ポケットモンスターORAS  高校二年生の戦い (タイタン2929)
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ミシロタウンから~カナズミシティ
人とは違うことをやりたい


 1

 

 

 桜が満開! の季節も終わり、梅雨に入ったある日の午後。

 高校生活も慣れてきて友人も二人ぐらい出来た俺。

 人生とは何か、生きる意味とはなんぞや、とかなんとか哲学的な理論を考えていた。

 今日は学校が休みで、やる事がない。完璧にない。

 決して、暇人なわけではない。

 友達にマックへ行こう! とか誘ったが、全員断られ、俺は少々やる事がないだけだ。

 

「そういえば今日って…………ポケモンの発売日だよな」

 

 ポケットモンスター。略してポケモン。

 ゲーム自体の名称を指すが、ゲーム内に出現するポケモンと呼ばれる生物を指す意味でもある。

 主人公が数々のポケモンを捕まえ、ジムと呼ばれる対戦施設へ赴き、バッジと呼ばれる物を手にする。

 そしてそれを八つ集め、ポケモンリーグという世界で一番強いトレーナーを決める場所へと行く。

 見事ポケモンリーグマスターになれば、ゲームクリアという訳だ。

 アニメも長年放送されており、国外ではかなりの人気を誇っている。

 

「昔は友達とよく対戦して、遊んでいたりしたっけ」

 

 俺は嘗ての自分を連想し、思い出に浸る。

 幼稚園の頃は沢山の友人がいて、先生や家族とも仲が良かった。

 自由に生き、自由に笑い、人目を気にすることなく自我を貫いた。

 

 ――でも今は違う――

 

 教室内では常に気を張り巡らせ、運動部の機嫌を伺う。

 決して対等ではない関係だが、表面上は対等と偽り、日々を過ごす。

 思っていた学校生活とは違い、なんの面白味もない。

 

「……はあ」

 

 気が付けば俺はため息を吐き、立ち上がっていた。

 そのまま自分の机に置いてある財布を手に持ち、部屋を出る。

 気分は憂鬱だが、なぜだか無性にポケモンを購入したい衝動に駆られた。

 十六歳になってもポケモンだなんて恥ずかしいが、俺はポケモンをやりたい。

 最新のPCゲームやソーシャルゲームなんかより、底知れぬ面白さがある気がするからだ。

 課金もないし、五千円だして二ヵ月ぐらい遊べれば十分だろう。

 大して面白くなくても、自分が買いたいと思って買った商品。

 つまななくても悔いなんかない。

 

「おっといけねえ。傘持ってかないと」

 

 外は一定の間隔で鳴る雨音で賑わい、家とは一線を隔している。

 玄関にまできた俺は、傘立てから自分用の傘をとり、玄関の扉を開ける。

 引き籠っていたニートではないが、なぜだか外の空気は新鮮に感じた。

 雨が降りやむ気配はないけれど、俺もコンビニへ着々と歩いていく。

 

 

 2

 

 

 コンビニでダウンロード版のポケットモンスターORを買い、自宅へ一直線に戻った。

 OR、ASのどちらにしようか迷ったが、差はあまりない。

 きのことタケノコ程度の差だ。

 個人的には水より火の方が明るいイメージがあって好きなので、ORにした。

 3DSのソフトなんて買ったのは久しぶりで、幼稚園の思い出にまた浸ってしまう。

 今ではゲームのやり込み要素も増え、ポケモンの種類は七百を超えたらしい。

 時代の流れってもんは、意外とはやいんだなと思ってしまう。

 

「コードの入力は完了っと。後は……ダウンロードが終わるまで待つだけだな」

 

SDカードの容量はまだあるので、ゲームはダウンロードできる。

 暫く3DSの画面を見ていたが、一向にダウンロードされる気配がない。

 ふと机に置いてある時計を見れば、もう既に七時を回っていた。

 今日は土曜日ではなく日曜。明日は学校がある。

 考えただけでも嫌になるが、我慢して行かなければならない。

 

「ダルイな~」

 

 一旦、3DSを閉じ、自分の部屋を出る。

 そろそろ夕食の時間で、席に着くのが遅れると母さんがうるさいからだ。

 

「そういえば……姉さんはまだ帰っていないのか」

 

 俺の姉さんは、今年で大学一年生。

 栗毛色の長い髪が印象的で、明るく活発な女性だ。

 おそらく、今日も友人たちと夜遅くまで遊んでいるんだろう。

 大学生になれば、バイトも初めて自然と遊ぶ機会が多くなる。

 と、聞いた事がある。

 

