Fate/Grand Order 〜Also sprach Zarathustra〜 (ソナ刹那@大学生)
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プロローグ

性懲りも無く続けるか未定のSSを書き始める。
反響次第です。
絶賛無人島周回中



夢を見た。

それは鮮明に浮かびあがり嫌なほどにこの身に直接焼きつけ、それでいて薄い霧がかかったように不透明で、相反する感覚が同時に襲ってくるようなそんな奇妙な夢を見た。

 

ひどく辛く苦しい夢だった。

勿論のこと、いくら魔術師の才能があったとしても、そういう創作物の中のものなどに触れることはなく、極々普通の人生を送ってきた自分に、全身血みどろになった経験などない。

勿論彼の苦痛など知らない。知りようがない。当事者のようで傍観者。彼が戦う姿を後ろで見ながら、まるで戦っているのは自分のようなおかしな距離感がある。

彼は傷つきボロボロになって、満身創痍の言葉を当てはめるにはこの上ない適例だと、見ているこっちが目を逸らしたくなるような光景。

彼もまた同じなのだ。本来、自分のように何も変哲のないただ普通な人生を送るはずだったのだ。

毎朝アラームを止めて起床して、学校に行きたくないとぼやきつつ仕度をし、友人と教室でちょっとした話題で少し盛り上がり、眠気を堪えながら授業を受けて、夕暮れの中帰路につく。

そういう目立った変化のない日常を送っていく。それが人間の大半の命の期間の内容。彼もそうであったはずだった。

しかし彼は前を見ていた。微かに光る希望など、絶望という名の闇に塗り潰され、今にも消えてしまいそうな貧弱な一条。縋るには小さすぎて、追い求めるには遠すぎて、手にするには困難すぎる。

それでいても彼はそれに手を伸ばし、それから目を逸らすようなことはしない。深い深淵の中、圧倒的な敗北色に彩られながらも、決してその足を止めなかった。

ひたすら耐え抜く戦い。楽観視出来る要素など微塵もなく、あまりにも勝利は遠かった。

 

あまりに辛く苦しい夢だった。

辛く苦しい中、ただ一つの夢を望み戦い続けるその姿。

そこにいたのは、悲しみに溺れ、憤りに染めた、ただの日常を求めた1人の男だった。

 

辛く苦しい、そんな奇妙な夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーフォウ!キュウ…キュウ!」

「……な、んだ?」

 

誰かが俺のことを呼ぶ声が聞こえた。…いや、誰かというより何か、か。それは人の声というより、動物的な何かの鳴き声。

俺を呼ぶと言ったが、正確には俺の近くで大声で鳴いている。時々俺を心配しているかのように舐めてくる。

いやまぁ、ありがたいけど…ちょっと舐めすぎだなうん。

 

「………あの、先輩?今は朝でも夜でもありません。加えて言うならここは廊下であって寝室ではありません。それとも日本にはそういう習慣があるんですか?」

「いやない。あってたまるか。………君は?」

 

縁側で日向ぼっこして寝てしまうというのは、日本人なら誰でも分かり得る経験だろう。

って、そんなことはどうでもいいんだ。今一番気にすべきなのは、目の前の見知らぬ少女に突然()()と呼ばれた現状だ。

 

「…それは難しい質問です、返答に困ります。わたしの存在意義の証明を求めてるのか、それともなぜこの世で生きているのか、でしょうか?」

「まさか「君は?」の中でそんなに深く意味を取られてるとは思わなかった」

「では、「わたしはただの流浪人。名乗るほどの名前など持ち合わせてございやせん」…とか?」

「いつの時代の寡黙な武士だよ」

「あ、いえ、すみません。名前はあるんです、ちゃんとした名前が。ただ、あまりこういった場面に遭遇する機会がないので、印象に残るような自己紹介というものが分からなくて…」

「少なくともその印象のつけ方は正解とは言えない」

 

そもそも印象づける自己紹介をする必要がないと思うが?それよりもまずこの状況の説明をして欲しいんだ。

 

「今の状況…ですか?わたしがフォウさん…あ、この可愛らしい小動物がフォウさんです」

「フォウ!」

「あ、どうも」

「フォウさんとこの廊下を歩いていると、廊下でグッスリと寝ていらっしゃる先輩がいました。先輩はこのカルデア唯一の日本人ですので、もしや日本には硬い床の廊下で寝る習慣があるのかと。縁側なるものがあると聞きましたし。しかし、万が一そうでなかった場合、起こさないわけにもいかないので、こうやって声をかけたわけです」

「君の一般的な感覚にありがとう」

 

さもなくば、俺は起きた後に全身を痛めることになっていた。今も多少痛いが。特に首。

 

「フォウ!キュー、フォフォオ!」

 

目の前の女の子の肩で何かを伝えたいのか、あいにく人語以外喋れない俺には、彼(彼女?)と意思疎通は出来ない。

何を言いたくて鳴いたかわからないまま、その毛並み良き生物は廊下の先を駆けていった。

 

「フォウさんはああやって、突発的に活動しています」

「…不思議な動物だ」

「えぇ。わたし以外滅多に懐かないのですが、どうやら先輩は気に入られたようですね。おめでとうございます、栄えあるフォウさんお世話係第2号です」

「…え?今さらっと押し付けられた?」

 

第2号って滅多に懐かないどころか君以外ゼロじゃないか。というか君は結局誰だ?

 

「やっと見つけたぞマシュ…おや?先客がいたのか」

 

まだ第一村人の詳細も分かってないのに、第ニ村人が現れた。シルクハット的な帽子を被っている目の細い男性。

 

「君は…あぁ、今日から参加する新人さんか。私はレフ・ライノール。このカルデアの技師をやってる。よろしく」

「…よろしくお願いします」

 

差し出された右手を自分の右手で握る。ただの握手。

…けど、なんか苦手だ。別に何か嫌な思い出があったわけではない。当然だ。今初めて会ったのだから。

人間がGを本能的に嫌うように、理屈とか確証とかそういうの抜きで、根本的なところから受け付けない。…Gほど激しく嫌悪してはないぞ当然?さすがにそれは失礼だし。

ともかく、なんか苦手だ。無意識に口角を上げるのがぎこちなくなるくらいに。

 

「一般応募のようだけど…訓練期間はどれくらいだい?」

「…いいえ、俺は偶然魔術の才能が少しあって、偶然見つかって、偶然数合わせ枠が空いてたからやってきただけなんで。訓練もなにも、最近魔術について知ったくらいですよ」

「そうか…申し訳ない。配慮が欠けていた」

「いえ、慣れてるっつうか、そういう風に扱われるだろうなとは思ってたんで大丈夫です」

 

そりゃ魔術師の名門とやらから48人中38人来ているんだ。

みんなこの作戦に大きな志しや希望や願いを持ってやって来ている。なんせ世界を救おうとしているんだ。並大抵の覚悟なんかではない。

そういう人たちからしてみれば、つい最近まで世界の終わりどころか明日の確実性すら疑ってなかった一般人だった奴なんかに、ありがたく親切に接してくれと頼む方が難しい。こっちもごめんだ。

ああいうタイプはだいたいプライドが高いって相場が決まっている。勝手な憶測だけど。よく言えば自分たちが只者じゃないということに誇りを持っている。それは同時に見下しているとも言えるが。

しかも自分はギリギリのギリギリで採用された身。さっき言った48人の内の残り9人はちゃんと魔術について勉強してきている。自分以上に。付け焼き刃なんかじゃない。

俺だって、今のままでいいとは思ってない。だから空き時間も魔術の勉強してたんだし。全くの素人が強化の魔術をどうにか形にしただけ褒めてほしいくらいなものだ。いくら才能があると言われたって、本片手にあとは独学でやるのは無謀としか言いようがない。

 

「そう卑屈にならないでくれ。今回のミッションでは、誰1人も欠かせないんだ」

 

必要な人数を集められたことは喜ばしいと。

そうは言っても、いまいち現実味がない。世界は滅びますなんて言葉を、逆にどうすれば自分の確かな知識の1つとすることが出来るというのか?俺の数少ない交流関係のある人たちに、どう言い訳すればいいのか本当に悩んだんだぞ。なんとか誤魔化したけど。

 

「それでマシュ、彼とは知り合いかい?君がこうやって誰かと喋るなんて珍しい」

「いえ、先輩がここで寝ていらっしゃったので声をかけたんです」

「寝て…あぁ、きっと量子ダイブの影響だね。慣れてないと頭に来て夢遊病のようになってしまう。その時にマシュに遭遇したんだろう」

 

量子ダイブ……って、ここ入るときのよく分からないまま進められたあれか。

なんかいきなり違う空間に飛ばされたかと思えば、なんか誰か出てきて、指示くれって言われるから適当に出して、いつの間にか戦闘が終わってたあれか。

言葉から察するに、VR(Virtual Reality)つまり仮想現実の発展系的なものだろう。視覚だけではなく、全身のあらゆる感覚を電脳世界へと移行し、さも異世界トリップしたような体感を味わえる。

そういうことがあるのなら前もって言ってくれ。もしかしてパンフレットに書いてあったのか?あんなに分厚い資料の束を優雅に読み込めるほど、俺は読書家じゃない。せめて漫画がいい。…ただの責任転嫁だけど。

 

「君を今すぐ医務室に連れて行くのが最善だと思うのだが…申し訳ない。すぐに所長の説明会がある。君にもそっちへ出席してもらわないといけない」

 

所長…説明会…。面倒だ…。

 

「…確かに君の今の状況から判断するに、憂鬱なのは容易に想像出来る。だが、その顔を所長の前でするんじゃないよ?君も新しい職場だ。上司とは上手くやって行きたいものだろ?」

「いつから俺はサラリーマンになったんですか…」

「サラリーマンよりは報酬はいいぞ?その分、その肩にかかる負担と使命は重いがね」

 

そりゃあね。文字通り人類の命運を賭けたものだ。辞めたいって辞めれる代物じゃない。辞めたいけど。というか帰りたい。

 

「さぁ、中央管制室へ急ごう。彼女は秀才で優秀だが、その分使命感が強い。特に怠惰なんかは、彼女の顔を歪めるには十分過ぎるからね。私とて彼女に怒られるのは御免だ」

「わたしも同意です。普段は優しい方ですが、少々めんd…厳しい方ですので」

 

今面倒くさいって言おうとしたよねマシュ?さりげなく毒吐きそうになってたよね?ポロリと本音漏れてたよね?

 

「では行く前に何か他に質問はあるかい?」

「質問………あ、この子マシュでしたっけ?」

「はい。わたし、マシュ・キリエライトです」

「あ、はい。どうも。…なんで、マシュは俺のこと先輩って呼ぶんです?カルデア歴で言うなら彼女の方が先輩だと思うんですけど」

 

歳も同じくらいのようだし。

 

「あぁ、マシュにとって君たちくらいの子はみんな先輩なんだよ。この子はずっとこのカルデアの中で過ごしていたからね。…けど、はっきりと明言するのは珍しいな。どうしてだい?」

「…先輩は普通だからです。全く警戒心を抱かせません」

 

それ、褒められてる?

 

「人間味があるというか…驚異になる気がしません」

「なるほど!それは重要だ!このカルデアにいるのはみんな癖者ばかりだからね!」

 

なにそれ帰りたい。

 

「私もマシュの意見に参加だよ。君とはいい関係が築けそうだ」

「…そうですか」

 

俺は無理だと思う。

 

「…レフ教授が気にいるということは、所長が一番嫌いなタイプの人間ですね」

「そうなの?」

「はい。ですので、このまま全員でボイコットすることを提案します」

「賛同します」

「まぁまぁ。ここで逃げてしまえば、所長のブラックリストに名前が記載される確率が100%になってしまう」

 

それは嫌だな。穏便なオフィスライフがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きました。先輩は…最前列ですね」

 

なんで48人目の適合者が最前列に座らされるんだ。

 

「顔色が良くないですね…大丈夫ですか?」

「フラフラするというか、凄く眠い…」

「頑張って耐えてください。所長が目で殺そうとしているかの如く睨んでます」

 

どこの英雄ですかそれ。

 

「………」

 

…あぁ、冗談抜きで駄目なやつですねこれは。

 

「…時間通り、とは行きませんでしたが、ようやく全員揃ったようですね」

 

皮肉を隠す気もないようだ。

 

「特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。皆さんは、その才能が故に選ばれ、もしくは---」

 

あ、駄目だ。身体が三大欲求の1つに満たされようとしてる。限界ってやつさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後見事な平手打ちを喰らった。そっちの趣味を持ち合わせてない俺には、なにもありがたくない。悪いのは俺だって分かってるけど、いきなり一発くれなくても良かったんじゃないか?

 

「しまった…」

「しかし無事覚醒したようですね。先輩はファーストミッションから外されたので、先に先輩の自室に案内しますね」

「よろしく…」

 

道中、フォウの奇襲にあったりもしたが、無事たどり着いた。

というかライバル視ってなんだ。動物に同類とか敵対関係と見なされるって、いったい俺がなにをしたって。

マシュは自分の任務のため別れ、俺のライバルことフォウが側にいる。

 

「クー…フォウ!」

「お、おぉ…なんだ?」

「キューキュッ、フォーウ!」

「お、おぉ…さっぱりわからん」

 

いつか意思疎通は出来るのだろうか…?

 

「はーい、入ってまーすって、えぇぇぇぇぇ!?誰だいキミは?」

「今の反応と台詞をそのままセットでお返ししたい」

 

あんたが誰だよ。ここは俺の部屋だぞ。

 

「ついに最後の子が来てしまったか…これでついにボクのサボり場がなくなってしまったわけだ…」

 

だから誰だよ。

 

「ボクかい?どう見てもインテリ真面目医師じゃないか!」

「さっきの自分の発言と思いっきり矛盾してますよ、それ」

「…ゴホン。さてさて、せっかくの機会だ。自己紹介でもしようか」

 

最初からそれしか望んでないっすよ。

 

「ボクの名前はロマ二・アーキマン。みんなからはDr.ロマンと呼ばれ尊敬されてるよ」

「馬鹿にされてるの間違いじゃなくて?」

「…おかしいな。ボクたち今初めて会ったばかりだよね…?その割には結構辛辣な受け答えが帰ってきたんだけど」

 

気のせいです。

 

「まぁボク自身気に入ってるし、キミも気軽に呼んでくれよ。実際言いやすいし」

 

…この人なんかふんわりしてるな。性格が。髪もだけど。

 

「それで?だいたいの経緯は分かったよ。キミも所長の雷を頂いたんだろ?」

「えぇ。平手打ちという名の雷ですね」

「ならばボクたちは仲間だ。なにを隠そう、ボクも怒られて待機させられてるからね」

「そんなに堂々と言うくらいなら、隠しておきましょうよ…」

 

そりゃあ医者っていうなら、量子ダイブ時には必要ないだろうし、いたらいたで悪い意味で緊張感なくなって、成功するものも失敗しそう。

 

「…今、凄く失礼なことを考えてただろう」

 

勘違いですよ。

 

「ロマ二、もうすぐレイシフトが始まる。念のためこちらに来てくれないか。Aチームは問題ないが、Bチーム内に数名、それ以降にも複数名変調が見られる。不安によるものだろうが、レイシフトに響かないとは言い切れない」

「やぁレフ、それは気の毒なことだね。いるだけで緊張感が削がれると名高いボクの小粋なジョークでもいるかい?」

「それもいいが、それよりかはハズレのない麻酔の方がいい。所長の言葉を引きずってないで、早く来てくれ。医務室からなら2分程度で来れるだろ」

「オーケーオーケー、出来るだけ急ぐよ」

 

無線を切った。普通に嘘ついたよこの人。

 

「…さてどうしよう。5分はかかるぞ。…まぁいいか。多少は遅れたって怒られやしないさ」

 

…やっぱりふんわりしてるなぁこの人。

なんかレフ教授について、色々説明してくれたけど、正直難しい話でよく分からない。要は、あの人がこの施設の中枢を担う一部分を作った凄い人だということ。

 

「さて、お呼びもかかったし早く行こうか---」

 

途端、電気が消え周りが暗くなる。そしてつかの間もなく、警報が鳴り始める。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから避難してください。繰り返します。中央発電所、及び中央管制室---』

「…爆発音!?なにが…!」

 

モニターに中央管制室の様子が映る。

そこに広がってたのは、火が一面を包んだ地獄絵図。

設備は全て崩壊して、ただの瓦礫と化している。

 

「…マシュ」

 

脳裏に過るのは、さっきまで一緒にいたあの少女。彼女は普通にミッションに参加すると言っていた。つまりそれは…、

 

「キミは避難しなさい。ボクは管制室に行く。もうじきここも閉じ込められる。その前に早く!」

 

そう言って部屋を出ていくドクター。

残されたのは、突然のことで脳内がパニクってる俺ともう一匹。

 

「フォウ………」

 

そんな声で鳴くなよ。今ならお前の言いたいこともなんとなく分かるよ。分かったという程で言わせて貰えば、そんなことわざわざ言われるまでもないんだよ。

 

「どうする?お前は逃げるか?」

「キュッ!」

「はは、勇敢だなお前。……じゃあ行きますか!」

「フォウ!」

 

なんと言えばいいか分からない奇妙な生き物を連れて、ドクターの後を追った。

…すぐに追いついた、すぐに。

 

「ちょっとなにやってるの!?第二ゲートは反対方向だよ!」

「行くよう勧められましたけど、誰も行くなんて言ってないですよドクター」

「なにを言って…!」

「それにほら、魔術師かぶれでも人手があった方がいいでしょ?八割方ドクターより働けますって」

「それはそうだけど…」

「ほら、言い合ってる時間も勿体ないって!」

「…あぁもう!閉まり切る前に戻るんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…生存者なし。無事なのはカルデアスのみ。明らかに人為的なものだ」

「それって…内部の人間によるものってことですか?」

「多分ね…考えたくないけど」

 

『動力源の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への移行に異常 が あります。職員 は 手動で 切り替 えてくだ さい。隔壁閉鎖 まで あと40 秒。中央区 画に残っ ている職員 は速やか に避---』

 

アナウンスにも異常が見え始めた。無機質な声が示した通り、制限時間が迫ってることの兆候。

火もますます大きくなり、酸素も薄くなってるようだ。変な汗が噴き出す。

 

「ボクは地下へ行く。キミは早く来た道を戻るんだ!いいね!」

 

そう言い残して、地下へ続く道を駆けて行く。

 

「さて…どうすっかなこの状況」

 

あまりにも無遠慮なまでに悲惨な状況に危機感を告げるアラームが、俺の中で喧しく響いている。

人生に一度あるかないか、むしろあった人の方がマイノリティな境遇は、俺をより宙ぶらりんな不安定な気持ちにさせる。

そのせいだろうか。妙に落ち着いてる俺がいる。すぐそこで、死が俺を食おうと口を開けて佇んでるというのに。不思議なものだ。人間というのは、あまりに絶体絶命な状況だと取り乱すんじゃなくて、むしろ一周回って落ち着くようだ。

だいたいこんな絶滅的状態下で、俺1人生き残ってなんだっていうんだ。出来損ないだから助かったとか、皮肉にしては棘が鋭利過ぎて笑えない。

 

『システム レイシフト最終段階に移行します。

座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

「…なにか始まろうとしてるんですけど」

 

『ラプラスによる転移保護 成立。

特異点への因子追加枠 確保。

アンサモンプログラム セット。

マスターは最終調整に入ってください』

 

最終調整って…メンタル的な問題ですかってんだよ。

プログラムに悪態をついた時、瓦礫が動く音がした。

 

「………あ」

「マシュ!」

 

瓦礫を退けてマシュの身体を引っ張り出そうとする。しかし、マシュを押し潰さんとするそれらの重みが、俺を妨げる。

 

「今助ける!」

「………いい、です。助かり、ませんから。それ、より…逃げて…」

「あぁもう煩いな!君が決めるんじゃねぇよ!助けるか助けないかは俺が決めることだ!」

「先、輩…」

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において人類の痕跡は 発見 出来ません。人類の生存は 確認 出来ません。人類の未来は 保証 出来ません』

 

カルデアスが真っ赤に変化する。猛々しく燃え盛る炎はすぐ側まで侵している。そして隔壁も完全に閉ざされた。言わずもがな、結末が見える。

 

「閉まっちゃい、ました…。外にはもう…」

「そうだな」

「…落ち着いてるんです、ね」

「あぁ。なんでか()()()()()()()()()()()()()って強く思うんだ」

「確証、は…?」

「ないね。無根拠だ。けど、確信してる」

「そう、ですか…」

 

『コフィン内マスターのバイタル基準値に 達していません。

レイシフト 定員に 達していません。

該当マスターを検索中………発見しました。

適応番号48 藤井蓮 をマスターとして 再設定 します。

アンサモンプログラム スタート。

量子変換を開始 します』

 

俺たち2人の身体は光の粒へと溶けていく。

その行き着く先は天国だろうか?だとしたら天使のお出迎えくらい欲しいものだ。

 

「先輩………手を………」

 

俺の手を掴んだマシュがいた。

 

「わたしも……先輩の言う事……信じて、みます……」

「…あぁ」

 

『レイシフト開始まで あと3』

 

掴んだその小さな手を

 

『2』

 

決して離さないようにと

 

『1』

 

強く、強く握りしめたまま

 

『全行程 完了(クリア)

ファーストオーダー 実証を 開始 します』

 

「藤井先輩………」

 

俺の意識は途絶えた。




勉強しないといけない受験生なのにね。
無人島周回に勤しむ。
水着きよひー手に入ったはいいが、ランプ集めるの大変すぎー
感想お願いします。


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特異点F:炎上汚染都市 冬木
第1節 燃える街


10000文字書ける人とかなんなんだろうね。
書く気はもともとないけど。
そもそもプロローグが8000文字オーバーってのが、自分にとってかなり暴挙なんですよ。
もうあんなに書かない多分。
というか今回に至っては、本編より前置き部分の方が密度濃いってなんだよ



君は既知感というものを感じたことはあるだろうか?

