「よ、よ~し! これで何とかなるんじゃないか? ナメック星にもいかなくて済みそうだ」

「しかしクリリン、ナメック星のドラゴンボールは一応確保しておいたほうがよくはないか。ナメック星には頼ってばかりで申し訳ないが……今回の事を思い出せ。いつ不測の事態が起こるか分からん。保険はあった方がよいだろう」

「ああ、天津飯に同意見だ。それに、私たちがここに居ても出来る事はないだろうからな。せめて何かさせてほしい……ナメック星は私の故郷だ。私が出向こう」

「なら俺も行くよ」

「俺もだ」

「なら、俺も連れて行ってくれないか。セルもそうだが、地球の方々にも大きな恩が出来た。戦闘では役に立てそうにないが……せめて何か出来る事で恩返しさせてほしい」

「じゃあ、俺も行こうかな。ネイルさんの言う通り、魔人ブウ相手じゃ役に立てそうにないや」

 

 各自が意見を出し合い、こうしてナメック星へはネイルと天津飯、ヤムチャ、クリリン、タピオンが行くことになった。他の面々もついていこうと申し出る者が居たが、宇宙船の大きさ的にあまり大人数では無理がある事、いざという時に地球でなにかしらの対処ができる人数を多くしておいた方が良いということでこの5人に決定した。

 そもそも行く必要があるのか(界王のテレパシーがあるためだ。ナメック星人は自分たちを救った地球人に恩を感じているので事情を伝えれば協力してくれるだろう)、行く人数はもっと少なくとも済むのではないかという疑問も出たが、結局ナメック星でドラゴンボールを集める必要が出てきたため収集要員が必要になったのだ。それは途中で界王が『だったらわしがナメック星人にドラゴンボールの件頼んでおこうか?』を気を利かせたのだが、その結果ドラゴンボールが再使用可能になったのがつい最近らしく、再び手元に置くために長老たちが現在探している途中だったことが判明したためだ。ナメック星人にまかせるよりも、レーダーを持つこちらが出向いて集めた方がはるかに速いだろう。

 

 そういえばタピオンの封印が解かれたのとミノシアが生き返ったのはナメック星のドラゴンボールのおかげだと言っていたな……思ったより最近の話だったようだが、4か月経っていたのは幸いだ。でなければ地球同様使う事すらできなかった。ドラゴンボールはレーダーが無ければ探すことが困難なため、知らず自分たちしか使えないと思い込んでいた弊害だな。

 

 奇跡が常にそばにあるのも考え物だ。油断を招く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで界王様、何でセルまでそこにいるんだ? 一応タピオン達に話は聞いたけどさ……あなた、一回セルの自爆で死んでるじゃないか。よく招き入れましたね」

 

 クリリンの質問に、俺を含めて気になっていた面々が顔をあげる。そして今まであまりしゃべらなかったタピオンとミノシアが口を開いた。

 

「あ、あの! 地球で何があったのか、セルと皆さんの間で何があったのか俺たちは知りません。ですが、俺たち兄弟は間違いなく彼に助けられました! どうか、セルも生き返らせてはもらえませんか。代わりに俺の命をささげても構いません!」

「ぼ、僕からもお願い! 今じゃなくてもいいんだ。ナメック星でも地球のドラゴンボールでもいいから、どうか……!」

『おいおい、落ち着かないか2人とも。それにタピオン、君はそう簡単に命を投げようとするな。自爆までした私が馬鹿みたいだろう?』

「セル……」

『ま、まあわしも迷ったんじゃが……心の邪気がだいぶ消えておったんでな。きっとタピオン達のおかげじゃろうて。ならばと、少しでも戦力になる人数は多い方がよかろうと一緒にひきとったんじゃよ』

 

 界王の言葉に少しざわつくが、何故か俺を見た後に「こういうこともあるか、今まで無かった例じゃないし」とそれぞれ勝手に納得したようだ。待て、それはどういう意味だ。

 

 とりあえず、話はそこで終わりかと思われた。だがそれに待ったをかけたのはトランクスと悟天だった。

 

 

「ねえ! でも、パパたちが帰ってくるまでに魔人ブウが何かしないって保証はないでしょ? あいつ、一瞬で街をぶっこわせちゃうんだぜ? ちょっと放っておくだけでも人がいっぱい死ぬかもしれない! だからさ、俺たちにもう一回戦わせてよ!」

「うん! 今度は絶対に倒して見せるから! お願い!」

「おいおい、2人とも何言ってるんだよ。あの悟空たちでさえかなわなかったんだぜ?」

「でも俺たちにはフュージョンがある!」

「フュージョン?」

 

 トランクスが言った言葉に反応したのはギニューだった。

 

「聞いたことがあるぞ。メタモル星人の秘儀だな? たしか、2人の戦士が融合することでより強力な戦士へ変身する技だ」

「なんですって!? な、何故それをあの2人が知っているのですか」

「知らん。本人たちに聞け」

「うんとね、僕達前にお父さんから「面白い技があるぞ」って教えてもらってたんだ!」

「ポーズがちょっとださいから今までやらなかったんだけど……でも、やり方は覚えてるよ! きっと少し練習すればすぐに出来るようになるさ!」

 

 しかし張り切る子供たちに待ったをかけたのはベジータだった。

 

『待て。お前たち、ヒルデガーンに手も足も出んかっただろう。正直パワーだけならブウよりヒルデガーンが上回るが、それを抜きにしてもブウは強い。……お前たちでは死ぬだけだ。やめておけ』

 

 だが、チビ2人も黙って引き下がりはしない。

 

「でもパパ、俺悔しいんだ! パパが死んでまで俺たちを助けようとしてくれたのに、お、俺……何も出来なくて……! もっと頑張らせてよ! パパは王様なんでしょう? だったら俺、王子じゃん! 王子がこのまま黙って待ってるなんてかっこ悪いだろ!?」

『トランクス……』

「おじさん、僕は王子様じゃないけど……僕だって、お父さんやお兄ちゃん、おじさんの代わりにブウをやっつけてやりたい!」

「ご、悟天……。でも、危ないよ、もしかしたら、今度は2人が死んじゃうかもしれないんだよ?」

「心配しないで。絶対大丈夫だからさ! 空龍、いっつも助けてもらってるけど今回は僕達が助ける番だよ! 絶対おじさんの仇をとってやるんだ!」

 

 ……どうやら、2人の熱意は止めて止まるようなものではないらしいな。

 実際この2人の戦闘能力は凄まじいものがある。それが融合し、一人の戦士になるのだ……強くないわけがない。それがブウに通用するかはわからんが、出来る対策はしておいた方が良いだろう。

 

「ベジータ、お前の息子を信じてみてはどうだ」

『ピッコロか……しかし』

「気持ちは分かるが、まずはやらせるだけやらせてみないか。融合した結果、勝ち目がなさそうなら俺が責任をもって止めよう。どうだ?」

『……………。フンッ、勝手にしろ』

「ありがとうパパ!」

「ありがとうおじさん! 僕たち頑張るよ!」

 

 

 今度こそ方針がまとまった。

 

 本命はスーパーサイヤ人ゴッド。副案でチビどものフュージョンだ。

 

 

 

 そしてチビどもだが、デンデとミスターポポの勧めで”精神と時の部屋”を使いフュージョンの練習をすることになった。あの部屋ならば時間を気にしなくていいからな。まあ、2人が練習している間にゴッドで片が付くのが一番良いのだが。

 

 ちなみに部屋に入る前に傍からポージングや気の大きさなどを見て指摘する指導役は俺と空梨が担った。どうやらチビ共によれば自分たち以外にフュージョンをよく知ってるのは空梨だけのようだしな。叩き起こして寝ぼける空梨を加えて指導したが、2人がもとからある程度フュージョンの形を理解していただけに形が出来上がるのは早かった。

 あとは2人が精神と時の部屋でフュージョンを完成させるだけだ。

 

 

 

 さて、忙しくなるな。ここからが正念場だ。

 サイヤ人たちに頼る形であるのが情けないところではあるが……しかし、これ以上地球をめちゃくちゃにされてたまるか!

 

 魔人ブウ、魔導士バビディ。貴様らの良いようにはさせんぞ! 首を洗って待っていろ!

 

 

 

 

 




登場人物が集まって来て数が多くて会話にひーこら。む、難しい……!



追記

※原作と本作とピッコロさんの一人称が混ざって、あれ、バビディ死んでるんじゃ?というふうに読めてしまったようなので修正しました。今回ごちゃごちゃしていて描写不足など色々と分かり辛くて申し訳ありません;

更に追記

今回色々設定を忘れていて穴ぼこだらけでお恥ずかしい……!感想欄でご指摘いただきありがとうございます。色々と修正しました。


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36ページ目 状況確認~してたら始まる復活のFは突然に

 ______________地獄、某所にて。

 

 

「イエ~イ♪ イェイイェイ、いえ~い!」

 

 紫色の液体が溜まるタンクの前で、ヘッドホンをつけた若い鬼がノリ良く音楽に合わせて踊っていた。そこに眼鏡をかけた青鬼がやってきて、その若者をしかりつける。

 

「おい、お前ちゃんと仕事しろオニ!」

「ん? イエ~イ!」

「いえ~い、じゃあないオニ! いいか? 今日はやたら死人が多い上に、コナッツ星とかいう星の魔人がやってきたオニ! 凄い邪気だから、タンク一本じゃ足りないかもオニよ! ちゃんと交換するオニ!」

 

 ぷんすかと怒ってその場を後にした青鬼を見送り、若い赤鬼は困ったように眉尻を下げた。

「あいつ悪い奴じゃないんだけど……ちょっとおせっかいオニ」

 

 

 しかし換えないと後で煩い。そう思い、彼は死人の邪気を集めたタンクを真新しいものに交換した。これで大丈夫だろうと汗をぬぐい、赤鬼は再び踊り出す。

 交換したばかり。そう油断していた……故に気づくのが遅れたのだ。

 

 

 ピシッ

 

 

 一瞬でタンクが紫色の液体で満たされ、ひびが入る。……悪夢はこうして始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*+*++++++++++++++++++++++***++++++++++++***+++++

 

 

 

 

 

 

 

Ё月■日続き

 

 

 

 

 寝ていたらいきなりピッコロさんにベッドから蹴り落されて目が覚めた。い、いったい何の恨みがあって!? 私ピッコロさんに何かしたっけ!?

 

 寝ぼけ眼のまま悟天ちゃんとトランクスのフュージョンを指導しろと言われ、しょぼしょぼする目をこすりながら言われるままに指導した。

 そして2人のポーズが完璧になり「あとは気の微調整と練習だ!」と言って精神と時の部屋に2人が入っていくのを見送ってようやく目が覚めてきた。覚醒が遅すぎであるが、どうにも本来寝ていなければいけないところを無理やり起こされたような感覚というか……体がまだ睡眠を欲していて、言われたことをするので精一杯程度には頭が働いていなかった。

 

 とりあえずゴテンクス必要になっちゃったの!? 悟空とかベジータたちは? とピッコロさんに問いかけると、傍にいたデンデが「ピッコロさん、悟天くんとトランクスくんの指導も終わったことですし、空梨さんをもう少し休ませてあげては? 薬もまだきいているようですし……」と気遣うように言ってくれた。けど待って。薬ってなんぞ?

 それに対してピッコロさんは「いずれは知らねばならないことだ。心配するな……知ったところで、こいつはそんなに弱くない。それにベジータたちが戻ってくればゴッドのためにまたすぐ目を覚まさせることになる」とか色々突っ込みたくて仕方がない内容をレスしたわけだけど、待って。今日記書いて平常心の準備してるから待って。買いかぶってもらって嬉しいけど待って。私そんなメンタル強くないから待って。多分聞いたら私のライフはもうゼロよ案件なのひしひしと伝わってくるから待って。

 

 そして話された内容に、まず呼吸が止まった。そして涙と嗚咽で本格的に呼吸できなくなった。一瞬あの世が見えた。

 

 

 

 

 ラディッツが死んだ? あとベジータも?

 

 

 

 

 とにかく吐き出せる感情を一気に吐き出して1分くらいで泣き止んだ。いや、外に子供らいるっていうし母親まで落ち込んだままじゃあかんだろうと。とりあえず手近にあったピッコロさんのマントで涙と鼻水をぬぐってしまったが、凄く嫌そうな顔をしながらも好きにさせてくれたピッコロさんマジ漢。背中をさすってくれたデンデマジ癒しの神様。

 

 …………それにしても、ラディッツが死ぬのは2回目だけどショックの度合いが前回の比じゃないんだけど……。ドラゴンボールで生き返る世界だっていうのに、なんでこうも悲しいのか。

 

 とりあえず整理した情報は以下の通りだ。私がベジータと闘って気絶してる間に随分と大変なことになっていたらしい。

 

 

 とりあえず箇条書きで書き出すが、正直箇条書きでも多いわ! なんつーことになってんだ。

 

 

 

 

 

・まず最初の対戦カードは操られしセルVS悟空、悟飯ちゃん。別の場所でダーブラVSラディッツ、空龍という図になっていたらしい。セルの方は途中でVS悟空に変わり、悟飯ちゃんはラディッツと空龍の加勢に。悟空はスーパーサイヤ人3に変身し、セルと互角の戦いを繰り広げる。

・VSダーブラはラディッツと空龍が連携で押していたらしいが、バビディが勇者兄弟の体に封印していたヒルデガーンを復活させて一気に戦況は逆転。ラディッツが囮になりヒルデガーンに攻撃を当てることが出来たが、そのすきをつかれてダーブラにラディッツが殺される。(死ねダーブラと書きたいところだが、すでにダーブラはクッキーご臨終していた件)空龍戦意喪失、悟飯ちゃんもピンチ。しかもこのタイミングで魔人ブウ復活。

・勇者兄弟がバビディに逆らってダーブラに石にされる。魔人ブウの気配に気づいて移動してきたセルと悟空がそれを目撃。友人を石にされ、セルの洗脳が解ける。(セルにそんな大事な友達が出来てるとか正直驚いた)

・セルと共闘することに。バビディの命令で復活したブウも参戦。流れ光線にてダーブラがクッキーに変身、昇天、勇者兄弟とピッコロさんクリリンくん復活。

・兄弟の笛でヒルデガーンをけん制しつつ混戦状態に。ラディッツの遺体を抱えたまま戦意を喪失していた空龍がピンチになるものの、悟天ちゃんとトランクスのチビコンビが助けに入る。が、単体でヒルデガーンに適うはずもなく再度ピンチに。石から復活していたピッコロさんとクリリンくんがそれを助ける。

・ベジータ合流。私からはぎ取っていった仙豆で全員回復。仕切り直し。

・ヒルデガーンとブウに担当を分けて戦うことに。デンデも驚いたっていうけど、私もまさかベジータが悟空と共闘を選ぶとは思わなかった(ちなみにここまで空気だった界王神様とキビトさんが会話に出たけどバビディに魔法でつかまったという内容に私はそっと脳内から彼らの存在を消した。あてに出来ないのでノーカンとして扱おう)

・タピオンがヒルデガーンの攻撃で死んだと思ったセルが、ヒルデガーンに自爆特攻。止めを悟飯ちゃんがかめはめ波で刺してヒルデガーンを倒す。え、ちょ、おま。

・それを見たベジータが同じく自爆特攻してブウを爆散させる。え、ちょ、おま。

・しかしブウは強力な再生能力で生存。体力切れを起こしている悟空と悟飯ちゃんピンチ。

・ピッコロさんがバビディをカッティングして界王神様達の封印が解かれる。界王神様達は悟空と悟飯ちゃんを連れてどこかに消えた(おそらく行き先は界王神界だろう)

 

・その後、バビディ復活。悟空と悟飯ちゃんを探すために地球人全体にテレパシーを送る。その合間にブウが町の住人をお菓子に変えて食べたり街を破壊したりで、それを見せられた人間達が総じてパニックに。

・とりあえずドラゴンボール集めとこうぜ! でもレーダーが西の都におきっぱだぜ! ということでトランクスがレーダーを取りに行くことに。その間、まさかのパラガスと店長コンビによってブウとバビディが一時的に足止めされる。え、何やってるんすか店長とパラガス。いや死ななくて安心しましたけど何してんスか。とりあえず店長と一応パラガスを尊敬する気持ちが増した。あの店の珈琲とパンケーキ美味しいもんな……。今度また食べに行こう。

・天界に身内とその家族が集合。元の姿に戻ったギニュー隊長とジースくん、サイバイマンたちも居るとのことで、多分傍から見たら異種族入り乱れで凄い光景だと思われる。

・話し合った結果、占いババ様に手を借りてあの世からベジータとラディッツを召喚。セルは知らん。ゴッドを作りブウに勝つのが本命の作戦となる。現在ババ様があの世に出向いている模様。地球のドラゴンボールは現在使用不可とのことで、保険としてナメック星のドラゴンボールを頼りにネイルさん、クリリンくん、天津飯、ヤムチャくん、タピオンがブルマの宇宙船でナメック星に行くことになったらしい。もう出発したようだ。

・チビたちの主張により、腹案として彼らのフュージョンを完成させることに。ポーズの確認をするために私が叩き起こされ、チビたちが精神と時の部屋にIN。←イマココ

 

 

 

 色々と頭が痛い。とりま、精神を落ち着けるために表に出て行って空龍とエシャロットと龍成を思いっきり抱きしめておいた。子供体温に癒された。うちの子供たちマジ可愛い。空龍はよく頑張ったな。双子が産まれてからなおっていた泣き虫が復活して私に抱き着いてわんわん泣いてたけど、お前は頑張ったよ。よくやった。

 

 不安はあるけど戦闘面ならゴッドが出張れば問題ないし、今から魔人ブウの動向を探ってサタンと接触するのを確認できればべえを狙撃するクズ2匹はったおせば解決である。色々あったが、今度こそ魔人ブウ編終了だろう。全部事がすんだらみんなでどんちゃん騒ぎの打ち上げでもするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 そう思ってた時期が私にもありました。

 これ書くのも何度目だっけなクソが。

 

 

 

 

 

 

 

 あの世から占いババ様が帰ってこないどころか、地上で死者が復活し始めたんですけど。うろ覚えだけどすごく覚えのある現象なんですけど。

 

 とりあえず何故か天界に地獄から降臨されたフリーザ様は「復活のFにはまだ早いんで。今復活のフュージョンなんで」と言って腹をぶち抜いてお帰り頂いた。ギニュー隊長が何か言いかけてたけど気にしない。それどころじゃねーよ!! 何だよ! 次から次から劇場版混じりよってからに!! バーゲンセールはスーパーサイヤ人だけで腹いっぱいなんだよ!! しかもブウが次から次に殺してるのに次から次に生き返るから地上が地獄以上に地獄絵図だよどうなんだよこれから!!!!

 

 

 

 

 

 

 お腹痛い。

 

 

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ブロリー以外劇場版は完結後の番外編まで書かないと言ったな?あれは嘘d、ごめんなさいごめんなさい。3度目の法螺吹きました石投げないで。とりあえず復活のフュージョンを見直してゴジータカッコいいなと思いました(小並感


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37ページ目 蘇る亡者たち!~懐かしき顔ぶれ

Ё月■日続き

 

 

 デンデとピッコロさんにより地上の地獄絵図が説明され、フリーザ様登場に騒然としてた場が更に騒がしくなる。

 そこに界王様を通してあの世の現状が説明された。いわく、地獄の魂の邪気を吸い取る装置に異常が出てとんでもない化け物を生み出してしまったとのこと。そいつが閻魔様を結界で閉じ込めてしまったため、あの世とこの世の境が曖昧になり死者が蘇るという事態に繋がってしまったんだとか。

 

 はい、どう聞いても劇場版ドラゴンボール復活のフュージョンですねありがとうございますクソッタレ。

 

 え、これってたしか悟空とベジータがフュージョンしてやっと勝てた敵だったよね? ベジータはあの世に居るとして悟空は…………いやいやいや、これは後で考えよう。界王神様が悟空と悟飯ちゃんを助けてくれたんなら、この異常事態に気づいてどっちかよこすくらいしてくれんだろ。…………してくれるよな? そもそも気づいてないとか無いよね大丈夫だよね? 界王様だって気づいてるのに界王様の神様が気づいてないとか無いよね?

 

 

 ベジータ達を迎えに行った占いババ様も閻魔様ごと閻魔殿に閉じ込められてしまったらしく、これでは彼らの一日帰還は不可能だ。いや、理屈で言えば直であの世からこっちに来れるんだろうけど……果たしてそんな不完全な状態でゴッドになれるのだろうか。なれたとして、現状の収拾がつかないままブウに挑んでよしんば倒せたとしても今の状態だとこうなる。

 

ブウ昇天

ブウあの世からご帰還

無限ループ

 

 ってことだよ。

 死ぬわ! いずれこっちが体力切れおこして死ぬわ!!

 

 これはまずブウより先にあの世の方を片付けなければ詰む。しかしあの世とこの世の境界があいまいになったとはいえ、こちらからあの世へ行くことは出来るんだろうか……一応私も占いババ様の修行を続けていたので、通常時でもあの世に行くことだけなら出来た。だが、それは幽体での話。生身のまま行くことはまだ不可能なのだ。

 初めの頃は幽体離脱だけ出来て、私の幽体は人魂のような姿で肉体を保てない不安定な状態だった。それがレベルアップして肉体という外郭を付与しての幽体離脱が可能となり、つい最近占いババ様の案内のもと幽体であの世まで行くことが出来た。だけどそれが本当につい最近の話で、魂と体をつなぐライン(霊子線というらしい)が途切れたら私の魂はどこかに飛んで行ってしまい二度と戻ってこれないので一人では絶対にやるなと言われた。

 そういうわけでリスクが高すぎる。となると、案内人も居ないからこちらから戦力を送ることも出来ない。まいった。

 

 しかし、そこで界王様のもとに居る3人から「こちらは任せろ。その化け物をぶっ倒せば何も問題ないんだろう」と頼もしい通信が入った。この世の住人である私たちは彼らを頼らざるを得ないようだ。

 

 そして私たちに出来る事は何かといえば、この世に蘇った奴らを少しでもあの世に帰還させることらしい。

 

 界王様を介して閻魔様に聞いたところ、この世に蘇った魂を倒せばしばらくの間はあの世の何処とも知れない場所をさ迷ってすぐにまたこの世に現れるということは無いらしい。

 ここで重要なのは、あの世とこの世の魂のバランスである。現状で何故死人が蘇っているのかといえば閻魔様に異常が起きているからだが、問題はそれだけではない。”肉体付きで”蘇っているのが一番問題なのだ。本来循環し平等に保たれるあの世とこの世の魂の質量が、それによってただ地獄から悪霊が出てくるのとは訳が違う段違いの歪みを世界に与えているのだとは閻魔様の言。この状態が長く続けば世界がどうなってしまうのか、前代未聞で閻魔様にも分からない……しかし、確実に悪い結果につながるだろうと界王様は神妙な声でおっしゃった。

 

 幸か不幸か、というか不幸と不幸が正面衝突して飽和してるっていうか、ブウが襲い掛かってくる地獄の奴らを蹴散らしてるからまだ世界に影響は少ないんだとか。

 でもブウは一人だけ、それに対して死人は山のように世界中に溢れている。……あ、これアカン奴や。世界だどうのこうのとスケールが大きすぎて分からないけど、分からないだけに恐ろしい。下手したら宇宙崩壊とかに繋がるんじゃ? 少なくとも地球は崩壊してブラックホールになりましたとかなるんじゃ? おおおおおっそろしいわ!! 復活のフュージョンって結構問題が深刻じゃねーか!! 殴る。たしか原因は地獄の鬼の怠慢だったはずだから事が終わったら確実にそいつを泣くまで殴る。泣いても殴る。謝っても殴る。気が済むまで殴る。

 

 

 とりあえず私たちも神殿でのんびりしてる場合では無くなった。

 日記を書くのもたいがいにして、私も皆に続いて地上の雑魚討伐に出向かなければ。うん、雑魚な。要は質より雑魚……じゃない、数だ。強そうで厄介な奴はスルーしよう。とりあえずバランスってことは、たくさん帰還させた方がいいってことだろ。だったら楽そうな雑魚から大量に狩っていくのが正解のはず。悪人どもなら必然的に悪事働いて目立ってるだろうから善良な霊との判別も楽だし。

 決して楽しようという魂胆ではない。どんな奴がいるか分からないから、とりあえず強そうな奴はスルーな! っていうのは全員に言っておいた。あわよくばそのあたりはブウが全部やっつけてくれないかと期待している。

 

 

 地上に散ったメンバーは私の他はピッコロさん、餃子師範、18号さん、ギニュー隊長、ジースくん、ナッパ、ナッピ、ナップ、ナッペ、ナッポ、空龍だ。空龍は心配だったが、悟天ちゃんとトランクスが強くなろうとしているのを見て「自分もいつまでも泣いてられない」と戦う意思を取り戻したらしい。本音を言えば連れて行きたくないけど、この子確実にこのメンバーの中で上位に食い込む強さだしな……我が息子ながら頼もしいわ。「お父さんの代わりに僕がお母さんたちを守るんだ!」と言われた時は正直泣きそうになった。……立派に成長しよって。

 

 悟天ちゃんとトランクスについては精神と時の部屋から出て来たらデンデとポポさんが事情を説明してくれるとのことだ。

 ちなみにビーデルさんも一緒に行くと言ってきかなかったけど、どうにかチチさんとブルマに押し付けて置いてきた。彼女もたしかに強いんだろうけど、この中じゃまだ未熟だろうし万が一があったら悟飯ちゃんに悪いしな……。え、18号さん? 彼女に勝てる相手は早々に居ないだろうから無問題です。むしろ主戦力です。「私も行ってやるよ。少なくともあんたたちより戦闘力あるからね」というお言葉に甘えました。頼もしすぎてもうね……マーロンちゃん、君のお母さん格好いいよ。

 正直悟空たちに続いて頼もしい戦力の地球組がことごとく留守だという現状に頭痛いけど、彼女によって大分救われた。あ、そういえばカプセルコーポレーションに博士たちと残った16号にも声をかけようか。いや、でもきっと彼なら何も言わなくても西の都を攻めてくる悪い奴が居たら自ら処理してくれるだろう。あの人義理堅い上に強いからな。安心感がある。

 亀仙人様は空を飛べないので機動力に欠けるのもあって、天界を守ってもらうようにお願いした。けどさっきのフリーザ様のこともあるので、ある程度片付けたら私もすぐに戻ってくる予定だ。

 

 

 さて、今度こそ日記は後回しだ。忙しくなるけど気合い入れていこう。

 ラディッツも頑張ったことだし、私も今回は腹をくくろうと思う。子供たちに恥かしい姿は見せられない。

 

 

 でも何か忘れている気がする。はて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○++++●●●●●++++○○○○++++●●●●●++++

 

 

 

 

 

 

 

_________________________地上、某街。

 

 

 

「何で生き返ったのかは知らんが、ラディッツの野郎とあの地球人のガキども絶対に許さねぇぜ……」

 

 死んでいた間の記憶は正直苦痛以外は曖昧だ。だが、もう二度とあんな場所に戻ってたまるか!

 手始めにちょろちょろ鬱陶しい地球人共に挨拶してやるか……そう思い、俺は人差し指と中指をそろえてニヤリと笑った。だがそんな俺の頭部を蹴り飛ばした者が居た。

 

「誰だ! このナッパ様を蹴とばすたァいい度胸じゃねぇか!」

「ほう、奇遇ですね。私の名もナッパというのですよ」

「!? な、サイバイマンだと!?」

 

 俺の目の前に現れたのは見覚えがありすぎる生物。サイヤ人の科学力によって作り出された人工生命体サイバイマンだ。だが俺は喋るサイバイマンなんて知らねぇぞ!? どうなってやがる! …………いや、それはこの際どうでもいい。肝心なのは、サイバイマンごときがこの俺様を足蹴にしやがったってことだ!!

 

「サイバイマンごときが偉くなったもんだなぁ……! ぶっ殺してやるぜ! せいぜいあの世で後悔するんだなぁ!!」

「あの世に帰るのは貴方の方ですよ。……同じ名前であるのも何かの縁でしょう。お相手します」

 

 いちいち気に障る野郎だぜ……! ただじゃ殺さねぇ。なぶって恐怖に歪んだ面で命乞いしてきたところをみじめったらしく殺してやるよ!!

 

 

 

 

 

 

【サイヤ人ナッパ、あの世に帰還】

 ナッパを含めた死人の群れから助けられた街では、緑の守護妖精の噂がまことしやかに語られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________地上、某島。

 

 

 

 

 

「ひぃぃ! わ、わしのバイオ戦士たちがぁ!!」

「た、頼む! 命だけは助けてくれ! 金はぎょーざんあるでぇ!!」

 

「金? 興味ねぇなぁ。俺が興味あるのはこの美しい星さ」

「ふふふっ、喜びなさい。この島は地球にて最初にボージャック様のものとなるのです」

「金色の建物が趣味悪いけど……いいわね。他は美しい島だわ」

「あのセルって野郎、たしか地球出身だって言ってたな。いい機会だ……今度こそぶっ殺してやるぜ!」

「ああもちろんだ! 我らヘラー一族。舐められたままでは終われぬ」

 

 背の低い肥え太った三つ編みの男が尻もちをつき、ながっぽそい体型の帽子をかぶった男が土下座する。……2人の前には、彼らが巨万の富をついやして科学者に研究させ誕生したバイオ戦士達の残骸が転がっていた。突如として島を襲ってきた5人組を倒させるために差し向けたのだが、最強のはずのバイオ戦士たちはいとも簡単に負けてしまったのだ。まるで玩具を壊すようだと、それを見ていた誰かが恐怖に震えながらつぶやく。

 地球人とは違う肌の色を持つ5人組は逆らうものを無残に殺しつくした。今のところ被害はバイオ戦士のみであるが、人々に恐怖を刻み込むのには十分だったようだ。

 

 だが、誰も逆らうものが居なくなったと思われた時……一つの光球が首領であるボージャックに迫る。ボージャックはそれをハエをはらうように退け、光球が飛んできた方向を見やる。

 

「ほう、まだ逆らう気概のある奴が居たのか」

 

「うるせー喋んなざっけんなよクソが何で最初に遭遇するのがお前らだよ死ねカス。空龍、ピッコロさん、高重力で一気に足止めするからその間に殲滅よろしく。こいつら変身するタイプだって私の勘が言ってるから一撃必殺でオネシャス」

「うん、わかった! でもお母さん、こういう時は略しちゃだめだよ! ちゃんとお願いしますって言わなきゃ」

「あ、ゴメンナサイお願いします」

「…………フンッ」

「ピッコロさんも、めっ! ちゃんと分かったら分かったって言わないと駄目だよ!」

「……チッ。分かった」

 

「なんだこいつら……」

 

 

 

 

 

 

【ボージャック一味、あの世に帰還】

 

 相手も超能力でズルするんだから初見殺しのハメ技で仕留めるのは卑怯じゃないとは某女性の談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________地上、某研究所。

 

 

 

「まさかと思ったけど……本当に居るとはね」

「じゅ、18号!?」

「私たちの他にまだ人造人間を隠してたんだ。ドクターゲロさま?」

 

 私を見て、ゲロのジジイは目を見開いた。まったく……二度とこの面を見なくていいと思ってたんだけどね。

 

 厄介な話を聞いて蘇った亡者どもをぶっとばしていたまではいいのだけど、ふと嫌な予感がしてドクターゲロの残した研究所や関連施設を知りうる限り見て回った。そしていくつめかの施設の地下で、3体の人造人間を起動させようとしていたこいつを発見したってわけだ。まったく、ただでさえややこしい時に余計なことを。

 

「じゃあね、バイバイ」

「待っ」

 

 

 話を聞いてやる義理もない。3体の人造人間は、せいぜい悪用されなくてすんだと安心してあの世に行くんだね。

 私は研究所ごとエネルギー波で吹き飛ばすと、次のターゲットを探しに空へと飛び立った。

 

 

「くっそー!ブウめ、僕を殺しやがって……! でもどういうわけか生き返ったし、一度封印して僕が上だって思い知らせてや「お前例の魔導士だね? 死にな」

 

 途中で見覚えのあるチビを見つけたからついでに殺しておいた。ふう、会う奴会う奴雑魚ばっかりだね。久しぶりの戦闘だっていうのに気晴らしにもなりゃしない。これなら家族で買い物してた方がよっぽど楽しいよ。

 

 …………ナメック星に行ったクリリンと神殿に預けてきたマーロンは元気かな。

 

 

 

 

 

 

【ドクターゲロ、ついでに人造人間13号、14号、15号、さらについでにブウにいつの間にか殺されていたバビディ。あの世へ帰還&起動前に昇天】

 

 

 

 

 

 

 

 

___________地上、某森。

 

 

 

 

 

「キキィー!」

「キィ、キイ!!」

「キキキィー!!」

「キ、キキキ、キキィ!」

 

「なんだコイツ等は!」

「サイヤ人たちのサイバイマンじゃねぇか? ちぃ、鬱陶しい!!

 

 いつかナメック星で見たフリーザの部下のピンクと青いのがナッピたちに翻弄される。ナッピたちも強くなったけど、あの2人には4人がかりでも苦戦しているようだ。

 僕は慎重に戦況を読み、ピンクのと青いのが直線状に並んだところで一気に狙いを定めた。

 

 

 

「どどん波!!」

 

 

 

「なぁ!?」

「ぐはっ!!」

 

 やった! 2人同時にやっつけられた!

 

 暴れられると森に被害が出そうだったから、サイバイマンたちに囮を頼んで一気に決着をつけたんだ。上手くいって良かった!

 でもまだまだ敵はたくさんいる。天さんが居ない今、僕は僕で頑張らないと……!

 

「さあ、次に行くよ! 僕についてきて!」

 

「「「「キキィー♪」」」」

 

 

 

【ザーボン、ドドリア。あの世に帰還】

 

 超能力の巨匠と緑の妖精伝説の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________地上、某所。

 

 

 

 

 

「お前たち……」

「隊長、お元気そうで何よりです。ジースも久しぶりだな」

「あ、ああ。元気だったか?」

 

 俺の問いかけにバータは苦笑する。

 

「死んでたのに元気も何もあるかよ」

「そ、そうだな。すまん」

「それにしても、お前カエルからもとに戻れたのか。よかったな!」

「グルド……」

「グルド、あの時はすまなかった。せっかくお前が機転を利かし、ジースが体を譲ってくれたのに結局俺は勝てなかった……」

「よしてくださいよ隊長! あんたは精一杯やってくれました。今でも隊長は俺たちの誇りなんですからしゃきっとしてください。らしくないですよ!」

「そうっすよ! ジースちゃんもせっかくの再会なんだし、辛気臭い顔は無しよー! ほら笑えって。ニカッ」

「ははっ、リクーム……お前も相変わらずみたいだな」

 

 

 かつての特戦隊の仲間たちと再会した俺たちは、戦うでもなく本当に昔のようにただ話をした。どちらも話すことはたわいのない事ばかりで、現状について深くは語らなかった。

 俺も隊長も色々な話をした。カエルになったこと、地球でそのまま生活したこと、新たに出来た仲間のこと、元の姿に戻るための旅の事。3人はそれを楽しそうに聞いている。

 

 やがてどちらともなく会話が途切れた。

 

 

「…………さーて、そろそろお別れしますかね」

「何? いや、しかし……!」

「言わなくても分かりますよ。俺たちゃ、この世にいちゃいけねぇんでしょ? 伊達に死んでたわけじゃ無い。なんとなくわかります」

「隊長たちに会わなかったら憂さ晴らしにひと暴れしてたかもしれませんけどね! でも、隊長達の第二の故郷でそんなこと出来ませんや」

「出来ればチョコレートパフェくらい食べてから帰りたいけど……そうも言ってられないみたいね。下の奴らは任せてくれませんか? 置き土産にあいつらは俺たちが片付けてきますよ!」

 

 そう言ってリクームが地上で暴れる亡者たちを指差す。待ってくれ、そんな……せっかく会えたのに、こんな別れでいいのか!?

 

「その代り、隊長達が死んで地獄に来たら地上での土産話をもっと聞かせてくださいよ!」

 

 言うなり、3人は止める間もなく亡者の群れにつっこんでいった。俺は感情を言葉に出来ず、すがるように隣にいたギニュー隊長を見上げた。

 

「ジース……3人の意志を無駄にしないため、俺たちも戦うぞ」

「…………ッ! はい!」

 

 

 それ以上言葉はいらなかった。

 クソッ、あいつらカッコつけやがって……。せめてウルトラファイティングポーズくらいとってからいけよ。

 

 俺たちが地獄に行ったら、次こそポーズを決めるからな!!

 

 

 

 

 

 

 

【バータ、グルド、リクーム。奮戦の後、自らあの世に帰還】

 

 

 

 

 

 

 こうして、世界の各地で様々な戦闘が行われていた。

 

 そんな中、一人の男が世界の平和へと手をかけようとしていた。

 

 

 

 

「さあさあ、美味しい食事の出来上がりですよ! めしあがれ!」

「いやいや、お疲れでしょ! ごくろうさまでした~」

「はは! そいつ、ブウさんに助けてもらって喜んでるんですよ! 気に入られたんですね」

「え? え、ええ! 好きですよ! そのワンちゃんと一緒で私めもブウさんが好きですよ!」

「え、楽しいから殺すんですか!? だ、駄目ですよ。それを言ったのブウさんが嫌いな奴なんでしょ? そんな奴のいうこと聞いちゃいけませんって! 殺したり、壊したりしちゃ駄目ですよ……やっぱし……」

「え! も、もう殺さないの? どこも壊さない……? や、やったー! ありがとうブウさん! あなた最高だ!」

「ゆ、許さん。許さんぞあいつら……! わんちゃんを撃ちよって……!」

「や、やったー! 凄いですよブウさん! こいつ治りましたよ! ブウさんのおかげです! ……ぐふっ!? う、撃たれ……た……」

「う、うおおおお! 信じられん! た、助かったサンキュー! あなた命の恩人だ! あ、あれ? ブウさん? ブウさんどうしたんです? どこか苦しいんですか?」

 

 

 最初こそ男は爆弾や毒など姑息な作戦を立てていた。だがそのことごとくが失敗し、そのまま魔人ブウの世話をして過ごす時間が始まったのだ。そうしているうちに知らず絆が育まれ、世界は平和を手に入れる一歩手前まで行きかけた。だが馬鹿な人間2人のせいで、それは最悪の形で水泡と帰す。

 

 

 

 

 この日、魔人ブウは2体に分かたれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




存在を出すだけなら劇場版ミックスじゃないと言い張ってみる。
そして地獄は今まである程度の範囲では宇宙共有だと思ってたので、本作では地球外で死んだボージャック一味やザーボンさん、ドドリアさんも現れました。


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VSジャネンバ!そして二人のセル

 初めて行く地獄というところは、思ったよりカラフルな場所だった。まあ本来はこのような姿ではないのだろうな……上の閻魔殿と同じく、あのジャネンバジャネンバと鳴くデブの影響だろう。

 

 

 界王のもとであの世に起きた異常を知った私とベジータ、ラディッツはすぐに蛇の道を超えて閻魔殿へと向かった。そしてたどり着いてみると閻魔殿を含めた周囲が、まるでカラフルな飴玉のような結界に包まれて点在していたのだ。

 すぐに結界の破壊に取り掛かったが、忌々しいことにその結界は私達のパワーをもってしてもびくともしなかった。なんて強度だ……!

 やはり原因を絶たねばならぬかと閻魔の声に従い閻魔殿の上に昇れば、そこにはなんとも間抜けな見かけをした図体のでかい化け物が居た。まるで風船で出来た玩具だな。

 

 が、その強さは馬鹿に出来ない。

 

 あの中では戦いにくいから広い場所でやろうと、亡者のほとんどいなくなった地獄まで奴をおびき出した。しかし、奴(鳴き声からジャネンバと呼ぼうか)は私とベジータを様々な方法で翻弄した。無機物を自分の姿に変身させてけしかけたり、飴玉のような結界を操って押しつぶそうとしてきたり、手のひらに私たちそっくりの分身を生み出してエネルギー波を相打ちさせたり、体の一部位だけワープさせてふいをついた攻撃をしてきたり……実に多彩だ。これがマジックショーなら拍手を贈っていたところだよ。

 

 ああ、ちなみにラディッツは上で閻魔殿の結界をなんとか壊すために頑張っている。

 どうやらあの結界、何故か悪口に弱いようだ。口の悪いベジータが悪態をついたところ砕け散ったからな。本来そのベジータこそ結界を壊す役割に適任なんだろうが、ベジータは「俺は戦う! そんなことはラディッツ貴様がやっておけ!」と言い残して私と一緒に来てしまった。

 それにしても、まったく素直でない男だ。戦いたいというのも本音だろうが、私たちとラディッツの間には明確な力の差がある。戦力的に配慮した、と考えるのは私の買いかぶりかな?

 

 

 

 

 

「うっひゃ~! そいつがあの世をおかしくしちまってるやつか!」

「な、カカロット!?」

「よっ」

 

 私たちが戦っていると、瞬間移動を使ったのだろう。孫悟空が突然現れた。

 

「……どうやら貴様は死んでいないようだな。今まで何処に居やがった」

「ああ! 死んでねぇ。今まで悟飯と一緒に界王神界ってとこに居たんだ」

「悟飯はどうした?」

「あいつは今、老界王神様って人に潜在能力以上の力を引き出す儀式っちゅーもんをやってもらってんだ。それよりベジータ、地上がやべぇぞ」

「どういうことかな? わざわざ言うということは、亡者が生き返っている事では無さそうだが」

「お、セルか! 久しぶりだな!」

「久しぶりというほど久しぶりというわけでもないがね。おっと、……ところで、悠長に話している余裕はないんだ。手短に話したまえ」

 

 私がジャネンバの攻撃を避けながら言うと、孫悟空は真剣な表情になってこう言った。

 

「魔人ブウなんだが……あいつ、とんでもねぇことになっちまった。何があったか詳しい事はオラも知らねぇ。けど、あいつ純粋な悪の心を持ったブウに生まれ変わっちまったんだ。見た目も変わったが強さも多分より増してる」

「なんだと!?」

「……まったく、次から次へと忙しないことだ」

 

 軽口を叩くが、内心は苦いものを嚙み潰したようだ。これでは生き残ったタピオンとミノシアが無事かどうかもわからんな。

 

 

 

 しかし地上がどうなっていようと、まずはあの世を正常に戻さねば話が始まらない。

 

 そこからは孫悟空も加わってジャネンバ討伐にあたったが、奴はスーパーサイヤ人3になった孫悟空ですら簡単にあしらってしまった。フッ、あれには私も苦労したんだがね……こうも簡単にやられている所を見ると、胸がすくどころか心に苦い物しか残らんよ。

 そして最悪なことに、ジャネンバは更なる変身を遂げてしまった。私が言えた事ではないが、どいつもこいつも変身しすぎじゃないか?

 

 体こそ小さくなったものの、その強さと性格の残忍さはデブの時より厄介なものだった。しかも攻撃もより殺傷能力が増している。

 

 針のような無数のエネルギー波を飛ばしてきた奴に対して、不本意だが私のバリアーでベジータ、孫悟空もろとも包んで攻撃を防いだ。しかしいくつかはバリアーをすり抜けて来て、私たちの体に裂傷を刻む。……これではらちがあかないな。

 そんな時だ。孫悟空がベジータに対して「フュージョン」なるものを提案してきた。最初こそ間抜けなポーズに渋ったベジータだったが、結局受け入れた。……まあ、そこからがまた笑いものだったわけだが。

 ゴジータといったかな? フュージョンが失敗し、デブの雑魚に成り下がった彼らを見て私は思わず指をさして笑ってしまったよ! ……だが、逆に予想のつかない動きをする失敗ゴジータはうまくジャネンバを翻弄しているな。私は私で、今のうちに作戦を考えるとするか。

 

 

 

 

 そんな時だった。

 

 

 

「やあ、久しぶりだなプロトセル」

「! …………ククッ、本当に次から次へと。今度は私のお出ましか。だが、そのプロトセルという呼び名は不愉快だ。やめていただこう未来セル」

 

 背後に突然大きな気が現れたと思えば、そいつは私と同じ声で喋った。

 忌々しい……忘れもしない、かつて私を手のひらで転がしたもう一人の私だ。もしや地上に蘇っているのではないかと想像していたが、まさかこちらに来るとはな。

 

 しかし、私に焦りはない。

 

「で、用件は何かな? もう一度私を吸収しようとでも言うのかね」

 

 聞かずとも大方そんな所だろう。だが、私はあの時の私とは違うのだ。宇宙を旅して強敵との戦いを繰り返し、ヒルデガーンに挑み続けた私はかつてと比べるべくもないほどパワーアップしている。今まで死んでいたこいつに負けるはずがない。

 

 だが私の予想は思わぬ形で裏切られた。

 

「いや、逆だ。私を吸収しろプロトセル」

「何だと?」

 

 未来セルの言葉に私は思わず眉根を寄せた。相手が自分なだけに、そんなことを言うはずがないと疑心が湧く。……いったい何を企んでいる?

 しかし未来セルは私の疑惑の目をものともせず、軽く肩をすくめた。

 

「今の君と私では、私の方が弱い事くらいわかるさ。……大したものだ。私が吸収を繰り返し強くなったのに対して、君は純粋に修行のみでその域までたどり着いたのだからな」

「見ていたのか?」

「ああ。地獄では肉体を持たない魂のみの状態だったが……やはり、私たちは同じ存在なのだろうな。知らず君の姿をあの世から追っていたようだ。仮の肉体を得た今、君の過ごした時間が記録として私に流れ込んできた。そして思ったのだよ。羨ましいと」

「羨ましい?」

「ああ。何に対してかと言えば、強さだけじゃない。君は色んな出会いを果たしたな。私は世界を一つ滅ぼしたが、結局過去に来るまで地球の中でしか過ごさなかった。それに対して君は宇宙に飛び出し、強敵と戦い、そして……友を得た」

「………………」

「それに私は嫉妬と憧憬を抱いたよ。私が何を目的にするでもなく暴れ、結果暇を持て余し、強敵を求め、未だ見ぬ強敵に勝つために過去の自分を吸収しようと姑息な真似をしていたのに対して、君はなんと全うで充足感に満ちた方法で強くなったのだと。私が知らず求めていた、私の理解者となるだろう相手まで手に入れて。贅沢者め、とね。思ったわけだ」

 

 未来セルはもったいぶった喋り方でそう言うと、私に似つかわしくないどこか寂し気な表情で笑った。

 

「しかし、ならば何故私に貴様を吸収しろなどと言うのだね? 私を吸収し、私になり替わろうとは思わないのか」

「それは無駄な行為だよ。私は君で君は私だが、正確には違う。君は君でしかない……私が憧れた君の人生は、セル。君にしか歩めないのだ」

「殊勝なことだ。ならば何かね? その憧れの人生に、自分も参加させてほしいとでも言うつもりか」

「クククッ、鋭いな。正解だが、当たって嬉しいか?」

「…………微妙だな。かつて私をはめた貴様がそんな情けない事を言うとは。こんな奴に吸収されたのかと思うと自分が恥ずかしい」

「手厳しいな。だが、どうか自分のよしみで頼まれてくれないか。私が私でなくなってもいい。ずっと埋まらなかった心が満たされるなら……どんな屈辱でも受け入れよう。私の全てを差し出そう。どうか君の中で生きさせてはくれないだろうか」

 

 断ると、そう言うつもりだった。

 だが私の口は思うように開かない。なんだ、この苛立ちと言い表せない靄のかかったような感情は!!

 

 

『ぐわああ!?』

「!」

 

 口を開けないでいると、近くに失敗ゴジータが吹っ飛んできた。

 

「どちらにしろ断るなんて出来ないだろう? ピンチのようだからな」

「……それとこれとは」

「合理的に考えたら私を吸収するしかないだろう。感情に任せて断るなんて、私だったらそんな馬鹿な真似はしない」

 

 クッ! こいつめ。私なだけあって挑発が上手いじゃあないか。

 

「……チッ、いいだろう。せいぜい私の中で、私の栄華に満ちた活躍を指をくわえて見ているがいい」

「決まりだな。なら、尻尾でなくナメック星人の遺伝子を意識しろ。吸収と言ったが正確には”同化”するんだ」

「何?」

「吸収では、以前18号を吐き出させられた時のように分離する可能性が捨てきれんだろう? ならば完全に同化するまで。もちろん意識は全て君の物だ」

 

 未来セルの言葉にしばし考えるが、すぐそばにジャネンバの攻撃が迫り時間が無い事を再認識する。ジャネンバめ、意味不明の動きをするゴジータよりも先にこちらをターゲットにするつもりだな。

 私は瓦礫に埋もれていたゴジータを引っ張り出してジャネンバに投げつけて時間をかせぐと、未来セルに向き直った。

 

「本当に意識は私にゆだねるのだな? 約束できなければ……」

 

 言いかけた時、頭上から何かが砕ける音が聞こえた。

 

「! 閻魔殿の結界が砕けた! 早くしろ、地獄の秩序が元に戻るぞ! そうすれば私は再び魂のみの存在に戻ってしまう!」

「クッ、しかたがない! 来い、未来セルよ!」

「今さらだが私のことはアルティメットセルゴッドと呼んでほしかったんだがね! さあ、受け取れ!!」

 

 未来セルの体に手を当て、体に存在するナメック星人の遺伝子の感覚を探り当てる。そして同化なるものを意識すると、強大な力が私の中に流れ込んできた。これが、私を吸収した私……究極体セルの力か!!

 

 

 そして丁度、私の同化がすんだところでゴジータの融合が解けた。

 

 

「な、セルおめぇ……!」

「貴様、その力はどうした!?」

 

 

 フフフ……これは心地よいな。孫悟空とベジータが驚く顔が非常に愉快だ。

 

 私は二人の間を通りぬけ、いつの間にか剣を手にしていたジャネンバの前に立ちこう言った。

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。私は究極神セル……貴様を倒す者だ」

 

 

 

 

 

 

 



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牛蒡と大根

「も、もっと低脂肪を心がけろ、わき腹デブが!! 服で誤魔化そうとするな!」

 

 

 ベジータに結界を砕く役を押し付けられた俺は、知りうる限りのあらゆる暴言を尽くして結界にヒビを入れる作業を続けていた。が、それもついに思いつかなくなり、やむをえず妻に向けた小言シリーズに移行した。

 あいつも昔に比べて大分菓子類の暴食は減った方だが、それでも多い。エシャロットなど特に母親に似て甘いものが好きだからな……前にあの子が空梨の隠し菓子を見つけて山のように食べていたのを見つけて叱ったら「お母さんはいっぱい食べてるのになんでわたしは駄目なの!? お父さんの馬鹿! エシャももっと食べるの! わああああーーん!! ばーかーーーーー!!!! お父さんなんて嫌いぃぃぃぃ!!」と泣かれた。俺が泣きたかった。「ぼ、僕はお父さんの事好きだからね。エシャロットはあとでしかっておくから」と言ってくれた龍成が救いだった。

 くッ、やはり子供の教育に悪い! 今度もっと厳しく叱らねば。

 最近季節限定の新作菓子が多くて嬉しいとか言って、また大量に買い込んで隠れて食っていたからな……。わき腹のラインが怪しいことに気づいていないとでも思ったか。ほぼ毎夜見てる上に触ってる俺を誤魔化せると思うなよあの馬鹿。

 

「サイヤ人が糖尿病で死んだらお笑い草だぜ!! もっと健康に気を付けろ!!」

「おいおい、もう悪口じゃなくなってるぞ」

 

 薄々気づいていたことを指摘されぐっと言葉に詰まったが、ふと誰だと思い至り後ろを振り返った。

 

「! カカロット、貴様どうし………ッ!?」

 

 言いかけて、違うと気づく。

 

 容姿こそカカロットそっくりだ。しかしサイヤ人のプロテクターを装着し、赤い布を額に巻いた男の眼光は普段お気楽なカカロットなどより数倍鋭い。そして頬にある傷を見て、乾く喉から必死に言葉を紡ぎ出した。

 

 

「親……父…………?」

 

 

 俺の親父……バーダックと思われる相手はそれに答えず、どこかばつが悪そうに頬をかいた。うっすらと残る記憶の中ではついぞ見たことが無かった仕草に本当に親父なのかと当惑するが、俺が何か言う前にその男は俺の隣へ来ると結界に向けてこう言った。

 

 

「フリーザのゲス野郎!!」

 

 

 叩き付けるように言われた罵声に結界が大きく砕け散った。張りのある声に思わず俺ものけぞってしまう。それに対して親父は……バーダックはからかうように笑った。

 

「今はお前の方が強いくせに、俺の声にビビってどうすんだ」

「あ、いや……」

 

 しどろもどろになって、思うように言葉が出てこない。それがとても歯がゆかった。

 

 

「元気だったか」

「あ、ああ」

「嫁さんが出来たのか」

「ああ。子供もいる」

「何? そうか……何人だ? 名前は?」

「3人だ。長男が空龍、下が双子で長女がエシャロット。次男が龍成……」

「ほう、長女以外は珍しい名前だな。それにサイヤ人の平均から比べると多い方だぞ。……嫁とは仲が良いみたいだな」

「ま、まあそれなりに」

「どんな女だ?」

「自己中で我儘で、子供っぽい。けどまあ、優しい時は優しいし……何より強い女だと思う。図太いと言った方がしっくりくる気もするが」

「そうか」

 

 ぽつりぽつりと、聞かれたことに答える。新しく出来た家族の事、カカロットの事、地球での生活の事。……俺からも何か聞きたいし言いたいのに、それが上手く言葉に出来ない。

 

 話す合間も俺と親父は結界に向けて悪口を言い続けていたから、結界はどんどん砕けていく。そしてついにゴールが近づいたのか、閻魔の野郎が「あと少しだぞ! 頑張れ!」と言ってきた。

 壁が砕け散るまでがタイムリミットだと唐突に気づいた俺は急に焦り出すが、それでもなお親父になんて言葉を投げかければいいのか分からない。クソッ、いい年こいてなんて様だ! まともに喋ることすら出来んのか俺は!

 何を言うかも決まらぬままに口を開くが、そんな俺の体を乱暴に反転させて結界に向き直らせた親父はこう言った。

 

「もう十分だ。だからお前はあとは前だけ向いていろ」

「お、親父! 俺は!」

「はっ、ったく……地獄もたまには粋な計らいをするもんだぜ。それともこれも責め苦の一つか? 俺なんか居なくても、息子は立派に育ったぞって見せつけるつもりか。違いねぇ」

 

 それを聞いて親父はこれが地獄が見せる幻だと勘違いしているのだと知る。違う、違うんだ親父。親父は今、実際俺の隣に居るんだ!!

 

「自分と同じような歳になった息子に会うとは変な気分だ。だがお前は俺と違って、いい親父をやっているようだな。……親はなくとも子は育つとはよく言ったもんだぜ。ハッ、……戦闘力が低いクズだとずいぶんぞんざいに扱ってたってのによ、そいつが今や俺より強ェとはお笑いだ。だってのに罵られるどころか、お前はガキの時みてぇに素直に話しやがる。都合のいい夢なのか、それとも俺をみじめにするための悪夢なのか……」

 

 親父はそう言って言葉を切ると、俺の肩に手を置いた。ごつごつとして大きく広い、親父の手だ。遠い昔、幼い俺がどうしても褒めてもらいたかった……頭を撫でてもらいたかった親父の手。

 俺は振り向けばすぐに親父の顔が見れるにも関わらず、まるで金縛りにあったかのように首を動かせない。

 

 

 

「…………でかい背中になったなラディッツ。立派なもんだ」

「…………俺は、あんたの背中に憧れてた」

「ククッ、そうかよ。やっぱり都合のいい夢だぜ。こんなろくでもねぇ親父には皮肉ってもんだがな……まあ、悪い気はしねぇ」

「…………」

「さて、それより仕上げだ。よく分からんが、これを壊せばいいんだろ?」

「ああ」

 

 あとは余計な言葉などいらなかった。

 俺と親父はそれぞれ手にエネルギーを溜めると、それを同時に放つ。

 

 

 

 

「「砕け散れ! この馬鹿結界!!」」

 

 

 

 

 エネルギー波は結界を貫き、俺たちが掘り砕いた穴を中心に大きな亀裂が走る。亀裂はやがて結界全体に広がり、ついに結界は大きな音を立てて砕け散った。

 

 まるで夢の残照のようにキラキラと光りながら散る結界の中、振り返ればそこにもう親父は居なかった。まるで幻だったかのように……しかし、俺に肩に残るぬくもりがそれを否定する。

 

 

 

 

「いずれ俺が本当に死んだら、たっぷり土産話を持って地獄に落ちてやるさ。だから親父、それまで退屈だろうが待ってろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、俺は感傷に浸る暇も与えてもらえんらしい。

 

 

「うわああああああ!?」

「カカロット!?」

 

 何故かカカロットが下の方から何かに弾かれたように上に飛んでいった。も、もう見えなくなりやがった……! 何であいつがここに居たんだ?

 

『心配するな! 今のは地獄の秩序が戻った反動だ。悟空の奴は生きてるからな、弾かれたんだろう』

 

 閻魔殿から閻魔の声が響きそう言うが、そもそも何故カカロットがここに居たのかが分からないんだが……。あと、今まで何処に居たんだ? 界王が地上に話しかけた時は神殿に居なかったようだが。

 しかし困惑する俺が平常心を取り戻す前に、今度は界王が俺に語り掛けてきた。

 

 

 そしてとんでもない事を言いやがった!!

 

 

 

 

 

『お~い、ラディッツよ。大変じゃ~! お前の嫁さんが魔人ブウに吸収されてしまったぞ~!』 

 

 

 

 

 

 

 

 



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空梨吸収!新たなる魔人ブウの恐怖

途中にある主人公のスイーツ語りは飛ばしてもらって全く問題ありません。


 死人が蘇るなんていうとんでもねぇことになっちまった世界を何とかするために、みんなが飛んで行ってからしばらくが経った。

 

 悟空さも悟飯ちゃんも何処に居るだかわからねぇ今、不安だどもオラがしっかりせねばなんねぇ……でなければ、ラディッツが死んで落ち込んでいたのに気丈に振る舞い戦いに向かった空姉さまに申し訳ねぇだ。隣に居るブルマさんもベジータが死んだと聞いて悲しいだろうに、しゃんと背筋を伸ばして立っている。

 不安そうに足元にまとわりついてくるエシャロットと龍成に「安心しろ。おめぇらの母ちゃんと兄ちゃんは強いだ。それはエシャロットと龍成が一番知ってるだろ?」と言って笑顔を向ける。マーロンちゃんの方は武天老師様とウーロンがあやしているようだから安心だな。

 ……悟天ちゃん、トランクスも今は強くなろうと頑張ってる。だから大人のオラたちはなおのこと気を強くもってねぇとなんねぇ。子供は大人がしっかりしてれば安心するもんだ。ここでぐらついてはいけねぇだよ。

 

 みんなが帰って来た時のために握り飯でも作ろうかとつぶやいたら、ビーデルさんが手伝うと申し出てくれた。この娘も何か出来る事をしたいんだろうなぁ……初めは悟飯ちゃんを誘惑する破廉恥な娘だと思ったもんだが、いい娘っ子だ。気が早いかもしんねぇが、この子になら悟飯ちゃんを任せられるかもな。孫が楽しみだ。

 

 そしていざという時のためにパオズ山から持ってきておいた米で大量の握り飯を作り終えたころ、一番先に戻って来たのは空姉さまだった。地上の方はいったんピッコロと空龍に任せて、こちらに異常が無いか様子を見に戻って来てくれたらしい。

 

 みんな無事だと知ってほっとした表情を見せた空姉さまだったが、そんな時だ。地上の様子を見ていた神様が悲鳴を上げた。

 

 

「ま、まさか、そんな……!」

「ちょっとデンデ、どうしたっての?」

 

 ブルマさんが効くと、神様は震える声でこう言っただ。

 

「魔人ブウが……魔人ブウが、新しい姿に変化してしまいました。もう前のような無邪気さはありません。完全な、純粋な悪です」

「な!?」

「ど、どういうことだよ!? あれがもっとやばくなったってのか!?」

「ええ。体もより戦闘向きになっています。な、何故あの人たちはあのようなことを……! 彼らが居なければ、ブウは改心する寸前だったのに……」

 

 場が混乱する中、ばったんと大きな音がして何事かと振り返れば空姉さまが地面に突っ伏してぴくぴくと震えていた。くぐもった声で「ちょ、何で忘れてたし。馬鹿? 馬鹿なの? 馬鹿でしたね! ごめんなさいね! ほんっとごめんなさいね!!」という声が聞こえてくるが……あまりのショックにおかしくなっちまっただか!? そうだな、空姉さまは病み上がりだったのにこんな働いて……疲れねぇ方がおかしいだよ。

 

「空姉さま、ちょっと休んではどうだ? ほら、握り飯でも食って」

「優しさがツライ」

 

 何故か逆に泣かれてしまった。うん、やっぱり情緒不安定でおかしいだな。双子もおっ母が心配なのか、駆け寄ってきて覗き込んでいる。

 

「お母さん、大丈夫?」

「ほら、チチさんのおにぎり美味しいよ!」

「ぼぐぁ!? ぐっ、ありがとう。わかった。わかったから無理やり口に押し込まないでねエシャロット」

 

 そう言いつつも器用に握り飯を完食したので、少し安心する。ほっ、食う元気はあるみてぇだな。

 

 しかしそれに和んでる暇もなく、再び神様が悲鳴を上げた。

 

 

「み、みなさん逃げて! 魔人ブウがこちらに……この神殿に来ます!!」

「嘘だろ!?」

 

 誰ともなく悲鳴が上がる中、しかし逃げる暇もなくそいつは突然現れた。下界から凄まじい勢いで飛んできたピンク色の魔人……魔導士とかいう奴が見せた映像と違ってずいぶん痩せたし悪そうな顔になってるが、おそらくこいつが魔人ブウなのだろう。こ、こいつがオラの悟空さと悟飯ちゃんを痛めつけただな!? 許せねぇ……!

 けどそうして怒りは湧くものの、オラを含めた皆が驚いた顔のまま動けずに固まっている。

 

 魔人ブウは値踏みするように広場のみんなを見渡すと、空姉さまを見つけてニヤリと笑った。

 

 

「この中じゃお前、いちばんつよいな。他にもいっぱいいたが、お前がいちばんちかくにいた。お前がさいしょだ。オレとたたかえ」

「おおおおおい!! 待て待て待て!! 死者含めていっぱい居るのに何で来たかと思ったらそれかよ! 近かっただけかよ! 通うのに一番近かったからみたいな理由で学校選ぶ学生かよもっと志を高く持てよ魔人だろ!!」

「く、空梨。それなんだが、今ちょうど地上の様子がもとに戻った。亡者たち、あの世に帰った」

「タイミングいいの悪いの!? ねえこれどっち!?」

 

 空姉さまはミスターポポの肩をつかんで揺さぶるが、無視された魔人ブウが奇声とも怒声とも分からない大声をあげて空気を震わせた。

 

 

「オレ、待つのキライだ! はやくオレと戦え!」

「ああ、うるさいなぁもう!」

「お、おい魔人ブウ! そのさ、こいつと戦って、あと他の奴とも戦ったらさ……その後お前、どうする気なんだ?」

 

 やけになりかけた空姉さまを見かねてか、足を震わせながらもウーロンが魔人ブウに話しかけた。多分地上がもとに戻ったってことは散らばっていたみんなが帰ってくるという事だ……それまで会話で時間稼ぎが出来ればと考えたんだろう。臆病者かと思っていたのに、ちょっと見直しただよ。

 

「その後? う~ん……みんな殺して、あとお菓子食う」

「だ、だったらさ。戦うより先にそっちを終わらせてもいいんじゃないかな~って……」

『ちょっとウーロン! それじゃ地上のみんなが殺されちゃうじゃない! パパやママも居るのよ!?』

『しょ、しょうがないだろ!? みんなには悪いけど、あとでドラゴンボールで生き返れる! でもここに居るチビ共や空梨が死んじゃったらスーパーサイヤ人ゴッドっていうの作れなくなるだろ!? そしたらブウを倒せる奴が居なくなっちゃうじゃんか!』

 

 小声でブルマさんとウーロンが言い争うが、魔人ブウはそんなことを気にも留めないようでニヤリと笑うと神殿の淵へと歩いて行った。そして神殿を一周してくると、おもむろに手のひらを天へとむけた。

 

 が、そこで空姉さまが待ったをかける。

 

「はいちょっと待った!」

「なんだ? 戦う気になったか」

「それはひとまず置いておこうね。それよりお前、今地上の人間皆殺しにしようとした?」

「それがどうした」

「はい馬鹿ー! お前馬鹿決定ー!」

「何!? オレを馬鹿にしたな! おこったぞ!」

「ところで君、お菓子は好きかな?」

「な、うん? もちろんだ」

「そのお菓子はどうやって手に入れるの?」

「魔法でなんとでもなる。別ににんげんじゃなくてもいいから、だからにんげん殺すなと言っても無駄だぞ」

「はっはっは、やれやれ。これだから坊やは」

 

 煙に巻くような話し方で魔人ブウを怒らせたかと思えば興味を引く質問でそれをごまかしたり、かと思えば再度煽るように額を片手で押さえて大仰な仕草で首を振る空姉さま。みんなそれをハラハラと見守っているが、唐突に脳内に空姉さまの声が響いた。

 

『みんな、今のうちにとりあえず逃げて! そしたら私一人ならなんとでもなるから。っていうか逃げて餃子師範と合流したら迎えに来てくれると嬉しいかなって! とりあえず今のままじゃ皆殺し必至だから! 悟天ちゃんとトランクスは精神の時の部屋に居れば安全だし、もしもう出てきて隠れて見てるならみんな連れてとりあえず逃げろ!!』

 

 どうやらウーロンがしようとしていたように、会話で魔人ブウ相手に時間稼ぎをしてくれるらしい。く、悔しいだが……ここに居ては空姉さまの邪魔になってしまう。今は逃げることが、オラたちに出来る最善だ。

 

 

 そして空姉さまが会話のみで魔人ブウを引き付けている間に、オラたちはひそかに脱出することに成功した。途中で餃子が帰って来てくれたのが幸いしただ。まあ、魔人ブウにしてみればオラたちがいようが居まいが興味もなかったかもしれねぇが……。

 

 

 それにしても、空姉さまはいったいどんな会話で魔人ブウを引き付けてくれてただ?

 オラたちを安全な場所まで送った後、ちょうど帰って来たピッコロと空龍と共に餃子が神殿にテレポーテーションしていくのを見送りながらふと思う。き、気になるだな……。あんな気が短そうな相手に、よく会話を持たせただよ。

 

 ちなみに悟天ちゃんとトランクスだが、結局ぎりぎりまで精神と時の部屋からは出てこなかったようだ。心配でなんねぇが、ピッコロによれば下手な場所に居るよりよっぽど安全らしいのでとりあえず安心する。

 

 とにかく、どうか無事でいてほしいだ。

 

 

 オラは預かった子供たちを抱き寄せると、天を見上げながら強く願った。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちはみんなが脱出するのを見送ると、魔人ブウと空梨おばさんに視線を戻した。

 

 実は俺と悟天はとっくに精神と時の部屋から出てきていたんだけど、空梨おばさんに逃げろと言われたのに納得出来なくてそのまま隠れて神殿に残っていた。だって、せっかくフュージョンを完璧に身に着けた上にすっげぇパワーアップまでしたんだぜ!? 見た目がすごく変わっちゃったけど、っていうか怖くなってるけど、魔人ブウが目の前に居るのに戦わないまま逃げられるかよ!

 

「それにしても空梨おばさん、魔人ブウと何話してるんだ?」

「ねえねえトランクスくん、もうちょっと近づいてみない?」

「お? お、おう」

 

 悟天……こいつ、泣き虫のくせにこういうところ度胸あるよな。ビビってると思われたくなくて余裕そうに頷いたけど、実はちょっと怖い。だってあいつ顔怖いしさ……いや、ビビってない !ビビってなんかいないぞ! だって俺サイヤ人の王子だし!

 とりあえず悟天と一緒にこそこそと近づいていくと、やっと何を話しているか聞き取れるようになってきた。

 

 息を殺して、耳をそばだてる。

 

 

 

 

「ところで、君がいつも食べてるお菓子ってどんなの?」

「……チョコレートとか、クッキーとか飴とかだ。ほかにもいろいろ作れるけどな」

「ふーん。今ある? これあげるから交換してよ」

 

 そう言っておばさんはどこに隠していたのか手のひらサイズの緑色の箱を魔人ブウに差し出した。

 そうか……おばさんはタケノコ派か。

 

「なんだこれ?」

「チョコレートとクッキーをあわせたお菓子。いる? いらない?」

「チョコレートか! なら食う」

「じゃあ君も何かちょうだい」

「嫌だ」

「じゃあこれあげない」

「嫌だ。よこせ。殺すぞ」

「はっは~ん、自分が食べてるお菓子の味に自信が無いんだ? だから私には食べさせられないんだーなんだそっかーごめーんマジごめーんプライド傷つけちゃったかなー?」

「なんだと!? チッ、まて。たしかここに……あった! ほら、食え。オレのチョコレートのがうまい」

 

 …………おばさんって、なんか色々と凄いよな。魔人ブウを正面からあれだけ煽ってまだ戦いになってないんだもん。いや、お菓子のためとはいえ耐えたブウが凄いのか? 俺、今の聞いてるだけだったけどあんなふうに正面から言われたら結構イライラすると思う。なんてゆーか、絶妙に相手をイラつかせる声のトーンと表情なんだよな。すっげー馬鹿にした顔してたもん。

 それにしても魔人ブウ、お前今どこからチョコレート出した。見間違えでなければ直にズボンの中……いや、考えるのはやめよう。そしておばさんも食うのかよ!? そ、それもしかして人間が原料なんじゃ……!

 けど驚く俺と悟天をよそに、おばさんはチョコレートを食べてからハッと笑った。

 

「単純な味だな」

「!? な、なんだと……!」

 

 魔人ブウは魔人ブウで、タケ〇コの里を食べて衝撃を受けたように手の内のそれを凝視する。

 

「悪くはないけど、飽きる味だね。これをずっと食べ続けるしかないなんて同情するよ。これには、あれでしょ? 具入りとかリキュールやフレーバーで味を変えたタイプとか無いんでしょ? 季節限定とかも無くて、ただただ同じ味を量で誤魔化して食べ続けるしかないとかマジ可哀想だわ。あー、可哀想可哀想。せっかくこの星には未知のお菓子があふれてるっていうのに!」

「馬鹿にするな! い、イチゴ味とかだって出来る!」

「なら貴様、ワサビや柚子や七味唐辛子がチョコレートと出会った味を知っているか。塩辛い菓子である柿の種子とチョコレートが運命の出会いを果たした味を知ってるっていうのかよ!」

「な、なんだそれは!?」

「はん! 無知め! どうせ味も単純なやつしか知らないんだろ! イチゴ味はイチゴ味でもなぁ、種類でまた味も違ってくるんだよ! それも生のイチゴなんて食ってみろよ! 旬の、大粒の赤い奇跡の宝石をお前は魔法で作れるのか!? 無理だね! あの奇跡の味を再現するとか無理だね! 数種類のイチゴがどっさり使われたフルーツパフェとか3000ゼニーとかするだけあってすっごい美味いんだぞ! イチゴだけじゃない! 組み合わせだけ考えてもどれだけの種類のスイーツが世界にあるのかお前は知るまい! 知っていたら皆殺しなんて馬鹿でもったいない真似しようとするはずがないもんなぁ! 世の中に極上の甘味を追求しようと日夜頑張ってるお菓子メーカーの人間やパティシエ、パティシエールがどれだけいると思ってるんだ! それを殺したらお前、ずっとあの単純な味しか食べられないんだぞ。いいか? 一種類……一種類の菓子の中でも、どれだけジャンルが分かれると思っている。数々のスイーツを食べてきた私でさえ、まだ世界中の甘味を食べつくしたと言えないってのに、甘いもの好きとして、スイーツ好きとしてお前はそれでいいのか!? 目先の欲に囚われて至極の味を知らないまま生きて何が楽しいんだよ!」

 

 

 あれ、なんか段々とおばさんヒートアップしてきたような……時間稼ぎっていうよりガチで語り始めたような……。

 

 

「ホテル・ミカドのフレンチトーストは食べたか? 超分厚い厚切りの食パンなのに、ちゃんと中までしみ込んだ甘い黄金の卵液! 両面カリッカリに焼いてあるけど中はもちもちで、程よい甘さと食感がたまらないんだぞ! あとラ・アムール・アンジュのミルフィーユは? 天使の羽を重ねたようだと評判の極薄のパイ生地と、それこそ天使のような純白の生クリーム……濃厚な40%前後の脂肪分の物とさっぱりした口どけの30%前後の2種類を交互に重ねた至高の一品だ! 挟まれたフルーツは幸せ者だね! フルーツと言えばフルーツタルトだけど、無限大引屋のバイヤーが厳選したフルーツで作られたフルーツタルトはお土産にされたらどんなに怒ってても許せちゃうくらいの極上品だし食べたことないだなんて人生損してるわマジで! ああ、シュークリームもいいなぁ……パティスリー・アリアンの奴がまた私の理想で、ザックザクだけど硬すぎない生地の間に挟まってるのが生クリームとカスタードの二種類なのがまた素晴らしいわけよ! どっちか片方だなんて物足りない、ダブルクリームこそ至高! カスタードにはもちろん香り高いバニラビーンズが使わてれるし、重いカスタードに対してふわっと軽い生クリームが涙出るくらい完璧な比率であの小さな丸の中に納まってるのよ! しかも生地の上にアーモンドダイスが散らしてあるのが最高! 和菓子だって負けてない! 和菓子食べたことあるか? 無いだろ! 無知が! スイーツの世界は洋菓子だけじゃないんだよ!! 世界中に甘味文化はあるんだ!! あ、それで和菓子な! 高級で上品なやつも美味しいけど、どーんあんこが乗ったあんみつのすばらしさったらないわ! バニラアイスとか杏とか寒天とか具を追加したりしてさ、縁の下の力持ち的なにくい蜜豆がまたいいわけよ!! カステラの丸ごと一本食いとかしたことある? まあ無いだろうけどな! 満足感半端ないぞ! カステラはザラメが表面にくっついてるっていうか茶色いところに一体化してるやつがおすすめな!! がりっとした極甘のザラメと卵感たっぷりのふわふわカステラの食感のコントラストは渋い緑茶片手に食べたいね! 栗羊羹の一本食いもいいけど! 普通の羊羹では味わえない、あの栗の入った贅沢感は未だに謎だけど秋になると食べたくなる。ああ、チョコレートが好きだっけ? だったらドルチェ・ドルチェのサラーメ・ディ・チョコラートがおすすめだわな! ナッツとかクッキーとかぎっしりだぞ!!ああ、チョコレートだけ味わえるケーキだったらガトーショコラ専門店ノワールのガトーショコラか。超濃厚で美味い!!チョコレート単体専門店だったらアレグロかレディ・イラミスか。宝石みたいなボンボンショコラのずらっと並ぶ様ったら見てて飽きないね!! まあ見てるだけじゃなくて全部食べるんだけど! 高いけどな! 一粒500ゼニーとかするんだぞ! けど庶民の味方、駄菓子だって正直パティスリーのお菓子に負けてない!! 口に馴染んだ分、下手な専門店よりよっぽど美味しいの多いし、今ならコンビニだって負けてない!!!久しぶりに食べたらクオリティー上がっててびっくりしたね! ああ、そういえば最近できたクッキー専門店美味しかったなぁ……田舎のおばあちゃんが作ってくれましたなコンセプトだけあって、ごつごつした不揃いなのがいいんだよね!! チョコチップ入ってたり、オートミール入りとか、ドライフルーツ入ってたりとか、ああでもバター味のシンプルな奴が一番おいしかったかな! あ、クッキーで思い出した。マカロンいいよねマカロン!! あのちょっと微妙な食感の生地と挟まれたバタークリーム超美味しい!! あ、バタークリームっていえばオランジュで食べたアフタヌーンティーセットのスコーン最高だったわ! バタークリームと、あと紅玉のジャムが添えてあったな。一緒に乗ってたクリームチーズとスモークサーモンのサンドウィッチがまだ美味しくて、紅茶もいい香りだったけど、あれダージリンだっけ? アールグレイだっけ? 店長の店の珈琲もいいけど、紅茶もいいよね紅茶。あ、紅茶味のジェラート美味しかったなそういえば……クククッ、それととろっとろのクリームブリュレに張られたキャラメルの薄い板をスプーンでぶち抜くときの快感を知ってるか? 知らないだろう! あ、そうそうそれと……」

 

「……………………」

「………………。はっ!? お、おい悟天起きろ!」

「ふぇ?」

 

 あれ、途中から何か呪文聞いてるみたいになって思わず寝かけてた……! 悟天も目をこすってる。お、おばさん……甘いもの好きだってのは知ってたけど、あれかなり重症だな。語る時の目がいっちゃってる。

 

「悟天、ああいうのなんて言うか知ってるか?」

「ううん」

「オタクって言うんだぜ」

「そうなんだ! トランクスくんは物知りだなぁ」

 

 単語を聞く限り美味しそうな物の話をしてるはずなのに、店の名前やら専門用語っぽいのが混じるせいで全然頭に入ってこない。声も段々でっかくなってるし……うん、おばさんの話は聞かないでおいて、様子だけ見守ることにしよう。

 

 魔人ブウはしばらくおばさんの語りを聞いていたが(よく聞いていられるなって思った)、突然ニヤッと笑うとこう言った。

 

「お前、色々おいしいお菓子をしってるみたいだな」

「馬鹿め、まだまだ序の口よ。とりあえず何が言いたいかって、スイーツ好きならこれだけ食べたことが無いお菓子があるのに世界滅ぼしてどうするんだって話であって……」

「いや、もんだいない。だって、お前を吸収すればお前の知ってるお菓子の味もちしきも全部オレのものだ」

「は?」

 

「な!」

「おばさん、あぶない!!」

 

 

 魔人ブウがおばさんの目の前で体を広げたと思ったら、そのピンク色の体が一瞬でおばさんを覆いつくした。止める間もない。

 

 

「! これはいったい!」

「お、お母さん!?」

「空梨!」

 

 タイミングがいいのか悪いのか、その時丁度ピッコロさんたちが戻って来た。

 

 でも、もう遅い。おばさんが……おばさんが!

 

「おばさんが、魔人ブウに食べられちゃったぁぁーーー!!」

 

 悟天の叫びがこだまする中、魔人ブウの様子が何やらおかしい。

 空梨おばさんを自分の体に取り込んだと思ったら、そのままうごうご気持ち悪くピンクの体がうごめいて……やがて、さっきとは違うシルエットを作った。

 なんだよ、何なんだよあれ!?

 

 

 

 

「ふぅぅっ、何か、いい気分だわぁ~。あら、どうしたのかしら? 私、何か変?」

「お、お前……魔人ブウか……?」

 

 恐る恐る聞いたピッコロさんに、そいつは笑顔で答えた。

 

「ええ、そうよ。あの子を吸収した影響でちょっと変わっちゃったけど……可愛いでしょ? あ、そうそう。あなたたちにとっていい知らせを教えてあげる」

 

 おばさんの三つ編みを思わせる触角に、膨らんだ胸。くびれた腰。大きくなった目……あれって、あれって魔人ブウの女の子バージョンなのか!? く、口調まで女っぽくなってるし……さっきより怖くないけど、なんでだろう。怖くないはずなのに、体の底から震えてくるこの感覚は。気持ち悪いとかそういうんじゃなくて、もっとこう、得体が知れないというか……!

 

 

 

 

「私、無暗な人殺しはやめるわ」

「なっ」

 

 ブウ(♀)の言葉にみんな驚くけど、すぐ後に続いた言葉にもう一回固まった。

 

 

 

 

「邪魔ものだけみ~んな殺して、あとは私の、私だけのために生きる家畜にしてあげる。素敵でしょう? 幸せでしょう? みんな私のためだけに生きて私のためだけに死ぬの! うふふっ! それで……」

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達は邪魔者でいいのよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















































感想欄でブウ子の容姿について触れていただいたので、作者のバランスとかおかしい残念クオリティーでも構わないぜ!という猛者、もしくは菩薩のような広い心で色々許せる方はイメージ絵をどうぞ。
【挿絵表示】

ちょっとデフォルメした感じですが、だいたいこんなのをイメージしながら書いてます。とりあえず性格は確実に悪い。


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悪夢の晩餐会

 今まで俺と空龍は地上で亡者どもを相手していたため詳しい事の経緯は分からんが、先に神殿に帰った空梨に続いて戻れば事態は凄まじい悪化を見せていた。

 デンデに簡単に聞いたところ、なんと魔人ブウは法螺吹き野郎ことミスターサタンのおかげで改心する寸前だったらしい。しかし馬鹿な人間どものせいでそれが無駄となり、それどころかあのデブの魔人ブウが厄介な純粋悪のブウに変化してしまったというのだから最悪だ。クッ、遠くに感じていた邪悪な気はこれだったか……蘇った亡者かと思えば、とんだ勘違いだぜ。

 しかもそいつが神殿にやってきて、その上神殿に居た者を逃がすために足止めを試みた空梨を吸収したってんだから笑えねぇ……丁度吸収する場面に出くわしたが、魔人ブウにはあんな能力まであるのか。とことん面倒くさくて最悪な野郎だ。

 

 真っ先に動いたのは、母親が目の前で吸収されて激昂した空龍だった。

 

「よせッ、やめろ!」

「よくもお母さんをぉぉぉぉ!!!!」

 

 泣きながらも凄まじい勢いで気を最高潮まで膨れ上げさせた空龍が、止める間もなく魔人ブウに突撃した。が、魔人ブウはそれをたった一言で止める。

 

「あら、私を攻撃していいの? お母さん、死んでないわよ」

「えッ」

 

 その言葉に急停止した空龍だったが、それに対して魔人ブウはおぞましい笑みを浮かべると空龍の腹を貫いた。野郎、やりやがった!!

 

「え……あ……?」

「空龍!」

「お前、よくも空龍を!!」

 

 何処に隠れていたのか、俺が動く前に悟天とトランクスが飛び出てきた。こいつら精神と時の部屋から出ていたのか!

 2人が攻撃すると魔人ブウは迎撃するでもなくすっと避けて簡単に引き下がる。その隙に俺は辛うじて虫の息の空龍を回収すると餃子に押し付けた。

 

「早くデンデのもとに連れていけ! まだ息がある!」

「う、うん! わかった!」

 

 餃子に空龍を任せると、チビ共2人に続いて俺も攻撃に加わった。だが魔人ブウは一向に攻撃してくる様子を見せず、ただただ薄気味悪い赤い目で俺たちの攻撃を見ながら避け続ける。こいつ、俺たちの動きを観察してやがる……!

 空梨の奴を吸収した魔人ブウは容姿だけでなく性格までもが豹変したようだ。女のような姿になったこともそうだが、恐ろしいのはその冷静さと……今まで無かったはずの残忍さだ。少なくともデブの魔人ブウには無邪気な恐ろしさはあったが、このような冷酷さは無かった。

 

「お上手お上手♪ チビちゃん達ったら凄いのね。いい動きをするわぁ」

「くっそぉ! 馬鹿にしやがって!!」

 

 踊るように攻撃を避けていた魔人ブウが一瞬の隙を見せると、ここぞとばかりにスーパーサイヤ人に変化したトランクスが拳を叩き込んだ。が、魔人ブウはそれを簡単に受け止めると人差し指でトランクスの額をはじく。

 

「いってぇぇぇぇ!?」

「あはははは! お馬鹿さん。わざと隙を作ったのも分からないの? か~わいい♪」

「こ、この野郎……!」

「トランクスくん、今のままじゃダメだ! フュージョンしよう!」

 

 悟天の言葉に思わず「馬鹿! 大きな声でっ」と突っ込む。前の奴ならともかく、今の魔人ブウに奥の手があるとバレたらまずい! わざわざポーズを取らせてくれる相手ではないぞ!

 しかし魔人ブウは俺の予想とは違い、首をかしげるとこう提案してきた。

 

「なぁに? 何か凄い技でもあるの~? わたし見てみたーい! ねえやってみせてよ」

「な、何?」

 

 …………嫌な予感もするが、これはチャンスだ。

 

「おい、お前たち。フュージョンはもう完璧になったのか?」

「うん、バッチリだよ!」

「それどころか、すっごいとっておきまであるもんね!」

「そうか……。なら、最初からそのとっておきで行け。あいつに時間を与えてはヤバい気がする」

 

 ……空梨が生きている、という発言は気になるが……今のままではこちらが全滅してしまう。あいつとしても息子を殺されかけたのだ。空梨には悪いが、ここは一気に魔人ブウを倒してしまわねばなるまい。それだけこの魔人ブウからは嫌な気配がするのだ。

 未だ何処に居るか分からん悟空や悟飯、亡者は消えたがあの世がどうなっているかも知るすべがない今ベジータたちの1日復帰もどうなるか……ともかく、サイヤ人どもを待っている余裕はない。

 

 俺たちは神殿の広場に降り立つと、距離を開けて再び対峙する。

 

「さっ、どうぞ。攻撃なんてしないから、安心してやってね」

「な、舐めやがって」

「耐えろ。逆に奴が油断している今がチャンスなんだ」

 

 だが奴の言葉を鵜吞みにするのも危険だ。万が一不意打ちをしてきた時のために、トランクスと悟天の前に立つ。情けないことに戦闘力じゃ役に立てんが……いざとなったら盾にくらいなってやるさ。

 

 

「いくぞ、悟天!」

「うん、トランクスくん!」

 

 2人はスーパーサイヤ人になり一気に気を高め、ある一定の場所で気の大きさを同調させた。す、素晴らしい。よくぞその気の大きさでぴたりと揃えられるようになったもんだ。見直したぞ、お前たち。

 

 

「「フュ~~~~ジョン!」」

 

『ハッ!!』

 

 

 その瞬間、2人を中心に光が爆発した。

 

 

『ぱんぱかぱ~ん! ゴテンクス様のお出ましだぜー!』

「きゃ~! 凄い凄い! かっくいー!」

『な、なんか思ってた反応と違う……。も、もっと驚けよな!』

 

 凄まじいパワーを発しながら融合し一人の戦士……ゴテンクスとなったチビ共だったが、魔人ブウは喜ぶばかりで完全に舐めきっている。しかしこのパワー、思っていた以上だ! こ、これなら勝てるかもしれん。

 

『その舐めた態度、ぶち壊してやるぜ! いっくぞ~!』

 

 言うなりゴテンクスは魔人ブウにつっこむ。そしてそのまま奴の腹をぶち抜いた。

 

「おお!」

『空龍のお返しだぁ!』

「あら?」

 

 腹の空いた穴を不思議そうに見下ろしていた魔人ブウだったが、ゴテンクスは追撃を辞めるつもりはないようでそこに大量の気弾を撃ち込む。

 

『だだだだだだだだだだだだだだ!』

 

 埃と煙が巻き起こり、視界がふさがる。だが奴の気は動いていないから、避けられないまま気弾を真正面から浴びているようだ。

 

『へっへ~ん! どんなもんだい!』

「うう~んっ、50点! 自分の視界もふさいじゃう技は危ないわよ?」

『なに!?』

 

 だが煙の向こうからは余裕極まりない声が聞こえ、何らかの力……おそらく念力で視界の邪魔をしていた煙が全て上空に巻きあげられた。

 そして視界が晴れた先には、黒い六角形の板のようなものを前面に展開した無傷の魔人ブウが居た。腹の穴もすでに塞がっている。

 

「ふふっ、これあの子の技よ。便利よね? わたしの可愛い体がハチの巣にならなくてすんだわ」

 

 チィッ、空梨の奴めあんな技を身に着けていたのか……。味方であれば心強かっただろうに、今はただただ厄介で仕方ないぜ。

 

「それよりもう終わり~? つまんな~い。もっといろいろやってみせてよ」

『く、くっそー! だったら度肝抜いてやる! 見てろよ!!』

 

 それからもゴテンクスはよく頑張った。リング状のエネルギーで敵を拘束し締め付ける技ギャラクティカドーナツ、気を意志を持たせた自分の分身に練り上げて敵に特攻させる大技スーパーゴーストカミカゼアタックなど……相手が奴でなければ決め手になるであろう多彩な技ばかりだった。今のような状態でなければ褒めてやりたいが……奴め、ことごとく厄介な技で防ぎやがる。

 あの黒い板のせいでエネルギー波の類はほとんど無効化され、接近戦に持ち込もうとすれば周囲に念力で凄まじい重力場を作り出し動きが止められいいように殴り飛ばされる。しかもよしんばダメージを与えてもすぐに回復するときてやがる……クソッ、どうやって勝てばいいのかまるで想像がつかん!!

 

 だが、ここでゴテンクスが『とっておきのとっておき! これこそ俺の奥の手だ!』と言って凄まじい気を発し始めた。何だ、何をする気なんだ!?

 

 

 

 

『イエ~イ!! スーパーサイヤ人3だぜー!!』

「な、それは悟空がなっていた……!」

『へっへーん! 実は前にお父さん(おじさん)が一回だけ見せてくれたんだー! ナイショだって言われてたけど、俺も出来るようになっちゃったもんねー!』

 

 ゴテンクスは魔人相手に戦う時に悟空が変身していた姿になってみせやがった! こ、この2人……本物の天才だぜ。これならばもしかすれば……!

 

 

 

 

 だが、俺たちはしてはならない油断をしていたのだ。初めからな。

 

 

 

 

 

「すっご~い! ちょっと顔が怖いけど格好いいわ!」

『そうだろそうだろ! さっきとはわけが違うんだ。すっごいすっごいすっご~~~~い強くなったんだぞ! お前なんか簡単にぶっとばしてやるぜ!』

「そうねぇ、ちょっと大変そうだわ。でもとっても美味しそう」

『へ? 美味しそうって何……』

「いかん!」

 

 ゴテンクスの背後に迫っていたピンク色の肉片に気づきすかさず気弾を放ったが、肉片はそれを避け凄まじい勢いで大きく広がった。そしてそのままゴテンクスを飲み込んでしまう。

 

「私のお腹のお肉、最初にふっとばしてくれたじゃない? あれよ。だいたい動きは一通り見れたし、あなた達はもういいわ。本当はお菓子にして食べたいところだけどそれだと死んじゃうものね」

『うぶぶっ、うぐぅーー!!』

「いっただきま~す!」

 

 

 言うなり、奴はゴテンクスを包んだ肉片を自身の体に吸収した。

 そしてあっけにとられる間もなく、俺は奴の赤い目に至近距離から見つめられていた。

 

 

 

「あなたも地上にいる素晴らしい戦士達も、み~んなわたしのおやつにしてあげる。光栄でしょ? 私の中で私のためだけに、永遠に私とずっとずっと一緒にいられるんだから」

 

 

 

 

 

 ____________________すまん、俺には何も出来なかった。悟飯よ、悟空よ……! 誰か、あいつを止めてくれ。

 

 

 

 

 

 それを最後に、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 



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迫りくる脅威!そして見つけた小さな希望!

 俺は魔人ブウが去った後、わんちゃんと共に荒野をさ迷っていた。今はカプセルもないし……ブウさん、周囲の家はみんなふっとばしてかなり田舎に家を建てていたからなぁ……人里までたどり着くのにどれくらいかかるのか。

 しゅわしゅわと白い泡がたっぷりのったビールをジョッキでひげに泡をくっつけながら思いっきり飲み干したいぜ……あの喉越し、想像しただけでゴクリと喉が鳴る。あと、小さい頃のビーデルがあれ好きだったんだ。「真っ白いおひげ~」と言って喜ぶあの子は可愛かったなぁ。ま、今でも当然可愛いんだが。…………今頃ビーデルはどうしているだろうか。無事だといいが。

 

「きゅ~ん……」

「おお、すまんなぁ。お前も喉が渇いたよなぁ」

 

 仔犬が切ない声で鳴くので、せめてと思いその小さな体を抱き上げた。待ってろよ。人里についたら、お前のドッグフードもたんまり用意してやるからな!

 しかし、そんな俺たちに頭上から影が差した。なんだ、もしかして飛行機か!? テレビ局のヘリコプターが迎えに来てくれたのかも! そう思って空を見上げた俺だったが、真ん前に黒い中に浮かぶ赤い瞳があってぱちくりと目を瞬かせた。

 

「あらっ、サタンちゃんじゃな~い! こんなところでどうしたのん?」

「さ、サタンちゃん!? え、ええと君は誰かね? わ、私のファンか?」

 

 言いながらも、その見覚えありすぎる特徴に水分が足りないはずの体からどっと冷や汗が噴出した。

 

「まあ、ファンでも間違いじゃないかしら。でもわたしを忘れるなんてひっど~い! 怒っちゃうわよ?」

「ひいいいい!? ま、待ってくれ。えっと……その、もしかして、魔人ブウさんでいらっしゃる……?」

「ピンポンぴんぽ~ん! 大っ正解!」

「そ、その~……しばらく見ないうちに、ずいぶん、その、雰囲気変わったというか、えっと、性別変わってません……?」

「可愛いでしょ?」

「え、可愛いっていうか」

「可愛いでしょ?」

「は、はい! 可愛いです、はい」

 

 可愛いと言うと、魔人ブウは嬉しそうに「でっしょ~!」と満面の笑みを浮かべた。最後に別れた時の……ブウさんを食べた時と打って変わってずいぶん人が変わったように思える。……というか、かなり感情豊かになっているな。しかも胸と尻がぼーんとデカくなって腰がきゅっとくびれて体だけ見ればかなりのナイスバディーだ。な、何故女になっているんだ……!? 可愛いと言わされたが、正直気味が悪い。おえっ。

 しかし何故だろう……笑顔が多いのに、あの時より底冷えするような恐ろしさを感じるのは。

 

 ふと、魔人ブウが何かを手にしているのに気づく。

 

「あ、あの……その手にもってらっしゃるのは?」

「あ、これ? 神様!」

「神様?」

「そうよ。この星の神様」

「う、うう……」

 

 緑の肌をした奇妙な姿のそいつは、苦しそうにうめいた。どうやら生きているようだ。……なんだろう、天下一武道会にいたあいつと、セルゲームで見た奴と似ているな。

 

「そうだ! サタンちゃんも一緒に来る? 今からねぇ、とっておきの私のお城を作りに行くの! よかったらいっしょに住まわせてあげる」

「へ!?」

「…………何よ、嫌なの? デブのブウはよくて、何で私は駄目なの!?」

 

 急に頭の穴から煙を噴出して怒り始めた魔人ブウに慌てて取り繕う。

 

「め、めっそうもない! 光栄です!」

 

 そう答えると魔人ブウはニッコリと笑顔になった。な、なんて感情の波が激しいんだ……! ブウさん以上じゃないか!

 

「そう♪ じゃあ、そのわんちゃんも一緒に行きましょうね」

「ううう~……わんッ」

「こ、これやめろ! ははっ、こいつ、あんまりにも様子が変わられたんで驚いてるんですよ」

 

 わんちゃんは魔人ブウがブウさんを食べてしまった相手だと分かっているのか、小さい体で精いっぱい威嚇していた。だが、そんなことをしたら殺されてしまう! 慌ててその小さな体を抱え込むと、引きつった笑いで誤魔化した。

 

「…………ふ~ん。まあいいわ。さーて、行きましょうか!」

 

 そう魔人ブウが言ったかと思うと、ふわりと俺の体が浮いた。

 

「わわっ!?」

「うふふっ、心配しないで。ちゃんと落とさないようにするから」

 

 

 

 …………俺はいったい、どうなってしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪だわ……」

 

 先ほどまでの出来事を思い出して、思わず頭を抱えた。

 

 あたし、チチさん、ビーデルさん、デンデ、ミスターポポ、ランチさん、ミノシア、ウーロン、プーアル、亀爺さん、牛魔王さん、マーロンちゃん、龍成くん、エシャロットちゃん、怪我した空龍……そしてカリン塔で回収したカリン様、ラディッシュ、ヤジロベー。随分多人数になっちゃったけど、ひん死の空龍を連れて帰って来た餃子はなんとか頑張って全員をテレポーテーションさせてくれたわ。

 行き先は占いババの館。空梨の師匠の占いババなら、万が一魔人ブウが空梨の占いを使えたとしても何かしらの方法で誤魔化してくれるんじゃないかって期待を込めて。

 そして占いババは期待通りに霊的な力をシャットアウトする結界みたいなものを作ってくれたわ。けど万が一、あいつが……魔人ブウが私たちを探そうと思った時に一般的に知られている占いババ様の館も危険だってことで、場所は移動した。今はあたしンちの別荘の一つに隠れている。そして占いババ様の水晶で魔人ブウを見張ってたんだけど……まさか空梨に続いて悟天くんにトランクス、ピッコロまで吸収されるなんて! 悪夢なら早く覚めてほしい。いったいどうなっちゃうのよ……!

 

 しかも魔人ブウの悪夢はそれで終わらなかったわ。

 

 あいつ、地上に降りてきたと思ったら亡者たちの対処を終えて帰って来たギニューとジース、ナッパ達サイバイマンまで吸収しちゃったのよ! 悪食にもほどがあるわ!!

 幸い人造人間で”気”を読まれない18号は隠れてうまく回避したのか、さっきケータイに連絡したら電話にでてくれてほっとしたわ。今はこっちに向かっているみたい。

 

「界王様から連絡もないからあの世の様子も分からないし……どうしたらいいのかしら」

「あ、あの! 今戦えるのは僕だけだし、僕が何とか……」

 

 怪我が治った空龍がけなげにもそう申し出てくれたけど、嬉しいけどそれは駄目。

 

「無理しなくていいわ。あいつ、空梨は死んでないって言ったんでしょ? だったら吸収された人たちはきっと魔人ブウの中で生きたまま取り込まれてるのよ。それを分かったうえであんたが攻撃なんて出来ないだろうし……それに、もしあんたまで吸収されちゃったら今度こそ終わりだもの。今ならまだ孫くんに悟飯くん、ベジータ、ラディッツが戻れば空龍と龍成くん、エシャロットちゃんで誰かがスーパーサイヤ人ゴッドになれるわ。けど、一人でも欠けたらアウト」

 

 もう一人パラガスだっけ? 居た気もするけど、会ったことないし不確定要素なのよね。だったら除外。

 現状あの世から戻ってこられる人数を合わせてもサイヤ人は七人。一人多いとはいえ、どこで不測の事態がおこるか分からないしね……もし万が一があったら、頼みの綱のゴッドも作れなくなってしまう。

 

 

 ……でもそれもそうだけど、さっき自分で言った内容が最大のネックなのよね。

 

 

 吸収された他の誰かなら、悪いけど(というかトランクスが居る時点で本当は凄く嫌だけど)ブウごと死んでもドラゴンボールで生き返ることが出来る。でも空梨だけは別。以前空龍の出産のときに聞いた未来の話……それによれば、出産が原因で死んだ空梨を生き返らせることは出来なかったと聞いたわ。どういうわけか魂が世界の何処からも居なくなってしまったんですってね。つまりあの子、一回でも死んじゃえば生き返れないってことなのよ。

 

「ゴッドが出来ても倒せない……か。本当に頭が痛いわ……」

 

 ナメック星に向かったクリリンくんたちからも連絡が無いし、八方ふさがりよ!

 

「どうにか吸収された人間を救い出す手立てがあればいいんだけどねぇ……」

「でも吸収っつってもよ。どんな状態で腹の中に入ってるか分からないよなぁ……生きてるってことは原型は保ったまんま保管してるってことか?」

「そう考えるとつくづく変な生き物だよねぇ……。僕たち妖怪なんて可愛いものだよ」

「ちょ、よせよプーアル! 冗談でもあんな化けモンと並べられたくないぜ俺は」

「そうだ! あんたウーロン、ちょっとお菓子に化けて魔人ブウに食べられてきなさいよ! そしたら魔人ブウの体内に侵入できるわ! でもって中がどうなってるか様子見て来てよ。高性能の通信機あげるから!」

「ば、馬鹿言うなよ! 冗談じゃねぇって! お前頭いいんだからもっと他の方法考えろよな!」

 

 ええ~。名案だと思ったんだけどなぁ。

 

 でも、体内に入る……か。これ、結構いい案じゃない? それに、他にいい手立てなんて現状じゃ見つからないし。

 そういえば似たような事が前にもあったわね。あの時は確か……巨大化したピッコロの体の中に孫くんが入って、前の神様が封印された瓶を取り戻したんだっけ。

 って、そういえばあたし……すっごく昔に体を小さくする機械作らなかったっけ……?

 

 

 

 

 

!!

 

 

 

 

 

「閃いたーーーー!!」

「うおっ、ぶ、ブルマ。どうしたんじゃいきなり! 年寄りを驚かせんでくれ」

「ミクロバンドよミクロバンド! 使えるか分からないけど、あれを改良して……そうね、いっそ肉眼じゃ見えないくらい小さくなれるようにすれば、魔人ブウに気づかれずに体内に侵入できるわ!」

「ミクロバンド、ですか?」

「そうよ! 体を小さくしてくれる機械よ! ふっふっふ……やっぱりあたしってば天才だわ!」

「! じゃあ、もしかしてそれでお母さんたちを助けられるかもしれないの!?」

「ご、悟天ちゃんもか!?」

「確実とは言えないけど、まったく何の希望も無いよりましね。そうと決まれば都のカプセルコーポレーションに戻って材料を集めて……もう危険なんて言ってられないわね! ちょっと行ってくる! みんなはここで待っててちょうだい」

「だったら僕が護衛についていきます! それくらいさせてください。お願いです!」

「……わかったわ、空龍。でもあんたはちゃんと気を消して、魔人ブウに気づかれないようにすること。いいわね?」

「はい!」

 

 あんまりにも必至だから、きっと断っても諦めないと思って了承した。……この子も目の前でお父さんとお母さんを失ったんだものね。何かしていないときっと気もまぎれないんだわ。

 まあ行きは餃子のテレポーテーションで一瞬だし、きっと大丈夫でしょ! ベジータや孫くんが戻って来た時のために、あたしたちでも出来る限りの対策をしとかないとね。

 

「にいちゃ、行っちゃうの?」

「ち、ちゃんと無事に帰ってくるよね? ね?」

「うん、安心してよ2人とも。今は戦いに行くわけじゃ無いんだ。お前たちはお前たちで、しっかりみんなを守ってるんだよ!」

「「うん!」」 

 

 ふふっ、やっぱりお兄ちゃんね。双子の頭を撫でる姿が頼もしいわ。

 

 まったく空梨ったら……私たちを助けるためったって、こんな可愛い子たちを残して何吸収なんてされてんのよ! 無事に帰ってきたらきつ~いお説教してやるんだからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてブルマたちが去った、少し後。

 

 

「今戻ったよ」

「! ママだ!」

 

 扉の向こうから聞こえてきた母親の声に、ぱっと表情を明るくしたマーロンが駆けだした。しかし異変に気付いた亀仙人がそれを止めようとする。

 

「! い、いかん! 行くなマーロン! そいつは18号じゃない……気を感じる!」

「え!?」

 

 

 誰ともなく驚く声をよそに、母親に早く会いたい一心でマーロンは扉を開けた。開けてしまった。

 

 

 

「はぁ~い。皆さんお揃いで賑やかね。私も混ぜてくれる?」

 

 

 

 18号のケータイを手に持ったピンク色の悪魔が、18号の声まねで楽しそうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 



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一方、あの世では

 ラディッツがジャネンバの結界を破壊し、閻魔が力を取り戻すことであの世に秩序が戻った。これでジャネンバさえどうにかすればやっと魔人ブウを倒しに戦士達を現世に連れて行けると思ったんじゃが、秩序が戻った反動でわしまで現世に押し出されてしまったわい。

 すぐに戻ろうとしたが、秩序が戻ったとはいえ現世に溢れていた魂が一気にあの世に戻ったのじゃ……正直渋滞で押しつぶされそうで、すぐには戻れそうになかった。

 そこでとりあえず自分の館に戻ったんじゃが、ええい、次から次へと忙しい! なんと弟たちがとんでもない情報と一緒にやってきおった。

 

 空梨が魔人ブウに吸収されたじゃと? 何をやっておるのじゃあの馬鹿者め!!

 

 とにかく、こちらには絶対に失ってはいけない存在……地球の神であるデンデ様がおる。万が一魔人ブウが空梨の占いまでも操れた場合見つかってはたまらぬと、何とかしてくれと頼ってきたみたいじゃ。

 …………それにしてものう、緊急事態で焦っていたのは分かるが、お前らわしがあの世に行っておったこと忘れとったな? もし居なかったらどうするつもりじゃ。そう言うと、全員が「あっちゃ~」というふうに顔を見合わせとった。おい、本当に忘れておったのか!? あ、呆れたやつらじゃわい……。

 

 その後ブルマという娘の(もう娘という歳でもないじゃろうが)別荘に移動し、結界を張った。そして水晶で魔人ブウの動向を窺っていたのじゃが……奴め、空梨だけでなく他の者まで吸収してしまいおった。

 その後ブルマが何やら閃いたらしく、空梨の息子を連れて餃子のテレポーテーションで都の実家に向かった。そこでわしも、そろそろあの世も落ち着いたかと腰を上げた。

 

「姉ちゃん、行くのか?」

「ああ。何はともあれ、戦える者を連れてこねばなるまいて。もう一度あの世に行ってくるから、こっちは頼んだぞい」

 

 そしてわしはもう一度あの世に向かったんじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

「おお、ジャネンバを倒したのか! …………しかしこいつはどうしたんじゃ?」

 

 待っていたのは朗報だった。あのジャネンバとかいうあの世をめちゃくちゃにしていた化け物は、なんとセルが倒したらしい。わしとしてはあやつに一度殺された身……いい感情などもてそうにもなかったが、これは褒めるしかあるまいて。

 しかしその当のセルといえば、閻魔の机側面に寄りかかってなにやら死んだように眠っている。

 

「地獄に居たもう一人のセルと融合するなんていう無茶をやらかしおってな。その反動というか……何やら、おかしなことになりよっての」

「おかしなこと?」

「肉体を得た状態の魂と魂だけの存在がぴたりと重なったせいなのか……。両方が強力な力を持っていたことと、同じ存在が2体というあり得ない状態。それがどうやら妙な結果をもたらしたらしい」

「だから、その結果とは何ですかな?」

「魂の格が上がったのだ」

「は?」

「つまり、その……ただの霊から、精霊に進化しようとしておるんだ。今はその変化のために眠っている蛹状態といったところか」

「これが……精霊?」

 

 ちらっとセルを見る。緑の等身大の蝉。これが、精霊……?

 

「妖怪の間違いじゃないですかの?」

「わしもそう思った。でも分類的に考えると多分精霊なんだよなぁ……。つまりわしらあの世の者と同じ霊的生命体となるわけだ。そういうわけだから、死にながらも同時に生きてもいるわけで……ええいややこしい! と、とりあえず。こいつが目覚めたら、生き返らせなくてもそのままの状態で現世へ行くことが出来るぞ!」

「なんと……! お、おかしなことになったものですな」

「おい、そいつのことはどうでもいい。早く俺たちを現世へ連れていけ!」

 

 閻魔様と顔を見合わせていると、真横から煩い怒声が耳をつんざいた。

 

「び、ビックリさせるでないわい! ベジータとラディッツか……。いや、そうしたいところは山々なんじゃが、来ては見たもののしばらくはタイミングを見計らった方がいいかもしれんぞい」

「何だと?」

「…………空梨の事か」

「! ……チッ」

「なんじゃ、知っておったのか」

 

 聞けば界王様がすでに2人へ空梨が吸収された事実を伝えていたらしい。

 ラディッツなど本当ならすぐにでも駆けつけたいじゃろうが……駆けつけてブウを倒せたとしても、空梨を救うことが出来ないことをこいつが一番よく知っておるからの。

 

 現世に戻り、スーパーサイヤ人ゴッドとなって魔人ブウを倒すだけならば簡単じゃ。だがそれでは空梨ごと死んでしまう。そして空梨は一度でも死んでしまえば二度と蘇れぬ。あの世にも来ぬから、会う事すら出来ん。…………まったく、我が弟子ながら難儀な奴じゃ。

 

「どうやらブルマが吸収された者達を助ける手段を思いついたようでの」

「ブルマが?」

「そ、それは本当か!」

「まだ確定したわけではないわい。じゃが、たった一日しか戻れぬのだ。手立てもないまま戻って時間をつぶすこともあるまいて。しばらく様子を見て、最適のタイミングで戻るのがよかろう」

 

 そこまで言うとベジータもラディッツも、歯がゆそうな顔をしながらも押し黙った。

 さてと、そういうわけじゃからわしの水晶で現世の様子を見てみるか。

 

 

 しかし、水晶に映し出された光景はとんでもないものじゃった。

 

 

「な、魔人ブウ!?」

「な、なななななな何故じゃ!? 何故、居場所がばれたんじゃ!」

 

 なんと、わしがさっきまで居たブルマの別荘に魔人ブウがやって来ていたのだ。すわ、弟達とこちらで再会する羽目になるのではと冷や汗が噴き出た。…………しかし、予想に反して魔人ブウは虐殺を行うわけでは無かった。

 

 

『あはっ! 居た居た。あなたが神様ね?』

『か、神様、逃げて!』

『邪魔よ』

『ポポさん!』

 

 魔人ブウはデンデ様を見つけると嬉しそうに近づき、デンデ様を庇おうとしたミスターポポを平手で壁にふっとばした。

 

『そんなに怖がらないで? わたし、あなたを迎えに来てあげたの』

『む、迎え……?』

『そっ! あのね、ドラゴンボールってと~っても素敵な宝物じゃない? そして宝物は全部全部ぜ~んぶわたしのもとにあるべきだと思うのよ。だから、それを作り、それを維持するあなたもわたしの宝物に加えてあげようってわけ。うっかり何かで死なれても困るしね』

『な、何を勝手な事を言ってるだ! デンデは悟飯ちゃんの友達だ! 連れて行かせはしねぇだぞ!』

『よ、よせチチ! 殺されてしまうぞ!』

『お、おっとう。でも……! あいつは、悟天ちゃんまで食べちまっただぞ! おら、許すことなんかできねぇ!』

 

 悟空の嫁が果敢にも魔人ブウにくってかかるが、周りがなんとかそれを止める。下手に刺激しては何をするか分からんからのう。……それにしても、ドラゴンボールの存在を知られてしまったか……!

 

『あ、そうそう。別にあなた達を殺すつもりはないから安心してちょうだい』

『え? ほ、本当か!?』

『本当よ~豚ちゃん。だって、生きてようが死んでいようがわたしに何の影響もないもの。ゴミがいくら集まったって、ただのゴミだわ。でもね、ゴミにはゴミなりにリサイクルとかリユースって使い方もあるわけ。だ・か・ら、……あなた達は、わたしのもとに使えるようになったドラゴンボールを集めてもっていらっしゃい』

『い!? ど、ドラゴンボールを……?』

『だって自分で集めるの面倒くさいんだも~ん。命の代わりと思えば安いでしょ? あ、でもこの子たちはもらって行こうかしら』

『! 龍成、エシャロット!!』

『サイヤ人に集まられるとめんどくさそうだしね。空龍ちゃんが居ないのは残念だけど……もしかして死んじゃった? やだ、力加減間違えちゃったかしら! 後で吸収しようと思ってたのに』

 

 え、エシャロットと龍成が吸収されてしまいおった……!

 水晶の映像に見入っていたわしじゃったが、ドンっという凄まじい音が聞こえて何事かと見ればラディッツの奴が床に拳を打ち付けてデカいくぼみを作っておった。そして膝をつき項垂れると、血を吐くようなうめき声を出す。

 

「あ、あの野郎……! 空梨だけでなく、龍成とエシャロットまで……!」

「気色悪い外見になりやがったが……性格はもっと最悪だな。チッ、あの馬鹿の影響が嫌な方向で出てやがる!」

 

 吐き捨てるように言ったベジータだったが、突如くるりと踵を返した。

 

「! 何処に行く気じゃベジータ!」

「界王の所だ。カカロットの奴、悟飯は界王神界とかいう場所に居ると言っていたからな……吹っ飛ばされてったカカロットもそこに戻っているかもしれん。界王なら何か知っているだろう。少なくとも、俺たちまでバラバラになってちゃ対処のしようもない。全員の居場所を把握し、情報を共有する必要がある」

 

 お、おお……。思いのほか冷静じゃな。

 

「現状ではゴッドが作れなくなった。……気に食わんが、カカロットの言っていたフュージョンが必要になるだろう。ならば一度一か所に集まらねばならん」

「ベジータ……」

「ラディッツ、貴様いつまでそこで這いつくばっているつもりだ? 誇りあるサイヤ人ならば、最後まで立っていろ!! 膝をつくことなど許さん!!」

「! あ、ああ! すまなかった」

「…………フンッ。どうせしぶといあいつのことだ。唯で死ぬようなことはあるまい」

「………………すまん。感謝する」

 

 …………どうやらラディッツも持ち直したらしい。なんじゃ、不愛想な奴かと思っておったが良いところもあるじゃないか。

 空梨の奴め、いつも弟の悪口しか言っておらんかったが……素直じゃ無いとこなんぞそっくりじゃわい。似た者姉弟め。

 

 

 

「なれば、わしはいつでもおぬしらを現世に連れて行けるようにここで待っておるぞい」

 

 

 

 現世では現世で、あの世ではあの世で……みんな頑張っておる。

 

 空梨よ、吸収されたおぬしは今どうしている? この間約束した限定スイーツをまだ土産で持ってきておらんじゃないか。それを一緒に食べるまで、死ぬことなど許さんからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえば2人ともわざわざ蛇の道へ行ってしまったが、聞くだけならここから界王様に呼びかければ応えてくれたんじゃないかのぉ?

 

 

 

 

 



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飛び出せHERO!

 地球で何が起こっているか……僕は老界王神様にパワーアップの儀式をしてもらいながらも、老界王神様が出してくださった水晶玉でだいたいの光景を見ることが出来ていた。でもその分何も出来ずに待つだけの自分が歯がゆくて悔しくて……みんなが吸収されるのを見るのが辛かった。

 声まで聞こえなかったから悲鳴は聞かずにすんだけど、だからって平気なわけじゃない。お母さんやビーデルさんたちは無事みたいだったけど……代わりに僕の従兄弟が餌食になってしまった。魔人ブウめ、あんな小さい子達まで吸収しやがって……! デンデまで攫って行って、何処まで僕たちを苦しめれば気が済むんだ! 絶対に許さないぞ!

 

 

 

 

 ここに……界王神界に来てから随分と時間が経ってしまったように感じる。ただひたすら座って待つだけという時間が辛かったのもあるかもしれない。

 途中までお父さんも一緒にいたけれど、お父さんはあの世に起きた異変の方へ行ってしまった。未だに帰ってこないけど、今頃あの世はどうなっているんだろう? 蘇っていた亡者は地上から姿を消したみたいだけど……。

 

 じりじりした気持ちを抱えながらも、待って、待って、待った。………そしてようやく潜在能力以上の力を引き出すという老界王神様の儀式が終了したんだ! もうすでに1日以上経過してしまった。急いで地球に向かわないと!

 

 手に入れた力はたしかに待っただけあって素晴らしかった。見た目の変化はほとんど無いみたいだけど、体に漲る力の充足感が凄い。スーパーサイヤ人ゴッドになった時もあれはあれで力に満ちた感覚だったけど根本的に質が違う。ゴッドはみんなの力が集まった力……だけど、今の僕は僕だけの力で満ちている。例えるなら基礎能力が究極に達したって感じだ。

 

 

「ありがとうございます! 凄いパワーだ!」

「ふふんっ、どうじゃ! 凄かろう! やっとわしを敬う気になったかの?」

「ええ! 正直もう駄目かと思ってましたけど、撤回します!」

「駄目じゃと思っとったんかい!」

「ま、そう思ってもしかたないよね。あんな間抜けな儀式じゃ」

「な! ぐぬぬぬ……!」

 

 けど、雑談している暇はない。

 

「すみません、申し訳ないんですけど僕を地球まで送ってくださいませんか」

「では私が送ろう」

「キビト、私も行きます! 最後まで見届けるのが界王神の責任で「絶っっっっ対、行くなよ?」……はい」

 

 どうやらキビトさんが送ってくれるみたいだ。

 

「お願いします!」

「任されよう」

 

 今度こそ、今度こそ魔人ブウを倒してみせる……!

 吸収されたみんなも絶対にドラゴンボールで生き返らせる。だから待っててくれ。僕が魔人ブウを絶対にぶっ飛ばしてやるから!

 

 

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

 

 

 そして僕は4人の神様に見送られて、界王神界を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふごっ!?」

 

 

 う、うおぉ……自分のいびきで目が覚めた。

 

 何だか眠っている間にこれまでの経緯どころか私が知らないはずの遠くの出来事まで見てたような気がするけど、あれか。ついに予知夢と千里眼を合わせたみたいな技まで顕現したのか。おいおいマジ天才だな私!

 

 …………とか、冗談言ってる場合じゃないな。

 

 もしあれが夢じゃないのなら、今外ではとんでもないことになっている。主に私が吸収されたのが原因で。

 というか……とんでもないことの集大成が、今私の目の前にぶら下がってるわけで。

 

 

 

「空龍以外娘息子甥っ子コンプリートされてんじゃねぇか!! あと他もろもろ多いわ!!」

 

 

 

 思わず叫んだわ!!

 いやだって、私と同じく肉繭に包まれて悟天ちゃん、トランクス、ピッコロさん、ギニュー隊長、ジース君、ナッパ、ナッピ、ナップ、ナッペ、ナッポ、18号さん、龍成、エシャロット、悟飯ちゃんがぶら下がってるとか悪夢か。てゆーか悟飯ちゃん!? 悟飯ちゃん吸収されてる!? ちょっと待って。まさかとは思うけどアルティメット状態で吸収されてないよね。あっれー……なんか心なしか凛々しい顔立ちになってる気がするけど気のせいだよね? …………………………………。誰か嘘だと言え。言えよ!!!! 断言しろ! 嘘だと!!

 

 しかし、当然嘘だと言ってくれる誰かさんは居ない。現実とは無情である。

 

 マジか………………。マジか。

 

 流石に今度ばかりはダメージが大きい。

 だって色々タイミングが悪かったとはいえ、私さえ吸収されていなければなんとかなったかもしれないのだ。

 

 せめてあそこで逃げきれてさえいれば、あの世の異変が収まって帰って来たベジータ達とゴッドを作って楽勝だったはず。それがまず私が吸収されたことによって、ブウの見た目と性格が急変。お菓子の知識目的で吸収されたためか、どうやら私の持つ原作知識まで得た上に私の技まで使えるようになったらしい。色々言いたいことは山ほどあるが、とにかくこいつデンデ誘拐やら吸収やらやりたい放題だ。唯一の救いはみんなや地球人全員大虐殺が起こっていないことだけどそれは何の慰めにもならない。何故ならこのまま行けば、最悪殺されるよりも悪い運命が地球を襲う。

 

 吸収されていない面子を考えればブウに勝利するのは決して難しい事ではない。だって悟空とベジータが居る。界王神様の耳飾りでもフュージョンでも合体さえすればワンチャンどころじゃないだろうよ。

 

 

 

 

 でもここで最大の障害にぶつかる。…………私だ。

 

 

 

 私が居るから、力で倒そうと思っても倒せないのだ。

 ……一回でも死ぬと生き返れない。そんな当たり前のことがここまで足を引っ張るとは思わなかった。

 

 よく考えなくても悟空とか絶対助けようとしてくれるんだよな……ていうか、とびとびだったし場面の移り変わりが目まぐるしかったけど、夢越しに見た限りブルマとかババ様とかラディッツとか……下手したらあのベジータまで、私の事助けようとしてくれてる感じなんだよな……。え、ベジータお前どうしたよ。お前ならスパーンと切り捨ててくると思ったわ。

 でもなぁ……今までだったら「頑張れ! 超頑張れ!! 何とかして助けてくれよ絶対だぞ!」って思ってたんだろうけど。流石にこの光景見ちゃうと心が折れる。私はいいからいっそひと思いにやれって思うわ。他の面々はドラゴンボールで生き返らせればいいんだし。

 

「……何やってんだろうなー……庇ったつもりが結果的にさんざん足引っ張って、子供らまで危険にさらして、吸収された人数まで原作より増えて……」

 

 吸収された龍成とエシャロット……悟天ちゃんにトランクスも、怖かっただろうな。いくら強くてもまだまだ怪談話にビビるような子供だし。空龍だって私の事を盾に取られて大怪我をした。痛かっただろうな。辛かっただろうな。

 

 

 多分ブウはうろ覚えとはいえ私の原作知識を知ったはずだから、ベジットを吸収したら取り込んだ面々を奪い返されるってわかってる。だから原作通り悟空たちが上手くやっても絶対に吸収なんてしないだろうし、そうなると私を含めた吸収された面々を人質にとって悟空たちを追い詰める姿が容易に想像できる。ちょっと夢越しに見ただけだけど、こいつ超性格悪いからな。何故こうなった。

 もしも……もしもこのまま、手立てが見つからなくて、追い詰められたらどうする? 悟空やベジータまで負けてしまったら、誰が助けてくれるんだろう。誰も居ない。誰もブウに勝てる相手が居なくなる。ビルス様? もしかしたら調子こいたブウがいつかビルス様に破壊されるかもしれないけど、だけどビルス様は救ってくれるわけじゃない。ただ破壊するだけだ。

 

 助けられない。

 そしたらこの子達、ずっとこのままだ。

 

 

 

「そんなのやだぁぁーーー……」

 

 

 

 我慢できずに吐き出した声は、予想以上に情けなかった。ガキか。

 いかん、ナーバスになってきた。肉繭状態で手も足も動かせないんだぞ! 涙と鼻水垂れ流してどうする。拭けないし垂れ流しのままじゃねーかきったねぇな!!

 でも考えてたら泣きたくなって我慢できなかったんだから仕方ないだろ! つーか誰に逆切れしてんだよ私は!

 

 でも心の中でいくら虚勢をはったって、出てくる涙は止まらない。悲しくて悔しくて辛くて歯がゆくて、色んな感情がごちゃ混ぜになった。

 ひっくひっくと嗚咽をもらす私はまるで子供だ。意識が無いとはいえ自分の子供や甥っ子達の前で泣いてる自分がまた恥かしくって余計に泣けてくる。いい年こいて情けない……。でも妙に悲しくって、何故かいつも以上に感情がコントロール出来ない。変だな……日記に吐き出せないストレスがあるにしたってちょっとおかしい。…………もしかしてあれか。更年期障害? いやまだ早いだろ!! まだ若いわ!!

 

 

 だけどそんな無様な涙は、思いがけない闖入者によって引っ込んだ。

 

 

 

 

『ひぃぃぃぃぃぃ!?』

『うわぁぁぁぁぁ!! は、早すぎる! もっとスピード落とせよ!!』

『我慢してよ! 急がないと気づかれちゃうかもしれないでしょ!』

『だからって、うお!?』

 

 

 ブウの体の穴の奥から飛び出してきた空飛ぶ絨毯が、ピッコロさんの肉繭にぶつかって跳ね返される。そしてべちゃっと地面に叩き付けられた面々は、打ち付けた場所をこすりながらも起き上がりこちらを見て歓声をあげた。

 

「おおお! み、見つけた。見つけたぞー!!」

「みんな居るぜ! こ、これならちょん切ってもってけばどうにかなるんじゃないか!?」

「早速ハサミに変化しよう! い、急がなきゃ! ウーロン早く!」

「言われなくても分かってるよ! 俺だってこんな気味悪い場所からとっととオサラバしたいんだ! おいおっさん、お前は向こうのチビたちからたのむぞ!」

「ぶ、豚公が私に指図するな! 私は世界チャンピオンのミスターサタンだぞ!」

「へいへい……」 

 

 

 

 

もじゃもじゃ頭のチャンピオンに、小生意気そうな豚の妖怪。絨毯から変化した青い毛並みの可愛い猫っぽい生き物……見覚えありすぎるけどなぜ一緒に居るのかわからない面子。え、何でミスターサタンにウーロンにプーアル? 非戦闘員代表候補じゃない?

 

 

 

 

 

 

 ………………でも、なんでかな。その頼りない3人が、この時の私にはとんでもなく格好いいヒーローに見えた。

 

 

 

 

 

 

 あっけにとられて見ていると、ミスターサタン……マーくんと目が合った。すると挙動不審だったマーくんがいきなりしゃんと背を伸ばしてこちらにピースを向ける。

 

「うわははははーー!! こ、このミスターサタンが来たからには、もう大丈夫! 安心したまえ!」

「ああ……うん。なんか知らないけど、今凄くほっとしてる」

 

 

 まだ何にも解決してない。けど不思議と笑いが込み上げてくる。

 

 

 

 

 

 ……………ちなみに、全員足が震えていたのはご愛敬だと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日記じゃない主人公の一人称が思いのほか難産でした。え、タイトル詐欺もいい加減にしろ?さ、さあ何のことやら(目そらし

あと、とりあえず悟飯ちゃんはすまぬ。


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救出成功!地球消滅!?やっと来たぞ孫悟空!

感想欄でのサタンコールに改めて世界チャンピオンの偉大さを思い知り、彼の人気にあやかれる光栄に執筆にあたって身が引き締まる思いでした(`・ω・´)ゞ

そして作者はノリのいい皆さんが大好きです。







 魔人ブウの体内に侵入するメンバーに選ばれた時は何の冗談かと思った。

 

 

 

 

「お、おいおいおい! 冗談じゃないぜ!? 何で俺なんだよ!」

「そ、そうだよ! ねえ、お願い。僕に行かせて! お母さんたちを助けたいんです!」

 

 空龍がそう主張するが、ミクロバンドを3つ持って帰って来たブルマは首を横に振った。

 

「駄目よ。もともと持つ気が大きい空龍じゃ気づかれるかもしれないし、それに万が一あんたまで吸収されちゃったらどうするの? 同じ理由で餃子も却下。テレポーテーションは救出に絶対便利なんだけど……もしもがあったら、今以上に厄介な魔人ブウになっちゃうわ」

「お、俺は吸収されてもいいってのかよ!」

「そうじゃなくて! 孫君たちに比べて小さな気を持つあたし達なら、きっと魔人ブウも蚊か何かと思って気にも留めないだろうって言ってるの! だから選んだんじゃない!」

「あたし達って……お、おい! おまえも行く気か!?」

「当然よ! こうなったらとことんやってやるわ。魔人ブウをぎゃふんて言わせてやるんだから! ……あ、そうそう。ウーロン、あんたを選んだのはどんな場面でも対応できる変身能力を買ってよ」

「変身? 俺の?」

「そっ。だって中でみんながどうなってるか分からないでしょ? カプセルがあるとはいえ下手に色々持っていけないし、何が必要になるかも分からない。臨機応変にその場で色んなものに変身できるあんたが頼りよ」

 

 そ、そう言われると悪い気はしねぇな……いやいやいや、でも絶対に嫌だぞ!?