「ちゃちゃっと食って、ゲームするか」

 

 今後の予定を見据え、飯を早食いすることにした。

 ゲームをじっくりやりたいタイプなので、なるべく時間が欲しい。

 そうと決まれば、俺はすぐに行動を開始する。

 一階への階段を下り、食卓にある自席へと流れる動作で座る。

 親父はスーツ姿のまま椅子に座っていて、テレビを見ていた。

 定番のニュース番組だ。

 

「ご飯できたわよー」

 

 キッチンの奥から声をかけてきた母さんは、夕飯の皿を並べ始めた。

 どうやら今夜はピーマンの肉詰めのようで、親父は渋い表情をしている。

 亭主関白ではない内では、母さんの特権が強い。

 親父はピーマンは嫌いらしいが、母さんは無理やり食べさせる。

 苦手を克服してほしいんだそうだ。

 

「分かったよ。食べるよ……はあ」

 

「…………あ、そういえば由梨は? まだ帰ってないみたいだけど……?」

 

 

 ビクッと肩を震わせる親父。

 母さんの声音は、優しいが、僅かな怒りが籠っている。

 生物的に危険を感じた親父は、恐怖を抱いたのだろう。

 哀れなり。

 

「今日も荒れそうだな」

 

 ポツリと呟く俺。

 昨夜も姉さんは母さんに怒られていた。

 確かに俺も、少し姉さんは遊び過ぎだと思う。

 いくら日本が平和だといっても、夜道は危ない。

 美人な姉さんが、襲われないという保証はない。

 

「ゆ、由梨なら……近場でポケモンGOでもやっているんじゃ……?」

 

 親父の視線は母さんではなく、俺に向いている。

 察するに、同意を求めたいのだろう。

 だがしかし、嘘がバレれば、ただでは済まない。

 一時間のお説教と、反省文を書かされる可能性もある。

 近場でポケモンGOをやっている等と、甘い嘘をつく親父には悪いが、

 

 ――今日はポケモンをプレイする予定――

 

 残念ながら同意は出来ない。

 可哀想だが、一人で犠牲になってもらう。

 

「母さん、由梨姉は外で友達と遊んでいるんじゃない? 銀行で金を下ろすとか言っていたし」

 

 前半部分は俺の憶測だが、後半は事実だ。

 今朝、銀行に金を下ろしに行ってくるから、母さんには内緒ね? と促された。

 ま、裏切った俺が一番悪いけどね。テヘッ

 

「今日も由梨は夜遊びしているのね……」

 

 母さんは腕を組み、小言を一人でブツブツ言っている。

 これは近寄らない方がよさそうだ。

 ささっと自分の食器を流し台に持っていき、洗う。

 そして俺は何食わぬ顔で自室へと戻った。

 罪悪感はあるが新作のポケモンをプレイするというワクワク感が上回っている。

 たかがポケモンかもしれないが、されどポケモン

 海外で不動の人気を誇るだけの面白さはある筈。

 

「ダウンロードも完了したことだし、じっくりとプレイしていきますか」

 

 3DSのホームメニューに新しく出現したポケモンのアイコンを押し、ゲームをスタートする。

 最初の御三家はなににするか、しゅじんこうの容姿はどんな風貌なのか、一体どんなポケモンが出てくるのか、

 俺の頭の中は、それらの期待で一杯だった。

 

 

 

 

「お、早速ニックネームの入力だな。えっと……俺の名前は……」

 

 ゲームを開始してからまだ一分。

 俺は最初の初期設定を決めあぐねていた。

 

「せ、折角だし、カッコいい名前も悪くないよな」

 

 ゲーム内でずっと呼ばれるであろう名前だ。

 少し主人公っぽくしたくなる。

 

「う~ん。やっぱり……俺の名前でいっか」

 

 主人公風の名前にしてもいいが、やはり本名の方がしっくりくる。

 ニックネームの入力を済ませ、いよいよゲーム本編の開始だ。

 

「ふぁ~。なんか、眠くなってきたぞ」

 

 ズボンのポケットに入っているスマホを取り出し、正確な時刻を確認する。

 

「じゅ、十時半? も、もうそんな……時間……か……よ」

 

 ゲームをやりたい気持ちは十二分にある。

 しかし、体は睡眠を欲しているようだ。

 凄まじい睡魔に逆らえない俺は、スマホを片手に目を閉じた。

 手足の感覚は徐々に無くなっていき、頭は真っ白。

 俺の意識は完全に飛び、深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

  

 

 



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御三家とは永遠の謎である

御三家とは永遠の謎である

 

 1

 

 