読んで字の如く、既に知っているように感じる感覚のこと。

色々諸説はあるが、どれもが未確定のままで裏付けのある説はないという。

一般的にデジャヴとは、「一度何処かで見たことがある」と確信するものではない。「一度何処かで見たことがあるような気がするけど、何処だったか思い出せない」という不確定要素の方が強い。

既視感という言葉に変わることもある。意味は同じく「一度何処かで見たことがあるような感覚」。この状況、この境遇、この景色。一度体感したとふんわり脳が告げる。

中には夢で見た光景が、現実の中で体感することもある。俗に言う正夢だ。これもある種既視感の一つと言えるだろう。

既知感、既視感、正夢…。

どれにしろ、現段階で科学的に絶対を証明することは出来ない。第一、既知感というのは、意識的に起こせるものじゃない。並の日常の中で、偶然に想起されるもの。それを意図して起こすのは、現技術では不可能だと言われている。

 

ならば、考え方を変えてみよう。

「発展を重ねた科学は魔法と同じである」。こんな言葉がある。確かに。言われてみればその通りだ。

遥か昔、遠く離れた知人とほぼタイムラグなしで言葉を交わせると誰が想像出来ただろう?

遥か昔、遠く離れた大地に数日と言わず数時間で辿りつけると誰が想像出来ただろう?

遥か昔、遠く離れた光景を視聴でき、自在に空間の熱を変化させ、馬よりも速く移動が可能になると誰が想像出来ただろう?

要はそういうことだ。科学とは、今持てる術を使い不可能だったことを可能にするものだ。

先に言った科学と魔法の違い。それは現時点で可能である確率があるかないかだ。

例を挙げれば瞬間移動がある。現在、距離を距離としない移動が出来るのは精々データぐらいだ。物質そのものを移動することは出来ない。故に今瞬間移動は、魔法に代表される神秘の一つである。

では仮に、幾らかの時が経ち瞬間移動が可能になった未来が訪れたとしたら?それは神秘と言えるだろうか?否、科学的に技術を用いて可能になった瞬間移動は神秘ではなく科学だ。

どういった機器を用い、どういった手段を使い、どういった代償が生じるかはわからない。だが、携帯を用い、電波による送受信を使い、代わりに費用が生じる現代の通信手段のように、瞬間移動が日常的に大衆に使われるようになれば、それは科学的発展の一例として刻まれるだろう。

 

では、現在科学で証明されない既知感は()()()()()神秘と言えるのではないか?簡単に言えば、神様の仕業だとか、世界の抑止力だとか、そういう突拍子ない世界観の話。

あくまで仮定の話ではある。だが、もし世界が既知感を与えてると言うのであれば、それは避けられぬ事象だ。

一概に否定は出来ない。魔術の存在そのものが神秘だからだ。

 

この世界において、魔術師は日の射さない陰の世界の住民だ。だからその存在はお伽話の中の一つに過ぎず、多くの人々はその存在を容認しない。それも科学が優秀だからだろう。

事実、魔術という神秘が存在する以上、既知感を始めとした現代の英知で明らかにならない事柄は、神秘による恩恵もしくは弊害かもしれない。

 

長話を経た上で、再度問おう。

君は既知感というものを感じたことはあるだろうか?

そしてそれは偶然に起こったのだろうか?

はたまた、自分たちには計り知れない何かによって起こされたものなのだろうか?

 

そして既知は、君にとって祝福だろうか?それとも、苦痛だろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌声が聞こえる。

それは透き通った甘美な音色で耳へと流れ込み、俺の身体中をゆっくりと流れ、吐き出した息でさえも満ち足りた気を纏い、瞬間に完全な魅了に堕とすほどだった。

理解出来ない言葉の旋律。どうやら日本語ではなさそうだ。聞いた感じ英語でもない。聞き馴染みのないフレーズばかりが響いている。イタリアかフランスあたりだろうか?そういう雰囲気を感じる。

いったい何の歌なんだろう?詩の意味を理解出来ないから、ただ推測することしか出来ない。

だがきっとそれは、この世において賛美されるのが当然であるほどの素晴らしき歌だろう。それは確信に近い何か。その紡ぐ言葉が、何を伝えようとしているのか、何を成そうとしているのか、何一つたりとも分かりはしないが、そう確信させるほどに俺は純粋に聞き惚れていた。

そして、耳から入り込む祝詞と信じて疑わない歌う声に没頭していた意識が、視界が開けるのに伴って覚醒した。

 

「ここ…は…?」

 

視覚を取り戻し辺りを見回すと、この目に映ったのは果てが見えぬ海辺だった。

時は夕暮れ時、夕日が海の向こうに沈みかけていて、空は茜に染まって輝いている。眩く、鮮明に、全てを包み込む偉大なまでの尊さ。その景色は何にも変え難い安らぎを俺に与える。

何故だろうか?この空間が持つ気配と与える印象というのは、どう考えても日本ではない。和よりは洋。おそらく日本国内では感じることのないような感傷に浸ってしまう。

そして何より俺を心地よくさせるのは、この空間の()()感だろう。全ての時が止まっている。夕日は境界線上に留まり、海に起こる波はその場で泡立て続け、空を漂う雲はこれ以上流れてはいかない。

そう、ここは悠久の時。果てなくこの一瞬が永遠と続く、無限の黄昏時。

 

そして俺は歌が聞こえる方に目を向ける。

 

「ぁ………」

 

息を飲む、きっとこの言葉は今の俺を指すのだろう。

ただ、圧倒された。それは威圧感や恐怖ではない。有り体に言うのならば、神秘的だ。

金色の世界に溶け込むように、それでいてより美しいブロンドの髪。肌は透き通るように白く、触れただけでいとも容易く崩れてしまうような繊細な質感を持っている。碧眼の眼は濁りを知らず、ただただその純粋な眼で俺を見つめていた。身につけた衣類は、使い古されたようなボロボロの布一枚。しかし、そのみすぼらしい姿がより彼女の秀麗さを際立たせている。

純真無垢。汚れを知らず、悲しみを知らず、世界を知らず、まるで生まれた瞬間にこの世界に揺蕩う一種の固定概念のように、質量を伴って実在しているのかどうかすら疑わしくなるそんな危うさ。

そういう意味では恐怖すら覚える。あまりに現実離れしたその存在感、それは容易く籠絡してしまうほど甘く、胸が締め付けられるように儚げ。

 

L'enfant de la punition

 

これがどういう意味か、俺には分からない。けれど何故かその文字の羅列が浮かび上がる。

彼女が口にする調べ、それは不可思議で俺はただただ戸惑いまし感じていた。それすらも陶酔してしまう魅力を持ちながら。

だが………

 

「………待てよ」

 

嫌な予感がする。それは一時的なことか、永続的なこの先の未来の話か。ただ何れにせよ、()()()()がするのだ。

そんな違和感に身体が埋め尽くされていく中、その正体にやっと気付いた。

昔から黄昏時というのは、ただの昼と夜の入れ替わりの時間ではなかった。光から闇に変わる時、それは現実と非現実が交錯する時。それは時に、逢魔時と呼ばれる。

 

「血、血、血、血が欲しい。

 

ギロチンに注ごう、飲み物を。

 

ギロチンの渇きを癒すため。

 

欲しいのは血、血、血」

 

理解を可能にし、意味を持って歌がこの耳に繰り返し届く。

彼女に変わった様子はない。つまりそれは、先程からずっと聴き惚れていた魅力的な旋律は、今聞こえているものと同じであるという証明。

そこに悪はない。そこに邪はない。そこに濁はない。呪いを綴るその歌を、彼女はまるで親が子供に聴かせる子守唄であるかのように、穏やかに無感動にただ淡々と当たり前のように美しく歌う。それが故に恐怖を浴びせる。

 

「欲しいのは血、血、血」

 

俺を見つめる。その緑の目は変わらず澄み切っていて、その無垢さに身体が震えるのが分かる。

風に靡く金色の髪に透けて見えたのは、首元に痛々しく刻まれた斬首の跡。

 

「血、血、血、血が欲しい」

 

あぁ、そうか。

彼女とどういった形で関わりがあるのか知らないが、彼女がどういった理由であのようなことになっているのかはなんとなく分かった。

ありとあらゆるものに神や精霊が宿っているという話は、古今東西様々な地域にありふれているだろう。海や山、作物や動物、中には銃や剣といった武器にもいるのかもしれない。

ならば、処刑器具であるギロチンに存在していたって、別段不思議なことじゃないだろう。

 

L'enfant de la punition(罰当たりな娘)

 

「血が欲しい」

「---っ!?」

 

途端目の前が暗転し、俺の視界は変わっていた。

周りでは、先程まではいなかったはずの群衆の声が聞こえる。

自分はというと、首と手首が木板で固定され、目線を上にやれば鈍く光る重々しい刃があった。

群衆は狂気に溢れ、愉悦を満たし、高揚して大合唱する。

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang.(血、血、血、血が欲しい)

 

Donnons le sang de guillotine.(ギロチンに注ごう、飲み物を)

 

Pour guerir la secheresse de la guillotine.(ギロチンの渇きを癒すため)

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang.(欲しいのは血、血、血)

 

そして、歓声に包まれたまま俺の首は石ころのように、肢体から転げ落ちた。

一瞬の断罪に痛みを感じる暇もなく、繋がれたままの身体を求めるために手を伸ばそうとしても、その伸ばす手がない。

ただ頭のみになった俺が唯一出来たこと。それは、

 

「血、血、血、血が欲しい」

 

彼女の口から鈴のように鳴る、美しくも忌まわしい、呪いの歌を聞くことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---い、先輩!起きてください先輩!」

「キュ、キュー!」

「…起きませんね。………先輩、起きないと殺しますよ?」

 

バサッ

 

「あ、先輩、おはようございます」

「おはようマシュ、物騒なモーニングコールをどうもありがとう」

 

その起こし方は今の俺にとって、特に心臓に悪い。

 

「大丈夫でしたか先輩?」

「何が?」

「いえ、うなされているようでしたので…」

「…あぁ、大丈夫だよ。ちょっとした悪夢を見ただけだから」

 

ギロチンの刑に会うというちょっとした悪夢をね。

 

「それよりマシュ、その格好は……」

「先輩、その説明は後でゆっくりティータイムでも取りつつ話すことにしましょう。…周りを見てください」

「…こいつらは」

 

そこにいたのは異形のもの。人間とは到底言えない化け物。だいたい見た目骸骨だし。

 

「分かりやすく言えば敵です」

「この人たちを交えてティータイム…ってのは無理そうだな」

 

第一、話が通じなさそうだ。というかそもそもティーセット持ってきてないし。

 

「先輩、2人でこの状況を打破します!」

「打破って…」

 

俺たちになにか戦力があるのか?

けどマシュの今の姿と、彼女から伝わってくる只者じゃない存在感。なんでだろう?妙に安心感を感じる。

彼女のことだ。ちゃんと理由があっての発言だろう。だったら、出来損ない魔術師に出来ることは一つだけだ。

落ちていた鉄パイプを拾って強化の魔術を施す。

 

「先輩…」

「寄せ集めの急遽魔術師だけど、戦闘は一応形ぐらいにはなってるぜ?期待はしないで欲しいけど」

「大丈夫です先輩!先輩を守るためのわたし、マシュ・キリエライトですから!」

「頼もしすぎて笑えてくるな」

 

鉄パイプを持っている様はまるでチンピラのようで、そんなチンピラは骸骨に向かって駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まさか、こんなところであいつに感謝するとはな」

 

俺の知人に剣道をやっている奴がいる。しかも多くの大会で名を連ねるような実力者だ。

いつもそいつの訓練に付き合っていた。時には相手をさせられたりもした。馬鹿を言うな。剣道馬鹿のあいつにどうやって勝てるってんだ。自慢じゃないが、万年帰宅部だった俺に、がっつり剣に青春捧げてるやつに勝とうと言うのが端から間違ってんだよ。

けどまぁ、無理矢理付き合わされた甲斐もあったというべきか。

 

「Gaaaaaaa!!」

「ったく五月蝿い…な!」

 

ずっと見て、時には直に体験して、曲がりなりにも身につけた仮初めの剣。心の正しきあり方を鍛える「剣道」を、自分の敵を斬り伏せるための「剣術」へと昇華させる。

敵が落とした剣を拾い構えてみる。

正直、こういう光り物は苦手だ。家にだって包丁すらも置いてなかった。理由を聞かれても困るが、なんかこう嫌な悪寒がする。別に身体が震えるとか、吐き気がするとかじゃない。近づきたくない、というより近づけない。

それでも自分の身を守ることが第一優先だ。好き嫌い言ってる場合じゃない。一応どちらかと言えば大人よりの年齢だし。

 

「あんたが何処の誰か知らないけど、俺らの邪魔をしないでくれ。チャンバラするなら、死者は大人しくあの世でやってろよ…!」

 

この戦場で摺り足は愚行。自分の身に魔術をかけて、筋力及び瞬発力を上げる。

正中線を削ぎ落とすように縦に剣を振る。そして胴体。次に小手。最後に首を狙う。

剣尖が骨に突き刺さり、骸骨の死霊は光の粒子となって消えていく。

 

「先輩!怪我はしていませんか?」

「おぉマシュ。俺は別に大丈夫だけど…何よりマシュ、君のその格好の方が気になるんだけど」

「あ、それはですね、わたしが---」

「あ!やっと繋がった!」

 

通信が入り、ドクターの声が聞こえる。気が抜けるな。

 

「こちらマシュ・キリエライト、特異点Fにシフト完了しました。藤井蓮先輩が同伴して活動中です。健康状態に問題はありません」

「そっか、やっぱり藤井くんもそっちへ飛んでいたか…。コフィンを使わないでレイシフトに成功したのは、本当に運がいい。宝くじで一等が当たったぐらい運がいい………多分」

「おい」

 

適当なところが多いな、相変わらず。(駄目な方向に)ゆるふわ系男子なだけある。

 

「それにしても…なんだいマシュその格好は!?ボクはそんな子に育てた覚えはないぞ!」

「安心してくださいドクター。わたしもドクターに育てられた覚えはありません」

「グサァ……これが親離れしていく娘を持つ父親の気持ちか…」

 

なに感傷に浸ってるんだよ。というか辛辣だな、マシュ?

 

「それよりもわたしの身体を調べてみてください。すぐにこの格好の意味が分かると思います」

「キミの身体状況か?………お?おおおお、おおおおお!?」

「ドクター五月蝿いって」

 

凄い興奮。いかにも衝撃を受けていますというようなリアクションをする。

 

「ご、ごめん!けどこれって…」

「はい、どうやらわたしはサーヴァントになったようです」

 

………え?サーヴァントになった?

というかなれるの?

 

「正確に言うとデミ・サーヴァントです。カルデアはレイシフト前一体の英霊との契約をしていました。しかしあの爆発により、そのサーヴァントのマスターは死亡。そこでそのサーヴァントは同じく瀕死だったわたしに交渉を持ちかけました。自分の力を譲る代わりに、この特異点の原因を排除してほしい、と」

 

つまりデミ・サーヴァントというのは、人間とサーヴァントが融合したもの。人間を強引にサーヴァントにするもの。そんなことが可能だったなんて…。

 

「どうりで身体能力、魔力回路が著しく向上しているのか。…マシュ、その英霊の意識は?」

「…ありません。わたしに能力を託したのち、すぐに消えてしまいました」

「それって、そのサーヴァントの真名も、その盾みたいな奴のちゃんとした使い方も分からないってことか?」

「はい、その通りです。…すみません先輩。先輩のこと守ると言っておきながら、肝心のわたし自身が分からないことだらけで…」

「別にいいってそんなこと。もとより、女は男に守られるもんだろ?だったら、多少不完全であっても今出来ることを、何一つ取り零さないようにやるしかないだろ?」

「…そうですね。はい、その通りです。わたしマシュ・キリエライトはマスターである先輩のために、サーヴァントとして全力で守らせていただきます!」

「だから別に…」

 

…まぁいいか。少し顔が明るくなって、心の中の不安が1つくらい取り除けたようだ。なんせ、キラキラした目でこっちを見てくる。とても健気な眼で。

 

「よし、なんとかなりそ…ん?通信が乱れて来てるな。2人とも、そこから2キロ先に霊脈がある。そこまで行けば通信も安定するだろう。道中、くれぐれも無茶はしないように!いいね!絶対にし---」

「………通信が切れました」

 

お母さんかあんたは。

 

「それじゃあ行きますか」

「はい。…先輩、意外と落ち着いてるんですね?」

「落ち着いてるっていうか…まだちゃんと把握仕切れてないだけ。…まぁそれでも、立ち止まったって出来ることもないし、だったら言われた通りやるしかないって、そういう切り替えが早いだけだって」

「いいえ、先輩。凄く頼もしいです」

「そりゃあマスターだからね。男なら頼られたいし、頼られるくらい良くなりたいもんなの」

 

女が出張ってて男がなにもしないなんて、例え仕方ない状況だとしても納得なんて出来やしない。適材適所って言葉があるけど、それよりも根本的な部分で男は女の前に立たないといけない。

だから俺はマシュのお世話になりっぱなしになるつもりはない。意地でも何でも食らいついてやる。

これ以上俺の日常(日だまり)が奪われないために…。

 




次回はいつになるやら…
所長が登場するんだっけ?
まぁいいや、なんでも

感想等お待ちしております


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第2節 霊脈地へ

弓トリアと槍きよひーを手に入れられてホッとしている作者です。
開拓と勉強の間で葛藤中です。
イシュカ集めようとしたら、あのクエストでスカサハ師匠が使い辛い!だから弓トリアを育てたわけですが、おかげでイベントの種火を全部使い切ったし。しかも最終再臨は出来ないし。勲章ぇ…。
まぁそんなわけであとはのんびり周回していきますかね〜
………勉強どこ行った?