 

「で、でもよぉ」

「ブルマさん、それなら僕も連れて行って! 変身ならウーロンなんかに負けないよ!」

「なんだとぉ!? プーアル!」

「あら! 頼もしいわ。じゃあ丁度ミクロバンドは3つだし、これでメンバーは決まりね!」

「ちょちょちょ、ちょっと待てよ! 俺は行くだなんて……」

「なぁに? 怖いんだウーロン。せっかく戦いでは役に立てない僕らに出来る事があるのにさ、ここでやらなきゃ男じゃないよ! や~い、いくじなしー! ウーロンのおくびょうものー!」

「な、馬鹿にすんなよな! いいぜ、やってやろうじゃねぇか!」

「じゃあ決まりね!」

「あ……」

 

 

 し、しまった。ついプーアルに乗せられちまった……。くそう、あいつ余計な事しやがって!

 

 

 ………………俺、生きて帰ってこられるのかな。せっかく最近可愛いガールフレンドが出来たっていうのによぉ……。

 

 

 そうして救出メンバーが決まったわけだが(悟飯の彼女やチチも行きたそうにしていたけど、下手に俺たちより気が大きい分隠しきれ無さそうってことで却下。亀仙人のじいさんは両親が居なくて心細いマーロンががっちりつかんで離さなかった)魔人ブウは小高い丘の上にでっかいお菓子の宮殿を立てて現在はそこに引っ込んじまった。まずはそこに忍び込まないといけねぇ。

 それにしても魔人ブウの奴とんでもねぇモン建てたな……! 前にテレビで見た国王様の城よりよっぽどデケェや。下手したら小さい村くらいの敷地もあるんじゃないか? 贅沢なもんだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば3日前になんかすっげぇパワーアップした感じの悟飯が帰って来て戦ったんだが、善戦空しくあいつまで吸収されちまった。チチの奴流石に卒倒してたぜ。

 

 いや、最初は良かったんだよ。色々吸収して強くなってるはずのブウを圧倒してたんだから! 占いババがブウの様子を見れるようにって力を込めて残していってくれた水晶玉を見てたんだけど、ブウの奴も「ここまで強いなんて予想外だわ……ふふっ、やっぱりあなた、怒ると普段よりずっと強くなれる人なのね」って言ってたし。

 でも悟飯、あいつ空梨が一度死ぬと生き返れないって知らなかったみたいなんだよな。いや、俺も今回の件で初めて知ったんだけど。

 後でブルマに聞いたところ、空龍出産のときに未来の空梨がそれが原因で死ぬってとこまでは話したらしいんだ。でもそれ以上心配かけてもいけないってんで、ガキどもには空梨が一度死んだら生き返れないって事まで教えてなかったんだと。その気遣いがここに来て最悪の結果になっちまったってわけだ。なんせその事実を突きつけられて動揺したから、隙が生まれて悟飯の奴負けちまったんだからな。

 しかもやっぱりあのブウおっぱいはでかいけど性格最悪だぜ! 「遊び過ぎた」とか言って本気出したと思ったらバリアやら無効化技やら腹を痛くする念力やら卑怯な技ばっかり使い始めやがってよ!

 …………悟飯は頑張ったよ。けど、やっぱり相手が悪かったとしか言いようがねぇ。

 

 それにしても悟空やあの世の連中はどうしてるんだ? 

 ナメック星に向かったクリリンたちも一回連絡してきたっきり音沙汰ないしな……。あっちはあっちでアクシデントがあったみたいだし、何なんだよいったい。俺たち何かに呪われでもしてんのか?

 なんでもナメック星にもうすぐ到着するってところで、目の前で変なタコみたいな星とボロボロの星が衝突事故? を起こしたんだと。んで、ボロボロの星から脱出してきた連中に手を貸そうと思ったらそいつらが悪い奴らだったらしい。ナメック星を「新惑星クルーザーにする!」とか馬鹿言いだしたそいつらを倒したってとこまでは聞いたけど、その後から連絡が無い。まさかまた何かあったんじゃねぇだろうな?

 

 ……やべぇ、腹痛くなってきた。やっぱり引き受けなきゃよかったぜ。

 

 

 

 

 けどそんなこと思ってもやらないわけにもいけねぇし、城に忍び込むっていうか入るための準備は着々と進んだ。

 

 

 初めは忍び込むとか言ってたけど、結局正面から行くことになったんだ。ブウの奴デンデをさらって俺たちに「使えるようになったドラゴンボールを持ってこい」って言ったからな……ドラゴンボールを集めて届ける、それをブウに会いに行く口実と囮にしてやるってわけだ。丁度昨日ドラゴンボールが復活してレーダーに映るようになったし。タイミング良いんだか悪いんだか。

 

 本当は俺たちで使いたいところだけど、もし使おうとしてブウが気づいたらデンデが殺されちまう。だったらいっそ大胆に奴の目を引き付けるために使っちまえってわけらしい。発案はブルマだ。

 ブウにドラゴンボールを使われるかもってでっかいリスクはあるけど、ようはその前にどうにかしちまえばいいわけだし……いやでも、やっぱ相当賭けだよな……。ブルマの奴頭は良いくせに昔からやることなすこと大胆っつーか大味っつーか大雑把っつーか。……いいや、考えんのやめよ。なんだかんだでラッキーなのもあいつだからな。

 こうなったら泥船だろうが宝船だろうが乗っかってやるぜ。お、俺だってやるときゃあやるんだからな! こうなったら俺だってとことんまでやってやる!

 

 

 

 

 そうしてドラゴンボールを集め終えた俺たちはブウにドラゴンボールを献上するって名目で城に向かったんだ。

 

 城にはブウに要求された菓子やら貢物を持った人間で溢れていて、みんな総じて青ざめた顔をしていた。…………そうだよな、ブウの奴、ちょっとでも気に入らないと持ってきた奴をお菓子にして食っちまうし……機嫌がいいと思えばいつ怒り出すかも分からない爆弾みたいなやつだから、帰るまで気が気じゃないんだろう。

 で、城に入ったはいいが女王様気取りのあいつは偉そうに「持ってきたことは褒めてあげるけど順番はちゃ~んと守りなさいよね、愚民ちゃん♪」とか言って貢物の列に並ばせやがった。……いや、こっちは城に入れちまえばいいんだけどよ……なんか釈然としねぇ。

 

 とりあえずまだまだ時間がかかりそうだったし、俺たちはこっそり列から外れた。でもって、ミクロバンドで小さくなったらプーアルが空飛ぶ絨毯に化けて俺とブルマをのっけて魔人ブウの耳から体内に侵入しようってことになったんだ。

 けどこそこそしていた俺たちを見つけた奴が居た。ピンク色のエプロンと目深にかぶったこれまたピンクの三角巾で顔が見えない、どう見ても怪しいおっさん……箒を持ってるところを見ると、掃除をしていたみたいだ。ブウの召使いってとこか? とにかくやばい! って思ったんだ。でもそいつは「もしかして、あんたら天下一武道会であの悟飯とかいうガキを応援に来てた人たちか……?」って聞いてきた。ああ……応援席で女連中が煩かったからな。目立ってたのか。そんな風に思っていたらおっさんはがばっとブルマの肩をつかんで「ビーデル、ビーデルを知らんかね!? あの子は無事か!?」と聞いてきた。って、こいつミスターサタンじゃねぇか! 何やってんだこいつ!

 

 ビーデルが無事だと聞くと、おっさんはほっとした様子でへたり込んだ。どうしてここに居るのかと聞くと、魔人ブウに無理やり連れてこられたんだと。

 

 とりあえず俺たちも忙しい。邪魔すんなよといったら、「あいつを倒す秘策でもあるのか!?」と食いついてきた。あんまりにもしつこいから簡単に事情を話すと、おっさんはしばらく考えた後なんとこう申し出てきた。「お願いだ、私に行かせてくれ」ってな。

 なんでも魔人ブウがああなる前……ブウが2体に分離した時食われちまったデブの方のブウも、もしかしたら魔人ブウの中に居るかもって思ったらしい。「ブウは、悪い事を悪い事だって知らないだけで本当は結構いい奴だったんだ……。お、俺も命を救われた。だからあの性悪がブウを名乗ってるのが悔しい! ブウを、ブウさんを助けられるなら助けてやりたい!」と言ったおっさんは真剣だった。

 そういえばデンデがブウが改心する寸前だったって言ってなかったか? ほ、本当だったのか……。まさか、このおっさんがやったってのか?

 

 この申し出にブルマは少し考えたものの、こちらも真剣な表情で答えた。

 

「じゃあお願いするわ。よく考えたら、列に居たあたしたちが全員居なくなったらブウが不審がるかもしれないし。あたしはこのままドラゴンボールを持ったまま列に並んでるわ。……でも、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「ま、任せたまえ! 私は世界チャンピオンだぞ!?」

「嘘っぱちの、ね。言っておくけど、あたし達セルを倒した人達の仲間よ。あんたが嘘つきだって知ってるんだから」

「え……」

「そ、そうですよブルマさん! こんな人信用していいの!?」

 

 プーアルの奴が声をあげるが、俺も同感だな。こんな奴本当に頼りになるのか? そりゃあ仮にも世界チャンピオンだし、戦う力だけならブルマより強いだろう。でも度胸ならぜってーブルマのが上だ。土壇場でこんな法螺吹きに重要な仕事任せて大丈夫なのか?

 

「…………ま、念押すような事言っちゃったけど駄目なら最初から断ってるわ。あのさ、あたしも親になってから気付いたんだけど……子供って、やっぱり親の影響が大きいわけよ」

「え?」

「反面教師って言葉もあるけどさ、あなたの娘さんのビーデルさん、いい子だったわ。だからあんな子を育てたミスターサタンは嘘つきでも悪い奴じゃないって思ったの。さっきビーデルさんを心配する様子はちゃんと親としてのものだったし、太っちょブウの事も真剣だった。これでもあたし、人を見る目はなかなかのもんよ?」

「だから信用するって?」

「そういうこと。それとやっぱり、少しでも戦える人がついてった方が安心でしょ? あたしはあたしでブウの目を引きつける役目を頑張るわ。適所適材ってわけ」

 

 ぱちんっとウインクするブルマに「いい年こいてウインクはねぇだろ」と言ったらぶたれた。…………こいつも俺たちが失敗したりバレたりしたら命が無いだろうってのによ。まったく、こんな風に言われたら頷くしかないじゃねぇか。

 

 

「しょうがねぇな。おいおっさん、足引っ張んなよ!」

「そ、それはこちらのセリフだ!」

「だ、大丈夫かなぁ……」

 

 

 

 そんなわけで、ここに即興トリオが誕生したってわけだ。

 ……自分で言うのもなんだけど、頼りねぇなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど予想に反して吸収された奴らの所にたどり着くまでは簡単だった。プーアルの奴の運転が乱暴だったが、俺たちはブウに気づかれることなく小さくなった体で奴の体に侵入出来たんだ!

 

 吸収された連中は魔人ブウのピンク色の肉で出来た繭みたいなもんにくるまってた。どうやら空梨以外の奴は意識無いみてぇだな。

 とりあえず俺とプーアルはハサミに変身して次々と繭のくっついてる紐をちょん切ってった。へへっ、なんだ簡単じゃないか。これなら後は脱出するだけだぜ。

 ちなみにサタンのおっさんだが、ブルマに持たされたレーザーカッターでチビ共を助けてから探していたデブブウを見つけたのかそっちの方に走って行ってた。

 

 途中まで順調だったんだ。だけど空梨の番になったところで、ハサミで紐を切ろうとしたら突然空梨が痛がった。

 

「痛ッ!?」

「へ? な、なんだよ。どうしたんだ?」

「……その子は特別なのよ。他の連中と違ってわたしともっと深いところで繋がってるから、下手に剥がすと酷いことになるわよ」

「………………………………………へ?」

 

 背後から聞こえた声にぎぎぎとさび付いたネジみたいに首をひねって後ろを見た。

 

「いい!?」

「な、何で魔人ブウの中に魔人ブウが居るの!?」

「ぎゃあああああ!?」

 

 悲鳴を上げる俺たちをよそに、地面から生えてきた魔人ブウが長い頭部の触角を女が髪の毛をかきあげるような仕草で払った。そして俺たちをぎっと睨みつける。

 

「やってくれたじゃない! どんな方法を使ったか知らないけど、まさかあなた達が来るとは思わなかったわ」

「あ、あわわ……!」

「魔人ブウ……!」

「しかも空梨ちゃん、あなたに意識があるなんてビックリだわ。やっぱりわたしとあなたって相性がとってもいいみたいね。ふふふ……剝がされそうになって痛かったでしょ? それだけふか~い所で繋がってるの。手足が千切れるくらいの覚悟が無いと剥がせないわよ」

 

 ま、マジかよ。じゃあ一番助けなきゃまずい空梨が剥がせないっていうのか!? いや、今この状況じゃ他の連中も連れて逃げられるかどうか……………………無理だな。お、終わった……。ちくしょう、もっと長生きしたかったぜ。

 

「それとサタンちゃん! せっかく可愛がってあげてたのに随分な仕打ちじゃない? あとそれに触らないで!」

「ひぃ!?」

 

 女ブウに怒鳴られて、デブブウの繭に手をかけていたサタンが飛び上がってひっくり返った。お、おい! 世界チャンピオンだろ!? もうちょっと気張れよ!!

 

「ふふふ……でも、残念ね。せっかく仲間を助けられたと思ったのに、見つかっちゃったんだもの。わたしを出し抜いたのは褒めてあげるけど、流石に体の中でここまでされちゃ気づくわ」

「あ、あの~……参考までにお聞きしたいんですが、わたくしどもをどうする気で……」

「え、殺すけど?」

 

 ですよねー! 流石にサタンの野郎でも見逃してもらえないか!

 

「お、俺まだ死にたくねぇよー!」

「そんなの僕だって! や、ヤムチャさまー!」

 

 プーアルと抱き合ってガタガタ震えるけど、魔人ブウは待っちゃくれない。少しづつこちらに近づいてきた。

 も、もう駄目だー!!

 

 

 

 

 

 けど、その時だった。

 

 

 

 

「え?」

「わわっ」

「な、何だ!? 体が浮いてる!」

 

「! チッ、お前か!!」

 

 

 突然俺たちと繭に包まれた連中が宙に浮いた。魔人ブウは今までのような余裕があるような声じゃなくて、すげぇドスのきいた声で叫んだ。その視線の先に居たのは肉繭に包まれたままの空梨だ。

 

「はんっ! 戦えないこの子たちがここまでしてくれたってのに、一人だけ呑気にしてられないっての!」

 

 そ、そうか。空梨の超能力だ!

 

「このまま念力で出口まで一気に飛ばす! 舌噛むなよ!」

「で、でもお前は!?」

「いい!」

「いいってお前……!」

「させるかぁ!!」

 

 ブウの奴が念力を止めるためか空梨の奴に殴り掛かったが、拳を受けながらもあいつは念力を止めなかった。

 

「ッ、下手に同化してるからかな? ずいぶん手加減してくれるじゃない」

「お、おのれ……! なら、あいつらを……、!? さ、サタンちゃん!? 何してるのよ!」

 

 標的を俺たちに移そうとしたのかこちらを振り返ったブウだったが、一人宙を泳いでデブのブウの所に行っていたサタンを見て顔色を変える。

 

「待ッ」

「おりゃあ!」

 

 もうヤケになってるのかブウの制止の声も聞かず、サタンはデブのブウが入った繭をレーザーカッターで切り落とした。

 

「あ、あああああああああああああ!!!!」

「な、何だブウの奴!? いきなり苦しみだしたぞ!」

「うわマジかやっちゃったか……! ええい、もういいや! とりあえず今のうちにいくよ! 歯ぁ食いしばれ!!」

「え、待って、でも空梨さん……!」

 

「だから私はいいから! 時間が無い! いい? 脱出したらすぐに逃げて! ……子供たちをお願いね」

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、俺たちは突然凄まじい速度で移動し始めた。そして魔人ブウの体外に出ると、ミクロバンドを使っている俺たち以外……吸収されてた連中が急に大きくなる。

 

「きゃあ!? と、トランクス? それにみんな!?」

 

 ちょうど目の前にはブウにドラゴンボールを差し出すブルマが居て、ブルマは驚いた顔をしたもののそれも一瞬。キッと顔を引き締めると、腕時計型の無線で待機している餃子に通信した。

 

「カモン餃子! あとデンデはすぐにダッシュでこっちに来る!」

「は、はい!」

「来たよ!」

 

 まさに神業ってやつだな。魔人ブウがどんな反応したかも分からないまま、俺たちは別の景色を見ていた。餃子のテレポーテーションで逃げ切れたんだ! いつの間にかデンデまで居る。そっか、ブウの奴デンデを近くに置いてやがったんだな。……それにしてもデンデの奴、犬なんか抱えてどうしたんだ?

 

 でも空梨が……!

 

 

「お、おい! 魔人ブウのやつ、様子がおかしいぞ!?」

 

 ほっと息をつく間もなく、逃げた先……ブルマの別荘で水晶玉を見ていた亀仙人の爺さんが叫ぶ。見ればブウの奴なんか随分貧乳……じゃねぇ、体全体小さくなっちまってるが、どうにも様子がおかしい。あの舐め腐った表情が無くなって、無表情で頭上に大きな光の球を作ってやがる。

 

「い、いかん。いかんぞ! 遠くから物凄い気を感じる。この球じゃ! あ、あやつ……もしや、地球を壊す気なんじゃ!?」

「嘘だろォ!?」

 

 せっかく生き残ったと思ったのにー!

 

 皆が絶望の表情を浮かべる中、突然部屋のど真ん中に2つの人影が現れた。

 おいおいおい……! お前、来るのが遅いんだよぉ!!

 

 

 

 

 

『悟空!!』

 

 

 

 

「みんな悪ぃ! 話は後だ。とりあえず今は逃げっぞ! 界王神様、半分頼む! オラがあと半分連れてっから!」

「わかりました!」

 

 そして俺たちの見る景色はまた変わる。

 

 

 

 

 ______________この日、地球は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スラッグとメタルクウラは番外編まで取っておけると思ってた時期が私にもありました。


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ナメック星に迫る危機!放て魂の気功砲!

 俺たちの宇宙航行は途中まで順調だった。他の惑星で勇者と呼ばれた男、しかも大昔の人間であるタピオンに話を聞きながらの旅路はなかなか楽しいものだったしな。……まあ、セルと友人になったいきさつには驚いたが。まさかあのセルが人助けをするとはな……偶然や成り行きといった可能性もあるが、どちらにせよ驚きだ。

 地球に残してきた餃子たちが気がかりではあったが、あまり気を張りすぎて閉鎖空間でストレスをためても仕方がないと俺たちはたくさんの話をした。まあこれを言ったのはヤムチャなのだが……。ヤムチャは自分でも堅いと思う俺や俺と似た思考のネイル、真面目なタピオン、気さくだが気遣い屋でもあるクリリンと違ってこのメンバー内では適度なムードメーカーだった。普段別々に生活しているとこうして複数人で集まれる機会も少ないからな。素直に楽しい時間だったと思う。

 

 

 しかし順調だったのはナメック星到着前までだ。

 

 

 ナメック星にあと少しで到着するという時に、俺たちの宇宙船の目の前で星同士の衝突事故というとんでもないことが起きた。

 ひとつはまるでタコのような奇妙な形の星、もう片方は宇宙に欠片を散らしながら動いていたボロボロの丸い星だ。どうやらタコのような星はナメック星に近づいていたようなんだが、そこにボロの星が横から衝突したんだ。それによりタコの星は軌道を変えられどこかに飛んで行ったんだが、ボロの星はぶつかった衝撃でかなりダメージを受けたようだった。

 

 そして俺たちはその星から巨大な宇宙船が一隻、ナメック星に飛んでいくのを見た。おそらくあの星に住んでいた住人が脱出したのだろう。

 

 あまりにも大規模な事態に「ちょっと事情を話して、ナメック星人達にあの人たちを受け入れてもらうように口添えした方がいいですかね?」と提案したクリリンに誰も反対はしなかった。星同士の衝突事故など、あまりにも不憫だったからな。

 

 しかし宇宙船に乗っていた連中はろくなもんじゃなかった。

 

 なんとナメック星人達を脅し、妙な機械でナメック星を厚い雲で覆ったかと思うと「この星をスラッグ様の新・惑星クルーザーに改造する!」などと言いだしやがった。

 当然俺たちはナメック星人達を助けるために応戦したさ。

 

 敵の親玉はなんとナメック星人だった。新最長老のムーリ殿が「まさかスラッグか!?」と驚いていたが……奴は心優しいナメック星人と違って、かつてのピッコロ大魔王のように悪の心に満ちていた。あの野郎、ここが自分の故郷だと気づいても躊躇せず侵略しようとしやがった……!

 奴は強かったが、なんとか俺とクリリンで力を合わせて倒すことが出来た。しかしかなり老齢だったろうにあの強さ……万が一ドラゴンボールでも使われて、ピッコロ大魔王のように若返っていたらと思うとぞっとするぜ。

 他の奴らはヤムチャ、タピオン(素晴らしい剣技だった)、ネイルで対応していたが、あいつら太陽の光に弱かったらしい。妙な機械を破壊して雲が晴れると、ボスが倒されたのもあって尻尾を巻いて逃げていきやがった。

 

 これでようやくドラゴンボールについてナメック星人達と話せる。

 

 そう思ったんだが……次から次へと忙しない。今度はタコの星が戻って来てナメック星にくっつきやがった!

 しかもその星から出てきた敵は、スラッグなんて比じゃないほどのヤバい奴だった。初めは良かったんだ……機械の兵士たちだけなら、頑丈ではあったが中枢を破壊すれば簡単に倒せたからな。だがその後に出てきた「メタルクウラ」と名乗るフリーザそっくりの奴は俺たちではとても敵わない相手だった。それも一体じゃない、ぎらぎら目に痛い輝きを放つメタルクウラは数えるのも嫌になるほどの数で俺たちの前に立ちふさがった。

 

 成すすべなくやられた俺たちは、気づけばナメック星人達と一緒に宇宙船内に運ばれていた。

 

 ふざけた話し方をする機械によれば、なんでも俺たちはすりつぶされてエネルギーを搾り取られるらしい。「じょ、冗談じゃないぜ!」「嘘だろ!? ち、地球じゃ女房と娘が待ってるってのに、こんな死に方あんまりだ!」とヤムチャとクリリンが悲痛な叫びをあげるが、俺だって嫌だ。しかし冷静なネイルとタピオンがメタルクウラが周囲に見当たらないことを確認すると、すぐに見張りの機械を片付けて「何か助かる方法があるはずだ! とりあえず今は逃げて態勢を立て直そう」と提案してくれた。

 ネイルは言わずと知れたナメック星人の中でもきっての戦闘タイプであるし、かつては最長老の守り人を務めていた者。タピオンもしばらくナメック星で過ごしていたらしく、ナメック星人達の心象も良い。そのうえ決断力もあるから、この2人は先導役にもってこいだった。俺たちは仲間と動くことはあっても、こういう時大人数を指揮するのには慣れていないからな……正直頼もしかったぜ。

 しかし相手も唯で逃がしてくれるはずがない。逃げているつもりが、いつの間にか奇妙な部屋に追い詰められてしまった。

 

『フンッ、どうやら妙な羽虫が数匹まぎれているようだな。目障りだ。ひと思いにここでまとめて殺してやろう』

 

 そう言ったのは、上下をコードのようなもので固定され機械部分がむき出しになっているメタルクウラの頭部だった。他の個体とは明らかに違う様相にこいつが親玉かと検討を付ける。そしてその周りをズラリとメタルクウラが囲んだ。

 クッ、ここまでか……! だが、このままタダでは死なん!

 

「おい、今から一か八か新気功砲で壁に穴をあける! もし外に通じたらそこから逃げるんだ!」

「ッ! 天津飯、まさかお前……!」

「穴をあけた後は俺が足止めをする! フッ、何処まで出来るか分からんがな……」

「ならば俺も残る。仮にも勇者と呼ばれた者が、一人を見捨てて逃げるなんて無様な真似は出来んさ」

「お、俺だって! 天さんだけ残して逃げられっかよ!」

「に、逃げられるかもわからんしな……。だったら全員で挑んで、少しでも抗ってやろうぜ!」

「馬鹿者! 俺たち全員死んだら希望が潰えるだけだ。逃げて、ドラゴンボールを集めるんだ!」

 

 話している間にもメタルクウラがゆっくり迫ってくる。話している暇はない!

 

 

 

「新気巧砲!!」

 

 

 

 俺が放った気功砲の進化形、新気功砲は俺の期待に応えてくれたようだ。壁に数メートルを貫く穴が開き、外の景色が見える。

 

「行け!」

「でも!」

「くどい! …………だが、ひとつ頼めるか。もし無事に地球に帰れたら、ランチに愛していたと……そう伝えてくれ」

 

 餃子なら伝えずとも俺の気持ちを汲んでくれるだろう。だがずっと俺を一途に想い続けてくれていたランチには、結局ひとことも想いを伝えられなかった。死を目前にして未練がましいな……我ながら女々しくて笑えてくるぜ。

 だが前に進み出た俺の隣でカチャっと金属音がした。見れは剣を構えるタピオンが鋭い眼光でメタルクウラを睨みつけている。

 

「断る。そんなもの自分で伝えろ!」

「タピオン……」

「この中では俺が一番弱いから頼りないかもしれんが、俺もこれで頑固なんだ。共に戦わせてもらうぞ!」

「ッ、馬鹿野郎!」

 

 言いながらも、俺たちは前に踏み込んだ。こうなればやれるとこまでやるまで! 俺に付き合った事、あの世で後悔しても遅いからな!

 

 

「「はああああああああ!!!!」」

 

 

『馬鹿め』

 

 突っ込む俺たちの前にメタルクウラの一体が瞬時に現れる。な、速い! 

 

 とっさに新気功法の構えを取るが間に合わん。

 格好つけておきながらこの様とは情けない……! だが、せめて気功砲のエネルギーを弾けさせて自爆くらいはしてやるぞ! 俺の魂すべてを賭けてやる!!

 

 

 

 そう思った時だった。

 

 

 

 

「やれやれ、タピオン。君は少し目を離すとすぐ死にかけるな」

 

 

 

 

 ザンっとメタルクウラの体が数体まとめて真っ二つになった。そして俺たちの前に立つ、緑色の人影。

 タピオンが信じられないというように、しかし喜色を滲ませてその者の名を叫んだ。

 

 

 

「セル!」

 

 

 そう、そこに居たのは紛れもなくあのセルだったのだ! 自爆して死んだと聞いていたのに何故このナメック星に!?

 

 

 

「この相手とは私も多少因縁があるのでね。ここは譲ってもらおうか」

『貴様はセル……!』

「やあ、久しぶりだなクウラ。しばらく見ないうちに随分いい趣味になったじゃないか」

『ククク……あの屈辱、忘れはせんぞ! ……いずれ貴様を探し出して始末する予定だったのだ。丁度いい。ここで今すぐ殺してやろう!』

 

 クウラが叫ぶなり、真っ二つになったはずのメタルクウラが体から無数の触手を出して体を繋げ復活する。クソッ、あんなことまで出来るのか! だがセルは余裕の表情を崩さず「チッチッチッ」と言いながら人差し指を立てて左右にふる。

 

「ナンセンスだな。貴様ごときいくら束になってかかってこようと、今の私には勝てんよ。かつての私にすら手も足も出なかったのだからな」

『黙れ! その余裕がいつまで続くかな?』

「無論、最後まで」

 

 

 それからはあっという間だった。

 

 

 

 宣言通り最後まで余裕を崩すことなくセルはメタルクウラを叩き伏せ、最終的に頭部のみだったクウラが機械の繊維で体を作り出し襲ってきたがそれもなんなくねじ伏せた。そしてセルはそのクウラの頭部から何やら小さな機械のチップのようなものを引き出すと、そのまま破壊。すると周囲全ての機械が自壊を始めたのだ。

 俺たちはナメック星人達を連れてなんとか気功砲であけた穴から脱出すると、ナメック星から離れ壊れながら宙に去っていく機械の星を見送った。

 

 

 

 

「なあ……今回、本当に助かったな」

「ああ……そうだな」

「けどさ……頼むから、誰かあれに突っ込んでくれないか?」

「……………」

「おい、頼むよ。目をそらすなよ。なあ、クリリン。あれのこと聞いてくれよ……」

「い、嫌ですよ……。そんなに気になるんだったらヤムチャさん聞けばいいじゃないですか」

「え、ええ~……俺にはちょっと無理かなぁって……」

 

 

 セルに助けられ、俺たちは命拾いした。だがセルがここに居る事、セルがクウラを圧倒的な力で倒したこと。その全ての事実をもってしても敵わない、奴が現れてから俺たちの視線と意識をいやがおうにも引き付けるものがあった。

 

 ヤムチャはしばらくうんうん唸っていたが、とうとう我慢できなくなったのかやけくそのように叫んだ。

 

 

 

 

 

「何で昆虫みたいな羽の上に更に天使みたいな羽が生えてんだよ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「セル、その翼は?」

「これか? クククッ、どうやら私の品格が表に現れてしまったようでね。実は精霊になったのだが、その際に生えてきたのだよ」

 

 

 

 

 言いたいことは色々あるが、とりあえず普通に聞いたタピオンは凄い奴だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悟空さんと界王神様に連れてこられた場所は、恐ろしく神聖な空気に満ちた場所だった。おそらくだけど、ここは界王神界なのだろう。

 

 界王神様から地球がブウによって消滅させられたと聞いて、膝から力が抜けてしまった。僕が神として守るべき星が消えてしまった……。ああ、どうしてこんなことに!

 でも慌てて支えてくれたポポさんと、今まで僕が抱えていた仔犬が心配そうに寄り添ってくれたことで少しだけ気を取り直した。

 そうだ、落ち込んでいる場合じゃない! 幸い地球のドラゴンボールはブルマさんが持ってくれていたし、クリリンさんたちもナメック星に向かってくれている。地球を元に戻して、人々を蘇らせることも十分可能だ。

 

 

 けど、僕たちに落ち着く暇は与えられないらしい。

 

 

 

「逃げろ、サタン!」

「ブウさん!?」

 

 大きな声に反応してそちらを見れば、何故か居るもとの太った魔人ブウが男の人を突き飛ばしていた。そしてそのすぐあと、太ったブウの体が突如出現した魔人ブウに食いつかれる。随分小さくなっているけど、おそらくそうだ。理性の面影も無くなってしまったようだけど、太ったブウに食いつく様子はかなり必死に見える。

 

「な、魔人ブウ!? 何故ここの界王神界に!」

「い、今のテレポーテーションだ! 僕のと同じ! で、でも宇宙を越えるなんて出来るわけ……!」

「出来が違う、のよ……! 目の前で一回見せてもらえば十分だわ……! ふふふふふふふっ、よくもやってくれたわね……! ぎりぎり残ってた意識でデブを追うのには苦労したわ……!」

 

 半分以上を食らいつくされたところで、なんとかエネルギー波で太ったブウが魔人ブウを引きはがした! けど魔人ブウはまた変容し、若干その体を大きくすると先ほどと違って理性のある声を絞り出した。だけど顔中に筋が浮かび、何かをこらえるようにしてる姿はかなり苦しそうだ。

 

 

「そこの太ったブウはわたしの理性の要。残りも全部取り戻させてもらうわよ!」

「ぶ、ブウさんに近づくな!」

 

 太ったブウの前にさっきの男の人が立ちふさがる。そして更にその前に悟空さんが無言で立ちふさがった。

 魔人ブウはそれを忌々しそうに見ていたが、ふと界王神様を見つけるとニヤリと顔を不気味な笑みに歪めた。それに思わず悪寒が走る。

 

 

「か、界王神様! お逃げください!」

 

 

 とっさに叫んだけど、遅かった。ブウは今までの標的を捨てて界王神様に襲い掛かったんだ!

 

 

 

「あはははははははははは!! いいわ、また全部吸収すればいいんだもの! だけどあなたは駄目! 死になさい、破壊神もろとも!! そうすればわたしを害するものは居なくなる!!」

 

 思わずブウの腕が界王神様の胸を貫く光景を幻視する。

 しかし、それが現実になることはなかった。

 

 

 

「誰を死なすって?」

 

 ブウのピンク色の腕をつかむ、紫色の腕。界王神様の前に立つその人は黄色い目を細めてこう言った。

 

 

 

 

「破壊しちゃうよ?」

 

「破壊神、ビルス……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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界王神と破壊神

 

______________________________________ 時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 元地球の神でもあるピッコロさんのおかげでバビディの呪縛から逃れた私たちは、悟空さんと悟飯さんを連れ命からがら界王神界にまで逃げ延びた。そしてキビトがお二人を回復させると、彼らはすぐに地球へ戻って戦おうとした。当然私たちはそれを止める。

 

「ま、待ってください! 今地球に戻ってもまたやられてしまいますよ!? ら、ラディッツさんやベジータさんも死んでしまいましたし……!」

「いや、だけどオラ達にはまだスーパーサイヤ人ゴッドがある。…………魔人ブウだけならオラのスーパーサイヤ人3でもいい線行くと思うんだけどな。けど、色々舐めてた結果がこれだ。チビ共を巻き込んじまうが、ゴッドで一気に片を付ける」

「スーパーサイヤ人ゴッド……ですか?」

「はい。正しい心を持ったサイヤ人が6人そろって初めて変身できる僕たちの切り札です」

「ははっ、姉ちゃんの言う通り本当に必要になっちまったな」

 

 神の名を冠する変身形体か……! まったく、彼らは本当にこの界王神の想像を軽々と超えていく。しかし先ほどまでの戦いも凄かったのに、更にその上があると聞けば期待せざるを得ない。彼らなら本当に魔人ブウを倒してくれるかもしれない!

 

「……わかりました。地球まですぐにお送りしましょう。ふふっ、本当はゼットソードを授けようと思っていたのですが、あなた方には必要ないらしい」

「! ぜ、ゼットソードを人間に与える気だったのですか!?」

「? そのゼットソードっちゅうんは何なんだ?」

 

 キビトが驚くが、それも無理はない。歴代の界王神の誰もがあの剣を引き抜くことすら出来なかったのだから。

 

「界王神界に古くから伝わる地面に突き刺さった伝説の剣だ。引き抜けば凄まじいパワーを得ることが出来ると伝えられている。とても人間ごときに……いや、でもなぁ……もしかすると、お前たちなら……」

 

 あの頑固なキビトが言葉尻を濁している。彼も悟空さんたちの実力をずっと見ていましたからね……。彼らならゼットソードを引き抜けるかもしれない、という可能性を否定しきれないのだろう。

 

「へえ、引き抜くと凄いパワーが……。なんだか昔話みたいですね」

「気になりますか?」

「え? いや、でもすぐに戻らないと……」

「………………。いえ、多少時間の猶予はあるようです。今地球の様子を探ってみたのですが、どうやらあの場から仲間の皆さんは無事に逃げられたようですし、魔人ブウたちは悟空さんたちを探して移動し始めた様子。今は……。おや? ど、どうやら何処かの店で休憩しているようですね。ブウは何やら丸い食べ物に夢中のようですし、しばらくは大丈夫でしょう」

「お、界王神様も界王様みてぇに遠くを見れんのか! 便利だよなぁ、それ!」

「これ! 無礼者!」

「…………い、一応私は界王よりも上の存在なのですが」

 

 彼らの私に対しての印象が非常に気になる所だが、正直ここまでほとんど役に立てていないのでつい声が小さくなる。

 ああ、魔人ブウとの戦いでお亡くなりになられた大界王神様、他の界王神……やはり、若輩の私にはまだ界王神という役目は重すぎたのでしょうか。

 

「じゃあ折角だしよ、その剣を引き抜いてみようぜ! また何があるかわからねぇし、パワーアップできるならそれに越したことねぇや!」

「で、伝説の剣をそんなついでみたいに扱うな!」

「ま、まあまあキビトさん落ち着いて。でも伝説の剣か……。僕もちょっと興味あるなぁ」

「では、ゼットソードの場所までご案内しましょう」

「界王神様!?」

「ブウに勝てる確率を少しでも上げるためです。さあ、行きましょう!」

 

 そうして私たちはゼットソートのある丘までやってきた。そして剣を引き抜く役目は「潜在能力は悟飯のが上だからな。折角だし、おめぇがやってみろ! もしかしたらおめぇもスーパーサイヤ人3になれっかもしれねぇぞ!」と悟空さんが悟飯さんに譲ったため悟飯さんがやることに。

 そして私の期待を裏切らず、見事に剣を引き抜いて見せたのだ!

 

 しかし悟飯さんに何か変化が起こるわけもなく、悟空さんには「ただの重い剣じゃねぇのか?」と言われてしまう始末。そ、そんなはずは……!

 いや、きっと切れ味が素晴らしいに違いない! そう思って宇宙一硬い金属であるカッチン鋼を呼び出してみた。そしてそれを悟空さんに投げてもらい、それを悟飯さんが待ち受ける。ふ、ふっふっふ……きっとスパスパっと切れてしまうに違いない……!

 

 

 

 

 

 

 キンッ

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………へっ?」

「お、おいおい界王神様、剣折れちゃったぞ!?」

「な、なん……だと……!」

 

 ま、まさか! 伝説の剣が、伝説の剣が折れてしまうだなんて……!

 しかし驚く私たちをよそに、それぞれ別方向からこの場に居る誰でもない声が聞こえた。

 

 

 

「へっへ~。やぁ~~っと出られたよ~ぅ」

 

「おいおい。勝手に僕の施した封印を解くんじゃないよ」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

 もう、あとはどこから驚いていいのやら。

 

 折れた剣の中から現れたのは15代前の界王神を名乗るお方、そして岩の上に座って不機嫌そうにこちらを見ていらしたのは破壊神ビルス様。ウイス様がほがらかに「お久しぶりですねぇ。お元気でしたか?」とあいさつしてくださったが、私とキビトは「は、はい」と返事する以外言葉を発せなかった。

 

 

「なあ、あんた達誰だ?」

「こ、これ! 誰だか知らんが口を慎め! こちらは宇宙一お強いお方、破壊神ビルス様じゃ!」

「宇宙一!?」

「そういうあなたもいったい……15代前の界王神様って本当ですか?」

「本当だよ。やあ、久しぶりだね。封印された気分はどうだった?」

「ぐぐ……! 本当にお久しぶりですな! ふ、ふふんっ、なかなかに快適でしたわい。随分長い間昼寝してしまったの~」

「へ~え、そんなに良かったんだ。じゃあもう一回封印してあげようか」

「お、お断りしますわい! ところでそこの若い界王神よ! 何故聖域に人間がいるのじゃ!?」

 

 突然水を向けられて、おもわずびくっと背筋を伸ばす。

 

「そ、それが……! 魔人ブウという、我々の手に負えない化け物が現れまして……! 彼らの手を借りて魔人ブウを倒そうと……」

「ふ~ん。実は知っとるもんねー。お前がいつまでもあわあわしとるから、話しかけてやったんじゃ。もっとしゃんとせんかい!」

「は、はあ……」

 

 話題をそらしたかっただけじゃあ……いや、言うまい。まだ少ししかお話していないが、この方には口で勝てそうにない。

 おもわず肩を落としながら答えていたのだが、今度は別の声で再び背筋が伸びる。

 

「そうそう! そうだよ! お前……現界王神!」

「はい!」

「何でわざわざ自分で直接魔人ブウの所へ行ったんだ!? ……お前、色々な意味で自分の命の重さを分かってないね」

「それは……」

 

 う、迂闊だった。

 この私界王神とビルス様はそれぞれ創造神と破壊神、対になる存在であり、その命は共有される。どちらかが死ねばもう片方も死ぬのだ。自ら危険な場所に飛び込んだ私にビルス様がお怒りになるのも無理はない。

 

「ウイスから聞いた時はびっくりしたよ。僕もちょっと前に起きたばっかりで、仮眠にもならない浅い眠りだったってのに起こされてさぁ……」

「ほ、本当に迂闊でした。申し訳ありません……!」

「謝って済む問題かな? 君には界王神としての自覚ってものが足りないよ」

「返す言葉もございません……」

「もしこういう行動をするなら、せめてもう少し強くなるんだね。精進なさい」

「はい!」

 

 う、うう……今日は散々だ。自業自得とはいえ、ご先祖様と破壊神様両方から怒られるなんて。

 

 

 

 

 

「ところでそこの君、さっきスーパーサイヤ人ゴッドって言ってなかったかい?」

「へ? お、オラか?」

「そう、そこの君だよ。……もしかして君が孫悟空かな」

「ああ! オラ、孫悟空だ。え~っと、ビルス……様? なんでオラの事知ってんだ?」

「なぁに、君のお姉さんと知り合いでね。以前君の話を聞いたんだよ。とっても強いんだってねぇ?」

「なんだ姉ちゃんの知り合いかぁ! ああ、強ぇぞ! …………まあ、魔人ブウに負けた今の状態じゃ胸張って言えねぇけどな」

 

 それを聞くとビルス様は後ろで腕を組んで、悟空さんを観察しながらグルグルとその周りを歩く。

 

「う~ん、今のままじゃたしかにあんまり強そうに見えないねぇ」

「へへっ、でもスーパーサイヤ人になれば全然ちげぇぞ! 見せてやろうか?」

「いえ、結構。だって変身しても魔人ブウに敵わなかったんでしょう?」

「うっ、痛ぇとこつくなー」

「事実じゃないか。そうか、それでゴッドになって魔人ブウを倒すつもりなんだね?」

「ああ!」

「却下」

「え!?」

 

 ビルス様からの突然のダメ出しに、ウイス様以外その場にいたほぼ全員が驚く。まさか突然現れたビルス様にダメ出しをされるとは……い、いや、違う。きっとあれだ。そういうことだ!

 

「で、ではビルス様自ら魔人ブウを破壊してくださるのですね!? そうか……! でしたら、もう安心ですよ悟空さん、悟飯さん! この方にかかれば魔人ブウなど赤子の手をひねるも同然です!」」

「ひゃ~! あの魔人ブウをか!? そんなに強ぇえのかこの人!」

「人じゃなくて、神ね」

「そんな強い神様が居るなんて……! あれ? でも、だったらどうして界王神様は最初からこの方に頼らなかったんですか?」

 

 うっ、悟飯さん、無害そうな顔をして痛いところを……!

 

「か、神の間でも色々あるのですよ。兼ね合いとか……」

「ほほっ、声が小さくなってますよ界王神さん」

 

 言わないでくださいウイス様……私今、とっても胃のあたりが痛い気がするのです。

 

 

 

「まあ、僕が倒すわけじゃないんだけど」

「へ!?」

 

 で、では何故!?

 

 

 

「じゃあビルス様よぉ、ゴッドが駄目っていうのはどういうことだ? あんたが代わりにブウを倒してくれるわけでもねぇんだろ?」

「それはねぇ、今の君たちが弱いからだよ」

「えっと、それってどういう……。ゴッドになれば、多分素の力に関係なくすぐに倒せちゃうと思いますけど……」

「ブウはそれでいいよ。でも、その後で戦う僕としては今のままじゃ不満だね」

「戦う……? え、もしかしてビルス様、オラと戦ってくれんのか!?」

「何で嬉しそうなんだい? 現状じゃブウにも勝てないくせにさ」

「いやぁ、だってよ。宇宙一強いなんて聞いちまうとなー」

「お父さん、今はそういうのいいですから。それでビルス様、事情をお聞きしても?」

 

 

 

「では、僭越ながらわたしからお話ししましょう」

 

 そう言って一歩前に出たのはウイス様だった。

 

 

 

 そして彼らの事情を聞いたのだが、なんというか……ますます胃が痛くなった気がした。

 

 何でもビルス様は過去に予知夢で未来で自分に強敵が現れると知ったらしい。それがスーパーサイヤ人ゴッド。

 ところが予知夢で見た時期より前に、不思議な気配を感じて目覚めてしまった。理由を知るために訪れたのは悟空さんの姉である空梨さんのところ。どうやら彼女、本名はハーベストという惑星ベジータの王女だったらしい。

 彼女により悟飯さんがセル(あれ、セルってもしかしてさっき居た……)を倒すためにゴッドになったことを知ったビルス様だったが、予言と時期が違うことに違和感を覚えた。すると空梨さんは自らの占いで「ビルス様が予知したゴッドはこの先更なる強敵と戦い成長した悟空がいずれなる姿だ」と予知したそうだ。

 それを信じてもうしばらく眠ろうとしたビルス様だったが、ビルス様の代わりに悟空さんの成長を時々見守っていたウイス様が今回の騒動に気づいて再びビルス様を起こされた。で、色々あって今に至ると……ここまでは、まあ納得できる。けど問題はここからだ。

 

 

「ブウを自力で倒すくらい強くなれなきゃ、ゴッドになんてさせられないなぁ。いくらゴッドといったって、素の力に影響されないとでも? ブウごときになら十分だろうけど、僕を相手にするなら不十分だよ」

「そ、そんなぁ! でも今は急いでんだ! オラ、もっと修行して強くなっからよ! それじゃあ駄目なんか?」

「駄目だね。僕は早々に起こされて不機嫌なんだ……。強敵と戦って、短期間でパワーアップ出来ないなら地球ごと破壊しちゃうよ」

「そんな……!」

 

 ビルス様の言葉に全員が焦った表情を浮かべた。こうしている間にも魔人ブウは破壊を繰り返しているというのに……!

 これはダメもとで悟空さんたちに再びブウに挑んでもらって、自力でパワーアップして勝ってもらうほかないのだろうか。

 

 しかし焦る中、更なる悪い知らせが届く。教えてくれたのはご先祖様だ。

 

 

「お、おい! とんでもないことになりおった! 魔人ブウの奴……2体に分離して、比較的善寄りだったデブの方を悪の塊が取り込んじまった!」

「なんですって!?」

「今の奴は純粋な悪じゃ! し、しかもなんじゃこりゃあ! あの世まで大変なことになっとるじゃないか!」

「ええ!?」

 

 もう何に驚けばいいのやら! 慌てて私も地球とあの世に意識を向けたが、たしかにとんでもないことになっている。なんだ、あの世に居る凄まじい邪気を感じる化け物は!? え、閻魔が閉じ込められている……! これでは死者たちの秩序が乱れてしまうではないか!!

 

 

「丁度いいんじゃない? ブウの他にも強敵が現れた。君、ちょっと行ってやっつけてきなよ」

「オラか? って、ブウの他の強敵ってどういうことだ?」

「じ、事情は私から話します……!」

 

 そして事情を知ると、悟空さんはすぐにあの世に向かおうとした。しかし突然すぎて、いきなり向かうのはあまりにも軽率だと待ったをかけた。

 

「なんだよ界王神様~。どっちにしろ、あの世をどうにかしねぇとベジータ達も生き返れねぇし、ブウだってやっつけても生き返えちゃうかもしんねぇじゃねーか」

「そ、それはたしかに……! ですがっ」

「お父さん行ってください! ブウは僕が何とか止めて見せます。キビトさん、送ってくれませんか!?」

 

 悟飯さんも焦っているようでキビトに詰め寄るが、そこに老界王神様が待ったをかけた。

 

「おいおい、せっかくわしが蘇ったんじゃぞ~。このまま行ってもどうせ負けるだけじゃろ。どうじゃ、わしがお前さんを強くしてやろ~うか~?」

「え、本当ですか!? そ、そんなことが可能なんでしょうか……!」

「本当じゃとも! なにせその素晴らしい能力が原因でわしは封印……」

「ゴホン」

「…………え~、まあ、本当じゃ。ちーっと時間はかかるがの」

「そうか……。じゃあ悟飯、おめぇはここに残れ。オラがあの世をなんとかしてくっから、おめぇはここでパワーアップしてブウとの戦いに備えるんだ!」

「…………ッ! はい……わかりました」

 

 悟飯さんはすぐに地上へ行けないのが悔しいのか、歯を食いしばってうつむきながらもなんとか了承した。

 けどここでまたビルス様が不満の声をあげる。

 

「おい、儀式ってあれか? 僕としてはあれは反則技みたいで気に食わないんだけどね」

「ふ~んじゃ、ご自分の我儘のためにゴッドを作らせないくせに、これくらいも認めてくれない気ですかな? あ~あ、心が狭いの~」

「何!?」

「ビルス様、それくらい良いじゃありませんか。あまり我儘ばかり言ってると、ビルス様と戦える強~いゴッドが現れる前に、みんな死んでしまいますよ?」

「………………。チッ、好きにしなさい」

 

 ほっ……。ウイス様のおかげでなんとかその儀式とやらは認められたようだ。

 それにしても先ほどからの会話を聞いていると、ご先祖様を封印したのはビルス様で、その原因がそのパワーアップのための儀式のようだ。こ、これは期待できるぞ……! 破壊神すら恐れる儀式とはいったい!

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンフンフーン♪ フフーンフーン♪♪ フフーンフフフン♪ ヘイヘイ!!フンフーン♪ フフフーン♪ ゴーゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………………………………………………………………』

 

 ご先祖様が、腕を上下に振り上げながら悟飯さんの周りをぐるぐる回っている。

 

「あの、それは……」

「静かに! 大切な儀式なのだ!」

「時間ってどのくらいかかる物なんでしょう……」

「儀式に5時間! パワーアップに20時間じゃ!」

 

 

 

「じゃ、じゃあオラ行くな。頑張れよ悟飯」

 

 そう言って悟空さんはあの世に向かい。

 

「僕は弁当でも食べてるかな。おいウイス、持ってきてるよな?」

「はい、ここに」

 

 ビルス様たちはお食事を始めた。

 

 

 

 

「わ、我々はやはり見ていないとまずいだろうな……」

「で…………、でしょうな……」

 

 私とキビトは立ったままその儀式を見守ることにした。

 

 

 

 

「つ、つらい……」

 

 

 

 悟飯さんの切実なつぶやきは、何故かとてもよく耳に響いた。

 

 

 

 

 



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魔人ブウの提案

 自分の腕をつかむその存在に、わたしは酷く怯えた。

 

 

 

 

 破壊神ビルス。この第7宇宙の中でも最強の存在。創造神たる界王神の対となる破壊の神。

 

 

 

 

 孫空梨を吸収したことによって得た知識が脳内を駆け巡り、それは瞬時にわたしにひとつの行動をとらせた。

 すなわち、敬意を払い跪くことだ。

 

「…………これはこれは、破壊神ビルス様。わたくしのようなものが、あなた様にお会いできるなど光栄にございます」

「フンッ、白々しいね。……お前、界王神と僕の関係を知っているな? そのうえで彼を殺そうとした。覚悟は出来てるんだろうね」

 

 クッ、余計な口がすべったか。この方はどこか抜けた面もあるにはあるが、根本には神としての厳格な面を持ち合わせている。そう簡単にはごまかせまい。ならば逆に素直に謝ってしまう方がよいだろう。

 

「大変なご無礼をいたしました」

「それで済むとでも?」

「いいえ? …………ですが、どうか先ほどまでのわたしの理性が安定してなかったこともご考慮願いたいのです。あまりにもお強いビルス様に対する怯えを抑えきれなかった故の行動でございますれば」

「ほう? 無駄に口が回る様だねぇ。小賢しい」

 

 しかし何を思ったのか、ビルスはわたしの腕を放した。……破壊は免れないと内心冷や汗をかきながらの言い訳だったが、少なくとも今すぐ破壊される心配は無いらしい。

 

 このわたし、魔人ブウの意識は孫空梨を吸収してからというもの急速に自我を確立させた。今までの衝動によってのみ行動する魔人の意識からたしかな理性のあるものへと進化を遂げたのだ。

 彼女とわたしの相性が良かったのか、それとも空梨がセルが特異点と称する異世界の魂を持つ者だったからかは分からない。しかし空梨を吸収してからというもの、わたしの意識はかなりの透明度で澄み渡った。その分彼女の意識に影響されている面が大きい事も自覚したが、それは特に気にならなかった。だって、今までのわたしときたら目的もなく本能だけで突き動く馬鹿だったんだもの。それに比べたら今の方がよっぽど素敵だわ。…………太ったブウを引きはがされた時は、またアレに戻るのかと思ってぞっとしたわね。なんとか無理やりデブを半分以上取り込むことで意識を取り戻したけど、正直まだちょっと苦しい。出来れはすぐにでもデブか、もしくは知性の高そうな奴を吸収して精神の安定を得たいところだわ。

 わたしがわたしで無くなる…………それは、確かにわたしに恐怖というものを覚えさせたのだから。

 

 

 嫌よ。私は楽しく生きるの。

 もうビビディもバビディも居ない。わたしに命令してわたしを縛るものは誰も居ない。なのに、奴らが好きなように作った命の本能のままに生きれば支配されているのと変わらないじゃない!

 そんなの絶対に嫌。わたしは自由に生きるのよ!!

 

 

 孫悟空らを倒してしまえば、あとは破壊神ビルスしかわたしの邪魔をする者は居ないと思っていた。だから彼と対になる存在……界王神を見つけた時はしめたと思ったわ。こいつを殺せばビルスも死ぬ。そうすれば地球だけじゃない、宇宙全部がわたしのおもちゃ箱! 好き放題出来るってね。

 でもそう簡単にはいかないみたい。だったら今は妥協しましょう。

 

 

 

「おいおい、魔人ブウ! おめぇ、ビルス様に対しちゃずいぶん態度がちげぇじゃねーか」

「お黙り孫悟空。わたしは今ビルス様とお話ししているのよ」

「な、何だってぇ!?」

 

 さっきから無視されていた孫悟空が不満そうに話しかけてきたが、煩い。こちらは生きるか死ぬかの大勝負を頭の中で考えているのよ! お前など後回しだわ!

 

「時にビルス様、ひとつ提案したいことがございます」

「何だい? 言うだけ言ってみなよ」

 

 よし、聞く態度を示した。これならばまだ生き残る勝機はある。

 

「このわたし、魔人ブウはこうして理性を手に入れました。もう本能で無暗に暴れまわる魔人ではございません。そしてわたしの望みはささやかなもの……地球だけにございます。地球さえ手に入れられたら、他は望みませぬ」

「…………ほう? でも、地球は君が壊しちゃったじゃないか」

「ドラゴンボールで蘇らせることが可能です。もちろんそこに住む住民も」

 

 言いながらブルマちゃんが持つドラゴンボールと地球の神、デンデちゃんを見る。ふふっ、身構えなくてもいいわ。わたしに有用なうちは殺さないであげるもの。

 

「そういうわけで、わたしの危険性は宇宙に関してはまったく意味をなさなくなりました。これから行われる孫悟空らとの戦いは、いうなれば地球内での内輪もめに留まる範囲……宇宙の神であるあなた様や界王神様が関わるほどのものでは無いのです。ビルス様も今まで飽きるほど知性ある生き物同士の間でおこる争いを見てこられたでしょう? これは言うなれば生物の性、連綿と繰り返される飽くなき理……わざわざ神々の手を煩わせるものではございませぬ」

「だから僕には手を出すなっていうのかい?」

「ええ。ありていに言えば」

「ふぅん。ま、言われてみればそうだねぇ」

「し、信じてはいけませんビルス様! その魔人ブウはかなり悪辣な性格をしております……そんな言葉、信じられません! ただ屁理屈をこねているだけです!」

「でも、僕は元々きみに手さえ出されなければ傍観する気だったからねぇ。で、君の提案はそれだけかい? だったらつまらないなぁ。わざわざこの僕が起きて出向いてきたってのに、何もせずに帰れなんて虫が良すぎるよ」

 

 界王神が余計な口をはさんだが、ビルスはどうやら聞く姿勢を崩さないようだ。しめた……!

 

 

 

「では、こういうのはどうでしょう。あなた様方神々の御前で、このわたし魔人ブウと地球の代表が勝負をするのです。ご足労いただいたに見合う戦いをお見せできれば、せめてものお詫びになるかと愚考いたします」

「つまり御前試合ですね。面白そうじゃありませんか、ビルス様」

「う~ん、試合ねぇ……」

「勝った方が地球を好きに出来る権利を手に入れるのです。もちろんわたしが勝った暁には、地球にて最上のおもてなしをさせていただきますわ」

「ちょ、ちょちょちょっと! あんた何勝手な事言ってんのよ!? び、ビルス様……だっけ? こ、こっちだって勝ったら最っ高のおもてなししちゃうわよー!」

 

 チッ、ブルマちゃんめ。神と魔人の会話に口を挟むなんていい度胸してるじゃない。

 表情には余裕をにじませて、しかし内心では冷や汗をかきながらビルス様の反応を窺う。

 

 

「くっくっく……。あわよくば、神の了承を得て確実な支配権を手に入れようって腹かい? 実に自惚れ屋で小賢しい奴だよ、君」

 

 

 ……! 駄目か……?

 

 

 しかし、運は私に味方したようだ。

 

 

 

 

「いいだろう。この破壊神ビルスが、地球の命運をかけた戦いを見届けてやる。ただしつまらないものを見せたら、どっちも破壊しちゃうからね」

「! ありがとうございます!」

 

 あははははははは! これで言質はとった!

 

 

 

 

「そういうわけで、孫悟空。お相手は貴方でかまわないかしら?」

「ブウ、おめぇ……!」

 

 

 

 ふふふ、存分にかかって来なさいな。

 だけど甘いあなたが、果たしてあなたの姉を体内に捕らえるわたしを殺せるかしら。

 

 せいぜい苦しんで苦しんであがいてもがいて無様に死ぬがいい! 猿が!!

 

 

 

 

 

「どちらかが死ぬまでで構わないわね? さあ、始めましょう。神々の御前試合を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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全員集合!勝つのはどっちだ?神の御前試合

 僕たちが目覚めた時には、すでにお父さんと魔人ブウの戦いは始まっていた。

 

 ブルマさん達に事情は聞いたけど、まさか魔人ブウを目の前にして僕らが助けに入れないなんて……! もしそれをすれば、破壊神ビルスという方の機嫌を損ねてしまうらしい。そうすれば、どちらにしろ僕らは敗北するのだ。

 

 

「だりゃああああ!!」

「甘いわよ!」

 

 

 

 どうやらお父さんがブウを追い詰め、そのすきにブルマさんが作った発明で僕らを助けた時のように再度ブウの体内に侵入しておばさんを助け出すことにしたらしい。ブウと戦う直前にブルマさんがこっそりお父さんに耳打ちした作戦らしいけど、でもあの接戦ではその隙が無い!

 スーパーサイヤ人3になって戦うお父さんだったが、魔人ブウは強かった。吸収した僕らを失ったから弱体化すると思いきや、パワーこそ下がったがその戦いのセンスと来たら馬鹿みたいに高い。

 

「あなた達、はじめ魔人ブウの何を恐れたのかしら? それは、学習能力では無かった!? あっははははは! パワーこそ全てなんて脳筋と一緒にしないでほしいわ! わたしは学習する。そして一度吸収した者たちの経験も全てものにした! 弱くなったんだと思っていたのならとんだ勘違いよ!」

「弱ぇなんて思っちゃいねぇ! おめぇは一人ぼっちでよく頑張ってるさ!」

「な、何よ。一人ぼっち? 同情しようっての? 馬鹿にして!」

「ちげぇよ! すげぇって言ってんだ。姉ちゃんには悪いけど、今ちょっとわくわくしてる。おめぇみたいな凄い奴と戦えるんだからな!」

「悟空さー! そんなこと言ってねぇで、空姉さまの事頼むだだぞー!」

「わ、わかってるよチチー!」

 

「は、はは……。お父さんはお父さんだなぁ……」

 

 ブウの奴も想定外だったろうな……。きっとおばさんが体内に居るから本気で攻撃できないと踏んでただろうに、お父さんときたら全力だ。それだけブウの実力を認めてるってことなんだろうな。簡単には死なないって。

 半分くらい呆れてるけど、試合を見守るみんなの顔からはいつの間にかさっきまでの暗い影が消えていた。……やっぱりお父さんは凄い。

 

 

「カカロットの野郎……こんな時に楽しみやがって」

「お、おい! あれは大丈夫なのか? 空梨は無事に済むんだろうな? あいつは救出出来たのか?」

「! ベジータさんにラディッツおじさん!? ど、どうしてここに……! っていうか、もしかして生き返ってます!?」

 

 聞き覚えのある声にばっと振り返れば、そこにはあの世に居るはずのベジータさんとラディッツおじさんが居た。驚く僕をよそに、ブルマさんとトランクスがベジータさんに、空龍とエシャロットと龍成がおじさんに突進していった。

 

「べ、ベジータの馬鹿ぁ! あ、あんたねぇ、どんだけ心配したと思ってんのよぉ!」

「ぱ、パパ! 生きてるんだよね!? パパ生きてるんだよね!?」

「く、くっつくな! …………心配をかけたな。今戻った」

「「「おどうざーーーーーーん!!うあ゛あ゛あ゛ああああああーーーー!!」」」

「こ、こら! 3人まとめて泣くな! エシャロットはともかく、空龍と龍成、お前たちは男の子だろう!」

「だ、だっで、ぼぐがぼっどづよがっだら、おどうざん、死んでながったがも……うええええええーーー!」

「お、おにいじゃんだって、ないでるも゛ん、ぼくだって、泣いていいんだも゛ん……!うあああああーーー!」

「お父さんお父さんお父さん! ひうううううう!」

 

 は、話しかける隙が無いな……。

 呆然と見守っていると、ふいに肩を叩かれた。

 

「家族の再会は見守ってやりたまえ、孫悟飯」

「! せ、セル!?」

「地球とブウが復活した日から死んだ者はパワーアップしたナメック星のドラゴンボールで蘇ったぞ。界王星に居た奴らは私が瞬間移動で連れて来てやったのだ。感謝したまえ」

「え、いや、何が何だか……! っていうか、羽!?」

「そうだよな。そこ、まず突っ込むよな……」

「クリリンさん!?」

 

 気づけばクリリンさん、天津飯さん、ヤムチャさん、タピオンさんまで居る。

 

「か、界王神界にまた人間が……」

「もう色々諦めろい。もう今さらじゃろ。それにしてもポタラの出番なさそうじゃのぅ。おぬし、見本のために合体したのに合体損じゃな」

「それは今言わなくても……」

「それにしても、ドラゴンボールじゃと? ぬぬぅ……まさかナメック星人が他の星のために願い玉を使うとは……」

 

 界王神様達が何か話してるけど、申し訳ないけど気にするほど今の僕に余裕はない。そんな僕の心中を察したのか、クリリンさんが説明をしてくれた。

 

「俺たちも色々あったんだけど、結果的にはなんとか無事にナメック星でドラゴンボールを集めたんだよ。そしたら界王様と界王星に居たベジータとラディッツから連絡があってさ……地球が無くなったなんて言うもんだから、さっそくポルンガに地球の再生と死者蘇生を願ったんだ。でも俺たちも色々聞きたいんだぜ? まず何でブウは女になってんだよ……」

「ええと……」

「わかった。説明しきれないんだな? 俺たちの方も似たようなもんだから気にしなくていいぞ」

「あ、はい」

 

 く、クリリンさんたちが何故かすすけて見える……。あと何か悟ってる……。きっと、何かとてつもない苦労をしたんだろうな……。

 

 

「しかし加勢に来たつもりだったが、あれはどういうことだ? 悟飯、お前よくわからんが凄まじいパワーアップをしているようだが……正直今のカカロットよりお前の方が強かろう? 何故カカロットは一人で戦っている。それにもう一度聞くが、姿は見えんが空梨は救出できたのか? 出来たんだよな。でなければカカロットが全力で戦うはずが無い……あいつは今何処に居る?」

 

 空龍と双子を体にぶら下げながらおじさんが聞いてくる。もっともな疑問に、僕は先ほどブルマさんからされた説明と同じことを話した。

 

「まさかとは思ったが、やはり空梨はまだあいつの中か! お、おい本当に大丈夫なんだろうな! あいつは一回死んだら生き返れんのだぞ!!」

「だ、だだだだだだだだ大丈夫ですよきっと! い、今はお父さんを信じましょう!?」

 

 がくがくと体をゆすぶられ脳が揺れる。お、おじさん! 気持ちはわかるけど落ち着いて……!

 

 なんとかおじさんをなだめて居ると、近くから大きな舌打ちが聞こえた。

 

 

「本当にムカツク野郎だぜ……。あいつ、戦いを楽しんでやがる」

「そ、それは……」

「そして、本気でブウを殺そうとしていない」

「え、それは空梨さんが人質になってるからじゃないのか?」

「違うな。……こんな時だが、なんとなくわかったぜ。あいつの強さの秘密が」

「ベジータ……?」

 

 ベジータさんは隣に居るブルマさんとトランクスくんを見た。

 

「守りたいものがあるからだと思っていた。その心が得体のしれない力を生み出しているんだと……だが、それは今の俺も同じことだ。では何故だ? いつも奴は俺の一歩先を行く。俺と何が違う? ……簡単だ。あいつは勝つために戦うんじゃない。絶対に負けないために、限界を極め続け戦うんだ」

「負けないために……」

「頭にくるぜ。戦いが大好きで優しいサイヤ人なんてよ……。あいつはこの状況でも、諦めていない。なんとなくわかるぜ。あいつ、ついには俺を殺さなかっただろう。まるで俺がほんの少しだけ人の心を持つようになるのが分かっていたみたいにな。それと同じで、ブウにもなにか期待めいたものを感じてやがる。見ろ、あの楽しそうな顔をよ! どう見ても追い詰められた奴の顔じゃないぜ」

 

 

 ベジータさんはちらっと戦いを見守るビルス様を見ると、深くため息をついた。

 

 

「どうやら、俺たちが手を出せる段階はとうに過ぎてしまったようだ。後は見守るほかあるまい。チッ、あいつの強さは理解したが俺だって負ける気は無いんだ。……今回は先を越されたがな」

 

 

 そう言うと、ベジータさんはにやりと笑って腕を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れカカロット。暫定ナンバーワンは貴様にくれてやる。……あの馬鹿を、どうにか助けてみやがれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




身の程知らずには後悔も限界も無いのです。

ついに原作で言えば最終巻半ばを越えました!あと少し見守っていただければ幸いです。


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魔人の暴走

「変な人間も居たもんだね」

 

 ビルス様のつぶやきにおやっと思う。暇つぶしかと思えば、この方が人間に興味を持たれるなど珍しい。

 

「ゴッドになったわけでもないし、勝てる保証もない。だっていうのに、楽しそうだ」

「たしかにとっても楽しそうですねぇ」

 

 私たちの前で行われる孫悟空さんと魔人ブウさんの試合は、見事というほかありませんでした。もちろんビルス様や私の視点からしたらまだまだ粗削りで無駄も多い、パワーも足りず無い無い尽くし。けど、ビルス様が興味を持たれる気持ちも分かるのです。

 なんていうんですかねぇ……。あんまりにも孫悟空さんが楽しそうに戦うもんだから、見ているこちらまで楽しくなってきてしまうんですよね。対する魔人ブウさんはそれが気に食わないのか、負けじと戦うものですから戦いは激化し、そしてお互いに動きを最適化していってるのでどんどん内容は洗練されていく。

 かと思えば思いがけない手段で攻撃したりするもんですから、気づけば笑ってしまっているからおかしなものです。ふふっ、まさか嚙みつくとは。おや、ブウさんは足を地面を通過させて不意をつきましたね。

 

 

 私もビルス様も魔人ブウの中にハーベストさんが捕らえられている事を知っています。それを含めて孫悟空さんがどう戦うのか興味があったのですが……まさか正真正銘、正々堂々真正面からとは。

 

「馬鹿な奴だねぇ」

「ですが、どうやら考え無しってわけでも無さそうですよ?」

「そうかい?」

 

 孫悟空さんと魔人ブウさん、戦いながらも何やら話している様子。

 

 

 

「なあ、魔人ブウよぉ! 楽しくねえか!?」

「楽しくない!」

「そうか? でも、やっぱおめぇ凄ぇよ! オラ、こんな楽しい全力の戦い久しぶりだ!」

「おだてたって空梨ちゃんは返さないわよ! あなた、ちょっと虫が良すぎるんじゃない!?」

「たはは……めぇったな。でもよ、悟飯たちを失っても強ぇままのおめぇなら、姉ちゃん出しちまっても平気なんじゃねぇか?」

「馬鹿言うんじゃないわよ! こっちはね、デブを半分以上失ってから理性を保つのに必死だってのに! 空梨ちゃんまで失ったら……ッ!」

「そっか。おめぇ、自分を無くすんが怖いんか」

「黙れ!」

 

 お二人とも、よく戦いながら言葉をかわせますねぇ。周りの皆さんは戦いの余波から身を守るのに必死だというのに。あ、でもベジータさんたちが頑張ってバリアを張ってますね。

 

「なあ、おめぇさえ受け入れるんなら神龍に頼んでおめぇの意識が無くならないようにって出来ねぇのかな?」

「はあ!? 何言ってるのよ!」

「だってさ、もったいねぇよ!」

「何が!」

「そうイライラすんなって。あそこにビルス様っていんだろ? あの人、宇宙一強いんだと! でさ、きっと前に見たスーパーサイヤ人ゴッドと同じかそれ以上だと思うんだ! でも、オラまだまだあの域にゃあ達してねぇ! だからもっともっと強くなりてぇんだ! だからよ、おめぇも暴れるのなんてやめて一緒に強くならねぇか?」

「馬鹿じゃないの!? 何が悲しくて戦闘馬鹿のサイヤ人の猿と仲良くしなきゃいけないのよ! わたしはね、魔人ブウよ! わかってるの!?」

「でもおめぇ、悪い事いっぱいやったけどチチたちは殺さなかったじゃねぇか」

「…………!」

「オラ、途中であの世から弾かれてから老界王神様の水晶玉で色々見てたんだぜ? 時期が来るまで動くなー、なんて言われて。だからおめぇのことずっと見てたんだ」

「だから何よ! わたしは無暗に殺すのはやめたけど、それは全部わたしのためよ! 地球の奴ら全員、わたしのおもちゃなの! すぐに壊しちゃもったいないだけ! だ、誰も殺してないわけじゃないしね! 見てたなら知ってるでしょ? お菓子にして食べちゃったもん!」

「えっと……まあそうなんだけどさ。でも、ようはおめぇ寂しいだけだろ?」

「ッ、な、何を……!」

 

 動揺した魔人ブウが動きを止めると、孫悟空さんもいったん動きを止める。

 

「ははっ、おめぇさ、性格悪ぃけどなんか姉ちゃんそっくりなんだよな。んで、姉ちゃんってあれでけっこう寂しがりなんだ。あと子供っぽい」

「か、関係無いわ……」

「そうか? オラにはおめぇが、寂しくて我儘言ってる子供にしか見えねぇんだけどな」

「だ、黙れ黙れ黙れ! うるさいうるさいうるさあああああい!!!!」

「おっと」

 

 おや、魔人ブウさんの動きに乱れが出てきましたね。動揺しているみたいです。

 

「寂しいならさ、オラ達と一緒に居ればいいだろ? で、もっともっと戦おうぜ! おめぇだってもっと強くなれんだぞ!」

「知らない! 興味ない! ほだそうなんて、とんだお馬鹿さんで甘ちゃんよ! わたしは魔人ブウ! 悪い奴なの!」

「でもさー! 前にすっげぇ悪い奴だったベジータや、セルまで今一緒にいるんだぜ? ピッコロ大魔王だったピッコロも、今じゃ頼れる奴だしな! あと、おめぇが悪い奴になったのって魔導士の奴がそう作っちまったからだろ? でも今のブウは自分の意志で動いてんじゃねぇか。今さら悪い奴って自分を縛ることもねぇと思うけどな!」

「だから、わたしもって? ふ、ふふふふふふふふふふ。教えてあげましょうか? わたしは、あんたみたいに色々持ってて上からモノ言ってくる奴、大っ嫌いよ……!」

 

 そう言うと、魔人ブウさんはこちらをちらりと見ました。その瞳に揺れる感情の色に、思わず眉根を寄せる。

 

「まずいですね。あれは、もうどうにでもな~れ! と思ってしまっているお顔ですよ」

「ふぅん、つまり僕の存在なんてもう関係ないって?」

「ええ。あけすけに言うと、やけっぱちになっていますね」

 

 

 いくら頑丈に出来ているとはいえ、界王神界が無事に済めばいいのですが。

 まあ、いざとなったら時間を巻き戻して再生くらいしてさしあげましょうか。あまりにも不憫ですし。

 

 

「理性なんて、もう邪魔よ。ふふふふふ、あはははははははは!! 孫悟空、貴様を殺せたら、もうそれで構わん! 色々考えるのは、もう面倒だ!! ははははは! 苦しめ! もうわたしは惑わされない! 姉もろとも殺すがいい!」

「! ブウ、おめぇ何を……!」

 

 

 ブウさんは金切り声をあげると、口の中をもごもごと動かして何かを吐き出した。おや、あれは太った魔人ブウさんの一部ですね。

 すると女性型の魔人ブウさんの体は一回り小さくなり、同時にその瞳から理性の光は消える。

 

 

「ビルス様、どうなさいます?」

「うん? どうもしないねぇ。ここでブウを破壊するのは簡単だけど、どうせだ。このままあいつらがどうするのか、見物しようじゃないか」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 さて、これでブウさんを説得してハーベストさんを取り戻す手段は消えてしまいました。

 

 どうしますか? 孫悟空さんに、地球の皆さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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その身に宿せ元気玉!スーパーナメック星人デンデ!

「か、カカロットの野郎! 説得どころかあれじゃ挑発したようなもんだ! あいつに任せたのが間違いだったぜ……!」

「あんたさっきは頑張れって言ってたじゃない」

「う、うるさい!」

 

 魔人ブウの奴が理性を手放してからは、その攻撃は規則性を失って酷く無秩序なものになった。けどその分見てるこっちはたまったもんじゃないぜ! さっきまででさえ、ベジータたちがバリアを張ってくれなきゃ戦いの余波で戦えないメンバーは危なかったんだ。それが今じゃ、どこで何が飛んでくるか更に分からなくなっちまってる!

 俺は腕の中で震えながらぎゅっとしがみ付いてくるマーロンを見下ろした。そして決意する。

 

「18号、マーロンを頼む」

「どうする気だい?」

「悟空の加勢に行くんだ! あいつ、俺たちに攻撃が及ぶようになってきてからさっきみたいに戦えてない。時間が経って体力も随分消耗しちまってる」

「あんたが行ってどうなるってんだい。それに、試合を邪魔したらあの神様が地球ごと私たちを破壊しちまうんだろ?」

「分かってる……分かってるさ! でも、何もしないのは嫌なんだ。……それにさ、女房と娘くらいちゃんと守れないとカッコ悪いだろ。頼む、戦わせてくれ」

「…………はぁ、普段は聞き分け良いくせにこういう時頑固だよね、あんた」

「…………ごめん」

「いいよ。行っといで。でも、死ぬんじゃないよ」

「ははっ、無茶言うなぁ」

 

 マーロンを18号にあずけて、道着の紐を締めて一歩踏み出す。すると、俺の両肩がそれぞれ別の手につかまれた。

 

「一緒に行くぜ、クリリン」

「ああ。格好つけるのもいいが、一人じゃ心もとないだろう」

「僕も行く!」

「ヤムチャさん、天さん、餃子……」

「クリリンさん、僕も行きます! 破壊神様の事はブウを倒した後で考えましょう」

「悟飯……」

「我々も行こう。ジース、ナッパ、ナッピ、ナップ、ナッペ、ナッポ、ラディッシュ! 新生ギニュー特戦隊の大仕事だ!」

「「はい!」」

「「「「「キキィー!」」」」」

「お前らまで……」

 

 そうだよな。この場には、こんな頼れる仲間がたくさんいるんだ!

 は、破壊神様は……そうだ、こちらには同じ神様である界王神様がいる。界王神様に頼んで、なんとか説得してもらおう! といかく今は悟空を助けるんだ!

 

「よーし、行く「貴様らは下がっていろ!!」

 

 な、なんだよ! 出鼻をくじくなよベジータ! せっかくおっかないのを我慢してやる気出したっていうのに……!

 けどベジータはそんな俺たちの事なんか気にせず、ちょっと見ないうちに背が伸びて雰囲気変わった界王神様(神様も変身とか出来るのかな?)に怒鳴るようにして話しかけた。

 

「おい、界王神!」

「は、はい!? なんでしょう!」

「お前も確か瞬間移動が出来たな。こいつらを連れて、どこか適当な星に逃げるんだ! ここは俺が残る」

「そいつが言う通りにした方がいいじゃろうのぉ。わしらが居たんじゃ邪魔だろうて」

 

 どうやらベジータは悟空に加勢するんじゃなくて、悟空が戦いにくくなってる原因である俺たちを避難させることを優先したようだ。た、たしかにそっちの方が早いよな……。っていうか、こいつが俺たちの心配? までしてくれるなんて思わなかったぜ。いや、ブルマさん達が居るからかもしれないけど。

 けど、ここでまた口をはさむ者がいた。

 

「だったら私が連れて行こうか? これは神の御前試合。破壊神と同じく神であるお前たちが居なくなってはまずいだろう」

「え!? ま、まあ、そうですが……」

「え、セル……助かるけど、お前は戦わないのか?」

「興味はあるがね。私はあくまで孫悟飯と孫悟空を打ち負かすために修行をしてきたのだ。この戦いが終わって、更に強くなった孫悟空と戦う方が面白い。あと勘違いしてもらっては困るが、私は別に貴様らの仲間になったわけでは無いのだよ。我が友人タピオンとミノシアが居たから成り行きでこの場に居るだけさ。逃がす手助けをしてやるだけ破格の優しさだと思ってほしいね」

 

 そう言ったセルが戦う悟空と、そして近くに居た悟飯を見てニヤリと笑う。そ、そうか……。こいつ何だかんだで助けてくれたりしたから勘違いしてたけど、悟空たちと戦う事諦めてなかったんだな。でも今の言い方だと当然悟空が勝つもんだと思っているあたり、なんだかなぁ……。

 どうにも、こいつがもう悪い奴には思えなくなっちまってる自分が居る。今も何だかんだで手を貸してくれてるし。

 

「じゃあ、頼むよ。でも最後まで見届けたいし、やっぱり俺は残る。自分の身くらい守れるからな」

 

 そう言うと、じゃあ俺も俺もと言い出す奴が多くて結局ベジータに「貴様ら全員邪魔だ! さっさと行きやがれ!」と怒鳴られてほぼ全員退避することになった。そうやって俺たちが話してる間もずっとバリアやら気弾で守ってくれてたもんだから、なんかごめんって思った。あと、ピッコロも気づけば攻撃を弾いてくれてた。いや、ホントにごめんな……。

 18号には「締まらないねぇ」と笑われちまったよ。とほほ。

 

 

 

 で、界王神界にはベジータと悟飯、ラディッツが残った。あと、見届け役として界王神様。老界王神様は俺たちと一緒に別の星……ナメック星に避難してきている。今は占いババ様みたいな水晶玉で界王神界を映し出してくれていた。

 ベジータと悟飯は俺たちなんかよりずっと強いし、ラディッツに関しちゃ空梨さんのことが心配だろうから残って当然だけど、最後まで「自分も残る!」と大騒ぎしてたチビどもに引っ付かれて大変そうだったな。

 

 今は4人でけん制しながらブウを抑えてるけど(破壊神様はとりあえず様子見してくれてるみたいで安心した)、ブルマさんが渡したミクロバンドを使って体内に侵入する隙はなかなか生まれなさそうだ。くっそぉ……! 空梨さんさえ助けられたらすぐに倒せるはずなのに……!

 

 避難してきたけど、こっちにはまだポルンガの願いが一個と、未使用の地球のドラゴンボールがある。どうにかこれを使って解決できないもんか……。試しにポルンガに空梨さんをブウから引きはがしてくれって聞いてみたけど、やっぱりブウの力が強すぎて干渉できないから無理だって言われた。力の強いナメック星のドラゴンボールでそれじゃあ地球のじゃもっと無理だよなぁ……。

 

 

 

 

 

 …………………いや、待てよ?

 

 

 

 

 

「なあデンデ。神龍が叶えられない願いって具体的に線引きはどこなんだ?」

「線引き……ですか? ええと、基本的に僕……製造者の力を大きく超えるものに対しての願いですね」

「じゃあさ、もしも、もしもだぜ? デンデがパワーアップしたらどうなるんだ?」

「何? どういうことだクリリン。詳しく話せ」

 

 ピッコロに促されて、俺も頭の中でひとつひとつ整理しながら話す。

 

「ようは、デンデがブウ以上の力を手に入れられたらさ。神龍の願いもパワーアップして空梨さん助けられるんじゃないか?」

「何を言うかと思えば……絵に描いた餅だな。たとえ俺とデンデが同化したとしても、ブウの力は超えられんぞ」

「ま、待ってくれよ! ここで終わりじゃないんだ。えっと、あのさ……。ずっと前に、それこそベジータ達と戦った時だ。その時俺、悟空から元気玉を託されたんだ。あの時の漲るみたいなパワー忘れもしない……。だから、もし元気玉を作って、それをデンデの体にちょっとの間にでも留められたら、それって一時的に凄く強くなったってことにならないか? ほ、ほら。スーパーサイヤ人ゴッドみたいにさ! 一人じゃダメでも、他からエネルギーをもらうんだ!」

「なっ」

「は、ははは……。俺自分でも何言ってるか半分わかんないんだけどさ。無理かな? やっぱし……」

「いや、待て。おいポルンガ! もし強力なエネルギーを集めたら、それを一人の存在に……このデンデに与えることは可能か!?」

 

 ピッコロがナメック語で残り一つの願いを待って待機していたポルンガに話しかけた。するとポルンガはしばらく考え込んだが、鉤爪のついた指で器用にオッケーサインを作ってくれた。

 

『可能だ。だが、そのエネルギーが消えてしまえばもとにもどってしまうが、それでもいいのか?』

「! じゃあ!」

「ええと、つまりどういうことですか!?」

 

 いきなり自分に重要な役割がふられそうになって困惑するデンデの手を思わず両手でつかむ。

 

「だから、お前が空梨さんを助けるんだよ!」

「そうだ。お前がパワーアップし、一時的に地球のドラゴンボールの叶えられる願いの上限をあげるのだ。スーパーナメック星人になれ! デンデ!」

「えええええ~~~~!?」

 

 

 

 

 

 そんなわけで、急きょ元気玉を作ることになった。でもブウを超える強力なパワーの持って来どころがこれしか思いつかなかったんだけど……問題は、それを完璧に作れるのが悟空しか居ないってことなんだよな。ちょっとの間界王星で修行してたヤムチャさんや天さん、ピッコロでさえ習得出来なかったらしいし……。

 さて次はどうすればいいか? そう悩んでいたら、なんとセルが界王様を連れてきやがった!

 

「な、なんじゃなんじゃいきなり! いや、事情は分かっておるが心の準備というものがじゃな……! あ、か、界王神様。お初にお目にかかります。私、北の界王です」

「15代も前のじゃがな。まあ、そうかしこまらんでもええよ」

「それはそれは、お気遣いいただきどうもありがとうございます」

「挨拶はいいからさっさと元気玉を作るんだ!」

「なんじゃと~! ピンチに駆けつけてやったのだから、もうちょっと敬わんかい!」

「でも急いでるんです! 界王様、早く元気玉を!」

「わ、わかったわかった、そう急かすな。え~、では、ゴホン。元祖元気玉を見せてやるわい! ふふんっ、いつまでも開発者のわしが使えんのもカッコ悪いからな。ひそかに練習していた甲斐があったというもんじゃ。……それにしても、まさか元気玉がこんな風に使われる日が来ようとはなぁ」

 

 界王様はぶつぶつ言いながらもすぐに元気玉の準備に入ってくれた。当然俺たちはすぐに手をあげてありったけの力を界王様に送る。こんだけ凄い奴らの気が集まるんだ! 絶対にブウの力を越えられるはずだ!

 けどふらふらになるまで元気をもってかれたってのに、界王様は難しい声を出す。

 

「むむむ……! 凄まじいパワーじゃが、これでもブウを超える力を与えるには足りんぞ~」

「う、うっそだろぉ!? って、あ、セル! お前手をあげてないじゃないか!」

「だから言ったろう? 私は貴様らの仲間になった覚えはないと。せいぜい自分たちの力で何処まで出来るかやってみるんだな。私はそれを見物させてもらう」

「セル……」

「セルお兄ちゃん……」

「………………。タピオン、ミノシア。いくら君たちの頼みでも聞けんよ。もともとそいつらと私は敵同士なんだ」

「「……………………」」

 

 勇者兄弟が眉尻を下げてセルを見つめる。すると、あのセルが居心地悪そうに視線をそらした。

 

「………………。わかった、わかった。ではアドバイスだけしてやろう。どうだ? 地球の存亡がかかっているんだ。たまには地球の人間どもにも責任をとらせてやるってのは」

 

 セルの発案に界王様がすぐに地球の人たちに声を届けられるようにしてくれた。元気玉を作るのも大変だっていうのに、本当に頭が下がる。

 

 地球の人たちに呼びかける役目は神様であるデンデに託された。

 ちなみにこの突貫工事の作戦は老界王神様を通じて界王神様に伝えられ、そこから悟空たちにも伝わった。「クリリン、ナイスだ! よく思いついたな!」って悟空は言ってくれたけど、俺は発案しただけでここに居るいろんな人たちの協力が無いと無理だったんだぜ? 今だってデンデの呼びかけに「怪しい声だ」って疑ってかかる人間に対してミスターサタンが名乗りを上げてくれた。「き、貴様らいい加減にしろーー! さっさと協力しないかーー! この、ミスターサタン様の頼みも聞けんというのかーーーっ!! そ、それと、この方は私と共に戦ってくれている本物の神様だぞ!」と言ってくれたんだ。

 さっき悟空がデンデに続いて地球の皆に声をかけてくれた時も元気は集まったけど、今度はその比じゃない。ビーデルさんが恥ずかしそうに頭を抱えてたけど、あんたの父ちゃん凄いぜ! おかげで凄い大きな元気玉が出来た!

 

「す、凄まじいのぅ……! わしも、こんな大きな元気玉見るの初めてじゃわい」

「界王様、どうです? これならいけますか!?」

「ああ、十分じゃ! 今の地球の神、デンデと言ったかな?」

「は、はい!」

「この元気玉は地球全ての元気が集まっておる。凄まじい力をその身に宿すのは恐ろしくもあるじゃろう。じゃが、この元気はおぬしが慈しむ地上の子らの元気じゃ。もともと元気玉は心の清らかなものに害はない。心を静め、しかと受け取るのじゃぞ」

「……っ! はい!」

 

 デンデも気合十分だ! よーし、あとは……。

 

「ネイルさん、ポルンガに願いを!」

「了解した」

 

 ポルンガが帰ってしまわないようにずっと留めてくれていたネイルさんがにやりと笑ってばっと手を上にあげて言う。

 

 

 

『ポルンガよ!! 我らが同胞、そして地球の神であるデンデに、界王様が作った元気玉の力を宿したまえ!!』

 

 

 

 ポルンガの目が赤く光る。

 

 

 

 

『承知した』

 

 

 

 

 

 同時にこちらも叫ぶ。神龍を呼び出すのはドラゴンボールを持っていたブルマさんだ。

 

 

 

「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえーー!!」

 

 

 

 ポルンガ出現のためもとから暗かったナメック星の空に、黄金の光が立ち上る。そしてそれは雲を縫い、やがて緑色の鱗へ変わる。

 壮観だな……! ポルンガは最後の願いを叶えたからすぐに居なくなっちゃったけど、一瞬とはいえナメック星と地球の神龍が同時に揃う光景なんて……! きっと一生に一回だろうな。こんなの見れるの。みんなも俺と同じく口をあけて空の龍に魅入られている。

 

『どんな願いも三つだけ叶えてやろう。さあ、願いを言うがいい』

 

 その言葉に元気玉のパワーを得て青白い気でその身を包んだデンデが願う。

 ……今さらだし本物なんだからこんな風に言うのも変だって思うんだけどさ。でも、その姿があんまりにも神々しいからついこう呟いちまったよ。「神様みたいだ」って。

 

 

 

「魔人ブウに吸収された孫空梨さんを、ブウの体から助け出して!」

 

 

 

 誰かの喉がゴクリと鳴った。俺だったかもしれないし、全員だったかもしれない。

 そしてみんなが見守る中、神龍はこう答えてくれたんだ。

 

 

 

 

『今ならば容易い事だ。承知した。その願い…………叶えよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 界王様の声も、ナメック星での出来事もみ~んな聞こえてた。だから神龍が願いを叶えてくれたってわかった時には、もうオラ叫んでた。それがベジータと同じタイミングでってんだから笑っちまうよな。

 

 

 

 

 

 

 

「「帰ってこい! 姉ちゃん(姉上)!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 魔人ブウの体から離れる一つの影。その見慣れた姿に、思わず拳を握った。

 

 

「サンキュー、ドラゴンボール……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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姉弟と兄弟

 

「うわひゃああああああ!?」

 

 間抜けな悲鳴に思わず一瞬喉が詰まる。こちらの心配も知らないで気の抜ける声出しやがって……!

 熱くなる目頭を無視して、俺はブウから分離したその小さな体を抱きとめた。

 

「え、ちょっ、は? ラディッツ……?」

 

 目を瞬かせながら俺を見上げる黒い瞳を、もうずいぶん長い事見ていなかった気がする。まだ安心できる状況ではないが、気づけば俺は空梨の体をめいっぱいの力で抱きしめていた。

 

「心配かけやがって……! この馬鹿が!」

「ぐえっ、わかった、わかったから! 今のお前の力で全力ハグとか攻撃技でしかないからやめて!?」

 

 む……しまった。強く抱きすぎたか。骨がミシミシ鳴る音が聞こえた。

 

「おい、貴様ら! イチャついてる場合じゃないぞ!」

 

 ベジータの声にはっと我に返って上を見上げると、空梨と分離したからかチビの男性形に変化したブウが笑いながらこちらにエネルギー弾を放っていた。

 

「うわあああ!? え、エナジーリダクション!!」

 

 が、それは空梨のあの黒い板で阻まれる。敵だった時は鬱陶しく厄介な技だったが、味方になるとこうも頼もしいものか……。

 しかし技を阻まれたブウは、何を思ったのか空気を体に吸い込むようにして体中にエネルギーを溜め始めた。その凄まじい力に、空梨を抱く腕の力を強めて身構える。

 

 最初に気づいたのはベジータだった。

 

「! いかん! こいつ、自爆する気だぞ!」

「いい!? ホントか? ベジータ!」

「おそらくな! こいつ、俺たち全員には勝てないと察したんだろう。だが、これなら俺たちを殺して自分が勝つことが出来る! ブウは自爆しようが再生出来るからな! ……理性がぶっ飛んだ分、やり方を選ばなくなりやがった」

「クッ、じゃあ自爆する前に倒すしかねぇっちゅーわけか!」

「そういうことだ! クソッタレ……! どいつもこいつも自爆などと芸が無い!」

「え、それおめぇが言うんか?」

「お、俺の事じゃない! 自爆は……そうだ、セルだろう! 自爆と言えば! やつは二回自爆したんだ! 俺は一回だけだ!」

「いやどうでもいいわ! それよりさっさと倒そうよ!」

「今まで散々足を引っ張って来た貴様が偉そうに言うんじゃない!」

「え、ええと! それは本当に悪かったけど! ご、ごめんなさい! ほら、これでいい!?」

「ひ、開き直りやがっただと……!? クソッ、この女……俺たちがどれだけ苦労したと……!」

「ま、まあまあベジータ。喧嘩は後にしてよ、とにかくブウをやっつけようぜ」

「貴様はそれでいいのかカカロットォ!!」

「いや、でもこれが姉ちゃんだしなぁ……」

 

 …………相変わらず姦しい姉弟だ。が、そこに切羽詰まった声で喝が入る。

 

「お父さんおばさんベジータさん! 本当にそういうの後でいいですから早く加勢してください!!」

 

 悟飯だ。いつの間にかかめはめ波でブウに攻撃していたようだが、ブウは体外にバリアのようなものを作っていて押しきれていない。そしてその間もますますブウの体にはエネルギーが溜まっていく。

 

 

「チッ、クソッタレがぁぁ!! ギャリック砲!」

「かめはめ波ぁぁぁ!!」

 

 

 続いてベジータとカカロットがそれぞれ技を放ち、ちょうどブウを中心に3方向から挟むような形になる。俺は地上に降りて空梨を下すと、その癖毛を撫でた。

 

「お前はここで待っていろ。行ってくる」

「えっ、いや普通に私もやるけど? 気遣いは嬉しいけど、ここは総攻撃でしょ」

「…………ククッ、ここは黙って送り出せと言いたいところだが、やはりサイヤ人だな。あと、そちらの方がお前らしい」

「い、今はそういうのいいから! ほら、早くしないとまた悟飯ちゃんに怒られるよ!」

「ああ」

 

 不思議な気分だな。ブウの溜め込んだエネルギーは凄まじいパワーだ。こいつに出会う前の俺なら、もうこの時点で諦めていただろう。

 思えばこいつとの付き合いも長いが、再会してからというもの色々なことがあった。まさかこの俺が伝説のスーパーサイヤ人になれるとは思っていなかったし、3人の子供の親父になるとも思っていなかった。何よりこんな嫁が出来るとはな……犬扱いされてボロ雑巾にされていた過去の俺が知ったら、まず信じないだろう。だが、どれもたしかに俺が歩んできた人生だ。

 

 攻撃に加わる前に、空梨が俺の二の腕に手を添えた。

 

「……色々心配かけてごめん」

「かまわん。もう慣れた」

 

 色々言いたいことはあるが、無事な姿を確認したらその全てが言葉にする前に何処かへ飛んで行ってしまった。……まあ、説教は落ち着いた後でいくらでも出来るしな。

 

「勝つぞ」

「当然!」

 

 言葉少なに言い合うと、俺たちもスーパーサイヤ人に変化し今出来る最高の攻撃をするために手にエネルギーを溜め始めた。

 俺の技は中規模の威力の物が大半で、こういう時の決め手には欠ける。ならばカカロット達の技を借りるとしよう。使うのは初めてだが、今まで散々見てきた技だ。

 

 

「かめはめ波ぁぁーーーー!!」

「ギャリック砲!!」

 

 

 

 空梨の奴はどうやらベジータと同じ技を選択したようだ。かめはめ波とギャリック砲、この2つの技はよく似ている。奇しくも俺とカカロット、ベジータと空梨という兄弟姉弟でそれぞれ同じ技を使っているという状況が出来上がった。

 そうしてかめはめ波が3つ、ギャリック砲が2つ。計5つの強力なエネルギー波が魔人ブウを襲うが、奴のバリアは強固だ。くっ、これも空梨を吸収して得た経験が生きてるという事か!? 厄介な……!

 

 ブウが自爆する前にカカロットの瞬間移動で逃げて、また戻って復活したブウと戦ってもいい。だが、おそらく俺たち全員が「ここで倒さねばならない」と感じている。そうだ、今やらねばならんのだ!! 多数対一という現状が情けなくはあるが、ここで引いてはサイヤ人の誇りに傷がつく。なんとしても今、ここで、魔人ブウを倒す!!

 

 だが、気合いとは裏腹に俺たちの体力は時間が経つごとに減っていく。カカロットも体力が持たなかったのか、スーパーサイヤ人3から通常のスーパーサイヤ人に戻ってしまっていた。

 

「くっそぉ! あとちょっとなんだけどな……!」

「チィッ! 決め手に欠けるか……!」

 

 カカロットとベジータが悔しそうに言うが、現状はそう簡単に覆らない。

 

 

 

 

 しかし、ここで誰もが思いもしなかった闖入者が現れた。

 

 

 

 

「お母さんだー!」

「やった! やっぱり龍の神様が助けてくれたんだね!」

「おがあざあああぁぁぁぁぁーーーーん!!!!」

 

 聞きなれた声が背後から聞こえ、俺と空梨はぎょっとして首だけ後ろに振り返る。

 

「エシャロット、龍成、空龍!?」

「お前たち、ナメック星に他の奴らと避難したはずじゃ……!」

「俺たちもいるぜ!」

「へへへっ、来ちゃった!」

「トランクスと悟天まで!?」

 

 ど、どういうことだ……! 娘息子甥っ子と、チビどもが勢ぞろいで何故ここに!?

 周囲を見回すが他に人影はない。ということは誰かが連れてきたというわけではなさそうだが……。

 

「えっとね、エシャが龍の神様にお願いしたのー! お母さんとお父さんとこ連れてってって!」

「えっと、ごめんなさい……。お母さんがピンクの奴から出てきたの見たら、エシャロットがもうお願いしてて……」

 

 神龍か! 神龍に願ったのか!?

 

「俺たちもいいとこ無かったしさ、最後くらい応援しようと思って一緒に駆けつけたんだ!」

「危なかったよねー! ちょっと遅れてたら僕たち置いてかれてたもん!」

 

 悟天とトランクスがいたずらが成功したような顔で笑うが、こちらとしたらたまったもんじゃない! せっかく逃がしたというのに帰って来てどうする!!

 

「馬鹿! ここがどれだけ危険か分かっているのか!」 

「分かってるから来たんだよーだ! エシャロットがお願いしなかったら、セルって奴にお願いして連れて来てもらおうと思ってたんだぜ!」

「おじさん、僕たち5人いるんだよ? 僕たちは半分だけど、サイヤ人が5人!」

「なっ、まさか……!」

「へへっ、ここまで言えば分かるよね?」

 

 思わず空梨と顔を見合わせた。

 

「…………とんでもないガキどもだな……」

「ははっ、でも頼もしくていいんじゃない?」

「ククッ、違いない」

 

 エネルギーを放出しっぱなしで苦しいってのに、思わず笑ってしまう。

 

 

「ははははは! 馬鹿と言ったのは訂正しよう。お前たちは立派なサイヤ人の次世代だ! いい度胸をしている!」

「当然だろー? 俺なんか王子だぜ!」

「えー? じゃあ、エシャはお姫様がいい!」

「あのさ、エシャロット。おままごとじゃないんだよ?」

「うっ、ひぐっ、……でも龍成、お母さんがお姫様だから、間違ってもないよ……」

「ええ~? みんなズルイ! 僕にも何かカッコいい役ちょうだい!」

「はいストップ! 賑やかなのはいいけど、お母さんたちそろそろ限界だから! そろそろ誰かをゴッドに……」

 

 わいわい騒ぎだした子供らに空梨が割って入る。すると5人は顔を見合わせるとにんまり笑った。

 

「じゃあ、俺たちの力はおばさんにあげるよ!」

「へ? い、いやいやいや!? ここは普通に考えて悟空かベジータあたりでしょ!?」

「駄目! わたしはお母さんがいい! トランクスと悟天に聞いたよ。すーぱーさいやじんごっどって、凄く強いんでしょ? だったらお母さんがなったとこ見たいもん!」

「なんたってサイヤ人のお姫様だしね! ここは決めなきゃ!」

「パパたちが格好いいのはもう分かってるからさ、最後の見せ場はおばさんに譲ってやるよ!」

「僕もお母さんの格好いいとこ見たいな」

「お、お母さん頑張れ……!」

「な、なん……だと……!」

 

 チビ共全員の押しに、空梨は言葉に詰まる。そして迷ったのは一瞬だった。

 

 

「分かったよ! やるよ! やればいいんでしょ!? 任せろ!」

「やった! さっすがおばさん!」

 

 よほど嬉しいのか、トランクスがガッツポーズで飛び上がる。

 そしてチビたちは顔を見合わせて頷きあうと、手をつなぎ両端のトランクスと空龍が空梨の背中に手を当てた。

 

「いくよ!」

「おばさん頑張ってね!」

「「お母さん頑張れ!」」

「あとちょっとだよ! 帰ったら肩叩いてあげるから頑張ろうね!」

「分かった頑張る!」

 

 もうやけっぱちだな……。だが、空龍の言葉に少し元気が出たようだ。やはり子供たちの中で一番空梨の事を分かっているのは空龍か……やる気の出し方を知っている。基本的にこいつは現金だから、褒美で釣るのが一番簡単なのだ。どれ、全部終わったら説教の後に俺も何か褒美の一つもくれてやるか。

 

 子供たちのエネルギーが空梨に注ぎ込まれ、徐々に空梨の体を赤いオーラが包み始める。だがエシャロットと龍成が未熟な分か、ややエネルギーが少ないように見受けられた。だから俺はかめはめ波の形を崩し片手でエネルギーを放ちながら、空梨の肩を抱いてそこから体内に残っているエネルギーを全て注ぐ。

 空梨が驚いたように見上げてくるが、気にせんでいい。子供と妻が頑張っているというのに、夫が何もせんのでは格好がつかないからな。足りない分のエネルギーは俺が補おう。

 

「! ラディッツ」

「あと少しだ。頑張れ」

「……ッ、うん」

 

 そして俺たちのエネルギーを注ぎ込まれた空梨の髪色が真紅に染まる。

 

 もともと小柄な体が、更に線が細くなる。しかし頼りないわけではなく、しなやかな力強さを感じた。

 瞳の色も夕暮れとも炎とも違う、不可思議な光を湛えた赤に塗り替えられる。

 

 

 

 

「これで最後だ!!」

 

 

 

 

 声を張り上げる空梨に、俺たちがチビ共に気を取られている間もずっとブウの自爆を抑え続けていた悟飯、カカロット、ベジータが答える。

 

「はい! これで決めましょう!」

「おう、姉ちゃん!」

「貴様が仕切るな! ゴッドになったからといって、気を抜くなよ!!」

 

 極大の光が4方向からブウに注ぎ込まれる。すると、目の錯覚なのかカカロットとベジータの髪色が一瞬青く染まったように見えた。

 

 

 

 

 

 

「神の気……か」

 

 

 

 

 

 

 誰の者とも知れないつぶやきが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。あまりにも大きい力の奔流に圧倒され、もう周りの音など聞こえない。

 

 黄金、蒼、真紅……三つの光が交じり合い、そして白く弾ける。その光はブウを飲み込んだのち、放射状に界王神界の空へと散った。

 

 

 

 

 

 

「わあ、キラキラ! 流れ星だ!」

 

 

 

 

 

 

 音の戻って来た耳に最初に聞こえたのは、娘の無邪気な歓声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ブウ戦決着!そしてまさかの第四子!?

 エネルギーが散った後、白く変色した魔人ブウが地上に落ちて崩れた。

 

 

「おめぇは凄かったよ……よくたった一人で頑張った。今度生まれ変わったら、一対一で勝負してぇ。オラももっともっと腕をあげて待ってる。…………またな」

「つくづく甘い野郎だな、貴様は」

 

 

 カカロットの妙にしんみりした声に悪態をつくが、同時にそれを聞くことで終わったのだと感じた。下を見ればもとの姿に戻ったハーベストがへたり込みそうになるのをラディッツの野郎が支えている。フンッ、支える方も支えられる方もフラフラじゃないか。…………まあ、俺も似たようなもんだがな。正直宙に留まっているのがやっとだぜ。

 地上に降りると、トランクスが真っ先に寄って来て「かっこよかったよパパ!」とじゃれ付いてきた。見ればカカロットの頭には悟天がひっついている。…………まさか、このチビ共に助けられるとはな。気に食わんが、ハーベストのゴッド化が決め手になったのはたしかだ。

 

 

 

「やあやあ、お見事。なかなかいいものを見せてもらいましたよ」

 

 

『!!』

 

 

 しかし俺たちに休む間は与えられんらしい。どうしてここに居るのか不明だが、付き人を従えて宙から降りてきたのは紛れもなく破壊神ビルスだった。数年前にハーベストに「いずれビルス様がいらっしゃるから、鍛えておいた方がいいよ」と言われて半信半疑だったが……まさか、こんな場所で会う羽目になるとはな。

 緊張する俺とは裏腹に、カカロットの野郎は相変わらず普段と同じ態度で口を開いた。

 

「悪ぃなービルス様。オラじゃねぇけど、結局ゴッド使っちまったぞ」

「そうだね。でもまあ、興味深いものが見れたからその件は不問にしてあげるよ」

「え、そうなんか? なんかよくわかんねぇけど、サンキューなビルス様!」

「か、カカロット! もっと口を慎め!」

「ふふっ、どうやらお二人ともご自分に起きていた変化に気づいていないようですね」

 

 付き人のノッポが何か言ってやがるが、それを聞くにどうやら俺たちの何かが破壊神を満足させたらしい。どういうわけかビルスとゴッドを使わない約束をしていたらしいカカロットのそれも許されたようだ。こ、この野郎……! 知らないうちにとんでもない奴と知り合ってるどころか、変な約束までしやがって! もし少しでも機嫌を損ねていたら、せっかく魔人ブウに勝ったというのに破壊されるところだったぞ!

 

 

 

 

 

「悟空さー!」

「お、チチー!」

 

 消耗した体で冷や汗をかいて余計に疲れていると、遠くからカカロットの妻の声が聞こえた。見ればナメック星に避難していた連中がみんな戻ってきたようだ。

 しかしこっちはそれどころじゃない。破壊神がこのまま大人しく帰るとは到底思えん……!

 

 そしてその予想はどうやら当たりだったらしい。

 

「さて、ブウも倒したことだし次は僕が君と戦ってあげようか。今の君となら少しは楽しめそうだしね」

「え!? いやー、ビルス様……さすがに今回はオラも疲れたぞ。戦いてぇけど、また後にしてくんねぇか?」

「嫌だね。僕にしてみれば、仮眠中起こされてわざわざここまで来て待ってあげてたんだ。それに約束をやぶったのに許してあげた。その上また後でなんて……虫が良すぎるんじゃない?」

「うーん、まあ、そうなんだけどよぉ……。でもオラ、もう力がすっからかんだ。こんな状態で戦ってもビルス様もつまんねぇだろ?」

「問題ないさ。ねえ、界王神。今の君なら体力の回復くらいしてあげられるだろう?」

「え、それは、まあ出来ますが……」

「じゃあ彼を回復してあげてくれ。さ、これでいいだろ? 体力を回復したらすぐにゴッドになってもらうよ」

「ま、まいったな~……ははは……」

 

 笑い事じゃないだろう!

 悟天を肩に担ぎながら頬をかくカカロットを肘でおもいきりどつき「どうする気だ!」と小声で問うが、「こうなりゃ戦うしかねぇだろうなー」としょうもない答えが返ってくるだけだった。

 この馬鹿……! 破壊神の力を分かっていないな。いや、俺も実際に見たことがあるわけでは無いが……! だが、この場で戦ってどうせもろくなことにならん!

 焦る俺たちだったが、その前に出て言葉を発する者が居た。界王神だ。

 

「び、ビルス様。お言葉ですが……彼らは私が至らぬばかりに、今回とても頑張ってくれたのです。そんな彼らをねぎらう暇もなく、次の戦いに送り出すなど私には出来ません」

 

 おお! 役に立たん野郎だと思っていたが、たまにはいいことを言うじゃないか!

 

「ふぅん……そうかそうか。…………僕の命」

「うっ」

「まきぞえ」

「ううっ」

「考え無し」

「ううう……!」

 

 だが小声でビルスに何やらつぶやかれると、界王神はどんどん小さく縮こまっていく。クソッタレ! やはり役にたたない野郎だ!!

 

 この流れだと本当にビルスと戦う羽目になりそうだ。ならばせめて、調子にのりそうなカカロットではなく俺が戦いなんとか場を上手くおさめるしか……!

 

 そう思って前に一歩踏み出した時だった。

 

 

 

 

「お、おじさーん! ねえ、お母さんの様子が何か変なんだ!」

「な、何!?」

 

 出鼻をくじかれおもわずこけそうになるが、なんとか踏ん張って持ちこたえた。

 泣きそうな表情で駆けつけてきた空龍に引っ張られてハーベストのもとに向かえば、たしかに様子が変だ。額に汗をにじませて背を丸め、腹部を押さえながら何かに耐えるように目をつむり歯を食いしばっている。ラディッツが背中をさすって「いったいどうしたんだ!?」と問いかけているが、答えることもままならないようだ。

 おい、俺を連れてこられても何も出来んぞ! こういう時は……。

 

「おい、デンデ! こいつを見てやれ!」

「は、はい!」

 

 ちょうどあの緑色のガキ、地球の神デンデが居るのを見つけて呼び寄せる。するとほかの連中まで一緒に来やがった。……お、多いな。

 

「姉ちゃんどうしたんだ!? ビルス様ごめん、ちょっと待っててくれ!」

「空梨おばさん、大丈夫ですか!? ま、まさか吸収されてたすぐ後にゴッドになって無茶が祟ったんじゃ……!」

 

 カカロットと悟飯も駆け寄り、デンデがハーベストに回復を施すのを固唾をのんで見守る。他の連中も同様だ。

 

 

 

 

 

 奇妙なもんだぜ。

 けして性格がいいわけじゃ無い、自己中で身勝手なこんな女をこれだけの人間が心配している。まったく、地球の連中はどいつもこいつもお人よしだ。

 だが…………改めてこんな光景を目の当たりにすると、こいつが地球で築き上げてきた人生が見えた気がしないでもない。

 

 気に食わない奴だという事に変わりはないが、多少は認めてやってもいい。

 柄にもなく、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 だが撤回だ!!

 この女、最後までとんでもない奴だぜ!! こ、こんな時に……!

 

 

「! あ、あれ? 空梨さん、もしかして……」

「ごめん言わなくても分かってる。ありがとう……デンデのおかげで多少楽になったよ。でも、ごめん。ほんっとこんな時にごめん。えっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「産まれる」

 

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はああああああ!?』

 

 耳をつんざくような大音量がその場で爆発した。

 

「う、産まれる!? あ、あれか。大便か! 我慢しろ! か、界王神、トイレはどこだ!?」

「え!? ええと、私たちは排泄しませんのでトイレとかは無くて……!」

「くっ、じゃあどこか見えないところまで連れて行くからそれまで我慢を……」

「馬鹿!? 馬鹿なの!? 産まれるっていったら子供に決まってるじゃない! そ、そうよね空梨!?」

「今の心の代弁をありがとうブルマ! そうだよ馬鹿! こんな場面でウンコを産まれると表現して苦しんでたら馬鹿だろ!! 恥かしいわ!!」

「お父さんサイテー」

 

 ブルマ、ハーベスト、エシャロットから非難の嵐を受け打ちひしがれるラディッツだったが、すぐに我に返って目を白黒させる。忙しい奴め。

 

「子供!?」

「そう!」

「いや、しかし腹の大きさが……! いや待てよ? お、おい。そういえば何か月か前に生理が来ないと言ってた時は病院に行ったのか!?」

「え、ええと……」

「行って無いんだな!?」

「だ、だって流石にそろそろ歳だしむしろ閉経かなって! ら、楽だな~って思ってたらそのまま忘れてて……」

「馬鹿! あ、あんたねぇ……! まだ44歳でしょ!? 可能性としちゃ無くないわよ! しかもサイヤ人なんだから地球人の平均と当てはめてもあてになるわけないでしょーが!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 ブルマの剣幕に縮こまるハーベストに、今度はカカロットの妻のチチが駆け寄る。

 

「と、とりあえず産まれるだな!?」

「で、でも本当に!? お腹なんて、ちょっとぽっちゃりしてますけど妊娠してるってほど膨らんでないんじゃ……!」

「いや、何かで聞いたことあるぞ。あるスポーツ選手が腹筋を鍛えすぎて、出産直前まで妊娠に気づかなかったって……」

「そういえばお母さん、お腹周りがなかなか減らないって言ってすごく腹筋してたよ?」

『それだ!!』

 

 ば、馬鹿か……! 本気で間抜けな奴だぜ! 腹回りを気にして妊娠に気づかなかったなどと!

 あきれ返る周囲をよそに、ブルマ、チチ、18号と女どもがハーベストを囲んで声を張り上げる。

 

「とにかく、男どもはちょっと離れてるだ! で、空姉さま。もう産まれるだか!?」

「う、うん。多分。さっき破水した……」

「そういうことはもっと早く言ってけれ! ど、道具を集めねば……!」

「ち、チチさん、こういう時何を準備すればいい!? あたし病院だったからわかんないのよ!」

「とりあえずお湯か……?」

「そうだべ18号さん! 産湯と、あと殺菌用のあっつあつのお湯だ! それと綺麗な布たくさんと、へその緒を切るハサミに……男どもー! なに突っ立ってるだ!! 今言ったもんをかき集めてこい! あと、ビーデルさんも手伝ってけれ! ちと早いが予行演習だ! ランチさんもだ!」

「へ!? わ、分かりました! って、予行演習……!?」

「は、はい! わたしは何をすれば……!?」

 

 お、おい……この流れだと、ここで産む気か!?

 俺や他の連中が呆然と見守る中、既婚者のクリリンとカカロットが主に駆け回った。

 

「界王神様! あのなんとかっちゅう石を出した時みてぇに、お湯とか布とか出せねぇか!?」

「で、出来ますが……」

「頼む!」

「はい!」

「なんか妙なことになって来たねぇ……」

「ええ。まさか、破壊神が命の誕生に立ち会うなんて……ふふふっ、奇妙な巡りあわせです」

 

 どうやらあまりの事態にさすがのビルスも困惑しているようだ。そして笑う余裕があるあの付き人は何なんだ……俺すら未だに何が起こっているのか分からんというのに。いや、分かってる。分かってはいるが、理解が追い付かんのだ!!

 

 そしてばたばたとしていたのが嘘のように、あっさりと棒と布で作られた簡易の天幕の中で産声が上がった。

 完全に女たちに役目を奪われて外に追い出されていたラディッツが呆然とつぶやく。

 

「産まれたのか……」

「わあ! じゃあわたしお姉ちゃんになるんだ!」

「僕、お兄ちゃん……えへへっ」

「弟かな? 妹かな?」

「いいなー、みんな兄弟が出来てさ!」

「トランクスくんもお父さんとお母さんにお願いしたら? 妹か弟ほしいって!」

「そっか、いいこと言うな悟天!」

 

 ガキどもはこちらの心情などお構いなしで単純に喜んでいるようだ。って、おい待て! トランクスと悟天、何を勝手なことを……! これ以上話をややこしくするな!

 

 しかしこの突然の出来事は、思いがけず事態を好転させた。

 

 

 

「……ビルス様」

「何だい? 界王神」

「やはり、この場は引いていただきたい。そ、創造神として……新たな生命が誕生したこの場で争うことは、私が許しません!」

「許さない? へぇ~、言うじゃないか」

「……どうか、お引きください」

 

 界王神の野郎は、今度は小さくなることもなく真っすぐにビルスを見つめてはっきりした口調で言い切った。

 それに対してビルスは目を細めて数秒界王神を見つめたが、奴が引かないことを確認するとため息をついた。

 

「はぁ…………。ま、こんなぐだぐだになっちゃ興ざめだしね。いいでしょう。君に免じて、今回は引いてあげるよ」

「! あ、ありがとうございます!」

「なんと……あのビルス様を引かせおった」

 

 隣から聞こえ声に横を向けば、しわくちゃのジジイが驚いたようにそれを見ていた。……同感だぜ。まさか、あの情けない界王神が破壊神ビルスに対して正面から意見を言って受け入れさせるとはな。

 

 

 

 

 

 

「孫悟空!」

「お、何だ? ビルス様!」

 

 赤ん坊の姿が見たいのか、今か今かと天幕の外でうろうろしていたカカロットがビルスの声に答える。この野郎……俺も人の事は言えんが、完全にビルスたちのことを忘れていたな。

 

 

「今回は帰ることにした! だけど、予言の年にはお邪魔させてもらうよ。もしその時に今以上に強くなってなかったら…………」

「破壊するってんだろ? そうならねぇように、もっと強くなってるさ! オラもビルス様と戦うの楽しみにしてっからな!」

「クックック……破壊神と戦うのを楽しみに、か。やっぱり変な奴だよお前。ま、そういうことなら僕も楽しみにしていようかな。あ、そうそう。その時は地球の美味しい食べ物でもてなすように」

「ああ、それならまかしとけ! チチの飯はうめぇから、きっとビルス様も気に入っぞ!」

「そうかい。じゃ、そろそろ行くよ。ウイス」

「はいはい。では、皆様ごきげんよう……いずれまたお会いしましょう」

 

 

 

 

 

 そう言って付き人が持っていた杖を地面に突き立てると、光の柱となってビルスたちは天へと消えていった。

 

 

 

 

 

 こうして魔人ブウとの戦いは、今度こそ本当に終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ナメック星で。

 

 

『あ、あの~…………最後の願いはまだか? 待ってるんだけど……ず~っと……』

 

 

 願い一つを残して出現しっぱなしの神龍とナメック星人達が、気まずそうに顔を見合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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38ページ目 エピローグ~バイバイ ドラゴンワールド!

〇月И日

 

 

 色々あったけど、とりあえずまとめるために日記を手に取った。これを書くのもどれくらいぶりだろうか。

 

 

 まさか界王神界で出産するはめになると思っていなかったが、色々無茶したにも関わらず無事に生まれてくれてほっとした。っていうか、下手したら私この子を危うく道連れにするところだったのか……! 今考えてもぞっとする。

 

 そして件の赤ちゃん、今も腕の中で眠っている私とラディッツの4人目の子供だが……何故か黒髪にうっすら赤みがかかっている。もちろん私が浮気したとかではなく、おそらくゴッド化の影響が出たんじゃないかとは界王様の言。

 空龍みたいにいきなりスーパーサイヤ人化することはなかったし体も丈夫だけど、時々何もないところを目で追ってたり、あまり泣かずに静かだったりと若干の不思議ちゃんオーラを感じる。かと思えば時々爆発したみたいに泣きわめくので、色々と油断ならない子だ。

 

 後になって聞けば、界王神様のおかげであの場で悟空とビルス様の戦いが勃発するのが防げたらしい。だから界王神界で生まれたこともあって、この子の名前は叶恵に決めた。調べたら神という文字に「かなえ」という読み方があると知ったからだ。

 まあ日本に似た場所の苗字の読み方だから特殊な読みかもしれないけど、あからさまに神って名前に入れるのも憚られたしいいかなって。で、そこに神龍に願いを叶えてもらい私が助かった事、色んな人に助けられた幸運に恵まれたことから字を当てた。ついでにいろいろ名前がちゃんぽんな我が家なので、今さらだし日本っぽい名前つけてもいいかなって思ったのもある。ちなみに女の子だ。

 字面にすると孫叶恵とエシャロットに次いで苗字がしっくりこないが、まあこれも苗字を名乗ることがほとんどない今の風潮があるし目を瞑ろう。

 

 で、日常に戻ったはいいけどまだまだ子育てで忙しくなりそう。叶恵のこともそうだし、空龍もエシャロットも龍成もまだまだ子供だからこれから学校だのなんだって色々あるんだろうな。まあ、賑やかなのはいいことだ。

 

 とにかく言えるのは、今最高に幸せだってことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルス様? ゴールデンフリーザ様? GT? 超? 知らない子ですね。もうこの世界何がおきるかわかんねーし、何か起きたらその時臨機応変に対応するしかないだろ。正直言うと今もう面倒くさくて色々考えたくない。疲れた。

 

 いや、未来空龍と未来トランクスのことがあるから、超の展開が来たら全力でザマスとかブラックとかいうカスどもねじ伏せに行くけどな。

 な~に、倒せなくってもいいんだよ。ブウの時なんで思い出せなかったか知らないけど、こっちには魔封波っていう素晴らしい封印技があるのだ! あれでしまっちゃえばいいんだよ。

 何かあったらすぐにこっち来いって未来空龍には言ってあるし、帰る時仙豆も持たせたし、更生したかは分からないけどブロリーも居るし……いや、ブロリーは逆に不安要素だな。………………だ、大丈夫かな……? 今度ブルマに頼んでタイムマシン作ってもらおう。一回様子見に行かないと不安でしかたない。

 

 

 

 

 

 

 

▽月■日

 

 

 しばらく地球に滞在していたタピオンとミノシア兄弟がコナッツ星に帰る日がやってきた。コナッツ星に帰るためのカプセルコーポレーション製の宇宙船が完成したのだ。

 

 いつの間にか仲良くなっていたトランクスと悟天ちゃんが寂しがっていたけど、いずれコナッツ星に遊びに来てくれと言われて一生懸命頷いていたのが微笑ましかった。ちなみに2人は「もう自分たちには必要ないから」と、ずっとトランクスと悟天ちゃんが羨ましがっていた剣を記念にあげていた。

 

 

 

 ちなみにここで衝撃の事実が発覚。

 

 

 

 なんと界王神様からセルの奴「実はコナッツ星の神がそろそろ代替わりをしたいと申しているようなのです。もしよければ、あなたがコナッツ星の神になっては? あなたならコナッツ星の邪気を吸い取る新たな邪神像に異変が起きても対処できるでしょうし、もしその気があるなら私が推奨しても構わないのですが」とオファーを受けていたようなのだ。しかもそれを受けたというのだから驚きである。

 コナッツ星の神セル爆誕とかね……もう何が何だか。天使みたいな羽くっつけたり未来セルと合体したり、こいつはいったいどこを目指しているんだ。他の面々同様、開いた口が塞がらなかった。

 

 当のセルと言えば「何、落ち着く住居が欲しかったから丁度良いと思っただけさ。タピオンとミノシアからも是非にと言われてしまったしな。だが孫悟空に孫悟飯、落ち着いたら戦いに来るから覚悟したまえ。それまでせいぜい修行しておくんだな。無様をさらすんじゃあないぞ」と言い残して、二本の指でピッとポーズを決めるとブルマが作った宇宙船に颯爽と消えていった。

 

 ……とりあえず、悟空はともかく悟飯ちゃんは修行頑張れ。勉強も大変かもしれないけど、とりあえず頑張れ。

 

 

 

 

 

Ё月◆日

 

 

 

 やっとマーくんに昔借りたゲームを返すことが出来た。返されたミスターサタンことマーくんといえば、目をぱちくりさせて「え、本当に空梨さん? ってっきり娘さんかと……え? 数年前にテレビで見た時もお若いな~って思ってましたけど、え!? む、昔と全然変わってないじゃないですか!」と驚いていた。鼻高々だった。

 ま、まあ私もサイヤ人ってだけじゃなくてアンチエイジング超頑張ってるし? 原作で超サイヤ人が寿命を縮める危険があるかもって言われてたの覚えてたから、スーパーサイヤ人になれるようになってからもあんまり変身しなかったもんねーだ! 寿命が縮まる=老化かもしれないし。いや、普通に考えたら体に負担がかかるってことなんだろうけど、結果的に老化も進むかもしれないじゃん? ちなみにスーパーサイヤ人の危険性は悟空たちにも言ってあるけど「大丈夫大丈夫」とか言って聞きやしねぇ……。まあ、そう簡単にくたばるたまとは思えないからいいんだけどさ。

 

 そういえば太っちょの方のブウだけど、原作同様サタンの家に住むことになった。マーくんの必死の訴えもあって、ブウは殺されずに済んだのだ。

 ゲームを返しがてら遊びに行ったら例の仔犬(ベエと名付けられていた)と楽しそうに遊んでいて、ちょっと可愛いなと思った。

 

 あのドタバタの後神龍の願いが一個だけ残っていたので、その願いで魔人ブウに関する記憶は地球の人々から消え去った。なので今は「ちょっと変わったミスターサタンの弟子」としてニューライフを満喫しているようだ。まあ、本人楽しそうだしいいんじゃないだろうか。ベジータは最後までブツブツ言ってたけど。

 

 

 

 

 

 

∴月◎日

 

 

 ついに天津飯とランチさんが結婚した! な、長かった……! ここまで来るのが本当に長かった。

 でも結婚式とかは天津飯が照れくさいらしくてやらないそうだ。でもランチさんがはにかみながら「それでいいんだ。オレは天津飯といられさえすれば、それだけで最高に幸せだからな」って言ってたし、これはこれでいいんだろう。恋模様は人それぞれだし、こちらの意見を押し付けるのは無粋である。

 

 そういえばランチさんだけど、昔みたいに人格が変わっている時の記憶が無いってことは無くなったみたいだ。かといって完全に人格統合されたわけじゃないようだけど、おっとりしたランチさんも過激なランチさんも現状を受け入れて上手くやっているらしい。天津飯は「2人の女性と結婚したようで、時々申し訳なくなる」と言っていたけど、天津飯が両方受け入れてるんならそれでいいんじゃないかな? 

 

 まあそういうわけで結婚式は無かったけど、みんなが祝わないはずもなく、結局わいわい押しかけて飲んで騒いでの大宴会になった。

 

 餃子師範、ちょっと寂しそうだったけどそれ以上に嬉しそうだったな……。

 

 

 

 とにかく天津飯もランチさんもおめでとう! 末永くお幸せに!

 

 

 

 

◇月●日

 

 

 

 

 店長とパラガスの店、喫茶アスペルージュに行ったら妙な客がいた。帽子を目深にかぶりでっかいサングラスにトレンチコートで極力身を隠してるのは分かるんだけど……その肌の色に疑惑を感じずにはいられない。だってピンク。超ピンク。

 

 静かに近づいて帽子とサングラスを奪えば、「きゃ!?」と声をあげたのはブウだった。いや、ブウはブウでも私を吸収してた時の姿らしい女ブウの方な!

 

 いや何で居るし!? と身構えたが、「待って、待ってよ! もうパワーは全部倒された方にあげちゃったからもうわたしそんな強くないのよ!」と主張して必死に戦う意思はないと訴えてきた。とりあえずその様子を見てパラガスにブロリー珈琲とパンケーキを注文してから向かいの席に座って話を聞いてみた。

 何でもこいつ、姑息にも理性を捨てると言った時太っちょブウを吐き出すのと一緒に自分の分身をその肉片に仕込んでいたらしい。「ナメック星人の卵生出産を真似た応用よ。まったく、ピッコロ様様だわ。吸収しといてよかった!」と言ってたけど……おい、何でもありだなお前。

 ともかくそんなわけで、生き残った女ブウ……面倒くさいなブウ子でいいか。ブウ子はドラゴンボールによってブウの記憶が地球人から消えたのを確認し、ほとぼりが冷めたと知るなり太っちょブウの体から抜け出したんだと。で、力を無くしたから今さら地球支配も何もないし、原点に返ってスイーツ巡りしながらのんびり暮らすことに決めたらしい。ちょ、おま、原点がスイーツ巡りって何だよ。

 

 ちなみに悪ブウのことを聞いてみたら、ブウ子は分離したとはいえ悪ブウもまぎれもなく一つの意志を持った生命だから「アイツが死んだんなら、ウーブは産まれるんじゃない? 知らないけどー」と、特製ケーキを頬張りながらどうでも良さそうに言っていた。

 

 

 

 コイツには散々苦しめられたけど、本当にもう悪いことする気も無いみたいだし、力も弱くなってるから見逃すことにした。それにここの常連らしくて、店長から「ガキだがものを知らないだけで悪い奴じゃない」ってお墨付きもらっちゃったからな……。まあ、何かしでかしたら悟空たちにこらしめてもらおう。

 

 ちなみに服やら装飾品がずいぶんいいものだったから金はどうしたと聞けば「どんな病でも怪我でも治す奇跡の医師として売り出して大儲けしてるからガッポガポ」なんだって。

 そう来たか……。まあ、人のためになる事だしいいか。どんだけぼったくってるか知るの怖いけど。

 

 

 

 とりあえず話してたら案外(主にスイーツの事で)意気投合したので、メルアドを交換して別れた。

 …………しばらくこのことはベジータ達には黙っておこう。

 

 

 

 

 

●月■日

 

 

 子供が増えて出費も多くなると思ったので、占い師の仕事にプチ復帰することにした。

 占いと言えば占いババ様のところでの修行だが、せっかくここまでやって来たしババ様の所に行くのはもはや日課なので継続して続行中。あの世に生身で行けるようになるのはいつになるやら……。

 

 で、仕事だ。

 まず昔の業界関係の知り合いを頼ったら「え、娘さん?」とまず言われた。本人だと言ったら泡吹いてた。ふふん、若かろう若かろう。もっと驚いても構わんのだよ?