 新鮮な風が吹き、靡く叢。

 木々は共鳴し、ザアザアと音を立てる。

 現在俺は、パニック状態に陥っていた。

 

(な、なんだコレ)

 

 睡魔に襲われ、そのまま眠った筈だ。

 それなのに何故、こんな場所にいるのだろうか。

 全く見当がつかない。

 考えれば考える程に頭が混乱してくる。

 

(い、いったん、落ち着くんだ、俺。冷静に……冷静に考えよう)

 

 もしかしたらテレビの新種ドッキリかもしれない。

 まだ夢の中なのかもしれない。

 そう考えたい所だが、

 

「どう考えても……現実……だよな」

 

 地面の土を触れば、温かく湿っている。

 空気を肺に満たせば、生きているという実感が湧く。

 頬をつねってみたが、起きる気配はなく、普通に痛い。

 これらの指す意味は、俺が起きているという事。

 夢で臭いや、痛みや、満足感など感じたこともない。

 

 ――つまりこれは現実。辺り一面の草原は、現実だ――

 

「えらい事になったな」

 

 ここまでの雄大な自然がある場所と、新鮮さは、地球でも数少ないだろう。

 国外という可能性もあるかもしれない。

 だが、更にもう一つの可能性がある。

 極めて低い、どころか、ありえない。いや、あってはならない。

 しかし、今はその現象に最も近い。

 

「完全に異世界転……いや、異世界召喚か」

 

 改めて現状を思い返す。

 俺はごく普通に部屋で寝た。

 そして見知らぬ草原に立っていた。

 二回目になるが、こんなことは現実でありえない。

 

(辺りを探索してみるか? このままだと……)

 

 これが現実であるならば、このままでは餓死してしまう。

 現に今は、喉が少し乾きはじめている。

 時期に空腹にもなるだろう。

 だからこのままではマズい。

 

「俺に残された選択は一つ、ってわけか」

 

 地理の把握は出来ておらず、この草原の終わりはあるかどうかも分からない。

 もしかすれば、危険な動物がいるかもしれない。

 だがそれでも探索するしかない。

 食料不足で死ぬなんて嫌だからな。

 

「とりあえず周りを見渡し――――っ‼」

 

 周囲を見回そうと、後ろを見れば、煙突のようなものがあった。

 家が存在していたのだ。

 仮に異世界だとしても、文明があるのならば助かる道はある。

 微々たるものだが、希望が湧いてきたような気がする。

 

「よ、よし。い、行くか」

 

 知り合いでもない他人俺に、食料を分けてくれるとは限らないが、行くしかない。

 そう自分に言い聞かせ、俺は南方へと歩を進めた。

 

 

 2

 

 赤い屋根で、二階建ての大きな家は、私の家である。

 庭にはブランコが設置してあり、昔はよくこれで遊んだ。

 それに、向かいに住んでいるアイツとも、よく遊んだ。

 何度も、数えきれないぐらいに。

 

「ふあ~」

 

 まだ若干の眠気はあるが、欠伸を噛み殺し、再び自分の家を見つめる。

 楽しい思い出や、嫌な思い出。これまでの人生、本当に色々とあった。

 でも、今日でそれは最後。もうこの家には当分、戻ってこない。

 これから私は、“ポケモントレーナー”になるんだから。

 

「昨日は興奮しちゃってあまり眠れなかったな……」

 

 ずっと昔から夢見てきた、ポケモントレーナー。

 私の旅はまだ始まっていないけど、気持ちの高まりは最高潮だ。

 今すぐにでも博士からポケモンを貰い、新しい街へと旅をしたい。

 考えれば考える程、ワクワクは止まらない。

 

「最初のポケモンは、なににしよっかなー」

 

 私の相棒になるであろう、最初のポケモン選びは非常に重要である。

 草タイプのキモリは、冷静沈着で、おとなしい性格だそうだ。

 対する、水タイプのミズゴロウはやんちゃで、元気いっぱい。

 キモリとは真反対の性格をしている。

 二人はいつも喧嘩しているとも聞いたことがある。

 

「どっちも強そうだけど……可愛いポケモンも捨てがたい……」

 

 可愛い系では、アチャモが頭一つ飛びぬけている。

 あのくりくりとした瞳は愛らしく、守ってあげたい衝動に駆られる。

 

「悩んじゃうな~……」

 

 私が十分近く悩んでいると、近所に住んでいるアイツが声を掛けてきた。

 

「おっす、ハルカ! そんな所でなにやってんの?」

 

「最初の御三家で悩んでて……」

 