「しかしまぁ、本当一面焼け野原だな」

「はい、悲惨です。…資料中の冬木市は平均的な地方都市で、2004年にこんな大災害があったという記録はなかったはずなんですが。それにこの空間の魔力濃度も異常です。先輩大丈夫ですか?身体に異常を感じたりしてませんか?」

「んーいや、特になにもないよ今のところ。確かになんか、空気が重いというか、若干気怠さがあるけど、寝不足の時の朝くらいなもんだ。大丈夫」

「そうですか…なにか異常を感じたらすぐに教えてくださいね」

 

健気だ。世の男の理想の後輩像を上げるとしたら、こんな子かもしれない。

だからこそ、余計に強く思う。

俺は変化を求めない。俗に言う退屈な毎日ってのを俺は愛している。

ドラマみたいに巨大な陰謀に巻き込まれたりとか、拗れた人間関係だとか、宇宙人などの未知との遭遇だとか。そういう非日常はいらない。

ただただ当たり前の毎日。なにも変哲のない、なに一つ変わり映えのないつまらない日常を何度も何度も味わいたい。常にそれを切望している。

だからこそ、この出会って間もないのに関わらず、俺のことを先輩と呼んで慕うこの子を………

 

「…?先輩?こちらをじっと見てどうかしましたか?」

「…あ、いや……改めて見ると、中々特徴的というか、異質というか、その…目のやり場に困るというか…」

「…!こ、これはその…デミ・サーヴァントになった際の副作用と言いますか、仕方ないことですので………もう!先輩!先輩のせいで急に恥ずかしくなってきたじゃないですか!」

「え?俺のせいなの?」

 

そりゃあこんな状況で言う必要はなかったと思うけど、どちらかって言ったら、君が契約したサーヴァントの方に申し立ててほしい。あと、大きいな。

 

「むー…先輩、もうすぐ霊脈地点です」

「そんな明らさまに不貞腐れても……」

 

拗ねたマシュの機嫌取りをどうしようか迷った時だった。

 

「キャーーー!!!」

「!?この声は!」

「行こう!」

 

何処か聞き覚えのある女性の悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Gaaaaaaa!!」

「な、なんなのよあんたたち!どうしてわたしがこんな目に合わないといけないのよ!ねぇレフ!何処にいるのよレフ!いつもわたしを助けてくれたじゃない!」

「Gaaaaaaa!!」

「あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!」

 

カキン

 

「………え?」

「大丈夫ですか所長?あとレフさんじゃなくてすみませんね」

「あ、貴方は…あの時の…!?」

 

大地に座り込んで俺を見上げるその目は、不安と恐怖に何故?という疑問で脚色されていた。

 

「オルガマリー所長!」

「マシュ!?貴方のその姿は!?」

「所長、説明は後です!まずは目の前の敵を排除します!先輩!」

「了解。一体だけ任せろ」

 

なんてかっこ悪い台詞。仕方ない、適切な役割分担というものだ。

 

「これくらいの敵は簡単に倒せるようにならないとなぁ…」

 

本来のマスターというのが、どういった姿勢で戦場に立つべきなのか、その答えを俺は持ち合わせていない。けれど、いくら使い魔を使役するような立場であれど、全く戦わないのは実に情け無い話だ。

魔術師の中には、当然サーヴァントには及ばなくても多少は戦闘が出来る者もいたはずだ。だったら俺は、サーヴァントの後ろで偉そうに指示するだけの中身すっからかんになるより、少しでも自分の身は自分で守れるように強くなりたい。なにからなにまで他人任せだとか、そんなの俺が生きる必要性を損なう一因にしかならない。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

だから本当は触りたくもない剣を握る。幸いただの骸骨、言ってしまえばただの腐りきった死体が動いてるだけだ。多少は加工してるのかもしれないが、そのスペックは然程人間と変わらない。ならば俺にも、それらしいことをする機会がある。あとはそれをこなす実力をつける。

 

「……ふぅ」

「お疲れ様です先輩!」

「おう、そっちもお疲れ」

 

これくらいの敵、サシの勝負なら問題ないようだ。毎回ギリギリだが。

 

「あ、あ、貴方!」

「…なんですか所長?いきなり声を荒げられるとビックリするんですけど?」

「貴方!魔術に関してはど素人だったんじゃないの!?」

 

ど素人って…そのど素人をカルデアに呼んだのはそちら側なんですけどね…。

 

「だいたいなんで貴方みたいな出来損ないが、優秀な魔術師でない貴方が!サーヴァントを使役しているの!?マシュになにか強引なことしたんでしょ!」

「……してないっすよ、そんなこと」

「だったらマシュが貴方なんかに従うわけないじゃない!」

「所長!わたしから契約を持ちかけたんです!」

「マシュから…?なんで?」

「はぁ…ひとまず所長、落ち着きません?感情論で話し始めたらまとまるものもまとまりませんって」

 

そしてなんとか聞く耳を持ったオルガマリー所長にこれまでの経緯を説明した。

鈍い顔をして深くことを考え、言葉を紡いだ。

 

「…わたしとこの魔術師が生き残ったわけは何と無く分かったわ」

「本当ですか?」

「…消去法、というよりは共通項かしらね。わたしたち2人はコフィンに入ってなかった。コフィンは、レイシフトの成功率が95%を切ると自動で停止するようになってるの。つまり彼らはレイシフトすらされなかった」

 

なるほど。生身のレイシフトの成功率が著しく低いのは言うまでもない。けど、機械のブレーキにより強制的に0%になったものよりかは可能性がある。小数点以下であろうと、「ある」と「ない」とでは大きな違いがある。

 

「落ち着くとまともですね」

「なに!?わたしがいつも騒がしくて役立たずって言いたいわけ!?」

「…誰もそこまで言ってないでしょうに」

 

自分から勝手に墓穴を掘ってるよう。

どうも、所長は被害妄想が激しい傾向がある。この人自身は気丈に振る舞っているが、やはりどこか落ち着きがない。

きっとそれは彼女の環境がそうしたこと。所長と言えど、その実は俺と然程年の変わらない少女なのだ。

ただでさえこのカルデアというのは特殊だ。そのトップとして若いながらも立たなければならない。その重圧は測りしれないだろう。人類を救う壮大な計画を率いる者、その役はまだ彼女には早すぎた。

 

「…分かりました。マシュと藤井蓮との契約を一時的に許可します。そしてこれから先はわたしの指示に従ってもらいます。まずはベースキャンプの作成ね。こういうのは霊脈を探して…」

「ドクターから聞きました。それで、霊脈ってここらしいですよ、所長が立ってるところ」

「な!?…分かってたわよえぇとっくに分かってたわよ!分かってたけど文句ある!?」

「なんで怒られるんですか…」

 

非常にピリピリしている。突然の出来事で張り詰めるのは仕方ないが、やつあたりされても困るというもの。

マシュの盾を使い召喚サークルを設置した。すると辺りが、電子的な風景へといっぺんする。

 

「これは…カルデアにあった召喚実験場と同じ…」

「シーキューシーキュー!もしもし聞こえる!?こちらDr.ロマン、返事してくれるかな!」

「はい、こちらマシュ・キリエライト。通信は良好です。無事成功したと思われます」

「そっか、ならばよし!2人ともお疲れ様。これで補給物資だって---」

「はあああぁぁぁ!?なんでロマニ、あんたが仕切ってるのよ!?」

「えええぇぇぇ!?所長!?なんで生きてるんですか!?しかも無傷!?なに化け物!?」

「誰が化け物よ誰が!この三流魔術師が出来たんだから、わたしが出来たって問題ないでしょ!なに?問題あるの!?」

「問題って…だって所長、マスター適正ゼロじゃないですか…」

「っ…知らないわよそんなこと!」

「うわっ、思考放棄したよこの人」

 

カルデアに繋がったと思ったら、親愛なるレフ教授じゃなくてゆるふわ系医療スタッフが出てきたんだ。頭の中がパニックに陥ってる今の所長が、混乱の極限まで追い込まれるのは仕方ないことだろう。

 

「なんで貴方がそこにいるの!?」

「…それは仕方ないからですよ、オルガマリー所長。ボクだってこんなこと、らしくないとは思ってますよ当然。けど、カルデアの職員で生き残ったのは僅か20名程度。そしてその中でボクが一番、役職としては上なんです。ならば一時的とはいえ、こうやってボクが指揮するほかないでしょ?」

「レフは!?レフはいないの!?」

「…彼は管制室でレイシフトの指揮を執っていた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ」

 

そもそもオルガマリーがここにいること自体不思議な話なのだが。彼女がここにいるという事実がある以上、レフ教授が死んだとは言い切れない。希望的観測に過ぎないけど。

 

「そんな………待って、生き残ったのが20名ってどういうことよ?マスター適正者は?コフィンはどうなったの?」

「……47名全員が危篤状態。医療スタッフも設備も足りず、助けることは出来ても全員を救えるかどうか---」

「早く凍結保存に移行しなさい!まずは死なせないことが大優先よ!」

「あ、そうか!分かりました、すぐに変更してきます!」

「………驚きです」

 

隣のマシュが唖然とした表情を浮かべている。

 

「本人の許諾なく凍結保存するのは犯罪です。所長は自分の責任より人命を優先したんですね」

「…違うわよ」

「え?」

 

マシュの優しい讃える言葉に、吐き棄てるように苦々しい顔で言葉を返した。

 

「ただわたしは、47人全員の命の責任を負うより、カルデア所長としての責任についてどやかく言われた方がマシだと思っただけ。わたしが背負いきれるわけないでしょこんなの!…レフさえいれば」

 

強い依存。それも仕方ないことだろう。

ただの少女が、父親が前任の所長だったという理由で、突然後任にさせられた。不安どころか、まるでわからなかっただろう。そんな時に支えてくれたレフ教授という存在が、彼女の中で如何なる時も必要とするものになるのは当然のことと言える。

そして、自分にとって何よりも大きな存在が、消失したという事実。きっと彼女は既にボロボロだろう。

 

「…ロマニ・アーキマン。不本意ですが、貴方にカルデアを任せます。こちらはこの両名を連れて、この特異点Fの探索を続けます」

「え?大丈夫ですか所長?所長って結構小心者ですよね?」

「…帰ったら覚えておきなさい、ロマニ。給料カットしてあげるから」

「ヒッ!」

「…幸い、それほど強大な敵はいないみたいだし、マシュとそこそこ戦える魔術師がいるから、探索だけなら問題ないでしょう」

「…分かりました。くれぐれもお気をつけて。一応、随時連絡は取れるので、なにかあったら教えてください」

「えぇ。何よりも貴方はカルデアの復興を迅速に進めなさい。そうすれば給料カットの件も検討してあげる」

「イエス、マム!直ちに!」

 

欲望に素直なのはいいことだけど、どっちかって言うと惨めさしか感じない。なんというか、参考にするべきじゃない男像というか、尻に轢かれるタイプの男代表というか、要はどうしようもないなぁ、と。

まぁお金は大切だしな。…今の状況で金の価値があるのか微妙だけどさ。

 

「…所長、安全面で言えば、ここで待機するというのも一つの策かと思いますが」

「それは出来ないわよ。今のこの状況、協会側が知ったらなんて言うと思う?ただでさえここまでの準備するのにこんなに時間がかかったのに、1カ月でどうこうならないわよ。そしたら陰湿にああだこうだ言われるに決まってる。そんなのごめんよ」

 

アニムスフィア家は魔術師の名門だと聞いた。加え父親は死に、まだまだ青い少女がその名を背負う。そんな時に作戦の失敗なんて結果は、名門という看板を取り外さなければならない理由として十分だ。

正直、彼女のお家柄とか、社会に置ける立場からの圧力とか、俺には分からない。ぶっちゃけどうでもいい。ただその面倒ごとに巻き込んでくれなければ。

別に自分のために何かをしようとするのは構わない。誰だって本来はエゴイスティックだ。俺だってそう。

自分が渇望するものなんて人それぞれだし、理解して貰えると決まった話じゃない。そもそもそう簡単に理解されてたまるか。分かるよ分かるよなんて、そんな風にフリをされる方がよっぽど腹が立つ。ふざけんな。

所長の地位に座すこの子にとって、今回のプロジェクトの成功こそが悲願であり、いや、それだけじゃない。だからこその恐怖。命の責任、家名の責任、世界の責任、その小さな背中には不釣りあいだ。

だからと言って安っぽい同情はしない。どれだけの不可抗力があったか知らないが、結局は彼女が選んだ道だ。ならば否が応でも進む他ないだろう。どれだけ嫌でも逃げることは許されない。

彼女は俺たちのことを道具だとはっきり告げた。世界を救うために何よりも統一が必要だと。言葉は悪いが、理にかなっている。全体主義と言うと聞こえが良くないかもしれないが、プライドの固まりみたいな連中には、それくらいのこと言った方が良かったと思う。それくらいの傲慢さがあった方が指導者としてはいいだろう。見せかけだけど。

結局のところ、彼女は不安ばかりを抱えてきた。

ならばせめて道具らしく、理不尽な命令に従うつもりはないが、好きに扱ってくれればいいだろう。利害と目的は一致してるんだ。そうそう対立することはないだろうし。まぁ多分、苛つくことはあると思うけどさ。

 

「それじゃあ早速調査に---」

「あーあー!ちょっと待って所長!」

「…何かしらロマニ?貴方のその宙ぶらりんな声を聞く余裕なんてないのだけれど?」

「宙ぶらりんって…なかなか斬新な表現ですね…。…って…そうじゃなくて!ちょっとこれを」

 

ドクターの言葉を継ぐようにベースキャンプに送られてきたのは、虹色の角張った固体が3つ。石だろうか?なんか昔、テレビで見たことのあるような形だ。

 

「これは聖晶石と言ってね、これを触媒とすることで英霊を召喚することが出来るというまさにカルデアの技術の賜物の1つさ!」

「貴方が誇らしげに語ることではないでしょ?一介の医療スタッフに過ぎないDr.ロマニ?」

「仰る通りですハイ」

「それで?これを送ってきたということは…」

「はい。念には念を、石橋を叩いて渡るなんて言葉も、藤井くんのいた日本にはあるくらいだからね!」

「…先輩、どういった意味でしょうか?」

「石橋を叩いて渡るってのは、頑丈な石橋を渡るときに、頑丈だと分かっているけど念のために橋を叩いて渡るぐらい、用心に用心を重ねるってこと」

「なるほど…ありがとうございます先輩!」

 

別にこれくらいのこと…って…なんで国語の授業を開講しているんだ?というかドクター、そういうことをよく知っているな。一番似合わないのに。

 

「石橋を叩いて渡るという諺がボクに似合わないとか思ってるかもしれないが、ボクは結構慎重派だからね?」

「…さも当然のように心の声を読むの止めてくれませんかね?」

「加えて、慎重派という言葉で美化していますが、正確にはDr.ロマンはただの小心者です」

「そう、ただのビビリ」

「………みんなのボクに対する評価の改訂を申請したい」

 

哀れな人。

 

「藤井蓮、その聖晶石を召喚サークルに投げ込みなさい。3つで1組、誰かしら英霊を召喚出来るはずよ」

「分かりました」

 

俺は言われた通り、石3つ纏めてサークル内に投げた。

サークルが光り、その上に3本の線が回転する。1つに収束し、そして弾ける。その中には人影が見える。

 

「成功…したのか…?」

 

俺の目に映ったのは1人の女性。黒い軍服を身に纏い、繊細に輝く金の髪は1つに結ばれている。

俯いた顔を上げて、その碧眼は真っ直ぐに俺を見つめる。

 

「召喚にお応えしまして、セイバーのクラスとしてやってまいりました。えぇっと、そうですねぇ…」

 

顎に手を添えて何か考えたあと、手の平に拳を叩くという何とも古典的な動きをしたのち、言葉を継いだ。

 

「私のことは、ヴァルキュリアとお呼びください」

 

 




最後の英霊召喚。Dies irae要素を練炭だけってのもなぁと思ったが故です。
分かる人には分かる。分からなくても気にするな問題ない。もしくは各自で調べてください。
呼ばれて飛び出て電気バチバチみんなの戦乙女なあの人です。

感想等よろしくお願いしますm(_ _)m


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第3節 影との対峙

幾つか言いたいことがあります


まず、お気に入り登録50突破ありが……と思ったら300超えてる!?えなんで?
思わず携帯で見たとき、
「えなんで?えなんで?………えなんで?」って携帯に聞いちゃいましたからね?
ある時UAが20ぐらいから一気に120近くに伸びたりとか、やっぱり評価バーの存在は大切ですね。評価してくださった方々ありがとうございます。


続いてですね、言いたいことというか懺悔ですね。

ぶっちゃけますと、このSSを書き始めた時は、「もしFGOの主人公が藤井蓮風だったら?」ぐらいの気分で書いてました。
けれど、沢山の方々からいろんな感想に意見を頂いて、刺激を受けました。
だって円卓vs黒円卓なんて考えてなかったもん!けどそれ面白そうって思っちゃったもん!
なんかこういうの面白そうってのがあったらどうぞ言ってください。ただ反映する保証はありません。俺個人が面白そうって思ったやつのみ、本編或いは番外編という形で使うかもしれません。そん時はご了承ください。まぁ見たいなら自分たちで書いてください!ってことです要は。

改めて、皆さんありがとうございますm(_ _)m
まさかこんなに支持頂けると思ってませんでした。
受験勉強の合間に書くので、更新ペースは「みんなが忘れた頃にやってくる」だと思いますが、気長にお待ちください。
では、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m



戦乙女。ヴァルキュリア。

北欧神話において主神であるオーディンに仕える女性たちのこと。戦死した英雄たち --エインフェリア-- を来たるべき最終戦争の兵士として収集するため、天上のグラズヘイムにある神々の神殿 --ヴァルハラ-- へと魂を送る役割を持つ。いわゆるそれは、死神のようなものである。

 

さしずめ地を駆ける様は閃光。素早い剣技を持ってして、這い上がる屍たちを蹴散らしていく。

それは誇り高き騎士。例え今はその信念は消え失せていようと、確固たるものであったと疑う余地なく伝わってくる。

無駄なく洗練されたその疾走は、戦乙女の名に恥じぬ代物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァルキュリア!?ヴァルキュリアってあの北欧神話のヴァルキュリアかい!?」

 

ドクターがその名に驚愕した。

まぁ、気持ちは分かる。日本でもかなりメジャーな名前だ。おそらく最近の若者の殆どは、名前ぐらいは知ってるはずだ。主にアプリゲーム等で。

 

「北欧神話で有名な、神々の最後の戦争であるラグナロクのための戦士たちの魂を集めるオーディンの使い。そのヴァルキュリアだと!?」

 

詳しい説明をしてくれたドクターは、一瞬の間を置き打って変わって落ち着いた口調で続けた。

 

「…けど、ヴァルキュリアが召喚されるのってあり得るのか?半人半神、神霊に近いとも言える。それに一個人の名前じゃないし…」

 

サーヴァント事情は詳しく知らないが、どうにも単純な英霊と神霊を呼び出すのとはわけが違うらしい。滅多にないことだとか。先ず普通の方法では難しいと。

それにヴァルキュリアは、オーディンに仕える女性()の名称だ。「ポチ」じゃなくて「犬」だ。まれに、集合体として召喚されるらしいが、先に同じくこれもレアなケース。

 

「あのぉ…ですねぇ…」

「どうかしました?」

 

恐る恐る手を上げて、何故か申し訳無さそうに口を開くヴァルキュリア。めっちゃ目泳いでる。

 

「その、なんと言いますか…ヴァルキュリアと言うのは本名ではなくてですね…」

「…え?」

「魔名と言って、あだ名と言いますか…二つ名と言いますか」

「じゃあ本名は?」

「………分かりません」

「………え?」

 

唖然。呆然。愕然。ちょっと何言ってるかよくわからない。

自分の名前がわからない?なんだそれ?