 で、早速「奇跡の若さ! あの神秘の占い師が復活!」という文句で売り出そうと張り切ってくれた。子供の世話があるからそんなに沢山出れないと言ったら「この場合希少性がある方がいいんです! でも都合は合わせるんで、出るのは当社のメディアだけにしてくださいね!」と言われた。よっしゃ、それならアルバイト感覚で出来るな。

 

 ちなみに特番を組まれた復帰第一回目の仕事はマーくんと共演だった。

 いや、知り合いだって話したらいつの間にか出演が決まってて……どうせだから色々盛っちゃおうぜ! とマーくんと口裏合わせて「実は彼とは幼い頃に知り合っていましてね」「いやぁ、今でも信じられません。なんと、私の活躍はこの方によってすでに昔から予言されていたのです!『あなたはいずれ世界を救う英雄になるだろう』と言われた時は半信半疑でしたが、今思えば最強の武道家を志したきっかけだったかもしれません」な~んて…………半分ふざけただけのつもりだったのに、それから断っても断っても怒涛の勢いで依頼が入るようになった。嘘はつくもんじゃないと反省した。いや、原作知識があるからあながち間違いでもないんだけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

Г月Б日

 

 

 悟飯ちゃんはあの後もオレンジハイスクールに通い続けているが、天下一武道会のこともあって一気に人気者になってしまった。学園祭やらパーティーやらで主役みたいに扱われて困ると本人は眉尻を下げてたけど、学生時代なんて賑やかでなんぼだし、悟飯ちゃんはチヤホヤされても変に調子に乗る性格じゃないしいいんじゃないかな? 楽しめば。

 

 ちなみにもうバレバレなのに、相変わらず例のコスチュームでグレートサイヤマンとしての活動も続けているらしい。ビーデルさんもめでたくグレートサイヤマン2号に就任した模様。

 で、噂によると時々グレートサイヤマンには緑の肌の3号が加わるらしい。かなりレアな存在らしく滅多に現れないが、動画サイトで初登場時……1号に引っ張られて嫌々登場した姿が残っている。

 

 突っ込まない、私は突っ込まんぞ。悟飯ちゃんが「ピッコロさんも瞑想や修行ばかりじゃなくて、もっと趣味みたいなのを見つけた方がいいと思うんですよ! ほら、人助けのヒーローなら格好いいし、もし昔のピッコロ大魔王を覚えている人が居ても怖がらなくなるかもしれませんし!」と力説してたけど右から左に流してスルーした。私は何も聞いてない。だから「女性用の衣装もブルマさんがもう一着作ってくれたんですけど、よければおばさんもどうですか?」と誘ってくるのはヤメロ。

 

 

 

 とりあえず、悟飯ちゃんが楽しそうで何よりです。でも人助けもいいけど、修行もサボるなよ。そのうちセル来るぞ。

 

 

 

 

▼月◎日

 

 

 ギニュー隊長とジースくんが本格的に新生ギニュー特戦隊として活動を開始した。でもその内容はもちろん宇宙の地上げ屋ではなく、グレートサイヤマンの上位互換……正義のヒーロー戦隊だ。その活動は事故が起きた際の人命救助から、悪人を捕まえたり無益な争いの仲裁など幅広い。

 なんでも死んだあとリクームさんたちの減刑を申し出るため、生きているうちに出来る限りの善行を積んでおこうという理由らしい。あと人助けをして「カッコいい!」「素敵!」と称賛されるのが思いのほか心地よくて気に入ったんだって。

 サイバイマンたちは畑仕事があるから全員が毎回参加することは出来ないけど、交代で特戦隊として活動している。最初はその姿に不気味がられもしたけど、だんだんとファンを獲得しているようだ。

 

 

 

●月◎日

 

 

 龍成とエシャロットが学校に通う歳になった。空龍とトランクスは自宅学習だし、悟天ちゃんは近くの集落の学校に通っている。さてこの子たちはどうしようかと思ったのだけど、考えた結果閃いた。

 実は今までいくら探しても見つからなかったペンギン村を最近発見したのだ! 通うには空を飛べるから距離とか関係ないし、早速ペンギン村小学校に入学申し込みをした。通い始めてしばらく経つが、2人とも楽しそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り最近の日記を読み直して、ふうと息をつく。思わず読みふけっていたらしく喉がカラカラだ。

 傍らに置いてあった珈琲で喉を潤し、凝り固まった肩をほぐした。

 

 

 思えばこの日記ともずいぶん長い付き合いだ。初期の頃を読み返せば「痛いのヤダ。死ぬのも嫌だ。生き返るとしても断固として拒否する。楽しく生きたい。出来れば楽して楽しく生きたい」なんて書いてあって思わず変な笑いが出た。死ななかったけどずいぶん痛い目見てきたぜ……? けど、楽じゃなかったけど楽しく生きたいって目標は現在進行形で達成できてるんじゃないかな。うん、毎日楽しくて……幸せだ。

 

 しみじみと日記を眺めているとラディッツが「そろそろ着替えた方がいいんじゃないか?」と声をかけてきた。今日は久しぶりにみんなで集まってパーティーしようとブルマからお誘いがあったのだ。時計を見ればたしかにゆっくりしすぎたみたいだし、そろそろ準備しようかな。

 そういえば悟空は恐竜の卵がもうすぐ産まれそうなんだ! って言ってたけど……まさか見るのに夢中で遅れて来ないだろうな。後で様子を見てからブルマんち向かおう。

 

 

 楽しくて楽しくて、だけどハチャメチャで慌ただしい日々。

 

 

 まだまだこれから色んな事があるだろうから、もうちょっと私の人生の記録に付き合ってくれよと日記の画面を撫でた。そしてラディッツの呼びかけに答える。

 

 

 

 

「わかった! すぐ準備するー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________ ???年後

 

 

 

 

 

 

 

「あったー! ドラゴンボールだー!」

 

 とある山奥の小さな小屋で、オレンジ色の球体を見つけた少年が歓声をあげた。しかしその球体を手に取った後、その傍らに置いてあった機械に気づき興味を示す。何故ならその機械は随分古いにもかかわらず、ザザザとノイズをあげて画面が点灯していたからだ。

 少年はそれを手に取り、表示された文を読む。

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

∞月Ω日

 

 

 どうやらそろそろ死期が近いらしい。随分長生きしたし、自分でも驚くほど落ち着いている。

 

 私は死んでもこの世界のあの世には行けないらしいけど、もう十分すぎるほどの幸せを手に入れた。これ以上は望むまい。先だった最愛の夫には申し訳ないけど、私はこれで満足しているのだ。

 

 この期に及んで長々と書くのも無粋だろう。最期に、この世界へ、家族へ、出会ってきた全ての人へ、感謝の言葉を綴ろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 大好き。私に幸せをくれてありがとう。

 今まで傍にいてくれてありがとう。

 

 私は本当に、幸せでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(日記はここで終わっている)

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰のものともしれない日記を少年は不思議そうに眺めるが、電源が切れたのか壊れたのか、その機械はプツンときれて動かなくなってしまった。

 

「よくわかんないけど、これ書いた人……幸せだったんだなぁ」

「おーい、悟空! ドラゴンボールは見つかったのー!?」

 

 小屋の外から聞こえた少女の声に、少年は手にした球体を掲げると元気に応えた。

 

 

「見つけたよ空梨ちゃん!」

「でかした! これでパンおばあちゃんが助かるぞ!」

「うん! 早くお願いしよう!」

 

 

 

 

 ばたばたと外に駆けていく少年を、壊れた日記が見送った。

 

 

 

 

 

 

 ______________それは、どこかの世界の未来のお話。

 

 

 

 むかしむかし、小さな出会いから始まった物語。

 それは色んな出会いを経て、色んなものを巻き込んだ。人も、神も、世界さえ。

 

 しかし何があっても、これだけは言えるだろう。ドラゴンボールがある限り……夢の物語は、どこかで続いていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

thank you! good bye!! THE-END

 

おしまい

 




本編はこれにて完結になります。短いようで長い間、お付き合いいただきありがとうございました!


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番外編
実は居た!脅威、手を組む魔族と科学の力!(劇場版DB オラの悟飯を返せ!世界で一番強い奴)


本編でハブられた彼らのお話。ご、豪華劇場版二本立てですよ……(震え声)




 ガーリックJrは焦っていた。

 

 

 かつて現在の神と共に、神の座を争いそして敗れた父……。彼はその遺志を継ぎ、子供の自分こそが今度こそ神になり替わり世界を掌握しようと予てより計画していたのだ。そのために今の神を殺し、神秘の秘宝ドラゴンボールによって永遠の命を手に入れようと画策していた。

 だが、半ば父の生まれ変わりのように復活してからというものことごとく運に見放されたまま現在に至っている。

 

「何故だ……! こんなはずでは無かった!」

「が、ガーリックJr様……我々の力が及ばず、誠に申し訳ありません……!」

「で、でもあんなに強いんだもの。あのオチビちゃんにだって勝てなかったのよ?」

「なんなんだよあいつら……」

 

 玉座のひじ掛けに握った拳を打ち付けて激昂するガーリックJrに、部下のジンジャー、ニッキー、サンショは心底申し訳なさそうに項垂れる。その彼らだが、体の所々に傷があるだけでなく疲労が色濃く顔ににじみ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 計画はまずピッコロ大魔王を殺し、その片割れである天界に引きこもっている神を殺すところからスタートするはずだった。が、その初っ端から躓いたのだ。

 

 荒野で尻尾のある妙な子供と修行をしている所を襲ったはいいが、神経を研ぎ澄ましていたピッコロ大魔王はすぐに襲撃に気づき不意をつく間もなく迎撃されてしまった。しかも「フンッ、誰だか知らんが丁度いい。悟飯、一人でこいつらのうちどれかを相手して倒してみろ」などと言いだしたのだ。

 言われた子供はジンジャー達に怯え「む、無理だよう!」と涙目だったが、ぎろりとピッコロ大魔王に睨まれると嫌々ながら戦う意気込みを見せた。なめられていると感じたジンジャー達は当然怒ったが、結果は惨敗。

 ジンジャーとサンショはピッコロに敗れ、ニッキーは悟飯という名前の子供に負けたのだ。ピッコロ大魔王を相手にした2人はともかくニッキーは最初こそ押していたのだが、途中で子供が爆発的に凄まじい力を発揮……三人は仲良く吹き飛ばされて、お空の星になった。

 

 ボロボロになって帰って来た三人を見て、ガーリックJrは憤怒に身を染めつつも嫌な予感に焦燥感を覚えた。そしてそれはけして間違いでなかったと、その後彼らは知る事となった。

 

 とりあえずピッコロ大魔王は後回しにしてドラゴンボールを集めようと、山奥にある広大な畑に隣接した家を訪れた。すると「何だ貴様ら。俺は今機嫌が悪いんだ!」と言う尻尾のある長髪の男に返り討ちにされ、有名な占い師の住居だという宮殿のような場所を訪れれば、ティータイムを楽しんでいた女二人……老女と若い女の内若い女の方に「え、ドラゴンボール? そっか……そりゃあ私たち以外にも集めてる人っているんだよね。そういえばこの間見つけてからカメハウスに預けに行って無かったっけ。よし、じゃあ私に勝ったらドラゴンボールあげるよ」というセリフの後、自ら出向いたガーリックjr(本来の力を開放済み)を含めてボコボコにのされた後に丁重な手当てを施されて帰された。

 この時ガーリックjrは自らの技であるデッドゾーンでこの女を異空間に吸い込んでやろうかとも考えたが、あまりの実力差に「技で飲み込む前に殺される」と確信して引き下がらざるをえなかったのだ。情けないが、女は鬼のように強かった。

 

 その後「今は時では無いのだ」としばらく身を潜めていたら、今度は幸運なことが起こった。なんと、ピッコロ大魔王が死んで神も死んだのだ!

 

 どこの誰だか知らんがでかしたと、4人は舞い上がった。ならばあとはドラゴンボールだと、再び探すもドラゴンボールは見つからない。しかしそれはついこの間願いが叶えられたから石になっているためだと、そう思った。だから1年後にすぐに使用できるようにと、石の状態のドラゴンボールを探すためにわざわざ占い師のババァに大金を払って探そうとしたのだ。ちなみに5人の戦士と戦って勝てばタダらしいが、そこは以前鬼女が居た場所だったので4人は渋々金を払った。もしあの女が出て来たら絶対に勝てないと思ったからだ。

 

 

 しかし、ここで彼らは衝撃の事実を知る羽目になる。

 

 

 なんと神が死ぬとドラゴンボールも使えなくなると言うではないか!

 「探してもいいが、このドラゴンボールをお創りになったお方は亡くなられた。だから1年経っても使うことは出来んぞ? それでもええのかい?」という魔法使いじみた格好の婆さんの言葉の衝撃といったらなかった。あまりにも道化じみた自分たちの計画に打ちひしがれたのだ。

 

 

 

 

 しかし彼らは諦めなかった。

 

 

 

 

 虎視眈々と世界征服の機会を狙いながら生活していると、ガーリック達は二人の科学者と知り合うことになる。その名はDrウィローとDrコーチン……50年ほど前、天才ながらその思想によって恐れられた狂気の科学者たちだった。

 

 話を聞くと、かつて異常天候によって永久凍土の下に研究所ごと封じられてしまったDrウィローを、つい最近Drコーチンがドラゴンボールを使い蘇らせたらしい。それを聞いて初めて何故かドラゴンボールが使用可能になっていることを知り再び打ちひしがれたのだが、ウィロー復活のために使用されたため再びドラゴンボールは使えなくなっている……ガーリックJrはとりあえずドラゴンボール復活の情報を得ただけでよしとし、不老不死は改めて手に入れればよいのだと自分を納得させた。

 そして何故彼らが自分たちに接触してきたのかと問えば、今はとにかく戦力が欲しいのだと力説された。それも、自分たちと同じく世界の掌握を狙っているのなら願ってもないと。

 

 お互いにお互いを利用する気満々であることは察していたが、情報を交換し合った彼らは硬く握手を(Drウィローは脳のみの存在のため無理だったが……)交わした。何故かと言えば、情報交換の際に話した互いの不運すぎる境遇があまりにも似ていたからだ。

 

 Drウィローは復活するなり、脳だけの存在である自身の新しい肉体として「世界一強い人間の体」を欲した。そこで武道の神と呼ばれた男、武天老師の肉体を求めたのだ。

 しかしいざ武天老師を攫いに行けば、その弟子だというハゲのチビに数だけであまり強くないバイオマンだけでなくコーチン自慢の凶暴戦士、キシーメ、エビフリャー、ミソカッツン全てが敗退するという有様に。しかもハゲは「ナメック星でのパワーアップが無かったら危なかったな……。でも、今の俺の敵じゃないぜ!」と言って、まだまだ余裕を残していたとのこと。

 その体たらくに最強サイボーグの体を持つウィロー自ら出向くことも考えたが、腐っても天才科学者……自分たちの古い認識に大きなずれが出ていると確信した彼は、スパイ衛星を作り情報収集から始めることに決めたのだ。その途中でガーリック達を見つけたらしい。

 

 そして手を組み、魔族の魔力と科学の力が合わされば今度こそ最強だ! 勝利が我らの手に! と期待を高めた彼らだったが……スパイ衛星のもたらした情報は彼らを深い絶望に突き落した。

 

 

 

 

 サイヤ人。フリーザ。人造人間。

 

 

 

 

 正直お腹一杯であった。全てにおいて勝てる要素が微塵も見つからなかった。

 

 しかも下手にフリーザ軍宇宙船の残骸からスカウターなるものを回収して改造を施してしまったが最後……数値化された戦闘力に、ガーリックJrとDrウィローは地に膝をついて打ちひしがれた。そしてガーリックJrは器用に絶望のポージングをとるデカい脳みそ搭載のデカいサイボーグが、自身の何倍も強い事を知ってそっと距離をとった。部下たちも「知性や品性が無い」と言って陰口をたたいていたキシーメ達(負けたが見逃されて生存)に愛想笑いをしていた。

 「力こそ正義」とは自分の方が強い時は素晴らしく魅力的な言葉であるが、逆の立場になるとこうも残酷なものかとガーリックJrが知った瞬間である。彼は一つ大人になったのだ。

 

 

 そしてなんとなくそのまま一緒に居ながら、ただでさえ勝てないのに来るべき新たな敵に備えてぐんぐん強くなる戦士達や、その後の人造人間との戦い、最強の人造人間セルとの戦いなどなど……とにかく見続けた。隙あらば、運が良ければ戦士の誰かを洗脳できないかと期待して。

 しかし洗脳はDrウィロー達の研究所に戦士をおびき寄せなければ不可能であり、そして無理やり連れてくる戦力があるくらいなら最初から悩んでなどいない……正直、彼らは行き詰っていた。

 

 最近は「ワシより凄い科学者、普通におった。なにあのセルってやつとか。ドクターゲロって誰だよ」などと言ってウィローがキャラ崩壊をおこし、その後は頭脳だけが取り柄のはずの男が「ガーリックさんや、ワシの肉体はまだなのぉ。ほれ、世界一強いやつじゃ……うん? 違うのぉ。そうじゃ、これが言いたかたんじゃ。ガーリックさんや、わしのご飯はまだかの? わしゃぁういろうが大好きなんじゃ。買って来てはくれんかね」などと言って若干ボケ始める始末。とりあえず飲めるか食べれるかも知らないが、ういろうなる菓子と茶を与えて放置している。

 助手のコーチンはとある研究所の求人用紙を見て「『最新のバイオ工学であなたも素敵なバイオ戦士を作りませんか! ご連絡はジャガー・バッタ男爵まで』……か。わしもそろそろ歳だし、せっかく蘇らせたDrウィローはこんなだし……安定した就職先を探して趣味のバイオテクノロジーに生きるのも有りかのぉ……」などとつぶやいている。狂気の科学者とはなんだったのかと、柄にもなく突っ込んだガーリックJr。そしてそれを「ガーリックJr様、がんばっ!」と見守る部下達……ぐだぐだである。

 

 ちなみにドラゴンボールであるが、セルが倒された後に集めようと動き出したら弱いが妙に運がよく小賢しい3人組と、文句なしに強いジンジャーにちょっと似た緑の化け物とカエル2匹の奇妙な3人(?)組に邪魔されて思うようにいかず、もう不老不死とかいいかな! どうせ長生きしてもあいつらには勝てそうにないし! ケッ! という気分になったガーリックJrはドラゴンボールを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 そしてある日、仕切り直しとばかりに彼は提案した。

 

 

 

 

 

「正面から世界掌握などもはや不可能。だが、諦める必要などない!! ならば裏から世界を牛耳るのみよ!」

「さっすがガーリックJr様! 諦めを知らない不屈のお方!」

「ああ、俺たちはお仕えする相手を間違えてはいなかった!」

「キャー! 素敵だわ! それで、その方法は!?」

 

 羨望のまなざしをむけてくる部下を見て、ガーリックJrは口を開く。

 

「……食だ」

「………………は?」

「食を制してこそ世界を制するのだ! お前たち、見ていなかったのか? あの鬼女が怯えていた破壊神を名乗る猫もどきが食事でもてなされて上機嫌で帰ったところを!」

「そ、そういえば!」

「そうか、いくら強い奴でも食の魔力の前には敵わないのね……! よく考えればサイヤ人のやつらも食べるのが大好きで大喰らいだわ!」

「そこに目をつけるとは流石は我らが主! スパイ衛星では飽き足らず、目ぼしい奴らの私生活を盗聴器と監視カメラでばっちり見ていたかいがありましたね!」

 

 彼らは気づかない。自分たちの方向性も妙な方向へ向かっていることに。

 

「早速ガーリックライスをメインメニューにすえてチェーン展開を開始する。他のメニューに希望はあるか?」

「じゃあ生姜焼きを……」

「うな重を……」

「レジ横に口直しののど飴なんてどうかしら」

 

 そこで、そっと横から主張する者たちが居た。

 

「エビフライを……」

「味噌カツを……」

「きし麺を……」

 

 Drコーチンの凶暴戦士達である。どうやら長い時間をガーリック達と過ごすことで、若干の知性が育まれたらしい。

 

「いいだろう。ククク……! いずれ全世界を我々の店で染めてくれる……! 神よ、気づいた時にはもう遅いぞ。人間どもが我々の店のメニュー無くしては生きられぬ世に塗り替えてくれる! 人間どもよ、高カロリー、高脂肪、高血圧で苦しみもがき死に絶えるがよい!! そしてもがきながらも逃れられぬ美食の魔力によって社長であるこのガーリックJrが崇め奉られた時、真の絶望が始まるのだ!」

 

 もはや自分が言っているセリフの意味を深く考えることもなく、ガーリックJrは野望に燃えた。

 そう、Drウィロー達だけでなく……彼らも疲れてしまったのだ。自分たちを置き去りに加速するパワーインフレに。この意味不明の世界征服計画も、己を保つための自己防衛本能と言ってもよい。

 

 

 

 

 

 

 

 ファミリーレストランチェーン「スパイシーガーリック」、好評営業中!

 

 その後、彼らはレストランチェーンの王座に君臨する。

 

 

 

 

 

 

 




コーチン「食材はわしが丹精込めてバイオテクノロジーで作りました」

オラの悟飯を返せ「俺のサブタイトルが欠片もかすってない件」
世界で一番強い奴「もはや誰だか分からない件」


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それはとある寒い朝(時期:新婚当初)

※注)落ちも山もないただの砂糖


 肩を撫でる外気の冷たさに布団を肩までかけ直し、すぐ近くにあった温かいものにすり寄る。しかしふと疑問に思いうっすらと目を開けた。湯たんぽにしては大きいし、妙に硬い。動物を飼っているわけじゃ無いし、野良猫が迷い込んできたのでもあるまいし……この妙に心地いい温度の物体は何だろう?

 

「うば!?」

 

 思わず変な声をあげてしまった私は悪くない。な、なんでラディッツの顔がこんな近くに……!

 そして珍妙な声を近くであげたにも関わらず、ラディッツは瞼を閉じたまま寝息を立てている。その普段からは考えられない妙に健やかな寝顔を見ていたら、段々と落ち着いてきた。そして思い出す。……そういや、少し前から一緒に寝るようになったんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラディッツが好きだと気づいてから地道なアピールを続け、そして思いがけずその想いが叶った日。そして色々すっとばして事に及んでしまった日……その翌日、日記に色々書きなぐりながらも結局私はこれからどう奴に接していいか分からなくなってしまっていた。

 仕事を終えて夜に帰って来たラディッツを待っていたはいいが、いざ顔を合わせると口がぱくぱく動くだけで言葉が出てこない。顔も熱い。多分真っ赤だ。物凄く恥ずかしい。

 それをニヤニヤ意地の悪そうな顔で見ているこの男が腹立たしくて腹立たしくてたまらなかったが、今までみたいにど突き倒すことが出来なくなっていた。………………結局、寝るまでの時間何も話せなかった私を誰か笑えよ。

 

 茫然としながらしゃこしゃこ歯を磨いて時計を見るが、もう深夜をまわっており話す時間は無さそうだ。

 

 その事実にため息をつきつつも寝室に向かったのだが、途中でぐいっと腰を引き寄せられたかと思えば耳元で「いい加減ソファーじゃ狭い」と言われた。当然引き寄せた犯人はラディッツしか居るはずもなく、言われた意味を考えると「ソファーじゃ狭いから一緒に寝かせろ」ってことだろう。今まで本人も気にしなかったし、ソファーと言ってもソファーベッドだし大丈夫だろうとずっとリビングで寝かせてたからな……でも考えてみればこいつの図体じゃ狭いか。

 気づいたものの喉が渇いて張り付き、体が固まって動けない。……近くに感じる息遣いや、腰に回された腕を必要以上に意識してしまうのだ。体温もどんどん上がっているようで、頭ものぼせたみたいにくらくらしてきた。やばい、何だこれ病気か。

 そのまま数分ガッチガチに固まっていると、しびれを切らしたのかため息をついたラディッツにそのまま部屋に連れ込まれた。いや、連れ込まれたっつっても私の部屋なんだが。

 そしてそのまま抱き枕よろしく抱え込まれて布団の中へ。思わず昨晩の事を思い出してしまいさっき以上にぐわっと体温が上がるのを感じたが、ラディッツがそのまま目を瞑って寝る体勢に入ったことを確認すると肩の力が抜けた。どうやら今日は普通に寝るだけらしい。

 なんつーか、ほっとしたような残念なような……………………いやいやいや、残念って何!? 別に期待してたわけじゃないけど!?

 

 ぐるぐる頭の中が大混乱している私に構わず寝息を立て始めたラディッツにいささか腹が立ったが、服越しにじんわり馴染んできた互いの体温が気持ちよくて「これはこれでいいかも」とも思い始めた。私もたいがい現金である。

 だからせっかくだしと、もぞもぞ抱き込まれた体勢から腕だけ抜け出させる。そして鼻先をラディッツの胸元に摺り寄せて腕を無駄にデカい体にまわしてぎゅっと抱き着いてみると、うん……硬くて抱き心地が良いとは言えないけど悪くない。

 すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅げば、私が使ってるのと同じボディーソープの香りに混じって若干の汗のにおいを感じた。しかし不快感は無く、妙に後を引……いやいやいや、嗅いでどうすんだ! 変態か!!

 

 自分がいちいち無意識に恥ずかしいことしてて頭が痛いが、しかしいつまでもこいつに振り回されているのも気に食わない。

 もう寝てしまえ! ……そう思って、私はそのまま眠ることにした。

 

 …………結局眠れたのは明け方近くだったわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの時も起きた時驚いて変な声あげたんだよなぁ……)

 

 眠るラディッツの鼻を指でつつきながら思い出す。あれから何だかんだあって、ついに先日書類だけだが籍を入れた。つまり今現在、こいつと私は新婚である。

 

「ホントに結婚しちゃったよ……」

 

 未来の息子の事があるとはいえ、未だに半分くらい信じられていない。なんせファーストコンタクトでは泣かれ(幼少期)、再会してからは理不尽に殴り倒しこき使い続けてきた相手だ。…………いや、本当によく結婚できたな。主にこいつの気持ちが私に向いてくれた的な意味で。よく好きになってくれたな。私が逆の立場ならそんな仕打ちをしてきた相手に絶対好意など抱かないだろうに……案外ラディッツは心が広いのかもしれない。

 

 目覚まし時計を見れば、まだ起きるまでに時間があった。

 

「へへ……もう少し見てよっと」

 

 普段と違う、もしかしたら私しか知らない表情で眠っているのかと思うと気分が良かった。なんだ、案外可愛い顔して寝てるじゃないか。

 起きている間には絶対出来ないから、ここぞとばかりにそっと唇を寄せた。起こさないように起こさないように、細心の注意を払ってその唇に触れる。するとどうしようもないほどの幸福感で満たされて、それが嬉しいんだけど無性に恥かしくもある。

 だからそれを誤魔化すように、私はぎゅっとラディッツの体に抱き着いて二度寝を決め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(起きれん……)

 

 そして実は狸寝入りを決め込んでいたこの男……ラディッツは、目覚ましが鳴っても幸せそうに寝入ったまま起きない妻に抱き着かれたまま、起きるに起きられず困り果てていたとか何とかかんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お粗末様でした。


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神と神

時系列は原作通りブウ編後、超編前です。更新の順番的に並び順が逆で申し訳なく


■月●日

 

 ブウとの戦いから少し経った。

 けどせっかく一息つけるかな~とか思ってたら、叶恵の育児以上に弟達の相手が面倒かつ鬱陶しい。

 

 なんでも奴らスーパーサイヤ人ゴッドに他のサイヤ人の協力無しの自力での変身を目指しているらしく、そのために先にゴッド変身出来るようになった私を前以上に修行に巻き込みやがるのだ。

 …………うん。なんか、自力でなれるようになっちゃったんだよなゴッド。五人のサイヤ人にパワーをもらわなくても、なんかコツを掴んだのか試しに変身してみようと思ったら出来ちゃった。なんでや。

 

 あいつら人が忙しいっつーに、叶恵があまり人見知りしなくて大人しいからって「でぇじょうぶだって! チチが面倒見ててくれっからよ。だから一緒に修業しようぜ姉ちゃん!」とか「姉と兄が三人もいるんだ。妹の面倒くらい見させておけ」とか好き勝手言いやがって。こういうところあいつら変に似てて超嫌なんだけど。片やおねだりで、片や強制的に私を修行に巻き込んでくる。マジ勘弁しろし。

 

  ……まあ、このままあいつらがゴッドになれないと、最悪私が今度来るビルス様と戦う破目になりかねないからな。しょうがないから協力はするけど、でもなんか釈然としない。

 

 いつになったら私は普通のマダムライフを送れるようになるんだ……。

 

 

 

 

 

 

△月●日

 

 

 ヤッベ。ヤーッベ。

 

 ブウとの戦いから四年の月日が流れた。私は現在48歳で、もうすぐ50歳かと思うとずいぶん遠いところまできたものだと思う。もう前世で生きてた年齢なんてとっくのとんまに通り越したからなぁ……。すっかり私にとってのホームグラウンドは何処かと言えば、この世界の地球になってしまった。

 が、今それはどうでもいい。

 問題なのは、今年のブルマの誕生日こそ……原作ドラゴンボールで言う「神と神」の舞台となる時間軸だと言う事だ。

 

 

 

 でもって、そのブルマの誕生日だけど明日なんだよなぁー。

 

 

 

 ヤベー。ッベーわー。そもそも日記書いてる場合じゃなくて、明日のパーティーにビルス様来るぜってベジータとか悟空に知らせるべきなんだけど、さっきウイス様から「お約束の年となりましたので、明日ビルス様と地球に伺いますね」って連絡来るまですっかり失念してたというか、もっと先だと思ってたっていうか……。

 

 

 …………。

 

 

 どうせ今日騒いだってしょうがないし、下手に言うと「何で忘れてたんだ!」とか怒られそうだから明日まで黙ってよっと。

 

 

 

 

 

Ω日ψ日(ブルマ45歳の誕生日)

 

 

 パーティー会場なう。

 

 ブルマが年齢サバ読んでる。45歳だろお前。38歳とか無理言うなよ。人の年齢に興味が薄い男性陣はともかく、私やチチさんや18号さんは普通に年齢知ってるから。いたたまれなくなるからやめとけって。…………そう思って実年齢ばらしたら殴られた。ご、ごめん。見た目の年取りにくいサイヤ人としては無神経だったわ……。いや、でもブルマ45に見えないくらい地球人としては見た目若いんだけどな。チチさんもだけど。

 これがあと……えーと、六年くらい? で皺が増えるのか。たしかブウ編から十年後くらいがウーブの出てくる最終回だったって、何故か私より原作知識の詳細を覚えているセルに前教えてもらったし。

 ……あいつの原作知識は私の日記由来のはずなんだけどな。何故私よりもその内容をはっきりと覚えているんだ。日記読み返したらマジで「十年後くらい」って書いてあったわ。マジなんなんあのセミ。前にそれ言ったら「単純に頭の出来の違いだろう?」と当然のことをなぜ聞くのかって顔で言われたからもう聞かないけど。腹立つ。マジムカつくあのセミ野郎。……ちょいちょい悟飯ちゃんとこに来ているけど、早く悟飯ちゃんあのセミぶっとばしてくれないだろうか。

 

 とりあえずセルの野郎、ビルス様が来るときは是非自分も呼べとか言ってたけど教えてやらないもんねー。ぷっぷー。ザマーミロ。お前が居ると余計にややこしくなりそうなんだよ!

 

 

 ちなみに悟空だけど、原作映画だとたしかパーティーの最初の方は界王様んとこ修行に行ってて不参加。だがこっちでは私が何か言うまでもなく、エシャロットが孫宅で「見て見て悟空おじちゃん! ブルマさんの誕生日パーティー用に買ってもらったの! 可愛い? 可愛い?」とオニューのワンピースを見せびらかしていたので、悟空もパーティーの日取りを思い出したのか出かけなかったが。

 ……まあ、そもそもあいつの修業場所は私やラディッツが居るからかもっぱら地球なんだけどな。界王様んとこ行くのも稀で、畑の仕事もあるから一日中家開ける事もないし。……でも本音を言うと私修業あんまり付き合わされたくないし、もっと頻繁に界王様んとこ行ってくれてもいい気もするんだけど。今度さりげなく薦めてみるか。

 

 でもってパーティーが進んで半ばごろ。ビルスさま来thgewdafgdnjhmfcsfdrghjnm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は文章を打ちかけていた日記を取り落とし、たった今脳天にもたらさせた衝撃に涙目になって頭を両手でおさえた。背中にくっついてぶらさがっていた四歳になった叶恵が心配そうに見てくれるのが癒しだが、和んでいる場合ではない。

 私は渾身の拳骨をぶちかましてくれた馬鹿野郎に抗議すべく、ぎりっと目も端を吊り上げた。

 

「何すんだよ馬鹿!」

「馬鹿は貴様だぁ!! ビルス…………様、が来ることを何故黙っていた!」

 

 な、何!? 何故私がビルス様たちの来訪を知っていることがベジータにばれているのだ!

 

「動揺していないのが証拠だ!」

 

 く、しまった! 普通に料理食ってたわ! ベジータは飲み物ふき出してたけど!

 

「あー! えっと、えっとね。エシャ知ってるよ。ビール様だ! 前に界王神界であった猫さん!」

「エシャロット、ビール様じゃなくてビルス様。あと、猫さんじゃなくて神様だよ。あの、お久しぶりです。僕は龍成と言います。ほら、エシャロットもご挨拶して」

「むぅ、龍成に言われなくてもご挨拶したもん! あの、エシャロットです! お久しぶり、です! こんにちは!」

「はい、こんにちは。……君達はたしか、ハーベストの子供たちだったね」

「うん!」

「はい」

「ふふふっ。ちゃんと挨拶ができるとは、なかなか礼儀正しいじゃないか」

 

 そして双子ぉぉぉぉ! 何ビルス様に普通に話しかけてるの!? いつの間に!?

 

「あ、ホントだ! あの時の紫猫の神様だ! な、なあマイちゃん。凄いだろ? ママの誕生日パーティーには神様まで来るんだぜ! あ、デンデさんも神様な! だから今うちには神様が二人もいるってこと!」

「か、神様ぁ?」

「えっと、隣の背の高い人は誰だっけ?」

「たしかウイス、さんじゃなかったっけ。っと、そうだあいさつあいさつ。こんにちは! 俺、トランクスです!」

「ボクは孫悟天です! こんにちは。ほら、マイちゃんも」

「わ、わたしもかぁ!? ……こ、こんにちは? ま、マイです……」

「こんにちは。ふむ……。こちらのお子様たちは悟空さんとベジータさんのお子さんみたいですね」

「親にもこの礼儀正しさを見習ってもらいたいものだね」

 

 そしてトランクスに悟天!! あと多分だけどいつの間にかトランクスに手をひかれてる黒髪の女の子はおそらく小さくなったピラフ一味のマイ! 子供組はぐいぐい行くな! まだビルス様たち来て10秒も経ってないんだけど!?

 

「と、トランクス! こっちにこないか!」

「あんたたちもこっち来なさい! いきなり失礼でしょ!?」

 

 慌てて子供たちをビルス様から引き離そうとする私とベジータだけど、それよりも先にコミュ力おばけ×2がビルス様に近づいた。

 

「お! ビルス様じゃねぇか、久しぶりだな! ……じゃなくて、久しぶり、でございます、です」

 

 悟空! お前そんな敬語だからビルス様に「親にも見習ってほしい」とか言われるんだよ!

 

「あらぁ、ビルス様じゃない! 改めてご挨拶させていただくわ。ベジータの美人妻、ブルマよ。今日はなんのご用事? よければ私の誕生日パーティーに参加していかない? ご馳走がたーっくさんあるわよ~」

「なあなあ、もしかして前に言ってた日って今日なんか!? オラ、前よりすっげぇ強くなってっぞ!」

 

 ローストチキンがたっぷり乗ったお皿を抱えたまま、目をキラキラさせて身を乗りだした悟空と、数年前にしたビルス様たちについての説明を忘れているのかそれとも酔っているのか、ワイン片手にほろ酔いでフレンドリーに話しかけるブルマ。

 私とベジータは無意識のうちに胃のあたりをおさえていた。

 

「おや、それは嬉しいですね。実は来た時からとても美味しそうな食事が目に入りまして、是非食べたいと思っていたところなんですよ」

「おいベジータ。なんか今は外面いいビルス様っぽいからこのまま穏便にいくぞ。ビルス様の目的はスーパーサイヤ人ゴッドになった悟空と戦う事だけど、ここでおっぱじめられても迷惑だし」

「小声のつもりだろうけど聞こえているよハーベスト」

「迷惑とか言って申し訳ございませんでした! ビルス様が場所も選ばないやからではなく分別ある方だと分かっているというのにとんだ御無礼な発言を!」

 

 素直に最敬礼でもって謝罪した。

 ベジータにこそこそ耳打ちしてたら聞かれてたぁぁ!! 怖、ビルス様の地獄耳怖っ! ビルス様の大きな耳って飾りじゃなかったんだ……。

 

「おいハーベスト! 俺とてカカロットに負けないくらいの訓練をつんでだな!」

「そしてお前は今さら対抗心燃やしてんなよめんどくさいな! わかってるけど、予言でビルス様が戦う予定の相手が悟空なの! それを今言っただけだから張り合うなよ! お前も後で戦えばいいじゃん! ってゆーかビルス様に満足してもらうためにどうしたってお前にも戦ってもらう事にはなるだろーよ! つーかお前も悟空と同じくらいスーパーサイヤ人ゴッド目指して修行してきたんだから私と一緒になってビビってどうする!」

「う、うるさい! 俺はビビってなどいない!」

「さっきから冷や汗ダラダラだっつーの! 私もだけど! 言っておくけど私ら姉弟小さい頃にビルス様に会ってるから深層心理に色々刷り込まれてんだよ! だからビビっててもしょうがないの!」

「ベジータおじさんとお母さん大丈夫? これ飲んで落ち着いて」

「あ、ありがとう空龍」

「あ、ああ。もらおう……」

 

 腹の底から声出してぜーはー言ってたら、十三歳になって最近ちょっと大人びてきた空龍が飲み物を差し出してくれた。それを思わず受け取った私とベジータはストローをくわえてじゅーっとドリンクを吸って飲み干すと、どちらともなくため息をつく。クソッ、こいつと言い合ってたら無駄に疲れた……。

 それにしても空龍が差し出してくれた飲み物が無糖であるところに、パーティー開始時からスイーツ類を普通の食事に紛れさせながらコツコツ食べていた私をしっかし監視していたラディッツ(スイーツを頬張っていると時々「あと五個までだ」とか耳元でささやいていく)の教育がそこはかとなく行き届いているのを感じた。前は私のために「お母さん甘い物好きだから」ってジュースとかココアとかフルーツスムージーとかチョコドリンクとか持ってきてくれたのにな……。いや、単純に息を整えるために飲みやすいものを持ってきてくれただけかもしれないけど。

 

 そして私とベジータが落ち着いたところを見計らったのか、ウイス様が声をかけてきた。

 

「お二人ともそう心配なさらなくとも、お祝いの席でいきなり戦い始めるほどビルス様は無粋じゃありませんよ」

 

 嘘だ。何かきっかけがあればビルス様すぐ怒るじゃん。例えばプリンとかで。

 

「そうそう。せっかくブルマさんに誘っていただいた事だし、ゴッドと戦うのは食事を楽しんでからにしたいね。……というかそもそも、ゴッドにはなれるようになったのかい?」

 

 ビルス様が流し目で見たのは悟空で、悟空は指で鼻をこすりながら「へっへっへ~」と笑う。

 

「おう、バッチリだぞビルス様! けどあれ見たらビルス様驚いちまうかもな~」

「ほほう?」

「ビルス様飯食ってくんだろ? だから後のお楽しみだ!」

「じらしてくれるね。ま、いいでしょう。でも期待外れだったら……破壊しちゃうよ?」

「でぇじょうぶだ! 楽しみにしててくれよ」

 

 自信満々に答える悟空にひとまず納得したのか、ビルス様は尻尾を一振りするとパーティー会場に向き直った。

 

「ま、そういうことなら今は先にご馳走を楽しむことにしようか。ところで君、それはなんて料理だい?」

「ティラミスだ。通常の珈琲味に加えてレモン味やイチゴ味もあるが、全部ためしてみるか?」

「それは興味深い! 頂こう」

「おや、おいしそうですねぇ。私も是非!」

 

 そして何気にブルマに呼ばれて出張してくれてる店長がビルス様とウイス様に普通にお菓子を提供してるんだが。……きっと店長、相手が神様だって知ってもあの態度のままなんだろうな。

 見習いたい、あのメンタル。

 

 そしていつの間にか屋台の一角を借りて料理を作っていたラディッツが店長に味見を頼んで褒めてもらって喜んでたんだけど、あいつもある意味神経太くなったよな。おい、隣に破壊神おるぞ。つーかお前も作った料理ビルス様に褒められてるんかい。いやラディッツの出し巻きはたしかに美味しいけど。

 

 なんだろう。私とベジータの姉弟と周りの温度が違いすぎて辛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はビルス様の正体を知っている周りが若干ビビりながらも、ブルマの誕生日パーティーは和やかに進んだ。ビルス様もなんだかんだでノリのいいところがあるから、踊りまで披露してくれたしな。これにはちょっとほっとした。

 

 懸念していたブウとのプリン事件は、もちろんブウはプリンを独り占めしてビルス様に譲らなかったのだが……私があらかじめ確保していたプリンを出すまでもなく、どうもビルス様がお気に入りになったらしいエシャロットが自分の分をあげていた。うん、優しい子に育ってくれていてお母さんは嬉しいぞ! ……ちょっとビルス様の尻尾にまとわりついてた時はハラハラしたけども。

 

 あと気になった事と言えば、ギニュー隊長、ジースくん、ナッパがピラフ一味を見て「もしやお前たちは我がライバル!」とか言いながらなんか喜んでた事か。……ライバル?

 ピラフ一味は何かコソコソ動いてたけど、結局ギニュー隊長達につかまって動くに動けずにいたみたいだな。これにも一安心。余計なことされてビルス様怒らせでもしたら事だし。

 

 そうそう! 気になる事と言えば重大発表があった! パーティーの途中で、なんとビーデルさんから妊娠したとの報告があったのだ!

 さっき珍しくお酒を飲んで酔っ払った悟飯ちゃんに「ビーデルさんも飲みましょうよ!」と言われてたんだけど、ちょっと照れながら「ごめん、悟飯くん。お腹の子に障るからお酒は遠慮しておくわ」と言ったビーデルさん。みんなが驚く中、嬉しそうにビーデルさんが身ごもったことを教えてくれたのである。

 う~む、これで私も大叔母となるわけか。なんだか感慨深い。私がへその緒を切った悟飯ちゃんが父親か……。知ってはいたけど、なんか感動。これは自分の子供が出来た時とはまた別の感情だな。

 

 

 とまあ、めでたい報告もあってパーティーの盛り上がり方はなかなかだったわけだ。

 

 

 美味しい料理に、楽しいビンゴ大会(和やかな流れ的にベジータの愉快なビンゴダンスは発生しないものと思われたが、ビルス様に「君、今サイヤ人の王を名乗ってるんだよね? 奥さんがこれだけもてなしてくれてるっていうのに、君はなにもしないの?」と、さりげな~く破壊をちらつかされながら言われたからか、渾身のビンゴダンスを見せてくれた。しかし王としてのプライドを掛けたからか、そのクオリティが凄まじく高く完成されており、終わった時には盛大な拍手に包まれていたベジータを見て何とも言えなくなった。……披露する気は無かったようだが、見た感じひそかに練習してたっぽい。……ブルマへの愛って事で納得しておこうと思う)、めでたい報告もあってと、パーティーは順調に進んだ。

 

 

 でもってこの後は悟空とベジータがビルス様を満足させる戦いをしてくれたらよかったわけで、彼らの修業を見てきた私としてはまったく不安が無いとは言い切れないものの、ビルス様が地球を破壊する心配はあんまりしてなかったわけで…………。

 

 

 

 ………………うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこんなことになるとか普通に思ってねぇから!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で私がゴッドで戦うんだよ!」

 

 そう。何故かパーティーの後、都から離れた荒野で私はビルス様の前に立っていた。スーパーサイヤ人ゴッド状態で。

 

 おい待てふざけん何だこれ。

 

 

「だってよー! スーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人じゃ最初の予定のゴッドより強いから、ゴッドの実力見た後に楽しみにとっときたいってビルス様が言うんだもんよー!」

 

 遠くから大きな声で分かりたくもない状況を説明してくれる弟を私は全力の眼力でもってギッと睨んだ。多分念力眼力バージョン覚えてたら今ので悟空を二十kmくらいぶっ飛ばせていた気がする。

 

 そう。悟空がさっきビルス様に言っていた「お楽しみ」とは、スーパーサイヤ人ゴッドの先にある可能性であるスーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人。蒼い神の気をまとった、のちに「スーパーサイヤ人ブルー」と名前を短縮される変身形態だ。

 ここ数年の修業で悟空とベジータの奴、ゴッド通り越してその上の段階まで行っちゃったんだよな…………。あの天才どもめ。

 

 しかし誤算だったのは、その変身を見たビルス様が予想以上に喜んだこと。そして何故か悟空とベジータの前座として、二人の他に唯一スーパーサイヤ人ゴッドになれる私が選ばれたこと。

 

 ………………。

 

 いやおかしいだろ!! ビルス様欲張りすぎだろ!! いいじゃんスーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人二人もいるんだから! 前座とかいらないじゃん!?

 

 しかし主張しようにも、ここでビルス様の機嫌を損ねてもそれはそれで問題。

 

 

 …………結局私は「お母さんがんばれー!」という優しくも残酷な子供たちの声援と、常識人枠からの憐憫の視線を背負ってビルス様と戦った。

 結果など聞かれるまでもない。悟空とベジータがビルス様と戦う傍らでぼろ雑巾になってデンデにベホマってもらってたっつーの。

 普段から悟空とベジータに付き合わされて修業してるんだから、ちょっとは子供らにいいとこ見せられると思ってたのに……。自分は戦わなくていいと思って超油断してスイーツたらふく食ってたら、腹が重くて全力で動けなかったとか超恥なんだけど。ビルス様に戦う前めっちゃふくらんだ腹のあたりまじまじと見られてて(「まさかまた出産するとか言わないよね?」と言われた)めっちゃ恥ずかしかったんだけど。戦闘中にへこませたけどあの腹でゴッドになるの死ぬほど恥ずかしかったんだけど。

 くっ……! ラディッツのお小言聞いとけばよかった……!

 

 

 そして戦いの後。ぐったりしながらベホマってもらっていた私はどういう経緯でそうなったかは知らないのだが、どうやら悟空とベジータはビルス様を満足させる結果を引き出せたらしい。だから地球の破壊は無し。ヤッターヤッターハッピーエンドじゃーん。

 

 

 

 

 そう思ってた時期が私にもありました。

 

 

 

 

 

 

 

β月Σ日

 

 

 

 ビルス様んちで行われる弟共の修行に誘われた。

 

 

 

 

 なんでや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ブウ編と超編の間の話を埋めようと久しぶりに番外編を書いたものの、完結させた話を時間をあけた後で書く+先に書いちゃった中編の前の時系列の話を書く、というのが思いのほか難しくて難産……!


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復活のF:その一

神と神に同じくトランクス編前の時系列。ある程度書き終わったら並び替えるかもしれません。(2018.2.12並び替えました)


「ねえ」

 

 甘えた声と吐息が、ラディッツの鼻梁をくすぐる。長いまつ毛の下に納まる熱をはらんだ潤む瞳は、ただただ真っすぐにラディッツだけを見つめていた。

 白い腕がするりと鍛えられた男の胴に絡まり、体温が近づく。目の前の女も鍛えているはずなのに、鍛え上げられた筋肉より先に感じるのはほの甘い色香。女特有の柔らかい肌はきめ細かく、それでいて吸い付くようだ。

 

「今日はずっとラディッツと一緒に居たいな……って。このまま、すぐそばでくっついてたいの」

 

 照れたように赤くなる頬。恥じらいを前面に出した、はにかんだ表情。

 その全てが艶めかしい色気となってラディッツを絡めとろうとする。

 

 

 

 が、彼はそれを一刀両断のもとに切り伏せた。

 

 

 

「駄目だ。今日から破壊神の所でカカロット達と修行するんだろう」

「いぃぃぃぃやーーーーーだーーーーーーー!!!! 馬鹿! ラディッツの馬鹿ぁぁぁ!! 可愛い妻からのお誘いを断るつもり!?」

 

 寸前までの色香は何処へやら。一瞬にして大人の女から子供のような駄々をこねる態度に移行した妻、空梨を前にラディッツは首を横に振る。

 

「それは、また今度な。とりあえずお前は一回鍛え直してもらって来い。主に精神面を」

「精神面!? もう四人も子供産んで育ててんのよ! 私は立派な大人! 大人だから!!」

 

 自分を親指でくいくいっと指しながら、空梨は胸を張って堂々と主張する。しかしラディッツのこめかみに寄せられた皺は消えない。

 

「立派な大人はもっと自己管理をちゃんとするものだろうが!! しかも最近お前は質が悪い事にエシャロットを味方に付けおって!! 俺が知らないとでも思ったか? こっそり二人でスイーツバイキング巡りをしているのを、知らないと思ったのか!!」

「ぎ、ぎくっ! 何故それを……! あ、まさか龍成!?」

 

 ここ最近一緒に愛娘と大好きなスイーツ巡りをしていることは、ラディッツには秘密だった。スイーツ巡りの資金も、有名占い師としての名前を伏せてこっそり副業として行っている最近話題の有料電話占い相談室で稼いだもの。家計にはいっさい響いていないので、隠し通せるものだと思っていた。

 しかしその幸せは一緒にスイーツ巡りにつきあわせつつ、口止めしていた双子の片割れの裏切りによりあっさり幕を閉じることとなる。

 

「龍成はいい子だ。二人の健康を心配して、俺に教えてくれたんだからな。双子の学校の行事だPTAだなんだと適当に理由をでっちあげてまで菓子を食い散らかして、恥ずかしいとは思わんのか! 子供を産んでから少し落ち着いていたかと思えば、今度はその子供を巻き込んでどうする!!」

「だ、だってエシャロットだってお菓子大好きだし、つれてってあげないのは逆に可哀そうだし!」

「限度というものがあるだろう! いいか? ちょっとは隔離された環境で反省して来い! それと破壊神への手土産に、お前の隠している菓子を全部持って行けよ。夜中に隠れて食っているやつだ」

「やだちょっとなんでそのことまで!? か、完璧に気配も消して音もたてずにいたはず……! 第一それはラディッツが居酒屋の仕事で居ない時だったじゃん!? 何で知ってんの!」

「空龍だ。夜中に母さんとエシャロットが隠れて菓子を貪っていると嘆いていたぞ。……最近エシャロットが妙に気の消し方が上達していると思っていれば……」

「空龍ーーーー! い、いやあれは! だってエシャロットがお腹すいて眠れないって言うから……」

「……この間、エシャロットが虫歯になったのは覚えているな」

 

 ピタリと、空梨の動きが止まる。そしてその体勢は自然と正座になった。それを見ていた者が居たならば、この女が怒られ慣れている事に気づくだろう。

 

「………………はい」

「夜中に食べた後、歯磨きはしたか?」

「し、しました」

 

 敬語である。

 

「その後も夜中にエシャロットが隠れて菓子を食べていたのは知ってるか?」

「え、嘘!? ど、どうりでお菓子の減りが早いと…………あっ」

「そうだ。その時エシャロットは歯磨きをしないで寝ている。わかったか? 今のお前のだらけきった精神が思いっきり娘に影響出ているんだ! 叶恵はまだそうでもないが、ちょっと片鱗が見えてきている。だからお前は反省して来い! 空梨が居ない間に俺がしっかりしつけておく!」

「や、ヤダ!! 反省はするから、ビルス様んとこは嫌だ!! だって行ったら他にやる事も無いし修業漬けの修業づくしじゃない! 今度の日曜日にはブルマとショッピングの約束だってしてるし、チチさんと新しい野菜の種は何植えようかって相談もしなきゃだし、近いうちにビーデルさんと18号さんとも女子会しようねって……!! と、とにかく色々予定あるんだよ私だって!! それよりラディッツはいいの!? 自分より妻が強くなってさ! サイヤ人の誇りとか男のプライド的にいいの!?」

「いいわけはないし心底悔しいが俺は俺で修行している今に見てろよゴッドだブルーだ言ってるうちに俺だって! ……いや、今それはいい。それより今は子供たちの教育の方が優先だ!」

「悔しさ駄々洩れじゃねーか! そのくせおっまえすっかり教育パパになりよってからに!! いい事だけど!! 最近チチさんとよく会話が弾んでるわけだよ!!」

「地球で暮らしていくには、ただ強いだけでは駄目だからな。当然の処世術だ」

「頼もしっ! 頼もしいけど、だけどビルス様んとこは嫌だってば! ね、ねえ……。本当に反省するから。だから今回は許し……」

「もう遅い。迎えが来たようだぞ」

「え」

 

 ぎぎっと、油が切れたブリキ人形のように鈍い動きで空梨の首が後ろを振り返る。

 そこには腕を組んで不機嫌そうにしている実弟と、片手をあげてにこやかにしている義弟の姿。

 

「よっす姉ちゃん! なんかもめてるみてーだけど、そろそろ行くぞ。ウイスさんが迎えにきてくれっからな!」

「いやそもそも約束してねぇから!!」

「……俺たち三人は、それぞれ別の弱点があるらしい。だからそれを補い客観的に見れるように、修行するなら三人そろっていた方が効率がいいんだそうだ。だからつべこべ言わずに行くぞ! ラディッツは了承済みだ!」

「何で本人の了承を得ないんだよ!!」

「貴様に言ったところで嫌がるのは目に見えてるだろうが!」

「その通りだよチクショウ!」

 

 悟空とベジータの二人にそれぞれ言葉を返すと、空梨は脱兎のごとく逃げ出そうとした。しかし両肩をそれぞれ弟に掴まれて、逃亡はあっさり阻止される。

 

「まあまあ、そうかてーこと言わねぇでくれよ。せっかくもっと強くなれるチャンスなんだぜ? ビルス様んとこはオラの瞬間移動でも行けない場所だしさ! 滅多にねぇ機会だ! チチも「悟空さはず~っと真面目に働いてくれてただからな。たまには思いっきり修行に打ち込むといいだ」って言ってくれたし!」

「喜べ。貴様のサイヤ人王族に相応しくないたるみきった精神は、このキングベジータ様が直々に鍛え直してやる」

 

 

 

「い、嫌だーーーーーーー!!」

 

 

 

 こうして、空梨は破壊神ビルスの住居での修業に強制参加となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして悟空、ベジータ、空梨がウイスに連れられてビルスの星へ向かった、その少し後。

 

 ピッコロに愛娘であるパンの子守を任せて、妻であるビーデルと共に買い物に行っていた悟飯が街中にある自宅に帰宅した。ここ最近学者としての仕事と、頻繁に自分に挑みに来るセル対策の修業のためになかなか時間をとれなかったゆえに久々の外出である。

 しかし帰宅そうそう、どこか遠くで邪悪な気を感じ取る。それはピッコロも同じようで、厳しい表情で彼方へと視線を向けていた。

 

 その直後。空が暗くなり、何者かがドラゴンボールを使った事が知れる。

 

 

「何か……。いやな予感がしますね」

 

 

 ドラゴンボール使用後に邪悪な気は何処かへと消えたが、悟飯にはそれが気にかかった。

 

「ほう、もうそんな時期か。クククッ、これは楽しみだ」

 

 しかし何処か陽気ささえ含んだ、不本意ながらここ最近聞きなれた声がしたことでそんな懸念も一瞬で吹き飛んでしまう。

 

「セル!?」

「!! チッ、いつも突然現れやがって。……今の邪悪な気は、もしかしてお前か?」

 

 背後に突然瞬間移動で現れたセルに悟飯が驚き、ピッコロが疑念の表情で問う。しかしセルはそれに対してたいへん不本意である、と言わんばかりに首を横に振った。

 

「あれが? 馬鹿を言うな。私があんな弱い気だとでも? それと、今さらドラゴンボールを使って叶えたい願いなど無い」

「……それもそうか。すまんな」

 

 不満を表すように純白の翼(いつ見ても慣れない)をばっさばっさと羽ばたかせるセルに、ピッコロも一応頷いておく。セルはかつての敵であるが、故郷であるナメック星をメタルクウラなるフリーザの兄から救った存在でもある分、セルに対するピッコロの心境は少々複雑ではある。少なくとも誤解したことに対して謝罪を口にする程度には慣れつつあるが、それが奇妙で仕方がない。

 

「ともあれ、孫悟飯。今のうちに鍛えておいて損はないぞ」

「お前、さっきのが何か知っているのか?」

「ふっふっふ。さあ、どうだかね。とりあえず数か月後を楽しみに、とだけ言っておこうか」

「もったいぶりやがって……」

 

 ピッコロが睨むが、セルはそんなものはどこ吹く風。軽く肩をすくめて「やれやれ」と首をふる仕草が妙に腹立たしい。

 

「ビルスの時は除け者にされたからな……。今度の祭りは、私も楽しみにしているんだ」

「祭りだって?」

「ま、楽しみにしておきたまえ。……ところで孫悟飯、さっそく戦おうじゃないか。場所は何処がいい?」

「あ、あのなぁ! 僕だって忙しいんだぞ!? 今日だって久しぶりの休みで、これからパンちゃんと思いっきり遊んであげるつもりだったんだ。お前にばっかり付き合っていられないよ」

 

 そう言って、大人になってからは滅多に見せなくなった子供っぽい仕草で悟飯はそっぽを向く。しかしその横をす~っと通りすぎていった小さな影に気づき、ぎょっとなって正面に向き直る。

 

「ぱ、パンちゃん!?」

「ほほう、どうやら孫悟飯。お前の娘は、私と遊びたいらしい。この羽が気に入ったのかな?」

 

 見ればふよふよと宙に浮いたパンが、セルの翼にきゃっきゃと懐いて戯れていた。

 ……悟飯の娘であるパンだが、叔父である悟天やはとこである空龍たちと同じく、生まれた時からピッコロを始めサイバイマンたち人外に面倒を見られたり遊んでもらっているため、昆虫のような姿のセルに対しても特に怖がることがない。しかし悟飯としては気が気じゃなかった。

 

「こら、パンちゃん! 戻って来なさい! その昆虫に近づいちゃいけません!」

「ぶ~」

 

 しかし悟飯の呼びかけに、パンは不満げに口をとがらせる。

 

「どうやらご不満のようだ。フッ、我ながら自分の才能には困ってしまうな。実は私は空龍のベビーシッターもどきをつとめたこともあるのだ。……正確には私と一体化した未来セルの方だがね。まあなんにせよ、私のあふれる才気はこうして赤ん坊までを引き付けてしまうというわけだ」

「セル貴様、それを自分で言っていて恥ずかしくないのか」

「ん? 弟子に加えてその娘まで私にとられて嫉妬かね? "ピッコロおじちゃん"」

「貴様がその名前で呼ぶな寒気がするわ!!」

「僕はお前にとられてないしパンちゃんもとられてない! お前が勝手に押しかけて来てるだけだろう!? 気持ちの悪い言い方するなよ!」

「ああ、パンちゃん! 何処へ行ったかと思えばこんなところに! もうっ、空を飛べるようになってから行動範囲が広がって困るわ……。今度空梨さんに相談してみようかしら。空龍くんの時も大変だったって聞いたし」

 

 次第に騒がしくなっていくうちに、悟飯はすっかり邪悪な気について忘れてしまっていた。それより何処とも知れない場所に消えた邪悪より、まず目の前のお邪魔虫である。

 

 

 

 悟飯がこの時の邪悪な気について思い出すのは、数か月後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙、某所にて。

 

 

「ホッホッホ。待っていなさいサイヤ人の猿ども。……努力などという、生まれて初めてのくだらないことまでするのです。その分このフリーザの復讐を、たっぷり味わってもらいますからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 




続いちゃった……(´・ω・`)

トランクス編前のお話その2。お待たせしました。
そしてターブルも、ターブルも忘れてないから……!(唐突な弁解


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復活のF:その二   からの

 ある日ブルマのもとに、昔の知人である宇宙パトロール隊員のジャコが訪れた。そして彼は一つの重大な情報をもたらす。その内容とは宇宙の帝王フリーザが復活し、千人の戦士と共に地球へ向かっている、というものだった。

 

 それを聞いたブルマは、テーブルの向かい側に座ってホットココアを飲んでいる友人へと声をかける。

 

「……らしいけど、どう思う?」

「ん~? ま、大丈夫じゃな~い? 悟飯ちゃん居るしぃ。……それにしてもまさかの大遅刻ね……」

「? 誰だそいつは。大遅刻?」

「あ、わたし? 初めまして! わたしのことはブウ子ちゃんって呼んでちょうだい」

「あ、ああ。初めましてブウ子ちゃん。わたしはジャコだ」

「ジャコちゃんね! よろしく!」

「ジャコちゃん!?」

 

 地球人にあるまじきピンク色のツルっとした肌に、髪の毛のように生えた触覚。あきらかに地球外の生命体であるブウ子にジャコは最初困惑するも、地球も何気に外宇宙との交流が増えたのだなぁと考え普通に握手をした。少々馴れ馴れしいが、相手のキャラクターに合っているからかさほど気にならない。というかちょっと可愛いな、と思ったジャコである。

 その相手が長らく宇宙の禁忌とされていた、封印されし魔人ブウであったことなどつゆ知らず。

 

 

 ちなみにこのブウ子と名乗る魔人ブウから派生した女魔人であるが、ちょっと前に空梨が「紹介したい子が居る」と言ってブルマ達のもとに連れてきたのだ。

 以前散々恐怖を味わわされた身としては、ブルマも最初は他のメンバー共々飛び上がって驚いた。しかし今はそれほど戦う力がない事や、それなりに平和に日々を過ごしている事を知ってからというもの。時々こうして一緒に遊ぶ、女子友となったのである。

 そんな風にブウ子を許容するブルマも大概神経が図太い。

 

 

 

「で、フリーザちゃんはいつくらいに地球に来るの?」

 

 ココアに息を吹きかけながら(ちなみにまったく熱くないのだが、可愛く見せるポーズである)言ったブウ子の問いに、ジャコは至極あっさりと答えた。

 

「そうだな……。だいたい一時間後くらいだ」

「ええ!? ちょっと、すぐじゃない! 知らせるならもっと早く知らせなさいよ!」

「あら! ホントに急ねぇ。えっと、悟空ちゃんとベジータちゃんと空梨ちゃんはビルス様の所に行ってるから無理でしょ? あとたしかブウちゃんは今日サタンちゃんのイベントがあるって言ってたから、こっちも無理ね。だったら、やっぱり声をかけるなら悟飯ちゃんとかクリリンちゃんかしら」

「え、あんたは戦わないの?」

「嫌よ。今のわたしってすっごく弱体化してるのよ? 初期のフリーザちゃんにだって勝てないわ」

「ふ、フリーザまでちゃん付けするのか……」

 

 ブウ子の呑気な態度に毒気を抜かれたのかジャコが気が抜けたようにつぶやくが、すぐにはっと我に返って首を振る。

 

「まあ、そういうわけだ。ちなみに私は逃げるぞ。何故ならまだ若いみそらで死にたくないからだ」

「ちょっと、薄情ね」

「知らせてやっただけありがたく思ってくれ」

 

 言うや否や、ジャコはさっさと自分の宇宙船に乗って飛び去っていった。ブウ子に最後「ではお嬢さん。また機会があったら会いましょう!」とだけ言い残して。

 

「あいつ、言うだけ言って本当にさっさと帰っていったわね……」

 

 眉をひくひく動かして眉間に皺を寄せるブルマだが、しかしすぐにぼうっとしている場合じゃないと思い至りケータイを取り出す。

 

「え~っと、とりあえずクリリンくんに連絡するでしょ? あと悟飯くんと……」

「あ、わたしがまとめて連絡するぅ? 戦闘力は低くなったけど、これでもバビディちゃんが使えた魔術くらい使えるのよん」

「本当? じゃあ、お願いしちゃおうかしら! ……そうだ、じゃあ私はウイスさんに連絡とっておこうかな。ベジータ達にも来てもらった方がいいわよね」

「ん~。まあ、その辺は好きにしてちょうだい! でも多分……」

 

 

 ブウ子はパチンッとひとつウインクをして、こう告げた。

 

 

 

「悟空ちゃん達が帰ってくる前に、決着がついちゃうかもしれないわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンボールで復活してから、約数か月。フリーザは生まれて初めてトレーニングというものをして、着実に強くなっていった。そしてついには今までの最終形態の上を行く姿を手に入れたのだ。その姿の名を、フリーザは「ゴールデンフリーザ」と名付けた。

 今まで自身の変身にこれと言って名称を付けなかったフリーザであるが、この変身はにっくきスーパーサイヤ人に復讐するために身に着けたもの。スーパーサイヤ人の名称に対抗するわけでは無いが、それなりに黄金の姿には思い入れがある。よって名づけた名前だ。

 

 

 しかし、フリーザは慎重だった。

 

 

 というのも実はフリーザは、以前ドラゴンボールで蘇る前に一回だけ起きたイレギュラーで地上に降り立ったことがあったのだ。慎重さを持たざるを得なくなった理由は、その時のことが原因である。

 

 どういう理由かは分からないが、フリーザは死者のままの状態で気づいたら地上に居た。

 フリーザはそれに気づくなり、真っ先に近くにあった大きな戦闘力のもとへ向かった。このスカウター無しで戦闘力を探る能力はもとは地球人たちが使用していたものだが、そういった技の存在がある、と知ったフリーザには自身でそれを再現するのはたやすい事だった。もしくは死んだことによって、第六感ともいえるものが開花した結果かもしれない。

 

 

 ともかく、フリーザは最も強く感じた戦闘力が自分を倒したスーパーサイヤ人のどちらかであることを疑いもしなかった。何故なら以前地球に父と共に降り立った時見た限りでは、孫悟空らの仲間は雑魚ばかり。自分に比肩しうる存在は孫悟空と、謎のもう一人のスーパーサイヤ人だけだと思っていたのだから。

 

 しかし向かった先でフリーザを出迎えたのは、見覚えのある女サイヤ人。

 

『おやおや、ハーベストさんじゃありませんか』

『ふ、フリーザ様!?』

『ホッホッホ。久しぶりの再会を喜びたいところですが、あなたは後回しです。居るんでしょう? この場所に、孫悟空か……あのスーパーサイヤ人が。死期を早めたくなかったら、素直に奴らを出し』

『復活のFにはまだ早いんで! 今復活のフュージョンなんで!!』

『ぐはぁ!?』

 

 目で捉えられぬほどのスピードで、フリーザは腹を打ち抜かれた。それがつかの間の復活においての、苦々しい記憶である。

 

 

(スーパーサイヤ人でもない、あのハーベストが……私を倒したのです。魔人ブウを倒したという孫悟空の実力も、予想よりも上に見積もっておいた方がいいでしょうね。それに昔からハーベストに何かと対抗していたあのベジータが、ハーベストに劣る実力に甘んじているとも考えにくい。……少なくとも孫悟空、謎のスーパーサイヤ人、ハーベスト、ベジータを同等の実力と見て、連戦もしくは複数を同時に相手をすることも考えなければいけません。そうなると、生半可なパワーアップではぬるい。圧倒的なパワーに加え、長時間戦える持久力を身につけなければ。チィッ! この私がこれほど慎重にならなければいけないなんて。…………忌々しい、サイヤ人どもめ……!)

 

 ぎりっと唇をかみしめながら、忌むべき記憶をリフレインする。

 

 

 

 

 このフリーザが。宇宙の帝王フリーザが!! あんな虫けらみたいに殺されたのだ!!

 

 地獄で受けた屈辱も相まって、その怒りの底は知れない。何処までも深く深く根深い、煮えたぎるマグマのような怒りだ。

 

 

 

 

「ふふっ。今度は油断しません。ナメック星でも随分邪魔をしてくれましたし、なんなら真っ先に殺してあげますよ。ハーベストさん」

 

 

 

 

 

 フリーザの修業期間は、実に一年に及んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくし!!」

「うわ!? なんだよ姉ちゃん。きったねぇなー」

「う、うっさい! こちとらさっき湖に落とされて寒いったらないっつーの!」

 

 最初の訪問から数えてもう何度目かになるビルスの星にて、ハーベストこと空梨は今日も今日とて弟達の修業につきあわされていた。付き合わされるのは最初だけと思っていたら、なんとその後も継続的につきあわされているのだ。たまったものではない。

 

「ふう~む。やはりご姉弟ですねぇ。ハーベストさんも、ベジータさんと同じく頭で考え過ぎてしまいがち。ですが慎重かと思えば、いきなり大胆に突っ走る所もある……。臨機応変に対処できると言えば聞こえはいいですが、ようはムラがある、ということですね。長所が短所に、短所が長所に、コロコロ変わる。まずハーベストさんは、精神面を鍛えた方がいいかもしれません。それだけでずいぶん発揮できる実力が変わってくると思いますよ」

 

 修業を見ていたウイスの言葉に、空梨は「ここでもメンタル面のこと言われんのか……」と項垂れた。その体は共に修業している悟空、ベジータと同じように、今は珍妙な修行用のスーツに包まれている。しかしそのずんぐりむっくりとしたスーツは見た目の間抜けさとは裏腹に、数百倍の重力にも耐えうる悟空たちをもってしても簡単には動けないほどの負荷をかけてくる代物だ。それを着た状態で湖に落ちた空梨は、一瞬本気で死んだと思った。

 すぐにグラビティープレッシャーによって湖の水を押しのけたことで窒息死は免れたのだが、もしそんな事で死んでいたらアホである。しかもこのスーツのせいで、死にざまがとんでもなく間抜けな姿になるに違いない。

 

(うう……。早く帰りたい……!)

 

 しかしそんな空梨を、水にぬれて体が冷えたからだけではない、予兆のような寒気が襲う。ブルりと背筋が震えあがり、体中をぞわぞわと虫が這うような感覚に空梨は嫌な予感を抱いた。

 

(あ、あれ。ちょっと待って。もしかして時期的に今って……)

 

 一年ほど前、ビルスの地球訪問があった。そしてその数か月後に悟空たちのビルス星での修業に付き合わされ始め、またもや数か月。時々家には帰れたものの、また付き合わされて数か月。…………ちょっと時期的に遅すぎる気もするが、そういえば忘れちゃいけないイベントがあった気がする。

 そして空梨が何かを思い出しかけた、その時だ。

 

「おや? なにやらブルマさんから着信が入っていますね。もしかして、ま~た素敵な美味しいものを用意してくださったんでしょうか!」

 

 喜々とした声をあげたウイスが、杖先の光る玉をのぞき込む。しかしそれとほぼ同時にビルスが住まう星に、新たなる来訪者が訪れた。

 流星のように落ちてきた光、そして爆発音。そこからしばらくして、煤に汚れて汗だくな姿だというのにふんぞり返った態度で堂々と現れたのは、美しい女性を従えたビルスによく似た神。

 

 

 

「お~いビルス! オレだー! 俺、俺! 邪魔するぜー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、地球にて。

 

 北の都の海上付近に現れたフリーザ軍の大型宇宙船より姿を現したフリーザは、まずあいさつ代わりとでも言わんばかりに指先から都へ向けて光線を放つ。

 しかしその眼前に滑り込み、その光線を弾いた者が居た。…………孫悟飯である。

 

 悟飯はフリーザの赤い光線を片腕一振りで弾き飛ばすと、鋭い眼光でフリーザを睨んだ。

 

「フリーザ……!」

「おや? あなたは……」

「孫悟空の息子、孫悟飯だ!」

「ああ、なるほど。あの時のガキですか。ホッホッホ、大きくなりましたねぇ。ところで、あなたのお父さんは何処です?」

「父さんは今、外出中だ。お前の相手は僕がする」

「あなたが? ふむ……。まあ、鍛えてはいるようですが……」

 

 フリーザは以前の小さい姿から随分と逞しく成長した悟飯をまじましと眺めた。紫色の胴着をまとい構える姿は、なるほど父親によく似ている。しかしその眼光が、どこか孫悟空とは違って見えた。成長したから、という理由だけではないほど雰囲気が変わっている。

 そしてその内包する力が自身と戦うにふさわしいものであると見抜いたフリーザは、ひとつ頷く。そして遠方より次々と現れた地球人たちを見て、笑みを深めた。

 

「……いいでしょう。他のお仲間に比べたら、あなたはずいぶんとお強いようです。孫悟空と戦う前の前菜として認めて、お相手してさしあげましょうか」

「ご、悟飯。行けるか? なんかフリーザの奴、前に会った時よりずいぶん強くなった気がするけど……」

 

 フリーザの言葉にやや弱気な声で悟飯に問いかけたのはクリリンだ。ナメック星にてヤムチャと天津飯が殺された時の記憶は未だに脳裏に焼き付いており、フリーザの冷酷さは重々承知している。その相手が復活し、とてつもなく強くなって現れたとなれば、少々弱気にもなろうというもの。

 他にこの場にたどり着いた仲間はピッコロ、天津飯、餃子、ヤムチャ、亀仙人。ブウ子のテレパシーによって他の面々にも連絡は伝わっているはずだが、一番北の都近くに居たのがこの六人だったのだ。

 

「ええ。フリーザが以前と比べて別人みたいに強くなっているのは分かります。ですが、僕だって不本意ですがセルと日常的に戦って鍛えてるんですよ! そう簡単には負けませんよ。いえ、勝ってみせます」

「へへっ、すっかり頼もしくなっちまったなぁ悟飯の奴。……悔しいが、俺たちじゃフリーザの相手はつとまりそうにない。せいぜい都に危害が及ばないように、その他大勢をやっつけてやるか!」

「ああ! 奴らの好きなようにはさせんさ!」

「ボクも頑張る!」

 

 悟飯の言葉を受けて、ヤムチャ、天津飯、餃子もそれぞれやる気を出す。クリリンもそれを見て一人だけ弱気になっているわけにもいかないと、頬を張って気合いを入れ直した。妻である18号に格好をつけて出てきたのだし、このままでは情けなさ過ぎる。

 

「ふむ。では、わしらもつゆ払いに努めようかの。……ピッコロ。おぬしはフリーザと戦わんのか?」

「フンッ。俺もナメック星で不完全に終わった一対一の戦いに決着をつけたい気はあるがな。だが、悟飯がやる気を出しているんだ。無粋な真似はせんさ」

「ほっほ。そうか」

 

 亀仙人の言葉に、ピッコロが口の端をニヤリともちあげつつ答える。そしてフリーザの周囲を群がるように飛んでいるフリーザ軍の兵士たちを睨みつけた。その眼光は鋭く、その視線をうけた兵士は思わず震えあがる。

 一方その様子をサングラスの奥で目を細めて見ながら笑った亀仙人は、自分もまた戦闘態勢に入る。今自分たちがするべきことは、悟飯が周囲を気にせず戦えるようにすることだ。

 

「では、ゆこうか!」

 

 

 

 

 

 

 戦闘の火ぶたが、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 かと思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て孫悟飯! フリーザの相手は私に譲ってもらおうか! まったく、大遅刻もいい所だぞフリーザよ! 復活してから四か月どころか一年経ってしまったぞ! うっかりまた除け者にされるところだったじゃあないか!」

 

「いや待て! フリーザの相手は俺がする! なんといったって親父の仇だからな! この機会逃してたまるか! そのために仕込みをいつもの倍の速度で終わらせてきたんだ!」

 

「フリーザ様!? 本当にフリーザ様なのですか!! な、なんというお懐かしいお姿……!」

 

 

 フリーザと悟飯の間に割り込むようにして現れたのは、珍しく焦った表情のセル。居酒屋の厨房服に前掛けをつけ、包丁を握ったままのラディッツ。趣味に興じている途中だったのか、和服を身にまとい茶せんを手にしたギニューだった。これにはフリーザも少々面食らう。

 

「…………おやおや、見慣れない方に加えて、懐かしい顔がいくつかあるようですねぇ。ラディッツさんに、ギニュー隊長ですか」

「ほお、俺の顔を覚えていたか」

「再びまみえることが出来ましょうとは……!」

「感動してくれているようですが、あなた前に私が蘇った時ハーベストさん達となんだか仲良さそうにしてましたよね?」

「そ、それは……!」

 

 フリーザの言葉に言い淀むギニューだったが、遅れてやってきたジースと共にキッと表情を引き締める。

 

「わけあって我々は地球で生きていくことを決めましたが、フリーザ様が蘇ったとあらば我らの忠誠は貴方様のもの! そうだな? ジースよ!」

「ええ! 減刑が叶わずとも、リクームたちもきっと分かってくれるでしょう。たとえ悪の道であっても、フリーザ様を裏切ってはギニュー特戦隊の恥! ……ナッパたちを裏切るのは心苦しいですが、これもまた我らの宿命!! ですね? 隊長!!」

「ああ、そうだとも!」

「ぎ、ギニューさん!?」

 

 ギニューとジースの発言にぎょっとする悟飯をはじめとした地球サイドの面々。だがしかし、それはすぐに問題ではなくなった。

 

「はいはい忠誠乙忠誠乙。ちょ~っと大人しくしててね~ん」

 

 何処からか桃色の光線が飛来しギニューとジースに直撃したかと思えば、彼らはミルクチョコレートとチーズサンドクッキーに姿を変えた。そしてそれを壊さないように器用にキャッチしたのは、桃色の女魔人……ブウ子である。その隣にはジャコの宇宙船に乗ったブルマも居る。

 

「ぶ、ブルマさん! なんで来ちゃったんですか!? それに、ブウ子まで!」

「そりゃあ、フリーザの顔をおがんでやるためよ。結局ベジータ達には連絡つかなかったけど、このメンツなら負ける事ないでしょ? だったらフリーザがやられちゃう前に、しっかり顔を見ときたいじゃない。前地球にフリーザが来た時はトランクスがすぐやっつけちゃったから、結局見れなかったし。天界に現れた時も空梨が一瞬で倒しちゃったしさ!」

「そ、そんな見物気分で……」

 

 ブルマの言葉にクリリンががっくり項垂れるが、その様子もなんのその。ブルマはフリーザの顔を確認すると、隣に乗っていたジャコの背中をバンバンと叩いた。その手にはヘタウマと言われそうな、絶妙に特徴をとらえてはいるがバランスが微妙なフリーザの似顔絵が握られている。

 

「それにしても、あんた結構絵心あるじゃない! 似てるわよ、フリーザの似顔絵!」

「こ、コラ! なんでよりにもよってこんな目の前に割り込むんだ! ブウ子ちゃんがテレパシーでどうしてもって頼むから送って来たのに……! というか、ブウ子ちゃんは飛べるんじゃないか!」

「いやん、だってジャコちゃんが居た方が楽しいかなって。……駄目だった?」

「え、いや。駄目って事は無いが……」

「よかった! ねえジャコちゃん。このお菓子、ちょっと預かっててくれる? 壊しちゃ嫌よ?」

「は? あ、ああ。わかった。でもこれってさっきまで人じゃ……」

「お・ね・が・い♡」

 

 宇宙船のそばにより、手を組み上目遣いでウインクをキメるブウ子。ジャコはすぐに頷いた。

 

 

 

 

 そしてその横では、フリーザそっちのけで悟飯、セル、ラディッツが誰がフリーザと戦うかでもめていた。

 

 

「私はこれでも結構楽しみにこの日を待っていたんだぞ! いいから黙って私に譲れ! お前たちは雑魚共を相手にしていればいいだろう!」

「セル、もしかしてこの事を知っていたな!? まあ、それはもういいけど。でもお父さんが居ない今、地球を守るのは僕の役目だ。僕がフリーザと戦う!」

「いや、俺が戦う! ベジータじゃないが、俺にだってサイヤ人としてのプライドがある。惑星ベジータを破壊してお袋や親父を殺したフリーザを前に簡単に引けるか! 普段は家事に育児に仕事にと忙しいが、トレーニングを怠った事は無い! どうせカカロットやベジータが居れば真っ先に戦おうとして俺の出番は無いんだ。あいつらが留守にしている今がチャンス! 今まで鍛えてきた成果を見せてやる!」

「いいや戦うのは私だ! ……いやラディッツ程度なら前座で収まるだろうから先に戦わせてやってもかまわんが、孫悟飯お前は駄目だ。ここはお前がなまらないように修業につきあってやっていた私に恩を返すつもりで譲りたまえ」

「勝手に押しかけて来ておいて恩だって!? 図々しいにもほどがある!」

「待てそれよりセル貴様俺が前座だと!? 聞き捨てならんな!!」

「事実を言って何が悪い! 悪いが君では今のフリーザの相手はつとまらんよ! それより私だ! やあフリーザ初めまして! 私は君の兄弟だ!! この究極神セルがお相手をしよう!!」

「どさくさに紛れて戦おうとするな! 行くのは俺だ!」

「いや僕です!」

「私だ!」

 

 

 

 フリーザを置き去りに、言い争いは続く。

 

 

 

「……あの~……。フリーザ様」

「…………。なんですか、ソルベさん」

「攻撃、始めてしまってもよろしいでしょうか?」

 

 揉み手を作りながら、恐る恐るとこめかみをピクピクさせているフリーザに問いかける現フリーザ軍参謀ソルベ。しかしフリーザはそれに否と答えると、乗っていた浮遊ポットから下りて宙に浮くと、すうっと息を吸い込んだ。

 

 そして腹の底からの大音量でもって叫ぶ。

 

 

 

 

 

「舐めるのもいい加減にしろ、貴様らぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 空に暗雲が立ち込め、禍々しい黄金の光が世界を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

●月□日

 

 

 なんかフリーザ様が第六宇宙の試合に強制参加させられることになった。初めてフリーザ様に仲間意識が芽生えた。

 

 

 

 

 

 




時間的にフリーザ様がちょっと来るの遅れると、こんな可能性もあるかなって。

というわけで力の大会前にフライングフリーザ様からの第六宇宙試合編、スタートです(自分の首をしめつつ


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復活のF:その三 からの第六宇宙対抗試合1 元上司にどんまい!とエールを送った日

 ●月□日

 

 今日も今日とて弟共に付き合わされてビルス様のうちで修行していたら、なんかビルス様の兄弟のシャンパ様ってのが来た。あれ、ここまでの流れだとこの世界ドラゴンボール超の時間軸だから、シャンパ様が登場する前にフリーザ様復活イベントなかったっけ? 

 

 って思ってたんだけど…………なんか混ざった。

 え、何ぞこれ。

 

 修業の辛さで考えるのが面倒になってたのと、ちょっと前に界王神様を通じてザマスの事をどうにかできないかってごっちゃごちゃやってて疲れたから、正直フリーザ様の事は地球サイドに丸投げしてたんだよね。

 だって悟飯ちゃんセルのせいで(おかげとは言いたくない)修業を現在も継続的に行ってるからアルティメットのままで強いし、妙に(こす)いブウ子(最近みんなに紹介したら即行馴染んだ悪時代のボッチ度が嘘みたいなコミュ力をつけてきた化け物)もいるから、どうにかなるかなって。

 

 というか、映画でもたしかフリーザ様復活っていったい何だったん? くらいの扱いだった気がするしな。強いて言うなら映画とその後の続編であるドラゴンボール超の販促のために歴代悪役キャラでも有名で人気が高いフリーザ様によるキャッチーさを利用しつつ、悟空たちの新しい変身であるスーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人(最近長いからってブルーに改名された)お披露目のためご出演頂いた、的な。

 ……でも現時点で考えると、もう悟空たちとっくにブルーになれるし、その後も更に修行してる。よく考えなくても多分絶対勝てるっていうか、控えめに言ってヌルゲーだろ。なんかセルもビルス様の時に呼ばなかったからか、フリーザ様とは自分が戦ってやってもいい的な上から目線だけど凄いやる気出してるし。

 もしフリーザ様が地球ごと破壊しようとしても、そこんとこは戦闘力が低下しても抜け目が無さそうなブウ子が気を配ってくれるだろう。ブウ子ならきっと地球が破壊されても生き残るし宇宙でも過ごせるだろうけど、地球の娯楽を手放すとは思えないからな。

 

 いや本当、復活のFのフリーザ様って私が覚えていないブラック編の後にまた活躍があるならともかく、映画の時点は「う~ん、ご苦労様です!」って感じの印象だった。だってフリーザ様ですら逆らえない大物であるビルス様やウイス様が登場してる時に出て来てもなぁっていう……。

 物語的に約束された敗北だとしても、あの映画は妙にフリーザ様可哀想だったなってのだけ覚えてる。

 まあかといって、可哀想だからって生かす選択肢は微塵もないわけだけど。

 多分ギニュー隊長達はフリーザ様復活したら絶対向こうにつくからそんな忠誠心マックスな彼らには悪いけど、フリーザ様は絶対になあなあで仲間っぽくなるタイプじゃないからなぁ……。なんかブウとかセルとかいつの間にか馴染んでるけど、フリーザ様は無理だわ。もし万が一和解しても絶対背後を安心できない。そんな方だよフリーザ様。

 

 でも、そんなわけだから心配はしてなかったわけよ。ブウみたいに吸収能力があるわけじゃないし、今の戦力なら勝てる勝てる~よゆーよゆーってなもんで。

 

 

 だけどなんで第六宇宙の試合に参加することになってるんスかフリーザ様。予想外の仲間フラグでしたよ!?

 

 

 シャンパ様がビルス様の所に来た後、色々あって美味しいものがたくさんある地球の所有権を巡って破壊神兄弟が勝負することになった。その内容っていうのが、互いの宇宙……ビルス様の第七宇宙とシャンパ様の第六宇宙から人間の戦士を出し合い、格闘試合をするっていうもの。私の原作知識で言えば、第六宇宙対抗戦編の始まりである。

 それで地球に戻って試合の選手を決めようってことになったんだけど……いやビルス様達はブルマに美味しい物たかりにきただけっぽいけど…とにかく戻ったわけだ。

 

 そしたらなんか黄金色になってブチ切れてるフリーザ様がいらしたわけで。

 

 ビルス様にぽんって肩を叩かれて「お前、参加な」「は?」ってやり取りしてたのは、何かもう……。もう部下じゃないんだけど、おいたわしやとか言いたくなった。悪のカリスマフリーザ様。宇宙の帝王フリーザ様。来る時期はなんでか遅くて第六宇宙編とかぶってしまったフリーザ様。…………非常に言葉に困る。なんか、死んだままのが良かったんじゃないかなフリーザ様。まさかパワーアップして復讐しに来たら破壊神にリユースされるとか本人も思ってなかっただろ。

 

 とにかく、フリーザ様がビルス様の一言によってメンバー追加が決定した。

 

 

 

 

 しかし同時に、私たちはとんでもない爆弾を抱えたとも言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーザは深く沈む意識の中で思考を続けていた。

 

 少し前、孫悟空らに復讐するために生まれて初めてのトレーニングを一年もかけて行い、満を持して地球に訪れた。しかし間が悪い事に、なんとあの破壊神ビルスがその場に現れたのだ。

 

 しかし現れただけなら、フリーザにとってはどうと言う事は無かった。何故なら相手は神。孫悟空達と何やら多少の交流があったようだが、だからといって人間を善意で助けようというタイプでもないことをフリーザは知っていたからだ。少し下手に出たうえで勝負に口を出さないという言質さえとれば、フリーザはビルスと共に現れた孫悟空、ベジータ、ハーベストと戦う事が出来たのである。

 むしろ一年の修業期間を経たフリーザは、ともすれば自分が下手に出るしかなかったこの破壊神という忌々しい存在にすら勝てるのでは、と思っていた。だから最初「第六宇宙との試合にお前も参加しろ」などと言われた時は、激昂のままにビルスとも事を構えようとしたのだ。

 

 ……今思えば頭に血がのぼって早計にすぎる事をしようとしていたが、幸い"部下"のお陰でそれは免れた。

 

 

(破壊の力……。厄介ですねぇ。神が持ちうる権能、ですか……)

 

 

 フリーザに馴れ馴れしく声をかけてきたビルスに、なんとあろうことか、あの猫を破壊神だと知らないフリーザ軍の部下が攻撃をしかけたのだ。たしか、シサミとか言ったか。フリーザが復活した時に片付けたタゴマとかいう男と共にソルベがドドリアとザーボンくらいの実力はあると言っていた者だが、その程度の力しか持ちえないのに破壊神に挑むとは馬鹿の極みである。……おそらくスカウターに表示されない神の戦闘力を見て、侮ったのだろう。

 しかもその攻撃の余波で、ベジータの妻だとかいう女が手に持っていたガラスの器に入っていた食べ物が吹き飛びおじゃんになった。それが決定打だ。

 

 ……その後の事は、まさに一瞬である。

 

『ふぅん……。君の部下は、ずいぶん躾がなっていないようだね』

 

 フリーザの乗ってきた宇宙船に手を向けてのビルスの一言。「破壊」を口にしたビルスの前で、宇宙船と周囲に居た千人の部下はもろともに塵となり果てたのだ。

 派手な爆発も光もなく、ただ無残なまでにこの世に存在することを拒否された。光る砂粒のようになって消えていったフリーザ軍を見たフリーザは変身による全能感など一瞬で吹き飛び、珍しく冷や汗を流した。そんなフリーザに残された選択は多くない……否、一つ。

 

 破壊神の茶番につきあい、憎き怨敵たちと手を取り合い仲間になる、というものだった。

 

 それを了承した後にビルスに叩かれた肩とは逆の方にポンっと手を置き「フリーザ様、どんまい」などと声をかけてきたハーベストに、フリーザはなおいっそう「戦えるようになったらまず真っ先にこの女から殺そう」と決意を新たにした。

 

 

 

 

 そう。こんなことで復讐を諦めるフリーザではない。

 

 

 

 

 要はこの茶番さえ乗り切れば、あとは破壊神にとってフリーザと孫悟空達が戦おうがどうしようが知った事ではないはずだ。一応確認をとったが、試合の後は好きにしろと言われている。

 むしろこれは逆にフリーザにとってチャンスでもある。何故ならその第六宇宙との試合とやらで、孫悟空達の実力を把握することが出来る可能性があるからだ。トレーニングを重ね今まで以上の力を手に入れたフリーザであるが、だからこそ分かった。……孫悟空達の底上げされた、秘められし実力を。

 

 当然、負ける気はない。しかしわざわざ戦う前にその力を披露してくれるなら、喜んで仲間になってやろう。そして実力が丸裸になった後で、じっくり蹂躙してやればよい。

 だが実力を計られるのは、フリーザもまた同じである。

 

(この私の本気を引き出せる選手がその第六宇宙とやらに居るとは思えませんが、せっかく身に着けた力を一番向けたい奴らの仲間として使ってやるなど屈辱でしかない……! せいぜいあいつらの実力を計りつつ、私は楽をさせてもらいましょうか)

 

 そして試合が終わった後。全力をもって、復讐を完遂させてみせる。

 

 つまりこの第六宇宙の試合にて、正確にチームメイト()の力を把握した方が有利になるのだ。そうこれは、第六宇宙などという聞いた事も無い奴らを相手に戦う試合などではない。

 そして奇しくもこの時同時にハーベストこと孫空梨もまた、フリーザと同じ事を考えていた。……それは実際にゴールデンフリーザとなったフリーザを目の当たりにし、その修業期間を一年と知ったがゆえに。

 

 

 

 

 

 そうこれは、互いに相手の実力を探り、弱点を見つけ、試合後の殺し合い(戦い)に備えるサドンデス!!

 

 

 

 

 

 仮に今のフリーザと孫悟空たちの実力が近い場合、相手の戦い方、持久力、隠し玉。それらの情報という名の得点を先により多く得た方が勝つ。戦闘力やセンスが拮抗している場合、勝敗を分けるのは観察力と情報なのだ。

 しかしそうなると、戦う場合は破壊神にバレない程度に手を抜かなくてはならない。敵にみすみす情報を与えてやる必要などないのだから。フリーザにとって地球の所有権など心底どうでもいいので、余計にそう思う。

 が、どんなにくだらなくても試合を主宰するのは破壊神。手を抜いた場合、その時点で怨敵と戦う前にこの世から存在を消される可能性がある。

 

 

(これは、力加減が試されますね……)

 

 

 

 

 手を抜きつつ全力で。

 

 それが互いに課せられた、第六宇宙対抗戦裏ルール(非公式)であった。

 

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで。今回は出来るだけ積極的に舐めプの方向で」

「え~! せっかくの試合なのに、そりゃねぇよ姉ちゃん!」

「フンッ、馬鹿馬鹿しい。たとえフリーザがどれだけ強くなっていようが、それを上回ればいいだけの事だ」

「ああお前らがそう言うのは分かってたよチクショウ!!」

 

 今回の試合後に待ち受けるだろうフリーザ様との戦いを思って提示した案は、主戦力二人に却下された。

 ああ、そうだろうと思ったよ……! むしろ第六宇宙にも時間操るヤベー奴居たはずだから、舐めプで勝とうって方が無理だ。今の悟空ならどうかわからないけど、いくら修行しててもこいつら実戦の中で成長するふしがあるからな……。フリーザ様が原作より長い修業期間をとってヤベーくらいパワーアップしていたら、むしろ第六宇宙との試合の中での成長が必要な場合も……ああ、もうめんどくさいな!!

 

 でも、ヤバい。多分よく考えなくても今のフリーザ様ヤバい。見た感じだけでもヤベーって思った。

 

 たった数か月真面目に修業しただけで神の域に達した悟空たちと渡り合えるんだぞ? それを一年ってなんだよ。どんだけ強くなってんだ。

 本当ならこんな面倒くさいことになる前にさくっと倒してもらいたかったとこだけど、果たして今のフリーザ様がそれを許してくれただろうか……って考えると、今のフリーザ様の実力を見れるかもしれない試合はむしろ歓迎すべきか…………いやいやいやもうわっかんねーわこれ。

 

「…………まあ、そう心配する必要もないだろう。何故ならフリーザはこの究極神セルが相手をしてやるからだ」

「ええ!? いや、フリーザはオラと戦いたがってんだろ? オラが戦うって!」

「ずるいぞカカロット! 自分だけ美味しい役目を得ようとしてもそうはいかん。俺が戦う」

「いや悟空もベジータも、そいつ人間枠に入れなくて妙にフリーザ様の相手を張り切ってるんだからそっとしておいてやれよ……。実際倒してくれるかもしれないし」

「でも姉ちゃん、オラだってフリーザと戦いてぇぞ! あいつ、見た感じすっごく強くなってるだろ? 第六宇宙との試合も楽しみだけど、オラワクワクしちまってよ~」

「贅沢を言うな孫悟空! お前たちは存分に第六宇宙との試合を楽しむがいい。私が出られない、第六宇宙との試合を」

「セルの奴、根に持ってるわねぇ……」

 

 呆れたように言うブルマに同意して、私も頷く。

 

 第七宇宙のメンバーに選ばれたのは悟空、ベジータ、フリーザ様、私。そしてビルス様が推薦してきたモナカ、という人物だ。

 いやこれだけ戦力揃ってんのに何で私と本来は悟空とベジータに発破をかけるための一般人モナカがINしてんだよ……。

 

 最初他のメンバーはともかく何故私が、と思って他を推薦したのだが、セルは本人が言っている通り究極「神」枠なのでウイスさんに「一応人間同士での戦いとなっていますからねぇ。あなたを出してしまうとルール違反になってしまうんですよ」と言われて却下され、悟飯ちゃんはどうしても外せない学会があるからと辞退。「参加できないのは残念ですけど、おばさん達なら負けませんよ!」といい笑顔で言ってくれた甥っ子の信頼が重い。

 子供たちは置いておいて(一部からすごいブーイングされたけど)ピッコロさんやラディッツ……ブウ子じゃない方のブウも押したのだが、結局ビルス様に「一年も僕の星で修行しておいて、まさかこんな大事な場面で戦わないとか言わないよな?」と睨まれて参加が決まってしまった。

 

 けどまあ、実は今回そこらへんどうでもいい。だって確実に私まで出番回ってこないからな! 悟空、ベジータ、フリーザ様の壁が厚すぎて私超安心。モナカ氏とまったり試合観戦してるわ。

 

 聞けば勝負の内容は勝ち抜き戦だから、……フリーザ様を先鋒にして、そのまま最後まで突き進んでくれたら理想なんだけど。そうすればフリーザ様の実力がちょっとは分かるかもしれないし。

 でも予想出来る。そんなことしたら絶対に文句を言う奴らが確実に二名いる事を。……一番手は悟空かベジータが自分からだって争うんだろうな……。でもそうなるとフリーザ様の実力が……う~ん……。

 

「ま、難しい事は後にして今はお祭りを楽しみましょうよ! 屋台もでるんでしょ? 別宇宙のスイーツが楽しみだわ~!」

 

 そう言ってまとめたのはブウ子。

 

 ……まあ、そうだよな。とりあえずフリーザ様の事は後回しにしつつ、あわよくばフリーザ軍みたくビルス様の怒りをかってさくっと破壊されてくれることを願おう。そうでなかったら地球さんが破壊される可能性を排除するために、フリーザ様との戦いは試合後の舞台を使わせてもらえたらラッキー……いや駄目だ。なんか試合が行われる星には何かあった気がする。最悪ブウ戦でも壊れなかった界王神界貸してもらえばいいか。

 

 

 

 まあ、あれだ。色々考えてみたけど、いくらフリーザ様が強くても思う事は変わらなかった。

 

 

 

「フリーザ様、どんまい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本作は映画の流れとテレビアニメの流れをミックスしているので、実はゴタマさん退場済み。
そして第六宇宙編はお祭り的な雰囲気が魅力だと思っているので、多分フリーザ様が頑張ってもゆる~く進むかと。


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復活のF:その四 からの第六宇宙対抗試合2 "何もない星"へ!

 第六宇宙との対抗試合は、知り合いをたくさん呼んでの半ピクニック気分でのお出かけとなった。子供たちもみんなで出かけられるのが嬉しいからか、とても喜んでいる。

 現在はバスガイドよろしく試合会場までの旅の案内をアナウンスしてくれているウイス様のもと、悟空とベジータが到着するのを待っている所だ。

 

「わーい! おっでかっけおっでかっけ! ピクニックぅ! 悟天くんちゃんとおやつもってきた? おやつは300ゼニーまでよ!」

「わかってるけど、エシャロットそれさぁ、絶対300ゼニー超えてるでしょ? 駄目だよ。自分で言いだしたことなんだから守らないと」

「ぶー! 手作りは買ったお金に含まれませーん! だって家にあった材料でお母さんと作ったんだもーん」

「あ、ずりぃぞエシャロット! 後で俺たちにもわけろよなー!」

「ふふ~ん、どうしよっかな~」

「わたし、エシャロットちゃんのお菓子好きー!」

「うん、マーロンには分けてあげるからね! クッキーもマフィンもブラウニーもスコーンもい~っぱいあるから! ……悟天とトランクスはねぇ……どうしよっかな~。そうだな~、買ってきたお菓子をちょっと分けてくれたら、交換してあげても……」

 

 そう言ってお菓子が詰まったバスケットを背に隠し、フンふんと鼻歌交じりに悟天とトランクスをチラ見するエシャロット。そんなエシャロットに、いつものごとく呆れたような声をかけるのは龍成だ。

 

「エシャロット。お母さんがみんなで分けなさいって言ってただろ? 独り占めは、めっ」

「な、何よぉ、めって! 子ども扱いしないでよね!」

「ははっ。ま、とりあえずみんなで仲良くね。エシャロットも、本当はそんな意地悪言うつもりないんだろう?」

「あ、空龍」

「お、お兄ちゃん。むぅ、わかった……ごめんなさい」

 

 う~ん、今日も子供たちは仲がいいなぁ。いいことだ。

 そう思って私はブルマんちの庭の……隅の方から突き刺さってくる視線を無視することにした。現実逃避であることは重々承知だが、私にそちらをまともに見る勇気はない。

 

 おっといけない! チチさん18号さんと、持ってきたお弁当について話さないと! チチさんが中華、18号さんがサンドイッチ、私がおにぎりの担当だったからな。広げる時にうまい具合に分散できるように今のうちに打ち合わせしておこう。紙コップやお皿、おしぼりの数も確認しておかないと。ここら辺はブルマが用意してくれたから大丈夫だと思うけど確認って大事だよね! あ、そうだ。ランチさんには飲み物頼んでたから、ソフトドリンクとお酒運ぶの手伝わないと! 重いし! あーそうそう、チチさんバーベキューセットも持ってきてくれたんだよね! 炭の準備は大丈夫かな!?

 

 

 

 …………。しかし、好奇心というものはどうしても湧いてくるもので。

 

 

 

 私は忙しいふりをしつつこっそりと、腕を組んでめっちゃ顔しかめてるフリーザ様をチラ見した。

 

「…………。何故私がこんなほのぼのとした、虫唾が走る平和そうな場所に居なければならないんです? あのお花畑の地獄を思いだして、反吐が出ますよ」

「ふ、フリーザ様。心中お察しいたします。そこで、どうでしょう! よければ新生ギニュー特戦隊のポーズをご覧になってください! 五十三パターンもあるんですよ!」

「そこでなんであなた達のポーズを五十三パターンも見なければならないんですか!! ギニューさん、ちょっと黙っていてくれます? もう一度部下にと申し出てくれた気持ちは嬉しいですが、ずいぶんと平和ボケした様子のあなたにかしずかれても、ねぇ」

 

 すげぇギニュー隊長。気まずさもなんのそのでフリーザ様にグイグイ行ってる。隣のジースくん顔、赤い肌なのに顔真っ青になってるけど大丈夫か。ここ数日のフリーザ様のお世話完ッ全に任せっきりにしちゃったけど、本当に大丈夫だったんだろうか。ギニュー隊長は生き生きとしていたけど。

 やっべ、ギニュー隊長見てると試合の後フリーザ様にご臨終頂くのちょっと申し訳ない。まあ思うだけなんだけど。

 

「へ、平和ボケしていた事は否定できませんが……! ですがこのギニュー! フリーザ様への忠誠心は未だ変わりません! なあジース!?」

「はい、もちろんです!」

「だったら何故ソルベさんが行動する前に、ずっと地球に居たあなた達が、私を生き返らせようと思わなかったんです? それも、私の復讐相手と仲良しこよしで暮らしながら。……その忠誠心も疑わしいものですね」

「それは……その……」

 

 言い淀むギニュー隊長。ああ、それ私も前に一度聞いたことあるな……。絶対にフリーザ様本人には言えないだろうけど。

 

「はっきりと言えない理由でも?」

 

 フリーザ様が赤い瞳でじろりと睨む。するとギニュー隊長は、こそっとジースくんに耳打ちをし始めた。

 

「…………ジース。どう言えばいいと思う? 俺達がカエルになって身動きできない間に、凄く強い相手ばかり出てきてフリーザ様を生き返らせても恥をかかせてしまうだけかと思っていたなんて……」

「い、言いにくいですねこれは……。まさかフリーザ様がもっとパワーアップできるなんて知らなかったし、我々がフリーザ様の強さを侮り余計な気遣いをしていたなんてとても言えな」

「聞こえてますよお馬鹿さん達!! ずいぶんとこのフリーザを舐めてくれたものですね!」

「「も、申し訳ございません!!」」

 

 言っちゃったよ!! そりゃあ目の前で話してればこそこそ話そうが聞こえるわ!!

 

 …………まあ、そうなんだよね。二人としてはセルだのブウだの出てきたのを目の当たりにして、それに対する悟空たちの成長も見ていたから、フリーザ様が復活したとしてもすぐに倒されて地獄に逆戻りなんて恥、かかせたくなかっただけなんだよなぁ……。

 だってナメック星時点でのフリーザ様がセルとかブウとかそれ以前に、16号とか17号とか18号さんとかにも勝てるはずないっつーか……。……うん。実は最終形態はともかくナメック星の初期形体のフリーザ様だったら、当時測った戦闘力見る感じ人造人間編の時のクリリンくんとかヤムチャくんとか地球人サイドだけでも倒せるっつーか……改めて考えると短期間でのパワーインフレ酷い。実際ブウ編に混じったジャネンバ騒動の時は、フリーザ様なすすべ無く私に倒されちゃったわけだし。

 いや、復活したフリーザ様のパワーアップ具合もえげつないけどな。

 

 

 

 けど今までを振り返って考えると、彼らの気遣いは正しかったと思う。フリーザ様にしてみれば余計なお世話かもしれないけど。

 

 …………いや、まあ、キレるお気持ちも分かりますけどね……。

 

 

 

 

 

 

「な、なあ。やっぱりフリーザを参加させるのはまずいんじゃないか?」

「同感だ。いつ何をしでかすかわからんぞ」

 

 そう言ってこそっと私に話しかけてきたのは、ナメック星でフリーザ様に殺されたことがあるヤムチャくんと天津飯だ。餃子師範もその時の事を思い出したのか、フリーザ様を睨みながら頷いている。

 

「いや、多分試合中はその心配はない。ビルス様が居るから」

「でも、試合が終わった後はどうだ? ……子供たちも居るし、俺はそこら辺が心配だよ」

「気遣ってくれてありがとう、ヤムチャくん。……本当に何でヤムチャくんみたいないい人が独身なのか分からないわ……。あ、モテすぎて選べないパターンか」

「え!? そ、そう褒めるなって! 俺は当然のことを言っただけだぜ? ははっ」

 

 そう言ってこそばゆそうに笑うヤムチャくんだけど、いや本当この人いい人だわ……。いい人過ぎて時々ナメック星でのことを思い出すと凄く申し訳なくなる。今度いい縁に巡り会えるように恋愛運占ってあげよう。

 

 私がややしょっぱい気持ちになっていると、次に会話に入って来たのはラディッツだ。

 

「まあ、ヤムチャの懸念も最もだろう。けど心配するな。何かあったらフリーザと戦う前に、真っ先に子供たちや他の連中を瞬間移動で避難させろとカカロットに約束させた。だからもしそうなった時、瞬間移動がしやすいようにみんなを一か所に集めるのだけ頼めるか?」

「そういうことなら僕に任せて! 悟空みたいに宇宙中を移動できないけど、近距離のテレポートだったら一瞬でみんな集められるよ!」

「みんなを一瞬で!? さ、流石です師範……!」

「餃子は弟子が出来たこともあって、日々超能力の向上を頑張っているからな。これくらい容易いさ」

 

 天津飯が自分の事のように誇らしげに言うと、餃子師範は照れたように頭をかいた。……私もまた餃子師範のとこ修行に行こうかな。

 なんというか私って戦闘力だけは強くなったけど、餃子師範と占いババ様は一生尊敬し続けられる師匠だと思う。悟空やクリリンくんにとっての亀仙人様も、そんな存在なのかな。

 

 

 とにかくそんなわけで、フリーザ様の事は全部試合が終わった後だ。

 フリーザ様も頭のいい方だから、試合の間は破壊神の前で下手な動きはしないだろう。…………試合後に向けて布石を打つ可能性はあるが。

 

 しかし出来るなら今のところフリーザ様を刺激したくないのが本音。試合が終わるまで大人しくしてくれているにしても、パワーと共に怒りも蓄積されたら後が怖い。

 

 

 

 だってのによぉ!!

 

 

 

「やあ、フリーザ。改めてご挨拶させて頂こうか。私はセル。君にとって兄弟のような存在でもある」

「はじめましてフリーザちゃん! わたしの事はブウ子って呼んでねん♡ 本名? は魔人ブウっていうんだけど、あっちの太っちょの子も同じ名前なのよ。あ、呼び方はブウ子ちゃんでもいいわ~」

「いや話しかけてんじゃねーよ新旧ボス勢!!」

 

 近寄らないようにしてたのに思わず近寄ったわ!! くっそ悟空とベジータが精神と時の部屋に修行行っててまだ帰ってこないせいで余計な交流時間が!! せっかくここ数日隔離してたのに!!

 

「兄弟? ふぅん……。奇妙な事をおっしゃいますねぇ。一応私にも兄は居ますが、あなたみたいな人に兄弟を名乗られる覚えはありません。それに魔人ブウですって? ホッホッホ。そんな弱そうな身で随分と大言壮語を口にしたものです。なかなか面白いジョークですよ? それに話に聞けば、魔人ブウは孫悟空に倒された、という事でしたが」

「いやん! 嘘じゃないわよぅ。今は弱体化してるけど、ホンモノよ本物! よければサインあげちゃうわ」

「結構です」

 

 試合前で攻撃されないことをいいことに、フリーザ様にすり寄ったブウ子を無言で引きはがした。そしてブウ子の手元を見ればスマホを握っており、いつの間に撮影したのか「宇宙の帝王なう」とかインカメラで撮ったっぽい写真付きでチュイッターに上げてやがった。おいヤメロお前刺激すんなぶっ飛ばすぞ。

 

「私が兄弟だと言ったのは、私の体に君の細胞が使われているからだ。なにせこの体は、もとは科学技術によって生み出された人造人間でね。クックック、君の新形態、ゴールデンフリーザだったか。少々下品な色合いだが、あれはあれでなかなか派手でいい。これは私も究極神ゴールデンセルになって対抗すべきかな?」

「細胞を? ……気持ち悪い事を言ってくれますね。もしそれが本当なら、今ここで消し飛ばしてあげたいくらいですよ」

「本当だとも! そして試合後にフリーザ、君と戦うのは私だ。今から楽しみでしかたがない」

「あなたが? ホホッ、私が死んでいるうちに訳の分からない身の程知らずが増えたものです。そんなにお望みなら、ご希望通り戦ってさしあげますよ。その気持ち悪いにやけ面を恐怖に染めて粉々にしてあげま「っし!!」……しょう」

 

 フリーザ様の台詞の途中でセルがガッツポーズした。おいどうしたお前。

 

「はーっはっは! 言質は取ったぞ! 試合後にフリーザと戦うのはこの私だ! 悟空にベジータめざまぁ見ろ、遅刻して来るからこうなるのだ馬鹿め! フフフ、楽しみにしているぞフリーザ! 本当に楽しみにしているからな!! 流石とある時空では私と一緒に必殺技を生み出す仲! わかっているじゃあないか。クックック……!」

 

 うわセルの奴フリーザ様と約束取りつけやがった。普段の余裕ぶった態度が見る影もなく喜んでる。……よっぽど試合に出られないのが悔しかったんだな……。というかさらっとGTネタ出すなよ……お前どんだけ私の日記を読み込んだんだ……そして私もなんで肝心なことは書き残してないのにしょうもないネタじみた内容ばっか残してんだ……。

 そんな風に思いつつ澱んだ目でセルを見ていた私だったが、次の瞬間身に打ち付けられた怒号に思わず飛び上がった。

 

「ハーベストさん。このお馬鹿さん達も、あなたのお仲間でしょう? さっさと私の前から消しなさい! 今すぐに!!」

「は! ただいま!」

 

 額に血管浮き上がらせたフリーザ様の命を受けて、私はブウ子とセルの首根っこを掴んで急いでその場から離れた。

 

「馬鹿野郎フリーザ様刺激してんじゃねーぞこれ以上ややこしくすんな! ベジータが居ない今中間管理職的な役目が来るの私なんだからな!!」

「もう部下でもあるまいに、そんなホイホイ命令を聞いていいのか?」

「未だに様付けしてるのもちょっとどうかと思うわん」

「うっさいわ!!」

 

 

 

 

「あ、あのフリーザって奴、悪い人なんだよね? お母さんとどういう関係なの?」

「…………聞いてくれるな」

 

 

 ちなみにちょっと遠い所で、空龍に質問されてラディッツが困っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その数十分後にようやく悟空とベジータがやってきた。

 

 そして私たちはようやく透明な箱のような乗り物に乗って、ビルス様の星を経由して試合会場である「何もない星」に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラが多すぎてだべってるだけで一話終わってしまった罠


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復活のF:その五 からの第六宇宙対抗試合3 第六宇宙の戦士達!

 地球を出発して試合会場へと向かう事になった私たちが、とりあえず先に向かったのはビルス様の星。ビルス様と、そして第七宇宙最後の選手であるモナカと合流するためだ。

 そして出会ったモナカに対する感想であるが…………うん。

 

 

 

 参加させんなよ可哀そうだろ!!

 

 

 

 そう叫びたくなるほど一般人だった。悟空たちは「一見そうでもなさそうに見えるのが実は強かったりするんだよ」とか言っているが、待てモナカさんガチの一般人だぞ。ただ乳首が大きいだけの、一般人だぞ!!ビルス様のように神様の場合気を感じ取れなかったりするけど、それと同じなわけじゃねーから!!

 

 悟空がビルス様に注意されたにも関わらず、力試しをしようとモナカさんを攻撃した時は全力で拳骨したわ。オイヤメロそれ死ぬ。モナカさん死ぬ。

 勢い余って悟空が地面に埋まっちゃったもんだからビルス様に「試合前に味方同士でダメージ負ってどうする!!」って怒られたけど、そのあとすぐに小さい声で「ま、まあ我が宇宙のエースに敬意を払って守った事は一応褒めておこう」とも言われた。……大本命の主戦力である悟空のダメージより、モナカさんが一般人であることを知られる方が嫌なのかビルス様。そしてそれを見て笑ってるセミと女魔人は後で覚えてろよ。

 

 

 

 そしてメンバーが全て集まったところで再びバス……じゃなかった透明な箱に乗って試合会場へ向かう私たち。時間があるという事でさっそくチチさんが持参してきたコンロを使って、バーベキューの準備をしてくれた。悟空とベジータは精神と時の部屋で過ごした間はまともな食事にありつけなかったからか、ものすごい勢いで食べている。

 フリーザ様が居る事で車内がすさまじく気まずい地獄のような空気になると思っていただけに、このチチさんの気遣いはありがたかった。みんなそれぞれ談笑しながら和やかに食事をしている。

 

 …………ちなみにフリーザ様は、ギニュー隊長とジースくんが甲斐甲斐しく肉を取り分けてお世話していた。そしてすげなく断られて落ち込んでいた。……めげないガッツ……! そしてそれを見守りつつ「隊長、ジース、がんばっ」みたいな雰囲気を醸し出しているナッパをはじめとした新生ギニュー特戦隊の面々。あそこだけちょっとした異空間である。

 

 

 とまあ、そうこうしているうちに試合会場に到着だ。

 

 

 会場の星周囲を揺蕩うのは、薄黄色の光を放つ……スーパードラゴンボール。

 知ってはいたけど、マジで星サイズとなると実際に目にした感想は圧巻の一言。ちょっと前にブルマがジャコに協力してもらって「せっかくだし、何があってもいいようにこっちの宇宙のスーパードラゴンボールを先に集めときましょうよ! いざという時はそれでフリーザを倒してもらえばいいんだわ。スーパーっていうくらいだもの。それくらい出来るかもしれないじゃない!」と言って、宇宙に飛び出していった。その時にスーパードラゴンボールの在処を聞くためにズノー様という賢者のもとへ行ったそうなのだが、そこで分かった驚きの真実。なんと、スーパードラゴンボールは第六と第七、二つの宇宙で合わせて七つなのだそうだ。

 つまり別個に集める事は不可能。ビルス様はそのことを聞いてシャンパ様が勝手にこちらの宇宙に入ってドラゴンボールを集めていたことに腹を立てていたっけな……。

 

 とにかく二つの宇宙に七つだけ。正真正銘、ものすんごい貴重品である。

 

 それを思うと最近馴染みすぎて麻痺していたドラゴンボールへの敬意も再び湧いてくるというものだ。いや、敬意を払ってないわけでも感謝してないわけでもないんだけど、なんかあって当たり前。使うのが当たり前みたいになってたところあるしな。ちょっと反省。

 せっかくだし手を合わせて拝んでおこう。なんか見ただけでもご利益有りそうな雰囲気だし。

 

 

 そして試合会場に到着した私たちは、私と悟空、ベジータは二度目。他の皆は初対面となる、シャンパ様とウイス様の姉上であるヴァドス様と対面した。

 すると今まで大人しく私に抱かれて眠っていた叶恵が起きて「ぷにぷにねこさん!! おかあさんといっしょー!」と言ってはしゃぎはじめたのを聞いて「ぷ、ぷにぷに……」と若干落ち込んだ様子のシャンパ様と一緒に私もちょっと落ち込んだ。い、今はぷにぷにじゃないし……! あんなデブ猫と一緒にされたくないし……!!

 

 そしてその後、先に到着していたらしい界王神様、キビトさん、老界王神様があいさつしに来てくれた。いや、でも界王神様はともかく、その後ろにいるのって……。

 

「皆さん、お久しぶりですね! 今日は頑張ってください。応援していますよ」

「あ、あり? 界王神様、キビトさんとの合体解けたんか?」

「おや、空梨さんから聞いていませんか? 実はずっと合体したままというのも変な感じだったので、ちょっと前にナメック星人に頼んでドラゴンボールを使わせてもらったのです」

「えー! 姉ちゃん知ってたんか? 聞いてねぇぞ」

「いや、悪い。言う機会がなんか無かった。……それより、その、界王神様。後ろの方は……」

「ああ、言ってませんでしたね。今日は彼を私の友として招待したのです」

 

 そう言って界王神様が促すと、三人の少し後ろに居た人……否神様がすっと前に出てきた。

 

「久しぶりだな、空梨。……叶恵も元気だったか?」

「ん! げんき!」

「え、叶恵とお母さんのお友達?」

「ザマスおじちゃまよー」

 

 そう、ザマスである。第十宇宙の界王神見習いの緑の肌の神様が、何故だかこの場に居た。……いや理由は界王神様が説明した通りなんだろうけど、ここまで仲良くなっているとは予想外。普通に友人って紹介する程度には仲良くなってるのか。

 興味津々のエシャロットに聞かれて答える叶恵はどこか誇らしげで、とりあえず私からはラディッツ達に「叶恵のホームステイ先の人」とだけ説明しておいた。ここで下手に悟空が興味持ってザマスと戦いたがったりしても面倒くさいし、色々説明ははぶいとこう。

 

「貴様、いつの間に神なんかと知り合いになってやがったんだ。相変わらず分からん奴だな」

「お前らにだけは言われたくない」

 

 ベジータの発言には全力で言い返しておいた。うるっさいわ。こちとら未来の息子や甥っ子のためにゴクウブラック編が始まらないように珍しく裏でごちゃごちゃやってたっつーに。

 

「あ、引き留めてしまいましたね。確かこれからペーパーテストをするとか。では我々は皆さんと一緒に観客席から応援していますので」

「最近娯楽が少なくてなぁ。この試合の話を聞いて、楽しみにしておったんじゃ。頑張るんじゃぞ」

「孫悟飯が居ないのが残念だが……せっかくだ。私も楽しませてもらおう」

「健闘を祈る」

 

 そう言って界王神様、老界王神様、キビトさん、ザマスは選手以外の皆が案内された観客席の方に去って行った。丁度よいので界王神様とザマスがお気に入りの叶恵は界王神様に預けておこう。ラディッツがめっちゃ見てるけど、お前は他の子供ら頼む。どの子も好奇心旺盛でちょろちょろ動くから。主にエシャロット。

 

 

 

 

 そして私と悟空、ベジータ、フリーザ様、モナカはこの大会において本番前に選手たる資格があるかを確認する、簡単なペーパーテストを行う場所へと赴く。するとその場には、第六宇宙の戦士達もそろっていた。

 彼らを見た時、今までずっとしかめ面だったフリーザ様が「おや」と声をあげた。その先には現在第一形体に戻っているフリーザ様とよく似た、2Pキャラみたいな色合いの宇宙人が座っている。そちらの方もフリーザ様に気づいたようで、一瞬驚いたような顔をした後に爽やかな笑顔を向けてきた。

 

 そう、爽やかな笑顔である。

 

 その対応に思わずフリーザ様と2Pフリーザ様を見比べて二度見した私たちは悪くない。近くに居たら思わず見比べるわ。

 そしてフリーザ様のそっくりに彼らが反応しないわけもなく、観客席がにわかに騒がしくなる。

 

「なんと! あちらの宇宙にもフリーザ様と同じ種族の方がいらっしゃるのだな!」

「ええ、驚きです! でもよく似てらっしゃいますが、ずいぶんと印象が違いますね。なんというか……爽やか? というか……スッキリしている、というか……」

「馬鹿者! あれは若いというのだ。フリーザ様のような貫禄が感じられぬ。クックック、同じご種族と言えど、それでこそよりフリーザ様のすぐれた様が際立つというもの。対戦が楽しみだ。ところでジース、例の物は持ってきているな?」

「はい! カメラとビデオのセットは完了しました。あとはこれを……」

 

 そう言ってジースくんがばさっと広げたのは応援幕。書かれた文字は「宇宙の帝王ここに有り! フリーザ様に栄光あれ! フリーザ様がんば!(イラスト付き)」で……すぐさまフリーザ様にビームで焼き払われていた。

 

「私まで馬鹿だと思われるでしょう!! 余計な事をするんじゃありません!!」

「そ、そんな~フリーザ様……。で、では気持ちを込めて応援歌とダンスを捧げま「いいから黙って見ていなさい!! まだ試合は始まっても居ませんよ!!」

 

 なんか最近フリーザ様の血管が切れてそれで死ぬんじゃないかって思う時ある。ただでさえストレスたまってるだろうに、好意100%のギニュー隊長達が完全に裏目に出てるっていうか……。

 

 しかし思い切り怒鳴った後は気を取り直すことにしたのか、深呼吸してからフリーザ様も笑みを浮かべて第六宇宙の2Pフリーザ様に向き直る。……2Pの名前なんだっけ。

 

「ホッホッホ。お恥ずかしい所をお見せしましたね。…………私はフリーザ。あなたは?」

「私はフロストと申します。いえ、恥ずかしいだなんて。部下に慕われているご様子をお見受けするに、貴方は優れた指導者なのでしょう。そんな方と戦えるのなら光栄です。対戦できることを楽しみにしてますよ」

「おや、これはご丁寧に。その際は是非、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ」

 

 な、なんだろう。思ったよりお互いスマートな対応で挨拶を済ませやがった。

 

 そしてフリーザ様達の様子にちょっともにょっていると、私と悟空、ベジータのところにも挨拶に来た人物がいた。キャベと名乗った彼は、聞けば第六宇宙のサイヤ人なのだそうだ。知ってはいても、いざ対面すると興味が湧く。

 なんつーかこう、第六宇宙のサイヤ人はさっぱりした顔立ちしてるんだなって思った。尻尾も今はもうないと言うし、あれか。種族的には向こうの方が進化しているのかもしれない。例えで言うと縄文顔と弥生顔的な? こっちの宇宙のサイヤ人、表情もあるんだろうけど基本的に濃い顔の奴が多かったからキャベくんはなんか新鮮。

 こちらでは滅んでしまった惑星サダラが健在なら、きっとサイヤ人の人口もずっと多いだろう。戦闘力に関してはこっちの生き残りのサイヤ人が全員色々規格外になってしまっているので、どちらが種族的に進化しているか正確に比べる事は出来ない。でも悪方面に染まらなかった場合のサイヤ人、という事例が彼らなのかもしれないなと、なんとなく思った。

 ……仕事内容が傭兵は傭兵でもヒーロー的な活動とか、同じサイヤ人なのに辿った歴史で結果が違いすぎてビビるわ。

 

 そして会話の流れでベジータが現在のサイヤ人の王であると知ると、急にキャベくんはあたふたし始めた。なんというか、素直で可愛いなこの子。ちょっとターブルを思い出す。……奥さんと仲良くやってるかなぁターブル。

 

「お、王様自ら試合に!? て、あ、その! 陛下だとは知らず気安く話しかけてしまい、ご無礼をいたしました!」

「かまわん。王と言っても、最早こちらのサイヤ人は少数民族となってしまっているしな。他にも何人か居るが、ほぼこの会場に集まっているだけで全部だ」

「第七宇宙のサイヤ人はそんなに減ってしまっているんですか……」

「ああ。どこかの誰かさんのせいでな。……どうやら、第六宇宙とは色々事情が違うらしい」

 

 そう言ってフリーザ様を睨むベジータ。フリーザ様は余裕の態度でそれを流すが、ふいにベジータではなく私を見る。何事かと思って少し距離を取りビビっていると、わざわざ近寄ってきて、いかにも可笑しそうな様子で笑いながら私に話しかけてきた。え、な、なんスか。

 

「フフッ、まったく滑稽ですねぇ……。ビルスが惑星ベジータを破壊しようとしていた事も知らずに、その相手にいいように使われているなんて。やはり猿は猿、ということでしょうか?」

「!」 

 

 フリーザ様の言葉に私は思わず、凄い勢いで首を回してベジータや悟空に聞かれていないかキャベくんと話すあいつらを見てしまった。そして距離をとっていたことが幸いしたのか、聞こえていない様子にほっと息を吐く。

 

「おや? その様子だと、貴女は知っているようですね。……そしてベジータさんと孫悟空は、それを知らない、と」

「流石の洞察力ですフリーザ様……」

「貴女が分かりやす過ぎるんですよ。まったく、何故ナメック星ではこんな人の演技に騙されていたのか」

 

 やれやれと言いたげにため息をつくフリーザ様だが、私としては思いがけないカマかけにドッキドキだ。

 ……フリーザ様に惑星ベジータ及びサイヤ人を滅ぼすように命じたのがビルス様だと知れたら、悟空はともかくベジータとかラディッツがどう思うのかちょっと心配なんだよな。サイヤ人の所業は正しく滅ぼされるに値するものだったし、だからこそ私もフリーザ様に惑星ベジータが破壊される時「しかたがない」と割り切ったんだけど……きっと二人はそう簡単には行かないだろう。

 特にベジータなんか故郷が滅びた原因である張本人のもとで修業させてもらってると分かったら、どう思うだろう。あいつ結構真面目だからな。悩んじゃったりして。

 

 いや、でも実はそこのところちょっと原作知識が曖昧で、直接ビルス様がフリーザ様にサイヤ人抹殺を命令したのかは知らなかったんだけど。だって多分ビルス様の命令が無くても、フリーザ様は他ならないご自身の意志でサイヤ人滅ぼしてただろうし。

 …………う~ん、これはちょっとした仕返しを含むブラックジョークと受け取るべきだろうか。でも今は試合前だし、余計な事ベジータには言わないでほしいな。

 

「あの、できればベジータには……」

「おやおや、麗しい姉弟愛というわけですか? ナメック星で真っ先にベジータさんを私への手土産にしたあなたが?」

「うっ」

 

 く、クソッ。昔の事を掘り返されると色々気まずい。

 いいやついでだ。気まずいついでにいっそ気になってた事も聞いてしまえ。

 

「フリーザ様はビルス様の命令で、惑星ベジータを滅ぼしたんですか?」

 

 出来るだけこそっと小さな声で問いかけると、フリーザ様は自分で話題をふってきたくせに忌々しそうに顔を歪めた。

 

「まさか。軽く促されてはいましたが、あれは紛れもなく私自身の意志ですよ。相手が破壊神といえど、このフリーザがそう簡単に使われるとでも?」

「い、いえ」

 

 これ、今は簡単に使われてその結果ここに居るんですよね? とは言っちゃいけないんだろうな……。

 

 しかしそこで私が言い淀んでいると、ヴァドス様に「おしゃべりはそこまで。そろそろテストを始めますよ」と、話し込んでいたメンバーそれぞれに注意がされた。そこで会話が途切れたことに、思わずほっと息をつく。

 

「ホホ……。ま、真実はどうあれ、仲良くむこうのサイヤ人とお話をしているベジータさんを見ていたら気になっただけですよ。彼にこの事を教えたら、どういう反応をするか」

「は、はは……。勘弁してください……」

 

 最後にフリーザ様に言われた言葉には、乾いた笑いを返すしか出来なかった。

 

 

 

 でもって、試合前のペーパーテスト。

 

 

 

 結果は当然全員合格。……だけど、成績トップがベジータとフリーザ様だったのがなんか悔しい。フリーザ様はともかくベジータに負けた……! くっそ、なんで小学生レベルの問題の中に二、三問難しい問題紛れてんだよ。正解どころか問題の意味すら分からなかったのに、それがベジータに分かったのがムカツク。

 

「当然だな」

 

 ドヤ顔うっぜ! こ、こっちは珍しく弟の事を思って心配してやってるのにこの野郎。

 

 まあそれはともかく、ペーパー試験が終わったのだから次はいよいよ本番だ。どうせビルス様はモナカだけ最後の選手に据えた後は好きに決めろとでも言うだろうし、ここはフリーザ様を一番手に押しつつ私が最後から二番目に……。

 

 

 しかし私の思惑はあっさり覆されることになる。

 

 

「ハーベスト。きみ、どうせ悟空たちに任せてサボろうとか思ってるだろ」

「え」

「お前先鋒な」

「え!?」

 

 

 

 他の面々がじゃんけんする中、私だけ破壊神(オーナー)命令で順番が決定された。

 

 何故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前だけ出てきましたが、一応ターブルは来た後の設定で書いております。いずれ番外編にて書く予定。書く順番が色々前後しててごめんなさい(´・ω・`)


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復活のF:その六 からの第六宇宙対抗試合4 ボタモVS孫空梨

『さあ、いよいよ破壊神選抜戦、第一試合のスタートです! 第六宇宙はボタモ選手、第七宇宙からは孫空梨選手! 両者静かに睨み合っております。巨体のボタモ選手に対して、相手の空梨選手は小柄な女性。かなりのウエイト差ですが、だからと言って彼女もまた破壊神に選ばれし選手! 侮れません。いったいどんな試合が繰り広げられるのでしょうか! 第六と第七、それぞれの宇宙の選手が初めて戦う注目の一戦目です!』

 

 アナウンスが流れる中で構えていると、場外から羨ましそ~うな声が聞こえてきた。

 

「いいな~、姉ちゃん……。オラから戦いたかったぞ。なあなあ、これで姉ちゃんの後はフリーザだろ? オラ達戦えないで終わっちまったりしねぇかな。せっかく他の宇宙のすげぇ奴と戦うチャンスなのによ~」

「お、俺は何故チョキなど……! 四番目……だと……!?」

 

 変われるもんなら変わってやりたい。

 羨ましそうにじ~っと武舞台上に居る私とボタモを眺めながらベジータに話しかけたのは悟空で、話しかけられたベジータはと言えば未だに自分が出したじゃんけんの手に後悔しているようだ。チョキを形作った手を見ながらワナワナと震えている。

 

「ほっほ~う? お前んとこの選手はずいぶんな事を言ってくれてんじゃねーの。つまりあの女とフロストっぽい奴とで、こっちの選手みんな倒しちゃうかもって言いたいわけだろ? 調子に乗ってると、後で恥かくぜ!」

 

 おい悟空余計な事言うなよ! シャンパ様煽られやすいんだから!!