 ハルカ、と呼んできた男は、アサセと言う。

 昔からの幼馴染で、友達である。歳は私と同じで十六歳。

 肌は少し焼けてて、とても活発な性格だ。あと、思考が単純でもある。

 

「そんなん後で決めればいいでしょ? それより早く旅に出て、街まで行って、美味しい飯を食いに行こうぜ!」

 

 アサセの優先順位は、ポケモンより飯である。

 

 

 3

 

 

 煙突が見えた家の近場に来た俺は、その光景に自分の目を疑った。

 煙突のある赤い屋根の家には、数羽の鳥がいた。

 もちろん、ただの鳥ではない。

 日本に存在していなければ、海外にもこんな鳥はいない。

 世界中を探しまわったって、存在しないだろう。

 だがその姿は知っている。よく俺は知っている。

 これはどう見ても、

 

「ピジョンだよな~……俺の眼は正常だよな~……」

 

 普段ならば、自分の頭を疑うところだが、状況が状況だ。

 これはもう、信じざるをえない。

 俺のいる場所は、赤い屋根の家だけでなく、住宅街のように家が立ち並んでいる。

 小さな町を形成しているようだ。

 もはや、完全にポケモンの世界だ。

 昔やった、ポケモンの世界に瓜二つ。うろ覚えだが、屋根の上にいたポケモンはピジョンだろう。

 

「ま、マジで、これからどうしよう……」

 

 俺が家の前で途方に暮れていると、横から声が掛かった。

 

「お前、見ない顔だな。もしかして……ハルカの知り合いかなんかか?」

 

 肌が薄黒く焼けている、男だった。この風貌は、初期の性別選びで見た顔。

 

 ――ゲームのキャラクターの容姿――



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オダマキ博士登場からの、初めてのポケモン

 1

 

 

「お前……見ない顔だな。ハルカの友達かなんかか?」

 

 ゲーム容姿の少年に、急に話し掛けられた俺だが、無視する訳にもいかない。

 だがしかし、ハルカという名前は聞いた事がある。

 確か、昔のポケモンアニメでヒロインをやっていた少女だった筈。

 でもそれは架空の少女。アニメでしか登場しない二次元の女の子だ。

 まあ、ここがもし本当に“ポケモンの世界”ならば、実在していても変ではない。

 俺がなにか言おうと口を開きかけた時、何者かに後ろから肩を叩かれた。

 

「やあ、きみがシュウト君だよね? ――ハア――ハア」

 

 俺をシュウトと呼んだ奴は、小太り気味の白衣を着た男性だ。

 背中には重そうな大きいリュックを背負っており、息を切らしている。

 

「話は『センリ』さんから聞いてるよ。いやあ、今日から旅に出るんだってね。」

 

 そう言い、小太りの男は俺に微笑みかけた。

 

(ちょ、ちょっと待て! センリって誰だ⁉ 旅ってなんだ⁉ そもそもなんで俺の名前を……)

 

 この男の話しについていけないが、一つの仮説が俺の頭に浮上してきた。

 先程、屋根の上にいたピジョンと思しき鳥。

 ハルカと呼ばれる少女と、浅黒い肌の少年の風貌。

 そして草原への不可解な転移。

 まさかとは思うが、これはもう信じるしかないだろう。

 

 俺は――――ポケモンの世界に転移した。どう考えてもこれしか説明がつかない。

 

 それもおそらく、ポケットモンスターORの世界だろう。

 ハルカという少女は、パッケージ裏に書いてあった。

 もう一人の浅黒い肌の男は、アサセと言うに違いない。

 ああ、もう。これからどうすればいいんだ。

 

「じゃあ、研究室でポケモンを配るから、一緒に来てくれ。アサセ君と、ハルカもね」

 

 アサセと呼ばれた少年は、元気のよい返事をし、小太りの男性の後をついていった。 

 

「あなたがシュウトね? 一緒にポケモンマスターを目指して、頑張りましょうね」

 

 ハルカと呼ばれた少女は、俺に激励の言葉を残し、研究室と思われる家に向かった。

 現実で見たのは初めてだが、さすがゲームのヒロインというだけの容姿だ。

 髪は綺麗に手入れをされていて、大きな赤いリボンを付けている。

 うん、普通に可愛い。

 

「マジでポケモンの世界かあ……」

 

 改めてこの世界に来てしまった実感が湧いてきた。

 住宅街を見るからに、ガス、水道、電気は通っているみたいだ。

 中世ヨーロッパじゃなくてよかったと思うが、俺には現状、家も金もない。一文無しだ。

 これから何をすればいいのか、どうやって生きていけばいいのか、今後の生活の事なんて全く考えていない。

 