 

「私には過去の記憶がないんです。私が何者で、いつの時代の人間か、どのように生きたのか。…分かることは少なくて、何者かから与えられた「ヴァルキュリア」という魔名。そして私が持つ能力。最後に世界の今についてと、私がすべきこと。原因は分かりませんが、そういった知識以外のものが消失しています」

「………」

 

なんてこった。喪失ではないにしろ、記憶の損失は色々と厄介である。

人間誰しも一長一短だと言うのならば、それはきっと名高き英雄も変わらないだろう。およそ完全な万能などそうそう存在せず、だからこそ英雄は最終的にその物語の幕を閉じたのだから。

サーヴァントの真名を知るというのは、すなわち強みと弱みの両方を知るということ。仮に顕著な弱点があると言うならそれをマスターが知らないというのは、万が一の時に対処が出来ず、窮地に陥る可能性が出てくる。

世界の救済なんて、えらく大層な使命を果たす中、そういう事態は避けなければいけない。

 

「…ドクター、こういうことってあるの?」

「うーん…なにせ、この聖晶石を触媒とした『フェイト』による召喚ですら、本来ならばあり得ないことだからね。それにまず英霊の召喚成功例が少ない。召喚システムに何か異常があったか、そもそも聖晶石の使用という強引な方法のための影響か。なんにしろ今言えることは、今の完全に復旧しきっていないこのカルデアでは、()()()()()()()()()()()()ということだ」

 

ならなんでこのタイミングで召喚させたのか?という疑問は置いておく。それが他ならぬ自分たちのことを思った親切心による施しだって分かってる。その感謝を仇にして返すような無粋な真似はしたくない。

 

「言われてみればおかしな話よね。その格好からしても」

 

所長が疑問に思ったのはヴァルキュリアの姿。黒い軍服。

 

「その服装は、どう見てもヴァルキュリアのいた神話の世界の物とは思えないわ。むしろ近世…いや近代かしら。比較的最近の人物なのでしょう」

「所長に賛成。ここ最近で軍人の英雄となると…第一か第二の世界大戦ぐらいかもね」

 

あの凄まじい時代を生きたというのなら、さぞかし強い心をお持ちだろう。あいにくとそのあたりの歴史は詳しくないから、該当しそうな人物は浮かんでこないのだけど。

 

「…しかしマスター」

 

ただ黙って耳にのみ意識を傾けていたヴァルキュリアが、ただ一心に俺の目を見て芯の通った言葉で紡ぐ。

 

「自分が何処の誰かも分からないような私ですが、数少なく知るこの力は、貴方の剣としてふさわしい実力だと自負しています。数少なく知るこの仮名に誓って、マスターの力になってみせます」

 

跪いて俺に忠誠を誓うあたりまるで騎士のようだ。

騎士道精神など俺は詳しく知らないし、もちろん持ち合わせてもいない。

現代に近い軍人ということだから、フィクションや中世に出てくるような騎士ではないだろう。騎士であるという文化が残った、おそらくヨーロッパの方のもの。

当然日本にいた俺にその感覚は理解出来ない。けれど、それが誇り高く、純粋に崇高なものだとは分かる。

サーヴァントとして現界した彼女がマスターである俺に忠義を示すのは当然のこと。騎士である彼女はそう思ってるのだろう。

けど、それが俺の望んでることと一致しているとは限らないわけで。

 

「顔を上げてくれってヴァルキュリア。そういうのに慣れてない身からすると、むしろ緊張するというか、逆に気を使うというか…」

「けれど、私はマスターの…」

「藤井蓮」

「…え?」

「いや、そういえば名乗ってなかったなぁと思ってさ」

 

サーヴァントに名乗らせておいて、自分は名乗らないなんてなんと礼儀知らず。それこそ恩を仇で、というやつだ。

 

「藤井蓮。俺の名前。よろしく頼むぜ?忠臣じゃなくて()()としてさ」

「…蓮、ですか?」

「そう、蓮。別にマスターと呼ばれることは嫌じゃないけど、(キング)に仕える騎士(ナイト)よりかはさ、心持ちは共に苦難な道を歩いていく親友(フレンド)って方がやりやすくていいや」

「蓮…貴方は…」

「とまぁそんなわけで、頼りにしてるからさ。さっきみたいに跪くとか無しで。そこそこに慣れ親しんでいこうぜ、な?」

 

お互いにお互いが命を預け合う関係。サーヴァントがいなければマスターは無力だし、マスターがいなければそもそもサーヴァントは存在出来ない。切っても切り離せない。だからこそ信頼が必要だと思う。そんなただの損得とか利害の一致程度でやり抜いていけるとは思えない。

俺が求める関係ってのは、前後ろに並ぶんじゃなくて、隣に並び立って歩いていくものだ。そりゃあ実力とかそういうので言えば、引っ張ってもらうのは仕方ないだろうけど、そういう理屈は抜きで隣を歩いていたい。同じ方向を見ていたい。互いに手を取り合っていたい。

仕方ないで済ませるのは怠惰過ぎる。一度死を終えて、2度目の仮初めの命だとしても、それを簡単に終わらせていいはずがないんだから。

本来なら死人が生き返るなんてことあってはならないと思うが、サーヴァントはこれとはまた別の話だ。生き返るというより、幽霊が現れたという感覚の方が近い。いや幽霊は苦手だけど。

そんな幽霊だとしても、俺のために…というのは烏滸がましいが、戦ってくれる相手に真摯でいなければならない。それがマスターである俺の在り方だから。

 

「……はい!よろしくお願いします、蓮!」

 

その時の彼女の笑顔は、見た目相応の輝かしい少女のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の剣になる。

その言葉に違うことなく、戦場を駆ける様はまさに戦乙女(ヴァルキュリア)。所詮彼女の前では、屍は屍に過ぎない。

生者ではない。ましてや戦士の成れの果てというわけでもない。現世に未練を残した無惨な魂の残滓。おそらくこの謎の大災害によって生を終えた人たちだろう。わけも分からず死んだとあれば、それは確かに霊となって現れよう。もしかしたら、自分が死んだことに気づいてないってこともあるかもしれない。

ならば、ならばこそ、その彷徨う魂に終わりを刻み込み、正しい世界へと帰るように、現世(ここ)との繋がりを断たねばならない。

それを無慈悲と嘆くのか、救済だと賞賛するのか。そんなのは大した話じゃなくて、結局のところ、このままでいいはずがないという俺の押し付けたエゴ。言ってしまうならただの障害だ。それ以上でもそれ以下でもない。心の中で手を合わせ冥福を祈るのみ。

魂を狩り、黄泉へと送る。やってることはそれとなんら変わらず、まさしくそれは死神だ。

 

「…やっぱり凄いんだなサーヴァントって」

「はい…。ヴァルキュリアさんのあの動き、わたしとしても尊敬の一言に尽きます。特にあのスピード、俊敏性に長けていると言われるランサーのクラスにも引けを取らないのではないでしょうか」

 

洗練された無駄のない動き。剣尖で穿ち、刀身で斬り払い、惑うことなくこの荒れた大地を駆ける。それはさしずめ舞踏(タンツ)のよう。思わず見惚れてしまうような、確かな覚悟が見えるものである。当の彼女自身は何も覚えていないのだろうけど。

 

「…なぁマシュ」

「はい?なんでしょう?」

「………俺がマスターでいいのか?」

 

俺の何となくな質問に一瞬目を見開いて、俯向くようにゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「それは……わたしには、先輩以外のマスターという存在の経験がありませんし、比較のしようがありません。先輩がマスターとして良し悪しどちらかを判断するには、経験も時間もまだ足りないです。…あ、でも!」

 

下を向いてた視線が俺の視線と合致する。

 

「それでもわたしは、先輩がマスターで良かったと思っています!」

 

俺を見上げるその目はとても一生懸命で、あまりにもただ俺だけを純粋に見て必死に取り繕うものだから、思わず笑ってしまった。

 

「あ…ちょっと先輩!笑うことないじゃないですか!」

「ははは…いや、可愛らしいなって思って」

「か、か、可愛い…ですか…!?」

 

途端に顔を赤くしてしどろもどろする。加えて俺をポコポコ叩いてくる。

その様子は実に微笑ましい。けど、いくら手加減しているからってサーヴァントによる打撃は痛い。

 

「マスターあの〜」

 

叩かれてだんだんアザが出来つつある中、気だるそうに声をかけた主の方へ振り向く。

 

「私が一生懸命サーヴァントに相応しい行いを!と思って、死霊退治をしている最中にですね?そうやってあからさまにイチャつかれると、こっちもなんかやるせないと言いますか、モチベーションが下がると言いますか、今すぐ光の粒子になって聖杯の元に帰りたくなるんですよね。要はリア充は爆ぜていいと思います」

 

最早ただの私怨じゃないかそれは。

 

「そりゃあ私はリアル年齢を数えればお婆ちゃんでしょうし?サーヴァントなんて結局のところ孤独ですしね。…えぇそうですよそうですとも!どうせ私は生きてた頃だって、どっかの神様のせいで結ばれることなんて無かったんですよ!一生孤独で戦場の中で、騎士としての誉れなんか謳っちゃってのたれ死んだんですよ!女として負け組なんですよ!」

「…とりあえず、ごめん」

「わぁ〜ん!蓮の優しさが傷に塗りたくられる塩のようです!身寄りがなくて寂しいボッチの私とオルガマリーは、いったいどうすればいいのですか!?」

「ちょっとヴァルキュリア!なんでさらっと私を混ぜてるのよ!?」

 

陰の薄かった所長をごく自然に巻き込み、さらには自分以上に惨めにさせる。天然なのか故意なのか?どちらにしろエグい。さすがはサーヴァントになるほどのことはあるということか。

 

「蓮!私にも構ってください!」

「仮にも英雄がそんなこと言わないで」

 

キャラが違いすぎるでしょ?出会った頃(今話冒頭)の時のあんたはどこへ行ったんだ。

 

「そっちの四人!仲がいいことこの上ないけど、すぐに逃げて!サーヴァント反応だ!」

「なっ…!」

 

ドクターの緊迫した連絡が届いてすぐ、俺らの目の前に黒い靄のようなもので覆われた人の形をしたなにか。

確かにさっきまでの死霊とは、存在感というか、完全に別物なんだと即座に理解させられる。

 

「逃げるって言ったってもう無理よ!…マシュ、ヴァルキュリア!2人で相手すれば問題ないはず、迎え撃って!」

「了解しました…!」

「えぇ、蓮と臆病なオルガマリーは下がっていてください!」

 

その言葉に大人しく従い、念のために所長に付いていることにする。どことなく落ち込んでるような気もするが、今はそこに触れる余裕がない。

 

「せっかくのいい所だったのに…よくも!」

 

いやまだ何も了承した覚えはないんだけど?

 

「マスター!宝具の開帳を申請します!」

「あぁ!任せた!」

「…この剣、我がマスターへと……」

 

切り替えが早すぎてついて行けない俺がいるけど、頼もしいったらありゃしない。

さっきまでとは打って変わり、その目は敵をただ見ている戦士のものだった。

 

「---Yetzirah(形成)

 

彼女の細剣に魔力が収束する。

それはその宝剣を取り巻くように渦巻き、同様の形となって覆い尽くす。

 

「閃光よ、戦友(とも)を照らす導となれ…!」

 

刀身に青白い雷が踊る。迸るそれは浄く輝いて見せる。

これが戦乙女の振るう幻想の具現。今は忘却された彼女の伝説の象徴そのものであり、この世の奇跡そのものである。

 

戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)…!」

 

宝具開帳。膨大な魔力がここに神秘を纏いて顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マシュ、私が貴方に合わせます。貴方は出来るだけあれの気を惹き付けてください。そこからは私がなんとかします。…行きますよ!」

「はい!」

 

そして瞬間疾走する。

微かな時の間もなく、影に染まったサーヴァントの眼前で打突を繰り出す。

 

「---!」

 

その速度は予想以上だったのだろう。僅かに防御が遅れ後ろへ多少飛ばされた。

その隙を閃光は見逃さない。すぐに片足で踏み切り追い打ちをかける。奔る雷鳴の如く無数に間髪なく繰り出される打突という名の雷撃。

瞬間にて一閃、神速を欲しいがままに、最大の利点であるその速度は結果を伴い形を成した。

 

「---!」

「…っ!」

 

だがそれでも攻めきれない。神速の嵐を全て、その鎖をつけた杭で弾き返してる。

確かに速さも手数もこっちが上回っている。相手も防戦一方、反撃の隙間はないように見える。

だがそれがいけない。こちらは宝具を開帳している。しかし相手はそれがまだだ。この状況下、拮抗などあってはいけない。

サーヴァントにとって宝具は切り札。文字通りに本来は出し惜しみするものだ。だが相手がサーヴァント。そして何よりも懸念があったから。しかもその懸念が予想以上に当たってしまった。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

ヴァルキュリアが一歩下がり、その背後からマシュが盾を叩きつける。

武具の大きさの差異による物理的威力の差。質量のある一撃を上から叩き込めば、当然ながら強いインパクトを生む。

だがそれも受け止められる。こっちは言わずもがなだ。明らかな経験の不足。サーヴァントになったばかり、加え元よりこういった戦闘に慣れていないマシュと、過去の伝説を現在に昇華した英雄。簡単に埋まるものではない実力差がある。

 

「てぇぇぇぇい!!」

 

ならばなぜヴァルキュリアは攻めあぐねているのか?

それは『フェイト』の仕組みが故。

聖晶石の使用による強引な召喚のため、本来の聖杯戦争のように特定された依り代を使う必要がない。が、それと引き換えに十分な力を持って呼び出すことは出来ない。

『フェイト』によって呼びされたサーヴァントは、本来サーヴァントにはない成長を求められる。

…いや、成長とは美化し過ぎだ。リハビリテーション、本来の力を取り戻すための回復行為。

サーヴァントの魔力を高めていくことで、英霊たちは一定の段階に達するごとに霊基が再臨されていく。その時々に失われた自らの能力を取り戻す。

言ってしまえばロールプレイングゲームのようなものだ。経験値を積んで新しい技を得る。順序は逆なれど、『フェイト』はそういった過程を強要している。

 

「くっ…!」

 

そのための均衡。召喚されて間も無い彼女が苦戦する理由。熟練度の不足により、本来の半分の実力も出せないだろう。

 

「だからと言って…!」

 

実力が出し切れない?それがなんだ?それくらいのハンディが何だと言う?

既に自分の剣は主に捧げた。

 

「任せた!」

 

そう、その言葉を授かったのだ。ならば、例え進んで従うお付きの立場になったのではないにしろ、ここで立ち止まってるわけには行かないのだ。

彼は信頼出来る。己が命を預けられる。初めて会ったはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()、そんな不思議な感覚。直感の域を過ぎぬ根拠も何もない推測だが、それは彼女の中で確かな理由であった。

 

「…マシュ!」

「はいっ!」

 

呼びかけに応じ、マシュは盾を構えそのまま一直線に、敵の正面へと突撃した。

 

「たぁぁぁぁああっ!!」

 

ただの正面突破。力任せにぶつかり、敵の動きを止める。

そんな策もない強行策を愚かと言うか?

否、確かに彼女1人であるならば、英雄相手にそのような手は失策だろう。

だが、彼女は1人ではない。

 

「……いただき、ですっ!!」

 

正面からの全力の一撃。かのサーヴァントと言えど、足止めさせられる。

その瞬間があれば速さを武器とする戦乙女には、死角を突き背後に回ることは造作もない。

 

「………」

 

その一閃は核を貫き、敵性サーヴァントは黒い塵となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ、なんとか…勝った…」

「大丈夫マシュ?ヴァルキュリアも怪我は?」

「いえ、これくらい問題ありませんよ!確かにちょっと疲れましたが、おかげで多少勘を取り戻せましたし」

「わたしも、大丈夫です…」

 

明らかに疲労が溜まっている。サーヴァントと対した初めての戦闘。疲れないわけがない。この間まで一般の少女だった子が、巨大な盾を振り回し自分のため、俺たちのために戦ってくれる。

 

「チッ…」

 

自分の無力さが憎い。ふざけるな。何が一緒に戦うだ。さっきの戦闘、まるで手が出せなかった。次元が違った。

…本当に、ふざけてやがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---君は、力を欲するのかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---っ」

 

今、何か……。

 

「悪いけど休んでいられないんだ!さっきと同じ反応が、2つやってきている!」

「なっ…!」

 

神様は超えられない試練を与えないと言うが、だとしたらこれはどう説明するつもりなんだろう。測定ミスでは疑ってしまう。

 

「…迎え討ちます」

「けど今戦ったばかり…!」

「けど、逃げ切れるとも思えません。ここは私が時間を稼ぎますので…」

「駄目だ!」

 

その通りだ。その通りではあるけど、それをしていいかは別問題だ。

 

「…蓮、私を信じてください」

「…っ!」

 

…本当に情け無い。馬鹿みたいだ。かっこ悪すぎて血反吐を吐きそうだ。

 

「…令呪を持って命ずる」

 

翳した左の手の甲が光る。

 

「絶対死ぬんじゃねぇぞ、死んだら殺してやる」

「勿論です。まだ構ってもらってませんから」

 

何馬鹿なこと言ってるんだ、ニヤつきやがって。それで盛大にフラグ回収したりしやがったら、マジで許さないからな。

 

「…行くぞマシュ!」

「は、はい!」

 

所長を担いだマシュと共にその場を疾く離れた。

 




わんわんお!

はい、なぜか好感度が既に結構高い戦乙女。勘がいい人にはなぜかは分かったでしょう。てか言ってるしね(こじつけ感凄いけど)。

さて次回は遂に、練炭こと主人公が……


気長にお待ちください

感想、評価よろしくお願いしますm(_ _)m

あと、活動報告でちょっとした質問をしましたので、答えて頂けるとありがたいです。そっちもよろしくお願いします。


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第4節 覚醒

皆さんが忘れた頃にやってくること、作者です。
そして次回は、来年度になるでしょう。気長にお待ちを
FGO、色々なことが起こりましたね
まぁそのことは別所で
ネロ、邪ンヌ、クレオパトラ……知らない子ですねぇ……



「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

走っていた。ただ前を見て走っていた。逃げるために全力で走っていた。

 

なにから逃げるのか?勿論、敵からだ。あの状況下、あまりにもこっちの分が悪い。仮にサーヴァントのおかわりが一杯だけというなら、まだマシュとヴァルキュリアでどうにか出来ただろう。さっき以上の苦戦になるだろうが。

しかし実際は二杯と来た。誰もそんなサービスなんか望んでない。ありがたくもないただの迷惑だ。ふざけるな。

 

しかし現状はヴァルキュリア一人を残し、自分たちは逃亡を図っている始末。

俺が逃げてるのは敵だけじゃない。きっとこんなザマの自分からだ。

 

「どうしてサーヴァントが湧いてるのよ!?」

「………聖杯戦争。そうだよ聖杯戦争!ここでは聖杯戦争が行われていた!だったらサーヴァントがいたってなにもおかしくない!」

 

その事実、おかしなことで終わらせて欲しかったな全く。

つくづく嫌になる。今のこの状況というか、運命というかそういうのが。

神様なんて端っから信じちゃいないけど、どうせ碌でもないに決まってる。

 

俺は平穏が欲しいって言ってるのに、こんな仕打ちをしてくる。俺のエゴなのは分かってるが、マジで失せろよ。

こんな悪態をついてても、頭が冷静に回る。と言っても具体策が出てるわけじゃない。分かるのは現実。ヴァルキュリアを疑っていないし当然信じてるけど、さすがに2人を相手するのは無理だろうという、そんな推測が悲しいことに形になってしまったという現実。

 

「…!気をつけてサーヴァントだ!」

「っ!!」

 

アナウンスと同時に俺たちの目の前に立ちはだかるは、影のサーヴァント。

長い得物…おそらく薙刀だろうか?ということはおそらくランサーか。近中距離を得意とするサーヴァント。

 

「そこを退いてそんでもってそのまま帰ってくれ…なんて、聞いてはくれないよなぁ…」

「然り。拙者の目的はサーヴァントの排除。汝らを逃してしまっては、それが完遂出来ぬ」

「そうですよね…」

 

どうやら話は通じるようだが、話を聞く気がないようだ。

一心に俺たちを倒すことのみを行動する上での理念としている。

 

「疲れてるだろうけど、マシュ…」

「はい、分かっています」

 

俺の言葉を遮って、敵と俺をも遮るように間に盾を構えて立つ。

 

「マシュ……」

 

それ以上は語らない。けれど言わんとすることは分かる。その小さな背中が語っている。俺を守る、と。

 

「…頼んだ」

「はい…!」

 

苦々しく呟いた言葉に、彼女は声を強めて応える。

身体が震えてる。恐怖。死ぬかもしれないという状況に、身体を震わせて恐怖している。それでも前を見て立っている。

 

だからこそ、余計に惨めになるんだ。そんな強くもない彼女の強い姿を見ると。

だからこそ、欲しがるんだ。あの背中に届くようなそんな…力…。

 

「はぁぁぁぁああああっ!!」

 

槍兵へと突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

静かな戦いだった。

ヴァルキュリアはその身を必要以上に動かすことはなく、その場でただ立っていた。

 

神経を研ぎ澄まし、姿無き敵を斬る、自らをそのための剣とする。敵は暗殺者。クラス的な相性で言えば、アサシンは戦闘に特化したものではないため、最優とも言われるセイバーが奇襲でもない戦闘で劣る道理はない。

 

だがそれは、あくまで個体値がある程度拮抗していた場合。レベルが50と50の時。力が拮抗していれば、戦闘に特化したクラスと隠密に特化したクラスの差は、この場において絶対的なものになる。しかし今、そのレベルに差がある。

 

(目で見るな。耳で聞くな。肌で感じるな。…直感だけにのみ従う)

 

敵のアサシンのクラス特有の保有スキル『気配遮断』。しかもこの様子はかなりの高ランクのようだ。実際今も、まるで敵の存在が掴めない。

 

だからこそ洗練させる。視覚は捨てる。聴覚も捨てる。研ぎ澄ますのは記憶の闇に消えた過去の自分。

 

自分を軍人だと推測した彼らの言葉はおそらく間違いないだろう。確かな根拠なんてない。これは感覚。彼らの言葉に何も違和感がないのがきっと証拠。()()()()()()()()と簡単に納得してしまうような調和。頭では分からなくても、身体が覚えているのだろう。そんな曖昧なものに縋るようだけど、それを愚かとは思わない。

 

自分が託すのは、自分がこれまで培ってきた経験と時間。目でも耳でも肌でも追えないのなら、第六感(シックスセンス)。今の自分を自分として確固たるものにすべく、鍛え上げられてきた『直感』。あらゆる場を生き抜いてきたと言うのならば、淘汰された『心眼』だってあるだろう。

 

…いや、あるものだと信じ込む。言い聞かせるのだ、まるで子供のような自己暗示。私は出来る、と。

 

「………」

 

静かだ。心はまるで波打たぬ穏やかな海のよう。凪に満ちた自分が静寂の底に落ちていくのが全身で感じられる。

自分をその他と同化する。それはこの身を剣とすること。身体は剣であると、敵を斬るための主の剣なのだと。

 