 

「まあ、その可能性も無きにしもあらず、だな。あのハーベストはサボり癖こそあるが、才能だけは一級品だ」

 

 そしてビルス様は何でこういう時に褒めるの!? やめて!?

 

「ハーベスト?」

「あいつのサイヤ人名だ。今は地球に住んでいるから、地球人風の名前を名乗っているがな。あれでも、もとはサイヤ人の王族なんだぞ」

「ふ~ん。ま、いいや。おーいボタモ! 王族だかなんだか知らねぇけどよー! 負けたら承知しないからなー!」

 

 シャンパ様の煽り……もとい応援を受けて、ボタモはニヤリと笑う。自信満々の笑みだが、私としてはその前に少々気になることがあった。

 

 

 

 黄色い体に、赤い服。まるまるとした体形に、熊のようなフォルム。

 

 

 

 カラーリング的にどう見ても初見の印象がクマのプーさ……いや、いけない。これ以上言うと、何か破壊神以上に大きなナニカに潰されそうな気がする。今は余計な事を考えずに試合に集中しよう。

 

 とりあえず、まず一勝だ。それを達成しなければ私がビルス様に怒られる。あとの展開はその時になったら考えるとして、今は目の前の熊もどきを倒さないとな……。

 

 そして私が構えて様子を見る中、ボタモはそのボールのような体をバウンドさせ始めた。その速度は次第に早くなってゆき、更にはこちらへと突っ込んできた。

 それを避けたら次は見た目通りの弾力のある体を活かして、縦横無尽に武舞台中を跳ね回り始めるボタモ。武舞台の上を透明なドームが覆っていることもあり、跳ねるためにそれをうまく利用している。

 しかし私だって無駄にウイス様に修行をつけてもらってはいない。感覚を研ぎすます事によって、それらの全てを半径三十cmも動かないでかわしてみせた。

 

 ふっふ~ん。何を隠そう修行によって回避能力だけは悟空やベジータよりも上になったんだ。これくらい軽い軽い!

 

「コラぁ、ハーベスト! 避けてばかりいないで攻撃せんか!」

 

 破壊神には評価されない項目ですけどね! っていうかこの回避方法ってビルス様のを目標に鍛えたんですけど!! もっとこう、目標にされて嬉しいとかそういった感情はないんですか!?

 

「わっかりましたよ!」

 

 やけくそ気味に叫ぶと、丁度ボタモが止まったところだったのでこちらから攻撃を仕掛ける。そして黄色い腹のど真ん中に拳を打ち込んだのだが……その衝撃にもボタモは微動だにしなかった。表情も余裕の笑みのままである。

 

「何!? ハーベストの攻撃にビクともしない……だと?」

「へえ~! すげぇなー、アイツ。姉ちゃん、今の結構全力だったよな? あれ正面から受けて動かねぇってのは、オラでもちょっと無理そうだ」

 

 弟共解説乙! けど知ってた!

 このボタモって奴に攻撃が効きにくいってのは覚えていたけど、どうやら今打ってみた感じだと「効きにくい」んじゃなくて「ノーダメージ」だ。まったく手ごたえがない。多分体質って言うより、超能力のような"能力"なんだろう。

 

 …………。

 い、いいなぁその能力……。羨ましい……。

 

「ね、ねえ」

「何だ? 自分の攻撃が効かなくて、言葉も出ないか? 第七宇宙も大したことねぇな! はーはっは!」

「ぎゃーっはっは! そうだ、そうだ! おいビルス。自慢してた割に対した事ねーんじゃねぇの? お前んとこのせーんしゅ!」

「外野は黙ってろ! これからだ、これから!!」

 

 私がボタモに話しかけると、場外が騒がしくなる。破壊神兄弟うるせぇな! 特にデブ猫!!

 っと、それよりも……だ。

 

「あの、よければ試合後にその技教えてくれたりとかしません?」

「お、教える?」

 

 予想外の言葉だったのか、ボタモがキョトンとした顔になった。今までのふてぶてしさが消えたその表情はちょっと可愛い。

 

「いや~、だって凄いよその技! ダメージ無効化なんて、なかなか出来る事じゃないって! エネルギー波相手なら私も似たような事出来るけど、物理攻撃無効化とかさ、強いよ! さっきの一撃、多分前に戦ったヤコンってやつだったら内臓ぶちまけて死んでたくらいの威力は込めたもの! それをノーダメージ? いや~、すごいな~、憧れちゃうな~!」

 

 ちなみにこれ、本心である。

 だってダメージ無効化技! なんて理想的な技なんだ! それがあったら一生痛い思いしなくてすむじゃん! これは何としてでも教えてもらいたい!

 

「そ、そうか? 俺ってやっぱり凄い奴?」

「凄い凄い! 尊敬しちゃう!」

「ま、まあ確かにこれ出来る奴は滅多にいねぇけど~」

 

 ボタモがなんか後ろで手を組んで気分良さそうにモジモジし始めた。よし、もう一押し!

 

「それでそれで~。それってどうやるの? ねえねえ、ボタモさ~ん」

「え~っとぉ、これはぁ~……」

「「お前らいい加減にしろ! 試合中だぞ!!」」

 

 しかしあとちょっと、というところで両サイドの破壊神から喝が入った。く、クソッ、あとちょっとで聞き出せたのに……!

 

「何て奴だ……! 攻撃が効かないからって、ボタモをおだてて弱点を聞き出そうとしやがるとは。こ、この卑怯者め!」

「いや、多分アレは本心だが……ええいそれはどうでもいい! 真面目に戦え、ハーベストぉぉぉぉ!!」

「さーせんっした!!」

 

 ビルス様のイライラが蓄積されてきたのを察知したので、とりあえずビルス様にペコペコと頭を下げて謝ってから、再びボタモと向き直った。けど最後にこそっと言っておく。

 

「…………試合後でいいから、教えてね」

「そ、そこまで言うなら、ちょっとなら」

 

 

 このクマ、結構いい奴かもしれない。

 

 

 

 

 しかし、試合は試合だ。お互い気を取り直して真剣に向かい合う。

 

 そして先に仕掛けてきたのはボタモだ。口から薄緑色の気弾を放ってきて、私はそれを避ける。

 この試合はフリーザ様の事もあるから、出来るだけ実力は全部見せたくない。かといって"格闘試合"なら観客を沸かせ、魅せるパフォーマンスは必要だろう。何より下手な勝ちじゃ破壊神たちが煩そうだ。だから超能力でボタモを持ち上げてちょちょいっと場外に落とす作戦はNG。あくまで格闘の範囲内で……場外にするとしても、せめて背負い投げとか決めなきゃならない。

 そこで私はタイミングを見計らう事にした。それまではボタモの気弾を弾き、時折攻撃を仕掛けてみては時間を稼ぐ。

 

 でもって、ようやくチャンスが来た。

 

「へっへ。なかなか粘るじゃねぇか。でも体力が結構減って来たんじゃ無いか? その状態で、またこれを避けられるかな!」

 

 そう言ってボタモは試合開始直後のように体をバウンドさせ、そして再び武舞台の上を弾丸のように跳ね回り始めた。

 

 

 

 この時を待ってた!

 

 

 

 私は真正面からボタモが迫るのを確認すると、少しだけ体をずらす。そしてタイミングを見計らい……ボタモの服を掴んだ!! そしてそのまま服をひっぱり、ボタモの力のベクトルを本人の狙いとは別方向へとむけてやる。その先は武舞台の外……場外!

 

「っらぁ!!」

「なあああああ!?」

 

 まさに一瞬だった。ボタモはまるで隕石のような勢いで場外に突っ込み、それを見た審判が一拍遅れて『ボタモ選手、場外ー! 第一試合は第七宇宙、孫空梨選手の勝利です!!』とコールした。

 

「な、なんだとー!?」

「わーっはっは! シャンパよ、お前んとこの選手はどうやら自分の力を利用されたみたいだぞ? こりゃお笑いだ!」

「ぐ、ぐぬぬ……!」

 

 破壊神兄弟が相変わらず煩い中、私は場外に落ちたボタモのもとへ行くと手を差し出す。

 

「お疲れ。やっぱあんた凄いよ。ボタモくんのスピードと試合のルールを利用しなきゃ私、勝てなかったかも」

「……よく言うぜ。俺の攻撃のメインスタイルが見切られてた時点で俺の負けさ。あんた、強いな。あれだけのスピード出してるのに、よく服だけ掴めたもんだ」

「あら、嬉しい事言ってくれるわね。どうも」

 

 そう言いつつ、互いに握手を交わす。すると何やら文句を言いかけていたっぽいシャンパ様にヴァドス様が「せっかく美しく決着がついたのです。ここで難癖付けては、シャンパ様の株が下がりますよ?」と言ってたしなめていた。するとシャンパ様はちょっと落ち込んだように耳を垂れさせてから、「次だ、次ぃ!!」と声を張り上げる。どうやら選手はまだ居ると割り切ったらしい。

 

 そしてその声を受けて武舞台に降りてきたのは、2Pカラーのフリーザ様もとい第六宇宙の選手、フロスト。

 

 

 

「素晴らしい試合でした。あなたのような方と戦えることを、光栄に思います」

 

 そう言いながら頭を下げたフロストは、なんと次いで私の横を通り過ぎると第七宇宙の観客席に向かって挨拶をした。でもって敵同士に分かれてしまったが、これは格闘試合。終わった後には私とボタモくんのように手を取り合う事が出来るだろう……みたいな、まるでスポーツ選手の宣誓のようにまっとうで清い事を言ってくれた。

 

 う、う~ん。雰囲気が妙に爽やかなだけに、初見だとこれで騙されそうだ。でもたしかこいつ、裏であくどい事やってるタイプだったよな? ……あ、フリーザ様がなんかニヤニヤ笑いながら見定めるようにフロストを見てる。流石はフリーザ様。別宇宙の自分に似た存在だから、だけではなく、きっと洞察力でもってフロストの本性を見抜いたに違いない。そして同時にそのフリーザ様を欺いていた私の部下ムーブも凄い事だったと証明されたわけだ。最近それが発揮されることは無くなってしまったが、我ながら下っ端を演じさせたらなかなかの演技力である。

 

 

 と、それより試合試合。

 

 

「では、よろしくお願いしますね」

「あ、はい。よ、よろしく」

 

 差し出された手を握り、握手。…………別人と分かっていても、なんかすさまじく違和感。フリーザ様と握手とか絶対おっそろしくて出来ないからな。

 

 そして両者握手をほどくと、適度な距離をとった。それと同時に試合開始の合図である銅鑼が鳴り、その瞬間フロストは躊躇することなく一気に距離を詰めてきた。私もすかさず退避するが、その時フロストと目が合う。……動きを読まれたか!

 

「ふっ」

 

 フロストが体を捻ると、移動した私の方に奴の尻尾が飛んでくる。それを防御しようと腕を前に出す私だったが、なんと尻尾は腕を打ち付けることなく巻き付いてきた。そしてフロストは尻尾を引き寄せる事で方向転換をし、今度は私の頭に足を絡める。そのまま加わる回転力に、慌てて回転と同じ方向に体を捻る事でその勢いを利用して、更に気弾を放つことで別方向からの力を加えて離脱を計る。その試みはうまく行ったようでフロストの脚から脱出することは成功したが、少々目が回った。

 

「ずいぶんと、器用な事をする」

「そうですか? ふふっ、でも貴女もなかなか。最後まで技を決めきる前に抜け出されるとは、思いませんでしたよ」

 

 若干くらくらする頭で話しかければ、追撃を加える事も無く紳士的な態度で褒められてしまった。

 う、ううん……もにょる。

 

 

 

 

 そうして、私がフロストの態度に奇妙な気分を味わっていた時だった。

 

「おい、オメェもフリーザみてぇに変身出来んだろ? だったら早く変身しといた方がいいぜ。最終形態にさ!」

 

 なんか外野から聞こえるんだけど。

 

「フンッ、そうしておいた方が身のためだぜ。その女は今の形態で倒せるほど甘くない」

 

 おい、なんか外野。

 

「フム。私も第六宇宙の同族の変身には興味があります。私も試合の時は最終形態まで一気に進める気ですので、よければあなたも出し惜しみせずに披露しては? 彼女もまだ実力の半分も出してはいませんよ」

 

 フリーザ様までも!!

 

 明らかにフロストの全力を見たいがために言っている悟空、ベジータに加えてまさかのフリーザ様からも変身催促とか!! おい、やめてやれよ。なんかフロスト、ぽかんって顔してるぞ。絶対これ秘密にしてたパターンだろ。初対面の相手から奥の手を暴露される心境も考えてやれよ可哀そうだろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、私としては実は願ったりなんだけども。

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。どうしてそのことを知っているのかと思えば、そちらの宇宙にも私と同じ種族の方がいらしたんでしたね。その方が最初から全力を見せるというなら、私も様子見などしていては失礼でした。…………では、私も出し惜しみなどせずに全力をお見せいたしましょう!!」

 

 言うなりフロストは「ハァ!!」と気合を入れ、強い気を放出しはじめる。そして衝撃波が襲ってきたかと思うと、その後にはつるっとした見慣れた姿。

 最終形態のフリーザ様とそっくりな姿のフロストが立っていた。

 

『おおーっと!? フロスト選手、まさかの変身です! 実は先ほどフロスト選手の変身について情報が入ったのですが、この姿は「突撃形態」と呼ばれるフロスト選手の姿とはまた違った姿! 戦争撲滅のために紛争地へ突撃形態で自ら赴くフロスト選手ですが、まさか更に秘めた力を隠していたというのかー!? これは期待、期待です! 軍を率いて紛争鎮圧、戦後の復興支援を行うフロスト選手は宇宙平和賞を三回受賞しております。そんな彼の活躍は、正に第六宇宙の誇りと言えるでしょう!』

 

 司会の熱い解説が入り、目の前の彼の活動がますますフリーザ様とは真逆の物だと知れる。思わず観客席を見れば、みんなフリーザをじっと見つめながら微妙そうな表情をしていた。そしてこれにはさすがのギニュー隊長とジース君も、地球では似たような活動をしているだけにちょっと複雑そうな顔をしている。その手に第二のフリーザ様応援幕が用意されているのは流石だが。

 

「まさか、この姿を早々にお見せすることになろうとは。……実はこの姿、パワーの制御がとても難しいのです。私はこの姿で一度、殺す必要のない悪党を殺めてしまいました。それ以来この姿は封印してきましたが……。そちらの宇宙の私が言うのであれば、この姿で戦う事もやぶさかではありません。空梨さん、存分に受け止めてください! 期待してますよ!!」

「もちろん! 来い!」

 

 言うなり私もスーパーサイヤ人に変身して、最終形態のフロストを迎え撃った。ここからが本当の勝負の始まりである。…………そう、本当の!

 

 

 

 それから数分間戦った私たちであるが、見たところフロストの戦闘力はナメック星時代の最終形態フリーザ様とどっこい。つまりジャネンバの時、天界で私がワンパンKOしたフリーザ様と同じくらいの強さなのである。

 自分の力に絶対的な自信があったフリーザ様に対してフロストは妙に小回りがきいて芸達者な事もこなすので厄介と言えば厄介だが、それだけだ。スーパーサイヤ人になってしまえば、どうという事のない相手。…………う~ん、こういう相手と戦った時、やっと自分が結構強いんだなって実感できる。普段の相手といえば最近はもっぱら悟空とベジータ、ウイス様だからな。ちょっと感動。

 

 でも。

 

「私は、負けるわけにはいかないんです……!」

 

「戦争撲滅のため、復興支援のため! 試合に勝って、シャンパ様に援助してもらわなければ!」

 

「どんな時でも、諦めずに立ち上がれ……。そう子供たちに言い聞かせてきた、責任が、私には、あるんです!」

 

 どんなに傷つこうと、倒れようと、フラフラになっても立ち上がるフロスト。

 宇宙のため、子供たちのため、平和を勝ち取るために負けるわけにはいけないのだと頑張るフロスト。

 

 

 

(やっり辛いわ!!)

 

 

 

 

 フロストの善人ムーブがレベル高すぎてこっちの罪悪感をチクチクと刺激してきやがる!! 視界の隅に爆笑してるセルとブウ子と口元を押さえてプークスクスしてるフリーザ様が居なかったら攻撃の手を緩めそうなんだけど!! おら来いやぁぁ!! そんなんどうでもいいからさっさと来いやぁぁ!!

 

「負けるわけには……いかないんだぁぁぁーーーー!!」

 

 そして、最後の力を振り絞るかのようにして拳を振りぬくフロスト!! 次いで私を襲ったなんか眩暈のような感覚!!

 

(毒針キター!!)

 

 薄れゆく意識の中で、私はひそかにガッツポーズを決めた。そして偶然にも、偶然にも戦闘が武舞台の端で行われていたため迫りくる場外!!

 

 

『空梨選手、なんと今度は彼女が場外です!! 破壊神選抜戦第二試合、勝者は不屈の英雄フロストせぇぇぇぇん手!!』

 

 

 

 

 

 

 

 フェードアウト完了。

 

 計画通り……!!

 

 

 

 

 

 私はぼんやりする意識の中、ニヤリと笑った。

 

 

 




ちなみに主人公、ナメック星の時にボッコボコにされたせいか当時のフリーザ様にちょっとフィルターかかっちゃってます。そして作者もフィルターかかっちゃってたぜ! 感想でご指摘いただけるまでフロスト>神コロさんという図が完全に頭からすっぽ抜けてました。


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★復活のF:その七 からの第六宇宙対抗試合5 フロストVSフリーザ

Σ月∵日

 

 

 私は現在正座させられている。

 

 何故って、わざとフロストの毒針くらったのバレたからじゃないですかーヤダー。

 

 

 …………足痺れてきた。日記書いてても気がまぎれない。

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 空梨がフロスト戦の終盤にて気を失うようにして敗れたことに、一瞬会場はざわついたが空梨自身はほどなくして意識を取り戻した。そして対戦相手であるフロストを「土壇場で限界以上の力を発揮した勇敢な戦士」として称えたことで、第二試合は第一試合と同じく勝敗関係なく拍手の中で終了する。

 

 そしてフロストと再度握手を交わして選手側に戻ってきた空梨に対して、真っ先に口を開いたのはフリーザだった。紫色の唇をニヤリと釣り上げたフリーザは、わざとらしくゆっくりとした拍手を敗者に贈る。

 

「なかなか面白い茶番劇でしたよ? ハーベストさん」

「茶番だと?」

 

 それに反応したのはベジータで、フリーザを横目で見てから空梨に目で問うてきた。「どういうことだ」と。

 しかしそれに対して空梨は笑顔でもって「惑星爆発のような派手さがお好みのフリーザ様には、退屈でしたでしょうね」と答え、あくまでも白を切る様子である。

 

 そんな時だ。悟空が眉根をよせて、首をかしげながら問うてきたのは。

 

「なあ、姉ちゃん。前から気になってたんだけどよぉ。なんでフリーザに様付けなんだ?」

「今はそんな事どうでもいいだろうカカロット! ……いや、俺も気にはなるが」

「おっと、ここでその質問きちゃう? いいでしょ別に。癖なんだから」

「そっかぁ、なーんだ癖か!」

「それで納得していいのか!?」

「やれやれ、揃いも揃って騒がしいですねぇ。……まあ、いいでしょう。次は私の出番のようですし、ビルスがイライラしているようですから、お馬鹿さん達は放っておいてさっさと行くとしましょうか」

 

 現在まったく関係ない話題で雑談し始めたサイヤ人姉弟にため息をつくと、フリーザはすうっと浮き上がって武舞台へと降り立った。対するフロストは先ほど同様、笑顔で手を差し出す。フリーザはその手を見下ろすと、後ろで手を組んだ体勢のままフロストを赤い瞳で見つめた。

 

「次は貴方ですね。よろしくお願いします、フリーザさん」

 

 そんなフリーザに臆することなく、フロストはなおも笑顔で挨拶をする。手も差し出したままだ。

 

「おやおや。ずいぶんお疲れのようですが、握手をする元気はあるんですか?」

「ふふっ、手厳しい。ですが消耗してはいても、試合で勝ち抜いたら次の選手と戦うのがルール。ですから、遠慮はいりません。お互い最終形態で、存分に戦いましょう!」

 

 フロストの言葉にフリーザはおかしなことを聞いた、とばかりに笑う。その笑みはフロストのものとは性質が違い、あきらかに相手を見下すためのものだ。これには今のフリーザは味方側であるといえども、観客席からの評判は芳しくない。

 

「ホッホッホ。最終形態? あなたに? ……先ほどの戦いを見せていただきましたが、フロストさん。あなたにその資格があるとは思えませんね」

「…………資格とは?」

「私の最終形態を見る資格、ですよ。残念ながらあなたには今の姿のままで十分です」

「ですが先ほど、あなたは最初から最終形態で試合に臨むと言っていましたよね。あれは嘘だったんですか?」

「あの時は本心からそう思っていましたよ。…………でもねぇ。破壊神が選んだ戦士というからどんなものかと思えば、さっきのクマや貴方を見る限りとても期待外れでした。これなら最終形態を披露する必要もないと、判断したまでです」

 

 フリーザの物言いに、流石に人当たりの良かったフロストも眉をピクリと動かす。しかしあくまでも紳士的な態度を貫くつもりなのか、口調は丁寧なままだ。

 

「それは、期待に沿えなかった私の力不足ですね。仕方のない事です。…………でも、我が第六宇宙の他の皆さんまで見下すような発言は慎んでいただきたい。私のチームのメンバーは、みなさんとても素晴らしい選手なのですから」

 

フロストが第六宇宙の選手を示しながら言うと、ボタモとキャベ、そしてロボットのような体躯を持つ選手は照れたように頭をかいた。

 

「そーだそーだー! 俺が選んだ選手が期待外れだぁ? 言ってくれんじゃねーか! フロストと似た顔のくせに、性格は最悪だな! ちょっとはフロストを見習ったらどうなんだ! フロストの耳の垢でも煎じて飲めってんだよぉ!」

「シャンパ様。それを言うなら爪の垢、ですよ」

「ちょ、ちょっと間違えただけだろ! 水差すなよ」

 

 第六宇宙の破壊神シャンパからも苦言が入るが、フリーザはといえばどこ吹く風だ。悠然とした態度を崩さず構えている。それを擁護するように……というよりも、シャンパを馬鹿にしたような態度で口を開いたのはビルスだ。

 

「フンッ、フリーザは事実を言ったまでじゃないのか? お前んとこの選手は大したこと無いって事実を、ね」

「なにをう!? おいビルス、分かってんのか? 今は一勝一敗だ! 一勝一敗! お前んとこの選手も負けてんじゃねーか! そのフリーザって奴もまだ戦ってもいないんだ。試合前から大口叩いて、恥かいても知らないぜー! わーっはははは!」

「言ってろ! …………あとハーベスト。あとで話あるから」

「えっ」

 

 試合を終えてもうすっかり観戦モードに入っていたハーベストこと空梨は、ちゃっかり持参した折りたたみ式の椅子を広げて腰かけ、呑気に「疲れたから糖分補給~」などと言いながらチョコレートを頬張っていた。そのわきにはせんべいの入った袋と、水筒までもが抱えられている。だがそんな緩み切った彼女に突如突きつけられた破壊神の言葉に、まるで職員室に呼び出しをくらった生徒のような顔をする空梨。

 しかし今は試合だと意識を切り替えたのか、ビルスは空梨から視線をはずして武舞台を注視した。いくらか余計な時間をくってしまったが、まだ試合は始まっても居ない。

 

 

 ビルスは指先から気弾を放つと、試合開始の銅鑼を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

「さて……。どこからでも、好きな時にかかってきていただいて結構ですよ?」

「…………本当にその姿のままで戦うつもりですか?」

「何かご不満でも?」

「いいえ、むしろ好都合です。なにしろ情けない事に、私は先ほどの試合で消耗している。あなたが良いというのなら、私にとってこれ以上有利な条件は無い」

「ホホホッ、素直なのは結構ですねぇ。そういった利己的なところは、嫌いじゃありませんよ」

「それはそれは、ありがとうございます。…………では!」

 

 途中まで表面上はにこやかに会話していた両者だったが、先に攻撃を仕掛けたフロストの表情は鋭い。その動きにはフリーザが油断している今のうちに仕留めようという気迫が感じられたが、しかしそう簡単にはいかない。

 フロストがフリーザの直前まで迫ると、ふいにフロストの姿が掻き消えた。……超スピードでもって急な方向転換により、フリーザの背後へと回り込んだのだ。

 

 だが。

 

「ぐうッ!?」

 

 ダメージを先に受けたのはフロストの方だった。何が起こったのか分からなかったフロストがフリーザを見れば、人差し指を弾いたような体勢になっている以外は試合開始直後から変わらぬまま。

 しかしフロストはその様子を見て目を大きく見開く。

 

「まさか……! この私を、指一本で吹き飛ばしたとでも……!?」

「おや、見えませんでしたか? それは不親切な事をしてしまいましたね。では、今度は見えるように動いてあげましょうか」

 

 言うなり、次の瞬間には眼前に迫ったフリーザの顔。フロストはのけ反るようにして後ろへ飛ぼうとしたが、間に合わず腹に重い衝撃をくらってしまった。その衝撃の正体は、フリーザの拳である。

 

「が、はっ!!」

「ほらほら、もっと頑張らないと試合がすぐに終わってしまいますよ? 先ほど見せたあなたの土壇場の馬鹿力、私にも見せてください」

「そ、れも、そうですね……! ハァ!!」

 

 苦しみながらもフロストはフリーザと距離をとるために至近距離から指先のビームを放つ。それに対して一応引いたフリーザだが、あくまでそれはフロストにつきあってやった形であると周囲に知れた。

 

「ふ、フフフ……。これは、厳しい戦いになりそうだ……!」

 

 フロストの額から、一粒の汗が流れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 一方、観客席。

 

「な、なあ……。フリーザの奴、前より強くなってるのは知ってたけど……。あれ、ヤバくないか?」

「あ、ああ。なあピッコロ。さっきお前でもあのフロストって奴相手は、ちょっと危ないかもって言ってたよな? それくらい、あいつ強いんだよな……?」

 

 観客席で試合を見守っていた面々の中、クリリン、ヤムチャが生唾を飲む。そしてヤムチャがデンデ、ネイルと隣り合って試合を観戦していたピッコロに問いかけた。

 それに対してピッコロは眉根を寄せながらも答える。

 

「実際に戦ったわけではないから断言は出来んが、フロストはフロストで強い事は確かだ。……だが、それを軽くあしらっているフリーザに関してはまるで未知数だな。今の状態じゃ、フロストは様子見の試金石にもなっちゃあいないぜ」

「そうだな……。ナメック星の時だって悪夢のような奴だったのに、今はそれ以上だ。最早お前たちの実力は俺を遥かに凌駕しすぎていて目測での見当はつけられんが、フリーザが圧倒的だということくらいはわかる」

「そうなんですか? ネイルさん」

「ええ。……武天老師殿。あなたはどう見る?」

 

 デンデの問いに頷いたネイルは、今度は自分が問う側になる。その先は武道の神とも称される人間。単純な戦闘力ならば負けないが、老いの中で得た経験とは時にそれに勝る。よって彼がどのようにこの試合を評価するのか興味がわいたのだ。

 今もなおフリーザがフロストをあしらうように試合する光景を、武天老師……亀仙人は髭をしごきながら観察する。

 

「ふ~む。なんというかのぉ……。正直わしもピッコロやネイルと同意見じゃが、この試合あえて言うなら……」

「言うなら?」

「フロストが、ちと気になるの」

 

 やられている側のフロストが気になる。

 その発言にみな一様に意外そうな表情をする中、天津飯とピッコロは何か思い当たるふしがあったのか頷いていた。

 

「なるほど。もしかして、先ほどの空梨との戦いでのことですか?」

「ほっほ。流石は天津飯。察しが良いの」

「いえ。どう見てもあの気の失い方は、不自然でしたから」

「そういや、言われてみれば……。なんか負けた方の空梨さんがフロストを褒めてそのフロストも空梨さんを褒めて、いい感じに試合が終わったから、俺ちょっと忘れてたよ」

「それを踏まえて考えたんじゃがのぉ……。どうにも、フロストには余裕があるとは思えんか?」

「余裕?」

 

 亀仙人はひとつ頷くと、サングラスの奥の眼光を鋭くする。

 

「観客席で見ているだけでも明らかな実力差。相対する本人ならば、余計に実力の差を感じ取っておることじゃろう。だというのにあのフロスト、どこかで余裕を残している」

「そうですか? 俺には必死なように見えますが……」

「わしにもさっきまでは、そう見えておったよ。じゃがフロストも体力を削られて、知らぬうちにほころびが出てきているのじゃろう。どうにも、何かのタイミングを見計らっておるように見える」

「タイミング……」

「ほう、地球人でそれに気づく者がいたのか」

 

 そこで会話に割って入ってきたのは、銀河パトロール隊員だと名乗ったジャコだ。紹介はされたが、ほとんどのメンツがまだそんなに話したことのない相手である。

 

「気づいた、とは?」

「なに、少々気になることがあってな。このスーパーエリートの私が、ちょっと観察してやろうと思っていたところなんだ。では、私は選手席へ行ってくるぞ。あちらの方がよく見えるからな」

「待って! それならボクも行くよ。もし空梨の負けに何か理由があるなら、師匠として黙ってられないから」

「ほ、ほほうっ。あ、あなたはあの女傑の師匠なのか……なのですか。わかりました。一緒に行きましょう」

 

 先ほどの戦いを見て空梨という地球人は物凄く強いのだと分かっていたジャコは、その師匠だという餃子に若干遠慮しつつも同行を認め、餃子とジャコは選手席へと飛んでいった。

 

 しかし残されたメンバーの中、敗者空梨の夫であるラディッツはこう思っていた。

 

 

(いや、理由はどうあれあいつは負けて喜んでそうだが……。勝ったところで、なんの得にもならんしな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒く息をつくフロストを前に、フリーザは試合開始から変わらぬ佇まいで問いかけた。

 

「やれやれ。もう、ここまででよろしいでしょうか? 格下の相手を殺さないように勝負に付き合ってあげる、というのは、とても疲れるんですよ」

「格下……。ふふっ、言ってくれる」

「事実でしょう」

「まったくです。……私は自分が恥ずかしい。まさか別の宇宙の同族の方が、こんな素晴らしい実力の持ち主だなんて! 私は今までどこか慢心していたのでしょう。今回はそれを諫める良い機会を頂きました。フリーザさん……いえ、フリーザ先輩! ご指導ありがとうございます! このフロストは、今とても感激に震えています」

「指導したつもりはないんですけどねぇ……」

 

 敗北の瀬戸際まで追い詰められた側にしては、あまりにも謙虚で真摯な発言。これが本物なら虫唾が走ると思いつつ、あくまでフリーザは"観察"を続けていた。……かつて自分を一撃で倒した女を、どういった手段で気絶させたのか知るために。

 

 そんなフリーザに、フロストはひとつ提案をする。

 

「ところで……。もしよろしければ、先輩の最終形態を見せてはいただけませんか? 後学のために、是非!」

「おや、今の私にも勝てない事が分かったでしょうに、それ以上を望むと? 向上心を通り越して、それはお馬鹿さんの域ですよフロストさん」

「ははっ、そうでしょうか。ですが、またとない機会なのです。同族のよしみと思って! お願いします!」

 

 その言葉にフリーザはしばし考えるそぶりを見せたが、ややあってから頷いた。

 

「……いいでしょう。貴方の気概に免じて、私の最終形態をお見せします」

「! 本当ですか!」

「ええ。……では」

 

 フリーザはフロストの希望に了承の意を示すと、先ほどのフロストと同じく強大な気を放ち始める。そしてそれが解放された、その瞬間。

 

 

 

 

「悪く思わないでくださいね先輩! 私には、引けぬ理由があるのです!」

 

 

 

 

 フロストは変身後の一瞬の隙を狙って、フリーザを攻撃したのだ!

 しかしそれは一見無謀な行為! それは変身後のフリーザから発せられる強大な気を感じて、誰もが思った事だろう。だがフロストはひるまない。……何故なら。

 

(くらえ! 間抜けめ!!)

 

 振りぬく拳。そしてその手首から誰にも見えないほどの、小さな小さな針が射出される。それは気の放出が終わった瞬間を狙って放たれたため、何にも邪魔されずフリーザへとむけて飛ぶ。

 

 

 だが。

 

 

「おや、毒針かなにかですか? …………わざわざつきあってあげたのに、タネは単純で実に興ざめですねぇ」

「!?」

 

 針を飲み込むように、赤い閃光がフロストの太ももを貫いた。

 

「それと、すみません。あなたにはやはりもったいなくて、本当の最終形態を見せられないと思いまして。一つ前段階の変身で、失礼しますよ?」

 

 そう言ったフリーザの変身後の姿は、現在の最終形態である黄金の肌を持つものではなく……今のフロストとよく似た姿。

 

 

「あなた、部下にならしてあげても良かったかもしれませんね」

 

 

 身動き取れなくなったフロストの横に移動したフリーザから、フロストの首に手刀が振り下ろされた。それを受け、フロストは白目をむいて倒れ込む。

 しばしの沈黙の後、レフェリーが叫んだ。

 

 

 

『しょ、勝者、フリーザ選手ーーーー!』

 

 

 

 レフェリーがフリーザの勝利宣言をすると観客席の一部から歓声が上がった。当然、ギニュー達である。

 

「うおおぉぉ!! さすがはフリーザ様! 格の違いを見せつけたそのご雄姿、このギニューしかと見届けさせていただきました!!」

「ビデオばっちり撮っておきました!」

「き、キキーッ」

 

 賑やかし要員なのか、ギニューとジースの傍らではサイバイマンのラディッシュがボンボンを手に踊っている。他の新生ギニュー特戦隊のメンバーは、それぞれ応援幕を持ったりカメラを手にしていたりと、意外と忙しい様子だ。

 ちなみにサイバイマンの中で唯一言葉を話せるナッパは、ちょっと距離の離れた場所で悟天、トランクス、空龍と一緒に座ってそれを眺めていた。そのまなざしには慈愛のような生暖かさが宿っている。

 

 フリーザはため息をつきながらもそれに片手をあげて応えてやると、フロストに背を向ける。

 

「早くそいつをどかしなさい。次の試合もありますからね」

 

 その言葉にレフェリーとその仲間がフロストを場外へと連れて行くべく抱え上げる。

 が、その時である。

 

 

「ちょっと待った! 運ぶ前に、そいつの体を確かめさせてほしい!」

 

 

 銀河パトロール隊員ジャコが、声をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

Σ月∵日 続き。

 

 

 せっかくフリーザ様が華麗に勝負を決めたというのに、いらんことにジャコの奴がフロストの不正を暴きやがった。ああ、そういやあったなこんなシーン……。第六宇宙編は格闘試合と言っても生死が関わってこないから、あんま真剣に覚えようとしてなかったんだよな。

 それと同時に意識を取り戻したフロストが何故か自分でベラベラと色々経歴及び現在の活動を語り、その悪行も露見したので第六宇宙としては良かったのだろうが……。私としてはそれどころではない。フロストの毒針が私に使用されたことが分かったばかりに、ビルス様が私の試合復帰を主張し始めたのだ。

 

 おいフロストテメェ、なにフリーザ様に自分を売り込んでるんだよ。貴方の部下になりたい? 打ちどころでも悪かったのか。何で悪事がバレる事も構わずいきなり自分のビジネス方針を語り出したかと思えば、フリーザ様へのアピールだったんかい。ここは面接会場じゃねーぞ。ギニュー隊長達もフリーザ様似の新隊員を迎えられるかもって期待してそわそわしないでください。まず無いですから。

 最終的にフロストはシャンパ様に命令されたキャベとボタモくんに連れていかれたが、非常に名残惜しそうにフリーザ様を見ていた。え、マジ何なのお前。こちとらお前がちゃんと隠し通さないから試合に戻されそうなんだけど。

 

 

 だけど、私は何とか乗り切ってやったぜ!!

 

 

 ふふんっ。こっちには「モナカの正体を知っている」というアドバンテージがあるのだ。それを交渉材料に私はビルス様に試合復帰後の順番をモナカの前……すなわちベジータの後にしてもらった。本当は一番最後が良かったけど、それはビルス様が譲らなかったからな。仕方がない。

 でも悟空、ベジータが前に居るなら私まで順番など回ってこない!! 奇しくも当初の予定通りの順番を勝ち取れたと言える。

 もし私まで出番がまわってこなくても、すでに私は一勝済み。そうそう文句は言われまい。

 

 

 

 

 まあ誤算があるとすれば、フロストの毒針が露見した時に真っ先に私が毒針に気づきつつも、わざとそれをくらったのがバレた事なんだけど。

 

 

 

 マジか。私倒れる時笑ってたんか。「本気で気を失っていたようだけど、あれが引っかかっててね。あとで追及しようとは思っていたよ」とはビルス様の言。…………マジかー…………。

 これにはジャコと一緒に選手席まで来ていた餃子師範にも呆れられて、ちょっとショックである。「みんな真面目にやってるんだから、空梨もサボろうとしちゃ駄目」と怒られてしまった。不自然に気を失った私の事を心配までしてくれていたようだから、申し訳ない事この上ない。ごめんなさい。

 

 そして試合もあることだしと大した処罰こそ無かったものの、私には試合中ずっと正座しているようにと言い渡された。普段椅子で過ごして正座なんてほぼしないから地味にツライ。サイヤ人的体の頑丈さが正座にはきかないってのは何でだ。

 

 

 

 試合、早く終わるといいなぁ……。足しびれた……。

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




86さんから主人公とブウ子のイメージイラストを頂きました!ふへへっ執筆の励みになります(n*´ω`*n)


【挿絵表示】

日常風景の中の主人公。かっわいいな!かっわいく描いてもらったな主人公!!そして可愛さの中にそこはかとなく香る人妻的な色気が好きです。具体的に言うとぴったりめの服に包まれた胸といい感じにむっちりした太もm(以降自主規制


【挿絵表示】

ウインクブウ子。かつてのラスボスがまるでマスコットキャラのような愛らしさを醸し出している件について。ウインクとポーズがあざと可愛すぎるだろぉぉぉぉ!!


この度は素敵なイラスト、本当にありがとうございました!


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★復活のF:その八 からの第六宇宙対抗試合6 お昼休憩

 フロストは試合開始当初、フリーザの事を甘く見積もっていた。といっても、その実力を疑っていたわけでは無い。それはフリーザの前の対戦相手だった孫空梨という女が、明らかにフリーザに対して敬意を払っていたからだ。いや、敬意というよりも頭が上がらない、と言った方が正しいだろうか。

 とにかく自分が実力では歯が立たなかった女が敬う相手。弱いなどと間違っても思うものか。……だがフロストにとって純粋な強さなど単なる指標でしかなく、そこは問題では無かった。

 

 ようは勝てばいい。

 

 それだけの事なのだ。

 これは神の御前試合。相手を殺してはならないというルールがある以上、命の危機に陥ることはまずない。そしてどうやって勝とうが、方法がどうあれ勝てばいいだけのこと。

 フロストには手首に仕込んだ毒針を使う事に対して、躊躇など無かった。

 

 仕込んだ毒はたいていの生物に効く即効性の昏倒薬。効果は劇的、しかし生物自身の治癒力で解毒されるまでの時間は早い。後遺症は残らないが、毒の反応そのものもまた消え失せる。まさに暗躍に相応しい毒と言える。

 そしてその毒はフロスト自身にも効き目があることから、当然別の宇宙とはいえ同族たるフリーザにも効くものと思われた。あらかじめ解毒薬を摂取しているフロストと違い、毒針を受ければまず間違いなくフリーザがいくら強くとも意識を失う。その後は前の試合と同じく場外に落としてやるだけでいい。……実に簡単なミッションだ。

 

 

 しかし、現実は違った。

 

 

 いいようにあしらわれるところまでは予想していたが、フロストはまずフリーザの佇まいに内心気おされていたのだ。

 同族だからだろうか。フリーザが秘めている底知れぬ力に本能が高ぶり、体が震えた。…………そして、その震えは恐れではなく、歓喜であった。

 

 決定打は、毒針を無効化されてフリーザに倒された時。

 

 

———————— ああ、きっとこのお方は、私などよりよほどの悪だ。

 

 

 和気あいあいとした第七宇宙チームとその身内の中で、フリーザだけが浮いて見えた。心底忌々しそうな顔には、その内面もまた自分の本性と似通っているのだろうとシンパシーさえ感じた。……だがその後、実際感じた感情は「崇拝」。

 冷たく突き刺さるような声に、言葉に、表情に。……そして、その強さに。フロストは今まで生きてきた中で初めて「誰かに仕えたい」という感情を覚えたのである。

 

 意識を取り戻すなり、自分が今までしてきたマッチポンプ式の悪事を洗いざらい喋ったのは、ただただフリーザに認められたいという衝動からだった。きっと悪たるこの方ならば、その功績を認めてくれると一縷の希望に縋って。

 

 何が自分をそうまで突き動かすのかは分からない。ただ本能のままだった。そして今まで理屈で考え己の利益のためだけに立ち回ってきたフロストにとって、それがいかに特別な事であるか。初めての経験であるか。

 

 自身の想いに共感してくれたのは先ほどから観客席でフリーザの応援幕を振る角の生えた宇宙人とその仲間だけだったようだが、そんなものは関係ない。フロストはフロストの意志のままに、フリーザに部下にしてくれないかと懇願したのだ。

 

 

 

 どこか満たされなかった悪の渇きを、このフリーザという同族なら満たしてくれるのではないかと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とかなんとか考えていたフロストだったが、現在第七宇宙側の子供の提案によって発生した「お昼ごはんタイム」をいいことにちゃっかりフリーザの隣に座っていたりした。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩! こちらはいかがです? 第六宇宙側の屋台から調達してきたのですが、なかなか美味ですよ」

「ほほう、フロスト殿。なかなか良い気遣いですな。感心感心!」

「どうも、ギニューさん」

「何故あなたがこちらに居るんですか……」

「部下にならしてもよかったと、言ってくださったじゃありませんか!」

「フロストさん。あなた、建前やお世辞って言葉知ってます?」

「こぉらフロストぉぉぉ! お前なにちゃっかり第七宇宙の奴らと仲良くしてんだ!? お前のせいでこっちは赤っ恥かいたってのに!」

 

 シャンパが用意した屋台で手土産を調達してフリーザに勧めるフロスト。すっかり新しい同僚気分でフロストを褒めるギニュー。うるさいだけの取り巻きが増えて頭痛を堪えるように頭に手を添えるフリーザ。ちゃっかり第七宇宙サイドに移動したフロストに凄むシャンパ。

 

 そんな光景を第七宇宙の面々は、それぞれ昼食をとりながらも遠巻きに眺めていた。

 

「毒針を使ったような卑怯者が、こうもあっさり改心するものなのか……? 疑わしい」

「ま、まあ色んな人間が居ますからね。出会いによって人生観が変わるのは、ままあることです。……あれを改心、と表現していいのかは少々迷うところではありますが」

 

 そしてお昼にお呼ばれしたザマスと界王神もまた、チチから貰った肉まんとおにぎりをもっきゅもっきゅと頬張りながらそれを眺めている。ザマスは一応親友たる界王神シンの言葉に「……それも、そうですね。神である私ですら、貴方との出会いで変わった」と、一応は納得し頷いていた。

 

「なんか変な感じになってきましたね……」

「ほっほっほ。まあ、これも縁じゃよ。な~に、見物する分には面白いというものじゃ。暴れている、というわけじゃないしの。……しかし惜しむべきは、第六宇宙の戦士にぴちぴちギャルがおらんことだわい……。別宇宙のギャル、楽しみにしておったんじゃが」

「格闘試合に何期待してんだよ爺さん」

「そうは言うがなウーロンや。お前とて、ちょびっと期待はしておったんじゃないか?」

「べ、別に俺はそんなこと思ってねぇし!? …………まあ、チアチームくらい用意してくれてもいいとは思ったけどよぉ……」

「あんた達はこんなとこまで来て何話してんのよ」

 

 クリリンもまた18号に取り分けてもらった弁当を食べつつこの宇宙、人種入り乱れの様相に奇妙な気分を味わっていたが、そこは年の功なのか亀仙人があっさりと受け入れて見せた。先ほどフロストに何かありそうだと気づいたりと、まだまだ自分はこのお師匠様にはかないそうにないなぁとクリリンは苦笑する。そして直後にいつもの調子でウーロンとぴちぴちギャル談議に移行しようとするあたりに軽くズッコケつつも、敵が近くに居るのになんだかんだで平和だなぁと空を見上げる。

 

 見上げた空……否、(そら)には輝く六つの宝玉、スーパードラゴンボール。

 

「そういえば結局、最後の一つは見つかったのかな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどフリーザ様の勝利によって二勝目をおさめた第七宇宙。しかしすぐに次の試合が行われる事は無く、現在お昼休憩中だったりする。提案者は我が娘エシャロットだ。

 ……あの子お腹が鳴るやいなや、チラッと第六宇宙サイドの屋台(シャンパ様が用意させたっぽい)を見てからキリッとした表情で手を上げて、大声でこう言ったのだ。「はい! イベント事には休憩時間が必要だと思います! 具体的に言うとお腹がすいたからお昼ご飯休憩が欲しいと思います! お昼休憩はいつですか!」……と。

 もっと小さい頃はふんぞり返りつつもビビりだったくせに、学校に通い始めてからというもの内弁慶が直ってきて身内以外にもはっきり意見を主張できるようになったのはいい。いいんだが、毎回その主張がいきなりすぎてビビる。それに比例して龍成の面倒見の良さというかフォロー力もどんどん上昇していくもんだから、何とも言えない。

 

 でもって突然昼休憩を要求したエシャロットだったのだが、その後に「第六宇宙さんの屋台の食べ物も食べたいです」と言ったのがシャンパ様の機嫌を良くしたのか、思いのほかすんなりと受け入れられた。

 

 そして現在。

 

「おいシャンパ。お前フロストに文句を言っておきながら、なんでこっちに居るんだ?」

「う、うるせーよ! このチビが、無理やり引っ張ってだな……」

「大きな猫さんも一緒にご飯食べよって誘ったのー!」

「あの、すみませんうちのエシャロットが……」

「ふふふっ。可愛らしいお誘いを断るのも、忍びないですものねシャンパ様」

「お、おう。そうだ。俺は心が広いんだ」

「よく言う……」

 

 第七宇宙サイドの昼食風景の中に、ちゃっかりシャンパ様とヴァドス様が混ざっていた。というかそれを見て、ボタモに加えてもっとベジータや悟空と話したかったらしいキャベくんまでもこちらに来ている。

 なんかこう、今の場面だけ切り取ってみると非常に和気あいあいとしているな……。

 

 

 

 ちなみに私は正座継続中だ。

 

 

 

「あ、あの~。ビルス様? 私も今だけはちょっと姿勢を崩したいなって……」

「駄目だ」

「ですよねー!」

 

 ちょっと提案してみたがすぐに却下された。ううっ、せっかく休憩中なのに……!

 

 私がお弁当を食べながらも変えられない体勢に涙していると、「ほら、落ち込んでねぇで空姉さまもたくさん食ってけれ!」とチチさんがお皿に食べ物を追加していってくれた。チチさんマジ出来た嫁。

 そしてチチさんはそのままお弁当箱を持って、シャンパ様やビルス様にも料理を勧めに行ったようだ。

 

「ほら、え~と……シャンパ様? だったな。このパオズ鳥の甘酢あんかけも食うといいだよ!」

「おう、悪いな! ……おお!? こ、これも美味い……!」

「だろー? チチの飯は美味いんだぜ、シャンパ様!」

「ふふっ。悟空さには負けるが、気持ちいい食べっぷりだなぁ」

「姉上。こちらのから揚げなるものも、と~っても美味しいんですよ」

「あら、では頂こうかしら」

「あ、それチチさんに教わって私が作ったんですよ。味付けとか、お口にあえばいいんですけど……」

「大丈夫だビーデルさん。ちゃ~んとうまく出来てる。オラのお墨付きだ!」

「! まあ……。ふふっ、ええ。とても美味しいですよ」

「よかった~」

 

 美味しそうに自分が作ったものを食べるシャンパ様に気を良くしたのか、チチさんが次々に料理を取り分けていく。ちゃっかり悟空もその場に混じって、チチさんの料理を自慢していた。

 ウイス様やヴァドス様もチチさん、そしてビーデルさんの手料理を気に入ったらしく、箸を進めている。そして文句を言いつつも、ビルス様の手も止まりそうにない。シャンパ様に負けず、次々と料理を平らげていた。

 

 そして第六宇宙の屋台に興味をもっていたエシャロットは、意気揚々と屋台に赴いて色々調達してきていた。

 

「うっわー! エシャロットなんだそれ!?」

「凄いでしょ! あっちの屋台にあったよ!」

 

 自慢げにエシャロットが掲げたのは、いつぞやシャンパ様が飲んでいた謎のフルーツてんこ盛りのトロピカルチックなジュースだ。大きさがエシャロットの頭二個分くらいある。でっけぇ。

 そしてそれを見たトランクスは、自分たちもそれを手に入れようと意気揚々と動き出した。手を引っ張る相手は、ちゃっかり一緒について来ていた現カプセルコーポレーション居候、ピラフ一味のマイである。

 

「よっし、俺たちも行ってみようぜマイちゃん!」

「わ、わわっ。手、手を引っ張るな! だ、大胆なお子様め……!」

「あ、待ってよトランクスくーん!」

「マーロンも行くー!」

「はははっ! 悟天もマーロンちゃんも早く来ないと、俺たちでみんな食べちゃうぜ~!」

「こらこら、走ったら転ぶよ。屋台は逃げないから、落ち着いて」

 

 でもってそんな賑やかな子供たちを眺めながら、試合が始まってから妙に大人しかったセルが一言。

 

「暇だ」

 

 暇だったんかい。

 

 ちなみに他の面々も思い思いに昼食を楽しんでおり、ブウ子はブウ、サタンと一緒に楽しく会話しながらお菓子を食べている。……なんだかんだで、今は仲いいみたいだなブウ二人。

 

「ええ!? じゃ、じゃあ、あのフリーザという人のせいでサイヤ人のほとんどが滅んだんですか!?」

「ああ、まあな」

「そ、そうだったんですか……。フロストに騙されていた僕が言えた事ではありませんが、お気の毒でした……」

「ククッ、気の毒、か。でもなキャベ。フリーザに滅ぼされたことは気にくわんが、昔のサイヤ人はお前のところのようによい子ではなくてな」

「おめぇ、それ自分で言うんか」

「す、少し黙っていろカカロット!」

「おい、これ食うか? 俺が作ったんだ」

「あ、いただきます。ありがとうございますね、ラディッツさん!」

 

 そして弟と旦那はキャベくんと話しを弾ませている。キャベくん、反応いいからな~。サイヤ人の事を話したり聞いたりするベジータが、なんか先輩風ふかせてんだけど。

 

 

 

 

 とまあ、全体的に緊張感が一気に緩んだ昼休憩。

 

 しかしそれが終わって再開された第三試合にて、フリーザ様がいきなりブッ込んできた。

 

 

 

「この試合、私は棄権させていただきます」

 

 

 フリーザ様、まさかのビルス様ブチギレ破壊フラグご建設である。

 

 

 なんでや!!

 

 

 

 




ひゅーう! 話が進まないぜー!




そして話が進まなくて申し訳なく思いつつ、主人公のイメージイラストを頂いたのでご紹介!b-kanさんに頂きました!


【挿絵表示】

KA・WA・I・I!!またもやイメージイラストで可愛く描いてもらえて本当に主人公幸せ者だぜ……!
プロポーション抜群な上に、肩だし萌え袖ぴったり黒レギンスヒールとか、まんべんなくツボを押してくるこのバランスの取れた美しさよ……。シックな色合いがまた色気を引き立たせていて素敵です。大人可愛いって言葉はこういう時に使うのかと実感。

b-kanさん、この度は素敵なイラストを頂きありがとうございました!


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復活のF:その九 からの第六宇宙対抗試合7 マゲッタVS孫悟空

 棄権。

 

 第六宇宙第三の戦士、ぱっと見機械みたいな姿のオッタ・マゲッタを前にフリーザ様が口にしたセリフに、両陣営がざわざわとにわかに騒がしくなる。かく言う私も内心穏やかではなく、正座に痺れる脚をこっそりお尻を浮かせてほぐしながらフリーザ様を見た。

 

「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

「ええ、もちろんですとも」

 

 シャンパ様と言い合っていた時とは打って変わって、不気味なほどに静かに問いかけたビルス様。しかしフリーザ様はビルス様に臆すことなく、それどころか優雅に一礼して見せた。

 

「私なりに、この大会について考えた結果の棄権でございます」

「大会の事を考えて、だと? ではその考え、聞かせてもらおうか。……場合によっては、分かっているな」

「ホッホッホ。もちろん、承知していますとも」

「フンッ、いい度胸だ。伊達に帝王と呼ばれてはいなかったって事かい?」

「お褒めにあずかり光栄です」

「嫌味だ」

「おや、それは残念」

 

 どうしよう。別にビルス様と対面してるフリーザ様当人じゃないし、むしろこのままビルス様の反感を買ってフリーザ様が破壊されるなら後で戦わなくていいから楽なんだけど、何故かこの空気にお腹が痛くなってきた。あいたたた。

 

 しかし周囲の反応など気にも留めず、フリーザ様は人差し指を立てながら説明し始める。

 

「まあ、そう難しい事ではありません。単純にこのまま私だけで勝ち進めてしまったら、つまらないと思ったまでのことです」

「つまらない? この破壊神主催の宇宙の名誉を賭けた選抜戦を、つまらないとお前は言い切るのか」

 

 いや、いつ宇宙の名誉なんて賭けたんスかビルス様。もとはあんたらの兄弟喧嘩でしょこれ。

 

「ああ、勘違いなさらないでください。大会そのものではなく、今の展開がつまらないと言ったのですよ」

「ほう。お前が言う、つまらない今の展開とは何だ」

「もちろんそれは先ほど申し上げたように、私がこのまま一人で第六宇宙の選手の皆さんを倒してしまう事です」

 

 自信たっぷりに言い切ったフリーザ様に、第六宇宙サイドから反感の目が向けられる。……フロストと、未だに目をつむったまま悠然と腕を組んでいる紫カラーの男を除いてではあるが。

 当然シャンパ様も黙ってはいない。

 

「おい、最初から思ってたけど、お前生意気すぎるぞ!」

「これは失礼。ですが私は素直な感想と、自分なりの考察でもって申し上げているだけです。……第六宇宙の選手は、私の敵ではありません」

「な、なにぃ!?」

 

 再びシャンパ様がいきり立ったように前のめりになるが、そこでフリーザ様は別の人物達に意識を向けた。悟空とベジータだ。うわ、別の宇宙のとはいえ破壊神無視したぞあの人。

 

「ところで、孫悟空さん。ベジータさん」

「い!? お、オラか? ……なんかフリーザにさん付けされるの、気色悪いなぁ……」

「…………何だ」

「あなた達サイヤ人は、戦う事が大好きなんですよね? このまま私が全て倒してしまって、戦えないのはつまらないのではありませんか」

「え? そ、そりゃあそうだけどよぉ……。でもフリーザ。流石にあからさますぎて、オラにもオメェが考えてる事わかっぞ」

「ほう」

「おめぇ、実力隠したままオラ達の力だけ見る気だな?」

「フンッ、流石に貴様でも気づいたか」

「まあな! へへっ、でもそう言ったって、戦いたいことに違いねぇけどよ。オメェはどうだ? ベジータ」

「……奴の思惑に乗ってやるのは癪だが、別に実力を見せたところで大した問題ではない。奴が実力を隠しているなら、戦う時はそれをさらに超えればいいだけのことだ」

「おいベジータ、忘れるなよ! 試合後にフリーザと戦うのは私なんだからな!」

「セル、わかってっから途中で口挟まねぇでくれよ。……っちゅーわけでビルス様ー! オラ達で後の試合は絶対に勝つからよ! フリーザの棄権は認めてくれねぇか!?」

 

 うおおおおい悟空! それじゃまんまとフリーザ様が望む流れになるだろうが!

 クッソ、こっちはまだフリーザ様の真の実力の断片すら把握できていないんだぞ? このまま勝ち進んでくださいよフリーザ様! 悟空とベジータもフリーザ様の思惑が分かってるならその棄権を受け入れるなよ!!

 くッ、せめてフロストがもっと強くて、最低でもフリーザ様のゴールデンを引き出すくらいの奴なら……!

 

 私がそんな風に内心グルグル考えていると、ふいに肩がぽんっと叩かれた。叩いた腕を視線で辿れば、そこにはホワイト&パープルのオサレ上級者カラーの元上司。

 あれ? 何故だかデジャヴ。

 

「残念でしたねぇ、ハーベストさん。あなたも私の実力を見たかったのでしょう? ですが幸いなことに、私の棄権は認めていただけました。あとは心ゆくまで、試合を観戦させていただくとしましょう」

「え、いつの間に!?」

「あなたが考え込んでいる間にですよ。フフッ、破壊神も案外間抜けというか、詰めが甘いですね。モナカという選手を引き合いに出して説得したら、案外すんなりと受け入れてもらえました。そんなにモナカが雑魚だと周囲に知られたくないんですかねぇ」

「ふ、フリーザ様気づいて……」

「あたりまえでしょう。まあ最初に会った時から強いかどうか疑わしかったですが、決定打はあなたがビルスの星で彼を孫悟空から庇った事ですかね。知っていたのでしょう? 彼が弱いと」

「うぐっ」

 

 モナカが一般人だってことフリーザ様にバレてたのか。くっ、あんな些細な事でバレるだなんて……。…………いや、私じゃなくて主にその後のビルス様のリアクションが原因だきっと。そうに違いない。

 それにしてもビルス様、フリーザ様の棄権を認めちゃうほどバレたくないならそもそもモナカを連れて来るのやめれば良かったんじゃないかな!? わざわざ架空の宇宙最強を用意して発破をかけなくたって、悟空とベジータはやる気満々だったよ!! 他に選ぶにしても、わりと厚い選手層でしたよ!?

 ホントなんでわざわざ連れてきたし。

 

 

 でもいくら悔しがろうが、残念なことにフリーザ様の棄権はすでに受理されてしまったようだ。

 ……これで完全にこの試合中にフリーザ様の実力を計る機会が失われたな。やられた。まさかビルス様に真正面から棄権を申し出るとか思わんかったわ。ひそかにこの対抗試合の裏ルールに設定していた情報戦では、ひとまずフリーザ様の勝利と言ったところか。チッ。

 

 でもそれならそれで、悟空たちが事前に言っておいた通り……出来るだけ実力を隠して戦ってくれたらいいんだけど……。

 

「よっし、やっと出番だ! くぅ~っ! オラわくわくしてきたぞ!」

(あ、無理だこれ)

 

 

『では色々ありましたが、気を取り直して! お次は第六宇宙オッタ・マゲッタ選手対、第七宇宙、孫悟空選手の戦いです!』

 

 

 私はとりあえず実力探りだの何だのは置いておくことにして、いつも持っている手に馴染んだ電子機器をすっと取り出す。

 

 

 

 …………もう日記に愚痴でも書いてよっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++

 

 

 

 

 

 

 

Σ月∵日 続き

 

 

 

 

 

 フリーザ様棄権宣言にちょっとドッキリさせられたが、受理されたからにはその後はフリーザ様を除いた選手で試合は続く。

 でもって悟空対メタルマンのマゲッタという選手の戦いになったのだが、意外や意外。

 

 

 マゲッタ超強ぇ。

 

 

 悟空でも持ち上げられない重さと攻撃が効かないレベルの硬さって何だよ。悟空あいついつも私の作った念力の疑似的な重力室で修業してんだぞ。

 おいおい、第六宇宙の選手、防御力特化多すぎだろ。かといって攻撃が苦手なわけでもないというね。蒸気(頭から出ているけど、時々オナラも出しているらしい。一回それに引火して凄い大爆発が起きた)やマグマの唾による攻撃などに加えて、接近戦もこなせるとあって手数が豊富。

 ……え? こいつら宇宙に乗り出してたら、初期フリーザ様とか初期サイヤ人とかなら目じゃ無くないか。観客席で話していた両宇宙の界王神様達の会話を聞く限り第七宇宙にもマゲッタと同じ種族は居るらしいけど、第七宇宙のメタルマンって今どうしてるんだろう……。なんか悪口が弱点だった気がするけど、メンタル面鍛えれば大体の宇宙人やっつけられそうなんだけど。

 

 

 ちなみにさっきシャンパ様がルールを追加したせいで、武舞台はヴァドス様が作った四角いバリアで覆われている。新ルールではそれに触れても負けらしい。つまり空中場外負けも追加されたから、舞空術を使ってもさっきより自由には動けないという地味に嫌な仕様となっている。それはこのマゲッタという選手相手だと、悟空に結構刺さってくるルールだ。

 

 シャンパ様は、結構(こす)い。

 

 

 

 

 

 まあ、悟空が勝ったけどな!

 

 

 

 

 

 悪口で勝つっていうのもやっと戦える悟空のモチベーション下がりそうだから黙ってたけど、そんなアドバイスが無くても問題なく悟空は勝ってくれた。

 

 マゲッタはバリアで閉鎖された空間を利用して自身が発する熱と蒸気で悟空の体力を奪ったけど、あいにくまだ戦ってない上にさっきのランチタイムでばっちり補給していた悟空は体力、気力共に万全だ。そう簡単にはやられない。

 そして少々の攻防を挟んだ後、決定打は悟空の瞬間移動だった。マゲッタごと場外近くまで移動して、あとは一気にスーパーサイヤ人3まで変身してかめはめ波を放ち、あとわずかの距離だった場外までマゲッタを押し出したのである。

 でもって、勢い余ってバリアをかめはめ波と押し出されたマゲッタの体で壊していた。余波で武舞台が三分の一くらい吹っ飛んだけど……それでも無事なマゲッタの頑丈さよ。ゴッドやブルーに比べるとパワーで劣る3だけど、そもそも最近の悟空は前より遥かに地力が上がってるから、今のスーパーサイヤ人の強さも結構ヤバいはずなんだけど。

 

 ……にしても、悟空。試合の後に「いや~、オメェ強ぇな! オラの攻撃にビクともしないのにはおどれぇたぞ! でも頭からオナラ出すのは、ちょっと汚ねぇな。あははっ」とか言うのはやめてやれよ。ちょっとした冗談のつもりだったんだろうけど、マゲッタ落ち込んじゃっただろ。さっきまで超強かったのに、泣いてるぞ。

 なんというか、落ち込む姿が妙に可愛いもんだから可哀そうになってくる。しかも悟空の奴「種族それぞれで体の構造は違うんですから、それを笑うなんて失礼ですよ!」ってキャベくんに怒られてるし。……ふっふっふ。でも悪いかなーと思いつつ、それを見るのはちょっと楽しい。年下からの本気説教はこたえるだろう? 悟空。その気持ちよくわかるぞ。

 

 それにしてもゴッドやブルーにまでならなくていいと判断したんだろうけど、3で留めるとは悟空ナイス。

 フリーザ様も初めて見る3の姿に「ほう、あれが彼らの新しい変身ですか」とか言ってたしな。このままうまく騙されてくれたらいいんだけど。

 

 

 とまあ、それはいったん置いておいて。

 次はいよいよ第六宇宙のサイヤ人ことキャベくんの登場か。これは日記を実況風に書くにあたって私のタイピング力が試されるな。さっきのマゲッタとの試合は端折っちゃったから、今度はもっとちゃんと書いておこう。

 

 …………にしても、なんかベジータが妙にそわそわしてるな。まあ、あいつとしてはこっちのサイヤ人の王として、母星が残っている第六宇宙のサイヤ人が気になるのだろう。さっきランチタイム中での会話でキャベくんがスーパーサイヤ人の存在すら知らなかった事を聞いたからこそ、余計に。多分、出来れば自分が戦いたかったんじゃないかなあいつ。

 

 しかしキャベくんがスーパーサイヤ人になれないのを知るのは、悟空も同じだ。さて、悟空はどう出るか。もし試合をより楽しむためにキャベくんをスーパーサイヤ人に導くなら、どうやって最初のきっかけである「怒り」を引き出す?

 

 

 

 …………今、唐突にまだまだ先の予定の、ウーブと悟空が戦った天下一武道会の話を思い出したのは何故だろうか。

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 破壊神選抜対抗試合。しかしその内容は、実質的には負けが一つもない第七宇宙がリードしていた。そんな中回ってきた出番に、キャベはごくりとつばを飲み込む。

 強い相手と戦える高揚感以上に、選手としての責任感がプレッシャーとしてのしかかってきているのだ。キャベは元々責任感が強い方なので、なおさらである。

 先ほどはマゲッタを落ち込ませた対戦相手、孫悟空に勢いで文句を言ってしまったが……。

 

 相手は自分と同じサイヤ人だ。しかしその在り方は決定的に違う。……自分たちは、スーパーサイヤ人などという姿に変身出来ない。それどころか、その存在すら知らなかったのだから。

 

 マゲッタを吹き飛ばした孫悟空の姿は、彼の姉が変身して見せたスーパーサイヤ人よりもさらに上の変身だと思われた。そんな相手に、自分はどこまで対抗できるのだろうか。

 

(でも、やるしかない!)

 

 キャベは迷う心を振り払うように、孫悟空を見つめた。すると先ほどはキャベに責められてたじたじだった悟空が、好戦的な表情で笑う。それを見てキャベもまた、自身を奮い立たせるように笑った。

 

 

 

 そして互いに構え、試合が始まった。

 

 

 

 試合では最初、孫悟空はスーパーサイヤ人に変身しなかった。しかし攻防がいくつか交わされた後、キャベは改めてこのままでは勝つことが出来ないと悟る。幸い現状で負けてはいないが、それは相手が切り札を出していないからに他ならない。

 

 そのことに思い当たったキャベの口からは、自然と「スーパーサイヤ人になる方法を教えてほしい」と、教えを乞う言葉が出ていた。

 おそらくこの機会を逃せば、キャベは一生スーパーサイヤ人について知らぬまま過ごすことになる。

 試合中の相手に教えを乞うなど、失礼だろう。だけどキャベはどうしても、スーパーサイヤ人について知りたかった。そしてその理由は、試合などより大切なもののため。

 

 

 

 キャベはこの試合で勝つことよりも、今よりさらに強くなって故郷に帰り、平和に貢献することを選んだのだ。

 

 

 

 しかしそんなキャベにもたらされた言葉は"ふたつ"。

 

 

「お、おめぇのかーちゃんでーべそっ!」

 

「貴様、それでもサイヤ人かぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

「………………えっと。………え?」

 

 

 突然の対戦相手からの悪口と場外からの怒声に、キャベはただただ困惑するのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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復活のF:その十 からの第六宇宙対抗試合8 キャベVS孫悟空

 スーパーサイヤ人になるために教えを乞うたら、何故か対戦相手の彼が会った事も無いはずのキャベの身内に対しての悪口を言われ、更には武舞台の外から怒声を叩きつけられた。その二つの声にキャベは怒るよりも何よりも、まず困惑した。

 そして対戦相手である孫悟空は、自分の発言にかぶさるようにして発せられた怒声に対して、不満そうに眉根をよせて怒声の主……ベジータを見る。

 

「なんだよベジータ、邪魔すんなよ~」

「カカロット。貴様……まさか今ので、そいつを怒らせようとでも思ったのか?」

「ばっ、言うなって! バレちゃうだろ?」

「バレるバレない以前に唐突過ぎてあいつは怒るどころか困惑しているだけだろうが! ええい、貴様には任せておけん!! おい、キャベ!!」

 

 何やら言い争い始めた二人のサイヤ人を前に戸惑うキャベであったが、第七宇宙のサイヤ人の王だというベジータにギロリと睨まれると、思わず肩が跳ねた。

 

「は、はいぃ!!」

「情けない返事をするな!!」

「はい!!」

 

 何故自分は対戦相手でもない相手に怒られているのだろうか。そう思いつつもベジータの覇気がこもった声に、自然とキャベの背筋が伸びる。更にはその鋭い眼光に、知らずゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

(これが、第七宇宙のサイヤ王の覇気……!)

 

 叩き付けられる戦闘の気とはまた違った迫力に、キャベは怖気づきそうになりながらも同時に憧憬を抱いた。なんと力強い気迫だろうか、と。

 

 しかし憧憬を抱いた相手から発せられたのは、ため息だった。

 

「…………少しは見込みがある奴だと思っていたんだがな。ガッカリだぜ」

「なっ」

「戦いの最中に相手に教えを乞うだと? それでも誇り高きサイヤ人か! 俺は貴様のような軟弱者など、サイヤ人とは認めん!!」

 

 そこまで言われ、流石のキャベも多少カチンとくる。

 確かに自分の行為は恥ずべきものかもしれない。だが、キャベには自分のプライドなど投げうってでも守りたいものがあるのだ。それを否定されるような言葉に、言い返さずにはいられない。

 

「……確かに、僕の今の行動は恥ずべきものかもしれない。でも! 僕には強くならなきゃいけない理由があるんだ! いくら王様とはいえ、別の宇宙の方に頭ごなしに否定される覚えはありません!」

「ほう、俺に言い返してくるとはいい度胸だ。そこは認めてやる。…………だがな、その程度では到底スーパーサイヤ人にはなれんぞ!!」

「くっ……!」

 

 ベジータの言葉に、キャベはスーパーサイヤ人に変身した孫悟空を見る。相手は突然入った横やりに「めぇったなぁ……。どうすっか」などと言って呑気に頬をポリポリと掻いているが、未だその体からほとばしるスーパーサイヤ人のパワーを前に、キャベは改めて「このままでは勝てない」と悟った。

 だが、せめて勝てないにしても。キャベとしてはこの先の第六宇宙の平和のために、スーパーサイヤ人に変身する方法だけでも聞き出したい。

 

(僕はいったい、今どうすべきなんだろう……)

 

 キャベは自分が今すべき最良の選択を考え始める。

 

 

 と、そんな時だ。

 

 

 

「おい、ハーベスト」

 

 ベジータが正座で試合観戦をしている、彼の姉へと呼びかけた。

 彼女はベジータの言いたいことが分かったのか、あからさまに嫌そうな顔をする。だが痺れているのかプルプル震えている足をベジータに足でつつかれ、「お前やめろよ! わかった。わかったよ」と、嫌々ながら何かを了承したようだった。

 

 そしてキャベと悟空がそれをいぶかし気に見やる中、ハーベスト……空梨が息を吸ってから、特大のため息とともに口を開き言葉を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

「うっわ。あんなひょろ細い上に根性ない奴が代表とか、第六宇宙のサイヤ人マジ終わってるわー」

 

 

 

 

 

 

 イラぁッ

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間感じた言い知れない苛立ちに、キャベは顔をひきつらせた。

 だが空梨の言葉はそれだけでは終わらない。

 

「まあ、そんな所が可愛いっちゃ可愛いけど、戦う戦士としてあれはどうなのって感じ。キャベくんいい子だけど、それだけじゃあ守れるものも守れないよねー」

 

 ぷすーっと、小馬鹿にした態度で噴出しながら口を押えての発言である。キャベの中にまた一つイライラが溜まった。

 しかしその発言に同調するようにベジータが頷く。それに対してはキャベの中に悲しみが溜まった。

 

「まったくだ。己で限界を超える事を試しもせず、答えだけを求めるだと? そんな甘ったれた性根で、いったい何が守れる! 平和のため? 笑わせる! 貴様はプライドより大事なものがあるとでも言いたいんだろうが、投げ捨てて構わない程度の安い誇りで貴様は何を守るつもりだ!!」

 

 苛烈な言葉に、キャベの心の奥に何か熱いものがこみあげてくる。

 

「まあ、人それぞれだけどね。いやでも、試合の最中に教えてくださいは無いわー」

(いや、貴女もさっきボタモさんに教えを乞うて……)

「言っておくけどお前、思ってる事顔に出てるからな? 私はいいの、私は。ちゃんと試合には勝ったわけだし」

「そうだ。一応この女は試合に勝った。だがキャベ。お前はどうだ? 勝てないと分かるなり、あっさり勝負を捨てやがった」

「ち、ちがっ」

「何が違う? 事実だろう。もしこれでスーパーサイヤ人になる方法を教えられたとして……それで貴様は何を得る。試合を待ってもらった上に、教えられ、情けをかけられ。そんな事で変身出来るようになったとして、貴様はそれで満足なのか!!」

「!!」

 

 ベジータの喝にキャベは「そんなこと分かっている」と思う自分と同時に、どうしようもないほどやるせない気分を味わう心を感じていた。頭では今は頭を下げるべきだと考えているが、ベジータの言葉に心の奥底から熱い何かがせり上がってくるのだ。

 

 理性と感情の剥離である。

 

 今後の事を考えるなら、自分のプライドなどより優先するものがあるはず。だが、自分は今「それでいいのか?」と強く自身に問いかけてしまっている。もしかして、それが答えではないのか。

 せめぎあう相反する感情に、キャベは眉根を寄せつつ苦悩した。

 

 

 が、それは次の瞬間断ち切られることとなる。

 

 

「ははっ、図星指されて怒っちゃうとかダッセ」

 

 

 

 

 イっラァッ

 

 

 

 

 感じた苛立ちと共に、心の中で何かがプチンとはち切れた。

 

(な、何だろう。安い挑発のはずなのに、なんでこんなにイライラするんだ……!)

 

 正座をしつつせんべい片手に(齧りかけ)、指をさして外野からキャベをあざ笑うのは孫空梨。ベジータとの対比もあってか、その口ぶりが異様にムカツク。温和なキャベとしては珍しい感情だ。

 しかしその苛立ちを何とか振り払い、キャベは頭を左右に振ると対戦相手である孫悟空を見据えた。

 

 すでに心に迷いは無い。

 

「分かりましたよ! そこまで言われては僕も引き下がれません! ……孫悟空さん、お待たせしました。もう一度、お手合わせ願います!」

 

 キャベの言葉に今まで困ったような表情をしていた孫悟空が、片眉を上げてからニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「お、いいんか? スーパーサイヤ人のなり方教わらなくて」

「僕だって、誇り高きサイヤ人です。戦いの中で、つかみ取ってみせますとも!」

「そっか。じゃ、遠慮なくいかせてもらうぞ!」

「はい!」

 

 

 そうして、試合は再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャベくんを怒らせるために渋々ベジータの指示で煽ってみた私だったけど、結果的にそれって意味あったのかしらって感じだった。いやだってキャベくん悟空と再度戦い始めてから、その後わりかしすぐにスーパーサイヤ人に変身出来たからな。今更だけどマジスーパーサイヤ人のバーゲンセール。きっとベジータの発破がきいたんだろう。

 

 そしてベジータはキャベくんに結構きつい事言いながら、悟空と再び戦い始めた彼を見て嬉しそーな、満足そーな笑みを浮かべたかと思えば、お前キャベくんのセコンド? ってくらいの勢いで声援送り始めた。いや、あれを声援って呼んでいいのか分からないけど。

 

「貴様の底力はそんなものか!」

「いけ、そこだ! 避けろ!」

「サダラの代表としてここに立っているんだろう! その程度で膝をついてどうする!」

「どんなに打ちのめされようと、誇りだけは失うな! 戦闘種族サイヤ人としての、誇りをな!」

「キャベ! 貴様が第六宇宙での最初の伝説になれ!」

 

 セコンドっつーか、途中なんかポケモントレーナーが混じってた。

 

 いやお前ホントどっちの味方だよ。気持ちは分からなくも無いけど……キャベくんの対戦相手が悟空って事もあって、自分が戦ってるわけでもないのに無意識で熱入ってたなベジータの奴。最初は腕組みしてドーンと貫録たっぷりに構えていたくせに、途中から拳を握って体勢が前のめりになっていってたからな……。夢中じゃねーか。

 

 私もキャベくんがスーパーサイヤ人になるまで途中途中で合いの手を入れるがごとく、キャベくんを怒らせようと言葉を挟んでみた。が、最終的に「ちょっと黙っててもらえませんか空梨さん!!」と、名指しで言われてしまったので黙った。

 

 なんだよー。ベジータのが煩いのに、何で私だけ怒られるんだよー。

 

 

 

 でもって、試合が続く中……悟空のとどめの一撃が決まりそうになった瞬間だった。……まるで超新星のごとく爆発的に、鮮烈に、キャベくんはスーパーサイヤ人に変身したのだ。

 

 結局試合でキャベくんは負けてしまったけど、変身後の怒涛の攻撃ラッシュは凄かった。やっぱ基礎能力は高いし、戦闘センスも高いわあの子。変身してすぐにあれだけ力を使いこなせるんだから。

 そして試合後。ベジータに「スーパーサイヤ人に変身するきっかけは怒りだ。今の感覚をよく覚えておけ」と言われて、ようやく私たちの意図が理解出来た様子。悟空がすぐに勝負を決めなかったのも、自分が変身する可能性を考えて様子見してくれていたのだと気づいたキャベくんはいたく悟空とベジータに感謝していた。悟空は笑いながら「気にすんなって! オラもスーパーサイヤ人になったおめぇと戦ってみたかったからさ。いやぁ、でもおどれぇたぞ! やっぱおめぇ強いな。それに修業を続ければ、この先もっと強くなれるはずだ。またおめぇと戦えるの楽しみにしてっから、頑張れよ!」と言って、キャベくんの背中をバシバシと叩いていた。

 

 う~ん。若者を導けるようになるとは、奴らも大人になったもんだな。

 

 

 

 

 けどな。

 

 

 

 なんで二人は感謝されてんのに、私だけ「あの、つかぬことをお聞きしますが……、どこまで僕を怒らせるための演技でした?」って神妙な顔で聞かれるんだよ。一応全部演技だよ! 悪意とか無いから!

 どうも途中で「筋肉ついてるはずなのに見た目もやし」って言ったのが気に障ったらしい。えー……。気にしてたの? ああは言ったけど、しゅっとしてていいと思うけどなその体型。

 

 しかもなんだよ。

 

「やっぱオラの悪口じゃ効果無かったみてぇだし、こういうのは姉ちゃんに任せた方がいいな! やっぱ!」

 

 とか。

 

「フンッ、貴様のムカツク口ぶりもたまには役に立つな」

 

 とか。

 

「ええ、凄いですね。演技であれだけ苛々させられるなんて……。普段そんなに挑発に乗ることはないんですが、久々に心の底からムカつきました! ハーベストさん、僕のためにありがとうございます!」

 

 とか。

 

 

 

 

 お前ら喧嘩売ってんのか!!

 

 順調に試合は第七宇宙の勝利へと向かって進んでいるのに、なんかスッキリしない。

 ……まあいいや。とりあえず、これで第六宇宙の選手は残す事一人。

 

 

 しかし、その一人が曲者である。

 

 

『さ~て、第六宇宙は残す事あと一人! 果たして彼は追い詰められた現状を覆すことが出来るのか!? 第六宇宙ヒット選手VS第七宇宙孫悟空選手、試合開始です!!』

 

 

 武舞台に、紫の衣装が翻った。

 

 

 

 

 

 




キャベくん思ったより難産


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復活のF:その十一 からの第六宇宙対抗試合9 ヒットVS孫悟空

 武舞台を、二人の男が踏みしめる。片やコートのポケットに手を突っ込みつつも隙のない佇まいで。片や好戦的な笑みを浮かべつつ力強く。

 

 

 第六宇宙ヒットVS第七宇宙孫悟空の試合が、もうすぐ始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 いよいよ第六宇宙最後の戦士が出てきたわけだが、だからといってこいつを倒せば勝ちだぜひゃっはー! と浮かれてばかりはいられない。何故なら赤い瞳に紫の肌を持つあの男こそ、第六宇宙サイド最大の強者かつ、この試合きっての曲者だからだ。

 

 たしかあいつだよな、時間操る奴。ここで私が悟空にサクッとアドバイスするのは流石に不自然すぎるからやらないけど、どうかなー悟空。あいつ戦い関係のセンスはずば抜けてるし戦闘における頭の回転も速いけど、真正面から戦うのが好きだから搦め手はどっちかと言えば苦手な方だからなぁ……。いや、ちょいちょい私が超能力やら使うから逆に慣れてるか? う~ん、でもどうだろう……。時間操るとか苦手だ得意だ以前の問題な気がする。

 そういや時間を操ると言えばグルドを思い出すけど、グルドと違って明らかに能力以外も強いよなあの紫。

 う、うわぁ……引くわ。強すぎて引くわ。

 

 そんな風に私がヒットの能力に関して考えている時だった。

 

「ホッホッホ。やっと少しはマシな選手が出てきたみたいですねぇ。この試合は楽しめそうです」

「ああ、まったくだ。ここまでの座興もそこそこ楽しめたが、それにしたって暇だったぞ」

「あなた何故私の横に居るんですか。離れなさい」

「いいじゃあないか。この後戦う相手だぞ? ちょっとは親交を深めてもよかろう」

「おい待てちょっとそこのセミ野郎」

 

 なんかいつの間にか暇を持て余したセルがフリーザ様にちょっかいだしてた。(´ω`♪) オイヤメロ。基本お前含めたこっちサイドのもろもろの責任は全部私に来るんだからヤメロこの虫野郎。

 そして予想にたがわず、眉間に皺を寄せたフリーザ様の鋭い眼光は私に突き刺さってきた。

 

「ハーベストさん、管理がなっていませんねぇ! この不愉快な虫野郎を観客席に返品してきなさい!!」

「はい!」

 

 ほらぁぁぁぁぁぁ!! やっぱりな! つーか虫野郎って表現かぶっちゃったよ! いや見たまんまだからかぶるもなにも無いけど!

 つーか中間管理職のスターたるベジータが居るのに何で私に全部言うんだよフリーザ様! 正座の状態で浮遊してセルひっつかんで観客席まで行ったから、なんか見た目ほぼダルシムだよ私!! あぐらじゃなくて正座だけども!! 一応こっちの世界にもストリートファイターあるんだからな! トランクスと悟天ちゃんに「わぁ! おばさんおばさん! ヨガファイアやってよ!」とか言われちゃっただろ!! ノリがいいのは良い事だけど、おばさんで遊ぶんじゃありません。餃子師範も「あ、そういえばパイロキネシスってボク達試したことなかったよね。これを機にやってみる?」とか言わないでくださ……やべぇ冗談半分ヤケ半分でやったら口から火が吹けた。マジか。え、何これ気弾の応用的な?

 

「おばさんスゲー! 本当に火ぃ吹いた!」

「すごいすごい! やっぱり空梨おばさんって面白いや!」

「お前、また妙な宴会芸を身に着けたな……」

「わぁ、見て見て空梨! ボクも出来たよ! ボク達ってこれまでずっと超能力の訓練してきたし、案外出来ることが多いのかもね! 帰ったら弟子たちと色々検証しなくっちゃ!」

 

 トランクスと悟天ちゃんには大うけ、天津飯には何故か呆れたように見られ、そして超能力者の大御所餃子師範の探求心は流石です……何やってんだろ私。

 

 とりあえずもうすぐ試合が始まりそうなので、私はそのまますごすごと選手席に去っていった。視界の隅で枝にマシュマロを刺したブウ子とエシャロットが残念そうにしてるのなんて見えてないんだからな。

 焼かねぇから!!

 

 

 

『それでは、続きましては第六宇宙ヒット選手VS第七宇宙孫悟空選手の試合となります! 第六宇宙追い詰められておりますが、しかし次の選手は生きる伝説とも言われた殺し屋ヒット! 第七宇宙も、そう簡単に勝利をおさめる事は出来ないでしょう。果たしてこの試合の行方はどうなるのでしょうか! ますます注目の一戦です! …………それでは、試合開始!』

 

 レフェリーの合図と共に、悟空の闘気が高まった。しかし対するヒットは、まるで波の立たない湖面のように静かな構え。その様は両者対照的ではあるが、双方ともに隙が無い点では共通している。

 その達人の風格漂う二人による緊張感に、会場の空気までもが張り詰めた。

 

 しかしそんな空気の中、隙を作らないながらもほがらかな口調で言葉を発したのは悟空だ。

 

「オメェ、強ぇな。戦う前からそれがビリビリ伝わってくる」

「そうか。……ところで、変身しなくていいのか?」

「ああ、スーパーサイヤ人か? あれは体力の消耗が激しいから、もっと後でな。なんだかんだで、オラ結構な連戦だしよ。……それにな~んかオメェからは、ただ強いってだけじゃない雰囲気を感じるんだ。まずは様子見で、出来るだけ時間を稼ぎてぇ」

「ほう……。その慎重さは、褒めておこう。だが自分で手の内をあかすとは、若いな」

「そっか? 手の内ってほどでもねぇさ。その気になりゃ一瞬で変身できる」

「その一瞬が命取りになるかもしれんぞ」

「へへっ、おめぇほどの相手だったら、そうかもな。でもオラにだって、今言った以外にも色々考えがあんのさ。あ、それとよぉ。若いっちゅうけど、オラこれでもけっこう歳いってんだぜ? 姉ちゃんなら若いって言われて喜ぶかもしんねぇけどな! ははっ!」

 

 あ゛?

 

「……今一瞬、物凄い殺気と闘気が場外から叩き付けられたようだが?」

「おっと、いっけね。最近歳の事言うと姉ちゃんもチチもブルマも怒るんだよなー。18号は気にしてないっぽいのに」

「やはり若いな。女とは、そういうものだ」

「そうなんか?」

「ああ」

 

 頷くヒットに加えて、何故か第六宇宙サイドではボタモくんやマゲッタが頷いている。……ボタモくんは何となく哺乳類っぽいから種族に女の子が居るのは分かるんだけど、マゲッタのメタルマン族にも女の子居るのか。そしてあれか、へそ曲げられた事あるのか。

 

「う~ん、宇宙が別でもそういうところは変わらねぇんだな。そういやヒット、おめぇは嫁さんいんのか?」

 

 おい、思い付きのままにそのまま世間話に移行すんなよ! 自由か!

 

「…………。いや、居ない」

「そっか。年上っぽいし妙に女の事分かってそうだから居ると思ったんだけど。でもなんかオメェ、もてそうだな! オメェみたいなのをクールでかっこいいとか言うんだろ? 前に姪っ子がヒットみたいな雰囲気の奴をテレビで見てキャーキャー言ってたんだ。あ、そういやオメェさ。オラの事若いって言うけど何歳なんだ?」

「おしゃべりな奴だ。……俺は一千歳を超えている」

「!? どっひゃ~! 一千歳!? オラよりずっと年上じゃねぇか! え~っと、じゃあちょっと改めて、言い直すな。……ゴホン。よろしくお願いします!」

「…………」

 

 自分のペースで話を進めた上に突然改まって礼儀正しく頭を下げて挨拶した悟空に、表情は変わらないけど、どこかヒットの纏う空気が呆れを含んだものになっている気がした。

 

 

 

 ちなみにその悟空の一連の発言によって、こっちの選手席の空気はある意味最悪である。主に私やモナカにとって。

 

 

 

 ……いや、モナカはいつの間にか目を開けたまま気絶してたっぽいからノーカンか。

 

「チッ、さっさと始めやがれ」

「チッ、イライラしますねぇ。孫悟空さんのあの態度。余裕のつもりですか?」

「チッ、喋ってないで早く倒したらどうなんだ。この試合勝てばこっちの勝ちなんだぞ」

 

 ちょっと空気が変わったヒットに対して味方サイドたる第七宇宙選手席の空気がどんどん張り詰めていくのはどういう事だってばよ。ベジータ、フリーザ様、ビルス様の舌打ち三重奏聞いちゃっただろうが。

 ウイス様はホホホと優雅に笑ってないでこれどうにかしてくれませんかね。試合の前にこっちの胃がやられそうなんですが。

 

 かと思えば、なんかいつの間にかまた選手席近くに来ていたセルとブウ子はしったかぶったような顔で頷いている。

 

「ククッ、相変わらずだな孫悟空は」

「不真面目とか相手を舐めてるってわけじゃないんだけど、な~んか変に気が抜けるのよね、悟空ちゃんって。前はそれにすっごく腹が立ってめちゃめちゃイライラしたもんだけど、見てる分には楽しいわ~ぁ」

「私やお前と戦った時でさえ、奴は根底では戦いを楽しんでいたからな。破壊神同士のいざこざがあるとはいえ、特にしがらみもなく未知の強敵と戦える事が嬉しくて仕方が無いんだろう。前より子供っぽく見えるくらいだ」

「あらやだ、そう聞くとなんだか可愛いわ! 悟空ちゃんったらはしゃいじゃってるのね!」

「ふははははは! 可愛いときたか! これは傑作だ! よかったな孫悟空、褒められて!」

「いやんっ! ブウ子褒め言葉を褒められちゃった☆ ホホホホホ!」

「フハハハハハハ!」

「ホホホホホホホ!」

 

 

 

「……あのよぉ。流石にちょっと気が散るから、静かにしてくんねぇかな?」

「「じゃあさっさと試合を始め(ろ)(たら?)」」

 

 

 

 変なところで結託して「ヘーイヘーイ」とばかりに外野で姦しく囃し立てるセルとブウ子には、流石の悟空もなんか嫌そうにしている。……まあ、あれだ。ビルス様も苛々してる事だし、早く試合始めとけよ。

 

「そろそろ、いいか?」

 

 ほら見ろ、こっちがグダグダしてるばっかりにヒットさんがなんか気を遣ってきただろ! 無表情だけど、確実に気を遣わせたことは分かったよ!!

 

「ああ、待たせてすまねぇな。じゃ、はじめっか!」

 

 

 

 こうして、ようやく試合は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ……」

 

 グダった空気の後に始まった試合であったが、その内容にはグダグダさなど微塵も混じりはしなかった。お互いに一瞬で集中するや否や、まず悟空から仕掛ける。しかしその拳がヒットを捉える事は無く、気づけば攻撃を受けてよろめいたのは悟空の方。

 

 ……そう、"気づけば"悟空はダメージを受けていたのだ。

 

 視認できる空間の中で時間を操る能力が発動すると、こうも違和感を生むものか。攻撃の過程がまったく見えないという違和感は、多分初見では時を操ったとは気づかれまい。超スピードかテレポートか何かかと、まずは疑うはずだ。

 さっきまでピリピリしていたベジータとフリーザ様も、今はその違和感の正体に気づこうと苛立った雰囲気を鎮めて試合を静観している。

 しかし自分の攻撃が当たらない上に一方的に攻撃を受けているというのに、悟空はといえば何故かニヤリと笑って何処かに余裕を感じさせる表情。……試合前にあいつは何でかヒットの強さ以外の要素に気づいていたふしがあったっぽいし、何か考えがあるのかもしれない。

 

 かと思えば、試合を見る者の中で最初にヒットの能力について気づいたのはギニュー隊長だった。ジャコが連れてきた緑色のタコみたいな銀河王って宇宙人が「あれはもしや時とば」と言いかけた時に、そのセリフにかぶるようにこう言ったのだ。「この違和感、グルドが超能力を使った時の雰囲気に似ているな。もしや時間を操る能力か?」と。

 ああ、やっぱり仲間内に似た能力者が居たとなれば気づくもんなのか。でも残念ながら観客席と選手席と違って武舞台はちょっと離れている上に、戦いの最中だから悟空には聞こえてないっぽい。

 

 ……で、そのギニュー隊長の台詞の後に銀河王が「私が今言おうと思ってたのに……」と、ちょっといじけながらヒットの「時とばし」について詳しく教えてくれた。

 

 時とばし。それは0.1秒だけ、その名前の通り時間をとばせる能力だとか。

 

 私も時間を操れるって事以外は知らなかったから、その内容は初めて知った。あれか。The Worldとかスタープラチナとかキングクリムゾン的な能力って事か。なにそれつおい。0.1秒って、おま。そりゃ殺すだけなら十分な時間だよ。

 …………。でもそれを考えると、グルドって肺活量と持久力を鍛えてもっと修業すれば宇宙最強になれた可能性もあったんだよな。この世界って単純な強さだけじゃ測れない能力とかがあるから怖いわ。

 

 

 

 そして試合は続くが、今のところ悟空は防戦一方だ。

 が、徐々にその視線に含まれた色が変わってきていることに気づく者が、私含めてちらほら。

 

「カカロットの奴、何かタイミングを見計らってやがるな」

「な。でもヒットも、それに気づいてるっぽいけど」

 

 ベジータの言葉に頷いていると、そこでやっと悟空にアクションがあった。……いや、でもアクションっつーかあれは……。

 

「目を瞑った!?」

 

 第六宇宙の選手席で、キャベくんが驚愕の声をあげて席から思わずといった感じで立ち上がる。

 そう。彼が言う通り、悟空は目を瞑っていたのだ。

 

 だが、驚くのはここからだった。なんと悟空は、目をつむったままでヒットの攻撃を防いで見せたのだ!

 

「へへっ、や~っと捕まえたぜ!」

「何?」

 

 次いでヒットが再度の攻撃を仕掛けるが、これも防がれる。二度もあれば偶然じゃないと感じたのか、ヒットはそこでいったん距離をおいた。悟空はそれを追撃しようとしたけど、少々攻撃を受け過ぎたのか、体をよろめかせる。するとヒットが、そんな悟空に静かな声色でもって問いかけた。

 

「……今、捕まえたと言ったな。何をだ?」

「何をって? そりゃもちろん、オメェの攻撃をさ!」

 

 得意げに笑った悟空は、言うなりやっとスーパーサイヤ人に変身した。といってもゴッドやブルーではなく、ましてや2や3でもない。……通常のスーパーサイヤ人だ。

 

「オメェの気と攻撃なんだけどさ、試合前に感じた気配といい、なんとなく雰囲気に覚えがあったんだ。それが何かと思ったら、まず思い出したのは餃子とオラの姉ちゃんだった!」

「は?」

 

 思わず声が出た。

 師範と私? まさかここで名前が出されるとは。

 

「ヒットオメェ、ようは超能力者みてぇなもんだろ? 姉ちゃんたちも超能力で色々やってくるんだけどさ、最近ちょっと気づいたんだ。超能力って、使う前に空間の気がほんのちょっと歪む」

「空間の気、だと?」

「ああ! だからオメェ自身に隙が無くても、オメェが影響を出した空間の気から攻撃がくる場所を予想した。なんか、あれだろ? オメェの能力って時間関係だろ。その気の歪みも覚えがあるな~と思ってよく考えてみたら、それをもっと濃くすると、オラ達の星にある"精神と時の部屋"って場所の空気になるんだ。……多分」

 

 おいおい、なんか何も知らないはずの悟空が色々ドンピシャ当ててくるんだけど。つーか空間の気ってなんぞ。超能力者の空間への影響力をもっと濃くすると精神と時の部屋の空気? そんなん初めて知ったわ! 餃子師範も驚いていて、思わず顔を見合わせてしまった。

 悟空は感覚的な部分で話してるから所々分かりにくいけど、実は物凄い新発見の可能性が……いや、今はいいか。面倒くさいし……。

 

「オメェの能力が時間だっていうんなら、攻撃が見えなくなる間の時間さえどんくらいかわかれば、空間の歪みに加えて直前の動作からある程度攻撃の予想は出来るってわけだ。受けてみた感じ、オメェがどうこう出来る時間は0.1秒ってとこか。あと、その長い服やポケットに手ぇ入れたりしてんのは、動作を出来るだけ悟られないため。……どうだ?」

「ククッ」

 

 そこで、ヒットが初めて笑った。

 

「事前知識なしに、俺の時とばしを見抜いた奴は久しぶりだ。いや、もしかしたら初めてかもな?」

「ほへー! 時とばしっちゅうんか。なんかカッコイイな! ……でよ、スーパーサイヤ人に変身しちまうと自分の気でそれも分かりにくくなるから、変身無しで攻撃受けてたんだ。空間の気の歪みって、言うのは簡単だけどさ。すっごい分かり辛いんだぜ? ま、慣れてきたからこれからちょっとずつ変身させてもらうけどな!」

 

 そこまで饒舌に喋ると、悟空はちらっとこちら……選手席を見てきた。

 

「へっへ~ん! どうだ、オラだってちゃんと考えてるんだからなー!」

 

 …………。妙に解説するなーと思ったら、得意げに言われてしまったな。ブウ子じゃないけど、久しぶりに弟が可愛く見えた。

 

 

 

 

 

 

「さあ、ヒット! ここからが本当の勝負だ!」

 

 

 

 

 一つの試合内の、第二幕が始まろうとしていていた。

 

 

 

 

 

 



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復活のF:その十二 からの第六宇宙対抗試合10 お前がナンバーワンだ!ヒットVSベジータ

 ヒットの時とばしを見破った悟空が、ついにスーパーサイヤ人に変身して戦い始めたのだが……その決着がつくのは案外早かった。

 

 

 

 悟空負けたー。

 

 

 

 いや、ヒットの時とばしを見破る所までは良かったんだよ。でもありていに言えば、見破るまでに長く攻撃を受け過ぎたんだよな。

 

 ヒットはこの対抗試合のルールに則って、専門分野たる殺しの技は一切使っていない。しかしかといって、無暗に手加減しているわけでもなかったのだ。

 初撃を与えた後、悟空のしぶとさを見て取ってかヒットは「確実にダメージを体内に蓄積させる」ように攻撃を仕掛けていたっぽい。殺し屋なら人体についての知識も深いだろうし、どこをどう攻撃すればどういった結果が出るかってのも知り尽くしていてもおかしくない。

 だとすれば、これも経験を活かしたひとつの技術と言えるだろう。

 ひとつひとつの攻撃は大したことなくても、累積されたダメージが勝敗を決したって事だ。

 

 

 最初こそヒットの時とばしに適応、対応し次々と反撃を決めていった悟空だったが、戦いの最中でふいに悟空の膝から力が抜け、ガクンッと体勢を崩した。「あり?」な~んて言って悟空本人は不思議そうにしていたけど、これは悟空が鈍感だったんじゃなくて、あれだけ戦い慣れた悟空に気づかせずにダメージを溜めさせたヒットが凄いんだと思う。伊達に数百年だか千年だか殺し屋稼業やってないってか。

 あれなら殺しの技の中に、蓄積させたダメージによって時間差で殺す技とかありそう。毒も使わないで遅効性の殺しが出来るとか怖すぎるけどな。まあ、それは想像なので今はいい。

 

 それとまあ、あとは単純に悟空のスタミナが保たなかったのも敗因か。ヒットは時とばしという"特殊技"によって体力を使わず瞬時の攻撃ができるけど、対する悟空はその動きを予想出来てもどうしたって高速移動によって応じないといけないから根本的に運動量が違いすぎる。ありゃ疲れるわ。

 ……あれだけ鍛えてる悟空の体力がすぐに削れる攻防ってのが恐ろしいけど。

 

「へへっ、参った。オラの負けだ」

 

 悟空はぎりぎりまで頑張ったけど、最終的には自ら負けを認めた。それに対してビルス様が文句を言わないか心配だったけど、それは杞憂だったみたい。体力を削られダメージを受けながらも食らいついた悟空とヒットの攻防は泥臭いながらも素晴らしいもので、それに対してビルス様も何か思うところがあったんだろう。舌打ちを一つした他は何も言わなかった。

 ウイス様もなんとな~く、いつも浮かべている微笑とは違った……嬉しそうなほほ笑みを浮かべていたのは、気のせいではないと思う。あれかな。弟子の成長が嬉しい的な感情、あの方にもあるんだろうか。

 

 

「……久しぶりに、戦いに楽しさを見いだせた。礼を言おう」

 

 試合相手であるヒットも、本人の言葉通りどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「はははっ、礼を言うのはこっちのほうだ。負けちまったのは悔しいけど、オラもオメェみたいな強い奴と戦えて凄く楽しかった! なあ、また今度やろうぜ! オラもっともっと強くなっからよ!」

「くっ、ハハハハハ! 懲りない男だな。それにつられて戦いを楽しんでしまった俺が言える事でもないが。……ああ。機会があれば、考えておこう」

「よっしゃ! 絶対だぞ!」

「あの無口なヒットが、あんな大声で笑ってる……」

「なんというか、あれが孫悟空という男じゃよ。不思議な奴でなぁ。なんせ、ビルス様と戦える事も喜んだくらいじゃわい」

「破壊神と!? な、なんて奴だ……」

 

 悟空とヒットのやり取りを見て呆然とつぶやいた第六宇宙側のぽっちゃり系界王神に、老界王神様が愉快そうに言っていた。

 

 ともあれ、こうして悟空が負けたとなれば……。

 

「さっさと舞台から下りろ、カカロット。俺の番だ」

「ああ。頼むぜベジータ。頑張れよ!」

「フンッ、言われるまでも無い」

 

 ようやく出番が来たからか、機嫌がよさそうなベジータが珍しく悟空が掲げた手にハイタッチをしていった。といっても、ハイタッチと言うにはすっげぇ音したけど。悟空が真っ赤になった手に「痛ちィ~ッ!!」と言いながらふーふー息を吹きかけていた。

 

 にしても、ベジータどうすんのかな……。悟空は体力的な問題でゴッドもブルーも出さないまま終わったからフリーザ様にはそのどちらともばれてないけど……。

 

「おい、貴様。カカロットが能力を先に見破ったのは癪だが、タネが割れているからと言って俺は油断も慢心も手加減もしないぞ。動きも大体見せてもらったが、まさか卑怯とは言うまいな?」

「まさか」

「ならばその時とばしとやらを存分に使って、全力でかかってこい! 全力だ! ……俺にはわかる。貴様、まだ本当の全力を見せていないだろう」

 

 ベジータの言葉に一瞬ヒットが言葉に詰まるが、ひと呼吸おいてから答える。

 

「ああ。今まで時とばしを使えば、たいていどうにかなってきたからな。ここ数百年、フルパワーなど出したことが無かった」

「ええ~! そりゃオラもそうじゃないかな~とは思ってたけど、ヒットオメェ本気じゃなかったんか!」

「それを言うならお前もだろう、孫悟空」

「え、あ~……まあ、そうなんだけどよ。でもオラの場合、オメェの能力に慣れるためと体力の問題でなれなかっただけさ。あとちょっと時間か体力があれば、今のオラの本気の本気を見せられたんだけどな」

「俺も似たようなものだ。本気中の本気を出せば、久しぶり過ぎて体力が持たん。時とばしを使うのも危うくなるだろう」

「おいコラヒット! お前までな~に余計な事喋ってるんだ! それ、わざわざ説明してやる必要ないだろ!?」

 

 ヒットの本気を引き出せなかった悟空が残念そうに会話に割って入れば、ヒットが先ほどの悟空に「手の内を明かすとは~」とか言ってた割に自分まで手の内を明かしてくる。それに対して文句を言うのはシャンパ様だが、ヒットは特に気にした風もなくこう言った。

 

「ククッ。少々、毒されたようだ」

 

 チラッと悟空を見て笑うヒット。対するベジータもまた、ニヤリと笑う。

 

「なら、最初から互いに全力中の全力中でいこうじゃないか。貴様の本気が長く保たないというのなら、俺も最初から全力を出して迎え撃ってやる。さあ、来い!! サイヤ人の王たるこの俺、スーパーキングベジータ様が相手だ!!」

 

 そう言って、ベジータがスーパーサイヤ人ブルーになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 

 ブルーになっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああぁぁぁぁ!! 予想はしてたけどお前ぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 思わず地面に頭突きしたわ! ウイス様が「無暗に選手席を破壊しては駄目ですよ。あと、少々お静かに」とか言ってきたけど、無理! なんかこのうわあああって気持ちを何処かにぶつけないと、なんか無理!!

 

 そりゃあ、あの強いヒットがもっと本気を出したらヤバい事は分かるよ! 様子見はもう悟空との戦いで十分って事で、最初から全力を出してぶつかり合うのも分かるよ! それくらいお前がヒットを評価したのも理解するよ!! でも思わずにはいられない! そんなあっさりフリーザ様にネタバレしないでって、思わずにはいられない!!!! フリーザ様はゴールドの片鱗も見せないままノルマ達成して高みの見物してんだぞチックショウ!!

 

「ほう。これが、今のあなた達の最終形態というわけですか。先ほど孫悟空さんが見せた長髪の姿とは、またずいぶんと違った(おもむき)ですね」

「ああ! スーパーサイヤ人ブルーって言うんだぜ。最初はスーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人って言ってたんだけどよ。長くて舌噛んじまいそうだから、色の名前になったんだ」

「スーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人? …………なるほど。聞く限り、どうやらこの一つ前の形態もありそうですね。予想するに、スーパーサイヤ人ゴッドってところですか? そうですね。色は青の反対で、赤とか」

「え!? あ、あ~……。それは……」

 

 意気揚々と説明していた悟空が、もうだいぶ取り返し付かないところで私をチラッと見てきた。

 いや遅ぇよ!! 出来るだけフリーザ様には隠しておこうって私が言ったのを覚えてたのは素直に褒めるけど、色々遅いよ!! フリーザ様さらっとゴッドの方まで見抜いたじゃねーか!!

 

「ホーッホッホ、サイヤ人の神ですか。大仰なネーミングですが、どうやらあのブルーというのを見る限りはったりではなさそうですね。私も探知可能になった、あなた達の言う"気"があの姿からは感じられない。……ビルスと一緒です。どうやら本当に神の領域に足を踏み入れたようですね。では、お手並み拝見といきましょうか」

「めぇったな……すっかりバレちまった。まあ、どっちにしろヒットに勝つにはブルーじゃなきゃ無理だろうしな。いずれバレてた事だって。な? 姉ちゃん」

「フッ!!」

「あっちぃ!? な、何すんだよ姉ちゃん!」

 

 ほがらかに開き直った悟空に、さっき覚えたばかりのヨガファイヤ……じゃなくてパイロキネシスによって攻撃をしかける。髪の毛の端っこが燃えた悟空が文句を言ってくるが、私は謝らないからな。お前が言ってることはもっともだし理解できるけど、こればっかりは心境の問題なんだよ!! 八つ当たりとでも何とでも言え!

 

「空梨。気持ちは分かるがカカロットに八つ当たりしてやるな」

 

 とか思ってたら即観客席の夫からつっこまれた件。なんとでも言えと思ったばかりだけど地味にダメージ受ける。……で、でも謝らないからな……!

 

 

 

 …………ち、ちょっとは悪いって思ったけど……。

 

 

 

 とかなんとか。外野の私たちがごちゃごちゃしてたわけだけど、いざ武舞台の上で向き合ったヒットとベジータはお互い以外の全てをシャットアウトしたかのように相手に向かって集中した。今は静かだけど、いざ試合が始まればきっと勝負は短い時間で決まるだろう。

 そして、試合開始の銅鑼が鳴った時。

 

 

 凄まじい力のぶつかり合いによって、その衝撃に空間が歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああ!!」

「はあああああ!!」

 

 最初の一発で互いの拳がぶつかり、そこから生じた衝撃波が周囲を襲う。私たち選手席の人間はそれぞれ自分でそれを防いだけど、同時に少々焦りを覚えて観客席を見た。この衝撃、女性陣や子供たちなんかがまともに受けたら吹っ飛ばされる!! 他の面々がフォローしてくれるだろうとは思ったけど、流石に今のはちょっと心配だった。

 

 けど意外にも…………物凄く意外にも、なんとザマスが手をかざしてバリアっぽいものを作ってそれを防いでくれていた。それも界王神様達の観客席とみんながいる観客席の、二つ両方をいっぺんに。

 

「あ、ありがとうございました。ザマス殿」

「いえ。……あれを見たら、備えておいた方がいいような気がしたので。それにしても、このように神に肉薄する力を持った人間が居るのか? いや、あれはまさに神の気。やはり人間は危険な存在では……」

「ふふっ。これが彼らの研鑽の結果ですよ。凄いでしょう? 人の成長というものは。それに危険に思うなら、ザマス殿ももっと強くなればいい。また同じような大会が開かれたら、その時に参戦されたらよろしいでしょう。私は戦いが苦手なので、神としての威厳を取り戻す役目はあなたにお譲りします。期待していますね」

「……ふっ、違いない。シン殿には敵わないな。では、今は試合の観戦を楽しむとしましょう。私は戦いの腕を見込まれて界王神見習いとなった身ですので、彼らの試合には純粋に興味があるのです」

「ええ、そうしましょう!」

(あっぶね)

 

 界王神様がフォローしてくれたからいいものの、ザマスが人間を危険視してうっかりフラグ立つところだった。え、何? 不意打ち気味にフリーザ様以外にも私の胃に負担かけてくんのやめてくんない?

 

 けどそんな風によそ見してたら、武舞台からベジータの「ぐあっ」って声が聞こえて慌ててそちらを見た。ああ、見てる方も忙しいなぁ、もう!

 そして見てみれば、ヒットの攻撃を受けたっぽいベジータが武舞台にクレーターを作りながら身を沈めていた。しかしそこに追撃が来る事は無く、見ればヒットは大量の汗をかいて息を荒くしている。そこからは、確かな疲労が感じられた。

 

「はぁ……はぁ……。やはり、フルパワーで、時とばしは、少々クるな……」

「く、クク……。そんなザマでは、自分で言っていたように、何回も出来ないようだな」

 

 ベジータが身を起こして言うが、今くらった一発で結構ダメージを受けたようだ。何回も時とばしを使えないにしても、これを見る分にはどちらが勝ってもおかしくない状況に見える。

 

 

 ………………ん?

 

 どちらが勝っても、おかしくない状況?

 

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

「キングベジータ頑張れぇぇぇぇぇーーーーーー!!!! 頑張れ、超頑張れ!」

「あれ、姉ちゃんがベジータの応援するなんて珍しいな」

「やっかましいわお前も応援しろ!」

「お、おう。ベジーター! 頑張れー! …………なあ。姉ちゃん。そんなにヒットと戦いたくねぇんか? ……楽しいぞ?」

「お前らと一緒にすんなし」

 

 

 頼むぞベジータ! もうここまで来たら実力隠せとかケチな事言わないから頑張れ!! 頼むから私まで順番を回してくれるなよ!!

 

 

 

 

 

「お前がナンバーワンだ!!」

 

 

 

 

 

 

 その数分後。

 

 私は何故か、武舞台の上に立っていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初の予定ではベジータに勝ってもらう予定でした(本当の話


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復活のF:その十三 からの第六宇宙対抗試合11 変身!ヒットVS孫空梨

 ベジータとヒットの戦いは、本当に短い攻防で終わった。

 

 しかしその密度は凄まじいほどに濃く、例えて言うならフォンダンショコラをザッハトルテ仕立てにしてチョコフォンデュにするくらいの濃さだった。中はとろとろチョコぎっしり、それを包む濃厚チョコスポンジを更にダブルチョココーティングしちゃいました、みたいな。

 なんならそこにチョコチップとチョコホイップもトッピングしてやろう。

 

 

 

 

 戦いはまず最初に二人が拳をぶつけ、その後は宣言通り互いにフルパワーでの攻防が続いた。戦いの中でヒットは時とばしも使ったが、それはベジータをクレーターに沈めた時の、たったの一回だけ。どうやら本当にフルパワー状態で時飛ばしは難しいらしい。

 しかもそれに加えて、ヒットが時飛ばしをあまり使わなかった理由は他にもある。

 

 それが何かといえばベジータが消耗無し、体力満タン状態でのスーパーサイヤ人ブルーだった事。

 

 そもそもこの世界、特殊能力による格上殺しがとてつもなくやり辛い。それが何故かと言えば、戦う相手の地力が使う者と同格、もしくは上回れば上回るほど、超能力のような特殊な技が効きづらくなるからだ。私はこれを地球で最初にベジータと戦った時に身をもって実感している。あれは私の超能力習熟度が低かったことも原因の一つだろうけど、だいたい念力だなんだってものは気で吹っ飛ばされて無効化されていたな。

 とにかく、簡単に言うとドラクエで魔王にルカニとかザラキとか効かない感じに近いのだ。たまに実力差無視して来る頭おかしい性能の能力持った輩も居るけどな。魔術師系とか。でも基本的には超能力に対する私の解釈はそんな感じ。

 私もよく悟空たちとの修行中に超能力で不意を突いたり超能力由来の技は使うけど、いくら超能力を扱う力が増しても長く時間をかければ破られるから、決定打には欠けるというのが感想だ。

 

 そしてその事実は、ベジータもよく分かっている。

 

 そのためあいつのフルパワーで立ち向かい相手との実力の差をなくす、又は上回る事で、ヒットの時とばしという"超能力"を使い辛くさせる、というのは結構有効な手段だ。

 多分悟空みたいに時とばしの際に空間の歪みを感知して、それに対応していくっていう方法も出来なくはないんだろう。けど悟空と違って、ベジータはここまで試合してなかったから体力の消耗が一切ない。だったらそんなまどろっこしい事をするよりも、パワーによるごり押しで短期決着を狙った方が合理的だし勝率も高いと私も思う。

 

 言うなれば悟空は相手の能力を知るためってのもあって柔軟に対応した"柔"の時とばし攻略法。対してベジータはヒットの能力の情報を手に入れた十全な現状を活かすための、"剛"の攻略法と言ったところか。

 

 まあでも勝つだけだったら、わざわざ挑発してヒットのフルパワーを引き出す必要は無かったんだけどな。そこはサイヤ人の悪癖というか特性というか……。毎度のごとくってやつか。どうせ全力を出した相手を更に上回って勝ってこそ完全勝利! とか思ってたんだろ。安定の脳筋サイヤ人脳乙。

 

 

 

 

 

 けどな。

 

 

 

 

 

「負けてんじゃねーよバーカバーカバーカ!!」

 

 それで勝ったら文句ないけど負けたから文句言っていいよな! ちょ、マジふざけんなよお前!! 悟空とベジータが居るから絶対に私まで出番回ってこないと思ってたのに、本当にふざけんなよ!! え、どうしよう!?

 

「う、煩い黙れ! 貴様は目の前の相手に集中しろ!」

「そうだぞ姉ちゃん。消耗しちゃいるが、だからって簡単に勝てるほどヒットは弱くねぇ。それにベジータ頑張ったじゃねぇか。そう邪険にしてやるなって」

 

 ぐぅ……! 義弟が実弟の味方しやがる。

 

 いや、私だって分かってるよ? ベジータは間違いなく全力を出して戦ったって。でもだからって、これからヒットと戦わないといけないどうしよう感が消え失せるわけじゃない。だってモナカは戦えない一般人だから、実質私が最後の選手なわけで。……勝たないと、非常によろしくない事態なわけで……。主にビルス様の機嫌的な面で……。

 

 というか、そもそもベジータが勝ってれば私がこんなプレッシャー背負う事もなかったのだ。

 それもこれも……!

 

「それにしても、あいつやっぱすげぇな。追い詰めたと思ったのに、ギリギリのところで成長しちまいやがった。こりゃあ次闘うまでに、オラも相当鍛えないといけねぇや」

「チッ。まさか土壇場で時とばし出来る時間をのばしてくるとはな……」

 

 これだよ! これのせいだよッ!!

 

 

 

 なんとヒットさん(御年千歳)、ここにきて戦いの中で成長するという主人公補整を習得。

 

 死ねる。

 

 

 

 ヒットVSベジータは、あとちょっとでベジータが勝てそうなところまで行ったんだ。その証拠にベジータの攻撃を数多く身に受けたヒットは、現在かなりの消耗をしている。だけど追い詰め過ぎたのが悪かったのか、それとも悟空に続いてベジータともいい戦いが出来てアサシンなのに格闘家としての熱いハートに目覚めちゃったのか……土壇場でヒットが化けた。

 

 なんとヒットは試合の中で急成長し、最終的に時とばしで飛ばせる時間を0.5秒まで引きのばしたのだ。

 

 そしてヒットはカウンター気味にベジータに超ヘビーな攻撃を仕掛けて大逆転。ベジータは場外に落ちるとかではなく、その見事に決まり過ぎた攻撃で意識を刈り取られ、戦闘続行不可能とみなされ負けた。

 これにはシャンパ様大興奮、大歓喜である。反対に私のテンションはダダ下がりである。

 

「空梨ー! ビルス様ご自慢のモナカが控えてるからって、手抜きするんじゃないわよー! 頑張んなさーい! 応援してるからねー!」

「空姉さま、頑張るだぞー! 子供たちも楽しみにしてるからなー!」

「空梨さん、頑張ってくださいねー! 悟飯くんにもあとで活躍聞かせてあげたいですからー!」

「後一勝なんだ。気張んな、空梨! 」

 

 ブルマ、チチさん、ビーデルさん、18号さんと、女性陣からの華やかな声援が耳に潤うが……それだけでは私のささくれ立った心は治りそうにない。しかも子供たちもわっくわくした目で見てるから余計に追い込まれるんだけど……!

 

 そして何より。

 

 

 

「勝てよ」

 

 

 

 短く口にしたビルス様の台詞が超重い。ジーザス。メシア求む。

 

  

 

「そろそろ始めたいんだが、いいか?」

「えっ。いや~、その~……。連戦で疲れてるだろうし、もうちょっと休んでからでもいいんですよ?」

 

 私が頭を抱えていると、黙ってこちらを見ていたヒットが口を開いた。

 消耗しているにもかかわらず、もう試合を始めようってのか。ちょっとは休めよ! ぐいっと口元の血をぬぐって「構わん」って言う姿が男前すぎやしませんかねぇ!? かっこいいけど休んでいいんですよ! お互いのためにも!!

 

 一応私も悟空の発言を聞いてから、ヒットが時とばしを使う時の空間の歪みを察知しようと試みてはいる。そしてそれが可能にはなってきたけど……そもそも悟空の時とは前提とする条件が違う。止められる時間5倍になってるとかマジふざけないでくださいとしか……!

 消耗を差し引いても成長を続けるヒットの地力が私のフルパワーと拮抗、もしくは上回ったらベジータみたいな事も出来ないし……。まだ対策考えてないんだから、もうちょっと待ってくれませんかね!

 

「何を馬鹿言ってるんだ! むしろ相手が消耗してる今こそチャンスだろうが!」

「お、いいこと言うじゃねーか第七宇宙の女サイヤ人! そうだよな、もうちょっと後でもいいよな! いいねいいねぇ、これぞスポーツマンシップにのっとったフェア精神ってやつだ!」

「お前は黙ってろシャンパ!」

「お前もなビルス!」

 

 そして相変わらず外野のにゃんこたちが煩い。集中できなくなるからもうちょっと静かにしてほしい。

 

(…………ん?)

 

 しかしそこでふと、ぎゃんぎゃん言い合っている神にゃんこ達を見た私はあるものに目を止める。それは二柱の言い合いに合わせてちょろちょろ又はぴょこぴょこ動く、紫色の長い尻尾と短い尻尾。そして私は次いで自分の背中をのぞき込む。

 そこにもまた、尻尾。

 ……サイヤ人特有の、しかし現在では私の家族以外には生えていない猿に似た尻尾が、私のお尻から垂れ下がって揺れていた。

 

「………………ッ」

 

 思いついてしまった可能性に、私は数秒間眉間に思いっきり皺を寄せて悩む。が、すぐに「ダメもと」と割り切って決行することにした。もう時間がない。そろそろ始めないと、またビルス様にどやされてしまう。

 

 しかし、それをする前に問題がある。

 だが観客席を見回したところで、すぐに解決法があることに気が付いた。

 

「ビーデルさん!」

「え!?」

 

 私はキッと表情を引き締めると、観客席に居るビーデルさんに向かって呼びかけた。そして半ばやけっぱちの心境で、こう叫んだのだ。

 

 

 

 

「二号のコスチュームを!!」

 

「!!」

 

 

 

 

 それを聞いたビーデルさんは雷に打たれたかのような衝撃の表情をした後、すぐに心得たとばかりに腕に装着していた時計のような装飾品をはずして私に投げてくれた。お、おう。言っておいてなんだけど察するの早いな。

 

 ビーデルさんの表情は満面の笑みであり、私もまたそれに笑顔とサムズアップでもって応えた。

 おお! もうヤケだよどうとでもなれ!! どうせもうフリーザ様には現時点で最強の奴二人の内一人の最終形態見られてんだ! 今さら私が何見せたって問題ねぇよ! だったら全力でビルス様の破壊から保身するためにどんな手段でも使って勝ってやるわ! 相手が疲れてるからって手加減とか一切しねぇわ!!