 ――でも、意外と悪くないかもしれない――

 

 地球に未練がないかと聞かれれば、少しはある。

 だが、この世界も案外、悪くないかもしれない。

 寝る間もを惜しみ、必死に勉強して受かった志望校。

 夢にまで見た高校生活だが、そんな夢はただの理想に過ぎなかった。

 偏差値は決して高い訳ではないが、そこそこ良い高校に入ったつもりだ。

 中学の頃とは違い、ぼっちを卒業できるかと思ったが、そう上手くもいかず、信用できる友達は作れなかった。

 その後、特になんの事件も起こらず、だらだらと高校生活を過ごしていった。

 この世界に来れたことは、意外と幸運だったかもしれない。

 大学受験へ向けての勉強もしなくて済むし、失うものはなにもないからな。

 

「この世界はポケモンが実際にいるんだろうな~」

 

 自分の目で見たはずだが、未だに信じられない。

 まあ、時期に慣れるだろうと思うが。

 

「とりあえず、あのおっさんの向かった方へ行くか……」

 

 これからの予定は追々考えるとして、後は流れに身を任せよう。

 それがベストだ、うん。

 そう自分に言い聞かせ、俺は研究室と書かれた家へ向かった。

 

 

 2

 

 

 研究室の中には、様々な機会が置いてあり、近未来的なイメージだ。

 奥には木製の長卓があり、上には三つの球体が並べられている。

 その球体は上部が赤で、下部が白。中心には同心円状の小さな円がある。

 これはまさしく

 

「おお、モンスターボールじゃねえか!」

 

 真っ先に声を上げたアサリは、長卓に近づきモンスターボールを眺めている。

 おそらく、この中にはポケモンが入っているのだろう。

 

「ほら、ハルカとシュウト君も好きなポケモンを選んでね」

 

 ハルカはそう言われ、ボールが置いてある長卓へと近づいた 

 俺も同様に、長卓へと向かう。

 いよいよ御三家選びだ。気分は自然と高まってしまう。

 

「左から順に、アチャモ、ミズゴロウ、キモリだ。急がなくていいから、十分に考えて選んでね。これから旅を共にする大切なパートナーだからね」

 

 ほう、アチャモと言えば、可愛いポケモンで有名だな。

 《炎タイプ》で、《草タイプ》のキモリに相性がいいポケモンだ。

 逆に、《水タイプ》のミズゴロウに相性が悪いポケモンでもある。

 

「俺は最初からコイツって決めてるもんねー」

 

 アサセは自信満々に、長卓に置いてある真ん中のボールを手に取る。

 一切の躊躇はなかった。

 

「あ、ちょっと! シュウト君がまだ決めてないじゃない! なんでアサセが先に取るのよ!」

 

「べ、別にいいじゃんかよ~。俺は徹夜で昨日から考えていたんだからさあ。な? な?」

 

 俺へ懇願するように、話し掛けてくるアサセ。

 別に問題はないが、これで残るポケモンはアチャモかキモリとなった。

 

「ごめんね、シュウト君。アイツの所為で我慢させちゃったみたいで……」

 

 ハルカは俺に向けてぺこりとお辞儀をして、申し訳なさそうな表情をしている。

 

「い、いやいや。別に何の問題もないから大丈夫だよ。それより、ハルカさんもポケモンを選んだら? 俺は最後でいいよ」

 

「そ、それは悪いよ。このポケモンたち、センリさんがパパに渡したポケモンだし……」

 

(えっ! そうだったのかよ⁉)

 

 そういえば、センリという男は俺の親父って設定だったっけ。 

 ってことはあまり遠慮しなくていいよな。

 俺も好きなポケモン選びたいし。

 

「じゃ、じゃあ……遠慮なく選ばせてもらうよ」 

 

 変に遠慮しても、ハルカさんが選びにくそうだからな。

 

「どれにしよっかなー」

 

 俺に残された選択は二つだ。

 アチャモか、ヤモリ。《炎タイプ》か《草タイプ》。

 名前やタイプは知っているが、個体値なんかまでは分からない。

 そこまでのポケモン廃人ゲーマーではなかったからな。

 

「可愛いし……アチャモでいいか」

 

 心の拠り所というか、癒しというか、やはりそれ系のポケモンの方が愛着が湧くだろう。

 《炎タイプ》ならば、焚火とかで便利そうだし。

 それに、最終進化系のバシャーモのカッコよさも抜群だ。

 うん、コイツに決めよう。

 そう思い、一番左のボールに手を伸ばした時だった、

 

「あ……私の……アチャモが……」

 