心に灯る意思という火は、風に揺れることなく照らし続けている。

意識的に消した音が、やがて聞こえるはずのない殺意を響かせて身体の中で反響させるのだと。ただその一瞬を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗殺者は息を潜めていた。

それは至って普通のことで、この英霊にとっても大したことではなかった。

例えこの身が忌まわしき陰に侵されていようと、自分の技術を疑うような考えは持ち合わせていなかった。

 

その自信が故だろうか。標的が静粛に佇んだのを見て、一瞬諦めたのかと錯覚した。が、すぐにその考えを否定する。

この剣士は、自分の主人を先に逃がすためにここに残ったのだ。それにセイバーというクラスからして、主従より仮初めの命を優先するとは考えにくい。ましてや彼女からは気高さが溢れ出ている。

結論を出すと、尋常じゃない集中力の中にいるのだろうと。自分のスキルを理解した上で、自分を捉えようとしている。

 

愚かな。

見縊ってもらっては困る。こちらはただ暗殺者であるために生きてきた純粋な一品だ。いかなる状況においても自分の役目を果たす。それだけのためにそれだけをする人種。

 

ならばこそここで見せしめるしかない。暗殺者たる所以を。私の一刀を。

 

背後へと周り、静か且つ激しい殺意を込めた短刀を投げ打った。

一寸の狂いもない。当たれば確実に致命に辿る一撃。故に確信した。

 

「ーーーッ!」

 

だが違った。

 

急所に当たり命を穿つはずだった一刀は、あろうことか振り回された彼女の()()に突き刺さった。

 

「なにっ!?」

「………そこぉぉっ!!」

 

正面に対峙したセイバーがアサシンに向けて駆ける。

 

「くっ!」

 

セイバーの打突に僅かに反応し、腹を数センチ掠めただけに留めた。と言っても、軽傷というには重く、ましてやセイバーの剣が纏う雷撃がより傷を抉る。

 

「…こうして私の目の前で貴方をはっきりと捉えました。ならば……」

 

再び剣士は打突へと構える。バチバチと音を鳴らし、燃ゆる闘士の如くその火花は激烈に瞬いていた。

 

「もう見逃す道理はありません!!」

 

一心にこっちを射抜くその目を仮面の奥から睨み返してアサシンは問う。

 

「何故…見抜いた…!?」

「…おそらく完璧に気配を遮断した貴方からの攻撃を完全に凌ぐことは出来ないでしょう。だから、貴方が攻撃に移る際に僅かに漏れた殺気の方向に、()()()()()()()()()直撃を凌ぎました」

「いくらそれでも、我が一刀を…!」

「貴方がその陰に呑まれてるというのもあるでしょうが、ただ運が良かっただけです。ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と私の『直感』が冴えていただけです」

 

たかが陰に堕ちた英霊の身ならば、いくら本元が優秀な英雄であっても、その技巧の精度は低下するというもの。

例え絶速の一撃であっても、例え自分が未熟な状態であるとしても、敵が同じように完全ではなくその速度も下がっていると言うのなら、たかが腕の一本で事は済む。

 

代償として消えた左腕の腱はまるで感覚がないが、ここで量子となって消えてしまうよりはだいぶマシだと考えることにする。軽く腕を振るうがやはり駄目のようだ。

 

だが問題ない。

 

「行きますよ、アサシン。ここから先はこちらの土俵です」

「っ…容易く譲ると思うな…!貴様1人で易々勝てると…」

「そうかよ、じゃあ1人じゃなかったら問題ないんだな?」

「!?」

 

向こうより現れたのはフードを被りローブを羽織った杖を持つ男。

 

「貴方は…?」

「貴様………!」

 

振りかざした杖から炎を繰り出しアサシンへと飛んでいく。

 

それらの攻撃を躱しつつ、その元へアサシンは睨みを利かす。

 

「なぜそちら側につく、キャスター!」

「キャスター………」

 

セイバーはその存在を理解する。対峙しているアサシンとは違って、その身は黒く染まっていないことから察するに、この聖杯戦争での生き残ったサーヴァントなのだろう。

 

「なぜって簡単な消去法だろ。そっち側になっちまうくらいなら、この嬢ちゃんたちに付き合った方がマシってだけだ。おたくらよりよっぽどまともだろ」

 

やれやれと言ったように素っ気なく告げる。

 

その急な新キャストの登場に、セイバーは心の中で密かに動揺する。

無理もない。ただでさえこの一体を倒すのに苦労しているというのに、こっちまで仇なすとは心労が尋常じゃないことになる。

 

「…一つだけ問います。貴方は私の敵ですか?味方ですか?」

 

剣尖を新たな面子に向けて、この場において確かめなければいけない最小限の事柄の答えを促す。

 

「味方…とは言い切れねぇな」

「っ!」

 

柄を握る手に力が入る。最大の警戒を持ってして、今すぐにでもその喉元を突貫出来るように。

 

「おいおい、最後まで聞けって。味方とは言えないが、敵は同じだろ?あんたもここは早く終わらせて、マスターのとこへ早く行きたいわけだ。だったらここは一度友好的に組むとしようや」

「…貴方のメリットは?」

「メリットも何も、聖杯戦争ってのは互いに互いを潰し合うもんだろ。サーヴァント倒すのにそれ以上の理由がいるかよ。まぁ、この状況を聖杯戦争だなんて言うには、もう遅すぎるけどな。…それと」

 

セイバーを見てニヤッと、新しい玩具を見つけた子供のように笑う。

 

「あんたのマスターに興味がある。ああいう奴の行く末ってのは見ていたくなるもんだ」

「………そうですか」

 

少しの沈黙。そして少しの脳内会議ののち、剣士は魔術師に答えを出す。

 

「では力を貸してもらいます、名も知らぬキャスター」

「おおよ、任された」

 

…すぐに行きます、蓮。だからどうか………

 

より強く、剣が握られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

「……ふんっ!」

 

巨大な盾を振るう少女は、薙刀を構えた僧伽に悪戦を強いられていた。

 

重みは力へと繋がり、勢いのままに振り下ろせばそれは破壊力を得る。たかが長い刀ならそれを弾き返すのは無理な所業。へし折れるのが末だ。

 

だがこの槍兵はいとも容易くそれを返す。

それも当然なのだろう。ランサーであると言うのなら、少なからず生前にそれに腕の覚えがあるのだろうから。

 

それ以上に存在するのは、明らかな英霊としての実力差。半英霊と純粋な英霊。及ばない域が存在するのは確かだ。

 

しかしそれを覆す何かが必要だ。

瞬間的に実力差をひっくり返す奇跡とか、神様からの素敵なご都合なプレゼントなんかありはしない。そもそも願ったところで来たりしないくせに、気まぐれで現れるような代物がご都合たる奇跡だと言うのだから、それに縋っている未来は想像したところで意味を成さない。

それでいても、それに値する何かが必要だ。欠いたらこの状況を打開できない。奇跡を自ら創り出す。具体的な方法なんか知りはしないが、そんな芸当を生み出すしかない。

 

「………それで」

 

距離を置いたあと、静かにランサーは口を開いた。

 

「汝らはどうする?このまま中弛みした争いを続ける気か?」

 

途端にそんなことを聞いてくる。

 

「………何が言いたい?」

「そのままの意味。このままの状態を続けるようであれば、汝らには勝機がないと見えるが?それとも打開策の一つや二つ持ち合わせているのだろうか?」

 

全く、痛いところを突く。煽りにすら聞こえてくる。打開策なんて持ってるんだったら、今こんなに心内のざわつきは激しくない。

 

「…それを聞いてあんたはどうしたいんだ?」

 

なんだ?提案なんて一つもないって言ったら、心ある手助けでもしてくれるのか?ないなそれは。

 

「…開き直るのもどうかと思うけど、確かに言う通り。こっちには今の所あんたを確実に倒せる作戦なんて無い」

「せ、先輩?」

「実際、こうやってか弱い女の子に頼りっきりなんだ。策があるなら既にやってる。じゃないとそんなチキンな自分が嫌でとっくに死んでる」

 

か弱いってのは単純な強さじゃない。

出会って間もない彼女は、よく知りもしない殆ど赤の他人である俺のために戦っている。文字通り命がけだ。

その心の在りようってのは、言わずとも強いものだ。健気で必死で見栄を張って俺の前に立つ。見せかけだろうと、擬似的なものであろうと、それを否定することなど出来るはずがない。していいはずがないんだ。

 

けどそれでも彼女はか弱いんだ。男尊女卑とか前時代的なことを言うつもりはないけど、やっぱり男は女を守ってこそだろ。おんぶにだっこのただのヒモなんか、生きる価値なんてない。だったら死んで保険でお金をくれてやった方がよっぽど貢献してる。

 

「逆に聞くが、だったらなんだってんだ?中弛み、無策、自分を蔑む言葉なら幾らでもあるけど、それらを踏まえて敢えて言う」

 

せめて顔だけはそれっぽく繕う。

 

「それでも勝つ。俺たちの邪魔をするな」

 

吐き捨てた言葉は、見栄を張ると言うにも及ばないただの言葉の塊。言霊なるものがあるならそれに縋ろうとしか出来ない自分を、逸らしたくなる目を覚まして直視するための言葉。言えば自分にも責任が出来る。否が応でも逃げの選択肢は消える。一度口に出した言葉は戻ってこない。だから見栄を見栄じゃなくする。

根拠も作戦も自信もないけど、分かってることはある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「流れ流されて、その結果今ここにいる。その過程にたいして立派な志望動機なんてない。運良く俺だけが無事だった。たったそれだけのことだ。何も褒められるようなことはない。……けど、そんななあなあだからって、勝手に投げ出していいわけがないんだよ」

 

正義の味方とか世界の救世主だとか、そんな大層な名分なんてどうでもいい。最初から興味ない。

俺は俺が守りたいもののため、救いたいもののため、取り戻したいもののために戦うんだ。

 

だいたい英雄なんて碌でもない。

死が蔓延る大地の上で、自分に仇する奴をただ殺意を持って排除して、積み重ねた屍の数が多ければ多いほど、そいつは祖国の誉れとして名を連ねる。

 

「………見た感じ、あんたは意外と近しい間柄の英霊なのかもな。知ってるか?日本には大黒柱って言葉があるんだ。要するに……」

 

身体強化、物質特性強化……。

 

「男は女より常に出張ってろってことだっ……!」

 

拾い物の剣を力の限り叩きつける。

 

「………その意気や良し」

 

だがそれはいとも容易く、持ち合わせている長刀に防がれる。

 

「っ!!…こん、やろぉっ!!」

 

強化の魔術を集中した右足で、胴体めがけて蹴りあげる。

だがそれももう片方の空いた腕に阻まれる。

 

身体を捻りつつ左足を胴体横にめがけて蹴り入れる。

 

「…っ!」

 

僅かに溢れた声。ほんの少しは効いたようだ。

先ほど右足の強化、比率で言うならば剣に20、右足に80していたものを左足に100集めて叩き込んだ。要は今俺が生み出せる最大の攻撃力。

それでも当てられたのは僅かな衝撃。英霊を名乗るものにその程度の一発など、子供の喧嘩じゃあるまいし、はい、これで終わりなどとなるはずがない。

 

だから追撃が必要だ。一発一発が期待するには頼りないものならば、それを補う物量を浴びせる。塵も積もれば山となると言うし、元よりこちらの手札にそういった山なんて代物はない。

 

しかし俺には手がもうない。

だから頼る。俺を守ろうと、小さな背中を震わせて戦ってくれる彼女を。

 

「マシュ!」

「はいっ!」

 

俺が辛うじて生み出した隙にマシュは仕掛ける。

全速力で突撃(チャージ)し、槍兵を吹き飛ばす。

 

「ぐぉっ…!」

 

止まっていられない。

体力で物を語ったところで、明らかにこっちの分が悪い。

それでも止まることは出来ない。一寸の隙も与えてはいけない。敵に反撃する間を与えてしまえば、こちら側が打ち負かされるのが時間の問題どころではない。

 

「止まるなよ!」

「分かっています!」

 

着地してすぐ、踏み切りチャージをかける。

 

「…そう何度も……!」

 

対し槍兵は、得物の長刀で真正面から受け止める。若干後ろに押されるランサー。

だがそれでも霊気の格の違いは存在する。マシュの動きはすぐさまに止まる。

 

「っ!…こっ、のぉぉ!」

 

それでいても止まろうとはしない。止められた瞬間に前方へ踏み切り出して、勢いを完全に殺されないように全身全霊を体現する。

しかしそれでも遂げられないものがある。

だから、追撃を仕掛ける。

 

「喰らえ…よっ!」

「なっ!?…づっ!」

 

大きな盾は単純に制圧力を持つ突進武器だけじゃない。デカいというのは、身を隠すにはもってこいというものだ。

 

マシュの盾に隠れ、敵がその対処に一瞬でも手間取った隙に、盾の陰より飛び出で敵へめがけ剣を横に斬りつける。

死角より不意を突き、胴体を真っ二つにするがために全力で振るう。

 

だがその一刀を槍兵は、片足を蹴り上げることで剣を弾き飛ばし防ぐ。

次いで自らの重心をずらし、長刀を横払いすることでマシュを去なし、バランスを崩したところで俺の腕を蹴り上げた脚を遠心力を利用し少女を蹴飛ばす。

 

「…っづ!!」

 

さっきまでの攻防はなんだと言うのか。

こっちも間髪入れずそれなりに畳み掛けたつもりだが、簡単に返されてしまった。

さすがはサーヴァントと言うべきか。こちらの2人分の格以上なのだと改めて実感した。

 

そして彼は俺の首を掴んで持ち上げる。

 

「…っ……がっ…ぁっ…!」

 

息が出来ない。必死にその手を退かそうとしても、英霊に力で敵うはずもない。変わらず俺の首を絞めたままだ。

 

「…さて、どうする?」

 

そんな俺のことは御構い無しに、少し前にも聞いたような言葉をまた俺に投げかける。

一方的にリピート再生させるのはやめていただきたいのだが、僅かばかりのかけ無しの情けということなのだろう。ありがた迷惑だ。

 

「諦めることなく、果敢に挑む姿は賞賛に能う。だがそれもここまで。これ以上の時間の浪費は、拙者としても望むものではない。汝の連れに来られると厳しいのも事実であるからな」

 

だと思ってる。だからこうして馬鹿みたいなザマ晒して、必死にやってるんだ。

時間稼ぎをして全員で事に当たる。全然そっちの方が確実だ。一つ戦闘を終えて疲れてるところで申し訳ないが、確実性を求めたいのだ。理解してくれよ。

 

だが、そんなことを言ってる暇も無さそうだ。

悠長に望むタイミングを待ってたら、先にこっちの命が尽きるタイミングが来てしまう。

ならばどうするか?さっき以上に足掻くしかないだろう。

 

「勝…手に言……ってろ……!」

 

考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。

この状況で何が出来る?駄目だ、神頼みしか思い浮かばない。

情け無い。イライラする。他人任せな弱い自分に。

 

どうする?どうすればいい……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーやるかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、度…でも言って、やる……っ!」

 

考えろ。思い出せ。何かあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーならばよろしい、君に助言しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に、は…俺なりの、矜持ってのが……あるんだよ……!」

 

最悪、神頼みだろうとなんだってしてやる。あるかどうかも知らない偶像崇拝の対象物なんかに頼るのは癪だが、使える手はなんでも使ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー英霊というのは知っての通り、人間の埒外に座す有り体に言えば化け物だ。人の業では倒せぬよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どん…なに弱く、ても…!諦められないものってのが…あるん、だよっ……!」

 

だって俺は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーさて、どうする()()()()()()()()。ここで私の手を取って前へ進むかい?それとも、半身君が嫌う非日常に浸かった中途半端な日常とやらの為にこの道を退けるかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り戻しに、来たんだ…!!どんなに些細だろうが、どんなに小さかろうが、失わないために……!!」

 

………認めないっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー()()()()()()()()()…君はそれを嫌うかね?では君は、既知を求めると?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだけは譲れない……!折るわけにはいかない…!」

 

死ぬわけにいかない。…いや、死ぬはずがない。

こんなところで、こんな意味のわからない終わり方なんて………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー凡ての事象を知っている。知っているからこそ、幸福は消えて喜びは喪われる。知っているからこそ、恐怖は消えて不安は喪われる。君はそれを至上と謳う。変化のない普遍を無限に繰り返す。未知を渇望する私とは対をなすわけだ。

………ならば……そうならば、受け取るといいツァラトゥストラ。それは君の欲しいものを手に入れるための贈り物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところで、終われない…んだよ……!」

 

認められるわけがないだろ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー私が君に贈るのは、人類最悪にて最美の魂。例え名高き英雄の魂としても、それを雑魂と見做すほどの代物だ。

 

罰当たりな娘(L'enfant de la punition )

 

君と彼女にこの言葉を贈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しく…引き下がってろ!この…部外者が!」

 

ーーーおなじ

 

頭に過ぎる。それは見覚えのある上で、何かも分からないそんな不安定な存在。

 

ーーーあなたもおなじ

 

だけどきっとそういうことだろう。

ここで()が現れるってことは、きっとそういうことなんだろう。

 

ーーー彼とおなじ

 

薄々気づいてたけど、今確信に変わる。

ならば俺は、君を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー時よ止まれ(Verweile doch )おまえは美しい(Du bist so schon )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその瞬間、

 

ーーー俺の右腕に

 

ーーー鋼鉄の何かが降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感じたのは違和感。右腕が妙に重い。

だがそれを嫌だとは思わない。

どちらかで言えば、神聖な類いではないのは分かる。常人が触れてはいけない、そういう危険な類いだ。

 

だがそれを嫌だとは思わないのだ。

理由は分からない。だがこの確信を行動に移す。

 

俺は右腕を振るった。

 

「ーーーーーっ!?」

 

そして同時に、俺の喉を掴んで離さなかった槍兵の片腕の、肘から先が飛んだ。

 

「なっ…!!?」

 

驚きを隠せないランサー。マシュも今のこの光景に現実を見出していないよう。

だが不思議と自分は落ち着いている。何故だ?知るかそんなこと。今は些細な話。

 

「……!!」

 

もう一度右腕を振ってその身体を真っ二つにしようと試みる。

不可視の斬撃が翔ぶ。その肢体から飛び散る朱を欲するかのように。

 

ただ冷静に、ただ繰り返し、ただ刃を走らせる。そうしてるのではなくそうせざるを得ない。そうすることだけが精一杯なのだ。

暴馬を乗りこなす、ではないが、気を緩めたら何よりもまずこちらが先に吹っ飛ばされそうな力を擁している。腕を振るったら、そのまま俺の腕ごと飛んでいくのではないか、と思うほどに。

 

「っ!いったい何が!?」

 

そう零す槍兵は、何かしら攻撃が俺から発生していることは、さすがに理解出来ているようで、自分の身体の前に薙刀を構え防ごうとしている。

 

「……あんたには世話になった」

 

だがそれを超えていく。構えた得物を切り裂いて先へ。

影に堕ちた英霊ならば、俺でだってどうにかなる。

 

「…くっ!」

「…だから、終わらせる。ここで…退場だ」

 

そして、その首を斬り落とした。

 




FGO等何かあったら、活動報告にでも書いていこうと思うので、よろしくどうぞ
まぁ、自分のTwitterを見て貰った方が早いとは思いますが。創作宣伝垢じゃなくて、趣味垢のほう
その趣味垢で最近LINE風SSなるものも書き始めたんで、よかったらよろしくどうぞ
それではいつになるか分からない次話まで、気長にお待ちください

感想、誤字報告等よろしくお願いします


*追記

前回の番外編の解答を載せるのを忘れてたので、追記します

キャスター➡︎ハンス・ブルクマイアー
ランサー➡︎関羽
アサシン➡︎アルセーヌ・ルパン
アーチャー➡︎カスパールもしくはマックス(正直どちらでもいいかなって)
ライダー➡︎デュラハン
セイバー➡︎日本武尊
バーサーカー➡︎リリン

各人物詳細は各々調べてみてください


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第5節 情報






次回は来年度と言ったな?あれは嘘だ。

はい、忘れた頃にやってくること作者です。
お気に入り登録が600件みたいで、ありがとうございますm(_ _)m
我ながらどうしてここまで応援して頂けるのだろうなぁと不思議ですね。他の方のfate含め色々なSS読んでますけど、やっぱり劣等感ですよね〜…
支持して頂いてる以上、自分は自分なりに書いていくだけですが

今回から通信相手の会話は『』を使うことにしました。今回で言えばロマンですね。

……ロマン。゚(゚´Д`゚)゚。

あとがきで個人的な報告がありますので、良かったら見てください。

………受験勉強ェ












 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮!」

「……ヴァルキュリア、か」

 

戦いを終えて倒れ込んでいた時、おそらく戦闘を終えたヴァルキュリアがやってきて思い切り抱きついてきた。

 

「った…おい、そんな勢いよく飛びついてくんなよ…痛い」

「でも心配したんです!それくらい許しなさい!」

 

なんて横暴な。でも、嫌じゃない。

そんなに目を潤しているのに、逆にどうやって咎められるというのか。

 

「…そっちこそ、無事に終わったようだな。お疲れ」

「お疲れって…貴方はそんな口を利く前に言う言葉があるでしょ!」

「…だから(あはあ)痛いって言ってる(いはいっえいっえう)

 

口を利くどころか、口を引っ張られて碌に喋れないのだけれど?と、訴えるのは心の中だけにする。

まだヴァルキュリアに会ってからそれほど時間が経っていないにも拘らず、これほどまでに自分のことを心配してくれているというのは、少しばかり友好な関係にあるのではないかと、少なからず期待する。

 

けど…

 

「…………イタイ」

「ヴァルキュリアさん!このままでは先輩が落ちてしまいます!」

「あ…」

 

マシュの少し焦った声で、ようやく俺はがっちりホールドから解放される。こんなことで生命の危機を感じたくはなかった。

 

「それにしても蓮…いったいどうやって…」

「そうですよ先輩!さっきのあれはなんなんですか!?」

 

ヴァルキュリアも、俺たち2人だけで方がつくとは思ってなかっただろう。だから急いで来てくれたわけだし。

 

だがそれは、当事者の1人であるマシュも同じ。よく分からないまま事が済み、一件落着。……で納得してくれるような彼女じゃない。好奇心に輝かせるその目は有無を言わさぬ威圧があった。

 

「まぁそのことは追々な。……それよりはまず、ヴァルキュリア。そこの見ず知らずのゲストを紹介してくれないか?」

「あぁ!そうでした!すっかり忘れてました」

「っておい」

 

ヴァルキュリアの横に立っているフードを被った男が、思わず自分の扱いにツッコミを入れる。

見たところサーヴァントか?いや、そもそも普通の人間がいるはずがないか。

 

「紹介します。こちらキャスター、今回の聖杯戦争で生き残った1人です。真名は……そういえば聞いてませんでしたね」

「っておい」

 

今度は俺がツッコミを入れる。

つまり、何処の誰かも分からないような奴を連れて来たってことか?何かしら理由があるんだろうけど、ちょっと危険じゃないのか?