 

 けど、そんな私の決意に水を差すような声が割り込んでくる。シャンパ様だ。どうやらそれがどんなものか知らないながら、私に道具が渡された、という部分が気にくわないらしい。要するにいちゃもんである。

 

「あ、卑怯だぞ! 何か道具使うのは反則だ! これは格闘試合なんだからな!」

 

 だが、私が何か言う前にこれにはまさかのビーデルさんが答えてくれた。

 

「それはただのコスチュームチェンジ用の機械ですから反則じゃありません!」

「へ? いや、でも」

「とにかく、反則じゃないんです!!」

「知るかそんなの! こすちゅーむちぇんじぃ? そんなの嘘っぱちで、何か変な機能あるんじゃないのかー!」

「いいえ! これは純然たる変身のための機械です! 見ればわかります!」

「こ、この! 破壊神に向かって口答えを」

「娘のパンちゃんに誓って!」

「え」

「母親として、正義の味方としてのプライドを賭けて言います! 反則じゃ、ありません!! いいから見ててください! 変身って最高に格好いいんですからね!」

 

 パンちゃんを片手で抱え、反対の手で握り拳を作り熱く語ったビーデルさん。……その瞳と背後には、メラメラ燃える炎が見えた。そしてパンちゃんはそんなママの姿に何故か大喜びで、きゃっきゃと楽しそうに手の叩いている。

 

「………………。お、おう。そ、そうか……」

 

 でもってその様子に押されたのか、シャンパ様がちょっと引きながら頷いた。マジか。

 

「あ、あの女すげぇな……。破壊神を押し切ったぞ」

 

 ボタモくんに同意見だよビーデルさんすげぇ。謎の気迫でシャンパ様黙らせやがった。さすが今でも正義の主婦系ヒーローグレートサイヤマン二号続けてるだけあるわ。

 なんかパンちゃん生まれたからヒーロー活動は控えるかと思ったのに、逆に「パンちゃんが安心して生きていける、平和な世界を作るわ!」って張り切って正義の味方の活動続けてるもんなビーデルさん……。セルとの強制修業で日々強くなる夫に感化されたってのもあるんだろうけど。あと新生ギニュー特戦隊の面々の影響か。悟飯ちゃんと一緒に「負けてられない」って、ひっそり燃えてたもんな……。

 

「さあ、空梨さん! 変身よ!」

「あ、はい。慎んで変身させていただきます」

 

 その熱い姿勢に押されて思わず敬語になったわ。

 何だかビーデルさんの目がキラキラしている。めっちゃ期待してる。ああ……今まで誘われても断ってきたからなグレートサイヤマン……。

 

「えーっと、申し訳ない。もうちょっと待ってもらっていい?」

「…………。いいだろう」

「いや本当に申し訳ない」

 

 一応確認を取ってからと思ってヒットに伺いを立てれば待ってくれた。いい奴である。その分申し訳ない気持ちも凄いけどな。これは同じ宇宙に住んでたらお歳暮くらい送ろうかなって考えるレベル。

 

 

 

 そして私はビーデルさんから受け取った装置…………かつてブルマが悟飯ちゃんのオーダーによって作った、グレートサイヤマンへのコスチュームチェンジ装置を起動させた。

 

 変身こと衣装チェンジは、まさに一瞬。

 

 身を包むのは、ウエストのあたりを白いベルトできゅっと絞った、道着を意識しつつワンピースにも似た浅黄色をした正義の戦士のコスチューム。その下の体に沿ったボディースーツは幼い頃着ていたサイヤ人の戦闘服を思い出す。白い手袋とブーツはぴったりで、少しも動きを邪魔しそうにない。そしてばさりと翻る、濃いサーモンピンクのマント。

 

 

 

 私はグレートサイヤマン二号の衣装を身に纏い、ヒットに対峙した。

 

 

 

 だけど私の変身バンクはまだ終わってないぞ!!

 

「はあッ!!」

 

 歓声を上げる子供たちに応える暇もなく、私の変身は続く。

 

「お! なんか悟飯みてぇなことしたかと思ったら、姉ちゃんもいきなりスーパーサイヤ人ゴッドか!」

「ほう、あれが。やはり赤ですか」

 

 そう。衣装チェンジの次は、フォームチェンジだ!! フリーザ様がめっちゃ見てるけどもう気にしないからな!!

 

 私は悟空のようにスーパーサイヤ人から様子見する事も無く、現在私が最も強化される形態……スーパーサイヤ人ゴッドに変身する。私はブルーにはなれないからな。正真正銘、これが今の私の最強形態だ。

 赤い神の気が身を包むと、その影響か心が鎮まる感覚を覚える。気分が高ぶるスーパーサイヤ人とは反対のこの性質は、いつ体感しても不思議な気分だ。

 

「準備は整ったようだな」

 

 そう言って構えをとるヒットに、私は赤く変化した三つ編みをばさっと掻き上げるようにして手ではらうと(特に意味は無いが気分的にやりたかった)、ニヤリと口の端を持ち上げて答えた。

 

 否と。

 

「いや、まだだ」

 

 言うやいなや、私はラディッツに向けて念話を飛ばした。それを受けたラディッツは目を見開いてから盛大にため息をつくと「無茶はするなよ」と返してきてから、私の要望通りにうちの子供たちにあることを言い聞かせ始めた。その内容に対してエシャロットだけは残念そうにぶーたれていたが、ラディッツに滾々と諭されると渋々といった風に頷く。

 

 よし! 大丈夫みたいだな! さて、そしたらすっごい嫌だけど、すっごい嫌だけどやるか! すっごい嫌だけど!!!!

 

 私は私の家族……尻尾のあるサイヤ人が全員目を瞑ったのを確認すると、実に半世紀近くぶりの技をするべく集中し始めた。

 この技って実質習った時一回きりしか使ってないんだよな。使うのが嫌すぎて。でもまあ、なんとかなるだろ。

 

(よっしゃなんとかなった!)

 

 そして私の希望通り、その技の原型とも言うべき気の塊である光球が完成する。同時に体力が結構もっていかれたが、まあこの程度なら目的を達成するためには必要経費だ。

 

「!? まさかあの女!」

「んん? な~んかあれ、見たことあるような……」

 

 さすがにベジータは気づいたみたいだな! 悟空は思い出せないみたいだけど、無理もない。悟空がこの技を見たのは一回きり。…………ベジータとナッパが地球に攻めてきた時、ベジータが使ったのだけだ。

 

 

 私は余計なちゃちゃが入って決心が鈍る前にと、その光球をさっさと上空に放り投げた。この何もない星の大気がどんなものかは知らないが、今現在ドーム内はウイス様達が私たちが生活、行動できる大気へと調整してくれている。だからきっと出来るはず! 多分!

 

 私は放り投げた光球を見ながら、腕を上にのばして手のひらをぎゅっと握った。

 

 

 

 

「弾けて混ざれぇッ!!」

 

 

 

 

 すると光球……私が作ったパワーボールが破裂し、続いて大気中の酸素と交じり合う。そしてそれとほぼ同時に、しびれを切らしたビルス様が「ええい、何でもいいからさっさとはじめろ!」と言いながら試合開始の銅鑼を鳴らした。お、いいタイミング。

 

「何……?」

 

 ヒットが私に起きた変化に対して、攻撃を仕掛ける前に思わずと言った感じで動きを止めた。そりゃ、対戦対手の体がいきなりもりもり巨大化し始めたら驚くよなぁ!!

 心はゴッドのおかげか平静だが、体そのものには熱い血潮が駆け巡っている。ああ、この感覚……久しぶりだ。今までこの姿が嫌なのと、どうせ的になるだけだと思って変身した事皆無だったもんな。

 

 ちなみに服だが、ブルマがサイヤ人の戦闘服の作りをベースにしたグレートサイヤマンの衣装はもくろみ通り私と一緒に伸びてくれている。体に密着していないマントまで一緒に大きくなっていくのは謎だが。

 ……体毛で覆われるにしても、流石に全裸ファイトは嫌だからな。ビーデルさんが変身装置を持っていてくれて助かった。

 

 

 そして変化は終わり、私はゴッドの赤いオーラそのままに変身出来たことを知るとほくそ笑んだ。

 サイヤ人の本質は、認めたくはないがこの姿…………大猿。いくら凶暴性が際立つとはいえ、本質たる姿が"サイヤ人の神"としての性質と喧嘩はしないはず、という考えは当たったようだ。

 ゴッドの力が、大猿化によってそのまま強化されているのがわかる。

 

 私は改めてヒットに向き直り……否、見下ろす。

 

『待たせたな。さあ、勝負をはじめようじゃないか! クックック、今の私に勝てるかな?』

 

 パワーボールによって人工の満月を作り出し赤みがかった黒っぽい体毛の大猿に変身した私は、人差し指を立てながらそう言った。

 

 さあ、時とばしでもなんでも使ってかかってこい! わざわざデカイ的になってやったんだから、存分に当てるがいいわ! ただし今から大猿化とゴッドとしてのパワーを防御に全振りする私の鉄壁の守りを突破出来たらの話だがなぁ!!!!

 

 パワーが上がっても巨体でスピードが死ぬ? 知った事か! 防御に徹すればそんなデメリットなんて関係ねぇ! ヒットが攻撃を打って打って打ち込んで、体力が擦り切れたところで捻りつぶしてやる!! 消耗したヒットを見るに、それには遠くかかるまい!

 

 

 

 悟空が"柔"でベジータが"剛"なら、私は"防"によって時とばしの攻略をしてやろう。

 

 

 

 

『ふははははははは!! さあヒット、かかってくるがいい!』

 

 

 

 

 

「空梨さん。それ、完全に悪役の笑い方と見た目だよ……」

 

 高揚する心のままに高笑いしていた私に、ひっそりクリリンくんがツッコミを入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 













何度か感想欄で尻尾や大猿化について聞かれましたが、今回いい機会だったのでやっと大猿化使えました(´ω`*)

今の主人公こんな感じ。

【挿絵表示】














次回ネタバレ:ヒットさんはパワーボール作るとこ見てるよ!


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復活のF:その十四 からの第六宇宙対抗試合12 猛き雄叫びをあげよ!全力対全力

新年あけましておめでとうございます。
今年が皆様にとって良い年でありますように。



 第六宇宙最後の戦士、ヒットに勝つために私は今まで封印……ってほどでもないけど、見た目がまず嫌いだし使う場面とかも特に無かった"大猿化"を使用した。

 

 ふと第六宇宙のサイヤ人であるキャベくんの反応が気になってチラッと見てみたら、顎外れるんじゃないかってくらい大口開けて化け物でも見るような顔で見られてた。…………。気持ちは分かるが失礼な。これでもゴッド化の影響なのか、普通に大猿になるより体のフォルムはスッキリしてんだぞ。……多分。

 それにしてもあの反応を見る限り、やっぱり第六宇宙のサイヤ人は大猿になれないっぽいな。大猿はもともとサイヤ人の原初の姿、つまり本来は進化する前の姿だったって説が惑星ベジータ時代に勉強した中では有力だったけど……。察するに、こっちの宇宙より種族として進化してると思われる第六宇宙のサイヤ人は、尻尾と同時に大猿化の能力も失ったんだろうな。その分大猿化が必要ないくらいに強いというか、もともとの地力や、潜在能力が高いんだと思う。なんたって今まであれだけ修業してきたベジータ……素ベジータとならキャベくん互角だったからな。キャベくんも頑張って修業したんだろうけど、正直彼と同い年の時のベジータ相手だったらキャベくんベジータにワンパン勝利余裕じゃね? って思う。うわ第六宇宙サイヤ人こっわ。彼らの仕事が正義の味方的なものでよかった。

 

 にしてもそうなると、大猿姿のサイヤ人を見るのはキャベくん初めてか。……まあ、それなら驚いてもしょうがない。今回は許そう。

 ちなみにこっちの宇宙の子供たちには(私の子供四人は空の人工満月を見ないようにしつつ観戦中)大うけ、大人たちの反応はそれぞれだったけど、大猿の恐怖を味わった事のある面々はドン引いてた。スマン。

 

 

 

 

 

 

 大猿化。尻尾のあるサイヤ人が、満月を直視、又は満月が発するブルーツ派を一定以上浴びる事で変身できる姿である。その力は単純に考えて、通常時の十倍。ゴッドにそれを適応させたとなれば、正直今の私は戦闘力だけなら超強いと思う。

 

 パワーアップの方法として、初めはかつてブウのあれこれの時、バビディとセルの魔術でM奴隷と化していたベジータと戦った時に苦肉の策で試みようとしたスーパーサイヤ人界王拳のことを考えた。けどあれは戦いの後、珍しく……ほんっとうに珍しく、ちょっと心配した様子を滲ませたベジータに「アレは、やめておけ。死ぬぞ」と言われたので封印した代物だ。こっちは大猿化と違って本当に封印。正直自分でもアレは使用したが最後……ほぼ確実に死ぬと思うんだよね。ベジータの時は無理を承知で使おうとしてしまったが。

 

 今回の戦いは切羽詰まってると言えばそうだけど、そんな死ぬかもしれないリスクを冒してまでスーパーサイヤ人界王拳を使おうとは思わない。

 スーパーサイヤ人界王拳、話半分に悟空に話したら目をキラキラさせて何かこっそり練習してたけどな。つーか、たしか原作で悟空がやってたよな。ブルーで。…………無理無理無理。私には無理だわ。

 

 

 そんな時、ビルス様たちの尻尾を見て思い出したのだ。尻尾の残っている私には、十倍界王拳など使わずとも戦闘力を十倍にする方法が残されていると!!

 

 

 武舞台の大きさ的にこの巨体では場外負けを気にして動き回ることは出来ないし、同格、格上相手には多少でも通常時よりスピードダウンすればかなり致命的な弱点になるとは思うが、そもそも私に攻撃する気が無かったりする。あれよ。防御全振り。

 ヒットは勝つためにどうあっても攻撃してこなければならないわけで、私はそれをひたすら耐えて迎え撃つ。時とばし? 時をどうこうされようが、私はずっと防御の姿勢を崩さない。時を止めている間に攻撃されても、防御に徹すればそれに耐えきる自信はある。

 

 殺しの技が使えない今、何らかの小細工も使えまい。

 ただひたすら正面から攻撃してくるがいい! 息が切れ、その拳が砕けるまでなぁ!!

 

 

『さあ、来い!』

「姉ちゃん。それ、ちっとばかしかっこ悪くねぇか?」

「チィッ! やはり貴様はサイヤ王族の恥だな! 子供やキャベも見ている中で、恥ずかしいとは思わんのか!!」

『う、うるさい! いいの!』

 

 来いと言いながら攻撃で迎え撃つ体勢でなく、しゃがみこみ、膝と腕を体の前でガッチリあわせるという防御態勢をとる私。そんな私に悟空とベジータが煩い。

 いいじゃんいいじゃん! ビルス様は額に手を当てて天を仰ぐというポーズしながらも黙認してくれてるぞ! 「あちゃー」ってリアクションだけど、黙って見ててくれてるぞ! 勝てばいいんだよ勝てば! 人の作戦に文句つけんな! 

 

 

 

 私は散りかけた集中力を元に戻そうと、深く深呼吸する。しかしそこではたと違和感に気づく。

 

(あれ、おかしいな。ゴッドになってる時は心はそんなに乱れないのに)

 

 ふと、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

 いやいやいや、ゴッド大猿成功してたって。さっき体毛赤みがかってたもん。初ゴッドの後に出産した叶恵の髪の毛みたいな感じで。

 

 …………。

 

 ど、どうしよう。気になりだしたら急にソワソワしてきた。でもって私は、そこでうかつにもちょっとならいいよねと顔を上げてしまったのだ。

 あ、大丈夫だった。ちゃんと赤っぽい体m「は!!」「ごっふぅ!?」

 

 そしたら速攻で鼻の下にヒットさんの拳が入ってきました。きっちり人中にヒットだよチクショウ!

 

『クッ、で、でもたいして効かんなぁ!! ふはははははは! ま、まあ、ちょっとはビックリしたがな!』

 

 そう言うと、私は再び鉄壁の防御の体勢に入った。ヒットは攻撃を続けてくるけど、そう簡単に私の防御は崩せまい。何回か時とばしの空気も感じたが、時が止まっている間も私の防御は有効なようだ。つーか私も地味に超能力使って妨害してるからな! それがどれくらいの効果を発揮しているか分からないけど、超能力者……それも実力の近い相手となれば、ヒットもさぞやり辛かろう。いやらしいと言われようが、私は自分の長所を活かしているだけだ。シャンパ様が「これは格闘試合だぞー! ちゃんと戦え臆病者ー!」と騒いでるけど無視無視。防御だって立派な格闘だから。

 

 でも痛くないわけじゃないんだよなー。ヒットの奴早く疲れてくれないかなー。

 

 

 

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

 

 

 

 あれ。

 

 

 あれ!?

 

 

 なんか痛ッ、痛いぞ? いたたっ、痛いって! ちょ、あれなんで!?

 

 

 

 

『ぐっはぁ!!』

 

 段々と受けるダメージが増してきたと思ったら、ついにはその構えを強制的に解かされ、合わせた腕にどぎつい威力の攻撃を受けた私はのけ反るようにして立ち上がった。

 な、何だとぉ!? わ、私の防御が破られた!? さっきみたいに隙を見せたわけじゃないのに何故!!

 

「おいハーベスト! 神の気が無くなっているぞ! すぐに変身し直せ!!」

『え!?』

 

 ビルス様の言葉に慌てて体を見下ろせば、赤みがかった毛並みは何処へやら。自分の体を覆うものが黒っぽい茶色の毛に戻っている。更にはその事で動揺した私は、対戦相手の視線の先に気づいてビクッと肩がはねた。

 

「………………」

『え、あの、ヒットさん? 攻撃もしてこないで、何を見ておいでで?』

 

 私の防御姿勢を打ち破ったにも関わらず、ヒットさんが追撃してこない。何かお空を見上げている。そしてその先にあるものに気づいた私は、ダラダラと冷や汗を流した。

 

「これ以上長引かせては、流石に俺もキツい。正面から打ち破って見たかったが、今攻撃した感触……浅い。どうやら赤っぽくなくなった今も、お前の防御力は相当なものらしい。大したものだ」

『あ、あはは。お褒め頂きどうも……と言いながらのキィィック!!』

 

 なにやら褒め言葉っぽモノを言ってくれているヒットに、焦った私は迂闊にも攻撃を仕掛けた。今ヒットがしようとしていることを、許すわけにはいかない! くっそ、凄く単純なデメリットを忘れてた!!

 

 しかし私の蹴りはすぐに時とばしによって対応され、逆にヒットのケリが足元を払い私の巨体を転ばせる。あ、足元がお留守だった……!

 が、私もタダでは転ばずに武舞台に片手をついて、そのままその手を軸にしてグルグルと体を回転させはじめた。そして回転に合わせて体の中心から爆発的に広げるイメージで、念力による竜巻を巻き起こす!!

 咄嗟な技だけど、案外いいんじゃないか? これ。超能力由来のこの技なら、さっき以上に時とばしの妨害になるはず! この念力の嵐の中で、ヒットが時とばしを容易に使えるとは思えない。今思いついたばっかりだけどサイキックハリケーンと名付けよう!! ヒットが時とばしを使う前に、空間そのものを念力による妨害電波的なものでぐっちゃぐちゃにかき回してやる!!

 

「クっ! …………ッ! はああああああ!!」

 

 しかしヒットは念力の嵐にもひるまず、果敢にも私に攻撃を仕掛けてくる。しかし、連戦でもう体力が底をつきかけているのかフラフラだ。これなら勝てるかも……!

 

『だりゃあッ』

「がっ」

 

 サイキックハリケーンの勢いのままに、回転の力を加えてヒットにキックを叩き込む。すると私の攻撃が初めてヒットにまともに決まった。ちょっと感動である。

 

 

 だがヒットは、なんとぶっ飛ばされたその勢いを利用して宙に……私が作った人工満月へ向かって跳んでいった!

 ば、馬鹿なぁぁぁぁ!! ぶっとばされる方向を、計算していたというのか!? サイキックハリケーンで疑似的なバリアも作っていたというのに、吹き飛ばされた勢いに加えてハリケーンに飛び込むことで念力の上昇気流すらも利用しやがった!! もうヒットのルートは人工満月へ向けて一直線! ちょい待って、待ってくださいお願いします!! 今大猿化が解けたら、もう私にパワーボールをもう一回作ったりスーパーサイヤ人に変身したり界王拳使う余力は残されてないよ!!

 

 ぬかった……! やっぱりゴッド化で大猿はぶっつけ本番だったし、不完全だったんだ! 体毛がゴッド時の髪の毛のように赤ではなく、ゴッド化しているにも関わらず気分の高揚などで感情が揺れ動いていた時点で気づくべきだった! 結果的に私、不完全ながらもゴッドの維持で必要以上に体力消耗しただけじゃん!? 失敗と気づいてすぐに満月を壊していれば、まだ体力も残っていたのに!!

 

 

 

 しかし、現実は非常である。

 

 

 

 私の心の叫びもろもろをよそに、ヒットの拳が人工満月を打ち砕いた。

 その後、多少粘ったのちしゅるしゅると通常体型に戻った私。………………うん。

 

 でっすよねー! そうですよねー! 変身のために人工満月作ってるの見てたら、変身にはそれは必要ってわかりますよねー! でもって当然壊しますよねぇぇぇ!!!! むしろ最初はそれを分かりつつ、自分の防御だけして満月ノーガードだった私に正面から向き合って攻撃してくれたヒットさんマジ武人っすわ。そしてそのヒットさんの格好良さによって際立つ自分の格好悪さに、穴があったら入りたい。間抜けにもほどがある。

 

 だけど、こうなったら私に残された手段はただ一つ。

 

 

 真正面から戦って、勝ってやる!!

 

 

「ええい、もうやけだ! 来いヒット! 決着をつけてやる!」

「望むところだ!!」

 

 互いに喉を潰さんばかりに猛々しく吠える。

 

 

 

 

 異能力者による異能無しの戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はゴッド化も大猿化も解けて、更にはごっそり体力が減った私と、ダメージ、体力共にギリギリなヒットとの泥試合だった。もうお互いに時とばしも、超能力も使う余力は無い。

 

 打って、打って、受けて、受けて、叩き込み、叩き込まれる。血と汗が宙を舞い、口から胃液と唾を吐く。

 悟空とベジータの戦いで引き出された武人としてのヒットの、ギラギラした視線とぶつかった。しかも口元に笑みまで浮かべてやがる。

 クールビューティーアサシンとしてのお前何処行ったし。いや、私も今似たような表情してるんだろうけど。

 

 視界は霞み、足はフラフラ。けど、倒れるわけにはいかない。

 こんな有様で無様極まりないが、今目の前に居る消耗したヒットは悟空とベジータが繋げてくれたものだ。勝ってくれなかった事に恨み言は言いたいが、今はそれを勝利に繋げなければ全てが無駄になる……!

 

 

 

 

 

 そして、勝負は決する。

 

 

 

 

 

「うああああああああ!!」

「なっ」

 

 気づけば武舞台ギリギリの端で戦っていた私たち。意図的に追い込んだものでも、追い込まれたものでもない。二人とも目の前の対戦者との攻防に精一杯で、そんな余裕は無かった。

 けど、先に気づいたのが私だった。だから私は残った力を全て振り絞って、ヒットに抱き着いてそのまま足にぐっと力を入れて武舞台を思いっきり蹴る!!

 

 

 

 宙に舞う私とヒットの体。そして…………。

 

 

 

『じょ、場外。場外です!! そして場外に先に背をつけたのは、ヒット選手!! よって、勝者。第七宇宙の孫空梨選手ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!』

『やったーーーーーー!!』

 

 レフェリーの言葉と共に、観客席からわっと歓声が沸く。だけどやっと勝利できたというのに、疲れ果てた私は声を発することも出来ない。ただ荒く息をつき、場外に一緒に落ちたがために押し倒す形になったヒットの体から上半身をおこした。そしてそのままヒットの横にバタンっと仰向けに倒れ込む。

 お、終わった。やっと。

 

「つ、疲れた……!」

「……同感だ」

 

 特大のため息とともに吐き出した言葉に、ヒットも同意する。しかしヒットの声色に悔しさはなく、どこか清々しさを含んでいた。

 

「こんなに疲労したのは、数百年ぶりだ」

「……ははっ、あんた凄いわ。悟空、ベジータ、私の三人と戦って、疲労ですんでるんだから」

「嫌味に聞こえたか? ならば、ここまで追い詰められたのは数百年ぶりだ、と言い直そう。俺もかなりダメージを受けた」

「……ヒットさんって、妙なところで律儀よね」

「そうか?」

「うん」

 

 お互いに倒れたまま、外野の喧騒をよそに会話する。あー、勝った勝った。これでビルス様にどやされなくてすむ。フリーザ様? 知らん。もうやる気満々なセミがなんとかしてくれるってぶん投げるわ。それ今考えたくない。

 

 ふいに、視界が陰った。見ればラディッツが覗き込んでおり、そのまま私の背と膝裏に腕を差し入れて、体を抱き起こしてくれる。

 それにお礼を言おうと思ったんだけど……。

 

 

 

「頑張ったな」

「!!!!」

 

 

 

 不意打ち……! やばいっ、今すっごいキュンと来た……! 短いねぎらいの言葉が、凄まじい破壊力だった……!

 

 なんだか急に恥ずかしくなって俯くと、ラディッツは何も言わずに私を抱き上げて運んでくれた。その行動に、修業の時とはまた違ったギリギリの戦いにささくれた心が癒される。…………いい旦那娶ったわ……。

 

 しかし勝利の余韻と夫の優しさに浸る間もなく……賑やかだった周囲が、急に静まり返った。

 

 

 

 

「「ぜ、全王様ぁぁ!?」」

 

 

 

 

 そんな中響いた破壊神兄弟の言葉に、もうこのまま気絶しちゃおっかなと思った私は許されていいと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 



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復活のF:その十五 からの第六宇宙対抗試合13 ぜんおうさま

 楕円の顔に、二頭身の体。純粋にも見えるけど、何を考えているのか分からないとも言えるまん丸いつぶらな瞳。長っ細いお供を二人左右に従えて、その子……否、その方は土下座する破壊神二柱の前に存在していた。

 

 

 彼の方は私たちが住む第七宇宙を含めた、十二宇宙全ての頂点に立たれるお方。

 ………………全王様である。

 ウイス様とヴァドス様が全王様について説明していってくれたから、選手席の面々はそれぞれ程度の違いはあれど驚いているようだ。

 

 

 といっても、全王様が現れただけでは私は特に焦らない。何故ならここまで散々ビルス様やらフリーザ様やらのせいでギュウギュウの板挟みになって胃を痛めてきた私の代わりに、今度はビルス様とシャンパ様が神と人間の狭間たる中間管理職へと華麗なるジョブチェンジを遂げたからである。土下座が実に様になっていますよビルス様。

 だって土下座するお相手は遥か高見におわす至高の御方。で、あるからして。私たち矮小なる人間達は出しゃばらず、潔く神様に対応を丸投げするべきなのだ。はっはっは。

 

 

 

 そうだったらよかったんだけどな!!

 

 

 

 

 本来そうやって神様に丸投げして、こちらは高みの見物ならぬ下見の見物としゃれ込めばよかったというのに。こっそり土下座にゃんこ共の写真を撮って、後でプスプス笑って色々な事に対する留飲を下げるための材料にしたってよかったのに……。

 しかし全王様を見た瞬間、私はそうはいかないことを思い知ったのである。そして試合でへとへとの私が何か言う前に、ビルス様が先に土下座姿勢のままで叫んだ。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおおおいガキども! そのお方を誰だと思っている! 今すぐ離れんかぁぁ!!」

「今ボクのお友達に、ガキどもって言った?」

「滅相もございません大変失礼いたしましたわたくしめの失言でございます」

 

 そして即行で頭を地面により深くこすりつけた。早い。そしてその様子にちょっと湧いてしまった親近感に気づいて、地味にダメージを受けた。なんで私は土下座低姿勢スタイルに親近感を覚えなきゃいけないんだよ……。

 って、そうじゃなくて!! 今はそれどころじゃない!

 

 なんで全王様ったら普通にうちの子供たちの輪に入っちゃってるのかな!? 

 

 しかもおにぎりとジュースもってかなり馴染んでくつろいでるところを見るに、大分前から居たっぽい。でもさっき見た時は居なかったよね!? 少なくとも私の試合が始まる前は居なかったよ!!

 

 

 ………………そう。なんと全王様が現在おわす場所は、第七宇宙サイドの観客席。お供の二人は全王様を囲む人間に鋭い眼光を送りながらも、全王様に何か言われているのか大分距離をとっている。で、その代りに全王様の周りに居るのが悟天ちゃん、トランクス、龍成、エシャロット、空龍、マーロンちゃん。チビッ子大集合だ。いやチビッ子と言っても空龍とかもう十四歳だけど。まあサイヤ人の特性上まだ見た目チビッ子なんだけれど。とにかく似たようなチビッ子体型が多くて全王様普通に混ざっててもぱっと見あんま違和感無いけど!! でも違和感無いからどうって問題じゃない!! ちなみに似たような体型のピラフ一味は危険を察知したのかさりげなく離れていたのは流石と言うべきか。でも今それはなんの救いにもならない。

 え、えええええええ? ど、どうしよう……! ここはやっぱり子供たちを全王様から離すべき? でも見た感じ仲良さそうにしてるから、そんなことしたら逆に不興を買うだろうか。でも、あのまま側に居たら子供たちが危険だよな……。あの一見して無害そうな外見って実はヤベー奴パターンにしか思えない。

 正直アニメで覚えてる部分ではポッと出ただけだったから、あの方のキャラクターというか、性格がよく分からないんだよな……。でも、あのビルス様が顔真っ青にして土下座する相手だ。まず間違いなくヤバい。万が一逆鱗に触れたら、どうなるか分からないじゃないか。

 

 

 突然の事に私がどうすれば最良だろうかとグルグルまとまらない考えをこねくり回していると、ビルス様達に続いて第六宇宙の界王神達と界王神様、老界王神様、キビトさん、ザマスも来た。その彼らもビルス様達の後ろでこちらも冷や汗流しつつ跪いてから深々と頭を下げたのだけれど、彼らも相当焦っていたようだ。背中にさっき預けた叶恵くっつけたままなんですけどザマスさん!? そして叶恵は叶恵で兄弟たちがなんか楽しそうな雰囲気だから「自分も!」とばかりにふよふよ浮いてって合流するし。はい、うちの子達全員コンプリートですねどうもありがとうございます。……………………。ええー…………。え、本当にどうしよう。

 

 そして私がどうしていいか分からずラディッツと顔を見合わせて困惑する中、ビルス様たちの態度を見て目をまん丸くしていたエシャロットが、全王様の腕をツンツンと指で突いて問いかけた。ちょ、おまっ、接し方軽っ。

 

「えー、なになに? あなたって凄い人なの?」

「んー。まあ、ちょっとね」

 

 目を輝かせたエシャロットの問いに、心なしか得意げに全王様が答える。それを聞いて意外そうに声をあげたのは、全王様のすぐ横でジュースを飲んでいたトランクスと悟天ちゃんだ。

 

「へー、なんか意外だな! 可愛い見た目してんのに」

「ね! とてもそうは見えないや」

「ビルス様って、偉いんだろ? その方にこんな敬われるなんて、おめぇ凄いんだなぁ。あ、もう一つ食べるけ?」

「うん、食べる!」

「あ、じゃあマーロンはタコさんウインナーあげるね!」

「うわぁ、かわいいねー」

 

 そして驚きながらも普通におにぎりを全王様にあげるチチさんに、おそらく18号さん特製であろうマーロン弁当からタコさんウインナーをあげるマーロンちゃん。他の面々はビルス様たちの土下座を見て、全王様がただ者ではないと感じたのか様子を窺っているっていうのに、強い。チチさん的には子供の友達で神様と言えばすでにデンデが居るから、相手が神様と分かっても同じような感覚なんだろうけども……!

 うちの子供たちはといえば、エシャロットは言わずもがなで全王様に距離がすげー近い。あの子ビルス様やシャンパ様の時もそうだけど、本当に興味湧いた相手にはぐいぐい行くよな。ペンギン村の学校に通い出してからますます天真爛漫に育ってくれて、いいことなんだけどこういう時のアグレッシブさは見てる側としてはハラハラする。空龍はマイペースにおにぎり食べてるし、龍成は……。

 

「へへっ、チチさんのおにぎり美味しいでしょ! 僕はこの生姜の佃煮が入ったの好きなんだ」

「ぼ、僕は煮卵。……ところで、空龍兄さん。偉い人に、こんな普通に話しかけていいのかな?」

「え、駄目なの?」

「え、ええと……。でもビルス様たちの様子を見るに偉いって言うより神様……」

「いいんじゃない? だって見た感じビルス様たちはあの子の部下なんだよね? 僕たちは友達だもーん。神様ってなら、デンデさんだって僕たち友達じゃない。一緒一緒! 神様だからって差別しちゃいけないよ~」

「いや、でも。そういうわけにはいかないんじゃ……」

 

 常識人……! どこまでも常識人だぞ龍成……! 大丈夫だ、お前の反応は間違ってない。

 そして龍成が成長して昔よりもっとしっかりし始めてから、悟飯ちゃんを除いた子供組最年長の空龍がお兄さんポジションをサボり始めている事実にもちょっと気づいてしまった……! いや、ちゃんとお兄さんはしてる。してるけど、こういう時に開き直る所にそこはかとなく龍成への甘えを感じる。りゅ、龍成……! 強く、強く生きろよ……! フリーダムな上と下に挟まれて大変だろうけども……!

 しかも気づけば、いつの間にかビルス様とシャンパ様まで龍成に向けて「もっと言え、早くそいつらを全王様から引き離してくれ!」と目で訴えているではないか。そして龍成もそれに気づいちゃってるから、困ったようにチラチラビルス様達と全王様を交互に見ている。クッ、あの子の心労が伝わってくるようだぜ……!

 

 そもそも、何故全王様は子供たちと一緒に試合観戦することになったんだ。お付きの二人は止めんかったんかい。

 あの子達今すっごく普通に接してるけど、その神様普通の神様じゃないからな。神様の一番上のトップオブトップだからな。下手に神様連中と交流があったのが裏目に出てしまったのか、神様だと分かった今も凄いラフなんだけど。見てるこっちは気が気じゃない。

 

「そ、それにしても全王様。い、いつお越しで……? そ、それに人間が友達とは……!?」

 

 お、丁度気になってたことをシャンパ様が聞いてくれた!

 

「うーんとね、きょうは勝手にこんなことしてるからね、注意しにきたのね。……あんまり破壊神のお仕事、サボっちゃだめなのね」

「「は、ははー! 申し訳ございません!!」」

 

 ははっ、怒られてーら。笑ってる場合じゃないけどな。

 

「でもね、見てたらとーってもおもしろかったの。あとね、遠くから見てたらこの子達が一緒に見ようよって、さそってくれたんだー」

「最初はてっきり第六宇宙の子かと思ってたんだよ。なー、悟天」

「だよね。まさか神様だなんて、僕ビックリだよ」

「まあ今この会場神様いっぱいいるし、今さらっちゃ今更だけどさ」

 

 今さらとか言うなよトランクス! たしかに現状神様のバーゲンセールみたいになってるけど!! そしてこっちは案外普通に誘ってたのにビックリだよ!! え、「一緒に見ようよ!」「うん!」で成立しちゃったの? ぜ、全王様も結構気さくだな……。それでいいんだ……。お付きの二人が未だにすげー睨んでるけど……いいんだよな……? 全王様本人がいいって言ってるなら、いいんだよな……!? いきなり「無礼者! 手打ちにござる!」とか無いよな!?

 

 そしてチビッ子たちの一挙一動にハラハラしていた私だが、はたと気づいてラディッツを見上げる。

 

「ら、ラディッツ! 私たちも行こう!」

「あ、ああ」

 

 ここまでついつい見守ってしまったが、とりあえず私たちも子供たちの保護者として行かなければ!

 そう思ってラディッツに促し、流石に抱えられたままでは不敬なので肩だけ貸してもらって、フラフラしながらも私たちも武舞台から全王様達のもとへ向かった。すると「お、じゃあオラも!」「チッ」とか言いながら悟空とベジータもついてくる。フリーザ様はどうやら選手席から静観するつもりのようだ。私も出来るならそっち側が良かった……。

 

 そして選手席までたどり着くと、なんと全王様からお褒めの言葉をもらってしまった。

 

「あ、きみきみ。さっきの試合ね、変身とか、コスチュームチェンジとか、すごくおもしろかったよー。きみたち二人も、ごくろうさまなのね。どれもすごい戦いで、ボク見ててとーっても楽しかったの」

 

 私、悟空、ベジータにかけられたその言葉に、咄嗟になんて返していいか迷っていると……こういう時メンタル強いのはいつだってこいつである。

 

「おう、そうか! サンキューな!」

「馬鹿者ぉぉぉ!! 敬語を使え、敬語を!!」

 

 片手を上げて笑顔でお礼を言った悟空に、即座にビルス様からツッコミが入った。でも全王様は気にした風もなく「いいの、いいの」と言ってから、さらに言葉を続けた。

 

「でね。とっても楽しかったから、こんどは全部の宇宙でやってみようかな~、なんて思っちゃった」

「え、それホントか!? いいな~それ! すっげぇ面白そうだ!」

「でしょー?」

「ああ! やろうぜ、全王様! うっひゃ~! オラ、ワクワクしてきたぞ!」

「敬語ぉぉぉぉ!!」

 

 ビルス様が今にも血涙を流しそうな声で悟空に敬語コールをしている。でもすぐに全王様の「いいの、いいの」で黙ってしまった。耳がぺしゃんと折れて尻尾が垂れさがって体がプルプル震えているビルス様の姿が新鮮。……これがギャップ萌えというものだろうか。ちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密だ。

 とりあえず私もお褒め頂いた手前、何か話した方がいいだろうか。そう思って、いつの間にか全王様とがっちり握手していた悟空の後ろから恐る恐る顔を出してみた。

 

「あの。こ、子供たちと仲良くしてもらって、ありがとうございました」

 

 しかし出た言葉は、いつもゴマすりに手を抜かない私にしては普通の言葉だった。いや、まあ子供たちと遊んでくれていたと思えば、やっぱりまずお礼かなと……。

 そして全王様はそんな私にも軽く手を上げて「気にするな」というようなポーズをとる。

 

「いいの、いいの。ボクも楽しかったから。あのね、ボク前からお友達は欲しかったけど、こんなにいっぺんにできると思ってなかったから嬉しかったのね」

「あ、そ、そう……ですか」

 

 その言葉にほっと息を吐き出す。どうやら子供たちの態度を不快には思っていなかったらしい。相手がどんな存在か知らなかったとはいえ、子供たちはかなり軽く接してたから心配だったんだけど……。全王様くらい凄い人が私なんぞを気遣って言葉をオブラートに包むことも無いだろうし、きっと今のお言葉は本心なのだろう。よかった。

 

「エシャロット、空龍、龍成。その方は本当に凄い方だから、仲良くなるのは良いけど礼儀はちゃんとしてね。トランクスに悟天ちゃん、マーロンちゃんも」

 

 次いでやっと子供たちに声をかけられた。もともと素直な子たちなので、素直に「はーい」と返事をしてくれたのにはもう一度ほっとする。

 

「ええと、全王さまって、お名前なんだ……ですよね。お名前言うのが遅くなってごめんなさい。私エシャロット! また、遊ぼうね」

 

 そう言ったエシャロットを皮切りに、子供たちがそれぞれ自己紹介してから全王様から少し離れてお供二人に場所を譲った。これにはお供二人、ビルス様、シャンパ様、界王神様達までほっと一息。私もこう一回ほっとした。あー、焦った。今ので2kgくらい痩せたかもしれない。

 

 そして全王様の全宇宙でこういったことをやりたい発言に食いついた悟空が妙に全王様と意気投合したのにまたビビりつつ、その後全王様はあっさりお帰りになったので安心した。…………なにかでっかいフラグが立ったのは気のせいだよな? あー、気のせい気のせい。絶対気のせい。子供たちが「え、じゃあ今度は全部の宇宙の屋台でご飯食べられるの? やった!」とか「他の宇宙かー。面白い生き物とかたくさんいそうだよな!」とか「なんか、すっごいお祭りになりそうだね! 楽しみだなー」とか言ってるのを聞いて、全王様が「お祭り……」とか呟いてた気がするけど、気のせいだよな。神様時間にしてみれば人間の一生なんてすぐだろうし、きっと思い出したころには数億年とか経ってる経ってる! あー、そう考えたらなんか安心した。あれだよね。全王様とか立場的に凄すぎるからゲストキャラだろ。もう出てこないに違いない。友達になった子供たちには悪いけど、ビルス様が「全王様はその気になれば宇宙ごと消せるんだぞ!」ってキレてるの聞いたら余計にもう会いたくないわ! さらば全王様! おたっしゃで!

 

 

 

 そして最後までバタバタしたものの、やっと第六宇宙との対抗戦は終わった。幸いにも、第七宇宙の勝利という形で。

 

 

 

 しかしそれは同時に、もう一つの戦いの幕開けでもあった。

 

 

 

 

「いよいよ私の出番か」

 

 待ってましたとばかりに、ばさぁっと純白の羽を広げて武舞台に降り立つ者が居た。そしてその者は人差し指と中指をくいくいっと動かしてある人物を武舞台へ誘う。

 

 

「さあ、存分に戦おうじゃないか! 宇宙の元帝王フリーザよ!」

「いや何言ってんだお前。もうこの会場撤去するぞ」

「何?」

 

 そして武舞台に仁王立ちしていたセルは、即座に疲れた様子のシャンパ様に突っ込みをくらって真顔でシャンパ様を二度見していた。

 

 どんまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++

 

 

 

 

 

 きょうはなんだか楽しかった。試合も凄かったし、お友達もたくさんできた。

 

 うん、楽しかった。

 

 全宇宙での格闘試合もいいけど、せっかくお友達もくるんだから、もっと楽しくしたいな。

 たべものに、かざりつけに、踊りやお歌もあった方がいいかな。そうだ、大神官と、それぞれの宇宙の界王神や破壊神にも考えてもらおうっと。

 

 しばらくは、たいくつしなくてすみそう。こうやって楽しいことを楽しくするために、はじめる前に考えるのもけっこう楽しい。

 

 今からお祭りが楽しみ!

 

 

【とある神の心の中の日記より】

 

 

 

 

 

 

 

 




さくっと終わらせようと思ったらまるまる一話使ってしまった罠。全王様むずかしい。


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復活のF:その十六 からの第六宇宙対抗試合14 さらば第六宇宙の戦士達!また逢う日まで

 

 全王様が帰った後、第六宇宙との交流戦はお開きとなった。

 なんだかんだで第六宇宙の選手たちと仲良くなってしまったので、少々名残惜しくもある。祭りの後のなんとやらってね。

 

 特にキャベくんはスーパーサイヤ人になれたのはお二人のおかげ! と、悟空とベジータに凄く感謝していて(怒らせるために煽った私は?)、いつか惑星サダラに来てほしいとしきりに誘っていた。そのためには宇宙間移動する必要があるため神様連中の協力が必要なのだが、まあにゃんこ達は適当に勝負事を提案すれば乗ってくるだろう。ビルス様はどうか分からないけど、少なくともシャンパ様は。

 シャンパ様今回負けて悔しいだろうし、きっと近いうちに別の勝負事ふっかけにビルス様のもとへ来るはず。だからその勝負事に便乗して第六宇宙へ連れて行ってもらえば、多分サダラ来訪も不可能ではないんじゃないかなー。

 

 …………ただし、次の勝負は格闘以外だ。これは絶対。絶対だ。そうだな。大食いのサイヤ人同士ってことで、フードファイトチーム戦とか平和だしビルス様達も美味しいもの食べられるし、誰もが幸せになれていいんじゃないだろうか。…………よし。あとで提案しよう。そしてスイーツ調達係は私に任せてもらおうか。

 

 

 そういえばボタモくんが律儀にも試合中の私のお願いを覚えていてくれたのか、通常攻撃無効化ボディについてちょっと教えてくれた。といっても、その特性はボタモくんの種族限定で、しかも使いこなしているのは一部のみ。ボタモくんはその中でも戦闘力込みで群を抜いた天才だったらしい。だから私がボタモくんの能力を身に着ける事は出来なさそうだったけど、お願いを覚えていてくれたことがまず嬉しかった。だから心ばかりのお礼に、ブウ子にお願いして魔法でお弁当の一部を蜂蜜に変えてもらってからボタモくんにプレゼントした。

 うん。蜂蜜が入った茶色の瓶が黄色い熊似ボディと赤い服に実によく似合っている。

 最初は蜂蜜を不思議そうに見ていたけど、食べてみたら気に入ったらしい。うむ、私の見立てに間違いは無かったか。

 

 そして妙にフリーザ様になついて(?)しまったフロストであるが、別れを惜しむ態度が鬱陶しかったのかさっきフリーザ様に腹パンされて気絶していたので、回収して無言でヒットに渡しておいた。特に何も言わず受け取ってくれたヒットさんまじ寡黙かっこいい男前。ありがとう。

 でもってギニュー隊長にジースくんはそんな残念そうな顔しないでください。そもそもあいつ犯罪者バレしたんで、こっちの宇宙に引っ張って来て新生ギニュー特選隊に入れるとか無理ですから。

 

 そういやそのフロストを受け取ってくれたヒットは、今回は負けたけど次闘う時はオラ(俺)が勝つ! と張り切った悟空とベジータに絡まれてたな。そして悟空とベジータはどっちが先に再戦するかでもめていた。もういい加減そういうのどうでもいいわい。どっちでも好きに戦えや。私は二度とごめんだけどな!

 ……とか思っていたのに、まさか男二人にモテモテなヒットさんにお声をかけてもらっちゃったぜ。ひゅーう。「消耗していたとはいえ、俺の時とばしを妨害するほどの念力嵐を発生させるとは見事。よければ、お前ともまた戦いたいものだ」とかなんとか言ってもらった。内容が嬉しくない。

 

 

 ま、そんなわけで解散するまでにちょっと時間がかかった。

 そしてお昼休憩の時にいい食べっぷりだったシャンパ様が気に入ったのか、チチさんがお弁当の残りをタッパーに詰めてシャンパ様とヴァドス様に渡しているのを見て思う。…………チチさんつおい。ビルス様、シャンパ様、界王神様、ザマス、全王様と、だいたいのすげー神様にお弁当配布したぞ。つおい。

 シャンパ様はそれに「ふ、フン! まあ、もらっておいてやる」とそっぽを向いて素直じゃない態度をとりつつも、がっちりお弁当を受け取って、耳がピクピク動いて尻尾が左右に揺れているのを見たら喜んでいることが丸わかりだった。小憎たらしくもあるが、どうにも憎み切れない神様だなシャンパ様。

 そんなほくほく顔で第六宇宙の選手たちの元へ戻ったシャンパ様は、負けた直後のぐぬぬ顔は何処へやら。「全王様主催の大会には、またお前たちに出てもらうからな! それまでもっと鍛えておけよ!」と厳しく言っていたけど、語気の強さとは裏腹に顔はニコニコ緩んでいた。しかも最後に「ま、まあ今回はお前らも頑張ってくれたしな。最初の約束通りとはいかんが、ちょっとくらい褒美をくれてやる」とデレまで出した。……そんなに嬉しかったのか、お弁当。まあ、選手たちの頑張りを認めていることが前提にあるんだろうけども。

 でもなんか可愛かったから、私もおやつの残りを分けてあげた。すると今度は素直に「第七宇宙の女はなかなか気が利くな!」と、チチさんと一緒に褒められた。やだこの神様チョロイん。食べ物貢ぐと、どんどんツンが消えていく。また今度会った時は何かあげてみよう。

 

 

 第六宇宙の面々と別れた後は、ブルマが作ったスーパードラゴンレーダーで名前のない星が最後のスーパードラゴンボールと判明。

 大迫力スペクタクルな、宇宙規模に壮大な超神龍召喚が行われた後、ビルス様が神の言語でなにか願いを叶えたことで今回の件は終わった。ちょっとフリーザ様の動向が心配だったけど、スーパードラゴンボールで願いを叶えるためには神の言語でなくてはならないというのを事前に聞いていたためか、この時は特に何もしなかった。ビルス様も居るしな。

 

 ちなみに超神龍の姿の全貌が明らかになった時、赤眼の金竜(レッドアイズゴールデンドラゴン)召☆喚! とか心の中で思ってしまったのは内緒だ。……とか思ってたら、トランクスが「わぁ! なんか青眼の白竜(ブルーアイズホワイトドラゴン)のライバルにいそう!」って言ってた。ああ、そういや最近この世界でも遊戯王発売されてたな……。ちょいちょい前の世界と共通点あるのは何なんだよ。嬉しいけど。

 でもトランクス。ブルーアイズさんにはレッドアイズでブラックな反対色ポジションがすでにいるからな。ら、ライバルかと言われるとよく分からんが。

 

 

 

 

 

 それにしても、まあ無事に終わってよかったよかった。

 

 終わってみれば第七宇宙大勝利! モナカが戦うことにならなくてビルス様も大満足だろう! いやー、いい仕事した。

 ……でも帰る途中でまた悟空が「モナカの実力見れなかったから」って勝負仕掛けようとしたら全力で止めよう。

 

 

 

 

 

「あー、疲れた。さ、帰って風呂入って寝るか」

「待て」

「待ちなさい」

 

 ですよねー。

 

 お疲れ、解散! ムードに持っていこうとした私だったが、両サイドの肩を掴まれた。セルとフリーザ様である。

 

「私とフリーザの戦いがまだなのだがね。ここまで来てお預けとは、ちょっといただけないな」

「ウッセー私に言うな殺すぞ」

「その緑のはともかく、私は孫悟空に復讐するためにわざわざ来たのですよ? くだらない茶番も終わった事ですし、さっさと緑のを片付けて孫悟空をぶっ殺したいのですが」

「だからなんで私に言うんですか」

 

 この場で一番上の立場はビルス様だろ!! そっちにお伺いを立てろよ!! 私はお前らの戦いのマネージメントするために居るんじゃねぇんだよ馬鹿か!!

 せっかくデンデに傷も治してもらってさっぱり爽快ときていたのに、なんで私の胃には常に追撃がかかってくんだ。納得いかない。

 

「そういやあんた達、フリーザ側につくのよね? どうすんの? 一緒に戦うの?」

 

 そして思い出したようにギニュー隊長達に問いかけるブルマ。現在私たちは再びキューブ型の移動船に乗って宇宙航行しているので、密室で距離が近いから、だいたい会話がみんな筒抜けなんだよね。そんな中でよく聞きにくい事聞いたなブルマ。いや、私も気になってたけど。

 

「もちろんそのつもりだ! お前たちには悪いが、我らにとってフリーザ様への忠誠心は別格の感情なのだ。友や仲間と戦うのは忍びないが、これもまた運命……! 全力をかけて戦おう!」

「隊長……! このジースもまた運命共同体! お供いたします!」

「あ、お気になさらず。私たちが責任を持って止めますので」

 

 うおおおお! と漢涙を流しつつがしっと抱き合ったギニュー隊長とジースくんだったが、ナッパくんがにこやかにそう言ってくれた。見ればナッパくんを筆頭に新生ギニュー特戦隊のサイバイマン達が、ギニュー隊長とジースくんを囲んでじりじりその包囲網を狭めている。

 お、おう……。なんだお前たち、頼もしいな。あれか。フリーザ様の応援につきあってはいたけど、仲間が本当に道を踏み外しそうに(といってもギニュー隊長達の場合元の道に戻るというか元鞘に戻るというか)なった時はそれを止めるのもまた仲間の役目だ! 的な感じか。本当に年を追うごとに頼もしくなっていくなぁ、サイバイマン……。そしていい奴らである。こいつらの寿命とかよく分からんけど、長生きしてほしいものだ。

 

 まあそれなら、ギニュー隊長達はサイバイマン達に任せるとして。(最悪またブウ子にお菓子にしてもらおう)

 

 フリーザ様どうしよっかなー。結局今のフリーザ様の実力がまったく分からなかった。それに比べてこちらは手の内全部見せちゃってるという。…………う~ん……。

 

「おい、ハーベスト。フリーザが戦うとか言っているが、殺すなよ。もしかしたら全王様が格闘大会を開くかもしれないんだ。そのメンバーには、あいつも加えたいからな」

「え、何言ってるんですかビルス様。少なくとも私たちが生きてる間に全王様がそんな些末な事思い出す事ないですって☆ だから当然フリーザ様にはあの世にご帰還願いますけども」

「いやお前が何言ってるんだ。全王様がやると言っていたんだ。それに備えないわけにはいかんわ!」

「いやいやいや無い無い無い。あってたまるかってんですよ。はっはっは。だってまだ未定でしょ? 無いですよー」

「えー!? それは困るぞ! オラさっきの聞いて、すんげー楽しみにしてんのに!」

「知るかぁ!! 宇宙規模で選手集められたらどんだけ戦えばいいんだよ! もうこういうのしばらくいいよお腹一杯だから! っていうかもうなくていいわ! 疲れたっつの!!」

「チッ、軟弱者が」

「ウッセーウッセー! お前らと一緒にすんなよバーカバーカ!」

「お母さん、今さらだけど口悪いよ? 叶恵が真似したら困るから、もうちょっとおしとやかにしようよ」

「あ、スミマセン」

 

 龍成に怒られた。へこむ。

 

 と、とりあえず!!

 

「もし全王様主催の大会があるなら、その時はドラゴンボールで復活のFリターンズってことでいいじゃないですか。というか、無理にフリーザ様加えなくても地球の選手層かなり厚いんで大丈夫です。フリーザ様をハブっても問題ありません多分」

 

 ぼそっとビルス様に耳打ちしておいた。

 

「(復活のF?)あー……。それもそうだけど」

 

 あっさり納得された。提案しといてなんだが、フリーザ様がちょっと不憫である。命軽いなぁ……。

 

 まあ、これでビルス様に許可は取った(と思う)。となれば、あとはセミと悟空とベジータに丸投げしよう。もう私は疲れたんだ! 後はお前ら頑張っとけよな!! フリーザ様の真の実力がどれくらいのもんか分からないけど、どうせお前らなら勝つだろ!

 

「クックック。ようやく本当に私の出番か。待ちわびたぞ」

 

 けど始める前にひとつ言いたいことがある。

 私は心なしかウキウキしているセルの肩をがっちり掴むと、親指でクイっと外を示してこう言った。

 

 

「とりあえずお前ら宇宙でも平気組が戦う時は宇宙(そと)な。あと地球のそばでやるんじゃねーぞ。それと悟空とベジータが戦う時は界王神界貸してもらえ。間違っても地球でやるなよ」

「え」

 

 界王神様が「聞いてない!」って顔してたけど、知~らない。知ーらない! 界王神様が嫌がっても悟空とセルなら界王神界でも瞬間移動ですぐ行けるもんね!

 もうこれ以上地球さんに負担をかけさせるわけにはいかんのだ。可哀想だから。

 

 

 

 さ~て! じゃあ私は帰ってうちでゆっくりくつろいで……。

 

 

 そう思っていたら、再びガシっと肩を掴まれた。

 

「もちろんあなたも来ますよね? ハーベストさん。実のところ真っ先にぶっ殺したいのはあなたなんですよ、ホッホッホ」

「」

 

 

 

 

 はーべすと は まわり こまれて しまった

 

 

 

 何故だかそんなテロップが頭の中で流れた気がした。

 

 ぎゃふん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうちょっとで終わり!
当初の予定ではこの番外編、復活のFは神と神に同じく短編。第六宇宙編では主人公は試合には不参加。観戦しながら試合に感想という名のやじを飛ばす形で5~6話かなと思っていたら思いがけず長くなってしまいました。年内で済むと思いきや年越ししてしまいましたが、もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。


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復活のF:その十七 激突! 界王神界

 幾多の惑星が浮かぶ空の下。純白の羽が紫色の血に染まり、宙に舞った。同時に緑色に黒の斑点が散らされた、肌とも装甲とも呼べるその一部が肉塊と共に地面に落ちる。

 

「がっ、は……!」

 

 紫色の血の主であるセルは、たった今打ち抜かれ穴の開いた腹に手を当て、苦し気に息を荒くしながらも……笑った。その笑みは恐怖に、痛みに狂った者が浮かべる錯乱の笑みではない。目の前に立つ黄金の狂気を前にして、それでもなお。……セルは歓喜による笑みを浮かべたのだ。

 

 この相手と戦えて、嬉しいのだと!!

 

「はは……。はーっはははははははははは!!!! いいぞ、いいぞフリーザよ! それでこそ宇宙の帝王と恐れられた君臨者の風格だ! 神にまで上り詰めたこの究極神セルが、こうして挑戦者の立場になれるとはな! この死を隣人とも感じられる腹の底からゾクゾクくる感覚は、根っこが甘っちょろい孫悟空や孫悟飯とでは味わえないものだ! 待った甲斐があった。感謝しよう!」

「這う這うの体で、ずいぶんと口が回りますねぇ」

「這う這うの体? そうでもないさ。はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………! ぶるぁッ!!」」

 

 セルが気合を込めた声を発するとともに、その細胞のことごとくが活性化した。するとたった今、腹に開いた風穴は瞬時に塞がれ回復する。セルは精神生命体となった今も、以前と変わらぬその性能を有していた。

 それを見た黄金の色彩を身に宿したフリーザ……ゴールデンフリーザは、興味深そうな表情を浮かべて顎に手を添える。

 

「ほう、なかなか多芸のようですね。ナメック星人のようなことまで出来るのですか」

「当然だ。私の体にはナメック星人……ピッコロの遺伝子も含まれているのだからな」

「ホッホッホ! なるほど、なるほど。……あなた、セルさんでしたか? なかなかお強いようですし、それなりにお上品です。どうです? 私の部下になる気はありませんか?」

「光栄だが結構だ。私は私の上に何者かをもってくる気は無い」

「破壊神ビルスでも?」

「当然だ。まあ、一応の礼儀は尽くしているが。……なにしろ、私は上品なのでね。フフフ。だが、それだけだ。……それに、そのうち破壊神をも越えてやろうと思っているのはお前も同じじゃないか? フリーザ」

「ホーッホッホッホ! 違いありませんねぇ! ……ですが、それを成すのは私のみ。あなたはここでリタイアですよ、セルさん」

「クックック。それはどうかな?」

 

 軽快に言葉を交わした後、しばし訪れる沈黙。そして鋭い視線が交差し…………次の瞬間爆発的に気が弾けた。

 

 

「キエェッ!!」

「ぶるぁぁッ!!」

 

 

 目にもとまらぬ神速の攻防が、始まった。

 

 その下方で倒れ伏すサイヤ人三人を、気にも留めぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少々遡る。

 

 セルがフリーザとの戦いを望み、そしてフリーザが怨敵たるサイヤ人……主に孫悟空とハーベストこと孫空梨と戦う事を望んだことで、セル、フリーザ、悟空、ベジータ、空梨はその決戦の場を界王神界に定めた。

 当然自宅を勝手に試合会場に選ばれた界王神が「ちょっと待ってください!」とストップをかけたが、それを気にする者がこのメンツでほぼ居ないのは明白である。悟空ですら「ちょっとだけだって! な? いいだろ界王神様! ブウと戦った時だって壊れなかったし、界王神界って丈夫なんだろ? オラ達おもいっきり戦いてぇんだ。なあ、頼むよ~」とお願いする始末。

 結局はブウの時世話になった事もあるため、界王神側が折れる結果となった。そしてその界王神自身は巻き添えをくわないため、現在キビト、老界王神と共に地球へ避難している。

 

 ちなみに途中まで一緒だったザマスは「ついでだから」とウイスが移動船の帰りに第十宇宙まで送っていき途中下車したため、すでにその場には居ない。移動船の面々は何気に二つ目の別宇宙に足を踏み入れるという稀有な体験をしたのだが、残念ながらそれを自覚している者はいなかった。

 

 

 そしてところ変わって界王神界。

 その場に居るのはフリーザ、セル、孫悟空、ベジータ、肩を落とした孫空梨。そして他の面々を地球に送った後、面白そうだからと見物に来たウイスとビルスだ。その手にはちゃっかりピザが入った箱が十数枚。それを羨ましそうに眺めつつ、まず先に口を開いたのは空梨だった。

 

「ところで、フリーザ様。戦う順番はセルからでよろしいのですよね?」

 

 先ほど真っ先にぶっ殺したいと宣言はされたが、順番は順番だと主張する空梨。それに対して先ほど笑顔の上にがっちり刻まれていた額の青筋は何処へやら……。何やら不気味なほどに朗らかな笑みを浮かべたフリーザが、人差し指を立ててこう言った。

 

「約束ですからね……と、言いたいところですが。ひとつ提案があります」

「ほう?」

 

 フリーザの言葉に反応したのはこの戦いを待ちに待っていたセル。しかし次の瞬間、ちょいちょいと指を動かしたフリーザに呼ばれて眉根を潜める。そしてそれは他の面々も同じだった。何しろフリーザがセルに抱く印象は、けしていいものと言えないはず。それなのに内緒話でもするかのように「来い」というジェスチャー……。朗らかな笑顔といい、不気味以外の何ものでもない。

 しかし呼ばれたセルは最初こそ訝しんだものの、興味を持ったのか躊躇せずにスタスタとフリーザに歩み寄った。そして何やらヒソヒソ話す事、数秒。

 

 フリーザとの話し合いから戻ってきたセルは、驚くべきことを口にした。

 

「私は今回フリーザにつこう」

「な!?」

「え、……え?」

「ん?」

 

 三者三様に反応を示すサイヤ人姉弟に、セルはやれやれとでも言わんばかりに首を振る。

 

「いつの間にか私の事まで仲間だとでも思っていたのか? 少々なれ合いすぎた感は否めないが、私にそんな意識など無いよ。まったく、おめでたい連中だ」

「いや、セルお前、悟飯ちゃんと戦いに来た時はちゃっかりそのまま晩御飯とかご馳走になってるくせに今さら……まあそれは今いいけど。お前フリーザ様と戦いたいって言ってたじゃん。戦うどころか何味方になってんだよ」

 

 突っ込みつつも、まさかのセルの発言に困惑を隠せないのは空梨だ。今のセルの実力がどれほどのものか正確に把握していない空梨だが、先に戦ってくれるならフリーザを弱らせ……あわよくばサクッと倒してくれるかもしれないという希望を抱いていたのだ。その希望が今、さらさらと砂になって消えてゆく。

 そんな空梨を、セルは心底馬鹿にしきった表情で鼻で笑った。

 

「味方? 冗談はよしてくれ。もちろんフリーザとも後で戦うさ。しかし、少々面白い事を言われたのでね。今回はそれにのっかったまでだ」

「貴様、フリーザに何を吹き込まれた?」

 

 ベジータが鋭く問うが、セルはそれをするりとかわす。

 

「それを言っては面白くないだろう? なんだ、ベジータ。もしかして怖いのか? 私とフリーザが組んで敵に回ることが」

「チッ、誰が。ならまとめてぶっ飛ばしてやる。もともとお前は気にくわなかったんだ」

「フハハハハ! よくぞ言った! それでこそサイヤ人の王だ!」

「ん~? よくわかんねぇけど、要するにオラ達とセルとフリーザが分かれて戦うって事か?」

「そういうことだ、孫悟空。つまりこれはお前達サイヤ人三人と、私とフリーザとで戦うチーム戦。なかなか面白い趣向だろう」

「でも、こっちは三人だぜ?」

「じゃ、じゃあ公平を期すために私は棄け「問題無いとも! 多勢に無勢と言うほどの力の差でもないさ」

「言ってくれるな」

「で、どうする?」

「ああ、いいぞ! へへっ、オメェと戦うのも久しぶりだなぁ、セル。オメェいっつも悟飯とこばっか行っちまうからよぉ。オメェがフリーザと戦っちまったら順番回ってくるかも心配だったし、まとめて相手できるならこっちは願ったりだ」

「フフン、流石は戦闘民族サイヤ人だ。期待に応えてくれて嬉しいよ。だがひとつ文句を言わせてもらうが、孫悟空。お前は最近ビルスのところにばかり行っていて、私が行くときにはなかなか居ないだろう。それを人のせいばかりにされても困る」

「あ、そっか。悪ィ悪ィ」

「何か止める間もなく恐ろしい事が決定した。ちょ、待った! 私は了承してない!!」

 

 何やら着々と話が進み、気づけばサイヤチームVSボスチームが成立しつつある。そのことに焦りを覚え、待ったをかける空梨であったが……彼女以外の中では、この突如勃発したチーム戦は最早決定事項であるらしい。すでに自分以外の四人は戦闘準備の構えをとっており、空梨はそれに対して途方にくれつつも自身もまた構えをとった。その瞳には隠し切れない動揺と共に、悟りにも似た諦めの色が浮かんでいる。同時に浮かべるには矛盾した二つの感情であるが、それこそが彼女が今まで歩んできた人生を表しているともいえた。もしこの場に別の人間が居たならば、空梨に「ご愁傷様」の一言でもかけていただろうか。

 

 

 しかし残念ながら、現在この戦いの観客席に座するのは人ならざる"神"だけである。

 

 

「なんか変な事になってきたねぇ」

 

 チーズで糸を引きながら実にうまそうにピザを頬張る破壊神ビルスが、美味による笑顔を一転。半眼で呆れた声色で言う。

 

 ちなみに余談ではあるが、ピザを持たないもう片方の手にはグラスに注がれた発泡性の黄金色の酒……ビールが握られている。ブルマからピザを手土産にもらった時に、丁度学会から帰って来た孫悟飯が「丁度良かった! いつも父さん達がお世話になっているので、よければこれをどうぞ。学会の後に連れていかれた飲み会で頂いた物なんですけど、最近僕はお酒をちょっと控えてるので」と言って土産に小洒落たグラスと共に渡してきたのだ。初めはその苦みに顔をしかめたが、ウイスが「それはキンキンに冷やして飲むと美味しいらしいですよ」と気を利かせてほほいっと魔法でグラスごと冷やしてからは、ビルスもその酒を気に入った。のど越しが癖になる上に、なによりピザによく合うのだ。

 そしてウイスもまた、上品に酒とピザをたしなみながら弟子たちの様子を見る。こちらは変なものでも見るようなビルスと違って、とても楽しそうな表情だ。

 

「フフッ、でも面白いじゃありませんか。両チーム、どの程度連携が出来るのか楽しみです」

「ウイス。お前、それ本気で言ってるのか? あいつらにチームワークが出来るとでも? 個人プレイの塊だぞ」

「ほほっ。そうですねぇ。特に悟空さんとベジータさんは、組んだら倒せるとしても絶対協力しないでしょう。でも、これもまた良い経験ですよ」

「経験ねぇ……」

 

 喋りながらも、はぐっと先ほどとは別の味のピッツァにかぶりつくビルス。「お、今度は辛いな。ビールによく合う」などと思っているあたり、どうやらこの神にとっては戦いの様相もご馳走の前には霞むらしい。ひそかにウイスが最近のその暴食っぷりに自身の事は棚に上げて「そろそろビルス様もお食事を控えていただくか運動させないとシャンパ様のように……」と心配していたりするが、ビルスの食事がしばらくダイエット食になるか否かはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 そして急きょセルを勧誘したフリーザであったが、思いがけず自身の思惑が上手く行った事で現在なかなか上機嫌だった。もしうまくいかなかったとしても、それはそれで構わなかったのだが。

 フリーザがセルに何を言ったのかといえば、それは実に単純である。

 

『戦う前にまず、猿共の間抜け面を見たくはありませんか? きっとあなた、そういうのお好きでしょう?』

 

 

 

 

 

「だぁっ!」

「はぁッ!!」

「フッ」

 

 最初からスーパーサイヤ人ブルーへと変化し、全力で向かってくる孫悟空とベジータ。それをこちらも変身し、黄金色になったフリーザが余裕の笑みでもって避ける。そこに遠方にて待機していた空梨の気弾が叩き込まれるが、セルによって防がれた。

 

 第六宇宙との試合中、フリーザはとにかく孫悟空とベジータの動きのパターンを観察し、学習していた。動きの癖と言うものはたとえ変身してスピードが上がったとしても消えるものでは無いので、ある程度覚えてしまい、そしてこちらのスピードも上がっていれば避ける事はさして難しくないのだ。しかも全力で戦った三人に対して、フリーザはほとんどその動きを彼らに披露していない。よって、相手がフリーザの動きに慣れるまでは時間がかかる。これは第六宇宙との試合の中でフリーザが得たアドバンテージである。

 そしてそれを十全に生かしつつ、攻防の中でフリーザはちらりとセルに目配せする。それを受けたセルは口の端を持ち上げつつ頷き、密かに繰り出す技の中に"誘導"を混ぜ始めた。

 

 しかし両者とも共通して、避けはするし防ぎもするが一向に攻撃を受ける事も、仕掛けてくることもしない。それにいい加減じれて、真っ先に怒鳴り声をあげたのはベジータだ。

 

「おい、やる気はあるのか貴様ら!! さっきからちょこまか逃げやがって! なんだ? 攻撃を受けるのが怖くて、体力切れでも狙っているのか?」

 

 攻撃しながらもよく通る声で挑発するベジータだったが、フリーザはそれに乗る事無く笑みを深めるばかり。

 と、その時である。

 

「あっつぅぅぅぅッ!?」

 

 今まで遠方で援護にばかり徹していた空梨が、火中から飛び出た栗のごとく戦いの中心地に飛び出てきた。見れば彼女のお尻には火がついている。そしてそれを見てせせら笑っているのは、指先に炎をともしたセルだ。

 

「はーっはははははは! なかなか愉快な醜態だったぞ、孫空梨。どうだ? 先ほど君の宴会げ……パイロキネシスを見て思いついたのだが、エネルギー弾と魔術の合わせ技だ。なかなか愉快だろう?」

「やかましいわッッ!! ばっかお前、焼けてお尻部分に穴開いちゃっただろ!! 弁償しろ、弁償! つーかどんなに派手な攻撃くらっても下半身の服は無事、ふーしぎー! な、世界の法則に真っ向から喧嘩売ってんのかテメェ!!」

「何を言っているのかよくわからんな」

「クソがこれだから全裸ファイトが標準な奴は!!」

 

 空梨はドスの利いた声でセルを罵倒するが、焼け焦げた尻尾の付け根のお尻部分を押さえながらでは実に間抜けな有様である。しかしそんな事を気にも留めず、フリーザは一か所に集まったサイヤ人三人に呼びかけた。

 

「どうです? どうせなら、三人でいっぺんにかかって来てもよいのですよ。そうですねぇ……。私と戦いたいのでしたら、まず初めに私に攻撃を当てた方から、というのはどうでしょうか。最低限攻撃を当てるくらいしてもらわないと、私と戦う資格は差し上げられませんよ」

「チィッ、言ってくれるな!」

「へへっ、確かに今のままじゃちっと情けねぇか。それにしても、やっぱりオメェはスゲェ奴だよフリーザ。スーパーサイヤ人ブルーのオラ達の攻撃が、一発も当たらないなんてな」

「あなたに褒められたところで、嬉しくともなんともありませんがね」

「おいおい、私の事は無視か?」

「いや、セルはなんか姉ちゃんで遊んでたから……」

「おいちょっと待てよ。その認識は聞捨てならない」

 

 やいのやいのとしゃべくる様子にはいささか緊張感がないが、この場でそれぞれの闘気を直に感じる事が出来たなら、緊張感が無いなどと言えなくなるだろう。それぞれが高めた気が、ビリビリと界王神界の神気をも震わせている。限界まで引き絞られた緊張の糸が切られるのは、最早時間の問題。

 

 その時はすぐにやってきた。

 

「さあ、来なさい!」

 

 腕を広げたフリーザの掛け声とともに、真っ先に飛び出したのは悟空。そして一瞬出遅れたことに歯噛みしたベジータがその後に続く。更に丁度その中間地に居た空梨が慌ててそこから逃げ出そうと試みたが、逃げた先にはかめはめ波の構えをとるセルが待ち構えていた。これには尻を押さえたままでは戦えぬと、たまらず逃げの一手をとる空梨だったが…………そのことで結果的に青、黄金、赤、緑の線が超スピードで行き交う混戦の様相が完成される。

 

 

 

 そして、その時は訪れた。

 

 

 

「だりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「であああああああああ!!」

「こっちくんな虫がぁぁぁぁああああ!! せめて尻の穴を隠させろぉぉぉぉ!!」

 

 フリーザに拳を当てんと悟空が、ベジータが。しつこく追ってくるセルから逃れようと空梨が。スーパーサイヤ人の可能性の先……神の気を纏ったブルーとゴッドの姿で、片や標的に攻撃を当てんとし、片や敵から逃れようとし。それぞれ出すのはぶつかった相手を粉みじんにするほどの威力を秘めた超スピード。

 しかしそれは悟空とベジータの攻撃をフリーザが絶妙のタイミングで上空に避ける事で、まず青二つが。そして実に嫌そうにセルからゴッド状態でガン逃げを決め込んでいた空梨が誘導される事で、赤が。丁度三方向から中心に向けて、勢いを殺すことも出来ずに突っ込んでゆく。

 

 

 

 神の気を纏った三人のスピードは正しく神速。……止まるには、気づくのがあまりにも遅すぎた。

 

 

 

「「「い゛!」」」

 

 

 

 とても人体が出したとは思えない音がした後、神速で額同志をぶつけたサイヤ人三人は声もなく地面に落ちていった。そしてそれを見て高笑いする者が二人。

 

「ホーッホホホホホホホホホ!! やはりお馬鹿さんですねぇ! いや、実に傑作ですよ! 惑星ベジータの爆発を見た時以来ですよ、こんなに愉快な見世物は!」

「ハハハハハハハハハハハハ!! ぶふっ、プッ、く、ククククク。まさかこうもうまくいくとはなぁ。どうだ、気は晴れたか? フリーザ」

 

 笑いを堪えつつ問いかけるセルに、フリーザは実に上機嫌な様子で答えた。

 

「ええ、まあそれなりに。正面から戦ってなぶり殺してやってもよかったんですけどねぇ……。それでは恐怖に歪んだ顔を見られたとしても、今みたいな間抜け面は拝めません。このフリーザ様を散々茶番につきあわせたんです。これくらい、あってしかるべきの罰ですよ」

 

 そう。フリーザの目的は戦いで発散するよりも何よりもまず初めに、これまでにたまった鬱憤を晴らすためサイヤ人達を罠にはめてその間抜け面を拝むこと。そして結果は、宇宙に影響を及ぼすほどのパワー同士でダメージを受け合った三人の実に阿呆な有様だ。が、これは言うだけなら簡単だが、戦いの達人たる三人を相手にピンポイントで誘導、そしてタイミングよく攻撃を避けるのは至難の業。それを成してしまうあたり、個々の実力はもちろんセルとフリーザの連携は急造コンビにしてはなかなか良いと言えた。

 

 しかし、その急造コンビもここまでだ。

 

「ふふんっ、しかしそれだけではないだろう?」

「………………どういう意味です?」

 

 意味深に見つめてくる、少し前までの協力者を前にフリーザは目を細めながらその真意を問う。セルはそれに対して舞台役者のように大仰な仕草と芝居じみた台詞でもって返した。

 

「気づいていないとでも思ったのか? フリーザ。お前は、孫悟空達の戦いを見る事でその動きを「学習」し、戦う前から戦い方を「イメージ」し、今の攻防で「適応」した。それは天才のお前にとって、更なる上のステージに上がるための材料だったのだろう。一人では適応する前に多少なりともダメージを受けるだろうから、最初に戦うと宣言した私を利用した、といったところか。奴らの間抜け面を見たかったというのも、本音だろうが。……第六宇宙との試合前のお前と、今のお前。……どちらが強いのかは明白。お前はサイヤ人達の新たな力を見て、確実にそれに勝つためにあのヒットと同じく「成長」という選択肢を選んだのだ」

「ペラペラとよく喋る方ですねぇ……」

「なんとでも」

「それが分かっていて、あなたはそれに乗ってきたのですか?」

「ああ、そうだとも! 私は強い相手と戦いたいんだ。目の前の敵がさらに強くなってから戦ってくれるというのなら、これほど喜ばしい事はあるまい」

「ホーッホッホ! なるほど。たしか、あなたは色んな細胞で出来ていると言っていましたね。ええ、ええ。間違いなくあなたには、あの好戦的で馬鹿なお猿さん達の単細胞が含まれているようです!」

「今はそれを褒め言葉として受け取っておこう! だが、ごちゃごちゃ言うのはここまでだ。あとは思う存分、心行くまで戦おうじゃないか!!」

「ええ。手伝ってくださったお礼に、たっぷりなぶってから殺してさしあげますよ!」

「はっはっは! それは光栄だが、流石に私の事を舐め過ぎだ。そう簡単に勝てる相手だと思われているのかね?」

「フフッ、これは失礼。ですが私にはこの後あの馬鹿共を殺す作業も残っているのでね。……舐めているのではなく、あなたが言うように奴らに確実に勝つためにあなたには、私が更に強くなるための練習相手になってもらうつもりですよ。あの、ヒットでしたか? あんな殺し屋風情に出来たのです。この私に同じことが出来ないはずありません」

「戦いの中での成長、か。しかしそれは私も同じこと。お前にそれを成すだけのポテンシャルがあることは理解しているが、一つ忘れていないか? ……この私には、そんなお前の細胞も含まれているのだ」

「お猿さんの細胞が混じった劣化種と一緒にされたくはありませんね」

「言ってくれる。……話し過ぎたな。あとは、拳で語らおうじゃないか。帝王よ!」

「いいでしょう! かかって来なさい!」

 

 対峙する両者から覇気がほとばしり、再び界王神界の空気を震わせ、ぶつかり合う力と力。

 

 その激闘を頭上で感じつつ、ほぼ同等の力で正面から衝突事故をおこし……頭からだくだくと血を流す悟空、ベジータ、ハーベスト(ブルーとゴッド状態でぶつかったため、他よりやや重症。なお現在半ケツ)は、キビトに連れられて界王神界にやってきた悟飯にそっと回収されていった。

 

 

 

 

 そして、その数十分後。

 

 界王神界は消滅した。

 

 

 

 

 




地球「助かった」


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復活のF:終 それはいつかの夢まぼろし

∞月ζ日

 

 

 昨日はマジ死ぬかと思った。しかもかなり間抜けな死因で。

 こちとら一回死んだらそこで終わりだってのに(いやそれが普通なんだけど)私は何をやっているのかと、自分に突っ込まずにはいられない。

 

 

 第六宇宙との試合の後、界王神界を借りてVSフリーザ様になったわけだけど、よりにもよってセルの野郎がフリーザ様サイドにつきやがった。あのクソ虫が。

 しかも悟空とベジータがそれにOK出したもんだから、そのままチーム戦みたいになる有様。悟空とベジータに関しては「お前らどうせチームプレイとか無理だろ!」とは思ってたけど、まさか誘導されて三人頭ぶつけて自爆するとは思ってなかったわ……。セルとフリーザ様の誘導が神がかっていたのを抜きに考えても、ただただひたすらに私等全員馬鹿である。

 しかも私は半ケツ状態とか、あのセクハラセミ野郎やはり絶許。今度悟空にコナッツ星に連れてってもらって、タピオンにちくっておこう。真面目なタピオンならきっとあのセミ野郎に本気説教かましてくれるはず! 

 

 ……それにしても、半ケツを見られていたってのもダメージデカい。老界王神様の水晶玉で地球に戦いの様子が中継されていたと知った時は思わずギャリック砲で地面に穴掘って小一時間引きこもっちゃったぜ。そして穴をあけた場所がブルマんちだったからブルマに超怒られたんだぜ。……まあそのお陰でピンチを知った悟飯ちゃんが、キビトさんの移動能力で界王神界まで駆けつけてくれて、三人そろって気絶した私たちを回収してくれたからこそ命を拾ったんだけども。なんたって阿呆みたいな事故だったけど、そのダメージは馬鹿に出来なかったからな……。

 もしフリーザ様がセルとの戦いを挟まずに私たちにとどめを刺しにきていたらそこで私たちのリアルライフはゼロになっていたわけだし、更に言うなら結果的にフリーザ様とセルの戦いで界王神界は消滅してしまったので、宇宙空間で生きられない私たちはこれでもまた死んでいた。しばらく甥っ子に頭が上がりそうにない。

 

 まあそうは言っても界王神界はウイス様の時間を巻き戻す魔法で元に戻ったので、たとえ一回死んだとしてもそれによって生き永らえたかもしれないが。けど出来ればそんな博打はしたくない。だから界王神界が破壊される前に助けてもらって本当に良かった……。学会帰りだったのにすまん悟飯ちゃん。

 

 

 

 

 

 それにしても時間の巻き戻しか。流石破壊神の付き人。扱う能力が幅広い。

 

 そういや映画復活のFではフリーザ様が地球を破壊して、それをウイス様が元に戻してくれていたっけ。いやぁ、時間制限あるにしても便利だなウイス様。…………いいな、時間の巻き戻し。三分くらいが限界だって言ってたけど、そしたらスイーツを三分以内ならいくら食べても巻き戻せばゼロカロリーで、また同じものを食べられる無限ループが完成する。何それウラヤマ。

 

 ちなみに今回のサービスについては「流石に神の住居を破壊されてしまうのは困りますし、界王神様がお可哀想ですからね」とのことらしい。現在復活しているとはいえ界王様と界王星の事があったからか、それを聞いて悟空がちょっと気まずそうにしていた。そりゃ、住居どころか住人ごと巻き込んでるからな。しかもそのせいで界王様が死んだ瞬間にボージャック達の封印も解けていたわけだし、一歩間違えれば宇宙に大迷惑がかかるところだった。幸いちょうどその頃宇宙旅行してたセルが倒したから大事には至らなかったが。

 

 それと界王神界が消滅した直後の界王神様の様子であるが、目も当てられないほど憔悴しきった様子で泡ふいて気絶したらしい。……いやゴメン。本当にごめん界王神様。今度何かご馳走します。

 

 

 

 

 

 ちなみにセルとフリーザ様の戦いであるが、時間の巻き戻し後に「フリーザと戦うにしろ戦わないにしろ面倒くさく引っ掻き回すならお前の相手は僕だ!!」とキレた悟飯ちゃんが撒き戻し後に再び界王神界へ赴いてセルと戦い始め、フリーザ様は仙豆で復活した悟空とベジータが改めて相手する形となった。

 

 でもって悟空たちと同じく仙豆で回復した私なのだが、戦いに加わらず地球にて戦いを観戦することに。それが何故かって、界王神界にドナドナされる時は「あまり遅くなるなよ」とか言い残して薄情にも子供たちを引率して先に帰ったラディッツが強引に引き留めてくれたからである。凄く怒られた。どうやら私が阿呆な原因でとはいえ死にかけたことを心配してくれたらしい。

 嬉しかったけど「なら界王神界に行く前に引き留めてくれよ」と思った私は悪くないよな?

 

 しかもラディッツ、セルとの戦いという経験を得て明らかにパワーアップしちゃったフリーザ様(持久力凄い)相手に苦戦する悟空とベジータを見てイライラが限界突破したのか、キビトさんに界王神界に連れてけと詰め寄ってフリーザ様戦に参加しよった。文句を言いたいところが無いわけでは無いが、もうこれで実質チャラだよね。妻の代わりに戦ってくれる夫の鏡である。

 といっても神の領域に到達していないラディッツが現在のフリーザ様に真っ向から立ち向かって勝つのは難しかったから、ヒット&アウェイで地味に体力を削る作戦に出ていた。なんというか、その戦い方が未来空龍がセルと戦った時に似ていてあいつも息子から学んでいたんだなと、ちょっと感動してしまった。しかも結果としては、それのお陰で最終的に持久力お化けだったフリーザ様の体力が尽きて、悟空が止めを刺すことが出来てめでたしめでたしというね。グッバイフリーザ様! もう復活してこないで、美しい景観、楽しい音楽、愉快な踊り、温かい寝床がそろった地獄でゆっくりご静養くださいね!

 

 

 

 

 …………さすがにもう二回復活したんだから、三度目の正直でもうリターンズしてくることはないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 それとナッパたちに止められてフリーザ様に加勢できなかったギニュー隊長とジースくんであるが、再びフリーザ様がご臨終されたと聞いてしょんぼりしていた。「パワーアップしてもやはり駄目でしたか……。おいたわしや、フリーザ様」「やはり復活させても恥をかかせるだけになってしまいそうですし、以前みたいに我々はフリーザ様を弔いながら新しい道を進みましょう」と会話していたので、まあわざわざフリーザ様を復活させるようなことはないだろう。多分納得していない部分は多いんだろうけど、そこはナッパたちが上手く説得してくれて、隊長達もそれを飲み込んでくれたのだと思う。忠誠心も大事だろうが、今の仲間をないがしろにする彼らでもないはずだからな。出来れば今の二人と敵対するのは嫌だし、今はそれに感謝しておこう。

 ……でもギニュー隊長達の忠誠心は無くなっていないようだし、何気に彼らの出会いのエピソードが気になるな。今度聞いてみようか。

 

 

 ………………ギニュー隊長達、いい機会だから前特戦隊メンバーとフリーザ様のお墓を作ろうって言ってたけど、大丈夫かな。銅像のデザインとか描いてたけど、大丈夫かな。主に墓地の景観的な問題で。

 特にフリーザ様はゴールデン含む全形態verを作ろうって言ってたけど、あのキンキラキンが墓地にそびえ立つことになるのか……。

 

 

 今度ユニークな墓石を受け入れてくれる墓地を探しておいて、紹介してあげようと思う。

 

 

 

 

 でも何はともあれ終わった終わった! さーて、昨日はなかなか寝付けなくて寝不足だし、今日こそゆっくり寝るぞ。

 

 明日はストレス解消のために、ブウ子誘ってスイーツバイキングでも行こうかな。

 うん、そうしよう。

 

 

 さて、今日の日記はここまで。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、何もない世界だった。

 

 しかしふいに、そこにぽんっと何かが現れる。逆三角錐に棒が刺さったような、まるで独楽(コマ)のような形の建造物。しかもそれだけに留まらず、虚無の支配する静寂の空間を押しのけるようにぽんっ、ぽんっと新しい独楽が全部で九もの数が現れた。そしてしばらくすると、そこから賑やかな音楽や言の葉の喧騒が紡ぎ出される。ざわざわっ、がやがやと賑やかに。

 

 そして中央に位置する闘技場のような作りの独楽以外には、色とりどりの屋台や天幕、絢爛かつ華やかな装飾が躍っている。その下に居るのは普通の人間、獣人、マシン、界王神、破壊神……などなど。様々な見た目をした者たちだ。

 その中には見知った知人の他に、見た事も無いような相手も含まれていた。

 

 

 

 

 とあるひときわ華やかで美しい装飾の独楽では。

 

 ピンク色を基調とした煌びやかな舞台に立つ三人の女性。その傍らには美貌の破壊神が立っており、女性三人が別の姿に変身して決めポーズをとると惜しみない賞賛を送った。

 

『みんな、見ている? これが全宇宙対抗フィスティバルの会場ですわ!』

『メイン競技である格闘試合が一番ポイント高いけど、総合ポイントで一番になった宇宙にはスーパードラゴンボールを使う権利が与えられるんだ!』

『もちろん格闘試合も負けないけど、この機会に私たち第二宇宙の美しさと愛のパワーを知らしめちゃうよ! 目指すはナンバーワン! ヤッチャイナ~!』

『会場に来れなかったみんなも、映像を見ながら楽しんでね! さあ、フィスティバルが始まる前にみんなの心を一つにしましょう! せ~のっ、ラブ!』

『ラブ!』

 

 

 

 

 とある機械的な雰囲気の独楽では。

 

 何か手伝いをしているのか、各会場をせわしなく行き来しているピラフ一味。生身で動くのは大変だからか、その体は現在かつてピラフが開発した三体のマシンに乗っている。そしてそれを見て目を輝かせる者が居た。

 

『ほほう! 君、もしかしてそれは合体するのではないかね?』

『ほ? お、おう! よく分かったではないか! この改良に改良を重ねたピラフマシン一号二号三号はだなぁ、三体合体だけでも五つのバージョンを備えているのだ! それに加えて二体での合体も可能! その変身形態は用途に応じて多岐にわたるスペシャルマシーンよ!』

『なるほど、すばらしい! 物自体は我々の技術に比べてまだまだつたないものだが、他の宇宙にも君のような知的でユニークな発想の持ち主が居ることが知れて嬉しいよ! 合体のロマン……わかるぞ!』

『ええ、まったくです。まだまだ私たちのテクノロジーにはほど遠い発展途上の技術ですが、その知的好奇心を忘れないでくださいね』

『ほ、褒められてるのか貶されてるのか分かりませんねピラフ様……』

 

 

 

 

 とある黄色を基調とした、穴の開いたチーズを思わせる入り組んだ作りの独楽では。

 

『おっと、これは失礼。あれ?』

『いえいえ、こちらこそ。……あれ?』

『占いババ様。スケさんが誰かにぶつかるのはいつものことですけど、その相手も見えないんですが……』

『相手も透明なんじゃろ』

 

 宮殿の戦士たちを引き連れて物見遊山に出歩いていたらしい占いババが、何もない所から声がする空間を見て奇妙な顔をしたアックマンに答える。そして何も無いように見える場所からは、二人分の声がしていた。

 

『おお、あなたも透明で?』

『君もか。なんか親しみ感じちゃうな~。ねえ、聞いていい? こうして見える人たちの中に紛れてるとたまに疎外感とか感じない?』

『あ、わかる~』

『見えん……』

『オメーもだよ虫人間』

 

 

 

 

 

 とある食べ物を売り出す屋台が多い独楽では。

 

 最近復活したらしい"地球"という星の料理に舌鼓をうっていた三人の男女が、大量の皿を抱えながら歩いていた。そのうち一人は以前第六宇宙の選手として出てきたサイヤ人、キャベである。

 

『おお、ウメェなこれ! おいケール! 第七宇宙のブースにも行って、こっちの地球の屋台の食いもんと比べてみようぜ!』

『はい、(あね)さん!』

『あ、それなら僕も行きます! 師匠にご挨拶をしないと!』

 

 一方で美しく各所に飾り付けられた植物をしげしげと見ていたネイルが、別のナメック星人に話しかける。

 

『ほう、こちらの宇宙のアジッサは色違いなのだな。これも美しい。よければ苗を持って帰りたいのだが、いいだろうか。故郷へ帰る時の手土産と、そこを離れ幼いながら立派に役目を努めている我が同胞の慰みとしたいのだ』

『ああ、構わぬ。よければこちらも貰いたいのだが……』

『もちろんだ。では、後で一緒に第七宇宙のブースへ行こう』

 

 

 

 

 

 

 とある妙に派手派手しく、いかにも「見栄を張りました」と言わんばかりの独楽では。

 

 エシャロット、マーロン、叶恵、そしてエシャロットに抱かれた生まれたばかりのブラというチビッ子女の子チームが三人の人狼にまとわりついていた。

 

『わあ! 可愛い! 尻尾だ尻尾だ~!』

『きゃー! ふっかふかー!』

『わんわん……』

『キャッキャ!』

『おいガキども、じゃれ付くな! 俺達は誇り高きトリオ・デ・デンジャーズだぞ!』

『え、でもあそこのおじちゃんが遊んでもらって来いって言ってたよ?』

『か、界王神様!?』

『お、押し付けられた……』

『おいおい! 俺の体には毒があるんだ。触ると危ないぜ!? あ、あっちの猫のお姉さんとうさぎのお姉さんに遊んでもらってこい!』

『ホントだ! 猫さんにうさぎさん! 第九宇宙さんは動物さんがいっぱいなのね! あ、そうだ! あのねあのね、エシャも動物さんに変身出来るのよ! この間、やっとお母さんに教えてもらったんだ~。ねえねえ、変身したら遊んでくれる?』

 

 いい事を思いついたとばかりに、ブラをマーロンに預けてから手のひらに光球を生み出すエシャロット。そしてそれを、その場で弾けさせた。するとエシャロットと叶恵の体が濃い体毛に覆われ始め、やがてその身は巨体な猿へと姿を変える。

 

『』

『ほら見て見て! おっきいでしょ~!』

『エシャロットちゃんと叶恵ちゃんすご~い! おっきなお猿さんだ! ねえ、肩にのっていい?』

『いいよー! 狼さんも乗る?』

『い、いや。遠慮しておく……』

 

 

 

 

 

 

 とある筋骨隆々とした巨大な銅像が飾られた、筋トレ器具が目立つ独楽では。

 

 

 衣服が汚れないように以前第七宇宙の親友から贈られた割烹着なるものを着込んだザマスが、黙々と溢れる筋トレ器具を片付け、箒で場所を清め、シンプルながら洗練されたデザインのテーブルと椅子を配置してゆく。それに対して筋トレ器具を満足そうに眺めていたピンク色の象が悲鳴を上げた。

 

『ザマスよ、何故器具を片付けるのじゃ!? せっかく集めたのに!』

『多すぎます。お持て成し用の休憩スペースも作らなければ』

『むう……一理あるが』

『あむあむ……あら、美味しい。このお茶菓子はどこで手に入れたのですか、ゴワス様?』

『ホッホ。お気に召しましたかな? クス殿。いやなに。第七宇宙の茶菓子にいたく感動いたしましてな。レシピをもらって、わたしが作ったのですよ』

『まあ、素晴らしいですねゴワス様! あ、ラシーム様も食べますか?』

『お前は引退したかと思えば神tubeに菓子作りにとのんびり過ごしおって……! ずるいぞ! ……それはそうと、もらおう』

『結局食べるのですね……。あ、そうそう。私はそろそろ格闘試合神の部の準備がありますので……』

『ああ。こちらは任せておきなさい』

『お前は第十宇宙の新しい界王神なのじゃ! 譲ってやったわしの威厳にも関わるゆえ、負けるでないぞ!』

 

 激励に対して、ザマスは不敵に笑った。

 

『もちろん。第十宇宙"神"代表として、破壊神の方々にも負けるつもりはありませんよ』

 

 

 

 

 

 とある近代的で洗練された雰囲気に整えられた独楽では。

 

 揃いの衣装を着た面々に、ギニューが興味深そうに話しかける。すると白いひげをたくわえた巨漢がそれに答えた。

 

『ほう! なかなか美しいデザインのコスチュームですな。赤、黒、白のコントラストが素晴らしい!』

『いやいや、あなた方の決めポーズもなかなか斬新でいいものだった』

 

 一方で、悟天とトランクスがコスチュームを着た内の一人をまじまじと凝視する。その傍らにはイカ焼きとホタテとハマグリの海鮮焼きと牛タン串焼きを両手に持ったビルスの姿。

 

『あれー? もしかしてビルス様の親戚?』

『あ、ホントだ似てる!』

『おい、僕も薄々思っていたが一緒にするな。ちょっと色とか似てるだけだろ。僕の方がカッコいい』

『俺何もしてないのに貶された気分なんだが……』

『ビルス殿。いきなり食べ物自慢をしに来たと思ったら、大事なうちの選手を貶さないでいただきたい』

『フンッ。似てるそっちが悪いんだ』

『まあ理不尽。でもこのお料理はとっても美味しいでますですね。カイ様とベルモット様もいかがでますですか?』

 

 

 

 

 そしてちょっと遠くのある場所で。

 

『我々は見学ですか……』

『今回は人間レベルの低い宇宙が、レベル向上のために交流する意味も含めた催しですので……。あの、そう落ち込まずとも……』

『落ち込んでなどいません。ただ全王様に我が宇宙のレベルの高さをじかに見てもらいたかっただけです』

『落ち込んでるじゃねーか』

『うるさいですよ』

 

 

 

 

 

 人が、出会いが、戦いが。様々な場面へ移り変わるその光景は、まるでひっくり返したおもちゃ箱。

 

 その中で、無邪気な子供のような声が鮮明に響く。

 

 

 

 

 

 

 

『楽しかったから、またやろうね。ばいちゃ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそこで場面は一転。視界は黒に染められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中、何者かの足音が聞こえる。一歩一歩近づいてきたその音はふいに止まった。

 

 次の瞬間、空間を満たすのは黄金の輝き!!

 

 

『私の復讐はまだ終わっていませんよ!! さあ見なさい! 神のパワーをも手に入れた、このフリーザによる無限なる力を!!』

 

 

 黄金の輝きはその眩さの中で、次第に薄赤い色を帯びる。そして光が収束したその先に……彼は居た。

 

 

 

 

 

 

『私は何度でも蘇る』

 

 

 

 

 

 

 劇場版ドラゴンボール超

 復活のF ~unlimited force(アンリミテッド フォース) with ゴールデンフリーザrosegold ver~

 

 

 

 悪の華が咲き誇り、新たな邪神が誕生す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや何処までが夢!?」

 

 がばっとベッドから飛び起きた空梨は、たった今夢で見た一連の映像のインパクトによって勢い余ってベットから転がり落ちて頭を打った。そしてそのまま、うなされた表情のままに再び意識は夢の中。翌日の日記に「せっかく復活のF終わったと思ったら変な夢見た」と書かれることになるのだが、頭を打った影響なのかその内容は覚えていない様子。それは不幸なのか、それとも幸せだったのか。しかし夢の最後で見た映画の予告っぽいBGM付きのフリーザの様子やロゴちっくな映像だけは覚えていたらしく、彼女はしばらく電子機器のローズゴールドカラーを見るたびにびくっと肩を跳ねさせることとなる。

 

 

 

 

 さてはて、孫空梨が見た夢は予知夢だったのか、それともただの夢まぼろしか。

 

 

 それはまた何処か、別のお話で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある姉サイヤ人の日記

 復活のF(第六宇宙対抗試合)(宇宙サバイバル)編 完!

 

 

 

 

 

 




長くなってしまった復活のF編にお付き合いいただきありがとうございます。お粗末様でした!
ちなみに夢オチは宇宙サバイバル(仮)の部分から。前半の日記までは現実です。

本編には関係無いですが、他宇宙界王神様達の中で一番好きなのは第九宇宙のロウだったりします。


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ドラゴンボール超1:IF世界からの来訪者

 魔人ブウとの戦いから早くも数年が経った。

 

 相変わらず日々は忙しく、子育てだのビルス様だの第六宇宙との格闘技大会だの……あれ、終わらないな? あと十数年もすれば還暦だっていうのに色々事件が終わらないな!? とか思いながらも、毎日それなりに平和で楽しく過ごしている。

 

 そういえばビルス様は居るし、フリーザ様は復活するし、第六宇宙との格闘技大会はあるしで、もし私が知るドラゴンボールの物語で言う「超」の世界ならこの後に未来トランクス編が来るはず。……だが、これに関してはまったく心配する必要が無くなってしまったのだ。以前未来の魔人ブウについて相談しに来たトランクスと空龍とブロリー(こいつはあるものをパラガスに押し付けようと来ただけだが)に再度注意を促し、もし悟空に似た変な奴が現れたらすぐに知らせるようにと念押ししておいたがこの世界でそれは無駄な心配に終わった。実に嬉しい無駄である。

 

 

 

 何故かと言えば、これが界王神様のおかげだったりする。

 

 

 

 時間は少し遡り、悟空とベジータがビルス様のもとで修行するようになってからしばらく後。ナメック星のドラゴンボールで元の2人に分かれた界王神様とキビトさんが家に来た。どうやら界王神界で生まれた叶恵の事が気になっていたらしく、元の姿に戻ったのを機に顔を見にきたとのこと。

 4歳になった叶恵は驚くべきことに赤ん坊のころに会ったきりの上に以前とは姿の違う界王神様を覚えていた。やはり少し浮世離れしたところのある子だと思ったが、とりあえず元気に育ってくれればいいのでその辺は特に気にしていない。出会いがしらに「シンおじちゃま!」と呼ばれた界王神様は最初面食らっていたが、その後叶恵を抱いてあやしている姿は嬉しそうで妙に様になっていた。……神様だから子供が出来るかは知らないけど、もし父親になったら絶対子煩悩だなあの人。

 で、ついでだからとこの時相談したのだ。どうせビルス様には知られているしと、自分でも驚くほどあっさり原作知識だの私の魂の身元だの説明してから「別の宇宙の界王神の気を持った者が暴れる未来があるんですけど、今から何か対策出来ませんかね?」と。

 ウイス様やビルス様と違って「な、なんだってー!?」といった感じのいいリアクションで驚いてくれた界王神様とキビトさんだったが(老界王神様はビルス様たちと同じ程度の反応だった)、話の内容は真剣に受け止めてくれた。たかだか人間一人の戯言をちゃんと受け止めてくれるんだから、良い神様達である。

 

 そして多分原作よりも前倒して第10宇宙の件の界王神……正確には界王神見習いのザマスに会いに行くこととなったのだ。

 

 私の覚えている知識が大分ぼやけている上に、多分超は途中までしか物語を見ていなかった。だからザマスの気を持つ悟空ブラック……未来トランクスたちの世界をめちゃくちゃにするその男が、ザマスの仲間であること以外はどういう関係か詳しくは知らない。だけど未来と過去のダブルセルだのパラレルワールドだのと、わりと何でもありなこの世界である。ドラゴンボールという反則技もまかり通り、スーパードラゴンボールなんていう上位互換の代物まで出てきたのだ。分からないことは多いが、とりあえずザマス本人が元凶だろう。未来ザマスと過去ザマスでどっちかが悟空に変身していても驚かんぞ。

 そういうわけで、相談した流れで早々にザマス本人の様子を見てどうにか対処できないかと界王神様に協力をお願いしたわけだ。

 

 で、私はキビトさんの陰に隠れて出来るだけ空気になりつつ、見学という名の観察。界王神様は「界王神とはいえ、私はまだ若輩の身。ゴワス様のような経験豊富な別の宇宙の界王神を見習えと、ご先祖様に怒られてしまいまして……。よければお話を聞かせていただけないでしょうか」といったふうに、第10宇宙へ来る口実を作ってくれた。そして話を聞く過程でザマスの話題に持って行ってくれた界王神様マジ有能。

 

 そして結果は…………まあ分かっちゃいたけど黒ですよねと。だいぶこじらせてますよねと。

 思想がもうなんつーか……。色々端折ってライトな言い方をすると「なんで争いばっかする馬鹿な人間見守んなきゃいけねーんだよ!! 人間とかいう害虫居ない方が宇宙のためだろ!」って感じで……。ああ、これは闇落ちルートですわと。しかもあいつ、自分の話題になって質問されたから渋々答えてたけど……絶対自分の考えが正しいって思ってるんだろうなって雰囲気がバシバシ伝わって来た。だいぶオブラートに包んだ物言いだったけど、多分色々フラストレーションが溜まっていたのだろう。途中から妙に饒舌になっていたし。

 

 さて、これをどうしたもんか。そんな風に頭を痛めていたのだけど、なんとここで界王神様がザマスに熱く反論したのである。

 

 

 

「ザマス殿、それは違います。たしかに人は同じ過ちを繰り返しますが……あなたはその一点ばかりに気を取られ過ぎてはいませんか? 彼らが争うのにも理由がある。その理由は様々で、一概にどれもが正しいとはいえません。ですが、争い、傷つき、助け合い、愛し合い、育んで……彼らは同じことを繰り返すようでいて、どこかで成長しているのです。長い生をうけた我々が大局的な見方で彼らを愚かだと決めつけてしまうのは、あまりにも早計だ」

 

「もしあまりにもみかねた行いをするのなら、「無くなればいい」なんて考えずに、ちょっと支えてやればよいのです。こう言っては「見守るだけ」という界王神の役割に反してしまうかもしれませんが、しかし「育む」こともまた我らの役目。我々は彼らの親なのですから……ちょっと子供のおいたを叱ったり、良き方向へ導く手助けくらいは許されるのでは?」

 

「私は今まで見守る対象としてですが、どこか人間を下に見ていた。ですが、私はついこの間その人間に助けられたのです。時には神をも驚かせる人間という存在は、面白くはありませんか。そして彼らを創造し、見守る立場にある自分の仕事を私は誇りに思います。あなたはどんな思いを抱いて界王神にならんと研鑽していらっしゃるのですか? 失礼ですが、今のあなたの考えはただ自分の理想を押し付けているだけのように見受けられる。あなたが素晴らしい方だと分かるだけに惜しく思ってしまう……。ゴワス様よりも若輩の身から言われるのは気に入らないかもしれませんが、私も界王神です。その考え方は受け入れられない」

 

 

 

 などなど。

 

 途中からいい子ぶって物静かだったザマスが激昂して、そのまま界王神様との熱い討論会が勃発した。私、キビトさん、ゴワス様は途中から完全に蚊帳の外である。

 そして何故か途中で「空梨さん、ぶしつけなお願いで申し訳ないのですが、しばらくの間叶恵を私たちにあずからせていただけませんか!?」とか界王神様が言い出した。何事かと思えば人間を遠くから見るだけで身近に接したことが無いザマスに、命の素晴らしさとそれを育む難しさを身をもって味わい自分が見守る存在について知ってほしいのだという。なんでもブウの件と、初めて近くで命の産まれる瞬間を体験した界王神様はそれに随分感銘をうけたのだという。だから頑固なザマスにも、それに似た経験をしてほしいと……そんなかんじらしい。

 なんでそうなったしと思いつつも、抱っこしていた叶恵にシンおじちゃまのとこに行く? と聞けば「うむ」と鷹揚に頷かれた。……この子はエシャロットとは違った意味でふんぞり返っているな。そしてそれが妙に様になる子だ。

 

 まあ神様のところだし、界王神様も居るし大丈夫だろうと……そのまま預けて帰った。もちろん子供をもしかしたらボス化する輩のところに預けるのは心配だったけど、もしこれで未来が変わるならと賭けに出たのだ。

 

 そして一週間後。

 

 若干頬がこけた界王神様とザマスの姿を目の当たりにすることになった。

 ど、どうやら思った以上に苦労したみたいだな……。まあ、普通にしてたらこの人たちは子育てなんてする機会無いだろうしね。それよりもっとでっかい宇宙っていう子供を抱えてるわけだけど。

 

 そしてザマスは、初めて会った時よりどこかスッキリした顔だった。

 

「いい経験をさせてもらった。私は自分の考えが全て間違っているとは思わない……だが、たしかに少々考えが偏っていたことは認めよう。こんな小さな命の世話を焼くのにも苦労するのだ。宇宙を担うには、まだ私は未熟ということだろうな」

「いえ、ザマス殿は立派ですよ。なにしろ生まれながらではなく、界王から界王神候補に選出されたのですから。未熟と言うなら私でしょう……。他の界王神が死んだことで、一番未熟だったというのに思いがけず界王神としての役割を背負った身です」

「ふっ、お互い未熟者同士というわけですか……。しかし、謙虚を装っていながらどこか自分は完璧だと思っていた私と、自分の未完成さを認めるあなたとでは違う。……出会えてよかった。あなたは私の驕りに釘を刺してくれたのです。あなたのような界王神が居るのなら、私もめげずに宇宙を、人間を見守りましょう」

 

 と、だいたいこんな会話をした後お互い硬く握手を交わしていた。どうやら界王神見習いと未熟な界王神という事で友情が芽生えたようだ。その様子に「おや?」と思っていたのだが、その後もザマスと交流を続けることにしたらしい界王神様いわく「この世界では、その悟空ブラックとやらは現れないかもしれませんよ」とのこと。思った以上に仲良くなっててビビったが、その後行われた第六宇宙との格闘試合にも界王神様がザマスを誘って見に来たもんだから驚いた。

 試合を見て再び「このように神に肉薄する力を持った人間が居るのか? やはり人間は危険な存在では……」とか言い出したザマスに慄くものの、そこは親友(マジでそんな感じだ)界王神様が「これが彼らの研鑽の結果ですよ。凄いでしょう? 人の成長というものは。それに危険に思うなら、ザマス殿ももっと強くなればいい。また同じような大会が開かれたら、その時に参戦されたらよろしいでしょう。私は戦いが苦手なので、神としての威厳を取り戻す役目はあなたにお譲りします。期待していますね」と茶化して納めてくれた。それにザマスが「違いない」と苦笑して、そこからは純粋に大会を楽しんでいるように見えた。ザマスは天才的な強さを認められて界王神候補になった身だ。多分、純粋に試合に興味がわいたのだろう。あと「おめえさも良かったらどうだ?」と、チチさんにお弁当をすすめられて戸惑っている姿はちょっと可愛かったと思う。

 

 ザマスと界王神様……立場的に仕方が無いのかもしれないけど、お互い友達居なさそうだったもんな。

 自分と似た立場で、同じような悩みを経験する相手。そしてそれを相談できる相手が出来たというのは、きっとお二方にとって良い事だったのだろう。

 

 

 

 こんなわけで、もしザマス本人の意思により悟空ブラック編が始まるのなら……多分、この世界ではもう心配ないんじゃなかろうか。界王神様と話すザマスも楽しそうだったし、考え方がいきすぎちゃっただけでもともと悪人では無いのだ。将来はどうなるか知らないが、おそらく早々に人類を滅ぼそうとすることはあるまい。

 

 もしザマスの意思に反して外的要因からブラック編が始まり、未来からSOSが来たらその時はその時で対処するしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、私は……私たちは、思いがけない事象によって悟空ブラック編に関わる事となる。

 

 

 呑気にブルマとお茶する約束をしていた私は、まだそのことを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として現れ、せっかく復興しかけていた世界を滅茶苦茶にし……母の命をも奪った悟空ブラック。その男を倒すために過去から来てくれた自身の父親であるベジータと悟空と共に、トランクスは再び「過去」への時間航行に身を投じていた。

 

 まず悟空ブラックと戦ったのはベジータだ。……初めこそ神の領域まで達し、スーパーサイヤ人ブルーとなったベジータの勝利に思われた。だが、悟空ブラックもまた新たな力を手に入れていたのだ。スーパーサイヤ人ロゼ……まがまがしい薄紅色の光をまとったその姿こそ、悟空ブラックの新たな姿である。そして、更に過去で悟空ブラックと同じ気を持つ神として注意していた第10宇宙の界王神見習いザマスまでもが姿を現した。しかもその身は不死と化しており、スーパーサイヤ人ブルーとなったベジータと悟空、そしてトランクスの3人をもってしても倒すことが出来なかったのだ。

 

 ついにはひん死となった3人……それを逃がしてくれたのは、マイだった。彼女はタイムマシンに3人だけを乗せ、トランクスたちを過去へと逃がした。

 二度と置いていきたくなかった……。一度は死んだものと思い、再会できて本当に嬉しかったのだ。だというのに、彼女はまたトランクスだけを逃がそうとする。「あんたは絶対に生き残らなきゃいけないんだ。この世界のためにね」と笑って自分たちを見送った顔が頭から離れない。

 

 トランクスは時空移動するタイムマシンの中、ガラスに爪を立てて慟哭する。また、守れないのかと……折れまいと、けして諦めまいと誓った心に暗雲がかかる。何故こうも世界は残酷なのかと、嘆かずにはいられない。

 

 しかしそうして嘆いている時だった。ふと、何かを感じて顔をあげる。

 

「え……」

 

 自分達しかいるはずのない、時間を遡る流れ……その中に、まるで幻影のように何かが現れた。そして自分のタイムマシンと並行するように飛ぶそれは段々と輪郭をあらわにしていき、はっきりと視認出来るまでになるとトランクスはその正体に驚愕する。

 

「俺?」

 

 現れたのは、あるはずのないもう一機のタイムマシン。そしてその中には、自分とうり二つの人間と……見知らぬ2人の男が同乗していた。

 

(ぶつかる!?)

 

 そして二機のタイムマシンは引き寄せられるように近づき、すわぶつかるかに思われた。だが予想した衝撃はなく、しかし何か分厚い空気の層でもすり抜けるような……何とも言えない奇妙な感覚がトランクスを襲う。

 

 

 

 

(お前は、誰だ?)

 

 

 

 眩暈に似た感覚を覚え、トランクスはそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トランクス! トランクス!?』

 

 誰か自分を呼ぶ声が聞こえる。その声に導かれるように、トランクスの意識は浮上していった。そしてうっすらと目を開けると、見知らぬ女性が自分をのぞき込んでいる。くせのある黒髪を三つ編みにしていて、吊り目がちな目元がマイを思い出させて胸が苦しくなった。

 

「トランクス! 何があった!? っていうか、なんでベジータと悟空まで一緒にタイムマシン乗ってるの!?」

 

 必死な様子の女性はまるで自分を知っているかのように話しかける。誰かと勘違いしているのかとも思ったが、それにしてははっきりとトランクスの名前を呼んでいた。

 

 トランクスはなんとか動きの鈍い頭を回転させ、乾いた喉から声を絞り出した。

 

 

 

 

 

「あなたは……誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





《超の未来トランクス編の最後を視聴》

しばらく放心

「書かねば」(ガタッ ←イマココ


映画とか後日談とか第六宇宙とか色々すっとばしてすみませんorz
とりあえず一話だけこっそり投稿。色々ややこしくなりそうだけど終わらせられたらいいなぁ……(願望


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ドラゴンボール超2:絡まりあった平行世界

 今現在、頭が痛くなる光景が私の目の前で繰り広げられている。

 

「ひゃ~! 本当にオラがもう一人いるぞ」

「ブラックといい、最近オラにそっくりな奴とよく会うなぁ……。いや、でもおめぇはオラなんだよな?」

「ああ、孫悟空だ」

「オラも孫悟空だ。よく分かんねぇけど、よろしくな!」

「おう!」

 

 細かい事は気にせず、とりあえず仲良くできそうだと判断したのか笑顔で握手する二人の悟空。

 

「…………フンッ」

「…………チッ」

 

 どうしていいのか分からないのか、それとも嫌な事でも思い出したのか(こちらのベジータに関しては多分ポトフ星での苦い経験を思い出しているのだろう)お互い目を合わせず妙な緊張感を漂わせている二人のベジータ。

 

「ねーねー! トランクスちゃんはエシャたちのこと忘れちゃったの? ひどいよー! 前に会った時たくさん遊んだじゃない!」

「エシャロット、このトランクスさんは僕たちの知ってる未来のトランクスさんじゃないみたいだよ。そうだよね? トランクス」

「う、うん。そうみたいだけど……俺、未来の自分とはいえそっくりの自分にこんなに会っちゃって大丈夫かな? この間空梨おばさんがやたら怖くドッペルゲンガーについて話してきたからちょっと不安……」

「あ、ええと……」

 

 ちょうどエシャロットと龍成が学校帰りにランドセル背負ったままカプセルコーポレーションに遊びに来ており、優しい未来トランクスがお気に入りのエシャロットが未来トランクスにまとわりついて龍成がそれをたしなめていた。そして戸惑う内容はそれぞれ違うものの、お互い困ったように眉尻を下げて顔を見合わせる青年トランクスとチビトランクス……。

 

 そんな彼らを前に、何やらホワイトボードに書き込んでいたブルマがパンパンっと手をはたいて注目を集めた。

 

 

「はい、ちゅうもーく! みんな頭こんがらがってると思うと、要するに、平行世界……パラレルワールドね。この孫君とベジータ、トランクスはそこから来たのよ」

「はいはーい! 平行世界って何ですか!」

 

 エシャロットが元気よく質問すると、ブルマがホワイトボードを示しながら説明する。

 

「平行世界っていうのは、分かりやすく言うと”もしも”の世界よ。たとえばエシャちゃんがおやつでケーキを食べたとするわね?」

「うん」

「そのケーキがもしも賞味期限切れで腐っていたら、エシャちゃんはお腹を壊すかもしれない。そしたら学校をお休みするかもしれない。そしたらお勉強が一日分遅れるわ。だけど元気だったら問題なく学校へ行ってみんなと勉強して遊ぶことだって出来ちゃう。この時点で、2つの世界が生まれているの。お腹を壊した世界と元気なままの世界がね。目に見えないけど隣り合うように存在する「もしも」の世界が平行世界よ」

「??? う~ん、分かったような分からないような……」

「はいはい、分からないままでいいからエシャロットと龍成は一回お家に帰りなさい。まずランドセルを置いてくるように」

「ええ~!」

「エシャロット。トランクスさん困ってるし、とりあえず僕らは帰るよ! 話は後で聞けばいいだろ」

 

 ぶーたれるエシャロットを龍成が引きずっていき、それと入れ替わるようにしてラディッツ、ピッコロさん、クリリンくんが部屋に入って来た。あまり人数を増やしてややこしくしても何だけど、とりあえずこの現実を私達だけで受け止めるのは荷が重い。だからとりあえず、すぐに連絡がついたラディッツとピッコロさん、クリリンくんに来てもらうことにしたのだ。悟空とベジータに関してはもともとカプセルコーポレーションに居たので、そのまま別世界の自分と対面と相成った。ラディッツを見て増えた方のベジータが「弱虫ラディッツだと……?」とか、増えた方の悟空が「あれ、ええと……見たことある気がするけど誰だっけ?」とか言っていたが今は放置だ。いちいち説明していたらきりがない。

 

 

 事の始まりは、今日の午後。

 ブルマとお茶しながら世間話をしていたら、カプセルコーポレーションの庭に突如タイムマシンが現れたのだ。しかもその中には傷だらけのトランクス、ベジータ、悟空が乗っており……とにかく最初は混乱した。

 しかもそこに「姉ちゃん、今日はオラと修行する約束だったよな?」と悟空が来て、「奇妙な気を感じたが何事だ」とベジータが家の中から普通に出てきたもんだから、2人に増えた弟共に一瞬頭真っ白になったわ。本人たちも動揺していたけど、とりあえずタイムマシンに乗っていた方が放っておいたら死にそうだったので手持ちの仙豆を与えて話を聞くことにした。

 今思えばちょっと迂闊だったけど、結果的に別の世界とはいえ悟空たち本人だったので助けて正解だった。

 

 そしてとりあえず情報を交換しようと室内に場所を移し、まとめ終えたのがついさっき。

 

 ブルマ曰く、もともと未来のトランクスたちは時間移動と言いながらも自分たちの世界に繋がらない過去……ある種のパラレルワールドに未来から訪れていたのだという。時空間移動する空間については未だタイムマシンを開発したことが無いブルマにとっては謎で、恐らくその複雑さから未来の自分もタイムマシン理論を確立させたものの詳しいことまでは分かっていないはずとのこと。だから何が起こってもおかしくないし、ちょっとしたきっかけで行くはずだったパラレルワールドが別のパラレルワールドにすり替わってしまうことだって十分にあり得るとのことだ。

 

「まあ、全部推測の域を出ないけどね。でも時間を超えるって、やっぱりとんでもないことよ。不測の事態が起きてもおかしくは無いわ」

「そう……。でも、そうなるとこの子達もとの世界に戻れないって事?」

「な、そ、そんな……!」

 

 私の発言にトランクスが青ざめ、事の深刻さをようやく理解したのか平行世界の悟空とベジータも顔色を変えた。

 

「おい! なら、もう一度未来へ戻ってから過去へ行けばどうなる?」

「分からないわ……。ねえ、何でもいいからこうなったきっかけに心当たりはない? 現状じゃ判断するのに材料が足りなさすぎるわよ」

「きっかけ……。あ!」

「何か心当たりが?」

 

 考え込んだトランクスが何か思い至ったように叫んだから尋ねれば、なんと時空間移動する時に自分とそっくりの人間と見知らぬ男2人が乗ったタイムマシンとぶつかりそうになったのだという。

 

「「それだ!」」

 

 ブルマと2人して叫んで顔を見合わせた。

 

「その男2人って空龍とブロリーだ! え、もしかして今回のことって……」

「多分、別の世界でそれぞれ同時にタイムマシンを使ったんだわ。その結果、時空が歪みやすいだろう空間で干渉しあってお互いが入れ替わったのよ!」

 

 ちなみにこれも全て推測だ。しかし、とりあえず考えるためのとっかかりは出来た。何も分からないままより遥かにましだろう。

 

「あれが、平行世界の俺……」

「おいちょっと待て。今ブロリーといったか?」

「へ? ブロリーって、あのブロリーか?」

 

 あ、やべ。普通にブロリーの名前出しちゃった。

 ……もし彼らが私の知る漫画とかアニメの世界線に居る人たちなら、ブロリーはすでに倒したはずの敵だもんな……ええい面倒な!

 

「……ここが他の世界というのは信じよう。ブロリーの名前が出てくることといい、弱虫ラディッツが生きていることといい俺たちの世界とは違いすぎる。何よりそこの女、サイヤ人のようだが俺たちの世界には女サイヤ人などもはや一人もいない。似た人間は多いが、たしかにこの世界は俺たちの世界ではないようだ」

「お! そうそう、オラも気になってたんだ。なあこっちのオラ、おめぇさっきあの女の人の事「姉ちゃん」って呼んでたよな? ってことはこっちのオラには兄ちゃん以外にもきょうでぇがいるんか?」

 

 眉間に思いっきりしわを寄せながらも状況の理解に努める別世界のベジータと、対極的に自らの好奇心のままにこっちの悟空に質問する別世界悟空。それをなんとも言えない表情で揃って眺めるベジータとラディッツというシュールな光景に、もうホント色々面倒くさくなってきた。いやマジどうすんだよこれ。

 

「おう! 姉ちゃんはオラの姉ちゃんだ。でも血はつながって無くて、本当はベジータの姉ちゃんだぞ」

「は?」

「い!?」

「あと兄ちゃんは姉ちゃんの旦那さんだ」

「あの弱虫が生き残っている上に結婚しただと……!?」

「ええと、あのラディッツって奴がたしか前に倒したオラの兄ちゃんで、でも生きてて、こっちの世界ではオラに姉ちゃんが居るけど血はつながって無くて兄ちゃんと結婚してて……?」

 

 ……いやもうホント面倒くさいんだけど。あれだよな、もし私の知ってる原作まんまの世界から来たんだとしたら、こっちの世界と一番違う点って多分私が居るか居ないかだよな。ブウ編が終わった後に日記を全部読み返したが、意図したことではないとはいえ私という存在がさんざん原作をひっかきまわした自覚はある。意図したことではないが。

 しかしお互いの世界の違いについて話していたらきりがない。そう私と同じく思ったのか、こっちのベジータが仕切り直した。

 

「いい加減に頭が痛くなるから面倒な自己紹介は後にしろ! それより気になったことがある。お前たちは別世界とは言え俺たちと同じ存在なんだな? 念のために聞くが、スーパーサイヤ人ブルーにはなれるのか」

「ああ、可能だ。ということは、こちらの俺もなれるのか」

「当然だ。……しかし、それならお前たち、誰にあそこまでやられた? 少なくともビルス以外であそこまで俺たちを追いつめる存在など俺は知らん。わざわざトランクスの世界にまで出向いていたんだ。未来で何があった」

 

 鋭く切り込んだベジータの質問に、誰もが「そういえば」といった表情で別世界の3人を見る。そういやそれに関してはまだ話していなかったっけ……。

 

 そして話された内容……悟空ブラックが攻めてきた時から始まった悲劇に、知らなかった人間……私以外の全員が息をのむ。ついこの間元気なこちらの世界のトランクスたちを見ただけに、特にブルマなどはショックが大きかったようだ。クリリンくんも悲痛そうにトランクスを見つめている。

 

「なによそれ……! ようやく復興しかけた未来が、その変な奴らに滅茶苦茶にされたってこと!? あ、あたしまで死んじゃったなんて……!」

「ひでぇよ……。別の世界だけど、トランクスあんなに頑張ってたのに……」

「そして俺は、過去に助けを求めたんです」

「フンッ、だが負けてすごすご逃げてきたわけか。俺じゃないが俺が居ながら情けない」

「何だと?」

「おい、自分を煽ってどうするベジータ。聞くにその悟空ブラックだけでなく、不死身となったザマスって奴も居たんだ。魔人ブウの時を思い出せ。不死身の敵を相手にする面倒くささをお前もよく知っているだろう」

「……チッ」

「すまん。自分の事じゃないが、自分が知らないところで自分が誰かに負けたのが気に食わないんだろう。……いいまわしがいちいち面倒だな」

 

 一瞬ぴりぴりしかけたベジータ同士の仲をラディッツが間に入って収めたが、たしかに同じ人間が2人も居て面倒くさいな。だけどベジータAとかベジータBとか言い出したらどっちがAでBかでもめそうってのも簡単に想像つくんだよな……。もう何度目になるか分からないが、面倒くさい。これどうすればいいんだろう。

 

 

 

「う~! 色々言いたいことはあるけど、どちらにしろタイムマシンがキーね。さっきベジータが言ったみたいにもう一度未来に戻ってから過去に戻れば、道が修正されてあなた達の世界線に戻れる可能性だってあるもの」

「で、ですが燃料がもう無くて……」

「そこはまっかせなさい! 別の世界とは言え、私の息子と旦那と友達のことだもん。一肌脱いで私がタイムマシンの燃料を作ってあげようじゃない!」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ、どーんと任せておきなさい!」

「本当にこういう思い切りの良さが頼もしいよねブルマって」

「ふふん、そうでしょう?」

 

 褒めれば胸を張ってウインクするブルマに、ざわついていた心が落ち着きを取り戻すのを感じる。まさかの事態に混乱していたものの、こうして頼もしい人間が居ると落ち着けるんだから助かるな。

 

 こうなれば、私も少々腹をくくろう。頼ってばかりでは情けない。

 

 ちょうど今まで黙っていたピッコロさんがこちらの世界のトランクスの世界に言及してくれたところだし、言うならこのタイミングだろう。

 

「しかし、そうなると同じ時期にタイムマシンを使ってこちらに来ようとしていたこちらのトランクスたちも気になるな。もしかすると、こちらの未来世界でもその悟空ブラックという奴が出たのかもしれん」

「いや、多分違う理由だよ」

「何? 空梨、何故そう言い切れる」

 

 片方の手で私にくっついたまま眠ってしまっている叶恵を抱え直して、もう片方の手をすっと上げて発言した私に注目が集まった。

 

「あのさ、ザマスって名前聞き覚えない?」

「……格闘試合に来ていた界王神の友人の名だな」

「え!? ゆ、友人!?」

「! ああ、居た居た! たしか緑色の肌の神様よね? え、嘘……。同一人物なの?」

「でもブルマさん、あの神様真面目そうだけどわりといい人そうでしたよ?」

「そ、そうよねぇ……」

 

 話の内容が重かったからか、みんな一回会ったきりのザマスの名前はすぐに出てこなかったらしい。真っ先に思い当たったピッコロさんの発言にみんな思い出したようだが、それに驚いたのは別世界の3人だ。

 

「こっちだとザマスって界王神様の友達なんか!?」

「そう。でも、友人になったのはついこの間。それに界王神様と出会う前、こちらのザマスも危険な思想を抱いた神だった」

「……貴様、何を知っている?」

「そう睨むなよ。今から説明する」

 

 そう前置きして、別世界のベジータに睨まれながら「原作知識」を占いで得た「予知」にすり替えて、ザマスと悟空ブラックが現れる未来を知っていたことを話した。流石に漫画だアニメだってつらい過去を背負ったトランクスの前で言うほど私も無神経じゃない。全部をありのままに話していいのは、人間の生きる時間など瞬く間に感じるであろう神様相手くらいだ。まあそれでも無暗に話す内容では無いが。

 それにしても堂々と嘘をつきながらも話す内容に嘘が無いあたり、私もだいぶ開き直ったもんである。

 

「そういえば、あんたトランクスたちが帰る時とか、その後であの子たちがこっちに来た時やたら念を押して注意してたわね。もしかして、あれ?」

「そういうこと。まあ、予知といっても全部知ってるわけじゃ無いしむしろあいまいな部分の方が多い。だから界王神様と知り合ったのをいい機会だと思って相談したんだ。神様の事は神様にきこうってね。……まさかビルス様相手に相談するわけにもいかないしさ」

「ま、まあそうね」

「おい、界王神様とて偉い方だぞ」

「いやそうだけどさピッコロさん。でも分かるでしょ!? どっちの方が相談しやすいか!」

「む、まあそうだが……」

 

 食べ物につられやすいとはいえ、根本的には神としてしっかりしたお方だ。それすなわち、情に流されないということ。下手につついて藪蛇になって、トランクスたちがタイムマシンを使ってどうこうしているのを知られたら物凄く面倒くさい気がする。

 原作知識を界王神様に話した時に「時間の移動は神々の間でも滅多に犯してはならない禁忌です。ブウの件でお世話になりましたし、過ぎてしまった事には目を瞑りましょう。ですが悟空ブラックは現れなくなったのですから、この世界でこれ以上時間を移動するのはおやめくださいね。もし今度未来からあなたの息子たちが来たら、それを最後にしてください。それ以上は見過ごせません」と釘を刺されてしまったしな。出来ればこの件は最悪ごまかしやす……ゴホン、お優しい界王神様には知られても、ビルス様たちには内密のままどうにかしたいところだ。

 

「ええと、それでそしたら界王神様が様子を見に第10宇宙へ行ってくれて、その過程で界王神様はザマスと友達になったわけ。で、多分今のところはこっちのザマスに人間を滅ぼそうとする意志は無いよ。界王神様とそれについては大分熱く議論したみたいだし。だからこの世界では悟空ブラックは現れないと思う」

「で、でもさ。そのザマスとブラックの関係についてこのトランクスたちも詳しい事分かってないんだろ? 本当に現れないって言い切れるのかなぁ……。実際に襲われた世界の人間が居るんだし、言い切るにはちょっと楽観的過ぎやしないか?」

「うっ」

 

 く、クリリンくんめ……。あまり突かれたくないところを指摘してくれたな。

 

「けど今のところ推測ばっかで何かを知る手段がないわねぇ……」

「ねえ、神龍に聞いたら何か分からないかな?」

 

 重い空気が室内を満たしたが、そこにチビッ子トランクスが意見を出した。

 

「んー、どうだろう? 別の世界や未来については、神龍的には知ってる範囲なのかな?」

「でもやってみる価値はあると思うわ。とりあえずタイムマシンの燃料は作ってみるけど、流石にすぐには出来ないもの。その間、出来るだけの事をやりましょう。……贅沢言うならスーパードラゴンボールといきたいところだけど、この間使ったばかりの上に探すとなると第六宇宙も探さないといけないしねぇ」

「それもそうか」

「あの……。すみません。俺はこっちの世界の俺じゃないのによくしていただいて……」

「だから、世界は違ってもあんたは私の息子なの! 気にするんじゃないわよ」

「そうそう。可愛い甥っ子が苦労する姿を見るのはもう散々だしね。苦労したんだし、たまには甘えてもいいんじゃない? それに私達もどこかに行っちゃったこっちの世界のトランクスたちが気になるしさ。ま、なんとかするから気楽に構えときなよ」

「……! はい……! ありがとう、ございます……! 本当に……!」

 

 涙に潤む瞳をぎゅっと閉じて、深く頭を下げたトランクス……それを見て、これは絶対にどうにかしてやろうという気持ちになった。おう、まかせろ。どうなるか分からんがおばさんは甥っ子の味方だぞ。

 それにしても、この子はこっちのトランクスとはまた違ったおもむきの苦労臭がするな……! なんで未来トランクスはどの世界でも胃に穴が開きそうなんだ。後でこっちのトランクスにあげたのと同じ胃薬プレゼントしよう。

 

 そんなわけで、しばらく使われていなかったドラゴンボールを集めて質問することとなった。だけどその前に。

 

 

 

 

 

「ところで、そこで寝てる馬鹿2人誰か引っ叩いてくれ」

 

 

 

 

 

 話しがややこしかったからか、途中から鼻提灯作って寝こけていた悟空二人を叩き起こしたのはダブルベジータだった。殴る動作が一瞬ギャリック砲の構えだったのは見なかったことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




状況把握回。次話と続きで書いたら長かったので2つに分割しました。


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ドラゴンボール超3:一方、もう片方の世界にて

 

 

 

 もう一つの世界で状況把握のための会話がなされているころ……時を同じくして、本来悟空ブラックのいる未来世界から帰るはずだったトランクス、悟空、ベジータと入れ替わるように別の世界へ来てしまったトランクス、空龍、ブロリーは行きついた先で同じくその世界のブルマたちと情報交換をしていた。

 

 

「そんな! じゃあ、もしかしたら僕たち二度とお母さんたちの居る世界に行けないってことですか!?」

「分からないわ……。判断するには、材料が少なすぎるもの」

「何でこんなことに……! あ、すみません。こっちのブルマさんだってこっちのトランクスやベジータおじ……じゃなかった。ベジータさんや悟空さんが帰ってこなくて心配なのに、八つ当たりみたいに大きな声出して……」

「ふふっ、あんたいい子ね。大丈夫、気にしてないわ。たしかに心配だけど、きっと何とかしてみせる」

「母さ……あ、いえ、えっと」

「母さんでいいわよ! でも驚いたわね。まさか同じ顔と名前の息子第3弾に出会うなんてさ」

 

 ほがらかに笑ったブルマだったが、気丈に振る舞ってはいるが顔色が悪い。それに対してトランクスは申し訳ない気持ちでいっぱいになり、心が締め付けられた。

 

「母さん……。ご協力、感謝します……! だけど俺たちも出来る事はなんでもします! 何でもやりますから、手伝わせてください!」

「そう? じゃ、期待してるわよ」

「はい!」

「それにしても……別の世界の事とはいえ、思いがけない吉報が聞けたのは単純に嬉しかったわ。結婚おめでとう、トランクス!」

「え、ええと……。ありがとうございます」

 

 そう、この度トランクスたちが過去へ赴こうとした理由はそこにあった。色々あったが、無事に復興が続いた世界で出会った女性とトランクスが近々結婚することになったのだ。その報告をしようと、空龍に引っ張られる形で今回の時間航行となったのである。まさかこんなハプニングに巻き込まれるとは思っていなかったが……。

 部屋の隅でこちらの様子を窺っている3人組の子供の内一人が結婚相手に似ていることが気になったトランクスではあるが、母から贈られた祝福は素直に嬉しく顔を赤らめた。

 しかしすぐに先ほど聞いたこちらの自分の現状を思い出し、気を引き締める。苦労はしたが幸せをつかんだ自分と違って、こちらの自分はまだ苦難の中に居るらしい。元の世界に戻るのが先決だが、どうにか手助けすることは出来ないだろうか……。

 そんなふうに真剣に考え込んでいると、こちらの幼い自分がぴょんぴょん跳ねて問いかけてきた。

 

「未来の俺が結婚かぁ……! なあなあ、それってどんな人? もしかして、綺麗な黒髪のぱっちりした目の女の子だったり……」

「こーら、トランクス! この子はあんただけど、あんたじゃないんだから詮索しないの」

「な、なんでだよ! 俺だけど俺じゃ無いなら聞いても問題ないだろー?」

「知ったらアンタ、どうせ結婚できるってたかをくくって好きな子出来ても頑張らなくなっちゃうかもしれないじゃない。アピールは大事よ!」

「ええー!? そんなことないよ! ねえ、ちょっとだけだから!」

「だーめ」

「ちぇっ」

 

 小さなトランクスをたしなめながらも「でも、あとでこっそり教えてね」と茶目っ気たっぷりに耳打ちしてきたこの世界の母に思わず笑みが浮かんだ。

 

「ええ、あとでこっそりと」

 

 どの世界でも変わらぬ母に、トランクスは心が安らぐのを感じた。

 

 どんな時でも明るくて、そして強い。母はそんな人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 が、緩んだ表情はすぐ憤怒に染まる。

 

 

「おい、飯はまだか」

「人様のうちで何言ってんだお前」

 

 自分達に起きた現象にも無関心で、どうでもよさそうにソファーにふんぞり返っていた巨躯の男……ブロリーの発言に、すかさず空龍が突っ込んだ。誰に対しても比較的柔らかいあたりの空龍だが、ブロリーに対しては一切容赦がない。その瞳は極寒の地にそびえる氷山よりも冷え切っていた。対して炎のように怒りに震えるトランクスの瞳だが、その2対の瞳に睨まれようがブロリーは屁とも気にしない。

 

(くっ、こいつは本当に変わらないな……!)