 非常に小さい小言だが、しっかりと俺の耳に聞こえてきた。

 本人は無自覚で出してしまった声かもしれないが、さすがにこれでアチャモを選ぶ気にはなれない。

 俺はセンリの実の息子ではないし、なんだか気が引けてしまう。

 ここはキモリを選ぶのが妥当だろう。

 

「じゃあ俺はキモリで」

 

 サッと一番右のモンスターボールを手に取り、暫しボールを眺める事にした。

 手に持った質感は、ツルツルしていて、傷一つない新品だ。

 投げたらさぞ気持ちよかろう。

 

「私はアチャモっと」

 

 ハルカはパッと表情を明るくさせて、一番左のボールを手に取る。

 いきなりボールから出したりせず、ボールを凝視している。

 アサセも同様で、初めてのポケモンに感激しているようだ。

 

「よーし、みんな選び終わったみたいだね。アサセ君がミズゴロウで、ハルカがアチャモか」

 

 オダマキ博士はうんうんと一人で唸り、なんだか納得している様に見える。

 

「そして、シュウト君がヤモリか。三者三葉に個性があっていいね~」

 

 俺が憶測するに、ミズゴロウがわんぱくでやんちゃな性格で、アチャモは活発で明るい性格だろう。

 で、俺のヤモリは、内気で人見知りな性格といった所かな。

 

「それじゃあ、ポケモン図鑑を……「ちょ、ちょっと待ってくれ!」」

 

 アサセがオダマキ博士の言葉を遮る。

 

「ポケモンバトルやろうぜ! いいだろ、オダマキ博士?」

 

「はいはい、そう言うと思ったよアサセ君」

 

「な、なら早速ポケモンバトルやらせてくれよ!」

 

 アサセはモンスターボールを強く握りしめて、今にも投げそうな勢いだ。

 

「じゃあ、外でやろうか。総当たり戦って事で、一番勝った子には、特別におじさんの自腹でモンスターボールを五個プレゼントするよ」

 

 オダマキ博士が言い終わる前に、アサセは颯爽と研究室を飛び出してしまった。

 ハルカはやれやれといった感じで、アサセの後に続いて外へ出た。

 

「無一文の俺にはモンボ五個は貴重だな、うん」

 

 画面の向こうからではなく、実際にポケモンバトルをするのは物凄い不安がある。

 だがそれも、本当にポケモンバトルが出来るという嬉しさと、ワクワクで塗り替えられ、楽しみでしょうがない。

 高校二年生になってポケモンバトルで燃えるなんて恥ずかしいかもしれないが、この世界ではこれが普通だ。

 

「やってやるぜ」

 

 俺も研究室を飛び出し、アサセとハルカさんのいる外の広場へと走った。

 オダマキ博士も少し遅れて広場へと到着し、ポケモンバトルの準備は整った。

 

「僕が審判をやるから、一対一でポケモンバトルしていいよー」

 

 ハルカは地面へ座って観戦するみたいなので、どうやら俺とアサセがバトルするらしい。

 いきなり戦闘とは緊張するが、やはり興奮の方が上回っている。

 

「いけっ、ミズゴロウっ!」

 

 アサセはボールを投げる動作をし、モンスターボールからは水色の体色をした動物が出てきた。

 尻尾はヒレのようで、口元にはオレンジ色の髭が生えている。 

 

 ――ミズゴロウ。本物のミズゴロウだ――

 

 俺は気付かない内に、モンスターボールを投げていたようで、そのままポケモンバトルは開始された。

 

 

 




誤字脱字等がありましたら、お知らせください。
ここまで読んで頂き、有難うございました。
感想もバンバン受け付けておりますので、よろしくお願いします。


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4話

 1

 

 

「いけっ、ミズゴロウ!」

 

 アサセが投げたモンスターボールから出現したミズゴロウは、俺のキモリに向け臨戦態勢をとっている。

 ミズゴロウの準備は万端なのだろう。

 キモリはというと、怪訝そうな表情で俺の指示を待っている。

 さすがに最初から俺を認めてくれている訳ではないな。

 まあでも、指示は聞いてくれる筈だ。

 

「えっと……どんな技を持っているんだ?」

 

ゲームような技を選択する画面なんてない。

当然だが、指示は口頭で伝えなければいけない様だ。

 

「なんだ、シュウトはバトルのやり方も知らないのか?」

 

 知るかボケ! と言いたいところだが、我慢だ我慢。

 傍から見れば俺は冷静かもしれないが、ふとした拍子にブチギレる事がある。

 中学でも、運動部の連中におちょくられた際に、ブチギレて本気の殴り合いをした経歴も持っている。

 実の所、俺は意外と短気なのだ。

 