 

「そしてこっちが私のマスター、蓮です。隣の盾を持った少女がマシュ、その後ろでまだ恐怖から立ち直れずに震えているのがオルガマリーです」

 

毒が入ってますよ?

 

というか、さっきから一言も喋っていないと思っていたけど、やっぱりまだ怖いのか。少しケアが必要かもしれない。

 

「えぇっと…キャスター、でいいのか?」

「おう、好きに呼んでくれて構わねぇぜ?つっても、それ以外呼びようがねぇけどな」

 

別に、フードの人とかでもいいんだけど。さすがに申し訳ないが。

 

「それじゃあ聞くけど、キャスター、あんたの目的は?」

「…随分と直接的じゃねぇか」

「まどろっこしい真似したって意味がない。早くはっきりさせたいからなこっちは。それに、あんたの目的が俺たちに通ずる可能性だってある」

 

こんなところ、早くやることやってとっとと帰りたい。そういう意味でも、現地民に話を聞くのが一番早い。

 

「……聖杯戦争ってのが、どういうもんか分かってるな」

「だいたいは」

 

7人の魔術師と7体のサーヴァント、一人と一体で一組。計七つの陣営が1つの聖杯をかけて争うというもの。

その聖杯は願望機と呼ばれ、あらゆる願いを叶えるという。胡散臭いことこの上ない。

 

「俺たちは普通に戦争をしていた。そんな時だ、突然街が焼かれ始め、あっという間に一面焼け野原になっちまった。そうしたらよ、どういうわけかセイバーが他のサーヴァントどもを斬り伏せやがる。その結果がお前たちが戦った相手、あの影ってことだ。俺はなんとか息潜めながら切り抜けてきたから今こうして無事だけどよ、他の連中は全員やられちまった。……つまり、分かるな?」

「……俺たちの目的は知っているのか?」

「あぁ、そこのヴァルキュリアの姉ちゃんからおおよそは聞いた。こりゃあまた、えらいことになったもんだ」

 

そんなこと言いながらヘラヘラ笑ってるが、本当に分かってるのだろうか?それだけの余裕があるってことは、それだけの猛者でもあるということだろうが、さすがにちょっともう少し大袈裟なリアクションが欲しい。違った意味で心配になる。

 

「残りの生き残ったサーヴァントは?」

「俺の他にはセイバー1人だな」

「…分かった。つまり、セイバーが特異点攻略の鍵ってわけか」

「そういうこと、話が早くて助かるぜ」

 

特異点を修復するために聖杯を回収することが必須だと言う。だとしたら聖杯の持ち主は生き残りのサーヴァント、つまり、他のサーヴァントを倒したセイバーの確率が高いということだろう。

 

「この街には大聖杯ってのがあってだな、ようはこの街の心臓だ。そいつがこの事態を招いたとみて、まず間違いねぇだろ。ただ問題は、そこに居座ってるセイバーをどうするかだな」

「そんなに強いのか?」

「まぁな、剣にゆかりある英霊の中じゃトップクラスの知名度だろ。…ったく、俺がランサーだったらもう少しどうにかなるんだけどよ。キャスターってのは性に合わねぇ」

「ランサーだったら…?」

「先輩、サーヴァントというのは、その人のある側面のみを形にして降臨させる場合がほとんどです。つまりこの方は槍の名手として名を馳せながらも、魔術師としても相当な腕だったということだと思います」

 

なるほど、「槍兵として名高い英霊」ながらも「魔術に長けた英霊」でもあるということか。

そして今回は後者が取り上げられてキャスターとして現界した。本人的には不服らしいが。

 

『それでMr.キャスター?残ったシャドウサーヴァント、アーチャーとバーサーカーは如何程に?』

「あぁそういう畏まったのはいいから、面倒くさい。……アーチャーは俺一人いればどうにかなる。問題はバーサーカーだな。あいつはセイバーでも手を焼くほどの奴だ。こっちから仕掛けない限り襲ってくるこたぁねぇだろうから、無視するのが一番堅実的だろうな」

 

狂戦士なれどその実力は健在、か。

むしろ理性を代償に全ステータスを上げているために、より厄介か。

あまり無駄に消耗したくない。それほどに困難なのであれば、わざわざやり合う必要もないだろう。

 

「よく分かったわ。それで?手を貸してくれるってことでいいのかしら?」

「そういうことで構わねぇよ。そんでもって、そのためにも俺と仮契約を頼むわ。こっちも自分の魔力だけでやってたら、戦う以前にいるだけで精一杯になっちまう。なんでもそっちの魔力供給はちっと特別仕様みたいじゃねぇの」

 

さすがに喋りすぎじゃないのか?というかヴァルキュリア、そんな話をいつ知ったよ?

 

「ということは、俺が臨時マスターってわけ?」

「それ以外に無いだろ。そこの嬢ちゃんも立派な魔術師みたいだが、マスター適正はからっきしみたいだしな。いやぁ珍しいもんだな」

「うるさいわよ、放っておいて!」

 

槍兵、それは鬼門だ。彼女はこう見えて、然程メンタルは強くないんだ。あまりそれ以上キズを抉るような真似はやめてあげてくれ。

事実、少し目が潤んでいる。

 

『えぇっと…それでいいのかい?オルガマリー』

「…仕方ないでしょう。貴重な戦力増強の機会をみすみす逃すわけにはいかないわ。藤井蓮、貴方にこのサーヴァントを任せます。精々上手く使いこなしなさい」

「了解です。…それじゃあよろしく、キャスター…でいいのか?」

「あぁそれで構わねぇよ。真名は今度正式に会った時のお楽しみってことで。まぁ別に?隠す必要もねぇけどな」

「それじゃあ、この先も無事に生き残れるようにっていう願掛けってことで、真名は楽しみに取っておくよ」

 

そのためにもまずは目の前の試練を乗り越えなくてはいけない。

頼れる兄貴肌ってのが勘違いじゃないことを祈りつつ、次の目的へと向かう。

 

「……あの」

 

そう新たに心付いた時、ヴァルキュリアが恐る恐る手を挙げて話を切り出した。

 

「どうした?」

「あのぉ、蓮のことについて話したいことがあって…」

 

俺?

 

「先輩……あぁ!そうですよ先輩!先輩がランサーのサーヴァントを倒した理由をまだ聞いていませんでした!」

『そういえばそうだ!藤井君、いったいどういうことなんだい!?だいたいバイタルからして…』

「あーあー煩い煩い一気に喋るな、俺は聖徳太子じゃない」

 

いるかもわからない人物を上げつつ、質問の嵐を遮る。

 

「……正直な話をするとだな」

「はい…!」

 

期待で目をキラキラさせてるんじゃないよ。

 

「…………分からん」

「…………」

『…………』

「…………は?」

 

所長の間の抜けた声が妙に突き刺さるのだが、開いた口が塞がらないというのはこういうことなんだろう。他人事だけど。

 

「あ、あ、ああ貴方!本気で言ってるのそれ!」

「本気も何も、なんでこんな状況で大して面白くもない冗談を言わないといけないんですか」

「開き直らない!」

 

どうやら御怒りのようだ。というか、俺に関することに対してもう少し沸点の調整をしっかりして欲しい。甘めの方向に。

 

「ちょっといいですか?その点について、私から話があるのですが…」

 

またヴァルキュリアが恐る恐る以下略。

 

「蓮がその力を得た理由…それは分かりませんが、それがどういったものかは多分分かります」

「え?」

『本当かい、ヴァルキュリア?』

「なぜ貴方が……?」

 

これには俺も唖然とする。まさかこんな近くに事情を把握できる人物がいるとは。けどなんで?

 

「おそらく………それ、私の魔術と同じですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗く、暗く、暗く………

その闇の奥にその空間はあった。

 

そこには中心を取り囲むように座席が置かれていて、それぞれからそれぞれ違った異質な気配を放っていた。

 

その一席に一人、腰掛けている者がいた。

 

「………」

 

頬杖をつきながら何かを見ているようで、実際に目の前の虚空をただ見つめているわけではない。遠く遠い、ここではない何処かをその眼は見ていた。

 

「………いつまでそこで隠れているつもりだ、カール」

 

何気なく出た言葉。見ている先は変わらないが、その声を投げかけた先はその男の後ろ。

 

「…おや、分かっておられたか」

「何を言う。最初から真剣に隠す気など無かっただろう」

 

それは靄。あまりにも不安定ではっきりしない、流動的な気配そのもののような存在。

それが徐々に人の形を取り、そして人を成す。

 

「卿が新たに催した歌劇、中々に興味深い。完全にこの世の理を外れた別物。よもやここまで大きく創り上げるとは、流石と言ったところか」

「お褒めに預り光栄ですぞ、獣殿。しかしこれは偶然の産物。意図して生み出したものではござらんよ。私自身、森羅万象須らく取るに足らぬ飽き飽きしたものと思っていたが…いやはや、存外分からぬものですな。座とも違う、若しくはそれよりも高次元な存在。まさか私の管轄外に値うるとは。認めるのは癪なのだがね」

 

やれやれと、その顔は呆れているようで、かつ何処か不服そうで、それでいて何処か歓喜しているようで。

その一色に表わせない複雑に入り混じった表情は、妙に悪寒を誘う。

 

「そうは言うが、カールよ、それでいても卿は既に手を加えたのだろう?十分に我々が知るところの埒外であると思うが」

「確かに、それは否定しますまい。この世には幾つもの平行に並ぶ世界が幾万と有ります。その群を一つと見なし一つのより大きな枠組みで言う『次元』が成立するのです。その次元を扱うこと自体、我が座ならば然程難しく有りますまい。…だが」

「極稀に、卿でも御することの出来ぬ、或いは感知することすら出来ぬより高度なものがある。…()()()()か」

 

言葉を引き継ぎ紡いだ後に、視線を変えず見ていたその先にもう一人の男の目を差し向ける。

 

「英霊……か」

「おや?御興味が?」

「無いと言えば嘘になろう。根本的に我々と違えど、その魂の在りようは実に様々だ。故に、触れてみたいと思う。永遠の刹那のように、我が愛を持ってしても壊せぬ、そんな存在がいる可能性があるのだろう?………あぁ、カール。私は確かに渇望している。再びあの極地に至りたいと魂が欲動して止まらない」

 

大気が震える。

この黄金に満ちた男が、一瞬、ほんの一瞬口角を上げただけで、まるで彼を取り巻く世界そのものが彼に恐怖しているかのように鼓動している。

 

「………落ち着くがよろしい、獣殿。貴方の心中も察し出来ぬわけではないが、まだ時期尚早だと理解して頂こう。第一、この世界でさえもスワスチカを完成させなければ十分に成れぬというのに、その上私にも扱いきれぬ領域で貴方が満足するような結果を生み出せるとお思いか?今はまだ準備の段階であるが故に、暫し待たれよ。いずれ貴方が躍り出るに相応しい舞台が完成出来るだろう」

「……そうか」

 

鋭く、荒々しく、猛々しい微笑は、僅かに穏やかになった。

 

「ならば期待しよう。…だがカール、あまり私を失望させないでくれよ?そうであれば、無理を承知でこの身を地に落とし宴に参加するやもしれん。なに、それでこの身が崩れ落ちるならそれはそれで興味深い。進んでそう在ろうとは思わぬがな」

「承知しておるよ。ただ一つ、理解しておいて貰わぬといけないのは、此度の歌劇の役者に演出家、その台本も、あくまで向こうの者たちだ。出来うる限り、より面白い筋書きになるよう努めるつもりだが、あまり第三者が出しゃばると、向こう側に目をつけられかねんし、そうなると少々面倒だ。そして何より、それではあまりにも滑稽だ、興が冷める。とどのつまり、この歌劇が獣殿を満足させるか否か、それは向こうが決めることであるということ。私に全ての責任を求められても困るのだよ」

「卿ともあろう者が弱腰か?これは珍妙なことだ。…案ずるな。そのようなこと、卿に言われずとも理解している。だが、それでも此度の興に多少なりとも危惧があるのも事実。期待があればそれと同程度の危惧が存ずるのも、この世の真理であろう?ならばその僅かな可能性をも取り除き、より質の高い一幕にするのが卿の役目であろう」

 

それはその怪しげな男に向けての期待なのか?それとも単なる圧力なのか?

何方とも取れる黄金の男の言葉に、その人を象った影の集合地は、不気味に笑みと共に返す。

 

「あぁそうだとも、確かにその通りだ。他人の脚本に口を出したがるのも、また同職に就く者としての定め。未知を求めるが故に、私は介入せずにはいられぬ。例えそれがどれほどの愚行や蛮行でも、だ。だが同業者だからこそ、失敗作を目撃すると、まるで我が事のように羞恥に身を攀じるというものなのだよ。故に見過ごせぬ。我が腕に所信があるのならば、行き過ぎだと分かっていても誇示したくなるというもの。彼方の演出家に目を瞑って貰えることを願うことにするよ」

「そうするといい。程度を履き違えないのであれば問題無かろう。友人としての忠告だ。卿は興味ないものには微塵も目を留めぬが、逆の場合は少々熱が入りすぎる。其処のみ注意しているならば、私も傍観者としてい続けられるだろうからな」

「心配いらぬよ獣殿、執拗に何度も申し上げるが、過度な干渉は愚の骨頂としか形容できん。何故ならば、触れた値の比が勝ってしまえば、その瞬間に作品の創作者が変わってしまう。出来うる限り客人でいたいのだよ私は。長らく創り出す側にいた手前、純粋な観客というのも偶には恋い焦がれるものよ。……さて、それでは此度はここまでとしよう。獣殿、身体が疼くとはまさにその様だろうが、暫し来るべき時まで休息とするがよろしい。よく言うであろう?楽しみは待つと尚良し、と。あぁ、あまりにも陳腐な台詞だが、敢えて貴方に贈らせて頂くよ」

 

その言葉を最後に、その影のような男は消えた。

音も無く、まるで初めからそこにいなかったかのように、極自然に姿を消した。

 

「……………」

 

黄金を体現し者は、変わらずに其の眼で虚空を見つめていた。

見定めるかのように、嘗て自分と対等に渡り合った、我が黄金の光沢を幻想だと一蹴し、何よりもここに輝く刹那を愛した、その男の姿を見た。

厳密に言えばそれは、同じ器の中に注いだ別の美酒。限りなく過程は近しくても細かに差異があり、結果として近しいが遠い、そんな一品が出来上がる。

 

だが根本にあるものは同一。元を辿り、生まれ出づるところに細見すれば、世界を違えた故に僅かにその先の道をも違えたのだと、自ずと知得出来る。

 

故に、面白い。

 

僅かだ。確かに差異は僅かだ。

だが、その僅かが、大きな差異を生み出す可能性など潤沢とある。

だからこの身が歓喜と期待で湧き上がる。結末はどうであれ、この身に刻んだことのない未知との遭遇が叶うかもしれない。

まるで異なる、この身を置いて委ねた世界とは違う世界。既に未知であるようで、まだ確信には至らない。ほんの不安も渦巻いている。これも既知ならば、と。

 

そして黄金は揺らめく。

一切威光は衰えず、目を眩ませるほどのそれは真夏の陽炎のようで、悍ましい覇気を纏ったままだった。

そしてそれは、在るべきところに還るかのように、鎮座したその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突拍子も無いと言わざるを得ないのが、まず突然すぎるということだ。

 

元より俺が、こういった神秘だとか超絶摩訶不思議なことの側の人間だと言うのならば、まだ少しは許容出来る。いやそれを踏まえて見ても実感の無い話だろうが。

確かに曲がりなりにも基本的な魔術は、一応使える程度には形にした。それだけでも、我ながらそれなりにその手の才能はあったんじゃないかと自惚れるくらいにはなる。

と言っても割合的にはまだ一般人だ。平凡の類の域を出ないと思ってる。うちの家系に何か関係する筋があったとか聞いたことがない。聞いてたら完全に向こうサイドだろうけど。

だから不思議で仕方がないんだ。何故俺なんだ、って。

 

「……ヴァルキュリアと、同じ?」

「えぇ、そうです」

 

まだこの戦乙女について詳しいことが知れてないから、強い実感とか共感とかそういうのはない。

それでも、僅かに覚えているという自分の力の仕組み。それと俺のは同じだと言う。

 

ヴァルキュリアが使うのは一種の魔術らしい。つまるところ、生前は少なくとも魔術使いだったってこと。

その使ってた魔術というのが少々特殊らしく、幾つかの段階に分けられているという。ゲームで言うところのレベルアップだ。

 

「そもそもこの術を使うには、付属して必要なものがあります。…聖遺物です」

『聖遺物?それってブッダの歯とか、マリアの腕とかのことかい?』

「本来の意味のそれとは違います。この術を使うために必要な聖遺物というのは、その器物に強大な念が込められることで、特殊な力を得たもののことです。怨念、信仰心、敬愛、どのような形であれ狂気じみた強い想いがあれば、それが聖遺物を作ります。日本で言うところの付喪神という奴でしょうか。ようは曰く付きということです」

 

生前馬鹿みたいに狂った人間がいて、そいつが馬鹿みたいに狂ったことやってる時に、肌身離さず持ってるような奴とか、何人も殺して血を吸って、挙句には持ち主も殺してしまうような妖刀とか、そういう物騒なものがあるということらしい。

 

「俺はそんなヤバそうな奴なんか持ってないぞ?」

「うーん…心当たりは何もありませんか?」

「………ない、な」

「そうですか…」

 

実のところある。

というかむしろ、あれ以外に思えない。

悠久が満ちた黄昏の浜辺、其処に揺蕩う無垢な少女。最近現われたそれらが、今回の一件に関わってると見れば特に違和感はない。

ただそれはまだ確証じゃない。具体的に説明しろと言われても、感じた雰囲気のような曖昧なものを伝えることしか出来ないくらい、それぐらい彼女のことはまるで分からない。

そもそも彼女はなんだ?害なのか益なのか、それすらも把握出来ない。実際こっちは処刑台に固定されて首を斬り落とされたのだ。妙にリアルで、思い出したら今でも身体が拒否を示している。それを躊躇いなく信じるなんて出来ようがない。だから来るべき時まで言わない。それがきっかけで本当に首を斬り落とされたら洒落にならない。

 