 

 空龍は同じ伝説のスーパーサイヤ人として自分が責任をもってブロリーを更生させると、この悪魔を未来に連れ帰った。だがブロリーが大人しくいう事を聞くはずもなく、空龍とさんざん血を血で洗う戦いを繰り返したのだ。

 空龍が張ったバリアの中や郊外の人のいない土地で争ったから人的被害こそ出なかったが、それを見守るトランクスはストレスで過去でもらった胃薬をすぐに使い果たしてしまった。

 

 そしてトランクスはある日、胃に穴があいてうっかり死にかけた。同じく過去でもらった仙豆の栄えある未来での第一回目の仕事は、胃潰瘍の治療だったのだ。今思い出しても情けなさで涙が出てくる。

 

 今でこそブロリーは空龍と戦うことで燻っていた破壊衝動を発散したからか、多少落ち着いてはいる。いくら強くなっても同じように強くなって、結局やけになって泣いた空龍に負けるパターンに嫌気がさしたのもあるだろう。最初と比べればずいぶんと理性的になったものだ。最初と比べれば。

 だが依然として問題児であることに変わりはなく……血気は多いわ、暴れるわ、物は壊すわ、ふてぶてしいわ態度はデカいわ…………正直、過去についてくると言った時「あの子」の存在さえなかったら途中でタイムマシンから放り出しているところだ。

 

「チッ、飯でも食わんとやっていられるか。やっとこいつを親父に押し付けられると思ったのに何故こんなところに……」

「だから、過去に行ってもパラガスさんにジュニアを押し付けるのは駄目だって言ってるだろ! お前が責任もって育てるんだよ!」

「俺はガキの世話などせん!」

「だけどジュニアがお前から離れたがらないんだからしょうがないだろ! じゃなきゃジュニアのためにも僕が進んでパラガスさんにお願いしてるよ。それか僕が育てたっていい。でもジュニアがおまえじゃなきゃヤダって言わんばかりに泣くんだからお前が育てるんだよ! 自分で蒔いた種なんだから責任とれよ馬鹿!」

「知らん! あの女が勝手によってきたから気まぐれに抱いてやったら勝手に産んだんだ。そのくせ自分で世話せず俺に押し付けて消えやがって……!」

「あう~」

「! 貴様ぁ!頭の上でしょんべんをするなと何度も言っただろう!!」

「ざまぁ」

「空龍貴様ぁぁ!!」

 

「ええと……。気になってたんだけど、彼は誰でどういう状況? さっきはあの空龍っていう子がベジータのお姉さんの子供ってとこまでは聞いたけど……」

「え、ええとですね」

「あ、それ俺も気になる! 凶暴そうだけど何もしてこないし赤ん坊がくっついてるし……。俺ブロリー知ってるけど、あんな奴じゃなかったよ」

「え、あんたあいつ知ってるの? ってことはベジータのお姉さんって人と違ってこっちの世界にも居る人なんだ」

「でも、もう死んじゃったぜ! すっごく強くてすっごく怖い奴だったんだ。もとはパパたちが昔闘って倒した相手らしいけど……ママは知らないの?」

「う~ん、聞いたことあるようなないような……。ま、いいわ。それで、あんたの世界のブロリーってどんな人なの?」

 

 ブルマに問われて、目の前の惨状をどう説明しようかとトランクスは悩んだ。あの尻尾の生えた裸の赤ん坊を頭にくっつけた伝説(笑)の男をどう説明しよう。

 この部屋にはチビッ子が4人もいる。あまり生々しい話は聞かせたくない。だがこちらの幼い自分はどういうわけかブロリーを知っているようだし、誤魔化してもきっと聞くことを諦めないだろう。なので結局、渋々ながら事情を話すことにした。

 

「彼はブロリーといって、過去の世界で戦った伝説のスーパーサイヤ人です」

「伝説のスーパーサイヤ人? や、やっぱりあのブロリーじゃないか! なんで仲良さそうにしてるんだよ!?」

「仲良さそう? ははっ、そう見えるかい?」

「! い、いやぁ……よさそうでは、ないかな。ははっ」

 

 微笑んではいるが目が笑っていない。そんなトランクスの笑顔に、チビトランクスは引きつった笑いを返した。

 

「あそこにいる空兄さん……空龍さんも伝説のスーパーサイヤ人と同じような存在なんだ。そのことで空兄さんは随分苦労したんだよ。だからか、過去で奴と戦ったあと、自分と同じような存在とは多分もう二度と会えないから連れ帰ってしっかり更生させるって言い張った。そして空兄さんが未来の俺たちの世界へ奴を連れ帰ったんだ」

「む、無茶するなぁ……。いくら事情があってもあんなやつ倒しちゃえばよかったのに」

「本当にね! 君はよくわかってる! そう、そうなんだよ! 空兄さんの事は好きだし尊敬してるけど、この行動だけは俺には理解できない!! ……まあ話すと長いから端折るけど、色々あってあいつは時々空兄さんと血みどろの死闘をする以外は落ち着いてふらふら出歩くようになったんだ。はははっ、あいつの壊した物や飲み食いしたものの請求が家に来るたびに何度殺してやろうかと思ったよ!」

「ま、ママ……。未来の僕が怖い」

「う、う~ん……。ただでさえ物資の少ない未来なのにそんなことされちゃ怒るわよねぇ……」

「で、極めつけは女性関係ですよ。あんなやつなのに「ワイルドで素敵!」「あたしと遊ばない?」と、幾人か女性が奴によってきたんです。そして、その……来るもの拒まずで、あの野郎……失礼、あいつ手当たりしだいに手を出したんです。多分破壊衝動が薄れた分、満たされない部分を他のもので補おうとしたんでしょうね。どちらにせよ迷惑ですが。で、そんなことしていたらある日玄関前にブロリーそっくりの子供が「あなたの子なんだから面倒見てね」という手紙付きで捨てられていて……」

「あー……」

 

 ブルマはなんとも言えない声を出し、ついこの間見たドラマを思い出し、そして「男やもめ」という言葉が脳裏をよぎった。

 

「あいつに子育てなんて出来るはずありません。でも赤ん坊はブロリーを見た瞬間からブロリーにくっついて離れないし、剥がそうにもブロリー並みの怪力で剥がせないし……」

「で、ああなっていると」

「ええ。お恥ずかしい限りです。身内の恥ですよ」

(でも何だかんだで身内扱いなのね……)

(しっ、ママ。それ言っちゃだめだよ)

(わかってるわよ)

 

 小声で何やら言葉を交わす親子に気づかないまま、トランクスは大きくため息をこぼすと言い合いから殴り合いに発展しそうだった空龍とブロリーに近づいていった。そして。

 

「ふんっ」

「ぐっ!?」

「あぐ!?」

 

 凄まじい気を放つスーパーサイヤ人になったかと思うと、2人同時に殴り飛ばした。そのさい赤ん坊を傷つけなかったあたり、普段からこういうことに慣れてるんだろうなと……幼いトランクスは、朧気ながら理解した。

 

 

 

 

「なんか、どこの世界でも未来の俺って苦労してるんだな……」

 

 

 

 

 幼心にちょっぴり将来が不安になったトランクスは、現実逃避するように「パパ、早く帰って来てね」と、何処に居るともしれない父親に向けて心の中でメッセージを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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★ドラゴンボール超4:世界がピンチ!?未来と世界を救え!

「な、なあベジータ。オラ、目が変になっちまったんかなぁ」

「ならば俺もだ。頭がどうかしちまったみたいだぜ」

「は、ははは……」

 

 現在平行世界からやってきた悟空とベジータは、目の前の光景が信じられないのか珍しく意見を同じくしている。トランクスにいたっては乾いた笑いを浮かべて逃避するように虚空を見つめているが……よほど目の前の現実を受け入れにくいのだろう。気持ちは分かるが。

 

 

 

 

 

「ドラゴンボールを探すと聞いてな! 何があったかは知らんが、協力しよう。ちょうど今日はオフなんだ。ところで何故悟空とベジータが2人居るんだ?」

 

 と、ギニュー隊長。

 

 

「なんだ、また面白い事になっているな。話を聞いてもいいかね?」

 

 と、平行世界組の反応を面白がってか、これみよがしにでかい羽をばっさばっさ動かしながらニヤニヤ笑うセル。

 

 

「限定スイーツ買って来たわよん。で、これっていったいどんな状況?」

 

 と、私とブルマと一緒にお茶する予定だったブウ子。

 

 

 

 

 

 順番にフリーザ編の中ボス、セル編のボス、ブウ編のボスですね本当にありがとうございます。

 こうして驚く人間が居てくれると、改めてこの世界の異常さに気づかされる。……そうだよな、お前らの世界じゃこいつら普通に死んで地獄に落ちてるんだよな。おかしいよな、こんな我がもの顔で馴染んでるの。

 

 私は偶然妙なタイミングで集まってしまった旧ボス勢に驚く3人に、とりあえずこちらでの彼らの立ち位置を説明することにした。それが2つの世界線を知る私の義務であろう。……いや、この場に限って私以外にも二人ほど原作とこの世界を知る奴らが居るけど。しかし当のボス本人どもなので、説明させるわけにもいかない。

 セルとブウ子の奴、事情を知らないながらも2人居る悟空とベジータを見て大方予想がついたんだろう。それぞれニヤニヤ笑ってて腹立つ。察しがいいのは結構だが、面白がってんじゃねーよ。

 

「えーと……、そっちの世界にも居て知ってるかもしれないけど紹介する。まずギニュー隊長とジースくんはフリーザ様の部下だったけど、今は地球で新生ギニュー特戦隊を組んで正義のヒーローとして活躍中。人造人間セルは色々あって精霊セルになって今はコナッツ星で神様をしてる。で、そこのピンクの子は分かりやすく言えば悪ブウかな。前に私を吸収した時の影響で女の子になっちゃったんだけど、今は法外な値段を請求する医者兼有名スイーツブロガーとして活動中。で、ついでに言うと私とブルマのお茶友達。ここまでで質問は?」

「余計にややこしくなったわ!!」

「だよな」

 

 プリンスベジータ(さっきためしに聞いてみたらサイヤ人の王子だって言ってた)が額に青筋を浮かべて叫ぶが、どれも事実なんだから仕方がない。それぞれの事情をいちいち説明していたらきりがないので大きく端折ったが、まあ聞いた方とすれば意味が分からないだろうな。私だっていまだにどうしてこうなったのか疑問に感じているのだ。事情を知らない人間が混乱するのは当たり前である。

 

 

 そこで遠慮がちな声がそっと会話に入ってきた。……さっきセルと一緒にやってきた悟飯ちゃんだ。

 

「え、ええと……何だか場を混乱させてしまったみたいですみません。あ、トランクスさんお久しぶりです」

「お、お久しぶりです」

「おっ! こっちの悟飯は修業さぼってねぇみてーだな!」

 

 困惑する3人の様子を見て、セルを連れて来てしまったことに罪悪感を感じたのだろう。先ほどまでセルと戦っていたらしい悟飯ちゃんが、少しよれた胴着姿でばつが悪そうに謝罪した。いや、別に悟飯ちゃんが謝る事じゃないよ。悟空とベジータの気がそれぞれ2人分になったら気にならないわけないだろうし。

 悟飯ちゃんは律儀にトランクスに挨拶して、トランクスもそれに応えるが正確には初対面である。ややこしい。

 そしてその微妙な空気の中でも悟空は相変わらずマイペースで、嬉しそうに悟飯ちゃんを見ていた。ああ……そっちの悟飯ちゃんは修業あんまりしてないのか。まあ本当だったらこっちの悟飯ちゃんも研究に没頭したいだろうから、セルさえいなければ同じようになっていたんだろうけど。

 

 コナッツ星の神になったセルであるが、己をさらに磨くためか、単純に悟飯ちゃんの成長が楽しみになったのか……時々こうして地球にやってきては悟飯ちゃんと手合わせしていくのだ。時々というものの、その頻度は日に日に高くなっている。

 なんでもコナッツ星の住民はみな真面目なので、これといったトラブルも無く神様業は思ったより暇らしい。ちょっと前にコナッツ星に奇妙な植物を植えたどこぞの宇宙人を追い払ったらしいが、「弱すぎて倒す気にもならなかった。どうせならもっと強くなってから再挑戦しに来てほしいから、わざと見逃したくらいだ。成長性はありそうだったからな」とつまらなさそうにぼやいていた。……妙にその見逃した宇宙人が気になる所ではあるが、とりあえず暇らしい。

 タピオン達のおかげなのか、それとも単純に人生経験を積んだからか……昔に比べてかなり丸い性格にはなったが、来るたびに付き合わされる悟飯ちゃんはたまったものではないだろう。セルは事あるごとに「こんなものじゃないだろう」「もっと強くなって私を楽しませたまえ」「娘に格好悪い姿を見せてもいいのか?」……などと悟飯ちゃんをせっついては戦いを楽しんでいる。おかげでスーパーサイヤ人ブルーにこそなれないが、悟飯ちゃんは悟空たちにも引けを取らないだけの強さを保っていた。もともと潜在能力は飛びぬけて高いのだし、その強さは修業さえしていれば当然といえば当然である。

 たちが悪い事にセルは素晴らしく頭がいいので、戦いの後で研究にとって非常に有意義な意見を聞けるので悟飯ちゃんとしても無下にできないのが痛い所なのだとか。……まあ、とりあえず悟飯ちゃんは頑張れ。

 

 つい悟飯ちゃんに同情の視線を向けていると、ダブル悟空が悟飯ちゃんについての会話で盛り上がっていた。

 

「そっちの悟飯は修業してねぇのか?」

「ああ、学者の仕事が忙しいらしくてなぁ。この間からまたちょっと鍛え直してるみてーだけど、こっちの悟飯にはまだまだ及ばなさそうだ」

「へぇ~。でも、こっちの悟飯も時々セルが来ねぇと多分そんな感じだったと思うぞ」

「そっかぁ……。よし、帰れたら久しぶりに悟飯と修行すっか! へへっ、こっちの悟飯見てたらもったいなくなってきちまった。今の状態を見ただけでも相当やるってのは分かる。ちゃんと鍛えれば悟飯はやっぱり強ぇんだな!」

「おう、悟飯は強ぇぞ! 今度ビルス様んとこにも一緒に連れてこうと思ってんだ!」

「そうなんか? オラんとこの悟飯も負けてらんねぇな……! よし、オラも帰れたら悟飯も連れてっていいかビルス様にきいてみっか!」

 

 悟空同士で違和感なく会話してるのに逆に違和感しか感じない。というか、双方の悟飯ちゃんのあずかり知らぬところでハードな修行フラグが立ってるんだけど。おい、こっちの悟飯ちゃん顔引きつらせてんぞ。仕事も勉強も忙しいんだから、あんまりお前らの修業に巻き込むなよ。

 

 

 

 ……とりあえず落ち着くのを待ってもますます収拾がつかなくなるだけなので、まずドラゴンボールをちゃっちゃと集めることにした。

 

 で、ドラゴンボール探しの方なのだが、積極的に協力してくれた新生ギニュー特戦隊のおかげで思いのほか早く終わってしまった。生き生きと表情豊かに活動するサイバイマンにプリンスベジータが非常に複雑そうな表情をしていたのが印象的である。それを見ていた我が弟キングベジータがちょっとそわそわしていたのが少し面白かった。おい、さっきちょっと喧嘩腰になったからって話しかけるのをためらわなくていいんだぞ。自分相手なんだし話しかけてみろよ。指さして笑ってやるから。

 

 ちなみにセルとブウ子は茶菓子と紅茶をたしなみながら優雅に過ごし何もしなかった。一緒になってテレビのバラエティ番組に辛口のツッコミをしているのを見て、ブウ子はともかくセルお前もう帰れよと思った。

 

 

 そして集めたドラゴンボールで早速神龍を呼び出したはいいが、やはり神でさえ認識できない平行世界という特殊な場所とのねじれについては神龍もお手上げらしい。正しく「神の力を超えた」事象ということなのだろう。……そんな事象を引き起こすタイムマシンを発明をしたブルマやっぱりすげぇな。ある意味神を超えたぞ。

 しかしタイトルアイテムの意地なのか、神龍は物凄く頑張ってくれたようだ。平行世界の悟空たちを元の世界へ帰すことや、彼らとすれ違った空龍たちが何処へ行ったのかを知ることは出来なかったが……今この場から平行世界の悟空たちが未来へ戻った場合、こちらとあちら、どちらの未来へたどり着くのかだけは何とか導き出してくれたのだ。そしてその結果だが……。

 

「平行世界の方の未来へ戻るわけか……。これ、完全に空間が捻じれちゃってるんじゃない?」

「っていうと?」

「平行世界のトランクスたちが単にこっちのトランクスたちと入れ替わっただけじゃなくて、世界の在り方まで絡まってるってことよ」

 

 ブルマの言葉に全員が首をかしげると、ブルマは出したままだったホワイトボードに上に二つ、下に二つ、計4つの丸を書いた。そして上下2つずつを青と赤で色分けして、同じ色同士を直線で結ぶ。

 

「いい? 今、私たちが認識しているパラレルワールドは4つあるわ。ひとつは現在、もう一つは平行世界の現在。さらにそれぞれの未来世界で計4つ。歴史を変えたことで平行世界になったから、直接続く未来ではなくなってしまったけど……。それでも、それぞれタイムマシンで行き来できるつながった世界だったのよ。それが……」

 

 ブルマは青と青、赤と赤で結ばれていた線を消して、今度は青と赤で結び直した。すると4つの丸は隣り合っていたので、それぞれの色で結ばれていた時は平行だった線が別の色と結ばれたことで交差する。

 

「今、こうなっているってわけよ。未来の世界ごと入れ替わったんだわ」

「ううん……?」

「だからね、もし私が平行世界のトランクスたちとは別にタイムマシンを作ったとしても、行き先は一緒なの。つまりたどり着く先は空龍やブロリーが存在する未来世界じゃなくて悟空ブラックが居る平行世界の未来の方だってこと」

「え、じゃあ個人だけが事故で入れ替わったんじゃなくてマジで世界ごと絡まっちゃったってこと?」

「乱暴な推測だけど、神龍の言葉を信じるならそうなるわね」

「……それ、素人目に見てもヤバい感じするんだけど実際どうよ?」

「ヤバい、ヤバいわよぉ! もしかしたら、それが原因で世界が滅んだっておかしくないわ!」

「はあああああ!?」

 

 嫌な予感がして恐る恐る聞いてみれば、とんでもない答えが返ってきてビビる。

 なんでもそれぞれのタイムマシンとそこに乗っていた人間は現在世界が交わる特異点となっているのだとか。彼らの存在が、そのまま世界ごと引っ張ってねじれを生んでいる……。空間やものには、ある程度「元に戻ろう」とする力があるらしい。もし捻じれた状態のまま、そのもとに戻ろうとする力が働いたら……その反動で、世界ごと消滅してもおかしくない、とのこと。

 

「もちろん最悪の場合を想定したにすぎない仮定の話だけど……」

「そんな! じゃあ、俺たちの存在が世界を亡ぼしてしまうかもしれないんですか!?」

「……可能性は0じゃないわね」

 

 ブルマの言葉にトランクスは打ちひしがれたように膝をついた。そんな彼の背中を小さなトランクスが気遣うように「げ、元気出せよ」と叩くが、あんまりにもあんまりな話を聞いてそう簡単に元気が出るはずもない。私もなんと声をかけていいか分からなかった。

 

 しかし、そんな重い空気の中で軽い調子の声が響く。ブウ子だ。

 

「要するに、そうなる前にその子たちが元の世界に戻れれば何も問題ないんでしょー? だったら、ここはやっぱりスーパードラゴンボールじゃないかしら。やろうと思えば別宇宙の星を別の宇宙に移動したり出来るくらいだから、「元の世界に戻してください」くらい叶えてくれるんじゃない? 平行世界ってものが観測された今の状態なら無理ではないと思うわぁ」

「なるほど。観測されていない世界に干渉するのは不可能でも、今現在こうして別世界の人間が目の前にいる状態ならすでに「ある」と認識された世界だからな。規格外のドラゴンボールなら、それくらい叶えてくれるだろう」

 

 同意したのはセルで、まさかこの2人から意見が出てくるとは思わず絶句する。お前ら……さっきまで最近はやりの若手芸人に見どころがあるかないかで言い争っていたくせに……。

 

「でもスーパードラゴンボールを使うにしても、こっちのスーパードラゴンボールはしばらく使えないのよ?」

「だったら未来の世界のを使えば?」

「あ、なるほど」

 

 ブウ子のあっさりした提案に、同じくあっさり納得するブルマ。え、ちょっと待って。なんかこの流れだと……。

 

 

「そうね! 困った時のドラゴンボール頼りだわ! こうなったら問題の早期解決のために、トランクスたちのためにも未来のスーパードラゴンボールを手に入れて願いを叶えてもらうしかない!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよブルマさん! 今未来へ行くと、悟空ブラックとザマスがいる平行世界の未来に行っちゃうんでしょ? そしたら、その、悟空ブラックとザマスが邪魔してきてドラゴンボールを探すどころじゃないんじゃ?」

「問題無いわよ。ついでだし、その悟空ブラックってやつも倒しちゃえばいいんだわ!」

「え、えっと、母さん? 悟空ブラックはそう簡単には……」

 

 トランクスがおろおろと勢いずいたブルマに話しかけるが、それについては私も良い案だと思ったので援護した。

 

「それがいいかもね。トランクス、この場を見回してみて? 悟空×2、ベジータ×2、アルティメット悟飯ちゃん、この間スーパーサイヤ人3まで行けるようになったラディッツ……サイヤ人の面子だけ見てもこの充実っぷり。勝てる勝てる」

「え、いやでもタイムマシンの定員が……」

「ブルマ、タイムマシンもう一個作れる?」

「う~ん、そうねぇ……。もう一個は無理だけど、実物があるからそれをベースに乗り込むスペースを拡大することなら多分可能よ」

「でもザマスは不死身で……」

「ブウ子、あとで何かおごるからちょっと未来まで行ってこない?」

「ああ、もしかしてザマスちゃん食べちゃってもいいの? だったら行く行く! やっぱり戦わなくなったとはいえ、弱いままだと心もとないのよ~。ザマスちゃん吸収出来たらキュートでビューティーなわたしにパワフルさと神性まで加わって無敵じゃない? いやんっ、わたしったらマーベラス!」

「よしっ、不死身ザマスはブウ子が引き受けてくれるってさ。これで問題ない」

「え、あの、その……えええ……?」

 

 トランクスが困惑している。けど、こっちとしても世界が滅ぶかもなんて聞かされて焦っているのだ。少しでも可能性があるのなら、それに賭けよう。

 

 

 

「決まりね! あ、ちなみに空梨あんたも行くのよ。宇宙は広いし、私のドラゴンレーダーとあんたの占いで二手に分かれて探しましょ。バッチリスーパードラゴンボールを見つけてね!」

「えっ」

 

 

 

 

 

「……未来で第六宇宙に行くための方法はどうするつもりだ」

 

 

 

 

 ぼそっとつぶやかれたピッコロさんの意見に、わいわいと「世界と未来を救っちゃおうぜ!」という雰囲気になり始めた空気が固まった。

 

 ……どうやら、まだまだ問題は山積みらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




難産。書きたいことはたくさんあるのにまとめ切るのが難しい……!さくっと進めたいのに色々問題が多すぎてもうね……orz

ちなみに主人公、超の知識は途中までなので未来のスーパードラゴンボールが破壊されていることを知りません。




しんぷるシンプルさんから素晴らしいイメージイラストを頂きました!ひゃっほい!


【挿絵表示】
主人公一家の集合絵です。見た時嬉しさのあまり涙出るかと……!子供たちのイメージもぴったりで、ちゃんと母親してる主人公やみんなカメラ目線の中一人だけ父親らしく家族を見守ってる視線のラディッツとか(ちなみに2人ともちゃんと結婚指輪してます)細かいところまで描いていただいて物凄く幸せ。しかも中華服とか!デザインや色合いがまた美しいです。
しんぷるシンプルさん、この度は素敵なイラストを頂き本当にありがとうございました!


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ドラゴンボール超5:ザマスの来訪

 「未来の第六宇宙へは、私に行かせてくれないだろうか。必ずスーパードラゴンボールを集めて、世界のねじれを元に戻そう。そして私自身のことも、私が自分で始末をつける」

 

 そう言って私達の前に真剣な表情で立っていたのは、緑色の肌の神様だった。

 

 

 

 

 

 ピッコロさんのツッコミにより未来でスーパードラゴンボールを集めるにしても、第七宇宙と第六宇宙両方に散らばる宝玉をそろえるには第六宇宙へ行く手段が必要であると思い出した私達。まぬけである。

 別の宇宙への移動手段を持つのは界王神様クラスの神様達だけなので、そちらを頼る必要がある。そして頼るのは当然界王神様一択。正直界王神様よりビルス様、ウィス様の方が知識量的に頼れそうだけど……下手したら時空が捻じれた要因となっている平行世界の3人が破壊されてしまうという危険性があるため、やはり出来るだけ内密にすませたいというのが本音だ。バレた時が怖いけど、事が全て終わった後ならどうとでもなる。というか、界王神様になんとかしてもらおう。一度毅然とビルス様たちに相対できた界王神様なら出来るさ! あの方はやれば出来る神様だ。期待してる。丸投げともいうけどキニシナイ。

 

 

 しかし話し合いを続けようとした私達の前に、思いがけない来訪者が訪れた。

 ザマスである。

 

 

 

「貴様はザマス!」

「!」

「ッ!」

「ああ、ちょっと待った。この方はこっちの世界のザマスさんだわ」

 

 未来で戦ったばかりの相手だ。当然といえば当然のごとく臨戦態勢をとった平行世界のトランクス、悟空、ベジータであるが……腕の中で眠っていた叶恵が目を覚まして「ザマスおじちゃま!」とはしゃいでおり、それを見たザマスが苦笑しているのでこっちの世界のザマスで間違いないだろう。どうやって元の世界へ戻してやるかを悩んでいるのに、向こうのザマスがあっさりこっちに来られてたまるか。

 

「いやでも、どうしてこっちの話の内容を知ってる風なんですか?」

 

 そうだよ。さっきの発言だと、まるで事情を全部知っているかのようじゃないか。

 

「前に叶恵が帰る時、何か困ったことがあれば連絡するように言っておいたのだ。その子は念話の優れた才能をもっているからな……。おそらくお前たちが困っているのを見て、私に相談しようと思ったのだろう。こちらでの会話を全て送ってきてくれた」

 

 ザマスの言葉に部屋中の視線が一気に叶恵に集まった。しかし本人は注目されてもさして気にすることなく「よきにはからえ」とばかりに満足気に頷いている。

 

 え、念話の才能? え、てかさっきまで寝てたよねこの子? どういうこと!?

 

 私たちが混乱している様子を見かねたのか、まさかのザマスからの説明が入った。

 なんでも叶恵は人間以外の存在に念話で呼びかけるのが得意らしく、それもかなり広範囲……それこそ宇宙まで意思を飛ばせるらしい。ザマスに関しては別宇宙の存在であるため叶恵だけの力では呼びかけるのは不可能だが、ザマス側に念話を受け取る意思があるため例外的に宇宙の壁をも越えられるのだとか。

 

 宇宙と宇宙を行き来できるのは神だけである。そのため意思だけでも飛ばせる叶恵はかなり特殊な存在らしい。

 しかも一時期界王神界という特殊な場所で過ごした影響か、その力が日に日に強くなっているのだというから驚きだ。

 

「え、は? ちょ、ちょっと待って初耳! 初耳なんだけど! ラディッツ知ってた!?」

「し、知るわけないだろう! 叶恵、いつからそんなことが出来るようになったんだ?」

 

 ラディッツが私の腕から叶恵を受け取り抱き上げて目を合わせながら問うと、叶恵はぼんやりと眠たげな目をこすりながら答える。

 

「ん? ん~と……んとね、うまれるまえから~」

「産まれる前!?」

「ん! かなえがはなしかけると、みんなおしゃべりしてくれたの~。ねんねしてるときも、みんなとおはなししてゆのよ!」

 

 そ、そういえばこの子は昔から何もないとこぼんやり見てることが多かったし、他の子よりもよく寝る子だな~とは思ってたけど……まさかそんな才能があったとは。

 これはやはりあれか。スーパーサイヤ人ゴッド状態になった後に出産したのと私の超能力と占いの才能部分が極端に受け継がれた結果なのだろうか。戦闘力に関しては龍成やエシャロットと同じくらいだったけど、そっちに特化するとは思わなかった。だって私の超能力も占いも後付けの力だし。

 それにしても、相変わらず私の遺伝子強いな……。子供らほとんど私似だもんな……。

 

 う~ん。まあ、とりあえず我が娘の新事実には驚いたけど、何でもありのこの世界だからあるっちゃあるか。将来的に私やババ様以上の占い師に育ちそうで楽しみですらある。でも今回はな~……まずいよな~……ザマスに連絡しちゃったか~……そうか~……叶恵一回預けて以来界王神様とザマス大好きだもんな~……。あれ? ってことはもしかしてこの会話界王神様にも送ってたりして……。

 

「あの、皆さん。私も先ほどから居るのですが……」

『!?』

「シンおじちゃま!」

「久しぶりですね、叶恵。元気にしていましたか?」

「ん! げんき~」

 

 ざ、ザマスの陰に隠れてて分からなかったけど界王神様いつの間に!? うわ身長差残酷……じゃなくて。ちょっと予想してたけど、案の定叶恵は界王神様にもこちらの会話の内容を送っていたらしい。事情を説明しなくていいのは楽だし元から頼ろうと思っていたわけだけど……問題はザマスだ。

 別世界とはいえラスボスから協力申し込まれちゃったんだけどナニコレ。

 

 当然トランクスを筆頭に、ザマスと戦っていた側からすれば彼を信用出来るはずが無い。というか私的にも界王神様と友達になったことで多少変わったとはいえ、そう簡単に信じられるかっていったら無理だわ。長年生きた者の本質はそう簡単に変わるものでは無い。

 あれだろ? もしうっかり連れて行ったらどうせ裏切ってザマスとザマスとブラックでトリプルポタラフュージョンとかやるんだろ? 今までの経験からいってそれくらい覚悟してても間違いないと思う。そんなん死ぬわ。

 

 まあ、そういうわけで協力は頼めないという旨を伝えるとザマスは「……それも当然か」と苦し気に眉根を寄せながらも納得した。

 

 聞けば彼は神として世界が滅ぶ可能性をはらんだ事象を見逃せない上に、別世界の自分が仕出かした事柄を無視できず今回協力を申し出てくれたようなのだ。もしそれが本心だとすれば、ザマスも変わったものだ。別世界で理想を実現させようという自分を邪魔するためにこの場にいるってことだからな。当初はあれほど自分の理想と正義を信じて疑わなかったのに……。

 ……かといってその言葉を鵜呑みにも出来ないので、やはり一緒に連れて行くことは出来ないが。

 

「ならば、”ザマス”本人として助言だけでもさせてくれ。今の話だけでは情報が少ないが、シン殿から詳しい話を聞いたのでな……。その私が考えていることを想像することくらいは出来る。未来に行った先で再び相対するのなら、少しでも相手の情報を知っていた方が良いだろう」

(ちょ、詳しい事情って何。界王神様どこまで喋ったんスか)

(あ、いえ……! ザマス殿があまりにも真剣だったので、彼に関する事はだいたい……私たちが第10宇宙を訪ねた理由も含めて……その、すみません)

 

 咄嗟にテレパシーしながら界王神様に目配せすると、界王神様がめっちゃキョドりながらとんでもない事言ってきやがった。おい嘘だろ。いくら親☆友とはいえそんなあっさり喋らないでくれよ。今さらっちゃ今更だけど神様連中に関しては私の原作知識バーゲンセールじゃねーか。内容は予言と称してみんなに話した内容とそう変わらないけど気持ち的に、なんかこう……! あれだよ! ちょっともやっとするわ!

 

 

 

 しかしそんな挙動不審な私たちをよそに、ザマスは淡々と語る。

 

「私は確かに、その平行世界の私がおこなっているような事をしてもおかしくない思想を持っている。「争いを繰り返す愚かな人間など居ない方が世界のためでは無いか」という考えだ」

「ッ、そんな勝手な理由で……! たしかに人間は争うこともある! けど、互いを思いやり愛し合う心だって持っているんだ! なのに……!」

 

 トランクスが激昂し、拳を血が出るくらいまで握り締めた。別人と分かったからこそ殴るの我慢してるんだろうな……。

 やっと取り戻した平和な世界と母を奪われた別世界の甥っ子の苦しみは想像することしか出来ないけど、きっと別人とはいえ仇が目の前で自分勝手な理想を語ればその怒りは計り知れないものとなっているはず。今理性を保っているだけでもかなりの忍耐力だ。

 

 

 そんな怒りを抑えるトランクスに何を思ったのかザマスが近づき、それに対して身構えたトランクスだったが次の行動に怒りは戸惑いへと変わった。ザマスがトランクスの頭に手のひらでそっとふれたのだ。

 これにまず初めにプリンスベジータが動こうとしたが、彼が界王神様や叶恵の前で何か仕出かすとも思えなかったのでその肩を掴んで止めた。プリンスベジータは私に何か言おうとしたけど、反対側の肩をキングベジータに掴まれてどちらに何を言おうか迷った末にとりあえず見守ることにしたようだ。…………正直弟ベジータがプリンスベジータを止めるとは思わなかったけど、とりあえず何だこの絵面。弟弟姉……この場合も3姉弟って言葉は適応されるのかな? いやでもプリンスベジータは私の弟じゃなかったわ。もう何度目になるか分からないけどこう同じ顔した人間が居るとややこしくて頭痛い。

 

「!? 何を……ッ」

「………………直接産んだわけでは無いが、界王神とは創造神。すなわち、宇宙に生きとし生けるものは皆子供だ。だというのに、私の行きつく先の理想の本質が子殺しとはな。しかも私が継ぐべき第10宇宙ではなく、別の界王神の領分に踏み込んでの暴挙……愚かな」

「な……」

 

 ザマスの手が慈しむようにトランクスの頭を撫でた。私たちはといえば、「え、これどういう状況?」「いや分かんないけど喋っちゃいけない雰囲気だよな」みたいな視線を交わして口を挟めずに見守っている。

 彼はふいに目を閉じてから、うっすら開いたその灰色の眼でトランクスを憐憫のこもった視線で見つめた。

 

「母を殺されたか。…………なるほど、お前の世界の有様は酷いものだな。なんと悲しい光景か。時間を超えることは大罪だが、罪を罪とも知らぬなら……救済を願い過去を訪れるのも無理はない」

「お前、まさか記憶を……」

「…………今でも人間を愚かしいと、そう考える心が無いとはいえない。しかし、私は近しい目線で共に考えてくれる稀有なる友を得られた。だからこそ私の考えはあまりにも軽率であったと気づけたのだ。だが平行世界の私にはそんな相手が居なかったのだろう。……ブラックといったか? 私と共に行動する孫悟空に似た者というのは」

 

 そう言って確認するように見られたので頷けば、ザマスは考え込むように顎に手をあてる。やっと頭から手を離されたトランクスはよほど居心地が悪かったのだろう。ほっと大きなため息をついていた。まあそりゃお前、別人とはいえ敵に優しく頭撫でられたら気味悪いよな。

 

「人を亡ぼす。言うは簡単だが、宇宙には界王神以外にも様々な神がいる。そして計画を実行する上で、最も危惧すべき神は破壊神だろうな。……実行するにはあまりにも障害が大きい。どうやってそれらを退けたのかは知らないが、ともかくそんな大きすぎる目標を達成するために私が求める協力者となると……私に近しい、もしくは「同じ」考えを持つ者だ。理想は「私がもう一人」いれば好ましい」

「もう一人のザマス……?」

「クククッ、なるほど。さすが、ご本人様のアドヴァイスは参考になる。私にも覚えがあるぞ。自分の思考ほど読みやすいものはないものなぁ」

 

 セルが茶化すように言うと、若干機嫌を損ねたらしいザマスが眉根を寄せるがその言葉に対して否定はしなかった。

 

「私は先日の格闘試合でスーパードラゴンボールの事を知った。そして神の気すら人の身に宿しつつも、そこで満足せずに更に先へ進もうとする戦士として最高の資質を持った孫悟空という存在も。……もし平行世界の私が何らかのきっかけで同じようにこの2つの事を知ったなら、それらを利用し、神の罰を執行するため強い体を求めてもおかしくはない。そして神にも時間を超える術はある。それを使って、二人の私が同時に存在する状態を作り上げたのなら……」

「え、いまいちよく分からないんだけどさ……。聞いた感じ、ブラックの正体はザマスってことでいいのか?」

「そうなるわね。実際にこの世界にだって、未来のトランクスと今のトランクスが同時に存在してるんだもの……。理屈的にもありえなくないし、別世界とはいえ本人の考えだし信憑性高いわよ。それにもう一人自分が居たらって気分だけならちょっと理解も出来るしね。わたしも忙しい時とか私がもう一人いたらな~って思う事あるもん」

 

 クリリンくんが核心をつく疑問を口にすると、ブルマがそれを「ありえる可能性」として肯定した。もしそれが本当だとするなら、セルの時とちょっと状況が似てる。つーか、予想はしてたけどザマス=ブラック説が濃厚になって来た。というかほぼ確定だろうな。

 

「実際に私のような例もあるしな」

「それな」

 

 似てるとか思ってたら本人が自分で言ったわ。いや本当にな……最終的に1体になったけどもともとこいつら2体いたんだよな……。今でこそこんな呑気にしてるけど当時どれだけこいつに苦しめられたか。

 タピオン達とブウの時の協力に免じて普段は言わないでいるが、私は今でもナッパと私の両腕両脚ポッキーの件忘れてないぞこのセミ野郎。そろそろ詫びに菓子折りの一つも持ってこいよ。高いやつ。

 

「ああ、そういえば……」

「フンッ。今思い出しても忌々しいぜ。言っておくが、俺は今でも貴様を認めたつもりは無いぞ。随分煮え湯を飲まされたからな。……一緒に修行してやっている悟飯の気が知れん」

「ピッコロさん、僕だって喜んで一緒に修行してるわけじゃないんですよ? というか、修業じゃないです。一方的に押しかけられてるだけで」

「む……、そうだったな。すまん」

 

 悟飯ちゃんは本当にお疲れ様な。というか、ピッコロさん的には可愛い弟子をとられたような気分もあって若干セルに嫉妬してる? ……賢く格好いい上にちょっと可愛い所もあるとかピッコロさんマジパーフェクトだな流石ピッコロさん。彼に対する私の評価は今現在も進行形でうなぎ登りである。

 とまあ、そんな話は置いておいて。

 

「じゃあブラックの正体はザマスってことでいいかな。まあそれが分かったからって、倒しちゃうわけだから関係ないけど」

 

 そう言ってまとめると、ちょっとザマスが落ち込んだ。あ、いやゴメン。わざわざ解説してくれたのに関係無いは言い過ぎた。でもザマスとブラックを倒すための戦力が十分に揃っている現状で今私たちに必要なのは、ブラックの正体よりも未来でスーパードラゴンボールを手に入れるための手段なのだ。

 そしてそのことを私が言う前に代弁してくれたのはブウ子である。ブウ子は界王神様の肩に腕を絡めると猫なで声で言った。

 

「で、事情が分かってるならやることは分かってるわよね? か・い・お・う・し・ん・さ・ま☆ わたしたちを未来の第六宇宙まで連れてって! きゃはん☆」

 

 それに対して界王神様は全身に鳥肌を浮かべてブウ子の腕から逃れると「し、しかたがないですね! 言っておきますが、時間の移動は禁忌です! 罪なのです! 今回の件は例外として、解決したら二度とタイムマシンなど使ってはなりませんよ!」と言って未来の世界への同行を了承してくれた。ちなみにそれに対して、界王神様に次いでいつの間にか部屋の隅の方で控えていたキビトさんが「いいのですか界王神様!?」と泡吹いてた。しかしザマスは連れて行けないし、ビルス様には出来れば言いたくない。結局頼れる神様は界王神様しかいないのだし、観念してもらおう。安心してくれ、界王神様が傷つかないための肉壁ならいっぱいいるから。

 

 

 

 …………それにしても神様二人の様子を見るに、さっきまで最悪の想像だった「世界が捻じれたままだと世界が滅ぶ」説が現実味をおびてきたな。神様の視点から見ても、現状は禁忌を破ってでも強行して解決しないとまずい事態ってことだ。

 

 本当にこの世界ときたら、次から次へと問題が絶えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、とにかくブラックの正体は分かったし、元の世界に帰れる目途も立ったっちゅーことだな! なあブルマ、タイムマシンの燃料はどれくれぇで作れるんだ?」

 

 平行世界の悟空が今までのごちゃごちゃを実にシンプルにまとめると、パンっと拳を手のひらに打ち付けて気合いを入れてからブルマに問いかけた。

 

「そうねぇ……。タイムマシン本体の改造もしないといけないし、少なくとも1日以上はかかるわね。多く見積もって三日から一週間かしら」

「もっと早くできんのか」

「無茶言わないでよ。いくら最長老様に才能の限界をとっぱらってもらったスーパーブルマさんでも、タイムマシンを開発したのは未来の私。今の私はタイムマシンの理論すら思いついてないんだから、そう簡単にはいかないわ。出来るだけ急ぐから、それまでアンタたちはこの世界で休んでいけば? あ、部屋はいくらでも余ってるから自由に使ってちょうだい」

 

 そうブルマに言われ、プリンスベジータは物凄く複雑そうな顔をした。まあ本来なら自分の家だからな。

 

「お! ってことはまだ時間があんだな! なあオラ! オラといっちょ手合わせしてくんねーか?」

「オラもそれを言おうと思ってた!」

「元気だなあいつら……」

 

 未来へ行くまでに時間があると知るなり、悟空が早速平行世界の自分と戦う約束をとりつけていた。ぶれない奴である。

 

「フンッ、なるほどな。別人とはいえ、いつかのポトフ星と違って本物の俺自身と戦えるというわけか。面白い。おい、貴様。ついてこい。平行世界の俺の力をこの俺が直々に確かめてやる」

「チッ、俺とはいえ俺に偉そうに命令するんじゃあない。……だが、その提案は面白い。未来で今度こそ奴らを倒してやるつもりだが、その前のウォーミングアップだ。せいぜい役にたってもらおうか」

「減らず口を」

 

 とかいってベジータはベジータで戦うために喧嘩しながら何処かへ行ってしまった。

 

 楽しそうだなお前ら。おっさん二人の図太いメンタルと違ってトランクスは急転する事態についていけないで憔悴しきってるぞ。そんな彼に水を持ってきてあげたチビトランクスマジ天使。

 そしてトランクスを元気づけようとしてくれたのか、ギニュー隊長が「元気が出るポーズだ!」と言って新生特戦隊でスペシャルファイティングポーズをきめている光景が最高にシュールだった。常識人枠のクリリンくんとピッコロさん、ラディッツが追加で彼を気遣ってくれたのが救いか。

 

 

 

 そんな感じで、とりあえずはブルマがタイムマシンを改造して燃料を作るまでは解散という雰囲気になった。未来へ行くメンバーを決めたりもろもろ話し合うことはあるんだろうけど、中心人物が2人……いや4人? ええい面倒くさい! とにかく悟空たちとベジータ達が何処かに行ってしまったからな。トランクスも休ませた方がいいし、話し合いは少し落ち着いてからでも良いだろう。

 

 界王神様達も一度界王神界へ帰ることになった。しかしザマスの方であるが、帰る前に驚くべき言葉を残していった。

 

 

 

「私は、やはり界王神たる器ではないのだろう。いつ私の中の燻る感情が弾けて、あのような悲しい光景を作るのか分からない。それを考えると、正直自分を恐ろしく感じる。……私は界王神見習いを辞退するつもりだ」

 

 それに対して一番驚いたのは界王神様だ。「な、そんな!? ザマス殿、考え直してください。それはあまりにも早計過ぎる。あなたは素晴らしい界王神になれる器を持っておいでだ!」と言って彼に考え直すように訴えたが、しばらく己自身について考え直す時間が欲しいのだとザマスは首を横に振った。どうやら未来のザマスの件は、彼に随分なショックを与えたようである。

 

 

 

 

 

 彼は最後に叶恵の頭を撫でると、儚げな笑みを残して第10宇宙へと帰っていった。

 

 その後ろ姿を見た私は、漠然ともう私達の世界線では悟空ブラックも闇落ちしたザマスも現れないのだと感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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★ドラゴンボール超6:インターバル

 番外編になってからややこしい話の割に更新ペースが遅いので、ちょっとでもわかりやすくなればいいな~と人物紹介を含めたまとめ回+未来へ行くまでの間の小話。



 

ざっくり人物紹介(超編の前回まで)

 

 

〇孫空梨(ハーベスト):本作の主人公。ベジータの実姉で悟空の義姉。こいつの日記というていのタイトルに反して本編では全体話数の半分以上を他キャラ視点に奪われる。本編ではだいたい足を引っ張ることが主な仕事。自己中で我儘だが、人の親になってから多少周りを思いやれるようになった。ラディッツと結婚し、現在2男2女の母親。超能力、占いに特化している。

 

〇ラディッツ:悟空(カカロット)の実の兄。犬、サンドバッグ、同居人を経て主人公と結婚。現在居酒屋の店長として働いている。スーパーサイヤ人3にまでなれるようになった。ベジータとよく修業をしている。

 

〇孫悟空:ドラゴンボール本来の主人公。本作の主人公と違ってちゃんとした主人公。畑仕事をしながら、子供たちに戦いごっこを教えたり姉と修業したりビルス様の所におしかけて修業したり充実した日々を送っている。スーパーサイヤ人ブルーになれる。

〇孫悟空(原作時空):平行世界(原作時空)から事故によって本作世界に来てしまった孫悟空。戦うのが大好きで非常にポジティブだが、身内に修業相手がたくさん居る別世界の自分がちょっと羨ましい。スーパーサイヤ人ブルーになれる。

 

〇ベジータ:キングベジータ。姉との仲は悪いが、色々あったからか歳のせいか昔ほどいがみ合ってはいない。普段はトレーニングしつつ、文句を言いながらも時々ブルマの仕事を手伝っている。スーパーサイヤ人ブルーになれる。

〇ベジータ(原作時空);平行世界(原作時空)から事故によって本作世界に来てしまったベジータ。王子。ツンツンとがっていた昔に比べて落ち着きを手に入れ、トランクスに対しても父親らしいことを言うようになった。スーパーサイヤ人ブルーになれる。

 

〇トランクス(現代):天真爛漫に育った現代のトランクス。しかしことごとく苦労している未来の自分と平行世界の未来の自分を見てちょっぴり将来に不安を感じている。

〇トランクス(原作時空、未来):平行世界(原作時空)から事故によって本作世界に来てしまった未来のトランクス。悟空ブラックに母ブルマを殺された。未来世界の最後の希望。苦労人。

 

〇孫悟飯:駆け出しの学者。ビーデルと結婚し、第一子パンを得たばかりの新米パパ。某セミが時々押しかけてくるので、忙しいのに日々の修業を怠れない。スーパーサイヤ人ブルーにはなれないが、アルティメット状態でブルーに勝てないまでもそこそこ戦えるくらい強くなった。潜在能力値はぴか一。

 

〇空龍:主人公とラディッツの長男。若干自由すぎる所はあるものの、悟飯を除いた子供たちの中で最年長なので下の面倒をよく見るしっかり者。戦いの才能はあるが、物作りの方が好き。よくカプセルコーポレーションに入り浸っている。

 

〇龍成:主人公とラディッツの次男。見た目は小さいラディッツ。双子の片割れで、控えめな性格だがしっかり者。

 

〇エシャロット:主人公とラディッツの長女。見た目は小さい主人公。双子の片割れで、非常に元気ながら我儘で甘えん坊。

 

〇叶恵:界王神界で生まれた主人公とラディッツの第4子。スーパーサイヤ人ゴッドになった後の主人公から生まれたためか、髪の毛が若干赤みがかっている。よく寝る。念話の才能にすぐれ、人外と対話することが出来る。その範囲は宇宙にまで届き、日々何かと交信している模様。一時的に預けられたことがあったためか、界王神とザマスがお気に入り。

 

〇ブルマ:40歳を過ぎても驚異の美貌を保つ美人科学者。昔ナメック星で最長老様に潜在能力を解放してもらったおかげか、だいたい何でも出来る感がある。困った時のブルえもん。

 

〇ピッコロ:スーパーナメック星人。ナメック星ではネイルではなく最長老と融合した。その後地球の神とも融合。最長老と融合したからか、潜在能力を解放したり相手の心を読んだりも出来る。突っ込みの希望の星。

 

〇クリリン:悟空の親友。18号と結婚しマーロンという娘を得た。現在は警察官として仕事をしている。多彩な技は今も健在。

 

〇ギニュー:もともとフリーザの部下であったがナメック星でジースと共にカエルになり、色々あって今ではジースとサイバイマン達(ナッパ、ナッピ、ナップ、ナッペ、ナッポ、ラディッシュ)を束ね新生ギニュー特戦隊を結成し、地獄に居るもと特戦隊メンバーの減刑のため正義の味方として活動している。

 

〇セル:究極神セルを名乗るコナッツ星の神。色々あって未来から来たセルと未来のセルっぽく育ち、宇宙での武者修業、ナメック星でのタピオンとの共闘を経て成長した現代セルが融合した姿。精神生命体。背中の昆虫の羽の上に更に天使のような羽が生えている。最終的に劇場版ボスキラーみたいになった。

 

〇ブウ子:悪ブウが主人公を取り込んだことによって女性体に変異したブウの女性版。死にかけた時本体(悪ブウ)に力を残して脱出したため、現在戦闘力は激減している。人気ブロガー兼法外な値段を請求するどんな病気も怪我も直せる医者として活動中。金持ち。今では主人公とブルマのお茶友達。

ちなみに太っちょブウ、悪ブウの生まれ変わりであるウーブ(現在子供)は別個に存在している。

 

〇界王神(シン):第七宇宙の界王神。未熟を自覚しながらも老界王神のもとで立派な界王神になるために日々頑張っている。ポタラで合体したキビトとはナメック星のドラゴンボールで分裂した。ザマスの親友。

 

〇ザマス:第10宇宙のもと界王で現界王神見習い。自分の志す正義を掲げた危険な思想を抱いていたが、界王神と熱く論議を交わすことで色々と新しい視点が開けた。平行世界での自分の行いにショックを受け、界王神見習いを辞退すると言って第10宇宙へと帰っていった。

 

 

 

〇孫空龍(未来):未来世界でのラディッツと主人公の子供。両親はともに他界している。本作の未来から現代に来ようと思ったら事故で原作世界へ行ってしまった。生まれ持った伝説のスーパーサイヤ人としての力に翻弄されてきたが、現在は制御可能に。同じ伝説のスーパーサイヤ人であるブロリーを更生させようと日々奮闘している。

 

〇ブロリー:空龍によって未来に連れて行かれ、問題を起こしながらも何だかんだで未来で生活している伝説のスーパーサイヤ人。問題児。もうすでにいい歳であるが超問題児。しかし日々空龍との戦いで破壊衝動が発散されたのか、しつこい空龍に疲れたのか、昔に比べて大分理性的になった。態度は悪い。不本意ながら現在一子の父親。過去世界に行くときは息子をパラガスに押し付けられないか常に狙っている。

 

〇トランクス(本作世界未来):本作の未来から現代に来ようと思ったら事故で原作世界へ行ってしまった。伝説のスーパーサイヤ人同士の戦いに胃を痛め、やむを得ずストッパーをしているうちにかなり強くなった。でも胃薬が手放せない。近々結婚する予定。

 

 

 

 

 

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■月▽日

 

 今日は久しぶりに色々ありすぎてお腹一杯。とりあえず面倒くさいから箇条書きでまとめとくか。

 

 

 

 

・平行世界の悟空、ベジータ、未来トランクスが大怪我しながらタイムマシンでやって来た。ちなみにこの平行世界、推測だが私の知る原作時空だと思われ。この3人は未来で悟空ブラックおよびザマスと戦い、負けて過去に一回帰る所だったようだ。

・どうやらこっちの世界の未来からトランクス、空龍、ブロリーが来るタイミングがかぶったせいで、時空移動の空間で事故が起きた模様。こっちの世界の未来組と平行世界の3人が入れ替わってしまったらしい。ついでに世界まで捻じれて入れ替わり、今この現在から未来へ行こうとすると原作(日記では仮にこう呼ぶとしよう)時空の未来へ行ってしまうんだとか。

・それが原因で世界破滅のピンチ。ついに地球先輩だけでなく破滅の危機が宇宙にまで広がったとか、この世界に安息の地は無いのか。ガッデム。

・早期解決が求められるため、現在使用不可能な現代のスーパードラゴンボールに代わって未来のスーパードラゴンボールを使おうという事になった。

・でも第6、第7宇宙をまたいで散らばるスーパードラゴンボールを集めるには界王神様クラスの協力が不可欠。とか思ってたら、まさかのザマス&界王神様コンビ来訪。私の超能力関係の才能をがっつり受け継いでいたらしい叶恵が、私たちが困っているのを見て相談しようと思ったのか彼らにこちらでの会話を全部念話で送っていたらしい。叶恵の能力については今日初めて知ったのだが、人間以外の存在に呼びかけられる念話が使える上にその規模が宇宙にまで届くというから凄まじいものである。才能の方向的に考えて今度界王様に叶恵の修業つけてもらえないかな……。私もテレパシーは使えるけど宇宙規模となると制御の方法とか教えてあげられる気がしない。うん、悟空に頼んで界王様んとこ叶恵連れてってもらおう。それまでに珠玉の親父ギャグ集を作っておかねば。

・こちらの世界のザマス的には原作未来ザマスの所業にショックを受けたらしく、世界のねじれを直すためスーパードラゴンボールを集める事、原作未来ザマスを倒す手伝いをしたいと申しでてきた。信用できないので断ると、ならばせめて参考にしてくれと、彼は自分がするであろう行動を推測して悟空ブラックの正体について言及してくれた。結論。悟空ブラック=ザマスでほぼ確定。

・自分がいつ平行世界の自分と同じ行動に出るか分からないと言ったザマスは、自分はやはり界王神にはふさわしくない、界王神見習いを辞退すると言葉を残して第10宇宙へ帰っていった。その哀愁溢れる背中を見て、ちょっと悪いことしたなと思った。少なくともこの世界のザマスは界王神様という友達が出来たことによっていい方向へ変わっていたように感じていたから、もしかしたら私たちは第10宇宙から素晴らしい界王神となる神を奪ってしまったのかもしれない。あとで界王神様がもう一度説得に行くと言っていたから、ここは親友である彼に任せようと思う。

 

 

 だいたい大きな出来事をまとめるとこんな感じか。

 とりあえず総括して感想を述べるとめんどくせぇな! の一言である。いや、マジで何だこの状況。今までこの世界内だけでも面倒くさかったのに、ここに来てもうほぼ関係ないだろって思ってた原作世界が関わってくるとか想像できねーよ。

 

 ともあれ、方針は「未来へ行って邪魔してくるであろうザマスブラックコンビをつぶしてスーパードラゴンボールで世界のねじれを戻してハッピーエンド」作戦として固まった。

 そして世界のねじれも問題だが、原作トランクスがあまりにも悲惨すぎるのでこっちの全戦力投入してでも完膚なきまでにザマスとブラックを叩き潰そうと思う。袋叩き、オーバーキル上等である。この期に及んで俺が先に戦うだなんだと順番争い始める野郎どもがいたら、そいつら囮にして私その他で後ろからグサーよ。数の暴力を思い知るがいいボッチども。

 

 いや、本当にな。何故未来トランクスばかりこんな不幸な目にあわないといけないんだ……もう十分すぎるほど苦しんだろうに。

 こっちの未来トランクスには何だかんだで空龍たちがいるし、今回の件で悟空ブラックとザマスが現れる可能性はほぼ消えた。だからこそ比較することで平行世界の彼の悲惨さをより際立って感じてしまうのだ。

 

 本当に彼は……平行世界の未来トランクスはたった一人の戦士として頑張ってきたのだろう。

 

 そろそろ幸せになっていいころじゃないか? 可能ならスーパードラゴンボールと一緒に向こうのナメック星まで行ってブラックたちのせいで死んでしまった未来世界の人たちも生き返らせたい。ポンポン使っているためありがたみが薄れてしまっているというか、ビンゴ大会の賞品にしちゃうくらいあるのが当たり前みたいになってしまっているけど……希望の宝玉ドラゴンボールは、本来彼らのように真に困難な状況に陥った者たちに必要だろう。うん、持っていく宇宙船にナメック星までの航路図をインプットしておくようにブルマに頼んでおこう。

 

 

 

 

 

 で、方針は決まったもののブルマがタイムマシンを改造し、燃料を作るまでは私達に出来る事はない。なので各自自由時間となった。

 

 平行世界から来た3人は落ち着かないだろうが、せめて少しでも体と精神を休めてほしい。特にトランクス、お前少し休め。

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《どんまいその1》

 

 

 

 喜々として自分同士で修業を始めた悟空たちは、とりあえず満足したのか夕飯前には帰って来た。肩を組んで非常に仲がよさそうである。

 

 ちなみに悟空たちが帰って来た場所はタイムマシンがあるカプセルコーポレーションではなく普通にパオズ山の自宅。平行世界の悟空はタイムマシンがあるカプセルコーポレーションに他2人と一緒に泊まるのかと思ってたけど普通に帰って来た。適応力が高いというかなんというか……。とりあえず悟空が2人になって帰ってきたことに驚いたチチさんと悟天ちゃんに説明するのが大変だった。平行世界だの時間移動だの自分で理解するのもやっとなのに人に説明するのしんどい。

 そして人が必死で説明して疲れ果てているというのに、奴らはよほど自分同士の修業が充実していたのか大分腹を空かせていたようだ。いつも以上に凄まじい勢いで食事を胃袋にかき込んでいきやがる……。いつもは私とチチさんで作るんだけど、流石に間に合わなかったのでラディッツが手伝ってくれた。今日が居酒屋の定休日で本当によかった……。じゃないとラディッツはこの時間仕事なんだよね。

 ラディッツは店長になってからますます料理の腕に磨きがかかったし普段から季節ごとの新メニュー開発もしているので、彼が料理する時は何を作るのか私もチチさんも楽しみだったりする。いや本当、いい旦那もったわ……。

 

 で、見事その料理に餌付けされたのかもしくは自分の世界では敵だった実の兄に興味があるのか、平行世界の悟空は実に純粋な目で「こっちのオラの兄ちゃんはいいやつなんだな!」と言ってきた。ラディッツは物凄く複雑そうな顔をしており、気になったのか平行世界での自分はどんな奴なのか聞いていた。するとものの見事に自分が今までしてきた所業と途中までまったく同じで、物凄く気まずそうに視線をそらしていた。ああ、うん……。今にしてみれば完全に黒歴史だもんな。悟空の純粋な視線って後ろ暗い所があるとキツイよな。どんまい。

 子供たちは昔のラディッツを知らないから「別の世界のお父さんってヤな奴だったんだね!」「こっちのおじさんは厳しいけど優しいよね! 僕おじさん大好きだよ!」みたいな会話をしていて、それを聞いたラディッツは頭を抱えて小さくなっていた。うん、どんまい。

 ちなみに現在別に暮らしている悟飯ちゃんだが、悟空が2人居る状況が気になったのか今日はビーデルさん、パンちゃんを連れて実家帰りし一緒に夕食を食べていた。(ビーデルさんも夕食づくりの手伝いを申し出てくれたけど、今日はお客様なので座っていてもらった。小さいパンちゃんも居るし)そしてその悟飯ちゃんは「そういえばそんなこともあったなぁ……。僕はまだ小さかったけど、あの時のラディッツおじさんは凄く怖かったからよく覚えてますよ。といっても、今では考えられないから話を聞くまですっかり忘れてたんですけどね! はははっ」と朗らかに笑いつつラディッツに追い打ちをかけていた。うん、どんまい。

 

 今思えばラディッツの件で初めて原作に直接的に関わって色々変わっていったんだよなぁ……。ナメック星に行ったのも色々勘違いしていたとはいえラディッツを生き返らせるためだったし。

 ちらっと見れば空龍に「ねえねえ、凄く怖かったお父さんってどんな感じだったの?」と聞かれ、龍成に「お父さんの昔のお話聞きたいな」と控えめに言われ、エシャロットに「エシャも聞きたい! ねえ話して話して!」とねだられ、膝によじ登って完全に聞く体勢に入っている叶恵にひっつかれているラディッツの姿。悪いな~と思いつつも、その困り果てた姿にふきだした私は悪くないと思う。こっちの悟空とチチさんも笑ってたし。

 

 

 まあ、昔はどうあれ今幸せならいいんじゃないだろうか。本人的には死後地獄に行く覚悟はしているらしいけど、だったらせめて死ぬまでの間は文句なしに幸せだったって言える人生を送ればいい。今では立派な父親やってるんだし、それに関しては胸を張っていいと思う。

 

 

 

 だから励ましの意味を込めて改めて言おう。

 

 

「どんまい」

 

 

 

 

 

 

 

《どんまいその2》

 

 

 

 ベジータ二人は表面上はいがみ合いつつも、自分自身とのトレーニング自体には非常に満足感を感じていた。

 メリットは同じ実力の相手と戦えるというだけではない。そういった相手を出し抜くには相手の弱点を知る必要がある……そのため普段より意識が研ぎ澄まされ、ウィスから指摘されていた自分の弱点を客観的に観察し気づくことが出来たのだ。

 そしてお互いにそれを繰り返すため、動きは洗練され最適化されていく。実に充実した時間といえよう。

 

 しかしあまりに長い時間戦っていたためか、気づけばあたりは暗くなっていた。そしてどちらともなく、息切れを整えると近くの岩場に腰かける。無言で似た動作で汗をぬぐい、それに気づいた双方は非常に不愉快な様子で顔をそむけた。

 

 

 そしてそっぽを向いたまま、最初に口を開いたのは平行世界のベジータである。

 

 

「…………貴様の姉、空梨とか呼ばれていたな。カカロットと同じでそれは地球での名だろう。サイヤ人としての名は何だ?」

 

 その意外な質問に面食らったベジータであったが、そういえばこいつの世界にはあの女が居ないんだったなと思い出す。自分以外の生き残った王族と聞けば気になるのも当然といえるだろう。

 

「……ハーベストだ。フンッ、なんだ、気になるのか? だが姉といってもろくなもんじゃない。俺が昔からあの女にどれほど屈辱を味わわされてきたか……。あいつが居ない世界のお前が羨ましいぜ」

「ほう、それは気になるな。どんな屈辱だ?」

「………………言わん」

 

 眉間によった皺がより深く渓谷を作るのを見て、平行世界のベジータはやっと自分と相手の異なる部分を見つけたことに内心わずかに安堵した。

 やはり何処までも自分に似た相手というのは気味が悪い。どうやらこの世界のベジータにとって、姉という人間はカカロットと同じくらいに気分をざわつかせる存在らしい。先ほどまで乱れていなかった気がほんのわずかに揺らいでいる。それを知ったことで、ようやく自分と相手は同じ存在であるが別の人間だという事を実感できた。

 

 しかしなんとなく話題に出したが、平行世界のベジータにとって姉という存在はさほど興味を引くものではない。弟は居るものの、疎遠な上に自分より年上の兄弟など居ないため”姉”というものが想像できないのだ。

 そのため特に続ける言葉も無かったが、ふと彼女を見た時抱いた印象を口にした。

 

「…………母上に似ていたな」

「…………まあな」

 

 それについては否定せず、ベジータも同意した。すると、そこで終わったはずの会話に新たな声が飛び込んできた。

 

「へー! おばさんっておばあちゃん似なんだ!」

「「トランクス!?」」

「その、夕食だから父さんたちを呼んでこいと言われて……話の邪魔でしたか?」

「いや、そんなことはないが……」

 

 本人同士だというのに会話の少ない気まずい空間に入って来たのは、現代のトランクスと未来のトランクスだった。そして現代のトランクスはといえば、どこか遠慮がちな未来のトランクスと違い自分の好奇心の赴くままに質問をする。

 

「ねえねえ、おばあちゃんってどんな人だったの? おばさんみたいな性格だった? あと、そういえばパパの前の王様だったおじいちゃんのことも俺聞いたことないや。昔は治める星があったんでしょ? どんな王様だったの?」

 

 普段話題に上ることもない父方の祖父母の存在に興味をひかれたのか、トランクスが矢継ぎ早に質問する。未来トランクスも興味があるのか、控えめながら「俺もちょっと興味あるな」とつぶやいていた。

 

 これに困ったのはダブルベジータである。

 トランクスにはサイヤ人の過去を詳しくは話していない……もちろんどんな仕事をしていたのかも。今まで散々サイヤ人の誇りだ何だと言ってきたが、トランクスたちにとってサイヤ人の所業とは紛れもなく悪である。それこそ仕事とはいえ未来で悟空ブラックやザマスがやっているような事を他の星に対して平然と行ってきたのだ。祖父母……特に父であるベジータ王の事を突き詰めて聞かれた場合、そのことについても話してしまうかもしれない。認めたくないが、地球で過ごすうちに大きく変わったベジータにとってその過去を知られることには抵抗があった。「この俺ともあろう者がなんてザマだ」と内心苦笑いするも、その心に余裕は非常に少ない。

 ちょうど同じころラディッツが過去の黒歴史を掘り起こされて困り果てていたが、彼は今ここに居ない上にベジータがそれを知るすべは無い。よって、この心境を分かちあう相手は”自分”だけである。

 

 思わず顔を見合わせた。そして一瞬目を瞑り、開いてから一言。

 

 

「「帰るぞ」」

「ええ!? おばあちゃんとおじいちゃんの話は!?」

 

 トランクスが話をねだるが、ベジータは聞く耳もたずカプセルコーポレーションへ帰るために飛び去った。

 

 自分だからこそ理解したのだ。「こいつは役に立たない」と。

 ならば何も話さない方がましである。

 

 

 

 

 ふと、どこからか「どんまい」と聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





これはもしや一足早いお年玉……!?
Himekaさんからオサレな装いのラディッツと主人公のイラストを頂きました!

【挿絵表示】

洋服の色合いとデザインにセンスを感じる……!しかも主人公が羽織っている上着はラディッツのものらしく、裏設定までおいしいとか素敵。そしてせっかくおしゃれしてるのに表情がそれぞれいつも通りっぽいところとか好きです。主人公が完全に甘味に目がくらんでいる……。

この度は素敵なイラストを頂きありがとうございました!


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ドラゴンボール超7:突然リストラされた件

 現在、戦闘員リストラなう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルマがタイムマシンの改造を終わらせ、燃料の開発も完了した。その期間、約三日である。トランクスが信じられないというような目でブルマを見て、ブルマは胸を張って誇らしげだった。

 

 この3日間、方針として以下の事が決まった。

 

 まず未来に到着したらスーパードラゴンボール探索組とブラック・ザマス撃破組に分かれる。不死身のザマス対策はブウ子がザマスを吸収すること、念を入れてピッコロさんに魔封波を習った悟飯ちゃんが壺に封印するというふたつの策が用意された。しっかり者の悟飯ちゃんが壺の予備とお札を亀仙人様から複数もらってきたので万が一壺を壊されても問題は無い。怪我人対策の仙豆はブウとの戦いの後もカリン様のもとでラディッシュがコツコツと作っていたので余裕は十分。

 

 正直完璧である。楽観的だと思われようが、これで負ける方がおかしい。

 

 ちなみに組み分けの内訳は探索組に私、界王神様、ブルマ(どうしても行くときかなかった)で、撃破組に悟空二人、ベジータ二人、トランクス、悟飯ちゃん、ラディッツ、セル、ブウ子である。タイムマシンの定員が最大12人までだったので、このメンバーに決定した。

 

 悟飯ちゃんは現在仕事で大事な時期らしいが、トランクスのためならと予定を全てキャンセルした。ピッコロさんから場合によっては作戦の要となる技も教えてもらった事で(ピッコロさんは久しぶりに悟飯ちゃんに技を伝授できたからか嬉しそうだった)気合いも十分。甥っ子が凄く頼もしい。

 撃破組のメンバーは個人プレイに走りそうな面々ばかりなので、正直ストッパーとしてトランクスとラディッツだけでは不安だったから悟飯ちゃんにはかなり期待している。強さはもちろん責任感だって強いし真面目だし、今の彼なら過去の苦い経験を生かせるだろうから舐めプする可能性も低い。きっと撃破チームのブレーンとして活躍してくれるだろう。

 というか、メンバーが決まった時点ですでに自主的に睨みをきかせてくれてた。

 

「あの、無いとは思いますが一応言っておきます。間違っても「俺が戦う」とか順番争いしたりするのはやめてくださいね? パワーアップしそうな場合まかり間違っても待つのも無しです。卑怯だとか正々堂々だとかプライドだとかいう考えは全部切り捨ててください。悟空ブラックの正体という情報のアドバンテージがあるとはいえ、謎の多い相手側にどんな奥の手があるのかもわかりません。不測の事態を引き起こさないためにも、速やか、かつ確実に倒しましょう。いいですね?」

 

 口を挟ませずに一気に言い切った悟飯ちゃんは「いいですね?」の部分で悟空達とベジータ達を真っすぐに見ていた。そして彼らが頷くまでアルティメット特有の大きな黒目でずっと見ていた。悟空とベジータは心なしか冷や汗を流しながら頷いていた。…………甥っ子が強い。私がわざわざ舐めプすんなよと言うまでも無かった。

 多分別の世界の未来を背負うことに、真面目な彼が人一倍責任感を抱いたのだろう。「まかせておけ」と言っておきながら「失敗しました」ではすまされないからな。

 

 そういえば今回こうして組み分けすることになったけど、はじめは組み分けせずにブラックとザマスを倒してからゆっくりスーパードラゴンボールを集めた方がいいんじゃないかって提案したんだよね。でもその案は却下された。何故って、効率的じゃないからって答えが最も適切だろう。でも違う。

 

 

 

 

 

 

 

 平たく言って私がリストラされた。セルとブウ子に。

 

 

 

 

 

 

 

「君の特異点としての仕事っぷりは見事だ。ああ、実に見事だとも! クククッ、私などは結果論だが君のお陰で今ここに居ると言っても過言ではない。しかし残念ながら、味方視点でとらえると君の存在は邪魔でしかないのだよ。思い出してみたまえ! 私が言うのも何だが君の存在が無ければ今までの戦いの難易度がどれほど下がったと思う? 今回は下手をすれば世界ごと消えてしまうのだろう。私は君たちの味方になったつもりは無いが、流石にそれは困るのでね。だから特異点の君には地球から離れていてもらいたいのだよ」

「そういうことよん。だってほら、セルちゃんがあなたが居なければ空龍ちゃんとかのイレギュラーが居ても、ある程度原作通りに世界は進むんだってことセルゲームの時証明したじゃない? 今回は流石にパワーバランス的に原作通りってことは無いだろうけど、っていうかこの辺の原作とか知らないけど、少なくとも空梨ちゃんが居ると悪い方向にズレる可能性が大きいのよ~。だから空梨ちゃんは未来に到着次第、即宇宙へ飛び立ってちょうだい。ちゃちゃっとスーパードラゴンボールを集めて来てね☆ 期待してるわ!」

 

 要約すると「オメーが居ると難易度上がる可能性高ェからさっさとドラゴンボール探しに行けよな」である。

 

 

 …………………………。

 私は今まで痛い思いも苦しい思いもしたくなくて、戦いを避けようとしてきた。そして結局いつも避けられなくて痛い目をみてきた。それから比べれば今回は安全圏での比較的容易な仕事を任されたはず……。なのに何故だ。釈然としない。

 

 

 

 

 

 

 そしてモヤモヤした思いを抱えながら、私たちは未来へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、未来へ着いた途端、間を挟むことなくブルマと界王神様と一緒に宇宙船へ詰め込まれて宇宙へ出荷されたのである。解せぬ。いや理由は分かってるけど気分的に非常に解せぬ。

 物凄くモヤモヤするものの、まあ冷静に考えればセルとブウ子の理屈はもっともだ。…………いいんだ。私は私で美味しいところをもっていくから。スーパードラゴンボールと一緒にナメック星のドラゴンボールを確保して未来トランクスに後で感謝されるからいいんだ。待ってろよ未来ブルマ。もうすぐ生き返らせてやっからな。

 

「おかしいわねぇ……。前回の経験を生かしてスーパードラゴンボールレーダーの改造もしたから、どんなに離れた場所にあっても探せるはずなのに」

 

 しかし私の想像とは裏腹にスーパードラゴンボール探しは難航していた。おかしなことに、私の占いにもブルマのレーダーにも欠片もその存在が引っかからないのである。私の占いの方は宇宙規模という事で初めからあてにしていない部分があったが、界王神様が力を貸してくれたことで広範囲をカバーすることが出来たのでこれもおかしい。あれ、やべぇな……。もしかしてザマスってこっちの世界のスーパードラゴンボール使ってる? でもってもしかすると使ってから1年経ってない? だとしたら反応が無いのも頷ける。

 

 嫌な予感を覚えながらもスーパードラゴンボールをあてにしていただけに見つからないと色々詰むので、探索を進めるべく私たちは宇宙航行を続けた。

 そんな中……進むにつれて、何故か界王神様がどんどん顔色を悪くしていった。神様なのに船酔いでもしたのかと問いかければ、彼は静かに首をふって震える唇を開いた。

 

「おかしい……。宇宙に神々の気配を感じません」

「神様の気配?」

「ええ。星々の神、界王のような銀河の神、そして……この私、界王神の気配や対となる破壊神ビルス様の気配が宇宙のどこからも感じることが出来ない。おかしいとは思っていたのです。別宇宙の神たるザマス殿……いえ、ザマスがこの宇宙で好き勝手するなど許されるはずが無い。必ずこの宇宙の神の介入があるはずです。そして、もしビルス様が出てきたならばいくら不死身なれど”破壊”は免れない……」

「ちょ、ちょっと待ってよ。今聞いた感じだと、まるでこの世界に神様が居ないみたいじゃない。あれじゃない? ビルス様って凄くお昼寝好きなんでしょ? きっと今も寝てるんだわ。あと界王神様の方はきっとザマスとブラックに気づいていないんじゃないかしら」

「ま、まさか! そこまで鈍くありませんよ! この未来世界に来たとき、姿は見ずともブラックとザマスの気はたしかに感じ取れました。あれほどの力なら、たとえ界王神界に居たって気づきます!」

「本当に~?」

「本当です! この世界のトランクスさんが言っていたでしょう。彼はこの世界の私の指示でバビディとダーブラを倒してブウの復活を防いだのです。私にとってブウは凄まじい脅威として心に刻まれている……。復活せずとも、未だその身を封印した玉がある地球は他の星より数倍気にかけているはずです。そんな地球にあのような脅威が現れたのなら気づかぬはずがない!」

 

 疑いの目で見てくるブルマに界王神様が熱弁をふるうが、私は界王神様の言から推測される事態に冷や汗をかいた。

 

「ねえ待って。それが本当なら、もしかしてさ……。ザマスがこの世界に介入してきた時点でこの世界の界王様は奴に接触したんじゃない? そしてザマスに邪魔者として殺された」

「な! い、いやしかし……それならビルス様が居ない理由も証明されてしまう……」

「ど、どういうこと?」

「破壊神と創造神は対となる神。そのため一方が死ねばもう一方も死んでしまうのです」

「な、なるほど……。前のピッコロと神様の関係みたいな感じなんだ……」

 

 ちょ、聞かれたからってぽろっとそんな重要な情報もらしていいのか。界王神様、相当狼狽えてるな……。まあ別世界とはいえ、自分が親友のザマスに殺されたかもしれない可能性に行き当たったらショックだろうけど。

 どうやらザマスとブラックは想像していた以上にとんでもない事を仕出かしているようだ。あいつら下手したら人間殺しどころか神殺しまでしてるぞ。

 

 思いがけない可能性に気づいてしまった私たちはしばし無言になった。けどこうしていても何も始まらないし、スーパードラゴンボール探しだって進まない。だからまず出来る事……第二目的としていた方を優先することにした。

 

「ねえ、スーパードラゴンボールはさっぱり見つからないし、先にナメック星へ行ってみない?」

「ナメック星へ? ああ、地球のみんなを生き返らせるのね! ……あ、でもこっちのナメック星のドラゴンボールってパワーアップしてるのかしら。前のままだったら一人ずつしか生き返らせることは出来ないわよ」

「それならそれで、こっちのピッコロさんを生き返らせて地球のドラゴンボールを蘇らせればいい。たしかナメック星のドラゴンボールに生き返らせるための期間って無かったよね」

「そっか、なるほどね」

 

 相変わらずドラゴンボールに頼りっきりだが、使えるものがあるなら使って何が悪い。それに地球の人たちを生き返らせるのもそうだけど、あわよくばスーパードラゴンボールの在処だって聞けるかもしれない。上位互換の存在についてポルンガが答えられるか微妙なところだけど、もし聞くことが出来たらラッキーである。

 

「あと、もし本当に亡くなってたらこっちの界王神様を生き返らせよう」

「わ、私を?」

「ああ、生きてるのに生き返らせるって言われるのも変なものですよね……。いや、せっかくブラックとか倒しても神様のいない世界なんてあんまりだと思って」

 

 創造神、という存在が居なくなることが宇宙にどれほどの影響を与えるか分からないし、もしかしたら放っておいても次の界王神が現れるかもしれない。でもあまりにも奪われ過ぎたこの世界である。復興するにしてもこれから大変な苦労を伴うだろうトランクスたちを見守ってくれる神様が居たっていいじゃないか。

 

 

 

 

 

 そんなわけで私たちはナメック星に向かうことにした。

 

 リストラされたらリストラされたで出来る事はたくさんあるのだ。

 だから地球の方は頼んだぞ、撃破組。

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 一方、地球では。

 

 

「あちゃー」

 

 

 ブウ子が目の前の惨状にそうつぶやいていた。

 

 

 

 

 



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ドラゴンボール超8:曇り時々ザマス

※感想欄でご指摘いただいたので、こちらで補足させていただきます。
ドラゴンボール超の漫画版ではどうやら界王神様はバビディ、ダーブラ戦で亡くなったようなのですが、本作では基本的にアニメで既出の情報をもとに執筆しております。アニメでは不透明だったところを分かりやすく納得いく形で補足してくれる漫画版も凄く好きなので時々設定が混ざるかもしれませんが、漫画版のあとがきを読む限り未来トランクス編はアニメとは別の演出、アプローチで進むとありました。なので基本的にアニメ版と漫画版を分けて考え、本作はアニメ版の方の二次創作として執筆するつもりです。
ややこしいとは思いますが、ご理解いただけましたら幸いです;


 スーパードラゴンボールの前にナメック星にてドラゴンボールを確保しようと、私たちは急きょ計画を変更した。

 

 ちなみにナメック星へは時間短縮のため、界王神様の瞬間移動に似た方法で向かう事となった。本来はキビトさんの方が得意とする技らしいのだが、一回ポタラで合体したことでコツをつかみ、今ではかなりの精度で使うことが出来るんだとか。

 しかも聞けばブウ戦の後彼は界王神として老界王神様の指導の下で研鑽に励み、今では新しい技まで習得しているというから驚きだ。「ザマス殿に負けてはいられませんからね」と言った界王神様は、ちょっと照れていたけど何処か誇らしげだった。そういえば界王神見習いを辞退すると言っていた私たちの世界のザマスだけど、界王神様の言葉を聞いた感じ、もしかしたら説得に成功したんだろうか。……帰ったらそこのところ詳しく聞いてみよう。

 

 そしてナメック星へ向かった私たちだったのだけど…………一発目、不発。いや、なんつーか星そのものが存在してなかった……。

 ブルマと何度も宇宙船にインプットしていた座標とついた場所を確認して、場所的には間違いないと分かると手を取り合って青ざめた。もしかして隕石か何かでこっちのナメック星吹っ飛んでる!? と。

 いやいやまさかと、急いで界王神様の力を借りての宇宙占いでナメック星を探した。するとその結果、まったく別の星の映像が映し出されたのだ。「もしかしてこっちではフリーザがナメック星を壊しちゃった後、ナメック星そのものを復活させないで似た環境の惑星に移住したのかもしれないわね」とは安堵にため息をついたブルマの発言である。な、なるほど……。まったく覚えてないけど、原作ではそうだったのかもしれない。暇があったら、後で原作世界の悟空たちに聞いてみようか。

 いやー、何はともあれよかったよかった! とか言いながら私たちは再度移動した。

 

 そして……二発目、不発。

 いや、ある意味大爆発。何がって? なんかこう、希望とか期待とかそういったもろもろがだよ!!

 

 

 

「その者は我々の恩人であるはずの悟空さんにそっくりでした……。奴はこう言ったのです。「もととなる星の願い玉すら消え去った今……その子供ともいえるこの星の願い玉もまた、消えるのが必然。そも、人の身に余る奇跡など存在そのものが神への冒涜。呪うなら、願い玉を手中におさめようなどと思いあがった祖先を恨むがいい」と。そして言葉の通り願い玉を破壊した奴は、我々の仲間をも殺しつくしたのです。……悪夢でした。フリーザの時のように星ごと破壊されなかったのだけが救いでしょうか。おかげで、私を含めた数名がなんとか生き延びました」

 

 

 

 以上、ひっそり生き延びたナメック星人の証言である。

 ちなみに生き残った者の中にはデンデや長老達のようにドラゴンボールを再び作り出す能力がある者は居ないらしい。何度も試してみたが上手くいかなかったのだという。更に言うとタマゴを生める才能を持った者もいないらしく、「このまま我々はひっそりと滅びてゆくのでしょう……」と諦観で染まったナメック星人さんの言葉がズシンと私たちの心に重くのしかかった。

 

 

 おい…………おい……。

 

 

 

 

「ナメックボールもスーパードラゴンボールも破壊されてんのかよぉぉぉぉぉ!!!!」

「ふざっけんじゃないわよザマスの馬鹿野郎ーーーーー!!」

 

 

 

 

 私とブルマの声が新・ナメック星の空にこだました。

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックは困惑していた。

 

 

 自分とザマスの力の前に敗北し、無様にも過去へ逃げ帰ったサイヤ人たちはいずれ戻ってくるだろうと確信していた。そして予想通り奴らは帰って来た。

 

 驚くべきことに”3人”はブラックと呼ばれる自分の正体に気づいていた。だから褒美に教えてやったのだ。自分たちが今までしてきたことを、断罪すべき罪人たちへ死出の旅路のはなむけとして。

 この自分、スーパードラゴンボールを使い孫悟空の体を奪った過去のザマスと……時の指輪の力で訪れた先の未来のザマス。愚かな人間がいない、美しく清浄な正義の世界を作るため……人間0計画を志してここまでやってきた。

 その仕上げとしてこの星……時を超えるという神々の禁忌をも犯す大罪人を生み出す、地球人を亡ぼして計画は完遂される。

 

 もうすぐ己の理想が体現されるとあって、ブラックとザマスは上機嫌だった。

 

 この世界の神々が死に絶え、そしてスーパードラゴンボールを破壊したと言った時のサイヤ人どもの顔といったら愉快なものだったとブラックは愉悦に顔を歪めた。

 

 しかし、その時だった。

 

「なんだと? スーパードラゴンボールを破壊した!?」

「おいおい、そしたら世界のねじれっちゅーやつはどうにもならなくなっちまうぞ」

「浅慮でしたね……。その可能性は考えるべきでした」

「まったくだ。かつてピッコロ大魔王も、己の願いを叶えた後神龍を破壊しているからな……。前例を知りながらそんな可能性にも気づかないとは、究極神セルともあろう者が情けない」

「では宇宙へ行った空梨達がスーパードラゴンボールを見つけることは不可能という事か……。チィッ! 根本的な目的が振出しに戻ってしまったか。小賢しい真似を!」

 

「えっ」

 

 孫悟空の体に引きずられたのか、らしくない声が出た。

 

「な!?」

 

 隣の自分も困惑している。

 

 それもそうだろう。3人だと思っていた相手が、見覚えのない輩を含めて8人に増えたのだ。そして見覚えのある方ときたら、先にその場にいた2人……悟空とベジータにそっくりな姿をしている。というか、そのものだ。驚くなという方が無理だろう。

 更に何処からともなくゾロゾロと出てきた5人は、一目見ただけでもわかる猛者だった。孫悟空の体で様々な体験を吸収したことで飛躍的に成長し、相手の気をより深く読み取れるようになったブラックには分かる。……少なくとも、新たな悟空とベジータは元からいた二人に匹敵する力を持ち、孫悟空に似ているがどこか雰囲気の異なる青年はスーパーサイヤ人になってもいないのに強力な力をその身に秘めていることが理解できた。その隣に居る地球人とは様子の異なる昆虫のような生命体に至っては強い上に精神生命体である。唯一己より確実に劣ると断言できるのはトランクスと同程度かそれより少し強い程度だと思われる長髪のサイヤ人だが、それだけでは安心できないほどの戦力差が眼前に並べられたのだ。

 

 知らず、ブラックの頬を一粒の汗が流れる。

 

 

 

 そして追い打ちをかけるように、背後から甘ったるい声が首筋を撫でた。

 

 

 

「初めまして、ザマスちゃん。そしてサ・ヨ・ウ・ナ・ラ! いっただきま~す」

「!?」

 

 咄嗟に孫悟空の体による凄まじい瞬発力をもって離脱したブラックであるが……隣に居たザマスはそうはいかなかった。視界の中で桃色の光がはじけ、いかにも邪悪そうなピンク色の体をした見たこともない種族の……おそらく体つきを見る分には女が、満足そうに巨大なクッキーを頬張っていた。そしてブラックはそのクッキーの正体をすぐさま理解した。同時に激しい怒りで体中が満たされる。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 私の同志に何をした!!」

 

 紫のオーラが体を包み込み、髪は薄い桃色に変色し逆立つ。…………スーパーサイヤ人ロゼ。現在ブラックが最も力を発揮できる姿だ。

 しかしブラックが放った中心に黒い核を持つエネルギー弾に対して、ピンク色の女は自分の手前に六角形の黒い板を出現させた。その数約20。

 

「何!?」

 

 その板に阻まれ、15ほど板を破壊してからエネルギー弾は霧散した。

 

「あらヤダこわい! でもわたしの柔肌を焦がすにはちょ~っと足りないかしら? わたしあなたより弱いけど、自衛手段はバッチリなのよね」

 

 憎たらいニヤニヤ笑いで「チチチッ」と言いながら人差し指を左右にふった女は、ブラックが次のアクションを起こす前に「じゃ、後はよろしく! わたしはザマスちゃんフォームを形成するのにちょこっと時間がかかりそうだから、どこかで休んでくるわ。ばいちゃ!」と仲間らしき者たちに言い残し清々しいほどの逃げっぷりで去っていった。

 最高の同志を訳も分からぬままに奪われたブラックとしてはたまったものでは無い。

 

「クッ、何がどうなって……!」

「フンッ、さっきまでの余裕の表情が崩れているぞ。自分が後手に回る気分はどうだ?」

「! ベジータか……。……………………貴様は先に居た方だよな?」

「…………そうだ」

「「………………………」」

 

 いつの間にか近くに来ていたベジータに、思わず確認してしまった。それに対して聞かれたベジータが数秒の沈黙の後に頷き、一瞬妙な空白が生まれる。

 しかしこのままでは不利になるのは自分だと、ブラックは瞬時に判断するとベジータに向けてエネルギー弾を放った。

 

「効かん!!」

 

 ベジータがそれを弾くが、もとより時間稼ぎのために放ったものだ。ブラックにとってなんら不都合はない。

 ブラックは屈辱に顔を歪めながらも、状況のリカバリーを図るためこの場からの逃亡を選択した。不死身の同志を失った今、この面々と同時に戦うことは不利であると判断したのだ。

 

 

 _____まず、あの女を見つけなければ。我が同志ザマスは不死身。あんな化け物に屈するほど弱くはあるまい

 

 

 ブラックはそう結論付けると、瞬間移動でその場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

「! しまった! あいつ、瞬間移動まで使えたのか……!」

「え、嘘だろ!? せっかくこれから戦おうってのに逃げたんか!?」

 

 ブラックの行動を目の当たりにして、ベジータに次いでブラックに攻撃しようと下でかめはめ波の構えをとっていた悟飯と悟空が狼狽える。

 

「そういえば、前戦った時にあいつ使ってたなぁ……」

「呑気に言ってる場合かカカロット! チィッ、瞬間移動か……改めて見ると嫌な技だぜ。鬱陶しい」

「う、鬱陶しいはねぇだろ!?」

「鬱陶しいわクソッタレ! あれが無ければ逃げられることもなかったんだぞ!?」

「同感だ。まったく忌々しいぜ……! 思えばセルの時だって瞬間移動が使えたばかりに奴は戻って来やがったんだ。ハーベストのエナジーリダクションといい、どいつもこいつも敵方に渡ると面倒くさい技ばかりもちやがって!」

 

 頬をかきながら「まいったなぁ」とばかりに呟けば、何故か二人のベジータ両方から罵声を浴びせられて平行世界の悟空は珍しく少し落ち込んだ。ベジータ達の言い分も最もだが、ここで悟空にあたるのはあまりにも理不尽である。

 少々不憫に思ったラディッツが「いや、だが便利だと思うぞ瞬間移動。その、今までも何回も役にたってきたし、俺たちの世界では旅行代がタダになると妻達が合同で家族旅行する時、喜んでいてだな……まあ元気を出せ」と励ましたが、その内容の半分は「旅行のアッシーとして便利」という内容のため慰めになっているかは微妙である。

 

「ふむ……ブウ子の奇襲を優先させ過ぎたな。おそらく我々の戦力を感じ取って再起を図るために逃亡したのだろう。なるほど、馬鹿ではないようだ」

「クソッ、すぐ探さないと……!」

「だが気配を消してしまったようだぞ? どうやって探す」

「しらみつぶしに探してでも見つけ出す! このまま奴を野放しには出来ない!」

「愚直だな。しかしそれしか方法は無いか……。まあ、相手は1人だ。奴がどれほど急激に成長しようとも、二人一組で探せば出会ってすぐに負けることもあるまい。どれ、トランクス。君はどうにも危なっかしい上にこの中では弱い方だからな。この私がついていってやろう」

「あ、ああ……そうか。あ、ありがとう」

 

 冷静にブラックの行動を分析し、トランクスの主張に具体案でもって返答を返すセル。それに対してトランクスは素直に感謝してよいのか分からなかったが、もともと律儀な性格のため一応礼は口にした。だが以前は敵対していた相手とあって、セルの変わりようを含めて内心は非常に複雑である。

 

 

 

 

 

 とりあえず、さあこれから戦うぞという場面で敵が逃げ出したことに8人は肩透かしを食らっていた。

 

 

 

 

 

 作戦としては平行世界の3人に視線を引き付けておき、ブウ子同様ザマスだけではなくブラックにも奇襲をかけて一瞬で終わらせる方が望ましかった。しかし人数差にまかせて下手に混戦状態を作り、隙を作り不死身のザマスに逃げられてしまえば厄介である。そのためザマスを封殺した後、増えた敵対戦力と同志を失ったことで混乱したブラックを叩くことにしたのだ。

 が、逆にそれが裏目に出た。

 ブラックはどうやら怒りに任せて行動したり混乱を長引かせるタイプではなかったらしく、こちらが思っているよりもずっと早く己の置かれた状況を理解したようだ。この場で無暗に戦いを挑むことを良しとせず、一度退却して見せた判断は至極冷静だと言えよう。

 

 そしてブラックに逃げられた上、先ほどまで少しでも情報を得ようとブラックとザマスの話を聞いていれば…………あてにしていたこの世界のスーパードラゴンボールはすでに無いというではないか。これでは世界の捻じれという問題が解決しない。過去のスーパードラゴンボールが復活するまで世界が何事もなく保てばよいのだが……楽観視するにはあまりにも不安が大きすぎる。

 

 ともかく、まずブラックを倒してからだ。

 

 スーパードラゴンボールの件はすぐにどうにかなる問題ではないので、とにかくこの未来での不安の種であるブラックを倒すことを優先させようという運びになった。

 

 

 

 

 そんな時だ。

 

 

 

 

「うっぷ。ちょ、も、無理……」

 

 不穏な言葉と共に、どこかへ飛び去っていたブウ子がよろよろとした動きで帰って来た。これに対して一同は言いようのない不安に襲われる。

 

「ぶ、ブウ子さん。どうしたんですか?」

 

 恐る恐る問いかけた悟飯に対して、ブウ子は答えず「うっ」とえずいたと思うと片手で口を押えた。そしてもう片方の手で必死に悟飯を指さす。正確には悟飯が持つ封印のための壺とお札が入ったホイポイカプセルの収納されているケースだ。

 

「! 分かりました! 用意するのでもうしばらくこらえてください!」

「ごめ、無理」

 

 その意図を理解しすぐに魔封波の用意をしようとした悟飯だったが、その数秒も堪えられなかったらしいブウ子は大衆の面前で体をクの字に曲げて盛大に嘔吐した。さらにその吐瀉物がうようよと動いて人の形に戻り始めるのだから、どんな歴戦の猛者であったとしても一瞬引くのは当然である。気分は完全に「えんがちょ」であった。

 

 

 

 しかしその一瞬こそが命取りとなった。

 

 

 

「我が同志よ! 今ここで、私と一つになれ!!」

「な! ブラック!!」

 

 

 

 ブウ子の吐瀉物がザマスとしての形を取り戻した瞬間、どこかへと消えていたブラックが姿を現した。そして両腕を大きく左右に広げるブラックの”右耳”には、緑に輝くポタラが装着されている。それを確認したセルがすぐさま復活したザマスの”左耳”にあるポタラを狙って指先からビームを放ったが、その判断は一瞬遅かった。ビームは地面を穿ち、ブラックに引き寄せられるように宙へ舞い上がったザマスを貫くことは無かったのだ。

 

「く! かめはめ波ぁぁぁぁ!!」

「オラもだ! かめはめ波ーーー!!」

「ならば私も乗ろうか。かめはめ…………波!!」

「チィッ! ファイナルフラぁッシュ!!!!」

「クソッタレぇぇぇ! ギャリック砲!!」

「「魔閃光!!」」

「ウィークエンドぉぉ!!」

 

 悟空がかめはめ波を放ったのを皮切りに、それぞれの必殺技が空中にてポタラを使い合体したと思われるザマスとブラックに襲い掛かる。

 それぞれ先陣を切った悟空に半ば反射的に引きずられる形であったが、スーパーサイヤ人ブルー×4、アルティメット(内一人は自称)×2、スーパーサイヤ人3、スーパーサイヤ人3に匹敵するほどのスーパーサイヤ人2から放たれた必殺技の総攻撃は、先ほどのうっかりを帳消しにするほどのオーバーキルであった。しかも合体直後とあって、せっかく強力な体を手に入れた合体ザマスも一瞬無防備な状態だ。そこをつかれたとあれば、たまったものでは無いだろう。

 思わずそれを見ていたブウ子が「えげつなっ」とつぶやくほどである。

 

 ちなみにブウ子であるが、先ほどザマスを吸収したところまではよかったのだ。しかし、悪ブウから無理やり分離したことによってブウ子の本来の戦闘力は激減していた。そも、かつて純粋ブウともいうべきプロトタイプのブウが界王神を吸収できたのはブウの能力が界王神を超えていたからである。弱体化したブウ子が界王神であるザマスを身の内に取り込むには、能力に差がありすぎたのだ。結果、吸収するどころかその力に耐えられず、体内で再生しようとするザマスに耐えかねて吐き出した。……それが事の真相である。

 しかし結果的にポタラによる合体が総攻撃のトリガーになったのであれば、自分が戦犯になることもあるまい。いやーよかったよかったと、ブウ子は呑気に「きたねぇ花火だわんっ」と上機嫌で空で弾ける光を見た。

 これほどの攻撃だ。たとえザマスの不死性があったとしても、無事ではすむまい。弱って落ちてきたところを悟飯の持っている壺に封印すればミッション完了だろう。

 

 

 

 

 

 しかし、それは新たなる悪夢の序章でしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

『馬鹿な……! 神が、神が人間に敗れるなどと……! あってはならない……! はは、あははははははははははははははは! あっては、ならないのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

 ブラックとザマスが合体した存在を、仮にザマスブラックと呼ぶとしよう。ザマスブラックは、ポタラによる合体で凄まじい力を手に入れたものの不死身のザマスと不死性を持たないブラックが合わさったことで、半分不死身、半分不死身ではない体になってしまった。そのため、合体することでザマスは不死身を自ら手放したのだ。

 だからこそ、不死でなくなった体に強力な攻撃を受けてザマスは死ぬはずだった。だが、不死属性の残った半身が瞬時の消滅を免れることで、残った意識が最悪の選択をした。

 

 光が弾け、一瞬世界を照らした。だが次の瞬間、内から弾けた赤黒い光がそれを塗りつぶし……世界を覆う。

 

 

「な、なんだこりゃ!?」

「空に、ザマスの顔が……!」

 

 

 深く、暗く、淀んだ緑色の気が地球の空を塗りつぶしてゆく。そしてその中には狂ったように嗤うザマスの無数の顔が浮かんでいたのだ。

 

 誰もが状況を理解できない中、ブウ子はとりあえず腰を捻り片手を腰にあて、頭をこつんと自分の拳で殴り、ウインクをしてぺろっと舌を出した。いわゆる「テヘペロ」である。

 

 

「あちゃー」

 

 

 何か知らないけどやっちゃった☆

 

 

 

 

 

 

 

 地球、現在の空模様___________曇り時々ザマス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公「今回の戦犯は私では無い」(ドヤァ


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ドラゴンボール超9:神の御業

 スーパードラゴンボールが失われ、ナメック星のドラゴンボールも無くなってしまったと知った私たちはすぐに地球への帰還を優先させた。

 どうせ私も居ないし、どうせ私も居ないし(何故か二回言わなければならない気がした)ザマスとブラックはもう片付けてるだろう。だったら一度過去へ戻って、もう一度世界の捻じれを元に戻すために策を練らないと……。あまり気は進まないが、場合によってはビルス様たちを頼らなければならないかもしれない。色々知恵を貸してもらわないとなぁ……。その時は界王神様に頑張ってもらって、平行世界の3人が破壊されないことを願うばかりである。

 

 

 

 しかし界王神様の星間移動で戻った地球の惨状に、私たちは絶句するはめになった。

 

 

 

「おい、なんだよあのキャラ物のトイレットペーパーみたいな空は。売れなくて在庫セール必至だろうがあんなもん。早く処分しちまえよ」

 

 とりあえず空を覆うザマスの顔、顔、顔という意味が分からない現状によく分からないツッコミを入れると、まず私たちに気づいたのは近くにいた悟空だった。

 

「あ、姉ちゃん」

「おばさん! それにブルマさんと界王神様も!」

「何? チィッ、なんてタイミングで戻ってきやがる!!」

 

 本当にな! 知るかよ! こっちだってこんなことになってるとか思わねーよ!!

 

「ちょっと、何なのよあれ!? 誰か説明してちょうだい!」

「し、知らん! 俺たちだって現状を把握できていないんだ!」

「はああ!?」

「いや、正直どうしてこうなったのか我々も本当に分からんのだ。まあ少なくとも、最悪の事態であることには変わりあるまい。そら、来るぞ」

 

 セルの言葉に全員はっとなって空を見れば、おそらくザマスが変異した姿であろう空から赤と黒の光が入り混じった禍々しい光線が降り注いできた。とりあえず直撃してはまずいと、各々が自分の技でもって迎撃する。しかし問題は私たち以外の場所だった。

 光線は一つ一つが被害を及ぼす範囲が広い上に、その数は無数。正直自分たちの居る範囲を守るのがやっとで、他の場所は成すすべなく抉られていく。

 そんな光景にショックを隠し切れないのはトランクスだ。それもそうだろう……この世界には、彼を含めた数少ない生き残りが必死になって生きている。それをこの光線は容赦なく刈り取っていくだろうことが容易に想像できた。

 

「! マイ、みんな!」

「トランクス!」

 

 仲間を助けに行こうとしたのだろう。トランクスがある方向に飛び出そうとした。その時だ。

 トランクスの目の先に……おそらく、この異常事態に気づいて様子を見に出てきたのだろう人影を確認した。帽子をかぶった長い黒髪の女性を先頭に、銃で武装した人間が数人。トランクスはそれを見るなり、無数の光線が降り注ぐ中無我夢中で彼女たちのもとへ向かった。あちらも現状に驚きつつも、トランクスが放つスーパーサイヤ人の光に気づいたのか彼に視線を向けた。

 

 そして女性が口を開いた、正にその瞬間だった。

 

 

 

 

「トランッ」

 

 

 

 

 不思議と破壊音の嵐が吹き荒れる中、女性の声がやけに響く。その声は私たちの耳にも届いたが……彼女が叫ぼうとした、トランクスの名前が最後まで呼ばれることはなかった。

 

 

 

 

「マイィィィィィィィィィィィィーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 トランクスの目の前で……その女性たちは無情にもザマスの光線に飲み込まれ跡形もなく消えてしまったのだ。

 

 すると、ふいに降り注いでいた光線がやんだ。不思議に思って空を見上げると、薄っぺらかった無数のザマスの顔が質量をもって浮き出てきた。簡単に言うと、こうなる前の生身だったザマスの顔がまんま浮き出てきたのだ。控えめに言って気持ち悪い。っていうかおぞましい。

 

『トランクスぅぅぅ、ははははは、憎いか? 私を呪うか? だが、この事態を招いた原因はお前自身なのだ……。ははははは!』

「何……だと? ふざけるなぁぁぁ!!」

 

 激高したトランクスが涙を流しながら空に向けてエネルギー波を放ったが、それを受けたところでザマスは平然としている。そして数百、数千のザマスの声がトランクスに向けて降り注いだ。

 

『お前が過去を変えようと、タイムマシンを使い過去へ向かったのがそもそもの間違いだ。いったい何度、過去と未来を行き来した? 神ですら禁忌とするその愚行を、人の身でありながら何度犯した!! 時の指輪を新たに生み出してしまったお前の罪は計り知れない。お前が孫悟空を心臓の病から救い生かさなければ、私が孫悟空を知ることも、孫悟空の体を求めることもなかった。そこから始まった私の計画も、始まりすらしなかっただろう。未来の私が不満を抱えながらも、粛々とゴワスに仕え界王神見習いをしていた所を見るにそれは明らかだ。だがそれを歪めたのはお前。歴史を歪めたのもお前。……お前の愚かなる行いが、私の正義に火をつけた。トランクス……お前は大罪人なのだ。その結果が、この世界の有様。己の罪を見るがいい!! タイムマシンなどという驕りが招いた、お前の罪で出来たこの世界を!!』

「な……」

「聞くな、トランクス!」

 

 真っ先にトランクスを気遣ったのは平行世界のベジータだった。そしてブルマはといえば、あまりにも身勝手な発言に息子を守るため空に向けてありったけの声を張り上げる。

 

「はあああああ!? ふざっけんじゃないわよ! トランクスが何か悪い事したっての!? 指輪が一個増えたからって何よ! 別にいいじゃないのケチー!! あの子はねぇ、どうしようもなく希望が無くなってしまった世界をどうにかしたくて、助けたくて行動したの! 未来の私だってそうよ! 孫君が死んでたら、私たちの世界だって滅んでいたかもしれない。それをあの子は救ったの! そして自分の世界も救ったの!! たとえ神様が否定したって、私は絶対にトランクスを肯定する! 誰かを、何かを救うのが罪だって言うなら……そんな正義こっちから願い下げよ! 馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「母さん……」

「フッ、良く言った。それでこそ俺の妻だ」

「おい、このブルマは俺の妻だぞ」

 

 ブルマ渾身の叫びにトランクスが目に覇気を取り戻す。そして満足そうに頷く平行世界のベジータに弟のベジータが突っ込んでいた。おい、こんな場所で惚気てる場合か。……まあ気持ちは分かるけど。今のブルマ、格好良かったもんな。

 しかしザマスはそんな言葉を気にも留めず、悠々と語り続ける。

 

『ふん、どうせ人間には、このザマスの正義を理解できまい。……私はもうじき、自分の意識すら捨てて宇宙に、世界そのものとなる。フフッ、私の肉体を破壊してくれたことに礼を言おう。最初からこうすればよかったのだ……。こうなることで、私はやっと思うがままに己の正義を体現した世界を構築できる。嗚呼、なんと素晴らしい……! 見るがいい。我が姿こそ正義。我が姿こそ世界。……美しいだろう? さあ、崇めよ、讃えよ!! 永遠なる不死の魂を得た神、ザマスを!! 愚かなる人間を作ってしまった神々の罪と共に、私は永遠に美しき世界を保ち続けるのだ……。それこそが神の務め、神の御業!! さあ、今こそ人間の罪から世界を救おうではないか!!』

 

 しまいにはなんか感極まったのか泣き始めた。単体で見るならちょっと行きすぎちゃった可哀想な子に見えなくもないが、無数に点在する顔が同時に泣き始めるとかホラーでしかない。過去のザマスを知るだけに、神様でも人間でも一歩道を間違えるととんでもないことになるって見本みたいでゾッとした。そうか……あの真面目を絵にかいたみたいな神様がこじらせるとこうなるのか……。

 

「な、なんか気持ち悪いですね。こっちのザマス……」

「やれやれ、とんだナルシストだ」

「ああいう自意識過剰な男ってキラ~イ。迷惑ったらないわ! だから自分しか味方が居ないボッチなのよ」

 

 あまりにもアレなザマスの発言と泣きっぷりに、怒りの感情に気を高めていた悟飯ちゃんが思わずといった感じに一歩引いた。気持ちは分かる。すごくわかる。悟空だって「ああ、気持ち悪ぃよな……」と同意している。そしてセルにまでナルシストと言われ、かつて一人で好き勝手してたブウ子にまでボッチ呼ばわりされるザマスは、もうちょっとどうにかならんかったのか。世界を私の色に染めちゃうゾ☆じゃねーよ。

 っていうかブウ子、姿が見えないと思ったらいつの間に? 見れば何故か「テヘペロ☆」とお茶目なポーズでやられたので、とりあえず原因はコイツだなと見当をつけて殴っておいた。「ひっど~い!」じゃないよ。どう見てもそのポーズ「やっちゃった! ごめんちゃい☆」じゃねーか!! どういうわけかは知らんけど、お前にこうなった原因の一端があるってのは理解できたよ!!

 

「とりあえず、どうする? このまま倒すか、一回過去に戻って対策を練るか」

 

 問いかけるが、全員の意思はその顔を見れば言わずとも分かった。

 

 

 

 

 この馬鹿な神様を、どうあってもこの場で倒す。

 

 

 

 

「子供たちが待ってるんだ。死ねんぞ」

「分かってる。けどタイムマシンを使わせてくれるほどの余裕も無さそうだし、やるしかないでしょ」

 

 ラディッツにそう答えたものの、この見渡す限りザマスザマスザマス! な光景を見るとうっかりくじけそうになる。でもこうなったら片っ端からボコボコにしてやるしかないだろう。仙豆を分けて、各自散っての持久戦だ。

 

「ザマスめ、往生際の悪い奴だ。このサイヤ人の王子、ベジータ様が塵も残さず消してやるぜ!」

「フンッ、なんだ。お前はまだ王子なのか? 俺は王になったぞ。ザマスはこの俺、スーパーキングベジータが倒す!」

「何だと? ククッ、面白い。ならば、それに恥じぬ戦いを見せてもらおうか! 王としての力を見せてみろ!」

「もちろんだ。貴様も俺として恥かしくない戦いざまを見せるんだな!」

「言われるまでもない! まあ、お前がスーパーキングベジータならば俺は今この瞬間からスーパーエンペラーベジータを名乗るがな!」

「おい、そこ変なところで張り合うなよ! 恥かしいから!!」

 

 士気を高めるのはいいが、ベジータ同士が変な事言い始めたから思わず突っ込んだ。やめろ恥かしい! っていうかエンペラーってなんだよ平行世界のベジータ。一緒じゃ嫌だからってまた妙な名前を増やすんじゃない。

 

「なあオラ、やれると思うか?」

「ま、やるしかないさ」

「だよな! おーっし! さっさと勝って、帰ってうめぇモンでも食うぞ!」

「同感だ! チチの飯が食いてぇや!」

「お父さんが居ると本当に頼もしいですね……。どんな無茶でも絶対に大丈夫な気がしてきますよ。でも僕だって負けてません! トランクスさんの世界を絶対に守ってみせます!」

 

 悟空同士のやりとりは実にシンプルで、それを聞いて士気を高めた悟飯ちゃんが今まで以上にやる気を出す。

 

「まったく、面倒くさいことになったものだ。まあこの究極神セルにとっては、楽しいお遊びの時間だがね。こういった刺激も人生、否神生のスパイスと思えば愉快なものさ」

「あら、セルちゃんったら頼もしいのね。格好いわ! ねえ、今度デート行かなーい?」

「やめろ」

 

 セルはこんな状況でも余裕を崩さないが、ブウ子の発言にちょっとやる気を削がれていた。断る時の顔が真顔だったぞ今。

 

 

 

 とにかくこの場で戦いを諦めている者は誰も居ない。

 

 

 

「みなさん……! 本当に、ありがとうございます。俺も諦めません。絶対に負けません! ザマスよ、罪と呼ぶなら呼ぶがいい。だけど俺は自分がしてきたことから逃げないし、後悔もしない! 俺は……俺は絶対に、みんなから託された希望を未来へと繋いでみせる!」

 

 一度は失意に膝をついたトランクスだが、剣を支えに立ち上がり毅然とザマスを見上げた。その姿には悲しみはあれど、諦めは感じない。

 胸を張り凛々しく立つその姿は、ザマスなんかよりよっぽど美しかった。

 

『愚かな人間どもよ、この期に及んでまだ刃向かうのか。ならば望み通り消してやろう! 愚か者どもには死こそが唯一の恵みと知れ!』

「愚かなのは貴方です、ザマス!」

 

 再び攻撃しようというのか、空が揺らめいた。しかしそこに喝を入れたのは今まで黙っていた界王神様だ。

 

『おや、これはこれは……第7宇宙の界王神様ではありませんか。フフフッ、私が愚か? 逆ですよ。私の考えを理解しない者達こそ愚かなのです! それはあなたも同じだ……。他の神同様、この場で死ぬがいい』

「何故そのようになってしまわれたのですか……! 私の世界の貴方を、私は知っている。あのザマス殿もまた、もてあます己の感情とゴワス様の界王神としての教えに挟まれ日々悩み続けていた。ですが、話せばわかる方だった。私は貴方を愚かだと言いましたが、それ以上に哀れで仕方がない」

『憐れ? この私が? 何を憐れむことがあるのです。私は今、神としての責務を果たせることが出来て幸せだ。私は今、幸福の絶頂にいる!』

「私にはそうは思えない! 見なさい、あなたが覆ったこの暗く冷たい世界を。これはあなたの心そのものではないのですか? 他者を信じられない猜疑心が、拒絶心が、自分以外などいらないと叫んでいる。これが正義だと言うならば、貴方の……お前のそれは独りよがりの傲慢そのものだ! そこに正義などありはしない! そして、お前の幸せも……!」

『黙れ! 貴様に何がわかる!』

「分かりますよ! 何度あなたと話し合ったと思うのですか!? 本来の貴方は、人を愚かしいと嘆きながらもたしかに清い心の持ち主だった。心に描く理想は気高く美しいものだった。それが今では、己のエゴに囚われ心が塗りつぶされている。……貴方は純粋すぎたのです。だから私は悲しいし、貴方が哀れで仕方がない。ザマス……ザマス殿! 今からでも、もとのあなたに戻ることは出来ないのか!? 思い出してください。貴方が思い描く美しい世界が、本当にこんな世界なのか、考えてください! お願いします!」

『……何を言っても無駄なようだな。もう貴様と話すことなど何もない。さあ、その命を捧げ、この世界の礎となるがいい!』

 

 ザマスは界王神様の必死の言葉にも耳を傾けず、空を歪め再び破滅の光を打ち出した。

 

 

 

 

 しかし誰かが動く前に、それを弾いた者が居た。その姿に誰もが驚愕する。

 

 

 

 

「シン殿、ありがとう……。こんな風になった私にまで言葉を投げかけ憐れんでくれる貴方は、やはりお優しい方だ」

「まさか……! ザマス、殿!?」

『私だと……!?』

 

 

 

 そう。その場に現れ、ザマスの攻撃を防いだ者もまた、ザマスだった。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

『お前はもしや、過去の私か?』

「ああ。お前同様、時の指輪を使いこの世界にやって来た」

 

 そう答えたザマスは、悟空ブラックがはめていた指輪と同じ銀色の指輪を身につけていた。しかしどういうわけか、その体は淡く金色に輝いている。暗い世界の中で、ザマスの姿はひときわ際立って見えた。

 

『ならば何故邪魔をする! 時の指輪を使えるのは界王神だけ……。ならば、お前もゴワスを殺したのだろう? 己の胸に秘めたる願いを成就させるため、この世界に来たのだろう!』

「違う! 私は、正式にゴワス様より界王神の座を引き継いだのだ!」

『何!?』 

 

 

 

 ザマスはつい先日の事を思い出す。未来に自分が起こしたであろう可能性を目の当たりにし、自分に界王神たる資格はないと断じたザマスは師であるゴワスに界王神見習いを辞退したい旨を伝えた。

 

 しかしザマスに返されたゴワスの返答は思いがけないものだったのだ。

 

 

 

 

 

『ザマスよ、私はこの時をずっと待っていた……。今の言葉を聞いて、お前に足りなかったものがようやく埋まったのだと確信できたのだよ』

『ゴワス様……?』

『今この瞬間から、第十宇宙の界王神はお前だ。ザマス』

『な、何をおっしゃっているのです! 先ほど申し上げたではありませんか! 私には恐ろしい可能性が秘められている。そんな私が界王神になるなど……!』

『ふふっ、変わったなザマスよ。お前は謙虚でありながらも、どこかで絶対の自信を持っていた。しかし今では己を見つめ、過ちを自ら正す心を手に入れている。そして、他者を思いやり慈しむ心もな。……そんなお前になら、私は界王神になってほしい。私は、この瞬間をずっとずっと待っていた。お前にその心を気づかせたのが私でないことが悔やまれるが……まあ、私もまた未熟であったという事だな。はははっ』

『ゴワス様、ですが!』

『よいかザマス。しかと聞け』

『……!』

『界王神となったお前に、この時の指輪もたくそう。どう使うかはお前次第だ。今回に限り、私は何があっても目を瞑るつもりだ。もし処罰があるのなら、私が責任を負う。…………悔いのないようにしなさい』

 

 

 

 

 

 師の好意を受け取ったザマスは、自分に何が出来るのか考えた。そして”ある行動”をした後に、タイムマシンで未来にやってきたトランクスたちと時を同じくして時の指輪を使い未来を訪れたのだ。そして今まで起きたことを全て見ていた。己の愚かしさに何度歯を食いしばったか分からない。

 

 

「ザマスよ、この世界の私よ。お前は、いずれ私が歩んでいたかもしれない未来の姿だ。だからこそ私にも責任がある。よって、お前の始末は私がつける!」

『愚かなり……! 愚かなり愚かなり愚かなりぃぃぃぃ!! 私自身が、私を否定するのか! そんなこと、あってはならない! あっていいはずが無い! 偽物め! 貴様は誰だ!?』

「いいや、私はお前だザマス! この私もまた、お前のあり得た可能性の一つ。……だが、こうなってしまったお前を変えることは、もう出来ないだろう。だからせめて、私はお前の代わりにこの世界に対して償うためにやってきた!」

「な、何を言っているのですか? ザマス殿!」

「ザマス……さん! あなたはいったい何を……」

 

 界王神とトランクスの問いかけに対し、ザマスは薄く笑む。そして淡い光をまとう己の体を見下ろした。

 

 

 

「ザマス。お前がやった事と同じだ。時の指輪を使っての、願いの前借り。お前と同じ私がやらない理由は無いな?」

『! 貴様、まさかスーパードラゴンボールを……!』

「ああ、使ったさ。”私が居た世界”から1年後のスーパードラゴンボールをな! ブラックと呼ばれるお前が存在した時点で、私の世界とお前が居た世界は別の世界へと分岐したのだ。よって、もしお前が私と同じタイミングで願いを叶えていようが私が赴いた先にお前は居ない。その結果に文句はあるまい? トランクスを罪人と断罪したが、お前自身もまた禁を犯した罪人であると知れ! もちろん私もまた禁を侵すものだが、私はこの罪から逃げはしないし後悔もしない! ……だろう? トランクス」

「ザマスさん……」

「君の言葉は力強く、励まされたよ。今まで屈せずによく頑張ってきてくれた。だからそんな君に祝福を送ろう」

 

 

 

 

 

 ザマスは龍の神に願った。一度だけでいい……そのどんな願いでも叶える力を、自分に宿してほしいと。

 別の世界のザマスが己のため何もかもを奪うために願ったのに対し、ザマスは他者に分け与えるために願いを使おうと決めたのだ。

 

 

 

 

「わが身に宿りし龍の神の力よ、その力でもって……この世界を、悟空ブラックと呼ばれる神、ザマスが現れる前の状態へと蘇らせたまえ!!!!」

 

 

 

 

 ザマスが言葉を発した途端、その体を中心に黄金の光が弾けた。その光は宇宙ザマスを突破し、地球から宇宙全体に拡散してゆく。

 

『馬鹿な!? そんな願い、叶うはずか……!』

 

 しかし空に浮かぶザマスの思惑とは裏腹に、世界に変化が現れる。

 

「な、何!? 町が……!」

「戻っていく! 周りの景色が変化していくぞ!?」

 

 まるで記録媒体の逆再生のように、破壊された町がもとに戻っていった。そして地球の……否、宇宙の各所で奇跡は続く。

 

 

 

 

「あれ? 俺、死んだはずじゃあ……」

 

「私、生きてる!」

 

「お、おおお! み、みんな……! 戻って来てくれたのか? 蘇ってくれたのか!? あああ! なんということだ……! 私たちは、再び孤独にならずにすむのだな!」

 

「奇跡だ……! この黄金の光のお陰か? 破壊された景色が、命が全てもとに戻ってゆく!」

 

 

 

 ザマスに奪われた景色が、命が、全てが元に戻ってゆく。

 それに気づいた誰かが呆然とつぶやいた。

 

「スケールが違う……。これが、本来のスーパードラゴンボールの力……?」

 

 

 そして地球のある場所で倒れ伏していた青い髪の女性が、起き上がり己の左右の手を確認するように握る。

 

 

「あれ? わたし、ブラックに殺されたはずじゃあ……」

 

 

 

 

 

 誰かが言った。

 

 

 

「これぞまさに、神の御業」

 

 

 

 

 

 

 

 この日、世界は過去より訪れた神の力により再誕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 ザマスもザマスさんもどっちも驚くことばっかやってくれるな! けどザマスさんはグッジョブ! っていうかグッジョブどころじゃねぇ! ちょ、今心の底からザマスさんを崇め讃えたい気分なんだけど! 諦めるつもりは無かったけど、正直どうしようかと思ってたんだよね……!