「しょうがねえなあ。バトルのやり方ぐらいは教えてやるよ」

 

 アサセはその場でため息を吐き、俺を子馬鹿にしたように説明を始める。

 

「ポケモンの技と、体調、状態なんかは全て、“ポケートフォン”で確認だろ。マジでこんな事も知らねーのか?」

 

「ポケートフォンって何だよ? そんなもん知らないぞ」

 

ポケートフォンなんて新アイテム、俺は知らんぞ。

 

「これだよコレ、お前も持ってるだろ」

 

 アサセはズボンのポケットから四角い長方形の物体を取り出し、俺へと見せつける。

 見た目は完璧にスマートフォンだが、この世界ではポケートフォンというものが普及しているのだろうか。

 正直、名前なんてどうでもいいが、そのポケートフォンとやらでポケモンの体調や、技なんかが確認できれば、かなり戦いやすくなるだろう。

 

(俺も持っているのかな………………お!)

 

 上着の内ポケットからズボンの外ポケットまで探し、なんとかポケートフォンと思しき物を発見した。

 スマホのように片手持ちをし、電源ボタン的なやつを強く押し込む。

 すると画面にはモンスターボールを催したロゴが表示され、画面は明るくなった。

 その後、無事にポケートフォンは操作できるようになり、俺はどんな機能があるのか確認を始めた。

 

「ポケモン管理アプリだと……?」

 

 ポケフォンのには幾つかのアプリがあり、その一つに“ポケモン管理”という物があった。

 迷わず俺はそのアプリを開き、中身を調べてみる。

 

(こ、この世界の技術、凄すぎだろ)

 

 アプリ内には六つの四角い枠があり、その一つにはキモリのシルエットが描かれている。

 タップし確認してみると、キモリのレベルや、使える技、経験値等が詳細に載っていた。

 

『キモリ・♂ レベル5

 使用可能な技、【たいあたり】【はたく】【にらみつける】【すいとる】

 次のレベルまで、残り百経験値』

 

 ふむふむ。レベル5にしては使える技が結構あるな。

 アサセのミズゴロウは《水タイプ》なので、こちらは《草タイプ》技のすいとるが有効。

 ならば、早速キモリに指示を出してみようではないか。

 

「シュウト、ポケモンの技は確認したよな?」

 

 俺は黙って頷く。

 

「よしっ。じゃあバトル開始だっ‼」

 

 ふと気になりハルカの方を見てみると、アチャモをボールから出し撫でていた。

 微笑ましい光景だなあ。

 

「お、おい! よそ見するなよ!」

 

「あ、悪い悪い」

 

「まあいいさ。ミズゴロウっ、【ハイドロポンプ】だ‼」

 

 アサセはミズゴロウに指示を出したが、肝心のミズゴロウは何もしてこない。

 それどころか、アサセに向け訝しげな視線を送っている。

 

(は、ハイドロポンプってこんなレベル帯で覚える技じゃないよな?)

 

「あ、あれ? なんでハイドロポンプが出ないんだ? 滝水の様な凄まじい水圧で敵を粉砕する技だろ?」

 

 アサセは困惑し、ミズゴロウはそっぽをむきはじめた。

 完全に息が合っていない。というか、アサセはミズゴロウの使える技を見ていないのか。

 

「アサセ、あんたもポケフォンで技を確認しなさいよ! ミズゴロウがハイドロポンプなんて使える訳ないでしょ‼」

 

 さすがハルカさん。的確なアドバイスだ。

 アサセはというと、ハルカに言われて気付いたのか、ポケフォンを見始めた。

 

「え、えっと……たいあたりになきごえ、そしてみずでっぽうか」

 

「おーい、ミズゴロウの技の確認は終わったかー?」

 

「う、うるせーよ。俺はポケモンマスターになる男なんだから、少しお前にハンデを上げただけだ!」

 

 ほうほう。ハンデですか。

 だったら、全力でミズゴロウを倒しにいってやるよ。

 

「キモリ、【たいあたり】だ!」 

 

 キモリは元気のいい返事をし、ミズゴロウに向け突撃していく。

 あっというまに間合いは詰まり、キモリは【たいあたり】を命中させた。

 

「あ、ミズゴロウっ!」

 

 ミズゴロウは数メートル離れた場所まで吹っ飛び、苦悶している。

 アサセは急いでミズゴロウに駆け寄り、様子を見ている。

 

「悪いなミズゴロウ。こっちは……「【みずでっぽう】だ‼」」

 