「先ほども言いましたが、この術には段階があります。おそらく推測が正しければ、蓮はその第一段階。聖遺物の力を限定的に使えるところでしょう。おそらく蓮がサーヴァントを斬ったことから考えるに、鋭利なもの、刃の付随している剣の類でしょうか?」

 

………ギロチン、か。

 

「この段階はまだ完全に聖遺物を使いこなせていません。いつ暴走するか分からない、とても不安定な状態です。それが第一段階、《活動》です」

 

まだ完全に支配下ではないと。何と無く分かる。妙に右腕が疼いている。…中学二年生みたいな台詞だが。

それに俺の思考までも侵されているような感覚。なんというか、バイオレントじみてる。殺人衝動という奴か?今は然程激しくないが、危険は感じられる。

 

「第二段階が《形成》、内包した聖遺物を具現化して実際に武器とすることが出来る段階です」

 

ヴァルキュリアの手には先程の戦いで見せた細剣が握られていた。

 

「それがお前の聖遺物なのか?」

「はい、これを実際に形を成して扱える段階、ひとまずコントロールは出来た、というところですね。………そしてまだ上があります。それは《創造》位階」

 

《創造》。

ヴァルキュリアの言うところ、平たく言えば必殺技を覚える段階。

この段階に達すると、世の中の常識と隔たれていて、尚且つそれに拘束されない一つの強大な異界を創り出すのだという。

それはルール。世界の法則と違えた、独自の独自で完結するルール。つまり、心の底から頭をおかしくしろということ。まともな人間が成れる領域ではない。明らかに出たら打たれる杭のような奴、変人とか狂人とかそう呼ばれるような人間のみが成せる業。

 

「それって固有結界ってこと!?そんな…」

「厳密には違うと思いますが、簡単に言えばそのようなものです。これにも色々とあるのですが……今話しても仕方がないでしょう。ここに到達する人間は、良くも悪くも普通じゃありませんから」

「つまりヴァルキュリアは普通じゃないってことか?」

「グッ……ま、まぁ、そういうことになっちゃいますね……」

 

見た目ちょっとおつむがあれなだけで、まともそうに見えるのだが、案外中身はどこか螺子が抜けてるのかもしれない。

 

「私が分かるのはそこまでです。もしかすると、さらに上があるのかもしれませんが、憶測を話しても何にもなりませんしね。ひとまず蓮は、《形成》に至れるようにしてください。今のままでは危ないですから。《活動》を使いこなせば、先ほど遭遇した骸骨兵の程度は蹴散らせます。《形成》を使いこなせば、影のサーヴァント、或いはサーヴァントとも渡り合えるでしょう。《創造》はつまりサーヴァントの切り札、宝具に対抗出来るものです。……飛び級はありません。まずは力を使いこなす事だけを考えてください。上を見すぎると足元掬われますよ」

「………ヴァルキュリア」

「はい?なんでしょう?」

「お前………頼もしいんだな」

「………」

「………」

「………え?今私は褒められたんです?愚弄されてるんです?」

 

失礼な、心の底からの賛美だぞ。

だからそんな目で見るな。

 

「それで?どうやったら次の段階に行けるんだ?」

「さぁ?知りません」

「おいこら」

 

何が知りませんだよ、今の流れからして教えてくれるんじゃないのかよ。

 

「だって私、記憶無いですし?」

 

都合良い言い訳を持ってやがるその上に遠慮なく振りかざしてきやがった。

前言撤回、やっぱりこいつは駄目だ。なんか色々残念だ。

 

「…なんですか、その可哀想なものを見るような目は。マスターにそういう目で見られると、さすがの私も辛いのですが………」

 

目を麗してそんなこと言っても、何も解決にならないんだぞ。悠長に待ってれば自ずと強くなるって代物でもないだろうし。

 

「……戦えばいいんじゃないの?」

「…所長?」

「ようは使い慣れてないから、それが暴れて持てる力を発揮出来ないということでしょう?……《フェイト》の影響で完全なるサーヴァントが不完全で召喚される。けど今のヴァルキュリアの霊基は、召喚した時よりも僅かだけど高まっている。それが意味するところはつまり、戦闘を重ねることで霊基が成長するということ。…それがヴァルキュリアの魔術にだけ適用されるものなのか、それとも全サーヴァントなのか、それは分からないわ。けれど、どちらにしろヴァルキュリアに近いであろう貴方には、同じような結果が出ると考えるのが自然じゃないかしら」

 

……この人、ちゃんと偉い人だったんだなぁと。いつも後ろに逃げて隠れて影が薄かったから。言ったら怒られそうだけど。

 

「……藤井蓮、次わたしのことをそんな目で見たら、許さないわよ?」

 

みなさん視線に敏感すぎじゃないですかね……。

 

ともかく、所長の言うことは最もだと思う。現状それが最適解だと考えるのが、一番落ち着くだろう。というか分からないし。

 

「………あの、先輩」

「どうした?」

 

何と無く話が纏まったところでマシュが口を開いた。

 

「先ほどヴァルキュリアさんの話で出てた宝具なんですが…」

「あぁ。……あ、マシュもデミ・サーヴァントだから宝具使えたりするのか?」

「………」

 

………あれ?

なんか物凄く泣きそうなんだけど……俺変なこと言った?

 

「………使えないのね、宝具」

「え…」

「………はい」

 

所長の言葉に申し訳なさそうに答える。

顔を下に向けたまま続けた言葉は、弱々しかった。

 

「……わたしは、わたしと融合したサーヴァントの真名も本当の力の使い方も知りません。だから宝具も使えません…」

 

傷を抉るような真似をしてしまったようだ。

そこまで気にすることじゃないと正直思うのだが、それを言ったところでこの子は、むしろ逆に後ろめたくなってしまうのだろう。

責任感が強いがために、デミとは言えサーヴァント、その重圧に苦しんでいる。

 

「なんだ嬢ちゃん、宝具使えねぇのか?」

 

だんまり決め込んでいたキャスターが変わらずちゃらついた喋りをする。

 

「そうだなぁ……よし。おい嬢ちゃん」

「は、はい!」

 

マシュが返事をした時キャスターを文字を空中に綴っていた。

 

「……アンザス!」

「え…」

 

呆けに取られたマシュに向かって放たれたのは火球。一直線に少女へと飛んでいく。

だがそれは直前で掻き消えた。

いや、斬られた。

 

「へぇ〜…やるじゃねぇの」

「………どういうつもりだ、キャスター」

 

我ながら低い声がよく出たものだと思う。

瞳孔が開いてるのが分かる。完全に殺意が篭ってる。

 

「なーに簡単なこったよ。こういうのは理屈じゃねぇんだ、精神論なんだよ。ようは気合いってことだ」

「それって…」

 

片目だけ瞬いてその魔術師は告げた。

 

「何事もやってみるのが一番だろ?…実戦だよ、実戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














報告というのは、

自分、FGO辞めようと思っています。
まだ確定じゃないですけど、おそらくそうなるかと。

理由は客観的に見れば大したことじゃないんですが、個人的にちょっとくるものがあって、このSSも辞めようかと思いました

趣味でしかないSSならば、そこに義務も強制もないと思ってますが、これだけ支持してくださってる方々がいるので、このSSは引き続き書いていきます
なのでまだFGOのデータは残っています

とりあえず最終章まで書いていこうかと思ってます
一応ヒロイン別にルート考えたりしてるんですけど、詳細は考えてないので未定ですね。とりあえず原作に近いエンディングを書いていこうと思ってます

最後に、FGO辞めることで、このSSが意図していい加減になることはありません。
不思議なことにこのSSを書くこと自体は、変わらず結構楽しいんで

良かったらこれからも読んでやってください
失礼しますm(_ _)m











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第6節 仮想宝具 擬似展開

「このSS……あぁ〜そういえばこんなのあったね」でおなじみの作者です。

前も言ったような気がしますが、オリジナルも書いてますので、休みだからってずっとこちらを書いてるわけじゃないってことを理解して頂けるようお願いします

それにやらずじまいだったエクステラの方にも手を出し始めようやくアルテラルートってところですね。
何だかんだ新宿を攻略している………FGO卒業とはいかに?
友達に「新宿のアサシンとアベンジャー出たよ〜」って言ったら「ファッキュー」と言われましたね。是非もないネ!当然のことです。自分も言われたら嫌ですし(じゃあ言うな)。ガチャ報告は慎重に!友情に大きく影響を与えます

そういえば無事大学に合格し、無事卒業しました。応援してくださった方々ありがとうございました。
まぁだからって暇ってわけじゃないんだけどね!色々やることあるし…ゲームもやりたいし…

まぁ、そういうわけで引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m









あ、本編です







 

 

 

 

「さぁ気張れよ嬢ちゃん!さもなくばマスターごと黒焦げだぜ!」

「くっ…!」

 

マシュに襲いかかる幾つもの火炎。

それを盾を構え、また盾を振り、凌ぐ。

 

「マシュ…!」

「おぉっとセイバー、あんたは見物だ。これはそこの嬢ちゃんの特訓だからな。それに少しでも早く治せそれ。そっちの方が先決だろうよ」

 

マシュの苦戦する様子に歯をくいしばるヴァルキュリア。それを趣旨から外れるとキャスターは静止させる。

先の戦闘で負傷した片腕。今後も引きずるようなことがあってはならない。

 

段々と数が増えより激しくなる猛襲。

だがキャスターが放ってるのは、簡単な火炎の球のみ。それでいてもマシュは、それを躱すことで精一杯で、ただただ守るのみとなってしまっている。

 

「おらマスター!」

「な!……っ!」

 

不意打ちと言わんばかりに、こちらにも火を飛ばしてくる。

もしこっちに力が無かったら、簡単に上手に焼かれていた。いや、それを承知の上でやってきてるんだろうけど。

 

「お前も特訓が必要なんだろ?細かいことはよくわからねぇが、要はマスターも経験値を積めってことだ!早く来い!2人がかりでやりゃあ、こっちももう少し本気出せるし、そっちも必死になんだろ!」

 

熱が入りすぎというか、殺す気だろあれは。

ここで死んだら、どっちみちこの先は無理だとか、つまりはそういう理屈が言いたいのか?

 

冗談じゃない。

こっちのことを考えての行動だろうし、間違ってるとも思わない。

だから余計に力が入る。

 

「……如何にも熱血って感じだな。スポ根かこれは?」

 

右腕を感じる。

 

……あぁ、まだ嫌か。

 

駄目な主人には仕えたくないってのは、何処の使用人にも共通だと思うけど、つまりはそういうことだろ?

こういう場面で逃げ腰の奴なんかに使われたくないと。

 

「……こっちから願い下げだそんなの」

 

確かでない、それに中々会えない君に語りかける。

ひとまず君を使わせてもらう、と。

 

「………少しは手加減しろよ、キャスター!」

「はっ!あんまし期待すんじゃねぇぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子をセイバーは静かに見ていた。

魔術師の英霊と、英霊になった少女と、英霊に並ぶ存在になった少年との戦闘の光景。

 

キャスターはまだ、火炎の球を飛ばす以外の攻撃はしていない。かかってきた2人を持っている杖で遇らうことはあれど、彼から能動的に仕掛けることはその一つのみだ。

 

彼が言っていた先の台詞。

自分がランサーとして召喚されていたら、と。

つまりそれは、彼自身は距離を置いて戦うスタイルよりも、白兵戦を好むということなのだろう。

それは嘘ではないとセイバーは、今目の前で繰り広げられる光景から実感する。

 

マシュの振るう盾を杖で受け止め、弾き、振り回して突く。最早それは槍兵の動きそのもので、余程そちらの方が好みなのだと苦笑するほどに。

そして彼が英霊として、どれだけ強者なのかを確信する。あれが槍であったならば、きっと何度も突き殺されてしまうだろう。

持っているものは杖と槍と、見た目で言えばそれ程差は無いように思えるが、彼自身はそうではない。

槍を構える自分こそが自分。その獰猛さの片鱗を魔術師の枠に収まった今からも、ヴァルキュリアは感じ取っていた。

 

「………相当やるわね、あのサーヴァント」

 

静観していたヴァルキュリアに、同じようにただ見ていた少女が呟く。

 

「そもそもサーヴァントに、れっきとした優劣があるのかも疑問だけど、純粋に戦闘に事関しては彼はトップクラスの英霊ね。さすがはランサークラス適正があるだけはあるってことかしら」

「えぇ、同じ感想ですオルガマリー。彼ほどの英霊が協力してくれるとは、とてもありがたいです」

 

己の主が見えざる刃を振り翳す。放たれる不可視の斬撃を、杖を持って防ぐ。マシュの盾も変わらず去なす。のらりくらりとしているようで、受け手にしか見えないようで、ようは本気じゃないのだと。

 

「はぁ…はぁ、はぁ……」

「………くっそ」

 

これが歴史に名を残す英雄との差ということなのだろう。純粋な経験値の差が、あまりにも直接的に物語っている。

人間と半分人間、それらは完全なる異形と比較して、技術や性能よりも基本的な話、つまり体力差で明らかに劣っていた。

 

「す、すみませんキャスターさん…もう…限界です…。出来ればもっと理屈に沿った効率的な方法を…」

 

息を絶え絶えにマシュは提案をした。

マシュの言うことも分かる。確かにキャスターの言う通り、何か精神的な問題があるのかもしれない。けれど、それを解決するトリガーなるものが、一体何なのか分からないままに闇雲に暴れるのは得策とは言えないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが肝心の当の本人、キャスターは顔を厳しくしたままだった。

 

「うーむ…こりゃあ見当違いだったかねぇ…」

 

顎に手を当て考える素ぶりを見せる。

その目は何処か落胆の色が見られ、逆に何かを覚悟しためのようにも見えた。

 

「………仕方ねぇ、荒療治だ」

 

瞬間、魔力が膨張する。

この感覚を知っている。英霊の影と戦った時にヴァルキュリアが繰り出した宝剣と同じ。

つまり、宝具の開帳。

 

「…我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社………」

 

辺りが暑くなる。いや、()()なる。

熱が大気を揺らがせ、蜃気楼かのように巨大が具現する。

それは緑の巨人。おそらくこれが彼の宝具。炎を纏ったそれは、何も語らず静かに且つ大きくこちらに向かう。

 

「さぁ嬢ちゃん!死ぬ気で守らねぇとマスター諸共ここで終わりだぞ!」

「あ…あ…」

 

突然のことにマシュは半分放心している。目の前の現実に恐怖している。頭で理解していても、あまりにも強大な魔力の顕現に絶望に染められていく。

 

「マシュ!」

「……倒壊するは灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

俺がやらないと…そのための力だろ。

この健気な彼女を守るために得たんだろ……!

 

自分が出来る域を超えたものだと分かっている。けれどそうでもやらないといけない。

普通の子だったんだ。普通の女の子にまだ無理なんかさせてたまるか。それを庇うためのマスターだろうが。

 

「オラ!善悪問わずに土に還りなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖かった。

彼が自分のためを思ってやっているのだと、確かに理解していた。

それでいて動かなかった。動けなかった。心の何処かで諦めていたのかもしれない。自分には無理なのだと。これだけやっても駄目なのだから、もう無理なのだと。

 

自分を自分で否定するような目で下を向く。直視出来ない現状に自身に失望する。

そして何よりも謝意。自分の傍にいる自分の主に対して申し訳ないという気持ち………

 

「ーーーーー!」

 

前を見ていた。

自分とは違いただひたすらに対峙する巨人だけを見据えていた。

そして後悔する。懺悔する。侮蔑する。

僅かな一瞬の間でも諦めてしまった自分に。

 

(………守るんだ)

 

それはサーヴァントになった時の誓い。

所詮紛い物の自分に出来ることなど限られている。サーヴァントですら万能でないのに、それを借りただけのこの身では、真似事の範囲も知れている。

 

(わたしが…守るんだ…!)

 

だからどうしたと言うのか?

そんなこと最初から分かってて、それでいても守るんだと、あの紅い恐怖の中で自分の手を取ってくれた、彼女を覆い尽くそうとした炎よりも温かいその温もりに誓ったのだ。

 

それを今更ふいにする?

 

馬鹿げている冗談じゃない。

なんのための盾なんだ。守りたいものを守るための盾だろう。だったらここで、その真髄を示し照らさなければならない。

 

脳裏に駆け巡った、僅かな刹那の間の後悔と想起の奔流。それを瞬間に理解させ、身体を動かすギアとした。

 

故に、少女は前を向いた。

 

「………はぁぁぁぁぁああああっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな声と共に俺の前に現れたのは、その背丈に合わぬ巨大な盾を持った少女。

俺を庇うように盾を突き出し、精一杯の力を込めてそれを防ごうとする。

 

それに応える。

盾より発した魔力の膨張。それが形を成し、さらに巨大な盾となり烈火の猛襲を防ぐ。

曲線に作られた魔力の塊に流されるように、行き場を失った炎たちが俺たちの横を過ぎていく。

 

これが宝具。

盾を構えし英霊の意思を継いだ少女が顕現させた、護りに特化した神秘の結晶。

それはかのキャスターの宝具の炎が尽きるその瞬間まで、不屈な様を示した。

 

「………こりゃあ、驚いたな」

 

宝具を閉じたキャスターが、僅かに驚嘆の表情を見せつつ呟いた。

 

「確かに全開ってわけじゃなかったが、決して甘い威力にした覚えはねぇんだけどな………防がれるとは思ったが、まさか無傷とはな……」

 

ここまでやったキャスターの予想を上回ったということは、結果的に判断して良いことかもしれないが、明らかにこっちは死ぬ寸前まで追い込まれたのも事実だし、というか予想に達していなかったらどうするつもりだったんだよ?

キャスタークラスというくらいだから、回復もお手の物なのかもしれないが、最終的に治ってれば問題ない、みたいな結果主義に付き合わせられる身としてはたまったもんじゃない。

 

「…ともかく、これで宝具取得だな、マシュ」

「…は、はいっ!」

 

嬉しいという感情が身体全体から伝わってくる。

俺の手を取ってぶんぶん振り回して少々痛いが、それも一つの愛嬌だろう。

 

「…嬢ちゃんの宝具は、誰かを守りたいっていうもんだ。だから戦うために力を使うんじゃなくて、守るために力を使わせりゃ良かったって話だ」

 

愛されてるな、なんてこの英霊は妙に悪戯っぽくほくそ笑む。

それに照れて顔を赤く染めて、必死に訂正しようとするマシュだが、そういうところがむしろ可愛らしさを助長している。本人はあまり分かっていないようだが。

…もうそろそろ訂正しなくてもいいんじゃない?

 

「……偽物でもいい、か」

「所長?」

 

少し離れたところで、所長が独り気に呟く。

笑み…と言っても、純粋な明るい感情のものではない。自虐、自分に対する嘲笑という類。

 

「本物になろうとしなかった。偽りでもいいから、ただ、守りたいって………何よそれ?如何にも綺麗って話じゃないの。笑っちゃうわ…えぇ、本当に」

 

それは何を思っての言葉か。

馬鹿にするとかそういう低俗な話じゃなくて、マシュの在り方に当てられてどうしようもないというところだろうか。

マシュの純粋な健気さに、彼女は思うところがあったのかもしれない。それは自分には知り得ないことだし、そもそも知ってどうなるということでもない。

 

「所長…?」

「…あぁ、ごめんなさいね。ただの嫌味、気にしないで」

 

宝具を使えるようになっても、真名を理解するところまでは達しなかった。つまりそれは、彼女はまだ真の意味で英霊になったわけではないということ。

 

けど、彼女はそれを良しとした。

別に分からないままでいいというわけではない。ただ、分からないままであっても、それでも誰かを守りたい…と。

今回その対象が俺であって、事実、マシュはその純粋な意思で盾を構えて実際に結果を出した。

 

そしてそれは、完璧な結果を求められ続けてきた、まだ少女と言うに適した歳月しか重ねてない彼女にとって、その緊張や焦燥のために張り詰めた胸の内を刺激するのに、あまりにも鮮烈的だったのだろう。

 

「……正式な名前が分からないと言ったって、さすがに何かしら名称があった方がいいでしょ?そうね………『ロード・カルデアス』、なんてどうかしら?カルデアはあなたにとっても所縁あるものだしね」

「は、はい!ありがとうございます、所長!」

 

マシュの会得した宝具につけられた仮の名前。

些細なことだが、彼女にとってそれは大きなことで、ハキハキと跳ねた声色で礼を言う様子からしても、本当に嬉しいのだと何も捻ることなくダイレクトに伝わってくる。

 

「…よぉっし、嬢ちゃん。宝具を完全に自分のもんにするために、もう少し踏ん張れや。今度はセイバーも交じってきな…あぁ、坊主は少し休んどけ。人間の枠を超えたっつっても、まだこちら側とは言い切れねぇからな。どれだけサーヴァントがタフでも、マスターが逝っちまったら、問答無用でサーヴァントもお陀仏だ。休めるうちに休んでおけ」

 

おいおい、ちょっと待て。

まだやるつもりか?一応こっちはやらなきゃいけないことをやってる最中で、それをあんたにも伝えただろう?