 とりあえずブルマ、ブウ子と一緒にハイタッチをした。よくわからないけど、今はとにかく喜んでおこう。

 

 

 スーパードラゴンボールの願いの前借りによって世界を以前の状態に戻すという、神業としか言いようがないナイスプレイをかましてくれたザマスさん。どうやらスーパードラゴンボールを直接持って来ることが出来なかったためか、願いを叶える力を自分に宿してきたようだ。そのためザマスさんから発せられた光が世界を修復していったように見えたので、もうこれ見たら崇めるしかないだろ。宇宙ザマス? そんなゴミは知らんな。っていうか、その宇宙ザマスも「世界を以前の状態に」という願いのためか、世界そのものになりかけていた奴まで影響を受けてその魂を再び神の器へとおさめられていた。

 肩で息をしながら青ざめて居る元・宇宙ザマスはブラックとザマスがポタラで合体した姿なのか初めて見る容姿をしていたが(セルに聞けば案の定ポタラ合体してから例の宇宙ザマスになったらしい)、まあ凄い力を持ってそうだけど見た目的には増毛しただけザマスって感じである。

 

 

「まさか、こんなことが……!?」

 

 よほど信じられないのか、奴は目を見開いて酷く動揺している。そして追い打ちをかけるように、その眼前に緑色の肌の神様が立ちふさがった。

 

 

 

 

 

「さあ、私よ。決着をつけようか」

 

 

 

 

 




番外編だし、主人公が主人公してなくてもいいと思うんだ(開き直り


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ドラゴンボール超10:融合

 世界が蘇り、生命の息吹が宇宙に吹き荒れ満たされた。そしてその中心となった地球で、二人の神が対峙する。

 

 私たちは彼らを遠目に見守った。

 今は割って入っていい雰囲気では無いと、あの悟空ですら空気を読んで黙って様子を窺っている。

 

 

 

「馬鹿な……。あと少しで……あと少しで、私の理想は完成したのだ。それを何故、私自身が邪魔をする。何故分からない? 何故分かってくれない! 私の正義とお前の正義、同じ私で何故違う! 何が違う!?」

「…………お前は私。私はお前。だからお前の気持ちが分からないわけではないのだ」

「ならば何故!」

 

 合体ザマスは喉が裂けてしまうんじゃないかってくらい悲痛な声で叫んだ。それに対して界王神であるザマスさんは淡々と、しかし温かみのある穏やかな声で語る。

 

「……だが、今となってはいかに自分が独りよがりなものの見方をしていたのかよくわかる。お前を目の当たりにすることによって、余計にな。しかし、私がこうなれたのは出会いに恵まれただけのこと。シン殿と出会わなければ、私もお前と同じ道を辿っていただろう。満たされぬ心のままに、身勝手な理想を正義という言葉で飾りながら突き進んでいたはずだ。だからこそ一人で思い悩みこうなってしまったお前を、憐れにも思う」

「憐れみなどいらぬ! 許さん……貴様だけは絶対に許さんぞ。貴様を殺して、私は再び人間0計画を進める。何度邪魔されようと、私は諦めない!」

「させん。お前の理想は今日をもって未完で終わるのだ! せめてかつては同じ正義を志した者として、私がお前の幕を引こう」

「ほざけ!」

 

 激高した合体ザマスがザマスさんに襲い掛かる。それに対してザマスさんも決意のこもった表情で応戦し……二人の神の戦いが幕を開けた。

 

 

 しかしその戦いは見ていて気が気じゃなかった。だっていくらザマスさんの決意が強くても、悟空の体を持つブラックと合体した合体ザマスとザマスさんでは地力に差がありすぎる。今でこそザマスさんは自分の動きがベースだからか、ザマスの行動を先読みして受け流しつつ応戦出来ているが……おそらくそれも時間の問題だろう。

 案の定、少しするとザマスさんが苦戦し始めた。

 

「なあ、ザマス様ー! 手を貸そうかー!? あんたも強いけどよ、多分そいつに一人で勝つのは無理だぜー!」

 

 戦いの余波から町を守りつつ、平行世界の悟空が声を張り上げてザマスさんに呼びかけた。しかし答えを返す余裕もないのか、ザマスさんからの返答はない。

 

「……やっぱキツそうだなぁ。よっし、オラ行ってくっぞ!」

「待てカカロット! まず瞬間移動を使って、戦いの場所を移させろ。ここでは俺たち全員思うように動けん!」

 

 ベジータの言う通り現在私たちは飛んでくる流れエネルギー弾や衝撃波から蘇った町や人々を守るのに忙しく、戦いを横目に見つつもなかなか参戦出来ずにいた。このまま戦いが長引けばそのうち被害が出てくるだろうし、場所を移す案は賛成だ。

 

「お、それもそうだな。よし、オラはザマスを移動させっから、オラはザマス様を頼む!」

「おう! ……でもよぉ、やっぱ同じ奴が2人居るとややこしいなぁ」

「それは見てるこっちの台詞だよ」

「同感です」

 

 悟空の言葉に思わず突っ込めば、悟飯ちゃんが同意してくれた。だよな。違和感なさ過ぎて、時々どっちがこっちの悟空でどっちが平行世界の悟空か分からなくなる。お前ら自分と会話しててよく混乱しないよな。

 

 

 とりあえずベジータの提案を悟空が実行する形で、戦いの舞台は都からほど近い荒野に移された。

 本当はもっと遠くに場所を移したかったんだけど、そうなると悟空が知っている誰かの気を目標にしないと移動できないからな。それはこの世界だとちょっと難しいし、出来たとしても結局人の居る場所になってしまう。なのでやむをえず、視覚が届く範囲にあったその場所に決めたのだ。

 けど都のど真ん中で戦うよりは遥かにましだろう。ただでさえ生き返ったばかりの人が多いんだ……。戦いの余波を防いでも現状を把握できずに人々がパニックを起こしかけていたし、そうなると出なくていい被害まで出てくる。いくらか現状を理解しているレジスタンスらしき人たちが誘導を始めてくれていたのが救いか。

 「ここは任せてください! まだよく分かってないけど……私たちはあなた方を信じます!」と言って送り出してくれた、さっきトランクスの名前を呼ぼうとしていた黒髪の女性が頼もしかった。トランクスは先ほど目の前で跡形もなく消えてしまった彼女の元気な姿に一瞬目を潤ませたけど、ぐっとこらえてから力強く頷いて「ああ、任せろ! ここは頼んだぞ、マイ!」と答えていた。

 そのやりとりにちょっとほっこりしつつ、悟空たちがザマスとザマスさんを連れて瞬間移動すると私たちもすぐに空を飛んで後を追う。

 そしてさほど時間をおかず追い付いたはずなのだが、戦いが見えてきたと思ったら悟空が2人とも合体ザマスに吹き飛ばされてて思わず「えっ」って声出たわ。

 

 ちょ、おい待て思ったより強ぇじゃねーかあの増毛ザマス!

 

 見ればザマスさんも手痛い攻撃をくらったのか、わき腹から血を流して荒い息をついており、慌てて界王神様が仙豆を持って彼のもとに駆けつけた。そして私と弟の方のベジータで、追撃を仕掛けようとしていた合体ザマスの攻撃をバリアを張って防ぎ事なきを得る。しかし合体ザマスがいつの間にか背後に浮かべていた光輪から放たれた光の矢のような攻撃はなかなか強力で、バリアにうけた衝撃に思わずたじろぐ。

 今の攻撃といい、ザマスさんと悟空達が短時間の間にここまで追い詰められたことといい、やはりあの合体ザマス強い。

 

 当の奴はといえばさっきまで焦燥感たっぷりだったくせに、今では余裕の笑みを浮かべていた。

 平行世界のベジータとラディッツが左右から攻撃を仕掛けたが、それも余裕でいなしている。…………どうやらポタラでの合体というものは、私たちの想像以上に凄まじい力をもたらすもののようだ。ブウ戦では悟空とベジータの融合体であるベジットをついぞ見ることが無かったからか、ちょっと甘く見過ぎていたかもしれない。

 そのうえ奴は更に面倒くさいことをしてきやがった。

 合体ザマスは手に紫色のエネルギーを凝縮させ、死神の鎌を彷彿とさせる武器を形作るとそれを空中を切り裂くようにふるう。すると空が裂け、赤紫色の奇妙な空間がぱっくりと口をあけた。

 

「見よ! これこそが真の神の御業だ! ククク……自分たちの無力さを、その身でもって思い知るがいい! はーはははははははは!」

 

 ザマスの哄笑が響く中、その空間からいくつか薄く輝く煙のようなものが漏れ出てくる。そしてその煙は、なんと合体ザマスと同じ姿に変化した。色がちょっと2Pキャラっぽいけど、まあそこはどうでもいい。問題はそいつらも普通に強いってことだ。

 

「くっそ邪魔くさい!」

「まったくだぜ!」

 

 数で攻めようとするこちらの意図に対して、奴のアンサーもまた実にシンプルだった。数に対抗するには数というわけだ。いやそれにしてもいきなり色々出来るようになりすぎだけどな! 本当に面倒くさいなこいつ!

 流石にオリジナルほどの強さは無いが、そいつらは合体ザマスとザマスさんの戦いから私たちを遠ざけるための壁としては実に優秀だった。そこそこ倒すのに手間取る上に、倒せばおかわりとばかりに次々と裂けた異空間から新たな2Pザマスが現れるのだ。凄まじく鬱陶しい。おかげでせっかくの戦力もそいつらの対処に追われて活かすことが出来ない。せめて魔封波を使える悟飯ちゃんを先に行かせたいが、それもままならず焦燥が募った。

 

 見ればザマスさんは界王神様が仙豆を届けたおかげで回復はしたものの、すぐに始まった合体ザマスの集中攻撃に再び苦戦を強いられていた。どうやら奴はザマスさんを先に徹底的に叩き潰すつもりのようだ。しかもザマスさんは近くに居る界王神様をかばいながらの戦いなので、遠目に見てもかなり危ない。

 

 

 

 しかしそんな歯がゆい状況の中……2Pザマスの壁を抜けて、真っ先にザマスさんのもとに駆け付けた者が居た。

 トランクスである。

 

 

 

 トランクスはブレード状に変化した気でザマスさんに切りかかっていた合体ザマスの攻撃を、自らの剣で受け止めた。

 

「! トランクス!」

「ザマスさん、俺も一緒に戦います!」

「フンッ、トランクスか。ここまで来られたことは褒めてやるが、お前程度に何が出来る?」

「黙れ! 貴様にこれ以上好きなようにはさせない。この世界を……俺の故郷を、今度こそ守ってみせる!!」

 

 そう言ったトランクスの気迫は凄まじく、ブルー状態の悟空2人を退けたザマスに対して一歩も引かず剣戟を交わしていた。よくよく見ると、心なしかスーパーサイヤ人の黄金の光の中に青白い光がちらちらと混じっている。

 

「ほう、もしや俺たちのブルーを見て覚醒しかけているのか。流石俺の息子だ」

「いや、あれは俺の息子だ」

 

 キングとエンペラーがうるせぇ。

 褒めたくなる気持ちは分かるけど、そういうの後にしてくれよ! 気が散るから! あとそれ本人の前で言ってやれよな!

 

 しかしトランクスの健闘も長くは続かず、彼の剣が甲高い音を響かせる。刀身が折れたのだ。

 同時に合体ザマスの拳がトランクスの腹をえぐるように打ち抜き、トランクスが胃液を吐き出す。

 

「くぁ!」

「無様だなぁ、トランクスよ。所詮お前ごときに世界を守ることなど出来ないのさ。あの世で待っているがいい。すぐに蘇ったお前の仲間たちも送り返してやろう」

 

 合体ザマスの気の刃がトランクスに迫る。が、今度はそれをザマスさんが受け止めた。

 

「クククッ、弱者同士の助け合いとは実に健気だ。だが、圧倒的な力の前には無力!」

 

 合体ザマスはそう言うと、背後の光輪を輝かせ無数の光の矢で2人を襲った。それをなんとか防ぐも、トランクスもザマスさんも浅くない傷を負う。すかさず界王神様が仙豆を渡して回復させるが、その戦力差は簡単に覆せるものでは無いと誰の目にも明らかだった。

 

「くっ、すまない……! 見栄を張っておきながらこの様とは……。情けないな、私は」

「謝らないでください! 俺はあなたのお陰で再び守るべきものを取り戻せたんです。それがどれだけ、俺にとって救いだったか……!」

「喋っている暇などあるのか?」

 

 ザマスさんとトランクスが会話する暇も与えず合体ザマスは追撃を仕掛ける。ああもう、腹立つな!!隣を見れば、同じく苛立っているベジータが目に映った。こっちは平行世界のベジータだな。まあどっちでもいいや。

 私は目の前に居た2Pザマス一体の腹を貫くと、ベジータが受け持っていた分の2Pザマスの攻撃を受け止めた。

 

「! お前は」

「今のうちだ! やれ!」

 

 私の意図をくみ取ったのか、ベジータはすぐさまブルー状態で気を高め始めた。そしてその照準を合体ザマスに合わせる。

 

「調子に……乗るなぁぁぁぁああああ!! ファイナルフラァッシュ!!」

「何!?」

 

 横殴りに押し寄せたベジータのファイナルフラッシュに、合体ザマスの意識がそれる。そして待ってましたとばかりに、2Pザマスを相手取りながらも威力の差はあれどそれぞれが思い思いに気弾やらエネルギー波を放った。全員私たちと同じく2Pザマスの足止めには相当イラついてたみたいだな。

 そして合体ザマスがそれに対処する間、ザマスさんとトランクスに一瞬の間が出来た。するとザマスさんが逡巡した後、トランクスを真剣な目で見つめる。どうやら何か思いついたようだ。

 

「トランクス。私と共に、戦ってくれるか」

「? もちろんですよ! さあ、父さんが奴の意識をそらしてくれました。今のうちに一緒に攻撃を……」

「いや、違う。これを身につけてほしいのだ」

「これは……」

 

 トランクスに渡されたのは、ザマスさんが右耳につけていたポタラだった。それを見て合点がいったのが界王神様だ。私やセル、ベジータと悟空(合体経験がある平行世界組の方)なんかもすぐにその意図に気づいたものの、トランクスはさっきの一瞬しかポタラの効果を目にしていないから渡された物がなんなのか分からず困惑しているようだ。

 まあ宇宙ザマスのインパクトが強すぎたしな……。私と界王神様、ブルマが地球に帰ってきた時はすでに宇宙ザマスなんてわけわかんないものが爆誕してたからポタラでの合体シーンは直接見ていないのだけど、見てたとしてもあんなトイレットペーパー見た後じゃ合体の印象が薄れてもしゃーないわ。

 

 とりあえず、ここは解説役を界王神様に任せよう。何だかんだで私たち、多少余裕はあるけど助けに行けるほど2Pザマス達を押しても居ないわけだし。本当にあとからあとから出てきて鬱陶しいことこの上ない。あの変な空間の裂け目をどうにかできればいいんだけど……。

 

「! なるほど、ザマスに対抗してこちらも融合というわけですか!」

「融合!?」

「ええ! あのザマスの両耳のポタラを見るに、ザマスとブラックも融合したのでしょう? このポタラは、他者同士を結び付けて更なる力を手にすることが出来る界王神の秘宝なのです。本来は一度合体すればもとには戻れないのですが、それは神同士での場合。トランクスさんは神ではありませんから、おそらく時間が経過すれば分離できるでしょう。もし出来なくても、今ならナメック星のドラゴンボールで元に戻れるはずです!」

 

 界王神様解説乙! っていうか使うのが神じゃなければ時間の経過で元に戻れるとか初めて知ったんだけど。戻れない場合っていうのは片方が神であるザマスさんだからってことか。魔法使いのばあさんと合体して元に戻れてない老界王神様の例があるしな……。でもその点は界王神様自身がドラゴンボールでキビトさんと分離した経験があるから心配ないだろう。困った時のドラゴンボール様様である。

 

 ポタラの効果を聞いたトランクスは緊張のためかごくりと唾を飲み込んだものの、すぐに口元に笑みを浮かべてポタラをザマスさんから受け取った。そしてそれを躊躇なく右耳に装着する。

 

 

 

「共に戦いましょう、ザマスさん」

「……! 感謝する」

 

 

 

 トランクスとザマスさん……二人の姿が重なり、光が弾ける。

 その光はザマスとブラックが合体した時の物に似ていたが、とても……とても美しく見えた。

 

 

 そして、光の中から一人の戦士が姿を現す。

 

 

 それに気づいたザマスが忌々し気に眉根をよせた。

 

「どこまでも私の邪魔をしようというのか……!」

『ああ、もちろんだ。さあ、これでお互い神と人間の融合体……仕切り直しと行こうか』

 

 

 

 ザマスさんの時よりやや薄い緑色の肌に、とがった耳。半分刈り上げたような髪型で、もう半分の逆立つ髪は白髪と青髪の二色。目元は凛々しくトランクスよりだが、トランクスの時より黒目が大きく印象的になっていた。赤いスカーフをなびかせ、トランクスのジャケットとザマスさんの衣装の特徴を備えた服でその身を包む戦士はすっと美しい所作で構える。刀身が砕けた剣は、気の刃によってその姿が補完された。その刃の色は夜空を閉じ込めたような紺碧だ。

 そして彼から立ち上るオーラは神の気がもたらす影響なのか、ロゼと名乗るブラックのスーパーサイヤ人に少し似ていて紫がかって見えた。しかし受ける印象がまるで違う。

 トランクスとザマスさんが融合したその戦士が放つ気は、まるで早朝の空の色……暁を彷彿とさせた。

 

 

 

「青いのか緑なのか白なのか紫なのか……最早何色だかわからんな。だがせっかくの記念だ。この究極神が一つ名づけてやろう。そうだな……トランクスの髪と瞳の色、ザマスの肌の色で奇しくも地球カラー。スーパーサイヤ人アース、というのはどうかね?」

「いや、もうなんでもいいよ……」

 

 2Pザマスの顔面に蹴りをめり込ませていたら、丁度近くに来ていたセルがエネルギー波で2Pザマスを2、3体吹き飛ばしながらなんか言ってた。おい、お前実はけっこう余裕あるだろ。

 でも余裕が出てきたのはセルだけではなかったようだ。コツを掴んだのか、悟空やベジータ、悟飯ちゃんも数体を同時に片付けながら会話している。ラディッツだけまだ苦戦してるのがちょっとしょっぱい気分になった。

 

「ひゃーっ! 強そうだなぁあいつ!」

「な! オラも戦ってみてぇぞ! 名前はザマスとトランクスだから、ザマンクスかな?」

「いえ、トラスかもしれませんよ」

「どちらでもいいが、この分では俺たちの仕事は雑魚散らしだけか。チッ、わざわざ別の世界の未来まで来たというのに……」

「しかし、ここは本来トランクスが守る未来だ。トランクスは自分の世界を守るため、ザマスは自分の始末をつけるため。……ふさわしい組み合わせかもな」

「……それもそうだな」

 

 短い会話を交わすと、それぞれ再び2Pザマスを相手に戦いはじめる。ベジータの言う通り、合体ザマスと決着をつけるにはあの2人こそふさわしいのかもしれない。だったらせめて私たちは、戦いに邪魔が入らないようにこいつらを蹴散らし続けるだけだ。

 

 

 

 

 

 しかし誰もが予感を感じていた。

 

 

 

 この戦い……もうすぐ決着がつく、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




頂いた感想に後押しされて一気に進めようとしたのに終わらなかったorz 超編、あとちょっとお付き合いいただけたら幸いです。


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ドラゴンボール超11:青き光のHOPE

トランクスとザマスの融合体ですが、感想欄で考えていただいたものがそのままナチュラルに定着していたのと、その格好良さにトランザムを採用させていただきました。
ザマンクス?そんな締まりのない名前は知らんなぁ……(目そらし


「もうっ! わたしを置いていくなんて酷いわねぇ」

 

 戦士達が界王神ザマスと合体ザマスを追って荒野に向かった後、町に残されていたブウ子はそうぼやきながらも時折飛来してくるエネルギー弾や衝撃波の類を片手間に防ぎながらのんびりとくつろいでいた。

 現メンバーの中で自分が一番弱い事を自覚する彼女は「残って都を守れ」と言われた事に特に不満を感じてはいない。しかしかつては地球を危機に追い込んだ魔人ブウに対して「守れ」などというお願いがされるとは、どうにもこそばゆいものがある。自分も奇妙な魔人人生を送っているなぁと思いつつ、ブウ子は遠目に戦いを眺めるのだった。

 ちなみに同じく残ったブルマであるが、「この世界の私も生き返ったかも!」と言って未来の自分を探しに行ってしまった。どうしても息子の勇姿を未来の自分に見せてやりたいらしい。その様子からは彼らが負ける可能性など微塵も感じていないことが窺えた。

 

 現在、戦士達は合体ザマスが呼び出した分身? の対処に追われ、合体ザマスに相対するのはこちらもポタラで合体したトランクスとザマスである。気で出来た紺碧の剣で戦うトランクスの姿は凛々しいが、見たところやっと同じステージで戦えるようになった、というのが正しい戦況分析だろうか。贔屓目で見たいところだが、やはり合体ザマスの方がまだ強い。

 

「トランクス、大丈夫かな……?」

「心配するなって。絶対大丈夫だよ! な? マイ姉ちゃん!」

「ええ、そうね。トランクスなら絶対に勝ってくれる」

 

 近くで聞こえた会話に目を向ければ、先ほどトランクスと言葉を交わしていた女性……マイと、幼い少年少女が肩を寄せ合って遠くの戦いに目を向けていた。ブウ子と違い肉眼ではその戦いの詳しい様子は見れないだろうが、暗い天候の中で彼らが放つ戦いの光はよく目立つ。先ほどまでパニックを起こしかけていた都の人々も、今では固唾をのんでその戦いを見守っていた。

 ……というのも、つい先ほどわーきゃーと煩い周囲に辟易したブウ子がバビディのテレパシーを思い出しながら使用し、地球上の人間達に現状を説明したからだ。ついでに目を瞑れば映像まで見れるおまけつきであり、我ながら優秀であるとブウ子は満足気に頷いた。

 

 

 

 しかし、その余裕は次の瞬間崩れ去ることとなる。

 

 

「やあ、そこの君。さっきのテレパシーは君だろう? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「あらやだデジャヴ」

 

 

 ピンク色の魔人は、肩に置かれた紫色の手に現実逃避をしたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合体ザマスと融合トランクスザマスさん……ええい、もうトランザムでいいか。ロボ感が凄いけどなんか天啓っぽくこの名前が浮かんだからこれでいいや。ともかく、仮称トランザムと合体ザマスの戦いは熾烈を極めていた。

 実力的にはまだ合体ザマスの方が上であるが、トランザムの方も負けてはいない。初めこそ力負けしていたものの、徐々に挽回を始めた。どうやらトランクスとザマスさんの強い意志が実力以上の力を発揮させているようだ。高速で交わされる剣戟の嵐が凄まじい。

 いつしかその激戦は空を覆っていた雲をも吹き飛ばし、見上げれば地上の様子が嘘のように穏やかに広がる満天の星……気の光がほとばしる戦いのせいで気が付かなかったが、いつの間にか時刻は夜を迎えていたようだ。

 

 

 

 私たちはようやく2Pザマスを一度全部片付けることに成功すると、次の2Pザマスが現れる前に奇妙な赤紫の空間を四方からのエネルギー波で無理やり吹き飛ばした。

 力技であるが、いい加減ザマスの顔には飽き飽きしていた所だ。上手く成功したようだし問題あるまい。

 そしてやっと手が空いた私たちだったが、すでに戦いに介入する気は無かった。何故かと言えば、誰もが感じていたからだ。どういう過程であれ、おそらく自分たちが手を出すまでもなく……”彼ら”が決着をつけるであろう事を。

 

 

 

「あれ?」

 

 ふと、いつのまにか周囲から立ち上る薄青い光の粒に気づく。空を見上げれば、おそらくそれと同じものが流星のように夜空を流れて中心に集ってきていた。そして私たちはそれと似たものに心当たりがある。

 

「なあ、これって……」

「ああ……気だ。地球のみんなの気が集まってきてる! 元気玉を作ろうとしてるわけじゃねぇってのにすげぇなー! こんなことってあるのか?」

 

 元気玉を使うことが出来る悟空が2人とも言うのだから間違いないだろう。この青い光は地球上の生きとし生けるものから集まってきた生命の光だ。その光に念話を飛ばす要領で意識を向ければ、一様に「頑張って」「負けないで」という応援する意思が感じ取れた。

 そういえばさっきブウ子がテレパシーを使って世界中に呼びかけてたし、全部説明するのは面倒だからって実際に戦いの様子を映像付きで流してたな。そっか……じゃあ、地球上に居る人間はほぼ現状を把握しているわけだ。で、自分たちのために戦ってくれている戦士を応援する気持ちが、奇しくも疑似的に元気玉のような現象を起こしていると。

 憶測だけど多分そう間違ってもいないんじゃなかろうか。

 

 なんか、あれだな。

 

「こういうのを奇跡っていうのかな」

「そんな陳腐な言葉で片付けるな。これはトランクスが諦めなかった結果だ。……必然にすぎん」

「フフッ、それもそうか」

 

 思わずつぶやけばベジータから鋭いツッコミが入るが、その言葉には納得した。何事にも始まりはあるけど……少なくとも、トランクスが未来を変えようと動かなければ何も変わらなかった。私たちがこの場に居ることもなく、ザマスさんがこの世界にスーパードラゴンボールの力を宿して現れる事もなかっただろう。

 

「じゃあ、トランクスが呼び寄せた運命に私たちも貢献しようか。そーら受け取れ! トランクスにザマスさん!」

 

 私が手のひらを空にかざすと、周囲と同じように気が光の粒子となって舞い上がる。最初にそれに続いたのは悟飯ちゃんで、悟空、ベジータ、ラディッツも空に手をかざした。

 セルはどうかなと思ったけど、ちらっと見れば「面白いものを見せてくれた見物料だ」なんて言って背中の翼を広げて私たちと同じようにトランザムに向けて気を送っている。……演出的にこいつだけ妙に神々しいのがどうも納得いかない。

 とりあえず私たちの気も含まれたからか、青い光は更にその強さを増した。

 

 

『! これは……』

「何だ……何だ! その気は!?」

 

 

 どうやらトランザムも合体ザマスもようやく集まってくる光に気づいたようだ。

 

 見ればいつの間にか集まった気は、トランザムの持つ紺碧の剣をまばゆい青の光で染め上げていた。空に絡めて例えるなら夜が終わり朝焼けを経て蒼天へ……って感じか。ちょっと気取りすぎな表現かもしれないけど、見た時の印象がそんな感じだったんだよね。

 スーパーサイヤ人ブルーの青い光が神々しく浮世離れした美しさであるのに対して、こちらは全てを繋げ、包み込んでくれるような空の色だ。きっと世界中の人間が遠くからこの光を見て希望を抱いているだろう。

 

 

 

 HOPE。トランクスがかつてタイムマシンに刻み込んだその言葉は、今ここに希望の光となって具現化された。

 

 

 

 

 最初こそ驚いていたトランザムだが、その気に込められた地球の人々の願いに気づいたのかぐっと剣の柄を握り締める。そして合体ザマスを見据えた。

 

『ザマス。これは、この星に生きる全ての人々の希望の光だ』

「希望だと?」

『ああ。確かに人は何度も間違うし、過ちを犯すだろう。しかし、常に希望を抱いて必死に生きている。間違いながらも正しくあろうと生きている者にとって、希望とは指針だ。俺たち(彼ら)がそれを失わない限り、人はただ裁かれるだけの悪ではない』

「だから赦せとでも言うつもりか。馬鹿な! そんなもの、何の贖罪にもなりはしない。愚かしい人間が唯一救われる方法は生きる事ではない。神の裁きにより死ぬことだ」

『違う! ……問うが、お前は本当にそれでいいのか? 自分が見たくないもの全てを消し去って、孤独な世界に君臨して何になる』

「クッ! はは……ははははは! 何になるか、など……。半分は私でありながら、そんな俗物的で愚かな問いをよくもまあ口に出来たものだなぁ。孤独? 望むところよ。……私は孤独で構わない。世界が秩序で保たれるなら、私は喜んで犠牲になろう。それこそが神の務め。……何故、私が孫悟空の体を取り込んだと思う? 強さを求めただけではない。神をも凌駕する力を得てしまった罪の象徴たる男をこの身に残すことで、同じ過ちを犯さない戒めとするためだ! 罪を背負い、正義を敷き、美しく秩序のある世界の夜明けを迎える……それこそが我が望み。……さあ、これで満足か? 希望だなんだといった御託はもう聞き飽きた! 神の務めを忘れた愚か者など最早私ではない! 来るがいい。正面からその希望とやらをねじ伏せて、私は私の正義を執行する!」

『……どうあっても、お前はお前の正義を貫くつもりのようだな』

「無論!」

『ならば俺(私)も応えるまでだ! 行くぞ!』

「来い!」

 

 

 もう二人の間に余計な言葉は必要なかった。ただただ、己の思いをぶつけ合う。

 

 

 しかしいくら吠えようと、結局は自分しか見えていない合体ザマスの理想の脆さを象徴するように……先に砕けたのはザマスの気で出来た剣だった。そして勢いのままに、トランクスとザマスの融合体は合体ザマスの体を青い光の剣で貫く。深く突き刺さった剣に苦しむ合体ザマスを見て、私たちは確信を得た。……奴はもう、不死身では無いのだと。

 

 合体ザマスは血を吐き出し、嘆きの表情で最期の声を絞り出す。その声は酷く弱弱しく、先ほどまでの勢いが嘘のようだった。

 

「何故……わかってくれないんだ……」

 

 その瞳からは一筋の涙が流れ、ザマスの腹を深く貫いたままのトランザムの肩を濡らした。それに対してトランザムは追撃を加えることはなく、そっと合体ザマスの背に片腕を回してなだめるように穏やかな声で告げる。

 

『眠れ。もう、疲れただろう』

 

 予想外の行動と言葉だったのか、合体ザマスは大きく目を見開いた。

 そしてトランザムの目配せによって、決着がついた瞬間を見計らって両腕を構えていた悟飯ちゃんが仕上げをするべく張りのある声で叫ぶ。

 

 

 

 

「魔封波ぁぁぁーーーーー!!」

 

 

 

 

 緑色の風が逆巻き、渦となって合体ザマスを巻き込んだ。そして風はいつのまにかラディッツが抱えていた壺に暴風をまき散らしながら吸い込まれてゆく。そして全てが壺に納まるが、札を張る前に合体ザマスの声が響いた。

 

 

 

_______ ザマスよ、トランクスよ……。私は見ている。この身が封じられようとも、貴様らの行く末をずっと見ている。いつかその甘い考えに裏切られて挫折した時、私が蘇らずとも再び私は生まれるだろう。今度はお前たち自身が私となるのだ。努々忘れるな………………ずっと見ているぞ。

 

 

 

 

 それを最後に、封印は完了した。

 

「…………終わったぞ」

『……感謝します』

 

 札が張られ、封印の施された壺を受け取ったトランザムはそう言って深く私たちに向かって頭を下げた。すると何故かタイミングよくポタラが光り、一人の戦士は神と人間に分離した。あれ!? なんか随分とあっさり融合解除されたな。ナメック星にとんぼ返りするの覚悟してたんだけど……。

 

「「えっ?」」

 

 これには当の本人たちも驚いたようで戸惑っていたけれど、それを見た界王神様が考察した。なんでも多くの人間の気を身に受けたことで、一時的にザマスさんの神としての要素が薄れたようなのだ。そして最後の一撃にはみんなの気と同時にトランザム自身の力もほとんど注がれていた……それにはポタラの合体を維持するための力も含まれていたらしく、その結果融合が解除されたとのこと。「多分、そう間違ってもいないと思いますよ。私だってちゃあんと勉強してるんですからね」と胸を張って言った界王神様はちょっと自慢げだった。……まあ、真実がどうかは定かじゃないけど、どうせ元には戻る予定だったのだ。ラッキーだと思っておこう。

 

「よう、やったなトランクス! ザマス様!」

「オラ見てただけでワクワクしちまったぞ」

 

 悟空2人に声をかけられ、ぼんやりとお互いを見ていたトランクスとザマスさんが我に返った。

 

「い、いえ! ザマスさんと皆さんのおかげです。封印だって悟飯さんが……」

 

 勝利の余韻に浸る前に謙遜するトランクスの背中を、全員がバシバシと手のひらで叩いた。今は素直に喜んでおけ、という無言のメッセージである。ついでにザマスさんの背中も叩いておいた。

 とにかく今2人に言えるのは「お疲れ様」の一言だ。特にトランクスは本当にお疲れ。

 

 そしてザマスさんであるが、彼は合体ザマスが封印された壺を見つめていたかと思うと何やらそれに術らしきものをかける。すると壺は小指の爪ほどの大きさに変わり、なんとザマスさんはそれを飲み込んでしまった。

 

「お、おいおい。そんなもの飲み込んでしまって大丈夫なのか?」

 

 宇宙ザマスを思い出してか、封印したとはいえそんな危険物を飲み込んだことを心配してラディッツが声をかける。しかしザマスさんはどこか晴れ晴れとした表情で頷いた。

 

「いいんだ。……私は界王神として過ごす一生を、私の罪と共に生きようと思う」

「ザマス殿……」

「シン殿。私は私の新たな正義を追い求め続けます。ですがこの私が言う通り、いつか挫折し過ちを犯そうとするかもしれない。……その時は止めてくれますか?」

「もちろんです!」

「ありがとう……。なら私はあなたや、見守るべき宇宙の子らに恥じない生き方をいたしましょう。罪を犯した私とも、長い年月をかけて語り合うつもりです」

 

 彼の言葉にどれだけの決意や思いが込められているのかは分からない。でもザマスさんが界王神となった第10宇宙は、これからいい方向へ進んでいくんじゃないかなって思う。彼らに比べて瞬く間の命しか持ちえない私たちがそれを見ることは出来ないけれど、曇りのない真っすぐな目をした神様を見ていると漠然とそんな気がした。

 そんな予感を抱かせてくれる彼もまた、トランクスと同じく希望の体現者だ。

 

 そして世界の希望をつかみ取った勇者トランクスであるが、その彼を呼ぶ声が聞こえた。見れば夜空を割って飛んでくる飛行機……そして着陸した機体からは、そっくりな容姿の女性が2人飛び降りてきた。ブルマと未来ブルマだ。

 どうやら死んだと聞かされていた未来ブルマも無事に生き返っていたらしい。

 

「母さん!」

「「トランクス!」」

 

 ぴったり重なるユニゾンを耳にして、トランクスは力が抜けたようにへたり込みそうになる。それを咄嗟に私と悟飯ちゃんで支えると、その体は小刻みに震えていた。無理もない……。過去に死んだベジータ達のように、もう二度と会えないと思っていた母が元気な姿で現れたんだ。顔を覗き込めば限界まで目に涙をためていたけど、もうここまで来たら我慢する必要なんかないだろう。思いっきり泣くがいいさ。でも……。

 

「トランクス。泣いてもいいけど、まずはしっかり立って胸を張れ」

「そうですよ! あと、笑顔も」

「でもって、極めつけはポーズだね!」

「そうそう! おばさん分かってますね」

「もちろん。ヒーローが勝利したら、イカす笑顔でバッチリきめてくれないとさ!」

「ですよねー!」

 

 左右から私と悟飯ちゃんでそう言うと、トランクスは最初戸惑ったようだった。けど駆け寄ってくるブルマ……未来の、彼の母親の方のブルマを見ると一つ頷いてしっかりと自分の足で地面を踏みしめる。

 トランクスは涙を目元に光らせながらも、今までの愁いを吹き飛ばすような太陽みたいな笑顔をブルマに向けた。そして私たちのアドバイス通り、震える手をぎゅっと握り締めてから人差し指と中指だけ立てて前に突き出す。

 

 

 

「勝ったよ、母さん!」

 

 

 ピースサインをきめる泣き笑いのヒーローは、文句なしに格好良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、何はともあれ終わったね! これで後はスーパードラゴンボールで世界の捻じれを直して一件落着かぁ~……」

「短い間に色々あったわねぇ……。でも無事に済みそうで一安心だわ」

「本当にね……」

 

 親子の再会をすませ、後からやって来た黒髪の女性……マイさんと子供たち、レジスタンスの仲間たちに囲まれるトランクスをちょっと離れたところで見守りながら私とブルマはしみじみと語り合う。いやぁ、本当にどうなる事かと思ったわ。あとはスーパードラゴンボールを集める手間がちょっと面倒だけど、それさえクリアすれば問題解決ってね。

 

 

 

 

 しかし思えばこれはフラグだった。一件落着とか安易に口に出した自分を殴りたい。

 

 

 

 

「やあやあ、お見事。とても面白いものを見せてもらいましたよ」

 

 どこか既視感を感じるセリフと聞き覚えのある声に、私とブルマは体を強張らせた。

 

「あっれ~! ビルス様じゃねぇか」

「お! 本当だ」

「うん? 君は誰かな。この破壊神に向かって妙になれなれしいけど」

 

 気軽に声をかけた悟空の声とその返答に冷や汗が止まらなくなる。私たちと同じく現れたビルス様の正体に気が付いたのか、ベジータ達も顔を青くさせていた。

 

「まさか、この時代のビルスか……!?」

 

 そう、彼はおそらくこの未来世界のビルス様だ。多分ザマスさんの願いでブラックに殺された神々も蘇り、この世界の界王神様も生き返ったのだろう。で、ビルス様も復活したと。

 恐る恐る振り返ればビルス様の横に立つウィス様と目が合い、にっこり微笑まれたが咄嗟に目をそらしてしまった。……アカン。面識が無いビルス様が出てきたとなれば、やる事なんて一つじゃないか。

 

 

 

 

「さて、喜んでいる所悪いけど……。世界に捻じれを生み出している3人と、ついでにこの星を破壊しちゃおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公「ストーリーテラーに転職しようと思っている」(ほぼ活躍皆無の主人公という名の皮をかぶったナニカ


い、イラストを2枚も頂いたああああ!!
思いのほか難産(いや、超編はほぼ難産か……)でしたが、感想や素敵イラストに励まされてなんとかザマス戦終了です。や、やっとここまで来た……。



【挿絵表示】

ネコサさんから雑誌表紙風の主人公イメージイラストを頂きました!
誰だこの美人……!メイクといいファッションといいポーズといい、中身アレなのにこんな大人っぽい美人に描いていただきました。流し目がまた色気があって美しいぜ……!もう一度言おう。誰だこの美人(驚愕
そして雑誌のコラムが普通に読んでみたい内容な件。ひそかに師匠とピンクの魔人が潜んでいるだと……!
ネコサさん、素敵なイラストをありがとうございました!



【挿絵表示】

86さんにトランザム描いていただきましたぁぁぁぁぁぁぁ!!まさか描いてもらえると思わず、しかも新年早々運を使い果たしそうなレベルのクオリティです。見た瞬間拝みました。か、格好いい……!普通にカードとかになっててもおかしくない感じなのですが。融合体の特徴描写しといてよかった……!
86さん、素敵なイラストをありがとうございました!











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ドラゴンボール超12:不屈の三連星

 破壊。その言葉に私たちの間に緊張が走る。

 

 

 

 破壊神たるビルス様が現れた……。それもおそらく幼少期に面識のあるベジータ以外誰も彼と知り合いではないこの状況で現れたとなれば、当然やる事と言えばひとつだろう。その言葉通り、ビルス様はこの星を破壊するためにやってきたのだ。

 

 しかもどういうわけか世界の捻じれとか言っている所を見るに、ある程度事情を把握している様子。これはまずい……非常によろしくない……! だってそうなると、世界を破滅させる原因となりうる捻じれの中心に居る悟空、ベジータ、トランクスの3人を破壊する理由としては十分だ。

 ビルス様の性格的に面倒事を生み出す危険性をはらんだ地球を一緒に破壊しようとしても何らおかしくはないし……っていうか、もうすでに私たち時間移動という最大級のタブーを犯している。そんなもの生み出す人間が居る星なんて余裕で破壊対象だろう。更に言うと多分こっちのビルス様もこっちの界王神様ともども今まで死んでいただろうし……そうなると、別人とはいえその原因ともいえるザマスさんも破壊対象だろうか。

 

 ヤッベ。これヤッベ。この場で生かされる可能性があるのって界王神様だけじゃねーか! せっかく合体ザマスを封印したってのに破壊エンドとか冗談じゃない!!

 

 

 

 最近悟空を筆頭に馴染んでたし、美味しいものに釣られすぎな姿を見て忘れがちだったけど……ビルス様は本来絶対に触れてはならない神様なのだ。

 

 

 

 

 私とブルマは未来世界のビルス様の台詞を聞くと、一瞬のうちにアイコンタクトを交わした。そして他の誰かが余計な一言を言う前に、”場”を整えるべく動く。

 

 

 

 

 

 まず私が洗練された流れるような動作で大地に身を投げだし跪く!!

 

「お初にお目にかかります破壊神ビルス様。わたくしめは惑星ベジータの元王女ハーベストと申します。以後、お見知りおきを。まさかこのような場で至高なる御身に拝謁叶いますとは、思いがけない奇跡に身が震えるほどの感動を覚えております。聞けば破壊神たるお役目を遂行するおつもりのようですが、どうかその前に矮小で愚昧なる我らに貴方様をもてなす栄誉にあずからせては頂けないでしょうか。冥府への手土産に、是非ともご慈悲を賜りたく存じます」

 

 そしてビルス様が口を開く前にブルマがホイポイカプセルを投げる!! 現れたのはブルマが物資の少ない未来世界の人々に提供しようと持ってきた御馳走の数々だ。

 

「そうですわビルス様! ほら、こ~んなに御馳走がありますのよ! 是非食べて行ってくださいな!」

 

 極めつけに後からやって来たブウ子が周囲の岩に魔法をかけて、センスのいい照明と家具を用意し一気にパーティー会場のような華やかな空間を作り出す!!!

 

「ビルス様~! 話を聞くだけ聞いてさっさと行ってしまうだなんて酷いじゃありませんか。わたくしだってこんなにビルス様をお持て成ししたい気持ちで一杯なのに! さあさ、お座りになってくださいませ。飲み物は何になさいます? 珈琲、紅茶、お酒にフレッシュフルーツジュース、何でもご用意いたしますわぁ。よろしければカクテルなんかもお作りしましょうか? あま~いホットチョコレートでもクリーミーなシェイクでもさっぱりとしたラッシーでも、お好きなものをお申し付けくださいな!」

 

 ついでに一瞬だけ高速移動してベジータのケツを蹴り飛ばす。どっちのベジータかよく分からなかったけどどっちでもいいや。お前も何かしろ!!

 

「! そ、そうですビルス様! ほ、ほら……覚えてらっしゃいませんか? 幼少の頃一度お会いしたことがございます。惑星ベジータの王子ベジータです。ビルス様に再びお会い出来た日のために磨き上げたダンスを披露いたしますので、よければ座興をお楽しみください! ブルマァ! ビンゴの時の曲を準備しろぉ!!」

 

 

 

 

 

「…………………………必死だねぇ、君たち」

 

 

 

 

 

 私たちの咄嗟の連携に未来世界のビルス様は呆れたようにつぶやいた。なんとでもおっしゃってください。こちらの浅い思惑が見透かされてる事なんて百も承知なんですよ! でもこちらにはあなた様が美味しいものに目が無いという情報しか縋るものが無いんです!! じゃなきゃ初対面のビルス様相手にどうしろってんだよ!

 戦うなんて以ての外だ。勝てる可能性がほぼ無い上に、手加減なしのビルス様と悟空たちが全力戦闘したら地球が先にご臨終する。ベジータの頭髪を賭けてもいい。確実に地球と、下手したら銀河ごと滅ぶ。ザマス戦に耐えてくれた地球先輩にこれ以上負担をかけてたまるか! ここは何としてもビルス様に矛を納めてもらわなければ……!

 

「ホホッ、愉快な方たちですねぇ。ビルス様、せっかくですしご馳走になりませんか?」

「いや、しかしだなウイス……。こいつらの仕出かした事を考えれば、すぐにでも破壊するべきじゃないか? 何より僕の気がおさまらないね」

「でもこのお料理たち、と~っても美味しそうですよ。私もビルス様が復活されるまで機能を停止していましたから、食事は久しぶりですし……。ビルス様も実は食べたいんじゃありませんか? 料理の香りにつられてお鼻がピクピクしてらっしゃいますよ」

「む……」

 

 おお……! ビルス様がぐらついてる! 頑張れウイス様! というか、もう一押しだ! 料理の香りに反応しているだと? ならばここは一気に攻めるのみ! トランクス達とか訳が分からず目を丸くしてるし、界王神様とザマスさんは真剣な表情になりつつも私たちの行動に自分達はどうすればいいのか戸惑ってオロオロしてるけど全部後だ! まずはビルス様たちを話のテーブルにつかせなければ!! あなた達は超頑張った後だから今はとりあえず私たちに任せて休んでてくれ!

 

「ブルマ、11番カプセルは!?」

「! 任せなさい、あるわよ!」

 

 キッと表情を引き締めてブルマを見れば、心得たように頷いたブルマがカプセルを放り投げる。そこからは調理器具一式が出現した。私はそこから中華鍋とお玉をつかみ取る。

 

「ブウ子、食材!」

「まっかせなさい! 料理は?」

「炒飯!!」

「オッケー!」

 

 ブウ子は出来上がっている料理をいくつか魔法で食材に戻し、それを華麗な手刀捌きで切り刻んだ。

 

「悟空、火力! 品目は炒飯!!」

「! お、おう!」

 

 キャンプに行った時よくやっている手段だが、エネルギー波を調節して炎の代わりとする。ラディッツはちゃんと炎を使って料理したいようであまりこの即席エネルギーコンロを好まないが、結構いい感じに仕上がるし火の後始末しなくて楽だから私が料理担当の時は悟空に「これも気を操る修業の一つ」とか言いくるめてよく手伝わせていた。なので悟空も手慣れたもので、炒飯を作るのに最良の温度で中華鍋の底に気を当てる。実際これにはかなり繊細な気のコントロールが必要なので、もう一人の悟空は「おお~」とか呑気に言いながらそれを眺めていた。

 

 

 

 さあ、ここからが本番だ!

 

 

 

 まず卵を悟飯ちゃんに、ボールと箸をラディッツにパスした。悟飯ちゃんは咄嗟の事ながらも普段のお手伝いの経験が光り、受け取った卵をラディッツの持つボールに華麗な動作で颯爽と割り入れた。ラディッツはそれを心得たように割りほぐす。手首のスナップが絶妙だ。

 

 その間によく熱されたフライパンにごま油をまんべんなく馴染むようにまわし入れ、香ばしいゴマの香りが立ち上る。ここでまずビルス様の鼻がピクリと動いた。

 

 続いてラディッツから返ってきた溶きタマゴ(流石だ。最良の溶き方をされている)を中華鍋に流し込むと、じゅわっと耳に心地よい音が鳴る。ビルス様の耳がぴくぴく動いた。

 

 そして卵が半熟になったところですかさず悟飯……じゃないご飯を投入!! 中華鍋を大きく振るう!! お玉使いも忘れない!! 悟空が素早い動作で中華鍋の動きに合わせて火力を調整した。ナイスだ!! そして半熟トロトロ卵がつやっつやにご飯をコーティングしたところで細かく刻んだねぎと塩コショウを入れて再び大きく振るう!! ぱらっぱらのライスが輝きを帯びたかのように美しく宙を舞った。

 

 とどめに万能調味料SYOUYUだ!! さっと鍋肌に伝わせて入れると、しょうゆの焦げが発する独特の芳しい香りが立ち上る。ふと見れば悟飯ちゃんとベジータが周囲にバリアを張って香りがあたりに散ってしまわないように工夫していた。ナイスアシストである。ビルス様の口から涎が垂れた。

 

 私はそれを巨大なお玉にまとめ上げると、ブルマが差し出した皿にカンッと小気味よい音をたてて盛った。仕上げに小口切りの九条ネギを散らして完成である。

 食材が少ない実にシンプルな一品であるが、その味には自信があった。あとはビルス様が食べてくださるかどうかだ。

 

 

 

 

「さあ! ビルス様。お召し上がりください!」

 

 

 

 

 

 沈黙があたりを支配する。

 誰かの喉がゴクリと鳴った。それは緊張のためか、それともこの炒飯の香りに釣られたか……。

 

 

 

 

 

 

 

「…………まあ、せっかくだし……。ちょっとだけいただこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 わっと歓声が上がった。

 

 私たちはまず最初の試練に打ち勝ったのだ!! ふっふっふっ……! 真っ先に行動した女3人のファインプレイを誰でもいいから褒めたたえるがよい。でもブウ子、お前は後で「話を聞くだけ聞いて」のくだりをちゃんと説明しろよな!! 色々話したのお前だろ!!

 

 しかし即破壊というデッドエンドは回避されたが、まだ終わりではない。なんとしてもビルス様を言いくるめて説得しなければ。界王神様に期待である。超期待である。以前のようにびしっと決めちゃってください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにセルこの野郎。一人だけ優雅に傍観してた上に、どこで手に入れたのかスマホを使って動画撮ってやがった。この野郎。「君たちの麗しい友情の連携があまりにも見事だったから記念に撮らせてもらったよ。フフッ、タピオンとミノシアにいい土産が出来た」じゃねーよ。

 

 あのセミいつかボッコボコにしてくれよなという意味を込めて、私は無言で悟飯ちゃんの肩を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




結局まだ何も解決していない件。ちょっと前の超のED見てたら炒飯食べたくなったんだ……。


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ドラゴンボール超13:全王様と一緒!

 現在私は土下座をしている。

 

 ついでにいうとビルス様も土下座をしている。

 

 

 

 

 もちろん向かい合って土下座しているわけではない。あのビルス様が人間ごときに土下座などするものか。私たちは現在冷や汗をびっしょりかきながら、ある同じ方向に頭を下げて額を地面にこすりつけていた。

 その先にあるものが何かって? ビルス様が頭を下げる方など、私が知る限りお一方しかいらっしゃらない。

 

 

「この星、夜空がとっても綺麗だねー」

「そうだろー? 昼間だって綺麗だぞ!」

「この料理もね、おいしいねー」

「こっちもうめぇぞ。そら、とってやるよ」

「わあ、ありがとう! ところで君たち、誰?」

「「オラ、孫悟空だ。よろしくな、全ちゃん(全王様)!」」

「全ちゃん? それってボクのこと? ボクをそんな風に呼ぶ人初めて。君っておもしろいんだねぇ」

 

 

 

 

 悟空の奴、全王様呼びやがったぁぁぁあああああああぁぁぁぁ!!!!

 

 しかも平行世界の悟空に至ってはそのフレンドリーな呼び方はなんだよ!!

 

 

 

 

 

 平行世界の悟空が何かごそごそ探してるのは視界の端に映ってたんだ。見逃すべきじゃなかった。「お、そうだ。ビルス様が頭の上がらねぇ相手っていうと……」とか言ってた時点で気づくべきだった。悟空お前、全王様に対する認識の度合いが私たちとちょっと違うなーとか思ってたけどいくらなんでもお前……! ちょっと、もっとこうさぁ、あるだろ!? 今さら何言っても遅いけど!!

 面識のないビルス様の更に上を連れてきやがったよ!!面識のない全王様ってなんだよ! 正直全王様の事よく知らないけど、ビルス様のこの恐縮する様子を見れば少なくともそのヤバさは分かるよ!! 待って。ちょっと待って。全王様って、たしかその気になれば宇宙ごと消せるとかウイス様が前に言ってなかったっけ!?

 うわ、うわぁぁぁ。悟空が普通に話しかけてる。隣の席座ってる。料理よそってあげてる。うわあぁぁぁぁぁぁ。

 

 私はごくごく小さい声でビルス様に話しかけた。

 

「ビルス様、もし今タイムマシンとかそういう話が全王様にばれたらどうなります?」

「消される。全王様のお怒りをかって宇宙ごと消される」

「ど、どどどどどどうしましょう」

「知るかぁ! というか、あいつは何で全王様を呼べたんだ!?」

「いや、過去で色々あったようで……! 多分気に入られたかなんかしてあの呼び出しボタンもらったんだと……」

「気に入られた!? 全王様に!? あ、ありえん……! あいつはいったい何なんだ!?」

「主人公です」

「訳の分からんことを言うな! と、とにかくあいつを早く全王様から離せ! 何だあの無礼な態度は!」

「無茶言わないでくださいよ! ほ、ほら。全王様今のところ機嫌損ねてないっぽいじゃないですか! 今邪魔したら逆にまずいですって!」

「じゃあただ見てろってのか!? ぐ、ぐうう……! この破壊神ともあろう者が胃痛で吐きそうだ……!」

「わ、私もです。お腹痛い……」

 

 以上の会話を小声で言い切るという器用なことをした私たちであるが、いくら私たちの胃が悲鳴を上げようとも事態は改善されない。恐ろしい事に現在地球の、否宇宙の今後を握っているのは悟空ただ一人……いや、二人か。いやもうどっちでもいいわ! とにかく悟空にかかっているのである。頼む、余計な事は言うなよ! 頼むから!!

 

 

「ねえ、ところでなんでボクを呼んだの?」

「え? え~っと……。ビルス様が全ちゃんに話があるんだってさ」

「!?」

 

 ちょ、おま、ここでビルス様に丸投げするの!? あのビルス様が目ん玉飛び出させただろうが! 流石に可哀そうになってくるわ!! ウイス様も「これは困りましたねぇ」なんてのほほんと言ってないでフォローを……すぐにフォローを……!!

 

「ビルス、ボクに話ってなぁに」

「あ、いえ、そのですね……!」

 

 多分今ビルス様頭の中真っ白だわ。分かる。痛いほどよくわかるその心境が。でも分かったところで何も出来ないんだけど……!

 

 

 

 しかし思いがけないところから救済の福音が響いた。福音と言うにはうさん臭い事この上ないけど。

 

 

 

「全王様。ビルス様は喉の調子が悪いようですので、私が変わりにご説明してもよろしいでしょうか?」

 

 そう言って恭しく胸に手を当てて頭を下げたのは、さっきまで動画撮影をしていたセルだった。これには場の全員がぎょっとする。

 

「君は?」

「セルと申します。別の世界で第七宇宙、南の銀河コナッツ星の神を務めさせていただいております。以後、お見知りおきを」

「別の世界って?」

「それを含めてご説明いたします。お耳を拝借してもよろしいでしょうか」

「いいよー」

 

 可愛らしい声で返答を受け取ったセルは、実に堂々たる話しっぷりで事の次第を説明し始めた。ちょ、ビルス様の代わりにって付き人のウイス様さえも差し置いて喋っていいのか。

 しかも野郎。

 

 

 

 

「まず、我々は過去から参りました」

 

『げぶぁッ』

 

 

 

 

 第一声が心臓に悪いんだよ!! ほぼ全員吐血しただろ!! いや、実際にはしてないけどそれくらいの勢いでむせたわ!!!!

 あ、あいついきなり一番言っちゃいけないことを……! 何考えてるの!? 馬鹿なの!?

 

 全王様って表情が分かりにくいけど、今ちょっとぴくっと動いたぞ。あ、オワタ。宇宙オワタ……。

 

「過去? あのね、時間の移動は駄目だよって禁止してるの。君も神なら知ってるんじゃないの?」

「存じております。ですが、この度は世界のためにどうしても必要なことだったのです」

「ふうん……続けて?」

「ありがとうございます。というのも、現在世界は奇妙な偶然をもって捻じれてしまっているのです」

「うん、そうだね。なんか変な感じはしてたんだー。ボクの世界とは別の世界が近くに居るね」

「流石は全王様、お気づきでしたか。……先ほど我々は過去から来たと申し上げましたが、正確にはその別の世界の過去から参りました。何故かと言えば、この世界同士の捻じれを正すために必要であると判断したからです。そして捻じれを正す準備が整いましたので、今まで宇宙を治める全王様に無断で行っていた行為にお詫び申し上げたく、こうして捻じれを正す前にビルス様と我々で宴席を用意してお待ちしておりました。本来我々から出向かなければならないところをご足労頂いたことには大変申し訳なく思っているのですが、そこに居る孫悟空は過去にて全王様と友好を結んだ人間です。証拠に全王様をお呼びできる秘宝を賜っておりました。どうやら全王様に早く会いたいあまりにその秘宝を使用してしまったみたいですね。これに関しては真に我々の監督不行き届きです。申し訳ありません」

 

 ベラベラとよくしゃべるなと思いつつ、場の主導権は今や完全にセルが握っていた。もうここまで来たらこいつに賭けるしかないだろう。そしてセルがその後全王様に説明した内容であるが、簡単にまとめるとこうである。

 

 

・世界は世界Aと世界Bの過去と未来で絡まって捻じれてしまっていた。それを治すためにはスーパードラゴンボールの力が必要不可欠であり、事態を把握していた世界Aの過去メンバーが使用可能なスーパードラゴンボールがある未来まで来る必要があった。

・しかしタイミングの悪い事に、一人の神(ザマス)が時空を行き来し悪事を働いていたので、それを倒す必要が出てきた。

・無事に件の神を倒したので、世界の捻じれを解消する準備が整った。そしてそれに必要なスーパードラゴンボールを集めるためにこの世界の破壊神ビルスに助力を願ったが、彼の助言でこのような重大な事柄を全王様にお伝えしないまま解決しては失礼だ、報告して筋を通してから解決するべきだということになった。そしてお詫びのための宴席を整えたのち、全王様にお伺いを立てるため出向くはずがその前に先走った孫悟空が全王様を呼んでしまった。

 

 

 …………こんな感じである。かなり端折っている上に無茶があるし主にビルス様のくだりで嘘が混じっているが、セルの堂々たる話しっぷりがいかにもそれが真実であるという信憑性をもたせていた。

 特にポイントなのが、時間移動の禁忌をそれを上回る危機のためにやむを得なく実行したという点に重点を置いて話していた事だ。更に言うとすでに倒した神(ザマス)の罪を事細かに話し若干話を盛ることによって、分かりやすい悪役を際立たせ相対的に私たちの罪を軽く済ませようという思惑まで感じられた。そして話の中にビルス様を盛り込むことで、彼の”破壊”という手段によって捻じれを解消する方法を封じようというのだろう。全王様にあれだけ真実味をおびた話を聞かせた後で「その話は嘘だ」と言えば、嘘をつかれたという事実だけで全王様が機嫌を損ねる可能性がある。そうなれば真実がどうあれビルス様ともども宇宙はパーンとなくなるという……………………うん、ビルス様、この話を真実と認めるほか無いわ。でもって一緒に誤魔化すしかないわ。

 

 

 

 ヤッタネ! 未来ビルス様が共犯者になったよ! 

 

 

 ……………………………………………………究極神セル、恐ろしいセミである。

 

 

 

「そうなの。ボクの知らないところで色々あったみたいだね。たしかに、後で聞かされたらちょっとムカツクね」

「!!」

「でもね、なんだか楽しい場所に呼んでくれたからね、今回のことは怒らないであげる。でも特別だよ? ご苦労だったね、ビルス」

「は、ははぁ!! ありがたきお言葉!!」

 

 ビルス様が地面に額をこすりつけるどころか、勢い余ってクレーターを生み出しながら頭を地面に打ち付けた。横目で見られた相手が焼き切れるぐらいの憤怒の視線でセルを睨みつけていたけど、セルといえばどこ吹く風で優雅な佇まいである。あの余裕は何処から生まれてくるんだ。

 し、しかしこれで時間移動うんぬんの話は不問に処されたという解釈でいいのかな……? だとすれば私たちの胃痛と引き換えに、セルは大金星をつかみ取ったことになる。それに関しては悔しいが認めざるを得ない。あの野郎、でかしたが美味しい所を全部持っていきやがった……。

 

「あ、そういえば界王神様……」

 

 ふと気になって背後を見れば、やや干からびた界王神様が地面に倒れ伏しており(彼を中心におそらく汗で出来た水たまりが見えた)、ザマスさんにいたっては「お前は事の重さを理解して行動したのかいや私もしていたかもしれないんだがしかしお前本当に事の発端となった自覚をもっと理解して反省をだな」みたいなことをブツブツ言いながら緑色の肌を青ざめさせて自分の腹をドスドスと一心不乱に殴っていた。え、ザマスさんもしかして腹の中の合体ザマスと会話できるんですか。あれかな、念話かな。たしかにさっき「罪を犯した私とも長い年月をかけて語り合うつもりです」とか言ってたけど実際に話せるんだ? いやでもだとしてもヤメテ!? 痛いのはあのアンチクショウじゃなくてあなたのお腹ですからヤメテ!?

 

 私と同じくそれに気づいたトランクスがザマスさんを止めに駆け寄ったが、そんな外野の気持ちなど知らずに全王様は悟空に興味津々といった様子で話しかけていた。

 

「ねえねえ、悟空くん」

「お? 何だ、全王様」

「オラの事は悟空でいいぞ」

「そう? じゃあもう一人の悟空もボクのこと全ちゃんって呼んでいいよ」

「おう! じゃあオラも全ちゃんって呼ぶな! それで全ちゃん、どうしたんだ?」

「君たちって別の世界? 過去? の、ボクと仲良しなんだよね」

「ああ、ついこの間友達になったんだ!」

「へ~、お友達なんだ」

「オラは第六宇宙との試合の後は会ってねぇな~」

「第六宇宙との試合って?」

「それがさぁ、ビルス様とシャンパ様が……」

 

 どうやら全王様は別の世界とはいえ自分と仲良くなったらしい悟空に興味を持ったようだ。

 気さくに話すダブル悟空を見てビルス様はセルに怒りの視線を向けるどころではなくなったようだ。再びアワアワとその様子を見守っている。……私? 私やブルマ、ブウ子、悟飯ちゃん、ラディッツ、ベジータはもう諦めの境地よ。悟空だし、もうしょうがないかなって。ビルス様も早く現実逃h……悟りの境地にいらっしゃるといい。楽になりますよ。

 

 ところでウイス様、貴方という方も器の大きな方ですね。さりげなくご馳走のパック詰めをセルに頼んでるんですけど。持ち帰る気ですか。ビルス様はいいんですか。

 

 

 

 そしてそんな喜びからの緊張からのグダグダ感に、全員が途方もない疲労感に見舞われている時だった。

 突如として空が暗くなり、次の瞬間弾けるように美しかった夜空に更なる星のさんざめきが加わった。怒涛のように天の川をひっくり返したような星のパノラマが押し寄せ、次いで七色のオーロラが天を覆う。何事かと見上げれば、星と七色のカーテンに彩られた夜空を飛翔する巨大な金色の翼が眼前を埋め尽くした。そして神秘的に輝く赤い眼……。こ、これは!

 

赤眼の金龍(レッドアイズゴールデンドラゴン)……じゃねぇ!! スーパー神龍!?」

「いったいどういうことだ!? まだスーパードラゴンボールは集めていないぞ!」

 

 ベジータの疑問はもっともだったが、それはすぐに解消された。

 

 

 

「お母さーーーーーーーーーーーん!!」

「! 空龍!?」

「皆さん、ご無事でしたか!」

「トランクス!」

「チッ」

「ブロ……ッ、お、ちょっと待て」

 

 空からずいぶん久しぶりに見た気がする未来空龍と、こっちの未来トランクスとは違う未来トランクス、ブロリーが下りてきたのを見て、彼らがスーパードラゴンボールを使ったのだという事は理解した。が、3人と一緒に現れた……というか、ブロリーの息子であるブロリージュニア(ブロリーが名前を付けないのでみんなジュニアと呼んでいる)がきゃっきゃと嬉しそうにつかんでいるブツにツッコミを入れざるを得ない。そしてバッと背後を振り返れば、そのブツを見て「私はやはり界王神にはふさわしくないのでは……」と死んだ魚のような目になっているザマスさん。…………うん、ごめん。どうフォローしていいのか分からない。

 

 しかし、ここはみんなを代表して言わせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

「ブロリー、お前のジュニアが掴んでる緑色のボロ雑巾どうしたよ」

「倒した」

 

 

 

 

 そろそろお家に帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ドラゴンボール超14:ボロ雑巾が出来るまで

 空梨達の前にスーパー神龍を引き連れて現れた空龍たちであったが、それに至るまでにたどった道筋は少々複雑である。

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 

 

 

 ブルマによって自分たちが陥っている状況を把握した空龍、トランクスはまずドラゴンボールを集めることにした。ブロリーは飯を食ってから寝ていた。

 

 2人はブロリーを蹴とばしてからこの世界の幼いトランクスの協力も得てドラゴンボールを素早く集めると、神龍を呼び出し自分たちが元の世界に戻るための方法を問うた。が、神龍にも空龍たちを元の世界に戻すのは難しいらしく、結果は芳しくないものに終わる。

 収穫はブルマが考えた世界が捻じれてしまったという説に裏付けが取れた事であるが、しかしこのまま捻じれっぱなしだと両平行世界が滅ぶ可能性がある……という事実のおまけつきだったため、空龍たちの焦りは増した。

 

 そして次の手を考える段階になったのだが、そこに破壊神ビルス、付き人ウイス、そして第七宇宙の界王神であるシンが訪問してきたのだ。

 

 なんでも界王神が悟空に伝えたいことがあったそうなのだが、当の悟空たちは不在で居たのは見知らぬ人間。ブルマの説明により、界王神その人はこの3人と悟空たちが陥っている現状に絶句する結果になった。これはビルスとウイスも同様であり、奇妙な事象に対して平行世界から来た3人とブルマ、神を交えた情報交換が行われたのである。

 

 情報交換の前段階で捻じれの中心となっている空龍、トランクス、ブロリーを破壊してしまう事を考えたビルスであるが、それはウイスに「早計である」と止められた。自身の正体と破壊をちらつかせ早々に突っかかって来たブロリーを容易にねじ伏せた事で盛大に空龍とトランクスをビビらせていたビルスも、途中まで本気で破壊するつもりであったがそれについては理由を聞いて納得している。何故ならば捻じれは”2か所”。破壊するならするで平行世界に行ってしまった悟空たち3人も同時に片付けなければ何が起こるか分からない、というのがウイスの見解だ。

 破壊されるかもしれないという事態にハラハラしていた空龍は「驚かせないでください」と抗議したが、それに対してウイスからは「ですが、これくらい驚かせないとあなた方に時間の移動についての深刻さを理解していただけないかと思いまして」と、ほがらかな笑顔で苦言を頂戴してしまった。時間移動が罪である事など知らなかった空龍とトランクスにしてみれば、たしかに世界の捻じれ以前に神罰をくらう原因となりうることを知って改めて時間移動の重要性を認識できたのもまた事実。

 2人は破壊されないだけましであったと、大人しく残りの苦情を飲み込んだ。

 

 

 そして結果として、早々に事態を終息させるために空龍たちの未来世界にあるスーパードラゴンボールを使うことが決定した。何故かと言えば現代にあるスーパードラゴンボールは、平行世界の現代同様に第六宇宙との試合で景品として使用されたため現在使用不可能であるからだ。時間の移動に頼る事にビルスは眉をひそめたが、現状取れる手段が少ない故の苦肉の策である。

 もし未来へ戻った先が自分たちの世界ではなく、悟空ブラックという敵が出現した平行世界の未来だったら……という懸念は、幸い神龍に願った質問の返答内で答えを得ている。空龍たちがタイムマシンを使い未来へ戻れば、そこは彼らの世界。そのため敵の襲撃を心配することなく、現代のブルマから借りたスーパードラゴンボールレーダーでスーパードラゴンボールを集められるというわけだ。

 第六宇宙への探索については、ブウの件で親交のある自分たちの世界の界王神を頼ろうという事になった。

 

 そしてさっそく未来へ赴こうとしたのだが、そこでトランクスが界王神が悟空に伝えたかったことの内容について質問をした。もしやこちらの世界の未来の自分を困らせている、悟空ブラックとやらの正体について見当がついたのかと推測したのだ。そして話された内容だったが、それは聞き捨てならない内容だった。

 

 

 

 

 賢者ズノーのもとに、悟空ブラックと同じ気を持つとされる神……ザマスが現れ、スーパードラゴンボールと悟空について質問をしたというのだ。

 

 

 

 

 スーパードラゴンボール。

 この神の宝玉の使用が前提となれば、たいていの疑問は無意味なものとなる。文字通り望む願いを「何でも」叶えてしまうからだ。

 それも通常のドラゴンボールと同じく、1年という短いスパンで使用可能というとんでもない代物である。

 

 そのため以前現代へと現れた悟空ブラックが「時の指輪」という時空を行き来できる界王神の秘宝を所有していたことから、ブラックの正体はスーパードラゴンボールを使い悟空の姿を手に入れたザマスではないか、という推測に至った。何故未来世界を襲撃したのかという疑問は残るが、それでブラックとザマスの気が似ていることへの説明もつく。

 そうなると界王神しか使えない時の指輪をブラックが有していたことから、遠くない未来に現第10宇宙界王神ゴワスの身に危機が訪れるのでは……と、ここまでが今ある情報からウイスとブルマが導き出した答えだ。「界王神見習いが界王神になるには、先代を殺して成り代わるのが手っ取り早いということですか」と納得したトランクスであったが、口に出してみて悪寒が走った。……自分の師を殺してまで未来世界を襲撃した理由とは何なのだ、と。

 

 今のところ悟空ブラックとやらの脅威は自分たちの未来には訪れていないが、今思えば伯母である空梨が「何か異変があったらすぐに来い」と念を押していたのはこの事態を予知しての事ではなかったのか。空龍も同じくその予想に至ったらしく「スーパードラゴンボールの前に、僕たちの未来の脅威にもなりえるブラックの原点を突き止めないといけないね」と真剣な表情でトランクスに同意を求めた。トランクスとしても自分たちの世界のことはもちろんだが、この平行世界の自分を襲った悲劇を思えば何かしたいと考えていた所である。

 パラレルワールドとして分岐してしまった過去と未来故、現代の方でブラックになる可能性を秘めたザマスをどうにかしても未来は変わらないだろう。しかし自分たちと入れ替わる形で平行世界の過去へ飛ばされた、この世界の自分に代わってスーパードラゴンボールを使用する前に何か出来る事をしたかったのだ。

 ……あの過酷な未来を、たった一人で戦ってきた戦士のために。

 

 

 そういうわけでトランクスと空龍は第10宇宙へもう一度ザマスの様子を見に行くと言ったビルスとウイスに、不在の悟空たちに代わって同行させてくれないかと申し出た。

 最初は断られたが、そこは母親に似てしつこさではなかなか右に出るものが居ない空龍である。…………下手に下手に出ながらも、頷いてくれるまで絶対にビルスを逃がすまいとするそのしつこさといったら神を辟易させるレベルだった。しかも下手に出た以上に上手い事煽てて相手をいい気分にさせ、終いには了承させてしまうあたりしたたかだ。

 トランクスとしては過去に行って以来、生い立ち故に人見知りの気質が強く他者との交流を好まなかった空龍が社交的になるのは大変喜ばしい事ではある。が、その結果新たに発揮した才能については少々複雑な心境だ。……世渡り上手になるのは頼もしいが、どんな無茶を言い出しても最終的にはその押しの強さに丸め込まれてしまうのだから、その処世術が自分に発揮された時が恐ろしい。頼れる従兄弟は意外と我儘なのだ。

 

 ともあれ、今回の場合はその謙虚を装った押しの強さの勝利である。

 同行を許されたのは一人までだったので、効率のためトランクスは別行動で未来に戻りスーパードラゴンボールを集める手筈となった。しかし頼もしい従兄弟ならどうにかしてくれるだろう。そう思って、トランクスは一人タイムマシンで未来へ戻った。

 ……後に、彼はこの時「どうせ邪魔なだけだしブロリーは置いていくか。しばらくは飯食って寝てるだけだし心配ないだろう」と判断した自分の甘さをつくづく後悔する羽目となる。ブロリーを置いていくと言った時、絶望したような表情の幼い自分に「頑張れ」と笑顔で押し付けてきたバチが当たったのだろうかと真剣に考えた。

 

 

 

 

 しかしタイムマシンはあってもそんな些細な過去には帰れない。世は無情である。

 

 

 

 未来から戻ったトランクスは、奇しくも後に彼の伯母が口にしたのと同じ疑問をブロリーに投げかけた。

 

 

 

「その緑色のボロ雑巾はどうしたんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

「え、え~と……。トランクス、いつもお疲れ様。ほんっとうにお疲れ様。で、ボロ雑巾になった方の経緯は? ビルス様にくっついていったのは空龍だけだったんじゃないの?」

 

 トランクスが訥々と虚ろな目で語った原作世界の過去での出来事を黙って聞いていたが、場の空気に耐えかねて話を端折るべく質問した。場の空気が今どんなかって、平行世界の未来で別の苦労に浸されてる自分を見たトランクスと平行世界の自分が今度はボロ雑巾にされて連れてこられたのを見たザマスさんが発する哀愁が辛い。いたたまれない。とりあえず平行世界の悟空、「おめぇ本当にブロリーか!? ははっ、ずいぶん雰囲気変わったんだなぁ。オラ達の世界のブロリーとは大違いだぞ」と気さくに話しかけるのやめろよ。好奇心の塊か。全王様の相手は弟悟空がしてるとはいえ、お前がこっち来たから全王様の興味も一緒にこっちに向いちゃっただろうが! あの純粋なんだか何考えてるんだか分からない目で見られてるこっちの身にもなってみろ。最早全員の精神力ゲージ真っ赤なんだよぉぉ!!

 とりあえず悟空に話しかけられて一気にピキピキ来てたブロリーののど元をラリアットで抉りながら遠ざけた空龍はナイス。こっちも悟飯ちゃんとラディッツが二人がかりで悟空をブロリーから遠ざけていた。「お父さんのそういうところは本当に尊敬しますけど、場の空気とか状況ってものをもう少し読めるようになりましょうか」と笑顔で諭していた悟飯ちゃんが怖かったんだけど。目が笑ってない。ベジータにも本気説教くらってるし、悟空としては散々だろうな。まあ自業自得だけども。

 

 ちなみにジュニアとボロ雑巾だがジュニアがブロリーの頭にくっついた状態でボロ雑巾を掴んでいたため、ラリアットを食らったブロリーがキレて空龍と戦い始めたもんだから戦闘の衝撃でボロ雑巾はぐったりしたままストラップのようにぶらぶらと揺れている。ふと「ああ、私もベジータにボコられてストラップになってた時期があったな」と懐かしさに逃避した私は多分悪くない。ジュニアが笑顔でご満悦なもんだから余計に絵面がシュールで、もう何がなんやら。…………………………うん。

 

 

 

 よし、無視しよう。

 

 

 

「ごめん。それで? 続きを話してもらってもいいかな」

「は、はい。いやでも、先にあれを止めてきます。皆さんにご迷惑でしょうから」

「いや、いいよ。本気で邪魔だったら人数余ってるしこっちが対処するから。トランクスはとりあえず体だけでも休めな?」

「ですが……」

 

 遠慮がちに言いよどむトランクスであるが、その彼に声をかけたのは意外にもトランクスとザマスさんだった。さっきまで放心してたけど、彼らも色々気になっていたのだろう。

 

「あ、あの。もう一人の俺? ええと……なんて呼べばいいか分からないけど、俺も話の続きを聞きたい」

「私もだ」

「! ザマス!?」

「もう一人の俺、このザマスさんは大丈夫なんだ」

 

 …………あれだな。「めんどくせぇ!」と叫びたくなってる私は悪くないよな。今この場に同一存在が居るのは悟空、ベジータ、トランクス、ザマスさんの4人。つまり「もう一人のオラ」「もう一人の俺」「もう一人の俺」(二回目)「もう一人の私」が存在するってわけか。もう一人のボクどころじゃねぇな! AIBOもびっくりの多さだよ!!

 

「あ、そういえばトランクス。スーパー神龍がまだ留まってるけど願いはどんなふうに頼んだの?」

「ああ、それでしたら「俺たちと入れ替わりに平行世界へ行ってしまったトランクス、孫悟空、ベジータの存在する場所へ時空を繋げてほしい」と願いました。時間は「もういい」というまで可能な限りとお願いしたので、急ぐ必要はありませんよ」

 

 空に留まりじっと地上を見下ろすスーパー神龍さんは待機と。……あんなのを堂々と待たせているあたり、トランクスも逞しくなったものだ。ちなみにスーパー神龍であるが、心なしか全王様にじっと見つめられて脂汗をかいてるように見えるのは気のせいだろうか。

 

 ま、まあいいや。無視だ無視。自分で聞いて置いてなんだけど全部に突っ込んでたら話が進まん。

 

 

 

 

 そう思って気を取り直してトランクスに話の続きを促したけど、これはこれで聞いていて頭の痛くなる話だった。

 

 

 

 

 なんでも第十宇宙へ行くとき、移動する直前でブロリーが界王神様をとっ捕まえて「俺も連れて行ってもらおうか」とか言ってついてきてしまったらしい。それを移動途中の空間で蹴落とそうとしたビルス様であったが、ブロリーが界王神様の首元をあのぶっとい筋肉モリモリの腕でホールドしていたもんだから下手に手を出せなかったようだ。ブロリー的にはちょっとした人質……いや神質? のつもりだったんだろうが、捕まえていたのはビルス様の対となる界王神様。奴は偶然にも手を出させないためには最高の相手を盾にとったのである。これが見た目の細さに騙されてウイスさんに手を出していた場合瞬殺だったろうに……運のいい奴である。

 何故ブロリーがそんな行動をとったかといえば、その理由はしょうもない。

 表向きは「なぁに、俺も戦いの天才とやらに興味があったのさ」などと言っていたらしいが、ふたを開けてみたらどっこい。ジュニアを絶対に帰ってこられない場所に放置するためだったようだ。それまでどんな場所に捨てようと、空を飛んで意地でもブロリーのもとに帰って来たらしい健気なジュニアに対して悪魔のような親である。

 そのため第10宇宙に着くなり「気が変わった」とか言って界王神様をホールドしたまま姿を消したブロリーは、ジュニアをひっぺがしてすぐに第七宇宙へ戻れと界王神様に要求したらしい。…………向こうの世界の界王神様かわいそうだな……。

 

 ビルス様が当然そんな勝手な行動を許すはずが無かったのだが、ウイス様が「あの方は血気盛んなようですが殺気はありませんでしたし、大丈夫じゃありませんか? 気になるのなら私が意識を向けておきますよ」と言い、空龍もそれに便乗して「あの馬鹿に付き合ってたらきりが無いですよ。便利に使いこそすれ本当に界王神様をどうこうしようって気は無いと思いますし、今はこちらの用事を済ませてしまいましょう。界王神ゴワス様が心配です」と提案したので先にザマスの案件を片付けることにしたようだ。

 この時は空龍はブロリーのいつもの気まぐれだと思っていたらしく油断していたらしい。そりゃあ、まさかジュニアを第10宇宙に押し付けるために神にくっついて別宇宙までやってくるとは思わないよな。想像の範疇を超えていたんだろう。

 ブロリー……凶暴さが多少なりをひそめた分、別の意味で面倒くさくなったな。なんて図々しい奴なんだ。

 

 とにかくブロリーの行動は無視して当初の目的であるザマスの様子を窺いに行ったビルス様。そして2度目に会った結果……限りなく濃厚な黒と判断したらしい。なんでも破壊神であるビルス様は殺気の類に特に敏感らしく、ザマスが秘めた殺意を見抜いたようだ。そしていったん帰ったふりをしてザマスがゴワス様を殺害する場面をしっかり確認した後、ウイス様の「やり直し」で時間を戻してザマスがゴワス様を害する前に止めに入った、と。

 自分の思惑を知られたザマスは、それでもあきらめず抵抗しようとした。しかしビルス様に敵うはずもなく、あえなく破壊される……はずだった。

 

 

 

 

 しかしここで双方にとってのイレギュラーが乱入してきた。

 

 ジュニアである。

 

 

 

 

 父に置いていかれ、空を飛びながら「パぁパー! ぱぁぱァァァーーーー!!!!」とギャン泣きしていたジュニア。そんな彼がザマスを発見したのだ。 

 

 ジュニアは緑が好きである。それは父がスーパーサイヤ人になった際の髪の色であり、彼はそのふさふさの頭髪に顔をうずめてくっついているのが大好きだったからだ。

 

 心細さが最高潮に達したジュニアは、心の安定を保つために手近なところにあった緑色のものに縋りついた。それがザマスだったというね……。

 これに慌てたのは空龍で、今まさにザマスを破壊しようとしていたビルスに対して必死になって待ったをかけた。このままではザマスにくっついているジュニアごと破壊されてしまう、と。

 ビルス様としては知ったことではないが「お願いします待ってください! 代わりに僕が責任をもってこの緑のをはっ倒しますから!!」と言った空龍がザマスに攻撃を仕掛け始めたので破壊するタイミングを失ってしまったのだ。どさくさにまぎれて神の仕事を邪魔する当たり空龍も図太……逞しくなったもんだ。出会った当初のちょっと病んで儚げだったあの子は何処行ったし。

 

 そして始まったザマスVS空龍。結果? 一切舐めプ無しで意識刈り取りに行った空龍の勝利だったそうだ。ビルス様の出現、自身の計画の露呈、突然の赤ん坊の襲撃。様々な要因でもって混乱していたザマスに対して、空龍は遠慮なく付け込んで速攻で勝負をつけたんだとか。ジュニアの安全のためってのもあったんだろうけどね。

 

 でもって気絶させたはいいが、ここでも問題になってくるのがジュニアである。父親が居なくて心細いジュニアは、まるでお気に入りのぬいぐるみかのようにザマスをひしとつかんで離さなかったのだ。

 とりあえずジュニアを引きはがすため、いったんザマスを持ち帰ることになった。そして帰った途端父親を発見して泣きながらブロリーに突進していったジュニアであるが……ここで意識を取り戻したザマスとブロリーで第二戦が勃発。結果? 「せっかく捨ててきたというのにコイツを連れてきたのはお前かぁ!!」という八つ当たり、理不尽極まりない理由でキレたブロリーの圧勝だってさ。

 ……うん、そっちのザマス……お前まだ不死身でも何でもなかったもんな……。回復能力も無いのに空龍に不意打ちされてボロボロな体で伝説のスーパーサイヤ人ブロリー相手とかなんて罰ゲームだよって感じだよな……。同情するような相手ではないけど、流石にちょっと不憫だわ。つーかブロリーお前さ、悪魔みたいな駄目親であるお前を慕ってくれるジュニアをいい加減受け入れてやれよ。あの子本当にお前の事大好きだぞ。前に過去に来た時もパラガスにそこそこ懐きながら、ブロリーからは絶対に離れたがらなかったじゃないか。

 

 

 で、ボロ雑巾になったザマスを再度ひっつかんでブロリーの頭にくっつきご満悦のジュニア。面倒くさくなったビルス様は「それをくれてやるから、お前らもうさっさと元の世界へ帰れ」とおざなりにザマスを丸投げしたようだ。ま、まあ結果的にゴワス様から離すことが出来れば時の指輪も手に入れられないしな……。

 いやでも、元気になったらまたやらかすんじゃ? そう思ったのは空龍と、スーパードラゴンボールを集めて戻って来たトランクス(未来の界王神様も一緒だったとはいえ、集めるのほぼ一人だったのに素早い仕事っぷりに感動する)も同じようでうんうんと頭を悩ませた。そして悩んだ結果このボロ雑巾をどうするかは、今までブラックというザマスの未来の可能性と戦ってきた平行世界のトランクス達に委ねようということになったんだって。オブラートに包んではいるけどこれはこれで丸投げだよね。

 

 そして過去のブルマ、トランクス、ビルス様、ウイス様に見送られて、自分たちの未来に戻った彼らは集めたスーパードラゴンボールを使って時空を繋ぎこちらに合流し現在に至る、と。

 

 

 

 私はふっと息を吐き出すと、平行世界組のトランクス、悟空、ベジータ。そしてある意味当人であるザマスさんを順番に見て問う。

 

 

 

 

 

「これどうする?」

 

 

 

 

 

 全員から目をそらされたので、とりあえずストラップボロ雑巾に理不尽パンチを追加で叩き込むことで留飲を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ドラゴンボール超15:前代未聞の大所帯

 結果的にボロ雑巾がどうなったかと言えば、これまた合体ザマス同様に界王神であるザマスさんが引き受けてくれた。

 

 どう引き受けてくれたのかといえば、呻き声をあげて目を覚ました見習いザマスの前に仁王立ちで立った彼はまず自身の左耳のポタラをはずした。そして「わ、私? ククッ、そうか……どういうわけか知らないが、ここは私が夢を叶えた未来で、お前は未来の私だな? ポタラ……なるほど、ここで私たちはひとつとなり大いなる力を手に入れる、というわけか。いいだろう、その合体受け入れ……いだッ!?」という、理解力半端ねぇ見習いザマスの台詞の途中で界王神ザマスさんは奴の耳たぶを引きちぎる勢いで見習い用のポタラを外した。そして外した自分のポタラを装着させたのだ。

 これには驚いた私たちであるが、ポタラで見習いザマスと合体しても界王神ザマスさんはザマスさんだった。どういうことかと問えば「ゴワス様によれば神同士の合体の場合、基本的に神格が上の者がベースとなるようだ。シン殿とキビト殿も以前は合体していたと聞く……それを想像してもらえばよいだろうか」とのこと。

 ああ、神格といったら見習いザマスと界王神ザマスさんじゃ圧倒的に界王神であるザマスさんが上だよな……。

 

「でも、悪影響とかはないんですか?」

「問題ない。いわば私とてつい最近までは奴と同じ思想を抱えていた同一存在……そこに私の経験が加わることによって、吸収された見習いの私もシン殿との出会いから始まりこれまでの経験を疑似体験したはずだ。ゴワス様を殺める寸前だったとはいえ、決定的に後戻り出来なくなる前に止めてもらった事も大きい。今では私の中にあった未処理の感情と寄り添って、静かに己の行いを悔いている所だろう」

「……あのさ、ザマスさん。色々遠回しな言い方してるけど、合体したってことはやっぱり見習いザマスのその悔いってのもザマスさん自身が体験してるようなもんだよね? つまり結果的にザマスさんの心労が増しただけじゃ……」

 

 悟飯ちゃんの問いに答えたザマスさんに思わず思ったことを言えば、いつの間にか復活していた界王神様に「空梨さん。どうか、どうかそれ以上は言わないであげてください……! あとでちゃんと私が話を聞きますから」と腕を掴まれて懇願された。見ればザマスさんは慈愛に満ちた笑顔を浮かべつつ、その瞳はどこか遠い虚空を見つめていた。………………うん、ごめん。

 

 ちなみにさっきまで見習いザマスを掴んで離さなかったブロリージュニアであるが、疲れたのか念力でちょちょっと睡眠作用のある波動を送ったらコテンっと寝てしまった。今は健やかな笑顔でブロリーの頭にくっついたまま眠っている。そしてくっつかれているブロリーであるが、結局空龍とのバトルが激化してきたので周囲の安全のためにブルーベジータとアルティメット悟飯ちゃん、そして結局お守り役の方のトランクスが加わり無理やり大人しくさせた。親子、師弟コラボ(正確にはちょっと違うけど)の連携は見事だったけど、最終的には「いい加減にしろこの馬鹿!!」とトランクスと空龍の拳骨がブロリーの頬を左右から打ち抜いたのが決定打。「あの3人、何だかんだでバランスとれてるみたいですね」と苦笑した悟飯ちゃんと「ブロリーの野郎、相変わらず面倒な……」と忌々しそうに吐き捨てる弟ベジータにはどちらにも同意したい心境だ。そういえば平行世界のベジータだけど、平行世界のトランクスに「お前も強くなったが、これからも未来を守って生きていくんだろう。なら、あれくらいの図太さも身につけるんだな」と、ブロリーにがみがみと説教(ブロリーはめんどくさそうに耳をほじっている)しているトランクスを親指で示してアドバイスしていた。

 胃痛に苦しむ彼を見習っていいのか疑問は残るけど、精神的に逞しくなったのはたしかだもんな……トランクス。出来れば平行世界のトランクスにも、気兼ねなく言い合える友達が出来たらいいんだけど。

 

 

 

 とにかく、気づけば場は大所帯。全王様が賑やかな空気に楽しそうにしてくれているのが幸いか。

 

 

 

 しかし増員はまだ止まらない。

 

「お~い、まだ帰らないのか~? オレ腹減ったぞ」

「あら、太っちょブウちゃんじゃな~い。お久~」

「お、ブウ子。なあなあ、そこにあるお菓子、食べていいか?」

「ええ、どうぞ。私のスイーツ知識が火を噴いた自信作よん。可能な限り再現したわ~」

「だったらオレも、このあいだ空龍が作ってくれたケーキ食わせてやるぞ。すごくうまかったんだ」

「きゃっ! ホント? 素敵ね。折角だしいっぱい作っちゃいましょ!」

 

 なんか未来のブウまで来たんだけど。え、今までスーパー神龍の背中に乗ってたの? なんて贅沢な特等席に……。そして混乱する数名を放置してブウ同士でスイーツパーティーはじめんな。

 お菓子ビームで次々とお菓子が生まれる様子にマイちゃんの近くに居た子供たちが目をキラキラさせてるのは嬉しいけどさ。……あのビームが無機物だけでなく人間までお菓子に変えてしまうという事実を知らなければ、まあ夢の魔法だよな……。お、太っちょブウが子供たちにお菓子あげてる。前に会った時より成長したな。

 

「ああ、ブウにはスーパードラゴンボール集めを手伝ってもらったんですよ」

「……ひとつ聞きたいが、あれは未来世界のブウか?」

「……ややこしいのによく理解できたなお前。そうだよ、未来世界で封印を解かれたブウだよ」

「え、復活させちゃったんですか!?」

 

 平行世界のベジータがいち早くそのブウが何処の世界のブウなのか気づいたので、また余計な説明を挟む羽目になった。トランクスが驚くのは無理もない。復活を阻止したはずのブウを蘇らせちゃってるんだから。

 何故私たちの世界の未来でブウが復活しているのかといえば、以前3人が未来から相談に来たことがきっかけだ。私が何かあればすぐに来るようにと念押ししておいたので、ブウの件で界王神様に協力を呼びかけられたときに「もしかしてこのことか!」と思い至ってすぐに来てくれたのだ。そしてたまたまその場にブウ子が居合わせた。で、「でも太っちょブウちゃんて基本的にものを知らないだけでいい子じゃない? 適当に怒らせてガリガリブウちゃんだけ追い出してやっつけちゃえば暴走の心配もないし、未来の復興に役立ってくれると思うわよ」という、ある意味本人からのアドバイスを賜ったというわけだ。

 実際それを実行してみれば、魔法が使えるブウは人造人間に傷つけられた未来世界の復興に大いに活躍する事となった。今やブウは未来世界のヒーローである。ちなみに彼も一度過去に来ているため、ブウ子や現代の太っちょブウとも顔見知りだ。あいつらなんだかんだで同じ種族に出会えたことに嬉しそうだったのを覚えている。

 ちなみに封印を解かせるために泳がせておいた未来のバビディとダーブラにはブウが復活した瞬間速攻でご臨終頂いたようだ。ブロリーに「雑魚すぎて物足りない」と言われ、空龍に「ブウ復活のエネルギーをこっそり提供したのは僕たちなんだし、短い間でもいい夢見れただけきっと彼らも幸せだったと思いますよ」と言われたバビディとダーブラは少々憐れだ。いや、下手に抵抗されてブロリーあたりを魔法で洗脳されてたら厄介だけどさ。

 そういえばトランクスだけど、彼はバビディ、ダーブラ戦には参加せず、ブウの危険性を取り除いて味方にする旨を界王神様に納得してもらうのに苦労していたらしい。結果的に意見をぶつけ合ったためかこちらはこちらで妙な友情が生まれたようだから、世の中何が吉と出るかわからないものである。

 

 ブウについてざっくり説明してやると、ベジータとトランクスは同時に頭を押さえた。ブロリーに説教をし終わったトランクスがそれに気づいて「俺の頭痛薬よかったら飲みますか? あ、胃薬もありますよ」と、常備薬がパンパンに詰まったケースを取り出してオロオロしていた。ちなみに空龍はブロリーがこれ以上暴れないように厳しい目で奴を監視している。

 

 

 

 

 

 

 話が脱線し続けてまとまりがつかなくなってきたが、ここで場の混沌に一石を投じる存在が居た。

 

 

 

 

 

 

『あの……、もう出現してられる時間が、限界というか……』

 

 天から響いた声に全員空を見上げると、そこには体をプルプル震わせているスーパー神龍の姿が。

 

 

 

『………………………………………………………………………………』

 

 

 

 

 

 ここからみんなが大慌てになったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふへへ……(*´∀`*) またまた86さんからイラストを頂いてしまいました!しかも2枚という贅沢っぷりに、確実に今年の運を消費している気がします。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

主人公吸収ブウ子と純粋悪ブウ子を描いて頂きました!スイーツパーティーとかきゃっきゃと始めてる今では考えられないくらい強そうです。ちゃんと悪役としての格を感じるぜ……!そしてナイスバディである。
転じて純粋悪ブウ子はなんともこのふてぶてしさが可愛いんですが。おかわりを要求しているんだな?よろしい、ならばホールケーキを段重ねで用意しよう!

86さん、素敵なイラストをありがとうございました!


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ドラゴンボール超16:さらばトランクス!未来へつなぐ新たな希望

〇月●日

 

 

 今日やっと未来トランクス編(こじれにこじれた平行世界ver)が終了した。未だに頭がこんがらがっているので、整理がてら日記でまとめようと思う。

 でも書き始めたらきりがないし、とりあえず平行世界の面々との別れの場面に焦点を絞って書くこととしよう。

 

 

 スーパー神龍が全王様の手前頑張ったのか、私たちにもわかる言語でタイムリミットを告げて来たもんだから一時みんな大慌てだった。でも全王様が「え、もう?」と首をかしげて言ったら『もう少し頑張らせていただきます! ぎ、ギリギリ15分くらいなら……!』と、スーパー神龍が頑張って時間を延ばしてくれた。体がめっちゃプルプルしてたけど、神龍って出現してるだけで結構ツライものなんだろうか。…………今度からもっと願いを叶えてもらったら感謝の念を込めて拝んでおこう。いつもありがとうドラゴンボール。

 

 で、わずかに出来た猶予に私たちは平行世界のみんなとお別れをしたのだ。

 以下がその時の記録である。

 

 

 

 

 

【 全王様、ビルス様 】

 

 

「あのね、なんだかとっても面白かったね~。ねえねえ、悟空はもう帰っちゃうの? それだとつまんないなぁ」

 

 そう言って平行世界、過去へと帰る悟空に対して別れを惜しんだ全王様。しかし悟空(平行世界の方)といえば気楽なもので「そんじゃ、タイムマシン使う事全ちゃんが許してくれたらまた遊びにこれっぞ」などと、ちゃっかりこれからもタイムマシンを使えるように全王様に約束を取り付けようとしていた。それに対して全王様は「う~ん、それはちょっと駄目なのね。こっちの世界に君がもういないのが残念だね。あ、そうだ! ねえ悟空、こっちに残る気は無い?」と提案。けど悟空は「でもオラの世界の全ちゃんとも友達だかんな~。すまねぇ、こっちに残ることはできねぇや」と断った。

 もしこれで全王様が機嫌を損ねたら宇宙は終わりである。そういった意味で全王様とのやりとりをハラハラ見守っていたのだけど、意外にも全王様は「そっか、別の僕からお友達をとっちゃうわけにはいかないね~」とすんなり納得してくれた。

 その見た目や言動から子供っぽい性質の持ち主かと思いきや、それもどうやら違うようだ。その考えを読むことはかなり困難で非常につかみどころのないお方だと感じたが、今回はすんなり引いてくれて助かった……いやホントに。

 

 ちなみにもしもの場合は悟空をひっつかまえて全王様に差し出そうと身構えていたビルス様は、特大の安堵のため息をついておられた。……まあ、悟空が残ったら残ったで、ビルス様は常日頃からいつ悟空が全王様を怒らせるかと心配しながら過ごさないといけないからな。そりゃ安心もするか。

 

 

 その後、付き人が迎えに来て全王様はあっさりお帰りになった。世界の捻じれが解消されるのを見届けなくていいのかな~って気もしたけど、悟空と出会ったことで大分満足気な全王様を引き留めて機嫌を損ねても藪蛇だしな。神様だし、きっと離れていても見届ける術なんていくらでもあるだろう。

 …………帰り際に「宇宙同士の対抗戦、面白そうだよね~」と呟いていた気がするのはきっと空耳だよね。…………空耳だよな?

 そして全王様に続きビルス様も「また何か面倒事をおこしたら、今度こそこの星を破壊するからね」と言い残してウイス様と帰っていった。台詞とは裏腹にその声に覇気が無かったことから、多分今回の疲れを癒すために当分お昼寝するだろうな。その間に今回の事を忘れてくれる事を祈りたい。

 

 

 

 

 

【 悟空とベジータ 】

 

 

 平行世界の悟空同士は終始仲が良かったため、別れを非常に残念がっていた。よっぽど自分同士の修業が楽しかったらしい。特に平行世界の悟空は残念そうだったな。なんでもビルス様の所で修行する時以外は普段修業に付き合ってくれる相手が身近に居ないらしく、文句を言うどころか自分と同じように楽しんで思いっきり戦ってくれる自分自身という修行相手はかなり貴重な存在だったみたいだ。

 そして意外な事にベジータ同士も別れを惜しんでたっぽい。「貴様とは、もう少し話しておけばよかったな。……キングベジータ、覚えておこう」「フンッ、どういう風の吹き回しだ? ……俺同士なんだ。わざわざ言葉にせずともいいだろう、エンペラーベジータ」と言って、お互い最後に全力で拳をぶつけ合ってからニヤリと笑っていた。それを見ていた私、ラディッツ、悟飯ちゃんは「あのベジータに友達が……」「いや、相手もベジータだろう」「でも今の友情っぽかったですよね」とこそこそと話していた。うん、この微妙な心境を共有できる相手が居るのは助かるな。というか、こいつらにとってキングベジータとエンペラーベジータは讃えあうための褒め言葉なのか? なんか平行世界のベジータに余計な黒歴史を増やしてしまったようで申し訳ないんだが。

 

 そういえば何がどうしてそういう話になったのか知らないけど、二人の悟空の間で以下のような会話が交わされていた。

 

「え、おめぇキスしたことねえんか? うっそだー」

「オラはしたことあるんか?」

「そりゃおめぇ……」

「あ、なんだよその勝ち誇ったような顔ー」

「ま、オラも帰ったらチチにしてみろよ。普段おっかねぇけど、キスすると真っ赤になって可愛いんだぞ」

「あのチチがか? そっかぁ……チチがなぁ……。おし! 帰ったらためしにやってみっぞ!」

「おう! あ、それと人前だと逆に怒られっから気を付けろよ」

「……なんか、めんどくせぇんだな」

「そう言うなって」

 

 まさかの悟空同士の恋バナ? にビビったわ。っていうか、え? 平行世界の方の悟空、お前原作の悟空だろ? 最早おぼろげな原作知識だけどアニメでチチさんとキスしてたような……やめよう。所詮様々な可能性を秘めた平行世界だ。考え出したらきりがないし、キスを知らない悟空が居る世界があったっておかしくないだろう。それで納得しよう。

 でも悟空とチチさんのなれそめを知らない悟飯ちゃんが「よくお母さんと結婚できたな……」と呟いたことに関してはどっちの悟空に対してもフォローできんわ。あのね、悟飯ちゃん……。悟空の奴、結婚の意味をほぼ理解しないまま結婚したんや……子作りの方法も途中まで知らんかったんや……。

 

 こう考えると、ドラゴンボールで一番の奇跡は悟空とチチさんが出会った事なんじゃないかなって思った私である。

 

 

 

 

 

【 トランクス、ブルマ、マイ 】

 

 

「皆さんのおかげで世界を救うことが出来ました。本当に、なんとお礼を言っていいか……! ザマスさん、あなたにも感謝してもしきれません。母さんを、マイを、みんなを……生き返らせてくれて、俺と一緒に戦ってくれて、本当にありがとう」

「いや、もとはといえば別世界とはいえ私が原因なのだ。そう感謝されると困ってしまう。それに未来を救ったのは君だトランクス。君が行動したからこそ世界は変わったのだろう。……これからまだまだ過激な人生が待ち受けているかもしれないが、君は世界の希望だ。きっと乗り越えていけるだろう。二度と会えないだろうが、私はいつでも君を応援している」

「なんだか変な気分ねぇ……。わたしを殺した奴と同じような存在がわたしたちを助けてくれて、こうして目の前でトランクスと握手してるなんて」

「ふふっ、そうですね。でも本当に良かった……! こうしてブルマさんとまた笑いあうことが出来るなんて、夢みたい」

「あははっ、ホントよねー。神様だとか孫くんとベジータが二人とか、色々ビックリな光景に言いたいことはあるけど……とびっきりのハッピーエンドになったってことでいいんでしょ? なら、わたしもみんなにありがとうって言うだけだわ。もちろん、あなたにもね! ありがとう、ザマスさん」

「そうですね、じゃあ私からも。ありがとう。あんたは命の恩人だよ、ザマスさん」

「いや、だから私はお礼を言われるような立場では……」

 

 以上、トランクス、ザマスさん、ブルマ、マイの会話である。

 ザマスさんは自分がお礼を言われる資格なんか無いって遠慮してたけど、実際にこの世界を救った半分以上の功績は彼にある。ザマスさんが来なかったら死んだ人も神も世界も、なにもかもが蘇ることはなかったのだから。

 だからビルス様も帰る前に一言ザマスさんにお礼でも言ってけばよかったのに……いやこれは贅沢ってもんか。もとはといえば別世界のザマスに殺されたようなもんだもんなビルス様。

 

 ちなみにこの日記はセルから貸してもらった動画(あの野郎結局一部始終ずっと撮ってやがった)を見ながら書いてるから、会話は結構そのまま記録できている。でもせっかく映像記録があるんだし、あとでコピーして日記に添付しておこう。

 

 

 

 

「俺には空兄さんがいたけど、こっちの俺は一人で頑張ってきたんだよな……。自分に言うのも変だけど、凄い事だと思う。俺は心から君を尊敬するよ。もうお別れだけど、応援してるからな! 世界が離れても、ずっと!」

「もう一人の俺……。ありがとう。俺も君の事を応援してるよ! こっちとは別の苦労が多いみたいだけど、体に気をつけろよ」

「ああ! ありがとう。はははっ、自分に心配されるなんて変な気分だ」

「ははっ、それもそうだな! ……じゃあ、元気で」

「君も」

 

 そう言って固く握手を交わしたトランクス二人。時間があったらもっと話したいことは多かっただろうけど、彼らはこの短い会話で分かり合ったようだ。

 そういえばこっちのトランクスがマイを見て「こっちにもマイはいるんだな。……幸せにしろよ!」と、平行世界トランクスの背中を思いっきり叩いていた。その左手の薬指に銀色の光が控えめに輝いていたのを見て、私とブルマは「ねえ、もしかして今回こっちのトランクス達が過去に来ようとしてたのって……」「もしかするとっていうか、あれを見るに確定でしょ!」とひっそり盛り上がっていた。時間が無かったから詳しく聞けなかったのが残念である。

 

 

 

 

 あとトランクスといえば、悟飯ちゃんと別れる時はこっちの世界の悟飯ちゃんを思い出したのかこらえきれずに泣いてたっけ。でもひとしきり泣いた後のトランクスの表情は明るかった。

 

 

 

「悟飯さん、俺……頑張ります。もっともっと強くなって、何があっても今度こそ俺がこの世界を守れるように。この世界の悟飯さんが俺に繋げてくれた希望を、今度は俺が未来に繋げられるように」

 

 

 

 そんなトランクスを見て、キングとエンペラーのベジータが遠くから腕を組み同じ表情で笑っていた。あと言われた悟飯ちゃんはといえば、トランクスに釣られて涙ぐみながらも万感の思いを込めて「トランクスさん、お元気で」と返していた。

 ………………一瞬、目の端に3人目のベジータと山吹色の胴着姿の悟飯ちゃんが笑っていたように見えたのは気のせいだろうか。それは目の錯覚だったかもしれないけど、でもちょっとだけ閻魔様が気を利かせてくれたのかなーという気がしないでもない。おう、こっちのベジータに孫悟飯。トランクスは立派に育ったぞ。地獄からでも天国からでもいいから、ちゃんと見守ってトランクスが寿命を全うしてそっちに行ったらちゃんと褒めてくれよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうそう、トランクスはベジータ達にも深く頭を下げてお礼を言ってたけど、それに対してはちょっと叱られてたな。「お前はこの世界で唯一のサイヤ人の血を引く生き残り。そして俺の息子。つまり、この世界のサイヤ人のキングはトランクス、お前だ!」「そういうことだ。頭など下げんでいい。もっと胸を張れ!」とかなんとか。おい、もうちょっと素直に受け取りやすい叱咤激励だの褒め言葉だのなかったのか。キングトランクスの名前を押し付けられそうなトランクスが若干困惑してただろ。

 

 

 

 まあ、こんな感じで短い時間にバタバタと別れの挨拶をしたわけだ。未来トランクス達は何回も何回もお礼を言ってくれて、私たちとしてもはるばる平行世界の未来までやってきた甲斐があったというものだ。まあ一番頑張ったのはトランクスなんだけどね。

 

 そしていざ捻じれはどうやって戻すのが一番いいんだろう? という話になった。ギリギリになってこの話題になったのでまた大慌てした私たち、馬鹿である。

 

 結局それぞれの未来から過去へ戻ればいいんじゃない? という結論をブルマがたたき出し、平行世界の悟空、ベジータはこのままタイムマシンで過去へ帰還。私たちはスーパー神龍が繋げてくれている空間を通って私たち側の未来世界へ行ってから過去へ戻るということになった。未来トランクス、空龍、ブロリーはそのまま自分たちの未来世界に留まれば、一応全てが時空が絡まる前の状態に戻ったことになる。

 …………こうして書いていても本当にややこしい事件だった。

 

 

 

 

 

 で、こうして日記を書いているのは無事に戻った自分たちの世界の過去、私たちにとっての現在なわけだ。

 

 けど日記を書いている私を呼ぶ成人男性の「おかあさ~ん!」という声が聞こえる。

 

 

 

 ………………実はこっちの世界の未来組、未来に残らないでまた過去来ちゃったんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

(日記は続いている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で多分エピローグです。


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★ドラゴンボール超17(最終話):エピローグ~未来への餞別

「お母さ~ん!」

 

 私は自宅のテラスで書きかけの日記の電源を一回切ると、呼ばれた方を見る。そこには現代空龍、エシャロット、龍成、叶恵、チビトランクス、悟天ちゃんを腕やら背中にぶら下げた未来空龍と未来トランクスの姿があった。私を呼んだのは未来空龍の方で、その表情は生き生きしている。前に来た時もそうだったけど、空龍は彼の世界に存在しない兄弟たちと遊ぶのが本当に楽しいようだ。

 ジュニアに関してもまったくあてにならないブロリーの代わりによく横から口を出しつつ面倒をみているようだし、もし空龍が親になる日が来たらきっといいお父さんになるだろうな。……しかたがないけど、それを見られないのが残念だ。

 

「お母さん、ブルマさんが準備できたから来なさいって!」

「はいよ~、今行くわ。チビたちはそのまま二人で連れてってくれる?」

「うん! よーし、思いっきり飛ぶからちゃんとつかまってるんだぞ!」

『はーい!』

「トランクスもよろしく」

「はい! では、先に行って待ってますね」

 

 元気に返事をした若人たちがカプセルコーポレーションに向かったのを見送って空を見上げていると、いつの間にかラディッツが横に立っていた。その背中には空龍たちにお土産で持たせる予定の、畑でとれた瑞々しい作物たちが背負われている。

 

「…………もうすぐお別れだねぇ……」

「そうだな。……寂しいか?」

「そりゃあね。でも、笑って見送ってやるのが一番でしょ。あの子たちもずっと明るく振る舞ってくれてるしさ」

 

 そうは言ってみたけど、でもやっぱり寂しい。だって未来空龍たちが今度未来へ帰ったら、多分平行世界のみんなと同じようにもう二度と会う事は出来ないのだ。今まで心のどこかで「会おうと思えばいつでも会えるだろう」と思っていただけに、そう考えると寂しくってたまらない。

 

 

 

 

 

 …………私たちと未来から来た青年達の別れは、もう間近に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の捻じれを無事解消し現代に戻って来た私たちだったのだけど、そこには空龍、トランクス、ブロリー、ブロリージュニアの姿もあった。界王神様との約束を守るなら、タイムマシンの再度の使用は私たちが現代に帰るためだけにとどめるべきだった。しかしある理由によって、未来の3人は再び現代へとやってきた。

 界王神様とザマスさんは渋い顔をしていたけど、これで最後だからと主張する空龍とトランクスに折れた形である。ザマスに手こずってたとはいえ結局スーパードラゴンボールを集められなかった私たちの代わりに、スーパードラゴンボールを集めて捻じれの解消に役立てたのはあの子達だしね。それもあって強く出られなかったんだろう。これがビルス様だったら問答無用で却下していただろうけど、今回こっちの時空のビルス様には内密で事を進めたことが幸いした。……そう考えると、優しい気質の界王神様には感謝だな。おかげで最後の別れをする時間も出来た。

 

 

 

 

 ちなみに彼らが再び現代に来た理由だが、それはブロリーとジュニアに関してである。

 

 空龍によって未来へ連れて行かれたが、ブロリーはもともとこの時代の人間だ。で、彼の父であるパラガスはこちらで生活している。空龍としても今さらブロリーを現代に残していく気は無いようだが(「まだ更生させられてませんから」と握り拳を作って強く主張していた)、このままパラガスと和解しないまま親子と爺孫が二度と会えなくなってしまう事に関しては納得できなかったようだ。実際の両親である未来の私とラディッツを亡くしている彼にとって譲れない理由だったのだろう。それにあの子、ジュニアのことは凄く可愛がってるしな。前に来たときそこそこ懐いていたパラガスとこのままお別れさせたくなかったみたい。

 

 そんな理由で、現代に帰って来てから空龍とトランクスはブロリーの両腕をがっちり掴んで問答無用でパラガスのもとに連れて行った。そしてパラガスとブロリーの間にどんな会話があったのかは知らないが(むしろちゃんと会話出来たのか心配だが)、なんとパラガスはブロリーと共に未来へ行くことを選択したのだ。

 「世話になった」と頭を下げたパラガスの表情はどこかスッキリしていて、珍しくブロリーから離れたジュニアがパラガスの髭をきゃっきゃと嬉しそうに引っ張りながら「じーじ」と呼んでいた。そのジュニアをあやすパラガスの顔といったら、完全に孫馬鹿のおじいちゃんである。……店長のおかげってのが大きいんだろうけど、丸くなったなお前も。

 ブロリー的にはジュニアを押し付けられる相手が来るなら、という理由でパラガスの同行を許したのかもしれない。でもジュニアをあやすパラガスと、その横で不機嫌そうに腕を組んでそっぽを向くブロリーという構図を見て、ようやくこの親子にもひとつの区切りがついたのだなと感じた。そもそもパラガスとブロリーの苦難はベジータ王……お父様が原因で始まったので、それを見てちょっとほっとしている自分がいる。勝手だけど、心の中で思うことくらい許してほしい。

 

 そういえばパラガスはどうやら未来で今度は自分の喫茶店を開くことにしたらしく、それを知った店長から餞別に色々もらったみたいだ。コーヒーに関連する器具やら書籍、壊れてはいないけど使わなくなったテーブルや椅子などの開店時に必要になりそうな家具……そして店長が大事にしていたバイオリンまで餞別に渡したところを見るに、店長にとってもパラガスがかけがえのない友人になっていたのだろう。パラガスはそんな大切なものは貰えないと遠慮してたけど、店長に無理やり押し付けられていた。「孫の子守歌に弾いてやれ」だってさ。どうやらパラガス、暇なときに店長にバイオリンを教えてもらっていたらしい。

 店長はパラガスとの別れに寂しそうだったけど、親子が並ぶ姿を見て珍しく目に涙をにじませて「よかったな」と繰り返していた。そして「息子と仲良くな。孫も可愛がってやれよ。……俺も、疎遠になってた子供に連絡をしてみようと思う。達者でな、パラガス」と笑ってパラガスの背を叩いたところで、ついにこらえきれなくなったのかパラガスは号泣しながら店長に抱き着いていた。

 

 ……私も、パラガスのパンケーキが食べられなくなるのはちょっと寂しいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 まあそんなわけで、空龍たちが現代に来た目的は果たされた。で、最後のお別れはしんみりしないでいっそ楽しく! とブルマが提案し、お別れパーティーが開かれることになったのだ。

 各自準備のためにいったん解散し、パーティーの準備が出来たのがついさっき。短時間で準備が整うとはさすがブルマ……。私も空龍に帰る前に食べてほしいものいくつか作って準備したけど、これはお土産でもたせればいいだろう。パオズ山で収穫した野菜もラディッツにさっき採ってきてもらったし、あと米と野菜の種や苗も……色々あるけど、全部収まっちゃうホイポイカプセル本当に便利だわ。あ、そういえば洗剤あまってたな。それも入れとこう。あとラディッツの古着だけどいい生地の服あるからそれと、このあいだまとめ買いした乾物も入れとこう。あと他に持たせられるものあったかな……。あ、冷凍にしといた常備菜も入れておこう。う~ん、他は思い出したらまた後で取りに来ればいいか。

 

 それにしてもパーティーとか久しぶりだな。店長もパラガスのために腕を振るうって言ってたし、ブウ子も選りすぐりのスイーツを持って来るって張り切ってたからご馳走の内容には色々期待出来そうだ。今回の件を知らない面々も呼ばれたから、そいつらはまず今回のややこしい事件にビックリするんだろうけど。

 

 

 とりあえず、私たちもカプセルコーポレーションに行くとするか。

 

 

「さ、私たちも行こうか」

「ああ。先に言っておくが、食いすぎるなよ?」

「………………」

「返事はどうした」

「やだ」

「はい、だろうが! お前が調子に乗って食うとエシャロットと叶恵が真似をする! クソッ、叶恵は最近まで普通だったのに、ついこの間から甘いものばかりに興味を持ち始めて……子供に悪影響だろう!」

「いいじゃん! いいじゃんこういう時くらい! 絶対美味しいものいっぱいあるのに腹八分目とか言ってられないに決まってるでしょ!」

「ならせめて糖分は控えろよ! エンプティーカロリーの見本みたいなのをいつもバクバクと……もっと栄養価をだな……」

 

 

 …………その後、ラディッツの小言が続いて出かけるのが30分ほど遅れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと行くのが遅れたら、私たちが到着したころには全員そろっていた。うちの子達に孫一家、ブルマ一家(家主はブルマ親子なのでベジータ一家とは言えない)、クリリンくん一家、ピッコロさん含めた天界組、カリン様にヤジロベー、新ギニュー特戦隊、マーくんもといサタンとブウ、ベエにブウ子。餃子師範、亀仙人様、ウミガメ、ヤムチャくんとプーアル、ウーロン、天津飯にランチさん、界王神様、老界王神様、キビトさん、ザマスさん、ゴワスさん、ピラフ一味も居るしセルもちゃっかり混じってる。あ、界王様もいるじゃん。後で叶恵の修業頼みに行こうかな。

 本当に呼べるだけ呼んだみたいだな……。今更だけど神様や人外も混ざってる凄い面子な上に、総勢何人になるんだろう? ま、賑やかなのはいいこった。

 

 

 それぞれ事情を聞いた後らしく空龍や未来トランクスに別れの挨拶をしていたが、ブルマが「しんみりしたお別れは後よ後! 今は思いっきり楽しんでちょうだい!」と号令をかけてパーティーが始まったので場は明るい雰囲気に満たされた。期待した通りご馳走もたくさんあるし、もちろん私もありがたく頂戴する。

 で、ラディッツに散々小言を言われたので出来るだけ上品に慎ましやかに食べるようにしてたんだけど……ブロリーが肉にかぶりついている悟空に声をかけたことで思わず塊を喉に詰まらせそうになった。現代空龍が慌てて背中を叩いてくれたので事なきを得たけど、食べてたのが餅入り巾着だっただけに一瞬危なかった……。こんなことで死んだら死んでも死にきれん。

 いやそれよりも! ちょ、おま、ブロリー。今まで大人しくしてたのにどうした!? ……いや、ブロリーが悟空に対して要求することといったら一つか。でも分かっててもさ、まず話しかけるってコミュニケーションが取れるようになったっていう衝撃がね……? しかも相手悟空だし。空龍、お前まだ更生させられてないって言ってたけど立派なもんだよ。あのブロリーが話しかけるってアクションを起こしただけでもびっくりだよこっちは。

 

 で、ブロリーと悟空だけど……。

 

「カカロットぉ……俺と戦え!!」

「? ほはほ?」

「お父さん、ちゃんと噛んで飲み込んでから喋ってください。パンちゃんの前でお行儀の悪い事はしないでくださいね」

 

 育メン悟飯ちゃんの隙の無いつっこみでとりあえず肉を飲み込んだ悟空は、ブロリーの要求に目を輝かせて答えた。

 

「なんだブロリー、おめぇオラと戦いてぇのか? おうっ、いいぞ。やろうぜ! 前はみんなで力あわせねーと勝てなかったからな……。オラとしても望むところだ! 今度はオラ一人で勝ってやっからな!」

「チィっ、相変わらず気にくわん奴だ……。貴様の声は聴くだけで耳障りなんだ! 頭がむしゃくしゃしてしょうがない! ……ククッ、せいぜい後悔しながら地に這いつくばるんだな……!」

「ひ、ひでぇ言われようだなぁ。オラ、おめぇに何かしたっけ?」

「存在そのものが目障りだ」

「そう言われたってよぉ……めえったな。まっ、いっか! とりあえず戦おうぜ!」

「ちょ、ちょっとちょっと待ちなさいよ! せっかくの楽しいパーティーに何やろうとしてんのよあんたたちは!」

「いや、でもさブルマ。これでお別れなんだし、せっかくだししがらみは無くしといた方がスッキリするんじゃない?」

「空梨まで何言ってんの! こいつらが暴れたらせっかくのパーティー会場が滅茶苦茶になっちゃうでしょ!?」

 

 怒り心頭のブルマだったけど、しかしブロリーVS悟空の波紋は思いがけず広がりを見せてしまった。

 

 

 

 まずベジータ。

 

「待てカカロット! 俺もそいつには借りを返さねばならん。それに未来での戦いは雑魚相手で消化不良だったしイライラしていたところだ。俺に戦わせろ!」

「え、そりゃねえよベジータ! オラだって戦いたい! それにブロリーはオラと戦いたいんだもんな? な?」

「面倒だ。貴様らごとき、束になってかかってこようが変わらん!」

「ほう? ずいぶんな自信だな。だが貴様程度俺一人で十分だ!」

「だから戦うのはオラだって!」

 

 ブロリーとの対戦権を巡って悟空とベジータが言いあいを始めたら、そこに未来トランクスが挙手しながら控えめに提案する。

 

「あの、よかったら父さんは俺と手合わせしてくれませんか? これでも随分強くなったんですよ! 帰る前に父さんに俺の実力を見てもらいたいんです!」

 

 それに便乗して未来空龍まで。

 

「じゃあ僕はお父さん、お母さんと手合わせしたい! これでお別れは寂しいけど、せめて強くなったところを見せて、安心させてから未来に帰りたいんだ」

 

 そしたら現代空龍、エシャロット、龍成まで参加してきた。

 

「あ、それなら僕は未来の僕と戦ってみたいなぁ! 自分自身と戦える機会なんて多分もうないし」

「ズルイ! 空兄ちゃんいつも戦いごっこ面倒くさがるくせにー! エシャもやるもん! 」

「えっ、じゃ、じゃあ僕も! これでもう会えないんでしょ? だったら、未来のお兄ちゃんに戦い方見てもらいたいな」

 

 子供組が参戦したことでチビトランクスと悟天ちゃんも抜け駆けさせまいと声を張り上げる。

 

「あ、ズリーズリー! 俺だって未来の俺と戦ってみたい!」

「僕もー! へへっ、僕たちだってこっそり特訓してたんだもんね! 前より強くなってるよ!」

「なー!」

「ねー!」

 

 次々と参加表明の声が上がり、空気にあてられたのか悟飯ちゃんとラディッツまでそわそわしている。……かくいう私も、珍しくちょっとやる気出てるんだけどね。未来トランクスは悟飯ちゃんとも手合わせしたいみたいだし、空龍は私とラディッツをご指名だ。未来へ帰る大切な存在に「安心させるために強くなった自分を見てほしい」と言われて、応えないなんて選択肢は無い。

 しかし、この空気に便乗する輩はまだ終わりでは無かった。

 

「待て、なら私も参加させたまえ。未来では相当なボランティアをしてやったと思わないか? その褒美としては安いものだろう。相手は孫悟空でもベジータでも空龍でもトランクスでもブロリーでも構わんぞ」

「え~、何々? なんだか楽しそうなことになってきたわね。ねえねえ! わたしはか弱いから無理だけど、ブウちゃん参加したら? きっと楽しいわよ!」

「ん? そうか~? じゃあ俺も遊ぶ! 誰が戦ってくれるんだ?」

「お前らも!? ちょっと、流石にこれじゃ収集つかなくない?」

 

 セルが主張したら面白半分のブウ子がブウを焚きつけ、ブウも乗り気に。戦うのはいいけど、希望者が多すぎてまとまりがつかない。

 

 

 

 しかし、そこに鶴の一声。

 

 

 

「じゃあトーナメントでもするかい?」

『……………………』

 

 

 

 しばしの沈黙の後。

 

 

 

『ビルス様!?』

 

 

 

 

 そう。いつから居たのか分からないが、ウイス様と一緒に両手に料理がたっぷり乗った皿を携えたビルス様がパーティー会場に現れたのだ。

 これに焦ったのは「ビルス様にはバレるまでは内緒にしてようね☆」で方針を決めていた私たちである。それを分かってか、ビルス様は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「驚いてるみたいだけど、君たち神をなめすぎじゃないかい? 事情はぜ~んぶ知ってるよ。……僕に内緒でずいぶん色々していたみたいだね」

「え、え~とですね、ビルス様、これには深い事情が……!」

「ん?」

「すみませんでした」

 

 とりあえず謝った。もう土下座だろうが五体投地だろうが慣れたものである。プライド? そんなものお母様の腹の中に置いてきたわ。

 けど冷や汗をかく私とは裏腹に、悟空はビルス様にいつもの調子で気さくに話しかけていた。

 

「なんだよビルス様、知ってたんなら声かけてくれたらいいのによ~」

「僕に内緒にしていたのは君たちだろう? で、何か申し開きはあるかな。世界の破滅に関わり、禁忌である時間の移動も何度もしている。世界の捻じれとやらが解消された今、お前たちを破壊しても何の問題もないんだけどね」

「え~? もう全部解決したんだ。そうかてぇこと言わねぇでくれって。な? でも、もし破壊するっちゅーんならオラが相手になっぞ!」

「……………………お前には本当に神を敬うという気持ちを感じられんな。というか、そこのデカいのと戦うと言ってた口で僕とも戦うって? どれだけ戦いが好きなんだ。流石に呆れるぞ」

「へへっ。でもよビルス様、今回は最初から破壊する気なんてないんだろ?」

「なっ」

「ビルス様とまた戦いてぇってのは本音だけどさ、今日は一緒にうめぇもん食って楽しもうぜ!」

 

 相変わらずの悟空のマイペースさに、緊張していた場の空気がだんだん緩んでいく。ああ、もう。本当にこいつには敵わないな。

 

「ふふっ、ビルス様。もう驚かすのはやめにして、悟空さんの言う通り美味しいものを食べましょう。ほら、出来上がったお料理の他にもその場で作ってくれる品もあるようですよ? う~ん、この出来立て感がたまりませんねぇ」

「だが破壊神としても威厳をだな……」

「だってビルス様、全部お見通しなんておっしゃってましたけど……ゴワス様達が事情を説明しに来なければ、知らなかった事じゃないですか。知らないままだったら破壊以前の問題ですし、今回の件では威厳なんて持ち出せませんよ」

「ウイス! お前な、それを言うな!」

 

 ウイス様の言葉にぱっと界王神様チームを見れば、界王神様とザマスさんは苦笑いを浮かべ、ゴワス様と老界王神様は吹き出すのをこらえるように体を震わせていた。キビトさんは赤い肌なのに青ざめて頭をかかえている。

 どういうことだろうと聞けば、なんでも後で事情を知られて私たちが責められないようにと、神様たちがビルス様に事情を説明してくれていたようなのだ。私たちを咎めないようにと、かなりビルス様に頼み込んでくれたらしい。もとはといえばすでに分岐した世界とはいえ自分たちが原因であると主に第10宇宙のお二方が頑張ってくれたようだけど……それにしたって、ビルス様を納得させるのには苦労しただろうに。私もいざばれたら界王神様に頑張ってもらおうとは思ってたけど、まさか先回りでフォローしてくださるとは……。

 

「……まあ、今回は第10宇宙と第7宇宙の界王神の顔を立てて見逃してあげましょう。で? 君たち戦うの? 戦わないの?」

「戦うに決まってるさ!」

「じゃあせっかくだし、どれだけ強くなったか見せてもらおうか。全王様主催の格闘大会がいつ開催されるか分からないし、僕としても戦力を把握しておきたいんだよね」

「神の御前試合再び、という感じですねぇ。よければ私がバリアを作りますよ。それなら地球でも思い切り戦えるでしょう?」

 

 ビルス様とウイス様の提案に悟空がぱっと顔を輝かせる。

 

「え、本当かウイスさん!」

「ほほっ、特別ですよ。それで、戦いの順番はどうします? ビルス様が言ったようにトーナメント形式にして勝ち抜き戦にするのでしたら、クジを作らないといけませんねぇ」

「待て! 俺はカカロットをぶちのめしたいんだ。トーナメントなどかったるい事をやってられるか!」

「うん? 君ずいぶんと生意気な口をきくじゃないか」

「まあまあビルス様、ブロリーはこういう奴なんだ。ブロリーもちょっと落ち着けって。オラはもちろんおめぇと戦うつもりだけどよ、なんか面白くなってきたじゃねーか! ここにいる強ぇ奴らと思いっきり戦えるんだぞ? それぞれ戦いてぇ奴とはまた後で改めてってのも出来っし、折角だしトーナメント形式もやろうぜ! 天下一武道会みてーで面白れぇや!」

 

 ブロリーがビルス様につっかかって(一回別世界のビルス様に負けてるくせに懲りない奴である)一瞬ひやりとしたけど、悟空が間に入るとビルス様は毒気を抜かれたようにため息をついた。まあ、あんなきらっきらした目でワクワクとした表情されちゃあな……。

 

 

 

 それにしても、ここにきても戦いか。まったくどいつもこいつも物好きな。

 

 

 

「まっ、でも……たまにはこういうのもいいか」

「……珍しいな。戦いに対して怠惰な貴様がそんな風に言うとは」

 

 思わずつぶやけば、耳ざとく聞いていたらしいベジータがそう述べた。

 

「自分でもそう思うけどね……。でもこういうお祭り騒ぎな雰囲気だったら嫌いじゃないし、折角だしお別れは派手にやってやろうかなって」

「フンッ、だったらせいぜい気張るんだな。貴様ごとき、俺と当たれば派手な戦いになる前に瞬殺だ」

「言ったな? 私だって子供たちの手前、格好悪い姿を見せる気はないんでね。全力で叩き潰してやるよ」

「ほうっ、面白い。やれるものならやってみろ!!」

 

 珍しく好戦的になっている自分を自覚しながら赤い気を纏えば、対抗するようにベジータは青い気を纏う。だけど昔と違って、互いに罵り合っても私もベジータも笑ってるんだから変なもんだ。まあお互い小憎たらしいニヤリ笑いだけどな。

 

「お、いいぞいいぞー! サイヤ人同士の試合か! 見ごたえありそうだ!」

「ああ、興味あるな」

「楽しみだね! 空梨も頑張れー!」

「ブウとセルも参戦するみたいだぜ! こりゃあ誰が勝ち抜くかわかんねーな」

「もう、しかたがないわねぇ……。でも、これはこれでお祭りよね。いいわ、派手にやっちゃって! トランクスー! ベジーター! 頑張るのよー!」

「悟飯ちゃんも頑張るだぞ! 悟天ちゃんは怪我しねぇようになー! 悟空さはほどほどにするだぞー!」

「キャー! ブウちゃん頑張って~! もし勝ち残ったら今度デートしてあげちゃう!」

「ははっ、まったくこの人たちは……。あ、そうだ。ザマス殿は参加しないのですか?」

「ふふっ、では折角だ。私も参加させてもらおうか。合体した体の調子も試してみたい」

「おお! ザマスの戦いっぷりが見れるのか。これは録画して是非神TUBEに……」

「おやめくださいゴワス様!?」

「クククッ、ずいぶんと面白い内容になりそうだ。俺は今回のんびり観戦させてもらおうか。悟飯、パンもビーデルも見ているんだ。情けない姿をさらすんじゃないぞ!」

「そうよー悟飯くん! パンちゃんに格好いい姿見せてあげてね!」

「ううむ、これは我慢できん! 新生ギニュー特戦隊よ、折角の祭りだ! 我々も参戦するぞ!」

「あ、俺はパスで……」

「何故だジース!?」

「私は参加を希望します」

「流石だナッパ!」

「ええ、お前らも参加するの? じゃ、じゃあ俺も記念に参加しようかな……マーロンにいいとこ見せたいし」

「やめときな。あの面子じゃ恥をかくのがおちだよ」

「そ、そりゃないぜ18号~」

「ほっほ、賑やかじゃのー」

 

 外野も騒がしくなってきたな。みんな一斉に喋るもんだから誰が何喋ってるか分かったもんじゃない。でも総じてみんな乗り気みたいで、早くも観戦席を用意してくつろいでる。

 

 

「じゃあ、あの子たちが未来に帰っても一生忘れられない試合にしてやろっか」

 

 ばしっと手のひらに拳を叩きつければ、私と同じようにそれぞれ闘志を燃やす。

 お別れのしんみりした空気は何処へやら、場の空気は活力満天の熱気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 さあ、始めようか!