 アサセの声とともに、キモリに向け凄まじい勢いの水流が飛んできた。

 キモリはそれに反応できず、もろに【みずでっぽう】を食らってしまう。

 キモリもミズゴロウと同じように、数メートル先まで飛ばされ、悲鳴のような声を上げた。

 だが、

 

「《水タイプ》の技の威力は半減される……まさか一撃でキモリがやられるなんて……」

 

 俺は堂々と死亡フラグ的なやつを言ってしまったが、たかが【みずでっぽう】程度で、キモリが倒されるわけがない。

 駆け足でキモリの元へ行き、状態を確認する。

 しかしキモリはピクリとも動かず、地面に仰向けになって倒れていた。

 

「嘘……だろ」

 

 この状態は瀕死だろう。

 一体なぜ【みずでつぽう】ごときで倒されてしまったのか、見当もつかない。

 俺は瀕死状態のキモリを抱え上げ、アサセの所まで歩いて行った。

 

「ふふふ。シュウトも驚いただろう? まさか《水タイプ》の技にキモリが倒されるなんて思ってもいなかったろ? お? お?」

 

 煽ってくんな。 

 

「ミズゴロウの特性、《げきりゅう》だ。ピンチになると、技の威力が上がるんだよ。どうだ? 凄いだろ!」

 

 えっへんと胸を張り、特性《げきりゅう》について語り始めるアサセ。

 非常にウザイが、ポケモンバトルにはコイツが勝ったので、黙って聞いてやる事にした。

 

「……ってな訳だ。どうだ? これで俺はポケモンマスター一直線、そしてグルメマスターも狙えるぜ」

 

 前半はミズゴロウについての自慢で、後半は次の街で食べる食い物について延々と語っていた。

 そういえば、次の街はジムがあるとかなんとか。

 ゲームと同じ仕様で、勝てばバッジが貰え、それを八つ集めるとポケモンリーグに挑戦できるらしい。

 この世界に来て特にやりたい事はない。

 だが、アニメのようにポケモンマスターを目指すのも悪くないかも。

 

「どうやらアサセ君が勝ったみたいだね。ハルカはポケモンバトルしなくていいのかい?」

 

 ハルカは首を横に振り、アチャモをボールに戻した。

 

「まだアチャモには早そうだし……今は別にしなくてもいいかな」

 

 そう言ってハルカは立ち上がり、俺たちの元まで来た。

 

「じゃあ、私は次の街まで行くわ。アサセたちはパパからポケモン図鑑の説明を聞いてね」

 

 ポケモン図鑑か。

 確かポケモンの真の目的は図鑑を埋め、様々な種類のポケモンを発見する事にあったよな。

 個人的には、図鑑の完成なんぞどうでもいいが、ある程度の目的はあった方がいい。

 一応、ポケモン図鑑の完成も視野に入れておくとしよう。

 

 

 2

 

 

「……ってな具合で、ポケモン図鑑を埋めることも頭に入れておいてくれ。ポケモンは未だに未知な部分が多いからな」

 

 オダマキ博士は俺たちに図鑑の説明をし、アサセと俺にボールを五個ずつ渡した。

 図鑑はポケフォンからダウンロードして使うようだ。

 

「実質はミズゴロウの勝ちだが、キモリもよく頑張ったよね。だからシュウト君にも渡したんだよ」

 

 アサセは俺もモンスターボールを貰ったことに対し不満を口にしていたが、オダマキ博士から説明され、納得したように頷いた。

 

「ま、キモリも頑張ったしな。俺のポケモンへの想いの方がシュウトを上回っただけかもしれないしな」

 

 そう言い残し、アサセは次の街へと向かっていった。

 俺は旅支度なんてしていないが、

 

 ――まあなんとかなるだろう――

 

 金だって道行くトレーナーたちと戦って稼げばいいしな。

 

「オダマキ博士、お世話になりました。俺も次の街に向かいますね」

 

 オダマキ博士にそう告げ、俺は次の街、『カナズミシティ』へと歩を進めた。

 無一文で、キモリのレベルはまだまだ低いが、マイペースで頑張っていこうと思う。

 俺は短気であり、事なかれ主義も兼ね備えているのだ。

 

 

 3

 

 

 道中は、次の街へと続く一本道だった。

 木には地球では見掛けない木の実等が生えていた。

 

「もしかしてだけど……ポケフォンで内の電話に繋がったりしないよな」

 

 まさかとは思うが、一応試してみるか。

そう思い、俺はポケットからポケフォンを出し、電話アプリを開く。

 

 

 

 

 

 



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