何事においても、やらなさすぎもやりすぎも良くないんだぞ?オーバーワークは良くない。

 

「はい!お願いします、キャスターさん!」

 

ほれ見たことか。

テンションが上がっている今の彼女なら、二つ返事で承諾するって分かってた。そういう素直さは、こういう場面ではむしろ問題なのでは?

 

「大丈夫。俺はキャスターだからな」

 

なんて便利な言葉だろうか。

どう考えても、都合良くその文句を使ってるようにしか思えない。

というかもはやキャスターと言えば、なんとかなるだろうみたいな流れを作りつつあるのが、なんとも言えない。

 

マシュもマシュだ。

「さすがキャスターさんです!」じゃないんだよ。そうやって済ませていいレベルの話をしているのか今?

出会っても間もないし、あまり彼女のことを知らないのが事実だが、彼女のこの世界において()()である以上、悪い男に捕まっちゃ駄目だってことをやはり伝えなければならないと思う。

 

しかし、止めるべきか…?確かにキャスターの言う通り、全快出来るのであれば言う通りにするのもいいだろうし。……毒されてるのは俺もか。

 

「……ちょっと、藤井蓮」

「はい?」

 

自分に多大に影響しかけてる過去の英雄の価値観に、どうしたものかと思案していた時、他ならぬ所長が普段の彼女と違って、なんと言うか控えめに声をかけてきた。

 

「……今、何か失礼なことを考えたでしょ?」

 

いや、別に?

考えてないですって。考えてないから、そんな風に不快とでも言いたげな表情を隠すことなく、睨みと共にこっちに向けるのはやめてほしい。

 

「…まぁ、いいわ。サーヴァントたちはもう始めてしまったみたいだし、その間少し顔を貸しなさい。…話したいこともあったし」

 

話したいこと………はて、いったいなんだろう。

この地に来てからは、特に所長のカンに触るようなことはしていないはずなんだが……?

そりゃあシフト前に堂々と目の前で寝てしまったことは良くないとは思う。けれどあれは仕方ないことだと理解してもらいたい………駄目、だよな。

 

別に所長の前だからって話じゃなくて、人が話をしている時に意識を手放すのは、礼儀として問題だ。俺が礼儀を語るのも筋違いだが。

けど、一般人にいきなりあんなに身体に負担をかけるような真似をするならば、ウトウトしてしまうのも見逃してほしい。ほしかった。

 

「あなた、怖く…ないの…?」

「……え?」

 

予想と違った。

てっきり俺に対する罵詈雑言でも浴びせられるのかと思っていたが、意外にも俺に飛んで来たのは、こっちを心配する言葉だった。

 

「…なに?そんなに私に心配されるのが意外かしら?」

「いや、その……まぁ、はい……」

 

ここで、そんなことないとでも言っておけばいいのに、あまりにすぐに不機嫌のスイッチが入るものだから思わず素直にはいと言ってしまう。

 

「別に、私だって自分の使う人間の心配くらいするわよ……。ただでさえあなたは、今ではカルデア唯一のマスターになってしまったのよ?その唯一を無下にするような真似が出来るはずないでしょ?」

 

思ったより、俺は大事にされてるんだなぁ……なんて。

これは寝てしまったことも、無かったことにしてくれているということか?きっとそう、そうに違いない。

 

「例えあなたが、所属する組織のトップの大事な話を聞いている途中で、あからさまに眠り込んでしまうような礼儀知らずでもね!」

 

……そう、じゃなかった。

 

「……けど、心配しているのは本当。だってあなたは一般人。まともに魔術に触れてこなかった…いいや、そもそも知ることすらなかった、そんな人間。そんな人間一人が背負うには、あまりに大きくて重すぎる。しかも今はよく分からない方向で普通じゃなくなっちゃったし。あなたにとって違っても、私たちにとって魔術は()()なの。…それとも違うなにか、それはわたしたち魔術に携わる者としても、普通じゃない。……ねぇ?本当になにか分からないの?」

「そう、言われても………」

 

心当たりはある。けれどそれは、今の俺を全て解決する域にまではいかない。そもそもそれがなにかを説明出来ない。確証もないし、あまりに未知すぎて、そこから何が起こるかなんて予想出来ない。ただ……。

 

「……正直、俺がなんでこんな風になったのかってのは分からないです。けど、自分でも不思議ですけど、これだけは言えるんです。漠然と、()()()()()()()()()って。結構危なっかしいし、気を抜いたらなにか持ってかれそうで、ようは上手く使わないとこっちが使われるんだってことは分かります。それでも、根本的にこいつは、悪いもんじゃないって、そう思えるんです」

 

禍々しい存在感は感じる。御守りというよりは呪い、そういう恐怖に近しい黒さがある。

けどそれでも、どうにもこいつがそれをそうしようとしているとは思えない。

上手く言えないけど、これに害意はないと言える。

 

「……あなたがそういうなら、そうなのでしょうね。依然、不安要素に変わりはないのですけど」

「………」

「な、なによ?」

「いや、所長って、案外優しいんだなぁって」

「は、はぁ〜〜!?」

 

しまった。つい思ったことを。

 

「所長って、自分の目的のためには手段選ばすに、自分の存在に一定の誇りを持っていて、それでいて……なんて言うかな、自分で精一杯な人だって思ってました」

「う……まぁ、間違ってないわよ。実際今の私は、自分のことで一杯一杯だし。さっきも言ったでしょ?あなたを心配するのは、ただあなたを失うわけにはいかないからよ。大事な道具、としてね!」

 

そんな必死に語気を強めると、いかにもとか、テンプレという言葉がより所長を縛り付けるって、この人分かってるのだろうか?いや、分かってないんだろうな。

ともかく思ったより嫌われていないようで安心した。そういうことにしておこう。

 

「……必死なのよ、これでも」

「所長……」

 

呟いた言葉は妙に苦々しく、その顔は明らかに苦痛に染まっていた。

 

「成功するか失敗するかじゃなくて、()()()()()()()()()()のよ。約束された成功を、ね……それなのにこれよ。もうなんだか笑えてくるわよ」

 

嘲笑一つ。それは自分に対してだろうか?それとも、今置かれてるこの行き場のない怒りに対してだろうか?

 

アニムスフィア家は、俗にいうお偉いところだと。魔術師の中で名を轟かせる名門というやつ。

それに泥を塗る。もしかしたら既にそうなったかもしれない。

名誉挽回とか帳消しとか、もはやそういう段階の話じゃない。どれだけ被害を減らせるか、これ以上悪くならないようにするためにどうすべきか?ゼロにはもう出来ないから、出来うる限りプラスを積み重ねていく。そしてマイナスを作らないようにする。そういう消極的な目的しか立たない状況。

 

「私は果たさないといけないのよ…!……なのに、なんで、こうなるのよっ……」

 

嗚咽交じりの吐露。

喉に突っかかった何かを吐き出そうとするかみたいに、愚痴なんて言葉で片付けてはいけない嘆きを、短くも重く綴り放った。

 

「私は、頑張ってきた…頑張ってきたのよ…!なのに、それなのに、こんなことになるってなんなのよ?…足りないの?まだ足りないって言うの!?………どうすれば良かったのよ」

 

1人呟くように、内のあるがままを曝け出す。

自分の今までを回想し、それでいて受け止めきれずにいる。

上手くいくはずだった。準備も完璧にこなし、選ばれた何人ものマスターたちを従えて、人理の修復を速やかに済ませるはずだった。

だが、現実は非情だった。あらゆるものを失い、あらゆる希望は砕かれ、彼女を作りあげるあらゆる誇りは、その輝きを曇らせた。

必ずを強要された件のこと、現在結果として絶望的だった。

 

「………頑張ったかどうかってのは、自分で決めるものじゃないんじゃないですかね」

「…っ!?」

 

だけど、そういう同情するに十分な苦境を耳にしても、些か気に入らないこともあった。

 

「頑張ったねって、自分で言うぶんにはただの慰めですよ。…そりゃあ確かに、時にはそうやって自分自身に言葉を投げかける必要があるってことは分かってますよ。自分のことを否定し出したら、もうどうしようもないですから」

「…から……だから私!自分で自分に頑張ってるって………」

「それですよ」

 

こうやって自己完結している。それが気に入らない。

 

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「っ!!?」

 

驚いたって顔をしている。

目を見開いて、口は開きっぱなしで、声として成立していない声帯を振動させた音が僅かに漏れる。

 

「1人だって、ずっと思っているんだろ?その苦痛は自分だけのものだって思ってるんだろ?誰にもその弱い姿を見せられないって思ってるんだろ?……自惚れすぎですよ。………あんたは、レフ教授に対して絶対の信頼を寄せていたようですけど、それをなんで他の人間にしてやらないんです?」

 

全て1人で、そういう思考が根底にある。幼い頃から知ってる1人を除いて、それ以外の人間は計画を進める上での駒、つまり道具にすぎないと言った。

 

「道具でも構わないですよ、別に。ただ、その道具たちは普通のものと違って、感情とか意思とかそういうの持ち合わせてる特殊なものなんだから、もうちょっとその道具たちのことを信じてもいいんじゃないですかね?」

「………」

 

沈黙、それに交じって密かに聞こえる鼻をすする音。

嗚咽を堪え、零れ落ちる何かを堪えようとする顔。

俯いた先に見えたのは地面以外の何だろうか。

 

「まぁ、所長は性格がキツいですし、おっかないというか、少し頼りないというか……ぶっちゃけ、関わりにくいです」

「………こら」

「でもみんなはそんな所長を、そんなだからこそ所長を自分たちの上に立つ人間だって認めてるんですよ。マシュもドクターも、俺も含めて」

「あなた、も……?」

 

え?なんでそこ疑問なんです?

 

「まぁ、はい。あまり所長のこと詳しく知らないし、出会って間もないんで確かな理由ってほどしっかりしてもないですけど、所長は頑張ってる、それくらいは分かるんで」

「〜〜〜っ!!」

 

声と形象するには不明瞭で、そんな曖昧な呻きにも聞こえるような声を上げて、恥ずかしさからだろうか、俺に寄りかかってきた。

 

「おぉっと……必要なら手でも、肩でも、それこそ胸でも貸しますよ?こんな一般人の頼りないもんでいいなら」

「うん……………ありがとう」

 

小さく呟いたのを聞こえはしたが、わざわざ反応しない。

それこそ、俺の胸が雫で濡らされていることも、わざわざ口にはしない。

 

 

 

 

 













よっしゃ!第1部完!
イヤーイイハナシダッタナー

嘘です
というか、こんな恋愛チックでしたっけ?
残念だったな!俺が書くSSはたいていこうなるのだよ!
主に主人公が高確率でジゴロになる
ま、まぁ、両方の大元の原作も恋愛ゲームだし、多少はそっち要素がブーストしても大丈夫だよね!……大丈夫だよね!

さて、色々考えているわけですが、今言った通りfateもDies iraeもエロゲーなんですよね……
……そういう描写欲しいです?
一応話の展開的に、FGOヒロインたちとそういう絆イベント(意味深)を書こうと思ってるのですが、自分にそういうのを書く技術も知識もないので、R-18にならないギリギリのラインまで書いて、それ以降は皆さんで脳内補完してください!ってするつもりなんですけど……
一応、これ投稿後に活動報告でアンケート取ります
正直書く気はないですが、一応読者の意見は取り入れていきたいので、絶対じゃあないですが
……FGOのR-18SSっていいですよね〜(一読者として)

では、これからもチマチマ書いていきますので、よかったら御付き合いください


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番外
番外編という名の小ネタ出し



本編を期待した方にはすみません。この先の展開を色々考えていたら詰まってしまったので。
頭にあったFateのSSのネタをちょろっと。
よくある「オリ鯖でオリ聖杯戦争」です。その各鯖の召喚シーンだけ書きました。
あくまで息抜きに書いたので、続きを書く予定はありませんというかいつ書けるんだよ。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【キャスター陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

男は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「………」

 

男はただ視線を向ける。従者として呼んだにしても、英霊というのは一筋縄で行くようなものではない。だからこそ警戒する。もしも、に備え。

 

だが、呼び出された者はこちらに気づく素ぶりはなく、ゆっくり歩き、ゆっくりソファに腰掛け、ゆっくりと手に持った書物を開いた。

 

「………おい!」

 

その自然な動きに思わず男は声を上げる。その声に僅かだが反応する。

 

「……貴様は何者だ?」

 

その問いに彼の者は本を閉じる。

 

「私か?私はキャスターとして呼ばれた者だ。真名は---」

 

男にはその名に覚えがなかった。

 

「それもそうだろう。なんせ私は英雄なんて柄じゃない。極々一般人だ。名声など欠片もない」

「じゃあなぜ…」

「座というやつのくだらんジョークか何かではないか?何より私自身が最も驚いている。現代には、簡単に物事を調べられる手段があるのだろう?私の名で調べてみるといい」

 

男は携帯端末を取り出す。指を動かし真相を調べる。

 

「………もしかして貴様!」

「あぁその通りだ。言っただろう?私は英雄でもなんでもないと。…人が定めた最大の罪。それを形象するがために型に嵌められた憐れな悪魔たち。私がそれの先駆者だ」

 

英霊は立ち上がり、こちらを見つめる。

 

「私はただの凡人だ。武勇に長けたわけでもなく、多くの人間から支持を受けたわけでもない。だが、いくら劣化品とは言えど、私が使役するそいつらはどれも傑作揃いだ。案ずるな主よ。私自身は役に立たずとも、そいつらは何かしら役に立つだろう。貴方は8体のサーヴァントを呼び出したとも言えるのだから」

 

そして男の目を深い眼差しが射抜く。

 

「幸い貴方は聡明のようだ。精々、上手く使い熟すがよろしい」

 

その笑みはまさに悪魔じみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ランサー陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

青年は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「……貴殿が我が遣える主君であるか?」

「……………驚いた」

 

厳かな言葉を綴るのは、自分と然程変わらない背丈の女性だった。

 

「君が---で間違いないか?」

「如何にも。我が名は---。此度ランサーのクラスで顕現した。やはり貴殿が主君で間違いないようだ」

 

現れた女性は跪いた。

 

「この槍この身この心、主君への揺らぎなき忠誠を誓う」

「ありがとう。…でも君は」

「言う必要はありません。既にこの全てはあの方に捧げています。それは変わりません。しかし、こうして呼ばれた以上、此度は貴殿に今持てる全てを捧ぐのが英霊としての姿。どうか心配無きよう」

「…さすがは忠義で名高いだけはあるね」

 

青年は手を伸ばす。

 

「よろしく頼むよ、ランサー」

「はい。お任せを」

 

その手を彼女は強く握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アサシン陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

女性は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「…あなたがアサシン?」

「はい、いかにもワタシがアサシン。他にワタシが何のクラスとして呼ばれるというでしょうか?剣も弓も槍も馬でも名を馳せた覚えはないですし、魔術のような摩訶不思議にも手を出した覚えもないです。確かに?やれと言われれば、そこそこは出来るほどの才能はあるでしょうし、ワタシの業は魔法のようだと言われたこともあったでしょう。側から見れば狂人と言われても無理はないと自覚しております」

 

淡々と飄々と喋る。

 

「なのでワタシはアサシン。自分の今までを鑑みればアサシンが妥当でしょう。しかし麗しきマスター?ワタシは自らの信念として殺傷は好みません。我ながら何故アサシンなのが疑問に思いますが」

「知っているわ。あなたの美徳はある程度」

「おや、それなら話が早くて助かります。ワタシはあくまで盗む者。なんであろうとお望みならば如何なる物も盗ってみせましょう。それはもう優雅に無駄なく恍惚としてしまうように。本来ならば命の盗人は専門外ですが、今回の狩場は戦争。そのような綺麗事を言ってもいられませんのでね。必要とあらば盗ってあげましょう。そう、例え命でもね?」

 

被ったシルクハットを取り紳士のように深々とお辞儀をする。

 

「改めて名乗りましょう。ワタシはアサシン、名は---。アナタの命に従い今回の獲物は聖杯。故に、盗んでみせましょう、アナタに勝利を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アーチャー陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

初老は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「…アンタがマスター、でいいのか?」

「そうとも。自分が其方のマスターである」

「そうかい。んじゃよろしくなマスター。オレはアーチャーの---。別に然程有名なもんじゃねぇし、ぶっちゃけオレの力ってのも中々の曲者だ。上手く使ってくれよな?」

「何を言うか。其方と言えば魔弾で名を馳せる狩人であろう?何をそんなに謙遜する」

「おいおい、それはオレなんかの実力じゃねぇぜ?契約相手がまさに悪魔、バケモンのおかげだろうが。そりゃあ多少は腕に自信があるが、あくまで魔弾ってのは仮初めの借り物だよ」

「あぁそうだな。だからこそ、今回の聖杯戦争にて其方を真の英雄にしてみせようぞ」

「おぉおぉ言うじゃんかオッサン。そこまで言われちゃあ手を貸すしかないな。んじゃ仲良くやろうやマスター」

 

マスケット銃を携えて、英霊はフランクに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ライダー陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

青年は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「お前がライダーで間違いないな!」

「………あぁ」

 

静かに一言肯定する。

 

「真名は?」

「………---」

 

一言名を告げる。

 

「ならいい!さっそくだがライダー、僕らの狙いは…」

「………探し物をしている」

「…あ?」

「………ある物を探している」

 

感情のない声でそう繰り返す。

 

「………従者は目的がある。契約者にも目的がある。それが一致している間、従者は契約者に手を貸す」

「あ、あぁ…」

 

青年はその静寂な雰囲気に圧倒される。

 

「………その目的が違い、契約者が従者の目的を阻害するようであれば、従者は契約者の死の預言を従者の執行のもと真実とする。………忘れるな」

 

黒き甲冑に身を包んだそれは、ただただ静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【セイバー陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

少女は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「……ん?」

 

現れたのは、自分より背丈の低い小柄な少年。

 

「…あぁそうか、呼ばれたわけだな。…ならば応えようか。我は---、セイバーとして参上した。本来、誰かに遣えるような身ではないが、今回は例外だ。我が卿を見定めよう。我が武勇に相応しき様を見せよ、我を呼び出した者として恥のないようにな」

 

高圧的にかつ親しみ持って彼は接する。

 

「うん!よろしくお願いします!」

 

少女はその大声で答える。

 

「しかし、この倭の国で我を呼ぶとはなんと運の良いことか。おかげで我が全力を出すことが出来そうだ」

 

その顔は嬉々としている。

 

「卿、覚悟しろよ?この地で戦う以上、護国の英雄として情け無い様は見せられない。気張ってみせろ」

 

その言葉に少女は不安と同時に、それ以上の興奮に身を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【バーサーカー陣営】

 

 

「………汝三大の言霊を纏う七天……抑止の輪より来たれ……天秤の守り手よ……っ!」

 

少年は唱える。床に描いた魔法陣に手を向けて。

 

そして魔力は弾ける。形を成し、人の姿を模って具現する。

 

「………貴方が私を呼んだの?」

「あ、あぁ。俺があんたを呼んだんだ」

「そう」

 

なんとも言えない存在感。ただただ圧倒される。

 

「私は貴方の母。貴方は私の子供…つまり息子ということね?」

「え、あ…え?」

 

唐突な言葉に困惑を隠せない。

 

「不思議?ふふ、だって私は全ての人間の母ですもの。私が始まり、私が原初。ならば私は全ての人間の母でしょう」

 

その理屈はよく分からない。だから突然手を握られて少年は動揺する。

 

「さぁ息子、一緒に全てを愛しに行きましょう!安心してください、なぜなら全てが私の子供なのだから!」

「ちょ、ちょっと!?」

 

そして少年は、バーサーカー、---に手を引かれ為すがままに街へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---今、聖杯をかけた戦争が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





真名は各自で予想してみてください。結構ヒントは出てるので、然程難しくないと思います。なお、各鯖は自分がその伝記等から想像した完全オリジナルなので、「こんなことwikiに乗ってないぞ?」ってことがあるかもしれませんが、あくまでキャラ付けの範疇ですのでご了承ください。
真名については次の投稿ぐらいになるかと。

あと近々定期テストがあります。言わずもがなですが、基本9月末ぐらいまでは、更新されない方向でご理解ください。

加えて活動報告で、SS作家という点について述べさせてもらったので、そちらにも暇でしたら目を通してみてください。

以降もよろしくお願いしますm(_ _)m


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