 

 

 

 

 

「私たちの戦いはこれからだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある姉サイヤ人の日記、ドラゴンボール超未来トランクス編 完!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ:もしかしたらあったかもしれないIF】

 

 

「ねえねえ、おかあさん」

「どうしたの? 叶恵」

「こんどね、お話してなかよくなったおともだちがあそびに来たいんだって~」

「お話って、もしかしてテレパシーで知り合った宇宙のお友達?」

「うんー! ねえ、おうちに泊めてもいーい?」

「……まあ、宇宙人が何人来ようが今さらか。いいよ」

「わーい! でもね~、まだそのおともだち赤ちゃんなのー。あと、やることがあるんだって。それがおわったらかなえとあそびたいんだって!」

「そうなの? じゃあその子が来るのはまだ先になりそうだね。名前は?」

 

 

 

 

 

 

 

「ベビーちゃんっていうのよー」

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある姉サイヤ人の日記 完!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続かないよ!


ドラゴンボール超、未来トランクス編にお付き合いいただきありがとうございました!色々至らないところも多かったと思いますが、とりあえずこの中編を書ききれて満足です。最後まで読んでくださった皆さんに感謝!



___2/13追記



【挿絵表示】

86さんからまたもや素敵イラストを頂きました!完結してからも恵んでくださるとかなんというお慈悲……!ありがとうございます!
ベビーに乗っ取られた主人公を描いていただきました。なんだか凄く強そう。むっちむちの太ももがたまらなく好きだと豪語する私は変態でしょうか。でも好きだ……!

ところで、感想欄といいこちらのイラストといい、IFとはいえベビーをちょろっと出しただけで実にナチュラルに主人公が乗っ取られる予想がされている件。ブウの事を顧みるに否定できないぜ……!


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残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 1

祝映画公開記念ということで、一部の歴代映画ボス+@が同窓会する感じのお話です。後編は出来れば年内に書きあげ……られたらいいなぁ

ちなみに主人公はほとんど出てきません。


 その場所はとても暗く、終わりの見えない深い深い闇に満たされていた。しかし同時に無数にちりばめられた星々がその命を燃やして輝く、恐ろしくも美しい……音のない広大な黒い海。

 宇宙という名のその大海原を、ひとつの丸い宇宙船が航行していた。

 

「姉さんと兄さん、元気だろうか。……いや、あの人たちは間違いなく元気だな」

 

 宇宙船内でひとりごちるのは、つんつんとがった黒髪の幼い顔立ちの青年だ。逆立っている髪の中で少しだけ垂れた前髪が、彼の童顔をより若く見せている。

 青年の尻には猿のような尻尾が生えており、彼がサイヤ人という戦闘民族であることを示していた。

 

 かつては帝王フリーザの傘下で宇宙の地上げ屋として猛威を振るったサイヤ人であるが、現在は青年を含めてその生業を行っている者はいない。そもそもサイヤ人自体の生き残りが、もう宇宙中で彼と、地球で暮らす彼の姉兄を含めた少数のみとなっている。

 そして青年……ターブルは、その姉兄達に会うためにこうして宇宙船に乗って宇宙を旅していた。

 

 

 

「ふふっ、驚くだろうなぁ。僕も、ようやくパパだ!」

 

 どこか浮かれ調子の独り言。青年の顔もまた、嬉しそうににやけている。

 

 ターブルはサイヤ人の王族として生まれたが、戦闘に向かない性格だと実の父であるベジータ王に幼いころ辺境の星へと送られた。そのまま好戦的なサイヤ人とは思えないほど穏やかに長じた彼は、送られた星で己を鍛えながらも生活を続け、星の原住民であった女性を妻に迎え今に至る。

 

 そしてある時……ターブルはひょんなことから旅先で出会ったナメック星人に、自分の姉兄のその後を聞く機会に恵まれた。その内容というのが、自分達サイヤ人を支配していた宇宙の帝王フリーザが彼らによって倒されたというから驚きだ。

 辺境の惑星に暮らしていたターブルは、てっきり田舎だからフリーザ軍からも忘れられているのだと……だから放っておかれ、なんの指令も連絡もないのだと思い込んでいた。戦いに向かない性格のターブルはそれ幸いと自分から連絡をとろうと思う事も無かったため、余計に情報が入ってくるのが遅れたのである。母星である惑星ベジータが滅びたと知ったのもかなり後だった。

 そのためターブルが受けた衝撃と驚きはひとしおだったが、彼は驚くと同時に「流石はベジータ兄さんとハーベスト姉さんだ!」と、幼いころ以来会っていない兄と姉を誇らしく思ったものである。

 

 

 サイヤ人(地球人がどうとも言っていたが)に恩を受け、穏やかな気質のターブルを気に入ったのかナメック星人はフリーザを倒したサイヤ人達のその後も教えてくれた。その情報によれば、何でも今は地球という星で暮らしているらしい。

 

 

 しかしそれを知っても、なかなか機会が無くターブルは兄と姉を訪ねることが出来ず時は過ぎた。

 

 いつか会いに行こう。そう考えながらも、平穏だとしても日々の暮らしは何だかんだで忙しい。

 そんなターブルの穏やかな日々は、そのまま続くと思われたが……。

 

 

 ある日、アボとカドというフリーザ軍の残党兄弟がターブルの住む星を襲い、暴れ放題しはじめたのだ。

 ターブルも健闘するも、高い戦闘力を持つアボとカドには敵わず……そんな時、地球に住む兄と姉に助けを求めることを思いついた。妻であるグレと共に地球へ旅立ったターブルを、いたぶってやろうと面白がったアボとカドが追いかけてきたのは誤算だったが、結果的には幸いだった。辺境の星まで出向いてもらう手間がはぶけたからだ。

 

 

 なにしろ地球まで追いかけてきたアボとカドは、そこであっさり倒されてしまったのだから。

 

 

 しかもアボとカドを倒した相手というのが、あてにしていた兄と姉ではないのだから驚きである。ターブルは地球で、数えるのも馬鹿らしいほどに驚きを繰り返した。

 

 訪ねていった時に何か祝い事をしていたのか、兄と姉は家族と仲間達で集まっていた。中でも孫悟空、と呼ばれる見知らぬサイヤ人にはその高まる戦闘力によってスカウターを壊され初っ端から驚かされた。あとで聞いた話だが、血こそつながっていないものの彼はターブルの姉であるハーベストと共に地球で育った、義理とはいえ弟だというから不思議な感覚だ。なにせその事によって地球に住むサイヤ人とその家族全てがターブルとつながりが出来たことになり、いきなり親戚が増えてしまったターブルとしては困惑するなという方が無理な話である。

 

 そしてアボとカドと戦ったのは、熾烈……ではないが、賑やかな大根くじ引き勝負の果てに勝利を収めた兄ベジータの息子トランクス。ターブルの甥っ子だ。

 

 さらに相手が二人という事で、早い者勝ちとばかりに意気揚々と戦いに加わった孫悟空の息子、孫悟天。……同じく戦いたかったらしい姉の娘、姪っ子エシャロットが、他の兄弟に宥められつつも盛大なブーイングをとばしていたのが印象的だった。それよりも姉がいつの間にか四人の子持ちになっていたことに、まず驚いたが。義兄のラディッツとは、どうやら良い夫婦関係を築いているらしい。

 

 姉といえば訪ねて行った時、ターブルの顔を見るなり「あ……! おお、ああ! ターブル、ターブルじゃない! ひ、久しぶりね! 元気にしてた!? 大きくなったね! うんうん立派! びっくりしたー! いやぁ、私もなかなか忙しくてさー! いつか会いに行こうと思ってたんだけど、ほらまだ子育ての途中だし? 他にも色々と忙しくて、機会が無くって! うん! あのね? お姉ちゃん、ターブルのこと忘れてたわけじゃないのよ! だって可愛い弟だもの! ベジータと違って本当に昔からターブルは可愛かったわよね! 離れる時は寂しかった! 今でも覚えてる! うんうん、可愛い奥さんまでもらって立派になった! だから本当、忘れてたわけじゃないから!! 断じて!!」と、物凄く必死な様子でまくし立てられた。

 

 ……あまり姉を疑いたくはないが、けして鈍くないターブルは「これは僕、忘れられていたんだな……」と悟り言い知れない寂しさに襲われたものである。そしてその後、何故か初めて会うはずの相手なのに翼が生えた緑の昆虫のような宇宙人とピンク色でぷよぷよした肌の女性型宇宙人に「フフフッ、私はちゃんと覚えていたぞ。お目にかかれて光栄だ。ふむ、あの姉弟の弟にしてはなかなか愛嬌があるじゃないか」「わたしも覚えてたわん! どんまい、ターブルちゃん! 空梨ちゃん、ちょっとうっかりやさんだから」と妙に馴れ馴れしく肩を叩かれた。……聞き忘れてしまったが、彼らは誰だったのだろうか。

 

 そして甥っ子たちと戦ったアボとカドだが、その後我慢できなくなったエシャロットと妹を案じた兄弟、空龍と龍成までもが参戦しアボ&カドVS子供たちという様相と相成った。子供たちはターブルが驚くほどの実力を秘めていたが、力こそ強いが夢中になるとそこはやはり子供なのか……乱戦になり、戦いの余波を処理するのが大人側の役割となる。

 

 しかし何故か、その場にいる者達はみな一様に楽しそうだった。

 

 戦いの果て……最終的に、敵だったはずのアボとカドまで交えて宴会の続きとなったのだから、気づけばターブルも笑っていた。

 何て強くて、楽しい人たちだろうかと。

 

 

 その後アボとカドは心を入れ替えたのか、今では暴れることなくターブルの住む星で共に暮らしている。よほど気にいったのか、今では宴会で振る舞われた「でぇこん」という野菜の栽培に夢中だ。夢は宇宙一のでぇこん農家になることらしく、ターブルも自分の住む星の名産品になるのではないかと、その夢を応援している。

 

 

 

 

 

 そしてそんな事があってから、はや数年。めでたい事に、ターブルと妻グレの間にも子供が出来た。

 

 

 

 

 

 今回ターブルはその報告をするため、久しぶりに地球の親戚たちを訪ねようと宇宙に出てきたのだ。

 

 

「あの子がもう少し成長したら、今度は地球へ家族旅行もいいな! うん、それがいい。親戚がたくさんいるし、食べ物もおいしいからきっとあの子もグレも喜ぶだろうなー!」

 

 今後の未来に想いを馳せて、楽し気にターブルは笑う。

 

 

 しかし、その時だ。

 

 

「……? 通信?」

 

 ガガガっと、通信機にノイズ音が発生した後。宇宙のど真ん中で、何者かから通信が入る。

 ターブルは訝しみながらも通信ボタンを押した。

 

「はい、どちらさまですか?」

『ククク……。まさかこんな場所でアタックボールを見ることになるとはな』

「! ……あなた、誰です?」

 

 アタックボールとはターブルが乗っている宇宙船の名前だ。そしてその固有名詞を知っているという事は、もしやアボとカドのようなフリーザ軍の残党かとターブルは身構える。

 

 

 ターブルの予想は、ある意味では当たり。ある意味で外れだった。

 

 

「!? あれは……!」

 

 ふと宇宙船の外を見たターブルの目の前に、自身の宇宙船などよりよほど巨大な宇宙船が行く手を遮るように現れた。

 

 

 

 

『俺はターレス。サイヤ人のターレスだ。……お前こそ、誰だ?』

 

 

 

 

 ひどく楽しげな声は、どこか凶悪な残忍さを含んでターブルの耳に染みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日の仕事はここまでとするか」

 

 都会のど真ん中、高くそびえるビルの最上階にて。

 大手食品チェーン「ガーリックグループ」総帥、ガーリックJrは手に持っていたペンを置き、肩を鳴らして一息ついた。

 

 財も権力もある彼は最新の技術を思うままに使える立場にあるが、自らが使用する仕事道具は基本的にアナログを好む。品物は当然高級品であるが、手入れの行き届いた様子とその文字の流麗さからガーリックjrの品の良さが伺える。……とは、彼に密かに恋慕する秘書のアイユちゃん(二十二歳のピチピチギャル)の(げん)だ。彼女が言うにはスーツの上からでもわかる鍛え抜かれた肉体美、美しい青色の肌に眼光鋭く涼やかな目元、キュートなとんがり耳と口から覗く吸血鬼のような牙などがたまらなくセクシーでカッコイイらしい。

 

 ガーリックグループはレストランチェーン「スパイシーガーリック」が更に成長し、彼の部下達がそれぞれ別のレストラン、食品事業を始めたことで大きく発展した企業だ。傘下には「じんじゃーくっきんぐ」「料理屋とびきり山椒」「びっくりどっかんエビフライ」「かっつんのめちゃうま味噌カツ亭」「麺処パワフルきしちゃん」などがある。ちなみに彼の昔からの部下の中、約一名はキャラクター性を買われ、「ニキ子」という芸名で日夜企画を提案、自らガーリックグループの広告塔となり芸能活動をしつつ宣伝に努めている。どうやら天職だったようで、生き生きと活力豊かに今日も昼番組「ニキ子におまかせ」でお茶の間の奥様達を湧かせている。

 

 かつて神になろうと暗躍を企てていたガーリックJrは、今では一部の者に食品業界の神、と称されていた。

 

 それは単に彼が食品業界で成功を収めたからだけでなく、彼が資金援助、企業提供しているバイオ研究所で生み出された食品や作物が飢餓で苦しむ地域に貢献しているからである。

 ガーリックJrとしてはそんな気はさらさらなかったのだが、バイオ研究所に再就職したかつての同志、Drコーチンに「謎の宇宙人っぽい奴らとあの鬼女どもとの戦いで研究所が壊れたから再建に協力してくれ」と頼まれて手を貸した結果、どういうわけかそういう流れになった。

 

 企業の成績は右肩上がり。

 ……ガーリックJrが半ばやけっぱちではじめた仕事は、思った以上に大成功してしまったのである。

 

 

 起業したばかりの頃は体が小さかったガーリックJrも、今では総帥の名にふさわしい貫録を供えた肉体に成長している。以前も本気を出せばこの姿になれたが、今ではこの大きな肉体、スーパーガーリックJrこそがデフォルトだ。地球最強のスーパーな連中には手が届かなくとも、日々の健康のためにジム通いは怠らない。

 

「まあ、こんな魔族生も悪くはない……。くくっ、私も丸くなったものだ」

 

 そんな風にニヒルな笑いを浮かべるガーリックJr。秘書のアイユちゃん(B82W55H85、はにかむ笑顔が魅惑的、ちょっぴり童顔がコンプレックスなブロンド美女)はその姿にほうっと甘い吐息をつき、今日も総帥にメロメロだ。近々告白する予定なのは、彼女だけの秘密である。

 

 かつてついえた野望を時々夢想するも、それを上回る悪夢によってすぐに夢は覚める。

 あんな連中に挑むより、今の方がよほど幸せじゃないかと……。そう悟ってから、ガーリックJrは充実した日々を送る今を楽しんでいる。少々疲れることもあるが、その疲労が心地よくさえあるのだ。

 上の上の上の上……まで上司が居る地球の神なんかになるよりも、自らが作り上げた箱庭で遊んでいる方が全能感を味わえる。

 

 

 

 ガーリックJrは、今の生活に満足していた。

 

(もしまた妙な連中が現れても、どうせ孫悟空達が倒すだろうしな。気楽なものだ)

 

 ガーリックJrは油断していた。

 何事にも不測の事態というのは、いくらでも起こりうるのだ。

 

 

 

 

『大変じゃ!』

「ぬお!?」

 

 リラックスしていた所に急に大音量の声が響き渡り、おもわず椅子ごとひっくり返ったガーリックJr。すかさず秘書のアイユちゃん(少しM気質)がその背中と床の間に滑り込み、上司の転倒をふせぐ。「す、すまないなアイユくん。助かった」と褒められた事と、愛するガーリックJrに潰されたことにアイユちゃんは恍惚の笑みを浮かべた。ちなみにちょっぴりよだれも垂れている。

 

「なんだ、Drウィロー。急な連絡などして来て、どうしたというのだ。というかお前ボケてるんじゃなかったのか?」

 

 通信機器から響いた大音量の主は、こちらもかつての同志であるDrウィロー。通信画面いっぱいに脳みそが映し出される様子はなかなかにシュールだ。

 

『誰がボケ老人じゃ! もうわしはわしで割り切って隠居生活を楽しんでおるのだ。まあ一時期の記憶が曖昧ではあるが……』

「その時期にボケ……いや、なんでもない。その、元気であるなら、なによりだ」

 

 ボケた彼の今後について困り、財力にものを言わせて専用の介護施設を作ってやったあとは放置していたのだが……いつの間にかボケから復帰していたらしい。Drウィロー、再々リターンズである。

 そんな彼だが、脳みそだけのため表情は分からないがDrウィローの声は非常に焦っていた。その事に嫌な予感を抱くガーリックJr。彼の勘は正しい。

 

『どうもこうもない。あれに気づかないとは、これが神を目指した男とはお笑いじゃな』

 

 Drウィローの物言いにカチンときたガーリックJrだったが、とりあえず黙って続きを促す。これも上に立つ者としての余裕だ。

 

『つい先ほど隕石が落ちたというニュースを見なかったか?』

「隕石? いや……」

『……まあ、お前のいる場所からはちょうど地球の裏側じゃからな。まだ報道されとらんでも、仕方がないか。ならばとりあえず、これを見ろ』

「!? なんだ、その不気味な樹は」

 

 ピッという電子音と共に、脳みその映像から切り替わり映し出された景色。そこには天を貫かんばかりの、異常なほどに巨大な一本の樹が映し出されれていた。ふもとにある山との対比で、それがいかに巨大であるか画面越しにも分かる。

 

『反対側とはいえ、そろそろお前のところにも影響が出るはずだ』

「な……!」

 

 まさに、その時だ。突如聞こえてきた地鳴りのあと、突き上げるような衝撃と共にガーリックJrのビル全体にヒビが広がった。それを瞬時に察したガーリックJrは、とっさの判断でデッドゾーン……の改良版であるゴッドゾーンを発動する。

 この技は闇の空間に相手を葬る技であったデッドゾーンを、何か便利な使い方が出来ないかと模索した結果生まれた技だ。名前こそかつての野望の名残を残し神の区域などと名付けたが、その実態は無限にものを出し入れできる四次元ポ〇ット。普段はガーリックJrが趣味で収集した美術品の保管庫となっている。上に立つ者として、その趣味もまた高尚なのだ。

 ガーリックJrは、その技でビルに居る社員全員を異空間に隔離した。そばにいたアイユちゃん(趣味はお料理)は、自らの腕に抱える。そしてウィローと繋がる通信機を片手に、強く床を蹴り崩壊するビルから脱出した。

 

 空高く跳躍したガーリックJrの眼下に広がるのは、先ほどまで平和だった街が巨大な"根"によって蹂躙され、破壊される姿。それはまさに地獄絵図だった。

 

「これはどういうことだ、Drウィロー!」

『この樹の仕業じゃ。お前のところだけではない。世界中に影響が広がっている』

「何だと!?」

 

 急いで目を瞑り集中してみれば、なるほど世界はとんでもない事になっているようだ。どうもあの根っこは破壊の限りに飽き足らず、あろうことかこの星のエネルギーを吸い取っているらしい。

 

 そしておそらく、その中心点はあの不気味な樹だ。

 

 この時真っ先にガーリックJrが思った事。それは「孫悟空達は何をしているんだ!」だった。そしてそのあとすぐに、自分の情けなさに反吐を吐きつつも心は落ち着きを取り戻す。

 ピッコロ大魔王をはじめとした、幾度となく訪れた地球の危機を救ってきた戦士達。きっとこの異常事態も彼らが治め、地球もドラゴンボールで元に戻るだろう。……そう考えていたガーリックJrだったが、すぐに希望的観測は愚かだとDrウィローによって突き付けられた。

 

『今お前が考えている事など、手に取るようにわかる。だがな、これを見ろ!』

「……?」

 

 再び移り変わった画面。そこはなんてことない、ごく平和な一般家庭の玄関口だ。なにやら張り紙が貼られているほか、変わったところは見当たらない。

 

「これがどうした」

『そこが孫悟空の自宅であることを考慮したうえで、その文面を読んでみろ』

 

 ウィローに促され、ガーリックJrは目を細めて文字を読む。そしてその顔色は、もともと青い色にも関わらず傍目に見てもさらに青く変色していった。腕に抱かれたアイユちゃん(実はハードボイルドな映画が好き。いつか好きな人と観に行きたい)は、ぽうっと頬を染めながらも、オロオロと心配そうにガーリックJrを見上げていた。

 

「な、なん……なんだとぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 いくつか移り変わる画面。そこに映るのは今まで地球を守り戦ってきた、全ての戦士の自宅の玄関。最初こそ突然の事で気づかなかったが、そうと分かればかつて戦士らの様子を探ろうとさんざんスパイ衛星で盗撮していたガーリックJrが見間違えるはずもない。

 

 そこには一様に同じ文面が躍っていた。

 

 

 

 

『申し訳ございませんが、ただいま宇宙対抗文化祭『英知の大会』に出かけております。二時間ほど戻りません。ご用件の方は、天界、神の神殿まで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を襲った巨大な樹……神精樹と呼ばれる星喰らいの全体を一望できる見晴らしの良い崖の上で、一人の男が満足そうな笑みを浮かべた。

 

「なかなかいい星じゃないか。……コソコソと惨めに活動するのは、これでもう終わりだ。この星で育った神精樹を喰らい、俺は神のごとき力を手に入れる。そのフィナーレを飾るには、この美しい地球こそ相応しい。……ククッ、そうは思わないか? ターブル王子サマ」

「そ、そんな事……出来るはずがない! この星には、お前などよりずっと強い人たちがいるんだ! ぐ!?」

 

 男の発言に異を発した青年は、控えていた男の部下に殴り飛ばされる。青年……ターブルの体は無数の打撲痕で覆われており、顔はむごたらしく腫れあがっていた。

 

「クックック。それは自慢のお兄さまに、お姉さまの事ですか? 王子サマ。な~に、同じサイヤ人の仲間です。殺しはしませんよ。我が同胞にはこのターレスと共に、自由な破壊や強奪、殺戮の快楽に酔いしれる権利がある。…………まあ、貴様のような軟弱者はお呼びでないがな!!」

 

 丁寧さを気取った慇懃無礼な口調を一転させ、残忍な声色と共に男、ターレスはターブルを蹴とばした。

 

「ごふ!?」

「ハハハハハ! 王族サマはよく跳ぶなぁ!」

「違いねぇ!」

「なっさけねぇなぁ! それでもエリート様かよ!」

「おいおい、可哀そうだろ? よしてやれ」

 

 ターレスの部下の哄笑に恥辱を味わいながらも、ターブルは辛うじて意識を保っていた。その意識の中で、己の無力さを痛感する。……またしても自分は、人を頼るしかないのかと。かつて受けた恩を、彼らの星を守ることによって返す事が出来ないのかと。

 

(こいつらは強い……! 下手をしたら、アボとカドよりも。まさかこんな強いサイヤ人が、兄さんたちの他にも生き残っていたなんて……!)

 

 しかも性格は、惑星ベジータと共に滅びたサイヤ人に多く見られた冷酷で残忍なもの。なにやら妙な植物を植えたようだが、察するにそれが強さの秘密なのだろう。

 

「睨みつけるだけの気力は、立派だと褒めてやろう。……まあ、もうどうでもいいが」

「ターレス様。こいつはいかがします?」

「捨て置け。もうそいつでは、どうにもできんだろうさ。せいぜいベジータ王子達が来た時の観客がいいところだ」

 

 言って、ターレスは興味を失ったのかターブルから視線をはずした。そして神精樹を見つめ……目の前に居ない怨敵を思い出し、冷酷な笑みを浮かべていた顔を憤怒へと変える。歯をむき出した獣のごとき表情は、ターレスと同じく神精樹を喰らい強くなったはずの部下達をも容易く怖気づかせた。

 

 

 

「今さら王族など眼中にない。……待っていろ、セル!! 俺の味わった屈辱、今度は貴様に味わわせてやる!」

 

 

 

 

 

 ターレスが口にした名は、かつて敗れた別の銀河の星の神の名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ち、地球に誰も残っていないわけじゃないんです。ええ。


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残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 2

 神精樹の実。それは神にのみ食すことを許された、星喰らいの禁忌の果実の名である。

 その種が一度星に根付くと、神精樹は大地からあらゆる生命力を奪いつくし、それを糧に実をつけるのだ。その実を食したものは星そのものの生命力と一体化し、凄まじい力を得るという。

 

 

 

 

 少し前、破壊神ビルスの星で弟たちと共に嫌々ながら修行をしていたハーベスト……孫空梨は、手土産であるフルーツ盛りにかじりつくビルスを見て、ふと神精樹の事を思い出し質問をしたことがある。

 

「神精樹の実? ああ、そういえばそんな物もあったねぇ。ずいぶん懐かしい名を出してくれる」

「あれって、やっぱりビルス様の食べ物だったりします?」

「やっぱりってなんだ! 言っておくが僕はあんなドーピングまがいの実を使って破壊神になったんじゃないからな!」

 

 空梨の言葉に一応ウイスという師の下でちゃんと修行をして強くなったビルス、は聞き捨てならないとばかりに唾を飛ばして声を荒げる。その怒声に遠くで組み手をしていた悟空とベジータが一瞬視線をむけたが、「どうせ姉が余計なことを言ってビルスを怒らせたのだろう」と見当をつけたのかすぐに組み手を再開していた。

 

「す、すみませんすみません! 別にビルス様がずるしたとか疑ってるわけじゃなくて! ただ神様の中であれってどういった位置づけなのかな~って気になったんですよ! あれって神様だけが食べていいやつなんでしょ? ほら、味とかすっごく美味しそうじゃないですか。気になりますよ」

「ふんっ、ならいいが。……それにしても、君って食い意地が張ってるよね」

「え、ビルス様にだけは言われたくない」

「何か言ったか?」

 

 ついこぼれ出た本音だったが、空梨はすぐに余計なことを言う口をふさいで勢いよく首を横に振った。それをジト目で見ていたビルスだったが、瑞々しいリンゴにかじりつきつつ過去に思いをはせる。はて、神精樹の実を食べたのは何千年前だったか。何万年前だったか。時期は思い出せないが、味はそれでも覚えている。

 

「……ま、物は試しと食ったことはあるが、あんまり美味いもんでもないね。このリンゴのほうがよほど美味い」

「食べたことはあるんだ……」

「ものは試しと言っただろうが! そもそも献上品だ。……あと僕くらいになると、あの程度食べたくらいじゃパワーアップなんて微々たるものさ。星一個分食べたとしてもせいぜい目の疲れとか肩凝りがとれて、ちょっと元気になったくらいにしか感じないだろうよ」

「栄養ドリンクレベル!?」

 

 星をまるまる枯れさせてまで実った果実の破壊神にとっての価値に、思わずのけぞる空梨。それと同時にこれ以上過酷な修行に付き合わされるなら、今も宇宙のどこかでイキっているかもしれない未だ見ぬ某同族から神精樹の実(収穫済)をパクろうと考えた計画も白紙に戻した。ビルスまでとはいかなくとも、今聞いた感じではすでに結構なレベルまで到達したはずの自分たちも、おそらく今更神精樹の実程度では大して強くはならないだろう。

 

(いや、まあそれ以前に、星まるまる滅ぼして出来る果実とか呪われた副作用ありそうで食べたくないけど)

 

 知らないうちに思い出しついでに大事な実を強奪される危機と、失礼な理由でそれが回避された某同族はこの時くしゃみをしていたとかしていなかったとか。

 

 

「ホホっ、貴女の持つ知識の中にはそんなものまであるのですか。……そうですねぇ、言わばあれは力なき神に残された最終手段、とでもいいましょうか」

「最終手段、ですか。」

 

 空梨とビルスのやり取りを面白そうに聞いていた天使ウイスは、熟されたメロンを優雅にスプーンですくいあげつつ会話に参加する。

 

「神といっても、戦いに関しては得手不得手がありますからね。神精樹の実は戦いを不得手とする神がかつて生み出したものです。自分の星に危機が訪れているのに、力不足でどうすることもできない……そんな時、守護する星から力を借りる手段として用いられたのが、神精樹の実というわけでして。代償として一度星は枯れ果て死にますが、神精樹の実で力を得たのがその星の神であれば、危機を乗り越えた後に再びエネルギーは還元されその星は再生します」

「へぇ~……。ああ、なるほど。それじゃあ確かに、神様以外食べたらだめだわ。正しい者が食べないと、再生することなく星はただ死ぬだけってことですね?」

「そういうことです」

「でもそれだと、ビルス様が実を食べた分の星は滅びちゃったんですか? 神様は神様でも、本来その星の神様しか食べちゃいけない感じですよね」

「いいえ? 神精樹の実は複数実りますからね。ビルス様は実の味を気に入らなかったようなので、食べたのはひとつだけ。その星に関しては、再生後にちょこ~っと不毛の砂漠が残ったくらいです」

「神精樹の実……美味しくなくてよかったですね」

 

 

 そんな会話があった後、今更来ても神精樹の実を使ってパワーアップした程度の相手なら、自分が動くまでもなく誰かがすぐに倒すし神精樹もドラゴンボールでどうにかなるだろ! ……そういった安易な考えのもと、いまだ遭遇していない劇場版ドラゴンボールに出てきたサイヤ人の生き残りを放置した孫空梨ことハーベスト。

 

 

 

 

 

 時は流れて現在。その煽りを、実の弟がもろにくらっていた。

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

「孫悟空たちは、今! 何処にいるのだ!!」

「あ、あなたは誰ですか!? 申し訳ありませんが、今ちょっといそがし……もしもし! もしもーし!?」

 

 時は戻って現在。神精樹を大地に根付かせ、子供ができた報告のため幸せいっぱいに地球を来訪しようとしていた青年を捕らえてボコボコにした悪のサイヤ人ターレス率いるクラッシャー軍団。彼らと神精樹がもたらしている被害の対策のため、ガーリックJrは戦士たちの実家に用意されていた『申し訳ございませんが、ただいま宇宙対抗文化祭『英知の大会』に出かけております。二時間ほど戻りません。ご用件の方は、天界、神の神殿まで』という張り紙に従って天界、神の宮殿を訪れていた。

 しかし訪れてみたものの、現在の神……ナメック星人のデンデは何やら取り込み中の様子。現在手のひら大の丸い物体に、必死に話しかけていた。

 それを見て「電話中か……失礼なことをしてしまった」と、一瞬だけここ十数年で培われた社会人としての感覚で引き下がってしまったガーリックJr。が、すぐはっと我に返って再びデンデに向かってまくしたてた。忙しい男である。

 

「私はガーリックグループ総帥ガーリックじゅに……ではないわぁ!! 今この肩書を名乗ってどうする!! 私はかつての神候補、ガーリックの息子であり生まれ変わりのガーリックJr! つまりある意味きさ……ごほんっ、あなたの先輩のようなものだ!」

「え、先輩?」

「神様。それ、ちょっと違う」

 

 とっさのことに根が純真であるデンデはガーリックJrの無理がある自己紹介を信じかけたが、その横に控えていたミスターポポから冷静なつっこみがはいる。ガーリックJrは「ミスターポポ!? ま、まだ生きて……!?」と、かつてガーリックだったころにわずかにまみえた記憶を思い出し少々おののいた。しかし自分は結局何も悪いことはしていないし(できなかったし)これまで真面目に働いて生きてきたのだから何も後ろめたいことはないと思いなおし、要件を言うことに集中した。

 

「ま、まあとにかくだ! かつては神を志した者として、地球の異変に気付いてな。どうにか出来そうな者たちの自宅を訪ねたはいいが、留守だったため張り紙に従ってこちらを訪れた次第だ。通話中に悪いが、現状はどうなっている?」

「どうにか出来そうな者……悟空さんたちのことですね。実はさっきから連絡をとろうとしているんですが、繋がらなくて」

 

 困り果てたような表情でデンデが示すのは、先ほどから手に持っていた丸い物体。どうやらガーリックJrの見立て通り通信機器だったようだ。

 しかし繋がらないとは聞き捨てならない。それではここに来た意味が無いではないか。

 

「そ、そもそも文化祭とはなんなんだ! 孫悟空一家もベジータ一家もクリリン一家も亀仙人も天津飯一家もヤムチャもピッコロも魔人ブウもギニュー達もそろって何処かへ消えよってからに!!」

「あ、本当にみなさんのことよく知ってるんですね。おかしいなぁ、あなたのこと誰からも聞いたこと無いんですけど……」

「い、一方的に知っているだけだから気にするな。それより、今はそんな場合ではないだろう。もう気付いているだろうが、このままだと地球はエネルギーを吸い尽くされて死んでしまうぞ」

「! そ、そうでした。一応世界各地であの奇妙な樹の根に対抗してくれている方たちが居るので、まだなんとかなってはいますが……本体を叩かなければ、いずれ地球の力は奪いつくされてしまう」

「! なんだ、分かっているじゃないか。それに、戦える奴がまだ残っているんだな!?」

「ええ。ですが連絡をとって本体の対策に動いてもらおうにも、根の対処で思うように動けないようで……それにあまり面識のない方も居て……」

 

 初対面のガーリックJrについつい内心を話してしまう程度には、思うように対策をとれずこの神様は随分と思い悩んでいる様子だ。そんな現・神の様子に仕方がないという思いと、その不甲斐なさにいら立つ身勝手な感情がガーリックJrの中で混在しはじめる。かつて自分が目指した神という頂にいながら、なんと情けないザマだ、と。

 

(いや、それは私も同じか)

 

 文字通り神にすがりに来た分際で、何を思いあがった事を考えているのか。しかも焦っておきながらも「どうせ最後はドラゴンボールでどうにかなる」と考えているあたり、自分も十分に情けない。

 

 しかし、目の前の彼はやはり"神"だった。

 

「こうなったら僕が直接出向いてあの樹をどうにか……!」

「!? 何を馬鹿なことを! あなたは確かに神として優れた力を持っているだろうが、それは戦いのセンスでないことは明白だ。あの樹には得体のしれない不気味さがある。近づいて無事でいられる保証が、どこにある? それにあなたが死んだらドラゴンボールが使えなくなるだろう。二時間……だったか? それだけの間、待てばいいだけではないか。そうすれば孫悟空らがなんとかするだろう」

「地球が傷つけられるのを見過ごしながら……ですか? 地球や僕たちは、僕は。いつも悟空さんたちに助けられてきた。たった二時間。確かにそうでしょう。でもたった二時間も地球を守れなくて、どうして神が名乗れましょうか。僕は……悔しい……!」

「…………!」

「どうにかする手段がないからと言って、見過ごしたくはない。……ああ、でもこれは単なる僕のわがままですね」

 

 ガーリックJrは知るべくもないが、デンデは以前ナメック星のドラゴンボールと地球人や地球そのものからあつめた元気玉で一時的にスーパーナメック星人となった経験がある。その時に自身が守るべき星とその星に住む生命たちの息吹を身に宿し深く感じ、そのあとからデンデは一層神としての自覚を強く持つようになっていた。

 その彼にとって、現状はとても辛い。

 

『すぐ戻るからよ、地球をよろしくな! デンデ!』

『はい! 任せてください!』

『でも本当に来なくていいの?』

『ええ、僕は地球の神ですから。皆さんは他の宇宙との交流戦、楽しんできてください。お土産話を楽しみにしています』

 

 そう言って送り出したのに、結局自分ではどうにもできない。連絡がつかないといって、嘆くしかない。

 最良はこのガーリックJrという男が言うように二時間後を待ち悟空たちになんとかしてもらい、ドラゴンボールで地球の傷を癒す事だろう。死者の数によってはナメック星のドラゴンボールも頼る必要がある。

 しかし自分はそれだけでよいのだろうか。ドラゴンボールを消さないように生き延びることだけが仕事で、それは神といえるだろうか? デンデは自問自答する。しかも場合によっては、自身の力で生み出したドラゴンボールだけでなく故郷も頼らなくてはいけない。……自分が地球を守れないばっかりに。

 

 そんな思い悩むデンデの肩を、何者かの力強い手がつかんだ。……ガーリックJrだ。

 

「悩むな! ドラゴンボールは素晴らしい力だ。地球の歴代の神の誰も、あんなものを生み出せなかった。悔しくはあるが、お前と先代の神はまさしく"神"にふさわしい。間違っても凄いのはドラゴンボールで、自分ではないなどと言うなよ? 私もまた、叶いこそしなかったがドラゴンボールに夢を魅せられた者の一人なのだから。その創造主にこんな自信を無くされてしまっては、色々と立つ瀬がない」

「ガーリックJrさん……」

「私が行く」

「え?」

「かつて神を目指した者として、私があなたの代行者としてあの樹をなんとかしてみせよう」

「! ほ、本当ですか!?」

「ククク……。なぁに、私はこれでもちょっとした必殺技をもっていてね。今までぬるま湯につかりすぎていてなまってはいるが、あんな樹程度その技で吸い込んでやるさ。このガーリックJrが、あのような不届き極まるゴミを掃除してくれよう」

 

 夢(野望)破れ、穏やかな生活を送り性格も丸くなったガーリックJr。そんな彼がかつて目指した神という地位にいながらも、己よりずっと強い者がいると知りつつ、腐らず頼り切らず……神としての自負を持つデンデに感化されたことは別段おかしいことではない。長年経営者として人の上に立ってきたこともあり、思い悩む若者を励ましてちょっぴり先輩風をふかせたかった、というのもある。

 

 しかし傍からこれを見ていた者がいればこう言うだろう。

 

 

 

 

『安請け合いしよって馬鹿め』

 

 肩で風を切りながら帰還したガーリックJrにドクターウィローが発した一言である。

 

 

 

「…………すまないが、もう一度聞いてもいいか?」

『何度でも言ってやろう。いいか? 問題はあの樹だけではない。あの樹を植えたであろう張本人どもが、樹の本体周辺にたむろしている。ちなみに部下らしき連中の平均的な戦闘力は六十万前後。リーダーらしき男に関してはわしが作ったスカウターは爆発した』

 

 六十万。今や孫悟空たちにとってはなんの脅威でもない数値だろう。鼻くそをほじりながらだって勝てるかもしれない。ドクターウィロー謹製スカウターが爆発したからと言って、せいぜいそれに毛が生えた程度でしかないはず。きっとそうだ。彼の技術でグレードアップしたスカウターはだいぶ計れる数値の上限が上がっていた気がするが、そうに違いない。

 

 

 

 

 ちなみにガーリックJrの現在の戦闘力はスカウターにも優しい二千四百だ。余談だが、これはパオズ山で生まれたサイバイマン兄弟の初期値とおそろいだったりする。

 

 世界中の支店視察に迅速に向かうために、地球を数時間かけてなら一周する程度の舞空術を習得したガーリックJr。これは日々のジム通いと、高速舞空術を習得する過程で上がった戦闘力なのだ。

 

 

 

「私はなにをぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!」

 

 

 

 ガーリックJrは頭を抱えながら、自らの行動をさっそく後悔していた。ドラゴンボールは神が生きていないと使えないと知らず神を殺そうとしていたかつての詰めの甘さは、どうやら健在だったようである。

 

 そして後悔するには、ちょっとばかり遅かった。

 

 

 

 

 

「あん? 誰だお前」

「クックック。この星のやつか? ちょうどいい。退屈していたところだ。遊んでやろう」

「ンダ」

 

 ちなみにガーリックJrは神の神殿から直接樹の本体のもとまでやって来ていたので、先ほどのウィローとのやりとりは全部通信である。通信機越しに現在のガーリックJrのいる場所に気付いたドクターウィローは、無言で心の中で十字を切った。特に信仰心も信仰する神も宗教もないのだが、一応の気持ちだ。ちなみに十字なのは、一応ドラクエのセーブで教会にお世話になっているかららしい。余談だがボケから復帰したドクターウィローは、現在ドラポンクエスト(略してドラクエ)セブンを攻略中。

 

 ともあれ、ガーリックJrよ安らかに。……そう、ウィローが思った時だった。

 

 

 

「はぁ!!」

「何!?」

「貴様、まだ動けたのか!」

 

 貴金属を身につけた青髪のキザな男に、長髪を束ねた赤い肌の大男、機械的な見た目の、おそらく見立て通りならサイボーグ。……その三人は、サイヤ人が着ていた戦闘服によく似たスーツを身に纏っていた。場所的に考えても、まず間違いなくウィローが言っていた樹を植えた一味の者だろう。ご近所のチンピラがこんな見た目なら驚きだ。

 そんな彼らを前にガーリックJrは柄でもないことをするからこうなるのだと、自らの軽率な行動を悔いていたのだが……彼の前に、突如どこか既視感を覚える背中が自分をかばうように割り込んできた。その人物は対する三人に向けてエネルギー派を放つと、焦燥にかられた様子で振り返る。

 

「そこのあなた! 早く逃げてください!」

「はっはっは。そんなボロボロの体で、人を気遣う暇があるんで? 王子様よぉ」

 

 赤肌の大男が言うように、その人物はすでに満身創痍だった。

 

「だ、黙れ! 僕だって……僕だってこのままやられたりしないぞ!」

「意気込みだけは大したもんだ。ターレス様にあれだけ遊んでもらったってのに」

「くっ……!」

 

 悔しそうに歯噛みするのは、猿のようなしっぽの生えた青年だった。そして過去の話とはいえ、長年孫悟空らを観察を続けてきたガーリックJrはその意味を知っている。

 

(サイヤ人!!)

 

 ガーリックJrが気付いたと同時に、ドクターウィローから再度通信が入る。

 

『ガーリックJrよ、もしかするとそのサイヤ人……回復させれば少なくともその三人よりは強いかもしれん』

「な、何? いやしかし、回復手段など……」

『頑張ってカリン塔まで飛べ』

「仙豆をもらえと!? そもそも逃げ切れるか怪しいわ!」

「何をごちゃごちゃ言ってるんだ?」

「あなた、だから逃げて!!」

 

 ウィローと通信するガーリックJrにキザ男と謎のサイヤ人の青年から声がかけられるが、こうなればやけである。逃げ切って、この青年にかけてみようではないか。結局人任せであるが、死ぬよりはましである。神の神殿に行く前に秘書のアイユから「お帰りになったら、ガーリック様に言いたいことがあるのです」とも言われてしまったし、部下のためにも生きて帰らねば。巨大グループをまとめる総帥として多くの責任がある今、もう自分一人の命ではないのだから。

 

「おいお前! 今は私と逃げるぞ!」

「ええ!?」

「はっはーぁ! 逃げ切れると思ってるのか!? カカオ、回り込め! 逃がすなよ!」

「ンダ!」

 

 決意したはいいが、実力差は決意だけでは埋まらない。飛ぶのもままならなくなってきたフラフラの青年をかかえたガーリックJrの先に、サイボーグが立ちふさがる。

 

(万事休すか……!)

 

 今度こそダメかと、ガーリックJrは油汗をにじませぎゅっと目をつむる。

 

 

 しかし運命は再び彼に微笑んだ。

 

 

「あぐ!?」

 

 青年が妙な声をあげたと思ったら、なんと一瞬のうちに満身創痍だった彼は完ぺきに回復していた。ガーリックJrが知る限り、そんな効果を持つ妙薬はひとつだけ。

 

(まさか、仙豆!?)

 

 

「キキィ!」

「!」

 

 

 新たな闖入者。それを確認するために、ガーリックJrはばっと体の向きを事かえる。そしてその視線の先には、片手を腰に当てたポーズで、ぴんっと緑色の豆を指ではじいてから手に収めるクールな動作。艶やかな新緑の体に、きりりとした赤い眼光を備えた戦士……!

 

 

 

 

 

「キキィ! キキーキキキキィー!(新生ギニュー特戦隊が一人! ラディッシュ推参! 悪は僕が許さない!)」

 

 

 

 

 

(何て?)

(何て言った?)

(わからん)

(頭の形がちょっとレズンとラカセイに似ていなくもないような)

(ンダ)

 

 

 

 

 新生ギニュー特戦隊ドジっ子ラディッシュ! 地球丸ごと超決戦参戦!

 

 

 

 

 

 

 




もうちっとだけ続くんじゃ(震え

ごめんなさい、前後編で収まりませんでしたorz


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残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 3

前回私は前後編構成を前中後編構成に変えましたね?あれは嘘です(ごめんなさい収まりきらなかったのでナンバリングに変更しましたごめんなさいもうちょっとだけ続くんじゃ


 巨木の威容を際立たせる、雷鳴とどろく曇天の下。クラッシャー軍団頭目、ターレスは地球のエネルギーを吸い取り順調に成長していく神精樹を見上げ、口の端を吊り上げて満足げな笑みを浮かべた。

 

―――――― 長かった。

 

 本来ターレスはもっと早くこの地球に来る予定だった。同族であるカカロットが送られたという、この星に。

 

 ターレスはこれまでまさに戦闘民族サイヤ人にふさわしい、と言える人生を過ごしてきた。美味いものを食い、力という美酒に酔いしれ、気まぐれにいい女を抱く。暴力の限りをつくし、己の力を存分に振るい、欲しいものを手に入れた。

 フリーザという気に食わない上司こそいたものの、基本的に成果さえ上げれば勝手気ままそのものだ。ゆえにターレスは特に窮屈さを感じたことはない。それどころか上司である宇宙の帝王フリーザでさえ、そのうち始末して己の力を示そうという野心さえ抱く男。それがターレスというサイヤ人である。

 ……といっても、本人としては宇宙の頂点に立つなどという面倒なことよりも、己の快楽を満たすために宇宙という大海原を勝手気ままに泳ぐほうが気質に合ってはいるのだが。彼は生まれながらの冒険者だったのだ。

 ターレスは力ある者に寛容だった。最初は敵対していた相手でも、気に入れば仲間に誘う。好奇心も人一倍強かったからか、時に化石と化していた宇宙人を復活させて仲間に加えるなどという珍妙な経験もしてきた。

 そんなターレスの魅力に惹かれたクラッシャー軍団は、誰もかれもが一癖も二癖もあるつわものぞろい。さらには神精樹というより強くなるための手段まで手に入れ、かつてのクラッシャー軍団はまさに破竹の勢いで強化されていった。

 

 

 ……彼らに不幸が訪れたのは、今から十年以上も前の事だった。

 

 

 信じられない速度と、信じられない質量。彼らの目の前に現れたのは、高速移動する惑星というバカげた代物。後々解析で分かったことだが、どうやらあれは宇宙船だったらしい。現在その乗組員は、クラッシャー軍団にとってぶっ殺したい相手ナンバー2である。何故ならそんな馬鹿みたいな宇宙船に、ターレスたちの船は真正面から吹き飛ばされたからだ。

 まったく予想だにしなかった速度と不規則な軌道を描く惑星型宇宙船にコンピューターがエラーを起こしていたため、回避など間に合うはずもなく正真正銘正面衝突だった。乗組員がいくら強かろうが、どうにもならないこともある……宇宙での事故はそんな理不尽の一例だろう。

 ちなみに彼らは知らないが、その惑星型宇宙船はすでに同等の大きさを誇るビッグゲテスターという巨大マシン星と宇宙事故を起こし大破済みだ。乗組員であるスラッグ一派という悪のナメック星人率いる魔族たちもあの世送りとなっている。

 つまり彼らの復讐は残念ながら、今後完遂されることはない。

 

 そしてそんな理不尽極まりない事故に遭遇したターレスたちだったが、彼らはなんと衝撃の際に生じた異次元ホールに吸い込まれ、神々の間で"南の銀河"と呼ばれる宇宙区域までワープしてしまったのだ。しかも事故のせいで宇宙船が著しく破損してしまったため、不時着した惑星で脱出叶わぬまま数年間過ごすという不幸に見舞われた。しかもその惑星というのがひどいもので、蜘蛛のような姿の巨大な怪物とイタチのようなさらに巨大な怪物が互いを食らいあうという地獄のような共生関係にある以外、生物も植物も存在しない不毛の土地。食料が蜘蛛の卵や蜘蛛の体、イタチの血液しか確保できない上にその蜘蛛もイタチもすこぶる強いときている。最悪の環境だった。

 宇宙船が直るまで星をどうこうできるはずもないため、なけなしの星のエネルギーを神精樹で吸い取ってパワーアップすることも不可能。……こうしてクラッシャー軍団は、数年間過酷な自然下での強制トレーニングを強いられる事と相成ったのだ。もちろん不本意である。

 

 星での生活は厳しくも、そこはつわもの揃いのクラッシャー軍団。割とたくましく生き抜いたのだが、カボーチャ星プキンパ王朝の元王子という肩書を持つダイーズなどには精神的に厳しいものがあったらしい。星を脱するころにはもともと引き締まったスリム体系だというのにストレスでさらに細く、ガリガリにやせ細ってしまっていた。ダイーズはこの時ほど無神経なアモンドやサイボーグの体を持つカカオを羨んだことはない。

 しかしそんな不幸の中でも、クラッシャー軍団にとって最高の幸運と希望は残されていた。レズンとラカセイのビーンズ星人の双子である。彼らこそターレスの宇宙船を作り上げた、化石からよみがえりし未知の力と頭脳を持つ天才! 資源などお世辞にもあるとは言えない中で、レズンとラカセイは数年を要したものの宇宙船を見事に修復してみせた。

 

 こうして強制的なトレーニングのもと更なる強さを手に入れたクラッシャー軍団は、再び宇宙の大海原に漕ぎ出したのだ!

 

 

 

 

 が、彼らの不幸はまだまだ続く。

 

 

 

 

「おやおや、これは愉快なお客様が来たものだ。さて、君たちは私を楽しませてくれるかな?」

 

 復活記念だ!! と、意気揚々と最初に襲ったコナッツ星という星で遭遇したのはその星の神を名乗るセルという昆虫じみた緑の怪物。そいつに過酷な環境で培ったクラッシャー軍団の強さ及び自信は、粉々に打ち砕かれた。

 スカウターが爆発するほどの戦闘力であったため正確な強さの数値は測れなかったが、ターレスが不毛の惑星にて習得した本来エリート達にのみ許される理性を保った上での大猿化……それをもってしても、届かない遥かなる高みの実力。完敗だった。

 だが「つまらん」と、クラッシャー軍団を完膚なきまでに叩きのめした神はせっかく植えた神精樹をたやすくひっこぬくと、ターレスたちをわざと見逃した。「次はもっと強くなって、是非とも私を楽しませてくれたまえ」などとのたまって。

 

 こんな屈辱はない。……この日から、ターレスたちの更なる研鑽は始まった。

 

 神精樹という規格外のパワーアップ手段を持ちながらも、不毛の惑星で体験した以上のトレーニングを自分たちに課したのだ。もちろん星を襲い、奪い、神精樹の実を食らうことも忘れてはいない。しかし心に深く刻まれた恥辱は、クラッシャー軍団に打倒セルの目標を掲げさせるには十分なものであり、特にリーダーであるターレスが率先してトレーニングをするので彼を慕う部下たちもそれに引っ張られる形で強くなっていった。

 そんな旅を続け……北の銀河に帰ってきた時。風のうわさでフリーザが倒されたと聞いた。しかしもはやフリーザなど超えたという確固たる自信を得ていた彼らにとって、そんな情報は気に掛けるものではない。優先すべきはさらなる力をつけて、南の銀河に舞い戻りセルを倒すこと。

 

 そのために最後に選んだ生贄が、宇宙事故前に目指していた"地球"。カカロットという下級戦士が送り込まれた北の銀河内でも辺境の星。……その星は神精樹を育てるにあたって、最高の環境を有していた。

 

「カカロットには感謝しなくてはな」

 

 送り込まれた下級戦士、カカロットは今は孫悟空という名前で地球を侵略することもなく地球人と仲良く暮らしているらしい。地球に行く途中で捕まえたサイヤ人の王子様に聞いたところ、フリーザを倒したのもこの男だという。

 さらには地球にはターブル王子の兄、ベジータ王子や姉のハーベスト王女、カカロットの兄ラディッツ、さらにはその家族であるサイヤ人と地球人の混血などが暮らしており……滅びたと思っていたサイヤ人が密かに根付いているとか。これは神精樹で更なるパワーを身に付けた後、彼らを屈服させ率いるのも悪くないとターレスは考える。ターレスはサイヤ人としての誇りを有しているため、力ある者や同族には寛容なのだ。

 生き残った純血のサイヤ人で唯一の女である王女も有用だ。年齢を考えると少々年増だが、サイヤ人のためおそらく見た目はまだ若いだろう。孕ませて己の遺伝子を純血のサイヤ人として残させるのも、まあ悪くない考えだ。その時は最高に可愛い、サイヤ人らしいサイヤ人として育ててやろうではないか。

 

 ターブル王子はどうやら相当に兄や姉を信頼しているらしく、自分が手も足も出ないままにやられたというのにベジータとハーベストがターレスに負けるはずないと、思っているようだ。それはそれで、這いつくばらせたときの表情がどう歪むか楽しみである。それまで生きていれば、の話だが。

 しかし神精樹を植えて地球を天変地異が襲い始めても、一向に彼らは現れない。どうやら一矢報いようと立ち上がったターブルと、どこぞから現れた羽虫二匹が部下たちと戯れているようだが……これではターレスがつまらない。

 

「俺も王子様と遊んでくるか……? いや、しかし部下の遊びを奪うのも悪いな」

 

 くつくつと笑うターレスだったが、ふいに眉が顰められた。

 

「それにしても神精樹がこれだけ根を張っているというのに、エネルギーの集まりが極端に悪いな。これだけ豊かな星だ。もう神精樹の実が熟れてもおかしくないはずだが。……」

 

 天を衝く巨木に成長した神精樹は地球中にその太い根を這わせ星の生命を吸い取っている。が、実はまだひとつも熟していない。そのことに訝しみつつも、ターレスはどっかりと腰掛け悠然と構えた。

 

「まあ、良いか。いずれにせよ時間の問題だ。……それよりも早く来い、地球のサイヤ人たちよ。新たなサイヤ人王、ターレス様がお待ちだぞ?」

 

 笑みを深めたターレスの顔を、天の稲光が怪しく照らしだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、地球上の各地域で奮闘する者たちが居た。

 

「これ以上、村、壊させない!」

 

 雪深き地域に存在する、かつてはレッドリボン軍の拠点の一つマッスルタワーが存在していたジングル村。今では平和そのもので、極寒の厳しさこそあるものの穏やかに時間が流れる場所である。しかし現在、その静寂は大地を割り現れた謎の巨木の根によって阻害されていた。根は大地を荒らし、家屋を壊し、木々を無残に薙ぎ払う。……平和な村は、一瞬で地獄絵図へと塗り替えられた。

 が、それを良しとしない者がいた。

 

「ハッチャン!」

 

 体一つで生き物のようにうねる巨木の根に立ち向かったのは、顔に傷がある大男。彼の正体は、かつてレッドリボン軍……ドクターゲロの研究によって生み出された人造人間八号。現在は孫悟空に呼んでもらった「ハッチャン」という名を気に入り、ジングル村で少女スノらとともに時間を過ごしてきた。しかし村の危機に彼は立ち上がり、争いを好まないがゆえに封じてきた人造人間としての力を発揮し根に立ち向かっていたのだ。

 が、そのナンバリングは八と若く、ゆえに後に生み出された十七号、十八号等などに比べて強くはない。一般人にとってみれば彼の力も十分に驚異的なのだが、しかし今回は立ち向かう相手が悪かった。……必死に暴れる根を抑え、時にへし折ろうとするがもう幾度となくその抵抗むなしく吹き飛ばされている。

 その姿に、村人を避難誘導していた彼の友達であるスノが悲鳴を上げる。彼女は少女のころから大人になるまで、ずっとハッチャンと共に過ごしてきた。だから彼がどんなに優しいか知っている。……だからわかるのだ。このままだと、彼は壊れるまで抵抗をやめない、ということが。その身を犠牲にしてでも、絶対に守ってくれようと無茶をする。そんなのは嫌だった。

 

「ハッチャン、逃げよう! このままじゃ死んじゃうよ!」

「ダメだ! この根、スノたちの、オレの大事なモノ壊した。ほっといたら、今度はスノたちが危ない! オレは大丈夫だから、スノ、はやくニゲテ!」

「嫌だよ! ハッチャンが一緒じゃないと嫌!」

「ダメ! スノは、子供たちのそばにいてあげなきゃ!」

「ッ!」

 

 スノは己の無力さに歯噛みする。可愛い自分の子供たちは先に避難する村人に託したが……本音を言えば、すぐにでもそばに行って不安で泣いてるだろう子供たちに寄り添いたい。抱きしめたい。

 だけど大事な友人を、一人残していきたくもないのだ。

 

「わ、私だって……!」

 

 震える手と笑う膝に鞭打って、スノはライフルを構える。それが何の意味を成すのか分からず、おそらく無駄だろうとも思ったが……やはり逃げたくはなかった。かつてレッドリボン軍の脅威からこの村を救ってくれた少年は、小さな体一つで無理を、無茶を打ち砕いてくれた。その姿は今でも鮮烈に心に焼き付いている。だけど少年は、今ここにいない。だから今度は自分が、彼の友人でもあるハッチャンを助けるのだ。

 

 が、そんなスノの決意をあざ笑うように新たに地面を割って現れた根が彼女ごと地表を薙ぎ払おうとする。

 

「スノーーーー!!!!」

 

 ハッチャンの悲痛な声が雪降りしきる灰色の空に響く。

 

「!!」

 

 スノはぎゅっと目をつむった。

 

「大丈夫だ」

 

 ふいに、平坦ながら優しさがにじむ声が聞こえた。それとほぼ同時に、突如として灰色の空が閃光によって明るく照らし出される。

 

 

 

「ヘルズフラーッシュ!!!!」

 

 

 

 一瞬だった。呆然とするスノを何者かが抱きかかえ退避したかと思うと、次の瞬間には大地が盛り上がり極大の光と共に根が消し炭へと変えられたのだ。その余波はすさまじく、なんとか踏ん張っていたハッチャンもまた吹き飛ばされるが……その体は逞しい腕と胸板に抱き留められる。

 

「大丈夫、か?」

「あ、アナタは旅人サン……?」

 

 ハッチャンを抱き留め、脇に目を白黒させているスノを抱えていたのはハッチャンにも負けない巨躯の男性。数日前から村に滞在していた、オレンジ色のモヒカンが特徴の旅人だった。

 彼は無口であったが、毎日山に出て自然の風景やそこで営みを続ける動物たちの姿を愛しそうに写真に収める姿には村の誰もが好感を抱き、彼を受け入れた。警戒心が強いはずの動物たちも気づけば彼の周りに集まっており、その姿にスノやその子供たちは「あの人、ちょっとハッチャンに似てるね」などと評したものだ。

 

 その彼が、スノとハッチャンを気遣いながらも怒りの視線でもって残りの根を睨みつけている。

 

「後はオレに任せろ」

「え!? で、でも!」

「大丈夫だ。……安心してくれ。この美しい場所を、これ以上壊させたりしない」

 

 言うなり彼は空に飛びあがり、あっという間にハッチャンとスノを小高い丘に避難させる。

 

「そ、空を飛んだぁぁ!?」

「旅人さん、アナタはいったい……」

 

 戸惑う二人の前で、旅人は腕を組むようなポーズをみせる。そして脇に腕を挟んだかと思うと、なんとひじから先を切り離して見せた。だがそこには肉も骨もなく、あるのは武骨な機械の断面。それを見てハッチャンは目を見開く。

 

「あいつらと違って俺と同じ完全に機械のあなたは、兄さんと呼んでもいいものかな? ……この村に来たのは偶然だったが、あなたみたいな人造人間に出会えてよかったと……そう思う」

 

 そう言ってニヒルに笑うと、旅人は再び空に舞い上がる。そして腕を根に向け狙いを定め、再び苛烈な光の洪水を腕の先から放つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、南方にて。

 

 ここは南海の孤島、希少生物たちが住まう動物保護区である。巨大な島はたった一人の保護官によって守られていたが、現在その彼が相手取っているのは密猟者などよりよほどやっかいな相手だった。

 

「チィッ! 数が多いな。……こういう時、動物の避難誘導に回せる人材は必要か」

 

 地面を割り、さらにはどれほど深くに根を張っているのか深海からも現れた謎の巨大な根。根そのものがまず脅威なうえに、根が引き起こした津波、地盤沈下、休止していた火山の噴火など……とても一人では対処しきれない案件に、保護官として働く人造人間十七号は忌々しそうに舌打ちをした。出来る限り対処し動物を島でも安全な場所へと誘導しているが、それも半分以上間に合っていない。元凶である目障りな根はもう半数ほど消し炭にしてやったが、鬱陶しいことに倒せば倒しただけ追加がまた生えてくる。本体を叩きたいところだが、島を守ることに追われてそれも叶わない。

 

「守るものがあるってのは、なかなかに大変だな」

 

 好き勝手やっていた若い頃が懐かしいと、らしくもないことを考える。

 近くの島に住む家族は避難させたが、この根の脅威がどこまで広がっているかわからないため知らず焦燥と苛立ちが募っていく。

 一瞬双子の姉である十八号に連絡して協力を頼もうかと思ったが、そういえば今日この時間はちょうど仲良しグループで別宇宙に旅行か何かではなかったかと思い出す。大会とかなんとか言っていたが。

 十七号も誘われたが、仕事があると断ったのは記憶に新しい。

 

 そのため現在、この地球上ですぐに頼れる相手がいない。なんともタイミングが悪いと、十七号は眉間にしわを寄せた。

 

(しかたがない。あいつらを使うか)

 

 十七号は嘆息すると、一人で全てをこなそうとする事を諦めた。しかしそれは情けないことではない。

 簡単に頭に血が上りセルに吸収されたころの彼は、もういないのだ。今は臨機応変、柔軟な思考が出来るようになった大人の男である。

 

「おい、お前ら!」

 

 腹の底から島全体に響き渡るような声を発し、十七号は島に潜む”彼ら”に呼びかける。

 

「住まわせてやってる家賃代わりだ。こういう時くらい働け!!」

「ウキキー!?」

 

 十七号の声に尻でも叩かれたように飛び出てきたのは、かつてセルが己の分身として生み出したセルジュニアそっくりの生物だった。十七号は仮に彼らを「偽セルジュニア」と呼んでいる。何故か島に住み着いていた偽セルジュニアたちは最初十七号に反抗したが、今ではすっかり手懐けられて大人しく島で生活をしていた。

 

 十七号は多分こいつらは本物のセルジュニアだろうと推測している。確信がないため"偽"と呼んでいるが。

 核があれば何度でも復活していた親であるセルのように、セルジュニアたちにも同じ機能が備わっていたと考えられる。孫悟飯に倒された後、密かに復活し生き延びていたのだろう。

 十七号が管理するこのモンスター島に住処を定めていたのは、大半は彼に敵わないであろう一般人にとって幸いだった。普通なら一匹だけでも災害だ。

 

 手懐けてからは襲ってくることもなく、七匹もいるため退屈しないのか自分たちだけで遊んでいるが……その実力は折り紙付き。こんな時くらい手伝わせても、ばちは当たるまい。

 十七号に指示を受けて島中に飛び散った偽セルジュニアたちを見て、十七号はふむと顎に手を添える。

 

「あいつら、正式に雇うか……?」

 

 

 この件ののちに、鬼上司にこき使われることになることを偽セルジュニアたちはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 




セルジュニアに関しては漫画版ドラゴンボール超8巻の巻末を読みましょう!(ダイマ


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残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 4

 ラディッシュの記憶は、温かなパオズ山の土の中から始まっている。

 

 豊かな大地は異星人が生み出したサイバイマンという人工生命体をも大らかに受け入れて、胎児のように種の中で身を丸めていたラディッシュらサイバイマン達に与えられた水は、柔らかく甘かった。

 生まれ()でてから初めて身に受けた太陽の力強い光を、ラディッシュは今でも忘れられない。あの自身の誕生を喜んでくれるような、生命を照らす輝きを。

 

 人工生命体たるサイバイマン。その作られた目的は主に使い捨ての戦闘員だ。だから生まれる前からある程度戦闘意欲と自分の存在意義を持ち合わせている。

 ……だがラディッシュと兄弟たちが生まれて最初に与えられた役割は、戦闘などとは程遠い農作業の手伝い。

 

『いい? チチさんのいうことをよく聞いて、しっかり働きなさい。絶対にチチさんに危害を加えないこと。むしろ守ること。それがお前たちの仕事だよ』

 

 自分たちをパオズの山に植えたサイヤ人の女性から命じられ、ラディッシュ達は戸惑いながらも指示に従った。そしてパオズ山でチチと過ごす中で、彼らは「命じられる」のではなく「頼られる」という喜びを知る。

 

 それからの日々はめまぐるしい。

 

 

 本来使い捨てであるサイバイマンの寿命はさほど長く設定されていない。だというのに彼らは今でも長くの時を生きている。

 その理由は彼ら自身にも分からないが、分からないなりに彼らは自分たちの命を輝かせながら精いっぱい生きている。

 

 

 戦うこと以外に、そして戦いの中にも自分たちで存在意義を見つけた彼らはすでに「サイバイマン」という種族だった。生み出された使い捨ての道具ではない。

 

 

『この短期間でよくぞ、その域にたどり着いたなラディッシュよ。お前はもう仙サイバイマンを名乗ってもよいだろう』

 

 数日前、仙豆栽培と人生の師として仰ぐ仙猫(せんびょう)カリンから言い渡された言葉に、ラディッシュは最初戸惑った。

 

『仙豆の栽培に成功した時から、もうその片鱗は見えておった。今でもドジは変わらぬが、その心は曇りなく澄んでおるよ。まだまだ修行は足りぬが、おそらく仙サイバイマンの域に達したおぬしはこれからわしのように長くの時を生きるじゃろう。これからは仙としての心得も教えていかんとのぉ。ほっほ』

 

 そう言って愉快そうに笑った師。ラディッシュはその笑顔を見て、ようやく飲み込めてきた現実に身を震わせた。

 ……この日ラディッシュは、生まれてきてから二度目の名前をもらったのだ。

 

 

 仙サイバイマン、ラディッシュの誕生である。

 

 

 ずっと兄弟の中で一番駄目だった。

 自分のドジで大好きな兄弟のまとめやく、ナッパを死なせてしまったことがあった。

 心残りは消えず、ドジなりに自分に出来ることを探そうと思った。

 

 

 その道の果てに、今ラディッシュは立っている。

 

 

 否、師曰くここは道の果てなどではないのだろう。まだラディッシュのサイバイマン生は道半ば。さらなる高みは未だに遠い。

 しかし自分に出来ることがあるならば、やれることがあるならば、助けられる誰かがいるならば!

 

 ドジな自分にも、やれることはあるはずだ。

 

 

 

 

 

「キキィ! キキーキキキキィー!(新生ギニュー特戦隊が一人! ラディッシュ推参! 悪は僕が許さない!)」

 

 宇宙からの侵略者相手に勇敢に戦う戦士たちに加勢すべく、ラディッシュはカリンに筋斗雲を譲り受け巨大樹はびこる大地へ推参した。現神であるデンデとガーリックJrの会話を、仙通力によってカリンと共に聞いていたのだ。筋斗雲よりガーリックJrの方が飛行速度が速かったため追いつくのに時間がかかったが、どうにか間に合ったようで内心胸をなでおろす。

 

 現在新生ギニュー特戦隊のリーダーであるギニューとサブリーダーであるジース、そして兄弟内で一番頼れる兄貴分であるナッパは、ある催しに参加すべく地球を離れている。二時間もすれば戻ると言っていたが、仙サイバイマンとなったラディッシュにはわかる。……彼らが戻るまで、地球はこの樹に耐えられまいと。

 巨大樹と同じく地球の大地に育まれた者として、ラディッシュはおそらく神であるデンデよりも鮮明にその事実を理解できていた。

 

 出かける前の隊長たちに頼まれたのだ。留守中はお前たちが地球を守るのだと。

 

 時折上階と下階のご近所さんとして接し、友達になったデンデも悲しませたくはない。ドラゴンボールでどうにかすればいいとはいえ、そのことでデンデは苦悩し、自分が戦場に赴こうとまでした。……ここで戦わずして、正義の味方は名乗れない。

 現在ナッピ、ナップ、ナッペ、ナッポは各地で巨大樹の根から地球を守っている。そのため手が離せないし、いち早く地球を襲う驚異の現況を把握できたのはラディッシュのみだ。ならばこの勇敢な戦士たちを自分が育てた仙豆でサポートし戦う事こそ、自らの使命である。

 

「キキッ、キー!(一緒に戦おう! 君たちの傷は全部僕が治す!)」

 

 相手は個々が見ているだけで震えあがりそうなほどの戦闘力を有する猛者たちだ。だが不思議とラディッシュの心は凪いだ湖面のように静かである。恐怖はない。

 

「こ、言葉は分からんが助かった! 協力者、ということでいいんだな!? ならばその助力、ありがたく頂戴しよう!」

 

 言葉は通じなくとも気持ちは伝わる。そのことにラディッシュは嬉しくなり、ガーリックJrと回復したばかりの青年を見る。彼はすっかり傷の治った体を見て戸惑いを隠せないようだったが、すぐに表情を引き締めると戦士たちを前に構えた。

 

「地球の方にはお世話になりっぱなしだな……。でも、ありがとう! これでまだ、戦える!」

 

 ぐんと。圧のようなものを感じたかと思うと、青年から凄まじい闘気の風が渦巻き舞い上がった。それに圧倒されるガーリックJrとラディッシュだったが、相対する者たちは多少驚いたもののまだ余裕そうである。

 

「フンっ、怪我がすぐ治っちまうとは妙な薬もあったもんだ。サイヤ人は死にかけてから復活すると強くなるんだっけか? 知ってるよ、そんなことは」

「ターレス様のをさんざ見てきたからな。」

「だからこそ言うぜ。お前のパワーアップなんて、まだまだ可愛いもんだってな」

「ンダ」

「仲がいいようで結構なことだ。息の合った会話だな!」

 

 虚勢なのかガーリックJrが吠えるが、その体は震えている。無理もない。彼の戦闘力は目算だが生まれたばかりだった時のラディッシュ達とそう変わらないのだ。よくぞそれで立ち向かおうと思ったものだと、ラディッシュはガーリックJrに嘲りではなく敬意を感情を向ける。

 

 ところで死の淵から立ち戻りやる気をみなぎらせている青年……ターブルだったが、思いがけず知った新事実に引き締めていた表情が少々緩んでいる。

 

「え、死にかけてパワーアップ……? い、いやそんなことは今どうでもいい!」

「お前もしかして知らなかったのか?」

「う、うるさい!」

 

 先ほどに比べ格段にあがったスピードとパワーでもってターブルが攻撃を仕掛けようとする。が、それにガーリックJrが待ったをかけた。

 

「待て! 感情的になったらただでさえ無い勝ち筋が完全に無になるぞ。見ろ、奴らの余裕を。自分たちの勝利がまだ揺らがないと信じて疑っていないのだ。……一度落ち着かないか」

「ほう、弱い奴の方が冷静とはお笑いだぜ」

 

 相変わらず煽ってくる相手であるが、もとより実力差は痛いほど承知しているガーリックJrは感情を高ぶらせること無く、努めて冷静に声量を絞ってターブルにだけ聞こえるように作戦を持ちかけた。相手が攻撃することもなくなめた態度でいてくれる今の内に、勝利への道を描かねばならない。

 

「いいか、よく聞け。悔しいが今はお前しか頼れん。だが、それは戦闘面だけのこと。……私には相手を異空間に閉じ込める必殺技がある。うまいこと誘導し奴らをひとところに集めてはくれないか。そうすれば我々の勝利だ」

「! そんな技を、本当に……?」

「初対面で信じられんかもしれんが……」

「……いえ、信じましょう。さっきあなたは一人なら逃げられたかもしれないのに、危険を顧みず僕も助けてくれようとしましたから」

「そ、そうか。うむ……そうか……」

 

 自分で言いだしたくせにどこかむず痒そうにしているガーリックJrを、ラディッシュは微笑ましいものでも見るような眼差しで見つめる。仙サイバイマンとなったことで相手の心もある程度読めるようになったが、この男の中には打算も多いが確かな善が根付いている。サイヤ人の青年も誠実そのものな心の持ち主であり、共闘する仲間として心強い。

 

「キキキッ、キー! キキーキキ、キーキキ!(僕も協力するよ! 一緒にあいつらをやっつけよう!)」

「相変わらずわからんが、協力してくれるのだけは理解した。頼むぞ!」

「お願いします!」

「キー!(任された!)」

「作戦会議は終わりか? じゃあ、行くでっせい!」

「アモンド、抜け駆けは無しだぜ! 俺も遊ぶ!」

「ああ? しょうがねぇなダイーズ。仕方がないから混ぜてやるよ」

「ヒャッハー! なら、王子さまは譲ってやるよ。俺たちはあっちの雑魚をもらうぜ! レズン!」

「おうラカセイ! 地球人バレーと洒落こむか! カカオ、お前もまじれ! ちゃんとレシーブしろよ!」

「ンダっ」

 

 作戦が決まるなり、様子見していた宇宙人たちが一斉に襲い掛かってくる。

 

「く、流石にこちらを放っておいてはくれないか! うまく逃げるしか……」

 

 ガーリックJrは自分とラディッシュめがけて飛んでくる三人に冷や汗を浮かべるが、そこに黄色い影が滑り込む。それが何かを視認する前に、ガーリックJrはラディッシュに体を横抱きにされその黄色い何かに飛び乗っていた。

 

「これはッ、筋斗雲!?」

「キキキキキ、キキーキキー!(速さじゃ負けちゃうかもしれないけど、小回りなら筋斗雲だって負けないぞ! 捕まえられるものなら、捕まえてみろ!)」

 

 黄色い物体は心の清い者しか乗ることができないと言われている雲、筋斗雲。心なしか「久しぶりの出番!」というように張り切って見える筋斗雲は、縦横無尽の自在な動きで見事に敵を翻弄してみせた。

 

 一方でアモンド、ダイーズと呼ばれた二人と対峙したターブル。だがその心はガーリックJrのおかげもあって、先ほどより落ち着いていた。その面構えを見たアモンドとダイーズは、初撃を弾かれたこともあってわずかに警戒をにじませた真面目な顔つきになる。

 

 

 そしてその様子を、巨大樹……神精樹の太い枝の上で赤い実をかじる男が愉快そうに眺めていた。

 

 

「そいつらを倒せたら、俺が相手をしてやってもいいぜ王子様よ。ど~れ、少しは強くなったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談であるが、かつてターブルの姉が思い出したように言っていた。

 

「そういえば、なんだかんだで一番才能あるのって実はあの子だよね。特に強敵と戦いもせずに、鍛錬だけで完全体セルと同等の相手に殺されないくらい強くなったんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一撃、二撃、三撃。振るう拳は次第に鋭く重くなっていった。最初は余裕そうにしていたアモンドとダイーズからは段々と余裕は削がれていき、ついにはガーリックJrとラディッシュを追い回していたレズン、ラカセイ、カカオも戦いに加わったが、五対一にも関わらずクラッシュ軍団の方が手数が足りないありさまだ。それほどにターブルの攻撃は速く、対応は完璧に近い。

 

「なんだ、あいつ回復さえすれば強いじゃないか……」

「キキー……(仙豆いっぱいもってきたのになぁ……)」

 

 すでに共闘どころか完全に観戦側にまわったガーリックJrとラディッシュ。

 実のところ、現在のターブルはクラッシャー軍団構成員相手にならばそう後れを取ることは無い。先ほどまでの傷はほとんど首領たるターレスに痛めつけられたものだ。旧式のスカウターしか持たず気の大きさを探れないターブルはターレスの部下もまた同等の強さを持つものと思い込んでいただけに、回復してからの戦闘には少々肩透かしをくらっている。

 

 だが気は抜かない。気を抜けない。何故なら戦えば戦うほどに、先ほど戦った男と部下の間にある大きな力の開きを感じて嫌な汗がにじんでくるからだ。

 部下もけして弱くはないが、普段戦わぬ体が戦闘にようやく慣れてきた程度で対処可能な相手。死の淵から蘇ることでパワーが増すというサイヤ人の特性は初めて知ったが、その後押しもある。協力者の必殺技がなくとも、このまま油断せず戦えば完封できるだろう。

 

(だけど、多分あいつは無理だ……)

 

 さっきから値踏みするような嫌な視線を感じる。おそらくターレスと名乗るあのサイヤ人が、どこかで高みの見物をしているのだろう。

 見立てでは五人を倒せても、あの男には今のターブルでは勝てない。ならば協力者の必殺技はあの男に使ってもらうべきだ。そのためにも確実に目の前の五人だけは、自分の力で倒さなければ。

 

 ターブルはさわさわと明滅するように金色へと時折変色している自らの髪に気付かぬまま、研ぎ澄まされていく拳を、脚を繰り出していった。

 生まれ持っての穏やかな心はサイヤ人随一で、自分の不甲斐なさに静かに怒るその心。加えて命の危機を経験することで、他のサイヤ人に比べてあまりにも穏やかにターブルのスーパーサイヤ人への覚醒は始まっていた。

 

 だがその様子が、男の興味をひいてしまう。

 

「ほう? アレになれるのは俺だけではなかったのか。いいな、面白い。あんなサイヤ人らしくない、なよっちい性格……アモンド達と同程度の実力ならわざわざ仲間に引き込むまでもないと思っていたが、気が変わった」

 

 ぐしゃりと、手の内にあった食いかけの赤い実を潰す。

 

 

「屈服させて仲間に引き入れてやろう。光栄に思うんだな!」

 

 

 つぶれた実の汁を払って掌に作り出したのは丸く輝く光の玉。それはかつてベジータが孫悟空と初めて戦った時作り出した人工月と同じ代物だ。ターレスはそれを空めがけて打ち上げると、ぐっと拳を握る。

 

「弾けて混ざれ!」

 

 

 

 

 

「ぐ!? あ、あれは……」

 

 最後の一人、カカオに止めの拳を叩き込んだところでターブルは異変に気付く。見上げた空には先ほどまでなかったはずの満月がぽっかりと浮かんでいたのだ。神聖樹のせいで天変地異のように雷鳴荒れ狂う曇天の中、そこだけ青空がのぞき月が浮かぶ光景は異質だ。

 尻尾が疼き、月を見てしまったターブルの体は本能に従って大猿へと変化を始める。

 

(どういうことだ!? お互い大猿になって決着をつけようというのか……)

 

 ターレスというサイヤ人にも確か兄や孫悟空とは違い尻尾が残っていたため、このままなら奴も大猿になるはずだ。だが互いに大猿になったところで力の差は埋まらない。もしターレスが少しでも自分が楽しめるようにとターブルを強くしようと画策してのことなら、まったくの検討外れ。逆に大猿にして理性を奪い弱くしようとしても、それもまた無駄である。ターブルは大猿になっても理性を保つことが可能だからだ。

 相手の意図が読めないままに、ターブルの大猿への変化は終了する。

 

 

「ククッ、いいねぇ。そっちの姿の方がサイヤ人らしい」

「!?」

 

 

 気づけなかった。

 気配もなく現れ右肩に飛び乗ったシルエットに、直前まで気づけなかったことに動揺したターブルが身をよじると、それは今度はターブルの目の前に現れる。

 

「お、お前は誰だ……!?」

「おいおい、寂しいじゃねぇか。さっき遊んでやっただろ?」

「まさか!?」

 

 巨大に膨れ上がり猿の体毛に覆われた自分に対し、掌で包んでしまえそうな大きさの相手はサイヤ人に多い黒髪のうねるような癖毛。長く伸びたそれを無造作に垂らしたその男は、上半身だけ自分と同じく猿のような体毛で覆われていた。ただしその体毛は服のような形で、遠目に見れば体毛だとは気づかないだろう形状だ。

 ……そして毛の色は、血のような紅。目の下には同じ色の線が化粧のように入っている。

 

「はぁ!!」

 

 男の掛け声とともに、静謐だった気配が吹き飛び荒々しい気のうねりが暴力のように叩きつけられる。その圧倒的な力にターブルは思わずのけぞり、後方で見ていたガーリックJrとラディッシュは耐えきれず筋斗雲ごと吹き飛ばされた。

 

 

 

 男、ターレスは嗤う。

 

 

 

「伝説のスーパーサイヤ人……だったか? おとぎ話のやつは。もし金髪の状態がそれを言うなら、過酷なあの惑星で俺はそのさらに上を行った。大猿の力を大猿になることなく制御できるようになったんだ。すごいだろう? ククク。神聖樹の実に宿る星そのものの力を食らうことで、段々と満月の力がなくともこの形態になれるようになってきた。おそらくこの星で育った実を余すことなく喰らえば、俺は正しく神のごとき存在になれるのだろうさ。そうすればあいつにも……」

 

 ターレスの言葉にその異常性を感じ取ったターブルの体毛が警戒心で逆立つ。しかしその様子を気にも留めず、ターレスは朗々と語った。

 

 

 

「特別に見せてやるよ。そして跪き、俺に忠誠を誓え! この完全なる真のサイヤ人(トゥルーサイヤ人)、ターレス様になぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




案の定また終わらないorz
「???」と思った人はすぐに劇場版ドラゴンボール ブロリーをチェック!(ダイマ
パラガスのブロリーの強さに関しての説明を聞いたとき、多分スーパーサイヤ人4を思い浮かべた人多いんじゃないかなって。



【挿絵表示】

ろんろまさんから主人公のイメージイラストを頂きました!特徴を掴みながらもなんだこの愛らしさ……!可愛いながらもドヤっとして見える主人公、実に彼女らしいです。
ろんろまさん、この度は素敵なイラストと掲載許可をありがとうございました!


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残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 5

 見たこともない姿に変身したターレスを前に、ターブルは真っ先に人工の月を破壊することを選んだ。大猿化と同じく、月がトリガーであることは明白。このまま戦うのはあまりにも危険であると、本能が告げていた。

 しかしターレスは腕を組んだまま、それを悠々と見守った。それが何故なのか、すぐに理解することとなる。……ターブルの大猿化が解けた後もターレスの変身が解けることはなかったのだ。

 

「そ、そんな……!」

「残念だったなぁ。確かに変身にはきっかけとして月が必要だが、俺は神聖樹の実を食らい続けたおかげでこの変身を長時間維持することに成功している」

 

 ターレスはもったいぶったように手を広げると、赤い体毛で覆われた体を見せつける。

 

「ああ、そうそう。無知な王子様に親切にも教えてやろう。我々サイヤ人の変身には、月の反射する光からのみ発生する特殊な電磁波が関係していることくらいは知っているな? ……だが、俺のように自力でその電磁波を生み出す光球を作り出すことも可能だ。今でこそこうして一度体外にそれを出し光として身に受けなければ変身できんが、いずれ体内のみで全てが完結するようになる」

 

 ガーリックJrとラディッシュは何やら余裕で説明し始めたターレスを前にどこか隙は無いかと、吹き飛ばされた先からこっそりと伺う。だがまるで見えない鎧でも纏っているかのようなエネルギーの圧を感じ、たとえ隙が生じていても自分たちではどうにもならないことを悟った。唯一の希望はターブルだが、ターブルもターレスの威圧感に押されて動けないでいる。先ほど人工月を破壊するためにいち早く動けただけでも、快挙だったのだ。

 

 そんな彼らを前に、ターレスは背後にそびえる巨大樹を親指で指した。

 

「そのために役立ってくれるのが、この神聖樹の実ってわけだ。立派だろう? この星の命を吸収する樹の実を食らえば、信じられないほどのパワーが手に入る。……が、俺は随分強くなりすぎたようでな。部下に与えれば強くはなるが、今の俺が食べても栄養剤程度にしかならん。しかしその栄養こそが大事なのだ。星の生命力は俺のサイヤ人としての、種としてのパワーを高めた。……実感がある。何故だか実りが遅いようでまだ一つしか生っていなかったが、この星全ての命を吸い尽くした実を体内におさめれば、俺はいつでもどこでも、この姿に変身できる。無限に蓄えた星のエネルギーを使って、いつまでも……な」

 

 長い語りが終わると、ターレスは一瞬にしてターブルの前に現れた。そして振るわれた尻尾の一撃で地面に叩き落されたターブルは白目をむいて気絶する。

 

「なんだ、せっかく見せてやったのに他愛ない」

 

 つまらなさそうにつぶやくと、ターレスはこちらを伺うガーリックJrとラディッシュに目を向けた。

 

「!? な、なんだ! 次は私たちと戦おうというのか!? い、いいだろう。こ、来い!」

 

 虚勢を張りながらもガーリックJrは自分に視線をひきつけて、ラディッシュにターブルを回収するようにハンドサインを送る。承知したとばかりに位置を変え決死の覚悟でターブルを回収したラディッシュだったが……それも全ては見逃されてのことだった。

 

「何故俺がゴミ掃除にわざわざ動かねばならんのだ。それより、さっさと王子様を回復してさしあげたらどうだ? 邪魔はせんぞ。ハッハハハハハ!!」

「くッ、馬鹿にしおって……」

 

 全て見透かされていることに歯ぎしりしつつも、ガーリックJrはラディッシュがターブルを回復させるのを見守った。今、地球の命運はこのサイヤ人にかかっているのだ。悔しいが今は彼の可能性を信じるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に地球の命運をかけた絶望との戦いが行われている一方。時間はほんの少しだけさかのぼる。

 それはDrウィローがガーリックJrに通信をする前のこと。

 

『久しぶりだな、Drコーチンよ。いや、コーちゃんよ』

『アバター名で呼ぶのやめていただけませんか、ウィロー様……』

『水臭いではないか。私の事は☆うーりん☆と呼ぶがいい』

『ぐ……、くう……! う、嘘じゃぁぁぁぁ!! やっぱり信じとうない! 半年こんなおいぼれに付き合ってくれた愛の天使☆うーりん☆が同じジジイじゃったなんてぇぇぇぇ!! しかも昔の上司とは、ここが地獄か!!』

『初ボイチャした時のお前の嘆き声はなかなか愉快だったぞ』

『本当に、いつそんな遊びを覚えたんですかのぉ……』

『ドラポンクエスト7が面白くてな。流れでオンラインにも手を出したのだが、どうもこのジジイ口調とかつての姿を模したキャラメイキングでは誰も声をかけてこぬのじゃ。たまたま知り合った☆プリンセスぷーろんてぃー☆にもらったアドバイス通りにしたら、本当にアイテムごっそり貢がれてプレイが楽になったぞ。時代はネカマじゃ』

『あなたからネカマなんて言葉を聞きたくありませんでしたぞ……』

 

 電子空間でアバターを通して行われているボイスチャット。片方は伝説の装備で身を固めた若々しく凛々しく造形の整った男性キャラ。もう片方は天使の翼をつけた、これまた伝説の装備に身を包んだ麗しい美少女キャラ。

 これがかつて人類改造計画および世界征服を企てた悪の科学者たちの成れの果てだとは、誰も思うまい。

 

 ✝☦こーちゃん☦✝ことDrコーチンは、ボケて使い物にならなくなったと思い☆うーりん☆ことDrウィローの元を離れとある貴族のもとで大好きなバイオ工学の研究をしていたのだが、気晴らしに始めたオンラインゲームにのめりこんでしまっていた。そこでまさかという形でかつての上司と再会し、死にたくなったのは記憶に新しい。遅く来たDrコーチンの青い春はむごたらしい形で儚く散ったのである。

 

 とはいえ、かつては同じ志の元研究をした者同士。ゲームはゲームと割り切って、レアアイテムのためにネット婚までしたあともこうして時々友人として話をしている。

 ちなみにDrコーチンはガーリックグループにバイオ食材の提供もしているので、ウィローとは別にガーリックJrとの交流は結構あったりする。

 

『ところでウィロー様のことですから心配しとりませんが、そちらは大丈夫ですかのう? 隕石が降ってきた後、妙な樹の根が世界中に出現しているようですが……』

『わしの方は問題ない。お前の方はどうだ?』

『こちらも心配ありません。なにしろわしの可愛いバイオ戦士たちが守ってくれますからな。研究に口うるさかった周囲の連中を黙らせるいい機会ですから、恩を売るために各地に援軍として送る余裕もありますですじゃ』

『ほう……流石だな』

『これも最高の研究場所を提供してくださったジャガーバッタ男爵と、そこを破壊された後に資金援助してくれたガーリック殿のおかげですわい』

『そういえば平和なバイオ食品製造に留まらず、再びバイオ技術を戦士に転用し始めた理由はなんじゃ? まさかお前、わしの……』

『こういう時に身を守るために決まっとりますわい』

『それもそうじゃな』

 

 うっかり「わしのために最強の体を作ろうと……!?」などと、感動したようなセリフを言い切る前でよかった。そう思いながら、ふむと脳みその入った水槽をこぽこぽさせながらウィローは考え込む。

 

 

 

『なあ、Drコーチンよ。提案なのだが、再びわしと手を組んではみないか?』

 

 

 

 

 

 

 




このたび柴猫侍さんからgifで動く主人公を頂きました!
可愛い!すっごく可愛い!動いてる!ひゃっほー!動くのが可愛いのはもちろん、デフォルメ具合が醸し出す癒しオーラよ……!
柴猫侍さん、この度は素敵なイラストをありがとうございました!

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★残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 6(完)

「がはッ!!」

 

 もう何度瀕死と回復を繰り返したか分からない。しかしターブルは諦めず、何度も何度もターレスに立ち向かった。その身は黄金に輝き、腰まで伸びた頭髪は雷光に似た気をまといながら逆立っている。さらには優し気な面立ちをしていたターブルの顔はずいぶんな強面に変化していた。スーパーサイヤ人、スーパーサイヤ人2を超えた先にある高み……スーパーサイヤ人3にこの二時間に満たない間に上り詰めたのは奇跡と言ってよいだろう。

 

 

 だが、それでも届かない。

 

 

(グレと生まれてくる赤ちゃんのためにも、ここで死ぬわけにいかない……!)

 

 もうすぐ父親となるターブルの精神を強固につなぎとめていたのは家族への愛だったが、それだけではターレスが達した領域まではひどく遠かった。

 

 どこかの、別の時間軸の世界線。……この世界では数名を除き知らないことであるが、そこではターレスが達した変身はスーパーサイヤ人4と呼ばれていた。

 現在彼らが住まう世界線でのスーパーサイヤ人の最たる高みはサイヤ人の神の名を冠したスーパーサイヤ人ゴッド、そしてスーパーサイヤ人ブルーである。しかしそれは力の性質が違う方向へ向かっただけであり、個体差による違いはあれどスーパーサイヤ人4はけしてゴッドに劣らない。もしこの場に孫悟空やベジータなどがいれば嬉々として戦いを挑んだことだろうが、今のターブルでは戦いを楽しむ余裕などあろうはずもない。ラディッシュの仙豆の力を借り、死なないだけで精いっぱいだ。それも相手の情けで見逃されたうえで。

 ガーリックJrがタイミングを見計らって異空間へ敵を閉じ込める技を放とうと試みてはいたが、それはすでに破られている。ターレスは「面白い技だ」と、閉じ込めたはずの異界の空間を捻じ曲げて出てきたのだ。……次元が違う。

 

(せめて、せめて兄さんたちが来るまでの時間稼ぎくらい……!)

「いい加減あきらめて、俺の仲間になったらどうだ? 軟弱と言ったのは謝るぜ。なかなか、いい根性してるじゃねぇか」

「誰が!!」

「ハハハ! いいねぇ、強情なところも気に入った! ますます屈服させたくなる!」

「!?」

 

 頭を掴まれ地に押し付けられ、地面をえぐりながら数十メートル進む。そのままボーリングの球のように投げられ、ターブルは神聖樹の幹に衝突した。その衝撃で幹にクレーター状のくぼみが生じる。

 

「おっといけねぇ。可愛い樹に傷がついちまった」

 

 ターレスは頬を指でかき、ばつの悪そうな顔をする。が、次いでいいことを思いついたとばかりに膝を打った。

 

「そうだ、ここまで粘った褒美にお前にもひとつ実をくれてやろう! 実りは遅いが、そろそろもう一つくらい実っただろうさ」

 

 ターレスのその言葉に、戦況を見守るしかなく歯ぎしりしていたガーリックJrの心に光明が差す。

 

「馬鹿め、強者の余裕が生む油断こそ致命傷となりうるのだ! これであいつが更に覚醒すれば、あるいは……」

「キキー……(でも、大丈夫かな……。あの実は食べてはいけないものだって感じる)」

「緊急時なのだ、かまうまい。結果的に地球を守ることになれば地球も許してくれるだろう(なぜ私はいつのまにかこいつの言葉を理解できるようになっているのだろう……)」

 

 共闘する間に心と心で繋がってしまったサイバイマンとの絆に少々複雑な思いを抱きながら、ガーリックJrはターレスがターブルに神聖樹の実を与えようとするのを見守った。

 

 

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

「なんて、な。期待したか? お前は強くしてみたいが、あいにくこの実は俺専用なんだ。まだ部下になっていないお前にはやれんな」

 

 がぶりと、ターレスはターブルに実を与えることなく目の前で赤く熟れた神聖樹の実を食らった。それを見て呆然とするガーリックJr。

 

「な、な、なん……。なんて性格の悪い奴だ!! 期待させておってからに!! …………さ、最悪だ。ただでさえ勝てない相手のわずかな消耗までこれでなくなってしまう。私のデッドゾーンもやぶれた。……お、終わりだ。今度こそ……」

 

 憤ってはみたものの、もうこの状態を覆せる奇策は思いつかない。かすかな希望をこめて腕時計を確認するが、孫悟空らが戻ってくるまではまだ一時間もある。すでに数時間どころか数日もの時間が過ぎていた感覚だったガーリックJrは、あまりにも長い二時間を思って天を仰いだ。……その天に居る神に啖呵を切ってここまで来たというのに、なんてざまだと自嘲に変な笑いが漏れる。

 

「ふん、しけた面をしおって。そのでかい図体は飾りか?」

「!?」

 

 力の抜けた体を後ろから杖でつつかれたガーリックJrは前につんのめる。

 

「だ、誰だ!?」

「わしじゃよ。先日の取り引き以来じゃの」

 

 振り返った先にいたのは、ガーリックグループが提携するバイオ研究所の所長であるDrコーチン。思いがけぬ人物の登場ではあるが、まったくこの場では役に立たないであろう人材だったことにガーリックJrの肩がしょぼくれたように落ちる。そのガーリックJrの頭部を再び杖が襲った。

 

「なんじゃその反応は! 失礼な!」

「ええい鬱陶しい! なぜこの場に来た! お前など吹けば飛んで死ぬだけだ。死ぬまでの時間が変わるだけだろうが、さっさと逃げておけ!!」

「フン、その必要はないわい。もう決着はついた」

「…………なに?」

 

 不可解な発言をするDrコーチンに、ガーリックJrとラディッシュは訝しむ。

 

「決着はついた、と言ったんじゃ。時間稼ぎご苦労じゃったな。いやはや……それにしても、ウィロー様もジジイ使いが荒いもんじゃ」

 

 やれやれとため息をついたDrコーチンは、杖を持つ方とは反対の手に何やら注射器を持っていた。それに目ざとく気付いたガーリックJrは目を見開く。

 

「お前、何をした……」

 

 Drコーチンはにやりと笑う。

 

 

 

 

 

 

「時代に遅れをとった残り物に甘んじているほど、ウィロー様は甘くなかったということじゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……うッ! な、なんだ……! これは……!」

「……?」

 

 急に頭と喉を抑えて苦しみだしたターレスを朦朧とした意識で眺めていたターブルは、すぐに「チャンスだ」と思い立ち幹にのめり込んでいた手足を引き出した。神聖樹の木片が散り、黄金の輝きに照らし出される。

 

「はあああああああああああああああああああああああ!!」

「ぐ!?」

 

 気合一線。

 一直線に突き出したスーパーサイヤ人3ターブルの拳は、初めてターレスにダメージを与えた。それに対しすぐ忌々しそうに反撃を繰り出そうとするターレスだったが、体が硬直し動かない。まるで自分の体ではないかのよう(・・・・・・・・・・・・)だ。

 

「くそっ、なんなのだ、これはァ!!」

 

 苛立ちに咆哮するターレスの頬を、ターブルの拳が打ち抜く。そこからは息もつかせぬ連撃である。

 

「だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだッ、でやぁッ!!」

「ぐおおぉぉ!?」

 

 散々連撃を受けた後に、仕上げとばかりの両の拳をあわせたものが頭上から振り下ろされターレスを地面に突き落とす。ターブルの攻めはそこで終わらず、クレーターを作り地面にあおむけで転がったターレスの腹に膝蹴りが叩き込まれた。ターレスの胃液が吐き出される。

 

「ごふっ。ぐ、貴様……!」

「とどめだ! はぁぁぁああああああああああああああ! ギャリック砲--------!!」

「あ、あの馬鹿! ええい、デッドゾーン!」

 

 上空に飛び上がったターブルの両の手から発せられた光の本流がターレスとその背後の地球に迫る。そのまま直撃しては地球もタダではすまないと察したガーリックJrが、すかさずデッドゾーンを器用にもターレスの背後に生み出した。

 

「がああああああああああああああ!!!!!」

 

 絶叫と共にターブルのギャリック砲に押されたターレスがデッドゾーンの奈落に落ちてゆく。

 完全にエネルギーが異空間に飲まれたことを確認したガーリックJrは、デッドゾーンの穴を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 あたりに静寂がおとずれた。

 

 

 

 

 

 

 

「勝った……のか? 僕が……?」

 

 変身が解かれ、もとの優しい顔立ちに戻ったターブルが自分の両手を見ながら信じられないとばかりにつぶやく。

 その背を力強く叩く者がいた。

 

「勝ったのだ! お前の勝利だ。お前が、地球を救った!」

「キキキーキキー!(すごいよ! ありがとう! 君のおかげだ!)」

 

 ガーリックJrとラディッシュの言葉にようやく実感がわいてきたのかターブルの表情がゆるむ。

 

 しかしその時だ。

 

 何もない空間に亀裂が入り、砕ける。その現象は先ほど目にしたばかりであり、喜びに笑みを浮かべていた三人の顔に緊張が走る。

 

「ば、馬鹿な。あれでも駄目だというのか……? あんな攻撃を受けては、さすがに異空間から帰ってこられるようなパワーは……」

「ああ、焦ったぞ。まったく、おにゅーの体を手に入れたと思ったら異空間とはたまげたわい。まあ体の試運転と思えば悪くはない。体の使い方を知らなくとも、この程度は容易にこなせる高いスペックをもった体だと分かったからな」

「…………ん?」

 

 現れたのはやはりというかターレスであり、緊張感をはらみ身構えたターレスを横目にガーリックJrはその口調に凄まじい違和感を覚えた。そのターレスはといえば、妙に年寄り臭い所作で「どっこいしょ」と岩に腰かける。

 

「なんじゃ、どうした?」

 

 にやにやと意地悪くこちらを見るターレス。だがあくどい笑みながら、雰囲気は先ほどまでと決定的に異なっていた。残忍非道だったさきほどに比べ、まるで性根の悪い糞ジジイのような……。

 

 その時、先ほどのDrコーチンとの会話と、直前に交わしたDrウィローとの通信が繋がりガーリックJrの頭脳にひとつの答えがはじき出された。

 

 

「はめおったな! こんのクソジジィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「ふん、はめたなどと人聞きの悪い。わしはなにもお前に直接行けなどと言っておらんかったじゃろう? さっきまで優しくも特攻した馬鹿の冥福を祈ってやっていたわい。せいぜいガーリックグループのつてで、程よく時間稼ぎできそうな人材に声をかけてもらおうと思っとっただけじゃ」

「え、え、あの……? これはどういう……?」

 

 ターレス(仮)に掴みかかるガーリックJrと、妙にじじ臭い喋り方のターレス(仮)。それを見て混乱したターブルが隣にいたサイバイマン、ラディッシュに問えば仙サイバイマンとなったラディッシュは首を傾げながらも推測を告げる。

 

「キキーキキッ、キーキキー(どうやらあの人、中身が別人になっちゃったみたいだね。魂の色が違うよ)」

「えっと?」

 

 しかしターブルにはラディッシュの言葉は分からないので、ますます首をかしげるのだった。そこに現れた助け舟は一人のジジイ、Drコーチンである。

 

「あのサイヤ人の脳は、すでにウィロー様の脳みそに入れ替わっておるのじゃ。もう戦う必要はないぞ」

「脳が!? それっていったい、どういうことですか!」

「ふっふっふ、聞きたいか? では功労者をねぎらって、特別に教えてやろう。な~に、天才科学者二人にかかればどうという事もない。わしのバイオ技術とウィロー様の天才的発想を融合させ、まずは意識と命を保ったままウィロー様の脳をコンパクトに液体細胞化する。それをあの神聖樹の実とやらに注入し、あとは馬鹿者が実を食うのを待てばよいというわけじゃよ。体内に取り込まれたウィロー様の脳細胞が頭脳へと到達すれば、相手の脳を溶かし成り代わるのじゃ」

 

 なにかとても怖いことを言っている気がする。ターブルは一歩Drコーチンから引いた。

 

「そう怖がるでないわい。今さら世界征服する気力もありゃせんし、これを使うのは今回限りじゃよ。研究の詳細もすでに破棄してある」

「そういう事じゃ。いい加減脳みそだけというのも不便でな。自己防衛も兼ねられる、強い体が欲しかったのだ。孫悟空らがいればすぐに倒されるか阻止されていたかもしれんし、まったくよいタイミングで来てくれたわい。悪人なわけじゃし、体をもらったところで問題ないであろう? こうして科学の力で圧倒的強者を上回るという事実も手に入れたわけだしな……くくっ。おっと怖がるでないぞ? よほどのことがない限り、自衛以外では使わんよ」

 

 ターレス(仮)もとい、サイヤ人ターレスの体をまんまと手に入れたDrウィローは、若い体を満足そうに見回してはポーズをとる。それを少しうらやましそうに眺めていたDrコーチンは、閃いた! とばかりにぱあっと表情を明るくさせた。頭上で光る電球が見えるかのようだ。

 

「あ、そういえば今回限りというのは嘘じゃった。もう一回使う。わしもつかう! バイオ技術で✝☦こーちゃん☦✝そっくりの体を作り、脳を入れ替えて若さとリアル嫁を手に入れるんじゃー!」

「お前は何を言っているんだ」

 

 ガーリックJrは酷い頭痛を覚えたが、まあなにはともあれ解決でいいんじゃないかな? と思うことにした。考えるのはもう疲れた。帰りたい。

 

「僕の戦った意味って……」

「いや、誇るがいい。正直体内に入ったまではよかったのだが、ある程度のダメージを奴が負わなければサイヤ人の生命力にわしの細胞は押し負けて消滅していた。隙が生じたとはいえ、お前がこのサイヤ人を追い詰めたのは事実じゃよ」

 

 まあ脳のコピーは取ってあるのだがな、とは言わないウィロー。抜け目のないジジイである。

 

「さて、あとはこの神聖樹とやらか。ガーリックJrよ、さっさとデッドゾーンで吸い込んでしまえ」

「私のデッドゾーンはゴミ処理場ではないぞ! 根もずいぶん広がっているし、単純に吸い込むだけでは難しい。それこそ、地球の修復と共にドラゴンボールに……」

「先人として今の神に見栄は張りたくないのか? あれだけ先輩風吹かせておいて」

「ぐ!?」

「あの小僧が地球もろとも破壊してしまう危機を回避した功績に加えて、ドラゴンボールの力なしに樹を除去できたら尊敬されるかもしれんぞ?」

「ぬぬ……!」

 

 悩むこと数十秒。

 

「し、しかたがない。ここは私が引き受けよう」

「流石じゃぞガーリックJr。それでこそガーリックグループ総帥じゃ」

「そこはせめて元神候補と言え!」

 

 

 こうしてガーリックJrにより神聖樹の樹は取り除かれ、その他の地球の損傷や死者などの被害に関してはドラゴンボールが使われた。

 結果的に地球のドラゴンボールが現在叶えることが出来る願いが二つだったため、神聖樹が先に取り除かれていたことで願いは「地球をもとに戻す」と「今回の被害で死んだ悪人を除いた命をよみがえらせる」のみですんだのである。神聖樹のような特殊で力の強い植物に関しては、地球を元に戻すの中に含まれなかった可能性もあり独立した願いが必要だったらしく、ガーリックJrは神デンデにいたく感謝されたとか。

 

 

 

 

 

 その後無事に帰還したガーリックJrが秘書のアイユちゃんから逆プロポーズを受けて結婚して地球史上初の魔族と人間のハーフの子供をもうけたり、スーパーサイヤ人4になれるサイヤ人の体を手に入れたDrウィローがどこからか聞きつけて修行に巻き込もうとするサイヤ人二名から逃げて宇宙に飛び出したり、無事バイオ技術で若くかっこいい体を手に入れたDrコーチンが婚活に乗り出すも連敗に次ぐ連敗に婚活戦士になったり、ガーリックJrの心労具合を見て精神的疲労に効果のある仙豆の栽培にカリン塔に帰ったラディッシュが乗り出してみたり、やっと帰ってきた兄弟にスーパーサイヤ人3になれたことを言う前に子供が生まれることを真っ先に報告してやんややんやと祝われるターブルの姿があったりしたのだが…………。

 

 

 

 

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ。とてつもなく面白い戦いを逃した気がする」

 

 某自称究極神がそうぼやいたとかぼやかなかったりしたというのも、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り物なんて言わせない! 地球丸ごと超決戦 完!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お粗末様でした!前後編詐欺してしまい誠に申し訳ありません。全6話になりました(震え
でも平成中にギリギリ終わらせられてほっとしております。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!



最後におまけ。
【挿絵表示】
16号さんはハっちゃんに感謝されながら「また遊びに来てね」と言われ村を後にし、のちのち17号のいる島にたどり着いて会話に花を咲かせるといいなという妄想。心優しい16号さんは動物にモテモテであってほしい。

2020.12.30追記



【挿絵表示】

この度(╹◡╹)さんから主人公の空梨のイラストを頂きました!どやっとした笑顔やポーズが主人公らしくて可愛い……!
(╹◡╹)さん、この度は素敵なイラストをありがとうございました!


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セルとブウ子が映画を見てだべってるだけの話

注)
※ドラゴンボール超スーパーヒーローを見ました(察してください
※セルとブウ子がめちゃくちゃメタ発言をしています
※主人公ほぼ出番なし
直接的なネタバレはありませんが映画の感想を匂わせている箇所があります。それでもいいよ!という方向け


「暇だ」

「暇ね」

「いや帰れよお前ら」

 

 のどかな午後の昼下がり。リビングにて我が物顔でソファーに寝そべり、それぞれポテチと煎餅を食べながらワイドショーを見て「暇」とほざいている緑のとピンクの。

 これがかつては世界を恐怖で震撼させた「セル」と「ブウ」の成れの果てとは誰も思うまい。

 

 色々あって人造人間から精神生命体、精霊となり、ついには一星の神になったセル。

 例によってセルは定期的な孫悟飯へのちょっかいを出しにコナッツ星から訪れていたのだが、今日は孫悟飯の娘であるパンのお遊戯会。これをセルとの戦いなどですっぽかすわけにいかないと凄まじい気迫で断られ、ぽんと時間が出来たのが数時間前である。

 元悪ブウ、現人気闇医者兼人気スイーツブロガーのブウ子はといえば、最近ブログだけでなく世間の流行りに乗ってユーチューバーとしても活躍し始めた。顔出しいいのか? と知り合いからよく突っ込まれるものの、「堂々としてれば意外と気にされない」との事らしい。

 その人気は引く手数多なのだが、弱体化したとはいえ魔人である。そのスペックを十全に活かしているため仕事自体はすぐに終わるのだ。今日はそうして出来た暇を友人とお茶と世間話でもしてして満たそうと空梨の元を訪れたのだが、その友人……空梨もこれから娘と息子の授業参観だ。まず予定を聞いてから来いと怒られたのはつい先ほどの事。

 

 悟飯に断られたなら帰ればいいものを何故かふらりと空梨家を訪れたセルと、誘いを断られ腕組みをしていたブウ子が鉢合わせたのはつい数分前。

 どちらともなく「じゃあ相手が暇になるまで適当に時間でも潰すか」ということになり、リビングを占領し戸棚から勝手知ったる他人の家とばかりに菓子類を取り出してソファーに寝転がったのが数秒前。

 そのうえで同時多発「暇」発言。

 もうお前ら結婚しろとは、出かける用意でバタバタしていた空梨が漏らした嫌味である。ちなみにブウ子はまんざらでもなさそうだったが、セルがものすごく嫌そうな顔をした。

 

「もう! 居座るのはいいけど、そしたら留守頼むからね!」

「はぁ~い。いってらっしゃい空梨ちゃん♥」

「孫悟飯といい、子を持つ親とは忙しいな」

 

 空梨は何故こいつらに留守番を任せてるんだ? と疑問を抱きつつも、時間が迫っているため慌ただしく出かけて行った。

 ペンギン村は舞空術で飛ばしたとしても、意外と遠いのだ。

 

 

 

 残された元ボス二人であるが、なんとなくワイドショーを見てはいるが特に面白くもない。

 

「暇だ」

「暇ね」

 

 もう一度繰り替えす。

 

「……どうせ見るならもう少し面白いものを見たいものだな。どれ」

 

 セルがそう言うなり、ワイドショーを映していたテレビ画面が別のものに移り変わる。

 そこには……。

 

『俺は悟空でもベジータでもない。俺は貴様を倒すものだ!』

 

 それを見たブウ子は黒目と白目が反転している特徴的な目をぱちくりさせ、次いでパンっと手を叩いた。

 

「やっだ、ゴジータちゃんじゃな~い! しかもしかも! もしかしてこれって"劇場版"かしらぁ!?」

「流石に察しが良いな。その通りだ」

 

 脚を組み得意げに解説を始めるセル。

 

「孫空梨の記憶をもとに再現した。本人の記憶自体はもはやおぼろげだろうが、私にかかれば再現など容易い事なのでね」

「そういえば記憶を直接読んだことあったのよねぇ、あなた。わたしも取り込んでた時に色々見たけど、映像への再現なんて思いつかなかったわぁ」

 

 もしこれを出かける前に空梨が見ていたら「馬鹿野郎どもがよぉ!!」と悲鳴を上げていただろうが、本人不在である。

 セルやブウ子、ビルスなど一部には空梨が転生者であり、転生前の世界にはドラゴンボールという漫画でこの世界の事が描かれていたことは知られている。が、基本的に他の者は知らない秘密事項だ。

 だというのにご丁寧にアニメに再現などされている。もし見つかれば説明が非常にめんどくさい事になるのは想像に難くなかった。

 しかしそんな指摘をする者は今ここに居ない。居るのはお互いが空梨の記憶を有していると知っている、人外二人だけである。

 

「いいわね、いいわねぇ! 記憶で見たことはあったけど、こうやって目にするのはまた面白いわ! 視聴者視点ってやつね! あ、わたしも出来るかしら……出来た!」

「…………。まあ、もともと魔術はお前の方が専門分野か」

「ふふん。魔人ですもの」

 

 ブウ子が人差し指をぴっとテレビに向けると、画面が切り替わる。そこに映し出されたのは小さな頃の孫悟飯だ。眼がくりくりした恐竜と戯れているようである。

 すぐさま真似をされたことに多少思うところはあるようだったが、いい時間の潰し方を見つけたことに変わりはない。

 

 

 

 誰もいないのを良いことに、元ボス二人は原作映画の垂れ流しという暴挙を堂々と始めたのであった。

 

 

 

 

 そして何作か見た後。

 

「…………そういえば、これがあった世界では大人気だったのよねぇこの作品」

「世界規模でな。まあ私が出ているわけだから当然だが……」

「あらぁ~? それを言うならわたしの魅力じゃないかしらぁ」

「貴様は出ていないようなものだろ」

「悪ブウがもともとの姿ですもの。同じよ! ああそうそう、今はそれはどうでも良くて。可愛くて賢いわたしはちょっ~と面白い事を考え付いたのよ」

「ほう、面白い事」

 

 可愛く賢い、の部分をスルーしつつも興味はあるのかしっかり食いつくセル。今ではプロトセルに同化してしまったが、未来から来たセルの方は暇を理由に時を超えてきたのだ。

 暇とは不死の存在をも緩やかに殺す穏やかな毒である。

 それを良く知るがために、面白い暇つぶしには貪欲だった。

 

「人気作って、原作が終わっても続編とか作られるじゃない? ドル箱コンテンツならなおさら」

「言い方が生々しいな」

「まあまあ。……で。もしかしてなんだけど、空梨ちゃんが知らない続編があったりもするんじゃないかしらって思ったのよ! ゴクウブラックまでよ、空梨ちゃんがぎりぎり知ってるの! あれきっと尺的にテレビシリーズだわ。でもって再人気出たなら当然出るでしょ! 続・劇場版!」

「だから言い方が生々しいぞ」

「まあまあ」

 

 ブウ子もその辺は自覚しているが、自覚した上での発言だ。

 人外二人にとってはビルス達同様、自分たちが創作物の中の存在などということは些末な事。肝心なのはそれを承知した上でどう楽しむかだ。

 特にこれから長い時を過ごすであろう彼らにとって、アンテナは常に張っていたいところである。

 

「今はこうして空梨ちゃんの記憶から再現してるじゃない? 当然、彼女が知らない部分は見られない。……でもわたし達はすでに「わたし達が創作物として存在する次元」の存在を知っている。ここまで言えば察しの良いセルちゃんならわかるかしらん?」

「……まさか別次元の覗き見をしよう、と言うのかね?」

「ピンポンピンポン、だーいせーいかーい! ぱちぱちぱち。それよ! 一人じゃちょっ~と厳しいけど、わたしと同じく魔術にも秀でていて、別次元を認識しているセルちゃんがいるなら不可能じゃないわ!」

 

 名案! とばかりに発言するブウ子の中ではすでにそれは決定事項のようだ。

 だがこうして暇つぶしに映画の上映会などやっているのだ。正直セルも乗り気である。

 

「ふむ……。まあ、物は試しだ。いいだろう、のってやる」

「さっすがセルちゃん! そう言ってくれると思っていたわ!」

 

 了承を取るや否や、非常に気軽な調子で人知を超えた魔術が一般家庭のリビングで展開され始めた。もし魔術を扱う者が見れば卒倒しそうなほどに高度なそれを、なんなく操る緑とピンク。

 そして手ごたえはすぐに表れた。

 

「む、ここか?」

「みたいねぇ。次元が違うからかしら? なんだか世界の見え方が違って面白いわ」

 

 探り当てるやいなやチャンネルを合わせるようにテレビへと出力する。するとそこには何やら賑わいを見せている映画館らしき場所が映し出された。

 

「さてお目当ては……ほう? 見たまえ。丁度映画がやっているようだぞ。読みが当たったな」

「あ、本当だ! ふふふん、さっすがわたし! え~と、なになに? ドラゴンボール超スーパーヒーロー……? ふ~ん。ヒーロー。ヒーローねぇ」

 

 映画のタイトルを見るなり腕組みをするブウ子。その視線はどこか厳しい。

 

「でも悟空ちゃん達ってヒーローって感じとはちょっと違くなぁい? 周囲からしてみればそう見えるかもだけど、いざスーパーヒーローなんてお出しされちゃうと、なんだか首を傾げるわ」

「発言が厄介なファンだぞ」

「は? 違いますけど? これはかつて戦ったものとして、今までの彼らを生で知るからこその発言ですけど??」

 

 見る前からマイナス評価を匂わせるブウ子のうがった見方はひねくれ者ゆえか、それとも日々評価と向き合うスイーツブロガーだからか。

 興をそがれ眉根をよせるセルだったが、映画の看板に興味を惹かれた。

 

「いや、しかし今回はもしかすると孫悟空が主役ではないかもしれんぞ? 見ろ。孫悟飯とピッコロが全面に押し出されている」

「あら本当」

 

 手前に居る今回の敵らしき相手に見覚えはないが、確かに広告ど真ん中を飾っているのは孫悟飯とピッコロだ。一目置いている二人が主演となればセルとブウ子も姿勢を正すと言うもの。姿勢を正したうえで、次元を超えた無銭映画鑑賞を決め込むことにした。

 ちなみにブウ子はキャラメルポップコーンとコーラを手にスタンバイ済み。しゃかしゃかポテトとジンジャーエールを要求してくるセルに気前よく品を用意してやることも忘れない。なんといったってこの奇跡を再現可能にした大事なゲストである。

 

「さぁて、観ましょうか!」

 

 

 そうして、映画の上映が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日ピッコロは悟飯夫婦に招かれ悟飯邸を訪れていた。なんでも娘のお遊戯会が素晴らしかったから映像記録を一緒に見てほしいとのこと。

 

(ふむ。ちゃんと娘の行事に参加しているようだな)

 

 研究漬けの弟子に対し修行云々を考える前にそんな思考へ至る当たり、ピッコロ自身も相当悟飯の娘であるパンに甘い。

 従姉弟に年の近い面々がいるため遊んでいるうちに勝手に強くなる気がしないでもないが、もう少し大きくなったらピッコロがまず基礎的な力の使い方を教えてもいいかもしれないと考えている。あの悟飯の娘だ。当然、秘めている潜在能力は高いだろう。

 

「あ、ピッコロさん! いらっしゃい!」

 

 上空から下降していると、家の中から悟飯が出てきて嬉しそうに出迎える。気を察知したのだろう。実のところ感覚が鈍ってはいないか? と少々試すつもりでぎりぎりまで気を押さえていたのだが、杞憂だったようだ。

 そのことを口にすれば悟飯は困ったように後頭部をかく。

 

「定期的にセルの奴が来ますからね……。おちおち鈍っていられませんよ」

 

 今日なんかお遊戯会直前に来たんですよ。まったく僕の予定も考えてほしいですよ……とブチブチ愚痴をこぼす悟飯だったが、ピッコロからすれば常に気を張っている部分があるのは良い事だと思っている。そうでもしないとこの弟子はすぐに大好きな研究に没頭し、せっかくの才を錆び付かせるだろう。

 

(まあ、潜在能力は随一なんだがな)

 

 もし錆びついたとしてもなにかのきっかけさえあれば、孫悟飯はもう一段階上の領域に達する事さえできる。そんな確信がピッコロにはあった。

 それはもしかすれば、同化したナメック星の最長老がもたらす勘なのかもしれない。

 

「パ~ン! ピッコロおじさんが来たよー!」

「…………」

 

 ピッコロおじさん呼びに思うところがあったが、腕を組んで黙る。家の奥からパタパタと軽い足取りが聞こえてきたからだ。

 そして廊下の角からくりくりした目を輝かせて飛び出てきたおかっぱ頭の女の子を目にした時……なんの前触れもなく、ピッコロを背後から二つの衝撃が襲った。

 

 

 

「「ピッコロぉ!!」」

 

「ぐはぁ!?」

「!?」

 

 

 

 バァン! っと勢いよく叩かれた背中に何とか耐え、たたらを踏むに留めたが突然の強襲に目をむくピッコロとそれを見ていた悟飯。

 

「ピッコロさん! ……と、あ~! ブウ子ちゃんとセルもいる!」

 

 珍客を見ても歓迎の意志を見せた少女とは裏腹に、突然現れた人外どもに「いきなりなんだ貴様ら!」と怒鳴りつけようとしたピッコロ。

 だがその前に彼は波に飲み込まれた。言葉という波に。

 

 

「お疲れ!」

「ああ、流石だな」

 

 

 何がだ? と問う前に。波状攻撃のごとく言葉が押し寄せてきた。

 

「もうほんっと! お疲れさまとしか言いようがない涙ぐましさだったわ!」

「あんなことも出来たのだな君は。実に器用なものだと感心してしまったぞ」

「けどネーミングセンスはちょっとどうかと思うわぁ! シンプルイズベストって言ったらそうかもだけど」

「フッ。そこは私を見習ってもらいたいところだな」

「お前が言うなってツッコミ待ちかしらセルちゃん?」

「どういう意味だ」

「そのまま以外に何かある? あ、そうそう! そういうの全然ダメなのかしらって勝手に思ってたけど機械の操作も出来るのね~! スマホ持ってる? 持ってないならわたしがプレゼントするから連絡先交換しましょ! それとも飛行機でドライブにつれてってもらおうかしら~」

「いやそんな事より私と共にドラゴンボールを集めに行かないか? な~に。ちょっとした実験だ。ピッコロにも益のあることだ是非試してみようそうしよう」

「ちょっと割り込まないでよ暑苦しいわねセミはミンミン樹にでもとまって鳴いてなさいよ。あ、でも待ってやっぱりあなたセミじゃなくて緑のゴキブリじゃなぁい? あの羽ばたき方はゴキでしょ」

「消されたいのか貴様。それにあれは私ではない。まず色が違うだろうが」

「兄弟みたいなものじゃないの~。けどやっぱりこの世界一番やばいの科学者よね。あのレベルを量産とかもう神域よ」

「同感だ。まあ野放しにしていれば勝手に面白いものを作ってくれると思えば悪くはないがな、ククク」

「ま、それはそれとして! 今のピッコロちゃんもセクシーで魅力的って思うけど、もうちょっといかつくなった感じもかなり素敵よね!」

「だろう! だから私がこちらのピッコロも!とだな」

 

 

「……なんだこいつら」

 

 

 もともと訳の分からない存在ではあるが、今日は輪をかけて言っている内容が理解できない。ただ分からないなりに妙な期待を寄せられていることだけはひしひしと感じ、ピッコロは思わず腕をさすった。寒気がする。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! いきなり来て何ですかあなたたち。ピッコロさんが困ってるじゃないですか!」

 

 勢いに押されているピッコロを庇うように間に入った孫悟飯。

 標的が移り変わる。

 

「孫悟飯!」

「孫悟飯!」

「は、はい?」

 

 フルネームでそれぞれに呼ばれ眼鏡がずり落ちる。

 

「やはりな私の目は間違っていなかったと思ったわけだ。なんだあの姿は!? まだ隠しているものがあるんじゃあないか! 日々の手合わせではまだ足りないな私と一緒に宇宙へ旅に出よう孫悟飯お前の伸びしろはまだそんなものではない」

 

 なにが? と聞けないまま次はブウ子だ。

 

「ちょっと髪型のバランス悪いかしら? と思わなくもないけどそれを加味してもかっこいいんだからずるいわよね~! なにあのカラーリング!? 美味しいとこ持ってくわぁ~! ずるいわぁ~! でもあそこであの技は分かってるわよね流石よ!」

 

 このままでは何か得体の知れないものに飲み込まれる。

 そんな防衛本能から、悟飯はとっさに腕を横に構えた。

 

 

 

「か~め~は~め~」

「え」

「ん?」

 

 

「波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 かめはめ波の余波で玄関が吹き飛びあとあとビーデルに怒られることになるのだが、孫悟飯は語る。「これまでにない怖さを感じた」と。

 

 

 

 余談だがビルスの星での修行から帰宅していたベジータも例の二人に絡まれ「よかったな」「感動した」などと言葉をかけられ寒気を味わったそうな。

 

 

 

 

 

 




ドラゴンボール超スーパーヒーローめちゃくちゃ面白かったです!!という気持ちだけで書きましたすみません。

主人公の霊圧が消えてる……(いつもの


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